道化と紡ぐ世界 (雪夏)
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設定あれこれ はじめに

更新履歴
09/15:初版投稿。


 

 

 

 

タイトルこそはじめにと書いてありますが、読まなくとも何の問題もありません。

ちょっとした注意事項と拙作に関するネタバレ(設定など)が含まれます。閲覧の際はご注意ください。

 

 

 

活動報告にて予告していました新連載です。

まず、タイトルですが……”道化と紡ぐ世界”となりました。

道化って言葉が好きなんです。タイトルに深い意味はないです。

横島と恋姫たちの大陸制覇(世界)物語ってな感じでつけました。

 

 

 

 以下、注意事項となります。

ネタバレを含みますので、閲覧は自己責任でお願い致します。

 

・世界観

GSと恋姫のクロス作品です。横島が真・恋姫の世界に乱入します。

GS側から恋姫世界への乱入キャラは横島のみ。

横島の所属陣営は曹魏。横島は原作終了後設定で、多少強化してあります。

 

史実と恋姫世界で違う出来事は、基本的に恋姫世界の設定を優先します。

 例)孫堅が黄巾前に死亡。各キャラの年齢。武将の加入時期etc.

 

 ・ヒロインについて

   横島ハーレムです。基本的にフラグ立ては所属陣営を優先。

所属外については、流れでフラグが立つかも? 程度です。

 

・一刀について

所属陣営は蜀。但し、横島とのW主人公ではない為、描写は薄くなります。ポジション的には西条に近くなる予定です。

常識があり、天才ではなく、女性に優しいと言った共通点がある為です。

また、横島とは同年代な為、余計に反発する可能性は大です。

一刀くんのヒロインについては0から3人。

  

・キャラアンチ・ヘイトについて

   蜀アンチ気味になる可能性大。

避けられない犠牲を知った横島と、蜀陣営の主張が噛み合うとは思えない為。

 

 ・所属武将について

   原作、史実と違う陣営に所属する武将がいます。

主に呉以外の陣営から魏へ変更になると思います。

呉のキャラが嫌いとかではなく、呉は黄巾以前からの主従である為、変更を加えにくい為です。

 

  今の所、移動する可能性が高いキャラは下記の通りです。

   蜀→魏:鳳統(諸葛亮に引っ張られた感じが強い)

   呉→魏:呂蒙(呉への参入時期が他キャラより遅いため)

   董→魏:張遼、華雄以外(原作で蜀に保護されたのも成り行きなので)

   他→蜀:袁術、張勲(劉備なら保護しても不思議ではない)

 

・オリジナル武将について

   原作未登場のキャラを登場させる場合があります。

その場合、たまに名前が出てくる程度に抑えようと思っています。

要望があれば考えますが、その程度だと思ってください。

 

 ・R-15について

   原作が原作ですので、暴力描写などのR-15指定の描写が含まれます。

   ムフフな描写を書くかは分かりませんが、本編では普通に事後と思われる描写があります。横島くんも……です。

 

 

 

 

 最後に、今作でのリクエスト、アンケートについて

 

 ・リクエストについて

   今作ではヒロインとのデートイベントのシチュエーションについてリクエストを募集予定です。所謂、拠点フェイズのイベント内容ですね。

   その際は、活動報告にて募集させて頂きますので、ご協力の程お願い致します。

 

 

 長々と書き連ねましたが、以上にて注意事項は終わりです。

 本編も宜しくお願い致します。

 



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一章 道化、出逢う 一節 此処から彼方へ

GS美神と真・恋姫✝無双のクロスオーバー作品です。
GS美神の原作後の横島が、恋姫世界に乱入します。

更新は不定期ですが、筆の進むままに書き連ねて行きます。宜しくお願い致します。

一言:何度書き直したか分かりませんが、これが精一杯です。


 

 

 

 

「右……荒野。左……荒野。後方……やっぱり、荒野。ついでに……上。雲ひとつない青い空」

 

 見渡す限りの荒野。そこに一人ポツンと佇む青年。赤いバンダナを額に巻いたその青年の名は、横島忠夫。この度、長かった十七歳の生活に別れを告げ、やっと十八の誕生日を迎えた男である。

 

「……ここ何処? 確かオレは……」

 

 呆然としている彼が、何故このような場所にいるかと言うと話は数時間前に遡る。

 

 

 

 

 

 

「神隠し………ですか?」

 

「そ。まぁ、二日後にその子は発見されたんだけどね」

 

「それって神隠しじゃなくて、ただの家出じゃないの。何でそれをオカGが調査するのよ?」

 

「馬鹿ね……。本当にそれだけだったら、オカG(うち)も調査なんてしないわよ」

 

 ここは美神除霊事務所。業界最強と名高い凄腕ゴーストスイーパー、美神令子が経営する除霊事務所である。

 その事務所の一室に、三人の男女が集まって会話していた。

 一人は不機嫌そうな顔でソファーに腰掛けている美女――この事務所の所長である美神令子。

 二人目は、令子の母親であり、霊障に対処する公的機関――通称、オカルトGメンの日本支部責任者である美神美智恵。

 そして、彼女らの対面に座している青年が、この事務所の丁稚……もとい、バイトの横島忠夫(時給550円。先日昇給)である。

 

 彼らは昨日発生した事件について、美智恵から話を聞いている最中であった。

 

 美智恵が語った所に拠れば、事件の概要は次のようなものである。

 

 ・男子高校生が行方不明になった。

 ・その生徒は、学校の敷地内にある歴史資料館で二日後に発見された。

 ・発見時、生徒は命に別状はなかったが、“霊力が枯渇した状態”であった。

 ・生徒は行方不明になっていた二日間の記憶がない。

 

 そして、最後に美智恵はその調査の為に横島を貸して欲しいと告げる。

 

「横島くんを? 横島くんを貸し出すのは別にいいけど、私たちはいいの?」

 

「ええ。原因にはおおよその見当がついてるから、令子たちの協力は必要ないわ。ただ、うちの装備じゃこれ以上の対処が難しくてね」

 

「そこで、横島くんの出番って訳ね。ま、文珠があれば大抵のことは出来るしね。あ、その間の給料はそっちで出してよ? それと、当然レンタル料は貰うわよ」

 

「令子……」

 

「な、なによ! 別にいいでしょ!? その間横島くん使えないんだからっ!」

 

「はぁ……分かりました。レンタル料は協力費ということで事務所に支払います。ただ、横島くんの給料は雇い主である令子が出すのが当然です! うちで肩代わりして欲しいなら、横島くんをオカGに……」

 

「分かった! レンタル料だけでいいわよ。それで、いつからなの?」

 

「今からよ。……と、言う訳で横島くん行くわよ」

 

「……へ?」

 

 被害者が男と言うことで、話半分に聞いていた横島は、情けない声をあげるのであった。

 

 

 

 

 

 その後、詳細な説明をする為、美智恵は横島を連れオカルトGメンの資料室へとやって来た。

 

「それで、オレは何をすればいいんですか? 文珠って言っても何でも出来るって訳じゃないっすよ? パピリオたちん時みたいに、文珠の霊力以上のものには効かないですし」

 

「大丈夫よ。今回は“ある物”を『封』『印』するだけだから。それに、アナタが文珠を使って封印出来ないものは、それこそパピリオたちみたいな中級以上の神魔くらいよ。そうなったら、神魔に連絡して引き取って貰うわ」

 

「中級神魔以上って……お世辞はいいっすよ。それで、封印するものはそれっすか? 既に結界符が貼られてますけど? しかも、大量に」

 

「(お世辞じゃないんだけどね……)ええ。銅鏡って知っているかしら?」

 

「銅鏡……? あれっすよね? 三国志とかに出てくる昔の鏡」

 

「そう、それよ。この銅鏡が、今回アナタに封印してもらいたいものなの」

 

 横島と美智恵の視線の先。そこには、結界符をこれでもかと貼り付けられた銅鏡があった。

 

 

 

 その銅鏡は、男子生徒が銅鏡に触れたのを最後に記憶がないと言う証言と、資料館に保管されていた銅鏡に関する資料、更に現場に行ったオカルトGメンの職員が持ち込んだ見鬼くんが反応したことが決め手となり、今回の騒動の原因と断定。封印処置が決まったそうである。

 

 当初、結界符で四方を囲み封印符で封印を施す予定であったが、オカルトGメンの所持している封印符では封印することができず、仕方なく結界符で囲んだままの状態でオカルトGメン(ここ)に持ち帰ったそうである。

 その後、銅鏡が霊波を放出し始めた為、更に結界符を貼り付けたらしい。しかし、放出される霊波が強い為、あと数時間しか結界符が保たないといった状況だそうである。

 

「封印符で無理なら文珠でも無理なんじゃ……? と言うか、あと数時間しか保たないって」

 

「文殊なら出来る筈よ。それに、準備もしてもらうしね。それと、結界符については心配ないわ。保たなくなったら、新しい符に替えればいいだけだから。幸い結界符は沢山あるから、一時間毎に替えさせているわ。ああ、この符はさっき西条君が替えたばかりの筈だから、当分の間は気にする必要はない筈よ」

 

 焦る横島に対し、気軽に言い放つ美智恵。短時間での結界符の貼替えなど民間のGSなら、破産へ一直線な状況なのだが、そこは公的機関。道具だけは充実しているオカルトGメンには無用の心配であった。

 

「私たちとしては、このまま結界符を消費する訳にもいかないから、横島くんの文珠で早急に封印したいのよ。封印さえしちゃえば、あとは何処かの神社に奉納出来るしね」

 

 美智恵の言葉に納得した様子を見せる横島。それじゃ早速、と文珠を取り出した横島が文字を込めようとすると、美智恵からストップがかかる。

 

「ちょっと待って。その前にやって欲しいことがあるのよ」

 

「やって欲しいこと……?」

 

「そ。封印の為の準備ね。文珠はイメージが重要。対象物をより深く知ることで、確実に封印出来ると思うのよ。と、言う訳で……」

 

 そう言うと、美智恵は机の上にダンボールを置く。何が入っているのだろうと首を傾げる横島だったが、そこから取り出された本の山を見ると顔を引きつらせる。机の上に積み上げられた資料の高さが三十cmに及ぶのだから、相当な読書家でもない限り当然の反応であろう。

 

「何すか、これ?」

 

「資料の山ね。ああ、そんな嫌そうな顔しないの。全部資料館にあったんだけど、銅鏡についてかなり詳しく書いてあるみたいなのよ。これを読めばきっと封印するときに役立つわ」

 

「読めばって……これ、全部っすか?」

 

「そ」

 

 まさかと思いながら尋ねる横島であったが、美智恵の答えは肯定。崩れ落ちそうになる体をどうにか支えながら、横島は資料の一つを手に取る。

 

「これがエ○本だったらなぁ……これ、何語っすか?」

 

「中国語ね。それも、かなり昔の」

 

「これを読めと? 漢文の成績は他に比べればいいっすけど……それでも赤点ギリギリのオレに? しかも、レ点とかないんすけど」

 

「それはそうよ。中国の文献なんだし、白文に決まっているじゃない。今回は時間もないことだし、文珠で『解』『読』して読んでね。あ、勿論『封』『印』に使う文珠は残すのよ?」

 

 そこまで言うと、美智恵は飲み物を用意するために部屋を出る。美智恵が去った後、文珠のストックを数える横島。最近は文珠を使うような仕事も無かった為、かなりのストックがあった。その数は十個。一個でも万能と言われる文珠が、十個もあれば大抵のことは出来る。

 

「あ~、十個もあればいける……か? でも、この量だと文珠の効果がどれくらい続くか……あ、漢文を『理』『解』しちゃえばいいじゃん! じゃ、早速……」

 

 それでも、横島は不安そうである。漫画やエ○本以外の読書は苦手なのに加え、『解』『読』の文珠には効果時間がある。効果が続いているうちに読み終えなければ、再び発動しなければならないのだから。

 因みに、『解』や『読』の一文字にしないのは、それだと単純に文字を『読』むだけで意味は分からないし、『解』の場合は効果時間が非常に短い。どちらも、英語の勉強の時に試したので間違いはない。

 

 そして、横島が思いついた『理』『解』であるが、その効果は『解』『読』とは大きな違いがある。

 『解』『読』の文珠は、翻訳ソフトと同じである。この場合は、漢文で書かれた資料を、文殊の効果が続いている間、日本語で書かれた資料に変換するのである。文珠の効果が切れると、資料は元の漢文で書かれた資料に戻る。

 

 対して『理』『解』の文珠は、理解する対象に関する全てを知ることが出来る。そこで知ったことは文珠の効果が切れた後も、忘れることはない。但し、その効果時間は短く、知りたいことを絞らないと中途半端に理解したり、上手く知識を引き出せなかったりする可能性がある、扱いが難しい文字である。

 

(ええっと、漢文を『理』『解』するっと……。いや、銅鏡のこと『理』『解』した方が早くないか? 資料読まなくていいし……)

 

 文珠の発動中に、横島が楽をしたいと雑念を抱いたこと。

 

 『解』『読』よりも、遥かに集中を必要とする『理』『解』を横島が選択したこと。

 

 美智恵が席を外していたこと。

 

 このうちのどれか一つでも違えば、この後の結果は変わっていただろう。

 

 

 文珠の発動と同時に崩壊する結界。

 

 強い光を放つ銅鏡。

 

 宙を舞う資料の数々。

 

 

 それが、横島が意識を失う前に見た最後の光景であった。

 

 




 以前から予告だけはしていた恋姫とGSのクロス。不定期での更新になります。
 あと、こちらの更新が続く場合は、他が詰まってるときだと思ってください。基本的に息抜きに書いてるので。
 そんなわけですが、宜しくお願い致します。

 さて、本編ですが。恋姫の“こ”の字も見当たりません。皆様の気のせいではないです。ゴメンなさい。恋姫キャラの出番は次の次からです。

 事件について。銅鏡について。
 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。


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二節 さよなら

二話です。読まなくとも支障はありません。
横島が気を失ってからのGS世界の話です。

一言:唐揚げには何をかける? レモン? 塩? 七味? 醤油?


 

 

 

 

「ちょっと、凄い霊波が……って、結界が! 西条君、結界符をありったけ持ってきなさい!」

 

「先生! これを!」

 

 傍にいた西条に指示を飛ばすと、すぐ様西条は両手に抱えた大量の結界符を美智恵に渡す。そのことに、違和感を覚えながらも美智恵は銅鏡に結界を施していく。

 

「何で結界が……!! 西条君が新しい符に替えたばかりなのに……!」

 

「え? いや、今から替えるところだったんですが……? だから、符を……。でも、まだ一時間は保つ筈だったのに、どうして」

 

「あ、あら? そうだったの? ……ってそんなことより、横島くんは?」

 

 どうやら、西条が符を貼り替える前に横島を案内してしまったということに気づいた美智恵は、室内に居る筈の横島を探す。室内を見回すと、まず目につくのが先程まで霊波を放出していたのが嘘のように、大人しくなった銅鏡。大量の結界符を使ったのだから、当然の結果である。次に床に散乱している資料。よく見ると、結界符の残骸も混じっている。

 

 そして、部屋の天井に突き刺さっている物体Y。まず、間違いなく横島であろう。

 

 それを見た美智恵は、西条に引き抜くように指示を出すのであった。

 

 

 

「ごめんなさいね? 結界の強度が足りなかったみたい。でも、もう大丈夫よ。あの通り、さっきの倍の符を貼ったから」

 

 明るい口調で告げる美智恵に、横島は何も言わない。

 

「怒ってる? ほら、責任は全部西条くんにあるから、後で好きなだけ……」

 

「あ、別に怒ってるわけじゃ。ただ、こう……霊力をごっそり持ってかれた感じでして」

 

「霊力を? そう……被害者と同じ症状ね。私たちの介入が早かったから、倒れずに済んだのかしら。それとも、保有霊力の差? もしくはある一定量までしか、霊力を吸収できないとか」

 

 横島の言葉を聞き、考え込む美智恵。そんな美智恵に横島は、封印作業に入ると告げる。

 

「え? もう? 少し休んだ方がいいんじゃない? それに、資料も読んでないでしょ?」

 

「大丈夫ッス。文珠で『理』『解』したんで。文珠のストックもありますし、早いとこ『封』『印』しちゃいましょ」

 

「そう? じゃ、お願いね」

 

 横島は『封』『印』と文珠に文字を込めると、銅鏡に当てる。すると、文珠が光を放つ。光が収まると、そこには封印と書かれた札が貼られた木箱があった。

 

「完了っと。これで仕事は終わりですよね? じゃ、帰っていいっすか? 霊力減ったからか、眠いんで」

 

「ええ。これは責任を持って、妙神山に持っていくことにするわ。……西条くんが」

 

「ちょ、先生!? 別にボクじゃなくとも」

 

「あら、万が一封印が解けそうになったとき、アナタ以上に素早く対処出来る隊員がいるかしら? それとも、こんなオバサンに妙神山を登れと?」

 

「……分かりました。ボクが持っていきます」

 

 美智恵にイイ笑顔で言われた西条は、渋々妙神山に持っていくことに頷く。そんなやり取りを、ぼんやりした眼で見ていた横島が口を開く。

 

「気ィつけろよ、西条。オレは嫌だからな? 向こうの世界でも、お前がいるなんて」

 

「? キミは一体何を言ってるんだ?」

 

「その銅鏡な。別世界の入口なんだ。で、霊力を吸収された人は、その世界に……」

 

「はぁ? キミはここにいるじゃないか?」

 

 西条が最もな質問をする。慌てて口を挟んだ西条と違い、美智恵は静観を選んだようで黙っている。

 

「そりゃ、オレがそのまま行くわけじゃないからな。吸収した霊力を分析して、知識や記憶を完璧にコピーした分身を銅鏡の向こうの世界に送るんだ。吸収した霊力が多い程、早く向こうの世界に行けるんだと。だから、もうオレの分身が向こうにいるんじゃないか?」

 

「そこまでコピーされると、本物と変わらないな。でも、普通逆じゃないか? 分析するなら、少ない方が早いと思うんだが」

 

「オレだって全部理解した訳じゃないんだ。ただ、分身の体は霊力をベースに作られるらしいから、その辺が関係してるんじゃないか? 体を作るのに足りない霊力は、培養して補うって。これ以上は分からん」

 

 そこで、黙って聞いていた美智恵が口を開く。

 

「霊力の培養……ね。ねぇ、横島くん? 銅鏡が壊れるとどうなるのかしら? 向こうの世界とこっちの世界に影響が出る?」

 

「多分、単純に入口がなくなるだけじゃないですかね。それがどうかしたんすか?」

 

「うん。この銅鏡壊そうかと思って。だって、別世界との入口とか面倒なことになりそうだし。この銅鏡はもううちのものなんだし、壊れても問題ないし」

 

「そうなのか?」

 

「ああ。学校側も封印した後の処理は任せると言ってたしな。本物の曰くつきの銅鏡なんて、欲しがるのはその手のマニアくらいだから別に珍しくもないことさ」

 

 どうやって壊そうかしらと考え込む美智恵をよそに、西条に問いかける横島。西条はそれに対し、珍しくもないと答えると美智恵に提案する。

 

「先生、いくら影響がなさそうと言っても、ここで壊すのは……。いっそ、宇宙に打ち上げると言うのは? 誰も手出しできないですし。万が一、封印が解けても影響はないでしょう」

 

「あら、それいいわね。じゃ、西条くん打ち上げ準備宜しく。あ、横島くんは帰っていいわよ」

 

「あ、はい。それじゃ」

 

 霊力を消費したことによる気怠さを全身に感じていた横島は、許可が出たことで部屋から退出すると、事務所によらずまっすぐ帰宅するのであった。帰り道で、結局宇宙に捨てるのなら封印する必要なかったのではと考えながら。

 

 

 

 ――その数日後。密かに銅鏡は宇宙へと飛び立つのであった。

 

 




 二話です。今回も恋姫の“こ”の字もありません。でも、クロスなんです。次回から出てきますから。本当ですから。

 二話は、GSサイドのお話。こっち側のお話はもうありません。これ以上のGSキャラの追加もありません。銅鏡が宇宙に飛び立ちましたし、彼女たちの横島くんはいますから。

 と言う訳で、この作品は銅鏡によって作られた、もうひとりの横島くんのお話です。とは言え、単純に偽物ではなく、同一人物がGS世界と恋姫世界に存在するようなものです。

 何故こんな設定にしたかは、活動報告で。

 事件について。銅鏡について。
 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。


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三節 衝撃的事実

三話です。この話から、恋姫キャラが登場します。記念すべき初接触キャラは、あの三人組です。

一言:特にないよー。ネタ切れだよー。


 

 

 

 

「あー、そうだった。そうだった。銅鏡が急に光ったかと思うと、結界が壊れて……ってことは、これは銅鏡のせい? あれ?銅鏡のせいってことは……ここ異世界かー!?」

 

 『理』『解』の文珠の効果により、現在の状況について予想を立てることが出来た横島ではあったが、状況は何も変わっていない。

 

「むぅ……助かったのは、『理』『解』の文珠の発動中に拉致られたから、状況を少しは理解出来るってとこか?」

 

 横島はそう呟くと、文珠の効果で得ることが出来た情報について確認する。発動中に集中を乱したことに加え、銅鏡に拉致られるという予想外の事態が起こったことで、『理』『解』の文珠が不完全に効果を発揮し、その結果本来『理』『解』したかった言語について以外に、銅鏡についての知識なども横島は得ていたのである。

 

「えっと、漢文の知識……っても、ここが中国かどうかも分からん状態じゃ役に立たんな。他にはやっぱり、銅鏡関連が多いか……えっと、分身ってとこはいいか。オレはオレだしな。しかぁし! あの乳に手を出すのは、例え相手がオレでも許さん! ここはこれで……いざ!」

 

 何処からともなく藁人形を取り出す横島。元の世界に居るはずの横島(本体)に呪詛をかけようとしているようである。

 

「さ、あとは打ちつける場所……ここ、荒野だった……」

 

 周囲を見渡すなり項垂れる横島。呪詛をかけようにも、打ちつける場所がないことに気づき断念したようである。

 

 因みに、横島が知らないだけで藁人形を使用した呪詛は杭を打ちつける以外にも方法はある。

 

 

「あー、ちくしょう。黙っていることしか出来んとは……。ま、いっか。続きを確認しないとな。何かこの場所のヒントがあるかも知れんからな。妖怪の国とか、魔界とか物騒なとこは勘弁してくれよー」

 

 気を取り直して情報の整理を続ける横島。その結果、いくつか銅鏡や世界についての事実が判明する(但し、中途半端に発動した影響で所々情報が不足しているようである)。

 

 それらをまとめると、以下のようになる。

 

 ・銅鏡が作られた目的は世界移動の実験。

 ・元の世界とは違い、霊力が知られていない世界であること。

 ・銅鏡世界と元の世界では文化の違いがあること。

 ・銅鏡から飛ばされた人間は、ランダムに世界に現れること。

 ・銅鏡世界に馴染むように何かが施してあること。

 ・もうひとり分身が作られたこと(おそらく被害にあった男子生徒)。

 ・その人物はまだこの世界に出現していないこと。

 ・世界移動は一方通行であること。

 ・言語は世界共通であること。但し、文字はその限りではないこと。

 

 

「文化が違うって、当たり前だろうに。はぁ、結局大した情報なかったな。どっちかって言うと謎が増えた感じが……」

 

 現在地に繋がる情報がなかったことに、落胆する横島。何かを施されたということについては、害がないならと完全スルーである。

 

 因みに、同じ境遇に立たされるであろう男子生徒については、全く気にしていない。未だこの世界に現れておらず、また、いつ現れるかも分からない人物のことを気にしても仕方がないし、男を助ける必要などないと思っているのだ。

 薄情に思えるが、横島にとって見ず知らずの男子生徒より、自身の安全の方が優先度が高いのだから仕方がない。何事も、自身の安全には変えられないのである。

 また、単純に男性の基準がおかしいというのもある。横島の周囲の男性と言えば、唐巣神父やピート、雪之丞、タイガーと言った高い(生存)能力を持っている人物ばかりである。そんな男たちを見慣れている横島にとって、男という生き物は必要がないと判断しているのである。それに加えて、何の特殊能力も持たない筈の父親が、武装ゲリラを鎮圧していることもその判断を下す大きな一因となっているのは間違いない。

 

 

「えっと……他は?

 

 『一筋の流星、白き光を纏いし者なり。即ち、天より遣わされた御使い。智を以て乱世を平定せんとす』

 

 『碧き剣、碧き盾を持ち天より遣わされし者。人智を越える者なり。其れ即ち、天の御技なり。其のもの、数多の軍勢を前に……』

 

 って、何じゃこりゃ?」

 

 横島は最後に、断片的に知り得た情報を口に出す。どうやら、文珠の効果時間ギリギリでの情報のようで、その文章の意味までは理解することが出来なかったようである。

 普段なら理解出来ないからと放っておくのだが、何故かこの文章が人ごととは思えない横島は、その場で考え込む。

 

「それは、近頃噂が拡がり始めたと言う予言の一節ですね」

「ですね~」

 

「へ?」

 

 突如、背後から聞こえた声に間抜けな声をあげる横島。慌てて振り返ると、そこには三人の人影が。その中で、その大胆に胸元が開いた装いの女性に飛びかかろうとした横島だったが、その人物の眼を見て思い留まる。

 

(あかん。アレは本気であかん。何かしたら殺る気の眼や。しかもよく見たら、槍持ってるやんけ! 銃刀法はどうしたんや!)

 

「ほう(私の間合いギリギリのところで踏み込まないとは)。お主、こんな所で何をしている? いくら街に程近いとはいえ、丸腰では危険だろうに」

 

「まぁまぁ、星ちゃん。ここは風に任せてください。稟ちゃんもいいですか?」

 

「ええ。見たところ、罠とも思えませんしね。それに、こういう交渉事は風の方が適任でしょう」

 

「交渉って程のことでもないと思いますがねー。それに、稟ちゃんも不得意じゃないでしょうに。では、お兄さん?」

 

(文化が違うってことだったし、失礼なこといったらブスってやっていい世界なんか!? さっきから、あっちの色っぽい姉ちゃんの眼変わらんし。もうひとりのメガネかけた姉ちゃんも、冷たい眼で見てるし――ゾクゾクする)

 

 星と呼ばれた女性の眼光にビビっていた横島は、槍の恐怖に怯えながら呼びかけてきた少女に顔を向ける。そこには、長い金髪をそのままに、ゆったりとした衣装に身を包んだ少女の姿があった。何故か、頭の上に何処か見覚えのあるフォルムをした人形を乗せている。

 

「あ、えっと、何でしょう?」

 

「んー、まずは自己紹介しときましょうか。風は、程仲徳といいます。で、こっちが稟ちゃん。そっちの槍を持ってお兄さんを刺そうとしているのが、星ちゃんです」

 

「さ、刺す!?」

 

 その言葉に、思いっきり後ずさる横島。そんな横島をニンマリした笑みで眺める風。その眼に、からかいの色を感じ取った横島は、元の場所まで戻る。但し、警戒することだけは忘れていなかったが。

 

「こら、風! 全く、たちの悪い冗談を。それに、真名で紹介しないでください。それじゃ、結局名を知らないままじゃないですか」

 

「真名? なにそれ?」

 

「お兄さん、真名を知らないんですか? それと、お名前は? 風たちだけ名乗ったら自己紹介にならないじゃないですか」

 

「えっと、オレは真名なんて聞いたことがないんだけど。で、名前だっけ? オレの名前は横島忠夫。よろしくな、て、ていちゅうとく? ちゃん?」

 

「んー、仲徳と呼んでください。で、稟ちゃん? どうします? 真名も知らないなんて、変なお兄さんですよ」

 

「ええ。真名を知らないとは……。いいですか、真名とはその人に心を許した時、初めて呼ぶことを許す名前なんです。本人の許可なく呼ぶと、何をされても文句はいえない。それ程の失礼にあたる行為なんです。つまり……この場で私の真名をアナタが呼んだら、冗談抜きで刺します」

 

「(こ、こえー)じゃあ、キミの名前は? さっきのは真名なんだよね?」

 

「私は戯志才と名乗っています。志才と呼んでください。で、アナタ何処から来たんですか? 真名を知らないとは余程この大陸から遠いとこから来たようですが」

 

「何処からって(そもそも日本って言って通じるのか? 異世界なんだし……ええい! その時はその時だ! )に、にほ」

 

 横島が悩みながらも日本から来たと口にしようとした時、黙ったままで槍を持っていた少女が口を開く。

 

「その前に、私も自己紹介しておこう。うっかり、星などと呼ばれてしまってはお主を刺し殺さねばならぬ」

 

「いや、そんな嬉しそうな顔で言わんでも……」

 

 女性の顔に浮かぶ笑みを見た横島が思わず突っ込むも、気にするなの一言で片付けられる。味方はいないかと、残りの二人に視線を送るも、どちらも笑うだけで助けてくれる様子もない。

 

「それで、美人でエロいお姉さんのお名前は?」

 

「美人はわかるが、エロいとは?」

 

「な、何でもないであります! 気にせず、お名前を!」

 

「まぁ、いいか。私は、人呼んで常山の昇龍――

 

 

 

 ――趙子龍だ!!」

 

 

「えええええ!!」

 

 




 三話です。ようやく恋姫キャラ登場です。皆様が予想されていた通りのキャラだったのではないでしょうか。

 他には、曹操&夏侯姉妹、張三姉妹、魏の三羽烏、賊三兄弟が候補でしたが、どれも没に。

 
 詳細なあとがきは活動報告に追って、投稿予定ですのでそちらを。

 予言について。
 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。


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四節 とりあえす方針決定

四話です。

一言:中国には行ったことないよー。そもそも国外にいったことないよー。


 

 

 

 

「私は、人呼んで常山の昇龍――

 

 

 

 ――趙子龍だ!!」

 

 

「えええええ!!」

 

 その名乗りに驚く横島。

 

 勇猛果敢、義に篤く、槍を得意としたと言われる蜀漢が誇る五虎大将軍のひとり。単騎にて敵陣を駆け抜け、主君劉備の子を守り通したと言われる『長坂の戦い』は、趙子龍の数ある武功の一つにして、最も有名な話であろう。

 

 それが、横島が知る忠義の()、趙子龍である。

 

(趙子龍って言えば、三国志に出てくる武将じゃねーか。あ、でも趙雲子龍じゃないから違うのか。だよなー、こんなエロい姉ちゃんが趙雲なわけねーか。いや、ここは異世界だしな)

 

「ふむ。私の名前がどうかしましたかな?」

 

 横島の驚きように趙子龍と名乗った女――星が疑問を口にする。稟と風も疑問に思ったようで、横島の顔を見つめている。

 じっと見つめられているのに焦りながら、横島は言葉を返す。

 

「あ、えっと……、聞いた覚えがある名前だなぁって。何でも槍の名手だと、オレの地元でも有名だったんで。まさか、女性だとは……」

 

「ほう、私の名も有名になったものですな。しかし、真名のことといいアナタは大陸の出ではないようで。今の大陸で名が通っているものは、女性ばかりというのがここの常識ですからな」

 

「そうなの?」

 

 その言葉に稟を見る横島。幼い容姿である風より、物を知っているだろうという無意識の判断からである。

 

「ええ。涼州の董卓、北と南の両袁家の当主もそうですね。また、先の争いで当主孫堅が亡くなり、袁術の配下に降った孫家の新当主、孫策も有名でしょうか。最近では陳留の刺史である曹操殿も有能な統治者として、世に知られていますね。彼女が治める陳留は、今の世においても治安がよく、また彼女は有能な人物なら出自を問わず登用することで有名で……」

 

「あー、稟ちゃん、稟ちゃん。曹操さんのことが大好きなのはいいですけど、お兄さんが引いてますよー。それに、それ以上は……」

 

「ぶはっ!!」

 

「あー、遅かったですねー。はい、稟ちゃん。トントンしますよー」

 

「え? なにこれ?」

 

 突如、鼻血を天高く噴出する稟と、その稟の首筋を手馴れた様子でトントンと叩く風。稟が鼻血を噴出すると同時に、安全圏へと退避する星。

 

 そして、三国志で有名な登場人物たちが軒並み女性になっていることに衝撃を受けていた横島。彼は全身を朱に染めながら、呆然としていた。

 

 

 

 

 

「いやー、お兄さんも災難ですね。近くの川に着くまでに血が乾かないといいのですがー」

 

「いや、服がダメになるくらい気にしないけどさ。志才さんのアレは病気?」

 

「稟ちゃんは、ムッツリさんなのですよ」

 

「いや、オレも大概スケベな方だが、アレは……。その内、鼻血多量で死ぬぞ?」

 

 血染めにされた横島を加えた一行は、ある程度血を落とす為に川を探して歩き始める。顔や髪についた血は携帯していた水で流したが、流石に服を洗うには足らなかった為である。

 近くの村を目指すという意見も出たが、今のご時勢で血染めの男を中に入れるような所はないだろうと却下になっていた。

 

「まぁ、こればかりは稟ちゃんの努力次第ですねー。治療しても、妄想癖が治らないと意味ないですから」

 

「せっかく美人なのに、台無し……。いや、エロい先生キャラだと思えば……でも、鼻血かけられるのはなー」

 

「毎回、風がトントンする訳にもいかないので、稟ちゃんには努力して欲しい所なんですが。さて、稟ちゃんのお話は此処までにして。お兄さん、川に着くまで風とお話しでもしましょうか。例えば……お兄さんが何処から来たのかとか」

 

「そりゃ構わないんだけど……その飴は何処から……?」

 

「ほへ? ほふぇでふふぁ? ……ダメですよ、お兄さんはまだ風の中の飴をあげてもいい人に入ってませんから」

 

「いや、欲しいって訳じゃ」

 

 和気あいあいといった感じで会話をしながら歩く横島と風。そんな二人の前を時折、振り返りながら歩いているのが、星と稟の二人であった。最も、稟は星に手を引かれながらではあるが。

 

「あの御仁は悪い人間ではないようだな。稟はどう思う?」

 

 星の問いに鼻に詰め物をした稟が答える。

 

「悪い人間ではないでしょうね。多少、視線がいやらしい所が見受けられますが、年頃の男性などあんなものでしょう。それに、星の槍に驚いていたようですし、槍を見慣れていないのでしょう。彼の故郷というのは、余程平和なのかもしれません」

 

「ふむ。“エロい”が何かは知らぬが、胸元ばかり見ておったからな。私の槍の間合いを見切っていたように見えたが、武術を嗜むものの歩き方ではない。狩りか何かで、勘が磨かれていたのだろう。槍を見て必要以上に警戒していたことだし、平和な所から来たと言う意見には同意だ」

 

「私たちの見立てが正しかった場合、彼が何故あんな場所にいたかということですね。故郷を追い出されたのでしょうか。まぁ、風が聞き出してくれるでしょうから、私たちは川を探しましょう。確か、こちらの方にあるとの話でしたし」

 

「ん? 彼処ではないか? 木々が見える」

 

 星が槍で指し示す先、距離にして三百メートル程の地点に木々が見える。見渡す限りの荒野に現れた木々。それは、近くに水があることの証左であった。

 

 

 

 

 

「さ、さっさと洗ってしまいましょう。向こうで稟ちゃんたちが火の準備をしていますから。ついでにお昼も用意するんで、お兄さんもご一緒にどうですか?」

 

「いいの? オレお金持ってないよ?」

 

「それくらい構わないのです。その代わりと言ってはなんですが、お兄さんのお話を聞かせてください。結局、さっきはお兄さんの話術で何も聞けませんでしたから」

 

「いやいや、そっちがボケるからこっちがツッコミを……」

 

「ま、どうでもいいのです。はい、脱ぎ脱ぎしましょうねー。下も脱がして欲しいですかー?」

 

「あぁ、小さな子に言われるとそこはかとなくイケナイ感じが……」

 

 風に促されるままに、上着――ジージャンを脱ぎ手渡す横島。自身はジーパンを脱ぐと水洗いを始める。

 

「あー、やっぱ落ちないな。金もないってのにどうすれば……。つーか、所持品ゼロの状態で拉致とかやめてくれっての」

 

『おうおう、兄さんは人攫いにあったのかい? ま、長い人生そういうこともありゃあ』

 

「うわっ! ……って、仲徳ちゃん?」

 

「今のは風ではないのです。宝譿(ほうけい)が言ったのです」

 

「あ、それ宝譿って言うんだ。腹話術かー、オレも出来るぞ? 昔、女にモテると思って覚えたんだよ」

 

「で、モテたんですか?」

 

「……そ、そんなことより、早く乾かそう!」

 

「モテなかったんですね」

 

「なんのことかなー?」

 

 自爆した横島は、稟たちが火を起こしている場所まで足早に去るのであった。

 

「面白いお人ですねー、宝譿?」

 

『気にいったかい?』

 

「さぁ、どうでしょうねー」

 

 

 

 

 

「さて、ようやく落ち着いたことですし、粥が出来るまで話をしましょうか」

 

 火にかけられた鍋を囲みながら、稟が切り出す。既に、血は止まっている為、鼻には何も詰めていない。

 

「そうですねー。稟ちゃんが鼻血をかけなければ、とうにお話出来ていたという点はこの際置いておくとして、お兄さんも聞きたいことがあったら言ってくださいね。人攫いにあったのなら、色々知りたいでしょうし」

 

「何と! 人攫いに……それで、武器も持たずあのような場所で」

 

 風の言葉に眼を見開く星と稟。横島は、銅鏡に攫われたのだから間違いではないと、そのまま話を進める。

 

「故郷にいた筈が、気づいたらあの場所で寝てたよ。それで、途方にくれてた所に、キミたちが来たんだ」

 

「それはまぁ、災難でしたね。真名を知らないということは、少なくとも大陸の出ではないのでしょう?」

 

「大陸ってのが何処を指すのかも、イマイチ(多分、中国なんだろうけどさ)。オレの故郷は日本ってんだけど……知ってる? 島国なんだけどさ」

 

 横島の問いに、首を横に振る一同。予想していたこととは言え、その反応に思ったよりショックを受けない自分に横島は驚く。

 

「日本という国は聞いたことがありませんね。噂では、ここより東方の海に倭という国が存在するらしいですが……」

 

(倭!? 最近、補習でやったような……。昔の日本だっけ? これで、ここは昔の中国――しかも、歴史上の人物が女になった世界で決まりだな。ま、ここは異世界だから、オレの知ってる歴史通りになるとは限らんが)

 

 横島がこの世界について考えていると、稟が確認を取るように尋ねてくる。

 

「倭ではないのですね?」

 

「え? あ、ああ。倭ではないです」

 

「そうすると、こちらでは分からないですね。アナタはこれからどうするつもりなのですか?」

 

「んー、右も左も分からん状況なんで、何とも。服はどうにかしたいですが。あと、バンダナも」

 

「バンダナとは?」

 

「あー、これっす。いつも頭に巻いてるんで、オレのトレードマークというか」

 

「トレードマークとは何です?」

 

「あー、何と言えば……特徴?」

 

「何となく理解出来ました。風の宝譿や私の眼鏡のようなものですね。外見的特徴ということですね」

 

「そう、それっす。服もバンダナも血濡れになりましたからね。出来れば、変えたいとこですね」

 

 その横島の言葉に気まずそうな顔をする稟。服をダメにした原因なので、仕方がないことであろう。その稟に助け舟を出すように、風が提案する。

 

「お兄さんも風たちと来ますか? 稟ちゃんが汚してしまったお詫びに、服の替えを用意しますよ? それに、お兄さん面白いですから、もう少し観察したいと思っていたところです」

 

「観察って……。まぁ、助かるんだが仲徳ちゃんの一存で決めていいのか?」

 

「別にひとり増えたところで私は気にしませんが?」

「服をダメにしたのは私ですから。その責任は取ります」

 

 

「……ありがとうございます。くー、拉致られた直後はどうしようかと思ったが、こんな美人と過ごせるとはオレって、実はついてる?」

 

 

「やっぱり、変な人ですねー」

「前向きというか何というか……」

「ははは、素直な御仁ではないか」

 

 

 

 

 横島の同行が決まった後、昼を済ました一行は、食後の休憩と称して横島に様々なことを教え始めた。漢王朝のこと、通貨のこと、乱世が近いと思われることなどである。

 

「乱世ねぇ……」

 

「その乱世に備える為、私たちは見聞を広める旅に出ました。丁度、揚洲を見て来たところです。彼処は、未だ孫家の影響が強いところでしたね。袁術程度では、孫家は抑えられないでしょうから、遠からず孫策は独立するでしょうね」

 

「そうですねー。彼処は地元の豪族たちが軒並み孫策派ですから、乱世になれば一気に状況は変わるでしょうね」

 

「へぇー。それで、次は何処へ?」

 

「予定では荊州にあるという水鏡女学院を訪ねようかと。そのあとは、洛陽、幽州と周り、最後に陳留の予定ですが」

 

「お兄さんは、服を買ったあとはどうします? そのまま、風たちと行きますか?」

 

「そうだなー、女学院は見たいかな。だって、女学院というからには、学問を教えてんだろ? どんな事を教えているのか気になるし、それまでは同行しようかな。そのあとは……分からん(女学院ってことは、女生徒に女教師。これで行かないとか、オレじゃねぇ!!)」

 

 横島は本音を口に出すことこそなかったが、締りのない顔をしている為、何を考えているのかは丸分かりであった。

 

「ま、焦って決めることもあるまい。女学院以後については、あとで決めるといい」

 

「そうですねー。あ、そうそう乱世と言えば、お兄さんが言ってたあの言葉。あれも乱世に関係があるんですよー」

 

「あの言葉?」

 

 風の言うあの言葉が分からず、首を傾げる横島。そんな横島の態度を気にもせず、風はある言葉――予言を詠みあげる。

 

 

 

 『一筋の流星、白き光を纏いし者なり。即ち、天より遣わされた御使い。智を以て乱世を平定せんとす』

 

 『碧き剣、碧き盾を持ち天より遣わされし者。人智を越える者なり。其れ即ち、天の御技なり。其のもの、数多の軍勢を前に……』

 

 

 

「これについての解釈は様々ですが、乱世が近いのではという不安から急速に拡がっています」

 

「有力なのは、天の御使いが知恵で乱世を平定しようと立ち上がり、碧き剣と盾を使い立ちふさがる軍勢を撃退すると言うものですね」

 

 それを聞いた横島の感想は、何処の神話? だった。

 

「だが、風はその解釈とは違うのだったな。二人の御使いだったか?」

 

「そうなのです。星ちゃんが言ったように、風は御使いは二人いると思うのです」

 

「へー、何で?」

 

「簡単なのです。白い方の御使いですが、そちらは“智を以て乱世を平定せんとす”とあります。ですが、碧の御使いは、“人智を越える者”“天の御技”とあります。とても、同一人物を指す言葉とは思えません。それに、碧の御使いは武器を持っています。白い方と同一なら、“武と智”となる筈です」

 

「途中で武器を手に入れたんじゃないのか? 登場と戦闘の部分の予言みたいだし、その間の出来事が抜けてんだよ、きっと」

 

 横島の言葉に星と稟が頷く。彼女たちは予言を信じている訳ではないが、横島の言うようにひとりの人物の英雄譚と考えた方が面白いと思っているようである。

 

「ま、ひとりでも二人でもオレには関係ないさ」

 

「うーん、そうですかねー。お兄さんにとっても、大事なことになる気がしますが」

 

 

 

 

 ――風の言葉が正しかったことを、後に横島は知るのであった。

 

 




 四話です。次回は、あの娘が登場。

 因みに、横島の服装については然程注目されませんでした。理由は、ジーパン、ジージャンでは制服程の光沢はない為。変わった生地だと思われる程度でした。靴はスニーカー。

 風たちの旅程。予言について。
 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
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五節 到着

五話です。サブタイトル思い浮かばない……。

一言:感想あったら喜びます。あと、誤字報告。



 

 

 

 

 

 荊州にある水鏡女学院を目指し、旅を進める横島たち一行。道中、幾つかの村に立ち寄りながら、横島が合流してから数日。目指す水鏡女学院がある街にたどり着いた。

 

「ここが、女学院があるって街? 今までの村に比べて活気があるなー」

 

 大通りを行き交う人々を眺めながら呟く横島。その装いは、立ち寄った村で譲ってもらった古着へと変わっている。稟は服屋で新品を購入するつもりだったのだが、横島が遠慮したこと、いつまでも血染めの服を着たままには出来ないことから、譲ってもらうことになったのである。

 最も、流石にバンダナに変わるものは村にはなかったので、それだけは服屋で購入することになっている。

 

「この規模の街としては、中々発展している方でしょう」

「荊州は比較的治安が良いですからねー。これくらいは当然かと。とは言っても、完全に安全という訳ではないので、お兄さんも気をつけてくださいねー。流石に人攫いや強盗はいないでしょうが、スリはいると思いますよー」

 

 横島の呟きに、同じく大通りを眺めていた稟と風が反応する。各地を回っている彼女たちが言うのだから、そうなのだろうと横島は納得すると同時に、私物が入った袋を抱きしめると、キョロキョロと周囲を見回し始める横島。急に周囲の人間全てがスリに見えてきたようである。

 

 私物と言っても、中身は血染めの服とバンダナなので盗まれても構わないのだが、唯一の私物を奪われるのは出来れば避けたいのである。それに、横島はこの世界の異常に発達した縫製技術に、ジージャンの再現を期待しているのである。その際、現物の有無が重要になることは分かりきっていることなので、尚更である。

 

 

「あれ? そういえば、子龍さんは?」

 

 しばらくそうやって周囲を警戒していた横島だったが、同行していた筈の星の姿がないことに気がつく。風に確認すると、メンマを補充しに飯屋へ向かったらしい。

 

「あの人は本当にメンマ好きだよなー」

 

「そですねー。星ちゃんはメンマの為なら、千の軍勢相手でも破ってみせると言ってますから相当ですねー」

 

「戦場がメンマで左右されるとか、私たちからすれば悪夢ですね……」

 

 頭が痛いとばかりに、頭を押さえながら呟く稟。彼女も星がそれほどメンマを愛していると例えで言ったことだとは分かっている。しかし、星のメンマ愛を考えると何処か否定しきれないらしい。

 

 

 

 

 

 それから数十分後。無事バンダナを購入し終え、宿の一階にある食堂で食事を取る横島たちの姿があった。

 

「思ったより安くすみましたね」

 

 安く購入できたことに満足した様子で呟く稟。これからも旅を続ける身としては、安く買い物が出来ることは嬉しいものなのである。しかも、横島への弁済の品という値下げ交渉をするのが憚れる品を、店主が投げ売り同然の価格で売ってくれたのだから、尚更のことである。

 

 そこに、風が安く購入出来たからくりを告げる。

 

「それがですねー。店主に聞いたところ、最近の流行りは黄色らしくて他の色は売れなかったそうで。風たちが来なければ、黄色に染色するつもりだったそうです。そう言った訳で、あのような安値で購入出来たと言うことです。いやー、運が良かったですねー、お兄さん」

 

「そうだな。赤以外の色をつけるってのは、想像出来ないからなー。手に入って本当によかったよ」

 

 最も、告げる相手は稟と言うよりは、横島に向けてであったが。ここまでの道中でもそうであったが、風は横島とよく話をしている。横島に興味を抱いていることも理由の一つであるが、横島が大げさに反応するのが楽しいようで、よく横島をからかったりして遊んでいた。

 

 横島の方も、事あるごとに槍をちらつかせる星や、普段の会話から書物の内容を引用してくる稟を相手するより、風の方が楽と言うこともあり、必然的に三人の中では風と話すことが多くなっている。

 最も、稟はともかく星の場合は、事あるごとに飛びかかろうとする横島が悪い部分もあるだろう。

 

 

「それにしても、その生地は見せなくてよかったのですか? 似たような生地があるか、または再現できるか聞く予定だったのでは?」

 

 風との会話が途切れたのを見計らって稟が問いかける。てっきり、先ほどの店で尋ねるのだと思っていたようである。

 それに対して、何故か横島ではなく風が答える。

 

「それはですねー。ここはあくまでも、少しの間滞在する地だと言うことですよ。お兄さんは、この地に留まるより風たちと行くことを選んだのですよ」

 

「そうですか。なら、ここで生地を見せても意味がないですね。店内に似た生地はなかったようですから」

 

 風の言葉に納得する稟。横島の方はというと、風と稟の言葉に驚いている。何せ、横島は、女学院に行ったあとも一緒に行くことに決めたことを誰にも言っておらず、デニム生地の再現についても同様だったのだから。

 

「な、何でわかったの? 一緒に行くって決めたこと。それに、生地のことも」

 

「お兄さんは、わかりやすいですから。何となく、この街には留まらないだろうとは思ってました。生地については、後生大事に服を持ち歩いていたら想像はつくのです」

 

「それなのに、生地について店主に何も言わなかった。その理由が、この街に長く留まるつもりはないと決めていたからだとしたら、全て納得出来ます。生地が再現出来たとき、この街にいなかったら意味ないですからね」

 

「そ、そうですか……オレって、そんなに分かりやすい?」

 

 風と稟の鋭さに今更ながら驚かされた横島だったが、ついでにと質問する。今までも散々分かりやすいと言われ続けてきた横島だったが、出逢って間もない二人にまで分かるのだろうかと気になったようである。

 

「そうですねー。星ちゃんの胸元を見てるときとか、何を考えているか一目瞭然ですね。あと、稟ちゃんの脚やお尻を見てる時も」

 

 表情を変えることなく言う風に、横島はバレていたのかと頭を抱える。指摘してきたのが、稟や星のような美女相手なら、笑って誤魔化すなりしたであろう。恥ずかしそうに告げられたら、その姿に興奮して飛びかかったかもしれない。

 しかし、今回指摘したのはとても可愛いらしい美少女――風である。いくら煩悩の権化たる横島でも、少女の前で煩悩を晒していたことには思うところがあるようである。最も、反省する気はあっても、止める気はさらさらないのだが。

 

 頭を抱えていた横島だったが、稟の反応を伺うために稟の方を向く。これまで、いやらしい視線(横島にそのつもりはない)が発覚した場合、顔を真っ赤にして怒る女性にボコボコにされるというパターンを繰り返して来たことによる悲しい習性である。

 

 そこには予想通りに顔を真っ赤に染め、プルプルと震える稟の姿があった。その姿は怒りに震えているように見えたが、横島の脳裏にはつい数日前に己に降りかかった惨状が浮かびあがる。次の瞬間、横島は風をその腕に抱え稟に背を向け走り出す。

 

 十分に距離を取った横島が振り返ると、そこには赤く染まった机に倒れふす稟の姿があった。

 

 

 

 

 

 血で汚れないように注意しながら稟を抱え上げ、部屋に突撃した横島たちは血を流しすぎた稟の為に、貧血に効くと言う薬を買いに薬屋へ向かっていた。

 

「いやー、志才さんの鼻血は凄いなー。一体、何を想像すればあんなに出るんだ? もしかして、オレとの……だったりして! これって脈有り?」

 

 ニヤけ顔で呟く横島。稟と絡み合う自分の姿を思い浮かべているのだろう、次第にだらしなさを増してゆく。元の世界だったら通報物の顔を晒しながら、妄想にふける横島。そんな男の隣りでも普段通りに歩きながら、風が横島の妄想を否定する言葉を告げる。

 

「脈は全くないと思いますよー。血の量は食後だったせいですねー。それに、稟ちゃんうわ言で星って言ってましたし」

 

「……くっ、期待くらいしてもええやんか! どうせ、相手にされないってことくらい分かっとるわ! 顔か? 顔がいかんのか!?」

 

 風の言葉に取り乱す横島。その口から聞こえてくるのは、世の男性たちを呪う言葉ばかり。そんな横島の姿を見ながら風は、目的地である薬屋が路地裏にある為人目がないことを感謝していた。

 

(こんな姿を女学院の関係者に見られたら、女学院を訪ねても追い返されてしまいますからねー。風は見てて面白いですけど、万人受けするとは思えないですし)

 

 

 そのまましばらく観察を続けていると、急に横島が顔を一点に固定する。その視線の先を追うと、今いる路地より更に奥へと進む道を見ている。

 横島の態度を不審に思った風は、横島に問いかける。

 

「どうかしましたか?」

 

「ん? いや、悲鳴聞こえなかった? 女の子の」

 

「風には聞こえませんでしたが……。この先は、教えて貰った薬屋がある方向ですねー」

 

 横島の問いに答えながら、考えを巡らす風。薬屋の店主は年老いた男だと聞いているので、悲鳴の主は店の客かもしれない。無論、横島の聞き間違いの可能性が一番高い。

 

「お店のお客さんですかねー。それで、どうします? 悲鳴ということは、何かあったのかもしれません。転んだだけとかならいいですが、喧嘩とかだったら風たちではどうしようもありませんよ?」

 

「そ、そうだな。痛いのはイヤやし、オレの勘違いかもしれ……待っててください、お嬢さん! 不肖、横島今アナタの元に!」

 

 ヘタレたことを言う横島であったが、今度ははっきり聞こえたらしく悲鳴の元へと駆けていく。

 その後ろ姿を見失わないように追いかける風。本当に揉め事だった場合、自身が足でまといになることを理解している為、ゆっくりした足取りで追いかける。

 

 

 

 

 

「おや、その袋は?」

 

 風が横島に追いついたとき、既に全部終わっていた。横島は屈んで大きな麻袋を開けようとしているところで、その足元には気を失っているのか男が転がっている。

 

「あ、仲徳ちゃん。中に人が入ってるみたいなんだけど、袋の口が固く縛ってあって……よし、解けた!」

 

 横島が縄を解き、袋の口に手をかける。中にいると思われる女性は、気を失っているのか暴れることはなかった。

 

「御開帳ーってか?」

 

 中を風と一緒に覗き込むと、予想外に中にいた人物と目が合う。中にいたのは、膝を抱えながら身を震わせる幼い少女。その口元は、抱きしめている帽子で隠れているがキツく結ばれていることは想像に難くない。その瞳が潤んでいるのだから尚更である。

 

「えーと……大丈夫?」

 

 予想外に幼い容姿の少女に、戸惑いながら声をかける横島。彼の中では、袋の中には美女がいて、お礼は体でというストーリーがあったのかもしれない。

 横島と一緒に覗き込んでいた風は、少女に安心させるために話しかける。

 

「もう大丈夫ですよー。お兄さんが助けてくれましたから。それで、お名前は?」

 

 話しかけられた少女は、ゆっくりと口を開く。

 

「ほ、鳳士元でしゅ」

 

 

 

 

 ――噛んじゃったと涙目で言う雛里はとても可愛らしかったと、後に横島は語る。

 

 

 




 五話です。今回はあの娘――雛里の登場回。水鏡女学院編は次回で終了予定。
 
 横島の戦闘シーンは全カット。戦闘とは言っても、不意打ちで足払いしたら頭を打って気を失っただけだったりします。

 次回、念願の水鏡女学院に。雛里は決定として、他にも誰か引き抜くのもいいなぁ。女学院にいそうなのは、徐庶?

