七天龍の遊戯 (JAIL)
しおりを挟む

prologue

初めましての方は初めまして!
知ってる方はお久しぶりです!
私、JAIL(ジェイル)と申します!
この4月から晴れて社会人となり、一昨年から始めた執筆活動を今日、正式に再開させて頂きます。
1人でも多くの方にこの小説を読んで頂けるような作品にしようと思いますので宜しくお願いします。
※こちらの小説はこのハーメルンの他に、「小説家になろう」、「カクヨム」でも掲載しております。


『つまりお前は龍化での再戦とそれぞれの龍の所持者の情報公開を望むと』

 

「あぁ、出来るんだろ?」

 

『我々なら可能だ』

 

『では与えよう』

 

1人の男性に黒い靄が吸い込まれ、1枚の紙が目の前に現れる。

男は一通り目を通すが途端に顔を顰める。

 

「1人足りないじゃないか・・・まぁ炙り出すのも悪くないか」

 

『約束は守った』

 

『後は』

 

『それを使って楽しませろ』

 

「勿論だ」

 

男性はその場から消え、7つの紫色の人型の靄が残る。

 

『再び』

 

『始まる』

 

『殺し合う』

 

『遊戯が』

 

『だが足りない』

 

『参加者だろう?』

 

『この者でいいだろう』

 

靄達が囲む水晶には雨の中、車を走らせているスーツ姿の男性が映っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

スーツを着た1人の青年が車に乗って雨が降っている海沿いの道を走っている。

彼の名は蒼葉祐輔。

彼は大学4年生で先程、とある企業説明会を終えた所だ。

 

「試験かぁ~・・・個人的には設計関連の方に行きたかったけどな・・・」

 

今回の説明会で企業側の求めていた業種どうやら本人が希望していた業種は違っていたようだ。

 

「ま、滑り止めにしておくかな・・・」

 

そう言いながら雨足が早くなったのを確認してワイパーの速度を上げた。

今通っている場所はかなり見通しが悪く、前から来る車に気付けるか気付けないかのレベルである為“速度を15km以下に落とせ“の意味を示す標識が多い。

祐輔はまだ初心者マークを付けている為、安全にと速度を15km以下に落として走らせている。

だが突然、速度メーターが20kmを超え始め、スピードが上がり始める。

 

「は!?なんだこれ!?」

 

祐輔は慌ててブレーキペダルを何度も踏み込む。

だが全く効かない。

彼の乗っている車は親から借りているもので先月買ったばかりだ。

なのに故障してしまった。

 

「嘘だろ!?こんな時に故障かよ!?」

 

前方から大型のトラックが走ってきた。

だが未だにブレーキは効かず、祐輔の乗る車の速度は50kmを軽く超えていた。

そして今日は雨で道路は濡れていて滑りやすくなっている。

そんな状況でハンドルを思い切り切ったらコントロールはもう不可能。

運良くトラックとの接触は免れたものの、案の定操縦は不可能になった。

そして目の前に迫るのは白いガードレール。

 

 

ゴシャッ────────!!!!

 

 

車は思い切りガードレールに衝突し、突き破る。

下は崖で20mはあった。

 

 

祐輔を乗せた車はフロントを下に、垂直になって落ちていく。

 

 

そして────────地面に激突したと同時に爆発した。

祐輔本人も自分は死ぬんだな・・・と確信できるほど車はひしゃげ、何よりも折れた太い木の枝が祐輔を胸の真ん中を貫いていた。

トラックの運転手が咄嗟に警察を呼んだが炎と黒煙が立ち込めて既に間に合わないことは目に見えている。

祐輔は22歳という若さでこの世を去った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

気が付くと真っ白な空間に立っていた。

そして祐輔の目の前には黒いローブを着た老人が錫杖を持って立っている。

 

『お前には転生をしてもらう』

「・・・は?」

 

祐輔は突然の事に固まってしまう。

それもそうだろう。

初対面の老人に転生をしてもらうと言われたのだから。

 

『これをお前に授けておく』

 

そう言って老人は白く光る球体を浮遊させ、祐輔の体内に埋め込んだ。

 

「いや勝手な事をしないでもらえます?特典とかいら────」

『貴様に拒否権は無い』

 

有無を言わさずに老人は錫杖を天に掲げる。

すると祐輔の足元に魔法陣が現れた。

 

『さらばだ。せいぜい楽しませてくれ』

「おいっ!待てって!人の話をき────」

 

全てを言い切る前に祐輔は転生させられた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

目を開けると祠の前に無造作に置かれていた。

そして祐輔はマジかよ・・・と心の中で呟く。

赤ん坊にまで自分の身体は戻り、綺麗な布に包まれていた。

 

(これ・・・本当に異世界でファンタジーとかなら魔物とか来てアウトじゃん・・・)

 

どうするか・・・と悩んでいた時だった。

 

「あれ?」

 

向こうから女の子の声が聞こえた。

そちらを見てみると赤い髪を後ろで1つに纏めた小さな女の子が祐輔を見ていた。

一先ず助かった・・・と祐輔は安堵する。

女の子は赤ん坊に近付き、ヒョイと持ち上げる。

 

「君、お父さんとお母さんは?」

 

祐輔は話そうとしたが出る声はあうあー等、言葉にすらなっていない。

 

「う~ん・・・どうしよう・・・でもここに置いておいたら死んじゃうよね・・・」

 

女の子は放っておく訳にもいかなかったのか、祐輔を持ち帰ることにした。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

女の子に抱えられながら私は恵美(めぐみ)だよ。あなたは?と赤ちゃんが答えられないのにも関わらず恵美は自分の名を告げる。

森を抜けると木造建築の古そうな家が並ぶ所に着いた。

そしてその1つに向かって歩いていく。

その家の看板には【奪木(だつぎ)】と書かれている。

恐らく家名だろう。

 

「ただいま~!おばーちゃん!みてみてー!赤ちゃんがいたよ~!」

「赤ちゃんが?」

 

短い白髪の老婆が椅子に座って編み物をしていたが、女の子が赤ちゃんを拾ってきたと聞いて手を止める。

 

「おやまあ、本当だ」

「この子・・・大丈夫かな?」

 

女の子が心配そうに祐輔を見ている。

本人は安心感と疲れから寝てしまっていた。

 

「仕方ない・・・血縁者が見付かるまで私と恵美で面倒を見ましょう」

「ほんと!?私、弟欲しかったんだよね!・・・そういえばこの子の名前知らないな・・・」

「可哀想に・・・なら名前を与えておきましょうか・・・」

「本当!?ね?ね?私が名前決めていい?」

 

恵美は余程自分に弟が出来た事が嬉しいのか祐輔に命名したいと老婆に懇願してくる。

老婆もいいよ。と優しく言って恵美は悩み始めた。

 

「龍護(りゅうご)・・・決めた!!!!龍みたいに強くて、皆を護れるようになってほしいからこの子の名前は龍護にする!」

 

こうして蒼葉祐輔改め、奪木龍護の第2の人生が始まった。




というわけで始まりました!
次からは2週おきの土曜日夜18:00から定期連載予定ですが仕事上掲載出来ない場合がありますのでご了承下さい。
それではまた次の話でお会いしましょう!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

学園生活編
国立喜龍学園


新入社員研修終えて来ました~・・・
でも通信教育と9月の1泊2日の終了研修まで気が抜けない・・・


紺色の制服を着た黒髪の青年が1人、廃工場のど真ん中に立っている。

廃工場内は風が荒々しく吹いていて青年の髪や服が煽られている。

そしてその目の先には巨大な黒い龍が青年を見下ろし、青年の足元には長い金髪の女子高生が血を流して倒れていた。

その龍は翼が4枚もあり、羽ばたかせている。

この荒々しい風は目の前の龍が起こしているものだ。

 

(またか・・・)

 

青年はこれが夢だということを理解していた。

 

──────────!!!!

 

龍は何かを伝えようとしているのか、咆哮を上げている。

だが次の瞬間、龍は掻き消え、白髭をした老人が現れる。

この老人にも見覚えがあった。

青年に半ば無理矢理特典を与え、転生させた本人だからだ。

そして青年はこの老人が言うことも既に理解していた。

 

「せいぜい楽しませてくれ・・・だろ?」

 

先に言われたが老人は何事も無かったかのように同じセリフを告げる。

 

せいぜい楽しませてくれ────────

 

分かってるっての・・・と青年は悪態を付きながら自分の黒髪をガシガシと掻く。

 

 

もう聞き飽きていた─────

 

 

執拗い─────

 

 

青年の苛付きを感じたのかどうかは分からないが老人は消え、視界が白く染まる。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「龍護ー!!!!早く起きないと・・・ってもう起きてたんだ?」

 

バン!!!!と乱暴に自室のドアが開けられ、義姉の恵美が入ってくる。

だが既に義弟の龍護は顰めっ面をしながら起きていた。

・・・少し寝起きの顔に苛付きが見えていたがこれは姉である恵美はあの夢を見た日にはこの顔付きになる事は知っている。

 

「また・・・あの夢見たの?」

「・・・まぁな・・・」

 

義姉はご飯出来てるから準備して早く降りてきてね。と笑顔で優しく言い、下に降りていった。

龍護は起き上がってハンガーに掛けた制服を着て、大きな鏡の前に立つ。

鏡には自分の姿が写っていた。

龍護の両目は色が違う。

所謂オッドアイだ。

右目は黒くて左目は茶色。

そして祐輔・・・もとい龍護がこの世界に来てから15年経っている。

その間に自分なりにこの世界の事を調べていた。

まず驚いた事に龍護のいる所は現代日本。

だがさすがに総理大臣は違っている。

現総理大臣は小野崎漫作(おのざきまんさく)という少し老けた30代の男性だ。

この世界は地球と同じで365日で1ヶ月の平均は30日となる。

金銭の数え方も【円】で、使われている素材は変わらない。

そしてこの世界にはファンタジーの世界として常識的に魔法が存在する。

魔法にも属性があって今のところ確認されている属性は火、水、土、雷、無、闇、光の7属性が存在している。

無属性魔法は2つあり、別名【浮遊属性】、【強化属性】と呼ばれ、この2つは全世界の人達が使える上、それ以外を持つ者もいればそれのみの人もいる。

因みに龍護は無属性以外に闇と光の属性を持っていた。

闇は幻覚系統、光は回復系統となっている。

 

魔法の用途については生活上(水や火)や競技、授業で使われる事が大半。(使える場合は申請すれば光熱費や水道代が免除される)

それ以外、つまり路上等での勝手な魔法の使用は護衛等の警備を除いて禁止されていて、見付かると厳しく罰せられる。

因みに光属性の魔法は傷の回復なので路上での使用は許されている。

そしてこの世界には【7頭の龍の伝説】なるものが存在していた。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

数百年前、7頭の龍がこの世界の所々で暴れていたところに7人の勇者が現れた。

そして長い戦いの末、その龍達は封印された。

彼等の功績を全世界の有権者は讃え、その戦いは【七天龍の伝説】という名前で全世界の歴史に刻まれた。

絵本や教科書等では【7頭の龍の伝説】と今でも語られている。

どちらかと言うと【7頭の龍の伝説】の方が今では浸透しているのだろう。

そしてその勇者達は自分達の世界の知識や技術を惜しげも無く伝え、後に亡くなった。

残された者達はそれらの技術をさらに高めようと奮闘し、何百年も掛けて現代日本にも劣らないレベルにまで上がっていった。

その後、世界中で龍を倒した場所には石碑が建てられ、今でもその石碑は厳重に保管、管理されている。

 

 

だが、今から90年以上も前に、突然彼等に告げたのだ。

 

 

”7人の中から1人に叶えたい夢を2つだけ叶えてやろう。”

 

 

選ばれた当時の7人は最初は何かしらの悪戯かと思って力を埋め込まれた者達は誰もやろうと思わなかった。

だがある時、1人の少年が白い龍に変貌した。

それを聞いた新聞記者達はスクープだ!と、挙ってその少年の話を聞きに行く。

少年は幼かった為、隠していい事かダメなものか分からなかったのだろう。

告げられた事をそのまま言ってしまったのだ。

少年は様々な団体、そして政府にも追い掛けられ、自らの欲望の為に少年を利用しようとした。

だがその願いは儚く散った。

少年が自殺したのだ。

遺書にはこう書かれていた。

 

”誰か、助けて”

 

政府は龍の力の持ち主の捜索を凍結し、この少年の事件は闇に消えていった。

だが恐らくは、今でも水面下で活動は続いている可能性は高いがその龍の力に関しての情報は政府は揉み消した為、一般人は知る由もなかった。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

龍護は義姉の恵美と親代わりである老婆の明子と共に生活している中で龍護は自分の脳内に付与された特典の事を思い出し、どんな内容なのか確認しようとしたがいくらやっても出来ない。

龍護はハァ・・・と溜息を付いて服装を整えてから下に降りた。

 

「はよー」

「うっす」

 

姉弟で軽く挨拶を交わし、龍護は向かいに座る。

 

「もう高校生活は慣れた?」

「まぁな」

 

龍護は去年から偏差値70の国立喜龍学園という中高一貫校の学園に通っている。

というのも龍護は姉と一緒に(ほぼ強制的に)生前の知識や経験を活かして様々なボランティア活動に参加していたのを喜龍学園の教員が目を付け、勧誘をしてきたのだ。

龍護は学費を理由に断った。

だが喜龍学園は名門高校で恵美は行ってほしいらしく、教員に奨学金制度に関して質問すると特別支援制度というものが存在し、その制度を使えば学費に対してはほぼ半額以上が免除されるとの事で恵美は祖母の明子が残した財産を使うことにし、龍護は高校から国立喜龍学園に入ることとなった。

 

その学園の高校には2年生から普通科と魔法研究科(通称:魔法科)の2学科が存在し、龍護は普通科に所属している。

高校からの進路は普通科はそのまま普通大学か魔法大学へ進学、若しくは就職となる。

魔法科も普通大学、魔法大学へ進学か就職。

あるいは魔法を研究している施設に配属となる。

 

「龍護が普通科に行くなんて今でもありえないんだけど・・・」

「俺には俺の考えがあるんだからいいんだよ」

「・・・まぁ、龍護がそう言うなら別にいいけど・・・」

 

龍護は中学入試や高校入試の際に必ず行われる魔法適正検査でランクSを取っていた。

それ故龍護は魔法科に行くと思っていた恵美だったが本人は普通科の方が自分には合ってると言って普通科に所属している。

普通科でも魔法を使う授業はあるが基本的な魔法のみとなる。

より魔法について詳しく学びたい場合は高校2年生から選べる魔法科に所属する必要があった。

龍護が朝食を終えて学園に行く準備をし、先に出ようとする。

義姉の恵美は大学生で午後から授業の為、午前は家でのんびりする気だ。

龍護は遅れないように、と急いで去年他界した明子の遺影に手を合わせ、足早に家を出た。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「うーっす!」

「おはよー!」

 

校門を生徒が通ったり、はしゃいだりしている。

龍護も気怠そうに門を通る。

まぁ前世で既に大学生だったので当然といえば当然だろう。

だがそれは3人の男子学生に阻まれた。

 

(またか・・・)

 

目の前にいるのは1つ上の上級生達。

 

「よぅ龍護、ちょっと面貸してもらおうか?」

「はぁ?なんでそんな面倒な──────」

 

龍護の言葉を無視して3人の男子学生は龍護を囲む。

彼等はほぼ毎日龍護に絡んでいる。

理由としては下級生のくせに魔法適正検査で自分達より高いSランクを取っているからだ。

所謂(いわゆる)嫉妬に近い。

 

「今日という今日は惨めに散ってもらうからなぁ?」

 

リーダー的な学生がボキボキと手の関節を鳴らす。

それと同時に3人は距離を縮めていく。

 

「やれ!」

 

その言葉と同時に斜め後ろにいた2人の学生が殴り掛かる。

 

『もらった────!!!!』

 

2人が勝ちを確信した時だった。

 

「失せろや!!!!」

「はぼが!?」

 

龍護が持っていた学生バッグを横に一閃し男子学生の横顔にクリーンヒットする。

そして連鎖を起こし、横にいた男子学生にも激突した。

2人の男子学生はそのまま吹っ飛び、校門の壁に激突した。

 

「ったく・・・」

 

龍護は何事も無かったかのようにバッグを肩にする。

 

「ひいっ・・・!」

 

一撃で2人をいなした龍護に怯えるリーダー(笑)

 

「まだやるんなら相手になるぞ」

 

軽く殺気を込めて学生を睨む。

 

「お・・・覚えてろー!!!!」

 

学生は捨て台詞を吐いてその場から逃げ出した。

 

(逃げる位なら最初からやらなきゃいいのに・・・)

 

龍護はチラッと辺りを見る。

近くでは女子学生が龍護を見てキャーキャー言ってはしゃいでいた。

龍護は、ハァ・・・と再び溜息を付いて自分のクラスに向かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

龍護がクラスの前に着き、ドアを開ける。

 

「あれー?ダッチー今日は随分早いね」

「昔から変わんねぇのな、その呼び方。雫もおはよ」

「・・・」

 

白髪でツインテール、黒縁の眼鏡をした女子生徒、北野白(きたのしろ)が早く来た龍護に気付いて話し掛ける。

ダッチーとは龍護のクラスの1部の生徒(というか白のみ)から言われている龍護のあだ名で奪木からなっている。

龍白い髪を肩で揃えていて、白とは双子で妹の雫(しずく)に挨拶するが頷き、本にまた視線を戻す返しとなった。

 

「変な起き方してな」

「ふーん。あ、そういえば佐野先生が呼んでたよ?学科分けの事で用があるから時間がある時に来てほしいって」

「・・・やっぱり?」

 

佐野裕樹(さのゆうき)

龍護に目を付けた張本人であり、父親が議員の1人で本人は魔法担当で教師を務めている。

そして父親もこの国立高校に多額の援助をしていて校内で知らない者はいない。

因みに息子の義晴という男子生徒はこの国立喜龍学園の卒業者である。

 

「そりゃあ、試験の時の魔法適正検査であのランクを出したのに普通科選ぶならそうなるでしょ・・・私だって驚いたよ?」

「・・・ですよね~・・・」

 

龍護は放課後にでも行ってみるかと考え、窓際にある自分の席に着いた。

 

「龍護~!これ見たか!?」

 

メガネをした1人の男子生徒、安達野武が目の前に現れ、龍護にスマートフォンの画面を見せた。

そこには可愛い女性キャラの画像とその声優の女性が載っていて見出しには《楠木魅子(くすのきみこ)、婚約を表明!》と書かれてる。

 

「・・・何これ?」

「決まってんじゃん!ミコっちが婚約したんだよ!」

 

いや、知らんがな。と龍護は心の中でツッコミを入れる。

どうやらミコっちとは楠野魅子の愛称らしく、画面を見るとその相手は人気俳優みたいだ。

 

「いいよな~ミコっち・・・」

「そうか?」

「・・・お前は反応薄いよな・・・」

 

龍護はアニメは気晴し程度に見る為ほぼ興味が無く、そういった関連の情報には疎かった。

そして龍護もテレビ越しに楠野魅子を見た事はあるがそれ程可愛くはなく、微妙な感じとしか思えなかった。

 

「頭もイイし、家庭的だし、気配りもいいし・・・女性としてはパーフェクトだろ!あ~俺もそんな人に出会いてぇ~!」

 

野武の独り言をスルーしてるとチャイムが鳴って担任が教室に入ってきた。

生徒達はそれを確認すると急いで自分の席に着き、ホームルームと授業が始まった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

授業が終わり、放課後となる。

部活に行く者もいればすぐに帰る者、教室に残ってゲームをしたり、仲のいい友人と話す者等、様々だ。

そんな中、龍護は職員室に向かう。

 

「ん?龍護、どこ行くん?」

「佐野先生に呼ばれた」

「あ~・・・あれね・・・こっちに戻ってくるなら自販機で紙パックのカフェオレ買ってきてよ」

「残念だな。そのまま帰宅だ」

 

ちぇー・・・と言いながらも野武は、また明日な~。と龍護を見送った。

その後に白が続く。

 

「部活か?」

「まぁね、8月に大会があるから少しでもタイムを縮めたいし」

 

白は陸上の長距離走の選手で1年生の時からその運動神経でレギュラーに抜擢される程だ。

また明日ねー!と白は手を振りながら校庭へと向かい、龍護も職員室へと足を運んだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

ドアをノックして職員室に入る。

 

「失礼します。佐野先生はいらっしゃいますか?」

「あ、奪木君、こっちこっち」

 

スキンヘッドで狐目の教師が龍護を手招きする。

 

「それで、話とは?」

「うん、その事なんだけど・・・奪木君。魔法科に編入する気は無いかな?」

 

やはりか・・・と龍護は心の中で毒づいた。

以前も説明したが龍護は高校受験の際に必ず行われた魔法適正検査で最高ランクのSを取っている。

魔法適正で最低ランクはEとなり、大半の人はそのEとなっている。

だが国立喜龍学園は優秀者を寄せ集めている為、最低でもCランクは必要となっていた。

中学部から来ている学生の場合は必要ないが高校から喜龍学園に入る際に適正検査を必ず行い、もしもCでなかったら喜龍第二学園に移動となる。

因みにSランクは全世界で20人程しかいなく、龍護のクラスでもSランクは龍護のみ。

そもそもこの学園でSランクは片手で数えられる程度しかいないのだ。

佐野裕樹曰く、今からでも編入は可能らしい。

 

「すみません・・・個人的にも私は普通科の方が合うと思ってるんで・・・」

 

龍護自体あまり面倒事には関わりたくない性分であり、魔法適正検査でSを取った際は自分を転生させたあの老人を恨んだ。(ボランティアに関しては姉に無理矢理連れて行かれた)

魔法適正がSなら使う魔法はかなり上級のものとなる。

だが先程も言ったが龍護は面倒事は出来るだけ避けたいので魔法科ではなく普通科に行ったのだ。

これにはさすがの教師も驚いていた。

それもそうだろう。

折角の才能を発揮しないで捨てるようなものだ。

教師達はいいのか?と聞くも龍護の意志は変わらず、そのまま普通科に配属となった。

 

「まぁ、君自身がいいのならいいんだけどね・・・だが折角の魔法適正Sという貴重な身としては些か勿体無いと思ったからね・・・」

「まぁ、魔法の勉強はしておきますんで」

「そうか、分かった。なら向こうで使ってた1つ古い教科書があったんだけど借しておくかい?」

「あ~じゃあお願いします」

 

佐野先生は取りに行ってくるから待っててくれと龍護をその場に留まらせる。

龍護自身もさすがに魔法科への編入を断った上に教科書の貸出も断る事は失礼だろうと思い、教科書だけは持っておこうと考えて借りたのだ。

少しして佐野先生が戻ってきて分厚い教科書を渡す。

 

「じゃあ俺はこれで失礼します」

「うん、態々来てくれてすまないね」

 

龍護は一礼すると職員室を出て、教科書を鞄に仕舞うと、玄関で靴を履き替えて学園を出た。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「しっかし1冊増えただけでこんなに重くなるとは・・・」

 

龍護がげんなりした顔付きで帰っている。

先生から借りた教科書がかなり重い為だ。

 

(こうなるならロッカーに置いてくりゃ良かった・・・)

 

帰り道にそう思って振り返るも、学園はもう見えない。

ハァ・・・と溜息をして帰り道を進む。

曲がり角を通った時だった。

 

ドンッ!!!

ベチャッ!

 

何かにぶつかり、それと同時に何か落ちた音がした。

 

「キャッ!?」

「うおっ!?」

 

声からして女性。

龍護はよろけただけで倒れる事は無かった。

 

「イテテテ・・・」

「すみません!大丈・・・夫・・・?」

 

ぶつかって転んでいたのは長い金髪をそのまま伸ばしている女子高生。

そして制服が龍護と同じ喜龍学園のものだった。

そしてその横にはジャムが塗られた部分が下になって地面に落ちた食パンがある。

 

「sorry(すみません)・・・コッチモハシッテテ、did not notice(前を見てなかった)カラ、オタガイサマデスネ」

 

お尻を擦りながら、なぜか英語と日本語の両方を使って話している女子高生。

見るからに外国人だ。

だが龍護は途端に目を反らしてしまう。

 

「?What's the matter(どうしたの)?」

「えっと・・・その・・・スカート・・・」

「skirt?・・・アッ!」

 

スカートの中が見えていた事に気付いた外国の女子高生はすぐに足を閉じた。

龍護が再び女子高生を見ると、女子高生は顔を赤くしながら上目遣いで龍護をキッ!と睨んでいた。

 

「・・・ミマシタ?」

「え?・・・いや・・・」

「honestly(正直)ニイッテ」

 

逃げられないと悟った龍護。

正直にミエマシタ・・・と片言で言うと女子高生の目に涙を溜めている。

 

「けど・・・その不可抗力であって・・・」

「なら・・・コーフンシマシタ?」

「いや、興奮も何も・・・・・・って、え?興奮?」

 

女子高生の言葉に疑問があった龍護。

よく女子高生を見てみると「Oh,Shit!」と悔しがっているように見えた。

 

「ツマリexperiment(実験)ハシッパイデスネ・・・」

「なんだよ・・・experimentって・・・」

「”ジッケン”トイウイミデスヨ。ワタシ、シッテルンデスヨ?ダンセイニトッテコウイウsituation(シチュエーション)ハ・・・エーット・・・」

「・・・萌えるシチュエーションって言いたいのか?」

「yes!That's right!」

(この子・・・色んな意味で大丈夫かな・・・?)

 

目の前でハイテンションではしゃいでいる女子高生。

変な人に引っ掛からないかと心配になってきた龍護。

 

「そういえば急いでいたみたいだけど・・・」

「oh!ソウデシタ!ジツハjointly(一緒)ニイタcompany(会社)ノヒトトハグレテシマッテ・・・」

「はぐれたって・・・携帯で連絡しねぇのかよ?」

「・・・トチュウデオリタcarノInside(中)デス・・・」

 

駄目じゃん・・・と心の中でツッコム龍護。

だが何となく目的地なら分かった。

この子の着ている制服は喜龍学園の制服。

だとすれば・・・

 

「多分行き先って喜龍学園?」

「That's right!ソウデス!ワタシノイクサキハ、コクリツキリュウガクエンデス!」

 

さっきからこの調子で大丈夫なのだろうかと不安になり龍護は案内を買って出る。

すると女子高生はThank you!と抱き着いてきたので気恥ずかしくなった龍護であった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「イヤ~Thank you very muchデス」

「まぁ、こっちは暇だったからいいって」

「ソレデモタスカリマシタ・・・ン?」

 

2人揃って歩いている。

すると右にある公園で1人のひ弱そうな男子生徒が3人の男子生徒に囲まれていた。

囲んでいたのは今朝、龍護に絡んできた3人だ。

その3人に女子生徒も気付いたようだ。

 

「sorry、bagモッテテクダサイ」

「え?なん」

 

龍護が理由を聞こうにも、女子生徒は無視をして鞄を龍護に投げ渡し、3人に近付いていく。

 

「Hey!it is you!」

 

女子生徒の声に3人が振り向く。

 

「あ?何だテメェ?」

「passing(通りすがり)ノヒーローデス!キミタチサンニンヲミカケタノデpunishment(成敗)シニキマシタ!」

 

そう言いながら両手を腰に当てて仁王立ちして笑みを浮かべている。

余程自信があるのだろう。

だが3人は笑い出す。

 

「よりにもよってヒーロー気取りかよ。こんな電波女まだいるんだな!」

 

女子生徒は笑われているが少しも動じていない。

そして3人の中の1人が歩いてくる。

 

「じゃあヒーローさんよぉ?俺達を相手にしても、勝てるって事だよなぁ!」

 

男子生徒が女子生徒の腕を掴み上げた。

だが気が付くと男子生徒の身体は宙に浮かんでいた。

 

「へっ?」

「ハッ!」

 

女子生徒が追撃に横腹に蹴りを叩き込む。

すると男子生徒は吹き飛び、ジャングルジムに背中を強打した。

 

「Which is next(次はどっち)?」

「このっ!」

 

男子生徒の1人が手の平を女子生徒に向けると炎が現れて、女子生徒に襲い掛かる。

男子生徒は魔法を使っていた。

違反だが周りに人はいない。

彼等はそれをいい事に魔法を使った。

だが炎は当たらず、目の前の女子生徒は消え、一瞬で男子生徒の後ろに回っていた。

 

「Late(遅い)!」

 

女子生徒は男子生徒の横顔を後ろから蹴り飛ばす。

バキッ!という音を立てながら男子生徒は吹き飛んで公園の壁に激突した。

残るは1人。

だが先程の2人がやられたのを見て男子生徒はガタガタと震えていた。

 

「ラスト!」

「ひいっ!」

 

女子生徒は右手を手刀にして男子生徒の首に────当たる直前で止めた。

 

「surrender(降参)シマスカ?」

「は・・・はい・・・」

 

女子生徒が手刀を下ろすと同時に囲んでいた男子生徒達は逃げていった。

 

「セイギハwinナノデス!」

 

女子生徒はVサインを龍護に向けた。

そして女子生徒は振り返り、囲まれていた男子生徒の前でしゃがみ込む。

 

「Are you ok?」

「え・・・その・・・」

 

男子生徒はまだ怯えているようだ。

女子生徒はウーンと考え出す。

そして何か思い付いたのかポン!と左手の平にグーにした右手を合わせる。

すると女子生徒は突然囲まれていた男子生徒に抱き着いた。

 

「はあっ!?」

「ええっ!?」

 

さすがに龍護もこれには驚いた。

 

「ダイジョーブ、ダイジョーブ、モウコワイヒトハニゲテイッタヨ」

「は・・・はいぃ・・・」

 

いや、男子生徒にとっては色んな意味で大丈夫ではなかった。

漸く女子生徒は離れ、立ち上がるとsee youと笑顔で手を振って龍護の元に戻っていった。

 

「ネェネェ!ワタシ、カッコヨカッタ!?」

「お・・・おぅ・・・さすがにすげぇと思った」

 

龍護の率直な感想を聞いて女子生徒はヒャッフー!!!!と嬉しそうにジャンプする。

 

「カクトーギヲアメリカデオボエテマシタ!」

 

女子生徒はそう言いながらハァ!と正拳突きをする。

あぁ、だから・・・と龍護も納得した。

 

「っと、学園までもう少しだから行くぞ」

「understood(そうだった)!ハヤクイキマショー!」

 

龍護と女子生徒は再び歩き出した。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

漸く学園に着いた。

女子生徒は龍護にthank you!と言って校内に走る。

龍護も再び帰路に戻った。

 

「あ、名前聞いてねぇ・・・まぁ、学園内で会うだろうし・・・別にいいか・・・」

 

龍護は名前を聞きそびれたのに気付くも、学園内でならすれ違う時もあるだろうと思ってすぐに家に帰った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

翌日。

龍護は教室に着いて自分の席に着くなり、寝始める。

 

「おーす龍護」

「んあぁ?」

 

名前を呼ばれて起き上がる。

そこには友人の野武が立っていた。

 

「そういえば聞いた?」

「何を?」

「今日、転校生来るんだってさ」

「へー」

「・・・あんまり興味ないみたいだな?」

「別に・・・面倒な奴じゃなけりゃいいってだけ」

「ふーん」

 

チャイムが鳴り、生徒が席に着く。

担任が入って来た。

そして担任も転校生が来ていると話し出す。

 

(そういえば昨日の金髪の奴・・・どっちの科だったんだろうな・・・)

 

と外をぼんやりと眺めながらそんな事を考えていた。

担任が入ってと促し、その転校生が入ってくる。

龍護は興味なさげだが一応顔は見ておこうと前を見た途端に驚いた。

 

「Hey! boys&girls!ワタシハ友姫(ゆめ)・S(スレイン)・ラジネス!ヨロシクゥ!」

 

転校生は昨日会った女子生徒であった・・・




なんか知らないけどルビが振れない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

友姫・S・ラジネス

読まれてなくても書き続ける。(`・ω・´)キリッ


「ハアアァァァァアアア!?!?!?」

 

突然の事に立ち上がってしまう龍護。

そして当然、友姫・S・ラジネスは龍護に気が付いた。

 

「Oh!キノウノヤサシキGentleman(紳士)!オナジSubject(学科)class(教室)とはChance meeting(奇遇)デスネ!」

「おや、奪木君、ラジネスさんと知り合いだったんですか?」

「あぁ、いえ・・・昨日この学園の行き方を教えたばかりでして・・・」

「なら丁度いいです。奪木君、放課後でいいから彼女にこの学園内を案内してあげて下さい」

「え゙・・・!?」

「Oh!he()ガアンナイヲシテクレルナラRelief(安心)デス!ヨロシクネ!」

 

ラジネスからの信頼を得たと同時にクラスの男子生徒から嫉妬の眼差しで見られた龍護であった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

放課後になり、友姫・S・ラジネスと龍護が校内を歩いている。

龍護はその間に校内の説明をしていた。

 

「最後に・・・ここが食堂。買う時はそこの券売機で買いたいのを選んで買ってな」

「ok」

「ハァ・・・ったくなんでよりにもよってあのクラスなんだよ・・・」

「ワタシトイッショdetest()デシタ?」

「いや・・・というのも・・・」

 

チラッと龍護が周りに視線を向ける。

すると周りにいた生徒達が不意に目を反らした。

 

「ハァ・・・」

「ム~!リューゴ、サッキカラナイ!」

「そうは言ってもな・・・」

 

周りの視線が気になるのだ。

それもそうだろう。

突然現れた美少女な転校生と2人で歩いているのだ。

周りからの視線がグサグサと刺さる。

 

「っと、これで全体的には紹介した。後は分からなくなったら聞いてくれ」

「thank you」

 

2人が家に帰る為に玄関に向かい、靴を履き替える。

ふと龍護はラジネスの家名に心当たりがあった。

 

「・・・なぁ、お前の親ってなんかしてる?」

「why?ドウシマシタSuddenly()二?」

「まぁ、なんだ・・・ラジネスって家名・・・どこかで聞いた事あるからさ・・・」

 

交差点に差し掛かり、信号が赤になった為、立ち止まる。

その時、ラジネスがビルの電子掲示板に指を差す。

そこには《ラジネスカンパニー》という名前が表示されていた。

 

「アレ、ワタシノfather()corporation(会社)デス」

「へー、道理で家名に聞き覚えが・・・・・・・・・・・・え?」

「エ?」

「お前の・・・親の会社って言った・・・?」

「ハイ。ソウイイマシタ」

「って事は・・・お前、社長の娘!?」

「bingo!!!!ソウデス!ワタシハソノpresident(社長)ノムスメデース!!!!」

 

マジかよ・・・と龍護が天を仰ぐ。

となると昨日のお連れの人とは・・・

 

「まさか・・・昨日の連れって・・・」

「yes!fatherが雇ったguard man(護衛人)デス!」

「今すぐ電話使え!!!!」

 

ラジネスが出したスマートフォンで護衛人に電話を掛けさせた。

繋がったようでラジネスが話している。

それを龍護が借りて電話をした。

 

「あの~・・・昨日そちらの娘さんを学園まで連れて行ったクラスメイトの龍護です」

『そうでしたか、話は友姫様から聞いておりますよ。態々ありがとうございます』

「その・・・先程そちらの社長の娘さんと知りまして心配してないかな~と思いまして電話を借りてます」

『御親切にありがとうございます。それとお言葉でしたら直接会って伺いたいと思いまして・・・』

「いや、さすがに本人に会うのは・・・」

『と言いましても・・・』

「え?」

 

龍護が疑問に思って振り向く。

そこには黒スーツとサングラスを身に纏った男女2人が立っていた。

そして女性の方は電話を耳に当てている。

 

「既にお迎えにあがっていました・・・ので・・・」

 

気不味い出会い方をした龍護と、迎えが来てはしゃいでいるラジネスだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「あ~疲れた・・・」

 

自分の部屋に入るなり、龍護はベッドに身を投げる。

龍護は護衛と会った際にラジネスの家に招待されたのだが本人は断ったのだ。

その際に護衛は名刺を渡し、ラジネスを乗せて帰っていった。

名刺には【間宮美紅】と書かれている。

恐らくあの護衛の名前だろう。

その名刺を龍護は寝そべりながら眺めている。

 

「なんでそんな奴が・・・」

 

龍護はそう呟きながら眠りについた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

翌日。

龍護は登校途中にラジネスと会った。

お互いに軽い挨拶をして歩き出す。

 

「ン~!weather(天気)ガイイデスネー!」

「まぁ、4月だからな・・・段々暑くなるぞ?」

「・・・i see.i see(なるほどなるほど).」

 

ラジネスはジト目になりながらササッ!と龍護から距離を取った。

 

「・・・?なんだよ?」

「イマ、リューゴハIt becomes hot(暑くなる)トイッタ」

「?まぁそうだな日本の気候ならそうなるぞ?」

「ツマリwoman(女性)ノウスギスガタヲミタイト」

「待て待て待て!?どう解釈したらそうなる!?」

「リューゴノEyes()ガソウイッテル!」

「完っ全にラジネスの主観じゃねぇか!」

 

ジョーダンデスヨーとニヤニヤした顔で龍護の横を通り過ぎる。

ったく・・・と龍護は頭を乱暴に掻いてラジネスの後を追う形で登校した。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

校内に入って上履きに履き替えるも龍護は居心地を悪くしていた。

周りからの視線だ。

それもそうだろう。

昨日入ったばかりのラジネスを彼等は知らない。

そしてラジネスは例に漏れずに美少女の類に入る。

そんな女子生徒と一緒に歩けばほぼ必ず横で歩いている龍護にも視線が注がれていた。

 

『ねぇ、あの子誰?』、『ヤバッ・・・凄い美少女・・・』、『転校生かな?』、『てか横にいる男子って1年の奪木でしょ?』、『あの野郎・・・Sランクをいい事に上級生を差し置いてあんな子と2人で登校しやがって・・・』、『とうせ媚び売って仲良くしてもらってんだろ』

 

様々な声がして若干龍護もイライラしていた。

そして龍護が振り向いて彼等を見ると向こうは途端に視線を逸らす。

ハァ・・・と心の中でため息を付く。

 

「ドウシタノ?リューゴ」

 

振り向くとラジネスの顔がかなり近い位置にあった。

その顔は龍護を本当に心配している顔だ。

 

「・・・何でもねぇよ・・・」

 

ぶっきらぼうに返して教室に向かう。

 

「おっ!噂の2人が来た!」

 

教室に入って早々、白が2人をからかう。

 

「噂って・・・どんな噂だよ」

「『社長の娘を誑かした変態男子生徒』や『Sランクの媚び売り生徒』・・・『無気力生徒』」

「ひでぇ言われようだな!?てか最後のってお前の主観だろ!?」

 

白の言葉に項垂れる龍護。

そのまま机に向かい、椅子に腰掛ける。

 

「うーす・・・ふぁ・・・寝不足だ」

「あれ?モブじゃん。今日はやけに遅いね?」

「ソシャゲのイベント始まってな・・・今ネットで荒れててそれ見てた」

「ふーん」

 

野武がチラッとイーラを見て龍護に視線を戻す。

すると次は物凄い速さでイーラを見た。

完全な二度見だ。

 

「おおっ!ラジネスさん!おはよう!」

「オハヨウデス!・・・エート・・・ア!モブサン!」

「野武だから!?」

 

ソウソウ!ソウデシタ~!と笑うラジネス。

チャイムが鳴り、席に着く。

今日の一時限目は物理学だ。

担当教師が入ってきて授業を始める。

龍護がノートを開いた時だった。

横からツンツンと肩をつつかれた。

ラジネスだ。

 

『どうした?』

『チョットココ・・・don’t understand(分からない)・・・』

 

龍護が見てみると前回の所だった。

後でノートを借りたいと野武に言って教師にバレないように丁寧に教える。

 

『ほら。分かったか?』

『thank you』

 

ラジネスの物理学の教科書を本人に返して野武にノートを移させてもらう。

ラジネスは特に物理が苦手なようだ。

その証拠にさっきから横でウーウー唸っている。

下手すれば頭から煙が出そうな勢いだ。

だが、次の瞬間

 

『プシュー・・・・・・』

 

横ではラジネスが背もたれに寄り掛かり、口から魂が出ていた。

 

ラジネス、完全轟沈。

 

(あ~あ・・・)

 

まぁ、分からなくもないな・・・と少し呆れながらもラジネスのノートを自分の机に持ってきて公式やアドバイスを書き込む。

龍護は生前で大学生の為、学園の勉強内容の9割は理解し切っていた。(残りの1割は魔法関連)

 

キーンコーンカーンコーン

 

チャイムが鳴り、生徒達が一斉に席を外す。

 

「おーいラジネス?」

「ダ・・・ダイジョービ・・・ワタシハマダalive(生きてる)

 

そう言いながら魂がラジネスの中に吸い込まれた。

 

「ウー・・・study(勉強)inaptness(苦手)・・・」

「友姫ちゃんって考えるの苦手って感じするよね~」

「確かに・・・」

 

龍護が次の科目を見てみると数学となっている。

その事をラジネスに伝えるとイーラは半泣き状態となった。

 

「なに追い討ち掛けてんのよ・・・」

「えと・・・ごめん」

 

休み時間も終わり、再び授業になる。

担当教師が入ってきて物理の授業を進めていく。

龍護がふと、横を見てみると苦い顔をしながらも必死にノートを取っているラジネスがいた。

どうもラジネスは頭で考えるのは苦手なようだ。

 

「それではここは・・・ラジネスさん」

「・・・え?」

「教科書12ページの問題を前に来て解いて下さい」

 

今龍護達は物理学の単位の穴埋めをやっている。

ラジネスはカチコチになりながらも前に出て解き始める。

と、ここでミスが現れた。

 

[時間] [秒] [ ]

 

[ ] [メートル] [m]

 

[質量] [ ] [kg]

 

[電流] [アンペア] [ ]

 

[温度] [ ] [ ]

 

[ ] [モル] [mol]

 

[光度] [カンデラ] [ ]

 

 

 

これを穴埋めすると

 

[時間] [秒] [s]

 

[長さ] [メートル] [m]

 

[質量] [キログラム] [kg]

 

[電流] [アンペア] [A]

 

[温度] [ケルビン] [K]

 

[物質量] [モル] [mol]

 

[光度] [カンデラ] [cd]

 

 

となる。

だがラジネスは

 

 

[時間] [秒] [s]

 

[距離] [メートル] [m]

 

[質量] [キログラム] [kg]

 

[電流] [アンペア] [A]

 

[温度] [ドシー] [℃]

 

[密度] [モル] [mol]

 

[光度] [カンデラ] [kd]

 

 

 

としてしまった。

記号や単位が部分的に合わなくなる。

教師に違う事を指摘され、アワアワと慌て出したラジネス。

教師はラジネスを席に返して龍護を呼び出す。

仕方なく龍護は前に出て問題を解いた。

正解して元の席に戻る龍護。

よく見るとラジネスはシュンとしていた。

仕方ないという意味を込めて軽くポンとラジネスの肩を叩く。

その後も滞りなく授業は進んだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

チャイムが鳴り、物理担当の教師が課題を言い渡し教室を出た。

それと同時にラジネスが机に突っ伏す。

 

「・・・ダメだこりゃ・・・」

「ウウゥ・・・」

 

雫は冗談で生存確認の為にツンツンとラジネスをつつく。

イキテルヨ~・・・と涙目でラジネスは答えた。

 

「にしてもこんなに勉強が苦手なのになんで友姫ちゃんの親ってここに入れたんだろ?」

 

白の疑問に3人もそういえば・・・と考える。

 

「トイウヨリワタシハMagic fitness(魔法適正)ガSランクデワタシノfatherモspecial education for gifted children(英才教育)ヲウケサセタイトイウデニュウガクサセタンデスヨ・・・」

「そうなんだ・・・そういえば友姫ちゃんって何属性の魔法使えるの?」

「エート・・・Fire、water、thunder、clay、noデスカネ」

「へ~5属性も・・・・・・って!?えっ!?ちょっ、ちょっと待って!?5属性使えるって全国で8人位しかいなかったはずよ!?」

 

ラジネスの発言に白が動揺して声を荒らげてしまう。

それが聞こえてしまい、教室内がざわめいた。

 

『聞いた?今5属性使えるって・・・』、『マジかよ・・・』、『あの転校生すげぇ・・・』

 

白や周りの生徒が驚くのにも理由がある。

Sランクのみの人は世界中を集めると約20人程度。

現在5つの属性(属性の内容は問わない)を使えるのは全世界で数えて6~8人程度。

だがそれは全ランクを含めた数字。

その中で魔法適性がSランクなのはまた絞られ、3人となってしまう。

以前は極めて珍しい全属性持ちが存在していたが既に亡くなっていて現時点での属性最高所持数はラジネスのように5属性となっていた。

つまり友姫・S・ラジネスは数兆分の一に入れる才能の持ち主であり、かなり貴重で有力な存在となっているのだ。

そんなラジネスの横でホッとする龍護。

それもそうだろう。

これが学園全体に知られれば自分の存在は少しは薄れる。

面倒事に巻き込まれる心配も減るのだ。

ラジネスの貴重さを知った白と雫、野武は目を輝かせていた。

 

「凄い・・・私でも2属性なのに・・・」

「・・・私も」

「俺は3だな・・・確か龍護って」

「3」

 

龍護は闇と光、無の3属性しかないが魔法適性はSなので龍護もかなりの才能の持ち主である事に変わりは無い。

 

「前はダッチーが凄い注目浴びてたけど今となっては友姫ちゃんの方が優秀だね~」

「エヘへ~」

 

白に頭を撫でられ喜んでいるラジネス。

チャイムが鳴り、午前最後の授業が始まった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

帰り道。

龍護とラジネスは2人で帰っていた。

 

today(今日)モツカレマシタ・・・」

「まさかラジネスがここまで勉強が苦手とは・・・」

「ワタシハPractice group(実践派)ナンデス!」

「いや、それでも理論くらいはしっかりしとこうぜ?」

 

デスヨネ~・・・と苦い顔をする。

龍護は何かを思い出してスマホのスケジュール表を開く。

 

「やべ、ラジネス。今日はここでさよならだ」

「??」

 

龍護は買い物をしなければならない事を思い出し、説明する。

そこでラジネスと龍護は別れ、ラジネスは家に、龍護は買い物へと向かった。




これで約5800文字か・・・
少し文字の量も考える必要あるな・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

面倒事

うん、読まれてはいるんだね。


現在、龍護、ラジネス、雫、白、野武は揃って学園を出ていた。

今日の授業を終え放課後になり、帰ろうとした時、野武が4人にゲームセンターに行こうと提案して今に至る。

交差点の先に目的地が見えた。

ゲームセンターから学園までは徒歩で10分程度。

夏季休暇等の長期休暇になると喜龍学園の生徒達で近くのゲームセンターやカラオケは埋め尽くされる。

ゲームセンターの中はそこそこ空いていた。

 

「さーて、何しよっかな~!」

「やっぱ身体動かすゲームでしょ!」

「メダルゲーム・・・」

「crane gameガイイデス!」

「お前ら纏まりねぇな・・・」

 

結局それぞれで好きなゲームをしようという事になり白はパンチングマシン等、実際に身体を動かすエリアに、雫はコインを落とすコインゲームが集まるエリアに、野武はレースゲームのあるエリアに、ラジネスはクレーンゲームのあるエリアに向かった。

 

「適当に回るか・・・」

 

龍護も様々な場所を渡り、興味が惹かれたらそのゲームをする事にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

現在、龍護は体感型ゲームのエリアにいる。

 

「にしても凄いな・・・ん?あれは・・・」

 

龍護の視線の先にはグローブを手に嵌めて構える白がいた。

パンチングマシンをしているようだ。

 

「りゃあああぁぁぁぁあああ!!!!!!!!」

 

バチーン!!!!!!!!

 

凄まじい音を立ててサンドバッグが倒れる。

数値が表示された。

 

135kg

 

その数値を遠目で見ていた龍護は驚いた。

機種によって異なるがとあるパンチングマシンでの平均は

 

中学生位 90~110

 

高校生位 100~120

 

成人男性 100~140

 

となっている。

つまり白は男子高校生や成人男性の数値を出してしまったのだ。

ふ~、と息を付いて額の汗を拭う白。

本人も満足したようだ。

ゲームを終えて振り向き、龍護と目が合った。

 

「覗き見って・・・趣味悪いわよ」

「たまたまだ・・・にしてもすげぇな・・・」

「でしょ?ダッチーもやってみたら?」

「だな」

 

龍護が鞄を下ろして100円を1枚入れる。

グローブをして機械の準備が整い、思い切り殴った。

バコーン!!!!と音が響き、数値が表示される。

 

120kg

 

白より15kg少ない結果となった。

そんな龍護を見てプッ!と吹く白。

 

「ダッサ!私より弱いって」

「た・・・たまたまだ・・・」

 

龍護はすぐに鞄を持ち、その場を後にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

次に来たのはレースゲームエリア。

レースゲームとはいえ、その種類は豊富だ。

中には馬を模して、実際に跨って行うレースゲームや自転車の形のレースゲーム等様々だ。

 

「おっしゃー!」

 

声がしてそちらを見ると野武が車のレースゲームで盛り上がっていた。

ステージは4ステージあり、今は3ステージ目のロード画面となっている。

 

「調子いいじゃん」

「お?龍護じゃん!乱入すっか?」

「この後でいい」

「オッケ!」

 

レースが始まった。

今野武が使っているレースゲームの筐体はマニュアル車のゲームとなっている。

アクセルを踏み込んでスピードを上げた。

メーターの針が赤い所まで行った途端にシフトを2から3に上げ、速度を上げる。

カーブに差し掛かった。

その瞬間、シフトを2に戻してブレーキを踏みながら進む。

ドリフトだ。

その後、再び真っ直ぐの道になるとすぐにシフトを上げた。

中々の腕前だ。

その証拠にシフトを変える際も位置を覚えているのかシフトレバーを見ずに変えている。

余裕で1位となり、2位のCPUとの距離が遠ざかる。

遂にゴールして2位とのタイム差は5秒となっていた。

 

「あ~・・・6(秒差)いけなかったか・・・龍護、横空いてるから早くや」

「ワリ・・・他行くわ・・・」

 

あの腕を見て到底敵わないと悟り、レースゲームエリアを後にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

次に来たのはコインゲームエリア。

手前のコインゲームに雫は座っていた。

コインの枚数を見ると2000枚を超えている。

チョンチョンと肩をつつき、雫を気付かせる。

 

「龍護?」

「これ・・・元何?」

「元?100」

 

つまり雫は短時間で100枚を20倍の2000枚に増やしていた。

 

「いや・・・どうやったらここまでいくんだよ?」

「そんなに難しくないよ・・・あの穴に入れたらルーレットが始まる・・・その時にボタンを押して止めるんだけど数秒間見たら絵柄が変わる規則が観える・・・そのタイミングになったら押すってだけ・・・」

「いや簡単そうに説明するなって・・・絵柄だってコンマ5か1で変わるだろ・・・」

「・・・そう?」

 

キョトンと首を傾げる雫。

試しにやってみてと龍護が雫を急かし、雫はコインを穴に入れる。

ルーレットが始まって雫は数秒間、その画面を眺めていた。

途端にタンタンタンと軽めにボタンを叩き絵柄を止める。

 

777

 

雫は見事に絵柄を揃えた。

だが次の瞬間、巨大なゲーム筐体の全体が暗くなる。

 

「ジャックポット・・・」

 

雫の眠そうな目が強ばる。

それは雫が本気を出す現れだ。

このコインゲームはジャックポットと呼ばれるモードがあり、画面内にルーレットと銃の様な標準が表示される。

それをボタンで撃ち、見事揃えられればそのモードで成功とみなされ、ゲーム筐体の中心にある巨大な画面に表示されている枚数がその当てた者に支払われるのだ。

因みに現在の画面の枚数は24628枚。

つまり成功すれば雫は24628枚のコインを貰うことが出来る。

さすがに見ていただけの龍護も緊張している。

ルーレットが始まる。

雫は人差し指を使ってトントントンとリズム良くゲーム筐体を叩く。

どうやらルーレットと標準が合うタイミングを探っているようだ。

何度も筐体をつつく音のタイミングが変わる。

一通り終えてフー・・・と深呼吸を交え、ボタンを叩いた。

 

タン・・・・・・タタン!

 

少し間を置いてボタンを3回叩く。

 

998

 

数字は揃っていない。

キュッ・・・と悔しそうに右手を握り締める。

だが画面に変化が現れた。

どこからか女の子のキャラクターが現れ、8をハンマーで叩いたのだ。

 

「・・・まだいける・・・!!!!」

 

雫はボタンを絶え間なく叩き続ける。

その間、画面は8と9の激しい鬩ぎ合いが行われている。

 

そして

 

999

 

数字が揃った。

 

「やった・・・・・・!」

 

フー・・・と成功して脱力してしまう雫。

その後、雫の席でジャラジャラとコインがひっきりなしに落ちてきていた。

 

「他行くからじゃあな」

「うん」

 

龍護はその場を後にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

次はクレーンゲームエリアに来ていた。

 

「アッ!リューゴ!コッチキテ!」

 

ラジネスがピョンピョン跳ねながら龍護を呼ぶ。

どうやら取って欲しい景品があるようだ。

その景品を見るとゲームに出てくるキャラクターのようでラジネスが使っていたキャラクターだ。

状態は箱に入って横に穴が空いている状態となっている。

 

「・・・取ってみるか」

 

龍護は100円硬貨を取り出して投入口に入れると軽快な音楽が流れ始め、ゲームがスタートした。

横のボタンで景品の中心とクレーン本体の中心を合わせる。

そして縦のボタンを押してクレーンは奥へと進んで行く。

龍護が丁度いいかな?と思い、クレーンを止めるとクレーンが下がり景品に接触する。

アームは見事、穴に入って景品を持ち上げた。

龍護の横にいるラジネスも固唾を呑んでクレーンを見守っている。

クレーンが排出口に近付いた時だった。

景品が落ちてしまい、箱の1角が飛び出た状態になる。

横にいたラジネスも軽く落ち込んでいた。

だが龍護はその状態を確認している。

 

(この状態なら角押しでいけるか・・・?)

 

角押し

クレーンゲームの技の1つではみ出た箱の角をアームで押し込んで景品を取るという方法だ。

 

試しに・・・ともう1度100円を入れ、ゲームを始める。

 

因みにクレーンゲームのアームが広がる限界での爪の位置は、最初のアームが閉じてる状態で1番外側にあるアームの角とほぼ同じになっていて、その角に合わせた時にほぼその真下に爪があるようになっている。

 

その事を知っている龍護は閉じてる状態のクレーンアームの1番外側の角に箱の角を合わせる。

アームが開き、案の定その真下に爪が来た。

アームの爪は箱の角に当たり、そのまま押し込んでいく。

遂にバランスが崩れ、景品を手に入れた。

 

「ほら」

 

龍護が景品を取り出してラジネスに渡す。

 

「thank you!」

 

ラジネスは嬉しそうにその景品を抱き締めていた。

ふと、スマホの時計を見ると18:00。

そろそろ帰るか・・・と考え、無料通話アプリを開き、グループチャットに『そろそろ帰る』とメッセージを送る。

するとその直後に

 

『もうか』

『入口で待ってて』

『コイン預けてくる』

 

龍護はメッセージを確認してゲームセンターの横でラジネスと待っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

数分後に漸く全員が集まり、帰ろうとした時だ。

 

「おっ!可愛い子達が3人もいる♪」

 

向こうからピアスやサングラス、刺青等をそれぞれがしているガラの悪い男が3人こちらに近付いて来ていた。

ラジネス達は一気に機嫌が悪くなり、男達を睨んでいる。

 

「何アンタら、私達今から帰るんだけど?」

「いやいや、帰るのはまだ早い。俺達と面白れぇ事しようや?そのガキ達に比べたら俺達と遊ぶ方がもっと面し────」

「おい、お前らさっさと行こうぜ?」

 

龍護が男の言葉を遮って来た道を帰ろうとする。

 

「おい待てよ。何カッコつけてんだ?あ?」

 

男達の1人が目の前に回り込んで来て龍護にガンを飛ばす。

一歩間違えれば一触即発の雰囲気。

そこにリーダー的な男が割って入る。

 

「まぁ落ち着けよ?兄ちゃんもな?」

 

抑えられた男はチッ、と舌打ちして龍護から離れる。

 

「中々の度胸だ。どうだ?どこか人気の無い所で話しようや?アンタらもコイツの連れだろ?なら一緒に話しようぜ?」

 

碌でもない事になると分かっていながらも龍護達は男達に囲まれて人気の無い場所に向かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

人気の無い所”行き止まり”に着いた途端に龍護達は男達から離れる。

 

「おいおい落ち着けよ?まだ何もしてねぇぞ?」

「出口を塞いでおいてよくそんな事が言えるな?」

 

龍護の言う通り道に面している方は男達によって塞がれている。

恐らく1人は監視役として置いておき、2人で龍護と野武を退けた後にラジネス、白、雫で楽しむ予定なのだろう。

少し短気なのか先程龍護に突っかかった男がメリケンサックをポケットから出して手で握る。

既に話す余地は見えない。

 

「まぁ、黙って殴られてくれや」

 

メリケンサックを右手で握った男が先制して龍護に殴り掛かる。

だがその右手は龍護に当たる事は無かった。

逆に男の顔が両足によって反り返り、後ろに吹き飛ぶ。

 

「へ?」

 

吹き飛んだ男は何が起こったか分からないようで頭に疑問符を浮かべている。

そして龍護の前にはラジネスが立っていた。

その表情はかなりの怒りが見える。

 

「ワタシ・・・Unfair imitation(卑怯な真似)ハキライ・・・アナタ、ソノフタリノReader(リーダー)デショ?ナラ・・・」

 

スッ・・・と右足を軽く出し、肘を曲げた状態で両拳は顔の近くに寄せる。

 

「マンツーマンデmatch(勝負)シマショウ」

 

リーダー的な男の表情が変わり、笑みを浮かべる。

 

「ほぅ・・・中々やるな嬢ちゃん・・・いいぜ?相手してやるよ」

 

男はすぐにラジネスに向かって殴り掛かる。

だがラジネスはそれをギリギリで躱し続けていた。

 

完全に見切っている。

 

基本、このような格闘で初心者は相手の拳が自分に向かってくると危険と感じて咄嗟に目を閉じてしまう。

その為相手の拳が当たってしまうのだ。

まぁ、他には運動神経等にもよると思うが・・・

だがラジネスはそれをしていない。

格闘に関しての基礎が出来ていているのだ。

自分の拳が当たらない事に苛立ちが募ってきたのか、男は足を横に振る。

それもラジネスはバックステップで攻撃圏外に出ていた。

そして男は息を切らしているのに対し、ラジネスは呼吸が整っている。

 

「?」

「の野郎・・・」

 

男がポケットに手を入れながら近付いてくる。

すると突然駆けてきた。

その手には小型のナイフ。

だがラジネスは身体を少し右に傾け、ナイフの軌道上から外す。

そして左手で男の右腕の裾を掴み、右手で襟元を掴むと体制を低くして相手に背を向けると男の身体が中に浮いた。

 

「へ?」

「らあああぁぁぁぁあああッッッ!!!!!!!!」

 

男が背中から思い切り地面に叩き付けられる。

見事な背負い投げだった。

 

「「・・・」」

 

2人の男はその様子を見てポカーンとしている。

そして投げられた男もコヒュー・・・コヒュー・・・と辛うじて息はしていた。

 

「君達!!!!何をしている!!!!」

 

1人の女性の警官が来ていた。

マズいと感じたのか1人は近くにあったゴミ箱を蹴飛ばして女性警官をビビらせたスキを突き、もう1人は倒された男を抱えて逃げていった。

 

「ねぇ・・・私達も逃げた方が・・・」

「心配ねぇよ」

 

え?と白は龍護の言葉に疑問を感じていたがそれはすぐに解決する。

女性の警官が歪み始め、消滅したのだ。

龍護の闇属性の幻覚だ。

 

「あ~・・・そういえば龍護って闇属性持ってたんだっけ・・・さすがSランク」

「いや、それよりもラジネスの方がありえねぇって・・・」

 

体格差はかなりあった。

だがラジネスには関係なく、男の投げたのだ。

 

「確かに・・・友姫ちゃんって何かやってた?」

「ワタシ?karateトカクトーギ」

「・・・そりゃ簡単に勝てるし相手も投げられる訳だ・・・」

 

ラジネスの強さに納得してしまう4人であった。

その後5人は安全に帰路に着き、それぞれの家へ帰っていった。




なんかスマホでルビ振れないんで後々パソコン使ってルビは振っておきます

よろしければお気に入り登録お願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラジネス家へ

うー研修早く終わってほしい・・・
モンハンしたい・・・


ゲームセンターに行った2日後。

 

「good morning!リューゴ!」

 

ラジネスは来て早々、龍護の机に飛び乗ってくる。

 

「リューゴ、ソウイエバキノウ、my father二リューゴノコトヲハナシタラアッテミタイトイッテテ、todayニデモmy house二ショウタイシテイイトイワレマシタ!」

「え゙・・・!?」

 

招待という単語に固まる龍護。

それもその筈。

相手は大手企業の社長。

緊張をしたくなくてもするに決まっている。

 

「キョウノAfter school二carデ、ムカエニクルラシイデス」

「・・・マジですか・・・」

 

すでに迎えが来ると告げられて半強制的に行く事になった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

放課後になってラジネスと龍護は校門前で立っていた。

 

「オソイネー」

「・・・」

 

のんびりと待ってるラジネスと少し緊張している龍護。

ラジネスは白、雫、野武にも呼び掛けたのだが白は陸上部で断念、雫は寄る場所があるらしく、野武は予備校と、3人たも予定が入っていて結局行くのは龍護のみとなった。

 

「ネー、リューゴ?」

「ん?なんだ?」

「リューゴッテ、ワタシノコトfamily nameデヨンデル」

「まぁそうだな」

「ナンカDistanceヲカンジル」

「・・・つまりどうしろと?」

「ユメ・・・」

「え?」

 

龍護がイーラを見るとラジネスはズィと龍護に迫っていた。

 

「ワタシノコトハ”ユメ”ッテヨブコト!」

「でも・・・」

「ヨバナイナラワタシノunderwearヲミタコトオオゴエデ──────」

「分かった!言うからそれは止めてくれ!?」

 

半ば無理矢理にお互い、下の名前で呼び合う事になったラジネスと龍護。

そうこうしている内に迎えの車が来た。

だが・・・

 

「迎えの車って・・・リムジンですかい・・・」

 

目の前で止まったのは真っ黒くて長い車のリムジン。

男性の運転手が降りてきて後部座席のドアを開ける。

その一つ一つの動作にすら気品が見えた。

 

「奪木龍護様で宜しかったでしょうか?」

「え?あぁ、はい」

「私、友姫様の周りのお世話をさせて頂いております沓澤と申します。この度は急な招待に御対応して頂き、誠にありがとうございます」

 

沓澤という男性が深々と龍護にお辞儀をした。

 

「友姫様、お荷物を」

「Yes, please」

 

ラジネス・・・友姫が執事に鞄を渡す。

次に龍護からも鞄を受け取ろうとしたが龍護は断った。

 

「リューゴ!hurry hurry!」

 

友姫に急かされて車に乗る。

当然ながら中も豪華だった。

 

「デハ、クツザワサン!my homeにlet's go!デス!」

「畏まりました」

 

車のドアを閉め、龍護と友姫を乗せたリムジンは走り出した。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「広いな・・・」

 

それがリムジンに初めて乗った龍護の素直な感想だ。

 

「リューゴッテ、リムジンハeventually?」

「そりゃぁなぁ・・・」

「緊張なさらないでいいですよ。私達にとって貴方はお客様なのですから」

 

沓澤の言葉にそうは言ってもな・・・と龍護は心の中で呟く。

移動中に友姫から沓澤は父親の1番長い付き合いで何十年も前から友姫やその両親と一緒にいた事を友姫から聞いていた。

 

暫くして友姫の家に着いた。

 

大きい

 

ただそれだけではない。

友姫の家は日本古来の屋敷で中には大きな池のある日本庭園や小屋等があった。

友姫の父親が外国人で母親が日本人。

父親が大の日本好きでインターネットから屋敷の画像を探して建てたらしい。

そしてその間に産まれたのが友姫だ。

その屋敷の庭園に作られた道路を進み、玄関前に似つかわしく無い外国のリムジンが止まる。

運転手がドアを開けて道を開けると目の前には何人もの使用人が左右で頭を下げ、友姫の帰宅と客人の龍護を出迎えていた。

その間をなんともないように通る友姫。

気後れしながらも友姫に着いて行く龍護。

 

「すげぇな・・・」

「デショー?」

 

使用人によって玄関のドアが左右に引かれていく。

中では和服を着た外国人の男性が立っていた。

 

「君が奪木龍護君だね?」

「は、はいっ!」

「私はスヴェン・S・ラジネスといいます。友姫の父親です。娘の友姫がお世話になったようだね?ありがとう」

「い・・・いえ・・・」

「これからも友姫とは仲良くして欲しい」

 

友姫の父親、スヴェン・S・ラジネスは龍護に右手を差し出してくる。

龍護もそれに合わせて手を出し、握手した。

 

「Daddy!キョウハリューゴトズットアソンデタイ!」

「龍護君がいいというなら構わないよ」

 

その言葉を聞いて友姫がキラキラとした目を龍護に向ける。

 

「わーったよ、でも家に姉がいるから連絡してからな」

「あぁ、それは心配無いよ。電話番号を教えてくれるのなら私から連絡を入れておこう」

 

スヴェンの言葉に甘える事にした龍護は家の電話を教え、友姫の部屋に着いて行った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

龍護が屋敷の廊下を歩いていると護衛人らしき人達が20人程、庭で訓練をしている。

中には身体をほんのりと光らせながら訓練をしている人もいる。

身体強化魔法を使いながらの訓練のようだ。

 

「凄いかい?」

 

突然話し掛けられそちらを見るとスヴェンが立っていた。

 

「彼等は選りすぐりの使用人でね、全ての護衛人の魔法ランクがBかAなんだよ」

 

そんな人達をどこから連れて来たんだ?と疑問に思う龍護。

だが中には古くからの付き合いの人もいるようだ。

 

「因みになんだが君の魔法ランクは幾つなんだい?」

「・・・」

 

魔法ランクを聞かれて押しとどまってしまう龍護。

ここで本当の事を言っていいのだろうか?と迷ってしまう。

だが相手は社長という存在。

嘘はいけないと自分に言い聞かせ、Sランクと言う事を明かした。

 

「ほぅ、君もなんだね?」

「確か娘さんもですよね?」

「そう。友姫もランクはSなんだよ」

 

つまり龍護のクラスには魔法ランクSの人が2人存在する事になる。

因みに友姫は無属性魔法の他に火属性、水属性、雷属性、土属性を持っていることも聞いたことを話し、自分も闇属性と光属性を持ってる事を話した。

 

「これから何度も友姫から模擬戦の申請がくるかもね」

「止めて下さいよ・・・本当になりそうで怖いんですから・・・」

 

スヴェンの言葉にげんなりとしてしまう龍護。

スヴェン本人は冗談で言ったのだが龍護にとってはフラグでしか無かった。

 

「リューゴ!」

 

後ろから呼ばれ、振り向くと普段着に着替えた友姫がいた。

その格好はベージュのショートパンツにピンクのキャミソールと、かなり露出度が高い服だった。

 

「おまっ・・・!なんちゅう格好だよ!?」

「Oh?ダメデシタ?」

 

自分の服を確かめる友姫。

あまりそのような服を人前で着ることに抵抗は無いようだ。

父親のスヴェンも似合っていると友姫を褒めていた。

 

「ソレデハリューゴ!let's playシマショー!」

「分かったから手ぇ引っ張るなー!」

 

龍護の声を無視して自分の部屋に連れて行く友姫であった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

自分の部屋に龍護を招き入れた友姫。

中にはかなりのテレビゲームのハードやソフトが所狭しと積まれ、並んでいた。

・・・わるく言うと少し散らかってるようにも見える。

 

「うわっ!初代プレステもあるじゃん!すげー!って、こっちはPCエンジン!?相当古いの持ってるな~・・・」

 

友姫の部屋には古いものでもう販売どころか生産も止まったゲーム機から今話題のゲーム機まで全てが揃っていた。

 

「my fatherガニホンノゲームガスキデ、collectionシテイルンデスヨ。ソシテソレラハ、ワタシノヘヤニアツマルンデス」

「にしてもマニアック過ぎだろ・・・このソフトなんか俺、失くした奴だぞ・・・」

「タメシニtryシテミル?」

「いいの?じゃあ対戦しようぜ!」

「of course!battleナラ、テカゲンNothingデスヨ!」

 

2人でコントローラーを持って対戦ゲームを始める。

ハードは【fii】

ソフトは【大決戦スマッシュスターズ】

龍護は青髪の騎士を選び、友姫は配管工の髭の生えた赤い服の男性を選ぶ。

細かい設定を施してゲームが始まった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「Yeah!!!マタワタシノVictoryデス!」

「あーもー!もう1回!次は負けねぇ!」

 

現在、友姫が8連勝中。

龍護も中々だが友姫は青髪の騎士の弱点を見抜き、そこを重点的に攻撃していた。

そして再び青髪の騎士が画面外に吹き飛ばされる。

 

「友姫強くね?俺もこれやってるけど適わねぇってどんだけやり込んでんだよ?」

「ウーン・・・タシカ・・・」

 

友姫が操作してプレイ時間を確かめる。

そこには・・・

9999:99:99と表示があった。

つまり・・・カンストしている。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?カンスト?」

「デスネ・・・ワタシモイマシリマシタ」

 

龍護もこのゲームはしていたが127:58:12。

友姫は想像を超える程、圧倒的なゲーマーだった。

 

「これ・・・勝てねぇのも頷けるわ・・・」

「ホカノgameモtryシテミル?」

 

次に友姫が持って来たのはリズムゲーム。

専用のコントローラーがあってパネルが8枚平行に並んでいる。

ソフトの難易度をハードにして挑戦すると龍護はパーフェクトを取った。

 

「Amazing!スゴイヨリューゴ!」

「なぜか音ゲーは出来るんだよな・・・」

 

コレハワタシモマケラレマセン!と意気込んだ友姫。

龍護と同じ曲で同じ難易度に設定し、ゲームを始めるもミスを10回もしてしまい、龍護の勝利となった。

 

「ココガdifficultデスヨ~・・・」

 

友姫が言ってるのはパネルを全て同時に押す場面。

友姫の指は短く、全てを押したくても出来ないのだ。

 

「確か・・・中には自分で専用の補助具を作ってやってる奴もいたな・・・」

 

龍護が言うようにプラスチックの板を切ってテープ等で固定したものを指に着けて延長し、その状態でゲームしてる人も龍護は見ているのを思い出していた。

 

「really!?ソレナラワタシデモデキル!?」

「多分な」

 

友姫はコンドツクッテミル!と言ってリズムゲームは終わりとなった。

その後も2人は色んなゲームを楽しんでいた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

すっかり遊び込んでしまった2人。

外はもう暗くなっていた。

 

「あ~・・・暗くなっちまったな・・・」

「リューゴ、モウカエルノ?」

 

友姫が少し寂しそうに龍護を見る。

 

「まぁ、姉貴が待ってるからな・・・」

 

すると廊下からスヴェンが現れる。

 

「龍護君、今日は遅いから泊まっていくかい?」

「はいっ!?」

 

スヴェンからの突然の提案に龍護は戸惑った。

 

「good idea!ソウデス!リューゴ、トマッテイキマショー!」

「いやいやいや!さすがにそれは無理が・・・」

「実は2人が仲良く遊んでるのを君の姉に言ったら『帰りが遅くなるなら泊まって明日帰って来ていいよって伝えて下さい』と言っていてね」

(あの姉貴・・・ぜってぇ楽しんでやがる・・・)

 

龍護は悔しいが家でニヤニヤしている姉の様子が簡単に想像出来てしまった。

時計を見ると既に20:00を超えている。

仕方ないと思い、今日は泊まることにした。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

今、龍護は1人で客室にいる。

友姫は風呂。

友姫の両親は食事の準備をしている。

龍護は部屋で寝転がり、自分のスマホの画面を見ていた。

 

(てかなんで初対面の人を泊められるんだよ・・・あ~でも外国の文化ならとうぜ・・・いやいや・・・それは無いな・・・)

 

何せ友姫の親と自分は今日会ったばかり。

なぜ初対面なのに泊めてくれたのか・・・

恐らくは友姫の友人であり、外も暗くなっているから危険なのも理由なのだろうと思ったが妙に勘繰ってしまう龍護。

だが郷に入りては郷に従えとも言う。

この家のしきたりもあると思い、考えるのを止めた。

友姫が先程の色違いの服を着て、タオルを首に掛買った状態で部屋に入って来る。

空いたようで龍護に入浴することを勧めた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

風呂場に着いて服を脱ぐ。

ドアを開けるとかなり広い風呂がそこにあった。

旅館にでも来てしまったか?と勘違いしてしまう程の広さ。

そして誰もいない為、足をゆったりと伸ばせる。

先にかけ湯をしてから湯船に浸かった。

温度の表示を見ると41℃と丁度いい。

 

「あ゛~暖まる~!」

 

1人風呂に浸かりながら天井を見上げた。

 

(本当・・・住む世界が違うよな・・・)

 

生活の質を自分の家と比べてしまう。

比べるのを止めようと龍護はバシャッ!と風呂の湯を自分の顔に掛けた。

 

(そろそろ洗うか・・・)

 

そう思って立ち上がろうとした時だった。

ガラッ!と勢いよく扉が開きスヴェンが入って来る。

 

「背中を流そう!龍護君!」

「アンタ何やってんだあああぁぁぁぁああああ!?!?!?」

 

突然の出来事にすぐに風呂に戻る龍護。

 

「いいではないか!裸の付き合いもあるだろうし!」

「いや会ってまだ数時間しか経ってねぇから!?」

「私がOKなら問題なし!」

「横暴だなおい!?」

 

龍護の戸惑いをスルーし、横で風呂に浸かり始めたスヴェン。

やはり日本の温泉はいい・・・と呟いた。

 

「龍護。背中を流そう」

「いやだから・・・」

「少し話したい事もあったからね」

「?」

 

少しだけ神妙な表情になった事に疑問を持ったが龍護は洗い場に向かい、椅子に座る。

スヴェンはその後に座り、龍護の背中を洗い出した。

 

「龍護君。先程も言ったが友姫と友人になってくれて本当にありがとう」

「まぁ、俺は娘さんに振り回されてる立場っスけどね」

 

龍護の冗談混じりの言葉にスヴェンが軽く笑った。

 

「実を言うとね・・・友姫は最近まで無理をしていたんじゃないか?って思ったんだ」

「無理を?」

「私は企業の社長・・・そして友姫はその娘・・・となると様々な企業が私の元に来るんだ・・・恐らく、私の後釜を狙っているんだろう」

「・・・」

「友姫はいい子だ・・・元気で弱音を吐かず、曲がったことが嫌いで、誰に対しても優しかった・・・でも友姫が高校になってすぐに何人もの企業のお偉いさんが訪ねてきて私と友好的な関係を結ぼうとしてきた。それを私は全て断った。友姫もうんざりしていたんだよ・・・」

「・・・」

 

スヴェンの言葉に無言で聞き続ける龍護。

 

「だから私は日本に来た。そしてセキュリティの高いあの国立喜龍学園に通わせたんだ。優しい男子生徒に出会ったって聞いた時は驚いたよ。友姫が楽しそうに笑っていたんだ。でも・・・君にはすまないが、私は疑っていた。また同じ事の繰り返しなのではないか・・・と、だが違った。友姫は食事の時もずっと君の話だ。だから私は今日、君を私の家に招いた。お礼を言いたくてね」

 

洗い終わってスヴェンは盥の湯を龍護の背中に掛ける。

 

「龍護君」

 

龍護はスヴェンに向き直る。

 

「世間知らずな娘だが、これからも仲良くしてやってくれ」

 

スヴェンはそう言って深々と頭を下げた。

そして龍護の答えも決まっていた。

 

「ま、友人ですから、学園や外関係無く仲良くしますよ」

 

スヴェンと龍護はお互いに信頼を結び、風呂を上がった。




ちょっと英語の部分は研修が終わってから振らせて頂きます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

授業と個人授業

一応こちらのサイトをメインでやってるのでルビ振りもこっちを先に振っておきます


友姫の家に招かれた2日後。

龍護は徒歩で登校していた。

 

「ねむ・・・」

 

龍護の目の下には隈があった。

昨日、友姫の家でやっていた対戦ゲームを自分の家でやっていたのだ。

 

「リューゴォ!!!!」

 

背中に友姫が抱き着いてきた。

 

「リューゴ?ドウシタノ?ネムソウダネ?」

「ゲームしてたからな・・・」

「ヨフカシハguiltyダヨ?」

「いや、そしたら全世界はかなりの有罪人で溢れ返るぞ?」

 

お互いに冗談を言いながら校内に入る。

 

「ソウイエバ、サッソクmakeマシタ!」

「何を?」

 

龍護の言葉に友姫がスマホの画面を見せる。

そこにはプラスチックの長い爪のようなものが10本写っていた。

あのリズムゲームの補助器だ。

テープの繋ぎ目がチグハグな感じ、恐らく友姫の自作だろう。

 

「作ったんかい・・・」

「yes!コレデツギハカチマスヨ!」

 

友姫はかなりと言っていい程正面からの真っ向勝負好き。

だからこそ勝つ事に拘っていた。

 

「へっ!俺も負けねぇからな」

「・・・ソレハソウトリューゴ」

「ん?」

「キョウ、ジュギョウデツカウtextbookヲワスレタンデPlease lend it」

「いや俺とお前、同じクラスだからね?」

「リューゴガワタシノInstead二Angryサレレバno Problem」

「うん、こっちが問題大有りだ」

 

ツベコベイワズニカシナサーイ!と怒る友姫に対して逃げる龍護であった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

午前の授業が終わり、昼休みに入る。

龍護と友姫は食堂にいた。

因みに教科書を忘れた友姫は当たり前だが教師に怒られていた。

 

「リューゴノspite」

 

口を尖らせて友姫が龍護を睨む。

 

「いや、なんで俺が悪くなってんだよ?忘れたお前が悪いだろ」

「ソコハOneselfヲギセイニシテデモタニンヲProtectコトガGentlemanノツトメデス」

「何?つまりお前は自分のミスを俺に肩代わりさせようとしたんですか?」

「ハイ?ナンノコトダカサッパリ」

「・・・」

 

食券を買い、窓口に渡す。

数分して品物が来たので受け取り、テーブルに座る。

その真向かいに友姫が座った。

龍護はラーメンを啜り、友姫はサンドイッチを食べている。

 

「ネェ、リューゴ」

「ん?」

「リューゴッテwitchcraftハトクイ?」

「何だよ急に?」

「モシ、トクイダッタラTellシテホシイ」

「・・・苦手なのか?」

「トイウヨリ・・・modificationガニガテ・・・」

 

友姫がバツが悪そうに視線を反らす。

そして友姫の言葉になぜか納得出来てしまう龍護。

友姫は何に対しても真っ向勝負を望む。

ということは全力で掛かってくるという事だ。

友姫は魔法適正Sランク。

SとAの差は歴然。

そのうえ真っ向勝負好きとなると対等な相手が必要となる。

そして龍護もSランク。

とはいえ龍護はほぼ加減は出来ているのでAだろうがCだろうが相手に出来ていた。

 

「なら俺が相手しようか?どうせ次の授業、魔法の訓練だし」

「really!?Thank youリューゴ!」

 

食事を終え、2人は授業に向かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

魔法の授業は外で行われる。

更衣室で着替えをしている時だった。

 

「龍護ってさ、ラジネスさんと付き合ってんの?」

「は?なんだよ急に?」

 

話し掛けてきたのは龍護にとって数少ない友人の悠悟。

着替えの途中でそんな話題を振られた。

 

「だって最近殆ど一緒にいるじゃん?ラジネスさんの親ってあの”ラジネスカンパニー”の社長だろ?社長に気に入られてその娘と付き合ってるとなると親公認てわけじゃん」

「そんなんじゃねぇよ。それに付き合ってもねぇ。まぁ、親からは仲良くしてくれって言われたけど・・・」

「・・・それもう殆ど公認みたいなもんだぞ?」

 

実を言うと龍護は友姫に対してそんな想いは持ってなかった。

どちらかと言うと”手の掛かる妹”を持った。

そんな感じだ。

だが最近よく2人でいることに関しては実際にそうだから否定出来ない。

 

「・・・今はそんな気ねぇよ」

「勿体無ぇ~!俺なら即アタックしてるぜ!?」

「お前にそんな度胸あるのか?」

「・・・ください」

「・・・だろうな」

 

着替えを終え、外に出る生徒達。

外は太陽が昇り、地面と生徒達、教師を照らしていた。

 

「それでは授業を始めます。皆さんペアを組んで下さい」

 

当然の如くアブれた龍護と友姫。

Sランクと組むのは魔法の性質や性能的に自殺行為に近い。

龍護が教師に友姫と組むことを言うと教師も2人がSランクである事を思い出して許可をする。

 

「ヨロシクネ?」

「おう」

「それではまず無魔法を使って飛行をして下さい。高さはそうですね・・・地上から10mとしましょう」

 

教師に促され生徒達は飛び上がる。

やってるのは無属性魔法。

とはいえやり方はかなり難しい。

まず自分の魔力を足に集中させ、足の周りを高速回転させるイメージをする。

すると風が生まれ、浮かび上がるという感じだ。

言葉で言うのは簡単だが重要なのはここから。

バランスが取りにくいのだ。

回転させる風の範囲が大きければ安定するが高さが減る。

逆に回転させる幅を狭まれば高く飛べるが身体を支える面が少なくなり不安定になる。

自分に合った範囲を探すのが肝なのだ。

とはいえ龍護は一度転生している身。

イメージを固めやすい為、すぐに出来てしまった。

 

(さて・・・友姫はどうか・・・)

「ヒャアアアァァァァアアア!?!?!?」

 

案の定高く飛び過ぎていた。

高さは100m超え。

すると次は足に纏っていた風が消え、落ちてくる。

さすがに龍護もマズいと判断し、足に纏った風の回転を強める。

一気に急上昇し、友姫を空中で受け止めた。

 

「サ・・・Thank you・・・」

「少しは加減しろ・・・」

 

友姫を地上で降ろす。

教師が近付いてきて安否を確認した。

だがお互いに怪我は無かったようだ。

無属性魔法の後は属性ごとに別れての魔法の授業を受ける。

友姫がいる火属性魔法の人達は的を使い、火魔法の練習。

これも先程使った風魔法と同様、こちらは大きさで速度が決まる。

大きければ遅くなり、小さければ早くなるという感じだ。

だが大き過ぎれば暴発してしまうといった難点があった。

生徒達は順調にこなしていく。

前世でファンタジー小説を読んでいてやってみたかったと思いながら火属性魔法の練習を見ている龍護。

友姫の番になった。

友姫が両手を出して的に向ける。

魔力が収束され炎の塊が完成する・・・・・・のだが・・・

 

「なぁ、でかくね?」

 

生徒の1人が聞かれないように呟く。

火の玉は50cmを超えていた。

的と生徒の距離は50m程度。

この距離であれば火の玉の直径は10cm程度で充分。

 

「ハッ!」

 

友姫が勢いよく飛ばす。

 

ドゴオオォォォォォオオン!!!!!!!!

