箱庭に流れる旋律 (biwanosin)
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キャラ設定

コラボの関係で載せてほしいとのことでしたので、載せます。
とりあえずオリジナル要素の入っているキャラは全員載せていきますので、何か質問などありましたら遠慮なくどうぞ。


天歌(あまうた) (かなで)

本作の主人公。問題児シリーズの二次創作なのに彼は問題児じゃない。

身体能力も一般人レベルと作者側としてはちょっと扱いづらいキャラ。

だがしかし、起ると怖い。あの問題児たちですら黙って正座し、延々と説教を聞いて、最後には反省してしまう。とある読者様からは『高町式OHANASHI』であるとの意見をいただいた。ごもっともである。

身長は平均より少し低いくらいで、常に小さく笑みを浮かべていて優しい人間であるという印象を受ける。服装もまた綺麗めの格好であるために、好青年の印象も強い。

まだこのギフトについての自覚がないころ歌うことで無意識のうちに発動してしまい、周りにいる人を傷つけてしまったために親に捨てられ、それ以来ある音楽家に拾われてそこで厄介になっていた。

彼のもとで『客に聞かせる音楽』とは何たるかを学び、その過程で『オーケストラ』ですら一人で同時に歌うことができること、音の響きを操るギフト『音響操作(ソニック)』などを自覚し、それらを駆使して歌手としての活動を始める。

だがしかし、その活動の中で全力で歌うと聞いたものに中毒症状が出ることが発覚し、CD活動を開始。

そのまま流れるようにアイドル活動まではじまってしまい、ある程度なら振付をしたり踊ったりしながら歌うこともできる。踊る方は体力がないためにあまりやりたがらないのだが。

そんな彼だったために後の時代では教科書にその名前が載るほどで、耀はCDを聞いていて奏のファンであった。

箱庭に来てから自分のギフトが“音楽シリーズ”というもののひとつであることを知って、『一緒に音楽を奏でる仲間が欲しい』という考えのもと“音楽シリーズ”のギフト保有者を探しながら、歌で“ノーネーム”の財政を支えている。

保有ギフトは『奇跡の歌い手』『共鳴』『音響操作(ソニック)』『空間倉庫』の四つ。基本的に戦闘向きのギフトは所有していない。

白夜叉はそれを心配したこともあり、彼に、同時に多く使えば使うほど切れ味を増す『多鋭剣』を褒美の形で大量に与えた。

 

 

ラッテン

原作において“グリムグリモワール・ハーメルン”に所属していた悪魔の一人。本作においても同様の登場をしたが、原作と違い“音楽シリーズ”のギフト保有者として登場。

二巻のギフトゲームにおいてはギフトの持つ『万人に平等に影響を出す』という効果によって大量の被害を出すが、最後には奏との音楽勝負に負けて捕虜の身となる。

霊格を摩耗するほどに本気で演奏をし、『共鳴』によって奏とのパスがあったからギリギリ生き残っていたのだが、本人がサラマンドラの地下牢の中でもう死んでもいいかと考えていたところを、奏が報酬の形で受け取る。勿論そのまま従うはずもなく、「何故助けるのか」と問いかけたが、奏の回答に裏がなく、面白かったためにそのままついて行くことに。

『共鳴』が最も強く発動するのが『隷属の契約』であるために、そして奏の反応が面白いためにその場で隷属の契約を結び、さらには『ご主人様』と呼んで敬語を使う始末。確実に楽しんでいる。メイド服姿なのもそれが理由であろう。

保有ギフトは『ネズミ捕りの男』『ハーメルンの笛吹き』『共鳴』の三つ。

 

 

倉田(くらた) ユイ

トリニティセブンに登場するロリ巨乳ちゃん。基本的にあんな感じのキャラになるようにやっているつもりです。

二巻の後、問題児たちがサーカスに行っている間に奏が白夜叉から受けた依頼でいった先にいた少女。他の音楽シリーズのギフト保有者である狂崎 色によって狂わされ、ひたすら演奏を続け、近づくものを全て眠らせ、神殿が出来上がり、その中はダンジョンになるという、それはもう迷惑な暴走っぷりであった。

最終的には奏の演奏したヒーリングミュージックによってその狂気が取り払われ、以来奏に隷属する形でついて来る。奏のことをお兄さんと呼び、奏はこれは何とも思っていないが、メイド服であったりスキンシップが少し過剰であったりするために奏を困らせている。奏を困らせることがはやっているのだろうか?

保有ギフトは『重唱術』『アレイストの魔譜』『強欲のヴァイオリニスト』『共鳴』の四つ。

 

 

ロロロ=ガンダック

オリジナルキャラクター。“六本傷”のガロロさんの娘で、ポロロの姉で、キャロロの妹、くらいの年。

三巻にて初登場し、そのまま仲間入りしたネコ族の少女。

人見知りで恥ずかしがり屋な少女だが、演奏が始まると豹変したように力強い演奏を始める。そして、そのあとで顔を真っ赤にして恥ずかしがる。作者にとってかなり好きなタイプのキャラです。

家がギフトゲームで後継者を決めるという殺伐とした状況であったために兄が兄らしくなく、常日頃から兄というものにあこがれていて、そこで奏の演奏を聴いたり、頭を撫でてもらったりしたことでそれが爆発。以来奏のことをお兄ちゃんと呼ぶように。

一人称はロロであり、親しい人は大体この呼び方をするそうだ。

保有ギフトは『ネコ族』『メオの打楽器奏者』『共鳴』



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プロローグ
歌い手、箱庭に来る


なんだか、寝不足のテンションと勢いで書いてしまった・・・
だが、後悔はしていない!

そして、新しいのを始めたくせにもう一作はじめるかもしれません・・・なにやってんだ、自分・・・


では、新作第一話、どうぞ!


 僕、天歌奏(あまうたかなで)は今コンサートホールに来ていた。

 コンサートを聞くためではなく、そこで歌うためだ。

 

「次で、本日最後となります。奇跡の歌い手、天歌奏君によるカーロミオベンです」

 

 あ、アナウンスが流れた。ってことはもうピアノ(・・・)は片付け終わったのかな?

 

「天歌さん、準備終わりました」

「マイクと放送の方は?」

「言われた通り、全て電源は落としてあります」

「ありがとうございます。では、僕の歌をどうぞ楽しんでいってください」

 

 さあ、準備は終わった。ここからは僕のステージだ。

 

 僕は舞台袖からステージに上がり、その真ん中に立つ。

 

「本日は、お越しいただき、ありがとうございました。みなさん素晴らしい音楽を奏でて下さり、聞いていてとても楽しかったです」

 

 僕は声を大きくするのではなく、全体に響かせてお客さん全員に聞こえるように声を出す。

 音を響かせるのは得意中の得意だ。

 

「では最後に、僕の歌で締めさせてもらいます。カーロミオベン」

 

 そして、僕は拍手がなっているうちに深呼吸をして、伴奏を歌う(・・・・・)

 もちろん、ピアノの音を、自分の口から、腹から奏でるのだ。

 そして、4小節の伴奏を終えると、ここからがメイン、歌も始まる。

 

「Ca-ro miobenn,cre-di-mi al-men」

 

 もちろん、伴奏もやめない。同時に音を出し、伴奏と歌を奏でるのだ。

 ここの歌詞に込められた意味は、『私のいとしい恋人よ。私を信じてくれ』イタリアの曲らしい、情熱的な愛の歌なのだ。

 

 そして、そのまま一曲歌いきり、うまくいったことに安心する。

 得意とは言っても、こんな人間離れしたこと、簡単ではないのだ。

 

「これにて、本日のコンサートは終了いたします。本日はどうもありがとうございました」

 

 僕が頭を下げると、拍手が起こり、幕が降りてくる。

 そのまま幕が降りきるまでは頭を下げ、降りきると頭を上げる。

 

「ふう、疲れた・・・喉も乾いたし・・・」

「お水、どうぞ」

「うわ!」

 

 急に首筋にキンッキンに冷えた水を押し付けてきたのは誰だ!?

 変な声が出ただろ!喉に影響が・・・ないな。全く違和感がない。

 

「あの、水はありがたいんですけど、急に押し付けるのは・・・」

「ごめんね~。でも、肩の力は抜いたほうがいいかな~と思って」

 

 ・・・とりあえず水を受け取って飲む。

 まあ、この人の言ってることは合ってるんだよな・・・この格好だとどうしても力が抜けないし。

 もう終わったんだから抜いたほうがいいのは明白、そして、この人はそれができるようフォローしてくれた。

 文句言いづらくなったな・・・

 

「そういうことなら、ありがとうございます」

「あら、お礼を言われるつもりはなかったんだけど・・・」

「実際、力を抜けていなかったので、文句を言う筋合いはありませんよ。この格好だと力抜けないんで、着替えてきますね」

「うん、行ってらっしゃい。このあと打ち上げするから、参加していってね~」

 

 さて、あの人も仕事に戻ったことだし僕も着替えるか。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 さて、楽屋についた事だし、着替えますか。

 

「打ち上げするって言ってたし、気楽な服のほうがいいよな・・・これでいいか」

 

 取り敢えず、空間に(・・・)穴を開けて、その中から私服を取り出し、着替え始める。

 そして、着替えていると何か紙が落ちるような、カサッという音が聞こえる。

 

「ん?誰かが置き手紙でもしていったか?」

 

 取り敢えず、荷物を空間に(・・・)穴を開けてそこに全部入れると、更衣スペースから出る。すると案の定、机の上には手紙が置いてあり、そこには『天歌奏殿へ』と書かれていた。

 

「殿って・・・いつの時代だよ・・・しかも蝋封って・・・初めて見た。」

 

 まあ、僕宛なのは間違いないみたいだし、開けてもいいよね。

 取り敢えずあんまり封が傷つかないようにして・・・お、あいた。なになに・・・

 

 

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

 その才能を試すことを望むならば、

 己の家族を、友人を、財産を、世界のすべてを捨て、

 我らの“箱庭”に来られたし』

 

 

 

 

「・・・は?いや、なにこれ・・・」

 

  誰か頭のわいた人が・・・いや、ギフトってのには心当たりがあるからなんとも言いづらいし・・・あれ、足場なくね?

 

「何だこれえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!?」

 

 僕は、その場にものすごく音を響かせながら落下していった。




予定では一巻は定期的に更新するつもりです。

その後の更新については、亀更新になると思いますが・・・


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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はい!歌い手が呼ばれました!
歌い手、湖に落ちる


あれ?無形物よりもこっちのほうが書きやすいぞ?
まあ、音楽関係で調べずにいけてるうちはいけるんですよね。



では、本編へどうぞ!


 さて、思いっきり叫んで落ち着いたので、僕はこの状況について考えることにした。

 音の跳ね返り方からして今は大体上空3000メートル。普通に考えたらこのまま死ぬけど、したには水があるみたいだし、落ちる途中に普通じゃないものもあるみたいだから、それはなさそう、かな?こればっかりは呼び出した人の気分次第になりそうだけど、大丈夫だと信じよう。

 後現状で確認できることは・・・僕のほかに三人と一匹落ちてきてること。

 この状況で落ちてくるなら、多分彼らも同じ手紙を読んでる。そのあたりは後で確認しよう。

 さて、他には・・・あ、そろそろ落下が終わりそう。

 あー、なんだか勢いは減ってきてるけどそれでも飛び込んだら何かあるよね・・・よし、腹をくくろう。

 そう思った次の瞬間、僕は湖に落ちた。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

 う・・・水飲んだ・・・変なところに入った・・・

 とりあえず、陸に上がろう。まだ他の人たちは落ちてきてないから、自己紹介まで時間は有りそうだし。

 

「さて・・・まずは枝を集めるか」

 

 すぐそばに木が生えてるし、枝くらいならすぐに集まるだろうし。

 そう思っていたら予想通り、簡単に枝は集まり、それを丁寧に組み立て、空間に穴を開けてライターを取り出すとどうにかして火をつける。

 

「よし、まず上着だけでも」

 

 さすがにこんな濡れたままでいたくはないから、服を上手く干せるものを取りだして干す。そのまま穴に入って(さすがに、他の人がいるところで裸にはなりたくない)服を着替えると、脱いだものもかけて乾かし始める。もちろん、下着は別。

 

「し、信じられないわ!」

 

 あ、他の人たちも上がってきた。僕も合流したほうがいいよね?

 

「まさか手紙を開いたら、次の瞬間には空に放り出されるなんて!」

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃゲームオーバーだぞ。石の中に呼び出されたほうがまだマシだ」

「いやいや、君は石の中に呼び出されてどうやって動くつもり?」

 

 あ、つい口を出しちゃった。当分の間は傍観するつもりだったのに。

 

「俺は問題ない」

「・・・無茶苦茶な人なんだね、君は」

「オマエも相当だと思うぜ?」

「それにはわたしも同意するわ」

 

 ヤハハと笑っている金髪の男の子と服を絞っている黒髪の女の子がそういってくるけど・・・僕はただの歌い手だよ・・・?

 

「まあ、そんなことは、今どうでもいい」

「うん・・・此処、どこだろう?」

 

 どうでもよくはないと思うけど・・・まあ、そっちのほうが重要だよね。

 にしてもこのしゃべり方・・・この猫を連れてる茶髪の女の子、あんまり口数は多くないのかな?

 

「それを確認するためにも、まずは情報の提示、かな?」

「ああ、そうだな。まず間違いないと思うが、お前達にも変な手紙が?」

 

 あ、僕が聞きたかったことを金髪君が聞いてくれた。

 

「そうよ。でも、その呼び方は訂正して。わたしは久遠飛鳥よ。以後、気をつけて。そこの猫と一緒の貴女は?」

 

 なるほど、黒髪さんは久遠さん、ね。

 

「・・・春日部耀。以下同文」

 

 で、茶髪の子は春日部さん。今度、猫の名前も教えてもらおう。

 

「そう。よろしく春日部さん。次に、わたし達より先に落ちたと思ったら落ち着いて枝を集め始めて、火をつけて急に消えたと思ったら新しい服に着替えて出てきた貴方は?」

 

 あの状況でそこまで見てたの・・・?すごい落ち着いてるな。

 

「えっと・・・僕は天歌奏。年齢は十六で皆とそんなに変わらないと思うから、仲良くしてください」

 

 あれ、何か春日部さんが驚いてるけど・・・何か驚くようなこと、僕言ったかな?

 

「ええ、よろしく天歌君」

「あ、僕のことは奏でいいよ。もといたところでもそっちで呼ばれることのほうが多かったし。他の二人も、そっちでお願い」

「分かったわ、奏君。最後に、奏君とは正反対の、野蛮で凶暴そうな貴方は?」

 

 久遠さーん・・・貴方は思ったことをそのまま口にする人ですかー?もう少しオブラートに包まないと相手もいい気は・・・

 

「見たまんま、そいつとは正反対の野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子揃ったダメ人間だから、用法と要領を守った上で適切な態度で接してくれよ三人とも」

 

 しないわけでもなかった。それでいいのか、逆廻君・・・

 

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

「ハハ、マジかよ。今度作っておくから覚悟しておけ、お嬢様」

 

 なんだか、この二人には似たところがあるよな・・・

 

「さて、自己紹介が終わってすぐに悪いけど、これからどうするの?」

「そうだな・・・普通は、招待状にかかれてた箱庭とか言うものを説明するやつが出てくるだろうし、それを待てばいいんじゃないか?」

「そうね。この世界について何も知らないままでは動きようがないもの」

「・・・・・・。この状況で落ち着きすぎるのもどうかと思うけど」

(全くです)

 

 ん?今声が聞こえたな。音の感じからして・・・

 

「ねえ、待ってて時間を無駄に使うくらいなら・・・あの草むらの陰にいる人にでも頼んで教えてもらわない?」

 

 あ、驚いて立ち上がった。にしても・・・これは予想外だったな。

 

「何だ、貴方も気づいていたの?」

「うん、全くですってつぶやくのが聞こえてさ。その様子だとそっちの二人もでしょ?」

 

 あ、女の子が驚いてる。まあ普通ならあの距離で音は聞こえないからね。

 

「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?」

「風上にたたれたら嫌でも分かる」

 

・・・皆、苛立ってるのは分かるけど、殺気のこもった目線はどうかと思うよ?初対面なんだし。

 

「や、やだなあ御三人様。そんな捕食者みたいな目で見られては黒ウサギは死んでしまいますよ?」

 

 あ、やっぱりその耳とか尻尾とかはウサギのなんだ。見たまんまの(色は違うけど)名前でちょっと驚いた。

 後気になるのはあの格好だけど・・・服装なんて本人の趣味しだいだよな。どんだけ露出の多い格好をしていても他人が口出しすることじゃない。

 

「古来より、弱い生き物であるウサギには捕食者と孤独という二つの天敵がございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」

「断る」

「却下」

「お断りします」

「僕は別にいいけど・・・君たち三人はなぜこの状況でそれがいえるんだ!?」

 

 驚きだよ。まさか三人が三人とも拒否するんて・・・

 

「あっは、取り付くシマもないですね♪そして、そちらの殿方!味方をしてくださりありがとうございます!」

 

 あ、何かお礼言われた。

 しかも今の感じは・・・心の底からの一言?苦労してるのかな・・・?

 まあ、悪い人じゃないみたいだし・・・ん?春日部さんは黒ウサギさんの背後に回って何をするつもりなのかな?嫌な予感しかしないんだけど・・・

 

「えい」

「フギャ!」

 

 ウサ耳思いっきり引っ張ったー!?おかしいな、初対面だよね!?何でそんな躊躇いがないの!?そして何でウサ耳は抜けないの!?本物なのか・・・?

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでならまだしも、なぜ引っこ抜きに!?さすがに受け入れられませんよ!?」

「どうなってるのか気になってつい・・・」

 

 好奇心!?好奇心で引っこ抜きにかかったのか!!?

 

「へえ?そのウサ耳は本物なのか?」

「・・・。じゃあ私も」

 

 あ、残りの二人もウサ耳をつかんで・・・左右に力いっぱい引っ張った。そして黒ウサギさんは言葉にならない悲鳴を上げてるし・・・何この状況?

 

「三人ともストップ!黒ウサギさんすごく痛そうだから!」

「その方の仰るとおりです!早く黒ウサギの素敵耳を離してください!」

「やなこった!こんな面白いもん、飽きるまではいじるに決まってんだろ!」

 

 いやおかしいだろ!そしてなんで久遠さんに春日部さんも頷いてるんだよ!

 ああ・・・仕方ない。だったら他のものに意識を移してもらうか。あんまり長い曲をやってもだし・・・これでいくか。

 力をこめないようにして、全てを奏でる。

 

「Sah ein Knab ein Ros-lein stehn,」

 

 少年が一本の小さなバラを見つけた

 

「へえ」

「これは・・・」

「きれいな音ね」

「うん。ほんとうに・・・」

 

 お、四人の意識がこっちにむいた。

 黒ウサギの耳からも手を離したし、このまま歌えば大丈夫かな。

 

「Roslein auf der Heiden,――――」

 

荒れ野の野バラを――――

 

そして、僕はそのまま一曲歌いきった。

 




こんな感じになりました。


前回出したカーロミオベン、今回の最後に出てきたハイデンレースラインの二曲は、自分が好きな曲です。


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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歌い手、説明を受ける

なぜだろう?三日連続で投稿できた。

では、本編へどうぞ!


「ご静聴、ありがとうございました」

 

僕がそういって頭を下げると、四人とも拍手をしてくれた。これが嬉しいから、僕は歌を続けてる部分もある。

 

「普通に上手いな、歌」

「ありがとう、逆廻君。そういってもらえると嬉しい」

「本当に上手ね。小さいころからやっていたの?」

「まあ、一応そうなるのかな。いつから始めたのか覚えてないくらいだし」

 

 気がついたら、当たり前の日常になっていたのだ。

 

「・・・・・・」

「えっと、春日部さん?何か気になることでも?」

「・・・ううん、気のせいだと思うから」

「そう?ならいいけど・・・」

 

 勘違いの内容が気になって仕方ない・・・

 

「・・・さて、皆が落ち着いたところで、説明をお願いしてもいいかな、黒ウサギさん?」

「あ、はい。ありがとうございました」

 

 別にお礼を言われることでもないんだけどな~。

 

「では、改めまして。ようこそ、“箱庭の世界”へ!我々は皆さんにギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼンさせていただくために召喚いたしました!」

「ギフトゲーム?」

「YES!皆さんは普通の人間ではございません!その特異な力、たとえば、先ほど奏さんがやった、伴奏と歌を同時に行う力などですが、それらは様々な修羅神仏、悪魔、精霊、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその恩恵を持つもの同士が競い合うゲーム、箱庭とは強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活するために作られたステージなのでございます!」

 

 まあ、これが普通の力じゃないってのは予想がついてたけど・・・またずいぶんとすごい存在から与えられたもんだな。

 

「まず初歩的なことから聞くけど、我々、というのは貴女を含む誰かなの?」

「YES!異世界から召喚されたギフト所持者は箱庭で生活するにあたって、数多あるコミュニティの中のいずれかに属していただきます♪」

「断る」

 

 なぜそのタイミングで口を挟むんだ、逆廻君?

 

「属していただきます!」

 

 黒ウサギさんも必死になるな。

 

「そして『ギフトゲーム』の勝者は“主催者”の提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっています」

「・・・“主催者”ってだれ?」

「ゲームによって様々です。暇つぶしのために修羅神仏が試練と称して行うこともあれば、コミュニティが力を誇示するために開催することもあります。特徴として、前者は主催者が主催者なだけにハイリスクハイリターンとなります」

「どんな感じに?」

 

 これは僕の質問だ。その内容についてはちゃんと知っておかないと。

 

「そうですね。リスクとしてはゲームの内容が凶悪かつ難題であったり、命の危険もあります」

 

 予想以上に物騒だな。神様って人の味方のイメージがあったんだけど。

 

「ですが、それゆえに見返りも大きいです。主催者によっては新たなギフトを手にすることも可能です。ですが、そのような試練にチャレンジするためには参加者もチップを払う必要が出てきます。もし参加者が敗北したなら、それらは全て主催者側に寄贈されます」

 

 あんまり、軽率にゲームをするべきではないんだろうな。賭けと同じだ。

 

「また物騒ね。チップには何を?」

「その時に応じて様々なものがあります。金品、土地、利権、名誉、それに人間や己が身に宿す恩恵も可能です。ただし、この恩恵をかけてゲームを行う場合には、これもまたハイリスクハイリターンとなります」

「勝てば相手の恩恵を奪え、負ければ自分の才能が失われる、から?」

「その通りです。さて、他に質問はございますか?もしないのであれば、残りの説明は我々のコミュニティで行いたいのですが」

「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」

 

 今まで静聴していた逆廻君がそう言いながら立ち上がった。

 まだこの場で聴かないといけないことってあるのかな?

 

「・・・どういった質問でしょう?ルールですか?ゲームそのものですか?」

「いや、そんなものはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ。そんなもんは聞いたところでどうしようもないんだからな。俺が聞きたいのは、手紙に書いてあったことだ」

 

 逆廻君は巨大な天幕に覆われた都市に向けて、何もかもを見下すような視線で一言、

 

「この世界は・・・・・・面白いか?」

 

そう、聞いた。

確かに、忘れていたけど一番重要なことだ。

 手紙には何もかもを捨てて箱庭に来い、と書いてあったのだから、それに見合うものがあるのか・・・それは聞かなければならない。

 そして、黒ウサギはその質問に対して、

 

「――――YES。『ギフトゲーム』は人を超えたものだけが参加できる神魔の遊戯。この世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保障いたします♪」

 

 そう、自信たっぷりに答えるのだった。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

 さて、僕たちは今黒ウサギさんに連れられて箱庭に向かっているのだが・・・

 

「んじゃあ、ちょっと世界の果てを見に行ってくる」

 

 逆廻君が黒ウサギさんに聞こえない声量でそう言ってきた。

・・・何なんだこの問題児は・・・おとなしくしようって気はないのか・・・?

 

「いや、ちょっとじゃないでしょ?せめて黒ウサギさんに許可を取って、ムグッ!?」

 

 僕が逆廻君を説得しようとしていたら急に口をふさがれた。何故!?

 誰の仕業かと後ろを振り向くと、久遠さんだった。

 

「黒ウサギには言わないであげるから、どうぞ行ってらっしゃい」

「オウ、奏の説得も任せた!」

 

 そして、逆廻君はそのままものすごい速さで駆けて行った。

 とりあえず、放してほしいという意図をこめて久遠さんの腕をタップする。

 

「あ、ごめんなさい。あのままだと黒ウサギに知られてしまいそうだったから」

「それが目的だったんだけど・・・いいのかな?」

「大丈夫よ。なんとなくだけど、彼は殺されても死にそうにないもの」

「わかるけど、その言い方はどうなんだろう・・・」

 

 まあ、もう手遅れだしどうしようもないか。後で黒ウサギさんに謝ろう。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

「ジン坊ちゃーン!新しい方を連れてきましたよー!」

 

 黒ウサギさんは石造りの階段に座っている少年を見つけるとそう声をかけた。

 あれがコミュニティとやらのメンバーなのかな?結構幼い子に見えるけど・・・

 

「お帰り、黒ウサギ。そちらの御三方が?」

「はいな、こちらの方々が・・・あれ?三人?」

 

 黒ウサギさんはクルリと振り返り、数を数えるとカチンと固まった。

 

「・・・あれ?もう一人いませんでした?こう目つきも口も悪くて、全身から問題児オーラを放っている殿方が」

「十六夜君なら、“ちょっと世界の果てを見に行ってくる”と言ってあっちのほうに駆けて行ったわ」

「な、なんで止めてくれなかったのですか!」

「“止めてくれるなよ”と言われたもの」

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

「“黒ウサギには言うなよ”と言われたから」

「嘘だ!久遠さんは当たり前のように送り出したし、春日部さんは無関心だったよね!?」

 

 何故そこで黒ウサギさんを弄り始めるんだ・・・

 

「奏さんも、知っていたなら教えてください!」

「ゴメン・・・久遠さんに止められた。後、僕が言えた事じゃないかもだけど・・・追いかけたほうがよくないかな?逆廻君が向かったほうからは初めて聞く鳴き声とか聞こえるし・・・」

「そうでした!世界の果て付近にはゲームのために放し飼いにされた幻獣がいます!このままでは十六夜さんが幻獣のギフトゲームに!」

「幻獣?」

 

 あ、春日部さんの目が輝いてる。動物が好きなのかな?

 

「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉なのですが・・・今はそれを説明している時間がありません!申し訳ありませんが、ジン坊ちゃん。黒ウサギは十六夜さんを連れてきますので、皆さんの案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「分かった。よろしくね、黒ウサギ」

「YES!箱庭の貴族と謳われるウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります!」

 

 黒ウサギさんは髪の色を淡い緋色にして先ほど久遠さんが指した方向へと跳んでいった。

 感情に髪の色は左右されるのかな?今も怒ってたみたいだし。

 

「ええと・・・簡単に自己紹介をさせてもらってもいいでしょうか?」

「うん、君は?」

「あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします」

「ええ、よろしくジン君。わたしは久遠飛鳥よ。そっちの猫を連れてるのが」

「春日部耀」

「で、僕は天歌奏。これからよろしくね、ジン君」

 

 この歳でここまでしっかりとしてるのか・・・すごいな。

 でも、そんな環境にいたってことだし・・・黒ウサギの焦りようから考えると・・・いや、考えるのはよそう。何らかの機会で聞けるだろうし。

 

「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね、軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」

 

 久遠さんがそう言いながらジン君の手を取って、何かを楽しみにする笑顔で箱庭の外門をくぐっていった。

 

「春日部さん、僕たちも行こうか?」

「うん・・・行こう」

 

 それを追うようにして、僕たち二人と一匹も外門をくぐっていった。

 




こんな感じになりました。


次回はエセ紳士が出てくる予定です。


それと、言い忘れていましたがこの作品はヒロイン未定ですのであしからず。


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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歌い手、クズに会う

もう、サブタイのまんまの話です。

そして、自分はあのキャラが嫌いなので、できる限り出番を減らす方向で行きます。


では、本編へどうぞ!


 あの後、僕達は“六本傷”というコミュニティの旗を掲げているカフェテラスで、食事を取ることになった。

 にしても、この箱庭ってところ、珍しいものが多いな~。いろんな種族が集まってるだけでもすごいし。

 

「いらっしゃいませー。御注文はどうしますか?」

「えーと、紅茶を二つと緑茶を一つ。奏君は飲み物、どうするの?」

 

 あ、周りを見てたら僕だけ注文を言ってなかった・・・迷惑かけちゃったな。

 

「ゴメン、この辺のもの見てて聞いてなかった。コーヒーでお願いします」

「じゃあコーヒーも一つ。それと、軽食にコレとコレと」

『ネコマンマを!』

「ティーセットを四つにネコマンマですね。かしこまりました!」

 

 ネコマンマ?一体誰が・・・

 

「三毛猫の言葉、分かるの?」

「そりゃ分かりますよー見ての通り、私は猫族なんですから。お歳のわりに随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスさせてもらいます!」

 

 猫耳に尻尾があるからまさかとは思ってたけど・・・そのまんま猫族なんだな。

 そして猫の名前は三毛猫か・・・そのまんま過ぎない?君は鉄生か?

 

 

 さて、そこからあったことはダイジェストで伝えようと思う。理由としては、あのクズタイガーのことを長く語りたくないのだ。

 

① 春日部さんは生きていれば誰とでも意思疎通できる。

② 久遠さんの事は飛鳥と呼んでいいそうだ。とりあえず飛鳥さん、でいこう。

③ そうして話しているところにピチピチタキシードのクズタイガー、ガルドが来て勝手に同席してきた。

④ どうやら“フォレス・ガロ”とやらのリーダーだそうだ。

⑤ コミュニティでは活動するために“名”“旗印”がなければかなり辛い。

⑥ それはギフトゲームでかけることが可能で、クズのコミュニティはそのゲームに勝利することで大きくなっていった。

⑦ そして、数年前までは東で最大のコミュニティだったジン君のコミュニティもまた、それらを奪われて“ノーネーム”という底辺に落とされたようだ。

⑧ それを行ったのは、この世界で特権を乱用する神様などで、通称魔王。

⑨ 結果残っているのは膨大な居住区画のみ。

⑩ だから、プレイヤーが欲しくて僕たち四人を召喚した。

⑪ で、そんなところにいても何もないから、よかったら自分のところに来ないか?と誘われた。(今ここです)

 

「・・・で、どうですか皆さん?貴女たち三人には箱庭で三十日間の自由が認められておりますので、返事はすぐでなくて構いません。一度、二つのコミュニティを視察し、後日報告していただければ、」

「その必要はないわ。ジン君のところで間に合ってるもの」

 

 あ、クズタイガーが固まった。

 普通、今までの説明を聞いてこう返されるとは思わないだろうし、普通だけど、今までの話の中にいくつか穴があったことに気づいてないのかな?

 ジン君も固まってるのはこのことを知られたら自分のところにはこないと思ってたからかな?

 

「春日部さんはどっちのコミュニティに入りたい?」

「別にどっちでもいいかな。私は、友達を作りにこの世界に来たから」

「あら意外。じゃあ私が友達一号に立候補してもいいかしら?私たちって正反対だけど仲良くやっていけそうな気がするの」

「二人とも、正反対っぽいのにどこか似たところが多いからね。あ、僕も立候補していいかな?二人の友達に」

 

 せっかくこうして会えたんだから、友達になりたい。出会いは大切なんだってことは、前いた世界で学んだ。

 といっても、このクズタイガーは例外の一つだけど。

 

「・・・うん。飛鳥は私の知ってる女の子達とちょっと違うし、奏もなんだか予想してた通りみたいだから大丈夫かも」

 

 うん?予想?この短い時間でそんなことしてたのかな?

 

「じゃあ、これからもよろしくね、春日部さんに奏君」

「うん、よろしく、飛鳥、奏」

「よろしく、二人とも」

 

 さて、せっかく友達が出来たことだし友達がいるコミュニティにしようかな。

 でも、理由が春日部さんとかぶるのはどう思われるか・・・まあ、大丈夫か。

 

「失礼ですが、理由を教えていただいても?」

 

 えー、この空気に入り込むの?それはないだろ・・・

 

「だから、私たちには貴方からの勧誘なんて間に合ってるのよ。春日部さんは友達を作りに来ただけだから、どっちのコミュニティでもいいのよね?」

「うん」

「次に、奏君は?」

 

 あ、理由答えないといけない空気だ・・・さて、どうするか・・・

 

「ジン君、君のコミュニティって子供、いる?」

「あ・・・はい。僕よりも年下の子供が120人います」

 

 ジン君はもういっそ、全部正直に答えるつもりみたいだ。

 うん、そっちのほうが好感が持てるよ。

 

「なら、ジン君のコミュニティかな。友達も入るみたいだし、子供に歌を聞いてもらうのは好きだし。飛鳥さんの理由は?」

 

 

 飛鳥さんはクズタイガーのほうを見て、少々威圧的な態度で言い始める。

 

「私、久遠飛鳥は裕福だった家に約束された将来、そういった人が望みうる全てを支払って、この箱庭に来たの。それを小さな一地域を支配している組織の末端として迎え入れられてもなんとも思わない、むしろジン君の組織から上り詰めていくほうが魅力的なのよ。

 分かったら自身の身の丈を知った上で出直してきなさい、エセ紳士さん?」

 

 なんだか、こういうことになれてるみたいな感じが、飛鳥さんからはするな。藻といた世界ではどんな立場だったんだろう?

 

「お・・・お言葉ですがレデ

「黙りなさい」

 

 うん?クズタイガーの口が不自然な形で閉じたぞ?まるで飛鳥さんの命令には逆らえないみたいに・・・

 

「・・・!?・・・・・・!???」

「貴方からはまだ聞き出さなければならないことがあるの。だから貴方はそこに座って、私の質問に答え続けなさい」

 

 飛鳥さんがそう言うと、クズタイガーは椅子にヒビが入るほど勢いよく座った。

 間違いない、これが飛鳥さんのギフトなんだ。

 

 そして、飛鳥さんの命令によってクズタイガーが喋ったのは、最低最悪の事実だった。

 




こんな感じになりました。


次回かその次には、奏のギフトについて全て出すつもりでいます。
名前だけになるかもしれませんが。
数だけあかしてしまうと、四つになります。


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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歌い手、変態に出会う

予想以上にお気に入りと評価があって驚いています・・・
評価10とか、初めて見た・・・


お気に入り登録してくださった32名の皆様。
そして、評価をしてくださった『エスト』さん、『ヘ(^o^)/』さん、『銀のナイフ』さん、本当にありがとうございます!
これからも、どうぞよろしくお願いします!


では、本編へどうぞ!


「「「「ムシャクシャしてやった。反省はしていません」」」」

「黙らっしゃい!というか、せめて反省しなさい!!」

 

 皆で決めていた台詞を言ったら、黒ウサギさんのハリセンで思いっきり叩かれた。痛い・・・

 

 黒ウサギさんがここまで怒っているのには、もちろん理由がある。

 それは、僕たち三人があのクズタイガーにギフトゲームを挑んだことだ。

 

「というか、何で奏さんまでそちら側なのですか!?貴方は止める側でしょう!」

「いや、今冷静になって考えてみればそうなんだけど・・・あの状況では無理です。さすがにイラッと来たし、その賞品に納得してしまいます」

「確かにその気持ちは分かりますが・・・でも、この賞品で得られるのはただの自己満足です。彼らの罪は、時間さえかければ必ず暴かれるのですから」

 

 うん、その自覚はある。

 だって、彼らが認める罪とは、彼らが女性や子供を人質を取って旗印をかけたゲームを強制していたこと。そして、その人たちを、既に殺していることだ。

 さらに言うなら、バレないようにとその死体を部下に食わせていた。本当に、クズのやることだ。

 

「確かに、黒ウサギの言うとおり時間さえかければ全て暴くことが出来るわ。でも、それはあくまでも時間をかければ、の話よ。あんな外道のためにそんな時間はかけたくないの」

 

 それに、箱庭の法律は箱庭でのみ通用するものだ。そんな悠長なことをしていれば、裁く前に箱庭の外に逃げられてしまう。

 あんなクズが裁かれず、悠々と生きているなど許せるはずもない。

 

「それにね、黒ウサギ。私は道徳云々なんかより、」

 

 なんかって言った!?今なんかって言った!?道徳は大切だよ!

 

「あの外道が私の視界に入るところで野放しにされていることが許せないの。ここで逃がしたら、いつか報復しに来るに決まっているもの」

「それに、また新しい被害者が出るはず。これ以上、子供が殺されるのは避けたいんだ」

 

 まだ未来がある子供達が殺されるなんて、あっていいわけがない。

 まあ、僕もまだ子供なんだろうけど・・・高校に入ったばっかりだし。

 

「黒ウサギ、僕もガルドを逃がしたくないって思ってるんだ。これでも僕はコミュニティのリーダーだし、ノーネームには子供もたくさんいる。彼のような悪人を野放しにしておけない」

 

 ジン君も同意見であることを示したことで、黒ウサギも諦めたように頷いた。

 

「はぁ~・・・まあいいでしょう。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし、“フォレス・ガロ”程度であれば十六夜さん一人でも、」

 

 うん、僕も彼一人で行けると思うよ?でも、彼らは問題児で独自の価値観を持っているわけで・・・

 

「念のために言っておくが黒ウサギ、俺は参加しねえぞ?」

「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」

「やっぱりこうなったか・・・まあ、僕も飛鳥さんと同意見だけど」

 

 まあ、この場でこの意見を言う僕も黒ウサギさんには悪いな、と思う。

 でも、フン、と鼻を鳴らしてる二人ほどじゃないと思うんだ。

 

「だ、駄目ですよ御二人とも!御二人はコミュニティの仲間なんですから、協力していただかないと」

 

 やっぱり、僕のことを忘れるくらいに二人の態度が気になってる。

 まあ、予想はついてたんだけど・・・悲しいものがあるな、これ。無視されてるみたいで・・・

 

「奏さん?どうかしましたか?先ほどから心ここにあらず、という様子ですが・・・」

「あ、大丈夫。大丈夫だから気にしないで。で、話は終わったの?」

「はい。今から皆さんのギフトを鑑定していただくために“サウザンドアイズ”というコミュニティに向かうところです」

 

 しまった。ちょっと嘆いてたら結構話は進んでたみたいだ。

 

「うん、分かった。話聞いてなくてごめんね?」

「いえ、どうぞお気になさらず。あの問題児様がたのようにだけは、決してならないで下されば、それで・・・」

 

 なんだろう、まだ一日もたってないのに黒ウサギさんが一か月分くらい苦労したように見える・・・

 

「うん、朱に交わっても赤く染まらないよう、頑張るよ」

 

 そう言いながら、勝手に進んでいく問題児達を指差す。

 

「あ、皆さん!勝手に行かないでください!そちらではありません!!」

 

 黒ウサギさんが何とか三人を連れてくる。今度こそ目的地に向かえるかな?

 

「もう!なんで貴方達は勝手に進んでいくのですか!」

「「「だって、そこに道があるから」」」

 

 そんな山みたいな理由で!?

 

「はぁ・・・もういいです、諦めました。では、サウザンドアイズに向かいましょう」

 

 黒ウサギさんはそう言いながら僕たちを先導していく。

 さて、サウザンドアイズに向かいながら道脇を見ると、そこには街路樹が植えられていた。異世界でも街路樹って植えてるんだな。

 

「にしても、きれいな桜だな~。僕のいた世界では、咲くまでもう少しかかりそうだったけど」

「いえ、少し花弁の形が違うわ。それに、もう真夏じゃない」

「いや、まだ初夏になったばかりだ、気合の入った桜が残っててもおかしくないだろ」

「・・・?今は秋だったと思うけど」

 

 あら?何故全員の意見が食い違うんだ?一人くらいなら勘違いで片付けるんだけど。

 そんなことを考えていると、黒ウサギさんが笑いながら説明してくれた。

 

「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのです。なので、時代以外にも歴史や文化、生態系など違う箇所が多々見つかるはずです」

「へぇ、パラレルワールドってやつか?」

「近いですが、正解ではありませんね。正しくは立体交差世界論と言うのですが、」

「奏、ちょっといい?」

 

 黒ウサギさんが説明している途中で、春日部さんが後ろから小声で話しかけてきた。

 なんだか、召喚された世界のことを聞いた辺りから思案顔だったんだけど、どうかしたのかな?

 

「うん、いいけど。どうしたの?」

「ちょっと気になることがあったから、確認しようと思って」

「それって、湖で言ってた勘違いのこと?」

「うん、それ。じゃあ、いい?」

「どうぞ」

 

 さて、一体どんな質問が来るのかな?

 

「奏って、もといた世界で『奇跡の歌い手』って呼ばれてなかった?」

「・・・はい?」

 

 いや、呼ばれてたけど・・・なんで春日部さんが知ってるの?

 

「呼ばれてないなら、それでいいんだけど、」

「あ、いや。呼ばれてたよ。でも、なんで春日部さんが」

 

 その呼び方を知ってるの?そう聞こうとしたら、

 

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギイィィィィ!」

「きゃあーーーーー・・・・!」

「何があった!?」

 

 ちょっとそれどころじゃなくなった。

 僕と春日部さんは二人で水路のほうへと歩いていき、和服の幼い少女に抱きつかれて水路に落ちている黒ウサギを見た。

 

「し、白夜叉様!?どうして貴方がこんな下層に!?」

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからのう!ほれ、ここが良いかここが良いか!」

 

 ・・・あれ?勘違いじゃなければ少女がおっさんっぽいことを言いながら黒ウサギさんにセクハラしてるぞ・・・それに、今黒ウサギ白夜叉“様”ってよんだよな・・・こんなのが結構偉い立場だったりするのか?

 

「離れてください!」

 

 あ、白夜叉・・・さん投げられた。

 で、その先では何か逆廻君が足を構えてるし・・・まさか・・・

 

「てい」

「ゴバァ!お、おんし、飛んできた美少女を足で受け止めるとは何様だ!」

 

 蹴ったー!何のためらいもなく蹴ったー!

 それと白夜叉さん!確かに美少女なのは認めるけど、自分で言うのはどうかと思うよ!

 

「さて・・・大丈夫、黒ウサギさん?」

「はい・・・ありがとうございます奏さん・・・」

 

 黒ウサギさんに手を差し出すと、それをつかんで水路から上がってきた。

 どう聞いても元気がない声だな・・・多分、これからも苦労していくんだろうな。

 

「はい、タオル。なんというか・・・頑張って」

「はい・・・頑張ります・・・」

 




こんな感じになりました。


ところで、11月に発売の問題児シリーズの最新刊に特典のBDの内容があるというのは本当でしょうか・・・?
だとしたら、せっかく買ったのに・・・
まあ、アニメも面白かったのでいいですが。

発売前に、無形物の方でBDの短編をやりたい・・・


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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歌い手、箱庭の仕組みを知る

どうも、いまだに奏のキャラが自分の中で固まらず、一輝と混ざってしまうbiwanosinです。

一人称とか、人の呼び方とかが間違っていたら教えてください。

では、本編へどうぞ!


 あの後、僕達は白夜叉さんの私室へと通された。

 店は閉めてしまったので、こっちしか使えないそうだ。

 

「では、もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の外門、三三四五外門に本拠を構える“サウザンドアイズ”幹部の白夜叉だ。黒ウサギにちょくちょく手を貸してやっている器の大きい美少女と認識しておいてくれ」

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

 なんだか黒ウサギさんが投げやり気味なんだけど・・・まあ、あんなセクハラをされてたら仕方ないのかもしれない。

 

「その外門って何?」

「箱庭の階層を示す外壁にある門です。中心に近ければ数字も若くなり、強大な力を持つ者たちが住んでいます」

 

 春日部さんの質問に答えながら黒ウサギさんが上空から見た箱庭の図を見せてくれた。

 へえ、こうなってるんだ。なんとなく、木の年輪を思い出すな。

 

「超巨大タマネギ?」

「いえ、超巨大バウムクーヘンじゃないかしら?」

「ああ、どちらかといえばバウムクーヘンだ」

 

 三人が三人揃って食べ物だった。

 いや、僕のも三人の意見に近いんだけどね?バウムクーヘンの形って、木の年輪が元だし。

 

「ふふ、上手いこと例えるのう。その例えなら、今いるところはバウムクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。さらに説明すると、ここは東西南北に区切った区画の東側に当たり、外門のすぐ外には世界の果てがあり、コミュニティに所属してこそいないものの強力なギフトを持つものが住んでおる。――――その水樹の持ち主も、その一人だ」

 

 白夜叉さんは逆廻君の持っていた木の苗を扇子で指しながらそういった。

 水樹っていうんだ、あの木。名前からして、何か水に関係あるのかな?

 

「して、一体誰がその木を得たのだ?」

「十六夜さんがここに来る前に得た物です」

「ほう、その童か。して、どのようなゲームを?勇気か?それとも知恵か?」

「驚くことに、素手で蛇神様を叩きのめしました」

 

 今、蛇“神”って言わなかった?

 神がつくってことは、神格を持ってるんだよね?それを素手で?