 水鏡女学院の場所。稟が貧血に効く薬を飲んでいる。
 これらは拙作内設定です。

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六節 驚愕は止まらない

六話です。タグ少々変えました。

 追加:横島ハーレム 一刀ヒロイン未定

 あと、今回は賛否両論といいますか。そういう内容になっています。

一言:恋姫ブランド凄いですね。お気に入り数とUAが伸びる伸びる。


 

 

 

 

 

 袋詰めの美少女を華麗に救出した青年。その名は、横島忠夫。襲いかかる賊どもを相手に、怯むことなく……

 

「はーい、お兄さんは黙っていてください。話が進まないので」

 

「はい……」

 

「それで、鳳さんはどうして袋の中に? まさかとは思いますが、袋の中でお昼寝していたら荷物と間違われて……なんてことはありませんよね?」

 

 何処からともなくマイクを取り出し語りだした横島を、風は冷たくあしらう。それに対し寂しそうな顔をする横島だったが、助けた少女――鳳士元の話を聞くことが大事だと風と少女の話に耳を傾ける。

 

「あ、えっと私はその……近くの私塾の先生に贈り物をしようと思って。あ、私生徒なんですけど。それで、お金の足しになればと摘んできた薬草を買い取って貰ったんです。それから、お店を出て……そしたら急に真っ暗になって」

 

 そこまで言うと、その時の恐怖を思い出したのか小さく震える。いきなり袋に詰められたのだから、当然の反応である。

 どうしたものかと風が横島の方を見ると、横島が先程まで袋の口を縛っていた縄で男を縛り上げているところであった。

 

「ん? どうかした?」

 

「いえいえ、何でもないのです。ささっ、お兄さんは続きをどうぞー」

 

 妙に手際よく縛る横島を見た風は、士元へと向き直る。縛られていく男を見て、男の処遇を早急に決めるべきだと判断したからである。関わりあいになりたくないからそうした訳ではない。……きっと。

 

 風が振り向くと、士元も縛られてゆく男を見ており、男に危害を加えられることがないと判断したのか先程までの恐怖はなくなっているようである。それどころか、横島の手際のよさに感心しているようである。

 

「(切り替えが早いですねー。軍師向きですね)それで、その男はつき出すとしてですねー。風たちは此処に来たばかりでして。つきだすにしても、兵を呼ぶにしても詰所が何処か皆目検討がつきません。それに、余所者の言葉を何処まで信じてくれるか。ですので……」

 

「それなら、薬屋に行きましょう。詰所に行くより近いですし、兵士さんが買い物に来ていました」

 

「……そですねー。風たちの元々の目的地も薬屋ですし、兵士さんが居るのならそちらに向かいましょう」

 

 風の言葉をさえぎり、提案する士元。それを聞いた風は、士元と二人で薬屋へ向かうことにする。士元を一人で向かわせないのは、近いとは言え一人で行動するのはまだ不安だろうという風の気遣いである。

 

「ではでは、風は士元さんと薬屋にいるという兵士さんを呼びにいきますので。お兄さんはその人を見張っていてくださいねー」

 

「おう。早く戻ってきてくれよ。縄で身動きが取れないおっさんといるより、仲徳ちゃんたちみたいな、美少女と一緒の方が楽しいかんな」

 

 男を縛り終えた横島が笑いながら答えると、風も笑みを浮かべて答える。

 

「では、ゆっくり行くとしましょうか…「おいっ!」……冗談ですよ。それじゃ、行きましょうか」

 

 横島のツッコミを軽やかにかわしながら、風は士元と共に薬屋の方へと歩いていくのだった。

 

 

 

 横島(と男)から離れ、薬屋へと向かった風たち。道中、士元が風に名を尋ねる。

 

「あの、お名前を伺っても? それと、助けて頂いたお礼もしないといけましぇ……せんし」

 

「……おお、私としたことが、自己紹介がまだでしたねー。私は程仲徳。お兄さんは……そうですね、お兄ちゃんと呼んであげてください」

 

「お、お兄ちゃん……ですか?」

 

「ええ。お兄さんの名前はちと“特殊”でしてー。私が勝手に教えていいものか判断がつかないのですよ。……それに、その方がお兄さんも喜ぶでしょうし」

 

 横島が喜ぶかどうかはさておき。風が言う“特殊”というのは、横島に真名がないことに関係する。風たちはこれまでの道中で、親や親しい者以外は“忠夫”と呼ばないと聞いている。その為、横島の真名に相当するのは“忠夫”であると判断している。

 横島は気にしないだろうが、真名文化で育った風たちにとっては軽々しく呼ぶことは躊躇われる“忠夫”という名。その為、横島忠夫と紹介するのを辞め誤魔化したのである。

 

 

 

 

 その後、薬屋に到着した風は説明を士元に任せ、自分はしっかりと目当ての薬を購入する。そして、たまたま薬屋に買い物に来ていた兵士を引き連れて戻って来た風たちが見たのは、地元の子供たちと一緒に遊ぶ横島の姿。

 士元を襲った男は、首から上だけを土から出した――端的に言うと、埋められていた――状態で気を失っていた。

 

 

 何処か引きつった顔で、掘り出した男を連行していく兵士に別れを告げ、風と士元は改めて子供たちと横島の方を見る。先程までは嬉々として穴掘りを手伝っていた子供たちだったが、現在はどういう流れを辿ったのかは不明ではあるが、子供たちが横島に向かって将来の夢を語っていた。

 

『私は素敵な旦那様のお嫁さんになるのー』

「素敵な旦那かー。お兄さんが立候補しようかなー」

『ていちょうにおことわりします』

「即答!?」

『お兄さんはちょっとお金と縁がなさそうで……お金も大事だって先生言ってました』

「そこだけ現実的!?」

 

 

『オレは金持ちになって、腹いっぱい飯を食うんだー』

「おー、そんときはオレにも奢ってくれな!」

『えー、自分の食い扶持くらい自分で稼げよ。男だろ?』

「……はい」

『すぐ人に施しを求める奴は、心が卑しい奴だって先生言ってたぜ? 男なら人に施すことができるような余裕を持ちなよ』

「……はい、仰る通りで」

 

 

『オレは兵士になって、この街を守るんだ!』

「お、そっか。ガンバれよ」

『兄ちゃんもガンバれよ! 真っ先に死にそうな顔してるし!』

「余計なお世話だ!」

『人の気遣いを無下にする奴は、いざって時に誰も手を差し伸べてくれなくなるって先生言ってた』

「……」

 

 

 子供たちの語る夢というのは、もう少し微笑ましいものではなかっただろうか。きっと横島はそう思っているのだろうと風は思う。隣りの士元を見ると、彼女も横島と同じくらい引きつった顔をしている。もしかしたら、子供たちのいう先生に心当たりがあるのかもしれない。というか、彼女が通っている私塾の先生がそうなのだろう。

 先生について追求してみようかと風が考えていると、何やら子供たちが騒がしい。どうやら、横島の夢が聞きたいようでおねだりをしているようである。

 

 

「オレの夢? 聞いて驚け! オレの夢はな……美人の嫁さんを貰うことだ! それで、自堕落に生きていけたら最高だな」

 

 

 高らかに宣言する横島。その夢を聞いた風と士元は、呆れと苦笑をその顔に浮かべる。子供たちより、子供みたいな夢を持っていると。

 

 子供たちはといえば……横島に畳み掛けるように言葉をかけていた。

 

『夢見るのはいいけど……現実見ようぜ? 兄ちゃんの顔じゃなー』

『お金と縁なさそうだし、無理じゃないかな』

『爺になったときに財産があれば、財産目当てで寄ってくるんじゃね?』

『それって、お爺さんになるまで無理ってこと?』

『あー、兄ちゃんだしな。きっと、苦労して長年貯めたお金も騙されて……』

『いや、貯まる前に騙されてるって。つまり、兄ちゃんには無理ってことだ』

『お兄ちゃん。夢見るのはいいけど、現実から逃げちゃダメだよ?』

『ほら、元気出せって。兄ちゃんがいい人だってのは、オレらが分かってるから』

『そうだぜ。騙されたからなんだってんだ。強く生きなきゃ!』

 

 子供たちの間では、横島が美人の嫁を貰うのは不可能だと判断されたらしい。口々に無理だと告げる子供たち。それと同時に、落ち込み始めた横島に慰めの言葉を口にしていることから、横島を傷つける意図は皆無であったらしい。

 

 そんなやり取りを見ていた風の口元に笑みが浮かぶ。

 

 いい大人が子供相手に拗ねてみせたり、子供に慰められる姿は間違っても格好良いとは言えない。誰が見たとしても、情けないとしか思わない姿。その筈なのに、風は横島を情けないとは思わなかった。それどころか、彼を評価している。

 

(何というか、お兄さんらしいと思ってしまいますねー。まだ、出逢って間もないというのに)

 

 風が視線を向ける先。彼らは今、横島を中心に笑いあっている。横島はあっという間に、子供たちと打ち解け、その上好意まで抱かれているようである。

 

(暖かな陽光のように、人の心にあっという間に入り込む。とても得難い才。少々スケベさんなのが難点ですが……これは決まりですかねー)

 

 

 

 風が横島たちを見て考えている間、彼女の隣りに立っていた少女――鳳士元は今日の出来事について考えていた。

 

 鳳士元――真名を雛里という少女は、通っている私塾を優秀な成績で卒業することが決まっていた。それに際し、お世話になった先生に贈り物をしようと学友たちと計画したことが全ての始まりであった。

 

 贈り物はすぐに決まった。隣町の古書専門書店にある古書を購入し、手作りの菓子と一緒に贈ることにしたのである。

 古書は、雛里の親友の一人である諸葛孔明が買いに向かった。隣町とはいえ距離があるので、彼女は商隊に帯同して。予定通りなら、明後日に戻ってくる予定である。

 そして、雛里はもう一人の親友と一緒に菓子作りを担当することとなったのだが、そこで問題が発生した。予期せぬ事態のせいで、僅かに材料費が不足してしまったのである。

 

(まさか、先生が厨房に入ってくるなんて……。普段、料理は私たちがしていたから油断しました。そのせいで、材料をダメにしちゃったし……)

 

 先生――水鏡――に贈り物の存在を慌てて隠そうとした結果、材料が宙を舞った時は親友と二人で呆然としたものである。そこで、厨房の片付けを親友に任せ、不足文を補う為に雛里は薬草を採取して薬屋に売ったのである。

 

 そこからは、横島たちに説明した通りである。急に視界が真っ暗になり、担ぎ上げられた。今までの勉強の成果なのか、そんな事態だというのに妙に冷静に判断していた。自分は人攫いにあったのだと。理解したあとは、恐怖に震えることしか出来なかった。彼女は、自分の非力さも理解していたから。

 

 

 そんな彼女が、再び日の光を目にしたとき目の前にいたのは、困った顔をしている横島の姿。それが、雛里と横島の出逢いであった。

 横島の第一印象は、優しそうな人。困り顔をしていた為に眉が下がっていた事、想定していた人攫い――顔面傷だらけの大男――とは似ても似つかぬ姿が、余計にそう感じさせたのかもしれない。

 

 次に思ったのは、凄い人。雛里は袋の中で、ジッと外の様子を伺っていた。怯えながらも脱出する機会を伺っていたのである。だからこそ、気づくことができた。横島と男が争う音が一切しなかったことに。そして、雛里はごく自然に地面へと下ろされたということに。

 この二つが示すこと。それは、横島が音もなく男の意識を刈り取ったということ。それも、担がれていた雛里に一切の衝撃を与えずに。武をおさめていない雛里には、それは人智を越えた御技に感じられた。

 

 実のところ、この時雛里の体は振動を感じていたし、男が小さく悲鳴をあげる声を聞いている。しかし、人攫いにあって恐怖していた雛里の精神は、それらを認識することはなかったのである。その為に、このような勘違いが生じたのである。

 

 では、横島はどのようにして雛里を助けたのか。それは、横島以外の何者にも真似は出来ない方法である。そして、彼にとってはごく簡単なことであった。

 

 まず、美神たち相手に繰り返した覗きの日々で身につけた、周囲に気配を溶け込ますという絶技を使い男に背後から近づく。そのまま、男と同じ速度で走りながら、袋に手を添える。最後に、膝カックンをして男の態勢を崩すと同時に、“栄光の手”を発動。男が手を離した隙に袋を奪い去り、“栄光の手”を伸ばし男に足払いを仕掛けたのである。その後はトンズラする予定だったが、男が気絶した為、それがなされることはなかった。

 

 

 ……こうして横島の所業を確認すると、強ち勘違いではない気がしてくる。

 

 

 

 

 横島に助けられたあとは、薬屋でしどろもどろになりながらも事のあらましを説明したり、戻ってきて埋まっている男に驚いたり、水鏡が街に来た時たまに遊んでいる子供たちが横島にあっさりと打ち解けていることに驚いたりと忙しかった。

 

 そういえばと、雛里は昨夜星を読んだ時のことを思い出す。運命が始まる日と出ていて、親友と二人ではしゃいだのを思い出したのである。正確には、『運命』『異性』『出逢い』『仲間』『大きな変化』である。大きな変化をもたらす、運命の出逢い。

 

(きっと、あの人のことだ……。あの子たちが懐いているくらいだから、本当に優しい人みたいだし……助けてもらったし。うん、決めた)

 

 重大な決意を胸に、雛里は一歩踏み出す。未だ名も知らぬ彼――横島――と、自身の道を重ねる為に。

 

 

 

 

 

 再び子供たちに弄られていた横島は、自分に向かって歩いてくる雛里に気づくと、背中に乗っていた子供を下ろし雛里に笑顔を向ける。

 

「お、戻ってきてたのか。男はそこに埋めといた……って、いないな? もしかして、オレ逃しちゃった?」

 

『さっき兵隊さんが掘り起こして連れて行ったよー』

 

「あ、そうなの?」

 

 よかったーと息を吐く横島に対し、雛里はかしこまった態度で礼をすると口を開く。

 

「お、お兄ちゃん!」

 

「いやいやいや! 何で!?」

 

「お兄ちゃんと呼んだ方が喜ぶって……それに、名前を伺っていませんし」

 

 雛里の態度に何を言われるのかと、身構えていた横島だったが雛里の言葉は、彼の予想の斜め上をブチ抜いていった。慌てて何故そういったのかを尋ねれば、名前を知らないからと言われる。そう言えば、名乗っていなかったと思った横島が、名乗ろうと口を開きかける。

 

「お兄さんは“(おう)子考(しこう)”さんと言うのですよ」

 

「え?」

 

 横島の名乗りを遮るようにして、風が“横子考”が横島の名前だという。風がどうしてそのようにしたのか横島は分からなかったが、風の瞳が真剣だったことから話を合わせることにした。

 

「そ、そう! “横子考”って言うんだ! 宜しく!」

 

 但し、極めて不自然だったが。この横島の反応には、子供たちも哀れみの眼を向ける。不自然すぎて、偽名ですと白状しているも同然であったからである。

 対して、雛里の方はと言うと風との会話を思い出し納得していた。公の場で口にする訳には行かないのだろうと。細作にしてはお粗末であるので、お忍びで来たどこかの権力者の子息、もしくは巷で噂になっている“天の御使い”かもしれないと考えたのである。“人智を越える”力で助けられたと思っているので尚更である。

 

「それでは、子考様」

 

「様!? いいよ、呼び捨てで!」

 

 改めて、雛里と向き合った横島だったが様付けされて驚く。時と場合、相手――メイドさんとか――によっては嬉しく感じるかもしれないが、子供が見ている前で見た目幼い少女に様と呼ばせることは、横島にすれば完全にアウトの状況だった。

 

「子考様は命の恩人ですので。あのまま、攫われていれば私はどうなっていたことか。想像したくはありませんが、肉体は生きていても私という人格は死んでいたかもしれません」

 

「いや、そうは言っても……。呼び捨てがダメなら、さん付けで呼んでくれないかな」

 

 尚も様にこだわろうとする雛里に、話が進まないと思った風が口を挟む。

 

「士元さん。お兄さんは、気さくな方ですのでかしこまった関係が苦手なのですよ。ここは妥協されては? 話も進みませんし」

 

 風の言葉を聞いた雛里は、横島を見る。見られた横島は、風の言う通りだと激しく首肯する。その姿を子供たちが真似しているのを横目に、雛里は分かりましたと告げると、本題へと進む。

 

「子考さんはこれから何をされるのですか?」

 

「え~と、水鏡女学院ってとこに行って……そのうち治安が良さそうなところで仕事でも探すかな。ま、取り敢えずは仲徳ちゃんたちと一緒に行くつもりだけど。次は何処って言ってたけ?」

 

「次ですかー? ()()ちゃんたちは洛陽に行くと決めてますねー」

 

「洛陽……そうですか」

 

 先の予定を聞いた雛里は、やはりと小さく呟く。そして、おもむろに膝をつくと横島の眼を見つめて告げるのであった。

 

 

「私の名前は、鳳統士元。姓は鳳、名は統。字を士元と言います。どうか私を、子考さんの旗下に加えてください!」

 

 

「え? 旗下って……? それに鳳統って……あの!?」

 

 急に大声を出した横島に、雛里はビクッと肩を震わせる。それでも、立ち上がらず横島からの言葉を待っている。

 

 その雛里の姿を見ながら、横島は困惑していた。旗下に加えるということの意味も分かっていないが、それ以上に雛里の名前である。

 

 鳳統士元。諸葛亮孔明と並ぶ知恵者であり、鳳雛と呼ばれていた劉備軍の軍師。

 

 かの有名な赤壁の戦いにおいて、連環の計の要を担った人物の一人。

 

 そして、主君劉備の馬に乗っていた為に、主君に間違われ全身に矢を受け若くして命を落とした人物。

 

 それが横島の知る鳳統という人物である。

 

 横島が今まで彼女が鳳統であると、気づかなかった理由は簡単。横島が読んでいた漫画では、鳳統の出番はそこまで多くなかったことに加え、孔明や他の登場人物に比べ字で呼ばれる描写が極端に少なかったのである。

 つまり、横島の頭には士元という字は刻まれていなかったのである。

 

 

 しばし、驚愕していた横島であったが袖を引かれたことで、意識を戻す。引かれた方向を見ると、風が小さく手招きをしている。屈んで耳を貸せと言っているのである。

 横島がしゃがむと、風は横島の耳元で話を始める。

 

「お兄さん、お兄さん。士元さんは、一緒に着いていきたいと言っているのですよ」

「ああ、一緒に洛陽に行きたいってことね。オレは構わないけど、仲徳ちゃんたちはいいの?」

「風は構いませんよ。稟ちゃんたちも構わないというでしょうね」

 

 横島の驚愕の理由を知りえない風は、横島が旗下と言う言葉が分からず返事をしないと思ったのか、雛里の言葉の意味を説明しに来たようである。最も、色々省いた説明だった為、横島には雛里が一緒に旅をしたいと言ったのだと理解したようである。

 

 風たちも問題ないと言ったことだしいいかと、横島は軽い気持ちで返答する。その瞬間、風がにやりと笑ったのを目撃した人物はいなかった。

 

「じゃ、士元ちゃんも一緒に行こうか?」

 

「は、はい! ありがとうございましゅ……うう、最後に噛んじゃった。せっかく、頑張ったのに……」

 

 

 

 

 

 

 ―おまけ―

 

「そういえば、士元ちゃんって魔法使えたりする?」

 

「魔法……ですか?」

 

「そ。何か手から出せたりしない? それか、箒で空を飛べるとか」

 

「手から? それは“気”のことですか? 私は使えないです。それに、箒で空を飛ぶとか、妖術使いみたいなことも出来ません」

 

「そっかー、魔女じゃないのか」

 

 そう呟く横島の視線は、雛里の頭の上にある帽子に注がれていた。

 

 

 




 六話です。雛里ゲットだぜ! の回。朱里は名前だけ。きっと、戻ってきたら雛里がいないという事実に、はわわと言ってくれることでしょう。
 また、ご都合主義な感じ全開です。星読みとかその最たるものでしょうね。まぁ、古の時代は星占いを政治に取り込むことはよくある話ですし、いいかなと。

 あと今更ですが、基本的に地の文は真名で書き進めます。但し、作中で真名が出てきた者だけです。真名が未登場の場合は、字が基本となります。

 次回は、雛里たちの親友が出ます。半オリキャラ? ってやつですね。

 水鏡女学院の場所。雛里が星読みをする及び、その結果。
 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。


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七節 揃っちゃった!?

七話です。雛里ゲットだぜ! ついでに、あの子もゲットだぜ! というルートになりました。

一言: 2万UA突破。ありがとうございます。


 

 

 

 

 

 雛里――鳳士元――を旗下に加えることになった横島。横島は、旅の仲間が増えるなぁといった程度の認識だが、風は雛里が本気であることに気づいていながら、許可を出していた。

 

(星ちゃんと稟ちゃんは、このまま自分の決めた道を進むでしょうからねー。お仲間は多い方がいいのですよー。太陽と共にあるお仲間は)

 

 飴を咥えながら薄く笑う風。彼女が前方に視線を向けると、雛里と横島が仲良く話している姿がある。あのあと、雛里が水鏡女学院の生徒だと判明したことで、彼女に学院まで案内してもらっているのである。

 

 稟に薬を届けるのは後回しである。風曰く、

 

「安静にしていれば問題ないですからー」

 

 だそうである。実際、彼女は貧血で倒れているだけなので安静にしていれば問題はない。星については、何処にいるか定かではないし、元々女学院に興味を持っていなかったので探す必要はないと判断された。

 

 

 

「あの、子考さん……」

 

「……ん? ああ、オレのことか。悪い悪い、慣れてなくてさー」

 

 雛里に呼ばれたことに気づかなかった横島が、バツが悪そうに頭を掻きながら謝る。その軽い態度からは、偽名であることを隠すつもりあるとは思えない。

 そんな横島の態度に怒るでもなく、雛里は一つため息を吐くと横島を見つめ注意する。

 

「私はいいですけど、これから行く水鏡女学院では気をつけてくだしゃ……さい。水鏡先生は、人物鑑定に優れたお人です。つまり、観察力がずば抜けているんです。偽名だと分かったら、水鏡先生に追求されるかもしれないんですよ?」

 

 先程までは横島の問いかけにおずおずと答えていた雛里が、今は強い口調で注意を促してくる。横島は、そのギャップに戸惑うばかりである。横島と雛里が出逢ってから然程時間は経っていないが、雛里が本来内気な人物であることは、横島と風は理解していた。何せ、話しかければひどく慌てる上に、言葉をよく噛む。そして、被っている帽子のつばで顔を隠すのである。これで、実は陽気な性格だと言われた日には、嫌われているとしか思えない。

 

 そんなことを考えていた横島は、雛里に再び注意されるのであった。

 

「でもなー。慣れてないんだから仕方ないというか……何で、こんな名前なのかも知らないし」

 

 そう弁解しながら、横島は背後を歩く風の方を見る。その視線に気づいた風は、しょうがないといった態度で横島と雛里に説明を始める。

 

「お兄さんの偽名については、元々志才ちゃんや子龍ちゃんにも提案していたのですよ。結局しっくりくる名前が思い浮かばなかったので、そのままだったんですが……。今さっき突如閃きまして。いやー、天啓とはこういうことかと思いましたねー」

 

「ああ、あの二人も知ってたんだ。しかも、さっき閃いたのなら、オレが知らないのも無理は……って、違うわ!? 何で偽名って話!」

 

「うるさいですよ、お兄さん。偽名偽名と大きな声で言わないでください。何故、偽名が必要かと言うとですねー。一言でいえば、文化の違いですかね」

 

「文化の違い?」

 

 横島はその言葉に首を傾げる。文化の違いと言われても、そもそも世界からして違うので、何が問題なのかよくわかっていないのである。

 

「そですねー。士元ちゃんはわかってくれると思いますが、お兄さんは真名を気軽に名乗るのですよ」

 

「え?」

 

 風の言葉に、驚愕を顔に貼り付けた雛里が横島を見る。そこに、風が追加で説明を入れる。

 

「正確には、真名に該当する名……でしょうか。お兄さんは大陸の出身ではないので」

 

「それは……いえ、その話は今はいいです。子考さんには確かに、偽名が必要でしょうね。無用ないざこざを避ける意味でも」

 

「あのー。二人で納得してないで、オレにもわかるように言ってくんない?」

 

 雛里は偽名の必要性に理解を示したが、横島にはさっぱりである。少々情けない声で、二人に説明を求める。それを聞いた風と雛里は、横島に説明を始める。

 

「ああ、すみません。子考さんは真名については何処まで?」

 

「勝手に呼んだら刺される」

 

「……ま、まぁ間違ってはないですが……。今回問題なのは、そこじゃないんです。真名とは、信頼の証。生涯の友や伴侶にのみ伝える名なんです。親でさえ、子供の真名を勝手には呼べないんです」

 

「基本的に……と、つきますがねー。あとは、呼ぶ場面でしょうか。例えば、志才ちゃんと私は真名を交換していますが、この場で志才ちゃんの真名を口にすることはありません。本人がいないところで真名を呼ぶのは御法度なんです」

 

「ああ、だからさっきからその呼び方なんだ」

 

 風の説明に納得する横島。風はそれに対し頷くと、真名の説明を続ける。

 

「つまり、真名はお兄さんのように気軽に名乗る名ではないのですよ。例え当人が重要に思っていなくとも、周りが気にします」

 

「それはわかったけど……オレの場合は違うだろ? 真名っていう風習がないんだから」

 

「ですから、文化の違いなのですよ、お兄さん。真名という風習を持つ私たちは、真名に該当するものを探してしまうのですよ。それが、大陸に住まう我々の常識ですから。それならいっそ、本当に真名にしてしまえばいいのです。少しお兄さんをあらわす飾りが増えると思って、受け入れてくれませんか。お兄さんも大陸で生活するのなら、こちらの風習を理解してくださるとありがたいのです」

 

 これで話は終わりと言うように言い切る風。文化の違いとは、そういうものだと納得する以外に落としどころはないのである。例え、横島が真名ではないと否定しても、周囲がそう受け取るかは別なのである。

 

 それでも、横島本人が納得するかは別の話。既に偽名を名乗らせているが、本当に受け入れてくれるだろうかと風は横島を伺う。それに対する横島の返答は軽いものであった。

 

「別に名前を捨てる訳じゃないし、構わないけど。それに、郷に入っては郷に従えって言うしな」

 

 悩むことなく即答した横島。どうやら、偽名に関して問いかけたのは単純に名乗る理由が知りたかっただけのようである。

 そんな横島の態度に安堵しながら、風は疑問に思ったことを口にする。

 

「郷に入ってはとはどう言う意味の言葉ですか? お兄さんの故郷の言葉でしょうか?」

 

「ああ、確か新しい場所に行ったら、その場所のルール……規則に従えって意味だったかな? この状況にぴったりだろ?」

 

「そうですねー。では、お兄さんには郷に入っては郷に従ってもらうとしましょう」

 

 そう言って笑い合う風と横島。その時になって、事の経緯を途中からあわあわしながら見ていた雛里が口を挟む。

 

「あ、あの子考さん。偽名を名乗るにはまだ理由があるんです」

 

「え? そうなの?」

 

「はい。今、この大陸は漢王室が支配しています。そして、漢という国は異民族に何度も襲われています。荊州はそうでもないですが、幽州などの異民族と国境を隣り合う地では異民族は嫌われています。子考さんの産まれが何処かに関わらず、異民族というだけで悪意を向けられる可能性は十分に有り得ます」

 

「そういういざこざを避けるのにも、偽名は有効ってことね。教えてくれてありがとう、士元ちゃん。余り出身について言わないようにするよ。……それにしても、幽州って目的地の一つじゃなかったっけ?」

 

 雛里の頭をお礼の代わりに撫でながら、横島は風に問いかける。撫でられた雛里は、恥ずかしいのか必要以上に帽子を深く被り、あわわと言いながら表情を横島たちから隠す。その様子を何処か羨ましそうに見ていた風は、横島の問いかけに首肯して答える。

 

「志才ちゃんたちの予定ではそうですね。洛陽の次に向かうんじゃないですかねー」

 

 横島は風の言葉に若干の引っかかりを覚えながらも、記憶違いではなかったと安心した様子を見せる。そこに、風が近寄ると無言で頭を横島に差し出す。

 

「仲徳ちゃん?」

 

『おうおう兄さんよー。そっちの嬢ちゃんには礼を言った上に頭を撫でたってーのに、うちの嬢ちゃんには何もなしかい? そいつはちぃとばかし義に欠けるんじゃねぇかい?』

 

 突然、風の頭に乗っている人形――宝譿――が喋ったことに驚く雛里から手をどけると、横島は風の頭も同じように撫でようと手を伸ばす。

 

 ……が、その手がそのまま風の頭に乗ることはなかった。

 

「仲徳ちゃん……宝譿が邪魔でなでれない」

 

「おおう……これ、宝譿邪魔ですよ」

 

『そりゃないぜ、嬢ちゃん』

 

 

 

 

 

 その後、風の頭をひとしきり撫でたあと横島たちは、水鏡女学院の前に到着していた。

 

「ここが水鏡女学院です。名が示す通り、女性ちょ……女生徒が通う学院ですので、基本的に男子禁制でしゅ。子考さんたちは、少々此処でお待ちください。先生に許可を頂いてきますので……」

 

 そう言って、戸に手をかけようとした雛里を衝撃が襲う。目の前で戸が開き、中から飛び出してきた人物とぶつかったのである。

 

「「「いたたた……」」」

 

 痛みを訴える声の主は三人。一人は当然ながら雛里である。他の二人は、雛里と似た服を着用しており、一人はベレー帽を、もう一人はソフト帽を被っており、今はずれた帽子で顔が隠れている。

 

「はわわ、どうしよう瑠里ちゃん! 真っ暗だよ!」

「ふわわ、落ち着いて朱里ちゃん! きっとお外は夜だったんだよ!」

 

 余程慌てているのか、自分の視界が帽子で遮られていることに気がついていないようである。

 

 そこに、横島に抱き起こされた雛里が声をかける。

 

「二人とも落ち着いて! まだ夜じゃないし、暗いのは帽子のせいだよ!」

 

「っ! その声は……」

 

「「雛里ちゃん!? 良かった無事だったんだね!」」

 

 良かったーっという二人。そんな二人に戸惑いながらも、雛里は横島たちに二人のことを紹介する。

 

「あ、あの……この二人が親友の諸葛孔明ちゃんと徐元直ちゃんです」

 

 

 

 その瞬間、横島は心の中で驚愕の言葉を叫んでいた。

 

(伏龍鳳雛揃っちゃったー!! しかも、徐庶まで!!)

 

 

 

 

 

――おまけ:偽名の由来――

 

 これは、水鏡女学院に着く前の風と横島の会話の一部である。

 

「そういや、(おう)子考(しこう)って、どうやって決めたの?」

 

「横はお兄さんの姓の読みを変えたものですねー。字の子考はですねー。お兄さんが地元の子達と遊んでいる時に閃いたのですよ。遊んでいるお兄さんは、本当に子供のことを考えている優しいお人なのだなぁと風は思ったのです。その瞬間、子のことを考える人という意味で子考という名が浮かんだのです」

 

「結構考えてつけてくれたんだなー。子どものことを考える人かー。うん、優しそうで女にモテそうな名前だ。ありがとう、仲徳ちゃん!」

 

「いえいえー。気に入ってくれたならそれで」

 

 疑問が解決したからなのか、褒められたからなのか上機嫌で少し先を歩く雛里に近寄る横島。そんな横島を見ながら、小さく風は呟くのだった。

 

「本当は、子供みたいな考えを持ち続けている人で子考だったのですが……これは、風だけの秘密にしときましょうか」

 

 




 七話です。前半部分は偽名をつけた理由。別にいらないです。そして、万を持しての登場となった朱里と徐元直。彼女らの扱いは既に決定しています。ええ。一言で言うなら、ゴメンね一刀くんでしょうか。


 真名に関する一部設定。徐元直の服装など。
 これらは拙作内設定です。

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八節 あなたたちは今日で卒業です

八話です。タイトルに深い意味はないです。

一言: もうすっかり秋ですね。流石に再び暑くなるなんてことないですよね?


 

 

 

 

 

 

 

 

「それで二人とも慌ててどうしたの? それに朱里ちゃんは戻ってくるの明後日だったんじゃ?」

 

「あ、それはね? 隣り街で古書を買ったあと、ちょうどよくこっちに来る隊商の人たちに乗せてもらえたの」

 

 そう言って嬉しそうに微笑む諸葛孔明――朱里。隣りにいる徐元直――瑠里も嬉しそうに言葉を続ける。

 

「朱里ちゃんが買ってきた古書凄いんだよ! このあたりじゃ、まず見つけられないような貴重な本なんだよ。私が欲しいくらいだよ」

 

「そ、そんなに!?」

 

「あ~、士元ちゃん?」

 

 雛里も彼女らの言葉に興味を示し、収集がつかなくなるかと思われたその時。横島が話しかけたことで、ようやく朱里と瑠里の二人は客の前であることに気づいた。

 

「あ、子考さん。しゅ……しゅみませんでした。改めてご紹介致します。水鏡女学院主席の諸葛孔明と、三席の徐元直です」

 

 噛んじゃったと恥じる雛里を横目に、紹介された二人が名乗る。

 

「諸葛孔明と申します。ようこそ、水鏡女学院に。この度は我が友、鳳士元を助けて頂き感謝致します」

 

「徐元直と申します。我らはお二人を歓迎致します。孔明、士元ともども宜しくお願い致します」

 

 表情を引き締め、丁寧に名乗り頭を下げる二人。その挨拶に横島は戸惑う。それを見た風が一歩前に出て挨拶を返す。

 

「私は程仲徳と申します。この方は横子考様。此度は士元殿の招きに応じ参上しました。噂に名高き水鏡女学院の生徒、それも主席と三席の方にお会いできるとは光栄です」

 

 そう言って礼をする風。黙って見ていた横島は、初めて畏まった態度をとる風に驚いていたが、風が礼をするのにあわせて見よう見まねで礼をする。それを受けた朱里たちが再度礼をすると、雛里が口を開く。

 

「それで朱里ちゃん、先生は? あと、子考さんが私を助けたって何で知ってるの?」

 

 先までの堅苦しい口調が嘘のような軽い口調に、横島は戸惑うばかり。横島にすれば、彼女たちの切り替えのスイッチがわからないのである。そんな横島に気づいた風が、横島の袖を引き横島を屈ませると、耳元で説明する。

 

「士元ちゃんは、堅苦しいのは此処までと伝えたのですよ。そういうのが苦手なお兄さんを気遣ってのことでしょうね。それと、風やあちらの二人のやり取りは形式的なものですよ。主人側は歓迎の意を、客人側はそれらに感謝などを伝えるのです。まぁ、ただの客人相手に使うかというと否ですが、今回は特別でしょう」

 

 それはどういうことなのかと横島が問おうとするが、その疑問が口から出ることはなかった。何故なら、雛里が驚愕の声を発したからである。

 

「ええー!? 先生いないの?」

 

「そうなんだよ。私が古書を先生に渡したあと、雛里ちゃんが人攫いにあったって連絡があったの。そうしたら、先生が……」

 

『朱里、瑠里。あなたたちは今日で卒業です。今後は好きに生きなさい。旧き宿命(さだめ)に従うか、新しき宿命(さだめ)に従うかは貴女方の自由です。ああ、雛里はもうすぐ帰ってくるから心配は無用ですよ。おそらく、連絡にあった雛里を助けた御仁も一緒でしょう。その御仁とあってから、雛里と一緒に身の振り方でも決めるといいわ。あ、厨房の菓子貰っていくわね? あと、雛里が戻ってきたら一緒にこの手紙を読みなさい』

 

「って。そのあと、さぁ読むわよーとか言って出かけたから、いつものように何処かに篭ってるんだと思うけど……。そのあと、ただ雛里ちゃんを待つのもツライからって探しに行こうとしたら……」

 

 そこまで聞いた雛里はがっくりと肩を落とす。水鏡には色々と言いたいことがあるが、現在の居場所が分からないのでは仕方ない。雛里はゆっくり横島たちに向き直ると、口を開く。

 

 

 

「すみません……先生はいないみたいで。以前から多量の本を一気に読むために姿を消すことがありまして……一回姿を消すと最低でも五日は帰ってこないかと」

 

「あー。そりゃ残念だ。せっかくの美女との出逢いが」

 

 雛里の説明に落胆した声を出す横島。誰も水鏡が美女であるとは言っていないのだが、横島には何故かわかるらしい。

 

「そうですねー。流石に五日となると、手持ちの路銀では少々心許ないですねー」

 

「あ、あの……今回私が買ってきた書は、些か古いものでして先生でも簡単には読めないかと」

 

 朱里の言葉に顔を見合わせる風と横島。五日でも不安なのに、それ以上となると路銀が尽きる可能性の方が高くなる。どうしたものかと考えていると、黙っていた瑠里が声をかける。

 

「ここで考えていても仕方ないですし、中へどうぞ。先生もいませんし、他の生徒たちも先生が飛び出していったので此処にはいませんから」

 

 お茶しか出せませんがと言いながら建物の中へ消える瑠里。横島と風も朱里と雛里が促すままに、中へと足を進めるのであった。

 

 

 

 

 

「さてさて……幾つか聞きたいことがあるのですが、質問してもよいですか?」

 

 案内された一室で瑠里が淹れたお茶を一口飲むと、風が雛里たちに質問してもいいかと聞く。それに対する雛里たちの答えは是。風は彼女らに質問をするのであった。

 

「先程、士元ちゃんとの会話が聞こえてきたのですが……お三方は学院を卒業するそうですね? そんな急に卒業と言われても困るのでは?」

 

「それがそうでもないんです。学院で習うべきことはとっくに終えていますから。今は今後に向けて路銀を貯めているところだったんです」

 

「ほほう、そうなんですかー」

 

 雛里の言葉に、風の目がきらりと光る。何やら思いついたようである。対して、横島はというと、年端もいかない少女たちが今後を見据え貯金をしていることに感心すると同時に、自身は無一文という現実に落ち込んでいた。

 

「それで、今後はどのように? 士元ちゃんは私と同じくお兄さんの旗下に加わるとのことでしたが」

 

 そんな横島の様子を無視して、風が更なる質問を重ねる。ちゃっかり、自身も横島の臣であると告げて。

 

 その言葉に朱里と瑠里は雛里の方を見つめる。風が旗下――つまり、横島の臣であるということは挨拶を交わした時に予想していたが、雛里もそうだとは思っていなかったのである。

 一方、急に見つめられた雛里はあわあわと慌てている。折を見て自分から話すつもりだったことを急に暴露されたのだから、無理もないことであろう。

 

「どういうこと、雛里ちゃん? 私たちと旅に出るんじゃなかったの?」

 

「そうだよ。……もしかして、昨日のこと?」

 

 問い詰めようとした朱里と瑠里であったが、瑠里が昨夜のことが関係しているのではないかという。

 

 昨夜のこと……それは、星読みのことである。雛里と瑠里が星を読んだ時、『運命』『異性』『出逢い』『仲間』『大きな変化』という結果であった。瑠里は、そのことを思い出し問いかけたのである。

 

「え~と、それもあるかな。ちょっと先走った感じはするけど、この決断を間違いだとは思ってないよ。先生の言葉もあるし、尚更」

 

 その言葉に、雛里は道を決めたのだと悟った二人は口を噤む。見た目頼りない横島についていく親友を止めたい気持ちもあるのだが、内気な雛里が星読みの結果だけで決断することがないことは二人もよく分かっているからである。

 さて、自分たちはどうするべきかと二人が思案していると、風が口を開く。

 

「話しを聞くに、お二人も旅に出るようですね。ならば、私たちと一緒に行きませんか? 無論、旗を同じにしろと言う訳ではありません。別に途中まででも良いのです。こちらには、無双の武を持つものも帯同しておりますし、多少は安全に旅を進めることができるかと」

 

 その提案に少々考え込む朱里。彼女にとっては、横島を見極める時間を得ることができる上に、安全を確保できるというこの上ない提案ではある。

 

「それはありがたいのですが、こちらにばかり利があるように思えるのですが」

 

「勿論、こちらにも利はありますよー。士元ちゃんの他に学院の主席や三席も一緒なら、道中色々学ぶこともできるでしょうし。何より、そのままずっと一緒ということも十分ありえますからねー」

 

「そんなはっきりと……それを言ってしまったら、私たちが断るとは思わないのですか?」

 

 風のぶっちゃけた発言に、朱里は苦笑しながら尋ねる。瑠里も同じような表情である。

 

「そうですかねー。逆に興味を抱いたのではないですか?」

 

 朱里と瑠里はその言葉に答えることはせず、風もそれで構わないのかそれ以上言うことはなく笑うだけであった。

 

 

 

 

 

 その後、話題は水鏡が残した手紙へと移る。手紙は代表して朱里が音読することとなり、横島たちも同席を許された。とは言っても、感謝したのは風で、横島は興味なさそうにしていたが。

 

「それじゃ、読みますね」

 

『我が優秀たる教え子たちへ』

 

『この手紙は、あなたたちが学院から巣立つ日の為に書きしたためたものです』

 

『おそらく、その場に私はいないでしょう。もしかしたら、手紙も手渡していないかもしれません。湿っぽい別れは苦手ですからね。適当な理由をつけて姿を隠しているものと思います』

 

 そこまで読み上げると、思わず朱里は苦笑いを浮かべてしまう。雛里や瑠里も同じである。

 

『あなたたちに伝える事は全て授業で伝えました。今更、伝えることはありません』

 

『それでも、何も贈らないのは師としてどうかと思ったので、貴方がたに号を贈ることにしました』

 

『諸葛孔明には“伏竜”の号を』

 

『鳳士元には“鳳雛”の号を』

 

『徐元直には“臥狼”の号を』

 

 師より与えられた号を噛み締めるかのように、呟く三人。それを聞いていた横島は、自身は終ぞ縁のなかった師の愛に感動していた。

 

(何かいいよなー。師匠からの贈り物ってのは。オレなんか……やめよ)

 

 横島の師といえば、美神や老師――斉天大聖孫悟空――になるのだろうかと、横島は彼らから教わったことを思い出そうとしたが、一つも思い出せなかった。贈り物についても同様である。強いて挙げるのならば、文珠が該当するのだろうがアレは潜在能力に目覚めた結果のものであるため、やはり違うだろう。

 因みに、霊能力の師とも言えるバンダナ――心眼――は師匠ではなく、相棒という認識である。

 

 横島が三人を羨んでいる間に、朱里が続きを読み始める。

 

『伏竜、鳳雛、臥狼』

 

『これらの号には二つの願いを込めました』

 

『一つは、あなたがたの才が知られることのない世であって欲しいということ。あなたたちに教えた軍略が発揮されない世であって欲しい。ですが残念なことに、この願いが叶うことはないでしょう。もうすぐそこまで、乱世の足音は聞こえているのですから』

 

『もう一つは、その才を定めた主の元で存分に発揮して欲しいということ。天に昇る竜のように、飛翔する鳳凰のように、牙をむく餓狼のように。存分にその智を、軍略を、謀略をふるいなさい』

 

 そして、手紙は次の言葉で締められていた。

 

 

 

 

 

『三人の誰も欠けることなく、揃って再会出来ることを願っています』

 

 




 八話です。冒頭、挨拶のシーンは真面目なシーンの筈なのに、幼女が大人の真似をしているようにしか思えないという不思議な事態に。

 あと、水鏡先生はまさかの回想&手紙のみ。横島の飛びつきを期待していた方々すみません。横島が最初に飛びつくのは、関西弁の露出過多なあの人と決めていたので。もっとも、次かその次くらいには飛びつくかな?

