並行世界の系統樹 (レイティス)
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第一章 Parallel Start

 

 □■無限の可能性の物語

 

 「じゃあ最後に所属する国を選択してくださいねー」

 「おお、おおお……」

 

 青年、椋鳥玲二──数分前からレイ・スターリングは、書斎のような場所で管理AI13号、チェシャと向かい合いチュートリアルを進めていた。

 

 2()0()4()4()()1()()1()5()()に発売されたVRMMOのビッグタイトル、<Infinite Dendrogram>。

 「無限の系統樹」と名付けられたそのゲームは発売から一年を経ても人気が衰えることはなく、ついに大学受験を終え、一人暮らしとなった椋鳥玲二も手を出すこととなった。

 

 そしてチュートリアル兼キャラクターメイキングも終わり、ついにゲーム開始地点、所属国家を七大国から選ぶこととなる。

 

 白亜の城を中心に、城壁に囲まれた正に西洋ファンタジーの街並み

 騎士の国『アルター王国』

 

 桜舞う中で木造の町並み、そして市井を見下ろす和風の城郭

 刃の国『天地』

 

 幽玄な空気を漂わせる山々と、悠久の時を流れる大河の狭間

 武仙の国『黄河帝国』

 

 無数の工場から立ち上る黒煙が雲となって空を塞ぎ、地には鋼鉄の都市

 機械の国『ドライフ皇国』

 

 見渡す限りの砂漠に囲まれた巨大なオアシスに寄り添うようにバザールが並ぶ

 商業都市郡『カルディナ』

 

 大海原の真ん中で無数の巨大船が連結されて出来上がった人造の大地

 海上国家『グランバロア』

 

 深き森の中、世界樹の麓に作られたエルフと妖精、亜人達の住まう秘境の花園

 妖精郷『レジェンダリア』

 

 

 特徴的な七大国はどれも魅力的であり、彼の興味を誘ったが、彼の答えはこの空間に来る前から決まっていた。

 

 

 「()()()()()()で」 

 「オッケー。ちなみに軽いアンケートだけど選んだ理由はー?」

 「兄が待っているので……」

 「あ、そうなんだ……」

 

 これは如何なる運命の悪戯か、無限の可能性を持つ故にありえた異なる系統樹の物語。

 

 

 

 

 「ゴフッ……」

 「ご、ごめんあそばせっ!? 携行の回復薬が【快癒万能霊薬(エリクシル)】だけで申し訳ないのだけど……」

 

 ありえたかもしれない出会い、ありえたかもしれない繋がり。

 

 

 

 

 「それは、後味悪いな」

 『だろ? だからクリアしようぜ。ハッピーエンド目指してな』

 

 変わらぬ絆、目指すはハッピーエンド。

 

 

 

 

 『そうだ、俺が持ってる装備をいくつか渡しておくメカクマー』

 「サンキュー兄貴。……鋼鉄の着ぐるみ?」

 『初心者用の【ビギナーズ・マーシャル】だ。使い古しで悪いが《操縦》の必要がないものがそれしかなくてな』

 「それはいいんだけど、どうしてクマ型なんだ……」

 

 新たなる力を手に進む、新たな道。

 

 

 

 

 「その程度のお使いクエストじゃ物足りないだろう!? 【破壊王】とその弟!」

 『何をするつもりメカクマ? ──【魔将軍】ローガン・ゴッドハルト』

 「ハッ! 俺は何もしないさ、俺はな!」

 

 「【傲慢業魔 ベルザーレ】……!?」

 「どうしてこんなところに<UBM>が!」

 

 立ちはだかる難敵、這いよる絶望。

 

 

 

 

 「ディアー・バルバロス……です」

 「私は……私の従姪を害そうとする愚か者をぶっ飛ばしに行きますわ」

 

 「俺も一緒に……!」

 「これは個人戦闘型と広域制圧型の戦いですわ。……お願いしますわ。ディアを、皇都に」

 

 託された願いを胸に、不屈の意志で歩を進める。

 

 

 『WOWO』

 「……だから、それは後味悪いんだよ」

 

 「とっとと目を覚まして、俺に1%でも可能性を寄越しやがれええええッ!!」

 「──おはよう」

 