 どうやら、彼は予想以上のチート持ちだったようだ・・・

 

「なんと!?直接的に倒したとは・・・その童は神格持ちの神童か?」

「いえ、それは違うかと。神格なら一目見れば分かるはずですし」

「む、それもそうか・・・だが、それでは神格持ちを倒したことの説明がつかんぞ。蛇と人間では、持っている力はドングリの背比べだ」

 

 ふむ・・・会話の感じからすると、箱庭では神格はギフトのブースターみたいだな。

 持っているからといて神様になるわけではないようだ。

 

「でも、そこまで知ってるってことは、白夜叉さんはその蛇神さんと知り合いなんですか?」

 

 僕は、ふと思ったことを聞いてみることにした。

 偉い人みたいだから敬語を選んだけど・・・あってるよね?

 

「知り合いも何も、あれに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前のことになるがのう」

 

 ・・・失礼になるから口には出さないけど、貴女はいったいいくつですか?

 何百年前って・・・その見た目でそんな年月を過ごしたとは思えないんだけど・・・本当に何者?

 

「へえ、じゃあオマエはあの蛇よりも強いのか?」

「当然だ。私は東側の“階層支配者”。この東側の四桁以下では並ぶもののいない、最強のホストなのだからの」

 

 あ、この後の展開が読めたぞ・・・問題児三人組が目を光らせてるし、最強って言ってたからな・・・巻き込まれないといいんだけど・・・

 

「そう、なら貴女のゲームをクリアできれば、私たちのコミュニティは東側で最強のコミュニティということになるのかしら?」

「無論、そうなるのう」

「探す手間が省けたな」

 

 ああ、三人がやる気満々だよ・・・確かに、コミュニティの強さを示すにはうってつけかもしれないけど、今さっき黒ウサギさんがお世話になってるって言ってたじゃん・・・迷惑かけたくないよ・・・

 いや、白夜叉さんも笑ってるし、楽しんでるみたいだけど・・・

 

「抜け目のない童たちだ。依頼しておきながら私にギフトゲームで挑むとは」

「え?ちょ、ちょっと皆さん!?」

 

 黒ウサギさんが慌てて止めようとするけど、白夜叉さんは構わないみたいだ。

 右手で落ち着くように、と黒ウサギさんに示してる。

 

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」

「あら、ノリがいいじゃない。そういうの好きよ」

「一応言っておくが、奏も参加だからな」

「・・・拒否権は?」

「・・・無い」

 

 これ以上の抵抗は無駄かな・・・出来れば、こんなことしたくないんだけど・・・

 

「さて、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」

 

 僕がどうするか悩んでいると、白夜叉さんは着物の裾から向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、恐怖を覚える笑みで一言、

 

「おんしらが望むのは挑戦か・・・もしくは、決闘か?」

 

 その瞬間、白夜叉さんの取り出したカードが光り、その場が回転した。

 いや、これは僕たちの脳に何かを流しているのか。

 頭に浮かぶ光景は、穂波が揺れる草原、白い地平線を覗く丘、森林の湖畔。

 今まで見たことのない光景ばかりが脳裏に浮かんでは消え、そのままどこかに投げ出される。

 

 投げ出されたのは・・・白い雪原と凍る湖畔。そして一番目をひくのが、水平に太陽が廻っていることだった。

 

「さて、今一度名乗り直し、問おうかの」

 

 僕たちが唖然としていると、白夜叉さんが問いかけてきた。

 

「私は“白き夜の魔王”――――太陽と白夜の星霊・白夜叉。箱庭にはびこる魔王の一人よ。」

 

 只者ではないだろうと思ってたけど、まさかの魔王様でした。

 




さて、そろそろ奏のギフト名が明かされます。

もちろん、伴奏と同時に歌っていたのも、あの程度ではありませんので。

では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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歌い手、幻獣に出会う

今回は、四千文字を越えました。

ひさしぶりにこの文字数に行って疲れた・・・


では、本編へどうぞ!


「おんしらが望むのは試練への挑戦か?それとも、対等な決闘か?」

 

 さて、白夜叉さんからそう問われたんだけど・・・さすがに、問題児達も状況を考えるよね?

 この中決闘とか言われたら、僕死ぬよ?割と冗談抜きに死ぬよ?

 

「・・・はぁ。参った。やられたよ。降参だ白夜叉。大人しく試されてやるよ」

「く、くく。可愛らしい意地の張り方だのう・・・して、他の童たちも同じか?」

 

 逆廻君、白夜叉さんの言ったことに反応しないで。事実なんだから。

 

「ええ。私も試されてあげていいわ」

「右に同じ」

 

 よし、苦虫を噛み潰したような表情ではあるけど、全員が挑戦を選んでくれた。

 まだ死にたくはないしね。

 

「も、もう!もう少し喧嘩を売る相手を考えてください!新人が階層支配者に喧嘩を売ったり、あまつさえ階層支配者がそれを買うなんて、どんな悪い悪夢ですか!

 それに、白夜叉様が魔王だったのはもう何千年も前の話でしょう!!」

 

 黒ウサギさん、今なんと言いました?え?この人そんな歳でこの容姿なの?

 もしかして、箱庭ではよくある話なのだろうか・・・?

 

「そして!何故奏さんは傍観していたのですか!?黒ウサギを手伝ってください!!」

「無理です。あんな中口を出せるほどすごい人間じゃないです。ただの歌い手なんです」

 

 僕だって死なないように願ってるので必死だったんだよ・・・

 

 さすがに黒ウサギさんも分かってくれたようで、それ以上は何も言ってこなかった。

 

 そうしていると、ずっと遠くにある山脈のほうから何かの鳴き声が聞こえてきた。

 何だろう、この鳴き声は・・・獣っぽい気もするし、鳥っぽい気もする・・・この二つが両立することはないと思うんだけど・・・

 

「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

「ふむ・・・あやつなら、おんしらを試すのに打って付けかもしれんのう」

 

 そう言いながら、白夜叉さんは山脈のほうにちょいちょいと手招きをする。

 いや、そんなのが見えるわけ・・・あ、何かがすっごく大きな翼を広げて、こっちに滑空してくる。見えるんだ、あれが・・・

 

 そして、その獣誰もが知っている幻獣、 鷲の翼と獅子の下半身を持つ、グリフォンだった。

 たしかに、これならあんな鳴き声にもなるよね・・・実際に獣と鳥が混ざってるんだから。

 

「さて、おんしらにはこのグリフォンを相手に、“力”“知恵”“勇気”のいずれかを比べあってもらおう」

 

『ギフトゲーム名 “鷲獅子の手綱”

・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

            久遠 飛鳥

            春日部 耀

            天歌 奏

 

・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。

・クリア方法 “力”“知恵”“勇気”の何れかでグリフォンに認められる。

・ 敗北条件  降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                         “サウザンドアイズ”印』

 

「私がやる」

 

 僕たちが契約書類を読み終わると、春日部さんが指先まできれいに伸ばして挙手をしながら、そういった。

 一体どれだけやりたいんだろう・・・グリフォンを羨望のまなざしで見つめてるし、動物好きにしては行き過ぎてると思うし。

 それと読んでて思ったんだけど、いつの間に僕も参加することになってるの?一回も参加の意思を示してなかったよね?

 

「OK、先手は譲ってやる。失敗するなよ」

「気を付けてね、春日部さん」

「なんというか・・・頑張って」

「うん、頑張る」

 

 一応、僕も参加者になってしまっているので春日部さんに激励を送る。

 春日部さんはそれに短く返すと、グリフォンと共に少し離れたところに行った。

 おそらく、僕たちを巻き込まないためであろう。

 

「え、えーと。初めまして、春日部耀です」

『!?』

 

 春日部さんがグリフォンに話しかけて、グリフォンが驚いてるけど・・・まさか、人間が言葉をかわせるとは思わなかったんだろう。

 

 さて、そのまま仲良くなって背に乗せてもらえるといいんだけど、さすがにそれは難しいかな?

 

「私を貴方の背に乗せ・・・誇りをかけて勝負しませんか?」

 

 あっれー?春日部さんは何のためらいもなく勝負することを選んだぞー。

 それに、あの姿がグリフォンを示しているのなら、あれは陸の王者であり、空の王者であるということ。“誇りをかけろ”なんて効果的過ぎる挑発なんじゃないか?

 

 そう思っていたら、グリフォンが何かを春日部さんに問いかけるような動作をする。

 さて、春日部さんはどう

 

「命を賭けます」

 

 答えるのかっておい!

 

「だ、駄目だろ、それは!」

「春日部さん、本気なの!?」

「そんな簡単に命を賭けるなんて!」

「貴方は誇りを賭ける。私は命を賭ける。もし転落して生きていても、私は貴方の晩御飯になる。・・・どうかな?」

 

 春日部さんは僕たちの声に聞く耳を持たず、グリフォンと話を続ける。

 その様子に僕たちはさらに焦るけど・・・

 

「双方、下がらんか。これはあの娘が提案したことだぞ」

「ああ。無粋なことは止めとけ。俺たちは、春日部に順番を譲ったんだからな」

 

 白夜叉さんと逆廻君に止められる。

 確かに二人の言うとおりだけど・・・それでもこれは・・・

 

「三人とも、大丈夫だよ」

 

 僕が悩んでいると、春日部さんが振り返ってそう言ってきた。

 その瞳は自信に満ちていて・・・もうそれ以上の反論が出来なくなった。

 

 そして、僕たちが大人しく見守ることをを決めると、春日部さんがグリフォンの背に跨る。どうやら、勝負をするに値すると認められたようだ。

そして、春日部さんを乗せたグリフォンは、そのまま山脈に向かって飛んで、いや、駆けて行った。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

 結果として、ゲームは春日部さんの勝利で終わった。

 最後に春日部さんがグリフォンから落ちたときにはどうなるかと思ったけど、春日部さんが風をまとって浮き、安全に着地して安心した。

 春日部さんいわく、友達になった動物から、その動物のギフトをもらえるものらしく、風をまとったのはグリフォンのギフトをもらったらしい。

 

 そして、春日部さんの持つギフトがお父さんから貰った木彫りのおかげらしく、それを見た白夜叉さんが驚いたりして、今に至る。

 

「ところで白夜叉様、今日は鑑定をお願いしたかったのですが」

 

 黒ウサギさんがそう切り出すと、白夜叉さんはゲッ、と気まずそうな顔になる。

 

「よ、よりにもよってギフト鑑定か・・・専門外もいいところなんじゃが・・・」

 

 それじゃあ、もう今日ここに来た意味がないじゃん。

 そして、あの気まずそうな顔からすると、ギフトゲームの賞品に依頼を引き受けるつもりだったんだろうか?

 

「どれどれ・・・ふむふむ・・・」

 

 こんなことを言ってるときって、大抵何にも分かってないよね。

 

「三人とも素養が高いことは分かるが・・・なんとも言えんな。おんしらは自分のギフトをどの程度把握している?」

「企業秘密」

「右に同じ」

「以下同文」

「全然知りません」

「うおおおおおい?これでは話が進まんだろう。それに、唯一まともに答えたおんしもそれでは意味がないだろう」

 

 すいません、聞かれたのに何にも答えられなかったり、答える気がないやつらばっかりで。

 本当に、この問題児達は・・・

 

「別に鑑定なんていらねえよ。人に値札貼られるのは趣味じゃねえしな」

 

 う・・・これは僕も逆廻君に賛成だ。勝手に自分のことを決め付けられるのは、気分のいいものじゃない。

 それに、中には怖い人も・・・思い出すのは止めよう。

 

 白夜叉さんはしばらく困ったように頭を掻いていたが、突然いい案が思いついたようににやりと笑い、

 

「なんにせよ、主催者として、試練をクリアしたおんしらには恩恵を与えねばならん。ちょいと贅沢な代物だがコミュニティ復興の前祝だ。受け取るがよい。」

 

 そういって柏手を打つ。

 

すると、僕たちの目の前に光り輝くカードが現れる。

 

 コバルトブルーのカード逆廻十六夜・ギフトネーム“正体不明(コードアンノウン)

 ワインレッドのカードに久遠飛鳥・ギフトネーム“威光”

 パールエメラルドのカードに春日部耀・ギフトネーム“生命の目録”“ノーフォーマー”

 アップルグリーンのカードに天歌奏・ギフトネーム“奇跡の歌い手”“共鳴”“音響操作(ソニック)”“空間倉庫”

 

 何だろう、これ?手に持ったら急に僕の名前とギフトネームとやらが現れた。

 こんな名前なんだ・・・ってか、四つも持ってるんだ、僕は・・・

 

「ギフトカード!」

 

 そう思いながら手元のカードを眺めていると、黒ウサギさんが驚いたような興奮したような声でそういう。

 この感じだと、結構貴重なものなのかな?

 

「お中元?」

「お歳暮?」

「お年玉?」

 

 そして、こんな状況でも問題児達は通常運転だった。

 

「ち、違います!このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードなんですよ!」

「素敵アイテムってことか?」

 

あーもう向こうは放って置こう。

それよりもこのギフトとやらだ。

 

 多分、僕が箱庭に来たときに着替えるために使ったりしてたのは空間倉庫とやらだろう。物を入れれるところとか、倉庫っぽいし。

 

 次に、伴奏と歌を同時に行えるのは奇跡の歌い手かな?まさかもといた世界で呼ばれてた呼び名がそのままギフトネームだったとは。

 

 残りの二つについては心当たりがないけど・・・いずれ分かるだろう。

 

「ところで、奏さんはどのようなギフトを?」

「ん?情けないことに、戦闘に使えそうではないよ」

 

 まあ、実際にはどうにかなりそうなものはあるんだけどね。

 必要になるまでは使いたくない。一度無意識にやって大変なことになったし・・・

 

「確かに、これはよく分かりませんね・・・一つを除いて音楽に関わるものみたいですし」

「ほう、どのようなものだ?」

 

 白夜叉さんがそう聞いてくるので、僕は白夜叉さんにギフトカードを渡す。

 

 見たら笑い出すかと思いきや、やけに真剣な表情で見ていた。そこまでのものあったかな?

 

「おんし、この二つのギフトについてどこまで知っておる?」

 

 白夜叉さんはそう言いながら、“奇跡の歌い手”と“共鳴”を指差す。

 ここまで真剣だと・・・隠し事はしないほうがいいかな?

 

「・・・共鳴については知らないけど、もう片方についてはいくつか。でも、できればあんまりたくさんの人には話したくない」

「そうか・・・では、おんしは少し残ってくれ。黒ウサギ、構わんな?」

「はい、構いませんが・・・何か重要なことが?」

「念のため、だよ。少し気になることがあっての」

「分かりました。では、私たちはコミュニティに戻りますね」

 

 そういって、黒ウサギさんたちはコミュニティに帰っていった。

 




こんな感じになりました。

次回、あの二つについて簡単な説明がされます。
何が出来るのかを明かすのはもう少し先になりそうですが。



では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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歌い手、ギフトについて知る

さて、サブタイの通り主人公のギフトについて軽く明かされます。

では、本編へどうぞ!


「さて、まずおんしはそのギフトについてどこまで知っておる?」

 

 黒ウサギさんたちを見送った後、白夜叉さんは部屋に戻ってくるなりそう聞いてきた。

 どこまで、か・・・

 

「知ってるのは、歌と伴奏、オーケストラ、ありとあらゆる音楽がこの身一つで、何にも使わずに奏でれるということ。ただし、僕は一切の楽器を奏でることが出来ない」

「それだけか?」

 

 白夜叉さんの声が低い。

 ああ・・・これは僕が知ってること程度なら全部知ってるな。

 

「後、僕の歌はあらゆるものに干渉する。軽い中毒性を持つことがある。以上です」

「そうか・・・なら、そのギフトについて説明はしたほうがよさそうじゃの」

 

 やっぱり、このギフトにはまだ僕の知らないことがあるんだ。

 今知ってることだけでももう十分なんだけど・・・

 

「まずその中毒性についてじゃが、そこまで気にせんでよい。ギフトを持つものには一切効かんからの」

「それは助かりますね。それのせいで前の世界では結構苦労しましたから」

 

 まあ、CD出してどうにかできたのはよかったけど、中にはそれで満足しない人もいたしな・・・

 

「まあ、そんなことはどうでもいい。問題なのはこれから話すことだ」

「いや、どうでもよくはないんですけど・・・」

 

 この箱庭の世界では、物事の大小がもといた世界とは違うみたいだな。

 

「まず、おんしのギフトは“奇跡の歌い手”と“共鳴”の二つでワンセットだ。どちらか片方でも失った瞬間に、そのギフトはほぼ無意味になる」

「つまり、使えなくなると?」

「いや、失ったのが“共鳴”の方であれば、“奇跡の歌い手”は使うことは出来る。逆は出来んがな」

 

 じゃあなんで無意味なんだろう?まだ僕が知らないことと何か関係があるのかな?

 

「さて、どこから話したものか・・・まあ、まずはあのコミュニティのことからかのう」

「コミュニティ?今あるコミュニティですか?」

「いや、もう滅びた、魔王のコミュニティだ」

 

 魔王様ですか・・・このギフトと関わりがある魔王様がいたのかな?

 

「そのコミュニティのリーダー、つまり魔王はおんしと同じギフト、“奇跡の歌い手”をもっておった」

 

 関わりがあるどころか、前任者でした。

 

「マジですか!?」

「うむ、マジじゃ。まあ、元々は“主催者権限”を持たぬ、普通の男だったがのう」

「じゃあ、どうやって主催者権限を?」

 

 それを満たしたら、僕も主催者権限を手に入れることが出来るかもしれないってことだよな?もしそうなら、それはきっとコミュニティのためになるに違いない。

 そう思い、僕は白夜叉さんに聞いてみた。

 

「まあ、言葉にしてしまえば簡単なことだ。そやつは、仲間を集めた。自分と同じ系統のギフト、音楽シリーズと“共鳴”を持つものをな」

 

・・・このギフトってシリーズ物なんですか。

 音楽ってことは、楽器関係でどんどんでてくるのかな?

 

「その音楽シリーズとは?」

「読んで字のごとく、音楽に関わるギフトのことだ。おんしの“奇跡の歌い手”のようにな」

「となると・・・“奇跡の弦楽奏者”みたいな感じに?」

 

 自分で言っといてなんだが、語呂が悪い気がする。

 

「まあ、そんな感じだろう。奇跡の、とは限らんだろうが」

「なるほど・・・で、そのギフトを持ってる人たちはみんな“共鳴”のギフトを?」

「持っているはずだ。先ほども言ったように、その二つでワンセットだからな」

 

 ふむ・・・共鳴、ってことは・・・

 

「このギフトは、お互いの力を増大していく?」

「その通りだ。いくつか語弊もあるし、間違ったところもあるだろうが、音楽は、上手いものが集まれば迫力が出るものだろう?」

「まあ、単純すぎるくらい単純に考えればね」

 

 メンバーの実力の上下が激しいと、それは意味を成さなくなる。

 一番上手い人と一番下手な人が目立っちゃうからね。

 

「そして、音楽シリーズのギフトを持つものは、その分野での最高の実力を持つ」

「それが集まることでお互いの力・・・霊格とやらが上がり、主催者権限をえるまでにいたると?」

「そうだ。そして、それを手に入れるのは“奇跡の歌い手”を持つものとなる」

「メインになることが多いから、かな」

 

 まあ、ギフトについてはそれくらいの認識でいいだろう。

 まだ箱庭に来て間もないが、それくらいは分かる。

 

「さて・・・ここからが私の用事の本題だ」

 

 まだ本題に入ってなかったんだ。驚きだな。

 

「その男が魔王に落ち、そのまま討伐された理由は分かるか?」

「・・・・・・」

「元々、その男が仲間を集めていた理由は、ただ同士が欲しかったからだ。自らの力を上げることなど、微塵も考えていなかった」

 

 その気持ちは、よく分かる。

 このギフトを持つものは、その分野において、最高の実力を持つ。

 そのせいで、普通の人とは共に音楽を奏でることが出来ない。せっかく複数人でやってるのに、ただ自分が目立つだけになってしまうから。

 でも、自分と同じギフトを持つものならどうだ?その人たちとなら、共に音楽を奏でることが出来る。音楽を楽しむことが出来る。

 

「だが、全てのギフト保持者が揃ったとき、自らに箱庭における特急階級、主催者権限が宿ってしまった」

 

 そうなればもちろん、恐怖するだろう。

 これはどうすればいい?何かしないといけないのか?勝手に使っていいのか?自分なんかが持っていていいのか?そういった疑問によってその恐怖は増大していく。

 

「そして、そのまま自らのプレッシャーに押しつぶされ、その力を乱用してしまったのだ。その結果、魔王に落ち、コミュニティもろとも滅ぼされた。ここまで言えば分かるか?」

「はい。もし仮に“主催者権限”を得たとしても、そんなことにはならないよう、覚悟しておけってことですか?」

「そうだ。分かったな?」

「了解です。それさえ守れれば、同志を集めてもいいですか?」

 

 まあ、僕もその人と同じギフトを持ってるからね。おんなじことを思うわけですよ。

 

「構わんよ。いつか、おんしらが奏でる音楽を聞かせてくれ」

「ええ。ご予約、承りました」

 

 そうして、僕はサウザンドアイズを出て、白夜叉さんに渡された地図を頼りに“ノーネーム”の本拠に向かった。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

「さて、着いたはいいが・・・広いな、こりゃ・・・」

 

 入っていっても迷いそうだったので、入り口でどうしようか悩んでいます。

 外で寝たら風邪ひくかもだし・・・物騒だからな・・・誰かいるといいんだけど・・・

 

「あの、貴方が奏様でしょうか?」

 

 そんなことを考えていたら、少し低めのところから声が聞こえた。

 その呼び方に一瞬ビクッとすると、どうにかして落ち着きを取り戻し、返事を返す。

 

「うん、僕が天歌奏だけど、君はここの子?」

「はい!リリと申します。黒ウサギのお姉ちゃんに言われて奏様を」

「ゴメン、ちょっといいかな?」

「?」

 

 多分、この子は自分よりも立場が上だから様付けで呼んでいるんだろう。

 だからそこに含むところはないんだろうけど・・・

 

「ちょっと昔トラウマがあってね・・・様付けは止めてもらえないかな?」

 

 そう提案させてもらう。

 まあ、トラウマといってもそこまで複雑なことがあったわけではない。

 ただ、ちょっと怖いくらいのファンがいたというだけだ。

 

「そうですか・・・分かりました!では、奏さんと呼ばせてもらいますね!」

「うん、それでよろしく、リリちゃん」

 

 にしてもこの子、コロコロと表情が変わるな・・・何この可愛い生物。

 感情に合わせて二尾の尻尾も狐耳もパタパタ動いてるし・・・

 すっごく頭撫でたくなるな・・・

 

「ふみゅう・・・」

「・・・はっ!」

 

 気付かない間に頭撫でてた・・・

 

「ゴメン、つい撫でたくなって・・・」

「いえ、大丈夫ですよ。では、ご案内しますね!」

「じゃあ、よろしくっと」

 

 そう言いながら、僕はリリちゃんを抱き上げる。

 

「え、奏さん!?」

「いいから、大人しくしてなさい。もうこんな時間だし、眠気もあるでしょ?」

 

 まあ、それだけじゃないんだけどね。その辺の草むらとかから怪しい気配を案じるし、こうしておかないと、リリちゃんにも音が響いちゃうからね。

 

 さて、音をあの草むらに集中させて・・・普通の人には聞こえない音を放つ。

 ただし、普通の人には、なので聴覚の良い僕や獣のギフトを持つ(と思われる)リリちゃんには聞こえてしまう。

 だから、自分の周りに音の壁、のようなものを作り、その振動が自分に届かないようにする。まあ、まだあんまり大きくはならないから、リリちゃんを抱えたわけだけど。

 

「ふう・・・疲れた」

「あれ?奏さん、今何かしてましたか?」

 

 目的どおり、リリちゃんには聞こえていなかったようで安心する。

 

「まあ、ちょっとね。気にしなくて良いよ」

「そうですか・・・では、今度こそ案内を始めますね!」

「うん、よろしく」

 

 まあ、あの時ぶつけた音は、動物が不快に感じる音だ。

 本能的な部分にそんな音をぶつければ、恐怖で出て行ってくれるだろう。

 




こんな感じになりました。

音響操作についてはまたいずれ。
まあ、最後に使ってたりしますが・・・


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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歌い手、初のギフトゲーム

すいません、予定より遅くなりました。

無形物の方も明日の夜になりそうです。


では、本編へどうぞ!


 さて、箱庭に来て二日目、クズタイガーとのギフトゲームのために居住区画とやらに来たんだけど・・・なんか、怖いです。木が脈打っています。

 あれ?木って脈打つようなものじゃないよね?箱庭ではよくあることだったりするのかな?

 

「皆、ここに“契約書類”が貼ってあるわよ」

 

 そんなことを考えていたら、飛鳥さんがそういって皆を呼ぶ。ええっと、内容は・・・

 

『ギフトゲーム名“ハンティング”

 

 ・プレイヤー一覧 久遠飛鳥

          春日部耀

          ジン=ラッセル

          天歌奏

 

 ・クリア条件 ホストの本拠地内に潜むガルド=ガスパーの討伐。

 ・クリア方法 ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。

       指定武具以外は“契約”によってガルド=ガスパーを傷つけることは不可能。

 ・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 ・指定武具 ゲームテリトリーにて配置。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗のもと、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

            “フォレス・ガロ”印』

 

 なんだか・・・ルールが面倒くさい。

 ここまで細かく決めるものなんだなぁ・・・ギフトゲームって。

 

「ガルドのみを指定武具に・・・指定武具で打倒!?」

「こ、これはまずいです!」

 

 何か黒ウサギさんとジン君が驚いてるけど・・・多分、“契約”とやらのことだろうな・・・

 

「このゲームはそんなに危険なの?」

「いえ、ゲームそのものは単純です。問題はこのルールでして、」

「“契約”のせいでクズタイガーに指定武具以外の攻撃が効かない?」

「ええ、“契約”のせいで・・・って、何故分かったのですか!?」

 

 あ、驚いてる・・・

 

「だって、ギフトゲームに人を賭けることすら容認される世界だし、ギフトゲームは、この世界において絶対なんだろうなって思って」

「その通りですが・・・よく分かりましたね?」

「僕はただの歌い手だからね・・・冷静な観察力がないと生きていけないかな、と」

 

 なんで僕を呼んだんだろう・・・?他の三人に比べて一人で出せる力が少ないのに・・・

 

「まあ、ここで悩んでても仕方ないし、三人とも行こう?早くあんなやつは消しちゃいたい」

「それもそうね、行きましょうか」

「うん、早くしよう」

 

 そして、僕たちは森の中に入っていった。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

 さて、今クズタイガーを探しているわけだけど、全然見つかりません。

 それでも、隠れる場所はたくさんあるあらどこから出てくるか分からないし・・・そう思って警戒していると、春日部さんが

 

「大丈夫。近くには誰もいない。においで分かる」

 

 そう言ってくれた。春日部さんは動物並みの五感を持っているのでこんなときにすごく頼もしい。

 

「あら、犬にもお友達が?」

「うん、二十匹くらい」

「犬かー・・・久しぶりにモフりたい」

 

 ここ数年触ってないなー・・・箱庭にいないかな?普通の犬。

 

「奏は犬が好きなの?」

「うん、一番好きな動物は犬だよ。何でかは、自分でも分からないけど」

 

 そのことについて春日部さんと話をするのは楽しそうだけど、今はそれどころじゃないよね。

 

「それより、あのクズタイガーがどこにいるかとか分かる?」

「それは分からない。けど、風上なのに全然匂いを感じないから、どこかの建物の中にいると思う」

「そうか・・・皆、ちょっと止まってくれない?」

 

 一つやりたいことが思いついたので、その場に止まり目を瞑る。

 

「どうしたの、奏君?」

「いや、このあたりにいるのかどうかだけ確かめようかと思って。動かれると分からないからちょっと時間を頂戴。後、春日部さんは耳をふさいでおいたほうがいいと思う」

 

 さて・・・春日部さんが耳をふさいでくれたので、そのまま四方八方に超音波を放つ。

 そのまま音の跳ね返り方から、ぶつかったものが動いているのか、そのものの大きさ、命を持つのかを把握していく。

 やっていて思ったけど、多分これが“音響操作”なんだと思う。

 “音”と“響き”を意のままに操作する、そういう感じなのかな?

 

「ふう・・・この辺りにはいないみたい。多分、あっちの方にある建物の中じゃないかな?」

 

 このあたりに建物は、あそこしかない。間違いないと思う。

 

「そう・・・なら、そこにいると仮定して」

「ううん、間違いなく奏の言ってる建物の中にいる。今確認した」

 

 いつの間にやら、グリフォンのギフトで飛んでいた春日部さんがそういっている。

 目がいいってレベルじゃないよな・・・となると、何か目のいい動物のもの?何がいたかな・・・

 

「その目・・・そういえば、鷹のお友達もいるのだったわね」

「あー、なるほど。確かに鷹なら見えそうだよね」

 

 ほんとにたくさんの友達がいたんだなぁ、春日部さん。

 その生活も楽しそうだ。

 

「でも、ちょっと気になることが」

「それは何ですか?」

 

 あ、やっとジン君が喋った。何か周りにある木を見ながら考え事でもしてたみたいで、一切喋らなかったから、ちょっと心配だったんだよね。

 

「館まで植物に飲み込まれてた。勝つためとはいえ本拠の建物まで壊すのはおかしいし・・・」

「確かにそうですね・・・ガルドに何かあったんでしょうか?」

「それは行ってみれば分かるでしょ」

「そうね。ここで悩んでいても何も始まらないわ」

 

 さて、あの後しばらく歩いてその館に着いた。

 確かに、気味が悪いほどにボロッボロだし、脈打つ植物だらけだな・・・

 

「さて、まずは一階だけど・・・この様子では、誰もいないわよね?」

「うん、間違いないと思う。そんなに強い匂いはしないし」

「何より、隠れるような空間がないからね。となると・・・残るのは二階か」

 

 階段もあることだし、普通に上がっていけるだろう。

 

「じゃあ、私たちは二階に上がるけどジン君はここに残ってもらえるかしら?」

「ど、どうしてですか。僕だってギフトを持っていますし、コミュニティのリーダーです。行かないわけには」

「そうじゃないんだよ。ここに来るまでの間に色々イレギュラーなことがあったでしょ?ここでも何があるか分からないから、退路を守って欲しいんだよ」

「・・・・・・分かりました。お気をつけて」

 

 ジン君は、渋々といった様子で了承してくれた。

 物分りがよくて助かるよ。

 

「じゃあ、行きましょうか」

「うん、もうすぐそこにいるだろうし」

 

 そして、僕たちはそのまま階段を静かに上がり、一番奥にあった部屋の扉の前に立つ。

 そのまま扉を開き、中に入ると・・・

 

「――――・・・・・・GEEEEEYAAAAAaaaa!!!」

 

 そこには、変わり果てた姿となったクズタイガーと、その背に守られる白銀の十字剣が有った

 




こんな感じになりました。


次回でこのゲームは終わらせるつもりです。


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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歌い手、歌を受け入れる

今回でガルドとのゲームは終わりです。

では、本編へどうぞ!


 さて・・・多分あの十字剣が指定武具なんだろうけど・・・あれを取るにはまずクズタイガーをどうにかしないとだよね・・・

 それと、クズタイガーってあんな感じだったっけ?真っ白だし、知性を感じないんだけど・・・

 

「ボーっとしてないで逃げて!」

 

 そんなことを考えていたら、僕と飛鳥さんは春日部さんに階段まで突き飛ばされる。

 

「女の子に庇われるって、カッコ悪いなー・・・」

「くだらない事考えてないで逃げるわよ!ジン君も!!」

 

 あ、ジン君飛鳥さんに引っ張られてる。僕も逃げないとな。

 

「GEEEYAAAAAAAAAAaaa!!」

「ま、待ってください!まだ耀さんが上に!」

「そうだった!早く戻らないと!」

「ああ、もう!奏君、いいから早く逃げなさい(・・・・・・・・・・・)!」

 

・・・・・・悔しいけど、ここにいてもやれることはないよね。

 

「OK。さっさと逃げるよ!」

「ちょ、ちょっと!?」

「奏さん!?」

 

 とりあえず、二人を抱えて逃げることにした。

 体力に自信はないけど、そうも言ってられないよね!

 

「私はいいから、二人で逃げなさい(・・・・・・・・)!」

「断る!悪いけど、後よろしくね春日部さん!」

「うん、任せて」

 

 とりあえず、館を出て、何にも考えずに逃げることにした。

 少し心が痛んだけど、そんなことは一切考えずに。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

「もういいわ!どこまで逃げる気なの!」

「あ、それもそうだね」

 

 無我夢中で逃げていたら、飛鳥さんに止められた。

 冷静になってみると春日部さんが足止めしてくれてるんだから、邪魔にならない程度でよかったよね。

 

「ゴメン、今おろすよ」

 

 その場に二人を下ろす。

 とっさの事だったけど、女の子を抱え上げるって失礼だったかな?

 

「ジン君。白銀の十字剣があったのだけど、指定武具と考えて間違いないかしら?」

「はい、間違いないと思います」

「そこまで自信満々ってことは、何か理由があるの?」

 

 確か、あれのギフトはワータイガーのはずだし、銀はともかく十字架は関係ない気がするんだけど。

 

「彼はもう既にワータイガーではありません。吸血鬼によって人の部分を鬼種に・・・吸血鬼に変えられています」

「だから虎の姿だったのか・・・もしかして、この気持ち悪い木とかも?」

「はい、鬼化しています」

「だから脈打ってるのか・・・」

「もしかして、この舞台を準備したのもその吸血鬼なの?」

 

 あ、それもそうか。あの状態でそんなことが出来るとは思えないし。

 

「いえ、まだそうなのかは分かりません。東側で吸血鬼は希少種ですから。しかし、黒幕がいるのは間違いないかと」

「そう・・・誰だか知らないけれど、生意気なことをしてくれたものね」

「これだと、あれを裁いたって言いづらいな」

 

 理性を失った獣の退治なんて、ただの狩だ。

 そういう意味合いもこめてギフトゲーム名は付けられたのかもしれない。

 

 そう思っていたら、すぐ後ろの茂みが揺れた。まさか、あれのほかにも敵が?

 

「誰?」

「・・・私」

「ああ、春日部さんか・・・ってその怪我は!?」

 

 出てきたのは敵ではなく、右腕からものすごい量の血を流している春日部さんだった。

 とりあえず、倉庫の中から簡単な止血を出来るもの、その他使いそうなものを取り出し、倒れそうな春日部さんを支えながら傷口に当てる。

 

「大丈夫?ちょっと沁みるよ」

「大丈夫じゃ・・・ない。本気で泣く」

 

 春日部さんの目から涙が流れてるけど、消毒だけはしておかないとどうなるか分からない。

 そして、今気付いたけど春日部さんの右手には白銀の十字剣が握られていた。

 まさか、ここまでなっても取ってきたのか?

 

「春日部さん、その剣・・・」

「本当はあそこで倒すつもりだった。・・・ゴメン」

 

・・・いや、春日部さんは何も悪くない。

悪いのは、自分の力に恐怖した僕だ。

本来なら、あの場で(・・・・)倒せたんだ。僕が恐れてさえいなければ。

 

「ジン君、飛鳥さん、必要そうなものは置いていくから、春日部さんの右腕、止血とかお願い」

「まって、どこに行く気なの?」

「簡単なことだよ」

 

 そう言いながら、僕は春日部さんの握っていた白銀の十字剣を取り、館のほうを向く。

 

「あのクズタイガー・・・ガルドを退治してくる」

 

 もう、彼をクズだなんて呼ばない。

 勝つために自らを変えた勇気は、賞賛に値する。

 

「危険よ!私も行くわ!」

「こんな言い方、出来ればしたくないんだけど、邪魔になるから、春日部さんのことをお願い」

 

 飛鳥さんがとても驚いているのが見て分かる。

 まあ、ただの歌い手だってここまで主張してきた僕が、ここまで自信満々になってたらそう思うよね。

 

「大丈夫、必ず勝って、生きて帰ってくるから」

 

 固まっている飛鳥さんを置いて、僕は館へと歩いていった。

 

 

 

♫♫♫

 

 

 

 さて、館に着いたはいいけど・・・どうやって出てきてもらおうか。

 まあ、早く終わらせたいし手軽に行きますか。

 

 そして、犬笛と同じ音を、歌う。

 きっと、ガルドは反応して出てきてくれるだろう。理性を失った今なら。

 

「GEEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAaaaaaa!!!」

 

 しばらく歌っていると、予想通りガルドは出てきた。

 そして、そのまま僕のほうに向かって走ってくる。本能に従い、食い殺す気なんだ。

 だけど、僕は逃げない。ここで逃げたら、もう本当に春日部さんに顔向けできない。

 だから・・・僕は歌う(・・・)。全てに干渉する、奇跡の歌(・・・・)を。

 

 僕は、『ハラム・ハチャトゥリアン』のバレエ『ガティーヌ』最終幕にて用いられる楽曲『剣の舞』を歌った。

 そして、僕の歌を聴いた『白銀の十字剣』は、舞う(・・)

 

「GE・・・GUAA!!」

 

 それを見たガルドは本能的にであろう、白銀の十字剣を警戒している。

 それゆえに避けて通ろうとするが、十字剣はその道を、踊るようにふさぐ。

 

 この力をはじめて使ったのは、小学校に入ってすぐのことだ。

 僕がこんなことができるとは知らず、無意識のうちに発動してしまってその場を破壊し、たくさんの友達を傷つけた。

 そして、僕を気味悪がった両親は僕を捨て、別の施設に預けられた。

 

 そんなことがあったから、また使ったらたくさんの大切な人を傷つけてしまうんじゃないかと怯えて、真後ろからガルドを倒せるチャンスを失ったんだ。

 

《もうこれで、終わりだ》

 

 歌がクライマックスに入り、それと同時に十字剣はガルドを貫いた。

 

「GeYa・・・・!」

 

 白銀の十字剣の輝く光、歯切れの悪い悲鳴。それが、ガルドの最後だ。

 どんな形であれ、僕が自分の歌を受け入れる、そのきっかけを作ってくれた、ガルドの。

 

「御静聴、ありがとうございました。どうか、安らかな眠りを」

 

 だからだろう、僕は無意識のうちに、崩れ落ちていくガルドに向けて腰を折り、そう声をかけていた。

 




こんな感じになりました。

『剣の舞』というタイトルを聴いてなんだそれ?と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、絶対に知っていると思います。

運動会のテーマのあの曲です。徒競走のやつです。


いちど、youtubeか何かで探してみてください。


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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歌い手、未来に驚く

今回、なぜ耀が奏について知っていたのかがわかります。


では、本編へどうぞ!


 ゲームが終わって逆廻君とジン君がコミュニティの“名”と“旗印”を返却しているのを眺めながら、僕は今回の件について考えていた。

 

 旗と名前を返却された人はジン君に感謝の言葉を告げると、狂喜して踊りまわったり、旗を掲げて走り回ったり、そんな事をしている人が目立った。

 でも、中には死んでしまった仲間の名前を叫びながら泣いている人もいる。

 

「もし、もっと早くにガルドを倒せていれば、被害者は少なくて済んだのかな・・・?」

 

 イヤ、そんなことは不可能だ。

 僕たちが箱庭に召喚されたのはつい昨日のこと。それで今日潰せたことは、できうる最速の事と考えていい。それに、こんなくだらないことを考えるために一人でいるんじゃない。

 

「きっと、あのガルドにも大切な人はいるんだ・・・」

 

 そして、そのガルドのことを大切に思う人も、いたはずだ。

 僕は、そのガルドの命を奪った。

 例えゲームであろうと、悪人であろうと、正気を失っていようと、それに変わりはない。

 

「・・・結構つらいんだな、こういうの」

「どうしたの、奏君?」

 

 そんなことを考えていたせいか、飛鳥さんが近づいていることに気付けず、少し驚いた。

 

「ああ、飛鳥さんか・・・ううん、ちょっと今回のことについて考えてたんだ」

「そう・・・結局、全部奏君に任せることになってしまったわ。ごめんなさい」

「ううん、僕が勝手にやったことだし・・・本来なら、春日部さんがあんな怪我をすることなく、終わらせられるはずだったんだ」

「そんなことは・・・」

 

 飛鳥さんが励まそうとしてくれてることがよく分かるけど、これは事実だ。

 

「いや、そうなんだよ。あの館の中で、ガルドに会った時点でこのゲームは終わらせることができた。でも、僕はギフトを使うことに恐怖して、それをしなかった。だから、自分の手で倒したかったんだ」

「そう・・・貴方のギフトも、何か嫌なことが?」

「昔、色々あってね。でも、今回のゲームで受け入れることはできた。その点に関してはガルドに感謝してるよ」

 

 そこで僕は一つ思い出し、ギフトカードを取り出す。

 

「どうしたの?」

「ちょっと忘れてたことが・・・はい、これ。飛鳥さんが持ってて」

 

 そう言いながら、今回のゲームで手に入れた武器、白銀の十字剣を飛鳥さんに渡す。

 

「これは今回のゲームであなたが手に入れたものでしょう?何故私に?」

「黒ウサギさんから聞いたんだけど、飛鳥さんは自分の力を“ギフトを支配するギフト”として開花させるんでしょ?だったらこういうギフトが必要だと思って。僕には、ここまでの武器は必要ないし」

「そう・・・ならありがたく受け取らせてもらうわ」

 

 飛鳥さんはそう言って白銀の十字剣を自分のギフトカードにしまってくれた。

 

「さあ、旗印の返却もとうに終わったのだから、早く帰りましょう。春日部さんの容態が気になるわ」

「もしかして、帰るって伝えに僕のところまで?」

 

 ふと周りを見ると、もうそこに人はいなかった。

 

「ええ。終わったことに気づいた様子もなかったし、置いていくのも気がひけたから」

「ありがとう。じゃあ帰ろうか」

 

 どうやら、僕には考え事をしていると周りが見えなくなるという悪癖があるようだ。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

 さて、時間は一気に飛びますが、今逆廻君、黒ウサギさん、飛鳥さん、ジン君の四人はサウザンドアイズに行っています。

 何でも、サウザンドアイズの傘下のコミュニティ“ペルセウス”の人たちが“ノーネーム”の敷地内で暴れて、暴言を吐いたため白夜叉さんに頼んで決闘をさせてもらうのが目的だそうです。

 僕一人が残ったのは、春日部さんが起きたときに無茶しないよう、監視することといざとなったらギフトを使って大人しく寝てもらうため。

 

「にしても、箱庭ってすごいなあ・・・あんな大怪我が二、三日で治っちゃうなんて」

 

 しかも、もしかしたら今日中には意識が戻る可能性があるとか。

 もといた世界じゃありえないことばかりが起きて、そろそろ感覚が麻痺しそうだ。

 

「う、ん・・・ここは?」

「・・・ホントに意識が戻ったよ・・・」

 

 言ってるそばから目の前で寝ていた春日部さんが目を開け、そうたずねてきた。

 まあ、おかげで安心できたけど。

 

「おはよう、春日部さん。調子はどう?」

「あ、奏・・・なんだか、頭がくらくらする」

「結構血を流したからね。今増血をしてるから、もう何日か大人しく寝てて」

 

 輸血を行わないのは、専門のコミュニティに頼まないといけなくて、お金がかかってしまうからだ。

 ノーネームは貧乏だから、できる限り節約しないといけない。

 

「そう、分かった・・・あの後、ゲームはどうなったの?」

「クリアしたよ。春日部さん以外は誰も怪我せずに」

「そっか。それならよかった」

 

 さて、謝るなら今のうちのほうがいいよね?黒ウサギたちがどこに言ったかを話しちゃったらそれどころじゃなくなるだろうし。

 

「春日部さん、今回のゲームでは色々とごめん」

「急にどうしたの?」

 

 まあ、説明しないとこうなるよね。さて、どこから話したものか・・・

 

「まず、あの場を春日部さん一人に任せちゃったこと。そのせいでそんな大怪我をしちゃったんだし」

「それは別にいい。多分、皆がいても無茶してたから」

 

 それはできればやめて欲しいなあ・・・仲間がいるんだから、頼ってくださいよ。

 春日部さんも、僕も・・・

 

「じゃあ、一番謝りたいこと。本来なら、春日部さんが怪我をする前に倒せたのに、ガルドを倒さなくてごめん」

「・・・どういうこと?ガルドはあの十字剣じゃないと倒せないはずじゃ・・・」

「うん、あの指定武具以外では倒せなかった」

「じゃあ、倒すことなんて・・・」

「出来たんだ、あの剣を操って、後ろから刺すことは」

 

 僕はそのまま、“奇跡の歌い手”についての説明を始めた。

 全てに干渉するその歌のこと、剣の舞という曲のことを。

 

「奏のギフトって、そこまで出来るものなの?」

「うん。ただ、僕はこの力に恐怖してたんだ。また、大切な人を傷つけちゃうんじゃないかって。そのせいで使うタイミングが遅れた。春日部さんは大怪我をした。だから、ゴメン」

 

 僕は再び頭を下げる。

 なんといわれても、それは受け入れるしかない。

 全部聴くつもりで覚悟していよう。

 

「・・・じゃあ、謝罪代わりに一つお願いを聞いてもらってもいい?」

「内容は?」

「一曲、この場で歌って欲しい」

 

 ・・・はい?

