遊戯王Connect (ハシン)
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設定資料集
SFSの組織像について


なかなか小説の中での説明しきれないところもあるかと思うので、SFSの組織図等設定についてこちらで公開。
登場人物については、後ほど公開します。


SFS(正式名称:Special Forces Savior)

 

 

◇概要

10年前から突如として襲来したデュエルモンスターズによるデュエルテロに対応すべく、政府はデュエルモンスターズを用いた戦闘部隊「国家決闘防衛軍」通称「国防軍」を設立し、対策を行ってきた。

しかし、激化するテロ行為に対応が追いつかなかった国家は、8年前に決闘自衛法という法が施行する。

 

これは、デュエルウェポンを用いた「自衛」や「国家指定テロ組織に対する武力行使」を認めるものであり、同時に同内容を目的とした民間軍事組織の設立認めるものであった。

 

その法施行を受けて立ち上がった組織がSFS。

当時、国防軍で活動していた生天目 克己氏が決闘自衛法施行の先駆けとなるため、国防軍を退職し、自ら起業したのが始まりである。

 

 

◇○期生について

8年前の設立時から所属しているメンバーを1期生。生天目社長や白瀬班長等。

6年前の募集時に入隊したメンバーが2期生。赤見班長や郷田副班長等。

3年前の募集時に入隊したメンバーが3期生。桂希や小早川副班長等。

1年前の募集時に入隊したメンバーが4期生。結衣や颯、莉奈等。

 

異例で入隊した繋吾はこのどの項目にも当てはまらない。

 

 

◇組織図

3つの部と14の班が存在している。

○がついているものは、デュエルウェポンを持つ戦闘部隊が配属されている。

 

社長:生天目 克己

 

開発司令部 部長:黒沢 秀夫

○司令直属班 班長:黒沢部長兼務

 総務管理班

 財務経理班

 機器開発班

 渉外班

 

駐屯警備部 部長:斎藤 守

○駐屯決闘班 班長:斎藤部長兼務

 武装警備班

 治療班

 運搬班

 

決闘機動部 部長:神久 統馬

○決闘精鋭班 班長:神久部長兼務

○決闘機動班 班長:白瀬 晶

○偵察警備班 班長:宗像 一樹

○救助護衛班 班長:紅谷 零

○特殊機動班 班長:赤見 仁

 

 

 

◇戦闘部隊の役割一覧

1 司令直属班

生天目司令自らが指揮権を持つ部隊。

組織の重要となる任務や、重要人物の護衛任務等を受け持つ。

基本的には社内の事業管理などを行っており、戦闘部隊の中では一番戦闘する機会が少なく、危険な目にあいたくない人にとっては人気の高い班である。

だが、人気に反して優秀な人材しか行くことは叶わず、なによりも班員の少ない班であることから希望しても入隊することは難しい。

生天目社長が出張する際は必ず護衛の任務につく。

SFS施設が襲撃を受けた際には駐屯決闘班と強力して、SFSの防衛を行う。

決闘機動部が手薄な時に応援に行ったりすることもある。

 

2 駐屯決闘班

主にSFS施設の防衛が任務となる。

また、SFSのみならず、近隣市街のSFS駐屯地に所属することもあり、街の警備にも対応する。

デュエルモンスターズを用いない犯罪については、デュエルウェポンを使わない「武装警備班」で十分であるため、あくまでデュエルモンスターズの犯罪に対応するための部隊である。

防衛することを専門として訓練しているため、決闘機動班の応援としてテロ対策に参加する場合は、あくまで民間人の防衛任務がメインとなっている。

 

3 決闘精鋭班

決闘機動部の中でも優れたデュエルモンスターズの腕を持つものが所属するのがこの班。

襲撃が起きた際には、決闘機動班とは異なり、敵幹部の無力化や、重要人物の護衛等、より高度な任務が任される。

戦場の状況に応じて、様々な任務が与えられるため、的確に戦況を把握できる能力も求められる。

イメージとしては、決闘機動班よりも上位に存在している班という立ち位置である。

 

4 決闘機動班

デュエル戦闘部隊の半数はこちらの班である。

デュエルモンスターズによるテロが起きた際に、鎮圧に出撃するSFS最前線部隊。

テロリストとデュエル等を行い、無力化することはもちろんだが、民間人の安全を確保することが第一。

なによりも班員でのチームワークが要求される班であるため、多くの人員が配備されている。

人数が多いため、決闘機動班の中でさらに5つの班に分かれており、班長が指揮する班と副班長が指揮する4つの班がある。

 

5 偵察警備班

現地への偵察任務、テロリスト目撃情報の調査。

そして、犯罪を未然に防ぐための警備任務が主なもの。

テロ襲撃時においては、戦場の状況を把握をするための偵察を行い、決闘精鋭班への報告を行っている。

その他、決闘機動班が救助した民間人の護衛、負傷者を救助護衛班へ引渡し等、何かと他の班と連携することが多く、襲撃の際には潤滑油と呼ばれるような働きをするなくてはならない班である。

 

6 救助護衛班

負傷したSFS隊員の救助から、民間人の救助、護衛。負傷したテロリストを国防軍への引渡し等を主な任務としている。

基本的には他の班とともに行動することが多く、後方支援を務めることとなる。

後方支援ではあるが、いざという時のためデュエルができるよう訓練されており、その腕前は決闘機動班にも引けを取らない。

SFS内では、治療班と連携し、負傷者の適切な対処を行っている。

 

7 特殊機動班

一部の国家指定テロ組織に対する特別戦闘部隊として設けられたのが特殊機動班。

基本的に担当するテロ組織についてのみ対応し、組織の壊滅を目的として活動する。

任務内容は救助というよりも敵の殲滅がメインであり、目的が決闘機動班とは異なる。

近年では度重なる危険な任務が相次ぎ、班員減少が目立っていることから、SFS内部ではもはや特殊機動班自体が不要なのではないかとの意見も出ている。

現在は、「ジェネシス」という組織を追っているが、明確な成果は出ていない状況である。

 

 

 

 

 

 

 



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登場人物一覧

ストーリーの進行次第で適宜更新していきます。

 

◇SFS

・遊佐 繋吾 19歳 異例入隊

 エースモンスター:セフィラ・メタトロン

 SFS 決闘機動部 特殊機動班所属。

・赤見 仁 25歳 2期入隊

 エースモンスター:ブラックフェザー・ドラゴン

 SFS 決闘機動部 特殊機動班長。

・郷田 闘二 29歳 2期入隊

 エースモンスター:地天の騎士 ガイアドレイク

 SFS 決闘機動部 特殊機動班 副班長。

・佐倉 結衣 19歳 4期入隊

 エースモンスター:No.24 竜血鬼ドラギュラス

 SFS 決闘機動部 特殊機動班所属。

・上地 颯 19歳 4期入隊

 エースモンスター:ジェムナイトマスター・ダイヤ

 SFS 決闘機動部 特殊機動班所属。

・左近 圭一 36歳 1期入隊 

 エースモンスター:???

 元特殊機動班所属

 

・生天目 克己 52歳 1期入隊

 エースモンスター:???

 SFS 社長。

・黒沢 秀夫 42歳 1期入隊

 エースモンスター:???

 SFS 開発司令部長兼司令直属班長。

・斎藤 守 38歳 1期入隊

 エースモンスター:???

 SFS 駐屯警備部長兼駐屯決闘班長。

・神久 統馬 30歳 2期入隊。

 エースモンスター:???

 SFS 決闘機動部長兼決闘精鋭班長。

・賤機 蘭 19歳 4期入隊。

 エースモンスター:古代の機械巨人

 SFS 決闘機動部 決闘精鋭班 副班長。

・白瀬 晶 36歳 1期入隊

 エースモンスター:???

 SFS 決闘機動部 決闘機動班長。

・桂希 楼 21歳 3期入隊。

 エースモンスター:ロード・ウォリアー

 SFS 決闘機動部 決闘機動班 第1副班長。

・小早川 29歳 2期入隊。

 エースモンスター:マシンナーズ・フォートレス

 SFS 決闘機動部 決闘機動班 第2副班長。

・坂戸 32歳 2期入隊。

 エースモンスター:???

 SFS 決闘機動部 決闘機動班 第3副班長。

・野薔薇 莉奈 19歳 4期入隊。

 エースモンスター:ブラック・ローズ・ドラゴン

 SFS 決闘機動部 決闘機動班 第4副班長。

・宗像 一樹 25歳 2期入隊。

 エースモンスター:メタルフォーゼ・オリハルク

 SFS 決闘機動部 偵察警備班長。

・紅谷 煉 25歳 2期入隊。

 エースモンスター:???

 SFS 決闘機動部 救助護衛班長。

 

◇国家決闘防衛軍

・時田 50歳

 エースモンスター:???

 国家決闘防衛軍 SFS支部 長官。

・魁偉 拓也 34歳

 エースモンスター:???

 国家決闘防衛軍 第1決闘師団 1等陸佐。

 

◇ジェネシス

・ネロ 22歳

 エースモンスター:???

・オリバー 28歳

 エースモンスター:シューティング・スター・ドラゴン

・リリィ 24歳

 エースモンスター:サイバー・ドラゴン・インフィニティ

・デント 38歳

 エースモンスター:グリーディーヴェノム・フュージョン・ドラゴン

 



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第一章 路地裏からの旅立ち
序章


デュエルモンスターズ。

それは、対戦型カードゲーム。

モンスター、魔法、罠の3種類のカードを駆使して、相手のライフポイント……すなわち体力を0にすれば勝ちという一見シンプルなゲーム。

だが、このゲームには数多くのカードが存在し、その戦略性は無限大に存在した。

そして、デュエルモンスターズで闘うこと……すなわち「デュエル」は人々に興奮や感動を与える娯楽として絶大な人気を誇り、テレビや新聞等を通じて次々と普及していった。

 

デュエルの人気の最中、とある科学者がデュエル専用の機械"デュエルディスク"開発することに成功する。

これは、召喚したモンスターや魔法、罠カードがまるで実体化したかのように視覚的に表現され、目の前で実際にモンスター達が戦っているような臨場感あるデュエルを楽しむことができるものであり、

デュエルモンスターズの人気を更に加速させていった。

 

しかし、とある科学者はそれに飽き足らず、更なるデュエルディスクを完成させる。

その名は"デュエルウェポン"。

 

これは、あくまで視覚的な表現に過ぎなかったデュエルモンスターズの力を現実のものとするものであり、強力なモンスターや魔法等を現実世界に出現させ、自在に操ることができるものであった。

 

その力は従来の兵器をはるかに上回る力を誇り、まさしく兵器革命をもたらした。

 

やがてデュエルウェポンが世界に出回ってしまったことにより、各地でデュエルウェポンによる襲撃事件。デュエルテロが次々と発生。

徐々にその被害は大きくなり、組織化されたデュエルテロによって、世界平和の均衡は崩れ始める……。

 

だが、デュエルモンスターズとは本来人々の娯楽であり、楽しさを与えるもの。

そう信じてやまない一部の人間達はデュエルウェポンという存在を許すわけにはいかなった。

 

そこで、世界各国はデュエルモンスターズによる襲撃に対抗するため、デュエルウェポンの構造を研究。

そして、自衛兵器としての開発に成功し、デュエルテロ組織へ対抗するべくデュエルを専門とした戦闘部隊を取り入れた新たなる自衛部隊。"国家決闘防衛軍"を結成。

デュエルテロ組織との本格的な戦いが幕を開けたのだった。

 

そんな中、デュエルテロ組織壊滅を目的に掲げた一つの民間軍事会社立ち上がる。

その名も"Special Forces Savior"通称SFS。

目的は全世界のデュエルテロ組織を殲滅し、デュエルモンスターズに本来の楽しさを取り戻すこと。

今ここに、デュエルモンスターズと世界の存亡をかけた"決闘"が始まるのであった……。

 



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Ep1 - 微かに残る記憶

――ここはどこだ。

寝ていたのだろうか。

あたりを見渡すと、僕は薄暗い部屋の中心に寝転んでいた。

 

窓の外からは幾度となく激しい光が視界に広がってくる。

そして、同時に激しい悲鳴と爆発音が絶えずに聞こえてきた。

 

怖い……。

 

あまりの大きな音に恐怖が込み上げてくる。

 

一体外では何が起きているのだろうか。

恐怖からか僕の頬には無意識のうちに涙がこぼれ落ちていた。

 

そんな僕にトドメを刺すかのように、大きな光とともに激しい爆発音が響き渡ると、僕の視界は真っ白な光が広がっていく。

 

「うわあ!」

 

今まで以上の衝撃に思わず悲鳴を上げてしまった。

 

「おい、繋吾! 無事か!」

 

男の人の声が聞こえると、僕のいた部屋の扉が開き、一人の男が部屋に入ってきた。

綺麗に整えられた青髪の短髪に紺色のスーツ。僕の父親だ。

一大事に父親に会えたことでまるで包まれるような気持ちになり安堵する。

よかった。きっと父さんなら何が起きていようと助けてくれるはずだ。

 

「父さん……!」

 

待ちわびた親の迎えに思わず抱きつく。

その体は大きく、そして暖かった。

 

「よしよし。さぁ繋吾、これから父さんが言うことをよーく聞くんだ」

 

父さんは優しそうな表情から一変し、真剣な表情で僕を見つめてくる。

なにかよくないことでもあったのだろうか。

 

「どうしたの父さん……?」

 

「デュエルモンスターズによる襲撃……デュエルテロはテレビなんかで見たことあるだろう。いまそれが……この街で起きている」

 

デュエルモンスターズの力を現実のものとするデュエルウェポン。

それを用いて犯罪行為を行うことをデュエルテロと呼んでいる。

 

目の前で起きている惨劇がそのデュエルテロということらしい。

先ほどから聞こえてくるのは大きな爆発音や悲鳴。デュエルテロが起きていると聞けば納得がいく。

 

「デュエルテロが? なんで……」

 

「それは……わからない。そんなことより、このままでは危険だ繋吾。今すぐに安全な場所へ避難するんだ」

 

「でも……どこに避難すれば……?」

 

「この部屋の隅に大きなロッカーがあるだろう? そこに隠れるんだ。あそこならテロリストに見つかる心配もないし、頑丈な作りだからデュエルモンスターズの襲撃を受けてもある程度は大丈夫だろう」

 

部屋の隅には人ひとりは入れそうな大きなロッカーがあった。

頑丈そうな金属製のロッカーであり、例え爆発が起きたとしても身を守ることはできそうだ。

 

「いいかい繋吾。そこに隠れたら音が鳴り止むまで絶対に外へ出てはいけないよ……?」

 

僕は隠れてやり過ごすにしても父さんは一体どうするんだろう。

できれば父さんと一緒にいたい。

こんな時に一人ぼっちでいるのは怖いし……嫌だ。

 

「わかった。でも父さんはどうするの? 一緒にロッカーに隠れないの?」

 

「父さんは悪いやつらと戦わなければいけないんだ」

 

僕の父さんはデュエルでテロリストと戦う仕事をやっている。

だから、今起きているデュエルテロでも当然仕事の依頼が来ているに違いない。

 

だけど、ここまで大きな規模のデュエルテロなんて今まで見たことない……。

いくら父さんがデュエルが強かったとしても……心配だ。

 

「父さんは……負けないよね?」

 

「あぁもちろんだ。これでも父さんはデュエルではほとんど無敗なんだぞ! あとそうだ、繋吾。これをお前にあげよう」

 

父さんはポケットからペンダントを取り出すと、差し出した。

それはエメラルドに輝く石が埋め込まれた金属製のペンダントであった。

 

「これは繋吾のためのお守りだ。このエメラルドのペンダントは持ち主を守ってくれる不思議な力がある」

 

「うわあ……きれい……!」

 

窓から差している月光がペンダントに反射し、綺麗なエメラルド色に輝いていた。

僕はそのペンダントを受け取ると、さっそく首からかけてみた。

 

「あと、このカードを渡そう。これはきっと繋吾の助けになってくれるはずだ」

 

続けて手渡されたカードは【セフィラ・メタトロン】という黄金に輝く鎧を纏った騎士のようなモンスターが描かれたカードだった。

見ているだけでもかっこいい。とても強そうだ。

 

「そのカードはモンスター同士の力を繋ぎ合わせる力を持っている。それを使って一人前のデュエリストになるんだよ繋吾」

 

「うん! このカードをうまく使いこなして今度また父さんとデュエルする!」

 

「あぁ……そうだな……」

 

父さんは目を細めながら歯切れの悪い返事をした。

 

「だけどこんな大切なものもらっていいの?」

 

「大丈夫だ。父さんは……持ってるわけにはいかないからね」

 

持ってるわけにはいかない……?

嫌な予感がして叫ぼうとしたが、父さんに口を塞がれ、先手を打たれる。

 

「大事にするんだよ繋吾。さぁ早く隠れるんだ!」

 

そう言うと、父さんは半ば強引に僕をロッカーの中に押し込もうとする。

 

「父さん!」

 

抵抗をしたが僕の力じゃ父さんの力にはとてもかなわなかった。

僕はなすすべもなくロッカーの中に押し込まれそのままロッカーの扉を閉められる。

 

「繋吾、救助が来るまで静かにしてるんだ! 絶対に出てはいけないからな!」

 

その言葉を最後に父さんの声は聞こえなくなってしまった。

追いかけようとロッカーの扉に手をかけるが、再び大きな爆発音が鳴り、僕は開けようとした手を止める。

 

今ここで出て行くのは危険すぎる。

近くにテロリストがいるかもしれない状況の中、僕は恐怖心でロッカーから動くことができなかった。

 

父さんが心配だけど……外に出たら爆発に巻き込まれて死んでしまうかもしれない。

だから、今は大人しくこのロッカーの中で過ごすしかない……。

 

出たい気持ちをぐっと堪え、ロッカーの中で息を潜める。

そのうち音が鳴り止むと、安堵した反動で僕の意識はいつの間にか遠のいていった。

 

 

 

――父さんが部屋を出て行ってから数時間経った頃だろうか。

 

再び大きな音がして目を覚ます。

相変わらずの真っ暗なロッカーの中だ。

 

今の音は一体なんなのだろう。

何の音なのか気になるところだが、父さんが静かになるまではここから出てはいけないと言っていた。

今、ここから出て万が一があったら終わりだ。

こんなところで死にたくはない。

 

そう自分に言い聞かせながら、僕はロッカーの中で息を潜め続けた。

 

しばらくすると、外からかすかに人の声が聞こえた。

もしかしたら近くに誰かがいるのかな。

 

「レベル4の【召喚僧サモンプリースト】にレベル4の【白翼の魔術師】をチューニング! "剛毅なる光を放つ、真実の剣よ! 最善たる時を掴み、時空の狭間より来迎せよ! シンクロ召喚! レベル8! 【覚醒の魔導剣士】!"」

 

その声は若い青年の声だった。

発言していたシンクロ召喚というワード。

それはデュエルモンスターズでデュエルをする際に用いる言葉だ。ということはその人物はデュエルをしている……ということだろう。

 

「くっ、私のフィールドはガラ空き……!」

 

そして、続けるようにして大人の男性の声が聞こえた。

先ほどの青年と対峙している人物だろうか。

どこか聞き覚えのある声のような……気がする。

 

「幹部と聞いていたからそれなりに骨のあるデュエリストかと思ったけど、飛んだ間違いだったね。がっかりだよ」

 

青年は残念そうに不満をこぼしていた。

そろそろデュエルに終止符が打たれる頃なのかもしれない。

 

「しかし、まだ私が負けたわけじゃないぞ!」

 

だが、対戦相手もまだ諦めていないようだ。

デュエルは最後の最後まで何があるかわからない。

もう少し様子を見てみよう……。

 

「往生際が悪いよ。トドメだ、【覚醒の魔導剣士】でダイレクトアタック! "リインバース・スライサー"!」

 

青年がそう叫ぶと、金属が擦り合うような音が聞こえた。

きっとモンスターが持っている武器の音かな。

 

「詰めが甘いな! リバースカードオープン! 罠カード【リビングデッドの呼び声】! このカードは墓地からモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚させる!」

 

「へえ……?」

 

「再び蘇れ!【真竜機兵ダースメタトロン】!」

 

男性の声と共に、そのモンスターの装飾物であろうか金属音が響き渡る。

今、あの男は【ダースメタトロン】って言ってたか……?

 

【真竜機兵ダースメタトロン】……あれは僕の父さんが大事にしていたエースモンスター……。

聞き覚えのあった男性の声は……父さんだったのか……ッ!?

 

僕は気持ちを抑えられずロッカーの扉を開け中から飛び出す。

部屋の中には誰もいない。

どうやら声は建物の外から聞こえるようだ。

窓際へと移動し外を眺めると、そこには父さんの姿と対峙する黒髪の青年の姿が見えた。

 

「ふふふ……。僕は【覚醒の魔導剣士】で【真竜機兵ダースメタトロン】をそのまま攻撃! "リインバース・スライサー"!」

 

【覚醒の魔導剣士】

ATK/2500

 

【真竜機兵ダースメタトロン】

ATK/3000

 

青年の前に立つ【覚醒の魔導剣士】と呼ばれた双剣を持つ騎士のようなモンスターは両手に持つ剣を構え、【真竜機兵ダースメタトロン】へ突進を始める。

 

「血迷ったか、私のモンスターの方が攻撃力は上だ。返り討ちにしてやれ!【ダースメタトロン】!」

 

父さんは拳を前に突き出しながら力強く叫ぶ。

このまま返り討ちにするんだ! 【ダースメタトロン】!

 

「ダメだなぁ……。僕がそんな馬鹿なことすると思う? 手札から【幻想の見習い魔導師】の効果を発動。

 僕の闇属性・魔法使い族モンスターが相手モンスターと戦闘を行うとき、このカードを手札から墓地へ送ってその僕のモンスターの攻撃力を2000ポイントアップさせる!」

 

【覚醒の魔導剣士】

ATK/2500+2000=4500

 

【真竜機兵ダースメタトロン】

ATK/3000

 

【覚醒の魔導剣士】の構える両腕の剣に、黒いオーラのようなものが纏いはじめる。

まずい……これでは父さんが負けてしまう……!

 

「ば、馬鹿な! 私のライフポイントは残り1000ポイント……!」

 

「バイバイ、SFSのお兄さん?」

 

男 LP1000 → LP0

 

鈍い切断音と共に【真竜機兵ダースメタトロン】が破壊され、同時に父さんの体は大きく吹き飛ばされた。

そんな……。父さんが負けるなんて……。

助けにいかなきゃ。今すぐに。

 

「父さん! 父さん……!」

 

思わず僕は窓から顔を出し叫んでいた。

自分でもやってはいけないことであることはわかっている。

 

外には危険なテロリストがいる。

だから、今ここで叫ぶことは、テロリストに対して僕の位置を知らせるようなものだ。

 

もしかしたら僕の命も狙いに来るかもしれない。

だけど……それでも僕は父さんを見殺しにはできなかった。

 

「けい……ご……。逃げろ。奴らに見つかったら終わりだ……」

 

父さんはまだ生きている!

今から救急車を呼べばまだ助かるかもしれない。

僕が囮になって、父さんを助けるんだ!

 

「そんな……父さん! 僕も戦うよ!」

 

僕の叫びを聞いたテロリストが、僕の存在に気づいたのか視線をこちらへと向ける。

その眼差しに思わず恐怖を感じたけど、これでいいんだ。

奴の標的が父さんから僕に変われば、その間に父さんは逃げることができる。

それに僕は足の速さには自信があるんだ!

 

「あれ? まだあそこにも生き残りが……? どうやらここの情報はデマだったようだし、あの少年を始末して帰るかな」

 

始末……。その言葉を聞いて思わず震えてしまう。

デュエルウェポンにはデュエルモンスターズの力を現実にする力がある。

大きなドラゴンから爆弾。なんでも具現化できてしまうんだ。

想像するだけでぞっとする。

 

だけど、あの青年とはそれなりに距離がある。

全力で走ればなんとか逃げ切れるはずだ……!

 

そんなことを考えていると、青年は左手に装着しているデュエルウェポンを操作し、何やら喋り始めた。

 

「聞こえるかな。避難勧告が出ているにも関わらず建物の中に居残る怪しい少年がいる。始末をお願いできるかな? 頼んだよ」

 

デュエルウェポンには通話機能があるようなことを聞いたことがある。

あいつの仲間が僕を……? これではあの青年の注意を引くことができない。

 

僕の嫌な予感は的中し、青年は再び父さんへ視線を戻すと、デュエルウェポンを構え始めた。

 

「んじゃ、君にはここで消えてもらうよ。じゃあね」

 

「ちくしょう……繋吾!」

 

「安らかに眠ってね? ばいばい!」

 

「ま、まて! 僕が相手に――」

 

僕が叫んだのもむなしく青年のデュエルウェポンが大きく光りだす。

そして、その光は父さんを包み込みはじめた。一体何が起きているんだ……。

 

やがてその光がおさまると父さんは地面にぐったりと横たわっていた。

 

「父さんに何をした! 父さんを返せ! 返してくれ!」

 

僕は力いっぱいに叫んだ。

何が起きたのかはわからないけど、父さんはそれ以降一切返事をくれなかった。

 

父さんは死んだのか? あのテロリストに……殺されてしまったのか?

絶望に震え、涙が止まらない。

 

強かった父さんが……自分にとって憧れていた父さんが……あんな青年に……ッ!

なんで……なんで何も悪いことしていない父さんが死ななきゃならなかったんだよ……!

 

怒りと悲しみに僕の心は震えていた。

あの青年だけは……絶対に許さない……僕から大事なものを……奪ったあいつだけは!

 

「今はまだ、耐え忍ぶんだ。若き少年」

 

突如として知らない男性の声が聞こえると同時に、後頭部に大きな衝撃が走る。

あの青年の仲間か……?

ダメだ……。意識が朦朧と……。

 

視界が霞んでいき、やがて僕の視界は闇へと沈んでいった。

 

 

 



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Ep2 - 蘇る襲撃

ーー眩しい光に当てられ、重たいまぶたを上げ、目を開く。

 

目の前には人気のない殺風景な路地が続いており、俺にとっては馴染み深いゴミ箱が近くに置かれていた。

 

その光景を目の当たりにして、今まで見ていた出来事が夢であることを認識することができた。

はぁ。今日も行く当てのない1日が始まる。

 

今は何時だろう。朝か、それとも昼か。

時計がないのでよくわからないが、そろそろ起きるとしよう。

 

体を起こすと意識がはっきりとしてくる。今日はいい天気のようだ。

 

俺の名前は遊佐 繋吾。

今から5年くらい前になるのかな。

デュエルモンスターズを利用したテロリストの襲撃によって、家も大事な家族も失ってしまった。

それからは行く当てもなく街を彷徨う路上生活。つまりホームレスってことだ。

頼れる相手も場所もないし、こうして毎日ゴミ箱の近くに陣取って、捨てられた廃品でなんとか日々を生き抜いている。

 

先ほど見た夢はただの夢じゃない。

悪夢のフラッシュバックとでも言おうか。

俺の心をずっと蝕み続けている5年前のデュエルテロの記憶だ。

それを思い出すだけで……俺はやり場のない怒りと悲しみの感情に支配されてしまう。

だからこそ、その記憶を消すべく必死に思い出さないようにしようとしているのだが、こんな惨めな生活をしているとそれもなかなか難しい。

つい……ネガティブな感情が表に出てきてしまう。

 

そんなことを考えるより、今すべきことはただ一つ。

食料にありつくことだ。

 

昨日はほとんど何も口にしていない。

いつも通っている近場の公園で水を飲んだだけだ。

 

空腹状態ではますますネガティブな思考が強まるばかり。

そう考えた俺は、すぐ近くにあるごみ箱の中を物色した。

 

紙ゴミや飲み終わった後のペットボトル。色んなゴミが出てくる中、柔らかな固形物の感触が手に触れる。

期待を込めてそれを掴み引っ張り出してみると、それは未開封のパンだった。

消費期限は……1ヶ月くらい前に切れてるみたいだが、それでも食えないことはないだろう。

捨てた人にとってはゴミだとしても、俺にとってはこの上ないご馳走だ。

 

久しぶりにまともな食料にありつけた俺は貪るようにそのパンを食べる。

何も味付けなどないパンだったが、喉を食べ物が通っただけで生き返るようだった。

 

「ふう……。ごちそうさまでした」

 

ゴミ箱に向かって頭を下げる。

例えゴミとして捨てられたものとはいえ、食べ物は食べ物。

礼儀だけは忘れてはいけない。

 

「……ん?」

 

ゴミ箱の脇に何かが落ちていることに気づく。

一体なんだろうか。

気になって拾い上げてみると、それはデュエルモンスターズのカードであった。

 

ーーー

【虹クリボー】✩1 光 悪魔

ATK/100

ーーー

 

それは虹色に輝く可愛らしいゆるキャラのような見た目をしたモンスターカードであった。

ステータスは低いが、なんとも癒されるような見た目をしている。

せっかくだからもらっていこう。俺のデッキにも役立つかもしれない。

 

そうそう。こんなホームレスの俺でもたった一つだけ趣味というか……楽しみがある。

それがデュエルモンスターズだ。

今は"デュエルウェポン"なんていう物騒な兵器ができてしまったせいで兵器というイメージが強くなってしまっているが、元はと言えば対戦型カードゲーム。

世界大会もあるくらい有名なゲームで、世界規模で楽しまれていただけでなく、プロデュエリストという職業も存在しているくらいだ。

 

まぁ……今じゃ下手にプロデュエリストとしてデビューすれば、国のデュエルモンスターズ専用戦闘部隊である国家決闘防衛軍……。

略して国防軍っていう軍隊にスカウト受けたりなんなりで、なりたいという人も随分と減ってしまったけど……。

 

かくいう俺も幼少期に父親からデュエルを教わって夢中になり、デュエルの練習を続けてきた。

父親のデュエルスタイルであったモンスター効果を連携させ、大きな戦力を生む戦術。

俺はそのデュエルスタイル目標にデュエルの練習に励んできた。

将来はプロデュエリストを目指そうとも考えていた。

 

だけど、その夢はもう叶うことはないだろう。

ホームレスとなった今、デュエルを楽しむ相手もいなければ、デュエルディスクもない。

 

そもそも今の現状じゃいつまで生きてられるかもわかったもんじゃないしな。

 

まったく、現実ってのは非情なもんだよ……。

 

気を紛らわせようと俺は空を見上げる。

空には綺麗な夕焼けが広がっていた。

あれ、もうそんなに時間が経っていたのか。今日は少し寝すぎたか。

 

美しい夕焼けに見とれてぼんやりと空を眺めていると、続けて何かが降ってくるのが見えた。

なんだあれは。黒……? いや紫色か……。

徐々にその物体が近づいて来ると、落ちてきているものの正体が一枚のカードだと言うことがわかった。

 

何のカードだろう。

目を凝らして見てみると、そのカードの名前を解読することができた。

 

ーーー

【万能地雷グレイモヤ】 通常罠

ーーー

 

地雷というワードに嫌な予感がし、考えるよりも先に俺の体は動いていた。

そのカードから遠ざかるようにして、俺は建物の影に身を隠す。

 

するとその直後、あたりに耳を貫く大きな音とともに爆発が巻き起こった。

 

俺の直感は正しかった。

ただ、空からカードが降ってくるならなんとでもない。

だが、そのカードが"デュエルウェポン"を通じて放たれたものだとしたら話が違う。

 

あらゆるデュエルモンスターズのカードの力を現実とする最新兵器。デュエルウェポン。

つまり空から落ちてきたその地雷はただのカードではなく、本物の爆弾だったのだ。

 

続けるようにして周辺から次々と爆発音と同時に悲鳴が聞こえてきた。

どうやら落ちてきたのは一つではないらしい。

これは……デュエルテロか……?

それに……かなりの大規模な……。

 

空からここまでの大規模なデュエルテロを行うなんて、並大抵の組織ではできるはずがない。

少なくとも俺が経験した5年前と同等……。その時以来だった。

 

待てよ……。5年前と同等のデュエルテロ。

この5年間、こんな大規模なデュエルテロは1度もなかった。

もし仮に今回の襲撃者が5年前と同じ組織による犯行だとしたら……。

俺は無意識に胸元にかけている父さんからもらったエメラルドグリーンのペンダントを握り締める。

 

5年前の自分と今の俺は違う。

臆病で戦うことができなかったあの頃とは違うんだ。

今しかない。俺からすべてを奪ったテロリストへ復讐するチャンスは!

俺の後悔は、人生は、俺自身の手で切り開かなきゃいけないんだ!

 

テロリストに立ち向かえば当然命を落とすリスクはある。

だけど、このままずっと先の見えないホームレス生活を続けていたって俺の人生は何も変わらない。

俺はずっと過去の悪夢に縛られ、悩み続けるだけだ。

 

だったら、例え死ぬリスクを負ってでもやってみる価値はある。

後から行動しなかったことを後悔しても遅いんだ!

 

決意が固まった俺は爆発音が鳴り響く中、その爆風を掻い潜りながら駆け出し始めたのだった。

 

 

 

ーーしばらく走ると建物の合間の路地で大きな音が聞こえる。俺は近くの建物に身を隠しながら中の様子を覗く。

そこには一人の人物が立っており、その左腕にはデュエルモンスターズ専用の装置、デュエルディスク……。

いや、デュエルテロが起きている今ならデュエルウェポンと考えるのが自然か。

それが装備されていた。

 

その人物の顔はヘルメットで隠されており人物像を確認することはできないが、骨格的には男性のようであった。

 

デュエルウェポンを装着しているということはテロリストか、もしくはそれに対する国家決闘防衛軍……すなわち国防軍かどちらかとなる。

黒一色の怪しい服装をしているとはいえ、それだけでどちらであるのか判断することは難しい。

 

テロリストである確証がない以上、下手な行動はできない。

俺は物音を立てないように気をつけながら、様子を見ることとした。

 

するとその人物はデュエルウェポンへカードを1枚セットし始める。

 

「シンクロ召喚! 来い! 【魔王龍ベエルゼ】!」

 

ーーー

【魔王龍ベエルゼ】✩8 シンクロ

ATK/3000

ーーー

 

禍々しい見た目をした二頭の頭を持つ龍が出現し、雄叫びを上げた。

これがデュエルウェポンで生み出されるデュエルモンスターズ。

久しぶりに見た。興奮を覚えると同時に、矛先が自分でないことに少し安堵する。

こんな強大な龍に攻撃されたらひとたまりもないだろう。

 

「失せな、【魔王龍ベエルゼ】でダイレクトアタック! "マリシャス・ストリーム"!」

 

二頭の口元より、黒き光線が放たれる。

その攻撃した先には一人の人物が立っていた。

 

灰色の髪をした30代くらいの男だろうか。

その【魔王龍ベエルゼ】の攻撃を受けて、その男の体は宙を浮き、奥の建物にもたれかかるようにして倒れた。

そして、その衝撃を受けたことで飛ばされた男の背後にあった建物が崩れ始め、辺りに粉塵が漂った。

 

「正義気取りがいいザマだぜ。ふん……」

 

ヘルメットの男は倒れた人物に近づくと、再びデュエルウェポンを構える。

やがてデュエルウェポンから白い光が出現すると、倒れていた人物は何かに抵抗している素振りを見せる。

だが、その光が収まると同時に抵抗をしていたその人物はその場へぐったりと倒れ込んでしまった。

 

一体なにが起きたというのだ……?

あの人は死んでしまったのか……?

倒れた人物のデュエルウェポンを見ると、彼のデッキはなぜか消滅しており、抜け殻となったデュエルウェポンだけが残っていた。

 

「へっ、SFSってのも大したことねぇなぁ」

 

ヘルメットの男はそう呟くと、倒れた男から離れるように歩き出した。

 

SFS……聞いたことあるな。

確かテレビでテロリストを撃退したかなにかでニュースになってた会社だったような……。

いわば民間軍事組織みたいなところか。

 

ということは間違いない。やられた方がSFSってことはあのヘルメットの男はテロリストだ。

あいつらが俺たちの街を……そして、あの人の命を……。許せない、手始めにまずはあいつからぶっ潰してやるッ……!

 

自らを奮い立たせるため、右手拳を左手に打ち付けるようにして叩きつける。

だが、踏み出そうとする俺の足は震え、思うように動かない。

死ぬかもしれない恐怖だろうか。なかなか前に足を踏み出すことができなかった。

 

なにやっているんだよ俺は……5年間ずっとこの時を待っていたはずだろう。

俺からすべてを奪っていったテロリストに復讐する……この瞬間を。

ここでまた逃げて……後悔するわけにはいかないんだ!

 

俺は右手を強く握りしめると、震える足を無理に動かし、決死の覚悟で走り出した。

 

「街をめちゃくちゃにしやがって! くたばりやがれ!」

 

枯れそうな声で叫びながら、右腕を大きく振りかぶってヘルメットの男へと接近する。

だが、恐怖心を拭うために叫んだせいか、その拳を振るう前に奴に気づかれてしまった。

 

「おうおう、びっくりするじゃねぇか。ガキは引っ込んでな」

 

ヘルメットの男は冷静にポケットから一枚のカードを手にすると、デュエルウェポンを構えた。まずい。

 

「デュエルウェポンにはいかなる攻撃も通用しない! 罠カード【シンクロ・バリアー】発動!」

 

手に持つカードをデュエルディスクにセットすると、その男から巨大な白いバリアのようなものが展開される。

勢いあまった俺の拳は当然止まることはなく、そのバリアへと触れた。

すると俺の拳はとてつもない力で押し返され、その腕につられて体ごと大きく吹き飛ばされてしまった。

 

なんなんだこの力は……。

俺の右腕には引きちぎれそうなほどの痛みが走った。

 

あんな武器相手に素手でかなうはずがない。

 

冷静に考えてみればそうだ。

俺はそもそもデュエルウェポンがどれほど危険なものなのか理解していなかった。

デュエルウェポンは今までの兵器を過去のものにするほどの兵器革命を起こしたとも言われる代物だ。

そんなものを相手に対等に戦うことなんて……いくら相手の背後を突いたとしても、はじめから勝ち目なんてなかったのかもしれない。

 

それに、こんな見ず知らずのテロリストをぶん殴れば俺の気が済むのか。

俺の復讐するべき相手は、5年前に父親を殺したあの黒髪の青年……。あいつを倒すことだ。

こんな奴を相手にしたところで、何の意味もないじゃないか。

 

このままでは殺される……。

体中に走る痛みが、俺の思考を冷静にさせてくれた。

これが生存本能ってやつなのかもしれないな。

 

「泣いて詫びても無駄だぞガキ、俺らに見つかったからには有り金全部寄越して……死んでくれや!」

 

ヘルメットの男は不敵な笑みを浮かべながら近づいてくる。

思わず俺は後ずさりしながら彼から距離を保ち続けた。

 

「デュエルウェポンにはデュエルウェポンでしか対抗できない。死ぬ前にいい勉強になっただろう」

 

なるほど。デュエルモンスターズの力は同じものでしか対抗できないってことか。

カードはあるが、肝心なデュエルウェポンがない。逃げるしかこの場を切り抜ける方法はないのか。

 

あたりを見渡すと先ほどの倒れていた人物が目に映った。

前方にある建物の残骸の下敷きとなっていたが、彼の腕とデュエルウェポンだけは微かに顔を出していた。

 

……あの人が持っていたデュエルウェポンは使うことができるのだろうか。

もし使えるのであれば、俺が持っているカードでテロリストと戦うことができるかもしれない。

逃げるか戦うかの二択。生き残るためなら逃げる方が間違いないだろう。確実に逃げ切れるとは言えないが。

 

だけど……。そもそも死ぬ覚悟で俺はこのテロリストに立ち向かったんだ。

もうこの際どうなってもいい。俺にできることならなんだってやってやる……!

 

「じゃあな! 魔法カード【ファイヤー・ボール】発動!」

 

ヘルメットの男はデュエルウェポンにカードをセットすると、人の顔よりも大きな火の玉が出現し、こちらに向けて発射される。

そんなに速度が速いわけじゃない。これなら避けられる。

 

「――当たるかよ!」

 

俺は前転しながらその攻撃を避ける。

その勢いのまま受身を取り立ち上がると、俺は倒れている人物をめがけて走り出した。

 

距離はそんなになかったのが幸いだった。俺はその人物の近くへ到達すると、腕に装着されたデュエルウェポンを取り外す。

 

「誰だか知らないがすまない。借りるぞ。あなたの街を守ろうとする思い、無駄にはしない」

 

そして、奪い取ったデュエルウェポンを自らの左腕に装着する。

けっこう重い。これをずっとつけて走り回っていたらいい筋トレになりそうだ。

 

その様子を見ていたヘルメットの男は不気味な笑い声を上げていた。

 

「へへへ……。なんだガキ、この俺とデュエルでもしようと言うのか? そいつのデッキはもうないぞ。デッキがなければデュエルは――」

 

「デッキならある。デュエルウェポンならお前と戦えるんだろ? なら俺とデュエルしろ」

 

俺はボロボロの服のポケットからカードの束を取り出しデュエルウェポンへセットする。

すると体の全身に力がみなぎるのと同時に、デュエルウェポンの画面に「生体反応を確認。リンクしました。」と表示された。

これがデュエルモンスターズの力なのか。不思議と自信が湧いてくる。

 

「ちっ、子供の遊びじゃねぇんだよこれは。そんなに死にてぇなら地獄に送ってやるよ」

 

ヘルメットの男は渋々デュエルウェポンを構える。

すると、デュエルウェポンの画面に「決闘モード」と表示される。

どうやらデュエルが始まるようだ。

 

「うるせぇ! お前らテロリストのせいで俺がどんな思いをして過ごしてきたか……!」

 

そう叫ぶ俺の声は震えていた。

デュエルウェポンを使うこと自体初めてなんだ。

うまく戦えるかわからないし、そもそも俺がかつて励んできたデュエルが通用するのか不安もある。

だが、ここまで来たらやるしかない。俺は俺自身……そして、カード達を信じるだけだ。

 

「あ? 舐めた口聞いてるんじゃねぇぞ。いいからとっとと構えろガキが」

 

「言われるまでもない! 地獄に行くのはお前の方だ」

 

俺はデュエルウェポンを構えながらヘルメットの男を睨みつける。

こんなところで死んでたまるかよ!

 

「ふん、デッキがあるからっていい気になるなよ。デュエルは遊びじゃねぇ。本当の戦いってやつを教えてやるよ……」

 

「……何が本当の戦いだ…ふざけるんじゃねぇ。いくぞ!」

 

「デュエル!」

 

繋吾 LP4000 手札5枚

ヘルメットの男 LP4000 手札5枚

 



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Ep3 - 小さき力と大きな力 前編

※デュエル中の表記について

ーーー

【虹クリボー】✩1 光 悪魔 ③

→モンスター名、レベル、属性、種族、召喚位置

ATK/100 →表示形式とその数値 ATKなら攻撃表示、DEFなら守備表示

ーーー

 

ーー裏ーー

ーモーーー

 リ シ

ーー裏モー

ーー罠魔ー

 

※1 上が先攻、下が後攻

※2 左から①~⑤ EXゾーンについては左が①、右が②

※3 "裏"はセットカード、"モ"はモンスター、EXデッキから出たものは頭文字にて召喚方法の頭文字(リンク召喚なら"リ")で表記。魔法は"魔"、罠は"罠"

 

 

 

俺は今までテーブルで並べるカードゲームとしてのデュエルしかやってこなかった。

デュエルウェポンでのデュエルがどんなものなのか興奮を覚えると同時に不安が襲い掛かる。

だけど、デュエルはデュエルだ。ルールはかつてやっていたものと同じはず……。

そう考えると不思議と気持ちが落ち着いてきた。

 

俺は小さい頃からずっとデュエルをやってきていた。

あの頃の友人相手ではほとんど負けることもなかった。だからデュエルの腕前にはそれなりに自信がある。

例えテロリストが相手だとしても勝てる可能性は十分にあるはずだ。

 

「せっかくだ、お前に先攻を譲ってやる。簡単にくたばられちゃつまらねぇ」

 

ヘルメットの男は俺を嘲笑うかのように笑いながら言った。

先攻を譲ってくれるのなら好都合だ。先に罠を仕掛けデュエルを有利に進めることができる。

覚悟しろよ……! このデュエル……絶対に勝ってやる!

 

「……後悔するなよ。俺のターン!」

 

デッキから引いた5枚のカードを眺める。

あまり良い引きとは言えないが、戦えなくはないだろう。

慎重に攻め手を考えなければな。

 

「俺は【マスマティシャン】を召喚!」

 

ーーー

【マスマティシャン】✩3 地 魔法使い ③

ATK/1400

ーーー

 

「このカードが召喚に成功したとき、デッキからレベル4以下のモンスター1体を墓地に送ることができる。俺はデッキから【光竜星-リフン】を墓地に送る」

 

ーーー

【光竜星-リフン】✩1 光 幻竜 チューナー 

ATK/0

ーーー

 

「雑魚モンスターを召喚して、墓地に送ったのもレベル1の弱小モンスターだと? どうやらまともなカードを持ってねぇようだなぁ?」

 

ヘルメットの男は呆れたような様子をしている。

あのような何もわかっていない奴には言わせておけばいい。

 

墓地は第二の手札とも言う。

それほどこのデュエルモンスターズというカードゲームは墓地のカードも重要視されているのだ。

俺の取った行動は当然戦略のひとつだ。

 

「カードをステータスだけで判断するお前こそ、デュエルのレベルはたかがしれているな」

 

「強がりもそこまでしろよ。寄せ集めの雑魚デッキでこの俺が倒せると思ってんのか?」

 

どんなに弱いカードだとしても、俺にとっては一枚一枚が大切な宝物だ。

一枚のカードでは弱くても、カードとカードの効果を繋ぎ合わせることで強力な力になることもある。

それが……俺の父さんの戦術。強かった理由だ。

 

「一枚では弱くても、力を合わせれば大きな力を生む。雑魚だと言うなら俺を倒してから言え。カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

繋吾 LP4000 手札3

ーー裏ーー

ーーモーー

 ー ー 

ーーーーー

ーーーーー

ヘルメットの男 LP4000 手札5

 

次は奴のターンだ。

一体どんなデッキを使ってくるのだろうか。

 

「ちっ、すぐにそんな口聞けなくしてやるよ! 俺のターン、ドロー! お前の場にモンスターが存在し、俺の場にモンスターがいない時、手札の【バイス・ドラゴン】は特殊召喚できる!」

 

ーーー

【バイス・ドラゴン】✩5 闇 ドラゴン ③

DEF/2400→1200 

ーーー

 

「さらに手札から魔法カード【ワン・フォー・ワン】を発動! 手札のモンスターカード1枚を墓地へ送り、デッキからレベル1のモンスター1体を特殊召喚する。

 手札の【仮面竜】を墓地へ送り、デッキから来い! チューナーモンスター、【ガード・オブ・フレムベル】!」

 

ーーー

【ガード・オブ・フレムベル】✩1 炎 ドラゴン チューナー ④

DEF/2000

ーーー

 

「"チューナー"モンスターとそれ以外のモンスター……」

 

「シンクロ召喚くらいは知ってるか。少しはデュエルがわかるようだなァ?」

 

チューナーモンスターと呼ばれるモンスターとそれ以外のモンスターを場から墓地へ送り、その合計のレベルを持つモンスターをEXデッキと呼ばれる特殊なデッキからモンスター呼び出す召喚方法。それがシンクロ召喚。

複数のモンスターを代償とするため、呼び出されるモンスターは非常に強力である。

奴はシンクロ召喚を使い……そしてドラゴン族を使用するデュエリストであることがわかった。

 

「余計なお喋りはいい、さっさと進めろ」

 

デュエルについての知識はそれなりに持っている。

その知識が例えテロリストでも通用することがわかり、だんだんとこのデュエルに余裕が出てきた。

 

「ったく人がせっかく褒めてやってるのに……。教育がなってねぇなぁ最近のガキはよ! 俺はレベル5の【バイス・ドラゴン】にレベル1の【ガード・オブ・フレムベル】をチューニング!」

 

「"燃え盛る炎の翼、万物を焼き尽くす力となれ! シンクロ召喚! レベル6【レッド・ワイバーン】!」

 

ーーー

【レッド・ワイバーン】✩6 炎 ドラゴン シンクロ ②

ATK/2400

ーーー

 

真っ赤に燃える炎を翼に纏ったドラゴンがヘルメットの男の前に現れる。

まずは切り込み役な役割をもったモンスターだろうか。

レベルは6。攻撃力はそこまで脅威というわけではない。

 

「お前の雑魚モンスターなんて、すぐに消し炭にしてやるよ。バトル、【レッド・ワイバーン】で【マスマティシャン】を攻撃! "ボルケーノ・ダイブ"!」

 

【レッド・ワイバーン】は赤く燃える翼を大きく広げ、滑空し始める。

そして、【マスマティシャン】へ直撃すると、その爆風が俺に襲いかかった。

 

【レッド・ワイバーン】

ATK/2400

【マスマティシャン】

ATK/1400

 

「くっ……うああ!」

 

繋吾 LP4000→3000

 

なんだ……今の衝撃。体全身が熱く焼かれているような痛みが……。

だけど、俺の体には大きな傷跡はなく、多少の擦り傷程度の跡が残っているだけだった。

これがデュエルウェポン……いや、デュエルモンスターズの力で、俺の体が守られているということなのか。

 

「はぁ……はぁ……」

 

驚きのあまり自分の体を眺めていると、ヘルメットの男が声をかけてくる。

 

「言っただろう、デュエルウェポンを用いたデュエルはそこらの遊びとは違う。デュエルモンスターズの力は現実となり、プレイヤーへのダメージは痛みとなってプレイヤーを襲う。

 そして……そのライフポイントが尽きれば……あとはわかるな?」

 

なるほど。これじゃ本当に生死をわけた決闘というわけか。

もしデュエルウェポンがなしで今の攻撃を受ければ、俺の体は丸焼きにされていたのかもしれない。

 

「ふざけてるなこれは……。こんなものがなければ……くそっ!」

 

かつて父さんと楽しくデュエルしていた光景がフラッシュバックする。

それも全てこのデュエルウェポンという物のせいでなくなってしまったかと思うと俺の中で怒りの感情が込み上げてきた。

 

「おうおう怖いねぇ、でも"こいつ"のおかげで俺たちは助かってんだよ……。これさえあれば……警察だろうが、国の軍隊にだって負けはしないからなぁ!」

 

「なんだと……!」

 

デュエルモンスターズを犯罪のための道具としか思ってないのかこいつは。

こんな腐った奴がいるからデュエルテロなんてものが……!

 

だけど、こんなところで怒りに身を任せ、我を忘れてしまっては正常な判断が出来なくなるかもしれない。

冷静さを欠いてはいけない。

全てはデュエルが終わったあとだ。ここはぐっと堪えるんだ。

 

そういえば【マスマティシャン】が戦闘で破壊されていたな。効果を使わなければ。

 

「……俺は戦闘破壊された【マスマティシャン】の効果発動。デッキからカードを1枚ドローする」

 

「その1枚で逆転の方法でも考えておくんだな。俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

繋吾 LP3000 手札4

ーー裏ーー

ーーーーー

 ー シ 

ーーーーー

ーー裏裏ー

ヘルメットの男 LP4000 手札1

 

 

一つ気になることがある。

こいつは金目的で俺に近づいてきていた。いわゆる強盗って奴だろう。

だが、実際やっている行為は、街全体を襲撃するというあまりにも大規模過ぎるテロ行為だ。

 

ここまでの規模でやる意味はないだろう。強盗が目的ならもっとこそこそとやるはずだ。

まったく関係ない人達の自由を奪ってまで……ここまで大きなリスクを背負う意味は一体なんなんだ……?

 

「ひとつ聞かせろ。なぜお前たちは無差別に街の住民を襲う? 何が目的なんだ……!」

 

「目的? そんなもんお前なんかに言ってなんになる? まぁ、上の奴らがどう考えてるかなんかはどうだっていい」

 

「なに……?」

 

「俺は頼まれたから仕事でやっているだけだ。命令に従えば大金が手に入るからな。それに……今みたいに気に入らねえ奴を潰すこともできるしな!」

 

「そんな私欲のためだけに……。関係のない街の住民を巻き込んで……」

 

自分の私利私欲のためだけに、平気な顔して街を破壊し、人から略奪をしているということなのか。

こいつはどうしようもないクズらしい。許しておけるか……!

 

「ふざけるな……俺は今受けた痛みで決心したよ……。お前に……今までの犯した罪の痛みを……刻みつけてやるとな!」

 

「ガキがいちいちうるせぇな! できるもんならやってみろってんだ! あ?」

 

俺の叫びを聞き、ヘルメットの男は少し怯んだ様子を見せたが、すぐに怒り返すように高圧的な態度で言い返してきた。

あいつも動揺しているのだろうか。

それであれば今がチャンスだ。あの【レッド・ワイバーン】をこのターンで倒し、勝利への道を開いてみせる……!

 

「……俺のターン、ドロー! 俺は【ジャンク・シンクロン】を召喚! こいつは召喚に成功したとき、墓地からレベル2以下のモンスター1体を守備表示で特殊召喚できる。蘇れ! 【光竜星ーリフン】!」

 

ーーー

【ジャンク・シンクロン】✩3 闇 戦士 ③ チューナー

ATK/1300

ーーー

【光竜星-リフン】✩1 光 幻竜 ④ チューナー 

ATK/0

ーーー

 

「おいおい、チューナー同士じゃシンクロ召喚はできねぇぞ? てめぇどんだけ素人なんだよ」

 

いちいちうるさいやつだ。

小さきモンスターの力を繋ぎ合わせる方法。それは何も"シンクロ召喚"だけではない。

 

「……モンスターとモンスターの繋がる絆が、大きな力を生む」

 

「なに言ってんだ? わかるように言って――」

 

「現れよ! 心を繋ぐサーキット!」

 

ヘルメットの男の言葉を遮り、俺は右手を広げて空へ掲げる。

すると目の前に四角形の板のようなものが出現した。

 

「なるほどねえ……リンク召喚を行うつもりか」

 

リンク召喚とは、場から複数のモンスターを墓地へ送り、そのモンスターの数分のリンクを持つモンスターをEXデッキから特殊召喚する召喚方法だ。

一見お手軽な召喚方法だが、リンクマーカーという唯一無二の能力を持っており、場のモンスターの位置によって戦況を大きく変化させる。

 

「俺は【ジャンク・シンクロン】と【光竜星ーリフン】の2体をリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン!」

 

2体のモンスターが目の前の板に吸収されていく。

板には2つの矢印が示されていた。これがリンクマーカーである。

 

「リンク召喚! 来い、リンク2! 【コード・トーカー】!」

 

ーーー

【コード・トーカー】リンク2 闇 サイバース ①

ATK/1300 上 下

ーーー

 

白き鎧を纏った戦士のようなモンスターが出現する。

 

「いっちょまえにリンク召喚したのはいいが、たったの攻撃力1300じゃないか。驚かせやがって……」

 

「……少しは静かに見ていろ。モンスターを通常召喚したターンにこのカードは手札から特殊召喚できる。来い、【ワンショット・ブースター】!」

 

ーーー

【ワンショット・ブースター】✩1 地 機械 ②

DEF/0

ーーー

 

【ワンショット・ブースター】が【コード・トーカー】の背後に出現すると、【コード・トーカー】に微かな光が纏い始める。

 

【コード・トーカー】

ATK/1300→ATK/1800

 

「攻撃力が上がっただと……?」

 

「あぁ、【コード・トーカー】はリンクマーカー先のモンスター1体につき、攻撃力を500ポイントアップさせる効果を持つ」

 

「ほう。リンクマーカーを使いこなすとはな。だけど、状況はなにも変わらねぇよ」

 

「俺は魔法カード【一騎加勢】を発動! 場のモンスター1体の攻撃力をエンドフェイズ時まで1500ポイントアップさせる!」

 

【コード・トーカー】

ATK/1800→ATK/3300

 

「なに!? 攻撃力が上回っただと!」

 

「バトル! 【コード・トーカー】で【レッド・ワイバーン】を攻撃! 切り裂け! "イノセント・スラッシュ"!」

 

【コード・トーカー】

ATK/3300

【レッド・ワイバーン】

ATK/2400

 

「甘ちゃんだなぁお前は! 俺は【レッド・ワイバーン】の効果を発動! このモンスターよりも攻撃力が高い相手モンスターがいる時に、一度だけそのモンスターを破壊することができる! ハッハッハ、残念だったなぁ?」

 

【レッド・ワイバーン】はその大きく口を開き、【コード・トーカー】に向かって火球を発射した。

 

しかし、【コード・トーカー】はその炎を受けても動じずに【レッド・ワイバーン】へと近づくと、その鋭利なる剣で【レッド・ワイバーン】を切り裂いた。

 

「うおお! ぐっ……」

 

ヘルメットの男 LP4000→LP3100

 

ヘルメットの男は想定外のダメージに驚き怯んだが、すぐに何事もなかったかのように体勢を立て直した。

 

「おい、どういうことだ! なぜ【コード・トーカー】が生きている!?」

 

「……【コード・トーカー】はリンクマーカー先にモンスターがいる場合、戦闘、そして効果では破壊されない効果を持っている」

 

【コード・トーカー】の背後には【ワンショット・ブースター】が存在している。だから【レッド・ワイバーン】の効果は通用しないってことだ。

1枚1枚のカードが繋がり合うことで、大きな力を倒すこともできる。これこそがデュエルの奥深いところだ。

 

「なるほど。【レッド・ワイバーン】の効果を把握した上での攻撃ってわけか……」

 

「お前には俺の戦術が見抜けなかったようだな」

 

「んだよ、いちいちムカつく野郎だ……。やることねぇならとっととターンエンドしやがれ」

 

「言われるまでもない、俺はーー」

「左近さん! 左近さん! ッ……反応が? 応答してください!」

 

ターンエンドを宣言しようとした瞬間、突如自分のデュエルウェポンより女性の声が響き渡る。

通話機能というやつか。どうやら随分と便利な代物らしいなこれは。

相手の声に応対するべきか悩んだが、勝手にデュエルウェポンを借りている立場上、無視するわけにもいかない。

俺はその声に答えることとした。

 

「悪い……俺はその……左近って奴じゃないんだ。」

 

「左近さん……じゃない? あなたは一体誰ですか。」

 

俺の回答を聞いた女性はあからさまに冷たい態度へと変わる。

まぁ無理もない。仲間だと思っていた相手先から見知らぬ声が聞こえるんだからな。

なんとか状況を説明したいところだが、どうしたものか。

 

「左近さんのデュエルウェポンをなぜあなたが身に付けているんですか。まさかあなたはテロリスト? そんな、左近さんが……」

 

デュエルウェポンから聞こえる女性の声は徐々に小さくなっていく。

 

「おい待て、俺はテロリストじゃない! その……事情があってその左近ってやつからデュエルウェポンを借りているだけだ」

 

このままテロリスト扱いされては犯罪者になってしまう。それだけは避けなければいけない。

聞く限りこの女はテロリストではないはずだ。下手に敵を作る必要はないだろう。

 

「え? それなら……国防軍の方かしら。デュエルウェポンを勝手に使わないでもらえます? 窃盗ですよ」

 

国防軍? いやいや、国家の公務員様が泥棒なんてするわけないだろう。

ただの住民と言ったら信じてもらえるだろうか。

認定された組織以外にはデュエルウェポンの所持は認められていないだろうから難しい話だが……。

 

「待ってくれ! 俺はこの街に住んでる住人で……」

 

「もういいです。今からそちらへ向かいます。そこから絶対に動かないでください」

 

女性の声はその発言を最後に途絶えてしまった。

ダメだ。まったく話にならなかった。

 

相手が何者なのかはわからないがこちらに来るらしい。

デュエルウェポンにはGPS機能でもついているのだろうか。

まったく調子狂うな……。

 

俺はデュエルウェポンを見つめながら思わずため息をついてしまった。

 

「おい、何をべらべら喋ってんだ! とっととターンエンドしろ!」

 

ヘルメットの男はもたついている俺の様子にイラついたのか怒号を飛ばす。

さっきの女のことは忘れよう。今はデュエルに集中だ。

 

「……ターンエンドだ」

 

繋吾 LP3000 手札2

ーー裏ーー

ーモーーー

 リ ー 

ーーーーー

ーー裏裏ー

ヘルメットの男 LP3100 手札1

 

「クソッさっきから生意気な態度取りやがって……! このターンでぶっ潰してやるわ! 俺のターン、ドロー! リバースカードから永続罠【リビングデッドの呼び声】を発動! 

 墓地からモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する! 復活しろ、【レッド・ワイバーン】!」

 

ーーー

【レッド・ワイバーン】✩6 炎 ドラゴン シンクロ ③

ATK/2400

ーーー

 

先ほどのドラゴンが蘇って来たか。

攻撃力が高くとも【コード・トーカー】の背後にはモンスターがいる。

戦闘でも効果でも破壊されないから、そう簡単には突破されないはずだ。

 

「さらにチューナーモンスター【クレボンス】を召喚!」

 

ーーー

【クレボンス】✩2 闇 サイキック チューナー ②

ATK/1200

ーーー

 

更なるチューナーモンスターってことは、もっと高レベルのシンクロモンスターを出してくるつもりか。

【レッド・ワイバーン】より強力なモンスター相手となると……警戒する必要がありそうだ。

 

「俺の切り札でその生意気な面をぶっ潰してやるわ! 俺はレベル6の【レッド・ワイバーン】にレベル2の【クレボンス】をチューニング! "暗黒を漂う力、不滅の漆黒となりて王の威厳を示せ! シンクロ召喚! レベル8【魔王龍ベエルゼ】!"」

 

ーーー

【魔王龍ベエルゼ】✩8 闇 ドラゴン シンクロ ②

ATK/3000

ーーー

 

禍々しき二頭の頭が特徴的なこのドラゴン、先ほど左近と呼ばれた男にトドメを刺していたドラゴンだ。

攻撃力も3000ある。こいつは見るからに強そうだ。

 

だが、このモンスターを倒すことができれば、左近という奴の敵討ちができそうだ。

デュエルウェポンを借りた恩義は返さないとな。

 

「このモンスターを召喚したデュエルで俺が負けたことはないぜ……覚悟しなぁ! さらにもう一枚の罠カード【タイラント・ウィング】を発動! このカードは場のドラゴン族モンスター1体の装備カードとして装備され攻撃力を400ポイントアップさせる! さらにそのモンスターは一度のバトルフェイズに2回までモンスターを攻撃できる!」

 

【魔王龍ベエルゼ】

ATK/3000→3400

 

 

【魔王龍ベエルゼ】の禍々しき体に白く輝く翼が合わさり、黒白に輝く混沌な姿へと変貌した。

攻撃力3400で2回攻撃。その直撃を受けたらたまったもんじゃない。

 

「確か……【コード・トーカー】はリンクマーカー先にモンスターがいれば、戦闘でも破壊されなかったよなァ……?」

 

「あぁ、その通りだ。」

 

「お互いのモンスターの攻撃力差は1600…。戦闘破壊されない【コード・トーカー】に2回攻撃を行ったら……あとはわかるな?」

 

俺の残りライフポイントは3000ポイント。

【魔王龍ベエルゼ】の攻撃を2回受けたら俺のライフポイントは0だ。

戦闘破壊されないことをいいことに、モンスターにのみ2回攻撃できる【タイラント・ウィング】を使い、一気にケリをつけようって考えらしい。

 

「さぁ死ぬ覚悟はできたか? バトル、【魔王龍ベエルゼ】で【コード・トーカー】を攻撃! "マリシャス・ストリーム"!」

 

【魔王龍ベエルゼ】

ATK/3400

【コード・トーカー】

ATK/1800

 

二頭の口より黒き稲妻を纏った光線が放たれる。

こんなもん直撃したら俺の体は黒焦げになっているだろう。だが……。

 

「……リバースカードオープン! 罠カード【ダメージ・ダイエット】を発動!」

 

「なに!? あれは最初から伏せていたカード! 温存していやがったか……」

 

「このカードを発動したターン、受ける全てのダメージを半分にする」

 

シャボン玉のような泡が俺の周りにまとわり付き、モンスターから受ける衝撃をやわらげる。

それでもダメージは半分。当然、俺の体には相応の痛みが伴うこととなる。

 

「ちくしょう! 命拾いしたか……。ならば少しでもダメージを上げてやる。速攻魔法【虚栄巨影】を発動! 【魔王竜ベエルゼ】の攻撃力をバトルフェイズ終了まで1000ポイントアップする!」

 

【魔王龍ベエルゼ】

ATK/3400→4400

【コード・トーカー】

ATK/1800

 

ということは、4400から1800を引いたダメージの半分の数値ライフが削られる。

つまり1300ダメージを受けることになる。なんとかこのターンは耐え切ることができそうだ。

 

「くっ……うぅ!」

 

繋吾 LP3000→LP1700

 

【コード・トーカー】が軽減してくれているとはいえ、奴の攻撃で体をえぐるような痛みが襲ってくる。

耐えろ……耐えるんだ……!

 

「まだ攻撃はまだ終わっちゃいない! 【魔王龍ベエルゼ】、2回目の攻撃をやれ!」

 

再び、【コード・トーカー】に黒き光線が直撃し、爆風が広がる。

 

「ぐあああ!」

 

繋吾 LP1700→LP400

 

二度目となる衝撃に耐え切れず、俺の体は宙を浮き飛ばされる。

なんという衝撃だ……。これを何度も受けていたら身が持たないぞ……。

 

「ハッハッハ! いい気味だ! 生意気なてめぇにはお似合いの姿だな!」

 

「……ハァハァ。まだだ。こんなところで……」

 

俺は無意識に胸からかけているペンダントを握り締め、倒れた体を起こそうとする。

こんなところでくたばってるわけにはいかない。

俺はまだ負けていない。あんなふざけた奴相手に何もできずにやられるなんて御免だ。

 

そう自分に言い聞かせ、ふらふらした体をなんとか起こしながら奴を睨みつける。

まだ立てる。まだ俺は負けたわけじゃない。

 

「まだ戦うつもりか? ハハハ! こりゃいたぶりがいがあるってもんだな!」

 

「……俺のために戦ってくれているモンスターのためにも……。俺にデュエルウェポンを貸してくれたあの男のためにも……。俺は負けるつもりはない」

 

「とはいえ残りライフたったの400。リンクモンスターは守備表示に変えられない以上、次のターンがお前のラストターンだ!」

 

確かに、リンクモンスターは守備力が存在しないため、守備表示にしてダメージを防ぐことができない。

次のターン【魔王龍ベエルゼ】をなんとかしなければ戦闘ダメージを受けて俺のライフは0だ。

 

「ハッハッハ、俺はターンエンド。【タイラント・ウィング】の効果で、装備されているモンスターが攻撃したエンドフェイズ時に、【タイラント・ウィング】は破壊される」

 

【魔王龍ベエルゼ】

ATK/3400→3000

 

 

繋吾 LP400 手札2

ーーーーー

ーモーーー

 リ シ 

ーーーーー

ーーー罠ー

ヘルメットの男 LP3100 手札0

 

 



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Ep4 - 小さき力と大きな力 後編

 

繋吾 LP400 手札2

ーーーーー

ーモーーー

 リ シ 

ーーーーー

ーーー罠ー

ヘルメットの男 LP3100 手札0

 

 

攻撃力3000の【魔王龍ベエルゼ】……。あのモンスターをなんとかして突破しなければ俺に勝利はない。

その攻撃力を超えるというのなら……いくらでもやりようがある!

 

ふらつく足を制し、視界に倒すべき相手を見据える。

 

大丈夫だ。この手札、場の状況ならばまだ俺に勝機はある。

俺はそう言い聞かせながら自分自身を鼓舞すると、震える手をデッキの上へと乗せ、力を振り絞るようにしてカードを1枚引いた。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

恐る恐るドローしたカードを眺める。

 

そこには見覚えのある可愛らしい見た目をしたカードがあった。

 

そう、これは今朝ごみ箱から拾ったカード、【虹クリボー】である。

こいつも今日から俺のデッキの仲間だったな……よろしく頼むぜ。

 

だけど、このカードではあの【魔王龍ベエルゼ】は倒せない。

でも大丈夫だ、既に倒す手段は用意できている。

 

「どうした? 何も手がないならターンエンドしろよ!」

 

「黙れ! 俺は、【セカンド・ブースター】を召喚! このカードをリリースすることで、場のモンスター1体の攻撃力をエンドフェイズ時まで1500ポイントアップさせる……! 【コード・トーカー】を対象に発動!」

 

【コード・トーカー】

ATK/1800→3300

 

今度は赤き炎のようなオーラが【コード・トーカー】の全身を纏う。

これで攻撃力は【魔王龍 ベエルゼ】を上回った。奴の切り札とやらを蹴散らしてやる!

 

「ちぃ……【魔王龍ベエルゼ】の攻撃力を上回るか」

 

「バトルだ! 【コード・トーカー】で【魔王龍ベエルゼ】を攻撃! "イノセント・スラッシュ"!」

 

【コード・トーカー】

ATK/3300

【魔王龍 ベエルゼ】

ATK/3000

 

真っ赤燃える炎を纏った剣を構え、その剣は【魔王龍 ベエルゼ】を切り裂いた。

 

「くぅ!」

 

ヘルメットの男 LP3100→LP2800

 

だが、切り裂いたはずの【魔王龍 ベエルゼ】はその場に残り続けていた。

戦闘ダメージは相手に通じたはず。なのになぜだ……?

 

「なに……? 【魔王龍 ベエルゼ】は破壊されたはずじゃ……」

 

「甘えなあ、こいつは戦闘でもカードの効果でも一切破壊されない効果を持っている。そう、お前の【コード・トーカー】みたいに群がらなくてもな、同じ効果を使えるんだよ! 

 これがカードの……"格の差"というやつだ!」

 

「ふざけやがって……」

 

「言っただろう。そんな寄せ集めのカードを束ねたところで、強い力には勝てっこねえ。それは人だって同じだ」

 

「なに……?」

 

「お前みたいな生意気なガキはな……俺には勝てっこねぇってことだよ!」

 

確かに俺は路上生活をしているし、馬鹿にされたって仕方がないことだろう。

だが、俺が大事に使ってきているカードを卑下することは許せない。

 

しかし、言い返すにも状況が状況だ。

奴の言うとおり、俺のカード達ではあの【魔王龍 ベエルゼ】には歯が立たない……。

 

くそ……どうしたら……。

悔しいが今のままでは【魔王龍ベエルゼ】を倒す打開策が見当たらない。

 

「それだけじゃねえ。 【魔王龍 ベエルゼ】がいるときに受けたダメージはな、【魔王龍 ベエルゼ】の攻撃力へと追加できるんだ。へへっ、もう勝負はついたなこりゃあ」

 

【魔王龍 ベエルゼ】

ATK/3000→3300

 

言い返せない俺に対して、追い打ちをかけるようにヘルメットの男は高笑いをし始める。

結果的にこのターン俺が行った戦闘には、ほとんど意味がなかったということだ。

 

「俺は……」

 

手札を見ながら声を詰まらせる。

こんなところで諦めたくはない。だが、このターンもう俺の手札に使えるカードはなかった。

つまり……俺に残された選択肢はターンを終了することしかない。

 

「ターンをーー」

「ちょっと待ちなさい!」

 

ターンの終了を宣言をしようとした時、聞き覚えのある女性の声が聞こえ、俺の言葉は遮られる。

 

「そのデュエルウェポン……。間違いなく左近さんのもの……。でもあなたは国防軍の人じゃない……?」

 

その声に思わず振り向くと、そこには黄金色に煌めいた長髪に透き通る青色の瞳をした女性が立っていた。

綺麗に整った輪郭をした顔であり、お嬢様のような雰囲気と言ったらいいだろうか。非常に育ちのよさそうな印象を受ける。

しかし、そんな外見ながら胸元には"SFS"と刻まれている軍服を身につけており、その左腕にはデュエルウェポンが装着されていた。

 

「お前は……先ほど"コレ"越しに話しかけてきた女か?」

 

「えぇ……。そうですけども……。あなたはなんなのですか? そんなボロボロの格好をして……」

 

金髪の女は俺の服装を見ながら呆れたような声をあげる。

近場の公園で水洗いをしているとはいえ、しばらくの間着続けている俺の服はあちこちが破れたりしており、見るからにボロボロだ。

路上生活しているから仕方がないだろう。

 

だが、彼女の反応こそが一般的な人から得られる反応だろう。

この国にとって俺のような存在は、生きるべき権利を失っているに違いないのだからな。

 

「見てわかるだろう。俺はこの街の住民で……路上生活をしている」

 

「はぁ。住民というのは本当みたいですね……。それなら早く避難してください。ここは危険です」

 

そんなことは百も承知だ。こっちは死ぬ気で戦っているんだ。

例え不利な状況であろうと決してあきらめるつもりはないし、テロリストに背を向けるつもりは毛頭ない。

 

「おいおい、デュエルのジャマしないでいただこうか。そこのねぇちゃんよお?」

 

ヘルメットの男がデュエルウェポンをかざすと、金髪の女に向けて光線のようなものが放たれる。

 

「くっ!」

 

金髪の女は咄嗟にデュエルウェポンを構え、バリアのようなものを展開すると、その光線から身を守る。

 

「なんだ? 今のは!?」

 

「デュエルウェポンによるデュエルが一度始まれば第三者は一切介入ができません……デュエル中はデュエルモンスターズの力を最大限引き出されます。一度こうなってしまえば下手に介入すれば過剰な反発現象が発生するんです。

 それが今の現象の正体。それを私はカードを使って身を守ったまでです。理解できましたか?」

 

「なるほど……そうなのか」

 

先ほどの光線はデュエルモンスターズの反発現象……。

それほどまでに強力な力があるのか……ますます恐ろしい代物だな。このデュエルウェポンというものは。

デュエルモンスターズの力に対してはデュエルモンスターズの力でしか対抗できない。その意味が改めて分かった気がする。

 

「そんなことも知らずにデュエルなんて……あなたはふざけているのですか? それよりもデュエル中だったのなら早く言ってください。状況は……っと」

 

金髪の女はデュエルウェポンを眺めながら残念そうな声をあげる。

 

「ちょっと……。負けそうじゃないですか」

 

余計なお世話だ。

お前に言われなくても劣勢な状況であることは俺が一番よくわかっている。

 

「まぁ……そうだな」

 

「そうだな、じゃないですよ! はぁ、仕方がありません。ならさっさとデュエルに負けてください。サレンダーでもいいですから」

 

「はあ?」

 

こいつは何を言っているんだ。正真正銘の馬鹿なのか。

サレンダーとは、自ら負けを認め敗北をすることを指している。

デッキの上に手を置き、サレンダーと宣言すれば、デュエルを放棄し、自身の敗北扱いでデュエルが終了するのだ。

 

すなわちそれは、デュエルウェポンを用いてる現在のデュエルから考えると自殺行為にほかならない。

俺に死ねと言っているようなものだ。

 

「何を言ってるんだお前は」

 

俺の発言を聞くと、金髪の女は呆れたようにため息をついた。

 

「どうやらデュエルウェポンの仕組みについて本当に何も知らないようですね」

 

「知るわけがないだろう。そもそもこれは一般人は持てない代物だろう」

 

「いちいちうるさい人ですね。いいですか。デュエルウェポンにおけるライフポイントは言わばデュエルウェポンの耐久値のようなものです。

 デュエルで負けてライフポイントがなくなればもうデュエルモンスターズの力を具現化することができなくなります。

 つまり、デュエルウェポンが軽減してくれていた攻撃を防ぐことができず、痛みを軽減することもできなくなる……。

 力が失われた直後に軽減されていた痛みに襲われることにはなりますが、無防備になるだけですぐに"死ぬことはありません」

 

なるほど……どうやら無防備になるだけでライフが0になったからといって死に至るわけではないということか。

ということは……勝ち目のないデュエルに無駄に時間を割かないでくれということを言いたいのだろうか。

 

かなり厳しい状況ではあるが、俺はまだこのデュエルを諦めたわけじゃない。ふざけやがって。

 

「つまり、デュエルを続行することが時間の無駄だってことか?」

 

「わかっているのなら早くサレンダーしてください。すぐにわたしがあの男を始末しますから。しばらく体が痛むかと思いますが、あなたの命は助かりますよ。」

 

冷ややかな目で俺のことを見ながらも、落ち着いたトーン話す女。

助ける気はあるんだろうが、あまりいい印象は持たれてないんだろう。

 

しかし、すぐには死なないとはいえ、俺としては負けと決まったわけでもないデュエルを放棄したくはない。

それにこいつがもしヘルメットの男に負けたらどうするんだ。

それこそ俺はこいつの言うことを聞いたせいで死ぬことになる。

俺は死ぬ覚悟で自らテロリストと戦う道を選んだんだ。こいつの話を聞く必要はない。

 

「なんで俺があんたの言うことを聞かなきゃいかないんだよ。口出し無用だ」

 

呆れた俺はデュエルを続行するべく、再びヘルメットの男へと視線を移す。

 

さてと……しかし、このままでは本当に負ける。

手札をもう一度確認してみるか……。

 

ーーー

【虹クリボー】

【炎竜星ーシュンゲイ】

ーーー

 

もうモンスターは召喚してしまった。

こいつらを守備表示で出すこともできない。

そういえば今朝拾った"コイツ"って効果なんだったっけ……。

 

俺は改めて【虹クリボー】のカードテキストを確認する。

待てよ……。こいつの効果があればまだ俺にチャンスが残されているかもしれない。

こいつの可能性にかけるか……!

 

「俺はターンエンドだ」

 

繋吾 LP400 手札2

ーーーーー

ーモーーー

 リ シ 

ーーーーー

ーーー罠ー

ヘルメットの男 LP2800 手札0

 

「なにもしないでターンエンドするくらいならサレンダーしてくださいよ。本当に物分りの悪い人ですね。馬鹿なんですか?」

 

俺の行動にイラついたのか女が怒り気味に突っかかってくる。

 

「頼むから黙っていてくれ。これは俺が望んで仕掛けたデュエルなんだ」

 

「はぁ……わかりましたよ。本当に手間がかかりますね……仕方がありません。班長に連絡だけしておこうかしら……」

 

金髪の女はそう言うと、自らのデュエルウェポンを操作し始めた。

 

「班長、こちら佐倉です。信じ難いとは思いますが、住民がテロリストとデュエルをしている現場に遭遇しました。このままでは敗北する可能性が高いです。救助の手配をお願いします」

 

救助……? その言葉を聞くと少しながら安堵する。

少なくともこの女は俺を見殺しにするつもりはないようだ。

 

しばらく様子を見ていると女は近くの建物に寄りかかり、こちらの様子を覗っていた。

どうやらデュエルを止めることは諦めてくれたらしい。これならデュエルに集中できるだろう。

 

「ヘッ……。このままあのガキを潰して、そこの女も仕留めれば一日で3人の手柄だ! これなら昇進も間違いねぇ! いくぞ俺のターン! ドロー!」

 

ヘルメットの男はご機嫌そうにカードを引いた。

 

「さぁて、くたばる覚悟はできたか?」

 

「ここでくたばるのはお前の方だ」

 

「へっ、まだそんなこと言う余裕があるか。いい加減くたばりやがれ! バトル、【魔王龍 ベエルゼ】で【コード・トーカー】を攻撃! "マリシャス・ストリーム"!」

 

もはや見慣れた黒き光線が再び【コート・トーカー】を襲った。

俺は目を瞑り、静かにその攻撃を待ち受けていた。

 

「はぁ、まったく……。頭の悪い人はこれだから……」

 

金髪の女の残念そうに呟く声が聞こえる。

大きな音が鳴ると同時に爆風が広がり、あたりは煙が立ち込めていた。

 

繋吾 LP400

 

「なにィ! なぜライフポイントが残っている!」

 

俺は攻撃を受ける直前に咄嗟に手札のカードを一枚魔法・罠ゾーンへセットしていた。

 

「お前の【魔王龍 ベエルゼ】をよく見てみるんだな」

 

「ん……? なっ!」

 

【魔王龍 ベエルゼ】には白き縄のようなものが巻きつけられ、その頭上には白い妖精が浮いている。

そう、【虹クリボー】の姿だ。

 

「俺は【魔王龍 ベエルゼ】が攻撃してきた時、手札から【虹クリボー】のモンスター効果を発動した。このカードは相手が攻撃してきた時、そのモンスターに手札から装備カードとして装備でき、装備されたカードは一切攻撃することができなくなる」

 

「くぅ……姑息な真似しやがってぇ……!」

 

助かったぜ、虹クリボー。お前を今日拾っていなければ俺はここで負けていた。

これで俺には次のターンというチャンスが残された。

せっかく紡いでくれた勝利のチャンス。無駄にはしない。

 

「なんだ……まだ諦めてなかったのですね。」

 

「おい、誰も諦めるなんて一言も言ってないだろ……」

 

相変わらず冷ややかな目線を向ける女に俺は思わずため息をつきながら答えた。

 

「だがなァ、【魔王龍ベエルゼ】が倒されたわけじゃねぇ。こいつを倒せなければお前が負けるのは変わらねぇんだよ。俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

繋吾 LP400 手札1

ーーモーー

ーモーーー

 リ シ 

ーーーーー

ーー裏罠ー

ヘルメットの男 LP2800 手札0

 

耐え忍んだのはいいが、あの【魔王龍ベエルゼ】をどう倒す……。

戦闘でも効果でも破壊されないだけでなくその攻撃力は3300。非常に強力なモンスターと言える。

だけど、奴を突破する方法は……ないわけではない!

このドローに全てをかける……!

 

「虹クリボー、お前がくれたチャンス……勝利へ繋いでみせる。俺のターン……!」

 

俺はデッキトップに手を当てると、力強くカードを引いた。

 

「ドローッ!」

 

ドローした直後に俺よりも先にまずヘルメットの男が声をあげる。

 

「へっ、トラップ発動! 【砂塵の大竜巻】! 場の魔法・罠カード1枚を破壊する。消え去れ目障りな【虹クリボー】!」

 

大きな竜巻が発生すると共に、【魔王龍 ベエルゼ】に巻きついていた白き妖精は砕け散ってしまった。

これで俺の守りの一手は崩されることとなった。

 

「これでは、このターン【魔王龍 ベエルゼ】をなんとかできなければ、確実に負けますね……」

 

冷静に状況を分析をしている金髪の女。

後がないことはよくわかっているさ。

少しは俺の応援をしてくれてもいいと思うのは野暮か。

 

そんなことを考えながら恐る恐る引いたカード確認する。

視界に映るそのカードを見て、俺の中に一つの戦術が浮かび上がる。

 

「その身に今までの罪を刻む覚悟はできたか? お前」

 

「はぁ? 何を言ってんだ?」

 

ヘルメットの男は俺の発言が想定外であったか呆れた声を漏らす。

 

「お前の守りの綱はもうないんだぜ? このターンその少ない手札で俺を倒せるっていうのかよ!」

 

「あぁ、勝利への道は"繋がった"! 俺は魔法カード【死者蘇生】を発動! 墓地からモンスター1体を特殊召喚する! 蘇れ、【光竜星ーリフン】!」

 

「ここで死者蘇生だと!?」

 

ーーー

【光流星ーリフン】✩1 光 幻竜 チューナー ③

ATK/0

ーーー

 

神々しい光を放ちながら、小さき竜が出現する。

 

「せっかくの死者蘇生も出てくんのはそんな雑魚モンスターかよ! それで一体なんになるんだ?」

 

「雑魚なんかじゃない! この小さきカード1枚1枚を結ぶ"繋がり"が大きな力を砕く架橋となる! それが俺の学んできた……俺の信じるデュエルだ!」

 

「ちっ、何をするつもりだ……?」

 

「現れよ! 心を繋ぐサーキット! 俺は【ワンショット・ブースター】1体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! リンク1【リンクリボー】!」

 

 

ーーー

【リンクリボー】リンク1 闇 サイバース ②

ATK/300 下

ーーー

 

「2体のリンクモンスターが並んだ……? あの人、何をするつもりかしら」

 

俺の場にはEXデッキから特殊召喚されたモンスターが2体。今ここに条件は整った。

父さんが受け取った唯一無二の大切なカード、俺に力を貸してくれ……!

 

「これが俺のモンスターが繋げてくれた希望の架橋! 再び現れよ、心を繋ぐサーキット! 俺は場のリンク2の【コード・トーカー】と【リンクリボー】の2体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン!」

 

「リンク召喚! 来い、リンク3! 繋がる心の象徴! 【セフィラ・メタトロン】!」

 

ーーー

【セフィラ・メタトロン】リンク3 光 幻竜 ①

ATK/2500 左下 下 右下

ーーー

 

神々しき黄金の鎧を身に纏い、背中には白き翼を羽ばたかせる騎士のようなモンスターが目の前に出現する。

カードのイラストだけでしか見たことがなかったが、いざ目の前で召喚してみるとなんとも感動するな。

その美しい姿に心が洗われるようだ。

 

「くっ。リンク2のモンスターを素材にしたことで、一気にリンク3まで繋げやがったか……。だが、残念ながらその攻撃力は【魔王龍 ベエルゼ】に及ばねぇな!」

 

リンクモンスターを素材としてリンク召喚する場合、そのリンクの数までリンク素材として使用ができる。

したがって、リンク2の【コード・トーカー】は2体分のモンスターとして取り扱われたわけだ。

 

「こいつは仲間の力を繋ぐカード……その意味をお前に教えてやる……!」

 

「ハッ、くだらねぇ。雑魚モンスターが群れたところで、【魔王龍 ベエルゼ】は戦闘でも効果でも破壊されねぇ。無駄なんだよ」

 

「じゃあ試してみるまでだ。さらに俺は【炎竜星ーシュンゲイ】を召喚!」

 

ーーー

【炎竜星ーシュンゲイ】☆4 炎 幻竜 ④

ATK/1900

ーーー

 

「おいおい、悪あがきもいい加減にしろよ!」

 

ヘルメットの男は少し焦りを感じているのか、余裕なさげな様子で叫んでいる。

だが、容赦するつもりはない。

 

「少しは黙っていろ。俺はレベル4の【炎竜星ーシュンゲイ】にレベル1の【光竜星ーリフン】をチューニング!」

 

「ちっ、シンクロ召喚か……!」

 

「"生誕する意思の力よ! 星々の呼応の下に具象せよ! シンクロ召喚! 来い、【源竜星ーボウテンコウ】!"」

 

ーーー

【源竜星ーボウテンコウ】☆5 光 幻竜 ②

DEF/2800

ーーー

 

続いて神々しき光を纏った神秘的な竜が空より舞い降り、俺の前に佇む。

 

「なんだよ……びびらせやがって……所詮守備表示じゃねえか! それじゃなにもーー」

 

「今ここに準備は整った!」

 

「なに!?」

 

「俺は【セフィラ・メタトロン】の効果発動! 1ターンに1度、自分と相手のEXデッキから特殊召喚されたモンスターを選択し、そのモンスター達をエンドフェイズ時まで除外する! 俺は【源竜星ーボウテンコウ】とお前の【魔王龍 ベエルゼ】を選択! "コネクター・サブリメイション"!」

 

【セフィラ・メタトロン】は手に持つ金色の杖を空へ掲げる。

すると選ばれた2体のモンスターは足元から徐々に消滅し始める。

 

「ば、馬鹿な……! 破壊ではなく除外……だと……!?」

 

ヘルメットの男は驚きのあまり、その場に膝をついて【セフィラ・メタトロン】を見つめていた。

よほど【魔王龍ベエルゼ】に自信があったのかもしれない。それがフィールドから消えていくのにショックを受けているようだ。

 

「完全無敵と思われた【魔王龍ベエルゼ】もあくまで"破壊"がされないだけ。除外を用いるとは考えましたね」

 

金髪の女は腕を組みながら感心そうにデュエルの様子を見ていた。

俺のデッキで思いつく突破方法はそれしかなかったからな……。

 

「それだけじゃない、フィールドを離れたことで【源竜星ーボウテンコウ】の効果発動! デッキから竜星モンスター1体を特殊召喚する。来い、2体目の【炎竜星ーシュンゲイ】!」

 

ーーー

【炎竜星ーシュンゲイ】☆4 炎 幻竜 ④

ATK/1900

ーーー

 

「これでは……攻撃力の合計は4900……!?」

 

繋吾 LP400

ヘルメットの男 LP2800

 

デュエルに敗北することを悟ったのか、奴の声は震え、先ほどまでの勢いは消えていく。

 

「お前には俺が受けた倍の痛みを受けてもらう。いけ、【炎竜星ーシュンゲイ】、ダイレクトアタック! "ボルケーノ・フレイム!"」

 

「がはっ!」

 

ヘルメットの男 LP2800→LP900

 

「ぐ、いてぇ……。くぅ……悪かった……! 俺が悪かったから攻撃をやめるんだ! おい、頼む!」

 

ヘルメットの男は敗北を確信したのか、四つん這いになりながら命乞いを始める。

どこまでどうしようもないやつだなこいつは。

なにを言われようと、ここで攻撃をやめるつもりはない。

左近という男のためにも……何より俺の目的のためにもな。

 

「……なぁ、お前に聞きたいことがある」

 

「ハァ……ハァ……なんでも言うからよ……! だから見逃してくれよ!」

 

「今回の大規模な街の襲撃。5年前にあった襲撃とは何か関係あるのか? ここまでの規模、滅多にあるものじゃない。」

 

「5年前……? 知らねえ。その時俺はまだ……この組織にいなかった」

 

ヘルメットの男は必死に首を横に振りながら答えた。

どうやら嘘はついていなさそうだ。こいつは本当に組織の活動については何も知らない……。

 

「……じゃあ、お前がいる組織の中で【覚醒の魔導剣士】というカードを使うやつはいるか?」

 

「【覚醒の魔導剣士】……? そんなカードは知らねぇ……」

 

どうやらこいつに話をしても何も得られるものはないらしい。

さっさと終わらせるか。こんな下っ端に割いている時間なんてない。

 

「ならばお前に用はない。今日の襲撃の罪をその身に刻むんだな」

 

「お、おい馬鹿……やめろォ……!」

 

「【セフィラ・メタトロン】で、ダイレクトアタック! "ヴェンジェンス・ディバイニング!"」

 

【セフィラ・メタトロン】の両腕から、白く輝く剣が現れるとそれをヘルメットの男の体を目掛けて突き刺した。

 

「ひっ……ぐおあああああ!」

 

ヘルメットの男 LP900→LP0

 

たまらずヘルメットの男はその衝撃で飛ばされ、後ろにあった建物へ衝突すると突っ伏すようにして倒れ込んだ。

 

勝った。

俺はデュエルに勝ったんだ……。

5年前から恨み続けていたテロリストに。

 

だけどなんだ……。全然満たされない。

5年前から俺の記憶に渦巻く後悔の記憶。

そして、テロリストに対して感じていた復讐心。

俺を蝕み続ける感情はまったく晴れることはなかった。

 

それもそのはずだ。結局、こいつを倒したところで何も変わっていない。

5年前の真相もわからないし、父さんを殺したやつの手がかりもつかめていない。

 

「こんなんじゃ意味がない……。この程度じゃなにも変わりゃしない……」

 

もっとだ。もっとデュエルテロ組織の人間を倒しまくって、情報を手に入れないと。

今の俺には5年前と違って力がある。デュエルで戦うことができる。

例え、あの憎き青年が相手だろうと、今の俺なら戦える。

 

俺はデュエルに勝った余韻からか、不思議と自信に満ち溢れていた。

今の俺ならこの心を蝕む負の感情を解消するだけの力がある。

力を得た事実と、デュエルに勝利した慢心で俺から死の恐怖というものが消え去った結果、俺は自分自身の感情をコントロールできなくなりつつあった。

 

そして、俺は無意識のうちにヘルメットの男に近づくと、その胸ぐらを掴み叫んでいた。

 

「おい! とっととお前の仲間を呼べ! お前らを片っ端から全てぶっ倒してやる! おい、聞いてるのか!」

 

そう叫びながら俺は奴の頬を殴る。

 

「うっぐ……」

 

「ふざけてるんじゃねぇぞ……おい!」

 

男の体を揺らしながら怒鳴り続けるが、男は瀕死状態であるのかまともな返事もできないようであった。

さっきまでの威勢はどうしたんだ! クソ!

 

向こうが来ないというのならこっちから出向いて戦うまでだ。

俺は5年間、ずっとこの時を待っていたんだ! テロリストに復讐できる機会をな!

 

あの青年と同じ組織の人間は一人たりとも許すつもりはない。

片っ端から俺がぶっ潰してやるよ……そして、かつての父さんの無念を晴らす。例えこの身がどうなろうとも!

 

「ちょっとあなた! それ以上はやめてください。あなたに何があったのかは知りませんが、このままその人を殺すわけにはいかないんですよ」

 

金髪の女が俺を止めるべくヘルメットの男から引き剝がそうとする。

 

「お前に何がわかる! こいつらがいるせいで俺は……」

 

感情が込み上げ、俺は思わずその女に拳を振り上げようとする。

だが、金髪の女は俺の拳に動じずに鋭い眼差し俺へ向けていた。

 

その様子を目の当たりにして、俺は多少ながら冷静さを取り戻すと、その振り上げた拳を下げた。

 

「だからと言ってこのままだとあなたは人殺しになるんですよ? 今は感情を抑えてください。その人には正当に罪を償っていただきます」

 

警察か何かに突き出すってことか。

どうせあいつには何を聞いても無駄だ。あいつのことはどうだっていい。

俺は軽く舌打ちをすると、仕方なくその男から手を離し突き飛ばした。

 

「あなた……。泣いているのですか」

 

「えっ?」

 

自らの目元に手を当てると涙を流していたことに気が付く。

知らないうちに泣いていたのか俺は。

 

「人前で泣くなんて情けない人ですね」

 

「お前……少しは人の気持ちを考えてくれ」

 

「あいにく、私はあなたを信用しておりませんので。ですが、救助が来るようには手配しておきました。それで十分でしょう」

 

「……はぁ。わかったよ。お前には期待した俺が悪かった」

 

「結衣、遅くなってすまない。怪我をしたのはどこにいる?」

 

結衣と呼ばれた金髪の女の背後には"SFS"と刻まれた制服を着た赤髪の男と銀髪の男が立っていた。

あの女、結衣って名前なのか。性格の割にはかわいらしい名前をしているな。

 

「赤見班長……と上地くん。おつかれさまです」

 

結衣は深々とその二人へ頭を下げる。

 

「なんだ? その結衣ちゃんの後ろにいるきったねぇ格好をしたやつは?」

 

銀髪の男は俺の姿を見ると半笑いしながら言った。

汚くて悪かったな。こっちは生きるので精いっぱいなんだ。

 

「あぁ、この人が左近さんのデュエルウェポンを持っていた住民の方です」

 

「今の状況を見るに……。まさかデュエルに勝ったのか?」

 

今度は赤髪の男が腕を組みながら言った。

やはり一般人で勝利することは難しいものなのだろうか。

 

「ええ。最初はどうなることかと思いましたが、なんとかテロリストを倒しましたよ。ですが……」

 

結衣はそう言うと、俺に視線を見ながら言葉を続ける。

 

「ご覧のとおり、彼もかなり傷を負っています。このテロリストと同様に本部へ搬送した方がよいかと思いますが……。どうでしょう赤見班長?」

 

アドレナリンが効いていたのかさっきまでは大丈夫だった体が徐々に痛み始めてくる。

言われて気づいたが、けっこう体に負担がかかっていたんだな……。

そういえば、残りライフポイントも400しかなかったか。

 

赤見と呼ばれた赤髪の男は、俺の様子を眺め頷くと、結衣へと視線を向け言葉を続けた。

 

「……そうだな。救助護衛班のものに伝えておこう。それはそうと結衣、左近は見つかったのか?」

 

「あっ……それは……」

 

結衣は思い出したかのように言うと、赤見から目を逸らし、俺のことを睨みつけてきた。

おいおい、忘れてたのはお前じゃないか。素直に謝れよ。

 

「……なんだよ?」

 

「この人が居場所を教えてくれなくて困っていたのです」

 

「お、おいお前……」

 

こいつ平気で責任を擦り付けてきやがった……!

デュエルに夢中でまったくその件については触れてこなかったじゃないか!

 

「さて、左近さんをどこへやったのですか。いい加減教えてください」

 

反論しようとしたが、結衣に先手を打たれる。

仕方がない。話がややこしくなるだけだ。ここは素直に従っておこう……。

 

「……あそこの建物の影だ。俺がデュエルウェポンを借りた時には既にデッキがなくて、生きてなさそうだったけどな」

 

「なるほど、デッキがないってことは吸収されていたか……。やはり今回の襲撃事件は"ジェネシス"の仕業らしいな」

 

「"ジェネシス"……?」

 

「あぁ、まぁ……そういうテロ組織があるんだ。さて、結衣と颯は左近の救助を頼む。君はここでわたしと待機だ」

 

「了解しました」「わかりましたよー」

 

結衣と颯と呼ばれた銀髪の男は周辺の建物の残骸をかき分けながら捜索を始めた。

 

「そんな……俺はまだ奴らを……!」

 

まだ俺にはやるべきことがある。

だけど、そんな俺の意思に反して、足がふらつき、徐々に視界がぼやけてきた。

 

踏ん張ろうとしたがそう長くは持たず、俺はその場に倒れ込んでしまった。

 

「無理はするものじゃない。そこでしばらく休むといい……」

 

その言葉を最後に俺の意識は遠のいていった。

 



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Ep5 - Special Forces Savior

――襲撃のあった翌日だろうか。

 

意識がまだはっきりしないが、近くで誰かが会話しているのが聞こえる……。

 

「そいつの怪我の具合はどうだ?」

 

「命に別状はないですが、まだ目を覚ましませんね……。まぁ、しばらくここで寝かせておけば大丈夫でしょう」

 

「そうか……。ありがとう」

 

「まったく、こんな少年拾ってくるなんて赤見さんも物好きですねー」

 

「まぁそういう性格でね。よく言われるよ」

 

「うちもそんなに金に余裕ないんですから、ほどほどにしてくださいよ。それでは失礼します」

 

会話が終わり扉が開くような音が聞こえた。

おそらく会話をしていたいずれか一人が部屋の外へ出て行ったのだろうか。

 

「随分と綺麗にしてくれたんだな、治療班のやつ」

 

俺のことを言っているのだろうか。

この近くにいる人は誰なのだろう。そろそろ起きなければ……。

 

起きようと体に力を入れようとするが、まだ体は寝ているかのようにうまく動かせない。

しばらくもがいていると、わずかに瞼を動かすことができた。

 

寝ている自分の体が視界に映る。

白く綺麗な服を着ており、清潔感溢れる姿だった。

父さんからもらったペンダントもちゃんと胸元についていた。

 

「エメラルドグリーン。なるほど、綺麗なもんだ」

 

やがて意識がはっきりしてきた。

声の主の方に目を向けると、それは見覚えのある顔だった。

 

「お目覚めかな? 君?」

 

先日の襲撃で助けに来てくれた赤髪の男だった。

確か……赤見とか呼ばれていたか。

 

「ここは……」

 

あたりを見渡すと自分が寝ているベッドの他は椅子と机が置いてあるだけの殺風景極まりない部屋であった。

 

「ここは民間軍事組織のSFSってとこだ。お前さん、テロリストとデュエルしてたの覚えているか?」

 

あのテロリストとのデュエル後、倒れた俺の面倒をここで見てくれたのか。ありがたい話だ。

 

「あぁ、鮮明に覚えてる。お前は……デュエルがおわった後来たやつだったな」

 

「あぁその通り。おっと自己紹介がまだだったな。私はSFSに所属している赤見 仁という者だ。君は?」

 

赤見という男は右手を差し出しながら言った。

 

「俺は遊佐 繋吾……です」

 

俺はそれに応えるように右手を差し出し握手を交わした。

 

「遊佐……繋吾か。お前、家はどこだ? どうやら怪我も大したことないようだし、このままならすぐに家に帰っても大丈夫らしい。早く帰りたいだろう?」

 

「家ですか……。家なんてものはもう5年前からないな」

 

「……ということはしばらく路上生活ってことか?」

 

「まぁそういうところです。色々あって……」

 

わざわざ詳細を言う必要までもないだろう。

思い出すだけで当時何もできなかった自分に苛立ってくるしな。

 

そういえば、この人は今回のテロ組織について何か知ってそうだったな。

俺の話は置いといて少し聞いてみるか。

 

「そんなことよりジェネシス……だったか。あれはテロ組織の名前か何かなんですか?」

 

「あぁ、気になるか?」

 

気になるに決まっている。

それを知るために俺は戦っていたんだ。

 

「はい、奴らはかなり大きな規模の組織のように見えたけど……」

 

「そうだな。我が国を荒らしまわってるテロ組織の中じゃ一番の大手かもな」

 

赤見は椅子から立ち上がり窓際へ移動すると話を続ける。

 

「さっき5年前って言ってたな。5年前に起きた大規模襲撃事件。あれもジェネシスの仕業だ」

 

やはり。俺の予想は当たっていたようだ。

今回の襲撃と5年前の襲撃は同じ組織によるものであったらしい。

それでも、俺が戦ったあのヘルメットの野郎は何も知らなかった様子だったけどな。

 

「やはり、そうですか」

 

「お前……5年前の襲撃で家をなくしたのか? 家族は?」

 

「5年前……俺はなにもかも失いました。家も金も……そして、家族も」

 

「それは気の毒な話だな……」

 

「だけど、当時の記憶。途中で誰かに襲われて……最終的にどうなったかは記憶にないんだ。次に覚えているのは路地裏で目を覚まして……。そして路上生活が始まった……」

 

俺が覚えている記憶。最後に誰かに襲われてからの記憶がまったくない。その俺に暴力を振るった人物が誰なのかもだ。

だけど、そいつは俺を殺そうとはしなかった。それが謎だ。

それに、あの後父さんがどうなったのかもわからない。

 

今の俺にとっては5年前の襲撃の真相がどうだったのか。

そして、俺はなぜ路地裏で生きていたのか。それが知りたくてしょうがないんだ。

 

「……なるほど。襲われたけど殺されまではしなかったってことかもしれないな」

 

いやいやそんな話があるか。

テロリストにそんな優しいやつがいたら、デュエルテロで被害など起きやしない。

 

「いや、あの時俺はテロリストに見つかったはずだ。デュエルウェポンも持っていない俺をわざわざ生かすことなんてあり得ないと思う……」

 

「……なにか不都合でもあったのかもしれない。まぁ、5年前の話じゃ今から考えてわかるものじゃないな」

 

赤見は俺から少し視線を反らしながら言った。

まぁ確かに今じゃいくら考えても答えは見つからない。

その"当事者"にでも会えない限りはな。

 

「さてと、繋吾。その話じゃお前、あの時戦っていたのはテロリストに対する復讐か何かか?」

 

鋭いなこの人は。今回の俺の行動が今の話でわかったみたいだ。

 

「あぁそうだ……。俺の人生をめちゃくちゃにした奴らが憎いから戦った。だけど、何も変わらなかった。俺自身、どうしたらいいのかわからないんだ」

 

昨日のデュエルだってそうだった。デュエルでテロリストを倒すだけならわかりやすい話。

だけど、俺がしたいのはそうじゃない。一体どうしたらいいんだろう……?

 

「そうか。ならSFSに入らないか? 帰る家もないんだろ?」

 

「なに……?」

 

俺がSFSに……。悪くはない話だが、いきなりこんな俺が入っても大丈夫なのか?

それにSFSって具体的にどういうことしてるのかあまり知っているわけじゃない。

 

「Special Forces Savior……略してSFS。デュエルテロ組織の壊滅を目的として起業した民間軍事組織だ。今から8年前、国家によって施行された決闘防衛法によって、デュエルウェポンに対する自己防衛、国家指定テロ組織に対する攻撃行為については、武力行使が認められるようになった。その中で生まれた組織がSFSだ」

 

そんな法律があってできた組織だったのか。

8年前だと……俺は小学生だから政治的な話はまったく興味がなかったな。

 

「つまり、俺の復讐とSFSの目的……。利害が一致しているとでも言いたいのですか?」

 

「そういうことだ。それにSFSは原則寮に寝泊りしながらの活動となる。帰るところもないお前なら宿も確保できて悪くない話だと思うが」

 

寝れる部屋……喉から手が出るほど欲しい。

それに一応給料ももらえるはずだ。まともな飯が食えるようになるというだけでも最高だ。

 

だけど、こんなホームレスの俺をわざわざ引き受けるなんてSFS側になんのメリットがある。

デュエルの腕前が飛び抜けて優秀なわけでもないし、SFSからすれば出費が増えるだけのような気がする。

 

「まぁ確かに俺にとっては嬉しい話です。だけど、それであなたにはなんのメリットがあるのですか? 俺みたいな厄介人引き取って……」

 

それを聞くと赤見は少し笑いながら答えた。

 

「人手不足……とでも言ったらいいか?」

 

「えっ?」

 

「君もご存知のとおり、我が班員の左近氏が先日の事件で意識不明の重体となっている」

 

あの人意識不明なのか。ってことは一応まだ生きてはいるんだな。よかった。

だけど、俺が駆け付けた時はもうどうしようもなかった。

 

「あれは……」

 

「大丈夫だ、事情はわかっている。ジェネシスはデュエルに負けた者の生命エネルギーをデッキと共に吸収し、集めるといった行為を行っているようなんだ。その被害を受けた人間は、まるで魂が抜かれたように動かなくなってしまう」

 

左近という人物がヘルメットの男になされた行為。

デッキが消失し、その後ぐったりと倒れてしまった様子を考えると、まさに"吸収"されていることであることがわかる。

あの時行われていた行為がどういうことなのかようやく理解することができた。

それに父さんがやられていた行為もなんとなく似ていたような……。

 

「それにだ。お前はテロリストを見事デュエルで打ち倒した。デュエルの素質がある。だからこれはスカウトだと思ってもらえればそれでいい。それが理由だと言ったら不服か?」

 

「いえ、わかりました。左近さんの件もあります。こんな俺がSFSに入っても問題ないのであれば……」

 

唐突な話ではあったが、ここで断ってもこの先何かがあるわけではない。

俺のデュエルの力がどこまで通用するのか。試してみるのも悪くないだろう。

なんといっても俺の人生を狂わした奴へ一矢報いるチャンス、逃す手はない。

 

「そうか、ありがとう繋吾。なら、社長のところへ挨拶に行こう。話は私からするから安心してくれ」

 

「わかりました」

 

社長か……。一体どんな人なのだろう。

そんなことを考えながら俺は赤見さんについていく。

 

 

ーーエレベーターに乗り込み最上階へ行くと、長い廊下の奥にひと際大きな扉があった。

 

「ここがSFS司令室だ。入るぞ」

 

赤見さんがそう一歩踏み出すと、その扉は自動で開きだす。

中を覗くと一面には数多のスクリーンが広がっており、様々な機械設備が張り巡らされている。

監視カメラ映像からよくわからない表やグラフ。デュエルモンスターズのカードの画像等、色々なものが表示されていた。

 

その中央には立派な椅子に座る白髪の男がおり、その両側には円形状に多くの人が並び、PCを忙しそうに操作をしていた。

 

「失礼します」

 

赤見さんがそう言うと、白髪の男は椅子を回転させながら振り返る。

 

「早かったではないか赤見くん。その子か。新規入隊をさせたいと言っていたのは」

 

「えぇ、彼は遊佐 繋吾。街の住人ながらテロリストをデュエルで打ち倒す確かな腕を持っています」

 

「お初にお目にかかります。」

 

この人が社長さんか。年齢は50歳前半くらいだろうか。

俺は丁寧にその人物に頭を下げる。

 

「私はSFSの社長を務めている生天目というものだ。SFSについての説明は赤見から聞いているかな?」

 

「はい、デュエルテロ組織の壊滅を目的とした民間軍事組織であると……」

 

「あぁ、ここ近辺の民間軍事組織の中でもうちは大規模な方でね。総社員数300名、そのうちデュエルモンスターズを使用した戦闘部隊員については150名程だ」

 

150人もデュエルする人材がいるのか。さっき赤見さんは人手不足とか言ってたが、全然そんな風には思えない。

まさか嘘だったのか……?

 

「随分と多いな……。赤見さんの話によると人手不足と言ってましたが……」

 

赤見さんの様子を見ると、俺の視線に気が付いたのか赤見さんは口を開く。

 

「デュエル戦闘部隊にもいくつか種類があるんだ」

 

「種類?」

 

「あぁ、まずは戦地に出動しテロリストと交戦する"決闘機動部"、SFS本部を防衛する"駐屯警備部"、最後に本部である"開発司令部"……つまり生天目社長の直属の部隊の3つだ」

 

「活動目的が違うといった感じだな。そのどれかが不足してるってことですか」

 

「簡単に言えばそうなるな。3つの部の中でも決闘機動部にはさらに細かく5つの部隊がある。戦闘の指揮や重要な戦闘任務を受け持つ"決闘精鋭班"、テロリストと真っ向から戦闘、住民救助活動を行う"決闘機動班"、戦場の状況把握等や戦闘補助を行う"偵察警備班"、SFS隊員の手当や住民救助を行う"救助護衛班"、そして最後に……。特殊な任務が与えられる"特殊機動班"の5つだ」

 

随分と色々な班があるようだが、この150名の人がうまく配分されていないということなのか。

 

「なるほど……。それでどこの班員が足りないんだ?」

 

「そういえば言っていなかったな。改めて……私はSFS決闘機動部 特殊機動班 班長の赤見だ」

 

「ってことは特殊機動班が足りないってことか……?」

 

俺の問いに対しては、生天目社長が口を開いた。

 

「特殊機動班っていうのは任務に危険なものが伴う。例えば、指定したテロリストとの交戦や、テロ組織本部への潜入等だ。危険な任務が多いことから人気がないのだ」

 

「んな……!」

 

つまり、生半可なやつじゃ捨て駒にされかねないってことか……?

まさか赤見さんの考えって言うのは、捨て駒が足りないから適当に俺みたいなやつを採用し、穴を埋めるって算段なのかよ……。

 

「君の腕がどこまで優秀であるかはわからないが……テロリストを倒したという実績はSFSの入隊には十分なものだ。しかし、正規な入隊試験を受けていない君を受け入れるにはこの班しかない」

 

赤見さん、俺を騙していたのか。

入るならせめて普通の班がいい。

 

「なら入隊試験を受けて……」

 

俺がそう言いかけると赤見さんに言葉を遮られる。

 

「まぁ待て繋吾。入隊試験を受けるのであれば、次の採用試験までまだ半年はある。それにお前の"目的"を達成するには一番都合がいいと思うぞ?」

 

任務内容からすると確かに一番事件の真相に近づきやすいかもしれない。

だけど、この人を信用していいものなのだろうか。

 

「あぁ……。だが俺だって死ぬわけには……」

 

「安心しろ。私はそう簡単に班員を殺させるような真似はしない」

 

「口ではなんとでも言えるぞ」

 

「それにだ、特殊機動班ってのは優秀なデュエリストにしか務まらない。つまりだ。班員は皆優れたデュエルの腕をもっている。だからこそ逆に安全だったりするんだ」

 

「そうなのか……? 生天目社長?」

 

俺は内容を確かめるために生天目に声をかける。

 

「そうだな。確かにここ最近では特殊機動班員の怪我の数はかなり少なくなっているな。だが……特殊機動班は人気がないゆえに、班長が受け入れる意思があれば誰でも入隊できる。つまり、班員の人間性については保証はしないがな」

 

「それって……大丈夫なのですか?」

 

「まぁ心配するな。少なくともそこにいる赤見は大丈夫だ。」

 

今のって遠回しに問題児だらけってことじゃないのか。

言葉の真意はわからないが……。

確かこの間の失礼な女、結衣ってやつも特殊機動班なのだろう。

あまり期待はしない方がよさそうだ。

 

「……ってことは赤見さん以外の人は……?」

 

「詳しくは赤見から聞くといい。」

 

生天目は赤見にアイコンタクトしながら言った。

 

「色んなやつがいるが決して悪い奴はいないぞ! デュエルの腕だけはかなり高水準だ。安心してくれ繋吾」

 

赤見さんはそんなこと言いながら俺にグッジョブを送ってくる。

 

「……赤見さん。それって安心できるんですか……」

 

「まぁ、そもそもお前も"ホームレス上がりデュエリスト"って時点で普通じゃない。きっとすぐに馴染むさ」

 

「はぁ……」

 

俺の肩書はやはりそうなってしまうのか。

なんだが馬鹿にされそうなネーミングだよまったく。

 

「それにしても随分と綺麗なペンダントをつけているじゃないか繋吾くん」

 

「え? これですか?」

 

生天目に言われて俺は身に付けるペンダント眺める。

 

「誰かにもらったのか?」

 

「これは父親の形見……みたいなものです」

 

「なるほど……。なら大事にしなければならないな。決して手放すんじゃないぞ」

 

「もちろんです。これを失ったら父親に合わせる顔がありませんから」

 

これには俺を守ってくれる力があるって父さんは言っていた。

きっと今回の襲撃で生き残れたのも、このペンダントがあったおかげなのかもしれないな。

 

「では入隊手続き等はこちらでやっておく。赤見くんは繋吾くんを連れてさっそくSFSの案内をしてやってくれ」

 

「ありがとうございます、生天目社長。それでは失礼します」

 

赤見が生天目社長に頭を下げるのを見て俺も続けて頭を下げた後、俺たちは司令室を後にした。

 

 



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Ep6 - 特殊機動班

――大きなSFSの渡り廊下。

長く続く廊下を歩きながら、赤見さんは施設案内を行ってくれた。

救護室、食堂、デュエル訓練場……。いろんな施設がしっかりと整っている。

さすがは大企業といったところだろうか。

 

「あとは……特殊機動班室だな。行くついでに班員との顔合わせを行おう」

 

「わかりました。赤見さん、ちなみに特殊機動班って今何名いるんですか?」

 

「あぁー……。もうすぐ部屋に着くから、すぐわかるさ」

 

「え?」

 

すると赤見さんは近くにあった部屋の扉を開ける。

 

そこには大きめのテーブルと椅子が並べられており、中には既に3名の人物が座っていた。

 

右から見慣れぬ大柄な男。そして、先日の襲撃で上地と呼ばれていた銀髪の男。最後に結衣と呼ばれていた金髪の女であった。

 

「……赤見さん。我々含めても150人の中でたった5人しかいないんですか……」

 

「人手不足だと言っただろ? なぁ?」

 

赤見さんは少し笑いながら答える。

 

「えっ、あなたは……!?」

 

金髪の女……結衣は俺の姿を見ると驚いた声をあげた。

 

「なに? 結衣ちゃんの知り合い?」

 

次に声を上げたのは上地と呼ばれる銀髪の男だ。

 

「いえ、あなたは覚えてないのですか。この間の襲撃でテロリストとデュエルしていた住民の人を」

 

「あー……。あのぼろぼろのホームレスか。なんでお前がここに?」

 

ホームレスっていう情報だけはしっかり覚えていやがって。

嫌味のようにしか聞こえないぞ。

 

「まぁまてお前ら。とりあえず席に座ってくれ。繋吾くんはこちらに」

 

赤見さんに案内され、俺も椅子へと座った。

 

「んで、いきなりの招集ってなんの用なんだ赤見?」

 

大柄の男が赤見へ問う。

 

「あぁ、ではさっそく本題に入る。先日の襲撃事件で我が班員の左近が意識不明の重体となっている。治療班の話によると回復の見込みがない。おそらくジェネシスの奴らに吸収されたと見ている」

 

「助けられず申し訳ありません。左近さんに一番近い現場にいたのは私です」

 

結衣が赤見に対して申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「結衣ちゃんは悪くないよー、左近さんに何があったかは知らないけど、まったく救援連絡なかったんだしさ」

 

「上地くん……。確かになぜ連絡がなかったのか。ちょっと不思議ですね」

 

「左近の件については、結衣が悪いわけではないから大丈夫だ。安心してくれ。例のテロリストは残念ながらもう国防軍に引き取られてしまっていて、左近の件については現在確認が取れない状況だ」

 

「そうでしたか……。失礼しました赤見班長」

 

「あぁ、気にしないでくれ。この件は近々私の方で国防軍へ赴き、直接テロリストへ尋問を行う予定だ。結果はまた後ほど連絡する」

 

赤見さんは胸ポケットから手帳を取り出すと、パラパラとページをめくりながら話を続けていた。

 

それにしても、あの左近って人。もう少し俺が早くあの場に乱入していれば、助けることができたのかもしれない

敵がテロリストなのかどうかわからなくて、なかなか踏み出せなかった自分に少し後悔した。

 

「それともう一つ報告事項だ。左近氏の穴を埋めるため……というわけではないが、今そこにいる人物、遊佐 繋吾をこの度、特殊機動班員として迎え入れることとなった」

 

「えぇ!?」

 

話を聞いていた班員の3人は驚きの声をあげる。

そこまで驚かなくてもいいじゃないか。

 

「ちょっと待ってください赤見班長! 見ず知らずの人をいきなり特殊機動班になんて、そんな人に任務を任せることなんてできません」

 

結衣は机を叩きながら立ち上がり叫びだす。

いつも落ち着いたトーンで話す癖に……よっぽど嫌なのかよまったく。

 

「結衣ちゃんの言うとおりだ班長。一般人が特殊機動班なんて無理があるぜ」

 

「確かにこいつら二人の言うことは最もだ赤見。何を考えての入隊なのか説明してくれねぇとな?」

 

3人より怒涛の質問を受けて赤見さんは呆れ気味に口を開く。

 

「お前らそこまで必死になることはないじゃないか……。わかった。こいつを採用した理由は二つある」

 

理由か……。それは俺自身も少し興味があるな。

俺と話をしていた限りは、人手不足っていうのが一番の理由なんだろうけど、それ以外にもし採用理由があるのであれば、是非とも聞いてみたい。

 

「まず、こいつのデュエルの腕はテロリストを倒したほどだ。それは結衣も見てるな?」

 

「えぇ……まぁ確かにテロリストは倒しましたけど、たまたま運がよくて勝ったのかもしれません」

 

「しかしだ、なかなか一般人で命を張ってテロリストとデュエルできる人はいるもんじゃない。こいつには、それほどの覚悟と勇気があるってことだ」

 

「しかし……!」

 

今思えば、不思議と恐怖感というものはあまりなかった。

死ぬ覚悟なんていうのはとっくにできていたし、内心なんとかなるって思っていたところがあったかもしれない。

だけど、もし本当にデュエルに負けていたら……今考えるとゾッとするな。

 

「それにこいつはデュエルテロの被害者だ。テロリストに対する憎しみは並大抵の人間とは比べ物にならない。重要な任務が求められる特殊機動班の任務には、どんな苦境でも戦い抜くための固い意志が必要だ。それがこいつには備わっていると判断したまでだ」

 

固い意志……か。俺にどこまでの意志があるのかはわからないが、俺にとってテロリストは人生を狂わされた要因だ。

あいつらを倒すためなら、例えどんな痛い目にあったとしても、折れない自信はある。

 

それよりもこの班員の皆さんに歓迎されてなさ具合ををなんとかできないですかね。赤見さん。

 

「なるほどなぁ……。確かにこいつはいい目をしてるじゃねぇか」

 

大柄な男が俺のことを見つめながら言う。

そんなあんたも、いい目をしているじゃないか。

 

この人だけは3人の中で唯一歓迎してくれているような印象だ。

ちょっとぶっきらぼうな感じはあるが、横の結衣とか上地とかいう連中よりかはよっぽどいい人そうに見える。

 

「だけど、意志だとか覚悟があったとしても、デュエルの腕が保証されたわけじゃないでしょう? そんな危ないやつ入れちゃっていいんですかねぇ?」

 

上地と呼ばれるやつが少しにやつきながら言った。

言い方は非常に嫌そうな感じではあるが、言ってることは最もか。

重要な任務を受け持つからには、デュエルが強くなければ任務の遂行自体ができない。

実力もしれない街の住民なんて信用できないというのはごもっともだ。

 

「おう、颯。そこまでデュエルの腕気になるんだったら俺様がこいつ試してやるわ。それでもいいか赤見?」

 

颯というのは上地のことみたいだ。なんとなくイメージ通りな感じの名前だな。

 

「あぁ構わない、そこは郷田に任せよう。私も繋吾のデュエルを一度見てみたかったんだ。ちょうどいい」

 

「おっしゃ決まりだな。これでもしこいつが俺に勝つことができたら特殊機動班への入隊を認める。ダメならこのまま特殊機動班への入隊はなし。それでいいか?」

 

えっ。負けたら入隊がなかったことになるのか。

せめて、研修期間を設けるとか……。

 

「赤見班長が良いということであれば、問題ありません」

 

「ま、まぁ……勝てたらの話だがな」

 

結衣と上地は少し不満そうながら答えた。

待てよ、本当にその流れになる感じか!?

 

「どうだ、赤見?」

 

赤見さんは少し考えると、決断したように口を開いた。

 

「いいんじゃないかな。その方が繋吾の覚悟も見れるだろう」

 

本気ですか赤見さん。

あそこまで勧誘しておいて、負けたらダメってなかなかに厳しい世界だ……。

 

「じゃあ繋吾とやら、いっちょデュエルやるか。構わねぇよな?」

 

ここまで来たらもう退けない。

入隊がかかっている以上、やっぱり今回も気が抜けないデュエルにはなりそうだ……。

何よりも相手はデュエルで仕事をしているプロ。一筋縄ではいかないだろう。

 

「あ、あぁ……。それでみんなが納得するのなら構わない」

 

「いい返事だ! 俺は郷田ってんだ。よろしくな!」

 

「こちらこそよろしくお願いします。郷田さん」

 

俺は丁寧に頭を下げると、郷田さんがデュエルウェポンをこちらに差し出してきた。

 

「ほら、これお前用のデュエルウェポンだ。もちろんこれからのデュエルは戦闘用のモードじゃなくて、訓練用にするから安心してくれ」

 

「ありがとうございます」

 

この間左近ってやつから借りたのとどう見ても同じものだ。

見るからに高そうな品だし、お古でも文句は言えないか。

ありがたくいただくとしよう。

 

「おっし! それじゃさっそくデュエル訓練場へ行くか!」

 

郷田さんを先頭に、俺たち特殊機動班の5人はデュエル訓練場へ向かった。

 

 

 



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Ep7 - 試されるパワー 前編

――デュエル訓練場。

おおきなホール場の中心に俺と郷田さんが向き合うように対峙している。

これだけ大きなところでデュエルするのは初めてだから少しだけわくわくするな。

 

隅にある椅子には赤見さんと結衣と上地の姿があった。

いわゆる観戦用の席である。

 

「さぁて、繋吾と言ったか! 準備はいいかぁ?」

 

「あぁ、いつでもいい。かかってこい」

 

「おっしゃ、デュエルウェポンを構えろ! いくぞ!」

 

「デュエル!」

 

 

郷田 LP4000 手札5

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー 

ーーーーー

ーーーーー

繋吾 LP4000 手札5

 

先攻は郷田さんのようだ。まずはお手並み拝見と行かせていただきますか……。

デュエルがはじまると外野席から話し声が聞こえてきた。

 

「さぁて、どんなデュエルになるか……。楽しみだな」

 

「赤見班長。あの男は……本当に特殊機動班に相応しいのですか? とてもデュエルに強いとは思えませんが……」

 

どうやら結衣が赤見さんに質問しているようだ。

 

「それはこのデュエル次第でわかるだろう。お前らにはないものをあいつは持ってる」

 

「私たちにないもの……ですか」

 

赤見さんがなんの言ってることはよくわからないが……。

とりあえず、俺のデュエルをとくと見てもらうぞ。特殊機動班!