 「私は【ネメシス】。<エンブリオ>、TYPE:メイデンwithアームズのネメシス。貴方の心と肉と魂から生まれたモノ」

 「……今後ともよろしく、マスター?」

 

 可能性の具現を呼び覚まし、漆黒の少女(運命)と出会う。

 これは、鋼鉄の国で綴られる彼らの物語。

 

 

 

 

 「特注の【マーシャル】だと……しめて二百万リルってところだねぇ」

 『このぼったくりマッドサイエンティスト!』

 「これでも市場価格よりは安いんだけどねぇ!?」

 「いや、迷惑かけんなよ馬鹿兄貴」

 

 

 

 <Infinite Dendrogram>二次小説、「並行世界の系統樹」

 第一章 Parallel Start

 2045年3月16日 投稿開始

 




う そ で す

もうちょっと練ろうと思ってたけどネメシス「やめたらこのゲーム」とかすごい笑ったしエイプリルテレジア編とかすごいwkwkしたのでつい投稿。

オリキャラ二次も楽しいけど別国スタートとか原作再構成も増えたら嬉しいなって。


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第二章 イースター・エッグ


つづいてしまった



 

 □■???

 

 「お邪魔するよー」

 

 上下の区別なく、無数の情報ウィンドウが行き来する奇妙な空間。

 とある事情により管理AIの作業場に訪れていた管理AI十三号チェシャは目当ての人物に向かって声をかけた。

 その声に振り返ったのは二人の人物。

 銀物の眼鏡をかけた少年と大きなヘッドフォンを付けた双子と思しき二人、管理AI十一号、トゥイードルダムとトゥイードルディーだ。

 

 「こちらの時間で二二一五時間四十二分一七秒ぶりだ、十三号」

 「お久しぶりチェシャ~。今日はどうしたの~?」

 「掲示板のチェックをしてたら例の件について大分盛り上がっていたからね。その件について聞きに来たのさー」

 

 挨拶と同時に放たれた問いにチェシャは己の要件を答える。

 管理AIはそれぞれ特性にあった役割で業務を分担しており、十三号たるチェシャはその中でも分割処理が得意で雑用を担当している。

 【猫神】たるトム・キャットの操作、マスターのチュートリアルの担当、他管理AIの補助……そして外部サイトの監視も作業の一つである。

 外部からのクラッキング等に対してはセキュリティ担当たる管理AI十号、バンダースナッチが当たっているがあくまでそれは受動的。

 特に違法ハッキングを仕掛ける訳ではない情報サイトや掲示板などの監視はチェシャが担当していた。

 

 「各国で起こっている()()()()()のことなら確かに【超記者】から相談を受け、<DIN>として檄文を出す了承を出した」

 「イースター(復活祭)イベントの前にこんなことされて迷惑だしカラスちゃんの提案は渡りに船だったの~」

 「あぁ、やっぱり。……結構大規模になりそうだけど平気なのかい?」

 

 チェシャが気にしている情報はとある<Infinite Dendrogram>の大型掲示板で計画されていた大討伐の話だ。

 最近各国で起きている初心者狩り、その首謀者に対し同時攻撃を仕掛けることを掲示板の管理人が企てていた。

 その人物は<DIN>の所属だったので二人なら事情を知っているだろうと思ったのだが……

 

 「ハンプティダンプティとアリスも随分ご立腹だったからな」

 「カラスちゃんも気遣ってかイースター前に終わらせるように組んでくれてるし、大掃除なの~」

 「ハンプティダンプティはともかく、アリスも?」

 

 その情報はチェシャにとって少し意外だった。

 エンブリオ担当のハンプティダンプティが怒り狂っているかもしれないという予測はしていたが、アリスもとは。

 

 「カルディナでは【暴食魔王(ロード・グラ)】が暴れているからな」

 「ドライフでは【屠王(キング・オブ・ブッチャー)】が暴れているからなの~」

 「それは……なるほど」

 

 双子の言うジョブは今各地でこの件に加担している中でも二人のティアンを指したものだが、その特性から何が言いたいかを彼は察していた。

 それなら確かにあのアリスも怒髪天だろう、とも。

 

 「ともあれ、そういうことなら今回はマスターに任せて僕はいつも通りってことで良いかな?」

 「肯定する。襲撃日の当日は」

 「コロシアムで試合でもしてるといいの~」

 