 

「そんなことでいいの?」

「うん。奏はちゃんとゲームをクリアしてくれたんだし、それでいい。それに、あの“奇跡の歌い手”の歌を独り占めできるなんて、そうそうないし」

 

 あ、そういえば一個聞きたかったんだ。すっかり忘れてた。

 

「なんで春日部さんは僕のことを知ってたの?」

「それは、私は奏がいたよりも未来からこの箱庭に来てるから」

 

 そういえば、黒ウサギさんが様々な時代から召喚されてるって言ってた気がする。

 

「でも、僕はただの歌い手だよ?」

「ただの歌い手は、歴史の教科書に乗らないと思う」

 

 今なんとおっしゃいました?

 

「歴史の教科書に、僕が?」

「うん、だから私のいた時代では知らない人はいなかったし、音楽もデータだけどかなりの量が残ってる。私の家にもたくさんあって、よく聴いてた」

「・・・マジか・・・」

 

 現実を受け入れるのがかなり困難です。

 教科書に載るって・・・ただの歌い手とはもう名乗れないのかもしれない。

 

「それで、データの音楽を聴くたんびに生で聴いてみたいと思ってたんだけど・・・」

「箱庭で本人にあって、驚きました、と?」

「正解。だから、独り占めできるなら、すごく嬉しい」

 

 ここまで言われたら、断る理由もないよな。

 

「分かりました。何の曲がいい?」

「まだ寝たほうがいいみたいだし、ぐっすりと寝たいから何か子守歌をお願い」

 

 ふむ・・・なら、あの曲でいいかな。

 

「では、『J.ブラームス』作曲の『Wiegenlied』を」

 

 伴奏を一小節半歌い、歌詞に入る。

 

「Gu-ten A – bend,gut’ Nacht」

 

 

 春日部さんは、一曲聴き終わると、そのまま眠りについた。

 

 あ、ペルセウスのこと説明し忘れた・・・

 




こんな感じになりました。

では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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歌い手、まだ見ぬクズとの戦い

特に書く事が思いつかない。

では、本編へどうぞ!


 さて、サウザンドアイズから皆が帰ってきてから、なんだかギスギスした感じで一緒にいづらかった僕は子供達の仕事の手伝いをしています。

 ホント駄目ですね、ああいう雰囲気には入れない・・・

 

「このあたりの野菜って全部切っちゃっていいの?」

「はい!でも、本当によかったんですか?私たちの仕事を手伝ってもらって・・・」

「うん、今僕にやれることってないし。かといってだらけてるのも落ち着かないから」

 

 リリちゃんたちは申し訳なさそうにしてるけど、こちらとしては何もしないことが申し訳ない。

 あの四人に変化があれば、そっちに参加するんだけど・・・

 

 そんなことを考えながら野菜を切り、次にやることを探していたら、プレイヤーの部屋があるほうからドガァン!という、何かを破壊する音が聞こえてきた。

 いや、なんで!?誰か攻め込んできた!?

 

「奏さん、今の音って・・・」

「さあ・・・気になるから、ちょっと見てくるね。念のため、子供達は固まって動くように言っておいて」

「はい、分かりました。よろしくお願いします」

 

 さて、子供たちも不安そうですし、ちょっと行ってきますか。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

 とりあえず謹慎処分を喰らっている黒ウサギさんの部屋から見に来たんだけど・・・早速原因が見つかった。

 部屋のドアが破壊されており、部屋の中には僕以外のプレイヤーが集合している。

 となれば、問題児のうちの誰かがドアを破壊して入ったのだろう。

 

 さて、勝手に入るのも気がひけるし・・・どうするか。

 まあ、部屋に入るときはノックだよね。

 まだギリギリ残っているドアだったものに、二回ノックする。

 

「すいませーん、入ってもいい?」

「あ、はい。どうぞ」

 

 許可を貰えたので黒ウサギさんの部屋に入る。

 

「どうですか、皆さん!これが普通のやり方なんです!ドアを壊すなんてありえないことなんです!」

「それと、あの破壊音に子供達が怯えてたから、できる限り控えてもらえる?

 まあ、それ以前に他の人の部屋を壊すこと事態、どうかと思うけど」

「「「だって、鍵がかかってたから」」」

「「そういう問題じゃないよ!」ありません!」

 

 まあ、この問題児達にいくら言っても無駄なんだろうけどね・・・少しは子供たちのことを考えてくれ・・・

 

「まあまあ、落ち着けって二人とも。いい土産を持ってきたからよ」

 

そう言いながら、逆廻君は風呂敷包みを掲げる。

 形だけを見ると、スイカかな?でも、何でスイカ?

 

「それ、何が入ってるの?」

「ゲームの戦利品。見るか?」

 

 そう言いながら、風呂敷包みを机の上におき、開く。

 すると、そこには蛇の髪を持つ女性・・・ゴーゴンかな?の首の印の入っている紅色と蒼色の二つの宝玉が出てきた。

 何だろう、これ?

 

「これは・・・伝説への挑戦権!?あんな短時間で集めてきたのですか!?」

「ああ。ゲーム自体はそんなに難しくなかったし、面倒だったのは時間を考えなきゃいけなかったことだな」

 

 逆廻君は軽薄に笑ってるけど・・・黒ウサギさんたちの驚きようからすると、そんなに簡単なゲームじゃなかったはずだ。

 それを二つもってことは・・・やはり、彼は只者ではないのだろう。

 

「さあ、後はオマエしだいだ黒ウサギ。どうする?」

「そんなこと、決まっています・・・」

 

 黒ウサギさんはいつの間にかたまっていた涙を拭き、勢いよく立ち上がると僕たちを見回して、

 

「ペルセウスに宣戦布告します。我らの同士・レティシア様を取り返しましょう!」

 

 そう、高らかに宣言した。

 

 それはいいんだけど・・・誰か、僕に現状を説明してくれませんか?

 

 

 

♫♫♫

 

 

 

『ギフトゲーム名 “FAIRYTALE in PERSEUS”

・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

          久遠 飛鳥

          春日部 耀

          天歌 奏

・“ノーネーム”ゲームマスター ジン・ラッセル

・“ペルセウス”ゲームマスター ルイオス・ペルセウス

 

・クリア条件 ホスト側のゲームマスターを打倒。

 ・敗北条件  プレイヤー側のゲームマスターによる降伏。

        プレイヤー側のゲームマスターの失格。

        プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなくなった場合。

 

・舞台詳細 ルール

* ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない。

* ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない。

* プレイヤー達はゲームマスターを除くホスト側の人間に姿を見られてはいけない。

* 姿を見られたプレイヤー達は失格となり、ゲームマスターへの挑戦資格を失う。

* 失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行することはできる。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

              “ペルセウス”印』

 

 なんだか色々と飛びますが、今僕たちは白亜の宮殿の前にいます。

 あの後、黒ウサギさんに頼んで現状を説明してもらったのですが・・・何故でしょう?敵対する人が皆、人としてどうかと思う人ばかりです・・・

 とりあえず、今回のゲームの目的は完膚なきまでに勝利して、レティシアさんを取り返すこと。これだけ覚えておけば問題ないそうです。

 

「さて、今回のゲームの作戦だが、大きく分けて三つの役割が必要になる」

「うん、ゲームマスターを倒す係りと見えない敵の索敵、失格覚悟での梅雨払い、だね」

「春日部さんは五感がいいし、策適役かな?」

「ああ、不可視の敵は任せるぜ」

 

 となると、次に決めるのはゲームマスターの打倒だけど、

 

「ゲームマスターを倒すのは逆廻君の役目だよね?」

「はい、この中で一番強いのは十六夜さんですし、それでいいかと」

 

 これで二人は仕事が決まり、残りは僕と飛鳥さん。

 

「じゃあ、私と奏君で露払いと囮をすればいいのかしら?」

「あ、僕は別ルートで最奥を目指すから、飛鳥さん一人でお願いしても?」

 

 僕の発言に、皆が驚いたような顔をする。

 やっぱり、僕は最奥に向かわないと思われてたのかな?

 

「質問だが、そこに行くだけの手段はあるのか?」

「うん。ただ、僕以外の人がいたらできない方法だから、単独行動になるけど」

「まあ、方法があるならそこは問題ねえ。ただ、オマエが来る意味はあるのか?」

 

 ここさえ納得させれればいけるかな?

 まあ、これは理由としては十分だろう。

 

「アルゴルの魔王の対策のため・・・かな?代償としてルイオスが強くなるけど」

「ど、どうして奏さんがそのことを知っているのですか!?」

 

 あ、次は黒ウサギさんが聞いてきた。

 質問が多いな~。

 

「ちょっと書庫で調べたら出てきた。まあ、逆廻君はそんなことしなくても分かってたみたいだけど」

「まあ、そこまで決めてるならいいだろ。自力で最奥まで来るんだな」

 

 逆廻君は僕に許可を出しながら、宮殿の入り口に近づいていく。

 そして、右足を持ち上げると、

 

「さあ、ゲーム開始だ!!」

 

 宮殿の門を蹴り破り、派手にゲームを開始した。

 




こんな感じになりました。


さて、奏はどのようにして最奥にたどり着くのか、どのようにしてアルゴルの魔王に対処するのか、どうぞお楽しみに。


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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歌い手、メイドができる

一気に一巻を書ききりました。


では、本編へどうぞ!


「ね~んね~ん、ころ~り~よ~、おこ~ろ~り~よ~。ぼ~や~は~、よい~こ~だ~。ねん~ね~し~な~」

 

 僕は白亜の宮殿に入ってから、逆廻君たちとは別行動で歌を歌いながら進んでいた。

 誰もが一度は聴いたことがあるだろう、有名な子守歌はその効果を十二分に発動し、会う人全員が眠っているので僕は誰にも見られずに進んでいる。

 まあ、この歌の歌詞には「お前が眠らなかったら裏山に捨てるぞ」的な意味合いを持つものもあるのだが・・・そのあたりは気にしない。

 もちろん、“音響操作(ソニック)”を使い、逆廻君たちのほうに音が届かないようにはしてる。

 

 そして、そのまま寝ている人が持っている剣を全部倉庫にしまいながら進んでいると、途中ですぐそばに兜を落として眠っている人がいたので、その兜をかぶり、不可視になる。

 

「これでもう歌う必要はないか。にしても、本当に便利なギフトだよな、“奇跡の歌い手”って」

 

 そんなことを考えつつ、最奥に向かって進んでいく。

 

「あ・・・でも少しでもたくさん剣がいるから、まだ歌わないといけないか・・・よし」

 

 おんなじ曲を歌うというのもつまらないし、今度は春日部さんに頼まれて歌った、『Wiegenlied』を歌うことにしよう。

 

「Gu-ten A – bend,gut’ Nacht」

 

 そのまま、眠っている騎士達から剣を取りつつ進み、最奥にたどり着いたのでその中に入る。

 

「結構簡単な造りなんだな・・・闘技場みたいだ」

 

 さて、そんな感傷に浸っている時間はあるのだろうか?

 まだ逆廻君達がたどり着いてないといいんだけど・・・あ、何か黒ウサギさんが急に笑い出した。あそこに逆廻君がいるな、間違いない。

 とりあえず、皆と合流しよう。

 

「いい反応だぜ、黒ウサギ!」

「全く、せっかくのギフトで何をしているんですか」

「本当に、ギフトの無駄遣いだよね。不可視になる兜なんて、早々あるものじゃないだろうし」

「ジン坊ちゃん、十六夜さんに奏さんも!」

 

 黒ウサギさんは僕たちの姿を確認すると、安堵からかため息を漏らした。

 たどり着いたのはこれだけか・・・まあ、逆廻君一人いれば問題ないよね?

 

「――――三人も来させるなんて、ほんとに使えないやつら。このゲームを片付けたら、まとめて粛清しないと」

 

 そうつぶやく声がする上方を見ると、ロングブーツから生えたきれいな翼で飛んでいる、亜麻色の髪の男性がいた。おそらく、彼がルイオスだろう。

 

 彼は翼を一度羽ばたかせ、僕たちの前に降り立つと、

 

「ようこそ白亜の宮殿・最上階へ。ゲームマスターとして相手をしましょう。・・・この台詞を言うの、初めてだな」

 

 おそらく、それは“ペルセウス”の騎士達が優秀だったからだろう。

 ぱっと見ただけでも、かなり鍛えられていることが分かった。

 

「ま、不意を打っての決闘だからな。勘弁してやれよ」

「僕の相手をした人たちも、何にもできない間に眠らせたから、何にもできないよ」

「そんなことは関係ない、名無し風情を僕の前に来させた時点で重罪さ」

 

 そう言いながら、彼は再び空を舞い、ギフトカードから燃え盛る炎の弓を取り出した。

 あんな武器、ペルセウスの神話に有ったっけ?

 

「それ、神話とは関係ない武器だな?」

「当然。空が飛べるのに同じ土俵で戦う必要はないだろ?それに、メインで戦うのは僕じゃないし」

 

 そういいながら、首につけていたチョーカーから蛇の髪を持つ女の首の装飾を外し、それを掲げて、

 

「目覚めろ――――“アルゴールの魔王”!!」

 

「ra、GYAAAAAaaaaaaa!!」

 

 元魔王を、開放した。

 その女性は体中を拘束具によって捕縛されていたが、それを引き千切りながらさらに絶叫を上げる。うん、かなりうるさいです。ここまで不快に感じる音は、早々ないと思う。

 

「へえ、あれが元魔王様か・・・奏!あそこまで自信満々だったんだ、あれはオマエでどうにかしろ!!」

「まって!僕はただの歌い手だよ!?あんな化物、一人でどうにかする術は持ってない!!」

「作戦があるんだろ!ルイオスがいくら強くなろうが問題ねえ!」

 

 ああもう!なんで君はそんなに楽しそうなのかな!?人に化物押し付けといて!

 

「仕方ないか・・・まあ、さすがに危険だと思ったら助けてくれるだろ。・・・では、お聴きください。“ペルセウスのテーマ”」

 

 そして僕は、歌う。

 この曲は題名の通り、ギリシア神話における英雄、ペルセウスのテーマソングだ。

 そして、歌い始めるとすぐに、あるところで変化が起こる。

 

「へえ、この曲は僕の祖先、英雄ペルセウスのテーマじゃないか!しかも僕の霊核が上がっていく・・・そうか!そいつは“音楽シリーズ”のギフトの持ち主か!」

 

 そう、この曲はルイオスの祖先についてのテーマなので、その血を引く彼の霊格を上げてしまうのだ。

 でも、それ以外のところにも変化は現れる。目的はそっちだ。

 

「GYAAAAAAAAAAaaaaaaa!!」

 

 この曲を聴いたアルゴールの魔王は、苦しそうに悲鳴を上げる。

 そう、変化が起こる対象は、英雄ペルセウス(・・・・・・・)によって倒されたアルゴールの魔王だ。

 ペルセウスのテーマには、もちろん蛇の魔物退治の逸話も含まれている。

 

 その逸話を歌えば、倒された張本人であるアルゴールの魔王の霊格は落ち、ダメージを与えることも可能なのでは?という憶測だったのだが・・・どうやら賭けには勝てたようだ。

 

「ど、どうした、アルゴール!?」

「分からねえのか?まあ、これで切り札は使えなくなったな!!」

 

 ルイオスが動揺したところに、逆廻君が思いっきり殴りかかる。

 その一撃はかなり重く、ルイオスは思いっきり吹っ飛ぶ。

 

「いいのか?このまま殴られっぱなしなら、ゲームはすぐに終わるぜ?」

「クソ・・・でも、対照的に僕の霊格はあがってるんだ!」

 

 そう言いながら、一つの鎌・・・おそらく、ハルパーだろう、を取り出し、逆廻君に振り下ろす。

 普通なら彼には一切通用しないだろうが、霊格を上げてしまったからか、逆廻君は少し余裕そうな顔を崩し・・・楽しそうな顔になる。

 

「ハッ、いいぜいいぜいいなオイ!!予想以上に楽しめそうだ・・・!!!」

 

 そこから、逆廻君は本当に楽しそうに戦っていた。

 一撃も逆廻君に決まっていないが、それでも逆廻君は楽しそうだった。

 まるで、少しでも自分に近い存在がいることを、喜んでいるかのように。

 

「GI・・・GYA・・・」

 

 どうやら、気付かないうちにアルゴールの霊格をほぼ削りきっていたようだ。

 “ペルセウスのテーマ”も終わったし、殺さないにしても、そろそろこのゲームでは再起不能なくらいにはしないと。

 

「続きまして・・・“剣の舞”」

 

 そのまま、大量の剣を放り込んだ倉庫を開きながら、ガルドとのゲームでも使った“剣の舞”を歌う。

 今回歌に込める意味は、あの時と同じ。よって、剣が、舞う。

 その大量の剣は、霊核が下がることによって脆くなったアルゴールを切り、貫き、最強種、星霊を倒した。

 

「これで、どうだ!」

 

 僕が剣を回収していると、ルイオス達のほうからそんな声が聞こえてくる。

 そちらを見ると、ルイオスがハルパーを構え、空から逆廻君に向かって突っ込んでくるところだった。

 そして、逆廻君はルイオスに突っ込むように跳び、足を後ろに引くと、

 

「ハッ・・・しゃらくせえ!!」

 

 ルイオスのハルパーを真正面から蹴りはるか彼方にとばす。

 そのまま二人は着地し、互いににらみ合うと、同時に拳を構え、

 

「来いよ、ペルセウス」

「負けて、たまるかあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 お互いの拳が交差し、頬に当たり・・・ルイオスが倒れた。

 

「ゲーム終了!FAIRYTALE in PERSEUSは、ノーネームの勝利です!」

 

 ふう・・・ようやく終わった。

 さて、逆廻君はこれからどうする気なのかな?

 

「さて、ゲームをクリアして“ペルセウス”の“旗印”を手に入れたけど、逆廻君はまだ何かする気が?」

「ああ。最初はアイツがつまらないやつだったら旗印を盾にゲームを挑んだり脅したりする予定だったんだが・・・」

 

 そう言いながら、倒れているルイオスを見ると、

 

「まあ、十分に楽しめたからな。あいつを起こして、“旗印”とレティシアを交換して帰るぞ」

「了解です、逆廻君。黒ウサギさんもそれでいい?」

「YES!レティシア様を連れて、早く本拠に帰るのですよ!」

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

 さて、あの後予想より早く意識が戻ったルイオスと“旗印”とレティシアさん、石化をとくギフトの交換をして、無事本拠に帰還。大広間で石化をといたところまではよかったんだけど・・・

 

「「「じゃあこれからよろしく、メイドさん」」」

 

 問題児三人がそんなことを言い出した。

 いや、一体何を考えてるんだ?

 

「え?」

「え?」

「え?」

「・・・え?」

 

 そんなことを思っていたせいか、無意識のうちにそんな声が漏れた。

 僕と同じように黒ウサギさん、ジン君、レティシアさんも声を出してるから、間違ってはいないはずだ。

 

「え?じゃないわよ。今回のゲームで活躍したのは私たち四人だけでしょう?」

 

 四人?まさか、僕も勘定に含められてる?

 

「うん。私なんて力いっぱい殴られたりしたし」

 

 僕がいないところでそんなことがあったんだ。

 鋭い五感を持つ春日部さんが殴られるって、どれだけの騎士ですか・・・?

 

「つーか挑戦権を持ってきたのとゲームマスターを倒したのは俺で、アルゴールを倒したのは奏だろ?」

 

 あ、やっぱり僕も計算に含まれてた。

 

「所有権については俺、奏、お嬢様、春日部の順に3:3:2:2で話はついた!」

「「何を言っちゃってんだ(でございますか)この人達!?」」

 

 僕と黒ウサギさんの突込みが重なった。

 僕何も聞いてないんだけど!?いつの間に人の所有権手に入れちゃってんの!?

 

「というか、奏さんまで何故参加しているんですか!」

「たった今突込みが重なったよね!僕も初耳だよこんなの!!」

 

 いつの間に決めやがった、という意味合いを込めて逆廻君達を見ると、

 

「ああ、奏の所有権の割り振りについては、三人での話し合いの結果だ」

「何故一声かけなかった!」

「ちなみに、拒否権はないわよ」

「何故故に!?」

「これは正当な報酬」

 

 く・・・意外と筋は通っている・・・

 

「ふむ・・・そうだな。今回の件で、私は皆に恩義を感じている。君達が家政婦をやれというなら・・・喜んでやろうじゃないか!」

 

 そして、予想外なことにレティシアさんは乗り気だった。

 いい笑顔だなぁ・・・もうなるようになれ。

 

 そうして、僕はメイドさんの所有権を手に入れました。

 箱庭に来てから、驚くことばっかりだなぁ・・・

 

 

 

♫♫♫

 

 

 

 ペルセウスとの決闘から三日がたった今日、ノーネームの全メンバーは水樹の貯水池付近に集合していた。

 

「えーそれでは!只今より新たな同士を迎えた“ノーネーム”の歓迎会を始めます!」

 

 そう、今から僕達の歓迎会をしてくれるそうだ。

 子供だらけの歓迎会なのだが、すごく嬉しい。

 

「だけど、どうして屋外での歓迎会なのかしら?」

「うん。私も思った」

「黒ウサギなりの精一杯のサプライズってとこじゃねえか?」

「それに、変に室内を飾るより、この星空の元で、のほうがきれいだし」

 

 まあ、そんなことをするお金もないし。

 黒ウサギさんに聞いたところ、ノーネームの金蔵は後数日で底をつくそうだ。

 だから、こんなおなかいっぱい食べながら騒ぐ、というのも贅沢にあたるんだけど・・・今日ぐらいは、いいと思う。

 

「それでは、本日のメインイベントが始まります!箱庭の天幕をご覧ください!」

 

 黒ウサギさんがそういうので天幕のほうを見るけど、特に何も・・・

 

「・・・あっ」

 

そう誰かが声を上げるのと同時に、流星群が流れ始めた。

確かあの辺りって、ペルセウス座があったと思うんだけど・・・

 

「この流星群を引き起こしたのは、我々の新たなる同士です。

 ペルセウスは“サウザンドアイズ”を追放され、あの星空からも旗を降ろすことになりました」

 

「この箱庭では、星空さえ盛り上げるためのシステムの一つでしかない・・・ってこと?」

「そうなんだろうな。さすが箱庭、予想もしなかったことばかり起こる」

 

「観賞するもよし、星に願いを託すもよし。さあ皆さん、今日は目一杯騒ぎましょう!!」

 

 そして、その日は本当に楽しい時間を過ごした。

 




こんな感じになりました。

ひとつご報告が。
自分、今日からテスト週間に入りまして・・・しばらくの間、更新がストップします。

だから一巻を終わらせたかった、という思いもあって、終わらせた部分もあります。


お詫び代わりに一つ予告を。

二巻では新しい“音楽シリーズ”のギフト保持者が現れます。


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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あら、笛吹き襲来よ?
歌い手、依頼を受ける


テストのあとに授業があって、こんな時間になってしまいました。


では、本編へどうぞ!


「うむ、よく来たな奏」

「一応、恩人に呼び出されたので、急いだほうがいいかと思いまして」

 

 僕は今、白夜叉さんに呼び出されて“サウザンドアイズ”に来ています。

 

「それで、今日はどういったご用件で?」

「その前に、これを見てくれ」

「はあ・・・“火龍誕生祭”の招待状?」

 

 白夜叉さんが差し出した羊皮紙にはそう書いてあり、内容は次のようなものだった。

 

「ええっと・・・『北側の鬼種や精霊たちが作り出した美術工芸品の展示会および批評会に加え、様々な“主催者”がギフトゲームを開催。メインは“階層支配者”が主催する大祭を予定しています』?」

 

 これを読んだとき、僕が思ったことは一つだった。

 すなわち、問題児達が何かやらかしそうだな、と。

 

「このお祭りって、どうして開催されるんですか?毎年決まった時期に開催されるとか、でしょうか?」

「いや、そうではない。そのイベントは、北側のフロアマスターの一角、“サラマンドラ”が世代交代をした際、その旨を宣伝するためのものだ」

 

 ふむ・・・新しいフロアマスターのお披露目、位の認識でいいのかな?

 

「それで、そのお祭りと僕にどのような関係が・・・?」

「それについては、こっちを見てくれ」

 

 白夜叉さんはまた新しい羊皮紙を差し出してきた。

 そこには、なぜか“天歌奏様へ”と僕宛であることが記されており、

 

「『“白夜叉様を通してこの依頼書に目を通していただき、まことにありがとうございます。私は“サラマンドラ”のリーダーとなりました“サンドラ=ドルトレイク”です。』・・・白夜叉さん、一つ質問いい?」

「ん、どうした?」

 

 僕は一つ、読んでいる途中で気になったことがあったので白夜叉さんにたずねることにした。

 

「まさかとは思うんだけど・・・このサンドラさんってまだ子供だったりする?」

「その通りだ。まだ十一になったばかりだのう。それゆえ、私に共同の主催者を依頼し、おんしにも依頼をした、というわけだ」

「へえ、だからか。なぜか文面に幼さを感じたのは・・・」

 

 すぐそばにその都市でリーダーをやっている人がいるからか、特に僕は驚かなかった。

 

「さて、続きは・・・『貴方のことは、白夜叉様より聞き及んでおります。“音楽シリーズ”の“歌”のギフトの所有者であると。』」

 

 この時点で、僕はなんとなく予想ができていた。

 

「『どうか貴方に“火龍誕生祭”にて一曲歌っていただきたく、こうして依頼書を出させていただきました。よきお返事が返ってくることを期待しております。なお、お一人なら手伝いを連れてきていただいても構いません。その方とあなたの分の“境界門”の経費、その他必要な経費は全てこちらで負担させていただき、報酬についても払わせていただきます

“サラマンドラ”印』」

 

 まあ、こんな感じのことはよくあったし、特に断る理由もなかったので、

 

「この依頼受諾したいんだけど・・・いいですか?」

「もちろんだとも。まあ、念のためにジンにも聞いておいたほうがよいだろう」

「じゃあ、今から聞いてきます。いつごろ向こうに向かえば?」

「今日だ。スタッフとの打ち合わせもあるから、早めにして欲しいと言っておった」

「じゃあ、必要なものをもって、手伝い・・・リリちゃんかな?といっしょに来ますね」

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

「というわけなんだけど、いいかな、ジン君?」

「もちろんです。それに、“音楽シリーズ”への依頼、という形なら報酬もかなりの額になるでしょうし、コミュニティとしても大助かりですから」

 

 ジン君に今回の依頼について話したところ、あっさりと許可をもらえた。

 今、問題児達は“ギフトゲーム”に参加しているので、聞かれる心配もない。

 

「ありがとう。それと、一人手伝いを連れて行ってもいいらしいから、リリちゃんを連れて行きたいんだけど」

「構いませんよ。僕としては、十六夜さんたちに行くことがバレなければ、問題はありませんから」

「結構お金かかるみたいだしね・・・じゃあ、今からリリちゃんに頼みに行ってくるよ」

 

 持ち物については、ほとんど倉庫の中にいれてあるので今すぐにでもいける。

 リリちゃんしだいだな。

 

「あ、それならわざわざ行かなくても大丈夫ですよ。さっき会った時に、奏さんと僕に味見して欲しいものがあるといっていたので、たぶんそろそろ・・・」

「ジンくーん!入ってもいい?」

 

 噂をすれば何とやら、リリちゃんが扉をノックしながらそういってきた。

 

「ちょうどよかった。リリに話があったんだ」

「私に話?」

 

 リリちゃんは首をかしげながらそう聞き返した。

 子供って、見てるだけで癒されるよね~。

 

「うん。でも、その前に味見をしたほうがいいかな?」

「うん、お願い!奏さんもいいですか?」

「もちろん。いいにおいもするし、すごく食べたい」

 

 そう、リリちゃんが入ってきてからというもの、持ってきていたお皿からすごくいいにおいが漂っているのだ。

 この辛そうな匂い・・・マーボーかな?

 

「奏さんが辛いものが好きだといっていたので作ってみたんです!」

 

 リリちゃん、いい子過ぎるだろ・・・

 

「じゃあ、いただきます」

 

 差し出されたお皿から一口分すくって食べる。

 口に辛さが広がっていく。うん、美味しい。

 

「すごい勢いで食べていきますね・・・美味しいですか?」

「もちろん!」

「うん、美味しいよ。ただ、子供達にはちょっと辛すぎないかな?」

 

 ジン君は自分も辛いのか、水を飲みながらそういう。

 

「うん、さすがに私達からしたらかなり辛いから、別々で作るつもり」

「結構手間がかかりそうだね・・・」

 

 まあ、量を作るにあたってはあんまりむかないだろう。

 頻繁に食べるのは諦めたほうがいいな。

 

「ご馳走様でした」

「「いつの間に!?」」

 

 僕は二人が驚くぐらいのスピードで食べきっていました。

 好きなものがあるとつい早く食べてしまう、僕の悪い癖です。

 

「じゃあ、そろそろ話に移ってもいいかな?」

「そうでした、私に話って一体・・・?」

 

 リリちゃんは身構えるけど、そこまでの話ではない。

 

「僕さ、今日から北側に行って歌を歌うことになってるんだけど、よかったら手伝いとして一緒に来てくれないかな?」

「分かりました、でも、何をすればいいんですか?」

 

 それを聞かずに承諾してくれるあたり、リリちゃんは本当にいい子である。

 彼女と話をしていると、かなりの回数思うことを、再び理解した。

 

「それについては分からないけど・・・必要になったことをその場で、ってことになるのかな?」

「分かりました!じゃあ、今から準備してきますね!」

 

 リリちゃんはそう言いながら、走ってでて行った。

 尻尾がパタパタ動いてたし、楽しみにしてくれてるのかな?

 

「奏さんは準備しなくていいんですか?」

「全部倉庫の中に入ってるからね。それに、僕は楽器を演奏するわけじゃないからそっちの準備も要らないし」

 

 その後、リリちゃんが荷物を持ってきたのでサウザンドアイズに向かうことにした。

 

 

 

♫♫♫

 

 

 

「準備ができたので、今から境界門に行こうと思います」

「そうか。リリも、手伝いにいってくれるのだな?」

「はい!火龍誕生祭にも興味がありますし、私でよければ」

 

 白夜叉さんはうむ、と一つうなづき、

 

「では、これは前払いの報酬だ。受け取るがよい!」

 

 一つ拍手を叩くと・・・上からバカみたいな量の剣が降ってきた。

 

「刺さる!?」

 

 慌ててギフトカードを取り出し、その中に収納していく。

 全て入ったのを確認してギフトカードを見ると、“多鋭剣×1000”と並んでいる。

 

「それは同時に使う量が多ければ多いほど切れ味を増す剣、おんしならば使いこなせるだろう」

「確かに、剣の舞にはぴったりですね。ありがとうございます」

「リリには菓子でもやろう。外にいる店員に言ってくれ。準備しておくよう言ってある」

「ありがとうございます!」

 

 その後、リリちゃんが女性店員さんからお菓子を受け取り、ついでにのど飴を買って境界門から北側に向かった。

 




こんな感じになりました。

今日中にこの話はもう一話投稿します。

それと、テスト週間中にカンピオーネの二次創作を始めました。
題名は『少年と女神の物語』です。そちらの方も、よろしくお願いします。

では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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歌い手、都につく

本日二度目の投稿です。

旋律はこれで今日の分は終わりですが、少年と女神はあと一話投稿します。


では、本編へどうぞ!


「サンドラ様!“ノーネーム”より、“歌い手”のギフト所持者、その従者が到着しました!」

 

 煌焰の都に着き、白亜の宮殿に来たら、運営本陣、謁見の間に連れて来られました。

 あれですね。こういう時にどうしたら分からないのですごく困ってます。すぐ横のリリちゃんもガッチガチに固まってます。

 

「ご苦労様です。その方たちを通して」

 

 部屋の中から幼い声でそういわれ、僕達を連れてきた・・・騎士でいいのかな?の人たちは扉を開け、僕達に入るよう促す。

 

「この度はお越しいただきありがとうございます。私は新しく火龍を就任しました、サンドラです」

「えっと・・・ご依頼、ありがとうございます。僕は音楽シリーズ、歌い手“奇跡の歌い手”のギフト所持者。“ノーネーム”の天歌奏です」

 

 基本、歌い手としての僕に依頼が来た場合はこの自己紹介をしている。

 これなら全部説明できるからね。“音楽シリーズ”という名前を知っている人は多いんだけど、“奇跡の歌い手”では知らない人ばっかりらしい。“共鳴”に関しては相当な物知りでないと知らないそうです。

 

「白夜叉様よりお聞きしております。それと、見て分かるとは思いますがここに他のメンバーはいません。だからそんなに緊張しなくてもいいよ、リリ?」

 

 サンドラさんは急に口調を変え、リリちゃんにそう言う。

 他の人たちの足音すら聞こえなくなったタイミングで言ったってことは・・・ああ、名無し相手にはまずいのか。

 

「そ、そう?じゃあ・・・久しぶり、サンドラちゃん!」

「うん、久しぶり、リリ!コミュニティが襲われたと聞いて心配した!」

 

 そう言いながらサンドラさんは玉座を飛び降りてリリちゃんのほうに走り・・・飛びついた。

 

「どう、最近のコミュニティは?ペルセウスに勝負を挑んだって聞いたけど・・・」

「そうなんだけど・・・新しくコミュニティに来た人たちが何とかしてくれたよ!そちらの奏さんもその一人!」

 

 すっごく愛らしい笑顔で話していた二人がこっちを向いた。

 よかった・・・正直忘れられてるのかと思った・・・

 

「歌い手のギフトでどうやって・・・?」

「まあそれについてはまたの機会にでも・・・サンドラさんはリリちゃんと知り合いなんですか?」

 

 説明するのがちょっと面倒なので、そちらについては後にさせてもらおう。

 星霊を倒したなんて知れたらさらに・・・

 

「はい。元々、“ノーネーム”と“サラマンドラ”は盟友でしたから。こちらが一方的に切ってしまいましたが・・・」

「まあそれは仕方ないですよ。それに、サンドラ様個人はリリちゃんとかと仲がいいんですよね?そういった友情が繋がったままなら特に文句はありません」

 

 組織としては利益のない同盟なんて切る以外にない。そればっかりは仕方ないことだろう。

 

「ありがとうございます・・・それと、私に対して敬語も必要ありませんし、呼び方も畏まらなくていいですよ?今回、私のほうから依頼をさせていただきましたから」

 

 う~ん・・・まあ実年齢は下みたいだし・・・

 

「じゃあサンドラちゃんで。どうにも昔っから異性を呼び捨てにはできなくて。サンドラちゃんも気楽にして。呼び方も奏でいいし、口調も崩してくれれば」

「そう・・・分かった。じゃあ今回の話に移ってもいい?」

「うん、よろしく。まず、僕はいつどこで歌えば?」

「開会式と閉会式、それとこのギフトゲームの決勝が始まる前にもお願い」

 

 そう言いながら一枚の羊皮紙を渡される。

 内容は・・・“造物主たちの決闘”か・・・春日部さんがいたら参加しそうな内容だな。

 

「うん、分かった。じゃあこっちからもいくつか」

「何か必要なものが?」

「そうじゃなくて、まず伴奏は必要ないし、マイクみたいな増音するものも必要ない。まあ、あっても意味ないしね」

 

 むしろ逆効果なので、あったら困る。今のうちに取り除いてもらおう。

 

「そう・・・分かった、すぐに撤去させる。他にはある?ないんだったら二人が泊まる部屋まで案内するけど」

「僕はもういいかな。リリちゃんは何かある?」

「えっと・・・サンドラちゃん、何か手伝うことって・・・何もしないのに泊めてもらうのは・・・」

 

 リリちゃんらしい考えだ。でも、一応僕達はゲストとして呼ばれてるわけで・・・

 

「ゴメン、リリたちはゲストとして呼んでるから、そう言うことをしてもらうわけにはいかない」

「それに、リリちゃんは俺の手伝いをするんだから、そこで働けばいいでしょ?それが、今回リリちゃんがここに来た理由なんだから」

「・・・分かりました!一生懸命お手伝いさせていただきます!」

「うん、よろしくね。サンドラちゃんもそれでいいかな?」

 

 僕はリリちゃんの頭を撫でながら、そうたずねる。

 サンドラちゃんは少しボーっとしていたのか、変な間を置いて、

 

「・・・あ、うん。それでいいよ。じゃあ、案内するね?着いてきて」

 

 サンドラちゃんはそういって謁見の間を出て行く。

 どうしたのかは分からないけど・・・とりあえずリリちゃんと一緒についていく。

 

「そういえば、どうしてサンドラちゃんがサラマンドラを継ぐことになったの?」

 

 驚きはしなかったけど、気にはなっていたことをこの機会に聞くことにした。

 

「それは・・・私には姉様と兄様が一人ずついるんだけど、姉様はだいぶ前に出て行っちゃて、いないの。それで、残った兄様と私なら私のほうが火龍には向いてたから私が継ぐことになった」

「それで・・・つらいこととかはないの?」

「もちろん、あるよ。でも、私に任せてくれたんだから頑張らないと!」

 

 そういって、サンドラちゃんは胸の前で小さく拳を握った。

 まだ親に甘えたい年頃だろうに、という思いと、脆く、壊れてしまいそうだという思いが僕の中を支配した。

 

「そっか。頑張ってるんだね、サンドラちゃんは」

「え・・・か、奏?」

 

 サンドラちゃんは僕の急な行動に戸惑い、そう名前を呼んできた。

 まあ、急に頭を撫でられたらそう反応するのが当然だろう。

 

「ゴメンね?頭撫でられるの、いやだった?」

「ううん、そうじゃなくて・・・久しぶりだったから、驚いた」

 

 どうやら嫌がっているわけではないようなので、このまま続けさせてもらおう。

 

「でも、つらいことを溜め込んでたら、いつか壊れちゃうよ?誰かに相談しないと」

「でも、マンドラ兄様には相談できないし・・・」

「じゃあ、僕に相談してよ」

「奏に?」

「うん。コミュニティが違うからいつでも聞けるわけじゃないけど、会った時に愚痴ぐらいは聞けるし、相談にも乗れる」

「でも、迷惑じゃ・・・」

「それも気にしなくていいよ。迷惑だとは思わないから。誰かが頼ってくれるのは嬉しいし」

 

 そして、僕はリリちゃんのほうを見る。

 

「まあ、さすがに僕にはし難い話もあるだろうけど、リリちゃんもいるし。いいよね?」

「もいろんです!遠慮しないで相談してね、サンドラちゃん!」

「・・・うん!ありがとう、奏、リリ!」

 

 その後、僕の部屋でリリちゃんとサンドラちゃんの愚痴、相談を聞き、二人は部屋から出てリリちゃんの部屋へと向かったのだが・・・

 

「奏さん・・・広くて落ち着かないので、同じ部屋ですごしてもいいですか?」

 

 リリちゃんはそういって戻ってきた。

 “ノーネーム”では百二十人で寝てるし、一人でこの部屋を使うのは落ち着かないんだろう。

 僕も一人で過ごすよりは二人のほうが楽しいから、そのまま同じ部屋で過ごした。

 




こんな感じになりました。


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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歌い手、お祭りを楽しむ

今回、結構短めです。


では、本編へどうぞ!


 今、僕はステージの上に立っている。

 開会式のステージで歌う、という依頼をこなすためだ。

 

「えー・・・皆さん、どうもこんにちは。僕は今回、サラマンドラの新たな頭首、北側の新たな階層支配者であるサンドラ様よりご依頼を受け、このステージで歌わせていただくことになりました、“音楽シリーズ”の歌、“奇跡の歌い手”のギフト保持者、ジン=ラッセルが率いる“ノーネーム”所属の天歌奏です」

 

 とりあえず、こういった挨拶は苦手なので正直に言うと飛ばしてしまいたい。

 でも、そう言うわけにもいかない。“ノーネーム”の宣伝、自分の宣伝のためにもしっかりと挨拶をしなければ。

 

「今回歌う曲は、僕のいた世界にあった曲、ヘンデル作曲のオラトリオ、『ソロモン』より『シバの女王の入場』です。お聴きください」

 

 そして、そのまま一曲歌いきり、契約では開会、閉会の際に一曲歌う、という形だったのでそのままステージを降りた。

 

「お疲れ様です、奏さん!タオルとお飲み物、どうぞ!」

 

 そこにはリリちゃんがいて、僕にタオルとスポーツドリンクを差し出してくれた。

 音響器具はなくても照明器具はあったので、かなり汗をかいた。歌を歌う、という行動もかなりの体力を消耗するので、正直言ってありがたい。

 

「ありがとう、リリちゃん。いや~疲れた・・・」

「あれだけの人の前で、ギフトを二つも併用していたらそうなりますよ。それと、初めて奏さんの歌をお聴きしたんですが・・・」

 

 あれ?何か気になることがあったのかな?

 

「すっごく綺麗でした!こんなに感動する音楽、初めてです!」

 

 よかった、プラス側での感想だった。

 目が輝いてるな~。そこまでですかね?

 

「奏さんは、昔からそのように歌えたのですか?」

「う~ん、どうななろう・・・ただ、初めてこのギフトを自覚したのは、六歳くらいのころかな。まあ、かなりいやな思い出になるんだけど・・・」

「す、すいません。そんなことを思い出させてしまって・・・」

 

 あ、ミスった。今の言い方はないだろ、僕・・・

 

「大丈夫だよ、もうあれについては乗り切ったから。それよりも、今日の仕事はおしまいだし、お祭りを見て回らない?」

「まだ開会式の途中なのに、離れていいんですか?」

「多分、大丈夫でしょ。別に構いませんよね?」

 

 念のため、近くにいたスタッフに聞いてみる。

 

「はい、大丈夫ですよ。サンドラ様からも出番が終わったらご自由に、との言伝を預かっておりますし、もう既に展示会や露店なども始まっていますから」

「ありがとうございます。じゃあ、行こうか?」

「はい!」

 

 時間はあるし、リリちゃんと一緒にお祭りをまわることにしました。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

 とりあえず、すぐそばにあったクレープ屋で二人分のクレープを買い、食べ歩きながら様々な展示物を見て回る。

 リリちゃんはクレープを受け取ることすら遠慮していたけど、何とか説得して受け取ってもらった。子供なんだから、遠慮しなくていいのに。

 

「にしても・・・いろんなものがあるんだね。歩くステンドグラスなんて始めてみた」

「他にも、ふわふわ浮かんでいるランタンもいますよ!可愛いです!」

 

 リリちゃんのテンションが高くなってきた。お祭りって人のテンションを上げる効果があるよね。

 

「どれも“ウィル・オ・ウィスプ”の看板を下げてるってことは、そのコミュニティの作品、ってことだよね?命すら与えれるのかな?」

「強力なギウトを持つ悪魔の中には、“生命付与”が出来る方々もいますし、きっとそうだと思いますよ?あ、あれは何でしょう!!」

 

 リリちゃんは何かを見つけたようでそれがあるであろう方向に走っていく。

 元気だな~とか微笑ましく見ていたら、結構距離が離れていたので慌てて追いかける。

 リリちゃんがついたところには、翠色のガラスでできた龍のモニュメントがあり、リリちゃんが目を輝かせていた。

 

「奏さん!綺麗なガラスの龍です!北側ではこんなものも作れるんですね!」

「確かに綺麗だよなぁ・・・こんな感じのジン君の像を作って、コミュニティに飾ったら怒るかな?」

「多分、お礼を言いながら困った顔をすると思いますよ」

 

 コミュニティのリーダーの像を建てるのは面白いかなと思ったんだけど・・・やっぱり駄目か。

 それに、作るって話を聞いたらあの問題児三人組がどう手を出してくるか分かったもんじゃない。

 

「これはどこのコミュニティの展示なんだろう・・・あ、説明あった」

 

 ふむ・・・“サラマンドラ”のサラって人が作ったらしい。誰なんだろ?またサンドラちゃんにあったら聞いてみよう。

 

「さて、リリちゃんは興味があるみたいだししばらくここにいるのもいいかな・・・ん?」

 

 そう思った矢先、なにやら騒ぎになっているところがあるようだ。

 耳を済ませてみると、月の兎がどうたら、箱庭の貴族がどうたら、という内容の会話が聞こえてくる。

 確か、黒ウサギさんの一族のことをさす呼び名じゃなかったっけ?

 

「リリちゃん、向こうのほうで騒ぎが起こってるし、ちょっと見に行かない?なんか、箱庭の貴族が来たって言ってるし、黒ウサギさんがいるのかも」

「黒ウサギのお姉ちゃんが北側に!?」

 

 リリちゃんは驚きつつも、黒ウサギさんがいるのかどうかには興味があるようで、騒ぎの起こっているほうに向かうことに異論はなかった。

 




こんな感じになりました。

半分寝ながら書いたので、いろいろとミスがあるかもしれません。
あったら教えてください。


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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歌い手、説教をする

これを投稿するの、久しぶりだな・・・


では、本編へどうぞ!


 騒ぎの中心まで行くと、建物の上に黒ウサギさんと逆廻君がいた。

 どうやってここまできたんだろう?そんなお金はないはずなんだけど・・・

 

 そんなことを考えていると、二人の手に契約書類が現れる。

 

「あの契約書類・・・なんだろう?」

「あれは・・・コミュニティ同士の対決用とは別の、個人の間で取引されるものですね」

 

 僕のつぶやきに、隣にいるリリちゃんが答えてくれた。

 

「そんなものもあるんだ・・・」

「私も、見るのは初めてです!黒ウサギのお姉ちゃんと十六夜様、どんなゲームをするんでしょうか・・・?」

「確かに気になるけど、そこまで危険なことにはならないでしょ」

 

 逆廻君は問題児だけど、さすがにそれくらいは考えてくれるはずだ。

 はず・・・だよね?