 

「俺様のターン! 【レスキューキャット】を召喚するぜえ!」

 

ーーー

【レスキューキャット】✩4 地 獣 ③

ATK/300

ーーー

 

ヘルメットを被った可愛らしい猫が出現した。

 

「見た目に寄らず可愛いモンスターを使うんだな」

 

「こいつはまぁマスコットキャラクターみたいなもんでな! これからとんでもない奴がボンボン出てくるから覚悟しておけよ……?」

 

「なに……?」

 

「【レスキューキャット】のモンスター効果! このカードを墓地へ送ることでデッキからレベル3以下の獣族モンスター2体を特殊召喚する! いでよ! 【XX-セイバーダークソウル】、【X-セイバーエアベルン】!」

 

ーーー

【XX-セイバーダークソウル】✩3 地 獣 ②

ATK/100

ーーー

【X-セイバーエアベルン】✩3 地 獣 チューナー ③

ATK/1600

ーーー

 

一気にチューナーモンスターとそれ以外のモンスターが並んだ。

ということは1ターン目からシンクロ召喚をしてくるつもりらしい。

これは油断できなさそうだ。

 

「俺様のデッキは高速の大量展開を得意としててなぁ! 容赦なく行かせてもらうぜ! 俺はレベル3の【ダークソウル】にレベル3の【エアベルン】をチューニング! "大地の力、鋼鉄なる鎧に宿し、神速の槍を貫けぇ! シンクロ召喚! 駆け抜けろ、【大地の騎士ガイアナイト】!"」

 

ーーー

【大地の騎士ガイアナイト】✩6 地 戦士 ①

ATK/2600

ーーー

 

二本の赤き槍を構えながら青き馬に乗馬した騎士のようなモンスターが出現する。

 

「郷田のやつ……あれ試験用のデッキじゃねぇ……。本人のデッキだ。マジで本気で戦ってるようだなあれ……」

 

外野の上地は郷田の様子を見ながら呟く。

 

「あれでは遊佐くんはどうしようもないですね。勝ち目がないと言いますか……」

 

「勝つなんて無理だよなー。でもまあせっかくだからどこまで足掻けるか見てあげようぜ、結衣ちゃん?」

 

「はぁ、あなたに言われるまでもありません。あの人がどこまで足掻けるかは少しだけ興味がありますから」

 

上地の問いに対して結衣は素っ気なく答えていた。

まったく俺が負ける前提で話しやがって。

だけど、逆に俺からしてみればチャンスでもある。

 

本気の郷田さんを倒せば、それこそ特殊機動班に勝てる能力があるって認められることにもなるからだ。

このデュエル、絶対に勝ってみせるぞ……!

 

「さぁて、最初のターンはこんなものか。俺はカードを1枚伏せてターンエンド。エンド時に墓地へいった【ダークソウル】の効果が発動。デッキから"X-セイバー"モンスター1体を手札に加えさせてもらうぜ? 俺は【XX-セイバーフォルトロール】を加える。さぁ繋吾、お前のターンだ」

 

郷田 LP4000 手札4

ーー裏ーー

ーーーーー

 シ ー 

ーーーーー

ーーーーー

繋吾 LP4000 手札5

 

 

俺にターンが回ってくる。

しかし、あの郷田という奴。大型モンスターを出しつつも減った手札のケアも万全。

それに伏せカードも用意してくるあたり前戦ったテロリストとはレベルが違う。

さすがはSFS特殊機動班のデュエリスト。生半可なデュエルじゃ一瞬でやられてしまいそうだ。

 

「俺のターン、ドロー! 俺はモンスターを1体セット。カードを3枚伏せてターンエンドだ」

 

どうも俺のデッキは1ターン目からバリバリに動くのは難しい。

郷田さんのデッキはかなり攻撃的なデッキみたいだし、守るなら万全にしておかなければ……。

 

「おいおい、セットして守るだけかよ? やっぱり大したことねぇんじゃね?」

 

外野から聞こえるのは上地の言葉だ。

気にしていては俺が疲れるだけだ。今はデュエルに集中しよう。

 

郷田 LP4000 手札4

ーー裏ーー

ーーーーー

 シ ー 

ーー裏ーー

ー裏裏裏ー

繋吾 LP4000 手札2

 

 

「おうおうおう、随分と大人しい一手じゃねぇか。お前は守備型のデッキなんか?」

 

郷田さんが俺の様子を見て不思議そうに言ってくる。

守備型……ってわけでもないけど、どっちかっていうと守るタイプなのかな?

 

「まぁ……そんなところかもですね」

 

「残念だったなぁ。俺様のデッキは固い防御を打ち砕くのに特化しててな。いくぞ、俺様のターン、ドローッ!」

 

どんなに強いとしても、伏せカード3枚のこの布陣はそう簡単には突破できないはずだ……。

 

「俺は【XX-セイバーボガーナイト】を召喚するぜぇ!」

 

ーーー

【XX-セイバーボガーナイト】✩4 地 獣戦士 ③

ATK/1900

ーーー

 

「こいつが召喚に成功した時、手札から"X-セイバー"モンスター1体を特殊召喚できる。ってことで来い! 【X-セイバーパシウル】!」

 

ーーー

【X-セイバーパシウル】✩2 地 戦士 チューナー ④

DEF/0

ーーー

 

「まだまだ!俺様の場に2体以上の"X-セイバー"モンスターがいる時、こいつは手札から特殊召喚できる! 【XX-セイバーフォルトロール】!」

 

ーーー

【XX-セイバーフォルトロール】✩6 地 戦士 ②

ATK/2400

ーーー

 

「くっ……」

 

目の前に一気に3体のモンスターが出現した。

なんという展開力なんだ……。彼の"X-セイバー"デッキは。

 

「ハッハッハ! これだけじゃないぜ! さらに魔法カード【セイバー・スラッシュ】を発動! 自分の場の"X-セイバー"モンスターの数まで相手のカードを破壊できる!」

 

「つまり合計3枚、俺のカードを破壊するってことか……!」

 

たった1枚で3枚のカードを破壊するなんてとんでもないカードだ。

せっかく俺が用意した伏せカードだが、このままでは全部破壊されてしまう……。

 

「さぁて、このカードに対して何か発動するカードはあるか? このカードは対象を取らねぇ効果だから、その伏せカードを発動するのであれば、発動した後に破壊するカードを選ぶことになる」

 

「なるほどな……。ならば俺は1枚伏せカードを発動! 【トゥルース・リインフォース】! デッキからレベル2以下の戦士族モンスター1体を特殊召喚する。来い、【ドッペル・ウォリアー】!」

 

ーーー

【ドッペル・ウォリアー】✩2 闇 戦士 ②

DEF/800

ーーー

 

「壁を増やすか……だが無意味よ! 俺は残りの伏せカード2枚とその伏せモンスターを破壊する!」

 

「くっ!」

 

俺の伏せカードであった【援軍】と【攻撃の無力化】が無残にも破壊されてしまった。

だが、破壊されたモンスターは別だ。

 

「だがそれだけじゃ俺の守りを全て壊しきったわけじゃない! 俺は破壊された伏せモンスター。【光竜星ーリフン】の効果発動!」

 

「なに? モンスターにも小細工があったってことか。しぶといやつめ」

 

「簡単に負けるわけにはいかないんでな。デッキから"竜星"モンスター1体を特殊召喚する。来てくれ、【炎竜星ーシュンゲイ】!」

 

ーーー

【炎竜星ーシュンゲイ】✩4 炎 幻竜 ③

DEF/0

ーーー

 

「おっし、それじゃさらに展開させてもらうとするか! 来い、闘志を導くサーキット!」

 

郷田の前に四角い円盤が出現する。リンク召喚だ。

 

「俺は【大地の騎士ガイアナイト】と【パシウル】の2体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! 吼えよ、【ミセス・レディエント】!」

 

ーーー

【ミセス・レディエント】リンク2 地 獣 ①

ATK/1400 左下 右下

ーーー

 

上品な装飾を身につけた大きな犬型モンスターが出現する。

 

「こいつがいる限り、場の地属性モンスターの攻守は全て500アップし、風属性モンスターの攻守は400ダウンする! そして、リンクマーカー先にもシンクロ召喚ができるようになったぜ!」

 

パワーアップさせるためにわざわざ【大地の騎士ガイアナイト】を素材にしてまでリンク召喚したのか。

それに更なるシンクロ召喚が可能になった。

これはまだ展開する方法がありそうだな。

 

「さらに【フォルトロール】の効果発動! 1ターンに1度、墓地から"X-セイバー"モンスターを復活させる! 戻ってこい! 【X-セイバーエアベルン】!」

 

ーーー

【X-セイバーエアベルン】✩3 地 獣 チューナー ④

ATK/1600

ーーー

 

「さらにレベル6の【フォルトロール】にレベル3の【エアベルン】をチューニング! "大自然の力! 獰猛なる牙に宿し、大地を喰らう咆哮を上げよ! シンクロ召喚! 【ナチュル・ガオドレイク】!"」

 

ーーー

【ナチュル・ガオドレイク】✩9 地 獣 ①

ATK/3000

ーーー

 

その姿はライオンとでも呼ぼうか。

オレンジ色のタテガミをなびかせながら、百獣の王が出現する。

 

「そして、全てのモンスターの攻撃力は地属性のため、【ミセス・レディエント】の効果で500ポイントアップ!」

 

【XX-セイバーボガーナイト】

ATK/1900→2400

【ナチュル・ガオドレイク】

ATK/3000→3500

【ミセス・レディエント】

ATK/1400→1900

 

「だが、俺の場のモンスターは全て守備表示だ。例え攻撃力をあげようとダメージは受けない!」

 

「それは甘いぜぇ。バトルフェイズ開始時に伏せカード発動! 永続罠、【野生の咆哮】! これは俺のモンスターがお前のモンスターを破壊し墓地へ送った時、俺の場の獣族モンスター1体につき300ポイントのダメージを与える永続罠!」

 

今郷田さんの場には2体の獣族。つまり俺の場のモンスターが破壊される度に600ポイントのダメージが飛んでくるってことか。

 

「さすがですね。こちらの守備をものともしないその攻撃に特化したデュエル」

 

「ふっ、俺はあまりこそこそ考えるのが嫌いでな。男はパワーあるのみよ!」

 

脳筋というやつか。嫌いじゃないな。

 

「バトル、【ミセス・レディエント】で【ドッペル・ウォリアー】を攻撃! "ゴージャス・ファング!"」

 

【ドッペル・ウォリアー】は大きな牙に噛み砕かれ消滅した。

 

「さぁまずは1回目! 600ポイントのダメージだ!」

 

「くっ!」

 

繋吾 LP4000→3400

 

「さぁいくぞ2回目! 【ボガーナイト】で【炎竜星ーシュンゲイ】を攻撃! "クロス・スラッシュ!"」

 

「ぐわああ!」

 

繋吾 LP3400→2800

 

「だが、破壊された【炎竜星ーシュンゲイ】の効果発動! こいつもまたデッキから竜星モンスター1体を守備表示で特殊召喚する効果を持つ。来てくれ、【風竜星ーホロウ】」

 

ーーー

【風竜星ーホロウ】✩1 風 幻竜 ③

DEF/1800→1400

ーーー

 

「このターン耐え切ったのは褒めてやる。最後だ、【ナチュル・ガオドレイク】で【風竜星ーホロウ】を攻撃! "オーバーパワー・ファング!"」

 

【ナチュル・ガオドレイク】は大きく口を開き、力強く【風竜星ーホロウ】を砕き潰した。

 

「うわああ!」

 

繋吾 LP2800→2200

 

「まだだ! 【風竜星ーホロウ】の効果発動! デッキから【闇竜星-ジョクト】を攻撃表示で特殊召喚する」

 

「くぅ……。それにしてもしぶといやつだなおい」

 

ーーー

【闇竜星ージョクト】✩2 闇 幻竜 チューナー ④ 

ATK/0

ーーー

 

「郷田の猛攻を耐え切った上で、逆転の布石を残す。見事なデュエルだ」

 

「確かにそうですね。あの郷田さんの本気の攻撃を耐え切るのはそう簡単なことではないですし」

 

「結衣、お前のデッキも守備タイプだったな。繋吾のデュエルは何か参考になるかもしれないぞ」

 

「ええ、確かに不本意ではありますが、似たタイプかもしれませんね……。赤見班長がそういうのであれば参考点を探ってみます」

 

今の赤見さんの話だと、結衣ってやつのデッキは守備型らしい。

あの性格だと嫌らしい戦術を使ってきそうな感じがするな。

いつかは見てみたいものだ。

 

「だが、繋吾。お前の場には所詮低ステータスモンスターが1体のみ。そこからどう巻き返してくるのか楽しみだぜ! 全力でかかってこい! ターンエンドだ!」

 

 

郷田 LP4000 手札1

ーー罠ーー

シーモーー

 リ ー 

ーーーモー

ーーーーー

繋吾 LP2200 手札2



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Ep8 - 試されるパワー 後編

郷田 LP4000 手札1

ーー罠ーー

シーモーー

 リ ー 

ーーーモー

ーーーーー

繋吾 LP2200 手札2

 

 

 

 

ふぅ、ようやく郷田さんのターンがおわった。

ヒヤヒヤしっぱなしだったけどなんとか耐えることができたな。

 

そして、俺にとっては理想的な場が整った。

ここからが本番。俺のデッキの強さってやつを見せてやる!

 

「行くぜ! 俺のターン、ドロー!」

 

怒涛の攻めができるのは郷田さん、あんただけじゃない。

郷田さんは俺のデッキが守備型だと思っているせいか、俺の攻撃を防ぐような伏せカードは何もない状況。

つまり、こちらからすればいくらでも攻め放題ってことだ。

 

「俺の場に"チューナー"モンスターがいる時、こいつは守備表示で特殊召喚できる。来い、【ブースト・ウォリアー】!」

 

ーーー

【ブースト・ウォリアー】✩1 炎 戦士 ③

DEF/200

ーーー

 

「いでよ、心を繋ぐサーキット! 俺は【ブースト・ウォリアー】と【ジョクト】の2体をリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン! リンク召喚! 【LANフォリンクス】!」

 

ーーー

【LANフォリンクス】リンク2 光 サイバース ②

ATK/1200 左下 右下

ーーー

 

「おう、いきなりリンク召喚か! ここからどう展開してくるんだ?」

 

「まぁ焦らないでくれ郷田さん。そして、俺は【ジャンク・シンクロン】を召喚! 効果でレベル2以下の墓地のモンスター【ドッペル・ウォリアー】を守備表示で特殊召喚する」

 

ーーー

【ジャンク・シンクロン】✩3 闇 戦士 チューナー ③

ATK/1300

ーーー

【ドッペル・ウォリアー】✩2 闇 戦士 ④

DEF/800

ーーー

 

「俺もシンクロ召喚をさせてもらう! 俺はレベル2の【ドッペル・ウォリアー】にレベル3の【ジャンク・シンクロン】をチューニング!」

 

「やはりシンクロ召喚を使ってきやがるかッ! おもしれぇ!」

 

「"生誕する意思の力よ! 星々の呼応の下に具象せよ! シンクロ召喚! 来い、【源竜星ーボウテンコウ】!"」

 

ーーー

【源竜星ーボウテンコウ】☆5 光 幻竜 ③

DEF/2800

ーーー

 

「シンクロ召喚に成功した【ボウテンコウ】の効果発動! デッキから"竜星"カード1枚を手札に加える。俺は【竜星の軌跡】を手札に。さらにシンクロ素材となった【ドッペル・ウォリアー】は俺の場に2体のドッペルトークンを攻撃表示で特殊召喚させる!」

 

ーーー

【ドッペル・トークン】✩1 闇 戦士 ①と②

ATK/400

ーーー

 

「シンクロ召喚するだけでそんなに得できるとは、エコロジー? ってやつか?」

 

「モンスター同士が繋がり、強力な力を生み出す。それが俺のデッキだ」

 

「悪くねぇじゃねぇか。さぁて、まだ終わりじゃねえんだろ?」

 

「もちろんだ、さらに俺はレベル1の【ドッペル・トークン】2体に、レベル5の【ボウテンコウ】をチューニング! "邪悪なる魂より目覚めし争心よ! 星々の呼応の下に具象せよ! シンクロ召喚! 来い、【邪竜星ーガイザー】!"」

 

ーーー

【邪竜星ーガイザー】✩7 闇 幻竜 ③

ATK/2600

ーーー

 

漆黒の稲妻のようなものを纏った気性の荒そうな竜が現れる。

 

「これはまた、物騒なやつが来たもんだ。攻撃力はなかなかだが……?」

 

「残念ながらまだだ、さらにフィールドを離れた【ボウテンコウ】の更なる効果、デッキから"竜星"モンスター1体を特殊召喚する。来てくれ、【風竜星ーホロウ】」

 

ーーー

【風竜星ーホロウ】✩1 風 幻竜 ④

DEF/1800→1400

ーーー

 

「再び現れよ、心を繋ぐサーキット! 俺は【ホロウ】1体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚。リンク1、【リンクリボー】!」

 

ーーー

【リンクリボー】リンク1 闇 サイバース ⑤

ATK/300 下

ーーー

 

「リンクモンスターが2体並んだってことは、あのモンスターがきますね……」

 

「あのモンスターってなんだ? 結衣ちゃん?」

 

「あの人のエースモンスターですよ。見てればわかります」

 

外野の結衣の言うとおり、俺の場にはEXデッキから特殊召喚したモンスターが2体。これで"あいつ"を出す準備は整った。

 

「いくぞ! 郷田さん! 俺は【リンクリボー】と【LANフォリンクス】の2体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! 繋がる心の象徴! 【セフィラ・メタトロン】!」

 

ーーー

【セフィラ・メタトロン】リンク3 光 幻竜 ②

ATK/2500 左下 下 右下

ーーー

 

「これが……お前のエースモンスターか。これは美しくも勇敢なモンスターだな!」

 

「あぁ、俺のデュエルを導いてくれる大事なカードだ」

 

こいつさえ出せればもう大丈夫。

ここからが本当の勝負だ……!

 

「まずは……【邪竜星ーガイザー】の効果発動、"ローグ・ディストラクション!" 俺の場の"竜星"カード1枚と相手の場のカード1枚を破壊する!」

 

「なに!? カード破壊効果か!」

 

「俺は【邪竜星ーガイザー】自身と【ミセス・レディエント】を破壊する!」

 

「ぐぅ、これではパワーアップ効果が……!」

 

【ガイザー】は【ミセス・レディエント】に接近するとその体で取り囲み爆発した。

両モンスターはその爆発により消滅する。

 

「そして、この【ガイザー】の効果によって、新たなるカード効果への道が紡がれる! 【ガイザー】が破壊されたことで、デッキから幻竜族モンスター1体を守備表示で特殊召喚する!」

 

「なるほどな……。だが俺も黙っちゃいねぇ。俺様の【ミセス・レディエント】が破壊された時、墓地から地属性モンスター1体を手札に加えられるぜ!」

 

郷田さんのモンスターも似たような効果を持っていたか。

だけど、これで厄介なパワーアップ効果は消えた。

 

「先に俺様からだな! 墓地から地属性の【レスキューキャット】を手札に戻す!」

 

またあの高速展開用のモンスターか……。

見た目は可愛いが、侮れないぞあのカードは。

 

「俺は、デッキから【イルミラージュ】を守備表示で特殊召喚!」

 

ーーー

【イルミラージュ】✩3 風 幻竜 チューナー ②

DEF/1000

ーーー

 

「【イルミラージュ】が存在する限り、場の全てのモンスターの攻撃力、守備力はそのモンスターのレベルまたはランク×300ポイントダウンする!」

 

「なんだと……! しまった!」

 

郷田さんは驚きの声をあげる。

無理もない。郷田のシンクロモンスターは大型モンスター故にレベルが非常に高いモンスターであった。

 

【XX-セイバーボガーナイト】

ATK/1900→700

【ナチュル・ガオドレイク】

ATK/3000→300

【イルミラージュ】

DEF/1000→100

 

「【セフィラ・メタトロン】はリンクモンスターのため、この効果を受け付けない! バトルだ、【セフィラ・メタトロン】で【ナチュル・ガオドレイク】を攻撃! "ヴェンジェンス・ディバイニング!"」

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500

【ナチュル・ガオドレイク】

ATK/300

 

「ぐおおお! これはまずい!」

 

郷田 LP4000→1800

 

この一撃は大きいものだろう。

だが、先ほど郷田さんは【レスキューキャット】を加えていた。

このターン仕留められていない以上、次のターンを凌ぐためにここは守りも整えておかなければならないな。

 

「メインフェイズ2、俺は手札から【竜星の軌跡】を発動! 墓地の"竜星"モンスター3体をデッキに戻し、新たに2枚ドローする。墓地の【邪竜星ーガイザー】【源竜星ーボウテンコウ】【炎竜星ーシュンゲイ】の3枚を戻し、2枚ドローする」

 

「こんだけやっといて、手札も残すとは。やってくれるじゃねぇか」

 

「こうでもしないと郷田さんの攻撃、耐え切れないと思って」

 

「いい心構えだ。その方が戦い甲斐があるってもんよ! さぁカードを引きな!」

 

「あぁ、カードを2枚ドロー! 俺はリバースカードを2枚伏せてターンエンド」

 

この2枚で防ぎきれるかはわからないけど、これが今俺ができる最善策だ。

次のターンの郷田さんの出方次第で全てが決まる……。

 

郷田 LP1800 手札2

ーー罠ーー

ーーモーー

 ー リ 

ーモーーー

ーー裏裏ー

繋吾 LP2200 手札1

 

「いくぜぇ! 俺様のターン、ドローッ!」

 

郷田は引いたカードを見るとガッツポーズをした。

一体何を引いたんだ……。

 

「おっしゃー! このターン決めにかかるぜぇ? 繋吾ちゃんよ!」

 

「なに……!」

 

「まずはこいつだ! 【レスキューキャット】を召喚! こいつを墓地へ送り効果発動。デッキから【X-セイバーエアベルン】と【ペロペロケルペロス】の2体を特殊召喚させてもらうぜ!」

 

ーーー

【X-セイバーエアベルン】✩3 地 獣 チューナー ②

ATK/1600→700

ーーー

【ペロペロケロペロス】✩3 地 獣 ④

DEF/1800→900

ーーー

 

また2体の獣族モンスターが出されたことで、更なるシンクロ召喚もリンク召喚もできる状況となってしまった。

 

「俺はレベル3の【ペロペロケロペロス】にレベル3の【エアベルン】をチューニング! シンクロ召喚! 再び来い、【大地の騎士ガイアナイト】!」

 

ーーー

【大地の騎士ガイアナイト】✩6 地 戦士 ①

ATK/2600→800

ーーー

 

「そして、そこからリンク召喚だ! いでよ、闘志を導くサーキット! 俺は【大地の騎士ガイアナイト】と【ボガーナイト】をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚! こちらも二度目だ、【ミセス・レディエント】!」

 

ーーー

【ミセス・レディエント】リンク2 地 獣 ①

ATK/1400→1900 左下 右下

ーーー

 

再度、先ほどと似たような布陣が整ってきた。

あくまで郷田さんはパワー勝負らしい。逆にそれならこちらも対応しやすいので助かる。

 

だが、気になるところはなぜわざわざ【大地の騎士ガイアナイト】をシンクロ召喚したのか。

【ミセス・レディエント】を出すだけなら、シンクロする必要はなかったはずだ。

何か狙いがあるのかもしれない……。

 

「そして、真打ち登場といこうか! 魔法カード【ミラクル・シンクロフュージョン】発動!」

 

「なに!?」

 

「このカードは俺の場、もしくは墓地からシンクロモンスターを素材とする融合モンスターの素材モンスターを除外し、その融合モンスターを融合召喚するカード! 俺は墓地の【大地の騎士ガイアナイト】2体を除外し、融合するぜえ!」

 

モンスター2体以上を合体させ、強力なモンスターをEXデッキから呼び出す融合召喚。

魔法カード【融合】をはじめ、様々な融合を行うカードがあるが、郷田さんが使ったのは、シンクロモンスターを素材に使う上級な融合モンスター専用の融合魔法だ。

通常は場か手札のモンスターを融合素材とするものだが、専用ゆえに墓地のモンスターも融合素材とできる。

シンクロモンスターを素材にするからには、出てくるモンスターはかなり強力なものばかりであろう。

 

【大地の騎士ガイアナイト】を2回もシンクロ召喚したのはこのカードを発動するためだったのか……!

一体どんなモンスターが出てくる……?

 

「"天地を貫く完全無欠の槍よ! 天空より顕現し、能あるものに裁きを下せぇ! 融合召喚! 【地天の騎士ガイアドレイク】!"」

 

ーーー

【地天の騎士ガイアドレイク】✩10 地 獣戦士 ③

ATK/3500→4000→1000

ーーー

 

そのモンスターは先ほどの【大地の騎士ガイアナイト】に白き翼が纏ったような姿で、大地の統べし覇者の風格が漂っていた。

現在は【イルミラージュ】の効果によって、攻撃力が下がってはいるが、守備力100の【イルミラージュ】はすぐに破壊されてしまう。

そうすれば、あの攻撃力4000という驚異的なパワーが俺に襲いかかることになる。

 

「どうだ、繋吾ちゃん! 俺様の切り札【ガイアドレイク】は!」

 

「これは……かなり強力なモンスターですね……」

 

あのモンスターの攻撃が直撃すればひとたまりもない。

そして、先ほどからなぜか郷田さんは俺のことをちゃん付けで呼びはじめてきた。まぁ別に構わないけど。

 

「そして、最後の1枚。【死者蘇生】発動! 墓地から戻れ、【ナチュル・ガオドレイク】!」

 

ーーー

【ナチュル・ガオドレイク】✩9 地 獣 ①

ATK/3000→3500→800

ーーー

 

せっかく倒したあの巨大なライオンモンスターがまた復活!?

待ってくれよ……全ての攻撃を受けたら俺のライフポイントは残るのか……?

 

「いくぜぇ、覚悟しろよ繋吾ちゃん! バトル!」

 

そんなことを考えている余裕もくれずに、郷田さんはバトルフェイズに突入し始める。

 

「まずは、【ミセス・レディエント】で厄介な【イルミラージュ】を攻撃! "ゴージャス・ファング!"」

 

「くっすまない。【イルミラージュ】!」

 

「さぁて、永続罠【野生の咆哮】の効果ダメージも忘れずに受けてくれよ?」

 

しまった。相手の場には再び獣族モンスターが2体復活していた。

 

「ぐあっ!」

 

繋吾 LP2200→1600

 

「これで俺様の場のモンスターは全て元の能力を取り戻した! 勝たせてもらうぞ繋吾ちゃん!」

 

「くっ……」

 

【地天の騎士ガイアドレイク】

ATK/4000

【ナチュル・ガオドレイク】

ATK/3500

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500

 

単純計算でもこのままじゃ5000ダメージだ。ライフが例え4000あっても足りない。

 

「いけ、【ガイアドレイク】! 【セフィラ・メタトロン】を貫けえ! "テンペスト・ソウル・スラスター!"」

 

「させるか、罠カード【パラレル・ポート・アーマー】を発動! このカードは場のリンクモンスター1体の装備カードとなり、その装備モンスターは戦闘では破壊されなくなる!」

 

「だが、そいつが戦闘破壊されなかったとしても超過ダメージは【ナチュル・ガオドレイク】とあわせても2500ある。どうするつもりだ繋吾ちゃんよ?」

 

確かに1000ダメージと1500ダメージを受けると残りライフポイント1600しかない俺の負けに変わりはない。

何かダメージを抑える方法は……。

 

「さらにもう1枚の罠カード【ブレイクスルー・スキル】を発動! 場のモンスター1体の効果をこのターンの終わりまで無力化する!」

 

「それじゃあダメージは防げないぜ繋吾ちゃんよ。ってまてよ……。もしかして」

 

「郷田さんもわかったようだな。俺は【ミセス・レディエント】の効果を無力化する!」

 

【ミセス・レディエント】は場の地属性モンスターの攻撃力を500ポイントあげる能力を持っていた。

すなわちそれが無効になれば2体分の合計1000ポイントのダメージが減ることとなる。

 

「くっ、この土壇場でやってくれるじゃねぇか!」

 

【地天の騎士ガイアドレイク】

ATK/4000→3500

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500

 

「ぐっ! くぅ!」

 

繋吾 LP1600→600

 

「削るだけ削ってやれ! 【ナチュル・ガオドレイク】も【セフィラ・メタトロン】を攻撃しろ! "オーバーパワー・ファング!"」

 

【ナチュル・ガオドレイク】

ATK/3500→3000

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500

 

「ぐあああ!」

 

繋吾 LP600→100

 

「なんとか耐え切れたか……。あぶないところだった」

 

まさに首の皮一つ繋がったといったところだ。

 

「まさかこの攻撃を耐えてくるとはなぁ! 仕方ねぇ、ターンエンドだ!」

 

郷田 LP1800 手札0

ーー罠ーー

シー融ーー

 リ リ 

ーーーーー

ーー罠ーー

繋吾 LP100 手札1

 

「まさか……あいつ耐え切るとは。今のターンで負けたと思ったぜ……」

 

「私もダメだと思っていました。なかなかやるものですね」

 

上地と結衣が言っているように自分でも耐えられたことに驚きだった。

ターンさえ回って来れば、まだ十分に勝つチャンスはある。

 

ただ、このターンが俺にとっては最後のターンだろう。

ライフポイントが100な以上、これ以上郷田さんの攻撃を耐えられる気がしない。

 

「行くぞ、俺のターン。ドロー!」

 

俺は力強くカードをドローする。

頼む……この場を切り抜けるカードを……!

 

「来てくれたか……! 俺は魔法カード【増援】を発動! デッキからレベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加える! 俺は二枚目の【ジャンク・シンクロン】を手札に加え、これを召喚! 効果によって蘇れ、【風竜星ーホロウ】!」

 

ーーー

【ジャンク・シンクロン】✩3 闇 戦士 チューナー ②

ATK/1300

ーーー

【風竜星ーホロウ】✩1 風 幻竜 ④

DEF/1800

ーーー

 

これなら更なるリンク召喚を狙うことができる!

パワーにはパワーを。あの攻撃力を超える方法は……一つだけある!

 

「さらに、このカードは場の魔法・罠カード1枚を墓地へ送って特殊召喚できる。場の【パラレル・ポート・アーマー】を墓地へ送り、来い【カード・ブレイカー】!」

 

ーーー

【カード・ブレイカー】✩2 光 戦士 ③

DEF/900

ーーー

 

「再度現れてくれ! 心を繋ぐサーキット! 俺は【ジャンク・シンクロン】と【カード・ブレイカー】の2体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! リンク2。無垢なる剣、【コード・トーカー】!」

 

ーーー

【コード・トーカー】リンク2 闇 サイバース ③

ATK/1300→1800

ーーー

 

「更に墓地の【リンクリボー】の効果、場のレベル1のモンスター1体を墓地へ送ることで墓地から復活できる。俺は【ホロウ】を墓地へ送ることで特殊召喚!」

 

ーーー

【リンクリボー】リンク1 闇 サイバース ⑤

ATK/300

ーーー

 

「今度は何を出すつもりだ? 繋吾ちゃん」

 

「このデュエルに終止符を打つカードを呼ばせてもらう! 連続リンク召喚! 俺は【コード・トーカー】と【リンクリボー】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚! リンク3。勝利へ導く閃光の使者、【エンコード・トーカー】!」

 

ーーー

【エンコード・トーカー】リンク3 光 サイバース ④

ATK/2300

ーーー

 

【コード・トーカー】に白銀に輝く鎧が追加されたような、神々しいモンスターが出現する。

 

「リンク3が2体か……。そいつの効果に何かあるみてえだな?」

 

「あぁ、その身に受けてもらうぞ。バトルフェイズ! 【セフィラ・メタトロン】で【地天の騎士ガイアドレイク】を攻撃! "ヴェンジェンス・ディバイニング!"」

 

「馬鹿な! 攻撃力の劣っている【セフィラ・メタトロン】で攻撃だと? どういうことだ」

 

「すぐに教えてやるさ。この瞬間【エンコード・トーカー】のモンスター効果発動。このカードのリンク先のモンスターが戦闘を行う時、そのモンスターは破壊されず、戦闘ダメージも0になる」

 

「ってそれじゃ守る効果じゃねえか! それでどうするってんだ?」

 

「この効果はこれで終わりじゃない。その戦闘終了後、このカードかもしくはリンク先のモンスターの攻撃力を戦闘を行った相手モンスターの攻撃力分アップする! 俺は【セフィラ・メタトロン】の攻撃力を【地天の騎士ガイアドレイク】の攻撃力分アップ!」

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500→6500

 

「なに!? だが、攻撃力をあげたところで【セフィラ・メタトロン】は攻撃宣言を終了したはずだ。効果対象を間違えたんじゃねぇか?」

 

「それはどうかな! 俺は墓地から罠カード【パラレル・ポート・アーマー】の効果発動!」

 

「墓地から罠だと!?」

 

「このカード自身と墓地のリンクモンスター2体を除外することで、場のリンクモンスター1体は、このターン2回攻撃することができる! 俺は墓地の【LANフォリンクス】と【コード・トーカー】を除外し、【セフィラ・メタトロン】を対象とする!」

 

「なるほどな……。考えたじゃねぇか繋吾ちゃん!」

 

「これで終わりだ郷田さん! 【セフィラ・メタトロン】で【地天の騎士ガイアドレイク】を攻撃! "ヴェンジェンス・ディバイニング!"」

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/6500

【地天の騎士ガイアドレイク】

ATK/4000

 

【セフィラ・メタトロン】大きく空へ羽ばたくと、急降下し、手に持つ白き槍を【地天の騎士ガイアドレイク】に突き立てた。

 

「ぐおわああああ!」

 

郷田 LP1800→0

 

勝った!

本気の郷田さん相手に俺は勝ったんだ。

俺は喜びのあまり思わず外野に目を向ける。

外野の皆は一応拍手をしてくれていた。これで特殊機動班員として認めてもらえたのだろうか。

 

「繋吾ちゃん。いい腕してんなぁ! こいつは完敗だよ。いやあ最高に楽しいデュエルだったぜ……?」

 

郷田さんは拍手しながら俺に近づいてくると握手を求めてきた。

 

「いえ、本当にギリギリの勝負でした。こちらこそ楽しかったよ郷田さん」

 

俺はその握手に応えるべく右手を出す。

だが、握手する郷田さんの手の力が強すぎて少し手が痛い。

 

「おう、颯。結衣。これであんたらも文句ないな? 俺らと同等……。いや、それ以上の力をこいつは持ってるかもしれんわ」

 

「仕方がありません。私はいいですよ。遊佐くんが入隊しても」

 

「うぅ。まぁ結衣ちゃんがいいっていうならまぁ俺も認めてやらんこともないな」

 

「上地くん。私に全ての責任を押し付けるような言い方はやめてもらえますか?」

 

「待ってよ、結衣ちゃん。そういうつもりじゃないって!」

 

なんかあの二人は言い争っているようだ。

にしてもあの結衣ってやつ俺以外にもあんな態度なんだな。

なんだかそれがわかると少しホッとしたような……先が思いやられるような。

 

「よーし! 繋吾が正式に特殊機動班に加わることになったことだし、改めて自己紹介と行くか!」

 

その様子を見た赤見さんが突然張り切って声をあげる。

ってか自己紹介やるなら最初にやればよかったような気もするが……。

 

「じゃあ、まずは今更な感じもするが、繋吾から頼む」

 

俺からか。当たり障りのないことだけ言っておこう。

 

「俺は遊佐 繋吾。これから色々と世話になると思うけど、よろしくお願いするよ」

 

本当に普通の挨拶だ。

俺の次は赤見さんが声をあげた。

 

「さて……前も言ったが私は特殊機動班の班長を務めている赤見 仁だ。何か困ったことがあったらいつでも声をかけてくれ」

 

赤見さん。この班員みんなをまとめるの大変だろうなぁ……。

なんやかんや班員のみんな、赤見さんには頭が上がらない様子を見ると、信頼は厚い様子が伺える。

 

「俺は郷田 闘二。一応肩書きは特殊機動班 副班長ってことにはなってる。いいデュエルをありがとうな繋吾ちゃん」

 

郷田さんって副班長だったのか。なんか自由気ままな感じの人だなぁ。

 

「私は佐倉 結衣と申します。昨年SFSに入ってこの特殊機動班は2年目です。よろしくお願いします」

 

佐倉 結衣。こうして普通の挨拶だけなら可愛くて気品のある女の子なんだけど、性格に難がありすぎだ。本当に。

 

「俺は上地 颯だ。結衣ちゃんと同じ昨年SFSに入ったんだけど、特殊機動班のメンバーになったのは数ヶ月前だ。くれぐれも特殊機動班の足を引っ張らないでくれよ?」

 

上地 颯。少し喋り方が挑発的なのは仕様なのか。

まだいまいちどんな人物かはわかっていないが、悪い奴ではないような気はする。

 

「よし、全員おわったな。じゃあ繋吾も正式入団ということで今日はこれで解散としよう。お疲れ様だ」

 

赤見さんがそう言うと郷田さん達は軽く挨拶をした後に、デュエル訓練場を後にしていった。

そして、この場には俺と赤見さんの二人だけが残った。

 

「繋吾。お前の部屋はさっき寝ていた部屋だ。場所はわかるな?」

 

あの殺風景極まりない部屋が俺の部屋だったのか。

何か家具でも置いておきたいところだな。その前に給料が入るまではお金がないけど。

 

「大丈夫です。今日は色々とありがとう赤見さん」

 

「いいんだ。わからないことがあればいつでも連絡をくれ。SFSに関しての細かい話は明日しよう。ではな」

 

赤見さんはそう言うと手を振りながらその場を後にした。

 

変わった性格の人が多いみたいだが、なんやかんやでうまくやっていけそうかな……。

とりあえず今日は色んな出来事があって疲れた。

明日から本格的にSFSでの活動が始まるだろうし今日はもう休むことにしよう。

 

俺はゆっくりと歩きながら、自分の部屋を目指した。

 

 



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第二章 SFS入隊
Ep9 - SFS活動初日


――郷田さんとのデュエルを終えた翌日。

 

なんやかんやでSFSに入隊はできたが、これからどう過ごしていけばいいのだろう。

昨日入隊したばかりの俺にとっては、まだSFS内のルールみたいなものもまったくわからない状況だ。

 

まぁ今日から赤見さんが色々教えてくれるみたいだし、その話を聞いてからどう過ごすかは考えてみようかな。

 

起床した俺は部屋のトイレで顔を洗いながらぼんやりとSFSについて考え始める。

 

民間軍事組織SFS。やっぱり真跡シティとかでデュエルテロが起きたら出撃してテロリストと戦う感じなのだろうか。小さいデュエルテロなんかはしょっちゅう起きてるみたいだし、そうなれば毎日のように出動してもおかしくはない。

その他には……当然、出動すれば記録なんかも残すだろうしそういった文書作成とかもあるのかな。俺、そういうの本当に苦手……というは読み書きなんてしばらくはデュエルモンスターズのカード以外ではしたことがない。

ちゃんと俺に務まるのだろうか……。

 

そんなことを考えていると部屋ベッドの近くから機械音が鳴り出す。

携帯電話の着信音と言えばわかりやすいだろうか。

 

顔を洗い終わった俺はすぐさまベッド付近の音の主を確認すべくあたりを探し始める。

 

ベッドの脇にはデュエルウェポンが置いてあった。

どうやら音の主はこいつのようだ。

そういや昨日寝る時にここに置きっぱなしにしてたっけ。

デュエルウェポンの画面には、新着メッセージ1件と表示されていた。

 

俺は手探りでそのデュエルウェポンを操作し、なんとかそのメッセージを閲覧できる画面までたどり着く。

 

"本日は朝礼にあわせて特殊機動班会議を行いますので、よろしくおねがいします。 あかみ "

 

赤見さんからのメールだった。

ひらがなで緩さアピールでもしているのかわからないが、いつもこんな感じなのだろうか。

 

そういえば通常時の朝は特殊機動班室で朝礼をやると言っていた。その開始時間と内容なんかは昨日教えてくれていたな。

ふと気になり俺はデュエルウェポンで時間を確認する。

 

すると時刻は既に朝礼開始の10分前を切っていた。まずい……このままでは遅刻してしまう。

 

俺は急いでSFS用の制服に着替えると特殊機動班室へ向かった。

 

――「失礼します!」

 

中に入ると、既に特殊機動班室には赤見さんと結衣、上地の三人がいた。

 

「開始2分前。ぎりぎりセーフだな繋吾」

 

赤見さんがにやにやしながら言ってくる。

 

「すみません……しばらく朝に早起きすることなんてなかったから慣れてなくて……」

 

しばらく路上生活をしていたものだから、時間なんて気にすることはほとんどなかった。

ゆえに時間通りに行動するっていうのはまだ慣れない。

 

「あのなぁ繋吾くん。俺たちSFSは何か事件が起きたらすぐに急行しなきゃいけないこともある。こんなギリギリじゃ作戦に支障がでてしまうんだよ」

 

上地が嫌らしい笑みを浮かべながら俺に言ってくる。

時間に間に合ってはいるのに……ダメなんだろうか。

 

「悪かったよ……。だけど時間には一応間に合ってる。遅刻はしていない」

 

「ふん、その程度の心構えで本当に何か起きたときに大丈夫なんだか……」

 

どうやらこいつはどこまでも俺に文句を言いたいタチのようだ。

あまり気にしないようにしよう。

 

「上地くん。悪いけど決闘機動班と違ってここは日常的なデュエルテロに急行するってことはほとんどないですよ」

 

上地の発言に対して結衣が横槍入れてきた。いいぞもっと言ってやれ。

味方につくとこれほどまでに頼もしい奴はいない。

 

「おっと、去年まで決闘機動班だったからつい……」

 

そういえばこの上地ってやつは、数ヶ月前から特殊機動班にいるとか言ってたか。

今の話だと前までは決闘機動班所属だったようだ。1年で異動なんて何かあったのだろうか。

 

「それにしても特殊機動班でもちゃんと時間を守って動ける結衣ちゃんはさすがだね! 尊敬しちゃうよ俺」

 

上地ってやつは、やたらと結衣のことを持ち上げるな。

好意を抱いているのだか知らないが、にやにやしながら喋るあたり露骨な反応なのが伺える。

 

「当たり前じゃないですか。私は入隊試験を主席で通過しているのですから」

 

「主席……? ってことはお前1番成績よかったのか?」

 

俺は思わず結衣に問う。

 

「ええ。あなたのようなホームレスとは格が違うんです。わかりましたか?」

 

「そうそう、お前のようなやつが気安く結衣ちゃんに話かけるんじゃねぇよ」

 

「……はいはい」

 

下手に話しかけるんじゃなかった……。

そんな話をしていると特殊機動班の最後の一人が部屋に入ってきた。

そう、郷田さんだ。

 

「悪い悪い、遅くなったな!」

 

郷田さんは頭をかきながら近くの椅子に座る。

その瞬間、赤見さんが自らのデュエルウェポンで時刻を確認し始めた。

 

「郷田、5分遅刻だぞ」

 

「いつものことだからわかってるだろう赤見! 俺は朝苦手なんだよ……。いつも言ってるじゃねえか。俺がいなくてもはじめちゃっていいって」

 

「ハハハ、そういうわけにもいかないんだよ郷田。まぁまぁ全員揃ったようだし、はじめるとするか」

 

どうやら郷田さんは遅刻常習犯のようだ。

こういう仲間がいると少し気が楽になるな。なんというか他にも遅刻している人がいると遅刻しやすい……みたいな。

 

「さてと、それでは今週の特殊機動班についてだが……先日のジェネシスの大襲撃がおわったところで各自報告書の作成等で忙しいところだろう。よって、今週いっぱいはその情報整理期間も兼ねてのデュエルの強化週間とする」

 

あれだけ大規模なデュエルテロ対応だとやはり色々と事務も大変なのだろうか。少し気が遠くなりそうだ……。

それはそれとしてデュエルの強化週間というのは一体なんなんだろう。

 

「デュエルの強化週間。班員同士でデュエル訓練するもよし、デッキの強化をするもよし。先日のデュエルテロの経験を通じて、各々のデュエルの腕を磨きなおす期間ってことだ。今週末くらいには、偵察警備班よりテロリストの調査報告が上がってくることになっているからそれまでは自由に行動してもらって構わない」

 

なるほど、つまりは各自自らの事務をこなしつつ、デュエルの腕を上げる週間ってことか。

正直、俺は報告書みたいなものはないし、自由にデュエルの特訓してていいってことになる。俺からしてみれば最高だ。

 

「おっし! なら久しぶりに筋力トレーニングし放題じゃないか!」

 

郷田さんが嬉しそうに大きな声を上げる。

デュエルじゃなくて体のトレーニングをするつもりかこの人は。その表情を見るによほどトレーニングが好きなのだろう。

彼のガタイの良さにも納得がいく。

 

「郷田、前みたいにSFS抜け出してトレーニングしに行ったりするなよな……」

 

「おう、颯。あの日はどうしても行きたくてしょうがなかったんだ。もうしねぇよ」

 

過去にSFSを抜け出してまでトレーニングしに行ったこともあるみたいだ。

一応、何かあれば出撃なんてこともあるんだろうし、無断で出て行くことはさすがに許されないんだろう。

 

「さて、新規に入隊した繋吾くんは何をしていいのかよくわからないと思う。なので、誰か1名繋吾に案内訳として、デュエル強化週間についてと併せて特殊機動班の活動について教えてやってくれないか?」

 

確かにデュエル強化週間といってもみんなが一体どういうことをしているのかがわからない。

教えてもらえるのであればそれは非常にありがたい話だ。

 

「おいおい、そういうのは赤見がやるんじゃねぇんか?」

 

郷田さんが不満そうに声をあげる。

 

「悪い。そうしたいとこなんだが、今日は国防軍へ出張に行かなくてはならないんでな……」

 

国防軍への出張。この間の左近さんの関係だろうか。

なんだか赤見さんはデュエル強化週間関係なく忙しそうだな。

 

「繋吾ちゃん。すまんが俺はあまり教えるのとかはできないタイプでな! 俺は無理そうだわ。話はそれで全部か? 赤見?」

 

郷田さんは頭で考えるより行動ってタイプみたいだしな。

教えるのは柄じゃなさそうだ。

 

「あぁ、今日の話はこれで全部だ」

 

「そうか。じゃあ俺はお先に失礼するぜ。何かあったら連絡くれよ」

 

郷田さんはそう言い、椅子から立ち上がると部屋を後にした。

 

「俺もですね赤見班長。習うより慣れろって主義なんですよ俺は。案内役はちょっと遠慮させてもらいます。それにこの間のデュエルテロの報告書。まだまったく手をつけていないんで作らなければいけませんから。では失礼しますわ」

 

次に上地までも声を上げ、部屋から出て行ってしまった。

おいおい、このままじゃみんないなくなってしまうぞ。

 

「仕方がない。結衣、任せられるか?」

 

ため息をつきながら赤見さんは結衣に声をかける。

 

「はぁ、わかりました。どうしてもやらなきゃいけないのであれば私が引き受けます」

 

まぁ結果的にそうなるわな。

嫌がらずにちゃんと教えてくれればいいんだけど。

 

ってか本当にこの特殊機動班大丈夫なのか。

人的な意味で少し心配だ。

 

「ならば繋吾、結衣から色々と教わってくれ」

 

「……わかりました」

 

赤見さんに言われて俺は渋々返事をする。

 

「悪いな結衣。無理のない範囲で大丈夫だから案内役頼んだぞ」

 

「いえ、大したことではありませんよ。赤見班長も出張お気をつけて」

 

「あぁ、ありがとう。それでは私はそろそろ行く時間だから先に失礼するよ、また後でな」

 

そう言うと赤見さんは俺たちに軽く頭を下げ足早に部屋から出て行ってしまった。

 

つまりこの特殊機動班室は結衣と二人きりの空間になったわけだが、なんて声を掛けようか迷っていると、結衣の方から話かけてきた。

 

 

「……まったく、なんで私があなたみたいなどうしようもない人の案内をしなくちゃいけないんだか……」

 

「悪かったな。そんなに嫌なら他の班員に頼めばいいだろ」

 

「何を言っているんですか。あの状況じゃ誰にも頼めないじゃないですか! それに……赤見班長がどうしてもと頼んで来たから引き受けたまでです。私は不本意ながら引き受けたことを予め申し伝えておきます」

 

いきなり不穏な空気なんだけども……。

一応今後同じ班員として活動していく仲間だ。

できることなら今後のためにも良好的な関係は築いておきたいところだが……。

とりあえず怒らせないように気をつけよう。

 

「わかってるよ……。とりあえず俺はどうしたらいいんだ?」

 

「そうですね……。あなたの部屋は空いてますか?」

 

俺の部屋で話をするってことか?

まだ何も置いてないような殺風景極まりない部屋だし来る分には問題はないが。

 

「あぁ、構わないよ」

 

「それならあなたの部屋で特殊機動班の説明をさせてください。ここで話すのは難なので」

 

幸い部屋は散らかっていなかったはずだ。

散らかってでもしたらこいつはあらゆることに口を出してくるだろう。

文句を言われるポイントは少ないほうがいい。

 

「あ、勘違いしないでくださいね。別に私があなたの部屋に行きたいわけではなく、特殊機動班の説明をあまり班員以外の人に聞かれたくないので、仕方なくあなたの部屋に行くだけですから」

 

「特殊機動班の内容ってそんなに極秘にしたいような内容なのか?」

 

「ええ。まぁ……。ジェネシス関係の話は重要事項ですし、赤見班長にあまり他の班の人に聞かれないようにと言われてますから」

 

赤見さんに? 一体どういうことなんだろう。

何か考えがあるのかもしれないな。気を付けておこう。

 

「それよりもさっさとあなたの部屋に案内してください。時間が惜しいので」

 

「まぁそう急かすなよ……。こっちだ」

 

嫌そうな表情をする結衣を連れて俺たちは自らの部屋へ向かった。

 



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Ep10 - 開かぬ心

しばらくして自らの部屋の前に到着した。

そこまでの道中はというともちろん仲良く会話というわけではなく……お互いに無言であった。

まぁ下手に文句を言われるよりはマシだろう。話題を振れば逆に反撃を受ける可能性もあるしな……。

 

手に持つ鍵で自分の部屋の扉を開けると、結衣と共に中へと入る。

俺よりも先に結衣が部屋の奥まで入り、なにやらあたりをキョロキョロとしていた。

 

「何もない部屋って殺風景ですね。あなたにはお似合いです」

 

「おい、どういう意味だ」

 

「変に着飾る必要がないってことですよ」

 

随分とまぁ好き勝手言ってくれるな……。

こいつに限っては今始まった話ではないか。それに路上生活をしていた俺からすれば事実ではあるしな。

 

結衣の発言について考えていると結衣はこの部屋にたった一つしかない椅子へと腰をかけた。

 

「なにぼやっとしているのですか? この椅子借りますよ」

 

「あ、あぁ。」

 

借りますよと言いながら既にもう座っているじゃないか。

突っ込みたくなるのを抑えて、仕方なく俺はベッドへと腰掛けた。

 

「さてと……ではSFSとそれから特殊機動班について。お話します。一度しか言いませんからしっかりとそのどうしようもない頭に叩き込んでください」

 

「一言余計だぞ」

 

「この世界は厳しい世界なんです。軽い気持ちで生き残れるほど優しい世界ではないのですよ。だからこそ今のうちに厳しさを理解してもらおうと思ったまでです。何か不満ですか?」

 

それについてと結衣の態度については話が違うような気がしなくもないが……。

まぁ彼女なりに気を使っているのかもしれないし、下手に突っ込まない方がいいか。

 

「……わかったよ。続けてくれ」

 

「わかりました。ではまずSFSについてから。赤見班長からも少しお話があったかもしれませんが、SFSは"Special Forces Savior"の略。活動目的は世界の平和を脅かすデュエルテロ組織の壊滅。8年前の法改正時にその見本となるようにいち早く設立されました」

 

増大するデュエルウェポンの驚異に対応するためにデュエルテロ組織への攻撃や自衛行為については、武力行使が認められるとかなんとかって言ってたやつか。

当時の記憶はあまりないけど、今よりも被害はひどかったのかもしれないな。

 

「SFSは警備から指定物の防衛。それから犯罪者の捕縛や戦闘から、対テロリストへの戦闘。依頼された情報の収集等、デュエルウェポンの力を使用したあらゆる任務を受け持つなんでも屋といったところです」

 

テロリストの戦闘以外にもいろんなことをやっているみたいだな。

実際デュエルウェポンっていうのはカードがあればなんでも召喚ができるようだし、本当になんでも行うことができそうだ。

 

「その中でも特殊機動班は……他の班とは少し目的の性質が違います。特殊機動班は国より依頼された一つの組織についての壊滅だけを目的として動いています」

 

「それが……ジェネシスってことか?」

 

「ええ。ですので特殊機動班はジェネシスについての任務を最優先として活動しています。人手不足等がない限りは他の日常任務は他の班がやることになりますね」

 

なるほどな……。ジェネシスだけに集中して活動する。

そうなれば確かに俺の復讐を達成するには効果的かも知れない。赤見さんが言っていた内容も頷ける。

 

「具体的にはジェネシスの動きを注視しながらその情報収集。そこからテロリストの殲滅や捕縛。そして、その報告書等の作成。戦闘訓練……大体そんなところですね」

 

「ちなみにその……ジェネシスっていうのはかなり有名なデュエルテロ組織なのか?」

 

「当たり前じゃないですか。国内では最大規模と言われており、この真跡シティ近隣で活動していると言われています。国防軍でもなかなかその情報を掴めないことから、SFSはその調査委託を引き受けているといったところですよ」

 

国内最大規模……それにそこまで国にマークされているってことはかなり凶悪な組織なのだろう。

実際に俺の父さんを殺したあの青年も無慈悲に住民を殺しているようだったし、その凶悪さには納得する。

 

「ただ……ジェネシスについては私も詳しくは知りません。知っているのは、襲撃した際に金品の強奪とは別に人の生命エネルギーの吸収を行なっていることくらいです」

 

この間ちらっと話していた吸収。

デッキと共にその人物の生命エネルギーを吸収するという非現実的な行為だ。吸収されてしまうとどうなってしまうのか考えるだけでもぞっとする。

 

「奴らはなんで生命エネルギーの吸収なんて……」

 

「それがわかってたら苦労しませんよ。デュエルウェポンの力を使えば簡単に人を殺すことができるのにわざわざ吸収している……。なんでそんなことをするのかいまだにわかっていません」

 

ジェネシスは活動目的に不明なところが多いんだな……。

だからこそ特殊機動班が調査をしなければならないってことか。

 

「そして、ジェネシスの襲撃は大規模であることがほとんどです。なので、任務は重要でかつ危険なものとなります。それを確実に遂行するためには一人一人に大きな覚悟とどんな局面でも戦い続けられる体力。それにデュエルの腕が特殊機動班には求められるのです」

 

「なるほどな……。佐倉、お前ももう何度か任務は行っているのか?」

 

「"結衣"で呼んでください。私、苗字で呼ばれるのあまり好きじゃないんです」

 

班員がみんなこいつの名前を下の名前で呼んでいたのはそういうことか。

上地はまぁ……例外だと思うが、みんな下の名前で呼ぶのも珍しいなと思っていたところだ。

 

「任務についてはそうですね。私は調査はたくさんありますが、襲撃時は何度かジェネシスの構成員とデュエルしたくらいしか今のところはないです。幹部クラスともなるとあまり表立って動いてくれませんし」

 

まぁ、確かにそうだよな。

実質国防軍に指名手配されているようなものだ。身元は隠すだろう。

 

「ちなみにその調査や襲撃対応以外っていうのはどういうことをしているんだ?」

 

「そうですね。赤見班長やその他国防軍から依頼があればその情報収集をしますし、あとは報告書の作成なんかもします。それもなければ今回のようなデュエル強化週間って感じです」

 

「なるほどな……デュエル強化週間ってどういう感じなんだ?」

 

「簡単なことです。デュエルの特訓やデッキ調整。あとはデュエルテロ時に備えて体を鍛えたり……。個人の実力アップや班内のチームワーク向上が目的って感じですね。郷田さんみたいな自由にやっている人もいますが……」

 

体を鍛えるってことは、一応郷田さんがやっているトレーニングは間違ってはいないようだ。

デュエルウェポンによるデュエルは、確かに体への負担が大きかった。

過酷な任務を継続していくには体力作りは重要だろう。

 

「あと他には……SFSの中で定期的にデュエル試験があります」

 

「デュエル試験?」

 

「ええ。定期的にデュエル大会のようなものがあるんです。それで個人個人の成績が決まり、班の異動等の人事に反映されていく形ですね」

 

「デュエルの腕前で班構成が変わるってことか」

 

「そうですけど、特殊機動班はあまり関係ないですね。任務内容的に元々希望がなければこの班には配属されませんから」

 

まぁ……これだけ危険な任務が多いんじゃ希望出す人もいないだろうし、腕に自信がなければ命を捨てるようなものだ。

希望がない人を異動させるわけにはいかないんだろう。だからこそこんなに班員が少ないのだろうが。

 

「まぁあなたが参加でもしたら、きっとみっともないデュエルをして、特殊機動班の印象が悪くなる一方なのでやめていただきたいですけどね」

 

「おいおい、それはやってみないとわからないだろ?」

 

「そもそも、特殊機動班は重要任務を任される特別な班なんです。それがあなたのようなろくでもない男がいると知られては好ましくありませんから」

 

ろくでもないですか……。

こいつにとっての俺の第一印象が襲撃時のホームレス姿だったから、余計にそう思われているのかもしれない。

なんとかしてこのイメージを覆せないものかな……。

 

まぁそれは置いといて、こいつはなんで特殊機動班に所属したんだろう?

普通の人だったらこんな危険な任務ばかりの班は嫌だろう。

 

「そういえば聞きたかったんだが、結衣はなんで特殊機動班に所属してるんだ? 成績1位だったなら、司令直属班や決闘精鋭班に入れただろう?」

 

「……」

 

その問いに対して結衣は言葉を詰まらせる。

何か言えない事情でもあるのか。

 

「……いえ、特殊機動班のような危険な任務は、私のように優秀な人にしか務まりませんから入ったまでです」

 

なんというか……言いたくないことがありそうだな。

触れられたくない内容なんだろうし、これ以上突っ込んでも怒られそうなので聞くのはやめておこう。

 

「さすが、成績トップは伊達じゃないな」

 

「……何か含みのある言い方ですね。馬鹿にしてるんですか」

 

ちょっといじわるっぽく言ってみたけど、すぐに突っかかってくるあたりわかりやすい反応をするな。

いつも言われてばっかりだからこれくらいはいいだろう。怒らせない程度に……。

 

「まったくこれだからダメなんですよあなたは……。そういえば……」

 

「なんだ?」

 

「この間の襲撃の時になぜあなたは逃げずにデュエルをしていたのですか? それにホームレスだというのにどこからデッキを……」

 

そういえば、赤見さんには色々と話したが、他の奴らは何も知らなかったか。

普通の人だったらまぁ逃げるよな。目の前で爆発とか色々起きているわけだし。

 

「気になるか?」

 

「別にあなたに興味があるわけじゃないですけど、質問されてばかりじゃ不満なのでお返しです。あの襲撃規模だったら普通の人はまず逃げますし、まともな服すら持っていないあなたのそのデッキは一体どこから出てきたんですか」

 

確かに服なんかよりデュエルモンスターズカードの方がよっぽど高い。

カードを売ってしまえば、まともな服も着れたし、しばらく食い物にも困らなかっただろう。

 

「……カードは俺にとっての唯一の仲間。デュエルが自分の生きがいみたいなものだったからだ」

 

「仲間? どういうことですか?」

 

あれ、食いついてきた? こいつのことだから馬鹿にしてくるかと思ったが……。

柄じゃないが、せっかくだからちょっと昔の話をしてみるか。

 

「昔な、俺はデュエルモンスターズが大好きで、暇な時間があればいつもデュエルを楽しんでたんだ。カードがあればデュエルができるし、そのデュエルした相手と共に楽しさを分かち合える。そう、人との"繋がり"をもたらしてくれるものが俺にとってはカードだった」

 

「……」

 

結衣は俺の話を無言で聞いている。

こいつの正確なら何かしら口を挟んできそうなものだが……なんとも珍しい光景だ。

何かこの話について思うことでもあるのだろうか。

 

「だけど、そんな毎日を過ごしていたある日。デュエルテロによって俺は家も家族も失い、当然学校にも通うことができなくなってしまった。唯一あったものはポケットにしまいこんでいたカードだけだったんだ」

 

「そんな……」

 

「それからの路上生活は毎日が生きるか死ぬかの瀬戸際。でもカードだけはいつもそばにあった。このカードたちを持っていれば、また前みたいに誰かとデュエルすることができるし、もしかしたら今の生活から脱却できるかもしれない。それにまた父さんに会えることができるかもって思ったんだ」

 

「その……お父様はまだ生きているのですか?」

 

生きているかはわからないけど、死んでる可能性の方が高いのかな。

だけど死んだのを俺自身の目で確認したってわけじゃない。だから俺は生きていると信じてはいる。

 

まぁただ単に俺自身が死んでいるという現実を受け入れたくないという思いが、今も生きていると信じている要因かもしれない。

 

「わからないけど、俺は今も生きているって信じてる」

 

「そうですか……」

 

なんかしんみりした雰囲気になってしまったな。

これは気まずい。なんか話を切り替えるか。

 

「まぁそのおかげでこうやってSFSに入れたわけだ。デュエルモンスターズ様々ってところだな」

 

「え、ええ……。というかこの間の襲撃の時、私がいなかったらどうなっていたことか」

 

「いや、別に俺はデュエルに勝っていたじゃないか」

 

「何を言うんですか、図に乗らないでください。救護呼んだのは私ですし、何よりあなたをあそこ止めていなければ今頃死んでましたよ」

 

そういえば、我を忘れて続けてテロリストと戦おうとしてたっけ……。怒りに身を任せて少しおかしくなっていたような感覚は覚えている。

 

ある意味救ってくれたのかもしれないな結衣は。憎しみに囚われていた自分を。

今更ながらで少し恥ずかしいが、そのお礼はまだ言えてなかった。一応こいつにも感謝しなきゃだな。

 

「そうだったな……忘れていたよ。あの時止めてくれたことは感謝してる」

 

「い、いえ……。大したことはありません……。それよりも今後は気をつけること! 特殊機動班なんですから、今後は恥のないような行動をしてください」

 

お礼を言われて結衣は少し動揺したようだったが、すぐにいつもの鋭い表情へと戻った。

 

「まったく……。あなたのせいで余計に時間を消費してしまいました。説明はある程度終わりましたし、今日はこれで失礼しますよ。質問があるのなら赤見班長にでも聞いてください」

 

「あぁ、時間とってもらって悪かったな。結衣」

 

「お礼ばかり言ってるくらいなら、今度はその気持ちを行動に……そうですね、今度は私が来た時に紅茶ぐらいは用意しておいてください。それでは」

 

結衣は少し不機嫌そうに言うと、少しだけ足早に俺の部屋を出て行った。

 

なんというか……話してみると悪いとこばかりって感じでもないな。

真面目な話はちゃんと聞いてくれてたし、それになんやかんやで聞きたいところはちゃんと教えてくれた。

 

今後自分に対して少しくらいは優しくなってくれればいいんだが……。うまくやっていきたいところだな。

 

結衣が出てしばらくした後、急遽電子音が部屋に響き渡る。

この音は聞き覚えがあるぞ……。

確か、デュエルウェポンのメール受信音だったような……。

 

ベッドの上に置いてあるデュエルウェポンを手に取り画面を確認すると。そこにはやはり新着メール一件の文字が表示されていた。

また赤見さんかな? 今度は一体なんだろう。

 

デュエルウェポンを操作し、内容を確認すると宛名には"上地 颯"と書かれていた。

 

"すぐにデュエル訓練場へ来い。来なかったらどうなるかわかってるな?"

 

上地 颯ってあの銀髪のやつか。一体どうしたんだろう。

脅迫のつもりか何かなんだろうか。身に覚えがない。

デュエル訓練場ってことはデュエルか? デュエルしたいのなら素直に誘えばいいのに。めんどうなやつだ。

 

俺にとっては、行かなきゃいけない理由があるわけではないが、もしデュエルするというのなら望むところだ。

上地と喋ってみるいい機会にもなるだろうし、せっかくだから行ってみよう。

 

俺はデュエルウェポンを腕に装着し、デュエル訓練場へと向かったのだった。



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Ep11 - 嫉妬のイナズマ 前編

デュエル訓練場にたどりつき、中央のデュエルリングを眺めるとそこには見覚えのある人物が立っていた。

上地 颯の姿だ。腕を組みながらこちらの方を見ている。

 

「おい、呼ばれたから来たぞ。一体何のようだ?」

 

「よう、よくビビらずにちゃんと来たな? 遊佐 繋吾!」

 

上地は俺を睨みつけながら言った。

ビビらずにって……。俺があいつにビビらなきゃいけないことなんてなにかあっただろうか。

 

「一体急にどうしたんだ上地。俺が入隊したのがそんなに嫌だったのか?」

 

「まぁホームレスごときがエリートである特殊機動班に入隊するのは歓迎はしてないが……。そんなんじゃねぇ」

 

「悪かったよ。だけど俺だって入隊するからには頑張る――」

 

「そんなことはどうだっていいんだよ!」

 

俺の言葉を遮り上地が急に叫びだした。

こいつ、一体どうしてしまったんだ。

 

「お前……結衣ちゃんと仲良く喋りやがって……!」

 

「は?」

 

想定外の発言に拍子抜けしてしまう。

俺が結衣に特殊機動班について教えてもらっていたのが、そんなに不服だったのか?

 

「さっきお前の部屋の前通ったら結衣ちゃんの声が聞こえたからよ。聞き耳立ててたんだが、随分と長いことおしゃべりしてたみたいじゃねぇか……」

 

そこまで長く会話したような覚えはないが……。

それじゃさっき俺が結衣に話していた昔話なんかもこいつには聞こえてたってことか?

でも、あの内容を聞いたのであれば、そんなに仲良く会話をしたってわけでもなかっただろうに。

 

「悪い、話が読めないんだが……」

 

「とぼけるんじゃねぇ! お前の部屋に結衣ちゃんがいたのは間違いねぇんだよ! "あなたのせいで時間を余計に消費した"とか、"今度は紅茶ぐらい用意しなさい" とか言われてたの聞いてたんだぞおい!」

 

そういえば最後に言ってたな……。もしかしてよりによってこいつはそこだけ聞いてたってやつか。

こいつはめんどくさいことになった。

 

「おいおい、何か勘違いしてるようだがーー」

 

「勘違いも糞もない! ここで決着つけようじゃねぇか」

 

ダメだ。話が通じない。

元はと言えばお前が自らSFSについて教えるのを拒んだからじゃないか……。

誰か助けてくれ。赤見さんでも誰でもいい。

 

「結衣ちゃんが可愛くて近づきたくなる気持ちは俺もよーくわかるよ遊佐。だけど、お前に渡すわけにはいかねぇ!」

 

「別に俺はそういうわけじゃ」

 

「うるせぇ! デュエルで決着をつけるぞ。お前が勝ったら潔くお前が結衣ちゃんに近づくことを認めよう。だけどお前が負けたら二度と結衣ちゃんに近づくんじゃねぇ!」

 

そこまで覚悟を決めてデュエルを挑むとは男らしいところがあるじゃないか。

それよりもまずはこの勘違いをなんとかしなければいけないけどな。

 

「別に構わないよ。お前がデュエルしたいってのなら受けて立つ。だけどなーー」

 

「おし、決まりだな! 覚悟しろよ……遊佐ぁ!」

 

再び俺の発言は途中で途切れられてしまい、上地はデュエルウェポンを構え出す。

 

「おい、ぼけっとしてるんじゃねぇ! とっとと構えろ」

 

「あ、あぁ……わかってるよ」

 

これはもうやるしかないな。

この勘違いはデュエルの中でなんとかする!

 

「いくぞ……デュエル!」

 

繋吾 LP4000 手札5

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー 

ーーーーー

ーーーーー

颯 LP4000 手札5

 

 

先攻は俺からのようだ。

あいつのデュエルの腕前は未知数だが、油断はできない。

なんといっても特殊機動班員だ。こないだの郷田さんクラスのデュエルはしてくるだろう。

 

「先攻はもらう、俺のターン。【炎竜星ーシュンゲイ】を召喚!」

 

ーーー

【炎竜星ーシュンゲイ】✩4 炎 幻竜 ③

ATK/1900

ーーー

 

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

繋吾 LP4000 手札3

ーー裏ーー

ーーモーー

 ー ー 

ーーーーー

ーーーーー

颯 LP4000 手札5

 

相変わらずの無難なスタートだ。

相手が猛攻を仕掛けてきたとしても竜星モンスターはデッキから後続の仲間を次々と出せる。

相手の出方を伺いつつ、出すモンスターを選ぶことで、いくらでも巻き返す方法を考えられる竜星モンスターは、はじめに引けているとやっぱり安心するな。

 

だが、郷田さんとのデュエルで俺のデッキの内容が上地のやつにはバレている。

対して俺はやつのデッキを全く知らない。

その情報アドバンテージがどのように影響してくるか……。慎重に戦わねば。

 

「へっ、そんなモンスターごときで俺を倒せると思うなよ。俺のターン、ドロー!」

 

上地はドローすると、不敵な笑みを浮かべながら視線を向けてくる。

 

「ふっふっふ……結衣ちゃんは渡さねぇ……! 俺の稲妻のごとく迸るこの思い、お前なんかに踏みにじられてたまるかよ!」

 

「はぁ……」

 

なんだか一人で勝手に盛り上がってるようだが、本当に俺は何もしていないんだ。

どのタイミングなら話が通じるだろう。とりあえず今はデュエルに集中だ。

 

「いきなりいくぜ! 俺は魔法カード【ジェムナイト・フュージョン】を発動! フィールド、手札のモンスターを素材に"ジェムナイト"融合モンスター1体を融合召喚する!」

 

融合デッキ使いか!

郷田さんも融合を使っていたが、上地は融合召喚がメインといった感じだろうか。

 

「手札の【ジェムナイト・ルマリン】と【ジェムナイト・ラズリー】を融合! "轟く希望! 駆ける稲妻となりて、戦場を切り裂け! 融合召喚! 来い、【ジェムナイト・パーズ】!"」

 

ーーー

【ジェムナイト・パーズ】✩6 地 雷 ②

ATK/1800

ーーー

 

金色に輝く鎧を輝かせ、電撃を纏ったダガーを両手に握りながらそのモンスターは現れる。

融合召喚した割には、攻撃力は俺のモンスターよりも低いようだが……。

きっと何か厄介な効果を持っているのだろう。

 

「まずはこいつだ! 融合素材になった【ジェムナイト・ラズリー】の効果を発動! こいつが効果で墓地へ送られた時、墓地から通常モンスターを手札に戻す! 俺は【ジェムナイト・ルマリン】を手札に戻す! そう、乙女の思いに颯爽と参上する【ルマリン】のように俺は結衣ちゃんを守る男となるのさ!」

 

「お、おう……」

 

うまいこと言っているつもりなのかわからないが、消費の激しい融合において、手札を補充するのは有効的な戦略だ。

なんやかんやでそのデュエルプレイングは侮れない。

 

「さぁて、攻撃力が低くて安心している遊佐くんには、たっぷりと刺激を与えてあげなきゃな。俺は魔法カード【アームズ・ホール】を発動! デッキの一番上を墓地へ送ることで、デッキか墓地から装備魔法1枚を手札に加える!」

 

装備魔法。モンスターに装備することで攻撃力を上昇させる等といった効果が多い魔法カードだ。

それを装備させて【ジェムナイト・パーズ】の低い攻撃力をカバーしようという考えなのだろうか。

 

「デッキの一番上、【ジェムナイト・アレキサンド】を墓地へ送り、デッキから【ガーディアンの力】を手札に加える! そして、これを【ジェムナイト・パーズ】に装備!」

 

【ガーディアンの力】が【ジェムナイト・パーズ】に装備されたが、攻撃力の変化は見られない。

これも何か特殊な効果を持っているのだろうか。

 

「よし、バトルフェイズだ。【ジェムナイト・パーズ】で【炎竜星ーシュンゲイ】に攻撃! "ボルテック・ダガー!"」

 

【ジェムナイト・パーズ】

ATK/1800

【炎竜星ーシュンゲイ】

ATK/1900

 

「攻撃力はお前のモンスターの方が低いみたいだが……」

 

「まったく甘いやつだぜ。そんなんじゃ結衣ちゃんは務まらねぇ! この瞬間【ガーディアンの力】の効果が発動! 装備モンスターが戦闘を行う攻撃宣言時に、このカードに魔力カウンターを一つおくことができる!」

 

「魔力カウンターだと?」

 

カードにカウンターというものを置く効果を持つカードがある。

そのカウンターの置いてある数によって、様々な効果を及ぼすのが特長だ。

代表的なカウンターが今回出ている魔力カウンターというものである。

 

「そして、【ガーディアンの力】に存在する魔力カウンター一つにつき、装備モンスターの攻撃力は500ポイントアップさせることができる!」

 

【ジェムナイト・パーズ】

ATK/1800→2300

【炎竜星ーシュンゲイ】

ATK/1900

 

なるほど、これで攻撃力が上回った。

それにしてもたったの500のアップじゃ大したことはないぞ。

 

「やれ! 【シュンゲイ】をその電撃で葬れ!」

 

「ぐぅっ!」

 

繋吾 LP4000→3600

 

「ここで、刺激的な【ジェムナイト・パーズ】の効果発動! 破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える! "スプラッシュ・サンダー!"」

 

「なに!? ぐあああ!」

 

繋吾 LP3600→1700

 

攻撃力が低いがゆえに許された多くのダメージを与える効果。

確かにこれは刺激的なモンスターだ。一気にライフが半分以上もってかれた。

 

「だが、破壊された【シュンゲイ】の効果発動! デッキから【風竜星ーホロウ】を守備表示で特殊召喚する!」

 

ーーー

【風竜星ーホロウ】✩1 風 幻竜 ③

DEF/1800

ーーー

 

「安心するのはまだ早い! 【パーズ】はなんと2回も攻撃することができる!」

 

「なに!?」

 

ダメージを多く与える効果に続いて、2回攻撃……。

効果だけは非常に攻撃的だ。攻撃力が控えめなのも頷ける。

 

「【ホロウ】を引き裂け! 【パーズ】! "ボルテック・ダガー・セカンド!" この時、【ガーディアンの力】の効果で攻撃力がさらにアップ!」

 

【ジェムナイト・パーズ】

ATK/2300→2800

【風竜星ーホロウ】

DEF/1800

 

「くっ【ホロウ】は破壊されるが、こいつの攻撃力は0。ダメージを受けない!」

 

「雑魚モンスターで命拾いしたな?」

 

「だが、【ホロウ】の効果が発動! デッキから【光竜星ーリフン】を攻撃表示で特殊召喚させる」

 

ーーー

【光竜星ーリフン】✩1 光 幻竜 チューナー ③

ATK/0

ーーー

 

「相変わらず何度もわらわらと出てきやがって……」

 

「絶えず繋がり続け、大きな力を生む。これが俺のデュエルだ」

 

「ちっ、お前の戦い方は郷田とのデュエルでとうにわかってる。だが、【ガーディアンの力】のある【パーズ】は今のように攻撃力を上げながら攻めることができ、さらに【ガーディアンの力】の効果は魔力カウンターを一つ取り除くことで、【パーズ】の戦闘か効果による破壊も無効にすることもできる。攻防完璧ってわけだ!」

 

「なるほど、それは確かに強力な効果だな……」

 

【ガーディアンの力】にはその名のとおり守る効果もあったのか。

前戦ったヘルメットの男の【魔王龍ベエルゼ】を思い出すかのような効果だ。

 

「どうだ? 俺のデュエルセンス……思い知ったか! ホームレス上がりが結衣ちゃんに手を出すなんて100年早いぜ!」

 

「あのなぁ……一つだけいいか?」

 

「なんだ? サレンダーなんて認めねぇよ。ここでお前は負けるのがお似合いさ」

 

デッキがうまいこと回っているせいか随分と上機嫌そうなので、言うのなら今しかない。

 

「別に俺は結衣に対してそういうつもりはないぞ」

 

「この期に及んで言い訳か? 見苦しいやつだなぁー。このデュエルは俺にとっては結衣ちゃんがかかってるんだ! お前も覚悟を決めろよ遊佐ぁ!」

 

うーん。どうしたら誤解が解けるだろうか。

結衣本人でも来てくれれば一番早いか?

 

「さっそく戦意喪失かぁ? 自分が出しゃばって結衣ちゃんに手を出したこと後悔するんだな! 俺はカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 

繋吾 LP1700 手札3

ーー裏ーー

ーーモーー

 ー 融 

ーーーーー

ーー魔裏ー

颯 LP4000 手札2

 

さてと、まずはあの【ガーディアンの力】をなんとかしなければいけないな。

それなら"アイツ"の効果を使えばすぐに突破できるはずだ。

 

「俺のターン、ドロー! 【マスマティシャン】を召喚! デッキからレベル4以下のモンスター、【ジェット・シンクロン】を墓地へ送る」

 

ーーー

【マスマティシャン】✩3 地 魔法使い ②

ATK/1500

ーーー

 

「そして、さっそく墓地へいった【ジェット・シンクロン】の効果発動! 手札を1枚捨てて、こいつを墓地から復活できる! 手札の【仁王立ち】を墓地へ送り、来い、【ジェット・シンクロン】」

 

ーーー

【ジェット・シンクロン】✩1 炎 機械 チューナー ④

DEF/0

ーーー

 

「さらに、墓地からモンスターが特殊召喚した時、手札の【ドッペル・ウォリアー】は特殊召喚できる。来てくれ、【ドッペル・ウォリアー】!」

 

ーーー

【ドッペル・ウォリアー】✩2 闇 戦士 ⑤

DEF/800

ーーー

 

【マスマティシャン】から繋がるモンスターの連携でかなり展開できた。

ここからはいつもどおりやらせてもらうぞ。

 

「雑魚モンスターがわらわらと出てきやがって……!」

 

「どんな弱い力でも、力を合わせれば強いやつを超えることができる」

 

「なんだよ。ホームレスみたいなやつでもエリートを超えられるとでも言いたいのか?」

 

「いや……別にそういうことを言いたいわけじゃないが……」

 

まるで自分がエリートみたいな言い方だな。

まぁ特殊機動班に所属しているからには、彼もそれなりに強いやつってのは間違いはなさそうだが。

 

「弱いやつに限ってこそこそと群がりやがる。まったく目障りなんだよ」

 

上地は少し表情を曇らせながら言う。

 

「おい……どうしたんだ上地」

 

「ハッ! そんなんじゃ結衣ちゃんにはふさわしくねぇってことだよ!」

 

結局のところはそれか……。

まぁいずれにしても【ジェムナイト・パーズ】を攻略する準備は整った。

反撃開始だ!

 

「現れよ! 心を繋ぐサーキット! 俺は【ジェット・シンクロン】1体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、リンク1、【リンクリボー】!」

 

ーーー

【リンクリボー】リンク1 闇 サイバース ①

ATK/300

ーーー

 

「さらに、レベル3の【マスマティシャン】とレベル2の【ドッペル・ウォリアー】にレベル1の【光竜星ーリフン】をチューニング! "星空を焦がす猛き咆哮よ! その瞳に宿る蒼き衝動を解き放て! シンクロ召喚! 【天狼王ブルーセイリオス】!"」

 

ーーー

【天狼王ブルーセイリオス】✩6 闇 獣戦士 ②

ATK/2400

ーーー

 

美しい蒼色をした狼が空に向かって咆哮を上げる。

 

「シンクロ召喚してもその程度の攻撃力じゃ【ジェムナイト・パーズ】には届かないぜ? 俺の完璧な戦略の前には無意味だ!」

 

「まぁ待てよ上地。まだ終わってない。シンクロ素材となった【ドッペル・ウォリアー】の効果で、場に【ドッペル・トークン】2体を特殊召喚する」

 

ーーー

【ドッペル・トークン】✩1 闇 戦士 ①と③

ATK/400

ーーー

 

「くっ……まだ湧いてくるか! しつこいやつは嫌われるぜ」

 

「お前こそ、少しは静かに見てろよ……。再び来い、心を繋ぐサーキット! 俺は【リンクリボー】と【ドッペル・トークン】をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、リンク2、【LANフォリンクス】!」

 

ーーー

【LANフォリンクス】リンク2 光 サイバース ①

ATK/1200

ーーー

 

「さらに、連続リンク! 【ドッペル・トークン】1体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、リンク1、【リンクスパイダー】!」

 

ーーー

【リンク・スパイダー】リンク1 地 サイバース ①

ATK/1000

ーーー

 

「そして、三度来い、心を繋ぐサーキット! 【LANフォリンクス】と【リンクスパイダー】をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、来い、繋がる心の象徴! 【セフィラ・メタトロン】!」

 

ーーー

【セフィラ・メタトロン】リンク3 光 幻竜 ①

ATK/2500

ーーー

 

光り輝く鎧身にまとい、【セフィラ・メタトロン】はその手に持つ杖を構えた。

 

「きやがったか……。お前のエースモンスターってやつが」

 

上地はそのモンスターを眺めながら呟く。

こいつの効果を使えば、【ガーディアンの力】など恐るに足りない。

 

「あぁ、こいつの効果を存分に味わってもらうぞ。俺は【セフィラ・メタトロン】の効果発動! 俺の場の【天狼王ブルーセイリオス】とお前の【ジェムナイト・パーズ】をエンドフェイズ時まで除外する。"コネクター・サブリメイション!"」

 

【セフィラ・メタトロン】が空中に浮かび上がり、杖を空へ掲げると、【天狼王ブルーセイリオス】と【ジェムナイト・パーズ】は足元から消滅していく。

 

「くそっ! 除外されたことで【ガーディアンの力】の装備が解除され、破壊される!」

 

「そのとおりだ。場はガラ空き。【セフィラ・メタトロン】でダイレクトアタック! "ヴェンジェンス・ディバイニング!"」

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500

 

宙に浮いた状態から【セフィラ・メタトロン】は急降下し、その両手から白く輝く槍のようなものが出現するとそれを上地へ向かって突き立てた。

 

「あああ! くぅ!」

 

颯 LP4000→1500

 

いいダメージが入った!

伏せカードは発動してこないところを見るとブラフか何かだったのだろうか。温存している可能性もあるが。

 

「よし、俺はこのままターンエンド。エンドフェイズ時に除外されていた【天狼王ブルーセイリオス】と【ジェムナイト・パーズ】は場に戻る」

 

ーーー

【天狼王ブルーセイリオス】✩6 闇 獣戦士 ②

ATK/2400

ーーー

【ジェムナイト・パーズ】✩6 地 雷 ③

ATK/1800

ーーー

 

「ちくしょう……。調子に乗りやがって……! 少しデュエルの腕が立つからって図に乗るなよ遊佐……!」

 

「待ってくれ。俺はお前と張り合うつもりはない。同じ班員としてお前とは仲良くしたいと思ってる」

 

「うるせぇ! お前は……赤見さんには期待されるし、結衣ちゃんには手を出すし……。目障りなんだよ……!」

 

これは……嫉妬というやつなのか。

悪いことをしたような覚えはないが、俺の無意識の行動がこいつにとっては不快であったのかもしれない。

 

「俺のせいでお前が不快な思いをしたのならそれは悪かった」

 

「なに……?」

 

「上地、俺がこのデュエルを受けたのは、お前とのデュエルに真剣に向き合うことで、特殊機動班の仲間として認めてほしいって思いもあるんだ」

 

「遊佐、お前……」

 

「だから、俺の思いをこのデュエルで伝える。お前も結衣のことをそんなに思っているのなら、それをこのデュエルでぶつけてくれ。さぁ、お前のターンだ」

 

あいつがどこまで俺のことを煙たがってるかはわからないけど、俺は別に対立しようだなんてつもりはない。

それにあいつは仲間である結衣のことを思い、大切にしようとしている。

その心意気を見る限り、決して悪い奴じゃないはずだ。

 

 

繋吾 LP1700 手札1

ーー裏ーー

ーシーーー

 リ ー 

ーー融ーー

ーーー裏ー

颯 LP1500 手札2

 

 

 

 



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Ep12 - 嫉妬のイナズマ 後編

繋吾 LP1700 手札1

ーー裏ーー

ーシーーー

 リ ー 

ーー融ーー

ーーー裏ー

颯 LP1500 手札2

 

「くっそ……。調子狂うなまったくよ。今度こそ……その澄ました顔を潰してやる! 俺のターン、ドロー!」

 

上地は動揺しながらもカードをドローする。

 

「俺は墓地から【ジェムナイト・フュージョン】の効果発動! 墓地の"ジェムナイト"モンスターを除外することでこのカードを墓地から戻すことができる。俺は【ジェムナイト・アレキサンド】を除外して、手札に戻す!」

 

墓地に"ジェムナイト"モンスターがいる限りいくらでも融合ができるということか。

手札が続く限りではあるが、非常に強力な融合魔法だ。

 

「そして、【ヴァイロン・プリズム】を召喚!」

 

ーーー

【ヴァイロン・プリズム】✩4 光 雷 チューナー ②

ATK/1500

ーーー

 

「再び、【ジェムナイト・フュージョン】発動! 場の【ヴァイロン・プリズム】と手札の【ジェムネイト・ルマリン】を融合! "無垢なる輝き! 聖なる雷に導かれ、邪悪を砕け! 融合召喚! 【ジェムナイト・プリズムオーラ】!"」

 

ーーー

【ジェムナイト・プリズムオーラ】✩7 地 雷 ②

ATK/2450

ーーー

 

鎧に埋め込まれた蒼白き結晶を光らせる白銀の騎士が現れ、その手に持つ突撃槍を構える。

 

今度のモンスターはなかなかの攻撃力を持っているようだが、それでもその攻撃力は【セフィラ・メタトロン】を下回っている。

今の現状なら俺の場のモンスターが突破される恐れはないだろう。

 

「ここからだぜ……。場から墓地へいった【ヴァイロン・プリズム】の効果! ライフを500ポイント支払い、場のモンスター1体に装備する。俺は【ヴァイロン・プリズム】を【ジェムナイト・パーズ】に装備!」

 

颯 LP1500→1000

 

【パーズ】の胸元に【ヴァイロン・プリズム】が装着され、その身に纏っている電撃がさらに強さを増した。

わざわざ【ヴァイロン・プリズム】を召喚してから融合したのは、これが狙いだったのか。

 

「モンスターを装備だと……?」

 

「そのとおり! これを装備したモンスターが相手と戦闘する時、ダメージ計算時に攻撃力が1000アップする。つまり、【パーズ】は攻撃力2800で攻撃できるってことだ!」

 

【ジェムナイト・パーズ】の効果と合わせれば、2回攻撃で5600ものダメージを与えることができるってことか。

例え無傷状態だとしても一気にライフが削り取られてしまう。

 

「これでデュエルは俺の方が強いってことが証明できる……! バトルだ、【ジェムナイト・パーズ】で【セフィラ・メタトロン】を攻撃! "ボルテック・ダガー!"」

 

【パーズ】は電撃の纏う刃を構え、【セフィラ・メタトロン】へ接近する。

このまま通してしまえば俺の負けだ。

 

「俺は手札から【虹クリボー】の効果発動! 相手の攻撃宣言時、その攻撃したモンスターにこのカードを装備させる! こいつが装備されたモンスターは攻撃できない!」

 

モンスターの装備に対しては、こっちもモンスターを装備ってな!

【パーズ】が攻撃できなければ、安心だ。

 

「くっそお……。姑息なマネしやがって! 素直に攻撃受けろってんだよ!」

 

「デュエルは真剣勝負だ。やるからには全力で戦わせてもらう! それにお前こそ全力の俺に勝たなければ意味がないんじゃないのか?」

 

「くっ……まぁ、確かにお前の言うとおりだ。だけど、こいつの攻撃は止められねぇはずだ! 【ジェムナイト・プリズムオーラ】で【天狼王ブルーセイリオス】を攻撃! "ライトニング・ランス!"」

 

【ジェムナイト・プリズムオーラ】

ATK/2450

【天狼王ブルーセイリオス】

ATK/2400

 

【プリズムオーラ】は自らの足で高速移動を始めるとその勢いで【ブルーセイリオス】に突撃槍を突き刺した。

たまらず【ブルーセイリオス】は貫かれ、消滅する。

 

「くっ」

 

繋吾 LP1700→1650

 

「この瞬間、破壊された【天狼王ブルーセイリオス】の効果発動! 相手モンスター1体の攻撃力を2400ポイントダウンさせる! 【プリズムオーラ】の攻撃力を下げる! "ブルー・スティール!"」

 

【プリズムオーラ】に青色をしたオーラのようなものが包み込み、その力を奪っていく。

 

【ジェムナイト・プリズムオーラ】

ATK/2450→50

 

「くそ、俺の【プリズムオーラ】が!」

 

「それだけじゃない! 【セフィラ・メタトロン】のリンク先のEXデッキから特殊召喚されたモンスターが破壊された時、墓地からモンスターを手札に戻すことができる! "セメタリー・サルベーション!" 俺は墓地から【風竜星ーホロウ】を手札に加える」

 

「くっそお……なんだか倒した気がしなくて歯がゆいぜ……! ならばメインフェイズ2の再び墓地の【ジェムナイト・フュージョン】の効果で、【ジェムナイト・ラズリー】を除外し、手札に加えたあと、【ジェムナイト・プリズムオーラ】の効果発動! 手札の"ジェムナイト"カードを墓地へ送り、場のカード1枚を破壊する」

 

「なに!?」

 

戦闘に強い【ジェムナイト・パーズ】に対して、効果による破壊を身につけている【ジェムナイト・プリズムオーラ】。

この2体の攻めはなかなかに厄介だ。

 

「手札の【ジェムナイト・フュージョン】を捨て、お前の【セフィラ・メタトロン】を破壊する! "サンダー・レイストーム!"」

 

【プリズムオーラ】の体が帯電し始める。

 

「そうはさせない、罠カード、【ブレイクスルー・スキル】を発動! 【プリズムオーラ】の効果をこのターンのエンドフェイズ時まで無効する」

 

「これも止めてきやがるか。くそう……。このままでは攻撃力が低い【プリズムオーラ】が格好の的になってしまう。ならば……」

 

上地はしばらく考えるように場を眺めると、にやりと笑みを浮かべる。

 

「いでよ、輝石を照らすサーキット! 俺は【ジェムナイト・プリズムオーラ】と【ジェムナイト・パーズ】の2体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚、リンク2、新たなる輝石! 【ジェムナイト・ファントムルーツ】!」

 

ーーー

【ジェムナイト・ファントムルーツ】リンク2 地 岩石 ②

ATK/1450

ーーー

 

神々しき翼を身につけた騎士モンスターが出現した。

それは今までの"ジェムナイト"モンスターとは違った雰囲気を醸し出している。

 

「このカードがリンク召喚に成功した時、デッキから"ジェムナイト"カード1枚を手札に加えることができる。俺は【ジェムナイト・オブシディア】を手札に加えさせてもらうぜ?」

 

「くっ」

 

さらなる"ジェムナイト"モンスターを加えたことで、融合召喚も可能になったってことか。

しかし、そのために2体の主力モンスターを失ったのは上地にとっても大打撃だろう。

 

「さらにもう一度墓地から【ジェムナイト・フュージョン】の効果、墓地の【ジェムナイト・ルマリン】を除外することで手札に戻し、カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

 

繋吾 LP1650 手札1

ーーーーー

ーーーーー

 リ リ 

ーーーーー

ーー裏裏ー

颯 LP1500 手札2

 

 

上地の攻撃は郷田さんに負けず劣らず鋭く、激しい攻撃だ。

あいつが本気で俺のライフを削りに来てるということはひしひしと伝わって来る。

それほどまでに彼もデュエルに本気ってことだろう。

 

「遊佐ぁ……。お前はそれなりにデュエルが強いってのはわかった。だがな、いい気になるのは俺の"雷"を超えてからにしろ! まぁ、お前にできたらの話だけどな!」

 

そうは言ってるものの、彼の表情は先ほどまでとは違いいい笑顔をしていた。

 

「なんやかんやお前、楽しそうじゃないか」

 

「なんだと……! 俺はただ、お前に実力の差を思い知らせてやりたいだけだ!」

 

「その割にはいい表情をしてるぞ。こんなに楽しいデュエルなんだ。もっと楽しめよ上地」

 

「っち……まぁな。いくら攻めても攻めきれない。こんなデュエルは久しぶりだ」

 

上地は自らの気持ちに気がついたかのように、少し恥ずかしそうに言った。

 

「だけど、勝負は勝負! お前が負けたらきちんと結衣ちゃんの件は守ってもらうからな!」

 

「あぁわかってるよ。約束は守る。だからこそ、全力でかかってこい」

 

「へっ望むところよ。さ、お前のターンだ。とっととカードを引きな!」

 

相手の場には【ジェムナイト・ファントムルーツ】が一体と伏せカードが2枚。

奴のモンスターの攻撃力と俺の【セフィラ・メタトロン】との攻撃力差は1050ポイントだ。

颯の残りライフは1000しかない今、攻撃をすれば勝つことはできるが、あの自信がある様子を見ると、いまだに発動していないあの伏せカードに何かがあるのだろう。

そうなれば、何か伏せカードを取り除けるようなカードがあればいいが……。

 

「俺のターン、ドロー! 俺はさっきのターン加えた【風竜星ーホロウ】を召喚! モンスターの召喚に成功したターン、さらに【ワンショット・ブースター】を特殊召喚できる!」

 

ーーー

【風竜星ーホロウ】✩1 風 幻竜 ①

ATK/0

ーーー

【ワンショット・ブースター】✩1 地 機械 ②

DEF/0

ーーー

 

「さらなるリンク召喚でもするつもりだろうが、好き勝手はさせねぇ! リバースカードオープン! 【サンダー・ブレイク】発動!」

 

「なに! ここで伏せカードだと?」

 

「手札を1枚捨てることで、場のカード1枚を破壊する! 俺は手札の【ジェムナイト・フュージョン】を捨てることで、お前のエースには退場してもらうぜ。消えな! 【セフィラ・メタトロン】!」

 

【セフィラ・メタトロン】の上空に黒い雲が出現すると、そこから大きな雷が降り注ぎ、【セフィラ・メタトロン】は消滅した。

 

「くっ、【セフィラ・メタトロン】……!」

 

「そいつがいなけりゃ、今のお前のモンスターじゃ【ファントムルーツ】は越えられねぇ」

 

場にモンスターが2体しかいない以上、出せるモンスターはせいぜいリンク2。

チューナーもいないとなるとシンクロ召喚もできないし、このターン勝負を決めることはできなさそうだ。

ここは守りを固めるのが先決か……?

 

「くっ、俺は墓地から【リンクリボー】の効果発動、場のレベル1モンスターである【風竜星ーホロウ】を墓地へ送ることで、墓地から特殊召喚する。これでターンエンドだ」

 

ーーー

【リンクリボー】リンク1 闇 サイバース ①

ATK/300

ーーー

 

繋吾 LP1650 手札0

ーーーーー

リモーーー

 ー リ 

ーーーーー

ーーー裏ー

颯 LP1500 手札1

 

「さぁて、伏せカードもないようだし、これは勝負あったな遊佐。俺のターン、ドロー! 罠発動! 【輝石融合】! これは罠カード版の融合カードだ」

 

あれは最初のターンから伏せられている罠カード。

まさか融合するカードだったとは。

 

「俺は場の【ファントムルーツ】と手札の【オブシディア】、【ルマリン】の合計3体を融合! "永久の絆! 清純無垢なる輝き照らす光となれ! 融合召喚! 光り輝け! 【ジェムナイトマスター・ダイヤ】!"」

 

ーーー

【ジェムナイトマスター・ダイヤ】✩9 地 岩石 ②

ATK/2900

ーーー

 

七色に輝く大きな剣を携えた、白銀の騎士が出現する。

その風格は、今までの"ジェムナイト"を超えるオーラを持っているように感じた。

 

「これが俺の切り札……。全ての"ジェムナイト"を統べる究極の力だ!」

 

「こいつは強そうだな……」

 

「へっ、覚悟はできたか? さらに融合素材となった【オブシディア】の効果。こいつが手札から墓地へ行ったことで、墓地の通常モンスター1体を特殊召喚する。蘇れ、【ジェムナイト・ルマリン】!」

 

ーーー

【ジェムナイト・ルマリン】✩4 地 雷 ③

ATK/1600

ーーー

 

「まず、【ダイヤ】は墓地の"ジェム"モンスター1体につき、攻撃力を100上げる。墓地には4体の"ジェムナイト"がいることで、攻撃力を400アップ!」

 

【ジェムナイトマスター・ダイヤ】

ATL/2900→3300

 

攻撃力上昇効果か。それだけでは地味な効果だが、まだ他にもあるのだろう。

 

「そして、【ダイヤ】の更なる効果発動! 1ターンに1度、墓地の融合"ジェムナイト"モンスターを除外することで、このターン同じカードとなり、その効果を得る! "トゥルース・リレーション!"」

 

「今までのモンスターの力を借り受けるということか!」

 

「あぁ、こいつは他の"ジェムナイト"の力を受けていくらでも強くなる。墓地の【プリズムオーラ】を除外し、同じ効果を得る!」

 

【プリズムオーラ】は場のカードを破壊する効果を持っていた……。

このままではまずい。

 

「さぁて、後はもう言わなくてもわかるな? 墓地から【ファントムルーツ】を除外し、【ジェムナイト・フュージョン】を手札に戻す。そして、これを捨てることで【ダイヤ】の効果発動! 消えろ【リンクリボー】、"サンダー・レイストーム!"」

 

【ダイヤ】の手に持つ剣が黄色に光りだし、それを空へ掲げると、轟音を響かす雷が出現し、【リンクリボー】に降り注ぐ。

たまらず【リンクリボー】は消滅した。

 

「俺の守りの一手が……」

 

「今度こそ終わりだ! バトル、【ジェムナイト・ルマリン】で【ワンショット・ブースター】を攻撃! "チャージ・ボルト!"」

 

「まだだ、俺はここで墓地に存在する罠カード【仁王立ち】の効果発動! これを墓地から除外することで、場のモンスター1体を選択。このターン相手は選択したモンスター以外を攻撃することはできない! 俺は【ワンショット・ブースター】を選択して発動!」

 

「なんだとぉ!?」

 

【ルマリン】の攻撃は止まらず、【ワンショット・ブースター】は消滅した。

 

「そして、もう俺の場から【ワンショット・ブースター】は消えた。もうお前はこれ以上攻撃ができないってことだ」

 

「くそ! まだ仕留められねぇってのか! どこまでもしぶといやつだぜお前は! まぁいい、次のターンこそがお前の最後だ。このままターンエンド」

 

 

繋吾 LP1650 手札0

ーーーーー

ーーーーー

 ー 融 

ーーモーー

ーーーーー

颯 LP1500 手札0

 

再び耐えることができ、なんとかターンが回ってきたが、いよいよをもって場も手札も空っぽだ。

このドローカードでなんとか逆転のカードを引かなければ、厳しい状況である。

頼む……なにか来てくれ……!

 

「いくぞ……俺のターン、ドローッ!」

 

ドローしたカードを眺める。

ダメだ。このカードじゃやつのライフを削り切るほどの力は……。

何か突破口はないか……。何か。

 

「どうやらいいカードを引けなかったようだな? 遊佐ぁ? ダメなら潔くターンエンドしたらどうだ?」

 

「くっ……俺はモンスター1体を伏せて、ターンエンドだ」

 

奴のモンスターが増えなければ、伏せモンスターで【ダイヤ】の攻撃を受け、【ルマリン】でのダイレクトアタックならまだライフは50残る。

次のターン耐えられればまだチャンスはあるはずだ……!

 

繋吾 LP1650 手札0

ーーーーー

ーー裏ーー

 ー 融 

ーーモーー

ーーーーー

颯 LP1500 手札0

 

「ラストターンだ! 俺のターン、ドロー! 伏せモンスターがなんなのかは知らんが、こいつの効果を忘れてもらっちゃ困るぜ、俺は【ダイヤ】の効果で墓地の【ジェムナイト・パーズ】を除外し、同じ効果を得る! "トゥルース・リレーション!"」

 

これで【ダイヤ】は2回攻撃と、攻撃力分のダメージを与える効果が付与されてしまった。

【パーズ】とは違い、元々の攻撃力が高いため、これは脅威的な力となる。

 

「まぁ雑魚モンスターが多いお前のデッキじゃ攻撃力のあるカードはあまりないだろうが、いずれにしても壁モンスター1体だけのお前は終わりだ」

 

「くっ……」

 

「これでお前の結衣ちゃんへの思いは断ち切られるってわけだ! 残念だったな?」

 

「いや、だから俺は別にそんな思いなんてないって言ってるだろう」

 

「ふん、まぁどちらでもいい。いずれにしてもこれで結衣ちゃんは俺のものだ! バトル、【ダイヤ】で伏せモンスターを攻撃! "セブンスソード・ブレイカー!"」

 

金色に輝く剣を大きく振りかぶり、俺の伏せモンスターを一刀両断する。

 

「俺の伏せモンスター【幽鬼うさぎ】が破壊されるが、こいつの攻撃力は0だ」

 

「ちっ、だがこれで守るものはない。【ダイヤ】で2回目の攻撃! くたばれ遊佐ぁ! "セブンスソード・ブレイカー!"」

 

【ダイヤ】の剣が俺に迫ってくる。

悔しいが俺はここで負けてしまうのか……。

結衣のことは別にどうでもいいが、全力で戦って負けるというのはやはり悔しい。

 

敗北すると悟りぼんやりとデュエルウェポンを眺めていると、墓地に当たる場所が光り出していることに気づいた。

墓地に何かあったっけか……。待てよ、そういえばあのカードにはまだ効果が……!

 

「俺は墓地に存在する【虹クリボー】の効果発動! 相手が直接攻撃をしてきた時、このカードを墓地から特殊召喚できる! 頼んだぜ【虹クリボー】!」

 

ーーー

【虹クリボー】✩1 光 悪魔 ③

DEF/100

ーーー

 

俺の目の前に虹色をした小さな悪魔が出現し、俺の方を向くとニコニコとした笑みを浮かべていた。

助かったよ、【虹クリボー】。

 

「なんだと! まだ俺の攻撃を受け止めるカードがあったっていうのか……!」

 

上地もさすがに驚いている。勝った気になっていたのだから余計だろう。

 

「……悪いな。諦めは悪いタイプでね!」

 

【虹クリボー】は【ダイヤ】の剣を受け止め、消滅する。

 

「そして、この効果で出現した【虹クリボー】はフィールドを離れた時に除外される! よって、【ダイヤ】が得ている【ジェムナイト・パーズ】の効果の発動条件、"戦闘破壊し、墓地へ送った場合"は満たせないため俺への効果ダメージも0だ!」

 

「くっそう! ならば、【ルマリン】でダイレクトアタック! "チャージ・ボルト!"」

 

「ぐああっ!」

 

繋吾 LP1650→50

 

よし……なんとか……耐え切った!

 

「上地……。まだ俺は負けてないぜ……!」

 

「お前の結衣ちゃんに対する執念もなかなかってことだな。くそう、少しは認めてやろうじゃねぇか……。俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 

繋吾 LP50 手札0

ーーーーー

ーーーーー

 ー 融 

ーーモーー

ーー裏ーー

颯 LP1500 手札0

 

「そんな執念は俺にはないが、デュエルってのは最後の最後まで何が起きるかわからないもんだろ……!」

 

「ふん、そうだな。だが、この圧倒的に不利な状態でお前まだ勝つつもりなのか……?」

 

「当たり前だ。デッキにカードが残されている限り、勝てる可能性は0じゃない」

 

「言うじゃねぇか。だったらやってみせろ! ドローするたった1枚のカードでな!」

 

このドローが勝敗を分けるといっても過言ではない。

奴の場には2体のモンスターと伏せカードが1枚。

この1枚でそれらを攻略しなければいけない。一体何を引けばいい……?

 

「いくぞ……俺のターン……!」

 

デッキに手を当て、そして勢いよくカードを引く。

 

「ドローッ!」

 

このカードは! これなら……勝てるかもしれない……!

 

「お前……まさか……」

 

上地が俺の顔を見ながら少し驚いたように言う。

どうやら無意識ににやついてしまったようだ。

 

「ふっ、お前を倒す道は"繋がった!"」

 

「なんだと……?」

 

「俺は【ジャンク・シンクロン】を召喚! 効果でレベル2以下のモンスターを守備表示で復活できる! 蘇れ、【ドッペル・ウォリアー】!」

 

ーーー

【ジャンク・シンクロン】✩3 闇 戦士 チューナー ③

ATK/1300

ーーー

【ドッペル・ウォリアー】✩2 闇 戦士 ②

DEF/800

ーーー

 

「俺はレベル2の【ドッペル・ウォリアー】にレベル3の【ジャンク・シンクロン】をチューニング! "生誕する意思の力よ! 星々の呼応の下に具象せよ! シンクロ召喚! 来てくれ、【源竜星ーボウテンコウ】!"」

 

ーーー

【源竜星ーボウテンコウ】✩5 光 幻竜 チューナー ①

DEF/2800

ーーー

 

「【ボウテンコウ】の効果でデッキから【竜星の軌跡】を手札に加え、さらに【ドッペル・ウォリアー】の効果で、場に【ドッペル・トークン】2体を特殊召喚する」

 

ーーー

【ドッペル・トークン】✩1 闇 戦士 ①と②

ATK/400

ーーー

 

「そして、レベル1の【ドッペル・トークン】2体に、レベル5の【源竜星ーボウテンコウ】をチューニング!  "邪悪なる魂より目覚めし争心よ! 星々の呼応の下に具象せよ! シンクロ召喚! 来てくれ、【邪竜星ーガイザー】!"」

 

ーーー

【邪竜星ーガイザー】✩7 闇 幻竜 ①

ATK/2600

ーーー

 

黒い稲妻が現れるとそこから黒く迸る竜が出現し、咆哮を上げる。

 

「そいつは郷田とのデュエルで出てきたモンスターか……。確か破壊効果を持っていやがったな……」

 

「あぁそのとおりだ。そして、墓地へ送られた【ボウテンコウ】の更なる効果で、デッキから【風竜星ーホロウ】を特殊召喚!」

 

ーーー

【風竜星ーホロウ】✩1 風 幻竜 ①

DEF/1800

ーーー

 

「【ガイザー】の効果発動! 俺の場の"竜星"カードの【ホロウ】とお前のセットカードを選択し、破壊する! "ローグ・ディストラクション!"」

 

「伏せカードを狙ってきやがったか……! くそぅ!」

 

【ガイザー】から赤黒い稲妻が【ホロウ】と上地の伏せカードを包み込み、爆発した。

 

「俺の【決闘融合-バトル・フュージョン】が破壊される……。発動はできない」

 

どうやら伏せカードは今のタイミングでは使えないカードだったようだ。

これで伏せカードがなくなった! 一気に勝負を決める!

 

「そして、場の【ホロウ】が破壊されたことで、効果発動! デッキから"竜星"モンスターを特殊召喚する! さらに、それに併せて墓地に存在する【光竜星ーリフン】の効果発動! 場の"竜星"カードが破壊された時、こいつを墓地から復活できる!」

 

「一気に2体展開できるってことか……」

 

「あぁ、来い! 【炎竜星ーシュンゲイ】! 【光竜星ーリフン】!」

 

ーーー

【炎竜星ーシュンゲイ】✩4 炎 幻竜 ①

ATK/1900

ーーー

【光竜星ーリフン】✩1 光 幻竜 チューナー ②

DEF/0

ーーー

 

「さらに、レベル7の【邪竜星ガイザー】にレベル1の【光竜星ーリフン】をチューニング! "神聖なる輝きより昇華する輪廻の力よ! 星々の呼応の下に具象せよ! シンクロ召喚! 来てくれ、【輝竜星ーショウフク】!"」

 

ーーー

【輝竜星ーショウフク】✩8 光 幻竜 ①

ATK/2300

ーーー

 

【ガイザー】の禍々しさから一変し、純白の光を纏った神々しき竜が出現した。

 

「1ターンで3回のシンクロ召喚だと……やってくれるじゃねえか……!」

 

「これが俺の繋がり続けながら進化するモンスターの力だ! 【輝竜星ーショウフク】の効果発動! "セイヴィング・プロシード!" このカードのシンクロ素材とした幻竜族モンスターの属性の数まで、相手の場のカードをデッキに戻す! 戻れ、【ジェムナイトマスター・ダイヤ】! 【ジェムナイト・ルマリン】!」

 

「馬鹿な……デッキに戻すだと……!?」

 

【ダイヤ】と【ルマリン】が光に包まれると、上地のデュエルウェポンの元へ吸い込まれていく。

 

「上地、俺の勝ちだ。バトル、【輝竜星ーショウフク】でダイレクトアタック! "ホーリー・ジャッジメント!"」

 

【輝竜星ーショウフク】

ATK/2300

 

【ショウフク】は口元に白く光る球体のようなものを溜め込むと、それを上地に向かって放った。

 

「嘘だろ……あの状況から俺が……負けるっていうのか! ぐああああ!」

 

颯 LP1000→0

 

 

なんとか勝った……。

それにしてもぎりぎりだったな……。手に汗握るデュエルだった……。

結衣のことはまぁ置いといて、全力を出し切るデュエルができるっていうのはやはり最高だ。

 

 

 



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Ep13 - 和解

俺がデュエルの余韻に浸っていると、上地がゆっくりと近づいてきた。

その表情はデュエル前に比べると少しばかり和らいでいるように感じる。

 

「約束は約束だ。仕方ねぇ。お前は俺に勝った。結衣ちゃんに近づくことを許そう」

 

上地は下を向きながら、やたら悔しそうに呟いた。

 

「いや、だから別に結衣はどうでもいいんだが……」

 

「遊佐! お前まだそんなことを! あの結衣ちゃんの綺麗な顔、さらさらな髪。そして、程よく整っているボディ……。どれをとっても素敵だと思わねぇか?」

 

「あ、あぁ……。まぁそうかもな」

 

確かに、容姿だけでいったらかなり綺麗な方だろう。

まぁただ……あの性格が全てを台無しにはしているが。

 

「お前だって隠す必要はないんだぜ? 遊佐。なぁ? どうなんだよ?」

 

上地は俺の肩に腕をかけながら問い詰めてくる。勘弁してくれ。

 

「はぁ。じゃあそういうことにしといてくれよ」

 

「なんだよツレねぇやつだなぁ……」

 

「それよりも、いいデュエルだったぜ。上地」

 

とにかく今はデュエルの余韻に浸りたい。

郷田さんとのデュエルもそうだが、やはり全力を出した中での拮抗したデュエルっていうのは勝っても負けても気持ちいいものだ。

 

「あぁ、そうだな。あそこまで燃えたデュエルは久しぶりだったぜ……」

 

「これで俺も特殊機動班員として認めてもらえたか?」

 

俺が上地に問うと、上地は急に笑いだした。

 

「おい、何がおかしい!」

 

「だってよ、郷田との入隊試験受かってるんだから当たり前じゃねぇかよ! それにお前とデュエルしてよくわかった。お前がどんな人だかな」

 

「どういうことだ……?」

 

「悪いヤツじゃねぇってことと……そしてなによりデュエル馬鹿だってことだよ!」

 

「おい、デュエル馬鹿ってなんだよ!」

 

彼の言い方はまぁ置いといて、俺に対する悪印象は改善されたみたいだ。

 

「間違いじゃねぇだろ? まぁ……お前なら……仲良くできそうな気がするよ」

 

上地はデュエルリングの天井を見上げながらぼそっと呟いた。

その表情はどことなく悲しそうだった。

 

「上地……?」

 

「おっとそうだ。上地って呼ばれるの気持ち悪いから、名前で呼んでくれ。正式な特殊機動班の仲間としてな!」

 

「わかった、なら俺のことも……」

 

「繋吾ぉ! これでいいだろ!」

 

急に自分の名前を大声で叫ばれて少し驚く。

こいつの母音を伸ばすような呼び方は変わらないんだな。

 

「びっくりしたじゃないか。それでーー」

 

「ちょっとあなたたち! もしかして……デュエルの特訓でもしてたんですか」

 

颯との会話を割り込み、突如響き渡る聞き覚えのある女性の声。

声の主を見ると結衣の姿だった。

 

「ゆ、ゆゆゆ結衣ちゃん!?」

 

おい颯……。ちょっと動揺しすぎだぞ。

にしてもデュエルの会話中じゃないだけまだ来るタイミングはマシってところだったか。

デュエルの最中にしていた結衣に関わる会話を聞かれていたら色々と誤解を招くところだった。

 

「せっかく特殊機動班について教えてあげたのに、私に内緒でこっそり特訓なんていい度胸ですね遊佐くん。それに、上地くんもなんで私を誘ってくれなかったのですか。せっかくのデュエル強化週間だと言うのに」

 

結衣は低い声で言いながら俺と颯のことを睨みつけている……。

 

「い、いや結衣ちゃん……。これはその……」

 

「私だけ省いての特訓なんて不公平です。何か言えない事情でもあるのですか?」

 

す、鋭い……。

結衣に対しては言えない事情なのは間違いないが、かといって言うわけにもいかない。

 

「そんなことは……ないけど……その……」

 

颯は完全に詰んでいるといった具合だ。

どうするか。何かごまかす嘘を……。

 

「図星みたいじゃないですか。さて、何を私に隠しているのですか。回答次第では、あなたたちのことを"チームワーク欠如要因"として開発司令部へ報告してもいいんですよ? そうすればあなたたちの評価は下がるばかりですね」

 

結衣の目を見る限り怒っている様子だ。

そして、どことなく俺たちのことを怪しんでいるような感じが見受けられる。

 

彼女なら本気で今から開発司令部へ報告することもやりかねない。

ここは、なんとか彼女をうまいことなだめなければ……。

 

「いや、待ってくれ結衣。これは……颯が結衣に案内役を押し付けて申し訳ないから、デュエルの特訓だけは颯が引き受けてくれるということで始まった話なんだ」

 

俺は必死さを出しながら結衣へ説明する。

颯は俺の方を向きながら、こっそりグッジョブを送っていた。

 

「そ、そうそう! 繋吾くんもぜひデュエルの特訓をしたいってことだったから……。結衣ちゃん疲れてると思ってさ! 俺が声をかけたんだよ!」

 

「へぇー……。人への説明だけで私がそんなに疲れると思いますか? デュエルの特訓くらいなら私にとってはどうってことありませんし。というかそれなら上地くんに案内役をやってほしかったのですけれど」

 

「ご、ごめんよ結衣ちゃん……。俺が勝手に変な気をつかっちゃって」

 

颯は苦笑いしながら答える。

 

「つまり……上地くんはデュエルがしたいがために、わざと案内役を断ったってことですか?」

 

「そういうつもりはないんだ! ほら、俺説明とか下手だろ? 結衣ちゃん!」

 

「まぁ……。確かにあなたは特殊機動班来てそんなに経ってないですし、このどうしようもないホームレスさんの案内役としては、不十分といったところですかね」

 

結衣のさりげない痛烈な発言に、颯は頭をかきながら苦笑いをしていた。

 

それにしてもだ。ここまでの話を要約すると結衣は"デュエルの特訓をやっているのであれば、自分も一緒に参加したかった"ってことだよな。

それで怒っている原因としては、"自分の知らないところで勝手に話が進んでいて省かれたと思い不満がある"といったところだろう。

 

「結衣に連絡入れてなかったのは悪かったが……。つまり結衣は俺たちとデュエルがしたかったことだよな。なら今からデュエルするか?」

 

思ったことをストレートに結衣に言ってみると、結衣は少し顔を赤くしながら怒ったように口を開いた。

 

「え……ち、違います! 班内でのデュエルの特訓があるのであれば、私も参加するべきだという話です! 私が自ら進んであなたなんかとデュエルなど……」

 

どうやら結衣は意地でも自分の"わがまま"という風にはしたくないらしい。

 

「素直じゃないなほんとに……」

 

「……遊佐くん。何か言いましたか?」

 

非常怖い顔をしながら結衣は俺のことを睨みつけている……。

これ以上言ったら本気で怒られそうだ。

 

「ま、まぁ結衣ちゃん! 別に結衣ちゃんを仲間外れにするつもりはないんだ! 結衣ちゃん忙しいと思って!」

 

「はぁ、とにかく事情はわかりました。あなたが気遣ってくれたことは、素直に感謝することとします」

 

「へへっ……」

 

おい、顔がニヤついているぞ颯。

ひとまずはまぁ……これでなんとかなりそうだ。

 

「あ、そうそう。明日もここで特訓やるつもりだからさ、結衣ちゃんもよかったらどう?」

 

「あら、そうなのですか。せっかくですし行かせていただきます」

 

「もちろん繋吾、お前もだから忘れんなよ」

 

「え? あぁ、わかった」

 

そんな話今初めて聞いたぞ。

だが、デュエルできる機会なら断る理由もないな。

 

「それじゃ先に失礼しますね。なんか妙に疲れましたので」

 

結衣は呆れ気味にそう言うと、デュエル訓練場を去っていった。

 

「またねー、結衣ちゃん」

 

俺と颯は結衣に手を振りながら、彼女がデュエル訓練場を出ていくのを確認すると、安堵したかのように振っていた手を降ろした。

 

「おい、繋吾。あんまり結衣ちゃん怒らせるようなこと言うなよ……」

 

「すまん、つい本音が……」

 

「まぁわからんでもないけどな」

 

どうやら颯のやつも結衣には苦労してるみたいだな……。

彼女のその性格を知った上で、本人は好んでいるってことか。

 

「結衣ちゃん。あれでも寂しがり屋なんだよ」

 

「ん? そうなのか」

 

「あぁ。その割にはいつも一人で突っ走っていっちゃうから、難しいところなんだけどな」

 

確かにあんまり人とつるんで行動するって感じのやつには見えないな。

なんというか……周りの人からするとエリートゆえに話かけづらいってところもあるかもしれない。

 

「だからよ、繋吾。お前も結衣ちゃんには気軽に声かけてやってくれよ。嫌そうな反応されるかもしれねぇけど」

 

「まぁ……大体文句ばかり言われてるけどな」

 

「確かに結衣ちゃんは人を突き放すような性格かもしれないけど、それでも内心は寂しがってると俺は思ってるんだ」

 

その気持ちは少し分かる気がする。一人でいるって言うのは寂しいものだ。

俺も路上生活時代にその孤独っていうのを痛いほど味わった。

誰も助けてくれない、話さえしてくれない孤独。自分を強く保ち続けなければ生きていけないのが孤独の世界だ。

 

「お前……意外としっかり結衣のこと見てるんだな」

 

「意外とはなんだよ! 俺の結衣ちゃんへの思いは本気なんだぞ!」

 

「それはわかってるよ。まぁ、結衣のことは俺も気にかけてみるよ」

 

「あぁ、頼むぜ? それと……今日は悪かったな」

 

颯が突然真面目な表情をすると俺に頭を下げる。

急にかしこまってどうしたんだ……。

正直、俺からしてみると今更な感じもするが。

 

「俺はいきなり特殊機動班に入ってきたどこのやつともしれないお前が、みんなにちやほやされるのがちょっと羨ましくてな。つい悪いことも言っちまってた」

 

「気にしないでくれ。それに特殊機動班に入るからにはちゃんとお前とも話をしておきたいと思っていた」

 

「へっ、あんだけ自分のことを悪いように言ってたやつと話したいなんて珍しいやつなんだなお前は」

 

「しばらくまともな会話できるような人間すらいなかったからな……。居場所があるだけでもありがたいよ」

 

「ホームレスってのも楽じゃねぇんだなぁ……」

 

そりゃあ楽じゃない。俺だって望んでやってたわけじゃないからな。

毎日が生きるか死ぬかの瀬戸際なんだ。

 

「ただよ、繋吾。今回のデュエルでお前がいきなり"ここ"へ来たわけじゃなくて、今までちゃんと"努力"してきてるんだなってのがわかったんだよ」

 

「努力か……。どうなんだろうな」

 

「お前のデュエルにかける思い。そして、最後まで何が何でも諦めない根性。あれは普通の人間じゃなかなかできるもんじゃねぇよ」

 

言われて思ったが、それも路上生活で身に付いたものかもしれないな。

毎日空腹を耐え切る忍耐力や、過酷な環境を生き抜く根性。俺の5年間の路上生活も無駄ではなかったということだ。

 

「ハハ、あんまり褒められたことないからどんな反応していいんだか……」

 

「おいおい、また調子に乗るんじゃねぇぞ? さぁて、今日はいいデュエルもできたことだし、そろそろ部屋戻ってデュエルのレポート作ったり、明日の準備とかするかな」

 

「デュエルのレポートなんて作っているのか?」

 

「あぁ。デュエルの強化週間じゃ別に作る必要はないけどな。任務で出撃した時とかは、任務内容を記録して提出することになってるんだ。まぁ自己分析も兼ねて作ってる」

 

自己分析か。デュエル内容を振り返ることで自分のデッキの改善点が見つかったり、プレイングの見直しができるかもしれない。

 

「なるほどな。今度俺も作ってみるよ」

 

「まぁ、入隊したばっかなんだからしばらくは無理に頑張らなくてもいいと思うぜ? 特殊機動班は忙しい時期とそうじゃない時期の差が激しいから、こうやってのんびりできるのも今のうちだしな」

 

任務が始まってからの活動はまだ俺には検討もつかないが、やはり任務に備えて自分の実力は上げておきたいところだ。

自分なりに特訓なりデッキ調整はしっかりやっておこう。

 

「あぁ、しばらくは自分のペースでやらせてもらうよ」

 

「そうだな! んじゃあ明日の特訓忘れずに来いよ! 次はお前に勝ってやるからな、覚悟しとけよ!」

 

「俺も負けるつもりはない。全力で相手させてもらうよ」

 

「へっ、望むところだぜ。それじゃあな!」

 

俺と颯はお互いに手を振り別れると、各々デュエル訓練場を後にした。

 



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Ep14 - 立ち位置

ーー俺はデュエル訓練場へ向けて長い廊下を歩いていた。

 

そう、先日颯が言っていたデュエルの特訓に参加するために、訓練場へと向かっている。

 

それにしてもSFSの施設は広い。

よくある大型病院並の建物。それに俺たちが寝泊りしている社員寮、そして機器開発工場まで備わっている。

 

これほどの施設を管理していくのはかなりの経費がかかるであろう。SFSはよほど利益を上げているのか。

 

小さなデュエルテロを含めると毎日のように発生しているご時世だ。

警察や国防軍といった公務組織が対応しきれない今、SFSのような民間軍事組織は必要不可欠となっているのだろう。

そんな中デュエルの特訓なんてしてていいのか後ろめたい気持ちはあるが、ジェネシスの動きがない以上それはしょうがない。

いざという時のために、デッキの調整やデュエルのプレイングを磨いておくことは重要なことだろ

 

そう言い聞かせてながら歩いていると、デュエル訓練場へ繋がる扉の前に辿りついた。

 

「俺様のターン、ドローッ!」

 

扉の向こうから声が聞こえる。

さっそくもうデュエルをやっているようだ。

 

扉を開けると、郷田さんと颯がデュエルをしており、それを外野から結衣が眺めていた。

あれ、赤見さんはいないのか。

 

「いけぇ【地天の騎士ガイアドレイク】! 【ジェムナイト・パーズ】を貫けえ! "テンペスト・ソウル・スラスター!"」

 

【ガイアドレイク】は白き翼を羽ばたかせた白馬を操りながら、【パーズ】に向けて漆黒の槍を突き立てる。

 

「ちくしょう! ぐおわああ!」

 

颯 LP1500→0

 

その攻撃を受けて、颯がその場に倒れ込んだ。

郷田さんが勝ったようだ。さすがは副班長。

 

「お、繋吾ちゃん。遅かったじゃねぇか!」

 

「すまない郷田さん。昨日遅くまでデッキ調整してたらなかなか起きれなくって」

 

「なんだぁ? よっぽど今日の訓練に気合入れてるようだなぁ?」

 

「はい、今日が初めての班内訓練なので、あまり不甲斐ないデュエルをしないようにと思って」

 

昨晩は、今後のためにもと思って自分のデッキ内容を調整していた。

ここ最近を振り返ってみると、何かとライフポイントぎりぎりの危なっかしいデュエルが多かった。

実戦でテロリストとデュエルする時も同じようにぎりぎりのライフになったらそれは生きるか死ぬかの瀬戸際になる。

そんな状況になれば、訓練の時みたいに楽しんでなんかいられないだろう。

 

実戦ではそういう状況だけは避けたい。

じゃないと命がいくらあっても持たないってやつだ。

もう少し余裕を持ってデュエル挑むためにも、まだまだ俺のデッキを強くしていく必要がある。

そう思って昨晩、遅くまでデッキの調整をしていたのだ。

 

と言っても色々とカードを入れ替えても結局しっくりこなくて、結果的にあまり内容は変わってなかったりするのだが……。

デッキ調整をしている人にはよくある話だ。

 

「それにしても随分と遅かったですね。もうお昼すぎですよ」

 

起きて……飯食べて……ってもうそんな時間だったのか。

 

「まったく、相変わらずどうしようもないですねあなたは。デュエルウェポンの着信履歴、気がつかなかったんですか?」

 

結衣に言われて自分のデュエルウェポンを眺めると郷田さんや結衣からの着信履歴が10件程入っていた。全然気がつかなかった……。

 

「これは……」

 

「"これは"じゃないですよ! 呼び出しを受けてまったく出ないなんて信じられません。少しはしっかりしてください」

 

そもそも今日は起きるのが遅すぎてまったく郷田さんの呼び出しに気がつかなかったってやつだ……。

今度からは少しは早く起きれるようにしないとな。

 

「悪かったよ……。んで、颯のやつは大丈夫か」

 

さっきからずっと床に寝そべっている。

いつまで寝てるつもりだ。

 

「あぁ、颯のやつ今日は俺にも結衣のやつにも負けてっからちょっと凹んでてな! まぁそのうちひょっこり起き出すだろう」

 

郷田さんはそう言いながら笑っていた。

 

「繋吾ぉ……。あとはお前だぁ……」

 

寝そべってる颯が何か言っている。

まずは起き上がってくれ、頼む。

 

「お前さえ……倒せれば……全敗にはならない……!」

 

「昨日お前負けたじゃないか」

 

ふと昨日のことを言ってみると、颯は急に立ち上がり俺に向かって叫んでくる。

 

「昨日は昨日。これは今日の話だっつーの! んじゃ繋吾! 昨日のリベンジと行かせてもらうぜ!」

 

「なんだ? 颯、繋吾ちゃんに負けたのか?」

 

「うるせぇそれは置いとけ郷田! 今日こそ白黒はっきりつけようじゃねぇか繋吾ぉ……」

 

どうしても昨日のことはなかったことにしたいらしい。

だが、一人でのデッキ調整に限界を感じていたところだったから、俺からすればちょうどいい機会だ。

 

「いいだろう、さっそくデュエルをーー」

 

俺と颯がデュエルウェポンを構えようとしたところ、突如デュエル訓練場の扉が開き、10名程のSFS隊員が入り込んできた。

あの人たちも訓練をしに来たのだろうか。

 

「おいおい、なにここのデュエル訓練場を占領してんだよ特殊機動班!」

 

乱入者の中の一人が大声を上げると、後ろにいた数名も加勢するように文句を言い始めた。

 

「おい、あいつらは誰だ?」

 

疑問に思い、俺は誰に聞くわけでもないが呟いてみる。

 

「……決闘機動班の連中です。大した腕もない、どうでもいい人たちですよ」

 

「そうなのか……」

 

結衣が呆れたような表情でぼそっと呟く。

特殊機動班と決闘機動班あまりは仲がよくないのだろうか。

 

「おい、なんだよお前ら! 今日はこの俺"上地 颯"の名前でここの一日予約取ってたんだぜ? 決闘機動班は帰りな!」

 

颯が決闘機動班の連中の前に立ち叫ぶ。

予約とかあるんだな……。それを俺たち特殊機動班の名前で取っていたのならば、文句は言われる筋合いは無いだろう。

 

「なんだぁ上地? 特殊機動班行ってから随分といいご身分じゃねぇか! 口だけでろくにデュエルもできねぇやつはどこのどいつだよおい!」

 

「う、うるせぇよ! 今の俺はちげぇんだよ!」

 

「調子に乗るなよ上地。特殊機動班はどうせろくに仕事もねぇんだから練習の場くらい譲れよなぁ?」

 

「勝手なこと言ってんじゃねぇ! 俺たちは今日ここで特訓しなきゃならねぇんだよ!」

 

颯と決闘機動班の一人が言い合いを始めている。

かつては決闘機動班に所属していた身だ。過去に何かトラブルでもあったのかもしれない。

 

「特訓? ハハハハハ……笑わせんじゃねぇよ。聞いた話だとお前ら今週は全部"デュエル強化週間"とか言うサボり期間だって話じゃねぇか。そんな奴らが一日中訓練場を占領するなんて迷惑なんだよ!」

 

決闘機動班の連中は俺たち特殊機動班のことを見ながらケラケラ笑い始めた。

好き勝手言う気に入らない奴らだが、入隊したての俺がここで出張ってはせっかく入隊させてくれた赤見さんに迷惑がかかってしまう。

仕方ないがここは我慢しておくか……。

 

「笑うんじゃねぇ! 俺たち特殊機動班は重要な任務を任される。だからこそいざという時のためにデュエルの特訓は必要なんだよ!」

 

「そんなこと俺たち決闘機動班だって同じだろうがよ。日々色んな任務が回ってくるから、それこそしっかりとした訓練が必要とされる。あーだこーだ言ってる暇あったら、俺たちにこの訓練場譲って部屋でおねんねでもしてろや!」

 

「くっ……ちくしょう……」

 

決闘機動班の人物に圧倒され、颯が押され気味な中、郷田さんが一歩前へ出ると突如大きな声を上げた。

 

「あんたら少し黙っとれ! 話にならんわ!」

 

「……な、なんだよ……?」

 

郷田さんの一喝を聞き、決闘機動班の奴らが少し怯んだ様子で静かになる。

 

「うちの颯はなぁ。ちゃんと予約取ってここ使ってんだよ。てめぇら決まりも守らねぇでSFS隊員名乗れんか? おい!」

 

「ま、まぁ……決まりは決まりだけどよ。今日はもうここの訓練場以外、他の奴らが使ってて空いてなかったんだよ……」

 

「空いてないなら諦めりゃいいじゃねぇか。なんでわざわざここを奪おうとしてんだ?」

 

「何度も言わせるなよ。特殊機動班なんかそんなにいつも出動するわけじゃないし、別に今日ここで訓練できなくても問題ないじゃねぇか。俺たちはやることがあるんだよ!」

 

「お前らが勝手に問題あるなし判断してんじゃねぇよ!」

 

「なんだと? 普段へらへら遊んでる特殊機動班ごときが調子に乗んなよ!」

 

郷田さんは完全に怒っているという様子であり、今にも殴りかかる勢いであった。

しかし、相手側の男も一歩も譲らずに郷田さんを睨みつけている。

このままでは殴り合いの喧嘩にでもなり兼ねない。さすがに止めに入るべきだろうか。

 

俺が止めに入るか迷っていたところ、決闘機動班の集団の中より一人の人物が前に出てくる。

 

「もういいじゃない。そんなに無理してここ使う必要ないでしょ? ねぇ片岡くん?」

 

その人物は、綺麗な桜色のショートカットの髪型をした活発そうな女性であった。

そして、歳は結衣とかと変わらなそうだが、何よりもその胸元の膨らみに、男としてはつい目が行ってしまう。

少なくとも結衣よりは大きいか……?