 【猫神】トム・キャットは古参の王国マスターには運営側と知られている存在であり、今回の出来事には不向きだ。

 マスター増加前に、()()()()()()()()に対し行ってきていた手法は取れないのだから。

 

 「全く厄介な連中だ」

 「まるでマスターが人魚族みたい~」

 「誰が広げたのか」

 「どうして広がったのか~」

 

 「「──第0形態のエンブリオを食べれば、ティアンが<マスター>になれるだなんて与太話」」

 

 これは異なる系統樹の枝葉の一端。

 世界(<Infinite Dendrogram>)に隠された、真実の一片を解き明かすための一葉の話。

 

 

 

 「【機戦士(ギア・ファイター)】?」

 「【獣戦士(ジャガーマン)】の逆……《人機一体》により搭乗者のステータス分だけ機体性能を上乗せするジョブだ」

 「お前の第二形態、"黒鏡盾"には合ってるだろ?」

 

 皇国での縁は彼に次なる道を指し示す。その道上に置かれている石に頓着せずに。

 

 

 「つまり、簡単な護衛かのう?」

 「そういうことだねぇ。こちらから誘おうとしていたらまさか友達と一緒に始めるなんて予想外だったからねぇ、()()()()()()()()()

 「あれ? 戦闘班の皆は?」

 「班長を含めた主要な面子は初心者狩りの解決に向かわせてるし、──リアルの知古の初顔合わせがAR・I・CAだとねぇ」

 「あぁ…………納得」

 

 託されたのは一通の招待状。

 

 

 「レイは、ティアンがマスターについてどう思っているか知っていますの?」

 「クラウディア……?」

 「嫉妬、羨望、諦念、警戒……色々ありますけど、()()してる連中に碌なのはいませんわ」

 

 ティアンとマスター、二者の間に横たわるものとは。

 

 

 「ボクはマリー・アドラー、<DIN>からの特派員でこの"初心者狩り"を追っている者です」

 「いやな天使たちの気配がするよ! 気を付けてね、ルーク、レイ!」

 

 役者は集まり、舞台を鮮やかに彩る。

 

 

 「ソニア、なにを……!?」

 「逃げて、ユリア! ……こいつらの狙いは、貴方よ!」

 

 「皇国のため、飢えたる民を救うためぇ……」

 「お前のエンブリオ(可能性の卵)を、寄越せェ!!」

 

 手が届く神秘の果実を前に、人は何を想うのか。

 

 「──【薄氷乙女 コキュートス】。ますたーのこころのこえにおうじていま、すいさん」

 

 主の危機に目覚めた純白の氷獄。

 これは、天罰と地獄の乙女(メイデン)が世界の真実に挑む物語。

 

 

 

 <Infinite Dendrogram>二次小説、「並行世界の系統樹」

 第二章 イースター・エッグ

 2045年4月16日 投稿開始

 

 

 




う そ で す(二回目

二次が増えると作者も嬉しい。
神造ダンジョンで転職する【魔王】とか全く出てこない「天使」とかマスターの才能(冒涜)に色々思うところがあるティアンとかネタとしてすごい面白そう。
新情報がどんどん出てくる、そんな「Touch the GAME OVER」


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第三章 クラン、その名は

 

□皇都郊外・<叡智の三角>本拠地 【大機戦士】レイ・スターリング

 

 「ユリアを俺たちのクランに入れて欲しい?」

 

 大規模な初心者狩り事件からこちらの時間で一ヵ月と少々が経ったある日。

 <マジンギア>の整備の際に世間話をしていたところ、【大教授】フランクリンから奇妙な申し出を受けた。

 

 「とっくに<叡智の三角>に入ってると思ってたんだが」

 

 ユリアは<叡智の三角>のオーナーであるフランクリンの妹だ。

 ついでに優秀な【操縦士】……今は【高位操縦士】だ。

 マジンギアのテストやサブジョブの【整備士】を活かしての補助など、この<叡智の三角>で大いに活躍していると言っても過言ではないだろう。

 

 対して俺たちのクランは兄やルークたちを含めても今のメンバーは片手で足りる小クランだ。

 兄のポイントのおかげでクランランキングに載ってこそいるが、<叡智の三角>がそのトップにいる以上ユリアを入れる理由にはならない。

 