 

「リリちゃん、何かあったとき、はぐれないように手を繋いでおこう。いざって時にも逃げやすいし」

「奏さんはどんな事態を想定しているのですか・・・?」

 

 リリちゃんは少し呆れながらも、しっかりと手を繋いでくれた。

 いい子だな・・・本当に。うち(ノーネーム)の問題児達にも見習って欲しいものだ。

 

 

 そんな感じで見ていたら、まあ予想通りに・・・いや、予想外なことに、逆廻君が時計塔を蹴り飛ばした。

 それまでのゲームが手に汗握るものだったから、見ていた人は全員が一瞬黙り、

 

「「「「「あ、あの人間滅茶苦茶だあああああ!?」」」」」

 

 声をそろえてそう叫びながら逃げて行った。

 それはもう、手を繋いでいなかったら間違いなくリリちゃんとはぐれてしまったであろう勢いだ。

 

「リリちゃん、捕まって!」

「は、はい!」

「あと、目を瞑っといて!」

「わかりました!」

 

 僕は繋いでいるリリちゃんの手を引っ張り、少ししゃがんで抱え、リリちゃんの安全を確保。

 そして、上から降って来る時計塔の残骸を見つめながらギフトカードを取り出し、新しいギフトを使うために、《剣の舞》を歌う。

 

 すると、その歌に反応して“多鋭剣”が百本出てきて、時計塔の残骸を切り刻んでいく。

 そのまますぐに砂ほどの大きさになったので、僕は歌うのをやめて多鋭剣をしまいつつ、リリちゃんを見ると、目をぎゅっと瞑り、とっても可愛い状態になっていた。

 小さい子供って、いつ見ても和ませてくれるよね・・・

 

「砂嵐が収まったら教えるから、それまでは目を瞑っててね?」

「はい、分かりました・・・」

 

 さて、逆廻君と黒ウサギさんは・・・あ、いた。

 

「二人とも・・・こんな街中であれは駄目だと思わない?」

 

 言い争いをしている二人に近づきながら、僕はそういった。

 声音が結構怖くなっているので、リリちゃんに聞こえないよう、音の響きを操りながら、だ。

 ついでに、逆廻君と黒ウサギさんの声も聞こえないようにする。

 

「お、奏じゃねえか。オマエ、一人で勝手に行くなんて、薄情じゃ」

うるさいよ(・・・・・)、逆廻君。今僕はそんな話をしてないでしょ?」

 

 軽く笑みを浮かべながらそう言うと、なぜか逆廻君は顔に汗を浮かべながら、後ろに一歩下がる。

 おかしいなあ、僕はただ笑ってるだけなのに。

 

「あの、奏さん・・・?どうしたのですか?」

 

 黒ウサギさんが、おっかなびっくり、という感じでそう話しかけてくる。

 

「いや?僕はただ二人に聞いてるだけだよ?こんなに人がいるところで、あれはやっちゃ駄目じゃないかな?って」

 

 おや?黒ウサギさんも汗を浮かべ始めたぞ?

 

「いや、あれをやらないと黒ウサギには逃げられてたわけで・・・」

「うん、なるほどね。ゲームの内容は相手を捕まえる、とかそんな感じだったのかな?でも、それなら他にも方法はあったよね?逆廻君なら、どこに着地するかを計算することもできただろうし、それが駄目でも、人がいないほうに蹴り飛ばすとかさ」

「それは・・・まあ、そうだな・・・」

 

 逆廻君は渋々といった感じでそう返してくる。

 うん、素直に答えてくれるのはいいことだよ?

 

「黒ウサギさんも、さすがにあの行動を予想しろ、とは言わないよ。でも、ゲームをする必要はなかったんじゃないかな?」

「いえ、さすがにあの状況でそれは、見ていた人が納得しなかったでしょうし・・・」

「そういえば、騒ぎになってたよね・・・うん、ならそれは仕方ない。大目に見よう」

「ありがとうございま」

「でも」

 

 僕は助かった、という顔をする黒ウサギさんの声にかぶせるようにして、話を続ける。

 

「それならもう少しルールを変えるか、場所を変えようか。あの(・・)逆廻君が普通にゲームをするわけがないことくらい、予想がつかない黒ウサギさんじゃないよね?」

「それは・・・はい、その通りです・・・」

 

 うん、あの逆廻君が素直になったんだから、黒ウサギさんが素直にならないわけがないよね?

 

「それに、僕が残骸を切り刻んでる間も、何か言い争ってたよね?あんな危険物そっちのけで一体何を話してたのかな?」

「いや、あれは奏がどうにかしてたからやっていただけで・・・」

「奏さんがいなかったら黒ウサギたちが対処してましたし・・・」

「いや、そんな仮定の話はどうでもいいんだよ。それに、僕がただの歌い手なのは知ってるでしょ?そんな僕がどうにかできる可能性は少ないんじゃないかな?」

 

 僕が一歩近づくと、二人は同時に一歩、後ろに下がる。

 うん?なんで逃げるんだろう?

 とりあえず、座ってもらおうかな?

 

「そのあたり、二人とも正座で教えてくれる?」

「あの・・・奏さん?まだ目を開けちゃだめですか?それと、一切声が聞こえないんですが・・・」

 

 あ、リリちゃん。確かに、もう砂嵐は消えてるんだよね・・・

 でも、こんな年長者二人が説教されてる姿は、見せちゃ駄目だろうから・・・

 

「ちょっと状況が変わっちゃったんだ。もう少しだけ、目を瞑ってて?あと、ちょっと諸事情で僕の声は聞こえないけど、聞こえないからって心配しなくて良いからね?」

「はい、分かりました!」

 

 うん、元気なお返事、ありがとう。

 あ、もちろん、声音は一度、元に戻しましたよ?

 

「こんな感じで、リリちゃんも心配してるからさ。早く話してくれないかな?」

「「はい、分かりました」」

 

 二人は同時に正座をして、背筋をピンと伸ばし、逆廻君にいたっては学ランを第一ボタンまで全てしめている。

 始めてみたよ、君がしっかりとした服装をしてるのは。

 

「あの時は、契約書類が引き分けといったので、それについて黒ウサギに聞いていました」

「そして、十六夜さんがそのことについて文句を言ったので、箱庭の判定は絶対であると、そう説得しておりました」

「奏に任せたのは、剣の舞を歌いながら剣を出しているのを見たので、アルゴールを倒せた技なら大丈夫だろうと思い、任せました」

「こちらに来る前に、白夜叉様が奏さんに新たな剣のギフトを与えたことは聞いていたので、そこからも大丈夫だろうと判断しました」

 

 なるほど、そのことを聞いてたなら、僕に任せるだけの理由にはなるね。

 見てただけの僕に丸投げしたことは、どうしても許せないけど・・・

 

「うん、二人とも反省したようなので、僕からのお説教は以上とします。あとは、あの人たちの話を素直に聞くように」

「「はい。この度はどうもスイマセンでした」」

 

 二人は立ち上がると、大人しく“サラマンドラ”の人に捕まって、連れて行かれた。

 

「ふう・・・リリちゃん、もう大丈夫だよ?」

「はい、分かりました。ところで・・・一体何があったんですか?」

「できれば、彼らのプライドのためにも教えたくないんだけど・・・」

 

 僕はリリちゃんを下ろし、しゃがんで顔の高さをそろえると、

 

「リリちゃんは、コミュニティの年上の人を、あんまり見習いすぎないでね?」

「よく分かりませんけど・・・はい、分かりました!」

 

 うん、いい笑顔だ。




こんな感じになりました。

十六夜がキャラ崩壊しておりますが、その辺りについてはどうかご容赦のほどを、よろしくお願いします。


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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歌い手、約束する

うん、また間が空いてしまった・・・スイマセン。
来週から早朝テストは消えるので、更新ペースは上がる・・・と思います。


では、本編へどうぞ!


「随分と派手にやったようじゃの、おんしら」

「「はい。迷惑をかけてスイマセンでした」」

 

 二人は、連行されてきた謁見の間で、素直に頭を下げた。

 うん、ちゃんと謝る先に謝ったし、もう僕から言うことはないかな。

 

「黒ウサギはともかく・・・小僧、貴様はどうしたのだ?やけに素直だな?」

「それについては、聞かないでください・・・」

「ああ。今の俺達には、他の選択肢がないんだ・・・」

 

 二人はそう言いながら僕のほうを見てくる。

 ああ、そう言うことか。

 

「一応言っておくと、もうちゃんと謝ったんだから、僕からは何もないよ?」

「「・・・よかった・・・」」

 

 二人は一気に脱力し、逆廻君は服装をいつもの形に戻した。

 

「ふん!ノーネームの」

「でさ、一応二人も反省してるみたいだし、今回の件は大目に、とまでは言わなくても軽めに見てくれないかな?」

 

 まあ、せっかく上手く行ってるところを邪魔されたくもないので、マンドラさんの言葉は遮らせてもらおう。

 あくまでも、“サラマンドラ”の頭首はサンドラちゃんなんだから、彼の意見は必要ないし。

 

 サンドラちゃんは僕の考えたことを察してくれたのか、マンドラさんが何か言う前に立ち上がって黒ウサギさんと逆廻君に声をかけてくれた。

 

「“箱庭の貴族”とその盟友の方。此度は“火龍誕生祭”に足を運んでいただきありがとうございます。貴方達が破壊した建造物の一件ですが、白夜叉様のご厚意で修繕してくださいました。天歌奏さんのおかげで負傷者はありませんでしたし、今回の祭典ではお世話になっておりますので、この件に関して私からは不問とさせていただきます」

「ありがとう、サンドラちゃん」

 

 すぐ横でマンドラさんが舌打ちしてるけど、そういった行為は品格を疑われますよ?

 

「白夜叉さんも、ありがとうございます。僕が切り刻んじゃったせいで一から作り直すことになっちゃったみたいですし・・・」

「別に構わんよ。むしろ、あの剣が実際に機能することがわかって、上は喜んでおったしのう」

 

 あれ、実際に機能するかわからなかったんですか・・・?

 

「それに、今回小僧達に協力を要請したのは私だ。この件については、報酬の前払いとでも考えてくれ」

 

 ああ、そんな形で彼らはこっちに来たのか。どんな内容なのかな?

 

「さて・・・お前はどうしてここにいるんだ?」

 

 考え事をしていたら、逆廻君が後ろからそういってきた。

 急に後ろに立たないで・・・驚くから・・・

 

「いつもと変わらない、僕宛の依頼。ほら、今までにも何回か有ったでしょ?」

「ああ、“奇跡の歌い手”としての依頼か。なら、リリはその手伝いか?」

「うん、一人ならいいって言われたから、リリちゃんに頼んだんだ。ところで、逆廻君と黒ウサギさん、それにジン君はどうしてこっちに?そんなお金はなかったよね?」

 

 それに、他の二人も来てるのかな?問題児が三人集結してたら、かなり大変なことになりそうだけど。

 

「まあ、白夜叉からの依頼だ。まだ内容は聞いてないけどな」

「そこはちゃんと確認しておこうよ・・・」

「うちは魔王と戦うことをアピールしてるコミュニティだ。どんな依頼でも引き受けないと」

「そのように気安く呼ぶな、名無しの小僧!!!」

 

 話の途中でマンドラさんがそういっているのが聞こえ、そちらを見たら逆廻君が足の裏でジン君に向かってきていた剣を受け止めていた。

 あれ?いつの間に移動したの?

 それと、マンドラさんは・・・まあ、少し怒らせすぎたのもあるのかな?反省。

 

「・・・おい、知り合いの挨拶にしちゃ穏やかじゃねえぜ。止める気なかっただろ」

「当たり前だ!サンドラは北側の階層支配者になったのだぞ!誕生祭に“名無し”風情を招き入れ、恩情をかけ、さらになれなれしく接するだと!それでは“サラマンドラ”の威厳に関わるだろうが、この“名無し”のクズが!」

 

 でも、ここまで言われるいわれはないかな?

 

「ま、マンドラ兄様!彼らはかつての“サラマンドラ”の盟友!こちらから一方的に盟約を切り、それでもなお依頼をしている身!そのような態度をとっては、我らの礼節に反する!」

「礼節よりも誇りだ!大体、今回の依頼に関しても私は反対だったのだ!“音楽シリーズ”のギフト所有者が名無しにいるなど、とても信じられなかったのだ!」

「だから、“サウザンドアイズ”のほうから保障してもらってるんだけど・・・」

 

 これは、白夜叉さんがやってくれたことだ。

 まあ、“音楽シリーズ”はかなり有名だそうで、“ノーネーム”に音楽シリーズの、それも“歌い手”のギフト所持者がいるとは信じてもらえないそうだ。

 

「これマンドラ、いい加減に下がれ。それに、奏とリリもだ。明日も早いのだろう?」

「え?明日はとくには・・・」

 

 そこで、白夜叉さんの視線がリリちゃんに行ってるのに気付いた。

 ああ、そう言うことか。

 

「ええ、そうですね。じゃあ行こうか、リリちゃん」

「あ、はい。分かりました」

 

 まあ、こんなグチャグチャした状況にリリちゃんがいるのは教育上よくないだろう。

 それに、今はまだ大丈夫でもすぐに子供が起きているのはつらい時間になる。

 お風呂とかを済ませて、リリちゃんだけでも先に寝てもらおう。

 

「あ、サンドラちゃん。お風呂っていただいても?」

「はい。来賓用のものを使ってください。誰か!お二人の案内を!」

 

 サンドラちゃんの呼びかけで、すぐに“サラマンドラ”の人が来て案内をしてくれた。

 二人の荷物は全部“空間倉庫”にしまってあるので、このまま入っても問題ないだろう。

 

「じゃあ、入ろうか?」

「はい!」

 

 まずはお風呂に入って疲れを取ることにしよう。

 依頼とかの話は、またリリちゃんが寝てからにでも皆に聞けばいいし。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

「じゃあ、流すよ~」

「は~い!」

 

 で、僕はリリちゃんの頭とか尻尾とかを洗っていた。

 リリちゃんが背中を洗ってくれたので、そのお返しだ。

 

「じゃあ、湯船に入ろうか?」

「ですね。ありがとうございました」

「良いよ、気にしなくて。リリちゃんに背中も洗ってもらったし」

 

 それに、本音を言えば一度この尻尾に触ってみたかったのだ。

 ふわふわしていて、とても手触りがよかった。

 

「ふう・・・こっちにも、湯船があるお風呂があるんだねぇ」

「はい。依頼をする人がどの文化出身の人かは分からないので、大きなコミュニティではこのようなお風呂は準備されているそうです」

 

 なるほどね~。そういった気配りもできてこそ、一流のコミュニティ、ということか。

 

「ところで、いくつか質問をしても良いですか?」

「うん、どうぞ」

「じゃあ・・・奏さんは、今の“ノーネーム”の状況をどう思いますか?」

 

・・・?

 

「えっと・・・どういうこと?」

「スイマセン、分かりづらくて・・・その、何か不満はありませんか、と・・・」

 

 不満。不満ねえ・・・

 

「奏さんだけじゃなく、十六夜様に飛鳥様、耀様は別の世界から来たお方ですし、そちらの世界に何か未練があるんじゃないかと・・・」

「大丈夫、それはないから」

 

 まあ、これについては間違いない。

 

「そうなんですか?」

「うん。もといた世界じゃ、ギフトを持ってる人なんていなかったからね。そのせいで苦労することも多かったんだ」

 

 見世物として利用する人はまだいい。向こうもこっちを利用して利益を得て、こっちも向こうを利用してお金を貰い、毎日の生活を可能にしていたんだ。

 でも、僕のこのギフトを科学的に解明しようと、僕を解剖しようとする科学者、僕を神聖視して追いかけてくる怖すぎるファン・・・うん、思い出しただけでも向こうに居たくなくなる。

 

「うん、思い出したくもないことばっかりだったから、元の世界に未練はないよ」

「そうですか・・・じゃあ、コミュニティには?」

 

 ふむ・・・

 

「それもないかな。音楽シリーズの知名度だと、他のコミュニティに入ってたらどんな扱いをされてたことか分かったもんじゃない・・・」

 

 そう考えると、“ノーネーム”は僕からすればかなりの優良物件だったのだろう。

 こんな言い方をしたくはないが、あれだけ切羽詰っている以上、コミュニティから離れていくような扱いはされない。

 

「じゃあ、どこかに行っちゃうようなことは・・・」

「ないよ。今のところ、僕がしたいことは“ノーネーム”の復興の手伝いと“音楽シリーズ”のギフト保持者を探すことだから」

「そう、ですか・・・よかったです」

 

 リリちゃんは心底ほっとしたような顔をする。

 

「で、あの問題児三人組も引き受けたことを途中で投げ出すようなことはないから、あの三人もコミュニティから離れていくようなことはないよ」

「信頼しているんですね」

「これだけの間一緒に暮らしてれば、信頼は生まれるものだよ。もちろん、リリちゃん達との間にもね」

 

 そう言いながら、僕はリリちゃんの頭を撫でる。

 

「はい・・・また、コミュニティから人がいなくなるようなことは、ないんですね?」

「うん、ない。約束するよ、“ノーネーム”から、離れていかないって」

 

 そのあと、しばらくしてから僕らはお風呂から上がり、サラマンドラが振舞ってくれた食事を食べ、部屋に戻った。

 

 しばらくするとリリちゃんが寝たので、布団をかぶせてから僕はサウザンドアイズの支店に向かうことにした。

 逆廻君達が引き受けた依頼について、しっかりと聞いておかないとね。

 




こんな感じになりました。

奏のギフトの都合上、曲とかを調べだしたら更新ペースが落ちますので、ゲームが始まってからは今以上に落ちるかもしれません。

では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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歌い手、和む

投稿出来る、とか言っておきながらぜんぜん出来ませんでしたね・・・スイマセン。
そして、これからもこんなペースになってしまうかもしれません・・・

それでも、投稿をやめるつもりはありません。最低でも月2か3で投稿はします。

それと、これとほぼ同じ時間に『問題児達が異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~』『少年と女神の物語』も投稿しましたので、よろしければそちらもご覧ください。

では、本編へどうぞ!


 で、来てみたらその瞬間に逆廻君に二つの木製の桶が直撃した。

 ・・・うん、どんな状況?

 

「あ、奏さん。そのコートはどうしたのですか?」

「あ、これ?この時間に外に出ると寒いから、ってサンドラちゃんが準備してくれた」

 

 で、なんで黒ウサギさんは投げ終わったそのままの体勢で質問ができるのだろう?

 

「次にこっちから聞きたいんだけど、これはどういう状況?」

「このコミュニティには変態しかいないのかしら、という状況よ」

「ああ、そういうこと」

 

 髪を払いながら向ける飛鳥さんの視線の先には、握手をする白夜叉さんと逆廻君が。

 おおかた、みんなの服装について変態的な発言をしたのだろう。

 

「あ、皆浴衣似合ってるね。飛鳥さんや春日部さんはやっぱり日本人だからしっくり来るし、黒髪や茶髪以外の髪色で浴衣を着ると違和感がうまれることもあるけど、黒ウサギさんやレティシアさんはそんな違和感もなく着こなしてるし」

「聞きましたか、十六夜さんに白夜叉様!この健全な感想を!」

 

 黒ウサギさんが急に声を上げるからビックリした。

 大したことを言えてない自信しかないんだけど・・・

 

「おいおい奏。これだけの綺麗どころが風呂上りの火照った肌に浴衣を着てて、思うことはそれだけか?」

「黒ウサギや飛鳥の豊かな乳房、耀にレティシアの健康的な肌に何も感じないと?」

「・・・まあ、それに何も感じないとは言いませんけど、わざわざ声に出すのはどうかと思いますし、そこまで細かい感想は抱きませんよ?」

 

 なるほど、これはあの二人が怒って桶を投げつけるのもわかる。そして、ジン君と店員さんがなんだかむなしい哀愁を分かち合っているのも。

 

 そして、このあと、今回の件についての説明、さらには参加者の中に魔王のコミュニティの残党が紛れ込んでいる可能性などを話し、解散となった。

 とりあえず、帰ったらサンドラちゃんに報告しておいたほうが良いだろうし、早く帰るとしよう。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

「と、これがさっきサウザンドアイズで話してた内容。一応、サンドラちゃんにも報告しておいたほうが良いかな、と思って」

「そう・・・ありがとう、奏」

 

 サンドラちゃんに報告したら、何かを覚悟するような表情でそう返してきた。

 

「今回の誕生祭に、“幻想魔道書群(グリムグリモワール)”の残党が・・・」

「えっと・・・あんまり気負わないでね、サンドラちゃん。まだ確定って訳じゃないから」

「ううん。残党じゃないなら、滅びた魔王のコミュニティの下部と繫がる名前を名乗っても、何の得もない」

「じゃあ、残党なら名乗ることで何かしらの得があるの?」

「自分達がまだ滅びていない、と言うことを主張できる」

 

 なるほど。確かにそれは見方を変えれば得だ。

 

「だから、何かしらの行動を起こしたら、そのときは私が・・・」

「でも、主催者権限については、もう対策をうったんでしょ?」

 

 僕は、あの場で見せてもらった羊皮紙の内容を思い出す。

 

「たしか・・・コミュニティ間でのゲームの開催禁止。“主催者権限”を持つ人は、この都に入るためにホストの許可が必要。“主催者権限”の使用禁止。参加者以外の進入禁止。だっけ?」

「うん。白夜叉様の主催者権限を使って追加した、今回の誕生祭のルール。でも、ここは箱庭だから・・・」

「何が起こっても不思議ではない、と?」

「うん。だから、できる限り警戒はしておくべき」

 

 おそらくだが、階層支配者としての責任も感じているのだろう。どう考えても、その歳で背負うには重すぎる責任を。

 そして、一つ気になることがあったので、ここで質問してみることにした。

 

「そういえば、白夜叉さんから今回のルールについて聞いたときにも思ったことがあるんだけど、質問しても?」

「うん、どうぞ」

「じゃあ遠慮なく。このルールって、僕みたいに条件を満たしたら“主催者権限”を持つ人はどういう扱いになるの?」

「もちろん、対象外。わざわざ手に入れることができるかもしれない、位の人まで対象にしてたらきりがない」

「いや、そう言うことじゃなくて」

 

 サンドラちゃんが首を傾げるのを見て、少し説明を省きすぎたか、と反省する。

 

「例えば、僕の場合はこの“共鳴”のギフトのおかげで、これを持つ人が近くにいたり、持ってる人と何かしらの契約で繫がってるとき、霊格があがる。で、“音楽シリーズ”全員と共鳴することで、“主催者権限”を手に入れることができる。ここまではいい?」

「うん。それくらいは、少し知識がある人なら知ってること」

 

 たまに思うけど、この“音楽シリーズ”のギフトがそこまで有名だと言うことに実感が湧かない。やっぱり、自分のことはよく分からないよね。

 

「だから、僕の場合はこうして何の問題もなく“煌焰の都”に入れてる。じゃあ、もしも“音楽シリーズ”持ちが、順番にここに入った場合、どうなるか分かる?」

「この都の中で“主催者権限”が生まれる・・・」

「そう。で、“入ることを禁ず”だし、元から入ってた人は対象から外れるんじゃないかな、と」

「それは確かに・・・ううん、でも問題はない」

 

 少し悩むような仕草を見せたサンドラちゃんだが、すぐに否定して来た。

 

「問題ない、とは?」

「まず一つ目に、そんな特殊な形で現れる“主催者権限”は“音楽シリーズ”の“歌い手”くらいで、早々ないから」

「あーそっか。レアケースなのか」

 

 まあ、だからといって他にいないと断言できるわけではないだろう。

 では、何故問題がないのか。

 

「でも、この理由はかなり不確定なものだから確信はできない。でも、もうひとつの理由ならその方法は意味がなくなる」

「その理由って?」

「参加者は、“主催者権限”を使うことはできない」

「あ・・・」

 

 先ほど自分で言った中にあるのに、すっかり忘れてた。

 そうだ・・・さっき言ったみたいに裏をかき、入れたとしても使用が禁止されてる。

 そうである以上、僕が言った方法は警戒する必要がない。

 

「自分で言っておいてすっかり忘れてた・・・うわー、恥ずかしいな・・・」

「別に恥じることじゃない。それに、奏のおかげでやっぱり警戒したほうがいいことが分かった」

 

 サンドラちゃんはそう言って立ち上がった。

 

「まだ箱庭に来て間もない奏でも、このルールのひとつの裏をかく方法が思いついた。なら、もっと知識がある人なら全部の裏をかいて使う人がいる可能性は高くなる」

 

 しまった。余計にプレッシャーを与えてしまった。

 少し考えれば、こうなるかもしれないことぐらい分かるだろ、僕・・・

 

「だから、もっと警戒しない、と・・・」

「おっと」

 

 で、サンドラちゃんはフラフラしだしたと思ったら倒れた。

 慌てて支え、様子を見てみるが・・・

 

「すう・・・すう・・・」

「よかった。寝ちゃっただけか」

 

 よくよく考えてみれば、この子もまだ十一歳。もう起きているにはつらい時間帯だ。

 もしかしたら仕事の関係で夜遅くまで起きていることに慣れてるのかもしれないけど、今回は初の“主催者”として、それなりに緊張もあったはずだ。疲れはいつも以上に溜まっていただろう。

 

 僕はそのままサンドラちゃんを抱き上げて、サラマンドラの人に案内してもらいながら部屋まで運んでベットに寝かした。

 

 そのあと、トイレなどを済ませてから部屋に戻ると、リリちゃんが椅子に座って、こっくりこっくりと舟をこいでいた。

 確か、部屋を出るときには寝てたはずなんだけど・・・

 

「あ、奏さん・・・おふぁえりなさい・・・」

「うん、間違いなく眠いよね。どうして起きてるの?」

「トイレに行こうと目を覚ましたら奏さんがいなかったので・・・帰ってくるのを、待ってました・・・・」

 

 せめて書置きくらいはしておくべきだったと反省。

 まさか、帰ってくるまで起きているとは思わなかった。

 

「ゴメンね、何も言わずに出て行って。じゃあ、一緒に寝ようか?」

「ハイ・・・」

 

 リリちゃんはもう歩けるとも思えなかったので抱きかかえ、そのまま布団に入って寝ました。

 

 あと、こんなことを言うのはどうかと思いますし、変な趣味だと誤解されそうですが・・・二人の寝顔は、かなり可愛かったです。

 和んだ~。




こんな感じになりました。

さて、予定では次の話から魔王のゲームが始まる予定です。

迷路のゲームは、飛ぶと思います。


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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笛吹き、登場する

さて、今回の話ではサブタイトルの通り、二人目の“音楽シリーズ”が登場します。

では、本編へどうぞ!


 さて、今僕達は“造物主たちの決闘”が始まるのを運営側の特別席で待っている。

 僕やリリちゃんは、僕がここからBGMを歌う関係で、他の“ノーネーム”のメンバーは一般席が空いていなかったのでサンドラちゃんが取り計らってくれたのだ。

 ちなみに、僕が歌うのはゲーム開始前の予定だったのだが、“音響操作(ソニック)”を常に使える状態にしておけば、不審者をすぐに見つけられるかもしれないという希望的観測により、BGMへと変更になった。

 

『長らくお待たせいたしました!今回の火龍誕生祭のメインゲーム・“造物主たちの決闘”の決勝を始めさせていただきます!なお、司会及び進行は“サウザンドアイズ”の専属ジャッジをしております、黒ウサギが務めさせていただきます♪』

 

 そして、下では黒ウサギさんが司会を頑張っている。今回の主催者である、白夜叉さんとサンドラちゃんから正式に依頼したのだ。

 まあ、それは普通のことだろう。昨日追加したというルールは、これで破ることができなくなったのだから。

 

 でも・・・

 

「うおおおおおおおおおお月の兎が本当に来たあああああああぁぁぁぁああああああ!!」

「黒ウサギいいいいいいい!お前に会うために此処まで来たぞおおおおおおおおおお!!」

「今日こそスカートの中を見てみせるぞおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉおお!!」

 

 あれはやめて欲しい。

 黒ウサギさんの耳もヘにょってなってるし、何よりリリちゃん達の教育によくない。

 ついでに言うと・・・

 

「そういえば白夜叉。黒ウサギのミニスカを絶対に見えそうで見えないスカートにしたとはどういう了見だオイ。チラリズムなんて趣味が古すぎるだろ」

「フン。おんしも所詮その程度の漢であったか。そんなことではあそこに群がる有象無象と変わらんぞ」

「・・・へえ?言ってくれるじゃねえか」

 

 あの会話も辞めて欲しい。絶対に教育上よくない。

 

「あの・・・奏さん?何も見えないのですが・・・」

「リリちゃんは見ちゃ駄目だ。教育上よろしくない」

「はあ・・・」

 

 というわけで、僕はリリちゃんの目をふさぎ、あの会話が聞こえないよう“音響操作(ソニック)”を使って二人の会話だけを遮断している。

 

「見るな、サンドラ。馬鹿がうつる」

「あ、マンドラさん。よかったらサンドラちゃんにあの会話が聞こえないようにしましょうか?」

「ああ、頼む」

「承りました」

 

 マンドラさんから頼まれたので、サンドラちゃんにも聞こえないようにする。

 そんなことをしている間に二人は双眼鏡を取り出し、黒ウサギさんのスカートの裾を追っていた。

 正直に言うと、ここから蹴り落としたいです。もちろんしませんが。

 

 そして、対戦者の紹介とステージの設定が終わったので、そろそろ僕の出番だ。

 

『では、ゲームの開始の前に今回のゲームのBGMを歌う方の紹介をします!“ノーネーム”所属の、“音楽シリーズ・歌い手”のギフト保持者、“奇跡の歌い手”の天歌奏さんです!』

 

 黒ウサギさんのノリノリの紹介や、僕の名前を覚えてくれている人が意外といることに少し驚いたが、それは表面に出さずに全体を見渡せる位置まで進む。

 

「皆さんこんにちは。只今紹介に預かりました、“奇跡の歌い手”の天歌奏です。ところで白夜叉さん、このステージではどのようなゲームを行うのですか?」

「前もって何も言わずに話を振ってくるか、普通・・・うむ。今回のゲームは、迷路になっておるステージのゴールを目指す、“アンダーウッドの迷路”じゃ!」

 

 白夜叉さんがそう宣言すると、参加者の二人・・・春日部さんと、相手はアーシャさんだったかな?の手元に“契約書類”があらわれ、観客から見えるスクリーンにも同じ内容だと思われる文章が映し出された。

 

『ギフトゲーム名“アンダーウッドの迷路”

・勝利条件 一、プレイヤーが大樹の根の迷路より野外に出る。

         二、対戦プレイヤーのギフトを破壊。

         三、対戦プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合(降参含む)

 

   ・敗北条件 一、対戦プレイヤーが勝利条件をひとつ満たした場合。

         二、上記の勝利条件を満たせなくなった場合。』

 

「白夜叉さん、ありがとうございました。迷路、ですか・・・では、BGMは“地下の迷路”という曲にさせていただきます!」

 

 どうにか関連のある曲が思い出せてよかった。

 さて、後は開始を待つだけだ。

 

『それでは、以上の項目を“審判権限(ジャッジマスター)”の名において絶対不可侵であることを、御旗の下に契ります。御二人とも、どうか誇りある戦いを。此処に、ゲームの開始を宣言します』

 

 黒ウサギさんの宣誓が終わると同時に、ゲームと僕の歌が始まった。

 さて、上手いことアドリブを加えてゲーム終了まで持たせないとね。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

「へえ・・・いい人材が揃ってるわね」

 

 そして、そんなゲーム会場を“煌焰の都”の壁に立ち眺めている人たちがいた。

 

「確かに、人材の宝庫ですね。脅威になりそうなのは・・・“サラマンドラ”のお譲ちゃんを含めて五人ってところかしらね、ヴェーザー?」

「いや、四人だな。あのカボチャには参加資格がねえ。特にヤバイのは吸血鬼と火龍のフロアマスター。後ついでに、偽りの“ラッテンフェンガー”も潰さねえと」

 

 そこにいたのは、白黒の斑模様のワンピースを着た少女と、やたらと露出の多い白装束を纏う女。黒い軍服を着た、短髪黒髪の男だ。

 そして、その背後には巨大な、笛を擬人化したような巨兵もいる。

 

「ラッテン。今貴女は五人といったけど・・・もしかして、此処にいる(・・・・・)の?貴方の探していた存在が」

「はい、マスター♪間違いなく・・・ここに“音楽シリーズ”のギフト保持者がいます」

「本当に間違いないのか、ラッテン?」

 

 黒い軍服の男・・・ヴェーザーは白い露出の多い服を纏う女、ラッテンに尋ねる。

 

「ええ、間違いないわ。私の(・・)共鳴(・・)”のギフトが発動して、私の霊格を高めているもの」

「そう・・・なら、間違いないわね。どれがそうだか、分かる?」

「恐らく、あそこで歌っているのがそうかと。歌と伴奏を同時に歌うなんて、“音楽シリーズ”以外に考えられませんし」

 

 ラッテンがそう言うと、白黒の斑模様の服の少女、ペストは一つ頷き、二人に伝える。

 

「なら、彼の確保、又は感染を最優先。この都で一番の脅威は、白夜叉でも火龍のフロアマスターでも、純血の吸血鬼でもない。“奇跡の歌い手”よ」

「なら、ラッテンに任せよう。おまえなら、影響を受けないだろう?」

「もちろんよ、ヴェーザー。私だって、“笛吹き(・・・)()音楽シリーズ(・・・・・・)”ギフト保持者だもの♪“音楽シリーズ”の影響は受けないわ♪」

 

 そう言ってラッテンが掲げるクロムイエローのギフトカードには、

 

『ラッテン・ギフトネーム“ネズミ捕りの男”“ハーメルンの笛吹き”“共鳴”』

 

 と、そう書かれていた。

 

「じゃあ、これで作戦は決定。ギフトゲームを始めるわ。」

「おう、邪魔する奴は?」

「殺していいよ。“奇跡の歌い手”と白夜叉以外なら」

「イエス、マイマスター♪」

 

 

 

♫♫♫

 

 

 

 ギフトゲームは終了した。

 結果としては春日部さんの負けだったけど、かなりいいゲームメイクができていたと思う。僕も、あんなふうに戦えるようになりたいものだ。

 

 そんなことを考えながら、曲にデクレシェンドをかけていると、音の響が少しおかしいことに気付いた。

 まるで・・・何かが降ってきているような・・・反射的に上を見ると、黒い“契約書類”が降ってきていた。

 

「白夜叉さん・・・あれって、まさか・・・」

「何?」

 

 僕が声をかけると、白夜叉さんも上を向き・・・慌てて一つをつかみ、中身を見るので、僕もそれに習う。

 

『ギフトゲーム名“The PIED PIPER of HAMERUN”

 

  ・プレイヤー一覧

        ・現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁に存在する参         加者・主催者の全コミュニティ。

  ・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター

          ・太陽の運行者・星霊・白夜叉。

 

  ・ホストマスター側 勝利条件

          ・全プレイヤーの屈服・及び殺害。

 

  ・プレイヤー側 勝利条件

          一、ゲームマスターを打倒。

          二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                       “グリムグリモワール・ハーメルン”印』

 

「魔王が・・・魔王が現れたぞオオオォォォォ――――!!!」

 

 どうやら、僕は生まれてはじめての魔王とのギフトゲームをすることになったらしい。気を引き締めていこう。

 




というわけで、二人目の音楽シリーズ、“ハーメルンの笛吹き”はラッテンでした!

次回、二人の音楽シリーズが会う予定です!

というわけですので、次回、『歌い手と笛吹き、出会う』。どうぞお楽しみに!


では、感想、意見、誤字脱字待ってます!


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歌い手と笛吹き、出会う

二人の出会いはこんな感じになりましたが・・・個人的には、ラッテンの口調に少しばかり違和感を感じています。

此処をこうしたほうがいい、などがございましたら、教えてください。



では、本編へどうぞ!


「な、何!?」

「白夜叉さん!?」

 

 読み終わるとほぼ同時に白夜叉さんを閉じ込めるように黒い風が吹き荒れた。

 どうにか引きずり出せないかと手を伸ばしてみるも、黒い風は僕の手を弾く。

 

「何、この風・・・」

「気をつけろ、奏!」

「へ?・・・うわっ!」

 

 少し悩んでいたら、バルコニーで黒い風が発生し、僕たちを押し出した。

 

「きゃ!」

「リリちゃん、こっち!」

 

 僕はとっさに空中でリリちゃんを確保し、ギフトカードから多鋭剣を少し多めにだし、『剣の舞』を歌ってその上に乗る。

 最近、『剣の舞』の便利さに頼ってしまう傾向にある。

 

「ふう・・・助かった・・・リリちゃんは大丈夫?」

「はい、ありがとうございました」

 

 ぱっと見た感じも大丈夫そうなので、僕はリリちゃんを下ろしてみんなの元に向かう。

 

「奏さん!ご無事ですか!?」

「僕たちはなんともない!それより、この状況は・・・」

「魔王が現れた。・・・そう言うことでいいんだな?」

「はい」

 

 十六夜君の質問に、黒ウサギさんは短くそう答えた。

 舞台にいた観客の人たちも慌てて逃げているので、間違いないのだろう。

 

「でも、白夜叉さんの“主催者権限”は?あれがある以上、“主催者権限”は使えないはずじゃあ・・・」

「そちらについては分かりませんが、黒ウサギがジャッジマスターを務めている以上・・・」

「ごまかしは効かない、か。なら、連中はルールに則った上でゲーム盤に現れてる・・・ハハ、流石は本物の魔王様だ。期待を裏切らねえ」

 

 期待って・・・まあ、眼は笑ってないからいいか。

 

「どうするの?此処で迎え撃つ?」

「それが得策だろう。だが、全員で迎え撃つのは具合が悪い。いくつか気がかりな点もあるしな」

「確かに、“サラマンドラ”の人達は観客席の方向に飛んで行ったし、白夜叉さんのこともあるからね・・・白夜叉さんのところには僕が行くよ」

 

 僕は魔王側のプレイヤーと戦えるだけの力がない。

 でも、いざとなったら歌を使えば逃げるくらいのことはできるし、運よく該当する歌があれば白夜叉さんを解放できるかもしれない。

 

「それがいいでしょう。念のために、ジン坊ちゃん達も奏さんと一緒に行ってください」

「で、黒ウサギはサンドラの安否を確認。俺とレティシアは魔王様にご挨拶、ってところか?」

「うん、それでいこう。春日部さん、運んでもらっても?」

「分かった」

 

 僕たち三人は春日部さんにバルコニーまで運んでもらい、白夜叉さんに話を聞きに向かった。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

「白夜叉さん、そちらの様子はどうですか?」

「ああ、奏か。すまんが、よく分からん。おんしらの持っている“契約書類”には何か書いておらんか?」

 

 僕は白夜叉さんとの接触を絶っている黒い風に触れ、“音響操作”で音を伝えてクリアな会話をしている。

 

「ジン君、“契約書類”には何か書いてない?」

「少し待ってください・・・出ました!」

 

 ジン君に契約書類を見せてもらうと、そこには次のように書かれていたので、そのまま白夜叉さんに伝える。

 

『*ゲーム参戦諸事項*

      ・現在、プレイヤー側ゲームマスターの参戦条件がクリアされていません(・・・・・・・・・・・・・・・)

       ゲームマスターの参戦を望む場合、参戦条件をクリアしてください。』

 

「以上です。これ以上は何も記されていません」

「チッ・・・よいかおんしら!今から言うことを一字一句間違えずに黒ウサギに伝えろ!おんしらの不手際はそのまま、参加者の死に繫がるものと思え!」

 

 白夜叉さんは、普段のセクハラとかをしているときとは全然違う、緊迫した声を出している。

 今は、それほどの非常事態なのだ。

 

「第一に、このゲームはルール作成段階で故意に説明不備を行っている可能性がある(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)!これは一部の魔王が使う一手だ!最悪の場合、このゲームはクリア方法がない(・・・・・・・・・・・・・・)!」

「なっ・・・!」

「次は?」

 

 飛鳥さんが言葉を失っているが、そんな暇はないので次を促す。

 

「第二に、この魔王は新興のコミュニティである可能性が高い!」

「了解。次は?」

 

 判断材料などを聞きたいところではあるが、間違いなくそんな暇はない。

 いつ、魔王側のプレイヤーが来るか・・・

 

「第三に、私を封印した方法は恐らく、」

「はぁい、そこまでよ♪」

 

 そして、僕の懸念は当たった。

 声のしたほうを振り返ると、そこには露出度の高い白装束を着た、耳の長い女性がいた。

 そして、その後ろには“サラマンドラ”の火蜥蜴が三匹。

 

「あら、本当に封じられてるじゃない♪最強のフロアマスターもこうなっては形無しねえ!」

「おのれ・・・!“サラマンドラ”の連中に何をした!?」

「そんなの秘密に決まってるじゃない。封印に成功したとしても、あなたに情報を明かすほど奢っては」

「“音楽シリーズ”、ですよね?」

 

 僕が会話を遮ってそう言うと、火蜥蜴の方たち以外が驚いたようにこっちを見る。

 

「奏、それは間違いないのか?」

「多分、間違いありません。自分のギフトですから、これくらいのことが出来るのは分かりますし・・・何より、この人は会話をしながらも小さく口笛で音楽を奏でていますから」

「へえ・・・やっぱり、耳がいいのね」

 

 ラッテンさんは表情を面白そうなものに変え、会話を始める。

 

「まあ、魔笛の効果があるから吹き続ける必要はないのだけれど。

 初めまして。私は“音楽シリーズ”、“笛吹き”のギフト保持者、“グリムグリモワール・ハーメルン”所属の、“ハーメルンの笛吹き”、ラッテンよ」

「自己紹介、ありがとうございます。僕は“音楽シリーズ”、“歌い手”のギフト保持者、“ノーネーム”所属の、“奇跡の歌い手”、天歌奏です」

 

 僕の自己紹介を聞くと、ラッテンさんは嬉しそうな顔になる。

 

「歌ってたから予想はしてたけど、やっぱり“奇跡の歌い手”なのね♪ついてるわ、私!」

「どういうことですか?僕は他の“音楽シリーズ”と違って、どんな状況でもギフトが使えますよ?」

 

 僕は少しでも状況を有利なものにしようと、強気に出る。

 

「別に、それくらいはどの“音楽シリーズ”でも大差ないもの。それよりも、貴女が歌い手で、今回の目的だってことのほうが重要よ」

「僕なんかがですか。光栄なことですね」

 

 そして、タイミングをうかがう。

 他の皆も、僕に合わせて動けるようにと準備をしてくれている。

 

「貴方はもう少し、自分の立場を考えたほうがいいわよ」

「自覚はしているつもりですよ。自分がたいしたことないくらい」

「やっぱり、自覚してないわね。今このゲームに参加してる中では一番の、白夜叉にも並ぶ脅威なのよ、“音楽シリーズ”歌い手のギフト保持者は」

 

 ラッテンさんは、本気で呆れたように両手を上げ、目を瞑った(・・・・・)

 

「Gu-ten A – bend,gut’ Nacht」

 

 そして、その隙に子守唄を歌い、火蜥蜴の皆さんとラッテンさんを眠らせようとする。

 が・・・

 

「無駄よ。もしかして知らないの?」

 

 ラッテンさんは・・・いや、誰も歌の影響を受けていなかった。

 

「もしかして、知らないのかしら。なら特別に教えてあげるけど、“音楽シリーズ”に“音楽シリーズ”は効かないわ。そして、他のギフトを使いながらの音楽に、何も使っていない音楽が負けるはずがない」

「それは、初耳ですね・・・」

 

 予定が一気に狂った。

 もう、僕には勝算がない。

 

「へえ・・・まあ、“音楽シリーズ”についてはいまだに知らないことだらけだし、白夜叉に聞いてなくてもおかしくはないわね」

 

 そう言ってラッテンさんはギフトカードを取り出す。

 

 そして、カードが光り・・・中から、黒い風が噴き出してくる。

 正体は分からないけど・・・間違いなく、危ない。

 

「すう・・・わあ!」

 

 直感的にそう感じたので、僕は少し息を吸って、音響操作を使って振動により吹き飛ばす。

 

「春日部さん、予定変更!今すぐに此処から逃げよう!」

「分かった。少し待って!」

「いえ、またないわ」

 

 そして、ラッテンさんはフルートに口をつけ・・・音楽を、奏でる。

 

「あ・・・駄目だ、コレ・・・!」

「意識が、薄れて・・・」

「春日部さん、ジン君!」

「二人だけが影響を・・・?」

 

 そして、その音の影響を春日部さんとジン君が受け、力が抜けたように座り込む。

 

「僕が受けないのは、さっきのラッテンさんの説明で理解できるけど・・・なんで飛鳥さんも・・・」

 

―――まあ、魔笛の効果があるから吹き続ける必要はないのだけれど。―――

 

 そのタイミングで、ラッテンさんが言っていたことを思い出した。

 

「そっか。飛鳥さんの持ってる白銀の十字剣が、魔の属性を打ち消してるから・・・」

「奏君。私が隙を作るから、二人を連れて逃げて」

 

 そして、飛鳥さんがそんなことを言ってきた。

 

「飛鳥さん、何を言って・・・」

「この状況で、あの二人を放置しておくのは、賢くないわ。そして、奏君のギフトは相手には効かない。役割は決まっているでしょう?」

「・・・ゴメン」

 

 飛鳥さんの言っていることは何も間違っていない。むしろ少し考えれば分かることなので、大人しく従うことにする。

 

「じゃあ、此処は引かせてもらいますね、ラッテンさん!」

 

 そして、僕は二人を抱えて、その場を走り去った。

 

 

 

♫♫♫

 

 

 

「逃がすと思ってるのかしら?さあ、行きなさ」

全員、そこを動くな(・・ ・・・・・・)!」

 

 私は歌い手を追わせようとしたが、赤いドレスの少女がそう言うと同時に、自由が奪われる。

 

 そして、赤いドレスの少女がこちらに剣を向けて突きを放ってくる。

 

「この・・・甘いわ小娘!」

 

 ふう・・・一瞬あせったけど、永続的なものではないのね。

 抵抗しようと思えば消せるのだから・・・大したことはないわ。

 

「悪魔相手に、その程度の実力で勝てると思うな!」

「が・・・」

 

 そして、剣を避けて腹に蹴りを放ち、壁に打ち付ける。

 見れば気絶しているようだ。

 

「まったく・・・こんな小娘一人のせいで“歌い手”を逃がすなんて・・・とんだ損害だわ。この娘もそこそこのギフト保持者みたいだけど・・・やっぱり、“歌い手”には劣るし・・・」

 

 マスターに怒られそうね・・・今からでも“歌い手”を追いましょうか。

 

「貴様・・・!」

「あら、怖い怖い。でも、無駄よ?」

 

 そんな私を見て、捕まっている白夜叉がすごんでくる。

「この封印は、特殊な功績でえたマスターの“主催者権限”で出来ているわ。いくら貴女が最強のフロアマスターでも、箱庭の力の元には小さなものでしょう?」

「くっ・・・!」

「じゃあ、私は失礼するわ。早く“奇跡の歌い手”を追わないといけないもの」

 

 そして、私が白夜叉の前から立ち去ろうとすると、激しい雷鳴が、鳴り響いた。

 

「“審判権限”の発動が受理されました!これよりギフトゲーム“The PIED PIPER of HAMERUN”は一時中断し、審議決議を執り行います!プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください!」

 

 箱庭の貴族がその宣言を繰り返すのを聞きながら、私は舌打ちをした。

 つくづくタイミングの悪い・・・!