 今回のタイトルは、水鏡先生の回想より抜粋。

 水鏡の行動あれこれ。伏龍、鳳雛の二つ名を水鏡が与えた。徐庶の号が臥狼。
 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
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九節 碧の御使い様

九話です。いろいろ衝撃な展開です。プロットは所詮プロットなんですね。何度も思っていることですが、今回は特に思いました。

一言: お待たせ。え? すごく待った? ゴメンなさい(土下座


 

 

 

 

 

 

 

「あ、まだ続きがあるよ?」

 

 雛里の言葉に、朱里が手紙に目を落とすと確かに手紙には続きが書かれていた。

 

『そうそう。元直。あなたのお母様については、心配しないでください。昨日占ってみたら近い未来、あなたの元に紅を纏いし者が天より遣わされると出ました。御使い様は、その身に黄龍を宿しており天の力を用いてあなたを助けることでしょう』

 

「……それだけ?」

 

「……うん」

 

 朱里が読み上げた内容に、瑠里はひどく気落ちした様子を見せる。その様子と、水鏡の手紙に書いてあった”助ける”と言う言葉が気になった横島が事情を聞こうと口を開く。

 

「えっと、助けるってどう言う事? お母さん何処か悪いの? オレでよければ力になるけど……?」

 

「おやおや。お兄さんは元直ちゃんを気に入ったようで。ここで恩を売ってやろうという魂胆ですね。そのまま、恩に着せて元直ちゃんを……いやはや、流石はお兄さんです」

 

 横島の言葉に最初に反応したのは、風であった。風は横島の言葉をわざと歪めて捉える。

 

「いやいや、そんなこと考えてないから!? 仲徳ちゃんも分かってて言ってるでしょ……って、そこの二人! お願いだから距離取らないで!?」

 

 風の言葉を真に受けた朱里と瑠里が密かに距離を取る。それに気づいた横島が近寄ると、更に距離を取る。朱里たちも少し笑っていることから、本当に怯えている訳ではないことが伺える。彼女たちの卓越したその頭脳は、風の言葉が冗談であると見抜いていたのである。まぁ、楽しそうに笑う風の顔を見れば、誰でも分かるとは思うが。

 

 そのことに気づくまで、割と本気で逃げていたことは秘密である。

 

 そんなこととは露ほども知らない横島は、床に手をつき四つん這いの態勢で落ち込んでいた。その横島の肩に手をおき優しく慰めているのは、風の冗談にいち早く気づいた雛里である。彼女は自身が救助された時、何の見返りも求められなかった為すぐに気づくことが出来た。その後すぐにフォローを入れずに、黙って事態の推移を見守っていたのは横島たちの空気に早くも馴染んできた証拠だろうか。

 

 そんな光景をひとしきり楽しんだ風は、注目を集める為に手を叩く。全員の視線が集まったことを確認すると、ゆっくりと本題――瑠里の事情へと話を進めるのであった。

 

 

 

 

 

「つまり、元直ちゃんのお母様が最近体調不良が続いてると……」

 

「はい。元から病弱だったのですが、最近は床から出られない日が続いてまして。本人は大丈夫というので旅に出る準備は進めているのですが、やはり心配で」

 

「そうですか……それにしても、こうなると運命としか言い様がないですねー。ね? お兄さん」

 

「へ? 何が?」

 

 病気では自分の出番はないだろうと思っていたところに、話しを振られ少々間抜けな返事をする横島。それに対し、風は何でもないような口調で衝撃の事実を告げるのであった。

 

「手紙に書かれていましたよね? 元直ちゃんを助ける御使い様が現れると。それは、お兄さんのことなんですよ?」

 

 

「「「ええっ!!」」」

 

 

 その言葉に驚愕の声をあげ立ち上がる横島、朱里、瑠里の三人。言った本人である風は当然として、雛里も声をあげることはなかった。代わりに彼女は、一言やはりと呟くのであった。

 

「いいですか? お兄さんの名前は“横子考”です。“横”という文字には“黄”という文字が含まれているのですよ。そして、士元ちゃんたちが贈られた号から推測するに“黄龍”とは、特別な才を持つ人を表していると見てよいでしょう。それに、号をつける人はそのような言い回しを好む人が多いですからねー。水鏡殿もそうだったのではないでしょうか。まぁ、他にも考えられる理由はありますが、今はいいです」

 

 そう言いながら風は、何処からか取り出した紙に“横”という文字を書き記すと、“黄”を丸で囲む。

 

「つまり、手紙に書かれていた『その身に黄龍を宿し』とは、名前に“黄”の文字を含む才能ある人となる訳です。そして、『紅を纏いし』の部分ですが……」

 

 そう言って横島の額にある布へ視線を向ける風。それに釣られるかのように、横島の額に巻かれた“赤い布”を見つめる面々。

 全員の視線が一気に集中した為か、横島は気恥かしそうである。彼女たちは全員美少女と言って過言ではない容姿の持ち主である。そんな彼女たちが、真剣な表情でジッと見つめてくるのだから仕方ないのかもしれない。

 

「ま、そう言う訳なのですよ。しかし、この手紙が開封されるところに居合わせるなんて、正しく運命としか言い様がありませんねー。流石はお兄さんと言ったところでしょうか。何が流石かは分かりませんが。それでは、元直ちゃんのお母さんに早速会いますか? それとも、もう少し理由を聞きたいですか? ああ、どっちにしろ私としてはその前に少々お時間を頂きたいのですが。お兄さん、少しいいですか?」

 

 

 心なしか早口で告げる風に横島が頷くと、風は横島の前へと進み出るとそのまま自然な動作で跪き、臣下の礼をとる。いきなりのことに戸惑う横島は、先程も同じような光景を見たなと、雛里の方に視線を向ける。そこには、真剣な眼で風を見つめる雛里の姿があった。彼女は、風が何を口にしようとしているのか見当がついているのかもしれないと、横島は思いながら視線を雛里から風へと戻す。

 すると、それを待っていたかのように風が口を開く。

 

 

「改めて名乗らせて頂きます。姓は程、名は昱、字を仲徳。天よりこの地に遣わされし碧の御使い様。どうか共にあることをお許しください。そして、願わくは……」

 

 

 そこまで告げると、風は顔をあげ横島と視線を合わせる。風の言葉に驚いていた朱里たちは、途中で頭をあげるという本来は忌避すべき行動をとった風に更に驚く。風はそんな周囲の反応を気にも留めず、横島と視線を絡めたまま言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

「願わくは、我が真名をお受け取りください。我が真名は風。常に貴方と共にある風となり、貴方に付き従うことを真名にかけて誓います」

 

 

 それは誓いの言葉。

 

 

 真名の重要性をイマイチ分かっていない横島にも、込められた想いが存分に伝わってくるような気がする神聖な誓いの言葉。予想外の出来事であった筈なのに、その誓いへの返答は最初から決められていたかのようにするりと横島の口から伝えられる。

 

 

「喜んで受け取るよ、風ちゃん。オレの名は横子考。真名は忠夫」

 

 

 風へと一歩踏み出し、手を差し出す横島。風がその手を取ると、横島は笑顔で告げるのであった。風にとって、何よりも意味のある言葉を。

 

 

「これからもよろしく!」

 

 

 

 ――この瞬間、来訪者“横島忠夫”は正しくこの世界の住人となったのである。

 

 

 

 

 

 

「さてさて、それでは元直ちゃんのお母様の所へ行きますか? ああ、そうそう他にもお兄さんなら助けられるのではと思う理由が……おや? どうしました皆さん、そんなボケっとした顔して」

 

 先程までの真剣な様子が幻だったかのように、普段通りに戻る風。そんな風が眼にしたのは、固まっている朱里たちの姿であった。雛里は帽子を深く被り何事かをブツブツ呟いており、朱里と瑠里の二人は主従の真名交換という神聖な儀式に立ち会ったことで、自分たちが主に真名を預ける時のことに思いを馳せているようである。

 

 

 

 朱里たちが正気に戻るまでの間に、横島は生じた疑問を解消することにした。

 

 横島の疑問。それは“碧の御使い”という言葉。横島の記憶では、怪しげな予言の主人公を風がそう呼んでいた筈である。自分が“碧の御使い”とは思っていない横島にとって、風が何故そう思ったのか疑問に思ったのである。

 

 

「風ちゃん、風ちゃん」

 

「はいはい、何でしょうお兄さん。今の内に、三人に悪戯でもしますかー?」

 

『ここは額に”忠”と書いとくか?』

 

「いや、そんなことしないから。大体、こういう時の定番は”肉”って、違う! オレが”碧の御使い”ってどう言う事? 人違いじゃ?」

 

 風と宝譿の言葉に、ツッコミをいれたあと横島は疑問を口にする。それに対し、風はいつものように何処からともなく取り出した飴を咥えながら答える。

 

「人違いではないと思いますよ? お兄さん……ああ、真名を交換したのですから、忠夫さんと呼ばないといけませんね。これは風としたことがうっかり」

 

「いや、どっちでも別にいいんだけど……じゃなくて」

 

「では、お兄さんと。忠夫さんと呼ぶのは特別な機会の為に取っておくことにします。それで、何故お兄さんが“碧の御使い”なのかといいますと、まずお兄さんは不自然です」

 

「は?」

 

 風の言葉に思わず間抜けな声が出る横島。いきなり不自然と言われたのだから、仕方ないのかもしれない。

 

「お兄さんは島国の出身と言いました。まず、そこがおかしいのですよ。私たちがお兄さんとあったのは、大陸でも中央に近い場所です。ここから近い海岸付近の街まで船で川を下ったとしても、一日二日で着くことはありません。しかも、故郷――島国でさらわれたのなら、海を渡ってきたことになります。その分の日数も加えると、十日近くお兄さんはご自分が移動していることに気がつかなかったことになります」

 

 横島はそれを聞いて冷や汗を流す。横島もようやく気づいたのだ。車も高速船も飛行機も存在しないこの世界では、移動にかなり時間を要することに。

 

「無論、薬か何かでお兄さんの意識を奪っていたことも考えられますが、そのような手段を使ってまで攫っておいて、あんな場所で放置する意味がわかりません。また、お兄さんの言葉が嘘だと仮定すると、お兄さんはご自身の意思であの場所に来たことになります。すると、今度は別の疑問が生じます。お兄さんは、武器や路銀を始めとした旅に必要な物を一切持っていませんでした。短刀の一本も所持せず、路銀もなく旅を続けるのは不可能です。では、お兄さんは何故あのような場所にいたのか? 考えられる可能性は三つ」

 

 そう言うと、風は横島に向けて指を三本立たせて見せる。

 

「一つは、お兄さんが旅の途中で賊などに身包みを剥がされた場合。ですが、それにしてはお兄さんはあまりに無防備でした。そのような目にあった人間は総じて、他人に対し警戒心が強くなるというのに。ですので、この可能性は否定できます。二つ目は、お兄さんが数人で行動していたが、何らかの理由でお兄さんだけあの場に置いていかれた場合です。つまり、路銀や武器の類は同行者が持っていた為に、お兄さんは所持していなかったという可能性ですね。その場合、何も所持していなかったことに説明がつきますし、言いにくいことですから、それまでの経緯を誤魔化す為に人攫いにあったと偽ることも有り得ます」

 

 現に、と風は続ける。

 

「稟ちゃんや星ちゃんはそう思っています。お兄さんがスケベさんなのは、この数日の間で理解していますから、それが理由で捨てられたのではないかと。この場合、真名を知らなかったことについても、同郷の人とだけお兄さんが行動していたのなら説明がつきますしね」

 

 その説明に横島は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。美神と除霊に行った帰り道に、セクハラのしすぎで怒った美神に放り出され、見知らぬ土地に置いていかれることが良くあったからである。

 

「三番目の可能性。これは、お兄さんが別の場所から突如あの場所に現れたという可能性。突拍子もない考えですが、そうだとすると色々説明出来るのですよ。何せこの場合、距離は関係なくなりますからね。お兄さんが気づいたらあの場所に居たという言葉も、日本という国を風たちが知らないのも、お兄さんがこの大陸のことを何も知らないことも、遠い場所から突然移動したからの一言で説明できちゃうのです。そして、風はこれこそが真実だと思いました」

 

「いやいや、それは普通思いついても即座に却下する可能性じゃ……?」

 

「あらゆる可能性について思考するのが、軍師には重要なのですよ? まぁ、風とて普段ならすぐに捨てたことでしょう。ですが、風はこの可能性を捨てませんでした。何故なら、風は天の御使いの予言を知っていたからです」

 

「つまり、オレが天の御使いならその突拍子もない考えが事実になる……?」

 

 横島が恐る恐る口にした言葉に、風は笑顔で答える。

 

「そういう事です。予言が真実なら、天の御使いが存在する。そして、天の御使いだとすれば、不自然な所が全て説明できる人が目の前にいる。だからこそ、風はその可能性を捨てませんでした」

 

「ひゃ、百歩譲ってだ。オレが御使いだとして、何で碧? 白かもしれないだろ?」

 

 風の説明に、自分は本当に御使いなのではと思う横島。同時に、碧の方は軍勢の前に出ると予言されているので、せめて白い方ではと淡い期待を込めて風に尋ねる。

 

「簡単ですよ。お兄さんは白い方とは特徴が一致しませんから。それに、あの予言はいくつかある天の御使いに関する予言の中で、一番有名な一節というだけです。世間には広まっていませんが、碧の御使いは紅の布を身につけているとかいうのもありますし、何より風はお兄さんが碧い剣を持っていることを知っていますから」

 

「何を言って……?」

 

「お兄さんの腕の中が心地よかったのは確かですが、そんな状況で簡単に寝入れる程風は子供ではないのですよ。まぁ、剣を見たあとあまりの心地よさにぐっすり寝てしまったのは誤算でしたが」

 

「あっ、あー! あの時、起きてたんか!?」

 

 横島のいうあの時とは、この街に着くまでの道中で野宿をした時のことである。

 野宿ということで横島と風の二人で火の番と見張りをしていた時、風が寒いと言って横島の膝の上に座ったことがあった。最初は驚いた横島だったが、抱え込んだことで風の体温が伝わってきて、暖かく感じたのですぐにそれを受け入れたのだ。内心、これが稟や星だったら良かったのにと思いながら。すると、あっさりと風が寝入ってしまったのだ。

 話し相手を失い、身動きも取れなかった横島は栄光の手で木の枝を拾い、霊波刀で枝を切り薪にしたり、サイキックソーサを操作してUFOごっこをしてみたり、文珠を作成して暇を潰していたのである。因みに、風からほのかに香る甘い匂いや、抱えている体の柔らかさに煩悩がちょっぴり刺激されたのか、その日生成した文珠は、普段より短時間で生成出来たのは余談である。

 

 

 

「碧い剣と盾。それは、碧の御使いの武器であり、天の力。お兄さんが碧の御使いだと確信を得るには十分な証拠です」

 

「オレが御使いかー。あんま面倒なことは避けたいんだけどなー。でもそれで納得できたよ。風ちゃんはオレが御使いだとわかったから真名を預けたんだな」

 

 うんうんと頷く横島に、風は不満げな顔をするがすぐに表情を消すと、顔を両手で覆いながら床へ崩れ落ちるようにしゃがみこむ。それに慌てた横島に、宝譿が風の気持ちを代弁するかのように喋りだす。

 

『おうおう、兄ちゃんよー。風の嬢ちゃんが大事な真名を、そんな理由で預ける訳ねーだろ! これじゃ、嬢ちゃんが可哀想だぜ』

 

「うう、いいのですよ宝譿。風は御使い様という言葉だけで真名を預けるような、軽い女と思われていただけのことです……うぅ」

 

「えっと、あの、違っ! っていうか、その、ほら! 真名って大事だって言ってたのに、オレなんかに預けるのは、その、ブランドというか……その御使いっていう名声? がないとって思って! ああ、謝る! 謝るし、何でも言うこと聞く! せやから泣かんといてー!!」

 

 風を泣かせてしまったと、慌てふためく横島。そんな横島に、弱々しい声で風が問いかける。

 

「本当ですか……? 本当に風の言うこと……」

 

「聞く! 聞くから! もう何でも聞いて聞く!」

 

「約束?」

 

「約束する!」

 

 その言葉を聞くなり、風は立ち上がると普段通りの表情と口調で横島に話しかけるのであった。

 

「そうですかー。そこまで言われると、何をお願いするか悩んでしまいますねー」

 

「う、嘘泣き……?」

 

「それは心外ですねー。風は確かにお兄さんの言葉で傷ついたのです。大体、御使いだからとお兄さんは言いますが、それならもっと早く真名を預けています。風は、お兄さんと過ごし交流する中で、御使いではない忠夫さんという個人に真名を預けると決めたのです」

 

 そこのとこ分かってますか? と首を傾げながら尋ねる風に、横島は大きく何度も頷く。

 

「なら良いのですが。風だから許しますけど……他の方がお兄さんに真名を預けるとなったときに、同じことを言ってはダメですよ?」

 

「はい!」

 

 敬礼しながら大きな声で答える横島に、風は満足気に頷くと朱里たちの方を振り返る。そこには、いつから正気に戻っていたのか肩を寄せ合い、口々に風と横島のやり取りを見た感想を述べ合う三人の姿があった。

 

「ふわわ、悪女……殿方を手玉に取る悪女がいるよ」

「はわわ、凄いよ! 背はあまり変わらないのに何か大人だったよ!」

「あわわ、強敵だよ! 色んな意味で強敵だよ!」

 

「ふぇ!? 強敵ってどういうことなの雛里ちゃん!?」

「悪女!? 何かやっぱり大人な響きだよ!」

「大人!? 大人だなんてますます強敵だよ!」

 

「大人!? ……ふわわわわ!?」

「強敵って!? 雛里ちゃんも大人になっちゃうの!?」

「あわわ、悪女さんだなんて……強敵だよ!」

 

 話を再開するには、今しばらくの時間が必要なようである。

 

 

 

 

 

「実は、世間には広まっていませんが、手紙に書かれていた内容とほぼ同じ一節がある予言が存在するのです。それは……」

 

 しばらくして、三人がようやく落ち着いた所で風が話を再開させる。風曰く、水鏡の残した手紙には、あまり知られていない予言の一節が引用されているとのことであった。

 

 

『其のもの、其の身に黄龍を宿し、天の力を振るう。その力、碧に輝く剣となり、この世ならざる者たちを祓うであろう』

 

 

それが、その一節。そして、風が水鏡の手紙を見たときに、すぐ横島のことだと分かった理由でもある。水鏡の言う御使いが“碧の御使い”ならば、それを横島と結びつけることは風にとっては簡単なことなのである。

 先程、“黄龍”や“紅を纏いし”が横島のことを指すという風の披露した解釈は、“横島”という答えになるように強引にこじつけたものであったのである。

 

 

「という訳で、元直ちゃんのお母様は、御使いたるお兄さんが天の力で助けると言う訳です」

 

「いや、という訳ですと言われても……病気ならオレに出来ることなんてないぞ?」

 

「そこはまぁ、実際に会ってみてから考えましょう。もしかしたら、お兄さんの隠された力が覚醒するかもしれませんよ?」

 

「んなバカな」

 

「冗談です。まぁ、どの道あってみないことには進みません。風の持つ知識が役に立つかもしれませんし。お兄さんに知識面では……ふぅ」

 

「そんなあからさまに期待してないって視線を反らさんでも……って、元直ちゃんたちも!? そんなにオレってバカっぽい!?」

 

 約一名が騒がしいが、取り敢えず瑠里の母親に会う為に瑠里の母親が寝ている部屋へと向かうのであった。

 

 

 

 しかし、彼らは知らない。そこに予想だにしない困難が待ち受けているとは……

 

 母を助けてっ! 少女の叫びが男に新たな力を呼び起こす!

 これがオレの新たな力だ! 行くぜ! 悲劇はオレが防いでみせる!

 

 次回、GS横島忠夫! 新たな力! その名も……」

 

「子考さーん! こっちですよー」

 

「あ、ゴメン。すぐ行くー!」

 

 

 

 

 

 

――おまけ:真名交換の真意――

 

「あのー」

 

「何ですか、孔明ちゃん?」

 

 移動中、恐る恐る風へと話しかけてきたのは、諸葛孔明――朱里である。

 

「その、子考さんが御使い様だというのが本当かとか、瑠里ちゃんのお母さんのことを治せるのかとか、色々聞きたいことはあるのですが……それは今はいいんです。きっと、直ぐに真実は明らかになりますから」

 

「まぁ、そうですねー。お兄さんが治せるかどうかは試せばすぐわかりますからね」

 

「はい。それでですね!? 実はそれ以外で聞いてみたいことがあってですね?」

 

 ググッと近づいてくる朱里に少々のけぞる風。まぁ、来ている服がゆったりしているので分かりにくいのだが。

 

「はい、何でしょう?」

 

「その、何故……いや、本来いつするかは本人の自由なんですけど。ま、真名の交換をでしゅね、そのー」

 

「何故、あの時に真名の交換をしたのか……ですか?」

 

「は、はひっ! しゅみません、こんなこと聞いて。ただ、どうしてあの時だったのかと思って」

 

 朱里の言う通りなのである。風が横島と真名を交換する機会はこれまでもいくらでもあったし、これから先も同じくである。今から瑠里の母親を助けるというところで、真名交換を行う必要はないのである。

 

「あー、それはですねー」

 

 風はそう言うと周囲を見渡し、瑠里と雛里が何故か後方に佇んでいる横島の所に向かっている姿を確認すると、朱里に耳を貸すようにと指示する。

 

「これはお兄さんやあの二人には内緒ですよ? 実は、あの時する必要はなかったんです。ただ、お兄さんが御使いだと言った時、元直ちゃんと士元ちゃんの眼が変わった気がしたんです」

 

 風の言葉にそうだっただろうかと、記憶を探る朱里。しかし、横島が御使いだということに気を取られていた為、彼女たちの様子までは見ていなかったことに気づく。

 

「その時、こうビビっと直感が働きまして。ああ、この二人は近い内にお兄さんに真名を預けるなと。もしかしたら、このあと直ぐにでも真名を預けるのでは。そう思ったら、もう自分を抑えきれなかったのですよ」

 

「えっと、別に二人が預けるからって、それほど気にしなくてもいいんじゃ?」

 

 朱里の疑問も最もである。真名とは、誰が交換しているかを気にするようなものではない。その順番に差が生まれるようなものではないからである。

 

「分かっているのですよ。そこに差はないと分かっていても、なりたかった。……お兄さんの初めての相手になりたかった。ただ、それだけなんです。誰かに奪われたくなかった……子供みたいな独占欲と、ちっぽけな自己満足ってやつですよ」

 

 そう言って、微笑むと風は遅れてくる横島たちの方へと歩き出す。その風の背中を見送りながら、朱里はただ呆然とその場に佇んでいた。

 

「やっぱり、大人だ……」

 

 




 九話です。この話の半分以上が予定外です。当初、風が真名を預けるのは、華琳のあとの予定でしたし。まぁ、朱里が同行する時点で予定は大幅に変更になったわけで、その上瑠里も連れて行くことにした為、大幅に変更したという。うん、よくあることです。

 因みに、この話では既に風は改名済です。いつ改名したのかは、追々機会があれば。

 次回は、さくっと旅立って、さくっと次の街へ行きたい。うん。いい加減次の目的地行かないと。

 予言が複数ある。
 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。割と更新してます。


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十節 第一回軍師会議

十話です。荊州を出るのは一体いつになることやら。

一言: 誕生日更新。え? どのキャラって? ……筆者のです。すみません。


 

 

 

「ではでは、お兄さんは先に宿の方へ。いい加減、志才ちゃんにお薬を届けないと行けませんし。ああ、子龍ちゃんを見かけたら一緒に宿で待っていてください。風はもう少し、今後のことについて皆さんと話してから戻りますのでー。ちゃんと、宿まで帰れますよね? 寄り道はしないでくださいよ?」

 

「大丈夫だって。地図も書いてもらったし、宿の名前は分かってるんだし」

 

 水鏡女学院の玄関口で風が一仕事終えた横島に告げる。それに対し、横島はにこやかな表情で答える。彼の内心は、宿に戻るついでにナンパすることで一杯のようである。

 

「いえ、美人さんのあとをついて行かないか心配なのですよ。街に入ってから道行く女の人のお尻ばかり追いかけていたのを、風が気づいてないとでも?」

 

「あははっ、何のことかなー!? おっと、早く薬を届けないと!? じゃ、先に戻るから、あとは宜しく!!」

 

 風の責めるような視線から逃げるように、横島は走り出す。その速度は凄まじく、凄い勢いで遠ざかっていく横島。その後ろ姿が見えなくなるまで見送った風は、ゆっくりと女学院の中へと戻っていく。

 

「さてさて、お兄さんの力を見た二人がどう転ぶのか……楽しみですねー。元直ちゃんはいい感じですが……孔明ちゃんも意外と行けますかねー?」

 

 そう呟きながら……。

 

 

 

 

 

 風から逃げ出したあと、ナンパに勤しむ横島であったが戦果は芳しくなく、声をかけた女性全員に玉砕していた。

 

「むぅ……。やはり、こっちに来てからまともにナンパしていなかったせいか、腕が錆び付いているみたいだな……。いや、それよりも士元ちゃんのことで悩んでるせいで、ナンパの切れがイマイチなせいか? う~ん、どうすっかなー」

 

 そう呟きながら、横島はまいったとばかりに頭を掻く。性別の違いこそあれ、この世界は三国志に酷似していることくらい横島にも分かっている。だからこそ、彼は悩んでいるのだ。

 

「このまま漫画の通りになっちまうと士元ちゃん、マズイことになっちまうしなー。流石に、死ぬかもしれんとなるとな……」

 

 横島が困っているのは、鳳士元こと雛里のことであった。横島が読んだことがある漫画では、彼女は劉備と間違われて矢に射抜かれ死んでしまう。異世界である為、必ずしもそうなるとは限らないが、劉備との合流を考えていた横島にとってそこは看過できることではなかった。

 

「しゃあない。劉備のとこはやめるか。主人公の傍なら安全だと思ったけど……士元ちゃんの死亡フラグを立てる訳にはいかんよなー。まぁ、よく考えたら劉備ってまだ領地持ってないみたいだし、最初の方は色んな所を転々として苦労してた気がするし。いっそ、曹操のとこ行くか? 主人公のライバルだから、ある程度は安全だろうし」

 

 横島がここが三国志に似た世界であり、黄巾の乱が近いということに気づいた時、思い浮かんだ案が、劉備と合流することであった。その選択をすれば、それだけ戦場に近づくということは理解していたが、前線で戦わず劉備の荷物持ちでもすればいいと考えたのである。何より、主人公の傍なら死ぬようなことはないだろうと思っていた。

 その為、趙子龍――星――と一緒に行動すると決めた。趙雲が劉備といつ合流したかまでは覚えていないが、漫画通りなら合流することは間違いないし、今どこにいるか分からない劉備を探すより良いと考えたからである。

 

 それを横島は捨てようとしている。全ては雛里の死亡フラグをへし折る為。自身の安全より、雛里の生存を望んだのである。

 

「ま、オレなんかのことより士元ちゃんの身の安全ってな。それに、曹操は居場所も分かっているしな。確か……陳留だったか? そこにも行くって言ってたし、このまま皆と一緒に行動するか。よし、これで心おきなくナンパできるぞー!」

 

 そう言って、ナンパへ戻る横島。今後のことについて決めたからなのか、その顔は非常に晴れやかなものであった。

 

 だからといって、ナンパに成功するかと言うと話は別である。結局、横島は宿の前で星と合流するまでの間に声をかけた女性たちに、全敗を喫するのであった。

 

 

 

 

 

 横島が今後のことについて考えていた頃。風と水鏡女学院の三人は、顔を突き合わせて話をしていた。

 

「さて、今後のことを話し合う前に……お母様のお加減の方は? 目を覚まされましたか? お兄さんはすぐ目を覚ますと言っていましたが」

 

「ええ。子考様のお陰で、すっかり元気に……。もう少し、元気じゃなくとも良かったのですが……」

 

 風の問いかけに、やや疲れた面持ちで答える瑠里。その服装は、風が横島を見送っていた僅かな時間で薄汚れていた。

 そのことに疑問を持った風だが、その答えは朱里と雛里が教えてくれた。

 

「実は……瑠里ちゃんのお母様はお二人が出てからすぐ目を覚まされてのですが」

 

「体が軽いと仰って、瑠里ちゃんを相手に戦闘訓練を……武術はよく分かりませんが、二人ともすごかったです。今は私たちの士官祝いだとかで、猪を取りに行くと出て行かれました」

 

「……そうですか。元気になられたようで何より。」

 

 病み上がりとは思えないバイタリティを発揮する瑠里の母親に、色々とツッコミたいことはあるが、話を進めることを優先させる風。そのことに異論はないのか、朱里と雛里の二人も風の言葉に頷く。

 

「では、改めて自己紹介でもしますか? これから旅を共にするのですし。まぁ、もしかしたら……」

 

 風の言葉の途中で、朱里が口を開く。

 

「仲徳さん。それは子考様が一緒の時にしましょう。それがふさわしいかと思います」

 

「ふむ……ま、良いでしょう。別に不都合がある訳でもないですし。それに、その言葉の通りなら期待出来そうですしね。では、話を進めましょうかね」

 

 その言葉に真剣な面持ちで頷く三人。

 

 ここに第一回軍師会議――別名、忠夫(さん)成長戦略会議(※1)――が開始されるのであった。

 

 

 

 

 

「まず、お兄さんが目指すべき地なのですが……そうですね、皆さんの意見を先に聞きましょうか。では、士元ちゃんから」

 

 議長兼進行役の風が、最初の議題と発言者を指名する。指名された雛里は、あわあわと慌てながらもしっかりと主張する。

 

「は、はひ! 私は一旦何処か大きな勢力に加わり、時期を待つのが良いかと。如何に漢王室の権威が失墜してきたとは言え、未だ大きな権力を持っているのは事実。各諸侯も漢室と表立って敵対することはないでしょう。そんな時期に、天の御使いとして子考様が表立って行動するのは……」

 

「漢室から討伐令が出る可能性が高い……と。」

 

 雛里の言葉を引き継ぎ風が言うと、雛里は静かに頷く。朱里と瑠里も異論はないようである。

 

「私もそう思うのですよ。お兄さんには、自身の勢力がありませんからね。時が来るまで、御使いであると言うことは秘するべきでしょう。真に予言が正しいのなら、もう一人御使いが現れる筈です。最低でもその時までは」

 

「仲徳さんは、予言を信じているのではないのですか?」

 

「信じてはいますよ。この眼で見ましたから。お三方も見ましたよね? 碧き剣を」

 

 意外そうな瑠里の問いかけに答えると、問いかけ返す風。風に問いかけられた三人は、横島が虚空から出現させた剣を思い出すと頷く。

 

「ただ、全てを無条件に信じている訳ではないというだけなのですよ。予言は全て伝聞ですからね。途中で変化していることもありますし、そもそも嘘かもしれない。ですから、普段は半信半疑と言った方が正確でしょうか」

 

「そ、そうですよね……。母のことがあったせいで、予言は全て正しいと思ってしまっていました。すみません」

 

「いえいえ。それだけお兄さんの力が凄かっただけのことです。さて、一旦何処かの勢力に隠れることは決定として……そうですねー、先に何れ現れるであろうもう一方の御使いの方について話しますか? 折角予言の話も出たことですし」

 

 風の言葉に三人とも異論はないようなので、風は自分から口を開く。

 

「私としては、二天(※2)というのは、後々問題が大きくなると思われるので排除しておきたいところですが……お兄さんが是とするとは思えません。ま、こっそりすればいいんですけどね」

 

 風の冷酷な意見に、三人は驚く素振りを見せない。予想していた答えの一つであったのだろう。

 

「ただ、これはお兄さんが御使いだと名乗っていて、かつ“白”も御使いを名乗っている場合です。私たちは別人だと判断していますが世間では御使いは、“白”一人。お兄さんが名乗らなければ、世間は二天とは思わないでしょう」

 

 風の言葉に頷く三人。彼女らが街の人々から聞いた話では、天の御使いが二人という話は聞かなかったし、その特徴は白く輝く衣を纏っているというものであった。横島とは一致しないのである。だからと言って、横島が御使いではないとは三人は思わない。数は少ないが、碧の剣を持つという話も聞いたことがあるからである。

 

「私は、取り込めるか様子を見るべきだと思います。“白”は予言によれば、智者である可能性が高いようですから。少なくとも役立つ知識をある程度吐き出させた後に始末すべきかと」

 

 瑠里が発言すると、それに続くように朱里も意見を述べる。

 

「私は、状況次第かと。こちらが先に接触出来た場合、御使いとは名乗らせず子考様の部下の一人として扱えばよいかと。そうすれば、子考様が御使いを名乗る時に二天にはなりませんし、知識も提供させることが出来る筈です」

 

「ほほう。では、先に接触出来なかった場合は?」

 

「残念ですが、排除する可能性が高いと思います。“白”が何処かの勢力に組みし、表立って乱世を鎮めようとしてきた場合、子考様が御使いと知られれば、子考様を害そうと動く可能性は高いでしょうから」

 

 朱里の言葉に頷く一同。彼女たちが“白の御使い”を排除するかを議論しているように、もう一方の御使いである横島を排除しようと“白の御使い”側が動いても不思議ではないのである。

 

「その場合、“白”の方は既に御使いと名乗っている筈です。その時、子考様が御使いだと知られていなければ、いい目くらましにはなるとは思います」

 

「ふむ。では、士元ちゃんは何かありますか?」

 

「そうですね……子考様の意向次第ではありますが、しばらくは静観がいいかと。漢室や諸侯の反応も見れますし、“白”と“白”の勢力がどのような主張を持っているのかを知ることも出来ます。その上で、“白”を排除するか改めて決めればよいかと」

 

「確かに、お兄さんがどうしたいかにもよりますね。覇者になりたいのなら、“白”は邪魔。ただ、平穏を求めるだけならば不干渉を結べば、共存は可能と言った所でしょうか。どの道、しばらくは静観した方が良さそうですね」

 

 風が他に意見はないかと三人を見るが、特に意見はないようである。

 

 それを確認した風が、次の議題について話し始める。

 

 

「では、当面の行動について話しましょうか。今の所、同行者たちは洛陽を経由して幽州方面に向かうつもりのようです。私としては、お兄さんには陳留へ行って欲しいと思っています」

 

「陳留……曹操殿が治める地でしたね。彼処は、治安もよいと聞きますし曹操殿は優秀な人材なら出自問わず登用するとか」

 

「そうなのですよ。お兄さんが隠れるには丁度よいかと思うのです。それに、お兄さんが御使いだと知られても、曹操殿なら御使いという名は使わないと思うのですよ」

 

 風の言葉に首を傾げる雛里たち。彼女たちの知る曹操と言う人物は、才に溢れ、能力あるものを愛し、領民の暮らしを案じる名君と呼ばれる人物である。また、野心あふれる人物だとか、大陸の覇権を握ろうと画策しているとか、その性格は極めて苛烈であり失敗した部下を自ら痛めつけているとも噂される人物である。

 噂通りならば、御使いという名を利用しようとするのではないかと雛里たちは思っていたのである。

 

「曹操殿は漢の臣です。彼女が漢の部下である内は、御使いという名は使われないでしょう。彼女が漢室に反逆することになりますからね。彼女と仲が悪い袁家がこれ幸いと潰しにかかることは目に見えています。かと言って、今の権威を失いつつある漢室に売ってもうまみがない。それなら、自分の手元で将として利用することを考えるでしょう」

 

「確かにそうかもしれないです。曹操殿の人材収集癖は有名ですからね。子考様の力は、御使いどうこうを抜きにしても珍しいものです」

 

 風の言葉に納得の意を示す雛里たち。他の勢力についても考えてみたが、曹操のところより良さそうなところはなかった。

 

「孫家は今や袁術の客将……実質、配下と聞きます。配下から独立する為に、売られる可能性は高いですね。袁術、袁紹の両家は漢の名門ですから、御使いの存在は邪魔でしょう。涼州の董卓は一大勢力ではありますが、涼州は馬家を中心に漢に忠誠を誓う人たちが多くいますから、隠れるには少し」

 

 朱里の言葉にその通りだと風は頷くと、朱里に代わり続きを口にする。

 

「残りの有力な勢力といえば、荊州の劉表、益州の劉璋ですがこちらは劉性からわかるように、漢室の流れを組むもの。論外ですね。あとは、幽州の公孫賛ですが人物、能力は問題ありません。商人を重用しているくらいですから、お兄さんを迎い入れることについては、利を説けば問題ないかもしれません。ただ、彼女は場所が悪い」

 

「袁紹さんですね?」

 

「そうです。幽州は袁紹の領地の隣。その上、幽州は異民族と国境を接している為、争いが絶えません。そのせいで、領民が徐々に離れており、人材が乏しい。そんな中で、御使いの噂が流れれば……」

 

 そう言って首を横に振る風。雛里たちにもその理由はわかっていた。公孫賛は“白馬義従”という名の優れた騎馬隊を保有しているが、袁紹の莫大な兵数には歯が立たないだろうと。

 

「ま、そう言う訳で曹操殿の陳留を私は押しますし、皆さんも異論はないのでは?」

 

 その言葉に頷くしかない雛里たち。改めて整理してみれば、曹操一択なのだから仕方ない。最も、横島と片田舎で暮らすというのなら、その限りではないのだがその選択肢は彼女たちの中にはなかった。

 

「では、陳留に向かうとして。問題は時期でしょうか。私としては、ここからすぐ陳留に向かいたいところですが」

 

「乱世が本格的に始まる前に準備したい……と言う事ですか?」

 

「正確には、“白”が現れる前に出来るだけ地盤を固めたい……ですかね」

 

 雛里の問いかけに答える風。それを聞いた瑠里が、そういえばと風に尋ねる。

 

「その“白”の方なんですが、いつ、何処に現れるとか予言にはないのですか?」

 

「一応、そう解釈出来るものはいくつかあるのですよ。大体は、乱世の始まりに幽州の山麓に現れるというやつですね」

 

「それはまた……」

 

 風の答えを聞いた瑠里が黙る。何せ、全く範囲が絞れないのだから仕方ない。

 

「ま、元々陳留へは向かう予定だったので、お兄さんを説得出来たら先に陳留に向かうと言うのはどうでしょうか?」

 

 風の提案に、朱里と雛里が頷く。しかし、瑠里は考え込んでいるようで反応がない。それに対し、風がもう一度問いかけようと口を開く前に瑠里が言葉を紡ぐ。

 

 

「私は、幽州に行ってみます。そこで、“白”の情報を探ってみます。子考様を脅かす存在なのか、そうでないのか。それが、恩返しの第一歩になると思いますから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 十話です。横島が瑠里の母を救った描写はカット。後日使う予定です。まぁ、皆様のご想像通りのことがあったとだけ言っておきます。

 用語(?)解説
 ※1 忠夫成長戦略会議:主に、横島のプロデュース方針(今後の行動など)を議論する会。現在の目標は、横島を長とした勢力を持つこと。議長は風。類似した会議に、忠夫性長会議がある。
 ※2 二天:二人の天子(国家元首)の意。この場合は、天の御使いが二人であること。
 
 横島が知っている三国志の知識は三国志演義を元にした漫画から得たもの。徐庶の母。
 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
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十一節 二人の将来の為に

十一話です。内容ないです。

一言: 寿司食べたい。回らないやつ。


 

 

 

 

 

「……今、何と言いましたか?」

 

 鼻血を大量に流したことでダウンしていた稟は、明日こそは水鏡女学院で話を聞こうと意気込んでいた。そこに、外出から戻って来た風から衝撃の言葉を告げられる。

 

「だからですねー、水鏡女学院を訪ねましたが水鏡殿は最低でも五日は戻らないそうですよー」

 

 その言葉に頭を抱える稟。五日滞在すること事態は不可能ではないが、そうなると路銀が少々心許ない。横島が加入したことで、当初の予定より出費が多いのが原因ではあるが、自分たちで選択したことなので仕方がない。

 因みに、原因である横島は稟に薬を渡した後、星のメンマ談義に付き合わされており、少なくとも二時間は経過している。

 

 どうやって路銀を確保するかを考え始めた稟に、風が思い出したというように口を開く。

 

「そういえば、学生さんが言うには最長で一ヶ月戻らなかったこともあるとか」

 

「……それは、困りましたね」

 

「またまたー。稟ちゃんの中では、既にどうするか決まっていますよね?」

 

 その言葉に苦笑すると、稟は風へと言葉をかける。

 

「風も分かっているのでしょう? 確かに水鏡女学院や水鏡殿には興味はありますが、洛陽行きを延期してまで待つ価値はないと。私たちの第一の目的は、ふさわしい主を探すことですからね。賢人との意見交換は刺激的ですが、今優先することではありませんから」

 

「ですねー。風も水鏡殿とは少し話をしてみたい気持ちはありますが、優先すべきことが出来ましたから。待つつもりはないのですよ」

 

 飴を舐めながら答える風。その内容に、少々引っかかりを覚えながらも稟は話を続ける。

 

「では、明日にでも出立するということで。ああ、彼がいますので食料は多めに補充しないといけませんね……あとは、いい加減短刀の一つでも持たせますか。洛陽までは……」

 

「稟ちゃん、稟ちゃん」

 

「ん? ああ、何か意見でも?」

 

 今後のことに思考を巡らせる稟に、風が声をかける。その口から告げられたことは、稟にとって衝撃的な言葉であった。何故なら、その言葉とは……

 

 

 

「風はお兄さんと一緒に陳留へ向かいます。そこで、二人の将来の為に動こうと思います。既に、星ちゃんには伝えて了承してもらいました」

 

 

 

 別れを意味する言葉だったのだから。

 

 

 

 

 

 風の言葉の意味を考えること、数瞬。稟は風へと、口を開く。

 

「……まぁ、良いでしょう。私たちの関係は一時的なものですし、いつかこのような事態になることは分かっていたことです。まぁ、流石に風が彼を選ぶとは思いませんでしたが、これも一つの道。陳留は曹孟徳様のお膝元ですし、治安もよいと聞きます。新生活を送るには最適でしょう。ええ。何も軍師だけが道ではないのですから、女の幸せを風が優先させても……。大体、道中でも風と彼は仲が良かったですし、いつかそうなるのではと思って……」

 

「あー、稟ちゃん? 少々誤解があるようですが、風たちは夫婦になるわけではないのですよ? まだ」

 

「分かっています。生活が安定してから、結婚ということですよね。そして、若い二人は新居で一つ屋根の下……」

 

 内心の動揺を表すかのように、やや早口で稟は言葉を紡いでいく。訂正する風の言葉は全く意味をなしていないようである。

 

「むー、稟ちゃんが暴走状態に……。これは落ち着くまで待つべきでしょうか。しかし、稟ちゃんの想像の中では何やら面白いことになっているようですねー。ほほぅ。風はお兄さんにそのようなことを……」

 

 稟が暴走している間、彼女が何を想像し、どのようなことを口走っていたかは秘密だが、彼女の暴走が止まったとき部屋は赤く染まっていたことを記しておく。

 

 

 

 

 

「では、稟ちゃんも落ち着いたようなので改めて。風はお兄さんと共に陳留へ行くことにしました。ですが、夫婦となり新生活を送るためではないです。幾ら偽名を名乗らせると言っても、お兄さんはちょっと抜けていますからねー。陳留ならともかく、幽州や洛陽で異民族と知られるのは避けたいです」

 

 偽名は横子考に決めましたよー、と軽く言う風に、幾分か冷静になった稟が答える。その顔が少々血の気がないように見えるのは、気のせい……ではない。

 

「まぁ、確かにそうですね。洛陽は一応漢の中心ですし、幽州は異民族との争いが絶えない地ですからね。彼にとっては、良い土地とは言えないですし、面倒なことになるのは間違いないでしょう」

 

「そういうことなのですよ。風たちだけで洛陽に行ってもよいのですが、そうなるとお兄さんは必然的に一人。未だ右も左も分からないようなお兄さんを一人放り出すというのは、お兄さんを誘った風としては少々心苦しいものがあります。何処かで野垂れ死んでいないかという心配を抱えたまま旅を続けるより、いっそ風が陳留に一緒に行ってあげようと思いまして。陳留なら職も豊富そうですし。元々、陳留には行くつもりでしたしね」

 

 淡々と言葉を紡いでいく風。その様子に、風はただ洛陽や幽州へ行くのが面倒になったのではないかと疑う稟。ちょうどよく横島という口実が出来たので、これ幸いと陳留行きを決めたのではないだろうかと考えたのである。

 ただ、稟としても風の主張には同意できるものがあるのも確かである。別に横島に情が移った訳ではないが、世話した人間がすぐに死なれたのでは後味が悪い。

 

「確かに、私たちと別れた後すぐ死なれるのはちょっと。それに、彼が私たちと一緒に行くと決めたばかりなのに、私たちの都合でさよならと言うのは可哀想ですしね。幽州や洛陽の様子は、再会出来た時風に伝えましょう。まぁ、私が陳留に着いた時も風が滞在していればの話ですが」

 

「風はそれで構わないのですよ。その時は、稟ちゃんが望めば推挙しますよ? 風が士官していればの話ですが」

 

「それは助かりますね。この別れが、私の為にもなるということですから」

 

 苦笑しながら告げる稟。風の言っていた二人の将来の為とは、横島とのことではなく自分と風とのことなのかもしれないと、稟は考えていた。

 

「それでですね。これを稟ちゃんたちにあげようと思うのです」

 

 そう言って風が差し出した袋を受け取った稟は、中身を確認して驚く。

 

「これは……! 良いのですか、風? 幾ら幽州まで行かないと言っても、こんなに路銀を」

 

「構いません。陳留までの路銀は抜いてありますし、お兄さんの教育がてら少々ここで路銀を貯めてから出発しますので。それでも、稟ちゃんたちが幽州に着くより早く陳留に着くと思いますよ」

 

「まぁ、それはそうでしょうが……。分かりました。有り難く頂戴することにします。星と二人なら、洛陽での滞在時間次第ですが幽州まで路銀の心配をしなくて良くなりますからね」

 

 その言葉に満足気に頷く風。そのまま、部屋を出ていこうとする風に稟が話かける。

 

「何処へ?」

 

「お兄さんを星ちゃんから助け出しに。ああ、夕飯はあとで持ってきますから心配しなくていいですよ」

 

 そう告げると風は今度こそ退出するのであった。

 

 

 

 

 

「いやはや、稟ちゃんに突っ込まれなくて助かりましたねー。結構、突っ込み所ある話だったのですが、やはり血を流しすぎたせいですかね。頭の回転がイマイチでしたね」

 

 稟の部屋を退出した風は、そのようなことを呟きながら歩いていた。先程までの風の話は、普段の稟ならもっと疑問を抱いても不思議ではない内容であった。

 嘘という訳ではないが、意図的に喋らなかったことが多いのである。例えば、風は優先することが出来たと言ったが、その内容までは語らなかったし、洛陽と陳留は同じ方向にある為、この街から別行動を取る必要はない。洛陽の手前で別れればよいのである。それに、横島を心配して一緒に陳留まで行くということも、言葉が足りていない。正しくは、横島が御使いとバレた時のことを心配して、陳留へ行くである。

 

 

 では、何故風は、稟たちに正直に語らなかったのであろうか。その答えは、稟と星の求めている主の条件を横島が満たしていないこと。この一点につきるのである。

 

 星の主の条件は明確である。共感できる信念を持っていること。そして、戦場を用意出来ること。この二つである。

 例え、横島が御使いであると知ったとしても、この二つを満たしていない限り星が仕えることはなく、今の横島ではよくて客将として一時仕える程度だろうとを風は考えている。

 

 そして、稟の場合はそれ以前の問題である。彼女は既に仕える主を決めている。稟本人は、主を見定める旅などと言っているが、実際はその決めた人物――曹操――以外に仕えるに値する人物がいないことを確認しているだけなのだ。

 何とも回りくどいことだと風は思っているが、その辺も含めて稟のことは気にいっているので別に問題はなかったのである。

 

 

 以上のことから、彼女たちが風たちと同じように横島を主と仰ぐことはないと風は判断したのである。その一点こそが、風が友にまで横島のことを秘密にする理由である。

 

 

 因みに、朱里と瑠里の場合は、瑠里の母を助けることが出来た場合、二人を一気に取り込むことが出来ると判断したから明かしている。

 もし、旗下に加わることがなくとも、雛里や瑠里の母の恩人であることから吹聴しないでくれと頼めば、黙っているという確信があったことも要因である。

 

 

 

 

 

「稟ちゃんたちには悪いですけど、風は明日が楽しみなのですよ。何せ、風と忠夫さん。そして、あの三人との記念すべき日になるのですから」

 

 

 




 十一話です。内容ないです。√分岐的な話です。これで、稟と星の出番は当分ないでしょう。


 これらは拙作内設定です。

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十二節 また会う日まで

十二話です。短いです。

一言: 鍋の美味しい季節になりましたね。


 

 

 

 

 

 

 

 明くる日の午後。横島たちの姿は、先日と同じく城門前にあった。ただ、先日と違うのは星と稟の二人は旅立ち、横島と風はそれを見送りに来たという点である。

 

「では、風。あなたから頂いた路銀有効に使わせて頂きますね」

 

「というよりも、使ったと言った方が正しいかな。何せ、風のお陰で馬を借りることが出来たのだからな」

 

 そう言った星の視線の先には、今朝方商家から借りた二頭の馬の姿が。洛陽についたら返却しなければならないが、それでも幾分か楽になることには変わりない。

 

「お役に立ったのなら何より。お二人ともお気を付けて」

 

「風も。必ずまた会いましょう」

「ああ、必ず再会しようではないか。その時は、お互い主が決まっているといいな」

 

 固く握手を交わし、再会を誓う三人。そんな親友たちの別れを邪魔することなく、黙って見守る横島。友情っていいなぁなどと思っていると、挨拶を終えた星と稟がこちらにやって来る。

 

「貴方も息災で。道中は風の言うことを良く聞くのですよ?」

 

「息災でな。今度こそ、心ゆくまでメンマ談義に興じようではないか」

 

 稟の子供扱いしたかのような発言も気になるが、星のメンマ談義と言う言葉に顔を引きつらせる横島。昨日は風が途中で止めてくれたが、それでも二時間に渡るメンマ談義にはくるものがあったのだから仕方ないのかもしれない。

 

「メ、メンマはもう勘弁して欲しいかなー。それよりも……ここで別れるなら、最後に!!」

 

 そう言うと、未だメンマ談義について語っている星に忍び寄る横島。星が熱く語っているのを確認すると、両腕を広げガバっと星に抱きつく。今日で最後になるのならと、ダメ元で行動に移したようである。

 

「「!?」」

 

(あ、あれ? ダメ元やったのに、成功しちゃった? それにしても、やーらけーな……あー、堪らん」

 

 驚愕する面々を無視して、感触を楽しむ横島。途中から、考えていることを口に出していることにも気づかない。

 しばらくすると、何故か星も横島の背に腕をまわす。予想外にしっかりと抱き合う体勢になったことに、横島が内心慌てていると星が口を開く。

 

「ふむ。貴殿の国ではこうやって別れの挨拶を交わすのか。中々心地よいものだな」

 

 どうやら、横島の一連の行動をただの挨拶だと思っているようである。そのことに気づいた横島は、これ幸いとそのままの体勢を維持しながら言葉を紡ぐ。

 

 

「そ、そう! 挨拶! ハグって言って……えーと、仲のいい男女が抱き合うってやつで。別に別れじゃなくてもよくて、そう、男から抱きついて、女は抵抗しちゃダメなんだ」

 

 

 誰が聞いても一発で嘘と分かる程、横島の言葉は拙いものであった。横島も、自分で無理があると自覚しているのか冷や汗をダラダラと流している。それでも、星を離そうとしないあたりは流石である。

 

「ふむ。抵抗するなと言われてもな。取り敢えず離してくれないか?」

 

「離した瞬間に槍で刺さない? こう、ブスって」

 

「別に離れずとも刺すことくらいできるが……刺して欲しいのか?」

 

 星のその言葉を聞くなり、星を解放して距離を取る横島。そのまま慌てた様子で土下座へと移行する横島。

 

 横島が繰り出した土下座は、とても見事な土下座であったことを明記しておく。

 

 

 

 

 そんな見る人が見れば、惚れ惚れするような土下座のままで横島は弁解の言葉を必死に紡ぐ。

 

「堪忍やー! 子龍さんが魅力的すぎて、辛抱出来んかったんや! にしても、柔らかかった! いや、今のナシ、ナシで!」

 

 そんな横島の姿にどうしようか悩む様子を見せる星。元々、怒ってはいないので、そのような態度を取られても困ってしまうのだ。それでも普段の星なら、何かしら思いつくのだが先程の抱擁の影響か、頭が上手く働いていないようである。

 

 その間も弁解を続けていた横島に風が言葉をかける。

 

「お兄さん」

 

「はい! 何でしょうか!?」

 

「まず落ち着いてください。風から一つ質問しますので、正直に答えてください。いいですね?」

 

「はっ! 了解であります!」

 

 風の問いかけに、敬意して答える横島。そんな横島に、風は質問をしていく。

 

「先程言っていた“はぐ”とは何ですか?」

 

「はっ! 挨拶であります! 確か、互いに抱擁することで親愛の気持ちを現していたと記憶しております」

 

「ほほぉ。それはいいことを聞きました。ああ、お兄さん。星ちゃんは別に怒っていないので、気にしないでいいですよ」

 

「へ? ホント?」

 

 風の言葉に、星の方を見る横島。てっきり、槍を構えていると思っていた星が自然体で立っていることに気づく。視線を向けられた星も怒っていないと告げたことで、ようやく緊張を解く横島。

 

 その様子を黙って見守っていた稟に対し、風が尋ねる。

 

「それで、稟ちゃんはどうしますか? お兄さんと“はぐ”しますか? 邪な気持ちがあったのは確かなようですが、挨拶なのは本当らしいのでこの際、稟ちゃんも。せっかくですし」

 

「なっ! する訳ないでしょう!」

 

 風の提案に対し、顔を羞恥か怒りによるものかはわからないが、真っ赤にして拒否する稟。その声が聞こえてきた星が、稟たちに近寄りながらからかい混じりに言葉をかける。

 

「いつ再会出来るかも定かではないのだ。やってみるのもいいのではないか? それに、たかが挨拶に尻込みしたという事実は、今後も付き纏うぞ?」

 

「そですよー、たかが挨拶の一つや二つは軽くこなせないと。これから大変ですよ」

 

 星の言葉に乗っかるように告げる風。その内容は全く根拠のないものであるが、動揺している稟には効果があったようで、腕を広げ待ち構える横島に向かってフラフラと近づいていく。

 

「そう、たかが挨拶。挨拶……ですが、男性と密着……我慢出来ずに、襲われ……」

 

 ブツブツと呟きながら歩く稟に、待ち構えていた横島の腰が引ける。短い付き合いではあるが、こういった時の稟が今後どうなるかは簡単に予想できるのである。

 

「あ、あかんパターンやと分かってるのに……あの体を抱けると思うと足が……足が動かん!」

 

「お兄さんは本当にスケベさんですねー。とは言え、せっかくの旅立ちに血を流すのはどうかと思いますので……星ちゃん、お願いします」

 

「鮮血と共に旅立つと言うのも面白いかもしれんが……稟よ、悪く思うな」

 

 風の言葉で、稟の背後に回った星は稟の首筋に手刀をいれ彼女の意識を刈り取るのであった。

 

 

 

 

 

 それからしばらく経ったあと、星が馬上から横島たちに改めて挨拶をしていた。結局、意識を失ったまま起きる気配がない稟は星が抱え込んでいる。本来、稟が乗る筈だった馬には、星の分の荷物も積まれており手綱も星が握っている。

 

「では、そろそろ我々は発つこととしよう。二人とも息災でな。再会出来ることを楽しみにしている」

 

「星ちゃんもお気を付けて。それと、稟ちゃんのことを宜しく頼むのです。ほどほどにイジってやってください。嫌がっているようで、本当は喜んでますので」

 

「それは、本当に嫌なんじゃ? 真面目そうな人だし」

 

 風の言葉に疑問の声を漏らす横島であったが、二人には聞こえなかったようで二人はそのまま会話を続けている。もしかしたら、意図的に無視しているのかもしれないが。

 

「では、二人とも……今度こそ、さよならだ。また会う日まで、息災であれ!」

 

 そう言って、二頭の馬で駆けていく星と稟。その姿が小さくなるまで、横島と風の二人は城門前で見送るのであった。

 

 

 

 

 ―おまけ:見送り後の一幕―

 

「行っちゃったなー。さて、オレたちも戻って士元ちゃんたちの所に行かないと……って、何してんの? 風ちゃん?」

 

 横島が街へと歩きだそうと、振り返ると両腕を広げた風の姿が。小柄な風がそのような体勢を取ると、抱っこを強請る子供のようだと横島が思っていると風が口を開く。

 

「見て分からないのですか? “はぐ”です。“はぐ”をしようと待っているのですよ」

 

「ハグって……あれは」

 

「挨拶なのですよね? ささっ、ここは一つ男らしくガバっと」

 

「なんだかなー」

 

 風の言葉通りにハグをする横島。一度膝の上に抱きかかえたこともあるし、星のあとなのですんなりと実行に移している。

 

「おぉー。これはこれは……中々心地よいですねー。やはり、忠夫さんの腕の中は特別なようです」

 

 小柄な風と抱き合うのに屈んでいた横島は、耳元で囁かれる風の言葉と、微かに香る甘い匂いに胸の鼓動が高鳴るのを感じるのであった。

 

 

 

 




 十二話です。短めです。次回は、雛里たちと合流してようやく荊州か舞台が移ります。多分。

 
 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。割と更新してます。


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十三節 人気者ですねー

十三話です。あまり間があくのもあれだったので、きりの良さそうなところで投稿。

一言: 年末年始の帰省どうするべきか。


 

 

 

 

 

 

 星たちを見送った横島と風は、水鏡女学院の一室へと来ていた。これからのことを横島に話す為である。

 

「さて、お兄さんには色々と説明しないといけません。しっかり、聞いて理解してください。まず……」

 

「その前に聞きたいんだけど、いいかな?」

 

 風が説明に入ろうとするのを、横島が遮り他の三人――朱里、雛里、瑠里――に視線を向ける。視線を向けられた三人は揃って首を傾げている。代表して瑠里が口を開く。

 

「何でしょうか、子考様」

 

「それ! なんで、様付け!?」

 

 その言葉に、何を言っているのだろうかと不思議そうな顔をする三人。

 

「いや、何言ってんのコイツみたいな顔しないで……。大体、士元ちゃんは一回納得したよね!? 様つけしないって!」

 

「あ、あの時は、その御使い様だと分かっていた訳じゃないですし……」

 

「いいの。天の御使いだとしても、オレは様付けされるような上等な人物じゃないからさ」

 

「……分かりました。恐れ多いことですが、そこまで言われるのでしたら」

 

 渋々了解する雛里。横島としては、そこまで畏まる意味が分からず不思議そうな顔をしている。その様子を見てとった風が、横島に天の御使いという存在について説明し始める。

 

「お兄さんの疑問を解消する為に、先に天の御使いという存在がどういったものなのかを説明しましょうか。そうですねー、お兄さんは天の御使いとはどのような存在だと思っていますか?」

 

「そうだなー。取り敢えず、占いの話を聞いた感じだと、ヒーロー……英雄みたいなもんか? 困っている人を助けて、悪者を倒すって感じ」

 

 風の問いかけに、自身のイメージを伝える横島。口にする度に気持ち悪そうな顔をしているのは、あまりにも自身とかけ離れた人物像だからだろうか。

 

「英雄という言葉は間違ってはないでしょう。困っている人を助けるというのも。では、お兄さんが言うところの悪者とは?」

 