 「<叡智の三角>は純生産クランだからねぇ。君たちはこれから様々な国を巡ると聞いたよ」

 「あぁ、兄貴が以前旅したらしくて、折角だから見聞を広めるために少しずつ世界を回ってみるか、って」

 「それだよ」

 

 こちらの言葉に被せるようにフランクリンが答える。

 

 「所属外の国で活動するクラン……キャラバン型クランはカルディナ以外だとメジャーではなくてねぇ。あの子のリアル友達と二人旅をさせるには流石に心配だし、そうしたら都合よく貴方達がクランを立ち上げて外国に行くというから、ユリアも貴方を信用しているしちょうどいいと思ってね。どうせ【破壊王】も過保護はしないでしょ?」

 「なるほど……」

 

 途中でロールプレイ(悪のマッドサイエンティスト)が剥がれて心配性のお姉さんが出てきているが敢えて突っ込まないでおく。

 ついでにユリアは最近リアル友達(ソニア)以外にも半固定パーティを組んでいる<マスター>がいることを教えた方がいいのだろうか?

 

 「ともあれ、そういうことなら分かった。ユリアからの了承が取れてるなら俺は問題ないぞ」

 「助かるねぇ。最初はどの国に行くのかは決まってるのかい?」

 

 ユリアのクラン入りが決まり、話題はその最初の行き先となる。

 とはいえ、その対象となる国は既に兄と話し合って決まっている。

 

 「アルター王国の予定だ」

 

 兄の友達がおり、ドライフの隣国で同盟国でもある。

 ちょっとした都合で兄はドライフの次に長く滞在していたらしく、クラウディアから配達の依頼も受けている。

 騎士の国アルター王国、掲示板などで仕入れた情報では「典型的なファンタジーRPGのような国」という評価だった。

 職に癖がなく、西方三国の中では特に決闘が盛んな国らしい。

 

 ……ドライフは今決闘ランカーに<超級>どころか超級職すらいないからな。

 興行としても普通のランキング戦よりも<叡智の三角>の新型機のテストの決闘の方が人の入りが良いのもお国柄というやつだろうか。

 

 「アルターか、それならちょうどいいねぇ」

 「? ちょうどいい?」

  

 何かアルター王国でローカルイベントでもあるのだろうか。

 それを訪ねようとした俺に、フランクリンは答えを告げる。

 

 「もうじき、王国と皇国の()()()()()()が始まるからねぇ。道中のモンスターは随分少なくなってるはずだよ」

 

 ──この時の俺たちは知らなかった。

 かの国に待ち受ける災厄(最悪)の脅威を──

 

 

 

 

 「シュウも久しぶり。相変わらずの着ぐるみ(動物型マーシャル)だね」

 『うるせーメカクマ。文句なら管理AIに山ほど言ったメカクマ』

 「それで、そっちの子達が──」

 『あぁ、弟とその仲間たちだメカクマー』

 「クマとライオンの着ぐるみの話し合いとか、シュールだのう……」

 

 「あれ? こんなところで会うなんてどないしたんレイやん? 遠征?」

 「そんなところです、扶桑先輩。そちらの方は……藤林先輩じゃ、ないですよね?」

 「あっはっは。ビーちゃんならフィールドで元気に狩りしてはるよー。こっちのは──」

 「お初にお目にかかります。月夜さんからお噂はかねがね伺っております。──今代の【聖女(セイント)】、イコーヌ・ベルディナートと申します」

 

 王国にて紡がれる、新たな絆。

 

 

 「【三極竜 グローリア】……!?」

 「最上位の<UBM>、二番目の<SUBM>だ」

 

 「お前たちは待っていろ。クレーミルでの敗北で分かった通り……合計レベルが300を超えた程度では、戦いの土俵にすら立てない」

 「……ッ」

 「……心配するな。既に殆どのスキルは割れてるんだ。可能性はいつだって──」

 

 三首の災厄の到来に一度膝を折るも、その心は"不屈"故に──。

 

 

 「《燃え上がれ、我が魂(コル・レオニス)》」

 「《聖者の帰還(ウルファリア・エルトラーム)》」

 「――《無双之戦神(バルドル)》ッ!!」

 

 三人の<超級>の力は()()()()()()届こうとしていた。

 