 

「仕方ないわ。今は、この娘だけで良しとしましょう」

 

 私はドレスの少女を肩に乗せて、隠れ家へと向かった。

 




と、こんな感じです。

では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


それと、新しいものも書き始めました。
『問題児たちが異世界から来るそうですよ?』の二次創作で、『検索失敗の異世界録』というものです。
よろしければ、そちらもご覧ください。


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歌い手、同行する

今回は、大して進みません。

では、本編へどうぞ!


 境界壁・舞台区画。大祭運営本陣営の大広間。ゲームの参加者が此処に集められていると聞いて、僕は皆を探しに来た。

 

「あ、奏さん!ご無事でしたか!?」

「黒ウサギさん!うん、僕はなんともないよ」

 

 少し歩き回っていたら黒ウサギさんが見つけてくれたので、そのまま皆のところへ向かう。

 

「お、奏。おまえはなんともないのか?」

「強いて言えば二人を抱えて走ったから腕も足も限界が近いけど、それ以外はなんともないよ」

「それくらいで限界って、どんだけやわなんだよ」

「僕はただの歌い手だよ?むしろ、二人も抱えて走れたのがかなりの奇跡」

 

 こうして下らないことを言えるってことは、今現在(・・・)、僕の体は問題ない。

 なら、どうにかなるはずだ。いつも通り、歌が歌える。

 

「にしても、状況はかなりきついな・・・春日部は満身創痍、お嬢様にいたっては行方不明だ」

「え、飛鳥さんが!?」

 

 飛鳥さんがいないのは・・・やっぱり・・・

 

「・・・ゴメン。僕が飛鳥さんをおいて行ったから・・・」

「いや、御チビに聞いたが、あの場におけるお嬢様と奏の選択は正しい」

「でも、もし僕が残っていたら・・・」

「まず間違いなく、奏とお嬢様は行方不明になっていただろうな」

 

 冷静に考えてみれば、その通りだった。

 

「たぶん、今の僕は冷静さを欠いてるんだと思う」

「だろうな」

 

 いっそはっきり言われて、少し気が楽になった。

 

「白夜叉様の伝言を奏さんから受け取り、すぐさま審判決議を発動させたのですが・・・」

 

 黒ウサギさんは、言いづらそうに声をかけてくる。

 

「少し遅かったようですね・・・」

 

 ここで、僕が伝えるのが遅れたからというのは、さっきの繰り返しになるから言わない。

 

「そもそも、審判決議って何なの?」

 

 というわけで、気になったことを聞くことにした。

 

「それは俺も気になるな。どうなんだ、黒ウサギ?」

「“主催者権限”によって作られたルールに、不備がないかどうかを確認する、ジャッジマスターが持つ権限のひとつでございます」

「ルールに不備というと・・・白夜叉さんが言ってた、クリア条件がないとか?」

「それは最悪の例ですが、その通りです。今回で言えば参加者側のゲームマスターである白夜叉様からそのように意義申し立てをされましたので、“主催者(ホスト)”と“参加者(プレイヤー)”で不備がないかを考察する必要があります。そういった場合に使うのが、審判決議ですね。他には、奇襲を仕掛けてきた魔王に対抗するための手段、という側面もあります」

「確かに、一度始まったゲームを強制中断出来るんだから、奇襲しかしてこない魔王を止めるのにはもってこいだよね」

「それだけじゃねえ。無条件でゲームの仕切り直しが出来るなら、今回みたいに全員がボロボロの状況では、体調を含めて戦況を整えるのにも使える」

 

 そう考えるとかなり強力だと思うんだけど、黒ウサギさんは複雑な表情で首を振った。

 

「それが、ただ便利なだけとは限らないのですよ。審判決議を行ってルールを正す場合、“主催者(ホスト)”と“参加者(プレイヤー)”の間に、ある相互不可侵の契約が交わされるのですヨ」

 

 ある契約・・・?

 

「ルールを正すってことは・・・お互いに、今回のゲームに対して遺恨を残さない、とか、そんな感じか?」

「それって・・・今回のゲームで負けても、報復行為を理由にギフトゲームを挑んではいけないとか、そういうこと?」

「YES。ですので、負ければ救援はこないものと思ってください」

「ハッ、最初から負けを見据えて勝てるかよ」

「だね。要するに、勝てばいいんだ」

 

 話が一段落すると、大広間の扉が開いてサンドラちゃんとマンドラさんが出てきて、僕たち参加者に告げた。

 

「これより魔王との審判決議に向かいます。同行者は五名です。――――まずは“箱庭の貴族”である、黒ウサギ。“サラマンドラ”からはマンドラ。そして、魔王陣営から“音楽シリーズ”のギフト保持者を指定してきましたので、“ノーネーム”の天歌奏です」

 

 ん?今、僕の名前が挙がった?

 

「えっと・・・何故相手側は僕を?」

「分かりませんが、向こうにも何かしらの意図があるのでしょう。それに乗るのは躊躇われますが、人数が増えることは助かりますので、この交渉には乗ることにしました」

 

 ふむ・・・謎しかない・・・

 

「大方、オマエの様子を把握しておきたいんだろ。向こうはオマエのことを白夜叉に並ぶ脅威だと考えてるみたいだしな」

「それも本当かどうか怪しいけどね・・・分かりました。では、同行させていただきます」

 

 逆廻君のいうことにも一理あるので、僕は同行することにした。

 

「では、残りの二名についてですが、もしも今挙がった以外の者で“ハーメルンの笛吹き”に詳しいものがいたら、交渉に協力して欲しい。誰か立候補するものはいませんか?」

 

 サンドラちゃんがそう声をかけると、他の参加者の中にどよめきが走った。

 まあ、童話なんていくらでも広がっていくものだし、翻訳されるたんびにその人の感じ方で新しい物語が出来てしまう。そういった細部まで把握している人は、そうそういるものではない。

 ただ、一人知っていてもおかしくない人に心当たりが・・・

 

「逆廻君、立候補しないの?」

「ん?そうだな。確かに俺はハーメルンの笛吹きの細部まで知ってるが・・・コミュニティの名前を広げるには、俺よりも適しているやつがいる」

 

 そう言って、逆廻君はジン君のところまで歩いていき、その首根っこをつかみ、

 

「“ハーメルンの笛吹き”についてなら、このジン=ラッセルが誰よりも知っているぞ!」

「・・・は?え、ちょ、ちょっと十六夜さん!?」

 

 そう、高らかに宣言した。

 

「めっちゃ知ってるぞ!とにかく詳しいぞ!説明こそ出来ないけど、とりあえずこの件で“サラマンドラ”に貢献できるのは、“ノーネーム”のリーダー・ジン=ラッセルを措いて他にいないぞ!!」

「ジンが?」

 

 ひたすら大声で宣言する逆廻君に、サンドラちゃんがそう返す。

 キョトン、とした顔を向けているので、子供っぽさが出ているけど、すぐに表情を戻す。

 

「では、他に申し出がなければ“ノーネーム”のジン=ラッセルを同行者の一人としますが、よろしいか?」

 

 そして、サンドラちゃんがそう問いかけをすると、参加者の間にまたどよめきが走った。

 まあ、ノーネームにこんな大役を任せるなんて、普通はしないから、当然ではあるんだよね。

 さて、ジン君の説得は逆廻君がやってるみたいだし、こっちは僕が担当しますか。

 

「この二人の身分、知識量については僕が保証させていただきます。ジン=ラッセルや逆廻十六夜は僕と同じ“ノーネーム”に所属していますし、書庫にはかなりの量の書物が保管されていました。もちろん、その中には魔王対策として“グリム童話”の資料、“ハーメルンの笛吹き”の伝承についての資料もありましたので、今回の決議でも役に立つはずです」

「と、“音楽シリーズ”の“歌い手”ギフト保持者も言っていますので、よろしいでしょうか?もちろん、この人の身分に付いては、“サラマンドラ”が今回依頼した相手ですから、私達が保証します」

 

 サンドラちゃんがそう言ってくれたことで、その場は纏った。

 さて、何故僕が呼び出されたのやら・・・

 

「オイ奏。今回の一件で御チビの名前が売れたら、これからオマエに依頼があった際にチラシを配ってくれないか?」

「また急だね・・・どんな?」

「“魔王にお困りの方、ジン=ラッセルまでご連絡ください”って感じか?」

「絶対嫌だって言ったでしょう!?というか、なんで名前を入れることにこだわるんですか!?」

「まあ・・・“ノーネーム”じゃあ意味がないから、ジン君の名前は必要だよね・・・」

「奏さんまで!?」

「はあ・・・仕方ねえ。なら一文字伏せてやるよ。“魔王にお困りの方、ジン○ラッセルまでご連絡ください”って感じでも、」

「お か し い で し ょ う!?そこを伏せたところで何が変わるんですか!?」

「というか、僕が名乗りの中でジン君のフルネーム出してるし、伏せたところで何の意味もないけど」

 

 この状況でもこんな会話が出来る逆廻君のことを、少しすごいと思いました。

 




次回、審判決議です。


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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歌い手、強制収用される

長いくせに、大して進みません。

では、本編へどうぞ!


「ギフトゲーム“The PIED PIPER of HAMERUN”の審判決議、及び交渉を始めます」

 

 そして、最後の一人が逆廻君に決定し、サンドラちゃん、黒ウサギさん、マンドラさん、ジン君、逆廻君、そして、僕の五人は審判決議に参加している。

 

「では、参加者側ゲームマスターからの異議申し立てがありましたので、“主催者”側に問います。此度のゲーム、」

「不備はないわ」

 

 黒ウサギさんの問いかけを途中で遮り、魔王が答えた。

 

「今回のゲーム、ルールにも現状にも一切の不備はない。だから言っておくけど、私達は今、無実の疑いで神聖なゲームにつまらない横槍を入れられている。言いたい事、分かるわよね?」

「・・・不正がなかった場合、主催者側に有利なルールの設置を求めると?」

「そうよ。どんなルールにするかの交渉はその後」

「・・・分かりました。黒ウサギ」

「は、はい」

 

 二人の交渉は、予想以上に高度なやり取りだった。

 そして、黒ウサギさんが箱庭に確認を取ってるけど・・・あの自信からして、不備は、まずない。

 厄介なことになったなぁ・・・箱庭では、参加者の知識不足は考慮されないし・・・最悪の場合、最後の交渉のカードも切るつもりでいよう。

 

「・・・此度のゲーム、ルールに不備・不正はなく、白夜叉様の封印も、正当な手段で作られたものである・・・以上が、箱庭からの返答です」

 

 予想通り、こっちが不利になった。

 

「じゃあ、こちらからの要求を伝えるわ。ルールは現状を維持」

「ルールを有利なものにはしない、と?」

「下手に弄って、そこから推測されても困るもの。要求したいのは、ゲームの日取りよ」

「日取り・・・日を跨ぐ、と言いたいのか?」

 

 これは・・・少し意外だ。

 日を跨げば、僕たち参加者側は休養を取ることもできるし、ゲームに対する考察を重ねることも出来る。

 特に、勝利条件に有った『偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ』と言う一文。

 これの考察を重ねられる時間を与えるのは、主催者側からすればゲームクリアのための時間を与えると言うこと。

 普通に考えれば、今すぐ・・・この場で再開するのが、主催者側にとって一番有利なはずだ。

 

「ジャッジマスター、再開の日取りは最長、何日まで伸ばせるのかしら?」

「さ、最長ですか?今回の場合ですと・・・最長で三十日・・・一月(ひとつき)ほどかと」

「決定ね。それで手を・・・」

「待ちな!」

「待ってください!」

 

 が、そんな主催者側の申し出を、逆廻君とジン君が遮った。

 

「・・・なに?時間を与えてもらうのが不満なの?」

 

 そして、そんな二人の態度が気に食わないようで、魔王は不満そうな声を上げた。

 

「いや、普通ならありがたいぜ?だが、今回は例外・・・そうだな、御チビ?」

「はい。十六夜さんに奏さん、両隣にいるのは“ラッテン”と“ヴェーザー”で間違いないですね?」

「ああ」

「うん、本人はそう名乗ってたよ」

「ありがとうございます。そして、もう一体の陶器の巨兵は(シュトロム)だと聞きました。なら、貴女は黒死病・・・ペストではないですか?」

「ペストだと!?」

 

 ジン君の発言で、その場の僕以外の全員の視線が斑の少女に向かい、僕はただ、表情を見られないように下を見ながら、唇を噛み、少し捲くれていた服の袖を整えた。

 相手が“ハーメルンの笛吹き”だと言うのなら予想できたことではあるし、ほかにもその結論に至る証拠はあったのだが・・・正直、目を逸らしていた。

 

 なんせ、ペストの特徴として、全身に――――

 

「そうか、だからギフトネームが“黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)”!」

「ああ、間違いない。そうだろ魔王様?」

「・・・ええ。正解よ」

 

 考え事をしている間に、魔王が自らその事実を認ていた。

 

「これだけの時間と証拠から私の正体を当てたのは御見事、としか言えないわ、名前も知らない貴方。よろしければ貴方とコミュニティの名前を教えてもらっても?」

「・・・“ノーネーム”、ジン=ラッセルです」

 

 意外なことに、魔王・・・ペストは、コミュニティの名前に驚かなかった。

 

「そう・・・だけど、確認を取るのが遅かったわね。私達は既にゲームの日取りを一ヶ月までなら弄れると言質を取っているし、参加者の一部に病原菌を潜伏させている。ロックイーターのような無機生物や悪魔でもない限り発症する、呪いそのものをね」

 

 再び、場が緊張に包まれた。

 ペストの言っている呪いは、恐らく・・・いや、間違いなく(・・・・・)黒死病と酷似している。

 一ヶ月もあれば、煌焰の都にいる種のほとんどが死亡。もちろん、ゲームにも敗北することになる。

 

「ジャ、ジャッジマスター!彼らは意図的にゲームの説明を伏せていた疑いが、」

「駄目だよ、サンドラちゃん。“ギフトゲーム”で不死が殺せないのは殺せないのが悪いように・・・向こうが病原菌を撒き散らしていようと、対処できない僕たちが悪いだけ。もし此処で箱庭に審議を問えば・・・また一つ、魔王側に有利な条件をしかれる」

 

 僕の話に納得してくれたようで、サンドラちゃんは言葉を飲み込んでくれた。

 そして、ペストは微笑を浮かべながら、この場にいる参加者全員に問いかけた。

 

「此処にいるのが、参加者側の主力と考えていいのかしら?」

「・・・」

「うん、それで概ね合ってるよ。一番の戦力(白夜叉さん)がいないけど」

 

 誰も喋ろうとしないので、僕が代わりに答える。

 

「奏、こっちの情報を話すことは、」

「確かに、情報は抑えたほうがいいよ。でも、今有利なのは間違いなく向こうだし、答えるまでもない質問だった。なら、交渉を続けるべき・・・だと思う」

 

 小声でそう説明しつつ、向こうに顔を向ける。

 

「そう、なら・・・ねえ皆さん。此処にいるメンバーと白夜叉の七名が“グリムグリモワール・ハーメルン”の傘下に入るなら、他のコミュニティ、参加者は見逃すわ」

「なっ、」

 

 ただ、予想の斜め上の交渉が来ると、どうしようもなくなる。

 

「私、貴方達のことが気に入ったわ。サンドラは可愛いし。ジンは頭がいいし。奇跡の歌い手までいるし」

「私が捕まえた紅いドレスの子もいい感じですよマスター♪」

 

 やっぱり・・・飛鳥さんはあの後捕まったのか・・・

 

「ならその子も加えて、ゲームは手打ち。参加者全員の命と八人の身柄なら、天秤にかけるまでもないでしょう?」

 

 そう言いながら小首を傾げる姿は、悔しいが、愛らしいものだった。

 だが、その裏には愛らしさとは真逆の意味が・・・従わなければ皆殺しだと言う、警告が含まれている。

 だから・・・切り札の内の片方を、早々に切ることにする。

 

「・・・白夜叉さんから伝えられた中にもあったんだけど、“グリムグリモワール・ハーメルン”は、新興のコミュニティ・・・違う?」

「答える義理はないわ」

 

 そして、相手は予想通りに食いついてきた。

 明らかに、答えるのが早すぎる。

 

「なるほどな・・・新興のコミュニティだから優秀な人材や、白夜叉、奇跡の歌い手のようなビッグネームに貪欲なのか」

「・・・」

「いいのか、魔王様?沈黙は是なり、だぜ?」

 

 その切り口を逆廻君が感づき、攻撃してくれた。

 

「・・・だからなに?私達が譲る理由は無いわ」

「いいえあります。だって、人材不足の貴女達は、此処にいる人材を無傷で手に入れたいと思っているはず」

「でも、一ヶ月もあれば、僕たち人間はもちろん、亜龍の人達も死んじゃう・・・そうだよね、サンドラちゃん?」

「え?あ、うん」

 

 突然振ったからか、サンドラちゃんは素が出ちゃったけど・・・気にするのは後にしよう。

 

「そして、死んでしまえば、その人材は手に入らなくなる。だから、そうなる前に交渉を仕掛けた。実際に三十日が過ぎて、失われる人材を惜しんだ」

「・・・ええ、そうよ。でも、だから何?何度も言っているけど、私達には再開の日取りを自由にする権利がある。わざわざ最長の一ヶ月にしなくても・・・二十日にすれば、病死前の人材を、」

「では発症したものを殺す」

 

 マンドラさんのその発言に、ペストは今までで一番の焦りを、顔に浮かべた。

 マンドラさんは真剣に言ってるみたいだし・・・此処は、利用させてもらおう。

 

「例外なく、発症したもの全てを、だ。サンドラであろうと、“箱庭の貴族”であろうと、この私であろうと・・・“奇跡の歌い手”であろうと、殺す」

「ふざけないで・・・」

 

 向こう曰く、この中では一番欲しい人材である僕の名前を最後にすることで、相手側には相当の動揺を与えることが出来たようだ。

 タイミングとしてはばっちりだ・・・僕が持ってる最後の切り札、僕自身(・・・)を切るタイミングには。

 

「マンドラさんの意見は、この場合、正しいよ。だから、信じられるように・・・僕が、殺されるとしよう」

 

 僕のその発言で、この場にいる僕以外の全員が、息をのんだ。

 その中でも、ペストとラッテンさんの反応が、一番大きかった。

 

「そこの二人は知ってるだろうけど、僕は既に、“黒死病”に発症してる」

 

 そう言いながら、腕を隠していた服の袖をめくり、腕に浮かぶ黒い斑点(・・・・)が、全員に見えるようにする。

 

「バルコニーでラッテンさんから病原菌を直でぶつけられて、それを吸ったからだろうね。僕は潜伏期間もなしに、発症した。だから、マンドラさんの提案を採用とするなら・・・僕は、すぐに失われる。この決議の後にでも、自決しましょう」

「・・・いや、私の手で行う。私が提案したのだからな」

 

 これで、魔王側はブラフだと笑うことはできない。

 今、僕が隠しているから安心したのかもしれないし、もしかしたら僕の命を、向こうも交渉材料にするつもりだったのかもしれない。

 けど、マンドラさんのファインプレーのおかげで、全てが繫がる。

 

「黒ウサギ、ルールの改変はまだ可能か?」

「へ?・・・あ、YES!」

 

 そうして出来た時間で、逆廻君は何か、思いついてくれたようだ。

 

「交渉しようぜ、“黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)”。お求めの奏が死なないよう、俺たちはルールに“自決・同士討ちを禁ず”と付け加える。だから、再開を三日後にしろ」

「・・・却下。二週間よ」

 

 僕のほうを見て一瞬悩むそぶりを見せながらも、ペストはそう返した。

 逆廻君の顔からすると・・・まだ、長いのだろう。

 

「今のゲームだと、黒ウサギさんの扱いはどうなってるの?」

「黒ウサギは火龍誕生祭の審判中でしたので、十五日はゲームに参加できません。・・・主催者の許可があれば、別ですが」

「いい着眼点だ、奏。魔王様、黒ウサギは参加者じゃないからこのままじゃ手に入らない。だが、参加する許可を出せば黒ウサギが・・・“奇跡の歌い手”だけじゃなく、“箱庭の貴族”も手に入る。どうだ?」

「・・・十日。これ以上は譲れないわ」

「ちょ、ちょっとマスター!?“奇跡の歌い手”や白夜叉には対抗手段がありましたが、“箱庭の貴族”に参加許可を与えるのは・・・!」

「だって欲しいもの。ウサギさん。大丈夫よ、私が相手するから」

 

 ペストの余裕そうな表情からすると、黒ウサギさんの相手は苦にならない考えているのだろう。

 悔しいところだけど、魔王なら仕方ないようにも思える。

 

「ゲームに、期限をつけます」

 

 そして、ジン君が意を決したように、口を開いた。

 

「なんですって?」

「一週間後に再開し、その二十四時間後に、ゲームを終了する。そして、ゲームの終了と共に主催者の勝利とします」

 

 本当にギリギリの・・・背水の陣に近い提案だ。

 

「・・・本気?主催者側の総取りを覚悟すると?」

「はい。一週間なら死者が現れないギリギリのライン・・・今後現れると予測される病状やパニックに、精神的、肉体的に耐えられるギリギリの瀬戸際。つまり・・・それ以上は、僕たちには耐えられない。だから、全コミュニティは無条件降伏をのみます」

 

 なんともまあ・・・危ない橋を渡るものだ。

 でも、危ないからこそ、両者にとって得がある。

 

 だからだろう、ペストは十分に悩み・・・

 

「ねえジン。もしも一週間生き残れたとして・・・貴方は、魔王(わたし)に勝てるつもり?」

「勝てます」

 

 ジン君の即答で、意を決したようだ。

 

「・・・・・・そう、よく分かったわ。ここに宣言してあげる。貴方は必ず――――私の玩具にすると」

 

 その瞬間、激しく黒い風が吹き抜け・・・風が収まるころには魔王陣営は消え、一枚の黒い“契約書類”が残されていた。

 

「ふう・・・これで決議も終わったね。皆、ラッテンさんは僕が相手するから、」

 

 そう言いながら振り返ると、黒ウサギさんとサンドラちゃんが、怒りの表情でこっちを見ていた。

 

「えっと・・・御二人とも?何故そのようにお怒りでいらっしゃるのでしょうか・・・?」

「何故、では無いでしょう、この御バカ様!」

「どうして、発症したことを隠してたの!?」

「いや、相手がペストだってこともこの決議の中で知ったんだし・・・ただの痣かなー、と・・・」

「痣がそんなに大量に出るはずが無いでしょう!?」

「それに、“黒死病”なら体調にも異常が出ていたはず!」

「あーそれについては・・・ギフトの都合上一切出てないんだけど・・・」

「問答無用です!」

「いま病室を準備させてるから、大人しくしてるように!」

 

 強制的に、病室に送られました。

 




奏君は、病室に軟禁されました。

一度説教をしたんですから、今度はされないといけませんよね?


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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歌い手、抜け出す

明けましておめでとうございます。

これからも、自分の作品をよろしくお願いします。

では、本編へどうぞ!!


「と、お前の質問に返せるのはこんなところだ。他にも質問はあるか?」

「ううん、それだけ聞ければ満足。ゴメンね、わざわざ病人の病室に来てもらって」

 

 僕がそう返すと、逆廻君は「気にすんな」と返してきた。

 

「明日出られないとはいえ、現状を知る権利くらいはああるだろうしな。むしろ、勝手に病室を抜け出されるほうが迷惑だ」

「もちろん、分かってるよ。体調が悪い人は、ゲームが終わるまで、ここで大人しくしています」

「それならいいんだ。んじゃ、俺はもう行くぞ」

 

 逆廻君は椅子から立ち上がり、出口に向かって行く。

 

「そういや、オマエは“音楽シリーズ”の持ち主を探してるんだよな・・・」

「へ?そうだけど・・・ああ、そういうこと」

 

 逆廻君の言葉の意味を察して、僕は返す。

 

「さすがに、この状況で引き込んでくれ、とは言わないよ。何にも出来ないやつが、わがままを言う権利なんてないしね」

「そうか・・・分かった。それならいいんだ。じゃあ今度こそ、お大事に」

 

 そして、逆廻君が部屋を出て行ったのを確認し、

 

「でも・・・体調が悪くなければ、問題ないんだよね?」

 

 そうつぶやきながら、のど飴を一つ、口に含んだ。

 

 さて、ペストの正体も分かったことだし・・・

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

 ゲーム再開と同時に現れたハーメルンの街を、三つの人影が縦横無尽に飛び回っていた。

 

「サンドラ様!前後で挟み込みます!」

「分かった!」

 

 内二つは、“擬似神格・金剛杵”から雷鳴を響かせる黒ウサギに、龍角から紅蓮の炎を放出するサンドラ。

 

「いい加減、無意味だと理解しないの?」

 

 だが、それは最後の人影・・・黒い風を球体状に纏っているペストに傷一つつけることも出来ず、消える。

 

「そして、この展開になることも」

 

 ペストはクイッと手首を返し、四本の黒い竜巻を二人に向かわせる。

 もう何度も繰り返している展開なので、二人はギフトを収めてペストから離れる。

 

「やっぱり・・・神格級のギフトが二つ同時に襲い掛かってもビクともしない!」

「ええ。神格級程度、私には通用しない。どうしても私を倒したいなら、もっと適役がいると思うけど?」

 

 ペストは、あせるサンドラに余裕そうに返す。

 

「適役、ですか。自分で感染させておいて、よく言えたものです」

「感染?まさか、あの歌い手は不参加なのかしら?」

 

 ペストは少し意外そうに、黒ウサギに尋ねた。

 

「病人に参加させるほど、私達は鬼ではありません」

「へえ・・・彼は参加していないのね。なら・・・私達に負けはない」

 

 ペストはそう言って、黒ウサギに向かって飛び・・・自分の前に飛んできた大量の剣に、行く手を阻まれる。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

「そうですか。なら・・・僕たちの勝ち、ですね?」

 

 僕はペストに向かって剣を飛ばし、そう言ってみる。

 なんだか黒ウサギさんたちの視線が怖い・・・

 

「奏さん!」

「はい!何でしょう!?」

「どうしてここにいるのですか!!」

「いや、その・・・特に体調に異常は感じませんし・・・問題ないかなぁ、と・・・」

 

 まあ、これは言い訳でもなんでもなく、事実だ。

 腕とかに黒い斑点は現れているから間違いなく黒死病には感染しているんだけど、僕は特に違和感を感じていない。

 だから結構余裕があって、わざわざ本番衣装に着替えてきた。

 

「はぁ・・・貴方は言われたままに大人しくしている人間だと思ったのだけど?」

「それはご期待に添えないようで。まあ、何もしないでいられるほど大人しくもないよ。体調が悪いならともかく、ね」

「いや、奏さんの体調が悪くないはずが・・・」

「そうね・・・貴女たちは知らないみたいだし、サービスで教えてあげるわ。“音楽シリーズ”のもつ、呪いについて」

 

 また、物騒な言葉が出てきたなあ・・・呪いって・・・

 

「それは、いついかなるときでも、音楽が奏でられる、と言うものよ」

「?それは別に呪いでもなんでもない気がするのですが・・・」

「いや・・・立派な呪いだよ。だって・・・どれだけ体が参ってても、それを一切感じることが出来ないんだから・・・」

「そう、正解。“音楽シリーズ”のギフト保持者は、死の直前になっても、自分の体がそんな状態だと感じることが出来ない」

「死ぬその瞬間まで、音楽をかなで続ける・・・確かに、呪いだなぁ・・・」

 

 まあ、そこまできついとも感じないし、問題ないけど。

 それに、そのおかげでここに来れてるんだから、むしろ感謝しておこう。

 

「じゃあ、僕も一つ、調べたら出てきた“音楽シリーズ”の知識の披露を。『音楽は万人、万物に平等である。その音色の前に、格上格下の隔たりは存在せず』・・・このギフトは、相手の霊格に関わらず、効果を出す」

 

 そして、僕は曲目を発表する。

 

「“奇跡の歌い手”による、たった一曲のコンサート、どうぞごゆっくりお楽しみあれ。・・・『レクイエム ニ短調k.626第三曲 6,ラクリモーサ(涙の日)』」

 

 そして、いつも通り僕は、歌う。

 八千万の霊軍に対して送る、魂を送る歌、鎮魂歌を。

 

「ぐ・・・皆、ダメ・・・耐えて・・・」

 

 曲が始まると、ペストは見るからに苦しみだした。

 まあ、自分の霊格を構成している八千万の霊軍が苦しめば、その苦しみが自分に帰ってきて当然だろう。

 

「この・・・その口を、閉じなさい!」

 

 そして、ペストは僕の歌を直接止めようと黒い風を放ってくるけど・・・今の僕に、それは効果が薄い。

 

 今僕が歌っているモーツアルトのレクイエムは、未完で終わった作品だ。そして、この曲の作曲にはあるストーリーが存在する。

 それは、モーツアルトが作曲している間彼に死神がささやき、未完の間に彼の魂を連れ去った、と言うもの。

 

 だから、僕は歌にそのストーリーを乗せる。

 僕自身が死神となり、彼らの魂を送ると言う、ストーリーを。

 

「く・・・ダメ・・・私は、太陽に復讐を・・・」

「この調子なら、あるいは・・・」

 

 ただ苦しみ続けるペストを見て黒ウサギさんとサンドラちゃんは、攻撃のチャンスをうかがう。

 そして、曲も終盤に差し掛かってきたタイミングで・・・別の曲・・・フルートの旋律が、この場に流れ出した。

 




こんな感じになりました。


それと、新しく短編を始めました。

題名は、『オリ主の集い』。内容は、題名の通りです。
お時間がありましたら、そちらもよろしくお願いします。


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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歌い手、勝負する

今回でゲームは終わりです。

いや、正直な話奏が出来ること少ないんですよね・・・

二巻で一番重要な話は次回です。

では、本編へどうぞ!


「はあ・・・遅いわ、ラッテン」

「スイマセン、マスター。もう来ないものだろうと油断していました」

 

 恐らく、もう無駄だと考えて僕が演奏を止めると、フルートの旋律も止まり、ラッテンさんが現れた。

 

 恐らく、今の曲は『幻想曲、ハーメルンの笛吹き』だろう。

 聞いたのはラッテンさんの演奏が初めてだけど、ノーネームの書庫に名前は載っていた。

 

「さて、これで貴方の歌は聴かないわ、奇跡の歌い手さん?」

「みたいですね・・・と言うか、ラッテンさんは今までどこにいたんですか?いないからすっかり油断してましたよ」

「火蜥蜴の皆さん相手に演奏。手駒を増やしていたら急に歌が聞こえてきて、驚いたのよ?」

「でしょうね。お互いにお互いが弱点なんですから」

 

 音楽シリーズと言うのは、ものすごく大雑把に言えば、相手に感動を与えるのが効果だ。

 そして、感動はより大きな感動で塗り替えることが出来る。

 もとの感動が少しは残ったとしても、より大きな感動のほうが印象深くなるのだから、そちらの効果が現れる。

 今回の場合、今いるのがハーメルンの街なこともあって、僕が奏でたレクイエム(ラクリモーサ)よりも、ラッテンさんが奏でた幻想曲(幻想曲ハーメルンの笛吹き)の方が大きな感動を与え、ハーメルンの魔書を使うペストの削られた霊格をカバーしたのだ。

 

「さて、このまま続けても無駄になりそうですし」

 

 僕は多鋭剣を飛ばして僕とラッテンさんを皆から分断する。

 

「僕たちは僕たちで、音楽勝負といきましょうか?」

「そうね。まず貴方を抑えておかないと。しなれても困るし♪マスター、そちらはお願いします」

「ええ、分かったわ。奇跡の歌い手の確保、任せたわよ」

「奏!無茶はしないで!」

「奏さん、後でお説教ですよ!」

 

 そして、黒ウサギさんは後が怖くなりそうな言葉を残してどこかへと向かった。

 

「お説教か・・・後が怖い・・・」

「あら、彼女のお説教は怖いのかしら?」

「怖いですよ・・・今すぐに逃げ出したいです」

「あら、ならちょうどいいわ。私達のコミュニティの来ない?」

「そっちのほうがお説教は怖くなりそうなので、遠慮させていただきます」

 

 その場合、六人がかりでのお説教になりそう・・・裏切りは、あの問題児達も怒るよね・・・

 

「あら、残念。それなら、勝って手に入れるしかないわね」

 

 ラッテンさんはそう言って、持っていた魔笛(フルート)をギフトカードにしまい、腰に吊り下げていた別のフルートを構えた。

 

「さっきまでの魔笛と違って、これはただのフルート。無駄なものを一切含まない、私の演奏をお聞かせしましょう」

「完全状態、ですか」

 

 前にも何度か言っているが、僕たち“音楽シリーズ”はその音に加工をしなければしないほど、効果が強い。

 音の大きさからしてさっきまでのフルートには音を大きくする効果もあったのだろうが、ラッテンさんはそれを取っ払い、純粋な音を届けれる楽器に変えたのだ。

 

「ルールはいかに観客を魅了できるか。観客は、そうね・・・この火蜥蜴たちでどうかしら?」

「では、それで行きましょう。こちらも準備は出来ました」

 

 火蜥蜴の皆さんは僕とラッテンさんから等距離の位置に集まっているので、音を大きくする必要はない。

 僕も今まで無意識のうちに使っていた音響操作を意識して消し、純粋な音を届けれるようにする。

 

「じゃあ、始めましょうか。“音楽シリーズ”二人による、贅沢なコンサートを」

「ええ、始めましょう。“音楽シリーズ”二人による、ちっぽけなコンサートを」

 

 もうあの曲は二度聴いて覚えた。

 

「「曲目『幻想曲ハーメルンの笛吹き』」」

 

 そして、同時に演奏が始まった。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

 二人の演奏は、技術的には互角だった。

 

 フルートのみで主旋律を演奏するラッテン、歌がないのなら、とオリジナルでオーケストラアレンジをする奏。

 どちらの演奏も完成はしておらず、成長性という魅力を出している。

 

 だが、観客の反応は分かりやすかった。

 意識を失っている火蜥蜴も、最初のうちは一切動かなかったが、中盤に差し掛かった辺りで一部一部が行動を始めた。

 それも、動いているのは全員が奏のほうへと歩いていくのだ。

 

 そして、それ以降の動きも、全て奏の方へ歩いていくだけ。ラッテンのほうには一人も向かわない。

 そして・・・

 

《ああ、これは・・・ダメね。私の負け》

 

 ラッテン自身も奏の演奏に感動してしまい、フルートから口を離す。

 

 そしてそのまま、奏の演奏が終わるまでじっと聞いていたのだ。

 

 

 

♫♫♫

 

 

 

「ご静聴、ありがとうございました」

 

 演奏が終わってみれば、ラッテンさんは既に演奏をしていなかった。

 それどころか、フルートを下ろして拍手までしてくれていた。

 

「いい演奏だったわ。私には、勝てる気がしなかった」

「そうですか。もしそうなら、それは貴女のおかげですよ」

「あら、私何かしたかしら?」

 

 ラッテンさんは首をかしげて聞いてくるが、僕からしてみればそれは紛れもない事実なのだ。

 だって・・・

 

「僕は始めて、誰かと一緒に演奏することが出来た。最後まで出来なかったのは残念ですけど、とても、楽しかったんです」

 

 音楽を心から、楽しむことが出来た。

 初めて誰かと一緒に音楽を奏でることが出来たのは、本当に嬉しかったのだ。

 

「ああ、そういう・・・やっぱり面白いわね、貴方」

「・・・そうですか?」

「ええ、そう。かなり面白いわ、貴方。音楽を楽しむ、その感覚を悪魔に思いださせるなんて」

 

 うむ・・・これは褒められてるのだろうか?

 ラッテンさんはクスクスと笑ってるし・・・

 

「まあ、僕は僕でラッテンさんから一つ教わってますし、おあいこでいいじゃないですか?」

「私が・・・?ああ、無駄なものを介すな、かしら?」

「ええ。言われてみれば、生の音が一番いいに決まってます」

 

 そんなことを話しながら、僕はラッテンさんに近づいていく。

 

「さて、負けたんですから大人しく捕まってくれますか?」

「分かったわよ。でも、殺さなくていいのかしら?」

「出来ることなら、人を殺したくないんですよ・・・サンドラちゃんたちも、ゲームが終わってから情報を集めるのが楽になるでしょうし」

「貴方、階層支配者をちゃん付けで呼んでるの?本当に面白い人ね」

 

 そんなことをいいながらも、ラッテンさんは大人しく倉庫の中に入ってくれた。

 

「ふう・・・。結構長引いたけど、他の人たちはどうなったんだろう?」

 

 そんなことを考えながら多鋭剣に乗って飛ぼうとしたら、ゲーム終了のアナウンスが、黒ウサギさんの声で流れた。

 

 マズイ・・・勝手に抜け出した上に、重要な魔王との戦いに参加しないままゲームが終わった・・・お説教、確定だな・・・

 

 かなり憂鬱な気分になりながらも、僕はサラマンドラの本拠に向かって、足をすすめた。

 




こんな感じになりました。

いや、一度投稿をミスしてしまいまして・・・一部の迷惑をかけた皆様本当に申し訳ありません・・・


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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笛吹き、隷属する

この話で二巻は終わりです。

ラッテンさんのキャラがつかめない・・・


では、本編へどうぞ!


 あの後、僕は黒ウサギさんのお説教を延期してもらい、サラマンドラの宮殿の中を歩き回ってサンドラちゃんを探している。

 と言うのも、少し頼みたいことがあるからだ。黒ウサギさんも、このことで頼み込んだら延期にしてくれた。中止じゃないのは少し残念だったけど。

 

「あ、奏、ようやく見つけた・・・」

 

 すると、後ろから息を切らせたサンドラちゃんの声が聞こえてきた。

 もしかして、走り回って探してくれたのだろうか?