「そりゃ……盗賊とか悪代官とか、あとは……悪霊?」

 

 首を傾げながら呟く横島。盗賊や悪代官は時代劇からのイメージだが、横島は瑠里の母親の不調の原因が低級霊に憑かれたことであったことから、悪霊という可能性も考えたようである。

 

「悪霊……ですか。お兄さんが碧の剣で空を斬ったのは、その悪霊を斬っていたということなのでしょうか……? まぁ、今はそれは重要ではないです。風たち……いえ、大陸の人たちが思う天の御使いが戦うべき者。それは、現王朝。つまり、皇帝陛下なのです」

 

 風の言葉に絶句する横島。勿論、賊や悪政を働く者も敵ですがという風の言葉は聞こえていないようである。根が小心者な横島からすれば、最高権力者と敵対することを意味する風の言葉は、簡単に受け入れられるものではないということだろう。

 そんな横島のことなどお構いなしに、風は言葉を続ける。

 

「皇帝陛下は、天子……つまり、天帝の子――天帝に代わり、地上を統べることを天命とする御方だと信じられてきたのです。今までは、その尊き血縁の元に大陸は治められてきました。ですが、代を重ねていくにつれ血は薄くなるもの。また、天命を蔑ろにするものも出てきます。そのような時が訪れた時、天帝は今代の天子を廃し新しい天子に天命を託すと言われています」

 

「新しい天子……? 天命? それって……もしかして」

 

「そう、新しい天子こそが天の御使いなのですよ。最も、漢王朝にしてみれば地獄の使いでしょうが。もしくは、取り込むことで未だ漢は天帝の意思を受け継いでいるとでも宣伝するか。あとは、天下を狙う諸侯あたりが利用しようと企む可能性も高いですねー。お兄さん、人気者ですねー」

 

「そんな人気なんていらんわ……」

 

 意気消沈といった様子で呟く横島。その背中から哀愁が漂っているように見えるのは気のせいではないだろう。

 

 風の語る懸念は間違いではないが、一部を大袈裟に語っているものである。確かに、そのような考えを持っている者もいるだろうが、現状では予言を信じている者は皆無に近い。困窮に瀕している民でさえ、心からは信じていない。施政者に至っては、利用する価値があるかも怪しいと判断しているというのが風たち軍師の偽りなき見解である。

 既に乱世が始まっているのならば、御使いの噂が真実味を増し漢王朝や各諸侯は、昨日会議した内容――御使いの排除あるいは利用――に近い行動を起こすだろうが、現状は乱世の兆しが微かに見えるといったレベル。先が見える者なら、乱世に備えているだろうが流石に天の御使いを考慮に入れている者はいないだろう。

 

 それにも関わらず、風が脅すかのように横島に語ったのは、横島に自重を促す為である。また、横島に彼が背負った天命を教えることで、今後について考えてもらうという意図もある。

 

「ま、そういう訳でして。お兄さんは次期皇帝陛下候補と言う訳です」

 

「嬉しくねー。オレは美人の嫁さんもらって平穏に暮らしたいだけだっつーのに」

 

「まぁ、もう一人御使いはいるようなのでその人に頑張ってもらえばいいじゃないですか」

 

 嘆く横島を安心させるように声をかける風。その言葉に安心する横島であったが、その際、風が雛里たちとアイコンタクトを交わしていたことには気づかなかった。

 

(これで、当面の行動方針は決定ですねー。力を蓄え、”白”の様子を伺うということで)

(了解です)

 

 

 

 

 

「では、天の御使いについてお兄さんが理解出来た所で風たちから提案が」

 

「あ、その前にいい? 洛陽に行くって話のことなんだけどさ。オレとしては、陳留に行きたいんだよね。風ちゃんと士元ちゃんもそれでいいかな?」

 

 横島からの提案に顔を見合わせる風たち。彼女たちからすれば渡りに船なのだが、今から横島を言い含め(説得し)ようとしていただけに、この提案には驚いたようである。

 

「風たちは構いませんが……」

 

「そっか、良かった……。ああ、あと孔明ちゃんたちも一緒に来てくれると嬉しいんだけど……」

 

 風の言葉を聞いた横島は、その後視線を朱里と瑠里に向け勧誘の言葉を投げかける。劉備陣営に行くことを諦めた横島は、有名な諸葛孔明と徐元直を引き抜くことにしたようである。それにしては、軽い誘いではあったが。

 

 特に、瑠里――徐庶元直――に関しては是非とも勧誘したいと横島は思っている。彼の持つ知識では、曹操は劉備の元から徐庶を引き抜く際、母からの手紙と偽った。その結果、徐庶の母は自ら命を断つ。元から曹操の元に入れば、そんな未来が訪れる可能性は低くなるのではないかと考えたのである。

 

 因みに、曹操に徐庶の母からの手紙だと偽り引き抜くという策を提案したのは、程昱仲徳――つまり、この世界では風――になるのだが、横島はそのことは覚えていない。

 

 

 一方、勧誘をかけられた朱里たちの方はといえば、横島に勧誘されるとは思っていなかったためか、ふわわ、はわわと右往左往している。

 そんな彼女たちに対し、風と雛里は少々羨ましそうな視線を向けている。彼女たちは、自分の意思で横島についていくと決めた。そのことに後悔はないが、どうせなら横島の方から求められたかったという思いが少なからずあるのだろう。それだけ彼女たちにとって、横島に誘われると言うことは意味があるのである。

 しかし、横島はそんな彼女たちの内心に気づく筈もなく、極めて軽い感じで誘っていた。三国志を知る者としては、ダメで元々という意識があるのであろう。横島は宇宙意思を知っているのだから、当然といえば当然ではある。

 

 実はこの時、横島の頭の中からはスッコーンと抜けていたのだが、この銅鏡世界はあくまでも()()()()()()()()であり、横島の知る三国志の世界ではない。もっと言えば、銅鏡世界は横島が居た世界とは完全に切り離された別の世界であり、別の法則が支配している世界なのである。

 つまり、横島が知る歴史と大きく違う結果になったとしても、宇宙意思による修正が働くとは限らないのである。

 

 

 

 

 

「それで……どうかな?」

 

 横島が再度問うことで、四人はそれぞれの考えを中断し意識を横島へと向ける。たった一言で、正気を取り戻すあたりは流石軍師といったところであろうか。

 問われた瑠里と朱里は、お互いに目配せし頷くと声を揃えて答えるのであった。

 

 

「「この命、貴方と共に」」

 

 

 

 




 十三話です。あまり間があくのもあれだったので、きりの良さそうなところで投稿。
 幼女更にゲットだぜ! の回でした。真名交換のタイミング逃した感が半端ないです。

 色々本編では書きましたが、要は好き勝手やっても宇宙意思による修正とかないよっていう話です。朱里とか引き抜いたんで、その辺のフォロー的な話。

 GS世界とは別の法則ってのはその内本編に出る筈です。

 恋姫世界は、GS世界とは別の法則が支配している。
 これらは拙作内設定です。

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十四節 偽名なんだ

十四話です。

一言: 師走は忙しい……筈





 

 

 

 

「じゃ、風ちゃん話を進めてくれる?」

 

 朱里と瑠里の勧誘に成功した横島が、風に会話の主導権を渡す。未だこの世界のことをよく知らない横島は、陳留に行くという希望だけ述べて後は、風たちに丸投げするようである。

 

「では、改めてこれからのことをお話しますねー。よ~く聞いてくださいね?」

 

 そう前置きすると、説明する為に口を開くのであった。

 

 

 

「まず、今後のことですが……ああ、その前に改めて自己紹介しましょうか。風は、姓は程、名は昱。字を仲徳といいます。軍師になる為の勉強を詰んできましたので、多少は智に自信があります。そして、これが宝譿」

 

『風の嬢ちゃん共々よろしくな、嬢ちゃんたち! 兄さんも改めてよろしく! 旦那って呼んでもいいか?』

 

「ん? ああ、別に構わないが……何で、旦那?」

 

 宝譿の言葉に首をかしげるも、さしたる問題はないと許可を出す横島。宝譿に注目していた横島は気がつかなかったが、この時風は口元を微かに緩めていた。どうやら風は宝譿を経由して、横島のことを旦那扱いする気満々のようである。

 

 風の次に自己紹介を始めたのは、風の次に横島と出逢った少女――雛里――であった。彼女はいつも被っている帽子を胸の前に抱き、横島と風を見据えてしっかりとした口調で話し始める。

 

「姓は鳳、名は統。字は士元と申します。水鏡女学院で色々学びましたが、得意なのは軍略……でしょうか?」

 

 こてん、と首を傾げる様子は大変愛らしく、軍略を得意とするとは到底思えない。しかし、彼女は水鏡女学院で一番の軍略家であることは紛れもない事実であった。

 

 雛里に続き、朱里と瑠里が口を開く。彼女たちは横島に向かって礼をすると、緊張した面持ちで話し出す。

 

「姓は諸葛、名は亮。字は孔明。この度は、未熟な我が身を旗下に加えて頂き、感謝致します。師からは政略に特に才があると評されました」

 

「姓は徐、名は庶。字は元直。母のこと、感謝してもしきれません。この身果てるその時まで、貴方の為に。武も嗜みますので、多少はお役に立てるかと」

 

 朱里と瑠里の挨拶を少々堅苦しく感じる横島。この世界に来てから何度か経験しているが、自分が想像している以上に礼儀を重んじる世界に来たのだと横島は感じ入るのであった。

 

「さ、お兄さんも」

 

 風に促された横島は、先程までの堅苦しい雰囲気から逃れる為にボケようとする本能を必死に抑え、真面目に自己紹介を始める。

 

「オレは横子考。士元ちゃんは知ってることだし、すぐバレると思うから先に言うけどさ。この名前って偽名なんだ」

 

 朱里と瑠里は、いきなりのカミングアウトに全く動揺する素振りを見せない。その様子に、風に聞いていたのかと彼女に視線を向ける横島。横島の視線に気づいた風は、横島が言いたいことに気がついたようで、口を開く。

 

「別に風が言った訳ではないのですよ。勿論、士元ちゃんが言った訳でも。お二人ともお兄さんが天の御使いと知っていますから、偽名を名乗っている可能性はすぐに思いついた筈です。ああ、それとお兄さんの名前は今後も伏せてくださいね。お兄さんの名は大陸では聞かない響きですので、以前言ったように異民族と思われる可能性があります。それだけならいいですが、御使いだと勘ぐられると最悪……」

 

 そこまで言って、首を掻っ切る仕草をする風。それだけで何を言いたいのかを悟った横島は、少々顔を引きつらせながら朱里たちの方へと向き直る。

 

「と、言う訳で偽名だけど勘弁してくれ。三人になら、本名を教えてもいいんだけど……」

 

「ダメですよ、お兄さん。そうホイホイと名乗られると、偽名にした意味がなくなるのです。それに、今や真名としての役割もありますから、孔明ちゃんたちも受け取っていいものかと困ってしまいます」

 

 その風の言葉を肯定するかのように、朱里が口を開く。

 

「出来れば、私たちが真名を預けるその時まで待って頂けると……勿論、その時私たちが真名を預けるに値しない場合を除いてですが」

 

「そっか。なら、その時が来るのを待っているよ」

 

 横島の言葉に、三人は力一杯頷く。“その時”が訪れるのは、そう遠くはなさそうである。

 

 

 

 

 

「さて、自己紹介も終わりましたので、これからの基本方針を説明するのです」

 

 風が仕切り直すように口を開くと、雛里が台の上に荊州一体の地図を広げる。最も、現代の地図とは違い、大まかな街の場所が記されているだけのほぼ白紙に近いものである。

 

 その地図の一箇所を指差しながら、風は言葉を紡ぐ。

 

「ここが、今いる街です。で、ここが目的地の陳留。因みに、洛陽はここですねー」

 

 風があげた地名を確認した横島は、陳留と洛陽が今いる場所から見て、同じ方向にあることに気がつく。

 

「あれ? 洛陽と陳留って同じ方向だったの?」

 

「そですが、それがどうかしましたか?」

 

「いや、それなら子龍さんたちと洛陽に行ってから、陳留に行けば良かったかなって。それか、途中まで一緒に行けば……」

 

 横島はその方が安全だったのではないかと言う。横島がそう考えるのも無理はない。何せ、趙子龍という槍の名手と行動を共に出来るのだから。

 無論、そこは横島。安全だけが理由ではない。今、彼の周りにいるのは幼い容姿の少女たちばかり。煩悩の権化とでも言うべき横島としては、星や稟と行動を共にしたいと考えるのは当然の帰結である。

 

 そんな横島の考えなど知る筈もない雛里が、その訳を話し始める。

 

「す、すみません。子考しゃんが洛陽に行くのは、少々危険なのです。洛陽は現皇帝のお膝元ですから」

 

「勿論、途中まで一緒というのも考えましたが……ここを見てください。地図には書かれていませんが、ここには陳留へ向かう隊商が立ち寄る村があるのです。ここまで行けば、そこから先は隊商と一緒に行けばいい話ですし、この村までは賊はほとんど出ないそうです。何でも、やたらと強い方々が村を守っているそうで」

 

 そう説明する風の言葉に納得する横島。洛陽に一緒に向かわなかったのは、洛陽に近づくことが危険であることに加え、陳留までなら比較的安全に行けるからであったのか、と。

 

 なるほどと頷く横島を横目に、風は昨日の会議の時に雛里が話した“強い方々”について考えていた。

 

(出来れば引き抜きたいところですが……その方々は女の子らしいですからね。忠夫さんの戦力は欲しいですが……悩ましいことです。それに、彼女たちを引き抜けたとしても、彼女たちが抜けたことで村の安全が脅かされては……まぁ、こればかりは行ってみないと)

 

 そこまで考えると風は、口元に薄く笑みを浮かべる。

 

(人の為に考えを巡らすことが、こんなにも楽しいとは……それとも、これも全て忠夫さんの為だからでしょうか?)

 

 

 風は横に佇む横島を見上げる。横島は、風の視線に気づくとどうしたのかと尋ねる。それに対し、何でもないと返し、風は続きを説明し始めるのであった。

 

 

 

 

 

「……と、このような道程で陳留へと向かうことになります。まぁ、その前にある程度の路銀を確保しようと思っていますが、これは風たちが交代で担当します。お兄さんには、この間に大陸の基礎知識を風たち全員で叩き込んであげます。それに、能力も確認したいですしね」

 

 陳留までの旅程を説明し終えると、風はにっこりと横島に向かって話しかける。その笑顔に、嫌な予感がした横島は助けを求めるように周囲を見渡すが、誰一人として味方はいないようである。何故なら、朱里たちは揃って意気込んでいたからである。

 

 

「「「頑張りましゅ……あ、噛んじゃった……」」」

 

 

 




 十四話です。またまた短いですが、ご容赦を。
 師走のせいなんですよ……と言い張ってみる。

 やたら強い人が守る村とその位置。
 これらは拙作内設定です。

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十五節 仲間の証なのですよ

十五話です。短いです。

一言: 年内最後の更新。多分。


 

 

 

 

 

 

 

「いやー、意外と馬に乗るのって簡単なんだな。もしかして、才能ある?」

 

「うーん、どうですかねー。お兄さんの才能云々より、このお馬さんが頭がいいというのが大きいと風は思うのですが……」

 

 横島の呟きに、横島に身を預け馬に揺られていた風が答える。彼らは現在、陳留への旅程の真っ最中である。彼らは全員が馬で移動しており、その編成は風を抱きかかえるようにした横島が手綱を握る黒馬と、他の三人――雛里、朱里、瑠里――が手綱を握る白馬の計四頭である。

 

「まぁ、コイツがいい馬だってのはオレも分かってるよ。見た目はこう……某世紀末覇者の愛馬並にごついってのに、すごく大人しいし。それに、乗ってて全然揺れないしな」

 

 そう言いながら、馬を撫でる横島。撫でられた馬も、嬉しそうに嘶く。

 

「まぁ、短期間にこれだけ懐くというのは、確かに才能かもしれませんね。人に慣れている馬でも、初対面の人間に懐くのは結構時間がかかりますから」

 

 横島たちの右側に馬を並べていた瑠里が、流石ですという言葉と共に声をかけてくる。そんな瑠里に対し、横島は照れてしまう。ここ数日、開催されていた軍師四人による特別授業でも、物覚えがいいなどと褒められ続けていた横島だったが、未だ褒められたり、好意的に見られることには慣れていないようである。

 勉強嫌いとはいえ、小中と学んできた横島からすれば、この時代の算術は出来て当然であり、読み書きも文珠で解決済み。残りは、地名や礼儀を覚えるだけであった為、褒められるようなことではないと認識していたのも、未だ慣れない一因であろう。

 

 

「そういえば、この馬に名前あるの? 元々は、元直ちゃんのお母さんの馬なんでしょ?」

 

 照れくさくなった横島が、馬の名前を尋ねることで話題を変えようとする。最も、横島本人としても気になっていたことなのだが。

 

「名前ですか? 母は馬一号と呼んでいましね。最も、先日母が猪を狩ってきた時に何処かの商人から買ってきたみたいなので、そもそも母は名付ける気がなかったのだと思います。この子たちも母からの貰い物ですが、特に名前はありませんし。全く、三日も帰ってこないと思ったら、何処で何をやっていたのやら……」

 

 そのままブツブツと呟き出した瑠里。その様子に、またもや話題を変えようとする横島。何か話題がないかと、瑠里とは反対側――横島たちの左側――に馬を並べていた朱里たちに視線を向ける。

 そこには、二人で何やら楽しそうに話をしている姿が。そんな彼女たちの装いは、昨日までと違う箇所が一つあった。それは、手首に巻いた紅い布。雛里は右手首に、朱里は左手首にそれぞれ巻いている。

 

「そういや、士元ちゃんたちのそれ。どうしたんだ? 風ちゃんも首に巻いてるけど……」

 

「ひゃ、ひゃい!? こ、これですか? これは……そのぉ……」

 

 横島の指摘に驚き、慌てる雛里と朱里。その様子を疑問に思う横島だったが、その答えは風によってもたらされた。

 

「この紅い布はですねー。仲間の証なのですよ。元直ちゃんも、服に隠れて見えないですが左腿のあたりに巻いてますよ。嘘だと思うのなら見せて貰ったら如何です?」

 

「いや、別に疑ってないって……」

 

「そですか。お兄さんに見せられなくて残念でしたね、元直ちゃん?」

 

「な、何をでしゅか!?」

 

 風の言葉に、慌てる瑠里。その顔は、横島の前で太ももまで露わにした自分を想像していたのか、少々赤く染まっていた。

 

 

 風が仲間の証と横島に伝えたお揃いの紅い布。その言葉に偽りはないが、横島には意図的に隠していることがあった。

 それは、何故仲間の証が紅い布なのかということ。風たちが紅い布を選んだ理由。それは、横島のトレードマークが紅いバンダナ――つまり、紅い布だから。彼女たちにとって、“横島の”仲間の証としてこれ以上のものはなかったのである。

 

 因みに、それぞれ違う箇所に巻いている理由はそれぞれである。風が首に巻いている理由は、普段の服装では手首では隠れてしまうため。雛里は横島の右手になるという決意から、右手に巻いており、朱里は雛里が右手首に巻くなら左にという理由であった。

 そんな中、一人見えない箇所に巻くことにした瑠里の理由はというと、一旦“白の御使い”の同行を探る為に別行動を取るからである。彼女は、無事に合流出来た時は、見える場所に巻きなおそうと決めているのである。一種の願掛けである。

 

 そんなことだとは知らない横島は、さっさと次の話題へうつっていた。

 

 

「そういえば、もうすぐだよな。やたら強い人たちがいる村ってのは」

 

「あ、はい。聞いた話では、双剣を使う眼鏡の人に、特徴的な言葉使いで喋るノリのよい人。それと、気弾を飛ばす銀髪の人が中心になって村の自衛にあたっているそうで」

 

 雛里の言葉を聞いた横島は、その三人の姿を想像していくが気弾を飛ばすというフレーズで頬を引きつらせる。

 

「へ、へー。ま、いきなり喧嘩売ってくるようなことはない……よな? な?」

 

 引きつりながら問いかける横島。その脳裏には、バトルジャンキーという言葉と、自分に向かって霊波砲を放つ男――伊達雪之丞の姿。

 

 一気に村へ向かう気力がなくなった横島だったが、逞しい黒馬はその足を止めることはない。

 

 

 

 

 村まであと数時間。そこで一行を待っているものとは。

 

 第十六話 登場! 三羽烏

 

「お兄さん、頭の上でブツブツ言うのはやめてください」

 

「あ、はい」

 

 

 




 十五話です。短いです。馬については、名前を募集するかも。
 ついでに、やたら強い人たちの正体もほぼほぼ判明。本格登場は次回。

 因みに今年最後の更新となります。多分。今日が仕事納めで、そのまま宴会。
 年末年始は帰省するので、更新は期待しないでください。環境が悪いので。ええ。

 横島の馬。布。やたら強い人が守る村とその位置。
 これらは拙作内設定です。

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十六節 ここがええんか?

十六話です。いやー、体調もそこそこ良くなってきました。
あと、サブタイトルに意味はありません。

一言: 今年初更新。大分遅れましたが。ごめんなさい。


 

 

 

「ではでは、お兄さんはここで士元ちゃんとお馬さんたちのお世話をお願いします。風たちは必要なものを仕入れてきますので」

 

「了解、こいつらには世話になってるからな。ばっちり世話してやるさ」

 

 賊に出くわすこともなく村に辿りついた横島一行。今は、村唯一の酒屋兼宿屋に併設された厩舎に馬たちを繋いだところである。これから、風と朱里、瑠里の三人は横島と雛里と別れ、物資の補給と情報収集へと向かうところである。

 

「気合たっぷりですねー。では、行ってきます。終わったら宿で待っていてください。ああ、士元ちゃんの言うことを良く聞くのですよ? ふらふらと出歩いて迷子になったりしてはダメですからね?」

 

「ワイは子供か……」

 

「似たようなものです。ある程度は教えましたが、それでもお兄さんがこの辺りに不慣れということには変わりありませんから」

 

 そう言うと、風は朱里と瑠里と共に出店の方へと向かう。現在、村には商隊が逗留しており、そこで情報や物資を得るつもりなのである。

 残された横島は、隣りに立つ雛里へと声をかけると馬たちの世話をはじめるのであった。

 

 

 

「いやー、それにしても大きいよなー。士元ちゃんたちの馬より二回り以上大きいんじゃないか?」

 

 先程まで自分と風を乗せていた黒馬の体を綺麗にしながら、呟く横島。それに対して、他の馬の体を洗っていて雛里が答える。

 

「そうですね。私もこんなに大きなお馬さんを見るのは初めてです。聞いた話によると、大陸の遥か西にある国には、大陸の馬より大きな馬がいるそうです。もしかしたら、そのお馬さんがそうなのかもしれません」

 

「へー。遥か西っていうと……イタリアか? ま、どこの馬でも関係ないか。お、ここがええんか?」

 

 そう声をかけながら、楽しそうに世話を続ける横島。そんな横島を微笑ましく見ていた雛里であったが、世話を途中で放置され不機嫌そうな馬の嘶きに我に返ると慌てて世話に戻るのであった。

 

 

 

 横島と雛里の二人が馬の世話を終えて道具を片付けていると、そんな彼らの背後に近づく一つの影が。その影は、横島たちの背後に立つなり、黒馬を見上げ一言声を発するのであった。

 

 

「でかっ! いやいや、デカすぎやって。これ兄さんたちの馬? いや、ホンマにデカいわ……実は馬とちゃうって言われても不思議やないっちゅうか、そっちの方が信じれるちゅうか」

 

 

 その声に振り返った横島は、瞬時に声の持ち主へと視線を走らせる。

 

(顔……よし! 服装は虎柄……って、露出多すぎやろ!? 極めつけにあの特大サイズの胸!? これはもう誘ってるに違いない!? では、久しぶりに……)

 

「生まれる前から愛してましたーーー!!」

 

 そう叫びながら、横島がその身を宙に投げ出すまでにかかった時間は、僅か0.01秒。

 

 ――何げに人間の伝達速度の限界を超えていた。

 

 

 そんな人間を超越した反応を見せた横島はといえば、空中にその身を置きながらも思考を続けていた。

 

(あの超乳もいいが、全体的にむっちりとした感じがなんともエロい……いや、太ってるわけじゃないぞ? ……って、アレは!?)

 

 観察を続ければ続けるほど、横島の顔はだらしなくなっていく。だが、その影が持つあるもの(・・)を見た瞬間、横島はあらゆる物理法則を無視し、真下に落下するとザザっと音を立て距離を取ると雛里の背後へ隠れる。

 

 その一連の動作を呆然と見ていた女性――李典曼成――は、雛里の影に隠れ情けなく震える横島を視界に捉えると、横島……というか、雛里に問いかける。

 

「な、何やようわからんが……それで隠れたつもりなんか? その兄さん」

 

「さ、さぁ……どうでしょう?」

 

 最も、聞かれた雛里も横島の様子にどうすればいいのかと困惑している。如何に優秀な軍師(候補)といえども、いきなり女性に向かって愛を叫んだあとに、人間離れした動きで自分の背に隠れる人物への対処法は分からないようである。

 

 そんな何とも言えない空気を破ったのは、その空間を作り出した横島本人の叫びであった。

 

 

「ど、ドリルは嫌やー! 尻だけは! 尻だけは堪忍してーー!? ちゃうんや! その使い方は男のロマンとちゃうんやー! えぐれる! えぐれてまうー!?」

 

 

 どうやら、李典の持つ武器――螺旋槍――が横島の中で眠っていた悪夢(なにか)を思い出させてしまったようである。

 

 

 

 

 

「つまり、ウチの螺旋槍と似た奴をケツにぶっ刺されそうになったことがあって……。で、それを思い出して取り乱した……と」

 

「……怖かった、本当に怖かったんだよー」

 

「よしよし」

 

 アレから泣きわめく横島を雛里が落ち着かせ、どうにか事情を聞き出すことに成功。今は、話を整理する李典と雛里に泣きつく横島、その横島の頭を撫で慰める雛里という混沌とした状況が出来上がっていた。

 

 

「知らんかったとはいえ、何や悪かったな~。ま、お兄さんも元気だしーな。いつまでも、妹に泣きついとったらカッコつかんで?」

 

「あ、私たち兄妹では……」

 

「そうなん? ま、そんなことよりこの馬デカイなー。って、そんな逃げんでも……」

 

 謝罪を終えた李典が、黒馬を良く見ようと立ち上がると、横島が李典から距離を取る。その際、余程警戒しているのか、お尻を庇うようにして移動していた。

 

「せやかて、ワイが飛びかかったらソレでグサッとやるんやろ?」

 

「そりゃ、襲われたら反撃するやろ……。大丈夫やって。そっちが変なことせんどけば、ウチから仕掛けたりせんって」

 

「乳揉んだら?」

 

「ん? 揉みたいんか?」

 

「是非とも!」

 

「あはは、正直な兄さんやなー。でも、ダ~メ。やろうとしたら、グサッとやるで?」

 その言葉に恐怖の声をあげ、必死に尻をガードする横島。それを見て笑う李典。

 

 そんな二人に挟まれた雛里はと言えば、李典の胸を見たあとに自身の胸元に視線をやると深くため息を吐き、空を見上げるのであった。

 

(空が青いなー。あ、鳥だ)

 

 

 




 十六話です。取り敢えずあげます。色々滞っており申し訳ない。
 取り敢えず、強い人たちのうち一人が判明。他の人たちは次回以降判明します。

 最後に……過去に横島に何があったのかは聞いてはいけません。

 馬関連。やたら強い人が守る村。横島の反応速度。ドリルと横島。
 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。割と更新してます。


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十七節 ホンマいい人や

十七話です。文量についてはご容赦を。

一言:インフル怖い


 

 

 

 

 

 

「で、こうなったと。お兄さんといると飽きませんねー」

 

 物資の補充、情報の収集を終えた風たちが厩舎の前で固まる三人を見つけてから数分。李典と横島の間で固まっていた雛里を、自分たちの方に呼び寄せて事情を聴き終えた風の一言である。

 

「余程“どりる”が怖いみたいで……。あ、でも何か可愛かったでしゅ……す」

 

「可愛い……? アレが?」

「雛里ちゃん、大人だ……」

 

 雛里の言葉にそれぞれ感想を漏らす瑠里と朱里。二人が見つめる先には、未だ尻を庇いながら李典を警戒し続ける横島の姿。そんな姿を見ては、雛里の発言内容は信じられないようで、揃って首をかしげている。

 

 

 

 一方、警戒され続けている李典はといえば、身動きが取れない状況であった。横島の反応が面白くて悪ノリをしてしまった結果、今では彼女が声をかけるだけで横島が悲鳴をあげるようになってしまったのである。

 

(何も悪いことしとらんのに悲鳴あげられるってーのは気分よーないな。いや、ウチが悪ノリしたんが悪かったんか……ホンマに嫌やったんやな。かと言って、謝ろうにも……ウチが動いたり声をかければ即悲鳴。こんなとこ凪に見られでもしたら……)

 

 自分の悪ノリのけ結果が招いた事態と、このままでは実現するであろう光景に青ざめる李典。彼女本人としては、さっさと謝罪なりをしてこの場から退散したいのだが、状況がそれを許しそうにない。それでも、何とかしなければと横島に声をかける。

 

「あ、あんな? まずは落ち着こ? ウチは別に兄さんに危害は加えんて……」

 

「いややー! そんなこと言ってワイが油断したらブスってやるに決まっとる!」

 

「ああ、もう! いい加減ちっとは話を聞かんかい!」

 

 幾度も繰り返されたやり取りに遂に我慢の限界が来た李典が吠える。その声は大きく、横島たちから視線を外し情報を整理していた風たちや、通りかかった村人の注目を集めるには十分であった。

 

 

 

「ええか!? ウチはアンタに何ら思うとこがない。つまり、アンタをブスっとやる理由がないんや! せやけど、いつまでもガタガタ抜かすようならホンマにコイツで刺したろか!?」

 

 その言葉と同時に螺旋槍を横島に向ける李典。向けられた横島はと言えば、恐怖からか声をあげることも出来ず、地面に座り込んでいる。

 

「子考様っ!」

 

 そんな横島の姿を見た瑠里が、声をあげ駆け出す。李典が本気でそう思っているのかは彼女には関係ない。ただ横島の元へ。それだけを心に走る。

 

 

 その彼女の横を駆け抜ける影。その影は、李典に近づくとそのまま拳を振り抜くのであった。

 

「お前は何をやってるんだ! 真桜!」

 

 李典――真桜――を殴り飛ばした影の正体。それは、真桜の友であり、この村を守る自警団の一員にして気弾を飛ばす銀髪の人。名を楽進文謙……真名を凪と言う少女であった。

 

 

 

「うちの曼成がご迷惑をお掛けしたようで……申し訳ありません」

 

 真桜を殴り飛ばした後、凪は未だ地面にへたり込む横島へと手を差し伸べながら謝罪の言葉を告げる。殴り飛ばされた真桜はと言えば、殴られた頬を手でさすりながら弁明の言葉を紡いでいた。

 

「ったたた……もうちょっと手加減しれくれたっていいやんか。大体、ウチはそんなに悪ない。そのお兄さんがウチの螺旋槍を怖がるから、ちょっとからかっただけや。ホンマに刺すつもりなわけないやないか」

 

「お前は……怖がっているのが分かっているのにからかったのか!」

 

「うぅ……そりゃ、ちょっとやり過ぎたかなぁ~ってウチも思うたけど……。その兄さんも……いや、何でもない。ウチが悪かったわ」

 

 凪の言葉にバツの悪そうな顔をしてそっぽを向く真桜。彼女からすれば、横島が過剰に反応していたのも悪いと言いたいところだが、丸腰相手に武器をチラつかせたという負い目ややり過ぎたという自覚がある為、これ以上弁明せず素直に謝罪する。

 

 そんなやり取りを凪と真桜がしていると、横島たちのそばへ駆け寄った瑠里が二人に話しかける。

 

「あ、あの……そちらの方は別に子考様に危害を加えたりは……?」

 

「せんせん。その兄さんがウチが動くたびに怖がるから、ついカッとなって言っただけで、実際にやるつもりはない。お嬢ちゃんからも言うたってや? ウチは何もせんって」

 

「そ、そうですか……それならいいのです」

 

 螺旋槍から手を離し告げる真桜の姿に、嘘はないと判断した瑠里は剣の柄に添えていた手を外すと、未だ差し出された凪の手をジッと見つめている横島の元へと歩みよるのであった。

 

 

 

 一方、横島たちはと言えば未だ手を取らず、立ち上がろうともしない横島に凪が困惑していた。何処か痛めたか、腰を抜かしたかと更に横島に近づく凪。

 

 そんな中、自分たちの方へ近づいてくる瑠里へ意識を向けた次の瞬間……凪の体は横島の腕の中にあった。

 

「へ? え? ちょ?」

 

「うぅ……アンタいい人や。美人で強くて、優しい……ホンマいい人や」

 

「び、美人って……こんな傷だらけな女に向かって……って、それより離せ!」

 

 自分の置かれた状況と横島の言葉に少々混乱していた凪であったが、正気に戻ると横島を離そうとする。しかし、こんなオイシイ状況を逃がしてたまるかと、横島も抵抗する。

 

 そんな二人の闘い? を止めたのは風の声であった。その傍らには、瑠里たちの姿もある。

 

「お兄さん、“はぐ”はそれくらいにしてください。でないと、怒りますよ?」

 

 やんわりと告げられた言葉。だが、その言葉に言い知れぬ威圧感を感じた横島は素直に凪を解放するのであった。

 

 一方、解放された凪はと言うと、横島の手が届かない距離に移動すると風に向かい“はぐ”について尋ねる。この間、若干頬が赤いことをからかってきた真桜に制裁を加えることも忘れてはいない。

 

「その“はぐ”とは? 先程の抱擁のことのようですが……」

 

「“はぐ”はですねー。お兄さんの故郷の風習なのですよ。親しい男女が挨拶する時や、感謝の気持ちを示すときにする抱擁なのですよ」

 

 ”はぐ”について説明する風。然り気に、挨拶以外の用途――感謝――が増えている。どうやら、”はぐ”を気に入った風は、横島のフォローをするついでに”はぐ”をする機会を増やすつもりのようである。

 

 因みに、瑠里、雛里、朱里の三人は未だに“はぐ”をしたことはない。“はぐ”が嫌だとかではなく、風が彼女たちの前で“はぐ”を強請ったことがない為、存在を知らなかった為である。

 “はぐ”を知った三人は、その光景を妄想したのか少々顔が赤い。彼女たちが横島に“はぐ”を強請る日はそう遠くなさそうである。特に、横島に助けられた雛里と瑠里の二人は。

 

 

 風の説明に変わった風習もあるものだと納得する凪。そんな凪に、風は横島を助けたことへの礼を告げると同時に、真桜と凪にある頼みごとをするのであった。

 

 

 

 

――おまけ:風の朝 宿編――

 

「ふわぁ~。ううぅ……まだネムネムなのですよー」

 

『こら、二度寝するな。二度寝するんなら旦那んとこ行ってからにしろ』

 

「……分かっているのですよ、宝譿。今日こそは、お兄さんの寝台に侵入を……」

 

『おい、嬢ちゃん! 起きろって! 旦那んとこ行くんだろ!?』

 

「うるさいのですよ、宝譿。……では、お休みなさい」

 

 宝譿を寝台の外に投げると、寝台に伏せて寝息を立てる風。

 

 こうして、今日も風は横島の寝台への侵入に失敗するのであった。

 

 

 




 十七話です。色々忙しく、執筆が進みません。それもこれも職場でインフルが流行ったせいなんですが。皆さんもインフルにはお気を付けください。

 取り敢えず、凪登場。沙和は……ここでは出ないかもしれません。竹かごでも売りに行ってるかも。
 おまけについては、おまけなのでおまけだなぁと思ってください。宿編とかありますが、気にしないでください。

 
 これらは拙作内設定です。

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十八節 用事が済んだら

十八話です。十七話修正しないことにしました。面倒……面倒なので。

一言:お待たせしました


 

 

 

 

「では、ここから私は別行動をさせて頂きます。お土産を期待していてくださいね? そうだ! 折角洛陽に行くのですから、古書……軍略書とか如何ですか? 一緒にお勉強しましょう」

 

「いや、お土産は別にいいから。元直ちゃんが無事に戻ってくれれば……いや、これホントだよ? うん。決して、勉強がいやとかじゃないよ?」

 

「はい! 必ず無事にあなたの元に戻ります!」

 

 瑠里の言葉に何処か引きつった顔で答える横島。明らかに別の意図が感じられる横島の答えだが、気遣われた瑠里は嬉しそうである。

 

 

 瑠里はここから陳留を目指す横島一行と一度別れ、洛陽へ向かう商隊に同行し一路幽州を目指すことになっている。そこで、幽州に現れると予言されている者――『白の御使い』――について探る予定なのである。最も、既に現れている場合は良いが、待てども待てども現れない可能性も十分にある。その為、調査期限を幽州に着いてから三ヶ月と定めている。無論、その間に幽州や洛陽の調査も欠かすつもりはない。

 

 

 横島との会話を終えた瑠里は、水鏡女学院の同級生である朱里と雛里の元へ向かう。

 

「瑠里ちゃん、気をつけてね。手紙の内容は、まずは『横式暗号ノ弐』を試すとして……。あ、宛先どうしょう?」

 

「う~ん、私たちが陳留に到着するまで大体三週間くらいで、陳留から洛陽までが二週間くらい。それだって、手紙を運んでくれる商隊が丁度良く見つかればだし。幽州だともっとかかるよね……」

 

「じゃ、こうしようよ。陳留の拠点を決めたという手紙が来るまで、私は洛陽で待機。勿論、その間も色々情報は集めるよ。そして、手紙が来たら幽州に向かい始めて、幽州での拠点が決まるまでは、こっちからの連絡だけ。本格的な情報のやり取りはその後ってことで」

 

 一通りの挨拶を交わした後、話題はこれからの連絡方法へと変わっていく。彼女たちは、情報のやりとりとは別に、独自に開発した暗号――『横式暗号』――の試験運用を目的に定期的に連絡を交わすことにしていた。

 

 『横式暗号』とは、算術の勉強中に横島が使っていた文字――アラビア数字――を目にした風たちが、横島の操る文字に興味を持ち追求したことから生まれた暗号である。

 今ではひらがな、カタカナ、アルファベットを組み合わせただけの暗号から、横島が知る暗号――『たぬき暗号』など――を組み込んだ暗号と、数種類の暗号を開発していた。

 

 

 それからしばらく雑談していた横島たちであったが、商隊の準備が整ったと声がかかる。

声をかけてきたのは、瑠里と同じく商隊に同行し洛陽へと向かう村の人間である。彼女は、普段は凪や真桜と行動を共にしているのだが、洛陽の最新ファッションを見に行くために今回は別行動になったそうである。

 

 それはさておき、改めて瑠里は出立の挨拶を横島たちと交わす。

 

「じゃ、オレたちは陳留で待ってるから。用事が済んだらすぐにこっちにおいで」

 

「はい! 必ずや子考様のお傍に参ります!」

 

「瑠里ちゃん、気をつけてね? 子考様は私と雛里ちゃん、仲徳ちゃんが立派な君主にきょ」

 

「あわわ、朱里ちゃん! それは、子考さんには秘密なんだよ!」

 

「はわわ、そうだった! 子考様には、子考様調教計画(仮)は内緒だったんだ!」

 

「ふわわ、子考様を理想の君主に育て上げると言う私たちの計画が……!?」

 

 何やら、横島の知らぬところで怪しげな計画が密かに発動していたようである。それをうっかり漏らしてしまった朱里を筆頭に、三人は次々と墓穴を掘っていく。それを止めたのは、計画の提案者である風であった。

 

「大丈夫ですよ、三人とも。お兄さんなら李典さんに飛びかかって撃墜されてます。聞こえてませんよ。いやはや、あれほど恐怖していたというのに、もう平気とは……恐ろしきはお兄さんの煩悩ですね」

 

 風の言葉通り、横島は先程瑠里に出立が近いと声をかけてきた村人と話している真桜へと突撃していた。つい数時間前は、真桜の持つドリル――螺旋槍――に恐怖していたのが嘘のようである。今や、彼は完全にドリルのトラウマを克服していた。

 

 因みに、風が横島にどうやって克服したのかを尋ねたところ、次のような答えが返って来たそうである。

 

『どうやって克服したかって? オレの煩悩の前には、ドリルの恐怖なんてのは吹けば飛ぶ紙切れみたいなもんさ。そう、あの乳に近づく為なら、オレは文珠だって使ってやる!』

 

 ……どうやら、横島は文珠を使用してドリルの恐怖を『克』『服』したようである。文珠の使用を躊躇わない横島の煩悩が凄いのか、それともそこまでさせる真桜(の乳)が凄いのだろうか。

 

 

 

 それはともかく、横島が計画について聞いていないことを確認し、落ち着いた瑠里たちは何事もなかったかのように、挨拶を再開させる。このあたりの切り替えの早さは、流石は軍師を志す者といったところである。

 

「ではでは、お気を付けて。洛陽までの道中は商隊と一緒ですから、比較的安全でしょうが、幽州までの道中は本当に気をつけてくださいね? まぁ、重々承知しているでしょうが」

 

「ええ、承知しています。しばらく大規模戦闘はありませんでしたが、昔から小競り合いが多い地ですからね、幽州は。賊も多いそうですし」

 

「こう考えると公孫賛さんも大変だよね。異民族の相手に賊討伐。その上、“白”の予言のこともあるし」

 

 その雛里の言葉に、未だ会ったことがない公孫賛に対し、憐憫の情を抱く瑠里たちであった。

 

 

 

 

 それから、十分程経って瑠里は商隊と共に洛陽へと旅立っていく。見送る横島たちの姿が、見えなくなるまで瑠里は何度も振り返るが、やがて彼らの姿が見えなくなるとゆっくりと前を見据える。

 その視線の遥か先には、洛陽がある。そこで、情報収集をしながら連絡を待ち、その後は幽州に向かい“白”について調べる。最短でも四ヶ月は、皆とは会えない。そのことを寂しく思う瑠里であったが、自身の太腿に巻いている布を思い気合を入れる。

 

(大丈夫。これが皆と私を繋いでくれてる。それに、子考様と約束したもの)

 

 瑠里は無事に再会するという約束の他に、横島とハグしたときにこっそりと耳元で告げた約束に思いを馳せる。その約束とは……

 

「真名を交換するって」

 

「うん? 何か言った~?」

 

「にゃ、何でもないでしゅよ。文則しゃん」

 

「あはは、元直ちゃん噛みまくりなのー」

 

 

 

 

 

 ――おまけ 然り気にハグ浸透中――

 

 これは、瑠里が洛陽へと出立する直前の横島たちとのやり取りの一部である。

 

「ささ、元直ちゃんこちらに。はい、そこで両の手を広げて。そう、そのまま」

 

 風に促されるまま横島の前に立ち、両手を広げる瑠里。朱里たちよりは大きいとは言え、十分小柄な瑠里である。傍目には、横島に抱っこをねだっているように見える。

 

「さ、お兄さん。元直ちゃんに“はぐ”を。それはもう、熱烈なやつをお願いします」

 

「熱烈って言ってもな~。ま、いいか。じゃ、いくよ?」

 

「ひゃ、ひゃい! いつでもどうじょ!」

 

 横島の問いかけに、顔を真っ赤に染め上げた瑠里が答える。その様子に苦笑しながら、横島は瑠里をゆっくりと抱きしめるのであった。

 

 

 余談ではあるが、瑠里と横島のハグが終わるまで雛里と朱里の二人は、ずっと顔を両手で覆っていた。勿論、指の隙間からガン見していたことは言うまでもないことであろう。

 

 

 




 ようやくの十八話です。色々考えましたが、我が道を行きます。短かろうが、展開が遅かろうが関係なくあげます。

 瑠里は一旦退場。死亡フラグ立ててますが、特に何も起こりません。
 次回は、横島一行の陳留の旅です。

 洛陽―陳留間の日数(商隊基準)。横式暗号。幽州情勢。
 これらは拙作内設定です。

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十九節 さっさと陳留へ行くか

十九話です。色々忙しいです。

一言:近所の飲食店が軒並み閉店していくんですが・・・



 

 

 

 

「そういえば……皆さんはどのような関係なのですか? 子考殿と仲徳殿は兄妹だと思うのですが」

 

 瑠里と別れてすぐに村を出立した横島たちが、陳留まで残り半日ほどの距離まで近づいた頃。一行の道案内兼護衛として雇われた楽進――凪――が、昼食休憩を取っていた風に質問する。

 

「そういえば、そうやな。洛陽に行った徐なんちゃらっちゅう嬢ちゃんは、兄さんのこと様付けで呼んどったけど……」

 

 同じく雇われた李典――真桜――も気になったらしく、口を挟む。

 

「お兄さんと兄妹ではないですよ。徐元直ちゃんも含めて、風たち四人は、お兄さん――子考様を主と仰ぐ者たち。つまり、主従の関係ですね。まぁ、旗揚げした訳ではないので、何れ主従の契りを交わす関係と言った方が正しいでしょうか」

 

「主従……そうですか。それで、陳留へは何の為に?」

 

「陳留は色々と都合が良いですからね~。暫くは陳留を拠点に活動する予定です」

 

「活動……ですか?」

 

 風の活動と言う言葉に首を傾げる凪。隣りで聞く真桜も同様である。そんな二人に、風はただ微笑むだけ。その微笑みに、部外者である自分たちにこれ以上話すつもりがないのだと二人は悟るのであった。

 

 

 

 そんな三人に、離れた場所で馬の世話をしていた横島たちがやって来て話しかける。

 

「お~い、クロたちの世話終わったぞー……って、取り込み中だった?」

 

「いえいえ。ちょっとお話していただけですから、あと少し休んだら出発しましょうか」

 

 そう言うと風は、自分の隣りに横島を招く。招かれるまま、横島が隣りに腰を下ろすのを確認すると、風は朱里たちにも座るようにと促す。

 

 全員が腰を下ろすと、自然と横島が中心となり会話が始まる。

 

「いや~、クロが走りたそうだったから少し走らせたんだけどさ。本当クロって速いよな。速いと言うか、疾いって感じ?」

 

 横島が言う“クロ”とは、ここまで横島を乗せてきた黒馬のことである。元は、瑠里の母親が商人から購入し、横島に譲られた西方由来と思われる馬である。

 その漆黒の体毛と、駆ける速さから”黒い風”のようだと凪に言われたことから、名を黒風(クロカゼ)……愛称、”クロ”と名づけたのである。

 

「黒風は今まで見たどの馬よりも疾いですよ。まるで、噂に聞く赤兎馬のようです」

 

「あの一日で千里走るゆう馬? 確かに黒風は疾いけど、流石に千里は無理とちゃう? 兄さんもそう思わん?」

 

「どうやろ。クロの疾さは分かっとるけど、スタミナ……持久力がどんなもんかは分かっとらんからな。案外、行けるんとちゃうか?」

 

「ま、ホンマに一日に千里走るんやったら、ウチらの村から陳留くらいやったらあっちゅうまに行き来できることになるわな」

 

「ちゅうことは、クロに乗ってけば文謙ちゃんと曼成ちゃんにすぐ会いに行けるってことか。むぅ……ここは一つ、クロに頑張ってもらうか? いや、しかし……」

 

 真桜の言葉に、真桜と凪の二人に会うためならと考える横島。実際、黒風ならば可能ではないかと横島は思っている。今も他の馬が休んでいるのを横目に、走っていたのだから体力はあるだろうし、休みながら行けば問題はないような気がしている。

 また、普通の人間ならば耐えられずに振り落とされるであろうスピードや揺れも、横島は向こうの世界でシロの散歩に付き合ったりしていた時に耐性でも出来たのか、全く問題としていない。

 残る問題は、実際に黒風のスタミナがどれだけあるのかということと、本当に陳留と村の間を往復する気が横島にあるのかと言う点だけであった。

 

(散歩のときは、散々飛んだり跳ねたりしてたからな~。シロとの散歩(あれ)に比べると、スピードは少し遅いし、揺れは断然こっちの方が小さい……かと言って一日走るってのは……いや、散歩で慣れてるけど)

 

 恐ろしいのは、超スピードの長距離散歩に慣れた横島なのか、人狼の速度と変わらない速度で走ることが出来る黒風か。どちらにしろ、黒風が横島という己の全速に耐えることが出来る唯一の主人を得たのは間違いない事実であった。

 

 

 

 

 

「何やら考え込んでいるお兄さんは放っておくとして……。お二人は陳留に着いたらどうするので?」

 

 横島が考え込んでいると、風が凪たちに問いかける。先程までとは逆に問いかけられる立場となった凪たちは、ゆっくりとお互いの顔を見る。しかし、隠すことでもないのですぐに回答するのであった。

 

「折角陳留へ出たので、暫く滞在しようと思っています。村では手に入りにくい品もありますし」

 

「流石に値が張るから、何でもかんでもは買えんけどな。ウチの螺旋槍なんて、必要な部品を揃えて、出来上がるまで三年もかかってしもうたわ」

 

「三年ですか……。それは大変でしたでしょう?」

 

「大変っちゅうよりは、楽しかったっちゅう方が大きいわ。自分が一から設計したもんが、完成したときの達成感も好きやし、少しずつ出来上がっていくのもワクワクするわ。せやから、大変っちゅうことはない。因みに、次は全自動かご編み機を作ろうかと考えとるんや。これはな? かごを編むのを……」

 

 全自動かご編み機が如何に便利なものかについて力説し始めた真桜と、真桜に捕まった朱里と雛里を放って、風は凪へと話しかける。

 

「陳留に暫く滞在されるのでしたら、街の案内をお願いしてもいいですか? 何分、陳留は初めてですので」

 

「構いませんが、生憎と私たちが案内できる店は薬屋や金物屋とかですよ? 文則ならばお洒落な服屋とかも知っているのですが」

 

「ふむ……ま、服屋は自分たちで探すとしましょう。腕の良い職人がいると良いのですが……。あ、そうです。文謙さんたちおすすめの宿や、飯屋も教えてくれませんか?」

 

「宿なら、私たちと同じところが良いでしょう。あそこの厩は大きいですから、黒風も大丈夫でしょう。何より、私一押しの料理がありますからね」

 

「ほ~。一押し料理ですか。それは楽しみですね」

 

 

 

 

 

 その後、休憩を終えた一行は陳留へ向けて出発する。

 

「残り半日なら、今日中には着くな」

 

「ま、何事もなければですがね~」

 

「怖いこと言うな~風ちゃん。ま、こんだけ見晴らしがいいんだ。何かあればすぐ分かるだろうし」

 

「子考さんの言う通りです」

 

 呑気に言う横島に、同意の言葉を返す雛里。彼らが進んでいるのは、平原であり視界を遮る木は存在していない。目指す陳留の方角には、所々木々が生えているのが見えるが、大人数を隠せる程密集している訳でもない。

 

「そんな心配せんでも、ここまで来たら賊はおらんて。何せ、陳留太守曹操様のお膝元や。近場の賊なんて、当の昔に討伐されとる」

 

 横島たちのやり取りを聞いた真桜が、馬を寄せて横島たちを安心させようと声をかける。その言葉に、風たちは流石は曹操と感心していたが、横島だけは真桜の胸の谷間に目が行っており、聞いていない。

 そんな横島の視線に気づいた真桜が、両腕を使い更に胸の谷間を強調してからかう。それにますますだらしない顔をして、胸を覗き込もうとしていた横島であったが、何かに気づいたかのように急に顔をあげる。

 

 その横島の行動に、一番驚いたのは今の今まで胸を覗き込まれていた真桜である。他の者たちも、横島の突然の行動に戸惑う。

 それを打ち破ったのは、やはり横島であった。

 

 

 

「何かヤバそうだぞ。凄い勢いで何かがこっちに向かってきてる。大勢に追われてるみたいだ。追われてるのは……馬車か」

 

 

 

 全員が横島が指差す先を確認すると、確かに土埃が舞っている。但し、未だ距離が遠い為、彼女たちには馬車が追われているのかまでは分からなかった。

 しかし、何かが迫ってきていることは確かなので、凪と真桜の二人は横島たちの前にでる。逆に、雛里と朱里は後ろへ下がる。

 

 

「お兄さん、もう少し詳しい状況はわかりますか? 旗などは見えませんか?」

 

「旗……? ああ、ある、追っているヤツらは“曹”の旗を掲げている。それに鎧も着てるな。っていうことは、追っているのは曹操軍か? ……あ、囲まれた」

 

「曹操軍ということは、陳留の部隊でしょうか。ま、ここは君子危うきに近寄らず……です。何故、馬車が追われていたのかは分かりませんが、追っているのが曹操軍なら放っておいていいでしょうし」

 

「だな。わざわざ巻き込まれに行く必要はないか。距離もあるし、気づかなかったことにして、さっさと陳留へ行くか」

 

 横島が結論を出すと、一行は陳留へと足を向けるのであった。

 

 

 

「兄さん、真面目な顔しとったらかっこええのに。ま、普段の面白い兄さんもええけどな」

 

「あの距離が見えるとは……流石は仲徳殿たちの主となる方。ただのスケベではなかったか」

 

 

 

 

 

 

 ――おまけ:捕物劇――

 

 横島たちが去った後。馬車を取り囲んだ軍勢の中から、二人の女性が馬車に向かい進み出る。

 

「さて。盗人風情が随分と面倒をかけてくれたな」

 

「そうだ! 折角の華琳様との視察の時間だったというのに……貴様のせいで台無しではないか!」

 

 一人は、青い髪に青い服を纏った女性。手には弓を持っており、その視線は鋭く馬車の中にいるであろう人物を睨みつけている。

 

 もう一人は、長い黒髪に紅い服を纏った女性。片手で大刀を振り回しながら、わめきたてているがその視線は油断なく馬車へと向けられている。

 

 

「ふむ。出てこぬ気か……ならば、あぶり出すとするか」

 

 弓を持った女性が、弓に矢を番え馬車へと射る。その矢を放つと、次の矢を準備し次々と射る女性。

 すると馬車の中から、三人の男が悲鳴をあげながら飛び出してくる。彼らは、荒い息を整えながら手に持った剣を構えた……筈であった。

 

 

 彼らが構えた筈の剣は、黒髪の女のひと振りによって彼らの手から弾き飛ばされていた。

 そのことを彼らが認識する前に、女が大刀を振りかぶりながら告げる。

 

「やっと出てきたか! 華琳様からは生かして引っ捕えよと言われたからな。死ぬんじゃないぞ?」

 

 紅い影。それが男たちが意識を失くす直前に見たものであった。

 

 




 関西弁についてはおかしなところはスルーでお願いします。恋姫世界では、名馬たちはどうなっているのでしょうか。赤兎馬は犬になっていますが。
 あと、犬と馬の最高時速は軽く調べた感じだと、どちらも時速70kmくらいみたいです。

 次回はあの人と遭遇!?