 

大きな音が響き、的は煙と炎で見えなくなった。

煙が晴れ、様子を見ると友姫の炎は的は壊せたもののその先の壁も壊していた。

 

「・・・」

 

全員が唖然としている。

友姫もやってしまった・・・と気付いているようで汗をダラダラと掻いていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「ア~!ヤッパリwitchcraftハニガテデス」

「まさかここまでとはな・・・」

 

友姫と龍護が帰り道を歩きながら龍護は友姫の愚痴を聞いていた。

炎魔法を使った後、魔法を使った授業は続いたのだが身体強化魔法の時は鉄球を持ち上げて投げれば良かったのだが強化し過ぎのまま鉄球を投げてしまい、壁を破壊。

水魔法ではコップ1杯の水を出せば良かったのだが、水の出し過ぎで校庭の半分が水浸し。(さすがに故意ではないので叱られる程度で済んだ)

雷と土も散々な結果だった。

 

「けどお前、不良の3人と対峙した時は普通に魔法は使えてたじゃん」

「teachingジャナケレバイケルンデスヨ・・・」

「授業になったら力むってことか・・・」

 

龍護の言葉に友姫はコクンと頷く。

社長の娘とはいえ魔法も扱えないのであれば卒業は難しいだろう。

 

「ア~!コレデハSociety二デラレマセン・・・」

「・・・?社会って・・・お前、親父さんの会社引き継ぐ────」

「ヒキツギマセンヨ?」

「・・・は?」

 

友姫の言葉に立ち止まってしまう龍護。

さすがに今の言葉は理解出来なかったようだ。

 

「ワタシ、フツー二graduationシタラ、シューカツ・・・デシタッケ?ソレシマス」

「いやいやいやいやおかしくね!?両親何て言ってたの!?」

「?OKモラッテマス。アァ、スコシcollectionデnot succeedトハイイマシタガ、シューカツジョウ、ウケルコウホニハイレテマス」

「えぇ~・・・」

 

なぜ、社長の娘の身でありながら親の会社を引き継がないのか・・・

それに疑問を持った龍護。

友姫曰く、父親は友姫に引き継ぐ意志がないのであれば定年退職まで社長を続け、副社長を社長に任命。

その後本人は年金生活を送るつもりなのだとか。

友姫は一応イーラカンパニーを受けるつもりだが、本人曰く努力しないで上に就くのが嫌という理由で普通に就職活動をして引き継ぐのを断っていた。

 

「いいのかよ?それで・・・」

「リューゴ二ワタシノlifeヲキメルprivilegeハナイデスヨ~」

 

いや・・・そうだけどさ・・・と押し黙ってしまう龍護。

そしてもう1つ思っていたことがあった。

 

「だとしたらお前は卒業後はアメリカに帰るんだな・・・」

「?カエリマセンヨ?」

「・・・え?だってお前の親父って外国人・・・」

「?イッテマセンデシタ?ワタシノnationality、ニホンデス」

「え?待って?でも・・・」

「タシカニワタシノfatherハAmericanデスガケッコンハJapanデヤッテ、ソノトキニnationalityハトッタトキイテマス。ソレデワタシ、ニホンデウマレ、Americaデセイカツシテマシタ」

「ハアアアアァァァァァアアアア!?!?!?」

 

友姫の言葉に驚く龍護。

龍護はてっきりアメリカで友姫の母親が父親と出会い、そこで結婚。

アメリカで生まれて日本に来たのかと思っていた。

 

「でもお前、日本語も結構話せてんじゃん」

「ニホンノanimationヲvideo siteデミテテオボエマシタ」

「あ~そういう事・・・」

 

だから英語と日本語の両方を使っていたのか・・・と若干納得のいった龍護。

分かれ道となってそれぞれの家に帰っていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

龍護は今、夕飯を終えてベッドの上で友姫と無料通話アプリで話している。

 

『リューゴって明日、開いてますか?』

 

龍護がふとカレンダーを見る。

明日は土曜日。

予定は無かった。

 

「あいてるぞ」

『すみません、感じはまだべんきょうちゅうで、たまに時が間違ってると思います』

「むりにつかわなくていいよ。こっちもあわせるから」

『いえ、せっかく故郷にいるのです。少しづつ浸かって慣れようと思います・・・出来ればリューゴも感じを浸かって下さい。勉強のいっかんですので』

「分かった。それで明日は空いてるけど、何かするのか?」

『ちょっと私の家出魔法を練習してまして明日、一生に練習して欲しいのです』

「了解。俺は何時に行けばいい?」

『いえ、向かえを出しますのでリューゴは自分の言えに居て構いません』

「迎えって・・・リムジン?」

『モチのロン』

「自転車で行きます」

『え~wあの時のリアクションが面白かったのに~』

「ほっとけ、まぁ明日は自転車で行くから・・・時間はどうすんだ?」

『昼頃でお願いします』

「おk・・・ってかなんでそっちは漢字を使えてねぇのにこっちの漢字の理解は出来てんだよ?」

『ほんやくアプリ』

「それか」

『yes』

「りょーかいまた明日な」

『OK good dream』

 

友姫とのやり取りを終え、龍護は眠りについた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

翌日。

龍護は自転車で友姫の家に来ていた。

敷地内に入ろうとした途端、使用人がやって来て移動しておくとの事。

龍護は降りて自転車を任せ、家の中に入った。

 

「お邪魔しまーす」

 

奥から友姫が歩いてきた。

 

「リューゴ!shoesヲモッテアガッテアガッテ!」

「おう」

 

龍護が靴を脱いで片手で持ち、家に上がる。

 

「・・・そういやなんで昨日は歩きだったんだ?てかあまり友姫がリムジンに乗る所って見たことないな・・・」

 

龍護はそう聞いたのも、友姫がリムジンで学園で来たのを見たのはせいぜい両手で数えられる程だったからだ。

 

「limousineデSchool attendanceスルトキハ、チコクシソウニナッタトキデス。ソレイガイデハホトンドworkデス」

「徒歩って・・・お前の家から学園って結構離れてんだろ。いつもは何時に起きてんだ?」

「6 a.m.」

「あ、俺より少し早いんだ?」

「チョーシノイイトキハソノママオキマス。Ill-conditionedトキハgoing back to sleepデス」

「お・・・おう、成程・・・」

 

会話をしながら歩いていると庭の訓練所に着いた。

以前と同様に使用人と護衛人らしき人達が訓練をしていた。

龍護と友姫が視界に入ったのか、全員が頭を下げる。

友姫がツヅケテテイイデスヨーと言うと頭を上げ、訓練を再開した。

お互いに靴を履いて外に出る。

 

「それでどうすればいいんだ?」

「At firstハフユウデス」

「確かに加減ミスってたな・・・」

 

イワナイデクダサイヨ~・・・と若干涙目になるも集中を始める。

龍護が最初は5mからだなと言った途端により一層集中力を高める。

そして少しづつ浮き始める。

後は少しづつ力を強めていくだけだ。

だが・・・

 

「ヒャアアアァァァァアアア!?!?!?!?」

 

一気に強めてしまい、100m上空に飛んでしまう。

またか・・・と思ったものの、すぐに龍護も浮遊して友姫を空中で受け止めた。

 

「ソ・・・sorry・・・」

「・・・」

 

龍護の中に少し疑問が浮かび上がる。

それを確かめる為に次は転移を使って5m先に転移してみろと友姫に言った。

友姫がそこに転移しようとしたら友姫が移動したのは18m先に転移していた。

やはりか・・・と龍護は友姫が制限出来ない理由が分かったようだ。

それを伝える為に友姫を呼ぶ。

 

「多分さ・・・距離や量的な制限が掛けられると友姫は変に意識して力んでるんだと思う」

「Limit of the distance and quantity?」

「そう。個人的な考えだけどさ、友姫は制限が掛けられると”そこに到達しないと”っていう意識が強くなって余計に力が入ってるんだと思うんだよ。浮遊の場合は最初は軽く浮いてたんだけど浮力が足りないという理由から”指定の位置に到達しないと”って思って力んで余計に力が入り、高く上がってしまう。水魔法の時は最初は軽く出せたけど量的に”不安になり”余計に出してしまった・・・って感じかな」

 

まぁ・・・後は本人の性格の問題だろう・・・と思ったがそれを直すのは無理があるだろうと考え、言わずにおいた。

 

「ナラドウスレバイイノ?」

「う~ん・・・これは俺がやってみて成功した方法なんだけど・・・」

「チョットソレデtryシテミル」

 

龍護が自分の方法を教え始めた。

 

「まず身体の中に大きい球体をイメージしてみて、次にその球体の1部を引っ張って1本の細い棒を球体から抜くようなイメージ。次にその棒を自分の手の平に向わせて水をイメージする」

 

龍護の言われた通りに友姫が実行するとチョロチョロと手の平から水が地面に落ちていた。

 

「I was able to do it!」

「もし水の量を変えたい時はイメージした棒の太さを変えればいい」

 

再び龍護の言われた通りにやってみると友姫の手から出てくる水の量が多くなったり少なくなったりと変化した。

 

「スゴイ・・・スゴイヨリューゴ!リューゴハオシエルgeniusデス!」

 

キラキラとした目で龍護を褒める友姫。

そんな友姫を見て照れ隠しに視線を反らした龍護であった。

 

後日。

魔法のテストで赤点ギリギリだった友姫の成績は龍護の教えで中間テストの時に、一気に80点近くまで上がったのであった。




あと2話で学園生活編は終了し、本格的なサバイバルが始まります。
お気に入り登録、感想等お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ひと夏の思い出

とうとうスクーター買いました。
3輪スクーターです


龍護と友姫が出会って3ヶ月が経つ。

夏休みも近くなった頃、友姫はクラス内で打ち解けて、今では龍護以外にも他の男子生徒と話していたり同性のクラスメイトと遊んだりしていた。

 

「最近ラジネスさん。人気だよな~。そこんとこどうなんだよ彼氏さんよ」

「誰が彼氏だ」

 

龍護が頬杖をついて外を眺めてる中、野武が話し掛けてきた。

 

「今じゃ学校中のアイドルだもんな~」

「アイドルって・・・」

 

そう言いながらも龍護はチラッと友姫を見る。

友姫は今、クラスメイトの女子生徒達と話していた。

 

「何話してんだろうな~?」

「・・・さぁな」

 

チャイムが鳴り、それぞれが自分の席に着く。

今日も学校が始まった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「旅行?」

「yes!リューゴモドウデスカ?」

 

午前の授業が終わり、食堂で食事をしている時だった。

友姫の両親が夏休みに旅行する事になり、友姫が両親に龍護を誘いたいと言っていたようだ。

 

「いや、さすがにそれはダメだろ。せっかくの家族旅行なんだし」

「イエ、family tripデハアリマセン。relativeヤfatherノyoke fellowモイマス」

「余計に行きづらいな!?」

 

友姫曰く、両親はOKとの事。

明日答えを出すと言った龍護。

逆に言うと今日中に答えを出してそれを伝えなければいけないということだ。

友姫は楽しみにしてると言って2人は午後の授業に向かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「旅行!?」

「まぁな・・・」

 

龍護が自宅に帰って恵美に今日学園であった事を話した。

当然恵美は羨ましがっている。

 

「けどいいの?家族旅行なんじゃ・・・」

「なんでも親戚や向こうの親父さんの仕事仲間も来るみたい」

「いや、それでも龍護が行くってどうよ?」

「だよな・・・」

 

龍護はそう言いながら茶碗の中の米を口に入れる。

 

「・・・それにラジネスカンパニーの社長の娘って・・・仲がいいなら男子生徒から疎まれるんじゃない?」

「・・・既になってる」

「御愁傷様です」

「止めれ」

 

恵美からの口撃で轟沈しかけている龍護。

本人も少しは分かっていた。

 

「これ、当日の泊まるホテルだってさ」

 

龍護がスマホを付けて恵美に渡す。

 

「ちょっ・・・このホテルってCMに出てた所じゃない!?」

「ハイ・・・ソウデス・・・」

 

スマホに表示されていたホテルはグアムの【サンディゴ・スパル】というホテルで前年度でモンドセレクション最高金賞5回目の受賞となったホテルである。

それなりに宿泊費も高くなり、安くても1泊10万超え。

高いと50万は下らないホテルだ。

 

「・・・止めといたら?」

「それ言おうとしたら泣かれそうになりました」

「最早打つ手無し!?」

 

ハァ・・・と恵美はため息が出てしまった。

 

「仮に行くとしてもお返しとかどうすんの?」

「庶民の俺にどうしろと?」

「例えば・・・一生を賭けてその子に服従するとか・・・」

「・・・俺が悩んでるの楽しんでるな?」

「割と」

 

さすがにイラッときたのかジト目になる龍護。

 

「うん・・・さすがに冗談だからそんなゴミを見るような目は止めて?」

「向こうは問題無いらしいんだけどな・・・」

「旅行ねぇ・・・・・・・・・・・・ん?旅行?」

「あ?」

 

恵美が何か思い出したのかバッグを持ってきて予定帳を出す。

 

「・・・ねぇ、その旅行っていつ?」

「確か・・・・・・8月下旬」

「何泊?」

「2泊」

「ごめん、私もその月の下旬に大学のサークルで合宿・・・という名の旅行が入ってたわ」

「はい!?」

 

場所は!?と聞くと大阪と帰ってきた。

留守番もなんだし行ってきたら?と言い出す恵美。

 

「いやいやいや!?規模が違うから!?」

「大丈夫だよ、私は問題ない」

「俺が問題大有りなんだよ!?」

 

じゃあ龍護1人、家で留守番する?と言われ、結局行く事になった龍護であった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

翌日。

 

「Hey!リューゴ!good morning!」

「おう、あぁ昨日の件なんだけど」

「yesterday?oh!travelノケンデスネ!デ!イケルンデスカ!?」

「行けるんだけどさ・・・なんで誘ったわけ?」

「fatherノfriendガfamily tripデケッセキシタンデticketガアマッタンデスヨ。ソレデワタシノfriendヲサソウカトイウコトニナッテ、リューゴ二White-feathered arrowガタチマシタ。ソウデナケレバサソエマセンヨ」

 

なぜそこで親父さんの友人という方向にならなかったのか?と疑問に思って聞くと既に誘いの言葉は掛けたが仕事や私用で無理となり最終的に友姫の友人を誘うという結論のようだった。

理由を聞いて納得のした龍護。

旅行日はまだ先だが友姫は楽しみのようだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

旅行日前日。

友姫から聞いたのだが夜に飛行機に乗るので夕方には迎えに行くから準備しておいてほしいと言われ、龍護は準備を済ませていた。

既に恵美は旅行に行っていて家には龍護が1人いるだけだ。

 

「着替え、サンダル、水着、お金、歯ブラシ、タオル、菓子、水筒、変圧器、コード、plvita、念の為のモバイルバッテリー、そういえばドレスコードってあんのかな・・・」

 

龍護は自作の準備リストを制作して旅行の準備をしている。

遠出の際には昔からしている方法だ。

本人曰く、この方が忘れ物をしにくいからなんだとか。

 

ピンポーン

 

呼び鈴が鳴り、外に出る龍護。

外では間宮美紅(初めて会った女性の護衛人)と運転手の沓澤が立っていた。

 

「奪木様、お迎えに上がりました」

「態々すみません。・・・そういえばホテルでドレスコードってあるんですか?」

「そうですね、出来ればスーツ、無いのでしたら制服の方が宜しいかと」

「・・・今から着替える時間ってあります?」

 

そうですね・・・と間宮が腕時計をチェックする。

 

「後10分で着替えが出来るのであれば問題ないかと・・・」

「あ~・・・そしたら持って行きます・・・迎えの車って・・・」

「?リムジンですが?」

 

それがどうしました?というような顔で答えられる。

ですよね~・・・と龍護は心の中で呟いた。

龍護は急いで制服をハンガーから取って畳み、キャスターバッグに入れる龍護。

準備が整い、渋々リムジンに乗った。

間宮、龍護、沓澤を乗せたリムジンが走り出す。

 

「御質問なのですが奪木様はリムジンに抵抗が?」

 

龍護と後部座席に乗った間宮が突然そんな疑問を龍護に振ってきた。

 

「というか・・・俺の住んでる所って見ての通り入り組んでるんですよね・・・その中をリムジンで来るって・・・かなり度胸いりますよ?それにそれでミスって車に傷が入ったら大事でしょ?」

「お気遣い感謝します。ですが私達は友姫様やスヴェン様を御守りする立場。車の運転に関しても厳しいチェックを通り、皆様を送り迎えさせて頂いております。・・・1つ言わせて頂きますと奪木様はもう少し甘えていいのでは?とも思っております」

「俺が?」

「はい、私の見解では奪木様は自分が思っているよりかなり大人びております。奪木様も友姫様もまだ学生の身。大人に守られていいのです。その上奪木様は我々にとって客人。私達が敬意を称して対応させて頂くのは当然です」

 

間宮はそう言いながらバックミラーに映る龍護に優しく微笑む。

まぁ、龍護は大学4年で死んで転生しているので前世の年齢と合わせると普通に30歳はいくがここで変にボロが出れば面倒事になりそうなので留めておいた。

数十分して空港に到着する。

キャスターバッグを下ろしてハンドルを伸ばし、転がしてターミナルに入る。

既にメンバーは揃っていたようだ。

 

「リューゴ!」

 

友姫が嬉しそうに龍護へと駆け寄って来て龍護の手を持ち、集団に連れていく。

 

「ちょ、引っ張るなっての」

 

友姫はそれでも尚、龍護を引っ張る。

スヴェンが龍護を見付け、友人や仕事仲間に龍護を紹介する。

 

「悪いね龍護君。私の知人が家族旅行で欠席になって1枚チケットが余ってしまってね・・・そしたら友姫が龍護君を連れて行きたいって言ったから私も余らせるくらいならその方がいいかなと思って誘わせてもらった次第だ」

「いえ、こちらこそ招いて頂いてありがとうございます。それとドレスコードがあると聞きましてバッグの中に制服が入っているのでどこかで着替えたいんですけど・・・」

 

なら突き当たりにロッカールームがあるからそこで着替えてほしいと言われ、龍護は荷物を持ってロッカールームに向かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

7分で着替え終えて集合場所に戻った龍護。

丁度搭乗時間になったようだ。

スヴェンから1つの封筒を受け取る。

中を見てみるとチケットとドル札だった。

金額は181ドル。

現在の為替、日本円で約2万前後。

さすがに返そうとしたが向こうはこっちの家庭事情を知っていて出してくれたとのこと。

返すのは無粋と判断し、出来るだけ使うのは控え、余ったら全て返そうと誓った龍護であった。

飛行機内では座る席は勿論友姫の隣。

搭乗ゲートに入ろうとした時だった。

警備員に龍護が止められてしまう。

 

「申し訳ございませんお客様。海外旅行の際は飲食物の持ち込みはお断りさせて頂いております」

「え゛・・・」

 

どうやら龍護の持って来ていた菓子と水筒が引っ掛かってしまったようだ。

菓子は捨て、水筒の中身は出すように指示され、言われる通りにして漸く通る事が出来た。

友姫は先に済ませていて龍護の様子を見て笑いを堪えていたが龍護にはそれが見え見えだった。

 

「リューゴ・・・オモシロスギ・・・」

「るせぇ・・・」

 

何はともあれ搭乗ゲートを潜れた一行は飛行機に乗り、グアムへと飛んでいった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

午前7:00

日本時間で6:00にグアムに着いた。

 

「あ~・・・座りっぱなしだったから背中とか腰とか痛てぇ・・・」

「リューゴ、イッテルコトlike an old man」

「ほっとけ」

 

龍護が背筋を伸ばす度に背骨の関節が鳴る。

バスで移動らしく再び椅子に腰掛ける。

外の風景をぼんやりと見ていた。

友姫に呼ばれ、振り向くとグミを渡してくれた。

どうやら空港の売店で売っていたようだ。

1つ貰い、再び外を眺めていた。

 

(あまり元の日本とは変わらねぇな・・・)

 

バスの中で1人、思いにふける龍護であった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

10分でホテルに着いた。

見た目がまず豪華だった。

入口からレッドカーペットが敷かれ、奥へと伸びている。

支柱が何本も立っていてその1つ1つに綺麗な彫刻が掘られ、金色の装飾が施されている。

その両サイドには清潔な薄いベージュの制服を着たホテルの従業員が何人も立っていて頭を下げたまま迎えていた。

バスから降りて中へと進む。

途中で従業員達が龍護達から荷物を受け取り、中へと運んでいく。

 

中も綺麗だった。

 

天井から吊るされているのは巨大なシャンデリア。

それが何個も吊るされている。

中の支柱にも綺麗な装飾が施されていた。

そして目の前にあるのは大きな噴水。

2人の子どもの天使が1つの壺を持っていてそこから水は出ていた。

壁には巨大な風景画。

恐らくロビーからこんな豪華だから部屋もかなりのものだろう。

スヴェンが受付に向かう中、親戚や仕事仲間の人達が談笑していた。

 

「スゴイ?」

 

ホテルに圧倒されていた龍護に友姫が近付いてきた。

 

「なんというか・・・俺・・・浮いてるな」

「リューゴハeventuallyダカラシカタナイヨ」

「本当に俺を誘って良かったのか?他にこういった場所に合ってる奴を選んだ方が・・・」

「アー!モウ!ナンデリューゴハoneselfヲunderestimationスルカナー!」

 

友姫は突然、龍護の髪をグシャグシャにする。

 

「うおっ!?何だよ急に!?」

「リューゴハreservationシスギ!ワタシガリューゴトイキタカッタカラfather二タノンダンダシ、リューゴハモウguestナンダヨ!?」

「けど・・・」

「リューゴ、ワタシガリューゴヲinvitedノハ、オレイヲシタカッタカラダヨ」

「礼を?」

 

ソウデス!と友姫は胸を張る。

 

「リューゴハワタシニwitchcraftノアドバイスヲクレタ。キョウノtravelハソノオカエシモカネテルノ!ダカライッショニタノシモーヨ!」

 

龍護に屈託の無い笑顔を向ける友姫。

友姫にとってこれは魔法の練習を一緒にしてくれた龍護へのお返し。

その言葉に龍護は少し気が軽くなり、友姫の頭を撫でる。

 

「リ・・・リューゴ!?」

 

撫でられた本人は耳まで顔を赤くした。

 

「あんがとな友姫・・・じゃあ、俺も誘われた旅行を楽しむか!」

「It is the spirit!」

 

チェックインを終えたようでスヴェンが戻ってくる。

午前は部屋に入って中の確認をした後にロビーに集合。

そのまま海で海中散歩、マリンジェット(水上バイク)といった体験や、サーフィン、バーベキュー等といった事をするらしい。

夜には花火と盛り沢山だ。

早速ホテルの部屋を確認しに行く一行。

男性と女性で分かれ、大部屋を8部屋使っている。

部屋に入るなり、一緒に来ていた子ども達がベッドの場所取りを始めた。

龍護は荷物を整理してベランダに出る。

子ども達が使うベッドが決まったようでスヴェンの仕事仲間達や親戚が先に龍護にベッドを選ばせてくれた。

せっかく選ばせてくれたので龍護は外が見られる場所を選ぶ。

全員が決まって水着に着替え、上着を着ると女性陣はまだのようだったらしく龍護達は部屋に戻った。

その際だが歳の近い親戚から友姫とはどういう仲なのか、どこまで進展してるのかを根掘り葉掘り聞かれ、部屋から逃げ出したのはまた別のお話。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

1人ロビーのソファーに座り、天井からぶら下がるシャンデリアを見ていると急に視界が暗くなる。

 

「ダ~レダ?」

「・・・友姫・・・何してんだ?」

 

バレチャイマシタカ~と友姫が龍護の顔から手をどかす。

龍護が振り返ってみるとレースの付いた白いビキニにピンクの上着を着た友姫が立っていた。

 

「ソノ・・・ドウカナ?」

 

聞きながらも視線を逸らしてモジモジしている。

 

「えと・・・その・・・可愛い・・・よ?」

「・・・really?」

 

自信が無いのか顔をほんのり赤くしたまま上目遣いで龍護を見る友姫。

ドキッとしてしまい、不意に龍護も視線を逸らしてしまう。

 

「本当・・・本当に可愛いって」

「ウレシイ・・・」

 

友姫が満足そうに顔を綻ばせる。

全員が揃ってバスに乗り、海へと向かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「ウミデース!!!!」

 

海に着くなり、友姫がヒャッフー!!!!とはしゃぎながら子ども達、歳の近い男女と共に海に飛び込む。

 

「危ねぇぞー!」

「all right all right!リューゴミタイニsallowジャナイカラダイジョーブデース!!!!」

「言ったなー!」

 

龍護も走って海に飛び込む。

 

「Wow!リューゴガトンデキタ!」

 

クラエ!と友姫が龍護に海水を掛ける。

 

「へっ!当たんねぇ・・・ブッ!?」

 

龍護もやり返そうとしたら砂に足を取られ、顔面からバッシャーン!と音を立てながら海に倒れる。

それを見て笑い出す友姫達。

 

「リュ・・・リューゴガシンダー!」

「勝手に殺すな!?」

 

すぐに起き上がり、友姫達を追い掛ける龍護。

向こうではサーフィンをしている人達もいた。

親戚や仕事仲間が友姫と龍護、子ども達を呼んでバーベキューを始める。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 

龍護がスヴェンから肉と野菜の刺さった鉄串を2本受け取り、友姫の元に行く。

 

「ほれ」

「Thank you」

 

龍護から串を受け取って2人で食べ始める。

 

「ウーン!pepperガキイテマス!」

「本当うめぇな」

 

あっという間に平らげた2人。

向こうを見てみると大人達は既にビール等の酒を飲んでいた。

 

「ワタシモハヤクalcoholic drinkノミタイ・・・」

「20歳になってからな」

「time machineガアレバミライデノメ・・・」

「いや、年齢は変わんねぇからな?」

 

ウ~!とむくれる友姫を窘め、スヴェンから呼ばれて彼等の元に向かう2人。

どうやら水上バイクの準備が出来たようで2人1組で乗るらしく、組を作って欲しいとのこと。

すぐに出来たようで水上バイクを停めている所に向かう。

友姫と龍護ペアは青い水上バイクを選んだ。

龍護が運転席に跨って友姫が後ろに乗る。

 

「落ちねぇようにちゃんと掴まっとけよ?」

「ワタシガfellトイウコトハ、リューゴノDriving technologyガナイトイウコトデ」

「地味にプレッシャーだな・・・」

 

友姫の言葉に苦笑いするしかない龍護。

付属のキーを挿してエンジンを起動する。

ブオン!!!!と大きな音が鳴った。

使い方はスクーターと同じで右ハンドルを手前に回せばいい。

ゆっくりと動かすと少しずつ海水を弾いて進み出す。

そのまま回し続けるとかなりの速度になりながら龍護は友姫を落さない程度に蛇行運転をする。

後ろを見ると既に旅行に来ていたメンバーは小さくなっていた。

少しハンドルを戻した途端にスピードが緩まる。

加速も減速も早いらしい。

粗方操作方法を覚えた龍護は加速して正方形に仕切られたコースを回り始める。

 

「リューゴハヤーイ!!!!」

(って、友姫の胸が背中にいいいいぃぃぃぃぃいいいい!?!?!?!?)

 

後ろの友姫も楽しんでいるようだが龍護は別の意味でそれどころでは無かった。

邪念を捨てて運転に集中する龍護。

再び後ろを見ると後から来たペアが走ってきていた。

混まないように、とすぐに加速する。

数十分後、時間になったのかスヴェンが水上バイクに乗っている龍護達を呼び戻す。

それに反応し、すぐに海岸へと水上バイクを近付けた。

 

「アー!タノシカッタ!」

「けど、良かったのか?俺が運転して」

「ワタシ、以前にdriveシテタ」

「あ~だから」

 

その後も海中散歩を楽しんだ龍護と一行。

暗くなり、少し風が出始める。

スヴェンがそろそろホテルに戻るか、と言って皆が帰る準備をし出す。

友姫が何かを思い出し、スヴェンの耳元で何かを話した。

スヴェンは許可したようで嬉しそうに龍護の元に戻ってくる。

 

「リューゴ、ホテル二モドッタラroof floor二アルferris wheel二ノリマセンカ?」

「え!?あのホテル、遊園地もあるのか!?」

「ハイ、アリマスヨ。dinnerマデ、マダジカンガアルカラソレマデデイイナラトfatherモOKクレマシタ」

 

スヴェンが許可したのなら乗らせてもらうか・・・と考え、乗ることを約束した龍護。

帰り支度を終え、ホテルへと帰って言った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

ホテル屋上。

観覧車がライトアップされながら回っている。

風が吹いているが動かせない程度ではなかった。

従業員の人がドアを開け、2人が揃って乗る。

ドアを閉めて2人で景色を眺め始めた。

目の前に映るのは街灯や、車のライトで照らされた街並み。

 

「beautiful・・・」

「すげぇ・・・」

 

龍護もその光景に見蕩れてしまう。

 

「てか、友姫は来てんだから見飽きてんじゃねぇのか?」

「ワタシ・・・コノHotel二ハジメテトマッタトキニコノFerris wheelヲミツケテノッタンデス・・・イマデモコノsceneryハカワラナイ・・・ソシテ、トマルトキハnecessarilyコノFerris wheelにノルトキメテマシタ・・・コノsceneryハイツミテモアキマセン・・・」

「そうなんだ」

 

龍護はそう言いながら横にいる友姫を見ると、友姫の顔はライトで照らされているからなのか分からないがとても綺麗に見えていた。

そして友姫の顔は懐かしそうな顔をしている。

2人が乗った観覧車のカゴが1番上に来た時だった。

 

ガコン!!!!

 

「ウワッ!?」

「キャッ!?」

 

突然観覧車が止まる。

グアムでは時折停電が起こる事があり、初めてグアムに来た日本人は必ず慌ててしまう。

それと帰り支度をしてる時から吹いていた風の影響もあった。

先程、急に強くなったのだ。

そして止まった事で友姫と龍護はバランスを崩してしまい、倒れてしまった。

 

「いつつ・・・大丈・・・夫ぅ!?!?」

 

龍護が気付いてしまった。

先程の振動で2人は倒れ、龍護が友姫を押し倒している姿勢になっていた。

 

「ウ・・・ウン・・・ワタシハ・・・・・・!?!?」

 

友姫も気付いたようだ。

時間が止まったかのように2人は固まってしまう。

ハッ!として龍護がどこうとした時だった。

友姫が龍護の背中に腕を回す。

 

「ゆ・・・友姫さん?」

「・・・」

 

友姫は恥ずかしそうに頬を赤く染めながら視線を逸らす。

突然、ギュッ!と目を閉じた後に再び目を開けて龍護を見た。

 

「リューゴ・・・」

 

龍護の心臓は破裂しそうになる程、鼓動が早くなっていた。

 

「リューゴハ・・・todayノtravel・・・タノシカッタ?」

「お・・・おう・・・旅行なんて(この世界では)初めてだったからさ・・・」

「ヨカッタ・・・」

 

友姫は嬉しそうに目を細める。

 

「リューゴ・・・ワタシハ・・・」

 

再び龍護を友姫は潤んだ瞳で見詰める。

 

「ワタシハ・・・リューゴガ・・・────────スキ」

 

友姫からの告白。

恋愛に疎い龍護でも本気だと分かる。

 

「ワタシ・・・リューゴトイテワカッタ・・・リューゴトイタイ・・・モットリューゴノコトヲシリタイ・・・ダカラ・・・」

 

震える口でその言葉を告げた。

 

「ワタシト・・・────────ツキアッテクダサイ」

「・・・」

 

龍護は視線を落とす。

自分に問い掛けていた。

 

 

 

────俺に・・・つとまるのか・・・?

 

 

 

────住む世界が違う俺と友姫。

 

 

 

────俺に・・・・・・その資格が・・・友姫といる資格があるのか・・・?

 

 

 

スッ・・・と瞳を閉じる。

龍護の瞼の裏に映るのは友姫と出会ってからの今まで。

 

最初の出会いは突然だった。

 

 

角から飛び出して来た女子生徒を学園に案内する途中で不良達と交戦。

 

 

その後に龍護と同じクラスになり、話すようになった。

 

 

魔法の授業でも必ずペアとなって魔法を覚えていった。

 

 

そして・・・今日、旅行して、観覧車に乗って告白された。

 

 

必ず隣や近くに友姫がいた。

 

 

友姫といて楽しいと思っている自分がいた。

 

 

龍護は目を開ける。

友姫は不安そうにしていた。

フラれる────そう思っているんだろう。

だからこそ・・・龍護は伝えた。

 

「友姫・・・」

「・・・ハイ」

 

恐怖の余り、友姫は目を閉じてしまう。

背中に回した腕も震えていた。

 

「俺も────────俺も友姫が好きだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 

自分の思いを告げた途端、龍護は友姫の身体を持ち上げてお互いに立って抱き締める。

 

「俺も・・・気付いたらお前を好きになってたよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・嘘・・・」

「バーカ、こんな恥ずかしい事、嘘混じりで言えるかよ」

 

両想いと知って友姫の目からとめどなく涙が溢れる。

 

「ヤッタ・・・ヤッタァ・・・」

「・・・?友姫?」

「ヤッタアアアァァァァアアア!!!!!!!!」

「ウオッ!?」

 

突然飛び上がる友姫とそれに応じて揺れる観覧車のカゴ。

 

「落ち着こう!?カゴ揺れてっから!?」

「ウレシイ・・・ウレシイヨォ・・・」

 

落ち着いて涙を拭う友姫。

 

「リューゴ!」

「ん?」

「コレカラモヨロシクオネガイシマス!!!!」

 

友姫が眩しい笑顔で伝え、龍護と友姫は唇を合わせた────




漸くメインヒロイン完成です・・・長かった・・・
後1話学園生活編を更新したら遊戯が始まります


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雪原のガールフレンド

バンジージャンプして来ました。
・・・紐なしバンジーじゃないからな?


「スキー場だああぁぁぁああー!!!!」

「yeeeeees!!!!!!!!」

 

白と友姫が防寒具を着てはしゃいでいる。

今日は年越し前として友姫の父親が龍護達を誘ってお忍びの外出をしていた。

場所はスキー場で朝なのにも関わらず沢山の人が高い斜面から滑っていた。

 

「で・・・お前は大丈夫か?」

「・・・無理」

 

野武は寒いのが極端に苦手なのか沢山服を着過ぎてかなり丸い体型になってる。

それ程か・・・と龍護は呆れていた。

 

「リューゴ!ノブー!コッチハヤクー!hurryhurry!」

 

友姫が2人を急かす。

後ろからスヴェンがやって来た。

 

「私の事は気にせずに行ってくるといいよ」

「なら・・・」

 

今行くから待ってろー。と言って友姫達の元に向かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

スキー板やスティック、その他必要な物をレンタルして装着し、リフトに乗る。

龍護は友姫とリフトに乗っていた。

 

「ワァー!beautiful・・・」

「本当すげぇな・・・」

 

どこを見回しても綺麗な雪景色、そして下を見ればその雪の積もる斜面をスケボーやスキーで滑る者達が大勢いた。

 

「ソウイエバリューゴハスベレルノ?」

「一応スキーならな・・・友姫がスケボー出来ることに驚きだけど・・・」

 

友姫はスケボー、龍護はスキーでリフトに乗っている。

リフトが頂上に着いて2人は揃ってリフトを降りる。

既に白と雫は来ていた。

 

「じゃあ早速滑ろうか!」

「yes!!!!」

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

シャーッ!!!!ザザーッ!!!!

 

友姫の乗ったスケボーがカーブをしながら雪の上を滑っていく。

一番下まで辿り着いてブレーキを掛けた。

 

「あー!また負けたー!」

「ヘッヘッヘー!マタ白二カッタデース!」

 

友姫!もう1回!と白が笑顔で友姫をリフトに誘う。

友姫もノリノリで白に着いていきリフトに乗っていた。

 

「あ~・・・雪原の美少女とはこの事か・・・」

「何悟ってんだお前は・・・」

 

再びリフトに乗った2人を野武は遠目で見ている。

その横で龍護が呆れた顔で野武を見る。

そんな野武を置いといて龍護は1人でリフトに乗って行った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

リフトを降りて斜面を見下ろす。

 

(にしても・・・)

 

転生して色々あったなぁ・・・と斜面から空に視線を移す。

空は雲ひとつ無い真っ青な青空が広がる。

転生した時とは真逆の空だな・・・と思っていた。

前世では親孝行はおろか、大学を卒業すら出来ずにこの世界に来てしまった。

そしてこの世界でも見ず知らずの自分を明子と恵美は愛情深く育ててくれた。

その明子にすら恩返し出来なかった。

 

 

自分は身勝手だな・・・

 

 

ハァ・・・と溜息が漏れる。

これから先どうすればいいのだろう?

様々な不安が龍護を中を渦巻く。

 

ベシッ!!!!

 

「いって!?」

 

誰かに背中を叩かれる。

擦りながら振り向くとそこには友姫、白、雫、野武と全員が揃っていた。

 

「何ボーッと突っ立ってんのよ」

「リューゴ!meとショウブシマショー!」

「・・・」

「ほら早く滑ろうぜ?」

 

龍護を通り過ぎて滑っていく4人の表情を見えた。

4人は元気そうな笑顔だった。

そんな4人を見て気付かされる。

 

 

生きてる人が死んだ者に対して出来る事は1日1日を元気に過ごす事なんだ

 

 

死んだ者が見てるかどうかなんか分からない。

だがもしも見ていて、暗い顔で1日1日を過ごしていたら不安になるのではないか?

そして健康で生きている事を見れば安心するのではないか?

そんな答えが龍護の中に現れる。

フッ・・・と笑みが浮かび、龍護はスキーで滑り降り、4人を抜いた。

 

「おせーぞ下手っぴ共ー!」

 

そんな龍護も先程とは違ってスキーを楽しんでいる。

 

「逃がすかぁ!」

「リューゴハヤーイ!」

「・・・負けない」

「へっ・・・スノボー最強と呼ばれたお「変な事言ってないで行くよ!」ってセリフの途中で割り込むなー!」

 

4人も龍護に負けじと滑り降りる。

結果は僅差で友姫の優勝。

2位は龍護だった。

龍護にも負けた白はorzの姿勢になっている。

 

「いや・・・そこまで・・・」

「だって・・・龍護ごときに負けたんだもん・・・生きてく資格ないよ・・・」

「”ごとき”ってどういう意味だ”ごとき”って!!!!俺どんだけ下に見られてんだよ!?」

「はぁ!?ごときはごときでしょ!アンタは私よりも何もかもが下なんだから立場弁えなさいよ!」

 

んだとぉ!?とまた龍護と白の口喧嘩が始まる。

そんな2人を見て友姫は途端に笑いだした。

 

「え?どしたの友姫?」

「ダッテ・・・」

 

必死に話そうにもツボにハマったのかお腹を抑えている。

 

「ダッテイツモノpasteデタノシイカラ・・・フタリガquarrelシテルノニ、ソノヤリトリヲlookingデ、スッゴクタノシイッテオモエルカラ・・・」

 

再び友姫は笑い出す。

そんな友姫を見て4人も笑っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「あ゙~疲れた~・・・」

 

ホテルにチェックインして部屋に入った途端に龍護がベッドへ倒れ込む。

あの後白と龍護はアイスを賭けて三本勝負をしていた。

・・・結果的には白が2本勝ちで勝って、悠々と龍護を見下していたが・・・

龍護に続いて野武とスヴェンも持っていた荷物を降ろす。

 

「それじゃあ私は手続きとかしてくるから2人はのんびりしてていいよ」

「ではお言葉に甘えて」

 

スヴェンが部屋を出ると野武もベッドにダイブして、んー!と伸びをする。

一頻りベッドの柔らかさを堪能して窓を開けた。

 

「うー・・・さみぃけどやっぱ景色はいいねぇ~」

「だな」

 

なんか飲むの買ってくると龍護が財布を取ると野武が炭酸系なら何でもいいから頼む。と龍護に150円を投げ渡してくる。

龍護は仕方ねぇな・・・と思いながらも自販機へと向かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

3台こ自販機が並んだコーナーの前まで来ると既に友姫ごが買っていて、白は悩んでいるようだった。

 

「あ、リューゴ!」

「え?あ、本当だ」

「なんだお前らも買いに来たのか」

「そういうダッチーも?・・・てかパシられたか」

 

ほっとけ。と軽くあしらって缶のサイダーと缶コーヒーを買い、自分達の部屋に戻ろうとした時だった。

ん。と白が手を出してきた。

 

「・・・何だよ?」

「今日の賭けで負けた分貰うから」

「はぁ!?あれはアイスだったろ!?」

「何言ってんのよ!この自販機を見なさい!」

 

自信満々に隣の自販機を指差す。

そこには《期間限定!ふるふるサイダー雪解け味!》と限定品の飲み物が売っていた。

 

「・・・これを買えと?」

「だって限定品よ!これを味合わないのなら死んだも同然じゃない!」

 

そこまでか・・・と思い、再び自販機のふるふるサイダーの値段を見ると【200円】と表示されている。

龍護の買った缶コーヒーが2本買える値段だ。

ギギギギ・・・と壊れた玩具のように顔をゆっくりと白に向ける。

 

「負けたんだから・・・ね?」

 

白の表情は笑ってはいた。

少し威圧のある笑顔だが・・・

龍護はハァ・・・と溜息をして素直に200円を入れて限定品の飲み物を買い、白に渡した。

 

「ラッキー!これで飲み比べ出来るね!」

「yes!ハヤクノミマショー!」

 

白の言葉に「ん?」と思う龍護。

 

「ちょっと待て?飲み比べ?」

「ええ、そうよ?こっちの自販機にも限定品のカシスオレンジ味があって200円だったのよ。だから迷ってて、丁度いい所にダッチーが来たから両方買えたって理由♪」

 

ごっつあんでーす。と手をヒラヒラ振って友姫と白は自分達の部屋に戻って行ってしまった。

 

「次から負けたら野武に頼むか・・・」

 

今後、白に負けた時は自販機等には行かないで部屋に籠ることを誓った龍護なのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

龍護が炭酸飲料と自分のコーヒーを買って部屋に戻ってきた。

 

「おう、お帰りー。やけに遅かったな?」

「白に捕まった」

 

ご愁傷さま・・・と軽く同情された後に炭酸飲料を渡される。

プルタブを倒すとプシッ!っという音がして少しだけ炭酸が溢れてくる。

零さないようにとすぐに飲み始めた。

 

「くぅ~っ!やっぱ炭酸はいいねぇ~!」

「そうかい」

 

龍護も缶コーヒーを開けて中身を飲む。

因みに龍護は微糖好きだ。

スヴェンが帰ってきた。

どうやら夕食の時間らしい。

スマホで友姫達にも伝えておいてくれと頼まれて龍護がすぐに無料通話アプリでチャットに『そろそろ夕飯』と送信する。

数秒後には『OK!』と帰ってきたのを確認してから夕飯の場所である1階フロアに行く。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

1階フロアには既に友姫達が席を取っていた。

 

「お前ら早くね?」

「だってバイキングよ!早く来て早く食べたいじゃない!」

「yes!シロノイウトーリデス!」

 

シロ!ハヤクイコー!と友姫が白を急かす。

龍護達が席で待っている間に3人で料理を取りに行くのであった。

だが少ししてからスヴェンが来て2人も取りに行ったら?と言われ、野武と共にバイキングへと向かう。

バイキングの料理は相当な数を占めていた。

日本食はもちろん、中華、イタリアン、アメリカン、韓国料理等様々だった。

韓国料理の方で話している3人を見付けた。

 

「何してんだ?」

「あ、ダッチーか、これとこれ、どっちから先に食べるか・・・ってそうだ!ダッチーのお皿に入れさせてよ」

 

はぁ?と言いたくなったがよく見ると龍護の目から見てもその料理は美味しそうに感じる。

ならば・・・と考え、龍護は多めにその料理を取った。

 

「あれ?少し量多くない?」

「ちょっと美味そうだったからな。俺が食べる分も含めた」

 

オッケー。と言って白は他のエリアに行ってしまった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

料理を取り終えてテーブルに戻ると既に全員が揃っていた。

 

「お前ら早くね?てかスヴェンさんまでいつの間に・・・」

 

龍護の問い掛けについさっき友姫達が帰ってきたからその時に交代したことを聞いて龍護も席について一斉に食べ始める。

 

「この料理美味しー!」

「マジでうめぇな!」

 

どうやらバイキングの料理は好評のようだ。

龍護も料理を黙々と食べている。

スヴェンに至っては既にアルコール・・・日本酒を呑んでいた。

 

「って、スヴェンはビールじゃないんですね?」

「え?あぁ、日本のお酒が気に入ってて日本にいる時はずっと日本酒だよ」

 

まぁ故郷に帰ったらビールやウイスキーも飲むけどね?と笑いながらお猪口を傾けていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「あ~食べた食べた~。あ、ダッチー、モブ!この後そっちでトランプしない?」

「え?俺はいいけど・・・」

 

龍護はチラッとスヴェンを見る。

どうやらスヴェンはバルコニーでもう少し呑むらしく、好きにしていいとのことだ。

カードゲームをやる約束をした5人は食器を返却して部屋に戻った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「あー!また負けたー!」

「ノブvery weak!」

 

現在ババ抜き3回戦で3回戦とも野武がビリで終わっている。

トップを争っているのは白と龍護だ。

そして4回戦目が始まる。

順番が決まり、白→龍護→雫→友姫→野武の順でカードを引くことになった。

白が龍護の前にカードを出すとスッと何も考えずに龍護は右端のカードを掴み取る。

出たのはスペードの7。

龍護は持っていない。

 

「さすがに適当に引いても無理か・・・」

「ま、最初ならそんなでしょ」

 

次に龍護が雫の前に手札を出す。

雫が1枚引いて2枚のカードを捨てた。

次に雫が友姫に手札を出す。

友姫はウーと唸りながら選ぶもそのカードは持ってる手札と一致しなかった。

そして最後に野武の番だ。

序盤は手札が多いから野武も適当にカードを引く。

一巡し、野武の持っているカードの1枚を白が引いたが一致しなかった。

 

「雫ってお前と違って運いいよな・・・」

「まぁあの子は昔から強運の持ち主だからね。・・・てか今サラッと比べたでしょ?」

 

いえ別に・・・と龍護はそっぽを向きながら次は左端のカードを引いた。

そのカードはJOKERだった。

ポーカーフェイスを装うも白はニヤニヤしている。

 

(あの野郎・・・)

 

心の中で溜息を付きながらもJOKERを雫に引かせようとするがすんなりと別のカードを引かれた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「あーもう!いい加減負けなさいよ!」

「はぁ!?お前こそ負けろや!」

 

勝負は白と龍護の一騎討ちとなった。

だがお互いにJOKERを往復させている。

既に何往復したかも忘れていた。

白が龍護の手札からカードを1枚引くがまたJOKERだ。

 

「へっ、どうやら試合は終わりのようだな」

「どうだか」

 

龍護が白の手札から1枚引く。

・・・がまたまたJOKERだ。

 

「・・・この・・・」

「さすがに龍護には負けたかないっての」

 

バチバチと火花が散っている。

雫は既にテーブルで寝てしまっていた。

友姫も友姫でテレビを見て、野武はネット小説を読んでいる。

時間だけが過ぎていた。

龍護が引き終わって白の番となる。

 

「・・・」

 

真剣な表情でカードを眺める。

そして遂にカードを引き抜いた。

 

白が引いたのはハートのクイーン。

 

持っていた残り1枚のカードと揃って白が勝ち抜け、ビリは龍護となった。

 

「っしゃあああぁぁぁあああ!!!!」

 

漸く勝負が決まり、疲れたのか白は床に寝そべった。

 

「あっぶな~・・・危うくビリになる所だった・・・」

「そこまで負けたくないか・・・」

 

当然でしょ。と龍護に勝ち誇った顔をする。

すると龍護は立ち上がり、外に行こうとする。

 

「?どこ行くの?」

「ちょっと散歩だ」

 

ふーん、りょーかーい。と白が軽く手を振っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

龍護はバルコニーに出て近くのゆったり座れる木製ベンチに座っていた。

空は既に暗く星空になっている。

フゥ・・・と息を付きながらその星空を眺めていた。

すると突然視界が真っ黒になる。

 

「who is it?」

 

その声ですぐに分かった。

 

「何してんだ友姫・・・」

 

Oops!バレタカー!と龍護の目の前に立った。

 

「どうした?」

「ベツニー!」

 

そう言いながら龍護に背を向けて上に座る。

 

「キレイダネ・・・」

「・・・そうだな」

 

すると急に友姫がギュッと龍護に抱き着いてくる。

 

「どうしたよ?」

「ナントナクシタクナッタ」

 

その顔は満足そうで顔をスリスリと龍護の胸板に擦り付けている。

そんな友姫の頭を龍護は優しく撫でていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「さてと・・・そろそろ寝るか」

「ウン」

 

龍護が立ち上がり屋内に入ろうとする。

 

「ネェ、リューゴ」

「ん?」

 

龍護が振り返る。

そこにいた友姫は月明かりに照らされてより一層可愛く見えた。

 

「マタ、go together」

「おう」

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

帰り道。

スヴェンが運転して龍護が助手席に座る中、後ろで4人は静かな寝息を立てていた。

 

「ったく・・・はしゃぎ過ぎだっての」

「ハハ、たまにはいいんじゃないかな」

 

ですかね?と龍護は窓越しに離れていくスキー場を眺める。

 

「今年から皆は2年生か・・・友姫も少しづつ日本語をマスターさせないとな」

「そういやそうですね。時間があったら家庭教師でも雇えばどうです?」

「そうだな・・・っといるじゃないかここに」

「・・・え?」

 

スヴェンの言葉に龍護はハッとする。

 

「え・・・まさか・・・」

「私の横にいい家庭教師がいたよ」

 

やっぱり・・・と龍護は頭を抱える。

友姫を宜しくね。と言われ、なし崩しに龍護が友姫の日本語の家庭教師となった・・・




これで第一章【学園生活編】は終了し、次から遊戯が始まります。
お気に入り登録、感想等お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

遊戯開始編
一冊の本


さぁ!漸く遊戯が始まります!


1人の男子生徒が他人の家の塀に寄り掛かり、スマホの無料通話アプリを眺めている。

 

「ったく・・・あいつ新学期早々遅刻か?」

 

ハァ・・・とため息が漏れる。

そこに1台のリムジンが止まった。

 

(・・・てことは・・・)

 

後部座席のドアが勢いよく開き、中から1人の女子生徒が飛び出す。

 

「リューゴオオオォォォオオオ!!!!」

「ウゴッ!?!?」

 

龍護が女子生徒と壁に挟み撃ちされた。

 

「・・・ん?リューゴ・・・?ヒイイィィィイイッッッ!!!!リューゴが息して────」

「だったら加減しろ!!!!」

「うぎゃっ!?」

 

龍護が女子生徒の脳天に拳骨を叩き付ける。

 

「う~暴力反対・・・」

「特攻してきてよく言えんなそれ・・・ってヤベッ!友姫!急ぐぞ!」

「ちょっ!?待ってー!」

「行ってらっしゃいませ~!」

 

龍護と友姫が恋人同士になって半年が経つ。

今日から新学期となり、2人も高校2年生になった。

龍護と友姫の新しい学園生活が始まった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

校門を潜る龍護と友姫。

 

「ん?おぉ~お2人さん、ギリギリセーフだな。クラス分け貼ってあるぞ・・・って腹抱えてどうした?」

「おぅ・・・ノブか・・・いや・・・友姫の奴が腹に突撃してきてな」

「彼女からの猛烈な愛だろ」

「うっせぇ・・・で、クラス分けどうなってた?」

「1年と変わらねぇよ」

 

変わらないと聞いて安堵した龍護。

後ろから友姫が走ってきた。

 

「り・・・リューゴ・・・少しは待って・・・」

「お前・・・最近寝坊多くねぇか?」

「ゲームしてる」

「あのなぁ・・・」

 

友姫は龍護との日本語の猛勉強で日常会話は殆ど問題なく出来ているものの、漢字はまだまだのようだ。

 

「あれ?誰かと思えばダッチーと友姫と・・・・・・モブじゃん」

「安達野武だっての!」

「そうそうそれそれ」

「おはー・・・」

 

龍護の視線の先には白と雫がいた。

白は相変わらずツインテールの髪型で雫も短いのには変わらない。

 

「まさかまた一緒になるとはね~・・・またダッチーとモブの事、弄ろっかな~」

「止めろ・・・友姫だけで精一杯だ」

「彼女を悪く言うか・・・有罪決定ね。友姫、Execution decisive action ジャストナウ」

「イエッサー!」

 

友姫が元気よく敬礼し、龍護にジリジリと近付いてくる。

 

「うん!もうよそうか!朝の突撃で十分だから!」

「友姫」

「ん?」

 

白に止められる友姫。

 

「I do not mind.Do it」

「OK boss」

 

お互いにサムズアップし、友姫が龍護に襲い掛かる。

 

ドンッ!!!!

 

誰かに龍護がぶつかった。

 

「うおっ!?」

「キャッ!?」

 

お互いに転んでしまう。

 

「いって・・・って大丈夫か!?」

「あの・・・ボーッとしてて・・・すみません・・・」

 

龍護とぶつかったのは片目が長い黒髪で隠れている、喜龍学園の女子高生だった。

見た感じ1年生だろう。

急いでその子を起こす龍護。

 

「リューゴがゴメンね~?怪我してない?」

「あ・・・はい・・・大丈夫です・・・その・・・失礼しますっ!」

 

女子高生はそそくさとどこかに行ってしまった。

 

「やらかしたな・・・」

「そうだね・・・それでさ・・・リューゴ」

「あん?っ!?」

 

龍護の右腕はガッシリと友姫に掴まれている。

最早逃げる事は不可能。

 

「友姫、do it.」

 

龍護は悟った・・・彼女達に慈悲という言葉は無いということを・・・

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「なんで登校だけで疲れるんだよ・・・」

 

龍護が自分の席に着くやいなや身体を机に乗せる。

 

「こっちから見たらプチハーレムで羨ましいけどな」

「何?傍観者に回る気?」

「ま、モテないアンタはそっちの方がいいかもね」

「るっせぇ!2年から作るんだよ!」

 

白の辛辣な言葉に反論する野武。

だが二次元しか興味の無い男に誰が振り向くんかね~?という白の追撃に轟沈した。

 

「そういえば担任も変わらねぇの?」

「変わってない・・・」

 

龍護の後ろから声がして驚いて振り向くとそこには雫が立っていた。

 

「音も無しに後ろに回るの止めようぜ?って変わらねぇのか・・・まぁ良かった・・・」

「ダッチーの事だからどうせ佐野先生が担任になるのが嫌なんでしょ」

 

佐野裕樹。

以前も説明したが魔法担当の教師で普通科で基本的な魔法を教えている教師だ。

付け足しでの説明だが元大学の名誉教授と同時にかなりの魔法研究家で様々な特許を取得している。

それ故、適正検査Sランクの龍護と友姫に目を付けていた。

 

「まぁな・・・」

「いや、あの人、元大学の名誉教授だろ・・・あの人と仲良くしてたら就職活動とか楽に進められるぞ?」

 

龍護は魔法関連は使いこなせているが、それを使って働こうとは思っていない。

 

「宝の持ち腐れとはこの事ね・・・」

 

まぁ、龍護の魔法適正検査Sは神が勝手に付与したものなので本人は心底イライラしていたが龍護自身がその出力を制御していたのでそれほど問題は無かった。

チャイムが鳴り、全員が席に着く。

今日は始業式の為、体育館で長い話を聞いた後はすぐに放課後となった。

 

「ねぇ、ダッチーとモブ、今日って暇?」

「ん?暇だけど」

「おう、俺も・・・ってモブ・・・」

「まぁ、それは置いといて・・・この後私と雫と友姫で昼食行くんだけど2人もどう?」

 

別に断る理由も無かった龍護とモブ・・・もとい野武は即OKを出した。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

某ファーストフード店。

皆で食事を始めた。

 

「あ~去年は全然出会いが無かったな・・・」

「出会いって・・・こんな美少女を目の前に告白しないアンタが言うこと?」

(・・・てか自分を美少女って胸張って言えんだな・・・)

「龍護」

「ん?」

「白の性格」

「・・・・・・あ~・・・」

 

雫の言葉に何かを思い出した龍護。

白は少し自意識過剰な点があり、相手に求める条件が『運動が出来る』、『ワガママを受け止めてくれる』、『自分を敬ってくれる』の3つが揃えば付き合うらしい。

逆に雫は『落ち着いている』、『本好き』、『横にいてくれる』の3つが合えば問題ないらしい。

そして断り方も・・・

 

「じゃあ白、俺と────────」

「うんゴメン!」

「まだ何も言ってねぇよ!?」

 

白はバッサリ両断し────

 

「じゃあ雫・・・俺と付き合────────」

「そちらのご活躍をお祈りします」

「なんで就活風!?」

 

雫はやんわり(?)と断る。

 

「イーラさんは龍護が彼氏だしな・・・」

「私は龍護一筋!」

 

言い切って指をVサインにする。

 

「逆にさ・・・なんで俺、モテねぇんだろ?」

「オタクだから」

「五月蝿い」

「まぁ、趣味が合う人を探すしかねぇな」

「モブ!ガンバ!」

「お前ら嫌い!」

 

野武弄りを4人でし終わった所で外に出る。

白と雫は予備校。

野武は帰ってアニメ鑑賞ということでここで解散となった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「あ?バイト?」

「うん」

 

帰り道、友姫が龍護にバイトをしてみないか?と切り出してきた。

 

「バイトってぇと・・・ラジネスカンパニーの日本支部でか?けど・・・」

 

龍護が言い淀んだ通り、現在イーラカンパニーは日本にも拠点を置き始め、先週から工事に取り掛かっている。

現在支部の完成は6割となっていた。

 

「日本支部はまだ完成してないし、したとしても当分はバイトは雇わないよ?」

「だよな・・・え?まさか海外に行けと?」

「いや・・・さすがに交通費がおかしくなるから・・・」

「じゃあどこでバイト募集してんだよ?」

「私の家」

「は?」

 

どうやらバイト先はラジネスカンパニーの工場等ではなく友姫の家で募集しているらしい。

だが龍護は勘づいた。

 

「・・・まさかバイトと称して部屋の片付けを手伝ってほしい・・・とかじゃねぇだろうな?」

「ギクッ・・・!」

 

龍護に図星を突かれ視線を逸らす友姫。

 

「ゆーめーさーんー?」

「だってだってぇ・・・」

 

龍護の指摘に涙目になる友姫。

友姫は片付けが苦手でよく両親に叱られている。

片付けは使用人と偶にやるがすぐに散らかるのだ。

 

「今回も一緒にやりゃいいじゃねぇか」

「今、使用人は旅行中」

「有給か・・・」

 

だから俺に頼んだんだな・・・と納得する。

 

「お願い!片付け手伝って!ほしいのがあったらあげるから!」

「・・・はぁ・・・わーったよ。今週の土曜日でいいよな?」

「うん!」

 

そして分かれ道になってそれぞれの家に帰った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

片付け日当日。

 

「以前より物が増えてね?」

「ソ・・・ソンナコトナイヨ~・・・?」

 

友姫の部屋は以前より物が増えて畳の床にはかなりの本が積まれていた。

 

「てか友姫ってこんなに本読むっけ?」

「小説とか読みながら漢字の勉強してる」

 

龍護が1冊を拾い、中を捲ると野武が持っているような美少女が載ってるライトノベル等ではなくかなり難しい分野の本ということが良くわかる。

 

「棚もいっぱいか・・・そしたら大きいダンボールを2つ用意して『読まない』と『読む』で分けて『読まない』は押し入れの中にしまうしかねぇな」

「りょーかい」

 

友姫がダンボールを取りに行く間に本以外に散らばっているもの、ゲーム機やCD、ぬいぐるみ等を分けていく。

 

「はーい。持って来たよ~!」

「おう、じゃあ分けるか」

 

その言葉で2人が本を分けていく。

 

「これは?」

「最近読まない」

「これは?」

「何度も読み返してる」

「これは?」

「うーん・・・『読む』の方で」

 

少しずつだが本の山が消え、床が綺麗になり始めている。

友姫も本の選別をし出した。

 

(にしてもかなりの量だ・・・相当学んだんだろうな・・・)

 

友姫の勉強熱心な所に素直に感心する龍護。

 

「ん?」

 

ふと気になる本を見付けた。

本自体古くなっていて表紙は硬い素材で出来ている。

本の作りとしては紙の隅の直線上に何個も穴を開けて1本の紐を通して縛るといった昔の日本で作られたような本の作り方だ。

 

(こんな古いのも持ってんだ・・・で・・・タイトルは・・・)

 

表に返してタイトルを見る。

 

【七天龍の伝説】

 

本にはそう書かれていた。

そしてそのタイトルを見た瞬間に龍護は顔を顰める。

 

────なぜ、こんな時に思い出す・・・

 

龍護が思い出したのは転生した時に無理矢理付与された特典。

 

「?リューゴ、どうしたの・・・ってそれ・・・」

 

友姫も気付いたようだ。

龍護は友姫が近付いてる事に気付かずにその本を捲った────

 

 

☆★☆★☆★

 

 

その昔、7頭の龍が世界各国で酷く暴れ回っていた。

その龍は人の大罪を模した龍であり、神が人に対する試練として作り出した龍だ。

 

ある日、7人の男女が現れた。

 

その者達の持つ力は強大で7頭の龍を追い詰め、そして封印した。

神は功績を讃え、その龍達の力をその者達に埋め込み、守部としての役目を果たさせた。

だがある日、どんな理由かは分からないが1人の神が言った。

 

 

────7頭の龍を人に埋め込んで殺し合いをさせ、生き残った者に2つの願いを叶えよう。

 

 

神々は賛成し、7頭の龍の能力を埋め込んだ者達を殺し合わせた。

 

『世界最高の権力者になりたい』、『全知全能になりたい』

 

最初は疑ったものの、能力が確かなものだと判明すると様々な欲を持って彼等は血眼になって殺し合った。

神はそんな彼等を嘲笑って見ていた。

神々にとって彼等は余興を楽しむ為の駒に過ぎない。

そして必ず生き残った人には願いを叶えていった。

その時に必ず言っていることがある。

 

 

────願いを叶えたからにはその力を有意に扱うがいい。

 

 

だが彼等は願いが叶い、少しでも日が経つとそれに飽きてしまった。

 

『もう十分だ』、『これ以上は要らない』、『普通にしたい』

 

彼等は解っていた。

欲が満たされたら人は2つの思考に別れることを。

 

 

それ以上を望むか────

 

 

今を拒むか────

 

 

思い通りのものでなければ捨て、思い通りのものになったら飽きるかそれ以上を欲しがる。

そしてそれを望んだものには絶望を与えた。

それは”真逆の呪い”

最高有権者には貧困者になってもらい、有能者には無能者に、英雄になったものには愚者に────

 

彼等は突然変わった現状に耐え切れずに大半が自決。

ある者は精神を病み、ある者は天蓋孤独に、そんな堕ちた彼等も嘲笑い、繰り返した。

 

七天龍の遊戯・・・それは神が人を利用した遊戯である。

そして──────

 

 

☆★☆★☆★

 

 

龍護はパタンと本を閉じた。

 

(・・・昔からあるって事は相当な被害者が出てんだな・・・)

 

ハァ・・・とため息が出てしまう。

 

「リューゴ・・・?」

 

漸く近くに友姫がいることに気が付いた。

 

「友姫か・・・」

「これって・・・」

「ん?あぁ、気になって読んでみた」

「これ・・・この世界の歴史の・・・」

「あぁ、多分この遊戯ってやつは続いてんだろうな・・・」

 

俺を含めてな・・・とは言わない。

友姫を巻き込む気はないからだ。

ふと友姫を見ると悲しそうな目をする。

どこか、追い詰めている・・・そんな目。

龍護もそんな目は初めて見た。

 

「友姫・・・?」

 

龍護の呼び掛けにも反応しない。

 

「友姫?」

「え?あ!まだ途中だったね!」

 

友姫が無理に笑顔を見せたのは分かった。

だがそれを追求しようとはしない。

いや・・・出来なかった。

 

 

知ってしまったら後悔する。

 

 

そう感じた。

龍護も気持ちを切り替えて片付けに取り掛かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

2時間で漸く片付いた。

 

「ふー終わったー・・・」

「今度は定期的にやれよ?」

「・・・覚えてたら」

 

絶対やらないな・・・と心の中でツッコミを入れる。

今日は解散となり、龍護は家に帰っていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

友姫が1人、庭に面した廊下で夜空を見上げていた。

空には丸い月が浮んでいる。

風呂上がりなのか、頭にはタオルを巻いていた。

友姫は思い出していた。

今日の片付けの時に見た本を────

 

(リューゴ・・・どうしたんだろう・・・?)

 

そして考えてしまった。

 

もしも、あの本にあるように、自分も選ばれてしまったら・・・?

 

 

そのせいで彼を巻き込んだら・・・?

 

 

そのせいで彼が傷付いたら・・・?

 

 

自然に身体に力が入り、握り締めた服に皺が寄る。

震えていた。

もしも本当にその遊戯に選ばれたら・・・?

 

 

怖い────────

 

 

でも・・・

 

「あるわけ・・・無いよね・・・?」

 

少しだけ口元が緩む。

 

(明日も・・・元気なリューゴと会えるかな?)