 

「り、莉奈ちゃん……」

 

片岡と呼ばれた郷田と言い争っていた男は、その女に言われ少し苦笑いをすると郷田と颯のことを睨みつけた。

 

「……しょうがねぇ。お前らがそこまで訓練したいなら今日は諦めるよ。クソが」

 

片岡はそんな捨て台詞を言いながら、訓練場から出て行った。

 

「ごめんね? 特殊機動班さん?」

 

決闘機動班の女は郷田さんと颯に向かって、上目遣いをしながら謝罪をした。

颯の表情が赤くなっていくのが、目に見えてわかる。

ほんとお前はわかりやすい奴だな。

 

「へへっいいんだよ。わかってくれれば」

 

「俺様も少し熱くなっちまった。悪かったな君」

 

颯は顔を赤くしながら、郷田さんは頭をかきながらその女に頭を下げる。

 

「そこでちょっと提案なんだけどー……。せっかくここの予約取っているのなら私たちと一緒に訓練なんてどうかな? たまには他の班の人とデュエルするのも悪くないと思う!」

 

なるほどな。個人的には決闘機動班の奴らがどの程度の腕前なのか興味がある。

是非とも一緒に訓練をしたいところだな。

 

「なるほどな。そいつはいいかもしれねぇ。お前らはいいか?」

 

郷田さんは俺たちの方へ振り返りながら訪ねてきた。

 

「俺はいいと思いますよ。せっかくの機会ですから」

 

俺がそう返答すると、颯と結衣もそれに同意し頷く。

 

「うちはおっけいだ。んで、誰と誰がデュエルするんだ?」

 

「そうですねー。お互いの班で一番強い人とかはどうかな?」

 

それは見物だ! レベルの高いデュエルこそ見ごたえがある。

 

それにしても一番強い人って特殊機動班だと誰になるのだろう。

やはりここは副班長の郷田さんが出るべきか。

 

「お! そいつはいいな! 決闘機動班は誰が出るんだ?」

 

「はいはーい! 私がいっきまーす!」

 

郷田さんが問うと、その女が声を上げる。

 

「君が? 一番強いのか?」

 

「うん! これでもデュエルの腕には自信があるんだ! さて、特殊機動班はあなたでいいのかな? 郷田副班長さん?」

 

「おっし、じゃあ俺がーー」

 

「私がいきます」

 

郷田さんが答えようとした時に、冷たい声が響き渡る。

そう、結衣の声だ。

そういえば、自分自身ではエリートだのなんの言っていたが、こいつがデュエルしているところはまだ見たことなかったな。

 

「なっ! 結衣!」

 

「郷田さん、私がいきます。いいですか?」

 

結衣は郷田さんを睨みつけながら言った。

一体どうしたのか。少し怒っているような様子だった。

 

「あ、あぁ……。そこまで……結衣が出てえってんならいいけどよ」

 

郷田さんはその視線に押され、黙ってしまった。

 

「あれー? 私てっきり一番強いのって郷田副班長さんだと思ってたんだけど、あなた本当に強いの?」

 

女は、結衣に対して挑発気味に言った。

 

「あなたみたいな尻軽女よりかは強いですよ。特殊機動班は格が違うということを見せてあげます」

 

「尻軽女だなんてひどい! ってかなになに、あなた怒ってるの? せっかくのデュエルなんだから楽しもうよー」

 

「怒ってなんかいません。いいからとっととデュエルの準備をしてください」

 

決闘機動班の女も表情は笑っていながらも、目は結衣のことを睨みつけていた。

 

「なぁなぁ繋吾……。なんか怖くねぇ?」

 

颯がこっそり俺の隣に来ると、小さな声で耳打ちしてきた。

 

「あぁ……そうだな」

 

「あれが女の喧嘩ってやつだな、怖い怖い」

 

「でも、どんなデュエルになるのかちょっと興味はあるな」

 

「ったく。お前は相変わらずデュエル馬鹿だなおい」

 

俺は颯とそんな会話をしながら、観客席に座る。

 

結衣と決闘機動班の女はデュエルリングにて向かい合い、それぞれのデュエルウェポンを構えた。

俺たちは結衣の後方側の席で、決闘機動班の班員たちは反対側の席でそのデュエルを見守るような構図だ。

 

「あ、そういえばまだあなたの名前聞いてなかったね?」

 

「そういうのは自分から名乗るものではないですか」

 

「あ、ごめんごめん! 私、決闘機動部 決闘機動班 第4副班長の野薔薇 莉奈でーす!」

 

「うおおお、莉奈ちゃん頑張れええ!」

 

決闘機動班の外野から応援の声が上がる。

驚いた、あの子副班長だったのか。

若くして副班長を務めるということは、あの余裕さも含めて只者ではないのかもしれない。

 

「私は決闘機動部 特殊機動班所属。佐倉 結衣」

 

「ちょっとー、挨拶ぐらいもっと元気にできないのかな?」

 

「いちいちうるさいですね。第一、その慣れなれしい口調はなんとかならないのですか?」

 

「あなたのその感じ悪い喋り方よりかは遥かに良いと思うけど?」

 

「うるさい! いいからとっとと始めますよ!」

 

「言われなくても準備は済んでるってば! まったくもう……いくよ?」

 

「デュエル!」

 

結衣 LP4000 手札5

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莉奈 LP4000 手札5



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Ep15 - 相反するサクラ 前編

結衣 LP4000 手札5

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莉奈 LP4000 手札5

 

 

二人は、すごい気迫に満ちている……。

観客の立場だからいいが、実際に対峙していたらその圧迫感はなかなかのものだろう。

 

どうやら先攻は結衣のようだ。

果たしてどんなスタートを見せるのだろうか。

 

「いきます。私のターン」

 

結衣は自分の手札を眺めしばらく考え込む。

決意が固まったのか結衣は莉奈の方を向くと、衝撃的な発言をした。

 

「私はターンエンド」

 

何もしないでターンエンド……!?

手札が事故ってしまっているのか?

デュエルにおいては一番最初の手札が肝心で、噛み合わないカードばかりであったり、大型モンスターばかりを引いてしまった場合、何もできなかったりする。

それを手札事故と呼ぶが、それが起きてしまうと一気に状況は不利になってしまう。

 

何もしなかったということは、何もできなかったという可能性が高いのだ。

これは本当に勝てるのだろうか。結衣の様子を見てみると真剣な表情のまま一切表情が変わらない。

確か……以前赤見さんが言ってたが、結衣は守りを得意としているようだし、そう簡単に負けるとは思えないが。

 

「あれ、何もしないでターンエンドなの? もしかして、手札が事故っちゃったとか?」

 

莉奈はその様子を見て挑発気味に言う。

 

「勝手に判断しないでください。この手札なら何もする必要がないと判断したまでです」

 

「だーかーらー! それを手札事故って言うんじゃないの?」

 

「いいから早く進めてください。私はターンエンドしたのですよ。あなたのターンです」

 

「まったく……口だけは強がっちゃって……。私、容赦しないからね結衣ちゃん」

 

莉奈は口元をにやりとしながら、言い放つ。

その表情はどことなく、自信満々な様子であった。

 

「おいおい! 結衣ちゃん本当に大丈夫なのかよ!」

 

俺の隣にいた颯が心配に思ったのか、結衣に向かって叫んでいた。

あいつには何を言っても無駄だろうし、あの感じだと仮に事故っていたとしても負ける気はさらさらないように見える。

 

「あなたも黙っててください。隣のホームレスさんと一緒に指でも加えて見てるといいです」

 

ちょっと待て、なんで俺まで巻き添えくらってるんだ。

 

「なぁ、繋吾。あれ本当に大丈夫なのかよ」

 

まったく心配性だなぁお前は。

 

「まぁあいつがそう簡単に勝負を諦めるようには思えない。信じてやれよ」

 

「繋吾……! あぁそうだな! 俺、指を加えながら応援する!」

 

本当に指を加えるのか……。

そんな会話をしていると莉奈がターンを進め始める。

 

 

 

結衣 LP4000 手札5

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莉奈 LP4000 手札5

 

 

「いくよー! 私のターン、ドロー! えっとー……。まずはこれだね、手札から【マスマティシャン】を召喚!」

 

ーーー

【マスマティシャン】✩3 地 魔法使い ③

ATK/1500

ーーー

 

「このカードは召喚した時、デッキからレベル4以下のモンスターを墓地に送れるんだ。私は【にん人】を墓地へ送るよー?」

 

序盤に引けていると妙に安心する【マスマティシャン】。

準備を整えながら、破壊された時にドローもできる素晴らしいカードである。

莉奈の方は随分といい手札のようだ。

 

「さらに、墓地の【にん人】は、場か手札から植物モンスターを捨てると、墓地から復活できる! 私は手札の【ダンディライオン】を捨てて……墓地から来て、【にん人】!」

 

ーーー

【にん人】✩4 闇 植物 ⑤

ATK/1900

ーーー

 

「まだまだ! 【ダンディライオン】が墓地へ行った時、場に【綿毛トークン】2体を特殊召喚できるよ!」

 

ーーー

【綿毛トークン】✩1 風 植物 ②と④

DEF/0

ーーー

 

1ターンで一気に4体ものモンスターを展開するなんて。

さすがは副班長。その肩書きは伊達じゃないようだ。

 

「どうどう、結衣ちゃん? 私のデッキすごいでしょ!」

 

「まぁまぁってところですかね。私のデッキほどではありませんけど」

 

「むー……。そんなに自信があるのなら、せめてモンスター1体くらいでも召喚してから言ってよね!」

 

莉奈はちょっと顔を膨らませながら、結衣に言う。

しかし、結衣は表情を一切変えずに、静かに莉奈のことを見つめていた。

 

「いいから、早く進めてください。これでターンエンドってわけではないしょう?」

 

「あったりまえでしょ! んじゃ行くよ、来て! 華麗なる私のサーキット! 【綿毛トークン】二体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、リンク2、【アロマセラフィージャスミン】!」

 

ーーー

【アロマセラフィージャスミン】リンク2 光 植物 ②

ATK/1800

ーーー

 

ステンドグラスのような華やかな羽を宿した、白き妖精のようなモンスターが出現した。

 

「可愛いでしょー? だけど、このモンスターすっごい強いんだよ!」

 

「はぁ、いちいち紹介してこなくてもちゃんと見てますから。子どもですかあなたは」

 

「子どもじゃないし! 馬鹿にしてー……。私は【アロマセラフィージャスミン】の効果発動! リンク先のモンスターを1体リリースして、デッキから植物族モンスター1体を守備表示で特殊召喚できる。私は【マスマティシャン】をリリースして、【グローアップ・バルブ】を特殊召喚!」

 

ーーー

【グローアップ・バルブ】✩1 地 植物 チューナー ③

DEF/100

ーーー

 

チューナーモンスターが呼び出されたってことは、狙いはシンクロ召喚か。

レベルの合計は5。比較的低めではあるがどのようなモンスターが出るのだろうか。

 

「ここからが本番! 私はレベル4の【にん人】にレベル1の【グローアップ・バルブ】をチューニング! "聖なる加護に導かれし癒しの光! 今ここに希望の未来を照らしなさい! シンクロ召喚! 来て、【マジカル・アンドロイド】!"」

 

ーーー

【マジカル・アンドロイド】✩5 光 サイキック ③

ATK/2400

ーーー

 

奇抜な衣装を身にまとった魔術師のような人型モンスターが現れる。

 

「さーってと! これでダイレクトアタックすればもうデュエルは終わりかな?」

 

「そう思うのなら攻撃してくればいいじゃないですか」

 

「では、お言葉に甘えて! 【アロマセラフィージャスミン】でダイレクトアタック! "シャイニング・レイ"!」

 

【アロマセラフィージャスミン】が手に持つ杖のようなものをひと振りすると、そこから一筋の光線が結衣に向けて発射される。

 

「手札から【ゴーストリック・ランタン】の効果を発動。私がダイレクトアタックを受ける時、もしくは"ゴーストリック"モンスターが攻撃された時、このカードを裏側守備表示で特殊召喚することで、その攻撃を無効にできる」

 

手札に攻撃を止めるカードがあったのか。

俺のデッキで言うところの【虹クリボー】みたいなカードだ。

 

確かに【ゴーストリック・ランタン】の効果なら場にセットするより、効果を使った方が有効的だ。

 

「なるほどねー……。一応ちゃんと考えてはいたんだ。ならば、【マジカル・アンドロイド】でそのまま【ゴーストリック・ランタン】を破壊するよ! "サイキック・ソーサリー!"」

 

【マジカル・アンドロイド】は手に持つ杖を両手で握り締め、念じ始めるとその杖より衝撃波のようなものが放たれ、【ゴーストリック・ランタン】を襲った。

 

「くっ……」

 

「結局これで結衣ちゃんの場はガラ空きになりました! 私の攻撃を受け流して、場にランタンを残す算段だったのかもだけど、ちょっと考えが甘かったね?」

 

「心配無用ですよ。この攻撃も私の想定範囲内です」

 

「……その余裕、いつまで続くかな……。 私はカードを2枚伏せて、ターンエンド! エンド時に【マジカル・アンドロイド】の効果で私は場のサイキック族モンスター1体につき、600ポイントライフを回復するよ」

 

莉奈 LP4000→4600

 

「さらに、ライフポイントが回復した時、【アロマセラフィージャスミン】の効果でデッキから植物族モンスター1体を手札に加えることができる! これで【プチトマボー】を手札に加えるよ。あ、ちなみに【アロマセラフィージャスミン】は私のライフが相手より多い時、戦闘によっては破壊されなくなるからね!」

 

「それは厄介ですね……」

 

「ふふっ! 私のターンはこれでおしまい、あなたのターンだよ」

 

モンスター効果の連携で一瞬の隙もない莉奈のデュエル。

あの【アロマセラフィージャスミン】が長くいればいるほど、結衣は不利になっていく一方だ。

次のターンで破壊しておきたいところだが、【アロマセラフィージャスミン】は相手よりライフポイントが多い時、戦闘破壊されない効果を持つ。

【マジカル・アンドロイド】との連携で耐性を得ている今の状況。結衣は何か秘策でもあるのだろうか。

 

「あの野薔薇ってやつ。なかなか侮れないな。流れるように綺麗なデュエルだ」

 

「なんだ繋吾。あの子に惚れちまったか?」

 

颯に言われて俺は思わず吹き出してしまう。

お前はそういうところしか頭にないのか。

 

「お前……デュエルの内容ちゃんと見てるか?」

 

「当たり前だろ! ま、俺には及ばないがなかなかいいデュエルをしてるよな!」

 

本当に颯のやつちゃんとデュエルを見ているのだろうか……。

ちょっと呆れながらも、俺は再び視線をデュエルしている二人に向ける。

 

 

結衣 LP4000 手札4

ーーーーー

ーーーーー

 ー リ 

ーーシーー

ー裏裏ーー

莉奈 LP4600 手札3

 

「私のターンですね。ドロー! 私は【金華猫】を召喚!」

 

ーーー

【金華猫】✩1 闇 獣 ③

ATK/400

ーーー

 

「【金華猫】の効果で、墓地からレベル1のモンスター1体を特殊召喚できます。来てください、【ゴーストリック・ランタン】」

 

ーーー

【ゴーストリック・ランタン】✩1 闇 悪魔 ②

ATK/800

ーーー

 

「おー、やっとモンスターを召喚してきた。これで少しは楽しめそうだよ!」

 

「安心してください。楽しむ以前にあなたは私に勝てませんから」

 

「まだモンスターを召喚しただけなのにそこまで言う? よっぽど自信満々みたいだねー」

 

「あなたみたいな他人に媚売って生きてるような人に、私が負けるわけありませんから」

 

「なによそれ! さっきからひどいことばっか言って! いい加減にしてよ!」

 

結衣のその一言に、莉奈もさすがにちょっとばかり頭にきたようだ。

少しくらいは楽しんでデュエルしてほしいものだ。

 

「ふふっちょっと言い過ぎましたね。一応謝罪だけはしておきます」

 

結衣はにやりとしながら得意げに言う。状況的には圧倒的不利に見えるが、どこからこの余裕は来るのだろうか。

 

「……全然謝ってないんですけど……はぁ。さて、一体何を見せてくれるんでしょーか」

 

莉奈はちょっと疲れた表情をしながら、結衣の場のモンスターを見つめていた。

 

「私はレベル1の【金華猫】と【ゴーストリック・ランタン】の2体をオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! "黒曜に煌く漆黒よ! 断罪の剣となりて、闇夜を引き裂け! エクシーズ召喚! ランク1、【ゴーストリック・デュラハン】!"」

 

ーーー

【ゴーストリック・デュラハン】ランク1 闇 悪魔 ①

ATK/1000

ーーー

 

小さき白馬に可愛らしい小さな騎士の鎧が跨り、その手に持つ刃を構えた。

 

結衣が行ったのはエクシーズ召喚。

同じレベルのモンスターを2体以上重ねることで、EXデッキから同じランクを持つモンスターを特殊召喚するものだ。

素材となったモンスターはオーバーレイユニットとなって、そのエクシーズモンスターを支える力となるのが特徴である。

 

「随分と可愛らしいモンスターを使うんだね」

 

「見た目で判断すると痛い目を見ますよ。【ゴーストリック・デュラハン】は場の"ゴーストリック"モンスター1体につき、攻撃力を200アップさせます。さらに、オーバーレイユニットを一つ使うことで、1ターンに1度、相手モンスター1体の攻撃力を半分にできる。私はオーバーレイユニットの【ゴーストリック・ランタン】を墓地へ送り効果発動!  "デステニー・オーバー!" 【マジカル・アンドロイド】の攻撃力を半分に!」

 

【ゴーストリック・デュラハン】

ATK/1000→1200

【マジカル・アンドロイド】

ATK/2400→1200

 

【ゴーストリック・デュラハン】が剣を前に突き出すと、【マジカル・アンドロイド】は突如脱力し始める。

 

「あー! 【マジカル・アンドロイド】が!」

 

「さらに、私は【ゴーストリック・デュラハン】をオーバーレイユニットとし、オーバーレイネットワークを再構築!」

 

「なになに? さらにそれを素材にしちゃうんだ」

 

エクシーズモンスターの中には、ランクアップできるものや、自らを素材に別のエクシーズモンスターへ変化できるものが存在する。

今回結衣が行っているのはその類のものである。

 

「そう、手軽なランクアップが可能なのが、"ゴーストリック"の強みです! "闇夜を羽ばたく嘲笑の翼よ! 悪戯の幻想より舞い降りて! ランクアップ、エクシーズチェンジ! ランク4、【ゴーストリックの駄天使】!"」

 

ーーー

【ゴーストリックの駄天使】ランク4 闇 天使 ①

ATK/2000

ーーー

 

可愛らしいゴシックな服を身につけた天使が現れ、宙に浮きながら莉奈に向かってウィンクをする。

 

「あれれ……結衣ちゃん意外と女の子っぽいところあるんだね……」

 

「意外とはなんですか。失礼ですね」

 

「その感じだと私、可愛いものとかまったく興味ないと思ってたよ……」

 

それに関しては俺も同意見だ。

意外と結衣の使うモンスターはマスコットキャラクターのようなものが多い。

 

「私だって年頃の女です。ば、馬鹿にしないでください……」

 

結衣はちょっと赤面しながら言う。

そこまで恥ずかしがらなくてもいいのに。

 

「あ、照れてる! 照れてる結衣ちゃんちょっと可愛いかも……」

 

「ちょっと! そんなこと言って私の思考を混乱させるつもりでしょうが、その手は乗りませんよ!」

 

「はぁ、少しは素直に受け止めてほしいなぁ……」

 

「では……私は【ゴーストリックの駄天使】の効果発動! オーバーレイユニットの【ゴーストリック・デュラハン】を墓地へ送り、デッキから"ゴーストリック"と名のついた魔法か罠カードを手札に加えることができます。私は【ゴーストリック・ロールシフト】を手札に。さらに、墓地へ行った【ゴーストリック・デュラハン】の効果で自身以外の墓地の"ゴーストリック"カードを手札に戻せます。これで【ゴーストリック・ランタン】を再び手札に戻します」

 

デッキと墓地から1枚ずつカードを手札に加えた。

ようやく結衣の方も本領発揮してきたという感じだろうか。

 

「へぇー……。また、その【ゴーストリック・ランタン】を使って攻撃を守れるってことかー。なかなか堅実なデュエルするんだね」

 

「そう簡単に私のデッキの守りは崩せませんよ。では、バトル。【ゴーストリックの駄天使】で【マジカル・アンドロイド】を攻撃! "ファシネイト・ディザイア!"」

 

【ゴーストリックの駄天使】は、手でハートマークを作り、そこへキスをするジェスチャーを行うと、その手から赤紫色をした波動弾のようなものを放つ。

 

「甘いよ結衣ちゃん、罠発動! 【幻影翼】! 場のモンスター1体の攻撃力を500ポイントアップさせて、そのモンスターはこのターン1度だけ破壊されない! 私は【マジカル・アンドロイド】に対して使うよ!」

 

【ゴーストリックの駄天使】

ATK/2000

【マジカル・アンドロイド】

ATK/1200→1700

 

「仕留めそこないましたか……。ですが、ダメージは受けてください」

 

「きゃあっ」

 

莉奈 LP4600→4300

 

「だけどざんねーん! 【マジカル・アンドロイド】は【幻影翼】の効果で無事だよ!」

 

「仕方ないですね。私はカードを3枚伏せて、ターンエンド。エンドフェイズ時、【マジカル・アンドロイド】の攻撃力は元に戻る」

 

【マジカル・アンドロイド】

ATK/1700→2900

 

結衣 LP4000 手札3

ー裏裏裏ー

ーーーーー

 エ リ 

ーーシーー

ーー裏ーー

莉奈 LP4300 手札3

 

結衣はここに来て一気に3枚もカードを伏せてきた。

一枚は先ほどサーチしていた【ゴーストリック・ロールシフト】だろうが、他の2枚が気になるところである。

 

まだお互いのライフポイントが減ってない現状どちらが勝つかは読めない状況だ。

互いに場に出ているカードが増えてきたことから、次のターンからは本格的にお互いの力が見えてくるだろう。

 

 

 



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Ep16 - 相反するサクラ 後編

結衣 LP4000 手札3

ー裏裏裏ー

ーーーーー

 エ リ 

ーーシーー

ーー裏ーー

莉奈 LP4300 手札3

 

結衣のターンが終了し、莉奈へと移る。

どんな攻撃を見せてくるのだろうか。

 

「よーし、そろそろ本気見せちゃうから! 私のターン、ドロー! 私は【プチトマボー】を召喚!」

 

ーーー

【プチトマボー】✩2 闇 植物 チューナー ②

ATK/700

ーーー

 

「チューナーモンスターですか……」

 

「うん、これでもっと高レベルのモンスターが出せるってこと!」

 

今度のレベル合計は7だ。

いよいよ真打登場ってところだろう。

 

「いくよー! 私はレベル5の【マジカル・アンドロイド】にレベル2の【プチトマボー】をチューニング! "光風霽月! 月明かり照らされし一輪の薔薇よ! 清き雫を宿し、偽り見透かす力となれ! シンクロ召喚! 来て! 【月華竜ブラック・ローズ】!"」

 

ーーー

【月華竜ブラック・ローズ】✩7 光 ドラゴン ③

ATK/2400

ーーー

 

澄んだ光に包まれた、真っ赤な薔薇のような翼を持つドラゴンモンスターが出現する。

その翼の煌めきは思わず見蕩れてしまうほど美しかった。

 

「これが、あなたのエースモンスターですか」

 

結衣はそのモンスターを見てぼそっと呟いた。

まだ警戒してる様子は見受けられない。余裕そうだ。

 

「エースモンスターの"1体"ってところかな? さてと、この子の力を受けてもらうよー? 【月華竜ブラック・ローズ】の効果発動! 特殊召喚に成功した時、相手モンスター1体を手札に戻す!」

 

「戦闘を介せずに私のモンスターを無力化するということですか」

 

「その通り! その【ゴーストリックの駄天使】ちゃんにはご退場いただくよ! "ローズ・リクデーション!"」

 

【月華竜ブラック・ローズ】が羽ばたくと、そこから眩い光が照らされ、【ゴーストリックの駄天使】を襲う。

 

「そう簡単に触れさせるものですか。リバースカード発動、【迷い風】! 相手のモンスター効果を無効にし、その攻撃力を半分にする」

 

結衣の発動した【迷い風】から紫色をした竜巻のようなものが出現すると、その竜巻は【月華竜ブラック・ローズ】を包み込む。

たちまち【月華竜ブラック・ローズ】は、大人しくなり沈黙してしまった。

 

「えー! 無効だけじゃなくて半分にもするの? やるじゃんやるじゃん」

 

「その程度じゃ私を倒すなど程遠いですよ。野薔薇さん」

 

「そんなことはわかってるよ。だからさっき言ったでしょ? エースモンスターの"1体"だってね」

 

「なるほど。ここからが本命ってことですか」

 

「ふふっ、そんなところ。あなたが止めてくるのはわかってたからね」

 

結衣も莉奈も余裕そうな態度を一切崩さない。

お互いに相手の動きを読み切っているかのようだ。

この拮抗状態を打ち崩すのは果たしてどちらからなのだろうか。

 

「さらにーまたまた【アロマセラフィージャスミン】の効果を発動するね! リンク先の【月華竜ブラック・ローズ】をリリースして、デッキから【シード・オブ・フレイム】を特殊召喚!」

 

ーーー

【シード・オブ・フレイム】✩3 炎 植物 ③

ATK/1600

ーーー

 

「そしてこれ、【怨念の魂 業火】は、私の場に炎属性モンスターがいる時に、特殊召喚できるよ! 来て、【怨念の魂 業火】!」

 

ーーー

【怨念の魂 業火】✩6 炎 アンデット ④

ATK/2200

ーーー

 

今までの植物モンスターから一変。

いきなり不気味なモンスターが出てきたな。その姿は人魂のような……まるで幽霊のようであった。

 

「【怨念の魂 業火】が特殊召喚された時、私の場の炎属性モンスター1体を破壊しなくちゃいけないんだ。これで【シード・オブ・フレイム】を破壊するよ! だけど……」

 

「その破壊することが本当の狙いってことかしら?」

 

「お、結衣ちゃん鋭いね! この破壊された【シード・オブ・フレイム】はカードの効果で破壊された時に効果を発揮するカード。墓地からレベル4以下の植物族モンスターを特殊召喚するよ! また力を貸してね、【グローアップ・バルブ】!」

 

ーーー

【グローアップ・バルブ】✩1 地 植物 チューナー ⑤

DEF/100

ーーー

 

これで莉奈の場には再びレベル合計7のチューナーと非チューナーモンスターが揃った。

更なるシンクロ召喚を行うつもりだろう。

 

「さらに、効果はまだあるんだ。結衣ちゃんの場に【シードトークン】1体を守備表示で特殊召喚させるね?」

 

ーーー

【シードトークン】✩1 地 植物 ③

DEF/0

ーーー

 

「私の場にモンスターを特殊召喚……?」

 

相手の場にわざわざモンスターを出すなんて、普通に考えればデメリットでしかないだろう。

壁モンスターを与えるだけで、結衣の守りがさらに強固になるだけだ。

 

墓地からモンスターを出すための代償として考えているのか、それともこの相手の場に出したモンスターを利用するのか。

莉奈の表情を伺う限り、後者の方が可能性は高いだろう。

 

「何が起きるのかは、これからのお楽しみ! 私はレベル6の【怨念の魂 業火】にレベル1の【グローアップ・バルブ】をチューニング! "羞花閉月! 冷たき闇より開かれし一輪の薔薇よ! 美しき茨を宿し、愚者をいざなう力となって! シンクロ召喚! 来なさい! 【ブラック・ローズ・ドラゴン】!"」

 

ーーー

【ブラック・ローズ・ドラゴン】✩7 炎 ドラゴン ③

ATK/2400

ーーー

 

先ほどの【月華竜ブラック・ローズ】と似ながらも、先ほどの眩い光とは違い、冷たき漆黒の光を纏ったドラゴンが出現した。

 

「もう1体の薔薇モンスター……」

 

「うん! 表の顔があれば、裏の顔もある……ってやつだよ!」

 

「あなたみたいなモンスターってことですね」

 

「わ、私は裏の顔なんてないから! 変なこと言わないでよ!」

 

今の莉奈は明るい女の子って感じだが、いざ出撃という時はそうもいかないだろうし、なによりもこの優れたデュエルの腕だ。

もしかしたら、普段とは違った一面もあるのかもしれない。

 

「もうー……。結衣ちゃん変なことばっかり言うんだから……。そうやって私のイメージ悪くしようとするのやめてよね?」

 

「あなたが余計なこと言うからです。口は災いの元と言いますし」

 

「その言葉は結衣ちゃんに言ってやりたいくらいだね……」

 

「余計なお世話です。あなたがシンクロ召喚したことで、私は墓地から【迷い風】の効果を発動します。相手がEXデッキからモンスターを出した時、一度だけこのカードを墓地から再びセットできます」

 

「またそのカード使うの? まぁいいや、続けるよ。私は【ブラック・ローズ・ドラゴン】の効果発動! "ローズ・チャーミング!" 私の墓地の植物族モンスター1体、【シード・オブ・フレイム】を除外することで、相手の守備表示モンスターを攻撃表示にして、その攻撃力を0にする! こっちを向いて、【シードトークン】!」

 

「なっ!?」

 

相手の場にトークンをわざわざ出したのは、【ブラック・ローズ・ドラゴン】の効果を使用することで、攻撃の的にすることだったのか。

攻撃力が0のため、そのダメージはダイレクトアタックするのと同等だ。

 

「ふふっ、あなたが手札に持ってる【ゴーストリック・ランタン】は場の"ゴーストリック"が受ける攻撃も無効にできちゃう。なら、私がそれ以外のモンスターをプレゼントしちゃえば、その手も使えないよね?」

 

「くっ、少しは頭が回るようですね……!」

 

まるで手の内を読んだかのように莉奈は自信満々に言う。

結衣は少し焦りを見せたようだが、相変わらずその表情は揺らいでいなかった。

 

「バトル! 【ブラック・ローズ・ドラゴン】で【シードトークン】を攻撃! "ブレイジングローズ・ストリーム!"」

 

【ブラック・ローズ・ドラゴン】

ATK/2400

【シードトークン】

ATK/0

 

「そして、私はこのダメージステップに、速攻魔法【イージー・チューニング】を発動するよ! 墓地のチューナーモンスター1体を除外して、そのモンスターの攻撃力を【ブラック・ローズ・ドラゴン】に加える! 除外するのはこれ、【プチトマボー】!」

 

【ブラック・ローズ・ドラゴン】

ATK/2400→3100

 

「これで……攻撃力は3100ですか」

 

「そう! 結衣ちゃんのライフ、一気に削らせてもらうね!」

 

【ブラック・ローズ・ドラゴン】は黒き渦巻いた光線をその口元より放出する。

その攻撃は【シードトークン】をすり抜け、結衣を襲った。

 

「くっ、うぅ……!」

 

結衣 LP4000→900

 

結衣の守りをすり抜けた一撃で、一気にライフが3桁代になってしまった。

あと一撃でやられてしまうライフだ。今後、結衣には慎重なプレイングが求められるだろう。

 

「さてとー、これでもう後がないんじゃないかな? 次があなたの最後のターンかもね。私はこのままターンエンド!」

 

 

結衣 LP900 手札3

ー裏裏裏ー

ーーーーー

 エ リ 

ーーシーー

ーー裏ーー

莉奈 LP4300 手札1

 

ライフ差も場の状況も結衣が不利な状況だ。

せめてもの可能性があるとすれば結衣が伏せている3枚の伏せカードだが、1枚は【迷い風】、2枚目はおそらく前のターンでサーチした【ゴーストリック・ロールシフト】だ。

残りの1枚が気になるところではあるが、先ほどのターン発動してこなかったところを見ると、防御札というわけではなさそうだ。

幸い手札はまだ多く残されているが……今までの展開だと本当に手札が"事故"ってしまっている可能性も否定できない。

このターンが勝負だぞ……結衣。

 

「ではいきます。私のターン。ドロー!」

 

結衣はカードをドローするとそのカードをじっくりと眺める。

 

「さてさて結衣ちゃん。このターン何かしないとラストターンになっちゃうよ?」

 

「大丈夫ですよ。もうあなたにターンは回ってきませんから」

 

「え? どういうこと?」

 

今の発言は……このターン中に莉奈に勝つってことか……?

まさか自滅して負けるって意味ではないだろうし。

たったの1ターンでLP4300の莉奈を倒すつもりなのか。

 

「このターンで私が勝つということです」

 

「またまた変な冗談言うんだから……私のライフ4300もあるんだよ?」

 

「ですから……その4300のライフを削るって言ってるんですよ。私は【ゴーストリックの駄天使】の効果を発動。オーバーレイユニットの【金華猫】を墓地へ送り、デッキから【ゴーストリック・ブレイク】を手札に加えます」

 

「……本気なんだね、結衣ちゃん」

 

莉奈の表情が急に真面目になる。

結衣の態度を見て、ただの出まかせでないと察したのかはわからないが。

 

「そして、この【ゴーストリックの駄天使】をリリースして、【ティンダングル・イントルーダー】をアドバンス召喚!」

 

ーーー

【ティンダングル・イントルーダー】✩6 闇 悪魔 ③

ATK/2200

ーーー

 

「わざわざエクシーズモンスターをリリースしちゃうの?」

 

「ええ。更なるエクシーズ召喚を行うにはこれしかありませんから」

 

EXデッキから出すモンスターはリンクモンスターを使用しない限りはEXモンスターゾーンにしか出せない。

それゆえの戦い方ってことか。

 

「そして、【ティンダングル・イントルーダー】の効果発動! 召喚に成功した時、デッキから"ティンダングル"カードを1枚墓地へ送ります。私はもう一枚の【ティンダングル・イントルーダー】を墓地へ送り、その後魔法カード【死者蘇生】を発動。2体目の【ティンダングル・イントルーダー】を特殊召喚」

 

ーーー

【ティンダングル・イントルーダー】✩6 闇 悪魔 ③

ATK/2200

ーーー

 

これで結衣の場にはレベル6が2体。

ということはランク6のエクシーズ召喚が可能になったということだ。

 

「私はレベル6の【ティンダングル・イントルーダー】2体をオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。"紅き月満ちる闇よりいでし、血塗られた翼よ! 幻影より誘われし闇夜を穿て!" エクシーズ召喚! ランク6、【No.24 竜血鬼ドラギュラス】!」

 

ーーー

【No.24 竜血鬼ドラギュラス】ランク6 闇 幻竜 ①

ATK/2400

ーーー

 

血塗られたような真っ赤な翼を宿した吸血鬼のようなドラゴンが出現した。

 

「きた! 結衣ちゃんのエースモンスター!」

 

隣の颯が興奮気味に叫んでいる。

あれが結衣のエースモンスターなのか。

随分と恐ろしい見た目のカードを使っているみたいだが、結衣の性格からすると案外似合っているのかもしれない。

 

「どうやらこれがあなたの切り札ってとこかな? 攻撃力は【ブラック・ローズ】より低いってことは、何か効果があるようね……」

 

「ええ。そんなところです。【竜血鬼ドラギュラス】の効果発動! 1ターンに1度、EXデッキから出ているモンスター1体を裏側守備表示にできます。"クローズド・ブラッド!"」

 

「裏側守備表示……それで【ブラック・ローズ・ドラゴン】を守備にして戦闘破壊でもするつもり?」

 

「いえ、私が対象にするのは自分自身。【竜血鬼ドラギュラス】です」

 

【竜血鬼ドラギュラス】の背後より真っ赤に光る月が出現すると、【竜血鬼ドラギュラス】はその場から姿を消した。

 

「自らを裏にするなんて……。それじゃ攻撃すらできなくなっちゃうよ」

 

「確かにこのままではそうですね。そして、手札からフィールド魔法【エクシーズ・テリトリー】を発動。このカードがある限り、エクシーズモンスターが戦闘を行う時、その攻撃力はランクの数×200ポイントアップします」

 

現状結衣は自らエクシーズモンスターを裏側にしてしまっている。

エクシーズモンスターの攻撃力を上げるカードを使っても、攻撃できないんじゃ意味をなさない。

 

「攻撃力増加カード? ならやっぱり戦闘を行うつもりってことか……」

 

「そうですよ。なので私はバトルフェイズ、リバースカードから永続罠【ゴーストリック・ロールシフト】を発動!」

 

あれは【ゴーストリックの駄天使】でサーチしていたカード。

あのカードに結衣の秘策が隠れていたのか。

 

「このカードはお互いのバトルフェイズに1度、自分の場の裏側守備表示のカードを表側攻撃表示にすることができます! 再び来てください、【竜血鬼ドラギュラス】!」

 

空間に赤き穴が開くと、【竜血鬼ドラギュラス】がその穴をこじ開け出現する。

 

「そして、【竜血鬼ドラギュラス】が裏側表示から表側表示になった時、更なる効果を発動します! 場のカード1枚を墓地へ送る! 私が狙うのはその伏せカード。"ダーク・エクステンション!"」

 

「うそっ! なるほどねー……。わざわざ裏側表示にしてからバトルフェイズに入ったのは、私の伏せカードを潰しておくためかぁ。私の【砂塵のバリアーダストフォース】が墓地へ送られるよ」

 

これで莉奈を守る伏せカードはなくなった。

安心して攻めることができる場にはなったが、結衣の場には【竜血鬼ドラギュラス】1体のみ。

一体彼女はここからどのようにして4300のライフポイントを削っていくのか。

 

「バトルです! 【竜血鬼ドラギュラス】で【アロマセラフィージャスミン】を攻撃! "ブラッディ・サンクション!"」

 

【竜血鬼ドラギュラス】

ATK/2400

【アロマセラフィージャスミン】

ATK/1800

 

「【竜血鬼ドラギュラス】はランク6、したがってエクシーズテリトリーの効果で攻撃力が1200ポイントアップします」

 

【竜血鬼ドラギュラス】

ATK/2400→3600

 

「ううぅ……! なかなか手痛いダメージだね」

 

莉奈 LP4300→2500

 

「だけど、あなたより私のライフが多いから、【アロマセラフィージャスミン】は戦闘によっては破壊されーー」

 

「そう、私の狙いはそこですよ。野薔薇さん」

 

「えっ……?」

 

莉奈は結衣にそう言われると不審そうな表情をしていた。

 

結衣は【アロマセラフィージャスミン】の効果を知っているはずだ。

なのに、戦闘破壊できるはずの【ブラック・ローズ・ドラゴン】を狙わずに、あえて【アロマセラフィージャスミン】を狙ってきた。

結衣には何か狙いがあっての攻撃だったのだろう。

 

「罠カード発動、【かっとビング・チャレンジ】。自分の場の攻撃したエクシーズモンスター1体は、このターンもう一度攻撃することができます! 当然、【竜血鬼ドラギュラス】を対象に!」

 

「もう一度攻撃……!? そして、残り1枚のリバースカードは確か……【迷い風】……!」

 

「その通りです。私はこの時を待っていました。あなたの伏せカードがなくなって、戦闘破壊されない【アロマセラフィージャスミン】狙えるチャンスを。先ほどのターン私に大きくダメージを与えてくれて逆に助かりましたよ」

 

「結衣……! やってくれるわね……!」

 

「ふっ、あなたのデュエル、隙だらけでしたよ。【竜血鬼ドラギュラス】で【アロマセラフィージャスミン】を攻撃! この瞬間、リバースカードから【迷い風】を発動し、【アロマセラフィージャスミン】の攻撃力を半分にします」

 

【竜血鬼ドラギュラス】

ATK/2400→3600

【アロマセラフィージャスミン】

ATK/1800→900

 

「"ブラッディ・サンクション!"」

 

「いやあああ!」

 

莉奈 LP2500→0

 

 

結衣の勝利だ。本当にこのターン中に決着をつけやがった。

常に余裕そうにしていた態度に偽りはなかったようだ。まるで莉奈の手の内を読んで、攻撃を受けることも計算にいれたデュエル。

エリートだのなんだの言っていたのはあながち嘘ではないようだ。

 

 



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Ep17 - 決闘機動班

デュエルが終わると、決闘機動班の観客席がざわつき始めた。

 

あの野薔薇副班長が負けただの、ちょっと調子が悪かっただけじゃないだの色々と聞こえてくる。

 

「少し油断しすぎちゃったかな……。あなたの勝ちだね、結衣ちゃん」

 

「当たり前です。周りに持ち上げられて自分に酔ってる人に負けるわけありませんから」

 

「……自分に酔ってる……かぁ。はぁー、やっぱり4期生1番のデュエルはさすがだねー」

 

「あなた……私のことを知ってたのですか」

 

「まぁねー。あなたがいたからこそ……私は1番が取れなかったわけだしさ」

 

今の話だと、この莉奈って子は結衣たちと同期で、しかもかなり好成績だったってことになるか。

副班長を務めているっていうのもなんとなくわかってきたような気がする。

だけどそれならますますをもって結衣が決闘機動班の副班長くらいやってていいとは思うが……。

あれか、人間性の問題ってやつなのか?

 

「あぁ、そういえば結果発表の時、私の後ろでやたらと悔しそうに嘆いていた人がいましたね。あれがあなただったのですか」

 

「う、うるさいよ! とにかく! 次やる時は本当に本気でやるから……今度は負けないよ!」

 

「ふふっ、何度やっても同じですよ。それでは」

 

結衣と莉奈の二人はデュエルリングよりそれぞれ観客席の方へ戻ってくる。

結衣はどこかすっきりしたような表情をしていた。

 

「さすがは結衣ちゃんだぜ! おつかれー結衣ちゃん!」

 

颯は力いっぱいに結衣に向かって叫んでいる。

 

「よくやったじゃねぇか、結衣!」

 

続けて郷田さんも手を振りながら結衣を迎える。

 

「当然の結果です。決闘機動班の人に負けてたまるものですか」

 

「それにしても最初何もしなかったあれは"手札事故"じゃなくてあえてだったのか?」

 

「はぁ、遊佐くん。あなたはそんなこともわからないのですか? 私は必要以上のことはしない。余計なことをすれば、かえって不利になることもありますからね」

 

無駄のない洗練されたデュエルということか。

 

「そうだぜ繋吾。お前そんなこともわからねぇんじゃいつまでも二流止まりだな!」

 

「おい、お前は俺に負けてるだろ」

 

「うるせぇ! たった一回勝っただけじゃねぇか!」

 

「まったく、どんぐりの背比べとはこのことですね」

 

「ゆ、結衣ちゃん……」

 

颯と結衣とそんな会話をしていると、突如訓練場内に大きな拍手が響き渡る。

一体なんだろう。

拍手の元を探すと、入口付近に拍手をしながら歩く一人の男がおり、ゆっくりとデュエルリングへ向かって歩き出していた。

その様子に気が付くと、決闘機動班の連中は一気に静かになった。

 

「あいつは……。白瀬班長か」

 

郷田さんがその人物を目を細めながら見て呟く。

 

「それは……一体誰なんですか?」

 

「決闘機動部 決闘機動班長 白瀬。SFS内最大規模の班である決闘機動班を統べる班長だ。なんでこんなところへ来たんだか知らねぇが」

 

決闘機動班長……特殊機動班とは違って決闘機動班は人数の規模が多い以上、なかなかのお偉いさんってところだろうか。

 

「いやはや、素晴らしいデュエルでしたよ。野薔薇くん。それに佐倉くんだったか」

 

白瀬班長は拍手をしながら俺たちと決闘機動班員たちを交互に見ながら言った。

 

「これは我々決闘機動班も特殊機動班の方々に負けぬよう鍛錬に励まなくてはいけませんな。はっはっは」

 

「あんた、こそこそ見てたんか。二人のデュエル」

 

郷田さんが観客席を立ち、白瀬班長へ近づいていく。

 

「おい、郷田副班長。白瀬班長にその口の利き方はよくないだろう!」

 

決闘機動班の奴らが郷田さんに文句を言いだした。

郷田さんの口が悪いのはどんな相手でも変わらないようだ。

 

「まぁまぁ、郷田くんはこういう人だっていうのはよく知ってるから大丈夫だ君」

 

「え? あ、はい。失礼しました白瀬班長」

 

白瀬班長に言われ、その男は口を閉ざす。

 

「んで白瀬。なんのようだ?」

 

「なんのようだとは寂しいじゃないか郷田くん。たまたま通りかかったら随分熱の入ったデュエルをやっていたから気になって見ていただけだよ」

 

「だけど、それだけじゃねぇよな?」

 

郷田さんは何か白瀬班長に思うことでもあるのだろうか。

やたらと攻撃的な感じだ。

 

「まぁ確かにただの見物だけだったらわざわざデュエルリングまでは入ってこないだろうな。私はね、我々決闘機動班と特殊機動班で合同デュエルをやっているのを見て、これは非常に良いものだと感じたのだよ」

 

「良いものだと?」

 

「そうだ。お互いに普段の特訓とは違った刺激を受けることができ、切磋琢磨することで我々SFS全体のデュエルタクティクスの向上に繋がる! そうは思わんかね?」

 

白瀬班長が言っていることには一理ある。

それに、今までの様子を見る限り決闘機動班と特殊機動班はあまり仲良くないみたいだし、交流を深めるという意味ではいいのではないだろうか。

 

「つまり、何が言いたいんだ?」

 

「私はせっかくだから合同デュエル会でもやりたいなと思ったのだよ。どうかね? 日時は明後日の午後から。会場のセッティングが我々で執り行おう」

 

「おい、白瀬。俺たちは班長を除くとたったの4人しかいないんだぞ。決闘機動班の人数だと明らかに合わねぇじゃねぇか」

 

「そこは安心してくれたまえ。決闘機動班からは各副班長が参加するようにしよう。それならちょうど4人だ。人数の問題はないだろう」

 

相手が全員副班長級ということは……これまたどいつも強いやつなんだろう。

これはいい機会、是非とも参加させてほしいところだ。

 

「なるほどな。今回は何も企んでいねぇよな? 白瀬」

 

「何を人聞きの悪い。純粋にデュエルを行いたい。それだけの話じゃないか」

 

企んでいる……? いつもこの白瀬班長って人は何か仕掛けてくるってことなのか。

後で詳しく郷田さんに聞いてみるか。

 

「わかったよ、それならいい。ただ、うちも班長に確認は取っとかねぇと……」

 

郷田さんがそう言い、白瀬班長を方を見ると、その真後ろに赤見さんの姿があった。

いつの間に入ってきたんだ赤見さん。

 

「どうも、白瀬班長。それに郷田」

 

「赤見!? お前いつの間に来たんだよ」

 

「あぁついさっきだ。遅くなって悪いな」

 

赤見さん何か用事でもあったのか。随分と遅かったな。

 

「白瀬班長。その話、是非とも」

 

「おぉ、赤見班長。さすがは話の分かる。それでは明日までに準備は済ませておくから主催は任せていただきたい」

 

「ええ、了解しました。お互いにいい刺激になればいいですね」

 

「はっはっは、そうだな。そういえば、赤見班長。何やらここ最近飛び入りで新規入隊者がいたとか」

 

それはもしかして俺の話か。

この大人数の中で自分の話題をされると少し恥ずかしいな。

 

「そうです。そこの観客席にいる人物。遊佐 繋吾です。デュエルの腕は確かですよ」

 

赤見さんに言われ白瀬班長が俺のことをまじまじと眺めてくる。

俺は思わず立ち上がり、白瀬班長へ頭を下げた。

 

「なるほど。次の採用までまだ半年以上あるというのに、緊急で入隊とは。よほど良い人材だったってことかな? 赤見班長」

 

「もちろんいい人材っていうのはそうですが、お恥ずかしながらこちらも人手不足でしてね」

 

「ハハハ。そういえば、特殊機動班はいつもそうでしたな! では、今日はこのあたりで失礼させてもらうよ。邪魔してすまなかったな。特殊機動班の諸君」

 

「いえ、とんでもないですよ白瀬班長。対戦表、お待ちしております」

 

「あぁ、楽しみに待っていてくれたまえ。では」

 

白瀬班長は俺たちに丁寧に礼をすると、デュエル訓練場を後にした。

 

「あ、私たちも今日はそろそろ失礼するね! 班長さん来たみたいだし、じゃあねー!」

 

莉奈と決闘機動班員の皆もそれに続くかのように、デュエル訓練場を後にし、俺たち特殊機動班のみがデュエル訓練場に残った。

 

「なぁ、赤見。本当によかったのか?」

 

「心配するな郷田。今回は本当にただデュエルをするだけだ。下手な負け方しなきゃ問題はないだろう」

 

「また何か上層部へうちらの悪いとこ見つけて報告するつもりなんじゃねぇのか……」

 

郷田さんが引っかかることを言っている。聞いてみよう。

 

「その……あの白瀬班長って言うのはいつも何か特殊機動班に悪いことしてるんですか?」

 

「そうそう! そうなんだよ繋吾ちゃん! 何かと俺らをハメて、SFS内の評価を下げようとする奴だ」

 

「ハメて……? 例えばどういうことですか?」

 

「そうだなぁ……。任務の報告書類で俺たちがやった功績を自分たちのものにしようとしたり、特訓予定日に全ての訓練場を決闘機動班で抑えて、俺たちがまるでサボっているかのように見せかけたり……。まぁ卑怯なやつなんだよ」

 

なぜそこまでして特殊機動班に嫌がらせをしているのかはよくわからないが、普段そういうことをしているのであれば、郷田さんが疑うのも納得できる。

 

「でもそこまでわかっているのなら、こちらも素直に上に報告すればいいんじゃないですか?」

 

「決闘機動班はSFS全体のデュエル部隊の半分はある大規模な班だ。その決闘機動班のやつらがここ最近特殊機動班の必要性について問題視してやがる。そのような状況下だと俺たちの立場からはあまり強く言えないのが現状なんだ繋吾」

 

赤見さんは深刻そうな表情をしながら言った。

確かにたった5人の班の意見なんて全体から見たらごく少数だ。

 

「だけど、赤見班長。なんで今回は安全だと言い切れるのですか? また何か考えているかもしれません」

 

「あぁ。結衣、安心してくれ。何かあった時用に既に手は打ってある。立派なデュエルさえできれば、俺たちの評価が下がることはないだろう」

 

「何を……されたんですか?」

 

「まぁちょっとな。虚偽の報告とかをさせないように、生天目社長とかに話をつけてきたところだ」

 

え、赤見さんさっきこの話を知ったんじゃなかったのか。

もしかして、既にこの話が出てくることを知っていたのか……?

 

「ってことでお前らは安心してデュエルに望んで来い! 決闘機動班の奴らにお前らの腕前を見せてやれ!」

 

赤見さんはグッジョブを送りながら俺たちに笑顔で答える。

細かいことを考えるのはやめておこう。赤見さんのバックアップがあるのなら安心して望めそうだ。

 

「任せてくださいよ赤見班長! おっしゃー、今日負けまくった分、決闘機動班にぶつけてやるぜ!」

 

「おう颯、決闘機動班のやつらに負けたら後で地獄の特訓だから覚悟しとけな?」

 

「ハッ、この上地 颯が負けるとでも思ってるのか、郷田!」

 

「上地くん、今日一回も勝ってないじゃないですか……」

 

集中砲火を受けている颯は置いといて、俺もせっかくやるのなら勝ちたいところだ。

対戦相手が誰になるのか楽しみだな

 

「おっし、じゃあ今日はこれからもうちょっと特訓だ! いいよな?」

 

随分と颯は張り切っているようだ。せっかくだし今日はとことん付き合うか。

 

「よしじゃあやるか、颯。昨日のリベンジとかさっき言ってたしな」

 

「ふっふっふ……。繋吾、お前が相手なら負ける気がしねぇぜ……」

 

変な笑みを浮かべながら颯はデュエルウェポンを構えだす。

 

「デュエル!」

 

こうして、俺たち特殊機動班のメンバーは、夜になるまでデュエルの特訓に励んだのだった。



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Ep18 - デュエル交流会前日

翌日、デュエルウェポンから響き渡る目覚ましの音で目を覚ます。

 

昨日は、結局夜遅くまで特殊機動班のメンバーとデュエルの特訓に明け暮れていた。

勝率はまずまず。5割ってところだったかな。

 

結局俺自身はデュエルを楽しんでるばかりで、あまり特訓って実感がなかった。

まぁデュエルの経験を積むことも一つの特訓と言えるだろう。

SFSでの任務はデュエルが全てといっても過言ではないからな。

 

眠い目を擦りながら洗面所へ行き、歯磨きやら着替えやらをしていると、部屋のインターホンが鳴った。

 

「赤見だ。今大丈夫か?」

 

お、赤見さんか。

ってことはもう明日のデュエル交流会の対戦表が決まったのかもしれないな。

 

「はい、今開けます」

 

俺は部屋のスイッチを操作し、入口の扉を開ける。

すると入口にいた赤見さんが俺の部屋に入ってきた。

 

「よう、ちゃんと起きてたか。繋吾」

 

「今日はなんとか午前中に起きましたよ……」

 

路上生活をしてた時は寝たい時に寝て、起きる時に起きる。

そんな生活をしてたもんだから、規則正しい生活ってのになかなか慣れない。

 

「調子がよさそうじゃないか。さーて、持ってきたぞ。お待ちかねのアレ」

 

対戦表のことだろうか。

と言っても対戦表を見たところで決闘機動班のメンバーは昨日結衣と戦っていた野薔薇副班長しか知らない。

だから対戦表見てもまったくピンと来ないだろうけども。

 

「明日の対戦表ですか?」

 

「あぁそうだ。繋吾、お前は最後の一戦だな! 頑張れよ」

 

「え……?」

 

ーーー

決闘機動部内デュエル交流会・対戦スケジュール

 

     特殊機動班     決闘機動班

第一試合 郷田副班長  VS  野薔薇第4副班長

第二試合 上地 颯   VS  小早川第3副班長

第三試合 佐倉 結衣  VS  坂戸第2副班長

第四試合 遊佐 繋吾  VS  桂希第1副班長

ーーー

 

俺の対戦相手は第1副班長をやっているらしい桂希ってやつか。

第1に行くほど強いのか。それとも実力はあまり関係ないのか。

仕組みはよくわからない。

 

「赤見さん。なんで俺が一番最後なんでしょう? こういうのは郷田さんとかがやるべきなんじゃ?」

 

「それについては私にもわからないな。それほどお前に期待しているのかもしれない」

 

「いやいや……」

 

期待って言ったってまだ入隊したばかりで、任務に出たこともない俺に何を期待しているのだろう。

とりあえず戦うからには全力でやらないとだな……!

それにしてもこの桂希ってやつはどんなデッキを使うやつなのだろう。

 

「この桂希って人はどんなデッキを使うんですか?」

 

「私もあまり見たことはないが……シンクロ召喚と融合召喚の二つを組み合わせたデュエルをするって聞いたような気がしたな」

 

どんなデッキでも使えるリンク召喚は別として融合、シンクロ、エクシーズの中から二種類以上を使って来る人はそこまで多くない。

召喚できるものが多いってことはそれゆえに戦略の幅が広がるが、デッキとしてはまとまりが欠け、うまく動かなくなってしまうリスクもある。

それを使いこなすってことは、なかなかにハイレベルなのだろう。

 

「ってことは赤見さんは戦ったことはないのか」

 

「あぁ。噂ではSFS第3期生の中では一番の成績だったとは聞くがな」

 

出ました。成績一番。

トップの成績のやつが周りに多すぎませんかね。

結衣のことは置いといて、決闘機動班の副班長クラスだから、仕方がないのかもしれないが。

 

「勝てるかはわかりませんが、全力は尽くして見せますよ」

 

「あぁ、繋吾は自分なりのベストを尽くせばいい。勝ち負けとか特殊機動班の立ち位置とかそういう細かいのは気にしないで自分らしくデュエルしてくれよ」

 

デュエル交流会とはいえ、決闘機動班と特殊機動班の真っ向勝負。

この結果は当然上層部へ報告されるだろうし、全体の勝敗次第では、特殊機動班の評価が下がることも考えられるだろう。

そんな中でも赤見さんの今の一言は、色々と考えてしまいがちな俺にはありがたいものだ。

 

「ありがとうございます。俺のデュエルがどこまで通用するか頑張ってみます」

 

「おう、期待しているよ。そうだ繋吾、せっかくだし何か聞きたいこととかあるか?」

 

聞きたいことか……聞いていいものかわからないけど、昨日赤見さんはデュエル交流会のことをなぜか事前に知っていたみたいだ。

前々からそういう話があったのかそれとも何か事情があったのか気になる。

 

「そういえば……昨日、デュエル交流会について、赤見さんは既に生天目社長に話して手を打ってあるって言ってましたけど、あの話は前々からあった話だったんですか?」

 

「あぁー……その話か。覚えていたのか」

 

赤見さんは少し目を細めながら答える。

 

「はい、ちょっと気になってたもので。それにあの日赤見さん来るの遅かったし」

 

「昨日は……私が国防軍に出張に行った時の話を生天目社長に報告しに行っていた。そこで帰り道訓練場に向かおうとしたら、入口で白瀬班長と班員がデュエル交流会について話しているのを盗み聞きしてな。少し嫌な予感もしたからすぐさま生天目社長へ連絡をいれておいたんだ」

 

なるほど。帰ってきた時に白瀬班長が話をしているのを聞いた……と。

赤見さんもよっぽど白瀬班長のことを警戒しているんだろうなぁ。

 

「そうそう、後でみんなにはメールで報告書を送ろうと思ってたが、国防軍への出張での内容。先に繋吾には話しておくか」

 

「国防軍へ行ったのは……左近さんの件でしたっけ?」

 

「そうだ。あの時繋吾と戦ったテロリストが会話できる程度には回復していたから、少し面会をしてきたんだが……一つだけ気になる発言があったんだよ」

 

あの【魔王龍ベエルゼ】を使っていたテロリストのことか。

俺があの時、奴に問いただしても5年前の話は何も知らなそうだったが……。

一体赤見さんはなんの話をしたのだろう。

 

「どんな発言だったのですか?」

 

「あいつは途中でこんなこと言ってた。"あんなろくでもないカードばっかりのデッキを使って勝とうだなんてふざけてるよお前らも"ってな」

 

あのテロリストは人のデッキをやたら馬鹿にしてきた感じだった。

俺の時のデュエルでも同じようなこと言ってきたし、あまり変わらなそうだが……。

 

「それなら俺とのデュエルの時でも同じようなこと言ってましたよ」

 

「そうなのか……。繋吾とのデュエルがどうだったかはわからないが、左近さんはSFSの1期生。要は2期生の私よりも先輩なんだ。デッキはもうかなり洗練されたデッキでな。私も左近さんには色々とお世話になっていた」

 

ということは、実質特殊機動班の中でもかなりの実力者だったってことか。

 

「それが、あんなテロリスト風情に"ろくでもないカードばっかりの"なんて言われるのはちょっと引っかかってな。実際、左近さんは1期生の中でもずっと生き残ってきていた歴戦の隊員だった。いくらテロリストでもあんなしたっぱにやられるようなヘマは考えにくい」

 

「つまり……左近さんはただデュエルで負けただけじゃなくて、その時に何かが起きてたってことですか」

 

「私はそう考えている。左近さんからの救援連絡がなかったのも引っかかるしな。左近さんが一体どんなカードを使っていたかまでは奴には聞けなかったが……もしかするとジェネシスはとんでもない力を持ってたりするのかもしれないな」

 

どんなに強いデュエリストでも、負かせるほどの力を持っているのだとするとそれは脅威の他ない。

その実態が掴めない限り、我々SFSに勝機は回ってこないってことか。

 

「それを解明しないと、左近さんの二の舞になってしまいますね」

 

「その通りだ。だから私の方でジェネシスの調査とは別にその件についても調べてみようと思っている。繋吾ももし何かわかったら私まで連絡をくれると助かる」

 

「わかりました。何かわかったら連絡します」

 

「ありがとう。じゃあ私はそろそろ行くとするよ。明日は頑張れよ、応援してるぞ繋吾!」

 

「はい、ありがとうございます」

 

赤見さんはそう言うと立ち上がり、俺に手を振りながら部屋を後にした。

 

赤見さんが話していた今の話。

ろくでもないカードばっかり使っていたってことは、左近さんのデッキの内容が入れ替わっていたということかもしれない。

左近さんのデッキ……それに何かがあったのは間違いない。

きっとそれが原因で仲間への救難信号も出せなかったのだろう。

インターネットで何かそういう事例がないか、調べてみるか……。

 

俺はデュエルウェポンでインターネット閲覧機能を使用し、その内容について調べることにした。

 

 

ーー気がつくと外は暗くなっており、夜となっていた。

 

何かに集中すると時間が経過するのは本当に早い。

インターネットのあらゆる場所を探したり、他の民間軍事組織の調査記事やSFSの内部ネットワークの情報を読み漁っていたが、結局例の事件に繋がりそうなものは見つからなかった。

そもそもジェネシスという組織自体があまり解明が進んでおらず、国防軍も手を焼いている状況だ。

インターネットで簡単に調べられるレベルであれば、今頃壊滅にまで追い込めているだろう。

 

ただ、わかったこととしては、10年前に発生した国防軍とテロリストの総力戦。それを機に活動が明確に判明した組織であり、その時に世界で初めてデュエルウェポンを使用し、兵器革命を起こしたのもジェネシスであるということ。

そして、5年前の大襲撃の首謀者であり、先日の大襲撃においても同様に首謀者であること。

わかったのはこれくらいだ。

 

大した情報ではないのかもしれないが、ここまで探すのにも随分と時間がかかった……。

この程度の情報なら赤見さんは既に知ってるようなものだろうし、わざわざ報告するものでもないかな。

 

それにしても、ずっとデュエルウェポンの画面を凝視していたものだから目が疲れた。

明日は大事な一戦だし、そろそろ寝る準備でもしておこうか。

 

椅子から立ち上がり背伸びをし、お風呂に入るべく風呂場へと向かおうとすると、デュエルウェポンより着信音が鳴り出した。

こんな時間に誰だろう。

 

画面には上地 颯と表示されていた。仕方がない、出てやるか。

 

「もしもし」

 

「お、繋吾。夜に悪いな。対戦表見たかお前?」

 

「あぁ、赤見さんからもらったメールに書いてあったやつだろう」

 

まぁ、俺はその前に赤見さんから直接聞いてたりするんだが。

颯の相手は確か……小早川第3副班長とかいう相手だったか……?

 

「お前が最後だなんて驚いたぜ……。何か白瀬班長に吹き込まれたりしてねぇよな?」

 

「冗談はよしてくれ。俺も一番最後で驚いてたとこだ。この桂希 楼ってやつは強いのか?」

 

「あぁそうだな……。SFS 3期生のエース。デュエル試験では勝率9割のとんでもないヤツだよ」

 

デュエル試験って前結衣が定期的に行うデュエル大会みたいなものって言ってたな……。

それでほとんど負けなしってことか。

だけど、1割でも負けているのならまだ勝機はあるだろう。

 

「ってことはかなり強そうなやつじゃないか。張り切っていかないとな」

 

「おいおい、勝とうとする心意気は大事だが、あいつは別格だぜ? 戦う際は気をつけた方がいい」

 

「どういうことだ?」

 

「あいつのデュエルは1ターンでライフを全部削りにくるってこともよくある。油断していると一瞬で負けて恥かくハメになるから気をつけろよ!」

 

1ターンキルってやつか。

いつも以上に防御面で気合入れていかないと本当にやばそうだ。

 

「なるほどな、警戒しておくよ。ありがとう」

 

「あぁ。白瀬班長が何を思って桂希とお前を当てたのかはわからないけど、もし勝てればお前の評価はうなぎのぼりだぜ。ピンチはチャンスってな!」

 

それだけ桂希ってやつを倒すことはすごいことなのだろう。

それを聞くとなんだかやる気が湧いてくる。

 

「そうだな、勝つつもりで挑むよ。それはさておき、颯の相手は小早川ってやつみたいだが……」

 

「まだ俺、小早川副班長には一回も勝ったことなくてな。今回こそは勝ってみせるぜ!」

 

過去にも戦ったことがある人みたいだ。

これはリベンジってわけではないが、是非とも勝ってほしいところだな。

 

「リベンジ戦か。頑張れよ」

 

「あぁ! 結衣ちゃんにいいバトンタッチができるように頑張るぜ……」

 

そういえば颯の次は結衣だったな。

颯としては無様なデュエルは見せられないはずだ。

 

「結衣の前で負けるなよ、颯」

 

「あったりまえだ! お前こそ結衣ちゃんの後で恥かくようなデュエルしたら承知しねぇからな!」

 

「まぁベストは尽くすよ」

 

「おっしゃ! んじゃまた明日な繋吾! 遅刻するなよ!」

 

そこで颯との通話は途切れた。

赤見さんの話とも合わせると、俺の対戦相手である桂希という人物は本当にとんでもないやつらしい。

だが、正直なところ不安に思う反面、奴がどんなデュエルをしてくるのか楽しみな気持ちもあった。

 

さてと、そういえば……ちょうど風呂に入ろうとしたところだったけ……。

早いとこはいって、明日に備えないとな。

 

俺は今度こそ風呂場へと向かい、次の日に備えたのだった。

 



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Ep19 - 決闘機動班 VS 特殊機動班

決闘機動班とのデュエル交流会当日。

 

俺は特殊機動班のいつものメンバーと一緒に、デュエル訓練場の観客席に座っていた。

 

周りには決闘機動班の班員大勢に加え、昨日見た白瀬班長や莉奈の姿、颯や郷田と言い合いをしていた片岡ってやつの姿も見えた。

 

総勢すると50名は軽く超えているだろうか。

本当に我々特殊機動班とは規模が違う。

 

「あー……緊張してきた……」

 

俺の隣にいる颯が手をこすり合わせながら呟く。

 

「お前、緊張とかするやつだったのか」

 

「当たり前だろ! こんだけ人がいっぱいいるんだからよ……」

 

「こういうの場慣れしてるタイプだと思ってたよ」

 

俺の中での颯のイメージは、こういう時こそ自信満々に目だとうとするタイプなのかなと思っていた。

 

「逆だよ逆! 俺本番に弱いんだよ……。色んな人に見られながらっていうのは緊張するぜ……へへっ」

 

実質SFSのデュエル部隊の約半数に見られながらデュエルをするということだ。

無様なデュエルをすればそれこそ弱いという印象を付けられてしまうかもしれないし、気は抜けないデュエルとなるだろう。

まさか白瀬班長はそれを狙って俺たちの評価を下げるためにわざわざ交流会を……?

いや、赤見さんも言っていたじゃないか。今日は余計なことを考えずにデュエルに挑もう。

 

「おう颯。そんなに緊張してたら勝てるもんも勝てなくなっちまうぜ?」

 

郷田さんが颯の肩を思いっきり叩きながら言う。

 

「おい郷田! いてえよ!」

 

「お前がシャキっとしねぇからだよったく! それに比べて繋吾ちゃんは随分と落ち着いてるじゃねぇか」

 

「え? あぁ、俺の対戦相手がすごい強いみたいだから、どちらかというと楽しみって感じなんです」

 

「桂希か。決闘機動班の切り札。だけどまぁ恐れることはねぇよ」

 

郷田さんは俺の胸を小さく叩きながら言葉を続ける。

 

「繋吾ちゃんも俺たち特殊機動班の切り札になるかもしれねぇしな?」

 

「いやいや、郷田さん。俺がそんな切り札なんてことはないですよ」

 

苦笑いしながら俺は答える。

 

「まったく……。少しはデュエルの腕が立つからって、あまりいい気にならないでください」

 

はい、結衣様のお出ましです。

そんなにいい気になっているつもりはなかったが……。

 

「まぁ結衣。繋吾ちゃんはこれからの伸び代があるってこったよ!」

 

郷田さんがすかさずフォローを入れてくれた。

やはり郷田さんがいると結衣が相手でも会話がしやすいな。

 

「……そうですか。それならば少しだけ期待しておくこととします」

 

「あぁ。ありがとう結衣」

 

俺はとりあえず結衣に礼を言い、デュエルリングの方を眺めた。

デュエルリングには白瀬班長と見慣れない人物が1名立っている。そろそろ始まるのだろうか。

 

「おっと、そろそろ時間だな。私はちょっとデュエルリング行かなきゃいけないから、また後で。みんな頑張れよ!」

 

赤見さんは席を立つと、デュエルリングの方へと走っていった。

 

やがて赤見さんが白瀬班長たちと合流すると、ざわついていたデュエル訓練場が静かになる。

 

「それでは、そろそろ始めるとするかね。赤見班長」

 

「はい、神久部長もよろしいですか?」

 

「あぁ、構わない」

 

黒色のスポーツ刈りな髪型をした、真紅の如く真っ赤な瞳を光らせる人物。

今、その人物に対して赤見さんは神久部長と呼んでいた。

おそらくあの人が決闘機動部のトップっということかもしれない。

 

「えー、ただいまより決闘機動部内における決闘機動班と特殊機動班のデュエル交流会を開始いたします。主催は私、白瀬。そして特殊機動班からは赤見班長のご協力をいただき、開催実施となりましたことをこの場を借りて御礼申し上げます」

 

白瀬班長は堅っ苦しく進行を始めた。

できれば手短に……済むといいが。

 

「本日は、決闘機動部長の神久部長にもお越しいただいております。せっかくですので、神久部長。ご挨拶を」

 

白瀬班長はマイクを神久部長へと手渡す。

その後、神久部長は一歩前へ出るとマイクを口に近づけた。

 

「急なイベント開催だったようだが、これほどの人数を集めそしてデュエル交流会が行われることは素晴らしいことだ。普段はあまり戦い合うことのないSFS内の別の班とのデュエル。これはお互いにいい刺激を受けられる良い機会となるだろう。是非とも切磋琢磨し、良いデュエルを見せてほしい。以上」

 

神久部長の挨拶の後、会場には拍手が響き渡る。

俺も思わず便乗し、拍手を行った。

 

「それでは、あまり長話も退屈だと思いますので、さっそく第一試合からスタートさせていただきます。では、赤見班長。準備はよろしいですかな?」

 

「ええ。それでは各班の初戦の方は準備をしていただき、デュエルリングまでお越し下さい」

 

そのアナウンスを聞くと、郷田さんが席から立ち上がる。

 

「おっしゃ、さっそく行ってくるぜ!」

 

「負けんなよ! 郷田!」

 

「頑張ってください」

 

「郷田さん、ファイトです」

 

俺たち3人はデュエルリングへ向かう郷田さんへとエールを送ると、郷田さんはガッツポーズを俺たちへ見せながらデュエルリングへと向かっていった。

初戦の対戦相手は確か先日結衣と戦っていた莉奈だったか。

相手もかなりの実力者だ。どちらが勝つか読めないな。

 

しばらくすると郷田さんと莉奈の二人がデュエルリングで対峙し、デュエルウェポンを構える。

 

「郷田副班長さん、一昨日ぶりですね!」

 

「そうだなぁ野薔薇ちゃん。昨日できなかった分、今日はめいいっぱいデュエルさせてもらうぜえ」

 

「ふふっ、力だけが全てじゃない。それを教えてあげますよ! 郷田さん」

 

「こまけえこたぁ関係ねぇ! いくぜえ!」

 

「デュエル!」

 

 

ーー郷田さんと莉奈のデュエル。

 

郷田さんはいつもどおり大型モンスターを展開し、一気に莉奈を攻め立てるが、莉奈はそれを罠カードの効果で防いだり、ライフを回復する効果で耐え切っていた。

そして、郷田さんの攻めの手が緩んだ隙に、莉奈の【ブラック・ローズ・ドラゴン】の効果で郷田さんのモンスターが無力化されていく。

 

「これでトドメだー! 【憎悪の棘】を装備した【ブラック・ローズ・ドラゴン】で攻撃力が0になった【ナチュル・ガオドレイク】を攻撃! "ブレイジングローズ・ストリーム!"」

 

【ブラック・ローズ・ドラゴン】

ATK/2400→3000

【ナチュル・ガオドレイク】

ATK/0

 

「こいつはやられた! ぐおおおおおお!」

 

郷田 LP2500→0

 

郷田さんの負けだ。

初戦は決闘機動班に白星がついてしまったようだ。

 

「やったあ、勝った! 初戦はいただいたよ、郷田副班長?」

 

莉奈は郷田さんに向けてウィンクしながら言う。

 

「ちくしょう、若いながらやるじゃねぇか。俺のパワーが通用しねぇとは……」

 

「ふふっ、だからーデュエルは力だけじゃないですって! デュエルありがとうございましたー!」

 

両者向き合って礼をすると、それぞれ観客席へ戻り始めた。

 

「では初戦が終わりましたね、続きまして二回戦目の方、デュエルリングまでお願いします」

 

赤見班長のアナウンスの声が聞こえ、今度は俺の隣にいた颯が席を立った。

 

「ったく、郷田のやつ情けねぇ! それに莉奈ちゃんにウィンクまでされて羨ましいじゃねぇか!」

 

おいおい、それを大声で言うなよ……。

それに隣の結衣がなんかお前のこと睨みつけてるぞ……。

 

「さてと、俺が挽回してくるから見とけよ!」

 

「あぁ、頑張ってこい颯」

 

俺は颯に手を振りながら、デュエルリングへ向かっていくのを見送った。

対して席に戻ってきた郷田さんは少し落ち込んでいた。

 

「おう繋吾ちゃん、結衣。すまんかったな」

 

「いや、相手も強かったし、気にしないでください郷田さん。いいデュエルでした」

 

俺は少し落ち込み気味の郷田さんに励ましの声をかける。

 

「ありがとうな繋吾ちゃん。だけど、パワーだけってのも限界を感じてきてな」

 

下を向きながら郷田さんは答える。

先ほど莉奈にも言われていたが、もしかしたら自分のデュエルスタイルで悩んでいるのかもしれない。

 

「中途半端な力なんて脆いだけです。変に悩むくらいなら、もっとその力を極めた方がいいと思いますよ私は」

 

「結衣……。そうだな、俺はテクニカルなデュエルなんてできる気がしねぇ。お前の言うとおりかもしれねぇな」

 

「あなたのせっかくの取り柄なんですから、大事にした方がいいですよ」

 

まるで郷田さんにそれ以外の取り柄がないような言い方だが、本人は気を使って言っているつもりなのだろう。

郷田さんも特に気にしてないみたいだし、触れないでおこう。

 

「まったく俺もいい加減成長しなきゃならねぇってことだな! さてと、そろそろ次のデュエルが始まるみてぇだ」

 

郷田さんに言われデュエルリングを見ると、颯と対戦相手の人物が向かい合って立っていた。

 

「小早川副班長、前回のリベンジ。させてもらいますよ……!」

 

「相変わらず君は威勢だけはいいようだ。特殊機動班に行ってからは随分と頑張っているようだな」

 

「はい! 小早川副班長にも負けないようにと頑張ってきました!」

 

「ほう、それは面白い。では、見せてもらおうか上地くんの実力を」

 

「デュエル!」

 

 

ーー小早川副班長と颯のデュエル。

序盤颯は様子見も兼ねて比較的攻撃力高めの融合モンスターで攻め込むも、小早川副班長の操る"マシンナーズ"モンスターである何度も蘇る効果を持った不死身のモンスター、【マシンナーズ・フォートレス】に幾度となく阻まれる。

お互いにカードを行使していき、消耗しつくした時に、颯は温存していた一枚の切り札を発動した。

 

「俺は……【ジェムナイト・パーズ】で……【マシンナーズ・フォートレス】を攻撃! "ボルテック・ダガー!"」

 

「攻撃力の低い【ジェムナイト・パーズ】でわざわざ攻撃とは。手札は既に0枚……ということは、望みはその伏せカードにあるということか」

 

「あぁそのとおり……俺はこの時を待っていたぜ! リバースカードから速攻魔法【決闘融合-バトル・フュージョン】を発動! 融合モンスターが戦闘を行う時、戦闘行う相手モンスターの攻撃力分その融合モンスターの攻撃力をアップする!」

 

「なんと!」

 

【ジェムナイト・パーズ】

ATK/1800→4300

【マシンナーズ・フォートレス】

ATK/2500

 

「切り裂け! "ボルテック・ダガー!"」

 

「ぐおわ!」

 

小早川 LP3500→1700

 

「さらに【ジェムナイト・パーズ】の効果で、【マシンナーズ・フォートレス】の攻撃力分のダメージを受けてもらうぜ! 小早川副班長!」

 

「くっ、見事だ。上地くん」

 

小早川 LP1700→0

 

颯が勝ったようだ。これで1対1。互角な状況だ。

彼としてもリベンジが達成できたんだ。喜ばしいことだろう。

 

「やったぜ、俺の勝ちだ! 少しは見直してくれましたか、小早川副班長!」

 

「あぁそうだな。君の意志の変化はわかったが、これだけで満足しないことだ」

 

「は、はい! もちろんです!」

 

「それではな、上地くん」

 

あの小早川って人、颯のことをよく知ってそうな口ぶりだったな。

決闘機動班時代に同じ班の人だったとか? 何かしらの繋がりがあったのだろうか。

 

「それでは続きまして、3戦目の準備をお願いします」

 

「次は私の番ですね。行ってきます」

 

赤見さんのアナウンスを聞いて、結衣が席を立つ。

 

「頑張ってこいよ、結衣」

 

「え、ええ。頑張ります……」

 

少し緊張しているのか、いつものような鋭さがない返事だった。

てっきり、"あなたのような方に応援される筋合いはありません"とか言われるもんだと思ってたが。

 

しばらくすると、スキップしながら颯が帰ってきた。

 

「見たか? 見てたか? 俺のデュエル!」

 

「あぁ、ちゃんと見てたから落ち着けってお前……」

 

「上地 颯のリベンジ計画! 見事無事達成ってやつだ! ハッハッハ」

 

随分と上機嫌だな。よほど勝てたのが嬉しかったのだろう。

 

「そういえば、あの小早川ってやつはどういう関係なんだ?」

 

「あぁー……。俺が決闘機動班にいた時の上司って言うんかな。同じ部隊の副班長だったんだ。つまり俺は元決闘機動班第3部隊所属ってことだな」

 

「そうだったのか。だが、なんで颯は特殊機動班に所属することとなったんだ?」

 

「それは……まぁ色々とあったんだ。ちょっとしたトラブルがな。それで俺は特殊機動班へ異動することとなった」

 

颯は真面目な表情をしながら言った。

どういう経緯なのかはわからないが、結果として特殊機動班に異動させられたってところか。

 

「ま、それも過ぎた話だ。気にすんな! それより結衣ちゃんのデュエルを見物と行こうぜ!」

 

「あ、あぁ。そうだな」

 

あまり人には言いたくないような何か問題を起こしてしまったってことなのだろうか。

触れられたくないみたいだし、これ以上聞くのはやめておこう。

それよりも次のデュエルがそろそろ始まる頃だ。

 

デュエルリングを眺めると、結衣と一人の男がデュエルの準備をしていた。

 

「それでは、始めるとしましょうか。佐倉さん」

 

「ええ。手加減なしでいきますよ」

 

「望むところですよ。いきますか!」

 

「デュエル!」

 

 

ーーデュエルの状況としては、結衣が相変わらず隙のないプレイングで対戦相手の坂戸副班長の攻撃を凌ぎ、鉄壁の布陣を作っていた。

 

守りながらも少しずつ坂戸副班長のライフポイントを削っていたが、坂戸副班長のカードが消耗したタイミングで結衣は決めにかかった。

 

「バトルです。永続罠【ゴーストリック・ロールシフト】の効果で、私の場の【ゴーストリック・ランタン】を攻撃表示から裏側守備表示に、追加効果によって、あなたの場の裏側表示モンスターを攻撃表示へ変えます」

 

「くそっ、私の【クリッター】が……。これでは守り切れませんね……!」

 

「終わりです。【竜血鬼ドラギュラス】で【クリッター】を攻撃! "ブラッディ・サンクション!"」

 

【竜血鬼ドラギュラス】

ATK/2400

【クリッター】

ATK/1000

 

「ぐおわあああ」

 

坂戸 LP1200→0

 

結衣の勝利でデュエルが終わる。鉄壁の守りで見事相手を翻弄したようだ。

 

「いい腕をしてますね。素晴らしいデュエルでしたよ佐倉さん」

 

「いえ、ありがとうございました」

 

素っ気ない会話を済ますと両者はデュエルリングから観客席へと戻り始める。

次は俺の番か……。いよいよだ、少し緊張する……。

 

「それではいよいよ最終戦! ここまで決闘機動班1勝、特殊機動班2勝と特殊機動班が有利な状況ですが、最終戦でどうなるのか。準備をお願いします!」

 

赤見さんのアナウンスも最終戦は気合が入る。

今現在、俺たちが優勢な状態だ。このまま勢いに乗ってぜひ勝ちたいところだ。

 

俺は覚悟を決めると席を立ち、デュエルリングへ向かうべく足を進める。

 

「頑張れよ繋吾。しっかりな?」

 

「繋吾ちゃん! 期待してるぞ!」

 

「あぁ、任せてくれ!」

 

郷田さんと颯の二人の応援に手を振りながら答え、俺は歩き出す。

するとデュエルリングへ向かう道中でちょうど戻ってくる結衣と会った。

結衣の表情は終わって安心したかのような安堵した感じだった。やっぱり緊張していたのかもしれない。

 

「お疲れさま。見事なデュエルだったよ」

 

「当たり前じゃないですか。あの程度どうってことないです」

 

口ではそうは言っているが、結衣は少しドヤ顔のような表情をしていた。

 

「だけど、こんな大勢いる前で、副班長相手に勝てるってだけですごいと思うぞ」

 

「ありがとう……ございます。それより、あなたこそ不甲斐ないデュエルしないでくださいね。せっかくここまできたのが台無しですから」

 

「大丈夫だ、あの桂希っていうのは相当強いらしいけど頑張るよ」

 

勝てるかどうかは正直俺も奴の噂を聞く限り自信がない。

だけど、例え負けるにしたとしても善戦はしたいところだ。

 

「まぁ……あまり期待はしてませんけど、せいぜい頑張ってくださいね」

 

相変わらず言い方はよくないが、彼女なりに応援してくれてるってことなのかな。

その気持ちは受け取ることとしよう。

 

「ありがとう、結衣。特殊機動班員として恥のないようなデュエルができるよう心がけるよ」

 

「え? あぁ……」

 

結衣は俺の顔をまじまじと見ながら微妙そうな反応をしている。

何か変なこと言ったかな。

 

「どうした? 何かあったか?」

 

「……あ、いえ。気にしないでください。それでは」

 

結衣はそう言うと観客席に走っていってしまった。

まぁいいや。早くデュエルリングへいかないと。

 

俺は少し足早にデュエルリングへと向かった。

 

 



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Ep20 - 決闘機動班の切り札 前編

デュエルリングへ到着すると、金髪のショートカットをした青年が立っていた。

あれが"桂希 楼"だろうか。

 

「お前が桂希ってやつだな?」

 

「そうだ。決闘機動部 決闘機動班 第1副班長の桂希 楼だ。お前が遊佐 繋吾だな?」

 

「あぁ、特殊機動班所属の遊佐 繋吾。お手柔らかに頼むよ」

 

そう言いながら俺は桂希に向かって軽く頭を下げた。

 

「こちらこそ。お前が……なるほど。白瀬班長がお前に関心をもっているようでな。その力、デュエルの中で見させてもらおうか」

 

白瀬班長が俺に関心があるだと……。

昨日、ただ目があっただけで、特に接点なんてものはなかったが。

俺の入隊までの経緯がどれほど知れ渡っているかはわからないが、仮に期待されているのだとしたら悪い気はしない。

 

「お前こそ、かなり腕が立つと聞いている。いいデュエルにしよう」

 

「ふっ、言われるほどでもない。さて、デュエルの準備はいいか? 遊佐」

 

なんというかこの男は、向かい合ってるだけで郷田さんや颯とは違った覇気のようなものを感じる。

見るからに強そうな奴だ。心してかからないとな。

 

「あぁ、いくぞ……!」

 

「デュエル!」

 

桂希 LP4000 手札5

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー 

ーーーーー

ーーーーー

繋吾 LP4000 手札5

 

先攻は桂希のようだ。

まずは相手の出方がどうくるかだな。

 

「私のターン! 私は【スクラップ・リサイクラー】を召喚!」

 

ーーー

【スクラップ・リサイクラー】✩3 地 機械 ③

ATK/900

ーーー

 

「このカードが召喚に成功した時、デッキから機械族モンスター1体を墓地へ送ることができる。私は【サイバー・ドラゴン・コア】を墓地へ送る」

 

どうやらスタートは堅実な墓地肥やし。意外と落ち着いた展開だ。

1ターンキルもあり得るという話を聞いていた分、少しホッとした。

 

「さらに、カードを1枚伏せて、ターンエンド。さぁ、お前のターンだ」

 

桂希 LP4000 手札3

ーー裏ーー

ーーモーー

 ー ー 

ーーーーー

ーーーーー

繋吾 LP4000 手札5

 

「いくぞ、俺のターン。ドロー!」

 

手札はまずまずといった具合だ。

ここ最近のデッキ調整のせいかはわからないが、手札の安定さはSFSに入る前よりも格段に上がっている気がする。

 

現在の状況は相手の場に比較的攻撃力の弱いモンスターが攻撃表示。

伏せカードがある状況だが、ダメージを稼ぐには絶好のチャンスだ。狙わない手はない。

 

「俺は【炎竜星ーシュンゲイ】を召喚!」

 

ーーー

【炎竜星ーシュンゲイ】✩4 炎 幻竜 ③

ATK/1900

ーーー

 

「バトルだ。【シュンゲイ】で【スクラップ・リサイクラー】を攻撃! "ボルケーノ・フレイム!"」

 

【炎竜星ーシュンゲイ】の口元より、大きな火球が出現し、【スクラップ・リサイクラー】へ衝突すると、たちまちそれは大きな火炎となり、爆発した。

 

【炎竜星ーシュンゲイ】

ATK/1900

【スクラップ・リサイクラー】

ATK/900

 

「くっ、このくらいのダメージは必要経費だ」

 

桂希 LP4000→3000

 

「よし、先制ダメージはもらった! 俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

 

桂希 LP3000 手札3

ーー裏ーー

ーーーーー

 ー ー 

ーーモーー

ーー裏裏ー

繋吾 LP4000 手札3

 

 

「いいぞー! 繋吾! そのままやっちまえー!」

 

多くの外野がいる中、颯の叫び声が聞き分けられる程大きな声で聞こえる。

さっきはあんなに緊張していた癖に外野という立ち場だと、恥じらいもなく大声を出せるらしい。

よくわからないやつだな……。

 

颯の発言は置いといて、特殊機動班のメンバーをふと眺めると、みんな俺のデュエルを真剣に見つめていた。

みんなの期待にこたえるためにもこのデュエルなんとしても勝ちたいところだ。

それに、このデュエルに勝てば特殊機動班はトータル的に決闘機動班に勝ったことにもなる。

神久部長も見ている今、特殊機動班にとってその恩恵は大きいはずだ。

 

俺が外野に目を取られていると、桂希が話かけてきた。

 

「遊佐。お前は、何のために戦う?」

 

「どういうことだ……?」

 

桂希は俺の目を見ると、軽く笑いながら言った。

 

「戦場というのはやるかやられるかの世界。その時の気の迷いで未来が大きく変わることもある。戦うには明確な意志が必要だ」

 

「意志か……。俺は自分が信じるもののため……そして、復讐という自分の目的を達成するためにデュエルをするだけだ」

 

「ふっ、なるほど。ならばそのお前の意志、そのデュエル。それがどこまで固いものなのか確かめさせてもらおうか」

 

桂希はにやりと笑みを浮かべると、デッキの上に手を重ねる。

今のやり取り、一体なんの意図があったのだろう。

よくわからないが今の俺にとってこの戦いは……。そうだな、自分の信じる"特殊機動班"のためにといったところだろうか。

 

さて、いよいよ桂希のターンが始まる。

おそらくこのターンからが本番だろう。デュエルに集中しないと。

 

「いくぞ、私のターン。ドロー! 墓地から【サイバー・ドラゴン・コア】の効果発動! 相手の場にのみモンスターがいる時、墓地のこのカードを除外して、デッキから【サイバー・ドラゴン】1体を特殊召喚できる。来い、【サイバー・ドラゴン】!」

 

ーーー

【サイバー・ドラゴン】✩5 光 機械 ③

ATK/2100

ーーー

 

墓地のモンスター効果で、いきなり上級モンスターを呼び出してくるとは。

俺が【スクラップ・リサイクラー】を破壊しにくることくらいは、読んでいたってところか。

 

「さらに、【ライティ・ドライバー】を召喚!」

 

ーーー

【ライティ・ドライバー】✩1 地 機械 チューナー ②

ATK/100

ーーー

 

「【ライティ・ドライバー】が召喚に成功した時、デッキ、手札、墓地いずれかから【レフティ・ドライバー】を特殊召喚できる。デッキから【レフティ・ドライバー】を特殊召喚!」

 

ーーー

【レフティ・ドライバー】✩2 地 機械 ④

DEF/100

ーーー

 

いきなりチューナーを含めた3体のモンスターが並んだ。

このモンスター達のレベル合計は8……。おそらく桂希の主力モンスターが来ると見て間違いないだろう。

 

「私はレベル5の【サイバー・ドラゴン】とレベル2の【レフティ・ドライバー】にレベル1の【ライティ・ドライバー】をチューニング! "天空に煌く光の結晶! 今こそ交わりて、未来への道を切り開け! シンクロ召喚! 現れよ、我が覇道を導く力! 【ロード・ウォリアー】!"」

 

ーーー

【ロード・ウォリアー】✩8 光 戦士 ①

ATK/3000

ーーー

 

黄金に輝く鎧を身にまとった正に王道と呼ばれるような騎士がその背中に身に付けるマントをなびかせながら、桂希の前に立ちはだかった。

 

「これが、お前のエースってところか」

 

「まぁそう思ってくれて構わない。すなわち……ここからが本番だと言うことだ! 【ロード・ウォリアー】の効果発動! 1ターンに1度、デッキからレベル2以下の戦士もしくは機械族モンスターを特殊召喚できる! "トライス・サモン!" 来い、【サイバー・ドラゴン・コア】!」

 

ーーー

【サイバー・ドラゴン・コア】✩2 光 機械 ①

DEF/1500

ーーー

 

デッキから更なるモンスターをどんどん展開できる効果を持っているようだ。

しかし、リンクモンスターでないため、これ以上モンスターを展開されようと、EXデッキからモンスターを呼ばれる恐れはない。

したがって、上級モンスターが現れる可能性は低いだろう。

 

「そして、この【サイバー・ドラゴン・コア】が特殊召喚に成功した時、速攻魔法【地獄の暴走召喚】を発動! 遊佐、お前は自分の場のモンスター1体を選択し、デッキ、手札、墓地から可能な限り特殊召喚してくれ」

 

「なに、いいのか? ならば、デッキから【炎竜星ーシュンゲイ】を1体だけ守備表示で特殊召喚させてもらう。デッキには2枚しか入っていない」

 

「いいだろう。そして、私は発動時に特殊召喚したモンスターと同名モンスターをデッキ、手札、墓地から攻撃表示で特殊召喚する」

 

桂希の出したモンスターは下級モンスターであり戦闘能力は弱めだ。

俺の出した【シュンゲイ】の方がステータスは高いし、【地獄の暴走召喚】はむしろ俺にとってありがたい状況である。

 

そう安心して桂希の場を見ていると、先ほど特殊召喚したモンスターではなく、もっと大きな機械仕掛けのドラゴン達が3体並んでいた。

 

ーーー

【サイバー・ドラゴン】✩5 光 機械 デッキから②と③ 墓地から④

ATK/2100

ーーー

 

「なに!? どういうことだ」

 

「私の場の【サイバー・ドラゴン・コア】は場に存在する時、名前を【サイバー・ドラゴン】として扱う効果を持っている。したがって、"暴走召喚"されるのは【サイバー・ドラゴン】となる」

 

「なるほどな……。それで【サイバー・ドラゴン】が現れたと」

 

"暴走召喚"の対象は同名モンスター。

モンスター効果をうまく生かし、上級モンスターを並べる戦術だったようだ。

 

大量のモンスターは恐ろしいが、俺の場のモンスターはなんていっても"竜星"モンスターだ。

数が多くいる分には受けきれる。

 

「では、バトルだ。まずは【ロード・ウォリアー】で【炎竜星ーシュンゲイ】を攻撃! "アブソリュート・ホーリーレイ!"」

 

【ロード・ウォリアー】が自らの両手を重ねると、そこに光が収束し始める。

そして、その収束した力を【炎竜星ーシュンゲイ】を目掛けて放出した。

 

【ロード・ウォリアー】

ATK/3000

【炎竜星ーシュンゲイ】

ATK/1900

 

「くっ、うぅ!」

 

繋吾 LP4000→2900

 

「だが、戦闘破壊された【シュンゲイ】の効果で、デッキから【光竜星ーリフン】を守備表示で特殊召喚!」

 

ーーー

【光竜星ーリフン】✩1 光 幻竜 チューナー ③

DEF/0

ーーー

 

「続けて! 【サイバー・ドラゴン】1体目でもう1体の【炎竜星ーシュンゲイ】を攻撃! "エヴォリューション・バースト!"」

 

「くっ、【シュンゲイ】の効果は1ターンに1度しか使えない……!」

 

連続して【シュンゲイ】の効果は使えない。

これで俺が暴走召喚で得た力は消されてしまった。

 

「残念だったな。そして、まだ攻撃は終わっていない! 【サイバー・ドラゴン】2体目で【光竜星ーリフン】を攻撃! "エヴォリューション・セカンド・バースト!"」

 

「この【リフン】も破壊された時、デッキからモンスターを呼べる! デッキから【闇竜星ージョクト】を守備表示で特殊召喚!」

 

ーーー

【闇竜星ージョクト】✩2 闇 幻竜 チューナー ③

DEF/2000

ーーー

 

「まだまだ! 【サイバー・ドラゴン】3体目で【闇竜星ージョクト】を攻撃! "エヴォリューション・サード・バースト!"」

 

「こちらこそまだだ! 【ジョクト】も同様の効果で、デッキから【風竜星ーホロウ】を攻撃表示で特殊召喚!」

 

ーーー

【風竜星ーホロウ】✩1 風 幻竜 ③

ATK/0

ーーー

 

「私の攻撃を受け切り、モンスターを残すとはなかなかのしぶとさだ」

 

「あぁ、しぶとさには自信があってね……!」

 

なんとかライフダメージを最小限に抑えられたが、これ以上攻撃されていたらもう防ぎきれなかっただろう。

桂希 楼。油断ならない相手だ。

 

「だが、守るだけではデュエルに勝てない。この私の布陣を突破してみろ遊佐 繋吾。私はこれでターンエンドだ」

 

桂希の場は【ロード・ウォリアー】1体と【サイバー・ドラゴン】3体。そして、守備表示の【サイバー・ドラゴン・コア】と伏せカード。

強力な布陣だが、俺にとっては次のターンからが勝負ってところだ。

 

「お前のエンドフェイズ時に罠カード。【トゥルース・リインフォース】を発動! デッキからレベル2以下の戦士族モンスター1体を特殊召喚する。来てくれ、【ドッペル・ウォリアー】!」

 

ーーー

【ドッペル・ウォリアー】✩2 闇 戦士 ④

DEF/800

ーーー

 

「ほう? 反撃準備といったところか。いいだろうかかってこい」

 

これで俺のできる全ての準備は整った。

桂希、見せてやるよ。この俺のデュエルをな!

 

桂希 LP3000 手札2

ーー裏ーー

モモモモー

 シ ー 

ーーモモー

ーー裏ーー

繋吾 LP2900 手札3

 

 

 



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Ep21 - 決闘機動班の切り札 後編

桂希 LP3000 手札2

ーー裏ーー

モモモモー

 シ ー 

ーーモモー

ーー裏ーー

繋吾 LP2900 手札3

 

大量に存在する上級モンスター。

あれを殲滅するには、こちらも大量に展開する必要がある。

場にモンスターの準備はOK。相手の場に伏せカードはあるが、今できることはやってやるさ。

 

「俺のターン、ドロー! 俺は【ジェット・シンクロン】を召喚!」

 

ーーー

【ジェット・シンクロン】✩1 炎 機械 チューナー ②

ATK/500

ーーー

 

「そして、現れよ! 心を繋ぐサーキット! 俺は、【ジェット・シンクロン】1体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚! リンク1、【リンクリボー】!」

 

ーーー

【リンクリボー】リンク1 闇 サイバース ②

ATK/300

ーーー

 

「ほう、リンク召喚か」

 

「あぁ、ここから俺のモンスター達の繋がりが始まる。俺はさらに魔法カード【死者蘇生】を発動! 墓地のモンスター1体を特殊召喚する。来てくれ、【闇竜星ージョクト】!」

 

ーーー

【闇竜星ージョクト】✩2 闇 幻竜 チューナー ②

DEF/2000

ーーー

 

「レベル2の【ドッペル・ウォリアー】とレベル1の【風竜星ーホロウ】にレベル2の【闇竜星ージョクト】をチューニング! "生誕する意思の力よ! 星々の呼応の下に具象せよ! シンクロ召喚! 来てくれ、【源竜星ーボウテンコウ】!"」

 

ーーー

【源竜星ーボウテンコウ】✩5 光 幻竜 チューナー ④

DEF/2800

ーーー

 

いつもの俺のデュエルの起点となってくれる光の竜星だ。

その竜の輝きはいつもに増して煌めいているように見える。

 

「【ボウテンコウ】の効果発動! デッキから竜星カード、すなわち【竜星の軌跡】を手札に加える。そして、シンクロ素材となった【ドッペル・ウォリアー】の効果で場に【ドッペル・トークン】2体を攻撃表示で特殊召喚する!」

 

ーーー

【ドッペル・トークン】✩1 闇 戦士 ①と②

ATK/400

ーーー

 

「そして、さっそく手札に加えた魔法カード【竜星の軌跡】を発動。墓地の【シュンゲイ】2枚と【ホロウ】1枚をデッキに戻し、新たにカードを2枚ドロー!」

 

引いたカードを眺める。

悪くない。ここまでは順調だ。 

 

「よし、ここで墓地の【ジェット・シンクロン】の効果を発動! 手札の【イルミラージュ】を墓地へ送り、墓地から特殊召喚する。蘇れ、【ジェット・シンクロン】」

 

ーーー

【ジェット・シンクロン】✩1 炎 機械 ③

DEF/0

ーーー

 

「再び来い、心を繋ぐサーキット! 俺は【源竜星ーボウテンコウ】と【ジェット・シンクロン】の2体をリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン! リンク召喚、リンク2【アンダークロックテイカー】!」

 

ーーー

【アンダークロックテイカー】リンク2 闇 サイバース ④

ATK/1000

ーーー

 

「そして、【ボウテンコウ】が場を離れたことで、もう一つの効果発動。デッキから【炎竜星ーシュンゲイ】を特殊召喚する!」

 

ーーー

【炎竜星ーシュンゲイ】✩4 炎 幻竜 ③

ATK/1900

ーーー

 

「随分とモンスターを並べたようだな」

 

「あぁ、このターンで一気に攻めさせてもらう! 俺は【アンダークロックテイカー】の効果発動。このカードのリンク先のモンスターの攻撃力分、相手モンスター1体の攻撃力を下げる! 俺はリンク先の【炎竜星ーシュンゲイ】の攻撃力分、お前の墓地から蘇った【サイバー・ドラゴン】の攻撃力を下げる!」

 

「なに……? これで攻撃力は200まで下がるということか」

 

【サイバー・ドラゴン】

ATK/2100→200

 

「そして、これで終わりじゃない。三度来い! 心を繋ぐサーキット! 俺は【リンクリボー】と【アンダークロックテイカー】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、繋がる心の象徴! 【セフィラ・メタトロン】!」

 

ーーー

【セフィラ・メタトロン】リンク3 光 幻竜 ②

ATK/2500

ーーー

 

両腕に宿すクリスタルの槍のようなものを擦り合せ、【セフィラ・メタトロン】は俺の前に顕現する。

今日も頼むぜ、【セフィラ・メタトロン】。

 

「なかなか珍しいモンスターを使うようだな? だが、攻撃力は【ロード・ウォリアー】よりも低い。ということは、狙いは弱体化した【サイバー・ドラゴン】といったところか?」

 

「悪いな桂希。俺はそんな中途半端な真似はしない。俺の狙いは……お前の上級モンスター全てだ!」

 

「ほう……? それは面白い。お前が何をしてくれるのか見させてもらおうか」

 

俺の策略どおりに攻撃が通れば、桂希のモンスターを一掃できるはずだ。

ハイリスクハイリターンかもしれないがやってやる。

 

「永続罠、【強化蘇生】を発動! 墓地のレベル4以下のモンスター1体のレベルを1上げ、攻守を100ポイントアップさせて、特殊召喚する。蘇れ、【闇竜星ージョクト】!」

 

ーーー

【闇竜星ージョクト】✩2→3 闇 幻竜 チューナー ④

DEF/2000→2100

ーーー 

 

「そして、レベル4の【炎竜星ーシュンゲイ】にレベル3となっている【闇竜星ージョクト】をチューニング! "邪悪なる魂より目覚めし争心よ! 星々の呼応の下に具象せよ! シンクロ召喚! 来てくれ、【邪竜星ーガイザー】!"」

 

ーーー

【邪竜星ーガイザー】✩7 闇 幻竜 ③

ATK/2600

ーーー

 

猛き咆哮を上げ、黒き邪竜が姿を現す。

準備は整った、今こそ反撃の時!

 

「強力なシンクロモンスターを呼び出すか。面白い、効果を使うつもりか?」

 

「いや、俺はここでバトルフェイズ! 【邪竜星ーガイザー】で【ロード・ウォリアー】を攻撃! "バーサーク・ストーム!"」

 

【邪竜星ーガイザー】

ATK/2600

【ロード・ウォリアー】

ATK/3000

 

【邪竜星ーガイザー】を纏う黒き稲妻が収束し、それを【ロード・ウォリアー】へ向けて解き放った。

しかし、【ロード・ウォリアー】はその稲妻をくぐり抜け、【邪竜星ーガイザー】へと接近する。

 

「何を考えている? 【ロード・ウォリアー】の方が攻撃力は上だ。このままでは返り討ちだぞ?」

 

桂希がそう発言したのも束の間、【邪竜星ーガイザー】は【ロード・ウォリアー】の手に宿る鋭利な爪で切り裂かれ、消滅してしまった。

 

「くぅ……返り討ちだが、これが俺の狙いだ!」

 

繋吾 LP2900→2400

 

「ほう……?」

 

桂希は興味深そうに俺のことを見つめている。

いつまでその余裕そうな態度が続くかな……!

 

「【邪竜星ーガイザー】が破壊されたことで効果発動! デッキから幻竜族モンスター1体を守備表示で特殊召喚する! さらにその効果に"繋がり"【セフィラ・メタトロン】の効果も発動! 墓地からモンスター1体を手札に加える! "セメタリー・サルベーション!"」

 

「同時に二つのモンスター効果を発動することが狙いだったか」

 

「あぁ、俺は墓地から【ドッペル・ウォリアー】を手札に戻し、デッキから来い! 【ナイト・ドラゴリッチ】!」

 

ーーー

【ナイト・ドラゴリッチ】✩4 闇 幻竜 ④

DEF/0

ーーー

 

恐竜の化石のようなモンスターが出現し、その骨の中より不気味な蒼き閃光を光らせている。

すると、同時に場に存在していた、【ロード・ウォリアー】と2体の【サイバー・ドラゴン】が脱力し、地面へ吸い寄せられるかのように、衰弱していった。

 

「これは……。そいつのモンスター効果といったところか?」

 

「そうだ。【ナイト・ドラゴリッチ】がいる限り、EXデッキかデッキから特殊召喚されたモンスターは守備表示となり、その守備力は0となる!」

 

【ロード・ウォリアー】①

ATK/3000→DEF/0

【サイバー・ドラゴン】②と③

ATK/2100→DEF/0

【サイバー・ドラゴン・コア】①

DEF/1500→DEF/0

【サイバー・ドラゴン】④

ATK/200

 

「なるほどな……。墓地から出た【サイバー・ドラゴン】を弱体化させたのはそういうことか……」

 

「あぁ、お前の主力モンスターは俺の場の【ドッペル・トークン】でも倒せるからな。バトル! 【ドッペル・トークン】で【ロード・ウォリアー】を攻撃! "アサルト・ショット!"」

 

「させるか! 永続罠【ディメンジョン・ゲート】発動! 場のモンスター1体を除外する。私は【ロード・ウォリアー】を除外!」

 

【ロード・ウォリアー】を除外した……?

【ディメンジョン・ゲート】は墓地へ行ったとき、発動時に除外したモンスターを呼び戻す効果があったはずだ。

つまり、エースモンスターを守るために使ったということか。

 

「ならば、守備表示の【サイバー・ドラゴン】を攻撃! 2体目の【ドッペル・トークン】も【サイバー・ドラゴン】を攻撃だ!」

 

「くっ」

 

【ドッペル・トークン】の射撃攻撃によって、力を失われた【サイバー・ドラゴン】達は為すすべもなく破壊されていく。

 

「そして、【セフィラ・メタトロン】で最後の【サイバー・ドラゴン】を攻撃! 貫け、"ヴェンジェンス・ディバイニング!"」

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500

【サイバー・ドラゴン】

ATK/200

 

蒼白く輝く右腕の槍を構え、それを【サイバー・ドラゴン】へ向けて突き刺した。

 

「ぐぅ……ふっ。やるな遊佐」

 

桂希 LP3000→700

 

「そういう割には随分と余裕そうだな桂希。ライフが三桁になったっていうのに」

 

「ふっ、そう見えるか。勝利のためには多少のダメージは覚悟の上。そうだろう? 遊佐」

 

勝つためには多少の犠牲は覚悟の上……。

奴はここまでの展開も想定の範囲内なのかもしれない。

 

「私は自分の身が持つ限り、自分のデッキを裏切るつもりはない。例え何かを失おうとも、私には最後まで戦う明確な意志がある」

 

何かを失ったとしても貫く明確な意志か……。

確かにこの桂希ってやつは底知れぬ力と絶対的な意志のようなものを感じる。

これが奴の強さってやつなのかもしれない。

 

「遊佐、お前はどうだ? 例えば何かを代償としたとしても戦い続けることができるか?」

 

「俺は……」

 

つい言葉を詰まらせてしまう。

そう、気が付くと俺の脳裏には特殊機動班のメンバーが浮かんできていた。

 

自分の身を削るだけならばいいかもしれないが、仮にその失うものが自分以外の人だったら……?

特殊機動班の人たちは、まだ出会って間もないけど自分を班員と認めてくれた仲間だ。

今後、テロリストと戦っていく上で、彼らを犠牲にしてまで俺の目的である"復讐"を成すことに意味はあるのだろうか。

そう考えると自分の中では否定的な考えが浮かんできていた。

 

「大事なものを失ってまで貫く意志に意味はない。俺は俺なりのやり方で戦う」

 

「なるほど、それがお前の答えか」

 

桂希はそう呟くと、目を細める。

それにしても、こいつはさっきからやたら俺の戦う意志を確認するような発言をしてくるが、一体何が狙いなんだろう。

 

「桂希、一体何が言いたいんだ?」

 

「いや、新人であるお前の心構えが確認したかっただけだ。気にしないでくれ」

 

確かに、これから色々とテロリストと戦っていく上では、本人の戦う意志は大事だとは思う。

俺がSFS入る際には面接とか一切なかったが、本来は今みたいな話を入隊前に聞かれるものなのかもしれない。

 

人によっては、ただ単にデュエルウェポンを手にし、身の安全を図りたいという理由でSFSに志願することもあるだろうし、入隊者の人間性を確認する意味でもそういう面接があっても不思議じゃない。

 

だが、今はとりあえずデュエルだ。

俺の作戦は成功し、桂希のフィールドは【サイバー・ドラゴン・コア】を残し、一掃できた。

ここは、次の桂希のターン耐えるための布陣を整えておかなければ。

 

「じゃあ続けるぞ桂希。俺は墓地から【リンクリボー】の効果発動。場のレベル1モンスター【ドッペル・トークン】を墓地へ送り、このカードを墓地から特殊召喚する!」

 

ーーー

【リンクリボー】リンク1 闇 サイバース ②

ATK/300

ーーー

 

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

桂希 LP700 手札2

ーー罠ーー

モーーーー

 ー リ 

モリモーー

ー裏罠ーー

繋吾 LP2500 手札3

 

「では、私のターン。ドロー! まずは墓地から【レフティ・ドライバー】の効果発動。このカードを墓地から除外し、デッキから【ライティ・ドライバー】を手札に加え、これを召喚! 効果で再びデッキから【レフティ・ドライバー】を特殊召喚する」

 

ーーー

【ライティ・ドライバー】✩1 地 機械 チューナー ③

ATK/100

ーーー

【レフティ・ドライバー】✩2 地 機械 ②

DEF/100

ーーー

 

あの二体のドライバーモンスターはそれぞれの効果で呼び合って、展開ができるモンスターなのか。

再びチューナーが現れたが、俺の場にはシンクロキラーとも呼べる【ナイト・ドラゴリッチ】が健在。

シンクロ召喚されたとしても守備表示にし無力化できる。

 

「お前がリンクなら……こちらも呼ばせてもらおう! 現れよ、我が信念を貫くサーキット!」

 

【ナイト・ドラゴリッチ】を恐れずに攻めるのであれば、俺も使っているように守備表示にならないリンクモンスターが適任だ。

郷田さんや颯が使っていたリンクモンスターは他のモンスターを補助するようなモンスターだったが、桂希はどうだろう。

補助するようなモンスターならばそこまでの攻撃力はないだろうし、簡単には【セフィラ・メタトロン】を倒せないはずだ。

 

「私は、サイバー・ドラゴン扱いの【サイバー・ドラゴン・コア】と【レフティ・ドライバー】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、リンク2。新たなる未来への閃光! 【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】!」

 

ーーー

【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】リンク2 光 機械 ①

ATK/2100

ーーー

 

先ほどまで現れていた【サイバー・ドラゴン】に青い円盤のような追加パーツが装備され、強化されたような新しい機械竜が姿を現した。

それは、並みのリンクモンスターの風格ではない。底知れぬ力のようなものを感じた。

 

「これだけではない。さらに魔法カード【サイバー・レヴシステム】を発動! 墓地から【サイバー・ドラゴン】1体を特殊召喚する。蘇れ、【サイバー・ドラゴン】!」

 

ーーー

【サイバー・ドラゴン】✩5 光 機械 ②

ATK/2100

ーーー

 

「これでバトルだ。まずは【ライティ・ドライバー】で【ナイト・ドラゴリッチ】を攻撃。"シューティング・ドライバー"」

 

【ライティ・ドライバー】

ATK/100

【ナイト・ドラゴリッチ】

DEF/0

 

守備力が0の【ナイト・ドラゴリッチ】では受けきれない。

今の相手の場ではこいつの効力はもうないも同然だ。

【ナイト・ドラゴリッチ】は為すすべもなく、破壊されていく。

 

「続けて、【サイバー・ドラゴン】で【ドッペル・トークン】を攻撃! "エヴォリューション・バースト!"」

 

これを受ければ俺に1700ポイントものダメージが入る。

残りライフポイント2500の今の状態としては致命傷になり得る状況だ。

次のターン、余裕を持って戦うためにもここは守りぬく。

 

「俺は【リンクリボー】の効果発動! このカードをリリースして、相手モンスター1体の攻撃力をエンドフェイズ時まで0にする。【サイバー・ドラゴン】の攻撃力を0に」

 

「だが……私の場にはもう1体の【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】がいる。続けて、【ドッペル・トークン】を攻撃! "ヴィクトリア・エヴォリューション・バースト!"」

 

「ならば、手札から【虹クリボー】の効果発動! 相手の攻撃宣言時、このカードをそのモンスターに装備し、その攻撃を封じる!」

 

「ほう、これも防ぐか。なかなかやる。ならば私はメインフェイズ2に入り、再び現れよ! 我が信念を貫くサーキット。私は【サイバー・ドラゴン】と【ライティ・ドライバー】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、共鳴せよ、2体目。【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】!」

 

ーーー

【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】リンク2 光 機械 ②

ATK/2100

ーーー

 

攻撃力は【サイバー・ドラゴン】と変わらないが、わざわざリンク召喚してきているということは何か効果は秘めているはずだ。

それに、棒立ちになっていた【ライティ・ドライバー】をうまく処理した。

ただ攻撃するだけでは、おそらく桂希に勝つことはできない。奴のカード効果をうまく掻い潜って攻撃しなければならないだろう。

カード情報がわからないというのが、なによりも辛い状況だ。

 

「私はカードを1枚伏せて、ターンを終了する」

 

桂希 LP700 手札1

ー裏罠ーー

ーリーーー

 リ リ 

モーーーー

ー裏罠モー

繋吾 LP2500 手札2

 

「俺のターン、ドロー! まずは再び墓地から【リンクリボー】の効果。【ドッペル・トークン】をリリースして、墓地から蘇れ! 【リンクリボー】!」

 

ーーー

【リンクリボー】リンク1 闇 サイバース ③

ATK/300

ーーー

 

「さらに、自分の墓地からモンスターが特殊召喚されたことで、手札の【ドッペル・ウォリアー】は特殊召喚できる。そして、続けて【風竜星ーホロウ】を召喚!」

 

ーーー

【ドッペル・ウォリアー】✩2 闇 戦士 ④

DEF/800

ーーー

【風竜星ーホロウ】✩1 風 幻竜 ⑤

ATK/0

ーーー

 

「来てくれ! 心を繋ぐサーキット。俺は【ドッペル・ウォリアー】と【ホロウ】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、リンク2【LANフォリンクス】!」

 

ーーー

【LANフォリンクス】リンク2 光 サイバース ④

ATK/1200

ーーー

 

「続けて現れよ、心を繋ぐサーキット。さらに俺は【リンクリボー】と【LANフォリンクス】の2体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚、リンク3。勝利へ導く閃光の使者、【エンコード・トーカー】!」

 

ーーー

【エンコード・トーカー】リンク3 光 サイバース ④

ATK/2300

ーーー

 

【エンコード・トーカー】は【セフィラ・メタトロン】を守護するように背後に立ち、その大きな白き盾を構えた。

 

「新たなるリンクモンスターか。リンク3が2体並ぶというのはなかなか強力な布陣だな」

 

「それだけじゃないぜ、桂希。俺はトラップカード【パラレルポート・アーマー】を【セフィラ・メタトロン】に装備。これによって、【セフィラ・メタトロン】は戦闘破壊されず、カードの効果の対象にならない!」

 

「なるほど。可能な限りの耐性をつけた。ということか」

 

【エンコード・トーカー】には、戦う相手モンスターの攻撃力が自分のモンスターより大きくなった時に反撃できる効果があり、自らのライフも守る効果がある。

機械族では代表的なカードとして、場の機械族の攻撃力を2倍にする【リミッター解除】がある。

そのような攻撃力を増加させるカードがあり、迎撃されたとしても、こいつの効果を使えばライフが削られる心配がない。

それに、【パラレルポート・アーマー】があれば、【セフィラ・メタトロン】は効果の対象にならないため、迎撃以外の厄介なカードが伏せられていたとしても、一定の範囲内で無力化できる。

これだけあれば安心して桂希の場を攻め込めるはずだ。

 

「あぁ。そして、魔法カード【一騎加勢】を発動し、【セフィラ・メタトロン】の攻撃力を1500ポイントアップさせる!」

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500→4000

 

「攻撃力4000。やってくれるな遊佐」

 

桂希は案の定動揺するような素振りを見せない。

だけど今がやつを叩くチャンス。攻撃するしかない。

 

「バトルだ! 【セフィラ・メタトロン】で【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】を攻撃! "ヴェンジェンス・ディバイニング!"」

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/4000

【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】

ATK/2100

 

【セフィラ・メタトロン】が両腕の槍を構えると、対する【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】は大きな雄叫びを上げる。

その両腕の槍を【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】に向けて狙いを定めると、【セフィラ・メタトロン】は高速移動を始めた。

 

「甘いぞ遊佐。ここで私は攻撃対象となっていない方の【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】の効果を発動! 1ターンに1度、場の攻撃力2100以上の機械族モンスターの攻撃力を2100ポイントアップさせることができる! 攻撃対象となっている【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】の攻撃力を2100上げる!」

 

【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】

ATK/2100→4200

 

攻撃力を上回られた。だけど、これも俺の想定の範囲内。

この勝負、もらった!

 

「俺はこの瞬間【エンコード・トーカー】の効果を発動! このカードのリンク先のモンスターがその攻撃力より高いモンスターと戦闘を行う時、そのリンク先のモンスターは戦闘破壊されず、戦闘ダメージを受けない!」

 

「その盾は仲間を守るための盾だったか。いいだろう。迎え撃て! "ヴィクトリア・エヴォリューション・バースト!"」

 

【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】より青白いレーザーのようなものが放たれるが、【セフィラ・メタトロン】の前に大きな盾が出現し、その攻撃を阻んだ。

 

「そして、【エンコード・トーカー】はリンク先のモンスターと戦闘を行った相手モンスターの攻撃力分、自身の攻撃力をアップできる!」

 

「ほう……?」

 

【エンコード・トーカー】

ATK/2300→6500

 

【エンコード・トーカー】に先ほどの青白いレーザーがオーラのような形状となって纏わりつき、その力を増した。

 

「トドメだ。【エンコード・トーカー】、【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】を攻撃! "ラディエント・チャージ!"」

 

【エンコード・トーカー】は空中に飛び上がり、白き盾から眩く光る大剣を出現させると、それを大きく振りかぶりながら、【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】へと斬りかかった。

 

やがて、その攻撃がヒットし、【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】が破壊されると同時に大きな爆風が立ち込めた。

 

よし! 今のを見る限り攻撃は当たった。

つまり俺の勝ちだ!

 

そう喜んでいるのも束の間、爆風が止み桂希の方を見ると、1枚の罠カードを発動しているのが見えた。

残念ながらまだ俺は勝っていなかった。

 

「見事な攻撃だったよ遊佐。だが、私を倒すほどの鋭さはなかったようだな」

 

「なんだと……」

 

「私は攻撃宣言時に、永続罠カード【スピリット・バリア】を発動させてもらった。私の場にモンスターがいる限り、私への戦闘ダメージは0となる」

 

【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】を1体倒したのは間違いないが、戦闘ダメージを見事に防がれてしまった。

だが、俺の場には戦闘破壊されない【セフィラ・メタトロン】がいるし、ライフも2500もある。

次の桂希のターンを凌いで、次のターンこそトドメを刺す……!