 おまけは、読まなくとも問題なし。実はニアミスしかけてましたよってだけです。

 螺旋槍の製作期間。
 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。感想いただけるとモチベーションあがります。
 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。割と更新してます。


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二十節 牢屋にぶち込まれたりしないよな

二十話です。陳留まで少し。

一言:W杯始まりましたね




 

 

 

 

 

 軍と馬車の追走劇を遠目に、横島たちは陳留の城門が視認出来る場所までやって来ていた。

 

「お、ようやく陳留が見えて来たな……陳留であってるよね?」

 

「そうですよ。あそこに見えるのが、目的地の陳留です」

 

 陳留を初めて訪れる横島が不安そうに確認すると、黒風と並走して馬を走らせていた凪が答える。

 それを受けて横島は改めて視線を城門へと向ける。すると、城門の所に兵たちが集まっているのが見える。その事実に、横島は顔を引きつらせながら誰とはなしに呟く。

 

「あ~、オレら何かした?」

 

「先の部隊を城門で待っているのでは?」

 

「もしくは、今から応援に向かうところなのかも」

 

 横島の言葉に、雛里と朱里が推測を語るが何処か自信がなさそうである。城門前に兵がいることは珍しいことではない。城門で荷の検閲をしたり、軍事行動などで集まることがあるからである。

 

「文謙さん……陳留では兵士の方が城門前に集まっているのが普通なのですか?」

 

「いえ……。城門を抜けた所に立っていることはありますが、城門前はなかったかと」

 

「という事は、普段とは違う“何か”が起こっているのは確かですね~。まぁ、軍事演習という可能性もありますし。何も悪いことはしていないのですから、堂々と行きましょう」

 

「そうだよな。何もしてないのに、牢屋にぶち込まれたりしないよな。な?」

 

「兄さん、挙動不審すぎやって。堂々としとりゃ、な~んも問題ないって」

 

 横島が何処か及び腰ではあるが、一同はそのまま城門へと進んでいくのであった。

 

 

 

 

 

「そこで停まれっ!」

 

 城門に近づくと、兵士が剣に手をかけながら告げる。今、横島たちは馬から降りて歩いている。城内を乗馬したまま通る訳にはいかないという理由もあるが、兵士たちを刺激しないようにと言う理由の方が大きかった。

 しかし、予想外に兵士たちは張り詰めていたようである。先の兵団が向かった方向からやって来た横島たちを警戒しているようである。

 

 大人しく指示に従う横島たち。横島も腰が引けているが、自分より小さい風たちの手前精一杯虚勢を張っている。他の面々も、兵士に対して多少の緊張を見せている。

 

 

「そう緊張しなくともいいわ。別に危害を加えようという訳ではないもの」

 

 

 そこに女の声がかかる。兵たちに隠れて確認は出来ないが、横島はその声の主が美少女だと確信していた。

 

 

「おー、何と可憐な声。それに、上に立つ者特有の自信と気品に溢れている。その姿もさぞ美しいのでしょう」

 

「お兄さん、姿も見ていない女性を口説くのは……」

 

「いい女には声をかける。それが礼儀っちゅうもんや。あ、風ちゃんたちもいい女やで?」

 

 横島の言葉に呆れる風たちであったが、“いい女”発言は嬉しかったようで頬が緩んでいる。真桜は隣りにいる凪に、“なんや、照れるわ”と話しかけていた。

 

 そんな一同の前に、兵士たちの間を縫って声の主が進み出る。

 

「ここは、ありがとうというべきかしら?」

 

 横島に声をかけながら姿を現した声の主は、艶やかな金髪を両サイドで縦ロールにするという特徴的な髪型をした美少女であった。

 

 小柄であるというのに、放つ存在感は強大。覇気溢れる人物。横島のいうところの上に立つ者特有の気品と自信を纏う人物。それが、風たち軍師勢の印象であった。

 

「お、やっぱり美人……というか、美少女? それに……この跪きたくなる感じ。まさに生まれながらの女王様ってヤツだな」

 

 うんうんと首を縦に振る横島に、面白いものを見つけたという表情を浮かべる少女。彼女は、周囲の兵士を手振りで後ろに下げると、横島に向かい口を開く。

 

「中々面白いことを言うわね。私が生まれながらの王だなんて。兵たちに任せようかとも思ったけど……二人が戻ってくるまでの暇つぶしとして、私が直々に聞いてあげるわ。アナタたち、馬車を盗んだ輩の仲間かしら?」

 

「あ~、あの馬車? いや、違うけど」

 

 少女の問に軽く答える横島。少女も違うと分かっていたのか、それ以上追求する気配はない。

 

「ふ~ん。馬車のことは知ってはいるようね。ま、ヤツらが逃走した方向から来たのだから、不思議ではないわね。大体、ヤツらの仲間ならそんな目立つ馬で来ないでしょうしね」

 

 少女はそう言うと、黒風へと視線を向ける。その後、黒風や他の馬に積まれた荷に目を向けると、再び口を開く。

 

「それで、陳留へは何しに来たのかしら? 見たところ、商売目的ではなさそうだけど」

 

「我々は職探しです。ああ、こちらの二人は道中の護衛にと途中の村で雇いました」

 

 そう言って、真桜と凪に手を向ける風。少女の視線を受けた二人は、静かに頷く。少女が視線を風に戻すと、風は横島たちと何やら小声で話しをしているところであった。

 

「いいかしら? 職探しと言っていたけど、どのような職を求めているのか聞いても?」

 

「構いません。ここで出逢ったのも宿命なのでしょうから」

 

「あら、意味深ね」

 

 その少女の言葉を機に、横島が一歩前に進み出る。横島の後ろには風、雛里、朱里の三人が並び、横島にあわせて一礼を行う。

 そのことに、少女が驚いていると横島が口を開く。

 

 

 

「我ら四人を貴殿の食客にして頂けないでしょうか。陳留太守――曹孟徳殿」

 

 

 

 突然の事に、真桜と凪は目を白黒させていた。眼前の少女が兵を動かせる立場であることは分かっていたが、まさか太守だとは考えていなかったようである。

 そんな凪たちと同様に目を瞬かせていた少女だったが、すぐに太守としての顔を作ると口を開く。

 

 

「面白いことを言うわね。私を曹孟徳と知っていると言うことは、以前に何処かで会ったのかしら?」

 

 少女――曹操孟徳――の問いかけに、一同は礼をとくと、風が代表して口を開く。

 

「いえ。一度も」

 

「そう。では、何故私が曹孟徳だと? 名乗ってはいないし、兵たちも私を呼んでいない筈よ」

 

「別に曹孟徳殿であると確信があったわけではありません。その溢れんばかりの気品と自信を持つ者は、噂に聞く曹孟徳殿に違いないと思っただけのこと」

 

「お世辞は嫌いよ。本当のところはどうなの」

 

「お世辞ではないのですが……。先も言いましたが、本当に確信があったわけではないのです。ただ、我々はあなたが曹太守本人でなくとも構わなかったのです」

 

 その風の言葉に、首を傾げる凪たち。因みに、横島は風に言われて先のセリフを言っただけであるため、内心では凪たち同様首を傾げている。

 言われた曹操は、風の真意が分かったのか頷いている。

 

「そういうこと……。そう言えば、最終的に私にたどり着けると考えた訳ね」

 

「城門に集まった兵を率いることが出来る程の地位にいる人物ならば、我々を曹太守に引き合わせることは可能でしょう。直接引き合わせることが無理でも、曹太守の耳には入る。そうなれば、人材収集家と噂される曹太守なら……」

 

「そうね。部下から食客の話を聞けば、その人物に会う可能性はゼロとは言えないわね。でも、それも確実とは言えないんじゃない?」

 

「そうですね。確実ではありません。ですが、それでいいのです。その時は、縁がなかったということですから」

 

「もし、ここで私が断ったら?」

 

「それもまた縁がなかったというだけの事。他の人の元へと向かうだけです」

 

 にこりと笑い言う風に、横島は内心慌てる。彼からすれば、曹操の傍にいるために陳留へ来たのに、このままではそれが叶わないかもしれないのだから当然である。

 そんな横島の内心を悟ったのか、雛里が横島の手を引き、小声で話しかける。

 

「大丈夫です。子考様は堂々としていてください」

 

「おう、分かった。皆に任せる」

 

 その横島の言葉が聞こえたのか、風が横島に微笑みを向ける。

 

「それで、曹太守。私たちを食客にして頂けるので?」

 

 その問いに曹操は、微笑みを浮かべ答える。

 

「いいわ。アナタたちを食客候補として話を聞きましょう。そこの二人は、噂に名高い水鏡女学院の制服を着ているようだしね。それに少なくとも、アナタは知恵が回るようだしね。私の性格からして、食客のことをすぐには拒否しないと読んでいたのでしょう?」

 

「はて、何のことでしょうか」

 

 首を傾げる風に、答える気はないと悟ったのか追求することはしない。

 

「やはり、面白いわ。その男も中々面白そうだし。但し、食客とするかはもう少し能力を見てから決めるわ。その結果によっては、給金も出してあげる。でも、役にたたないと思ったら世話しないわよ?」

 

「それで構いません」

 

 風が曹操の言葉に頷く背後では、横島が雛里と朱里に不安を漏らしていた。

 

「オレ、役に立てるとは思えないんだが……」

 

「一緒にお勉強したんですから、きっと大丈夫ですよ!」

「そうです。それに、いざとなれば子考様は私たちが養いますから!」

 

「うう……二人ともありがとう」

 

 

 

 

「では、詳しい話は城でやりましょうか。視察が潰れたから、暇していたことだし。ああ、そこの二人もついでだから来なさい。お前たちは二人が盗人を連れて戻ってきたら、一緒に引き上げてきなさい」

 

 曹操は凪たちも誘うと、兵たちに命令を下す。そんな曹操に、横島が話しかける

 

「あの~」

 

「何?」

 

「クロたちはどうすれば?」

 

「クロ? ああ、その馬ね。そうね……取り敢えず、一緒に城まで連れて行きましょ。絶影のとこなら、その馬も窮屈ではないでしょうし」

 

「絶影?」

 

「私の愛馬よ。影さえ残さないくらいの疾さから、そう名づけたわ。あのこも同じくらいの大きさだから、厩舎も大きいの」

 

「へ~。ウチのクロとどっちが速いかな」

 

 曹操の言葉にどちらが速いだろうかと疑問を持つ横島。

 

「そんなの私の絶影に決まってるじゃない。火を見るよりも明らかだわ」

 

「おお、自信満々だ。でも、クロも速さではそう簡単に負けないと思うぞ?」

 

「そこまで言うなら、後日勝負の機会を用意してあげるわ。今は、色々説明するのが先よ」

 

 そう言うと、曹操は話を切り上げ横島たちと城へと向かうのであった。

 

 

 




 曹操登場。横島たちは食客候補になりました。
 何故、曹操が城門前にいたのか。自己紹介等は次回です。

 横島が華琳様に飛びかからなかった理由は、思考の大半が真桜の乳に向かっていたことと、華琳の女王様オーラに懐かしさを感じていたからです。

 絶影関連。
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二十一節 この天下で何を為す?

二十一話です。長かった一章もそろそろ終わりです。

一言:セレソン……


 

 

 

 

 

 

 陳留太守、曹操孟徳――真名を華琳――の案内で城主の間に通された横島たち。華琳は、優雅な仕草で腰掛けると横島たちに向け口を開く。

 

「さてと……食客にするかどうかの前に、まずは自己紹介といきましょうか。知っているでしょうけど、私は陳留太守曹孟徳。で、アナタたちは?」

 

「横子考。ただのしがない旅人にございます」

 

 横島が見事な礼をとり名乗りをあげる。それは、華琳の目から見ても見事なものであり、言外に横島がただの旅人ではなく、それなり以上の教育を受けた者であると語っていた。

 

 教育を受けた者という華琳の考えは間違ってはいない。何故なら、横島の礼儀作法は、風たちによって旅立ち当初から叩き込まれたものだからである。今でこそ表情に出すことなく淡々と行っているが、練習を始めた頃は気恥かしさからか、言葉に詰まったり、悶絶したりと言うことを繰り返していた。

 ナンパ時には気取った言葉や動作をごく自然に行えるのだが、真面目な場面では恥ずかしさが先に出てしまうらしい。何とも勿体無い男である。

 

 横島の後は、風、雛里、朱里の順に名乗りをあげていく。彼女たちも横島同様に、見事な礼儀作法を見せる。

 

「程仲徳。子考様の臣にございます」

 

「鳳士元。同じく子考様の臣にございます」

 

「同じく、諸葛孔明。私と士元は、曹太守のご推察通り水鏡女学院に在籍しておりました」

 

 朱里が水鏡女学院のことを口にすると、周囲の文官たちが少々騒めくが、華琳が一視するとすぐに治まった。その後、風が真桜と凪のことを紹介する。

 

「彼女たちは、途中立ち寄った村で護衛兼案内として雇った者たち。楽文謙殿と李曼成殿です」

 

「楽文謙です」

「李曼成です」

 

 風の紹介に合わせて名乗る二人であったが、その内心は何故ここにいるのだろうという疑念で一杯であった。

 

 

 

 

 

 自己紹介が終わった所で華琳は改めて全員に視線を向ける。

 

「さてと……色々と聞きたいことはあるけど……まずは、楽にしなさい。それと、ここからは敬語も要らないわ」

 

「よろしいので? 部下の前で太守様が一介の旅人と対等に会話して。太守様の評判に関わりませんか?」

 

「私が許したのだから、問題ないわ。それに、私に不利になるようなことを吹聴するような愚か者はここにはいない。そうでしょう?」

 

 華琳の言葉に、傍に控えていた者たちが頷く。それを見た風たちは、部下たちが太守と言う役職に従っているのではなく、華琳個人に従っているのだと悟る。最も、城主の間に控えるような人物たちが、信用出来ない者たちであっては困るのだが。

 

「勿論、ここから先の会話の内容に関して、不敬だと処断することはないと約束するわ。一々言葉を選ぶのも面倒でしょうし、私も飾った言葉を望んでいる訳ではないもの」

 

 

 

「それでは、遠慮なく。いや~、助かりました。堅苦しいのは苦手でして。それで、何を知りたいので? 風たちの能力ですか? それとも……仕官ではなく食客を望む訳ですか?」

 

 そう言いながら、何処からか取り出した飴を咥える風。いくら自分が許可したこととは言っても、すぐに砕けた態度を取ることが出来る風に感心する華琳。

 だが、そのことをおくびにも出すことなく華琳は話を進める為に、口を開く。

 

「そうね……。まずは私の質問に答えて貰おうかしら?」

 

 

 

 

 

 その華琳の言葉を聞いた風は、気を引き締める。食客となれるかがこれからの問答にかかっているのだから当然である。

 

 元々、華琳の元で食客をすることは、風たちの計画の一つではあった。しかし、それは華琳や曹軍の情報を収集、分析し自分たちが確実に、かつ有利な条件で食客になれると確信した場合でのことであり、それまでは接触を避け情報収集に徹するつもりであった。

 しかし、現実は風たちの意に反し、早々に華琳と接触してしまった。

 

(せめて城門で声をかけてきたのが曹太守以外の人だったのなら、少しは準備出来たのですが……いえ、こうなることも覚悟で忠夫さんに食客と言わせたのです。それに、曹太守本人に興味を持たせることが出来た。考えようによっては、これ以上ない好機)

 

 想定外の事態ではあるが、どんな苦境の中にあっても活路を見つけることこそが、横島の筆頭軍師(予定)の役割だと風は自分に言い聞かせるのであった。

 

 

 

 

 

 華琳と風による問答は、華琳の問いかけから始まった。

 

「まず、アナタたちは皆そちらの……横子考殿の臣と言うことだけど……。何故一領主でしかない私の食客になろうと?」

 

「そうですね~。こう言っては何ですが、消去法ですね」

 

「消去法ね……」

 

「はい。お兄さん……あ、子考様のことですが、彼は“ある事情”のせいで目立つのは得策ではないのですよ。そして、同じ理由で仕官する訳にはいかないのです。今は……ですが」

 

「今は……ね。まぁ、いいわ」

 

 周囲に視線を向けながら含みを持った言い方をする風に、華琳はこれ以上追求する気はないようである。

 凪と真桜と言う部外者がいることから追求しても、風たちが“ある事情”について口を割ることはないと判断したからである。更に、華琳には“ある事情”が何なのか予想できていたことも要因である。

 

(可能性が高いのは、あの男が何らかの理由で追われている場合ね。次点で、素性が問題となる場合。異民族の出身だとすれば、両方を満たす可能性はあるけど……私の方針は出自問わず有能な者を採用するというもの。それを知っているのなら、出自だけならこの場で口にしても構わない筈。そうしないと言うことは方針を知らないか、更に厄介なのか……)

 

 この時、華琳はある可能性について無意識の内に排除していた。それは、華琳からすれば荒唐無稽の笑い話。漢王朝に追われる可能性がある厄介な出自を持つ存在。

 

 

 即ち、目の前の男が天の御使いであると言う可能性を。

 

 

 

 

 

 横島の秘密に辿りつきかけたことなど知らない華琳は、話を続ける。

 

「食客になったとして、何ができるのかしら。私は、無駄飯ぐらいを養うつもりはないわよ?」

 

「そですね~。多少は、智に自信がありますから文官の真似事は可能かと」

 

「あら、智に自信があるというのに文官の真似事なの?」

 

 華琳が挑発するように言うが、風は動揺することなくその言葉を肯定する。

 

「事実ですから。食客はあくまでも客。真似事以上のことは客の領分から外れますし、正規の文官たちの仕事を奪うことにもなりますので。無論、太守様が求めれば知恵を貸しますよ?」

 

「では、食客ではなく私に仕えたとしたら……アナタたちは、私の為に何をしてくれるのかしら?」

 

「何もしません」

 

 風のその言葉に、控えていた文官たちは身を震わせる。華琳が風の言葉に激怒すると思ったのである。

 だが、文官たちの予想に反して華琳は微かに笑っていたのである。

 

「何故? 客の時はその領分内で力になるというのに」

 

「まず、前提が違いますので。太守様に仕えることがあるとしたら、それはお兄さんが太守様に仕えると決めた時です。その場合でも、風たちはお兄さんを主として動きます。風たちがお兄さんの為に動き、結果太守様の利となることはあるでしょう。ですが、太守様の為だけに何かをすることはありません」

 

 その風の宣言に、雛里と朱里も同じ気持ちだと言うように頷く。それを見た華琳は、横島に意識を向ける。

 そこには、そわそわと落ち着きのない男がいた。それだけを見れば、風たちが忠誠を誓うに値する男には到底見えない。

 

(長身で細身……ウチの兵士たちの方が筋肉はあるわね。まぁ、むさ苦しいよりはマシね。顔は……いいとこいって中の上ね。礼儀作法はしっかりしているし、高い教育を受けているのは確か。人を見る目もあって、部下を信頼することも出来る。人柄までは分からないけど、主としての資質はありそうね。でも、ここまでの忠誠を誓わせるには弱い。ということは、“ある事情”という部分が彼女たちの忠誠の理由?)

 

 華琳が横島のことを考えているが間、横島は横島で華琳のことを考えていた。最も、美少女に見つめられた横島の思考なんて、語る必要もないので割愛する。

 

 

 

 華琳の思考を遮ったのは、風の言葉であった。

 

「それで、風たちを食客にするので?」

 

「そうね……。結論を出す前に横子考殿と話させて頂戴」

 

「へ? オレ?」

 

 名指しされた横島は、突然のことに驚くが雛里と朱里に促され風のとなりへと進み出る。

 

「で、わ、私に何か……?」

 

「そんなに固くならなくていいわ。一つ聞きたいだけだから」

 

「はぁ……」

 

 華琳の言葉に気の抜けた返事をする横島。そんな横島の横で風は密かにため息を吐く。

 

(流れ上仕方がなかったとはいえ、少しお兄さんに興味を持たせすぎましたか。まぁ、反省は後です。おそらく、食客にはなれるでしょうが……)

 

 風の思いを他所に華琳が横島へと問いかける。それは、当然と言えば当然の問いであった。

 

「あなたは、彼女たちのような臣を得て、この天下で何を為す? どんな世を目指すというの?」

 

 

 

 

 

 華琳の問いかけは、ここ数日横島が自問自答していたことでもあった。

 

 乱世が近いという世で、横島は天の御使いという立場となった。次期皇帝候補という響きは心地いいが、そこから次期や候補という言葉を取る為には現皇帝を廃す必要がある。

 さらに、もう一人御使いが現れる可能性がある以上、そちらとも争うかもしれない。そうまでして、皇帝になりたいかと問われればNOなのである。だからと言って、何かやりたいことがあるのかと言えば、それも見つかっていない。その上、天の御使いである以上、世の為に何か行動を起こす必要があるのではないかと思っている自分がいるのも確かなのである。最も、その割合は果てしなく低いのだが。

 

 とにかく、迷い続ける横島は未だ結論を出すことが出来ず、結局華琳の問いにいつもの答えを返すしかなかった。

 

「オレは……美人の嫁さんを貰って平穏に暮らしたい。そんな普通な世界がいい」

 

 その瞬間。風たちの心は一つとなった。

 

(((あ、やっちゃった)))

 

 

 

 

 

 

 その横島の言葉を華琳は、少々の落胆と少しの感心、多大な興味を持って聞いていた。

 

(高い理想を語る訳でもなく、具体的な指針がある訳でもない。ただただ平凡な願い。だからこそいいのかしらね。平穏が普通となる世。遠からず乱世は訪れる。その時、彼は平穏の為にどうするのか……)

 

 この時、華琳は横島たちを食客とすることを決めたのである。

 

 それは、横島の先を見てみたいと言う気持ちと、風たちと横島の間に何があるのかを見極めたい気持ち、そして、風たちと言う智者を得ることが出来るという計算からであった。

 最も、風たちは食客としての領分を守るつもりらしいが、そこは考えようである。これからの世は、戦時の方が多くなる。その時、存分に働いてもらえば良いのだから。

 

 

 

 

 

 華琳から食客にすると告げられた横島たちは、最初に驚き、次に大いに喜んだ。半ば以上諦めていたのだから仕方ないのかもしれない。

 また、それまで居心地悪そうに成行きを見守っていた真桜と凪の二人も、大きく驚いていた。同時に、華琳の懐の広さに感心していた。

 

 そんな一同に、華琳が次の言葉を紡ぐ。

 

「で、食客とすることにしたのはいいんだけど……一つ問題があるのよね」

 

「問題……ですか?」

 

「ええ。食客なんて今まで居なかったから、私の屋敷にはアナタたちを滞在させる場所がないのよ。一応、城下に空いている屋敷があるから、そこを使って頂戴。ただ、すぐは無理よ」

 

「何故ですか?」

 

「侍女がいないからよ。日替わりにしてもいいんだけど、どうせなら専属の方がいいでしょ?」

 

「おお、専属……何かいい響きだ」

 

 横島の戯言は全員が流し、結局屋敷には明日から入ることとなり、侍女は華琳が選ぶまでは日替わりということに決まるのであった。

 

 

 

 

 

 ――おまけ:忘れられたあの人たち――

 

「なぁ、凪」

 

「何だ?」

 

「ウチら何でここおるんやろな」

 

「それは……成行き?」

 

「そやな。太守様が兄さんたちと一緒にって言うからついてきて。で、放ったらかしで今に至ると」

 

「それがどうしたと言うんだ。今、子考殿たちが食客になれるかどうか大事なとこなんだぞ」

 

「それは、わかっとるんやけど……暇なんやもん」

 

 小声で凪と会話する真桜。そんな彼女を冷ややかな眼で見る凪。そこに横島の声が響き渡る。

 

『オレは、美人の嫁さんを貰って平穏に暮らしたい。そんな普通な世界がいい』

 

 それを聞いた二人は、これはダメかもしれないと顔を見合わせる。

 

「いや、ウチはいいとは思うで? そう言う平々凡々とした夢持っとったって。でも、この場面でその答えはアカンやろ。こう普通は建前でもええから、もっとマシなこと言うんとちゃうの?」

 

「……多分」

 

 横島の言葉に気を取られていた二人は、続く華琳の言葉に驚く。

 

『いいわ。アナタたちを食客として迎えましょう』

 

「なぁ、凪」

 

「何だ」

 

「太守っちゅうのは懐が広くないと出来んのかな?」

 

「かもしれないが……。食客というのは衣食住の面倒を見る代わりに、力を借りるというものだからな。理想や夢なんてのは、重要視されないのではないか?」

 

「ああ、せやったら納得や。嬢ちゃんたちは頭ええし、兄さんは色々規格外……いや、常識外? まぁ、とにかく力は間違いないしな」

 

 その後、彼女たちが話しかけられたのは城主の間から移動する時であった。

 

 

 

 




 長かった一章も終盤です。あと、二話くらいですかね。
 意外と夏侯姉妹が絡ませにくいです。凪も。

 横島たちの屋敷。
 これらは拙作内設定です。

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二十二節 正直に言うしかないかなって

二十二話です。お待たせしました。
今更ですが、サブタイに意味はありません、


 

 

 

 華琳との会談を無事に終えた横島一行は、城内に用意された一室にて今後について話をしていた。

 

「いや~、良かった良かった。いきなりオレと話をしたいと言われた時はどうなるかと思ったが……」

 

「ええ、流石の風も焦りましたよ。当初の予定では、太守殿との対面は十分に情報を集めた後でしたから。それでも、風聞と対面してからの言動で彼女の性格を分析し、何とか食客になる算段をつけられたと思ったら、お兄さんのあの発言。本当にあの時は終わったかと……」

 

 飴を咥えながら、ジト目を向けてくる風に横島はバツの悪そうな顔で言い訳する。

 

「いや~、面目ない。でも、オレが目指す世って急に言われてもさ。平穏に暮らすっていう普通のことしか思い浮かばなかったし、正直に言うしかないかなって」

 

「まぁ、美人のお嫁さんが貰えるかどうかはお兄さん次第ですが、普通の世というのは目指すに値する世だと風は思いますよ? それを曹太守が切り捨てなかったのは、少々意外でしたが。彼女の性格からすれば、お兄さんの考えは平凡でつまらない、取るに足らない主張と判断するだろうと思ったのですが……」

 

 そこで一度横島に視線を向ける風。その視線を受けて横島は狼狽えるが、風はそれに構わず話を続ける。

 

「ま、結果的に客将にはなれました。しかも、風たちの為にわざわざ屋敷を用意してくれるそうですから、かなりの好待遇と言って良いでしょう。現時点ではこれ以上ない結果……これもお兄さんの天運のおかげでしょうね」

 

 最後の方は呟くように言うと、風は先の会談で華琳が提示した条件について考えていた。

 

(屋敷を本宅とは別の場所……それも、城外に用意すると言うのは、風たちに機密を探られないように遠ざけたという事でしょうね。専属の従者については、風たちの監視も兼ねていると見るべきですかねー。まぁ、仕方ありませんね。思いっきり訳ありだと言いましたし。ま、疑われていると分かっているなら、幾らでも対処できます。寧ろ、その方が御しやすいと言うものです)

 

 ニヤリと笑う風の姿に、横島は無意識に一歩後ろに下がる。そんな横島に構うことなく、風は今後について考えを巡らすのであった。

 

 

 

 そんないつも通り? の二人とは対象的に、雛里と朱里の二人はぐったりとしていた。

 会談の場では問答を風に任せ、平然と横島の傍に控えていた彼女たちであったが、内心は緊張していたようで他の人の目がなくなったことで一気に気が緩んだようである。

 しかし、彼女たちも風と同じく横島に仕える者。すぐに先の事に考えを巡らせる。

 

(食客にはなれたけど、曹太守についての情報収集は継続すべきだよね。後は、天の御使いの噂も集めないと。従者の人は監視だろうから、迂闊なことは言えないし、何処か私たちだけになれる場所を確保しないと……)

 

(子考様と一緒の屋敷かぁ……。お部屋幾つあるのかな? 寝室が足りなければ、私と朱里ちゃんが一緒に寝ればいいかな……)

 

 そんな二人の考えを遮ったのは、横島の言葉であった。

 

「さて、取り敢えずの目標は遂げた訳だけど……。そっちの二人はこれからどうすんの? 何か予定ってある?」

 

 横島が問いかけたのは、本来なら陳留に到着した時点で別れる予定の筈が、成り行きでここまで同行することになった凪と真桜の二人であった。

 彼女たちは横島の仲間ではない為、いつまでも城内にとどまる訳にはいかない。そんな彼女たちに今後の予定を聞いたのは、横島なりに彼女たちに頼みたいことがあるからであった。

 

「特に用事はないで? いつもなら村の人たちに買い物頼まれるけど、今回は商隊が来たばかりやから、完全に自由っちゅう訳や」

 

「そっか。じゃ、一緒に食事でも……」

 

 そこで言葉を切る横島。いつものナンパのノリで言っていたが、今の横島は自由に出来るお金がないことに気づいた為である。

 

(あ、アカン。今のオレは見た目幼女な風ちゃんたちのヒモみたいなもんやった。時間があれば風ちゃんたちの授業でバイトする暇なかったしな……)

 

 心なしか落ち込んでいる横島を他所に、風が凪たちに話しかける。

 

「そですねー。これも何かの縁。私たちが見事食客になれたことを一緒に祝ってくれませんか? お代はこちらが持ちますから」

 

「ま、まぁ、他に用事もありませんし構いませんが……よろしいのですか? 自分たちの分くらい出しますよ?」

 

「そこはお気になさらず、奢らせてください。どうしても抵抗があるというのなら……そうですね、少々頼みを聞いて頂けないでしょうか。その手間賃と思って頂ければ」

 

「それなら……お前はどうするんだ?」

 

 風の言葉を聞き、真桜に視線を向ける凪。視線を向けられた真桜は一度肩をすくめると、何でもないことのように言い放つ。

 

「ウチもええよ、頼み聞いても。別にすぐに村に帰らないかん訳でもないし」

 

「ありがとうございます。ああ、頼みごとについては中身を聞いた後で、断ってもらっても構いませんので。では、早速お店を探しましょうか。ほら、お兄さんも行きますよ。いつまでも、士元ちゃんと孔明ちゃんに慰められていないで。大丈夫、お小遣いは風たちがあとであげますから」

 

 横島にトドメをさした風を先頭に、一行は部屋の外――飯屋――へと向かうのであった。

 

 

 

 

――その頃の瑠里(洛陽編)――

 

 横島たちと別れ洛陽へと向かった瑠里は洛陽に到着後、早速情報収集に励んでいた。

 

「あ、あの……。う~、情報を集めようにも自分から話しかけるのは怖いし……でも、子考様のお役に立つ為にも情報は集めないと……。うん、頑張れ私!」

 

 ……情報収集に励んでいた。

 

 

「どうかされましたか?」

 

 

 

「有名な水鏡女学院の生徒さんでしたか。洛陽には何用で?」

 

「いえ、見聞を広める旅の途中に立ち寄っただけで……」

 

「そうですか。アナタから見て洛陽はどうですか?」

 

「来たばかりですが、いい街だと思います。流石はこの国の中心ですね」

 

 瑠里の答えに、尋ねた女性は微笑みながら会話を続ける。

 

「ふふ、そうですね。治安はいいとは思います。ですが、それは他と比較しての話です。元直さんもご存知でしょう? 中央に不満を持つ輩が増えてきていることを。それを中央が放置しているということを」

 

 女性の問いに瑠里は答えない。

 漢の役人である女性がどのような意図で、この質問をしてきたのかを測りかねていることもあるが、何より迂闊に同意すれば中央を批判したとして拘束される可能性がある為である。

 そんな瑠里の警戒を感じ取ったのか、女性はにこりと笑いながら安心させるように瑠里に話しかける。

 

「そんなに警戒しなくとも、貴女から失言を引き出して拘束しようなどとは考えていませんよ。と言っても、そう簡単に信用は出来ないでしょうね。……そうですね、我が家の名誉に誓いましょう。何を聞いても、貴女を拘束したり貴女に不利益になることをしないと。それでも、不足と言うのなら真名に誓うしかありませんね」

 

 女性の言葉に驚く瑠里。家の名誉に誓うだけでなく、真名にも誓うと言うのだから無理はないことである

 

「何故、そこまで……?」

 

「そうですね、私の“妹”と同じく私を超える才を感じるからでしょうか? 私結構人を見る目があるんですよ。母にも褒められましたし。ああ、それで理由でしたね。私は常々、今の都について妹と意見を交わしたいと思っていたのです。ですが、残念なことに妹は母の元で引き篭って暮らしていまして。何でも、仕官するに値する人を待っているとかで。全く、あの娘は類稀なる才があるというのに……夢見がちというか……」

 

「あの……」

 

「ああ、すみません。話がズレてしまいましたね。そんな訳で、私は妹の代わりに貴女という才気を感じさせる人と意見を交わしたいと考えた訳です。あ、貴女が妹と同じくらいの背格好だったことも目に留まった理由です。いえ、寧ろ最初はそちらの理由の方が大きかったですね。何て、可愛らしい娘だろうと見ていましたから。貴女も優れた才をお持ちのようですが、貴女の才でも妹の才には及ばぬかもしれませんね。何せ、我が優秀な妹たちの中でもあの娘は特別ですから……と、すみません。また、ズレてしまいましたね。つまり、私は純粋に智者と意見交換をしたいだけなのです。その為には、余計な疑いは排除しなければなりません。それが先の言葉の理由です」

 

 一息で言い切った女性に、瑠里は少し引いてしまうのであった。

 

 

 

「では、気を取り直して……お話をしましょうか、徐元直殿」

 

「ええ。司馬伯達殿」

 

 




 長かった一章もあと終わり。結局、夏候姉妹の登場は持ち越し。
 しかし、モチベーションがあがらない、あがらない。

 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。感想いただけるとモチベーションあがります。
 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。


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二十三節 平和って素晴らしい!

幕間的お話です。


 

 

 

 

 陳留に到着してから十日余り。陳留太守である曹操孟徳――華琳――の食客となった横島、風、雛里、朱里の四人は騒がしくも平穏な日々を送っていた。

 

 

 

 

「あら、仲徳だけなの? まぁ、いいわ」

 

「お兄さん……子考様はクロちゃんとこですね~。他の二人も本屋に行くとかで一緒にお出かけ中ですね~。それにしても、太守様もお一人とは珍しい。して、何用でしょうか」

 

 今日も横島たちが滞在する屋敷に、華琳が訪ねてくる。彼女は横島たちが食客となってから、度々街の視察のついでと言っては立ち寄っていた。

 

「大した用ではないわ。一度落ち着いて話がしたいと思っただけ」

 

「……だから、あの二人を連れていないのですか」

 

 華琳の言葉に呆れた顔をする風。太守が落ち着いて話がしたいという理由で、一人行動することもだが、そうしないと落ち着いて話が出来ないという事実の両方に呆れたのである。

 

「まぁ、そういうことね。でも、子考がいないのなら連れてきても大丈夫だったかしらね」

 

「かもしれませんね~」

 

 何処か苦笑気味に答える風。その脳裏には、食客となってからの騒動――主に華琳に付き従う姉妹の姉の方と横島が起こす――の数々が思い浮かんでいるのであろう。

 

「でも、あの娘は子考のこと気に入っているのよ。子考は丈夫だから」

 

「それ、訓練用具か何かと思っていませんか」

 

 風のツッコミに、あの娘なら有り得ると思った華琳だったが、主として部下をフォローすることにした。

 

「一応、人間だと思っているとは思うわよ。まぁ、全力疾走の黒風に平然と乗っている姿を見たときは、流石の私も疑問に思ったけど」

 

「ああ、あの時の……クロちゃん疾かったですよね~。絶影ちゃんもですが」

 

「私の愛馬なのだから当然よ。まぁ、疾いと思っていた絶影が私に遠慮して全速を出していなかったことや、子考に懐いた上に全速で駆けていったのは癪だけどね。あの勝負のおかげか、子考って軍部受けはいいのよ? 馬術に長けた人物だとね」

 

 風が思い出すのは、華琳(絶影)横島(黒風)の早駆け勝負の時のこと。自分たち横島配下と、華琳の臣下の中でも上位に位置する者たちのみが見学していた。

 その時、馬術に優れていると認識されたのであろう。もしかしたら、あの将軍の一撃に耐える丈夫さも受けたのかもしれない。

 

「まぁ、アレはお兄さん……子考様がと言うより、クロちゃんや絶影ちゃんが凄い気もしますが」

 

「あの二頭を乗りこなせるなら十分凄いわよ。それと、普段通りお兄さんでいいわよ」

 

「そうですか? 一応、出来る家臣としては身内のやり取りを外に見せるのはどうかと思うのですが……」

 

「その心掛けはいいとは思うけど、公式の場でもないのだし私相手には不要よ」

 

 その華琳の言葉に頷くと同時に、予想以上に華琳に気に入られているのだと風は判断する。城主の間でも楽にして良いとは言っていたが、アレはこちらを試す意図や家臣たちへのアピールの面が強かった。

 しかし、今は家臣を連れていない。つまり、華琳は風に対し気を許していることになる。無論、華琳が風を懐柔する為にわざとそう言った態度を示している可能性もある。

 

(むしろそっちの方が高いですかね~。ま、軽視されるよりは良いと考えますかね~)

 

 その後、華琳と風の二人は侍女の淹れたお茶を飲みながら、大陸情勢について意見交換をするのであった。

 

 

 

 

 

 華琳と風が殺伐とした大陸情勢を肴にお茶を楽しんでいる頃、朱里と雛里は本屋付近にある茶屋で話をしていた。

 

「もう着いたかな、瑠里ちゃん」

 

「う~ん、手紙には幽州へ向かう商隊を見つけ次第向かうって書いてあったから……順調に出発出来ていれば着いてるかも?」

 

「そっかぁ。そう言えば、瑠里ちゃんびっくりしてたよね。もう食客になったのって」

 

「そうだね。でも、私たちでも驚いちゃうよ。着いたその日に、食客になっちゃうんだもん」

 

 そう言うと笑い合う二人。その時は、予期せぬ事態に内心不安でいっぱいであったが、今となってはいい勉強になったとも思っていた。計画通りに進める困難さ、想定外の事態から最善を掴むことの困難を実際に体験できたのだから。

 

「今度は私たちで子考様の道をつけたいね」

 

「そうだね、雛里ちゃん。あの時は仲徳ちゃんが道をつけたけど、子考様の軍師としては自分の手でって思うよね」

 

「負けてられないね。仲徳ちゃんにもだけど、瑠里ちゃんにも」

 

 遠く幽州へと向かっているであろう親友のことを思う。先日届いた手紙では、推挙したい人物と洛陽にて縁故を得た人物について記されていた。

 

「司馬仲達……司馬家で最も優れたる者かぁ。この人を迎えることが出来れば助かるんだろうけど……」

 

「うん。ますます頑張らないと、私の筆頭軍師への道が……」

 

「……朱里ちゃん、一緒にとか言いながら自分が筆頭になろうと狙ってたんだ……」

 

「はわわ!? しょれは、ほ、ほら、水鏡女学園主席卒業としては、一番を目指すべきかなぁって! ……っていうか、雛里ちゃんも一番がいいって思ってるんでしょ! そ、それに知ってるんだよ! 子考様に真名を預けるときの練習してるの!」

 

「あわわ!? にゃんでしょれを! そ、それを言うなら朱里ちゃんだって……どうかご主人様って……その本をどうする気なのかな、朱里ちゃん」

 

 密かな野望を明らかにした朱里をジト目で見ていた雛里であったが、そこからお互いの秘密を暴露しだす二人。やがて、雛里に仕返しされそうになって狼狽えた朱里が、先程購入した本を振りかぶると雛里も応戦すべく本を構えるのであった。

 

 

 

 

 

 朱里と雛里の二人が本でポカポカとやっている頃、横島は一人厩で黒風の世話を行っていた。

 

「ここか、ここがええのんか? ああ、最近は何かと吹っ飛ばされてたからな~。うん、平和って素晴らしい! まぁ、あの乳との触れ合いがないのは寂しいが……」

 

「まだここに居られましたか、子考様。曹太守がお一人で屋敷にお見えです。一段落しましたら屋敷にお戻りを」

 

「ん? 伯寧さん?」

 

 横島が振り向くと、横島の屋敷に雇われている侍女の一人が立っていた。彼女は、他の侍女とは違い華琳の派遣ではなく、横島たちが直接雇い入れた侍女であった。

 

「はい。伯寧です。屋敷の主人として、また食客の身としては突然の来訪とは言え、挨拶しておいた方が良いかと。この厩も借りていることですし」

 

「まぁ、孟徳ちゃんは気にしないとは思うっすけど、伯寧さんの言うことも一理ありますね。ちょうどクロも満足したみたいだし、これが終わったらすぐ戻ります。わざわざ、すみませんっした。にしても、一人とか珍しい」

 

「子考様。私は雇われの身。敬語や遠慮は不要です」

 

 無表情に告げる侍女に、どこか怪しげな敬語で返す横島。その言葉を聞いた侍女は冷静に、敬語や遠慮は不要と告げる。

 

(伯寧さんって、出来る美人秘書って感じで、つい敬語使いたくなるんだよなー。それなのに本人は侍女意識が高いからか、上下に厳しいからか敬語はダメって言うし……何度言われても慣れんなぁ)

 

「それと、こちらを。仲徳様より子考様にと預かりました。では、私は夕飯の買い出しに向かいますので。出来るだけ早くお戻り下さい」

 

「あ、はい」

 

 紙切れを渡すと一礼して去っていく侍女を見送った横島は、手元の紙切れに目を落とす。

 

「なになに……『伯寧さんの次は風の下着とかどうですか』……アカン、バレとる」

 

 全身から汗を吹き出す横島。それは、自分の所業を見抜いていた風に対してなのか、この紙切れの内容を知っている筈なのに何も言わなかった侍女に対してであったのか、横島には分からなかった。

 

 

 

 

 




 本当、お待たせして申し訳ありません。
 今回は幕間的なお話。夏侯姉妹は追々。次話からは二章となります。原作主人公である一刀さんが出現したりと、徐々に乱世の風が吹いてきます。

 横島と会話していた侍女は恋姫には登場していないキャラです。分かる人は分かると思います。

 これらは拙作内設定です。

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二章 乱世始マル 一節 一気にやる気が上がってきたーー!

二章突入。 短いです。文量は追々、戻して行きたいです。


 

 

「いやー、凄いな。こう、パッと散って、パッと集まってさ」

 

「ええ。あの二人の指揮が素晴らしいと言うのもありますが、それに応じる兵たちの練度。一朝一夕で出来ることではありませんね~」

 

 横島と風、雛里、朱里は丘の上に張られた天幕の前から、眼下で号令に合わせ次々と陣形を変える兵士たちを眺めていた。

 昼前に屋敷に訪れた華琳に遠乗りに誘われた横島たちだったが、蓋を開けてみたら軍事演習であり、今は大人しく見学しているのであった。そんな彼らに、天幕から出てきた華琳が話しかける。

 

「どうかしら、うちの軍は」

 

「お見事としか言えませんね~。陳留の周囲の賊が少ない訳が分かりましたよ。演習とは言え、これほど素早く陣形を変えることが出来るとは。これなら、賊なんてすぐに鎮圧できるでしょう」

 

「ありがとう。どう? この軍を用いてみたいとは思わない?」

 

 演習に励む自慢の軍を眺め、笑いながら風たちに問いかける華琳。

 

「そですね~。将もですが、兵の質がいいですからね。これを思いのままに動かせると言うのは、軍略を学んだ者としては魅力的ですね~」

 

「うちに来ればすぐにでも一軍を任せてあげるわよ?」

 

「考えておきます。……士元ちゃんが」

 

「えっ!?」

 

 突然話を振られて慌てている雛里を放って、華琳は風たちと会話を続ける。

 

「ま、今はそれでいいわ。さて、そろそろ戻るわよ。遅れないようについてきなさい」

 

「あれ、アイツ等はいいのか?」

 

「ええ。二人にはここで暫く演習を行ってもらうことになっているから。今度は()()()()でね。大半の部隊は先に陳留に戻らせるから、私たちは少しの護衛と村に立ち寄りながらゆっくり帰るわよ」

 

 華琳の言葉に、横島を除く面々は違和感を覚えると同時に華琳の言葉の意味を考え始める。

 

(わざわざあの姉妹を置いていく……? それに部隊の大半を先行させる……。目的は村の方にあるのかもしれませんね~)

 

(部隊の大半を先行させたのは、孟徳様の居場所を誤魔化すのが目的……? 単純に村の人たちを刺激しない為というのも……。おそらく、村の中では危険はない。じゃないと、孟徳様にべったりな二人が離れるわけがないし。という事は……)

 

(密かに会う必要がある人物が村にいる……? 二人はそれを村の外で邪魔されないようにしている?)

 

(情報が少ない現状では、これ以上推測しようがありませんね。ただ村に立ち寄るだけなのか、何らかの意図があるのか。どちらにしろ、少し面倒なことになるかもしれませんね)

 

 数瞬の思考の後、華琳の思惑に対してあれこれ考えるより、何が起きても対応できるように心構えだけはしておこうと三人は視線を交わす。

 そんな三人のことなど気にも留めず、横島はさっさと黒風の傍に立つと雛里に向かって手を伸ばす。

 

「行きは孔明ちゃんと乗ったから、次は士元ちゃんだな。ほら、抱えるからこっち来て」

 

「は、はい!」

 

「ふむ、順番とは言っても少々羨んでしまいますね。孔明ちゃん」

 

「そうですねー。……って、しょんなこと思ってないでしゅよ!? 意外と逞しかったにゃんて思い出してないでしゅから、本当でしゅから!!」

 

 はわわと慌てる朱里を他所に、横島に抱き上げられた雛里は、恥ずかしそうに帽子のつばで顔を隠しながら黒風の上に座らされる。

 そんな横島たち一行を微笑ましく見ていた華琳は、横島たち独特のゆるい空気に馴染みつつある自分に気づき、一度大きく息を吐くと横島たちを急がせるのであった。

 

 

 

 

 

「それで、村に立ち寄ってどうするつもりなのですか? 食事をとるような時間でもありませんし、まさか、お昼寝でも?」

 

 あれからすぐに出発した一行は、順調に村に向かって進んでいた。その中で、朱里と並んで馬を歩かせていた風が、華琳に尋ねる。

 太守に向けての言葉ではないが、華琳は特に咎めることなく風の問いに答える。

 

「この先の村はね。あの司馬家の連中が住んでいるのよ。以前、勧誘に失敗してから行ってなかったけど、演習のついでにダメ元でもう一度と思ってね。何だったら、子考やアナタたちが口説いてみる?」

 

「へー。孟徳ちゃんが振られたのか。因みになんて言って勧誘したの?」

 

「『アナタたち一家の全てが欲しい。知恵も、その美貌も、その愛らしい娘も』……だったかしら? そうしたら、『まだ娘が小さいから、当分は子育てに集中したい。あと多数の兵を連れてくる輩に娘はやらん』と断られたわ。最も、既に長女は洛陽に出立した後だったから、どっちみち司馬家の全てを手に入れることは出来なかったのだけどね」

 

「美貌もってことは、今から行くのは美人さんの家!? 一気にやる気が上がってきたーー!」

 

 ウオーっと、両手を挙げてまだ見ぬ美女との出会いに興奮する横島を他所に、雛里と朱里は偶然巡ってきた好機に目を輝かせていた。この機に横島に出来る女だと認識させる為、二人は幾つかの策を練上げていく。

 

 

 

 そんな二人とは違い、風は華琳の物言いに疑問を持っていた。風は、横島たちの中で一番多く華琳と接触している。少ない時間ではあるが、華琳がわざわざ自分の失敗を聞かせ、かつ交渉権を譲るような発言をすることが、華琳らしからぬ言動であると断言できる。

 その為、風は華琳の思惑が司馬家から外れたところにあると気づくことが出来た。

 

(……何かを確かめようとしている? あの姉妹や兵を遠ざけたのも、それを確かめる状況を作り出す為? 何を?)