 

明日はどんな話をしようかな?と友姫は明日も龍護に会えることを楽しみにしていた。

 

だが2人の知らない所で愛し合う2人の仲を無慈悲にも切り捨てる者がいることを龍護と友姫は知る由もない────




なろうの方のルビ振りも急がなきゃ・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

唐突な報せ

東京喰種のゲームが冬に出ると聞いて、急いで持ってるゲームのクリア率を100%に上げてる作者です
だって間違えて初期化して100%になったデータも全部消えたんだもん・・・


透明な空間に7つの丸い黒い靄が1つの水晶を囲んで浮んでいる。

 

「役者は?」

 

「揃った」

 

「彼は?」

 

「馴染んだ」

 

「早いな」

 

「なぜ彼を?」

 

「ただの駒だ」

 

「他意は無いと?」

 

「生き残りは?」

 

「知らぬ」

 

「別に良い」

 

「彼も所詮は駒だ」

 

「ならば始めよう」

 

「「「「「「「七天龍の遊戯を」」」」」」」

 

その靄達はすぐに消えた。

空間が光りだす。

1人の白いローブを着た、短く赤い髪の男性が現れる。

 

「バレて・・・無いよな?」

 

そう言いながらフゥ・・・と安堵の息を漏らすが、少しだけその表情に焦りが見える。

赤髪の男は水晶を見た。

ある男性に目が止まり、水晶に近付いた。

 

「こいつ・・・転生者か・・・」

 

不意に男性の口角が上がる。

 

「こいつなら元に戻せるかもな・・・」

 

男もその空間から姿を消した。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

片付けをした翌日。

最近、姉の恵美は彼氏を作って頻繁に遊びに行っている。

龍護も龍護で友姫の家に来ていた。

今日は友姫の物理の勉強。

恵美は今日、彼氏の家に泊まるようで龍護もこっちに来たようだ。

1人の女性が友姫の部屋に入ってくる。

 

「頑張ってますね」

「あ、沙弥さん。お邪魔してます」

 

女性の名は沙弥・S・ラジネス。

スヴェンの妻だ。

沙弥が茶菓子とお茶を持ってきていた。

 

「友姫はどう?」

「う~ん、やっぱり公式を覚えるのには個人差があるから時間が掛かって難しいですね・・・」

「友姫・・・物理は苦手だもんね」

「う~・・・2人で私を虐める・・・」

 

友姫が口を尖らせた。

 

「今日は龍護君はどうするの?」

「・・・と言いますと?」

「今日、帰ってもご家族いないんでしょ?この家、かなり広いから貴方がよければ泊まってもいいのだけど・・・」

「いや!?さすがにそこまで厄介になるのは・・・」

「・・・本当、あの子が言った通り大人びてるのね」

「え?あの子?」

「間宮美紅って聞き覚えない?」

 

間宮美紅。

龍護が初めて会った女性の使用人だ。

 

「あの子が言ってたのよ。『龍護様は見た目以上に大人びておりますので最初は戸惑うかもしれません』って」

「そんなこと言ってたんすか・・・」

 

ハァ・・・とため息が出てしまう。

確かに龍護は生前は大学生で今の年齢と合わせると30歳を超える。

となると精神的には大人びている為、2人の指摘は正しくなる。

だがそれでもこの世界では相手の方が年上。

遠慮するのは当たり前だ。

 

「俺は大人びてるとは思ってませんけどね・・・」

「というよりリューゴはもっと老けてる感じするw」

「ほっとけ」

 

友姫の指摘にそっぽを向く。

 

「それじゃあ2人とも、ごゆっくり」

 

沙弥が部屋を出ていった。

 

「さてと・・・ってまた公式違ってる」

「あれぇ!?違った!?」

 

龍護にやり直しと言われ唸る友姫。

一応学園の教科書には公式は載っているのだが似たような公式があったりする為、微妙な違いに友姫はつまづいてしまうのだ。

 

「う~ん、やっぱり物理は難しい・・・」

「法則とかが慣れれば楽なんだよな・・・でもそこまでがね・・・」

 

龍護も物理に関しては中学の時に悩まされたものだ。

公式の分数の上と下を間違えたり、文章の中から必要ない数値を抜き取って公式に当てはめ、桁がおかしくなったりもした。

 

「まぁ、難しいのは分かってるから、出来るまでいてやるよ」

「リューゴぉ~・・・大好きー!」

 

嬉しさのあまりに龍護に抱き着く友姫。

抱き着くのも程々に、再び友姫の勉強会が始まった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「・・・うん。全部オッケーだ」

「終わったぁ~・・・」

 

終わった途端に友姫がグデーンとテーブルに身を預ける。

シャワー浴びよ~っと、と友姫が言ってその場を離れた。

勉強開始から4時間経っていた。

 

ガラガラカラッ!

 

玄関が開く音がした。

スヴェンが帰ってきたのだ。

時計を見ると19:00。

廊下で友姫とすれ違ってまた明日な。と龍護は玄関に向かう。

その途中でスヴェンともすれ違った。

 

「今日も友姫の勉強を見てくれてありがとう」

「いえ、あれくらいなら余裕ですよ」

「そういえば今日は帰るんだね?以前のように泊まっていって構わないのに・・・」

「ま、家でやる事も残ってるんで」

「ははっ、それじゃあまた宜しく頼むね」

「分かりました」

 

龍護も靴を履いて外に出た。

その時だった。

 

 

ゴォーン!ゴォーン!ゴォーン!

 

 

龍護の頭に鈍い鐘の音が鳴り響く。

咄嗟に頭を抱えてしまった。

そして次は何者かが脳に直接語り掛ける。

 

 

 

これより七天龍の遊戯を開催する。

7人はそれぞれ別の龍の所持者を倒して紋章を集め、全ての紋章を揃えた者の願いを2つ叶えよう。

紋章を揃える呪文は──────だ。

リタイア、辞退は構わないがその際はペナルティとして、存在自体を抹消する。

期限は半年。

その間に生き残りが決まらなければ全員失格としその際もペナルティは執行される。

君達に拒否権は無い。

さぁ、七天龍の遊戯の開始だ。

 

 

 

音が鳴り終わる。

 

「んだよ・・・急に・・・!?」

 

龍護はすぐに気付いた。

左手の甲に白い龍の頭部を連想させるマークが浮かび上がり、すぐに消えたのだ。

 

「きゃああああぁぁぁぁああああ!?!?!?!?」

「友姫!?」

 

突然聞こえた友姫の声。

すぐに走り出して友姫の安否を確認しに行く。

ガラッと音を立てながら脱衣所に入る。

友姫は風呂から上がったばかりのようでパジャマ姿となっていた。

 

「友姫!」

「リ・・・リューゴ・・・これ・・・」

 

友姫が軽く服を捲る。

下腹部を見ると龍護と同じマークで色は青。

つまり、龍護と同じで【七天龍の遊戯】の参加者となる。

それは龍護と友姫が敵同士と言うことを示していた。

 

「お前・・・それ・・・」

「友姫!?どうした!?」

 

スヴェンも娘の悲鳴に気付き、娘の元に来て安否を確かめる。

 

「お父さん・・・紋章が・・・」

「?紋章・・・?」

 

スヴェンの言葉に疑問が浮かんだ龍護。

それもそのはず、スヴェンの探そうとしていた紋章は目の前にある。

それはつまり・・・

 

(参加者以外には見えないって事か・・・)

 

スヴェンが慌てている中、龍護はスヴェンを落ち着かせる。

 

「龍護君・・・友姫に何が・・・」

「・・・」

 

龍護は俯いてしまう。

言うべきなのだろうか?と迷いが生じているからだ。

龍護とイーラ家は今までは仲良く出来ていた。

だがこれからは違う。

友姫と龍護は龍の所持者。

敵同士なのだから。

スヴェンは龍護の両肩に手を乗せた。

 

「知っているんだね?」

「・・・」

 

龍護は黙って頷く。

頼む・・・友姫の身に何が起きてるのかを話してくれ。と頼まれた。

龍護はもうこれ以上は隠し切れない事を悟り、七天龍の遊戯について話す。

スヴェンは驚愕した。

もしも龍護の話を信じればこの場に2人、龍の力の所持者が揃っている事になる。

スヴェンがまさか、君も?と訪ねると龍護は無言で頷いた。

何かを決め、再び龍護に話し掛ける。

 

「龍護君」

「・・・はい」

「──────取引をしよう」




伏線作りも楽じゃないですねw


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

対策

「取引?」

「そうだ」

 

龍護が思考を巡らせる。

その取引の内容を予測しているのだ。

相手は大手企業の社長。

だとしたらかなりの情報網を持っている。

そして龍の力の所持者は7人。

恐らく今回の遊戯でそれをフル活用し、龍の力の所持者を探すだろう。

そして龍護は友姫と恋人になっている。

だとすれば・・・

 

「俺と闘いをしない代わりに友姫と手を組んで所持者を倒してほしい──────ですか?」

「・・・悪いとは思うがね・・・」

 

だがそれには無理がある。

理由は簡単。

最終的に残るのはたった1人。

それが意味することは、龍護と友姫も戦わなくてはならないという事だ。

 

無理がある。

 

誰も自分が好きになった人に手を掛けたくない。

恋人を傷付けたくない。

そう思う筈だ。

 

「・・・やだ」

 

友姫に呼ばれて振り向く。

友姫の目には涙が浮かんでいた。

 

「やだよ・・・」

「・・・え?」

「リューゴと戦わなくちゃダメなんでしょ・・・?そんなの・・・私はやだ!!!!」

「お前・・・まっ!」

 

龍護の静止も聞かずに友姫は更衣室を出ていった。

友姫も怖いだろう。

いずれ好きな人と戦わなくてはならないのだから。

 

「済まない・・・私としても予想外でね・・・」

「でしょうね・・・分かります」

「感謝するよ。あぁ、それとこっちに来て欲しい・・・見せたいものがある」

「・・・分かりました」

 

スヴェンが私の部屋に来てくれと言い、居心地の悪い中龍護はスヴェンに着いて行く。

スヴェンの自室だった。

襖を開け、中に入る。

中は意外と質素だった。

1人用のテーブルに大きな本棚、押し入れと布団があるだけ。

一瞬ここが社長の部屋か?と疑ってしまうほど殺風景である。

スヴェンが自分の通勤バッグからノートパソコンを取り出してテーブルに乗せ、電源を付けた。

ロゴの後にデスクトップが付き、パスワードを入力する。

コンピュータに接続して隠しファイルを表示した。

『 』とカギカッコの中が何も書いてないファイルが何個もある。

スヴェンがその1つをクリックするとwordファイルが幾つも存在していた。

その中の1つをクリックして表示する。

wordの中にあったのはなんと七天龍の遊戯に関する資料だった。

恐らく何個もファイルを作る事でバレないようにと対策を施したのだろう。

内容は七天龍の遊戯の歴史。

あまり知られていないようだが七天龍の遊戯は以前から存在していた・・・というよりも今回を含め、4回しかまだ行われていない。

始まりは地球でいうと、大正時代から始まっていて数十年に1回の間隔で行われているようだ。

その当時の写真やメモ等がWordに書かれていたのだが情報量的に龍護の思ってた量よりかは遥かに少ない。

なにせ4回しか行われていないのだから当然だろう。

因みに前回は30年前、龍護は転生してない時に、友姫は生まれてない頃に行われていたようだ。

 

「スヴェンさん。これは?」

「友姫の部屋に【七天龍の伝説】という本があっただろう?あれは私がオークションで買って落札した本なんだ。・・・実は私もこの伝説に軽く興味があって調べていてね・・・友姫がその対象者になるとは思わなかったよ」

「というと?」

「七天龍の遊戯で選ばれる人は本当にランダムで貧困者もいれば赤ん坊、俳優、恐らくは権力者・・・大統領も持っている可能性が高い」

 

それを聞いた龍護の顔が曇る。

もし、遊戯に本当に大統領がいて、龍護か友姫、もしくは他の龍の能力者が彼等を狙ったらテロになり、殺害処分は免れない。

となるとその襲った者は敗北が決定する。

自殺行為に等しい。

ならどうすればいいか。

必死に頭を回転させるがいい答えが見付からない。

 

「どうすりゃいいんだよ・・・」

 

必死に考えようにも無理があった。

 

「まだそうだと決まった訳では無いから落ち着こう・・・それと・・・龍護君」

「?」

「もしも君がいいのであればここに暫くいてくれるかな?」

「え?」

 

スヴェンが言うにはここに龍の能力者が少しでも集まればここに他の能力者が来てもすぐに対応出来るかもしれないからという。

龍護は明日、必要な物を取ってくると約束し、何の龍かを確かめる。

確かめた結果、龍護は【強欲の龍】だった。

能力は────

 

【相手の力をコピー及び強化出来る。コピーに関しては、先に相手が能力を使わなければコピー出来ない。(コピーは一時的)龍化が可能】

 

という事が分かった。

 

「運が良ければ龍護君と友姫は相性がいいと願いたいね」

 

相談も程々に龍護は自分の家に帰った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

自宅に戻った龍護は夕飯を終えてベッドに横になる。

手の甲にあった紋章は消えていた。

龍の所持者同士が近付くことで浮かび上がるのだろう。

 

「まさか友姫も遊戯の参加者になるとはな・・・」

 

恐らく最終的に友姫とぶつかり合うだろう。

そう考えるといっそ辞退の方が楽な気がした。

だが辞退をしてもその先にあるのはペナルティ。

そしてお互いに殺し合いをしなくても期限内に決まらなければそれもペナルティの対象となる。

どういう内容かは分からない。

永遠に苦しめられるペナルティならお断りしたいところだ。

 

「どうしたもんかな・・・」

 

龍護はそう呟き、眠りについた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

龍護が自室で寝始めて、自分もそろそろ寝ようとスヴェンがリビングを出た時だった。

 

「お父さん・・・」

 

廊下で友姫がスヴェンを呼び止める。

その表情は苦痛だった。

 

「友姫・・・」

 

スヴェンは友姫に近寄り、優しく抱き締める。

 

「私・・・リューゴと戦わなくちゃダメなの?」

 

その声は震えていた。

龍護と戦うことになり、その不安はより一層強くなっている。

 

「・・・やだ・・・」

 

ぽつりと友姫から本音が漏れる。

 

「やだよぉ・・・リューゴと戦いたくないよぉ・・・」

 

涙がとめどなく溢れ出し、泣き崩れ、その場に座り込んでしまう。

スヴェンは泣き崩れた友姫の背中を優しく摩る。

 

「・・・」

 

スヴェンは何も言うことが出来なかった。

自分はその参加者ではないからだ。

もし龍護ではなく自分だったら迷いもなくスヴェンは自分を捨てただろう。

だがそれすらも出来ない。

友姫と龍護から遊戯の内容は聞いてある。

龍護と同じように戦闘しないで永遠に長続きさせれば問題ないのだがそれも出来ない。

生き残れるのは1人。

その1人に入るまで殺し合わなきゃいけない。

 

「今、思い詰めても変わることは無い。少しづつどうにかしていこう」

「・・・うん・・・」

 

スヴェンの言葉に頷き、それぞれ自分の部屋に戻っていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

翌日。

今日、龍護は先に学園に来て空を眺めていた。

野武も登校してきて龍護の元へやって来る。

 

「今日はラジネスさんとは一緒じゃないんだな」

「・・・まぁな」

 

野武に対応しているがその声や表情は優れない。

昨日の事で頭が一杯だからだ。

 

「・・・ラジネスさんとなんかあった?」

「・・・別に」

 

言えるわけがない。

七天龍の遊戯に参加させられて殺し合うことになったと・・・

恐らく言っても中学生の時に稀に出るアレだと思われかねない。

 

「モブに言っても解決しないって言いたいんじゃない?」

 

横から声がした。

白と雫が2人を茶化しに来たようだ。

 

「失礼だな!?こう見えて相談事は得意なんだよ!」

「ゲーム攻略の?」

「・・・」

 

安達野武、再びの轟沈。

 

「で、友姫となんかあった?」

 

その時、友姫が教室に入って来た。

 

「お!噂をすれば、かな」

 

白が友姫に近付いた。

 

「ゆ~め!」

「あ、白」

「ねぇ、ダッチーとなんかあった?」

「・・・っ」

 

友姫が昨日の事を思い出してキュッ・・・とワイシャツの裾を握り締め、俯いてしまう。

 

「あ・・・ご、ごめんね~!ちょっとダッチーと話してたからまた後でね!」

 

白が焦って友姫から離れていき、龍護達の元へ戻る。

 

「アンタら・・・重症だね・・・」

「うっせぇよ・・・」

 

ハァ・・・とため息を漏らす。

チャイムが鳴り、全員がゾロゾロと席に着き始める。

 

「龍護」

 

白が龍護の事を名前で呼んだ。

龍護の事を名前で呼ぶ際は白はかなり真剣に相手を思っている証拠でもあった。

名前を呼ばれて龍護はチラッと白を見て、再び視線を外に戻す。

 

「もう私は深くは聞かない。多分私達に言わないんじゃなくて私達に”言えない”んでしょ?それでもって私達の力なんかじゃ解決出来ないって事も分かる・・・けど言っとく。アンタが諦めた時点で、彼女の事なんか到底守れやしないから」

 

白にそう言われ、龍護は振り返った。

そんな龍護を見て白は一安心していた。

 

「じゃ」

 

軽くそれだけ言って白は自分の席に着いてホームルームが始まった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

放課後になり、全員が帰り支度をしている。

龍護は決心し、友姫の元へ行く。

 

「友姫、ちょっといいか?」

「・・・うん」

 

友姫は相変わらず表情が晴れない。

それでも友姫は龍護の後を追い、教室を出た。

 

「ったく・・・友姫も面倒な彼氏を持ったわね」

 

そう言いつつも白の口元は笑っていた。

 

「なんか言ったのか?」

「別に~?」

 

野武の問い掛けに白は軽くあしらい、部活だから先に行くねー!と足速に教室を出た。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

校舎裏に来た龍護と友姫。

 

「・・・」

「・・・」

 

お互いにどう切り出そうとしているのか、会話が全くない。

 

「あのさ・・・」

 

最初に切り出したのは龍護だった。

 

「俺・・・考えねぇ事にする」

「考えない・・・?」

「あぁ、友姫と戦うこと」

「なんで・・・?」

「結局はさ、俺達2人が協力して残りの5人を早く倒しゃその後でゆっくりとどうするか考えられる。その時まで友姫と戦う事は考えねぇ。いいだろ?それで」

 

龍護の言ったことに友姫の表情は明るくなっていった。

 

「うん・・・うん!!!!そうだね!先に皆倒しちゃおう!考えるのはその後!」

「あぁ、改めて宜しくな。相棒」

「フフッ・・・私は強いからね~?覚悟しておいてよ?」

 

こうして龍護と友姫は協力して戦うことを誓い合う。

龍護は友姫の家に当分の間、泊まりに行く為に一旦家へと戻った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「ただいま~!」

 

龍護が自宅へと帰ってきた。

靴を脱ごうとした時に気付いた。

見慣れない靴がある。

 

(・・・誰だ?)

 

龍護は疑問に思ったが恵美に彼氏が出来ていた事を思い出してその人かな?と自ら結論を出した。

それなら挨拶しないと、と思って玄関にある小さな楕円の鏡で軽く服装を整えてからリビングに入る。

 

「お、龍護おかえり~。丁度今、彼氏連れて来てるの」

「やっぱりか、その人・・・・・・って!?」

 

龍護は驚いた。

彼氏は彼氏でも日本人ではない。

その証拠に髪は金髪で瞳は青い。

完全に外国人だ。

 

「この人、オーストラリアから留学生として来てるルシス・イーラ。日本語凄い上手なんだよ」

「まさかの外国人ですか・・・」

 

さすがに龍護は呆れた。

2人揃って外国人と付き合ってるのだから当然だろう。

挨拶をする為に歩み寄る。

だが、その時だった。

龍護の手の甲は白く、ルシスの左頬に赤く龍の紋章が浮かび上がる。

それは正しく──────

 

(七天龍の遊戯の参加者・・・!!!!)

 

「へぇ・・・」

 

ルシスの目が怪しく光り、立ち上がる。

龍護は警戒した。

なにせ、友姫以外で龍の能力の所持者に会ったのだから。

 

「君が恵美の弟、龍護君か」

「・・・あぁ」

「龍護?どうしたの?」

 

恵美に言えない。

彼とはこれから殺し合う仲になる事を────

 

「改めて・・・僕はルシス・イーラ・・・宜しくね?奪木龍護君」

 

ルシスは自然な形で手を差し出す。

龍護も少しぎこちなく手を出して握手する。

改めて龍護は七天龍の遊戯が始まったんだな・・・と理解してしまった。




参加者登場3人目ェ!!!!
※カクヨムのみ連載が遅れているのでご注意下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

見えざる敵

うわぁ・・・もうすぐ修了合宿だ・・・


「龍護君の姉の彼氏が龍の所持者!?」

「えぇ、はい・・・」

 

龍護は今、友姫の家にいる。

昨日の家での事をスヴェンと友姫に話した。

スヴェンと友姫はなんとも言えない顔になってしまう。

 

「まさか・・・君の姉の彼氏が選ばれるとは・・・」

「なんというか・・・最悪だね・・・」

 

龍護もどうしようかと悩んでいた。

恐らく・・・いや確実に彼氏を殺してしまえば姉に掛かる精神的ショックは大きいだろう。

 

「お父さん、どうする?」

「取り敢えず龍護君。その紋章は何色だった?」

「えっと・・・確か・・・赤色でした」

「赤か・・・なら【憤怒の龍】かな」

 

スヴェンはノートパソコンのファイルを見つけ、2人に【憤怒の龍】の紋章を見せた。

その紋章は龍護と見たのと全く同じデザインと色。

改めてルシス・イーラが【憤怒の龍】の所持者である事が判明する。

 

「・・・そういえば1つ疑問があるんスけど」

「なんだい?」

「なんで急にその・・・神はこういった残酷な遊戯を始めたんですか?」

 

龍護の考える事も最もだ。

今まで祠に祀られていたのにも関わらずその龍の力を無権者有権者関係なく埋め込んで殺し合いをさせているのだ。

疑問にも思うだろう。

 

「私もその辺に関しては疑問なんだが、ある仮説を立ててみた」

「仮説?」

 

スヴェンが言うには7頭の龍の伝説は昔にあった事であり、鮮明に覚えているのもほぼいない。

それに世界は広い為、探すのも骨が折れる。

そこで神は七天龍の遊戯と称して龍の力を見せ付ける為にこのような殺し合いをさせたのではないか?と推測を立てていた。

 

「ちょっとその仮説、無理ありません?神って基本世界には無関心で不干渉な感じがするんですよ。なのになんで急にそうやって干渉してきたのかが疑問になります」

「まぁ、私もそう思ったんだがそれ以外ではあまり思い付かなかった」

 

2人が思考を巡らせてるところに友姫が手を挙げる。

 

「友姫も仮説とか思い付いたのか?」

「う~ん仮説かどうかは分からないけど・・・神様が交代したんじゃないかなって!」

「交代?」

 

友姫の立てた仮説では神にもその世界を見ているが数百年に1回、交換の時期を付けてお互いに世界の傍観を楽しんでいるのでは?という仮説だった。

 

「殺し合わせてまで?」

「新しい神が好戦的だったんだよ!・・・多分」

 

そんな頻繁に交換なんかするか?と思ってしまった龍護。

今日の情報収集はここまでだな。とスヴェンが締め括り、解散となった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

現在龍護は七天龍の遊戯を理由に友姫の家に泊まっている。

龍護の部屋は友姫の隣に位置していた。

自分の部屋に戻り、横になって天井を眺める。

 

(もしもスヴェンさんの仮説が事実であれば殺し合いではなく、世界各国で祭りを行わせる筈だ・・・そして友姫の仮説が事実なら恐らく今後もこういった殺し合いは続く・・・でももし・・・)

 

龍護は自分でもう1つの仮説を立てていた。

 

 

もしも神が実際にいたとして龍の力が神に近い何かにその七天龍の力を乗っ取られていたら────

 

 

つまりはその外部の何かがその力達を奪って好き放題してるのでは?という仮説。

だがイマイチ信憑性に欠ける。

なにせ龍護もあまり神は信じていなかったからだ。

転生した事で信じる様にはなったが・・・

 

「てかこれを学園のアイツらに言ったら絶対電波男として見られるな・・・」

 

ハァ・・・とため息をして眠りについた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

翌日。

龍護と友姫は一緒に登校していた。

揃って教室に入る。

 

「お!2人とも、解決したのか?」

 

2人を見て早々に野武が駆け寄ってくる。

 

「まぁ、まだ微妙な点はあるけどな」

「ったく・・・人騒がせなのよ」

 

後ろから声を掛けられて振り向くと白と雫が立っていた。

 

「友姫も面倒な彼氏を貰ったね~」

「ね~」

 

白の振りに友姫がノリノリで答える。

 

「いや・・・お前は共感すんなよ・・・」

 

チャイムが鳴り、教師が入ってきて名簿を教卓に置く。

生徒達も自分の席に着いた。

内容もいつも通りで『怪我の無いように』や『遊びにかまけて』等の言葉を並べてホームルームは終えることとなった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

授業が始まり、黒板に書かれた文字をノートに書いていく。

その間でも龍護の頭の中は昨日の話でいっぱいだった。

そしてこの七天龍の遊戯についてもう1つ疑問が浮かび上がる。

 

(紋章って・・・どう集めるんだ?)

 

今、龍護が気にしているのはどう生き残るのではなく、紋章の集め方。

 

最初は”相手の紋章を皮ごと削いで集める”という考えだったが、それで集めたことになるのか?という考えと龍護的にその場を想像してゾッと寒気がし、人道的にどうなのか?とのことでこの考えは却下になった。

 

次に考えたのはICカードのスキャンように、倒した者が相手の紋章に自分の紋章を近付けて相手の紋章を抜き取るという方法。

でもこの場合、闘う前に合わせたらどちらかにランダムに紋章が渡ってしまい、殺し合いにならないのではないか?という考えから却下。

 

次に考えた・・・というよりも倒したら自動的に倒した側に紋章が映るのではないか?という考え。

これに関してなら少しは信憑性が上がるが、もし相手が麻酔等で対戦者を眠らせてもその対象になるんじゃないか?という考えから保留。

 

最後に考えたのが”特定の呪文を言って紋章を取り込む”という方法。

これには龍護も自分で想像して今までの4つの方法でも1番信憑性が高いと思っていた・・・・・・のだが・・・

 

(呪文って・・・何なんだ?)

 

龍護はその呪文を知らない。

恐らくスヴェン辺りが知ってるかな?とここで考えるのを止めて授業に取り組もうとしたが既に後半に差し掛かり、授業が耳に入っていなかった龍護が分からなくなったのは言うまでもない・・・

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

午前の授業が終わり、昼休みになった。

因みに授業のノートは友姫に借りて写させてもらった。

 

「何してんだか・・・」

「言うな・・・」

 

今日はいつものメンバー(白、雫、友姫、龍護、野武の5人)で食堂に来ている。

全員が全員違ってるのを食べていた。

友姫は母が作った弁当を食べている。

龍護にも作ろうか?と沙弥は言ったが龍護は自分で買って食べると言って断っていた。

白が、あっ!と何かを思い出す。

 

「そういえば魔法の授業の教師、変わるらしいよ?」

「ふーん、誰なんだろう」

 

龍護はそう言いつつも興味なさげにカレーを頬張る。

 

「佐野先生」

「ウグッ!?」

 

白は何気なく告げ、龍護は噴き出しそうになり噎せた。

横で友姫が大丈夫?と龍護の背中を摩る。

 

「・・・マジ?」

「アンタねぇ・・・この学園の在校生向けのサイト見なさいよ・・・」

 

白が頬杖を付きながら呆れた目で龍護を見る。

龍護が早速在校生向けサイトの2年生のページを見ると時間割と担当教師が表示されていた。

自分のクラスのページを閲覧すると

 

・一時限目

現代文

寺田明

 

・二時限目

魔法学Ⅱ

吉野楓

 

・三時限目

化学Ⅱ

南雲祐

 

・四時限目

世界史

本田秀介

 

・五時限目

魔法実習

佐野裕樹

 

白の言った通り、五時限目の魔法実習の担当は佐野裕樹・・・龍護にとって苦手な教師だった。

 

「うわぁ・・・」

 

龍護は頭を抱える。

 

「いや・・・そこまで・・・?」

「だってあの人に去年、魔法科に編入させられそうになったんだぞ?」

「去年・・・あ~、佐野先生に呼ばれてたのって編入の事だったんだ」

 

まぁな・・・と龍護は皿にあるカレーを食べ切って水を一気に流し込む。

皆食べ終わったようで食器を返し、着替えを取りに一旦教室に帰っていく。

体操着の入った袋を持って更衣室に向かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「にしてもさ」

「?」

 

更衣室で着替えをしていたら野武が龍護に話し掛けてくる。

 

「龍護って度胸あるよな。俺がもしSランクで佐野先生から編入の事言われたらすぐに行ってたし」

「・・・Sランクって時点で上級生から嫉妬の目ぇ付けられるぞ?」

「・・・それは勘弁願いてぇな・・・」

 

2人は着替え終え、外に出る。

今日は曇でどことなく涼しい感じがする。

授業開始のチャイムが鳴り、生徒達が集合した。

 

「1学期からこちらのクラスの魔法実習を担当する佐野裕樹です。宜しくお願いします」

 

佐野が一礼するとその後に続いて生徒達が一礼する。

 

「では初めに体操をしてから本日はランニングをしましょう。では広がって体操を始めて下さい」

 

佐野の指示で生徒の代表が2人、前に出て生徒達達は等間隔に広がり、体操が始まった。

体操を終えて元の位置に集まり、校門に向かう。

佐野が笛を鳴らして生徒達が走り出した。

 

「はぁ・・・やっぱり最初はランニングか・・・」

「そりゃそうだろ」

 

2人は走りながらも話している為、まだ余裕のようだ。

 

「よくいるよな。『一緒に走ろう』って言いつつも最後の方でスピード上げて先にゴールする奴」

「あーいるいる」

 

そんな2人の横を白、雫、友姫が通り過ぎた。

 

「おっ先ー!」

「リューゴー!ガンバー!」

「・・・」

 

白はからかいながら、雫は無言で手を振って、友姫は龍護を応援して2人との距離を離していく。

 

「あいつら・・・元気いいな・・・って!?」

 

野武は龍護に話し掛けたつもりで横を見ると既に龍護はいなかった。

試しに前を見ると野武の5m程先にいた。

 

「なんで急にスピード上げるかな!?」

 

そう言いつつも自分もスピードを上げる野武。

何だかんだ言ってお互いに負けず嫌いなのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「にしてもいいの?」

「何が?」

 

白の横で走っていた友姫が話し掛ける。

3人のペースは程々に早いが白にとっては少しペースは遅めくらいだ。

 

「白って陸上の長距離走の選手でしょ?なら私達に合わせなくてもいいんだけど」

 

友姫の発言にあぁ~その事か、と納得する白。

それもそうだろう。

友姫も言った通り、白は陸上部の長距離走選手。

2人に合わせてしまうとかなりスピードも落ちてしまうからだ。

 

「いつも結構な速さで長距離走は走ってるからね~たまにはゆっくり走りたいよ」

「そう?ならいいけど」

 

その横を龍護と野武が通り過ぎる。

 

「お先に~!」

 

そのまま走り去っていく龍護。

そんな龍護を見て友姫は子どもだね~と苦笑した。

 

「・・・?白?」

 

白が無言な事に気付き、どうしたのか?と顔色を伺う。

後ろから肩を軽く叩かれて振り向くと雫が人差し指を立てて口に当てている。

友姫は少しペースを落とし、雫の横に着いた。

 

「どうしたの?」

「白がマジになる」

 

え?と疑問に思い、前方を見ると黒いオーラを出した白がいた。

 

「へぇ~・・・?陸上部に喧嘩売るかぁ~?そうかそうか・・・」

 

もしここで擬音を付けるならゴゴゴゴゴゴ・・・という擬音が合ってるだろう。

 

「その喧嘩、買ってやるわよ!」

 

友姫と雫に先に行く!と張り切って言い、スピードを上げた。

 

「速っ!?」

 

白が本気で走った数秒後には既に友姫と雫との距離は10m以上も離れていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

龍護と野武が速いペースを維持して走っている。

 

「多分向こう本気出すぞ?」

「へっ、いいって。どうせ俺達のスピードには────」

 

ビュン!!!!と龍護と野武の横を白が横切る。

さすがの2人も驚愕した。

 

「うわっ・・・はえぇ~・・・」

「・・・」

 

素直に感心している野武の横で龍護は闘争心を燃やしていた。

 

「野武、お前はこのペースでいい」

「え?どうし────」

 

野武が聞く前に龍護も速度を上げた。

後ろから友姫と雫が追い付いて野武の横で並走する。

 

「龍護ってたまに負けず嫌いだよな・・・」

「うん・・・」

「大人気ない」

 

2人で競い合っているのを他所にその勝負を眺めている3人であった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「うおおおおおぉぉぉぉおおおお!!!!!!!!」

「ぬうううううぅぅぅぅうううう!!!!!!!!」

 

只今、両者共に全力疾走中。

 

「ハッ!所詮それが限界だろうな!長距離走選手さんよぉ!」

「限界ィ!?巫山戯た事言うのね!?まだ4割しか本気出してないわよ!!!!」

 

そう言いながら再びスピードを上げる白。

 

「ダッチーこそバテて腰砕けにならないようにね!どうせ休みの日はネットで愚痴って引き籠ってんでしょ!」

 

白に挑発され、カチンときた龍護。

魔法で身体を強化して白に追い付く。

 

「いや~!!!!俺もまだまだ全力出してないんだよね~!!!!余りにも遅くて本気出すの忘れてたわ!!!!」

 

白もカチンときて、再びペースを上げる。

 

「あらごめんなさーい?さっき4割って言ったけど私、これで4割だったわ!!!!」

 

お互いに挑発してかなりの速度になっている。

 

「んなろおおおぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!!!!!」

「負けるかああぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!!」

 

まぁ、結果は引き分けだったが・・・

当然全力疾走で全長870mもある学校周りを6周もする訳で走りきった後には・・・

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・」

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

お互いに一歩も歩けずに地面に横になっていた。

3人も漸くゴールして2人の様子を見る。

 

「おーい?生きてるー?」

「ご・・・めん・・・・・・今・・・話し・・・・・・かけられ・・・・・・ても・・・・・・反応・・・・・・・・・出来ない・・・・・・」

「お・・・・・・・・・俺も・・・・・・・・・てか・・・・・・なんで身体強化・・・・・・したのに・・・・・・引き分け・・・なんだよ・・・・・・・・・」

「はぁ!?何それ!?ダッチー魔法使ったの!?ドーピングじゃん!!!!」

「えっ!?そうなの!?」

「当然でしょ!!!!陸上競技に関しては全競技で魔法使用を禁止してるし、念の為に魔法が使えなくなる腕輪をして出てんだから!」

 

龍護が負けたくないという理由で魔法を使った事に友姫と雫、白、そして野武もが引いている。

 

「ダッチー」

「・・・はい」

 

龍護は黙って正座する。

 

「何か言い残す事はある?」

「そもそも陸上の長距離走選手が素人相手に挑発すること自体が────」

 

全てを言い切る前に龍護は宙を舞った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

授業を終えて帰り支度をしている。

龍護は顎がまだ痛むのか時折摩っていた。

 

「じゃ、私部活だからじゃーねー」

「また明日~」

 

友姫がヒラヒラと手を振って白を見送る。

その後に龍護の元に行って帰り支度をし終わるのを待っていた。

だが当の本人はひっきりなしに顎を摩っている。

白にアッパーを喰らい、未だに痛むのだ。

 

「いつつ・・・」

「自業自得でしょ」

「デスヨネ~・・・」

 

ハァ・・・とため息が漏れてしまう。

帰り支度を終えて玄関へと2人で向かう。

靴を履き替えて外に出た。

 

「そういえばあの後から進展あった?」

 

龍護の問い掛けに友姫は無言で首を横に振る。

だよなぁ・・・と龍護は空を眺める。

 

「龍護のお姉さんは?」

「姉貴?今卒業論文書いてて大学に寝泊まり」

 

そういえば姉の彼氏を見てから疎遠になってるな・・・と今更ながら気付く。

だが近付こうとは思えなかった。

姉の彼氏が七天龍の遊戯の参加者であるからだ。

迂闊に攻めて姉を人質に取られればこっちが不利になる。

まぁ、彼氏が彼女を人質に取るとは思えないが・・・

道を歩く中、突然龍護は立ち止まる。

 

「?龍護?」

 

龍護は突然歩いた道を戻り、走り出した。

 

「ちょっ!?どうしたの!?」

 

友姫が声を掛けながら追い掛けるが龍護は無視して1つの曲がり角で立ち止まる。

その曲がり角の道は薄暗く道幅も車は通れない程狭い。

そして何より誰もいなかった。

 

(・・・気の所為か・・・?)

 

先程から龍護は尾行されていた感覚がした。

それはまるで2人の居場所を特定する為に後ろを追っているように思えた。

龍護は内心震えながらもゆっくりと曲がり角に入る。

大丈夫だ・・・落ち着け・・・そう言い聞かせながら一歩・・・また一歩と歩を進める。

向こうにT字路が見える。

龍護がT字路に入ろうとした時だった。

 

ドンッ!!!!

 

誰かとぶつかり、龍護は尻餅を付いてしまう。

 

「いってぇ・・・」

「す・・・すみません!お怪我はありませんか!?」

 

声からして女性。

龍護が顔を上げると短い黒髪に黒縁の眼鏡、整った顔付きで美形に入る。

スレンダーな身体つきで黒いスーツを身に纏っていた。

見た感じはどこぞのSPを連想させられる。

そんな女性が手を差し伸べるも、龍護は普通に立ち上がる。

 

「申し訳ありません、少し急いでまして・・・」

「いえ、こちらこそ・・・何か散らばって・・・」

 

龍護がチラッと地面を見る。

地面には何も落ちていなかった。

 

「無いようですね」

「申し訳ありません。それでは」

 

女性は鞄を持つと足早に去っていった。

それと同時に尾行されていた気配が消えている。

そこに友姫が来て何で急に走ったのかを軽く怒られてから再び帰路に戻った。

その様子を物陰で伺っていた謎の男性物陰から様子を伺う。

その男性は先程の女性と龍護がぶつかるのを見ていたようだ。

 

「ターゲットと男子生徒の非ターゲットを確認。その後女性が非ターゲットと接触を確認しました。以下がなさいますか?」

『────?────。』

「了解。尾行を続けます」

 

男性はインカムを用いて何者かに連絡を取っている。

指示を出され、再び男性は尾行を続けた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

とある一室。

かなり豪勢な部屋に1人男性が受話器を持っていたが、ガチャ!と受話器を戻し通話を終了させる。

そこに赤ワインを抱えた使用人の女性が来て男性の空のワイングラスに注ぐ。

 

「【怠惰の龍】は彼氏持ちか・・・彼氏を葬れば【怠惰の龍】の逆鱗に触れて、向こうから来て公衆の面前で自滅させるのも手・・・か・・・」

 

男性はグラスを持ってワインを一口、口に含んだ。

少し熟考して再び受話器を取り、電話する。

 

『────?』

「私だ。MONYの社長である浅野弘治に連絡を取り、密会を開く。拒否をするのなら脅しておけ」

『────』

 

プッ!ツーツーツー・・・と通話が切れた音が響く。

その音を聞いて男性は受話器を戻し、グラスを置くと机に肘を立てて手を組み、その上に顎を乗せる。

 

「まぁ、今回はゆっくりと遊戯を楽しむのも一興だろう・・・」

 

男性の口角が不敵に上がり、灰色の両瞳の右目の瞳にだけ、黒い龍の紋章が浮かび上がる。

 

「必ず見つけ出してやろう・・・【強欲の龍】の所持者」

 

龍護は知らない。

彼の気付かない所で彼の命は狙われているのだった────




見えざる敵・・・ヴァンデンライhゲフンゲフン・・・
今回から七天龍の龍の龍所持者を後書きで記載します。

七天龍の龍の所持者
・憤怒の龍の所持者
ルシス・イーラ

・怠惰の龍の所持者
友姫・S・ラジネス

・強欲の龍の所持者
奪木龍護

4人の所持者名・・・不明。

感想、お気に入り登録宜しくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

遭遇

研修終わったああぁぁああ!!!!
疲れたー・・・


友姫の家に着き、龍護は家事の手伝いの準備をしようとしたところだった。

友姫がそれを止めたのだ。

 

「使用人がいるからリューゴは私の勉強見てよ」

「そうだな」

 

龍護は友姫とともに部屋に向かおうとしたが先に自分の荷物を置きに、自分が借りている部屋に向かった。

だが先程の尾行者の事が頭から離れない。

杞憂ならいいんだけど・・・と自分に無理矢理納得させて友姫の部屋に向かう。

 

「おーい友姫ー。始め・・・っておい・・・」

 

友姫は布団で気持ち良さそうに寝ていた。

教えてと言ってたくせに寝るとは何事かと心の中で愚痴りながら友姫の横に座り、起きるのを待った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

18:00に友姫が漸く起きると目の前で笑顔だが額に青筋を浮かべる龍護がいた。

友姫は素直に、勉強します・・・と観念して教材を取り出す。

 

「ここはこの公式を代入して」

「ここ?」

「いや、その前」

「あ、ここか」

 

龍護は教える事に関しては微妙な説明だと自覚している。

だがそれは経験によるもの。

ならば場数で乗り越えようと自分に言い聞かせ、友姫の勉強を見ていた。

 

「2人とも、お疲れ様。夕食の準備が出来てるから一区切りして居間に来てね」

「はい、分かりました」

「リューゴ・・・お腹すいた~」

「このページ終わったらな」

 

うえ~・・・と嫌な顔をする。

面倒な所を先に終らせてスッキリした状態で夕食にするか、後回しにして夕食の後にまた勉強するかどっちか選んでいいぞ?と友姫に聞いた途端に、終わらせます・・・と半ば素直に友姫は応じていた。

 

漸く終えて居間に向かう。

ラジネス家の食卓は和食が大半を占める。

スヴェンが和食が好きで使用人に頼んでいるのだ。

今日の献立は焼いた秋刀魚と味噌汁、お新香、白米。

皆が揃って食べ始めた。

 

「龍護君、友姫の勉強はどうだい?」

「・・・はっきり言うと、微妙ですね・・・」

 

私だって頑張ってるのに・・・と龍護の言葉に口を尖らせる友姫。

ならまた後で頑張ろうな?と龍護が言うと勘弁してぇ~・・・と泣き目になっていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

食事を終えてそれぞれの部屋に戻っていく。

龍護は自室に戻ろうとしていたスヴェンを止め、帰り際にあった事を話すと詳しく聞こうという事になり、スヴェンは自室に龍護を招き入れた。

そしてお互いにキャスター付きの椅子に座る。

床は畳の上にカーペットを敷いている為傷付くことは無い。

 

「それで・・・先程の尾行者の件だが・・・」

「はい。でもこれは自分の勘なんですけど尾行者は俺ではなく友姫を追っていたように思えます」

「根拠はあるのかな?」

「なんというか・・・視線が時折こちらに向いてたんですが殆どが友姫に集中している感じはありました」

 

成程・・・とスヴェンは腕を組み、考え込む。

 

「龍護君。ちょっといいかな?」

「何でしょう?」

「少し後ろを向いてもらいたい」

「?まぁ・・・いいですよ?」

 

龍護はスヴェンの頼みに戸惑いながらも後ろを向いた。

するとプチッ!と何かを抜かれると同時に頭に一瞬痛みが走る。

 

「いっつ~・・・何なんすか・・・?」

「ちょっとね」

 

スヴェンの右手には龍護の短い髪の毛が1本だけ親指と人差し指で挟まれている。

それにスヴェンが自身の魔力を込めると髪の毛は蠢いて灰となって消えた。

だがその後にスヴェンの手の平に白い龍の紋章が浮かび上がる。

これには龍護も驚いていた。

ふと自分の左手の甲を見ると白い紋章が浮かんでいた。

恐らく本物の龍の所持者同士の他、譲渡した相手でも紋章は浮かぶようだ。

少し興味深いデータを見付けたらしくそれを龍護に見せた。

 

どうやら男性の研究員の人が隔離施設で撮影をしているようで画面全体はほぼ真白く、恐らく撮影機も固定されている。

奥にもう1人、男性の研究員がいる。

男性の研究員が髪の毛を撮影機に近付けている為、髪の毛がどアップで見えている。

その髪の毛を男性に渡し、魔力を込めさせた。

すると男性が持っていた髪の毛は先程のスヴェンが持った髪の毛のように灰となって消え、代わりにその右掌に黄色い紋章が浮かび上がる。

 

「スヴェンさん・・・これは?」

「恐らくだが龍の力は一時的に譲渡出来るようなんだよ。これはその1つのようだ」

「その1つ?って事は他にも方法はあるって事ですか?」

「恐らくね。それと続きがあってね」

 

2人は再び画面を眺める。

髪の毛を渡した男性が一辺1cmの立方体の形をした鉄を男性に渡す。

すると鉄を渡された男性は躊躇しながらもその鉄を口に放り込んだ。

 

「は!?」

 

龍護の口から素っ頓狂な声が出る。

男性は驚きつつも掌を見せながら口に含んだ鉄を咀嚼しているようだ。

そしてその間、掌の紋章は黄色く鼓動を打つように光り出す。

そして飲み込んでも紋章は浮かび上がったままだ。

 

「黄色い紋章・・・【暴食の龍】の能力だと私は思っている・・・そしてその特性は」

「全てを喰らうことが出来る・・・的な?」

「半分正解だと思う。私は”有機物や無機物を関係無く無尽蔵に食べる事が出来、そして毒であればそれを無効に出来る”という能力だと思うんだ。そして同時にこれを見たら理解してくれると思ったんだけど一般人に龍の所持者の髪等を与えると一時的に能力を譲渡出来るようなんだ」

「・・・だから髪の毛を抜いたんですか」

 

そう、と短く返事をした。

そして力の受け渡しに関しては調べた所、3つ存在するらしいが1つは探している途中のようだ。

そして見つかっている2つは────

 

奪取

・相手を倒し、特定の呪文を唱え、相手から紋章を奪う。

※七天龍の遊戯で紋章を集める為に必要。能力と紋章を奪い、永続的に使えるが効果は少々落ちる。

 

付与

・相手の身体の一部(髪の毛等)を貰い、に自身の魔力を込める。

(こちらは一時的だが能力の低下はない)

 

となっている。

 

奪取に関しては龍護の推定通りだった。

だが例外として【強欲の龍】自らのコピー能力で相手の能力をコピー出来、【暴食の龍】は捕食した相手が龍の所持者だった場合、その龍の力を使う事が出来る。

付与は一時的で奪取程ではないが効果も落ちてしまうらしい。

そして今、スヴェンの掌には白い龍の紋章、【強欲の龍】の紋章がある。

つまり今のスヴェンも一時的だが【強欲の龍】の力を使えるのだ。

龍護に友姫を連れてきてくれと頼み、龍護は友姫を呼びに行く。

 

「どうしたの?」

「友姫、ちょっとお父さんと外に出てくれるかい?」

「え?う・・・うん」

 

友姫は戸惑いながらもサンダルを履いて外に出る。

 

「・・・そういえば友姫は何の龍の所持者なんだ?」

 

龍護の疑問に友姫は【怠惰の龍】と答える。

そしてその能力は────

 

相手の能力を無効化する。

但し無効化出来るのは自分を中心に相手が半径5m圏内のみ。

※身体の一部分を部分的に無効化も可能

 

らしい。

つまり友姫と対峙する他の龍の所持者は体術か武器を使って勝負しなければいけないらしい。

だとすると友姫は敵無しと思われる。

なぜなら友姫は5属性持ちで魔法適性はSランクだからだ。

その上体術にも優れている。

スヴェンは友姫に先程あったことを説明し、実際にスヴェンに龍護の【強欲の龍】の力が持てているか、を検証するらしい。

スヴェンが意識を集中させるとスヴェンの身体が輝き出し、大きくなっていく。

光が止むとそこには全てが真っ白で翼が左右で4枚ある、全長5m程の巨大な龍がいた。

そして目が開くとその瞳は紅く輝いている。

そこで龍護は気付いた。

 

 

龍護の見た夢の黒い龍とは真反対の色の龍である事を──────

 

 

「スヴェンさん!どうですか?」

 

龍護の問に龍化したスヴェンはコクンと頷く。

どうやら問題無いようだ。

近所に迷惑が掛かるだろうと心配していたが今は夜。

気付く者はほぼいないだろう。

友姫に龍護が【怠惰の龍】の力を使ってみろと言って、友姫は目を閉じて集中する。

すると地面が友姫を中心として半径5m程の透明な空間が出来上がり、地面が揺らぎ始める。

試しに触れてみるとただの芝生だ。

見えない、触れられない膜のようなものなのだろう。

龍化したスヴェンが友姫の少し右に向かって尻尾を真上から叩き付けようとした。

だが尻尾は途中で細くなり、消滅する。

【怠惰の龍】の無効化範囲は恐らく半球体状と思われる。

試しに揺らいでいる地面の真上、地上から約10mの所に龍化したスヴェンが手を伸ばすと消滅しなかった。

試しに龍護も闇属性の魔法を友姫に向かって使う。

幻影のモデルに使ったのは自分。

そして幻影に成功して自分を友姫に向かわせた。

だが途中で消えてしまう。

魔法も完全に無効化されるようだ。

実験もそこそこにしてスヴェンが龍化を解き、右手を見てみた。

紋章が消えている。

一般人に龍を持たせても使えるのは1回限りらしい。

今日はここまでだな、と3人は家に入った。

 

だが彼等は失念していた。

恐らくこのままお互いの龍の能力を使っていれば友姫の持つ【怠惰の龍】の力の唯一の、そして最大の弱点に気付けたのかもしれない────

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

翌日の今日は土曜日。

龍護は1人、図書館に来ていた。

理由としては七天龍の遊戯に関して少しでもいいから情報を集めたいからだ。

奥の古典エリアに向かい、【七天龍の伝説】と書かれた緑色で硬い表紙になっている分厚い本を抜き取る。

閲覧エリアに行って本を広げた。

だがやはり七天龍の遊戯に関する情報は無い。

悩んでいたが向かいに誰かが座ったので本を再び読み始める。

 

「勉強熱心だね?奪木龍護君」

 

聞き覚えのある声。

前を見てみるとそこには【憤怒の龍】の所持者であるルシス・イーラが座っていた。

突然の事に立ち上がる龍護。

 

「・・・何の用だ?」

「まぁ落ち着いて座りなよ?まだ僕は何もしてないんだから」

 

両手を軽く上げてルシスは答える。

警戒しながらも龍護は黙って座った。

その時にルシスは龍護の持っていた本に目を付ける。

 

「七天龍の伝説か・・・」

「やっぱ参加者だから興味はあるんだな?」

「というか僕の大学の研究テーマだからね」

「は?」

 

どうやらルシスは七天龍の遊戯の参加者になってから七天龍の伝説に興味を持ち、実際に調べているようだ。

 

「言ってしまうと今の所は君と敵対する気は無いよ?」

「え?」

 

突然の発言に戸惑う龍護。

 

「そりゃあそうだろう。弟である君が死んだら僕の彼女は傷心してしまうからね・・・」

「・・・」

 

確かにそうだな・・・と龍護が若干納得し、情報収集を再開する。

するとルシスは音を立てず、龍護に基盤が丸見えの透明なUSBメモリを渡した。

 

「・・・何これ?」

「まぁ、研究資料と思っておいてくれ。そこにはとあるサイトのURLとWord形式の資料を入れておいた」

「いいのかよ?」

「一応、今は敵対しないという信用を込めて渡すよ」

 

そっか・・・と龍護がテーブルに置かれたUSBを拾おうとする。

だが先にルシスに取られてしまった。

 

「さすがにタダでは渡せないよ」

「アンタな・・・で、要求は?」

「君のアドレス」

「・・・はい?」

 

どうやらルシスは龍護のメールアドレスと引き換えにUSBを渡すようだ。

まぁ・・・それくらいなら・・・と龍護も紙にアドレスを書いてルシスに渡した。

 

「1つ言うと僕は僕の故郷で君と決着を付ける予定だ」

「故郷ってぇと・・・オーストラリアだっけ?でも何で?」

「理由?そうだな・・・」

 

ルシスが頬杖を付いて外を眺める。

その先には元気に遊んでいる子ども達がいた。

 

「僕は・・・日本が好きなんだよ。ここは素晴らしい・・・人は優しく、一生懸命で、まっすぐで、一途で、そして・・・愛する者がいる国だ。その好きな場所を血で染めたくない・・・からかな?」

 

ルシスの見せた笑みは信用するには十分過ぎた。

そんなルシスを見て龍護にも笑みが浮かぶ。

 

「でもいいのか?自分の国を血で染めちまっても?」

「ウルル・・・エアーズロックって知ってるかい?」

 

 

エアーズロック

 

オーストラリアを代表とする観光名所だ。

広大な砂漠の中にある一枚岩であるエアーズロック(ウルル)は、地球の中心に居るのか、火星に居るのではないかという幻想的な世界に入る事が出来る。

 

「まぁな」

「僕はそこで君と決着を付けようと思っている。今は観光名所となっているけどその1日だけ、僕はその地を最後のバトルフィールドとして君を打ち倒したいと思ってるんだ」

 

ロマンチストだなと思った。

だがそのような終わり方も悪くないか・・・と思ったのか龍護はそれに乗ることにした。

ルシスが急に立ち上がる。

どうやら大学に戻るようだ。

龍護も情報収集はここまでとしてルシスを追った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「わざわざ一緒に帰らなくても良かったのに・・・まだ続けようとしてたんでしょ?」

「心配ねぇよ。それにそれ以上の収穫があったからな」

 

龍護は得意気にUSBを見せる。

あっ!とルシスは何かを思い出したようだ。

 

「ごめんそれ・・・というか中のURLのサイト・・・IDとパスワード無いと入れないんだった・・・」

「俺無理じゃん!?渡した意味!?」

 

ごめんごめんと平謝りして後で2つとも送ると約束したルシス。

呆れながらも頼むぞ?と龍護も納得したようだ。

 

「それじゃ、僕はこれで」

「おう・・・その時は負けねぇから」

「僕もだよ」

 

お互いに健闘を誓い合い、ルシスは大学に、龍護は友姫の家に帰っていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

夜の10:30。

 

「ハッ・・・・・・!ハッ・・・・・・!」

 

血だらけのルシスが道に倒れている。

息が荒く、ギリギリ立ち上がれる程だ。

道路は広いが周りは見通しが悪く、交通量や通行人も少ない上、街灯も無かった。

ブレーキ痕が続いており、その先には2台の黒い車が止まっている。

ルシスはせめて・・・と霞む視界と震える手で必死にとある人物にメールを打つ。

バタン!と音がして2人が車から降りてきた。

その後に武装した人が3人ほど車から降りてきて、サブマシンガンを構えながら近付いてくる。

その中の1人を見てルシスは驚愕する。

彼に伝えないと・・・!と再びキーを打つ。

 

ダァン!!!!

 

その音と同時にスマートフォンを握っていたルシスの右手は撃ち抜かれた。

だがそれでも・・・!とルシスは必死に左腕を動かしてスマートフォンを手に取った。

もう時間が無いと思い、編集途中の文章をそのまま送信する。

 

「なぜ・・・貴方が・・・」

「・・・」

 

その者は冷えた目付きでルシスを見下ろしていた。

最後の足掻きとしてルシスは頬に紋章を浮かばせる。

ズキズキと痛む身体を必死に立ち上がらせながらルシスは怒りを溜め込んでいく。

 

「お前のような奴に・・・」

 

ルシスの身体に赤く光る線が張り巡り、そこから炎が上がる。

 

【憤怒の龍】の能力だ。

 

憤怒の龍の能力は怒れば怒る程に力が強化され、光る赤いラインが身体に現れる他、魔法適正無しに炎を纏い、その炎で戦闘もする事が出来る。

 

「負ける訳にはいかない!!!!」

 

ルシスは殴り掛かかろうとしたが難無く躱される。

すると男が周りにいた者達を退がらせる。

 

「・・・なんのつもりだ?」

「いやなに、優勝特典を使ってみたくなってね」

 

その言葉を発して男の目に浮かぶ紋章が鈍く輝き出す。

そしてドス黒い瘴気を発し始め、男を包み込むとその瘴気はどんどん大きくなり、しまいには2階建ての一軒家の高さを軽々超える大きさになる。

やがて瘴気は止み、中から黒い龍が現れた。

その姿を見てルシスは息を呑んだ。

すぐに我に帰って【憤怒の龍】の力を使い、炎を両手に灯してジェットエンジンのように逆噴射させて飛び上がる。

だが車に轢かれた痛みが残っている為か、炎の出力を安定させられない。

そしてそんなルシスに対し挑発するように黒い龍は咆哮する。

ビリビリと空気が振動し、ボロボロのルシスの身体に突き刺さる。

もう周りから見ても勝負は目に見えている。

にも関わらずルシスは必死に闘志を燃やしていた。

龍護と決着を付けると約束し、そして愛する者に明日も会う為だ。

残された力の全てを使い、飛び掛かる。

 

「うおおおおぉぉぉぉぉおおおお!!!!!!!!」

 

高温の炎を纏った拳を思い切り黒い龍の胴体に叩き込んだ。

そして続け様に少し距離を取って両手を龍に向けて広げ、炎を撃つ。

巨大な炎が黒い龍を包み込んだ。

全てを力を使ったルシスはフラフラとしながら地面に降り立とうとした。

その直前で黒煙の中から黒い龍の腕が現れ、ルシスを掴み上げる。

 

ルシスの強襲は失敗に終わった。

 

そんなルシスを嘲笑うかのように少しづつ手に力を込める黒い龍。

ルシスはもう力尽きてまともな声も出せず、「が・・・・・・あっ・・・・・・!!!!」と短い悲鳴を上げながらその身体からは血が吹き出し、ボキッ!メリッ!と骨や内臓が潰れていく音が響いた。

ダラン・・・とルシスの首が垂れるのを見て黒い龍は手を離す。

硬い地面にルシスの身体が叩き付けられるが悲鳴一つ上げなかった。

 

完全に息絶えていた。

 

黒い龍は消え、男は近付いてしゃがみ込み、ルシスの頬にある紋章に右手を添える。

 

「【我が元に集え】」

 

そう告げるとルシスの頬にあった赤い紋章は燃えるように消えて、男の右目に浮かぶ黒い紋章は赤と黒の紋章となり、2色に輝き出す。

 

「ターゲットは以下がなさいますか?」

「燃やしておけ」

「し・・・しかし・・・!」

 

黒スーツを着た女性は躊躇する。

だが男の目を見た途端に姿勢を正した。

 

「畏まりました」

 

先程まで躊躇していたにも関わらず指示を受けた女性はガソリンを持ってきて平然とルシスに満遍なく掛ける。

そして男とともに車へと戻り、ルシスに向かって拳銃を1発、発砲する。

その銃弾はルシスに被弾し、ガソリンにも火がついた。

それを確認すると車はスピードを上げてその場を離れた。

 

ピリリリリ・・・ピリリリリ・・・

 

ルシスの近くにあるまだ辛うじて壊れてないスマートフォンに着信が入る。

その画面は歪みながらも《奪木 恵美》の名前が表示されていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

龍護に着信が入る。

友姫との勉強を中断して電話に出た。

相手は恵美だ。

 

「どうした?姉貴?」

『龍護?そっちにルーいる?』

「ルー?・・・あぁ・・・ルシスの事?いないけど」

『そっか・・・おかしいな・・・さっきから電話してるんだけど出ないんだよね・・・』

「え?大学にいねぇの?」

『いや、戻って来たは来たんだけど、また出掛けたから・・・』

 

どうやら大学に一旦戻ったものの帰って来てないらしい。

どうせ買い物でもしてるんだろ。と龍護は言ってお互いに電話を切る。

その時に龍護は2件のメールが入ってた事に気付いた。

送り主はルシスだ。

先に姉貴に連絡しろよ・・・と心の中で愚痴ったがメールを開ける。

 

《使用ID:ITD346SGK

パスワード:hfru453l》

 

1件目はUSBに入っているURLに使うIDとパスワードのようだ。

自分のスマートフォンのメモ帳にコピーして2件目を表示する。

 

《ぼくはもうながくない。かならずかちのこってくれ。

りゅうのしょじしゃにはs》

 

そこで切れていた。

尋常ではない事に気付く龍護。

だが気付いた頃には遅く、ルシスは既に亡くなっている。

 

後日。

ルシス・イーラは全身の骨が砕けた焼死体として発見された。




強欲の龍の所持者
奪木龍護

怠惰の龍の所持者
友姫・S・ラジネス

憤怒の龍の所持者
ルシス・イーラ(死亡)

??の龍の所持者
不明

はい、という訳で早速1人が脱落しました。
・・・表現エグすぎたかな・・・?

宜しければお気に入り登録宜しくお願いします。
感想等もお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

故人の報せ

うーん・・・書き溜めが少しずつ減っていく・・・


ルシス・イーラの葬式は母国で行われることとなった。

彼女である恵美は一人暮らしだったルシス・イーラの部屋で泣き続けていた。

龍護は友人として葬式に出ようとしたが親族から遠慮され、せめて亡骸だけでもと頼み込むと渋っていたが受け入れてくれた。

既に遺体は日本の検死院に保管されているとの事。

特別に許可を貰い、ルシスの遺体を伺う事が出来た。

保管されている場所に案内される。

遺体を見た龍護は言葉を失った。

顔の皮膚は焼けただれ、真っ黒に染まっている。

瞼は焼けてくっつき、そして腕や足は有り得ない方向に曲がっている。

だが親族や検死院の人に聞いてもこれは良く分からない、の一点張りだ。

少し疑問を持ちながらも再びルシスの亡骸に視線を移す。

見ただけで吐き気が催してしまう。

そして龍護は亡くなったルシスに対して不謹慎だと思いつつも、合掌した後にルシスの頬へ右手を翳す。

 

 

 

────────────

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

────

 

 

 

浮かばない。

龍護の紋章もルシスの紋章も浮かび上がらないのだ。

龍の所持者同士が近くにいればお互いの紋章は浮かび上がる。

それが無いということは────

 

紋章を奪われた。

 

という事になる。

そして同時に龍護の中に疑問が浮かび上がった。

 

なぜ、殺した人物はルシスが七天龍の遊戯の参加者だという事を知っていたのか。

 

 

なぜ龍の所持者であるルシスの居場所を分かっていたのか。

 

 

なぜ、行方不明にせずに焼死体として周りに見付けさせたのか。

 

 

もしも行方不明にすれば探すのにも手間が掛かり、最悪は捜査打ち切りとなる。

自分の正体がバレたくないのであれば殺した後でどこかに埋めれば見つかる時間も遅くなり、その上その時自分が返り血等の対策をしてそれらを焼却処分する等の証拠隠滅を図っていれば犯人である証拠を減らす事が出来る可能性は十分に高い。

それをしなかったという事はする必要が無かったという事になる。

 

 

なら相手は何者なのか。

 

 

そしてルシスを所持者と知っているのなら自分達が参加者である事も知られている可能性も増えてくる。

だが再びここで先程の疑問が出来てしまう。

 

 

なぜ、その者達が龍の所持者である事を知っているのか。

 

 

この疑問に辿り着く。

そして次に考えるのは方法だ。

 

 

①どこからか盗聴されていたか?

 

 

若しくは、

 

 

②内通者がいる。

 

 

可能性としては後者が濃厚だ。

 

龍護の予測ではこうだ。

 

1.とある方法から龍護や友姫が龍の所持者である事を突き止める。

 

2.ルシスを殺した者に”内通した事を隠蔽する”という条件付きで報告。

 

3.そしてその者はルシス殺害し、遺体を燃やした後で内通者は姿を晦ました。

 

今の所考えられるのはこれだけだ。

龍護は遺族に挨拶をしてその場を去った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

友姫の家に帰ってきた。

すぐに友姫が駆け寄ってきて紋章の事を聞いてくる。

龍護は首を横に振る。

それだけで説明は十分だった。

 

「龍護君」

 

部屋からスヴェンが顔を出し、龍護を招く。

 

「やはり奪われていたか・・・」

 

龍護は黙って頷く。

スヴェンが君の姉はどうしている?と聞く。

姉はルシスの借りている部屋で泣いている。とだけ言った。

姉の事は当分あのままにしておいてほしいと龍護が頼むとスヴェンは了承した。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

翌日。

龍護と友姫は登校していた。

自分の机に着いた途端にスマホの電源を付け、ネットニュースを見る。

 

《龍天町近くで外国人の焼死体が発見される》

 

《楠野魅子と婚約していた俳優の浅井幸樹に不倫が発覚!楠野魅子は婚約解消を決意》

 

《ロシアの動物園で檻が破壊され、中の動物が負傷。証拠品は無く、犯人は行方不明で現在も捜索中》

 

《総理大臣の小野崎熳作が新議案を決議》

 

2番目のニュースは野武が騒ぐな・・・と予想出来ていた。

個人的にも1番目以外のニュースは興味が無く、龍護はスマホを閉じた。

数十分経って野武が涙を浮かべながら入ってきた。

うわ・・・と若干引き気味の龍護を無視して近付いてくる。

 

「りゅうごおおおぉぉぉおおお・・・ぎいでぐれよおおおぉぉぉぉおおお・・・!」

「・・・浅井って奴が不倫したんだろ?」

「そうなんだよおおぉぉぉぉおおお・・・」

 

お前が泣くことか?と疑問に思い、龍護は再びスマホを開いて浅井幸樹の経歴を調べる。

だが驚いた事に浅井幸樹という男性は不倫をしそうな経歴ではなかった。

逆に私立の有名な高校や大学を出ていてルックスも申し分ない。

そしてサッカー部に所属していたようで、高校、大学共にレギュラー、どちらも部長を務めている程だ。

そんな好青年がなぜ不倫を?と疑問に思う。

だが本人が実際にやったのだからその事実は覆る事は無い。

その後、龍護は泣いている野武を慰めるのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

今日の授業を終えて皆が帰り出す。

龍護も帰り支度をしている時だった。

何か硬いものが指先に当たる。

何だ?と疑問に思って鞄の中を覗き込んだ。

その鞄の底にあったのは全体が透明で中の基盤が丸見えのUSBメモリ。

ルシスから借りたのを思い出す。

そういえば・・・とルシスとの会話を思い出していた。

ルシスは図書館で卒業論文として【七天龍の伝説】を調べると言っていた。

そしてUSBにはその卒業論文で使う資料のサイトのURLを載せてあると言っていた。

もしかしたらそこにスヴェンも知らない情報が乗ってるかもしれないと感じた龍護は急いで図書室に走る。

途中で友姫が何事か聞くも、先に帰ってろ!と一言だけ残した。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

図書館に入るとパソコンエリア(書籍が図書室に無い場合、そのパソコンで調べれば閲覧が出来るエリア)が4台全てが空いていた。

龍護は1番奥のパソコンの席に座ってパソコンを起動する。

数分経って漸く起動し、龍護は自分のアカウントでは無く共有アカウントでログインする。

こちらの方がパスワードを入れる手間が省けるのだ。

漸く最初の画面となり、件のUSBをUSBポートに差し込んだ。

パソコンで読み込みが行われて操作メニューが表示される。

龍護はその中の【ファイルを開く】をクリックする。

中には沢山のフォルダがあった。

その中に【奪木龍護】と名前のあるフォルダがある。

恐らく龍護に開いてもらう為にこのフォルダをつくったのだろう。

そのフォルダを開くと1つのWordファイルがあった。

再びそれを開く。

Wordにはhttp:gform.topというホームページのURLが書かれているのみ。

それをコピーしてインターネットに接続し、検索のボックスにペーストする。

Enterを押してそのホームページを開いた。

そのホームページは様々な研究結果が集まってるサイトだった。

人の心理に関しての研究結果や金属に関しての研究結果、中には宇宙に関しての研究結果等、様々な研究結果が載っている。

龍護は再び検索ボックスにカーソルを進め、《七天龍》と打ち込んで表示させる。

だが検索結果はゼロに終わった。

ならば・・・と考え、《7頭の龍》と打ち込んで再び検索する。

すると7頭の龍に関する情報、研究結果が3件存在していた。

閲覧数というものも存在し、人気の研究結果では閲覧数が1億件を超えるものもある。

7頭の龍の遊戯の閲覧数は3件の研究結果を合わせても45件。

他の研究結果と比べると圧倒的に少ない。

今はどうでもいいか・・・と、その1つのページを開く。

そこには龍の力を所持していた者達の名前が書かれていた。

龍護はその名前を頭の中で読み上げ、持参した紙のメモ帳に書いていく。

所々に偉人や政治家も含まれていた。

だがその人達は理由は分からないが遊戯が始まった5ヶ月後に全員、遊戯を終えている。

つまり、全員がペナルティになった事例が無いという事だ。

ますます疑問が浮かび上がる。

 

 

龍護と友姫のように結託していたのか────

 

 

それとも・・・

 

(相手の弱みを握り、利用した・・・か・・・)

 

有権者であれば可能だろう。

そしてそれが本当なのであれば権力を使ってワンサイドゲーム仕放題だ。

龍護はページを戻り、2つ目の研究名に釘付けとなる。

 

【龍の能力について】

 

これが分かれば対策は簡単だ。

リンク切れになってない事を祈ってページを開く。

 

「は!?」

 

声が漏れてしまった。

図書室で本を読んでいた生徒からの視線が突き刺さる。

慌てて口を隠し、画面を見た・・・が、理解出来ない。

英語等であれば少しは解読できる。

だが今回に限ってそれすらも叶わないのだ。

理由は単純

 

文字化けとなっている。

 

いや、全体的ではない。

部分的になっているのだ。

7頭の龍の名前は読める。

だが肝心な能力についての一切が文字化けして読めないのだ。

 

(くそっ・・・エラーでも起こしたか・・・!?)