 

「えっと・・・ずいぶんと息が切れてるけど、どうしたの?」

「どうした、じゃない・・・ふぅ。“奇跡の歌い手”に依頼があってきました」

「依頼・・・どういった内容でしょうか?」

 

 僕は頼みたかったことを後回しにして、仕事モードになった。

 

「今回のゲームで散っていった同士に・・・追悼の歌を」

「・・・承りました。それで・・・報酬に頼みたいものがあるんだけど、いいかな?」

「え・・・?」

 

 急に地に戻った僕にサンドラちゃんは戸惑ってたけど、

 

「    をお願いしたいんだけど・・・」

「確かに、あのギフトを生かせるのは奏だけだから、問題ないけど・・・本当にそれでいいの?」

「うん。個人的には、欲張りすぎかな、って思うくらいなんだけど・・・」

「・・・分かった。なら、それで交渉成立」

「かしこまりました、サンドラさん」

 

 そして、僕はレクイエムを歌うために、サンドラちゃんについていった。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

 私、ラッテンは今、“サラマンドラ”の地下牢に入れられている。

 まあ、どうせ殺されるでしょうし、特に思うことはない。

 

 全力の演奏をして、ハーメルンの魔書も失われた状態でまだ生きていることがもう奇跡のようなものだし、少し死ぬのが遅くなっただけですもの。

 

「ふう・・・確か、マスターが入れられていた牢屋も、こんな感じだっていってたわね・・・そんな場所で死ぬのも、案外悪くないかもしれないわ」

「いや、死ぬことが悪くないことはないでしょう・・・」

 

 独り言のつもりだったのに返事があったことに多少驚いたけど、それは表情に出さない。

 それに、この声には聞き覚えもあるし・・・

 

「えっと・・・こんにちは?でいいんですかね・・・ご機嫌は?」

「こんなところに入れられて、いいわけがないでしょう?」

 

 何を当然のことを聞いてるんだか。それも、ここに入れた張本人が。

 

「ハハハ・・・ですよね。とりあえず、早くそこから出ません?今鍵を開けますから」

「・・・は?貴方、何を言って・・・」

 

 そんなことを行っている間に、歌い手は本当に鍵を開けた。

 

「扉結構重いな・・・ふう、これで出れます?」

「それは出れるけど・・・貴方、自分が何をしたのか分かってるの?」

「?別に問題になることは何もしてませんよ?」

 

 歌い手は本気で分かっていないようで首をかしげるけど・・・これが問題にならないはずがない。

 

「貴方、賢いかと思ったけどバカなのね・・・いい?貴方はサラマンドラの所有物を勝手に奪ったのよ?」

「ああ、そのことですか。それなら、本当に何も問題ありません」

 

 そして、歌い手は私に顔を向けて、

 

「サラマンドラからの依頼を受けて、ラッテンさんは正式に僕の所有物になりました」

 

 まあ、所有物扱いする気は一切ないですけど、と歌い手は言ってくるけど・・・私はその話を飲み込めずにいた。

 

「・・・なんで、わざわざそんなことを・・・」

「なんでって・・・その、ラッテンさんは僕とはなれたら霊格が磨耗しすぎて消えてしまうみたいですし、だったら一緒に“ノーネーム”にくれば大丈夫かな、と・・・初めて一緒に音楽を奏でた人が死んじゃうのは悲しいですし・・・」

 

 確かに、全力の演奏をして霊格が磨耗している私が消えていないのは、歌い手と私の“共鳴”のギフトが発動しているからだ。

 でも、その喋り方からは、それもまた本音だけど全てではない、と言う感じがした。

 

「・・・本当のところを言いなさい。何が目的?」

「う・・・話さないとダメですか?」

「ええ。何が目的なのか分からないまま、ついて行くことなんてできないもの」

 

 これだけはしっかりと知っておかなければならない。

 内容によっては、この話は拒む。“グリムグリモワール・ハーメルン”の生き残りとして、マスターとヴェーザーに顔向けできないようなことは絶対にしない。

 

「・・・一緒に音楽を楽しめる人が欲しかったんです・・・」

 

 そして、歌い手の口から出てきた言葉は、私の意表をつくには十分だった。

 

「・・・プッ。アハハハハハハハハハハハ!アハハハハハハハハハハハハハハ!!」

「な・・・そんなに笑わなくてもいいじゃないですか!これでもかなり恥ずかしいことを言わされたんですよ!?」

「ええ、それは分かってる。分かってるけど、そんなことで敵対してたコミュニティのメンバーを誘うなんて・・・連れて行けるように交渉するなんて・・・ああダメ、耐えられない!腹筋が痛い!」

 

 私は恥ずかしげもなく、おなかを抱えて転げまわりながら笑った。

 着ていた服は同じものだったからかなりきわどくなっていた気はするけど、そんなこと気にも留めないくらいに笑っていた。

 

「うう・・・やっぱり話すんじゃなかった・・・」

「ごめんなさい。でも、今のは笑って当然だと思うわ」

 

 ああ・・・よく笑った。

 にしても・・・これは信用してもよさそうな気がしてくるから不思議なものね。

 一緒に音楽を楽しめる人、か・・・確か、私も最初はそんな人が欲しかったのよね。すっかり忘れてたわ。

 根っからの善人みたいだし、弄ったら楽しそうだし・・・

 

「分かった。いいわ、あなたについていきましょう」

「今の話の流れでどうやってそうなったのかは全くもって分からないんですけど・・・はい、これからよろしくお願いします」

 

 私は立ち上がって、歌い手の前に立つ。

 

「私、“ハーメルンの笛吹き”ラッテンは“奇跡の歌い手”天歌奏に隷属します。受けていただけますか?」

「いや、わざわざ隷属してもらわなくてもいいんですけど・・・」

「あら、知らないの?私達の持ってるギフト“共鳴”はただ近くにいるより、契約と言う回路で繫がっていたほうが効果が大きいのよ。距離もとれるようになるし。それとも、四六時中私のそばにいる?」

「だったら、別に隷属の契約でなくても・・・」

「一番効果が大きい契約が隷属なの。それに、隷属なら貴方を介して他の隷属してる人とも“共鳴”できるし」

 

 実際、一番都合がいいのが隷属の契約。決して弄るためではないわ。

 

「はあ、分かりました・・・“奇跡の歌い手”天歌奏は、“ハーメルンの笛吹き”ラッテンの隷属を受けます」

 

 歌い手が了承した瞬間、私と歌い手の霊格が一気に上がった。

 

「わ・・・ここまで一気に・・・」

「私も驚いてるわ・・・でも、ちゃんと契約は交わせたみたいね」

 

 私は乱れていた服装を正して、歌い手に一礼する。

 

「では、これからよろしくお願いします、ご主人様♪」

「・・・はい?いや別に敬語じゃなくても今までどおりでいいんですけど・・・呼び方も、奏の呼び捨てでいいですし・・・」

「そうですねえ・・・では、ご主人様が敬語をやめて、呼び方を呼び捨てにしたら、にしましょう」

「えー・・・」

 

 やっぱり、弄ったら楽しそうだわ♪

 

 

 

♫♫♫

 

 

 

「ふう・・・皆―!怪我をしないよう、無理せず気をつけて運ぶんだぞー!」

「「「「「「はーい!!!」」」」」」

 

 僕はラッテンさんと一緒に剣の舞を奏で、木を運びやすいサイズにしてから子供達にそう言っていた。

 何でも、土地の肥やしにするものがあれば“ノーネーム”の土地を復活できるかもしれないと飛鳥さんがつれてきた地精の少女、メルンが言っていたそうで、まずは周りの林を肥やしにしよう、ということになったのだ。

 

「お疲れ様でした、ご主人様。どうぞ、のど飴です」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 ラッテンさんからのど飴を差し出されたので、僕はありがたく受け取った。

 まあ、ここまではまだいいんだけど・・・

 

「・・・なんでそんな格好なんですか?」

「これくらいしたほうが目に見えて隷属した、と分かるかと思いまして♪魔笛を飛鳥に渡したとはいえ、まだ信用されていないみたいですし」

 

 まあ、確かに最初のころはそんな感じもあったけど、飛鳥さんに魔笛を渡してからはそんなことはなくなったと思う。

 だから、もうそんなことを気にする必要はないように思うんだけど・・・

 

「あ、それとも、ご主人様はこちらのほうがよかったですか?でしたら、今すぐにでも着替えますが」

 

 そう言ってラッテンさんがギフトカードから取り出したのは、今着ているものと同種なんだけど、露出の量が多い・・・メイド服だった。はっきり言うと、ラッテンさんがゲームの際に来ていたものと露出の量は変わらないのにより扇情的に感じる。メイド服であるということが分かるのが奇跡な代物だ。

 

「いえ、その二択なら今着ているものでお願いします。本当に、お願いですから」

「そうですか。私は別にどちらでも構わないので、気分が変わったらいつでも言ってくださいね♪」

 

 明らかにからかわれたな・・・

 

 ちなみに、ラッテンさんが今着ているものはレティシアさんが着ているものと同じデザインだ。

 そして、二種類のメイド服はどちらも、ラッテンさんが頼んで白夜叉さんが準備したものという、あれ?つい最近まで険悪じゃなかった?と思った代物であることを、ここに記しておきます。

 




こんな感じになりました。

ラッテンは、奏を弄ることだけを考えてあんな口調、呼び方です。

それと、この後三巻に行かず、少しオリジナルをやります。
時系列的には、サーカスと全く同じタイミングです。なので、奏一行(まだ二人)はサーカスにいきません。
もし行ったとしても、最後に少し、くらいのものです。


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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『強欲のヴァイオリニスト』編
歌い手、森に向かう


前回の宣言どおり、オリジナルです。
かなり初期から出すつもりでいたキャラがようやく出せます・・・ヒントとしては、タグと・・・今回の話でも、知ってる人は分かると思います。
それに、この章のタイトルからも分かるかと。


では、『強欲(アワリティア)のヴァイオリニスト』編、始まり始まり。


 今、僕とラッテンさんは白夜叉さんに呼ばれて“サウザンドアイズ”に来ています。

 ここに来る前、“ノーネーム”の問題児たちが何か悪巧みをするような顔をしてたんだけど・・・黒ウサギさん、大丈夫かな・・・

 

「うむ、よく来たな二人とも」

「あ、おはようございます白夜叉さん」

「おはよう、白夜叉」

 

 まあ、白夜叉さんも来たことだし気にしないようにしよう。

 よくよく考えてみれば春日部さんが街のほうに行きたいとか言ってたけど、それも気にすることはないはずだ、うん。

 

「で、今日はどういったご用件で?またどこかのコミュニティから演奏の依頼ですか?」

「いや、依頼ではあるのだが・・・演奏の依頼ではないし、私・・・東側の階層支配者としての依頼だ」

 

 スケールが今までにないレベルで大きい・・・常々言ってるけど、僕は歌い手だよ?

 

「一階層支配者が自分の仕事を他の人に任せる気かしら?責任問題とかにはならないの?」

「まあ、それを言われるとふがいなくて穴があったら入りたいくらいなのだが・・・この件については、私には解決することが出来ん」

「そんなことが僕たちに解決できるはずがないですよ・・・せめて、逆廻君か黒ウサギさん辺りでないと・・・」

 

 逆廻君は規格外の何でもありだし、黒ウサギさんなら魔王が相手でも“審判権限”を使うことが出来る。

 間違いなく、僕たちなんかよりも適役だろう。

 

「いや、私の知り合いの中では奏とラッテンが適役だ。他にも解決できそうな心当たりはあるが、契約を交わしている二人のほうがいいだろう」

「契約・・・ああ、そう言うことね。なら確かに、私達が適役だわ」

「ラッテンさん、何か分かったなら教えてください。いや、本当に」

 

 この場で理解できていないのが僕だけになってしまった。

 

「そうですね・・・ご主人様、私達二人に共通していることはなんですか?」

 

 最近ではもう慣れてきてしまったラッテンさんの喋り方に、しかしまだ戸惑いながらも僕は答える。

 

「僕とラッテンさんの・・・“音楽シリーズ”ですか?」

「ええ、そうです。当たりでしょう、白夜叉?」

 

 ラッテンさんもこの切り替えに慣れてきたのか、僕から白夜叉さんに話し相手が代わる際に一切のよどみがなかった。

 

「うむ、その通りだ。事の発端は、先日私の元に来た報告なのだが・・・」

 

 そう言って、白夜叉さんはそのときの話を始めた。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

「なに?森を目指したものが帰ってきていない?」

「ええ、ギフトの材料などを取りに行ったメンバーが、誰一人帰ってきていません」

 

 おかしい・・・メンバーの中には相当な実力者もいたのだぞ。それが一人も帰ってきていないなど・・・

 

「そこで少し気になって調べてみたのですが、どうやら他のコミュニティからも森を目指したもの、そのメンバーを探しに行ったものなどが帰ってきていないんだそうです」

「森に入ったものが例外なく帰ってきていない・・・そう言うことでいいのだな?」

「ええ、その通りです」

 

 このまま静観しておるわけにはいかんな。

 それに、誰も例外なく巻き込むことの出来るやり方など、私は“主催者権限”しか知らぬ。

 

「分かった。私自ら出向き、原因を叩き潰して来よう」

「ええ、よろしくお願いします」

 

 そして、私は問題の場所に出向き、森の中で多くの人間が倒れている場所にたどり着いた。

 

「これほどの数が、同じ場所で・・・」

 

 倒れている一人の下にしゃがみ、手をとると・・・間違いなく、脈はあった。

 気絶・・・いや、これは・・・・

 

「寝ている・・・のか?」

 

 そう、一人残らず眠っていた。

 もし、これが“主催者権限”によるものなら、この場に立ち入った時点で私にも影響があるはず。だが、そんな様子はない。

 となれば、これは魔王によるものではない可能性が出てくる。

 

「・・・まあいい。この先に進めば真相はわかる」

 

 そして、私はこの先・・・より倒れているものの多いほうに進んでいった。

 

 

 

♫♫♫

 

 

 

「と、私が話せるのはここまでだ」

「あの・・・結局原因はなんなんですか?それに、進んだ先には何が?」

 

 僕がそう聞くと、白夜叉さんは少しばつが悪そうにして・・・

 

「悪いが、私には分からん・・・進んだ先で私も眠気に襲われてしまい、情けないことに引き返してきてしまってな・・・」

「・・・階層支配者が何をしてるのよ・・・」

「・・・・・・ぐうの音も出ん・・・」

 

 本当にすまなさそうにしている辺り、この人、根はしっかりとした人なんだと思う。

 普段のセクハラ発言、行動はかなりの問題児的行動だけど・・・箱庭三大問題児と言われるほどではない気が・・・

 

「で、話を戻しますけど・・・そんな案件を、何で僕たち二人に頼むんですか?言っちゃうと、僕たちただ珍しいギフトを持ってるだけの二人組みですよ?」

「いや、まあ確かにそうなのだが・・・私が眠気に襲われる寸前、確かに聞いたのだ。ヴァイオリンの音(・・・・・・・・)を」

 

 何でこのタイミングで楽器の音が・・・?

 

「やっぱり、そう言うことね」

「あの・・・そろそろ本当に説明をお願いしたいのですが・・・」

「ご主人様?まさかとは思いますけど、まだ分からないのですか・・・?」

 

 始めて見た気がするなぁ、ラッテンさんが本気で呆れた顔。

 今までにも何度か情けない姿を見せたことはあるんだけど、そのときは弄るネタを見つけて楽しそうにしてたんだよね・・・それどころじゃないくらい、分からない僕が情けないのかな?

 

「では、もう少しヒントを。ヒント1。今回の件の犯人は、白夜叉クラス・・・最強種にすら影響を及ぼすことの出来るギフトを所持している」

 

 まあ、これについては白夜叉さんが眠気に襲われたことからも間違いない。

 

「まだ分かりませんか?では、ヒント2。そのギフトは不特定多数に対して影響を及ぼすことが出来、“主催者権限”ではない」

 

 “主催者権限”か否かは白夜叉さんの推測だけど、信憑性は高いと思う。

 

「これ以上のヒントは答えになってしまうので、最後のヒントです。ヒント3。以上の情報から、今回の件の犯人は、相手の格に関わらず使うことの出来る、“主催者権限”ではないギフトを所持している」

 

 ふむ・・・なんだか・・・

 

「すっごく身近に、そんなギフトがある気がするのですが・・・」

「ようやく分かりましたか、おバカなご主人様♪」

 

 甘んじて受け入れましょう・・・

 

「まあ、そう言うわけだ。すまんが、私の代わりに解決に向かってはくれんかの?」

 

 確かに、最強種にすら影響を出す“音楽シリーズ”のギフトは、同じ“音楽シリーズ”のギフトを持つ僕やラッテンさんには直接的(・・・)には効かない。

 

「私は、ご主人様さえよければ構いませんよ?」

「・・・では、僕も問題ありません。ただ、いくつかお願いしてもいいですか?」

「もちろんだとも。報酬は十分に出すし、何か必要なものがあれば準備する」

「いえ、必要なものとかはないんですけど・・・今回の件がしっかりと解決して、その人も合意したらでいいんですけど・・・そのヴァイオリニスト、僕たちで引きとってもいいですか?」

 

 出来ることなら、同じシリーズのギフトを持ってる人とは仲良くなりたい。

 そう思って、少し恥ずかしいけど白夜叉さんに言ったら・・・優しい視線を送ってくれた。

 

「うむ、もちろんだとも。事情によっては多少不自由をしくことになるかもしれんが、引き取ることに問題はない。むしろ、おんしらのように、そやつのギフトが効かぬものが引き取ってくれたほうが、安心できるしのう」

「・・・ありがとうございます」

 

 僕は素直に頭を下げ、それから立ち上がった。

 

「では、確かに今回の件、僕たちが引き受けました」

「うむ、頼んだぞ」

 




こんな感じになりました。

前書きではヒントと言いましたけど・・・もうほとんど答えですよね、これ。
分かった人はいらっしゃいましたか?


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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ヴァイオリニスト、登場する

遅くなりました・・・スイマセン・・・

題名の通りです。といっても、しっかりとした登場は次回になりますが。


では、本編へどうぞ!


 さて、白夜叉さんに言われた場所に来たんだけど・・・

 

「本当に皆眠ってますね・・・起こした方がいいんでしょうか?」

「やめておきましょう。邪魔なだけですし」

 

 確かに邪魔だとは思うけど、だからって蹴散らしながら進むのはどうかと思う。

 いや、音楽シリーズの影響なら絶対に起きないけどさ・・・

 

「そんなことより、この音、何か気付きませんか?」

「音というと・・・ヴァイオリンの音ですか?そうですね・・・」

 

 言われてみて初めてしっかりと聞くと、何か違和感を感じた。

 

「なんでしょうね、これ。なんと言うか・・・ただ弾いているというより、狂ってる?いや、音はあってますし、普通に上手いんですけど・・・」

「ですね。私もそう思います。音やリズムの狂いではなく、引き手そのものが狂っているような、そんな感じが音に現れています」

 

 ラッテンさんも僕と同意見のようだ。

 なんというか・・・本当に、それ以外の表し方を思いつかないんですよね・・・

 

「まあ、本人に会えば分かるでしょう。行きますよ、ご主人様」

「あ、はい。行きましょう」

 

 そして、僕とラッテンさんはどんどん先に進んで行き・・・なんか少し場違いな神殿を発見した。

 

「なんですか、これ・・・神殿?」

「あ、ご主人様。看板がありますよ?」

 

 ラッテンさんが指差す先には、確かに看板が立ててあった。

 何故看板・・・?と思いながらもそれをみると・・・

 

『悪い魔道士の相談所』

 

「いや、訳分かりませんよ!え?この中にいるのってヴァイオリニストじゃないんですか!?」

「いい突込みですよ、ご主人様」

「うれしくないです!」

 

 いや、入り口にこんな看板があったら誰でも突っ込むと思う。そうでなくとも、少しくらいは疑問に思うはずだ。そうであって欲しい。

 

「まあ、なんだか怪しいですし、ここに入りましょうか?」

「怪しいからこそ、避けたいんですけどね・・・この中から聞こえてくるヴァイオリンの音さえなければ・・・」

 

 間違いなく、音はここから聞こえてくるんですよね・・・確かに、定番ですけど・・・

 

「わざわざ、こんな分かりやすく怪しいところにいなくても・・・」

「確かにそうですけど、目立ちたがりが多いですからね、この世界。それと、より多くの人を眠らせるのが狙いなら、あえて目立つ方がいいかと」

「なるほど・・・」

 

 確かに、それが狙いならこうして目立つ理由も分かる。

 さて、それなら・・・

 

「入りますか?ラッテンさん」

「そうですね・・・入りましょう、ご主人様」

 

 そして、僕とラッテンさんは神殿の中に入っていった。

 

「「逃げろーー!!!」」

 

 そして、一分としない間に逃げるように逆走を始めた。

 が、中が迷宮になっていたせいで出ることすら出来ない。そして・・・

 

「なんですか、あの魔物!?真っ黒だし、何考えてるか分からないし、ギフトが効かないんですけど!」

「多分、向こうの曲の影響を受けてるのよ!」

「どうしてこっちより向こうが!?」

「分からないけど・・・多分、何か通ずるところがあるのよ!ほら、共感できる歌い方とか、そんなの!」

「確かに、それは有りますね!」

 

 僕もラッテンさんも、割と本気で逃げている。

 とくにラッテンさんは、口調が戻ってしまうほどにあせっている。先ほど服の中に入ってきたのがよっぽど気持ち悪かったのだろう。

 

「というかご主人様!?音響操作のギフト!道調べ・・・てください!」

「あ、やってみます!」

 

 ラッテンさんの口調が戻ったことに少し驚いたけど、気にせず走ることにした。

 ギフトを使いながら走るのは難しいけど・・・

 

「広い空間に出る場所が二箇所見つかりました!」

「ここから近いのは!?」

「ええっと・・・そこを右です!」

 

 僕の指示で道を選んで進んでいくが、全然逃げれる気がしない。

 魔物たち、まだ追ってくるし・・・

 

「ラッテンさん、どうしますか!?そろそろ追いつかれそうなんですけど!」

「クッ・・・ご主人様、もう少しスピード出ませんか!?」

「無理です!僕、歌以外は普通の人間なので!」

 

 ここまで逃げれていたことが奇跡みたいなもので・・・そろそろ体力的にも限界だったりする。

 

「なら、仕方ないですね・・・ご主人様!多鋭剣を貸して下さい!」

「どうぞ!」

 

 僕はギフトカードから多鋭剣を百本出す。

 そして、ラッテンさんと僕はその場に立ち止まる。

 

「さて・・・歌えますか?」

「スイマセン、後五秒・・・・・もう大丈夫です」

「じゃあ、いきますよ?」

 

 そして、僕は一つ深呼吸、ラッテンさんはフルートを口元に持ってきて・・・

 

「「剣の舞」」

 

 曲を、奏でる。

 そして、多鋭剣は全て魔物の方へと躍りながら、舞いながら進み、次々と切り裂いていった。

 

「最初っからこうすればよかったですね」

「確かに・・・まあ、あれだけ慌ててたら仕方ないようにも思えますけど」

「・・・ところでご主人様、みました?」

「何をです?」

「その・・・最初に魔物に襲われたときに、」

「さあ、行きましょう!」

「ちょ、ごまかさないでください!」

「あ、ほら。出口みたいなものもありますし」

「聴いていますか!?少し重要なことなのでしっかりと答えてください!」

 

 世の中には・・・知らなくてもいいことだってあるんです。

 少しみたいですし、話して気まずくなるのは避けたいです。

 

 向こうもそれが分かったようで、これ以上追求してくることはなかった。

 

「・・・あれ?これって出口じゃなくて・・・部屋?」

「・・・ですね。音源も・・・この中見たいです」

 

 で、二人でたどり着いたところにあったのは、出口ではなく部屋の入り口だった。

 

「・・・どうするのが正解だと思いますか?」

「そうですね・・・入ってみるのが正しいかと」

「ですよね・・・いきましょうか」

 

 そして、入っていった僕とラッテンさんが見たのは・・・瞳に生気がなく、狂ったようにただひたすらヴァイオリンを引き続ける、銀髪の少女だった。

 




こんな感じになりました。

はい、というわけで登場しましたよ!やっと三人目です。全員揃うことなんてあるんでしょうか・・・?


では、感想、意見、誤字脱字質問など待ってます!


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歌い手、忍者に会う

なんか、最近この作品の文字数がどんどん減っていく傾向にあります。


では、本編へどうぞ!


「ラッテンさん、あれが・・・?」

「はい、恐らくあれがしゃがむ!」

「へ・・・?ムグ!?」

 

 急にしゃがんだラッテンさんに腕を引っ張られて、胸に顔をうずめる形になってしまい、顔が熱くなるけど、

 

 ヒュン!ビイィィィン・・・

 

 今まで二人の顔があった辺りを、小刀が通り過ぎていった。

 一気に顔から熱が引いた。

 

「・・・ありがとうございました、ラッテンさん」

「とりあえず、二つの意味として受け取っておきます」

 

 ・・・・・・

 

「あー、そろそろいいっスか?」

「あ、スイマセン。なんか待ってもらってたみたいで」

「いいっスよ。自分、忍者なんで。忍耐とか得意っスから」

「へえ、忍者の方には初めて会いましたよ。あ、僕“音楽シリーズ”歌い手ギフト保持者、“奇跡の歌い手”の天歌奏って言います」

「これはどうもご丁寧に。自分、忍者やってる風間レヴィっス」

「って、なにやってるのよそこ二人は!?」

 

 初めてラッテンさんに突っ込まれた気がする。

 

「というか、ご主人様ってそんなキャラでしたっけ!?」

「あー、その・・・風間さんと話してると、なんでかあんな感じになっちゃうといいますか・・・」

「いや、まあそれは分かりますけど・・・」

 

 ラッテンさんも、風間さんの不思議な感じは共感できるようだ。

 

「あ、私は“音楽シリーズ”笛吹きギフト保持者、“ハーメルンの笛吹き”のラッテンよ」

「どうもご丁寧に。じゃあ、再開といくっスか?」

 

 そう言いながら、風間さんはクナイ(いや、見たことないから分かりませんが)を投げてくるので、僕は必死になって避ける。

 人間、死ぬと思えば予想だにしない動きが出来るものだ。

 

「そういえば、先に攻撃して来たの向こうでしたね」

「ええ。だから私は何故敵と話しているのか、という意味合いで先ほどの問いかけをしたのですけど」

「・・・面目次第もございません」

 

 いや、改めて言われると本当に言い訳のしようもない・・・

 

「まあいいです、この忍者は私が引き受けますから、奥の方をお願いします」

「了解しましたけど」

「行かせる気はないっスよ!」

 

 レヴィさんはその方向に立っている。

 ついでに言えば、ヴァイオリンの音で操られている魔物も。

 

 どうやってたどり着けと?

 

「多鋭剣を。どうにかして道を開きます」

「分かりました」

 

 言われたとおり、僕は多鋭剣をギフトカードから取り出して地面にばら撒く。

 

「では・・・剣の舞」

「む・・・そうきたっスか。埋まったっス」

 

 そして、物量で一気に押して無理矢理に道を開いた。

 風間さんはなぜか首から上だけ出てるけど・・・ここを逃したら、次はないよね?

 

「僕、あんまり運動得意じゃないんですけど!」

「文句言ってないでさっさと走ってください!」

 

 そして、物量に押されている(というより埋もれている)風間さんの横を走って通り過ぎ、ヴァイオリニストの元までたどり着く。

 

「ハア、ハア・・・もうバテ、た!?」

 

 両膝に手を置いていた僕に向けて、魔物が向かってくる。

 えー・・・少しは休ませてくださいよ。

 

「はあ・・・ね~んね~ん、ころ~り~よ、おこ~ろ~り~よ~」

 

 とりあえず、子守唄で眠らせようと試みるけど・・・依然、魔物はこちらに向かって牙なり爪なりを向けてくる。

 

「やっぱり、無理か・・・」

 

 まあ、予想は出来ていた。

 音楽とは、より共感できる曲の方が感動も強くなる。

 

 こんな自我のなさそうな存在に対して、子守唄なんかよりもあの狂ったような、それでいてどこか情熱的にも聴こえる曲の方が彼らにとって共感できて当然である。

 

「となると・・・ヴァイオリニストさん?」

 

 向こうは、僕の問いかけに対して何の反応も示さなかった。

 それどころか、こう・・・まるで聴こえてすらいない(・・・・・・・・・)みたいに。

 

「はあ、とりあえずこの魔物たちだよね・・・剣の舞」

 

 僕は多鋭剣を一振りだけ取り出し、剣の舞を歌う。

 今回はいつもと違い、僕自身を対象にして。

 

 結果として起こるのは、僕が、剣舞を舞う。そんな状態。

 剣舞なんて出来るほどの筋肉はないけど、そこは音楽シリーズ、何とかなるものだ。

 

 そして、あらかたの魔物を片付けたら・・・龍が現れた。

 

 目をこする。

 

 そこには、龍がいた。真っ黒な。

 

「マジですか・・・」

 




『わとすこ』さんに言われて、思いつきで出してみました風間レヴィ。
ソラについては、どうやったら出せるか・・・


では、感想、意見、誤字脱字質問など、待ってます。


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歌い手、癒す

テスト終わったー!!

というわけで投稿です。
今日は、色々投稿できる限り投稿します。


では、本編へどうぞ!


 さて、出来ることならヴァイオリニストさんのところまで行きたいんだけど、あの黒い竜がいる以上無理だよね・・・まずはアレからどうにかしないと・・・

 

「と思いつつも、全力で逃げてるよね、僕・・・」

 

 そう、全力で逃げ、避けていた。

 元の世界にいるころから全然運動をしてこなかったけど、人間って本当に追い詰められると全力以上の力が出るものだよね・・・

 

「とはいえ、このまま避け続けても・・・うわ!?」

 

 今、本当にすれすれだった。ほんの一瞬タイミングがずれてたら、腕がなくなってた・・・

 もうこれ以上は、無理だよね・・・

 

「仕方ない、賭けに出よう・・・剣の舞」

 

 多鋭剣のうちラッテンさんに貸した分の余りを全てギフトカードから出して、三振りだけ残してすべて竜にぶつける。

 そうして出来た隙に左足、右足で多鋭剣に乗り、両手で最後の一振りをつかんで一気に竜を乗り越えてヴァイオリニストの元に飛ぶ。

 

「あー・・・死ぬかと思った・・・歌い手がなにやってるんだろ・・・」

 

 少し愚痴を漏らすけど、すぐにそれどころじゃないと思い出す。

 そしてヴァイオリニストさんを見るけど・・・僕がここまで来ても、まだこちらを気にも留めない。

 完全に、周りが見えていない。

 

 それに、狂うように、と言う表現が、この上なくはまっている。

 

「狂ってるなら・・・癒す、のが一番だよね。・・・ヒーリングミュージック、管弦楽組曲第三番第二曲、エア、アリア」

 

 パッと思いついたヒーリングミュージックを、歌う。

 この曲は、後にヴァイオリンのG線のみで弾けるように編曲された『G線上のアリア』の方が有名かもしれない。

 

 そして、音楽シリーズに対して音楽シリーズを使ってもその効果は現れないけど、この曲は、曲自体が人を癒す効果がある、ヒーリングミュージック。

 その効果でより強い感動を与えることが出来れば、きっと・・・

 そう思ってヴァイオリニストさんに近づきながら歌っていると、別の場所で・・・魔物たちに対して、効果が現れ始めた。

 

 彼らからは狂った様子が消えてきて、力が抜けたようにその場に止まる。

 そして、役目を終えたように消えていく。もしかしたら、ヴァイオリンの音で限界以上に動かされていたのかもしれない。

 

 そして、後一メートルの位置まで近づいたところで、ヴァイオリニストにも効果が現れ始める。

 ヴァイオリンのリズムが遅くなっていき、本人の動きも遅くなっていく。

 

 そしてつま先とつま先の間に五センチもなくなったところで、ヴァイオリンの音が完全に止まり、震えながらゆっくりとヴァイオリンを下ろしていく。

 

「・・・・・・」

 

 ヴァイオリニストは少しの間棒立ちになったと思ったら全身から黒いもやが抜けて、一筋の涙を流し、僕のほうに倒れてきた。

 

「おっと・・・気絶してるだけ、か」

 

 何かあったわけじゃないとわかってホッとし、そのままどうしていいのかも分からず、先ほどまで震えていたのを思い出して抱きしめる。

 

「ご静聴、ありがとうございました」

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

「・・・お二人とも、何をしていたんですか?」

 

 あの後、どうにか意識の無いヴァイオリニストさんを背負ってラッテンさんのところに向かったら、ボロボロになった二人が、周りがボロボロな空間でにらみ合っていた。

 

 風間さんも結構きわどい格好になってるけど、ラッテンさんはそのうえを行っている。

 僕もそうだけど、音楽シリーズの持ち主には本番衣装がある人が多いらしく、僕の場合は箱庭に来る直前の本番でも着ていたもの、ラッテンさんは始めて会ったときにきていた露出の高い服。

 

 今回、僕たちは二人とも本番衣装を着ていたため、ラッテンさんは格好が大変なことになっている。少しは隠すそぶりを見せてください、お願いですから・・・

 余談だけど、衣装には予備もあるため、今後困ることはないだろう。

 

 よく見ると、力尽きた魔物も結構いたので、レクイエムを歌って成仏させる。

 

「この忍者、予想以上に強いんですよ・・・音楽シリーズも効きませんし、どうなってるのよ・・・」

「音楽シリーズが効かないって・・・まさか、風間さんも音楽シリーズ持ちだったりします?」

「自分がっスか?いえいえ、自分はそんなもの持ってないっスよ」

「じゃあ、どうして・・・」

「その前に、こっちから質問いいっスか?」

 

 風間さんに言われたので、どうぞ、と促す。

 

「では、ユイさんは無事なんっスか?」

「はい、無事ですよ。気絶はしていますが、何か憑いていた物が抜けたみたいでしたし、素人目ではありますけど、脈や呼吸も大丈夫だと思います」

「そうっスか・・・それで、ユイさんをどうするつもりっスか?」

「どうする・・・とは?」

 

 風間さんの様子からすると、向こうにとってはかなり重要なことらしい。

 本当に警戒しきった目をしてるし・・・

 

「ユイさんは、ある音楽シリーズのギフト保持者に隷属を迫られ、それを断った結果、ギフトを使われてあんな状態になってたっス。奏さんもそのつもりなら・・・容赦はしないっスよ?」

 

 そう言って小刀を構える風間さん。

 そんなことがあったんだ・・・確かに、音楽シリーズの持ち主なら音楽シリーズに対してギフトを使える可能性も高い。

 むしろ、それ以外の人間がそんな事を出来る可能性は、ないに等しい。

 

「で、どうなんスか?」

「特にどうとは決めていませんが・・・この人が合意してくれたら僕たちのコミュニティに来てもらいたいな、とは思っています」

「しなかったら、どうするつもりっスか?」

「そうですね・・・どこか行きたいコミュニティがあるなら、僕の知り合いがいるところなら紹介も出来ますけど」

「無理強いする気はないんスか?ラッテンさんの呼び方、普通ではなかったと思うっスけど?」

「あれは私が勝手にやってるものよ。ご主人様を弄るために」

 

 やっぱり、そう言う意図なんだよね・・・

 

「ありませんけど・・・あ、でも」

「なんっスか?」

 

 しまった、つい漏らしてしまった。

 これ、はっきり言うのは恥ずかしいんだけど・・・

 

「その・・・友達になって欲しいな、とは思います。一緒に音楽を奏でる人が、ずっと欲しかったので・・・」

「・・・そうっスか」

 

 僕のそんな台詞で何が変わったのかは分からないけど、風間さんは微笑みながら小刀をしまってくれた。

 

「それなら、後の判断はユイさんに任せるっス」

「いいんですか?」

「ええ。自分は、あんな状態のユイさんを放っておけなかっただけっスから。奏さんの言葉をどう判断するかは、ユイさん次第っスよ」

「そうですか。ありがとうございます」

「いえいえ。それより、早くここを出た方がいいんじゃないっスか?」

 

 そう言いながら、風間さんは両耳に手を当てて・・・あ、今抜いたのって耳栓?

 ただの耳栓なら音楽シリーズは防げないと思うけど・・・ここは箱庭だから、完全に音を遮るものもあるのかもしれない。

 

「それはどういう意味かしら?」

「いえね。ここはユイさんの演奏で出来たっスから、」

 

 その瞬間、何かが崩れだす、そんな音がしてきた。

 

「じきに崩れるんじゃないっスかね?」

「何でそんな状況でそんな呑気なんですか!?」

「ご主人様、急いだ方がいいんじゃないです?」

 

 その後、結局多鋭剣に乗って剣の舞を奏で、どうにか神殿を脱出した。

 




こんな感じになりました。

今日中に強欲のヴァイオリニスト編は終わらせます。


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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ヴァイオリニスト、隷属する

この作品は、本日二度目の投稿です。

では、本編へどうぞ!


「んみゅ・・・あれ?ここは・・・?」

「あ、気がつきましたか、倉田さん」

 

 神殿から脱出してしばらく歩いていたら、背中に負ぶっていた倉田さんが目を覚ましました。

 何故僕が負ぶっているのかというと、残りの二人はお互いにボロボロで、とても人一人を運べる状態じゃないからです。

 

「ユイ・・・確か・・・」

「無理に思い出そうとしなくてもいいですよ。もうしばらく休んでいてください」

「ええっと・・・お兄さんは、誰?」

 

 疑問に思って当然だよね。なんせ、目を覚ましたら自分が知らない人におぶられてるんだもん。

 

「僕は、“音楽シリーズ”の“奇跡の歌い手”ギフト保持者、天歌奏です」

「音楽シリーズ・・・あ!レヴィちゃんは!?」

「自分は後ろにいるっスよ、ユイさん」

 

 僕の挨拶で何かいやなことでも思い出したのか、倉田さんは背中でもぞもぞと動いて風間さんを探し始めた。

 すぐに後ろにいた風間さんが返事をしてくれたから良かったけど・・・僕もそんなに力があるほうじゃないから、出来る限り動かないで欲しい。

 

「よかった~。あの後の記憶が一切なかったから、どうなっちゃったのかと思ったよ~」

「あの人は、ユイさんに何かしてからすぐに立ち去ったっスよ。なので、自分はなんともないっス」

「そっか~。あれ?じゃあ、ユイを助けてくれたのはお兄さん?」

「助けた、なんて言えたもんじゃないですけどね。偶然に偶然が重なっただけで・・・」

「ありがとう、お兄さん!だいすきっ!!」

「おわっ!?」

 

 急に倉田さんに抱きつかれてバランスを崩しそうに・・・というか、実際に崩れたところを風間さんとラッテンさんに支えてもらった。

 

「はあ・・・全く、ご主人様はもう少し体をお鍛えになったほうがいいのではないですか?」

「ザ・インドア派の僕に言わないでくださいよ・・・。倉田さんも起きましたし、話を聞くためにも一度やすみませんか?」

「休みたいだけなのが見え見えっスね~」

 

 だって休みたいんだし。間違いなく、明日は全身筋肉痛だなぁ・・・

 そんな事を考えながら僕は倉庫の中からティーセットを取り出して並べ、皆でお茶をしながら倉田さんの話を聞いた。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

「へえ・・・まさか、他の音楽シリーズにとられるとはな」

 

 そう言いながら、ボクの持ち主は眼下を見下ろしている。

 そこには、楽しそうにお茶をしている四人がいた。

 

「それも、歌い手に取られるとは・・・あのまま狂気に落ちるのを待ってたってのに」

 

 まあいい、といいながら彼は眼下から目を外し、ボクらの横を通り過ぎて歩いていく。

 

「前の担い手も、奇跡の歌い手とは相容れなかったんだ。こうならざるをえないんだろうよ」

 

 そう言いながら彼はギフトカードを取り出し、その角をなめる。

 そこには大量のギフトが記されていたが、ボクが一番目を引くギフトは、間違いなくアレだ。

 

「いいぜ、歌い手。テメエがもっと多くの“音楽シリーズ”を従えたそのとき、このオレ自ら狩りに行ってやる。“狂気の指揮者”、狂崎(くるいざき) (しき)様がな!!」

 

 彼が歩いていくのに僕以外にここにいた皆がついていったので、ボクももう立ち上がってついて行かないといけない。

 でも、名残惜しく最後にもう一度、眼下にいる彼らの姿を見ておきたい、そう思った。

 そして、やはり彼ら四人は楽しそうで、同じ“音楽シリーズ”の集まりでも、ボクらとは全く違う、“音楽シリーズ”同士の暖かい繋がりがある。

 

「・・・いいなぁ、あれ」

 

 ボクも彼らと出会えていたら、あそこには入れたのかもしれないのに・・・今でも、音楽を奏でていられた(・・・・・・・・・・)かもしれないのに・・・

 

「オイコラ!何してやがる、さっさと来い!」

「・・・イエス、マイマスター」

 

 これ以上遅くなったら何をされるのか分かったもんじゃない。

 まだみていようとする目を無理矢理に動かして、ボクは小走りで彼らの元に向かった。

 いっそあの四人の元に逃げたかったが、それは迷惑でしかない。いつか、また会えることを願って・・・

 

 

 

♫♫♫

 

 

 

「なるほど、“狂気の指揮者”か・・・それは間違いないのか?」

「ええ。といっても、本人の自称なので、ギフトネームが違う可能性はあるっスけど」

「“音楽シリーズ”が効かなかった以上、向こうも“音楽シリーズ”の担い手であることは間違いないのう。そして、相手を狂わせるギフトももっておる、と」

 

 倉田さんが狂っていたのは、そのギフトが原因だったようだ。

 そして、僕が歌ったヒーリングミュージックによってそのギフトを無効化することが出来て、倉田さんが元に戻ったというわけだ。

 

「分かった。そのやからが“音楽シリーズ”を集めていることは、私から各コミュニティに伝えておこう」

「スイマセン、色々お任せしてしまって・・・」

「私が依頼したのだし、私は階層支配者。これくらいはして当然だよ」

 

 狂気の指揮者に対する注意報と、今回の事後処理は全て白夜叉さんに任せることになった。

 なんでも、コミュニティによっては“音楽シリーズ”のギフト保持者もいるし、いることを隠しているコミュニティもあるそうなので、伝えておく必要があるのだ。

 

「それでも、“音楽シリーズ”には“音楽シリーズ”をぶつけるしかない。“狂気の指揮者”について直接の対策はおんしらに一任しても良いかの?」

「はい。僕に出来る範囲で、ですけど、やらせていただきます」

「うむ。たのんだぞ。それと、今回の報酬については後日、ノーネームに届けさせよう」

 

 これについてはありがたく受け取っておく。ノーネームがいまだに財政難なのは事実だし。

 

「で、だ。おんしらはどうするのだ?」

「どうするって・・・自分達で選んでもいいんスか?」

「うむ。おんしらは何も、自分から悪さをしたわけではない。こちらで行動を縛ることは出来んよ」

「だそうっスけど、ユイさんはどうするっスか?」

「んー・・・そうだねえ・・・」

 

 風間さんに尋ねられた倉田さんは、僕に上目遣いで悪戯っぽい笑みを浮かべて・・・

 

「うんっ。お兄さんについていくよ!」

 

 と、抱きついてきた。

 思いっきり、その、む、胸が当たっているんですけど・・・わざとだよね、間違いなく・・・

 

「い、いいんですか?ノーネームで?」

「うんっ!そう言うわけだから、ユイはお兄さんに隷属するよ!!」

「いや、何で隷属!?」

 

 ついてくるのに、わざわざ隷属する必要なはないですよ!?

 

「え?だって、ラッテンちゃんが隷属してるから、そう言う風習なのかな、って・・・」

「そんな風習はありませ」

「ええ、そうよ」

「ラッテンさん!?」

「別にいいじゃないですか、ご主人様。そうした方がお互いの霊格も上がるんですし」

 

 正論であるため何も言い返せない。

 

「・・・分かりましたよ」

「うんっ。じゃあ改めて、“強欲(アワリティア)のヴァイオリニスト”倉田ユイは、“奇跡の歌い手”天歌奏に隷属するよっ!」

「はい。“奇跡の歌い手”天歌奏は、その隷属を受けます」

 

 その瞬間、僕と倉田さん、ラッテンさんの霊格が上がった。

 もう二回目になるけど、この感覚には慣れそうにないなぁ・・・

 

「えっと・・・じゃあ、これからよろしくお願いします、倉田さん」

「むー」

 

 倉田さんは頬を膨らませている。何かご不満なようだ。

 

「・・・何が不満なんですか?」

「ユイのことは倉田さんじゃなくて、ユイって呼んで!」

「じゃあ・・・ユイさん?」

「さん付け禁止!」

「・・・ユイちゃん、で勘弁してください・・・」

 

 これ以上は無理です。

 敵とかなら、呼び捨てにも出来るんですけど・・・

 

「う~ん・・・それならいいよ!」

「ありがとうございます。風間さんはどうしますか、これから?」

「そうっスねえ・・・ユイさんについていくっスよ」

 

 というわけで、といいながら風間さんは僕の前まで来て三つ指を突いて・・・

 

「自分も奏さんに隷属するっスから、これからよろしくっス」

「いや、何でですか!?風間さんまで隷属する必要は・・・」

「おやおや、自分だけ仲間外れっスか?悲しいっスね・・・」

 

 そう言いながら、目の前でわざとらしく泣きまねをしてくる。

 

「ああもう!分かりましたよ!風間さんの隷属も受けます!」

「分かっていただけたようで何よりっス」

 

 もう既に二人(レティシアさんを入れたら三人?)いるんだし、今更増えたところで大して変わらない。

 そんなヤケクソ気味な気持ちで風間さんの隷属も受けることにした。

 

「あ、そうそう。自分のこともレヴィでいいっスよ」

「・・・じゃあ、レヴィさんで」

「おやおや、ユイさんのことはさん付けではないのに、自分はさん付けっスか・・・」

「もう泣きまねはいいですから」

 

 なんとなく、さん付けの方がしっくりくるんだけど・・・何を言っても聞かないよね、これは・・・

 自分はさん付けなのに・・・

 

「分かりました。レヴィちゃんでいですね?」

「ええ、それでいいっスよ。なんだかむずがゆいっスけど」

「ならなんで言ってきたんですか・・・」

 

 絶対この人楽しんでるよ・・・僕を弄って・・・

 

 と、そんなこんなで“音楽シリーズ”が一人、ニンジャが一人友達になって、今回の件は終わりました。

 

 ノーネームに帰ったら問題児たちがいなくて少し驚いたり、サーカスをうらやましく思ったりもしました.。

 




こんな感じになりました。

今日の旋律の投稿分はこれで終わりです。

次は、『ハイスクールF×L』を投稿していこうと思います、

では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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えっと・・・打楽器奏者召喚・・・です
歌い手、朝から驚くpart1


三巻に入ります。
この間は、比較的平和なんですよね・・・その方が、この話は書きやすかったりしますけど。

では、本編へどうぞ!


 ある朝、目を覚ました僕は自分の両側に違和感を感じた。

 あまり朝は強いほうではないので半分以上寝惚けながら右側を見ると、そこでは裸のユイちゃんが寝ていた。

 

「・・・」

 

 そのまま左側を見ると、そこでは裸のラッテンさんが寝ていた。

 

「・・・・・・」

 

 少しボーっとして、もう一度両側を見て、

 

「・・・・・・・・・ええええええ!?」

 

 一瞬の間をおいて、ようやく、現状を理解した。

 もちろん、二人を起こすわけにもいかないので音響操作(ソニック)を使って聞こえないようにしている。

 

 さて、まずはこの状況からどうにかして抜け出さないと。いつまで冷静でいられるか分かったもんじゃない。

 今だって、驚きが一周したおかげで冷静でいられているという危うい状態なんだから。

 

「・・・二人がしっかりとくっついてるわけじゃないのは、助かったかな・・・」

 

 どうにか二人の体に触れないようにしながら腕を抜いて(それでも、何度か当たってしまい、そのたびにただでさえ赤い顔がさらに赤くなっていたと思う)、立ち上がってベッドから降りる。

 音だけは立てないように、常に音響操作を発動させながら歩き、ドアを開いて部屋を出て、ようやく一息つく。

 

「ふぅ・・・助かった・・・」

「どうしたんスか、奏さん?」

「うわ!?」

 

 急にレヴィちゃんに声をかけられ、大声を上げてしまう。

 二人は起きてないかな・・・大丈夫、中から起きたような音は聞こえてこない。

 

 安心してレヴィちゃんの方を見ると、そこには和風メイドの格好をしたレヴィちゃんがいた。

 

「あの、さ・・・なんでレヴィちゃんはいつもその格好なの?」

「いやぁ、これなら隷属してるってはっきり分かるじゃないっスか。あ、それとも、ユイさんやラッテンさんが着ているようなものの方がよかったっスか?」

「いえ、それは似合ってると思うのでいいですけど、別にパッと見でわかる必要はないんじゃ・・・」

「それに、面白いっスから」

 

 こうはっきりと言われると、もういいや、と思えてしまう。

 この辺り、僕も慣れてきちゃってるんだよね・・・間違いなく。

 

「それで、何があったんスか?まるで、朝起きたら裸の美女と美少女に挟まれていた、みたいな顔してるっスけど」

「絶対に知ってていってますよね、貴女!」

 

 この表情は間違いない。僕を弄って楽しんでる顔だ。

 

「まあ、そうっスね。なんせ、自分もあの二人みたいに寝ていたっスから。奏さんのベッドで」

「・・・嘘ですよね?」

「あらら、さすがにバレたっスか」

「それは、まあ」

 

 なんとなく、この人は簡単にそんな格好にならない人だと思う。

 

「まあ、実際のところは自分は服を着て、っスよ。同じベッドにいたのは事実っスね」

「・・・感覚が麻痺してるんでしょうか、それくらいなら、と思って一切慌てない自分がいます」

「そうっスか。なら、次は違う方法でいくとするっスよ」

 

 勘弁してください四割、それもいいなぁ六割。

 そう思った自分がいるけど、悟られないようにしないと。

 

「ま、楽しみにしててくださいっス。自分は、このままユイさんたちを起こしていきたいんスけど、いいっスか?」

「どうぞ。僕は倉庫の中で着替えますから」

 

 そして、レヴィちゃんが僕の部屋に入っていくのを見てから、倉庫で着替えて大広間へと向かう。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

 で、大広間にて今後の活動方針を話し合うためにジン君、逆廻君、飛鳥さん、春日部さん、黒ウサギさん、レティシアさん、リリちゃん、そして僕が集まっていた。

 

「はぁ・・・なんで僕が三番目の席に座ってるんですか?もう少し後ろでいいとおもうんですけど・・・」

 

 ジン君と同じような悩みを漏らした僕に、何人かが反論して来た。

 

「いえ、奏さんについては、十六夜さんとどちらを次席にするかで話し合いになったほどですから、もっと自信を持ってください」

「いや、なんで?僕、何度も言ってるけど、ただの歌い手だよ?」

「いえ、そうでもないのですよ」

 

 そう言いながら黒ウサギさんは、コミュニティの帳簿といくつかの封筒を取り出した。

 

「このように、現在コミュニティの財政の五割以上は奏さん達宛の依頼の報酬でまかなわれていますし、こちらの封筒は三人宛の依頼です。奏さんのおかげで“ノーネーム”の名前が広がっている部分もありますので、かなり十六夜さんとどちらにするか悩みました」

「ですが、やはりコミュニティの同士を取り戻してくださった十六夜さんだろう、という話に纏りましたので、この席順になりました」

「つまり、オマエの働きは俺と大差ないわけだ。もっと自信を持てよ」

 

 そう言われても・・・実際、ただ歌ってただけだし。

 

「あ、そうです!奏さんたちには、急ぎでこちらに向かって欲しいのですが」

 

 そう言いながら、黒ウサギさんは先ほどの封筒の中から一枚を抜き取って渡してくる。

 その封筒には、“龍角を持つ鷲獅子(ドラゴ・グライフ)”連盟より、収穫祭においての依頼、と書かれていた。

 

 中身を要約すると、南側で行われる収穫祭で曲を演奏して欲しい、というものだった。

 

「向こうは出来る限り早めに来て欲しい、とのことでしたので、今から準備して四人で向かってくださいますか?」

「分かりました。じゃあ、僕はお先に失礼しますね」

 

 そう言いながら、僕は大広間を後にした。

 基本、音楽シリーズが纏って動くときには護衛としてレヴィちゃんが付くことになっている。

 だから四人な訳だけど・・・この四人での行動、か。

 何かありそうで怖いなぁ・・・

 




こんな感じになりました。

レヴィの性格がいまだに難しいです・・・
口調とか、あれであってますかね?