 

 

 

 華琳が何を確かめたいのか。華琳の鋭い目が見つめる先。それは……

 

 

 

「本当、興味深いわね……子考(アナタ)

 

 

 




 ようやくの二章突入な訳ですが、二章からは原作主人公である一刀君の存在がちらほら出てきます。ただ、影薄めです。

 雛里たちも本来なら風と同じ見解に辿りつきますが、色々先を越されている為焦っており、少々視野が狭くなっています。これも何れ解消されますが。


 華琳が司馬家を勧誘したことがある。
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二節 お、横子考です

お久しぶりです。


 

 

 

 

「ようこそお出でくださいました。司馬建公でございます。こちらに並ぶのは娘たちです」

 

 華琳につれられやってきた屋敷の前で、ずらっと並んだ少女の中から妙齢の女性が代表して挨拶を行う。彼女は名を司馬防建公といい、名家司馬家の当主にして司馬八達の母である。彼女はまるで今日横島たちがやってくるのが分かっていたかのようで、家族総出で出迎えていた。

 華琳も驚くことなく、当然のような態度であることから事前に訪れることを通達していたのだと横島は思ったが、華琳の言葉でそうではないことを悟る。

 

「出迎えありがとう……と、言いたいとこだけど……この出迎えは私にではないのよね?」

 

「ええ。曹太守様には申し訳ありませんが、違います。私たちがお出迎えしたのは、あなた様にございます」

 

 その視線の先には横島の姿が。視線を向けられた横島は慌てるが、隣に並ぶ風たちは落ち着いている。名家である司馬家ならば、例のアレについても情報収集も出来ているだろうと思っていたからである。

 事前に司馬家の次女を勧誘したいと話をしていた風たちは、華琳だけならば問題ないと判断し、返答の言葉を返す。

 

「丁寧なご挨拶ありがたく。私は程仲徳。こちらにおわします横子考様――碧の御使い様の臣にございます」

 

「同じく諸葛孔明」「鳳士元にございます」

 

「お、横子考です」

 

 

 

 横島たちの紹介が終わると、華琳は横島を面白そうなものを見つけたという目で見つめていたが、ここで問いただす気はないようで司馬防に話しかける。

 

「その様子だと、彼がそうだと知っていたのかしら?」

 

「いいえ、存じ上げません。ただ、娘が言うのです。今日、大事な来客があると」

 

「ほう。その娘と言うのは?」

 

 華琳の問いに自分の口から言う気はないようで黙って微笑む司馬防。それを咎めることもせず、華琳は風たちに話を向ける。

 

「ここからはあなたたちの思うままになさい。ああ、後で説明はしてもらうわよ?」

 

 そう告げると、その場を立ち去ろうとする華琳に雛里が待ったをかける。現状、どう動くか不明なままで華琳を遠ざけるのは危険だと判断したからである。

 

「お待ちください、太守様。ここはあなた様にも同席して頂きます。理由は話さずとも理解されていますよね?」

 

「分かったわ」

 

(ここで士元が止めるか。仲徳も孔明もこちらを向きもしない。士元なら可能と判断したか。それにしても、普段のおどおどした感じも可愛いけど、こっちもなかなか……)

 

 華琳がそんなことを考えているとは知らない雛里は、司馬家の面々に向き直り口を開く。

 

「私たち……いえ、御使い様のことを予言されたのは、司馬仲達殿ですね?」

 

 その言葉に対する反応は顕著であった。微笑をわずかに崩しただけの司馬防とは違い、その娘たちは驚きを顔に出していた。司馬防はその娘たちの態度に、一度ため息を吐くと雛里の問いに答える。

 

「その通りです。それにしてもよくご存知でしたね? 我が娘たちは皆優秀ですが、個人の名を知られているのは都に出ている長女くらいだと思っていましたが」

 

 それに対する返事は朱里であった。彼女は懐から書簡を取り出すと、それを司馬防に手渡す。司馬防が受け取ったのを確認した後、朱里は口を開く。

 

「司馬伯達殿――あなたの長女から司馬仲達殿を我が主に推挙する書簡です。最も、彼女は主が御使い様だとまでは知りませんでしたが」

 

「……ふむ。確かにあの娘の字ですね。そうですか、あの娘もあなた方を……」

 

 そう呟くと、彼女は横島たちを屋敷の中へと向かい入れるのであった。

 

 

 

 事態に流されるままの横島が屋敷に入って目にしたのは、こちらに土下座しているおそらく少女の姿。腰くらいまであるであろう長い白髪が重力を受けて広がり顔を覆い隠している為、その表情は確認できない。

 一緒に入ってきた風たちもその光景に息を飲む中、母親である司馬防は少女のそばまであるくと少女を指差し、無感情に告げる。

 

「これが司馬仲達。あなた様を待っていたものです」

 

 

 

 

 

 ――その頃の瑠里ちゃん その1――

 

 瑠里は無事に幽州へと到着し、太守である公孫賛の客将となることに成功していた。

 

「いやー、元直が期限付きとは言え来てくれて助かったよ。客将だから、細かいことまで任せられないのが残念だが」

 

「ありがとうございます。それにしても、太守様は凄いですね。子龍さんが調練を引き受けているとは言え、文武両方をほぼ全て自らやられているとは」

 

「伯珪でいいって言ってるのに。それに、そんなに褒めなくてもいいよ。所詮、私は器用貧乏だって自覚してるからさ。頭では元直の方が上だし、趙雲の武の足元にも及ばないしな。ま、騎馬だったら負けてやるつもりはないけどな」

 

 明るく笑う赤髪の少女。彼女こそが幽州の太守である公孫賛伯珪その人である。本人は器用貧乏だと謙遜するが、そんな人間が異民族と国境を隣にし、小競り合いが絶えない幽州を保てるわけがない。確かに、彼女の智や武は超一流、一流といわれる人物には劣るだろう。しかし、その両方を一流にわずかに劣る程度のレベルで修め、騎馬を指揮し異民族と渡り合える人物がどれだけいるのであろうか。

 その点を自覚していない公孫賛をもったいないと思いながら、瑠里はその点を指摘することはしなかった。今の段階でそこまでする義理がないこともあるが、何れ去る身としては後の脅威を増やすことはないと思ったからである。

 

 そんな高い評価をされているとは知らない公孫賛は、知っているかと瑠里に話しかける。

 

「何でも、ここから近い村に天の御使いが現れたと民たちが噂しているらしいぞ? そんな噂が流れているってことは、漢の威厳が薄れちまってるってことなんだろうな」

 

「そうですか。ここは異民族との争いが絶えませんからね。そんな噂にもすがりたいのでしょうね。……頑張らないといけませんね」

 

「おう、そうだな」

 

 瑠里の言葉に気合をいれる公孫賛は知らない。瑠里が気合をいれたのは、遂に自分の役目を果たすときが来たのだと悟ったからであることを……

 

 

 




 横島が喋っていない!?
 遂に? 仲達さんの登場です。あと、北郷一刀君もほの字くらいは登場しましたね。
 今度こそ近いうちに続きを更新したいものです。
 
 司馬家関連。
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三節 他にご質問は?

司馬仲達登場。うちの仲達ちゃんはこんな感じです。ちなみに一人称はわたくし。


 

 

 

 

「司馬仲達にございます。天より遣わされし御使い様」

 

 土下座の体勢から身を起こし、司馬仲達は名乗る。その相貌は幼さを感じさせはするが整っており、何よりも目を引くのが長い白髪と、瞳。彼女の瞳は焼けるような赤。灼眼であった。

 

「このような粗末な屋敷に足を運び頂き感謝致します。まずは…」

 

「粗末とはなんですか」

 

 話を続けようとしていた仲達であったが、粗末と言われたのが我慢ならなかったのか、それとも別の理由かは分からないが母の司馬防により頭をはたかれることにより遮られた。

 

「何をするのですか、母上」

 

「何をするではありません。まずは御使い様たちをお席に案内なさい。話はそれからです」

 

「いや、今案内しようと……」

 

「ん?」

 

 司馬防の睨みに視線を逸らした仲達は、横島たちに笑顔を向けると彼らを屋敷の奥へと案内するのであった。

 

 

 

「改めまして、司馬仲達にございます。以後、宜しくお願い致します。従者の皆様方も宜しくお願い致します」

 

 横島たちを席に案内した仲達は、横島の正面に座り改めて挨拶を行う。母である司馬防は臨席しておらず、司馬家からは仲達一人。横島側は端から順に雛里、風、横島、華琳、朱里である。

 

「私は子考の臣と言うわけではないのだけど」

 

「まぁまぁ、そう怒らないの。そんな不機嫌な顔していると、折角の孟徳ちゃんの可愛い顔が台無しだぞ? 仲達ちゃん、この娘は曹孟徳ちゃん。陳留の太守で、オレの部下ってわけじゃないんだ」

 

 不快ですと言わんばかりの華琳の態度に、慌てた横島が華琳を宥め部下ではないと訂正する。ここに例の姉妹がいれば、すぐさま姉に斬られていたことだろう……横島が。

 

「これは失礼しました。御使い様の近くに居られたのでてっきり。それで、差し支えなければ御使い様の御名を……」

 

「ああ、自己紹介か。オレの名は、横子考。こっちが曹孟徳ちゃん。で、オレの隣が程仲徳ちゃんで頭の上のが宝譿。その隣が鳳士元ちゃん、最後にそっちの奥が諸葛孔明ちゃん」

 

 身振り手振りを交えながら、風たちを紹介する横島。その仕草と言葉使いに、戻ったら白寧に礼儀作法を叩き込みなおして貰おうと考える風たちであった。そんな風たちの考えを知らない横島は、仲達に何故ここに来ることや御使いのことを知っているのかを尋ねる。

 

「子考様……と呼ばせて頂いても?」

 

「いいけど」

 

「では、子考様と。御使い様のことも今日訪れると判断したことも星を読んだ結果です。無論、それだけではありませんが。そうですね、例えば御使い様については目撃情報と噂の予言を照らし合わせました。子考様が移動したと思われる経路では、ある目撃例が多発していたのですよ」

 

「目撃例?」

 

 微笑を崩さず自身がどのようにして、御使い――横島――に辿り着いたかを説明していく仲達。

 

「そうです。夜、碧色の光る何かを見た……と。遠方から見たものばかりでしたので、それが何かまでは分かりませんでしたが、恐らく碧の剣ではないかと同じような情報を集めさせました。結果、ある街で子考様が血まみれの服を新調したことに辿り着き、確信したのです」

 

 そこまで言うと、仲達は聖句を詠むようにある一節を口にする。

 

「『碧に輝く剣を持つもの。蒼き衣に紅の額当てに身を包み、荒野に降り立つ。白き知恵、輝く衣を纏い山野に降り立つ』この近辺に語られていた予言です。前者が、子考様であると判断しました。黒い体躯の巨馬に乗ってきた人が陳留で食客になった噂になっていましたから、巨馬の目撃情報と合わせれば痕跡を追うことは容易でしたね」

 

 どうやら、碧の何かの目撃情報より黒風の目撃情報で人相や経路を辿られたらしいと判断する風たち。よくよく考えれば、目立っていて当然であった。

 

「他にご質問は?」

 

「では、私からいいでしょうか?」

 

「どうぞ、諸葛孔明様」

 

 問いかける朱里に柔らかな微笑みを向ける仲達。微笑みを向けられた朱里は、目測で自分の二倍強はあろう仲達の胸のふくらみに苛立つ自分を抑え質問を行う。

 

「子考様を知り、今日の場を迎え、あなたは何を思うのですか? 敵意がないことはわかります。ですが、司馬家は漢の名門。忠臣であったはずのあなた方は天の御使いに思うところはないのですか?」

 

 朱里は敢えて忠臣であったと過去形にした。母、司馬防がこの地に隠棲状態であること、仲達が未だどこにも仕官していないことから、漢室と距離を取りたがっていると判断したからである。また、これは同時に漢臣である華琳へと向けられたものでもある。天の御使いと言うこれ以上ない肩書きをどうするのかと、問いかけているのである。

 

「そうですね……是非とも旗下に加えて頂きたいと思いました。私たちは姉を除き、漢臣ではありませんから、例え、子考様が漢に弓引くことになろうと構いません。姉なら、生き延びることくらい出来るでしょうし。漢を変えることになるのか、滅ぼすことになるのかは天ならぬ我が身には分かりませんが、今の腐った漢室に、天に歯向かってまで守る価値がないのは確かですから。そうでしょう? 太守様」

 

「仮にも漢の臣である陳留太守を前にしてよくそこまで言うわね。尤も、曹孟徳個人としては同意するけど」

 

 仲達の過激な発言を笑って流す華琳。

 

「そうですか。では、問いを続けましょう。子考様は、以前太守様にどのような世を目指すかと問われ、こうお答えになりました。『美人の嫁さんを貰って平穏に暮らしたい。そんな普通な世界がいい』……と。あなたは如何思われますか」

 

 改めて人の口から語られた横島が羞恥に悶えているのを横目に、問答を続ける二人。横島の隣に座る、華琳と風は二人の問答を聞きながらも横島の反応を心から楽しんでいるようである。

 

「いいではないですか。天の御使いが伴侶を得て、平穏が普通となる世に暮らす。それ即ち、争いのない世ということですから」

 

「……私からの質問は以上です。あとは仲徳殿にお任せします」

 

 質問中、微笑みを崩すことのなかった仲達にやり難さを感じる朱里であったが、仲達の能力は横島の利になると判断する。現状の漢に失望しているという点で、横島を旗印に漢に対しようとする可能性が残るが、状況次第ではそれも視野に入れているので構わない。横島を巻き込んで強引にことを起こされることだけはないように目を光らせようと朱里は決意する。

 

 朱里から質問する順番を譲られた風は、宝譿を横島の頭上に移動させると仲達を見据えて問いかける。

 

「では、白の御使い。こちらについての情報も持っているはず。そちらについては、どうお考えなのですか?」

 

 

 

 

 

 ――その頃の瑠里ちゃん その2――

 

「最近、黄巾党と名乗る賊が多いようですね」

 

「そうなんだよなー。幸いと言っちゃ悪いが、幽州では目撃例は少ないけどな。賊も分かっているんだろうさ。ここが荒れると、異民族が漢に迫ることになるってな」

 

 太守の執務室にて執務中の瑠里が問うと、同じく執務中の公孫賛が答える。もっとも、瑠里が任されているのは内務の一端ではあるが、重要度が低く簡潔な部分のみである。それでも、公孫賛の倍以上のスピードで処理していく様は流石というしかない。

 そんな二人の元に、書簡と共に兵士から多くの兵を連れて面会を希望している人間がいるとの連絡が入る。

 

「面会ねぇ。名は?」

 

「劉玄徳と。他に将が二名。あと、よくわからないのですが……彼女らにご主人様と呼ばれる男が一人。こちらは、材質不明の衣服を身にまとっています」

 

「玄徳……あいつか。将はともかく、ご主人様ってのはなんだ? まぁいい、会えば分かるか。城主の間に連れて来てくれ」

 

 旧知の名であることから会うことにする公孫賛。ただ、ご主人様という謎の男については、首を傾げていたが。

 そんな公孫賛に瑠里は会うのかと質問する。

 

「お会いになるのですか」

 

「ああ。折角、旧知の仲が兵を連れて訪ねてきたんだしな。ま、兵ってのは虚兵かもしれないけどな。世直しの旅をするって言ってたが、武将はともかく兵を食わせてやれるほどの手柄はあげてないだろうしな。この周辺にそういう一団がいるとも聞いたことないし」

 

「そうですね。一団を率いていたのなら、流石に耳に入りますよね。と言うことは、出来て間もない集団。乱世が来ると予見しているものであれば、兵を先んじて集めることは可能ではありますが……先立つものがないと言う太守様の予測が正しければ、それは形だけの虚兵。流石ですね、太守様」

 

「だから、伯珪でいいって。ま、あいつのことだから旧知の私の領地で兵を募る許可を貰いに来たってとこかな。近くに来たからといって、私のとこに寄るような奴じゃないし。ましてや、私の配下になる気なんて欠片もないだろうさ」

 

「そこまで分かっていながら、会われるのですか? 領民を奪いに来たかもしれない人と」

 

 瑠里の言葉に、少々考え込む公孫賛だったがすぐに結論が出たらしく答えを返す。

 

「会う。もしかしたら、私を懐かしんで会いに来たかも知れないしな。それに、例え予想通りだとしても構わない。許可も出してやるさ。選ぶのは民だ。選ばれなかったのは私の落ち度。民に望む未来を見せれなかった私のな。それでも私は、あいつではなく私を選んだ民を守る。無論、それなりの成果は見せて貰うがな。ちょうど、さっき話してた黄巾党って賊の目撃情報も入ったからな。私を選ばないのだから」

 

 そういって先ほど兵士が持ってきた書簡を見せる公孫賛。そこで力を見ようと言うのであろう。連れて行くのなら、この程度やってみせろと言うことかもしれない。瑠里は穏やかな公孫賛が何故、異民族に白馬長史と恐れられるのか。その一端を見た気がしていた。

 

 

 




 司馬家会談の第一弾をお送りしました。次回は第二段。
 白い彼が何をしていたか。その一部が明かされることになります。
 
 司馬家関連。
 これらは拙作内設定です。

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四節 どうか宜しくお願いいたします

司馬家会談その2


 

 

 

 

 

「白の御使いですか」

 

 風の問いに今まで崩すことがなかった仲達の微笑みが、一瞬曇る。そのことを怪訝に思った一同であったが、口をはさむことなく待つ。

 

「そうですね。最初、彼を見つけたのは幽州の太守――公孫賛の元に天の御使いが現れたという情報が出てきた時です。これは民草の噂話程度ですので、漢室はまだ知らないと思います」

 

 民草の噂も収集しているのだと、情報の一部を明かしながら語っていく仲達。

 

「子考様の場合、外見から御使いだと判断する特徴が赤の布だけでした。ですから、推測と情報を積み重ね照らし合わせたのですが、彼の場合、特徴的な衣服でしたので出現から現状までこと細やかに情報を集めることが出来ました」

 

「特徴的な衣服ということは、やはり?」

 

「ええ。彼の衣服は光を反射しているかの如き光沢があるのです。予言にある『輝く衣』ですね」

 

 その言葉に各々、想像するがうまくイメージがまとまらない。横島に至っては、メタルヒーローを想像していた。

 

「彼の出現は幽州にある五台山の麓です。その方角に流星が落ちたと言う証言がありますし、その近くの村が最初の目撃情報なので間違いないでしょう。そのとき、彼は連れの三人の女性たちと無銭飲食でただ働きをしています」

 

 その言葉に思わず噴出す横島。横島も無一文でこの世界に放りだされたが、風たちと出会ったことでその心配はなかった。彼の方も、早々に現地の人と遭遇したようだが、出会ったのが風たちの方でよかったと思う横島であった。

 

「その後は、その女性たちと行動を共にし、最新の情報では幽州の太守への面会を虚兵で実現させたようです。彼が発案したかまでは定かではありませんが、予言通り知恵は回ると思ったほうが良いでしょう。虚兵を集めるのに、不可思議な道具を天の道具として売ったようですし、資金源となるものを他にも持っている可能性もあります。あと、同行する女性たちにご主人様と呼ばせています」

 

「同行しているのって、美人?」

 

「そう聞いてます」

 

 見た目麗しい女性たちにご主人様と呼ばれていることに、羨ましい気持ちを抱いた横島だったが、自分から呼ばせているとなるといけ好かない奴だろうと判断する。

 朱里と雛里も羨んでいたが、横島とは羨む対象が違う。彼女たちは内心横島をご主人様呼びしたいので、女性たちを羨んでいるのである。最も、強要しているのだとしたら、最低だとは思っていたが。

 

 そんな何処かずれた感想を抱いている一同であったが、同時に虚兵に関しては感心していた(横島を除く)。資金源となりえるものを所持しているという話も興味深い。それなのに、無銭飲食をしたのかという思いもあったが。

 

「と言うわけで、私としては白の御使いに思うところはありません。幽州太守との面会した白の手腕は認めますが、曹太守の食客になられた子考様もそれは同様。現状、明らかにどちらが優れていると判断できない状態では、優れた家臣を持つ子考様に仕えるのが必定です」

 

「どういうわけ?」

 

 仲達の結論に、首を傾げる横島。そんな横島に華琳が解説する。

 

「つまり、白も子考も本人の評価は同じくらいってこと。私からすれば無銭飲食とか天の道具を売ってるってのは、迂闊だと思うけど、あなたも夜中に力を使っているのを目撃されているから一緒でしょ? 為したことも、同じく太守への面会。子考の場合は、それから進んで食客だけど、白も似たことになるでしょうからその差に意味はない」

 

 そういうと華琳は風たちに視線を向ける。

 

「為した事を見ても判断がつかず、人柄は会わなければ伝わらない。じゃあ、残りは何で判断するかと言うと、家臣で判断するのよ。向こうは一緒になって、無銭飲食をする輩。こっちは?」

 

「頭が良くて可愛い風ちゃんに、同じくらい頭が良くて可愛い孔明ちゃんと士元ちゃん。あともう一人いるけど、その娘も同じくらい可愛くて頭がいいぞ」

 

「あとで、そこも聞かせなさい。と、言うわけで仲達はあなたの方が主として良いと判断したのよ。あくまで現状だけどね」

 

 横島の言葉に照れている三人を横目に、華琳は説明を終える。最後に、現状という言葉を強調して。

 

「これから先、白の方に私が行くことはありません。いえ、子考様以外の方に仕える気がないといい直しましょう。直接会話をし、この方が私の主と確信しましたので」

 

 華琳の言葉の裏に含まれた意味を正確に受け取った仲達は、改めて自分の気持ちを告げる。

 それを受けた横島は、風や雛里たちに顔を向けると、元から仕官を勧めていた三人は頷きを返す。仲達が横島に仕えることが決まった瞬間であった。

 

「オレは横子考。宜しく」

 

「司馬仲達。どうか宜しくお願いいたします、子考様」

 

 

 

 仲達の仕官が決定したことで、次は華琳との話し合いだと身構える横島たちに、そういえばと、あるものを取り出す仲達。

 

「先程話していた天の道具というのが、こちらになります。少々値が張りましたが」

 

「これは……ボールペン!? そんなんがお金になんの!?」

 

 仲達が取り出した道具――ボールペン――に驚愕する横島。その反応を見て、改めて横島が天の御使いなのだと華琳と仲達の二人は認識する。また、先に霊能力を見て確信していた風たちは、幽州に現れたのが本物だと確信を持つのであった。

 

「で、これは何なのかしら? あなたの言い方から察するに、天ではありふれたもののようだけど?」

 

「ありふれたも何も、筆記具だよ。何か書くものある?」

 

「これを」

 

 ボールペンを手に持つと、仲達が差し出した木簡に試し書きをする横島。紙ではないので、若干書きにくかったがすらすらと文字を書く。書かれた文字は横島忠夫という名前。試し書きということで、思わず名前を書いてしまったようである。

 

「こんな感じかな。で、中の芯に入ったインク……この黒い奴な? これが無くなるまで書くことが出来るんだ。インクがなくなったら、芯を交換して使う……って、どうしたの?」

 

 名前のことに気づかないまま、ボールペンの説明を続ける横島であったが、華琳と仲達の視線が木簡に向けられたままであることに疑問を持つ。視線を木簡に落としても、そこには自分の名前が書かれているだけである。そこで、横島はあることに気づく。

 

「ああ、そっか、読み方が分からんのか。これはオレの名前で……「「「待ってください!」」」……横島忠夫って読むんだけど……って、どうしたの?」

 

 横島の言葉を遮ろうと大声をあげた風たちの奮闘むなしく、自分の名前を告げてしまう横島。真名文化がない横島だから仕方ないとは言え、あまりにもうっかりな本名での名乗りであった。

 

 

 

「いいですか、忠夫さん。前にも言ったように、あなたの本来の名は真名に相当します。軽々しく名乗るものじゃありませんし、軽々しく書くものでもありません」

 

「しっかりしてくれよな、旦那」

 

 風と宝譿の両者に叱られる横島。そんな横島を見ていた華琳だったが、何を思ったのかボールペンを持つと横島の名の隣に文字を書く。

 

「子考。偽名と言うのは予想していたから、別にいいわ。天の御使いなら、名を隠す意味も理解できるし。仲徳の言からして、真名がないのよね? つまり、この名が真名」

 

 そういうと、華琳は木簡を横島が読めるように見せると、高らかに宣言する。

 

「天の御使いというあなたの秘密を守り、漢に売ったりしない。配下にはならないけど、あなたが乱世を静めるというのなら、私に利する限り力も貸す」

 

 突きつけた木簡には、彼女の真名が並んでいた。

 

「曹操孟徳。真名を華琳。真名にかけて誓いましょう」

 

 返答は? と不適に笑うその姿は、確かに覇王の風格を漂わせていた。

 

 

 

 

 

「先越されたよ、朱里ちゃん……」

 

「……そうだね、雛里ちゃん……」

 

「私なんて、この後どうすれば」

 

「一番に真名を交換しといて良かったです」

 

 

 ――その頃の瑠里ちゃん その3――

 

 城主の間にやってきた一行と瑠里と共に対面した公孫賛は、天の御使いと名乗る男に人を見ることの重要性を説くと、彼らを義勇兵の指揮官として賊討伐に向かわせることを決定する。

 自身も出陣するが、戦の方針は彼らに任せようと公孫賛は思っていた。そこには、彼らが失敗しても、必ず自軍なら対処できるという絶対の自信があった。

 

「いいのですか? 彼らに手柄を立てさせても?」

 

「貧困に窮している民も少なくない。それを救うというあいつらの邪魔をする必要はないさ。兵の募集も許可してやったんだ、今回の手柄で玄徳には悪いが出て行ってもらう」

 

 もう少し手元に置くものだと思っていた瑠里だったが、公孫賛は瑠里以上に玄徳を警戒しているようである。

 

「乱世が来れば間違いなくあいつらは頭角を現す。私や先生たちはそれくらい玄徳を買っているのさ。長く私の手にあれば、より多くの民があちらを選ぶことになる。今の幽州にそれを許すほどの余裕はない」

 

 それに、と公孫賛は続ける。

 

「近いうちに黄巾党の討伐令も下るだろうしな。今の朝廷に力はない。これを足がかりに勢力を伸ばす奴らが出てくるだろう。その時に出て行かれるより、この方が影響が少ない。それに今は天の御使いというあの男までいるんだ。扱いは難しいだろうが、うまくすれば一気に勢力を拡大するかもしれん」

 

 その言葉に納得する瑠里。想像以上に玄徳たちを評価しているのには驚いたが、近いうちに去るとはっきりしている連中、それも兵を奪っていく可能性のある相手を長く置く必要はないからである。

 それに、黄巾党の討伐令から始まるであろう一連の見立てにも異論はない。乱世が始まれば、天の御使いに救いを求めるものが増えるであろうことは確実だからである。

 何より、救いを求める民を救いたいと彼らが掲げていることから、各地の黄巾党を相手に奮闘することは想像に難くない。

 

 

 玄徳と彼女たちの御使いは、知恵が回り冷静に公孫賛を利用しようとしてきたこと、乱世に積極的に関わろうという姿勢は、自分たちにとっては厄介だと感じる瑠里であった。

 

 

 

 




 司馬家会談の第二段。まさかの本名流失からの真名交換。そして、仕官したのに空気にされる仲達。真名交換については、ちょっと強引に感じるかもしれませんが、彼女なりの理由があります。それは次回。

 ちなみに私は試し書きのときに名前は書きません。大体、あいうえお。まれに店頭の用紙に苗字書いている人はいますが、フルネームは見たことありません。
 それをうっかり書くのが横島です。嘘です。話の都合上です。
 
 司馬家関連。
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五節 これが予言の剣――霊波刀だ! 

のどが痛い……


 

 

 

 

 

 真名を高らかに告げ不敵に微笑む華琳に、横島は断るという選択肢を持たなかった。しかし、ただ単純に名乗るのでは華琳の宣言に負けた気がするので、かっこいい名乗りを言おうと考える。数秒考えた後、横島は不敵な笑みを意識しながら、言葉を紡ぐ。

 

「オレの真名は横島忠夫。天の御使いなんて大層な肩書きを背負っちゃいるが……ただのしがないゴーストスイーパーさ」

 

「ごーすとすいーぱー? それがあなたの天での役割なの?」

 

 横島の言葉に首を傾げる華琳たち。予想と違う反応に戸惑う横島であったが、華琳の疑問に答えるべく説明を始める。

 

「天っていうか、オレの世界ではメジャー……有名な職業だな。霊力を使って悪霊なんかと戦ったり、迷える霊を導いたりするんだ。一歩間違えれば死という危険な仕事だ」

 

 報酬については伏せる横島。民間(令子やエミ)とオカルトGメン、特殊だが唐巣神父のところとで報酬額に差がありすぎて、一般的な報酬額が分からなくなっていた為であるが、それを聞いた雛里たちは横島のことを凄い人物だとみなしたようである。

 

「こちらで言うとこの妖術師に近いのかしら?」

 

 悪霊云々については若干胡散臭いと感じる華琳ではあったが、妖術や気が存在するのだから霊的存在もいるのかもしれないと考えたようである。華琳が信じていないと思った横島は、実際に霊能力を見せることにする。

 

「じゃ、霊能力ってのを見せてやるよ。そうだな、サイキックソーサー……いや、ここはコイツだろ」

 

 そう言って横島が出現させたのは、栄光の手。いきなり横島の右手に現れたそれに注目が集まっているのを確認すると、横島は更に形態を変化させる。

 

「これが予言の剣――霊波刀だ!」

 

 予言に詠われた碧の剣。それこそがこの場にふさわしいと、横島にしては珍しく気をきかせる。この行為に感動したのが、以前霊波刀を見たことがある三人と華琳を除いた最後の一人――司馬仲達――であった。

 彼女は幼い頃から神童、鬼才と称され、また自分の才に及ぶものはほぼいないと自負してきた。そんな彼女だから漢の腐敗に対し自身が出来ることは高が知れていると悟り、乱世は避けられないのだと確信した時、漢に仕官することをやめた。姉は乱世まであがくようだが、多少の先延ばしでしかないと仲達は諦めたのである。だからこそ、予言に期待していた。予言の主が会いに来たら、その人物を支えようと決めていた。

 結果、本当に期待した人物が目の前に現れたのである。彼女の才とは違う、異質な、そして特別な才を持って。その才が何に役に立つのかなど、彼女にとってはどうもいい。自身が絶対に及ばない才を持つ。ただその一点だけが彼女にとって、大事であった。この時、仲達は魂に横島忠夫に対する絶対の隷属を誓ったのである。

 

「子考様」

 

「うん? どうかした、仲達ちゃん」

 

 何かを決意した表情で名を呼ぶ仲達に、霊波刀を消して向き直る横島。横島の前まで進むと、仲達は跪き宣誓する。

 

「姓は司馬、名は懿、字は仲達。真名を(みお)。生ある限り、あなたの僕……いえ、死後も含めあなた様に捧げます。どうか、真名を受け取りください」

 

 あまりにも重い宣誓に、引きつった顔をする横島。表情の変わらない風でさえも若干引いている中、華琳は恍惚としながら違うことを考えていた。

 

(ああ、この娘いいわね。私もこんな娘が欲しいわ。全く、忠夫もいい娘を虜にしたものね)

 

 そんな異様な雰囲気の中、いち早く正気に戻った横島は澪の元に駆け寄る。なんて声をかければいいのかと暫く逡巡した横島は、先程の隷属宣言には触れず無難な言葉をかけることにするのであった。

 

「えっと、よろしく。澪ちゃん。オレの真名は横島忠夫だ」

 

「はい、忠夫様。それと、ちゃんは不要です」

 

「わ、分かった。澪」

 

 形容するのならば、キラキラと輝くと言えば良いのだろうか。異様な輝きをその目に宿し答える澪に、言葉が詰まる横島。

 司馬仲達――真名を澪――彼女は、鬼才と称される才の持ち主であったが、究極の被虐体質であった。自身より劣る者たちに発揮されることがなかった被虐体質(それ)は、横島という異才を持つ人物を主にすることで、開花したのであった。

 

 

 

 その後、横島を澪がご主人様と呼ぼうとし、それだけは先を越させないとばかりに雛里たちが阻止するという出来事があったが、華琳と澪の二人に今の横島たちの考えを説明した。因みに横島には、黒風たちの準備をしてくるようにといって追い出している。

 

「甘いといえば、甘いのでしょうけど……。忠夫の目的は私の目的と何ら相対することはないわ。私に協力すれば忠夫の目的が果たせるのだから、あなたたちも私に協力するのに異論はないでしょう?」

 

「そうですね。乱世に積極的に関与するとは、忠夫さんも思っていなかったでしょうが、現状では曹太守と協力して乱世を静めるのが一番の近道なのは間違いないですから」

 

「あら、同士になるのだから真名で構わないわ」

 

 さらりと告げる華琳に、風たちは目配せをした後、尋ねる。

 

「そういえば、あんな理由でよく真名を告げることにしましたね?」

 

「ああ、アレ? そうね、矜持といえばいいのかしらね。忠夫のうっかりとは言え、私の問いかけから始まったことで真名が明るみに出た。なら、私がその責任を取ろうと。まぁ、貴方達を手元におきたいっていう打算もあったけどね。それに……」

 

「それに?」

 

「あの娘たちや忠夫本人には言ってはダメよ?」

 

 その言葉に黙って頷く風たち。それを確認した華琳は、少し恥ずかしそうにしながら続ける。

 

「貴方達も気に入っているけど、私は忠夫のことも相当気に入ってるみたいなのよ。忠夫たちが来てから、あの娘たちに笑顔が増えたと言われるほどに。それをこんな些細なことで手放すのは……って思ってね」

 

「それはそれは……華琳さんも忠夫さんに捕まりましたか。風のことも風でいいですよ」

 

「まだよ、風」

 

 そんな華琳たちに澪が交ざり、真名を交換しあう。そんな中、朱里と雛里の二人に三人の視線が向けられる。

 

「私たちも真名を交換することに異論はないのですが……」

 

「はわわ、その、あの」

 

「落ち着いて下さい、孔明ちゃん」

 

「は、はい。その、私たちは元直ちゃんが戻ってから子考様に真名を捧げると誓っています。これは元直ちゃんが無事に戻ってくるようにと、二人で願掛けしたからなんです」

 

「ですから……」

 

「分かったわ。忠夫との真名交換が先と言うことね?」

 

 その華琳の言葉に小さく頷く朱里と雛里。雛里の方は帽子のつばで顔を隠している。自身の我がままで待って貰うのに、負い目を感じているのであろう。それでも、この場で真名を交換しないのは、それほど横島に先に真名を受け取って欲しいということなのだろう。

 元から理解していた風に、華琳と澪にも異存はないらしい。

 

 

 

 あの後、話はやはりと言うかもう一人の御使いである白に関してになった。

 

「白の出方を見て対処するというのが現状では最善なのは確かね。諸侯や漢に対する風たちの推測も正しい……いえ、正しかったが正確ね」

 

「そうですね。乱世が近いのは分かっていましたが、予想より早く動きがありましたから。そうですよね、華琳様?」

 

「澪の言うとおりよ。私のところに、黄巾賊と呼称する賊の討伐令が下ったわ」

 

「ああ、だから風たちに演習を見せたのですね? 引き抜きの為だけでなく、何れ指揮をさせる必要があると思ったから」

 

「そう。引き抜きはダメでも、賊討伐くらいなら協力してくれると思っていたから。一度指揮させれば、なし崩しで取り込むことも可能と思ってたしね。まぁ、こんなことになるなんて、予想の斜め上を全力で走らされた気分ね」

 

「確かに。私も天の御使いには期待していましたが、忠夫様に魂から隷属したくなるとは思いませんでした」

 

 華琳の言葉には同意するが、澪の言葉には同意できそうにはない風たちであった。そんなことは知らず、澪は話を戻す。

 

「白は既に自らを主とした勢力を立ち上げています。朝廷の動き、諸侯の動きを図るには絶好の機会だったのですが、賊討伐を優先するでしょうからあまり効果は期待できませんね。まぁ、徐元直様が幽州で接触出来ていれば、白の方の更に詳しい情報を知ることが出来るのでよしとするしかないかと」

 

「仲達さんの情報網には期待出来ませんか?」

 

「幽州に居る間なら何とか情報は集まるかと。ただし、幽州で軍を構える事態になった場合は難しいかと。私が使っているのは、商人たちですから。民草の噂を集めることは出来ても、戦場には着いていけません」

 

「そうですか……なら、元直ちゃんには頑張って接触して貰わないといけませんね」

 

 

 

 

 彼女たちはまだ知らない。その頃、白の御使いと呼ばれる人物に瑠里がしつこく勧誘を受けていることを。

 

 

 

 




 司馬仲達。彼女は究極のMです。以上。
 華琳たちの真名交換は主従ではなく、親友とか仲間の方です。堅苦しくないのは、その為です。

 あ、その頃の瑠里ちゃんシリーズは休みです。

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六節 曹仁子孝

半分以上がその頃瑠里ちゃんシリーズです。


2016/12/14 修正
曹仁子孝の孝の字を間違っておりました。
それに伴い、次のように内容を修正していおります。

修正内容
サブタイトル。
偽名の由来。
間違った字の訂正。


 

 

「新しい名前?」

 

 黒風たちの準備を終えた横島が、華琳たちの所に戻ってくると華琳に唐突に新しい名について告げられる。

 

「そう。今まで、忠夫は横子考と名乗っていたけど、横なんて家名は珍しいわ。少なくとも私は聞いたことがない」

 

「まぁ、偽名については取りあえずって形でつけましたからね。正直、早々に名乗る機会が来るとは思ってませんでしたので。時期を見て改めて検討しようかと思っていたんですけど」

 

「ああ、華琳ちゃん…「忠夫。真名を交換したのだから、呼び捨てにしなさい」…華琳が城門なんてとこにいたから、検討する前に名乗る羽目になっちまったのか。じゃ、華琳が悪いんじゃないか」

 

 横島の無茶苦茶な論理に、そうねと同意する華琳。正直、ツッコミ待ちだった横島はその対応に驚く。そんな横島を無視して、華琳が続ける。

 

「だから、私が考えることにしたの。それで、さっき皆の同意も得たとこだったのよ」

 

「へー。で、何になったんだ?」

 

「いい? 心して聞きなさい。姓は曹、名は仁。字は子孝。曹仁子孝――真名を忠夫。それが、天の世界から来た天の御使い、横島忠夫の新しい名前よ」

 

「曹仁子孝――」

 

 新しく自分の名となった言葉を繰り返す横島。意外としっくり来るそれは、天の世界の史実では曹操に若き日より付き従った曹魏の功将、知勇に優れた名将と評された男の名であった。

 

「まず、名の”仁”だけど思いやり、やさしさって意味があるの。そして、天ではどうか知らないけど、大陸の教えの中に”仁”という概念があって、その仁には貴方の真名である”忠夫”のこの字……”忠”という概念も含まれるわ。つまり、”仁”はあなたの真名を含んでいるの」

 

 文字を書きながら説明する華琳に、頷く横島。概念について詳しく説明しないのは、華琳の優しさなのか、理解できないだろうと不要な手間を省いたのかは華琳にしか分からない。

 

「そして、字ね。読みは変わらないけど文字は”子孝”に変わっているから気をつけなさい。名の仁から連想し、”孝”。これも、”忠”と同じく”仁”に含まれるとされる概念だから、名の仁から連想して字につけても不自然ではないし、父母を大切にするのはこの世界では当然のことだから、他の人からも受けがいいと思うわ。あとの”子”は、私の一族では多く字に使っているし、風もこの字が貴方には相応しいと主張したから残したわ。曹家に連なり、仁と孝を兼ね備えた人物。うん、良い名前になったわ。その名に恥じないように気をつけなさいね」

 

「お、おう」

 

 因みに、名前を考える過程で名の仁や字の子孝はすんなりと決まったのだが、姓を曹とする際は揉めた。袁姓は論外だし、劉姓は漢と関わりが深い。なら、馬術に長けているから馬姓が良いのでは、いやいっそ孫姓にと、議論は二転三転した。その結果、冗談で風が曹姓にすればいいのではないかと言ったのだが、結果それが華琳に受け入れられたという経緯があるのである。

 

 そんな経緯があるとは知らない横島は、呑気に新しい名前を呟くのであった。

 

 

 

 ――その頃の瑠里ちゃん その4――

 

「釣り野伏せ……囮部隊の偽装敗走で敵を釣り出し、敵兵を左右に伏せた兵で三方を包囲し殲滅する。囮となる兵の錬度と、左右の伏兵の殲滅力が決め手となる戦法。寡兵で戦う為の戦法なのでしょうが……」

 

 高台から戦場を見渡していた瑠里が呟くと、待機していた公孫賛が口を開く。

 

「賊相手にも絶大な効果を発揮するってことだな。面白いように釣れてるよ」

 

「正規兵でも追い討ちをかける場面で、賊が敗走を疑うとは思えませんからね。しかも、正規兵ではなく義勇兵を囮とすることで、敗走を疑われにくくしてます」

 

「まぁ、流石に他人の軍に囮になれとは言えないからな。お、押し返すぞ」

 

 公孫賛の言うように、釣り出された賊に左右から関羽隊と張飛隊が突撃し、同時に囮を担っていた劉備+御使い隊、趙雲隊が反転、攻勢に出る。

 

「うん、流石は趙子龍だな。義勇兵たちを上手く操ってくれた」

 

「どうしても囮となる隊の損害が酷くなりますからね。子龍さんが損害を減らすように上手く指揮しなければ、左右の兵が間に合ったかどうか。囮となる隊は、天の御使いの策を信じているとはいっても、不安だったでしょうから。天の御使いの戦術は見事でしたが、それを支える将と兵が足りませんね」

 

「それはこれからだろうな。この釣り野伏せで今回、囮の大半を担ったのは義勇兵たち。彼らが今後も北郷たちを信じついて行くのなら、彼らは中心を担う兵になるだろうな。激戦を天の御使いと共に駆け抜け、作戦の要を遂行したという自信を得たんだからな」

 

「そうですね……」

 

 瑠里たちの視線の先には、殲滅戦を終え勝鬨の声をあげている義勇兵たちの姿。左右から突入した公孫賛軍の騎馬兵たちの錬度と、一騎当千といえる三人の武将の存在があった為、本人たちが思うほど死戦ではなかったのだが、彼らは今後の戦場で勇敢に戦う土台を得たのである。

 何より、比較的安全な戦場で戦術を試せたのは彼らにとって大きな糧となるだろうと瑠里は思う。これから独立する彼らは賊を相手に常に兵力が上回るとは限らない。そんな彼らが寡兵で戦う戦術を確立できたことの意味は大きいし、何より大勢の賊を前にしても勝てると戦術があると思えば兵たちの士気が違う。天の御使いという威光も届きやすいだろう。

 

「ある程度戦えることが分かって、太守様も安心ですね?」

 

「うん? まぁ、元々は私の民だからな。生き残れる確率があがったってのはいいことだ」

 

「義勇兵たちもですが、劉玄徳さんですよ。お友達なんでしょう? 彼について行っても、すぐ敗走、行方知れずってことはなさそうですから」

 

「まぁ」

 

 そういって照れくさそうに頬を掻く公孫賛。太守としての彼女からすれば、民を奪った相手を思うのは良くないだろうが、個人としては友人である彼女のことが心配なのである。

 そんな友人を想う彼女に、瑠里は友たちを思い浮かべる。そして、公孫賛に告げるのであった。

 

「そろそろお暇しようかと思います」

 

「……そうか。黄巾党の件が片付くまで居てくれたらと思ったが……。元より、勉強の為に期限付きでのことだったんだ。ま、元直に任せていた仕事は出陣前に終わってるし仕方ないか」

 

「ありがとうございます」 

 

 そういって頭をさげる瑠里に、よしてくれと笑いながら告げる公孫賛。彼女はふと瑠里の今後を聞いたことがないことを思い出す。そして、良ければと前置きして今後について尋ねる。

 

「これからどうするんだ? 天の御使いについていくのか? あいつに勧誘されてたろ?」

 

 その言葉に、道中何度も知恵を借りたいとか、一緒に行こうと勧誘されたことを思い出した瑠里は少し不快そうな表情をしたが、公孫賛は悪くないと努めて笑みをつくり否定の言葉をつげる。

 

「いいえ」

 

 瑠里の想定以上に冷たい声が出た。それに引きつった顔をする公孫賛。

 

「確かに智の御使いといわれるだけのことは、あるかもしれません。ですが、母が友人に人質にされると言われて、ついて行く訳がありません」

 

 そうなのである。勧誘を断る際に、母の元に行こうと思っていると嘘をついたのだが、それに予想以上に反応し、あげくこんな言葉を吐いたのである。

 

『まさか、もう程昱に人質にされているのかっ!?』

 

 何故、名前を知っているのかと問い詰めることもせず瑠里は、話を打ち切りそれ以来勧誘に来ても体調不良を理由に会ってもいない。

 

「彼に言っておいてください。母が人質になるといけないので、母の元に行きますと。それと、釣り野伏せは見事な戦術でした。より一層磨き上げれば、黄巾党を蹴散らすことも可能となるでしょう。ただ、囮をした兵は十分に労ってくださいと」

 

 そう公孫賛に言付ける瑠里。分かったと頷く公孫賛に、それとと続きを告げる。

 

「あなたと言う龍は今日、伏せることをやめ飛び立ちました。これから先の乱世でただの龍で終わるのか、黄龍と変わるものなのか、見極めさせてもらいます、とも」

 

「分かった。にしても、黄龍ねー。天の御使いが漢ととって代わるって?」

 

 公孫賛は黄龍を現在の皇帝=漢の比喩だと思ったようである。それを否定することなく、瑠里はただ微笑むだけであった。そして、瑠里は最後に公孫賛にも言葉を残す。

 

「お世話になりましたので、太守様にも一言。遠からず大陸全土を飲み込む乱世がやってくるでしょう。その時、太守様が太守公孫賛伯珪ではなくなる時が来るかもしれません。その時は私たちを頼ってください。きっと、助けになれると思います」

 

「私が太守でなくなる時……か。不吉なことを言う。で、私たちってのは? 元直と元直の母か?」

 

「いえ。私の主です」

 

 その言葉にため息を吐く公孫賛。勉強の為に食客になったのだから、てっきり主を探しているのだと勝手に思っていたが、瑠里に騙されていたようだと気づいたようである。

 

「全く……もう主がいるとはね。他の太守の仕事を勉強しに来たってのかい?」

 

「いえ、違います。主は太守ではありませんので。それに太守様には悪いのですが、太守様は自分で仕事をしすぎです。太守の仕事という意味では、全く参考になりませんでした」

 

「あ、そう? ま、いいや。で、主ってのは? それを知らなければ、頼りようがないじゃないか」

 

「今は陳留に身を寄せています。何れ紹介させて頂く機会もあるかもしれまえんね」

 

「何だ、今教えてくれないのか」

 

「意外とその時は近いかもしれませんよ?」

 

 そういって微笑むと、瑠里は白の御使いたちと会わないようにと、一足先に幽州へと戻り、陳留で待つ横島たちの元へと向かうのであった。

 




 大半が瑠里ちゃんシリーズでした。次はその頃○○シリーズが始まる……かもしれない。
 曹仁子孝が横島の偽名。これは当初から決めていたことでした。私は好きな武将なんだけど、演技では脇役扱いだし、恋姫には出てこないし。それなら、横島の偽名にして活躍させようと思ったのが理由です。
 途中で英雄譚を知り、追加武将に曹仁いるじゃん!となりましたが、このまま突っ走ります。つまり、拙作に曹仁ちゃんは出てきません。曹仁ちゃんファンの方すみません。

2016/12/14 追記
 曹仁子孝の漢字が間違っておりました。訂正しております。また、これより前の話数については、「子孝」ではなく「子考」のままです。これより前は、風が決めた偽名である為、そういう漢字なんだとお考えください。

 また、大陸の教えとぼかしましたが、儒教のことです。儒教の仁に忠と孝が含まれるという主張を採用しました。


 横島の偽名が曹仁子孝。
 これらは拙作内設定です。

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七節 私に不可能はないわ

ようやくあの二人が本格的に登場。


 

 

 

 

 

「曹子孝です」

 

「うん? お前は子孝だろ? 前から知ってるぞ?」

 

「姉者……他にあるんじゃないのか?」

 

 華琳たちを迎えに来た姉妹――夏侯姉妹に向かって、横島が改めて自己紹介をすると、姉である夏侯惇元譲、真名を春蘭が惚けた返事をする。それに対し、そんな姉も可愛いと思いながら妹である夏侯淵妙才、真名を秋蘭が告げる。

 それに対し、数秒考え込んでいた春蘭は敬愛する主を見て、横島に対し無言で太刀を向ける。

 

「ちょ、待って! 何で無言でこっちに……!」

 

「貴様、よりによって華琳様の姓を騙るとは何事か!? 子孝などという字を持つ曹姓の男子など知らんぞ!」

 

「姉者……姉者が知らない曹家の人間という可能性はあるぞ。大体、そこは横と名乗っていたことを追求すべきだ」

 

「それもそうだな。流石は秋蘭だ。で、貴様の言い分はなんだ?」

 

 太刀を突きつけたまま尋ねる春蘭。彼女の行動に慣れている風たちは咎める様子も見せないが、ここにはこの光景が何時ものことと知らない人物が一人いた。彼女は、腰に下げていた自身の武器である鞭を取り出そうとするが、雛里と朱里に抑えられる。

 

「だ、大丈夫でしゅから」

 

「そ、そうでしゅ。アレくらい、子孝様はどうってことないでしゅから」

 

「本当ですか?」

 

 頷く二人の様子に本当のことなのだと判断した彼女――澪――は、鞭にかけていた手を離し頬に持ってくると小さく呟き、微笑むのであった。

 

「流石は忠夫様です」

 

 

 

 そんなやり取りを他所に、春蘭は横島へと更に詰め寄っていた。姉には助け舟を出す秋蘭も、疑問に思っているのは同じなので横島を助けることはしない。そんな三人のやり取りを微笑みながら見守っていた華琳であったが、時間が勿体無いと自分が割って入ることを決める。

 

「落ち着きなさい、春蘭」

 

「か、華琳様~。ですが、子孝の奴が!」

 

「いいのよ。忠夫は訳有って曹姓を隠していたの。横なんて、適当な偽名でね。で、隠す必要がなくなったから、元に戻したのよ」

 

「そうだったのですか……確かに横なんて姓は聞いたことがありませんでしたね」

 

 うんうんと納得する春蘭に、姉者は可愛いなぁと思う秋蘭。彼女は姉とは違い、華琳の説明で全てを納得することは出来ないが、敬愛する主が真名を呼ぶ相手であり、わざわざ庇うのだから特別な事情があるのだろうと追求することはしない。

 そこに、横島が助かったとばかりに華琳に話しかける。

 

「いやー、助かった。元譲にぶっ飛ばされると痛いもんな。にしても、もう少し早く助けてくれても良かったんじゃ?」

 

「春蘭の一撃を痛いで済ますのは、忠夫くらいよ。それに、あれくらい自分でどうにかするのが普通よ。今回は時間が勿体無いから助けたけど、それくらい出来るようにしなさい」

 

「まぁ、確かに何でも頼ってたらいけんよな。華琳にも悪いし」

 

「私は別に頼るなとはいってないわ。大事なのは、出来ることをすること。それと、出来るように努力すること。その過程で誰かに頼るのは悪いことじゃないし、出来ないことを出来ないと放置するより断然いいもの」

 

「華琳って先生も出来るんじゃないか?」

 

「私に不可能はないわ」

 

 横島の軽口に軽い口調で答える華琳。そこには、本当に出来ないことはないと言わんばかりの自信が漲っていた。

 そんな二人の応酬に衝撃を受けたのが、春蘭と秋蘭の姉妹である。横島が華琳と真名を口にしたときは、主が手を下す前に自分がと武器に手をかけたが、あまりにも自然に会話を続ける二人にその手はすぐに離された。その上、華琳が忠夫と真名を口にした瞬間、二人は今までにない衝撃を受けていた。自分たちが華琳のいいつけで演習をしていた数時間で何が起きたのだろうかと。

 

「あ、あの、華琳様?」

 

「どうしたの、春蘭?」

 

「そ、その、子孝とは真名を?」

 

 その春蘭の言葉に顔を見合わせる横島と華琳。本当だったら、澪の紹介とかを先に済ませている筈だったが、仕方ないと華琳が口を開く。

 

「そうよ。忠夫とは真名を交換した。彼女たちともね。ああ、孔明と士元はまだよ。何れ交換するでしょうけど、今は彼女たちの願掛けを妨げない為に交換していないわ」

 

 その言葉に改めて風たちを見る二人。一人見慣れぬ者がいるが、恐らく司馬家の人間だろうと秋蘭はあたりをつける。あれほど固辞されていた仕官の話がまとまったのかと思うと同時に、華琳と彼女たちの間に何があったのか気になる秋蘭であった。

 そんな秋蘭とは違い、深く考えず仲間が増えたのだと理解した春蘭の行動は早かった。

 

「私は夏侯惇元譲だ。華琳様が真名を許したのなら、その僕たる私も真名を許すのが道理。私の真名は春蘭だ。宜しく頼む」

 

 姉の潔い態度に感銘を受けながら、秋蘭も真名を告げる。

 

「私は夏侯淵妙才。真名は秋蘭。姉者共々宜しく頼む」

 

 それに戸惑ったのは澪だけであった。彼女の常識からすれば、主が真名を告げた相手だといっても、簡単に真名を告げるものではないからである。春蘭の言う道理は、彼女の知る道理ではなかったのである。風たちは短い付き合いとはいえ、二人――特に春蘭――の心酔振りを知っているだけに驚きはなかったし、真名を交換しても構わない人物だとも思っていた。

 そんな中、横島が二人の前に歩み出る。すると、後に続くように風たちも前に進む。

 

「オレは曹仁子孝。真名は忠夫。宜しく!」

 

「風の真名は、風です。宜しくお願いします」

 

「あ、あの私と士元ちゃんは願掛けがありまして……」

 

「そ、その願掛けが無事終わったら」

 

「ああ、その時で構わん。私たちも願掛けが成就することを祈ろう」

 

「姉者の言う通りだ。何を願っているのかは知らんが、私も祈ろう」

 

 ありがとうございましゅと二人仲良く噛んでいるところに、澪が歩み寄り口を開く。

 

「私は、姓は司馬、名を懿、字を仲達と申します。真名は澪。この度、忠夫様の忠実な僕となることを許されました。宜しくお願いします」

 

 彼女の常識は、横島が真名を告げた瞬間から崩れていたようである。

 

 

 

「華琳様、仰せの通り黄巾党討伐の準備を始めております」

 

「ご苦労。それで、問題は?」

 

「兵糧の方が、担当者が指示した量より少なく用意しているそうです」

 

 その言葉に眉をあげる華琳。そこに、馬を並べて走っていた澪が口を挟む。

 

「失礼ですが、何日分の遠征で幾らの兵糧を用意させたのですか?」

 

 その言葉に、華琳が答えると横島と一緒に黒風に乗っていた風が口を開く。

 

「ふ~む。まぁ、妥当な数ですね。それを減らすということは」

 

「余程、自信があるのですね」

 

 澪の言葉に、華琳が尋ねると今度は朱里が口を開く。

 

「恐らく、その兵糧を用意した者はこう思っているのです。この量で十分だと」

 