 

何度も戻って開いてを繰り返したが文字は戻らない。

折角対策が施せると安堵したかったのだが不能と終わった。

試しに余った3つ目のページを開くとリンク切れとなっていた。

やらかした・・・と思い最初にアクセス出来たページを開いたが先程は開いたのにこちらもリンク切れ。

時計を見ると17:00。

スヴェンやスヴェンの奥さんが心配する頃だな・・・と考え、パソコンをシャットダウンする。

一応、名前の書いた紙は鞄に入れてパソコン室を出た。

 

「あっ!リューゴ」

 

廊下では友姫が待っていた。

帰ってなかったのだ。

 

「もーどうしたの?急に走り出して・・・」

「あ・・・いや・・・すまん・・・」

「帰ろ?」

 

友姫に頷いて2人揃って友姫の家へと帰った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「ただいまー!」

「ただいま帰りました」

 

友姫は靴を脱ぎ捨て、龍護はその靴を含め、自分の靴も揃えて家へと上がる。

2人が居間を通り掛かった時だった。

 

「う~ん・・・」

 

スヴェンがパソコンと睨めっこしたまま腕を組んで唸っている。

 

「スヴェンさん?」

「ん?おぉ、2人とも帰ってきてたのか・・・」

「どうしました?」

「いやね?以前は見られた資料が見られなくなってて・・・」

 

龍護がパソコンを覗き込んだ。

その画面は龍護が学園のパソコンで見た資料のサイトだった。

 

「・・・これ・・・俺も見ました・・・」

「どうだった?」

「ダメでしたね・・・文字が化けます」

「う~ん・・・以前は見られたんだけどな・・・」

 

リンク切れの可能性を尋ねてみるが、それは無いな。と一脚された。

仕方ない・・・とスヴェンはパソコンを閉じて自室に戻った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

夕食を終えて龍護はラジネス家で借りている自室の布団で寝転び、今は亡きルシス・イーラの最後のメールを思い出していた。

 

《ぼくはもうながくない。かならずかちのこってくれ。

りゅうのしょじしゃにはs》

(・・・今思うとルシスって何を伝えようとしてたんだろうな・・・)

 

龍の所持者には────の後に続く文章が分からない。

 

(s・・・す・・・スヴェン・・・ってそりゃ友姫の親父さんだっての)

 

自分にツッコンで何してんだか・・・と考えを一掃する。

だがいつまで経っても続く文章が分からない。

 

「あー!ったく!行き詰まるとかめんどくせぇ!!!!!!!!」

 

頭をバリバリと両手で掻いた後に勢いよく起き上がり、風呂に入ってリフレッシュしようと早足で風呂場に向かう。

半透明のガラスが張られた引き戸をガラガラ!と勢い良く横へ開ける。

そして視界に入ったのは風呂から上がって身体を拭いている最中の友姫。

 

「え・・・!?」

「あ゙・・・」

 

友姫の顔と身体はこちらを向いている。

つまり・・・友姫のあられもない姿が龍護の目に収まる。

 

「み・・・見るなあああぁぁぁあああ!!!!!!!!」

「イダダダダダダダ!?!?!?目がぁ!!!!目が抉れるからあああぁぁぁあああ!?!?」

 

咄嗟に友姫は右手の人差し指と中指で龍護の目を突いていた・・・

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

友姫が着替え終わり、更衣室から出てくる。

 

「リューゴのエッチ・・・」

「いや・・・しゃーねぇだろ・・・【憤怒の龍】の所持者のルシスが送ってきたメールで頭が一杯だったんだよ・・・」

「・・・メール?」

「あぁ、これ」

 

龍護はポケットの中のスマホを出して友姫にメールを見せる。

 

「《ぼくはもうながくない。かならずかちのこってくれ。りゅうのしょじしゃにはs》・・・ダイイングメッセージ?」

「そうなの・・・かな?んでこの”s”の後に続く文章が分かんなくてな・・・」

 

再び考え出す横でキョトンとした顔で龍護を見る友姫。

その視線に龍護も気付いた。

 

「何だよ?」

「いや・・・簡単過ぎて・・・」

「は!?分かったの!?」

「多分・・・”支配人”じゃないの?」

「支配人・・・?」

 

友姫が言うにはホテル等の支配人を指すのでは?との事。

そしてもしもルシスがどこかのホテルで使用人をしていたのならばその上司に当たる支配人が龍の所持者である可能性は高いんじゃ?と友姫が推測した。

つまりルシスはその上司に殺されたのでは?という。

だが龍護は引っ掛かる。

もしそれで支配人が龍の所持者だったとしてルシスを焼き殺すか?と疑問に思った。

その上、遺体の全身の骨は砕けている。

ホテルに全身骨折出来る機械なんてある訳が無い。

さすがにそれはないだろう・・・と振り出しに戻った。

その後龍護は、俺、風呂入るわ・・・と考え込んでいる友姫の横を通って引き戸を開け、服を脱いでから風呂を浴びた。

 

「あ~・・・落ち着く・・・」

 

風呂に入ってリフレッシュ。

漸く落ち着いた時間を持てた。

そろそろ身体でも洗うか・・・と湯船から上がって身体を洗い始めた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「例のサイトのページは閲覧出来ないようにしたんだろうな?」

 

かなり豪勢な部屋で男が、黒スーツを着た女性からの報告を待つ。

 

「夕方には終えました。ですがリンク切れその前にする前に何者かに閲覧された履歴は1件のみ、残っております」

「名前は?」

「申し訳ありません・・・個人の特定は出来ませんでしたが学校名は履歴に残っておりまして【国立喜龍学園】の生徒のようです」

「・・・」

 

ふむ・・・と、考え始める。

恐らくは【怠惰の龍】の所持者である、友姫・S・ラジネス辺りだろう・・・と結論付けて近くにあった紙を小さく折り畳み、自分の鞄にしまう。

 

「あの・・・」

「?なんだ?」

「先程の紙は・・・一体?」

 

男の顔が眉を顰め、近付いてくる。

その様子を見て男の横にいた女性は身震いをしてしまう。

 

 

何か失言でもしてしまったか────

 

 

証拠隠滅として抹消されるのか────

 

 

そんな考えが女性の頭を過ぎる。

そしてその横を男は通り過ぎた。

 

「君が知る必要はない」

「・・・申し訳ありません」

 

首の皮1枚繋がったか?と安堵しつつも女性は頭を下げる。

 

「・・・紙の事は2度と聞くな」

「承りました」

 

今後女性は紙の事は聞くのは御法度だと心に強く刻み込む。

 

「【嫉妬の龍】はあの学園に入れたんだろうな?」

「はい。既に」

「宜しい。それと近い内にサニーの社長と密会を行う」

「サニーとですか?一体何を・・・?」

 

サニーという会社は電化製品や今話題のゲーム機を中心に製造をしている会社で日本を支える柱の1つとなっている。

女性にとってその会社とこの男が密会を行うという事に疑問を持つ。

だが男は動じることも無く女性にその計画を行わせた。

女性は失礼しますと言ってその部屋を後にする。

 

「安心しろ・・・半年後にはこの世界の全てが私のものになり、世界を意のままに動かせるのだからな・・・」

 

それだけを言い残して男は暗くなった空を軽く眺めてから部屋を出た。




さぁ・・・これからどうなっていくのか・・・
宜しければお気に入り登録、感想等、宜しくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

訪問者

今日は日曜日。

という訳で息抜きに、と友姫と龍護は2人で出掛けていた。

とはいっても龍護は友姫の行きたい所に着いて行っている形だが・・・

 

「リューゴ!あのお店行ってみようよ!」

「わーったから落ち着けよ」

 

友姫は早足で嬉しそうにアパレル店に入る。

その後を龍護は歩いて追っていた。

中は華やかで入口の近くに女性ものの衣類。

奥に男性ものがあるようだ。

友姫が色々と回って服を選んでいる。

季節はこれから夏になる為、薄着が多い。

龍護が自分の服も見ておこうとした時だった。

友姫が龍護を呼んでいる。

その右腕には2着の服。

どうやら試着して感想を聞きたいようだ。

龍護が来た途端に、横にあった試着室に入る。

数分経って試着室のカーテンが開いた。

友姫が着たのは全体が白で胸元にピンクのリボンが着いたワンピース。

これで草原にいたら絵になりそうな程綺麗だ。

 

「どうかな?」

 

龍護は我に返って、いいんじゃないか?と素直に感想を言う。

だが友姫自身は納得してないようで、すぐに試着室のカーテンを閉めた。

そして再び別のを着てカーテンを開ける。

次に着てきたのは下はホットパンツ、上は白いTシャツとデニムジャケットといった少し露出が高い組み合わせ。

さすがにこれは龍護は目を逸らしてしまう。

というのも友姫はスタイルが良く、出るとこは出てるからだ。

その上露出が高い服を着てるからより一層その部分が強調されてしまう。

 

「リューゴ?どうしたの?」

 

キョトンとして龍護の様子を伺っている。

 

「いや・・・その・・・他の方がいいかな~?なんて・・・」

 

?と疑問符を浮かべる友姫。

だが何かを察してニヤニヤし出した。

 

「これにする」

「え!?」

 

そう言った途端に友姫は靴を履いてレジに向かう。

そのまま着るつもりだ。

龍護が止めようとしたが既に遅かった。

結局露出の高い服を買って着た友姫は着ていた服を袋に入れてもらい、龍護と外に出た。

完全にやられた・・・と龍護はため息を付く。

 

「あのワンピースの方がよかったんじゃ・・・」

「リューゴのリアクションが面白かったからいいの!」

 

勘弁して下さい・・・と言うも既に諦めていた。

ふと横にいる友姫を見る。

友姫は龍護より身長が低いから龍護からの位置だと色々と見えてしまうのだ。

友姫が龍護の視線に気付く。

 

「やっぱりこれにして正解!」

「お前な・・・」

 

龍護は友姫の服装を気にしつつも2人で歩き出した。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

少しして正午となる。

小腹が空いたのでどこかで昼食を摂ることにした。

近くにはファーストフード店やチェーン店が並んでいる。

龍護と友姫は学生の為、安いファーストフード店に入った。

先にカウンター席を取って友姫はお花摘みにと席を立つ。

 

「「ハァ・・・」」

 

横にいた人とため息が重なる。

その人を見るとどこかで見覚えのある顔だった。

というのも以前龍護とぶつかった女性だ。

 

「あの時の・・・」

「そういえば・・・」

 

2人揃って頭を下げる。

 

「その時は本当にすみません」

「あぁ、いえ。急いでいたのなら仕方ないですよ・・・そういえば以前もスーツでしたよね」

「まぁ・・・その・・・就職活動中でして・・・」

「もう内定は貰ったんですか?」

「その・・・今、10件目の面接が終わりまして全て他社にてのご活躍を期待されました・・・」

 

龍護が、あ・・・地雷踏んだ・・・と悟った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

以前ぶつかった詫びとしてここは私が払いますと女性がお札を出す。

そこに友姫が帰って来てどうしたのか?と問いだす。

龍護はこの人は以前ぶつかった人だと説明するとそうなんだ~?と緩く納得していた。

カウンターはどうなのか?と言って女性はテーブル席に2人を案内して女性は注文をしに行く。

どうやら作るので待っててほしいらしく、番号札を持って戻ってきた。

 

「では改めて、私は八坂雪菜といいます」

「御親切にありがとうございます。俺は奪木龍護です」

「私は友姫・S・ラジネスだよ」

 

雪菜と名乗った女性は友姫に対して日本語が上手な事に驚いていた。

そして国籍が日本である事、ラジネスカンパニーの娘である事を話すと更に驚いていた。

そこに注文した品物がトレーに乗って店員が持ってくる。

3人揃って食べだした。

 

「そういえば八坂さんって何関係の就職をしようとしてるんですか?」

「言ってしまうと護衛、若しくは使用人関連ですね」

「それで今行き詰まってると・・・」

「・・・ハイ・・・」

 

龍護の言葉に八坂はズーン・・・と落ち込んでしまう。

 

「なら私のお父さんに相談してみます?」

「え!?」

「は!?」

 

友姫の急な発言に龍護と八坂は素っ頓狂な声を上げた。

 

「待て友姫!?いいのかよそんな重要な事勝手に決めて!?」

「そ、そうですよ!?私的には美味しい話ですけど!」

 

だが友姫が自分のスマホを開き、ラジネスカンパニーのホームページの求人ページを開く。

そこには本当に使用人の求人があり、体術が出来る人を探しているようだ。

どうします?と友姫が聞くと、八坂からは是非!と帰ってきた。

今日はここでお別れ、面接の件は友姫が父親に知らせておくとの事。

雑談もここまでとなり友姫が雪菜の携帯番号とメールアドレスが書かれた紙を貰ってそれぞれの帰路に着いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「ただいま~!」

「ただいま帰りました」

 

おかえりの返事が無く、シーンとしている。

だが奥の部屋の襖が開いて友姫の母親の沙弥が出てくる。

お父さんは?と友姫が聞くとアメリカの方で会議があってさっき出ていったとの事。

完全に行き違った。

沙弥に面接をしてほしいと友姫が言って携帯番号とメールアドレスが書かれた紙を渡す。

沙弥は了承して早速、八坂雪菜へ面接の日程をメールで送信する。

雪菜も了解したようですぐに返信は帰ってきた。

当日は沙弥と日本支部の人事課の人、計2人が面接官として雪菜を面接する事になった。

スヴェンはそちらに関しては任せるとの事。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

当日。

八坂雪菜は1時間前からラジネス家の前に来ていた。

雪菜が着いた事をメールで報告すると数分後に玄関の門が開き、沙弥が現れる。

すると雪菜は驚いた表情をしていた。

そして同時に沙弥も驚いている。

 

「あら!?まさか雪菜!?」

「え!?先輩ですか!?スヴェン・S・ラジネス社長の妻って・・・えーっと・・・」

「・・・そういえば貴女って人の名前覚えるの苦手だったわね・・・東堂沙弥・・・まぁ今は沙弥・S・ラジネスだけどね」

「先輩・・・どうやってラジネスカンパニーの社長と知り合ったんですか・・・え?って事はあの友姫さんって・・・」

「私の娘・・・可愛いかったでしょ?」

 

どうやら八坂雪菜と沙弥は先輩と後輩の関係だったようだ。

意気投合している所に友姫と龍護がやって来る。

 

「あ、雪菜さんだ」

「あ!友姫さん!驚きましたよ・・・まさか先輩の娘さんだったなんて・・・」

「あれ?雪菜さん、沙弥さんと知り合いなんですか?」

 

龍護の質問に雪菜は中学と高校が同じで部活も同じだったことを説明する。

その説明に龍護と友姫も納得していた。

 

「あ~そしたらスヴェンに知り合いだった事言って形だけでも面接しておく?多分あの人ならOKしてくれるわよ?」

「え?今日って社長いないんですか?」

 

スヴェンが不在だった事に少しだけ残念な感じがしているようだ。

特に気にするべきでも無いなと龍護は思っていた。

理由としては自分の左手の甲に紋章が浮かばなかったからだ。

もしもここで浮かんでいたら龍護は警戒していただろう。

ここで話もなんだし、一旦中に入りましょう?と沙弥が提案して4人は中に入っていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

今、雪菜は面接を受けている。

だが面接という難い雰囲気は無く、雪菜、人事課、沙弥の3人は和気藹々と話していた。

恐らくこの状況で雑談をしていると言われたら納得してしまいそうな程だ。

そこに龍護がお茶を3人分持って来てそれぞれの前に置く。

一礼してその部屋を出ると、先に盆を台所に戻してから友姫のいる部屋に入る。

 

「雪菜さん。どうだった?」

「あれは採用されるだろうな。和気藹々と話してる」

「本当!?私この家には歳が近い同性がいなかったから話し相手になってくれるかな?」

「う~ん・・・どうだろう?向こうは仕事でこの家の使用人になるし、もしかしたら勉強教えてくれるかもな?・・・勉強も俺より厳しいかもしれねぇぞ?」

 

冗談混じりに言ったが、うえぇ~・・・とあからさまに嫌な顔をする友姫。

少しして向こうで襖の開く音がした。

様子を見てみると3人が談笑して廊下に出てきていた。

 

「雪菜さん。お疲れ様です・・・どうでした?」

「あ!龍護さんと友姫さん!お陰様で採用されましたよ!」

 

ギュッ!と可愛く両手を目の前で握り締める。

採用され、安堵しているようだ。

人事課の人に初出勤の日は追って連絡すると言われた後、雪菜は社長とはいつ面識出来るのかを聞くも会議次第だから分からないとの解答だった。

そうですか・・・と残念な表情を浮かべる雪菜だったが帰ってきましたら挨拶をしに参りますと言って帰っていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

夜になり沙弥はファッション雑誌を、友姫はゲームを、龍護は本を読んで団欒していた。

ふと龍護はある事が頭に浮かんで居間にいた沙弥の元に訪れる。

龍護が気になっていたのは雪菜とどうやって出会ったのか。

個人的な疑問だ。

龍護に気付いた沙弥は向かいに座らせてその詳しい経緯を話した。

どうやら中学の頃の茶道部で一緒になり、そこで意気投合して仲良くなったようだ。

 

「因みにその中学ってどこなんです?」

「確か・・・伊勢中だったけど・・・」

 

伊勢中とは隣町の中学でサッカー部と卓球部が全国大会に行ける程の実力を持つ中学で、沙弥はその中学の茶道部にいた。

高校は公立の伊勢高校らしい。

電話が掛かってきて沙弥が今日はここまでねと立ち上がって電話の所へ行ってしまった。

龍護自身も聞くことは無いな・・・と思ったのか借りている自室に帰った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

自室に戻った龍護はスマホで小説を読み始める。

だが更新が無かったようですぐにスリープ状態にした。

その時だった。

突然部屋がグラグラと揺れ始める。

地震だ。

震度は3辺り。

すると龍護の頭に衝撃が走る。

この部屋に来た際、棚の上にそのままにしていた本が落ちてきて龍護の頭に直撃したのだ。

 

「~~~~っ・・・」

 

かなりの痛みに悶絶する。

地震はとっくに収まっていた。

 

「何が落ちてきたんだよ・・・」

 

ふと視線を前にずらすとそれは伊勢高校の卒業アルバムだった。

気になってしまった龍護は沙弥に内緒でそのアルバムを開く。

3-2に沙弥はいたようだ。

部活も見てみようと考え、ページを捲っていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「・・・いない・・・?」

 

龍護の中に違和感が生まれる。

いくら読み返しても八坂雪菜の名前は勿論、その姿も写真に収められていなかった。

だがその時、龍護のスマホに着信が入る。

スヴェンだ。

 

「はい」

『あ!龍護君!ちょっといい情報を手に入れてね!』

「?情報?」

『そう・・・七天龍の能力一覧さ』

「っ!!!!」

 

七天龍の能力一覧と聞いて雪菜の事は既に頭から離れていき、目の色が変わる。

どうやらスヴェンはメールにてその能力を自宅にあるスヴェンのパソコンに送るとのこと。

龍護は了承していつ頃送れるかを聞くとまだ話し合いが長引いてて分からないとの事。

分かりましたと返して電話を切った。

そしてよしっ!と心の中でガッツポーズをする。

漸く対策が出来るのだ。

これ以上に嬉しいことは無いだろう。

龍護は機嫌を良くして明日に備え、寝ることにした。

雪菜が沙弥の卒業アルバムにいなかった事すらも忘れて────

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

翌日。

クラスの男子達はソワソワとしていた。

それもそのはず。

高校3年生のとある授業が待ちきれないのだ。

その名も【合同授業】。

別名【出会いの授業】。

喜龍学園は魔法等のエリートを集めた学園だ。

だがそれでも得意、不得意が現れてしまう。

そこで考えられたのが高校1年生と高校3年生の合同授業だ。

理由としてはこの合同授業はまだ魔法を制御し切れていない高校1学生に高校3年生が教育実習も兼ねて行う為だ。

1年生は魔法の制御の勉強が出来て、そして3年生は教え、方法を学びながら自分自身も復習できる。

そして何よりこの授業は男女合同となっている。

つまりは非モテの男子達はこの機を狙って彼女を作ろうとしているのだ。

・・・可能性はほぼZEROに等しいが・・・

それでも!と男子達は自棄になっていた。

当然野武もその1人だ。

因みに龍護が1年の時は尾野真波という高3の女子と組んでいたが龍護は魔法の才能を存分に発揮して真波は教える事が無く、ほぼ見ているだけとなっていた・・・

・・・その時に魔法科の佐野裕樹に完全に目をつけられたのはまた別のお話。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

授業当日。

総勢500人程が魔法練習場に集まっていた。

教師が壇上に上がってマイクを取る。

 

『えー今年も合同授業が始まります。1年生の皆さんは3年生の言う事をしっかり聞いて魔法を学んで下さい。3年生の皆さんは今までの学んだ事をよく思い出して1年生の皆さんを手伝ってあげて下さい』

 

長い話を終えてクラス分けが始まった。

龍護達は3年A組の為、担当する1年の組は1年A組という分け方だ。

そして男女の組み合わせもクジで同じ数字同士の者になる。

ここで同性同士にもなるし、異性同士にもなる訳だ。

龍護の元にクジが回ってきて1枚引いた。

その場で開くと数字は21となっていた。

3年生の人達がクジを引き終わる。

次に1年生達がクジを引く番だ。

全員がクジを引き終わってそれぞれ数字同士の者を探す。

今回は3分の1が異性同士と組んだようだ。

残りの3分の2になった男子達はorzの姿勢となっていた。

そして龍護の元にも同じ数字の高校生がやってくる。

女子だ。

だが龍護はその者に見覚えがあった。

新学期にぶつかった女子だ。

 

(あの子か・・・)

 

女子高生が近付いてくる。

 

「えっと・・・ネスト・ジェーラスです・・・その・・・お願いします・・・」

「おう、俺は奪木龍護だ・・・ってお前も留学生だったのか・・・ん?」

 

だがその時だった。

龍護がふとの左手の甲を見ると白い龍の紋章が現れる。

 

つまり龍護と組んだ女子高生、ネスト・ジェーラスは龍の所持者ということになる。

龍護の様子を見て、ジェーラスは頭に疑問符を浮かべる。

 

その様子を校外から伺う男が1人。

 

「ターゲットが1人の男子高校生と接触しました・・・なのですが・・・」

『────?』

「いえ、その男子生徒が驚いた様子をしているのですが・・・」

『────、────』

「了解です」

 

男は通信を切って再び龍護とネスト・ジェーラスを観察する。

もちろん観察されるのを知らない龍護とジェーラスは魔法の授業に取り組んでいた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「んじゃ始めっけど出来る属性は何?」

「えっと・・・無と闇と・・・土です」

 

さっきからジェーラスは龍護と視線を合わせようとしていない。

それに関しては、何か理由があるのだろう。と龍護は追求しなかった。

早速闇属性の魔法の練習が始まった。

ここで誰もが疑問に思う事があると思う。

 

なぜ、属性が同じ同士で組まないのか────

 

これには理由がある。

それはお互いに無い属性を持つ生徒がどうすればいいかを無い者同士で考える事で他の属性の理解を深める事もこの授業にはあった。

恐らくこの先、属性が違う者達が集う機会も増えるだろう。

その為の予行練習でもあるのだ。

自分に無い属性同士が自分達の頭だけで解決へと向かい、価値観の違いを受け入れながら共に解決の道へと歩いていく。

これこそがこの合同授業の肝なのである。

・・・まぁ、大半が邪な理由で参加してるのが多いが・・・

というわけで今年も喜龍学園では合同授業が開催された。




七天龍の遊戯参加者

怠惰の龍
友姫・S・ラジネス

強欲の龍
奪木龍護

憤怒の龍
ルシス・イーラ(死亡)

??の龍
ネスト・ジェーラス

宜しければお気に入り登録お願いします。
感想等もお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ネスト・ジェーラス

伏線とか色々と疲れます…


「じゃ早速始めようぜ」

「・・・はい」

 

龍護はまず土の壁を作ってくれと言う。

ジェーラスは頷いて両腕を伸ばし、両手を前にして広げ、目の前に高さ1m程の土壁を作った。

だが少しずつヒビ割れを始めて遂に砕けてしまう。

 

「・・・」

「・・・・・・ごめんなさい」

 

その表情はかなりの苦痛に満ち、手もギュッ・・・と握り締めていた。

ふむ・・・と龍護が考え始める。

 

 

最初は良かったのになぜ、崩れてしまったのか────

 

 

最初の出たしはかなり良い、だが実際に崩れてしまった。

崩れるということは内部がしっかり出来ていないということだ。

ならば・・・と龍護の頭の中で提案が浮かぶ。

 

「ジェーラス・・・でいいか?」

「・・・どちらでも」

(・・・ちょっと気難しいタイプかな?)

 

まぁ、それでもいいか・・・と割り切った。

 

「ちょっとさ、俺が言った方法で試してみて?」

「・・・はい」

 

龍護が言った方法とは

 

・まず、余裕で出来る程度でいいから空洞の土の壁を作る。

 

・次に中の空洞を土で一杯にするイメージをしながら魔力を込める。

 

この2つだ。

 

なにか変わるのだろうか?と疑問に思うジェーラスだったが試しにやってみると次の土壁は最初より20cm低い壁だったが、崩れずに立っていた。

 

「嘘・・・!?どうして・・・!?」

「・・・お前、魔法適正は?」

「・・・Cです」

 

だろうな・・・と龍護は知っていたかのように告げる。

 

「言っちまうとお前は最初に詰め込みすぎなんだよ。小せぇ穴に中身がパンパンに詰まったデケェ棒をを無理矢理入れようとしても入らねぇだろ?それと同じ事をしてたんだよ」

「・・・どういう意味ですか?」

「俺から言わせるとさ、正直言うと魔法適正ってのは電気でいう抵抗みてぇなモンだと思うんだ」

 

龍護が言う通り、魔法適正で魔法の威力が落ちるのは魔力の通しやすさを表している。

適正が低い程、魔法を使う時の流れは鈍くなり、適正が高ければ魔法は使いやすくなる訳だ。

龍護はジェーラスにやらせた方法は穴の空いたコインとパイプに例えると────

 

・まず、コインの穴に入るパイプを通す。

このコインの穴は魔法でいうと魔力を放出する制限を表している。

 

・次にそのパイプに水を流し、放出する。

そこにリミッターギリギリに魔力を流してやればパイプは壊れずに水は綺麗に出来るという訳だ。

 

だがジェーラスが最初にやった方法は

 

・水がダダ漏れのサイズが合わないパイプをそのままコインの穴に通すという方法。

 

これだと魔力を無駄に消費する他、下手をすれば魔法が暴発しかねない。

つまり、龍護はこの短時間でジェーラスにリミッターの付け方を身に付けさせたのだ。

 

「どうだ?」

「・・・」

 

ジェーラスはポカーンとしている。

 

キーンコーンカーンコーン

 

午前の授業が終わり、昼休みとなる。

 

「そうだ、昼食一緒にどうだ?」

「・・・はい!」

 

心做しかジェーラスの声は喜んでいるように聞こえた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

食堂では既にいつものメンバーに付け加え、それぞれの担当する中学生が隣同士で座っていた。

 

「お前ら早いな」

「アンタが遅いんでしょ?あれ?その後の子ってアンタの教えてる子?」

「まぁな。・・・猫被んなよ?」

「今すぐ強化魔法使ってぶん殴ってあげましょうか?」

 

ピキピキと白は額に青筋を立てる。

相変わらずの白と龍護のやり取り。

だが軽口を叩けるという事はお互いに実力を認めた上だからこそなのかもしれない。

 

「私は北野白。こっちにいるのは双子で妹の雫。こっちにいる金髪の子は友姫・S・ラジネス。こっちの男子はオタクのモブよ」

「何で俺だけオタクにモブっていう酷い紹介なんだよ!?普通に野武でいいだろ!?・・・っと本名は安達野武な!・・・んで君の名前は?」

「・・・ネスト・・・ネスト・ジェーラス」

「そっか。ネスト・ジェーラスか。・・・・・・ん?ジェーラス・・・?ってぇと・・・え!?まさかあのジェーラス家!?」

 

ジェーラスが自分の名前を言った途端にその場にいた龍護以外が驚いていた。

 

「・・・どうしたお前ら?」

「馬鹿!アンタこそなんでそんな風に出来るのよ!?ジェーラス家よ!?あの名家中の名家のジェーラス家よ!?」

 

白が興奮気味に言うが龍護はピンと来てないようだ。

雫がスマホを出して龍護を呼ぶ。

 

「どした?」

 

雫が龍護に画面を見せる。

その画面にはジェーラス家の事が詳しく書かれていた。

さすがにこれは龍護も驚く。

 

「俺・・・代わってもらお」

「ハァ!?アンタ本気!?名家の子の面倒を見れるのよ!?」

「いや・・・だって・・・ハードル高ぇもん」

 

龍護がそう言いながら空腹を感じて食券を買いに行こうとした時だった。

不意に誰かに制服を掴まれる。

掴んだ者はジェーラスだった。

 

「えっと・・・ジェーラスさん?」

「あ・・・いえ・・・すみません・・・私・・・そのジェーラス家の人では無いんです」

 

ジェーラスは名残惜しそうにしながらもその手を離し、そう告げた。

その言葉に白達はキョトンとしていた。

 

「・・・あ、そっか。ジェーラス家の所って地元に名門校あったわね」

「あ~マジビビった・・・でも本当に名家のジェーラス家なら今年の学園マジで凄かったな~・・・何せ、ジェーラス家の全員が魔法適正がA超えだしな。そんな人が来ちまったら学園のパワーレベルおかしくなるぜ?」

 

野武と白の言葉に一瞬ピクリと反応したジェーラス。

だが気にしてないフリをして龍護と一緒に食券を買いに行った。

だが龍護は買いに行く途中、ジェーラスが言った事が嘘だと、その表情から気付く。

そして同時に1つ疑問に思った事がある。

 

なぜ、地元の高校に行かなかったのか─────

 

ブラジルにも名門学校は存在する。

なのにそこに行かなかった。

いや、言葉を変えるなら

 

行かせてもらえなかった。

 

この可能性が高いと龍護は見た。

食券を買って品物と交換する。

ジェーラスも食券を買って品物を貰い、先程の所へ戻り食べ始める。

昼休みが終わり、生徒達は午後の授業に戻っていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

借りている寮に戻ったジェーラスは鞄を放り投げて布団に身を投げる。

今日の合同授業の事を思い出していた。

 

「龍護先輩・・・」

 

自分を見捨てずに能力を高めてくれた存在。

学園内ではSランクとして有名な人だ。

そして闇属性と光属性の魔法の持ち主でもある。

もしも龍護がジェーラス家に生まれてたら蝶よ花よと崇められ、大事に育てられていただろう。

 

ジェーラス家。

この世界における名家の1つだ。

この家の特徴としては今迄の家系の魔法適正がA超えである事と闇属性の魔法が使えるのが特徴だ。

使える魔法の属性は遺伝ではないがこの家だけは全員が闇属性を持ち、魔法適正がA超えだった。

 

ただ1人の女の子、ネスト・ジェーラスを除いて─────

 

ネスト・ジェーラスは魔法適正がCで生まれてきた。

最初、ネストの父親は母親の不倫を疑った。

だがDNA検査においてネストは父親と母親である事が確かとなった。

その時の両親、兄弟、親戚から受けた失望の目はネストの心に深く突き刺さった。

父親はどんな理由かは分からないがネストに日本語を覚えさせた。

中学校の後半、高校を決める進路で父親はジェーラス家の恥として地元の名門校に入る事を許さず、日本にある国立喜龍学園に無理矢理入れさせた。

その時に知ってしまったのだ。

 

自分の父親は地元から引き離し、日本に行かせる為に日本語を覚えさせたのだと────

 

ここは地球と似通っているが魔法が使える異世界。

魔法のない地球・・・所謂パラレルワールドの為、法律であっても部分的に違ってくる。

本来の日本の法律であればネストの場合、留学は出来ない。

その違いによって今の悲劇は作られたのだ。

そして卒業して実家に戻るなら条件を揃える必要があった。

その条件は────

 

中学、高校の計6年間、クラスと学年の順位でトップを取ること。

 

もしも達成出来なかったらネストを勘当すると父親は本人の目の前で言い放った。

当然ネストは無理だと言った。

だが父親は耳を傾けてはくれなかった。

結局ネストは国立喜龍学園に入学。

ただ、学園は日本。

ジェーラス家はブラジル。

さすがに一人暮らしは辛いだろうと最低限の仕送りはするとの事。

そしてネストは国立喜龍学園に来たのだ。

だがネストは女子。

かなりの不安に駆られてしまう。

その上ジェーラス家となると地元であれば周りからは期待の目が向けられる。

ネストにとっては苦痛でしかなかった。

だが父親は日本の喜龍学園に入学させ今に至る。

 

ピリリリリ・・・ピリリリリ・・・

 

ネストの持つスマホに着信が入る。

父親だ。

立ち上がって電話を繋いだ。

 

「・・・はい」

『私だ。学園の方はどうだ?』

「なんとか・・・やれています・・・」

『まぁ、それくらい出来なきゃジェーラス家にとって恥だからな』

 

再びネストの心に見えない傷が刻まれる。

 

『中学生の時の全ての成績はトップ・・・今の所は約束は守られているようだな』

「・・・はい」

『まぁ気を抜か無いようにな。もしもトップから落ちたら勘当だからさぞかし大変だろう』

 

父親の心無い言葉に、ギリ・・・と奥歯が砕けそうになるほど力が入る。

 

「・・・気を付けます」

『分かればいい。また掛ける』

 

プッ・・・ツーツーツー・・・

 

電話が切れた途端にネストを脱力感が襲い、ダランと腕が重力に引っ張られる。

そして目から涙が溢れてきた。

それを枕で拭う為に再び布団に倒れ込む。

顔を枕に埋めて精一杯叫んで泣いた。

悔しくて涙が次々に溢れ出し、止めることすら出来ない。

 

「私だって・・・好きでCになった訳じゃないのに・・・!!!!」

 

ネストの心は既にズタズタだった。

無理も無いだろう。

父親・・・肉親や兄弟、親戚から冷たく突き放されているのだ。

 

『ネスト、お前は他の事をやっていろ』、『姉さん、魔法の練習したいからどっか行って』、『全く・・・これすら出来ないとはね・・・』、『落ちこぼれが僕に口出しするな!』

 

今まで言われてきた事がフラッシュバックして、更にネストの心にダメージを刻み込む。

今までは魔法は座学のみだった為、騙し騙しでやってこれた。

だが高校からは違う。

高校からは実技も入ってくる。

とすれば必然的に魔法を実際に扱う必要があるのだ。

ジェーラス家という理由もあって注目されるだろう。

それに自己紹介の時に、既に名家のジェーラス家ではないと、個人的に質問しに来た者達にはそう言って騙していた。

唯一の救いはジェーラスという苗字を持つ家が他の国にあること。

ブラジルにあるジェーラス家はネストが生まれたジェーラス家のみ。

そしてブラジルには名門校がある。

普通ならその地元の名門校に行くはずだから自分がその名家だとバレる心配はほぼ無い。

ただもしもがあったらジェーラス家としてネストは正真正銘の恥晒しになってしまう。

どうすればいいか・・・

ふと、頭にとある提案が浮かび上がる。

 

 

龍護先輩に実力を伸ばしてもらおう。

 

 

明日も合同授業はある。

その時に龍護に自分の魔法の実力を高めてもらおうと心に決め、夕食を終えてから眠りについた。




七天龍の龍所持者一覧

・怠惰の龍
友姫・S・ラジネス

・強欲の龍
奪木龍護

・憤怒の龍
ルシス・イーラ(死亡)

・嫉妬の龍
ネスト・ジェーラス

・??の龍
不明

宜しければお気に入り登録宜しくお願いします。
感想等もお待ちしております。
全体的に執筆を終えたら毎日投稿に変えますのでその時までは定期更新で行こうと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決意

12月に欲しいPS4のソフトが集中してる…


翌日。

ネストは朝早く学園に来て魔法練習場の使用許可申請を出していた。

学生証を専用の機械にスキャンさせて使用月日、使用時間を入力する。

【OK】のパネルをタッチすると下からレシート程の小さな紙が印刷された。

これで喜龍学園の魔法練習場が使えるのだ。

急いで魔法練習場へ向かう。

中はネスト以外誰もいなかった。

そしてネストは鞄を壁際に置き、その真ん中に立って両手を広げて伸ばす。

昨日、龍護から習った方法を復習しているのだ。

 

(空洞の土の壁を作って、そこに土を流し込む・・・)

 

すぅー・・・はぁー・・・と深呼吸して土の壁を作った。

集中を解いて壁に近付き、グッ・・・!と手のひらを押し込む。

崩れなかった。

自分1人で土の壁を作った時に比べて遥かに強度は高い。

龍護のアドバイス通りにやった結果だ。

 

キーンコーンカーンコーン

 

チャイムが鳴って急いで巨大な土の球体を壁の真上から落として崩し、鞄を持ち、教室へと急いだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

午後になり、合同授業が始まった。

ネストは急いで魔法練習場へと向かう。

扉を開けると既に何人かは魔法練習場にいた。

その中に龍護の姿が見える。

 

「奪木先輩!」

 

呼ばれて龍護は振り向いた。

 

「おうジェーラスか。早いな」

「はい。教えてもらった方法を早く他の属性でも使ってみたくて・・・」

 

ジェーラスの言葉に白が呆れていた。

ジェーラスにではない。

龍護にだ。

 

「アンタ、適正Sだし魔法教える技術があるのになんで普通科かなぁ・・・なんなら今からでも編入は────」

「悪いな。もう編入に関しては佐野先生とは話を付けて無しになったんだ」

 

勝ち誇ったような顔付きの龍護に対してつまらなそうにした白だった。

ぞろぞろと他の生徒達が入ってきて整列し始める。

生徒全員が整列し終わった時には教師が入ってきていた。

生徒全員、怪我の無いように。と注意の言葉を並べて合同授業が始まった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「それじゃあ今日は、まず昨日と同じように土の壁を作ってみて」

「はい!」

 

明らかに昨日とはジェーラスの声量や雰囲気が違う。

 

(授業に慣れたかな?)

 

まぁそれはいい事だ。と思ってジェーラスが土の壁を作る様子を見ていた。

ジェーラスが土の壁を作り終わり、龍護が強度を確認する。

手の平でグッ・・・!と押してもビクともしない。

やり方さえ変えれば魔法適正がCでもこれ程の強度を保てる事が証明されているのだ。

 

(次は複製だな・・・)

 

龍護が次にジェーラスへ教えようとしていたのは魔法の複製だ。

 

「なら次は土で槍を作ってくれ」

「はい」

 

ジェーラスは龍護に言われた通りに土の槍を作り出し、地面に置いた。

 

「じゃ、複製だ」

「え?複製?」

 

複製と聞いて頭に疑問符を浮かべるジェーラス。

複製とは、簡単に言えば同じ魔法を同時に何個も撃ち出す事だ。

それを龍護は自分で【複製】と命名していた。

 

「ま、簡単に言うと何個も槍を作って一斉に撃ち出せって事だ」

「でもどうやって・・・・・・あっ!」

 

龍護がそれを言う前にジェーラスは気付いた。

 

奪木先輩に教えてもらった方法を同時に何個も使えばいい

 

やってみます!とジェーラスは意気込んで集中する。

ジェーラスの周りに3本の土の槍が現れる。

だがすぐに崩れてしまった。

ジェーラスは再び槍を作るも失敗が続いてしまう。

 

「・・・」

 

龍護はジェーラスを後ろから真剣な目で見ていた。

考えていた事は3つ。

 

1つ目は、なぜジェーラスが土の槍を複数作れないのか。

まぁ、これに関しては龍護の中で結論は出ていた。

 

2つ目は、もしもジェーラスが名家の出身なのが本当だったとして、なぜ日本に送られたのか。

 

3つ目は、なぜ自分の龍の紋章は反応したのにジェーラスに紋章は浮かび上がらなかったのか。

 

だがこの3つ目はすぐに答えは出た。

ジェーラスが髪の毛が鬱陶しくなったのか制服のポケットからヘアゴムを取り出して1つに纏める。

その時だ。

ジェーラスのうなじに紫色の龍の紋章が浮かび上がった。

 

(そこかよ・・・)

 

ハァ・・・と溜息が出た。

友姫といいジェーラスといい、厭らしい所に紋章はあった。

あの変な老人の趣味ならドン引きだな・・・と俯きながら心の中で毒づく。

ふと顔を上げてジェーラスを見ると今にも泣きそうな目で龍護を見ていた。

 

「ど・・・どうした!?」

「先輩・・・すみません・・・あのっ・・・・・・全然出来なくて・・・」

 

龍護は一旦落ち着かせる。

漸くジェーラスが落ち着いて本題に入った。

 

「一応理由は分かってんだ」

「あの・・・教えて・・・くれますよね・・・」

 

まぁな。と龍護は軽く返す。

 

「多分だけどさ、ジェーラスは俺が教えた通りにやったんだろ?」

「はい」

「少しだけやり方を変えてほしいんだ」

 

龍護は、次は最初に作った槍を小さくして複数作ってみて。とジェーラスに指示を出す。

分かりました。とジェーラスもやってみるようだ。

その間に友姫達を見てみる。

友姫と白は直感で、雫は紙とペンで理屈っぽく、野武はだらけた教師のように指導していた。

 

(なんというか・・・心配しかねぇな・・・)

 

雫はともかく友姫や白の直感的指導には心配な面が多い。

そもそもなんで生徒同士で魔法の授業をしてるのか?と疑問に思う龍護。

教師はどこか見てみると5人の教師がそれぞれ見て回っているようだ。

そして行き詰まった生徒を指導する。というような感じだ。

 

「どうしました?」

 

突然声を掛けられて振り向く。

 

(げ・・・)

 

佐野先生だ。

そして本人に至ってはキョトンとしている。

 

「奪木君?どうしました?」

「あぁ、いえ・・・そういえば聞きたかったんですけど、この授業って教える側と教わる側が見たら偏りありません?」

「実を言うとそうでも無いんですよ」

「え?」

 

佐野が指を差す方向を見てみる。

そこには4人で何か話し合っている男女の生徒がいた。

 

「ああやって、お互いの不得意分野や苦手な事に足を踏み入れる事で、知る事が出来なかった事や、意外な発見、自分の魔法への転用性を得る場合もあるのです」

 

なるほどな・・・と若干は納得出来た。

 

「貴方とラジネスさんには期待してますよ」

「・・・程々でお願いします」

 

それではこれで・・・と佐野先生は他の生徒の様子を見に行った。

 

「出来ました!」

 

ジェーラスが完成した事を龍護に伝える。

良く見ると一回り小さな槍が3本、ジェーラスの周りで浮いていた。

 

「ですけど、なんでさっきは出来なかったんですか?」

「う~ん・・・説明するとだな・・・最初の大きい槍に使った魔力の合計を9として今、ジェーラスの周りを漂ってるのはそれぞれ3なんだよ」

 

龍護の言われた事にハッ!とするジェーラス。

仮に最初に作った大きい槍の使用魔力量を9としよう。

そして以前龍護が教えた魔法の方法のまま3本全てをやってしまうと──────

 

9+9+9=27

 

となり、使う魔力の合計は27と3倍なってしまう。

もしも魔法適正のCの上限が9だとしたら魔力は完全に振り切っている。

そこで教えたのが魔力の分散による複数出現。

合計で9にすればいいので今回はそれぞれを3分の1にしただけなのだ。

 

「まぁ、簡単に言ったらこうだな」

 

後は個人の総魔力の差だ。と苦笑気味に言った。

だがジェーラスにとっては先程の説明でかなり分かりやすかったようで龍護を尊敬の眼差しで見ていた。

 

「凄いです!先輩!」

 

ジェーラスがキラキラした目で龍護を見ている。

 

「魔力を分散、そして複数の魔法を実行する方法を数学的に捉えるなんて・・・先輩は天才ですよ!」

「えっ・・・いや・・・」

 

・・・正確には前世でのファンタジー小説の内容が今回の問題解決のヒントになったのだが、これを言ったら変な目で見られるのは確実なので龍護は黙っておくことにした。

龍護はその後、個人的に疑問に思っていた事をジェーラスに聞くことにした。

 

「・・・なぁ、ジェーラス」

「ネストでいいですよ」

「それじゃあネスト」

「はい」

「お前・・・・・・名家の出身だろ」

 

龍護のその一言にネストはビクッと反応する。

 

「無言は肯定を意味するぞ?」

「・・・」

 

答えられなかった・・・いや、答えたくなかったの方が正しいのだろう・・・

 

「先輩・・・この後空いてますか?」

「・・・まぁ、一応」

 

ネストは放課後に校舎の裏側に来て下さいと龍護に頼む。

そこでチャイムがなり、午後の授業は終わって解散となった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

帰り支度を終えた龍護は指定された所に行こうとしていた。

 

「あれ?リューゴどこ行くの?」

「ちょっと後輩に呼び出された」

「すぐに終わる?」

 

恐らくな・・・と言おうとした所でピタッと止まる。

ネストの項に紋章があったのを思い出したからだ。

何か情報を聞き出せるか・・・?と考える。

 

「いや・・・先に帰ってろ」

 

は~い。と友姫は軽く返事をして鞄を持って出ていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

すでにネストは来ていた。

龍護を見つけて一礼する。

 

「早かったですね」

「ま、帰り支度だけだったしな」

 

この言葉を境に沈黙してしまう。

 

「授業で言われたように・・・私はブラジルのジェーラス家の中子です・・・」

「そしたらクラスメイトにバレるだろ」

「いえ、担任にはそちらの出身である事は伏せておいて下さいと頼んでおいたので大丈夫です」

 

そっか・・・と龍護は校舎に寄りかかる。

 

「・・・なんで日本に来た?」

「・・・」

 

ネストの顔は泣きそうで・・・そして、悔しそうだった。

 

「ジェーラス家の事は知ってますよね?」

「確か・・・魔法適正が今までAから下は・・・あっ・・・」

 

龍護はネストと会った最初の時間を思い出す。

 

『お前、魔法適正は?』

『・・・Cです』

 

Cと言っていた。

つまり

 

「お前・・・厄介者扱いされたのか・・・」

「・・・っ」

 

龍護の何気無い一言はネストの心に刺さり、ネストは手をギュッ・・・と握り締めた。

その様子を見て咄嗟に謝罪する龍護。

 

「先輩は・・・どう思いますか?やっぱり私ってむの」

「別に魔法適正なんかどうでもいいだろ」

「・・・え?」

 

龍護は面倒臭そうにハァ・・・と溜息を付く。

 

「『魔法適正がA越えです』だったらなんだよ?それで魔法が上手く使いこなせないんなら意味が無ェ。適正ってのは目安だろ?ならその適正内で出来る事を見付けてやりゃあいいんじゃねぇの?その証拠にお前はもう複数の魔法を発動出来てんじゃねぇか。A越えで複数出せるヤツなんかあんまりいねぇぞ?」

「けど・・・」

「つまり、お前んとこの親父は”魔法適正がA越えなら魔法は使いこなせなくても問題ない”って言ってんのか?」

 

龍護の言った事にネストはハッとした。

確かにネストの父親は魔法適正と属性ばかりに拘り、その中身を見ていない。

結局の所、

 

・先祖代々、魔法適正がA越えである。

 

・闇属性が使える。

 

この2点が重要なだけであり、魔法自体が云々では無く、その表面しか見ていないのだ。

そして龍護の言葉にネストの中で戸惑いが生じてしまった。

 

「先輩・・・私は・・・どうすれば・・・?」

「どうこうもなにも、やりたいようにやりゃあいいんじゃねぇの?どうにかしてお前のその魔法を見せ付けて、Aランク、Sランクを押し退けて勝ち残ればお前の家族だって認めざるを得ないだろ」

 

龍護の言葉に心を打たれる感じがした。

そうだ・・・自分の全力を持って本気で挑んで認めさせればいいのだ。

ネストの中で決心が強くなる。

 

「先輩」

「ん?」

「私を・・・もっと強くして下さい!」

 

ネストは凄い速さで頭を下げる。

恐らく、ネストの中ではかなりの決心なのだろう。

それを跳ね除ける程、龍護も外道では無い。

 

「明日からビシビシ行くぞ」

「はいっ!お願いします!龍護先輩!」

 

あぁ、それと・・・と龍護が話題を変える。

龍護の本命はこちらだ。

 

「【七天龍の遊戯】って、知ってるな?」

「・・・はい」

 

ネストは知っているものの、紋章を見た事は無いらしい。

それもその筈だ。

ネストの紋章はうなじにある。

物理的に見る事は不可能だ。

龍護は、ちょっと後ろ向いて髪を纏めて上げて?とネストに頼む。

本人が言われたままにするとそこには紛れもない龍の紋章。

その色は紫色だった。

 

(紫色っつーと・・・【嫉妬】か?)

 

龍護が本人に見せる為、スマホで写真を撮る。

もういいよ。とネストをこっちに向かせて写真を見せた。

 

「まさかそんな所に・・・」

「見付けたのは偶然だ。お前が複数の魔法を出現させてる時に見付け・・・なんだよ?」

 

龍護が魔法を使ってる後ろで見ていた事を告げた瞬間にネストの目がジト目になる。

 

「・・・先輩ってそういった趣味があるんですね・・・」

「待て待て待て!?どこをどう解釈してそうなった!?」

「いえ、魔法を見てくれてるのかな?と思ったら女性のそういった所を見て興奮して欲j」

「違うからな!?偶然だっつってんだろ!?」

 

龍護の必死な弁解にネストがクスッと笑う。

冗談ですよ。といたずらっ子のように笑っていた。

お前な・・・と龍護は頭を掻く。

 

「聞きたいのは奪取の時の呪文だ。お前は聞いてないのか?」

「え?聞いてますよ?確か・・・【我が元に集え】でした。というか参加者全員が聞いたと思うんですけど・・・」

 

なぜ俺には聞かされなかったのか・・・?疑問が浮かぶ龍護。

1つだけいい考えが浮かび、ネストにしていいか?と聞く。

ネストは構いませんよ?と了承して龍護は壁側にネストを立たせ、ある事を始めた。

 

「これ・・・意味あります?」

「さぁな・・・でもやらないより、やる方がいいだろ?」

 

それはそうですけど・・・と口篭るネスト。

そろそろ帰ろうぜと龍護が言って、お互いに帰路に着いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「ふぅっ!」

 

ネストがボフッ!と音を立てて布団へ横になった。

だがその顔には笑みが見えている。

 

「私・・・変われるかな?」

 

龍護に魔法を教わり、家族に認めてもらう。

目標は出来た。

後はそれに向かって浸走るのみ。

 

「明日から頑張ろっ!」

 

ネストは意気込んで夕食を食べ、来週の授業に備えるのだった。

だがネストは自分が魔法を習得する理由にもう1つの理由が増えたのに気付く事は無かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

『ネスト・ジェーラスが【嫉妬の龍】の所持者か・・・』

「えぇ、情報とかってあります?」

 

少しはね・・・とテレビ電話越しにスヴェンがノートパソコンを出してファイルを開く。

どうやら嫉妬の龍の能力は”対象を自らの中にある空間に閉じ込める”・・・いわば監禁の類のようだ。

嫉妬は相手に対する感情だが、独占する事も含まれるらしい。

対処法としては友姫の【怠惰の龍】の能力無効化が最適だろう。

 

『そういえばジェーラス家というと”あの”ジェーラス家かな?』

「そのようですよ」

 

あれ?そしたら地元に名門校があるだろう・・・?とスヴェンも龍護やその友人達が思った事をそのまま言っていた。

龍護はスヴェンにネストの事情を説明する。

それを聞いた途端になるほど・・・と納得せざるを得ない感じに見えた。

 

『私としてはなんとも言えないね・・・』

「まぁ、向こうの家庭事情に足を突っ込むのもどうかと思いますし・・・」

 

それもそうだね・・・とスヴェンと龍護は割り切る事にした。

 

「そういえば何時頃こっちに来られるんです?」

『会議が滞っててね・・・と言うよりまだ帰ってこられないかな・・・また別の会議が入ってしまってね・・・サニーの社長となんだよ』

「・・・合併する気です?」

 

どうだかね・・・とスヴェンも悩んでいるようだ。

その後、友姫と沙弥の様子や新しく雇い入れた八坂雪菜の様子はどうだい?と聞かれ、友姫は元気にしてますし、雪菜さんは今、両親に就職先が決まった事を伝えに帰ってる事を伝える。

まぁ、そっちはそっちで頼むよ。と言われ、分かりました。と返す。

それじゃあね。とスヴェンとの通信を切った。

 

「ふぅ・・・」

 

龍護が椅子の背もたれに体重を乗せるとギシ・・・と鳴った。

そして物思いに耽っている。

というのも何か胸騒ぎがしていたのだ。

喜龍学園は基本的に・・・というか今までも中学生の留学生を受け入れた事は一度も無い。

喜龍学園に留学生で入れるのは高校生のみで外国の中学生は地元で日本語を学びながら好成績を残し、喜龍学園にエントリーが普通であり、例外は存在しない。

そして校則が改定された可能性も低い。

そのような場合は全校集会が開かれ、資料集を配布される筈だ。

 

(なんか嫌な感じだな・・・)

 

友姫に呼ばれて思考を中断し、龍護は友姫の元へと向かった。




ちょっと少しの間、小説投稿はせずに今までの各話の矛盾点や修正箇所を探します。
小説投稿はしようと思ってますが一旦矛盾点の摘発と修正を優先させて頂きますのでご了承下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

奪木龍護の黒歴史

主人公を弄るのが楽しい…


「友姫ー!早くしねぇと遅れるぞー!」

「その時はリムジンで・・・」

「却下だ!」

 

龍護は個人的にリムジンが苦手で最悪走って行くつもりだ。

奥から友姫が来たが、その手には水色の包みが握られている。

 

「何それ?」

「私が作ったんだけど・・・リューゴに食べて欲しくて・・・」

 

友姫は弁当を作っていたのだ。

はいっ!と笑顔でその水色の包みを渡す。

龍護は頬を軽く赤に染めながらもその包みを受け取った。

 

「・・・ほら行くぞ」

「うん!」

 

無論、2人揃って遅刻して、担任からお叱りを受けたのは言うまでもない・・・

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

昼休みになり、龍護達は食堂に向かう。

その途中だった。

 

「あ、龍護先輩」

「ん?お、ネストか。そっちも食堂で昼か?」

「まぁ、そんな所です・・・ご一緒しても?」

 

龍護達はOKして食堂へと歩いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

食堂に着いて適当に席を取る。

龍護が食券を買いに行ってない事に白が気付いた。

 

「あれ?龍護、早く券買わないと品切れになるよ?」

「心配ねぇよ。今日は友姫が作ったんだ」

 

誇らしげに龍護は友姫から受け取った弁当の包みをテーブルに置いた。

 

「先輩、お弁当なんですね」

「ん?まぁ今日はな」

 

ネストも弁当を袋の中から取り出す。

赤い弁当箱だ。

野武、雫、白が受け取りカウンターから品物を持って帰ってきたので揃って昼食を食べた。

 

「そういえばリューゴってさ・・・」

「ん?」

 

食べてる途中で友姫が龍護に話し掛ける。

 

「リューゴと白ってよく口喧嘩っぽいやりとりしてるけどどうして?」

 

その質問に龍護と白は顔を見合わせた。

 

「友姫ちゃんには言ってなかったわね。私と雫、ダッチーは小学校とクラスが6年間同じだったのよ」

 

白は既に昼食を食べ終えて小学校の話を始めた。

 

「最初はアンタも変に目立ってたわよね。テストでは毎回満点取るし、喧嘩売られたら軽く否して向こうが言い訳考えてダッチーを悪者にしようとしたらダッチーも事細かく遭ったことを話して結局向こうが謝るハメになったし・・・なんというか・・・小学生っぽくない小学生って感じだったわね」

「へー。リューゴって昔からこんな感じ?」

「だね。変に頭が回って理屈っぽくって・・・口喧嘩だったら当時は相手が勝てなくって泣いた時だってあるんだよ?」

「それは向こうが揚げ足取るからだろ・・・」

 

それにしたって口喧嘩で泣かせるってありえないっしょ!と白は笑っていた。

龍護としては前世とこの世界の年齢を足したら軽く30歳は超える。

その時点で口喧嘩でも相手の言ってる事が矛盾してるのはすぐに理解出来た。

 

例えばこんな口喧嘩があった。

 

『何時何分何秒地球が何回回った時に言った?』と聞かれた時は『質問を質問で返すけど公転?自転?それと地球が出来た時から数える?それとも人類が誕生した時から?』と質問攻めで言い返し、『じゃあ出来なかったらお前の恥ずかしい事言い触らしてやる』

『んじゃ成功したらお前が俺の邪魔した事、フルネーム+写真付きでネットにバラ撒いとくよ』

 

等、小学生に対して行動が必要なら有言実行し、口喧嘩なら一方的のような言葉で尽くを論破し続けていた。

・・・精神年齢からすると大人気ないが・・・

そしてそんな事があってか、当時の龍護の渾名は【屁理屈野郎】となっていた。

それが悔し紛れのせめてもの仕返しによるものだったということは龍護は分かっていながらもシカトしていた。

 

「あの時はどれだけの同級生を泣かせた事か・・・」

「向こうは精神的に幼いんだよ。言う事や図体ばっかデカくて、やるとなったらビクついて・・・結局は目立ちたいだけだったんだろうよ」

「本当容赦無いわね・・・」

「暴力振らないだけ良かったろ」

「・・・そういえばあれ覚えてる?」

「あ?アレってなんだよ?」

「ほら、小学3年生の時の」

 

んー?と龍護は顎に手を付けて記憶を遡る。

そして、あっ!と思い出した後で、それは言うな!?と龍護も焦っていた。

 

「あの・・・アレってなんですか?」

「ほらー?ネストちゃんは知りたいみたいよ?」

「テメェ・・・」

 

龍護の状態を無視して白が話し出す。

 

「原因は・・・簡単に言えば嫌がらせね。私と雫とこいつでコンビニに行ったのよ。その時に私は龍と話してたんだけど6年生とぶつかったの。その時にお店の商品を入れられたのよね」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

今から8年前。

龍護達がコンビニに行った時にそれは起こった。

 

「何買うー?」

「俺はいつもの10円ガムでいいや」

「えーダッチーいつもそれじゃん。たまには他のお菓子も食べてみよーよ。じゃが〇ことか」

「いや、10円ガム結構気に入ってんだぞ?苺味で真ん中割れてるから兄弟いる奴なら分けられるし」

「はいはーい。つべこべ言わずに今日は別のね」

「人の意見無視っすか・・・」

 

龍護は呆れながらも他のお菓子と10円ガムを買おうとしていた。

その時だった。

 

ドン。

 

龍護は6年生とぶつかってしまったのだ。

 

「あ、すみません」

「いいよ。気を付けてね」

 

普通ならここでよく上級生はイチャモンを付ける筈だが、虫の居所が良かったのかすぐに立ち去った。

 

ドテッ!

 

後ろでも音がして振り向くと白が太った6年生にぶつかってしまい、転んでいた。

 

「あ~ごめんね。大丈夫?」

「は・・・はい」

 

白はすぐに立ち上がって6年生はどこかに行ってしまった。

 

「・・・大丈夫か?」

「うん大丈夫。さてと買いに行きますか!」

「おー・・・って待て、雫は?」

「雫はずっと本読んでるよ」

 

なら大丈夫か。と龍護と白は会計を済ませる。

そしてドアの近くまで行って雫を呼ぼうとした時だった。

 

「ドロボーーーーー!!!!!!!!!!!!」

 

先程の6年生が叫んでいた。

急な事に白は驚いて腰を抜かしてしまう。

だが龍護は”?”と疑問符を浮かべていた。

 

(・・・あの時か・・・)

 

龍護は先程の行動を思い出していた。

彼等は龍護と白を万引き犯にする為にぶつかってきて、どこかに店の商品を入れたのだ。

犯人として執務室に連れて来られた龍護と白。

そして証人として先程の6年生2人も同行した。

 

「君達かい?万引きをしようとしたのは」

「違います!私達は6年生の人達に嵌められたんです!」

「はぁ?何言ってんだ?俺達は見たんだぞ!お前とこいつが商品をバッグに入れてる所を!」

「違うって言ってるでしょ!あなた達が入れたんじゃない!」

 

脅す為か、1人の男子が龍護の襟を掴み掛る。

 

「おい、さっさと認めろよ犯罪者」

 

脅してる事にすぐに龍護は気付いた。

恐らく本来の小学生であれば泣いてしまうだろう。

その証拠に横にいた白は違うのに・・・私達じゃ無いのに・・・と泣き出してしまう。

だが龍護は違う。

龍護は肉体的には小学生だが精神や頭脳的には既にこの時から20代。

どこの店にでもある、とあるシステムで解決出来る事を知っていた。

 

「ねぇ、店員さん」

「なんだい?」

「監視カメラ・・・動いてたよね?」

 

監視カメラ────その単語を聞いて6年生達は途端に顔が真っ青になった。

すぐに確認され、6年生達が龍護と白にわざとぶつかった瞬間に商品を入れている所がバッチリと映っていた。

店員は6年生3人の家に電話をして事情を説明すると向こうが来るとの事。

白が双子の妹がいる事を店員に伝え、白は雫に先に帰ってていいよ?と優しく言って雫は帰っていった。

数十分が過ぎて母親達が店に来た。

ところがその母親達も癖のある親だった。

 

『子どものした事なんだから多めに見ろ』

『買い物を撮影するのはプライバシーに反する』

『どうせ捏造だろう』

 

どの世界の親もこんな感じなんだな・・・と龍護は呆れていた。

そして龍護が動き出した。

 

「店員さん。彼等の親を呼んで下さい」

「え?呼ぶも何ももう来て────」

「俺が呼んでほしいのは彼等を躾られる歴とした親です。恐らくあの大人達は親戚か何かでしょう」

 

龍護の言葉に母親達は喚き始めた。

ところが・・・

 

 

ダァンッ────!!!!!!!!

 

 

龍護が待合室の壁を裏拳で思い切り殴る。

急な出来事に母親達や6年生、店員、白すらも驚いていた。

 

「小せぇ親だなぁ?こいつらがした事を棚に上げて悪びれもしねぇアンタらがこいつらの親か・・・へぇ?いいねぇおい。つまりアンタらの家庭では『万引きを演じさせる』ってのが普通な訳だ?つまりこいつらはそのアンタらの家庭のルールに則って店でもそのルールを守ったって訳だ?いい子達だなぁ?だろ?」

「えっ・・・いや・・・違・・・────」

「あぁ!?違ぇの!?だったらこいつらのやった事は何だ!?犯罪でも家のルールでも無けりゃ何!?新しいルールでも作ったって訳!?そりゃすげぇなぁ!?こいつらはこの歳で新しいルールを作れる力があるんだ!?なら万引きでも窃盗でも大いにやれよ!!!!アンタらもそれで正当化されんなら喜んでこいつらはやると思うぜ!?なぁ!?どうだよ!!!!」

 

龍護の突然の変わりように6年生はガタガタ震えていた。

 

「今すぐにどっちかで答えろ。犯罪を押し付けたのか、親の躾に従ったのか」

 

6年生は泣きながら、ゴメンなさい・・・と店員に頭を下げる。

親達も顔を赤くしながら、子ども達にはよく言い聞かせます・・・と遂に折れて頭を下げ、彼等は店を後にした。

 

「君・・・凄いね・・・」

「へ?」

「いや・・・なんというか・・・迫力も言動も小学生には見えなかったよ」

 

軽くボロが出てしまった龍護はヤバいと思い、両親が俺に何度も人の迷惑になるような事はするな。と言われていたので・・・と言うと店員は納得していた。

その後、その6年生達は龍護をすれ違う度にビクッ!として逃げていくように龍護から離れていった。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「────ってのか私にとっては1番の伝説かなぁ?」

「伝説って・・・あんなの俺にとっては黒歴史だっての・・・」

 

龍護達は昼食を終えて食堂で雑談していた。

その雑談が龍護の過去話だったが・・・

白も当時は龍護の変わりように驚いて一言も横から口出しが出来なく、ただただ見守ることしか出来なかったのだ。

 

「正直言うとあの時は私、内心ビクついてたからね?上級生に口喧嘩とかで勝てたのアンタくらいでしょ?」

「・・・そんなに?」

 

そんなでもねぇと思うけどなぁ~・・・と龍護は明後日の方向を見る。

そんな龍護を見て呆れた目で白は見ていた。

無自覚なんだな・・・と内心でツッコミを入れる。

 

「3人はどこの小学校出身なの?」

「私達?榊枝(さかえ)小だよ。・・・そういえばあそこからは中高一貫校のここに行けたのになぜかダッチーは他の中学に行ったのよね~。なんで?」

「別に、理由なんかいくらでもあるだろ。なんか知らねぇけど急に俺の家にここの教員が来て勧誘されたんだよ」

「親は何て言ったの?」

「親・・・っつうか姉が・・・あれ?」

 

龍護は自分の言葉に引っ掛かりを覚える。

 

(そういや俺・・・今までこっちの両親に会ってねぇな・・・)

 

突然黙ってしまった龍護に心配の視線が集まる。

 

「・・・リューゴ?」

「ん?あぁ、その時は姉が行ってほしいらしくてな・・・ちょっとした制度を使ってここに入ったんだよ・・・白はスポーツ推薦だっけ?」

「まぁね。昔から動くのは好きだったから」

 

キーンコーンカーンコーン

 

チャイムが昼休み終了を告げる。

龍護達はネストにまた後でと言って一旦教室に戻った。

 

「・・・私もそろそろ行こう」

 

ネストも弁当を袋にしまって自分の教室に戻った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

再び合同授業の時間になり、それぞれで魔法の練習を始める。

ネストは魔法の複数発動に関しては難なく出来るようになっていた。

 

「へぇ、結構練習したんだな」

「というよりも龍護先輩の教え方や例え方の方が1番の理由ですよ」

 

さいですか・・・と龍護は友姫や白達の様子を見回す。

友姫は相変わらず直感派で伝え、白は根性論、雫は筆記、野武も無難な教え方をしていた。

ネストに呼ばれ次の課題を考える。

思い付いたのは2属性での魔法の複数発動。

今までは土属性のみを使用しての魔法発動だった。

今度は2属性による魔法の複数発動となる。

だがこれに関してはネストはすぐに出来た。

というのも複数の魔法を発動させる時に魔力に色分けをしてそれぞれを発動させたのだ。

出来た事でネストが振り向くと龍護は軽く拍手を送る。

 

「アドバイス無しで出来るとはな・・・」

「龍護先輩がなんて言うか・・・それを考えてやりましたから!」

 

全てお見通しです。と言わんばかりの笑顔を作る。

そんなネストを見ていて龍護自身も少しだけ喜ばしかった。

 

キーンコーンカーンコーン

 

チャイムが鳴って授業が終わる。

教師が生徒達を集めて解散の音頭を取ると生徒達はすぐに教室へと帰っていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

龍護も帰り支度をしてる中、白がまだ教室に残ってる事に気付く。

 

「お前部活は?」

「今日はクールダウンで休みなの」

「・・・よく分かんねぇけど分かった」

「いやどっちよ?簡単に言えば身体を休ませるの」

 

あ~そういう事・・・と納得した龍護は友姫を呼んだが友姫は先に行ってて。と言われ、龍護は校門で待つ事にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「今日・・・龍護先輩お弁当だったんだ・・・いつも買ってたのに・・・」

 

ハァ・・・とため息が出てしまう。

そこに1人の女子生徒がやってきた。

 

「ネストさん。今日って空いてる?」

 

どうやら遊びに誘うようだ。

だが・・・

 

「えっと・・・今日はちょっとね・・・」

「あ~・・・うん!全然いいよ!また明日ね!」

「うん。また明日」

 

少しだけ気まずそうにクラスメイトは他の生徒達の元に戻って楽しく話していた。

そんな子達を見てネストから再びため息が出てしまう。

 

(帰ろ・・・)

 

ここにいても虚しいだけだ。と思いながらネストは玄関に向かう。

その間もずっと頭の中を埋めていたのは龍護との合同授業の事。

少しづつだが実力も上がっているのだ。

それはネスト自身も手に取るように分かっていた。

 

(明日も褒めてくれるかな・・・)

 

ネストは今まで魔法に関しては褒められた事が全くない。

それ故唯一褒めてくれた龍護にかなり心を許してしまっていた。

外に出ると校門に寄り掛かっている龍護を見付けた。

見付けたネストはすぐに走っていく。

 

「先輩!」

「?お、ネストか」

「先輩も帰りですか?」

「まぁな、けど悪ぃ、先約がいてそいつを待ってんだ」

「そう・・・ですか・・・」

 

一緒に帰れない事を知って少しシュンとしてしまうネスト。

だがネストは切り替えて、それでは失礼します!と元気に言って帰っていった。

その数分後に友姫が来た。

 

「何してた?」

「リューゴは知らなくていいんだよ・・・いや・・・知ってはいけないの・・・」

「・・・どうせ野武から借りてたゲーム返してたんだろ。あいつさっきはクラスにいなかったからな」

「・・・リューゴのくせに鋭い」

 

もう帰る!と頬を膨らまして帰路に着く。

おいちょっと待てー。と友姫の後を追うように龍護は走り出した。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

2人揃って帰っている時にふと龍護が友姫に話し掛ける。

 

「なんというか・・・始まったって気がしねぇな・・・」

「【七天龍の遊戯】の事?」

 

まぁな・・・と龍護は橙色の空を眺めながら歩く。

 

「なんつーか・・・もっとドンパチするかと思ってさ・・・拍子抜けっつーか・・・皆ピリピリするもんだと思ってな。ネストも所持者だったのに対戦する気が無いみてぇにさ」

「期限が6ヶ月だからじゃない?1週間とかなら必死に探すと思うし、それに────」

 

ビーッ!!!!

 

後ろからクラクションが聞こえた。

道路の端に避けて道を空けると車は2人の真横で止まる。

窓が開いて運転手の顔が見えた。

 

「龍護さんに友姫さんじゃないですか」

「あれ?雪菜さん?どうしたんですか?」

「いえ、買い物の帰りだったんですよ」

 

乗って行きますか?と聞かれ、龍護達は乗せてもらう。

 

「お2人は学園ですか?」

「えぇ、先程終わったんです」

「そうですか。お2人は優秀な方ですからね~勉強なんて余裕じゃないんですか?」

「友姫にはキツいかもですね」

「ギクッ・・・」

 

あはは・・・と雪菜は苦笑するしか出来なかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

友姫の家に着いた。

車を降りて龍護は礼を言う。

泊まっていかないの?と友姫が聞くも、アパートを借りてるとの事でここで雪菜とはお別れとなった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「フゥ・・・フゥ・・・んッ・・・」

 

部屋にくぐもった声が充満している。

その声の主は布団に潜ったネストだった。

だがその顔は赤く、吐息も甘い。

 

(先輩・・・先輩・・・)

 

ネストは妄想で龍護に襲われていた。

 

「~~~~~っ!!!!!!!!」

 

ビクン!ビクン!と身体が大きく震える。

その目は何かをもっと欲しがっている様な目をしている。

 

「・・・足りない・・・」

 

再びネストは始める。

 

 

欲しい・・・

 

 

今まで褒められた事が無かったネストにとって龍護という存在は影響を与え過ぎた。

今では龍護に褒められたいが為に魔法を使ってるという方が正しいと思えてしまう程だ。

それもそうだろう。

 

誰も自分を認めてくれた人を手放したくないと思う筈だ────

 

 

欲しい、欲しい・・・

 

 

ネストの中で黒い感情が湧き上がる────

 

 

欲しい、欲しい、欲しい・・・

 

 

ネストの部屋の台所には空の赤い弁当箱と中身が入った青い弁当箱が置いてあった。

龍護に渡そうとしていた弁当だ。

だが今日の龍護は友姫が作った弁当を持っていた。

ネストは龍護が友姫から受け取った所は見てなかったが、その弁当が誰かからの貰い物だというのは直感で分かった────

 

 

欲しい、欲しい、欲しい、欲しい・・・

 

 

そして次第にネストにとって龍護は”認めてくれる存在”から”手放したくない存在”となり、独占欲が強くなっていく────

 

 

欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい

欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい

欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい

欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい

欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい

 

 

だからこそ気付けなかった。

 

ネストが実力を付ける理由が徐々に”家族に認められる”事ではなく、”龍護に褒められる”という事に変わっていた事を。

 

 

だからこそ”彼を欲しい”と思ってはいけなかった。

 

 

そんなネストの想いに反応してしまい、うなじにある【嫉妬の龍】の紋章が現れ、紫色に鈍く輝き出していた────




今回から脱落者リストも増やしました。

七天龍の遊戯参加者

・怠惰の龍
友姫・S・ラジネス

・強欲の龍
奪木龍護

・嫉妬の龍
ネスト・ジェーラス

・??の龍
不明

七天龍の遊戯脱落者

・憤怒の龍
ルシス・イーラ

宜しければお気に入り登録お願いします。
感想等もお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

砕かれた心

もう12月…


ガチャと音が鳴ってドアの向こうからネストが出てきた。

空を眺めるも薄暗く、今にも雨が降りそうな感じがしている。

 

「うわ・・・傘持ってった方がいいかな?」

 

ネストは傘立てにあった黒い傘を持って学園へと歩いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「雨降るかなぁ~・・・」

 

白が龍護の机に座って空を眺めていた。

すると後頭部に軽い衝撃が走る。

振り向くとそこには右手に教科書を持った龍護がいた。

恐らく先程の衝撃は教科書によるものだろう。

 

「人の机に乗って何してんだ」

「だからって無言で叩く事ないでしょ」

 

白はムッとしながらも素直に降りた。

 

「午後から降るかもな・・・」

「え~・・・ダッチーの力で雨雲吹き飛ばしてよ」

「・・・俺ってお前からどんな人に見られてんだ?」

 

龍護はジト目になりながらも席に座る。

白は友姫が一緒ではない事に気付いた。

龍護に理由を聞くと友姫は忘れ物を取りに行ったらしい。

アンタは戻らなかったの?と聞くが友姫自身が龍護に先に行っててと言ったようだ。

 

「ま・・・間に合った~!」

 

友姫が教室に入ってきた。

 

「何忘れてきたの?」

「お財布と教科書と筆記用具」

 

うん、殆ど全部だね。と白が突っ込む。

龍護が筆記用具なら貸したけど?というがどうやら友姫は自分のお気に入りの筆記用具じゃないとやる気が出ないらしい。

・・・やる気は。

教師が入ってきてホームルームが始まった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

歴史の授業が始まり、内容は【7頭の龍の伝説】の細部。

7頭の龍は神が地上の人々に対して試練を与える為に創り出した生き物であり、それぞれの龍の能力は人間の【七つの大罪】をベースとした能力となっていると説明が始まった。

だがはっきり言ってしまうと7頭の龍は集まって侵攻をしていた訳では無く、世界各国で人々を襲っていたようだ。

だが伝説によれば7人の男女の勇者が世界各国に突如出現。

彼等は龍達を圧倒し、人々は勝利した。

その勇者達は当時の人から見たら奇妙な姿をしていたようだが今となると”召喚された”可能性が高いと専門家は述べているようだ。

理由としては・・・例を挙げると、当時使われていた剣の材料は青銅(銅と錫の合金)が一般的だが彼等の使っていたものは銃や鉄剣等の当時の武器よりはかなり強力な武器が多かったのが理由だ。

そして服装もだ。

原住民の使っていた麻等の服ではなく化学繊維(ポリエチレン等)のが使われ、その製法を教えていたとされる文献や資料が発見されたている事から専門家は召喚された者達と判断された。

だとすると転生者である龍護・・・雄輔以外にも転生者が存在し、その者達が龍を倒した事になる。

龍達を倒したことによってその者達は【英雄】と讃えられ、その勇者達が亡くなった所には石碑が建てられて今ではパワースポット、観光名所として有名となっている。

だが教師は【七天龍の遊戯】に関しては一言も話さなかった。

それもその筈。

歴史も浅く、物的証拠も知る人も殆ど存在しないのだ。

そしてもしもその証拠があっても隠蔽されるか、その能力を宿した者はひた隠しにし続けるだろう。

だとすればスヴェンの見付けたあの映像による記録はかなり貴重とも思える。

チャイムが鳴り、歴史の授業が終わった。

途端に生徒達は席から立ち上がる。

龍護は喉が乾いたので自販機に行こうとすると野武からカフェオレ頼むと言われたので仕方なく近くの校内にある自販機で微糖コーヒーとカフェオレも買ってきて野武に渡した。

 

2限目は数学。

友姫は物理より数学の方が出来るようだが勉強が苦手なのは相変わらずのようだ。

 

3限目は魔法法学。

簡単に言ってしまえばこの時間は魔法に関する法律を学ぶ時間で、どこで使用していいのか、また、禁止されている場所で使用したらどんな罰則があるのかを学べる時間である。

 

4限目は魔法学。

魔法法学と似ているがこちらは魔法そのものを学ぶ授業で基本は校庭で行われる実技授業だ。

因みに龍護にとってはこの時間は佐野先生が担当な為、微妙に嫌いな授業でもある。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

午前の授業が終わり、龍護達は食堂に向かった。

 

「あー!肩凝る~!」

「揉んであげよっか?」

「本当?お願い!」

 

友姫の肩を白が揉んでいる。

あふぅ~。と友姫も気持ち良さそうだ。

 

「龍護もやる?」

「いや、俺はいいや」

「ま、お願いされても私はやらないけどね」

「お前には頼まねぇから安心しろ」

 

あらそう?気が変わったから思いっきりやってあげましょうか?と白が黒い笑みを浮かべ、指の関節をボキボキと鳴らしながら近付いてくる。

暴力女は嫌われるぞ?と白に禁句を言った龍護は腹に1発痛いのを喰らっていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

午後の授業も滞りなく終わり、皆が帰り支度をしていた。

友姫は先生に呼ばれ、龍護に校門で待ってて欲しいと頼んだ後に先生に着いて行く。

白は白で自主練習のようだ。

雫に教室で待っててと頼んで校庭に向かう。

野武はというと予定があるようで急いで帰っていった。

 

「さてと・・・俺も待つか・・・」

 

龍護も帰り支度を終え、校門で待つ事にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「うわ~・・・止んでて欲しかったな~・・・」

 

改めて校舎を出ると小雨だがポツポツと降っている。

龍護は個人的に雨が苦手だ。

というのも傘を持つのが面倒なのと以前、車が通った時に水を掛けられた事があるからだ。

仕方ねぇな・・・と龍護は鞄に入れていた折り畳み傘を持って広げ、校門で立っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

ネストも空を見上げ、マジか・・・という表情をする。

持ってきた傘を広げて歩き出した。

すると目の前に龍護の姿が見えた。

途端に足の運びが早くなる。

そして

 

「龍護せ────」

「リューゴォ!」

 

横から友姫が傘を差さずに出てきて龍護に走っていった。

そして龍護の腕に抱き着く。

 

「くっつくなよ・・・」

「固い事言わないの!」

 

龍護は友姫の笑顔に苦笑で答え、友姫は龍護の腕に抱き着いたまま2人は帰っていく。

その様子をネストはずっと伺っていた。

そして知ってしまった。

 

龍護と友姫は付き合っているのだと

 

 

ピシッ・・・

 

 

ネストの傷付き過ぎた心に大きな亀裂が走る。

 

(・・・帰ろ)

 

ネストは自分の借りてるアパートに帰ることにした。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

雨は強くなり、ザー!という音を立てていた。

その中をネストが1人、重い足取りで傘をさして歩いていた。

だがネストの目に正気は無く、ハイライトが消えている。

 

ピリリリリ・・・ピリリリリ・・・

 

ネストのポケットの中でスマホが鳴っている。

画面には父親の名前が表示されていた。

ネストはスマホを操作して通話を始める。

 

「・・・Alo・・・」

『私だ』

「Um pai・・・」

 

恐らくは成績の確認だろう。

 

『以前に言ってた件だが・・・忘れていい』

「え・・・?」

 

突然の言葉に希望を見出したのか、ネストの目に軽く輝きが戻り始める。

家に戻っていいのだろうか・・・?と期待が篭った。

 

『お前には黙っていたが養子を取ることになった』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 

ピシッ・・・───

 

ネストの心はまるで次の言葉を知っているかのように再び罅が入る。

 

 

違う

 

 

そんな筈は無い

 

 

ネストの頭が否定しようにも父親からの無慈悲な言葉が再びスマホを介してネストの耳に入ってくる。

 

『とある者と契約を結んでな、Sランクで闇属性を持っている人を養子に貰える事になった。喜べ、お前は自由だ』

「・・・」

 

自由────確かに自由にはなれた。

だがネストの思っていた自由とは掛け離れた自由である。

 

 

勘当された。

 

 

頭が必死に否定する。

 

『まぁ、学費に関しては卒業まで面倒を見てやる。その後は好きにしろ』

「まっ・・・・・・」

 

ブチッ、ツーツーツー・・・────

 

スマホを持っていた右手に力が入らなくなり、ダランと垂れ、スマホが地面にカシャン!と音を鳴らして落ちた。

 

 

画面は罅割れ、雨が掛かる。

 

 

傘を持っていた左手も力を失い、傘は開いたまま、地面を転がる。

 

 

肩に掛けていた鞄も落ちて蓋が開き、中の教材が雨に晒される。

 

 

傘をさしていないネストを大量の雨が濡らしていく。

 

『お前には黙っていたが養子を取ることになった』

 

『とある者と契約を結んでな、Sランクで闇属性を持っている人を養子に貰える事になった。喜べ、お前は自由だ』

 

『まぁ、学費に関しては卒業まで面倒を見てやる。その後は好きにしろ』

 

脳が父親から告げられた先程の台詞を何度もネストに聞かせている。

 

 

そしてとうとう・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネストは叫んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨が落ちてくる天を仰ぎ、声にならない悲鳴を上げる。

 

 

 

それすらも雨はかき消していた。

 

 

 

だがそれでも────

 

 

 

ネストは叫んでいた。

 

 

 

言われた事を否定したいかのように涙を流しながら。

 

 

 

空からは今のネストの心を表わすように沢山の雨が降っている。

足に力が入らなくなり、ネストは雨が降る中、地面に両膝が付き、暫くの間動けなかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

パキッ!ガチャン!