 

 【──緊急の報告故、《天啓偽報(ワーンド・アナウンス)》で失礼します。依頼されていた《既死改生》の解析が完了しました。詳細データをパーティメンバーに次いで送信します】

 「これじゃあ、兄貴たちが【グローリア】を倒しても復活するって言うのか!?」

 「やるしかないんです。僕たちの手で、"四本角"の討伐を──!」

 【四本角までの道のりはこちらが案内します。マリーは知ってるでしょうが、カラスを目印に】

 

 兄弟は走る。最悪を止めるために。

 

 

 【同調者生命危機感知】

 【同調者生存意思感知】

 【<エンブリオ>TYPE:メイデン【復讐乙女 ネメシス】の蓄積経験値――グリーン】

 【■■■実行可能】

 【■■■起動準備中】

 【停止する場合はあと20秒以内に停止操作を行ってください】

 【停止しますか? Y/N】

 「この力は──!?」

 

 

 かくて、アルター王国を襲った<SUBM>は王国の二人の<超級>と一つのクランにより討伐される。

 <SUBM>の討伐に他国のマスターが関わったことは大きな注目を呼び、その名声を高めた。

 ──それは、<デス・ピリオド(絶死の終止符)>と呼ばれるクランが<Infinite Dendrogram>で語られる最初の物語。

 

 

 

 <Infinite Dendrogram>二次小説、「並行世界の系統樹」

 第三章 クラン、その名は

 2045年5月16日 投稿開始

 

 

 

 




う そ で す(三回目

感想欄で話題にも出しましたが、このシリーズは五章(5話)までを予定しております。
それまでまったりとお付き合いいただけると幸いです。


天啓偽報(ワーンド・アナウンス)》:
【記者】系統超級職【超記者(オーヴァー・ジャーナリスト)】の固有スキル。
対象に任意の実効性のないシステムメッセージを表示させるスキル。
先々期文明の際には射程無限の通信魔法のような存在だったが"アップデート"の影響で現在の形に変更がされたスキル。
ようはダッチェスのあれ。




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第四章 鋼鉄の姫君

 

■ドライフ皇国・【皇玉座 ドライフ・エンペルスタンド】・会議室

 

 「『皇位継承権を持つ者で争え。その頂に立つものを次代の【機皇】とし、次期皇帝と定めるものとする』……遺言は以上です」

 

 皇都の中心、その会議室ではほぼ全ての皇位継承権を持つ皇族が集まっていた。

 皇族として最上位の教育を受けた者たちだが、先日喪が明けた先代【機皇】ザナファルド・ヴォルフガング・ドライフの遺言を儀式官から述べられた時、殆どの者が「理解できない」とでも言う感情を表に出していた。

 

 ザナファルド皇王は生前から後継者を決めずに皇子たちを争わせ、その暗闘は第三皇子といった皇族のみならず多大な犠牲を出していた。

 それは生存競争によりどちらが優れているかを見定めるためであり、その皇王の寿命というリミットを迎えた時最後の判決を下すものと思われていた。

 ──しかし、それは終わりですらなく、最大の骨肉の争いのスタートの合図に過ぎなかったのだ。

 

 国中の民が飢餓に苦しむこの時期に?

 <マスター>が各国に増え続けているこの情勢で?

 誰が勝つとしても国力の大幅な低下は避けられない内乱に身を興じろと?

 

 儀式官が偽の遺言を開示したと考えた方がまだ良いとすら感じるが、《真偽判定》はその発言を真実としている。

 遺言は特殊な封蝋がなされており、【機皇】の転職にも関わるもので偽造・文書編纂も不可能だ。

 

 「であれば、この場はもはや次期皇王を決める場所ではなくなったな」

 

 誰もが前皇王の正気を疑い言葉を失う中、静かにそう言ったものがいた。

 次期皇王として最有力とされながらも梯子を外された形となったグスタフ第一皇子だった。

 獰猛に笑う腹違いの弟(第二皇子)や怪訝そうな表情を浮かべる息子たちの視線を無視し、儀式官に告げた。

 

 「本日の予定は遺言の開示とその後の次期皇王就任についてだったが……後者は現状不可能だろう。()()()()()()()、一旦領地へと戻らせてもらう」

 