「十分……ね。でも、何も言わずこんなこと通るわけがないじゃない。戻ったら、話を聞く必要があるわね。ああ、そういうこと」

 

 面白いものを見つけたような顔で納得する華琳に、横島と春蘭が首を傾げる。そんな横島を見た澪たちが解説を行う。

 

「つまり、兵糧を用意した者は華琳様なら、理由を聞きに自分の元へと来ると読んだのです」

 

「そして、華琳さんの前で、自分が集めた兵糧で実行できる策を提示するつもりなのです」

 

「人材収集家と呼ばれている私なら、その策が可能だと判断すれば実行させてみるでしょうね。それで軍師が見つかれば儲けものだもの」

 

 面白いわと笑う華琳に、若干引いている横島だったが、改めて自分の周りの子たちの能力の高さを確認するのであった。

 

 

 

 ――その頃、ハムちゃん――

 

「誰がハムだ!?」

 

「どうされた、白蓮殿」

 

「ああ、何でもないよ星」

 

 今日も公孫賛率いる幽州軍は黄巾党退治に出ていた。御使いたちは一度の出撃で、名声をあげ大勝利を挙げたこと、賛同できる理想に、天の御使いという威光、劉備のカリスマ性とで思った以上に民兵を持っていかれた為、ここのところ疲れているのかなと公孫賛――白蓮――は思っていた。

 瑠里もいなくなり、一時はどうなることかと思っていたが、客将という身分のままではあるが星が残ってくれた。今では真名も交換しているし、何度も馬を並べた仲である。

 

「いや、本当星が居てくれてよかったよ。うちの軍は兵を指揮する人間はいても、将を指揮できる人間がいないからなぁ」

 

「私も将を指揮できる人間ではないのですが……まぁ、これも自身の武の向上の為と思うことにしましょう」

 

「でも、良かったのか? 星も御使い殿に誘われてたんだろ?」

 

「まぁ、誘われはしましたが……メンマがないというので、今暫くはこちらに身を寄せることにしました」

 

「何だよ、それ」

 

 そう笑う白蓮と星の二人。星は白蓮には言っていないが、天の御使いに誘われたとき、こう答えて断っていた。

 

『伯珪殿には一宿一飯の恩義がありますからな。それに、今の幽州に伯珪殿は欠かせぬ人物。そなたらが民を助けてくれるのなら、私くらいは伯珪殿を助けてやってもいいではありませんか』

 

 そして、これは誰にも言っていないことなのだが、立ち去る瑠里からも白蓮のことを頼まれたのである。そして、風からの言伝という形で興味深いことを聞いたのである。

 

『子考? あの男が?』

 

『はい。今は陳留に身を寄せています。その内、世に住む人々が名を知る時が来るでしょう、その時来たら面白いですよ、と仲徳ちゃんが』

 

『ほう。覚えておこう』

 

「ま、それまで伯珪殿をからかうというのもありですかな」

 

「何かいったか?」

 

「何も」

 

 

 




 ようやく姉妹が登場。彼女らは簡単に真名を交換していますが、それだけ華琳に心酔しているということですね。
 黄巾党退治が華琳側でも本格的に始まりました。つまり、彼らとの第一次接近が近いということです。
 あと、不定期連載、その頃シリーズ。今回はハムちゃんです。

 横島の偽名が曹仁。
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八節 人とは面倒なものね

戦の前段階です。


 

 

 

 

「さて、春蘭は兵たちを何時でも出発出来るよう準備させなさい。秋蘭は件の人物を呼び出してちょうだい」

 

「分かりました。華琳様」

 

 陳留に到着するなり、姉妹に指示を出す華琳。それに全く同じタイミングで返事をした姉妹は、それぞれ華琳の指示を果たす為に移動する。それを見送った華琳は横島たちに向き直り、数秒考えてから告げるのであった。

 

「あなた達は一緒に居なさい。あなた達の読みが正しければ、件の人物は軍師志望。私でも判断は出来るけど、あなた達の意見も聞いてみたいわ。それに、策を実行するとなった場合、私も成果を見るために出陣するから、陳留の留守はあなた達に任せることになる。それなら最初から任命の場にいた方が早いしね」

 

 華琳の言葉に首を傾げる横島。華琳が出撃する理由は分かるが、自分たちに留守を任せる理由が分からないためである。

 

「オレらが留守を守るって無理じゃないか? 兵たちが従わないだろ?」

 

「あら、忠夫は軍部受けがいいのよ? それに、今回は遠征と言っても数日かかるという訳ではないから留守を預かるといってもお飾りといっていいわ。実際に何かあったら、私に伝令を出すだけの将と皆は判断するでしょうね。そして、主だった将や文官は私が忠夫たちの評価をあげようとしていることにも気づくでしょう」

 

 横島を守将として残すことで、華琳の信頼を得ていることを示すというのが狙いのようである。それに反対したのが風であった。

 

「それは止した方がいいと思いますよ~」

 

「何故かしら?」

 

「風たちは客将と紹介されているということです。今回から正式に加わると通達したとしても、今までの訓練に参加している訳でもありません。幾ら軍部受けが良くても、そんなお兄さんがいきなり留守を任されるというのは反発を招く可能性があります。それに、当初守将と決まっていた人物が居るはず。その方も印象を悪くするでしょう」

 

「私の部下にそんな狭量な者がいるとは思いたくはないけど……」

 

「表立って反発するものはいないと思いますよ。そして、華琳さんの近くに居るものは、華琳さんが言う通り、華琳さんの意図を理解しれくれるでしょう。でも、内心に小さなしこりが残ることになります。それが、人です」

 

 風の言葉を聞いた華琳は腕を組み考える。やがて、考えがまとまったのか口を開く。

 

「風の言葉通りなのでしょうね。たまには、回り道をしなければならないということね」

 

「華琳さんが、お兄さんのことを考えて行動しようとしてくれたことは感謝します。ですが、人は皆同じではありません。華琳さんには煩わしく思える遠回りも、時には必要なのですよ」

 

「全く人とは面倒なものね。でも、それを統べると決めたのは私。それら全てを呑み込んで見せましょう」

 

「それが華琳さんの道ですか」

 

「そうよ。人々が暮らす世を統べる。それまで止まる事ない覇者としての道よ」

 

 その華琳の宣言に、風はこの人物が正しく英傑なのだと確信する。忠夫と出会わなかったら、この人物を自らの太陽と掲げただろうとも。しかし、風はそれを残念には思わない。

 風には確信があったからである。横島と出会った自分は華琳と歩むより幸せだという確信が。何より、華琳の道はやがて横島と寄り添うことになると確信しているからである。

 

(華琳さん。風は知ってるんですよ。あなたがよく笑うようになったことを。秋蘭さんが言ってましたからね~。きっと忠夫さんと出会ってしまったからでしょう。そんなあなたの覇道は、あなたが思っていた覇者の道よりもきっと優しいものとなるでしょう。だって、あなたは仁を否定しないで傍に置くことを決めたのですから)

 

 

 

「で、結局オレはどうすれば?」

 

「そうね……客将ではなく、正規に私に仕えることになったことにして……。やはり、私の傍にいなさい」

 

「こうか?」

 

 華琳の言葉に横島が彼女の真横に移動する。その距離は肩が触れ合う程である。それを確認した華琳は、そういう意味じゃないとため息を吐く。

 

「そういう意味じゃないわ。大体、私はこれでも構わないけど春蘭に見られたら間違いなく空を飛ぶ羽目になるわよ?」

 

「そ、それは困るな……」

 

 一歩横にずれる横島を可笑しそうに見ていた華琳であったが、何やら生暖かい視線を向けてくる風に尋ねる。

 

「どうかした?」

 

「いえいえ、何でもないのですよ。それより、お兄さんを連れて行き華琳さんの傍に配置。経験を積ませると共に、重宝するという意思を周囲に示すというのは妥当かと思います。それで相談なのですが、風と澪ちゃん、孔明ちゃん、士元ちゃんのうち一人を一緒に連れて行ってくれませんか?」

 

「一人でいいの?」

 

「はい。風としては、孔明ちゃんと士元ちゃんのどちらかが都合が良いのですが。どうですかね?」

 

「わ、私でしゅか!? はわわっ」

「あわわ、私でしゅか!?」

 

 風の提案に狼狽える朱里と雛里。名前を呼ばれなかった澪は、微笑みを絶やしてはいないが何故と視線で問い掛けている。

 

「二人を推薦した理由は簡単です。澪ちゃんは名家司馬家の次女ですので、知名度は抜群です。それでも能力を疑う者はいるでしょうが、それもやがていなくなるでしょう。となると、残りは風と水鏡女学院の二人。水鏡女学院の二人のうちどちらかが、この戦で評価されれば残りも一目置かれることになります。何より、もう一人の仲間、元直ちゃんも同じ学院出身ですから戻ってきた時に推挙という形をとりやすい。風も推挙に値する人物に心当たりはありますが、彼女は絶対にこちらに来るとは言えませんから」

 

 内心、絶対華琳の元に来るだろうと思っているが、あくまでも華琳の元なのである。横島の臣や味方と言う訳ではない。彼女のことは親友とは思っているが、ここは涙を飲んで横島の為になる方を優先させて貰うことにする風であった。

 

「そう。残った風も、澪たちと同等の能力があると一目置かれる可能性が高いから、全員が一度に城内での評価をあげるにはいいかもね。一定の評価があれば仕事を回しやすいし、あなたたちなら更に評価を高めることは可能でしょうしね。それが必然的に忠夫の評価をあげることにもなる……か。いいでしょう。どちらかを忠夫の副官として連れて行きましょう。ただ、今回は件の人物の策を試したいから、然程活躍は出来ないかもしれないわよ?」

 

「それは構いませんよ。ただ、風たちに城内の仕事をまわして頂ければ。そっちで評価をあげますから」

 

 その風の提案を快諾した華琳は、どちらを連れて行くかを横島に尋ねる。尋ねられた横島は、どちらにすべきか悩んだ結果じゃんけんで決めることにする。

 

「じゃんけん……ですか?」

 

「それって、子孝様が子供たちに教えていた遊びですよね?」

 

「そう、それ。困ったときはじゃんけんってな」

 

「遊びで決めるものではないのだけど……まぁ、忠夫に任せた訳だし決まるのならそれでいいわ」

 

 華琳が承諾したところで、じゃんけんを始める朱里と雛里。あいこを繰り返す彼女たちを前に、華琳と澪は横島と風の二人からじゃんけんの説明を受ける。

 

「へ~。似たような遊びはあるけど、こっちの方が分かりやすいわね。一瞬で勝敗が分かるし、出しやすいし」

 

「そうですね。簡単なので覚えやすいですし、すぐに広まりそうですね」

 

 澪の言う通り、じゃんけんは今後大陸全土に広がりを見せるのであるが、それは置いておいて今は朱里たちである。壮絶なあいこの末、雛里が勝利したようである。

 

「か、勝ちました!」

 

「うう、雛里ちゃんならあの場面では、絶対グーだと思ったのに……」

 

「決まったようね。では、孔明には澪と風と一緒に仕事をしてもらいましょう」

 

 何の仕事が良いだろうかと悩む華琳に、澪が提案する。

 

「華琳様。私としては、この機会に情報の整理を行いたいと思います。西涼や荊州方面は遠い為に、幾分情報が遅れていますので、使える情報かどうかを判断したいです」

 

「あ、なら私も手伝います。荊州方面の情報は持っていますから」

 

「それなら風は文官たちの仕事を手伝いますかね。適当に割り振って頂ければ、それで構わないですよ」

 

 それぞれの提案に反対する必要もないので承諾する華琳。特に澪と朱里の情報には期待していた。同時に情報を収集する特殊部隊の設立を決意する。今までは、集めた情報を精査できる文官が少なかった為に、情報収集に力をいれていなかったが頼もしい軍師が増えた今なら運用が可能だと華琳は判断したのである。

 

「さて、そろそろ秋蘭が戻ってくるわね」

 

 華琳の言葉とほぼ同時に、秋蘭がやってくる。傍らに控えている少女が、件の人物なのであろう。彼女たちの方を向いた横島たちは、自然と横島と華琳の二人が中心となるように立つ。

 

「連れて参りました、華琳様」

 

「ご苦労。で、彼女が?」

 

「はい。彼女が件の人物です。元は、文官試験に応募して来たのを優秀でしたので、兵馬の監督官を任せました」

 

「そう。名は?」

 

 華琳の視線を受けた少女は、華琳の傍にいる横島を睨み付けるのをやめかしこまった表情で自己紹介を始める。

 

「荀文若と申します。以前は南皮で軍師をしておりました」

 

「そう。何故呼ばれたかは分かっているわね? 回りくどいのは嫌いなの。我が軍で軍師となりたいのなら、策を言いなさい」

 

 華琳の言葉に一瞬驚いた表情をする文若であったが、顔を輝かせて策を語っていく。それを聞いた華琳は、一つ頷くと横島たちに視線を向ける。どう思うかを問われているのだと思った横島だが、策の良し悪しを判断できる訳がなく傍に立つ雛里に視線を向ける。

 

「どう?」

 

「問題はないかと。相手の規模次第では厳しい戦になりますが、そこは斥候の情報を元に囮と伏兵の数を修正すれば何とでもなるでしょう。伏兵を配置し挟撃するに適した地形も、あの辺りにはありますしね」

 

「だそうだけど?」

 

「そうね。釣り出しが上手く行かなかった場合の策も、十分に評価出来る。あなたに此度の戦の行方を預けるとしましょう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 華琳の言葉に喜び感謝する文若。そんな彼女に、華琳は愛用の大鎌――絶――を突きつける。

 

「ただし、覚えておきなさい。私は試されるのが嫌いなの。次に同じことをしたら、容赦なく首を落とすわ。それと、此度の戦であなたの用意した兵糧が不足する事態が起こったら、その時は……」

 

「その時は、私の命をご自由に扱いください。この命は既に曹孟徳様に捧げました。何が起ころうと、それを天命と受け止めるだけです」

 

「そう……いいわね、あなた。そこまで言うのなら、此度の戦の結果次第で真名を許しましょう。文若は私と同じ部隊とする! 妙才に従い準備を進めよ! 妙才は全部隊に通達! 出立は一刻後とし、時間と共に賊の討伐へと向かう!」

 

「御意!」

 

 華琳の号令の元、慌しく動き始める一同。本格的な争乱の気配に、横島は乱世が動き出したのだと感じていた。

 

 

 

 

 ――その頃、華琳ちゃん――

 

 号令を下した華琳は、恍惚としていた。そんな華琳に、戦の準備などしたことがない為、その場に留まっていた横島が話しかける。

 

「やけに嬉しそうだな」

 

「それはそうよ。風や澪、孔明、士元は同士ではあるけど配下というわけではないわ。あくまでも忠夫の臣。そこに、あの娘よ。私を試したのは気に入らないけど、洞察力、推察力に優れているのは確か。度胸もあるし、策も特に穴はない。それに、私が真名を許すといったときの顔を見た?」

 

「あー、やたらと目が輝いていたな。オレを睨んでいる時の目つきも怖かったが、あれはあれで怖かった」

 

 その時のことを思い出していた横島に、華琳が告げる。

 

「あれは、澪が忠夫を見る目と同じだわ。あの娘なら私に首を落とされたとしても、本当に天命だと思うでしょうね。それほど、強い憧憬と歓喜、敬愛をあの目からは感じた」

 

 いいわと呟き続ける華琳に、横島は若干引きながら尋ねる。

 

「あの娘が失敗したらどうすんだ? 戦の方は大丈夫だろうけど、兵糧の方は絶対に不足しないとは言い切れんだろ?」

 

「その時はそうね……」

 

 横島の問いに考える華琳。斬首は論外。折角の軍師を捨てるのは勿体ない。かと言って、何もなしというのはいけない。どうするかと考えていた華琳の目に、横島の姿が目に入る。

 何が気に入らなかったのか、横島を見る文若の目は嫌悪で満ちていた。華琳の前だから自重したのだろうが、それがなければ罵声を浴びせていたかもしれない。それほど嫌いな男に身を許すというのはどうだろうか。それも華琳の目の前で。さぞ、いい声で啼いてくれるに違いないと華琳は想像する。

 

「……首を落とすなんてことはしないから、安心なさい。ただ、罰は受けて貰うけどね」

 

 そう横島に告げる華琳の顔には、怪しい笑みが浮かんでいた。

 

 

 




 猫耳軍師が登場しました。そして、風たちと横島が別行動です。
 作中でじゃんけんが行われていますが、似たような遊びは世界中にあります。古代中国にもあったでしょうが、じゃんけんを普及させました。決して、調べるのが面倒だったわけではありませんよ?

 恋姫って時間の単位って刻でしたっけ?誰か教えてください。

 横島の偽名が曹仁。
 これらは拙作内設定です。

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九節 一発殴らせろ

賊退治中。


 

 

 

 華琳の宣言から数刻後。横島と雛里の二人は、逃げた賊の追跡をしていた。

 

「いやー、さっきの女の子は凄かったな」

 

「そうですね。私とそう変わらない体格なのに、あんな大きな武器を振り回して……」

 

「子孝様! 前方に砦を発見しました! あそこに賊が潜んでいると思われます!」

 

 先ほど軍の前に現れた少女のことを話していた横島たちに、部下から報告があがる。それを聞いた横島は、砦の賊たちに気づかれない位置で待機を命令し、本隊である華琳の元へ伝令を走らせる。

 

「随分、指示が様になってきましたね」

 

「全部、士元ちゃんが事前にどう指示するかを教えてくれたからね。それくらいは出来るさ」

 

 横島にしては堂に入った所作であったが、これも雛里たちの教育の成果であったらしい。難点は堂々とした態度を長く保てないことだが、美少女に屈強な兵士たち相手に命令する様を見せ付けることは横島のちっぽけな自尊心を満たす行為であった為、命令時態度はどこぞの勇将かと見間違える程である。

 その態度と、以前からの評判、出陣前に曹仁子孝として改めて名乗ったことで流石は曹家に連なる者と兵士たちからの信頼は鰻登り状態である。

 

 そんな横島一行であったが、何故彼らが賊の追跡任務に就いているのかと言うと、先述した少女――許緒が関わっていた。彼女は、賊の一味を相手に大立ち回りを演じており、それを見つけた斥候役の春蘭が一緒に賊を討伐。その際、美少女――桂花に無言で睨まれることに疲れ、同行していた横島が賊相手に戦うよりマシだと雛里と一緒に逃走した賊の追跡に出たのである。

 因みに雛里については、何故か桂花を睨んでいたことで人見知りだろうと思った横島が同行させていた。

 

「あの後、女の子はどうなったんだろうな? 住んでるとこに返すかな?」

 

「どうでしょう。曹太守ならあの武を取り込もうとなさるでしょうし、この近辺の賊――黄巾党を排除するまでは同行させるのではないでしょうか?」

 

「ああー、あり得るな。それにしても、こっちの世界の子は見た目で判断出来ないよな。あんな小さいのに、あんな武器振り回すし。春蘭だって、あのナイスな体からは想像も出来ない馬鹿力だし」

 

「それは気のおかげだと思います。武将の多くは、無意識の内に身体を強化していると言われています。これは、戦闘時と日常では身体能力が大きく変化することから推測されたことですが、気を外部に放出する人たちが出てきたことで、気を用いることで身体能力が強化されることが実証された訳です。また、一般的に女性の方が気を使いやすいとされていますね。何故女性が使いやすいのかは未だ解明されていません。素の身体能力が男性の方が高い為、それに対抗する為女性は気を覚えたとか諸説ありますが……」

 

「もういいから! ほら、華琳たちが着いたみたいだし。ね?」

 

 気についての推察を語りだした雛里を抱え込むことで、発言を抑える横島。華琳たちが到着したのは本当のことなので、雛里もそれ以上話し続けることはしない。

 やがて、華琳たちが横島の元にやってくると、春蘭が早速横島に食って掛かる。

 

「おい! 何故私を置いていった!」

 

「いや、楽しそうにぶっ飛ばしていたから、つい。それにどっちかは賊を追いかける必要があったし」

 

「うむ……。お前の言い分は分かった。だが、私に断りなく行ったせいで、華琳様のお前が何処に行ったのかという問いに答えられなかった。おかげで許緒の前で恥ずかしい思いをしたのだ」

 

「つまり?」

 

「一発殴らせろ」

 

 そう言うと横島の頭をはたく春蘭。これからのことを考えてか、春蘭にしては手加減された一撃ではあったが、かなり痛そうである。横島が痛みで頭を抱えている中、雛里は先の春蘭の言葉に出てきた名について尋ねる。

 

「将軍、許緒とは?」

 

「うむ。許緒は先ほど賊を一人で討伐していた少女のことだ。この度、華琳様が直々に配下にされた。そして、私と秋蘭が面倒を見ることになったのだ」

 

「きょ、許緒といいます!」

 

「おう、オレは曹仁子孝。気軽に兄ちゃんとでも呼んでくれ!」

 

「私は鳳士元。子孝様の軍師です」

 

「わかったよ、兄ちゃん!」

 

 おずおずと名乗った許緒に自己紹介すると、許緒は一転して笑顔で横島のことを兄と呼ぶ。素直なのか、元々人懐っこいのか元気いっぱいなその様子は見ている横島たちの方が笑顔になるものであった。

 そんな戦場に似合わないのほほんとした雰囲気は、偵察に出していた兵の報告の声でかき消された。

 

「報告します。周囲に賊の姿なし! 全員、あの砦に篭っているものと思われます! また、数はおおよそ三千! 裏手は崖である為、攻めるには正面から近づくことになります!」

 

「分かった。今はこの場で待機。作戦が決まり次第、行動を開始する!」

 

「ハッ!」

 

 報告を受けた横島が指示を出すと、兵士はそれを伝える為に下がる。その様子を見ていた華琳はニヤニヤしており、許緒はキラキラした目で横島を見ている。

 

「あー、どうかしたか?」

 

「兄ちゃん、かっこいい!」

 

「そ、そうか?」

 

 軍に所属したとはいえ、それはつい先ほどのこと。許緒には、命令を飛ばす横島が格好良く見えたらしい。それに若干の心苦しさを感じるのは、横島自身が命令を飛ばす自分を嘘っぽく感じているからであろう。

 そんな二人に、華琳が話しかける。

 

「中々様になっていたわよ、忠夫。さて、忠夫が言ったように作戦を決めないとね」

 

「孟徳様。報告の数程度なら、当初の作戦のままで可能かと。あの砦も想定していた砦の一つでしたので、万が一賊が打って出ない場合も大丈夫です」

 

「そう。なら、あとは将の配置ね。荀文若。軍師として配置案を述べよ」

 

「やはり、囮は孟徳様と私で指揮すべきかと。数は千で十分でしょう。伏兵には残りの二千をあてます。将は夏侯両将軍と許緒。ついでにそこの男で如何でしょうか」

 

 事前に話していた策を実行する為の人員の配置を告げる荀彧。横島が秋蘭や雛里を伺うと、彼女たちもその配置に文句はないらしい。これで決まりかと思われた所に、春蘭が異議を唱える。

 

「待った! これでは華琳様の危険度が大きすぎる。せめて許緒を華琳様の護衛に当てるべきだ!」

 

「何を言ってるの。許緒は貴重な戦力なのよ?」

 

「むぅ……」

 

 桂花と睨みあっていた春蘭であったが、横島を視界に捉えるとそれならと提案する。

 

「ならば、忠夫を華琳様の護衛にあてる! こやつなら丈夫だし、華琳様の盾の役目を十分に果たしてくれるに違いない!」

 

「はぁ!? 冗談言わないでくれる? こんな軽薄で女を孕ませることしか考えてなさそうなスケベな男を孟徳様の護衛にしたら、逆に孟徳様が危険よ!」

 

 あんまりな言い様に肩を落とす横島。一部否定出来ない所があるが、そこまで言われるほど嫌われているとは思っていなかったのである。そんな横島を雛里が慰めていると、華琳が言い争いを続けている二人を止める。

 

「二人ともやめなさい。春蘭の言うとおり、忠夫は私の傍に置くわ。忠夫、私を守りなさい。出来るわよね?」

 

「まぁ、人をどうこうしろってのより、そっちのが楽だが……」

 

「決まりね。士元は忠夫の傍に。忠夫もあなたもこれが初陣。戦場とはどのようなものか、その目に焼き付けなさい」

 

 華琳はそういうと、部隊を囮と伏兵の二つに分ける為の指示を飛ばす。それに従う桂花は、不満そうではあるが華琳が決めたことなら仕方ないと横島を視界に入れないようにしながら、指示を飛ばしている。

 

「な~んか嫌われてんだよな。オレがっていうより、男全体って感じだけど」

 

「まぁ、追々どうにかするしかないだろう。大体、お前が私や姉者の胸ばかり見ているから、文若がああいうことを言うんだ。見るならもっとさりげなくやれ」

 

「あ、バレてんだ。じゃあ、春蘭がオレを良く殴るのは……」

 

「姉者はそこら辺は無頓着だからな。お前の視線が不快と言う訳ではないだろう。単純に殴りたいと思っているだけだ」

 

「余計悪いわっ!」

 

 横島の叫びに小さく笑った秋蘭は、春蘭を連れて準備の為に移動していく。それについて行く許緒を見つけた横島は、許緒に話しかける。

 

「許緒ちゃん!」

 

「何? 兄ちゃん?」

 

「気をつけてね?」

 

「大丈夫だよ、強いから。兄ちゃんや曹操様がやられないように、頑張ってくるね!」

 

 そう力強く宣言すると、彼女は秋蘭たちに追いつく為に足早にかけていく。その様子を眺めていた横島は、雛里の言葉で華琳の元へと歩き出す。

 

「子孝様、行きましょう。許緒ちゃんは体は小さくとも、その武が凄いことは子孝様も見ましたよね。彼女の心配は要りません。それより、私たちは私たちの為すべきことを」

 

「分かっているって。ま、華琳の傍なら安全だろ」

 

「子孝様、油断はいけません。ここは戦場。隣を歩く兵が、次の瞬間には屍と化す場です。私も子孝様も戦を知識でしか知りません。覚悟はして置いてください」

 

「分かっているって」

 

 安心させるように雛里の頭を二度ぽんぽんと叩く横島。彼の内心は驚くほど静かだった。普段の除霊の時でも、びびりな自分の心臓は激しく音をたてると言うのに、戦場という興奮渦巻く場所にあっても平常通りである。

 

(これが、“この世界に馴染み易くする為の何か”の成果か。つまり、戦場に対する恐怖の緩和。もしくは、冷静な思考とかか? まぁ、パニックになるよりマシだし、ありがたいっちゃ、ありがたいか)

 

 これから戦場に立つ機会が増えそうな横島としては、役に立つてこ入れだったと思うことにする横島。何故なら横島には、自分は勿論、雛里や華琳を守る必要があるのだから。パニックになれば、助けられるものも助けられないということは横島は良く知っている。

 

「守る……か」

 

「そう。忠夫は私や士元を守る為に戦いなさい。私も忠夫を守ってあげる。そうすれば、私も忠夫も士元も死なない。分かったわね?」

 

「分かったよ。本当、優しいよな華琳ちゃんは」

 

「そんなことを言うのは、忠夫くらいね」

 

 何時の間にか横に並んでいた華琳は、そう言うと桂花に目配せをし、高らかに号令するのであった。

 

「今より敵を誘い出す! 銅鑼を鳴らせ!」

 

 今、横島の初陣が始まった。

 

 

 

 

 

 ――その頃、風ちゃん――

 

「いやー、お仕事がたくさんありましたねー」

 

「おう、そうだな」

 

「宝譿が手伝ってくれれば良かったのですが」

 

「それは無理だぜ、嬢ちゃん。所で、何で旦那の寝所に入ろうとしているんだ?」

 

 頭の上の人形?である宝譿と会話していた風の動きが止まる。そのまま数秒が経過した後、風は両手を胸の前で合わせるとわざとらしく声をだす。

 

「おお、これはうっかり。今日は忠夫さんはいないのでした。いやはや、朝は起きれず朝駆けが出来ず、夜は夜で眠いので夜這いが出来ず。せめてお昼寝を一緒にと思ったのですが……」

 

「ま、旦那がいたとしても、昼寝しているとは限らないがな」

 

「そこは抜かりないのですよ、宝譿。伯寧さんから、この時間はほぼ寝ていると聞いてますので」

 

「あの侍女は何で知ってんだよ……」

 

「それは侍女ですからね。お掃除とかで部屋に入ったら寝てたんじゃないですか?」

 

 宝譿の疑問に答えた風は、横島たちが向かった方角を見る。

 

「今頃、初陣でしょうね。戦場とは、魔が潜む場所です。忠夫さんが帰ってきた時、忠夫さんは変わらず風に笑いかけてくれるでしょうか。魔に憑かれなければ良いのですが」

 

「まぁ、人が目の前で死ぬからな。戦場に心を置き去りにする兵士も少なく……」

 

「その時は、風がお兄さんの心を取り戻しますよ。戦場から」

 

「ま、旦那なら大丈夫だろ」

 

「そですね。忠夫さんなら、大丈夫でしょう。何せ、忠夫さんですしね」

 

 宝譿の言葉に安心したのか、軽く微笑む風。そんな風に、宝譿が提案する。

 

「無事に初陣を済ませたら、夜の初陣も済ませちまうか?」

 

「これこれ、宝譿。下品なオジサンみたいですよ」

 

 宝譿を窘める風であったが、その口元には先ほどよりも深い笑みが浮かんでいるのであった。

 

 

 

 

 




 今更ですが、桂花登場時の賊って黄巾党でしたっけ? まぁ、大して問題ないので黄巾党で押し通しますが。

 季衣との接触が原作一刀よりも少なくなりました。これは、横島の頑丈さを知っている春蘭のせいです。
 あと、忘れていた方も多いでしょうが、銅鏡のてこ入れ(銅鏡世界に馴染む何か)が明らかに。横島の推察通り”恐怖の緩和”と”冷静な思考”です。あと、”人を殺すことへの忌避感の軽減”。横島もそうですが、一刀君はこれらの恩恵が大です。

 横島の偽名が曹仁。気の考察。
 これらは拙作内設定です。

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十節 ああ、忠夫様

初陣の終了。戦の描写には期待しないでください。


 

 

 

 

「華琳ちゃん、聞いてもいいかい?」

 

「いいわ。それと華琳と呼び捨てなさい」

 

「オレたち、銅鑼を鳴らしただけだよな?」

 

「そうね」

 

「門が開いていくように見えるんだが」

 

 横島の言う通り、砦の正門がゆっくりと開き始めているのがはっきりと見えていた。

 

「忠夫は何で門が即座に開いたと思う?」

 

「さぁ? まさか、オレたちの銅鑼を開門の合図と勘違いしたとかはないだろうし」

 

「文若はどう見る?」

 

「その男の言うとおりではないかと。ここに潜む賊たちは、黄巾党の本隊という訳ではありません。便乗した村民の集まりです。洗練された軍隊と同一に考えると、逆にこちらが混乱することになります」

 

 忌々しそうに横島を睨み付けた後、華琳の質問に答える桂花。彼女の見解に異論がないのか、華琳は一度頷くと開きつつある門を見つめ号令をかける。

 

「このまま作戦は続行! あちらは開門と同時にこっちに突撃してくることが予想される! 全員そのつもりで備えよ! 退却、反転の号令を聞き逃すな!」

 

「御意!!」

 

 華琳から兵を率いる隊長たちに、隊長たちから兵の一人一人に号令が伝わっていく。何度も訓練を重ねてきたのであろう。千人全員に命令が行き渡るまでの時間は十秒未満であった。

 

「さ、これからが山場よ。三千を千で迎え撃つのだから。無傷とはいかないわ。忠夫もちゃんと私を守りなさいよ」

 

「ああ、任せろ。剣も貰ったし、クロの防具も作ってもらったし」

 

 そういって横島は、腰に佩いた剣を一撫ですると愛馬である黒風を一撫でする。黒風は嬉しそうに嘶く。

 

「その剣の銘は倚天。天をも貫く剣よ。貴方が持つに相応しい剣だと思わない?」

 

「そうか?」

 

「他の方が持つと物騒ですが、子孝様が持たれるのならこれ以上相応しい剣はないと思います」

 

 天を貫く剣を天の御使いが持つのが相応しいとは思えない横島であったが、雛里の言うとおり他の人間が持つよりはマシかと思う。桂花は横島が御使いだとは知らないので、こんな男に華琳が剣を下賜されるなんてと不満そうである。

 そうこうしている内に、地鳴りと怒声をあげて賊が近づいてくる。それを見て隊長たちが兵士に抜剣の指示を出したのを確認した華琳は、桂花に言葉をかける。

 

「退却、反転の指示は文若に任せるわ。上手くやりなさい」

 

「御意!」

 

 敵軍の先頭と、自軍の先頭が激突し怒号と共に戦端が開かれる。今、横島の初陣が始まったのである。

 

 

 

 

「銅鑼鳴らせ! 反転して攻勢に出る!」

 

「ここまでは上手く行っているわね」

 

 春蘭たち伏兵が合流し、後方から敵を挟撃した所で攻勢に出る華琳たち本隊。華琳の言うようにここまでは上手く行っていた。春蘭と秋蘭の部隊の殲滅力は素晴らしく、時折空を飛んでいるのは季衣や春蘭に吹っ飛ばされているのであろう。その光景に恐れをなした一部が、砦への退却は無理と判断し何とか逃げようと兵の少ない箇所に突っ込んでいく。

 

「逃げる敵に構うな! 別部隊に後方から追撃をかけさせる! 伝令! 夏侯元譲将軍の部隊に追撃させよ! 我らは残った敵を殲滅する!」

 

 逃げる敵に近い春蘭の部隊に追撃の命令を出す桂花。すぐに伝令がその命令を伝えに走る。それを見送った横島は、こちらに近づいてくる秋蘭の姿に気がつく。

 

「ご無事で」

 

「秋蘭も無事のようね。しかし、文若も中々やるわね。退却、反転、追撃の命。どれも機を逃していない。いいえ、あれは最適と言うべきでしょうね」

 

「そうですか。こちらから見ても完璧と思いましたが、華琳様までそのように評価されるとは。文若はあそこで斬らずに正解でしたね」

 

 大勢が決したことで馬をとめて会話する二人。そこで思いも寄らない事態が起こる。

 少しでも身軽になって逃げようとしたのか、捕虜にしようと近づいてくる兵士たちと距離を取りたかったのかは不明だが、味方が逃げ出したことで恐慌状態に陥っていた賊の一部が、持っていた武器を投げつけ始めたのである。多くは近くの兵によって払われたのだが、その一部が運悪く華琳たちまで飛んできたのである。武人らしく、手にした武器で二人はそれらを払っていき、横島は雛里を抱え当たりそうなものを同じく倚天の剣で切り払っていく。

 

「おー、怖っ! 大丈夫か、士元ちゃん?」

 

「はい、怖いですけど子孝様が守ってくれてますから」

 

「華琳と秋蘭は?」

 

「これくらい大丈夫よ」

 

「うむ、問題ない」

 

 二人の返事と見事な武器捌きに心配はいらないと判断した横島は、武器を投げつけてきた賊に視線を向ける。そこには、手持ちの武器だけではなく近くに落ちている武器までも我武者羅に投げていた賊が槍で刺し殺されていく姿があった。

 その光景を直視しても動揺しない自分に、改めて銅鏡の効果を確認した横島であったが、そこで感傷に耽ることは許されなかった。賊の一人が最後の力とばかりに、拾い上げた剣を頭上に投げる姿を見たからである。賊は投げた後すぐに刺し殺され、頭上を飛び越えていった武器に注意を払う者はいない。だが横島だけがその最後の賊の足掻きが、未だ指揮を執る華琳に向かっていることに気がついた。

 

 華琳や傍にいる秋蘭は対処したと思ったのか、既に武器を納めており声をかけたとしても、後方から飛んでくるそれを正確に対処出来るか分からない。そう判断した横島は、士元を抱えたまま黒風を華琳を助ける為に走らせる。いや、正確に言うなら黒風は跳んだのである。華琳に向かって落ちてくる剣に向かって。

 

 

 それを目撃したものは多かった。華琳の頭上を跳び越えた黒い巨躯(黒風)。そして、太陽の光を反射し、眩い光の軌跡を残し振るわれた倚天の剣。澄んだ音を残し、両断され地に落ちる剣だったもの。最後に僅かな音だけを残し、着地する黒風と腕に抱かれ目を回している雛里。

 

 それら全てを為した男の姿を、その場にいたものは目に焼き付けていた。

 

 

 後に、この光景は数々の物語で紡がれて行くことになる。曹仁子孝。真名を横島忠夫。彼の最初の見せ場として。

 

 

 

 ――その頃、澪ちゃん――

 

「ああ、忠夫様。澪は貴方の為に、頑張っております」

 

 澪と朱里の二人は、情報の整理及び情報網の構築案を作成していた。時折、雑談を交えながらの作業は概ね順調にいっている。

 

「こうしてみると、南陽方面の情報が少ないですね」

 

「そうですね。おそらく孫家が情報を遮断しているのでしょう。袁家が支配している地の情報に比べ、孫家が駐留している地の情報が不足していますから。著しく不足している訳ではないので、気づきにくいですが」

 

「そうですね。しかし、孫家の二の姫、孫権仲謀のいる地は防諜がしっかりしています。商人を使って集めた情報も少ないですが、細作は全員帰ってきていませんね」

 

「そうなんですよね。私の情報源は主に商人なのですが、細作を使っていないわけではありません。それなりの実力を持っている筈なのですが……。まぁ、裏を返せば防諜をしっかりする必要があるといっているようなもの。長姫である孫策伯符は、袁家のお膝元ですから自由に動けない。末の姫のいる地は他と同じ程度の防諜。つまり……」

 

「袁家に対し、何かしらの準備をそこで行っているということですね。黄巾党が各地で現れているので、それを討伐する名目で勢力の強化を図っているのでしょう」

 

 孫家に対し推論を述べていく朱里と澪。彼女たちには、同じ光景が見えているのか異論なく話は進む。やがて、現状の情報でこれ以上は判断できない所まで情報を整理すると、澪がおずおずと朱里に話しかける。

 

「あ、あの……聞きたいことが」

 

「は、はい。何でしゅか!?」

 

 澪に話しかけられた朱里が噛みながら答える。情報整理という仕事なら問題はなかったのだが、本来人見知りなところがある朱里にとって話題が尽きた現状は、何を話せばいいのか緊張してしまうようである。

 

「あの、忠夫様のことを教えて頂きたいのですが……。好きな食べ物とか、何時ご就寝になるのかとか」

 

「あ、はい」

 

 その後、勢い込んで横島のことを尋ねる澪と、噛み噛みでそれに答えていく朱里の姿があった。

 




 ノリで倚天の剣を横島の佩剣にしてしまいました。華琳の武器は絶だし、いいですよね。
 あと、横島の見せ場を作りましたが、これが最初で最後になる可能性もあります。

 倚天の剣。
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十一節 百歩譲って

その頃シリーズはお休みです。


 

 

 

 

 初陣を終え陳留へと戻った横島は、城門まで出迎えに来ていた風たちと合流した後、そのまま華琳たちと一緒に城主の間まで移動していた。

 そんな一行を出迎えた文官たちは、早々に華琳から論功行賞は書簡で通達、休憩を挟んだ後に軍議を開くとだけ告げられ、戦勝の喜びを告げる間もなく華琳の指示を実行に移していくのであった。

 

 

 

「さて、あの程度の賊の討伐とは言え、黄巾賊討伐の功は功。明日は大々的に論功行賞をして、本格的な黄巾賊討伐に向けて弾みをつけたいとこだったんだけどね……」

 

 今回の論功行賞の内訳を指示し、それを受けた文官が退出すると横島たちに向き直り口を開く華琳。先程の文官以外は既に退出済みな為、城主の間には太守である華琳と横島一派、華琳の腹心である春蘭、秋蘭。先の討伐で新たに加わった許緒と、今回の件での沙汰を待つ桂花だけ。その内、華琳の言葉から彼女の気持ちを窺い知れたのは、賊討伐に従事していた桂花と秋蘭、雛里の三人だけであった。

 

「同行しなかったあなた達には分からないことよね」 

 

 華琳は風たちに向かって今回の討伐について、秋蘭と桂花に説明させる。これは華琳側の人間に語らせることで、華琳側――主に桂花――と横島側との交流させる為である。主に秋蘭が語り、秋蘭では分からないことを桂花が補足する形で進められた。

 

「と、言う訳で忠夫は私と華琳様を助けたのだ。まるで、英雄譚に出てくる英雄のようであった。忠夫のその活躍を目にした兵たちは、華琳様には”天剣”がついているなどと言い出す者もいたな」

 

「”天剣”……ですか? どのようにして、そのような話に?」

 

 秋蘭の言葉に、風は経緯を確認する。雛里が深刻な顔をしていないので、横島と天の御使いを直接結ぶような話ではないと思っているが、知っておくべきと判断したからである。

 因みに、雛里はその光景を横島の腕の中にいた為に見ることが出来なかったことを若干悔しそうにしており、澪や朱里は横島の活躍に目を輝かせている。その後ろで、春蘭が桂花に絡んでいるのも見えるが、そちらは無視することにした風である。

 

「誰が言い出したかは定かではないが、天高く跳ぶ黒風と剣を両断する腕前からきているらしい。中には、天の光を受けて剣が光輝いていたからという理由もあったが、元々倚天は華琳様が造らせた剣。兵士たちに支給されている剣とは()()()()で作られているから、刀身の輝きは強い。日の光も他に比べれば反射するだろう。現に私には碧く輝いて見えたしな。まぁ、他にそう見えた奴はいなかったようだが」

 

「それはそれは。風もその光景を見たかったですねー。でも、兵士たちの士気は上がったのでは? まぁ、話を聞く限りほぼ戦闘行為は終わっていたようですが」

 

 秋蘭が見た碧い光については気になるが、それほど気にする必要はないと判断した風は、秋蘭に続きを促す。

 

「うむ。士気は向上した。何より黒風の巨体が跳び上がったのを目撃したのが大きかったのだろうな。あれで完全に賊の戦意が尽きたのか、残った賊たちは抵抗を見せることなく捕縛されたよ」

 

「ここまでの話を聞く限り、特に論功行賞を大々的に行わない理由はないように思えますが? 忠夫様の功は戦の功としては評価しにくいでしょうが、華琳様の命を守ったということで特別に褒章を与えればよい話ですし。順当に、首領などを討った者から順に功を……」

 

 澪の言葉を遮るように、桂花が大きくため息を吐いた後、口を開く。

 

「問題になったのはそこよ。アンタたちはそこの低脳な男と違って軍師のようだから、これから話すことがいかに問題か分かる筈」

 

「問題……ですか。それは気になりますね。まぁ、その前に今後はお兄さんを悪し様に言うのは止めて頂きたいですねー。百歩譲って、この場にいる人たちの前でなら多めに見ましょう。ですが、他の兵士や文官の方々の前で言うことは認めません。貴女も軍師ですから、その理由は分かりますね?」

 

 普段の惚けた雰囲気から一転、真剣に桂花に告げる風。主である横島の評判を不当に下げる行為を見逃すわけにはいかないからである。悪く言われることに慣れている横島は気にしていないが、大勢の前で悪し様に言われれば横島の能力に疑問を抱く者が出ないとも限らない。主を支える臣下としては、見逃せないことである。

 因みに行軍中の桂花の言動についてその場で雛里が指摘しなかったのは、その時点では急遽加わった暫定軍師である桂花より、以前黒風を乗りこなす姿を見た横島の方が評価が高く、横島が怒らずに流していたこともあり、桂花が軍師の地位を得ようと必死に噛み付いているようにしか見えていなかった為である。

 事実、今回従事した兵たちの間では横島は度量が大きいと評判になっている。

 

 

 一方、風に告げられた桂花はと言えば、横島の副官的位置にいた雛里は当然として、風と朱里、澪の鋭い視線に驚いていた。わざわざ華琳がこの場に残し、先の討伐について説明させたことから、華琳の軍師になる為に蹴落とす必要がある人物たちだと認識していた。当然、そのように重視されるからには華琳を崇拝しているものだとも。

 しかし、彼女らの能力を確かめる為に挑発的な言い方をした時、誤りであることに気がついた。彼女らは華琳を崇拝などしておらず、戦働きしか出来ない低脳で、煩悩にまみれた色欲の権化のような男を主と見ているのだと。

 中でも、澪は笑ってはいるが、武に疎い自分でさえ気づくような殺気を放ち、腰にある鞭に手を添えており、返答次第ではと如実に語っている。

 

 桂花は一度短く息を吐くと、澪の動きに注意を払いながら風に返答する。

 

「……別に大勢の前でその男の低脳ぶりをわざわざ語る必要もないし、私がその男を蹴落としに掛かっているなどと勘違いされるのも癪ね。いいわ。兵や文官たちの前で、その男を悪し様に言うことはしないと約束しましょう。大体、私がわざわざ真実を語らずとも、その男が低脳なことには代わりないのだから、何れ真実が露見するでしょうしね」

 

 桂花の返答を聞いた風は、真剣な表情を消し普段通りに戻ると、何処からか取り出した飴を咥え、告げる。

 

「まぁ、良しとしましょうか。澪ちゃん、そういう訳なのでこの場にいる面々の前でのことは大目に見てあげてくださいねー」

 

「大目に見るも何も、その方の言葉など私は気にしておりません。忠夫様が気にされないことに、下僕たる私が目くじらを立てるなどありえません」

 

 絶対に嘘だと、その場にいる大半が思ったが誰も口に出すことはしない。指摘しても、惚けるだけだからである。

 

 これでようやく本題に移れると桂花が続きを語ろうと口を開いた時、今度は華琳が遮る。

 

「じゃ、本題に…「待ちなさい」…孟徳様?」

 

「口約束だけでは甘いわ。丁度、文若には罰を与えなくてはならなかったし……」

 

「罰?」

 

「ええ。此度の討伐は先も説明したように、概ね成功よ。文若の働きも申し分なかったわ。だけど、彼女は私に誓った。兵糧が不足したら、私が文若の命を自由にしてよいと。そして、兵糧は……」

 

「不足したのですか? 戦ならともかく、賊の討伐ならばあの兵糧の数は余裕とまでは行きませんが、不足することはないと思いましたが?」

 

 風の言葉に頷く朱里と澪。それに対し、討伐に加わっていた者たちは苦笑を浮かべる。

 

「一言で言えば、人員の拡充による消費の増加ね」

 

「人員の拡充……まさか、許緒ちゃんが食べ尽くしたと?」

 

「許緒が健啖家であることには違いないけど、それだけなら何とか足りた筈よ。実際には、許緒を気に入った春蘭が戦勝祝い兼歓迎会と称して宴を開いた結果、全員が普段より食べたから。今回ほどではないけど、勝ち戦の場合、帰路の食事の量が増えることは珍しいことではないわ。疲れた兵たちを労うためにね。無論、それを前提に兵糧を用意することはないわ。あくまでも、余裕があればの話よ。ただ、文若みたいに行きと帰りの兵糧だけを用意するなんてのはありえない。今回は許緒だけだったけど、途中で人員が拡充されたり、捕虜を取ることもありえるのだから」

 

 その言葉に項垂れる桂花。今回の作戦立案、指揮等の功で命までは取らないが、罰は与えることは既に告げられていた。

 

「それで、罰とは?」

 

「簡単だけど、とても重い罰。命を失うに等しいかもしれないわね」

 

 その華琳の言葉に、桂花の顔は若干青くなる。彼女には、華琳の告げる罰が何なのか想像がついているらしい。それでも、異議を唱えないのは自分で命を自由にしてよいと華琳に告げたからである。

 

「荀文若。貴女の罰は、ここにいる忠夫を含めた全員に真名を許すこと。そして、忠夫を大衆の前で悪し様に言わないと真名に誓いなさい」

 

 その言葉に絶望を顔に浮かべながらも、命令に従い真名を告げる桂花。それを眺めながら、華琳は続ける。

 

「そして、これは約束の褒美よ。私、曹孟徳の真名を貴女に許しましょう。これからは、華琳と呼びなさい。私の可愛い軍師、桂花」

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき
 遅れてしまい申し訳ありません。次回はなる早でお届けできたらと思います。
 本題というか、発生した問題については次話に。

 倚天の剣関連。兵糧関連。
 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。感想いただけるとモチベーションあがります。
 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。


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十二節 なんて厄介な……

説明回です。ですが、今回の話はあまり重要ではありません。
そういえば程度の、仕込みが少しだけって感じです。


 

 

 

 

 

「さて、桂花ちゃん。問題となったということについて、教えてください。それは論功勲章に影響を与えるものであり、更には今後黄巾党と名乗る賊を討つのに障害となることなのでしょう?」

 

 華琳が桂花に真名を許した後、春蘭、秋蘭と続いたが横島側は誰一人として真名を告げなかった。ほぼ初対面の者に真名を教えることは、通常ありえないことであることを名家の出である桂花はよく知っている為、桂花もそれを不満に思うことはない。

 寧ろ桂花は、春蘭たちと横島側の立ち位置の違いを確信できたので、有益であったと捉えている。何せ、華琳の筆頭軍師となる為の障害が減ったのだから。

 その為、風の問いに桂花は先程までの試すような物言いをやめ、単刀直入に問題について語ることが出来た。

 

「そうね。華琳様が奴らを蹴散らすという点においては障害にはならないわ。私がいるのだし。ただ、当初の予想より討伐に時間が掛かる可能性が高いことが判明したの。いえ、想像以上に厄介と言った方が正確かしら」

 

「ふむ。桂花がいるから……という部分は同意出来んが、確かに時間が掛かりそうだな。何せ、此度の討伐で蹴散らした奴らには()()()()()()()()()()のだからな」

 

 その春蘭の言葉に、風たちは真剣な表情になる。その言葉は、確かに異常事態であることを証明していた。

 

 

 

 

「姉者が告げた通り、首領が存在しなかった。ある程度の集団になれば、自然と皆を纏める存在が生まれる筈なのにな。軍を指揮している者からすれば、異常な状態だ。当然、捕虜とした者たちに尋ねたさ。首領は誰だと。無論、庇い立ては許さんと告げた上でな」

 

「それでも、首領が判明しなかったんだね?」

 

 朱里の問いかけに、雛里が頷く。通りで雛里の表情が優れないわけだと納得するとともに、頭の中で状況を整理していく。

 

「桂花様。私たちは当初、彼らを黄巾党に加わったばかりの農民か、本隊に合流しようとしている集団。あるいは、名を借りた別の集団と予想していました。まずは彼らが何の集団なのか、はっきりさせましょう。彼らは黄巾党ですか?」

 

「黄巾党と名乗ったわ。それも捕らえた全員が。そして、全員が口を揃えて言ったわ。”オレたちは、黄巾党首領である張角様の指令に従った”のだと。そしてこれが、その指令書」

 

 そう告げると、懐から竹簡を取り出すと全員に見えるように囲っていた机の中央に広げる。

 

「そんなものがあったのか……えっと、”歌って踊る旅芸人……”って、何だこりゃ? あ、こっちは地図だ。アイツらがいた城周辺っぽい」

 

 道中、許緒の相手をしていたので竹簡の存在を知らされていなかった横島が最初に覗き込むが、内容が理解出来ず疑問の声をあげる。指令書と聞いていたのに、書かれていることが旅芸人の宣伝なのだから当然である。

 首を傾げる横島の様子を見た秋蘭が話しかける。

 

「どう読んでも宣伝だが、奴らに言わせればそれは指令書らしい」

 

「へ? これが? あ、暗号なのか。ルール……規則を知らなきゃ、本当の意味が分からないってやつ」

 

「それだったら、楽だったんだけどね。捕虜を尋問すればいいんだから。まぁ、その場合暗号を知っている奴を見つける手間が掛かるんだけど」

 

 そう言ってため息を吐く桂花。そんな桂花の様子に風が尋ねる。

 

「暗号ではないのですか? そもそも、指令書を受け取った人物を捕虜に出来ているのなら、その人が賊のまとめ役なのでは?」

 

「指令書を持っていたのは十名。そいつらの話を聞く限り、他に十は同じようなものがあったそうよ。それらを持っていた奴らは全員こう答えたわ。……”字は読めないが、内容は知っている”……と。そして、”それを黄巾党に賛同する者に見せて、内容を伝えろ”と村にやってきた伝令に言われたと」

 

「それは……して、内容は何と?」

 

「”地図にある城で迎えを待て。到着後に攻めてくる官軍に対しては、勇敢に戦え。到着前に見つかった場合は、これを正直に見せろ。根回しは完了している”。細かな言葉は違うけど、大体そんな感じね。指令書はあの城の近隣の村に二つずつ配られたそうよ。そうして、指令書を配られた村から現状に不満を持つ人間が集まり、黄巾党本隊からの指示があるまで篭っていたのが、あの城。そして、呼応しなかった村から、食料を奪って生活していたみたい」

 