 

「俺は……ターンエンドだ」

 

桂希 LP700 手札1

ーー罠罠ー

ーーーーー

 リ リ 

ーーーリー

ー罠罠モー

繋吾 LP2500 手札0

 

「遊佐、既に勝敗は決した。覚悟するんだな」

 

「何を言っている。俺はまだ諦めていない!」

 

「諦めの悪い奴だ。まぁいい私のターン。ドロー! 魔法カード【オーバーロード・フュージョン】を発動! 場か墓地からモンスターを除外し、闇属性・機械族の融合モンスター1体を融合召喚する!」

 

融合召喚……!?

そういえば赤見さんが言っていたな……こいつはシンクロと融合を使い分けているデュエリストだったと。

すっかり忘れていた。

 

「私は墓地の【サイバー・ドラゴン】2体を除外し、融合! "限界を超えしの機械仕掛けの力! 暗黒に渦巻く深淵より顕現せよ! 融合召喚! 【キメラテック・ランページ・ドラゴン】!"」

 

ーーー

【キメラテック・ランページ・ドラゴン】✩5 闇 機械 ②

ATK/2100

ーーー

 

真っ黒な金属製の箱から、機械竜の頭が2本飛び出し、雄たけびを上げる。

これが先ほどの【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】とは別の【サイバー・ドラゴン】進化した姿ということか。

 

「【キメラテック・ランページ・ドラゴン】は融合召喚に成功した時、素材にしたモンスター1体につき、場の魔法・罠カードを破壊できる。私の【ディメンジョン・ゲート】とお前の【パラレルポート・アーマー】の2枚を破壊する!」

 

「しまっ……!」

 

俺の守りの要が破壊されただけでなく、奴が破壊したのは【ディメンジョン・ゲート】!

桂希はまさかここまでの展開を想定して……!

 

「【ディメンジョン・ゲート】が破壊されたことで、この効果で除外していたモンスターを特殊召喚する。我が元に戻れ、【ロード・ウォリアー】!」

 

ーーー

【ロード・ウォリアー】✩8 光 戦士 ③

ATK/3000

ーーー

 

再び奴の主力モンスターが戻ってきてしまった。

既に状況は変わり、【ロード・ウォリアー】は本来の力を取り戻している。

このままではまずい。

 

「まだだ、さらに【ロード・ウォリアー】の効果を発動! デッキからレベル2以下の【D・クリーナン】を守備表示で特殊召喚!」

 

ーーー

【D・クリーナン】✩1 風 機械 ④

DEF/0

ーーー

 

「【D・クリーナン】は守備表示の時、相手の攻撃表示モンスターを自らの装備カードとして吸収できる。消え去れ、【エンコード・トーカー】!」

 

【D・クリーナン】が自らの腕を前に出すと、勢いよく周りの空気を吸い込み始める。

その吸い込みに耐え切れず、【エンコード・トーカー】は【D・クリーナン】に吸い込まれ、消滅してしまった。

 

「【エンコード・トーカー】……!」

 

「そして、【キメラテック・ランページ・ドラゴン】の効果。デッキから光属性・機械族モンスターを2枚まで墓地へ送り、送った数だけこのカードは追加攻撃できる。私はデッキから【超電磁タートル】と【サイバー・ドラゴン・フィーア】の2体を墓地へ送る」

 

これで奴の【キメラテック・ランページ・ドラゴン】は3回の攻撃が可能ということだ。

とてもじゃないが、これは受けきれない……!

 

「では……バトルだ。【ロード・ウォリアー】で【セフィラ・メタトロン】を攻撃! "アブソリュート・ホーリーレイ!"」

 

【ロード・ウォリアー】

ATK/3000

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500

 

両腕で光をかき集め、その強大な力を光線として【セフィラ・メタトロン】へ放出する。

その直撃を受けた【セフィラ・メタトロン】はたまらず破壊された。

 

「くっ……すまない。【セフィラ・メタトロン】」

 

「そして、ここで【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】の効果を発動し、【キメラテック・ランページ・ドラゴン】の攻撃力を2100ポイントアップする!」

 

【キメラテック・ランページ・ドラゴン】

ATK/2100→4200

 

攻撃力4200で三回攻撃だと……!?

この圧倒的なる力……強さ。これが桂希 楼……!

 

「【キメラテック・ランページ・ドラゴン】。引導を渡せ。 "エヴォリューション・リボルト・バースト!" 」

 

「くっ……!」

 

もはや守る手段は残されていない……。

ここまでか……。

 

「遊佐、お前のデュエルはまだ甘い。鋭き刃がなければ堅牢な盾もないその中途半端な力ではこの世界は通用しないぞ!」

 

「桂希……!」

 

俺はその強大なレーザーを体で受け、その代償をライフポイントとして受けた。

 

繋吾 LP2500→0

 

負けた。完敗だ。

少しでも勝てるのではないかと内心喜んでいた自分を恥じる。

 

上には上がいる。

俺は桂希とのデュエルで身を持って知ったのだった。



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Ep22 - 閉会

デュエルが終了し、俺は桂希と向き合う。

 

「遊佐。いいデュエルだった」

 

いいデュエルか。

あいつが本当にそう思っているのかは定かではないが、俺としてはいい経験をさせてもらった。

 

「あぁ……。お前とのデュエルで俺もまだまだだなって痛感したよ」

 

「まぁそう落ち込むことはない。入隊したばかりでここまでのデュエル。そう簡単にできるものではない」

 

「だといいんだがな」

 

「ふっ、ではお先に失礼する。くれぐれも戦場では命を落とさないようにな。遊佐 繋吾」

 

桂希はそう言い残すと、デュエルリングを後にし観客席へと戻っていった。

本当の戦場では敗北すれば命を落とすこともある。

早急な救助を受けることができれば助かるかもしれないが、それでも安心はできないだろう。

 

今のままでは、仮に桂希のようなテロリストがいた場合、通用しないかもしれない。

もっとデュエルの腕を磨かないと。

これじゃ復讐どころか自らの命を失うことにもつながりかねない。

 

色んなことを頭に浮かべながら俺は特殊機動班の観客席へと戻った。

 

「惜しかったな繋吾! よくやったとは思うが、やはりまだ俺ほどの強さはなかったみたいだな!」

 

席に戻ると相変わらずの上機嫌で颯が声をかけてくる。

その様子を見るとちょっと落ち込んでいた自分の気持ちが少し馬鹿馬鹿しく思えてきた。

今だけはこいつに感謝するべきかな。

 

「ったく。お前は俺とそう変わらないじゃないか。それよりも負けてしまってすまない」

 

「気にすんなよ繋吾ちゃん。桂希のライフを残り700まで削ったんだ。もっと誇ったっていいんだぜ?」

 

「郷田さん……。だが、俺が負けたことで決闘機動班とは結局引き分けに……」

 

「大丈夫だ、負けちゃいないんだ。これなら白瀬の野郎も文句は言えねぇはずだぜ。むしろホッとしてるはずだ。俺たちが先に2勝してたんだからな! ハッハッハ」

 

郷田さんは愉快そうに笑った。

だけど、当人は俺と同じ負けた組だったが。

 

「まったく。郷田さんも負けたのによく言いますよ。遊佐くん、勝った私たちに感謝することですね」

 

「へへっ、俺と結衣ちゃんはなんといっても勝った組だからなぁー! 繋吾、今日から弟子にしてやってもいいぞ?」

 

「はぁ、あなたも調子のいい方ですね上地くん。難なら二人まとめて特訓でもしてあげましょうか」

 

「え……? 結衣ちゃんと特訓……!」

 

颯のやつまんざらでもない顔をしてやがる……。

まぁ彼にとっては幸せなのかもしれない。

 

特訓はありがたい話だが、俺自身自分を見つめ直したいところもある。

ちょっとここは遠慮しておこう……。

 

「ははは……。気持ちはありがたいが、遠慮させてもらうよ。少し自分のデュエルについて自分自身で見直してみたいんだ」

 

「ええぇー! おい繋吾! いいじゃねぇか! 結衣ちゃんと特訓できるチャンスなんだーー」

 

颯がなんか興奮気味に言ってるが、横にいる結衣に引っぱたかれてその言葉は途切れてしまった。

痛い痛い叫びながら、床を転げまわっている。

 

「うるさいですよ上地くん。それならこの話はやめておきましょう。先ほどのデュエル、負けはしましたがあなたにしては桂希さん相手によく戦っていたと思いますし」

 

「そうか……。そう言っていただけると助かるよ。特殊機動班のみんなに不甲斐ないデュエルしちゃ申し訳ないからな」

 

「どうやら少しは立ち場が分かるようになってきたみたいですね。ですが、負けたことは事実です。今後、桂希さん以外の決闘機動班の人に負けたら承知しませんから」

 

相変わらず結衣の言葉は厳しいが、いつものように睨みつけている表情ではなく、その表情は少し緩んだ表情だった。

今の桂希とのデュエルでの成果なのかはわからないが、少しは俺のことを認めてくれたってことなのかな。

 

あのデュエルは、個人的に自分の詰めの甘さが露呈してしまったようにも感じて恥じているところではあるが。

 

「まったくよぉ、結衣は厳しいやつだなぁ。相手はみんな副班長クラスだったんだ。むしろ、引き分けたってことは俺たちはみんなそれくらい強えってわけなんだぜ?」

 

「特殊機動班であれば当たり前のことです。それに郷田さんもあの尻軽女に負けるなんてがっかりです」

 

野薔薇 莉奈のことか。

あの子も十分に強かったし、無理はないとは思うが。

結衣はやたら彼女のことを毛嫌いしているみたいだ。

 

「わ、悪かったよ。あの手のこそこそ攻めてくるデッキ苦手なんだよ俺は。相性ってもんがあるだろ相性」

 

「ええ、それはあるとは思いますが……。あの女に負けるなんて……」

 

「結衣はあの野薔薇ってやつが嫌いなのか?」

 

結衣に問うと、鋭い目つきで俺の方を見てくる。

触れちゃいけなかったか……?

 

「当たり前ですよ。遊佐くんはなんとも思わないんですか? あの人の態度……」

 

「どういうことだ……?」

 

「少しはスタイルがいいからって、周りの人間に愛想よく振舞って……ちやほやされて……。それで成り上がったようなものじゃないですか。本性は薄汚い性格をしているやつのどこがいいのですかまったく!」

 

どこか裏はありそうな感じはあったが、悪い性格かどうかは決まったわけじゃない。

結衣は何をそこまでムキになっているのか。

 

「何か前にあったりしたのか?」

 

「いえ、別に何かあったわけじゃないですけど……。この間会っただけでもどんな人かよくわかりました。あの人は本性を隠している……」

 

「本性を隠しているかもしれないが、悪い人って決まったわけじゃないだろう?」

 

「はぁ、甘いですね遊佐くん。人を見る目がないですよ。あ、それはさておきそろそろ閉会式みたいです」

 

結衣に言われてデュエルリングを見ると、赤見さんと白瀬班長の二人が立っていた。

 

「デュエルされた両班の諸君! 素晴らしいデュエルであった! ここにいる隊員のみんな、良い刺激は受けられたかな? 結果は2-2で引き分けといったところだ。お互いに拮抗した実力というものは、一番成長に直結するチャンスでもある。本日デュエルを行った隊員は今後も更なるデュエルタクティクスの向上に務めていっていただきたい!」

 

白瀬班長の演説に決闘機動班からは大きな歓声が上がった。

俺も周りに合わせるように拍手をする。

 

「それでは、赤見班長からも一言お願いできますかな?」

 

「ええ、わかりました」

 

赤見さんは白瀬班長からマイクを受け取ると、一度咳払いしてからマイクを口に近づけた。

 

「デュエルされた隊員の方、お疲れさまでした。両班にとって今後のSFSとしての活動のためによい経験となったなら幸いです。我々SFS隊員にとっては、テロリストからこの世界を守ること。そして、デュエルモンスターズの適正化が求められています。我々はその先駆けとならなくてはいけない。デュエルウェポンを正しく使い、世の中を正しい姿へと戻す。そのためにも、最前線で戦うこととなる決闘機動部一丸となって頑張っていきましょう。私からは以上です」

 

赤見さんの演説も終わり、拍手が響き渡った。

世の中を正しい姿へと戻す……か。

デュエルテロが起きるようになったのが今から大体10年前か。その頃だと俺はまだ……9歳の頃かな。

元々この世界がどうだったのかは今となればあまり覚えていない。

 

小学生の頃は父さんとデュエルモンスターズでずっと遊び続けていた。

テレビで放映していたプロデュエリスト達のデュエルを見ながら、将来はプロになってみたいなと夢を抱いていたものだ。

 

だけど、いつの間にかデュエルモンスターズは兵器というイメージもついてしまって、なかなか遊ぶ機会というのも限られるようになってしまった。

人によってはデュエルモンスターズのカードを見るだけで怯えてしまう人もいるくらいである。

 

もしそのイメージを覆すのだとしたら、テロリストを排除するだけでは済まない。

何か大きなものが必要となってくるだろう。

それほど人間に植えつけられたトラウマというものは簡単には治るものではない。

 

「赤見班長、ありがとうございました。それではこれをもって、デュエル交流会を終了とします。各隊員、解散!」

 

白瀬班長の挨拶が終わり、デュエル交流会が終了した。

決闘機動班の人たちはそれぞれ思い思いの感想を述べていたり、すぐさま訓練場を後にしたり、様々だ。

 

「いやあ、たまにはこういうのもいいもんだな! デュエル試験とは違ってちょっとお祭り気分で楽しめたぜぇ」

 

郷田さんは両腕を伸ばしてリラックスしながら言った。

 

「だけど、しばらくは勘弁だな……。あまり決闘機動班とは絡みたくねぇ……」

 

「なんだ? 颯。まだ根に持ってるんか?」

 

「馬鹿言え、もう気にしてねぇよ。気に入らねぇやつが多いってだけだ」

 

颯は少し表情を曇らせた。

 

「上地くんの言うとおり、私も決闘機動班の人とはあまり交流はしたくないですね」

 

「お? やっぱり結衣ちゃんもそう思う? そうだよねー!」

 

「……あなたと同意見なのは少し不本意ですが」

 

結衣の冷たい一言で颯は撃沈していた。

それにしてももう少し決闘機動班と歩み寄ってもいいのかなと俺の立ち場からでは思うところだ。

 

「よー、お前らお疲れだったな! いいデュエルだったぞ!」

 

気が付くと赤見さんが手を振りながら観客席まで来ていた。

 

「おうおう赤見。固っ苦しい挨拶ご苦労だったなぁ」

 

「まったくだ。柄にもない挨拶させられて困ったもんだよ白瀬班長には。さてと……郷田は野薔薇副班長だったか。若いながら強かったろう? 決闘機動班では期待の星らしいぞ」

 

「なるほどなぁ、最近の若いもんはなかなかいい腕をしてるもんだ……。俺様も負けてられんわな」

 

郷田さんはしみじみと頷きながら答える。

 

「あぁ、これからも頼むぞ郷田。そして、颯は小早川副班長か。ぎゃふんと言わせられたみたいでよかったじゃないか」

 

「そうなんですよ赤見班長! ずっと目標だった小早川副班長に勝てるとはもうこれほど嬉しいことはないっす!」

 

「それを自分の自信に繋げて、目指せ副班長だな! 颯」

 

「それもいいですけど……俺はこのまま特殊機動班にいた方がいいっすわ」

 

颯は真面目な表情へ一変して答えた。

よほどここの居心地がいいのか、それとも結衣がいるからなのか。真意はよくわからないが。

 

「それなら私としても心強いよ颯。結衣は坂戸副班長だったな。相変わらず隙のないデュエルだったよ」

 

「ありがとうございます赤見班長。私のデュエル、何か足りなかったところとかはありますか?」

 

「いやいや、非の打ち所がなかったよ。この調子で頼むな結衣」

 

「はい! 精進してまいります」

 

結衣が喜んだようないい笑顔をしている。

あいつのあんな表情初めて見た気がするな。

 

「そして、最後は繋吾。いきなりの副班長クラスとのデュエルで大変だっただろうが、いいデュエルだったぞ。桂希相手に善戦したじゃないか」

 

善戦したと言ってくれるだけでもありがたい。

自分にとっては、デュエルに精一杯でどんな経過だったかあまり覚えていないところだ。

 

「いや、その割には最後は派手に負けちゃってますから……。噂どおりとんでもなく強かったですよ桂希ってやつは」

 

「だろうな……。私も今日見て決闘機動班にもまだあんなやつがいたんだなと驚かされたよ」

 

決闘機動班でもトップクラスということに間違いはないだろうしな。

赤見さん達から見てもとんでもない腕なようだ。

 

「今日の経験を生かして、今後のデュエルに繋がるように頑張ります」

 

「あぁ、期待しているよ。繋吾」

 

「ありがとうございます」

 

赤見さんはいい班長だなと改めて思った。

一人一人にしっかり声をかけてくれるあたり、特殊機動班での仲間意識の強さがひしひしと伝わってくる。

 

「さて、では仕事の連絡だ。先ほど偵察警備班の宗像班長より、ジェネシスの関連の情報を掴んだとの連絡が入った。明日、特殊機動班室で偵察警備班と任務を一緒に行う救助護衛班との打ち合わせをすることになってる。午前10時からだ。各自やることもあるだろうがこれは重要事項だ。遅れずに来てくれ」

 

今赤見さんが言っていた偵察警備班というのは、現地でのテロリスト調査や警備。事前の戦場の偵察から決闘機動班の後方支援を担当している班だ。

調査している中でジェネシスの情報を掴んだってところだろう。

そして、救助護衛班は、SFS隊員や民間人の応急処置。避難者の護衛を担当する班だ。

特殊機動班の支援ということで、いつも任務には同行しているということなのだろうか。

 

「お、ジェネシスの情報を掴んだか! 繋吾ちゃん。近いうちに初任務が来そうだぜ?」

 

「いよいよですか」

 

我々特殊機動班の任務。それはすなわちテロリストとの交戦を意味する。

ようやく俺の奴らへの復讐が始まるということだ。

 

今まではただやられるだけで逃げ惑うしかなかったが、今度はこのデュエルウェポンがある。

必ず倒してやる。あの時、俺の父さんを殺した【覚醒の魔導剣士】を使用していたあの青年を。

 

「そういえば赤見。繋吾ちゃんはデュエルは十分できるが、それ以外のデュエルウェポンの使い方知ってるんか?」

 

「あ……」

 

赤見さんは思い出したかのように苦笑いをする。

それ以外の使い方とはいったいなんだろうか。

 

「遊佐くん。なにぼけっとしたまぬけな顔してるんですか? あなたも見たでしょう。デュエル以外でもテロリストがカードの力を駆使して色んなものを具現化している姿を。あなたが戦っている時に私が出した防御壁も同じですよ」

 

結衣がデュエルに乱入してきた時に使っていたバリア。あれは何かのカードの力だったということか。

それにあの【魔王龍ベエルゼ】を使っていたやつは【ファイヤー・ボール】とか具現化させていたな。

 

「そういえばそうだったな。だけどデュエルウェポンには自己防衛機能があるとか言ってなかったか?」

 

「そんな無敵な代物じゃないのですよこれは。もちろん体への外傷は防げますが、直撃を受ければ当然痛みとなって私たちの体へ負担をかけます。デュエルでダメージを受けるのと同じような感じですね」

 

デュエル以外でも仕組みはデュエルと同じ……といったところだろうか。

つまり、直撃は防がないといくら外傷はないとは言え、自分の体に大きな負担をかけてしまうということだろう。

 

「ですので、テロリストと交戦する時は、自発的にカードをデュエルウェポンにセットして、攻撃や反撃をする必要があります。といっても相手も同じことをしてきますから、やはり無力化するには一騎打ち……。すなわちデュエルをするのが第三者からも妨害もされませんので一番早いんですけどね」

 

デュエルだけが全てではなく、時と場合に応じてカードをデュエルウェポンで具現化しなければならないようだ。

いつテロリストからの奇襲を受けるかもわからない戦場だからこそ、身を守る技術だけは押さえておかなければならないな。

 

「ま、逆にだ。デュエルウェポンを持ってないやつからすると、それはもう恐ろしいもんだぜ繋吾。カードをセットするだけで化物から爆弾。天災までいろんなものが具現化しちゃうんだからな」

 

確かに颯が言うように俺も初めてのテロリストと戦う時は、デュエルウェポンがなくて絶望したくらいだ。

デュエルウェポンがなければ、デュエルを行うこともできなければ、身を守る手段もない。

一方的に具現化されたデュエルモンスターズの力に蹂躙される。これが銃や戦車のような従来兵器を過去のものとする兵器の力ってことだろう。

 

「だからこそ繋吾。そういった民間人を守るためにも私たちSFS隊員はデュエルウェポンの機能を駆使して防衛しなければならない。そういうことだよ」

 

「わかりました赤見さん。使い方も教えてくれると助かります」

 

「わかった。じゃあ明日の打ち合わせが終わってから午後にでもやるか。空いてるか?」

 

「はい、大丈夫です。お昼を取ったら訓練場集合ですかね」

 

「あぁそうするか。訓練場の予約は私が取っておこう」

 

赤見さんが教えてくれるのであれば間違いない。

なんていっても2期生という存在でありながら、ここまで生き残っている人だ。

 

「さてと、ちょっと話が脱線したが以上連絡だ。今日はみんなお疲れだったぞ。帰ってゆっくり休んでくれ」

 

俺たち特殊機動班のメンバーは赤見さんに軽く頭を下げると、その場から解散した。

 

 

 



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第三章 イースト区アジト襲撃
Ep23 - ジェネシスの痕跡


ーーデュエル交流会を終えた俺は夕食とお風呂を済ませると、自分の部屋のベッドで横になっていた。

 

すぐに寝ようかとも思ったが、今日の出来事が頭から離れずになかなか寝付くことができなかった。

 

桂希 楼とのデュエル。

彼とのデュエルは俺の中では色々なことを再認識させられるデュエルだった。

自分の実力はまだまだで、世の中には強いデュエリストがいっぱいいるということ。

これからのテロリストとの戦いでは、負けたら死へ繋がる可能性があるということ。

そして、この世界で生き抜くためには、確固たる戦う意志を持たなければならないということ。

 

デッキの調整とデュエルの練習はもちろんだが、なによりも俺自身復讐と思っている自分の意志は一体どこまでのものなんだろうかと考えてしまう。

 

SFSに入隊してからの日々でだいぶ気持ちは落ち着いてきたが、いざテロリストを前にした時に冷静に戦っていられるか。

そして、なによりもデュエルで痛みを受け続けたとしても、くじけずに前を向いていられるか。

まったくのダメージを受けずにテロリストを倒せるほどデュエルは甘くない。

 

初めて戦った時は……相手を倒すことだけ考えて無我夢中だったし、倒した後は我を忘れてしまっていた。

 

仮に父さんを殺した青年に会えたとしても、このままじゃ勝つことはできないだろう。

冷静さを欠いてしまっては、デュエルに勝つことなど到底できない。

自分自身をもっと強く保つ必要がある。

 

さて、どうにもこうにもまだ実戦経験が浅い以上どうしたらいいのかがまったくわからない。

こう……結論が出ないと頭の中がもやもやして、どうもすっきりしないな。

今日は難しいことは考えずに寝たいところだ。

 

それに明日は貴重なジェネシスに関する情報が聞けるとともに、赤見さんにデュエルウェポンの使い方を教えてもらう大事な日だ。

 

俺は無理やり頭に浮かんでくる悩みを打ち消しながら、なんとか眠りについたのだった。

 

 

 

ーー気が付くと窓から太陽の日が差し込み、朝となっていた。

 

えっと今何時だ……。そういえば目覚ましをセットするのを忘れていた……。

ベッドに備え付けられている時計を見ると"9時50分"と表示されていた。

これはまずい。今日は大事な日だし遅刻するわけにはいかない。

 

俺は急いで着替え、デュエルウェポンを腕に装着すると昨日夕食ついでに買ってきたパンを口にくわえながら特殊機動班室へと走り出した。

よくある女子高生スタイルとでも言ったらいいだろうか。

まぁ今このタイミングで誰かとぶつかったりでもしたら、遅刻は間違いないし、大変なことになるが。

 

向かう途中でなんとかパンを食べきり、気が付くと特殊機動班室前へたどり着いた。

デュエルウェポンを見ると時間は"9時58分"と書かれている。なんとかセーフだ。

 

ゆっくりと部屋の扉を開けると、そこには四角形状にテーブルと椅子が並べられており、右側には見慣れたメンバーである特殊機動班。左側と奥には見慣れないメンバーがそれぞれ5名ほど座っていた。

 

「遅いぞ繋吾ぉー! もうちょっと遅ければ遅刻だったのに……」

 

「おいおい、まるで遅刻して欲しそうな言い方じゃないか颯」

 

「それだったらお前をいじる理由になるだろう? なぁ?」

 

いや、既に颯にいじられているようなものだろう。

俺は苦笑いをしながら他の班の人に軽く頭を下げると、右側の一番端っこに座っていた颯の隣に座る。

 

「さて、これで全員揃ったか? 赤見?」

 

声を上げたのは奥に座っている5人の内、中心に座っているスキンヘッドをした男だ。

なかなかの筋肉質な体型をしており、まるでスポーツマンのような……よく言う細マッチョと呼ばれるような人だった。目つきは鋭く少し恐ろしい。

 

「あぁ、悪かったな。一樹」

 

「いや、いいんだ。まだ定刻じゃないしな。紅谷も大丈夫か?」

 

「ええ、はじめていただいて大丈夫よ」

 

一樹と呼ばれたスキンヘッドの男は俺たち特殊機動班からは真正面にあたる左側の席に座っている5人へ問うと、おなじく一番中心に座っていた女性の人が声を上げた。

黒髪のショートカットからほのかに赤い目を覗かせる。

結衣達より少し歳上といった印象だ。野薔薇さんほどではないが、出るところは出ている程よいスタイルをしている。

 

「それでは、ジェネシス対策会議を始めさせていただこう。確か特殊機動班には新入りがいると聞いていたが……」

 

スキンヘッドの男は俺のことを見つめながら言った。

この人に見つめられるとちょっと怖いな……。

 

「あぁ、こいつは遊佐 繋吾だ。入隊して1週間くらいになるかな。繋吾、この人は偵察警備班の班長、宗像 一樹だ。よく覚えておいてくれ」

 

この人が宗像班長。

こんな人が警備してたら、テロリストも迂闊に手は出せなさそうだ。

 

「初めまして。特殊機動班に所属することとなった遊佐 繋吾です。よろしくお願いします」

 

俺は席を立ち、宗像班長に挨拶をした。

宗像班長はしばらく俺の様子を眺めると、頷きながら口を開く。

 

「遊佐……か。なるほど。なかなか良い目をしてるなお前」

 

「そう……ですか?」

 

郷田さんにも言われたセリフだが、この人に言われるとちょっと身構えてしまう。

 

「まぁそう緊張するなよ遊佐。赤見班長とは2期生同士の仲だ。よろしくな。さてと、そっちの姉ちゃんも自己紹介しといた方がいいんじゃないか? なぁ?」

 

宗像班長は救助護衛班の中心に座っていた黒髪の女性へと話を振る。

 

「はいはい、かずくんのダル絡みが終わるのを待ってたんだよ? どうもー、遊佐くん!」

 

黒髪の女性は笑顔で俺に手を振りながら言った。

 

「お初です。あなたは……?」

 

「私は救助護衛班の班長やってる紅谷 煉って言います。出撃する時は何かと救助護衛班もお世話になると思うから、顔は覚えておいてね?」

 

「こいつの治療は荒療治だから気をつけろよ? 繋吾」

 

「ちょっと何言ってるの仁くん! 繋吾くんも治療されるならやっぱり女の子の方がいいでしょ?」

 

「ハハハ……」

 

班長同士の会話を俺は苦笑いすることしかできなかった。

どうやらこの紅谷班長も赤見さんとは仲がいいようだ。

 

「あぁ、繋吾。なんか緩い感じですまないな。一応この紅谷班長も宗像班長も私と同じ2期生の同期なんだ。少し大目に見てくれ」

 

なるほど、それならば少し納得だ。

班長同士の仲が良いことは任務においても強い連携が期待できるしいいことだ。

 

「相変わらず仁くんは固いねー、さて無駄話してばっかだと班員のみんなに呆れられちゃうからこの辺で……」

 

「紅谷、お前がこの空気作ってるんだろうよ……」

 

宗像班長が呆れた顔をしながら紅谷班長の方を見る。

 

「あ、あはは……まぁまぁ遊佐くんの緊張をほぐすためにと思ってさ」

 

確かに俺としてはおかげさまで両班へ対する緊張というものがほぐれて助かってはいる。

 

「さて……気を取り直して今日は真面目な話だから真面目にやらせてもらう。国家指定テロ組織であるジェネシスと思われる情報を昨日ようやく掴むことができた。その内容についてまず報告させていただこう」

 

宗像班長は自らの手元にある資料を見ながら喋り始めた。

 

「我々偵察警備班は、先日襲撃のあった真跡シティの中央区を中心に、近隣警備と併せて各地で調査や情報収集を行っていた。その中で妙な情報が入ってな」

 

真跡シティとは、俺の故郷……そして、ホームレス時代にもずっとお世話になっていた街のことだ。

5年前の襲撃が起きたのもこの街であり、何かとジェネシスには狙われる場所である。

 

この近辺では大都会と呼べる街で、一番栄えている中央区をはじめ、ノース区、サウス区、イースト区、ウェスト区の4つの区に分かれている。

先日の襲撃では俺の寝泊りしていたノース区もそれなりの襲撃だったが、人口の一番多い中央区は特に被害がすごかったらしい。

ニュースによると国防軍の迎撃もむなしく、多くの家屋が倒壊し、死傷者は数千人に及んだとされている。

 

SFSの本部については、この真跡シティの区外の山岳地帯に位置しており、周辺は山に囲まれている。

したがって、この襲撃の際は被害をまったく受けることはなかったようだ。

 

「比較的田舎であるイースト区の住民から聞いたのだが、どうやらここ最近、"赤見"という人物を探している男に会ったそうだ」

 

赤見って……うちの班長の赤見さんのことか?

たまたま同じ苗字ということもあるが、比較的珍しい苗字だし、そう多くはないだろう。

 

「それは……私のことなのか。一樹」

 

「間違いない、その住民はその男からSFSの話も一緒に聞いたらしいからな。気になった我々はイースト区にて調査を続けていたんだが、イースト区の多くの住民が"赤見"という人物について聞かれたと言っていた。どうやらその男はかなり熱心に聞き込みを行っているみたいだな」

 

「まぁ私のことを探していたとしても、それがジェネシスとどう関係してくるんだ?」

 

「それだけだったら我々も気にしなかったし、今日の報告も軽いものにする予定だったのだが……。実はな、昨日小規模なデュエルテロがあったんだよ。このイースト区で」

 

昨日だと……。昨日は肝心の決闘機動班も特殊機動班もデュエル交流会をやっている状態だった。

特殊機動班はまだしも、決闘機動班は襲撃があったのであれば、すぐさま現場に急行するはずじゃないのか?

 

「おい……それは本当なのか。デュエルテロがあったのならなぜ決闘機動班は動かなかった?」

 

「本当に小規模なものであったから、たまたまイースト区で調査を行っていた我々偵察警備班と現地に常駐していた国防軍だけで、その場はすぐに鎮圧できてしまったんだ。2~3件ほどの家屋の損傷と怪我人が数名。テロリストと交戦しようとしたが、ほとんどは我々の姿を見たとたんに逃げ出してしまった」

 

「何か妙だな……。もしジェネシスがやったのだとしたら規模が小さすぎる。何が目的だったんだろうか」

 

「物を盗んだりする様子もなし。おそらくはあちらも我々がいることを察しての"偵察"か何かが目的だと踏んでいる。今後大規模襲撃をするためのな。それともう一つ、俺と対峙したテロリストがやたら俺たちの身元を確認してきた。答えはしなかったが、SFSであることの確認からどこの班か。そして、最後にやはり"赤見"という人物について聞かれたんだ。おそらく住民と話していた人物と同じだろう」

 

「なに……? 私のことを探しているのがテロリストだと」

 

赤見さんは腕を組みながら、険しい表情をし考え込んでいた。

 

「2年くらい前だったか。赤見、言ってたな。ジェネシスのとある幹部の部隊に自分が狙われていると」

 

「あぁ……そうだな。私の顔を見かけては追い掛け回してくるやつ。奇襲を仕掛けてくるやつ。色々といた」

 

「だからこそ俺は今回の襲撃はジェネシスが首謀者なんじゃないかと思ったわけだ」

 

なるほど。前々から特殊機動班を狙うジェネシス幹部の存在。

そして、今回SFSの赤見さんの名前を指定して情報収集をしたテロリストの存在。

それから導き出されるものとして、この宗像班長はジェネシスのしわざではないかと考えたわけだ。

 

「なるほどな。可能性は十分にある。だけど一樹、どう手を打つつもりだ? 私が囮にでもなるのか?」

 

「いや、そこは安心してくれ。逃げたテロリストを追って行ったら、怪しげな建物を見つけたんだ。もしかしたらそこがジェネシスのアジトである可能性がある」

 

さすがは偵察警備班だ。

事前に作戦は考えてあるようだ。

 

「確証はあるのか?」

 

「そこを昨日一日見張っていたら、デュエルウェポンのようなものを持ちながら出入りする人物を何回か確認したよ。おそらく間違いない」

 

「なるほどな。つまり今回の任務はそこへの襲撃を行い、アジトの殲滅とテロリストの拘束といったところか。建物の構造はどんな具合だ?」

 

初任務ながら非常にヘビーな任務だ。

相手のアジトに乗り込んで殲滅だなんて、俺の目的からしたら好都合なんだろうが、不安な気持ちは隠せない。

 

「あぁ、建物は4階建てのマンション。端から見たら普通のマンションだ。管理人に頼んで実際に住んでいる住民を確認してみたが、見る限りは怪しい様子はなかった」

 

テロリストが一般住民のフリをして隠れていることだろうか。

 

「ってことは住んでる奴はテロリストの可能性は低いか。部屋ではなく何か別のところに抜け道でもあるってことか?」

 

「さすが赤見、その通りだ。このマンションの駐車場に大きな倉庫が置いてあってな。この倉庫の周辺にデュエルモンスターズのカードが落ちている痕跡があった。それにこの倉庫がちょうどマンションに設置されている監視カメラじゃ死角になっていてな。マンションの管理人もこの倉庫付近では何があったか確認できないってわけだ」

 

「なるほどな……。その倉庫から例えば地下に通じる通路があるとか……。そういったところか」

 

「あぁ、おそらくな。我々と交戦したデュエルウェポンを持った人物がマンション内に入れば監視カメラに映っているはず。だが、監視カメラ映像には奴は映っていなかった。ということはその倉庫が怪しいということになる」

 

ジェネシスという大きな規模の組織であれば、地下にアジトがあると言われても不思議ではない。

 

「では、その倉庫から調査をはじめて場合によっては潜入ということになるか。今回の件、国防軍は動くのか?」

 

「国防軍真跡支部の長官に話をしたんだが、国防軍は今、遠方で起きているテロ組織に占領された街の奪還作戦を行っているらしくてな。常駐部隊の一部を応援に回している関係で人手が不足しているみたいらしく、襲撃作戦の参加は難しいって話だ」

 

「なんともタイミングが悪いな……。つまりSFSの単独任務ってことか……」

 

どの程度の規模のアジトであるのかはわからないが、大手テロ組織のジェネシスのアジトともあれば、それなりの構成員がいるはずだ。

激戦は避けられないだろう。俺たちだけでなんとかなるのだろうか……。

 

「かずくん。今回の任務、決闘機動班は呼ばないの?」

 

「あぁ、白瀬班長に掛け合ったが、元々決闘機動班は民間人救助のための攻撃が先決。したがって、アジトへの襲撃についての協力は消極的だったよ。だが、マンション周辺の住宅街の警備やテロリストが逃げられないよう包囲網を張るという形なら応援は出してくれるみたいだ。だが、襲撃自体はこの3班でやらざるを得ないみたいだがな」

 

「なるほどねー……。私たち救助護衛班はもちろん協力するけど、やっぱり前線での侵入は特殊機動班にお願いできるかな……? 襲撃はちょっと不慣れで……」

 

紅谷班長は少し俯きながら言った。

 

「赤見、悪いな。俺たちもアジトの襲撃っていうのはあまり経験がない。偵察警備班は退路の確保や後方支援といった形でも問題ないか?」

 

続けて宗像班長も、申し訳なさそうな表情をして赤見さんに言う。

 

「そう言うと思っていたところだよ。安心しろ。うちには優秀なメンバーがいるからな」

 

赤見さんはそう言いながら俺たち班員の方を見てにやりと笑う。

そう思ってくれるのはありがたいが、たったの5人で可能な任務なんだろうか。

 

「いつもすまないな赤見。奴らに我々の行動がバレても困るからここは早急に作戦決行といこう。明日一日を準備期間として、襲撃は明後日の午後9時でどうだ? 赤見」

 

「それだけ時間がもらえるのなら十分だ。各班の準備割り振りはどうする?」

 

「そうだな。まず、救助護衛班は救助物資等の用意を頼めるか?」

 

「わかったよー、私に任せといて!」

 

紅谷班長は笑顔で宗像班長へグッジョブを送った。

 

「特殊機動班は襲撃のための作戦を考えておいてくれ。あと、当日の作戦指揮は赤見に任せてもいいか?」

 

「あぁ、任せてくれ。作戦が決まり次第一度班長同士で打ち合わせをしておきたい。いいか?」

 

「わかった、明日の夕方までには作戦を固めておきたいところだな。最後に我々偵察警備班は、現地の偵察を継続して、敵の情報等を可能な限り集める。何か情報が入ったらその打ち合わせの時に伝えよう」

 

宗像班長に言われて、赤見さんと紅谷班長が頷く。

さてと……いよいよ初任務か……。

一体どうなるんだかは分からないが、今は班長達を信じることとしよう。

 

「んじゃあ今日はこんなところか。一樹?」

 

「そうだな。今日はこの辺で終了としておこう。この後神久部長へこの作戦について内容を報告しに行く予定だ。各班から一人ずつくらい一緒に来てくれるか?」

 

「んじゃあー私と仁くんかな? 班長がいた方がいいだろうしね」

 

「そうだな……。午前中には済みそうか? 一樹」

 

「あぁ、そこまで時間はかからないとは思う。それでは会議はこれにて終了とする。各班員、お疲れ様」

 

宗像班長がそう言うと、一同は挨拶を交わす。

その後、偵察警備班と救助護衛班のメンバーはそれぞれ席を立ち、雑談等をしながら特殊機動班室を後にしていった。

 

「相手の規模はわからねぇが久しぶりに大任務になりそうじゃねぇか赤見」

 

郷田さんが赤見さんの肩を叩きながら声をかける。

 

「あぁ、特に相手の標的が我々である以上、心してかかる必要があるな」

 

一番の標的とされている赤見さんは気が気じゃないだろう。

だけど、なぜ赤見さんは狙われているんだろうか。聞いてみるか。

 

「それにしても、赤見さんってなんでジェネシスの奴らに狙われてるんですか?」

 

「あぁ……。過去にジェネシスの幹部がいる目の前で奴らにとって不都合なことをしてしまった。ってところかな。それから一部のやつらから狙われるようになったんだ。それにどうやらここ最近は私の名前も知れ渡ってしまったらしいな」

 

赤見さんは苦笑いしながら答えた。

 

「まぁ今は明後日の任務に集中だ。明日の夜までにはお前達にも作戦内容を伝えられると思う。夕食後の午後8時頃からにでも特殊機動班内で最終作戦会議を行うとするかな」

 

「いつも面倒ごとばかり任せてわりぃが頼んだぜ赤見。どうも俺は考えるのが苦手でな。その分切り込み隊長役は任せてくれや」

 

「わかった。郷田にはそれを頼むとするよ。では、各自作戦決行に向けて各自準備を進めてくれ。偵察警備班からの情報も明日の作戦会議で伝えさせてもらおう」

 

特殊機動班のメンバー一同が真剣な表情で頷く。

 

「赤見班長。私が力になれることがありましたら、いつでも呼んでください。それでは失礼します」

 

「同じく、俺もできる限りの協力はさせてもらいますよ! では」

 

そう言い、結衣と颯の二人が特殊機動班室を後にした。

 

「さて、繋吾ちゃんはこれから赤見とデュエルウェポンの練習だったな。赤見。神久部長への報告は俺が行っとくわ。繋吾ちゃんの方優先してくれよ」

 

「郷田……。それはありがたい。任せてもいいか?」

 

「いいってことよ! んじゃあ行ってくるわ!」

 

郷田さんはそう言うと走って部屋から出て行った。

 

「すみません。赤見さん忙しいのに付き合ってもらっちゃって」

 

「いや、いいんだ繋吾。お前の命を守る立ち場としては、当然のことだろう?」

 

俺が最初に生天目社長に言ったときの話を気にしているのだろうか。

今は俺の心配よりも赤見さんには自分の身の心配をしてほしいものだ。

この人なくして特殊機動班は成り立たない。

 

「だけど、俺よりも赤見さんの方が危ない立ち場なんじゃ……」

 

「大丈夫だ。もうかれこれ2年はずっとこんな感じだよ。それに終止符を打てるのならむしろ好都合だ」

 

赤見さんは少し笑いながら答えた。さすがだ、こんな状況でもまったく動じていないようだ。

むしろ喜んでいそうにも感じる。

 

「では繋吾。デュエル訓練場へと向かうか。予定よりも少し早いが、食堂で何か昼飯を買ってから向かうとしよう」

 

「はい、わかりました」

 

そうして俺は赤見さんと一緒にデュエル訓練場へと向かった。



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Ep24 - デュエルウェポンの扱い方

ーー食堂で赤見さんと軽く昼食を済ませ、俺は赤見さんと一緒にデュエル訓練場へ来ていた。

SFS内でもいくつかデュエル訓練場があり、今回の場所は前回決闘機動班と遭遇した場所ではなく、少し小さめのデュエル訓練場であった。

 

それでもデュエルの訓練をするには十分な広さであるが。

 

「よし、じゃあ繋吾。さっそく始めようか」

 

赤見さんは自らのデュエルウェポンを操作し始める。

 

「まず、デュエルウェポンは基本的にカードをセットすれば、そのカードの効果が適用される。魔法や罠も同様だ。伏せカードについては、事前に伏せてある状態でデュエルウェポンのボタンを押すと発動する。つまり、基本的な操作はデュエルで行っている動作と同じだよ」

 

なるほど。モンスターをセッティングすれば、モンスターが出現するし、魔法カードを発動すれば、その場で具現する。

単純明快でわかりやすいな。

 

「ただ、デュエルと明確に違うところとしては、ターン制限や召喚制限というものが一切ないところだ。どんな上級モンスターだろうが、EXデッキのモンスターであろうと、デュエルウェポンにセットすれば召喚される。デュエルウェポンが拳銃でカードが弾丸のような感覚で思ってもらえばわかりやすいかな」

 

例をあげると通常のデュエルでは"EXデッキから出たモンスター2体以上を要求"する【セフィラ・メタトロン】だとしても、そのカード自体をデュエルウェポンにセッティングすれば即座に召喚できるということか。

 

それなら可能な限り攻撃力の強いモンスターを出した方がよさそうだな。

 

「しかし、たが強いモンスターを呼べばいいというものでもない。大きなモンスターであれば狭い場所では効力を発揮できないし、カードのステータスがそのまま強さに繋がるというわけではない。あくまでカードに秘められている力が具現化するのであって、デュエルでの力とは違うんだ。デュエルでは活用が難しくても、戦闘においては【ファイヤー・ボール】なんかが手軽で使いやすかったりする」

 

「なるほど。時と場合に応じて、適切なカードを選択し、使っていく必要があるということですか」

 

「そういうことだ。では私がこれからさっそく【ファイヤー・ボール】を使用するから、何かしらモンスターを召喚し、防いでみてくれ」

 

おっとさっそく練習か。

しかし、もし俺が操作に失敗したらどうなってしまうんだろう……。

 

「赤見さん。この練習失敗したらもしかして怪我とか……?」

 

「まぁ……多少は痛むかもしれないな。大丈夫だ。そんなに強いカードは使わないようにするからさ」

 

赤見さんはハハハと笑いながら自らのポケットよりカードをセットし始める。

すると、赤見さんのデュエルウェポンから【ファイヤー・ボール】のカードが出現し、そこから大きな火球が出現すると俺に向かって放たれた。

 

「さぁ、今だ! 繋吾!」

 

赤見さんの声を聞き、俺はすぐさまカードをデュエルウェポンへセットする。

 

「来てくれ! 【セフィラ・メタトロン】!」

 

デュエルウェポンから光が放たれるとそこから輝く鎧を纏った【セフィラ・メタトロン】が出現し、手に持つ杖を構える。

やがて、その火球が近づくと杖をその火球へ向けて振りかざす。

たちまちその火球はその場から消滅してしまった。

 

「上出来じゃないか。繋吾」

 

赤見さんは今の様子を見て拍手をしながら言った。

意外と簡単なものだなこれは。

 

「実戦ではいつ奴らが仕掛けてくるかはわからない。戦場では常に周りに目を配り、使用カードを準備しておいてくれ」

 

「わかりました。あと、最後に……デュエルを仕掛けるにはどうしたらいいんですかこれは」

 

対集団戦闘では今の戦闘機能を使うのかもしれないが、相手も反撃してくるだろうし、確実にテロリストを無力化することは難しい。やはりテロリストを無力化するのにデュエルは欠かせないだろう。

そこで、デュエルの仕方がわからないのでは、今回のメイン任務である幹部の拘束は難しくなってしまう。

 

「デュエルウェポンのデッキセットする箇所の脇にボタンがあるだろう? それを押すとデュエルウェポンから電波が発信される。その電波が他のデュエルウェポンへ接触すると、強制的にデュエルモードとなって、第三者が乱入できない不可侵空間、つまり一騎打ちができる空間が作られるという仕組みになっているんだ」

 

どちらかが仕掛ければ相手は逃げることができないという仕様みたいだ。

俺が前回テロリストと戦った時は相手がその機能を使った。といったところか。

 

「だが、その電波っていうのはそんなに遠くまで飛ばせない。デュエルへ持ち込みたいのであればやはり接近する必要がある。テロリストもデュエルはハイリスクハイリターンなのは重々承知だから、そう簡単にはいかないだろうな」

 

「どのくらいの距離ならできるものなんですか?」

 

「そうだなぁ……。大体10mくらいってところか」

 

けっこう近距離だなぁ。相手が逃げているような状況だと難しそうだ。

 

「さーて、一通りの説明は終わりだ。今日はしばらくデュエル以外の戦闘練習。カードをセッティングする練習をしてみようか」

 

「それは助かります。やりましょう」

 

実戦前にできるだけ練習はしておきたかったから非常に助かる。

ちょっと怪我をしてしまうかもしれないが、それでも本番で失敗してしまうよりかはマシだ。

 

 

ーー数時間ほど経っただろうか。

デュエル訓練場では爆発音やモンスターの咆哮。銃声といろいろな物騒な音が響き渡っている。

もちろんSFSのデュエル訓練場はこういった戦闘訓練も想定しているため、作りも丈夫。

多少の爆発物では壊れないような作りとなっていた。

 

そんな中俺はというと、割と立つのも辛いくらいにダメージを受けていた。

デュエルウェポンのおかげであまり外傷はないのだが、体中から痛みが……刃物で体を切り刻まれるような痛みとでも言えばわかりやすいだろうか。

少し動くだけでも体がふらついてしまう。

 

だが、赤見さんはそんな俺の様子を気にせずに、ガンガン魔法カードを駆使して、俺への攻撃を続けている。

俺もなんとか反撃を試みるが、それは赤見さんの発動する罠カードによってことごとく防がれてしまっていた。

 

「繋吾。まだ戦えそうか?」

 

赤見さんは口では俺を心配するような発言をしているが、手には大きな大砲のようなものが握られていた。

そう、あれは装備魔法【バスター・ランチャー】を発動し、赤見さんが具現化させたものだ。

赤見さんは攻撃力1000以下なんだろうか。

いや、デュエルとはそういった面は異なるといっていたからよくわからない。

 

それよりもあの代物は馬鹿にならない。

あの大砲からはレーザー光線のようなものが放たれるが、それがけっこうなスピードで飛んでくる。

罠カードを使って避けようにも間に合わず、なかなか難易度が高かった。

モンスターを盾にしていても、そこまで長くは持たない。

 

今すぐギブアップしてもいいレベルまで体が厳しいところだが、俺は残念ながらその【バスター・ランチャー】の攻撃をまだ一度も防げていない。

せめて……あれを一回は防げるまで今日は頑張りたい……。

 

そんなことを考えていると、赤見さんが手に持つ【バスター・ランチャー】のトリガーに指をかけるのが見えた。

そうか。このタイミングか! 撃たれてからでは遅い。少し早いタイミング!

 

俺は咄嗟にデュエルウェポンのボタンを押し込む。

それと同時くらいに【バスター・ランチャー】よりレーザー光線が放たれ俺の足元に向かってきた。

 

だが、今回は痛みがなかった。

そう、俺が発動した伏せカードが防いでくれたようだった。

 

俺の目の前には青い渦のようなものが出現し、そのレーザー光線を吸い込んでいた。

 

「おぉ、【攻撃の無力化】を発動させたか! 回避もだいぶ上達してきたみたいじゃないか」

 

「ようやく……ですよ……。うっ……」

 

俺は安堵したとともに気が抜けてその場に倒れ込んでしまった。

 

「おい、繋吾! 大丈夫か? 今日はこのへんにしておこう。すぐに治療班を呼ぶからな」

 

「赤見さん……。もうちょっと早いタイミングで行きたかったっす……」

 

俺は床に寝転びながら赤見さんに愚痴をこぼす。

 

「だけど、これで相手の攻撃を回避する感覚ってのはなんとなくわかってきただろ?」

 

確かに、ずっと攻撃を受けっぱなしだった【バスター・ランチャー】のレーザーを避けられたのは大きい成果だ。

デュエルに持ち込む前に相手からの一方的な攻撃でやられては、いくらデュエルが強くても奴らには勝てないこととなる。

 

「まぁ……そうですね。いてて」

 

「無理に動くなよ? もっと痛みが増してしまうからな」

 

しかし、不思議なものだ。

そこまでの外傷がないのに、激しく痛む体。

どこまでくれば死ぬレベルなのか、いまいちよくわからなかった。

この痛みに耐え切れなくなったら、終わりってことなのだろうか。

ただでさえ魔法のような存在であるデュエルウェポンが及ぼす力だ。わからなくて当然だろう。

 

じっとしていると、やがてデュエル訓練場に数名の人が入ってきた。

きっと治療班の人たちだろう。

 

「赤見さん……。ここまでなる前にやめときゃいいじゃないですか……」

 

「ははは、悪いねぇいつも。うちはスパルタなんだ」

 

「この子新人の子でしょ? 同情しますよほんと……」

 

治療班の人たちが呆れながら俺を担架へと乗せる。

そして、治療室へと運ばれた。

 

しばらくし、治療室へ到着すると、俺は2名の医療班の人たちに支えられ、ベッドに体を移された。

ベッドは清潔感溢れるまさに病院のベッドという感じであり、プライバシーが守られるようにしっかりとカーテンで囲まれていた。

なんだか入院する気分だな。

 

「大丈夫ですか? 遊佐さん?」

 

医療班の男性に声をかけられる。

大丈夫といえば大丈夫だが、大丈夫じゃないと言われれば大丈夫じゃない感じだ。

 

「まぁ……体中痛いですが、大丈夫だと思います」

 

「かわいそうにな……だけど、まだ喋れるレベルってことは今日一日治療しておけば明日には大丈夫だと思いますよ」

 

そんなにすぐ治るものなのか。

少し安心した。これで任務へは参加できませんとか言われたらどうしようかと思ったぞ。

 

「疲れてるでしょうし、しばらく寝てて大丈夫ですよ。ではこれを」

 

医療班の人は1枚のカードを俺のデュエルウェポンへとセットした。

カードの名前には【ダメージ・ヒーリングα】と書かれていた。

 

「なんですかこれは」

 

「あぁ、見るのは初めてかな? デュエルモンスターズの具現化機能を駆使して開発した医療用カードだよ。これで体中に治療を促す力を具現化させて、怪我を治していくってものだね。簡易的な治療はこれだけでできるんだ」

 

便利なカードもあるもんだな。デュエルで使うとどんな効果があるのか少し気になるところだ。

 

そういえばSFS内には機器開発班なんて部署もあったか。

そこで開発しているのはこういった類のものなのだろうか。

 

「これで本当に治るんですかね……?」

 

「安心してくれよ。SFSはこれのおかげで8年もの活動実績があるんだ。ま、しばらくはゆっくりとおやすみ。ではな」

 

そう言うと治療班の人たちはカーテンを開け出て行ってしまった。

 

とりあえずまだ痛みは収まらないし、今日は寝るとしよう。

会議からの訓練で疲れていたからかもしれないが、俺はすぐに眠りについたのだった。



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Ep25 - 出撃前夜

ーー翌日。美味しそうな匂いがして目を覚ますと、目の前には料理が並んでいた。

 

トマトソースが絡めてあるパスタにコーンスープ。そして、脇には小皿でサラダも用意されていた。

どうやら治療室には飯を用意してくれるサービスか何かがあるみたいだ。

 

昨日早く寝てしまったせいか空腹だった俺は思わず目の前の料理を流し込むように食べ始める。

 

うまい。

SFSに入ってからも料理をまったくしない俺は普段はパンとかそういう片手で持てるタイプのご飯しか食ってこなかった。

こういったちゃんと調理されたご飯っていうのが久しぶりなのだ。

 

空腹の時に一度食べ物に手をつけたらもう止まらない。

あっという間に俺はその料理を食べ尽くした。

ごちそうさまと挨拶をし、俺は食器を綺麗に整頓する。

 

ちょうど食べ終わる頃、部屋に誰かが入ってくる音が聞こえた。

俺のベッドの周りには仕切りのカーテンがあるせいで、外の状況は確認できないため、誰だかはわからない。

治療班の人だろうか。

 

そんなことを考えていると俺のベッドのカーテンが開く。

颯と結衣だった。

 

「よー、くたばってる繋吾くん! 大丈夫か?」

 

颯に言われて思い出す。そうだ俺は昨日デュエルウェポンの練習で怪我をしていたんだった。

昨日の治療カードの効果が効いていたのか、既に痛みは綺麗さっぱりなくなっていた。

おかげさまで、怪我をしていたことなど忘れて料理にがっついていたわけだが。

 

「まったく。デュエルウェポンの訓練ごときで治療室送りになるなんて、あなたは自分のコントロールすらできないのですか?」

 

続けて、結衣が呆れたように言ってきた。

いや、それを言うなら赤見さんに言ってくれ……。俺はずっとギブアップしたかったんだ。

 

「ハハハ……。デュエルウェポンってのはほんと恐ろしい代物だよ」

 

「実戦だったらあなた死んでるかもしれなかったんですよ。よくもまぁへらへらしてられますね」

 

「ま、まぁ……その実戦で死なないために訓練してたんだから大目に見てくれ」

 

でもおかげさまで、本番もなんとかなりそうな気がする。

長年現場で活動している赤見さんが直々に教えてくれたんだ。

期待にはこたえてみせたい。

 

「あ、そういや繋吾。その飯どうだったか? やっぱりおいしかっただろう?」

 

「あぁ、味付けもちょうどよくておいしく食べさせてもらったよ。治療班の人たちって料理もできるんだな。特殊機動班にもそういう人がいればな……」

 

俺が何気なくそんな返答を颯に返していると、なんだかすごい殺気を感じた。

 

「あ……繋吾。それ……」

 

「ん……どうかしたか……」

 

「あの……それ私が作ったんですけど」

 

少し低い声で結衣が俺を睨みつけながら言ってきた。

この料理作ったの結衣だったのか……。

 

「え、あ……。これ結衣が作ったのか?」

 

「だからそう言ってるじゃないですか! なんですかさっきの"特殊機動班にもそういう人がいれば"は! まるで私が料理ができない人みたいな言い方!」

 

知らぬうちに逆鱗か何かに触れてしまったようだ。まずいぞ。

何かこの場を切り抜ける方法は……。

 

「ここで食べ物出てくれば治療班の人だと思うじゃないか。悪気はないんだ結衣」

 

「まぁ……普通は治療班の人がご飯の準備はしますけど……」

 

ということはわざわざ結衣は作ってくれたってことか。

 

「あ、勘違いしないでくださいね。私は次の任務であなたに足を引っ張られたりでもしたら困ると思って用意したまでです」

 

彼女なりに怪我をした俺に対して気を使ってくれたのだろう。

言い方はアレだが、素直に感謝するとしよう。

 

「それは苦労かけたな。ありがとう」

 

「い、いえ……。大したことではありません」

 

「結衣ちゃん班員が怪我した時は、よくご飯作ってくれるんだぜ? ほんと元気出るんだこれが!」

 

興奮気味に颯が言うと、結衣は少しドヤ顔のような得意げな表情をした。

なんやかんや言いながら結衣も仲間思いのところがあるんだな。

 

「当たり前でしょう。この私が作る料理なんですから。早く治るように栄養面も配慮してますからね」

 

本当に早く元気になるようにと考慮して作っているみたいだな。

味を損なうことなく、うまく作るその技量は確かなものだ。

 

「料理はよくやっていたのか?」

 

「実家にいる時は、よく作っていましたから。なのでこういう機会にたまにはと思って作ったりしてるんですよ」

 

意外と家庭的なところもあるみたいだ。

結衣の知らなかった一面が見れた気がする。

 

「結衣ちゃんせっかくなら、今度から昼飯とかも作ってくれてもいいんだぜ?」

 

「お昼ご飯くらいは自分で作ったらどうですか? 上地くん。それに私が作ってあげているのは、あくまで任務で支障がないようにしてもらうためですから」

 

「そこをなんとか! たまにでいいからさ!」

 

颯は相変わらず押しが強い。

結衣の表情は少し呆れた様子であった。

 

「それにしても繋吾。もう体は大丈夫か?」

 

「あぁ、すっかりよくなったよ。明日は思い切り任務に望めそうだ」

 

「それならよかったぜ。あ、そうそう。赤見班長からの伝言があったんだ。今夜、20時から特殊機動班内の作戦会議をやるってさ。それまで繋吾はゆっくり休んでてくれよ」

 

もう体は大丈夫で今すぐにでも動ける状態ではあるのだが。

万が一があってもいけないし、ここはお言葉に甘えて夜までゆっくりさせてもらうとするか。

 

「あぁ、わかった。悪いな」

 

「私がご飯まで作ってあげたんですからちゃんと来てくださいよ。では」

 

「またなー、繋吾。じゃあ結衣ちゃん! 今日はデュエルを……」

 

颯は結衣ちゃんにお願い事するかのように両手を合わせながら言った。

 

「わかってますよ。明日に向けて容赦なく相手してあげます。デュエル訓練場へ行きましょうか」

 

颯と結衣はデュエルの特訓でもするようだ。

少し見てみたい気持ちがあるが、今日くらいはここでゆっくりしよう。

 

俺は医療室から出て行く二人を見届けると、再び瞼を閉じて眠りに入るのだった。

 

 

ーーしばらく時間が経ち、気が付くとあたりは暗くなってきていた。

今何時だろう。

そう思い、ベッドの脇に置いてある俺のデュエルウェポンを眺めると時計には19時30分と表示されていた。

そろそろ起きるとするか。

 

俺はベッドから体を起こし、腕を伸ばしちょっとしたストレッチをする。

だいぶ長いこと寝転がっていたから、体がどうもだるい。

 

まだ作戦会議まではまだ時間があるが、たまには早く行くのも悪くないだろう。

俺はベッドから出て、デュエルウェポンを腕に装着すると医療室の出入り口に向かって歩き出す。

 

「あ、遊佐さん。もう大丈夫なんですか?」

 

医療班の人が俺に声をかけてくる。

 

「はい、大丈夫です。色々とお世話になりました」

 

深く頭を下げ、再び出口へ方向転換しようとすると、医療班の人に止められた。

 

「あぁちょっと! 一応こちらにサインだけお願いします。手続き上必要なので」

 

俺はただここに寝に来たわけじゃなかった。

一応治療も受けたんだし、ちゃんと手続きはしないとな。

俺は医療班の人の前に行き、一枚の紙に自分の名前を書いた。

 

「治療した記録っていうのもずっと残りますから、あまり怪我しすぎないようにしてくださいね。評価にも響きますから」

 

そういうことか。あまりにも怪我が多ければ悪い評価となってしまうと。

治療っていうのもタダじゃないし、医療班としては少しでも減らしたいのが本音だろう。

 

「わかりました。今後気をつけます。では」

 

今後こそ俺は部屋の扉へ向かい、医療室を後にした。

 

さてと、集合は特殊機動班室でいいのかな。

今思えば颯のやつ肝心な場所を言ってなかったような気がする。

とりあえず特殊機動班室に行けば誰かしらいるだろう。

 

その前に……。さすがに着替えてから行くか。

昨日の訓練の時から着替えずに寝てたもんだから、また汚いだのなんだの言われかねない。

 

俺は一度自分の部屋に戻り、別の制服へと着替える。

ついでにシャワーくらい浴びたいところだったが、そこまでは時間に余裕がないな。

軽く洗面台で顔を洗うと、すぐさま特殊機動班室へと向かった。

 

なんやかんやで時間は既に集合時間の15分前。

早めに出ておいてよかった……。

あのまま医療室でのんびりしてたら、遅刻していたかもしれない。

 

部屋に到着すると中には結衣の姿があった。

よかった。今回は一番最後というわけじゃなかったみたいだ。

 

「あら、あなたにしては随分と早いですね。てっきり寝坊でもするかと思いました」

 

開口一番いつもの調子で結衣は喋りかけてきた。

 

「さすがにあんなに長時間寝てたら寝すぎて寝れないくらいだよ」

 

俺は苦笑いしながらそれに答える。

 

「服も……ちゃんと着替えたみたいですね」

 

「え? あぁ。こうでもしないとまた怒るだろ?」

 

「人として当たり前のことですからできて当然です。怒る手間が省けて助かりました」

 

人として当たり前の生活ができない人だっているんだから……。

しかし、そんな状況を生み出しているのもデュエルテロのせいだ。

今回の任務で、その恨みきっちりぶつけてやる。

 

「そういえば、颯とのデュエルはどうだったんだ?」

 

「何を聞くかと思えば……。私が負けたとでも思ってるんですか?」

 

「いや、違う。どんなデュエルだったかなって思ってさ。楽しかったか?」

 

俺の言葉を聞くと、結衣は少し驚いたような表情をした。

 

「え、楽しかった? そうですね……。楽しかった……のかもしれません。うん、そうですね」

 

結衣は言い聞かせるように答えた。

何かちょっと様子がおかしいが、颯のやつが何かしでかしたりしたのだろうか。

 

「どうかしたか……?」

 

「いえ、そういえば元々デュエルって"娯楽"だったんだなと思っただけです」

 

デュエルテロが蔓延しているこのご時世じゃ、その本来のあり方を忘れてしまうのも無理はない。

デュエルを用いて戦い、身を守っていくんじゃそれは娯楽とはかけ離れているものに違いないからな。

 

結衣とそんな会話をしていると、部屋の扉が開き、赤見さん、郷田さん、颯の3人が入ってきた。

 

「お、繋吾と結衣。既に来てたか」

 

「お疲れさまです」

 

赤見さんに声をかけられ、俺は軽く頭を下げ挨拶をする。

 

各々が適当に椅子に座るのを確認すると、赤見さんはデュエルウェポンを操作しながら喋り始めた。

 

「さて、全員揃っているな。それでは明日のジェネシスアジト襲撃作戦について説明する。まず、皆に現地の地図情報データと作戦内容について書かれたデータをメールにて送信するから確認してくれ」

 

しばらくすると、デュエルウェポンの通知音が鳴り出した。

俺も自らのデュエルウェポンを開きその内容を確認する。

そこには地図と作戦内容について書かれているデータがあった。

 

「まず今回の任務は、真跡シティイースト区にあるマンションの駐車場地下にあると思われるアジトの襲撃とそこにいるテロリストの拘束が目的だ。このマンションは入口が二つあり、一つはマンション正面にあるメインの入口。ここからはマンションのフロントへ向かうことができる。そして、もう一つは直接駐車場への出入りができる裏口だ」

 

地図を見ながら確認すると、主に車の出入り口となっているであろう大きめの入口が一つ。その入口の脇にはマンションのフロントにあたるところが隣接しており、おそらく警備員のような人物が常駐している場所だろう。

そして、二つ目の裏口は、今回怪しいと見ている倉庫の裏側に位置するところに抜けられる通路であり、人ひとりが歩ける程度の大きさである。

それなりに大きな駐車場であることから、おそらく利便性を考えて設置されたものだろうと想定はできるが、ここを通行する分にはあまり人目がつかなそうであった。

 

「今回の任務は4つの部隊に分かれて任務を行う予定だ。まず先行部隊。これは我々特殊機動班が受け持つ。合図とともに倉庫内へ潜入し、一番最初に乗り込み襲撃を行う。続いて第二部隊。ここは救助護衛班と偵察警備班で編成された第二の潜入部隊となり、先行部隊の後方支援や退路の確保。そして無力化したテロリストの処理を行ってもらう。次に外部待機部隊。この部隊も救助護衛班と偵察警備班で編成された部隊で、潜入は行わず外の駐車場付近での偵察活動や外部からのテロリスト増援が来た際の迎撃を行い、潜入している部隊が退路がなくならないようにするための部隊だ。そして最後はマンション近隣住宅街の警備部隊。これは決闘機動班が担当してくれることになっている」

 

我々は一番最初にアジトへ潜入して、テロリストを倒していくことが任務みたいだ。単純でわかりやすいが、かなり危険であることに間違いはない。

後方支援や難しいことは他の班が担当してくれるみたいだし、思う存分テロリストと戦うことができそうだ。

 

「我々の潜入任務は、敵のアジト内の構成がどうなっているかはわからない以上あまり作戦が立てられないのが厳しいところだ。基本的には敵にばれないように行動し、発見次第デュエルウェポンによる奇襲をかけていく方向で考えている」

 

「デュエルを挑まずにデュエルウェポンの力で無力化していくってことですか?」

 

「あぁそうだ繋吾。一度デュエルが始まってしまえば身動きがとりづらくなる上に敵に増援を呼ばれたらデュエルでの連戦はまぬがれないだろう。我々は少数である以上それはできる限り避けなければならない」

 

確かにデュエルはすぐに終わるものでもない。

その間に俺たちの存在がばれて包囲でもされたら、一体何連戦デュエルすればいいのか……ということになってしまう。

 

「今回はこのカードを用意させてもらった。あらかじめ皆に配っておこう」

 

赤見さんはそう言うと近くのカバンからとあるカードの束を取り出し、それぞれ班員のみんなに配り始めた。

 

「赤見、なんだこりゃ?」

 

郷田さんが首をかしげながら赤見さんに問う。

 

「これは装備魔法カードの【しびれ薬】だ。これをデュエルウェポンにセットして、具現化されたものをテロリストへ投げる。そうすれば下手に交戦しなくても相手を拘束することができるんだ」

 

下手に戦い合わなくても無力化できるってことか。

それなら相手が多勢でも奇襲攻撃で有利に立ち回ることができそうだ。

 

「なるほどなぁー……。だけどよ赤見。めんどくさかったらいつもどおり突っ込んでもいいんだろ?」

 

「あ、あぁ。まぁそこは郷田に任せるよ」

 

赤見さんは少し苦笑いしながら答えた。

なんというか郷田さんらしいといえば郷田さんらしいのかな。

 

「基本的には奇襲して無力化だ。あと、時と場合に応じて二手に分かれることも考えている。編成は私と郷田と繋吾。そして結衣と颯の二手だ。問題ないか?」

 

赤見さんの問いに対して、班員のみんなは頷いていた。

待てよ、普通なら班長と副班長である赤見さんと郷田さんが分かれてそれぞれ指揮を取るというのが自然だと思うが……。

みんな疑問に思わないのだろうか。

 

「赤見さん。郷田さんとは別々の班の方が指揮が取りやすいんじゃないでしょうか?」

 

「あ、いや……。これでいいんだよ繋吾。安心してくれ」

 

ちょっと赤見さんは微妙な顔をしながら答える。

何か事情があるのかもしれないな。まぁ気にしないでおこう。

 

「簡単だが作戦は以上だ。細かい指示は当日任務中に適宜指示を出すから聞き漏らさないでくれよ?」

 

「わかりました」

 

相手の力は未知数だ。

あまり出しゃばって班員のみんなに迷惑をかけるわけにはいかない。赤見さんの指示に従って確実に任務をこなさなければ。

 

「何か質問はあるか?」

 

赤見さんが班員のみんなへ問うとしばらくの沈黙が流れる。

するとしばらくして結衣が口を開いた。

 

「今回の任務で……何かジェネシスの手がかりは掴めるんでしょうか」

 

「それは……。わからないが、敵のアジトへの潜入は久しぶりだ。今度こそ何か奴らの実態を掴んでやる……!」

 

赤見さんは右手を握り締めながら力強く答えた。

 

「まぁ結衣ちゃん。もし敵の偉い奴でも拘束できれば大手柄だ。そうすればきっと何かしらはわかるはずだと思うぜ?」

 

「そうですね……。赤見班長を狙う人の存在も分かればいいのですけど……」

 

今回の任務の発端は赤見さんを狙うテロリストの存在からだ。

その情報を掴める可能性は高いとは思う。

 

「それはやってみなければわからないな。だが、いずれにしても私たちがやることはいつもと変わらないさ。特に今回は初任務の繋吾もいるからみんな援護はよろしく頼むぞ」

 

「任せといてくださいよ赤見班長! 繋吾、俺たちの足引っ張るなよ?」

 

「あぁ、ベストは尽くすよ」

 

俺はそう言いながら颯に向かってグッジョブを送った。

 

「……この任務、誰も死なせやしない」

 

ふと小さく呟いたその赤見さんの目には力強い意志が宿っているようだった。

 



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Ep26 - 暗躍

ーーここは決闘機動班の班長室。

すなわち、白瀬班長の部屋である。

 

先日行われた決闘機動班と特殊機動班のデュエル交流会の終わった後、この班長室には白瀬班長と桂希の姿があった。

当然、繋吾達は知るよしもない場である。

 

「白瀬班長。お聞きしたいことが」

 

「どうした楼。先ほどのデュエル交流会の話かね?」

 

「ええ。あの遊佐という人物。それなりのデュエルの腕はあるようでしたが、白瀬班長の言うような"特別な力"というものは感じませんでした。なぜわざわざ交流会を開いてまで私と奴をデュエルさせたんですか?」

 

桂希は疑問の眼差しを白瀬に向けながら言った。

 

「ふむ……」

 

「それになぜ私に奴の人間性を確認させるような指示を……。SFS入隊に必要な人格確認なら、特殊機動班に任せておけばいいでしょう」

 

「確かにお前が言うように、急な入隊者に対する人格確認なら配属先の特殊機動班に任せておけば問題ないだろう」

 

白瀬は腕を組みながら静かに答えた。

 

「だったらなぜその面倒を我々で……。彼のデュエルの腕は素人としては上々ですが、そこまで優秀な人物とも思えません。何か考えがあるのでしょうか白瀬班長」

 

「そうだな。そろそろお前にも話しておこうと思っていたところだ。楼」

 

白瀬は自ら座る椅子から立ち上がり、桂希に近づくと耳元に顔を近づける。

 

「ペンダントだよ」

 

「ペンダント……?」

 

桂希は白瀬から小さく囁かれた言葉に疑問そうな表情をしながら答える。

 

「遊佐 繋吾の身につけていたペンダント。あれにはな、特別な力が宿っている」

 

「特別な力……ですか。それはどういうものです?」

 

「そうだな。簡単に言えば"世界を滅ぼすほどの力"を秘めているもの……とでも言ったらいいだろうか」

 

「なんだと……! それは本当なのですか? にわかには信じられませんが……」

 

あまりの衝撃の一言に桂希は少し驚いたように白瀬に言った。

 

「まぁそう感じるのも無理はないだろう。現状は何も動きがないようだからな」

 

「なるほど……もし本当にあのペンダントにそのような力があるのだとしたら、そんな危険なもの放ってはおけませんね」

 

「あぁ、お前にはそのために所持者である彼の人間性を確認してもらったのだ。だが、問題はそのペンダントがテロリストの手に渡った場合だ」

 

「それこそデュエルテロ活動が拡大するばかりか、我々の手に負えなくなる可能性があるということですか」

 

「そのとおりだ。そこでお前にお願いがある」

 

白瀬は部屋の窓際に移動し、外を眺めながら言葉を続ける。

 

「彼を……遊佐 繋吾の護衛を頼まれてくれるかな?」

 

「護衛……。遊佐 繋吾をテロリストの手から守ってほしいということですか?」

 

「あのペンダントがテロリストの手に渡っては、SFSにとって非常にまずいこととなる。だが、このペンダントの話は極秘事項でな。だから表立って動くこともできない。そこで楼には秘密裏に護衛任務を受けてもらいたいのだ」

 

「白瀬班長。それならば奴からペンダントを奪い、我々で管理しておけばいいのでは?」

 

「確かにそれも一つの手段だろう。だが、色々と事情があるんだ。何よりも赤見の奴が黙っていないだろう」

 

桂希は少し考えたような動作をすると、不審そうに口を開いた。

 

「それは……赤見班長もペンダントのことを知っているということですか。そんな危険なものを知ってて何もしないとは、赤見班長は何を考えているのですか!」

 

「まぁ落ち着け楼。赤見の奴もきっと考えがあるのだろう。わざわざ特殊機動班に入隊させたのも何か理由があるはずだ」

 

「なるほど。もしかしたら我々と同じ考えなのかもしれませんね。それなら赤見班長にも協力を仰いでみるのはどうですか?」

 

「それはやめておけ!」

 

白瀬は桂希を少し睨みつけながら大きな声で言った。

桂希は少し驚いたように白瀬班長を見つめる。

 

「白瀬班長……?」

 

「それはナンセンスだ。……特殊機動班は我々決闘機動班のことをよく思っていないだろう? それは決闘機動班の一部の班員も同様だ。だからこそ特殊機動班とは適度な距離を置くのが一番なのだよ」

 

「なるほど……。確かに決闘機動班内では特殊機動班の廃止を求める声も上がってますから、赤見班長と白瀬班長が組むとなると混乱が起きる可能性がある……ということですか」

 

「さすがは楼。物分りがよくて助かるな。さて、話を戻すがどうだ? 遊佐 繋吾の護衛、頼まれてくれるか?」

 

桂希は少し悩んだ様子だったが、決意を固めたのか白瀬の方に顔を向ける。

 

「状況はわかりました。私でよければ引き受けさせていただきますよ、白瀬班長」

 

「いつも悪いな楼。さっそくなんだが……先ほど偵察警備班長の宗像から出撃依頼があってな。どうやら特殊機動班主体でジェネシスのアジトに潜入するらしい。そこで、遊佐 繋吾に万が一がないように護衛としてお前にも出撃をお願いしたいのだ」

 

「わかりました。内容が内容ですから、私の部下は連れて行かない方がよさそうですかね」

 

「そうだな、単独で向かってくれ。個人で出撃するということはかなり危険な任務となろう。これを渡しておこうか」

 

白瀬は、桂希に2枚のカードを手渡した。

 

「白瀬班長。これは……?」

 

「SFS最新技術を駆使した空間移動カードだ。これをデュエルウェポンにセットすれば、一定の範囲内という制限はあるが、その場から瞬時にテレポートすることができる」

 

「つい先日、機器開発班が発表していたモノですか。1枚あたりのコストがとんでもないと聞いてましたが、こんなに大事なものいただいていいのですか?」

 

「心配するな。機器開発班の奴らには色々と理由を付けて譲ってもらった。もし任務中に非常事態があれば、そのカードを使って、お前と遊佐の二人だけでも逃げたまえ。お前のデュエルの腕は信用しているが、テロリストが何を仕掛けてくるかわからないからな」

 

「ありがとうございます。できる限り使うことないように努めます」

 

「頼もしい限りだな、はっはっは。一応当日は、周辺住宅街の警備として決闘機動班の出撃はさせるつもりだ。なにかあればそちらと連携を取ってくれたまえ」

 

「承知いたしました。それでは失礼します」

 

桂希は深々と白瀬に頭を下げると、部屋を後にした。

 

「今回の出撃。今まで見えなかったものが色々と見えてくるだろう。今から楽しみだな……」

 

白瀬は小さい声でそう呟くと、満足そうに笑みを浮かべていた。

 

 

 

ーー特殊機動班内の作戦会議を終え、自室へと戻ってきた俺は、明日の任務に向けて自らのデッキを机の上へ広げていた。

デッキの最終調整ってやつである。

 

この調整によって、明日のデュエルでの勝敗が変わってくるかもしれない。

勝敗が変わるということは、当然自分の命の危険にも関わってくることとなる。

 

一つ間違えば生死に関わるデュエル……。正直恐ろしいとは思っているが、俺は逃げるつもりはない。

なんといっても今までの俺の人生をめちゃくちゃにしてきた奴らに対する恨みをぶつける絶好の機会なんだ。

 

奴らから全てを失ってから5年間。俺は無力で力がなく、デュエルテロからもただ逃げることしかできなかった。

どんなに心の中では抗いたいと思っていても、武器もなければ動ける体力もなく、頼れる仲間もいなかったからだ。

 

だけど、今は違う。デュエルウェポンという奴らに唯一対抗できる武器があるし、志を同じくする仲間もいる。

そして、頼れる班長もいる。

 

俺の閉ざされていた5年間の日々。明日こそ切り開いて見せる!

 

そう決意を固めていると、デュエルウェポンから着信音が聞こえてくる。

渋々とデュエルウェポンを眺めるとどうやら電話の主は赤見さんのようであった。

 

「もしもし、遊佐です」

 

「夜分にすまんな、繋吾。初任務前で少し不安かなと思ってな」

 

俺のことを気にかけて電話してきてくれたみたいだ。

こういう気遣いは非常にありがたい。

 

「ありがとうございます、俺は大丈夫ですよ」

 

「それならよかった。もし何かがあっても私が守ってみせるから安心してくれよ繋吾」

 

「それは助かります。でも、自分の命は自分で守ります。テロリストの好き勝手にはさせない」

 

「頼もしい一言だ。……本当にあの人にそっくりだな……」

 

「あの人……?」

 

「いや、こちらの話だ。気にしないでくれ」

 

赤見さんの発言は少し気になるところだが、今はそれよりも明日の任務のことを考えないと。

 

「そういえば赤見さん、アジトの襲撃が久しぶりって言ってましたけど、前やった時はどういう感じだったんですか?」

 

「そうだな……。その時は結局戦うだけ戦って撤退って感じだった。相手には逃げられてしまって、こちらも負傷状態だったから追うに追えずに撤退って感じだ。そうならないためにも今回はうまく奇襲を仕掛けられればいいところだな」

 

総力戦になってしまったといったところだろうか。

それじゃ成果もそんなに得られないし、両者被害が出ただけという感じだろう。

 

「やはり、奇襲がうまくできるかが今回の鍵ってことですね」

 

「あぁ、そのとおりだ。だが一つ、引っかかっていることがある」

 

「引っかかっていること?」

 

「もしかしたらジェネシスの奴らは俺たちを引きずり出すために、わざとアジトの場所をバラしたんじゃないかなと思ってな。今まで調査をしてもジェネシスの情報はなかなか掴めなかった。それが例の小規模デュエルテロでここまで簡単に見つかった。何よりも国防軍が手薄な時期をあえて狙ってきているような気がするんだ」

 

「罠の可能性か……。赤見さんを狙う奴らなら考えそうですね」

 

「だが、逆に俺たちからすればチャンスでもある。罠にあえて乗ることで向こうの情報を掴めるのだからな。罠だとしても要は負けなければいいってわけだ」

 

仮に罠なのだとしたら、それこそ非常に危険な話だ。

確実に俺たちが不利な状況での戦闘となる可能性が高い。それでも赤見さんは勝算を見出しているというのか。

 

「罠なのだとしたら、こちらが不利なのは間違いないですよね……。それって大丈夫なんですか?」

 

「相手に手を打たれる前に奇襲に成功してしまえばこっちのものだ。スピード勝負ってやつだよ。そのためにも偵察警備班には今も現地に張り込んでもらって敵の動向は確認してもらっている」

 

なるほど。罠にハマる前になんとかしようということか。

テロリストからしてみても、いつ俺たちが襲撃に来るかはわからない。

奴らが潜入が気がついてからいかに迅速に戦いを進めていくかが勝負ということだろう。

 

「なるほど……失敗は許されないといった感じですね。奴らは……今のところ怪しい動きとかは見られない感じですか?」

 

「そうだな。例の倉庫から怪しい人間が出入りするのを何度か確認した程度で、何か迎撃の準備をしているような様子はなかったそうだ」

 

特に変わった動きはないみたいだ。

といってもアジト内で何が起きているかまでは確認できない以上、油断はできない。

 

「今のところは気づかれてないみたいですね。出たとこ勝負ってところですか」

 

「あぁ、アジト発見からそんなに日も経ってないからな。腕の見せどころだぞ? 繋吾」

 

「足は引っ張らないよう頑張ってみせますよ」

 

「ハハハ。無理だけはしてくれるなよ? じゃあ明日の日没後、よろしく頼むな」

 

「はい、赤見さんこそ無理はしないでください」

 

そうして赤見さんとの通話が終わった。

おかげさまで少し自分の中の気持ちが落ち着いたような気がする。

 

いよいよ明日。俺にとっての戦いが幕を開ける。

任務を無事遂行するためにも、気を引き締めていかないとな。

 

俺は机に並んだカードを眺めながら、引き続きデッキ調整を続けるのであった。

 



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Ep27 - 襲撃開始

ーー翌日。

 

既に日は沈み、時刻は21時を回ろうとしている。

俺は例のマンション付近の建物脇に止めた車両の中で、静かに出撃の時を待っていた。

あたりは暗く街灯もあまりないような場所だったが、夜間出撃用に支給された暗視ゴーグルのおかげで視界は良好だった。

 

「一樹、状況はどうだ?」

 

車内から聞こえるのは赤見さんの声だ。

俺たち特殊機動班は偵察警備班より定期的に現地の状況連絡を受けている。

 

「そうか、変わりないか。ありがとう」

 

赤見さんは宗像班長と思われる人との通話を終えて、デュエルウェポンから顔を遠ざける。

 

しばらくの沈黙。

こう待っている間というのは非常に時間が長く感じるな。

 

やがて、デュエルウェポンの時計は21時の時刻を表示させた。

 

「いくぞ!」

 

赤見さんはそう声を上げると、車の扉を開き、小走りで建物の壁をつたうように移動し始めた。

俺たち班員も赤見さんに続くようにして移動を始める。

 

少しずつ周りの状況を確認しながら進んでいくと、やがてマンションの裏口にあたる細い通路に差し掛かった。

俺たちは姿勢を低くし、中腰の姿勢でその通路を突き進む。

すると、今回の目標である大きな倉庫へとたどり着いた。

 

偵察警備班の情報のおかげで、ここまでは敵に見つかることもなく順調に進むことができた。

このままアジトまで侵入できれば、うまいこと先手を打てそうだな。

 

この倉庫の正面には大きな扉があり、固く閉ざされていた。

郷田さんが開けるべく倉庫の扉に手をかけたが、どうやら鍵がかかっているようで開かない様子だった。

 

「鍵かよ……。無理やりこじ開けてやるかぁ!」

 

「待て、郷田。これだ」

 

扉に向かって今にもタックルしそうな郷田さんを赤見さんが止めると、腰に装着されたデッキホルダーから1枚のカードを取り出した。

 

「なんだそのカードは?」

 

「これは【キーメイス】のカードだ。このカードには閉ざされているものを開ける力が宿っている。来い、【キーメイス】」

 

赤見さんが【キーメイス】のカードをデュエルウェポンにセットすると、大きな鍵を持ったピエロのような精霊が出現した。

 

「この扉を開けられるか? 【キーメイス】」

 

その言葉を聞いた【キーメイス】は小さく頷くと、自らの持つ鍵を扉に向けてかざした。

すると、その扉から開錠したような音がし、ゆっくりと扉が開き始める。

 

すごい、デュエルウェポンを駆使することによって、ただ戦うだけじゃなくてこういうこともできるのか。

 

「よし、すまなかったな【キーメイス】。先を急ぐぞ」

 

赤見さんはデュエルウェポンから【キーメイス】のカードを取り、再びデッキホルダーへと戻すと、倉庫の中に入り込んだ。

続けて俺たちも倉庫の中へと侵入する。

 

中にはスコップや長靴といったものから、大きな棚に積み込まれたタイヤ等、様々なものが収納されていた。

一見抜け道のようなものは見受けられないが、一体どこに隠されているんだろう。

 

気が付くと班員のみんなは近くの棚を調べたり、置かれている荷物を引っくり返してみたりと倉庫内の調査を始めていた。

 

「遊佐くん。いつまでぼけっとしているのですか。早く手伝ってください」

 

「あ、悪い」

 

結衣に怒られながら俺も倉庫内の調査を始めた。

なんの変哲もない倉庫で、置いてあるものも特に変わったものはない。

仮に抜け道があるとしたら地下しかないだろうから、床に着目してみるが棚をどかしたりしても特に怪しい場所は見つからない。

もしかすると抜け道なんてものはないんじゃないか……?

徐々に俺の中で不安な気持ちが高まってきていた。

 

「赤見班長。どこにも抜け道なんてものないっすよ。アジトなんてものはない可能性は……」

 

最初に声を上げたのは颯だ。倉庫内は大体探し終わったし、そう思うのも無理はない。

 

「確かになぁ。これだけ探してもねぇんじゃこの倉庫はハズレかもしれねぇなあ。どうする赤見?」

 

「そうだな……。まだ見てないところはないか?」

 

まだ見ていないところか。この倉庫内は大体見尽くしたような気はするが。

 

「そうは言っても地下通路になってそうな怪しい場所は全部探し尽くしたぜ? あとどこを見りゃいいってんだ」

 

郷田さんの言うとおり床は大体調べ尽くした気がする。いや待てよ、地下通路とは言え必ず床になにかがあるとは限らないか。

俺はふとそう思い天井を見上げる。

すると倉庫の入口にあたる天井部分に、少しだけ色の違う部分があった。

 

「あの天井、妙だな」

 

ふと疑問を口にしてみると、みんなも天井を見上げ始めた。

 

「他の部分と少しだけ色が違う……? 気になりますね。では……来てください【ゴーストリックの駄天使】」

 

結衣はデュエルウェポンに【ゴーストリックの駄天使】をセットすると、ゴシックな服装をした天使が悪戯な笑みを浮かべながら出現した。

 

「あの天井について調べてください」

 

結衣がそう言うと、【ゴーストリックの駄天使】は翼を羽ばたかせながらその天井へと近づく。

【ゴーストリックの駄天使】はしばらくその天井を眺めていたが、にやりと笑みを浮かべるとその色が変わっている部分に手を触れる。

すると、その色が変わっている箇所が凹み、それと同時に倉庫の床の一部が動き始めた。

 

「なんだ……これは……!」

 

思わず驚きの声を上げてしまう。倉庫にここまでの仕掛けが用意されていたとは……。

やがて動きが止まると、そこには地下へ続く階段が続いていた。

 

「なるほど。そういうカラクリだったか。繋吾、結衣。よくやった!」

 

「いえ、それにしても手の込んだことしてくれますね」

 

「そうだな。だが、本番はここからだ。先に進むぞ!」

 

赤見さんを先頭にして、アジトと思われる地下通路へ俺たちは進んで行く。

 

見慣れない地下道、そしてアジトへの潜入という現実にどうも緊張してしまう。

俺の額からは自然と汗が流れているのが分かった。

 

周囲を警戒しながら20mくらい進んだ頃だろうか。やがて階段がおわり、今度は長い通路が見えてきた。

 

通路に差し掛かると電灯が設置されはじめ、暗視ゴーグルがなくても辺りが見渡せるようになってきた。

俺は暗視ゴーグルを取り外しながらこの通路を見渡してみる。

全体的に薄暗く、冷たい鉄の壁で覆われた通路。そして、一定の間隔で設置された蛍光灯。

まるでちょっとした刑務所のような……ずっとこんなところにいたら、少し気でもおかしくなりそうな場所だった。

 

できるだけ音を立てないように慎重に進んでいたが、通路の曲がり角へと差し掛かかった。

歩みを止めると、先導している赤見さんが曲がり角から先を覗きはじめる。

 

「ここから先にまず守衛室のようなものがあるな。そして、そこから先には通路の両側に部屋が張り巡らされている感じだ」

 

「おっし……!」

 

郷田さんが先に飛び出そうとするが、赤見さんがそれを無理やり止める。

 

「お、おい赤ーー」

 

「静かにしろ。頼むから今はまだ動くな郷田」

 

赤見さんは小声で郷田さんへ低い声で言った。

 

「あぁ……」

 

郷田さんは残念そうに呟くと、一歩後ろへと下がった。

 

「まずは私が守衛室の無力化を行う。終わったら合図を出すからその後は二手に分かれてそれぞれ左右の部屋の無力化を順次行っていこう。颯と結衣。通路の右側の部屋を頼めるか?」

 

赤見さんの問いに結衣と颯は無言で頷いた。

さすがに颯のやつもこういう時はいつものお調子モードではいかないようだ。

 

「私と繋吾は左側の部屋担当だ。合図が出たら郷田。好きにしていいぞ」

 

あれ、郷田さんって俺たちと同じグループじゃなかったのか。

今の発言だとフリーで行動していいよという風に聞こえたが……。

 

「わかったよ。ちゃちゃっとやってこいよ赤見」

 

「あぁ。それじゃあ行ってくる」

 

赤見さんはそう言うと低姿勢で駆け出していき、守衛室に接近し始めた。

曲がり角から赤見さんの様子を眺めていると、デュエルウェポンに3枚のカードをセットし始める。

 

するとそのうちの2枚、先日赤見さんが配っていた【しびれ薬】と俺を散々痛みつけてくれた【バスター・ランチャー】が出現した。

あの【バスター・ランチャー】、赤見さんのお気に入りなのだろうか。

 

すると、具現化した【しびれ薬】を【バスター・ランチャー】へ設置し始め、そのままその銃身を守衛室の窓口部へ置いた。

 

「よお、少しだけしびれてもらうぜ」

 

赤見さんはそう言いながら【バスター・ランチャー】を派手に打ち始めた。

【バスター・ランチャー】の発射スピードは尋常じゃない。避けるのは容易ではないのは、何発も受け続けた俺が一番よく知っている。

中にいるテロリストが悲鳴を上げる間もなく、【バスター・ランチャー】の発射音だけが響き渡る。

それと同時に守衛室の方からは蒸発しているような音が聞こえていた。きっと【しびれ薬】の音だろう。

 

一通り【バスター・ランチャー】を打ち終えた赤見さんは、1枚の罠カードを発動させると、守衛室の扉を開け中へと侵入を始めた。

あのカードは……【パルス・ボム】だろうか。あのカードを使えば……もしかすると電子機器を無力化することのできる電磁パルスを発生させることができるのかもしれない。監視カメラ等を無力化するのが狙いだろうか。

 

赤見さんが守衛室の中に入ってしばらく経った後、ここでデュエルウェポンを通じて赤見さんより連絡が入った。

 

「守衛室の無力化を完了。監視システム等は全て無力化した。突入を開始してくれ」

 

その連絡を聞き、俺たちは曲がり角から飛び出し通路を小走りで進み出した。

 

「おっしゃー! 派手に暴れてやるぜえ!」

 

郷田さんは俺たちを置いて勢いよく通路の奥の方へと向かっていってしまった。

これは作戦的には手前から順次やっていったほうがいいような気がしなくもないが……。

 

「あぁ繋吾。郷田のやつはいつもあんな感じなんだ。気にするなよ」

 

「そうなのか……」

 

颯が郷田さんの様子を不思議そうに見ていた俺に言った。

なるほど。郷田さんは猪突猛進なタイプなのかもしれないな。

 

「遊佐くん。赤見さんがついているとは言え、無茶は禁物ですよ。気をつけてください」

 

「あぁ、結衣、颯。お前たちも気をつけてくれ」

 

「言われるまでもねぇよ! んじゃあな!」

 

俺は結衣と颯に手を振ると、守衛室から出てきた赤見さんと合流した。

 

「繋吾。俺たちは左側の部屋を手前から順番に入っていき一つずつ無力化していくぞ。【しびれ薬】で手におえなさそうだったら、他のカードも駆使して対応してくれ」

 

「了解しました」

 

一応、デュエルはできるだけ避けろというのが赤見さんの作戦だったから、デュエル以外用のデッキといえばいいのかな。カードの束も用意はしてきた。

うまく相手に当てられるかが心配なところだが、頑張るしかないな。

 

「最初はあそこの部屋だ。いくぞ!」

 

守衛室から10mくらい離れたところに扉があった。まずはあそこの部屋からのようだ。

走る赤見さんの後に続き、俺はデュエルウェポンを構えながら後を追う。

 

そして、扉にたどり着くと俺と赤見さんはその扉に張り付く。

 

「合図とともに突撃するぞ。準備はいいか、繋吾?」

 

「はい」

 

手には既に【しびれ薬】のカードを準備してある。

やることは、突入と同時にカードをセットして、具現化した【しびれ薬】を相手に投げつける。

うまく当てられるかはわからないが、やってみるしかない。

 

「いくぞ!」

 

赤見さんが合図とともに力強く扉を開く。

中には人が1名……2名くらいだろうか。思ったより少なかった。

 

俺はすかさず【しびれ薬】をデュエルウェポンへセットすると、緑色の液体が入った瓶が目の前に出現した。

その瓶の蓋を外し、相手のテロリストへと狙いを定める。

思いっきり力を入れて投げようとしたが、投げる瞬間瓶から手が滑ってしまい、あさっての方向へと【しびれ薬】は飛んでいってしまった。

 

「あ……」

 

思わず呆気ない声を出してしまう。

まずい。

 

周囲を確認すると赤見さんは具現化させた【しびれ薬】を無事1名のテロリストに当てていたようだ。

だが、俺が狙っていたテロリストは俺たちの様子に気がつき、今にもデュエルウェポンを構えようとしていた。

デュエルウェポンの準備を整えられたら【しびれ薬】の作戦は防がれてしまう。

これは戦闘は免れないか……。

 

「罠カード【仕込みマシンガン】!」

 

俺がそんなことを考えていると、隣の赤見さんが一枚の罠カードを発動した。

すると、赤見さんの足元からカラフルな色をした銃火器が出現し、テロリストへと発泡を始める。

 

「ぐっぐああああ!」

 

まだ完全にはデュエルウェポンの準備が完了していなかったせいか、その銃弾はテロリストへと直撃しているようだった。

彼の悲鳴の直後、赤見さんが俺に向かって叫んでくる。

 

「繋吾! 今だ!」

 

俺はその声を聞き頷くと、再び【しびれ薬】のカードをセットし、出現した【しびれ薬】の瓶をテロリストへと投げつけた。

今度はうまく頭部へ直撃し、液体がテロリストの体へと注がれる。

 

「う、うああ……」

 

テロリストはうめき声のようなものを上げていたが、それ以上動く様子はなかった。

なんとかなったようだ。

 

「ふぅ、危ないところだったな繋吾」

 

赤見さんは安心したように言った。

 

「すみません。俺が上手く当てられなかったせいで」

 

「いや、気にするな。いきなりで焦ってしまうのは誰にだってある。だが、まだ序の口だ。ここからは体力勝負だぞ?」

 

このアジトの規模がわからないが、入口から順に制圧していくとなるとかなりの時間を要するだろう。

それまでくたばらないようにしないとな。

 

「はい、精一杯やりますよ」

 

「頼んだぞ? では先に行こうか」

 

再び俺たちは通路へと出ると次の部屋をめがけて足を進めた。

 

 

ーー赤見さんと共に3つほど部屋を回り、先ほどと同じように無力化を行った後、俺たちは再び通路を歩いていた。

無力化したうちのひと部屋は先ほどと同様に2名のテロリストがいたが、残りの部屋は中に誰もいなかった。

 

意外とそんなに使われていないアジトなのか、それとも元々そんなに構成員がいないのか。

想像していたよりも小規模な印象だった。

 

「赤見さん、随分とテロリストが少ないみたいですが……」

 

「そうだな。小規模なアジトなのか……それとも俺たちの襲撃に備えて既に退避していたか……」

 

事前に逃げているという可能性は考えられる。

しかし、それならば赤見さんをおびき出すためという目的とは矛盾するような気はする。

俺たちをおびき出して罠にはめるのであれば、人数が多い方がいいはずだ。

 

「それだと赤見さんを狙っている動機と矛盾します。もしかしたら、奥にたくさん待ち構えているとか……ですかね?」

 

「そうだな……もしかしたら既に敵の罠にハマってしまっている可能性は十分にある。用心するに越したことはないな。さて……どうやらここで分かれ道みたいだ」

 

そんな会話をしながら歩いているとT字路に差し掛かった。

右側は階段。左側は短めの通路があり、突き当たりには扉があった。

 

「よし、そろそろ連絡を入れておくか」

 

赤見さんはデュエルウェポンで音声通信を始めた。

おそらく宗像班長や紅谷班長だろう。

 

「後続班、こちら先行部隊赤見だ。地下1階の無力化がある程度終了した。今のところ作戦継続に異常はない」

 

赤見さんがそう言うと、デュエルウェポンから応答の声がした。

そろそろ第二部隊の出撃が始まるのだろうか。

 

「さて、待たしたな繋吾。どっちから進むか……」

 

「そうですね……」

 

俺たちが悩んでいると後方から人の気配がして振り返る。

結衣と颯の姿だった。

 

「おぉ、お前たちも無事おわったか」

 

「はい! 敵もそんなにいなかったし余裕っすよ! 赤見班長!」

 

颯がガッツポーズをしながら言った。

やはり颯の方もテロリストの数が少なかったみたいだ。

 

「遊佐くんも無事になによりですね」

 

「まぁ……こんなところで死にたくないからな」

 

実際、一度攻撃に失敗してしまっている以上、思わず苦笑いをしてしまう。

 

「にしてもここで分かれ道ですか……。赤見班長どうされますか?」

 

「では二手に分かれる……」

 

赤見さんがそう言おうとした時だった。

突如、階段の先の方から大きな爆発音のようなものが聞こえてきた。

 

「これは……もしかして……」

 

赤見さんは、急に真顔になって階段の方を見つめる。

 

「どうしたんですか? 赤見さん」

 

「郷田のやつ……随分と早いじゃないか……」

 

「郷田さん……?」

 

そういえば郷田さんの姿が見当たらない。

既に階段で地下2階へ向かっている可能性が高いだろう。

 

すると同時に警報のような音が鳴り出した。

 

「くっ、完全に襲撃がばれたか。仕方がない。すぐに助けにーー」

 

赤見さんが階段へ向かって走ろうとすると、二択で迷っていた通路側の扉が開き、中からテロリストが出現し始めた。

その数は10人前後くらいだろうか。

 

「おいおい……聞いてねぇぞ! どうするんすかこれ!」

 

「落ち着いてください颯くん。やるしかないってことですよ」

 

結衣はデュエルウェポンを構えると、カードをセットしテロリストへ向かって攻撃を始めていた。

 

「くっ……仕方ない。結衣、颯。ここを頼めるか? すぐに宗像班長達の第二部隊が来る! それまで持ちこたえてくれ!」

 

「わかりました。赤見班長は……?」

 

「私は繋吾と共に郷田の救助に向かう。行けるか? 繋吾」

 

「はい! 任せてください」

 

「二人共、何かあったらすぐ連絡してくれよ! 幸運を祈る」

 

そう言い赤見さんは階段へと駆け込んでいった。

俺もついていくべく階段へと向かうが、一度結衣達の様子を見るべく振り返る。

 

「私たちの心配は無用です。早く行ってください遊佐くん!」

 

「いいから繋吾! 郷田の奴を助けに行けえ!」

 

「わかった。二人共、頼んだ!」

 

俺は二人にそう告げ、階段を駆け抜けていった。

 



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Ep28 - 包囲

赤見さんの後を追い階段を駆けて行くと、先ほどと同様に長い通路があり、通路の両側張り巡らされたように部屋へ通じる扉が設置されていた。

 

だが、先ほどと違いその大半の扉は既に開かれており、部屋を覗いても人の姿はなかった。

先ほどの警報のようなもので、この場でなにかがあったのは間違いない。

 

周囲を警戒しながら赤見さんと一緒に通路を駆け抜けていくが、なかなか郷田さんの姿は見えなかった。

 

「さてと……どこいったもんかな……」

 

赤見さんは目を細めながら呟いた。

 

「郷田さんは……いつも一人で行動してしまう感じなんですか?」

 

「あぁそうだ。任務となると作戦通りに動けず、大体持ち前の力を駆使して突撃するんだ。そのせいかあいつは決闘機動班を追放されてな。その時に私の独断で特殊機動班に所属させた」

 

SFSの任務において、作戦行動が取れないのは致命的だ。

特に今回のような奇襲だと、一気に作戦失敗となってしまう可能性もある。

 

「そうだったんですか……。赤見さんはなぜ郷田さんのことを特殊機動班に……?」

 

「まぁ……昔な。特殊機動班で私以外全員死んでしまったことがあったんだ。いわば特殊機動班廃止の危機だった。郷田に入ってもらったのはその時かな」

 

なるほど。最初は、特殊機動班存続のためにも仕方なく入ってもらった感じだったのかもしれない。

それにしてもよほど危険な任務だったのだろうな。赤見さん以外の人が全滅してしまうだなんて。

 

「それでも、あいつは根はすごくいいやつでな。特殊機動班が大変な時期は色々と世話になった。あいつがいてくれたおかげで特殊機動班は今でも活動できている。だからどんなめちゃくちゃなことをやられても私にとっては郷田は大事な存在だし、決して裏切るわけにはいかないんだよ」

 

かつての特殊機動班にも辛い時期があったんだな……。

郷田さんの人柄のよさについては、俺もよく知っているつもりだ。

 

「だからこそ、今回も見捨てるわけにはいきませんね」

 

「当然だ! 繋吾も無茶はするなよ?」

 

そんな話をしながら通路を走っていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「【大地の騎士ガイアナイト】でダイレクトアタック! くたばりやがれ! "スプリント・スピア!"」

 

これは郷田さんの声だ!

モンスターの名前からしても間違いない。

 

「こっちだ! 繋吾」

 

赤見さんが郷田さんの声がする部屋へと走っていく。

そして、その部屋へ入り込むと、中には郷田さんがおり、その周囲には5名程のテロリストが包囲していた。

さらに、4名ほどが既に地面に横たわっていた。

 

「はぁ……はぁ……おせえじゃねぇか……! 赤見!」

 

俺たちの存在に気づいたのか、郷田さんは少し息を切らしながら声をかけてきた。

 

「ったく。敵地に突撃なんて無茶なことしてくれる」

 

赤見さんは呆れたように言いながらデュエルウェポンを構えた。

 

「繋吾。ここは仕方ない。デュエルでカタをつけるぞ」

 

「デュエルで……? 大丈夫なんですか?」

 

「郷田が包囲されている状況だ。下手に交戦すれば郷田が危ない。デュエルで片付けた方が安全だろう」

 

「わかりました」

 

少なくとも連戦は免れないだろう。

だが、要は負けなければいい話だ。やってやろうじゃないか。

 

俺はテロリスト達へ接近すると、強制デュエルモードのスイッチを押す。

相手もどうやらやる気満々のようで、逃げる素振りは一切見せなかった。

 

「悪いが、ここで死んでもらうぞ!」

 

「イキがいいようだな坊主。そこまで死に急ぎたいならここで殺してやろう」

 

テロリストが俺のことを見ながらにやにやと笑い始める。

その様子を見ていると少しずつ俺の中の憎しみの闘志が燃え始める。

 

「甘く見るなよ……。いいからとっとと構えろ!」

 

「ふん、いくぞ」

 

「デュエル!」

 

繋吾 LP4000 手札5

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー 

ーーーーー

ーーーーー

テロリスト LP4000 手札5

 

先攻は俺だ。

相手が相手だけに容赦なく行かせてもらおう。

 

「俺のターン、魔法カード【ワン・フォー・ワン】を発動。手札の【ドッペル・ウォリアー】を墓地へ送り、デッキから【ジェット・シンクロン】を特殊召喚」

 

ーーー

【ジェット・シンクロン】☆1 炎 機械 チューナー ②

DEF/0

ーーー

 

「さらに、チューナーモンスター【ジャンク・シンクロン】を召喚。このカードが召喚に成功した時、墓地からレベル2以下のモンスター1体を守備表示で特殊召喚する。来てくれ、【ドッペル・ウォリアー】」

 

ーーー

【ジャンク・シンクロン】☆3 闇 戦士 チューナー ③

ATK/1300

ーーー

【ドッペル・ウォリアー】☆2 闇 戦士 ④

DEF/800

ーーー

 

「レベル2の【ドッペル・ウォリアー】にレベル3の【ジャンク・シンクロン】をチューニング! "生誕する意思の力よ! 星々の呼応の下に具象せよ! シンクロ召喚! 来てくれ、【源竜星ーボウテンコウ】!"」

 

ーーー

【源竜星ーボウテンコウ】☆5 光 幻竜 ①

DEF/2800

ーーー

 

「【源竜星ーボウテンコウ】の効果発動、デッキから"竜星"カードを1枚手札に加える。これで【竜星の軌跡】手札に。さらに【ドッペル・ウォリアー】の効果でシンクロ素材となった時、場に【ドッペル・トークン】2体を特殊召喚する」

 

ーーー

【ドッペル・トークン】☆1 闇 戦士 ③と④

ATK/400

ーーー

 

「さらに、レベル1の【ドッペル・トークン】2体に、レベル5の【源竜星ーボウテンコウ】をチューニング! "邪悪なる魂より目覚めし争心よ! 星々の呼応の下に具象せよ! シンクロ召喚! 来てくれ、【邪竜星ーガイザー】!"」

 

ーーー

【邪竜星ーガイザー】✩7 闇 幻竜 ①

ATK/2600

ーーー

 

黒い稲妻を身に纏い、【邪竜星ーガイザー】はテロリストへ向かって咆哮を上げた。

 

「ふん……」

 

テロリストはその様子を見ても動じずに静かに俺のデュエルを見ていた。

なんだか気味が悪い。

 

「さらに、フィールドを離れた【ボウテンコウ】の効果で、デッキから【光竜星ーリフン】を守備表示で特殊召喚!」

 

ーーー

【光竜星ーリフン】☆1 光 幻竜 チューナー ③

DEF/0

ーーー

 

「俺はカードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

【邪竜星ーガイザー】は相手の効果の対象にならない効果を持っている。

攻撃力もそれなりに高い。

次のターン相手がもし守りに入っても、効果で相手フィールドのカードを破壊しながら攻めることもできる。

我ながら珍しく初ターンからいい布陣を整えられたなと思う。

相手が相手だ。俺は一切の容赦をするつもりはない。一気にケリをつけてやる。

 

繋吾 LP4000 手札1

ーー裏裏ー

ーモモーー

 シ ー 

ーーーーー

ーーーーー

テロリスト LP4000 手札5

 

「そんな程度か?」

 

テロリストは俺がターンエンドを宣言すると、ようやく俺に向かって喋ってきた。

まるで俺を挑発するかのような発言だ。

 

「つべこべ言わずにかかってこい」

 

「ふん、私のターン。ドロー。魔法カード【ドラゴン・目覚めの旋律】を発動。手札の【ミンゲイ・ドラゴン】を墓地へ送り、デッキから攻撃力3000以上で守備力2500以下のドラゴン族2体を手札に加える。デッキから【ダーク・ホルス・ドラゴン】2体を手札に加える」

 

一気に2体の大型ドラゴン族モンスターを手札に加えてきた。

しかし、最上級モンスターであるゆえにすぐに場には出せないはずだ。一体何が狙いなんだろう。

 

「坊主。すぐにお望みどおりあの世に送ってやるよ」

 

「お前と会話をするつもりはない。とっとと進めろ」

 

「ちっ、私は手札の【ダーク・ホルス・ドラゴン】3体を墓地へ送り、手札から【モンタージュ・ドラゴン】を特殊召喚!」

 

ーーー

【モンタージュ・ドラゴン】☆8 地 ドラゴン ③

ATK/???

ーーー

 

三本の首を持つ青色のスマートな姿をした竜が、その三つ首を揃えてこちらへ咆哮を上げる。

見るからに強力そうなモンスターだが、その分手札を4枚も使って出している。その消費はかなりのものだろう。

 

「このカードの攻撃力は墓地へ送ったモンスターのレベル×300倍の攻撃力となる。墓地へ送った【ダーク・ホルス・ドラゴン】のレベルは8。つまり、24×300ポイントの攻撃力となる」

 

「なに……!?」

 

【モンタージュ・ドラゴン】

ATK/???→ATK/7200

 

攻撃力7200だと……。尋常じゃない!

あの攻撃を受けでもしたら、俺のライフポイントは一瞬でなくなってしまう。

奴のデッキは、どんな消費をしてでも1ターンでデュエルを終わらせる……ワンターンキル特化デッキということか……!

想定外のデュエルに少し焦りを感じるが、俺には伏せカードがある。そう簡単に負けてたまるか。

 

「ふん。一撃で終わらせてやろう。バトルだ。【モンタージュ・ドラゴン】で【邪竜星ーガイザー】を攻撃! "パワー・コラージュ!"」

 

【モンタージュ・ドラゴン】

ATK/7200

【邪竜星ーガイザー】

ATK/2600

 

青き三つ首の口元にエネルギーのようなものが充填されると、その三方向より光線のようなものが【邪竜星ーガイザー】に向けて発射された。

 

「罠カード【デストラクト・ポーション】発動! 場のモンスター1体を破壊して、その攻撃力分ライフポイントを回復する! 俺は【ガイザー】を対象に発動!」

 

これで直撃は免れることができる。

残りの俺のモンスターは守備表示だし、いくら高い攻撃力を持っていようとダメージを受ける心配はない。

 

「随分と甘いようだな? 私は手札からカウンター罠【レッド・リブート】を発動。ライフポイントを半分支払うことでこのカードは手札から発動できる。相手の罠カードの発動を無効にし、再度セット状態へ戻す」

 

「手札からカウンター罠だと!?」

 

ライフポイント半分という代償は大きいが、一気に勝負を決められるのならいくら代償があろうと軽いものだ。

【デストラクト・ポーション】が止められてしまえば、攻撃が直撃してしまう。

 

「その後、【レッド・リブート】の効果で相手はデッキから罠カードを一枚選択し、セットできる。だが、代わりにこのターンお前は一切の罠カードを発動できなくなるがな」

 

デッキから罠カードを伏せられるが、このターンもう罠を使えないらしい。

こちらの罠を封じ、攻撃が通ってしまえば、奴の思惑どおりワンターンキルが成立してしまう。

 

「くっ……俺はデッキから【ブレイクスルー・スキル】をセットする……」

 

「無意味だ。死ねぇ!」

 

テロリストの叫び声と共に、【モンタージュ・ドラゴン】の攻撃が【邪竜星ーガイザー】へと直撃する。

 

俺はこれから襲いかかってくるであろう衝撃に備え、自らの腕で身を守るべく顔を覆った。

その直後、大きな衝撃が俺の体を襲い、気が付くと体は宙を浮いていた。

 

しばらくした後に背中から部屋の壁に衝突したような感覚がし、その場へ落下した。

 

尋常じゃない痛みが俺の体を襲う。

壁に衝突しただけじゃない。

攻撃力7200ものモンスターの攻撃が放たれたのだ。その力は並みのモンスターとは違う。

あまりの痛みに俺はしばらくその場から動けないでいた。

 

「ふん、ワンターンキルだ。口ほどでもない奴だな」

 

「……だ……」

 

なんとか声を出そうとするが、かすれてしまいうまく出せない。

ゆっくりと深呼吸をして息を整えると少し体が楽になってきた。

 

「ん……?」

 

「まだ……だ」

 

「なに……まさかお前のライフポイントは……」

 

"繋吾 LP200"

 

「自分のモンスターをよく見てみろ……」

 

奴は俺の言葉を聞き、自らのモンスターを眺める。

 

【モンタージュ・ドラゴン】

ATK/6400

 

「攻撃力が下がっているだと!?」

 

「戦闘を行ったダメージステップ中に俺は罠カードではなく"速攻魔法"【禁じられた聖槍】を発動していた。このカードは場のモンスター1体の攻撃力を800ポイント下げる効果がある」

 

「それで【モンタージュ・ドラゴン】の攻撃力を下げていたということか……!」

 

本当に間一髪といったところだった。

奴が手札から墓地へ送っていたモンスターのレベルがあと1でも高ければ俺は負けていた。

 

「ちっ、しぶといやつだ。だが、ライフポイントは風前の灯。お前が死ぬことに変わりはない」

 

「そうはいかねぇよ……。破壊された【邪竜星ーガイザー】の効果発動。デッキから幻竜族モンスター1体を特殊召喚する。俺は【炎竜星ーシュンゲイ】を守備表示で特殊召喚」

 

ーーー

【炎竜星ーシュンゲイ】☆4 炎 幻竜

DEF/0

ーーー

 

「ふん、私はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

繋吾 LP200 手札1

ー裏裏ーー

ーモモモー

 ー ー 

ーーモーー

ーー裏ーー

テロリスト LP2000 手札0

 

奴は余裕そうな笑みを浮かべながらデュエルウェポンを構えている。

すっかり俺を倒した気になっているみたいだ。

 

大きなダメージを負ってはしまったが、こんなところでくたばるわけにはいかない。

あんな下品な笑みを浮かべているテロリストなんかに負けてたまるか。

 

あいつもそうだ。俺を痛みつけてもなんとも思っちゃいない。

むしろ自らの攻撃で相手を痛みつけることに楽しみすら感じていそうにも思える。

そんな考えのやつを生かしておけるか……!

 

「……俺のターン。ドローッ!」

 

俺はデッキから力強くカードを引き、奴を睨みつける。

 

「くたばるのはお前だ! 俺は罠カード【ブレイクスルー・スキル】を発動。相手モンスター1体の効果をエンドフェイズ時まで無効にする! 対象はもちろん【モンタージュ・ドラゴン】」

 

「先ほど【レッド・リブート】の効果で伏せたカードか……だが、無駄だ。カウンター罠【神の宣告】を発動! 私のライフポイントを半分にすることであらゆる魔法、罠カードの発動を無効にし、破壊する」

 

テロリスト LP2000→1000

 

「くっ……」

 

俺が発動した【ブレイクスルー・スキル】は無効化されてしまい墓地へ送られる。

【モンタージュ・ドラゴン】の効果を無効にすれば攻撃力が0にできたが、その目論見は失敗したようだ。

 

「所詮、お前の場には弱小モンスターしかいない。この攻撃力7200の【モンタージュ・ドラゴン】に勝てるわけがないだろう。とっとと諦めて死を受け入れろ」

 

「黙れ! 負けてもいないのに、諦める馬鹿がどこにいる! 来てくれ、心を繋ぐサーキット!」

 

「まだやるつもりか坊主」

 

「あいにくお前なんかに負けるつもりはない。俺は場の【光竜星ーリフン】1体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、まずはこいつだ。【リンクリボー】!」

 

ーーー

【リンクリボー】リンク1 闇 サイバース ①

ATK/300 下

ーーー

 

「さらに【ジェット・シンクロン】と【炎竜星ーシュンゲイ】の2体をリンクマーカーにセット。サーキット・コンバイン! リンク召喚、続けて【コード・トーカー】!」

 

ーーー

【コード・トーカー】リンク2 闇 サイバース ②

ATK/1300→1800 上 下

ーーー

 

「そして最後に、【リンクリボー】と【コード・トーカー】の2体をリンクマーカーにセット。サーキット・コンバイン! 正しき心を導く守護の神星! 今ここに絆を繋ぐ閃光となれ! リンク召喚! リンク3、【セフィラ・メタトロン】!」

 

ーーー

【セフィラ・メタトロン】リンク3 光 幻竜 ①

ATK/2500 左下 下 右下

ーーー

 

神々しき鎧を身に纏い、黄金色に輝く騎士モンスターが出現する。

【セフィラ・メタトロン】を出すことはできたが、このモンスターの攻撃力じゃ【モンタージュ・ドラゴン】は倒せない。

このカードにかけるか……。

 

「俺は魔法カード【竜星の軌跡】を発動。墓地の竜星モンスターである【リフン】、【ガイザー】、【ボウテンコウ】の3体をデッキに戻し、新たに2枚のカードをドローする」

 

「ふん、所詮はドロー頼みか」

 

相手になんと言われようとここでくたばるわけにはいかない。

俺の……デュエルを舐めるなよ……ジェネシス!

 

俺は心の中で強く念じながらデッキからカードを2枚ドローする。

 

「……俺は墓地から【ジェット・シンクロン】の効果を発動。手札の【光竜星ーリフン】を捨てて、墓地から特殊召喚。さらに墓地からモンスターが特殊召喚されたことで、手札の【ドッペル・ウォリアー】の効果によって、自身を特殊召喚する!」

 

ーーー

【ジェット・シンクロン】☆1 炎 機械 ②

DEF/0

ーーー

【ドッペル・ウォリアー】☆2 闇 戦士 ①

ATK/800

ーーー

 

「そして、レベル2の【ドッペル・ウォリアー】にレベル1の【ジェット・シンクロン】をチューニング! "霞漂う両翼翻し、烈風を巻き起こせ! シンクロ召喚! 来てくれ、【霞鳥クラウソラス】!"」

 

ーーー

【霞鳥クラウソラス】☆3 風 鳥獣族 ②

DEF/2300

ーーー

 

黒く光る大きな鉤爪を持つ緑色をした大きな怪鳥が出現し、その大きな翼を羽ばたかせる。

 

「なんだ……こいつは」

 

「【霞鳥クラウソラス】の効果発動! 1ターンに1度、相手モンスター1体の効果を無効にし、攻撃力を0にする! 対象は【モンタージュ・ドラゴン】!」

 

「なんだと……!?」

 

【霞鳥クラウソラス】は大きな翼で竜巻を発生させると、その竜巻は【モンタージュ・ドラゴン】を包み込み始める。

やがて、竜巻が大人しくなると、そこには脱力した【モンタージュ・ドラゴン】の姿があった。

 

【モンタージュ・ドラゴン】

ATK/7200→ATK/0

 

「わたしの……【モンタージュ・ドラゴン】が……!」

 

「力に溺れ、善悪の判断すらできないお前には罪を受けてもらう。バトルだ、【セフィラ・メタトロン】で【モンタージュ・ドラゴン】を攻撃! "ヴェンジェンス・ディバイニング!"」

 

【セフィラ・メタトロン】は右腕に装備されている結晶の槍を構えると、低空飛行しながら【モンタージュ・ドラゴン】へ接近し、そのままその体を貫いた。

 

「馬鹿な……。こんなはずでは……!」

 

後ずさりしているテロリストに対して、容赦なく【セフィラ・メタトロン】による攻撃のダメージが襲いかかった。

 

「ぐおあああ!」

 

テロリスト LP1000→LP0

 

無事に勝ったみたいだ。

大きなダメージを負ってしまったが、勝てさえすれば大丈夫だ。

少し体は痛むが、任務続行には問題はなかった。

 

それにしてもやはり奴らはデュエルウェポンという力に溺れ、自らの力を過信しているようだった。

それゆえに自らの欲望に飲まれ、破壊行動を行っているに違いないだろう。

 

そんな身勝手な欲望のためにどれだけの人が悲しんでいるか。

今日からだ。俺がここに来たからには必ず成果を残してやる……!