 その言葉を聞き、遅れて息子たちや甥も事の次第を理解したらしく、慌てて儀式官へと帰参の意を伝える。

 「皇位継承権を持つ者同士で争え」──その言葉には兄弟どころか親子の間でも必要とあらば、皇王の座を望むのであれば骨肉の争いを起こせという意味すらある。

 今や実子すらも裏切りの可能性を持つ相手ではあるが、第一皇子が敵として見ているのは第二皇子と──本日唯一この場にいない今は亡き第三皇子の子、ラインハルトだった。

 

 皇王代行として国内の一切を取り仕切る第一皇子に対し、国境に領地を持つ第二皇子は特にカルディナとの繋がりが深く悩みの種である。

 

 そして20にも満たぬ年で兄妹共に、ドライフにおいては重要な意味を持つ【機械王】【衝神】に就いているラインハルトとクラウディアの双子。

 現皇族で唯一の超級職を持つ派閥(無論、配下の特務兵には他派閥にも超級職がいるが)であるが、他にも警戒すべき点があるとグスタフ第一皇子は考えている。

 

 父である第三皇子が死亡した事件の後は二人してバルバロス辺境伯(母方の家)に身を寄せており、同士討ちを期待するべきではないという点。

 ドライフが有する<超級>のマスターの内二人、【獣王】【破壊王】と親交がある点。特に【獣王】は必ずこちらの大きな障害となるだろう。

 今はアルター王国にいる<デス・ピリオド>にしてもこの大事とあらば戻ってくる可能性が高い。

 

 とはいえ、無論第一皇子の陣営に有利な点も多い。

 

 特別な親交があれば別だが、それ以外のマスターは国家の一部……政争とは距離を置く場合が多い。

 クランランキング一位、先日<超級>となったフランクリン率いる<叡智の三角>にしても国軍に【マーシャルⅡ】を納品しているが、その人数故素早く方針を決定することは出来ないだろうと推察されている。

 その中でも所属する戦闘部隊の大戦力……決闘ランキング一位"不確定な切り札(ワイルドカード)"、ランキング七位"ダイヤのエイト(八切)"、ランカーではないが超級職の"スペードのエース(【撃墜王】)"も特定の派閥への親交もなくクランの方針に従う。

 討伐ランカーにしても<超級>二人が圧倒的だがそれ以外のメンバーに関しては国に対してはドライな関係を築いている。

 

 特に理由もなく首を突っ込んでくるマスターはそう多くはない。

 ──逆に言えば、()()()()()、クエストであれば、関わるマスターは一定数いる。

 

 皇王代行としての権利は、国としてのクエスト発行の決定にも及ぶ。

 

 (この事態を想定して既に依頼を行い領地に招聘したフリーの<超級>の戦力も合わせれば、【獣王】と【破壊王】にも届くだろう)

 

 グスタフ第一皇子は敵手の力を過小評価せず、自ら持ち得る全てを持って戦力を整えていた。

 

 ──そして、クラウディアもまた味方の能力を()()()()していなかった。

 

 「──《ディストーション・パイル》」

 

 突如反応した《殺気感知》に対応するより速く、強烈な衝撃がグスタフ第一皇子を貫いた。

 

 「がっ・・・!?」

 「クラウディア! 貴様何を……!」

 

 突然の凶行にいつの間にか《瞬間装備》した槍を構えたクラウディアを非難する皇族の面々。

 

 「だって──領地に戻られたりなんてしたら、地力でこちらに勝ち目なんてありませんもの?」

 

 なんでもないことであるかのように言うクラウディアに対しその意図を察し、他の皇族は戦慄の表情を浮かべた。

 

 (まさか、前提が違っていたとは、な……)

 

 薄れ行く意識の中、グスタフ第一皇子は己が失念していた事にについて悔恨した。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 【テレパシーカフス】等の通信手段もなく、ラインハルトからの指示もなくそれだけの判断ができるとは思っていなかったのだ。

 

 ……そして、その判断を下せた理由について考えを巡らせようとした時、グスタフ第一皇子の意識は暗転した。

 

 

 ────────

 ──────

 ────

 

 

 「……これでお兄様が次の皇王ですわね」

 