 再びため息を吐く桂花。これ以上説明するのも嫌なようである。そんな様子を見て取った秋蘭が、説明を引き継ぐ。

 

「そうして、首領の存在しない賊が誕生した訳だ。暫定の首領を置こうとしたようだが、黄巾党本隊の迎えが来るまで待機するだけなので、不要との意見が多く取りやめたらしい。まぁ、周辺の村の人間の寄せ集めだからな。他の村の人間の下につくのを嫌がったのだろう。だから、首領は誰だと聞いたら、張角の名を挙げる。黄巾党首領である張角の下に、複数の賊集団が集まっているという形にすることで、それぞれの村は同格であるとしていたのだろう。村への襲撃や炊事を持ち回り制にすることで、公平にしていたつもりらしい。その後は先に説明した通り、城に迫る官軍に対する唯一の指示……”勇敢に戦え”を守り、黄巾党首領の名の下に全員で突撃をしてきた訳だ」

 

 秋蘭の説明に呆れた表情をする風たち。出身に拘り、連携を蔑ろにしていのだから、正しく寄せ集めの集団だったのだと。

 同時に、城門を開いた後の全員突撃という展開にも納得していた。

 

 

 

「指令書? を見て集まった人たちのお粗末さは置いておくとして。黄巾党が人を集めているのは確定ですねー。しかし、積極的に勧誘を始めるとは……今までとは集団の性質が変化してきたということですかねー。いよいよ、乱世に突入ですか」

 

 風の言葉に頷く面々。横島と春蘭は分かっていないようだが、空気を読んで同意している。そんな二人の様子を分かっている風たちは、彼女たちに説明していく。

 

「今までの黄巾党は、大人数で集まり漢王朝に否を唱える集会を開くことが主な活動とされてましてー。集会のあと、興奮した信者が暴動を起こすことが度々あり、それに便乗した賊も増えました。まぁ、傍迷惑な集団だった訳ですねー」

 

「ですが、表立って誰も言わない不満を代弁してくれていると民衆の支持を拡大していきました。同時に、集会を止めようとする官軍との衝突も増加。その為、近く討伐令が下るのではと予想されていました。そして、子考様もご承知の通り、今回討伐令が下りました」

 

 風と朱里がこれまでの黄巾党について説明し、雛里と澪が続きを語る。

 

「えっと、自ら勧誘するということは、黄巾党が官軍との衝突を避けるつもりがないと考えられます。寧ろ、今後は積極的に襲撃してくる可能性が高くなりました。伝令の言葉からもそれは感じられます。勇敢に戦え。これは命じた者に、明確に敵対する意図がないと出てこない言葉ですから」

 

「士元様の言われたように、黄巾党はこれからはより明確な目的を持って動くでしょう。今までは主張だけでしたが、今後は力を振るう事を厭わずにそれを行っていくのです。必然、それを鎮圧しようとする官軍との衝突が起きます。今やこの大陸中に信者がいるといわれている黄巾党の武装蜂起。それこそが乱世の幕開けとなりましょう」

 

 更に、桂花、秋蘭と続く。

 

「まぁ、正直ここまでは遅かれ早かれ起きたでしょうね。事前に止めるには、信者が広がりすぎているし、首謀者である張角たちは常に移動していて居場所が分からず、どのような人物かさえも分かっていない。唯一分かっているのは、信者と同様に黄色の布を身につけていることだけ」

 

「無論、我らのように備えていた者たちはいるだろう。しかし、全ての太守たちが備えているかと問われれば、否と答えるだろうな。理由は太守によって様々だろうが、その太守が治める地は荒れるだろう。何より、この指令書が問題だ。農民のほとんどは文盲。読めなければ、伝言と記述された内容の違いに気づく筈がない。仲間を集め終わり、村から移動する際にも役に立つ。官軍に止められたら、指示通り竹簡を見せればいい。文字の読める者にはただの宣伝だからな。黙ってさえいれば、咎められることはない。逆に、彼らに道中気をつけろというだろうな。それを聞いた者がどう思うか」

 

「そうか……官軍に根回ししていると思うのか」

 

「そういうことだ。官軍に根回しが出来る程の勢力になった。または、官軍も今の世を不満に思い黄巾党に賛同していると取るだろうな。そして、城へとたどり着けば、その竹簡が同士の証となる。仲間集めに役立ち、隠れ蓑でもあり、黄巾党への支持を高めるものでもある。同時に、村を廻り竹簡を配っている者にも役立つ。大量の竹簡を所持していることも、村々に配り歩くこともそれを見せて一言告げれば問題ないからな。……旅芸人の宣伝だと」

 

「よく考えてるな。ってことは、黄巾党は旅芸人に変装しているってことか?」

 

「可能性があるとしか言えないわ。確かに旅芸人を隠れ蓑にすれば、集会は簡単に開けるでしょうし、各地を廻ることもそう難しいことではないわ。武装についても自衛の為と言えば、このご時勢だし街へ持ち込みさえしなければ問題にならないでしょう。それに宣伝目的で竹簡を用意するのは手間。そう考えると配られた竹簡の数はそう多くはないと予測できる。わざわざ集めて再利用するとは考えにくいから、最初から偽装目的で用意したと考えた方が自然……なんだけど」

 

 横島の問いに華琳が推理を述べていくが、少々歯切れが悪い。そのことを疑問に思った横島に、雛里が説明する。

 

「気合いというか熱意でしょうか? それが入り過ぎているんです。最初から偽装が目的なら、ここまで文字数を書く必要はありません。ある程度意味が通る文章にすれば十分ですから。その方が、書き写すのも楽ですし……」

 

「そっか、一人で書いたにしても何人かで書き写すにしても、文字数が少ない方が楽だし早いのか」

 

 雛里の説明に納得する横島。コピー機がないということは、量産するには手書きしか選択肢がないのかと。実際には、判子のように文章を彫って押すという方法を取ればこの時代でも文章を量産することは可能である。尤も、それを実行していたとしても雛里が告げたように文字数の疑問はついて回る。

 

「かなり熱意のある宣伝だと仮定すれば、ある程度納得出来るんです。子考様も経験があるかと思いますが、伝言をする際は簡単な言葉を選ぶのが一番です。ただでさえ口頭での情報は変化しやすいのに、言葉を多くすれば予期せぬ誤解が生じる可能性が高くなりますから。偽装するにしても宣伝するにしても、対象となる農民のほとんどは文盲です。読めないと予想がついていながらも、それを考慮しないで書くということは、抑えきれない熱意の証……。そう受け取れば……」

 

「ああ、空回りしているのか……」

 

「それに、他にも気になることがあります。許緒ちゃん曰く、彼女の村ではただの宣伝として配ろうとした人が来たそうです。許緒ちゃんの村の人々は、襲撃してくる賊のせいでそれ所ではないと配られる前に追い返した為、同じ物だったかは分かりません。ただ、歌い踊る旅芸人というのは珍しいですから、同一である可能性は高いですね」

 

「そうなると、本当に宣伝として使っているものがあるってことか?」

 

 訳が分からないと頭を悩ませる横島。そんな横島に、華琳が現時点の情報で考えられるケースを教える。

 

「現段階ではっきりしているのは、そういう手段で黄巾党が仲間を増やしているってことだけよ。首領や黄巾党という組織については、旅芸人の中に首領がいて全員が黄巾党、旅芸人の一部が黄巾党、竹簡を利用されただけで黄巾党と旅芸人が無関係。この三つが候補ね」

 

 そこで一度分かるかと横島に視線を向け、横島が頷くのを確認してから説明を続ける。そんな華琳を見た桂花は、この場で理解出来ていないのが横島(と春蘭)なので、反応を確認しているだけで、特別気にかけているのではないと自身に言い聞かせている。

 

「今回討伐した城には、竹簡を見て合流しようと集まった輩しかいなかったわ。つまり、今回の賊は黄巾党の本隊でも、本隊の指示を受けた分隊でもないということ。黄巾党の思想に賛同して集まっただけ。黄巾党予備軍ってとこかしら。これがどういう意味か分かる?」

 

「え~と」

 

「何だ、そんなことも分からんのか? 簡単なことだ。黄巾党の本隊には全く損害を与えていないということだ。指揮官に相当する人物がいないということは、黄巾党本隊が人を派遣していないということだからな」

 

 代わりに答えた春蘭に意外という視線を向ける横島であったが、春蘭は最高位の軍人である。普段、華琳命で考えるより先に手が出る性格からは想像できないが、軍事の基本は当然抑えている。だからこそ、桂花の時間が掛かるという言葉にも同意したのである。

 

「そういうことね。合流前に私たちが叩いたのか、初めから合流するつもりがなかったのか。前者ならいいけど、後者だと更に問題。官軍に直ちに影響が出る訳ではないけど、あの竹簡と同様の方法を取れば、各地で黄巾党支持の民を集めることが出来るでしょうね。その集まった民に指示を出さない。それだけで、集まった民は官軍への陽動として働くわ。勇敢に戦えなんて指示があれば、尚更ね。これで、首領である張角に辿りつくのに時間がかかることは確実となったわ」

 

「なんて厄介な……。まず、その旅芸人を探すのが一番か? 黄巾党本隊という可能性もあるし、違うとしても宣伝書の入手経路から迫れるんじゃないか? ほら、許緒ちゃんの村は勧誘しないで宣伝だけする奴が来たんだろ? そいつを捕まえられれば……素直に案内すれば白。逆に案内しないようなら、黒ってことだろ?」

 

「そんなのとっくに指示したわよ。大体、許緒が何でいないと思ってんの? 村で人相書きを書かせ、追跡させる為に決まってるじゃない。これだから、男は……」

 

 キツイ口調で告げる桂花だが、ある意味慣れている横島はそれを無視して、話を続ける。

 

「ってことは、許緒ちゃんがソイツを追うのか?」

 

「いえ、彼女は村への繋ぎ。出来上がった人相書きと共にここに戻ってもらうわ。探索を行うのは、許緒に同行している兵たち。それも、数日の探索で切り上げさせるわ。ある程度足取りを掴んだら、その後の情報収集は……」

 

「私……ですね?」

 

「そうよ。無論、既に暴れている黄巾党の情報の整理はこちらで行うわ。ただ、旅芸人たちに関する情報収集と分析は澪に任せたいの。こちらからも人を出すし、澪を借りても構わないかしら? 忠夫?」

 

「ああ、オレは構わんが……」

 

 何故自分に聞くのだろうと首を傾げる横島であったが、別に文句がある訳ではないので同意する。その後、華琳が澪に確認し、澪が同意したことで澪が旅芸人関連の情報を一括して収集、分析することが決まる。

 同時に、桂花は華琳がわざわざ横島の確認を取ったことや、澪が受諾した時に自分に向けられた視線の意味を考えていた。

 

(わざわざ、あの男に確認を取るということは……司馬仲達たちがあの男直属の部下だから確認を取った? でも、それだと華琳様は何故私に視線を送った? 私にあの男と仲達たちの関係性を教える為? それなら、先程の仲達の殺意で十分に分かって……そうか! 華琳様は仲達たちを動かす方法を私に教えてくださったんだわ! そう考えると、あの変態男も役に立つわね……)

 

 そう納得した桂花は、華琳に対して軽く頷くのであった。

 

 

 

 澪に任せることを決めると、次に華琳は明日のことについて説明しだす。

 

「論功行賞は大々的に行わないけど、明日太守の間で忠夫に大々的な褒賞を行うわ」

 

「え?」

 

 思いもよらないことに言葉に詰まる横島。説明してくれと告げる横島とは違い、風たちは予想していたらしく驚いている様子もない。華琳の言葉を待っているという点では一緒なのに、対照的な反応をする彼らを面白そうに見た華琳は、横島に理由を説明する。

 

「今回の討伐は実質的なまとめ役さえ不明瞭な賊だったわ。だから、戦の功で褒賞を決めにくいの。通常なら、討ち取った相手の階級、戦への貢献度なんかを総合的に判断して決めるけど、今回の相手は全員同じ階級。貢献度に関しても、別働隊の指揮を執った春蘭と秋蘭と、策を練り指揮を執った桂花では大差といえる差はないわ。何より、あの程度の賊の討伐で大々的に褒賞を行えば、今後増えるであろう賊退治の度に財政を圧迫することになるもの」

 

 その言葉に納得する横島。先程まで、黄巾党が同様の方法で人手を集めるだろうと話をしていたのだから、当然今回と同じような討伐が起こることは予想できる。

 

「だから、兵たちには金を一律。桂花への褒章は軍師として取り上げること。春蘭、秋蘭は兵より少し多い程度の金ね。明日それを通知して終わりよ。でも、忠夫は違う」

 

「まぁ、三人に比べたら大したことはしてないからな」

 

「私の命は大したことないと?」

 

「や、そんなことは言わんが……あれは華琳の方に飛んだってだけであって、オレが斬らんでも大丈夫だったような気もするし」

 

「誇りなさい。忠夫はこの私を……大陸の未来を救ったのだと」

 

 己こそが大陸の未来だと語る華琳に、凄い女性だと関心する横島。そんな人物を救ったのだと考えると、横島も少し気分が良くなってくる。その様子を見て取った華琳は、話を続ける。

 

「だから、忠夫は大々的に褒賞を与えるの。まぁ、半分は士気の高揚が目的だから、忠夫は大袈裟に考えず、黙って受け取ればいいのよ」

 

「一発芸とかは?」

 

「ダメに決まっているでしょ。ただ、褒賞を与えるという行為は大々的に執り行うけど、褒賞自体は大したものではないわ」

 

「あ、そうなんだ」

 

「ええ。屋敷の贈与と侍女の補充。それと金を幾ばくかってとこね。まぁ、屋敷は今住んでいるところを贈るって形になるし、侍女についても実質的には澪の部下ね。さっき、情報収集で使う人間を出すって約束したでしょ? 金は春蘭たちと同じくらいを考えているけど、何か不満ある?」

 

「えっと、オレはない……けど」

 

 横島がそう言うと、華琳は横島を意外と謙虚な男だと受け取っている為、横島の臣である風たちにも確認する。彼女たちからも異論があがらないことを確認すると、華琳は後は各自休むように告げて今日のところは解散するのであった。

 

 

 

 

 

 ――その頃、○○――

 

 冀州のある平野に設置された天幕の中で、数人の人物が会話をしていた。

 

「頭。いくつかの空き城に、人を集めることに成功したと連絡が」

 

「そうか……。これで当分の時間稼ぎは可能か。後は見所のある奴を選抜しないとな。それと、ここでは親衛隊長だ」

 

「すいません、親衛隊長。それで、選抜は何処から? 遠いとこは、選抜前に潰されてるんじゃ?」

 

 親衛隊長と呼ばれた男は、顎に手をやり考える素振りを見せる。それを見て尋ねた男とは別の男が、親衛隊長に提案する。

 

「簡単に潰されなかったとこから、選抜すればいい。どの道、当分の間は合流することは出来ない。ならば、その間自力で持ちこたえることが出来たところを迎えいれればいい」

 

「そうだな。後の問題は、誰を使いに出すかだが……」

 

「あ、頭! そろそろ、時間ですぜ!」

 

「だから、親衛隊長と呼べと言っているだろがっ! では、本日はここまでだ。皆、全力で応援するぞ!」

 

「「「おーーー!!」」」

 

 天幕を突き破らんばかりの声を上げる男たち。彼らは一様に黄色の布を身につけ、それぞれ人名の書かれた竹簡を手に、外に設置されている舞台の最前列へと駆け出すのであった。

 

 

 

 

 




あとがき
 遅れてしまい申し訳ありません。次回はなる早でお届けできたらと思います(二回目)。
 今回の話は前書きでも書きましたが、あまり重要ではありません。恋姫の黄巾党の成り立ちを太平要楽の書と関係なく説明したりしていますが、拙作ではこんな感じなんだと思って頂ければ。

 竹簡、成り立ち等黄巾党関連。
 これらは拙作内設定です。

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十三節 ただいま戻りました

今更ですが、本作は魏√とは多少展開が異なります。


 

 

 

 

 

 先日の討伐の褒賞として正式に華琳から譲り受けた屋敷の前で、朱里と雛里の二人は人を待っていた。

 

「朱里ちゃん! 雛里ちゃん!」

 

「「瑠里ちゃん!」」

 

 大きく手を振りながら駆け寄る瑠里。当初の予想よりは短い期間ではあったが、約二ヶ月ぶりの再会とあって三人の顔は笑顔である。

 手を取り合い喜ぶ三人だったが、いつまでも喜んでいる場合ではないと、瑠里が口を開く。

 

「色々聞きたいこともあるけど……まずは報告を。私を連れて行ってくれるかな?」

 

 その言葉に雛里と朱里の二人も真剣な顔になり、頷くと城内で待つ横島たちの元へと瑠里を案内するのであった。

 

 

 

 

 

「徐元直、ただいま戻りました」

 

 二人に案内され、城内で横島に割り当てられた部屋で瑠里は横島たちと再会する。部屋には横島以外に、風、華琳、澪に横島専属侍女である白寧の姿があったが、瑠里は彼女たちを気にせず主である横島に帰参の挨拶をする。

 

「お帰り。無事でよかったよ」

 

 朗らかに笑いながら応じる横島に、幽州やこれまでの疲れが癒されるような気がした瑠里は小さく笑みを浮かべる。しかし、この場には華琳たち初対面の人物がいる為、すぐに気を引き締めると彼女たちに挨拶をする。

 

「徐元直と申します」

 

「曹孟徳よ。皆から貴女の話は聞いているわ」

 

「司馬仲達にございます。以後、宜しくお願い致します」

 

「子孝様付侍従、満白寧と申します。今は主に城外にある屋敷の管理を行っております」

 

 簡単に自己紹介をすると、白寧が一礼し部屋から退出する。これから先は侍従が聞く話ではない為、城外にある屋敷へと先に戻ったのである。城内に部屋を割り当てられた横島たちだが、現状では休憩に使う程度で生活拠点は変わらず屋敷の方である。

 

 

 

「さて、元直ちゃんの話を早速聞きたい所ですが……まず、こちらの現状から説明した方が良いでしょうねー」

 

「お願いします」

 

 風により、横島たちの現状が語られていく。幽州を発った後、基本的には陳留での合流を優先していた瑠里は、一箇所に長く留まる事をしなかった。つまり、自身の状況を手紙で知らせることは出来たが、朱里たちからの近況を知ることが出来なかった訳である。

 その為、風の語る現状は初耳なことが多く、瑠里はかなり驚いていた。

 

「では、今後は曹仁子孝という名で通す訳ですね? そして、この場にいる人は全員子孝様の真実を知っていると。他に知っている方は?」

 

「私の家族は知っていますが、既に口止めは完了しています。ああ、元直様がお会いになった姉は別です」

 

「城内にはいないわね。秋蘭や桂花たちには何れ教える必要があるとは思うけど、今はその時ではないもの。そういえば、白寧は知っているの?」

 

「知らせていません。しかし、折を見て知らせようとは思います。それで構いませんね、忠夫さん?」

 

 風の言葉に軽く頷く横島。風がそうした方が良いと判断したのなら、それで構わないようである。そんな二人の関係を、瑠里は羨ましそうに見ていた。そして、同じく羨ましそうな顔で彼らを見ていた二人に視線を向ける。

 向けられた二人も瑠里の視線に気づいたようで、軽く頷くと横島たちの前に三人で並び立つ。その三人の様子に、横島以外は何が始まろうとしているのか分かったようで、壁際に移動する。それに感謝しながら、瑠里は横島に話しかける。

 

「子孝様。ご報告の前に、しばし時間を頂けませんか?」

 

「いいよ。ちょっと休憩しようか。元直ちゃんも着いたばかりで疲れているだろうし……」

 

 横島の気遣いは嬉しいが、そうではないと否定する瑠里たち。違ったのかと首をひねる横島の姿に、肩の力が抜けていくのを感じる三人。緊張していると自覚していたが、思っている以上に緊張していたようだと小さく笑う。

 そして、一つ大きく息を吐くと横島を真っ直ぐに見据え言葉を紡いでいく。

 

「姓は徐、名を庶。字は元直。真名を瑠里」

 

「姓は鳳、名を統。字は士元。真名を雛里」

 

「姓を諸葛、名を亮。字は孔明。真名を朱里」

 

 

「「「未熟な身ですがどうか我らの真名をお受け取りください、ご主人様!」」」

 

 

 

 

 

 ――その頃の彼 その1――

 

「どうかされましたか、ご主人様?」

 

「ちょっとね。新しく兗州牧になったって言う曹操って人が気になってさ。どんな人物か愛紗は知っている? 出来れば、どんな人物が配下にいるかを知りたいんだけど」

 

 幽州の一部で噂される義勇軍。その大将である天の御使い、北郷一刀の問いに愛紗と呼ばれた美女は少し考えてから答える。

 

「配下……ですか。私が知っているのは、腹心に文武に優れた姉妹がいるという程度ですね。曹孟徳殿は黄巾党討伐の功績で兗州牧に昇格したそうですが、元は陳留の太守です。本人の能力や方針は聞こえてきても、配下の話となると……」

 

 愛紗の言葉に残念そうな表情を浮かべる一刀。それに気づかず愛紗は続ける。

 

「その姉妹の活躍で、彼女が元々治めていた陳留付近の賊は一掃されたと聞きます。彼女たちの活躍が目立って注目されていない有能な人物がいるのかもしれませんが……」

 

「そうか。ありがとう、愛紗。そういえば、さっき桃香が探してたよ」

 

「桃香様が? 分かりました、私の方でも探してみます」

 

 そう言って歩いていく愛紗を見送りながら、一刀は考える。

 

(曹操の腹心で姉妹ってことは、夏侯惇と夏侯淵か? 知っている歴史より早く曹操が州牧になっているし、孫堅は既にいない。徐庶は曹操が治めていた陳留に行った。劉備が趙雲と初めて会ったのは確か、袁紹と公孫賛が戦っている時だし。歴史の出来事が、少し形を変えて前倒しになっているのか……)

 

「それにしても、オレが孔明のポジションってのはな」

 

 そう呟くと、一刀は公孫賛から徐庶が母のいる陳留へと向かったと聞いた時のことを思い出していた。

 

 

 

『そうそう、北郷。釣り野伏せのこと以外にも元直が言っていたぞ』

 

『徐庶が?』

 

『ああ。何でも、お前は伏した龍なんだと。それで今日、伏せることをやめたお前がこの先の乱世の中で黄龍と変わるのかを見極めるってさ』

 

『オレが……伏龍? 間違いなく徐庶が言ったのか?』

 

『ああ、一言一句間違いなくとは言えないが……大体そんな感じだったぞ?』

 

『オレが……』

 

 

 

 その後、公孫賛の元を離れた一刀たちは幾つかの戦場を経験し、徐庶のアドバイス通り釣り野伏せに磨きをかけていった。そのような中で、一刀は己が定めた役割――諸葛亮孔明――を果たし、自信を深めていくのであった。

 

 

 

 

 




あとがき
 水鏡三人娘の真名交換回です。その頃シリーズは一刀Side。こっちの方が書き易かったのは秘密です。
 あと今更ですが、華琳の役職が陳留太守となっています。まぁ、今回から兗州の州牧になりましたが。原作では兗州牧だったかは忘れましたが、拙作では兗州ということで。


 横島の偽名。華琳の役職。
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十四節 御心のままに

リハビリ中。


 

 

 

 

 

 

 瑠里たち三人が真名を告げ、それに横島が応える。その際、横島がご主人様呼びに予想以上に戸惑っていたことに気づくが、改めるつもりのない三人は続いて風と真名を交換する。

 その後、朱里と雛里の二人は澪と華琳とも真名を交換するが、この時が二人と初対面の瑠里は流石に交換しようとはしない。華琳もそれは同じであったが、澪は忠夫が真名を告げるのならと瑠里にも真名を告げる。そのことに驚く瑠里に、澪が説明する。

 

「確かに私は元直様とは初対面。元直様が驚かれる理由は十分に理解できます。事実、以前までの私なら真名を明かすのは相応の信頼関係の構築が完了した後でしょうから。しかし、今の私は忠夫様の従僕。私が忠夫様に隷属する者である以上、忠夫様と真名を交換した貴方様に我が真名を明かさない理由は見当たりません」

 

「えっと……?」

 

「瑠里ちゃん、澪ちゃんはご、ご主人しゃまへの隷属を魂に誓ってるから……」

 

 戸惑う瑠里に、雛里が説明するがその説明を聞いてますます混乱する瑠里。朱里や風にも視線を向けてみるが、彼女たちは静かに首を横に振るだけ。どうやら、それで納得するしかないようだと瑠里は悟るのであった。

 

 

 

「では、瑠里ちゃん。貴女が見た洛陽の現在と……幽州で見たことについて報告をお願いします」

 

 澪のことには慣れてもらうしかないと判断した風は、瑠里にこれまでのことを尋ねる。それにより、真名交換の時とは別の緊張感が、その場を満たしていく。澪に戸惑っていた瑠里は、全員の注目を浴びたことで一瞬たじろいだが、意を決して口を開く。

 

 

「……洛陽に関しては、書簡で伝えた通りです。民に多少の不満は見られましたが、地方に比べれば裕福なこともあり声高に不満を訴える者はいません。予言に関しては噂話程度。内容も他の街などで広まっている予言に比べると、かなり薄い内容ですね。なので、”天の御使い”に期待を寄せる民も危機感を持つ役人も私が探った範囲ではいませんでした。ただ、”天の御使い”の話を表立って口にしていないだけなのか、情報が操作された結果なのか……内容が内容なのであまり探れませんでした。申し訳ありません」

 

「それは仕方ないですね。瑠里ちゃんの目的地は””が現れる幽州。洛陽に関しては、現状確認で十分だと風も思っていましたし」

 

 風と同意見だと朱里、雛里の二人も頷く。瑠里としても予言に関しては事前に予測していた通りの結果ではあったのだが、いざ報告するとなるとそれなりに不安に感じていたらしい。肩から力が抜けていくのを自覚する瑠里であった。

 そこで瑠里の情報を捕捉するように、澪が今まで集めた情報と自身の考えを語りだす。

 

 

「私が集めさせた情報も、元直様と同じようなものです。商家、役人、兵たちは余程頭の足りない者でない限り、表立って不満を口にしません。現体制に思うところがあると受けとられれば、それを口実に今の立場から追われる。洛陽とはそういう場所ですから。ただ、洛陽に暮らす民は別です。そちらは情報操作の結果……首謀者は姉でしょうね。本来の予言が広まる前に、大幅に内容を削ったものを広めたのでしょう。その方が早く多数の民に認識されますし、くだらない噂だと一度認識したものにそれ以上興味を持つことは少ないですからね。予言に関してはそれで情報を操れます」

 

 澪の言葉に頷く瑠里。澪の姉である司馬伯達とは洛陽に来てすぐに話をしたが、その程度は難無くこなすだろうと見ていた。

 

「私は彼女と街中で会い、短い時間ではありましたが意見を交わす機会を得ました。その中で私は彼女が私たちと同じ予測をしていると確信しました」

 

「予測? それって、瑠里ちゃんたちが乱世が来るって言ってたやつ?」

 

「は、はい。ご、ご主人しゃま! あ、いえ、正確にはその先で……」

 

 今まで冷静に淡々と言葉を紡いでいた瑠里であったが、横島に対しては緊張したのか言葉を噛んでしまい、恥ずかしさから顔を両手で覆ってしまう。そんな親友を朱里と雛里が気持ちは分かると落ち着かせようとする。

 

「大丈夫、落ち着いて瑠里ちゃん。まだ、ご……主人しゃまって呼び方に慣れてないんだよね」

 

「雛里ちゃんもそこだけ声小さいし、詰まっているよ……。ご主人様ってとこ」

 

「朱里ちゃんも声が裏返っているよ……。でも、二人ともありがとう。ご、ご主人様ってあんなに呼ぶ練習したんだから、次はきっと大丈夫」

 

 見た目幼い彼女たちが肩を寄せ合って、励ましあう姿は微笑ましいものがあるが、今はそれを愛でる場ではないと華琳が続きを促す。

 

「ほら、忠夫に説明しないの? 元直」

 

「あ、はい。今ご説明します。ご主人様が言われた乱世の到来が近いという点も当然そうなのですが、この場合はその先も同じ予測を立てていると確信したのです」

 

「予測?」

 

「はい。私たちはこう予測しています。今の漢には乱世を防ぐ術も、乗り切る体力も無い……と。つまり、漢という国の崩壊は近く、それを防ぐ術が無いに等しいという予測です」

 

「無いに等しい?」

 

 瑠里の言い回しが気になった横島が質問すると、少し嬉しそうな顔をする瑠里。彼女が最後に横島と話をしたのは数ヶ月前。行動を共にした日々より長い期間であるが、すべては主である横島とのこの瞬間の為にと行動してきたのである。

 

「はい。皆無ではありませんが、それを為すのは極めて厳しい。そういう状態です。様々な要因がありますが……それについては、後ほど興味がありましたらご主人様の……寝所で

 

「それで、確信した後はどうしたのですか? 瑠里ちゃん」

 

 風が瑠里の言葉に被せるように問いかける。そのせいで横島には瑠里の言葉の最後の方が聞こえていなかったが、瑠里が何でもないとすぐに話し始めたので横島が追求することなく話は再開された。

 

「私は彼女が今後どうするつもりなのかを尋ねました。今の漢臣という立場は何れ失われます。それは彼女も自覚している。それなら彼女を勧誘できるかと思ったのですが……」

 

 そこで一度言葉を切る瑠里。踏み込みすぎたかと恐々としていた自身に対し、穏やかに微笑みながら答える彼女の姿を強く思い浮かべながら、彼女の言葉を瑠里は告げる。

 

 

 

 

 

『今後ですか……そうですね。仕官した時はもしかしたら再び太陽を昇らせることが出来るかもと思いましたが……結局、私一人では太陽の沈む刻を僅かに遅らせることしか出来ませんでした。まぁ、自然の摂理に逆らうに等しい難事ですからね。予想はしていましたが、我が才ではそれを為すには至らなかった。そんな私に出来ることなど高が知れています。そう思った時にこう考えたのです。……日没は避けられない。それならば、洛陽に暮らす民が穏やかに日没を迎えることが出来るように努めるのも一興ですね……と』

 

 

『それもあと少しで終わりそうですし……その後は、そうですね……』

 

 

『数多の火が生まれ消えていく様を眺めましょうか。新たな太陽が生まれ天頂へと昇り往く……その道程を。本当は太陽を導く大役を果たせるといいのですが……それを為せる能力が今の私にあると自惚れてはいません。何せ、今の私では何処の方角から太陽が昇るかすら見当がついていませんから。ただ、己を照らす太陽が定まったその時は……その陽光を民に届ける手伝いくらいはしたいですね』

 

 

 

 

 

「彼女は終始穏やかな表情でそう言いました。僅かな交流ではありましたが、彼女をその場で勧誘しても意味がないと理解するにはその表情だけで十分でした。その後、仲達さ……澪ちゃんを推挙する書簡を預けて彼女は去って行きました。もしも妹を得ることが出来たなら、天頂に輝くのは私……いえ、私たちの太陽になるだろうと添えて」

 

 瑠里が語る司馬朗の言葉。それを聞いて横島と澪以外の面々が抱いた彼女の印象は様々であったが、共通していることもあった。それを口に出したのは、筆頭軍師(予定)の風であった。

 

「情報操作の手腕を考えると厄介であり、面倒。ですが、瑠里ちゃんのお話を聞く限りは無害……今のところは……ですが。無害な内に対処したいですねー」

 

「えっと、私も風ちゃんに同意です。無害でいてくれる間に彼女と接触すべきでしょう」

 

「そうだね、雛里ちゃん。瑠里ちゃんが勧誘をしなかった理由は分かるし、それは正しかったとは思うけど……今はその時と決定的に違うことがあるからね」

 

「そうね。出来れば私のとこに欲しいところだけど……敵に回らないのなら忠夫のとこでも構わないわ。今なら澪を使えば接触は容易でしょうし」

 

 華琳の言葉で澪に視線が集中する。視線を受けた澪は、常に浮かべている微笑みを珍しく曇らせながら言う。

 

「分かりました。実家経由で話を持ちかけてみましょう。ただ、私が知るままの姉であるならば、当分の間は返事も返さない可能性が高いですし、少なくとも乱世がある程度落ち着くまでは放って置いても問題はないと思います。姉は我が道を定めるとそれを完遂することに集中する気質です。元直様に語られたことから考えても、今の洛陽で為すと決めたことを終えるまでは、次のことなど考えもしないでしょう」

 

「私も彼女と話しているときにそれは感じました……だからこそ、その場での勧誘は諦めました。ですが同時に、妹さんたち……中でも澪ちゃんを高く評価していることもよく分かりました。その澪ちゃんの薦めならば、応じる可能性はあると思いますが?」

 

 澪に視線でどうなのだと問い掛ける瑠里。それに少し考える仕草をして、澪は答える。

 

「やはり変わらないと思います。姉が私たちを評価しているのは確かでしょう。ですが、家族の誰が話を持っていったとしても、何れはということならともかく、今すぐ仕官するという可能性は非常に低いと思います。姉は家族を大事にしていますし、私たちからの話ならば他の者よりも重視はするでしょうが……。私や皆様と同じく、姉も自らの意思を何よりも重視する人間」

 

 そこまで言うと澪は、横島、華琳と順に視線を向ける。

 

「私が忠夫様に隷属するよりも前の話になりますが、”司馬家”を求める方々から仕官の話と言うのは絶えずありました。母に対してのものが主でしたが、次に多かったのは当然長女である姉に対してです。華琳様のように一家全員に声を掛けるという方もいました。その中から姉が自分で選んだのです。数多ある仕官先から、漢という最も苦難多く実り少ない場所を。その様な姉ですから家族の薦めだけでは、例え次の太陽を見定める為であっても今の場所でなすと決めていることを終えずに、こちらに赴くことはないでしょう」

 

 無論、こちらの情報は優先的に集めていることでしょうが、と澪は結ぶ。

 その澪の言葉に面白そうな表情を浮かべる華琳。水鏡女学院出身の三人はどう扱うべきか頭を悩ませ、横島は相槌を打ってはいるが何処まで理解しているのかは怪しい。

 そんな横島の様子を見た澪は、横島に問い掛ける。

 

「何処か分かりにくいところがありましたでしょうか、忠夫様」

 

「えっと、澪のお姉さんを今は勧誘しても難しいってのは分かったんだけどさ。さっきからちょくちょく出てくる太陽ってのは……? 流石に比喩ってことは分かってるけどさ」

 

 その横島の言葉にしまったという顔をしたのは瑠里である。司馬防の言葉をそのまま伝えたのだが、太陽が何を意味するかは大陸に住む者ならば予測がつくだろうと補足せず話を続けてしまった。他の皆の見解を気にする余り、空気を読んで尋ねなかった横島を無視する形になってしまったことに気づいたからである。

 そんな落ち込む瑠里を朱里たちが自分たちも気を回せなかったとフォローしているのを横目に、澪は横島へと説明する。

 

「申し訳ありません、忠夫様。姉の言葉をそのまま使っておりました。この場合の太陽と言うのは、大陸の支配者を意味します。今の支配者は漢の皇帝。遠からずその立場を失することは明らかですが、漢の臣という立場ではそれを口に出来る筈もありません」

 

 視界の端で”今はまだ”漢臣である華琳が苦笑しているのが見えるが、既に彼女も同意見であることは聞いているし、咎める気もないことは知っている。澪は言葉を続ける。

 

「故に、太陽と例えて元直様に話したのです。日没とは支配者がいなくなること、乱世から群雄割拠の時代へと移ることを意味し、太陽が昇るというのは新たな支配者が君臨するということです。そして、太陽の方角云々というのは、候補となる勢力が複数あるということになります。姉は、どの勢力が一番力があるのか現状では判断できないと考えているのでしょう」

 

 そこで改めて横島を見る澪。横島の顔に納得の表情が浮かんでいるのを確認すると、先程までの話へと戻る。

 

「先も申しましたが、姉を今すぐこちらにという可能性は低い。ですが、いずれこちらに……という話なら簡単です。私からの書が姉の手にあるのなら、姉の性格からして日没を見届けた後、最初に訪れるのは此処です。その時、姉がどう判断するかまでは分かりませんが、次の太陽が決まるまで敵対しないように説得することは可能でしょう」

 

「それが可能なのであれば、やはり澪ちゃんに頼みましょうかね」

 

 そう軽く言いながら風は、周囲の面々に視線を向ける。全員が反対しないことを確認した風は、横島にどうぞと促すように彼の背中を押し澪の前に移動させる。

 一瞬、皆の視線を集めていることに戸惑った様子を見せる横島であったが、先程までの流れから澪に何を言うべきかは分かっていた。一度、小さく息を吐くと、いつの間にか跪いていた澪を真っ直ぐ見据え横島は彼女に告げる。

 

 

「彼女――司馬伯達殿の勧誘を頼む」

 

 

「御心のままに」

 

 

 横島の言葉に、澪ははっきりと答えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――その頃の彼 その2――

 

 劉元徳――真名を桃香という少女は、ご主人様と呼ぶ男が幕舎の前で手にしている枝で、地面に何かを描いている様子に首を傾げる。

 

「あれ? ご主人様だけ? 愛紗ちゃんや鈴々ちゃんは?」

 

「ああ、桃香か。二人なら……調練に向かった筈だよ」

 

 義勇兵として、幽州太守公孫賛の下から独立した”白の御使い”一行は、未だ州都に程近い平原に幕舎を張り留まっていた。劉元徳――桃香――のカリスマと、先の勝利で得た名声を最大限利用して募った新たな仲間との訓練を優先したから――というのが表向きの理由である。

 その真の理由は、予想以上に早い独立となった為に次に向かうべき場所が定まっていなかった為である。

 

「なぁ、桃香は何処へ向かうべきだと思う?」

 

 地面に描いた大陸の地図のようなものを枝で指しながら言う”白の御使い”――北郷一刀の言葉に、桃香は少し悩み答える。

 

「う~ん。今のところ幽州は大丈夫なんだよね?」

 

「そうだな。幽州の黄巾賊がこの前ので最後ってことはないだろうけど、趙雲と公孫賛がいるんだ。大した賊の目撃情報もないようだし、ここは任せてもいいと思う」

 

「だったら、冀州か并州のどっちの方に行くかってことだね?」

 

 ”幽”と書かれた四角に接するように描かれている”冀”と”并”を見ながら、一刀に問い掛ける桃香。

 

「ご主人様はどっちがいいと思うの?」

 

「幽州の現状から考えると、黄巾賊が入ってくるなら冀州からってことなんだと思う。接している州境の長さで言えば并州より長いからね。それを食い止めながら、どう進むか。連戦する体力は今のオレたちにはない。道々仲間を増やし、訓練を重ねないとダメなんだ」

 

「そうだね。となると、冀州の州都から遠いとこを回るのはどうかな? 州都から遠いとこなら、官軍の手が届き難いから困っている民も多そうだし、私たちの仲間になってくれる人も多いと思う」

 

 その桃香の提案に頷く一刀。一先ず幽州と冀州の州境を目指し、冀州に入ったあとは州都を迂回するように海沿いを進むことに決定する。

 それを仲間たちに知らせてくると走っていく桃香の後ろ姿を見送る一刀。その後、地面に描いた略地図に目を落とす。

 

「冀州と兗州の境……平原。進行の早いこの世界で、平原に行くことに何処まで意味があるかは分からないけど……。一時でも拠点に出来れば、後々役立つ筈」

 

 そう呟いた後、両頬を軽く叩き背伸びをする一刀。頑張ろうと、自分に言い聞かせ彼も桃香の後を追っていく。

 

 

 白は徐々に碧へと近づいていく。

 

 碧が白を塗りつぶすのか。白が碧を塗りつぶすのか。

 

 結果を知る者は一人もいない。ただ、二色が邂逅する時は近い。

 

 

 

 




あとがき
 長らく更新出来ず申し訳ありませんでした。当初の予定から遅れに遅れましたが、ようやく更新出来ました。
 気づけばほぼ司馬朗さんの話題に。彼女に関してはさらっと流す筈だったのに、どうしてこうなったしまったのか。
 次話こそは、瑠里ちゃんの報告幽州編の筈。

 横島の偽名。司馬朗関連。
 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。感想いただけるとモチベーションあがります。
 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。


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十五節 普通の太守

リハビリ中


 

 

 

 

 

 

 横島の命令の後、恍惚とした表情を浮かべている澪を横目に瑠里の報告は再開される。

 

「幽州はどうでしたか? 白馬長史――公孫賛伯珪さんは?」

 

「公孫太守ですか。そうですね、端的に評価するならば……領地が幽州以外であったなら世に広く名君と評されたであろう人物……でしょうか」

 

 瑠里の言葉を聞いた横島は理由が分からず首を傾げる。そんな横島と違い理由を察している朱里たちではあったが、瑠里の評価が自分たちの想定以上であったことに驚く。それは今まで公孫賛に対し取るに足らない人物だと評価していた華琳も同じであった

 

「民に気を配り、彼らのために善政を執る意思も能力もある。何より、白馬長史の名が知れ渡るにつれ争いも少なくなっています。かつては異民族との争いが絶えず、お世辞にも生活水準が良いとは言えなかった地ですが、今は一般的な暮らしより少し劣る程度までになっています。通常なら、この時点で名君といわれても不思議ではないでしょう」

 

 先ほどの失敗から、横島が理解できているか様子を見ながら語る瑠里。頷いている横島の様子から続けても問題なさそうだと、続きを語る。

 

「通常ならば、高く評価されて良い筈ですが……。残念なことに、彼女は部下や民からの人気がいまひとつなのです」

 

 横島としては人気が出ない理由が分からない評価なのだが、他の面々はそうでもないようで静かに聴いている。

 劉備たちに民を連れて行かれた後、民からの評判を聞き疲れた顔に引きつった笑みを浮かべていた公孫賛を思い出しながら、瑠里は言葉を続ける。

 

「異民族の侵略を許しておらず、散発的に発生する賊も速やかに討伐している。民の生活や財政も商人を登用し交易を進めることで、少しずつ向上している。彼女は赴任してから成果を出し続けているのです。しかし、その成果は陳留のように大々的なものではありません。また、南陽のように前任者と比べて急激に負担が増えた訳でもありません。故に民は、公孫太守に関して悪くはしないが良くもしない太守――”普通の太守”――と評され、民の人気を得られてません」

 

 ”普通の太守”公孫賛伯珪。その名は確かに横島に刻まれたのであった。

 

 

 

「性格については、基本的に温和で人が良い。太守としては少々寛容が過ぎるとも思えますが、ただ甘いだけではなく、きちんと厳しい一面もあります。人に助言を惜しむ性質ではなく、自分の為ではなく相手の為に苦言を為す。気質だけをみるなら、人を導く役職が一番向いている人間でしょう。えっと……太守や州牧、将軍のような集団の長じゃなくてですね……教官や教師のような人に教える職の方が向いているってことでしゅ」

 

 横島に分かりやすいようにと具体例を挙げて語る瑠里であったが、事前に分析していたことを淡々と報告することに比べると色々と考える必要がある為、所々言葉に詰まったり噛んでしまう。

 

「先も申し上げた通り、気質のみを見た場合の向き不向きの話であり、決して彼女の能力が太守や将軍を務めるのに不足しているという訳ではありません。将軍としての例で言えば、白馬義従を編成し指揮運用していますから。白馬義従は恭順した異民族を中心に編成した騎馬隊――つまり、異民族と漢民族の混成部隊。それを天下に知られる精鋭部隊に仕上げ、正確な指揮と迅速な運用で恭順せずに侵攻を続ける異民族を壊滅に追い込む。部隊の統率に調練……どちらもかなりの能力がないと出来ないことです」

 

 ですので、と瑠里は続ける。

 

「単純に能力だけで見るなら、”脅威”の一言に尽きます。軍事、政治の両方をほぼ一人で執り行い、今日まで幽州の治世を崩壊させていない。有能な配下が不足している為、自分がやるしかないと本人は語っていましたが……」

 

 一気に語っていた瑠里であったが、ここで一度息を吐く。彼女の脳裏には、人材不足だと幾度と無く愚痴を零す公孫賛の姿が浮かんでいた。

 

「太守とは文官と武官の統率者です。ご、ごしゅ、ご主人しゃまも曹太守様のお仕事を見たことがあると思いますが、調練や軍事計画の作成などの武の方面は将軍職の方に、内政に関しては文官の方にそれぞれ指示されていると思います。そして、配下の報告を受けて可否を判断し、取るべき方策を決定していくのが太守の主な仕事となります。それさえも一人ですることは稀といえるでしょう……ご主人様の場合ですと……そ、その私たちのような……じゅ、重臣となる人物と協議して決めていくのが通常かと。曹太守様にもそのような人物がいるかと思います」

 

 瑠里の言葉に横島が思い浮かべたのは春蘭、秋蘭、桂花の三人。他にも華琳から指示されたり、報告している人間を多数見ているが、華琳にその三人が特に重用されていることは横島にもよく分かっている。

 

「あー、華琳だとあの三人か。あいつらも華琳に報告したり部下に指示したり結構忙しそうだよな」

 

「公孫太守には、そのお三方のような方はいないのです。更に言えば、その方々が指示を出す部下も不足しており、太守自身がその方たちの分の仕事もされていると言えば、彼女がどれ程仕事をしているかお分かり頂けると思います」

 

「私と公孫賛の所では規模も事情も違うから……仕事量は単純に比較は出来ないだろうけど……側近となる者がいないというのは、かなり負担がかかっている筈よ。そのような状態で彼女と同じことを他に出来る人間が幾人いるかと問われれば……即座に挙げる人物はいない。こう言えば、公孫賛が如何に優秀か忠夫にも分かったかしら?」

 

 瑠里の話を補足するように口を挟む華琳。内心では、秋蘭や袁家の顔良なら公孫賛と同じようなことが出来るだろうと考えているが、それを口にするつもりはない。公孫賛のように、ほぼ全てを一人で執り行わなければならない状態は非常に稀であり、実際にそうしている公孫賛と、やれば出来るかもしれないが実際にはやっていない者とを比べても意味がないからである。

 

 

(公孫賛個人の能力は確かに優秀と評価していい……でも、それ即ち幽州が強敵とはならない。それは幽州の現状を見てきた元直自身がよく分かっている筈。だけど、敢えて公孫賛個人に対して警戒を促すような言い回しをしている……。何の為?)

 

 華琳が瑠里の意図を考えていると、瑠里が横島にここまでで質問はないかと問い掛ける。

 

「公孫賛って人がかなり優秀で、一人で幽州を支えているってのは分かった。でも、そんなに頑張っているのに民に人気がないってのは可哀想だよな。大体、幾ら優秀でも一人で何でもかんでもやるってのまずいし、無理があるだろ。得意な奴に任せるとか、人をもっと雇わないと乱世が終わる前に、公孫賛に限界が来るんじゃないか? 公孫賛に何かあったら幽州はおしまいってのに民も気づいてなさそうだし」

 

 横島が促されてではあるが発言したことで、それについて答えようとした華琳はそこで瑠里の意図に気づく。

 

(そう……忠夫の理解を深めるためと、忠夫に教えているのね。幽州の一番の弱点が公孫賛だということを)

 

 横島の言葉に、瑠里はその通りだと頷く。

 

「ご主人様の言うとおり、幽州は公孫太守に何かあればお終いです。正確には、幽州太守公孫賛が率いる勢力は……ですね。この先、彼女の勢力と戦場で敵対するなら、話は簡単です。例えば、白馬義従を戦場に引き摺り出し破る。白馬義従は先も申し上げましたが、かなりの指揮能力と騎乗能力がなければ運用できません。必然、公孫太守が直接指揮しなければならない。それを破ることが出来れば、相手方に与える影響は甚大、更に彼女自身の捕殺もかなり期待できます。他にも幽州各地で散発的に軍事行動を起こし疲弊させたり、領民に不信感を植えつけたり、白馬義従に不和を生じさせるなど公孫太守の勢力を削る手は幾らでもあります。それらを行うのに、最も効果的な場所も情報も調査済みです」

 

 横島が期待通りに幽州の問題について語ったことで、嬉しさからつい笑顔を浮かべる瑠里。その可愛らしい笑顔に似合わない物騒なことを語っている瑠里に、横島は内心でビクついているのだが、瑠里は気づいていないようで続ける。

 

「敵対せず協働して乱世に当たる場合は、早期に支援する必要があります。先の例と同じことを他の勢力にされると危険だからです。今は周辺の州とは良好な関係ですが、乱世となれば話は別。幽州を先に平定し、足場を固めようと冀州などの近隣勢力が考えることは十分にありえます」

 

「まぁ、そうね。冀州の勢力と言えば北の袁家とその取り巻き。あの娘の性格なら真っ先に中央に進出する可能性もあるけど……背後に位置する幽州は邪魔でしかないから、排除する方向に動くでしょうね。袁家は袁紹本人の人格は兎も角、人材や物資は豊富だし、公孫賛に白馬義従があるとは言っても物量で押しきるでしょうね」

 

「それを防ぐ為に、支援する必要があります。とは言っても、現状では客将として軍事をある程度任せられる人物がいますので、負担が軽減されています。客将である以上全てという訳にはいきませんし、何時居なくなるかも分かりませんが、黄巾賊を相手にしている間なら問題はありません。協働するか、敵対するかを検討する猶予は十分にあります。今は、公孫太守の勢力は乱世の荒波に飲まれるだろうということをご理解ください」

 

 瑠里の言葉に頷く横島。他の面々も自身の見立てと相違ないことを確認し、頷く。それらを確認し、瑠里は横島に一つの願いを口にする。

 

「敵対するも協働するにしても、私は従います。公孫太守とは親交を持ちましたし個人的には好ましい人物とは思います。……が、それはご主人様に勝るものではありませんので。ですので、これからするお願いは不要と思えば無視してください」

 

「お願い? 何?」

 

「幽州太守公孫伯珪。彼女は先も申しました通り気質は善良、能力は優秀。清濁を飲み込む度量もあります。彼女が幽州太守という立場を奪われるか、捨てた後……」

 

 そこまで語ると、今まで恥ずかしくて合わせられなかった視線を横島に合わせる瑠里。

 

「その時は彼女をご主人様の配下に。その為の幾つかの布石は打ってあります。存分に彼女の能力を使いましょう。あの能力をご主人様の為に使わないのは……勿体ないです」

 

 

 

 

 

 ――その時 彼女たち――

 

 横島が瑠里のお願いに深く考えずに了承した時、周囲の者たちはそれぞれ考えていた。

 

 

(勿体ない……か。学院で将来をぼんやりと考えていた時、先生のように隠棲することも選択肢だねって朱里ちゃんと言ってたら、勿体ないって言ってたっけ。それ以来かな勿体ないって瑠里ちゃんが言ったのは)

 

 

(公孫太守の能力を評価しているのは確か。そして、その能力は太守よりもご主人様の部下としての方が活きる。そう瑠里ちゃんは見ている。協働を積極的に進めないってことは、彼女を太守のまま活かす気はない。ご主人様の為に冷静に判断した結果なんだね)

 

 

(朱里ちゃんと雛里ちゃんに比べると風よりですかねー。親交を深めながらも、敵対した時のことを考えて動く。白を探る目的での幽州行きでしたが、情報を得る機会を無駄にせず幽州全体の情報を集める。それも敵対した時に必要な情報。偵察もですが……やはり謀略向きですかねー。いやはや、どのような毒を仕込んできたのか)

 

 

(忠夫様の為なら、親交を得た相手に不利が生じる可能性があっても躊躇せず提案する。あの様子では、忠夫様が命じれば即座に献策し実行へと移すでしょう。ええ、話が合いそうですね)

 

 

(この娘も欲しいけど……。主に対する忠誠心は、澪ほど突き抜けてはいないけど、かなり高いことは間違いない。私に靡く可能性は少なそうだけど、忠夫に対する好意は他の娘ほどではなさそうだから……いえ、今は桂花を愛でる時。元直にまで手を伸ばせば、春蘭が暴走するかもしれないし……でも、欲しいわ)

 

 

 

 瑠里と過去に交わしたやりとりを思い浮かべる雛里と朱里。

 

 瑠里が仕込んだ布石に興味を持つ風。

 

 瑠里の忠誠ぶりに、同士を見るかのように見る澪。

 

 瑠里という獲物を思う華琳。

 

 

 それぞれ視点は違うが、全員が瑠里について考えていた。

 

 

 

 




あとがき
 色々ありましたが、ぎりぎり月1更新……に間に合わず。すみませんでした。
 公孫賛を持ち上げすぎたと約2000文字ほど削除したりと、大変難産な話でした。
 次話は、幽州報告(白)と、その頃の彼シリーズの予定です。

 横島の偽名。公孫賛関連。
 これらは拙作内設定です。

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 活動報告の関連記事は【恋姫】とタイトルに記載があります。


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