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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打楽器奏者、登場する。

題名の通りですが、前回のように最後にチョロっと、です。


では、本編へどうぞ!


 で、そのまま四人で南側、アンダーウッドに来ましたが・・・

 

「なんと言うか・・・すごいですね」

「ええ。確かにあの水樹はすごいと思いますよ」

 

 そう、ノーネームのとは比べ物にならないような水樹があったのです。というか、アレはもはや樹なのでしょうか・・・

 

「それより、早く主催者さんに挨拶に行こうよ~。ユイもう疲れた・・・」

「まあ、ユイさんはあんまり動くほうじゃないっスからね」

「・・・なら、急いで向かいましょうか。早めに挨拶をする分には問題ないでしょうし、それに・・・」

 

 そう言いながら回りを確認すると、屋台がずらりと・・・

 

「これ以上ここにいたら、何か食べたくなってきそうですし」

「そうですね。あの屋台のも、中々」

「食べるのは後にしましょうね?」

「美味しいですし」

「いつのまに買ってきたんですか!?」

 

 慌てて振り返ると、そこには見るからに美味しそうなものが。

 いいなぁ・・・

 

「お、こっちのも中々いけるっスよ」

「うん、レヴィちゃんいい見立て!」

「って、そっちもですか!」

 

 後ろでは、確かにユイちゃんとレヴィちゃんが買い食いをしていた。

 おかしいなぁ・・・気にしてはいないけど、一応僕って三人の主なのに・・・

 

 メイド服の人が三人。皆何か食べているのに普通の服の僕は何も食べていない。

 ・・・僕も何か食べよう。

 そう決めて屋台で適当に買い、四人で食べながら楽しく歩き・・・

 

「と、そう言うわけで少し遅くなってしまいました。申し訳ありません」

 

 僕は、そう言いながら頭を下げていた。

 そして、頭を下げていた相手が笑いながら頭を上げるよういってきたので、頭を上げる。

 

「遅くなったとは言っても、予定の時刻にはまだなっていない。私が気にしていないんだから、君も気にしなくていいさ」

「そう言っていただけると助かります・・・ありがとうございます、サラさん」

 

 こんないい人でよかった・・・そして、こういうときに限って普段賑やかな三人は一切喋らない。

 まあ、挨拶はあとでいいかな。

 

「さて、早速で悪いんだが、リハーサルのような形で一曲お願いできるか?」

「それは別にいいですけど・・・どうしてですか?」

 

 予定では、このまま休んでぶっつけ本番のはず。

 何か事情でもあるのかな・・・

 

「実は・・・大変失礼な話なんだが、一部のものが信用していなくてな・・・」

「OKです。ほぼ全部理解できました」

 

 ようするに、あれだ。マンドラさんと同じように考えた人がいる、ということだ。

 

「理解してくれて助かる。では、こちらに」

 

 サラさんの案内で、僕たち四人は当日も演奏するであろう場所に向かう。

 

「ぶー・・・ユイ、もう休みたーい!」

「お願いですから、少し頑張ってください」

 

 ユイちゃんは本当に疲れているように見えるけど・・・演奏には一切支障がないし、まあいいか。最近、こう考えることにためらいがなくなってきてるけど・・・良くない傾向かな?

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

 案内された先には、もう既に何人かの・・・人?が来ていた。

 サラさんの話から考えると、ここの連盟のお偉いさんだろう。猫の人の影に隠れるようにしている小さな子が気になるけど、他の人も、お偉いさん、って感じがするし。

 

「えー・・・では、まずはご挨拶から」

 

 僕たち三人は既にステージに上がって楽器も持っているので、もう分かっている気はするけど。

 

「まず、僕から。ジン=ラッセル率いる“ノーネーム”所属の、“音楽シリーズ”歌い手ギフト保持者、“奇跡の歌い手”の天歌奏です」

「同じく、“音楽シリーズ”笛吹きギフト保持者、“ハーメルンの笛吹き”ラッテン」

「同じく、“音楽シリーズ”ヴァイオリニストギフト保持者、“強欲(アワリティア)のヴァイオリニスト”倉田ユイだよっ」

 

 ユイちゃんの元気が出たみたいなのは良かったけど・・・この場でその挨拶は・・・

 

「あー・・・今回は何でも一曲演奏すればいい、とのことでしたので、普段からよく演奏する曲を。本番ではまた違う曲を演奏させていただきます。・・・剣の舞」

 

 間違いなく、この曲が一番演奏することが多い。

 そんな理由からこの曲を選び、この場では演奏することにした。

 もちろん、本番で演奏する曲はしっかりと、選んである。

 

 

 そして、演奏が終わると・・・

 

「フン。確かに、音楽シリーズで間違いないようだな」

「ご理解いただけて嬉しいです。では、今日はこれで終わりでしょうか?」

「ああ。・・・本番も期待している」

 

 そう言いながら出て行ったのは、二翼のリーダーだと言う人。

 後から聞いた話だと、信用していなかったのはこの人だけで、他の人は興味本位から来ていたのだとか。

 

「ふぅ・・・ああいう人、僕苦手です」

「ユイもー・・・お兄さん、抱っこで運んで~」

「僕、そんな力ないですよ・・・」

「自分でよければ運ぶっスよ、ユイさん」

 

 レヴィちゃん、見た目に反して力強いですからね・・・

 と、そんなくだらないことを話しているうちに見に来ていた人も減り、二人だけが残っていた。

 こっちに向かってくるけど、何か話でもあるのかな?

 あ・・・あの子、最初に気になってた子だ。こんなところにくるには幼いな、とは思ってたけど・・・何か用があってきてたのか。

 

「初めまして、天歌奏。俺はコミュニティ“六本傷”のリーダーのガロロ=ガンダックだ」

「あ、これはどうも。僕は、」

「さっき聞いたよ。天歌奏、だろ?で、後ろの二人はラッテンに倉田ユイで、そっちのは・・・」

「あ、自分は風間レヴィ、皆さんの護衛みたいなことしてるっスよ」

 

 そういえば、さっき自己紹介したばっかりだった。

 レヴィちゃんはステージに上がってなかったから、知らなくて当然か。

 

「それで、話というのは?」

「いや、少し話を聞いときたくてな。昔、魔王“奇跡の歌い手”とは一悶着あったからな」

 

 その言葉に、僕はどう反応していいかわからなかった。

 先代は、魔王だった・・・そうである以上、被害にあった人は当然いるわけで・・・

 

「ま、その辺りについては今の演奏を聞いて何となく分かったけどな。奏は、そんなやつじゃなさそうだ」

「・・・ありがとうございます」

 

 正直に嬉しかった。

 偏見からこられるのは、かなりきつい・・・

 

「で、だ。オマエさんはなんだって同族を集めてるんだ?」

「・・・どうして、気になるんですか?」

「主催者権限を手に入れるかもしれないんだ。気になって当然だろう?」

 

 まあ、危ないものをもつようになるんだもんね。

 気になって当然、か。

 

「特に、深い理由はないんですよ。ただ、一緒に音楽を演奏する友達が欲しいだけです」

「嘘では・・・なさそうだな」

「分かるんですか?」

「これでも、無駄に長くいきてるんでな」

 

 年の功、ということでしょうか?

 

「なら、あんたに任せるのが一番だろうな」

「えっと・・・任せる、というのは?」

「“音楽シリーズ”を、だ」

 

 ガロロさんのその言葉に、僕は心底驚いた。

 まさか、ここでその名前が出てくるとは・・・

 

「白夜叉から“狂気の指揮者”の事を聞いて、な。うちのコミュニティにも“音楽シリーズ”のギフト保持者はいるんだが、たった一人。音楽シリーズは同族でしか相手できないというのがセオリーだから、そんな相手から守れそうにないからな」

「そう、ですか・・・でも、あまりいい待遇は出来ませんよ?」

 

 これは、はっきり話しておいたほうがいい。

 

「知っての通り、僕たちのコミュニティは“ノーネーム”です。それも、打倒魔王を掲げている。必然的に、その戦いに巻き込むことになってしまいます。参加することも、かなり可能性は高いです」

「まあ、そうだろうな」

 

 でも、といいながらガロロさんは続ける。

 

「コイツ本人も行きたがってるし、何より、“狂気の指揮者”とやらに襲われたときの方が心配だ」

「・・・分かりました」

「そうか。ほら、オマエからも挨拶しろ」

 

 そこで話が纏り、ガロロさんは自分の影に隠れていた子を前に押し出す。

 そのこは恥ずかしそうにもじもじしていましたが・・・やがて、顔を上げて挨拶をしてくれました。

 

「は、初めまして!ロ・・・私は、ロロロ=ガンダックといいます!」

 




こんな感じになりました。


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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打楽器奏者、隷属する

ふぅ・・・書けた。
ロロロのキャラが自分のイメージしているようにかけているかは不安ですが、かけたので投稿します。


では、本編へどうぞ!


 いままでガロロさんの後ろに隠れてた子が、そう言いながら頭を下げてくれたんだけど・・・全くもって現状がつかめないんだけど・・・

 

「えっと、ガロロさん・・・」

「あー・・・悪いな。どうにも、緊張してるみたいで」

「緊張・・・ですか?」

 

 一体何に緊張してるのか・・・

 

「コイツ、人見知りするんだよ。まあ、今回のはそれだけじゃねえみたいだけど」

「はぁ・・・」

 

 一体、何を緊張しているのだろう・・・

 

「ほら、ロロ。早いとこ説明しないと、向こうも戸惑ってるぞ?」

「え、あ・・・。ゴメン、パパ」

「いや、謝るのは俺じゃなくて向こうにだろ・・・」

「あ、そ、そうだった」

 

 なんと言うか・・・見ていて心配になる子だな。

 

「えっと・・・こんな感じになってしまってごめんなさい・・・ロ・・・私、ちょっと感動してて・・・」

「・・・うん、一回落ち着いて。ほら、深呼吸でもしてさ」

「は、はい・・・」

 

 と、そこでロロロちゃんは深呼吸を・・・って、あれ?過呼吸になってない!?

 

「おいロロ!落ち着くための深呼吸で過呼吸になってどうする!」

「え、あ・・・ゴメン、パパ」

「いやだから・・・ああクソ!予想はしてたとはいえ、面倒だな!!」

 

 そんな光景を見ながら、僕たちは僕たちで話をしていた。

 

「えっと・・・これは、そういうことですよね?」

「ええ、そうでしょうね。素が、あれなんだと思います」

「だね~。ユイはすっごくかわいいと思うよっ」

「まあ、一緒に過ごすのは少し大変そうっスけどね」

「ですね・・・少なくとも、僕にはあの状態をどうにかすることは出来そうにないです」

 

 落ち着くためにすることをして、かえって大変な状況になってしまうとなると・・・僕がとれる手段なんてもう・・・

 

「はぁ・・・もうオマエ、あれだ。一曲演奏しろ」

「え!?でも・・・恥ずかしいし・・・」

「だから、だよ。オマエにとってはアレ(・・)が一番恥ずかしいんだから、それさえ済ませちまえばそれ以降のことはそうでもないだろ」

「あ、荒療治過ぎるよぅ・・・」

「あ、あの・・・そんな無理にしなくても・・・」

 

 さすがに、涙目になってきているところに追い討ちをかけるのはマズイ気がして、僕はそう申し出た。

 

「ああ・・・いや、こっちとしても預ける前に問題ないくらいにはしときたいんだよ。娘のことで人様に迷惑をかけるのはな。それに、これが一番分かりやすく、こいつのことを知れるんじゃねえか?」

「それはまあ、そうですけど・・・」

 

 僕がはっきりと否定できないでいると、ロロロちゃんももうどうしようもないと判断したのか、ギフトカードから一つの小さな太鼓を取り出す。

 その小太鼓は、ロロロちゃんの手に触れると形を変えていき・・・ドラム一式になる。

 

「えっと・・・ガロロさん、あの太鼓は・・・」

「ああ。アレはロロの至高の一品(ベスト・ワン)だ」

「えと・・・なんですか、」

 

 それ、と続けることは出来なかった。

 なぜなら・・・何も喋れないほどに情熱的な、力強いドラムの音が聞こえてきたのだ。

 さっきまでのロロロちゃんの態度からは考えられない、力強く、激しいドラム。

 かと思えば、優しく包み込むようなドラムも聞こえてくるのだが、油断した隙に一気に力強くなり、幾度となく衝撃を受ける。

 

 周りを見ることは出来ないが、おそらくラッテンさんにユイちゃん、レヴィちゃんも同じように一言も発せないでいるとおもう。いや、できるはずがない。

 

 僕の音楽が奇跡を歌い、ラッテンさんの音楽が人を誘惑し、ユイちゃんの音楽がその強い欲を体現するのだとすれば、ロロロちゃんの音楽はその誰とも違う。

 猫のような俊敏さ、隙を逃さない容赦のなさ、自分より大きな相手にすら牙を向く肉食獣の力強さを、体現する音楽なのだ。

 

「イエーイ!!」

 

 そして、音楽が終わると同時にロロロちゃんは一切の曇りのない満面の笑みで、ステッキを持った片手を挙げながら、そう叫んだ。

 そして・・・

 

「あ・・・」

 

 少し間をおいて冷静になったとたんに、ロロロちゃんは顔を一気に紅くした。

 そしてそのまま、顔を抑えて地面にうずくまる。

 えっと・・・僕たちはどうしたら・・・

 

「あー・・・ま、こうなるわな。予定通り」

「・・・ガロロさん、アレは?」

「・・・簡単な予想だと、音楽を奏でている最中は性格が変わる、ってところかしら?」

「おう、ラッテンのが正解だ」

 

 あー・・・まあ、分からなくいはないけどね。

 僕も、少しそう言うところあるし。

 ステージに上がってからは、基本的に別人になるくらいのつもりではいる。

 

「で、本人はそんな状態の自分を見られるのがかなり恥ずかしいんだよ」

「それであんな感じに・・・あの・・・ロロロ、ちゃん?」

「・・・はい?」

 

 僕から声をかけると、ロロロちゃんは顔を抑えながらも、少し指の隙間を開けてこちらを見てくれた。

 

「あの、さ。恥ずかしいのは、まあ分かるんだけど・・・僕も、ステージ下りてからステージでの自分を思い出すと、少し恥ずかしくなるし」

「あなたも、なんですか?」

「うん。こう・・・後から自分が何をしてたのかを考えると特に、ね」

 

 そこでようやく、ロロロちゃんがしっかりとこちらを見てくれたので、僕も膝に手を当てていたのをしゃがむ形に変えて、出来る限り目線を合わせる。

 

「だからさ、恥ずかしがらないのが無理なのも出ないように我慢するのが無理なのも分かるし、共感できる。その上で一つアドバイスをすると・・・終わってすぐに恥ずかしがるのは、やめたほうがいいかな?」

「そう・・・なんですか?」

「うん。後々に、お客さんの前でそんな態度を取ったことを思い出すと・・・うん、軽く十倍はきつかったね・・・」

 

 これが、僕の初めてのステージでの話。

 あのときのことは・・・思い出すのはやめておこう。

 

「・・・・・・・・・ですか?」

「はい?」

「いまでもそう・・・なんですか?」

 

 ああ、そういうことですか。

 

「もちろんですよ」

「えっ・・・」

「そんなに驚くことかな?」

「その・・・あんなに、その・・・格好良く歌ってたので、少し意外で・・・」

「そっか。そう言ってくれると嬉しいよ」

「え・・・あ、いえ!その・・・」

「でも、ね」

 

 ロロロちゃんは何か言おうとしてたけど・・・ここは、話を続けさせてもらおう。

 

「確かに、いまだに恥ずかしくはあるんだよ。でも、最近は和らいできてると思う」

「どうして、ですか?」

「一緒に演奏する人たちが出来たから、かな」

 

 その存在は、かなり大きい。

 

「そのおかげで、僕は完全に消えることはなくても、かなり和らいできてる。だから、さ。ロロロちゃんもきっと、少しはましになるんじゃないかな?」

「え・・・」

「あ、もちろん、無理にとは言わないよ。一緒に来るか来ないかもロロロちゃんが決めることだし、演奏に参加するかどうかも、ロロロちゃんが決めること」

「・・・一緒に演奏、出来ると思いますか?」

「僕は、できると思う。ラッテンさんとユイちゃんはどうですか?」

 

 僕は、そのまま後ろにいた二人に話しかける。

 

「私は、別に問題ないと思うわ。あの演奏は、とってもすばらしかったもの」

「ユイも、いいと思うよっ。一緒に演奏してみたいなっ」

 

 そして、二人の言葉で決心がついたのか、ロロロちゃんもはっきりとこちらを見てくる。

 

「・・・一緒に演奏、したい・・・です」

「そっか。じゃあ、これからよろしくね、ロロロちゃん」

 

 そのままロロロちゃんの手を取って立ち上がるのを手伝い、しっかりと向き合う。

 先ほど、演奏の最中にガロロさんから「連れて行くなら隷属も込みで」といわれているから、何をするのかは分かっている。

 

「ロ・・・私、“メオの打楽器奏者”ロロロ=ガンダックは“奇跡の歌い手”天歌奏様に隷属します。えっと・・・皆からはロロって呼ばれてるので、皆さんも、それで。それから、その・・・これから、よろしくお願いします!」

「はい、その隷属、受けます。これからよろしくね、ロロちゃん。それと・・・一つ、いいかな?」

「えっと・・・なんで、しょう?」

 

 いや、一つだけ、言っておかないと・・・

 

「その・・・呼び方、なんだけど」

「なにか、お気に触りましたか・・・?」

「そうじゃなくて・・・ちょっと。トラウマで、さ。様付けは、やめてもらえないかな?」

 

 そう言うと、ロロちゃんは慌てて頭を下げてきて、

 

「も、申し訳ありません!そうとはつゆ知らずに・・・」

「いや、そこまで謝らなくてもいいから。ただ、呼び方だけ変えてもらえれば」

「えっと、じゃ、じゃあ・・・一つ、呼びたい呼び方があるんですけど・・・いい、ですか?」

「どんな呼び方?」

「その、ですね・・・お兄ちゃん、って・・・」

 

 ・・・なんで、それを選んだんだろう・・・

 

「そ、その。私って、兄は何人かいるんですけど、皆兄って感じではなくて・・・それで、ですね。あなたは、ロ・・・私の理想の兄、そのままだったんです・・・」

 

 これは・・・勝手に判断していいレベルじゃないような・・・

 そう思ってガロロさんに救いを求めて視線を送ると・・・

 

「ああ・・・悪いな。ウチの男どもは時期頭首を決める関係で色々あってな・・・あんまり、兄っぽくはなかった」

「そうなんですか・・・なら、僕なんかでよければ、いいですよ」

 

 そう言うと、ロロちゃんの顔が一気に明るいものになった。

 こんなことで笑ってくれるのなら、良かったな、って思える。

 

「ところで・・・ロロ、オマエはなんで私、って言ってるんだ?」

「ちょ、ちょっとパパ!それは・・・」

「何かおかしいんですか?」

「ああ。コイツ、普段は自分のことロロって言ってるんだよ」

「パパ!言っちゃダメ!!」

 

 ロロちゃんがここまでの大声を出したことにかなり驚きつつも、ガロロさんの話の内容を理解していく。

 

「だ、だって、その・・・せっかく今まで何度も歌を聴いて、話してみたいと思ってた人と会うんだし・・・子供らしいのは、って・・・」

「そうですかね?かわいくていいと思いますけど・・・」

「ほえ!?」

 

 つい口から漏れてしまった言葉に、ロロちゃんが反応する。

 しまった・・・

 

「えっと、その・・・」

「あははっ。お兄さんはもう少し、考えてから話さないと、ね」

 

 そう言いながら、ユイちゃんがロロちゃんの前にしゃがむ。

 

「うんうん、別にいいとおもうよ?ユイも、ユイのことユイって言ってるし」

「そ、それは・・・ユイ様、かわいいですし・・・」

「ありがとうっ。でも、ロロちゃんもかわいいよ?」

「そ、そんなことは・・・」

「大丈夫大丈夫!ユイ達が保障するから!あ、それと。ユイのことも様はつけなくていいよ?」

「え?じゃ、じゃあ・・・なんとお呼びすれば・・・」

「お兄さんみたいに、お姉ちゃんとか♪」

「あ、自分もそんなかんじの希望っス」

「私はお姉様のほうがいいわね」

 

 最後一人、何かおかしいですよ。

 

「じゃ、じゃあ・・・ユイお姉ちゃんにレヴィお姉さん、ラッテンお姉様で・・・」

 

 そして、しっかりとそう呼ぶロロちゃんも、いいこだなぁ、と思った。

 




こんな感じになりました。
ロロのキャラ、上手く表現できたかなぁ・・・


では、感想、意見、誤字脱字、新キャラに対しての質問や意見など、待ってます。


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歌い手、至高の一品を知る

投稿が遅れました。

今回は、少しばかり説明回。


では、本編へどうぞ!


 アンダーウッド、収穫祭本陣営。貴賓室。

 サラさんから、そろそろ皆が来るといわれたので僕とロロちゃんはそこで皆を待っている。

 一応、新しく入ったメンバーのことは紹介しておかないとだし。

 

 まあ、残りの三人は下で遊びまわってるんだけど・・・今回はいいかな。

 特にやることがあるわけでもないんだし。

 

「あの・・・スイマセン、ロロのせいでお時間を取ってしまって・・・」

 

 そう言いながら、僕の隣で申し訳なさそうに縮こまるロロちゃん。

 

 余談ではあるけど、ユイちゃんの説得のかいもあってロロちゃんは一人称をロロにしている。

 やっぱり、素が一番だよね。

 

「気にしなくていいよ、紹介しておいた方がいいと思うし」

「それは、そうなんですけど、その・・・ご迷惑をかけてしまいそうで・・・」

「迷惑?」

「はい・・・ロロは、人見知り・・・ですから・・・」

 

 ああ・・・そういうことか。

 それについては、僕が何とかしないと、なんだろうなぁ・・・

 

「・・・じゃあ、今のうちに聞いてもいいかな?」

「あ、はい。なんでしょう?」

「ロロちゃんのギフトネームなんだけど・・・」

「“メオの打楽器奏者”、ですか?」

「うん、それ。メオって、どんな意味なの?」

 

 ずっと、これが気になってた。

 何かの曲の関係で一回は覚えたんだけど・・・全然思い出せない。

 

「ああ、確かに気になりますよね。えっと・・・実は、そのまんま、なんです」

「そのまんま?」

「はい。お兄ちゃんがいた世界の、タイってお国の言葉で・・・猫、という意味です」

 

 ああ・・・確かに、それはそのまんまだなぁ。

 ロロちゃんって、猫族だし。

 

「じゃあ・・・猫の打楽器奏者?」

「そう、ですね・・・皆さんのようなものも、羨ましくはあるんですけど・・・でも、この名前も好きなんです」

「・・・そっか」

 

 なら、いいのかな。

 僕みたいに、持ち主に関わらず決まってるのに比べれば、かなりいいと思う。

 

「・・・あ、それと。もう一個いいかな?」

「・・・?はい、どうぞ」

 

 では、自分の無知さを埋めるとしましょう。

 

「さっき、ガロロさんがロロちゃんの楽器を至高の一品(ベスト・ワン)って言ってたんだけど・・・これってやっぱり、“音楽シリーズ”関連の用語なの?」

「ああ、はい。“音楽シリーズ”の関連の用語ですね」

 

 そう言いながら、ロロちゃんはギフトカードから先ほども見た小さな太鼓を取り出す。

 

「至高の一品・・・音楽シリーズのギフト保持者が、最も思い入れのある楽器・・・最もその効果を発揮できる楽器のことを指します」

「そうなんだ・・・ロロちゃんは、それが?」

 

 僕はロロちゃんが膝の上においている小さな太鼓を見ながらたずねる。

 

「はい。・・・ポロロ君やキャロロお姉ちゃん、パパ・・・家族みんなが私の誕生日に送ってくれた、思い出の品なんです」

 

 そう言いながらロロちゃんが楽器を持ち上げて床に置くと、様々な打楽器に姿を変えていく。

 

「・・・“音楽シリーズ”には、大きく分けて四種類あります」

 

 そう言いながら、細かい説明を始めてくれるロロちゃん。

 僕はこのギフトについてあんまり知らないし、“ノーネーム”の書庫にも今知っていること以上の資料はなかった。

 

「まず、“奇跡の歌い手”。これだけは不変で、音楽シリーズを率いることが出来て・・・あと、必ず担い手は男性になります」

「へぇ・・・歌い手は、それで一つの種類なんだ」

「はい。そして、次に来るのが“指揮者”の“音楽シリーズ”です。これは、歌い手と同様に音楽シリーズを率いることが出来て・・・男性、女性、どちらにもなります」

 

 指揮者・・・今代は、“狂気の指揮者”。

 性別は僕と同じ男だ。

 先代も、男だったはず。

 

「先代・・・魔王が誕生したさいには、最後、歌い手と指揮者による音楽対決があって、それが終わって全ての音楽シリーズが集ったと聞いています」

「・・・となると、今回も・・・?」

「音楽勝負をすることになる、と思います」

 

 ・・・まあ、その時はその時かな。

 なるようになる・・・はず。

 

「そして、次に来るのがロロやラッテンお姉様のような、こう・・・分類を示すものです」

「分類?」

「はい。こう、説明が難しいんですけど・・・打楽器奏者や笛吹き、弦楽奏者に金管楽器奏者、木管楽器奏者なんかもあります。・・・これで分かりますか?」

「うん、すごく分かった」

 

 つまり、楽器をカテゴリしてそのカテゴリを指す場合、ってことなんだ。

 

「なので、ロロは打楽器なら何でも演奏できます。・・・それで、ロロのために準備してくれたのがこの楽器なんです」

「なるほど、ね・・・」

「・・・で、最後の種類が一つの楽器専門の場合です。・・・これは、ユイお姉ちゃんがそうですね」

 

 こっちはすぐに理解できた。

 ユイちゃんの場合はヴァイオリンがそうだし。

 

「で、ですね・・・例えば弦楽奏者の場合、いくつかある中の一つが欠番になります」

「あ、そうなんだ?一個だけ楽器がないの?」

「はい。それで、その代わりに弦楽奏者のギフトがある、ということになります」

「ああ・・・最終的には、全部の楽器で演奏、は出来るんだ」

「はい。一種類一人だけ、ですけど」

 

 よく理解できた・・・

 さて、話を戻して・・・

 

「じゃあ、至高の一品は僕以外、誰にでもあるものなの?」

「え・・・?」

「あ、でも・・・指揮者にもないのかな?指揮棒って楽器、って感じじゃないし・・・」

「あ、あの」

 

 おずおずと、隣からロロちゃんの声が聞こえてくる。

 

「あ、うん。なに?」

「いえ、ですね・・・指揮者も、歌い手も・・・至高の一品はあります、よ?」

「え?」

 

 このとき、僕はかなり間の抜けた声を上げていただろう。

 

「え、でも・・・歌、だよ?」

「はい・・・確かに、歌い手は“音楽シリーズ”の中で唯一、楽器がなくても発動できるギフトです。・・・指揮者も、指揮棒がないと発動できませんから」

 

 あ、指揮者は指揮棒がないとダメなんだ・・・

 なら、指揮者も指揮棒が至高の一品、なんだろうな。

 

「でも、歌い手にも至高の一品は存在するんです。・・・至高の一品でなければ、ないほうがいいですけど、至高の一品であれば、それまでとは比べ物にならない音楽を奏でることが出来るとか・・・」

 

 そのあたりは曖昧なのだろう。

 かなり語尾が濁した感じになっている。

 

「・・・じゃあ、歌い手のためのって、どんなものが・・・」

「・・・マイク、です」

 

 ロロちゃんは、そう言っていた。

 

「マイクが、歌い手にとっての至高の一品となりえるんです」

「マイク、か・・・」

 

 といわれても、これまでに思い入れのあるマイクなんて、なかったんだけど・・・

 

「ああ、奏。“ノーネーム”が到着したぞ」

 

 と、そんな事を考えていたらサラさんがそう伝えてくれて、その後ろから皆が入ってきた。

 

 ・・・まあ、いいや。また時間があるときに考えよう。

 そう決めて、僕は頭の中からマイクのことを追い出した。

 

 ロロちゃんの説明をした後、黒ウサギさんがブラックラビットイーターがあると聞いて、地下の展示会場まで行ったりしたけど・・・まあ、うん。

 そこまで気にするようなことではないだろう。

 




こんな感じになりました。


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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歌い手、逃げ回る

すいません、ものすっごい久しぶりなうえに短いです。


では、本編へどうぞ!


 “ノーネーム”のみんなと別れてから、僕は自室で当日の準備を進めていた。

 他のみんなとは違って楽器を使うわけではないので、軽くのどのケアをしてから本番衣装を整え、楽譜を眺めているだけなんだけど。

 

 口の中でのど飴を転がしながら、ふとロロちゃんとの会話を思い出した。

 

至高の一品(ベスト・ワン)、か・・・」

 

 何度思い返してみても、思い入れのあるマイクなどはない。

 初めて大勢の前で歌ったときにつかったマイクは、こんなものがあっても邪魔なだけだな・・・と鬱陶しく思ったし、それ以降はマイクなどの機器は一切使っていない。

 

「・・・まあ、考えても仕方ないのかな。まだ出会ってないだけかもしれないし」

 

 そう結論付けて、再び楽譜に目を走らせる。

 大抵の曲はその場でどうにかなるんだけど、それでも眺めておいて損にはならない。他に時間をつぶすようなものは持ってないし、ラッテンさんとユイちゃん、ロロちゃんは今頃自分の楽器の調整中だろう。レヴィちゃんはユイちゃんにつきあってるだろうから、特にやることがないのだ。

 

 と、そんな風に考えながら時間を潰していて、少しうとうとしてきたところで・・・建物全体が揺れて、一気に目を覚ます。

 慌てて部屋を出たら、すぐ近くの部屋からも皆が出てくるのが見えた。

 

「これって一体、」

「分からないですけど、襲撃なのかもしれませんね」

 

 ラッテンさんが指差す先には・・・巨大な腕が、壁を貫いて生えてきていた。

 

「・・・あれって、壁についてたオブジェとかじゃないですよね?」

「ユイは、あんなもの見た気がしないな~。レヴィちゃんは?」

「自分も、記憶にないっスね~。と言うか、あんなものは一度見たら忘れないっスよ」

「・・・あんなの、なかった、です」

 

 ロロちゃんが言うってことは、間違いないだろう。

 というか、あんな趣味の悪い物はまずつけないはず。現実逃避したかっただけだし。

 

「・・・とりあえず、外に出ましょうか?」

 

 僕の提案にみんなが頷いたので、念のために剣の舞で剣に乗って外に向かう。

 走って体力を消費するよりは、いざという時にそのまま攻撃に出られた方がいいだろうという考えのもとからきてたんだけど・・・どうやら、それは当たりだったらしい。

 何度も襲われて、そのたびに剣で牽制しながら進んでいく。

 

「・・・これ、どうすればいいんでしょう?」

「多分、魔王の残党ですから殺してしまっても問題はないでしょうけど・・・一々それをするのも面倒ですね。このまま逃げ続けましょう」

 

 ラッテンさんの提案に全員が頷いて、皆で逃げて逃げて逃げ回って・・・巨人が一人もいなくなってから、本部に向かった。

 そこで話を聞いて、ジン君が新しいギフトを受け取って、少しの間何もない時間を過ごしてから・・・再び巨人族の襲撃を受けた。

 それを、ジン君が新しく受け取ったギフト・・・ペストを使って退けて、僕はこれで終わりだと思っていた。だからなのかな?僕は油断していた。

 

 相手が使っていた竪琴、あの音に変なものが混ざっていることに気付きながらも僕は何も考えなかった。

 本来なら、楽器や音楽といったものに対して一番敏感に反応できる僕たち四人は、むしろ一番出遅れた。

 そして・・・ゲームが、開始された。

 

『ギフトゲーム名“SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING”

 

   ・プレイヤー一覧

      ・獣の帯に巻かれた全ての生命体。

      ※但し獣の帯が消失した場合、無期限でゲームを一時中断とする。

 

   ・プレイヤー側敗北条件

      ・なし(死亡も敗北と認めず)

 

   ・プレイヤー側禁止事項

      ・なし

 

   ・プレイヤー側ペナルティ条項

      ・ゲームマスターと交戦した全てのプレイヤーは時間制限を設ける。

      ・時間制限は十日毎にリセットされ繰り返される。

      ・ペナルティは“串刺し刑”“磔刑”“焚刑”からランダムに選出。

      ・解除方法はゲームクリア及び中断された際にのみ適用。

      ※プレイヤーの死亡は解除条件に含まず、永続的にペナルティが課される。

 

   ・ホストマスター側 勝利条件

      ・なし

 

   ・プレイヤー側 勝利条件

     一、ゲームマスター・“魔王ドラキュラ”の殺害。

     二、ゲームマスター・“レティシア=ドラクレア”の殺害。

     三、砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に捧げよ。

     四、玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繫がれた革命指導者の心臓を撃て。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                        “          ”印』

 

 

 それも、おそらくこれまでに経験した中で最も最悪のゲームが。

 




はい、とまあこんな感じになりました。
どうにも、残りの三巻が書けなかったので力技になってしまいました。


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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特別編
歌い手、デートする ニンジャver


再開二作品目は、これで行きます。
ニンジャのニンジャ感が出せているかどうか、とても不安です・・・


では、本編へどうぞ!


「いや~、悪かったっスね。自分の用事に付き合ってもらっちゃって」

「別にいいですよ。僕も急に依頼に参加できなくなって暇してましたから」

 

 そろそろメイドさんと一緒に歩いているという状況にも慣れてきたので、周りのことを気にせずにレヴィちゃんと話をすることが出来ています。

 とはいっても、こんなに可愛い子と一緒に歩いている、というのはいつまでも慣れそうにないんだけど・・・ラッテンさんユイちゃん、黒ウサギさん、春日部さん、久遠さん、レティシアさんと“ノーネーム”にいるのは皆さんきれいな人ばかりなので、意外と困ってたりします。とてもうれしいんですけどね。

 

「むしろ、僕がついていって邪魔になってしまったんじゃないか、ちょっと不安なくらいです」

「それは大丈夫っスよ。確かに戦闘面では一切役に立たなかったっスけど、サポート面では十分に助けてくれたっスから」

「ははは・・・なら、良かったです」

 

 戦闘面では役に立たなかった、というのはちょっと来るものがあったけど、役に立てたならまあいいかな、と納得することにした。

 煌焰の都でペストと戦った時も、最後のには参戦できなかったし、気にしてたらきりがないです。だから気にしない。うん。

 

「どうかしたっスか?落ち込んでるみたいっスけど」

「いえ、ちょっと自分の情けなさに悲しくなっただけなので、大丈夫です・・・」

 

 レヴィちゃんもだけど、僕の周りの人たちはそう言うところに鋭いのもちょっと困るところです。隠しごととか、基本的に出来ませんから。

 

「さて、この後どうしますか?僕はもう何も予定がないんですけど、レヴィちゃんは何かあったりします?」

「自分も何もないっスね。しかし、奏さんが何の用事もないって言うのは珍しいんじゃないっスか?」

「確かにそうですけど、今日は元々演奏の予定だったのが行けなくなったので・・・」

「そう言えば、そうだったっスね」

 

 そう、元々今日は白夜叉さんの紹介で演奏に行く予定だったんだけど・・・向こうの要求に沿う形にするため、ラッテンさんとユイちゃんの二人だけで行ってもらった。

 

「まさか、演奏者もスタッフも、観客まで女性だけに絞るなんて考えているとは・・・」

「普通じゃ思いつかない気がするっスけど、箱庭では有りえる事なのかも知れないっスね。でも、奏さんなら参加していいって言われてたんじゃなかったっスか?」

 

 まあ、ね。最初はいいって言われてましたよ。依頼主のコミュニティのリーダーさんにもあって、そう言う方向で固める予定でした。

 でも、まさか・・・

 

「・・・女装する、なんて思われてたとは思わなかったんですよ・・・」

「確かに、普通は思い付かないっスよね。ちょっと見てみたかった気もするっスけど」

「やめてくださいよ。その場その場に合わせていろんな衣装を着てきましたけど、さすがに女装の経験はないんですから」

「似合うと思うっスよ?女装も」

「そんなのが似合っても、嬉しくないです・・・」

 

 よく言われましたけどね、元の世界でも。企画性を求めてそう言う仕事を持ちかけられたこともありますし。さすがに無理だと思って全部断らせていただきましたけど。

 

「まあなんにしても、そういうわけでさっきのが終わってからはプレイヤーとしても歌い手としても暇になってしまったわけです。そして、突発的だったので何の予定もなく、かと言って何もしないのも日本出身としては落ち着かなくて・・・」

「確かに、何かしていたいという欲求は高い国なのかもしれないっスね。ちなみに、自分ももう今日は暇っス」

 

 それはちょうどよかったです。

 

「じゃあ、このままどこかに行きませんか?あんまりレヴィちゃんと二人で話す機会とかないですし」

「お、いいっスね。自分と奏さんのデートっスか」

「あー・・・まあ、そうなります、ね」

 

 言われてみれば、確かにそうとも取れますよね、これ。全然考えが及ばなかったです。

 

「勿論、僕なんかが相手でよければ、ですけど」

「大歓迎っスよ。立場的には主従なので、自分の方が相手でもいいのかって感じっスけど」

「レヴィちゃんみたいな可愛い子が相手なら、僕も大歓迎です」

「さらっと言うっスねぇ・・・意外とたらしの才能もあるっスか?」

「・・・・・・」

 

 言ってから、気づきました。そして、大分恥ずかしいことを言ったなぁ、と後悔しています。

 たまにこうなるんですよね・・・ステージの上での自分と混ざると言いますか・・・あそこで作っているキャラが表に出てきてしまうと言いますか・・・もう諦めてはいますけど、困ったものです。

 

「かと思ったら、顔を赤くして黙っちゃったっスね。無自覚だったんスか?」

「はい、無自覚でした・・・というよりは、言ってから気付いて、そこを指摘されてもうダメだ・・・って感じでして」

「あらら。それは悪いことをしたっスね」

 

 僕自身が悪いので、何とも言えないところです。

 そんな会話をしてから、二人で並んで歩き始めます。特に目的があるわけでもないので、まずは大通りに出る方向で。

 

「そういえば奏さんは箱庭に来る前は歌手として活動してたんスよね?」

「一応、そうなりますね。自分でいうのもなんですけど、結構人気もありました」

「だったら彼女とか、そうでなくとも告白されたことくらいはあったりするんスか?」

「そう、ですね・・・」

 

 ちょっと思い出したくない部類なんですけど、いつかは乗り越えないといけないことではあるんですよね・・・

 いい機会ですし・・・よし。

 

「彼女はいなかったですけど、確かに告白されたことはありますよ。バレンタインなんかも、山のようにチョコが届きました」

「お、自慢・・・ってわけでもないみたいっスね」

 

 僕の表情を見てくれたんだろう。この暗い顔を見れば、自慢の類ではないことはすぐに理解してもらえるはず。

 

「まあ、そうなんですよね・・・色々と、ありまして」

「えっと・・・具体的には、どんな感じっスか?」

「告白はしてきた人の多くは、ヤンデレって言うんでしたっけ?僕を独占したいならまだいいですけど、家から出ないで一生一緒にとか、食事も排せつも全部やるからただ歌だけ歌っていてほしいとか、まあそう言うのがかなり・・・」

「・・・・・・」

 

 レヴィちゃんが絶句してる。これってかなり珍しいんじゃないかな?