 

倒したテロリストを睨みつけていると、突然デュエルウェポンの画面にデュエルモードの表示が映された。

 

「おいおい、よそ見してんじゃねぇよ。多少強いからっていい気になるなよ?」

 

どうやら新たなるテロリストがデュエルを仕掛けてきたみたいだ。

そりゃそうだろう。相手の方が人数は多いし、連戦に持ち込んで弱った俺を叩こうという算段なのだろう。

いいだろう、上等じゃないか。気が済むまで相手になってやる。

 

「次はお前か。言われなくてもすぐに相手になってやるよ」

 

俺はデュエルを仕掛けてきたテロリストを睨みつけながら強い口調で言った。

 

「強がりやがって……。叩き潰してやるよお!」

 

相手もやる気満々のようだ。

こんなデュエル、すぐに終わらせてやる。

 

「デュエル!」

 

そうして、俺は続けてデュエルを行うのであった。



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Ep29 - 思わぬ増援

ーーー赤見班長と繋吾の二人を見送った結衣と颯の二人は、迫り来るテロリスト達を相手に苦戦を強いられていた。

多くのモンスターを召喚、そして魔法、罠カードを駆使して戦ってはいたものの、立て続けに迫る敵の攻撃に徐々に押され始める。

なんといっても人数的には相手の方が多いため、いくら優秀な戦闘能力を秘めていたとしても、カードの消耗と体の疲弊だけは避けられなかった。

 

「いけ、【ダークネクロフィア】! 奴のモンスターを破壊せよ!」

 

「くっ、【ジェムナイト・パーズ】……!」

 

禍々しき人形のようなモンスターが放つ衝撃波によって、颯の身を守っていた【ジェムナイト・パーズ】が消滅する。

 

「【ヴァンパイア・ロード】。やれ!」

 

続けて更なるテロリストの従えるモンスターの攻撃が結衣に向かって襲いかかる。

しかし、結衣の前には既にモンスターはおらず、無防備な状態であった。

 

「結衣ちゃん!」

 

その存在に気がついた颯が叫ぶが、結衣を庇うべくモンスターを召喚するには間に合いそうもない状況だった。

 

「まだとっておきたかったですが、仕方ありません……。罠カード【聖なるバリアーミラーフォース】!」

 

今にもモンスターの直撃を受けそうな状況であったが、結衣は1枚の罠カードを発動させる。

すると、あたりに急遽眩い光が立ち込める。

 

「結衣ちゃん! それは……!」

 

「緊急時のためにとっておきたかったですが……!」

 

辺りが見えなくなるほど激しい光が放たれると同時に、周囲にいた全てのモンスターは消滅し始めた。

 

「はぁ……はぁ……。これで一時的に危機は去りましたか……」

 

「さすが結衣ちゃん! あとは任せておきな! 来い! 【ジェムナイトマスター・ダイヤ】!」

 

少し息を切らしている様子の結衣の前に立ちはだかるようにして颯は一歩前に出ると、1枚のカードをデュエルウェポンにセットする。

すると、大きな剣を持った騎士モンスターを出現した。

 

「くらえ! "セブンスソード・ブレイカー!"」

 

【聖なるバリアーミラーフォース】の発動によって怯んでいたテロリスト達は、急なモンスターの攻撃に対処できず、その剣を直に受けてしまう。

 

「ぐおあああ!」

 

男達の断末魔が響き渡る。

その後、結衣と颯の前にいた数名のテロリストがその場に倒れ込んだ。

 

「よし! この調子でいくぞ! 結衣ちゃーー」

 

颯がそう言いかけた時、突如地面から大きな亀裂が発生し、颯の前にいた【ジェムナイトマスター・ダイヤ】がその亀裂に飲み込まれ消滅する。

 

「っな! 【ダイヤ】が……」

 

「上地くん! 前を見てください」

 

「なに……!? どうなっちまってんだよ?」

 

ーーー

【レッド・ガジェット】

ATK/1300

【イエロー・ガジェット】

ATK/1200

【グリーン・ガジェット】

ATK/1400

【ゴールド・ガジェット】

ATK/1700

【シルバー・ガジェット】

ATK/1500

ーーー

 

眼前には、いつの間にか大量の歯車状のモンスター達が出現していた。

それもそのはずである。

結衣と颯の連携によって無力化できたのはせいぜい先頭で交戦していたテロリスト数名。

その後方にいるテロリストは臨戦態勢であったのだ。

つまり、すぐにモンスターを召喚し、攻撃する準備はとっくに整っていたということだ。

 

「いい加減くたばれ! 攻撃ィ!」

 

テロリストの叫び声と共に、モンスター達が結衣と颯に迫る。

 

「まだ……カードはあります……! 私を舐めないでください!」

 

結衣は1枚のカードをデュエルウェポンにセットすると、結衣の前に【ゴーストリック・ランタン】が出現し、そのモンスターの攻撃を受けとめる。

だが、あっという間に破壊されてしまった。

 

「ダメだ! 相手のモンスターが多すぎてこのままじゃ受けきれない」

 

「そんな……どうしたら……」

 

二人の表情からは焦っている様子が見受けられた。

まさに絶対絶命という状況だろう。

 

「今度こそトドメよ! 死ねぇ!」

 

再びテロリストの叫び声と共にモンスター達が二人へと接近してくる。

もはやなすすべがなくなってしまった二人はこれから待ち受けるであろう痛みに恐怖し、目をつむる。

 

まもなくして、大きな衝撃音が響き渡った。

 

「あれ……」

 

結衣は衝撃音が響いた後に違和感を覚えたのか目を開く。

そう、その衝撃音は結衣と颯を襲った音ではなかった。

 

「……なに!?」

 

颯が驚きの声を上げると同時に目の前にいたガジェットモンスター達が全て破壊されていた。

 

「お前ら特殊機動班だろう? 大丈夫か?」

 

そこには金髪のショートカットをした人物が立っており、その脇には黄金に輝く鎧を纏った騎士が佇んでいた。

 

「お前は……桂希 楼? なんでお前がここにいるんだ?」

 

「増援……とでも言ったらいいか? 随分と派手にやられているみたいじゃないか」

 

「うるせぇ! ちょっと手加減してやってただけだ!」

 

颯は桂希に対して、少し怒りっぽく言った。

 

「決闘機動班は外での警備任務だったはずです。任務内容を忘れたのですか?」

 

続けて結衣が不審そうに冷たく桂希に対して言う。

 

「まったく。せっかく助けたというのに随分と冷たい対応だな。君たちは」

 

「決闘機動班に救助を頼んだ覚えはありません」

 

「そうか。まぁ色々と事情があってここに来ている。一つだけ聞きたいのだが……遊佐 繋吾はどこにいる?」

 

「なんだお前? 繋吾になんか用があるのか?」

 

そう言い颯は桂希のことを睨みつける。

その様子はなんともピリピリしている様子だった。

 

「安否が確認したいだけだ。特に何もたくらんでなどいない」

 

「本当かよ……繋吾なら赤見班長と一緒にもっと地下に向かってる」

 

「そうか、ありがとう。特殊機動班」

 

桂希はそう言うと地下へ向かう階段目掛けて走り出した。

それを見た颯は桂希を止めるべく叫んだ。

 

「おい、桂希! ここにまだテロリストがいるっての! どうすんだよ?」

 

「先ほどそこの女が救助はいらないと言っていただろう?」

 

「あなた……状況がわかっていないのですか? くだらないこと言ってないでーー」

 

「大丈夫だ。もうすぐ第二部隊とやらがくる。……ではな」

 

桂希は結衣の言葉を遮りそう言うと、再び階段へと駆け抜けていった。

 

「なんて自分勝手なのですか決闘機動班は……。まったく」

 

桂希の様子に呆れながら再度テロリスト達の方を見ると、テロリスト達には先ほどまでの勢いはなく、目線は別のところへと向いていた。

彼らは不思議なことに入口があった方向を見つめ、少し怯えたような表情をしていたのだ。

 

通路の入口方向には、10数名の人たちがこちらに向かって走ってきていた。

 

「あれは……宗像班長たちの第二部隊みたいだな! 結衣ちゃん、ここからが反撃だぜ!」

 

「そうみたいですね。よかった」

 

第二部隊が来ていることを確認した二人は、安堵した様子で再びデュエルウェポンを構えた。

 

 

 

 

ーーーテロリスト達とのデュエルをはじめてからどのくらいの時間が経っただろうか。

俺は、既に3人目のデュエリストとのデュエルを行っていた。

 

繋吾 手札1 LP1200

ーー裏ーー

ーモーーー

 リ ー

ーーモーー

ーーーーー

テロリスト 手札1 LP500

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500

【イルミラージュ】

DEF/100

 

【ヴェルズ・オピオン】

ATK/1350

 

場の状況は【イルミラージュ】の効果で相手の【ヴェルズ・オピオン】の攻撃力を下げている状況。

そして、今は俺のバトルフェイズ。

このまま攻撃すれば、俺の勝ちといったところだ。

 

「【セフィラ・メタトロン】で【ヴェルズ・オピオン】を攻撃! "ヴェンジェンス・ディバイニング!"」

 

「く……くそお! なぜこいつに勝てない! なぜだ!」

 

「勘違いしているようだな。お前には元々力がなかった、それだけのことだ」

 

「なにぃ……?」

 

「自らの罪を……その身で償え!」

 

俺が叫ぶと同時に【セフィラ・メタトロン】が水晶の槍を【ヴェルズ・オピオン】の喉元に突き立てた。

 

「ぐおああああ!」

 

テロリスト LP500→LP0

 

その攻撃を受けて、テロリストは吹っ飛び床へ突っ伏した。

なんとか3人目も倒すことができた。やはりデュエルに無事勝利できると少し安心する。

 

今回のデュエル3連戦では、前回の襲撃の時とは違ってデュエル終了後も俺は落ち着いたままでいられた。

連戦という状況が逆に自分自身の冷静さを保っていられたのかもしれない。それにこんな知らないやつ相手に熱くなりすぎてもしょうがない。

俺が本当に憎しみをぶつけるべき相手は他にいる。

あの父さんとデュエルをしていた黒髪の青年。俺が倒すべきはただひとりだ。

 

そのためにはジェネシスの奴らと戦い続けて早く先に進まない行けないところだが、3連戦のデュエルした中で当然自分もダメージを受けている。

まだ任務が終わったわけでもないし、この後のことも考えると少し休憩を入れたいところだった。

 

周囲を見渡してみると、郷田さんと赤見さんもちょうどデュエルを終えたところであり、テロリスト達は全て倒れていた。

どうやら殲滅できたようだ。

 

「お疲れ様だ。郷田、繋吾。怪我とかはしてないか?」

 

「怪我がないと言えば嘘にはなるが、大丈夫だぜ。骨のないやつばっかりだったわ!」

 

郷田さんは愉快そうに笑いながら言った。

 

「まったく。随分追い込まれていたのによく言うよ郷田」

 

「ははっ! 助かったぜえ赤見。繋吾ちゃんもいきなりでこんな連戦大変だったろ?」

 

まさか最初のデュエルでいきなり連戦になるとは思わなかった。

だが、一気に戦場でのデュエルに慣れれたのはある意味よかったのかもしれない。

 

「はい、ですがいい経験になりました。この後はどうされるんですか?」

 

「そうだな。このまま奥に進みたいところだが、結衣と颯とも合流しておきたい。連絡を取ってみるか」

 

すると赤見さんはデュエルウェポンで通信を始めた。

 

「いやあ、それにしてもやられたよ」

 

郷田さんは後ろ髪をかきながら言った。

そういえば、随分と派手に警報が鳴っていたけど何があったんだろう。

 

「郷田さん、一体何があったんですか?」

 

「あぁ。俺はすぐに地下2階まで来て、モンスターを駆使して大暴れしてたんだけどよ。とある部屋に入ったら急に警報が鳴りだしたんだ。すると同時にその部屋から大量のテロリストが出てきてな。戦ってはいたんだが、この部屋に追い詰められてしまってよ……」

 

「その警報が鳴った部屋。なんだか怪しそうですね……」

 

やたらセキュリティが厳重みたいだし、きっとそこに何か大事なものがあるのだろう。

次に攻め込むとしたらそこだろうか。

 

「たぶんそこの部屋が怪しいぜ! 準備を整えたらまずはそこだな!」

 

第二部隊も無事合流さえできればどんなセキュリティがあろうと怖いものはないはずだ。

とりあえず今は3人しかいない以上、下手に動くのは危険だろう。

 

「どうやら進む場所の目星がついたみたいだな? 郷田」

 

デュエルウェポンでの通信を終えた赤見さんが、さっそく郷田さんに聞く。

先ほどの会話はちゃんと聞いていたみたいだ。

 

「おうよ! 結果オーライってやつだな!」

 

「あぁ、おかげさまで今回はうまくいきそうだな」

 

赤見さんは少し笑顔を見せながら言う。

あとはその部屋での戦闘を無事にこなせればいいのだが……。

 

「そういや結衣と颯はどうだった? 無事か?」

 

「無事じゃなかったら今頃駆け出しているところだよ郷田。なんとか第二部隊とも合流し、まもなく敵の殲滅が完了するらしい」

 

どうやら結衣達の方もうまくやったみたいだ。

さすがは特殊機動班の精鋭。この程度の相手じゃ問題ないようだ。

 

「そいつはよかった! 応援にでも行くか?」

 

「いや、今は体を休めてくれ。一樹にここの座標は伝えてある。私たちはここで待機だ」

 

「おう、んじゃあ俺様は休ませてもらうとするかねえ!」

 

郷田さんはそう言うと、そのまま床に横になり寝っ転がった。

 

「まったく、緊張感がないやつだな郷田は。繋吾、真似するなよ?」

 

「まさか……こんなところで寝ませんよ」

 

「ま、そうだよな。ハハハ」

 

そんな会話をしていると、入口から何やら足音が聞こえてきた。

誰かが近づいてきている……?

 

「……待て、私がいく」

 

扉へ向かおうとする俺を止め、赤見さんが扉の方へと向かっていく。

その手にはカードが握られており、戦闘準備万端といった感じだった。

 

俺たちのいる部屋の前でその足音が止まる。

どうやら相手も俺たちの存在に気がついているみたいだ。

 

しばらくの沈黙の後、その扉が開かれる。

それと同時に赤見さんがカードをデュエルウェポンにセットしようとするが、扉の先の人物を確認するとその手を止めた。

 

「桂希……副班長か。なぜお前が?」

 

「赤見班長でしたか、失礼しました。今回の任務、増援という形で私も出撃しています」

 

桂希……。いつのまにこのアジトに侵入していたんだ……?

決闘機動班は近隣住宅街の警備だったはずだが、なぜ決闘機動班の桂希がここにいるのだろう。

 

「決闘機動班は……潜入任務は参加しないと白瀬班長が言ったようだが……。これは一体どういうことだ?」

 

「私もSFS所属の身。テロリストの行いを断じて許すことはできません。私の独断でテロリストへの制裁をしたいがために、班の意向に反して行動しているまでです」

 

班の意向に反して……? 仮にも副班長ともあろう人物がたったひとりでこんな危険な場所に大丈夫なのだろうか。

それに、白瀬班長にバレたら色々とまずいことになるんじゃ……。

 

「まぁ……桂希副班長のような強いデュエリストがいてくれるなら心強い限りだが……大丈夫なのか? 独断で我々と行動を共にすることは決闘機動班にとってよくないことだろう」

 

赤見さんは少し不審そうな目で桂希を見つめる。

確かに第一副班長ともあろう桂希が特殊機動班と行動を共にするということは、決闘機動班内で反感を買うおそれもある。

 

「心配無用です、赤見班長。特殊機動班の方には迷惑をかけるつもりはありません。任務のご同行、許可いただけますか?」

 

「まぁ……状況が状況だ。今ここで帰れなんて言うつもりもない。くれぐれも無茶はするなよ?」

 

「感謝します、赤見班長。遊佐もよろしく頼むな」

 

桂希は赤見さんに続き、俺にも頭を下げてきた。

"あの桂希"に頭を下げられるとなんだか少し戸惑うな……。

 

「あぁ、よろしく頼むよ」

 

俺もそう言いながら思わず頭を下げた。

 

「桂希副班長。来たところ申し訳ないが、今は第二部隊が来るまで待機していたところだ。私が扉前で張っているからゆっくりしていてくれ」

 

「そんな、赤見班長。お疲れでしょうし、それならば私が……」

 

「いや、大丈夫だ。せっかくだし、ゆっくりしていてくれ」

 

桂希は赤見さんに言われ、渋々と床に座り込んだ。

俺も立っているのに疲れてきたため、同じように床へ座り込む。

 

そうして俺たちは第二部隊が到着するまで、しばしの休息を行うのであった。



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Ep30 - ジェネシスの狙い

休息を取れとは言われたが、俺はどうも落ち着けそうになかった。

横には寝ている郷田さん、そして目の前には桂希。肝心の赤見さんは扉付近で警備を行っている状況だ。

 

それになんといってもこの部屋には、多くのジェネシス構成員があちらこちらに転がっている。

様子を見るにまだ息はありそうだが、みんな瀕死状態であった。

 

そんな状況下じゃ、落ち着けという方が無茶である。

 

「遊佐、初任務はどうだ?」

 

突然桂希に話しかけられたせいか俺は思わず驚いてしまう。

 

「まぁまぁ、リラックスしてくれ遊佐」

 

「あぁ……。なんともこういう場は慣れなくてな」

 

「しかし、随分と落ち着いている方だとは思うぞ。初任務だと戦いの恐ろしさから逃げ出してしまう者や、発狂してしまう者もいる。それに比べれば大したものだ」

 

前回の襲撃の時に既にテロリストとは戦っていたし、デュエルには自信があったからだろうか。

俺はそこまで恐ろしさというものは感じなかった。

そもそも前回の襲撃の時に一度命を捨てているようなものだ。怖いものなどない。

 

「それこそ、この間あんたが言ってた意志ってものがないんだろうな」

 

「ふっ、そうだな。戦いを舐めているとそうなる。遊佐はもう奴らとはデュエルしたのか?」

 

「3人ほど葬ってやったよ。どいつこいつもデュエルウェポンの力に溺れたやつだった」

 

デュエルウェポンがあればどんな兵器が相手だって勝てる。

そんな夢のような武器があれば、己の力を過信してしまうのも無理はないだろう。

だが、デュエルはただカードがあれば勝てるというわけではない。

デッキ構築からカードプレイング。相手を制する洞察力、デッキを信じる心。あらゆるものがあって初めて勝利へと繋がるんだ。

 

「なかなか順調ではないか。まぁ奴らはみんなそうだ。まっとうな人生を歩んでいれば、わざわざデュエルテロ組織などに入らないだろう?」

 

言われてみればそうだな。

何かしらの事情がなければ、よほど性格が歪んでいない限り他人に迷惑をかけようなどと思わないだろう。

そういう意味では、俺と似たようなものなのかもしれない。

ただ、進むべき方向が違うだけで……。

 

「奴らのことを深く考えていても、自らの枷となるだけだぞ? 私たちの行いに間違いはない。自分を……そして、このSFSという存在を信じて戦え。遊佐」

 

「あぁ……。そうだな。任務に集中することにするよ」

 

桂希の言うように彼らのことを気にしてもしょうがない。

今は任務を遂行し、ちゃんと生還することだけを考えよう。

 

「来たぞ。第二部隊だ」

 

赤見さんが突然声を上げた。

どうやら宗像班長率いる第二部隊が到着したようだ。

 

しばらくすると第二部隊の皆が部屋の中へと入ってきた。

結衣と颯の姿もあった。

 

「無事だったか! 結衣、颯」

 

「当たり前です。私たちが負けるとでも思ってたのですか?」

 

「そうだそうだ! むしろ繋吾の方がくたばってないか心配だったぜ」

 

口ではそうは言っている結衣と颯の二人だが、その表情には少しながら笑みが浮かんでいた。

素直に班員全員が合流できたことに喜びを感じているのだろうか。

 

「にしても繋吾、お前随分とくたびれてるじゃねぇか?」

 

颯に言われて自らの服装を見てみると少し破けたりしてボロボロになっていた。

度重なるデュエルでのダメージで何度か吹っ飛ばされたからな。

その時の影響だろう。

 

「まぁ……連戦でデュエルしたからな……」

 

「なるほど。相変わらずデュエルの腕だけは確かですねあなたは」

 

「負けなくてよかったよ、ハハハ……」

 

まるでデュエル以外はダメみたいな言い方で思わず苦笑いをしてしまう。

だけど、みんないつもの様子みたいで俺としては少し安心した。

 

「赤見。これからどうする? いま地下2階を歩いてきたが、テロリストがいる気配がしなかったんだが……」

 

「そうなんだよー、随分と静かでさ。かずくんと上の階でかなりの数のテロリストと戦ったんだけど、もしかしてあれで全部だったんじゃないかな?」

 

宗像班長と紅谷班長が状況説明を赤見さんにしている。

上の階にはそんな大量のテロリストがいたのか……。

ということはきっと結衣と颯はかなり大変だったのだろうな。

 

「大変な戦闘をさせて悪かったな。だが安心してくれ。次進む場所の目処はついてる」

 

「なに? 何か怪しいところがあったのか赤見?」

 

「あぁ、うちの郷田がやたらセキュリティの厳しい部屋を見つけたそうでな。そこはまだ私たちも侵入していない。次にそこに襲撃を仕掛けようと思う」

 

おそらく郷田さんが言っていた部屋のことだろう。

 

「おー! その情報はありがたいね! だけどさっきの戦闘で第二部隊内に負傷者が出ちゃったから、私はちょっと負傷者の手当がしたいかなぁ」

 

第二部隊のメンバーを見ていると、デュエルウェポンで出現させただろう担架に乗せられたSFS隊員が何名かいた。

手当は優先しなければならないな。

 

「なるほど。ではその部屋には偵察警備班と特殊機動班で襲撃するか。救助護衛班は負傷者を連れて地上へ退避してくれ」

 

「了解ー! 仁くんとかずくん。気をつけてね?」

 

「あぁ。レンも気をつけてくれ」

 

「くれぐれも大事な偵察警備班員を殺すなよ? 紅谷」

 

「はいはーい。この紅谷さんに任せておきなさいなー」

 

紅谷班長はそう言うと、何名かのSFS隊員と共に来た道を引き返していった。

 

「さて、じゃあ例の部屋へ向かうとするか。郷田、案内を頼めるか?」

 

「あぁー、任せろや赤見」

 

郷田さんは眠そうに目を擦りながら言った。

本当にこの状況で爆睡してたのか……郷田さん。

 

「ではいくぞ。準備ができたものから私についてきてくれ」

 

その発言を聞き、俺はその場から立ち上がり赤見さんについていく。

果たしてその部屋には何が待ち受けているのだろうか……。

 

 

 

 

 

ーーー郷田さんの案内の下、俺たちは例の部屋の扉の前へとたどり着く。

部屋の扉を包囲するようにして、俺たち特殊機動班と偵察警備班のメンバーは臨戦態勢を取っていた。

 

赤見さんの突撃の合図と共に、俺たちは一斉に部屋の中へ入り込むこととなっている。

緊張感漂う狭い通路の中で、俺はその合図を待っていた。

 

部屋の中からはまったく物音が聞こえない。

見つからないように息を潜めているのか、それとも本当に誰もいないのか。

 

先ほどの警報で全てのテロリストが出払った可能性もある。

そうすれば部屋の警備は無防備であり、俺たちからすれば好都合だ。

何か貴重なデータでももらえれば成果があげられるのだが……。

 

すると、赤見さんが右手を上へとあげる。

そろそろ突撃の頃合だろうか。俺はデュエルウェポンを構え直した。

 

しばらくの沈黙の後、赤見さんの叫び声と共に扉が開かれる。

 

「突撃!」

 

その場の全員が勢いよく部屋の中へと侵入しカードを構えるが、先ほどみたいな警報は一切鳴らず、あたりには誰もいなかった。

 

「……誰もいないか……」

 

赤見さんが小声で呟く。

 

「あぁ……。にしても随分と広いなここは」

 

部屋を見渡してみると、今までの部屋より遥かに広く学校の体育館くらいの広さはあった。

だが、奥の方を見てみると、人影が確認できた。

誰かがいる……テロリストだろうか。

 

「あそこに……誰かいるぞ、赤見」

 

「一人か……。何者だろう」

 

警戒しながら俺たちはその人物へと近づいていく。

ある程度距離を詰めたところで、その人物はこちらを見ながら口を開いた。

 

「そろそろ来る頃だと思ってたぜ? SFSの皆さん?」

 

その人物は銀髪のスポーツ刈りに髭を生やし、片目に眼帯をした男であった。

悪そうな顔というかなんというか……あまりいい印象は受けない。

男は不敵な笑みを浮かべながらゆっくりとこちらへと歩いてきた。

 

「お前は……」

 

「ここのアジトの管理者ってとこかなあ? それにしても君たち、ここに来るのが予定よりも少しだけ早かった……思ったより優秀なんだねえ」

 

男は少し笑いながら言った。

こいつは俺たちがここに来ることを知っていたのか。

 

「私たちがここに来ることを想定していたのか?」

 

赤見さんが一歩前に出て男との会話を始める。

 

「まぁね? そうだ、ここにいたデュエリスト達はどうだった? 君たちには少し物足りなかったかなあ?」

 

俺たちと対峙していたテロリストのことだろうか。

まるで自分の部下のことを道具とでも思ってるかのような物言いだ。

 

「奴らもお前の部下だろう……。捨て駒としか考えてないのか?」

 

「部下? あー、実はね。あれ人間じゃないんだ」

 

「なんだと!? どういうことだ」

 

人間じゃないだと?

俺たちは人間じゃないものと戦っていたとでもいうのか?

 

「あれはね。俺が"コレ"で召喚しただけなんだよ。今頃はもう消滅してるんじゃないかな?」

 

男はそう言いながらデュエルウェポンを指さした。

まさか……奴は人間と同等のようなものをデュエルウェポンによって生み出したとでもいうのか。

 

「人間を……召喚したのか」

 

「まぁそんなところ? だけどアレ失敗だねぇー。全然デュエルに勝てないんだもん」

 

「デュエルモンスターズを愚弄するのもいい加減にしろ……!」

 

赤見さんは低い声で男に対して言った。

その声からは怒っている様子が伺える。

あんな赤見さんの声は初めて聞いたな……。

 

「ほほう。SFSの人ならまぁそう思うか。でも、おかげさまで作戦は成功だ。なぁ? 赤見 仁?」

 

「なぜ……私の名前を!」

 

「今更だねぇ赤見。俺たち"ジェネシス"があんたを探しているのは知ってるんだろう? それでこのアジトにも攻め込んできた。違うか?」

 

やはりジェネシスの奴らには俺たちの作戦がバレていたのか。

ということは、もしかしたら既に俺たちは罠にハメられている……?

 

「くっ……その通りだ。だが、ここで私たちがお前を拘束すればーー」

 

「逆だよ逆! 甘いねぇ赤見。俺たちの狙いは赤見。お前を拘束すること。そのためにこのアジトに入り込んでもらったのさ。思惑どおりあんたはいまこの部屋までたどり着いた。筋書きとおり行動してくれて助かるよ」

 

「だが、状況的にはお前の方が不利だ。ここで決着を付けるまで!」

 

赤見さんはデュエルウェポンを構え、男へ接近していく。

デュエルで決着を付け、奴を拘束してしまえばこちらのものだ。

あの男が何を考えているかは知らないが、やられる前にやればいい。作戦前に赤見さんが言っていたことだ。

 

「おっと。デュエルなんてしちゃっていいのかなぁ赤見?」

 

「黙れ、正々堂々私とデュエルしろ!」

 

「まぁまぁ、デュエルは一向に構わねぇが、そろそろ……始まるぜ?」

 

「何がだ……?」

 

赤見さんの発言と同時に、急遽デュエルウェポンの通信音が鳴り出した。

 

「外の部隊から連絡……?」

 

音の主は宗像班長のデュエルウェポンのようだ。

宗像班長はすぐさまデュエルウェポンを操作し、通信を繋ぐ。

 

「こちら宗像だ。どうした?」

 

「宗像班長! いきなり大量のテロリストが現れました! 包囲されてます! これじゃ逃げ道が……ありません!」

 

「なんだと!? 敵の数は?」

 

「50名以上は……いるかと……。どうしたら……」

 

通信先の偵察警備班員は絶望したような声で嘆いていた。

どうやら俺たちをアジトへ潜入させたあとに、閉じ込めて殲滅するのが奴らの目的だったみたいだ……。

元々、潜入部隊の退路の確保のために外の部隊が配置されていたが、想像以上のテロリストの数にどうしようもなさそうな状態だ。

 

「赤見。どうする?」

 

「どうするもこうするもない。ここは特殊機動班に任せて偵察警備班は外の増援へ向かってくれ!」

 

「わかった……。無理するなよ、赤見」

 

「お前こそな。一樹」

 

そう言い残し、宗像班長を筆頭に偵察警備班の班員達は来た道を引き返していった。

この場に残ったのは赤見さんと郷田さん、結衣と颯と俺の計5人の特殊機動班と桂希のみとなった。

 

「さて、これでいいだろう。デュエルだ、テロリスト」

 

赤見さんが再びデュエルウェポンを構えながら男に近づいていく。

 

「燃えてるとこ悪いけど、俺強いよ? ほんとにいいのかい?」

 

男は余裕そうに笑みを浮かべながら赤見さんを挑発している。

相手ながらただものじゃなさそうだ。

 

「その口、喋れなくしてやる。いいから構えろクソ野郎」

 

「赤見班長……!」

 

赤見さんの変わりぶりに、結衣が心配そうな眼差しでその様子を見ていた。

普段は温厚な赤見さんだが、あの人もテロリストに思うことがあるのだろうか。

だが、我を忘れてしまうほど危険なことはない。

 

「あれは挑発です赤見さん。気をつけてください」

 

「心配するな結衣、繋吾。すぐに終わらせてやる……!」

 

赤見さんはじっとテロリストのことだけ見つめて微動だにしない。

その様子は本気という感じだ。

 

「ヘッヘッヘ、若いヤツらに心配されるとは、いいご身分だな赤見? そこまで言うのならいいだろう。この”デント”、相手になろうじゃねえか!」

 

デントと名乗った男もようやくデュエルウェポンを構えだした。

赤見さんにとって……そして、俺たちSFSにとってこの任務の成功か失敗かを決める一大デュエルが始まるようだ。

 

「デントか、デュエルが終わった後に色々と聞かせてもらおうか。いくぞ!」

 

「デュエル!」

 

 

 

赤見 手札5 LP4000

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

デント 手札5 LP4000



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Ep31 - 独眼の紫毒 前編

赤見 手札5 LP4000

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

デント 手札5 LP4000

 

先攻は赤見さんのようだ。

こんな状況だが、なんやかんやで赤見さんのデュエルを見るのは初めてだったりする。

 

「私のターン、モンスターとリバースカードを一枚ずつ伏せてターンエンドだ」

 

 

赤見 手札3 LP4000

ーー裏ーー

ーー裏ーー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

デント 手札5 LP4000

 

「随分と大人しい初手だなぁ? さぁて、俺のターン。ドロー! 手札から【捕食植物サンデウキンジー】を召喚!」

 

ーーー

【捕食植物サンデウキンジー】☆2 闇 植物族 ③

ATK/600

ーーー

 

「へっへっへ……【サンデウキンジー】は、自身を含む手札、場のモンスターを素材として、融合召喚ができる!」

 

「融合を内蔵したモンスターか」

 

「その通りよ! 俺は場の【サンデウキンジー】と手札の【アネス・ヴァレット・ドラゴン】を墓地へ送り融合! "悪夢より目覚めし凶暴よ! 蠱惑なる力で愚かな弱者を喰らい尽くせ! 融合召喚! 【捕食植物キメラフレシア】!"」

 

ーーー

【捕食植物キメラフレシア】☆7 闇 植物 ②

ATK/2500

ーーー

 

紫色をした大きな花弁を開き、怪物の顔のような大きなツタを振るう植物の姿をした怪物がデントの前に出現した。

その姿は禍々しく、見るだけでゾッとするようなモンスターだ。

 

「へっ、怯えて声も出ないか。赤見?」

 

「くだらん挑発してないで攻撃してきたらどうだ?」

 

「ちっ、少しはコミュニケーションっていうのを取ったらどうだ、あんたよ。まぁいいや、【捕食植物キメラフレシア】でセットモンスターを攻撃! "アイヴィ・ペイン!"」

 

大きなツタを振り上げると、赤見さんのセットモンスターを押しつぶすように振り下ろした。

 

【捕食植物キメラフレシア】

ATK/2500

【BF-上弦のピナーカ】

DEF/1000

 

「私のモンスターは【BF-上弦のピナーカ】。破壊される」

 

「おいおい、ただの壁モンスターか?」

 

「いちいちよく喋る奴だな。お前の攻撃はもう終わったぞ」

 

赤見さんは静かなトーンでデントに向かって言った。

なんとも普段の感じとは違った印象だ。

 

「ほう? 随分と強気みたいでこりゃ久しぶりに楽しめそうだぜ。どうやらその破壊されたモンスターに何かあるみたいだな?」

 

「どうだろうな」

 

「雰囲気見りゃ分かるっての。そうだな、俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

「エンドフェイズ時に墓地へ送られた【BF-上弦のピナーカ】の効果発動! デッキから"BF"モンスター1体を手札に加えることができる。私はデッキから【BF-毒風のシムーン】を手札に加える」

 

「なるほどな、欲しいカードを呼び込んだか」

 

破壊されたモンスター効果を使って、赤見さんは反撃の準備を整えたみたいだ。

次のターンあの強力そうな【捕食植物キメラフレシア】はなんとしてでも倒したいところ。

 

 

赤見 手札4 LP4000

ーー裏ーー

ーーーーー

 ー 融

ーーーーー

ー裏裏ーー

デント 手札2 LP4000

 

「私のターン、ドロー! 手札から【BF-陽炎のカーム】を除外して、手札の【BF-毒風のシムーン】の効果発動! デッキから永続魔法【黒い旋風】を場に表側表示で置き、このカードを通常召喚権を行使せずにリリースなしで召喚する! 来い、【毒風のシムーン】!」

 

ーーー

【BF-毒風のシムーン】☆6 闇 鳥獣 ③

ATK/1600

ーーー

 

「召喚権を行使せずに召喚とはなかなか珍しいカードだな」

 

「それだけじゃない。"BF"モンスターを召喚したことで、場の永続魔法【黒い旋風】の効果発動! デッキから召喚したモンスターの攻撃力より低い攻撃力の"BF"モンスターを手札に加える。私は【BF-南風のアウステル】を手札に加える」

 

上級モンスターを召喚しただけでなく、更なる後続のモンスターも手札に引き込む。

それにこのターン召喚権を使っていないから手札に加えた"BF"モンスターを召喚することで、再度【黒い旋風】の効果も使うことができる。

かなり強力なカードと言えるだろう。

 

「やるねぇ! へへへ……」

 

一方デントの方は赤見さんの様子を伺いながらまるで楽しんでいるかのようにニヤついている。

純粋にデュエルを楽しんでいるのかあるいは何か企んでいるのか……。

いずれにせよ少し不気味だ。

 

「続けて罠カード【リバイバルギフト】を発動! 墓地からチューナーモンスター【上弦のピナーカ】を特殊召喚し、相手の場に【ギフト・デモン・トークン】2体を攻撃表示で特殊召喚する」

 

「俺の場にモンスターを? そりゃいいねぇ、ありがたく頂戴させてもらうぜ」

 

ーーー

【BF-上弦のピナーカ】☆3 闇 鳥獣 チューナー ②

DEF/1000

ーーー

【ギフト・デモン・トークン】☆3 闇 悪魔 ②と③

ATK/1500

ーーー

 

チューナーを復活させるためとは言え、相手の場にモンスターを出すのは危険だ。

前に見た野薔薇副班長のように攻撃の的にするにも、特殊召喚された【ギフト・デモン・トークン】のステータスはそれなりにある。

何を狙っているのだろうか……。

 

「いでよ、迸響くサーキット! 私は【毒風のシムーン】と【上弦のピナーカ】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、【見習い魔嬢】!」

 

ーーー

【見習い魔嬢】リンク2 闇 魔法使い ①

ATK/1400→ATK/1900

ーーー

 

「このカードが場に存在する限り、場の闇属性モンスターの攻撃力、守備力は500ポイントアップする!」

 

「ほう……? それじゃ俺のモンスターも攻撃力が上がってしまうぜ?」

 

「構わない。そしてここだ! 相手フィールド上のモンスターが自分より2体以上多い時、このカードは手札から特殊召喚できる。劣勢より迸響け! 【魔導ギガサイバー】!」

 

ーーー

【魔導ギガサイバー】☆6 闇 戦士 ②

ATK/2200→ATK/2700

ーーー

 

蒼き稲妻を身に纏い、黄色い人型をした戦士が出現した。

そのモンスターの召喚条件を満たすために相手の場を増やしたみたいだ。

 

「さらに通常召喚で【南風のアウステル】を召喚。召喚に成功した時、除外されているレベル4以下の"BF"モンスターを特殊召喚できる。さらにその効果にチェーンして【黒い旋風】の効果も発動。デッキから【BF-砂塵のハルマッタン】を手札に加え、除外されている【BF-陽炎のカーム】を特殊召喚!」

 

ーーー

【BF-南風のアウステル】☆4 闇 鳥獣 チューナー ③

ATK/1300→ATK/1800

ーーー

【BF-陽炎のカーム】☆4 闇 鳥獣 ④

DEF/1800→DEF/2300

ーーー

 

あっという間に赤見さんのフィールドには4体ものモンスターが出現した。

これだけいればデントの場を殲滅することは簡単だろう。

 

「さぁて、何を見せてくれる? 赤見」

 

「お前を死へ導く死神ってところだな。私はレベル4の【陽炎のカーム】にレベル4の【南風のアウステル】をチューニング! "漆黒を引き裂く反逆の咆哮! 紅き翼翻し、鮮烈に轟け! シンクロ召喚! 現れよ、【ブラックフェザー・ドラゴン】!"」

 

ーーー

【ブラックフェザー・ドラゴン】☆8 闇 ドラゴン ③

ATK/2800→ATK3300

ーーー

 

漆黒と呼ぶに相応しい黒き大きな翼を広げ、鳥獣のような外見をしながらも竜と呼べるような勇ましい姿をしたモンスターが出現する。

これが赤見さんのエースモンスターだろうか。

 

「そして、墓地に送られた【南風のアウステル】の更なる効果発動! このカードを除外することで、相手フィールド上のカードの数まで【ブラックフェザー・ドラゴン】に黒羽カウンターを乗せる。お前の場のカードは5枚。よって、【ブラックフェザー・ドラゴン】には5つの黒羽カウンターが乗る!」

 

「なるほどなぁ。そのための【リバイバル・ギフト】だったってわけか」

 

ここまで繋げることを考えての展開だったみたいだ。

カウンターにどんな効果があるかはわからないが、5つも乗れば強力なのだろう。

 

「【ブラックフェザー・ドラゴン】は黒羽カウンター一つにつき攻撃力が700ポイントダウンするが、もう一つの効果によってこのカウンターを全て取り除き、相手モンスター1体の攻撃力をその数×700ポイントダウンさせ、その下げた分だけ相手にダメージを与える。対象は【捕食植物キメラフレシア】だ! "レジスター・リベレーション!"」

 

【ブラックフェザー・ドラゴン】の翼が赤く光り出すとその翼から赤き竜巻を発生させ、【捕食植物キメラフレシア】へ向かって放った。

 

「おっと、そいつはいけない話だな。罠発動! 【デストラクト・ポーション】! 俺の場のモンスター1体を破壊して、その攻撃力分、つまり3000ポイント俺のライフを回復するぜ!」

 

「くっ、かわしてきたか」

 

「対象不在のため、攻撃力は下がらず俺へのダメージも0ってわけだ!」

 

デント LP4000→LP7000

 

赤見さんのコンボはデントの罠によってかわされてしまった。

だが、いずれにしても【捕食植物キメラフレシア】を破壊できたことに変わりはない。

 

「ならば、バトルフェイズ! 【魔導ギガサイバー】で【ギフト・デモン・トークン】を攻撃! "エレクトロ・インパクト!"」

 

【魔導ギガサイバー】

ATK/2700

【ギフト・デモン・トークン】

ATK/2000

 

【魔導ギガサイバー】は自らの拳を振り上げると、高速移動しながら【ギフト・デモン・トークン】を叩き潰した。

 

「この程度のダメージ軽いってもんよ!」

 

デント LP7000→LP6300

 

「続けて【ブラックフェザー・ドラゴン】でもう1体の【ギフト・デモン・トークン】を攻撃! "スカーレッド・ストーム!"」

 

【ブラックフェザー・ドラゴン】

ATK/3300

【ギフト・デモン・トークン】

ATK/2000

 

【ブラックフェザー・ドラゴン】はその大きなクチバシに赤黒い渦のようなものを溜め込むと、【ギフト・デモン・トークン】に向かって放った。

 

「くぅっ! 激しいねぇ赤見!」

 

デント LP6300→LP5000

 

「最後に【見習い魔嬢】でダイレクトアタック! "マイティ・マジック!"」

 

【見習い魔嬢】

ATK/1900

 

【見習い魔嬢】は自らの手に持つ杖を思い切り振り、小さな闇の球体のようなものを出現させると、デントに向かって放った。

 

「ぐおおお! っと!」

 

デント LP5000→LP3100

 

デントは攻撃を受けて後方に吹っ飛ばされるが、空中で態勢を立て直し見事着地する。

あの動きを見る限り相当デュエル慣れしていそうな感じだ。

 

そして、拍手をしながら歩き出し、その黄色く光る片目を赤見さんへと向ける。

 

「お見事だよ赤見。さすがは5年前から生き残ってるだけのことはある」

 

「なに……?」

 

「こりゃ俺たちが出向かなきゃ倒せないわけだ。よーくわかったぜ」

 

5年前……というとあのジェネシスが引き起こした大規模テロのことか?

確かに赤見さんは2期生だからSFS入隊は6年前だし、当時からいるのも不思議じゃないが、もしかしたらその頃から赤見さんはジェネシスに目を付けられていたってことか……?

 

「私はお前みたいなふざけた野郎は知らん」

 

「あんたは知らなくても俺は昔から知ってるって話だ。どうやらあの時はあんたのせいで俺たちの作戦が失敗したらしいしな?」

 

「どうだか。私は自らの任務を全うしたまでだ」

 

もしかして赤見さんが狙われる理由って5年前の襲撃での出来事が関係していたりするのだろうか。

だが、仮にそうだとしたらジェネシスにとって赤見さんは邪魔者ということになる。

それなら拘束みたいな回りくどい仕方じゃなくて、その命を狙いに来るはずだろう。

こいつらは一体何が目的なんだ……?

 

「ま、そんな昔話はどうだっていい。今はこのデュエルを存分に楽しませてもらおうじゃないか赤見……」

 

「楽しむ暇など与えない。私はカードを1枚伏せてターンエンドだ。エンドフェイズ時に再び墓地へ送られた【BF-上弦のピナーカ】の効果でデッキから【BF-極北のブリザード】を手札に加える。さらに、【毒風のシムーン】の効果で置いた【黒い旋風】はエンドフェイズに墓地へ送られ、1000ポイントのダメージを受けるが、【ブラックフェザー・ドラゴン】がいる限り私が効果ダメージを受ける代わりに、このカードに黒羽カウンターを乗せる」

 

【ブラックフェザー・ドラゴン】

黒羽カウンター1

ATK3300→ATK/2600

 

赤見 手札3 LP4000

ーー裏ーー

ーモシーー

 リ ー

ーーーーー

ー裏ーーー

デント 手札2 LP3100

 

「さぁて、やられた分はきっちり返さないとな! 俺のターン、ドロー! スタンバイフェイズに先ほどやられた【捕食植物キメラフレシア】の効果が発動。デッキから融合と名のついたカードを手札に加えられるぜ。俺は【超融合】を加えさせてもらおう!」

 

「超融合……だと!?」

 

「おっと、効果はご存知のようかな? まずはリバースカードから【リビングデッドの呼び声】を発動。墓地から【捕食植物キメラフレシア】を復活させるぜ」

 

ーーー

【捕食植物キメラフレシア】☆7 闇 植物 ③

ATK/2500→ATK/3000

ーーー

 

先ほど【リビングデッドの呼び声】を使って【捕食植物キメラフレシア】を復活させていれば、もっとダメージは抑えられたはず。

しかし、このタイミングまで取っておいたということは、先ほどの【超融合】を含めて何か企んでいるということだろう。

 

「さらに、【捕食植物キメラフレシア】の効果発動! 1ターンに1度、このカードより低いレベルを持つ相手モンスター1体を除外する。さぁて捕食対象は……【魔導ギガサイバー】だ。"フィース・プレデーション!"」

 

【捕食植物キメラフレシア】は【魔導ギガサイバー】の前へ接近すると、大きな花弁でその体を包み込み、吸い込み始める。

やがて、体を全て取り込まれるとその姿は消滅してしまった。

 

「すまない……。【魔導ギガサイバー】……」

 

「へっへっへ……そして、ここからが本番だ! 俺は速攻魔法【超融合】発動! 手札を1枚捨てることで、お互いのフィールドのモンスターを素材に融合召喚できるぜ! 俺は【捕食植物キメラフレシア】と赤見の【ブラックフェザー・ドラゴン】を融合!」

 

「私の【ブラックフェザー・ドラゴン】を素材に……!?」

 

「あんたのエースモンスターもさよならってワケだ! "暗黒に束ねし紫毒の結晶よ! ここに冷酷なる殲滅の波動を解き放て! 融合召喚! いでよ、【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】!"」

 

ーーー

【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】☆10 闇 ドラゴン ②

ATK/3300→ATK/3800

ーーー

 

禍々しくも美しい紫色に光る翼を大きく広げ、数多の球体のようなものを体に纏ったドラゴンがデントの前に立ちふさがるように出現した。

赤見さんのモンスターを取り込むだけでなく、その攻撃力は3300。かなり強力だ。

 

「【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】の効果発動! 【見習い魔嬢】の効果を無効にし、攻撃力を0にする。"エフェクト・イロージョン!"」

 

「なんだと……!? これは……」

 

【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】の紫翼から禍々しき光が解き放たれ、それを浴びた【見習い魔嬢】は紫色に染まりその目が虚ろになった。

これでは、実質ダイレクトアタックするのと同等のダメージが赤見さんを襲うこととなってしまう。

 

「さらに装備魔法【ヴァレル・リロード】を発動。墓地から先ほど超融合の発動コストで墓地へ送った【マグナ・ヴァレット・ドラゴン】を攻撃表示で特殊召喚!」

 

ーーー

【マグナ・ヴァレット・ドラゴン】☆4 闇 ドラゴン ③

ATK/1800

ーーー

 

「さぁて、お楽しみのバトルフェイズだ。【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】で【見習い魔嬢】を攻撃! "インディミネイト・ストリーム!"」

 

【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】

ATK/3300

【見習い魔嬢】

ATK/0

 

凝縮された紫光が放たれると、無力となっている【見習い魔嬢】を襲い、同時にその攻撃は赤見さんも襲った。

 

「ぐぅぅ……うあああ!」

 

赤見 LP4000→LP700

 

「赤見班長!」

 

赤見さんのことを心配し、俺たち特殊機動班のメンバーは各々赤見さんの名前を叫ぶ。

一気に3300のダメージだ。その衝撃は並みのものではないだろう。

衝撃で発生した煙がやむと、そこには中腰の姿勢で耐え、立ち続けている赤見さんの姿があった。

 

「うぅ……。こいつはなかなか……」

 

「へっへっへ……まだくたばるなよ? 俺の攻撃は終わっちゃいないぜ」

 

「この程度のダメージ、今までの戦いに比べれば大したことはない」

 

「ほう? 言うじゃねぇか……」

 

赤見さんは少しふらつきながらもまっすぐとデントのことを睨みつけていた。

 

「そして、【見習い魔嬢】が破壊された時、墓地から闇属性モンスター1体を手札に加えることができる。私は【BF-毒風のシムーン】を手札に加える」

 

「今更加えても遅いわ! じゃ、これで終いだ。【マグナ・ヴァレット・ドラゴン】でダイレクトアタック。あばよ! 赤見!」

 

【マグナ・ヴァレット・ドラゴン】はその身を弾丸へと変化させ、赤見さんを目掛けて突進を始める。

この攻撃が通ってしまえば赤見さんの負けだ。

 

「……そう簡単にいくか。私は手札から【BF-熱風のギブリ】の効果を発動。相手がダイレクトアタックをしてきた時、このカードを守備表示で特殊召喚できる!」

 

ーーー

【BF-熱風のギブリ】☆3 闇 鳥獣 ③

DEF/1600

ーーー

 

急遽赤見さんを守るようにして現れた小さな鳥モンスターが赤見さんの身を守り、攻撃を受け止める。

 

「ちっ、まぁそのくらいはあるよなあ。俺はカードを1枚伏せてターンエンド。さぁて、後がないぜ赤見? かかってきな!」

 

「くっ……」

 

随分と赤見さんのライフポイントが削られてしまった……。

次のターン逆転できなければかなりまずい状況だ。

なんとかこの場をひっくり返せればいいのだが……。

 

赤見 手札3 LP700

ーー裏ーー

ーーーーー

 ー 融

ーーモーー

ー罠裏魔ー

デント 手札0 LP3100

 

 



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Ep32 - 独眼の紫毒 後編

赤見 手札3 LP700

ーー裏ーー

ーーーーー

 ー 融

ーーモーー

ー罠裏魔ー

デント 手札0 LP3100

 

「私のターン、ドロー!」

 

赤見さんは赤い瞳をそっと引いたカードに向けた。

そして、表情を変えぬままそのカードを既存の手札に加える。

 

「あんたのターン中で悪いが、再び【捕食植物キメラフレシア】の効果を使わせてもらうぜ。俺はデッキから【再融合】を手札に加えさせてもらおう」

 

「【再融合】か……いいだろう。私は魔法カード【闇の誘惑】を発動! デッキからカードを2枚ドローし、その後手札の闇属性モンスター1体を除外する。私は手札の【BF-毒風のシムーン】を除外する」

 

先ほど大暴れした【BF-毒風のシムーン】。

あのカードの効果は非常に強力ではあるが、エンドフェイズに1000ポイントのダメージを受けてしまう。

【ブラックフェザー・ドラゴン】を失ってしまい、ライフポイントも700しかない今、さすがにその効果を使うのは危険と判断したのだろう。

 

「いいカードは引けたかい? せっかく1ターンの猶予があるんだ。最後の華ってやつを存分に見せてくれ!」

 

「残念だが、私はお前などに負けるつもりはない! さらに手札から【BF-極北のブリザード】を召喚! 効果で墓地からレベル4以下の"BF"モンスターを守備表示で特殊召喚する。蘇れ、【BF-陽炎のカーム】! そして、場に"BF"モンスターがいる時、手札の【BF-疾風のゲイル】は特殊召喚できる!」

 

ーーー

【BF-極北のブリザード】☆2 闇 鳥獣 チューナー ②

ATK/1300

ーーー

【BF-陽炎のカーム】☆4 闇 鳥獣 ③

DEF/1800

ーーー

【BF-疾風のゲイル】☆3 闇 鳥獣 チューナー ④

DEF/400

ーーー

 

再び赤見さんのフィールドには多くの鳥型モンスターが展開される。

素早くモンスターを場に呼び出すことができるのが、赤見さんの使うデッキの特徴なのだろう。

 

「またわらわらと出てきたか。今度は何を出してくるんだ?」

 

「まぁ待て。まず私は【疾風のゲイル】の効果を発動。相手モンスター1体の攻撃力を半分にできる。対象は【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】だ! "ダウン・フェザー!"」

 

「半分……ほう?」

 

【疾風のゲイル】が小さき翼で竜巻を起こし、それを【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】へと解き放つ。

その竜巻に飲み込まれるともがきながらも抵抗していたが、なり止むとその攻撃力は失われていた。

 

【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】

ATK/3300→ATK/1650

 

「そしてレベル4の【陽炎のカーム】にレベル2の【極北のブリザード】をチューニング! 荘厳なる大地に導かれ、劣勢の下に顕現せよ! シンクロ召喚! いでよ、重力の力【グラヴィティ・ウォリアー】!」

 

ーーー

【グラヴィティ・ウォリアー】☆6 地 戦士 ①

ATK/2100

ーーー

 

蒼い人型をした闘士のようなモンスターが空中から出現し、拳を地面に叩きつけながら赤見さんの前に現れた。

 

「【グラヴィティ・ウォリアー】の効果発動! シンクロ召喚に成功した時、相手の表側表示モンスター1体につき、攻撃力を300ポイントアップする。お前の場には2体のモンスターがいるため、600ポイントアップし、攻撃力は2700となる!」

 

【グラヴィティ・ウォリアー】

ATK/2100→ATK/2700

 

「へっへっへ……攻撃力で超えてきやがったか」

 

「あぁ、覚悟しろ。【グラヴィティ・ウォリアー】で【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】を攻撃! "リバーサル・インパクト!"」

 

【グラヴィティ・ウォリアー】

ATK/2700

【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】

ATK/1650

 

【グラヴィティ・ウォリアー】は大きく拳を振り上げるとそのまま勢いよく跳躍し、【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】へと迫る。

 

「せっかくの反撃もその程度か? 赤見! 罠発動! 【タクティカル・エクスチェンバー】! 場のモンスター1体を破壊し、その後デッキ、墓地から"ヴァレット"モンスターを特殊召喚できる」

 

「なに……? また自らのモンスターを破壊するカードだと」

 

「その通りよ! 俺は【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】を破壊し、墓地から【アネス・ヴァレット・ドラゴン】を守備表示で特殊召喚!」

 

ーーー

【アネス・ヴァレット・ドラゴン】☆1 闇 ドラゴン ④

DEF/2100

ーーー

 

「だが、お前の場にはまだ【マグナ・ヴァレット・ドラゴン】がいる。ダメージは防げーー」

 

「いや、まだなんだなあこれが! 【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】が破壊された時、場のモンスター全てを破壊する! "ヘル・アナイアレイション!"」

 

破壊されたはずの【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】の存在した場所から紫光が解き放たれると、全てのモンスターの足元が禍々しく光り出す。

すると、場に存在していた全てのモンスターが地面に取り込まれるような形で消滅してしまった。

 

「なんだと……!? 私のモンスターが全滅……」

 

「へへへ……ハッハッハ! 無様なもんだぜ赤見? 俺がさっき手札に加えたのは【再融合】。あんたもよく知ってるだろう?」

 

「あぁ……。ライフを犠牲に墓地から融合モンスターを復活させるカード……」

 

「ご名答! さらに、装備魔法【ヴァレル・リロード】の効果で、装備モンスターが破壊された時、カードを1枚ドローできる!」

 

もはや赤見さんを守るものがなくなってしまった現状。

再び【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】を出されてしまえばどうしようもない。

手札も残り2枚。通常召喚権も残されていない中、赤見さんに打つ手はあるのだろうか……。

 

「私は……カードを1枚伏せて、ターンエンドだ……」

 

赤見さんは静かにカードを1枚伏せると、再びデントのことを睨みつける。

あの伏せカードに何か逆転の布石があるのだろうか。

いや、あってくれ。俺はこんなところで赤見さんが負ける姿を見たくない。

赤見さんがいたからこそ俺は特殊機動班に入れて人並みの生活ができている。

そして、こうしてテロリストへ戦う力も与えてくれた。

だけど、俺はまだそんな赤見さんに対して何も恩返しができていない。

 

「赤見さん! あきらめないでください!」

 

俺は思わず大きな声で赤見さんに叫んでいた。

 

「遊佐くん……」

 

「例えジェネシスの奴がどんなに強かったとしても、デュエルモンスターズを悪事に使っている奴らの行為はとうてい許されるものじゃない! 見せてくださいよ……俺たちSFS隊員の……デュエルモンスターズの正しい力を!」

 

隣で結衣が少し悲しそうな目で俺のことを見ていた気がするが、俺は気にせず赤見さんに向けて叫んだ。

赤見さんは俺の声に気づき、こちらへ目を向ける。

そして、少し優しい表情へと変えると口を開いた。

 

「ふっ、心配をかけてすまないな繋吾。だが、私が地面を這いつくばるのは、目的を完遂した後だけだ!」

 

「へへへ……かっこいいことばっかり言っちゃってよお! そんなこと言ってもお前の場にモンスターは何もいないんだぞ?」

 

「それを言うならお前も同じだ」

 

「そこが甘いんだよ赤見……。俺はエンドフェイズ時にこのターン破壊された【アネス・ヴァレット・ドラゴン】と【マグナ・ヴァレット・ドラゴン】の効果を発動! それぞれデッキから自身と異なる"ヴァレット"モンスターを特殊召喚できる効果を持つ! 来い、【シェル・ヴァレット・ドラゴン】。【オート・ヴァレット・ドラゴン】!」

 

ーーー

【シェル・ヴァレット・ドラゴン】☆2 闇 ドラゴン ②

ATK/1100

ーーー

【オート・ヴァレット・ドラゴン】☆3 闇 ドラゴン ④

ATK/1600

ーーー

 

「んな!?」

 

先ほどの【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】の破壊によって消滅した場は別の形となって蘇ってしまった。

さらに【再融合】を使えば、実際破壊されていなかったようなものとなってしまう。

対して赤見さんの場は空のまま。

デントははじめからこうなることを想定していたということか。

 

赤見 手札1 LP700

ーー裏裏ー

ーーーーー

 ー ー

ーモーモー

ー罠ーーー

デント 手札2 LP3100

 

「さぁて、お前のラストターンだ赤見! 俺のターン、ドロー! ライフポイントを800支払い、手札から装備魔法【再融合】を発動! 墓地から蘇れ、【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】!」

 

デント LP3100→LP2300

 

ーーー

【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】☆10 闇 ドラゴン ③

ATK/3300

ーーー

 

デントの前に、再び紫色に光る翼を大きく広げ【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】が出現した。

 

「くっ……」

 

「さらに現れよ。撃鉄を起こすサーキット! 俺は【シェル・ヴァレット・ドラゴン】と【オート・ヴァレット・ドラゴン】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、来い【ブースター・ドラゴン】!」

 

ーーー

【ブースター・ドラゴン】リンク2 闇 ドラゴン ②

ATK/1900

ーーー

 

「【ブースター・ドラゴン】の効果発動。場のモンスター1体の攻撃力を500ポイントアップさせることができる! 【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】の攻撃力を500ポイントアップ!」

 

【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】

ATK/3300→ATK/3800

 

十分すぎる高さの攻撃力がさらに上昇していく……。

ほぼワンターンキルできそうなくらいの攻撃力だ。

 

「さらに【ブースター・ドラゴン】が破壊された時、墓地からドラゴン族を蘇らせることができる。これで例え伏せカードが俺のモンスターを破壊するようなカードだったとしても無意味ということだ!」

 

「なるほどな……。墓地にドラゴン族モンスターは多く存在している……」

 

ライフポイントが700しかない赤見さんにとっては、ただの下級モンスターの攻撃でもやられてしまう。

戦闘ダメージを防ぐカードがなければ負けてしまうということだ。

 

「んじゃ、今度こそトドメだ、赤見! バトルフェイズ、【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】でダイレクトアタック! "インディミネイト・ストリーム!"」

 

再び口元へと凝縮された力が、紫光となって赤見さんを襲いかかる。

お願いだ……赤見さん。なんとか防いでくれ……!

 

「リバースカードオープン! 罠カード、【分断の壁】を発動! 相手の攻撃表示モンスターの攻撃力は、相手モンスター1体につき800ポイントダウンする!」

 

「なに……? 俺の場のモンスターは2体か」

 

デントの場に存在しているモンスターは2体のみ。

したがって、減少する攻撃力は1600ポイントだ。

それでは、デントのモンスターの攻撃力を下げきれない……。

 

「おいおい、笑わせんなよ赤見? それじゃ攻撃力は700以上はある。最後の悪あがきか?」

 

「まぁ慌てるなよ。【分断の壁】にチェーンして、もう1枚の罠カード【おジャマトリオ】を発動! 相手の場に【おジャマトークン】3体を守備表示で特殊召喚する!」

 

「なにぃ!?」

 

ーーー

【おジャマトークン】☆2 光 獣 ①、②、④

DEF/1000

ーーー

 

黄色と緑色と黒色をしたパンツ一丁の奇妙な二頭身ほどのモンスターがデントの場に召喚される。

とても頼りなさそうで、見た感じも気持ち悪そうな感じだが、モンスターとしては間違いなくカウントされる。

すなわち【分断の壁】の適用効果も上昇するということだ。

 

「これでお前の場のモンスターは合計5体、よってお前の攻撃表示モンスターの攻撃力は4000ポイントダウンする!」

 

【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】

ATK/3800→ATK/0

【ブースター・ドラゴン】

ATK/1900→ATK/0

 

デントの場のモンスターは赤見さんの罠から発された光に取り込まれ、その力を失っていった。

 

「ちぃ……。しぶといじゃないか……。それでこそSFSの生き残りってところか?」

 

「そうだな。今まで私たち特殊機動班は幾度となくジェネシスの奴らと戦い続け、多くの仲間を失ってきた。だからこそ、私は諦めるわけにはいかない。志半ばで倒れた今までの特殊機動班員のためにもな!」

 

「多くの仲間……ねぇ。確かに俺たちジェネシスは欲にまみれた愚かな人間を使い大規模デュエルテロを起こしてきた。一つの目的のためにな」

 

「国家の滅亡か?」

 

「ったく、そんな悪そうな言い方するんじゃない。もっと素晴らしいものさ。まっ、あんた達に教える気はないがな……?」

 

いくらどんなに素晴らしい目的があったとしても、奴らの行為は許されるものではない。

俺たちSFSがジェネシスを殲滅することに変わりはないだろう。

 

「別に聞くつもりはない。お前を拘束できればそれでいい」

 

「やってみろっての。だけど、こうコソコソせずに表舞台で暴れられるってのはやっぱり気分がいいねぇ!」

 

「お前はやはり……」

 

「そう、これでもジェネシスの幹部ってところだ。驚いたか?」

 

やはりこのデントという男はジェネシスでもそれなりの地位にある者のようだ。

こいつを拘束できてしまえば、SFSとしても国防軍としても大きな成果をあげられるんじゃないか……?

今までのSFSの苦労が少しは報われるというのなら、これほど喜ばしいことはない。

 

「今までは国防軍の連中に素性がバレないよう表舞台ではあまり暴れられなかったが、もうその必要もない」

 

「どういうことだ……?」

 

「事情が変わったんだよ。それに……俺たちが出向かなきゃあんたみたいな奴は倒せないだろうしなぁ?」

 

事情が変わった……?

いまいちその意味がわからないが、赤見さん相手に5年間も苦戦して痺れを切らしたってところだろうか。

 

「悪いが、お前でもこの私を倒すことはできない」

 

「おいおい、この状況で冗談は言うもんじゃないぜ? もう頼みの伏せカードもない。これで終いなはずだ。手札から速攻魔法【ライバル・アライバル】を発動! バトルフェイズ中にモンスター1体を召喚できるぜ。来い、【ゲートウェイ・ドラゴン】!」

 

ーーー

【ゲートウェイ・ドラゴン】☆4 闇 ドラゴン ⑤

ATK/1600

ーーー

 

赤見さんの場には伏せカードもなければ壁モンスターもいない。

たかが下級モンスターが召喚されただけだが、その攻撃力でも赤見さんのライフポイントを削りきるには十分すぎる力だった。

 

「なに……!」

 

「ハッ! 想定外か? まぁいくらあんたらが頑張ろうと所詮は真似事に過ぎない。元々デュエルウェポンを作り出したのは我々ジェネシスなんだからなぁ! さぁ、くたばれ赤見ィ!」

 

デントが赤見さんを指差しながら力強く叫ぶと、【ゲートウェイ・ドラゴン】は自らの背中に位置する板状な物にエネルギーを溜め始めそれを赤見さんへ向かって放った。

赤見さんが……負ける……!?

 

「……笑わせるな。元々デュエルモンスターズはデュエルウェポンのために存在しているわけではないだろうが!」

 

「っへ! 知るかよ! なにを言おうとお前は負けなんだよ、赤見!」

 

「それはどうかな。私は墓地から【BF-陽炎のカーム】の効果を発動! 相手のバトルフェイズに自分フィールドにモンスターが存在しない時、自身を除外して墓地からシンクロモンスターを特殊召喚できる! 蘇れ、【グラヴィティ・ウォリアー】!」

 

「なにぃッ!」

 

ーーー

【グラヴィティ・ウォリアー】☆6 地 戦士 ③

ATK/2100

ーーー

 

【ゲートウェイ・ドラゴン】の攻撃が間近に迫っている中、間に入るようにして地面より【グラヴィティ・ウォリアー】が出現し、赤見さんの前に立ちはだかった。

 

「ちぃ……死に損ないが……。だが、メインフェイズ2にお前が大量にくれたこのトークン含めてリンク召喚してしまえば、もはや手札1枚しかないあんたに勝ち目は……」

 

「残念だがデント。もうお前のターンはない」

 

「なんだと?」

 

「【グラヴィティ・ウォリアー】の更なる効果を発動! 相手のバトルフェイズ中に相手の表側守備表示モンスター1体を攻撃表示にし、そのモンスターを強制的に攻撃させる! 起き上がれ、【おジャマトークン】」

 

デントの場にいた【おジャマトークン】が攻撃表示へと変わり、その貧弱そうな右腕を振り上げ、【グラヴィティ・ウォリアー】へと突撃していく。

 

「馬鹿な! おい……なにをしている! クソッ!」

 

【おジャマトークン】

ATK/0

【グラヴィティ・ウォリアー】

ATK/2100

 

「迎え撃て、"リバーサル・インパクト!"」

 

【グラビティ・ウォリアー】は立ち向かってきた【おジャマトークン】に思い切り拳を振り上げ、渾身の一撃を放つ。

たちまち【おジャマトークン】ははじけ飛び、消滅した。

続けて、そのままその衝撃波がデントを襲う。

 

「ぐおわっ!」

 

デント LP2300→LP200

 

「あぶねぇなったく。だが、まだ俺のライフは200残ってるぜ……?」

 

「残念だったな。【おジャマトークン】は破壊された時、そのコントローラーに300ポイントのダメージを与える効果がある」

 

「なにぃ……? んな馬鹿なあ!」

 

消え去ったと思った【おジャマトークン】が再びデントの前に出現し、デントを巻き込むようにして爆発した。

その爆発に飲み込まれ、デントは後方へと吹っ飛んでいく。

 

「ぐおあああああ!」

 

デント LP200→LP0

 

勝った……! 赤見さんが勝ったんだ!

俺は安堵したと共に自然と表情が笑顔となる。

俺たちSFSは、ジェネシス殲滅への道を一つ進むことができたんだ。

 

「赤見さん! さすがです!」

 

「赤見班長!」

 

俺たち特殊機動班のメンバーは赤見さんの元へと集まり、歓喜の声を上げる。

 

「お前ら……はしゃぎすぎだ」

 

赤見さんはその様子を見て苦笑いをしていた。

 

「よくやったぜ赤見。んじゃこいつは任せておきな」

 

気が付くと郷田さんはデントを縄で縛り上げ、その体を背負っていた。

 

「ありがとう郷田。そいつの管理は任せていいか?」

 

「任せろや。普段の筋トレの成果見せてやるぜ!」

 

筋肉質な郷田さんにとって、男一人を背負うくらいはどうということはないようだ。

肝心なデントの様子だが、うめき声を上げながら郷田さんの背中でもがいている。

だが、デュエルでの敗北ダメージでろくに動けない様子だった。

 

「さて、まだ安心はできないぞ。今、外では偵察警備班が戦ってくれている。すぐに援護に向かわなくては」

 

そうだ。外には大量のテロリストが襲いかかっていると言っていた。

俺たちもすぐに増援に入らないとやられてしまうかもしれない。

 

「赤見班長。すぐに向かいましょう! ここでゆっくりしている暇はありません」

 

「あぁそうだな結衣。さっそく向かうとーー」

 

その瞬間、赤見さんのデュエルウェポンから通信音が鳴り出した。

まさか外の宗像班長だろうか……。何か嫌なお知らせでも……。

 

「これは……決闘機動班か……? こちら特殊機動班、赤見だ」

 

「赤見班長! 任務中すみません! 決闘機動第4班の野薔薇です! 今、大丈夫ですか?」

 

野薔薇副班長か……。このタイミングにどうしたというのだ。

決闘機動班だから周辺の警備任務にでもついているのだとは思うが……。

 

「あぁ、大丈夫だが……そんなに慌ててどうした?」

 

「イースト区の周辺警備を行っていたのですが、突如デュエルテロが発生したんです! かなりの規模で私たちだけでは手が回らない状況でして……増援がいただければと。そちらも潜入任務で大変なのは理解していますが、このままではイースト区の住民の命が……」

 

どうやらこのアジトだけでなく、イースト区全体での規模までデュエルテロは発展してしまっているようだ。

外はそれほどまでに大変なことになっているのか……!

 

「こちらは任務が完了したところだから、今すぐにでも向かいたいところだが、あいにくこちらもアジト周辺を襲撃されて、退路がなくなってしまったところでな……。すまないが協力できそうにない……」

 

「そう……でしたか……。わかりました。私たちでなんとかしてみます」

 

その声はどことなく自信なさげな様子であった。

相手の規模がどの程度だかわからないが、あの野薔薇副班長が増援を欲しがる程ということはよほどのことだろう。

 

「いや、待ってください。赤見班長」

 

すると俺の横にいた桂希が赤見さんへと声をかけた。

 

「どうした? 桂希副班長」

 

「一つ提案があります」

 

桂希はそう言うと自らのポケットより2枚のカードを取り出した。

 

「ここに【空間移動】のカードがあります。これを使えばここのアジトから脱出し、外の決闘機動班の援護に行くことも可能かと」

 

「それは……この間機器開発班が発表していた最新カードじゃないか! なぜ君が?」

 

「機器開発班よりいただいたものです。この緊急事態、使わざるを得ないかと」

 

そんな便利なカードがあったのか……。

それを使えば確かにここから脱出し、住宅街の救援に向かえそうだ。

だが、そのカードは2枚しかない。ってことは行けるのは二人だけということだろう。

 

「なるほどな。だがそのカードは2枚しかないようだが……」

 

「ええ。なのでここから二人、決闘機動班の援護に向かうというのはどうかなと思いまして」

 

「いや待てよ! 桂希!」

 

桂希の提案に待ったをかけたのは颯だった。

 

「ただでさえこっちだって外の敵が多すぎて全滅するかもしれねぇって時に、わざわざ決闘機動班の援護なんて行ってる余裕ねぇだろ! お前らの都合で考えてるんじゃねぇ!」

 

「なるほど。確かに一理はあるな。だが、このままでは特殊機動班の作戦によって、決闘機動班が全滅した。なんて情報が本部に流れる可能性があるぞ? さらには援護にも来なかったとなると今後の特殊機動班の立場はどうなるだろうな?」

 

「てめぇ……ふざけやがって……!」

 

颯が怒っているのもわかるが、桂希が言っているのも間違いない話だ。

桂希の言い方に嫌味っぽさは感じられないし、俺たち特殊機動班のことを考えてくれて言ってるんだと思う。

颯も結衣も決闘機動班のことが嫌いだ。それに郷田さんはデントの管理という重荷がある。

また、赤見さんがいなくてはこの作戦の指揮が取れなくなるだろうし、ここは俺が行くべきだろう。

 

「桂希。それなら俺が向かおう」

 

「おい、繋吾……! マジで言ってんのか……!」

 

「あぁ。赤見さん、行っても問題ないですか?」

 

「うーん……」

 

赤見さんは腕を組んで考え込んでいるようだった。

 

「大丈夫ですよ赤見班長。遊佐の命はなんとしてでも守ってみせますから」

 

「桂希……しかし……」

 

「赤見さん。俺なら大丈夫です。信じてください」

 

俺は赤見さんの目を見つめながら力強く言った。

その視線に気づいたように赤見さんは口を開いた。

 

「わかった。繋吾、くれぐれも無茶するんじゃないぞ?」

 

「はい。特殊機動班の力、見せてやりますよ!」

 

俺は力強く頷き、桂希から手渡される1枚のカードを受け取る。

 

「これだ遊佐。これをデュエルウェポンにセットすると指定した場所に空間移動できる。座標の指定は私の方でやるから安心してくれ」

 

「わかった」

 

桂希は俺のデュエルウェポンを操作し、その座標の指定とやらをやっているようだ。

俺にはいまいち何が起きているのかよくわからない。

 

「遊佐くん。気をつけてください。やられでもしたら承知しませんから」

 

「絶対生きて帰ってこいよ繋吾! こっちは俺たちでなんとかするからよ!」

 

「あぁ、任せてくれ。お前たちもテロリストなんかに負けるなよ」

 

「この上地 颯様が負けるわけねぇだろ? ハハハ!」

 

あの調子なら大丈夫そうだな。なんといってもジェネシスの幹部を打ち破った赤見さんがいるんだ。

このアジトに群がるテロリストはなんとかしてくれるはずだろう。

 

「繋吾ちゃん。このデントってのはちゃんと持って帰るからあとで一緒に尋問してやろうぜ!」

 

「あはは……。ぜひお願いしますよ。郷田さん」

 

ちょうどこのデントって奴からは山ほど聞きたいことがあるところだ。

無事に任務か完了した時の楽しみにしておこう。

 

「それでは繋吾。またあとで必ず合流しよう」

 

「はい、赤見さん。行ってきます」

 

俺は特殊機動班のメンバーに挨拶を済ませると桂希の方を向いた。

 

「さて、準備OKだ。それじゃいくぞ遊佐。魔法カード【空間移動】発動!」

 

桂希に合わせて俺も【空間移動】のカードをセットする。

すると俺の体は足元から徐々に消滅し始め、やがて視界が真っ白へと変化した。

 

なんだろう。雲の中にでも入ったようなふわふわした感覚。

このまま寝ていたいような心地よい感じだ。

 

だが、そんな時間も長くは続かず、突然地面に落とされるような落下した感覚とともに、視界が別の景色へと移り変わった。

 

外だ。

既にあたりは真っ暗だが、ところどころの燃えている家屋の光であたりは見渡せるくらいには明るかった。

 

「遊佐。大丈夫か?」

 

隣には桂希がいた。

どうやら無事に空間移動できたみたいだ。

 

「あぁ。にしても随分とひどい有様だなこれは」

 

燃え盛る住宅街と、ところどころで聞こえる悲鳴と爆発音。

先日の襲撃を思い出すかのようだ。

 

「こうしてはいられない。すぐに向かうぞ、遊佐!」

 

「言われなくても!」

 

俺と桂希の二人は、燃え盛る住宅街に向かって駆け抜けていった。



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Ep33 - 生死の決断

炎上している住宅街を駆けていく桂希と俺。

道中横たわる人を目にしながらも決闘機動班が奮闘している地域を目指して突き進んでいた。

 

既に近くでは国防軍と思われる制服を着た人たちがテロリストとのデュエルを始めているのが見える。

国防軍の人たちの力量がどのくらいあるのかはわからないが、この周辺はあの人達を信じよう。

 

しばらく走っていると、SFSの制服を着た人たちが見えた。

おそらく決闘機動班の人達だろう。

一人は負傷しているのか地面に横たわっていて、もう一人はその人を介抱している様子だった。

 

「あっ、桂希副班長! 来てくれたのですか!」

 

介抱している方の人物が桂希を見て声を上げた。

 

「あぁ、状況を教えてくれ。どうなっている?」

 

「決闘機動第4班の持ち場周辺でデュエルテロが発生しまして、そこから徐々に被害が拡散している状況です。我々決闘機動第3班は、持ち場のテロリストと交戦しつつ、こうして第4班所属の者の手当を行っています!」

 

「なるほどな。第3班なら……小早川副班長はどうしている?」

 

「持ち場のテロリストとの交戦での指揮を取ってます。なので、第4班の援護まで手が回っていない状況です」

 

「そうか……」

 

それを聞くと、桂希は少し考えた素振りを見せ、そして俺に向かって声をかけてきた。

 

「遊佐。第4班の救助に向かおうと思うがどうする? かなり危険な内容となるが」

 

どうするもこうするも救援要請をしてきたのは紛れもない決闘機動第4班の野薔薇副班長だ。

ここまで来て助けに行かないなんて選択肢はない。

 

「今更なにを言ってる。行くに決まってるだろう」

 

「ふっ、ならばいくぞ! 君、第4班の持ち場はわかるか?」

 

「はい。今そちらのデュエルウェポンに座標データを送りますね」

 

決闘機動班の男はデュエルウェポンを操作すると、桂希の画面に地図データが表示された。

そこにはここから数百メートル離れた位置が表示されていた。

 

「すまないな君。ここの持ち場は任せた!」

 

「はい! 桂希副班長達もお気をつけて!」

 

「ああ。さぁ遊佐、こっちだ!」

 

俺は無言で頷き、走り出す桂希についていく。

決闘機動第4班の持ち場はデュエルテロの発生箇所。

すなわちかなりの被害状況が想定される。

心してかからなければな……。

 

 

 

ーーしばらく走っていると大きな爆発音と男性の悲鳴が聞こえてきた。

かなり近い……前方の交差点を曲がった先だろうか。

 

交差点へ差し掛かり音が聞こえた方向を見ると、倒壊しかけている建物の脇にSFSの制服を着た集団と黒服に身を包んだ怪しい集団が対峙していた。

 

「遊佐、あれだ。決闘機動第4班の奴らだろう」

 

「だろうな、どう乱入すればいい?」

 

「どうやらもうすぐデュエルが終わるみたいだ。その終わったタイミングに割り込むぞ」

 

決闘機動第4班の人物達を見ると負傷して倒れている数名の隊員とそれを庇うようにして戦っている一人の隊員がいた。

対するは同じく数名ほどの倒れている黒服の人たちに、デュエルウェポンを構えた2名のテロリスト。

それだけ見ればある程度は互角に戦っていたと想定される状況ではあるが、問題は今のデュエル内容であった。

 

テロリスト LP2500

ーー裏ーー

ーモモーー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

決闘機動班員 LP500

 

そう、今にも負けそうな状況だった。

 

「終わりだ、【メタル・デビルゾア】でダイレクトアタック!」

 

「ひっ……やめろお……やめてくれえ!」

 

【メタル・デビルゾア】

ATK/3000

 

悪魔のような見た目に似せた機械仕掛けのモンスターが、その大きな右腕を決闘機動班員に向けて振り下ろした。

 

「ぐああああ!」

 

決闘機動班員 LP500→LP0

 

決闘機動班員はその攻撃を受け、後方の横たわっている他のSFS隊員と同様に地面へと倒れこんだ。

 

「いまだ、遊佐!」

 

桂希の掛け声とともにその場へ割り込むようにして俺達は駆け込み、テロリスト達と対峙した。

 

「くっ、新手か。いいだろう。ここでひねり潰してやろう」

 

「誰がお前なんかに……!」

 

俺は奴らを力強く睨みつける。

SFSの仲間を傷つけられ、街をめちゃくちゃにしやがったこいつらには痛い目にあってもらわなければ気が済まない。

 

「……桂希……副班長……!?」

 

「手当は後でしてやる。少しだけ我慢しててくれ」

 

「よか……た……」

 

決闘機動班員達は桂希の姿を見て安心したのか、そのまま目を閉じてしまった。

まだ息はある。ここで奴らを片付けさえすればこの人達は助けることができそうだ。

それにしても決闘機動班の奴らの反応を見ると、桂希という存在がいかに決闘機動班の中では信頼されているかというのがよくわかるな……。

 

「ちょうど相手は二人か。遊佐、一人は任せられるか?」

 

「あぁ、任せてくれ。ジェネシスの奴らを許してはおけない……!」

 

さっきのデントに比べればこいつは下っ端だろうし、大した腕もないはず。

油断さえしなければ問題なく勝てるはずだ。

 

「ふっ、勢い余って足元すくわれるなよ? 遊佐」

 

「桂希こそ、油断するなよ」

 

「とんだ余裕だな。いくぞ……」

 

「デュエル!」

 

そうして、俺と桂希はそれぞれテロリストを相手にデュエルを始めたのだった。

 

 

 

ーーー繋吾と桂希の空間移動を見届けた後。

私は結衣と颯、そしてデントを背負った郷田と共に来た道を引き返していた。

 

外の部隊……一樹達がどういう状況なのかはわからないが、相手は50人以上はいると言っていた以上、激戦は免れない状況だ。

ましてやデュエルに持ち込まれたんじゃ、いくら勝ち続けられたとしても体が持たない。

それにそれだけの規模のテロリストを動かしているんじゃ、さっきのデントみたいに誰かしら指揮を取っているものがいるはずだ。

そいつだけはなんとしてでも倒さなければ……。

 

そして、なんといっても住宅街の救援に回った繋吾が心配だ。

本人はやる気十分な様子だったが、人数の多い決闘機動班が苦戦している様子じゃ、かなりの被害が想定される。

桂希副班長がついているとはいえ、どうしても不安は拭えなかった。

 

私としては決闘機動班自体が不安要素ではあるのだが……しかし、あの桂希副班長は他のやつらとは腕前が大きく違うみたいだ。

それにこの状況下であれば、例え白瀬班長の差金だったとしても悪いことはしないだろう。

今は桂希副班長を信じて、私は目の前のテロリストをなんとかしなければな……。

 

そんなことを考えながら私たちは最後の倉庫へ抜けていく階段を登って行き、ようやく最初に捜索を始めた倉庫へと戻ってくる。

しかし、その倉庫へたどり着いた段階で私は言葉を失ってしまう。

 

「赤見班長……。これは……」

 

倉庫の中には多くの倒れたSFSの隊員。

そして、それを必死に手当する救助護衛班の人たちだった。

 

「これは……想定以上だな……」

 

その状況を見て思わず口にしてしまう。

決して楽観視はしていなかったが、これほどまでとは。

 

「赤見班長……! 戻ってきたんですね! 今すぐ救援を……! このままでは全滅してしまいます!」

 

救助護衛班の女性が私にすがりつくように声を上げる。

この倉庫の中だけでかなりの負傷者がいるようだ。

もはや外に何人いるのだかわからない。

 

「わかった。状況はどうなってる?」

 

「この倉庫をテロリストに包囲されてまして、デュエルの連戦状態です……。負けた隊員をこうして運び込んでますが、もう外で戦っている人も何人いることやら……」

 

なるほど。全滅するまで時間の問題ということか。

相手の狙いは私のはずだ。今すぐにでも打って出なければならないな。

 

「了解だ。結衣、颯。行けるか?」

 

「……はい。任せてくださいよ! ここで立ち往生してたら……繋吾に合わせる顔がないっす!」

 

「大丈夫……です。負けなければいいのですから……」

 

颯も結衣も口ではそう言ってるが、どこか震えている様子だった。

無理もない。生き残れるかもわからない戦場にこれから行くようなものだからな。

 

「赤見、やっぱり俺も行ったほうが……」

 

「いや、郷田。デントの拘束はお前にしか任せられない。だが、いざとなったら結衣と颯の救出だけは頼む……」

 

「そうか……。わかった! 結衣、颯。何かあったらすぐに俺様に連絡しろよ!」

 

その言葉に結衣と颯は力強く頷いていた。

そういう事態が起きなければ一番いいのだが。

 

「よし、じゃあいくぞ!」

 

私はそう掛け声を上げて、倉庫の扉を開く。

 

まず目に映ったのは、倒れたSFS隊員の数々。

そして、倉庫を守るようにしてデュエルをしている隊員の姿。

それに対するはデュエルウェポンを構えた数十名にも及ぶテロリストの姿だった。

 

「こいつは……どこから向かえばいいんですか。赤見班長」

 

「そうだな……」

 

颯の問いに対して言葉を失ってしまう状況だった。

さて……これはどうするべきか……。

 

周囲をよく見渡してみると前方で戦っているのは宗像班長だった。

 

「【メタルフォーゼ・オリハルク】でダイレクトアタック! "バーニング・ダイブ!"」

 

「ぐほあっ!」

 

テロリスト LP1200→LP0

 

さすがだ。なんとか勝ち続けている様子だ。

だが、その勝利後に宗像班長はその場で膝立ちとなり、下を向いてしまった。

肩を使って呼吸をしている様子から、体力的にかなりの限界が来ているようだ。

 

「仁くん! 戻ってきたんだね!」

 

この声はレンか。

声がする方を向くと紅谷班長が私の方へと走ってきた。

 

「お前は……大丈夫なのか?」

 

「私は今のところなんとか……。だけど、まだ相手は30人くらいはいるよ……。一体どうしたら……」

 

残存している戦えそうな味方は我々含めてもざっと10人いないくらいだ。

どう考えても不利な状況であることに間違いない。この戦いにどう勝算は見い出したらいいのだろうか。

 

もはや私の頭ではこの状況からの打開策は浮かばなかった。

 

ならば……私が取る行動は……少しでも多くの生還者を出し、かつデントを本部まで持ち帰ること。

それ以上の最善策は思いつかなかった。

 

「皆、よく聞いてくれ。私が前方の敵を引き付ける。その間に裏口に戦力を集中させ、そこから脱出するんだ」

 

「何を言っているの……? 仁くん」

 

「このまま全員ここで全滅するよりかは遥かにマシだろう。幸いうちの結衣と颯、郷田の3人は戦える状況だ。一箇所に戦力を集中させれば、裏口の戦力くらいなら突破も可能だろう」

 

元々この襲撃作戦を立案したのは私だ。

この作戦は最後まで自分が責任を負わなければならない。

 

「そんな……赤見班長! あなたを見捨ててここで逃げろって言うのですか! そんなことできません」

 

「俺も同意見です。赤見班長が残るのなら俺も残ります」

 

まったく、結衣も颯もこの状況で……いい奴だよお前たちは本当に。

だが、それじゃダメなんだ。戦場では非情にならなきゃいけない時がある。

 

昔からそうだ。特殊機動班っていうのは、任務の度に別れの連続だ。

私も入隊してから多くの人との"別れ"を経験し、何度も後悔した。

あの時、自分が迷っていなければ、あの人は死ななかったんじゃないかとか。色々だ。

 

結果は誰にもわからない。

だからこそ私は、もう後悔しないように自らの選択は大丈夫だと信じ込むことにした。

そうしなければ助かるはずのものも失うかもしれないし、何より自分自身が恐ろしくて仕方がないからだ。

 

だから……私の選択を信じてくれよ。

私はただ、自分の作戦でこれ以上他の人を失いたくないだけなんだ。このままじゃこの場にいる全員が死ぬ。

お前らだってわかってるんだろう……。結衣、颯。

 

「……特殊機動班なら自らの任務を遂行しろ! 特殊機動班の目的は私の命じゃなくて、拘束したデントを運び込むことだろう!」

 

思わず私は強い口調で怒鳴るように言いつけてしまう。

本当は戦うと言ってくれた仲間達にこんなことは言いたくはない。

だけど、こいつらの命を助けるためだ。仕方がないだろう。

 

「……仲間の命よりも優先すべき任務なんて、そんなのおかしい……と思います」

 

「結衣……」

 

こんな状況下でも、命が惜しくはないというのか。大した度胸だよ本当に。

いや、結衣は一度は全てを投げ捨てて生きてきたのだったな。

懐かしいなぁ。もう2年ぐらい前の話になるのか。

 

「もし、赤見班長がそう命ずるのであれば、私は特殊機動班員ではなく……SFSの一隊員として、ここにいるテロリストを殲滅する任務を選びます!」

 

まいったなぁ。何が正しいんだかわからなくなってきてしまったよ。

勇敢な若き特殊機動班の星が奮起しているというのに、私が逃げ腰でどうするんだ。

 

仕方がない。それが最善の策だと言うのなら私はそれを導くのみ。

それに……こんなにも貴重な仲間を……私は無下にはできない!

 

「わかった。お前らの覚悟はよく伝わってきた。それなら行くぞお前ら! 目標は前方! 正面突破する!」

 

「はい!」

「もちろんっす!」

 

ここまで来たらもうやるだけのことはやってやる。

もしかしたら勝てる可能性だってあるかもしれない。

 

「私も戦うよ。仁くん!」

 

「レン……お前……無茶するなよ?」

 

「ふふっ、私を誰だと思ってるの? 久しぶりに弾けさせてもらおうかな!」

 

こいつもこいつで……SFSの連中は良くも悪くも勇敢で真面目なやつばかりだな。

頼んだぞ……SFSの精鋭部隊達よ。

 

「進めええ!」

 

そして、私たちは大きな突撃号令と共に玉砕覚悟の勢いで宗像班長たちと交戦していた目の前のテロリストの元へと向かって走り出した。

 

「赤見……? お前……」

 

宗像班長の横を通り過ぎようとした時に、驚いた様子の彼に声をかけられる。

 

「一樹、お前は少し休んでいてくれ。ここから先は私に任せろ」

 

「任せろってお前……この数相手に……?」

 

「悪いな一樹。もう私にも何が正しい作戦なのかわからなくなってきてな」

 

「お、おい……お前!」

 

宗像班長の台詞を聞き終わらないうちに私は再びテロリストへ向かって走る。

やがて、10名ほどのテロリストがデュエルウェポンを構えながら私たちと対峙した。

 

「行くぞ、デュエルだ!」

 

私たちもテロリストに合わせるようにしてデュエルウェポンを構える。

そして、デュエルモードのボタンを押そうとした時、聞きなれない声が戦場に響き渡った。

 

「ちょっと待ってよ。ストップ」

 

その声はテロリスト達の後方から聞こえた。

そこにはウェーブのかかった黒髪に紫色の目を光らせた青年がおり、こちらに向かって歩いてきていた。

 

「君、赤見 仁だよね?」

 

その青年は突然私の名前を確認するように言って来た。

こいつも私を狙う奴だろうか。

無闇に正体を明かすのは得策とは言えないがどうするか。少し濁してみるか?

 

「どうだろうな」

 

「いや、わかってるんだよ赤見くん? 僕の顔、見覚えないかな」

 

やがてその青年が私の真正面へと来ると、その顔があらわになる。

 

「お前は……!?」

 

「やっと会えたね。探したよー赤見くん」

 

そいつは私の知っている人物だった。

かつて、私を追い何度も襲いかかってきたジェネシスの部隊の指揮官みたいな人物だ。

あの子供のような容姿からは想像つかないが、デュエルの腕は相当なものであることは知っている。

 

「お前か……私を探していたというのは。何が目的だ」

 

「まぁね。それも今から話そうと思ってたとこだから……まぁ、とりあえずまずはその腕の物騒なもの下ろしてよ。あ、君たちもね」

 

その青年に言われてテロリスト達はデュエルウェポンを下げる。

私もそれを確認してからデュエルウェポンを下ろすと、周りにいた結衣達も合わせるようにデュエルウェポンを下ろした。

 

「さーてと、まずは自己紹介だけしとこうか。僕はネロって言うんだ。よろしくね、赤見くん?」

 

「……要件はなんだ?」

 

「ちょっと無視? ひどいなぁ。まぁそれは置いといて……一つ交渉をしようと思ってね。もし君が乗ってくれれば、今このマンション周辺にいる僕の部隊は全て撤退してあげる。悪くはない話だと思うけど?」

 

「なんだと?」

 

マンション周辺全ての部隊を撤退させるだと?

そうしてもらえるのならば、私たちSFS隊員みんなの命は助かるし、ありがたい話だ。

だが、その代わりに求められる条件はやはり……私の身柄等だろうか。

それで皆の命が助かるのであれば仕方がないか。

 

「条件はなんだ?」

 

「条件は二つ。まず一つ目は君たちが拘束したあのお調子者。デントくんを返してほしい」

 

デントを引き渡すか……。

せっかく拘束した手柄ではあるが、仲間の命には変えられない。

持ち帰れなくても、奴らの名前と情報を得られただけでも十分な成果とは言えるだろう。

今はそう自分に言い聞かせるしかない。

 

「わかった。それともう一つはなんだ?」

 

「もう一つは……これは君を拘束して聞き出そうとしてたんだけど、今の方が君も言わざるを得ない状況だしちょうどいいと思ってね。緑のペンダント……どこへやった?」

 

「それは……」

 

やはり……ペンダント絡みか。わかってはいたが、どうするか……。

結衣と颯、それにレンはペンダントのことは知らない。そういう意味では教えてしまっても反対されることはないだろう。

だが、ペンダントをジェネシスが狙っているのは今の発言から明白。

そうなれば、今の所持者である繋吾の命が危ない。

適当に嘘でも言ってごまかすか?

いや、だが……いい嘘が思いつかない。こんなことなら何か場所をごまかせる嘘でも考えておけばよかったな。

 

「君が場所を知っているのはわかってるんだよ赤見くん。それを答えてくれなければ、僕はこのまま突撃号令を出して、君たち共々殺すだけだけど?」

 

ネロは鋭い目つきで私を睨みながら言った。脅しているつもりか。

なぜそこまでして奴らがあのペンダントを狙っているのかはわからない。

 

だが、あのペンダントをジェネシスの手から守ること。それが"前特殊機動班長"が私に託した最後の任務だ。

あのペンダントがジェネシスの手に渡った時、それは世界の破滅を意味するとか言っていたっけか。

 

それと引き換えにSFSの多くの仲間の命が今天秤にかけられている。

どうしたらいい。私はどちらを選べばいいんだ……!

 

「仁くん。その情報がどんなに大事なものかはわからないけど、情報を伝えたところであの人たちが本当に部隊を撤退してくれるのかはわからない。仁くんが戦うというなら私は戦う覚悟はできてる」

 

「レン……」

 

確かに奴らが本当に撤退するという保証はないが……。

くっそお……どうしたらいいんだ……。

仲間の命か世界の平和か……。

私は……私は……!

 

「さぁ、早くしてよ赤見くん?」

 

「私は……」

 

この時の決断が誤っていたとしても、誰も私を恨まないでくれ。

例えどんな使命が私にあったとしても……やっぱり私は自分に正直になりたい。

 

「……乗った。その情報を教える」

 

「仁くん! 大事な情報なんじゃないの!?」

 

「いくら大事だろうと、お前たちの命より大事な情報なんてない」

 

やはり私には仲間を見殺しになんてできない。

それにこのネロって奴は嘘をつくような感じには見えなかった。

なんて言っても一声で全てのテロリストの攻撃を止めるような男だ。かなりの力は持っているはずに違いない。

 

「賢い君ならそう言うと思ったよー赤見くん! 状況が読める人で助かった!」

 

「ただ、こちらからもお願いがある。順番はこちらのデントの解放、そしてそちらの部隊の撤退後に情報伝達。それでもいいか?」

 

仮に約束を果たしても部隊が撤退されないことも考えられる以上、私としては保険を張っておきたかった。

あいつらの一番の目的はペンダントであることに間違いはない。

それを最後の保険としておけば、安心できるはずだ。

 

「んーそうだなぁ。ま、それくらいはのんであげるよ。じゃあさっそくデントくんを引き渡してくれるかな?」

 

「了解した」

 

私はデュエルウェポンで郷田に連絡を取り、デントを運ぶように伝える。

郷田は私の声色で判断したのか、何も言っては来なかった。

この状況じゃ既に我々は敗北したようなものだ。郷田もそれを察したのだろう。

 

しばらくすると郷田がデントを背負いながら現れ、その身柄をネロに向かって渡した。

 

「これはー随分と無様だなデントくん。もうちょっと頑張ってくれないとー」

 

ネロは少し笑いながらその様子を見ていた。

こいつは、あのデントよりも上位に位置する人物なのか……?

見た感じは私よりも年下の少年であることには間違いなさそうだが……。

 

「あ、そこの君。このデントくん運んでくれるかな?」

 

そう言われた手下であろうテロリスト達は数人がかりでデントを運び出した。

ここまですれば十分だろう。私は先ほどの言葉を繰り返すようにネロへと言う。

 

「さぁデントは解放した。部隊を撤退してくれるんだろう?」

 

「おっとごめんごめん。デントくんの姿が面白くてつい忘れてたよ。それじゃ君たち。ここから撤退だ」

 

それを聞いたテロリスト達は無言で頷くとデュエルウェポンに1枚のカードをセットし、すぐに姿を消してしまった。

あれは……先ほど桂希副班長と繋吾が使っていた【空間移動】カードかなにかか……?

全ての手下に用意するなど、奴らの開発能力はいったいどうなっているんだ……。

 

気が付くと、アジト周辺のテロリストはネロ周辺のテロリストを除き、ほとんどいなくなっていた。

 

「じゃあ……最後に赤見くん。約束だよ、教えてくれよ」

 

このまま情報を教えずにネロと戦うという選択肢もある。

だが、あいつは……とんでもないデュエルの腕を持っている。

例えここで私がデュエルを仕掛けたとしても返り討ちに遭うのが目に見えていた。

 

ダメだ。戦えない。

この人物に対するトラウマとでも呼ぼうか。

過去にこいつからやられた仕打ちは私の戦意を喪失させるほどのものだったのだ。

 

片っ端から私の仲間を追い詰め、徹底的にデュエルで潰した上で、デュエルウェポンを使用した拷問を行う。

その残虐かつ非道なやり方は、当時まだ戦闘経験が浅かった私としては恐怖でしかなかった。

 

「緑のペンダントは……SFSの特殊機動班の……一人が持っている」

 

「誰だい。ここにいるのかな? 名前は?」

 

もう逃げようがないなこれは。仕方がない。

 

「ここにはいないが……遊佐 繋吾という人物だ」

 

「遊佐……! 繋吾! なるほどなるほど! そういうことだったのか……! ありがとうね赤見くん? あとそうだ、ちなみに周辺住宅街を襲撃してるのは僕の部隊じゃないからこのままだと大変なことになるよ? じゃあねー」

 

喜んだようにネロはそう言うと、彼もまたデュエルウェポンに1枚のカードをセットし、その場から消えてしまった。

 

「……はぁ……」

 

彼の姿が消え去ったことで私は安堵したのかため息をついてしまう。

これでよかったんだ……。大丈夫、情報を伝えただけだ。

まだジェネシスの手にペンダントが渡ったわけではない。

皆の命が助かったんだ。一度部隊を再編成し、ジェネシスに対抗するという新たな活路が見い出せただけでも、これは正しい選択なはずだ。

 

「赤見班長! 今の話……繋吾になにかがあるってことなんすか……?」

 

まぁ……今の話を聞いていれば気になるよな。

これは知らない方がいい。知っていても重荷が増えるだけだ。

 

「まぁな……。あいつの身に何事もなければいいんだが……」

 

このままじゃ確実に繋吾は狙われる。

守らなくてはならない。今すぐにでも救援に行かなければ。

 

「それならば上地くん。住宅街の方が大変です。今はそちらに救援に行かないと」

 

「そうだったな……結衣ちゃん。赤見班長!」

 

「あぁわかってる。繋吾のデュエルウェポン位置を目的地に設定してすぐに行くぞ。レン。お前は本部へ連絡して、負傷者の搬送を頼めるか?」

 

「わかった! かずくんも相当やばそうだったし、すぐに取り掛かるよ」

 

そう言うと紅谷班長は倉庫へと戻っていった。

 

「戦える偵察警備班の皆は私と共に来てくれ! 決闘機動班の救出に向かうぞ!」

 

周囲を見渡すと、何名かの偵察警備班員はまだ戦えそうな様子だった。

郷田も含めて8名か。

増援で行くならば十分な人数だろう。

 

待っていてくれよ繋吾。

ネロ達に狙われる前に絶対に本部へ帰還してやる。



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Ep34 - 銀縁の流星 前編

もうすぐ日付を跨ぎそうな時刻だろうか。

真夜中なはずだが、この真跡シティイースト区は随分と賑やかだった。

 

爆発音や悲鳴。モンスターの叫び声等、とても良いものとは言えないが。

 

桂希と手分けしてテロリストの相手をしていたが、ようやくデュエル決着がつきそうだところだった。

 

「【輝竜星ーショウフク】の効果発動! お前の場の【メタル・デビルゾア】と【デビルゾア】を手札戻す!」

 

「て……手札だと……。ふざけやがって……! ガキの分際で!」

 

「お前には消えてもらう! 【輝竜星ーショウフク】でダイレクトアタック! "ホーリー・ジャッジメント!"」

 

【輝竜星ーショウフク】

ATK/2300

 

「やめろお……ぐおわあああ!」

 

テロリスト LP1000→LP0

 

倒れゆくテロリストを見届け俺は桂希の方を向く。

 

「終わったか遊佐?」

 

「あぁ、今終わったところだ」

 

俺よりも先に桂希は相手を仕留めていたようだ。

さすがは桂希 楼。決闘機動班の切り札。

 

「遊佐、治療用カードは持っているか?」

 

治療用カード?

そういえば出撃前に赤見さんから【インスタント・ヒーリング】なるカードをもらったような気がしたな……。

 

「これか?」

 

俺はそのカードをポケットから出し、桂希に見せながら問う。

 

「それだ。負傷者を見つけたらそのカードを負傷者のデュエルウェポンにセットするんだ。それだけでも命を助けることができる」

 

デュエルウェポンっていうのは本当に何からなんでもできるんだな。

桂希に言われて俺はその【インスタント・ヒーリング】のカードを決闘機動班の人たちのデュエルウェポンに1枚ずつセットしていく。

 

「……うぅ、すまない……。お前、どこの班だ?」

 

「俺は……特殊機動班だ」

 

「……!?」

 

自らの班を伝えると決闘機動班の人たちの目つきが変わっていく。

 

「お前らの……ふざけた作戦のせいで俺たちは……」

 

確かにこの作戦の主導は特殊機動班だ。

決闘機動班からみれば、出撃をさせられた上にこれだけひどくやられた状況だし、不満に思うのも無理はないだろう。

 

「すまない。俺たちの見込みが甘かった」

 

「すまないで済むかこの野郎……。街の住人に被害が出てるんだぞ……! どう責任取るつもりだ特殊機動班!」

 

「だったら! いつまで後手に回ってるつもりだ? ジェネシスの情報を掴まなければいつまでもこういうデュエルテロは続く。それでもいいのかよお前は!」

 

「なんだと……?」

 

「誰かが先陣を切って危険な目に合わなければこの世界は変わらない! それを変えるために俺たちがいるんじゃないのかよ!」

 

俺は決闘機動班の保身的な考えに少しイラつき、つい大きな声を出してしまう。

 

「おい、遊佐。落ち着け。今はそんな話をしている暇はない」

 

「桂希……。あぁ、悪かった」

 

桂希に止められ、少し冷静さを取り戻す。

そして、俺はその決闘機動班の男に少しだけ頭を下げ謝罪した。

 

「ったく。無能な特殊機動班の野郎が……」

 

なんとなくではあるが、結衣と颯の気持ちがわからないでもないなと感じた。

でも無理もない話しだ。誰もが皆ジェネシスに強い恨みを持っているわけでもなければ、自らを犠牲にしてでもジェネシスの壊滅しようと思っている人なんてほんのひと握りなのだろうからな。

 

「遊佐、近くのビル裏から救難信号だ!」

 

「なに……?」

 

桂希に言われデュエルウェポンを見ると確かに付近で救難信号が出ているようだ。

すぐにでも急行しなければ。

 

「だが、こいつは……」

 

駆け出そうとしていた俺たちの目の前には再び4~5名のテロリストがおり、こちらへ向かってきていた。

こちらにも決闘機動班の負傷者がいる以上、あの敵を放棄してここを動くわけにもいかない。

 

だが、そうだな……あの人数なら……。なんといっても今俺と一緒にいるのは決闘機動班の切り札だ。

あいつならきっとやってなんとかしてくれるだろう。

 

「桂希、ここを任せられるか?」

 

「遊佐、お前……まさか」

 

「俺が救難信号の所へいく。あの人数、お前ならなんとかできるだろ?」

 

「うーむ……まぁやっては見せるが……危険だぞ遊佐。もしお前になにかがあれば赤見班長に合わせる顔が……」

 

「俺が独断で行ったということにしてくれ。それに俺はこんなところで死ぬつもりはない!」

 

動ける人が動かないでどうするんだ。

被害状況が激しいこのエリアで他に救難信号に応えられる人なんていやしないはずだ。

それにどうせ俺がここにいても決闘機動班の奴らと喧嘩になるだけだ。だったら今の俺の中ですべきことは決まってる。

 

「待て遊佐! 考え直せ! 救難信号ってことは危険な状況ってことなんだぞ? わかっているのか?」

 

「わかってる! だけどな、俺が行かなきゃ誰が行くんだよ!」

 

俺はそう叫ぶと桂希の回答を聞く前に救難信号があった方向へと走り出した。

 

「おい遊佐! くそう、あの馬鹿……。仕方ない。こうなったらこいつらをさっさと仕留めるぞ……」

 

俺はテロリストと対峙している桂希を背中に、救難信号があったビルの裏へ急行すべく駆け抜けていったのだった。

 

 

 

ーービルまでは大体200mくらいか。

まもなくビルのあるところへと差し掛かろうとした時に、大きな衝撃音のようなものが鳴り出した。

そして、直後にビルの裏からひとりの人物が吹っ飛ばされ、俺の目の前へ倒れこんだ。

SFSの制服に桜色のショートカットな髪。これは、野薔薇 莉奈副班長か。

救難信号の主はどうやら彼女で間違いなさそうだ。

 

「あなたは……SFS……?」

 

野薔薇は閉じそうな瞼をわずかに開き俺の方を見る。

俺はその様子を見てすぐさま近づき、しゃがみながら彼女の頭を手で支えた。

 

「あぁ、特殊機動班の遊佐だ。大丈夫か?」

 

「特殊機動……班……。来てくれたんだ……」

 

「無理するな野薔薇。今助けてやる」

 

俺は先ほどの決闘機動班員にやったように、野薔薇のデュエルウェポンに【インスタント・ヒーリング】のカードをセットする。

すると、彼女の表情は苦痛に歪んだ顔から少しながら楽そうな表情へと変わった。

 

「ごめんね……ありがとう」

 

「ここで一体何があったんだ?」

 

「ここで……デュエルテロが起きて……そして、あの男にデュエルで負けて……」

 

野薔薇がその震える指をさした方向を見ると、銀縁のメガネを光らせ、落ち着いた緑色系の髪色に七三分けの髪型をした知的な男がこちらへ歩いてきた。

 

「おや、新手ですか。そのお嬢さんを助けにでも?」

 

「お前が……野薔薇を……!」

 

俺はその男を睨みつける。

だが、その男は俺の様子を見てもまったく動じず、メガネをクイッと上げると、口を開く。

 

「また元気なデュエリストが来たものだ。どうしますか? 私と戦いますか?」

 

「当たり前だ……! ここにデュエルテロを起こしたのもお前なんだろう?」

 

「ええ。今日は随分と賑やかな日になると聞いたものでして」

 

何が賑やかな日だ。

これだけ多くの被害を出しておいて、ふざけたこと言ってるんじゃねぇぞ……!

 

「遊佐くん……逃げて。あの人は別格……だから……」

 

「お前を置いて逃げろって言うのか? 無理だな。それに俺はデュエルテロを起こしたあいつを許しておけない」

 

「ダメだよ……勝てっこない。あの人にうちの班員が何人倒されたと思ってるの……。遊佐くん、新人なんでしょ……?」

 

「やらなきゃわからないだろ! それにテロリストを殲滅するのは……俺たち特殊機動班の役目だ!」

 

「……もう……私、どうなっても知らないから……」

 

野薔薇にいくら言われようと俺はここから逃げるつもりはない。

ちょうど住宅街を襲った奴らに痛い目をみてもらいたいと思っていたところだ。

その主犯格と戦えるのならこれほどまでのチャンスはない。

 

「さてと、死ぬ覚悟はできましたか? 少年?」

 

男はメガネを光らせながらデュエルウェポンを静かに構え出す。

 

「お前こそ、死ぬ覚悟はできたんだろうな? ジェネシス!」

 

「ハハハ、いいでしょう! ならば本気で行かせていただきますよ?」

 

さっきの野薔薇の話だと、きっとデントのような強力な奴に違いないだろう。

そこらへんのテロリストとはなんというか風格も違うしな。

だけど、怯えていてはダメだ。赤見さんが俺たちに見せてくれたデュエルのようにどんな苦境にも負けぬ力強いデュエルを見せてやる……!

 

「望むところだ! いくぞ!」

 

「デュエル!」

 

メガネの男 手札5 LP4000

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

繋吾 手札5 LP4000

 

「では、私が先攻をもらいましょう。私のターン、手札からフィールド魔法【竜の渓谷】を発動。手札を1枚捨てて、デッキから"ドラグニティ"モンスター1体を手札に加えることができます。手札の【幻獣機オライオン】を墓地へ送り、【ドラグニティードゥクス】を手札に加えます。そして、墓地へ送られた【幻獣機オライオン】の効果で場に【幻獣機トークン】を特殊召喚!」

 

ーーー

【幻獣機トークン】☆3 風 機械 ③

DEF/0

ーーー

 

「さらに手札から【サイバース・ガジェット】を召喚しましょう! 効果を発動。墓地からレベル2以下のモンスターを守備表示で特殊召喚します。蘇れ、【幻獣機オライオン】!」

 

ーーー

【サイバース・ガジェット】☆4 光 サイバース ④

ATK/1400

ーーー

【幻獣機オライオン】☆2 風 機械 チューナー ②

DEF/1000

ーーー

 

いきなり場にモンスターを3体も並べてきた。

リンク召喚か……チューナーの存在からシンクロ召喚の可能性もある。

奴のデッキはどちらだ……?

 

「来なさい、星屑煌くサーキット! 私は【サイバース・ガジェット】と【幻獣機オライオン】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚。リンク2、【水晶機巧ーハリファイバー】!」

 

ーーー

【水晶機巧ーハリファイバー】リンク2 水 機械 ①

ATK/1500

ーーー

 

「このカードのモンスター効果は、リンク召喚に成功した時、デッキからチューナーモンスターを特殊召喚する効果。したがって、デッキから【ゾンビキャリア】を特殊召喚! さらに墓地へ送られた【サイバース・ガジェット】の効果で場に【ガジェット・トークン】を特殊召喚しますよ!」

 

ーーー

【ゾンビキャリア】☆2 闇 アンデッド ②

DEF/200

ーーー

【ガジェット・トークン】☆2 光 サイバース ①

DEF/0

ーーー

 

リンク召喚したのにやつの場のモンスターは減るどころか増えている……。

なんという展開力だ。1ターン目でありながらただものではない様子が伺える。

 

「驚くのはまだ早いですよ少年。むしろこの程度で驚いていては……この私には到底勝てやしない!」

 

「誰が……驚いてなんか……!」

 

「ふふふ……。ではさらに進めるとしましょう。レベル3の【幻獣機トークン】にレベル2の【ゾンビキャリア】をチューニング! "音速を超えた速度の彼方より、新たなる世界を導け!" シンクロ召喚! 【アクセル・シンクロン】!」

 

ーーー

【アクセル・シンクロン】☆5 闇 機械 チューナー ③

DEF/2100

ーーー

 

「さらに、【アクセル・シンクロン】のモンスター効果を発動! デッキから"シンクロン"モンスターを墓地へ送り、そのモンスターのレベル分自身のレベルを上げるか、下げることができます。デッキのレベル1モンスター【ジェット・シンクロン】を墓地へ送ることで、【アクセル・シンクロン】のレベルを1上げレベル6とします」

 

レベル6のチューナーモンスターとレベル2のトークン。

奴の狙いはレベル8のシンクロモンスターか!

 

「そして、行きますよ……? 私はレベル2の【ガジェット・トークン】にレベル6となった【アクセル・シンクロン】をチューニング! "星屑の煌き、夜空を駆ける一筋の疾風となれ!" シンクロ召喚! 飛翔しなさい、スターダスト・ドラゴン!」

 

ーーー

【スターダスト・ドラゴン】☆8 風 ドラゴン ③

ATK/2500

ーーー

 

キラキラと輝く星のような欠片を身に纏い、水色の体に白き翼を羽ばたかせながらそのドラゴンは男の前に出現した。

あれが奴のエースモンスターってところだろうか。デントの使ったモンスターとは違い、その姿は美しくも勇ましくテロリストには似つかないようなモンスターだった。

 

「さて……1ターン目はこんなところでしょうか。ターンを終了しましょう」

 

メガネの男 手札3 LP4000

ーーーーー

ーーシーーフ

 リ ー

ーーーーー

ーーーーー

繋吾 手札5 LP4000

 

「容赦はしないぞ、俺のターン。ドロー!」

 

手札はいい感じだ。これならこちらも1ターン目から相手を積極的に攻めていける。

余裕そうな態度を取っていられるのも今のうちだ……。一泡吹かせてやる……!

 

「俺は魔法カード【おろかな埋葬】を発動! デッキからモンスターを1体墓地へ送る。俺は【ドッペル・ウォリアー】を墓地へ送り、さらに手札から【ジャンク・シンクロン】を召喚! このカードの効果によって、今しがた墓地へ送った【ドッペル・ウォリアー】を守備表示で特殊召喚する!」

 

ーーー

【ジャンク・シンクロン】☆3 闇 戦士 チューナー ③

ATK/1300

ーーー

【ドッペル・ウォリアー】☆2 闇 戦士 ②

DEF/800

ーーー

 

「ほう……。あなたもシンクロ召喚を使うのですか」

 

「まぁな。だが、それだけじゃない」

 

「なんと。それは楽しみじゃないですか」

 

何が楽しみだ。遊んでるんじゃないんだぞこっちは……!

俺のシンクロを交えたリンク召喚の力を見せてやる!

 

「俺はレベル2の【ドッペル・ウォリアー】にレベル3の【ジャンク・シンクロン】をチューニング! "生誕する意思の力よ! 星々の呼応の下に具象せよ!" シンクロ召喚! 来てくれ、【源竜星ーボウテンコウ】!」

 

ーーー

【源竜星ーボウテンコウ】☆5 光 幻竜 チューナー ②

DEF/2800

ーーー

 

「そして、【ボウテンコウ】の効果発動! デッキから"竜星"カード1枚を手札に加えることができる。これで【竜星の軌跡】を手札に。さらに、シンクロ素材となった【ドッペル・ウォリアー】の効果で場に【ドッペル・トークン】2体を特殊召喚!」

 

ーーー

【ドッペル・トークン】☆1 闇 戦士 ①と②

ATK/400

ーーー

 

「ここからだ! 来てくれ、心を繋ぐサーキット! 俺は【ドッペル・トークン】1体と【ボウテンコウ】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚! こちらもだ。【水晶機巧ーハリファイバー】!」

 

ーーー

【水晶機巧ーハリファイバー】リンク2 水 機械 ②

ATK/1500

ーーー

 

相手も使ってきたリンクモンスターだ。

こいつはデッキからチューナーモンスターを特殊召喚することができ、さらなるリンク召喚にも繋げることができる。

かなり強力なカードの1枚だ。

 

「あなたもそのカードを! どんなチューナーを呼び出すんでしょうかねぇ」

 

「それだけじゃない。場を離れた【ボウテンコウ】の効果も発動し、デッキから"竜星"モンスターを特殊召喚できる! デッキから【闇竜星ージョクト】と【光竜星ーリフン】を特殊召喚!」

 

ーーー

【闇竜星ージョクト】☆2 闇 幻竜 チューナー ②

DEF/2000

ーーー

【光竜星ーリフン】☆1 光 幻竜 チューナー ③

DEF/0

ーーー

 

ここからだ本番だ。1ターン目から出番だぜ、相棒!

 

「再び現れよ、心を繋ぐサーキット! 俺は【光竜星ーリフン】1体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚! 来てくれ、【リンクリボー】!」

 

ーーー

【リンクリボー】リンク1 闇 サイバース ③

ATK/300

ーーー

 

「さらに、リンク2の【ハリファイバー】とリンク1の【リンクリボー】をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! "正しき心を導く守護の神星! 今ここに絆を繋ぐ閃光となれ!" リンク召喚! リンク3、【セフィラ・メタトロン】!」

 

ーーー

【セフィラ・メタトロン】リンク3 光 幻竜 ②

ATK/2500

ーーー

 

いつもどおり手に持つ杖を構えながら、俺の前に【セフィラ・メタトロン】は静かに出現する。

その黄金に輝く鎧が周囲の燃え盛る炎の光に照らされて、ほのかに赤く光っていた。

こいつの力ならばあの【スターダスト・ドラゴン】にも引けを取らないはず。

 

「ほほう。本命はそちらのモンスターにありましたか。なるほど」

 

男は再びメガネをクイッと上げながら興味深そうに俺のモンスターを眺めている。

その表情は今までの余裕そうな雰囲気とは少し違い、真面目な表情だった。

少しは焦りでも感じたのだろうか。

 

だが、俺の場にはまだモンスターが残っている。

それはつまり、【セフィラ・メタトロン】が導くリンクマーカー先にまだ新たなるモンスターを召喚することができるということだ。

 

「そして、続いてこれだ! 俺はレベル1の【ドッペル・トークン】にレベル2の【ジョクト】をチューニング! "霞漂う双翼翻し、烈風を巻き起こせ!" シンクロ召喚! 来てくれ、【霞鳥クラウソラス】!」

 

ーーー

【霞鳥クラウソラス】☆3 風 鳥獣 ③

DEF/2300

ーーー

 

こいつは前回でも世話になったとおり、相手モンスターを無力化する能力を秘めている。

これならどんなモンスターでも倒せるはずだ。

 

だが、俺も使っているあの【水晶機巧ーハリファイバー】は相手ターンには自身を除外し、シンクロチューナーモンスターをEXデッキから呼び出す効果がある。

したがって、あいつを標的にしてもその効果を使われて逃げられてしまうだけだ。

ならば、標的は当然【スターダスト・ドラゴン】がいいだろう。

 

「【霞鳥クラウソラス】の効果発動! 相手モンスター1体の効果を無効にし、その攻撃力を0にする! 風を受けろ、【スターダスト・ドラゴン】!」

 

大きな翼で竜巻を発生させ、【スターダスト・ドラゴン】へとその竜巻を衝突させる。

やがて、竜巻が止むとそこには力を失った【スターダスト・ドラゴン】の姿があった。

このまま【セフィラ・メタトロン】で攻撃すれば大ダメージが与えられそうだ。

 

「ふふふ……なるほど。なかなかやる。ですが、あなたのメインフェイズ終了時に、【水晶機巧ーハリファイバー】の効果を使いましょう! このカードを除外し、EXデッキからシンクロチューナー1体をシンクロ召喚します。来なさい、【フォーミュラ・シンクロン】!」

 

ーーー

【フォーミュラ・シンクロン】☆2 光 機械 チューナー ①

DEF/1500

ーーー

 

「【フォーミュラ・シンクロン】はシンクロ召喚成功時にデッキからカードを1枚ドローできます! そして、更なる効果で相手のメインフェイズ時にこのカードを素材としてシンクロ召喚ができる!」

 

「なに……!?」

 

俺のターンに場のモンスターを素材にシンクロ召喚するだと……。

現在奴の場にいるのはレベル8の【スターダスト・ドラゴン】とレベル2の【フォーミュラ・シンクロン】。

つまり、レベル10のシンクロ召喚でも行うというのか。

 

「あなたに見せてあげますよ。シンクロ召喚を極めた者にしか扱えない……"普通のシンクロ召喚"を超えたシンクロモンスター同士のシンクロ、"アクセルシンクロ"を!」

 

「アクセルシンクロ……!?」

 

シンクロモンスター同士のシンクロ召喚……。

奴の場にはシンクロモンスターである【スターダスト・ドラゴン】とシンクロチューナーである【フォーミュラ・シンクロン】が揃っている。

そのアクセルシンクロとやらの準備は整っている状況だ。

シンクロ召喚の中では当然難易度の高いものとなる故に出てくるモンスターは強力に違いない。

 

「ふふふ……。私はレベル8、シンクロモンスター【スターダスト・ドラゴン】にレベル2、シンクロチューナー【フォーミュラ・シンクロン】をチューニング! "星屑の煌き、銀河を照らす開化の流星となれ!" アクセルシンクロ! 来なさい、【シューティング・スター・ドラゴン】!」

 

ーーー

【シューティング・スター・ドラゴン】☆10 風 ドラゴン ①

ATK/3300

ーーー

 

真っ白に輝く体に青白く光るオーラのようなものを纏った大きなドラゴンがデントの場に出現した。

そのドラゴンはまるでジェット機のように空を飛び、宙にキラキラとした星の欠片ものを振りまいていた。

あれがアクセルシンクロモンスター【シューティング・スター・ドラゴン】。

 

デントの相手モンスターを素材にする【超融合】に引き続き、この男の極めたシンクロ召喚。ジェネシスのデュエルレベルはかなり高いことが伺える。

 

おかげさまで【霞鳥クラウソラス】での無効化効果は見事にかわされてしまった。

だけど、俺にはまだ【セフィラ・メタトロン】の効果が残されている。

 

例えどんな強力な力があったとしても俺は負けてはいられない。

それを打ち破ってこそ俺の復讐は成し遂げられるんだ。

 

「ならば、【セフィラ・メタトロン】の効果発動! 自分と相手のEXデッキから特殊召喚されたモンスターを共にエンドフェイズ時まで除外する! "コネクター・サブリメイション"!」

 

【セフィラ・メタトロン】が手に持つ杖を空へ掲げると、そこに眩い光が収束し始め、【霞鳥クラウソラス】と【シューティング・スター・ドラゴン】は足元より消滅をはじめる。

 

「一時的とはいえ、【シューティング・スター・ドラゴン】を無力化しましたか。やりますね少年」

 

「感心している暇なんて与えない。バトルだ! 【セフィラ・メタトロン】でダイレクトアタック! "ヴェンジェンス・ディバイニング!"」

 

【セフィラ・メタトロン】は先ほどまで使っていた杖を空中へ放棄すると、右手に宿る水晶の槍を構えメガネの男へと突撃を開始した。

そして、まもなくその突撃は男へと直撃する。

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500

 

 

「うおあああ! この私にダメージを負わせるとは。なかなかいい腕をしていますねぇ」

 

メガネの男

LP4000→LP1500

 

先制ダメージはもらった! 1ターン目で半分以上のライフポイントを削れたのは大きいだろう。

このまま一気に攻め立てて早いとこ勝負をつけたいところだ。

 

「……次のターンでケリをつけてやる! 俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ。エンドフェイズ時、【霞鳥クラウソラス】と【シューティング・スター・ドラゴン】は場に戻る」

 

メガネの男 手札4 LP1500

ーーーーー

ーーシーーフ

 ー リ

ーーシーー

ーー裏ーー

繋吾 手札3 LP4000

 

まだあの【シューティング・スター・ドラゴン】の効果がわからないところだが、俺の信じるカードならそんなもの恐るに足りない。

アクセルシンクロだかなんだか知らないが、このデュエル。絶対負けるものか……!



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Ep35 - 銀縁の流星 後編

仕事が多忙期に入り、更新がしばらく止まってしまいました。
申し訳ありません……。
おまけに今回のデュエルパートは今までの話の中で一番文章数も長くて余計に時間が……。

しばらくはスローペースでの更新になりそうですが、よろしくお願いします(´Д`;)


メガネの男 手札4 LP1500

ーーーーー

ーーシーーフ

 ー リ

ーーシーー

ーー裏ーー

繋吾 手札3 LP4000

 

「それでは……私のターンですね。ドロー! これは良いカードです、魔法カード【調和の宝札】を発動! これは攻撃力1000以下のドラゴン族チューナーモンスターを1体捨てることで2枚ドローすることができます。私は【ドラグニティーファランクス】を捨てて2枚ドロー!」

 

いきなり手札調整と来たか。どんなカードを引いてくるか……。

 

「そうですねぇ……続けて【ドラグニティードゥクス】を召喚しましょう! このカードは召喚時に墓地からレベル3以下の"ドラグニティ"モンスターを装備することができます。これで墓地の【ドラグニティーファランクス】を装備。さらにこの【ファランクス】は装備状態にある時、場に特殊召喚ができます」

 

ーーー

【ドラグニティードゥクス】☆4 風 鳥獣 ③

ATK/1500

ーーー

【ドラグニティーファランクス】☆2 風 ドラゴン チューナー ④

DEF/1100

ーーー

 

「そして、レベル4の【ドゥクス】にレベル2の【ファランクス】をチューニング! "咆哮鳴り響く結束の神風よ! 障壁を打ち砕く赤き聖槍を貫け!" シンクロ召喚! 来たまえ! 【ドラグニティナイトーガジャルグ】!」  

 

ーーー

【ドラグニティナイトーガジャルグ】☆6 風 ドラゴン ①

ATK/2400

ーーー

 

「【ガジャルグ】の効果により、デッキからドラゴン族モンスター1体を手札に加え、その後ドラゴン族モンスターを手札から墓地へ送ります。私はこれで【霊廟の守護者】を手札に加え、そのまま墓地へ送りましょうかね」

 

墓地へドラゴン族モンスターを送った……?

おそらく墓地で発動するモンスターカードなのだろう。注意が必要だな。

 

「さらに手札のカード1枚をデッキの一番上に置き、墓地の【ゾンビキャリア】の効果発動! このカードを墓地から復活させます」

 

ーーー

【ゾンビキャリア】☆2 闇 アンデット チューナー ②

DEF/200

ーーー

 

「更なる強力な力を見せてあげましょうか……。私はレベル6の【ドラグニティナイトーガジャルグ】にレベル2の【ゾンビキャリア】をチューニング! "疑惑を凍らす思念の結晶よ!氷晶の輝きより具象し、未来を映す礎となれ!" シンクロ召喚! 顕現せよ、【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】!」

 

ーーー

【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】☆8 風 ドラゴン ①

ATK/3000

ーーー

 

透き通った蒼き結晶を身に宿した蒼白いドラゴンが男の前に現れる。

先ほどの【シューティング・スター・ドラゴン】に負けずとも劣らないその姿は、咆哮を上げるだけでも圧倒されるくらいだ。

 

これで相手の場には2体の強力なドラゴン達が並んでしまうこととなった。

だが、俺の手札には【虹クリボー】があり、伏せカードもある。

そう簡単には俺の【セフィラ・メタトロン】は倒されないはずだ。

 

「あなたのモンスターよりも攻撃力が高いモンスターが2体ですよ? それにしては随分と余裕そうですねぇ」

 

「お前のモンスターにやられる程俺のモンスターは甘くないからな」

 

「なるほど。よほど防御面に自身があるということですか。ならば、私のデッキの恐ろしさを……存分に味あわせてあげましょうかね!」

 

「……!?」

 

男は銀縁のメガネに右手を当てながら、歯がくっきりと見えるほどまでに口元をにやつかせると自らのデッキの上に手をあてた。

いきなりの表情の変わりっぷりに少し動揺するが、俺は奴から目を逸らさずに睨み続けていた。

 

「【シューティング・スター・ドラゴン】の効果を発動! デッキからカードを5枚めくり、その中のチューナーモンスターの数まで、このターン攻撃することができる! さぁて……一体何枚のチューナーがめくれるでしょうかねぇ……」

 

「チューナーの枚数分……だと」

 

デッキによほど多くのチューナーモンスターが入っていない限り、たった5枚の中からチューナーモンスターを大量にめくることは難しいだろう。

運がよかったとしてもせめて2枚や3枚程度だろうか。

それに何回攻撃できたとしても俺の手札にある【虹クリボー】で攻撃をできなくしてしまえばいいだけの話だ。

あの男は連続攻撃で一気に俺のライフを削る算段だろうが、ぎゃふんといわせられるいいチャンスかもしれない。

 

「遊佐くん、あれは……。気をつけて」

 

自分の中で大丈夫であろうと安心をしていると、男の様子を見たせいかはわからないが、後ろの野薔薇が声をかけてきた。

 

「連続攻撃が狙いってとこだろう。それなら問題ない」

 

「ちょっと、安心しちゃダメだよ遊佐くん。あいつのドロー力……おかしいのよ。それだけじゃない。さっきデッキの一番上にカード仕込んでいたでしょ? あれはチューナーモンスターのはずよ」

 

言われてみれば【ゾンビキャリア】のモンスター効果でデッキの一番上にカードが置かれていたな。

ならば少なくとも1回は攻撃は可能だということか。

 

「だが、それでも奴のデッキは全てがチューナーモンスターってわけでもない。安心しろ野薔薇」

 

「なんでそんなに冷静なの! 結衣ちゃんといいあんたといい……特殊機動班はどんだけ自分に自信あるのよ……」

 

「連続攻撃くらい慣れてるからな。まぁ見ててくれ」

 

「はぁ……。なんだか生きて帰れるんだか不安になってきた……」

 

野薔薇は先ほどから不安そうな声ばかり上げているが、俺のことを新人だと思っているのかあまり信用されてないのかもしれないな。

まぁ、こうして直接話をしたのも初めてだし、無理もないか。

 

しかし、連続攻撃なんて、郷田さんや颯とのデュエルを経てきている俺からしてみれば今更な話だ。

全て受け流して見せるぞ……!