 

「うわっ!?」

 

龍護の持っていたコーヒーカップの持ち手が折れ、カップも割れてコーヒーが机と本に掛かってしまう。

 

「やっべ!タオルタオル!!!!」

 

龍護はすぐに拭き取るが何ページにも渡って浸透してしまい文章が読むに読めない。

 

「どしたのー?」

 

友姫が龍護の部屋に入ってくる。

龍護が本の状態を見せると、あぁ~手遅れか・・・と苦笑気味に言った。

 

「これ買ったばかりなんだけどな・・・」

「ネットなら同じの売ってるかもよ?」

「・・・そうするか・・・」

「にしても買ったばかりのが割れるって不吉だねー」

「よせやい。縁起でもねぇ」

 

冗談冗談と笑い、友姫は風呂に向かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

ガチャ!とドアが開く。

外からずぶ濡れのネストが部屋に入ってきて玄関で靴を脱ぐ。

ポタポタと服から落ちた雨が床を濡らしていく。

持っていた鞄も手からすり抜けてドサリと床に落ちた。

本来なら気付いて乾燥させるネストだが気付けない程、心と身体は疲弊していた。

部屋の中心に着いてペタンと座ってしまう。

 

「・・・・・・」

 

ネストの心は完全に砕かれた。

それも物語るようにハハ・・・と軽い笑みが零れ、口の両端が若干上がってしまっていた。

絶望を感じ過ぎて感情が壊れ切ったのだ。

今まで必死に魔法を使ってきた。

家族に認められたい一心で。

だが龍護に出会って少しずつネストの心は変わっていった。

 

自分でも出来る事がある。

 

それに龍護は気付かせてくれたのだ。

だが先程、父親から告げられた勘当の通達。

ネストの心を壊すのには充分過ぎた。

そして自分で言ってしまった。

 

「私って・・・生きてる価値・・・あるのかな・・・?」

 

外はまだ雨が降っている。

その雨はネストの心を写しているようだった。

ネストはとうとう理解してしまったのだ。

自分は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

孤独になったのだと




カスタムキャストで七天龍の遊戯に参加してる2人のヒロインを作ってみました。
下記のURLから見られますので宜しければ御覧下さい。

https://twitter.com/JAIL89856461/status/1066964305092861952?s=19

お気に入り登録、感想等もお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

始まる暴走

まさか小説投稿を忘れてるとは…


13:30

 

ネストは学校に行かないで部屋の壁に寄り掛かり、足を投げ出して座っていた。

 

ブーブー・・・ブーブー・・・

 

テーブルに乗ったスマホが小刻みに揺れている。

このブザーも何回聞いただろうか?

割れた画面には国立喜龍学園と表示されている。

 

『ただいま留守にしております。ピーと鳴りましたらお名前とご用件をお願いします。ピー『国立喜龍学園、魔法学の担当の佐野です。ネストさん。魔法学の勉強が始まっております。今日は休みでしょうか?ご連絡お待ちしてます』ブツッ』

 

画面がロック画面に戻ると着信履歴は10件以上にも及んでいた。

それらが聞こえていないかのようにネストの目は空を眺めている。

その目にも正気は無く、頬にかけて涙の跡が残っている。

突如立ち上がり、フラフラと机に向かう。

引き出しを開け、何かを探している。

漸く目当ての物を見付け風呂場に向かう。

その右手にはカッターナイフが握られていた────

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

学園では魔法学が始まっていた。

龍護のペアであるネストは来ていない。

 

(今日は休みかな?)

 

すると佐野先生が歩いてくる。

 

「あっ、先生。今日ってジェーラスさんは・・・」

「うん。それなんだけどね?今朝から電話をしてるのに出ないんだよ」

「・・・え?」

 

佐野先生の言葉に胸騒ぎを覚える。

 

(何だ・・・?嫌な予感がする)

 

龍護は、早退してネストの様子を見に行く。と佐野先生に言うと、ならこれを。とネストが住んでいる住所と部屋の番号が書かれた紙を渡される。

それを半ば乱暴に受け取って走り出した。

途中で自分の教室を通るが、入る事すらしない。

 

それをすれば手遅れになる──────

 

そう直感が告げていた。

スマホで住所を検索して走り出した。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

漸くネストの住んでいるアパートに着いて2階に駆け上がる。

部屋は7部屋あって、ネストの住んでいる部屋の番号はその真ん中。

ネストの部屋の前に着いて呼び鈴を鳴らす。

 

・・・出ない

 

ドアを開けようにも鍵が掛かっている。

急いで大家さんに事情を話すと予備の鍵を渡してくれた。

その鍵を持ってドアを開ける。

 

薄暗い

 

玄関で靴を脱ぎ、中に入る。

足に少しだけ湿った感覚が走った。

それを無視してリビングへと進んで行く。

 

いなかった

 

電気を付けると1部の壁と床が人の下半身の形で湿っていた。

つまり今までここにいたという事を示している。

そして小さいテーブルには画面が割れたスマホ。

電源を入れると国立喜龍学園からの着信が何件も来ていた。

 

(電話くらい出ろっての・・・)

 

ここにはいないことを知って帰ろうとした・・・その時だった。

 

 

ピチャン──────

 

 

水が落ちる音が響く。

台所の水道は締まっている。

 

 

ピチャン──────

 

 

また響く水の音。

龍護は思い出す。

家の中で水を使う場所・・・風呂場。

 

 

ピチャン──────

 

 

龍護は警戒しながら風呂場に向かうと中に人影が見えた。

身を屈め、ドアを開けるとそこには──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

濡れた制服を着たネストが、ぬるま湯に浸けた手首から血を流してグッタリしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネストォ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

龍護はすぐに光属性の魔法による回復で傷口を閉じて抱き抱える。

 

「ネスト!!!!しっかりしろ!!!!おい!!!!ネスト!!!!」

 

龍護の呼び掛けには反応しない。

ネストの胸に耳を当てる。

 

ドクン・・・・・・・・・・・・ドクン・・・・・・・・・・・・

 

微弱な心臓の音が響く。

 

まだ生きてる

 

急いで龍護は救急車に連絡をした。

近くには血の付いたカッターナイフが転がっている。

それだけで龍護は何をしようとしてたのか気付く。

 

 

自殺────

 

 

数分して救急車が到着し、ネストは担架に乗せられる。

龍護は付き添い人として来て欲しいと言われ、救急車に乗った。

その間にネストは輸血パックがチューブで繋がれた針をネストの腕に刺される。

漸く受け入れ可能な病院が決まり、搬送された。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

結論を言うとネストは一命を取り留めた。

理由としてはネストが手首を切ってすぐに龍護が駆け付け、光属性の魔法を使ったのが唯一の救いだったからだ。

龍護は部屋で遭ったことを佐野先生に報告する。

佐野先生もこちらに来るとの事。

龍護にはそこで待っててほしいと言って電話を切った。

数十分経って佐野先生が来た。

だが当の本人はまだ目が覚めていない。

医師が現れて先生とお互いに挨拶をする。

龍護は心配そうにネストを眺めていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

暗い闇が続く。

ネストが1人、その暗闇に立っていた。

 

『ここは・・・?』

 

後ろから気配がして振り向くと龍護がいた。

 

『先輩!』

 

ネストの表情に明るさが戻り、龍護の元に走っていく。

だが突然龍護の横に友姫が現れた。

 

『え・・・?』

 

龍護と友姫は2人で歩いていってしまう。

 

『そんな・・・待って・・・』

 

ネストは走るがとても追い付かない。

そしてとうとう消えてしまった。

次は後ろから誰かが現れる。

家族だ。

 

『みん────』

 

黒い影がネストの横を横切る。

その黒い影はネストの家族の元に行くと快く受け入れられていた。

 

『ま・・・待って・・・!』

 

言葉とは裏腹に身体は動かずガタガタと震え出す。

そして父親が振り向き、ネストに言い放つ。

 

『お前は要らない子だ』

 

ネストは必死に走るが距離が縮む事は無い。

足が縺れ、転んでしまう。

ネストは暗闇で独りになった。

独りの身に耐え切れずにネストは頭を抱え、ガタガタと再び震えてしまう。

 

『い・・・いや・・・誰か・・・誰か・・・いや、独りにしないで・・・いや・・・』

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「いやあああああぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!!!!!」

「ネスト!?」

 

病院の扉が開いて龍護が入って来た。

ベッドで寝ていたネストは大量の汗を掻いて息も荒くなっていた。

 

「ちょっと待ってろ!すぐに先生をよん」

「待って!」

 

ネストに呼び止められ、龍護は振り向く。

 

「先輩・・・行かないで・・・」

 

その目は誰でもいいから縋りたい・・・そんな思いを宿し、声はとても弱々しかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

ネストが遭ったことをポツリポツリと話し出す。

 

父親が養子を取った事。

 

自分は家族でいられる為の条件としてあの学園に入れさせられたこと。

 

昨日、父親から勘当された事。

 

全てを龍護に話した。

 

「そんな事が・・・」

「・・・」

 

お互いに黙ってしまい、沈黙が2人を包む。

 

「なんで・・・」

「え・・・?」

「なんで・・・死なせてくれなかったんですか・・・?」

 

そう言ったネストの目には涙が浮かび、声も震えている。

 

「私・・・もうどうすればいいか分かりません・・・」

 

いっそ見殺しにしてくれれば良かったのに・・・!!!!と叫び、ネストの目からとめどなく涙が溢れ、頬を伝い、病院のベッドに落ちていく。

耐え切れなくなったのか、顔を両手で隠し、もう・・・殺して下さい・・・生きたくありません・・・と嗚咽する。

ネストの心は疲弊し切り、修復は出来そうに無い。

唯一出来る方法はある。

だがそれも不可能なのは分かっていた。

 

「ネスト・・・」

 

龍護は優しくネストの頭を撫でる。

 

「外・・・行くか?」

「え・・・?」

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

龍護に誘われてネストはV字型の病院の外にある池に来ていた。

池は管理されていて、水が透き通っている。

 

「綺麗・・・」

「来る途中で見付けたんだ」

 

ネストがゆっくりと歩き出し、池の淵にある手すり付きの柵に寄り掛かった。

その横に龍護も立つ。

 

「リューゴォ!!!!ネストォ!!!!」

 

後ろから声を掛けられ、振り向くと友姫が膨らんだビニール袋を持って走ってきていた。

 

「ラジネス先ムグッ!?」

 

友姫が問答無用でネストに抱き着く。

 

「リューゴからネストちゃんが病院に運ばれたって聞いて心配したんだよ!?それにほらっ!!!!」

 

友姫は持っていたビニール袋を広げて沢山のお菓子を見せる。

その1つ1つに何かが書かれた紙が貼られてあった。

その1つを剥がす。

 

《ジェーラスさんへ。

大丈夫?何かあった?先生に聞いても何も言ってくれなくてね・・・友姫ちゃんがお菓子を持って行くって聞いて手紙を書きました!国は違うけど貴女はあの学園の生徒の1人で私もその1人なの。だから何かあって抱えきれないのなら私でも誰でもいいから相談してね?

3年A組で待ってるからいつでも来てね!

北野白より》

 

もう1つ剥がす。

 

《ジェーラスさんへ

そっちの状態がよく分かんないけどさ・・・あまり1人で抱え込むなよ?あんまり話した事はねぇけど何か話したくなったら聞くから頼ってくれよ!

安達野武より》

 

手紙にポタポタと涙が落ちた。

ジェーラスは泣いていた。

だが悲痛な涙では無い。

 

 

ただただ嬉しかった──────

 

 

自分を心配してくれる人がいる。

それは家族でなくてもだ。

手紙がそれを訴えていた。

 

「独りじゃ・・・無かったんですね・・・」

「たりめーだろ」

 

龍護はぶっきらぼうにネストの頭を撫でる。

 

「俺だって心配したんだ。それに・・・」

「・・・?」

「お前を強くするっていう約束は意地でも守ってもらうぜ」

「・・・・・・・・・・・・はい!!!!」

 

涙を流しながらもネストの顔に笑みが現れる。

心はまだ安定はしていないが少しだけ心の雨は晴れていた────

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

龍護が3人分の飲み物を買ってきた。

池の淵にある椅子で座っていた2人に渡して自分も座る。

 

「さぁ~て、ここからどうすっかなぁ?」

「どうってどういう事ですか?」

「だって授業すっぽかしたんだぞ?空いてる時間どう潰すかなぁって・・・」

「す・・・すみません・・・そういえば龍護先輩って・・・」

「あん?」

 

プシッ!とプルタブを開けて中を飲み始める。

 

「ラジネス先輩と付き合ってるんですよね?」

「ブーッ!?」

 

龍護が盛大にコーヒーを噴き出した。

 

「ゴホッ・・・ゲホッ・・・!何で気付いた!?」

「いや・・・雨の日にお2人が仲良く帰ってるのを見付けたんで」

 

オオオ・・・と龍護は頭を抱えて呻き出す。

それもそうだ。

彼女と仲良くしてる所を後輩に見られたのだから。

そんな龍護をネストはジト目で見ている。

 

「・・・何でしょう?」

「いえ別に」

 

ハァ・・・とネストの口からため息が出てしまった。

 

(結局・・・片思いで終わったのか・・・)

 

ハハ・・・と諦めたような笑みが出てしまう。

さぁて、一旦戻るぞー!と龍護が立ち上がった。

その後に友姫が続く。

ネストはまだ座ったままだ。

ふとネストの頭に思い浮かぶ。

 

(もし、龍護先輩とずっと一緒にいられたら私は・・・)

「おーい、ネス・・・・・・ト・・・・・・?」

 

龍護のネストを呼ぶ声がおかしい。

それどころか友姫と龍護の表情は困惑している。

 

「・・・どうしました?」

「え・・・お前こそ・・・何だよ・・・?それ?」

「え?」

 

ネストが後ろを振り向くが何も無い。

下をふと見るとネストの首から蠢く何かが生えているような影が映る。

 

「・・・・・・え・・・・・・?」

 

ネストが後ろ首を触ると何かが手に当たる。

 

グニャリ────

 

「ヒッ・・・!!!!」

 

その感触は生理的に受け付けない代物だった。

その何かを映した影はどんどん大きくなっていく。

そして────突然爆発したかのように巨大化した紫色の何かは、ネストを包み込み始める。

 

「キャアアアアァァァァァアアアア!?!?!?!?」

「ネスト!?」

 

異変に気付き、龍護と友姫はネストの元に走るも、鞭のように振り回された紫色の触手に弾かれる。

 

「何だ・・・!?あれ・・・!?」

「リューゴ!一旦建物の中に!」

 

友姫の言葉に頷き、龍護と友姫は病院内に避難する。

その間にもネストを包んだ触手は平べったい繭の様な形になり、上へと浮いていく。

そしてV字型の病院の頂点まで浮上すると無数の紫色の触手が繭から飛び出して病院の外壁に付着し、繭を浮かせた状態で動きは止まった。

だが次の瞬間────黄色い眼球と赤い瞳をした眼が繭と触手に次々と現れる。

繭の下から何かが産まれたかのように出てきてフヨフヨと漂っている。

それらをよく見ると繭や触手と同じ”眼”だった。

 

その様子は病院内の患者や医者、友姫、龍護も見ていた。

咄嗟に龍護はスヴェンに電話をする。

 

『どうした?龍護君』

「スヴェンさん!あれは一体何だ!?テレビ電話にするから教えてくれ!」

 

龍護はすぐに音声通話からテレビ通話に変えて、画面越しのスヴェンに今の様子を見せた。

 

『龍護君。恐らくあれが【嫉妬の龍】の能力だ』

「あれが・・・!?」

『今説明出来る範囲で言うと【嫉妬の龍】は中でも”独占欲”が非常に強くてね。自分の気に入った物は全て、自らの作り出した監獄に閉じ込め、死ぬまで愛でていた────と言われているんだ。そして入ったら最期────その監獄が壊れるまで中にいる人達は出られなくなってしまうんだ』

 

スヴェンの言葉に驚愕する。

だがネストは発動の時は気付いていないように見えた・・・だとすると────

 

「暴走してるって訳か・・・!」

 

外にヘリコプターが見えた。

恐らくメディア関係のヘリコプターだろう。

 

『皆さん!ご覧下さい!突如現れた紫色の繭は現在、第二龍治病院屋上に留まっております!あれは一体何なのでしょうか!?』

 

繭に変化が訪れる。

繭のテッペンから長い筒の様な物が現れた。

その筒の内部が赤く色付いていく。

そしてその筒は炎の弾を撃ち出し、メディア関係のヘリコプターを撃ち落とした────

 

恐らく防衛反応だろう。

 

ヘリコプターは黒煙を上げながら地上に落ちていく。

龍護はそれを見ていた。

 

(死者が出やがったか・・・!)

 

患者や医者は悲鳴を上げ、パニック状態となり、病院から逃げていく。

1つの浮遊する”眼”が窓越しだが龍護の前に現れる。

”眼”は目を細め、振動を始める。

 

(何だ・・・?)

 

だが龍護は気付いた。

奥から物凄い速さで触手が自分に襲い掛かってくる。

窓を割って中に入って来た。

ギリギリで飛び、龍護も躱す。

 

(俺を狙ってる・・・?)

 

試してみるか・・・と龍護は走り出した。

それを追うかのように”眼”も着いて来ている。

 

(やっぱり俺狙いかよ!?)

 

龍護は必死に走る。

だが────

 

ドォン!!!!

 

触手が先を読んで龍護の目の前の床を破壊した。

 

(行かせねぇってか・・・)

 

龍護は近くにあった包帯を取って自分の顔に巻き付ける。

正体がバレずに魔法を使う為だ。

使うのは浮遊魔法。

魔法を授業以外で使うのはゲーセン帰りに不良に絡まれて以来だ。

浮上し、屋上に進む。

空は既に何台ものヘリコプターが浮いていた。

だが龍護は失念していた。

龍護には攻撃出来る魔法の属性が無い。

出来るのは────

 

(これしかねぇ!)

 

龍護は屋上にあった観測機の陰に隠れ、闇属性の魔法を使う。

屋上の中心に偽物の龍護が現れた。

その偽物を自分とは進む方向の逆に走らせる。

”眼”は偽物を追っていた。

 

(よし!そのまま行ってくれ!)

 

龍護は勝機を得たように病院内に入り、包帯を解いて友姫を探す。

だが龍護は忘れてしまっていた。

 

”眼”は1つではなく複数あった事を────

 

窓の向こうに触手に現れた”眼”があった。

その”眼”と龍護の目が合ってしまう。

目の前と後ろの廊下が壊され、龍護は退路を絶たれた。

 

「リューゴ!!!!」

 

向こうから友姫が浮遊魔法を使って走ってくる。

 

だが遅かった────

 

龍護は下から来た紫色の触手に捕らわれ、全身が見えなくなる。

 

「リューゴォ!!!!」

 

友姫は浮遊魔法を使って飛び、龍護の元に向かうがしなる触手に当たってしまい字面へと落ちていく。

だが咄嗟に受け身を取って難を逃れた。

触手に囚われた龍護はそのまま繭の中へ、呑み込まれてしまった────

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

目を開けると紫色の細い線が羅列していた。

監獄の檻のようだ。

触るとグニャリと変形する。

だが一定の力を込めると途端に固くなった。

 

「やられたな・・・」

 

龍護の【強欲の龍】は相手の龍の能力をコピー出来る。

だが今回においては使えるかどうかは分からない。

そして先程から聞こえる啜り泣く声。

龍護がその方を見るとネストが繭の床に座り込んで泣いていた────




あれだ…3Dプリンターの設定で色々と拗れたからだ…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ネストという人形

明けましておめでとう御座います!
今年で執筆も3年目に入ります。
3Dプリンターの設定も進み、最近では色んな物を作り始めてるJAILです


「ネスト・・・?」

 

龍護の呼び掛けにビクッ!と身体を震わせる。

少しづつネストは龍護に視線を向けた。

 

「龍護・・・先輩・・・?」

 

その表情は『なんでこんな目に・・・』と言いたそうな表情だった。

 

「違うんです・・・私・・・こんな・・・!先輩・・・信じて下さい・・・!」

「落ち着けって・・・疑ってねぇよ」

 

言葉通り、龍護はネストの事は疑って無かった。

この表情から【嫉妬の龍】の暴走である事は確定出来る。

 

ならば────

 

「ネスト、解除方法は分かるか?」

「え?」

「お前が解除出来るなら、解除してこの監獄を壊したと同時に俺はお前を抱えてこの場を離れようと思う」

 

龍護の作戦はこうだ。

まずネストがこの監獄の制御方法を探る。

見付けたらわざと破壊して龍護と元に行く。

そして龍護は自分の闇属性の魔法を使ってカモフラージュを行いながらこの場を離れる。

他に方法は今の所考えられない。

ネストはやってみます。と答えるもこの監獄を操作する方法が見付からない。

取り敢えず・・・と目の前にある大きな半球体に触れる。

すると、ジジジ・・・と横に割れ目が現れて、開き出す。

今まで龍護が見てきた”眼”と変わらない色の眼だ。

その”眼”は指示を待ってるかのようにネストを見ていた。

 

「えっと・・・ここの制御をしたいんですけど・・・」

 

眼を閉じる。

すると壁つたいに上へと”眼”は上がっていき、下から紫色の触手で出来た椅子と楕円で湾曲した台が現れる。

その台の手前には2つの筒があり、その先端に穴があった。

 

「ここに・・・座るの?」

 

ネストを見詰める”眼”は優しく眼を細めた。

試しに座ってみるとブヨブヨな感触もそれがクッションとなって身体にフィットし、案外座りやすい。

穴に関しては理解出来る。

ネストは両手をその穴に入れた。

中には歪だがボタンやレバーのような物があった。

試しに握ってみるとグニャリ・・・と握った手の形に合わせて変形する。

嫌悪感を感じつつも2本のレバーを前に傾けた。

すると突然、監獄内がガタガタと揺れ出す。

 

「な・・・何・・・!?」

 

ネストが立ち上がろうとする。

だが穴に入れた手を抜く事が出来ない。

 

────フフフ・・・♪

 

「っ!?」

 

ネストの脳内に誰かが笑いかけた。

 

────やっと思い通りに動ける♪

 

「誰!?」

 

────誰って・・・さっきから貴女と一緒にいるじゃない。

 

ネストがハッ!として上を見上げる。

 

”眼”だ。

 

”眼”がネストに話し掛けてくる。

 

────私は【嫉妬の龍】・・・宜しくね?ネストさん?

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

異変は外でも起きていた。

病院が揺れ始め、友姫は姿勢を低くする。

目の前には【嫉妬の龍】の能力で創り出された繭。

それが少しづつ動き出している。

新しく触手が生え始め、繭は病院の外壁から剥がれて浮かび上がった。

そして繭と病院を固定していた触手の先は鋭利になったり、穴が現れたり、その1本1本が巨大な槍や刀や銃口となる。

友姫は気付いた。

これは監獄なんかじゃない。

 

浮かぶ要塞なのだと────

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「待って!?私はこれを抑えたいの!!!!協力してよ!」

 

────嫌よ。そんな事したら私のお気に入りに傷が付いちゃうじゃない。

 

ネストの必死の説得は【嫉妬の龍】に届いていない。

だが龍護がある事に気付く。

 

「おい・・・【嫉妬の龍】」

 

────ん?なぁに?

 

「何で・・・お前は意志があるんだ?」

 

そう。

龍護が気付いた事、それは────この【嫉妬の龍】には意志がある点だ。

龍護も友姫もそれぞれの龍の声は聴いていない。

だとしたらなぜこの龍は自分で動き、話せるのか・・・?

 

────そうねぇ・・・端的に言うと、私は7頭の龍の能力の中で唯一私だけが自分で動ける龍だから・・・ってところかしら?

 

(この口調・・・性別は女って事か・・・)

 

先程からの【嫉妬の龍】の口調的に声のトーンは男だが、性別は女性のようだ。

 

「ネストはお前の主だろ?なら────」

 

────だから嫌って言ってるでしょ?確かにこの子は私の能力を持った子よ?でも相性が合わなければ私は私が思うように能力は使わせてもらうわ。

 

(どうやら難儀な龍をネストは受け取ったみてぇだな・・・)

 

この間にも監獄・・・いや、要塞は空中を進んでいる。

 

────う~ん・・・私は本体だから外の様子を見れてるけど貴方達は見れてないわよね・・・どう?見てみたくない?

 

突然の提案。

 

その提案に龍護は素直に応じる。

外がどうなってるのかを知る為だ。

 

────なら、はい♪

 

”眼”は1度目を閉じて再び開く。

すると黄色い目から光が照射され、ネストと龍護の前にあった紫色の壁に映像が映った。

だが龍護はその光景に驚愕する。

既に繭型の要塞は街の上空を渡っていたのだ。

すると龍護のポケットに入っていたスマホに着信が入る。

相手は友姫だ。

 

「どうした?」

『リューゴ!大丈夫!?』

「こっちはな・・・そっちはどうだ?」

『こっちはちょっとヤバいかな・・・色んなテレビ局のヘリコプターが飛んでるんだけど少しでも近付いたら撃ち落としてるの!』

「は!?」

 

友姫の声に龍護は【嫉妬の龍】の”眼”を見る。

 

────当然でしょ?あの飛んでる訳の分からない金属の塊は私のコレクションに近付こうとしてるのよ?折角綺麗な状態で集めたのを汚されるのならそんなの撃ち落としてもいいじゃない。

 

【嫉妬の龍】は独占し、自分の欲求を満たす為に相手が誰であろうとも破壊する気だ。

紫色のモニターに映された映像に黒くて大きな戦闘機が現れる。

 

空軍だ。

 

戦闘機から何かが落ちるが途中で浮上し、こちらに近付いてくる。

 

(特殊魔導隊か・・・)

 

特殊魔導隊────優れた攻撃系統の魔法を持つ集団であり、その集団に入る条件も厳しく、魔法適正がB以上無いと入る事は出来ない。

そんな彼等が近付いてくる。

 

────へぇ・・・私のコレクションに近付く気なのかしら・・・?

 

【嫉妬の龍】の声は少し怒気が宿っている。

恐らく、相手をする気だろう。

彼等が自分の持っている様々な属性の攻撃魔法を撃ってくる。

その全ては当たりはするものの、誰一人龍の力で出来た繭型の要塞に傷を付ける事は出来なかった。

1本の触手が繭から伸びて1人の隊員を捉えた。

隊員は逃げ出そうとするが触手はそれを許さない。

少しづつ触手が締まり始めていく。

 

『・・・ろ!!!!やだ・・・!!!!』

 

要塞内に声が響いた。

恐らく【嫉妬の龍】が映像だけでなく音声も入れ始めたのだろう。

 

『止めてぇー!!!!誰か・・・誰かぁー!!!!やだ!!!!死にたくない!!!!ごめ────』

 

ボリュッ────!!!!プシッ────!!!!

 

全身の骨が砕け、肉が潰された音の後に隊員の身体から血が弾ける。

そして隊員の四肢はダラン・・・と垂らし、その先からポタポタと血が流れ落ちていた。

そしてそれを離すと隊員は地面に落ちていった。

 

「殺した・・・のか・・・!?」

 

────当然でしょ?私のコレクションに傷が付くなら何人潰してもいいじゃない。

 

そう言うとすぐに何本もの触手が繭から伸びて隊員達を捉えては潰し、捉えては潰し────を繰り返した。

 

ガッ!!!!ガッ!!!!

 

ネストは筒を蹴って自分の腕を抜こうとしていた。

 

「このっ!このっ!」

 

だが何回蹴っても筒はビクともしない。

 

────ちょっと、止めてくれない?

 

要塞の内側に触手が現れてネストの両足を固定する。

 

「離してよ!言ったでしょ!私はこれを止めたいの!」

 

────それは無理よ。貴女の心の中の想いに反応して私は動いてるんだから。それに貴女はいいの?

 

「・・・え?」

 

【嫉妬の龍】の言葉にネストは止まってしまう。

 

────貴女・・・捨てられたんでしょ?

 

「っ!」

 

【嫉妬の龍】は今、ネストが1番言われたくない事を掘り出してくる。

 

────これを解けば確かに貴女とそこの男は自由になれる。でもいいの?今、私はこれで貴女の故郷に戻る予定よ?その様子を貴女の家族が見たらどう思うでしょうね?七天龍の1つ、【嫉妬の龍】の力を宿してるって知れば貴女はもしかしたら尊敬され、誇られ、家に帰れるかもしれないのよ?

 

「・・・・・・あ・・・・・・」

 

ネストは迷ってしまった。

確かにこのまま故郷行けば伝説の七天龍の力の1つを持ってるとして家族に尊敬されるかもしれない。

 

 

自分の居場所に戻れる。

 

 

ネストの心の天秤は揺らいだ。

 

 

この要塞を止めて独りで生きていくか────

 

 

このまま進めて家族の元へ戻るか────

 

 

「ネスト」

 

龍護がネストに呼び掛ける。

 

「頼む。これを────」

 

────あ、貴方は口出ししないでね?

 

突然、龍護を捉えていた檻の前に壁が下から現れて、龍護の姿が見えなくなっていき、同時に声も聞こえなくなっていく。

そしてとうとうお互いに声や姿を認識出来なくなった。

龍護は壁越しにネストへ何かを訴えているようだがネストには全く聞こえない。

 

────さぁ、選んで?もし貴女が帰るのなら私は協力するわ。

 

「・・・家族の所に・・・帰れる・・・」

 

ネストの心は揺らいだままだった。

今すぐに止めれば自分達はここから抜け出せる。

でもそこからは独りで生きて行くしかない。

 

だがこのまま家に帰れば伝説の七天龍の1つを宿してるとして家族に迎え入れられるかもしれない。

 

「先輩・・・────」

 

ネストの心は────

 

「────ごめんなさい」

 

帰る事に傾いた。

 

「私は・・・家族の元に帰りたい!!!!」

 

────そう?なら任せて。

 

ネストは【嫉妬の龍】の口車に乗せられた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「こんのっ!!!!」

 

必死に龍護は壁に体当たりを続けている。

 

(頼むネスト・・・早まるなよ・・・!!!!)

 

ピリリリリ・・・ピリリリリ・・・

 

ポケットの中のスマホに着信が入った。

相手は友姫のようだ。

 

「どうした!?」

『リューゴ!すぐにネストちゃんを止めて!!!!さっきからヘリコプターや人が落ちていってる!!!!』

「なっ!?」

 

止まらずに進んでいる────という事は、ネストは【嫉妬の龍】の話に乗った事を意味していた。

友姫は今、途中で合流した雪菜の車に乗って、街中で【嫉妬の龍】の下を走っていた。

そして上からはヘリコプターの残骸や人が落ちてきている。

街にいる人々は悲鳴を上げながら逃げ回っていた。

そして雪菜も必死に避けながら運転している。

誰が見てもその光景は地獄絵図だった。

 

「クソがッ!!!!」

 

ガッ!!!!と龍護が床に拳を叩き付ける。

そんな中でも龍護は必死に考えていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

龍護が要塞内で考えてる中、友姫も下から【嫉妬の龍】が作り上げた要塞を見て打開策を練っていた。

1人の隊員が下に潜り、繭型の要塞に近付く。

なんと、隊員は繭型の要塞に近付けていた。

だがすぐに要塞も気付けたのか、触手が隊員を握り潰して隊員は落ちていく。

その様子に疑問を感じた友姫。

 

(まさか・・・)

 

友姫の中でとある結論が出た。

だが確信は出来ないのも事実。

 

「リューゴ」

『何だ?』

「私・・・やってみる」

『・・・は?』

「見付けたかもしれない・・・あの要塞の弱点」

 

友姫の言葉に龍護の声は驚いていた。

 

『待て!?まさかお前・・・』

「雪菜さん!あの高いビルで車止めて!」

「えっ!?はい!」

 

友姫は龍護の声が響いている電話を切って雪菜に指示を出した。

雪菜は交通網が混乱してる中を走って、友姫の指示したビルの横に車を停める。

 

「行ってくる!」

「は・・・はいお気を付けて!」

 

友姫は走ってビルの中に入る。

中は監視員も誰もいなかった。

それをいい事に仕切られている所を飛び越えてエレベーターのボタンを押す。

すぐに扉が開き、友姫は最上階である45階のボタンを押した。

扉が閉じて上に上がっていく。

 

ピンポーン

 

扉が開いた途端に友姫はすぐに走り出し、屋上に続く階段を駆け上がる。

屋上に着くと繭型の要塞はすぐそこまで近付いていた。

 

(落ち着いて・・・私なら出来る・・・)

 

友姫はポケットに入れておいた包帯を顔に巻いて素性を隠し、無属性魔法の浮遊で浮き上がる。

それと同時に【怠惰の龍】の能力無効化を発動した。

準備は万端だ。

その様子をまだ浮いていたヘリコプターが撮影している。

 

「ご覧下さい!包帯を顔に巻いた正体不明の女子高生が浮遊する要塞に近付いています!」

 

その声は要塞内にまで届いていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

────あら、あの子【怠惰の龍】の所持者だったのね。

 

【嫉妬の龍】の言葉とスクリーンに驚くネスト。

 

「嘘・・・ラジネス先輩もだったの・・・!?」

 

【嫉妬の龍】が何本も触手を出現させ、友姫を襲わせる。

だが友姫も紙一重で避けて近付いてくる。

そこで再び【嫉妬の龍】は何かを思い付いた。

 

────ねぇ主?

 

「な・・・何?」

 

────さっきの男子って想い人?

 

「え・・・?」

 

恐らく【嫉妬の龍】は龍護の事を言っているのだろう。

その事に気付いて顔を赤くするネスト。

 

「えっ!?いや・・・その・・・」

 

────もしも彼が優秀なら家族の元へ帰った時に両親に説得すればお婿さんにさせてもらえるかもね?

 

「・・・・・・・・・え?」

 

確かに龍護は魔法適正がSランクで闇属性の魔法の所持者。

友姫やその父親以外は知らないが【強欲の龍】の所持者だ。

もしもこの2つが明らかになったら家族からの期待度はより一層高まるだろう。

 

「先輩が・・・私の・・・」

 

ネストの頭は既に【嫉妬の龍】によって正しい判断が出来ないでいる。

 

────そう。だって貴女・・・あの男が欲しいんでしょ?

 

その言葉を聞いてネストの心は再び揺らいでしまう。

本来のネストなら、龍護を巻き込みたくない。と却下するはずだ・・・だが今は違う。

この要塞に、【嫉妬の龍】の可能性に酔ってしまい、正しい判断が出来無くなり始めている。

 

「先輩・・・私の彼氏になってくれるの・・・喜んでくれるかな・・・?」

 

────そりゃそうよ。後は貴女がどうしたいかだけ。人はより有能な人を好むのよ?なら今、ここで、貴女が優秀な子である事を示してあの男を独り占めしちゃえばいいじゃない。

 

ネストの心に響く【嫉妬の龍】の甘く危険な誘い。

完全にネストは【嫉妬の龍】の人形になっていた。

 

「私と・・・先輩・・・」

 

フラフラと先程の椅子に座る。

 

「私の家族に紹介しないと・・・」

 

ネストとネストの心は完全に【嫉妬の龍】に掌握され、完全な操り人形となってしまった。

 

────なら、あの子、排除しないとね。

 

「そう・・・だね・・・私の先輩を奪う気なら────殺さないと」

 

ネストの敵意は完全に【嫉妬の龍】から友姫に切り替わった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

友姫は【怠惰の龍】の能力無効化によって触手による攻撃を無効化して霧のように霧散した。

すると1本の触手の先が筒状になる。

 

(何が来る・・・?)

 

そう考えた時だった。

その筒から炎の弾が飛んできたのだ。

だが友姫の周りにある無効化の範囲に入ると炎の弾は消えてしまう。

 

(今の所・・・大丈夫・・・)

 

友姫は少しづつだがゆっくりと要塞の下に近付いている。

その時だった。

触手の1本が無効化の範囲に入っても細くなるだけで友姫の身体に近付いた。

友姫は咄嗟にその場を離れる。

 

(っ!?何が・・・!?)

 

要塞の本体を見ると表面は波のようにしなり、形が変わっていく。

と言うよりも全体から鋭利なブレードが繭から生えてきている。

そしてそのブレードは長くなっていき、繭は回転を始めた。

それに伴い、ブレードも回っている。

これでは迂闊に近付いたら切り刻まれるだろう。

だが自分には【怠惰の龍】による能力無効化がある────そう信じたからこそ友姫は【怠惰の龍】の力に関わる最大の弱点に気付けなかった。

友姫は浮遊状態から加速し、繭に接近する────がその前に繭が作ったブレードが友姫の腕の皮1枚を切り裂いた。

 

(え・・・!?)

 

そこで止まるべきでは無かった。

無効化が効かない事に戸惑った友姫に対して回転していたブレード達は止まり、一斉に友姫に襲い掛かり、友姫の身体を切り裂いた。

 

「っぐぁ・・・・・・!」

 

全身に切り傷が入り、血が滲み出る。

痛みに意識を取られて【怠惰の龍】の能力が一時的に解除される。

そして下からの触手に気付けなかった。

友姫の足を捉えた触手は友姫をビルへと投げ飛ばした。

投げられた友姫は窓ガラスを割ってビル内を転げる。

 

「ゲホッ・・・ゴホッ・・・ッ!」

 

全身がズキズキと痛む。

だが同時に不思議に思った。

 

(なんで!?なんで無効化出来ないの・・・!?)

 

先程までは無効化出来ていた。

なのに何故急に出来なくなったのか。

理由は簡単である。

 

【嫉妬の龍】の力が【怠惰の龍】の力を上回ったからだ。

 

そして理由は他にもある。

当時の彼等は世界各国で暴れていた。

ならば確率が低くとも偶にであればお互いが遭遇する事はあるはずだ。

そんな時になぜ味方の力を無効化する必要があるのか────

【怠惰の龍】の能力は相手の能力の無効化。

でもそれには制限がある。

無効化出来るのは魔法かあるいは同胞以下の者のみ。

だが【七天龍の遊戯】ではお互いに能力を使って相手を倒す為、相手が持つ龍の力を自分より使いこなせていない時に限る。

つまり、その者が能力を引き出せば引き出す程【怠惰の龍】の無効化の効果は薄れていってしまう。

今になって漸くその事に気付けた。

 

(どうすれば・・・?)

 

咄嗟に電話をした。

相手は龍護だ。

 

「もしもし・・・リューゴ・・・?」

『どうした!?何があった!?』

「ちょっと・・・キツいかも・・・」

『え・・・!?』

 

友姫は龍護に【嫉妬の龍】の能力が無効化出来なくなっている事を素直に話す。

 

『嘘だろ・・・!?クソッ!どうすれば・・・』

「私は私なりに色々やってみる・・・だからリューゴもお願い・・・私をサポートして・・・!」

 

友姫はそう言って電話を切った。

 

「ネストちゃん・・・もしもあなたが【嫉妬の龍】に利用されてるなら後で謝ったらちゃんと慰めてあげる・・・でも・・・」

 

友姫の目に怒りが宿る。

 

「これがあなたの選択なら・・・私はあなたを絶対に許さない!!!!」

 

龍護が中で打開策を練ってる中、友姫は再び繭へと挑もうとしていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

要塞内の檻に囚われている龍護も必死に頭を回転させていた。

 

(どうすればいい!?友姫の龍の能力は効かねぇ・・・考えろ・・・考えろ考えろ考えろ考えろ!!!!何か打開策があるはずだ・・・使えるのは龍の力じゃなく・・・て・・・・・・も・・・・・・?)

 

龍護の頭の中でとある提案が浮かぶ。

だが

 

(これをするなら両方の意識を一時的にこっちに向けねぇと・・・)

 

龍護はスマホを取り出す。

そこに友姫宛のメッセージを送った後にとあるメッセージを打ち込んだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

ブーブー、ブーブー

 

ネストのポケットに入っていたスマホに着信が入る。

【嫉妬の龍】に読みたいと頼むと左手を筒から出させてくれた。

メッセージの送り主は龍護のようだ。

 

《ネスト、1つ提案がある。少しだけでもいいから話がしたい》

 

「・・・ねぇ、【嫉妬の龍】」

 

────ん?なぁに?

 

「龍護先輩と・・・話していいかな?コントロールはそっちに任せるから」

 

────・・・まぁ、少しくらいなら・・・

 

ネストは筒から両手を出して龍護の囚われている壁に向かい、壁に触れると真ん中から裂けて龍護の姿が見えた。

 

「ネスト・・・」

「先輩・・・」

 

だがまだ【嫉妬の龍】の意識は壁のモニターでこちらを見ていない。

そこで龍護はある提案を出した。

 

「お前らに協力する」




本年もよろしくお願いします

【七天龍の遊戯参加リスト】
・怠惰の龍
友姫・S・ラジネス

・強欲の龍
奪木龍護

・嫉妬の龍
ネスト・ジェーラス

・??の龍
不明

・暴食の龍
不明

・色欲の龍
不明

・憤怒の龍
ルシス・イーラ(死亡)

お気に入り登録、感想等お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

譲れぬ想い

いとことゲームしてたら投稿を忘れていたというね…


「協力・・・?」

「そうだ」

 

龍護の提案にモニターを見ながら【嫉妬の龍】の”眼”はクスクスと笑い出す。

 

────何を言うかと思えば・・・ただの命乞いじゃ・・・

 

「俺が【強欲の龍】の所持者であってもか?」

 

その言葉に【嫉妬の龍】の”眼”はピクッと反応し、こちらを見た。

それをいい事に龍護は左手の白い紋章を見せる。

【嫉妬の龍】の”眼”は近くまで寄ってきてその紋章をまじまじと見た。

 

────まさか・・・本物ね・・・驚いたわ。で、貴方はどうやって私達に協力をするの?

 

正直言うとここから先は言ってしまったら全てが水の泡となってしまう。

だからこそ、こう答えるしかなかった。

 

「えっと・・・考えてる・・・」

 

龍護の答えに呆れたのか目を細める【嫉妬の龍】。

 

────はぁ、ネスト。もうこの男に用は無いからあの【怠惰の龍】の娘を倒すのに専念しましょ。

 

「・・・うん。そうだね」

 

2人が龍護から離れていく。

だがそれだけで十分だった。

この短い時間が龍護にとっては重要な時間だったのだ。

ネストと【嫉妬の龍】はそれに気付かないまま元いた所に戻る。

そして再びモニターを眺め始めた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

友姫も外側から再び【嫉妬の龍】の監獄に近付いている。

その時だった。

 

ブーブー!

 

ポケットに入っているスマホにメッセージが届く。

一旦離れて文章を見た。

その文章を見て、友姫は笑みを浮かべながら《リューゴの事、信じるからね》とだけ打って送信し、一旦地面に降り、物陰に隠れた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

【嫉妬の龍】とネストも友姫が隠れるのをモニター越しに追っていた。

 

────何をする気かしら?

 

「分かんない・・・けど油断しないで」

 

するといきなり友姫が出てきてこちらに迫って来る。

 

────追い返すわ。

 

「お願い」

 

ブレード達を集中させ、友姫を切り刻もうとしている。

だが友姫はそれらを寸での所で躱し続け、画面から外れること無くこちらに近付いている。

 

────くっ!早い・・・!

 

「私も手伝う!!!!」

 

ネストもブレード化した触手達を操作して友姫を撃ち落とそうとしている。

その内の1本が友姫に迫り──────すり抜けた。

 

────!?まさか・・・!?

 

【嫉妬の龍】が龍護を睨む。

当の本人はしてやったような表情を浮かべていた。

モニターの友姫は龍護が表面上に写した幻覚魔法だったのだ。

 

────このっ!!!!

 

龍護の背後から触手の槍が現れ、龍護の肩を後ろから貫く。

 

「ぐっ・・・!!!!」

 

痛みに耐えかねて龍護が作ったスクリーン上の友姫の幻影は消えてしまった。

 

────どうやら痛い目を見ないと立場ってものが分からないようね?

 

そう言って龍護の首を触手で締め上げる。

 

「あ・・・・・・が・・・・・・!!!!」

 

少しずつ遠のいていく龍護の意識。

そして気絶する寸前だった。

要塞内の床の1部が破壊され、下から無効化能力を纏った友姫が現れる。

 

「ラジネス・・・先輩・・・」

「ネストちゃん・・・」

 

友姫が視線を移すと気を失った龍護がいた。

すぐに駆け寄って右足の1部に【怠惰の龍】の無効化能力を凝縮させて檻を蹴破った。

 

「そんな・・・!!!!」

 

友姫が見せたのは無効化能力の範囲を狭める応用。

部分的に無効化範囲を集中させる事で無効化能力の力を強めたのだ。

 

「リューゴ!」

 

友姫が駆け寄って龍護を抱き起こす。

 

「リューゴ!しっかり!」

 

ペチペチ!と龍護の頬を軽く叩いて起こそうとする。

すると漸く龍護が目を覚ました。

 

「成功・・・したんだな・・・」

 

そう、龍護が今までやっていたのは陽動。

友姫が下からの侵攻には対応出来ない事を突き止め、龍護が側面からの侵攻に見せていたのだ。

友姫はここにいて。と龍護を壁に寄り掛からせる。

そしてネストと向かい合った。

 

「ネストちゃん・・・1つだけ聴かせて。あなたはその”眼”に唆されたの?」

「・・・」

 

ネストは口を紡ぎ、半歩友姫から離れる。

 

「答えなさい!!!!」

 

遂に痺れを切らした友姫がネストに怒鳴りつけた。

一瞬ビクつくネストだったが友姫に睨み返す。

 

「私は・・・このまま龍護先輩を連れて故郷に帰ります」

「そんな事・・・許されると思ってるの?」

「思ってません・・・ですから・・・」

 

ネストの周りに5本の土の槍が現れる。

 

「あなたを倒して連れて行きます!!!!」

 

一斉に槍が友姫に襲い掛かる。

だが友姫は立ち止まったままだ。

 

「分かった・・・何を言っても聞かないみたいね・・・なら、私は────」

 

ブン!!!!とたった一撃で友姫は能力無効化の膜を纏わせた右足で土の槍を一掃する。

 

「あなたを・・・────赦さない」

「・・・っ」

 

友姫から溢れ出る怒りと殺気。

 

自分が認められたいが為に他者を巻き込む。

 

そんなネストに友姫は怒りを露にしていた。

遂に友姫は駆け出してネストに迫る。

だがネストと【嫉妬の龍】も黙ってはいない。

すぐに先端を鋭利にした触手を友姫に突き付ける。

だが友姫は右腕全体に無効化の膜を張って触手を砕いていく。

だが途端に友姫の進撃が止まる。

足に触手が絡まっていた。

【嫉妬の龍】が背後から襲わせたのだ。

 

────貴女も少し痛い目に遭わせてあげる。

 

すると友姫の周りから何本もの触手が現れて友姫の全身を鞭打つ。

スパァン!!!!スパァン!!!!と音が鳴り響く度に友姫の制服は破け、血が滲み、口からは悲痛な声が漏れる。

そして上から触手が伸びてきて友姫の首に巻き付き、締め上げていく。

 

「ぐっ・・・・・・!!!!」

 

少しづつ呼吸が出来なくなり、意識が遠のいていく。

そこへ触手が友姫の腹を目掛けて鞭打った。

それと同時に首の触手は緩み、友姫は咳き込んでしまう。

だが呼吸が安定仕切って無いのにすぐに触手は友姫の首を締め上げた。

少しづつ痛ぶって殺す気だ。

 

(どうにか・・・しないと・・・!)

 

頭では分かってる。

だが友姫の足には触手が絡み付いたままだ。

いくら足掻こうとも解ける事は無い。

必死に無効化能力を使おうとしているが首を締めたり緩めたりされている為、そちらには意識を集中させる事も出来なかった。

 

だが方法はあった────

 

回復した龍護が友姫の身体の1部に触れながら【強欲の龍】の能力【コピー】を使ったのだ。

途端に白い小さな繭にくるめられた友姫と龍護。

ネストと【嫉妬の龍】は警戒しながら外の様子も注意していた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「ゲホッ・・・!ゴホッ・・・!」

「友姫、大丈夫か?」

 

龍護はすぐに光属性の魔法を使い、友姫を回復させる。

 

「大・・・丈夫・・・」

 

龍護はふぅ・・・と一安心する。

 

「それで・・・どうする?」

「私は、ネストちゃんを止めたい」

 

だろうな・・・といいながら立ち上がる。

 

「1つだけ、方法があんだけどこれは呼吸を合わせないとキツいかもしれない」

 

どうやら龍護は友姫に判断を煽るようだ。

それに対して友姫は────

 

「あまり狡い事はしたくないけど・・・分かった。龍護のいう方法でやろう」

 

そして龍護はその方法を友姫に伝えた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

突如繭の1部が割れて中から友姫が飛び出してきた。

【嫉妬の龍】はそれに対して触手を叩き付ける。

当然友姫は吹き飛ばされ、壁に叩き付けられた。

だが繭から出てきたのは友姫だけで龍護は中々出てこない。

よく見ると反対側に穴が空いてるのが見えた。

すると突然ネストの左側からスタンガンを持った龍護が現れてネストの身体にスタンガンを押し付けようとしていた。

それを【嫉妬の龍】が触手を使ってスタンガンを破壊し、龍護の胴体を触手で貫こうとする。

龍護も必死で躱し続ける。

 

────っく!ちょこまかと!!!!

 

既にスタンガンを持った龍護はネストの目前。

だが黙って見ているネストでは無い。

目を逸らして土の槍を作り、龍護目掛けて飛ばす。

その槍は────龍護をすり抜けた。

 

「なっ・・・!?」

 

スタンガンを持った龍護自体が幻覚だったのだ。

そして【嫉妬の龍】は飛ばされた友姫を見る。

その友姫も姿を変え、龍護となった。

 

────まさか・・・!!!!

 

本物の友姫の居場所に気付くも既に遅く、右手に雷属性を纏わせ、龍護の幻覚で繭の中に潜んでいた友姫がネストに迫る。

そして────右手をネストの身体に押し付けた。

 

「ガアアアアァァァァアアアアッッッ!?!?」

 

それと同時にネストの身体中を電流が駆け巡り、ネストは悲鳴を上げながら気を失い、友姫にもたれ掛かった。

友姫がうなじの紋章を見る。

紋章はあったがジワジワと消えていった。

所持者が気を失い、その機能が失われ始める。

 

────そんな・・・!!!!

 

「へっ・・・俺達の・・・勝ちだ・・・」

 

────この・・・・・・クソガキどもがあああぁぁぁぁあああ!!!!!!!!!!!!

 

【嫉妬の龍】が触手を暴れさせる。

だが友姫は能力無効化を右手に纏わせて【嫉妬の龍】の”眼”と壁を繋ぐ管を両断した。

 

────いぎゃあああぁぁぁぁぁあああ!?!?!?

 

【嫉妬の龍】は悲鳴を上げる。

恐らく壁と”眼”を繋ぐ管には感覚があったのだろう。

その断面から緑色の液体がボトボトと要塞の床に落ちて行く。

 

────私の・・・・・・コレ・・・・・・ク・・・・・・

 

【嫉妬の龍】の”眼”が閉じた。

その瞬間、友姫と龍護の勝利が決定した。

 

「終わった・・・のか・・・」

「うん・・・」

 

友姫が一旦ネストを床に横にする。

 

「殺ったのか・・・?」

「ううん・・・気絶する程度でやったから・・・」

「そっか・・・」

 

龍護と友姫は緊張の糸が解けたのか、その場で座り込んでしまう。

 

「まさか・・・ここまで大事になるとはな・・・」

「うん・・・」

 

相手に勝ったとはいえ友人に手を出したのだ。

友姫は根っからの真っ向勝負好き。

そして何十人もの無関係な人が亡くなった。

様々な罪悪感が友姫と龍護の心を締め付ける。

その時だった。

繭が揺れ始め、所々に罅が出来る。

核を失ったのだ。

繭型の要塞の外殻は崩れ始め、真下にあった池に次々と落ちて行く。

そしてその罅は内部にもすぐに伝わり、ネストが横になっている所を罅が囲む。

 

「ネストちゃん!!!!」

 

友姫は手を伸ばしたが既に遅く、ネストは池へと落ちていった。

 

「友姫!俺達も離れよう!掴まれ!」

 

友姫はすぐに龍護の腕を掴む。

そして龍護は闇属性の魔法で自分達の姿を消して浮上し、繭から脱出した。

すると龍護のスマホに着信が入る。

雪菜だ。

 

「雪菜さん?どこにいます?」

『【サンライフビル】というオフィスビルの前です!そちらはご無事ですか!?』

「こっちは問題無いっす。今からそっちに行きます」

 

龍護はそう言って電話を切り、雪菜の待つサンライフビルへと向かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「ゲホッ・・・!!!!ゴホッ・・・!!!!」

 

池からネストが這い上がってきた。

だがすぐに何者かに襟を掴まれて地面に押し付けられる。

そこに深く帽子を被ったスーツの男性が歩いてきた。

その者に驚愕するネスト。

 

「なんで・・・あなたが・・・まさか・・・!!!!」

 

喜龍学園は中学の方では留学生は受け入れを行っていない。

だが自分が入れてそれに対して周りがなんの疑問を持たない事にネストはおかしいと思ったが現時点でその理由に気が付いた。

 

「まさか・・・あなたも龍の所持者だったの・・・!?」

「フッ・・・今更だな・・・幸福な一時はどうだったかね?」

 

ネストはその男性を睨み付け、反論した。

 

「あなたがいなければ最高でしたよ」

「それはそれは・・・1つ聞こう。君は今までに【怠惰の龍】の他になんの龍の所持者と遭遇した?」

 

ネストは教える気は無いのか、視線を逸らす。

 

「今教えれば君は必ず家族の元へ帰れるぞ?」

「・・・え?」

 

男性の口から放たれた唐突な誘い────だが────

 

「あなたみたいな・・・最低な屑に教えると思う?」

「あぁ、思わん・・・だから────」

 

男性は指示を出し、横にいた男性が懐から黒く光るものを握ってその先をネストの足に向け────引き金を引いた。

 

「────!!!!!!!!」

 

ネストは悲鳴を上げようにも押さえ付けていた男性が口を塞いでくぐもった声しか出せなくなる。

 

「紋章だけ頂いて────お別れだ」

 

銃を持った男性がネストの額に銃口を合わせる。

それと同時にネストの脳裏には龍護達と出会って今までの事が走馬灯として再生される。

 

 

 

初めて己の才能を認めてもらい────────

 

 

 

初めて人の暖かさに触れ────────

 

 

 

初めて友人が出来て────────

 

 

 

初めて自分を心配してくれて────────

 

 

 

初めて────────恋をした。

 

『先輩────』

 

ネストは初恋の人がいるであろう方向に手を伸ばす。

 

必死に助けを求めるかのように。

 

龍護と出会ってネストは変われた。

今思うともっと早く出会っていればどうなっていただろう・・・

その答えを知る術は既に無い。

 

 

 

だがそれでも・・・それでもいいからネストは帰りたかった

 

 

 

自分が何をしてきたか話したかった

 

 

 

家族と笑いたかった

 

 

 

自分が好きになった人を紹介したかった。

 

 

 

ネストの目に涙が溢れ、頬を伝う。

 

(先輩・・・さようなら・・・でも1つだけ言わせて・・・)

 

一方的な・・・そして届いてもそれは叶わないであろう言葉。

 

(先輩・・・貴方の事が────)

 

その瞬間、1つの小さな金属がネストの眉間を貫いた。

そして息絶えたネストに謎の男が手を翳す。

 

「【我が元に集え】」

 

紫色の紋章が淡く光り、少しづつ消えていく。

すると黒と赤に光る男の目に紫色の輝きが追加された。

 

「帰るぞ。それは棄てていけ」

「・・・はい」

 

男が近くにいたSPの女性に指示を送るが動こうとしない。

 

「・・・どうした?」

「あの・・・本当に宜しいのでしょうか?」

 

女性の問い掛けに男は何がだ?と質問で返す。

 

「彼女はあの名家の子ですよ・・・?それを棄てるなんて・・・!」

 

女性の言葉に男はハァ・・・と溜息を付き、腕を掴んで強引に引き寄せる。

 

「俺の目を見ろ」

 

突然の事にほぼ自然とその男の目を見る。

すると目から光が消え、無表情に変わってしまう。

 

「もう一度言う、棄てろ」

「かしこまりました」

 

女性は先程とは違い、なんの躊躇いもネストを池に投げ捨てた。

そしてその数時間後に一般人がネストの遺体を発見した。




閲覧頂き、ありがとうございました。

【七天龍の遊戯参加者】
・怠惰の龍
友姫・S・ラジネス

・強欲の龍
奪木龍護

・??の龍
不明

・嫉妬の龍
ネスト・ジェーラス(死亡)

・憤怒の龍
ルシス・イーラ(死亡)

・??の龍
不明

・??の龍
不明

少しづつ参加者も減ってまいりました。

感想、お気に入り登録宜しく御願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

潜む影

書き溜め増やさないと…


後日、ネスト・ジェーラスは水死体として発見された。

テレビのニュースでは《謎の浮遊物体出現》として当時の映像が流れている。

そしてその時、繭から落ちた女子高生がネスト・ジェーラスと知るとネストを引き離した両親が『私達の娘を返せ』、『日本の安全管理はどうなっている』、『人殺し』等、自ら引き離したくせに偽善な言葉を並べて日本側、そして国立喜龍学園に多額の慰謝料を請求してきた。

日本は事を荒らげたくない為、要求に応じる他無かった。

それと同時に喜龍学園に大勢のマスコミが押し寄せ、生徒達にインタビューするも、教員達が先手として『彼等のインタビューに応じるな』と釘を刺しておいた為か、マスコミは有力な情報は得られなかった。

だがとある1人の生徒が目立ちたいからか、『3年生の方達と仲良くしていた』と情報を流してしまい、当時、話していた北野白、北野雫、安達野武、友姫・S・ラジネス、奪木龍護にインタビューしたいと再びマスコミが押し寄せ、ジェーラス家も龍護達と会って話をしたいと言ってきたのでこれ以上の混乱は招きたくないとして5人に出るように頼むしかなかった。

当然白、雫、野武は少し話しただけでそれ以上の事は知らない。

だが友姫と龍護は違う。

友姫はネストを倒した張本人。

龍護はネストと合同授業で一緒になっている。

その中でも1番にマスコミが集中したのが龍護だった。

 

『今回、死亡したネスト・ジェーラスさんに対してどんな思いですか?』、『ネスト・ジェーラスさんとはどんな関係で?』、『ネスト・ジェーラスさんの死について貴方は関係しているのですか?』等、ズカズカとプライベートな質問を飛ばしてくるマスコミに苛立ち、教員達からは『出席扱いにしておくから当分は家を出ない方がいい』と促され、龍護は事が収まるまで自宅待機を余儀なくされた。

そして2週間が経った頃、漸くマスコミの姿も減ったのか、ジェーラス家が龍護との会談を申し込んできた。

喜龍学園側はお断りしたいと言ったが『なら国家間問題として貴方方を訴える』というようなメッセージを受け、仕方なく龍護との会談を許可せざるを得なかった。

だが龍護にとっては相手を黙らせるチャンスとして受け取り、会談に臨むことにした。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

当日。

学園長室の椅子に龍護は座っていた。

初めて入る所にソワソワするも、会談の時間になる。

机の上には1台のパソコン。

会談といっても画面越しのようだ。

着信が入り、応答する。

 

「はい、こちら国立喜龍学園です」

 

相手はジェーラス家のようだ。

すぐに画面に出すように言われたのか、教員は焦りながら回線を繋いだ。

龍護の目の前にあるパソコンに1人の男性が映し出される。

太っていて、髪は薄く、身長も低い。

デブ・チビ・ハゲ。

三拍子揃ったこの人がネストの父親なのか・・・と龍護は落胆をしてしまった。

 

『君が、リューゴ・ダツギかね?』

 

その目は明らかに龍護を見下している。

恐らくは自分がジェーラス家である事に酔いしれているのだろう。

 

「はい、私が奪木龍護です・・・貴方の娘さんであるネスト・ジェーラスさんとは合同授業で一緒になりました」

『なるほど・・・君は私の最愛の娘であるネストの死についてどう思ってる?』

 

自分で捨てておいて何が最愛だ、この偽善糞狸。と心の中で毒づきながらも龍護は答える。

 

「正直に言いますと痛々しい事件でした。ネストさんは合同授業では私のパートナーで、御本人にも伸び代はあったので尚更です」

 

伸び代────この言葉にネストの父親はピクッと反応する。

 

『伸び代?なるほど・・・君ほどの実力であればネストを見ても伸び代があると見えるか』

 

その言葉に苛立ちを覚える龍護。

途端に龍護が行動した。

教員達を学園長室から追い出したのだ。

これで学園長室にいるのは画面越しのネストの父親と龍護の2人のみとなる。

 

「ふぅ・・・これでアンタと正直に言い合い出来るな」

 

突然口調が変わり、えっ?と疑問に思うネストの父親。

 

「最愛の娘だとか、よくそんな思いもしてねぇ事言えるんだな?」

『何を・・・私は────』

「聞いたぜ?アンタ・・・ネストの魔法適正がCってだけで地元の名門校に行かせなかったんだろ?」

 

その言葉を聞いてネストの父親はチッ・・・と舌打ちをする。

 

『まぁ、確かにネストは落ちこぼれだ。ジェーラス家の恥でもある』

「つまり、アンタにとってネストはどうでもよかったと?」

『何を今更。伝統を受け継ぐ事が出来ない者に慈悲など存在すると思うかね?』

 

その言葉を聞いて龍護は確信した。

元々家に連れ帰る選択肢は存在してなかったのだと。

 

「なら・・・気兼ねなくこの映像を流せるな」

 

龍護は自分のスマホを取り出して画面を見せる。

そこにはネストが映っていた。

 

『・・・何のつもりだ?』

「聞けば分かりますよ」

 

龍護が再生ボタンを押す。

 

《私はネスト・ジェーラス・・・私は家族や親戚に冷遇されています》

 

これは以前、龍護とネストが2人でいた時に撮った映像だ。

ここからは完全に龍護のターンとなった。

 

「最愛・・・ねぇ・・・この動画をネットに上げたらマスコミはどんな反応をするだろうな?」

『・・・陰湿な脅しだな』

「どうとでも言え。偽善の塊のアンタが言うことでもねぇしな」

『・・・要求を聞こう』

 

龍護は《もう、学園には関わらないこと》、《ネストの葬式は故郷で行い、埋没する事》、《ネストの遺体に謝罪する事》を要求した。

 

「次にまた何かしに来たら動画を上げるからな」

『フン。2度と低能な庶民如きに関わりたくないわ』

 

そう言い捨てネストの父親は回線を切った。

そして龍護はダン!!!!と拳を机に叩き付ける。

 

「子どもの可能性を捨てるテメェみたいな屑親の方が低能だろうが!!!!」

 

ドアを開け、会談が終わった事を告げる。

まだ引っ掛かりはあるが無事に会談は終わる事が出来た龍護であった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

翌日。

案の定、龍護は周りの生徒からあの後の事を聞かれたのだが話す事は無かった。

そして当の本人は今、机に伏してぐったりとしている。

 

「お、お~い・・・大丈夫・・・な訳無いか」

 

白が龍護の様子を見に来たが、ぐったりしている様を見てすぐに察していた。

そこに友姫が現れて少し1人にさせておこうと白に言って2人はその場を離れた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

龍護は考えていた。

明らかにおかしすぎる────と。

龍の所持者が周りに集まり過ぎている。

1人目の脱落者である【憤怒の龍】の所持者、ルシス・イーラは龍護の義姉である恵美の彼氏。

2人目の脱落者である【嫉妬の龍】の所持者であるネスト・ジェーラスはこの学園の後輩。

何者かによって周囲に集められてる感じがしていた。

今のところ2人しか脱落していない為、確信は出来ないでいる。

だが今後、龍の所持者が龍護や友姫の近くに現れるのであれば誰かの作為である可能性は高くなる。

そのような事を出来るとしたらその張本人は何者なのか────

 

(・・・雪菜さんに頼んでみっか・・・)

 

龍護は教師に、まだ体調が優れない。と言って今日は帰ることにした。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

『ルシス・イーラとネスト・ジェーラスを殺害した人を調べてほしい・・・ですか』

「出来ます?」

 

龍護は友姫の家に戻り、雪菜と電話をしている。

 

『少し厳しいかもしれません』

「・・・ですよね・・・」

 

ダメ元は承知の上だったが実際に無理となると現実を見せられているような気がしてならない。

龍護が諦めて電話を切ろうとした時だった。

 

『一応伺いたいのですが緊急ですかね?』

「いや・・・それ程ではありません」

『では時間を頂けますか?知り合いにかなりの権力者がいるので運が良ければその人が調べてくれるかもしれません』

「そうですか・・・それじゃあおね────」

『ですが』

 

龍護がお願いします。と言いかけて雪菜の声が被さってしまう。

 

『理由は分かりませんがネストさんは水死体、ルシスさんは焼死体として発見されています。調べて行く上でもしも理由があったのだとすればそれは”犯人が隠蔽工作をした”となり、それが出来るのは限られた人物だけです。龍護さんの名前は伏せますがもしも貴方の名義で調べている事が判明した場合、貴方自身が消される可能性がありますので忠告させて頂きます』

「分かりました・・・すみません色々と」

『いえ、こちらも熱くなってしまいすみませんでした。それでは今から聞いてみますので結果をお待ち下さい』

「はい」

 

お互いに通話を切った。

そしてふと龍護はカレンダーを見る。

既に遊戯開始から4ヶ月が経過し8月になっていた。

 

「あ・・・そういえば・・・」

 

龍護はスマホのカレンダーを見ると9月20日に【!】のマークが表示されている。

その日をタッチし、項目を開いた。

 

【義姉の誕生日】

 

龍護の義姉である恵美の22歳の誕生日だ。

今日は8月6日の為、後3週間程度は余裕に空いている。

 

(・・・探してみるか・・・)

 

龍護は立ち上がり、出掛けることにした。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

雪菜は龍護との電話を切るとフゥ・・・と息を吐く。

 

「なんだかんだ言って奪木さんも子どもなのよね・・・」

 

フフッと笑みが零れてしまう。

 

「さてと・・・」

 

雪菜は電話帳アプリを開いて目的の人物に電話を掛ける。

 

「あ、雪菜です。ちょっと調べてほしい事がありまして・・・」

 

雪菜は伝えたい事を一通り伝え、借りているアパートへと帰っていった。




閲覧ありがとうございました。

【七天龍の遊戯参加者】
・怠惰の龍
友姫・S・ラジネス

・強欲の龍
奪木龍護

・??の龍
不明

・憤怒の龍
ルシス・イーラ(死亡)

・嫉妬の龍
ネスト・ジェーラス

・??の龍
不明

・??の龍
不明

お気に入り登録、感想お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

姉弟の秘密

夜勤になったから執筆出来る時間が削られていく…


龍護は百貨店に来ていた。

義姉である恵美の誕生日プレゼントを選びに来ている。

とはいえ女性の感性が分からない為、龍護はプレゼント選びに手間取っていた。

 

「友姫も連れて来りゃ良かったかなぁ?」

 

だが今は授業中。

友姫も成績は良くなってきたが不安要素はまだ残っている・・・というか友姫が授業中を抜け出すイメージが出来ない。

あれでも真面目なのだ。

すると7頭の龍の置物を見つける。

伝説である【7頭の龍】を模した置物だ。

だが色や形的に年寄りが選びそうな感じがあったのでボツとなる。

 

「やべ・・・マジで詰んだかも・・・」

 

龍護は仕方なく無料通話アプリのメッセージ機能で『義姉に贈るものを選んでんだけど男の目線からはミスりそうだからアドバイス頼む』と休み時間になったタイミングでメッセージを送った。

その2分後、『オススメはアクセサリーとかかな。ティオなら女性向けのが豊富だから行ってみて』と返ってきた。

 

ティオ

様々な店が揃う巨大なショッピングモールで一部の店舗では若い男女のカップルが好みそうなキーホルダー等を取り扱う他、飲食店も豊富なのが有名である。

 

ならそこに行ってみるか・・・とルートを確認しようとした直後だった。

再びメッセージが来る。

『リューゴのお姉さん、大丈夫だといいね』とメッセージが返ってきた。

龍護は忘れてはいなかった。

恵美の彼氏、ルシス・イーラは【憤怒の龍】の所持者だったが何者かによって殺されている。

最愛の人を亡くして恵美は傷心していたのだ。

その時に一緒にいれば共に逃れられたのではないか?と思ってしまう。

だが龍護にとってルシスは敵となる。

本人は母国で決着を着けたいと言っていたがいつ、裏切られるか分からないのだ。

もしも龍護が話に乗ってルシスと停戦してもルシス本人にその気が無ければ不意を突かれて龍護の負けは濃厚となる。

対戦者が亡くなって喜ぶべきなのか、義姉の彼氏が亡くなって哀しむべきなのか・・・

龍護はそんな難しい立場になっていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

買い物を終え、龍護は自分の家に来ていた。

個人的に寄ろうと思った為だ。

 

「久々だな・・・」

 

龍護は持っていた鍵を使って玄関の鍵を解錠し、ドアを開けた。

だがすぐ異変に気付く。

 

明るいのだ。

 

(空き巣か・・・?)

 

龍護は警戒して姿勢を低く、そして足音を消して奥に進んで行く。

そしてリビングに着いた瞬間だった。

 

ガァン!!!!

 

龍護の頭に衝撃が走る。

あまりの痛みに龍護は頭を抱えた。

 

「・・・って龍護!?」

「え?」

 

声がした方を見てみるとそこには義姉である恵美がフライパンを持って立っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「んで俺を空き巣犯だと勘違いして姿を見ねぇまま頭をフライパンで思いっ切りぶっ叩いたと・・・」

「うん、その・・・ごめんね!?まさか龍護だとは思わなくって!」

 

ハァ・・・とため息が出てしまう。

確かに本当に空き巣犯なら先程の一撃で撃退出来ただろう。

だが相手は義弟。

警戒心があるのに評価するべきかトバッチリを喰らったのに文句を言うべきか微妙な事に龍護は怒れずにいた。

 

「てか、なんで姉貴が家にいるんだよ?」

「あ~・・・ちょっとね・・・今はルーの所には帰ろうとは思わなくてさ・・・今はこっちにいるの」

「・・・」

 

義姉の言葉になるほどな・・・と心の中で呟く。

恐らくルシスの事を思い出したくないから実家にいるのだろう。

だが急にパアッ!と笑顔になる。

 

「それに元気にしてる義弟の前で暗い顔なんかしてられないでしょ!」

「・・・」

 

義姉の心遣いに龍護は胸を痛めた。

恵美は立ち上がり、久しぶりに何か作るよ!龍護はテレビでも見ててと言ってキッチンへと向かった。

暇になった龍護はテレビの近くにあるソファーに座ってテレビを付けながら今までの事をスマホのメモ帳機能に書いて整理を始める。

 

【ルシス・イーラ】

・焼死体で発見されたが額に銃痕あり。

・親族に聞くも、分からないの一言。

・紋章は剥奪済。

・ルシスから渡されたサイトは閲覧不可能になった。

 

【ネスト・ジェーラス】

・名家出身。

・魔法適正がCの為、勘当を受ける。

・水死体として発見される。

・紋章は剥奪されている可能性高

 

この2者の共通点は何れかの龍の所持者である事、他の龍の所持者によって殺害された事の2点だ。

ならば

 

「同一犯でしょうね」

 

恵美の言葉に反応し、キッチンを見る。

 

「え・・・?今何て・・・?」

 

義姉が【七天龍の遊戯】を知っている────?

 

いや、そんな筈は無い。

遊戯の開始は脳内で告げられ、紋章も一般人には見えない。

なら今の言葉は何だ?