 返り血を浴び、恐怖で尻餅をついている儀式官を気にも掛けず【衝神】クラウディア・L・ドライフは呟いた。

 生を掴むため、国のため、世界のため、後悔はないが、それでも言葉とは裏腹に顔色は悪かった。

 まるで、この後に待ち受ける大嵐を憂いているかのように──

 

 

 

 

 「皇王継承戦の内乱……!?」

 『正確には、正式に皇王を継承した後に反攻した貴族たちとの内戦だがな』

 

 「お願いしますわ、レイ。『お兄様』を、ラインハルトを護ってください」

 「……分かった。そっちも気を付けろよ、クラウディア」

 

 風雲急を告げる、皇国政争に対し帰郷を決める<デス・ピリオド>

 

 

 「ボクが調べたところによりますと、第一皇子が招聘していた【傭兵王】【車騎王】【大怪盗】、第二皇子の援軍としてカルディナが寄越した【砲神】【神獣狩】……計五人の<超級>が皇国に侵入しているとのことです」

 「更に叔父様以外の特務兵も控えていると……」

 『ffs(いい加減にして欲しいよね)

 

 皇国にて躍動する大戦力による<超級激突>

 

 

 「カルディナの<超級>はこちらに任せて欲しいねぇ。"クラン一位"同士、という勝負にも興味があったんだ」

 「フランクリン……ありがとう」

 

 「これが、新しい【マーシャル】……!」

 「こういった兵器開発こそ、【機皇】の本領です。本来軽々しく使うべきではありませんが、私たちを守ってくださる貴方に何もしない訳にもいきません」

 

 絆が齎す力を手に、争いに挑む。

 

 

 「……【グローリアδ】を使うかの?」

 「あぁ、必要とあれば。ラインハルトを、クラウディアを護るためならば。頼むぞ、ネメシス」

 「で、あろうな。もちろん分かっているとも。それがレイ、私のマスターなのだから、な」

 

 これは、ドライフ皇国の転換の歴史の一幕。

 無限に最も近しい<超級>の暴威吹き荒れる鋼の国の姫君(アイアンメイデン)の物語。

 

 

 

 <Infinite Dendrogram>二次小説、「並行世界の系統樹」

 第四章 鋼鉄の姫君

 2045年6月16日 投稿開始

 

 

 

 





う そ で す(四回目

フリー<超級>の情報欲しい

レイにゴーティエ姉妹丼とかアルター・ドライフ姫君丼を食べさせたい衝動に駆られる第四章嘘予告でした。
次回でラストの予定ですがまったりとお付き合いしていただけるとありがたい限りです。




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第五章 不死者の王国

 

 ■<天妖精の森> 【大死霊】メイズ

 

 ──ついに、準備が整った。

 

 全ての事柄が上手く行き、私は苦渋の敗走をした<死霊王の霊廟>へと戻ってきた。

 「5000年分の命のアンデッド化」、「【怨霊のクリスタル】の作成」を達成し、【死霊王(キング・オブ・コープス)】の転職アナウンスは通知されている。

 

 <クルエラ山岳地帯>で率いていた「ゴゥズメイズ山賊団」も今やゴゥズを除きアンデッドと化している。

 かつて私たちを撃退した<マスター>がいないことを確認し、その最下層の転職クリスタルへ辿り着いた。

 

 「これで、よおやく超級職だなぁ」

 「あぁ、お前には悪いと思っているがな、ゴゥズ」

 「いいってことよぉ。【超闘士】も【超力士】も埋まってはいるがぁ、まだ空いている派生職はあるじゃぁねぇか」

 

 <死霊王の霊廟>の転職クリスタルは死霊術師系統の他にも【呪術師】や【骨細工師(ボーンクラフター)】等もリストに記載されているが、迷うことなく【死霊王】を選択する。

 光の嵐が吹き荒れ、部屋内を埋め尽くす。

 その光が薄れ景色が戻った時──目に映る景色は一変しているように感じた。

 

 「これが【死霊王】の力……」

 

 思わず呟いてしまう。

 実際に景色が変わっている訳ではないがアンデッドとしての全身を駆け巡る全能感、気配だけで手近な怨霊を従えられる征服感を覚える。

 今ならかつて私たちを退けた<マスター>も物の数ではないだろう。

 まさに、不死者の王(ノーライフ・キング)となったのだ。

 