 

「では……まず1枚目!」

 

男は力強くカードを引くと口元を斜め上に引き上げながらそのカードを俺へと見せてくる。

 

「チューナーモンスター! 【デブリ・ドラゴン】!」

 

先ほどデッキの一番上に置いたカードか。まぁこのくらいは許容の範囲内だ。

 

「続けて2枚目! ふむ、魔法カード【死者蘇生】」

 

どうやらさすがにそこまで運が回ってくるわけではないみたいだ。

実際問題、この効果で連続攻撃を成功させるのは難しいはずだろうからな。

 

「どうやらチューナーモンスターをうまく引けないで終わりそうだな?」

 

「ふふふ……。まだですよ少年。そろそろ私の本気を見せてあげましょうか! 邪悪を正す神風よ、私に世界を創り変える力を!」

 

男がそう叫び右腕を空へ上げると、奴の右腕に紫色の星のようなものが纏わり出した。

なんだあれは……。デュエルウェポンにカードを通したわけでもないのに、よくわからないものが具現化している……?

だが、あんなよくわからないものを纏ったからといってドローなんて何か他の力で変えられるわけないだろう。

デッキから引けるカードはカードの並びで決まっている。

 

「ジェネレイト・ドロー! 3枚目! チューナーモンスター【ドラグニティーブランディストック】!」

 

「なに……!?」

 

チューナーモンスターを引いてきたが、そんなものまぐれだろう。

次あたりはきっとまた外れだ……。

 

「さらに……ジェネレイト・ドロー! 4枚目! チューナーモンスター【ドラグニティーブラックスピア】!」

 

「くっ……」

 

またしても……。さっきのあの紫色の星の影響なのか?

あの男に何が起きているのかはわからない。だが、仮に自らが望むカードをドローできる力を得ているのだとしたら、それは今後のデュエル展開でかなり厳しいこととなる。

俺があらゆる戦術を駆使してもそれを覆すカードをドローすることができるに違いないからだ。

次、5枚目を引くわけだがこのままでは間違いなくチューナーモンスターを引くだろう……。

 

「最後だ! ジェネレイト・ドロー! 5枚目! チューナーモンスター【ゾンビキャリア】! これによりこのターン【シューティング・スター・ドラゴン】は4回連続で攻撃が可能となった! フフフフフ……覚悟するがいい、少年!」

 

「ふざけやがって……!」

 

焦るな……焦ってはダメだ。

既に対策はできている。冷静に対処すれば問題はないはずだ。

 

「では、バトルフェイズに入りましょうか。あなたもそのお嬢さんと一緒に地獄に送ってあげますよ」

 

「誰が地獄なんかに行くかよ! いいからかかってこい!」

 

「ほほう。この連続攻撃を前にしても立ち向かうとは。ならば、その身に受けていただきましょうかねえ! 【シューティング・スター・ドラゴン】で【セフィラ・メタトロン】を攻撃! "シューティング・ディザスター!"」

 

【シューティング・スター・ドラゴン】は空中でジェット機のように翼を折りたたむと、青、赤、緑、黄色の四色に分身し、【セフィラ・メタトロン】へと突撃を始める。

 

「俺は手札から【虹クリボー】のモンスター効果を発動! 相手モンスターの攻撃宣言時、このカードをそのモンスターに装備させることでその攻撃を無効にできる!」

 

4回攻撃だとしてもこれで全ての攻撃は無効にできる。

攻撃さえ無効にしてしまえば、【シューティング・スター・ドラゴン】の効果も恐るに足りない。

しかし、奴はそれでも余裕そうな表情を崩さない。そう、既に奴の場のモンスターが効果を発揮していたのだ。

 

「それは少しばかり甘いですねぇ。【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】の効果発動。1ターンに1度、モンスター効果を無効にし破壊する。あなたの【虹クリボー】は無効です!」

 

「なに……!?」

 

【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】の水晶に【虹クリボー】が映し出されると、俺の【虹クリボー】の色が灰色へと変わり、その場から消滅してしまった。

 

「さらに、【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】はこの効果で破壊したモンスターの攻撃力分エンドフェイズ時まで攻撃力を上げる! 残念でしたねぇ。これであなたはダイレクトアタックを含めてこのターンで死ぬということですよ! いい声で鳴いてください? フフフ……」

 

「くっ……!」

 

【虹クリボー】の呪縛がなかったことになり、【シューティング・スター・ドラゴン】の突進攻撃が【セフィラ・メタトロン】へと直撃する。

 

【シューティング・スター・ドラゴン】

ATK/3300

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500

 

「くぅ……ぐあああ!」

 

繋吾 LP4000→LP3200

 

その衝撃を受けて俺の体に吹き荒ぶ烈風が纏わりつく。

あまりの勢いに体勢を崩しそうになるが、両手で風から身を守りながらなんとかその場で耐えた。

 

「フフフ……これで次は後ろのシンクロモンスターを……」

 

男は得意げに言ってる最中、場の状況を見てその言葉を止める。

そう、俺の場には【セフィラ・メタトロン】がまだ残っていたのだ。

 

「なぜそのモンスターが生きているのですか。伏せカードを使ったとでも?」

 

「あぁ。俺は罠カード【パラレルポート・アーマー】を発動していた。このカードはリンクモンスターの装備カードとなり、そのモンスターは戦闘では破壊されず、効果の対象にならない」

 

「なるほど……それで戦闘破壊を免れたと。そのしぶとさ、潰し甲斐がありそうで楽しめそうではありませんか……! ならば残りの攻撃を全てその【セフィラ・メタトロン】へぶつけましょう! 続けて、【シューティング・スター・ドラゴン】であなたの【セフィラ・メタトロン】へ3回攻撃! "シューティング・ディザスター!"」

 

先ほどと同様に【シューティング・スター・ドラゴン】は大空を舞いながら【セフィラ・メタトロン】へと突進をはじめる。

しかし、先ほどとは違い、今度は赤、緑、黄色の3色に光る【シューティング・スター・ドラゴン】が接近していた。

 

【シューティング・スター・ドラゴン】

ATK/3300

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500

 

「1回目!」

 

「うぅッ!」

 

繋吾 LP3200→LP2400

 

あまりの強風に体が引きちぎられそうなくらいの衝撃が襲いかかってくる。

これがあと2回くるのか……。なんとか我慢して耐えなければ……。

 

「続けて2回目! 八つ裂きにしてやりなさい!」

 

「ぐはぁっ!」

 

繋吾 LP2400→LP1600

 

立っていられなくなり、俺は膝から崩れ落ちるように倒れ込んでしまう。

体中が風に切り刻まれているような……なんとも表現しがたい痛みだ。

 

「これでラストです! くたばりたまえ! "シューティング・ディザスター!"」

 

「ぐおわああああああ!」

 

繋吾 LP1600→LP800

 

既に倒れ込んでしまっている俺の体を再び風が襲い込んでくる。

その力で俺の体は宙を浮き、まるで弄ばれているかのように俺の体へ傷をつけていった。

 

やがて、その風が落ち着くと重力によって俺の体は床へと叩きつけられる。

まだ……大丈夫だ……。意識はある。

体中が既にかなりの傷を負っているみたいだが、ライフポイントがある以上このまま倒れてるわけにはいかない。

 

「おやおや、もうギブアップですか? 少年。あなたならもう少しあがいて私に悲鳴を聞かせてくれると思ったのですが……」

 

こいつ……なんて趣味の悪い……。

そうやって野薔薇のことも傷つけていったのだろうか。

デュエルテロ以前にこいつのやり方自体が許せるものじゃないな。

俺は怒りで自らを奮い立たせると、震える足でゆっくりと立ち上がった。

 

「誰が……ギブアップなんか……」

 

「そうそう、それでいいんですよ。でもよかったですねえ。【シューティング・スター・ドラゴン】は4回攻撃。もし5回攻撃できていれば、あなたはこのターン負けていた。それがもう1ターンの猶予が与えられたというわけです。ですから、少しはこの私を楽しませてほしいものですね」

 

確かに、もう1枚のチューナーをめくられていれば俺は負けていたわけか……。

奴のよくわからない右腕の力をもう少し早く使われていたら……。

あの力を信じたくはないが、今は現状を見よう。とりあえずこのターンはなんとか生き残れそうだ。

残りの【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】の攻撃力は3100。【セフィラ・メタトロン】に攻撃されてもライフポイントは200残る。

いくらライフが削られようと1でも残っていれば戦える。

次のターン、俺が逆転すればいいだけの話だ。

 

「余裕がっていられるのも……今のうちだ」

 

「おやおや、2体のドラゴンによってモンスター効果も攻撃も1度無効にされる状況の中でまだ光を見失っていませんか。いいでしょう。ですが、まずはその【霞鳥クラウソラス】には退場いただきましょうかね。【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】で【霞鳥クラウソラス】を攻撃! "クリスタロス・エッジ!"」

 

【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】

ATK/3100

【霞鳥クラウソラス】

DEF/2300

 

【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】から放たれる無数の水晶片と烈風が【霞鳥クラウソラス】へ襲いかかり、その衝撃耐え切れず、破裂するように消滅した。

 

「くっ……。だが、この瞬間【セフィラ・メタトロン】の効果発動! このカードのリンク先のEXデッキから特殊召喚されたモンスターが破壊された時、墓地からモンスター1体を手札に戻すことができる。"セメタリー・サルベーション!" 俺は【ジャンク・シンクロン】を手札に加える!」

 

「【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】の効果は1ターンに1度。それを止めることはできませんね。フフフ……どうやら君はその他のSFSの奴とは違うみたいだ。いい根性をもっていますねぇ」

 

「当たり前だ! 俺はお前らテロリストをぶっ潰すために戦ってきた。それを成し遂げるまで倒れるわけにはいかないんだよ!」

 

「愚かな……。眼前の被害に気を取られ世界の本質に気がつかないとは。君の怒りとやらも惑わされた幻想ということですよ」

 

「どういう意味だ……?」

 

「君の怒りを向ける先は間違っている。無意味だということですよ」

 

怒りを向ける先が間違っている……。それが何を意味しているのかはまったくわからない。

こいつは何が言いたいんだ……?

いや、単純に俺を惑わそうとしているだけかもしれない。

相手はテロリストだ。何を企んでてもおかしくない。あいつをデュエルで倒すことだけに集中するんだ。

 

「くだらない話はいい。もう何もないのならとっととターンエンドしろ! あいにく俺はお前らと会話しに来たわけじゃない。ぶっ倒しにきたんだからな!」

 

「血気盛んな少年だ……。仕方がない。君さえよければ我々ジェネシスに迎え入れようと思ったところでしたが……」

 

「誰がテロ組織なんかに入るか! デュエルモンスターズで世界を破壊するお前たちを許すつもりは毛頭ない!」

 

俺がジェネシスにだと……? ふざけるのもいい加減にしろって話だ。

すぐにデュエルで倒して、国防軍に突き出してやる……!

 

「やれやれ、所詮君も視界の狭い人間でしたか……。残念です。では、私はカードを2枚伏せて、ターンを終了しましょうか」

 

 

メガネの男 手札1 LP1500

ー裏裏ーー

ーーシーーフ

 シ リ

ーーーーー

ーー罠ーー

繋吾 手札4 LP800

 

きっと挑発だ。俺の思考を鈍くするような算段なのだろう。

なんといっても頭のキレそうな見た目しているし、一つの作戦であることも考えられる。

もしかしたら野薔薇は奴の口車に乗せられてやられてしまったのかもしれない。

 

惑わされずに俺は俺の信念に従って戦うまで。今なら桂希が言っていたこともよくわかる気がする。

最後に信じられるのは……俺自身の意志だ!

 

とりあえず状況を整理しよう。

相手の場には攻撃を止めることのできる【シューティング・スター・ドラゴン】。

そして、モンスター効果を1度封じる【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】。

あれを突破するには、魔法か罠による突破。それか【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】の効果を使わせるか封じた上で、モンスター効果を駆使した突破ってところか。

頼むぞ……俺のデッキ……!

 

「俺のターン、ドロー! 魔法カード【竜星の軌跡】を発動! 墓地の【ボウテンコウ】、【リフン】、【ジョクト】の3枚をデッキに戻し、新たに2枚ドローする! よし、これなら……! 続けて、先ほど手札に戻した【ジャンク・シンクロン】を召喚!」

 

ーーー

【ジャンク・シンクロン】☆3 闇 戦士 チューナー ③

ATK/1300

ーーー

 

「こいつのモンスター効果を発動! 墓地からレベル2以下のモンスター、【ドッペル・ウォリアー】を守備表示で特殊召喚するがどうする?」

 

【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】の効果は1ターンに1度モンスター効果を無効にする効果だ。

これを無効にしてくるかどうか。あいつはどう考える……。

 

「先ほどのターンはそれで【ドッペル・トークン】を呼び出し、一気にモンスターを展開してきた……。なるほど、反撃の芽は潰しておきましょうかね! 【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】の効果発動! 【ジャンク・シンクロン】の効果を無効にし、破壊。そして、その攻撃力分自身の攻撃力を上げる!」

 

【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】

ATK/3000→ATK/4300

 

「くっ、【ジャンク・シンクロン】……!」

 

「通常召喚権はもうありません。その状況下でどのように2体のドラゴンの壁を乗り越えるつもりですか? フフフ……」

 

「残念だが、既に突破口は見えてるんでな! 魔法カード【ワン・フォー・ワン】を発動! 手札の【ダンディ・ライオン】を墓地へ送り、デッキからレベル1モンスター1体を特殊召喚する! 来てくれ、【ジェット・シンクロン】!」

 

ーーー

【ジェット・シンクロン】☆1 炎 機械 チューナー ④

DEF/0

ーーー

 

「そして、墓地へ送られた【ダンディ・ライオン】の効果! 場に【綿毛トークン】を2体守備表示で特殊召喚できる!」

 

ーーー

【綿毛トークン】☆1 風 植物 ②と③

DEF/0

ーーー

 

「さらに手札の【ブースト・ウォリアー】は場にチューナーモンスターがいる時、手札から特殊召喚できる! 【ブースト・ウォリアー】を特殊召喚!」

 

ーーー

【ブースト・ウォリアー】☆1 炎 戦士

DEF/200

ーーー

 

「召喚権を使わずにモンスターを並べてきましたか。狙いはリンク召喚ですか?」

 

「当たり前だ! 再び来い、心を繋ぐサーキット! 俺は【綿毛トークン】2体と【ジェット・シンクロン】と【ブースト・ウォリアー】の4体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 繋がる力を守りし、聖なる守護竜! 【ファイアウォール・ドラゴン】!」

 

ーーー

【ファイアウォール・ドラゴン】リンク4 光 サイバース ④

ATK/2500

ーーー

 

白き体に蒼白い電子を身に纏ったドラゴンが、【セフィラ・メタトロン】の背後へ出現した。

 

「リンク4……ということはかなり強力な効果を秘めているといったところですか」

 

「あぁ、その身に受けてもらうぞ、テロリスト! 俺は【ファイアウォール・ドラゴン】の効果を発動! "サイバネット・リリース!" このカードが表側表示で存在する限り一度だけ、このカードと相互リンクしているカードの数まで、場のカードを手札に戻せる! 今現在、【セフィラ・メタトロン】と相互リンクしているため、戻せるカードは1枚! お前の【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】には消えてもらう!」

 

【ファイアウォール・ドラゴン】の頭部にある青色の輪っかが赤色に輝き出すと、そこから嵐のようなものが発生し、【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】へと襲いかかる。

 

「致し方ありませんか。リバースカード、速攻魔法【星遺物を巡る戦い】を発動しましょう! 自分の場のモンスターを1体エンドフェイズ時まで除外することで、その攻撃力分相手モンスター1体の攻撃力を下げます! 【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】を除外して、あなたの【ファイアウォール・ドラゴン】の攻撃力を3000下げる!」

 

「逃げられたか……!」

 

だが、場から消せたことに変わりはない。

これなら許容の範囲内だ。

 

「続けて【セフィラ・メタトロン】の効果を発動! "コネクター・サブリメイション!" 俺の場の【ファイアウォール・ドラゴン】とお前の【シューティング・スター・ドラゴン】をエンドフェイズ時まで除外する!」

 

「これで私の場はガラ空きですか……」

 

先ほどのターンと同じように【セフィラ・メタトロン】は自らの手に持つ杖を天空へ掲げると、2体のモンスターは足元から消滅し始める。

 

「バトル、これでトドメだ! 【セフィラ・メタトロン】でダイレクトアタック! "ヴェンジェンス・ディバイニング!"」

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500

 

【セフィラ・メタトロン】は右手の水晶の槍を構え、狙いをテロリストへ定める。

そして、突進をはじめた。

 

「甘いですねぇ。罠発動! 【リジェクト・リボーン】! 相手のダイレクトアタックを無効にし、バトルフェイズを終了する!」

 

「なに!?」

 

俺の攻撃は罠カードによって阻まれてしまった。

これではエンドフェイズ時には再び2体のドラゴンモンスターが……。

 

「残念でしたねぇ。見事な反撃ではありましたが、私を倒すほどではなかったみたいだ。まぁ最初から君に勝ち目なんかなかったってことですよ。フフフ……」

 

「くっ……。だが、まだ俺は負けたわけじゃない!」

 

「まったく諦めの悪い少年だ。【リジェクト・リボーン】の効果はこれで終わりじゃありません。その後墓地からシンクロモンスターとチューナーモンスターを効果を無効にして特殊召喚できる。これで【スターダスト・ドラゴン】と【フォーミュラ・シンクロン】の2体を守備表示で特殊召喚!」

 

ーーー

【スターダスト・ドラゴン】☆8 風 ドラゴン ②

ATK/2500

ーーー

【フォーミュラ・シンクロン】☆2 光 機械 チューナー ①

DEF/1500

ーーー

 

「っな……!?」

 

これじゃあ奴の場には強力なドラゴン族シンクロモンスターが3体の布陣に……。

そうだとしても俺は諦めない! 俺の場にも2体の強力なリンクモンスターが健在なんだ!

 

「遊佐くん……これじゃもう……」

 

野薔薇が場の状況を見て諦めたように呟いた。

何を弱気になってるんだ。負けてもないのにそんなんじゃ、勝てるものも勝てなくなってしまう。

 

「諦めてたまるか……! デュエルは最後の最後まで何があるかわからない!」

 

「でももうバトルは終わっちゃったし……その残り少ないライフで耐えられるの……? これじゃ私の救難信号のせいであなたまで死んで……」

 

「死ぬことを考えるくらいなら俺のデュエルを信じろ。ここに来たのは俺の意志であり、お前は関係ない! あのテロリストを倒すこと、それが俺の戦う理由だ!」

 

「遊佐くん……。ふふっ、本当に特殊機動班は変な人しかいないんだね……」

 

「苦情なら赤見さんにでも言ってくれ。俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ! エンド時に除外されていた3体のモンスターは場に戻る!」

 

メガネの男 手札1 LP1500

ーーーーー

シシシシーフ

 ー リ

ーーーリー

ー裏罠ーー

繋吾 手札1 LP800

 

「さて……最後の挨拶は済んだみたいですねぇ。それでは、死んでいただきましょう! 私のターン……吹き荒ぶ疾風の力、再び我が下に……! ジェネレイト・ドロー!」

 

再び奴は例の技を使ってきやがった。

望むカードを引けるというのならそれは俺にとってまずいカードが引かれてしまうに違いないだろうが……。

 

「フフフ……魔法カード【ハーピィの羽箒】を発動! 相手の場の魔法、罠カードを全て破壊する! 君の伏せカードもこれでおしまいですよ?」

 

「ならば、罠カード【ブレイクスルー・スキル】を発動! 相手モンスター1体の効果をこのターン無効にする! 対象は【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】だ!」

 

「なるほど……ですが、その【パラレルポート・アーマー】もろとも破壊されてもらいましょうか!」

 

大きな竜巻が発生すると同時に俺の2枚の罠カードが破壊される。

だが、いずれにしてもこのターン厄介な【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】の効果は無効にできた。

伏せカードとしての目的は達成できたと言えよう。

 

「さらに手札から【ドラグニティーセナート】を召喚!」

 

ーーー

【ドラグニティーセナート】☆4 風 鳥獣 ⑤

ATK/1800

ーーー

 

「再びいきますよ! 【シューティング・スター・ドラゴン】の効果発動! ジェネレイト・ドロー! 1枚目、チューナーモンスター【ドラグニティーブラックスピア】、2枚目、チューナーモンスター【グローアップ・バルブ】、3枚目、チューナーモンスター【幻獣機オライオン】、4枚目、チューナーモンスター【ゾンビキャリア】、5枚目、チューナーモンスター【デブリドラゴン】!」

 

「全てチューナーモンスター……」

 

ふざけやがって……自らの望むカードがドローできる力なんておかしいだろう。

あれがジェネシスの力とでも言うのか。

 

「さぁ、今度こそ終わりです! バトル! 【シューティング・スター・ドラゴン】で【セフィラ・メタトロン】を攻撃! "シューティング・ディザスター!"」

 

「この瞬間を待っていた! 俺は【ファイアウォール・ドラゴン】の効果発動! このカードが表側表示で存在する限り一度だけ、相互リンクしているカードの数まで場のカードを手札に戻せる!」

 

「何を言っている。その効果は先ほど使ったではありませんか? いや……そういえば……」

 

「このカードは一度【セフィラ・メタトロン】の効果で場を離れている! したがって、再び効果が使えるということだ! 消え去れ、【シューティング・スター・ドラゴン】! "サイバネット・リリース!"」

 

「ぐぅ……。【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】の効果で無効にはできない……!」

 

【シューティング・スター・ドラゴン】は赤色に染まった竜巻に飲まれ消滅していった。

 

「だが、それでも勝敗に変わりはない! 【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】で【セフィラ・メタトロン】を攻撃! "クリスタロス・エッジ!"」

 

無数の水晶の刃が【セフィラ・メタトロン】を目掛けて発射され、その体に突き刺さる。

 

【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】

ATK/3000

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500

 

「ぐあああっ!」

 

繋吾 LP800→LP300

 

「フフフ……さらに【スターダスト・ドラゴン】で【ファイアウォール・ドラゴン】を攻撃! "シューティング・ソニック!"」

 

【スターダスト・ドラゴン】

ATK/2500

【ファイアウォール・ドラゴン】

ATK/2500

 

互いのモンスターの攻撃力は互角。

お互いに自らの持つ全力の攻撃を叩き込みそれが衝突し合うと、両者共に消滅してしまった。

 

「【ファイアウォール・ドラゴン】までもが……」

 

「いよいよを持ってあなたも終わりですね。私の場のドラゴン族モンスターが破壊されたことで、墓地の【霊廟の守護者】の効果を発動! このカードを守備表示で特殊召喚しましょう!」

 

ーーー

【霊廟の守護者】☆4 闇 ドラゴン ②

DEF/2000

ーーー

 

「少年、あなたの力は惜しいところではありますが、この街と共に消えてもらいましょうか! 【ドラグニティーセナート】でダイレクトアタック!」

 

「遊佐くん!」

 

【ドラグニティーセナート】が両手で杖を前に出すと、そこに緑色に光る風が収束し始めていく。

 

「残念だが、それじゃまだ俺を倒すまではいかない! ダイレクトアタックを受ける時、墓地の【虹クリボー】を特殊召喚できる! 頼んだ、【虹クリボー】!」

 

ーーー

【虹クリボー】☆1 光 悪魔 ③

DEF/100

ーーー

 

緑色に光る風が発射されると同時に俺の前に【虹クリボー】が立ちふさがり、その攻撃を代わりに受け止める。

 

「おのれ……。まだ耐えるというのですか! だが、この状況。場に何もなければ手札は1枚のみ! 死ぬターンが1ターン伸びただけに過ぎません! 念のためそうですね、私はレベル4の【ドラグニティーセナート】にレベル2の【フォーミュラ・シンクロン】をチューニング! "蒼き雫に導かれ、深き深淵より浮上せよ!" シンクロ召喚! 【瑚之龍】!」

 

ーーー

【瑚之龍】☆6 水 ドラゴン ④

DEF/500

ーーー

 

「私はこれでターンを終了しましょう。私の勝利に揺ぎはない。諦めるのだな、少年よ!」

 

メガネの男 手札0 LP1500

ーーーーー

ーモシシーフ

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

繋吾 手札1 LP300

 

「まだだ……俺は……」

 

なんとか先ほどのターン耐えたものの、2体の守備表示モンスターと【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】は健在。

対して俺は【セフィラ・メタトロン】をはじめとしたモンスターを失い、手札には【炎竜星ーシュンゲイ】が1枚のみ。

この状況……いったい何を引ければ逆転できる……?

ライフポイントも残り300しかない。防御に回ってももう耐えることはおそらく難しいだろう。

 

俺はデッキに右手を当てようとする。しかし、そこには震えている右手があった。

なんでだ……。俺は怯えているのか。

 

確かにそうだよな。このドローで何かを引けなければおそらく俺はここで死ぬ。

救援も期待はできないだろう。

桂希の奴も複数のテロリストを相手にしている分、時間がかかるだろうしな。

 

「どうしました? 早く引いてください。そのドローで奇跡でもなんでも起こせるというのなら起こして見るがいい!」

 

「くっ……」

 

俺には奴のジェネレイト・ドローのような特別な力はない。

奇跡が起きる可能性がどれだけ残されているのか……。

デュエルを諦めたくはない。だけど、俺はドローをするのが恐ろしかった。

 

「……何悩んでるのよ……」

 

「えっ……」

 

突然、後ろのの野薔薇がボソっと呟いたのが聞こえた。

それに気がつき俺は野薔薇の方を見る。

 

「遊佐ぁ! さっきまでの威勢はどうしたの! せっかくあなたのデュエルを信じようとしたのに……私の気持ちを無駄にしないでよ! あいつを倒すんじゃなかったの? ねぇ!」

 

「野薔薇……お前……」

 

「私は信じてるよ……。そのドローで奇跡が起きるってことを……。だから遊佐くん、あなたは自分のデッキを信じてあげて……」

 

野薔薇が俺のデュエルを信じてくれているんだ。ならば、躊躇している場合じゃない。

俺は自分の力とデッキを信じる。奇跡は……自ら引き寄せるものなんだ。

 

「いくぞ……俺のターン……」

 

俺は覚悟を決め、自らの首元のペンダントを左手で握り締める。

父さん……。俺に……勇気をくれ……!

 

すると突如、俺の首元のエメラルドグリーンのペンダントが光りだした。

 

「なんだ!?」

 

「なに? この光……。遊佐くん?」

 

「わからない……。一体何が……」

 

改めてデュエルウェポンを眺めると、俺のデッキの一番上のカードが密かに光り出しているのに気づいた。

何が起きているんだ……。まさかペンダントがもたらしてくれた奇跡とでも……。

 

「そのペンダント、少年……。お前……まさか……!」

 

「どうか……俺を導いてくれ! ドロー!」

 

引いたカードを眺める。

すると、それは自分のデッキには入れていない見覚えのないカードだった。

なぜ入れていないカードがデッキの一番上に……。

 

だけど、このカードなら……!

 

「俺は【英霊獣使い-セフィラムピリカ】を召喚!」

 

ーーー

【英霊獣使い-セフィラムピリカ】☆3 風 サイキック ②

ATK/1000

ーーー

 

「このカードが召喚に成功した時、墓地から"セフィラ"と名のついたモンスターを特殊召喚できる!」

 

「ですが、その程度のモンスター効果。粉砕してくれましょう! 【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】の効果を発動! その効果を無効にし、破壊する!」

 

「カードが導く奇跡を断ち切らせはしない! 墓地の【ブレイクスルー・スキル】の効果発動! このカードを墓地から除外して、相手モンスター1体の効果を無効にする!」

 

「墓地から罠……だと!? やって……くれますねぇ……!」

 

「これにより【英霊獣使い-セフィラムピリカ】の効果は有効! 再び俺に力を貸してくれ! 【セフィラ・メタトロン】!」

 

ーーー

【セフィラ・メタトロン】リンク3 光 幻竜 ③

ATK/2500

ーーー

 

「だが、その程度では私のライフを削るどころか、【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】を倒すことはできませんよ?」

 

「焦るなよ。俺は手札を1枚捨て、墓地から【ジェット・シンクロン】の効果を発動! こいつを墓地から特殊召喚する!」

 

ーーー

【ジェット・シンクロン】☆1 炎 機械 チューナー ④

DEF/0

ーーー

 

「レベル3の【英霊獣使い-セフィラムピリカ】にレベル1の【ジェット・シンクロン】をチューニング! シンクロ召喚! 聖なる拳、【アームズ・エイド】!」

 

ーーー

【アームズ・エイド】☆4 光 機械 ①

ATK/1800

ーーー

 

「【アームズ・エイド】の効果発動! このカードを場のモンスター1体に装備し、攻撃力を1000ポイントアップさせる! 【アームズ・エイド】を【セフィラ・メタトロン】に装備する!」

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500→ATK/3500

 

「【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】の攻撃力を上回ったか……」

 

「ぶっ倒してやる! バトルだ! 【セフィラ・メタトロン】で【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】を攻撃! "ヴェンジェンス・ディバイニング!"」

 

【アームズ・エイド】により【セフィラ・メタトロン】の右腕には赤黒い爪のようなものが装備されており、それを構えながら【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】へと突撃を開始していく。

 

「迎え撃て! 【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】! "クリスタロス・エッジ!"」

 

無数の水晶の刃が【セフィラ・メタトロン】を襲うが、自らにオーラのようなものを纏いその攻撃を受け流していく。

やがて、【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】へと接近すると、右腕に宿る爪で体を引き裂いた。

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/3500

【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】

ATK/3000

 

「うおおおっ! だが、この程度のダメージどうということはない!」

 

男 LP1500→LP1000

 

「残念だが、これで終わりだ! 【アームズ・エイド】の更なる効果! このカードを装備したモンスターが相手モンスターを破壊した時、その破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える! 俺たちの……怒りを受けろ!」

 

破壊された【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】の幻影が男の前に現れると、男を取り込むように襲いかかった。

 

「なに!? ……馬鹿な……。この私が……負けるだと……! ぐおおおおあああ!」

 

男 LP1000→LP0

 

勝った……! 

俺は思わず安心し、その場に座り込んでしまう。

ペンダントの力、よくわからなかったが先ほどの【英霊獣使い-セフィラムピリカ】は俺のデッキには入っていないカードだった。

昔父さんが言っていたペンダントに宿る持ち主を守ってくれる力。

もしかしたらそれは本物なのかもしれないな。 

 

 



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Ep36 - 終息

勝ったという安心感と、デュエルでの負傷のせいか俺は立っていられなくなり、その場に座り込んでしまう。

一体先ほどのデュエルで俺のデッキに何があったのか、そしてなぜペンダントが光りだしたのかは謎に包まれているが、とりあえず今は勝ったことが大事だ。

おかげさまで俺はこうして生きることができているし、野薔薇も助けることができている。

 

だが、このままじっとしているわけにはいかない。

目の前にはテロリストの中でも強敵と思われる人物の存在。

この好機を逃すわけにはいかない。捕縛する絶好のチャンスなんだ。

 

「遊佐くん」

 

立ち上がろうと踏ん張ろうとした時に再び野薔薇が話しかけてきた。

 

「あなたってけっこう強かったんだね……。ごめん、わたし特殊機動班の人ってあまりいい印象なかったからさ。てっきり口だけで大したことないって思ってた」

 

「まぁ……実際俺はSFSに入隊してからそんなに経ってないし、今勝てたのもこのよくわからないペンダントの力だろう。お前の見込みは間違ってないよ」

 

「んもう! 人がせっかく褒めてるんだから素直に受け止めてよ! もしかして結衣ちゃんと一緒にいるせいで影響受けてる?」

 

野薔薇は少し頬を膨らませながら言った。

言われてみれば、調子に乗ったらすぐ結衣の奴に怒られたし、影響を受けてるとこはあるのかもしれないな。

 

「あー……。まぁそうだな。あいつにはあーだこーだ文句ばかり言われてるせいか褒められるのに慣れてなくってな」

 

「苦労してそうだね……。まっ! 私は結衣ちゃんと違って自分に正直に生きてるから! とりあえず今日は助けてくれてありがとうね、遊佐くん!」

 

んーなんというか普段こういうこと言われないせいか逆に調子が狂うな……。

結衣のやつだったら絶対に"私は助けてなんて言った覚えはありません"とか言ってきそうだ。

 

「あ、あぁ。にしても無事に勝ててよかったよ」

 

「よく勝てたよねほんと。あの男……今までのテロリストに比べてとんでもなく強かった。きっと幹部か何かなんじゃないかな……?」

 

「おそらくな……。だとしたらこのままじゃいられない」

 

「そうだね……」

 

そして、俺たちはメガネの男へと視線を向ける。

その先には横たわるメガネの男の姿があった。

なんとか立ち上がろうと腕を動かしてはいるが、あまりの負傷具合に立ち上がることは難しそうだ。

 

「とりあえずあいつを拘束しないと……」

 

俺はポケットに残っている【インスタント・ヒーリング】のカードを自分のデュエルウェポンへとセットする。

すると、体中の痛みが少しやわらいだ。鎮痛剤のようなものなのかな?

同時に治療もしてくれるのなら助かるが……。

 

「野薔薇、立てるか?」

 

「……んー……。ちょっとキツいかも」

 

【インスタント・ヒーリング】を使っているとはいえ、野薔薇はデュエルで負けた側だ。

かなりの傷を負っているに違いないし、体がうまく動かないようだった。

 

「そうか。ちょっとだけ待っててくれるか? あいつを拘束したら俺が肩を貸すから一緒に撤退しよう」

 

「わかった。一応念のため救難信号出しておくね。誰か近くにいるかもしれないし」

 

「あぁ。頼んだ」

 

桂希あたりでも来てくれれば一番助かるんだが……。

そもそもこの近辺で戦えそうな奴って桂希しかいないような気もするが。

野薔薇の班員もみんなやられてそうな感じだったしな。

 

俺はメガネの男へとゆっくり近づいていく。

拘束自体はデュエルウェポンで適当にモンスターを召喚してそいつに捕縛してもらえばいいだろう。

テロリストと遭遇しない限りはそれで撤退できるはずだ。

 

残り5mくらいに差し掛かろうとした頃だろうか。

足音のようなものがメガネの男の後方から聞こえてきた。

誰かが来ている……? 急がなければ。

 

俺は急ぎ、手元にあった【ジャンク・シンクロン】をデュエルウェポンにセットした。

 

「【ジャンク・シンクロン】! この男を拘束してくーー」

 

「"ルナレイト・インフィニティー・バースト!"」

 

俺が指示を出す間もなく、眩い赤白い光線が【ジャンク・シンクロン】に被弾し、消滅してしまった。

 

「誰だ!?」

 

「まったく"オリバー"? こんなとこで負けるなんてだらしがないんだから」

 

突如メガネの男を庇うように茶髪のロングヘアーに真っ白のワンピースを着た女性が現れる。

 

「……"リリィ"ですか……。私としたことが。だが、良い収穫はありましたよ」

 

「それは後でたっぷり聞くから。ネロとデントのやつはもう撤退したって言ってたし、早く私たちも撤退するよ!」

 

デント……。それは赤見さんと戦っていたテロリストの名前だ。

ということはやはり目の前にいるこの二人はジェネシスの中でも重要な人物に違いない。

オリバーとリリィか。生かしておけるか!

 

「逃がさない! 俺とデュエルしろ!」

 

俺はデュエルウェポンを構えながらリリィと呼ばれた女性へ接近する。

 

「ダメダメ。近づくと怪我するよ?」

 

しかし、目の前には龍を模した機械竜が立ちはだかっていた。

それは桂希の使う【サイバー・ドラゴン】に似たようなモンスターだった。

 

あいつを何かしらのカードで倒さなきゃ近づけない。

強力なモンスターを召喚しなければ……。

 

そんなことを考えているうちにリリィはオリバーのデュエルウェポンに1枚のカードをセットする。

すると、オリバーは徐々に透明になっていくと、その場から消えてしまった。

あれは……俺と桂希が使った【空間移動】のカードに近いものかもしれない。

ということは……逃げられたか……。

 

「くそっ……!」

 

「さてと、本当に君戦うつもり? 後ろの仲間さんとか大丈夫?」

 

リリィに言われ後方を見ると、何名かのテロリストの姿が見えた。

今、野薔薇は無防備の状態だ。これでは殺されてしまう……!

 

「ふざけやがって……!」

 

リリィとデュエルで決着をつけたいのは山々だったが、俺は急いで野薔薇の下へと戻る。

 

「遊佐くん! ごめん!」

 

「気にするな! こいつはまずいことになったな……」

 

「うん、私がせめてデュエルできればまだよかったんだけど……」

 

野薔薇は歩くことすらできないほどの負傷だ。

ここはデュエルを避けながら野薔薇を背負って逃げるのが一番の得策か……?

 

決断したら行動あるのみ! 俺はデュエルウェポンへ複数のカードをセットした。

 

「来い! 【源竜星ーボウテンコウ】! 【邪竜星ーガイザー】! 【輝竜星ーショウフク】!」

 

掛け声と共に3体の竜が出現し、俺と野薔薇を庇うようにテロリストに向かって咆哮を上げた。

 

「今だ! 野薔薇。逃げるぞ」

 

「え……うん。わかった!」

 

俺は野薔薇に背を向け、おんぶする形で野薔薇を背負う。

俺の体は深夜続けての戦闘で万全な状態でなかったからか、少し足元がふらつく。

だけどこの程度で弱音を吐くわけにはいかない。俺と……野薔薇の命がかかっているんだからな。

 

「しっかりつかまってろよ……!」

 

「うん……!」

 

俺はできるだけの力を振り絞り走った。

野薔薇自体は俺より身長も低いし、そんなに重くはなかったが、やはり人ひとりを背負って走るなかなかに辛い。

奴らから逃げ切れるだろうか……。

 

走っているうちに徐々に辛くなってきて、速度が落ちてきているのがわかった。

後方からはなにかが破壊されるような音。おそらく俺の召喚した竜星モンスターたちは破壊されてしまったのだろう。

 

くそう。野薔薇を背負っている今じゃデュエルウェポンにカードをセットすることもできない。

 

後ろから足音が聞こえてくる。だけど振り向く余裕はない。

追いつかれてたまるか……!

 

「遊佐くん、大丈夫……?」

 

「はぁ……はぁ……」

 

もはや走ることも困難になり、俺の足取りはふらついてくる。

だけど、それでも後方から足音は聞こえ続ける。

 

そこで再度走ろうと力を入れようとしたが、俺の体は既に限界だった。

力を入れた足が踏ん張りきれずにそのままその場へ倒れ込んでしまった。

 

「……悪い、野薔薇。もう……走れない」

 

「謝らないで。これだけ頑張ってくれたんだから……」

 

あぁ。このままここでやられてしまうのか。

せっかくデュエルでテロリストを倒して、ジェネシスの情報を掴めてきたというのに……。

 

野薔薇を置いて俺ひとりで逃げてれば助かったのか?

仲間のために自らの命を犠牲にしてしまったのか俺は。

この選択は間違っていたんじゃないか……。

 

いや、違う。

前に決めたじゃないか。仲間の犠牲の元に成し遂げる復讐に意味なんてないって。

それが俺の決めた道。

非情になってまで、俺は復讐を成し遂げたいなんて思ってはいなかったはずだ。

ならば、この最期は俺らしいといえば俺らしいんじゃないかな。

 

「最後まで俺を信じてくれてありがとうな」

 

「そんなこと言わないで。既に死ぬ間際だった私に生きれるかもしれないって希望を見せてくれらんだから。それに死ぬのが一人ぼっちじゃないのなら寂しくない」

 

「野薔薇……」

 

戦場じゃ一人ぼっちで誰にも気づかれずに死ぬってこともあるだろう。

そうすれば俺たちはまだマシなのかな……。

 

「はぁ、世の中って残酷だね。なんで今日死ぬのが私だったんだろう……」

 

「まったく。死ぬだの死なないだの言ってる暇あるのなら少しは生きることでも考えたらどうですか?」

 

「それができたらって……え……?」

 

今の呆れたような冷たい声。

聞き覚えがあるぞ……。

 

「遊佐くんもそんなところで寝てないでとっとと起きてください。こんなところで死んでもらっては困ります」

 

「お前……結衣か……! なんでこんなところに」

 

「話は後です。テロリスト達は私たちに任せて逃げてください」

 

結衣は俺たちを見下ろしながら言った。

だが、その目はいつもの文句を言う目ではなく、少しだけ優しさのようなものがあった。

 

「ごめん、結衣ちゃん。逃げたくても体が動かなくて……」

 

「はぁ。決闘機動班 第4副班長ってのも大したことないですね。少しは特殊機動班を見習ったらどうですか?」

 

「うぐっ……今ばっかりは言い返せない……。お願いだから結衣ちゃん。助けて?」

 

「ふふっ。今日はいい日ですね。これで一つ貸しですよ? 野薔薇 莉奈さん?」

 

「わかった! わかったから……!」

 

結衣は少しだけ得意げに笑うと、野薔薇に肩を貸した。

あの野薔薇に対して優位に立てているからかはわからないが、すごく上機嫌そうだった。

 

「遊佐くんは……大丈夫ですか?」

 

「悪い。俺もちょっともう歩けそうにない」

 

かという俺も地面に座り込んだまま、立てずにいた。

 

「そしたらあそこの上地くんに……」

 

結衣が指を指す方を向くと、テロリスト達と戦っている赤見さんや郷田さん。そして颯の姿があった。

その他にもSFSの仲間が戦ってくれている。

 

よかった。このまま俺はここで死なずに済むのか。

 

結衣の声と視線に気がついたのか颯が俺の方へと走ってきた。

 

「おおおお、繋吾ぉ! 生きていたか!」

 

「あぁ。なんとかな」

 

「って繋吾なんだ。立てないのか?」

 

「お恥ずかしながら立てないほどに疲れててな。逃げるのを手伝ってほしい」

 

「ははあ。やっぱり繋吾くんはまだこの上地 颯に並ぶほどの実力はなかったということだな!」

 

こいつもなんでこんなにテンションが高いんだ……。

残念だが、今はツッこむほどの余裕もない。

 

「ははは……。もっと精進するよ……」

 

「おいおい、本当にやばそうだな繋吾。わかった。急いで運搬班の元へいくぞ! 指定したポイントにSFSへ帰還する車両が到着することになってる。そこへ向かうぞ!」

 

「あぁ、頼むよ颯」

 

俺は颯に、野薔薇は結衣に肩を貸してもらい、なんとか指定した場所まで歩き撤退した。

赤見さんの他にも決闘精鋭班や駐屯決闘班の増援部隊が来ていたことから、撤退については特に問題もなくスムーズにできた。

心残りとしてはせっかく倒したオリバーと呼ばれる男の拘束ができなかったことだが、こうして生きて帰って来れたことに今は喜ぶべきだろう。

こうして、俺の初任務であるイースト区アジト襲撃作戦は終息を迎えた。



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第四章 国防軍出張
Ep37 - SFS本会議


イースト区のアジト襲撃作戦より1週間後。

俺を含めた負傷者はSFSの治療班にお世話になり、なんとか傷も完治することができた。

だが、当然傷が大きく未だに回復しないものもいれば、ジェネシスの奴らに吸収されてしまって目を覚まさないもの。

そして、命を落としてしまった人もいた。

 

先日の大襲撃ほどではないが、真跡シティイースト区ではかなり大きな被害となり、今回の被害の原因となった特殊機動班立案のイースト区アジト襲撃事件については、ニュース等で話題となっていた。

全てにおいて批判するものではなく、ジェネシスの悪質な行為を叩く記事もあれば、SFSの不手際で作戦が失敗したことを叩く記事もあり、少なくともSFSとしてはあまり良いものではなかった。

 

そんな状況下からSFSでは、この問題についての社内会議をとりおこなうこととなり、今俺たちはその会議室前の椅子に座り、会議が始まるのを待っていた。

 

何はともあれ、今回の作戦立案は特殊機動班。

したがって、この会議には班長の赤見さんのみならず、班員全てが出席とされた。

 

俺の隣には颯と結衣の姿があり、下を向きながらおとなしく椅子に座っていた。

その様子は緊張から来るものなのか、それとも不安から来るものなのか。

それとは逆に怒りから来るものなのか。その表情からはわからなかった。

 

しばらく沈黙が続いていたが、やがて会議室の扉が開き、郷田さんが会議室の中から出てくる。

 

「お前ら、そろそろ今回のイースト区アジト襲撃作戦の話が始まるみたいだぜ」

 

その声を聞き、俺たちは会議室の中へと入る。

 

その会議室はSFSの中でも最も広いとされる会議室であり、4~50人は平気で入れる広さだった。

中にはSFS社長の生天目さんを始め、見たことのない多くの人が座っていた。

それぞれの机に肩書きが書いてあったが、開発司令部長、駐屯警備部長、そして我々の所属する決闘機動部長の神久さんもいるあたり、SFSの上層部の人間の大半は参加しているようだ。

さらに見回してみると、赤見さん、宗像班長、紅谷班長の作戦参加班長達。

そして、決闘機動班の白瀬班長。そして、それぞれの副班長がずらりと並んでいた。

これだけの人がいる場で今回の作戦でのことを議論していくわけだ。

 

だが、その内容は決してジェネシスに対してどうこうしていくという名目の会議ではない。

今回の一番の議題はなんといっても"特殊機動班の存続について"である。

 

今回の被害状況からして、SFSとしての今後の方向性を出そうという話になってしまったのだ。

 

SFS自らが進んでのジェネシスの調査から手を引き、あくまで警備や救助をメインとしていくか。

それともジェネシスの調査を専門の班である"特殊機動班"を用いて国防軍と共に続けていくか。

 

それを今回の作戦参加者の意見と客観的な意見を聞いた上で、生天目社長が判断を下すということとなっている。

 

俺たちは郷田さんの案内についていき、赤見さんが座る少し後ろ側の席へと座る。

まもなく会議が始まるみたいだ。

 

「それでは、第31回SFS本会議を開始します」

 

そう声を上げた中年の男性の胸元には司令直属班のマークがついている。

エリート集団と呼ばれる司令直属班。

やはり、大きな会議ともなると最上位である班の人が取り仕切っているみたいだ。

 

「それでは最初に社長よりご挨拶をお願いいたします」

 

司会の人に言われ生天目社長はゆっくりと立ち上がると、自席のマイクに口を近づける。

 

「SFS隊員の諸君。この度はお忙しいところ集まっていただいて申し訳ない。今回は、先週行われた特殊機動班主体のイースト区アジト襲撃作戦についての議論と合わせ、今後のSFSの方針を決めていきたいと思っているところだ。まず、SFS上層部から今回の事件の問題部分を伝え、特殊機動班からは今回の作戦の成果。それを踏まえて最終的な審議に入ろうと考えている。よろしくお願いします」

 

生天目社長は発言を終えると再び自席へと座った。

そして、再び中年の男性が口を開いた。

 

「ありがとうございます。それではまず最初に開発司令部長より今回の件についてお話願います」

 

「はい」

 

ちょび髭を生やした黒髪の男性が司会の人に言われて返事をしながら手元の書類を開き始めた。

あれが……開発司令部長であり司令直属班長の黒沢さんか……。

 

「今から1週間前、真跡シティイースト区にて中規模クラスのデュエルテロが発生しました。出撃した隊員の話によると相手は国家指定テロ組織のジェネシスであることがわかっております。国防軍が遠方出撃の手薄な中のデュエルテロだったことから、戦力不足が目立ち被害はかなり出ていると聞いております」

 

どうやら決闘機動班の持ち場であった住宅街は相当な被害が出ていたみたいだな……。

完全にジェネシスの奴らにしてやられたってわけか。

 

「事の発端はこのデュエルテロの少し前にあった小規模デュエルテロ。そちらのデュエルテロをきっかけにジェネシスの情報を掴んだことから、特殊機動班を中心にジェネシス襲撃作戦を計画。そして、決闘機動部内で部隊を編成し、作戦を実行したところまではよかったが、そこで奴らの罠にかかる形となりイースト区は甚大な被害が出てしまった。ここまでで間違いはありませんか? 神久部長?」

 

「ああ。その通りだ。作戦実行前に特殊機動班、偵察警備班、救助護衛班より話は聞いている」

 

対して発言を求められたのは決闘機動部長であり、決闘精鋭班長である神久さんだ。

我々の味方をしてくれるのかは……まだわからない。どうなるんだろうか。

 

「今回の問題点は2つあります。まず一つ目は、かの組織ジェネシスの力を見誤っていたこと。奴らの力は未知数。国防軍の力を持ったとしても未だに解明できていない。それに対して民間軍事組織単独での任務を実行したことは浅はかな決断かと思いますがどうですか? 神久部長」

 

「確かに今回の作戦では戦力差に押され敗北という結果だった。だが、当初の作戦計画では、あくまで奇襲であり、相手に気づかれずにアジトを抑えるというものだった。特殊機動班の作戦説明では、SFSが動いていることはジェネシスには気づかれていなかったとの説明を受けている。それでは戦力差など問題にはならないと判断したまでだ。それに外部部隊との連携。決闘機動班の住宅街警備と作戦には抜かりなかったはずだ」

 

確かに当初の計画ではそこまで交戦するつもりではなかった。

結果的にジェネシスが想像以上にこちらの情報を把握していて、俺たちSFSの読みが甘かったのが原因だ。

 

「つまり作戦実行には否はないということですか。では質問を変えましょう。なぜ、奇襲が可能であると判断したのですか? 神久部長がご存知なければ……偵察警備班長。お答え願えますかな?」

 

黒沢部長は変わらずに目を光らせながら、一定のトーンで話を進める。

対して宗像班長は頭を掻きながら自席のマイクへと顔を近づけた。

 

「それは……相手に見つからないように付けていった結果、ジェネシスのアジトを発見したからですよ。それから張り込みを続けていましたけど、一切こちらの正体を怪しまれるようなことはなかった。おまけに、情報を掴んでから我々が作戦実行までに要した期間はたったの2日間だ。気づかれないために即日決行したんですよ。我々は」

 

「なるほど。ということは、最初の小規模デュエルテロ。あれから既にこちらを罠にかけるつもりで起こしたのかもしれませんねえ。その可能性は想定できなかったのですかな? 神久部長」

 

「私は小規模デュエルテロの実態を掴んでいない。あの小規模テロは偵察警備班のみで処理したはずだ。詳細がわからない以上、判断のしようがないだろう」

 

神久部長は赤い眼を光らせながら黒沢部長へと言い返した。

だが、その回答では当然、話が降ってくるのは偵察警備班長だ。

 

「ではどうかな。偵察警備班長」

 

「……確かに、怪しいとは感じてましたよ……。だけども……」

 

宗像班長は言葉に詰まる。

罠かもしれないが、それでもジェネシスの情報を伝えた理由。

それは何よりも宗像班長と赤見さんの関係からだろう。

宗像班長は赤見さんの目標であるジェネシスの殲滅を協力したかったからこそ、その情報を伝えた。

そして、赤見さんはそれが罠である危険もわかった上で実行した。

それは……とてもじゃないがこの場で言ったら私的な理由とされ非難されるに違いないだろう。

 

「黒沢部長。それに対しては私から」

 

そこに助け舟を出す形で赤見さんが声を上げた。

 

「特殊機動班長。今回の議題はあなたの処遇にも関わる。慎重に答えていただきたいものですな」

 

「ええ。承知しております。今回、私が作戦を立案をしていく中で当然相手の罠である可能性は想定していました。それでも私は実行したまでです」

 

赤見さんの発言に対して、会議室内が少しざわつく。

だが、その後に黒沢部長が口を開くとまた静かになった。

 

「危険があることを承知でなぜ実行したのですか。我々SFS隊員が無駄死にすることも考えられたでしょう? 結果、わずかな情報のために甚大な被害が出た。理由をお聞かせいただけますか?」

 

「理由は言うまでもありません。私はSFSの特殊機動班長です。特殊機動班の現在の任務は国家指定テロ組織ジェネシスの情報をいち早く掴み、そして最終的には殲滅すること。そのために活動することについては何ら異論はないはずです。被害が出ることを恐れてジェネシスに立ち向かわなければ我々が存在する意味がない。それに、いつまでたってもデュエルテロはなくなりません。だからこそ作戦を決行しました」

 

「なるほど……」

 

黒沢部長はその発言を聞き、何度か頷いた。

理解してくれたのだろうか……。このまま終わればいいところだが……まだそうもいかないだろう。

 

「では、そろそろ二つ目の問題点に移りましょうかね。そもそもSFSにとって特殊機動班とは必要なのですかね? 随分と任務に真面目な赤見班長。あなたは他の班でも十分任務をこなしていけるでしょう。ですが、一度定員不足で廃止になりそうだった特殊機動班を復活させてまで継続させた。なぜ、そこまで特殊機動班にこだわるのですか? 必要性を伺いたい」

 

必要性って……。SFSはテロ組織を壊滅するために活動しているんじゃなかったのか。

それならば凶悪なテロ組織、ジェネシスに対する部隊として特殊機動班は必要だろう!

 

「SFSの活動目的はデュエルテロ組織を壊滅させ、世の中の住民の皆が……特に我々の身近なところで真跡シティの住人が安全に暮らせるためにテロリスト戦い続けることにあります。ですが、ジェネシスという大きな組織がある限り、この戦いはなくなりません。ジェネシスという組織を壊滅させない真跡シティに平和は訪れないはずです。そのために特殊機動班が存在し、戦っているのですよ」

 

「それは綺麗事だよ。赤見班長」

 

「なに……?」

 

黒沢部長から告げられた一言で赤見班長の目つきが変わる。

 

「確かにそれができればいいだろう。だが、現実を見たまえ。実際問題戦ってみたらボロ負け。よかれと思って行った作戦で実際には真跡シティの住人に被害が出てしまっている結末だ。SFSじゃジェネシスと対等に戦う力なんてないのだよ。それであれば、ジェネシスの調査から手を引き、防衛をメインとした現実的な戦い方をしていった方がいい」

 

「ですが、我々は今回ジェネシスの幹部と思われる人物をデュエルで打ち破り、その人物の情報を得ています。それだけでも今後に繋がる十分な戦果です」

 

「だが、それも結局は決闘機動班をはじめとした多くの隊員の犠牲の上だろう? それに対して特殊機動班は全員揃ってピンピンしているようだが……それ以外にもSFSはかなりの被害を受けているのだ。その程度の情報と釣りあうというのか君は」

 

SFSの中でも命を落としたり、吸収されてしまった人もいると聞いてる。

確かにそれを聞いてしまうと、たかがジェネシスのわずかな情報なんて……というのは思っても仕方がないだろう。

だが、だからといってジェネシスと戦うことをやめたら……誰がジェネシスと戦うんだ……。

 

「決闘機動班、偵察警備班、救助護衛班の皆には大変ご迷惑をおかけしています。ですけど、我々の力が奴らの幹部にも通用したという一つの結果。そうとも捉えられませんか?」

 

「赤見くん。君の言いたいこともよくわかるが、私たち決闘精鋭班、そして駐屯警備班も今回撤退時には出撃しているんだ。これだけ動いていてその程度の成果では、SFSとしては厳しいだろう」

 

ついに神久部長までもが赤見さんに対して厳しい意見を言った。

この現状じゃ決闘機動部長の立場としてはやむを得ないということか……。

 

「我々としても今回の撤退においては、駐屯警備班だけじゃなく運搬班も出している。そして何よりも負傷者増加による治療班の経費が増加傾向にあるのだ。駐屯警備部としても特殊機動班の活動でこれ以上経費が大きくなるのは、あまり好ましくない状況だ」

 

そして、駐屯警備部長である斎藤さんまでもが赤見さんに対し声をあげた。

これではほぼ全班が特殊機動班の撤廃を求めているようなものじゃないか!

こんなところで俺は自らの目的を失ってしまうのか……。

 

「赤見班長。このとおり君たち特殊機動班の活動は我々にとってはデメリットが大きすぎるのだよ。さて……今回、一番被害が大きかったのは決闘機動班ですが……。白瀬班長はどうお思いですかな?」

 

黒沢部長は少し呆れた顔をしながらも白瀬班長へと問う。

白瀬班長は腕を組み、ずっと何かを考えていたようだったが、黒沢部長に話を振られその口を開いた。

 

「確かに我々決闘機動班は非常に大きな被害を受けている。それに、出撃した副班長達からも大きなクレームを受けている状況だ。神久部長や斎藤部長、そして黒沢部長の言うとおりSFSとしてのデメリットは大きく、撤廃した方が我々の身のためというのは頷けますな」

 

大体予測はできていたが、決闘機動班が俺たちの味方になるはずはないか……。

そう諦めていたが、まだ白瀬班長は言葉を続ける。

 

「ですが、このような報告も受けましてね。特殊機動班は任務の失敗こそはしましたが、決闘機動班の救出に駆けつけてくれたようだ。それに対して特殊機動班に感謝する声があがっている。そして何よりもテロリスト幹部をデュエルでうち負かせた2名の隊員がおり、この中規模デュエルテロにおいてひとりも死傷者を出していないのは特殊機動班だけだ。これは一つ評価するところだとは思うがね。このような優秀な部隊を放棄することは、今後テロリストへ対する抑止力を失うとも考えられる」

 

白瀬班長から想定外の発言が出てきて思わず驚く。

今の内容だと、特殊機動班の撤廃には賛同しないというように聞こえたぞ……。

ふと、決闘機動班を見ると野薔薇が俺たちの方を向いてウィンクしているのが見えた。

なるほど。もしかしたら野薔薇が白瀬班長に掛け合ってくれたのか。

 

「ほう。白瀬班長。それは特殊機動班が他の班員をうまく利用して生き残った可能性だってあるのではないか?」

 

「黒沢部長。恐れ入りますが、もう少し報告書に目を通していただきたい。特殊機動班はアジトに先行部隊として潜入しているのだよ。そこから生還しただけでも決闘機動部内では評価するところだと思いますが……。神久部長はどう思いますかな?」

 

「ふむ……そうだな。これだけ被害を出したジェネシスのアジトだ。よほど危険だったのだろう。だが、白瀬班長。それなら特殊機動班のメンバーをそのまま他の班に合併させるというやり方もある」

 

「それは方法としてありますな。ですが、それについては直接赤見班長に聞かれたらどうかな? 神久部長」

 

白瀬班長に言われて神久部長はまっすぐに赤見班長を見る。

そして、軽くため息をつくと、口を開いた。

 

「わかってるよ。赤見くん。君は特殊機動班以外に行く気はさらさらない」

 

「もちろんです神久部長。私には成すべき使命がありますから。そこで皆さんに一つ提案をさせていただきたい」

 

赤見さんは真剣な眼差しで黒沢部長を見つめる。

何か強い意志が宿っているような……。桂希がみたら喜びそうだ。いや、奴も今ここにいたな。

 

「何かな? 赤見班長」

 

「今後は特殊機動班が作戦を実行する時は単独で任務を行います。そうすれば皆さんには迷惑がかからなくなるでしょう。それならば問題はないはずです」

 

単独って……今後は5人でジェネシスと戦うってことか!?

いくらなんでもそれは無理が……だけど、とりあえず特殊機動班を存続させるには一番言いやすい提案かもしれない。

 

「仁く……いや、赤見班長! いくらなんでもこれだけの被害を出したジェネシス相手にその班員だけで戦えるわけ……」

 

「紅谷班長。これは私の意思表示だ。できるかできないかの問題ではない」

 

思わず紅谷班長がツッコミを入れたようだが、赤見さんの表情は真剣そのものだ。

これは何を言っても曲がらないだろう。

 

「はぁ。君の特殊機動班の執着心には驚いたよ赤見班長。SFS全体に迷惑がかからなければいいが、神久部長。決闘機動部としてはどうですか?」

 

「ここまでの覚悟があっての活動ならば問題ないだろう。だが、先ほど白瀬班長の言うとおり貴重な部隊を失うのは決闘機動部としては手痛いことだ。必要に応じて部内でサポートはさせてもらう」

 

「神久部長。それでは結局今までと変わらないではないですか? 必要に応じて他班が特殊機動班に力を貸すってことですよね?」

 

「今回の件で、赤見にも新しい覚悟ができただろう。同じようなことがもう一度でもあれば今度こそ特殊機動班は終わりだ。今回はSFSにとってはマイナスだったかもしれないが、この話を国防軍へ話せば良い反応がもらえると思うぞ? 黒沢部長」

 

神久部長は少し口元をにやけさせながら言った。

確かに、ジェネシスの情報を国防軍に伝えれば壊滅への道が近づくかもしれないな。

 

「それにだ。今回住宅街の被害が大きくなってしまったのはなんといっても国防軍の遠方出撃の影響が大きい。タイミングが悪かったというのもあるはずだ。今回の成果も加味して、今この会議での特殊機動班撤廃は決断はできないと思うぞ」

 

「神久部長……。しかし……」

 

徐々に黒沢部長の勢いが弱まっていく。

今がチャンスを思ったのか、再び赤見さんが口を開いた。

 

「今回の成果の報告次第では、今後国防軍からも強く支援を受けれるかもしれません。そうすれば特殊機動班の活動目的であるジェネシス壊滅に向けては大きな前進だと考えます。それも踏まえた上でご決断いただきたく思います!」

 

赤見さんは言い切ると、生天目社長へと視線を向けた。

生天目社長は会議室をぐるりと見渡し、自らのマイクに顔を近づける。

 

「もう発言や提案はないかな?」

 

その問いに対してしばらくの沈黙が続く。

やがて、誰からの問いもないと判断したのか生天目社長は再び口を開いた。

 

「特殊機動班については、今後可能な限り現実性のある作戦立案を行い、死傷者が出ないように努めること。住民に被害が出そうならば神久部長、そして白瀬班長でストップかける。部内での連携をうまくとって任務にあたっていただきたい。特殊機動班はSFSとしては無駄な要素かもしれないが、デュエルテロについては金やデュエル勝ち負けだけじゃ判断できない。無理のない活動ができるよう適度に監視しながら開発司令部、駐屯警備部共々協力してやってくれ。なんといっても決闘機動部は我々SFSの最前線。顔といっても過言ではないからな」

 

「わかりました」

 

生天目社長に言われ、部長ら3人は頷いた。

ひとまず、特殊機動班撤廃については、なんとかなりそうだ……。よかった。

 

「ジェネシスとの戦いも先が見えてきたな。赤見班長。引き続きよろしく頼むよ」

 

「はい。必ずジェネシスを壊滅してみせます」

 

「頼んだよ。さて、今日はこんなところか。黒沢部長」

 

「はい、生天目社長。田中、閉会の挨拶を」

 

黒沢部長に田中と呼ばれた司会をやっている中年の男性は急ぎ、マイクを手に持った。

 

「それでは以上で第31回SFS本会議を終了いたします。長時間ありがとうございました」

 

その司会の人が言い終えると各々席を立ちはじめる。

とりあえず俺たちは今までどおり活動できるんだよな……?

 

「さすがだな赤見。あの場でよく喋れるわ」

 

「ハハハ、実際頭の中真っ白だったぞ郷田」

 

赤見さんは笑いながら言う。緊張がほぐれてホッとしてそうだ。

 

「赤見さん、ありがとうございます! 俺たちの特殊機動班を守ってくれて」

 

「何を今更言ってるんだ繋吾。せっかくジェネシスの情報を掴んだのにやめるわけがないだろう?」

 

「本当になくなってしまうのかと思って、せっかくこれからの目的を見い出せたというのに不安で……」

 

俺にとってずっと叶わなかった目的。

5年前、俺から全てを奪っていったジェネシスによるデュエルテロ。

それに対する復讐は力がなかった俺一人では到底できることではない。

そんな中、赤見さんとこの特殊機動班は不可能であった復讐を導いてくれている。

もし特殊機動班がなくなったら俺の人生は再び5年前の降り出しに戻されてしまうだけだ。

そう思うと今日の会議ほど終わったあとに安心したものはないだろう。

 

「安心しろ繋吾。例え特殊機動班がなくなったとしても、私はジェネシスと戦い続ける。SFSじゃなくなったとしてもだ」

 

「赤見さん……!」

 

「繋吾ちゃん。特殊機動班のメンバーの思いはみんな一つだぜ。今日仮に特殊機動班が撤廃となっても、おそらくみんな赤見についてくだろうよ。なあ?」

 

郷田さんに問われると、結衣と颯は軽く頷き答える。

 

「当たり前です。赤見班長がいなければ私はここにいませんし、何か大きな使命があるのだとしたら私はその力になります」

 

「俺だってそうだ。そもそも決闘機動班に行くのはもうごめんだしな。それに結衣ちゃんが……」

 

颯は何か言いたげだったが、周りの雰囲気を察したのが言葉を止めた。

まぁやつにとっては結衣がいることがやっぱり大きいんだろうな。

 

「本当に最高の班だなここは。よし! 今日からまた心機一転。頑張っていくぞ!」

 

「はい!」

 

赤見さんの声にあわせて俺たちは拳を突き出しながら大きく返事をした。

俺たち特殊機動班とジェネシスの戦いはまだはじまったばかりだ。

絶対に壊滅してみせる。ジェネシスというデュエルテロ組織を!

そして、その時にはこの5人のメンバーで必ず生還してみせる……!



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Ep38 - エメラルドのペンダント

SFS内の疑惑も過ぎ去った翌日。

俺たち特殊機動班のメンバーは特殊機動班室へ集まってきていた。

 

SFS開発司令部からも目を付けられてしまっている以上。これ以上大きな損害を出すことは特殊機動班の存続に影響が出てしまう。

そんな状況もあって、今後の活動方針を決めていきたいとの赤見さんの意向もあり、一度班内で話し合いをしておこうという話になったのだ。

 

それになんといっても先日のアジト襲撃事件でのテロリスト幹部と思われる人物との交戦。

そして、ペンダントの謎の発光。

これについても報告としてはあげたものの、赤見さん達との細かな話というのはまだできていなかった。

 

対して赤見さん達はデント以外にも幹部と思われる人物と遭遇したらしいが、不思議なことに交戦することはせずに撤退したとの報告内容だった。

いったいなにがあったのか。俺としては気になっているところだ。

 

「さて、みんないるな?」

 

赤見さんが周りを見渡しながら言った。

 

「おう、この間の詳細報告と今後の活動方針を決めるんだったな? 赤見」

 

「あぁ。やはり報告書だけでは書ききれないところもある。それに今回の話はあまり広めたくなくてな。あえて報告書には書いていない部分がある。それを改めて特殊機動班内で共有しておきたい」

 

あまり広めたくない……? 確かに赤見さんの報告内容は、敵の幹部が出現し、デントを解放することで撤退していったと書かれていた。

アジト周辺の交戦はSFS側が不利と聞いていたのにわざわざ撤退するのは変だと感じてはいたが、何か隠していることでもあったのか。

 

「赤見さん。何か……報告書に書けなかったことでも起きたんですか?」

 

「……繋吾。お前のために載せなかったんだよ。赤見班長は」

 

「なに……? 颯、それはどういう……」

 

「遊佐くん、上地くん。静かにしてください。それは今から赤見班長が話してくれますから」

 

結衣に止められ俺はやむなく口を閉ざす。

報告できない内容って俺が関係しているのか……?

 

「すまないな、結衣。繋吾から話を聞く前にまずは私たちの方から話させてもらおう。繋吾と別れた我々は外の部隊の救援に行くために増援として加勢した。だが、その状況は真っ向勝負すれば全滅するほど事態は悪くてな。そんな中でも我々は戦闘を継続しようと戦おうとしたところにネロという一人の幹部が現れた」

 

「それは……報告書にもあった幹部とは思えない小柄な青年だった奴ですね。そいつは何やら拘束したデントを引き渡す代わりに部隊を撤退させるという状況から考えると不自然な交渉をしてきたとか……」

 

「あぁ。確かに交渉内容に違いはない。だが、デントの引渡し以外にももう一つ彼らの要求内容があったんだ」

 

なるほど。それが報告書には書けなかった要求内容か。

 

「一体なにが……?」

 

「エメラルドのペンダントの在り処だ」

 

「エメラルドのペンダント? それってもしかして俺のつけているこれですか?」

 

エメラルド色のペンダントならいくらでもあるだろう。

それにこのペンダントはなんの変哲もない……いや、俺もついこの間まではそう思っていた。

だけど、この間のデュエル中の謎の発光。もしかしたらこのペンダントには何かあるのかもしれない……。

 

「あぁ、奴らジェネシスは……繋吾。お前のペンダントを狙っている」

 

「いや……でもエメラルドのペンダントなんていっぱいあるじゃないですか! これではない可能性も……」

 

「繋吾。お前も身に覚えがあるんじゃないか? お前の報告書を見る限りただのペンダントではないことは自分が一番よく知っているはずだ」

 

もしかして赤見さんはペンダントの存在を前々から知っていたのか……。

そういえば赤見さんと初めてSFSで会話した時、このペンダントに触れてきたっけ……。

 

「……赤見さん。このペンダントについて何か知っているんですか?」

 

「まぁ……。その前に繋吾。お前の報告も改めて確認しておきたい。野薔薇を救出し、オリバーというテロリストと交戦。その時、そのペンダントが光ったんだったな」

 

「はい。このペンダントが光ったと思ったら俺のデッキの一番上のカードが光り出して、そこにはデッキに入れてないはずのカードがありました。俺はそのおかげでオリバーとのデュエルにも勝てて……」

 

「なるほどな。ただのペンダントではないのは間違いないだろう。そして、その後はリリィというテロリストが現れ撤退を余儀なくされた。その後は我々と合流という形か」

 

「報告書のとおりです。それよりも赤見さん、ペンダントのことを知っているんですか? それになぜジェネシスがこれを狙っているんだ……」

 

俺が一番気になっているのはそこだ。

ジェネシスの目的に関連することなのだろうか。

 

「繋吾。お前の父親はどんな仕事をしていた?」

 

「俺の……父さんは、デュエルテロを起こすテロリストと戦う仕事をしていました」

 

「実はお前の父親はな、SFS所属だったんだよ。昔少しだけお前の父さんからペンダントの話を聞いたことがあってな」

 

父さんはSFSにいたのか。まさか赤見さんとも面識があったとは……。

 

「そのペンダントには大きな力が宿っていて、身に付ける者を守る力があるとか。遊佐という苗字、そして胸元のペンダント。それを見た時すぐにあの人の家族であると予想はしていた」

 

「赤見さん……父さんのことを知っているんですか! 5年前の真相は……!」

 

「いや……。私が知っているのは、5年前の作戦の時に戦死したという報告だけだ。すまない」

 

「そうですか……」

 

まぁ同じSFSでも色んな班があるし、同じ班でもなければ細かい状況なんてわかるはずがないか。

 

「あとなぜジェネシスがペンダントを狙っているか……残念ながらそれもわからない。だが、繋吾に起こした不思議な力。それが狙いなのかもしれないな」

 

「確かに……。カードを書き換わるなんて正直驚きました。これを何かに利用するために狙っているのかもしれない……」

 

何か強力な力が宿っていることに間違いはない。

なんといってもデュエルウェポンで様々な悪事を起こしている組織だ。何をしでかすかわかったもんじゃない。

 

「だけど赤見班長。もしジェネシスの奴らがそれを狙っているのならそれを隠しておけばいいんじゃないですか?」

 

「確かに颯の言うとおりどこかに隠せば繋吾は狙われなくはなるだろう。どう思う繋吾?」

 

これは父さんからもらった大事な形見だ。

いくら狙われているからといっても、どこかに置いておくなんてできない。

 

「これは俺にとって大事なものです。それに特殊機動班の任務がジェネシスと戦うことならば狙われることで相手をおびき出せる。好都合じゃないですか?」

 

「そう言うと思ったよ繋吾。自ら攻め込まなくても相手から来てくれるということは今までよりも戦いやすくなるしな」

 

もちろん俺がいることでSFSが狙われたりしたらまたSFS全体に迷惑になることになり兼ねないが……。

だからこそ、赤見さんは報告書からこの記述を抜いたんだろうな……。

 

「そこでだ、今後は繋吾の命が奴らに狙われる可能性もある。今後の作戦においては、繋吾を一人にしないよう注意して行動するようにする」

 

「なるほどなぁ。仮に狙われてもペンダントが奪われることがないようにするってわけか」

 

「その通りだ郷田。今回の一連の騒動での奴らの狙いは、私を狙ってペンダントの情報を聞き出すことにあった。奴らにとってはあの大きなデュエルテロを起こしてまで得たかった情報だ。奪いに来るのなら奴らも本気で来るだろう」

 

だからこそ赤見さんを狙うといっても命を狙うわけじゃなかったのか。

だが、次の標的である俺は、殺してまででもペンダント奪うくらいの勢いで来るだろう。

少し恐ろしい気持ちはあるが、相手はジェネシスだ。全てぶっ倒してやる……。

 

「繋吾ちゃん。俺たちがついてるから安心してくれや。なあ? 結衣、颯」

 

「もちろん! この上地 颯がついてれば余裕だぜ! 繋吾!」

 

「遊佐くん一人じゃすぐに奪われてしまいそうですしね。仕方ありません」

 

「みんな……すまないな」

 

なんというか、いつもどおりというか……。まぁとりあえず俺が負けなければいい話だ。

気を引き締めていかないとな……!

 

「皆、よろしく頼むぞ。そして、これからの活動についてだが、国防軍局長の都合が付き次第特殊機動班全員で国防軍真跡支部へ行き、今回の件の報告をしに行こうと思っている。そこでの国防軍の反応次第だが、先日の敵のアジトの捜査を行い、奴らの情報収集をしながら更なる作戦を立てていく見通しで考えている」

 

もはやもぬけの殻となっているあのマンションのアジトだが、何かしらの痕跡は残されているかもしれない。

すぐにでも調査したいところだが、また襲撃を受ける危険性もあるし、国防軍の軍力を頼りたいのが赤見さんの考えだろうか。

 

「よっしゃ、じゃあ都合がつくまではまたデュエルの特訓でもするか! お前ら!」

 

郷田さんは両手を上に上げながら張り切っている様子だ。

 

「望むところだぜ! 郷田!」

 

対してガッツポーズをしながら颯が叫ぶ。

事態は前より深刻になっているというのに、この二人の元気さは相変わらずだな。

 

「あぁ。それまでまた各自で戦いの準備は整えておいてくれ。国防軍との都合が付き次第皆に連絡する」

 

「わかりました」

 

「繋吾。強大な組織から狙われているということに不安を感じるだろうが、あまり気に病むなよ。しばらくは郷田達と一緒に気晴らしにデュエルでもしておいた方がいいだろう」

 

「大丈夫ですよ。どんな強大な敵が相手だろうとジェネシスと戦うことが俺の目的。むしろ俺を狙っているのであれば好都合です」

 

ここからが本当の戦い。ジェネシスの奴らなんかに負けてたまるかよ。

それに俺は実際幹部と思われるあのオリバーって奴に勝てたんだ。どんな奴が相手になろうと負けるつもりはない。

 

「頼もしい限りだな。それじゃ今日はここまでだ。お疲れ様」

 

赤見さんの声が聞こえるとさっそく郷田さんと颯の二人はデュエル訓練場へと駆け出していった。

 

「遊佐くん。せっかくですし、私たちも特訓しに行きますか」

 

「あぁ、そうだな。今後の戦いに備えておくことに越したことはない」

 

「あなたが負けたらジェネシスが何をしてくるかわかりません。これまで以上に気を引き締めてください」

 

「わかってるよ。ジェネシスにだけは絶対に負けない」

 

俺は右手を強く握り締めながらそう言い、特殊機動班室を後にした。

 

 

ーー場所は変わり、ここは決闘機動班長室。

 

そこには白瀬班長と桂希副班長の姿があった。

 

「なるほどな。状況はよくわかった。ご苦労だったな楼」

 

「いえ……ですが、最終的に遊佐が交戦したテロリストとのデュエル内容については、野薔薇の奴しか……」

 

「それならもうすぐ来るはずだ」

 

白瀬班長がそう言うと、扉のノック音が響き渡る。

 

「入れ」

 

「失礼します。あれ、桂希先輩も来てたんですか」

 

野薔薇は部屋へ入ると桂希を見ながら呟く。

 

「あぁ、私も呼ばれていてな」

 

「なるほどー、それで白瀬班長。もしかして……この間のSFS本会議の話とか……?」

 

「ふむ……そういえばそんな話もあったな。なら、ちょうどいいか」

 

白瀬班長は目を閉じながら何度かと頷くと、野薔薇に顔を向ける。

 

「野薔薇、君の要望した特殊機動班の存続の代わりに、君には一つ任務を任せたい」

 

「……待ってください白瀬班長。野薔薇の要望って……。あの本会議での発言はこいつの……?」

 

「まぁそういうところだ。要望を受ければどんな任務でも一つ引き受けると言っていたからな」

 

「えへへ……。実はそうなんです桂希先輩」

 

「まったく、白瀬班長にそんな要望を出すとは……驚いたな」

 

「でもでも、桂希先輩も特殊機動班はあまり嫌ってないみたいじゃないですか?」

 

「まぁ……。害は受けてないからな」

 

桂希は呆れたように言った。

 

「まぁそういうところだ楼。結果的に特殊機動班は存続することとなったが、悪い話じゃないだろう?」

 

「ええ。なくなれば戦力が減ることになりますしね」

 

「それはそうと、私に任せたい任務ってなんですか? 白瀬班長!」

 

桂希の話を中断するように、野薔薇は元気よさそうにハキハキとしながら白瀬班長へと言った。

 

「お前から聞いた話だと、遊佐が持っていたペンダントがデュエルの途中で光ったらしいな?」

 

「そうですね……。よくわかりませんけど、遊佐くんはあれのおかげで勝ったとかなんか言ってました!」

 

「お前に任せたい任務は遊佐へ接触し、ペンダントについての話を聞くことだ」

 

「え? 別に大丈夫ですけど……白瀬班長あれ、欲しいんですか? 確かに光るペンダントっておしゃれですよね!」

 

「いや、そういうわけじゃなくてだな……。まぁとにかく話を聞いて適宜私に報告してほしい」

 

少し呆れながら答える白瀬班長脇で桂希も笑いをこらえるように震えていた。

 

「ちょっと桂希先輩。なに笑ってるんですか」

 

「いや、何でもない続けてくれ」

 

「もうーなんか私のこと馬鹿にしてません? まぁいいや、とりあえずそれなら任せてください白瀬班長! こないだの作戦で遊佐くんと少しは面識ありますし!」

 

「あぁ。頼んだぞ野薔薇。桂希ももういいぞ。ご苦労だった」

 

「はい、それでは失礼します」

 

桂希と野薔薇の二人は白瀬班長へ頭を下げると部屋を後にした。

 

「さて、赤見の奴はここからどう動いてくるか。楽しみにさせてもらうか」

 

白瀬班長は机の上に置いてある報告書と書かれた書類に目を向けると、口元をにやつかせながらそう呟いたのだった。

 

 



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Ep39 - 歪んだ気持ち 前編

特殊機動班室を後にした俺は、郷田さん達が練習している訓練場に向けて足を進めていた。

 

後ろには微妙な距離を置いて結衣がついてきている。

喋りかけた方がいいのか、そのまま黙って歩いた方がいいのかなんとも言えない距離なので、俺としては少し気まずかった。

 

というかこれ道は合っているんだろうか。

本音を言うとまたSFS内の構造は理解しきれていなかった。

向かっている訓練場が郷田さん達がいる訓練場なのかも正直自信はなかったが、結衣のやつが何も言わないところを見ると多分大丈夫なのだろう。

 

自分の記憶を信じて通路を突き進んでいくとやがて大きめの扉と決闘訓練場と書かれた看板が見えてきた。

SFSにはいくつか決闘訓練場があるが、たぶんここだろう。

 

「あ、遊佐くんー!」

 

歩みを進めていると後方から聞きなれた声が聞こえてきた。

後ろからではあるが、その声は結衣ではない。そう、野薔薇さんだった。

 

「野薔薇か。イースト区の時以来だな」

 

正確にはSFS本会議の時にも会ったといえば会ったが、会話したのはあのイースト区の時だった。

色々とあったが、あの一件で知り合いが増えたというのは嬉しい限りだな。

 

「そうだね! あの時は本当に助かったよー……。ってあれ、結衣ちゃんもいたんだ」

 

野薔薇は結衣の様子を見ると少し口元をにやつかせながら言った。

なんというか……仲が悪いんだがいいんだか……。

野薔薇は結衣のことをどう思っているんだろうな。少し気になる。

 

「なんですか。そのついでみたいな言い方。というか私、遊佐くんよりも手前にいたんですけど」

 

野薔薇が来たのは後方だ。つまり俺の後ろにいた結衣の方が先に目に付くことになる。

結衣にとってはそれは気に入らないだろう。

 

「ごめんごめん! 遊佐くんに用があったからさ」

 

「俺に用? 何かあったのか?」

 

「ちょっと聞きたいことがあって……」

 

聞きたいことか。いったい何だろう。

 

「……ちょっと野薔薇さん。今私たちは忙しいんです。くだらない話なら後にしてもらえますか?」

 

先ほどの件も含めて結衣は少し不機嫌そうにしながら野薔薇を睨みつける。

正直俺としてはその話が気になるんだが……。

 

「くだらなくなんかないし! 遊佐くん、今忙しいの?」

 

「いや、まぁ……話くらいなら大丈夫だけど……」

 

一瞬、結衣がすごい勢いで俺のことを睨みつけてきたような気がしたが、嘘はついていない。

俺は視線を野薔薇からそらさないように意識しながら話を続ける。

 

「んで、何が聞きたいんだ?」

 

「あのね、この間のイースト区の任務の時にさ。遊佐くんの最後のターン。ペンダントが光って……それのおかげで勝てたって言ってたじゃん? あれってどういうことなのかなって気になって」

 

そういえば野薔薇は間近で見ていたんだったな。

正直俺もどういう力が働いたのかはわからないが、わかる限り話してみるか。

 

「あぁ。正直なぜあのタイミングでペンダントが光ったのかはわからないけど、それに応えるように俺のデッキの一番上のカードが光り出してな。それをドローしてみたらデッキに入れた覚えのないカードがあった。なぜそうなったのかまではわからないな」

 

「ペンダントが光るって……元々電池か何かが入ってて光ったってわけじゃないのかな?」

 

「もらってから一度も光ったことはないし、そういうスイッチがついている代物でもない。どうやれば光らせられるのかもわからないな」

 

そもそもネジ穴のようなものもないし、中に電池等も入ってないだろう。

それにソーラー電池のようなものがあったのなら、今までずっと路上生活してたんだから、1回くらいは光ってるだろう。

 

「へえー……。不思議なものなんだねぇ。その入れた覚えのないカードって今でもあるの?」

 

「ちょっと待っててくれ」

 

そういえばあの後は逃げるのに夢中で確認してなかったな。

俺はポケットから自らのデッキを取り出し中を確認する。

 

めくっていくと途中で例のカードが見つかった。

ということは……新しくカードが作られたってことなのか……?

 

「これだ。【英霊獣使い-セフィラムピリカ】」

 

俺はそのカードを野薔薇へと見せる。

 

「あーそうそう! 最後に召喚してたやつだよね! 遊佐くん本当にデッキに入れてなかったの?」

 

「間違いない。そもそも俺はペンデュラムモンスターなんて持ってなかったからな」

 

モンスターだけでなく魔法カードとしての性質も秘めているペンデュラムモンスター。

それがこの【英霊獣使い-セフィラムピリカ】だ。

魔法カードとして発動する効果があるだけではなく、ペンデュラムスケールという数字が記載されており、それを魔法・罠ゾーンの両端にあわせて2枚置くことで、そのスケールの間のレベルを持つモンスターを手札もしくはエクストラデッキから特殊召喚できるのが特徴だ。

エクストラデッキから出せると言ったが、このペンデュラムモンスターは場から破壊された時、エクストラデッキに加わる性質がある。

すなわち、ペンデュラムスケールが揃っている限り不死身といっても過言ではないのだ。

 

そんな【英霊獣使い-セフィラムピリカ】だが、これ1枚だけでは残念ながらその能力までは使用できない。

 

「確かにデュエル見ている感じだと、遊佐くんってリンク召喚とシンクロ召喚を使ってた感じだもんねー。するとそのカードはその場で作られた……? そのペンダントの光ってたのと何か関連があるのは間違いなさそうだけど、いったい何があったんだろうね」

 

「そうだな……。俺も気になってるところだ。このペンダントには何か特別な力でもあるんじゃないかって思ってな。デュエルモンスターズのカードのように」

 

カードには不思議な力が宿っていて、それを引き出すのがデュエルウェポンだと聞いている。

デュエルモンスターズのカードを新たに作り出したのであれば、何かしらの関連はあるだろう。

 

「それは言えてるかも。いっそのこと機器開発班に調べてもらえば?」

 

「いや……これは父さんからもらった形見なんだ。あまり手放したくはない」

 

「大事なものなんだね。それじゃ無理もないか」

 

野薔薇は少し残念そうに言った。

俺としても何かそれで解明できるのならいいが、この間の赤見さんの話からすると仮に機器開発班に渡したところをテロリストに狙われたらどうしようもない。

 

「そろそろいいですか? 野薔薇さん。もう十分なはずです」

 

「もうー結衣ちゃんうるさいよ! 私はいま遊佐くんと話してるんだから!」

 

「人の用事を割り込んできて偉そうに……。もうあなたの聞きたいことに遊佐くんは答えました。これ以上は無駄です」

 

「いいじゃんお喋りくらい! どうせ結衣ちゃん、遊佐くんともあんまり喋ってないんでしょ?」

 

「……ッ! さっきから勝手なことを! いいからそろそろ終わりにしてください。私たちはこれからやらなきゃいけないことがあるんです!」

 

結衣と野薔薇はお互いに睨み合いながら言い合っている。

これ以上話を続けたら色々とめんどうなことになりそうだな。

 

「すまない野薔薇。そろそろ訓練場に行かなきゃいけないんだ。またの機会に」

 

「むー……。遊佐くんがそう言うならしょうがないか。わかったよー! んじゃまたね。遊佐くん! それとうるさい結衣ちゃん」

 

「いちいち余計なことを……。早くどっかに行ってください」

 

野薔薇は俺に向かってウィンクすると小走りで来た道を引き返していった。

本当に野薔薇はペンダントのことだけを聞きにきたみたいだったな。それほどまでに気になったんだろうか。

それとも結衣を茶化しにきたのか。真意はいまいちわからないな。

 

「遊佐くん」

 

「ん……」

 

結衣の低い声が聞こえて振り向いてみると案の定結衣は怒ったような表情で俺のことを睨みつけていた。

 

「なんであんな奴の相手なんかするんですか! 裏でなに考えているかわからない奴ですよ! 少し優しくしすぎです」

 

「いや……そうは言われても頼まれたら断れないだろう?」

 

「ペンダントの話は危険だって言われてじゃないですか! それにあんなに仲良く……」

 

「いやでも報告書に書かれているような内容しか俺は……」

 

「いいから! あいつに向かって優しい態度なんて取らなくていいんです! なんていっても"あの"決闘機動班の腹黒い人間ですよ。今度からは無視してください」

 

いや、無視って言われてもな……。

確かにまだ野薔薇がどんな奴かは知りきれていないが、今のところあまり悪い奴って感じはしていない。

 

「それはちょっとさすがに……。なんで結衣はそこまで野薔薇のことをーー」

 

「あなたは意識が低すぎるんですよ! 決闘機動班みたいな連中との馴れ合いはいらないんです! 仕方がありません……この私が直接遊佐くんのその腐った根性を叩き直してあげましょうか」

 

「え……」

 

結衣にしては珍しく声を張り上げながら言った。

それはつまり……どういうことなんだろう。いまいち意図が掴めないが……。

 

「特殊機動班としての意識がまだ低いって言ってるんです! 私とデュエルしなさい。この私がせっかくやってあげるんですから、当然あなたには拒否権なんてありませんよ」

 

「まぁ……デュエルなら断る理由はないが……」

 

「勘違いしないでください。これは遊びじゃない。あなたがどうしようもなくて、このままじゃ特殊機動班に悪影響が出てしまうから仕方なくやるんです。赤見班長に代わって私が遊佐くんの意識を叩き直してあげます!」

 

何がどう悪影響出るんだかわかる気がしないが……まぁとりあえず乗るか。

結衣の奴……頭もいいだろうし、デュエルもすごい強いはずなんだが、どうにもこういうところを見るとなんとも少しポンコツに見えるな。

まぁ俺が言えたもんじゃないか。完璧な人間なんていないってことだろう。

 

「わかったよ。結衣がそう言うんならよろしく頼む」

 

「ふん。では訓練場に行きますよ」

 

今度は結衣が前に進み俺がそれについていく形で訓練場へと向かった。

 

 

 

ーー訓練場には郷田さんと颯がデュエルをしている姿があったが、結衣はそれに目もくれずに、別のデュエルリングにてデュエルウェポンを構えだした。

俺もそれについていき結衣と対峙する形でデュエルウェポンを構える。

 

「決闘機動班との馴れ合いよりもまずは実力の向上です。あなたのデュエルなど所詮は素人あがり。特殊機動班員としてもう少し自覚していただきます」

 

なんだか今日はよく喋るな……。変なスイッチが入ったみたいに。

よほど俺が野薔薇と話をしていたことが気に入らないのだろうか。

だが、デュエルなら俺は全力で取り組むだけだ!

 

「素人あがりでもデュエルの実力なら俺も負けるわけにはいかない。全力で来い!」

 

「ならその実力、私に証明して見せてください。いきますよ」

 

「デュエル!」

 

結衣 手札5 LP4000

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

繋吾 手札5 LP4000

 

先攻は結衣のようだ。

前回の野薔薇とのデュエルからかなり守備型のデッキなのはわかっている。

あとは無駄のない動きか。隙を見せればワンターンキルをされるかもしれない。

気をつけて攻め込まないとな……。

 

「私、手加減しませんから。私のターン。モンスターをセット。カードを2枚伏せてターンエンドです」

 

 

結衣 手札2 LP4000

ー裏ー裏ー

ーーモーー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

繋吾 手札5 LP4000

 

さすがに今回は何もせずターンエンドってことはないようだ。

さっそく伏せカードも2枚あるし、何かしらの罠は仕掛けられていそうな感じだな。

さて、ドローしてからどう戦っていくか考えるか。

 

「俺のターン。ドロー!」

 

守りに行ってもいいが、ターン数を稼ぐごとに結衣の守りが固くなっていく可能性がある以上、悠長なことも言ってられない。

ここは少し無理をしてでも攻めに行き、少しでも罠を消費させて行ったほうがいいだろうか。

 

「俺は【ジャンク・シンクロン】を召喚!」

 

ーーー

【ジャンク・シンクロン】☆3 闇 戦士 チューナー ③

ATK/1300

ーーー

 

「さらに手札の【ブースト・ウォリアー】は場にチューナーがいる時、特殊召喚できる!」

 

ーーー

【ブースト・ウォリアー】☆1 炎 戦士 ④

DEF/200

ーーー

 

「先に行かせてもらうぞ結衣。来てくれ、心を繋ぐサーキット! 俺は【ジャンク・シンクロン】と【ブースト・ウォリアー】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、【水晶機朽ーハリファイバー】!」

 

ーーー

【水晶機朽ーハリファイバー】リンク2 水 機械 ②

ATK/1500

ーーー

 

「きましたか。リンク召喚」

 

「ああ。そして、ここからだ! 【ハリファイバー】の効果発動! デッキからチューナーモンスター1体を特殊召喚する。来てくれ【光竜星ーリフン】!」

 

ーーー

【光竜星ーリフン】☆1 光 幻竜 チューナー ②

DEF/0

ーーー

 

「そして、再び現れよ! 心を繋ぐサーキット! 俺は【リフン】1体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、【リンクリボー】!」

 

ーーー

【リンクリボー】リンク1 闇 サイバース ④

ATK/300

ーーー

 

「さらに、リンク2の【ハリファイバー】とリンク1の【リンクリボー】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! 正しき心を導く守護の神星! 今ここに絆を繋ぐ閃光となれ! リンク召喚! リンク3、【セフィラ・メタトロン】!」

 

ーーー

【セフィラ・メタトロン】リンク3 光 幻竜 ②

ATK/2500

ーーー

 

右手に宿る水晶の槍と左手に持つ杖を交差して構えながら、黄金色の鎧を纏った騎士が出現する。

やはり俺のデュエルにはこいつは欠かせないな。

 

「【セフィラ・メタトロン】……。遊佐くんのエースモンスター……」

 

「こいつで一気に攻めさせてもらう! このままバトルだ! 【セフィラ・メタトロン】でセットモンスターへ攻撃! "ヴェンジェンス・ディバイニング!"」

 

【セフィラ・メタトロン】は右手に宿る水晶の槍を構え、白き翼で羽ばたくと、セットモンスターに向けて突き刺した。

 

「この戦闘を行うダメージ計算時に罠カードを発動します。【迷い風】! 相手モンスターの効果を無効にし、その攻撃力を半分にします」

 

「なに!?」

 

あれは野薔薇とのデュエルでも使っていたカードか。

これでは攻撃力は1250まで落ち込んでしまう……!

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500→ATK/1250

【魔神童】

DEF/2000

 

「私の守備モンスターは【魔神童】。守備力は2000なので反射ダメージを受けてください」

 

「くっ!」

 

繋吾 LP4000→LP3250

 

まさかいきなり守りに入ってくるとは。

だけど、迷い風を使わせたと思えばいいんだ。そう思えばこの戦闘は決して無駄ではない。

 

「さらに【魔神童】のリバース効果を発動します。このカードがリバースした時、デッキから悪魔族モンスター1体を墓地へ送ります。私はもう1体の【魔神童】を墓地へ送り、墓地へ送った【魔神童】の効果発動。このカードを裏側守備表示で特殊召喚します!」

 

リバース効果というのは裏側表示から表側表示になった時に発生する効果だ。

【魔神童】の2つの効果を駆使して1体から2体に増やしてきた。そして、もう1体は裏側表示。

さらに増やすことも可能になったということだろう。

これはなかなか厄介だな……。

 

「仕方ない、俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

結衣 手札2 LP4000

ー裏ー裏ー

ーーモモー

 ー リ

ーーーーー

ー裏裏ーー

繋吾 手札2 LP3250

 

 

「やはり甘いですね、遊佐くん。その程度の攻めでは私を倒すことなど到底不可能です。野薔薇さんみたいなのとつるんでるからそうなってしまうんですよ」

 

「まだデュエルはじまったばかりだ。勝てる勝てないなんてまだわからないだろう」

 

「まぁ……そうですけど……。あなたは特殊機動班のことだけ考えていればいいんです! 決闘機動班……ましてや野薔薇さんなんて……」

 

うーん、決闘機動班を嫌っているのは前々からわかっていたが、まさかこれほどまでとはな……。

下手に口を出せばもっと取り返しのつかないことになりそうだ。

 

「それはわかったよ結衣。俺だって特殊機動班、そして赤見さんを裏切るようなことはしたくない。だけど決闘機動班も同じSFS内の組織だ。少しくらい交流を持っても……」

 

「あぁもう! あなたみたいなホームレスさんには口で言っても無駄みたいですね。直接デュエルで黙らせてあげます! 私のターン、ドロー!」

 

あれか、決闘機動班というよりも野薔薇のことがすごく嫌いだから話すのをやめろってことなのか……?

結衣の素直じゃない性格からするとそんな気がしてきたぞ。

だけど、それを言ったところで「そういうわけじゃありません!」とか言われてしまうんだろうが。

まぁとりあえずデュエルでなんとか収まればいいんだが……。

 

「反転召喚、【魔神童】。そしてリバース効果でデッキから【ティンダングル・イントルーダー】を墓地へ送ります。そして、来てください。心を変えるサーキット! 私は【魔神童】2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、【彼岸の黒天使ケルビーニ】!」

 

ーーー

【彼岸の黒天使ケルビーニ】リンク2 闇 天使 ①

ATK/500

ーーー

 

結衣もリンク召喚を使ってくるとは。

これが彼女の本気ってところか。

 

「【彼岸の黒天使ケルビーニ】の効果発動。デッキからレベル3のモンスターを墓地へ送り、場の"彼岸"モンスターの攻撃力を墓地へ送ったモンスターの攻撃力分アップさせます。私は3枚目の【魔神童】を墓地へ送ります。このカードの攻撃力は0のため、攻撃力は上がりませんが、デッキから墓地へ送られたことで再び裏側守備表示で特殊召喚できます!」

 

さらに【魔神童】を呼ぶためだったのか。

しかし、それにしても攻撃力は500しかない。

いくら【迷い風】で攻撃力が半分になったとはいえ、【セフィラ・メタトロン】には届かないはずだ。

 

「さらに墓地の【ティンダングル・イントルーダー】の効果を発動。私の場にモンスターが裏側表示で特殊召喚された時、このカードを裏側表示で特殊召喚します。来てください、【ティンダングル・イントルーダー】!」

 

なるほど。ここまでの展開を考えてだったか。

あの【ティンダングル・イントルーダー】は上級モンスターのようだったし強力ではあるが、今は裏側表示。

普通の相手なら攻撃できないと安心するところだが、おそらく結衣の伏せカードにはそれを解決するカードがあるに違いないな……。

 

「バトルフェイズ、永続罠【ゴーストリック・ロールシフト】を発動! バトルフェイズに場の裏側表示モンスターを攻撃表示にできます。裏側より【ティンダングル・イントルーダー】を攻撃表示に変更!」

 

ーーー

【ティンダングル・イントルーダー】☆6 闇 悪魔 ③

ATK/2200

ーーー

 

「やはりそのカードがあったか……。いいだろう、来い!」

 

「言われなくてもすぐにそのエースモンスターには消えてもらいます。まずは【ティンダングル・イントルーダー】のリバース効果発動。デッキから"ティンダングル"カードを手札に加えます。私は同じ名前の【ティンダングル・イントルーダー】を手札に。そして、【ティンダングル・イントルーダー】で【セフィラ・メタトロン】を攻撃! "ダーク・ディフューザー!"」

 

【ティンダングル・イントルーダー】

ATK/2200

【セフィラ・メタトロン】

ATK/1250

 

【ティンダングル・イントルーダー】の体より黒い球体のようなものが複数出現すると、【セフィラ・メタトロン】に向かって放たれた。

その球体が直撃した【セフィラ・メタトロン】は爆発とともに消失してしまう。

 

「くぅ……やられたか」

 

繋吾 LP3250→LP2300

 

「続けて【彼岸の黒天使ケルビーニ】でダイレクトアタック! "マリシャス・ウィング!"」

 

たかが500の攻撃力だが、ここは一瞬の隙も見せるつもりはない。

 

「リバースカードオープン! 永続罠【リビングデッドの呼び声】を発動! 墓地からモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。再び来てくれ【セフィラ・メタトロン】!」

 

ーーー

【セフィラ・メタトロン】リンク3 光 幻竜 ③

ATK/2500

ーーー

 

「なるほど。これで攻撃力もリセットされた状態で戻ってきたということですか」

 

「そういうことだ。次のターン、結衣のモンスターを殲滅させてもらう」

 

「ふっ、私がそう簡単に攻撃を通すと思っているのですか? 私は攻撃をキャンセルし、メインフェイズ2。【彼岸の黒天使ケルビーニ】をリリースして、【ティンダングル・イントルーダー】をアドバンス召喚。そして、2体の【ティンダングル・イントルーダー】をオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!」

 

低攻撃力を場から退けた上でランク6のエクシーズ召喚か。

既に【ゴーストリック・ロールシフト】がある状況下だし、結衣のエースモンスターの【竜血鬼ドラギュラス】が出てくるとなかなか厄介だな……。

 

「"聖なる加護を受けし光よ! 永遠の時の彼方より女神の祝福をもたらせ!" エクシーズ召喚! 来てくださいランク6、【永遠の淑女ベアトリーチェ】!」

 

ーーー

【永遠の淑女ベアトリーチェ】ランク6 光 天使 ③

ATK/2500

ーーー

 

神々しい服装に身を纏った女性が出現する。その姿は今までの結衣のデッキのモンスターとは雰囲気がまるで違う。

にしても【竜血鬼ドラギュラス】を出してこないということはあのカードにも何か恐ろしい効果が……?

 

「【竜血鬼ドラギュラス】ではなかったか」

 

「私があのカードだけを使うと思ったら大間違いです。【永遠の淑女ベアトリーチェ】の効果を発動。オーバーレイユニットを一つ使うことで、デッキからモンスター1体を墓地へ送ります。私は【ミラー・リゾネーター】を墓地へ送ります」

 

さらに墓地へ送ってきたということは、次に繋げる準備ってことか。

これは長くターンがかかればかかるほど不利になっていくような予感がするぞ……。

次のターンあたりでいい加減大きなダメージは与えておきたいところだな……。

 

 

「私の方が絶対にあいつなんかより強いんですから……」

 

「ん……?」

 

「い、いえ……私はこのままターンエンドです」

 

結衣が何か言ったような気がしたが、とりあえず次は俺のターンだ。

場には【永遠の淑女ベアトリーチェ】が1体、伏せてある【魔神童】。そして【ゴーストリック・ロールシフト】か。

今のところそれ以外に伏せカードもないみたいだし、攻めるのなら好機。

この瞬間を逃す手はないな。

 

結衣 手札3 LP4000

ーーー罠ー

ー裏ーーー

 エ ー

ーーリーー

ー裏罠ーー

繋吾 手札2 LP2300



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Ep40 - 歪んだ気持ち 後編

お久しぶりです。思ったよりデュエル展開が長引いちゃって、だいぶ更新が遅れてしまった……。
ルールミスがないかすごく心配です(^^;)

ミスがあったらごめんなさい!


結衣 手札3 LP4000

ーーー罠ー

ー裏ーーー

 エ ー

ーーリーー

ー裏罠ーー

繋吾 手札2 LP2300

 

「いくぞ、俺のターンドロー! これならいけるか、俺は魔法カード【調律】を発動! デッキから"シンクロン"モンスターを手札に加えた後、デッキの一番上のカードを墓地へ送る。俺は【ジェット・シンクロン】を手札に加え、その後デッキの一番上のカード【仁王立ち】を墓地へ送る」

 

「くっ、【仁王立ち】……ですか」

 

墓地で発動できる罠カードが運良く落ちた。

今回は随分と追い風みたいだ。この勢いのまま攻めるのみ!

 

「さらに【ジェット・シンクロン】を召喚し、墓地から【リンクリボー】の効果発動! 場のレベル1のモンスター1体を墓地へ送り、このカードを墓地から特殊召喚できる。蘇れ、【リンクリボー】!」

 

ーーー

【リンクリボー】リンク1 闇 サイバース ④

ATK/300

ーーー

 

「そして、手札を1枚捨てることで、墓地の【ジェット・シンクロン】は特殊召喚できる! さらに今墓地へ捨てた【ダンディライオン】の効果で場に【綿毛トークン】2体を特殊召喚させてもらう」

 

ーーー

【ジェット・シンクロン】☆1 炎 機械 チューナー ⑤

DEF/0

ーーー

【綿毛トークン】☆1 風 植物 ①と②

DEF/0

ーーー

 

「その【ダンディライオン】も野薔薇さん譲りか何かですか」

 

「いや、別にそういうわけじゃないが……」

 

言われてみれば野薔薇もこのカードを使っていたな。

単純にリンク召喚に適しているから使っているまでだが……。

 

「だけどあなたも見ているはずです。その程度の展開だけでは私を倒せないということを」

 

「何も俺が野薔薇と同じ戦術を取るわけないだろう? まぁいいから見ててくれ、結衣」

 

「遊佐くんの癖に……」

 

そうは言ったもののやることはリンク召喚だから結局野薔薇の奴と一緒と言われたら否定はできないが。

 

「来てくれ、心を繋ぐサーキット! 俺は【綿毛トークン】2体と【ジェット・シンクロン】、そして【リンクリボー】の4体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚! 繋がる力を守りし、聖なる守護竜! 【ファイアウォール・ドラゴン】!」

 

ーーー

【ファイアウォール・ドラゴン】リンク4 光 サイバース ②

ATK/2500

ーーー

 

蒼白い電子を身に纏った白きドラゴンが出現する。

今回は相互リンクできていないため、真価は発揮できないがそれでも十分な攻撃力は持っている。

 

「この瞬間私は墓地から【迷い風】の効果を発動します。相手がEXデッキからモンスターを特殊召喚した時、このカードを1度だけセットできる」

 

「くっ、だがこのターンは発動できないはずだ。続けて俺は墓地の闇属性モンスター1体、【ジャンク・シンクロン】をゲームから除外して【輝白竜ワイバースター】を特殊召喚!」

 

ーーー

【輝白竜ワイバースター】☆4 光 ドラゴン ②

ATK/1700

ーーー

 

「そして、【セフィラ・メタトロン】の効果発動! 自分と相手のEXデッキから特殊召喚されているモンスターをエンドフェイズ時まで除外する! 対象は【ファイアウォール・ドラゴン】と【永遠の淑女ベアトリーチェ】だ! "コネクター・サブリメイション!"」

 

【セフィラ・メタトロン】の左手に持つ杖を回転させながら空へ掲げると、2体のモンスターが足元から消滅し始める。

 

「ならば【永遠の淑女ベアトリーチェ】の効果を発動します! オーバーレイユニットを1つ使い、デッキからモンスターを墓地へ。私は【ジェット・シンクロン】を墓地へ送ります!」

 

「なに、相手ターンでも発動できる効果だったか……」

 

「そのとおりです。【セフィラ・メタトロン】の効果はエクシーズの天敵といっても過言ではありません。だからこそ【ドラギュラス】を出さなかったということですよ」

 

なるほど。俺が【セフィラ・メタトロン】の効果を使ってくるところまで読んでいたってわけか……。

さすがはSFS4期生のエリート。俺の手の内を知られている分逆にテロリストより戦いづらいかもしれないな……。

 

「さすがは結衣ってところか。だが、除外できたことに変わりはない。バトルフェイズ、【セフィラ・メタトロン】でセットモンスターを攻撃! "ヴェンジェンス・ディバイニング!"」

 

先ほどのターンと同じように【セフィラ・メタトロン】は手に持つ水晶の槍をセットモンスターへと突き立てる。

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500

【魔神童】

DEF/2000

 

「よし、今度はしっかり破壊させてもらった!」

 

「ですが、リバース効果は発動します! 私はデッキから【ゴーストリック・マリー】を墓地へ」

 

「だが、これで場はガラ空き。【輝白竜ワイバースター】でダイレクトアタック! "シャイニング・バースト!"」

 

「それも甘いですよ。手札から【ゴーストリック・ランタン】の効果を発動! 相手がダイレクトアタックをしてきた時、このカードを裏側守備表示で特殊召喚することで、攻撃を無効にできます!」

 

これも通らないか……!

本当に守りが固いな結衣は。絶えず攻め続けて結衣の守りの札を消耗させていくしかない。

 

「さらに、私の場に裏側でモンスターが特殊召喚されたことで墓地の【ティンダングル・イントルーダー】は裏側守備表示で特殊召喚できます」

 

「それも現れるのか……。やってくれるな」

 

「それだけじゃありません。バトルフェイズ中のため、さらに【ゴーストリック・ロールシフト】の効果を発動。【ティンダングル・イントルーダー】を攻撃表示へ変更し、リバース効果で3枚目の【ティンダングル・イントルーダー】を手札に加えます」

 

「くっ……」

 

ーーー

【ティンダングル・イントルーダー】☆6 闇 悪魔 ②

ATK/2200

ーーー

 

しっかりと反撃の準備も整えてくるあたり、デュエルに関しては本当に抜け目がない。

だが、俺もやれるだけのことはやってやる。

 

「ならば、メインフェイズ2。リバースカードオープン、速攻魔法【大欲な壺】発動。自分または相手の除外されているモンスターを3体選択し、デッキに戻した後に1枚ドローする。俺は自分の【ジェット・シンクロン】と【ジャンク・シンクロン】。そして結衣の【永遠の淑女ベアトリーチェ】を選択する」

 

「なるほど……。これでエンドフェイズ時に【永遠の淑女ベアトリーチェ】は場に戻らなくなるということですか」

 

「あぁ、そういうことだ。3体を戻し、カードを1枚ドロー! 俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ。エンドフェイズ時に俺の【ファイアウォール・ドラゴン】は場に戻る」

 

 

結衣 手札3 LP4000

ーー裏罠ー

ーモ裏ーー

 ー ー

ーモリリー

ーー罠裏ー

繋吾 手札0 LP2300

 

「その程度で反撃したつもりですか? 遊佐くん。まだ私のライフは1も減ってないですよ」

 

「ああ、頑張ってるつもりだけどやっぱり結衣は強いな。直接戦うとよくわかるよ」

 

「と、当然です。野薔薇さんなんかよりも遥かに私の方が強いんですから」

 

「……結衣は野薔薇のことが嫌いなのか?」

 

「嫌いというか……その……。いや、あの性格の悪さが気に入らないんです!」

 

嫌い……ではないのか?

なんともよくわからないな。

 

「それよりもわかったでしょう? あなたの実力じゃ私になんて勝てないってことが。大事なペンダントを守るあなたがそれじゃ困るんですよ」

 

「俺の心配をしてくれているのか? 結衣」

 

「そんなんじゃありません! それがテロリストの手に渡ったらどうなると思ってるんですか!」

 

「ははは、わかってるよ。だけど安心してくれ。こんなに強い相手とデュエルできて、逆に燃えてきてるんでな!」

 

「遊佐くん……相変わらずですねほんと……」

 

確かに結衣の言うとおり俺はこのペンダントを守り続けなければいけない。

だからこそ強くならなければならないんだ。

テロリストに勝てたからとはいえ油断は禁物。

俺の実力が確かだということをしっかり結衣にも証明してみせないとな。

 

「さぁ、どこからでもかかってこい。結衣!」

 

「言われなくてもいきますよ。私のターン、ドロー! 相手の場にのみEXデッキから特殊召喚されたモンスターがいる時、墓地の【ミラー・リゾネーター】は特殊召喚できます。さらに手札を1枚捨てて、墓地の【ジェット・シンクロン】を特殊召喚!」

 

ーーー

【ミラー・リゾネーター】☆1 光 悪魔 チューナー ①

DEF/0

ーーー

【ジェット・シンクロン】☆1 炎 機械 チューナー ④

DEF/0

ーーー

 

「そして、手札を1枚デッキの一番上に戻し、さっき手札から捨てた【エッジインプ・シザー】の効果を使います。このカードを墓地から特殊召喚します!」

 

ーーー

【エッジインプ・シザー】☆3 闇 悪魔 ⑤

DEF/800

ーーー

 

あっという間に結衣の場にはモンスターが5体並んでしまった。

結衣のデッキにあそこまでの展開力があったとは……正直驚いたな。

 

「セットされている【ゴーストリック・ランタン】を反転召喚し、来てください、心を変えるサーキット! 私は【エッジインプ・シザー】と【ゴーストリック・ランタン】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、リンク2【見習い魔嬢】!」

 

ーーー

【見習い魔嬢】リンク2 闇 魔法使い ①

ATK/1400

ーーー

 

赤見さんも使っていた赤髪の魔法少女のようなモンスターが出現する。

 

「このカードが存在する限り、闇属性モンスターの攻守は500アップし、光属性モンスターの攻守は400ダウンします。あなたのモンスターは全て光属性。この力を受けていただきます」

 

「なに!? しまった」

 

【見習い魔嬢】

ATK/1400→1900

【ティンダングル・イントルーダー】

ATK/2200→2700

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500→2100

【ファイアウォール・ドラゴン】

ATK/2500→2100

【輝白竜ワイバースター】

ATK/1700→1300

 

「まだまだいきます。私はレベル1の【ジェット・シンクロン】と【ミラー・リゾネーター】をオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。"黒曜に煌く漆黒よ! 断罪の剣となりて、闇夜を引き裂け!" エクシーズ召喚! ランク1、【ゴーストリック・デュラハン】!」

 

ーーー

【ゴーストリック・デュラハン】ランク1 闇 悪魔 ①

ATK/1000→1200→1700

ーーー

 

「エクシーズ素材になれば、【ジェット・シンクロン】達は自身の効果を使っていても除外されない……。やってくれるな」

 

「ふふっ、何もチューナーモンスターはシンクロ召喚だけに使えるってわけではないですからね。オーバーレイユニットを1つ使い、【ゴーストリック・デュラハン】の効果を発動! "デステニー・オーバー!" 【セフィラ・メタトロン】の攻撃力をエンドフェイズ時まで半分にします!」

 

「くっ、これは仕方ない」

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2100→1050

 

「さらに、【ゴーストリック・デュラハン】でオーバーレイネットワークを再構築! "闇夜を羽ばたく嘲笑の翼よ! 悪戯の幻想より舞い降りなさい!" ランクアップ、エクシーズチェンジ! ランク4、【ゴーストリックの駄天使】!」

 

ーーー

【ゴーストリックの駄天使】ランク4 闇 天使 ①

ATK/2000→2500

ーーー

 

ゴシックな衣装に身を包んだ可愛らしい天使が出現した。

あれは結衣のデッキの中核といっても過言ではないモンスターだったはず……。

 

「【ゴーストリックの駄天使】の効果を発動。デッキから"ゴーストリック"と名のついた魔法・罠カードを手札に加えます。私は【ゴーストリック・ブレイク】を手札に。そしてバトルフェイズです。【ゴーストリックの駄天使】で【セフィラ・メタトロン】を攻撃! "ファシネイト・ディザイア!"」

 

「【セフィラ・メタトロン】はやらせない! 墓地から罠カード【仁王立ち】を発動! このカードを墓地から除外して、場のモンスター1体を選択。このターン相手は選択したモンスターしか攻撃ができない! 対象は【輝白竜ワイバースター】だ」

 

「そう来ると思ってましたよ。ならば【ゴーストリックの駄天使】の攻撃はキャンセルし、【ティンダングル・イントルーダー】で【輝白竜ワイバースター】を攻撃! "ダーク・ディフューザー!"」

 

再び黒き球体が発射され、【輝白竜ワイバースター】へ直撃する。

 

【ティンダングル・イントルーダー】

ATK/2700

【輝白竜ワイバースター】

ATK/1300

 

「くっ……すまない【輝白竜ワイバースター】」

 

繋吾 LP2300→900

 

「だが、墓地へ送られた【輝白竜ワイバースター】の効果発動! デッキから【暗黒竜コラプサーペント】を手札に加える!」

 

「しぶといですね……では、メインフェイズ2で私は【ゴーストリックの駄天使】をリリースして、【ティンダングル・イントルーダー】をアドバンス召喚! オーバーレイユニットの状態で墓地へ送られた【ゴーストリック・デュラハン】の効果で墓地の"ゴーストリック"カード、【ゴーストリック・マリー】を手札に戻します。その後に2体の【ティンダングル・イントルーダー】をオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! "紅き月満ちる闇よりいでし、血塗られた翼よ! 幻影より誘われし闇夜を穿て!" エクシーズ召喚! ランク6、【No.24 竜血鬼ドラギュラス】!」

 

ーーー

【No.24 竜血鬼ドラギュラス】ランク6 闇 幻竜 ③

ATK/2400→2900

ーーー

 

真っ赤な翼を広げ、吸血鬼のようなドラゴンが出現し、俺の【セフィラ・メタトロン】と対峙する。

いよいよ来やがったか……【竜血鬼ドラギュラス】!

 

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンドです。さぁこの強固な布陣、突破できますか? 遊佐くん」

 

結衣 手札2 LP4000

ー裏裏罠ー

ーーエーー

 リ ー

ーーリリー

ーー罠裏ー

繋吾 手札1 LP900

 

結衣の伏せカードはおそらく先ほど手札に加えた【ゴーストリック・ブレイク】と先ほどのターン伏せてきた【迷い風】の2枚だろう。

そして、【竜血鬼ドラギュラス】の存在。あのカードはいつでも裏側守備にできる。つまり守備力2800を超えるモンスターがいなければ戦闘で破壊できない状況だ。

生半可な攻めでは到底突破ができる状況じゃないな……。それにまだ結衣のライフポイントは1も削れていない。

このターンでなんとか打開策を見出さないと……。ここでやられては、ますます結衣の怒りはエスカレートしていくだけ……なような気がする。

 

「やってやるさ! 俺のターン、ドロー! 【光竜星ーリフン】を召喚! そして、墓地の光属性モンスター【輝白竜ワイバースター】を除外することで、手札の【暗黒竜コラプサーペント】は特殊召喚できる!」

 

ーーー

【光竜星ーリフン】☆1 光 幻竜 チューナー ②

ATK/0

ーーー

【暗黒竜コラプサーペント】☆4 闇 ドラゴン ①

ATK/1800

ーーー

 

「レベル4の【暗黒竜コラプサーペント】に、レベル1の【光竜星ーリフン】をチューニング! "生誕する意思の力よ! 星々の呼応の下に具象せよ!" シンクロ召喚! 来てくれ、【源竜星ーボウテンコウ】!」

 

ーーー

【源竜星ーボウテンコウ】☆5 光 幻竜 チューナー ⑤

DEF/2800

ーーー

 

「そして、【ボウテンコウ】の効果発動! デッキから【竜星の軌跡】を手札に加え、墓地へ送られた【暗黒竜コラプサーペント】の効果でデッキから【輝白竜ワイバースター】を手札に加えさせてもらう。そして、再び【セフィラ・メタトロン】の効果! 【ボウテンコウ】と【見習い魔嬢】の2体をエンドフェイズ時まで除外する! "コネクター・サブリメイション!"」

 

「そこです! リバースカードオープン! 【迷い風】を発動します! 【セフィラ・メタトロン】の効果を無効にし、その攻撃力を半分にする!」

 

渦巻く黒い風が出現し、俺の【セフィラ・メタトロン】を包み込むと、その光り輝く鎧はくたびれた様子に変わり、【セフィラ・メタトロン】はその場にぐったりとしてしまった。

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500→ATK/1250

 

「くっ……。これで両者は除外されないままか……」

 

「それだけじゃありません。あなたのエースモンスターはこれで無力化できました。さぁ、どうしますか?」

 

「ここまでは想定内だよ。俺は【ボウテンコウ】の効果を発動! デッキから幻竜族モンスター1体を墓地へ送り、そのモンスターと自身を同じレベルにする。俺はデッキから【闇竜星ージョクト】を墓地へ送り、レベルを2にする。そして……来てくれ、心を繋ぐサーキット!」

 

「やはり、リンク召喚ですか」

 

今の現状だと残念ながら【セフィラ・メタトロン】は何もすることができない。

ここは新たなるモンスターに繋げるしかない。

 

「俺は【セフィラ・メタトロン】と【ボウテンコウ】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚! リンク2、【コード・トーカー!」

 

ーーー

【コード・トーカー】リンク2 闇 サイバース ②

ATK/1300 上 下

ーーー

 

「【コード・トーカー】はリンク先のモンスター1体につき、攻撃力を500ポイントアップさせる! さらに【見習い魔嬢】の恩恵も受ける!」

 

【コード・トーカー】

ATK/1300→1800→2300

 

「私のモンスター効果をうまく利用してきましたか……」

 

「あぁ、さらに場を離れた【ボウテンコウ】の効果で、デッキから【光竜星ーリフン】を守備表示で特殊召喚!」

 

ーーー

【光竜星ーリフン】☆1 光 幻竜 チューナー ③

DEF/0

ーーー

 

「そして、墓地の【暗黒竜コラプサーペント】を除外して、手札の【輝白竜ワイバースター】を特殊召喚!」

 

ーーー

【輝白竜ワイバースター】☆4 光 ドラゴン ②

ATK/1700→1300

ーーー

 

準備は整った!

今こそ結衣を攻めるチャンス。

 

「バトルだ! 【コード・トーカー】で【見習い魔嬢】を攻撃! "イノセント・スラッシュ!"」

 

【コード・トーカー】は手に持つ白き剣を大きく振りかぶり、【見習い魔嬢】を体ごと切り裂いた。

 

【コード・トーカー】

ATK/2300

【見習い魔嬢】

ATK/1900

 

「くっ。その程度ですか」

 

結衣 LP4000→LP3600

 

「ですが、ここで【見習い魔嬢】の効果を発動。墓地から闇属性モンスター1体を手札に戻します。私は【魔神童】を手札に戻します」

 

また厄介なリバースモンスターか……。だが、このターン使われるおそれはない。

 

「だが、これで俺の場のモンスターの攻撃力は元に戻る!」

 

【ファイアウォール・ドラゴン】

ATK/2100→2500

【輝白竜ワイバースター】

ATK/1300→1700

 

「なるほど、いいでしょう。ですけどまさか【竜血鬼ドラギュラス】の効果を忘れたわけじゃありませんよね? デュエル馬鹿の遊佐くんならそんなわけはないとは思いますが」

 

「デュエル馬鹿って……忘れるわけないだろう! 【ファイアウォール・ドラゴン】で【竜血鬼ドラギュラス】を攻撃! "エレクトリック・ストリーム!"」

 

「ふふっ、やはりデュエル馬鹿じゃないですか。なら、止めてくるということですね。【竜血鬼ドラギュラス】の効果を発動します。"クローズド・ブラッド!" 自身を対象にし、裏側守備表示へと変更します」

 

「その通りだ! 罠発動! 【ブレイクスルー・スキル】! 【竜血鬼ドラギュラス】の効果をエンドフェイズ時まで無効にする!」

 

「いいでしょう。そこまでするのならば、受けてあげます!」

 

【ファイアウォール・ドラゴン】

ATK/2500

【竜血鬼ドラギュラス】

ATK/2400

 

邪魔するものがなくなり、【ファイアウォール・ドラゴン】の背中の輪から放たれた電撃の渦が【竜血鬼ドラギュラス】へ直撃し、しばらくの感電の後消滅する。

 

「ごめんなさい……【ドラギュラス】」

 

結衣 LP3600→LP3500

 

あいつでも自らが使うモンスターは大事にしているみたいだな……。

結衣が謝る姿なんて滅多に見れるもんじゃなさそうだ。

 

「なにじろじろと見ているのですか。何かおかしいですか?」

 

「いや、なんでもない。次に……」

 

「いえ、待ってください。私がダメージを受けたことで、手札の【ゴーストリック・マリー】の効果を発動。このカードを手札から捨てることで、デッキから【ゴーストリック・ランタン】を裏側守備表示で特殊召喚します」

 

これではダイレクトアタックができないか……。

【ファイアウォール・ドラゴン】の効果を使ってもいいが、結衣の場には【ゴーストリック・ロールシフト】がある。

いずれにしても攻撃は防がれるだろう。

 

「続けて、【輝白竜ワイバースター】でセットモンスターへ攻撃! "シャイニング・バースト!"」

 

「【ゴーストリック・ロールシフト】は使いません。【ゴーストリック・ランタン】は破壊されます。ですが! ここで伏せカード【ゴーストリック・ブレイク】を発動!」

 

「なに……?」

 

先ほどサーチしていたもう一枚のゴーストリックトラップカードか。

 

「場の"ゴーストリック"モンスターが破壊された時、墓地からそのモンスターとカード名の異なる"ゴーストリック"モンスター2体を裏側守備表示で特殊召喚できます。来てください、【ゴーストリック・マリー】、【ゴーストリック・デュラハン】! さらにそれに反応し、【イントルーダー】も墓地から裏側守備表示で特殊召喚!」

 

「くっ……。それが狙いか」

 

倒したつもりがむしろモンスターが増えてしまった。

これでは次のターン反撃されかねないな……。

 

「私にダメージを与えるつもりだったのでしょうけど、詰めが甘いですよ遊佐くん。野薔薇さんのように甘すぎです」

 

まったく気にしすぎだろう結衣のやつ……。

だが、まだ俺は負けたわけじゃない。このカードにかけるしかないか。

 

「決闘機動班と同じと思うなよ結衣。俺は魔法カード【竜星の軌跡】を発動! 墓地の【リフン】、【ジョクト】、【ボウテンコウ】の3体をデッキに戻し、その後デッキからカードを2枚ドローさせてもらう」

 

「運頼みとは……そんな不確定なデュエル。危なっかしくてしょうがないです」

 

「わからないからこそ面白いんじゃないか。引いたカードでどうすれば勝てるのか考えるのがな!」

 

「面白い……ですか。そんな甘い考えでは本当の実戦では……」

 

「結衣。ジェネシスの奴らが強いのはよくわかってる。だけどな、これが俺のデュエルだ」

 

「何を……わかりました。そこまで言うのなら勝つ気でいるということですよね。私に勝てるというのなら……証明してみせてください」

 

さーて、いよいよ負けられない戦いになってきたな……。

ここで何のカードが引けるか……。

 

「当たり前だ! 俺はカードを2枚ドロー! まずは場の【光竜星ーリフン】を墓地へ送り、墓地から【リンクリボー】の効果発動! 墓地から特殊召喚!」

 

ーーー

【リンクリボー】リンク1 闇 サイバース ③

ATK/300 上

ーーー

 

「俺はカードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

結衣 手札2 LP3500

ーーー罠ー

ー裏裏裏ー

 ー リ

ーモリリー

ー裏罠裏ー

繋吾 手札0 LP900

 

「伏せカードはブラフかそれとも……。まぁいいでしょう。私のターン、ドロー! ふふっ。今日の私は冴えてるみたいです。このターンあなたにトドメを刺してあげますよ」

 

「なに……?」

 

「まずは、墓地の【ミラー・リゾネーター】の効果を発動します。相手にのみEXデッキから出ているモンスターがいる場合、このカードを墓地から特殊召喚できます」

 

ーーー

【ミラー・リゾネーター】☆1 光 悪魔 チューナー ①

DEF/0

ーーー

 

「【ゴーストリック・デュラハン】と【ゴーストリック・マリー】、そして【ティンダングル・イントルーダー】を反転召喚。【イントルーダー】の効果で【ティンダングル・エンジェル】を加えますが、それをデッキの一番上に戻し、墓地から【エッジインプ・シザー】を特殊召喚します」

 

ーーー

【エッジインプ・シザー】☆3 闇 悪魔 ⑤

DEF/800

ーーー

 

「それでは来てください、心を変えるサーキット! 私は【ゴーストリック・マリー】と【エッジインプ・シザー】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚! リンク2、【アンダークロック・テイカー】!」

 

ーーー

【アンダークロック・テイカー】リンク2 闇 サイバース EX①

ATK/1000 左 下

ーーー

 

まだまだ結衣の場にはモンスターが健在だ。何か強力なモンスターが展開される可能性が高いが……あの【アンダークロック・テイカー】は俺のモンスターの攻撃力を下げる効果がある。

あのモンスターのリンク先には【ティンダングル・イントルーダー】。

もし効果を使われれば俺のモンスター1体の攻撃力が1200ポイント下げられ、戦闘ダメージで負ける可能性があるってことだ。

対して、一度だけ【ファイアウォール・ドラゴン】の効果で結衣の場のモンスターを無力化できる。

ここで使うべきか……。悩ましいところだ。

 

「ならば……」

 

「【ファイアウォール・ドラゴン】の効果。使いますか? 遊佐くん?」

 

「っな……」

 

俺の考えを読んでいるってことか……。

ということは今の行動はこいつの効果を使わせることが目的か? いやだが、ここで使わなければ間違いなく俺は負ける。

自分の判断を信じるんだ。

 

「あなたの考えなんて見え見えですよ。どうしますか?」

 

「言ってくれるな……当然、使わせてもらう。【ファイアウォール・ドラゴン】の効果発動! このカードと相互リンクしているモンスター1体につき、場及び墓地のカードを手札に戻す。俺は【アンダークロック・テイカー】をEXデッキに戻す!」

 

「いいですよ。では……さらに手札を1枚捨て、墓地の【ジェット・シンクロン】の効果を発動! 墓地から特殊召喚します。さらに手札から捨てられた【魔神童】の効果で、このカードを墓地から裏側守備表示で特殊召喚!」

 

ーーー

【ジェット・シンクロン】☆1 炎 機械 ④

DEF/0

ーーー

【魔神童】⑤

ーーー

 

まずいな……。ますますモンスターが増えてきた。

ここから何を出してくる……?