 

様々な憶測が龍護の脳内を駆け巡る。

そんな龍護に恵美が告げる。

 

「何って・・・ほら!今放送してるじゃない。【ロシアの動物園で檻が壊され、動物が怪我をする】って事件!やり口も全て同じみたいよ?なら同一犯としか思えないじゃない」

 

それか・・・と龍護は安堵する。

夕食が出来上がったようで恵美がテーブルに食事を置いた。

龍護と恵美もテーブルの椅子に座る。

 

「「頂きます」」

 

両者揃って食事を始めた。

 

「なんか久しぶりね」

「そうだな」

 

その後は互いに会話も無く、カチャカチャと食器と箸がぶつかる音だけが響く。

だが恵美がその沈黙を切った。

 

「ねぇ、龍護」

「ん?」

「貴方は・・・今の生活に満足?」

「・・・どうしたよ?」

「ちょっとね・・・」

 

龍護は頭に疑問符が浮かぶ。

 

「そろそろさ・・・言った方がいいと思ってね」

「何を?」

「私達・・・姉弟の秘密」

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

”姉弟の秘密”

 

その言葉を聞いて動いていた箸が止まった。

 

「俺達の・・・秘密?」

「そう・・・」

 

再び龍護の頭に様々な憶測が駆け巡る。

 

・実は奪木家は【七天龍の伝説】の末裔だった。

・特殊な部隊、或いは機関を有している。

・特別な力を宿していて龍護はその力を受け継ぐ必要がある。

 

「私達はね────」

 

龍護が次の言葉を待つ。

 

「血が繋がってないのよ」

「・・・」

 

今更かよ!?と心の中でツッコンだ。

 

「なんだその事か・・・」

「そう、その事・・・って、え?」

「知ってたよ・・・そんな事」

 

当然だ。

奪木龍護────旧名、青葉祐輔。

車の事故で亡くなってこの世界にいる男、そして恵美によって拾われ、今の生活をしているのだ。

突然恵美が立ち上がり、龍護の側まで歩み寄る。

 

「なんだよ・・・?」

「なんで・・・」

「?」

 

ガッ!とグーにした両手で龍護のこめかみを挟む。

 

「なんで知ってんのよおおおおぉぉぉぉぉおおおお!!!!!!!!」

「いだだだだだだだだ!?!?!?!?」

 

突然グリグリとこめかみにグーにした両手を捻り込む。

 

「『血は繋がってなくても私と龍護の絆は永遠だからね!』、『姉貴・・・』っていう感動的な展開が台無しじゃない!!!!どうしてくれんのよ!?」

「知らねぇよ!!!!てか姉貴ってそんなにハートフルな人だっけ!?」

 

暫く龍護のこめかみを痛めつけて満足したのか自分の席に戻って食事を再開する恵美。

 

「少しは考えてよね」

「へいへい・・・っとそうだ・・・俺も聞きたい事があったんだ」

「何?」

「俺達の・・・両親ってどうしてんだ?」

「・・・」

 

その言葉に動いていた箸が止まり、恵美の表情が曇る。

 

「やっぱ・・・気になる?」

「まぁな・・・」

「そう・・・」

 

恵美が箸と茶碗を置き、フゥ・・・と一息付いてから龍護を真っ直ぐに見詰める。

 

「そっちも話した方がいいのかもね・・・」

 

その言葉に龍護も姿勢を正す。

だが半ば気付いていた。

もしも両親が健在ならすぐに話す筈だ。

だが今の恵美の顔は神妙であり、軽い話ではない。

 

恐らく・・・既に────

 

「私達のお婆ちゃんは去年亡くなったのは覚えてるわよね?」

「まぁな・・・」

「私がまだ幼い頃・・・龍護と会ってない頃の話になるわ・・・両親は────私とお婆ちゃんを残して家を出たの・・・そして」

 

恵美の言葉にズキッ・・・と龍護の心が痛んだ。

両親はいた。

だがその両親は恵美とお婆ちゃんを捨て────

 

「自らの探究心を埋めたいが為に両方どこかの海外で楽しんでるわ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

 

────たのではなく、ただ単に我が道を行っているようだ。

 

「信じられる!?お母さんなんて『私は魔法をとことん研究したいから』って言って色んな研究室に足を運ぶわ、お父さんなんか『未知なる探究へ』って言って海外で遊び呆けているわ・・・馬鹿なの!?アホなの!?何がしたいの!?それにお婆ちゃんも『やりたい事が出来たんならそれにひた走りなさい』って言って2人が家を出るのを止めなかったし!」

 

目の前で義姉がウガー!!!!とマシンガン並の速さで愚痴を零していく。

それに対して龍護は、え~・・・と若干(?)呆れていた。

 

「あ~!もう!さっきのも含めて愚痴ってたらイライラしてきた!今日はもう呑むわよ!龍護!アンタも呑みなさい!」

「え?ちょっ・・・俺(この世界じゃ)未成年・・・」

「ノンアルコールだから心配なし!いいから呑む!!!!」

 

恵美がチューハイとノンアルコールチューハイを持ってきて龍護にノンアルコールの方を渡す。

プルタブを開けるとプシッ!といい音がなった。

そして思い切り缶を傾けて一気に飲み干す。

 

「プハーッ!やっぱいいわね!」

 

おっさんかよ・・・と龍護はノンアルコールチューハイをチビチビ呑んでいた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「そしたらそいつ何て言ったと思う?『そこから先は管轄外ですので』だって!んなもん知らねぇっての!」

 

義姉は完全に出来上がっていた。

龍護はさっきから、へー、すごいなー、等を棒読みで言っている。

 

「そこで言ってやったのよ!『なら私のやってるのも管轄外なので止めさせて頂きます』って!その時のあいつの焦り具合といったら龍護に見せてやりたかったわ!」

「そーかい」

 

何度この話を聞いただろう。

義姉の顔は赤くなり、テーブルには何本もの空き缶が転がっている。

 

「ちょっと聞いてるの?」

「聞いてるよ」

 

だが龍護は内心ホッとしていた。

あれだけ彼氏を亡くしているのに今では大っぴらに愚痴を零しているのだ。

少しは心の闇も晴れたのだろう。

 

「私だって・・・必死にやってるのに・・・」

 

うわぁーん!と顔を隠すようにテーブルに突っ伏す。

そしてシーンとしてしまった。

 

「おーい?」

 

チョンチョンと義姉の頭を啄く。

だが・・・

 

「ZZZ・・・」

 

酔って寝ていた。

 

「ったく・・・」

 

龍護は立ち上がって義姉に肩を貸し、2階にある義姉の部屋に連れていく。

 

「あはは~身体が自然に動いてる~・・・♪」

 

うわ言を言ってる義姉を無視してベッドに寝かせる。

龍護は片付けようと義姉に背を向けた瞬間だった。

 

「ルー・・・」

 

その言葉にピタッと止まってしまう。

 

「なんで・・・なんでよ・・・なんでルーは死んじゃったの・・・?」

 

やはりまだ傷心は残っていたようだ。

龍護は知っている。

ルシスは何者かによって殺された事を。

だがそれを言う事は出来ない。

龍護にとって義姉は【七天龍の遊戯】の参加者ではない。

部外者なのだ。

その部外者を巻き込むつもりは無い。

 

「龍護は知ってる?ルーの卒業論文の最初の内容って【日本の文化と歴史】だったの」

「そうなん・・・え?最初?」

 

卒業論文について、違ってる事に気付いた龍護は振り向いた。

 

「なぜか分からないけど急に【7頭の龍の伝説】について調べてそれを卒業論文にしたの」

 

それを聞いて合点がいく。

ルシスは七天龍の伝説について調べていた事を。

恐らく派生で【七天龍の遊戯】の情報を集めようとしていたのだ。

 

「龍護・・・龍護は何か聞いてない?」

「なんで俺に聴くんだよ?」

「ルシスに最後に会った人って龍護でしょ?なら何か聞いてるんじゃないかって思って・・・」

 

恵美の問い掛けに龍護は言葉を詰まらせた。

勿論知っている。

だが────

 

「悪ぃ・・・詳しくは聞いてねぇんだ・・・」

 

目を左に逸らして言うしかなかった。

 

「・・・そっか・・・」

 

もしもここで言ってしまったら義姉は何かしらの行動を取りかねない。

事は慎重に進めないといけないのだ。

そうしないとネストの時のように多くの関係無い者が危険に晒されてしまう。

 

「私はもう大丈夫だから彼女さんの所に帰ってあげな」

「え・・・でも・・・」

「いいから行った行った!」

 

義姉の言葉に、分かった。と答え、部屋を出る。

そしてガチャという音の中に”嘘付き”という言葉が混じっていたが龍護の耳には届かなかった────

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「じゃ、帰るか・・・」

 

予め買っておいた誕生日プレゼントを眺める。

龍護はそのプレゼントをポケットにしまい、走って友姫の家へと帰っていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

恵美は龍護が帰るところを窓越しに眺めていた。

 

「本当・・・嘘が下手なんだから・・・龍護は気付いてる?貴方・・・嘘を付く時は決まって目を左へ逸らすのよ・・・」

 

恵美はポケットからスマホを取り出し、【インターネットアーカイブ】というサイトを検索する。

昔のサイトを遡れるサイトだ。

そこで【7頭の龍の伝説】を検索していた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「閲覧者?」

「はい、どうやら【インターネットアーカイブ】というものを使って【7頭の龍の伝説】を調べている者がいるようです。名前は奪木恵美」

「その者は?」

「【七天龍の遊戯】とは無関係者です」

 

なんだ関係無いのか・・・と男性はため息を付く。

【七天龍の遊戯】の関係者ならそこから逆探知すれば居場所が分かるが無関係者であれば探すだけ骨折り損だ。

放っておけ。とあしらう。

だが男性は知らなかった。

恵美の義弟こそが【七天龍の遊戯】の参加者であり、男性が欲しがっている【強欲の龍】の所持者である事を────

 

そして恵美も自分で危険の領域に入ってしまった事に気付く事は無かった────




少しづつ書き溜めが消えていく…:(´◦ω◦`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

迫る闇

書き溜めが次々減っていく…w
それと後書きでお知らせがあるのでご覧下さい。


「って事は帰りは明日なんすね」

『まぁね。八坂雪菜さんとの対面もその時かな』

 

漸く会議が終わってアメリカから帰ることとなったスヴェンと電話をしている龍護。

今は学園にいるが休み時間の為、学園のロビーでスヴェンと連絡を取り合っていた。

 

「結構時間掛かりましたね」

『そうだね。個人的にはもっと早く終わらせたかったんだけどお互いに案を一歩も譲らなくて困ったよ』

 

ハハハ。と軽い笑い声がスマホを通して聴こえてくる。

龍護は帰ってくる事を2人にも伝えますか?と尋ねるもスヴェンはそれを拒否した。

どうやら驚かせたいようだ。

龍護も分かりましたよ。と呆れ気味に言って電話を切った。

 

「リューゴ!」

 

後ろから友姫に抱き着かれる。

 

「危ねぇだろ」

「え~嬉しいくせに~♪」

 

スリスリと頬擦りしてる友姫と呆れるように笑みを見せる龍護。

そろそろ休み時間終わるよ?と言われてクラスへと戻っていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

今日の授業を終えて帰り支度を始める。

野武にゲーセンへと誘われたが友姫と共に断った。

 

「最近音沙汰無いね~」

「何がだよ?」

「【七天龍の遊戯】だよ」

 

確かに・・・と思った。

【嫉妬の龍】撃退以来、何の変化も無いのだ。

残っているのは─────

 

・強欲の龍

・怠惰の龍

・色欲の龍

・傲慢の龍

・暴食の龍

 

の5つ。

龍護と友姫は【強欲の龍】と【怠惰の龍】なので残りの3人を10月までに倒さなければならない。

そして何よりも2人は【嫉妬の龍】と【憤怒の龍】の紋章を持ってないのだ。

となると3人の内、誰かが1つ・・・あるいは両方を自分の紋章と付け足して持っているという事になる。

紋章を奪う事でその者は龍の力も持つ事が出来る。

つまり最初の龍の力も使えれば他の龍の力も同時に使う事が出来るのだ。

もしも1人が3つの龍を持っていたら相手としては厄介過ぎる。

それらが龍護にとって1番の悩みどころでもあった。

龍護と友姫が交差点を渡ろうとした時だった。

前方から見覚えのある車がやって来て2人の真横で停まる。

そして窓が開いて運転手が顔を出した。

雪菜だった。

 

「おかえりなさいませ」

「雪菜さん」

「雪菜だー!」

 

乗っていきますか?と聞かれ、2人は有難く乗せてもらうことにする。

 

「そういえば・・・雪菜さんて友姫の家に泊まり込みじゃ無いんですね」

「あ~・・・私、実家暮らしでして」

「そうなんすか」

「それを言うなら龍護さんは何故友姫さんの家に?」

 

龍護は返答に迷った。

素直に【七天龍の遊戯】に備えて、とは言いづらいのだ。

雪菜は無関係者であり、【七天龍の遊戯】で死ぬ事はない。

だからこそ真実を混じえた嘘を付くしかないのだ。

 

「俺の家・・・今は誰も居ないんすよ・・・義姉は彼氏が亡くなってずっと彼氏の家にいるし・・・それにあの家には俺と義姉以外に住んでる人が居ないんです」

「・・・申し訳ありません・・・不躾な質問でした」

 

全然構いませんよ。と受け流す。

 

「その・・・龍護さんのお姉さんはどんな方なんですか?」

「あーそれ私も気になる!」

「マジですか・・・」

 

はぁ・・・と溜息を洩らしながら龍護は義姉の事を話しだす。

 

「言っちまうと俺・・・義姉と血は繋がって無いんス」

「え?どういう事?」

「どうも拾われたらしくって、その拾った人が今の義姉なんですよね」

 

そうなんですか・・・と重々しい口調で応える雪菜と軽く俯いて龍護から視線を逸らしてしまう友姫。

龍護からしてみたらどうって事は無いかもしれないが2人からしたら本人の心の古傷を抉っている感じがしてならない。

 

「けど、なんで龍護さん・・・貴方は捨て────養子だって気付いたんですか?」

 

雪菜が捨て────で言葉を詰まらせ、直した。

捨て子────これを言ってしまったら龍護を精神的に更に追い詰めてしまうかもしれない。

そう瞬時に判断し、言葉を変えたのだ。

 

「アルバムですかね・・・出生のアルバムなら家族であれば絶対に持ってる筈なんです。けど俺には出生の写真は1枚も無かった・・・だから気付いたんです」

 

正確には交通事故で自分は亡くなり、自分としてこの世界に生まれ変わったのだが・・・

友姫の家が見え、龍護は、ここでいいですよ。と雪菜に車を停めさせた。

 

「龍護さん」

「はい?」

 

不意に龍護は雪菜に呼び止められた。

 

「龍護さんの辛いお気持ちは理解します・・・少しでもいい・・・私達を頼って下さい。その時はこの身を犠牲にしてでも貴方を御守りします」

 

龍護は”ありがとうございます”という意味を込めてヒラヒラと手を振って友姫の家に入った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

パタン。

 

雪菜が借りているアパートに帰ってきた。

思い足取りでリビングにあるベッドにスーツのままダイブする。

 

「養子・・・か・・・」

 

実際はどんなにキツいのだろう?

 

 

生まれた瞬間に棄てられる。

 

 

どれだけ恐ろしく────────

 

 

どれだけ寂しいのか────────

 

親を持っている雪菜には理解出来なかった。

自分はその立場では無いからだ。

人は皆、相手がどんな思いを持ち、何を考えてるかは解らない。

 

自分は自分、他人は他人でしかないのだ。

 

もしも分かりたいのならその人になるしかない。

 

 

だがそれでは自分はどこへ行ってしまう?

 

 

その行為をして自分を見失ったら?

 

 

考えるだけでも恐ろしい。

だが共有する事は出来る。

丸投げする必要は無い。

重いのなら分ければいい────それが出来るのであればの話だが。

雪菜は少し龍護が可哀想に思えてきた。

 

(龍護さんは・・・どうしたいんだろう?)

 

拾われて本当の家族を知らないまま育てられて、もしも棄てた人に会ったら龍護はどんな反応をするのだろう?

雪菜は親切心から龍護の身辺を調べてみようと考え、パソコンを起動しようとして────止めた。

 

もしも家族が見付かって龍護に伝えるとして、その自己満足と呼べそうな行為で龍護が変わってしまったら?

それで今までの龍護が崩壊したら?

色んな憶測が頭を過ぎって電源ボタンを押そうとしている手が震える。

 

 

駄目だ。

 

 

これ以上は踏み込むな。

 

 

頭の中で警報が鳴る。

フウッ・・・!と息を吐き、自分を落ち着かせる。

その時、スマホに着信が入った。

 

「もしもし」

『雪菜ぁー?私。頼まれてた人探し終わったよ』

「そう、今から送れる?」

『オッケー。PC?』

「でいいよ」

『あーい』

 

じゃねーと電話口から軽い声が消え、パソコンを付ける。

数秒後にデスクトップが表示され、メールのアイコンの吹き出しのマークの中に”1”が表示される。

メールのアイコンをマウス操作でクリックし、メールの画面を開く。

そこに龍護が雪菜に頼んだ”ルシスとネストを殺害した人の顔と名前”が表示される。

頭は坊主頭で無愛想な顔、身体は鍛えられていていかにも軍人というべき格好だった。

そして階級は──────

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「将官の大将・・・ですか・・・」

「ええ」

 

龍護と雪菜は今、ファストフード店にいる。

昨夜、龍護のスマホに雪菜からの着信が入り、明日(今日)の昼に会う約束をしていたのだ。

そして先程両者が到着し、雪菜がファイルを渡しながら相手の階級を話したのだ。

 

「将官っていいますと・・・」

「士官の中ではトップで大将も将官の中でトップの座です」

 

うわぁ・・・と龍護はげんなりしてしまう。

軍人で、将官で、大将なのだ。

恐らくは幾千もの戦いを潜り抜けている。

そんな相手を相手にしなくてはならないのだ。

 

極力は避けたい。

 

だが生き残るには闘い、紋章を奪い取らなければならないのだ。

ハァ・・・と溜息が漏れる。

 

「あの・・・龍護さん」

「?はい?」

「少しお聞きしたい事が・・・」

「なんすか?」

「なぜ・・・殺した方の名前を知ろうと思ったんですか?」

「・・・」

 

そこをツッコムかー・・・と心の中で嘆く。

理由を決めてなかったのだ。

 

紋章を奪う為です。

 

と言ったら、何言ってるんだこの子は?と変な目で見られるに違いない。

先程も言ったように雪菜は【七天龍の遊戯】とは無関係なのだ。

もしも巻き込んでしまい、ネストの時のような大量殺人を引き起こす訳にはいかない。

龍護は極力部外者を巻き込まない方法を考えている。

 

「まぁ・・・なんといいますか?興味本位です」

「・・・そうですか・・・」

 

なんとか誤解という形で理解してもらえたようだ。

この世界のルールは奪木龍護・・・蒼葉雄輔がいた前世とはほぼ変わらない。

変わってる事と言ったら魔法がある事。

そして憲法の一部が増えたり減ったりしている点のみだ。

それ以外は殆ど前世の世界と変わっている点は無いのだ。

もしも雄輔が転生した先が中世ヨーロッパ等の古い時代であれば剣や銃等、護身用に持って、最悪の場合にはそれらの力を奮っていただろう。

それすらも出来ないのだ。

龍護は今、自分の無力さを痛感していた。

気まずそうにしている龍護を見て、あまり深追いしない方がいいと思ったのかそれ以上聞くことは無かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「それでは私はここで」

「ご馳走様です」

 

龍護と雪菜はファストフード店を出て別れる。

件のファイルは龍護の手元にある。

再びそのファイルにある名前を見た。

 

「鷹野颯馬・・・か・・・」

 

ファイルに入っていたのは本人の履歴と大きい顔写真と小さな顔写真。

鷹野颯馬という人物は陸軍の将官であり、坊主頭、そして右頬に大きめの切り傷がある。

それ以外で特徴的なのは睨むような目である。

恐らく幾千の闘いを潜り抜けてきた為、戦闘であればエキスパートである可能性は高い。

龍護は嫌そうに溜息を付きながらファイルを鞄に入れ直してそのまま家に帰っていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「私を追ってる者がいる?」

「はい。名前は奪木龍護・・・【怠惰の龍】の彼氏です」

 

1人の女性が座っている男性の前に立ち、報告を続けている。

男性は思考を巡らせた。

 

(恐らく【怠惰の龍】が部外者に頼んだのだろう・・・ん?奪木・・・?)

 

男性はこの”奪木”の苗字に心当たりがあった。

それもその筈、奪木龍護の義姉が以前【インターネットアーカイブ】で【七天龍の遊戯】について調べていた事を思い出したからだ。

 

「確か・・・奪木といえば・・・」

「はい。─────様が以前殺害命令を下した【憤怒の龍】の彼女に当たる者です」

 

2人揃って龍の所持者と関わったのか・・・と不運そうに呟く。

フゥ・・・と息を吐いて椅子から立ち上がろうとして止まる。

 

(まさか・・・)

 

男の頭にとある答えが浮かび上がる。

 

「その奪木龍護というやつを監視しろ」

「え?ですが彼は・・・」

「構わん」

 

女性は、分かりました。とだけ告げ、一礼してその部屋を出た。

男は再び座り直す。

 

(もしも私の考えがあっていれば・・・だがなぜ・・・?)

 

【強欲の龍】の所持者が龍護である可能性が高いと見た男。

もちろん龍護も命を狙われ始めていることに気付くことはない。




【お知らせ】
書き溜めが減ってきた為、4月に1話を出した時点で休載とさせて頂きます。
お気に入り登録をして頂いている方達はどうかそのままでお待ち下さい。
一応全体像は完成しておりますが私自身仕事(夜勤)の関係で執筆時間が思うように取れなく、苦戦している状態です。
ですが必ず戻ってきますのでそれまで暫しお待ち下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仕組まれたコンサート①

かなり続きます…


ルシスとネストを殺した相手が《鷹野颯馬》という男性の可能性が高くなった翌日。

龍護は友姫の家にある大きな道場で友姫とスヴェンと空手の稽古を見ていた。

 

バァン!!!!

 

友姫が床に打ち付けられる音が響く。

 

「くっ・・・!!!!」

 

だがそれでも友姫は立ち上がり、スヴェンに挑んでいた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

時間切れになり、友姫は結局スヴェンから1本も取れなかった。

座っている龍護の横で友姫が床に大の字になって、ぜぇ・・・ぜぇ・・・と荒々しく呼吸をしている。

 

「・・・大丈夫か?」

「一旦・・・休憩・・・」

 

だろうな・・・と思い、スヴェンを見る。

 

「?なんだい?」

「いや・・・俺もやってみようかな・・・って」

 

龍護の言葉にスヴェンの目がキランと輝く。

 

(・・・地雷踏んだ?)

 

そう思ったが既に遅く、スヴェンはすぐに龍護の道着を用意した。

スヴェンに着替え方を教わり、道着の紐を締める。

両者が開始線に立ち、一礼した。

 

「試しになにかやってごらん」

「うっす」

 

その言葉通りにスヴェンに迫り、右手で正拳突きを繰り出す。

スヴェンは手の平で軽く龍護の拳の横を叩き、受け流す。

だが龍護はすぐに左手で再び正拳突きを繰り出した。

それもスヴェンは身体を右にズラして正拳突きの直線上から抜ける。

当然龍護の正拳突きは空を切った。

そこをスヴェンは龍護の左足を狙って軽く自分の足を払う。

当てることに集中していた龍護は下の攻撃に気付かずに避けきれなく、見事に当たってしまう。

 

「うわっ!?」

 

追撃に、と言わんばかりにスヴェンは軽く左肘で龍護の背中を突こうとする。

だがそれを読んでいたのか咄嗟に龍護は右膝を曲げて姿勢を低くした。

 

「!」

 

姿勢を低くした龍護はそのまま床を蹴ってスヴェンから離れ、姿勢を直す。

 

「軽くしていたがいい判断だったね」

「そりゃどうも」

 

スヴェンは龍護に対して軽くしか身体を動かしていない。

それでも尚自分の姿勢を崩される。

龍護はスヴェンと自分に横たわる差を痛感していた。

だが龍護もバカではない。

先程のスヴェンと友姫の稽古。

これも観察に両者の動きを見ていてオリジナルの動きを思い付いていた。

ならそれを試し、スヴェンを見返す。

決意して龍護は再びスヴェンに迫る。

 

(次は左か・・・右か・・・?)

 

龍護が出したのは右手の正拳突き─────だがその正拳突きは距離が足らなかったのかスヴェンの目の前で失速してしまう。

だがこれこそが龍護の狙いだった。

左足を1歩、踏み込んで右足を横に凪る。

 

(!こっちが本命か!!!!)

 

先程の正拳突きはフェイント。

そして1歩踏み込んだ事でスヴェンが下がっても避け切れない程の距離となる。

龍護は躊躇なく右足を横に振り抜いた。

だが当たる事は無かった。

スヴェンが跳躍して躱したのだ。

 

「マジかっ!?」

 

そしてそのままスヴェンは身体を回して龍護に裏拳を繰り出す。

急な反撃に龍護は上半身を後ろに逸らすが、チッ─────と前髪を掠めて何本かが衝撃で抜けた。

龍護は危険と判断し、後ろに下がる。

 

「あっぶね~・・・」

「私もギリギリだったよ。まさかフェイントを入れてくるとは・・・」

 

よく言うよ・・・と龍護は心の中で呟く。

先程の裏拳、スヴェンは龍護が躱せる速度で繰り出したのだ。

そうでなければ龍護はここで伸びていただろう。

龍護の付け焼き刃はスヴェンの裏をかくことが出来なかった。

 

「よくあんなのを思い付いたね」

「さっきの2人の稽古を見て思い付いたんですよ」

「ハハッ、だとしたらすぐに私は追い抜かれちゃうかもね」

 

本当にそう思ってんのかよ?と再び心の中で毒づく。

 

「まぁ、魔力を纏ってたら危険だっただろうね」

「そういえば研究してるんでしたっけ?」

 

まぁね。とスヴェンは実際に魔力を拳に纏わせる。

友姫の【怠惰の龍】の力を見た時に思い付いたようだ。

【怠惰の龍】の能力である【能力無効化】は基本は自分を中心に球体状に広がるが応用として手足等の部分的に纏わせる事も可能だ。

それを聞いてスヴェンは、魔力でも使えるのでは?と考え、現在練習中なのだとか。

すると道場の入口の引き戸が開き、雪菜が現れる。

雪菜はスヴェンを見た途端驚き、すぐにスヴェンの元へ駆け寄った。

 

「ラジネスカンパニーのスヴェン社長ですか!?」

「ん?君は・・・?」

「はい!スヴェン社長の妻の沙弥様の後輩で八坂雪菜と申します!この度は内定を頂き、ありがとうございました!」

 

そう言って雪菜は一礼する。

これが初対面だった。

龍護がスヴェンを見ると何か危惧している様な目になっている事に気付く。

 

「・・・スヴェンさん?」

「ん?あぁ、雪菜君だね?これから宜しく頼むよ」

「はい!宜しくお願いします!」

 

今日はこの後用事があるようで雪菜は、失礼します。と一礼して道場を去った。

 

「ふむ・・・」

「スヴェンさん?どうかしました?」

「いや・・・」

 

気のせいだな・・・とスヴェンは自分に言い聞かせるように呟き、今日はここまでだな。と稽古を引き上げた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

スヴェンと雪菜の対面が終わって数週間が経つ。

龍護と友姫に髪の毛を数本貰いたいとスヴェンが言ってきた。

理由を聞くと、龍の所持者と一般人でDNAに違いは出るのか?を知る為に研究所で調べるようだ。

それに対して2人は同意し、お互いに髪の毛を10本づつ適当な長さに切って小さなポリ袋に入れる。

スヴェンは礼を言って仕事に行ってしまった。

龍護と友姫も学校の為、用意して家を出た。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「おっ!龍護とラジネスさん。いいとこに来たな!」

 

白、雫、野武が集まっている。

・・・白と雫は呆れた顔をしているが・・・

 

「なんか用か?」

「お前楠野魅子って声優は知ってるよな?」

「まぁ、一応」

「19日にライブをやるらしいんだけど場所も時間も公開してないんだよ。つまり、このスマホの抽選で当たった人しか行けないライブでさ!」

「・・・ダッチーと友姫ちゃんも応募してほしいらしいよ」

 

そういう事・・・と龍護も呆れてしまう。

恐らく自分が行けなかった時に記念グッズを買っておいてほしいのだろう。

友姫はよく分からなそうにしていたが、面白そう!と乗り気なようだ。

結局いつものメンバー全員で応募する事となった。

応募の際はメールアドレス、名前、性別、年齢、職業、使っているスマホの機種を記入し、送信ボタンを押せば応募完了らしい。

早速全員が記入事項を打ち込んで応募する。

因みに席は50人となっているようだ。

かなりの倍率が伺える。

全員が応募し終わった所でチャイムが鳴って授業が始まった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

今日の授業が終わり、龍護は友姫と帰ろうとしていた。

その際に野武から発表は当選者のみにメールで送られてくるらしい。

龍護は了承して友姫と帰路に着いた。

 

「野武ってその楠野魅子っていう声優さんの事、本当に好きだよね~」

「まぁ、あいつのオタク狂いは中学校から変わってねぇけどな」

「リューゴって野武とは中学校からの仲なんだ?」

「まぁな、絡んできたのは向こうからだったけど・・・」

「昔からあんな感じ?」

「そうd・・・いや、今よりもっと落ち着いてた」

 

龍護から見て野武はどこの学校にも必ず1人はいる大人しい子。という感じに見えていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「ただいま~!」

「ただいま帰りました」

 

2人共、靴を脱いで家に上がる。

スヴェンは既に帰ってきていたようで部屋から出てきた。

 

「あれ?お父さん早かったね?お母さんは?」

「今日、同窓会みたいで帰り遅くなるって」

 

スヴェンは使用人に夕食の準備を頼んでノートパソコンを開く。

そして龍護を呼んだ。

 

「?なにか?」

「ちょっとね・・・友姫、部屋に行っててくれるかい?」

「分かった」

 

友姫が部屋に行くと同時にスヴェンはドアを閉める。

どうやら込み入った話らしい。

 

「龍護君、昨日は私のパソコンに・・・いや、私の部屋に入ったかな?」

「昨日・・・ですか・・・入ってませんよ」

「そうか・・・」

「・・・何かあったんスか?」

「いや・・・深夜にアクセス履歴があってね・・・このパソコンに【七天龍の能力】を送信しておいたんだけど消されていたんだよ」

(そういや送信するって言ってそのまま帰ってきたんだっけ・・・)

 

まぁそれはいいや・・・とスヴェンの話を聞く。

 

「深夜にアクセスした履歴・・・誰かが使ったんですよね?」

「そうなんだが・・・う~ん・・・このパソコンにはパスワードが必要なんだ。それを掻い潜ってアクセスしてるんだよ」

 

スヴェンの言葉に龍護は疑問を持つ。

もしも本人の言ってる事が本当なのであればその人はハッキングをしているという事だ。

そのような高等技術誰が出来ようか?と疑問に思う。

内部・・・この家の何者かの手によって行われたのは確かとなる。

それをスヴェンに伝えると、その線も考えて使用人に確かめたら全員がパスワードを解けなかった。と返ってきた。

つまり外部による犯行。

後知ってるのは・・・

 

八坂雪菜。

 

(まさかな・・・)

 

だが確信は出来ない。

もしも雪菜による犯行なのであれば龍護や友姫自身の身も危うくなってしまう。

スヴェンは雪菜にも試しに解かせてみる。と言って部屋を出た。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

揃って夕食を終えて龍護は自室でふと考えていた。

 

(雪菜さんは護衛関連だった・・・という事は何かしらの特殊な資格を持ってる筈だ・・・)

 

龍護の中で段々と犯人が雪菜である線が強くなり始める。

恐らく友姫に聞かせないようにしたのは同性であり、年が近い事も含めているんだろう。

個人的に仲間外れにしてる気がしてならなかったが・・・

 

(ま、当日分かる事だな・・・)

 

龍護はそう思って眠りについた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

翌日。

今日は休日という事で龍護は家にいた。

玄関の呼び鈴が鳴り龍護は迎えにいく。

ガラッとドアを開けるとそこには雪菜が立っていた。

 

「えっと・・・呼ばれたので伺ったのですが、何があったんでしょう?」

「なんかスヴェンさんのパソコンに誰かが不正に侵入したみたいなんです」

 

遠回しに雪菜が疑われている事を理解させると雪菜は、分かりました。と言ってスヴェンの元に行く。

 

「失礼します。社長、お呼びでしょうか?」

「あぁ、よく来てくれたね。ちょっとこのパスワードを解いてほしいんだ。方法は君に任せるよ」

 

言葉裏に”君の使える全ての手段を使え”という意味を込めて雪菜をパソコンの前に呼んだ。

分かりました。と雪菜も椅子に座ってキーボードを打っていく。

 

ドゥン!

 

画面には【パスワード、若しくはユーザー名が間違っています】と表示された。

再び雪菜はパスワードを打ち込む。

またドゥン!という音が出た。

違ったようだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

結果的に雪菜はパスワードを解く事が出来なかった。

 

「これでいいですか?」

「すまないね。少しお茶を飲んでいきなさい」

 

ありがとうございます。と一礼して高そうなソファーに座った。

少ししてスヴェンがコーヒーを持ってきた。

雪菜の前に置いてスヴェンは一口飲む。

 

「臨時使用人として雇ってるけど最近はどうかな?」

「はい。不自由なくやらせて頂いております」

「そうか、友姫や龍護君からの評判もいいんだよ」

「それはなによりです」

 

暫く雑談をして雪菜は、そろそろ失礼します。と言ってスヴェンの家を出た。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

日曜日、龍護は本屋に来ていた。

欲しい漫画が売られるのだ。

自転車を駐輪場に置いて鍵を掛け、本屋に入る。

途中で欲しい漫画を持った男性が出て来てまだあるか?と不安になる。

そして本屋の漫画コーナーに行くと・・・漫画は無かった。

やはり先程の男性が持っていた漫画で売り切れたようだ。

だが、まだ諦めてはなかった。

他にも本屋はあるのだ。

候補としては4件。

1番近いのは古本屋だがどうせなら新品を買いたい。

腕時計の時間は9:50。

その本屋の営業開始時間は10:00。

ここから自転車で向かうとして約20分。

10:10には着く計算だ。

間に合ってくれよ・・・と心の中で拝みながら龍護は自転車を走らせた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

結果は惨敗。

かなり人気の漫画の為、すぐに売り切れていた。

店員に、次の入荷は3日後になる。と言われ、龍護が次の本屋に行こうとした時だった。

 

「あれ?龍護さん?」

 

聞き覚えのある声がして振り向くとそこには雪菜が私服姿で立っていた。

 

「雪菜さん?」

「どうしたんですか?こんな朝から」

 

龍護が本を買いに来た事を説明し、売り切れていたから次の本屋に行こうとしていた事を説明する。

 

「結構人気なんですね・・・」

「まさか2軒目もダメになるとは・・・」

 

龍護は残念そうに肩を落とした。

ふと雪菜はバッグの中をゴソゴソを探し出す。

 

「龍護さんの買おうとしてる漫画ってこれですか?」

 

雪菜が見せたのは金髪の男性と銀髪の男性が剣で鍔迫り合いをしている表紙の漫画だった。

 

「なんで持ってるんですか!?」

「私もこの漫画のファンなんですよ」

 

宜しかったら後で読んでみますか?と聞かれ、是非!と答える。

雪菜に、なら近くのファーストフード店に行きましょう。と誘われ、一緒に行く事にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「その時の主人公のセリフがいいんですよね~!」

「分かります!あれは反則ですよ~!」

 

2人は漫画の話で意気投合していた。

 

「それにあの主人公、今年の《彼氏にしたいキャラランキング》で1位独占ですからね」

「そうそう!そういえばそのヒロインも《彼女にしたいキャラランキング》で1位取ってませんでした?」

 

ああ!そういえば!と龍護がスマホを取り出してその漫画のホームページを見る。

 

「龍護さんはお気に入りのシーンってあります?」

「これは個人的になんですけど五大王との戦闘シーンありますよね?それで主人公が追い詰められるところ。あの時のヒロインが庇って主人公の力が暴走して五大王全員を倒すシーンとかですね」

「あ~、分かります。あれは凄いですよね。ヒロインも主人公も一途だからもう・・・ね・・・それでその後主人公が抱き抱えた時のヒロインのセリフ」

「「『貴方と会えて・・・私・・・幸せだったよ』」」

「涙を流しながらのアレは泣けます」

 

お互いに手を出し合って握り合った。

どうやら共感してくれる人がいた事を知って同志が芽生えたようだ。

 

「そういえばアレ、アニメ化するんですよね?」

「え!?それは初耳ですよ!?」

 

龍護の言葉に雪菜がスマホサイトをチェックする。

どうやら放送は12月からのようだ。

すると龍護のスマホがメッセージを受信した。

 

「彼女からですか?」

「・・・いや・・・どうやらコンサートの通知ですね」

 

コンサート?と雪菜は疑問を投げ掛ける。

龍護がスマホの画面を見せる。

 

【おめでとうございます!

楠野魅子主催の限定コンサートに当選しました!

貴方の当選番号及び整理番号はこちらです。

【4849】

※当日に係員の方に当選番号を伝えて下さい。

開催期日は以下の通りとなります。

開催日:20XX年8月19日(土)

開催時間:午後14:00

開催場所:国立喜龍学園体育館

※当日は私服でお起こし下さい。

※スマホによる写真撮影、及び動画撮影はご遠慮願います。

※なお、お名前とスマートフォンの機種が不一致な場合、替玉参加と見なされます。

そのような事が起こった場合、発覚次第即刻退場となりますので御注意下さい。】

 

まさかの開催場所は龍護達の通う学園だった。

 

「おめでとうございます!」

「まさか当たるとは・・・」

 

すると再び龍護のスマホがメッセージを受信した。

相手は友姫のようだ。

 

『リューゴ!あのコンサート当選しちゃった!』

 

どつやら友姫も当選したようだ。

 

「どうも友姫の方も当たったらしいです」

「コンサートでデートですか・・・羨ましいですね」

 

そろそろ帰りますか・・・と雪菜が切り出してお互いに帰ることとなった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「・・・様の指示通り、楠野魅子のライブに奪木龍護と友姫・S・ラジネスを当選させました」

「宜しい」

「ですが・・・」

「?」

 

報告を終えた女性の表情が曇る。

 

「友姫・S・ラジネスは【怠惰の龍】として確定しております。ですが本当に奪木龍護が【強欲の龍】の所持者なのでしょうか?」

「それは私にも分からんよ。だから試すんじゃないか」

 

男は勝ち誇ったような笑みを止めない。

恐らく何かしらの策があるように見えた。

 

「友姫・S・ラジネスはいいとして、奪木龍護が龍の所持者であればこちらも動き易くなる。それにもしも本当に龍の所持者なのであれば既に切り札は持っているからな・・・」

 

そう言った男の視線の先には、パソコンの画面に映る龍護の義姉の奪木恵美の姿があった。




さて、以前お話したように少しづつ書き溜めが減ってきております。
その為、次回話を期に一旦休載とさせて頂く事になりました。
閲覧頂いている方々には大変申し訳なく思っております。
私も執筆時間を取りたいのですが仕事とプライベートの両立があまり出来ていない為このような判断をする事になりました。
一応終わりまでのメモはありますので完結は必ずさせようと考えていますので暫くお待ち下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仕組まれたコンサート②

翌日、学校で龍護はクジが当たった事を伝えると野武は自分の事のように喜んでいた。

因みに白と雫はハズレたようだ。

・・・まぁ両者共にどちらでも良かったようだが・・・

すると野武は龍護に涙目で、サインでもなんでもいいから記念になる物を貰ってきてくれ!と本気で頼んできた。

それに対して龍護は引き気味に、考えておく。と言っていたが相手は楠木魅子。

多忙なスケジュールで対応出来ないだろうと踏んでいた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

コンサート当日。

龍護と友姫は家でのんびりしていた。

予定では45分前になったら雪菜が車で運んでくれる予定なのだ。

最近はラジネス家が所有するリムジンでないので龍護本人は助かっているようだ。

 

「そろそろかね?」

 

スヴェンが龍護に話し掛ける。

 

「そう・・・ですね。そろそろ行きます」

「この前は物騒だったからね、思い切り楽しんでおいで」

 

ええ、と返事して部屋を出ようとしたその時だった。

 

「あぁそういえばちょっと面白いものを見付けんだ」

「面白いもの?」

 

スヴェンが手招きをして龍護はそれを見に行った。

そして時間となり雪菜が車を玄関の前で停め、2人を乗せ、喜龍学園へと向かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

体育館前には45分前にも関わらず既に男女混合の行列が出来ていた。

 

「すげぇ・・・」

「人気みたいだね」

 

恐らく先頭の者は1時間以上は待っていたのだろう。

そして龍護と友姫の後ろにもすぐに行列が出来た。

体育館の入口が開いて係員が番号を確認し始め、中へと入っていく。

暫くしてから龍護と友姫の番になり、係員がメールと名前を確認する。

2人とも確認が終わってパンフレットを渡された。

今回のプログラムのようだ。

恐らくこのパンフレットなら野武の土産になるな。と思って鞄にしまい、会場内に進んだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「よくもまぁ、短時間で準備出来ること・・・」

 

体育館内は綺麗な内装に仕上がっていた。

ステージにはポップな字体で【楠木魅子マル秘コンサート!!!!】と書かれた横に長い垂れ幕。

会場はまだ明るいがそれでも尚、主張の強いカラフルなイルミネーションが壁全体に。

天井からは動物の姿をした風船のようなものがLEDを巻かれて吊るされていた。

恐らく暗くなったら嘸かし綺麗なのだろう。

そしてパイプ椅子1つ1つには非売品の団扇と様々なグッズが入った袋が置かれていた。

席は自由らしく、既に前方は埋まっていた。

龍護と友姫は詰めた方がいいだろうと考え、前方の端に座る。

 

「楽しみだね」

「まぁな」

 

飲食も自由らしく、他の客は炭酸飲料等を持ってきて飲んでいる者もいた。

 

暫くして全部の席が埋まり、あちらこちらで友人と話す声が聞こえ、体育館全体に響く。

開始30分前だというのにこの混み具合だ。

これが逆に楠木魅子の人気さを物語っている。

そんな中龍護はスマホで楠木魅子の経歴を調べていた。

 

年齢は28歳。

3年前に声優としてデビューし、去年から人気が出始め、今年でその人気は急上昇している。

そして最近ではハリウッド映画に出てくる人物の日本語吹き替えを担当している。

だが龍護は個人的に楠木魅子に対しては肩入れする程ではないな・・・と感じていた。

理由は簡単。

 

(どうも素人感が抜けないんだよな・・・)

 

別に龍護自身が声優を分かり切っているという訳ではない。

テレビで海外ドラマの日本語吹き替えで楠木魅子と他の声優が吹き替えを担当していて、他の声優の台詞を聞いた後に楠木魅子のセリフを聞くとどうにも素人感が拭えないでいるのだ。

なのにこれ程の人気ぶり。

楠木魅子の人柄等も評価されているのだろう。と龍護は自分に言い聞かせて自己解決した。

少しづつ会場が暗くなり始める。

それの同時にウオオォォォォオオオ!!!!という歓声が体育館全体を揺らす。

ステージの両端からドライアイスの煙が現れ、豪華な演出を醸し出している。

 

『皆さーん!!!!今日は私のコンサートに来てくれてありがとうー!!!!』

 

スピーカー越しに楠木魅子の声が聞こえる。

だが未だに姿を表さない。

だが龍護は少しだけ違和感を感じていた。

 

(なんか・・・いつも聴いてる声と違うな・・・)

 

龍護が感じていた違和感。

それは自分でもよく分からない。

ただ、声優をしている時と違い、聴き入ってしまう程、美しく綺麗な声なのは分かった。

未だに姿を表さない楠木魅子に対して騒ぎ出し、辺りを見回すファン達。

 

「皆ーこっちこっちー!!!!」

 

大きな声が聞こえ、全員が振り向くと体育館の2階に楠木魅子本人が豪華な衣装を着て立っていた。

そして再び龍護は違和感を感じる。

 

(あれ?楠木さんって結構可愛い?)

 

そう、テレビ越しに見た楠木魅子より可愛く見えていた。

そして楠木魅子本人は即席で作られている階段を使って1階に降りて来て、ファン達がいる客席の真ん中にある渡り道を歩いて行く。

その間もファンサービスは忘れていない。

握手を求めるファンには数秒ながら握手をしてサインを求められたらその物品を回収する。

恐らく後で書いて渡すのだろう。

それを見て龍護は、仕方ねぇけどやるか・・・と野武の土産にする為に団扇(その裏にサインを書いてもらう)を持って立ち上がり、ファンが殺到する渡り道に歩いて行く。

そして楠木魅子が龍護を見た途端、彼女は目を一瞬見開いて、妖美な笑みを見せた。

だがその笑みは理由は分からないが、龍護にとっては背筋を凍らされるような感覚に陥った。

が、楠木魅子は平然として龍護から団扇を受け取る。

龍護がその寒気の理由が分からないまま楠木魅子は離れていき、壇上に上がった。

 

『皆ー!改めまして、楠木魅子でーす!!!!今日は沢山盛り上がろー!!!!』

 

マイク越しに楠木魅子が話すとファンの歓声が体育館中に響き渡る。

それでも尚、龍護は先程からある違和感を拭えない・・・のだが同時に少しづつ、その違和感も消えていっていることも気付けなかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

楠木魅子がとあるアニメのエンディングを歌ったり、ファンからの要望で曲を歌ったり等している。

 

(生で聞くから歌声も良かったのかな・・・ちょっとCDショップで曲探してみるか)

 

どうやら龍護もその声を聞き入っていたようだ。

すると横から肩をつつかれる。

友姫だ。

 

「・・・どした?」

「なんというか・・・普通じゃない?」

「そうか?」

 

どうも友姫からしたら楠木魅子の歌声はに惹かれるものはなく、普通のようだ。

だがその違和感は突然現れた。

友姫に触れられた途端に楠木魅子の歌声に一切の魅力を感じられなくなったのだ。

 

(どうなってんだ・・・これ・・・)

 

その証拠に友姫の手が龍護の服から離れた途端再び楠木魅子の歌声が美しく感じた。

 

(・・・まさか・・・)

 

龍護が小さな声で友姫に、もう一度俺に触れてくれ。と頼む。

友姫は若干疑問符を浮かべながらも龍護に軽く触れた。

するとたちまち楠木魅子の歌声にまた魅力が消える。

 

(って事はまさか・・・!)

 

龍護は警備員等にバレないようにスマホのカメラ機能を起動する。

とあるものを確認する為だ。

だがそれは全く見当たらない・・・が龍護の中で答えはほぼ出ている。

 

 

楠木魅子は七天龍の遊戯の関係者である可能性が高い─────と・・・

 

理由は簡単。

というのも龍護は今までの龍達を纏めてる時に気付いたのだ。

 

”七天龍の遊戯の能力は【七つの大罪】になぞらえている”

 

最初の死者はルシス・イーラで所持していた龍は【憤怒の龍】。

2人目はネスト・ジェーラスで【嫉妬の龍】の所持者。

龍護は【強欲の龍】の所持者で友姫は【怠惰の龍】の所持者。

 

憤怒、嫉妬、強欲、怠惰は七つの大罪に含まれていて残るは【暴食の龍】、【傲慢の龍】、【色欲の龍】の3人。

そして今回の楠木魅子の異変。

歌声や容姿を見て龍護は綺麗だなと感じていたが友姫に触れられてそれは無くなった。

相手を魅了していると龍護は見た。

そして現在、この世界には”相手を魅了する魔法”なんかは存在しない。

すると必然的に何かしらの能力を持っている可能性がある。

とすれば残るは龍の力の所持者という判断となり・・・楠木魅子の場合は恐らく─────

 

(色欲の龍か・・・?)

 

【暴食の龍】の所持者ではないのは確かだ。

となると後は【傲慢の龍】か【色欲の龍】のどちらかだ。

そして先程の違和感。

友姫に触れられなければ楠木魅子は可愛らしく、皆に可愛がられる存在となる。

つまり、友姫の持つ【怠惰の龍】の力が働いたのだ。

すると消去法で【色欲の龍】の所持者の可能性が浮上した。

そこで龍護はスヴェンにメールで────

 

《楠木魅子、色欲の龍の可能性高。情報求む》

 

と短いが確実に意味が伝わるメールを送った。

すぐに返信が帰ってきて中を見る。

 

《_~![!->?'&*@=@@*+?♡♪\*^☆→○》

(・・・は?)

 

文字化けをした文章が送られてきた。

 

(通信が妨害されてる・・・?)

 

そう考えるのが妥当だろう。

恐らく向こうは龍護達が龍の所持者である事に気付いている可能性も高い。

そして何らかの方法で近付いてくる場合もある。

龍護はいつ、どのタイミングで楠木魅子が仕掛けてくるか警戒を始めた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「皆ー!楽しんでるー?」

 

楠木魅子の呼び掛けに観客は声援で答える。

今の所おかしな動きはない。

 

(考え過ぎか・・・?)

 

自らを落ち着かせる為に配られたパンフレットの今日のプログラムを見る。

 

1.開演

2.歌披露

3.雑談

4.休憩

5.お便り紹介

6.握手会・写真会(※写真会はアプリ会員に限る)

7.閉会

 

(・・・ん?)

 

パンフレットをくまなく見ていると下の方に小さく────

 

※閉会前に個別雑談の抽選があります。

当選した方は閉会後、帰らずに役員の指示に従って下さい。

 

と書いてあった。

 

(個別って・・・そんな時間あんのかよ・・・?)

 

近くを役員の男性が通ったのでこの個別雑談について聞いてみる事にした。

 

「あぁ、個別雑談の事ですか。ライブの時は毎回やってますよ。けど当選者は1人か2人なので相当競争率も高いですね」

 

どうやら毎回やっているとの事。

とは言っても周りを見ると顔が普通だったり、オタクそうな見た目だったりと、楠木魅子に対していい印象を受けそうな者は少ない感じがした。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

休憩に入り、それぞれが別の行動をする。

トイレに行く者、パンフレットを読む者、持ってきた飲み物を飲み干す者等、様々だ。

 

「リューゴ」

「ん?」

 

ちょっと私も行ってくる。と行って友姫が席を離れた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

タッタッタッとリズムのいい足音が廊下に響く。

土足でも汚れないようにと廊下やライブ会場には緑色のマットが敷かれている。

いつもとは違う雰囲気に友姫の足取りは軽かった。

角を通ろうとした瞬間に誰かとぶつかってしまう。

 

「痛っ!?」

「きゃあっ!?」

 

お互いに転んでしまうも、友姫はすぐに立ち上がる。

 

「ごめんなさい!大丈夫?・・・って楠木魅子さん!?」

「あたたた・・・あ、ごめんなさい大丈夫でしたか?」

 

友姫は、私は大丈夫です。と答え、楠木魅子に手を差し出す。

楠木魅子もその手を取り、立ち上がった。

 

「貴女が友姫・S・ラジネスさんね?あのラジネスカンパニーの」

「あ、知ってるんだ?」

「ええ、私が使ってる機材も全てラジネスカンパニー製だもの!あ、おトイレに行くつもりだったんでしょ?この後すぐ始まっちゃうから急いでね?」

「はーい。頑張ってねー!」

 

友姫は手を振りながらトイレへと走っていった。

 

「本当・・・急いでね?貴女の想い人さんが壊れる前に・・・」

 

楠木魅子は怪しい笑みを浮かべてその場を去っていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

トイレを終えた友姫が帰ってきて龍護の横に座る。

ここから後半となる。

壇上には机と椅子が一組設けられ、机の上には大きな白い箱が1つ置かれていた。

恐らくあれの中にハガキがあってランダムで取り出され、楠木魅子が読み上げるのだろう。

ファン達全員が座った所で照明が暗くなる。

 

『はーい!皆揃ったー?』

 

楠木魅子の問いにファン達は歓声で答える。

 

『続いてはお便りコーナーです!』

 

それではいってみよー!と白い箱に手を入れ、ハガキを出した。

 

『えーっと・・・ペンネーム《ドンジャラ》さんからのお便りです』

(・・・ん?ドンジャラ・・・?)

 

龍護にはこのドンジャラというペンネームに聞き覚えがあった。

というのもこのドンジャラという人は安達野武だからだ。

以前学園内で何かハガキを書いてるのが見えてそのペンネームがドンジャラだったのだ。

 

『では・・・楠木魅子さん、こんにちは。私は楠木魅子さんを初めて見てからファンでした。そんな楠木魅子さんに質問です。オタクっぽい男性は楠木魅子的にありでしょうか?・・・うーんそうですねぇ・・・』

 

楠木魅子が野武の質問に対して真剣に考えている。

そんな楠木魅子を見てて、何してんだあいつは・・・と龍護は溜息を付いた。

 

『私的にはありですよ?まぁ、その度合いにもよりますけどね!』

 

それでは次行きましょー!と再びハガキを取り出してその質問に答えていっていた。




皆様、申し訳ないのですが今回を機に七天龍の遊戯は一時的に休載させて頂きます。
理由としては執筆時間が取れなかった為です。
今後は再び執筆の方に集中してまた皆様に会える事を楽しみにしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仕組まれたコンサート③

平成最後の投稿です


様々な質問に答えている楠木魅子。

彼女が様々な答えを出す度に笑い声や冗談地味たブーイング等があちこちから湧き上がる。

そんな様子を友姫と龍護も笑って見ていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

『それでは!残念ですが次が最後のプログラムとなります・・・最後はおなじみのぉ~!マンツーマン談笑会抽選~!』

 

再びウオオオオォォォォォオオオオ!!!!!!!!と歓声が湧き上がる。

スポットライトが2つ現れ、不規則な動きを始めた。

 

『さぁ・・・この中で私と2人だけの座談会を開けるのは誰か!そのお相手は~・・・』

 

スポットライトがファンの間を縫ってあちこちを照らし出す。

ファン達は自分が当たるようにと手を握り締めて拝む者もいた。

そして・・・その相手が決まった。

 

『今日の座談会の相手はこの人!』

 

その相手は・・・奪木龍護だ。

そして本人は楠木魅子を見て察した。

何かを仕込んでくると。

楠木魅子に呼ばれ、龍護は壇上に上がる。

龍護にマイクが渡り、龍護は一言だけ話す為に口を開いた。

 

『えーっと・・・運良く選ばれました。この座談会を期に楠木魅子さんとの距離が縮まればいいと思います』

 

ファン達からは拍手が送られた。

マイクを楠木魅子に渡して龍護は壇上から降りてきた。

 

「良かったね」

(どこがだ・・・)

 

恐らく楠木魅子は友姫を狙っている。

その為に間接的な関係のある龍護を巻き込んだのだ。

だが1つ疑問がある。

 

(なんで俺と友姫が付き合ってる事を知ってんだ?)

 

友姫に手を出すならこの座談会を狙って本人を指名すればいい。

だが相手はそれをしなかった。

それが心残りな龍護は変な緊張感が拭えない。

 

(考え過ぎか・・・?)

 

とにかく警戒しておくに越したことは無いなと判断し、いつでも【強欲の龍】の力を使えるように準備する。

握手会が始まり、少ない時間にも関わらずファン達は満足していた。

自分達の番になり、2人が立ち上がる。

龍護は紋章に気付かれないように右手を差し出した。

 

「えっと・・・今日初めてライブに来ました」

「あ!初めてなんですか!?嬉しいです!この後も宜しくお願いしますね!」

 

えぇはい・・・と少し警戒しながらも龍護は手を繋いだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

全員の握手会を終え、終了の時間がやって来た。

 

『皆ー!今日は来てくれて本当にありがとー!!!!またライブは開くから楽しみにしててねー!!!!』

 

オオオオオォォォォォオオオオオ!!!!!!!!

 

大歓声が体育館を包み、解散となった。

龍護はマネージャーに呼ばれ、体育館の放送室に案内される。

友姫にとある事を受け取ってから席を立つ。

友姫は、行ってらっしゃい。と手を振っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

マネージャーが放送室に案内して、ここに座って待ってて下さい。と龍護に着席を促し、部屋を出る。

放送室はあまり飾られていなかった。

暫くして楠木魅子が入ってきた。

 

「すみません~お待たせしました?」

「いえ、大丈夫です」

 

楠木魅子が龍護の対面に座る。

 

「それでは短いですがマンツーマン座談会を開きましょう!では龍護さん。貴方の事を教えて下さい」

「その前に楠木魅子さん、1ついいですか?」

「・・・?はい何でしょう?」

「────貴女は七天龍の遊戯についてどこまで知ってますか?」

 

龍護の言葉に楠木魅子はピクッと反応した。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

七天龍の伝説と聞いて反応する楠木魅子。

だがすぐに惚け始めた。

 

「えっと・・・私あまりそういう類は勉強してなくて・・・────」

「七天龍の能力はそれぞれ七つの大罪に似通った能力を持ってます。【憤怒】、【怠惰】、【傲慢】、【強欲】、【嫉妬】、【暴食】、【色欲】、現在七天龍の遊戯では【憤怒】、【嫉妬】が何者かに殺されています。そして貴女に聞きます────貴女は【色欲の龍】の所持者ですね?」

「・・・」

 

龍護の言葉に楠木魅子は黙ったままだ。

数秒して漸く笑顔のまま口を開く。

 

「・・・仮に私がその【色欲の龍】の所持者だとして何がその理由になったのかな?」

 

この反応は当たりか・・・?と龍護は感じた。

笑顔はそのままだが明らかに先程の雰囲気とは違う。

先程はおおらか雰囲気が楠木魅子にはあった。

だが今は違い・・・

 

どのようにして利用するか────

 

そんな思いが楠木魅子の笑顔とその目から龍護にヒシヒシと伝わる。

 

「根拠は簡単です。確かに貴女を初めて見た時は惹かれました。ですが俺の彼女が持つ【怠惰の龍】の身体に触れた途端、貴女に惹かれる理由が無くなり、その際に貴女を見たらただの人でした。なので────っ!?」

 

龍護が説明する中、その口は楠木魅子の口によって塞がれる。

 

(ちょっ!?なんだ急に!?)

 

龍護がパニックになってる中、楠木魅子は”離さない”という意思の現れなのか、龍護を抱き締めながら口内を犯し続ける。

そして少しづつ龍護の抵抗も少なくなってきた。

頭が楠木魅子をという存在を受け入れ始めているのだ。

 

(やべ・・・なんだこれ・・・?)

 

 

甘い────

 

 

気持ちいい────

 

 

様々な甘い感覚が龍護の頭と龍護自身を包み、抵抗力を削ぎ落とす。

そして楠木魅子は漸く離れ、楠木魅子の口と龍護の口に銀色の細い橋が掛かった。

 

「貴方の名前は?」

 

楠木魅子が名前を聞くが龍護は黙ったままだ。

 

「へぇ・・・【色欲の龍】の力を使っても抵抗できるとはね・・・なら────」

 

楠木魅子が自分が身に付けていた服のボタンを外すと、その胸元には桃色に輝く龍の紋章があった。

 

(桃色の紋章・・・!!!!やっぱり楠木魅子は【色欲の龍】!!!!)

 

龍護はこの部屋からの脱出を試みようとするが身体に力が入らない。

【色欲の龍】の能力に身体の抵抗が失われつつあるのだ。

 

(くそっ!友姫を連れてスヴェンさんか雪菜さんに連絡して増援しなきゃいけねぇのに!)

 

龍護の抵抗も虚しく再び龍護の口を楠木魅子が塞ぐ。

少しづつ意識が朦朧とし始め、今自分がどんな状態かすらも分からなくなっていた。

そんな龍護に楠木魅子が話し掛ける。

 

「いい?今から貴方は私の為に動くの。貴方の全てを差し出し、自分の手で友姫・S・ラジネスを殺しなさい」

 

そんな命令に従える訳が無い。

だが今の龍護の意思は【色欲の龍】の持ち主である楠木魅子が握っている。

今の龍護は楠木魅子にとってゲーム内のプレイヤーそのものになっていた。

そんな龍護に・・・

 

「・・・・・・はい・・・・・・・・・」

 

決断の猶予は無かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

コツコツ・・・と何者かが体育館の檀上に歩いてくる。

その者は楠木魅子だった。

そしてその後ろから追従して龍護が現れる。

 

「ふぅ・・・一応彼との取引は成功しそうね」

 

龍護が少しづつ頭を上げるとそこには多くのファンに身柄を押さえ付けられた友姫がいた。

友姫は格闘技等をしているものの10代の女性が大勢の巨漢の男性達を退かすなとほぼ不可能だ。

 

「貴方が先に来てくれて良かったわ。恋人同士で争うなんて見ものだもの♪」

 

楠木魅子が龍護に向き直り、黒い何かを差し出され、受け取りなさいと言われる。

龍護はそれが何かを知っていた。

手に取るとズッシリとした重さが伝わり、これが人を殺す道具なのだと理解させられる。

そして再び楠木魅子が友姫に視線を移し、言い放った。

 

「殺しなさい」

 

その言葉にピクッと反応するが微動だにしない龍護。

その龍護を見て楠木魅子は苛立ったのかパァン!と龍護の頬を叩く。

 

「聞こえなかったの?”殺しなさい”と言ったの・・・おかしいわね・・・【色欲の龍】の力ならすぐに動かせるのに・・・」

 

再び楠木魅子が【色欲の龍】の力を使い、龍護自身の制御を奪おうとした時だった。

ゆっくりと龍護が歩き出す。

その姿を見て怪しい笑みが浮かぶ楠木魅子。

 

「そう・・・それでいいの」

 

だが楠木魅子の顔は優れない。

【色欲の龍】の力を使い過ぎているのだ。

 

(今はまだ制御出来てるけど恐らく後1回か2回相手の身体の制御権を奪おうとしたら暴走するわね・・・)

 

【色欲の龍】の能力は”自分の姿や声を見たり聞いたりした者の身体の制御を奪う”能力だ。

そしてその制御を奪われた対象は例え骨が折れようともその命が尽きるまで【色欲の龍】の所持者に動かされる。

だがこの【色欲の龍】も万能ではない。

制御を多重に奪われる事でその対象は自我を失って暴走を始め、龍の能力の支配を外れる。

その支配外になった者は敵味方構わずに攻撃するのだ。

そしてその攻撃対象は【色欲の龍】の所持者も含まれる可能性がある。

龍護が友姫に近付き、襟元を掴んで持ち上げる。

 

「りゅう・・・ご・・・?」

 

止めて・・・!と友姫の目は訴えている。

 

「友姫・・・」

 

すると龍護は足先を楠木魅子に向けた。

そして・・・自身の身体を無属性魔法の強化魔法で強化し、友姫を持ったまま振りかぶった。

 

「ぶっ飛ばせえええぇぇぇぇええええ!!!!」

「なっ・・・!?」

 

さすがの楠木魅子も驚いた。

確実に【色欲の龍】の能力で龍護の身体の支配は奪ったはずだ。

だがここにいる龍護はどうだ。

楠木魅子の持つ龍の能力を振り切っている。

一般人に出来るはずはない。

七天龍同士は能力が効かないか相殺される。

・・・ならば・・・

 

(彼も七天龍の遊戯の参加者だったの!?)

 

だが一つのおかしい。

龍護が七天龍の遊戯の参加者であるなら他の龍の能力は効かないはずだ。

それが何故効いていた。

そんな楠木魅子の考えを他所に友姫は近付いていて気付いた時には遅かった。

【怠惰の龍】の【無効化】を持つ友姫には龍の能力は愚か、魔法の何も効かない。

そしてその友姫は既に右腕に雷を纏って楠木魅子の胴体に右拳を叩き込んだ。

 

「があああぁぁぁぁああああっっっ!?!?」

 

全身に強力な電気が駆け巡り、その場で座り込む楠木魅子。

胸元にあった龍の紋章は消え、【色欲の龍】の能力が消えた事によりファン達の制御も切れ、ファン達は一斉に倒れた。

 

「龍護!」

 

自分の恋人が心配になって駆け寄る友姫。

龍護は立ち上がって無事であることを見せた。

だが龍護も疑問があった。

 

(【怠惰の龍】の能力を俺の能力で強化した筈なのになんで効いたんだ・・・?)

 

龍同士なら能力は効かないはずだ。

遊戯参加者である龍護は楠木魅子に会う直前、【怠惰の龍】の【無効化】を友姫から予め借りて対面した。

そして龍護は【強欲の龍】の所持者。

能力は自身の強化、龍化である。

能力強化は他の龍の能力も含まれているので【無効化】も強化出来たはずだ。

 

(やっぱ他の龍の力は【強欲の龍】を使ってもあまり強化されないのか・・・?いや、だとしても俺の龍の能力強化で【無効化】を少し位は強化してるはずだ・・・【色欲の龍】の能力が打ち破った・・・?だとしてもそれも【無効化】を更に強化すれば回避出来るからこの結論は辻褄が合わねぇ・・・どうなってんだ?)

 

自身に何が起こっているのか・・・それが不明のままだ。

友姫に呼ばれ我に戻り、楠木魅子がいた壇上を見るが既にいない。

恐らく状況的に不利と考えて逃げているのだろう。

だが先程友姫の雷魔法を受けて弱っているだろうからあまり遠くには行ってないはずだ。

とにかく・・・とスマホを取り出して雪菜に連絡を取ろうとした・・・のだが・・・

 

「まだ妨害電波残ってんのかよ・・・」

 

スピーカーから聞こえるのはツーツーツーという音のみ。

ハァ・・・と溜息を漏らしながらも友姫と共に楠木魅子を追う為に走り出した。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「ハァッ・・・ハァッ・・・」

 

楠木魅子が覚束無い足取りで体育館から離れ、教室が連なっている廊下を歩いている。

後ろからタッタッタッと2つの足音が時折重なって近付いて来ている。

すぐにあの2人だと分かり、近くにあった空き教室に転がり込んだ。

 

『どこ行った・・・!?』

『手分けして探そう!』

 

再び駆け出して遠のく足音。

完全に消えたのを確認して安堵の息を漏らした。

そしてその間に対策を考え始める。

 

(恐らくあの奪木龍護って奴のコントロールが効かなくなったのは友姫・S・ラジネスの【怠惰の龍】の力ね・・・ったく何よ!あの人に脅迫された挙句、糞ガキ共に計画の邪魔をされるなんて!)

 

楠木魅子は今の現状にイラつき始めている。

実際に楠木魅子に【色欲の龍】の能力が付き始めた前はあまり同性からは好まれていない人物であった。

というのも男性俳優や声優に明ら様な媚びや自分の呟きが特定されないように作った裏アカウントで番組の裏話や他の女優達への愚痴などが多かったからだ。

そして【色欲の龍】の能力が身に付き、周りが思い通りになったのを見て今の自分ならなんでも出来る。なんでも叶うと思っていた。

その証拠に有名な俳優と交際を始め、異性同性問わずに尊敬されていた。

だがそれは【色欲の龍】の能力による相手のコントロールがそうさせていたのだ。

そしてとある人物に目を付けられ、その交際相手に浮気させるように仕向けさせられた。

楠木魅子はその俳優に想いを寄せていたが七天龍の能力が露になれば自分の身に自由は無い。

だが上手くいけば自由にしてやると聞いて仕方なくその俳優に浮気をさせるコントロールを施して悲劇のヒロインを演じていた。

その挙句その人物から「友姫・S・ラジネスの交際相手を利用して紋章を奪え」と命令が下った時はもう心身共に疲れていた。

途中まで順調だったのが一瞬にしてボロボロになったのだ。

見ていた夢は無理矢理掻き消され、現実に戻された時の放心状態と言ったらなかった。

だが自分の自由の為に、能力をバラされたく無いが為に2人を襲撃した。

その結果がこれだ。

 

「最悪最悪最悪最悪最悪最悪、本っ当に最悪!!!!!!!!」

 

怒りが堪えきれず、ガン!!!!と積まれていた机を蹴ってしまった。

その音に気付いた2人が戻ってくる。

 

(ヤバッ!!!!)

 

【怠惰の龍】に【色欲の龍】の力は効かない。

そして楠木魅子は魔法適正がCと低い。

Cランクの魔法なんざたかが知れてる。

友姫のポテンシャルは既に聞かされていて魔法による攻撃は不可。

その上魔法のコントロールもイマイチ。

龍の力も使えないとなると今は逃げるしかない。

楠木魅子は窓を開け、外に出る。

窓から逃げたのを悟られないように閉めてから外の壁に固定されているパイプの上に立った。

時折ギッ・・・ギッ・・・と鳴る鉄パイプに折れてしまうのではないかと気が気でない楠木魅子。

クライミング等のスポーツをやっていればパイプや手すりを伝って下に行けただろう。

だがこの方、スポーツすらも未経験の為そんな勇気は無かった。

無属性魔法の飛行魔法を使えば楽なのだが本人はCランクで魔力も少なく、学生の頃に魔法の授業で暴発して後頭部を3針縫う大怪我をしたのを思い出して全身が震える。

左の方にバルコニーがあるのを見付け、意を決して足をずらしてバルコニーに向かう。

そして漸くバルコニーに足が着いたと同時に先程いた教室の窓が開き、そこから友姫が顔を覗かせた。

 

「いたか?」

「ううん・・・ちょっと飛んで見てみる」

 

友姫の言葉に楠木魅子は焦り出し、近くにあった室外機に身を隠す。

友姫が魔法を使って浮遊し、辺りを飛び回る中、楠木魅子は口を手で抑えて息を殺していた。

 

「だめ。見当たらない」

「おかしいな・・・こっちの方で音がしたのに」

 

その時だった。

 

ピリリリリ・・・ピリリリリ・・・

 

楠木魅子が持っていたスマホに着信が入り、なんでこんな時に!?と動揺しながら着信音を消し、バレないように声も殺して電話に出る。

 

「ちょっと!今電話しないでよ!今彼等に追われて・・・」

『もういい。君の役目はもう終わりだ』

「・・・え?それって・・・」

 

遠くから一機の軍用ヘリが見える。

それを見て楠木魅子の顔から血の気が引いた。

 

「あなた・・・まさか・・・!?」

『言っただろう?自由にしてやる・・・と』

 

自由にしてやる・・・その言葉の意味がやっと分かった。

 

「ね・・・ねぇ!?嘘でしょ!?だって私、あなたの言う通りに!!!!」

『あぁ、私の思惑通りに動いてくれて感謝するよ。だから・・・さっさと死んでくれ』

 

ブチッ!と通信が切られ放心する楠木魅子。

その頬に涙が伝う。

 

「なんでよ・・・なんで私がこんな目に・・・」

 

既に軍用ヘリは近付いていていつでも射撃可能な距離にまで迫っていた。

そして・・・遂に機関銃が回転し、1つの銃弾が楠木魅子の近くの窓を突き破った。

それを合図に無数の銃弾が学校の壁に突き刺さる。

楠木魅子は当たりたくないが為に必死に頭を抱え、身を低くする。

一旦射撃音が止んだ。

だがそれは諦めた訳では無い。

確実に楠木魅子に当たる位置に移動している。

その証拠に・・・軍用ヘリに搭載されているライトが楠木魅子を照らし出した。

 

ああ・・・終わった・・・

 

楠木魅子が全てを諦めた・・・その瞬間だった。

巨大な白い龍の身体がヘリの銃弾の全てを弾いた。

 

「えっ!?」

 

突然の事に楠木魅子はポカーンとしてその様子を眺める。

その横から友姫が楠木魅子に近付いてその身体を持ち上げ、白い龍になった龍護に乗った。

 

「リューゴ!早く離れよう!」

 

友姫の言葉に龍護は頷き、翼を広げて天高く飛び上がる。

その様子はヘリに乗っていた男性も見ていた。

 

「白い龍!?【強欲の龍】か!!!!おい!あの龍を追え!!!!絶対に逃がすな!!!!」

 

男性の言葉に操縦者は急いで方向転換し、白い龍を追っていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

暗い街中の上空を白い龍と黒いヘリが飛んでいる。

 

「リューゴ!ヘリが追って来てる!もっとスピード出せない!?」

 

白い龍になった龍護は『これ以上は無理だ!』という意味を込めて首を横に振る。

実際にはもっとスピードを出せるのだがそうしてしまうと友姫と楠木魅子を振り落としかねないのだ。

龍護はある事を思い付き、友姫と楠木魅子に手を差し出す。

友姫は頷いて楠木魅子を抱えたままその手に乗った。

2人が手に乗ったのを確認して落とさないように抱え込み、龍護は宙返りしてヘリの後ろに着く。

追う側と追われる側の立場が逆転した。

 

「!?くっ!スピードを上げろ!!!!奴らを撒くんだ!!!!」

 

だが龍護は追わなかった。

その様子を見た男性は下に待機させていた陸軍に通信する。

 

「今からドローンで奴らを追う。白い龍と女子生徒は一旦無視して楠木魅子の身柄だけ確保しろ」

 

通信を受けた陸軍は『了解』とだけ言って通信を切った。

そして男性は通信を切った後で考えていた。

 

(あの龍・・・突然の事なのに【怠惰の龍】と団結していたな・・・だとすると【強欲の龍】は【怠惰の龍】と距離が近い関係なのか?俺は楠木魅子には友姫の彼氏を・・・まさか・・・)

 

辿り着いた答えにククク・・・と笑みを見せる男性。

 

「そうか・・・そういう事か・・・だから奴の姉も・・・」

 

これは使える・・・と見た男性は操縦者にお前はこのまま帰還しろ。楠木魅子は私が始末すると言ってその場を離れていった。




平成はありがとうございました!!!!
令和でも宜しく御願いします!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仕組まれたコンサート④

今日誕生日だったので1話だけ掲載させて頂きます


龍護が川沿いに降り立ち、友姫と楠木魅子を降ろす。

そして龍護も白い龍から人間の姿に戻った。

だがガクンと片膝を着いてしまう。

初めてやる慣れていない龍化によって体力が急激に消耗したのだ。

 

(初めて使って手探りで動かしてたから体力の消耗が激しいな・・・数分使った程度でこのザマかよ・・・あと少し龍化を解くのが遅れてたらぶっ倒れてたな・・・)

 

自身の身体に怠さを感じながらゆっくりと起き上がり、楠木魅子の様子を見る。

楠木魅子は放心状態でこっちの問い掛けにも応えられない程弱っていた。

周囲を見廻すが先程のヘリはいない。

 

(チッ・・・さっきのヘリを追うにしても今のままじゃ体力が持たねぇし飛行魔法も無理かもな・・・それにもしも七天龍の遊戯の関係者だったら何かしらの能力を使われて影響されかねねぇ・・・)

 

今はこのまま体力回復も兼ねて楠木魅子が落ち着くのを待つしかないと思ったのか友姫にも休んどけと言ってその場に座り込んだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

暫くして楠木魅子も冷静さを取り戻し、辺りを見廻すようになった。

 

「ここは・・・?」

「成清橋の下だ」

 

声を掛けられて振り向くとそこには座っている龍護がいた。

 

「貴方・・・確か・・・」

「俺は奪木龍護・・・アンタと同じ【七天龍の遊戯】の参加者だ」

 

龍護の言葉にやっぱり・・・と返す楠木魅子。

だがとある事に気付く。

 

「え?じゃあなんで私の【色欲の龍】の能力が効いたの・・・?」

「は?なんだそりゃ?まるで龍の所持者同士は能力が効かないって感じの言葉だな」

 

言葉通りの意味よ。と言われ動揺する龍護。

龍護は七天龍の遊戯上、お互いの能力は効かない事を知らなかった。

 

「え?ちょっと待て!?てことは本当なら俺もアンタの龍の能力は効かないのか!?じゃあなんで参加者の俺は若干効いたんだよ!?」

「分からない・・・けど私はてっきり【怠惰の龍】の力を一時的に借りたんだと思ったんだけど・・・」

 

確かに龍護は【怠惰の龍】の力を借り、自身の【強欲の龍】で強化して楠木魅子と対面した。

だが【色欲の龍】の力が【怠惰の龍】の力を上回り、コントロールを半分奪われたのだ。

つまり完全に無効化出来た訳では無い。

気を抜けば自分が完全に支配されるギリギリの所まで【色欲の龍】の力は届いていたのだ。

楠木魅子が嘘を言ってる可能性がある・・・と思いたいが実際に自分は支配されかけていた為言い返すことは出来ない。

龍護は辺りを見廻すが追っ手は来ていない。

もう少し休んでから色々聞いてみる必要があるな・・・と自分に言いながら楠木魅子に対しての警戒を続ける。

友姫も再び龍護が楠木魅子によってコントロールされないように龍護の手を触れて座っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

一頻り落ち着いた所で龍護が楠木魅子に話し掛ける。

 

「そういやアンタ・・・この時点でもう2人の龍の所持者が殺された事は知ってるか?」

「え?そうなの?」

 

知らねぇのかよ・・・と毒づく。

 

「【嫉妬の龍】の所持者であるネスト・ジェーラスと【憤怒の龍】の所持者のルシス・イーラが何者かの手によって殺されてる。・・・それでさ・・・声優としてテレビに出てるアンタに聞きたいんだけど【傲慢の龍】と【暴食の龍】の所持者について知ってる事はあるか?」

「悪いけど【暴食の龍】については知らない・・・けど【傲慢の龍】の所持者についてなら知ってるわ」

「なら交渉だ。もしもその情報を俺達に教えてくれるならこのまま手を引く事を約束する・・・けど次に会った時は真剣勝負だ」

「真剣勝負・・・ねぇ・・・?」

 

すっ・・・と突然楠木魅子が立ち上がり、龍護達に背を向けながら歩き始める。

 

「確かに私としてはいい条件ね・・・けど、あまり大人を舐めないでもらえる?」

 

立ち止まったかと思うと次の瞬間振り向いて缶のような物を投げる。

 

(!?しまった・・・!)