 ちなみにだけど、今あげたのもまだマシな方だったりします。序の口ですよ、序の口。

 

「バレンタインに届いたチョコは、誰からなのか調べて仲のいい知り合いからのものは安心して食べれましたね。その他のものは、ちょっと危なかったので失礼な話ですけど食べずに捨てる、それも事務所のスタッフがそのことが他に漏れないように全力で、という感じでした」

「そこまでしないとダメって、一体どんなのっスか・・・」

「・・・初めてファンから届いたものは、食べやすいようにと思って割ったら髪の毛が出てきました」

「・・・・・・・・・」

 

 事務所で食べる、という手段をとってよかったと心から思います。他の人がいるから齧りつかなかったわけで、一人だったら普通にパクリ、と・・・

 ・・・ちょっと寒気が・・・

 

「それからは、ファンから送られてきたものはかなり注意して扱うことにしました。結果、チョコだけでも色々なものが・・・他の部分の(・・・・・)毛が入っていたり」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 これは同封されていた手紙からの推測でしかないのですけど、あの字と文章の異常さから考えて本気であったと思います。でも、まさかあんなところの毛を入れてくるなんて・・・

 

「一番ひいたのは、血をチョコにとかしこんでいたものですね。いえ、さすがにそれが人の血であったのかは調べなかったんですけど、何かしらの血であったのは確かみたいで・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・えっと、なんかごめんなさいっス」

「大丈夫ですよ。いつか乗り越えないといけないことですし、気にしてないですから・・・」

「・・・自分やユイさん、ラッテンさんはそういうねじまがった方向の行為は向けないっスから、安心してほしいっス」

「そんな様子がないから、僕は今こうしていられるんです。本当にありがとうございます」

 

 それに、あの事態は“音楽シリーズ”のもつ中毒性によるもの。それはギフトを持っている人には通じないらしいから、この箱庭では気にしなくていいと思う。そう言う意味では、僕はこの箱庭に来るべきだったのかもしれない。

 

「それにしても、なんとも壮絶な人生を送ってたっスねぇ・・・」

「そうはいっても、そこまで細かく気にすることではないですよ。むしろ、僕と一緒に召喚された三人の方が大変な人生を送っていたかもです」

 

 たまに、そう言う部分が漏れ出ているきがする。妙にその辺りのことが敏感になっちゃったんだけど。

 で、特に趣味がない僕とレヴィちゃんの組み合わせだったからか、行く場所も思いつかなくて・・・

 

「お、常連さんいらっしゃい!なんですか?今日はデートですか?」

「あはは・・・一応、そう言うことになるんですかね・・・ご無沙汰してます、キャロロさん」

 

 よく行く喫茶店に行って、軽食を取ることに。

 こう言う時、慣れていないとこうなるんですね・・・

 

「それはそれは!奏さんのファンの方たちに知られたら大変なことになりそうですね!ただでさえ、一緒に演奏している人達も女性ばかりですから」

「そこまで僕のファンな人っているんですかね?」

「当然、いるにきまってるじゃないですか!喫茶店の中のステージで申し訳ないんですけど、また依頼させていただきますね!」

「はい、ご依頼お待ちしております」

 

 と、前にもここで小さなステージをやった関係で仲良くなったキャロロさんと話をしてから注文して、それが来るのを待つことに。

 

「なんだかんだ、奏さんって人脈広いっスよねぇ・・・」

「コミュニティで引き受けている仕事の都合上、依頼先の人たちと繋がりが出来ますから。また依頼してもらうためにも、良好な関係を築いておきたいですし」

「納得っス。さすがは、あの中で唯一問題児じゃないだけのことはあるっスね」

「それは、僕がどうこうではなくてあの三人の方に問題があると思います」

「確かにそうっスね。あの三人の問題児っぷりには、見習いたいものがあるっス」

「やめてくださいよ、本当に・・・」

 

 これ以上問題児が増えると、僕と黒ウサギさんの胃がかなりピンチになります・・・うぅ、思い出しただけでもいたくなってきた・・・

 

「ほらほら、奏さん。注文したものが届いたっスよ」

「そうですね。じゃあ、食べましょうか」

 

 そう言って、僕とレヴィちゃんはおしゃべりをしながら食事を始めました。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

「結構、遊びましたね・・・」

「そうっスねぇ・・・すっかり暗くなっちゃったっス」

 

 あの後、もう何をするとか気にしないで色々と遊んでいたらすっかり暗くなってしまいました。そろそろ帰る時間かな・・・

 

「あ、そうだ。最後に一個お願いしてもいいですか?」

「何か自分に出来ることっスか?」

「はい。・・・僕でも使えるような武器を、みつくろってほしいんです」

「武器・・・っスか」

 

 この瞬間、レヴィちゃんの表情が一気に暗くなりました。

 

「ちなみに、目的を聞いてもいいっスか?」

「自衛のために、ですね。相手によっては、僕のギフトじゃ太刀打ちできない可能性もありますので」

「ふむ・・・それなら、まあいいっスかね。行きましょう、奏さん」

 

 ダメかな、とも覚悟してたんだけど・・・僕にも使えるものを選んでくれるみたいだ。

 

「えっと、何で聞いたんですか?」

「目的によっては、持つ方が危険だと思ったからっス。“戦う力が欲しい”とかだったら、断る気だったんスよ」

「・・・正直、その力については諦めてますから。全体での僕の役目が何なのかは、理解してるつもりです」

「ん、正しい判断っス」

 

 僕に出来ること、という範囲でなら本当に広く取れる。“音楽シリーズ”のギフトは、本当に幅広く対応できるから。でも・・・攻撃的なことには、特化できない。

 一番特化して動くことが出来るのは、後方支援。味方の力の底上げとか、相手の力を落とすとか、そういう分野。

 勿論、剣の舞みたいな攻撃側で働く曲もあるんだけど・・・僕の性格のせいか、サポート系に比べると強くはならない訳なのです。

 

「すいませんね、こんな情けない人が主で」

「いえいえ、ちゃんと自分の得手不得手を理解している人は情けなくないっスよ。それに、主を守るのはニンジャの仕事っスから。・・・奏さんの事は、自分が守るっスよ」

 

 手を後ろに組んで、少し振り返りながらそういてくれた姿は・・・

 

「・・・よろしくお願いしますね、僕のニンジャさん。期待してますね」

「期待されたら、頑張るしかないっスね」

 

 とても、とても美しかった。

 




こんな感じになりました。

では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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ハープナーを撃て
ハープナー、登場する


書けてたので投稿します。

では、本編へどうぞ!


「えっと・・・本当にどうしましょうか?僕、何が何だか出状況を把握しきれていないんですけど」

「そうですね・・・とりあえず、このまま逃げ回りましょうか」

「・・・出来ることなら、僕たちに出来ることをしたいんですけど」

「ご主人様ならそう言うとは思いましたが、これを仕掛けて来た側に音楽シリーズのギフト持ちがいた場合を考えてください。その時に私たちが動けない、ではどうなることか・・・」

 

 ラッテンさんの言ってることは分かるし、自分のギフトだからそれが本当にあり得るということもよく分かる。でも・・・やっぱり、なんだかいやだ。

 三人いれば何とかなるかな、と思っていこうとして・・・

 

「お兄さん、ユイも同じ気持ちだけど、ここは耐えよう?」

「そ、そう、です・・・ここは、もうちょっと我慢して・・・」

 

 でも、今演奏してくれてる二人の・・・より正確には、ロロちゃんがそう言ってくれたことで、どうにかとどまれた。アンダーウッドでここまで暴れられて一番つらいのはロロちゃんのはずなのに、頑張ってくれてるんだ。僕が勝手に動いてどうする。

 

「・・・スイマセン、分かりました。ひとまず、このまま逃げの一手で行きましょう。竪琴の音も聞こえてきますし、何が起こるか分かりませんから」

「はい、オッケーですご主人様」

「でも、こっちに何か向かってきたら、どうしましょうか・・・?」

「その時は、仕方ないから・・・ッ!?」

 

「--------------GYEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEEEEEYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaa!!!」

 

 つい反射的に、この場にいる全員が両手を使って耳をふさいでしまう。空を飛んでいた分音源から近かったことと、全員に共通して耳がよかったことからの反射的な行動。そして・・・両手を使ったことで、ユイちゃんとロロちゃんの演奏が、止まる。

 

「ッ・・・――――」

 

 とっさに両手で耳をふさいだまま剣の舞を歌い直して、皆を回収する。僕は楽器を演奏するわけじゃないから、両手が空いてなくても演奏できるので。

 

「ご、ごめんねお兄さん。つい・・・」

「す、すいません、お兄ちゃん・・・」

『大丈夫だったから、気にしないでください。耳が戻るまでは、このままで大丈夫ですから』

 

 喋れないので携帯に打ち込んで見せて、周りを確認します。まず上を見ると、大きな龍が。

 ・・・・・・え、龍?

 

「・・・ご主人様、これ割と本気でマズイかもしれません」

「ラッテンちゃん、あれってそんなに危ない物なの?」

「・・・純血の龍種。最強種の一角よ、あれ」

 

 えっと・・・つまり、白夜叉さんみたいなもの、ってことなんでしょうか?かなりピンチだったり?そう考えながら上を見ると、龍の鱗がはがれて、放たれてきます。それらは、地面に落ちるまでの間に姿を変えて・・・蛇、蜥蜴、サソリ等になって、人を襲い始める。

 僕らの上からも降ってくるので避けながら進みますけど、当然よけきれないものもあるわけでして。で、そういったものは・・・

 

「・・・レヴィお姉ちゃん、凄いですね・・・」

「ええ。何せ自分、ニンジャっすからね」

「ニンジャ凄いわね・・・」

「すごいでしょう?」

 

 いや、本当にすごい。下の戦闘状況を見る限り決して弱くない・・・むしろ強いはずの相手なのに、一瞬でバラバラになってましたから。そして、僕たちに破片の一つも、血の一滴もかけない気配りまで。

 

「・・・レヴィちゃんって、何者なんですか?」

 

 ラッテンさんが演奏を交代してくれたので、そう尋ねてみた。

 

「そうッすね・・・今は、奏さんに仕えるニンジャッすよ?全力でみなさんをお守りするッす」

「・・・期待、させてもらいますね」

「・・・期待されちゃったら、頑張るしかないッすねぇ」

 

 そう言った次の瞬間には、周りにいた魔物がみんな細切れになる。今更かもしれないですけど、どこまで強いんですか?

 

審判権限(ジャッジマスター)の発動が受理されました!只今から“SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING”は一時休戦し、審判決議を執り行います!プレイヤー側、ホスト側はともに交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください!繰り返し

 

「--------------GYEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEEEEEYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaa!!!」

 

 黒ウサギさんの声を遮って雄たけびを上げた龍は、一度地上に急接近して、再び空に戻る。

 

「な、何・・・!?」

「・・・審判権限が受理されたから、引き揚げたのよ。多分、ただそれだけ」

「それだけのことで、こんな・・・」

 

 龍から離れた位置に降りた僕たちには被害はなかったけど、ただそれだけのことで多くの被害が出ている。魔物はどんどん回収されていき・・・それと一緒に、人も回収されていく。

 

「・・・ッ、だ、ダメ!」

「ロロちゃん!?」

 

 そんな光景を見ていてもう我慢が出来なくなったのか、ロロちゃんが演奏しながら剣に乗って飛び出していく。手の届く子供を乗せて・・・でも、戻ってはこれそうにない。

 やっぱり、近づいたらもう戻ってくるのは難しいよね・・・もちろん、ロロちゃんをこのままにしておくわけにもいかないし。

 

「・・・僕、ロロちゃんのところに行ってきますね」

「はぁ・・・ご主人様って、なんだかんだ思い切りがいいですよね・・・ダメです、危険すぎます」

「分かってますけど、このままにしておくわけにはいきませんから。・・・ガロロさんにロロちゃんを任されたのは、僕なんです」

 

 どこに音楽シリーズがいるか分からないから二人は残ってくださいと言いつつ、僕は歌いながら剣とともに飛び、その先に有るお城を目指します。

 もちろん、回収できる限りの人を回収しながら、ですけど。逃げることも逃がすことも出来ないとはいえ、一緒に行動していた方が安全なのは間違いないですら。

 そのほとんどが子供で、泣いてるんだから・・・さ。

 

「全く・・・いい人ッすね、奏さんは」

「・・・・・・!?」

 

 歌うのをやめないで驚きの表情を向けると、声のした方には予想通りレヴィちゃんがいた。

 

「自分、音楽シリーズのギフト持ちじゃないっすから。奏さんやロロさんを守ってほしいと、二人に言われてきたッすよ」

 

 ・・・確かに、レヴィちゃんはどっちにいても問題がない人だ。むしろ、一緒に来てくれると心強い。

 それに、どうせもう戻れないんだからいっかと言う投げやりの考えもあって。

 

 さて、無事に終わるといいなぁ・・・

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

「殿下―!おじ様―!ゲームが休戦になったけど、続きはどうするのー!?」

 

 階段を駆け上がってきたリンは、なんだかとてもうるさかった。失礼な言い方だとは思うけど、他の表現がないんだもの。

 

「・・・・・・殿下―!!殿下殿下でんかでんか、で・ん・かー!!!」

 

 幼さゆえのきれいな声が回廊にこだまして、そしてその本人が拗ねたように唇を尖らせて頬を膨らませているものだから・・・微笑ましくって、つい笑いが漏れてしまったわ。

 

「リン。殿下なら先ほど城下町の様子を見に行ったわよ」

 

 だから、月光を浴びて竪琴を演奏しながら、そう伝える。

 

「そっか―。じゃあ私とアウラさんの二人でお留守番?」

「一応私は仕事をしているのだけど、そんなものよ。・・・とはいえ、私たちは主催者じゃないから休戦の誓いを守る義務もない。巨人族を率いて戦う指示も出るでしょうし、私はその時前線にでる必要があるから、今は大人しく英気を養っておきましょう」

 

 多分、今私の眼もとは笑っているのだと思う。今回手に入れた黄金の竪琴は、私の手にしっくりきた。ギフトを宿しているとかそんなことは関係なく、相性がいいのよね。

 

「それで、どう?うまく行きそうですか?」

「そうね・・・多分、大丈夫なんじゃないかしら?妙に自信が湧いてくるのよね」

「へえ、それはいいことだな」

 

 と、そこで殿下の声がした。声の方を見ると、殿下とグライアが来るところだった。帰って来たのね。

 

「アウラ。リン。ゲームが休戦になったのは聞いたよな?」

「勿論ですわ」

「なら話が早い。アウラとリンはころ合いを見て巨人族とともに“アンダーウッド”を攻め落とす。タイミングは敵の主力が分散されるのを見計らって俺が知らせる」

「分かりましたわ」

「頼んだぞ。・・・相手側に音楽シリーズのギフト持ちがいる以上、こちらも音楽シリーズをぶつけるしかない」

 

 そんなこと、自分のギフトがそれだけのものであることは、ちゃんと理解しているわ。だから、

 

「勿論です。音楽シリーズ“竪琴(ハープ)”のギフト保持者、“魔女のハープナー”として、全力を尽くさせていただきます」

 

 

 

♫♫♫

 

 

 

 殿下達の立てた作戦は、うまくいくはずであった。

 巨人族に対して音楽を奏でるにしても、敵側の音楽より味方の物の方がいいに決まっている。その力を持ちいれば、まず押し負けることはないだろうと判断したのだ。

 ただ一つ誤算があるとすれば・・・それは、城の中に三人の音楽シリーズがいたことだろう。

 一人は、殿下達の勢力であるアウラ。だから、これは問題ではない。問題なのは、残りの二人。

 ロロロ=ガンダックと天歌奏。

 貴重なギフト保持者だからこそ、何かあった時に困るからこそ、二乗に残るはずと判断されたギフト保持者は、城の中に入り込んでいる。

 このことがどれだけ被害を出すことが出来るか・・・それ次第で、参加者たちが勝利できるかが変わるだろう。

 




こんな感じになりました。
では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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打楽器奏者、抱きしめられる

だいぶんと長い間更新できず、申し訳ありません・・・他の作品にかまけていました。
これから先、この作品の更新頻度は下がると思いますが、それでも停止したり削除したりはしないので、どうかよろしくお願いします・・・


では、本編へどうぞ!


「お姉ちゃん、強いねー!」

「うん、そうだね。あのニンジャのお姉ちゃん、すっごく強いよね」

 

 結局ロロちゃんと合流できずにお城の中に入ってしまった僕とレヴィちゃん、それに途中で引き寄せることのできた子供たちと一緒に移動しています。それで、お城の中にはよくわからない魔物みたいなのがいたんですけど・・・どれだけ同時に現れても、全てレヴィちゃんが一瞬でバラバラにしてしまいます。いや本当に強すぎませんか?

 

「お兄ちゃんは、男の子なのに何もしないのー?」

「男ってのはなー、女を守らないといけないんだぞ?」

「うん、そうだよね。本当に情けないよね・・・」

 

 一応僕も剣をぶつけたりしたんですけど、硬すぎて剣が砕けました。なんであんなに簡単に切り刻んでいるのでしょうか、レヴィちゃんは・・・

 まあそういうわけで、僕は完全に役立たずと化しています。情けないにもほどがある・・・

 

「はぁ・・・あ、レヴィちゃん。まだ距離はありますけど、だいぶ進んだところに同じのが十匹くらい。それと・・・人が、何人かいます」

「人のほうの人数はわかるっスか?」

「・・・すいません、動いていないので正確には・・・」

 

 というわけで、感知役に徹することにしました。音の響きを操るギフトは、こういう使い方もできます。・・・レヴィちゃんは普通に気配でわかるそうなので、必要ないかもしれませんが。

 

「まあ何にしても、急いだほうが良さそうっスね」

「はい、その方針で」

 

 話し合った結果『一人でも多く助ける』という方針に決まったので、どうするかは話し合わなくてもすぐに決まる。僕はレヴィちゃんの言葉に一つ頷いてから足を痛めている子を背負って、レヴィちゃんの後に続いて走る。周りにいるのは子供ばかりだけど、さすがはみんな獣人とか何かしらの種族だからなのか、僕が本気で走ったくらいは簡単についてくる。

 ・・・これ、レヴィちゃん僕に合わせてくれてるよね・・・そろそろ本気で情けなくなってきました。これから先、空き時間ができたら筋トレとか体力作りとかしよう・・・。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

「みん、な・・・大丈、夫?」

 

 今冬獣夏草からみんなで逃げて隠れてるんですけど・・・とりあえず、大丈夫そうです。

 でも、どうしましょう・・・反射的に飛び出しちゃいましたけど、ロロには何もできそうにありません・・・さすがにドラム状態にすると身動きが取れなくなるのでタンバリンを持ってはいますけど、もう既に他の音楽シリーズの影響を受けているのか、私の演奏聞いてくれませんし・・・勝手に持ってきちゃったお兄ちゃんの多鋭剣も十本くらい折っちゃって、もうあと二本だけですし・・・

 

「・・・ロロ、何もできてない・・・」

「だいじょーぶ?お姉ちゃん」

「・・・うん、大丈夫」

 

 でも、このまま落ち込んでるわけにもいかないんですよね・・・ロロは耳を無理矢理に立たせて、心配してくれた女の子に笑顔を、向けます。勝手に向かって、それなのに彼らを不安にしちゃったら・・・本当に、お兄ちゃんたちに顔向けできません。年はそんなに変わらないですけど、まだプレイヤーとしての経験はない子たちばかりですし・・・ッ!?

 

「・・・・・・来た」

 

 あの特徴的な歩く音。間違いなく、近づいてきてます・・・うぅ・・・

 

「・・・みんな、逃げるよ・・・」

 

 小さく声をかけると、みんな理解してくれます。そのまま音をたてないように、急いで移動を始めて・・・でも、気付かれました。もう、こっちに向かってます・・・・

 

「・・・・・・・・・」

 

 他の手段、ないですよね・・・

 

「・・・そのまま、まっすぐ走って。そっちに行けば人がいるから」

 

 一瞬でもいいから、時間を・・・どうにかして、この子たちだけでも。

 幸いにも、子供たちは素直にいうことを聞いてくれました。年下相手なら、ちゃんと喋れるし強くも言えるんですよね・・・せめてお兄ちゃんたちとは、ちゃんと話せるようになりたいなぁ・・・

 

「そのため・・・にも、ここは乗り越えないと」

 

 振り返ると、もうそこには何匹かの冬獣夏草が。そして、手元にあるのはタンバリンと多鋭剣が二本。楽器は変えれますけど演奏しても通じませんし、多鋭剣は刺さらないですし・・・あ、もう目の前に触手が。

 

「・・・逃げ、ましょう」

 

 それ以外に方法がないです。逃げます。音楽シリーズは希少なギフトですし『音楽はすべての平等である』という考えのおかげで相手の格に関係なく効果を出してくれますけど・・・他の演奏に聞き込んでたら、効果がありません。さらに言うなら、身体能力にも何の影響もありません。

 それでも、一応猫族なので見てからでも、十分に避けられます。・・・多少、ヒヤッとはしますけど。

 

「・・・剣の、舞」

 

 それでも体力はそんなになので・・・多鋭剣に乗って、操って動きます。タンバリン一つでも十分な演奏になるのが、音楽シリーズのいいところです・・・。それに、ロロの音楽シリーズもこういう場でも使えるのが助かります。

 一番得意な・・・というよりも思い入れのある楽器はドラム一式ですけど、ロロのギフトは“ドラマー”じゃなくて、“打楽器奏者”だったのも運が良かったです。ジャンルである以上は、打楽器の全てが対象になりますから。・・・動きながらでも、十分に演奏が・・・でき、ます。

 ・・・剣に乗って飛び回りながら、タンバリンを叩いている絵については、もう気にしないことにします。

 

「・・・このまま、いければ・・・」

 

 今の数なら、まだ何とかよけきれます。もうしばらくしたら逃げましょう。それでどうにか・・・

 

「・・・ダメッ!」

 

 と、そこで一匹があの子たちのほうに向かおうとしたので、反射的にその前に向かってしまいます。そうなれば当然、蔦がロロのほうに・・・

 

「あ・・・」

 

 衝撃を覚悟して目をつむりましたけど・・・衝撃は、来ませんでした。その代わりに、いくつか音が聞こえます。

 まず聞こえてきたのは、金属が砕ける音。自分が乗っているのとは別の、日本目を盾にしたのですが・・・やはり、駄目だったみたい、です。

 そして、次に聞こえてきたのは・・・四つの、音。

 まず一つ目に、誰かが走ってくる音。誰かがこっちに向かってくるようでした。

 二つ目に、何かが飛んでくる、ヒュンというような音。それも、いくつも飛んでくるように、連続して。

 三つ目に、一つ目と同じ音が、連続して。同じような金属が、砕かれていく音。

 最後に聞こえてきたのは・・・ううん、違います。最後に気付くことができたのは、演奏する音。ロロのタンバリンと同じ曲を、歌っている(・・・・・)

 

「これ、って・・・」

「口閉じて!」

 

 反射的に口を閉じると、そのまま誰かに抱えられて転がります。誰か、というか、この匂い・・・

 

「あっ、ツー・・・こういうのって、あんまりうまくいかないんだね・・・」

「お兄、ちゃん・・・?」

「あ、うん・・・ごめんね、ギリギリになっちゃった上に、かっこ付かなくて」

 

 イタタ・・・と背中を気にしながら立ち上がっているのは、やっぱりお兄ちゃんで・・・なんでここに、は考えるまでもないことで・・・

 

「ロ、ロロの方こそ、ごめん、なさい・・・」

「・・・え?」

「ロロが来たせいで、危険なところに・・・」

「ああ・・・いいよ、そんなことは気にしなくて。僕は元々ここに来たかったんだし、何より来てみたら向う側にも音楽シリーズのギフト保持者はいるみたいだし、結果としては来て正解だったと思うから」

 

 ・・・お兄ちゃん、本気で言ってる上に、事実そうであるのを混ぜてくるのは卑怯だと思います・・・何も言い返せなく・・・

 はぁ・・・多分、多鋭剣を駄目にしちゃったことも、言っても無駄なんですよね・・・天然でこんなことをしてるなら、元の世界にも恋人とかがいたのかもしれない思うと・・・ちょっと、もやもやします。

 

「あっ、そういえば冬獣夏草は、」

「あ、そのことは気にしないで続けてくれていいっスよ?もう全部終わってるっスから」

「・・・・・・え?」

 

 見てみると、確かに言われたとおり・・・全部、バラバラになって、ます。え?レヴィお姉ちゃん、強すぎませんか・・・?

 

「まあ見ての通りっスし、子供たちも自分一人いれば簡単に守れるっス。そういうわけなんで、どうぞ存分に抱きしめられててくださいっス」

「・・・ふぇっ!?」

 

 言われてやっと、状況をちゃんと理解しました。ロロ、ずっとお兄ちゃんに・・・!?

 

「あ・・・ごめんね、ロロちゃん。気付かなくて」

「い、いえ、そんなことは・・・」

「おやおや、これは・・・面白くなってきたっスねぇ・・・」

 

 レヴィお姉ちゃん、絶対に分かってやってるよぉ・・・

 




はい、こんな感じになりました。以下、宣伝です



現在、少々異色なコラボに参加させていただいております。といっても、自分は『キャラを登場させていただいている』という程度なので、本当に何もしていないのですが。さらに言うなら、もうすでに知っている方もいらっしゃるかもしれません。


まず一作目は、かっこうむしさんがやってくださっている超コラボの『問題児たちが異世界から来るそうですよ?箱庭超コラボ〜Chaos〜 』というものです。一応分類としては学園もので、登場しているキャラたちも皆、ギフトなんて持っていません。ただ、参加しているのはこのサイトで問題児シリーズの二次創作を投稿している方々のオリキャラで、あの濃すぎるくらいに濃いキャラたちが学園ものをやっています。まああのキャラ達ですし、当然のように普通の学園ものにはならないのですが。まさしくChaosです。とても笑えて面白いですよ。
この作品から奏が参加しています。一人の作者さんからは三人までで、自分は後二つやっている問題児二次のオリ主をそれぞれ出していただいているので、登場するのは奏くらいです。


続いて二作目は、コラボマスターことタジャドル・隼さんがやってくださっている究極コラボの『ロストボックス ~問題児の集結~ 』というものです。こちらはギフトもありバトルもありの作品となっています。
箱庭が消滅し、それまでの記憶を失ったキャラたちが暴走していたり、暴走していないキャラたちが笑える絡みをしていたりと、続きの気になる作品です。なんだか何か知っていそうな、黒幕っぽい人も登場してきているので、そりゃもう本当に。
この作品からは、現時点ではまだ誰も登場していませんが、奏は登場する予定の用です。可能性はかなり低いと思いますが、隼さんの気分次第ではさらに登場キャラが増えている可能性も。オリキャラでメインキャラレベルであれば主人公以外にも出ているところはありますので。この条件に合うのは後はロロちゃんくらいなんですけど。
他に、原作キャラでも原作から離れていれば可能性があるとのことなので、ラッテンも可能性があるかもしれません。

以上、宣伝でした。


とまあ、そんな感じとなっています。完全にお任せ状態のコラボです。いやお前もやれって話ですよね、ハイ。・・・いや本当にどうしようもないですね。


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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歌い手、何も言えない

久しぶりの投稿なのに、相変わらず短いです


では、本編へどうぞ!


「ハァ!?あのバカ()があの城に乗り込んで行っただぁ!?」

 

 ご主人様が勝手に城に行ったことを伝えると、まあ予想通りの反応が返ってきた。そうなるわよね・・・私だってそう言う反応するもの。

 

「一応、レヴィちゃんについて行ってもらったから大丈夫だとは思うんだけど・・・」

「レヴィさんに・・・でも、ロロロさんも一緒に行ったのでしょう?さらに子供たちもいることを考えると、さすがに難しいんじゃあ・・・」

「う~ん・・・それはたぶん、なんとでもなると思うよ?」

 

 と、ユイのその言葉で十六夜と黒ウサギ、飛鳥の三人が首を傾げる。そう言えば、この三人にしてみればレヴィってユイと一緒にいたから連れ帰った、その流れで(ノリともいう)隷属した護衛役のニンジャ、だったわね・・・

 

「まあ、それはいいのよ。事実ご主人様は大丈夫だろうし、もし何かあったら私やユイにはすぐに分るもの」

「ああ・・・“共鳴”のギフトか」

「ええ。死ぬまで行かなくても、重症だったり何かあれば“共鳴”の効果は薄まる。万が一に死んだのなら、私はユイから離れられなくなるわね」

「・・・最悪の事態が起こったかどうかについては、それで判断がつくってわけだな」

 

 冷静な判断ね、これは。さすがは十六夜だわ。

 まあ、それに・・・

 

「相手に音楽シリーズのギフトも違いない、とも限らないもの。歌い手と打楽器奏者の二人が向こうに行ったのは、必ずしも間違いではないわ」

「確かに・・・そう言う意味合いでは、四人いる“音楽シリーズ”が二人ずつになったのはいいのかもな」

 

 ・・・そう、ね。でも・・・

 

「ろくな戦闘能力のない二人が城に行って、戦う手段のある私たちが地上(こっち)に残った。これがよかったと・・・本当に言えるのかしら?」

 

 そこだけが、不安要素なのよね。

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

「さ、どんどん行くっスよー!」

 

 そう言って飛び出して、とても身軽に跳び回るレヴィちゃん。さすがに動きづらくなったのか、服装が変わってますけど・・・それにしたってすごすぎます。いや強いことは知ってたんですけど、まさか。

 

「まさか、跳び回りながら一瞬で仕留めていく、なんてことが出来るなんてなぁ・・・」

「レヴィお姉ちゃんが冬獣夏草の前、に一瞬、立ってから切り刻まれるまで・・・時間が空いて、ます」

「どうなってるんだろうねぇ・・・」

 

 まあ、うん。そう言う状況なわけで。

 ロロちゃんに聞いたところ、あの相手の核のような部分は鉄塊ぐらいの硬さがあるそうなのに、どんどん切り刻まれていって、本気で相手がかわいそうに見えてくるレベルです。

 

「普段ふざけてたり弄ってきたり、そんな面が多かったからなのかな・・・僕のニンジャさんが、こんなに強いとは思ってもなかったよ・・・」

「ロロも、予想外です・・・」

「ねえ、勝手なイメージなのかもしれないけどさ。猫って身軽じゃない?」

「です、ね・・・」

「猫族の人も、あんなことが出来たりするの?」

 

 勿論ながら、そう言って指さすのはレヴィちゃんです。もう彼女一人いれば全部解決するんじゃないか、と思ってしまうレベルです。

 

「無理、です・・・身軽に跳び回って戦う人がいなかったわけじゃない、ですけど・・・あそこまでは、さすが、に・・・」

「だよねぇ・・・」

 

 うん、やっぱり箱庭から見てもレヴィちゃんは強いそうです。あれですね、そろそろ本気で僕、“ノーネーム”の中で肩身が狭いです。

 

「お、新しいのがいるッスね」

「新しいの、ですか?」

「ええ、これまでに見たのとは全然違う見た目ッスよ。あれは・・・カボチャ?」

 

 カボチャ、カボチャですか・・・あの相手ってみんな植物がベースの中にあるみたいなんですけど、それがカボチャよりとかそう言うことでしょうか?

 

「・・・他には、何かありますか?」

「そうっスね・・・こう、カボチャの頭に目と口っぽい穴が開いてて、体の部分は襤褸切れをマント見たくしてるっスよ」

「ふむふむ・・・」

 

 なんででしょうか、どこかで見たことがある気がします。それにしても、どこでなのか・・・

 

「まる、で・・・ジャック・オー・ランタンみたいです、ね・・・・ハロウィン、の」

 

 と、ロロちゃんのその一言で思い出した。そうだ、ハロウィンのジャック・オー・ランタン。春日部さんが出場してたゲームの決勝戦での相手の子が連れてたのが、そのひとだったはず・・・と、思い出したときにはもうレヴィちゃんは走り出してた。

 

「ちょ、ちょっとレヴィちゃん!ストップ!その人、敵じゃないです!!」

 

 慌てて呼び止めつつ、レヴィちゃんの向かった方向に走る。本当に慌ててたから全力疾走して、完全に息を切らした状態で追いついた時には・・・

 

「ん?どうしたんスか、奏さん?自分としては急に呼び止められたので、ギリギリ止まったところなんスけど」

「い、いえ・・・ちょっと、思い出し、まして・・・」

 

 膝に手をついて、肩で息をして、それでも体が疲れ切って悲鳴を上げていて耐えられなかったので、崩れるように座り込んでから水樹の幹で水分補給をして、ようやくレヴィちゃんの方を見れました。あと、

 

「どうもお久しぶりです、アーシャさん」

 

 レヴィちゃんの足で押さえつけられて首筋にクナイを当てられているアーシャさんと。

 

「それに、ジャックさんも。どうもお久しぶりです」

「ヤホホ・・・これはこれは奏さん。お久しぶりですね」

 

 と、レヴィちゃんに逆の手で押さえつけられつつ、レヴィちゃんのくわえた糸で全身が捉えられている、次の瞬間にでも切り刻める形になっているジャックさんに会いました。

 

 レヴィちゃん・・・貴女、本当にどれだけ強いんですか・・・何も言えませんよ、ここまでなると。

 




こんな感じになりました。ニンジャ最強説が浮上、かもしれません。

では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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笛吹き、呆れる

うーん、どうしてこうなった・・・


では、本編へどうぞ!


「えーそれでは此れより、ギフトゲーム“SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING”の攻略会議を行うのです!他コミュニティからは今後の方針を委任状という形で受け取っておりますので、委任されたサラ様とキャロロ様は責任ある発言を心がけてくださいな。」

「分かった。」

「はいはーい!」

 

 と、こんな感じの流れで始まった攻略会議。私は面倒だから参加しないつもりだったのに『音楽シリーズ』ってだけで巻き込まれるし、本当にさっさと終わらないかしら・・・気付いたらあのウェイトレス弄る流れに入ってるし。相変わらずね、この問題児たちは。ご主人様にはもう少しアクティブになってほしいとは思うけど、あそこまでになられるのはさすがに、ね・・・

 ・・・って、本当に始まらないわね、もう。・・・寝ようかしら。

 

「―――話を進めていただけますか?」

「・・・・・・ぁ、りょ、了解なのですよ!」

 

 あ、仕切り直しが入った。これならすぐにでも進みそうね。

 

「さて、それでは優先順位の高い問題から話を進めていきたいと思います。それでよろしいですね?」

「ああ、そうしてほしい」

「優先順位って言うと、あのお城に行ったっていう組織の要人のことかしら?」

 

 そんな話を聞いた気がするから聞いてみたけど、黒ウサギは首を振った。違うみたいね、これは。

 

「いえ、そちらではなく・・・あ、勿論そちらはそちらで重要な問題なのですが」

「まあ、それは当然そうよね。でもそう考えると、何か重要な問題なのかしら?」

 

 と、飛鳥が黒ウサギに聞いた。その問いかけに対して黒ウサギは少しばかり苦笑いを漏らしてから。

 

「えっと、ですね・・・ここに、先ほど女王から送られてきた手紙が、あります」

 

 その言葉に、場に一気に緊張が走った。若干名苦笑いしてる人もいるけど、あの女王からの手紙だなんて、何が書かれてるのか分かったものじゃないわね・・・

 

「・・・それの内容は?」

「え、えっと、ですね・・・おそらくこの場で最初に確認されるべきなのはラッテンさんなので・・・ご自身の目で、どうぞ」

 

 と、渡された手紙。一体何が書かれているのかした。少し怖くなってくるけど、これを読まないわけには・・・

 

『奇跡の歌い手君に何かあったら、私が全力でそこの蜥蜴をブッ飛ばすから♪』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ねえ、そこの顔隠してるの」

「フェイス・レスとお呼びください。なんでしょうか?」

「この手紙、なんなの?」

「まぎれもなく、クイーン・ハロウィン直筆の手紙・・・というよりは脅迫文ですね」

「冗談、よね?」

「いいえ、全く違いますが」

「ふざけてるわね!?」

 

 手紙をテーブルにたたきつけて、それから頭をかきむしりたくなるのをどうにか我慢する。

 え、何?ご主人様に何かあった、っていう理由だけであの女王が動く気なの?それもブッ飛ばす?それ『アンダーウッドごと』ってつくわよね?

 

「・・・ねえ、百歩、いいえ一億歩くらい譲ってこの内容が本気の文章だったとするわよ?」

「ええ、そこは受け入れていただけると助かります」

「じゃあそうするわ。で、なんでこんなことになってるのよ?」

 

 と、私は回し読みされている手紙とそれを読んだ人間の反応をそれぞれ指さして問う。

 

「そうですね・・・状況が状況なのでざっくりと説明しますね」

「そうね・・・そうしてもらえるかしら?」

「ではざっくりと。クイーンが今代の奇跡の歌い手、“天歌奏”の大ファンである、という話です」

「・・・は?」

 

 本気で何を言ってるのか分からない。え?あのクイーンが、ご主人様のファン?ご主人様に何かあったら自分で出張ってきちゃうくらいの?

 

「信じられないかもしれませんが、これは事実です。今、我々のコミュニティでは貴女方がブームのような状態になっておりまして」

「・・・私たちが?」

「ええ。例えばクイーンと私は天歌奏のファンですし、他にも色々と。貴女やユイさんのファンもいらっしゃいますよ」

 

 ・・・叫びたい気分なのを、本気で耐える。それで大丈夫なのか、クイーン・ハロウィンは。

 

「まあとはいえ、クイーンが自らの霊格を落として身分を隠して、クイーンズナイトの誰にも言わずにライブに行くなどということは、今後はやめていただきたいのですが」

「それで大丈夫なの、クイーン・ハロウィンは!?」

 

 耐え切れず、本気で叫んだ。けど仕方ないと思う。だってこれだもの。かつて白夜叉と並ぶほどの魔王だったのに、これなんだもの。本当に何なのよ、箱庭ってのは・・・問題児であるほど強くなるシステムでもあるのかしら?

 

「あ、今回の戦いが終わったらグッズとサインをいくつか注文してもよろしいでしょうか?」

「・・・ええ。生きて帰れたら、ご主人様も許可してくださると思うわよ。なんなら独占ライブでもなんでもするんじゃないかしら?」

「さ、早く攻略会議を進めましょう」

 

 ・・・・・・コイツ、頼りにしていいのかしら?

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

「あ・・・奏も来てたんだ」

「春日部さん・・・貴女もこっちに?」

 

 ジャックさんとアーシャさんに謝り、それから案内されて向かうと、僕たちが連れている子たちと同じくらいの年の子供たちと、春日部さんがいた。料理も出ていて、何とも暮らしやすそうな空間になっています。

 

「どうして奏はここに?」

「あ、その・・・ロロが、勝手に飛び出しちゃったので・・・」

 

 と、僕の後ろに隠れながらロロちゃんが春日部さんに答えた。

 

「と、そんな感じでして。それからはひたすらレヴィちゃんに守られ続けながら進んでジャックさんたちと合流して、今に至ります」

「・・・つまり、また役立たず?」

「うぐっ・・・ま、まあそんな感じ、です・・・」

 

 自覚はあるとはいえ、何ともぐっさりと・・・と思っていたら、いつの間にか僕の後ろにロロちゃんがいない。どうしたんだろうと思って見回してみて。

 

「ロロ、オマエなぁ・・・迷惑かけてるじゃねえか」

「あう・・・ごめんなさい、パパ・・・」

「いやだから、俺に謝ってどうすんだよ・・・」

「あ、そうだった・・・」

「・・・はぁ・・・」

 

 すぐに納得しました。なるほど、ガロロさんもこちらにいらしたのなら、ロロちゃんが向こうに行くのも当然でしょう。ただ、ガロロさんがふっかいため息をついているのを見ると、どうしていいのか分からなくなります・・・

 

「さて、それでは話を始めましょうか」

 

 どうしたものかなー、と考えてたらジャックさんがそう全体に声をかけます。この感じですと、元々何か話し合いをする予定だったのでしょうか?うーん・・・

 

「話、ですか?」

 

 悩んでいても分かりそうにないので、聞いてみることに。

 

「うん。今後の活動をどうするか、について」

「今後の活動?何かする必要が?」

「実は、結構な問題が発生してたりして・・・ギフトカード出してみて?」

 

 なんでだろうとは思いつつもポケットからギフトカードを取り出して・・・

 

「・・・なんですか、この変な・・・紋章?」

「ペナルティ宣告、って言うんだって。主催者側から提示された条件を満たすと、招待状とギフトカードに主催者の旗印が刻まれる・・・んだって」

 

 私もジャックに聞いた、と言って春日部さんが契約書類を渡してくれたのでそれを見ることに。

 

『   ・プレイヤー側ペナルティ条項

      ・ゲームマスターと交戦した全てのプレイヤーは時間制限を設ける。

      ・時間制限は十日毎にリセットされ繰り返される。

      ・ペナルティは“串刺し刑”“磔刑”“焚刑”からランダムに選出。

      ・解除方法はゲームクリア及び中断された際にのみ適用。

      ※プレイヤーの死亡は解除条件に含まず、永続的にペナルティが課される。

 

「・・・え、なんですかこれ?」

「私にもよくわからないんだけど、どうにもそう言うことみたい」

「で、でも。僕レティシアさんと戦ってなんて・・・」

「それについては・・・あの巨龍がレティシア、って考えるんだと思う」

 

 なんて無茶苦茶な・・・でも、レヴィちゃんとロロちゃんのギフトカードにも同じものが浮かんでいるのを見ると、そういうことのようだ。

 

「それで、えっと・・・どうするん、ですか?」

「それについて、何か案がないかと募っているところです。・・・なにかありますか?」

「あ、それなら私から」

 

 と、春日部さんがジャックさんの言葉に反応して手をあげました。この様子ですと、何かあるみたいですね。

 

「ヤホホ、何かあるのですか、春日部嬢?」

「うん、私はこのまま全員でここに残って、謎解きに挑戦するべきだと思う」

 

 ・・・・・・・・・え?

 




こんな感じになりました。なんでこうなったんだろう・・・


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。


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笛吹きとヴァイオリニスト、癒しを求める

短いです。
説明文です。
なんかもう、何やってんの○○さん。


以上三点をふまえて、本編へどうぞ!


 春日部さんの提案に対する驚きから固まってしまいましたけど、ガロロさんが春日部さんに問い、その後いくつかの問答がなされたことで僕にもその考えは理解できた。

 普通にこのゲームが続いていた場合、僕たちは全員十日後にはペナルティで死んでしまう。どう頑張ったとしても、ゲームクリアのために謎を解きながら相手と戦うのは、あまり現実的な手段ではない。しかし、今この時なら?

 今は、黒ウサギさんの審判権限によって主催者、参加者の双方が戦闘行為を禁止されている。その間であれば、比較的安全にこの秘密が隠されていそうな城下町を散策できる。

 そして、その散策に対して子供たちを投入するのも、合理的な判断だとは思う。そもそもここにいる人の多くは子供だったりけが人だったりするんだから、その人数を無視するのは、賢い手段じゃないのは分かる。けど・・・

 

「それでも・・・あの冬獣夏草がいる中で子供たちを出すんですか?」

「彼の言う通りです。子供たちは確かに、ゲームクリアに向けて大きく貢献できるでしょう。しかし、危険がなくなっているわけではありません。そのようなことをさせる以上、本人の承諾が必要ですよ?」

 

 ジャックさんのその言葉に、その場にいる人の多くが子供たちの代表としてきているキリノちゃんを見た。その視線に対してキリノちゃんは身を縮めたけど・・・

 

「ご、ご心配いただきありがとうございます。しかし我々も、“アンダーウッド”にすむ同士の一人。ましてや眠ったままの大精霊(かあさん)の窮地を放っておけませんっ」

 

 と、力強く答えてくれた。こうも気合が入っている様子を見ると、止めたくても止められない。でも、やっぱり心配だし・・・

 

「奏さんは心配みたいっスけど、たぶん大丈夫っスよ」

「レヴィちゃん・・・?」

 

 と、そんなことで頭を働かせていたら、僕の隣に座っていたレヴィちゃんからそう言われる。そちらを見ると、レヴィちゃんは提案があるというように小さく手をあげながら発言していたみたいです。

 

「提案、いいっスかね?と言っても、皆さん想定しているだろうけど自分のご主人を安心させるために、って感じっスけど」

「ああ、なんだ?」

「いえ、せめて子供たちは三つくらいのグループに分けませんかね?という提案っス」

 

 三つのグループ?

 

「どうしてまた?わざわざ分けたりしねえで一つに纏めちまった方が、守るには都合がいいだろ」

「いえいえ、まあそれはそうなんスけど・・・やっぱり、効率もほしいっスからね。その他にも、自分、動き回って戦うタイプなもんで、人数が多いと難しくなるんスよ」

 

 確かに・・・レヴィちゃんは、自分で動きまわって戦うタイプだと思う。そう言う意味合いでは、一度にたくさんの敵に別々の子供を狙われた場合、対応するのは難しいのかもしれない。

 

「そう言うわけなので、自分としては少人数を担当したいっスね。それなら必ず守り切れる自信があるっス」

「じゃあ・・・私とレヴィで二つくらいに?」

「いえ、奏さんも入れて三つかと」

 

 ・・・え、僕も?

 

「あの、レヴィちゃん。僕には戦闘能力なんて欠片ほどもないんですけど・・・」

「はい、奏さんにそれは欠片ほども期待してないっス」

 

 自覚しているとはいえ、はっきりと言われると傷つきますね。・・・分かってますけど。分かってますけど!

 

「でも、奏さんなら逃げることはできるっスよ。ロロさんにも一緒に行ってもらえば、まず逃げ切れないことはないんじゃないっスか?」

「・・・・・・・・・ああ、そういうことですか」

 

 確かに、言われてみればその通りだった。僕のギフトの話なのに、自分で気付くことが出来ないだなんて恥ずかしいことこの上ない。

 

「つまり、僕の担当するところに危険な生物が来たら・・・」

「『剣の舞』で剣を操って全員乗せて、思いっきり逃げてくださいっス」

「了解です、全力で逃げさせていただきます」

 

 僕にできること。全員で逃げられる乗り物を提供して、攻撃とか防御とかの抵抗を一切しないで、ただひたすら逃げること。

 ・・・・・・やっぱり、うん。少しばかり情けなくて、涙か出てきそうですね・・・

 

 

 

♪♪♪

 

 

 

「はぁ・・・あの連中に任せておいて大丈夫なのか、不安になるわね・・・」

「あ、あはは・・・」

 

 ユイですら呆れてるわよ・・・本格的に大丈夫なのか疑うレベルだってことよね。まあでも、仕方ないと思う・・・

 

「あの女王騎士はご主人様のファンだから助けるって理由が強いし、女王は女王でご主人様・・・というか、“音楽シリーズユニット”の私たちの誰かに何かあろうものなら“アンダーウッド”事あの巨龍を消し飛ばしそうな勢いだし、フェイス・レス以外の女王騎士も便乗しそうな勢いで・・・」

「その上、“ノーネーム”の主戦力はみーんな、勝手に済ませようとしてるしね~」

「ホントに、どうなるのよこれは・・・」

 

 あと、なんか黄金の竪琴と一緒にバロールの死眼も盗み出されたとか、楽器という点からやっぱり相手側に“音楽シリーズ”持ちがいるかもしれないとか、他のとこでも階層支配者が襲われてるとか、階層支配者を狙う組織がありそうとか、相手の狙いが全階層支配者を出して暫定四桁と太陽主権を狙っているんじゃないかとか、なんかもう色々と話し合いで出てきたけど・・・

 

「一番の問題は、女王にアンダーウッドを滅ぼさせないこと、なのよね・・・」

「あの会議の結論もそれだったしね~」

「そのためにも、私たちには参加はしてもらうけど何が何でも無事生き残るように、なのよね・・・」

「最優先事項だ、って言ってたね~」

「この場にいる魔王以上に警戒される元魔王って、何なのよ・・・!」

 

 ああ、なんでこんな時に限ってご主人様がいないのかしら・・・

 

「ご主人様を弄り倒して、ストレスを発散したい・・・」

「あ、あはは~・・・ユイも、お兄さんにいーっぱい甘えていやされたいなぁ・・・」

 

 はぁ・・・早く合流したい・・・癒されたい・・・

 




・・・・・・・・・遅くなったうえにこんなんで、本当に申し訳ありません・・・


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