 

「そして、再び【ゴーストリック・デュラハン】1体でオーバーレイネットワークを再構築! ランクアップエクシーズチェンジ! 来てください、【ゴーストリックの駄天使】!」

 

ーーー

【ゴーストリックの駄天使】ランク4 闇 天使 EX①

ATK/2000

ーーー

 

「さらに、これで終いにしてあげます! 私は手札から魔法カード【RUM-ヌメロン・フォース】を発動! エクシーズモンスター1体を同じ種族でランクが一つ高い"CNo"モンスターへランクアップさせます!」

 

「ランクアップ……!?」

 

エクシーズモンスターの特権とも言えるランクアップ。

その力を引き出す代表的なカードがRUM……ランクアップマジックの存在だ。

ここに来てそのカードを使ってくるとは……。

 

「さらに【ヌメロン・フォース】は、場の表側表示のカード効果を全て無力化する効果もあります。これであなたのモンスターは全て無力化させてもらいます」

 

「やってくれるな……」

 

「私は【ゴーストリックの駄天使】1体でオーバーレイネットワークを再構築! "闇夜に凍てつく漆黒の翼よ! 氷獄の旋律打ち鳴らし、終わりなき闇を開け!" ランクアップエクシーズチェンジ! 来てください、ランク5! 【CNo.103 神葬零嬢ラグナ・インフィニティ】!」

 

ーーー

【CNo.103 神葬零嬢ラグナ・インフィニティ】ランク5 水 天使 ①

ATK/2800

ーーー

 

黒き大きな翼を広げ、真っ赤に染まる大きな鎌を持った堕天使のようなモンスターが出現する。

それは先ほどの【ドラギュラス】とはまた違った威厳を感じる。

 

「これが……切り札ってやつか……!」

 

「はい、私の本当の切り札ってところでしょうか。ですが、まだ終わりじゃありません。あなたの【コード・トーカー】。有効活用させてもらいますよ。私はさらにレベル1の【ミラー・リゾネーター】と【ジェット・シンクロン】をオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 【ゴーストリック・デュラハン】!」

 

ーーー

【ゴーストリック・デュラハン】ランク1 闇 悪魔 ④

ATK/1000→1200

ーーー

 

しまった。【コード・トーカー】は結衣の場にもリンクマーカーが向いている。

したがって、そこにエクシーズ召喚が可能ということだ……。

 

「【ゴーストリック・デュラハン】の効果発動! "デステニー・オーバー!" 相手モンスター1体の攻撃力をエンドフェイズ時まで半分にします。対象は【ファイアウォール・ドラゴン】!」

 

【ゴーストリック・デュラハン】が漆黒の剣を空へ掲げると、そこから闇の風が出現し、【ファイアウォール・ドラゴン】へと襲いかかる。

 

【ファイアウォール・ドラゴン】

ATK/2500→1250

 

「くっ……」

 

「そして、これで終わりです! 【ラグナ・インフィニティ】の効果発動! 攻撃力が変化しているモンスターを対象にし、そのモンスターの元々の攻撃力との差分ダメージを相手ライフに与え、そのモンスターを除外します! "ブローデッド・アンガー!"」

 

【ラグナ・インフィニティ】の姿が消え、一瞬の間に【ファイアウォール・ドラゴン】背後へと姿を現し、その手に持つ大きな鎌を喉元に突き付けた。

【ファイアウォール・ドラゴン】の元々の攻撃力は2500。現在は1250。つまり、俺は1250のダメージを受けるということになる……!

 

やがて、その鎌にて【ファイアウォール・ドラゴン】は引き裂かれ、大きな爆風が俺へと襲いかかってくる。

 

「ぐっ……まだだ! 罠発動! 【ダメージ・ダイエット】! このターン受ける全てのダメージを半分にする!」

 

繋吾 LP900→LP275

 

「はぁ。本当にしぶといですね。あなたは」

 

「はは、それだけが取り柄なんでね! まだ負けるつもりはない!」

 

「いずれにしても攻撃すれば終わりです。バトル! 【ゴーストリック・デュラハン】で【リンクリボー】に攻撃! "インフィニティ・スライサー!"」

 

【ゴーストリック・デュラハン】

ATK/1200

【リンクリボー】

ATK/300

 

効果は無効になってるとはいえ、【リンクリボー】のリリースする効果は効果の発動コスト。

リリースして"効果の発動"ならできる。

 

「【リンクリボー】の効果発動! 自身をリリースする。だが、その後の効果は無効になるけどな」

 

「うまく場をあけましたか。ですが、これで最後。【ラグナ・インフィニティ】で【コード・トーカー】を攻撃! "フリージング・サイス!"」

 

【ラグナ・インフィニティ】は手に持つ大きな赤い鎌を構え、空へ羽ばたくと、滑空しながら【コード・トーカー】へ近づく。

これを受けたら実質俺の負けだ。ダメージを受けるわけにはいかない……!

 

「速攻魔法【エネミー・コントローラー】を発動! 俺の場の【コード・トーカー】をリリースして、【ラグナ・インフィニティ】のコントロールを一時的に奪う!」

 

「くっ……しぶといですね……ですが、やれるだけのことはやらせていただきます! 続けて、【イントルーダー】で【ワイバースター】を攻撃! ダーク・ディフューザー!」

 

【ティンダングル・イントルーダー】

ATK/2200

【輝白竜ワイバースター】

ATK/1700

 

 

「受けるダメージは【ダメージ・ダイエット】により半分となる! ぐぅぅッ!」

 

繋吾 LP275→LP25

 

まさかここまでライフポイントがぎりぎりになるとは……。

ひとつ間違えれば負けていた。

 

「ではこれで終了ですね。エンドフェイズ時、【ラグナ・インフィニティ】のコントロールを戻し、ターンエンドです」

 

「いいだろう。俺は墓地へ送られた【輝白竜ワイバースター】の効果で、再び【暗黒竜こらぷサーペント】を手札に加える」

 

 

結衣 手札0 LP3500

ーーー罠ー

ーモエエ裏

 ー ー

ーーーーー

ーー罠ーー

繋吾 手札1 LP125

 

ますます状況は悪くなってきたな……。だが、結衣も手札と伏せカードを使い切っている。

これが俺にとっての最後のチャンスかもしれない……。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「たった2枚の手札で……どうするつもりですか?」

 

「よし、まぁ見ていてくれ。俺は【英霊獣使い-セフィラムピリカ】を召喚!」

 

ーーー

【英霊獣使い-セフィラムピリカ】☆3 風 サイキック ③

ATK/1000

ーーー

 

「あれは……。ペンダントから生み出されたカード……」

 

「あぁそのとおりだ。偶然だかなんだかわからないが、おかげさまでなんとかなりそうだ。効果発動! 墓地から【セフィラ・メタトロン】を特殊召喚! さらに墓地から【ワイバースター】を除外して、【暗黒竜こらぷサーペント】を特殊召喚!」

 

ーーー

【セフィラ・メタトロン】リンク3 光 幻竜 ④

ATK/2500

ーーー

【暗黒竜こらぷサーペント】☆4 闇 ドラゴン ②

ATK/1800

ーーー

 

「そして、来てくれ。心を繋ぐサーキット! 俺は【英霊獣使い-セフィラムピリカ】と【輝白竜ワイバースター】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、【アンダークロック・テイカー】!」

 

ーーー

【アンダークロック・テイカー】リンク2 闇 サイバース EX②

ATK/1000 左 下

ーーー

 

「そのカードは……!」

 

「結衣の戦術、使わせてもらう。効果発動! リンク先の俺の【セフィラ・メタトロン】の攻撃力分、【ラグナ・インフィニティ】の攻撃力を下げる!」

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500

【ラグナ・インフィニティ】

ATK/2800→300

 

「なるほど……これで戦闘ダメージを与えようということですか。ですが、残念ながらもう勝敗は決しています、遊佐くん」

 

「どういうことだ……?」

 

「【ラグナ・インフィニティ】の効果は相手ターンでも使えるんですよ。そして、【ゴーストリック・デュラハン】の効果も同様!」

 

 

【ゴーストリック・デュラハン】は相手モンスターの攻撃力を半分にする効果がある……。それに対して攻撃力が変動した場合、その差の数値分ダメージを与える【ラグナ・インフィニティ】……。

これを受けてしまえば間違いなく俺のライフは0になる。

 

「さすがにライフが25しかないのであれば、どんなモンスターでも召喚をしてしまったら最後ということですよ。【ゴーストリック・デュラハン】の効果発動! あなたの【セフィラ・メタトロン】には消えていただきます!」

 

「ならばその効果に対して墓地から罠カード【ブレイクスルー・スキル】の効果発動! このカードを墓地から除外し、相手モンスター1体の効果を無効にする! 俺は【ゴーストリック・デュラハン】の効果を無効にする!」

 

「そんな……! 失念……していました。そのカード」

 

どうやら結衣は想定外だったらしく、衝撃を受けたような表情をしていた。

どうやら首の皮一つ繋がったようだ。

 

「どうだ? デュエルってのは何があるかわからないんだ。何事も自分の頭の思い描いた通りになんていかない」

 

「くっ……遊佐くんのくせに……」

 

「俺のデュエルは決闘機動班の……いや、野薔薇の影響だけじゃない。結衣のデュエルの影響も大きく受けてるってことだよ。それがこの【アンダークロック・テイカー】だ」

 

「……わたしの……。あ、いえ。それは当たり前です! 私たちの方が遥かにデュエルレベルが高いのですから!」

 

結衣は一瞬目を逸らしたが、改めて向き合うと少し怒り気味に叫んできた。

まぁ確かに今デュエルをしている身からすれば、結衣のデュエルレベルは非常に高く感じる。

それだけは間違いない事実だろう。

 

「そうだな。そのおかげで今回は勝てそうだよ。俺はさらに【セフィラ・メタトロン】と【アンダークロック・テイカー】の2体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! リンク3、無垢なる力を引き継ぐ闇の使者! 【デコード・トーカー・エクステンド】!」

 

ーーー

【デコード・トーカー・エクステンド】リンク3 闇 サイバース EX②

ATK/2300 上 左下 右下

ーーー

 

「【デコード・トーカー・エクステンド】はリンク先のモンスター1体につき攻撃力を500ポイントアップする。そう、【コード・トーカー】の力を引き継いだ進化系といったところだ」

 

「いまリンク先には私の【ゴーストリック・デュラハン】がいる……つまり……」

 

【デコード・トーカー】

ATK/2300→2800

 

「バトルだ! 【デコード・トーカー・エクステンド】で【ゴーストリック・デュラハン】に攻撃! "エヴォルト・スラッシュ!"」

 

【デコード・トーカー・エクステンド】は藍色に光る剣を構えると、大きく跳躍し、【ゴーストリック・デュラハン】を切り裂いた。

 

【デコード・トーカー】

ATK/2800

【ゴーストリック・デュラハン】

ATK/1200

 

 

結衣 LP3500→LP1900

 

 

「くっ! だけどもう遊佐くんの場には攻撃できるモンスターはいません!」

 

「それはどうかな? 【デコード・トーカー・エクステンド】はリンクマーカー先のカードが破壊された時、2回目の攻撃を行うことができる!」

 

「嘘……これじゃ……」

 

「リンクマーカー先のモンスターが消えたことで、攻撃力は500ポイントダウンするが、攻撃力は十分。【デコード・トーカー・エクステンド】で【ラグナ・インフィニティ】を攻撃! 切り裂け! "エヴォルト・スラッシュ・セカンド!"」

 

力を失い、鎌を地面へと落とし脱力した【ラグナ・インフィニティ】に対して、【デコード・トーカー・エクステンド】は手に持つ藍色に光る剣を胸元へと突き刺した。

 

【デコード・トーカー・エクステンド】

ATK/2300

【ラグナ・インフィニティ】

ATK/300

 

「私の……負けですか……」

 

結衣 LP1900→LP0

 

「なんとか……勝てたか……」

 

本当にぎりぎりの戦いだったな……。さすがはSFSトップクラスのデュエル。

自分自身も勝てたことに内心驚いている。【セフィラムピリカ】の力さまさまだな。

 



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Ep41 - 精鋭の監視

結衣とのデュエルを終えた俺は、デュエルリングへ座り込んだ結衣の下へと近づく。

その表情は少し不満そうな様子だった。

 

「結衣、いいデュエルだった。楽しかったよ」

 

「……今回ばっかりは……遊佐くんの勝ちということにしておいてあげます。次はこうはいきませんから」

 

「ははは……」

 

あれだけ言ってしまった手前、負けてしまったのを恥ずかしいと思っているのか、それとも俺に負けたことが悔しいのか。

結衣の性格を考えるよ両方のような気もするが、まぁとりあえずこれ以上文句は言われないだろう。

 

「ですけど、私に1回勝ったからっていい気にならないでください」

 

「わかってるよ。俺は颯みたいなやつじゃない」

 

「どうだか……それと、今後野薔薇さんとは必要以上に関わらないこと。いいですか?」

 

「え……」

 

そこは譲れないのか……。

 

「ま、まぁ……検討しておくよ」

 

「なんですか! その曖昧な……」

 

「デュエルで証明してみせただろう? 俺は決闘機動班にのまれてなんかいないって」

 

「それはそうですが……。でも……」

 

結衣が口ごもっていると、突然隣のデュエルリングで怒声のようなものが聞こえてきた。

隣には颯と郷田さんがいたはず……何ごとだろう。

 

「何か揉めているのか……? 結衣、ちょっと行ってみるぞ」

 

「え、えぇ……わかりました」

 

結衣が立ち上がるのを手を引っ張りながら手伝い、俺たちは隣のデュエルリングへと足を運んだ。

そこには颯と言い合う一人の女性と俺たちが近づいてきたのに気がついた郷田さんがいた。

 

「お、繋吾ちゃんと結衣か」

 

「郷田さん、一体どうしたんですか?」

 

「あぁ……ちょっと颯のやつがな……」

 

そう言われ颯の方を見ると、何か色々と相手に対して主張しているようだった。

あいつが女性相手に叫ぶなんて珍しいな……。大体どんなやつでも、女には目がないやつだと思っていたが……。

 

対して、颯を言い合っている人は黒髪のロングヘアーに、白色のカチューシャを付けた女性。

一体この人は誰なんだろう。

 

彼女を眺めていると、俺の存在に気がついたのかこちらに目を向けてきた。

そして、俺のことを一通り眺めた後に口を開いた。

 

「あなたは……遊佐 繋吾さん、ですね! 先日の作戦でジェネシス幹部を打ち破った隊員。そして、SFSの中では異例の入隊をした人物!」

 

「お前は誰だ?」

 

「遊佐さん。いくら良い功績があったとしても少し言葉づかいは改めた方がいいですよ? 私は決闘機動部 決闘精鋭班 副班長を努めております賤機 聖華と申します! 以後お見知りおきください!」

 

やたらハキハキと喋る真面目そのものなこの女性はどうやら決闘精鋭班の副班長らしい。

なぜそんなエリートさんがこんなところに……。

 

「悪かったな……。んで颯、一体どうしたんだ? お前にしては珍しい」

 

「繋吾! 聞いてくれよ! こいつ、特殊機動班の監視で来やがったみたいで、俺たちが悪さをしないかしばらく見張るって言ってやがるんだよ。別に俺たち何も悪いことしてねぇのにふざけてるよな!」

 

なるほど。この間の会議で色々と特殊機動班について取り上げられてたからな。

動向を見張るという意味で差し向けてきたのかもしれない。

 

「ですから……あなたにとっては悪いことをしたつもりはなくても、SFSにとっては不利益となる事象が現に起きてしまっていると何度も言っているじゃないですか! なので、私がしばらく行動を監視させていただくと言っているのです。もしかして……何か後ろめたいことでもしているんですか? 上地さん」

 

「なんもしてねぇって言ってんだろ! 特殊機動班を廃止になんか絶対させねぇからな!」

 

廃止……? やはり目的はそれなのか?

でもそれは会議の中でしばらくはなくなったはずだ……。

それに精鋭班長でもある神久部長は協力すると言っていたじゃないか。

 

「あなた方の行動次第では廃止の可能性もある……って言っただけじゃないですか! それにこれは開発司令部と決闘機動部の双方の合意の下決まった話なのですよ!」

 

開発司令部も絡んでいるってことはおそらく黒沢部長の差金かなにかだろうか。

自らの班ではなく、わざわざ決闘機動部内でやらせるとはなんとも気に入らない手法だな。

 

「それなら賤機、一つ聞きたい。なぜ決闘精鋭班のお前が監視役なんだ?」

 

「遊佐さん。ですから言葉づかいを……。私も詳しくは存じませんが、司令直属班は業務が忙しいらしく代わりにということみたいですね……。実際には司令直属班はしばらくデュエルをしていないような隊員ばかりでしょうから、監視にはある程度デュエルの腕がある人物をということだとは思いますけど……」

 

確かに、決闘精鋭班の副班長ならば、あの桂希や野薔薇よりも上位な立ち位置ということになる。

よほど腕が立つのだろう。

 

「それに、特殊機動班に無茶な作戦を実行されて全滅なんてことされちゃ困りますので、適正なデュエルの腕前があるのか実際のデュエルデータを取るという目的も兼ねてます。佐倉さんは成績優秀とは聞いていますけども、実際のデュエルは見たことありませんし、郷田さんは先日の作戦で失敗の報告を受けている。それに上地さんは今話している限りでもわかりましたが、頭の出来が……あまり良くなさそうですからね……」

 

「てめぇ! 言わせておけば! いい気になるんじゃねえぞ!」

 

「なら、賤機さん。一つデュエルで試してみますか?」

 

賤機副班長の物言いに対して、颯と結衣の二人が好戦的な反応をする。

郷田さんはその様子を見て、苦笑いをしていた。

 

いつもなら真っ先に郷田さんが行きそうなものだが、おそらく……この賤機副班長の実力を知っているからなのかちょっと今日は勢いがなかった。

 

「佐倉さんは先ほど遊佐さんとデュエルしたばかりでですけど……連戦でも大丈夫ですか?」

 

「その程度余裕です。まさか逃げるつもりですか?」

 

「やる分には私は一向に構いませんよ! 佐倉さん」

 

すると結衣と賤機の前に割り込むような形で颯が乱入し、デュエルウェポンを構え始めた。

 

「結衣ちゃんが出るまでもねぇ! ここは俺が相手してやる賤機! 特殊機動班の意地、見せてやるよ!」

 

「あはは……元気がいいこと……いいですよ! ちょうど上地さんのデータも取れますし、私としては好都合です!」

 

「俺は女の子にだけは優しくするのがモットーだが、特殊機動班を馬鹿にするのだけは許せねえ! デュエルだ!」

 

「特殊機動班は変わり者が多いという噂は本当なのですね……。わかりました、早いところ始めましょう!」

 

「デュエル!」

 

賤機 手札5 LP4000

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

颯 手札5 LP4000

 

デュエルが始まり、賤機さんと颯の二人が対峙する。

俺たちはデュエルリングの観客席に向かい、二人のデュエルを見届けることにした。

 

「あの賤機副班長っていうのはやっぱり強いのか?」

 

気になった俺は二人に聞いてみる。

 

「私はデュエルしているところを見たことがないのでわかりませんね……郷田さんは知っていますか?」

 

「噂だけは聞いたことがある。赤見や宗像の奴が賤機にデュエルで負けたって話をな」

 

「ってことは赤見さん達以上の腕を持っているってことですか?」

 

「まぁあくまで噂だ。本当かどうかは知らねぇ。赤見のやつに聞いたこともねぇしな」

 

いずれにしてもかなりの実力を持っているには違いなさそうだな……。

颯のやつ、どう戦うつもりだろう。

 

「先攻はいただきます! 私のターン、手札から【古代の機械猟犬】を召喚します!」

 

ーーー

【古代の機械猟犬】☆3 地 機械 ③

ATK/1000

ーーー

 

「このカードが召喚に成功した時、相手に600ポイントのダメージを与えます。"エクスプロード・バーン!"」

 

【古代の機械猟犬】の口元より、大きな火球が出現すると、颯へ発射され爆発音が響き渡った。

 

「いきなりバーンとはやってくれるじゃねぇか……」

 

颯 LP4000→LP3400

 

「まだ序の口ですよ。上地さん! さらに私は【古代の機械猟犬】の更なる効果を発動します。このカードを含む、場、手札のモンスターを素材に"アンティーク・ギア"モンスターを融合召喚できます。私は手札の【古代の機械獣】と場の【古代の機械猟犬】を融合!」

 

融合召喚を扱うデュエリストか。

颯も融合召喚を主軸にしているし、これは融合同士のデュエルになりそうだな……。

 

「"高貴なる古の歯車よ……ここに重なりて、防壁打ち砕く力となれ!" 融合召喚! 顕現してください! 【古代の機械魔神】!」

 

ーーー

【古代の機械魔神】☆8 地 機械 ②

DEF/1800

ーーー

 

黒く煌く漆黒の機械羽を宿し、両腕には戦艦の砲台のようなものが装備された機械仕掛けのモンスターが出現した。

比較的ステータスは低めであり、表示形式も守備表示。

様子見のモンスターってところだろうか。

 

「へっ、かっこよく出てきた割には守備表示かよ! この上地 颯の前に怖気づいたか?」

 

「随分と調子の良い方で……。せめて効果を受けてから言ってくださいよ……。このカードは1ターンに1度、相手に1000ポイントのダメージを与えることができます! "デビルズ・キャノン!"」

 

「げっ、またバーンかよ!」

 

【古代の機械魔神】の両腕の砲台にエネルギーが充填されると、今度は颯に無数のレーザー砲が発射される。

 

「ぐっ、ちくしょう! まだ俺のターンすら来てねぇってのに!」

 

颯 LP3400→LP2400

 

「まずは挨拶ってところですよ? ちなみにこの【古代の機械魔神】はあらゆるカードの効果を受けない。つまり、戦闘でしか破壊できないってことです! これを破壊しない限りあなたは毎ターン1000ポイントのダメージを受けて終わりです!」

 

「たかが守備力1800程度すぐに倒してやるよ!」

 

「まぁ……頑張ってください! 私はカードを2枚伏せてターンエンドです」

 

賤機 手札1 LP4000

ー裏裏ーー

ーーーーー

 ー 融

ーーーーー

ーーーーー

颯 手札5 LP2400

 

先攻の1ターンで颯のライフポイントを半分ほど削ってきた。

それに対して万全の守りの体勢。

それだけでも俺にとっては驚きだ。

 

あの桂希ともまた違った強さだろうか。

だが、幸い颯のデッキは融合によって、大型モンスターの召喚スピードは長けている。

あの【古代の機械魔神】くらいならすぐに倒せるだろう。

 

「よっしゃ、俺のターン。ドロー! いい感じの手札だぜ! まずは永続魔法【ブリリアント・フュージョン】を発動! このカードはデッキのモンスターを素材に融合する! だけど、融合したモンスターの攻撃力は0になるけどな」

 

「おおー! 融合召喚を使ってきますか! どんなモンスターが出てくるか楽しみにしておきます」

 

「へっ、俺はデッキの【ジェムナイト・サフィア】と【超電磁タートル】を融合! "飛翔の翼! 聖なる光の身に纏い、進むべき道を照らせ!" 融合召喚! 来い! 【ジェムナイト・セラフィ】!」

 

ーーー

【ジェムナイト・セラフィ】☆5 地 天使 ①

ATK/2300→0

ーーー

 

「【ジェムナイト・セラフィ】がいる限り、俺は2回通常召喚ができる! まずは【ジェムレシス】を召喚! 召喚時にデッキから"ジェムナイト"モンスターを手札に加える。俺は【ジェムナイト・オブシディア】を手札に。続けて【ジェムナイト・アレキサンド】を召喚!」

 

ーーー

【ジェムレシス】☆4 地 岩石 ①

ATK/1700

ーーー

【ジェムナイト・アレキサンド】☆4 地 岩石 ②

ATK/1800

ーーー

 

「【ジェムナイト・アレキサンド】の効果を使うぜ! このカードをリリースして、デッキから【ジェムナイト・ルマリン】を特殊召喚!」

 

ーーー

【ジェムナイト・ルマリン】☆4 地 雷 ②

ATK/1600

ーーー

 

「そして、来い! 輝石を照らすサーキット! 俺は【ジェムナイト・セラフィ】と【ジェムレシス】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚! リンク2、【ジェムナイト・ファントムルーツ】!」

 

ーーー

【ジェムナイト・ファントムルーツ】リンク2 地 岩石 ①

ATK/1450

ーーー

 

透き通る体に鎧を身につけた騎士モンスターが出現する。

颯の使う"ジェムナイト"モンスターのリンクモンスターだ。

 

「融合を駆使し、リンク召喚でさらに繋げる展開……。意外とやりますね」

 

「この程度じゃ終わらねぇよ! この上地 颯のデュエルはな! このカードがリンク召喚にデッキから"ジェムナイト"カードを手札に加える。俺は【ジェムナイト・フュージョン】を加える!」

 

颯お得意のジェムナイト専用融合魔法が手札に加わった。

ここからが本領発揮ってところだろう。

 

「リンク先を確保したということは来ますね、融合召喚!」

 

「当たり前だ! 魔法カード【ジェムナイト・フュージョン】発動! 俺は手札の【ジェムナイト・オブシディア】と場の【ジェムナイト・ルマリン】を融合! "轟く希望! 駆ける稲妻となりて、戦場を切り裂け!" 融合召喚! 【ジェムナイト・パーズ】!」

 

ーーー

【ジェムナイト・パーズ】☆6 地 雷 ①

ATK/1800

ーーー

 

黄色に輝く2つの小剣を逆手に持ち、稲妻を纏いながら【ジェムナイト・パーズ】は颯の前へと出現する。

 

「攻撃力は私の【古代の機械魔神】を超えていないようですが……。何かありそうですね」

 

「ふっふっふ……。それは後からのお楽しみよ。手札から墓地へ送られた【ジェムナイト・オブシディア】の効果を発動! 墓地から通常モンスター、【ジェムナイト・ルマリン】を特殊召喚するぜ!」

 

ーーー

【ジェムナイト・ルマリン】☆4 地 雷 ②

ATK/1600

ーーー

 

「そして、墓地の【ジェムナイト・フュージョン】の効果発動! 墓地から【ジェムナイト・アレキサンド】を除外し、手札に戻した後、再び発動! 【ジェムナイト・フュージョン】!」

 

「更なる融合! わくわくしますねー!」

 

「融合の良さがわかるとは、見る目があるじゃねぇか……。手札の【ジェムナイト・エメラル】と場の【ジェムナイト・ルマリン】を融合! "無垢なる輝き!聖なる雷に導かれ、邪悪を砕け!" 融合召喚! 【ジェムナイト・プリズムオーラ】!」

 

ーーー

【ジェムナイト・プリズムオーラ】☆7 地 雷 ③

ATK/2450

ーーー

 

続いて現れたのは白銀の鎧を身に纏い、大きな盾を水晶の大きな槍を装備した騎士モンスター。

颯の操る雷融合モンスターの2体が1ターンで一気に揃うとは……。彼もかなり本気みたいだ。

 

「思ったよりもやるじゃないですか! 上地さん!」

 

「へへっ。上地 颯のすごさがわかったか? 聖華ちゃん!」

 

「少しだけわかりました! ですけど、私負けませんけどね!」

 

すぐに調子に乗るのが颯だが、賤機もそれに乗っているせいか颯のやつはすごい上機嫌のようだ。

まったく……さっきまで怒っていたのはどこのどいつだよ……。

 

「まったく……本当に馬鹿な人……」

 

隣にいる結衣もまた呆れたようにその様子を見ていた。

こればっかりは俺も賛同だ。

 

「よっし! ワンターンキルしてやるぜ! バトル、【ジェムナイト・パーズ】で【古代の機械魔神】を攻撃! "ボルテック・ダガー!"」

 

【ジェムナイト・パーズ】は跳躍しながら、手に持つダガーを構え、【古代の機械魔神】へと接近し、斬りかかる。

 

「ですけど、そのモンスターの攻撃力は私のモンスターの守備力と同じですよ? それじゃ倒せませんけど……」

 

「甘いな聖華ちゃん! 俺は速攻魔法【決闘融合ーバトル・フュージョン】を発動! 場の融合モンスターが戦闘を行う攻撃宣言時に発動でき、その融合モンスターの攻撃力をダメージステップ終了時まで戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分アップする!」

 

「おお……つまり攻撃力が1000アップってことですね! でも守備表示だから私はダメージを受けません!」

 

「それも甘いぜ聖華ちゃん! このカードが相手モンスターを戦闘破壊した時、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

「なるほど……やるじゃないですか!」

 

【ジェムナイト・パーズ】

ATK/1800→2800

【古代の機械魔神】

ATK/1000

DEF/1800

 

【古代の機械魔神】は強化され稲妻を身に纏う小剣によって切り刻まれ、爆発しながら消滅する。

そして、そこから迸る電撃が賤機に襲いかかった。

 

「このくらいならへっちゃらです!」

 

賤機 LP4000→LP3000

 

「へっ、まだだ! こいつはさらに二回攻撃ができる! 【ジェムナイト・プリズムオーラ】とあわせてダイレクトアタックで俺の勝ち……って……」

 

颯が続けて攻撃宣言をしようとした瞬間、賤機の場の地面より大きな腕が出現し始める。

 

「なんだこれは……!」

 

やがて、その腕から今度は機械仕掛けの頭部が出現し、体、足と徐々にその姿があらわになる。

そこには大きな体をしたまさに巨人と呼ぶに相応しい黒い金属の人型ロボットのようなモンスターが出現した。

体のあちこちには大きな歯車が見え、頭部から光る赤い目のようなものが颯のことを威圧しているように発光していた。

 

「残念ですけども、【古代の機械魔神】が破壊された時、デッキから"古代の機械"モンスターを召喚条件を無視して特殊召喚できる効果があります! 私は【古代の機械巨人】を特殊召喚してました!」

 

ーーー

【古代の機械巨人】☆8 地 機械 ③

ATK/3000

ーーー

 

攻撃力3000……。いきなりかなり強力なモンスターが現れてしまったみたいだ。

これは【決闘融合ーバトル・フュージョン】を使うタイミングを誤ったようだな……。

 

「くっ……こいつは倒せねえ! 仕方ない、ならばメインフェイズ2に墓地から【ジェムナイト・フュージョン】の効果発動! 墓地から【ジェムナイト・セラフィ】を除外し、手札に戻した後、【ジェムナイト・プリズムオーラ】の効果を発動! 手札の"ジェム"カードを墓地へ送り、相手の表側表示カード1枚を破壊する! そいつには消えてもらうぜ! "サンダー・レイストーム!"」

 

【ジェムナイト・プリズムオーラ】の槍に電撃が集うと、それは【古代の機械巨人】に向かって放たれる。

 

「私の高貴なるモンスターには触れさせませんよ! 罠カード【共闘ークロス・ディメンション】を発動します! 場の【古代の機械巨人】を次の私のスタンバイフェイズまで除外させます!」

 

「ちぃ……離れやがったか……。なかなかやるみたいだがこの程度で勝ったつもりになるなよ聖華ちゃん。俺は再び墓地の【ジェムナイト・フュージョン】の効果で【ジェムナイト・サフィラ】を除外してこのカードを手札に戻し、カードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

賤機 手札1 LP3000

ー裏ーーー

ーーーーー

 リ 融

融ー融ーー

ーー裏ーー

颯 手札1 LP2400

 

全力で攻めてきた颯に対して、少ないカードでさらっと攻撃を防いだ賤機。

場の状況的には颯の方が有利には見えるが、賤機の表情はまったく揺らいでいなかった。

むしろ、好戦的な表情とでも言おうか。負けそうだという要素はまったく見受けられない。

 

「さてと、上地さん。色々と面白いもの見せてもらってありがとうございました!」

 

「え? あ、まぁ……まだまだ切り札は出ちゃいないけど……」

 

「あれ? そうなんですか。ですけど、もうこのデュエル終わりみたいです」

 

「終わり……だと……?」

 

「はい! 私のターンいきますね! ドロー、このスタンバイフェイズ。【共闘ークロス・ディメンション】の効果で除外された【古代の機械巨人】が場に戻ります! 戻って来て! 【古代の機械巨人】!」

 

ーーー

【古代の機械巨人】☆8 地 機械 ③

ATK/3000

ーーー

 

「そして、この効果で戻ってきた時、エンドフェイズ時まで攻撃力が2倍になります! さらにこのカードは攻撃する時、相手は魔法、罠カードを発動できない効果を持ってます!」

 

「なにぃ!?」

 

【古代の機械巨人】

ATK/3000→6000

 

攻撃力6000で魔法、罠カードを発動できないって……。いつでも使えるカードがない限り、攻撃を防ぐことができない。

攻撃されれば颯のライフポイントは当然0になってしまう。

 

「さぁ、これで終わりですよ! 上地さん!」

 

「ったくびびらせやがって……。ここで終わる上地 颯じゃないぜ! 罠カード【サンダー・ブレイク】発動! 手札を1枚捨て、相手の場のカード1枚を破壊する! その【古代の機械巨人】には消えてもらうぜ!」

 

颯の場から大きな稲妻が出現し、【古代の機械巨人】へと向かって放たれる。

だが、対して賤機はその様子を見て、口元をにやりとさせた。

 

「私の大事な【古代の機械巨人】はやらせはしませんよ! 墓地から【共闘ークロス・ディメンション】の更なる効果を発動します! 墓地からこのカードを除外して、場の【古代の機械巨人】の破壊を免れることができます!」

 

「なん……だと……」

 

たった1枚のカードで颯の目論見は全て崩れてしまったようだ……。

颯の表情が一気に絶望したような表情へと変わる。

 

「さーて、私の渾身の一撃、受けてもらいますよ? 【古代の機械巨人】で【ジェムナイト・パーズ】を攻撃! "アルティメット・パウンド!"」

 

【古代の機械巨人】は大きく鉄の拳を振り上げると、【ジェムナイト・パーズ】に狙いを定め、その腕を突き出した。

 

【古代の機械巨人】

ATK/6000

【ジェムナイト・パーズ】

ATK/1800

 

「うわあああああ!」

 

颯 LP2400→LP0

 

やがて、その攻撃が直撃し、颯はその場に座り込む。

見ていた限りだと……颯の完敗といったところだろうか。

 

「ありがとうございました、上地さん! ですけど……ちょっと後先考えずにデュエルし過ぎじゃないですか?

 

「うっ……ちくしょう! 俺の戦術がまったく通用しねぇとは……」

 

「それに墓地には【超電磁タートル】もいたような……」

 

「あっ……忘れてたぜ……くそお!」

 

確かに勝負を焦ってカードを使うタイミングを誤っていたし、墓地のカードを忘れたりと、まだ颯側に改善点はありそうだったな。

 

「それにしてもやっぱり実際に戦うと細かいデータが取れるのでいいですね! 今日は挨拶に来ただけですけど、これから少しの間お世話になると思うのでよろしくお願いします!」

 

賤機はそう言うと、颯と続けて俺たちに向かって頭を下げてきた。

見た限りそんなに悪い奴にも見えないし、強い人がいるのなら心強い限りだ。

 

「あぁ、よろしく頼むよ」

 

それに対して俺も賤機に向かって頭を下げる。

 

「余計なことはしないでくださいね。何を企んでるかは知りませんが、例え決闘精鋭班だとしても特殊機動班を踏みにじるようなら私は容赦しませんから」

 

隣にいる結衣は賤機のことを睨みつけながらそう言った。

相変わらずこいつは、他の班に対しては敵対心むき出しすぎるな……。

 

「あれ……これは私、あまり歓迎されてない感じですか……?」

 

「いや、いやいやいや! 聖華ちゃん! いいんだ。俺は今のデュエルで認めたよお……。俺にデュエルを教えてくれえ……」

 

苦笑いしている賤機に対し、颯が賤機の手を掴みながら叫びだす。

 

「え? 特訓なら大歓迎ですよ! 特殊機動班の能力が上がるのであればそれに越したことはありません!」

 

「本当か! 聖華ちゃん! 俺、聖華ちゃんの弟子になるよ!」

 

どういうわけか今のデュエルでのせいかはわからないが、颯と賤機の二人は意気投合したみたいだ。

そうなると気になる結衣の様子だが、思ったとおりあまりいい顔をしていなかった。

 

「はぁ……。遊佐くん、あなたは……大丈夫ですよね?」

 

結衣はそう口元だけ笑顔を見せて言ってきたが、目は鋭く俺のことを睨みつけていた。

 

「あ、あぁ……。俺は特殊機動班だ。決闘精鋭班に媚びたりなんてしないよ……」

 

「絶対ですね?」

 

「大丈夫だよ……まぁ少し落ち着けって結衣」

 

「特殊機動班を潰そうとしている人が介入してくるって言うのにじっとなんかしてられますか!」

 

まぁ場合によっては廃止にってことも言ってたし、そう思うのも無理はないが、今の感じからすると特殊機動班の様子を伺いに来た程度な気もするし、そこまで深刻に考える必要もないような気はする……。

 

「まぁ……だからこそ少し仲良くしてた方がいいんじゃないか?」

 

「またのんきなことを……野薔薇さん同様にあの人も裏で何考えているかわかったもんじゃないですよ。上地くんなんてさっそく弟子になるとか言っていますし……」

 

ん……? この感じは……。

まさか結衣のやつ、寂しいのか?

少しづつだが、結衣の性格ってものが掴めてきた気がするな……。

 

「俺はあいつとは違う。だから安心してくれ結衣」

 

「ま、まぁ……それならいいですけど……。というか遊佐くんに心配される筋合いはありません!」

 

「ははは……」

 

結衣はそう言うと、デュエルリングを後にしてしまった。

 

「あれ……佐倉さん帰ってしまったのですか? できればちゃんと挨拶したかったのですが……」

 

その様子を見かけた賤機が俺に声をかけてくる。

 

「まぁ……。それはまた今度の機会になりそうだな。大変だとは思うけど……」

 

「大変? よくわかりませんが……またの機会ですね! それでは今日はこれで失礼します!」

 

再び賤機は俺たちに頭を下げると、訓練場を後にした。

 

「相変わらず礼儀正しいけど、言葉はストレートなやつだ……あいつは」

 

その後ろ姿を見ながら郷田さんが呟く。

 

「確かに……色んな意味でまっすぐな人ですね」

 

「そうなんだよ繋吾ちゃん。ある意味……非の打ち所がないってところだな。あれでもお前らと同期なんだぜ?」

 

俺たちと同期……つまり颯や結衣と同じってことか……。

見た感じ若いなぁとは思っていたがまさか同じだったとは。

 

「でもそうすると……結衣よりかは入隊時は下だったってことですか?」

 

「そういうことだ。だけど、入隊後にかなり実力を伸ばしたのがあいつだ。よくも悪くも真面目っていうのはいいのかもしれねぇなぁ……」

 

努力家というべきか、それとも何かあったのか。

いずれにしても今見た彼女の実力は確かなものだった。

そういうところは俺も見習わなければならないな。

 

それはそうと気になるのは結衣の方だ。

野薔薇だけならず賤機に対しても敵対している状態。

このままだといずれ何かトラブルになるような……。

今日一日だけでも散々結衣に振り回されたしなぁ。

なんとか仲良くできればとは思っているが……それは今後考えることにしよう。



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Ep42 - 国防軍との交流

野薔薇や賤機との一件があってから数日後。

前回の特殊機動班内の打ち合わせであった、国防軍への出張の予定が決まったらしく赤見さんより連絡が入った。

 

赤見さんの話によると、国防軍の方は例のジェネシスの情報については好反応だったようで、赤見さんの声色が少し明るかった様子が伺えた。

日程の調整も済んでいるとのことで、出張当日。俺たちはSFSの社用車に乗り、国防軍へと向かった。

 

「出張なんて初めてだぜ! わくわくするなあ!」

 

国防軍へ向かう途中の車内。

俺の隣に座る颯がまるで子供のようにはしゃぎ声を上げている。

 

「まったく、子供じゃないのですから。少しは落ち着いて乗っててください」

 

そして、案の定後ろに座る結衣からは鋭い言葉が突き刺さる。

 

「結衣ちゃんも出張なんだから少しは気を抜こうぜ! な? 聖華ちゃん?」

 

「え!? あ、はい! 出張ってわくわくしますよね!」

 

そう、もちろん監視という名目ではあるが、賤機の奴も一緒に国防軍へ向かっていた。

しかも席は結衣の隣である。

真面目で明るい雰囲気の賤機だったが、結衣がピリピリしているせいか少し緊張しているようだった。

 

「あなたたち……。大体なんで出張までついてくるのですか賤機さん。外まで監視の必要はないでしょう?」

 

「外で何かされる可能性もありますから! これも決定事項なんです……。私はいないと思って行動してもらって大丈夫ですので!」

 

「隣でこんなに大きな声で喋られては無理がありますよ……。くれぐれも余計なことしないでくださいね」

 

「だ、大丈夫……です!」

 

なんだか端から見ていると少し賤機が気の毒に思えてくるな……。

彼女も好きで監視に付いているわけではないし、まぁ……後で少し声かけてみるか。

 

「まったくお前らは若えなあ! 出張でわくわくできるのもはじめの数年だけだから今のうちに楽しんどけや」

 

続いて車を運転する赤見さんの助手席に座る郷田さんが笑いながら言った。

 

「そうだな、今日は別に戦いに行くわけじゃない。難しい話は私に任せてお前たちはゆっくりと国防軍施設の観光でもしてくるといい」

 

「やったぜ! ほら、赤見班長と郷田からもOK出てるんだからさ! 結衣ちゃん!」

 

「わかりましたから少し黙っててください」

 

赤見さんと郷田さんの発言を聞き、さらに颯は騒ぎ出す。

まぁ……俺も国防軍の施設は少しだけ興味があるな。

あと、国防軍の隊員はどれほどのデュエルの腕前があるのかも興味がある。

機会がもしあるのならばお手合せ願いたいものだな。

 

「繋吾も考え事なんてしてねぇで楽しんでいこうぜ!」

 

「え? あぁ。どんな隊員がいるのか楽しみだな」

 

急に颯から話を振られて少し驚く。

今日は戦いに行くわけじゃないし、俺ものんびりとさせてもらうかな……。

 

「繋吾くんはデュエル馬鹿だから、やっぱりデュエル申し込むのか?」

 

「おい、馬鹿は余計だぞ颯」

 

「そう言いながらも隊員が気になるってそういうことじゃねぇか!」

 

颯に笑いながら言われるが、図星だ……。

仕方がないだろう。俺にとって唯一自信を持ってできることとすればデュエルくらいだからな。

 

「遊佐さんってデュエルに対してまっすぐなんですね! 少し尊敬です!」

 

しばらくして賤機が目を輝かせながら言ってきた。

 

「そりゃどうも。単純にデュエルが好きなだけだけどな」

 

「まさにSFS隊員の鏡って感じですね! 今度よかったら私ともお手合せをーー」

 

「ちょっと、賤機さん。必要以上な介入はやめていただけますか? あなたは監視に来ているだけなのですから」

 

「え? あ、はい! すみません……」

 

結衣に待ったをかけられて賤機は結衣に頭を下げる。

おいおい、監視に頭下げさせちゃったぞ……。

これ逆に特殊機動班の悪評が広がってしまうんじゃないか……。

 

「結衣、さすがにちょっと賤機に言い過ぎじゃないか?」

 

「遊佐くん。この人は特殊機動班を監視しに来ているんですよ? 馴れ合いなんて不要なはずです」

 

「とは言っても賤機だって喧嘩しに来たわけじゃないだろう? 少しは仲良くしてやったらどうだ?」

 

「仲良くって……。裏で何を企んでいるかもわからないのに仲良くなんて……」

 

結衣の声は徐々に小さくなっていく。

すると隣の賤機が結衣の頭を撫でながら口を開く。

 

「大丈夫ですよ、結衣さん! 私、嘘をつくのが下手なので、裏で何か企むなんてできませんから!」

 

そして、ハキハキとした声で元気よく結衣に向かって言った。

すると結衣は撫でていた手を振り払うと顔を真っ赤にしながら、賤機の方を向く。

 

「ちょっと! 撫でないでください! ま、まぁ……賤機さんは単純そうですし……そんな悪巧みなんてできそうにないですしね。仕方ありません」

 

「ありがとうございます! よろしくお願いしますね! 結衣さん!」

 

「え、ええ……」

 

なんとも真っ直ぐすぎるくらいなせいかの賤機に押され、渋々結衣は了承したようだ。

結衣の皮肉をものともせずまっすぐと喋るその姿は、なんというか眩しいな……。

 

「じゃあ改めて……遊佐さん! 今度デュエルをーー」

 

「ちょっと! 本当にわかっているのですかあなた! 何も変わってないじゃないですか!」

 

「あれ? じゃあ結衣さんからデュエルしますか?」

 

「そういう話じゃないです! あなた馬鹿なんですか!」

 

そんなよくわからないやり取りをしている結衣と賤機の二人を見守りながら車は国防軍へと向かっていったのだった。

 

 

 

ーーーしばらくすると、国防軍の建物が間近に迫ってくる。

軍事基地と呼ぶに相応しい大きな鉄格子のフェンスに囲まれた建物と大きな広場。

そして、そこには戦車や戦闘機等の軍備も整えられていた。

 

デュエルウェポンが広まったとはいえ、戦車や戦闘機の力が強力なことに変わりはない。

もしデュエルウェポンを用いたとしても、十分な腕がなければやられる場合もあるだろう。

長期な戦闘の場合は、こういった旧型兵器が役に立つこともあるかもしれない。

 

「よし、ついたぞ。国防軍真跡支部だ」

 

赤見さんの声に俺たちは車から降り、入口へと向かう。

入口付近にはたくさんの軍服を着た隊員が敬礼をしながらお出迎えしてくれた。

いかにも軍隊という感じだな。つられて俺も隊員に向かって敬礼をしてみる。

 

「遊佐 繋吾くん! 敬礼の仕方がなってない!」

 

「びっくりした……颯かよ」

 

いきなり後ろから大声出されたもんだから思わずビクってなってしまった。

 

「敬礼はこうやるのだよ繋吾くん!」

 

颯はそう言いながら何度も俺に敬礼を見せつけてきた。

まぁ……ピシッとはしているが、俺と大差ない気がするぞ。

 

多くの国防軍の隊員に敬礼されながらも、俺たちは入口を潜りぬけ建物の内部へと入る。

すると前方から3名ほどの隊員が歩いてきた。

中央の一名は他の隊員とは違い、肩章が豪華になっており胸元の勲章のようなものも派手なものがついていた。

上官……と呼ばれる人物だろうか。

官帽を被っているためよく見えないが、おそらく坊主頭だろう。眉毛は太くキリッとしており、力強い印象を受ける。

 

「あなたが……赤見特殊機動班長ですね?」

 

「ええ。SFS特殊機動班長を務めている赤見 仁と申します。あなたは?」

 

「私は国家決闘防衛軍 第1決闘師団一等陸佐の魁偉と申します。お見知りおきください」

 

魁偉と名乗るその人物は頭を下げると、赤見さんと握手を交わす。

あまり国防軍の階級とかはよくわからないが、偉い人なのだろうか。

SFSでいうとどのくらいなんだろうな。

 

「ご丁寧にありがとうございます、魁偉一等陸佐」

 

「いえ、この度は危険な任務お疲れ様でした。かのジェネシスの情報を得たと聞きましたが……」

 

「はい、わずかな情報ではありますが、ジェネシス壊滅に向けて前進はできたかと」

 

「それは楽しみです。それでは長官室へ案内しましょう。こちらへ」

 

魁偉さんの案内の下、俺たちは長官室……つまり国防軍真蹟支部の最高責任者である人物に会うべく部屋へ向かった。

 

しばらく廊下を歩いていると、奥まった通路の先に大きな木製の扉が見えた。

どうやらあそこが長官室のようだ。

 

「つきました。こちらです」

 

魁偉さんはそう言うとドアをノックする。

 

「時田長官。SFSの皆様がいらっしゃいました」

 

「入れ」

 

中から少し年配のような人の声が聞こえると、魁偉さんは扉を開けた。

 

「失礼します」

 

俺たちは赤見さんに続き、ひとりずつ頭を下げて挨拶をしながら部屋に入る。

 

「ではSFSの皆さん、こちらの椅子へどうぞ」

 

魁偉さんに案内され俺たちは大きめのソファへと座った。

ふかふかしていていかにも高級そうなソファだった。

やはり国防軍はお金があるんだな。

 

やがて魁偉さんと時田長官と呼ばれた年配の人物が俺たちの対抗側のソファへと腰を下ろす。

時田長官の制服はまた魁偉さんとも違い肩章や胸元の勲章は金色の大きな花形のようなものがついていた。

きっと最高位の勲章なのだろう。

 

「時田長官、お初にお目にかかります。SFS決闘機動部 特殊機動班長の赤見と申します」

 

赤見さんの挨拶に続き俺たち特殊機動班員と賤機の5名は順番に時田長官へ挨拶をした。

時田長官は頷きながら俺たちを順に見ると満足そうに口を開く。

 

「若い者が多いようで、SFSも顔ぶれが随分とかわりましたな。おっと申し遅れました。私は国家決闘防衛軍の長官を務めている時田と申します。この真跡支部は本部の次に大きな防衛拠点とされていてね。真跡シティのど真ん中に位置する大きな軍事基地だ。ジェネシスの動向を伺うためにいまはこちらに常駐しているのだ。よろしく頼むよ」

 

長官といえば国防軍のトップに立つ人物だ。

本部ではなく支部である真跡シティにいるのも、ジェネシスに対抗するための戦力増強というところなのだろう。

その姿勢からしても国防軍のジェネシスに対する敵視具合が伺えるな。

 

「さて、赤見特殊機動班長。先日は、ジェネシスとの交戦ご苦労様だったな。SFSもかなり被害を受けていたみたいで増援が出せなかったことが悔やまれる」

 

「いえ、これはSFS単独で行った作戦ですから。お気になさらず」

 

「そうか。我々も遠方の出張作戦は無事に成功してね。部隊も真跡支部まで引き上げてきたからしばらくはジェネシスの件については協力させてもらおうと考えているよ」

 

「ありがとうございます。そこで今後の動きについてご相談が……」

 

「なるほどな。ここからは退屈に話になるだろう。魁偉、SFSの客人に施設内の案内でもしてくれたまえ」

 

時田長官は、魁偉さんにそう指示を出し、俺たちに目を向ける。

ここから先は赤見さん達とお話するということだろうか。

 

「結衣、颯、繋吾。せっかく国防軍に来たんだ。少しくらい見学しててもいいだろう。打ち合わせは私と郷田の二人で大丈夫だ。今後の動きについては、時田長官と相談した後で連絡するよ」

 

「わかりました、賤機はどうするんですか?」

 

「私は監視という名目がありますので、赤見班長の打ち合わせを逃すわけにはいきません!」

 

「そういうことらしい。まぁ気にするな、繋吾」

 

赤見さんにもそう言われ俺たちはソファから立ち上がる。

すると魁偉さんが長官室の扉を開け、俺たちに向かってこちらに来るよう手でジェスチャーをし始めた。

 

「SFSの皆さん。こちらへどうぞ」

 

魁偉さんの開けてくれた扉に足を運ぶ。

軍事基地ゆえにもしかしたら俺たちの知らないようなとんでもない兵器とか持っているかもしれないな。

少し楽しみだ。

 

「お前ら、迷子になるんじゃねえぞ?」

 

「郷田じゃねえからなるわけねえだろ! 行ってくるぜ」

 

出て行く間際に郷田さんと颯がちょっとしたいじり合いをする。

作戦中突っ走ってしまう郷田さんに言われたくない気持ちはわからんでもないな。

 

扉が閉まると、魁偉さんはさっそく国防軍の施設案内を始めてくれた。

最初に見た屋外の戦車やヘリコプター。そして、兵舎で休息をする隊員。訓練をする隊員と各々の活動している様子を順に見ていく。

SFSと違って人数規模が桁違いな分、何をするにもかなりの人数だった。

 

特にデュエル訓練場なんかは、デュエルリングがいくつもあり、あちこちでデュエルを行っていた。

デュエルしてみたかったが、魁偉さんがどんどん次の場所へと行ってしまうので、それはできそうになかった。少し残念。

 

続いて、研究室。SFSで言う機器開発班ってところか。

ガラス越しにしか見えず、詳細で何を行っているかまではさすがに見せてくれなかった。

やはり極秘の開発なんかもあるのだろう。

 

そして、最後に来たのは厳重な鉄格子の扉に守られた部屋だった。

他の部屋と違ってかなりのセキュリティにより守られているこの部屋はかなり異質な感じがした。

 

「これは……一体なんの部屋なんですか?」

 

「ここには大事な代物が保管してあります。中まではお見せすることはできませんね……」

 

魁偉さんはそう言うと、その部屋を通り過ぎていく。よほど大事なもので、何があるのかも伝えられないほどということなんだろうか。

 

扉には電子ロックのような端末が設置されているし、部屋全体が金属製の箱のようなものとなっている。

これならデュエルウェポンを用いた攻撃でもそう簡単には壊れないだろう。

 

すごく気になるところだが、機密事項のようだし諦めよう。

 

一通り見終わった俺たちは魁偉さんに休憩室のようなところへ案内された。

中には大きなソファーと高そうな机。

国防軍施設のミニチュアの模型等色々なものが飾られていた。

 

「さて、施設内を回ってお疲れでしょう? しばらくこちらで休んでいてください」

 

「ありがとうございます」

 

俺は魁偉さんに頭を下げる。

 

「長官との打ち合わせはしばらく時間がかかるでしょう。また、終わりましたらお声かけしますので。それでは」

 

魁偉さんはそう言うと部屋を後にした。

 

「いやあすごかったなぁ。戦車とかあんな間近で見たの初めてだぜ!」

 

「ずいぶんとはしゃいでましたね……上地くん」

 

「男はな、こういうのはやっぱり憧れるもんなんだよ結衣ちゃん! そう思うよな繋吾?」

 

「あぁ。見るだけでもやはり感動するものがあるな」

 

戦車とかデュエルリングの規模とかたしかにすごいものが多かったが、俺は最後のあの鉄格子の部屋が気になって仕方が無かった。

国防軍がわざわざ隠すようなものって一体なんなんだろう。

何か新種のとんでもない兵器でもあるのだろうか。

 

「遊佐くん、さっきから考え事してどうしたんですか?」

 

「え? あぁ……ちょっと最後の部屋が気になってな」

 

「最後? あぁ、かなり厳重なセキュリティが施された部屋のことですか。一体何があるんでしょうね」

 

「結衣も気になるのか?」

 

「気にならない……と言ったら嘘にはなりますけど。気にしてもしょうがないじゃないですか。見れないのですし。考えていても時間の無駄ですよ」

 

まぁ……確かにそのとおりだが……。

魁偉さんに頼み込めば見せたりしてくれないかなぁ……。

 

「ま、きっと大事なお宝とかでもあるんだろう? そんなことより繋吾、これすげーぞ! 本物の金でできたトロフィーだってさ!」

 

二人に言われ諦めがついた俺は、颯の発言に呆れながらも休憩室に置かれたものを眺めながら一息つくのだった……。



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Ep43 - 襲来

すごいひさしぶりの更新となってしまいました……。申し訳ないです。
一応ストーリーは考えてあるので、すごい牛歩ペースな更新になるかもしれませんが、よろしくお願いします。


ーー30分ほどした頃だろうか。

部屋の物色も飽き出した頃、俺はソファに座りながら、自分のデッキを眺めていた。

 

颯のやつは喋り疲れたからか、ソファに横になっている。多分寝てるやつだ。

対して結衣のやつは、俺たちと対抗側にあるソファで本を読んでいる。一体どこから持ってきたのやら。

なんか歴史関係の本みたいだ。勉強熱心なことで……。

 

のんびりしている俺たちだったが、突如大きな爆音が聞こえソファから立ち上がる。

爆発したような今の音は……。もしかして……。

 

「遊佐くん。今の音って……」

 

本を机の上に置き、周りを眺めるように結衣が聞いてくる。

どうやら俺と同じことを察したようだ。

 

「デュエルテロの可能性がある。デュエルリングとかでの事故とかならまだいいが……」

 

俺の発言を聞いた結衣はソファから立ち上がり、部屋から出ようとする。

だが、国防軍の施設内がどうなっているかもわからない状態で、一人で出るのは危険だ。

そう思った俺は思わず結衣の腕を掴んだ。

 

「何をするんですか? 離してください。邪魔ですよ遊佐くん」

 

「落ち着け結衣。いまここから出るのは危険だ。国防軍の人の指示を待つか、赤見班長達と合流した方がいい」

 

「まぁ……そうですけど、もしここが襲われたらどうするつもりですか? 退路を絶たれる前に動いた方がマシです」

 

まぁその考えも一理あるな。

 

「だったら俺も行く。ひとりは危険だろう」

 

「ペンダントを持っているあなたが前線に出ては危ないでしょう? やられたらどうするのですか?」

 

「安心しろ、ペンダントは何があっても自分自身で守りきる」

 

「どれだけそれが大事なものかわかっているのですか? あなたはここでじっとしているべきです。いざとなったら上地くんがいますし」

 

肝心な颯のやつは相変わらず寝たままだ。

それはまぁ置いといて……いまの状況ひとりで出歩くのは得策とは思えない。

俺はいいとしても結衣に何かあったらどうするんだ。

 

「あぁ理解はしているさ。だが、もし結衣に何かあったらと思ってな」

 

「……! 私はいいんです! これでもSFS4期生の主席ですから。心配無用です」

 

結衣は俺の発言を聞くと少し照れるような素振りを見せるが、すぐに元の表情へと切り替えると、少しキツめの口調で言った。

 

「わかったよ。じゃあお前がひとりで行ったとしても俺は黙ってついていく」

 

「……はぁ、まったく……。ならば足を引っ張らないでくださいね。この間の襲撃みたいに、あなたを守れる保証はありませんから」

 

「わかってるよ。自分の命は自分で守る。それはそうと颯のやつはどうする? 全然起きないようだが」

 

少し揺らしてみたが、全然起きる気配がなかった。

まったく、こんだけ大きな音が鳴っているというのに呑気なやつだ……。

 

「この休憩室が安全だとも限りませんからね……。放っておくわけにもいきませんか……」

 

颯をどうするか悩んでいると、休憩室の扉が開き数名の男性が部屋へ入り込んできた。

思わず身構えるが、その男性達は国防軍の軍服を着ていた。

どうやら襲撃の主ではなさそうだ。

 

「君たち、大丈夫か?」

 

「はい、何やら大きな爆発音が鳴ったみたいですが何かあったんですか?」

 

「あぁ。国防軍施設に襲撃があったみたいだ。幸い襲撃箇所はここの休憩室の真逆の方角からだからここは安全だろう。君たちはここで避難していてくれ。我々の部隊がここの防衛にあたる」

 

俺たちは客人という立場だから、きっと防衛に人員を割いてくれたのだろう。

それなら確かに安全だろうが……隣の結衣はそんな様子ではなかった。

 

「いえ、私達はSFS所属の身です。戦う術は持っています。襲撃があったのであれば私も戦わせていただきます」

 

「君、その気持ちはわかるが……客人に何かがあったらまずいのだよ。ここはおとなしく避難を……」

 

「来ていただいたところ申し訳ないですが、長官室に私達の仲間がいます。放ってはおけません」

 

長官室から休憩室まではかなりの距離があった。

すなわち……襲撃のあった箇所の近くであることが予想できる。

赤見さん達は……大丈夫だろうか。

 

俺は思わずデュエルウェポンで連絡を取ろうと試みる。

しかし、応答する様子がなかった。もしかして……何か一大事が……。

 

「今、国防軍が全力を上げて、襲撃箇所の迎撃にあたっている。君たちが行かなくても大丈夫だよ」

 

「それでも、私は行かなければいけないんです! すみません、失礼します!」

 

結衣は国防軍の人を避け、部屋の外へと走り出していってしまった。

まったく……あいつの気持ちはわからんでもないが、ひとりで飛び出すのは危険だろう。

 

「すみません、俺もあいつを追わないと……。そこに寝ている奴の防衛を頼まれてくれませんか?」

 

俺は颯のことを指差しながら国防軍の人へ言う。

国防軍の人は少し悩んだ表情をしたが、やがて口を開いた。

 

「おいおい……止めても聞かないんだろう? わかった。だが、我々の指示に従えないのなら、命の保証はできないぞ君」

 

「承知の上です。それでは失礼します」

 

俺も結衣を追うように休憩室の扉から外へと出る。

後ろからは国防軍の人たちのため息が聞こえてきたが、結衣のやつを放っておけない。

しかし、結衣のやつ何を焦っているのだろう。普段のあいつらしくないな。

 

あいつはおそらく……長官室へ向かうはずだ。

先ほど魁偉さんに案内された道を思い出しながら、小走りで廊下を進んでいく。

一応あいつに連絡を取ってみるか……。出るかはわからんけど。

デュエルウェポンで結衣に通信を取ってみる。すると応答する音が聞こえた。

 

「なんですか遊佐くん。今、忙しいので用件なら後で……」

 

「おい、今どこにいる? 一人は危険だと言ってるだろう」

 

「大丈夫です。単独行動は慣れてますし、デュエルに負けるつもりはありませんから」

 

相変わらず相当な自信を持っているようだな。

だが、正直俺も飛び出してきてしまった以上、誰かしらと合流はしておきたいところだ。

あいつは赤見さんのことを絶大に信用している。つまり今回の行動要因はおそらくそれだと思う。

そっちの方向で攻めてみるか……。

 

「わかってるよ。だがな、俺は赤見さんのことが心配だ。おそらく襲撃箇所は長官室から近いところだと思う。結衣もそれがわかっていての行動なんだろう?」

 

「……遊佐くんにしては頭が回りますね。そうです。だからこそ今そちらに向かっているんです。だけど……」

 

「ん……?」

 

するとデュエルウェポン越しに大きな爆発音や衝突音が聞こえてきた。

向こうは交戦中なのかもしれない。

 

「相手はテロリストです。もし遊佐くんやペンダントに何かあって最悪の結末を迎えたとしても私は一切責任を持ちませんから。それでも合流したいというのならデュエルウェポンのGPS機能を駆使して頑張ってください。それでは」

 

そう言うと結衣との通信は終わった。

まぁあいつが言うとおり結衣は一人でも大丈夫なのかもしれないが、今ここで何が起こっているのかは気になるところだ。

あいつを追いかけていけば、きっと何かわかるだろう。

 

結衣の現在地を地図機能とリンクさせながら合流すべく廊下を進んでいくと、徐々に爆発音等が大きくなってきて、周辺にも倒れている人の姿が見えてきた。

襲撃箇所にだいぶ近づいてきたか……? 地図上でも結衣の位置とだいぶ近いところまで来たみたいだ。

 

通路から曲がり際を見ると、案の定結衣の姿があり、その前には【竜血鬼ドラギュラス】と【ゴーストリックの駄天使】の姿があった。

さらに周辺には倒れている襲撃者の数々。順調に敵を無力化しているようだった。

 

俺の存在に気がついた結衣は俺に向かって攻撃をしようとデュエルウェポンを構えるが、誰であるのか把握したらしくその手を下げた。

 

「なんだ、遊佐くんですか。危うく攻撃するところでした」

 

「随分と派手にやってるな」

 

「ええ。相手が相手ですからね」

 

こいつらはどこのテロ組織だろう。やはり……ジェネシスだろうか。

 

「国防軍の人の大半は襲撃があったであろう長官室に向かっているみたいですが……襲撃者を見ていると一部の人はどうやら違うところに向かっているみたいですね」

 

「違うところ? 狙いは長官室だけではないということか」

 

「そうみたいですね、私の推測が正しければおそらく……あの部屋だと思います」

 

「あの部屋……なるほど」

 

結衣が指差す先には、あの鉄格子の扉で守られていた部屋があった。

先ほど見学した時とは違い、その扉は既に開けられており、侵入を許しているようだった。

 

「既にやられていますね。おそらく長官室への襲撃は囮です。本命はここ……。襲撃者を追ってきて正解でした」

 

「お前……乗り込むつもりか?」

 

「はい、好き勝手されてはまずいものでしょうし」

 

「まぁ……そうだな。だが、国防軍の人に連絡しなくていいのか?

 

「既に侵入を許しているのにそんな時間があるわけないじゃないですか」

 

まぁ……たしかに。

それに中に何があるのか気になっていたところだ。

 

「危険ですから遊佐くんは避難でもしててください。私がなんとかしてきますから」

 

「おい、そういうわけには……それに赤見さんたちはどうするんだ?」

 

「赤見班長なら大丈夫です。それでは」

 

「大丈夫って……おい!」

 

結衣のやつはまた俺の言葉を聞く間もなくその部屋に向かって走り出してしまった。

まったく……俺も行くか。

 

するとデュエルウェポンから着信音が聞こえてきた。

主は赤見さんだ。どうやら無事みたいだ。

 

「遊佐です。赤見さん大丈夫ですか?」

 

「ああ。ということは事情はわかっているみたいだな。テロリストによる襲撃があった。時田長官の避難に協力していた関係で連絡が取れなかった。すまない」

 

「よかった……。無事で安心しました」

 

「心配無用だよ。こっちは長官室の敵を無力化して、逃げている奴らとの戦闘を始めたところだ。繋吾は大丈夫か?」

 

「俺は大丈夫ですが……結衣の奴がテロリストに狙われている部屋へ単身突入していて……」

 

「なに……? 狙われている部屋だと……? なるほどな。こっちに幹部クラスの構成員がいなかったのはそういうことだったか……」

 

「どういうことですか!? 赤見さん」

 

「いや、今回の襲撃はどうやらジェネシスのようなんだ。長官の命を狙いに来たのならこっちに戦力を割いてると思ったが、大したことはなかった。つまり、そっちに誰かいるはずだ。このままじゃ結衣が危ない……」

 

「わかりました。俺が向かいます!」

 

「……そうだな。気をつけろよ。私もすぐに向かう!」

 

「はい! 失礼します!」

 

前の襲撃で会ったデントにオリバー。そしてリリィ。さらには赤見さんと交渉をしていたネロ。

そのいずれか……もしくは全員がいる可能性だってある。そんな場だとしたら結衣一人では太刀打ちできるわけがない。

赤見さんとの通信を終えた俺は結衣を追うべくその部屋へと走り出した。

 

 



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Ep44 - 足止め

その部屋までそこまで距離はなかった。

全力で走っていたからかあっという間にその部屋の前までたどり着く。

部屋に入ろうと入口の前へ向かったが、それと同時に部屋の中から一瞬眩い光が見えると、俺の体を目掛けて何かが接近してくるのがわかった。

 

避けようと思った時には既に遅く、脇腹あたりに大きな痛みが走った。

デュエルウェポンによって生み出された銃弾か何かだろうか。

俺がデュエルウェポンを持っていなければ今頃血だらけになっているところだろう。

 

「っぐ……」

 

衝撃に耐え切れず俺はその場に膝立ちとなるが、すぐに入口付近の壁にもたれかかるようにして身を潜めた。

いきなり入口正面に向かったのは迂闊だったか……。部屋に敵がいたのは明白だったからな。

 

俺は少し気を落ち着かせた後に入口に頭だけを出し、部屋の中の様子を伺った。

 

中には様々な機器が並べられていたが、あちこちから煙が蔓延していて、既にその機能は失われているようだった。

おそらくもう襲撃者の手によって破壊されてしまったのだろう。

 

部屋を眺めていると機器の間から再び眩い光が発光したと同時にこちらに向かってまた銃弾のようななにかが発射された。

今回は壁に身を隠していたせいか、俺の体に当たることはなかった。

 

とりあえず部屋に入るには中にいる奴らをなんとかしなければならないというところか。

 

だが、いまの攻撃のおかげでどの機器に奴らが潜んでいるかは大体把握できた。

そこに向かって攻撃すれば無力化できるかもしれない。やってみるか。

 

俺は腰に身につけているカードホルダーから数枚のカードを取り出し、デュエルウェポンへとセットする。

思惑通りうまく攻撃が通れば……奴が攻撃した直後の隙を狙って一気に畳み掛けてやる……!

 

奴らの攻撃が終わったタイミングで俺は部屋の中に乗り込み、一枚のカードを発動させた。

 

「罠カード【閃光弾】!」

 

それは文字通り閃光弾。

発動と同時にあたりに眩い光を照らし出す。

俺はそれに合わせて手で目を覆い、自らのダメージを防いだ。対して相手からは一切追撃がない。

おそらく閃光弾を直視してしまったのだろう。無事視覚への攻撃には成功したみたいだ。

 

走って相手に接近しながら俺は次のカードを準備しだす。

 

「来い! 【コード・トーカー】! そして、【パイナップル爆弾】を発動!」

 

すると、俺の目の前には白き剣を手に持つ人型モンスターと、それなりの大きさを持った手榴弾のようなものが出現した。

今回みたいな室内だと大型モンスターは身動きがうまくとれず本来の力を発揮できない。

すなわち【コード・トーカー】のような比較的小さめのモンスターの方がうまく操れる。

これはSFS内でやった訓練で教わった知識だ。

 

この室内の中でも俊敏に動けるモンスターなら、相手の反撃を受ける前に無力化できるはずだ。

 

俺は手始めに手に持つ【パイナップル爆弾】を相手の隠れているであろう機器の向こう側へ投げる。

しばらくすると大きな爆発と共にあたりに破片が飛び散った。

 

もちろん俺の方へも飛んできたほどの爆発だったが、【コード・トーカー】が爆風から守ってくれたおかげで俺は無傷だ。

さすがに【コード・トーカー】は爆風くらいびくともしないようだ。

 

「いけ、【コード・トーカー】! 奴らを切り裂け! "イノセント・スラッシュ"!」

 

念には念をだ。

相手が反撃してこないところを見ると、デュエルウェポンでの反撃ができないほどにダメージを与えられたに違いない。

だが、まだ何があるかはわからないからな。

 

しばらくすると、部屋の中に何名かの男性の悲鳴が聞こえてくる。

 

その声を確認し、俺は機器の裏側を見てみると、そこには3名の襲撃者であろう人物が横たわっていた。

うまくいったみたいだ。

 

さてと……。無事にここの部屋の敵は無力化できたわけだが……結衣のやつは一体どこに行ったんだ。

これだけ敵がいるんじゃこの中はもっと危険な状態ということだろう。

 

あたりを見渡すとさらに奥へ通じる扉があった。

あの先にきっと結衣が……。

 

「【ヴァンパイア・ロード】。やれ!」

 

突如男の叫び声が聞こえると、俺に向かって吸血鬼のようなモンスターが襲いかかってきた。

まだこの部屋の中に敵がいたのか……!

 

俺は迎撃準備が取れていなかったため、咄嗟にデュエルウェポンを盾代わりにすべく体を覆う。

だが、その攻撃は既に召喚していた【コード・トーカー】が受け止めてくれていた。

 

大きな衝突音が鳴ったと同時に、【コード・トーカー】は破壊され目の前から消滅する。

このままではまずい……何かモンスターを召喚しないと……!

 

気がつくと相手は既にこちらとの距離をだいぶ詰めていた。

まさか……。やつの狙いは……!

 

デュエルウェポンを見るとそこにはデュエルモードの表示がなされていた。

今の一瞬の隙を狙ってやつはデュエルを仕掛けてきたみたいだ。

 

くそっ! 俺はすぐにでも奥の部屋へ向かわなければいけないというのに!

さっさとこいつを倒さないと。

 

「ふふふ……まだ作業が完了してないのでね。これ以上作業の邪魔をされては困るのだよ」

 

「なんだと……?」

 

奥で何かをやっているのは間違いない。

おそらく俺の足止めをするためにデュエルを仕掛けてきたに違いないな。

仕方がない。デュエルモードになってしまった以上、こいつを倒すしかないか。

 

「さて、デュエルといこう。国防軍のお手並み拝見だ」

 

なるほど。俺の事を国防軍の隊員か何かと勘違いしているらしい。

まぁわざわざこいつに正体を教える気はないし、気にしないでおこう。

 

「望むところよ、とっとと終わらせる! デュエル!」

 

繋吾 手札5 LP4000

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

テロリスト 手札5 LP4000

 

先攻は俺のようだ。

ささっと終わらせて相手の出方を見よう。

 

「俺のターン。モンスターをセット。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

繋吾 手札3 LP4000

ーー裏ーー

ーー裏ーー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

テロリスト 手札5 LP4000

 

「随分と焦っているようだな、ふふふ。私のターン、ドロー! 【ヴァンパイアの眷属】を召喚!」

 

ーーー

【ヴァンパイアの眷属】☆2 闇 アンデット ③

ATK/1200

ーーー

 

「そして、永続魔法【ヴァンパイアの領域】を発動。1ターンに1度、ライフを500支払うことで、もう一度"ヴァンパイア"モンスターを召喚することができる。これにより、【ヴァンパイアの眷属】をリリースして、【ヴァンパイア・グレイス】をアドバンス召喚!」

 

ーーー

【ヴァンパイア・グレイス】☆6 闇 アンデット ③

ATK/2000

ーーー

 

優雅ながらも不気味さを感じる暗黒のローブに身を纏った老いた婦人のようなモンスターが出現した。

 

「さらに私は墓地の【ヴァンパイアの眷属】の効果発動! 手札またフィールドから"ヴァンパイア"カードを墓地へ送ることで、このカードを墓地から復活させることができる! 手札の【ヴァンパイア・ロード】を墓地へ送り蘇れ! 【ヴァンパイアの眷属】!」

 

ーーー

【ヴァンパイアの眷属】☆2 闇 アンデット ④

ATK/1200

ーーー

 

「蘇った【ヴァンパイアの眷属】の効果発動! ライフを500支払うことでデッキから"ヴァンパイア"魔法もしくは罠カードを手札に加えることができる。私はフィールド魔法、【ヴァンパイア帝国】を手札に加え、これを発動!」

 

奴がフィールド魔法を発動すると先ほどまで機械だらけの部屋だったのがあっという間に邪悪なお城へと姿を変える。

古びた洋風チックなその内装は静まり返っておりなんというかホラーな印象を受ける。

 

「さて……それでは吸血タイムだ。【ヴァンパイア・グレイス】の効果発動! カードの種類を宣言し、相手はデッキから選択した種類のカードを墓地へ送らなければならない。私は"魔法カード"を選択しよう」

 

俺のデッキからカードを墓地へ……?

狙いがよくわからないがさすがにモンスターカードは墓地へ送らせてくれないようだ。

 

「いいだろう。ならば俺は魔法カード【調律】を墓地へ送る」

 

「ふふふ……ここからが本番だ……。この瞬間、フィールド魔法【ヴァンパイア帝国】の効果発動! 相手のデッキからカードが墓地へ送られた時、デッキから"ヴァンパイア"カードを墓地へ送ることで、相手の場のカード1枚を破壊する!」

 

「なに……?!」

 

なるほど、この効果に繋げることが目的だったか。

 

「私はデッキの【ヴァンパイア・ソーサラー】を墓地へ送り、お前のモンスターを破壊する!」

 

「くっ……」

 

俺の伏せモンスターが赤い月に照らされ発光すると、そのまま爆発してしまった。

伏せていたモンスターは【ジェット・シンクロン】。何事もなく破壊されてしまった。

 

「さぁて……バトルだ! 【ヴァンパイアの眷属】でダイレクトアタック! 【ヴァンパイア帝国】がある限り、アンデット族がバトルを行う場合その攻撃力は500ポイントアップする! 引き裂かれよ!」

 

【ヴァンパイアの眷属】

ATK/1200→1700

 

白と黒の対照的な模様をし、赤い目をぎらぎらと光らせた犬のようなモンスターが俺に近づくとその鋭利な爪で引き裂いてくる。

思わず両手でその攻撃から守ろうとするが、デュエルウェポンにおけるダメージにおいてはまったく意味がなかった。

 

「うぅ……ぐっ」

 

繋吾 LP4000→2300

 

「ふはははは、君のライフおいしくいただこうかね。永続魔法【ヴァンパイアの領域】がある限り、"ヴァンパイア"モンスターが与えたダメージ分、私はライフを回復する!」

 

テロリスト LP3000→4700

 

「つまり……先ほどのライフコスト分はチャラってことか」

 

「その通りだ! 君の命はおいしくいただかせてもらうよ?」

 

「くっ……気味の悪いやつだ」

 

「ふふふ……続けて、【ヴァンパイア・グレイス】でダイレクトアタック! こいつも例外なく攻撃力が500ポイントアップする!」

 

【ヴァンパイア・グレイス】

ATK/2000→2500

 

続けて【ヴァンパイア・グレイス】が大きな杖から紫色をした球体を生み出すと、それを放ってきた。

これをくらったら俺の負けだ。こんな早くにくたばるわけにはいかない!

 

「リバースカードオープン! 【トゥルース・リインフォース】を発動! デッキからレベル2以下の戦士族モンスター、【ドッペル・ウォリアー】を守備表示で特殊召喚!」

 

ーーー

【ドッペル・ウォリアー】☆2 闇 戦士 ③

DEF/400

ーーー

 

「壁モンスターを用意したか。だが、無意味だ。やれ、【ヴァンパイア・グレイス】!」

 

俺を守るように出現した【ドッペル・ウォリアー】が紫色の球体を受け止め、その衝撃で破壊されてしまった。

 

「ふふふ、私はカードを1枚伏せてターンを終了しよう」

 

繋吾 手札3 LP2300

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー

ーーモモーフ

ーー裏魔ー

テロリスト 手札1 LP4700

 

奴は自信満々そうにターンを終了した。

おそらくあの伏せカードはこちらの動きや攻撃を妨害するようなカードだろう。

きっとあの自信は万全な構えから来ているに違いない。

あの布陣をどうくぐり抜けるか……ひとつ間違えれば負けてしまう可能性だってある。

こんなところで負けるわけにはいかない。なんとかして奴の伏せカードをくぐり抜けて攻めなければ……。

 

「いくぞ、俺のターンドロー! 手札から【ジャンク・シンクロン】を召喚! このカードは召喚に成功した時、墓地からレベル2以下のモンスターを守備表示で特殊召喚できる!」

 

「甘い! リバースカードオープン! カウンター罠【ヴァンパイアの支配】を発動! 相手のモンスター効果を無効にし破壊する!」

 

「なに!?」

 

召喚したはずの【ジャンク・シンクロン】の姿が石化すると、粉々に砕け散っていってしまった。

 

「それだけではない! 破壊したモンスターの攻撃力分、私のライフを回復する」

 

テロリスト

LP4700→LP6000

 

さらにライフポイントに差を付けられてしまった……。

くそ! 早く結衣の下へ行かなければいけないのに、時間稼ぎしやがって……。

 

「さぁ……どうする? ターンエンドすれば早く楽になれるぞ?」

 

「馬鹿言え! 舐めてもらっては困る。俺は墓地の【ジャンク・シンクロン】を除外して、手札から【輝白竜ワイバースター】を特殊召喚! そして、手札の【ダンディ・ライオン】を捨てることで、墓地から【ジェット・シンクロン】を特殊召喚! さらに手札から墓地へ送られた【ダンディ・ライオン】の効果で、場に【綿毛トークン】2体を特殊召喚させる!」

 

「んな! まだそこまでの展開力が……!」

 

ーーー

【輝白竜ワイバースター】☆4 光 ドラゴン ③

ATK/1700

ーーー

【ジェット・シンクロン】☆1 炎 機械 ④ チューナー

DEF/0

ーーー

【綿毛トークン】☆1 風 植物 ①と②

DEF/0

ーーー

 

「俺はレベル4の【輝白竜ワイバースター】にレベル1の【ジェット・シンクロン】をチューニング! "生誕する意思の力よ! 星々の呼応の下に具象せよ! シンクロ召喚! 来てくれ、【源竜星ーボウテンコウ】!"」

 

ーーー

【源竜星ーボウテンコウ】☆5 光 幻竜族 ① チューナー

DEF/2800

ーーー

 

「【ボウテンコウ】の効果により、デッキから【竜星の軌跡】を手札に加え、【ワイバースター】の効果により、デッキから【暗黒竜コラプサーペント】を手札に加える! さらにレベル1の【綿毛トークン】2体に、レベル5の【ボウテンコウ】をチューニング! "邪悪なる魂より目覚めし争心よ! 星々の呼応の下に具象せよ! シンクロ召喚! 来てくれ、【邪竜星ーガイザー】!」

 

ーーー

【邪竜星ーガイザー】☆7 闇 幻竜 ①

ATK/2600

ーーー

 

「くっ……強力なモンスターをシンクロ召喚してきやがったか……」

 

「それだけじゃない。シンクロ素材となった【ボウテンコウ】の更なる効果! デッキから【光竜星ーリフン】を守備表示で特殊召喚!」

 

ーーー

【光竜星ーリフン】☆1 光 幻竜 ① チューナー

DEF/0

ーーー

 

「チューナーということは……まさかお前!」

 

「あぁ、俺の竜星たちの繋がる魂はさらに昇華する! レベル7の【邪竜星ーガイザー】にレベル1の【光竜星ーリフン】をチューニング! "神聖なる輝きより昇華する輪廻の力よ! 星々の呼応の下に具象せよ! シンクロ召喚! 来てくれ、【輝竜星ーショウフク】!」

 

ーーー

【輝竜星ーショウフク】☆8 光 幻竜 ①

ATK/2300

ーーー

 

「1ターンで3連続シンクロ召喚を行ってくるとは……。だが、その程度の攻撃力では恐るに足らんな!」

 

「このカードは竜星たちの繋がりの終着点! その効果を受けてもらう! 【ショウフク】の効果発動! シンクロ素材とした幻竜族モンスターの属性の数まで、相手モンスターをデッキに戻すことができる! 素材にした属性は2種類。よってお前のモンスター2体をデッキに戻させてもらう。"セイヴィング・プロシード!"」

 

【ショウフク】が自らの大きな翼を羽ばたかせるとそこから真っ白に輝く無数の星が出現し、ヴァンパイアモンスターたちを包み込む。

やがて、包み込まれたモンスターたちは白い球体となるとテロリストのデュエルウェポンへと吸収されていった。

 

「これでは……ガラ空きではないか!」

 

「一気に畳み掛ける! さらに墓地の【輝白竜ワイバースター】を除外して、手札から【暗黒竜コラプサーペント】を特殊召喚し、バトルフェイズ! 2体のモンスターでダイレクトアタック!」

 

【輝竜星ーショウフク】

ATK/2300

【暗黒竜コラプサーペント】

ATK/1800

 

【ショウフク】と【コラプサーペント】の2体は口からそれぞれ大きな球体のようなものをテロリストに向かって放つ。

その二つを直撃したテロリストは大きく吹っ飛ばされ、部屋の冷たい金属製の壁に衝突した後に地面へと崩れ落ちた。

 

「ぐおわああ!」

 

テロリスト LP6000→LP1900

 

その合計攻撃力は通常のライフポイントである4000ポイントを凌駕している大ダメージであったが、既にライフポイントを多く回復しているテロリストにとっては、致命傷ではあったもののライフポイントがなくなるには至らなかった。

だが、既にやつは手札も消耗している。次のターンに確実に倒しきってみせる。

 

「ライフポイントを回復しておいて命拾いしたな。だが、次のターン必ず倒す。俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

繋吾 手札1 LP2300

ーー裏ーー

ーーモーー

 シ ー

ーーーーーフ

ーーー魔ー

テロリスト 手札1 LP1900

 

「ふふふ……。ふふふふふ……」

 

ターンエンド宣言して間もなくテロリストは急に笑い出す。

自らの敗北を目の前におかしくなってしまったのだろうか。

 

「何がおかしい」

 

「次のターン私を倒すなど甘いことを言ってることがおかしくてな」

 

「なに?」

 

「私はね。時間稼ぎに来たんだよ……。それが私の今作戦の役割だ。だから私はお前に勝つつもりも負けるつもりもない。ふふふ……」

 

奥の部屋への侵入を防ぐために時間を稼ぐってことなのか……?

いやだが、例えあいつが時間稼ぎをしようとしていたとしても、自らのデュエルでそれをたたきつぶせばいいだけだ。

惑わされるな。奥には結衣が一人で戦っている。こんなところでモタモタしてはいられない。

 

「私のターン、ドロー! モンスターをセット、カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

繋吾 手札1 LP2300

ーー裏ーー

ーーモーー

 シ ー

ーー裏ーーフ

ーー裏魔ー

テロリスト 手札0 LP1900

 

宣言どおり、やつは守りに徹してきた。

伏せカードとモンスターを駆使して俺の攻撃を止めるつもりだろう。

くそ! 【ショウフク】の効果を使うタイミングを見誤ったか……?

だけど、考えていても仕方がない。

ここは迅速に攻撃を続け早めにターンを渡そう。

 

「俺のターン、ドロー! 罠カード【リビングデッドの呼び声】を発動。墓地から【邪竜星ーガイザー】を特殊召喚!」

 

ーーー

【邪竜星ーガイザー】☆7 闇 幻竜 ②

ATK/2600

ーーー

 

「さらに【ブースト・ウォリアー】を召喚! 【ショウフク】の効果発動! 自分の場のカード1枚を破壊し、墓地からレベル4以下のモンスターを特殊召喚する。俺は【ブースト・ウォリアー】を破壊し、墓地から【光竜星ーりフン】を特殊召喚!」

 

ーーー

【光竜星ーリフン】☆4 光 幻竜 ④ チューナー

ATK/0

ーーー

 

「そして、【邪竜星ーガイザー】の効果発動! 自分の場の"竜星"カードと相手の場のカード1枚を選択して破壊する! 俺の【リフン】とお前の伏せカードを破壊する! "ローグ・ディストラクション!"」

 

「私の【スケープ・ゴート】が破壊される」

 

あのカードは場にトークンモンスターを4体生成するカード。

一気に壁を並べられるカードではあるが、あのカードはいつでも発動できるはずだ。

なぜ使ってこなかったのだろう……?

 

「【リフン】が破壊されたことで効果発動。デッキから【闇竜星ージョクト】を守備表示で特殊召喚!」

 

ーーー

【闇竜星ージョクト】☆2 闇 幻竜 ④ チューナー

DEF/2000

ーーー

 

「バトル! 【ショウフク】でセットモンスターに攻撃! "ホーリー・ジャッジメント!"」

 

白き光線がセットモンスターに向かって放たれる。

しかし、そのモンスターが破壊されると同時にやつの場には亡霊のようなモンスターが大量に出現した。

これは一体……。

 

「私のモンスターは【スケープ・ゴースト】。このカードがリバースした時、場に【黒羊トークン】を可能な限り特殊召喚できる。ふふふ……」

 

ーーー

【黒羊トークン】☆1 闇 アンデット ①と②と④と⑤

DEF/0

ーーー

 

4体ものモンスターが増えてしまった……。これではこのターンはライフを削ることはできない。

 

「【ガイザー】、【コラプサーペント】。それぞれ【黒羊トークン】を攻撃!」

 

3体の強力な攻撃を受け、【黒羊トークン】は残り2体となる。

次のターンこそは……!

 

「俺はターンエンドだ」

 

繋吾 手札1 LP2300

ーー罠ーー

ーシモモー

 シ ー

ーーーモモフ

ーーー魔ー

テロリスト 手札0 LP1900

 

「私のターン、ドロー! これはいいカードだ。私はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

くそ! きっと時間稼ぎをするようなカードを引いたに違いない。

とっとと破壊してこのデュエルを終わらせる!

 

「俺のターン、ドロー! 【ガイザー】の効果で俺の場の【ジョクト】とその伏せカードを破壊する! "ローグ・ディストラクション!"」

 

「ならばチェーンして罠カード発動! 【和睦の使者】! これでこのターン私のモンスターは破壊されず、戦闘ダメージも受けない!」

 

「くそっ……! これではまた攻撃が……」

 

これではもうこのターンあいつに戦闘ダメージを与えることはできない……。

どうするか考えていると俺のデュエルウェポンから救難信号の連絡が鳴り響いた。

信号の場所は今の場所から数十メートル……まさか結衣か!

これは早くしないと取り返しのつかないことに……。

どうする……戦闘ダメージ以外でやつのライフを削る方法は……!

 

ダメだ。俺のデッキには効果ダメージを与えるカードなんてあまり入っていない。

やつの防御が崩れるまで攻め続けるしかないのか……。

 

いや待てよ……。奴の手札は0枚。新たなる防御カードさえなんとかすれば今のフィールドの状況では守りきることはできないはずだ。

それならば……俺にはまだ次のターンに確実に突破する方法が残されている!

 

「ふふふ……。さぁさぁまだまだデュエルは始まったばかりだ。じっくり付き合ってもらうぞ?」

 

「いや、残念だが俺はもう飽きてしまった。次のターンで正真正銘の最後だ」

 

「なにを言っている? 私のデッキは半分以上が防御カードの時間稼ぎ用デッキ。そう簡単にはデュエルは終わらない」

 

「それはどうかな! まずは【ジョクト】が破壊されたことでデッキから【光竜星ーリフン】を特殊召喚! そして来てくれ、心を繋ぐサーキット! 俺は【ショウフク】と【ガイザー】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚! 無垢なる剣、【コード・トーカー】!」

 

ーーー

【コード・トーカー】リンク2 闇 サイバース ②

ATK/1300

ーーー

 

「そして魔法カード【竜星の軌跡】を発動! 墓地の【ショウフク】、【ガイザー】、【ボウテンコウ】の3体をデッキに戻し、新たにカードを2枚ドローする! そして、レベル4の【コラプサーペント】にレベル1の【リフン】をチューニング! シンクロ召喚! 再び来い【源竜星ーボウテンコウ】!」

 

ーーー

【源竜星ーボウテンコウ】☆5 光 幻竜 ②

DEF/2800

ーーー

 

「【ボウテンコウ】の効果で、デッキから【竜星の九支】を手札に加える! さらに【コラプサーペント】の効果でデッキから【輝白竜ワイバースター】を手札に加えた後にカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

繋吾 手札3 LP2300

ー裏罠裏ー

ーーーシー

 ー リ

ーーーモモフ

ーーー魔ー

テロリスト 手札0 LP1900

 

「私のターン、ドロー! 魔法カード【一時休戦】を発動! このカードの効果にーー」

 

「これ以上お前に時間稼ぎはさせない! カウンター罠【竜星の九支】発動! 相手のカードの発動を無効にし、そのカードをデッキに戻す! これで終わりだ!」

 

「馬鹿な! これでは時間稼ぎが……!」

 

「その後、俺の場の竜星カード【ボウテンコウ】を破壊する。さぁとっととターンエンドしろ」

 

「うぐぐ……ターンエンドだ」

 

よし、これで最後のターンだ!

引導を渡してやる!

 

「俺のターン、ドロー! 墓地から【暗黒竜コラプサーペント】を除外し、手札から【輝白竜ワイバースター】を特殊召喚! そして、【ナイトドラゴリッチ】を通常召喚。そして、この2体をリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン! リンク召喚、リンク2。【ペンテスタッグ】!」

 

ーーー

【ペンテスタッグ】リンク2 闇 サイバース ④

ATK/1600

ーーー

 

「【ペンテスタッグ】がいる限り、場のリンク状態のモンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が上回っていれば貫通ダメージを与える!」

 

「なんだと……!?」

 

「バトルだ、【コード・トーカー】で【黒羊トークン】を攻撃! 【コード・トーカー】のリンク先にはお前の【黒羊トークン】と【ペンテスタッグ】が存在している。したがって、攻撃力は1000ポイントアップ! 終わりだ! "イノセント・スラッシュ!"」

 

【コード・トーカー】

ATK/1300→2300

【黒羊トークン】

DEF/0

 

【コード・トーカー】は赤色のオーラのようなものを纏った純白の剣を構え、素早く【黒羊トークン】へと接近すると、大きく跳躍しながらその体を引き裂いた。

その引き裂く際に大きな衝撃波が発生し、同時にテロリストへと襲いかかる。

 

「へへへ……これでも時間稼ぎは十分だ……ぐおわあああ!」

 

テロリスト LP1900→LP0

 

少し時間がかかってしまったが、勝つことができた。

それにしても時間稼ぎのためにデュエルを使うなんてとんでもないやつだな。

攻めてこない分逆にトドメもさしづらいといったところか。

さて、のんびりしている暇はない。救難信号が出ているということは一刻を争う状況に違いない。

 

俺はデュエルウェポンを構え直し、奥の部屋へと走った。

頼むから生きていてくれよ……結衣……!

 

 

 



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Ep45 - 令嬢の機龍 前編

ーーはぁ。さすがにこれだけの敵を相手にすれば疲れるな。

私の周りには多くの襲撃者達が転がっている。

 

赤見さんから連絡があったことに安心し、私は自らのカンを信じて厳重なセキュリティによって阻まれていたはずの部屋にはいった。

嫌な予感がしたからもしものことを考えて遊佐くんは置いてきたけど……案の定予想は的中し、部屋の中は既に襲撃者たちによって多くの機器が破壊されていた。

 

なぜここまでしてここを狙うのか、私はその目的を確かめるべく部屋の奥まで進んだが、当然のようにそこには襲撃者達が待ち受けていた。

そして、しばらくの交戦の末、それなりのダメージは受けたけども全て無力化することに成功したのだ。

ただ……ひとりを除いては。

 

「あらあら? 国防軍にもこんなに優秀な可愛い子がいたのね」

 

その人物は茶髪にゴシックな雰囲気のドレスを着たひとりの女性。

この戦場でドレスを着用しているなんて、どう考えてもおかしい。

それと私は国防軍ではないのだけども……。それはどうでもいい話か。

 

「あなた……何をしているのですか」

 

その言葉を聞いた女性は、首を傾げると私のことを不思議そうな表情で見つめてきた。

やっぱり変人なのかな。ジェネシスに入る人なんて、まともな人がいるわけないだろうし……。

まだ、遊佐くんとか上地くんとかのがマシに思えてくるくらい。

 

「あれ、あなた国防軍なのにこの部屋のこと知らないんだ? なるほどー、これの話は一般の人には開示されてないってことね?」

 

そう言いながら女性は赤く輝くペンダントをちらつかせた。

あれはもしかして……遊佐くんが持っていたペンダントと似たようなもの……?

まさかこの部屋にはあのペンダントが保管されていて、それを悪用されないように国防軍が守っていたってこと?

ジェネシスの人たちは遊佐くんのペンダントを狙っていたし、今回の襲撃もそれが狙いだったのかもしれない。

だけどなんでこのタイミングで……。今ここの近くには遊佐くんもいる。

国防軍に出張に来てたことは奴らが知っているわけないし、本当に運が悪かったってことなのかな。

 

「なにか色々と考えているみたいだけど、私の用は済んだし、そこどいてくれるかな? 君」

 

仮にこの女性と遊佐くんが鉢合わせになったら大変なことになるだろうし、あれだけ大事に守られてたペンダントを持っていかれるわけにはいかない。

私がここで止めないと……。ちょっと不安だけど大丈夫。私はSFSの隊員の中でも優秀なんだから。野薔薇さんや賤機さんよりもずっと優秀。

自分を信じるのよ結衣。ここまでの襲撃者だって大した奴はいなかったし、この変な女性だって倒せるはず。

 

「あいにく退くつもりはありません。そのペンダントを返してもらいましょうか」

 

私はデュエルウェポンを構えながら、出口を塞ぐように立ち塞がる。

デュエルなら時間も稼げるし、この女性を完全に無力化できる。

 

「やっぱりそうなっちゃうか。いいよ、やりましょうかデュエル! 後悔しても知らないけどね!」

 

あのペンダントはきっと重要な何かがあるに違いない。

ここでジェネシスを全て無力化して……そうすれば……監視の賤機さんも黙らせられそうだし、遊佐くんも……いや、そんなことはどうでもいい。

赤見班長に吉報を伝えてみせる!

 

「望むところです。行きますよ」

 

「デュエル!」

 

結衣 手札5 LP4000

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

茶髪の女性 手札5 LP4000

 

先攻は私みたいだ。

私は後攻よりも先攻が得意だ。

いくらでも罠を伏せ放題だし、これはいいスタートが切れる気がする。

 

「先攻はいただきます。私のターン、モンスターをセット、カードを2枚伏せて、ターンエンドです」

 

万全の体制だ。

これならばよほどのことがない限りは大丈夫だろう。

 

結衣 手札2 LP4000

ー裏裏ーー

ーー裏ーー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

茶髪の女性 手札5 LP4000

 

「けっこう固いデュエルするのね? 私のターン、ドロー!」

 

女性はドローしたカードを見ながら不敵な笑みを浮かべる。

どんな戦術で来ようと、迎え撃つ準備は整ってる。私の力を思い知らせてやる。

 

「自信満々な様子ね。だけどこれはどうかしら? 魔法カード【ハーピィの羽箒】を発動! 相手の場の魔法、罠カードを全て破壊する。あなたの伏せカードはさよならね?」

 

「なっ!?」

 

大きな竜巻が発生すると、その竜巻は私の伏せカードへ襲い掛かり、たちまち木っ端微塵に破壊されていく。

私の伏せカードは【迷い風】と【びっくり箱】。相手のモンスター効果を無力化できるカードと、相手の攻撃を止めつつ、除去することができる優秀な罠カードだ。

だけど、その発動すべき対象がいない状況であるため、発動も許されずに破壊されてしまう。

 

少し慎重になりすぎたかもしれない……。1ターン目はやはりモンスターをセットしただけの方がよかっただろうか。

後悔しても仕方がない。まだデュエルは始まったばかりだし、いくらでも立て直しは効くはずだ。

 

「あら? 伏せカードがなくなっただけで随分と焦っているみたいね?」

 

「焦ってなんかいません……! この程度、想定の範囲内です」

 

「そう? なら容赦なく行かせてもらうわ。手札から【セイクリッド・ポルクス】を召喚! このカードが召喚した時、手札から"セイクリッド"モンスターを1体召喚できる。よって【セイクリッド・カウスト】を召喚!」

 

ーーー

【セイクリッド・ポルクス】☆4 光 戦士 ③

ATK/1700

ーーー

【セイクリッド・カウスト】☆4 光 獣戦士 ②

ATK/1800

ーーー

 

「そして、【セイクリッド・カウスト】の効果を発動するわ。1ターンに2度、場の"セイクリッド"モンスターのレベルを1上げるか下げることができる。私は【ポルクス】と【カウスト】のレベルを1ずつ上げて5にする」

 

「レベル5のモンスターが2体……」

 

あの女性も私と同じ……エクシーズ召喚を主体としたデッキみたいだ。

エクシーズ召喚勝負なら尚更負けるわけにいかない。

私の得意分野だからこそ絶対に負けない自信がある。信じてるよ、私のデッキ。

 

「ふふ……行かせてもらうわ! 私はレベル5の【ポルクス】と【カウスト】をオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! "散らばりし星々の残光よ! 聖なる星の名の下に裁きの刃を振りかざせ! エクシーズ召喚! ランク5、【セイクリッド・プレアデス】!"」

 

ーーー

【セイクリッド・プレアデス】ランク5 光 戦士 ②

ATK/2500

ーーー

 

純白の鎧に星空のような模様のマントを身につけた聖騎士と呼ぶにふさわしいモンスターが出現し、その剣を私に向ける。

いかにも強力そうな見た目だが、強いモンスター1体ごときに恐れる私じゃない。

 

「ですが! この瞬間、墓地から【迷い風】の効果を発動します! 相手がEXデッキからモンスターを呼び出したことで、このカードを1度だけ墓地からセットできます」

 

「それくらいは許してあげる。だけど、これはどうかしら? 【セイクリッド・プレアデス】の効果発動! 1ターンに1度、オーバーレイユニットをひとつ使うことで、相手の場のカードを手札に戻す。その伏せモンスターには戻ってもらうわ。"コスモ・バニッシュ!"」

 

「くっ……仕方ありません」

 

なるほど。もしEXデッキからモンスターを呼び出していれば大損害だったということだ。

次のターンあたりになんとか倒しておきたいところ。

 

「このままバトル! ふふふ……さっそく受けてもらおうかしら!」

 

女性がそう叫ぶと、女性の手にもつ赤いペンダントが急に光りだした。

一体何が起きているのだろう……?

 

「何をするつもりですか……?」

 

「すぐにその身を持ってわかるわ。【セイクリッド・プレアデス】でダイレクトアタック! "ギャラクシー・スラスター!"」

 

【セイクリッド・プレアデス】は手に持つ剣を構え、私に向かって突進を始める。

だけど、そう簡単には通すつもりはない。

 

「相手の攻撃宣言時、手札の【ゴーストリック・ランタン】の効果を発動します。このカードを裏側守備表示で特殊召喚し、攻撃を無効にします」

 

【ランタン】が【プレアデス】を驚かすかのように一瞬だけ出現し、その後は場に裏側表示のカードとなった。

その影響で【プレアデス】は攻撃を中断し、元の位置へと戻った。

それと同時にあの女性がもつペンダントの光も失われていた。

バトルフェイズにだけ光った……? 何を意味しているのかはわからない。

 

「お楽しみはお預けってわけね……。まぁいいわ。私はカードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

 

結衣 手札2 LP4000

ーーーーー

ーー裏ーー

 ー エ

ーーーーー

ーー裏裏ー

茶髪の女性 手札1 LP4000

 

私にターンが回ってきた。

ちょっと出鼻はくじかれたかもしれないけど、このぐらいで動揺する私じゃない。

このターンですぐに立て直してみせる。

 

それはそうとして、先ほどあの女性が言っていたお楽しみって一体なんなのだろう。

ペンダントによる力……? 遊佐くんのペンダントの場合は、絶対絶命の時にデッキの一番上のカードが書き変わったとか言っていたっけ。

にわかには信じ難い話だけど、赤見班長もあのペンダントについて何か知っていそうだったあたり、何か大きな力があるのは間違いないのかもしれない。

バトルフェイズにカードが書き変わるとか……? もしそんなことされたら対処のしようがない。

このデュエル、あのペンダントの脅威が来る前に終わらせないと。

 

「私のターン、ドロー! 【ジェット・シンクロン】を召喚! そして、セットされている【ゴーストリック・ランタン】を反転召喚」

 

ーーー

【ジェット・シンクロン】☆1 炎 機械 ②

ATK/500

ーーー

【ゴーストリック・ランタン】☆1 闇 悪魔 ③

ATK/800

ーーー

 

「なるほど、あなたもエクシーズ召喚が狙いね?」

 

「ええ。いきますよ。2体のレベル1モンスターをオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。"黒曜に煌く漆黒よ! 断罪の剣となりて、闇夜を引き裂け! エクシーズ召喚! ランク1、【ゴーストリック・デュラハン】!"」

 

ーーー

【ゴーストリック・デュラハン】ランク1 闇 悪魔 ①

ATK/1000→1200

ーーー

 

このカードの効果なら相手モンスターの攻撃力を半分にできる。そして、【ゴーストリックの駄天使】へランクアップさせることで、あのカードを戦闘破壊できる。

先制ダメージはいただく……!

 

「私はーー」

 

「その瞬間、【セイクリッド・プレアデス】の効果発動! "コスモ・バニッシュ!"」

 

「えっ……?」

 

私が効果を使おうとした瞬間、先にあの女性がモンスター効果を使ってきた。

エクシーズ召喚時のタイミングなら、先にカードを発動する権利は相手にある。まさか相手ターンにも効果を使えるなんて……。

このタイミングではまだ使いたくなかったけど、やむを得ないか。

 

「オーバーレイユニットを一つ使い、あなたの【ゴーストリック・デュラハン】を手札に戻す。さて、どうする?」

 

「くっ……罠カード【迷い風】を発動! 相手モンスターの効果を無効にし、その攻撃力を半分にします」

 

「わかったわ。これで【プレアデス】の攻撃力は1250までダウンする」

 

【セイクリッド・プレアデス】

ATK/2500→1250

 

「私はさらに【ゴーストリック・デュラハン】の効果を発動! オーバーレイユニットを一つ使い、相手モンスターの攻撃力を半分にします。対象は【プレアデス】。"デステニー・オーバー!"」

 

【ゴーストリック・デュラハン】が黒く煌く剣を空へ掲げるとそこから黒い稲妻のようなものが出現し、【プレアデス】に向かって放たれる。

二重の弱体化を受けた【プレアデス】の体は灰色に腐食しており、覇気が失われていた。

 

【セイクリッド・プレアデス】

ATK/1250→625

 

「ごめんなさいね、【プレアデス】」

 

「……さらに私は【ゴーストリック・デュラハン】1体でオーバーレイネットワークを再構築!  "闇夜を羽ばたく嘲笑の翼よ! 悪戯の幻想より舞い降りろ! ランクアップ、エクシーズチェンジ! ランク4、【ゴーストリックの駄天使】!」

 

ーーー

【ゴーストリックの駄天使】ランク4 闇 天使 ①

ATK/2000

ーーー

 

手にハートマークを作りながらゴシックな衣装に身を包んだ堕天使のようなモンスターが出現する。

 

「ランクアップまでしてくるなんて中々やるじゃない? エクシーズの使い手としては思わず嬉しくなっちゃうわ」

 

「勝手にしてください。【ゴーストリックの駄天使】の効果発動! オーバーレイユニットを一つ使い、デッキから"ゴーストリック"と名のついた魔法・罠カードを手札に加えることができます。私は【ゴーストリック・ロールシフト】を手札に加えます」

 

「準備が整ってきたってところかしら」

 

「ええ、あなたを倒す準備ってところですかね」

 

「それは楽しみね」

 

ここまでは私の予定どおりに事は進んでいる。

このままいけば勝てる。大丈夫だ。強気でいこう。

 

「バトル! 【ゴーストリックの駄天使】で【セイクリッド・プレアデス】を攻撃! "ファシネイト・ディザイア!"」

 

【ゴーストリックの駄天使】

ATK/2000

【セイクリッド・プレアデス】

ATK/625

 

再び【ゴーストリックの駄天使】は手元でハートマークを作りそれを前へと突き出すと、そこから黒と桃色が混じったような光線を解き放つ。

それを直撃した【セイクリッド・プレアデス】はたちまち破壊された。

 

「くぅっ……いい攻撃よ……」

 

茶髪の女性

LP4000→LP2625

 

茶髪の女性は両手で自らの体を守りながら戦闘の衝撃を受け止める。

少し中腰になりながらも、体勢を立て直すと私の方を見ながら笑みを浮かべていた。

 

「フフフ……これで終わり?」

 

まるでまったく効いていないかのようだ。

多少の戦闘ダメージでもけっこうな痛みが発生するはず。

よほど戦闘慣れしているのかあるいはペンダントの力なのか。

わからないけど、ライフを0にすればいいだけの話だ。

 

「くっ、私はメインフェイズ2に墓地から【ジェット・シンクロン】の効果を発動します。手札の【魔神童】を墓地へ送り、墓地から守備表示で特殊召喚! さらに、手札から墓地へ送られた【魔神童】は墓地から裏側守備表示で特殊召喚できます!」

 

ーーー

【ジェット・シンクロン】☆1 炎 機械 ③

DEF/0

ーーー

 

この【魔神童】は最初のターンで伏せていたモンスターだ。

次のターンこそ、効果を使いたいところ。

 

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンドです」

 

「ならばあなたのエンドフェイズに1枚カードを使わせてもらおうかしら。罠カード【エクシーズ・リボーン】」

 

「【エクシーズ・リボーン】……!?」

 

あのカードは墓地からエクシーズモンスターを復活させ、自身をオーバーレイユニットにする罠カード。

【セイクリッド・プレアデス】が呼び出されたら、また私のモンスターが戻されてしまうということだ。

 

「墓地から【セイクリッド・プレアデス】を特殊召喚し、そのまま効果を発動! 悪いけどあなたの【ゴーストリックの駄天使】ちゃんには退場してもらうわ。"コスモ・バニッシュ!"」

 

「これは……仕方ありませんね……」

 

【セイクリッド・プレアデス】は自らの剣で目の前を切り刻むと、そこから紺色に光る亜空間への穴みたいなものが出現し、私の【ゴーストリックの駄天使】はそこへ吸い込まれてしまった。

壁モンスターを展開しておいて正解だったかもしれない。

場合によっては私は次のターン負けていた。

まったく油断できない相手だ。気を引き締めていかないと……。

 

「さぁて、ではここからが本番よ! 国防軍の君?」

 

「くっ……ですが、オーバーレイユニットとして墓地へ送られた【ゴーストリック・デュラハン】の効果によって、墓地から"ゴーストリック"と名のついた【ゴーストリック・ランタン】を手札に戻します」

 

次のターンこそ、あのペンダントの真価が発揮されるかもしれない。

だけど絶対に耐え切ってみせる……!

 

結衣 手札2 LP4000

ーー裏ーー

ー裏モーー

 ー ー

ーーエーー

ーーー裏ー

茶髪の女性 手札1 LP2625

 

 



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Ep46 - 令嬢の機龍 後編

結衣 手札2 LP4000

ーー裏ーー

ー裏モーー

 ー ー

ーーエーー

ーーー裏ー

茶髪の女性 手札1 LP2625

 

「私のターン、ドロー」

 

茶髪の女性は口元をにやつかせながら、そっとカードを1枚ドローする。

さて……どうくる……。私の手札には攻撃を守る【ランタン】。そして、【ランタン】を利用して攻撃をさらに止められる【ゴーストリック・ロールシフト】もある。

守備表示モンスターも2体いるし、そう簡単に私にダメージを与えることはできないはず……。

 

「では……手札より【セイクリッド・ソンブレス】を召喚! 効果を発動、墓地の"セイクリッド"モンスターを1体除外することで、墓地から"セイクリッド"モンスターを手札に戻すことができる。私は【セイクリッド・ポルクス】を除外して、【セイクリッド・カウスト】を手札に加えるわ」

 

ーーー

【セイクリッド・ソンブレス】☆4 光 天使 ④

ATK/1550

ーーー

 

墓地からカードを回収できるカードか……。エクシーズ召喚の損失を抑えるようなカードだろうけど、単体では恐るに足らない。

 

「さらに! この効果を使った後に、もう一度だけ"セイクリッド"モンスターを召喚できるわ! 来なさい、【セイクリッド・カウスト】!」

 

ーーー

【セイクリッド・カウスト】☆4 光 獣戦士 ②

ATK/1800

ーーー

 

「これで2体……」

 

更なるエクシーズ召喚が可能になってしまった。

そして、【セイクリッド・カウスト】の能力を用いればランク3からランク5まで好きなモンスターを出せるってところからすると出せるモンスターの種類は幅広い。

どんな方法で攻めてくるかは未知数だ。

 

「ふふふ。エクシーズ召喚したいところだけど、ここはバトルが優先ね」

 

「いいでしょう……」

 

私の壁モンスターを崩す方を優先してきたか。迎え撃つのみ!

 

「【セイクリッド・ソンブレス】で【ジェット・シンクロン】を攻撃! "セイント・フェザーレイン!"」

 

「くっ……」

 

無数の白く輝く羽のようなものが【ジェット・シンクロン】へ突き刺さり、たちまち破壊されてしまった。

 

「さらに、【セイクリッド・プレアデス】でセットモンスターを攻撃! "ギャラクシー・スラスター!"」

 

「セットされた【魔神童】が破壊されますが、リバース効果を発動! デッキから悪魔族モンスターである【ティンダングル・イントルーダー】を墓地へ送ります」

 

「さてと、手札の厄介な子にも出てきてもらうわよ? 【セイクリッド・カウスト】でダイレクトアタック! "シャイニング・アロー!"」

 

【ゴーストリック・ランタン】はさすがに読まれているか。

 

【セイクリッド・カウスト】の手に持つ弓から矢が私に向かって放たれる。

だけどダメージを通すつもりはない!

 

「手札から【ゴーストリック・ランタン】の効果を発動! このカードを裏側守備表示で特殊召喚することでダイレクトアタックを無効にする!」

 

「このターンも止められちゃったかー。防御が固いこと……あなたが固い喋り方なのも納得だわ」

 

「余計なお世話です」

 

これが私のデュエルスタイル。私の性格は……まぁ自分でも自覚してるくらいには歪んでるとは思うけど……。

それは……そうでもしないと生きてこれなかったんだ。

赤見班長に会うまでは……。うん、だからしょうがないんです。

 

いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。

ここまでの攻撃も私の読み通り。次のターンの反撃の準備はもうできてる。

 

「そして、ここで墓地の【ティンダングル・イントルーダー】の効果を発動します! 私の場にモンスターが裏側守備表示で特殊召喚されたことで、このカードを裏側守備表示で特殊召喚します!」

 

「なるほどー……。しっかり次のターンを考えての行動だったわけね。なかなかやるじゃない?」

 

「無駄口叩くくらいなら早くターンエンドしたらどうですか?」

 

「可愛くない子……なら私はメインフェイズ2に現れなさい! 銀河を導くサーキット! 私は【カウスト】と【ソンブレス】の2体をリンクマーカーにセット。サーキット・コンバイン! リンク召喚! リンク2、【ハイパースター】!」

 

ーーー

【ハイパースター】リンク2 光 天使 ②

ATK/1400

ーーー

 

リンク召喚をしてきたか。

あれは……確か私の使ってる【見習い魔嬢】と同類の効果を持っていたモンスターだったはずだ。

 

「このカードが存在する限り、光属性モンスターの攻守は500ポイントアップし、闇属性は400ポイントダウンする」

 

「私のモンスターはステータスが下がるということですか……」

 

「その通りよ。そしてあなたも見せてくれたランクアップ。あの程度私だって当然できるのよ?」

 

「ランクアップ……!」

 

RUMカードを用いたランクアップとモンスター効果で手軽にランクアップできる二種類のランクアップがある。

私のデッキは両方扱えるデッキだけど、あの女性はどっちだろう……。

 

「私は……【セイクリッド・プレアデス】1体でオーバーレイネットワークを再構築! "天上に響く龍の轟咆! 煌めく龍機に魂宿し、星々の黄昏より降臨しなさい! ランクアップ、エクシーズチェンジ! 【セイクリット・トレミスM7】!"」

 

ーーー

【セイクリッド・トレミスM7】ランク6 光 機械 ③

ATK/2700→3200

ーーー

 

純白の体をした細長い機械竜のようなモンスターが夜空のような模様をした翼を広げながら出現する。

セイクリッドモンスターの進化した姿というべきだろうか。

攻撃力は先ほどの【プレアデス】よりも高くなっている。その力はランク6にふさわしいといったところか。

 

「【セイクリッド・トレミスM7】は自身の効果でエクシーズ召喚した場合は、そのターン効果を使うことができない。ふふふ……私はターンエンドよ」

 

結衣 手札1 LP4000

ーー裏ーー

ー裏裏ーー

 ー リ

ーーエーー

ーーー裏ー

茶髪の女性 手札1 LP2625

 

どんなに強い効果を持っていたとしても、次のターンで倒してしまえばいいだけの話。

私を舐めてもらっては困りますね……。

それはさておき、このターンは何が引けるかな……。

 

「私のターン、ドロー!」

 

よし! この状況ならいい感じのカードを引けたかな?

相手もエクシーズ使いだとちょっと使いづらいけど、相手がリンクモンスターを出しているのなら、ちょうどいい機会だ。

 

「私はフィールド魔法【エクシーズ・テリトリー】を発動!」

 

「あら? 私もエクシーズを主体としているのに、そんなカード使っていいのかしら?」

 

「ええ。あなたの場にはリンクモンスターがいますからね」

 

「この【ハイパースター】が狙いってわけね」

 

「はい。そして、セットされている【ティンダングル・イントルーダー】を反転召喚! リバース効果で同名モンスターを手札に加えた後、場の【ゴーストリック・ランタン】をリリースして、アドバンス召喚!」

 

ーーー

【ティンダングル・イントルーダー】☆6 闇 悪魔 ②と③

ATK/2200→1800

ーーー

 

「レベル6のモンスターが2体……真打登場ってところかしら?」

 

「ええ。覚悟してください。私はレベル6の【ティンダングル・イントルーダー】2体をオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! "紅き月満ちる闇よりいでし、血塗られた翼よ! 幻影より誘われし闇夜を穿て!" エクシーズ召喚! ランク6、【No.24 竜血鬼ドラギュラス】!"」

 

ーーー

【No.24 竜血鬼ドラギュラス】ランク6 闇 幻竜 ①

ATK/2400→2000

ーーー

 

フィールドに紅き月が出現するとそこから割って出てくるように吸血鬼のような風貌をした竜が出現した。

今日も頼みますよ。【ドラギュラス】。

 

「さて、何を見せてくれるのかな?」

 

「では、さっそく【ドラギュラス】の効果発動! 自らのオーバーレイユニットを一つ使い、場のEXデッキから特殊召喚されたモンスターを裏側守備表示へ変更します!」

 

「それで私の【トレミス】を裏側にして戦闘破壊が狙いってところかしら」

 

「いえ、私が裏側にするのは【ドラギュラス】自身です。"クローズド・ブラッド!"」

 

私がそう宣言した後に、【ドラギュラス】は自らの羽を閉じ、裏側表示へのカードへ姿を変えた。

 

「そう、つまりは何か考えがあるようね?」

 

「もちろんですよ。ではバトルフェイズに入りリバースカードオープン! 【ゴーストリック・ロールシフト】発動! バトルフェイズ中に私の場の裏側表示モンスターを表側攻撃表示に変更させます! 姿を現して、【竜血鬼ドラギュラス】!」

 

ーーー

【No.24 竜血鬼ドラギュラス】ランク6 闇 幻竜 ①

ATK/2400→2000

ーーー

 

再び紅き月と共に【ドラギュラス】は姿を現す。

だが、その場所は私の前ではなく【セイクリッド・トレミスM7】の背後だった。

 

「【ドラギュラス】がリバースした時、場のカード1枚を墓地へ葬ります。消えてください、【セイクリッド・トレミスM7】! デッドリィ・スローター!」

 

「くっ……なるほどね」

 

【トレミス】は喉元に当たる部分を鋭利な爪で引き裂かれ、悲鳴をあげながら消滅した。

 

「さらに、【ドラギュラス】で【ハイパースター】を攻撃! この瞬間、フィールド魔法【エクシーズ・テリトリー】の効果により、攻撃力がランク×200ポイント……つまり1200ポイントアップします。"ブラッディ・サンクション!"」

 

【竜血鬼ドラギュラス】

ATK/2000→3200

【ハイパースター】

ATK/1400→1900

 

続けて【ドラギュラス】は【ハイパースター】へ接近し、自らの両翼を大きく広げると、振りかぶりながら赤黒い衝撃波のようなものを解き放った。

その衝撃波は【ハイパースター】へ直撃した後に、貫通するようにして茶髪の女性にもその衝撃は届いていた。

 

「くぅぅ……思ったよりやるじゃない……」

 

茶髪の女性 LP2625→LP1325

 

茶髪の女性は衝撃によって、後ろに吹き飛ばされ思わず手を付きながらバランスを崩すが、すぐに受身を取ると再び立ち直した。

あの身のこなしはやはり只者ではなさそうだ。

 

「ふふふ……」

 

だが、その表情は不気味な笑みに包まれていた。

一体何を考えているのだろうか。どう見ても状況的にはこちらが有利。

負けそうになって頭がおかしくでもなってしまったのだろうか。

 

「急に笑い出して、気味が悪いですね」

 

「あら、失礼じゃない。随分といい気になっちゃって……。だけど、ここまでやらせてあげたんだからもう私も思いっきりやっていいわよね? 君?」

 

「……どういうことですか?」

 

「まさかあなた自分が勝てる……だなんて思ってない?」

 

そりゃ……私の方が優勢だし、それにライフポイントはまだ無傷のままだ。

【ドラギュラス】がいれば、大体のエクシーズモンスターは裏側表示にして無力化できるし、見た限りもうひと押しで勝てそうな状況だろう。

もちろん、油断しているわけではないけど……。あの人は何かを企んでいる……?

 

「まぁいいわ。私は【ハイパースター】の効果を発動。破壊された時、墓地の光属性モンスターを手札に加えることができる。私は【セイクリッド・ソンブレス】を手札に戻すわ」

 

一応、念には念を……できるだけの準備はしておこうかな。

 

「わかりました。ではさらに魔法カード【ダーク・バースト】を発動。墓地から【ゴーストリック・ランタン】を手札に戻し、私はターンエンドです」

 

これで、守りも大丈夫だ。

最悪、【ドラギュラス】がやられたとしても、手札の【ゴーストリック・ランタン】と【ゴーストリック・ロールシフト】のコンボで大体の攻撃は防げるし、次のドロー次第ではあるけど、なんとか巻き返しは狙えるはず。

私の戦術に抜かりはない……はず。

 

 

結衣 手札1 LP4000

ーー罠ーー

ーーーーー

 エ ー

ーーーーー

ーーー裏ー

茶髪の女性 手札2 LP1325

 

「ふふふ……そろそろ頃合ね……! いくわ……私のターン……!」

 

やたら自信有りげに女性はデュエルウェポンへと手を伸ばす。

さっきのターン【セイクリッド・ソンブレス】を手札に戻していたからそのカードを使って何かしらエクシーズ召喚するつもりだろうけども、【ドラギュラス】の効果を使えばそのエクシーズモンスターを裏側表示にすることができる。

問題は残りの1枚の手札とこれからドローするカード。そしてずっと伏せられたまま発動しない伏せカードの3枚か。

何かタイミングを伺っていたのだとしたら、あの伏せカードに何かありそうな気はするな……。

 

「そろそろ私の本気を見せてあげるわ!」

 

女性がそう叫ぶと、再び手に持つ赤いペンダントが光りだした。

今はバトルフェイズじゃないけど……一体何が……。

 

「ドロー! ふふふ……なるほどね。これが"破壊"のために導き出された最善のカードってことか。私は【セイクリッド・ソンブレス】を召喚!」

 

ーーー

【セイクリッド・ソンブレス】☆4 光 天使 ③

ATK/1550

ーーー

 

何を引いたかはわからないけど、私の予想通り【セイクリッド・ソンブレス】を召喚してきた。

また、【セイクリッド・プレアデス】でも出してくるのかな……?