 

楠木魅子の投げた缶は龍護達の足元で止まり、シュー!と中から煙が立ち込める。

催涙ガスだ。

 

「はっ!彼に言われて持っておいて正解だったわ!」

 

楠木魅子は龍護達が煙から出ようとしてる間に走って何処かに行ってしまった。

 

「くそっ!友姫追うぞ!」

「分かった!」

 

2人は走り出し、楠木魅子の身柄確保を急いだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

街を多くの者が闊歩している中、楠木魅子は大きな交差点の真ん中に立つ。

そして・・・【色欲の龍】の力を発動した。

 

「龍の力を持たない劣等生物共!!!!私に従いなさい!!!!」

 

龍の力を使いながら叫ぶと通行人の全員の目から正気が消え、フラフラと楠木魅子に近付いてくる。

全員が楠木魅子の声を聞いてコントロールされているのだ。

2人が楠木魅子に追い付く頃には既に大勢の人の壁が何重にも施されていた。

 

「(使えるか分かんねぇけどやるっきゃねぇ!)友姫!俺が飛ぶから友姫は楠木の奴を狙って魔法を使ってくれ!」

 

龍護は友姫を持ち上げて浮遊魔法を使い、空へと飛び上がる。

そして楠木魅子の姿を確認した途端に【強欲の龍】の力を発動させた。

紋章は強く輝き出し、龍護と友姫を包んだかと思うと、その光の中から1体の巨大な純白の龍が現れる。

その背中には友姫が乗っていて、いつでも魔法を撃てる体制になっていた。

その時、楠木魅子が2人に向けて指を差す。

 

「彼等を撃ち落としなさい!」

 

その声を聞いた通行人全員が両手を龍護と友姫に翳し、それぞれで使える魔法を撃ち始めた。

龍護も必死に魔法の弾幕を躱し続けるもその弾幕の多さ故に幾つか被弾してしまう。

そして煙に包まれた龍護は一旦離れ、ビルの屋上に降り立つと同時に龍化を解いた。

いや、解けてしまった。

 

「ぐっ・・・うぅ・・・」

 

まだ慣れていない龍化を何度もやって体力が激しく消耗し、その上その状態で再び龍化した為、全身に激痛が走って動く事すらままならない。

友姫も心配そうに龍護の身体を抱き起こす。

 

「龍護大丈夫!?」

「まぁ・・・なんとか・・・な・・・」

 

友姫の治癒魔法で少し楽になって立てるようになったが現状は厳しくなっている事には変わりない。

 

(龍化は強いが2回でこのザマか・・・少し練習も必要かもしんねぇな・・・)

 

軋む身体に鞭を入れるかのように立ち上がり、楠木魅子とその周りのバリケードをビルの上から見下ろす。

向こうもこちらの様子を見ているようだ。

楠木魅子の行動も気になるがもう1つ気になる事がある。

先程の軍事ヘリだ。

あれは確実に楠木魅子の命を狙っていた。

その時点で第三勢力の可能性はほぼ100%と言っても過言では無い。

もしも今の状況でその第三勢力が加われば七天龍の龍の能力所持者4人、龍護と友姫は共闘してるので実質三竦みでの戦闘となる。

そして軍事ヘリを使ってるのが雪菜から教えられた人物の鷹野颯馬という人物なら尚更警戒しなければならない。

 

(めんどくせぇ事になってきやがったな・・・)

 

龍護は心の中で溜息を付いた。

ここで嫉妬の龍の能力である動く要塞の力が自分か友姫に備わっていれば楠木魅子に対しても、鷹野颯馬に対しても安全に倒せただろう。

だがその嫉妬の龍の力は何者かによって奪われている。

 

(無い物強請りしても意味ねぇな・・・)

 

考えてる中、友姫が降りようとした時だった。

龍護の頭の中でスヴェンとのやり取りが蘇る。

 

「どうしたの?」

「友姫・・・ちょっと試したい事があるんだ」

「?」

 

龍護からの頼みという珍しい事を気にしながらも龍護の言葉を聞いてみた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

楠木魅子の前に2人が降り立った。

それを見て楠木魅子は自身の前に人の壁を厚くする。

 

「どうしたの?降伏宣言でもしに・・・」

「悪ぃが逆だ。俺達は宣戦布告に来たんだよ」

 

その言葉に苛立つ楠木魅子。

とうとう痺れを切らし、一斉攻撃をさせる。

その全てが寸分の狂いも無く、友姫と龍護に襲い掛かる。

そして友姫と龍護は煙に包まれた。

 

「フフフッ・・・アハハハハ!!!!!!!!本当馬鹿な糞ガキ共ね!!!!私達は選ばれた存在なのよ!?そして1人生き残ればその人が叶えたい願いが2つも叶うのよ?2つよ2つ!!!!つまり私がこの世界のルールにもなれるのよ!そう!私という存在が絶対なるのよ!!!!これを逃す手は無いでしょ!バカでグズな貴方達の犠牲は私の幸福で補うなら安心なさい?すぐにその紋章を・・・」

「うるせぇよ」

 

短いが圧倒的な威圧感のある声に言葉が止まる楠木魅子。

命中したにも関わらずその声は黒煙の中から響いていた。

少しづつ煙が止み、そこには・・・透き通るかのように綺麗な水色の髪が肩まである中性的な人物が立っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

突然現れた謎の人物に戸惑う楠木魅子。

そして気付いた。

 

(ラジネスと男がいない!?)

 

戸惑う楠木魅子を他所に謎の人物は手を閉じたり開いたりして感覚を確かめているようだ。

 

「ねぇ貴方・・・さっきそこに1組の男女がいなかった?」

 

楠木魅子の言葉に謎の人物はスッ・・・と冷めた視線を送る。

その視線に恐怖を感じたのか、楠木魅子の身体は震え、自然と一歩だけ後退してしまう。

そしてその謎の人物の目は殺意も無ければ戦意も無く、ただ虚無感だけがその目に映っていた。

その人物が漸く口を開いた。

 

「行くよリューゴ」

 

その言葉にハッとした楠木魅子はすぐにコントロールした者達に魔法を撃たせるがその悉くを躱される。

魔法は効かないと判断し、人の壁の中で1番体格の良い男性に肉弾戦をやらせる。

男性も操作され、大きな拳を振り翳す。

だがその人物は首を軽く逸らすだけでその拳を躱し、左足を軸にした回し蹴りを放つ。

メリッ・・・!という音がして男性は吹き飛ばされた。

 

「嘘!?どうして・・・!?」

「どっちが聞きたいの?」

 

その声は後ろからした。

そう、既にその人物は楠木魅子の真後ろに位置取っていたのだ。

先程の戦闘を見たからか恐怖から振り返って直視出来ない。

だがその人物は言葉を続ける。

 

「さっきの2人が消えた事?男性を軽く蹴り飛ばした事?それとも・・・自分の【色欲の龍】の力が効かない事?」

 

正直言うと楠木魅子はその3つの全てを聞きたい。

そして1番に聞きたいのは自分の【色欲の龍】の力が効いてないことだ。

 

「無理もねぇよ。2つの能力が1人に集まった奴に勝てる訳ねぇからなぁ・・・」

「貴方・・・まさか!?」

 

その方法を龍護は聞いていた。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

数時間前。

 

「融合・・・?」

「そう、七天龍の遊戯ではお互いに違う龍の所持者同士で融合し、両方の力を使えるらしいんだ」

 

融合

 

それは互いに龍の力を持つ2人がどちらかが媒介となって、龍の力を持つもう1人を取り込む事で2つの龍の力が発動出来る方法である。

そして融合はお互いの龍の力を反発させず、そのまま引き出せる為かなり有効な手段でもある。

だがこの融合は利点だけではない。

この融合を使い、解除したその時から3日間はお互いに龍の力を使えなくなってしまうのだとか。

2人が融合し、その上2つの龍の力をその身体1つで使う為だ。

つまり、楠木魅子の目の前にいる謎の人物は龍護と友姫が融合した姿となる。

この資料を探すのに数時間も掛けたらしく、スヴェンの苦労が伺えた。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「くっ・・・!」

 

楠木魅子が再び【色欲の龍】を使おうとした時だった。

 

「無駄だよ」

 

見えない透明な半球体が広がり、人の壁ごと楠木魅子を覆った。

【怠惰の龍】の能力無効化だ。

そして【強欲の龍】の力によってその無効化は色欲の龍の力を凌駕している。

【色欲の龍】の力から解放された人達が自分達は何をしていたんだろう?と言いたげにしながらもこの3人から離れていき、楠木魅子の壁は跡形も無く消えた。

 

「どうする?もしも降参するなら紋章だけ貰って殺さないで帰るけど」

「・・・っ!」

 

引かないと理解した融合体が倒そうと1歩足を踏み入れた瞬間だった。

 

 

ダダダダダダ!!!!!!!!

 

 

何処からともなく聞こえる銃声。

そして地面を点々と抉る銃弾は少しづつ楠木魅子と融合体に迫っている。

すぐに危険と判断し、3人はその場を離れて近くの物陰に身を潜める。

融合体がバレないように身を乗り出し銃声がした方の様子を伺う。

そこには軍服を着た男性とその後ろに複数人がアサルトライフルを握ってこちらに来ていた。

友姫と融合した龍護は先頭を歩く人物の顔を見て、まさか・・・?と思い、雪菜から受け取ってずっと持ち歩いていた鷹野颯馬の小さな顔写真を取り出す。

 

完全に一致している。

 

(マジかよ・・・三つ巴じゃねぇか・・・)

 

【色欲の龍】の楠木魅子、共闘している【怠惰の龍】の友姫・S・ラジネス、【強欲の龍】の奪木龍護、そして【傲慢の龍】の鷹野颯馬による4人(友姫と龍護は共闘)の三つ巴の闘いが始まった。




書き溜めを続けてますのでまたお待ち下さいませ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仕組まれたコンサート⑤

今年最後の投稿です


最初に動いたのは鷹野だった。

道のど真ん中に催涙スプレーを投げる。

噴出口からガスが吹き出し、辺りに充満し始める。

龍護達は急いで裏道に周り、鷹野を後ろから強襲する作戦に出た。

現在融合した身体を操縦しているのは友姫であり、龍護は視覚(右目)のみが使えている。

それ以外に使えるのは脳を共有して使える念話くらいだろう。

 

(龍護の龍の力借りるね!)

(あぁ、でも先に友姫の無効化を使ってからじゃねぇと強化出来ねぇからな?)

 

分かった。と返事をして再び物陰に息を潜め、鷹野の様子を伺う。

鷹野は依然として前方を向いているままだ。

そして後ろにいた部下達は前に出て辺りを見回している為、そこには鷹野のみがいるだけだ。

チャンスと見て友姫は後ろから鷹野へ拳を振り翳す。

だが鷹野は後ろを見ずにその拳を受け止めた。

 

「嘘っ!?」

 

すかさず鷹野は後ろを振り向きながら回し蹴りをする。

寸での所で友姫は上半身を反らして直撃を避けるが鷹野は追い討ちを掛けてくる。

友姫でさえ躱すのが精一杯のようで直撃はしないが掠りはしている。

一気に間合いを詰められて鷹野は友姫の胴体に蹴りを叩き込む。

威力で飛ばされ、距離は取ったものの痛みのせいで片膝を着いてしまう。

そんな友姫を見ても一切気にも止めずに追撃を打ち込もうと拳を握って振り翳す。

友姫はやられまいと浮遊魔法を使ってビルの屋上に上がろうとした。

だがその友姫を狙って辺りを探索していた部下と思われる者達が友姫に対して一斉射撃をする。

腕、足、頬等至る所を銃弾は掠めていく。

 

「くっ・・・」

 

先程の蹴りと銃弾を全身に浴びたせいで激痛が身体中を蝕んだのか、集中力が切れて地上にゆっくりと降りてしまう。

その腕からは痛々しい傷と血が流れていた。

それでもお構い無しに鷹野は近付いてくる。

すると向こうに変化があった。

桃色の靄がこちらに迫っている。

鷹野がそれに気付くと追撃しようとしたのを止めて靄から距離を取った。

靄の発生源は楠木魅子だった。

【色欲の龍】の切り札である「色欲完全領域」だ。

普段の色欲の支配とは違い、既に力尽きて亡くなった人や龍の所持者等、生き死にに関係無く生物なら全てを動かせる技だ。

そしてこの能力は半永久的に続き、龍の所持者が死ぬまで理性を完全に破壊し本能の赴くままその者は動き続けるという非人道的な能力でもある。

友姫も危機を感じたのか【怠惰の龍】の無効化を【強欲の龍】の力で強化しながら安全圏を作り上げる。

この「色欲完全領域」に入った鷹野の部下達の目は正気を失い、ぞろぞろを鷹野と友姫を見た。

鷹野が持ってるであろう【傲慢の龍】の洗脳が【色欲の龍】のコントロールに上書きされたのだ。

銃を構えてゆっくりと友姫と鷹野に近付いてくる。

 

その時だった。

 

ぞろぞろと動いていた部下達は急に止まりピクリとも動かなくなった。

その様子に力を使った楠木魅子も動揺した。

次の瞬間、突然鷹野の部下達が個々に向きを変える。

【色欲の龍】の力の使い過ぎによる暴走だ。

言葉ににならない奇声や呻き声を上げ始め、無作法に引き金を引くと同時に血飛沫が飛び散る。

身体の支えが効かないのか銃の反動に胴体が振り回され仲間の頭や周りの建物に被弾する。

 

その様子はお互いに殺し合う地獄絵図。

 

すると鷹野がインカムを起動し、初めて声を発した。

 

「任務遂行、狙撃班はターゲットAのみを射殺。2人は生かせとの事。以上」

 

インカムを切って友姫に背を向ける。

 

「逃げるの?」

 

友姫が珍しく挑発する。

だが鷹野は何処吹く風の如く、友姫を凍る目付きで見た。

 

「悪いがお前らを殺すのは俺じゃない。それに俺は・・・」

 

全てを言い切る前に何かに気付き、上を見上げる鷹野。

漸くか・・・と言いたげに冷めた溜息を漏らす。

上から来ていたのは人1人は軽く持ち上げられる巨大なドローンだった。

 

「時間だ。もうお前らとは顔も見ないと思うがな・・・」

「?それってどういう・・・!?」

 

返答もせずにドローンから排出されるロープに掴まり、その場を離れていった。

だがその間も先程の暴走した部下達はそのままだ。

未だに暴走し、お互いに殺し合っている。

そしてその足元には顔の半分が無くなっていたり、手足が銃弾によって抉られ、血が大量に出ているにも関わらずズルズルと残った手足で動くゾンビのような部下達が転がっていた。

まるでその光景は映画でよく見る人々が感染した後のバイオハザードだ。

その様子にゾッと寒気が友姫の全身を襲う。

そんな中ある事に気付いた。

 

楠木魅子がいない。

 

恐らくとばっちりを避ける為に逃げたのだろう。

だが力を無理矢理酷使したのだからそう遠くへは行ってないはずだ。

友姫は一旦融合を解いた。

すると融合していた身体が光り出し、2人の人影が現れる。

そして光が止むとそこには龍護と友姫が立っていた。

 

「・・・本当に融合した後は龍の力が使えないんだな・・・」

 

龍護は試しに龍化を試みたが左手に紋章が浮かぶだけで力を感じる事は無い。

 

「向こうも多分龍の力を使えないから問題無いと思う。急ごう!」

「あぁ」

 

倒れ、ゾンビのように這い回る鷹野の部下達を他所に2人は楠木魅子を捜索を再開した。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「ハァッ・・・ハァッ・・・」

 

ビルとビルの隙間にある行き止まりに楠木魅子は逃げて身を潜めていた。

そしてその右腕は出血している。

暴走した部下達の発砲した銃弾を掠めていたのだ。

ビリッ!と自身が身に付けていた衣類を少しだけ破り、傷口に押し当てて止血する。

ズキズキと痛みが走るが気にしていられなかった。

そのまま口と左手で布を結び終え、ダラリと全身の力を抜く。

今日はもう酷使した為、【色欲の龍】の力は使えない。

絶え絶えの息を少しでも整えようと無心になりながら呼吸している。

「色欲完全領域」は龍の所持者が死なない限り発動し続ける。

つまりまだ鷹野の部下達は這いずり回っているのだ。

自身も戦えるなら戦って勝利を収めたいが武道等の戦術は一度も習った覚えが無い。

出来るとすれば鉄の棒を持って滅茶苦茶に振り回す程度である。

なんの取り柄も無い自分はダメな落ちこぼれである事は知っていた。

それでも・・・と【色欲の龍】の力を知った時は心が舞い上がった。

この遊戯で勝ち残れば人生をやり直せるのだ。

その僅かな可能性を持って楠木魅子は生き残ろうと必死だった。

だが、その夢は今儚く散った。

何かが楠木魅子の右太腿を貫いた。

 

「え・・・・・・?」

 

地面には赤い水溜まりが出来ていて、その赤い水は自身の太腿から流れていた。

 

「いっ・・・があああぁぁぁあああ!?!?!?!?」

 

数秒遅れて激痛が楠木魅子に襲い掛かる。

遠くにいた鷹野の部下のスナイパーが撃った弾丸が楠木魅子の右太腿も貫いたのだ。

ズルズルと足を引き摺って再びビルの陰に隠れようとした。

だがその右手もスナイパーの弾丸に貫かれる。

 

「────!!!!!!!!!!!!」

 

激痛が全身に広がるかのように楠木魅子の身体を支配する。

 

「い・・・やだ・・・」

 

ポロポロと涙が零れ落ちる。

 

「やだ・・・よぉ・・・死にたく・・・ないよぉ・・・!」

 

激痛で動けなくなった楠木魅子はスナイパーにとっては格好の餌だ。

スナイパーは楠木魅子の胴体に標準を合わせ、そして────胴体の真ん中を貫いた。

 

「ご・・・はっ・・・」

 

楠木魅子は吐血し、過呼吸になる。

すると先程の悲鳴を聞いたのか、何処からか龍護が現れた。

 

「楠木!!!!」

 

駆け寄って回復魔法を掛けるが損傷が酷過ぎて間に合わない。

 

「あな・・・た・・・本っ当に・・・・・・馬鹿ね・・・・・・回復・・・なんてして・・・・・・あなた・・・に・・・なんの・・・メリットが・・・・・・あるの・・・?」

「治療してんだから黙ってろ馬鹿女」

「ほんっ・・・とうに・・・口の・・・・・・減らない・・・ガキね・・・」

 

楠木魅子は諦めたような笑みを浮かべ、グッ・・・!と龍護の襟を掴んで寄せる。

 

「紋章を・・・うばい・・・・・・なさい」

「っ!アンタ何言って・・・!?」

「あの・・・・・・クズ男に・・・紋章を・・・・・・取られる・・・位なら・・・・・・あなたに・・・くれてやるわよ・・・・・・それと・・・1つ・・・言っておくわ・・・」

 

がはっ・・・!と再び吐血する。

そして楠木魅子の手はだんだん冷たくなっていく。

 

「鷹野・・・・・・っていた・・・・・・わね・・・?あいつは・・・・・・」

 

パチャ・・・・・・────

 

楠木魅子は目を閉じた。

そして首も重力に従ってダランと落ちる。

 

「おい・・・!おい!!!!楠木!!!!おいテメェ!!!!目ェ覚ませ!!!!何を言おうとした!?鷹野がなんなんだ!!!!」

 

龍護は必死に楠木魅子の身体を揺するが全く反応を示さない。

そこに友姫が焦った表情でやってくる。

 

「リューゴ!表通りに警察の車が来てる!早く逃げよう!」

「・・・っ!!!!」

 

龍護はせめてこれだけは・・・!と左手を翳しながら呪文を唱える。

すると左手の甲の白い紋章が少しだけ桃色の光を帯びていた。

それを確認して龍護と友姫はその場を去る。

その数分後に楠木魅子の死体は発見された。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「融合・・・か・・・」

 

男がやはりと言いたげにしている。

融合は龍の所持者しか出来ない技である。

それが出来る上、【暴食の龍】は誰かも分かっている。

この男は【傲慢の龍】の所持者なので必然と残るのは【強欲の龍】となる。

 

「なら私の読みは当たっていたのか。それなら話は早い。君達」

「はっ」

 

近くにいた男女2人が姿勢を正す。

 

「奪木龍護の姉である奪木恵美とラジネスカンパニーの社長、スヴェン・S・ラジネスを拘束しろ」

「分かりました」

 

2人の男女はそれだけ言ってその部屋を後にした。

 

「さぁ・・・どうする?奪木龍護」

 

フフフ・・・と含み笑いをする男。

龍護の知らない所で恵美に危機が迫っていた。




来年も宜しく御願いします!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仕組まれたコンサート⑤

今年最後の投稿です


最初に動いたのは鷹野だった。

道のど真ん中に催涙スプレーを投げる。

噴出口からガスが吹き出し、辺りに充満し始める。

龍護達は急いで裏道に周り、鷹野を後ろから強襲する作戦に出た。

現在融合した身体を操縦しているのは友姫であり、龍護は視覚(右目)のみが使えている。

それ以外に使えるのは脳を共有して使える念話くらいだろう。

 

(龍護の龍の力借りるね!)

(あぁ、でも先に友姫の無効化を使ってからじゃねぇと強化出来ねぇからな?)

 

分かった。と返事をして再び物陰に息を潜め、鷹野の様子を伺う。

鷹野は依然として前方を向いているままだ。

そして後ろにいた部下達は前に出て辺りを見回している為、そこには鷹野のみがいるだけだ。

チャンスと見て友姫は後ろから鷹野へ拳を振り翳す。

だが鷹野は後ろを見ずにその拳を受け止めた。

 

「嘘っ!?」

 

すかさず鷹野は後ろを振り向きながら回し蹴りをする。

寸での所で友姫は上半身を反らして直撃を避けるが鷹野は追い討ちを掛けてくる。

友姫でさえ躱すのが精一杯のようで直撃はしないが掠りはしている。

一気に間合いを詰められて鷹野は友姫の胴体に蹴りを叩き込む。

威力で飛ばされ、距離は取ったものの痛みのせいで片膝を着いてしまう。

そんな友姫を見ても一切気にも止めずに追撃を打ち込もうと拳を握って振り翳す。

友姫はやられまいと浮遊魔法を使ってビルの屋上に上がろうとした。

だがその友姫を狙って辺りを探索していた部下と思われる者達が友姫に対して一斉射撃をする。

腕、足、頬等至る所を銃弾は掠めていく。

 

「くっ・・・」

 

先程の蹴りと銃弾を全身に浴びたせいで激痛が身体中を蝕んだのか、集中力が切れて地上にゆっくりと降りてしまう。

その腕からは痛々しい傷と血が流れていた。

それでもお構い無しに鷹野は近付いてくる。

すると向こうに変化があった。

桃色の靄がこちらに迫っている。

鷹野がそれに気付くと追撃しようとしたのを止めて靄から距離を取った。

靄の発生源は楠木魅子だった。

【色欲の龍】の切り札である「色欲完全領域」だ。

普段の色欲の支配とは違い、既に力尽きて亡くなった人や龍の所持者等、生き死にに関係無く生物なら全てを動かせる技だ。

そしてこの能力は半永久的に続き、龍の所持者が死ぬまで理性を完全に破壊し本能の赴くままその者は動き続けるという非人道的な能力でもある。

友姫も危機を感じたのか【怠惰の龍】の無効化を【強欲の龍】の力で強化しながら安全圏を作り上げる。

この「色欲完全領域」に入った鷹野の部下達の目は正気を失い、ぞろぞろを鷹野と友姫を見た。

鷹野が持ってるであろう【傲慢の龍】の洗脳が【色欲の龍】のコントロールに上書きされたのだ。

銃を構えてゆっくりと友姫と鷹野に近付いてくる。

 

その時だった。

 

ぞろぞろと動いていた部下達は急に止まりピクリとも動かなくなった。

その様子に力を使った楠木魅子も動揺した。

次の瞬間、突然鷹野の部下達が個々に向きを変える。

【色欲の龍】の力の使い過ぎによる暴走だ。

言葉ににならない奇声や呻き声を上げ始め、無作法に引き金を引くと同時に血飛沫が飛び散る。

身体の支えが効かないのか銃の反動に胴体が振り回され仲間の頭や周りの建物に被弾する。

 

その様子はお互いに殺し合う地獄絵図。

 

すると鷹野がインカムを起動し、初めて声を発した。

 

「任務遂行、狙撃班はターゲットAのみを射殺。2人は生かせとの事。以上」

 

インカムを切って友姫に背を向ける。

 

「逃げるの?」

 

友姫が珍しく挑発する。

だが鷹野は何処吹く風の如く、友姫を凍る目付きで見た。

 

「悪いがお前らを殺すのは俺じゃない。それに俺は・・・」

 

全てを言い切る前に何かに気付き、上を見上げる鷹野。

漸くか・・・と言いたげに冷めた溜息を漏らす。

上から来ていたのは人1人は軽く持ち上げられる巨大なドローンだった。

 

「時間だ。もうお前らとは顔も見ないと思うがな・・・」

「?それってどういう・・・!?」

 

返答もせずにドローンから排出されるロープに掴まり、その場を離れていった。

だがその間も先程の暴走した部下達はそのままだ。

未だに暴走し、お互いに殺し合っている。

そしてその足元には顔の半分が無くなっていたり、手足が銃弾によって抉られ、血が大量に出ているにも関わらずズルズルと残った手足で動くゾンビのような部下達が転がっていた。

まるでその光景は映画でよく見る人々が感染した後のバイオハザードだ。

その様子にゾッと寒気が友姫の全身を襲う。

そんな中ある事に気付いた。

 

楠木魅子がいない。

 

恐らくとばっちりを避ける為に逃げたのだろう。

だが力を無理矢理酷使したのだからそう遠くへは行ってないはずだ。

友姫は一旦融合を解いた。

すると融合していた身体が光り出し、2人の人影が現れる。

そして光が止むとそこには龍護と友姫が立っていた。

 

「・・・本当に融合した後は龍の力が使えないんだな・・・」

 

龍護は試しに龍化を試みたが左手に紋章が浮かぶだけで力を感じる事は無い。

 

「向こうも多分龍の力を使えないから問題無いと思う。急ごう!」

「あぁ」

 

倒れ、ゾンビのように這い回る鷹野の部下達を他所に2人は楠木魅子を捜索を再開した。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「ハァッ・・・ハァッ・・・」

 

ビルとビルの隙間にある行き止まりに楠木魅子は逃げて身を潜めていた。

そしてその右腕は出血している。

暴走した部下達の発砲した銃弾を掠めていたのだ。

ビリッ!と自身が身に付けていた衣類を少しだけ破り、傷口に押し当てて止血する。

ズキズキと痛みが走るが気にしていられなかった。

そのまま口と左手で布を結び終え、ダラリと全身の力を抜く。

今日はもう酷使した為、【色欲の龍】の力は使えない。

絶え絶えの息を少しでも整えようと無心になりながら呼吸している。

「色欲完全領域」は龍の所持者が死なない限り発動し続ける。

つまりまだ鷹野の部下達は這いずり回っているのだ。

自身も戦えるなら戦って勝利を収めたいが武道等の戦術は一度も習った覚えが無い。

出来るとすれば鉄の棒を持って滅茶苦茶に振り回す程度である。

なんの取り柄も無い自分はダメな落ちこぼれである事は知っていた。

それでも・・・と【色欲の龍】の力を知った時は心が舞い上がった。

この遊戯で勝ち残れば人生をやり直せるのだ。

その僅かな可能性を持って楠木魅子は生き残ろうと必死だった。

だが、その夢は今儚く散った。

何かが楠木魅子の右太腿を貫いた。

 

「え・・・・・・?」

 

地面には赤い水溜まりが出来ていて、その赤い水は自身の太腿から流れていた。

 

「いっ・・・があああぁぁぁあああ!?!?!?!?」

 

数秒遅れて激痛が楠木魅子に襲い掛かる。

遠くにいた鷹野の部下のスナイパーが撃った弾丸が楠木魅子の右太腿も貫いたのだ。

ズルズルと足を引き摺って再びビルの陰に隠れようとした。

だがその右手もスナイパーの弾丸に貫かれる。

 

「────!!!!!!!!!!!!」

 

激痛が全身に広がるかのように楠木魅子の身体を支配する。

 

「い・・・やだ・・・」

 

ポロポロと涙が零れ落ちる。

 

「やだ・・・よぉ・・・死にたく・・・ないよぉ・・・!」

 

激痛で動けなくなった楠木魅子はスナイパーにとっては格好の餌だ。

スナイパーは楠木魅子の胴体に標準を合わせ、そして────胴体の真ん中を貫いた。

 

「ご・・・はっ・・・」

 

楠木魅子は吐血し、過呼吸になる。

すると先程の悲鳴を聞いたのか、何処からか龍護が現れた。

 

「楠木!!!!」

 

駆け寄って回復魔法を掛けるが損傷が酷過ぎて間に合わない。

 

「あな・・・た・・・本っ当に・・・・・・馬鹿ね・・・・・・回復・・・なんてして・・・・・・あなた・・・に・・・なんの・・・メリットが・・・・・・あるの・・・?」

「治療してんだから黙ってろ馬鹿女」

「ほんっ・・・とうに・・・口の・・・・・・減らない・・・ガキね・・・」

 

楠木魅子は諦めたような笑みを浮かべ、グッ・・・!と龍護の襟を掴んで寄せる。

 

「紋章を・・・うばい・・・・・・なさい」

「っ!アンタ何言って・・・!?」

「あの・・・・・・クズ男に・・・紋章を・・・・・・取られる・・・位なら・・・・・・あなたに・・・くれてやるわよ・・・・・・それと・・・1つ・・・言っておくわ・・・」

 

がはっ・・・!と再び吐血する。

そして楠木魅子の手はだんだん冷たくなっていく。

 

「鷹野・・・・・・っていた・・・・・・わね・・・?あいつは・・・・・・」

 

パチャ・・・・・・────

 

楠木魅子は目を閉じた。

そして首も重力に従ってダランと落ちる。

 

「おい・・・!おい!!!!楠木!!!!おいテメェ!!!!目ェ覚ませ!!!!何を言おうとした!?鷹野がなんなんだ!!!!」

 

龍護は必死に楠木魅子の身体を揺するが全く反応を示さない。

そこに友姫が焦った表情でやってくる。

 

「リューゴ!表通りに警察の車が来てる!早く逃げよう!」

「・・・っ!!!!」

 

龍護はせめてこれだけは・・・!と左手を翳しながら呪文を唱える。

すると左手の甲の白い紋章が少しだけ桃色の光を帯びていた。

それを確認して龍護と友姫はその場を去る。

その数分後に楠木魅子の死体は発見された。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「融合・・・か・・・」

 

男がやはりと言いたげにしている。

融合は龍の所持者しか出来ない技である。

それが出来る上、【暴食の龍】は誰かも分かっている。

この男は【傲慢の龍】の所持者なので必然と残るのは【強欲の龍】となる。

 

「なら私の読みは当たっていたのか。それなら話は早い。君達」

「はっ」

 

近くにいた男女2人が姿勢を正す。

 

「奪木龍護の姉である奪木恵美とラジネスカンパニーの社長、スヴェン・S・ラジネスを拘束しろ」

「分かりました」

 

2人の男女はそれだけ言ってその部屋を後にした。

 

「さぁ・・・どうする?奪木龍護」

 

フフフ・・・と含み笑いをする男。

龍護の知らない所で恵美に危機が迫っていた。




来年も宜しく御願いします!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

崩壊の始まり 前編

4月1日に投稿しようとしてたのをすっかり忘れてましたww


楠木魅子と鷹野颯馬との三つ巴の戦闘の3日後。

友姫の家で朝食を摂っている中、テレビを付ける。

すると画面には〈声優の楠木魅子、遺体として発見される!〉という表示と現場の様子が映されていた。

 

「あら~…お若いのに…」

 

友姫の母親である沙弥は楠木魅子が七天龍の遊戯の参加者である事は知らない為、なぜ遺体で発見されたのかもよく分かっていない。

だが龍護と友姫には分かる。

それを知ってる為無言になってしまう。

楠木魅子が出演予定だった番組は中止となって別の番組に、アテレコしていたアニメも別の声優が担当となった事をアナウンサーが報道している。

 

「あら2人ともどうしたの?いつもなら仲良く話してるのに」

「え?あ、あぁ…いや…ボーッとしちゃってて…」

 

アハハ…と誤魔化した。

龍護が先に食べ終わり、食器を片付ける。

 

「龍護君、ちょっといいかな?」

 

まだ食事中のスヴェンが龍護を呼び止め、自室で待つように告げた。

龍護も頷き、スヴェンの自室に向かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

龍護がソファーに座って待っている。

暫くして引き戸が開き、スヴェンが入って来た。

 

「さてと…楠木魅子さんの件だけど…」

「その前にスヴェンさん、【傲慢の龍】の力はどういったものなんすか?」

 

龍護の問いにふむ…と顎を摩る。

 

「詳しい部分はよく分からないが恐らく洗脳の一種だと考えていい」

「洗脳?だとしたら【色欲の龍】とほぼ変わらないんじゃ…」

「いや【色欲の龍】とは違い、【傲慢の龍】の力は相手の思想を無理矢理自身と同じ思想にするって感じだよ」

 

スヴェン曰く、コントロールとは相手が自身の意志を持ちながら他者の言動に従って動く事を指し、洗脳は相手がどんな考え方を持ってあろうともその思想を捨てさせ、自身の思想に捻じ曲げる事を指すというものらしい。

その事を聞いてなるほど…と理解した龍護。

 

「それで…楠木魅子の紋章は…」

「…一応…」

 

龍護は自らの髪を1本だけ軽く切ってスヴェンに渡す。

一般人からはその紋章は見えないが、お互いに龍の所持者になれば紋章は見えるからだ。

スヴェンを【強欲の龍】の所持者にしてから手の甲を見せる。

そこには【強欲の龍】の白い紋章の色と【色欲の龍】の桃色の紋章の色が混ざり合った薄い桃色に輝く紋章があった。

 

「奪えたのだね」

「まぁ…」

 

紋章は奪えたが龍護の顔は浮かばれない。

楠木魅子が最期に言おうとした言葉が分からないからだ。

それを聞きたくても既に楠木魅子は亡き者になってる為、情報を引き出したくても出来ない。

 

「まぁ焦る事は無いさ、残ってるのは【暴食の龍】と【傲慢の龍】だ。それに期限まであと1ヶ月もある。落ち着いて彼等を倒していこう」

「ですね」

 

龍護は紋章を消して部屋に戻っていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

借りている自室に入ってすぐ横にある棚を見て気付いた。

 

「あ、姉貴に誕生日のキーホルダー渡さなきゃ」

 

丁度今日は恵美の誕生日。

時計を見ると午前9:00。

駅前のケーキ屋に寄ってその後に実家に行くか…と考え、私服に着替える。

すると友姫が入って来た。

 

「リューゴ!ゲームし…ってどこか行くの?」

「あぁ、今日、姉貴の誕生日なんだ」

「そっか、おねーさんに宜しく!」

「おう」

 

靴を履いて外に出る。

すると後からスヴェンもスーツを着て外に出てきた。

そして後ろにはスーツを着た沙弥も立っている

 

「あれ?今日休みじゃ…それに沙弥さんまで…。2人で出掛けるんですか?」

「うん、緊急で会議が入っちゃってね…何故か分からないけど沙弥も連れて来るように言われたんだ。君もお姉さんに宜しく」

「うっす、スヴェンさんも仕事頑張って下さい」

 

あぁ、とだけ返し、高そうな乗用車に乗る。

社会人…特に社長となるとかなり忙しいんだな…と感じた龍護だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

龍護がケーキの入った箱を持って街中を歩く中、目の前の信号が赤になり横断歩道の前で止まる。

ビルの壁に設置された電子掲示板にはニュースキャスターが映っていて世間に蔓延る事件や話題を取り上げて意見を出し合っていた。

最近特に話題なのは楠木魅子の死亡事件だ。

様々な憶測が立てられる中、やはりコメンテーターの目に止まったのは手や胴体に残る被弾痕だ。

これについては現在捜索中との事だが龍護は内心溜息が出た。

 

(どうせ【傲慢の龍】の能力や権力とかで揉み消されて興味本位でネタ探ししてる雑誌関係者も排除されるんだろうな…)

 

面倒なこった…と呆れた目でそのニュースを眺めている。

すると目の前の信号が青に変わっていつの間にか出来ていた人集りに紛れて龍護も横断歩道を歩き始めた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

同刻。

スヴェンと沙弥はサニーの本社を訪れていた。

自家用車を客専用の駐車場に停めて建物に入り、受付を済ませる。

待合室で待つように言われ、女性の後を着いて行く。

そして待合室に入って、社長が来るのを待った。

だがスヴェンは少し神妙な面持ちだった。

なぜなら以前から行われていたサニーとラジネスカンパニーが共同で開発する製品に関しては既に決定していたからだ。

その他に会議をする事なんてあったか?それに沙弥まで連れて来る必要もあるのか?と思いながらパソコンを開いて書類の整理を進める。

暫くして社長である呉羽裕次郎がビジネスバッグを持って現れた。

 

「これはスヴェン社長と奥様。急な会議を開いたのにも関わらず対応して頂きありがとうございます」

「いえ、こちらこそ。それで今回はどのような件で私を?」

 

それについては少々お待ち下さい。と扉を閉め、何故か鍵を掛ける。

そしてスヴェンの向かいに立ち、お互いに着席した。

 

「今回お呼びしましたのは…実を言うと個人的な事なのです」

「はぁ…?」

 

仕事に私情を突っ込むか…と半ば呆れ半分だが少しは話を聞いてみるかと裕次郎の話に耳を傾ける。

 

「スヴェン社長、貴方の娘さんはお元気ですか?」

「え?えぇ、最近ではボーイフレンドが出来てより一層元気でいますよ。少し私にも分けて欲しいくらいです」

 

 

それは良かった。と裕次郎は他愛のない相槌を打つ。

それに対しスヴェンはそろそろ会議を始めませんか?と穏やかに急かす。

 

「そうですね。それでは…」

 

すると急に先程のビジネスバッグを広げる。

その中にはガスマスクのような物が入っていた。

それは…?とスヴェンが疑問を投げるも裕次郎は聞こえていないかのようにそのマスクを着ける。

そしてそれが合図だったかのように天井に設置されていた小さい円盤型の装置からシュー!と煙のようなものが吹き出した。

 

「!?裕次郎さん!これはどういう────」

 

事ですか!?と言おうとしたが目の前がボヤけ、眠気がスヴェンを襲う。

 

嵌められた…

 

そう思った時には既に遅く、スヴェンと沙弥は睡眠ガスによって眠らされた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

同刻。

恵美は研究室で資料作成をしていた。

 

「…あ…資料のデータ、実家だ…」

 

面倒だけど取ってくるか…と重い腰を持ち上げ、研究室を出て細い路地に入る。

大通りからもこの大学へ行けるが大回りになってしまう為、遅刻しそうな時は近道であるこの細い路地を使っている。

路地に入ると工事中のようで警備員が誘導している。

空いている道に入ろうとした途端、その警備員に後ろから捕まった。

 

「────!?」

 

悲鳴を上げて助けを呼ぼうとしたが既に遅く、口にはハンカチを宛てがわれている。

 

『やばい…意識が…』

 

ハンカチに薬品が染み込んでいたのか、視界が歪んで身体はふらつき、抵抗が弱まっていく。

恵美はそれでも必死に抵抗するがとうとう気絶した。

警備員は気を失った恵美を抱え、近くに停めていたバンに押し込む。

すると中にいた覆面の男性が暴れないように恵美の身体を縄で縛り、バンは何処かに行ってしまった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

龍護は実家に来ていた。

持っていた鍵を使って中に入る。

恵美は帰ってきてないのか真っ暗だ。

すぐに靴を脱いで壁にあるスイッチで灯りを付ける。

 

「まぁ準備でもして待ってるか」

 

冷蔵庫を見たがあまり使えそうなのは入ってない。

持ってきたケーキを冷蔵庫に入れ、龍護は溜息を付きながらも近くのスーパーに買い物をしに向かう。

すると龍護のスマホに着信が入った。

だがその画面を見て怪しむ。

その画面が【非通知】となっているからだ。

 

(誰だ…?)

 

少し怪しみながらも通話状態にする。

 

「…はい」

『奪木龍護君だね?』

 

機械でその声は加工されていて男性か女性か分からない。

 

「…誰だよアンタ」

『私かい?そうだな…”君の運命を握る人”と名乗っておこうか』

 

何言ってんだこの人…と普通に思った。

 

「悪ぃ、悪戯電話なら他所でやってくれ。こっちは今から出掛けるんでな」

『せっかちだなぁ君も、少し落ち着いて話でも聞いてくれないかな?』

 

時計を見ると午後の3時。

夕飯を作るにはまだ時間があると思ったのか少しだけ話を聞くことにした。

 

『話が分かる少年で助かったよ。けど───『龍護!?龍護そこにいるの!?』』

 

また別の人物の声がした。

いや、しただけではない。

よく聞き知った声だ。

 

「おい…てめぇ、俺の姉貴に何してんだ?」

 

龍護の声に殺気が篭もり始める。

 

『おっとこれは失敬。まさか声を聞かせてしまうとは…』

 

龍護は夕飯作り所では無いと考え、すぐに外に出た。

外に出たのを音で聞いて分かったのか、再び機械加工の声が入る。

 

『まぁまぁ落ち着き給え。まだ彼女には何もしてないよ』

「…要件は何だ?」

 

話が早く進むから助かるねぇ~と、また軽い口調で話す誰か。

その声の主は条件を話した。

 

『君の持つ【強欲の龍】と君の彼女、友姫・S・ラジネスの持つ【怠惰の龍】を渡して貰おうか』

 

その言葉を聞いて龍護は確信した。

 

 

この人も七天龍の遊戯の参加者であると───

 

 

「…お前はどっちだ…?」

『ん?どっち…とは?』

「【暴食の龍】か【傲慢の龍】のどっちだって聞いてんだよ」

『まさか!先程の質問でそこまで分かるとは!』

 

いちいちムカつく奴だ…と心の中で吐き捨てて次の言葉を待つ。

 

『ふむ…【暴食の龍】は中国人だから今度旅行して貰いに行くつもりだよ』

「て事はアンタは【傲慢の龍】か…悪いが今からそっちに行く。せいぜい怯えて待ってろ」

『ははは、勇敢な少年だ。けど…───言葉には気を付けた方がいい。君の行動で無関係な3人が死ぬかもしれないんだからね』

「待て!それってどういう───」

 

それだけを言って声の主は電話を切った。

その時、龍護はある事に気が付く。

 

(待て…そういえば何でアイツは声を加工なんてしたんだ…?鷹野って奴が【傲慢の龍】の所持者なんだろ…?だったら…)

 

自分で推測して、ある答えに辿り着く。

 

 

あの時は囮を送ったのか───

 

 

チッ!と舌打ちして友姫に電話をし、協力してもらおうとした。

そして友姫が電話に出る。

 

「友姫!ちょっと頼みが!」

『龍…護…』

 

その声には違和感があった。

いつもの元気そうな声ではなく、切羽詰まってどうしようも出来なくなっていそうな声だ。

 

「どうした…?」

『私…どうしていいか分かんない…』

 

何が起こってる…!?と感じて龍護が説明させようとする。

すると友姫が一枚の画像が送られたから龍護に渡すと言って電話を切った。

そして龍護のスマホにその画像が送られる。

その画像に驚愕した。

 

スヴェンと沙弥が鉄製の椅子に座らされ、手は手すりに固定し、足は椅子の脚に縛られ、布で目と口を覆われている。

 

完全に身動き一つ取れない状態だ。

だがそれだけではない。

スヴェンと沙弥の目の前にタイマーらしき物が置かれていて、よく見てみると2人の椅子の下には大きな爆弾がそのタイマーに繋がれていた。

龍護は無意識にスマホが壊れるのではないか?と思える程握り締める。

すぐに再び友姫と通話する。

ある事を伝える為だ。

 

「友姫!お前の両親は多分町外れにある町外れに廃工場にいる可能性がある!今すぐ行って救助しとけ!」

『…うん…』

 

元気の無い声に少々不安が残るも、電話を切った。

龍護の言った廃工場は2つある。

1つは鍛造(金属を叩いて加工する方法)をしている工場。

だがその工場がある場所は龍護が通っている学園の近くにあったのだが騒音が原因で近所の住民から苦情が多発し、対策として別の町に建設する事になっていたのだ。

そしてもう1つ、その工場は龍護がこの世界に転生した時からあった工場なのだが少し前に潰れ、今では廃工場となっている所だ。

写真を見て、龍護はすぐにその町外れの廃工場だと判明し、友姫に救助を急がせた。

その後に雪菜にも協力をしてもらおうと電話を繋ぐ。

だが雪菜は電話に出なかった。

 

「こんな時に何してんだよ!!!!」

 

時間が無い!と思ったのか龍護はスマホをポケットに入れて走り出す。

すると再び【非通知】着信が入った。

 

「おいテメェ!姉貴はどこだ!!!!」

『まぁまぁ落ち着こうじゃないか。まぁ数ヶ月前に建った日本支部にいる君の姉はまだ元気だよ。まぁ頭を柔らかくして探してくれ給え、あぁそれとちょっとしたプレゼントを君のメールに送っておいた。精々有難く思ってくれ』

 

再び一方的に切られる。

ヒントすら与えてくれなかった。

だが走り出した龍護はある事に気付く。

 

(確か…日本支部とか言ってなかったか…?)

 

 

数ヶ月───

 

 

日本支部───

 

 

もしも工場があるのなら国指定ではなく▽▽株式会社○○工場と、その市町村名を指定するはずだ。

それをせずにただ日本という国を指しているという事は…

 

(別の国にも支部があるって事か…)

 

それと機械加工された声の主は「数ヶ月前に」とも言っていた。

数ヶ月前に建設された工場はあそこしかない。

 

ラジネスカンパニー日本支部───

 

(どんな嫌がらせだよ…!!!!)

 

そしてスマホを起動し、メールのアイコンに【1】が表示されていた。

開いて中を確認する。

 

To.龍護君

from.優しき紳士

解除コード

【gukde2257】

起動コード

【bdkwy7831】

 

恐らく何かしらの罠が姉の近くに設置されているんだろう。

龍護は急がないとと思い、ラジネスカンパニー日本支部に走り出した。




そろそろ書き溜めも頑張って増やさないと…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

崩壊の始まり 後編

中古で買ったスマホに小説を入れられなかったのである分だけのストックを載せときます


午後18:00。

龍護はラジネスカンパニー日本支部の建設現場に来ていた。

とは言ってもほぼ9割方完成しているのか、あちらこちらの窓に半透明のビニールが貼られていたりしている。

今日の仕事は終わったのか既に従業員は1人もいない。

龍護は辺りに人がいないかを確認して浮遊魔法で屋上に上り、換気口から侵入する。

細く、四角いパイプの中を渡っていると目線の先に薄暗く光る線が見えた。

下からの光が漏れているのだ。

金網を叩いて床に落とし、フロアに降り立つ。

 

「・・・防犯装置とか作動しない・・・よな・・・?」

 

後で何か言われてもスヴェンさんに弁解してもらうか・・・と考え、恵美を探す。

すると何処からか何かを揺らす音が聞こえた。

 

(誰かいるのか・・・?)

 

足音を立てないようにゆっくりと近付く。

その物音は龍護が近付く度に大きくなる。

どうやらその音は隣の部屋から聞こえているようだ。

息を殺して壁から顔だけをゆっくりと覗かせるとそこには目と口を塞がれて、手足を椅子に縛り付けられた恵美がいた。

 

「姉貴!!!!」

 

龍護は恵美に駆け寄った。

拘束されている手足を解こうとしたが金属製のワイヤーで拘束されている為、手で切る事が出来ない。

猿轡も外すにはダイヤル式で4桁の暗証番号が必要みたいだが分からない。

必死に恵美の拘束を解く方法を考える龍護に恵美が唸り声で呼んでいる。

龍護が恵美を見るとフルフルと首を横に振り、向こうへと顎を向ける。

恐らく『私の事はいいから逃げろ』と言いたいのだろう。

だが龍護にとって恵美は唯一の家族。

そう簡単に手放せるものではない。

すると龍護のスマホに着信が入る。

相手は友姫だった。

どうしたのだろう?と思いながら通話状態にして耳に当てる。

 

「おう、どうした?」

『リューゴ。なんかメールが来てそのままリューゴに転送するように指示されてるんだけど・・・』

「はぁ?」

 

とにかく送るね?と友姫は通話を切って龍護にメールを送る。

少ししてメールが来た。

メールを開いて中を確認する。

 

【友姫・S・ラジネスの両親の命を助ける手紙】

解除コード

【bdkwy7831】

起動コード

【gukde2257】

 

(・・・あれ?)

 

龍護はこのコードに見覚えがあった。

まさか・・・と思い、自身のスマホを確認する。

 

解除コード

【gukde2257】

起動コード

【bdkwy7831】

 

そう、友姫の両親の解除コードと起動コード、そして義姉の解除コードと起動コードが逆さまなのだ。

つまり

 

どちらかを見捨てなければならない。

 

 

「糞野郎が!!!!」

 

 

ゴッ!!!!と思い切り自身の拳を床に叩き付ける。

 

『リューゴ、一旦私のお父さんとお母さんを救出す』

「待て!!!!そっちの解除コードを打ち込むと俺の義姉の罠が起動しちまう!」

『え・・・!?』

 

それってどういう・・・!?と電話越しに聞こえる友姫の声も動揺が見えた。

だが龍護からすればそれどころでは無い。

すぐに何かしらの方法を考え、爆弾の解除を試みないと最悪の場合、両方を失う事になる。

 

「どうする・・・!!!!考えろ考えろ考えろ・・・!!!!何かしらの手段はある筈だ!」

 

龍護はスマホの通話状態をそのままにして義姉が座っている椅子の下にある爆弾本体を見付けた。

爆弾は外されないようにする為か、爆弾本体と床をビニールテープで固定している。

少しやりづらいが龍護は姿勢を低くして椅子の中に潜り込む。

爆弾の上にはスマホの画面くらいのタッチパネルがあり、そこには00:00という、残り時間を表示する欄とその下に【起爆】、【解除】と書かれたボタンが表示されていた。

急いで解除ボタンを押した。

するとパスワードの入力画面に切り替わる。

友姫の焦った声がスマホから聞こえ、そっちの爆弾の画面で変化はあったか?と聞くと勝手に起爆コードを打ち込む画面に切り替わったらしい。

やはりこの2つの爆弾は連動していて龍護の側の爆弾を解除しようとすると遠隔操作によって友姫の方の爆弾の起爆コードが同時に打ち込まれるようだ。

ここで龍護が解除コードを打ち込めば義姉は助かるが友姫の両親は助からない。

逆も同じで友姫が両親の爆弾の解除コードを打つと義姉の爆弾が起爆する。

必死に打つ手を考えるが龍護はプログラミングや爆弾処理の経験が無い。

ただ分かってるのは制限時間があるからこの爆弾は時限爆弾という事だけである。

だが、その時に気付いた。

 

(そういえば時限爆弾って・・・)

 

時限爆弾の起爆を解除する方法は2つある。

1つは映画でよくある演出の”コードを切る”という方法だ。

そしてもう1つは───液体窒素で通電を一時的に遮断し、凍ってる隙に爆弾を被害を被らない所まで持っていく方法だ。

液体窒素は食品製造における瞬間冷凍の他に建設工事における漏水防止にも使われている。

ここはまだ建設途中の工場。

可能性は低いがその液体窒素が少なからず残っている可能性に賭けた。

 

「友姫!お前は全力で魔法を使ってその爆弾を凍らせてくれ!!!!俺は別の方法を探す!!!!」

 

電話から分かった!という声が聞こえたのを確認して龍護は走った。

「工事中」の看板を無視して様々な所を走って探す。

そして数分走って短い灰色のガスボンベを見付けた。

龍護はなって駆け寄って軽く揺らしてみる。

するとチャプチャプという液体の音が聞こえた。

 

「よし行ける!」

 

台車を運んで来てボンベを乗せ、姉の元に急いだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「姉貴!!!!」

 

ようやく辿り着いたと同時にボンベの蓋を開け、試しに少し零してみる。

すると少し傾けた時に中の液体が床に零れ、蒸発した。

 

「…よし…」

 

龍護は慎重に、かつ、正確に時限爆弾へと液体窒素を掛ける。

そして全体的に真っ白になった所で爆弾を揺らしてみると凍ったビニールテープがバキバキと音を鳴らして割れていき、遂に爆弾から離れた。

 

「後は…」

 

下手に刺激を与えないようにゆっくり時限爆弾を引き抜いていく。

その際も姉の恵美はんー!んー!と龍護に何かを伝えようとしている。

 

「大丈夫だ。後はこれを抜き取って捨てれば…!」

 

もう少しで引っ張り出せる。

だからこそ龍護は警戒しなければいけなかった。

 

 

なぜ、時計の表示が00:00だったのか

 

 

なぜ、ビニールテープで床と固定されていたのか

 

 

「…ん?」

 

床の一部に穴が空いているのを見付けた。

そこからは一本の光が上に伸びている。

気になって椅子の裏を見てみるとそこには光感知センサーのような物があった。

そしてピッピッピッピッ…と何かのカウントダウンが始まる。

 

「え……?」

 

時限爆弾を投げ捨ててその穴の中を見ると

 

 

もう1つの爆弾がカウントダウンを始めていた。

 

 

「え!?ちょっ…!?なんで!?」

 

するとその行動を見ていたかのように電話が鳴る。

龍護は通話状態にした。

 

「おいクズ野郎!何しやがった!?」

『おー怖い怖い…ただ君は気付くべきだったんだよ。床にあった時限爆弾がなぜ00:00表示だったのか、なんでびっちりとビニールテープで爆弾を固定していたのか…それを推測しなかった君が悪いんじゃないのかね?』

「テメェ…!!!!」

 

心底イラついている龍護に謎の声は囃し立てる。

 

『ほら、早く逃げないと君も君のガールフレンドも一緒にあの世行きだぞ?』

「…は?」

 

それではまた…な?と電話が切られる。

その後すぐに友姫から着信があった。

 

『リューゴお願い!!!!お父さんとお母さんを助けて!!!!爆弾のカウントダウンが始まってる!!!!』

「…」

 

その言葉で全てを理解した。

こちらの床にあった爆弾は偽物であり、本物は床の中にあった事。

そして龍護が解除しようとしていた事。

その全てが謎の人物にとっては想定の範囲内だったのだ。

 

「……」

 

姉を助けられない事を半ば知ってスマホが床に落ちる。

 

 

終わった

 

 

全て奴の手の上だったんだ

 

 

だがその時、龍護が何かに吹き飛ばされる。

姉を顔を見ると『アンタは生きな。馬鹿義弟』と言わんばかりの顔をした姉が笑みを浮かべながら涙を流し、龍護を見ていた。

 

「姉…貴…」

 

窓ガラスを割ったと同時に白い閃光が床の中から現れ、姉と建物を覆う。

 

ドォン……!!!!

 

龍護は地面に転げ、建物を見た。

2階は完全に火が回っている。

恐らく、いや確実に姉は亡くなっただろう…

 

「姉貴…」

 

いつの間にか涙が溢れていた。

自分を育ててくれた人を助ける事が出来なかった。

そんな無力な自分を呪った。

 

「姉貴イイィィィィイイイイ!!!!!!!!!!!!」

 

龍護は天を見上げ、喉が潰れんばかりに叫んだ。

 

23:24。

2箇所の工場で爆発が起きた。

そしてそれと同時にラジネスカンパニーの社長であるスヴェン・S・ラジネスとその妻である沙弥・S・ラジネス、もう一方の工場では奪木恵美の焼死体が発見された。

友姫は咄嗟にスヴェンが魔力の弾を撃ったのか、外に吹き飛ばされて全身を強打。

龍護も事件現場にいたとして事情聴取を受ける事になった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

偽りの日常

友姫は心神喪失し、今は病院に入院している。

龍護は様子を見ようと立ち寄ったが医者からは精神的ダメージが酷い為、今は会わない方がいいとして返された上、自宅に帰るとまたマスコミがごった返すから私の家に来た方がいいです。と雪菜に言われ、雪菜の家に来ていた。

 

「それじゃあ私は仕事に行ってきます」

「…はい」

 

龍護を心配そうに眺める雪希。

そして放心した目で綺麗な青空を見る龍護。

ドアが閉まった音にも気付かない程傷心していた。

 

 

自分の家族を護れなかった

 

 

自分と友姫を優位にする為に動いてくれていた人を助ける事が出来なかった

 

 

それだけが龍護に残っていた。

 

 

ギリ…と歯が砕けそうになる程力が入る。

 

「っアアアァァァアアア!!!!!!!!」

 

自身の頭を何度も何度も床に叩き付ける。

 

「ごめん…姉貴……ごめん…」

 

帰らぬ人に謝っても帰っては来ない。

そんなのは知っている。

でも謝らずにはいられなかった。

 

「…」

 

龍護は無言で立ち上がり、何処かに向かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

向かったのは自分の家だった。

マスコミはなぜか1人も家に前にはいなく、代わりに一組の大人の男女が立っていた。

恵美の両親だろうか…?と内心恐れた。

自分達の娘が死んだのに拾われた、血の繋がってない子が生きているのだ。

何を言われるか分かったもんじゃない。

だが意を決して龍護はその2人に近付く。

 

「…あの…」

「ん?…あ!おかえり!どこ行ってたのよ!心配したのよ!」

 

龍護は耳を疑った。

この2人は龍護を知らない筈だ。

なのに自分のこの世界での名前を呼んだ。

 

「え…なんで…?」

「…?何が?いいから上がりましょ?私家の鍵何処かに行っちゃって…」

「全く…紗希(さき)は魔法の研究以外ではてんでダメだからなぁ…っと龍護、すまんが家の鍵を開けてくれ」

「お…おぅ?」

 

どうなってんだ…?と内心疑惑が生じる。

だが当の2人は笑顔で龍護を家の中へ招き入れた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「あー、疲れた…」

 

この世界の母である紗希が持っていた買い物袋をテーブルの上に置いてソファーに全体重を預ける。

 

「全く…久し振りの我が家だからって気を抜き過ぎだよ。明後日にはまた研究室だろ?明日はオフなんだから今やれる事はやっておかないと」

「わーってるっての。けど数キロもある買い物袋持った後にあれしろこれしろ言われても動けないよー」

「…魔力を全身に張り巡らせて強化すればいいじゃないか…」

 

めんどー。と子どものように足をばたつかせる。

そんな紗希を見て全く…と恵美の父親である幸人は呆れていた。

買い物袋を持ってキッチンへと向かい、紗希の代わりに多くの食材を冷蔵庫にしまう。

 

「後は…洗濯か」

 

1人慌ただしく動く幸人とソファーでのんびり寛ぐ紗希。

そんな2人を見て龍護は困惑する事しか出来なかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

夜になり夕飯の準備を始める幸人。

紗希はまだテレビを付けていたが本人はソファーで寝息を立てている。

テーブルにある木製の椅子に座っていた龍護が口を開いた。

 

「なぁ…俺らって何人家族だっけ?」

「え?どうした急に?」

 

龍護の言葉に2人は疑問に似た言葉を返す。

 

「何人って…龍護と父さん、母さんの3人家族じゃないか」

 

父親の返答に龍護は言葉を失った。

この家には恵美もいたはずだ。

そしてその恵美がこの両親と血の繋がった娘である。

その娘の事を覚えていないはずがない。

 

「…恵美って名前の人知ってる?」

「うーん…近所にいたか?」

「いや私に聞かれても分からないわよ…」

 

もう頭の中が混乱しきっていた。

そして確信した。

 

…あの電話の男だ

 

ラジネス家の両親も、この両親も、恵美の死も、全てあの男が仕組んだに違いない。

龍護はすぐに夕飯を食べ終えて自室に向かう。

そしてラジネス家に行く準備を終えてから布団を被った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

翌日。

龍護はラジネス家に来ていた。

ここにありそうな【七天龍の遊戯】にまつわる情報を全て持ち帰る為だ。

最初はここに滞在してあの男を待ち構えるのも考えたがここは広い故、多方向からの侵入に手が回らないと思った為だ。

だが家に着いた時に気付いた。

 

「やべ…鍵持ってねぇ…」

 

運良く開いてる事を祈って引き戸に手を掛け、横にスライドする。

するとカラカラと乾いた音を立てて何の抵抗も無く開いた。

 

「?誰かいる?」

 

足元を見ると女性の使う黒いハイヒールが一組だけ置いてある。

物音を立てないように家に上がり、七天龍の遊戯にまつわる情報が入ったスヴェンの部屋に向かう。

だがそのスヴェンの部屋でカチャカチャという物音がした。

 

(誰だ?)

 

襖をゆっくり開けて中を見る。

そこにはスヴェンのパソコンで何かをしてる雪菜の姿があった。

龍護は咄嗟に襖を全開に開ける。

 

「っ!?え?龍護さん?」

「…何してんすか雪菜さん…」

 

疑いの目を向ける龍護。

それに対して誤解を晴らすべく雪菜が説明する。

 

「いえ、スヴェンさんからの要望で彼のパソコンにあるデータを抹消するように頼まれたので…」

「データを!?」

 

何で…!?まさかそんな…!と唯一の希望であるスヴェンのパソコンから情報が消えた事に絶望する。

ガクリと床に座る龍護に、慌てた様子の雪菜が駆け寄った。

 

「龍護さん!?」

「いえ…大丈夫です…」

 

こうなってしまってはもうここに長いする必要すらもなくなってしまった。

代わりに友姫の部屋に行き、必要な物を揃えに行った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「はぁ…まさか雪菜さんにデータの抹消を頼むかよ…」

 

でもなんでそんな事をする必要が?と疑問を持ちながらも友姫の通学鞄に教材を入れていく。

すると部屋の片隅に【七天龍の遊戯】と書かれた書籍が見付かる。

 

「…これだけは持って帰るか…」

 

龍護が本を持つ。

その時、何かが床に落ちた。

 

「…?何だ?」

 

それは白い封筒だった。

試しに…と中を中を見る。

 

《これを読んでいるのが龍護君、或いは友姫である事を祈る。

友姫はこれを見付けたら必ず龍護君に渡してくれ。

龍護君がこれを見付けたら絶対にこれを誰にも渡さないで欲しい。

表紙の裏にパソコンの全データをコピーしたSDカードを入れておいた。

そこに私の知った今行われている七天龍の遊戯の全てを記しておく》

 

この本にSDカードが隠されていると分かった龍護は机の上にあったカッターナイフで表紙の裏を切っていく。

少しづつ切込みを入れた所で何かがポロッと床に落ちた。

 

「っ!SDカード!」

 

龍護はすぐに拾い上げてポケットにしまい、すぐに帰る準備をする。

途中で雪菜さんに合流した。

 

「龍護さん、先程は大丈夫でした?…そういえば龍護さんはどうしてここに?」

「あぁ、いえ単に友姫の私物を回収する為ですよ」

 

そうでしたか。と雪菜は道を開ける。

龍護は急いでSDカードを確認する為に家へと帰って行った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

家に戻ってきた龍護は急いで自室のパソコンに電源を付け、起動を待つ。

数分待って漸く起動し、龍護はすぐにSDカードを入れた。

パソコンが読み込んで動作のリストが現れる。

【フォルダを開く】にマウスカーソルを合わせてクリックし、中に入っているフォルダを見た。

 

【必読】

 

中に入っていたデータはこれだけだった。

だが龍護にとっては貴重な情報源。

 

 

この情報で今後の七天龍の遊戯の全てが決まる。

 

 

龍護は直感でそうなる事を理解していた。

覚悟を決めて【必読】を開き、中を見る。

 

「…っ!そういう事だったのか!!!!」

 

何故、ルシス・イーラが龍護にメールを送ったのか。

 

何故、名家の出身であるネストが日本の高校に来たのか。

 

何故、ラジネス家の両親と自身の義姉が狙われたのか。

 

何故、家にあるデータを雪菜に抹消するよう頼んだのか。

 

その全てが明らかになった。

 

龍護は少しでも早く友姫を立ち直らせる必要があると判断して部屋を出た。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たな刺客

友姫が入院している病院に着いた龍護は警備員に面会を求める。

どうやらもう面会は出来るくらいに回復しているようで番号の書かれたバッジを受け取り、友姫の入院している部屋を聞いてそこへ向かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

友姫の入院している階に着いてエレベーターから出ると足早に目的の番号の病室へと向かう。

 

(えーっと…3-14、3-14…あ、端だ)

 

案内板の表示を見付けて再び歩き、目的の病室に辿り着く。

3回程ノックしたが反応が無い。

 

「…失礼しまーす…」

 

迷惑にならない程度の声を出しながら病室のドアを開けて中に入る。

友姫は上半身を起こしていた。

 

「……」

 

友姫の顔や身体を見た龍護は唖然とした。

元気だった友姫の姿はそこにはなく、頬は痩せこけ、目の焦点は合ってない。

そして酷く痩せた腕。

もう何日も食事を摂ってないのは直ぐに分かった。

 

「……」

 

龍護は無言のまま持ってきたお見舞いの品をテーブルに置く。

その時、友姫の目が微かに龍護へと向いた。

 

「リュー…ゴ…?」

 

か細く、弱々しい声。

そんな声でも確かに龍護の耳に届いていた。

 

「友姫…大丈夫か?」

「…」

 

龍護は心配そうに友姫の手に自分の手を優しく添える。

正直、どう言っていいかよく分からなかった。

 

恨まれているんじゃないか…

 

そんな考えが頭を埋め尽くす。

だが友姫が紡いだ言葉は意外なものだった。

 

「会いたかった…」

 

倒れ込むように抱き着く友姫。

それを真正面から支え、同じく抱き締める龍護。

 

「リューゴォ…リューゴォ…」

 

涙を流しながら龍護の存在を確認するかのように何度も龍護の名前を言う。

 

「大丈夫だ。俺はここにいる」

 

その病室からはずっと啜り泣く声が聞こえていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

時間となり、切っておいたリンゴ等を皿に盛って再び友姫のテーブルに置く。

 

「少しは食べとけ、な。明日また来るから」

「…うん…」

 

少し落ち着いた様子を見て安堵し、病院を後にする龍護。

少し歩いた所で後ろからクラクションが聞こえた。

 

「…あ、雪菜さん」

「龍護さん、家まで乗りますか?」

 

雪菜が龍護を乗せ、友姫の家に向かう。

 

「友姫さんの様子…どうでした?」

「少し落ち着いてるようです」

 

そうですか…と返し、お互いに無言になる。

 

「なぁ…雪菜さん」

「はい」

「仮に俺が何者かに殺されたらどうします?」

「え!?いきなりの質問ですね…」

 

うーん…と雪菜は車を走らせながら考える。

 

「取り敢えずその犯人を探しますね」

「その犯人が有権者で人前にあまり出ない人だったら?」

「有権者であまり人前に出ない…そうですね…私なら忍び込んで弱みを握ります」

(だよなぁ…)

 

それしかないよな…と項垂れる。

残る七天龍の遊戯参加者は自分と友姫を除いて2人。

その2人の内1人は有権者である事はほぼ確定だがもう1人の所在を掴めない。

 

(どうすりゃいいんだぁ~?)

 

グイーッと背伸びして自分の家で降ろしてもらった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

翌日。

龍護は1人で学園に登校してきた。

教師に友姫はまだ休む事を伝えて席に着く。

するとすぐに白や雫、野武が駆け寄ってきた。

 

「龍護!友姫は大丈夫なの!?」

「一応な…けど両親は…」

 

さすがにラジネスカンパニーの社長であるスヴェンの死亡はインターネットのニュースでも流れていた。

死因は足場崩落と火災による事故死とされ、それ以外は触れられていない。

やはり隠蔽されている。

 

(中々厄介だな…)

 

ハァ…と溜息を付く。

 

「あ、そういえば昨日転入生来たの」

「え?この時期に?」

 

この時期に珍しいな…と思い、どんな人か聞く。

 

「まぁ留学生なんだけどね、あ、来たよ」

 

ガラガラと引き戸を開けて入って来たのは中国人の女子高生だ。

 

「ミンナーオハヨー!」

 

少しカタコトの残る日本語で挨拶する留学生。

中国人か…とその顔を見る。

すると中国人の女子高生と目が合った。

 

ゾクッ…

 

(…っ!?)

 

感じたのは悪寒。

それもかなりの。

中国人の女子高生はこちらに向かって来て龍護の机の前に立つ。

 

「ハジメマシテダネ?私、麗・寅餐(リ・インソン)ヨロシクネ」

 

”宜しく”の言葉に少し圧が感じたが龍護は気のせいだと言い聞かせてリ・インソンと握手した。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

授業が始まり、静かな教室になる。

 

「誰かここの公式解けるヤツいるかー?」

「ハイハイハーイ!私デキルヨー!」

 

教師の質問に元気に答えるインソン。

インソンはすぐに黒板の前に立って問題を解き始める。

 

「ん、正解だ。留学生で入りたてなのによく分かったな」

「センセー!余裕っス!」

 

ピースサインをして自分の机に戻る。

 

(友姫も最初はあんな感じだったなぁ…)

 

ふとインソンを見て懐かしむ龍護。

この授業は滞りなく進んでいったのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

午前の授業が終わり、昼食の為に食堂へと友姫を除いたいつものメンバーで向かう。

その進路を塞ぐようにインソンが立った。

 

「?どうしたの?インソンさん」

「ネェネェ私モ一緒シテイイ?」

 

どうやら一緒に食事をしたいらしく、インソンは4人と一緒に食堂へと向かう。

 

食券を買い、列に並ぶ龍護達。

インソンは既に食券を買って別の列に並んでいる。

 

「にしてもネストといい、インソンといい、今年は特例多くね?」

「…そうだな」

 

野武も今年の留学生の多さにはさすがに気付いていた。

留学の条件を満たしていないのにも関わらず2人の留学生を受け入れている。

ネストは名家なのが理由(実際には違うが)かもしれないがインソンの留学受け入れの理由が分からない。

仮に名家であっても学園長がそう簡単に受け入れるとは思えないのだ。

自分の食事をトレーに乗せてインソン達のいるテーブルに向かい、インソンの向かいに座る。

 

「さすがに今日は友姫ちゃんのお弁当は無いか…」

「それ、彼氏の前で言う事か?」

 

あ、ゴメン…とバツが悪そうに白が呟く。

茶碗に入った白米を箸で取り、口に運ぶ。

そして咀嚼しながら辺りを見回していると今まで無かったある物が龍護の視界に入った。

 

「あれ?あんなモニターここにあったっけ?」

 

龍護が気になったのはとある1本の支柱に掛けられている大きめのモニター画面だ。

 

「え?あぁ、なんか学園長が設置したんだよ」

「え?なんで?」

 

さぁ?と龍護の問いに返答する野武。

不完全燃焼になりつつも龍護はそのモニターを眺める。

今映っているのは総理大臣である小野崎慢作とショートヘアーの女性議員の討論だ。

 

『現在私達の国では2人の外国留学生がこの国で謎の死を迎えております。その事について総理大臣はどうお考えになっておりますか?』

『実に痛々しい事件と受け止めております。ですが、2人を死に追いやった相手の目的が分からない以上、私自身詳しいコメントは控えさせて頂きます』

 

今話しているのはネストとルシスの死についての様だ。

お互いのトーンがヒートアップする中、龍護は白達に呼ばれ、食器を片付けに向かった。

だが、まだ席に着いてる者が1人いる。

 

「おーい、インソン、早くしねぇと置いてかれるぞ?」

「ワカッターサキイッテテー」

 

おう。とだけ答え、龍護はインソンから離れていく。

その様子を薄ら笑みで眺めるインソン。

 

「サァーテ…ドウアソボウカナァ~♪」

 

ニコニコとした表情のまま龍護の後を追い掛けるインソン。

新たな刺客が現れた事に龍護はまだ気付かないまま、だが、その毒牙は確実に龍護と友姫へと迫っていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

おかえり

学校を終えて友姫の入院している病院へバスで向かう最中、龍護は遠くを見て考えていた。

考えていたのは亡くなったスヴェンが残したSDカードに隠されていたメッセージの事だ。

全ての元凶が分かった…所まではいかないが有力な情報を得られたのは確かだ。

偶然…というものは中々バカにできない。

その”偶然”こそが龍護を導いてくれた。

病院に着いてバスを降り、病院を見上げる。

医師が言うにはもうすぐで退院出来るのだが龍護はあえて友姫に「先生にはまだ少し不安があるから自宅で療養させてほしいと言っておけ」と念を押していた。

エレベーターで上階に上がり、友姫の病室に入る。

そこでは医師によるカウンセリングが行われていた。

 

「あ、外で待ってます?」

「あ~出来るならそうしてほしいな」

 

分かりました。とだけ伝え、病室のドアを閉め、その階にあるロビーで待っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

医師が出てきて龍護にもう入っていい事を伝える。

そのすれ違い様に呼び止められ、退院は明日出来るらしい。

龍護は軽く一礼して中へ入った。

 

「明日、退院出来るんだってな」

「うん、早く白とかに会いたいけど…」

「悪い…まだそれは控えてくれ」

 

分かった…と少し表情を曇らせる。

正直言ってしまうと、もう友姫を学校へ行かせたくない。というのが龍護の本音だ。

相手の正体が分からない以上、公の場である学校に行かせるのはどうも自殺行為に近い感じがした。

落ち込む友姫を宥めて帰り支度をする。

また明日なとだけ告げて龍護は再び友姫の家へと向かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

家に戻った龍護はパソコンでもう一度microSDカードの中身を調べた。

 

【龍護君へ】

まず結論から言おう。

私の所へ来た雪菜という女性は信じるな。

彼女は恐らく傲慢の龍の使いである可能性が高い。

そして恐らく私達に近付いたのは私の娘が最初から七天龍の遊戯の参加者である事を知っていたからだ。

申し訳ないがその本人を知る事は出来なかった。

だが確信している事がある。

その張本人はこの日本の政治を動かしている者の可能性は非常に高い。

その理由としては喜龍学園の留学生の受け入れだ。

ネストさんはもう亡くなってしまったがあの学園に入れてもらえる条件を1つもクリアしてないからだ。

そこから考えるにかなりの有権者なのは伺える。

君の姉とその彼女であったルシス君の通ってる天龍大学は調べる事は出来なかったが、なぜ憤怒の龍の所持者がそこにいると知っていたかも理由が付く。

恐らく傲慢の龍は前回遊戯勝者だ。

そしてその勝者の2つの褒美として再び遊戯を開催した上で誰が七天龍の所持者になるのかを聞いたのだろう。

その上でそれぞれの所持者の居場所を探り、日本に集めていたんだ。

もしも君がまだ倒されていないのであれば友姫を学校には行かせないで君共々私の家にいてほしい。

必ず勝ち残ってくれ。

【スヴェン・S・ラジネス】

 

これがスヴェンが残した最後の希望だ。

龍護はその全文を余す所なく読んでソファーへと移り、身を投げる。

 

(かなりの有権者…か…)

 

厄介だな…と独りごちる龍護だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

翌日。

友姫が病院から出て来た。

そしてその病院の前では白、雫、野武、龍護が待っていた。

友姫が出てくるや否や、白と雫が抱き着く。

よかった…本当に良かった…と涙を流す白と嬉しさを噛み締める雫。

 

「…俺も今は抱きt」

「やったらシバくぞ?」

 

…冗談です…と野武が縮こまる。

感動の再会もここまでにして4人が移動を始め、友姫の家で退院の御祝いをする事となった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「「「「カンパーイ!」」」」

 

4つの紙コップが軽く衝突し合う。

 

「あー!うめぇ!これで中身がお酒とかだったら最高なんだけどなー!」

「そういや去年科学の実験でパッチテストやったよね。確か龍護がお酒に弱かったんだっけ?」

「うっせー。てかアルコールが強いのが苦手なだけだ」

「その発言…飲んだ事あるの?」

 

ギクッ!と龍護から軽く冷や汗が出た。

こちらの世界に転生して10年と少し。

前世での年齢を足すと龍護は既に30歳を超えている。

龍護も気を緩くしたせいかポロッとボロがたまに出そうになっている。

 

「いや未成年だからな?目の前で姉貴が飲んでて酔ったのを介抱した時に姉貴が酒臭かったから苦手なんだよ」

「ふーん、まぁそういう事にしとくわ」

 

消化不良な白の横でひたすら菓子を頬張る雫。

皆それぞれで友姫の退院を祝っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

ふと気が付くと既に日が傾いていた。

 

「あ、もうこんな時間かー」

「時間過ぎるのはえー」

 

龍護は友姫、白と一緒に片付けを、野武は縁側で余った菓子を、雫は壁に寄りかかってウトウトしていた。

白が何かを思い付き、皆を呼ぶ。

 

「ねぇ!どうせなら皆で写真撮らない?」

「お、いいなそれ」

 

白の提案にそれぞれが乗って友姫を中心に集まっていく。

龍護がスマホを小さな三脚に固定してテーブルの上に乗せ、ピントを合わせる。

 

「5秒後にセットして…っと」

 

本体のボタンを押したと同時にカウントダウンが始まり、急いで空いたスペースへと急ぐ。

 

 

パシャッ!