 「それでメイズよぉ。次は何処でやるんだァ? 流石にこの遺跡で賊は無理だろ?」

 「……あぁ。次、か」

 

 【死霊王】になって終わりではない。スタートに立っただけだ。

 死霊術を極めて、不死不滅の存在となり、そして──

 

 「次はカルディナもいいかもなァ。あそこのはたらふく溜め込んでテ・・・・・・?」

 

 巨体を誇るゴゥズが崩れ落ちる。

 その身にかかっている【拘束】【呪縛】【脱力】の状態異常によって自力で動くことはできないだろう。

 呪詛系状態異常の対策を怠って来たからだろうな。そう仕向けたのも私だが。

 

 「め、メイズ・・・? どうしテ……」

 「お前には本当に悪いと思ってるいるんだがな、ゴゥズ」

 

 同時に仕掛けられた【死呪宣告】のカウントダウンに怯えた声を上げるゴゥズ。

 しかし、これは死霊術の研鑽の果てに【死霊王】となったらすると決めていたことだ。

 だって──

 

 「負の感情が、恐怖させて怨念を溜めた方が良いアンデッドになるのだからな」

 「メイズ、メイイイイイイィズッ!!」

 

 ジョブレベルカンストの猛者であるゴゥズを筆頭に怨念を基にして最強のアンデッド軍団を作る。

 そして<マスター>さえも駆逐して築き上げるのだ、私の国を。

 

 

 ──不死者の王国を。

 

 

 

 

 「今回はレジェンダリア遠征ですの? 同じ西方だしカルディナよりはマシだと思うけれど……あそこは政争真っ只中なのでオススメはできませんわよ?」

 『クラウディアが言うと説得力が違うのぅ……』

 

 『今回は所用があって一緒に行けないが、代わりに国境まではフィガ公に送ってもらうことにしたメカクマー』

 「一緒に戦う事はできないけど少しは案内できるかな。僕はレジェンダリアスタートだったし、ギデオンは王国南端だからあちらにも少し知り合いはいるからね」

 

 諸国漫遊を再開する<デス・ピリオド>、次に赴くのは幻想の地レジェンダリア。

 

 

 「【死霊王】メイズの討伐?」

 「はい、王国でも山賊団として活動していたが最近になってレジェンダリアに戻って超級職に就いたらしいです」

 「<デス・ピリオド>以外にも冒険者ギルドで依頼を受けたマスターが集まっていますね。どうか請けてもらえないでしょうか?」

 

 悲劇を止めるために力を合わせ、霊廟に挑む。

 

 

 「っ、どれだけアンデッド量産してるんだ!」

 「アンデッドだと【魅了】も効かないよー!」

 『制圧型同士の相性が響くのぅ。《ショウタイム・マイン》は……』

 「こんな乱戦じゃ使えないわよー!?」

 

 「《シェイプシフト》──機関砲(マシーネンカノーネ)

 「あれは……バルドルの!?」

 

 不死の軍団を覆したのは、無貌の紋章。

 

 

 『何なのだ、貴様は……!』

 「さて、顔見世程度のつもりでしたが……貴方(【死霊王】)を倒すことは【冥王】からのお願いにもありましてね」

 

 「一体何者だ……?」

 「おや、失礼。シュウのいない間に話を進めるのもどうかと思いまして」

 

 無貌のマスターが導く先にあるものとは──

 

 

 「【覇王(キング・オブ・キングス)】ドライ・ヴュルフェルと申します。改めまして──」

 

 「──<デス・ピリオド>の皆さん、私たちの王国に所属しませんか?」

 

 これは、<Infinite Dendrogram>における大いなる岐路の一つ。

 第八の国、不死者(マスター)の王国が生まれた日の物語。

 

 

 

 <Infinite Dendrogram>二次小説、「並行世界の系統樹」

 第五章 不死者の王国

 2045年7月16日 投稿開始

 






う そ で す(五回目

1D6の期待値は3.5だから仕方ない。
何故か続いたこの嘘予告ですが、今回で終わりとなります。

これまでのご愛読ありがとうございました!
「Infinite Dendrogram総合掲示板」もよろしく!


  M
( ゜ ゜)<ぷるぷる。この私はキングスライムだよ

( ̄(エ) ̄)<とっくに知ってるメカクマ




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