 

 

写真を確認すると綺麗に全員が笑顔で写っていた。

 

「じゃあ暇な時に印刷して渡すから」

「おっけー」

 

じゃあまた学校でねー。と3人はそれぞれの家へと帰って行った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「行っちゃったね…」

「あぁ、身体は大丈夫か?」

 

龍護の問いに大丈夫だよ。と安心させる友姫。

先に寝てな。と友姫を先に寝かせて龍護は1人、リビングで今後の計画を練り始めた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

襲来

友姫が退院して一週間が経ち、今日から学園へ戻ってくる。

だが安心する事はまだ出来ない。

いつどこからか自分達の命が狙われかねない為、龍護は友姫に午前で早退しとけ。とだけ言っておいた。

友姫が教室に入って来て、教室内にいる生徒の全ての視線が友姫に向けられる。

するとたちまち友姫の所に人集りが出来て、それぞれで友姫を心配していた。

そしてホームルームが始まった際に、友姫本人が午後になったら早退する事を担任に伝えた。

ホームルームを終えて最初の授業が始まる。

龍護も心配そうに友姫を見つめていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

午前の授業を終えて、友姫は帰り支度を始める。

午後の教員には龍護が理由を言うつもりだ。

友姫か帰ろうとした所でインソンに呼び止められる。

何を話しているのかは龍護の所からは聞こえない。

だが表情から暗い内容では無いようだ。

だが仲良く話しているインソンの右裏腿にそれは見えた。

 

黄色い龍の紋章

 

間違いない。

【暴食の龍】の紋章だ。

その紋章を見て、ガタッと音を立てて龍護が立ち上がる。

それを見たインソンはニヤリと薄笑みを浮かべて友姫から離れ、友姫は家へと帰って行った。

そして【暴食の龍】の所持者であるインソンが龍護に歩み寄ってくる。

 

「後で校舎裏に来てね」

 

あまりにも流暢すぎる日本語。

インソンは留学してまだ1週間程度だ。

友姫でも日本語に慣れるのに半年程は掛かっている。

そんなすぐに日本語をマスター出来るとは思えない龍護はインソンに警戒しながら放課後になるのを待っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

放課後になってインソンと龍護が一緒に校舎裏に向かう。

 

そして校舎裏に着いた瞬間、龍護が一気に距離を取り、戦闘態勢になる。

 

「ちょっ!待った待った!私はまだ敵対する気は無いよ!」

「悪ぃがその言葉は信用出来ない。お前をここに送り込んだ人物を教えろ」

「いやそんな事言われても…」

「何だよ?人質でも取られてるのかよ?」

「そうじゃなくて…私は母国の学校の担任から突然留学を指示されただけだよ」

「その上日本語が流暢すぎる。場合によっては事を交えるぜ?」

 

左手の甲にある紋章を輝かせて、いつでも龍化出来るようにする。

実はあれから練習を重ねて龍護は部分的に龍化出来るようになっていた。

今なら腕だけ龍化して相手を地面に押し付けて形勢を有利にする事だって可能だ。

その様子を見て、インソンはハァとため息を付く。

 

「まぁ日本語が流暢なのはちょっとね…けど、今は君に興味は無いよ。あるのは残っている【怠惰の龍】の友姫ちゃんと【傲慢の龍】の持ち主かな」

 

傲慢の龍という単語にピクリと反応する龍護。

そして自分の彼女である友姫が狙われている事が判明する。

 

「…友姫をどうするつもりだ?」

「え!?下の名前で呼んでるの!?え!?まさか彼氏とかなの!?うわ羨ましー!ポジション代わりたいー!!!!」

 

インソンの言葉に「ん?」と疑問が現れる。

 

「…まぁ彼氏なのは合ってるけど羨ましいって…」

「だってそうでしょ!あの子の両親死んだんだよね?そして心が弱りきってる所を狙えば即落ちで私の彼女確定しょ!あぁ、あの子が私に惹かれて私の手で堕ちてくのを間近で見れると思うと…あぁ、ゾクゾクするぅ…でも彼氏持ちかぁ…くそぉ!もう少し友姫ちゃんに早く会っていれば…!!!!」

 

顔を赤らめてクネクネと身体を震わせるインソン。

その様子を見た龍護は別の意味でインソンに危険性を感じていた。

だがそれと同時にある作戦が瞬時に思い付いた。

 

「…なんなら紹介しようか?」

「是非!!!!」

 

一瞬の迷いも無く龍護の提案に乗っかり、両手をガッチリと握るインソン。

チョロ過ぎないか…?と一瞬戸惑ったが、この様子なら友姫の為に多少なりの危険は犯して何かしらの情報は集めてくれるのでは無いか?と少し外道な考えを持った龍護は今度家に連れて行く事を約束して龍護はその場を後にしようとした時に気付いた。

 

「そういやさっき、【傲慢の龍】にも興味があるって…」

「正直言うと【傲慢の龍】の正体は知らない。ただ分かってるのはその持ち主がかなりの有権者って事かな」

「ん?お前中国からの留学生だよな?なんでそこまで分かるんだ?」

 

龍護の疑問にあー、とインソンは何かを察した。

 

「留学する時に政府からの命令だって担任から言われたからね。政府を動かせる人物と言ったら他国の政府でしかない。そして恐らく相手は私を知っている。だからこそ狙いやすいここに私を引きずり出してきた…私は推測出来るのはここまでだったね」

 

なるほど…と納得する龍護。

この際使える物は使うしか無いと判断したのか今後の対策を考える為に再びインソンと顔を合わせる約束をして教室へと先に戻った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「へぇ~…彼氏持ちかぁ…」

 

龍護が去った後でインソンはフフフッと急に怪しげに笑う。

 

「確かに私は女の子好きだけど本当に好きなのは彼氏が私に落ちて、その瞬間を見た彼女全てを壊された時の表情が好きなんだよなぁ…」

 

そう独り言を呟いたインソンは再び顔を赤らめて身体をくねらせる。

 

「友姫ちゃんが彼氏持ちでその彼氏が七天龍の遊戯の参加者なのは逆にいい展開だね。龍護君だっけ?友姫ちゃんの目の前で彼の唇取っちゃったら友姫ちゃん、縋る相手を盗られて発狂するだろうなぁ…そこで彼氏君には退場してもらって精神的に追い詰めてその上で肉体的に気持ちよーく追い詰めなきゃ…♪あぁ、考えるだけでおかしくなりそう…!」

 

身体をくねらせ続けるインソンの内腿に何らかの液体がツゥ…と滴り落ちる。

そして何かにハッとするインソン。

 

「そしたら先に龍護君から攻めるか!彼、確か七天龍の遊戯の参加者だったよね!なら片っ端から日本の偉い人を頭を食べて記憶を遡れば何かしらの情報は得られるよね!よし!少しの間学校休んで情報収集しないと!」

 

物騒な事を楽しそうに独り言で呟くインソンは帰ってから準備を進める事にした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

互いの思惑

翌日。

インソンは学校を休んで国会議事堂に来ていた。

そして裏側の人が殆どいない所に行って暴食の龍の能力を使う。

 

「【暴食の龍:空気】」

 

黄色のオーラがインソンを包み込んだ。

オーラが完全に消えた事を確認して再び正面に戻り、次は堂々と入っていく。

だが警備員はその様子に気付いていない。

【暴食の龍】の”食べた対象の能力を自分の物にする”能力だ。

つまり、以前、暴食の龍を使いながら空気の食べた事によって自分の存在を空気レベルにまで落としている。

そうする事で内部に入りやすくしたのだ。

 

(まずは侵入成功っと…♪)

 

本来国会議事堂は見学のエリアを制限しているが今のインソンには無意味だ。

立ち入り禁止と書かれている看板の前に警備員がいても真正面から堂々と入っていく。

それでも空気レベルに自分の存在が低下したインソンは全く気付かれない。

そして本人が狙うは衆議院議場だ。

よくテレビで議員がマイク越しに議論し合うのがここである。

その扉を前にしてインソンは立ち止まった。

 

(ヤッバ…私入れない…)

 

既に扉は閉まっている。

このまま行ってしまうと勝手に扉が開いたような形になり、かなり怪しまれる。

 

(…使ってみるか)

 

インソンは紋章に意識を集中させると淡く輝き出す。

 

(【暴食の龍:超音波】)

 

キィン…

 

インソンが超音波を発して周囲を見渡す。

そうする事でどこに抜け穴があるか探しているのだ。

何度も超音波を発してその抜け穴は見付かった。

 

(あの通気口かぁ…どこから入れるかな…)

 

再び超音波で周囲を探して通気口の入口を探し、それを見付けた。

 

(よし…行くか)

 

インソンが再び歩き出す。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

インソンが選んだのは女性用のトイレだった。

その天井に格子があり、そこから議場に向かうつもりだ。

女子トイレの前に【清掃中】の立て看板を置いてハシゴを使って格子を外そうとする。

…が…

 

(意外と固っ!)

 

ここでも暴食の龍の能力で、集めていた力を使う。

 

(【暴食の龍:ゴリラ(腕のみ)】)

 

インソンの両腕がゴリラのように変わると再び鉄格子を掴む。

 

「せーのっ…ふんっ!」

 

バキィ!と音を鳴らして鉄格子は外れ、侵入した。

 

(えーっと…こっちだっけ?)

 

少しづつほふく前進で目的の所に向かっていく。

暫く進んでいると通気口の一部に下から光が差している所があった。

そしてそこから誰かしらの声が聞こえる。

 

「遊戯終了まで、あと1ヶ月ですが…大丈夫なのでしょうか?」

「気にするな。暴食の龍の所持者も日本の喜龍学園に呼んである。あとは彼等で殺し合って最後に生き残った者を私達が仕留めればいいだけだ」

「畏まりました。引き続き、【怠惰の龍】、【強欲の龍】、【暴食の龍】の監視を続けます」

 

その声は少しづつ遠ざかっていった。

 

(ふーん…私とあの2人を殺し合わせて最後に漁夫の利をしようって事かー。中々面白いじゃん。これはあの2人の方に付いて、【傲慢の龍】を龍護君と一緒に殺した後に龍護君、友姫ちゃんの順で殺った方がいいかな♪だとしたら3人で一緒になった方がいいよね…)

 

偵察を終えたインソンはすぐに通気口から脱出しようと振り返った時だった。

 

「うわっ!?」

 

目の前を小さなハエが通り過ぎる。

突然の事に声を出してしまう。

 

「ん?誰かいるのか?」

(ヤバッ!)

 

必死に息を押し殺して悟られないようにしている。

すると先程いたハエが通気口の隙間からしたの通路に出ていった。

 

「…ハエか」

 

そう言って声の主は何処かに行ったようだ。

誰も通ってない事を確認してからインソンは通路に降りてくる。

 

「っぶなー…さっさとトンズラするか…」

 

インソンは国会議事堂の1つの窓を割ってその場を去った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「ま、私としてはこうなる事は予測出来たんだがな」

 

とある執務室で男は目の前にいる女性にそう呟いた。

 

「…本当に私達の話を【暴食の龍】が盗み聞いていたんですか?」

「あぁ、その証拠に【暴食の龍】を追わせていたハエが私の所に戻って来たからね。この虫には【暴食の龍】が近付いたら私の元に戻るようにしてあったのだよ。恐らく【暴食の龍】…インソンはこの後帰って明日位にあの2人に接触し、家に堂々とはいる筈だ。そしてそこで私のスパイと知らぬ間に接触…後に殺されかけるだろうが【暴食の龍】の能力で形勢逆転、2人を倒した所で私がインソンを仕留めればこのゲームは終了だ。後は君に任せるよ」

「畏まりました」

 

パンツスーツの女性は男のいる部屋を後にした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

危険な蜜の味 前編

月曜になりインソンが学園の自分のクラスに行くと既に龍護と友姫は来ていた。

そこへインソンが近付いて行く。

 

「龍護君、ちょっと」

「?インソン?」

 

手招きされて着いて行く。

それに気付いた友姫も一緒に行こうとしたがインソンにそこにいてと言われ、2人を待つ事にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

インソンは学園でも人通りのかなり少ない、屋上に続く階段に龍護を連れて来た。

 

「で、話ってのは?」

「七天龍の遊戯についてだよ」

 

”七天龍の遊戯”という単語に龍護は目の色を変える。

 

「何か分かったのか?」

「まぁ少しはね。まず、【傲慢の龍】は2人を殺し合わせるつもりみたい」

「俺と友姫を?…正直言うと俺と友姫が殺し合う場面はあまり想像出来ないけど…」

「私もだけどね」

「というかどうやってそんなの知ったんだよ?」

「それは秘密♪」

 

まぁだよな…と龍護は溜息を付く。

だがインソンは再び口を開く。

 

「提案なんだけど、私を味方に置くってのはどう?」

「はぁ?」

「いやーだって向こうはどうやって来るか分からないしそれに大勢で来るかもしれないよ?なら少しは龍護君の方も人を増やした方がいいんじゃない?」

「そりゃあ…まぁ…そうだろうけど…」

 

確かにインソンの言う事も確かだ。

相手がもし複数でこちらを襲いに来るのであれば遊戯関係者を味方に置いた方が有利となる。

だがそれは龍護本人と友姫の首元に刃物を近付けた状態で生活するという危険な行為でもある。

悶々とする中、インソンは再び提案した。

 

「言っとくけど私は龍護に興味は無いよ?あるのは友姫ちゃんだけ。手を貸すのも友姫の為ってだけ」

「そう言って最後は倒して生き残るって算段じゃねぇのか?」

「まぁ確かにそう思われるのも頷ける。けど流石に恋人の前で脱落させる気は無いけどね。そんなの私のイメージダウンにもなるし」

 

いまいちインソンの考えが見えなくて警戒するが先程の情報もある為、迂闊に断れば次は己の命も危ない。

仕方ないか…とインソンを友姫の家に連れて行く事にした。

 

「そういえばさぁ」

「ん?」

「龍護君と友姫ちゃんっていつから付き合ってるの?」

「1年の夏休みからだよ。その時に友姫んとこの旅行に誘われたんだ。で友姫が俺に告ったんだよ」

「あ、龍護君からじゃないんだ?」

「あー…まぁ、はい…」

「ヘタレだなぁ…」

 

ほっとけ、と悪態を付きながら教室に戻る2人。

すると自分達のクラスがある3階の自動販売機で友姫と会った。

 

「あ、友姫ちゃーん!」

 

インソンは友姫を見つけるや否や、友姫に飛び付いた。

 

「危なっ!?」

「えへへごめんごめん♪」

 

呆れた奴だ…と龍護はインソンを見て思いながらクラスに戻っていく2人を歩いて追い掛けた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「え?インソンちゃんが私の家に来るの?」

「おう…あれ?友姫ってインソンがどんな奴か本人から聞いた?」

「?ただの留学生でしょ?」

 

帰りの支度の途中、龍護からインソンが家に来る事を聞いた友姫。

あちゃー…と心の中で思いながら龍護はインソンが七天龍の遊戯の参加者である事を隠す。

恐らくその方が友姫の今の状態から考えても安全だと思えるからだ。

そこにインソンが近付いて来る。

 

「あ、友姫ちゃん、今日友姫ちゃんの家に来るの聞いた?」

「うん、別に大丈夫だけど…」

「よしっ!友姫ちゃんの家に着いたら友姫ちゃんのアルバmいてっ!?」

 

インソンの邪な考えに対して頭を軽くコツンと小突く龍護。

 

「お前って本当に友姫以外興味無いのか…てかそんなに会ってないのにどうしてそこまで友姫にこだわるんだよ?」

「美少女ですから」

「…そこは否定しない」

 

2人して何言ってんの?と友姫に突っ込まれながらも3人は友姫の家に帰っていった。

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

「おー!ここが友姫ちゃんの成分が詰まったいゴフッ!?」

「…段々お前がただのエロ親父にしか見えなくなってきてるんだが…?」

 

言葉と行動による鋭いツッコミがインソンを襲う。

だが懲りてないインソンはすぐに友姫の部屋へと向かっていく。

 

「はぁ…自由な奴だな…」

 

1人ボヤいていると玄関の扉が開いた。

現れたのは雪菜だ。

 

「あ、お2人さん、帰ってきてたんですね?夕食作り…あれ?お客様来てます?」

「あぁ、まぁ…中国からの留学生が…」

「中国からの留学生…」

 

”中国からの留学生”という言葉に反応した雪菜。

その理由を知っている龍護はやはり…と何かを確信した。

 

「俺と友姫はその留学生の相手してるんで雪菜さんは夕食お願いします」

「分かりました」

 

とにかくこの人から離れようとした龍護は友姫を手を取ってインソンの向かった友姫の部屋へと歩いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

友姫の部屋に着いた3人はオンライン型の銃撃戦ゲームをしている。

 

「友姫、254度の方向から撃たれてる」

「うっわこれ囲まれてんじゃん」

「ギャア撃たれたぁ!」

 

結局ランキングでは5位に終わった。

 

「相手絶対物資の中にあった武器持ってたよ」

「だよなぁ…あの距離からの狙撃は上手すぎる…」

「感度変えた方がいいのかなぁ」

 

その後3戦程やって最終的に2位で終わっていた。

 

暫くして雪菜がやって来た。

 

「皆さん、夕食が出来ましたよ。そちらの留学生の方も御一緒にどうぞ」

「え?いいの?」

 

3人は雪菜に促されてリビングに向かう。

先に席に座っていてほしいと雪菜に言われ、それぞれが適当に椅子に座っていく。

 

「お口に合うか分かりませんが…」

 

雪菜が持ってきたのはカレーだった。

 

「お!カレーだ!」

 

いただきまーす!とインソンはすぐにスプーンに手を伸ばし、カレーを掬おうとしたが、その手が不意に止まった。

 

「?どうした?」

 

突然動作が止まったインソンを不思議に思った龍護。

聞かれても固まるインソンだが途端に再びスプーンを動かした。

 

「ううん、なんでもない」

「?」

 

インソンの不可解な行動に違和感を覚えながらも食べ進めていく。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「あー、食べた食べた!ごちそーさまー!」

「お口に合っていたようで良かったです。あ、デザートにプリンがありますので待ってて下さいね」

 

雪菜が食べ終えた食器を纏めてキッチンに戻る。

すると龍護も立ち上がった。

 

「?リューゴ?」

「ん?あぁ、トイレ」

「おーす、いっといれー」

 

何年前のネタだよ。とツッコミを入れつつもトイレに向かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

龍護がトイレを終えて戻っている時だった。

 

「ん?」

 

キッチンから何か話し声が聞こえる。

 

『…はい、一応………ので…す』

 

途切れ途切れだが誰か…恐らく自分の上司に連絡をしてるのだろう。

…まぁその社長は既に亡くなっているが…

話し声が止み、雪菜がキッチンから出てくる。

 

「うおっと」

「あ、龍護さん、すみません」

 

ぶつかりそうな所で龍護が一歩引いた。

 

「電話、大丈夫でした?」

「え?あぁ、はい…」

 

2人の間に流れる沈黙。

それを龍護は無理矢理ながら断ち切る。

 

「スヴェンさんの葬式…結局行けませんでしたね…雪菜さんはこれからどうするんですか?」

「私ですか?私は暫くの間は実家に戻って手伝いをするしかないですね…」

「あぁ…実家に戻るんですか」

「一応自営業ですから…けど立ち直ったらまた就職も考えているんで」

 

大丈夫です。と告げて龍護と共に居間に行った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

デザートであるプリンを食べ終えた3人。

するとインソンが立ち上がる。

 

「さて…とそろそろ帰るかな」

「あれ?帰るのか?もう19時越えてるぞ?」

 

龍護の視線の先には19時を示す振り子時計。

だがインソンは首を横に振る。

 

「私も帰ってやらなきゃいけない事があるからねぇ…ま、期待してて」

 

”期待してて”

 

その言葉でインソンが七天龍の遊戯の情報収集をすると察した龍護は家まで送ると行って立ち上がる。

 

「あれ?リューゴも行くの?」

「あぁ、さすがに1人で歩かせるのは危ないだろ(それに積もる話もあるかもしれないからな…)」

 

両親を亡くし、少しばかり情緒不安定になっている友姫に今は七天龍の遊戯の話はあまりしたくないのか「俺が送るから友姫は先に風呂とか色々済ませてな」と半ば強引に友姫を置いていく。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

ラジネス家の庭を2人が歩いている。

 

「せっかく友姫ちゃんと2人で帰ろうと思ったのに~!」

「そう言うなって…流石にまだ傷が癒えてないんだ。そんな中遊戯の話をしたらまた危なくなるだけだって」

「…そうかもしんないけどぉ…」

 

チェ~…とインソンが残念がる。

それ程友姫といたかったのかと敵ながら少し呆れる龍護。

 

「また情報収集でもするのか?」

「まぁね、愛しの友姫ちゃんの為なら火の中水の中…あっ」

 

グッ!とサムズアップしようとしたインソンだったが何かを思い付いたのかスマホを操作する。

 

「?何してんだ?」

「ひみつー!」

「?」

 

未だにインソンの行動が読めない龍護。

インソンはそれを構わずに突然龍護と自身の唇を合わせた



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

危険な蜜の味 後編

突然キスをしたインソン。

 

(!?!?)

 

突然の事に戸惑い、固まる龍護。

 

(待て待て待てどうしたんだ急に!?)

 

その理由はすぐに分かった。

 

「…何してるの2人とも…?」

 

聞き覚えのある声。

龍護にとっては聞き間違いであって欲しい声。

咄嗟に振り向くと不安でいっぱいになった友姫がいた。

 

「おま…ってインソン…っ!?」

 

突然距離を取るインソン

そしてインソンがいた所を炎の槍が降り注いだ。

インソンに至っては「ちょっとやり過ぎたかな?」と言いたげな様子だ。

 

「お前…一体…っ!?」

 

龍護の視界がボヤけ初め、友姫に寄り掛かる。

友姫もすぐに気付いて龍護を支え、近くの芝生の上に寝かせた。

 

「インソンちゃん…これはどういう事…?」

 

完全に臨戦態勢の友姫に悪びれも無く笑うインソン。

 

「どうもこうも無いよ?ただ単に」

 

その言葉と同時にバキバキという音をたてながらインソンの右腕がゴリラの腕のように変貌していく。

 

「この場で2人を仕留めようかな?ってねっ!!!!」

 

勢い良く飛び上がり、友姫の真上からゴリラの腕と化し、強固になった拳を叩き込む。

だが寸での所で友姫が躱し、ドゴン!!!!という鈍い音を立てて地面は抉られた。

友姫も応戦の為に【怠惰の龍】の無効化能力を纏った右脚でインソンを蹴る。

インソンは再び飛び上がって躱すと風魔法を巧みに使って距離を取った。

 

「さっすがぁ~!」

 

友姫が龍護のいる反対方向に走り、龍護へ流れ弾が来ないように距離を取る。

そしてインソンと向かい合った。

 

「さぁ…始めようか」

 

インソンが妖美な笑みを浮かべていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「ん…あれ?」

 

龍護が起き上がる。

それと同時に自分に何が起きたのかを把握した。

 

(そうか…眠らされたのか…チッ…暴食の龍はそういった能力なのかよ…)

 

するとどこからか轟音が鳴り響く。

 

「やっべ…友姫のやつマジギレしてやがる…」

 

少しふらつきながらも立ち上がり、友姫とインソンがいる方へ向かった。

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

ドォン!ドォン!

 

巨大な土煙が至る所で舞い上がる。

友姫とインソンはお互いに七天龍の力や魔法、体術を駆使して闘っていた。

 

「アハハ!凄い凄い!やっぱり龍護君を狙っただけの事はあるよ!」

 

インソンは友姫の攻撃を完全に見切って躱している。

友姫は自分の攻撃が当たらない事に少しづつイライラし始めていた。

 

(なんで…!なんで当たらない…!?早く倒してリューゴを治療しないと…!もうこれ以上…!)

 

 

これ以上、自分の大切な人を奪わせない

 

 

そう心に誓って自らの拳を振るう。

 

「友姫!」

 

その声に友姫が気付いた。

 

「…!リューゴ!」

 

インソンと戦闘中だが、そんな事をお構い無しにリューゴに抱き着く。

 

「大丈夫!?痛いとこ無い!?」

 

色んな所を触り、龍護を労る。

 

「俺は何ともない。それよりも…」

 

龍護はインソンを見た。

 

「やっと【暴食の龍】の能力が判明したよ。お前の持つ【暴食の龍】力は”食べた物の性質を自分自身に取り込む”能力だ。鉄や鋼といった硬い金属を喰らえば自分の身体を硬くし、脚の速い生物を喰らえば自分の脚が速く、腕力のある生物を喰らえばその腕力を自分の物にして、自在に性質を使う事が出来る。だからお前は自分の国内の動物園を襲撃し、その強い性質を自分の物にした…そうだろ?」

 

へぇ…とインソンが関心する。

 

「正解。よく分かったねぇ?花丸あげるよ」

「そんなもんいらねぇよ。その代わり、お前の紋章を貰う」

 

龍護が友姫の前に立ち、【強欲の龍】の紋章を輝かせる。

だがその龍護の右肩に友姫の手が乗った。

 

「?友姫?」

「リューゴ…」

 

龍護の後ろに立っていた友姫が横に並ぶ。

 

「…やろう。2人で」

 

その言葉の意味を察し、龍護は無言で友姫の手を握る。

 

「?2人とも何を…」

「インソン…お前に見せてやるよ…これが…」

 

龍護の紋章と友姫の紋章が眩しく輝き出した。

 

「「俺達(私達)の絆だ」」

 

カッ!!!!と目を覆いたくなる程の閃光が辺りを包む。

そして晴れた時には、龍護と友姫がいた所に1人の中性的で、肩まで伸びた水色の髪をした龍護と友姫の融合体が立っていた。

 

『行くよリューゴ!』

『おう!』

 

ダッ!と走り出す。

拳にした右手でインソンに殴り掛かる。

だがインソンも負けじと【暴食の龍】の能力を使って右腕全体をゴリラの状態にし、龍護達の手を掴もうとした。

それを見越していたのか、すかさず龍護達は自分達の右手に【怠惰の龍】の無効化能力を纏わせる。

その右手がインソンの右腕に触れた瞬間、意図も容易くインソンの能力が解かれ、顔にクリーンヒットした。

 

「くっ…!!!!」

 

龍護達はその攻撃の手を止めない。

右手、左脚、左手、右脚と次々に無効化能力を纏わせて撃っていく。

 

「はっ!!!!」

 

右手による突きがインソンの腹部に当たって吹き飛び、インソンは片膝を着いた。

 

「…ケホッ…コホッ…」

 

湧き上がる吐き気を我慢し、痛む腹部を抱えて立ち上がる。

 

「これは…少し…予想外かなぁ…」

 

ククク…と追い詰められているにも関わらず笑みを浮かべるインソン。

 

「もう辞めとけ。お前の負けだ」

「私の負け?そんな根拠何処にあるのさ?ましてや…」

 

スッ…と余裕の笑みを浮かべたインソン。

 

「【暴食の龍】の全力すら出てないのに勝った気になる君達の方がどうかしてるよ!」

 

インソンの持つ紋章がより一層輝き出す。

すると脚や腕がより筋肉質になり、背中からは翼が生える。

その姿はまるで翼を生やした悪魔だ。

 

「なっ!?」

「私がいつ能力の使用の際は1回に付き、1つの性質しか使えないって言ったかな!?その気になれば私が取り込んだ全ての性質を纏めて使えるんだよ!」

 

ドン!!!!という音と共に目の前からインソンが消える。

龍護達はすぐに無効化能力のフィールドを作ろうとしたが遅かった。

 

「遅い!」

「グッ…!!!!」

 

左側から迫ったインソンが太くなった右脚で抉るように龍護達の脇腹を蹴り飛ばす。

防げなかった龍護達は宙を舞って吹き飛ばされる。

 

「次!」

「ガッ…!」

 

反対側に回り込まれ、逆の脇腹を再び蹴り飛ばされる。

 

「ほらほらほら!能力使って防ぎなよ!防げるもんならね!!!!」

「こ…のっ!!!!」

 

反撃しようとするが高速で飛び回るインソンに狙いが定められず次々に連打を食らう。

無効化能力のフィールドは紋章に意識を集中させないと使う事が出来ない。

ましてや今はインソンに連打を食らってる最中だ。

次々と身体に現れる痛みに意識が集中してしまい、紋章に意識を向ける事が出来ない。

 

「クソがァっ!!!!」

 

思い切り右手の拳を地面に叩き付け、自分の周りを土壁で囲む。

 

(どうする!スピードや手数で奴に勝てるとは思えねぇ!それなら…!)

 

必死に頭で考える中、その声は聞こえた。

 

「ガラ空きだよ」

 

その声は上からだった。

インソンは真上から加速して巨大化した右脚の踵を龍護達に叩き付けた。

その衝撃で今日一番の土煙が立ち、地面にもクレーターが出来上がる。

そしてそのクレーターの真ん中に頭から血を流した龍護達がいた。

幸いにも融合は解かれてないが、その状態からして今すぐにでも解けてしまいそうな状態だ。

そんな龍護達に近付き、乱暴に髪を掴み上げる。

 

「く…そっ…」

「少し予定は狂ったけど、まぁ、大丈夫かな…それじゃ、紋章を貰…」

 

紋章を奪い取ろうとしてそれは起きた。

何処からか爆発物が友姫の家の敷地内に投げ入れられ、爆発する。

咄嗟の事にインソンは龍護達を抱えてその場を離れた。

 

「…何?今の…っ!?」

 

その光景はインソンでも息を呑んだ。

4機程の軍用ヘリと武装した者達。

それを見てインソンは察した。

 

(同士討ちして漁夫の利って事?マジで最悪…)

 

倒した2人を取られる訳にはいかないとインソンは融合した龍護の身体を抱えて飛び上がる。

その時だった。

一本の細い光がインソンの腹部を貫く。

光属性による魔力のレーザーだ。

 

「が…はっ…!?」

 

あまりの激痛にインソンは吐血しながらも負けじと翼を使って加速し、その場を離れ、遠くの山へ向かった。

 

「────。────?────」

 

武装していた集団の中のリーダー的な者が通信を行い、部下と思われる者達とその場を後にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

飛行して逃げていたインソンにも限界がきたのか、空中で能力が解けてしまい、龍護達と共に山の中にバキバキと音を立てて落ちていく。

幸い木の枝達がクッションになったのか、地面に落ちても骨折等の怪我はしなかった。

そしてここで融合が解ける龍護達。

 

「うっ…くっ…」

 

痛みに耐えながら必死に立ち上がる龍護。

 

「…あれ?何処だ…?…!友姫!」

 

倒れている友姫に駆け寄る龍護。

どうやら気絶してるようだ。

安堵の息を付きながら辺りを見回す。

するとその視界の端に血だらけのインソンを捉えた。

 

「インソン!?」

 

すぐにインソンの上半身を起こし、近くの木に寄り掛からせる。

 

「おい!どうした!誰にやられた!?」

「さぁ…ね?自分もよく分かってないんだわ…」

 

ハハハ…と乾いた笑いを見せるがその顔には死相が浮かんでいた。

 

「恐らく…私達が接触する事を見越して、機を待ってたのかもね…」

「それってどういう…」

「漁夫の利だよ…お互いに弱った所を爆弾で一網打尽…それで七天龍の遊戯の決着が着く予定だったんだろう…けど私が2人を抱えて逃げたから作戦は失敗…多分また来るだろうね…」

 

ハァ…ハァ…肩で息をするインソン。

その腹部からは未だに血が流れている。

その量から察するにもう助かる見込みは無いだろう。

それを察したのか、インソンが口を開いた。

 

「龍護君…紋章を…貰ってよ…」

「…お前…」

「これは勘だけど恐らくこの遊戯で勝てるのは君だと思う…だからその君にこの紋章を託したい…早く…」

「…分かった…」

 

龍護がインソンに手を翳し、そのキーワードを唱える。

 

「【我が元に集え】」

 

インソンの紋章から光の粒となって身体から離れ、龍護の左手にある紋章に集まっていく。

それを見たインソンは龍護に聞こえるか聞こえないかの声で、あとは任せるよ…と呟く。

そして龍護の紋章は白、ピンク、黄色の三色に別れて輝いていた。

 

「お前の紋章…確かに受け取ったよ…。…?インソン…?」

 

目が空いてるのに反応が無い。

そしてその目も濁っていた。

 

「…必ず勝つから…」

 

そう言い残し、龍護はインソンの目を優しく閉じた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2人の鍛錬

遊戯終了まで1ヶ月を切っていた。

いつ【傲慢の龍】の所持者が襲撃してくるかも分からないので少しでも【強欲の龍】の能力に慣れる為に親と教師には暫く学園を休みたいと言いたいが生憎その上手い理由を探せておらず、結局の所は早く起きて登校前と授業が終わった後の放課後に友姫の家で練習する事にした。

友姫は両親の遺品整理という理由で学園を休み、【怠惰の龍】の無効化能力を更に高めている最中だ。

ただ、龍護としては友姫とは協力関係にある為、少しでもいいからお互いにすぐにフォロー出来る距離を持ちたい所だ。

あれこれ考えてる内に午前中の授業が終わり、白、雫、野武と一緒に食堂に向かった。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

食堂の壁に掛けられたモニターには議員同士が討論していた。

 

『総理、現在この日本では少なくとも2人の外国人が謎の変死を遂げています。それはこの国の危機管理の無さ、公共交通機関の不便さが原因であると思われますが如何でしょう?』

 

発言を終えた議員が座り、内閣総理大臣の小野崎慢作がそれに対応する。

 

『確かに現在日本で2人の外国人が殺害されている事に関しては周知しておりますが詳しい内容は現時点では調査中とだけ申しておきます』

「物騒だよなぁ…」

 

ニュースを見ていた野武が独りでに呟いた。

 

「まぁこの学園の生徒じゃない分不幸中の幸いなんじゃない?」

 

龍護はその話を黙って聞いていた。

 

(やっぱり残ってる【傲慢の龍】の所持者が記憶を改竄したか…)

 

そこまでして何になるんだよ…と溜め息が出るも、昼食のラーメンを啜る。

 

(まぁルシスもネストも殺が……ん?)

 

龍護は自分の思考に少しの疑問が沸いた。

 

(あれ?あの議員って”亡くなった”って言ったよな…?けどあの大臣は…)

 

とある答えに辿り着き、マジか…と両手で顔を覆う。

 

「…?どしたの龍護?」

「…なんでもない…」

 

全員が昼食を食べ終えて午後の授業に挑んだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

授業が終わり、真っ先に向かったのは友姫の家だ。

 

「友姫ー?いるかー?」

 

返事は無い。

だが靴があるから道場で稽古をしてるのだろう。

 

(ま、鍛えてんならいいか…)

 

龍護も靴を脱いで上がり、奥にある道場に向かう。

 

「フッ!フッ!フッ!」

 

友姫は道着を着て素振りをしていた。

夢中になっているのか、入ってきた龍護に気付く事も無い。

一頻り素振りを終えたのか、フゥを息を付いて額の汗を拭う。

そこで龍護がいた事に気付いた。

 

「あれ?リューゴ、いつの間に?」

「つい数分前からな、っと短いけど俺も稽古してくわ」

 

庭借りるぞー。と言い残し、サンダルを履いて庭の真ん中に立つ。

 

「……よし…」

 

深呼吸してから左手の甲の紋章に意識を集中させ、龍化を促す。

だが…

 

「…ッくっそー!全然出来ねぇ…!」

 

今龍護がやろうとしているのは部分的な龍化なのだが全身を龍化するのに比べ部分的である為、中々の集中力も必要になってくる。

今の所成功率は10回に1回程度…10%の確率で部分龍化は発動出来ていた。

 

(どうにかしていつでも出来るようにしとかねぇとな…)

 

もう一度部分龍化を試してみるも、右腕が少し白く輝くだけで龍化は出来ていなかった。

 

(魔法とは勝手が違うんだろうな……あれ?そういや…)

 

龍護はとある事に気付き、縁側で休んでいる友姫の元へ行く。

 

「友姫って前は魔法の制御って下手だったよな?」

「…地味にトゲのある質問してきたね…まぁ前はね?でも今は魔力そのものがどういうのかというのが分かったし、龍護が制御の仕方を教えてくれたのもあるよ?」

「まぁそれは分かってんだけど、【怠惰の龍】の能力は簡単に使ってたじゃん?龍の能力と魔法って何か違いがあるのか?」

「…あー、そういう事?…あれ?お父さんから聞いてないの?」

「え?何を?」

「魔力は分かりやすく言うと体力の亜種みたいな感じなの。ほら、人って動き回るといずれ体力が減るから疲れるけど休んだら少しづつ体力って戻るでしょ?魔力も同じで使ったら身体の中の魔力は減るけど身体の中で魔力がジワジワと生成されるからまた魔法が使えるの。けど龍の能力は体力と違って”現時点での自分のポテンシャル”によって左右されるらしいの。具体的に言うと”目的の強さ”って感じかな」

(なるほど…)

 

確かに今までの戦いでは、友姫や龍護が能力を使う時、

 

・ネストの【嫉妬の龍】の能力に対抗する

・戦闘ヘリに勝てるレベルの力を使う

 

等、明確な目的があり、それに本人達が集中していたものであった。

 

(目的の強さ…か…)

 

龍護は何やらブツブツと呟いている。

どうやら何か【強欲の龍】の有効な使い道を掴んだようだ。

 

(俺の考えが正しければ部分龍化以上の事が出来るかもな…)

 

そうと決まれば特訓だ!と意気込んで庭の真ん中に立って特訓を始めた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

2人が特訓を始めて一週間が経つ。

今では自由自在にお互いの龍の能力を出せるようになっていた。

そして龍護が動き出す。

 

「動画撮影?」

「あぁ、【傲慢の龍】の所持者に向けてその動画を送ろうと思ってんだ。で、俺が撮るから友姫にこの文章を読んで欲しいんだけどいいか?」

 

龍護の言葉に分かったと答える友姫。

すると帰ってきたのか雪菜が2人に姿を見せた。

 

「あ、お2人さん、こちらにいらしたんですか」

「あ、そうだ雪菜さん、ちょっといいっすか?」

「?」

 

雪菜にとある動画を撮影したい事を説明した龍護に雪菜が提案した。

 

「でしたら町外れの廃工場はどうでしょう?」

「え?廃工場って…あ、なんか経営が傾いて会社自体畳んだ所あったっけ…」

 

雪菜の言葉に何の工場だか覚えてないが廃工場になった所を思い出す龍護。

そこなら立ち入り禁止な所でも無いし、何より安全と思い、明日、そこへ向かうのだった。




一応完成してる部分まで上げました。
今執筆してるスマホの誤作動が酷過ぎて編集するのに時間が掛かり過ぎた…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

重なる場所

今日から連載再開します


午後10:00、とある廃工場。

龍護、友姫、雪菜の3人は夜中にこの廃工場に来ていた。

 

「ガラーンとしてるね」

「まぁ廃工場だからな。移転の場合、機械バラして移転先に持って行くから普通こうなるらしいぞ?」

 

友姫と龍護が並んで歩く中、雪菜は少し距離を置いて2人のあとを着いて行く。

 

(にしても…夢で見た所と結構似てるな…)

「そろそろ撮影しますか?」

「あー…そうですね…けど街灯近くでやらないと顔も分から──────」

 

ズドン!

ゴッ!

 

途端、銃声と何かがぶつかる音が響く。

 

「…っ!」

「ッチ…やっぱりアンタが手先っつーのは本当だったのかよ」

「龍護さん…その腕…」

 

雪菜が見たのは左腕全体をシールドのように変形させた龍護だった。

 

「部分変化っていう【強欲の龍】の能力だ…いや…正しくは【強欲の龍】の力の”一部”と言っておくか。ちょっとしたメッセージを受け取ってね。アンタが【傲慢の龍】の所持者の手先ってのを聞いて少しでも力を鍛える為に努力してたんだよ」

 

龍護はシールドと化した腕を元に戻し、雪菜に向き直る。

 

「最初俺も驚いたよ。まさかアンタが【傲慢の龍】の力を譲渡されて、その上、その力を使って俺達に近付き、そしてアンタの雇い主は喜龍学園に龍の所持者を集めようとしてたんだからな…そうだろ!【傲慢の龍】の所持者にしてこの国の総理大臣である────────小野崎慢作さんよぉ!」

 

その言葉に答えるかのように拍手が雪菜の後ろから聞こえてくる。

そう、【傲慢の龍】の所持者にして、今回の七天龍の遊戯を始めた張本人、小野崎慢作だ。

 

「とりあえずお見事。と言っておこうか。なぜ私が【傲慢の龍】の所持者だと気付いた?」

「学園の食堂にあったテレビ画面で放送されてた政治家達の会議でだよ。先に発言した議員は外国人の死亡をそのままの意味で”亡くなった”と言っていた。だがお前は違う。お前は”殺害されてる”と言っていた。殺害か事故かなんてその時居合わせた人しか分からねぇ筈だ。にも関わらずお前は”殺害されてる”と言ったからだ。そしてもう1つ。ネストの編入だ。本来ならばネストは喜龍学園に入れる筈は無い…が、恐らくお前が傲慢の龍の力を使って無理矢理入れたんだろ?」

 

龍護の推測に再び拍手をする小野崎。

 

「素晴らしいよ。まさかそんな方向から私を見付けるとはね」

「これから倒す相手に褒められたって嬉しかねぇよ」

「倒す?誰をだい?」

 

その言葉に答えるかのように後ろから銃を持った武装集団が現れる。

 

「なっ…!?」

「さようなら【強欲の龍】の奪木龍護君」

 

ダダダダダ!!!!

 

一斉に始まる射撃。

だがその全ては龍護に当たらなかった。

代わりに、龍護の頬に血が飛んでくる。

 

「……え…?」

 

一瞬、分からなかった。

いや”分かりたくなかった”

目の前には龍護を庇うようにして立つ友姫の姿。

友姫は龍護の盾になったのだ。

コプ…と血を吐き、力無く倒れる友姫。

 

「友姫!!!!」

 

すぐに友姫抱き抱える。

 

「お前…どうして…!!!!」

「なんとなく…分かるの…」

 

息が絶え絶えだが必死に言葉を紡ぐ友姫。

 

「リューゴしか……この遊戯を終わらせる人は…いないって……」

「だからって!!!!」

「ハハハ、泣かせるね」

 

小野崎の言葉にキッ!と睨む龍護。

 

「おー、怖い怖い。怖いから…」

 

 

キィン────────

 

 

途端に小野崎の左目がドス黒く光り出す。

 

「すぐに終わらせよう」

 

黒い靄が小野崎を包み込み、巨大化していく。

 

(なんだ…!?何が来るんだ…!?)

 

廃工場の天井まで届いた靄が消えていく。

そこに現れたのは黒い西洋の龍だった。

そしてそこで龍護はある既視感を感じた。

 

(この光景…まさか!)

 

龍護はあの時の夢の光景を思い出す。

 

血だらけで倒れる少女

 

廃工場

 

黒い龍

 

あの夢は正夢だったのだ。

 

「そんな…」

「サァ…オワリダ」

 

小野崎の声で龍が喋る。

 

「リュー…ゴ…」

「っ!友姫!?」

 

友姫が龍護の裾を必死に掴む。

 

「お願い…私を使って…あいつを……」

「……分かった…」

 

龍護と友姫は互いに紋章を輝かせる。

そして2人は白い光に包まれた。

 

「ムダダ!!!!」

 

黒い龍から放たれる光球状の炎のブレス。

そのブレスは白い光を掻き消した。

 

「シンダk…「誰が死んだって?」っ!?」

 

すぐに辺りを見回す。

すると着弾した場所の上から水色の髪をした中性的な顔付きの人間が降りてくる。

龍護と友姫の融合体だ。

着弾点に降り立った龍護はすぐに左手の紋章を輝かせた。

 

「次は俺の番だ」

 

ゴウッ────────!!!!!!!!

 

龍護を中心に吹き荒れる風。

 

龍化した小野崎を残して雪菜と武装集団は吹き飛ばされる。

そしてその風が止む頃、黒い龍と同等の大きさをした白い龍が現れた。

 

「ホウ…ワタシトオナジチカラデヤリアウツモリカ」

「安心しろよ。すぐにその喉、喰いちぎってやる!!!!」

 

バサッ!!!!と翼を広げ、天高く飛び上がる龍護。

バキバキと音を立てて右腕が一本の槍のような形状になる。

 

「っらぁ!」

 

龍化した小野崎に突進する龍護。

 

「っ!グウッ…!?」

 

予想以上に衝撃が強かったのか、槍の腕を受け止めたものの、小野崎は押され、廃工場の壁を壊しながら引き摺られていく。

 

「ウオオオ!!!!!!!!」

 

小野崎が黒い尻尾を使って龍化した龍護の翼に巻き付け、引き剥がす。

 

「コゾウ…チョウシニノルナヨ…!!!!」

 

両手に炎を灯し、殴り掛かる。

【憤怒の龍】の炎を操る能力だ。

 

「フンッ!!!!」

 

勢いを付けて思い切り拳を叩き付ける。

だが龍護は自らの手で真正面から受け止めた。

 

「ナンダト!?」

「お前、忘れたのか?俺には…【怠惰の龍】の能力も使えるんだよ!!!!」

 

龍護は白い光球を両手に纏わせ、小野崎殴り掛かる。

【怠惰の龍】の無効化能力で殴られた部分の龍化が解け、少しずつ不利になっていく小野崎。

最後には龍護に首を捕まれ、地面に叩き付けられた。

 

(マズイ…!!!!)

 

小野崎は【憤怒の龍】と【嫉妬の龍】を持っているが恐らく【怠惰の龍】の前では意味が無い。

必死に打開策を考えているが自身の龍化が消えていく。

 

(考えてる暇は無い…!!!!)

 

小野崎が【憤怒の龍】と【嫉妬の龍】の能力を発動しようとした時だった。

自身の中からその2つが消え、赤と紫の光となって浮かんでいく。

 

(!!!!何が…!?)

 

小野崎から離れた2つの光は白い龍、龍護に吸収されていく。

 

(まだだ…まだ足りない…)

 

龍化しても黒かった龍護の目が紅く染まり始める。

 

(もっとだ…もっと力が必要だ…コイツを殺して全てを罪を償わせて、こんな遊戯を始めた事すら後悔させる程の力が…!!!!)

 

グオオオォォォォオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!

 

龍護の怒りに答えるかのように再び白い龍が輝き出す。

その光は更に大きくなり、遂には黒い龍の3倍程の大きさにまで上り詰める。

 

(マダダ…マダタリナイ…モットダ…モットチカラヲヨコセ…コイツヲジゴクニオクリ、ゼツボウサセ、ココロモカラダモボロボロニナッテイノチゴイヲ、ユルシヲコウチカラヲオレニヨコセ…!!!!!!!!!!!!!!!!)

 

そして変化は起きた────────

 

光は収まったが代わりに龍化した足がボコボコと泡立ち、触手となって広がっていく。

その触手は木は愚か、建物も車も全てを飲み込んでいく。

あちらこちらで火が立ち昇り、サイレンが聞こえた。

 

「グオオオォォォォオオオアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

その怒りは収まらず、龍化はますます大きくなっていく。

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

「ん…?っ!?なにあれ…!?」

 

寝ていた白が大きな音に気付き、その龍が目に入った。

 

「白い…龍…!?」

 

すぐにスマホのニュースアプリを見る。

そこには今起きている謎の龍の暴走の様子が中継されていた。

このままじゃマズイと思ったのかすぐに雫と両親を起こして外に出る。

外も世紀末のようだった。

所々から火の粉が上がり、白い触手が侵攻を続けている。

 

「これ、マジで逃げないと!!!!」

 

両親が2人を呼び、車に乗せて走り出す。

白は野武と龍護、友姫にも連絡を取ろうとしたが龍護と友姫は出ない。

 

「あのバカ、どこで何してんのよ!!!!」

 

その本人が白い龍となって今も尚暴走しているのに気付くはずも無い白。

そんな白を他所に車は遠く離れていった。

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

遠く離れている公園のジャングルジムの頂上にその男は座って白い龍の下半身広がり、街を飲み込む姿を見ていた。

 

「にしても面白い解釈だ。【強欲の龍】の能力に身体強化も龍化も全てその所持者が望んだから具現化されたんだ。”欲がある”というのはつまり、”今の自分が持っていないものを欲しがる”のと同義。だからこそ【強欲の龍】の本当の能力は”所持者の欲望を具現化する能力”だ。だからこそ力を欲しがったからそれに応えられる七天龍の力を小野崎のやつから吸収した…さて…そろそろ頃合か?」

 

その男が見ていた白い龍の目が七色に輝き始める。

 

「七天龍…その力は余りにも強大でその世界1つ滅ぼせてしまう…それ程の力を持った龍が何故、人に埋め込まれても暴走しない?簡単な話だ。あれは元々一体の龍だったからだ。つまり、例えその力を引き出せてもせいぜい七分の一…完全にその力を行使する事など不可能だからだ。だが、その分割された力であれば人間が扱うなら事足りる…そして例え集めても【傲慢の龍】がそれぞれの能力を支配し、【強欲の龍】で強めなければ集めても混ざり切らずコントロール出来てしまう…だが遂に今、その力は戻った…さぁ…復活しろ…」

 

白い龍の全身は輝き、更に大きくなり、首が七本に分かれていく。

 

「真の龍【七天龍】の復活だ」

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

何も見えない。

 

何も感じない。

 

ただあるのは抑えられぬ怒りと、溢れ、抑制出来ぬ力だけ。

 

その青年は暗闇の中を漂い続け、自分が誰だか分からなくなり始めていた。

 

(俺は…一体…?)

 

誰かに怒りを覚えていたのは確かだ。

だがその相手は誰だ?

 

………

 

……

 

 

分からない。

自分は今何をしている?

すると誰かが青年を包み込む。

暖かく懐かしい…

 

『お願い…もう止めて…私なら大丈夫だから…』

 

泣きながら必死に青年を引き留めようとしている。

すると青年の目から一筋の涙が頬を伝って落ちる。

 

 

─────あぁ…そうだった…──────

 

 

─────俺は─────




下書きでようやく最終話まで出来た…
投稿は毎週土曜日20時を予定しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

七天龍の果て

毎週投稿出来るという安心さよ…


「…っ!おいおいマジかよ…」

 

ジャングルジムで世界を飲み込もうとしている白い龍を見ていた男はその光景に驚いていた。

 

「まさか暴走を止めるとは…こりゃあ決着着くな…」

 

立ち上がり、ジャングルジムを蹴って飛んでいく。

白い龍はボロボロと崩れ、広がっていた触手も次第に消えていった。

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

「いつつ…。友…姫…どこだ…」

 

暴走した白い龍から龍護は落ち、地面に倒れていた。

そして少し離れた所に友姫も倒れている。

 

「っ…友……姫……」

 

軋む身体を必死に使い、少しづつ這い寄って口元に手を当てた。

だが息は無かった。

それ以前に友姫の身体は冷え切っていた。

 

「…っ…ちくしょう…」

 

すると後ろの方からコツコツと誰かが近付いてくる。

雪菜だ。

 

「…雪菜…さん…」

「龍護さん…」

 

その雪菜も無事では無かった様だ。

拳銃を右手に持っていたが腕は上がらず、服は所々破れ、額からは血を流している。

 

「龍護さん…これは一体…「小僧…よくも…」…?」

 

前から声がして顔を上げる。

そこには左腕を失った小野崎が立っていた。

 

「おの…ざき……なぜ…」

「忘れたか…?七天龍の力はその所持者が死なぬ限り完全に奪う事は出来ない…雪菜…そいつを殺せ…」

 

雪菜は驚いた表情で龍護と小野崎を交互に見る。

何を考えたのか雪菜は左手に銃を持ち替えた。

 

「何をしている!さっさと…!!!!」

 

ダァン!!!!

 

一発の銃声。

そしてその弾道には────────小野崎がいた。

 

「な…何故…」

 

小野崎はフラつき、遂に倒れた。

 

「雪菜…さん…?」

「龍護さん…今までの事…思い出しました…そして今何が起こっているのかも分かってます…ですから早く2人から龍を取り、この戦争を終わらせるしか方法はありません…」

 

どうか…急いで…と言い残し、雪菜も力尽きた。

 

「クッ…」

 

龍護は必死に立ち上がり、息絶えた小野崎から【傲慢の龍】を奪い取る。

そして友姫にも歩み寄り、ゴメンな…と言いながら【怠惰の龍】を友姫から取った。

その直後だった。

7つの靄が再び現れ、龍護を取り囲む。

 

『おめでとう』

 

『お前が今回の新たな勝者だ』

 

『さぁ、願いを────』

 

「悪ぃがこの遊戯はお開きだ」

 

どこからか男の声がした。

 

「っ…誰だ?」

「上だ上」

 

声に誘導され、上を見上げるそこには赤い髪の青年が降りて来ていた。

 

『馬鹿な…!』

 

『この世界には』

 

『干渉出来ぬはず…!』

 

『何故…!!!!』

 

「なぜ?そりゃ簡単だ。この偽物の遊戯が終わった瞬間、お前らは必ず勝者を天界に連れ込む為に下界にその姿を現す。その時にあの道を作るはずだ。だからそれを無理矢理破って来てやったのさ」

 

『おのれ…』

 

『我々の遊戯に邪魔をするなど…!!!!』

 

7つの靄と1人の青年のやり取りに置いてけぼりの龍護だが彼らのやり取りは続く。

 

『ならば』

 

『お前でも干渉出来ぬ程に』

 

『更なる結界を』

 

『施すのみ!!!!』

 

7つの靄それぞれから紫色の紐の様なものが伸び、赤髪の青年に絡み付いていく。

そんな中、青年は龍護に気付く。

 

「悪ぃ、ちょいと力借りるぞ」

「えっ…?ちょっ…!」

 

龍護の静止を無視し、龍の紋章の付いた左手を掴む。

 

「おー、さすが狂楽神が作ったコピー品。本物と殆ど変わりゃしねぇ」

 

たちまち赤髪の青年が薄くなり、消えそうになっていく。

 

『終わりだ』

 

『我らの遊戯に邪魔などさせん』

 

「ハッ…これで俺を消すつもりか?けど────」

 

赤髪の青年の全身が七色のオーラに包まれる。

 

「────本物を舐めんじゃねぇ」

 

 

ゴウッ────!!!!!!!!!!!!

 

 

七色のオーラが青年に絡み付いていた紐は瞬く間に消える。

 

「悪ぃ雄輔、このままラチが明かねぇから一旦連れてくぞ」

「ちょっ…!?連れてってど────」

 

こに?と言い切る前に龍護と赤髪の青年はその場から姿を消した。

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

真っ白な空間で龍護は目を覚ます。

 

「…ここは」

 

辺りを見回すがあるのは綺麗な装飾が形取られた支柱が何本も綺麗に並んでいるだけだ。

 

「あー、いたいた」

 

声のした方を向くと、そこには先程の赤い髪の青年がいた。

 

「悪ぃな、なんの事情の説明も無しにここに呼んじまって」

「ここは…?」

「ここは天界つってな、亡くなった奴の魂は最初ここに運ばれるんだ。で、基本は記憶を消して新たな世界に送り込まれる。言わば魂の循環さ。けどたまにここで目を覚ますやつがいるんだ。そういったやつは運が良かったり不運に巻き込まれて死ぬ予定では無い死を迎えているからちょっとばかし力を与えて転生なんかもさせてんだ」

 

ここの事は大体理解したがこの青年の言った内容だと最悪その世界のパワーバランスが崩れかねない。

その場合は?と尋ねてみる。

 

「そういった場合は軽い監視、酷い場合はその力の抑制。その世界を滅ぼすって事が無い限りその力を奪うってつもりはねぇよ。っともう少し色々と説明してぇがこっちにもやる事と会わせるやつがいる。とりあえず俺に着いてきてくれ」

 

分かった。とだけ伝え、龍護は青年の後を着いて行った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「そういや俺の名を告げて無かったな…と言っても俺達は決まった名前はねぇから…そうだな…とりあえずアテナでいいや。それと敬語とかはよしてくれ。そういうのは苦手な性格でな」

「分かった…ってアテナって神の名前じゃねぇか」

「まぁ神だからな」

「へ?」

「言ったろ?ここは天界。この空間でお前ら人間の様子を見てんだ。ま、今回はちょっとした不運に見舞われちまったがな」

 

アテナの言った事に龍護は驚きを隠せないが1つ気になった事もあった。

あの世界の事と友姫の事だ。

 

「そうだな。行きながら説明すっか」

 

アテナによると、あの世界は元々は”七天龍の遊戯”は存在しなかった世界らしく、あの世界を管理していた神が何者かによって精神をおかしくされ、制御を奪われたのだとか。

龍護のいた世界は一番最近出来たばかり(と言っても出来たのは1億年以上前)で安定もしていなかった為、そこを狙われたらしい。

そして今回の元凶こそが【狂楽神】と呼ばれる神で麻薬や覚醒剤等、違法な薬物に宿る神とされている。

その神によって龍護のいた世界の世界神、理神、時空神、魔法神、龍神といったあの世界を構築する神々は支配されてしまっていたようだ。

 

「ま、狂楽神自体、ほぼ堕神とも言うべき存在なんだがな…」

「?堕神?邪神とは違うのか?」

「あぁ、神ってのは下界の生物の生き死に手を出したらいけないルールになってんだ。人や生き物の死に触れた神…堕ちた神と書いて”堕神”だ」

「ん?ちょっと待て?ていう事は俺は本来あの世界に転生するはずは無かったって事か?」

「あぁ、元々お前…前世で就活していたお前は受けた会社に入社が決まり、そこで最年少幹部として活躍するはずだったんだ。だが狂楽神が支配した世界には強欲の龍の力を持てる器が存在しなかった…唯一見付けられたのがお前だったんだよ。だからこそお前は狂楽神によって殺されたんだ」

 

んな理不尽な…と思うが過ぎ去った事を嘆いても変わらないと思ったのかため息で終わらせる龍護。

 

「っと着いたぞ」

 

アテナが突然立ち止まる。

その目の前にあったのは巨大な両開きの扉だった。




残り3話かー…長かったなぁ…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

世界の掟

正直最後まで思い切り出したいけど毎週一話更新は守らないと…


巨大な白い扉の前に来た2人。

 

「でっか…」

「さて、入るか」

 

アテナが扉に触れると機械的に緑色のラインが枝分かれに広がっていく。

ゴゴゴゴ…といかにも重そうな音を立てて、両開きに開きはじめた。

するとその隙間から凄まじい風と光が溢れてくる。

目を閉じて飛ばされないように踏ん張る龍護と涼しそうな顔で開く様子を眺めるアテナ。

 

ゴゥン…

 

扉が開き切り、アテナは歩き出す。

それを急いで着いて行く龍護。

そして龍護が目にしたのは成人の人が10人いても伸び伸びと手足を伸ばせる程大きく白いベッドと、そこで目を閉じて横になる美女の姿だった。

 

「例の奴を連れてきた」

 

アテナの声に反応しゆっくりと目を開け、龍護の姿を捉える。

その一つ一つの動作に心が奪われそうになる龍護。

 

「…貴方は?」

 

たったその一言で龍護の鼓動が著しく早くなる。

聞き入ってしまう程の美声と同時に身体を縛り付けるような恐怖。

龍護は魅了されながらも目の前の相手に恐怖していた。

 

「質問に答えなさい」

「…っ…!」

 

 

答えないと殺される――

 

 

それだけが龍護の全てを包んでいた。

そんな中、ハァ…と溜息を付きながら美女に歩み寄り…そして――

 

「調子に乗んな!!!!」

「アデッ!?」

 

パコン!と音を立ててアテナが美女の頭を叩いた。

ううう…と蹲る美女と面倒くさそうに頭を搔くアテナ。

そしてそれと同時に龍護を縛り付けていた恐怖が無くなった。

 

「痛いよアテナー!なんで叩くのさー!」

「何でじゃねぇよ…てか数千年ぶりの人間だからってカッコつけんな」

「だってそうしないと私の威厳がー!」

「知るか」

 

突然の事に???と疑問符しか頭に浮かばない龍護を他所にアテナはグリグリと両拳で美女のコメカミを挟む。

 

「イダダダダダ!!!!ごめんなさい!本当にごめんなさい!反省したから止めてー!!!!」

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「悪ぃな龍護。バカに付き合わせちまって」

「いや…というか大丈夫なの?」

「大丈夫だ。この程度ではダメージすらならない」

 

チラリと美女を見る。

美女は威厳が…威厳が…と涙目で俯いていた。

 

「それでこの子は何なんだ?なぜわざわざ俺をこの子に会わせたんだ?」

「まぁこんな風だけど神々を生み出した神の中の神…まぁ【ゼウス】って言えば分かるか?」

「ゼウス!?この子が!?え…けど…」

「想像と違うか?ま、そうだろうな…こいつは男と女の概念が無いからな。時には男、時には女っていう風になるんだ」

そういう事なのか…と龍護はやや理解はしたようだ。

 

「ちょっと俺からも聞きたい事があるんだけど…」

「なんだ?」

「これから俺とあの世界はどうなるんだ?」

「…それなんだが…」

 

アテナが言うには――まず、すぐに修復するのは不可能で、あの世界で行われていた七天龍の遊戯は偽りの遊戯の為、勝ち残った際の契約は破棄され、願いの履行は出来ないらしい。

現在、【狂楽神】に侵食されたあの世界の神々に変わって別世界の神があの世界を維持しているようだ。

そして龍護にとある事を頼もうとしている――という事だ。

 

「頼みっていうのは…?」

「あぁ、それなんだが…龍護、お前、あの世界の管理者になってもらえるか?」

「え!?俺が!?」

「別にお前自身が全てをやれって訳じゃない。修復を終えた神々の欠片の融合させて新たな神を作り上げ、お前自身に埋め込み、内側と外側から守るって感じだ」

「…それで神になった俺に出来る事って何なんだ?」

「基本は何も出来ない…っていうのも神力をそのまま人間の身体に入れるとその肉体そのものが神力に耐えられなくなって壊れちまう。だから壊れない極限にまで抑え込んでその身体に埋め込み、その世界の維持をするんだ」

 

大体の話は飲み込めた…が気になる事がもう一つあった。

なぜ龍護自身にそれを頼むのか…だ。

 

「理由は簡単だ。残念ながらお前が今宿している七天龍の力はあの世界の理として強く定着してしまっている。そして今のお前の身体はあの世界のものだ。だから無理矢理その力を引き剥がすとあの世界が崩壊する可能性があるんだ。それともう一つ、なぜゼウスに連れて来たか…だが世界神である俺でも決められる事は限られる。それを決めてもらう為にゼウスの元に呼んだんだ」

「…そういう事か…」

 

で、どうする?ゼウス。とアテナがチラッと蚊帳の外だったゼウスを見る。

 

「私は全然いいよ。そもそも下々のやる事に私達は加担しちゃいけないから決めるのは龍護君自身になるかな」

 

優しく龍護に語り掛ける。

そして龍護の答えも決まっていた。

 

「俺がその神の一部になればあの世界を直せるのか?」

「直せはするが一回だけだ。ま、安心してくれ。アフターケアは必ずやらせる」

 

龍護は分かったとだけ行って、解散となる。

アテナは龍護にここに残ってくれとだけ言って世界の修復の準備を始める為にその場を後にした。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

スタスタと無数の柱が規律良く並んだ白い空間をアテナは歩いていた。

だが突然立ち止まり、手に光球を宿す。

そして一本の柱にぶつけた。

その柱はバキバキと音を立て、倒れる。

 

「危ないなぁ…ここにいるのが僕じゃなかったら死んでたよ?」

「うるせぇよ、元々はてめぇが好き勝手やってたからじゃねぇか【狂楽神】」

 

薄ら笑みを浮かべアテナの前に黒髪を肩まで伸ばした男が現れた。

こいつこそ、今回の元凶【狂楽神】だ。

 

「えー、僕のせいかな?というか僕自身を抑えつけられなかった君の後輩が悪いんじゃないの~?めちゃくちゃ弱かったよ?教育が行き渡って無かったとしか思えないなぁ?」

「驚いたな…俺はてっきり世界神になれなかったから自分より弱そうなのを必死に探して世界神のなりそこないになりたかったと――」

 

 

ドウッ――!!!!!!!!

 

 

真っ黒な神力がアテナに襲い掛かるも、すぐに白い光球で相殺するアテナ。

 

「おいおい、事実を言われてキレるか…やっぱてめぇは世界神の器じゃねぇよ」

「いや?ただおしゃべりな口を閉じさせようとしただけだよ?」

「なら全力で来いよ。なんならてめぇを消してもいいんだぜ?」

 

パリッ!とアテナは右手に雷を纏う。

そしてその目も本気で狂楽神を殺す気だ。

 

「…チッ…」

 

舌打ちだけをして狂楽神はその場を後にした。

狂楽神が姿を消してアテナも雷を消す。

するとそこに藍色の和服を来た長い髪の男性が歩いてきた。

 

「すみませんアテナ様、私達の世界に干渉させてしまって…」

「時空神か、というか早かったな?」

「ええ、医療神が早急に対応してくれましたので」

「話は聞いているか?」

 

アテナの問いに頷く時空神。

だが世界神と理神の方が重症の為少し時間が必要との事だ。

 

「まぁいい、お前から先に準備しといてくれ」

 

分かりました。と時空神は頭を下げ、その場から消えた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

龍護が天界に連れて来られて二日が経つ。

龍護がいた世界の神々も回復し、いざ、融合の準備となり、ゼウスのいた部屋に集められる。

 

「それで俺はどうすればいいんだ?」

「今から陣を書く。お前はその真ん中に立っていればいい。そんで身体の何処かに陣が刻まれたら成功だ。それまでは部屋の端にいてくれ」

 

分かった。と指示通りに龍護は部屋の隅で大人しくする。

そしてアテナが部屋の真ん中に陣を書き始めた。

 

「えーっと…ここはこれで…おっとこれも書かねぇと…」

 

せっせと陣を書いていくアテナ。

その形は三角形の角の部分に人が一人入る程の丸を描き、その三つの丸を二重丸と線で覆ったような見た目をしている。

そしてその真ん中に同じ大きさの丸があった。

 

「よし、世界神、時空神、理神、何処でもいいから外側の丸の中に入ってくれ。龍護、お前は真ん中の丸の中だ」

 

分かった。と龍護は陣の真ん中にある丸の中に入る。

 

「――――。――――――、――――。」

 

アテナが四人が所定の位置に行ったのを確認して何かを呟いている。

すると三人の神が輝き出し、その輝きが龍護に迫ってくる。

そして三つの輝きと龍護は一つになり、部屋全体を覆い尽くした。

やがて光は止み、何事も無かったかのようになる。

 

「右手を見てみろ」

 

アテナの指示通りに右手の手のひらを見るとそこには床に描かれた陣と同じ形の陣が浮き上がっていた。

 

「成功だ…お前の半分は今から世界神、時空神、理神の三つの力が融合した融合神【理空界神】だ」

「理空界神…」

 

龍護は刻まれた手のひらをギュッ…と握る。

 

「俺がやれるのはここまでだ。お前がいた世界は自分の頭で想像し、手を前に翳せばその様子が見られる。後は好きにやりな」

 

そう言ってアテナはその部屋を後にしようとした。

 

「アテナ」

「ん?」

 

アテナが振り返る。

 

「ありがとな」

「…フッ…」

 

再び歩き出し、ヒラヒラと手を振るアテナ。

龍護は自身のいた世界を見る為に手を目の前に翳す。

すると龍護の前に丸い鏡のような物が現れた。

すでに日は上がっていて、泣いている者、悲惨な姿を見て呆然と立ち尽くす者等、様々だ。

 

「…」

 

龍護は何も言わずにもう片方の手を翳し、神力を使って巻き戻すイメージをする。

するとどうだろうか、たちまち町は綺麗になり、時間が戻っていく。

そして暫く巻き戻しをしているととある部分が見えた。

龍護の義理の姉、恵美が森を歩いている所だ。

すぐに龍護は恵美が森に入る少し前まで巻き戻す。

龍護は深呼吸して自身の身体に神力を流し込む。

すると龍護の身体がたちまち小さくなり、赤ん坊の姿になった。

 

「…行くか…」

 

チラッとゼウスを見て抱えてもらい、映し出した映像の中に一緒に消えていった。




執筆環境として夜勤上がりはやりやすいと実感してる夜勤連続半年目のJAILですw


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

元の世界へ

ゼウスに抱えられて再びこの世界に足を踏み入れる龍護。

ゼウスは持っていた籠に赤子になった龍護を入れる。

 

「龍護さん、七天龍の遊戯を止めてくれた事、感謝しています。そして貴方の新たな人生に幸ある事を願います。貴方の中に理空界神の力はありますがこの世界に生きている以上は使えません。ですがいざと言う時は私達が感謝の印として貴方を助けましょう。それでは龍護さん、また天界で…」

 

そう言い残し、ゼウスは消えた。

そしてそれと同時に恵美が姿を現す。

 

「あれ?君どうしたの?」

 

懐かしいな…と龍護は泣きそうになった。

 

「うーん、ここにいても危ないだけだから…あ、私の家においでよ!あそこなら安全だよ!」

 

恵美は籠ごと龍護を持ち上げ、自分の家に連れて行く。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

恵美の家の前まで着いた。

苗字も【奪木】と変わっていない。

 

「おばーちゃーん!森に赤ちゃんがいた!」

「え?森に?捨てられたのかねぇ?」

「おばぁちゃん、どうしよう?」

「うーん…どうしようって言われても…ん?」

 

恵美の祖母は籠に紙が入っているのを見つける。

 

《この子を拾ってくれた方が優しい人である事を願います。見知らぬ身勝手な私をお許し下さい。私の元では育てられないのでこの籠を拾ってくれた方にその子のお願いします》

 

手紙はゼウスが書いていた。

それを見て祖母は龍護を家族に迎え入れる事を決めた。

 

「私の弟になるの!?なら私が名前決めていい!?」

 

ちゃんと考えて付けなさいよ?と祖母に言われ、うーん、と恵美は頭を悩ませる。

 

「…龍護…」

「龍護?」

「うん…というか何故か分からないけどこの子を見た瞬間その名前が思い付いたの」

「龍護か…いい名前だねぇ」

 

ほんと!?と祖母に褒められはしゃぐ恵美。

 

「私は恵美!宜しくね!龍護!」

 

こうして龍護はまた新たな人生を歩むのだった…

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

龍護が転生して15年が過ぎ、15歳となった。

だが龍護は落ち着けない様子だ。

もしも間違っていなければ今日友姫と再開出来る日だ。

 

「行くか…」

 

龍護は早めに朝食を摂って家を出る。

通う学校は喜龍学園だ。

少し歩いた所で辺りを見回す。

 

「…あれ?会わねぇ…違ったか?」

 

龍護が少し歩こうとした時だった。

ドカッ!と誰かにぶつかる。

 

「いって!?」

「ア!ゴメンナサイ!」

 

その声を聞いて龍護はハッとした。

聞き覚えがあり、七天龍の遊戯で共に戦った人物。

 

「えっと…大丈夫?」

「ハイ、ダイジョウブデス」

 

その姿を見て確信した。

長い金髪、同じ服装。

友姫だ。

龍護は咄嗟に抱きしめてしまった。

 

「!?エ!?エ!?」

「ごめん…でも今はこうさせてくれ…!」

 

ポロポロと涙が零れる。

ようやく逢えた。

 

「ただいま…友姫…」

「え!?何で私の名前を!?」

 

驚く友姫を他所に龍護は抱きしめたまま泣き続けていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

その後の生活は変わらぬままだった。

以前と同様友姫は龍護と恋人になり、恵美とルシスも恋人になっていた。

だが少しだけ違う所がいくつかあった。

まず、【嫉妬の龍】の所持者であったネスト・ジェーラスと【暴食の龍】の所持者だったリ・インソンが転校して来なかった。

恐らくは微妙に違う世界線で【傲慢の龍】の力が及んでいない為、お互いにちゃんとした自国の高校に通っているのだろう。

そのネストに聞こえはしないだろうが龍護は頑張れよ…と呟いていた。

次に楠木魅子は声優として活躍していなかった。

元々【色欲の龍】の力で周りを魅了していたのでその効果が消え、別の仕事の道を歩んでいるのかもしれない。

【傲慢の龍】の所持者であった小野崎慢作の所在は不明だ。

一般人として生活しているか、もしくは全く違う世界に飛ばされ、なんの力も与えられずに生活しているのかもしれない。

だが油断はならない、例え異変が収まった世界でも何時どこでまた歯車が狂うのか分からない。

龍護はその異変がいつ来てもおかしくないように一日一日を大切に過ごすのだった。




次が最後になり、明日の20時に投稿予定です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後日談

未完は防げた…w


天界にて

パアァッ!とゼウスの部屋の真ん中が輝き出す。

そして光が消えるとそこには龍護がいた。

 

「あらおかえり、四週目お疲れ様」

「あぁ」

 

龍護の半分が理空界神になってあの世界に転生し既に100年以上も経っていた。

その間に世界の科学技術や医療、インフラの全てが進化し、車輪のある車が骨董品となりつつある。

龍護は名前も家族も変わり、様々な生活をしている。

 

「なぁゼウスさん、ちょっといいか?」

「ん?」

「妙な感じなんだ。なんというか俺は人間なのか?って…思い始めてる」

「まぁ半分が既に神の状態だからね。龍護君のその感想は間違ってないわ。人間であっても神の力には勝てない。例え理空界神になったあの時、人間と神の割合が同じでも神の力は人間の君を侵食し続けてる」

「つまり、俺は完全な神になりつつあり、あの世界に干渉しくくなってるのか…」

「何かあった?」

「…何回転生しても『それが普通だ』って考えになって本当の意味でしなない事に違和感が消えてる」

 

なるほどね…とゼウスは考える。

恐らく彼があの世界に人間として居られる時間はあまり無いのだろう。

既に龍護の魂とあの世界は七天龍の力と理空界神の力で強力に繋がり、世界を維持し続けている。

そして転生した際の記憶も確かだ。

 

「まぁ別にいいんだけどな…」

「一つ言っておくけど段々転生出来る回数も減ってきて最終的にはここに留まってあの世界を守る事なるよ?」

「?転生に回数があったのか?」

「厳密に言うと転生を繰り返す度に君の中の理空界神の力が君の人間の部分を侵食してる。そして完全なる理空界神となって転生は出来なくなるけどあの世界は守れるって訳」

 

そうか…と言って立ち上がり、龍護は再びあの世界に行く準備をする。

すると龍護は消え、世界を写していた鏡も消えていた。

 

「まさか母体に入れるまでになるとはね…」

 

龍護は今まで捨て子として誰かに拾われていたが、何回目かの時に為にし誰かの母体に入れるかを検証したのだ。

結果は成功でちゃんと血縁関係がある赤ちゃんとして産まれてくる。

そしてその度に龍護は右手を見て、自分にしか見えない理空界神の陣を眺める。

そう……彼の中にある人間性は少しづつ消えている。

だが彼はそれに後悔していない。

恐らくあの偽物の遊戯で負けていればあの世界は崩壊し、修復不可能な所まで行っていただろう。

彼は護ったのだ。

今でも自分が産まれ、世界の理を保ち、偽りの七天龍の遊戯で殺し合いをしたあの世界を守り続けている。

自身が人で無くなるその時まで――――




入社当時から投稿し始めて仕事を覚えるので執筆が出来なくなり、夜勤に回って少し書けるようになって4年…
ようやく完結する事が出来ました。
初めてオリジナル小説を書いた感想としては…ラノベ作家マジですげぇ…の一言に尽きます…
あの世界観の設定諸々の構築とか思い付くのがすげぇ…
初めてのオリジナル小説はここで完結しますがまた新しい小説が浮かんだのでまた執筆期間に入ります。
次はもっと計画的にやろう…
という訳でここまでご覧頂いた読者の皆さん。
本当にありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。