 

「狙いはエクシーズ召喚ですか」

 

「ええ、もちろん! 効果によって、墓地から【セイクリッド・プレアデス】を除外することで【セイクリッド・カウスト】を加えた後、追加効果によりそのまま【セイクリッド・カウスト】を召喚するわ!」

 

ーーー

【セイクリッド・カウスト】☆4 光 獣戦士 ④

ATK/1800

ーーー

 

「私は【ソンブレス】と【カウスト】の2体をオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! "解き放たれし閃光よ! 星々煌く夜空の彼方より正義の鉄槌を! エクシーズ召喚! ランク4、【セイクリッド・ビーハイブ】!"」

 

ーーー

【セイクリッド・ビーハイブ】ランク4 光 機械 ②

ATK/2400

ーーー

 

先ほどの【プレアデス】に似た格好をした聖騎士と呼ぶにふさわしいモンスターがその自慢の大きな拳を振り上げながら出現する。

見た目からするとなかなか攻撃的なモンスターな印象を受けるけど、効果を使うべきか否か。

あれが本命ではない可能性もあるし、効果を受けてから考えてみようかな。

 

「そして、ここからが本番よ……手札から魔法カードを発動!」

 

女性は大きな声で一枚のカードをこちらに見せながら叫んだ。

あのカードは……うん。私が知らないはずがない。

 

ーーー

【RUMーアストラル・フォース】

通常魔法

ーーー

 

モンスターをランクアップさせる魔法カード。

その中でもあの【アストラル・フォース】はモンスターのランクを2つも上げる強力なカードだ。

【プレアデス】を出さなかったのは、さらに強力なモンスターを呼べる状況下にあったからか。

私の読みは間違ってなかった。

 

あのカードにも一つ大きな弱点がある。

発動時点に対象となるエクシーズモンスターが存在しなければそもそもエクシーズ召喚扱いの"ランクアップ行為"自体ができなくなるのだ。

つまり……あの【アストラル・フォース】にチェーンして、私の【ドラギュラス】の効果を使い、【セイクリッド・ビーハイブ】を裏側守備表示にしてしまえば、あのカードは効力を発揮できずに墓地へ送られる。

 

ふふっ、あの女性の悔しがる姿を見れそうだ。

この勝負はもらいましたよ!

 

「ならば! 私は【竜血鬼ドラギュラス】の効果を発動! EXデッキから特殊召喚されたモンスターを裏側守備表示にします! もちろん対象は【セイクリッド・ビーハイブ】。"クローズド・ブラッド!"」

 

「ふふ……その子も相手ターン中に効果を使えたのね。なるほどね……だからペンダントはこのカードを……。正しき破壊の衝動に応えてくれる力……いいものね」

 

「……何をぶつぶつと……いいから裏にーー」

 

私がそう言いかけた途端、【竜血鬼ドラギュラス】の体に電撃のようなものが流れ始め、動きが止まる。

一体何が……。

 

「チェーンして……速攻魔法【禁じられた聖杯】を発動していたわ。相手のモンスター効果を無効にして、その攻撃力を400ポイント上昇させる」

 

【竜血鬼ドラギュラス】

ATK/2400→2800

 

「なっ……!?」

 

まさか私のカード効果を無効にしてくるなんて……。

これじゃ【アストラル・フォース】の効果は有効……?!

 

「ふふふ……今こそ見せてあげるわ……私の切り札を! 私は【セイクリッド・ビーハイブ】1体でオーバーレイネットワークを再構築! 虚空に轟く龍の障壁! 禍々しき龍機に魂宿し、終わり無き輪廻より降臨しなさい! ランクアップ、エクシーズチェンジ! いでよ! 【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】!」

 

ーーー

【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】ランク6 光 機械 ②

ATK/2100

ーーー

 

赤黒いボディに、所々が白く輝く翼を生やした機械竜がその場に出現する。

赤色の稲妻とでも言おうか。至るところで迸っており、いかにも強化されているような様子が伺える。

それにどこか狂ったような……暴走しているようなイメージを受ける。

 

攻撃力はさほど高くないみたいだけど……一体どんな効果が……。

 

「いつ見ても美しいわ……【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】……。ふふふ……」

 

「くっ……。だけど、攻撃力はあなたのカードのおかげでこちらの方が700ポイントの上。どうするつもりですか?」

 

「まぁ焦らないで君? この【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】は3つの効果があるの。まずは1つ目、このカードの攻撃力はオーバーレイユニット一つにつき、200ポイントアップするわ」

 

【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】

ATK/2100→2700

 

3つも効果が……。それなら私の【ドラギュラス】も似たようなものだけど……。

だけど、あのカードのオーバーレイユニットは合計3つ。それでも攻撃力なら私の【ドラギュラス】の方が上だ。

 

「残念ながら届きませんね。あなたの【禁じられた聖杯】のおかげです」

 

「せっかちさんね。そんなこと大した問題じゃないのよ。2つ目の効果! 1ターンに1度、相手の攻撃表示モンスターを吸収し、このカードのオーバーレイユニットとすることができる!」

 

「嘘……? オーバーレイユニットに……!?」

 

破壊でも墓地送りでもない。その上を行く効果を持っているとは……。

【ドラギュラス】はカードの効果等でフィールドを離れる場合は裏側守備表示で特殊召喚される強力な効果があるのだが、これではその効果の範囲外だ。

 

「ふふふ……あなたの大事な【ドラギュラス】。私のための贄となりなさい! "リミット・アブソーバー!"」

 

「そんな……やめて……! 私の【ドラギュラス】を……!」

 

【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】が赤い電撃を迸はじめると、【ドラギュラス】は吸い寄せられるように接近していき、徐々にその姿は透明へと変わっていく。

そして、【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】と重なるようにして、交わっていった。

 

【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】

ATK/2700→2900

 

そんな……私の大事な【ドラギュラス】が……。

いつだって信頼のおけるカードがこうも容易く……なんといってもあいつに吸収されてしまうなんて……。

 

「あ……」

 

私が手を伸ばした頃には既に【竜血鬼ドラギュラス】の姿は跡形もなく消え去って一つのオーバーレイユニットとして【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】の周りを漂っていた。

いつだって、どんな時でも私と一緒にいてくれたカード達。それをただの破壊ではなく奪われるという光景は、どうしても怒りがこみ上げてくる。

絶対に取り返してあげるから……待っててください……!

 

「ふふふ……戦意喪失しちゃったかな?」

 

「……舐めないでください! 私がそんなに弱い人間だと? 絶対にそのモンスターを倒して、そして……あなたを倒します!」

 

「随分と自信のあること……そうは言ってもあなたの場はガラ空きなのよ? いずれにしてももう勝ち目はないわ」

 

「それはやってみなきゃわからないはずです! まだ私のターンで逆転するチャンスはあります!」

 

「試してみる? ならばバトルよ! 【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】でダイレクトアタック! "ルナレイト・インフィニティ・バースト!"」

 

【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】の口元に赤黒いエネルギーが充填されると、私目掛けて解き放たれる。

あんなもの喰らったらとんでもない衝撃を受けることになりそうだ。

でも……喰らうものか!

 

「……手札から【ゴーストリック・ランタン】の効果を発動! このカードを裏側守備表示でーー」

 

「私はね! 同じ光景を見るのが嫌いなのよ。【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】の効果発動! 1ターンに1度、このカードのオーバーレイユニットを一つ使うことで、相手の発動したカード効果を無効にし、破壊する! 消えなさい、"エタニティ・インディグネイション!"」

 

「そん……な……!?」

 

私の手札にいた【ゴーストリック・ランタン】のカードに電撃が纏うと、徐々に灰色へと染まっていく。

これでは攻撃を防げない……!

 

「ふふふ……いい悲鳴を聞かせて頂戴……!」

 

茶髪の女性がそう言うと、手元の赤いペンダントの輝きがさらに増した。

痛みはもう……覚悟するしかないか……。

だけど、攻撃力はオーバーレイユニットを使ったことで200ポイントダウンし、2700になった。

私のライフポイントはまだ残る……! 

 

【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】

ATK/2900→2700

 

目の前には膨大なエネルギーを充填させた【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】。

今にもその力が解き放たれそうな状況だ。

私は全身に力を入れながら、ダメージを覚悟で警戒体制を取る。

 

「くっ……ですけど私はまだ……諦めません……!」

 

「残念だけど、もう終わりなんだよね。リバースカードオープン。速攻魔法【リミッター解除】を発動するわ。場の機械族モンスターの攻撃力を2倍にする」

 

「【リミッター解除】……!?」

 

【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】

ATK/2700→5400

 

眼前のエネルギーがさらに膨大な大きさへと変化していく……。

待ってください……これじゃ私の負け……? 私が……。

戦術に間違いはなかった。私の想定では勝てるはずの展開だったのに……どうして……。

ペンダントのことに気を取られすぎた……? 伏せカードを軽視しすぎたせいかもしれない。

もう過ぎたことを考えていてもどうしようもないか。

 

私……まだ死にたくない……。

だけど、一人できてしまった以上、助けが来るなんてことは……。遊佐くんには避難するよう言ってしまったし、赤見班長は忙しそうにしていたし……。

国防軍の人がいる可能性はあるかもしれないけど、期待はできないだろう。

 

私の手は無意識にデュエルウェポンの救難信号発信ボタンを押していた。

誰か……見ず知らずに人でもなんでもいい。助けてください……。

せっかく自分の生きる道を……SFSによって見つけられたというのに、死にたくない。

 

「あ……あぁ……」

 

私は【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】の攻撃から逃げるように壁へと後ずさり、そして尻餅をついてしまう。

怖い。私は今まで戦場で負けたことは一度もなかった。負けたら一体どうなってしまうんだろう。

吸収されてしまったら、もう二度と喋ることも……デュエルすることすらできなくなってしまうだろうな。

 

「ふふふ……いい表情してるわよ? 消えなさい!」

 

「嫌……助けて……ください……」

 

私の呟きをかき消すように、【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】から赤黒い光線が解き放たれ、私の体に直撃する。

そして、全身を焼き尽くされるような痛みが襲いかかってきた。

 

「いやあああああ!」

 

手足がちぎれそうな程痛み、そして焼けるような感覚が全身にくる。

とても立っていられるものじゃない。攻撃が終了した後、私はその場に突っ伏すように倒れてしまった。

 

だめだ……もう……。うごけ……ない……。

茶髪の女性の笑い声がかすかに聞こえたが、もはや言葉を返すほどの気力は私には残っていなかった。

そして、あまりの痛みに耐え切れず私の意識はそこで途切れていった。

 

結衣 LP4000→LP0

 



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Ep47 - 歪んだ真相

ーーテロリストとの戦闘を終え、奥の部屋を目掛けて進んで行く。

何個かの扉を開いた先には少し広めの部屋があり、その部屋の端には俺の探し求めていた結衣の姿があった。

 

床に横たわっており、その瞼は閉じている。

まさか……もうやられてしまったのか……?

 

そして、その結衣に近づいていく一人の人物もいた。

茶髪のロングヘアにゴシックな衣装を身に纏っている女性。一体誰なんだろう……。

 

「さぁて、可愛い玩具が手に入りそうね。ふふふ」

 

その女性はデュエルウェポンを結衣に向かって構えている。

まずい……あれはおそらく……"吸収"ってやつだ。

このままじゃ結衣もあの左近っていう人と同じ目に……!

 

「やめろ!」

 

俺はそう叫びながら二人の下へと走り出す。

あいつは……身勝手で一人で突っ走り、そしてひねくれた奴だが、大事な俺の仲間だ。

こんなところで仲間を失ってたまるか!

 

だが、俺が叫んでもその女はこっちに目もくれずにデュエルウェポンを操作し続ける。

くそ! これじゃ間に合わない……。

結衣を守れるのは俺しかいないっていうのに……これじゃ赤見さん達に合わせる顔がない。

 

「ふふふ……少し遅かったわね……」

 

「くそっ!」

 

女性がそう呟くと、彼女のデュエルウェポンから光のようなものが照射される。

ダメなのか……俺には人一人も守れないのかよ……!

 

一生懸命走っている最中、ふと自分の胸元が光り出していることに気がついた。

俺のペンダントがまた光り出している……? デュエル中でもないのにどうしたというのだ。

 

「なによこれ! くっ……あなたもしかして……」

 

その声に結衣の方を見てみると、エメラルド色をした結界のようなものが出現し、デュエルウェポンから放たれる光を弾き飛ばしていた。

あれは一体……まさかこのペンダントの力だというのか。

 

この好機を逃す手はないな。

俺はすかさずデュエルウェポンにカードをセットする。

 

「魔法カード【ファイヤー・ボール】!」

 

「ふっ」

 

俺の放った火球から避けるようにして、その女性は結衣から遠ざかる。

もちろんその隙を逃さずに俺は結衣へと接近することに成功した。

 

「おい、結衣。大丈夫か?」

 

俺は結衣の背中を右手支えながら話かける。

目を閉じていた結衣だが、俺の声が聞こえたのか僅かに瞼を開いた。

どうやらまだ大丈夫みたいだ。

 

「遊佐……くん……ですか」

 

「ああ、そうだ。あいつは俺がなんとかする。安心してくれ」

 

「なんで……きて……」

 

喋るのも辛そうな状態のようだ。

なんだか今までのデュエルでやられた人たちよりもダメージがひどく大きいみたいだが……。

ひとまず俺は結衣のデュエルウェポンに例の回復用のカードをセットし、再びその場へ寝かせた。

 

「喋るのも大変なんだろう? 少しそこで休んでてくれ」

 

俺はそう言い、茶髪の女性の方を見る。

改めてその女性の顔を確認すると……見覚えのある顔だった。

 

イースト区の襲撃の時に、最後に現れた女性……。

確かリリィとか言われてたか。

 

「あら、あなた……まさかこんなところにいたなんてね。遊佐 繋吾くんかしら?」

 

「ああ。俺もお前のことはよく覚えてる。今日こそは覚悟してもらうぞ」

 

「オリバーを倒したからってさぞ自信があるようね? だけど、私には通用しないわよ。その"守護"のペンダント。渡してもらおうかしら」

 

「やっぱりお前らの目的はこれなんだな? ならいい。これが目的なら正々堂々ここで戦えるってことだからな……!」

 

国防軍を襲っただけでなく、結衣を痛みつけたこいつは……許せるものじゃない。

ましてやジェネシスの人間なのは間違いない。

絶対にデュエルで打ち負かせてやる。

 

「待て、君の出る必要はない」

 

デュエルウェポンを構えようとすると、入口から数名の人物がこの部屋へ入ってきた。

あれは……魁偉さんか。国防軍の人もさすがに駆けつけてきたみたいだ。

 

「ちっ。あなたのせいで計画が狂ったじゃない! 遊佐 繋吾!」

 

「自分のやったことを後悔するんだな」

 

流石にリリィもこれだけ多くの人を相手にすることは想定外だったみたいだ。

デュエルせずとも、この狭い空間に包囲している状況なら捕縛も可能かもしれない。

 

「さぁ、SFSの君。そこのお嬢さんを連れて逃げるんだ」

 

「魁偉さん……ですが俺にはこいつに恨みが……」

 

「そんなこと言ってる場合ではないだろう? そこのお嬢さんはかなりの重症みたいだが?」

 

確かに結衣はずっと寝たままな感じだ。

今まで助けた奴は……野薔薇なんかはここまでひどくはなかったと思ったけど……どうしたんだろうか。

 

「それに君も見たかもしれないが、ここには災いを呼ぶペンダントが保管されていたはずだ。それを守るのは我々の仕事」

 

「災いを呼ぶペンダント……?」

 

魁偉さんに言われリリィを見ると、その手元には赤色をした俺のつけているものと似たようなペンダントが握られていた。

なるほど……。ペンダントは俺のやつ一つってわけではなかったのか。

それを狙うために、今回ジェネシスは国防軍に奇襲をかけたと……。

 

「そうだ。くれぐれもこの件については内密に頼む。さぁ早く逃げるんだSFSの君!」

 

復讐の相手を目の前に退くのは不本意ではあるが、結衣のこともあるし今回は仕方がないか……。

国防軍の人はざっと10人くらいはいるし、これだけいればリリィも逃げることは困難だろう。

 

「……わかりました」

 

俺は渋々了解すると、結衣を運ぶべく持ち上げる。

寝っ転がってる状態だと、背負うのは無理そうだな……。

仕方がない。お姫様抱っこって言うんだっけ。こういうのは。

俺は両手で背中と太ももあたりで結衣を持ち上げた。

 

「恩にきります。魁偉さん」

 

「いや、むしろ敵を足止めしてくれた君に感謝するよ。気を付けて撤退するんだ」

 

「はい。では」

 

そのやり取りを最後に、俺は鉄格子の部屋から脱出した。

逃げろったってこの施設の中がどういう構造になっているか理解しているわけではない。

あの休憩室の行き方ももう覚えてないところだけど……。

あちこちで聞こえる交戦しているような音を避けるようにして道を選びながら通路を進んでいく。

 

おそらく国防軍とテロリストが戦っているのだろう。

この音が聞こえなくなる場所まで離れられればとりあえずは安全なはずだ。

 

走っていると徐々に交戦している音も遠ざかっていく。

だいぶ距離も離れてきたかな? 近場に休めそうなところがあればいいが……。

 

辺りを見渡すと、倉庫と書かれた部屋があった。

あそこなら身をひそめるにはちょうどいいかもしれない。

すぐさま俺はその部屋の扉を開け、中の様子を確認する。

 

どうやら誰もいなさそうだ。

正直ずっと結衣を運んでいたからだいぶ疲れたし、俺自身も少し休みたい。

その倉庫の奥の壁にもたかかるように結衣を座らせ、その隣に腰かける。

 

「大丈夫そうか?」

 

「……さい……」

 

結衣に声をかけると、ほとんど聞こえないような声で何かを言っていた。

運んでいる時は気が付かなかったが……こいつ、泣いているのか。

 

「ごめん……なさい……」

 

「どうした? 何があったんだ結衣」

 

「ごめんなさい……私……ごめんなさい……」

 

泣きながらずっと謝り続けている。

普段の結衣からは想像できない様子に少し驚いた。

とりあえずまずは落ち着いてもらわないと。

 

「大丈夫だから落ち着けって。ここなら安全だ」

 

「うぅ……はい……」

 

思わず結衣の頭を撫でながら落ち着くよう促す。

すると徐々に結衣も落ち着いてきたみたいだった。

 

「ありがとう……ございます」

 

「いや、気にするな。随分とひどく重症みたいだったが、何があったんだ?」

 

「あの女性にデュエルで負けたんですけど……多分赤いペンダントの影響だと思います……」

 

赤いペンダント。リリィが手に持っていたあれか。

デュエルウェポンでのダメージを増幅するような能力を持っているのかもしれないな。

 

「それよりも……なんで来てくれたのですか。あれほどあなたには避難するようにと……」

 

「お前を放っておけないだろう? それにあそこが危険な場所と伝えられれば尚更だ」

 

「ですけど……私は今まであなたに対してひどいことをたくさん言ってきたんですよ? それに主席という肩書だけを掲げて自分の力を過信したあげく、突っ走ってしまう自分勝手な私なんて放っておいた方がいいはずじゃないですか……」

 

確かにSFSに入団してから、こいつには色々悩まされては来たが、大事な特殊機動班の仲間だ。

というか、結衣のやつ。自覚あったのか……。

 

「ああ。お前がひねくれ者っていうのはよくわかっているさ。だけどな、お前は悪いやつじゃないっていうのもよくわかっているつもりだ」

 

「どういうこと……ですか」

 

「最初に会った時、俺の事を罵倒しながらも暴走気味だった俺の目を覚ましてくれただろ? 他にもSFSについても教えてくれたし、その時の俺の昔の話も真面目に聞いてくれた。それだけじゃない。今回だってペンダントがあるとはいえ、俺のことを心配して避難するように言ってくれたじゃないか。ま、お前にはそのつもりはなかったとしてもだ。俺にとっては助かってる」

 

「そんな……都合のいいこと……」

 

そう口では言っているものの、少し嬉しそうな表情をしていた。

 

「それにお前の強さは本物だ。野薔薇や坂戸副班長といった人に勝ってるし、今日の襲撃でもかなりの数のテロリストを無力化してるしな」

 

「ですけど本当に強いと思ってるのなら、助けに来る必要なんかないじゃないですか……」

 

「違うな。無謀と言える状況だからこそ俺は行ったんだ。奮戦するのと無茶をするのは別物だろう」

 

「はい……けど、本当なんです。私は強くはない……ずっと弱い人間なんですよ」

 

そう呟く結衣は少し寂しそうな表情をしていた。

こんなことを言うことですら珍しいのに……彼女の本音ってところだろうか。

 

「少し……昔の話をしてもいいですか?」

 

「ああ」

 

すると、結衣は落ち着いたトーンで喋り始めた。

 

ーー私の実家は、優れたプロデュエリストの名家で言わばエリートのような家系でした。

家もそれは豪邸で、お金持ちの裕福な暮らしをしていました。

ですけど、親の言うことは絶対。優秀なプロデュエリストの家系を途絶えてはならないため、日々厳しい躾を受けていました。

学校に行っても放課後に遊ぶことは許されず、家まですぐに帰らなくては行けません。

そして、家に帰ったらひたすら勉強です。家にいたとしても遊ぶことは許されません。

ですが、たまにデュエルの練習をする時もありました。それが私にとっては唯一の楽しみでしたね。

カードを眺め、デッキを組み、そして自分の選んだカードで戦うデュエル。そのひと時こそが生き甲斐みたいなものでしたよ。

 

しかし、デュエルができるのもわずかな時間。ほとんどは勉強の時間です。

どんなに厳しくてもそれが佐倉家の昔からの伝統。そう自分に言い聞かせずっと耐え続けてきました。

テレビに映るプロデュエリストのデュエルを見て……将来は自分も同じようなスターになれるんじゃないかって……。

 

だけど、歳を重ねるごとに徐々に世間との溝は深まるばかりでした。

 

学校では他の皆が喋る内容についていけず、一緒に遊ぶことも許されない。

次第に友達と呼べるような人もいなくなり、学校の中では孤立してしまいました。

 

でも、いつかは……プロデュエリストになった時にはきっとこのような苦しい生活からも解放されるはず。

そう思って耐え続けていました。

 

じっと……誰とも喋らずに毎日を耐え続け……。楽しそうにはしゃぐ同級生を羨ましそうに眺めながら……。

自分は他の人とはちがう。エリートなのだから。そう思うことでしか自分を保てませんでした。

 

それでもクラスの中で浮いてしまうと、噂話をされるんですよね。

私のことを裏でこそこそと話しているのが耳に入ってしまう。

 

耐え続けてきた私の気持ちは次第に憎悪に変わってきました。

 

そこからの学校生活はというと……他に人に対しては警戒心をむき出しになって……何か授業で対決する機会があれば鬱憤ばらしに容赦なくたたきつぶしてたりしました。

特にクラスではしゃいでいるような人なんかは徹底的に。

 

すると次第に私に対する噂話は消えていきました。

よかったとは言えますが、私の性格はそこで歪んでしまったのだろうな……。

 

しかし、結局家に帰っての厳しい勉強の毎日は変わりません。

少しでも遊ぼうとしたり、サボろうとすれば説教。

私に自由な時間なんてなかったんです。それが佐倉家の宿命。

 

それに耐え続けられるほど私は強い人間ではありませんでした。

 

ある日、我慢できなくなった私は、親のカードを盗み家出をしました。

縛られた自分の生活を変えようと。歪んでしまった自分を正しい方向へ持っていくために。

 

だけど、当時の私はまだ学生。何にも考えてなかったんでしょうね。

持っていたのはカードと財布に入った僅かなお金。

そして、名家とはいえ、身元を明かしたところで街の人は助けてくれるわけでもなければ、そもそも私には家族以外に頼れる人なんて一人もいなかった。

行き当たりばったりだったんですよ。

 

お金も尽きて、食べ物もろくに食べれなくなって……。

しばらく路頭を彷徨っていました。

 

そんな中私に声をかけてきた複数の男性がいました。

事情を話すと、私を助けてくれると言い、衰弱していた私はその人たちについて行ったんです。

ですけど、結局は連れて行かれた先でその男の人たちは私に襲いかかってきました。

 

私は他の人よりも成績がよかったですし、さっき話したとおり、体育とかでは他の人をたたきつぶしてたりしてたので、やっぱり自分の力に自信があったんですね。

それで思いっきり反抗しようとしたんですけど、複数の男の人相手ではそれはもうなすすべなくて……。

その時にはっきりと理解したんです。私って弱かったんだなって。いくら優秀なエリートな家系だとしても、一人でできることには限度があるんだなって。

 

無抵抗なまま男の人たちに襲われ、この人たちを信じたことに後悔しながら、もう生きることを諦め始めたその時、突然大きな爆発音のようなものが聞こえたんです。

それと同時に私の周りにいた男の人たちは大きな竜巻によって宙を浮き、吹き飛んでいきました。

 

何が起きたのかわからずに混乱していると、目の前には大きなドラゴンと一人の男性がいたんです。

そのドラゴンは【ブラック・フェザー・ドラゴン】。

それが私と赤見班長の出会いでした。

 

今では思い出したくもないですけど、その男の人たちは犯罪者集団だったみたいで、私を捕らえてどっかに売り飛ばそうとしてたみたいです。奴隷って表現がわかりやすいですかね。

その犯罪者集団を殲滅するべく、たまたま依頼を受けていたSFSの赤見班長が駆けつけてくれた。そんなところです。

 

そこからはSFSに入って、私は赤見班長から色んなことを教えていただきました。

今までは色んな人を突っぱねて、自分自身も誰も信じないと決めていましたが、その時にはじめて信じれる人っているんだと気づき、この世界もまだ捨てたもんじゃないなと思えたんです。

 

ーーひと通り話終えた結衣は少しすっきりした表情をしていた。

結衣もかなり過酷な人生を歩んできたんだな……。なんて声をかけたらいいのか……。

すると結衣の方から話を切り出してきた。

 

「ふふっ……。散々あなたのことをホームレスだって馬鹿にしてたのに、自分も同じだったなんて……笑えてきますね」

 

「ははは……。だけど、同じ境遇だからこそお前の痛みや苦しみを少しは理解できるつもりだ」

 

「ありがとうございます……。私の性格が少しおかしいのも……わかってくれると嬉しいです」

 

「まさか……苗字で呼ばないでって言ったのも、自らの家系から自分を切り離したかったからか?」

 

「そうですよ。もう私は佐倉家の人間としては生きて行きたくないんです。私は一人の人間として生きていきたいから……」

 

今までの結衣の発言や行動。

全てが自分の中で繋がった気がした。

もしかしたら俺の昔の話を真剣に聞いてくれたのも、自分の過去と重ねていたのかもしれないな。

 

「それに……私はこの歪んでしまった自分自身を変えたいんです。赤見班長と出会うことで私は諦めかけていた人生をもう一度生きると決断することができた。だから……もうこんな自分が嫌……。自分の性格のせいで人と距離ができてしまうのがもう嫌なんです……」

 

「結衣……」

 

今までのキツイ発言は、不本意ながらの発言だったんだな。

過去の辛い経験から自分を保つために周りとの距離を置き、自分自身が強いと言い聞かせることで心を保ち続けてきた。

比較的周りからちやほやされている野薔薇とかに激しい敵対心をむき出しにしてたのも、きっとそれが原因だろう。

 

「遊佐くん……私はどうしたらいいんですか……! どんなに変えようと思っても変われない。私は……」

 

「いいんだよ。無理に変わらなくても」

 

「え……?」

 

結衣はきょとんとしたような顔で俺のことを見てくる。

 

「お前はお前だ。大事なのはお前が自分自身を好きになることじゃないのか?」

 

「私が……自分を……」

 

「そうだ。少なくとも俺はお前のことは嫌いだって思ってないし、今回お前の本音も聞けた。人ってのはそう簡単には変われるもんじゃない。お前がそのままだとしても本心が優しければ何も問題ないさ」

 

「そういう……ものなんですかね……」

 

「まっ、素直じゃないところは少しは直した方がいいとは思うけどな!」

 

「……っ! でも……そうですよね……。実は私……あれだけ突っぱねてきたのに嫌がる様子がなかったあなたのことが不思議でしょうがなくて……。ちょっと気になっていたところはありました」

 

「まぁ……俺もお前と似たようなものだよ。喋る相手がろくにいなかったもんだから、会ってきた人との繋がりは大事にしたいと思ってて」

 

それに……特殊起動班自体変人ばっかりって聞いてたから少し諦めてたところはあったけどな。

 

「私もそれができればよかったんですけど……。あの……一つだけいいですか?」

 

「なんだ?」

 

結衣は俺から視線を逸らし、倉庫の入口付近を見ながら口を開く。

 

「遊佐……いや、繋吾くんのことは信用してもいいですか?」

 

そう言った結衣の表情はほのかに赤っぽくなっていた。

その様子を見ていると思わず俺の方まで緊張してきてしまう。

 

「あ、あぁ。俺でよければ頼ってくれ。他の奴よりかはお前の気持ちはわかってやれるつもりだ」

 

「ありがとう……」

 

結衣はそう呟くと、再び目を閉じた。

まだやっぱり先ほどのデュエルダメージが大きいみたいだ。助かったと思って安堵したのだろう。

しばらくは休ませておかないとな。

とりあえずはSFSに戻るまでは気が抜けない。それまで誰もここに来なければいいんだけど……。

 

そんなことを考えていると俺の願いをへし折るように倉庫の扉が開く。

俺はデュエルウェポンを構えながら入口の人物に視線を向ける。

 

相手はどうやら一人のようだ。国防軍でもSFSでもない。おそらく敵だ。

 

「ここにいたんだね、遊佐 繋吾くん?」

 

声に気がつき、その人物を見ると……そこには俺の見覚えのある顔が立っていた。

ウェーブのかかった黒髪の青年。そう、俺の探し求めた人物に似た人物だった。

 



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Ep48 - 宿敵

俺の目の前に突如現れた黒髪の青年。

あの顔を忘れるわけがない。

 

今から5年前、俺の目の前で父さんを殺した張本人。

あの時とは髪型も姿も多少変わってはいるが、見間違えるわけがない。

 

ようやく見つけたぞ……俺の5年間の願望を達成できる最大のチャンスが予期しないところで舞い込んできたのだ。

あの青年をぶっ倒すために俺はSFSに入り……このデュエルウェポンという対抗手段を身につけた。

絶対に逃がさない。ここで俺が父さんの無念を晴らす!

 

「ようやく見つけたぞ……人殺しがッ!」

 

俺は青年に向かって叫びながらデュエルウェポンを構える。

 

「あれー? 僕のこと知っている様子? おかしいなあ……初対面なはずなんだけど」

 

「とぼけるんじゃねえ! 忘れたとは言わせねぇぞ……。今から5年前。俺の父さんを殺したお前の罪……。絶対に許さねぇ……!」

 

「5年前……。ああ、なるほど。遊佐ってことは、あの時窓にいたガキが君だったってわけか。あの時は僕も後悔したよ。君のことをもっと注視してあの場で殺しておけばよかったってね。まさか遊佐 真吾が自らの子供にペンダントを渡しているなんて思いもしなかったよ」

 

「ふざけるんじゃねえ……。私欲のために人の命を弄びやがって……。自分が何をしているのかわかっているのか!」

 

「ああ、わかっているさ。この腐った世の中には少しだけ罰が必要なんだよ。それをこの僕が与えたあげただけさ」

 

何が罰だ。

それが何にも罪のない人間を殺すことだって言うのかよ。

そんなこと認められるはずがない……!

 

「それはお前の身勝手な考えだ! 結局はデュエルウェポンという強大な力を用いて、自分が気に入らない人たちを殺しているだけだろうが!」

 

「ふっ……君は何もわかってないね? 僕たちジェネシスがそんなちっぽけな理由だけで活動していると思ったのかい? そのペンダントのことも何も知らないくせにさ!」

 

「なんだと……?」

 

確かに奴が言うとおり、俺はこのペンダントに関してはよくわからない。

だけど、このペンダントにはとてつもない力が宿っているのは、さっきの結衣を守った謎の光からも理解している。

強大な力も使いようだ。悪意を持った人物が使えばそれは大変な兵器となる。

 

「まっ、僕たちの活動理由を知ろうが知りまいが、君はここで死んでもらうよ。ま、その胸元のペンダントを渡してくれるっていうのなら命だけは助けてあげてもいいけど?」

 

奴らがこのペンダントを使って何をしようとしているのか目的はまったくわからないが、ただでさえ人殺しをしている奴らに渡せたもんじゃない。

絶対に渡してやるか……。この際命なんて惜しくない……!

 

「この期に及んで命乞いなんてするわけねえだろ! 上等じゃねえか……。むしろ俺はお前を倒すためにここまできたんだ。やってやるよ……かかってきやがれ!」

 

「僕とデュエルする気? いいよ。国防軍の連中って手応えなさすぎて飽き飽きしてたところだったんだ。少しは楽しませてくれよ! 遊佐 繋吾!」

 

「その口利けなくしてやる……!」

 

不思議と負ける気がまったくしない。

今ならどんな相手でも叩き潰せる気がする。

ここ5年間ずっと願っていたものが達成できようとしているんだ。これほど俺にとって嬉しいことはないだろう。

喜びと憎しみの気持ちが入り混じって言葉では言い表せないようなよくわからない気分になっていた。

 

早く……モンスターの攻撃であいつがひれ伏す姿が見たくて仕方がない……。

あいつの痛がる姿……それを目の当たりにしてこそ、俺のこの怒りは満たされる……。

 

俺の考えはどんどんエスカレートしていき、歯止めが効かなくなりつつあった。

 

しかし、後方より俺の名前を呼ぶ声が聞こえるのに気づき、振り向く。

 

「繋吾くん……」

 

「悪いな結衣。こいつは俺の問題だ。必ず勝つから安心してくれ」

 

「違うんです。今のあなたは冷静さを欠いてしまってます。さっき言ってたじゃないですか。奮戦と無謀は別物だって……」

 

「俺じゃあいつには勝てないって言いたいのか? そんなことはやってみなきゃわからないじゃないか。口出し無用だ」

 

「あの人は……赤見班長でも逃げ出すくらいの……そして、過去に特殊機動班をほぼ全滅に追い込んだ程の人物なのですよ……」

 

「だからなんだって言うんだ! 悪いな結衣。俺はこいつを倒すために生きてきた。ここで戦うことこそが俺の生きる意味なんだよ!」

 

「お願いです……考え直して……」

 

結衣は真剣な眼差しで俺のことを見つめてくる。

くそ、調子狂うじゃないか。こんなチャンス二度とないっていうのに……。

 

「ふふふ……さて行こうか!」

 

黒髪の青年はデュエルウェポンを構えこちらへと歩いてくる。

結衣の先ほどの発言が脳内に残り、徐々に思考が混乱してきた。

俺がもし負けたら……。いや、あいつに負けるはずがない。だが……その自信や根拠はどこだ……。

待て待て、俺は何を考えているんだ。

集中しろ。目の前には俺がずっと倒したいと望んできた人物。戦わない理由はない。例えこの命が果てたとしてもだ。

 

「待て!」

 

その俺の思考を打ち砕くかのように倉庫の入口から聞き慣れた声が倉庫内に響き渡る。

そして、その人物はあっという間に黒髪の青年へ近づくと、デュエルウェポンを構えだした。

 

「赤見くんか。いちいち邪魔しやがって……」

 

そう、その人物は赤見さんだった。

そういえば赤見さんもこっちに来ると言っていたか。

 

「悪いな、繋吾。こいつの相手は俺がする」

 

気が付くとデュエルウェポンには、先ほどの接近で始まったのか黒髪の青年と赤見さんの二者でのデュエルモードと表示されていた。

 

「なんで……邪魔するんですか、赤見さん! 言ったでしょう! 俺はこいつを倒すためにSFSに入ったって!」

 

「わかってる! だがな、お前一人の問題じゃないんだよそのペンダントは! それに……お前は結衣を見殺しにできるのか?」

 

「……っ! 結衣……」

 

そうか……。仮に俺がこいつに負けたら……俺だけの問題じゃない。

後ろにいる結衣もこの青年に殺されるどころか、ペンダントを奪われれば世界が大変なことになる……。

それこそ俺自身の個人的な理由だけで……場合によっては大惨事になるってことだ。

いくら目の前に自分の生きる意味があったとしてもだ。

 

ふと俺の脳裏に桂希とデュエルした時の台詞が蘇る。

 

ーー「遊佐、お前はどうだ? 例えば何かを代償としたとしても戦い続けることができるか?」ーー

 

その時俺は……。大事なものを失ってまで貫く意志に意味はないと決めたじゃないか……。

それなのに俺は……せっかく分かり合えた結衣という仲間と父さんからのペンダントを失う覚悟で戦うつもりでいた。

もちろん俺はあいつなんかに負けるつもりはない。だが……。冷静に考えれば今の状況はハイリスクすぎた。

 

「繋吾。結衣を頼む。一緒に逃げてくれ。こいつとは私が決着をつける!」

 

「赤見さん……。だけど……それなら俺が戦います! 赤見さんが結衣を運んでください。ペンダントも預けます! 俺の復讐は……俺の生きる意味は……その男をぶっ倒すこと一つなんですよ!」

 

「あぁ……だけどダメなんだ! 私も約束をした! 繋吾を守り続けるとな!」

 

「約束……?」

 

赤見さんは目を閉じ深呼吸をすると、真剣な表情をしながら言葉を続ける。

 

「今から5年前、当時特殊機動班長だった遊佐 真吾班長は……5年前の襲撃の時に私に一つの任務を言い渡した。緑のペンダントをジェネシスの手から守るため、息子の遊佐 繋吾に渡す。だから、テロリストの手に渡らないように襲撃から守ってくれと」

 

「なに……? まさかそれじゃあの時、赤見さんは父さんのすぐ近くにいたってことですか!」

 

「そうだ。真吾班長はジェネシスから狙われているのはわかっていた。だからこそ、戦闘前に念のためを考えて、繋吾。お前にペンダントを渡したんだ。5年前、お前の後頭部を殴り気絶させたのは私だ。隠していてすまなかったな」

 

5年前に……襲ってきたのは赤見さんだったのか!

それじゃ……赤見さんは俺を守って……。そして父さんは……。

 

「なんで隠してたんですか! 言ってくれれば……」

 

「お前をこの戦いに巻き込みたくなかった。そしてお前の命を守るにはSFSに所属させた方が一番安全と考えたから入団させたんだ。それに……結果的に私は真吾班長を見捨てる形となってしまった。それを知られたら……合わせる顔がなくってな」

 

「そんな……悪いのはジェネシスだ。赤見さんは悪くはない」

 

「ありがとう。だからこそ私はこいつと決着をつけなきゃいけない。繋吾を守ること。そして真吾班長の無念を晴らすためにも!」

 

そう言い、赤見さんは黒髪の青年を睨みつける。

 

「5年前はペンダントを隠されて……今は妨害をしてくる。本当に面倒なことしかしないね赤見くん」

 

「ふっ、今でも鮮明に思い出す……。逃げ惑う特殊機動班員を片っ端から潰していくお前の姿が……!」

 

「あはは! 怖いのかい? まぁ君ごときが僕に勝てるわけがないけどね!」

 

「黙れ……。散っていった多くの隊員の意思を背負って私はここにいる……! 今度こそ決着をつける!」

 

赤見さんもあの様子だと玉砕覚悟な感じだ。

正直、俺自身ここから撤退するのは気が進まない。

だが……赤見さんに言われた内容。父さんが赤見さんに託した思い。

それを無下にするわけにはいかない……!

 

「さぁ早く逃げろ! 繋吾!」

 

「赤見さん……すみません……!」

 

俺は赤見さんに深く頭を下げると、再び結衣を抱え部屋から脱出する。

その際にネロが俺たちを逃すまいと走り出してきた。

 

「おっと邪魔はさせないぞ、ネロ」

 

「くっ……ほんっとに赤見くんは邪魔だね!」

 

赤見さんが立ちふさがり、ネロを足止めしてくれているようだ。

今のうちに……。赤見さん、父さんの仇討ち、頼みました……!

 

「さぁ、デュエルを受けてもらおうか!」

 

「とっとと終わらせるよ、赤見くん! デュエル!」

 

部屋を抜け出した俺と結衣は赤見さんたちのデュエル開始の声を聞きながら廊下を走り出していった。

 

 

ーーしばらく走っていると、徐々に外が近づいてきているのがわかった。

とりあえずグラウンドまで出れれば外門を出て国防軍基地から脱出できる。

外にさえ出られればどこかしらで結衣を休ませられることもできるだろうし、SFS本部に救助をお願いすることもできるだろう。

 

「繋吾くん……ごめんなさい。あなたの目的を踏みにじるようなことをしてしまって……」

 

もうすぐ玄関にさしかかろうとした時に、結衣が声をかけてきた。

彼女もだいぶ回復してきたのだろうか幾分か楽そうな様子が見受けられる。

 

「いや、いいんだ。俺自身、急な出来事で周りが見えなくなってた。謝るのは俺の方だよ。お前のことを見殺しにしようとしてた」

 

「いえ……私はもう死んだようなものですから……今、生きていられるのも繋吾くんのおかげです。ですけど、一人でできることには限度があります。もっと周りを頼ってください。私が言っても説得力がないでしょうけど……」

 

「そんなことない。お前は誰よりも誰かと一緒にいたいという気持ちを持ってるはずだ。そして、一人の力の限界もよく知ってるだろう?」

 

「ええ……さっき話しましたもんね。私も怪我なんてしてなければ一緒に戦えたんですが……」

 

「今は気にするな。とりあえずは赤見さんが無事なことを祈ろう……」

 

「はい、そうですね……」

 

赤見さんは……あのネロって奴に勝てるだろうか。

どんなデュエルをするのかはわからないが、デュエルでは相当強かった俺の父さんを打倒し、特殊機動班を過去に全滅間際まで追い込んだ人物だと聞くと正直不安が強い。

だけど、結衣を放って赤見さんの援護に行くわけにもいかないし、今は逃げることしかできない。

誰か……国防軍の人が向かっていってくれればいいが……。

 

国防軍基地玄関を抜けると外には交戦中の国防軍隊員とテロリストの姿があった。

ざっとそれぞれ50人くらいはいるだろうか。デュエルをしている姿はほとんど見受けられず、デュエルウェポンを駆使して遠距離からの攻防を繰り広げている。

 

施設を守るように国防軍隊員が配置されており、対してデュエルウェポンで具現化された障害物をグラウンド上に多数配置し施設を攻撃するようにテロリストが配置している。

この基地を出るにはこの攻防が繰り広げられているグラウンドを通過しなければならない。

結衣を運んでいる今じゃ無事に切り抜けるのは至難の業だろう……。

どうしたものか……。

 

「まずいな……」

 

「これじゃ抜けられませんね……。デュエルウェポンで何かしらモンスターを呼び出したりしたとしてもこんなに激しい攻防じゃ守りきれないと思います……」

 

「だろうな。どこかに隠れて……襲撃が終わるのを待つか……」

 

「いや、その必要はない」

 

玄関で立ち尽くしている俺たちにまたもや聞き覚えのある声が響き渡る。

 

「遊佐、無事か?」

 

「お前は……桂希? なんでお前がここに」

 

「白瀬班長から国防軍基地が襲撃にあっていると聞いてな。災難だったな」

 

「決闘機動班……!」

 

結衣は桂希の存在に気が付くと鋭い目つきで睨み始めた。

 

「ふっ、助けに来たというのにそこの佐倉というやつは相変わらずだな。力がないのに無茶しようとするからそうなる」

 

「あなたに……何が……!」

 

桂希と結衣のやつも仲が悪いのか……?

とりあえず今は仲間同士で争っている場合じゃない。

 

「まぁまて。今はそんなこと言ってる場合じゃない」

 

「あぁ、そうだな。だが、また決闘機動班に助けてと言った覚えはありませんとか言うようならお前は見殺しにするまでだが?」

 

「……」

 

結衣は無言で桂希を睨み続けている。

前にそんなことがあったのか……。そうなると桂希としてはあまり良いイメージはないのかもしれない。

結衣の性格が思いっきり出てしまってるやつだな……。

 

「悪い桂希。俺からのお願いだ。結衣も助けてやってほしい」

 

「冗談だよ遊佐。さぁ脱出するぞ」

 

「脱出ってどうする気だ……?」

 

「これだ」

 

桂希は1枚のカードをこちらに向ける。

そこには【空間移動魔法陣】を書かれたカードがあった。

 

「これは【空間移動】の派生カードだ。【空間移動】よりも発動に少し時間がかかるが、指定した座標に移動できる魔法陣を作成し、その魔法陣上の人物を移動することができる。3人くらいなら間に合うだろう」

 

なるほどな。それを用いてSFSまで帰還できればというところか。

それにしても桂希はよくもまぁそんな珍しいカードを入手しているな。白瀬班長の力なのかはわからないが……。

 

「では魔法陣を発動するまで、ちょっと待っててくれ」

 

桂希は【空間移動魔法陣】のカードをセットし、何やらデュエルウェポンの操作を始めた。

しばらくすると俺たち3人のいる地面に青色をした魔法陣が浮かび上がってきた。

 

「よし……もう少しだ……」

 

桂希が操作をしている最中、周りの様子を伺っていると、国防軍基地玄関に人影が見えた。

誰かが近づいてきているのか……?

 

「結衣、ちょっとすまない」

 

俺は結衣を魔法陣の上に寝かせ、自らのデュエルウェポンを構える。

 

「桂希、誰かが来てる。こっちは任せろ」

 

「あぁ、頼んだぞ遊佐」

 

しばらくするとその人物たちが扉を抜けて姿を現す。

国防軍でもSFSでもない……つまり敵だ。

それに気がついたと同時にこちらに銃弾のようなものが発射される。

 

その銃弾は俺と桂希の肩あたりに被弾してしまった。

普通なら出血し、重症を負うところではあるが、デュエルウェポンによってダメージが軽減されることで外傷はなく、痛みが発生する程度に和らげられた。

それでも無敵というわけではない。デュエルウェポンでの耐えられるダメージにも限度がある。そう、デュエルにおけるライフポイントのようにだ。

 

すぐさま俺は数枚のカードをデュエルウェポンにセットした。

 

「来い、【セフィラ・メタトロン】! そして、【エンコード・トーカー】、【デコード・トーカー】!」

 

数多の発射される銃弾を【エンコード・トーカー】の大きな盾が凌ぎ、【セフィラ・メタトロン】が杖をひと振りするとその盾に阻まれた銃弾が宙を浮き、テロリストたちへと発射される。

そして、その弾に便乗するように【デコード・トーカー】がテロリスト達へと斬りかかった。

 

悲鳴が聞こえ、安堵したのも束の間、次々と玄関の中からテロリストが現れ始める。

 

「桂希、まだか!」

 

「もう少しだ……」

 

どうやらもう少し凌がなくてはいけないようだ。

持ちこたえてくれ……俺のモンスター達……!

 

しばらくすると銃弾を受けきれなくなった【エンコード・トーカー】が破壊され消滅し、それと同時に【デコード・トーカー】も銃弾にやられ破壊されてしまった。

【セフィラ・メタトロン】はまだかろうじて銃弾を自らの剣と杖で凌いでいるが、破壊されるのも時間の問題だ。

もう少しだけ……耐えてくれ……!

 

「受けよ、"シューティング・ディザスター!"」

 

耐えて欲しいと願っている最中、白きジェット機のような形をした龍が【セフィラ・メタトロン】に突撃し、その衝撃で破壊されてしまった。

あのドラゴンは……見たことがある。【シューティング・スター・ドラゴン】だ……。

持ち主はひとり、オリバーという人物……。

 

「お前は……!」

 

「逃がしませんよ……遊佐 繋吾!」

 

オリバーはメガネをクイッとあげながら、徐々に接近してくる。

そして、指を鳴らしながら再び【シューティング・スター・ドラゴン】に攻撃指示を与えようとしていた。

 

「行きなさい! 【シューティング・スター・ドラゴン】!」

 

「……っ!?」

 

このままではまずい! あれが直撃すれば桂希もただじゃすまないだろう。

つまり……魔法陣が解かれる可能性が……!

 

「罠カード……【聖なるバリアーミラーフォース】……!」

 

すると結衣が横になりながら1枚の罠カードを発動させていた。

それと同時にあたりを眩い光が包み込んだ。いきなりの光に思わず目を瞑る。

そして、しばらくの沈黙が続いた……。

 

ーー目を開くとそこには見慣れたSFSの入口の光景が広がっていた。

脇には桂希と結衣の姿もある。なんとか逃げ切れたみたいだ。

 

「大丈夫か? 遊佐、佐倉」

 

「ああ。結衣は平気か?」

 

「ええ……なんとか」

 

最後に結衣が発動してくれた罠カードがなければ転移前にやられていたかもしれない。

危なかった……。

 

「最後の罠カードはいい判断だったな。礼を言う佐倉」

 

「……いえ。当たり前の……ことです」

 

結衣は顔を逸らし少し不機嫌そうに答えた。

なんだか不機嫌そうな結衣を見るのも少し久しぶりな気がするな。

 

「それにしても桂希、助かった」

 

「お前が無事ならばそれでいい。それよりもそこの女を早く医療班に渡した方がいいぞ」

 

「あぁ、そうするよ。行くぞ結衣」

 

「……はい」

 

俺は再び結衣を持ち上げ、桂希に別れの挨拶を済ませると、SFSの医療班の下へと向かったのだった。

 



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Ep49 - 出遅れたイナズマ 前編

ーーうーん、随分と長く寝てしまったか。

大きなソファの上で目を覚ます。

 

あたりを見渡すと見慣れない部屋と知らない人が数名。

 

あれ、結衣ちゃんと繋吾のやつはどこ行きやがった。

 

まさか……この俺が寝ている間にふたりっきりでどこかに……?!

くそ! 繋吾のやつ……抜けがけしやがって……あとで問い詰めてやるか!

 

「目が覚めたか? 君」

 

俺の周りにいた人が声をかけてきた。

こいつらは誰なんだよ。なんで俺を囲うようにいるんだ。

 

「誰っすか?」

 

「おっと、私は国防軍のものです。客人である君たちの護衛でいるだけですよ」

 

「護衛……? 何かあったんすか?」

 

「君は寝ていたからわからないでしょうが、今ここはテロリストの襲撃を受けています。危ないですからこのままここでじっとしていなさい」

 

襲撃……? いつの間にそんな……。

言われてみれば遠くの方でなんか交戦しているような音が響いてきているな。

 

ということは結衣ちゃんと繋吾は……まさか戦いに行ったんじゃないよな?

あの二人ならその可能性が高そうだ。なんせエリートの結衣ちゃんとデュエル馬鹿の二人だもんな。

 

まったく、それなら俺のことも起こしてくれればよかったのに。置いてくなんてそりゃないぜ。

 

「あぁそうそう。君の仲間なら行ってしまいましたよ。いくら止めても聞かなかった……」

 

「そうっすか……。あいつらはどこへ向かったんですか? 俺もちょっと……」

 

「あの人たちは襲撃箇所に向かってるはず。危険だからやめなさい。ここにじっとしているのが一番です」

 

そんな危険な場所なら逆に行かなきゃまずいだろ……。特に繋吾のやつは初戦でうまくいったとはいえ、まだ素人そのものだ。

ペンダントのこともあるし、放ってはおけない。

俺も追いかけるか……。ひとりで戦場へ向かうのは少し怖いけど。

 

「いえ、俺もいきます! 護衛してもらったとこ悪いけど!」

 

「待て! 今はこの付近も危険にーー」

 

俺が国防軍の人を振り払おうとした時に、突如大きな爆発音のようなものがし、思わず耳を塞ぎしゃがみこむ。

その後もしばらく大きな音が鳴り続けた。きっと誰かしらの攻撃だろう。

だが、俺のいた場所はソファとテーブルがあった場所だ。しゃがむことで障害物として機能してくれたため、身を守ることができた。

 

一体何が……。俺は何者かわからない突然の攻撃に恐怖し、しばらくその場から動くことができなかった。

視線の先には先程まで話していた国防軍の人が横たわっている。デュエルウェポンを身につけてはいるが、予期しない奇襲により一方的な攻撃を受けたからか、相当なダメージを負っているだろう。まったく動く様子がなかった。

 

もしかして……死んでいる……? いやまて、デュエルウェポンの攻撃ならデュエルウェポンがある程度は軽減してくれるはず。

そうは思ったが、それなりに長い間大きな音が鳴り続けていた。あの間ずっと攻撃を受け続けていたのであれば、命を落としていても不思議ではない。防御のカードを使っていたのならまだしも、無抵抗の状態だったからな。

 

ってことは相手は容赦ない殺人鬼のようなやつってことかよ……。

相手は何人いるかもわからない。どうしたらいいんだ……。

 

とりあえずまだ俺の存在はバレていないみたいだ。このままいなくなってくれ……頼むから……!

 

「全員やったか?」

 

「こんだけ派手にぶちかませば十分だろ? だけどハズレだな」

 

「SFSの奴らが来てるってほんとなのかよ。どこ情報だか知らねえが……」

 

男数名の会話する声が聞こえる。

SFSの人物を探している? まさか敵の狙いはSFSか?

なんで……俺たちがここにいることを知ってるんだよ。今日の出張はSFSと国防軍の間で決まった話のはずだ。

相手は本当にテロリストなのか……? 何か別の組織とか……。

 

いずれにせよ今ここで見つかれば間違いなく殺される。

戦える準備だけはしておかないとだな。

 

「おい、お前ら。ここは片付いたか?」

 

「はい、デントさん。見てのとおり一掃ですよ一掃!」

 

「ご苦労さん。んじゃ次、ここだ。ポイントD-2。頼んだぜ?」

 

「了解しやした! デントさんは……?」

 

「俺はここの国防軍連中が何かいいブツ持ってないかもう少し見させてもらうわ」

 

デントって聞いたことあるな。

たしか……こないだのイースト区の作戦で赤見班長と戦っていたアイツか?

ってことは奴らはジェネシス……!?

なぜジェネシスが俺たちがここにいることを知ってんだ。どこかで情報が漏れたか……あるいは俺たちの動向を見張られていたか……。

いや、今はそんなこと考えてる場合じゃねえ。今の会話内容からするとデントは今ここに一人で残ってる。

ってことは、アイツとサシの勝負ができるかもしれねえ。

 

もし勝てれば俺も……結衣ちゃんや聖華ちゃんに見直されるかもしれねえ……っへへ。

どうせ赤見班長にやられたような奴だ。俺にだって勝てるはずよ! この上地 颯の力、見せてやるぜ!

 

「おい、いるんだろ? 生き残り」

 

突然そのデントに声をかけられ驚く。

まさか俺が隠れていることに気がついていたのか……?

 

「わかってんだよ。この部屋にSFSの奴がいることは。死体にSFSの奴がいなけりゃ隠れてるに決まってる」

 

待てよ……この部屋にいるってこともわかってんのか!?

どうなってんだよ……まさかジェネシスは国防軍と繋がってて俺たちをハメやがった……? いや、だがそれじゃ国防軍の兵隊を皆殺しにする理由がない。それに随分と派手に国防軍は襲撃を受けてるみたいだし……。

まさか奴らのデュエルウェポンには俺たちの居場所を察知するような何か特殊な機能があったりするのだろうか。

もしそうだとしたら勝ち目があるわけがねぇ……だけど、それでもデュエルなら……そんな機能は関係ねえな!

 

どうせもう後がねぇ。ここはもう行くしかない!

俺は机の上から飛び出し、デュエル開始ボタンを押しながらデュエルウェポンを構える。

 

「ほらな、やっぱりSFSの野郎がいたわ」

 

「くだらねえ話はいい。特殊機動班の力……舐めるなよ……!」

 

「お前は……こないだイースト区の時にいた奴か。随分と威勢がいいじゃねえか」

 

「うるせえ! こないだ負けたやつなんか怖くねえよ! 構えやがれ!」

 

「ちっ、赤見グループのガキんちょが! いくぞ」

 

「デュエル!」

 

デント 手札5 LP4000

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

颯 手札5 LP4000

 

 

相変わらず態度が悪いやつだぜ。

だけど、怖くもなんともねえ! 赤見さんに無様に負けていた奴だしな。

それにあいつの戦術は一通り見てるし、エースモンスターもわかってる。

 

ここで俺が倒して拘束でもしてやれば大きな手柄になりそうだ。こいつは色々と事情も知ってそうだしな!

 

デュエルはデントのやつの先攻だ。出方を伺ってみるとするか……。

 

「先攻、もらうぜ。俺のターン、モンスターをセット、カードを1枚伏せてターンエンドだ。さぁかかってきな!」

 

デント 手札3 LP4000

ーー裏ーー

ーー裏ーー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

颯 手札5 LP4000

 

大人しい初ターンだな。これは俺のお得意の融合召喚で一気に決めてやるわ!

 

「俺のターン、ドロー! 魔法カード【ジェムナイト・フュージョン】を発動! 手札の【ジェムナイト・ルマリン】と【ジェムナイト・ラズリー】を融合! "轟く希望! 駆ける稲妻となりて、戦場を切り裂け! 融合召喚! 来い、【ジェムナイト・パーズ】!"」

 

 

ーーー

【ジェムナイト・パーズ】☆6 地 雷 ②

ATK/1800

ーーー

 

迸る稲妻を纏った二本の小剣を振り回しながら、金色の鎧を纏った騎士が出現する。

先手必勝! 滾る稲妻で、一気に大ダメージを与えてやるぜ!

 

「ほう……いきなり融合とは張り切ってんな」

 

「へっ、ビビっちまったか? さらに効果で墓地へ送られた【ジェムナイト・ラズリー】の効果を発動! 墓地から【ジェムナイト・ルマリン】を手札に戻す。そして、バトルだ! 【ジェムナイト・パーズ】でセットモンスターを攻撃! "ボルテック・ダガー!"」

 

【ジェムナイト・パーズ】は両手の小剣を構えながら回転するように接近し、セットされているモンスターへ近づいていく。

セットカードが開かれると弾丸のような形状をしたモンスターが出現し、その体を引き裂かれ消滅した。

 

【ジェムナイト・パーズ】

ATK/1800

【オート・ヴァレット・ドラゴン】

DEF/0

 

「守備だからって安心してると痛い目を見るぜ! 【ジェムナイト・パーズ】がモンスターを戦闘によって破壊した時、破壊したモンスターの攻撃力分だけ相手にダメージを与える! くらえ! "スプラッシュ・サンダー!"」

 

「ちっ……こいつの攻撃力は1600……」

 

稲妻に染まる小剣から稲妻がデントに向かって放たれ、その体が感電するように電気が纏った。

 

「くぅ……」

 

デント LP4000→LP2400

 

よっしゃあ! 先制ダメージはもらったぜ!

伏せカードは発動してこないところを見ると、攻撃に反応した罠ではなさそうだ。

このまま二回目の攻撃を叩き込む!

 

「さらに、この【ジェムナイト・パーズ】は2回攻撃ができる! 続けてお前にダイレクトアタック!」

 

「おっと、いい気になるなよ? ガキんちょ。リバースカードオープン、速攻魔法【クイック・リボルブ】発動! デッキから"ヴァレット"モンスター1体を特殊召喚する。 来い、【アネス・ヴァレット・ドラゴン】!」

 

ーーー

【アネス・ヴァレット・ドラゴン】☆1 闇 ドラゴン ③

DEF/2100

ーーー

 

さすがに一筋縄ではいかないか。

【ジェムナイト・パーズ】の攻撃力ではあの守備力に届かない。

 

「へっ、攻撃を守れた程度じゃ何にも変わらないぜ! 俺はカードを2枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

「エンドフェイズ時に【クイック・リボルブ】の効果で特殊召喚した【アネス・ヴァレット・ドラゴン】は破壊される。そして、俺の"ヴァレット"モンスターの効果を使わせてもらうぜ? 破壊されたエンドフェイズ時に、デッキから異なる"ヴァレット"モンスターをそれぞれ呼び出せる。来い、【マグナ・ヴァレット・ドラゴン】! 【メタル・ヴァレット・ドラゴン】!」

 

ーーー

【マグナ・ヴァレット・ドラゴン】☆4 闇 ドラゴン ②

ATK/1800

ーーー

【メタル・ヴァレット・ドラゴン】☆4 闇 ドラゴン ②

ATK/1900

ーーー

 

ちっ、モンスターが増えたみたいだな……。

リンク召喚あたりでもされるか……それとも融合を狙ってくるか……。

【ジェムナイト・パーズ】はやられてしまいそうだな。だが、その対策は万全だ。

そうだな……強いていうなら"完璧な布陣だ"とでも言うべきか。

 

デント 手札3 LP2400

ーーーーー

ーモモーー

 ー 融

ーーーーー

ーー裏裏ー

颯 手札2 LP4000

 

「さーて、俺のターンだな? ドロー! そろそろ行かせてもらうわ。【捕食植物オフリス・スコーピオ】を通常召喚! こいつの効果により、手札のモンスターカード1枚を墓地へ送り、デッキから"捕食植物"モンスター1体を特殊召喚する。いでよ! 【捕食植物サンデウキンジー】!」

 

ーーー

【捕食植物オフリス・スコーピオ】☆3 闇 植物 ④

ATK/1200

ーーー

【捕食植物サンデウキンジー】☆2 闇 植物 ⑤

ATK/600

ーーー

 

来やがったか。あれは融合召喚機能を内蔵したモンスターカード。

あいつが使っていた【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】はレベル8以上の闇属性モンスターを素材にしなければ出せないはず。したがって出てくるのはそれ以外の【捕食植物キメラフレシア】あたりか……?

あいつもまぁ厄介な効果を持っていたが、効果は知っているから対処は楽だな。想定の範囲内だ!

 

「ふっふっふ。ではまずはこいつから……。現れよ、撃鉄起こすサーキット! 俺は【メタル・ヴァレット・ドラゴン】と【マグナ・ヴァレット・ドラゴン】の2体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚。いでよ、【ブースター・ドラゴン】!」

 

ーーー

【ブースター・ドラゴン】リンク2 闇 ドラゴン ① 左下 右下

ATK/1900

ーーー

 

「さらに……【サンデウキンジー】の効果発動! このカードを含む場、手札のモンスターで融合できる! 【オフリス・スコーピオ】と【サンデウキンジー】の2体を融合! "暗影より権限する紫毒の咆哮よ! 弱者を喰らう絶望の波動を解き放て! 融合召喚! いでよ、【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】!"」

 

ーーー

【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】☆8 闇 ドラゴン ①

ATK/2800

ーーー

 

【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】に似ながらも、禍々しい雰囲気を醸し出した紫色の大きなドラゴンが出現する。

なんだあのモンスターは……。こないだのデュエルでは使っていなかったカードだ。

これは少し想定外だぜ……。

 

「受けてもらおうかねえ……【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】の効果発動! 融合召喚に成功した時、相手の場の特殊召喚されたモンスターの攻撃力分、エンドフェイズ時までその攻撃力を上げ、さらにそのモンスターと同じ効果を得る! お前の【ジェムナイト・パーズ】の良い効果、借りさせてもらおうか! "アビリティ・ゲイン!"」

 

「なんだと……!?」

 

【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】

ATK/2800→4600

 

攻撃力を上げるだけでなく、俺の【ジェムナイト・パーズ】の効果までコピーする能力とは……。

【パーズ】は戦闘破壊したモンスターの攻撃力分、相手にダメージを与える効果があり、さらに2回の攻撃が可能。

あの攻撃力4600で2回攻撃されちゃ、たまったもんじゃねえ……。

 

「さらに【ブースター・ドラゴン】の効果発動! 場のモンスター1体の攻撃力を500ポイントアップさせる。これで【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】の攻撃力をさらにアップ!」

 

【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】

ATK/4600→5100

 

攻撃力5100……。くそ! これじゃこないだの聖華ちゃんとのデュエルみたいにワンターンキルじゃねえか!

くそ! 何か手立てはねえのか……。

 

「さぁーて……自らのモンスターの能力で死ね! バトル、【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】で【ジェムナイト・パーズ】を攻撃! "デッドリィ・ヴェノム・ストリーム!"」

 

【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】

ATK/5100

【ジェムナイト・パーズ】

ATK/1800

 

【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】の体にある数多の禍々しき球体から紫色をした光線が発射され、【ジェムナイト・パーズ】に命中する。

 

【ジェムナイト・パーズ】の効果を有している以上、軽減策がなければこの攻撃で俺のライフはゼロだ。

だが……俺はまだ諦めちゃいねえ。可能性がある限り……まだ負けたわけじゃねえ……。

 

「くっそお! 罠カード発動! 【パワー・ウォール】!」

 

「【パワー・ウォール】……? ほう……」

 

「こいつは、俺がダメージを受ける時、デッキからカードを1枚墓地へ送るごとにダメージを500ポイント軽減する。俺はデッキから7枚のカードを墓地へ送り、戦闘ダメージを0にする!」

 

カードの発動と同時に俺のデュエルウェポンから7枚のカードが弾けとび、墓地へと送られる。

 

「だが、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージ……1800は受けてもらうぜ? くらいな!」

 

破壊された【ジェムナイト・パーズ】の影が浮かび上がり、そこから稲妻が放たれ直撃する。

全身に痺れるような焼かれるような感覚が襲いかかってくる。

 

「ぐああああ……!」

 

颯 LP4000→LP2200

 

なんとか中腰になりながらもその攻撃に耐えた。

だが……あの【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】はもう一度攻撃ができる。

俺のもう1枚の伏せカードは【リビングデッドの呼び声】。

墓地からモンスターを呼び出すことができるが、今の状況だと使ったところでライフポイントは0となってしまう。

 

くそお……もう手立てはないのか……!

 

「これで終わりか、SFSだから少しは楽しませてもらえると思ったが、あっけなかったな。【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】でダイレクトアタック! "デッドリィ・ヴェノム・ストリーム!"」

 

「くっ……ちくしょう!」

 

再び【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】より紫色の数多の光線が発射される。

 

あれを受ければ俺の負けかよ……! ちくしょう!

こんなところでやられるのなら、結衣ちゃんや聖華ちゃんに告ってればよかったぜ……。

 

ーー「ありがとうございました、上地さん! ですけど……ちょっと後先考えずにデュエルし過ぎじゃないですか?」

 

聖華ちゃん……。ふと脳裏に浮かんだ聖華ちゃんの台詞。

そういえばあの時も本当はまだ俺は耐えることができたんだっけ。そういえば……。

 

俺は急いで自らの墓地のカードを眺める。

 

【ジェムナイト・フュージョン】

【ジェムナイト・ラズリー】

【ジェムナイト・アレキサンド】

【ジェムナイト・サフィア】

【マグネット・リバース】

【超電磁タートル】

【パラドックス・フュージョン】

【サンダー・ブレイク】

【ヴァイロン・プリズム】

【パワー・ウォール】

 

これは……! 【超電磁タートル】! 落ちてくれていたか!

こいつの効果なら俺はまだ生き延びることができる!

 

「へっ……へへっ。墓地から【超電磁タートル】の効果を発動! このカードを墓地から除外することで、このターンのバトルフェイズを終了する!」

 

「ほう……。運が味方したか。それくらいしてもらわなけりゃ退屈してたとこだ。いいだろう、俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ。そして、【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】の攻撃力は元に戻る」

 

よっし……。なんとか耐え切ったぜ……。

これで次のターン、あのデカブツを倒してやりゃ、あいつも打つ手なしってとこだろ!

この上地 颯様の本気はここからだぜ……!

 

 

デント 手札1 LP2400

ーー裏ーー

融ーーーー

 リ ー

ーーーーー

ーー裏ーー

颯 手札2 LP2200



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Ep50 - 出遅れたイナズマ 後編

デント 手札1 LP4000

ーー裏ーー

融ーーーー

 リ ー

ーーーーー

ーー裏ーー

颯 手札2 LP2200

 

相手の場には攻撃力2800の【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】と【ブースター・ドラゴン】の2体か。

ここで強力な融合モンスターが呼べりゃ、一気に形成逆転できるんだがな。

何かいいカード来てくれよ……! 頼むぜ……!

 

「俺のターン、ドロー!」

 

おっしゃ! さすがは俺だぜ! すばらしいカードだ。

ここぞという時に引いてこそ、真のデュエリストってもんよ!

 

「永続魔法【ブリリアント・フュージョン】発動! デッキのモンスターを素材にし、"ジェムナイト"モンスターを融合召喚する! ただし、代償として攻撃力は0になる」

 

「面白いもん使うじゃねえか……少しは味のあるデュエルにしてくれよ?」

 

「うるせえ! 俺はデッキの【ジェムナイト・ルマリン】と【ジェムナイト・ラズリー】の2体を融合! "堅き闘志! 大地を揺るがす磐石なる拳を振り上げろ! 融合召喚! 来い! 【ジェムナイト・ジルコニア】!"」

 

ーーー

【ジェムナイト・ジルコニア】☆8 地 岩石 ②

ATK/2900→0

ーーー

 

「再び、効果で墓地へ送られた【ジェムナイト・ラズリー】の効果で、墓地から【ジェムナイト・ルマリン】を手札に戻し、これを通常召喚! さらに、墓地の【ジェムナイト・フュージョン】の効果も発動するぜ。墓地から【ジェムナイト・アレキサンド】を除外し、手札に戻す」

 

ーーー

【ジェムナイト・ルマリン】☆4 地 雷 ③

ATK/1600

ーーー

 

「さらに、こっちもいくぜ! 現れよ! 輝石を照らすサーキット! 俺は【ジルコニア】と【ルマリン】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、リンク2【ジェムナイト・ファントムルーツ】!」

 

ーーー

【ジェムナイト・ファントムルーツ】リンク2 地 岩石 ②

ATK/1450

ーーー

 

「【ファントムルーツ】の効果発動! リンク召喚に成功した時、デッキから"ジェムナイト"カード1枚を手札に加える。俺は【ジェムナイト・オブシディア】を手札に加える! そして、更なる効果によって俺のライフポイントを1000払うことで、自分の墓地か除外されているモンスターをデッキに戻すことで、融合召喚が行える!」

 

颯 LP2200→LP1200

 

「ほほう……今度は墓地と除外ゾーンからの融合か。見せてくれるねえ」

 

「サレンダーするなら今のうちよ! 俺は除外ゾーンの【ジェムナイト・アレキサンド】。墓地の【ジェムナイト・ラズリー】、【ジェムナイト・ジルコニア】の3体をデッキに戻し、融合! "高貴なる絆! 絢爛華麗なる輝き照らす光となれ! 融合召喚! 光を導け! 【ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ】!"」

 

ーーー

【ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ】☆10 地 岩石 ③

ATK/3400

ーーー

 

白銀の鎧を身にまとった女騎士のような高貴なモンスターが出現する。

これが俺の新たなる切り札ってやつだ。全力で畳み掛けてやるぜ!

 

「【ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ】の効果発動! "リリース・リインフォース!" 場の【ジェムナイト・ファントムルーツ】をリリースすることで、EXデッキから"ジェムナイト"融合モンスターを召喚条件を無視して特殊召喚できるぜ! 来い、無垢なる輝きを解き放つ力! 【ジェムナイトマスター・ダイヤ】!」

 

ーーー

【ジェムナイトマスター・ダイヤ】☆9 地 岩石 ②

ATK/2900

ーーー

 

そして、今度は大きな大剣を担ぎながら、純白の聖騎士モンスターが出現する。

この2体のモンスターが並ぶフィールドは風格があるぜ……。

 

「【ジェムナイトマスター・ダイヤ】の効果発動! "トゥルース・リレーション!" 墓地のレベル7以下の融合"ジェムナイト"モンスターを除外して、その能力を受け継ぐ! 俺は【ジェムナイト・パーズ】を選択するぜ!」

 

「なるほどな。俺の【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】みたいに高攻撃力モンスターに効果を与えれば非常に強力な効果になる……っていったとこか?」

 

「別にお前の戦術をパクったつもりじゃねえ。この受け継ぐ能力こそ俺の"ジェムナイト"デッキの真価だ! さらに【ジェムナイトマスター・ダイヤ】は墓地の"ジェムナイト"モンスターの数×100ポイント攻撃力をアップする! 墓地には4体いるため400ポイントアップ!」

 

【ジェムナイトマスター・ダイヤ】

ATK/2900→3300

 

「一気にケリをつけるぜ! バトルだ! 【ジェムナイトマスター・ダイヤ】で【ブースター・ドラゴン】を攻撃! "セブンスソード・ブレイカー!"」

 

【ジェムナイトマスター・ダイヤ】

ATK/3300

【ブースター・ドラゴン】

ATK/1900

 

【ジェムナイトマスター・ダイヤ】の大剣が黄色に光だし稲妻を纏い出すと、それを構えながら【ブースター・ドラゴン】に接近を始める。

 

「おっとお! そいつを喰らったら危ないってところだ。罠カード、【タクティカル・エクスチェンバー】発動! 場のモンスター1体を破壊し、デッキもしくは墓地から"ヴァレット"モンスターを特殊召喚させてもらうぜ?」

 

「くっ……」

 

【ブースター・ドラゴン】を破壊するつもりか……?

いやだが、いずれにしても【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】を攻撃すれば奴のライフを3300は削れる。

2回攻撃と【ブリリアントダイヤ】の攻撃を合わせれば、ライフを0にできるのに変わりはない。

 

「俺は【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】を破壊し、墓地から【アネス・ヴァレット・ドラゴン】を守備表示で特殊召喚!」

 

ーーー

【アネス・ヴァレット・ドラゴン】☆1 闇 ドラゴン ④

DEF/2100

ーーー

 

いや待てよ……この光景どこかで見覚えが……。

赤見班長とのデュエルの時も似たようなことをしていた。まさかあのモンスターにも……。

 

「そして、この瞬間! 【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】の効果発動! 融合召喚したこのカードが破壊された時、相手の場の特殊召喚されたモンスターを全て破壊する! 消え去りな、騎士さんよぉ!」

 

「なにぃ!?」

 

【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】が放つ禍々しい閃光に飲まれ、俺のモンスターは全て消滅してしまった。

くっそお……。だが、それでも攻めるのなら今がチャンスなんだ。あいつのペースに飲まれるなんてごめんだぜ。

 

「へっ、だがこれであんたの伏せカードは0だ。この上地 颯を舐めるんじゃねえ! リバースカードオープン! 【リビングデッドの呼び声】! 墓地から【ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ】を特殊召喚!」

 

ーーー

【ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ】☆10 地 岩石 ③

ATK/3400

ーーー

 

「まだ食らいついてくるか。悪くねえ闘志だ」

 

「まだバトルは続行! 【ブリリアント・ダイヤ】で【ブースター・ドラゴン】を攻撃! "ブリリアントソウル・スラスター!"」

 

【ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ】

ATK/3400

【ブースター・ドラゴン】

ATK/1900

 

「ちっ……」

 

デント LP4000→LP2500

 

デントは衝撃を受け、片膝立ちになるもすぐさま顔を上げ、右腕を振り上げながら叫びだした。

 

「だが、【ブースター・ドラゴン】が破壊された時、墓地からドラゴン族モンスターを特殊召喚できる! 蘇れ、【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】!」

 

ーーー

【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】☆8 闇 ドラゴン ③

ATK/2800

ーーー

 

再び蘇ってきたか。だが、俺の【ブリリアント・ダイヤ】の方が攻撃力は上。恐るに足りないぜ!

だが……反撃の手段は残させない方がいいだろう。徹底的に追い込んでやる……。

 

「メインフェイズ2。魔法カード【ジェムナイト・フュージョン】を発動! 手札の【ジェムナイト・ルマリン】と【ジェムナイト・オブシディア】を融合! "無垢なる輝き!聖なる雷に導かれ、邪悪を砕け! 融合召喚! 【ジェムナイト・プリズムオーラ】!"」

 

ーーー

【ジェムナイト・プリズムオーラ】☆7 地 雷 ②

ATK/2450

ーーー

 

「そして、手札から墓地へ送られた【ジェムナイト・オブシディア】の効果によって、墓地から通常モンスターを特殊召喚する! 来い、【ジェムナイト・サフィア】」

 

ーーー

【ジェムナイト・サフィア】☆4 地 水 ④

DEF/2100

ーーー 

 

「さらに、墓地の【ジェムナイト・ファントムルーツ】を除外して、墓地の【ジェムナイト・フュージョン】を手札に戻す。そして、これを捨てることで【ジェムナイト・プリズムオーラ】の効果を発動! 【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】を破壊する! "サンダー・レイストーム!"」

 

【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】の頭上より大きな稲妻が降り注ぎ、爆音と共に破壊された。

 

よし、これで相手の場は貧弱な【アネス・ヴァレット・ドラゴン】1体のみ。

手札もたったの1枚だ。大したことはできねえだろう。

 

「おっし、俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

デント 手札1 LP2500

ーーーーー

ーーーーー

 ー 融

ーー融モー

ー魔罠裏ー

颯 手札0 LP1200

 

「さーて……。ここからが本番だぜ? 覚悟はいいか?」

 

「へっ……そんな強がり俺にはきかねえよ……」

 

これで奴がドローしたとしてもたったの2枚。

何かモンスターを出せたとしてもこの俺のフィールドの強力な融合モンスター2体を倒せる術を見いだせるとは思えねえ。

ビビる要素なんてねえ……。はずだ。

 

だが、奴は口元をにやつかせながら俺のことを見つめている。

まるで自らの状況を楽しんでいるかのような……まったくピンチを感じていないかのような態度だ。

気味が悪いぜ。

 

「俺のターン、ドローだ。手札からこいつだ。【ヴァレット・シンクロン】を召喚! こいつの召喚に成功した時、墓地からレベル5以上の闇属性・ドラゴン族モンスターを特殊召喚できる! 再び出番だ、【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】!」

 

ーーー

【ヴァレット・シンクロン】☆1 闇 ドラゴン ③ チューナー

ATK/0

ーーー

【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】☆8 闇 ドラゴン ②

ATK/2800

ーーー

 

チューナーとそれ以外のモンスターが出てきたか。レベル9のシンクロでもやるつもりか?

いやだが、奴のデッキは融合を主軸としているはずだ。再びこれらの素材で融合召喚の可能性もあるか。

2体目の【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】を出されると、攻撃表示で出してしまった俺のモンスターが標的にされかねない。

だが、今の俺の伏せカードであれば、今度は耐え切れる。同じ失敗は繰り返さないのがこの俺のモットーだ。

 

「んじゃ、さらに墓地から【ハイバネーション・ドラゴン】の効果発動! 墓地からこのカードを除外して、墓地から闇属性・ドラゴン族のリンクモンスターを復活させるぜ。来い、【ブースター・ドラゴン】!」

 

「なっ!?」

 

ーーー

【ブースター・ドラゴン】リンク2 闇 ドラゴン ④

ATK/1900

ーーー

 

【ハイバネーション・ドラゴン】なんていつの間に墓地へいったんだ……?

フィールドに出ていないとなれば、デッキか手札からか。

……そういえば。手札から直接モンスターを送るタイミングがあったな。

【捕食植物オフリススコーピオ】。あいつの効果で手札のモンスターを1枚墓地へ送っていた。

くそ、隙のない野郎め……。

 

「何も墓地のモンスター効果に頼ってんのはお前だけじゃねえってこったよ。再び来い! 撃鉄起こすサーキット! 俺は【ブースター・ドラゴン】、【ヴァレット・シンクロン】、【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】の3体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! 現れよ、リンク4! 殲滅の波動を受け継ぎ、真実を打ち抜く弾丸となれ! 【ヴァレルロード・ドラゴン】!」

 

ーーー

【ヴァレルロード・ドラゴン】リンク4 闇 ドラゴン ①

ATK/3000

ーーー

 

口元に大きな銃口を身につけた獰猛なるドラゴンが出現する。

あんなモンスター聞いてねえぞ……ちくしょう! どう対処したらいいかわかんねえよ……。

 

「どうした? 戦意喪失でもしたか?」

 

「……っへ、ちょっと驚いただけよ! そんなモンスターくらい恐るに足らないってやつだぜ」

 

攻撃力は3000。俺の【ジェムナイトレディ・ブリリアントダイヤ】の方が攻撃力は上だ。

だが、リンク4なんてモンスター滅多に見れるもんじゃねえ。

きっと何かしら強力な効果は持ってるはずだぜ。問題はそれをこの伏せカードで対処できるかってところか。

 

「んじゃ、容赦なく行かせてもらいましょうかねえ。バトル! 【ヴァレルロード・ドラゴン】で【ジェムナイトレディ・ブリリアントダイヤ】を攻撃! "インフィニティ・キャノン!"」

 

【ヴァレルロード・ドラゴン】

ATK/3000

【ジェムナイトレディ・ブリリアントダイヤ】

ATK/3400

 

攻撃力が下回っているのに攻撃してきやがった……。やっぱり何かある。

だが、下手に効果もわからないタイミングで伏せカードを使うわけにもいかねえか……。

 

「こいつの攻撃宣言時、自身のモンスター効果発動! 場のモンスター1体の攻撃力を500ポイントダウンさせる。対象は【ジェムナイト・プリズムオーラ】だ」

 

「……なに?」

 

俺の【ジェムナイトレディ・ブリリアントダイヤ】の攻撃力を500下げれば戦闘破壊できるのになぜ【プリズムオーラ】を対象にしてきやがった……?

絶対に何かありやがるぜこれは。

 

「そして、この効果に対して相手はカード効果を発動できない。つまり、この攻撃宣言時のタイミングでお前は伏せカードを使うことができないってことだ」

 

「くっ……だが、このままなら返り討ちだぜ! いけ、【ブリリアントダイヤ】!」

 

「甘いな。戦闘を行うダメージステップ開始時、【ヴァレルロード・ドラゴン】の更なる効果を発動! 戦闘を行う相手モンスターのコントロールこのカードのリンクマーカー先へと移す。その素晴らしいモンスター、使わせてもらうぜ?」

 

「っな! ふざけんなてめえ!」

 

奪うことを前提にしていたからこそ、【プリズムオーラ】の攻撃力を下げてきたってわけか……。

確かに、奪った【ブリリアントダイヤ】で【プリズムオーラ】を攻撃すれば俺のライフは0になっちまう。

 

「さぁ、自らのモンスターによってやられるんだなぁ! 【ブリリアントダイヤ】で【プリズムオーラ】を攻撃! 消えな!」

 

俺の【ブリリアントダイヤ】が手に持つ鋭利なレイピアを構え接近し始める。

敵にすると驚異的だな……さすがは俺のモンスターだ。

 

「そう簡単に死ねるかよ! 罠カード【輝石融合】発動! こいつは罠バージョンの融合カード! 場の【プリズムオーラ】と【サフィア】を融合! "誠実なる意志! 堅牢なる水晶となりて、正義を守る盾となれ! 融合召喚! 来い! 【ジェムナイト・アクアマリナ】!"」

 

ーーー

【ジェムナイト・アクアマリナ】☆6 地 水 ②

DEF/2600

ーーー

 

大きな盾を装備した青色の騎士型モンスターが出現する。

こいつの効果ならどんなモンスターの攻撃でも、相手に損害が与えられるはずだ。

 

「ちっ、まぁいい。ダメージは与えられねえが、そいつには消えてもらう! やれ、【ブリリアントダイヤ】!」

 

【ブリリアントダイヤ】のレイピアに引き裂かれ【アクアマリナ】は消滅した。

だが、その後に大きな水流が発生し、デントの場へと向かっていく。

 

「甘いぜ! 【アクアマリナ】の効果発動! こいつが墓地へ送られた時、場のモンスター1体を手札に戻す! お前のその【ヴァレルロード・ドラゴン】には……」

 

「そんなん通用しないんだよこれが……な! 【ヴァレルロード・ドラゴン】はモンスター効果の対象にならない! お前が選べるのは大事なお仲間の【ブリリアントダイヤ】だけってこったよ!」

 

「くっそお……。仕方ねえ……【ブリリアントダイヤ】を俺のEXデッキに戻すぜ……」

 

ちくしょう! これじゃあいつは戦闘破壊することしかできねえじゃねえか……。

俺の手札も場も0になっちまった以上、次のターンどうすりゃいいんだよ……。

 

「このターンは命拾いできてよかったな? 俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

デント 手札0 LP2500

ーー裏ーー

ーーーーー

 リ ー

ーーーーー

ー魔罠ーー

颯 手札0 LP1200

 

だけど……俺は引けねえ……。まだ負けたわけじゃねえしな。

何か……この状況を打開できるカードを……。

頼む……こんなところで俺を死なせないでくれ……。

 

「俺のターン……ドロー!」

 

恐る恐る引いたカードを眺める。

どうやらまだ運は尽きていないようだぜ。

 

「魔法カード【命削りの宝札】を発動! このターン相手へのダメージが与えられないのと特殊召喚ができないデメリットと引き換えに、デッキからカードを3枚ドローするぜ……!」

 

「ほう? おもしれえカード使うじゃねえか……」

 

「俺はカードを3枚……ドロー!」

 

よし、いいカード達が引けたぜ!

だが、このターンは特殊召喚ができない以上なにもできねえ。今は耐えるのみだ。

 

「俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ。エンド時に【命削りの宝札】の効果で俺の手札にある【ジェムナイト・ルマリン】を墓地へ送るぜ」

 

デント 手札0 LP2500

ーー裏ーー

ーーーーー

 リ ー

ーーーーー

ー魔罠裏裏

颯 手札0 LP1200

 

「さぁーて、そろそろ〆とするか。俺のターン。魔法カード【ダーク・バースト】を発動。墓地から【ヴァレット・シンクロン】を手札に戻し、これを召喚! 再び墓地から【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】を復活させ、この2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚。いでよ【デリンジャラス・ドラゴン】!」

 

ーーー

【デリンジャラス・ドラゴン】リンク2 闇 ドラゴン ③

ATK/1600

ーーー

 

さらにドラゴンモンスターが出てきたが、そんなに驚異的な能力ではねえな。

 

 

「バトルフェイズに入るーー」

 

「その瞬間、罠カード【和睦の使者】を発動! このターン受ける戦闘ダメージをすべて0にする!」

 

「ちっ、まだ時間稼ぎしやがるか……。いいだろう。ターンエンドだ」

 

デント 手札0 LP2500

ーー裏ーー

ーーリーー

 リ ー

ーーーーー

ー魔罠裏ー

颯 手札0 LP1200

 

さてと……これがおそらく俺にとってのラストターン。

ここで勝てなければ負ける。気張れよ俺のデッキ!

 

「俺のターン、ドロー! こいつは!」

 

「ん……?」

 

ドローしたカードを見て俺はにやついてしまう。

ふっふっふ……この俺、上地 颯がジェネシスの幹部を倒す……! 最高にかっこいいじゃないか!

あとで存分に自慢してやるぜ!

 

「残念だったなデント! どうやらこのデュエル、俺の勝ちみたいだぜ?」

 

「なんだ? 頭でもおかしくなっちまったか?」

 

「うるせえ! 罠カード【リビングデッドの呼び声】を発動! 墓地からモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚! 蘇れ、【ジェムナイトマスター・ダイヤ】!」

 

ーーー

【ジェムナイトマスター・ダイヤ】☆7 地 岩石 ③

ATK/3500

ーーー

 

大きな雷が大地に放たれるとそこから這い出るように【ダイヤ】が地面より飛び出て出現する。

 

「またそのカードを呼び出してきやがったか…」

 

「おうよ! さらに、装備魔法【巨大化】を【ジェムナイトマスター・ダイヤ】に装備! 装備モンスターの攻撃力は俺のライフによって決まる! 俺のライフが相手より少ない時、その攻撃力は倍になるぜ!」

 

【ジェムナイトマスター・ダイヤ】

ATK/3500→7000

 

「攻撃力7000だと……」

 

「このまま攻撃すりゃお前に大ダメージよ!」

 

「ちっ……ガキの分際で……」

 

「トドメだ、バトルフェイズ! 俺はーー」

 

「おっと待ちな! リバースカードオープン、俺も【リビングデッドの呼び声】だ。墓地から【アネス・ヴァレット・ドラゴン】を特殊召喚!」

 

ーーー

【アネス・ヴァレット・ドラゴン】☆1 闇 ドラゴン ①

ATK/0

ーーー

 

なんだよ。悪あがきで出すならせめて【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】あたりにでもしやがれって。

なんであえて攻撃力0のモンスターなんて出しやがるんだ。

いずれにしても俺の勝ちは決まったようなもんだな!

 

「そんなモンスター出しても何の意味もないぜ! 往生際が悪いやつだな!」

 

「残念だけどな、俺は悪あがきってのは大嫌いでね。この特殊召喚成功時、【ヴァレルロード・ドラゴン】の効果発動! 場のモンスター1体の攻撃力を500ポイント下げる! 対象は【アネス・ヴァレット・ドラゴン】」

 

「何をやってんだよ。そいつの攻撃力は既に0じゃねえか」

 

「【ヴァレルロード】が銃口。そして、ヴァレットは弾丸。その意味がわかるな? 【アネス・ヴァレット・ドラゴン】の効果発動! このカードがリンクモンスターの効果の対象になった時、自身を破壊する。そして、相手モンスター1体の効果を無効にし、攻撃を封じる!」

 

「なんだと……! これじゃ【ジェムナイトマスター・ダイヤ】は攻撃できねえってことか……」

 

ちくしょう! せっかくこのターン倒せると思ったのによ!

いやだが、【ヴァレルロード・ドラゴン】の効果を使われれば俺の【ダイヤ】は奪われちまう。

くそ、どうしたら……。

 

「悩んでも無駄だ。さっさとターンエンドしろ」

 

「くそ……繋吾……結衣ちゃん……聖華ちゃん……!」

 

ターンエンドしたら俺は死ぬのか……。

できるわけがねえ……。もう生きる術はないっていうのかよ……。

 

デュエルウェポンを眺めると俺のターンカウントが刻々と刻まれている。

一定時間なにも動きがなければ自動的にフェイズが移行するようになっているのだ。

 

せめて……死ぬのならこのカウントいっぱいだけは俺に悩ませてくれ……。

 

思わず救難信号を出してみる。この近くに人がいるのなら誰かが来てくれて俺は生き残れるかもしれない。

まぁ、周りにいるのは既に息絶えている国防軍の人たちだけどな。

 

気が付くと残りのカウントは10秒を指していた。

いくら考えても完全に手詰まりだ。もうこのデュエルを長引かせる手法は俺にはない。

 

そして、そのカウントは無残にも0を指し、エンドフェイズの表記が画面に表示された。

 

「まったくよ、またせやがって……。これでお前の強制ターンエンドだな。安心しろ。このターン中にお前は死ぬ。【デリンジャラス・ドラゴン】の効果発動! エンドフェイズ時に、このターン攻撃宣言のしていない相手モンスターを破壊し、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。受けろ、【ジェムナイトマスター・ダイヤ】! "ダブルペイン・ヴァレット!"」

 

「ひぃ……!?」

 

結局俺の手の内は全部読まれてたってことかよ……!

嫌だ……俺はまだやり残してることが多すぎる。

なんで今日国防軍に来ちまったんだよ。腹痛とか起きて休暇でも取れば今頃こんなことには……。

こんなんじゃ、俺は何のためにSFSに入ったかわからなくなってくるじゃねえか……くそ!

 

そんな後悔の気持ちを抱えながらも俺の元へ弾丸が衝突し、体に弾けるような痛みが走る。

そして、俺の体は次第と動かなくなり、朦朧とした意識だけが残った。

 

颯 LP1200→LP0

 

 

 

 

 



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Ep51 - 揺れる心

全身に強烈な痛みが走る。

これはデュエルウェポンによる体外攻撃に対する抑止力が失われた何よりの証拠だ。

 

体を起こそうとしてもうまく動かせない。

 

もう既に俺は逃げることはできねえってことだ。

 

せめて……意識ってやつがなくなってくれればよかったんだが……。

中途半端に生きていると、これからトドメを刺される際に更なる恐怖を味わうハメになる。

 

薄らと見える視界の中にデントの姿が見え、徐々にこちらへと近づいて来るのがわかる。

 

今の状態なら例え魔法カード【ファイヤー・ボール】を使われただけでも俺の命を奪うには十分だろう。

ましてや相手はジェネシスだ。

"吸収"ってやつをしてくるかもしれねえ。

されたことなんてあるわけねえから、どんな感じなのかは想像もつかないけどな。

 

はぁ。さっさと殺してくれよ。

これ以上、後悔したくねえ……。結局俺は……SFSに入ってからもなんにも成すことはできなかったんだ。

うるせえ奴に言われるだけ言われて。なにも見返すこともできずによ。惨めなもんだぜ。

 

「上地 颯……って言ってたな。お前」

 

デントの奴はデュエルウェポンを構えることもなく、静かに俺のことを見下ろしていた。

 

「特殊機動班……。こんなよくわからねえ班になんで所属してんだ?」

 

「……なにを……」

 

こいつ、いきなりどうしたんだ。

俺を殺すんじゃねえのかよ。

 

「まぁいい。質問を変えるか。お前はなんのために戦ってる? こんな命張って戦ってよ」

 

「それは……」

 

俺がSFSに入った理由。

それはもちろん俺自身の力を世界に示し、正真正銘のエリートになるため。

いや、違うな。元はといえばプロデュエリスト志望だった。

 

時代が時代だったからプロデュエリストへのハードルは非常に高かった。

デュエルなんて、今は破壊兵器だってイメージの方が強くなりつつあるしな。

 

俺はそのプロデュエリストの試験の際に、ライバルのやつにハメられた。

単純な話だ。カンニングをしたという偽情報を作り上げられ告発された。

それで俺のプロデュエリストへの道は閉ざされた。

 

だけど、俺はデュエルには自信があったし、この道を諦めたくなかった。

どんな形であれ、デュエルからは離れたくなかった。

 

だからこそSFSに入って、力を示して……。ヒーローになって。

俺をハメたやつを見返してやろうと……。そう思った。

 

もちろんSFS入った直後は順調で着実に実績を伸ばすことができた。

時期決闘機動班の副班長だと言われたほどだ。

 

だけどな。やっぱりこの世界は汚ねえよ。

俺の才能が気に食わないんだかなんだか知らねえが、とある任務中に偽情報を伝えられハメられた。

偽の退却命令が下され、退却したんだが、それを敵前逃亡として扱われ実戦では役に立たない臆病者って言われる始末だった。

 

結局みんな地位や権力が欲しいがために、自らの保身のために、目立つ他人は消し去ろうとしてくる。

今では少し反省しているが、俺はどっちかって言うと調子に乗るタイプだから、人の目にはつきやすかったのかもしれないしな。

 

もう誰も信じられなくなって、SFSもクビになりかけた時に、拾ってもらえたのがこの特殊機動班だった。

 

当時はもう廃止になるって噂ばかりだったが、あの時の俺にはぴったりだったかもしれない。

特殊機動班の任務は個々の力が求められるし、他の人たちと違って危険な任務ゆえに、目立った功績をあげることができる。

つまり、俺をハメてきた連中を見返すには最高にいい場所だってな。

 

俺が今もなお特殊機動班で戦い続ける理由はただ一つ。

どんな危険だとしても、そこで絶対に成功して……決闘機動班の奴らや、プロデュエリストの奴らを見返すため。

 

別にジェネシスがどうかとか、正直どうでもよかった。

大きな功績があげられるんならそれでな。

 

「俺は……世の中の連中に……俺の力を示すために……戦う……」

 

「ほう……? 悪くねえ……」

 

俺の回答を聞き、にやりとするデント。

なにを考えているんだか。

だけど、俺のその目的もここで潰えるわけだ。

 

「お前、ジェネシスの活動理由を知ってるか? ま、知ってるわけねえよな。お前の目的と似たようなもんだよ」

 

「っな……」

 

ジェネシスの目的が同じようなものだと……。

いくら世間を見返すためとはいえ破壊行動ってのはいくらなんでも頭がおかしいとは思うぜ。

 

「簡単に言えば、おかしい世の中を変えようってこったよ。お前はどう思う? 今俺たちがいるこの国ってのはよ」

 

正直、国規模で考えたことなんてねえけど……俺をハメてきた連中のことを思うと腐ってるとは思う。

だけど、それでも繋吾や結衣ちゃん。郷田の奴や赤見班長なんて信じれる奴らもいる。

どうなんだろうな。俺にとってこの国は。よくわかんねえや。

 

「一つ、取引をしねえか? 乗ってくれればお前の命は助けてやる。断れば殺すまでだが。お前も人間だ。よっぽどの正義感気取ってねえ限りは乗る方を選ぶと思ってるぜ?」

 

おいおい、それじゃ俺にとっての選択肢は一つじゃねえか……。

正直、今のままじゃ死んでも死にきれないくらいに未練が残ってる。

俺はまだ……生きたい。例えどんな内容だったとしてもだ。

 

「なんだよ……その内容ってのは……」

 

「ジェネシスの協力者になってもらう。なーに、やることはそう難しくはない。不定期にお前のデュエルウェポンに指示を出す。お前はそれに従ってもらうだけでいい」

 

「指示って……その内容が一番気になるんだが……」

 

「まぁ情報収集とかして報告してもらう感じだ。悪くないだろう?」

 

SFSの情報とかを売るってことか。

そんなことできるわけ……。いや、ここは乗ってそれを国防軍や特殊機動班に話せば逆にチャンスかもしれないな。

 

「やってくれるってことならお前のデュエルウェポンにはちょっと小細工させてもらう。お前が裏切ることができないようにな?」

 

さすがにそういうのはやってくるか。

ジェネシスの技術力はピカイチだ。なんて言ってもデュエルウェポンを生み出した張本人だからな。

国防軍やSFSの技術力じゃ到底及ばないだろう。

 

「少しでもお前が裏切るような真似をすれば、即座のそのデュエルウェポンが爆発する。まぁ、お前がデュエルウェポンを手放した後に情報を漏らせばどうってことはないかもしれないが、そうすれば俺からの連絡は受けられなくなるし、なんにも得にはならねえけどな」

 

「なるほどな……。だけどSFSの情報収集して何になるんだ……?」

 

「それは秘密だ。だが、お前は世界に力を示したいんだろ? 場合によっては俺がジェネシスの部隊を動かして、お前がすごい実績を出したように仕向けることもできるぜ? お前は命も助かり、目的も達成される。悪い話じゃねえだろ?」

 

例えば……俺がジェネシスの部隊を一人で壊滅させた……みたいなストーリーを用意してくれるってことか。

確かにデントの奴はジェネシスの幹部らしいし、嘘はないだろう。

 

「さぁどうする? 死ぬか、俺たちと輝かしい未来に向かって歩むか。選びな?」

 

ダメなことだとはわかっている。

本来、目的というのは人の力を借りるんじゃなくて、自らの力で成すべきもの。

 

だけどな……やっぱり命が惜しい。

ジェネシスが……世界の破壊を目論んでいたとしてもだ。

どうせ死ぬのなら……俺はもう少し長生きがしたい。

 

「もちろん……やるに決まってんだろ……。デントさん」

 

「お前ならそう言うと思ってたぜ? んじゃこれだ。受け取りな」

 

デントは一枚のカードを俺のデュエルウェポンへとセットする。

すると瞬く間に俺の体から痛みが消え去った。【インスタント・ヒーリング】のようなカードだろうか。

 

「今のはただの回復カードじゃない。それがさっき言った取引の証だ。これでお前のデュエルウェポンと俺のデュエルウェポンは繋がったってこった。んじゃよろしく頼むぜ、上地?」

 

デントはそう言うと、部屋を後にしていった。

 

これで……もう後戻りはできねえ。

他の仲間たちを裏切ることになるかもしれねえけど、やっぱり自分が大事だ。

それに……情報を伝えたからといって、すぐにSFSが滅びるわけでもない。

あんまり気にしなくていいはずだ。

 

ただ、誰にも言えない秘密が一つ……増えただけ。とんでもなく重い……秘密がな。

 

ーーデントが去ってから数分後、大きな叫び声とともに一人の女性が部屋に入り込んできた。

 

「大丈夫ですか!? って上地さん……!? 大丈夫ですか!」

 

その声に顔を上げるとそこには聖華ちゃんがいた。

よく無事だったな。さすが決闘精鋭班ってところだぜ。

 

「すぐに手当しますね! よいしょっと……」

 

ポケットから取り出した【インスタント・ヒーリング】のカードを俺のデュエルウェポンにセットしてくる。

もう既に痛みは引いているが、俺は悟られないように痛みがあるようなフリをしてごまかした。

 

とても言えたもんじゃないからな。敵に仲間を売ったような話は……。

最高にカッコ悪い話だぜ……。

 

だけど、もう少し話を伸ばしてれば聖華ちゃんに助けてもらえたのかもしれない。

もう今からじゃどうしようもないけどな。俺はデントに縛られたようなものだ。

 

でも……少しながら考えてしまう。

今まで俺をハメてきたやつを見返せるのであれば……例えジェネシスに協力する形でもいいんじゃねえかなってな。

 

もちろん、今目の前にいる聖華ちゃんをはじめとした多くの美人さんを敵に回すのは不本意だけど。

でも、ジェネシスにもいい人がいるかもしれねえし、アリなんじゃねえか……?

 

くそ! こんなこと考えたくもないのに!

ダメなことだけど、少しでも肯定したくなる自分が嫌になる!

そうでもしねえと……今後は生きていけねえかもしれねえな……。

 

「どうしたんですか? 上地さん。調子がよくないですか?」

 

「い、いや……なんでもないぜ聖華ちゃん。気にしないでくれ」

 

「そう……ですか? 無理しないで何かあったら遠慮しないで言ってくださいね!」

 

本当に天使のようにまっすぐな心を持ってるな……聖華ちゃん。

今はその優しさが痛いぜ……。

 

「それよりも早くここから出ましょう! 近くで国防軍の皆さんが救助に来てくれています!」

 

「そりゃ助かるぜ……」

 

嫌な顔を一切せず、俺の肩を支えてくれる聖華ちゃんに助けられながら、俺は国防軍の救助部隊の下へと向かったのだった。

 



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Ep52 - 残虐の魔剣 前編

ーー繋吾は無事逃げ切れただろうか。

私はネロの奴を外へ逃すまいと入口にたちながらデュエルウェポンを構える。

 

あいつはあのSFSでも優秀であった真吾班長を葬ったデュエリストだ。正直勝てるかどうかは未知数。

だが、5年前なら勝てなかったであろう相手だとしても、私はこの5年間特訓をし続けてきた。

こいつを倒し、真吾班長をはじめ5年前に散っていった多くの特殊機動班員の無念を晴らすためにな……。

今こそその成果を見せる時!

 

それに……例え私の身が果てようとも繋吾さえ生きていればネロの思い通りにはならないはず。

ジェネシスの計画さえ阻止できればデュエルに負けたとしても勝負には勝つこととなる。

 

ここで奴とデュエルをすることに大きな意味があるんだ。

絶対に退かんぞ……

 

「はぁまったく。さっさと終わらせるよ! 僕はもう赤見くんには用がないんだ」

 

「悪いが私の方は用があるんでな。しばらくの間付き合ってもらうぞネロ!」

 

「こないだ逃げ腰だった君がね……驚いたよ。覚悟してもらうよ?」

 

「覚悟は既にできている。いくぞ!」

 

「デュエル!」

 

赤見 手札5 LP4000

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

ネロ 手札5 LP4000

 

決して悪くはない手札だ。

通常の相手であれば問題なく勝ちを狙っていけるだろう。

 

だが、ネロのデッキは正直そこまで詳しくはない。

前に見たのは5年前だからデッキ内容は変わっているだろうし、そもそも私は彼と交戦したことがなかった。

 

当時、私に命じられた任務は繋吾を安全なところへ運ぶこと。

ゆえに、私の交戦行為は禁じられ、代わりに多くの特殊機動班員がジェネシスに対する盾となってくれた。

いや、多くの……というよりかは、私以外の全員だな。

 

だからといって怖気づく気はない。

見せてやろう。SFSの力を!

 

「先攻はもらう、私のターン。手札から【BF-上弦のピナーカ】を召喚! そして、手札の【BF-白夜のグラディウス】は、場に"BF"モンスター1体のみが存在する時、手札から特殊召喚できる!」

 

ーーー

【BF-上弦のピナーカ】☆3 闇 鳥獣 ③ チューナー

ATK/1200

ーーー

【BF-白夜のグラディウス】☆3 闇 鳥獣 ④

ATK/800

ーーー

 

このままシンクロ召喚をして、攻め込む体制を整えるのもいいが、ここは先を見据えて準備を整えておくか。

 

「現れよ、迸響くサーキット! 私は【ピナーカ】と【グラディウス】の2体をリンクマーカーにセット。サーキット・コンバイン! リンク召喚、リンク2。【彼岸の黒天使ケルビーニ】!」

 

ーーー

【彼岸の黒天使ケルビーニ】リンク2 闇 天使 ①

ATK/500

ーーー

 

「シンクロ……じゃないか。何か企んでるみたいだね?」

 

「……【ケルビーニ】の効果を発動! デッキからレベル3モンスターを墓地へ送り、自身の攻撃力をエンドフェイズ時まで墓地へ送ったモンスターの攻撃力分アップさせる。私は【魔サイの戦士】を墓地へ送り、自身の攻撃力を1400ポイントアップする」

 

【彼岸の黒天使ケルビーニ】

ATK/500→1900

 

「さらに、【魔サイの戦士】の効果、墓地へ送られたことでデッキから悪魔族モンスターである【トリック・デーモン】を墓地へ送り、さらにこの【トリック・デーモン】がカードの効果で墓地へ送られた時、デッキから"デーモン"と名のついたカード1枚を手札に加える。私は【ナイトメア・デーモンズ】を手札に加える。カードを2枚伏せて、ターンエンドだ。エンド時に墓地へ送られている【上弦のピナーカ】の効果でデッキから"BF"モンスターである【BF-蒼炎のシュラ】を手札に加える」

 

赤見 手札3 LP4000

ー裏裏ーー

ーーーーー

 リ ー

ーーーーー

ーーーーー

ネロ 手札5 LP4000

 

「そんな弱いモンスターだけなんて、僕を舐めてるのかな? 僕のターン、ドロー! ふふっ、これはいい挨拶ができそうだ。僕は【召喚僧サモンプリースト】を召喚! このカードは召喚に成功した時、守備表示になる」

 

ーーー

【召喚僧サモンプリースト】☆4 闇 魔法使い ③

DEF/1600

ーーー

 

「さらに【サモンプリースト】の効果発動! 手札の魔法カード1枚を墓地へ送り、デッキからレベル4のモンスター1体を特殊召喚できる。僕が呼ぶのは……こいつだ! 【白翼の魔術師】!」

 

ーーー

【白翼の魔術師】☆4 風 魔法使い ② チューナー

ATK/1600

ーーー

 

2体のモンスターが並んだ。

ということは何かしらのモンスターを呼び出してくるだろう。

奴のエースカードが変わっていないのであれば……シンクロ召喚だ。

 

「赤見くんは覚えてるかな? 僕のエースカード」

 

「忘れるわけがないだろう。脳裏に焼き付いているさ」

 

「それなら話は早いね! なら……今度は君の体を切り刻んであげるよ! 僕はレベル4の【サモンプリースト】にレベル4の【白翼の魔術師】をチューニング! "剛毅なる光を放つ、真実の剣よ!最善たる時を掴み、時空の狭間より来迎せよ! シンクロ召喚! レベル8! 【覚醒の魔導剣士】!」

 

ーーー

【覚醒の魔導剣士】☆8 闇 魔法使い ②

ATK/2500

ーーー

 

銀色に輝く双剣を構え、純白のローブを纏った魔法剣士が出現する。

あれが、奴のエースカード。私の仲間を次々と切り刻んでいったモンスターだ。

 

仲間達の悲鳴と共に、体が切り刻まれる音が鳴り続けた5年前の悲劇は忘れれられない。

あいつは、デュエルで相手を倒した後、わざわざデュエルウェポンを腕から外し、あのモンスターで切り刻んでいったのだ。

目的は私の居場所を吐かせるため。

 

結果、その仲間たちの苦痛によって、私と繋吾の命は助かったのだが。

 

決して忘れない記憶。ジェネシスを討ち滅ぼそうと心に誓ったあの日から私はデュエルの腕を磨き続けた。

全てはあのモンスターと共にネロをたたきつぶすために。

 

「随分怖い顔をしてるね? そんなにこの子が嫌いかな? ふふふ」

 

「お前……あれから人を何人殺した?」

 

「死んだかどうかまで確認してないからわからないや。でもそんなのどうでもいいでしょ。僕に楯突いてくるのが悪いんだから。君もそうだよ赤見くん。僕の言うことを聞かないのなら……わかってるよね?」

 

「いつまでも思い通りになると思うなよ。本物のデュエルってやつを教えてやる……」

 

「あはははは! 本物のデュエル? なにそれ? まあいいや。僕は【覚醒の魔導剣士】の効果発動! "魔術師"と名のついたモンスターを素材としてこのカードをシンクロ召喚した時、墓地から好きな魔法カードを手札に加える。僕はさっき捨てた【ヒュグロの魔導書】を手札に戻し、これをそのまま発動! 場の魔法使い族モンスター1体の攻撃力を1000ポイントアップさせる!」

 

【覚醒の魔導剣士】

ATK/2500→3500

 

攻撃力3500。あの攻撃が直撃すればとんでもないな。

 

「さてと、くだらない話はいいからさっさと死んでよ。バトル! 僕は【覚醒の魔導剣士】で【彼岸の黒天使ケルビーニ】を攻撃! "リインバース・デュランダル!"」

 

【覚醒の魔導剣士】

ATK/3500

【彼岸の黒天使ケルビーニ】

ATK/500

 

2つの剣を回転させながら【覚醒の魔導剣士】が接近し、【ケルビーニ】を切り刻む。

 

「罠カード【ガード・ブロック】を発動! バトルによるダメージを0にし、デッキからカードを1枚ドローする!」

 

「へえー、ダメージを防がれちゃったかー。だけどこれはどうかな! 【覚醒の魔導剣士】の更なる効果! このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える! これはバトルによるダメージじゃないよ? "ペイン・ミラージュ!"」

 

続けて【覚醒の魔導剣士】は剣を交差させると、そこから禍々しい黒い球体が出現し、私めがけて発射される。

私に避ける手段はない。その球体から身を守るように右腕を盾とし、球体を受け止める。

 

赤見 LP4000→LP3500

 

「さらに、【ヒュグロの魔導書】の効果も発動するよ? 効果を受けたモンスターが相手モンスターを破壊したことで、デッキから"魔道書"カードを手札に加える。僕は【グリモの魔導書】を手札に加える」

 

戦闘破壊しただけで多くのカード効果を使われてしまったか……。

【ケルビーニ】は自分の場のカード1枚を墓地へ送り、戦闘破壊を耐える効果もあるが……この伏せカードは奴を一撃で仕留めるコンボのために必要だ。

奴の使うペンデュラムモンスターは何度でもEXデッキから復活してくる。したがって、長期戦でも息切れしにくい。

だからこそできるだけ短期決戦に持ち込まなくてはどんどん不利になっていく……。そのためには仕方がない。

 

「さーて、メインフェイズ2。僕はさらに魔法カード【ペンデュラム・コール】を発動! 手札を1枚捨てて、デッキから異なるカード名の"魔術師"ペンデュラムモンスターを2体手札に加える。僕は【賤竜の魔術師】と【黒牙の魔術師】を手札に加える。そして、魔法カード【グリモの魔導書】も発動。デッキから【魔導書院ラメイソン】を手札に加え、これをそのまま発動するよ! フィールド魔法、【魔導書院ラメイソン】!」

 

私の目の前に大きな山のようなモニュメントが出現し始める。

あたりには色とりどりの球体が漂っていた。あれが魔導の力といったところか。

 

「準備はOK! もう君に勝ち目はないかもね? 僕はカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

赤見 手札4 LP3500

ーー裏ーー

ーーーーー

 ー シ

ーーーーーフ

ーー裏ーー

ネロ 手札3 LP4000

 

「甘く見るな、私のターン。ドロー! 永続魔法【黒い旋風】を発動! 私が"BF”モンスターを通常召喚した時、その召喚したモンスターよりも攻撃力が低い"BF"モンスターをデッキから手札に加えることができる。そして、【BF-蒼炎のシュラ】を通常召喚!」

 

ーーー

【BF-蒼炎のシュラ】☆4 闇 鳥獣 ③

ATK/1800

ーーー

 

「【黒い旋風】の効果でデッキから【BF-黒槍のブラスト】を手札に加える。さらに今加えた【黒槍のブラスト】と手札の【疾風のゲイル】は場に"BF"モンスターがいる時、手札から特殊召喚できる! 来い、【黒槍のブラスト】! 【疾風のゲイル】!」

 

ーーー

【BF-黒槍のブラスト】☆4 闇 鳥獣 ②

ATK/1700

ーーー

【BF-疾風のゲイル】☆3 闇 鳥獣 ④ チューナー

ATK/1300

ーーー

 

「いっぱいモンスターを出してくるね? ふふふ……」

 

相変わらずネロは余裕そうな表情で私の場を見ている。

伏せカードに何があるかは見当もつかないが、今はやれることを全力でやるだけだ。

 

「……その余裕、打ち砕いてやる。まずは【疾風のゲイル】の効果発動! 1ターンに1度、相手モンスターの攻撃力、守備力を半分にする! "ダウンフェザー!"」

 

【疾風のゲイル】が大きく羽ばたき暗黒に染まる渦が現れると、それは【覚醒の魔導剣士】を包み込み始める。

 

【覚醒の魔導剣士】

ATK/2500→1250

 

「あー! 僕の【覚醒の魔導剣士】が! やるじゃん赤見くん……」

 

「くだらない反応だな。さらに私はレベル4の【黒槍のブラスト】にレベル3の【疾風のゲイル】をチューニング! "吹きすさべ、黒き旋風! 金剛不壊なる漆黒纏い、天空を穿て! シンクロ召喚! 【BF-アーマード・ウィング】!"」

 

ーーー

【BF-アーマード・ウィング】☆7 闇 鳥獣 ①

ATK/2500

ーーー

 

黒い丈夫そうな鎧を全身に纏った鳥獣型モンスターが出現する。

こいつは戦闘破壊されない効果を持ちながら、自らへの戦闘ダメージも0にするまさに鉄壁に相応しい効果を持っている。

これなら、どんな伏せカードだとしても反撃を食らうことなく安全に攻撃ができるはずだ。

 

「そして私はーー」

 

「この瞬間! リバースカードオープン、【黒魔族復活の棺】!」

 

「なに……?!」

 

「このカードは、相手がモンスターを召喚した時、僕の場の魔法使い族モンスターと共にそのモンスターをリリースさせる! そして、それを贄とし、新たなる闇属性・魔法使い族モンスターを出現させるのさ!」

 

「くっ……」

 

これでは私の【アーマード・ウィング】は戦う機会を与えられることもなくリリースされてしまうということか……。

 

「僕は【覚醒の魔導剣士】と君の【BF-アーマード・ウィング】をリリースし、デッキから【黒き森のウィッチ】を守備表示で特殊召喚!」

 

ーーー

【黒き森のウィッチ】☆4 闇 魔法使い ③

DEF/1200

ーーー

 

「まだだ! バトル! 私は【蒼炎のシュラ】で【黒き森のウィッチ】を攻撃! "ブルーフレイム・カッター!"」

 

【BF-蒼炎のシュラ】

ATK/1800

【黒き森のウィッチ】

DEF/1200

 

「破壊されるけどこの墓地へ送られたことで【黒き森のウィッチ】の効果発動! デッキから守備力1500以下のモンスター1体を手札に加える。僕は【終末の騎士】を手札に加える」

 

「だが、【蒼炎のシュラ】の効果も発動! 相手モンスターをバトルで破壊した時、デッキから攻撃力1500以下の"BF"モンスターを特殊召喚する! 来い、【BF-上弦のピナーカ】!」

 

ーーー

【BF-上弦のピナーカ】☆3 闇 鳥獣 ②

ATK/1200

ーーー

 

「続けて【上弦のピナーカ】でダイレクトアタック! "ウィング・アロー!"」

 

【上弦のピナーカ】の手に持つ弓から矢が放たれ、ネロの体へと直撃する。

 

【上弦のピナーカ】

ATK/1200

 

ネロ LP4000→LP2800

 

「くぅっ……へへっ、なかなかやるじゃん! これは楽しくなってきたね……」

 

無邪気そうに笑うが、その目は真剣そのものだった。

なんとも不気味なやつだ……ネロは。

 

それはそれとして、ここまでの展開は今のところ私の想定内だ。いい具合にデュエルを進められてはいる。

だが、油断はできない。心してかからなければな。

 

「私はさらにレベル4の【蒼炎のシュラ】にレベル3の【上弦のピナーカ】をチューニング! "舞い上がれ神風! 猛き暴風を解き放ち、己の未来を切り開け!" シンクロ召喚! 漆黒の絆を紡げ! レベル7 【BFT-漆黒のホーク・ジョー】!"」

 

ーーー

【BFT-漆黒のホーク・ジョー】☆7 闇 戦士 ①

ATK/2600

ーーー

 

「へー……。もう1体シンクロ召喚してきたか」

 

「あぁ。お前がさっきのモンスターを墓地へ送ってくれたおかげでEXゾーンが空いて助かったぞ」

 

「言うようになったじゃないか赤見くん……。ふふふ……今日は最高に楽しい日になりそうだよ」

 

「同感だ。私は【BFT-漆黒のホーク・ジョー】の効果発動! 1ターンに1度、墓地からレベル5以上の鳥獣族モンスターを復活させる! 蘇れ、【BF-アーマード・ウィング】!」

 

ーーー

【BF-アーマード・ウィング】☆7 闇 鳥獣 ③

ATK/2500

ーーー

 

「私はカードを2枚伏せて、ターンエンドだ。再びエンドフェイズ時に【上弦のピナーカ】の効果を発動し、デッキから【BF-南風のアウステル】を手札に加える」

 

赤見 手札1 LP3500

魔裏裏裏ー

ーーシーー

 シ ー

ーーーーーフ

ーーーーー

ネロ 手札4 LP2800

 

奴の場はガラ空き。そして、私の場は着々とトドメを刺す準備が整いつつある。

あいつだけは……今日この場で絶対に倒す……!

 

 

 



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Ep53 - 残虐の魔剣 後編

赤見 手札1 LP3500

魔裏裏裏ー

ーーシーー

 シ ー

ーーーーーフ

ーーーーー

ネロ 手札4 LP2800

 

「んじゃ、いくよー。僕のターン、ドロー! このスタンバイフェイズ、フィールド魔法【魔導書院ラメイソン】の効果を発動! 墓地の"魔導書"カードを1枚デッキボトムに戻すことで、もう1枚デッキからカードをドローできる。【ヒュグロの魔導書】を戻して、ドロー!」

 

「……くっ」

 

魔導書カードを使い続ける限り毎ターン2枚のドローが可能になるということか。

ますます時間が経てば経つほど不利になってしまう。

 

「僕は手札のスケール8の【黒牙の魔術師】とスケール2の【賤竜の魔術師】でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

ネロはそう言うと2枚のモンスターカードを魔法・罠ゾーンの両端に発動する。

あれがペンデュラムモンスターの真価だ。

置いたスケールの間のレベルを持つモンスターを手札もしくはEXデッキから特殊召喚できる。

奴のEXデッキには既に場に出ていた【白翼の魔術師】が存在している。

よって、あのカードもペンデュラム召喚で場に戻すことが可能ということだ。

それが意味することは……再びシンクロ召喚……!

 

「ふふふっ、いくよー! ペンデュラム召喚! EXデッキより【白翼の魔術師】! そして、手札から【終末の騎士】!」

 

ーーー

【白翼の魔術師】☆4 風 魔法使い ②

ATK/1600

ーーー

【終末の騎士】☆4 闇 戦士 ③

ATK/1400

ーーー

 

「そして、【終末の騎士】の効果を使うよ? デッキから闇属性モンスター1体を墓地へ送る。僕は、【シャドール・リザード】を墓地へ送ることで、そのモンスター効果を発動! デッキから更なる"シャドール"カードを墓地へ送れる! さらに【シャドール・ファルコン】を墓地へ。そして、この【シャドール・ファルコン】は墓地へ送られた時、僕の場に裏側守備表示で特殊召喚される!」

 

ーーー

【シャドール・ファルコン】☆2 闇 魔法使い ④ チューナー

DEF/1400

ーーー

 

一気にモンスターが3体か……。

そろそろ本格的に動き出してくるといったところか。

 

「さーて、今度こそ君の体を切り刻んでやるよ……僕はレベル4の【終末の騎士】にレベル4の【白翼の魔術師】をチューニング! "剛毅なる光を放つ、真実の剣よ! 最善たる時を掴み、時空の狭間より来迎せよ! シンクロ召喚! レベル8! 【覚醒の魔導剣士】"」

 

ーーー

【覚醒の魔導剣士】☆8 闇 魔法使い ②

ATK/2500

ーーー

 

懲りずに現れたか【覚醒の魔導剣士】。

おそらく墓地に送られている【ヒュグロの魔導書】あたりを使ってくるんだろうが、いくら攻撃力を上げたところで無意味だ。

私の場の【BFT-漆黒のホーク・ジョー】は相手の効果の対象か、攻撃対象になった時に、他のカードへその対象を移し替える効果を持つ。

さらに、隣にいる【BF-アーマード・ウィング】は戦闘によっては破壊されず、自らへの戦闘ダメージも0になる効果がある。

よって、どんな攻撃であろうと1回は完全に防ぐことができるってわけだ。

 

「そのモンスターへの対処は万全。"魔導書"を手札に加えたところで無駄だ」

 

「あはははは! わかってないね赤見くん。僕は墓地に存在する魔法カード……【滅びの呪文-デス・アルテマ】を手札に加える!」

 

「なに……!? まさか……」

 

あの時か……【ペンデュラム・コール】の効果で手札を1枚捨てていた……。

その時に墓地へ送られたのがあのカードってわけか。

 

【滅びの呪文-デス・アルテマ】は相手のフィールド上のカード1枚を問答無用に裏側表示で除外する強力なカード。

あのカードで邪魔なカードを吹き飛ばし、【覚醒の魔導剣士】で相手モンスターを倒すっていうのがネロの十八番といったところだったな。

それだけは……許すわけにはいかない。

 

「だが、全てがお前の思い通りになると思うなよ……! カウンター罠発動! 【ブラック・バード・クローズ】!」

 

「ふーん……カウンター罠……」

 

「あぁ。このカードは、場の"BF"モンスター、【BFT-漆黒のホーク・ジョー】をリリースすることで、相手のモンスター効果の発動を無効にし、破壊する! 消え去れ、【覚醒の魔導剣士】!」

 

突如、黒い竜巻が出現すると、【覚醒の魔導剣士】を取り囲み爆発した。

 

「へえー。だけどシンクロモンスターを犠牲にしちゃったね?」

 

「それはどうかな。【ブラック・バード・クローズ】の更なる効果! この効果の発動後にEXデッキから【ブラックフェザー・ドラゴン】1体を特殊召喚できる! "漆黒を引き裂く反逆の咆哮! 紅き翼翻し、鮮烈に轟け! 現れよ、【ブラックフェザー・ドラゴン】!」

 

ーーー

【ブラックフェザー・ドラゴン】☆8 闇 ドラゴン ①

ATK/2800

ーーー

 

「すごいじゃん! もっと強い大型モンスターも呼び出してくるとはね! 切り刻み甲斐があるよ……」

 

「やれるものならやってみろ。私の"赤き羽"を落とせるというのならな!」

 

「なら根こそぎ削いであげるよ! 僕は【黒牙の魔術師】のペンデュラム効果を発動! 相手モンスター1体の攻撃力を半分にする! 落ちろ! 【ブラックフェザー・ドラゴン】! "ハーフ・ゲイン!"」

 

「くっ……」

 

【ブラックフェザー・ドラゴン】

ATK/2800→1400

 

「だが、お前の場にはモンスターは……」

 

「まぁまぁ焦らないでよ。この効果を使った後、【黒牙の魔術師】は破壊される。そして、このカードが破壊された時、墓地の闇属性・魔法使い族モンスター1体を復活させる! 蘇れ、【覚醒の魔導剣士】!」

 

ーーー

【覚醒の魔導剣士】☆8 闇 魔法使い ③

ATK/2500

ーーー

 

くそ……また出てきやがったか。

あいつの執念はとんでもないな。意地でも【覚醒の魔導剣士】での攻めを貫くというのか。

 

方向性さえ間違っていなければ……エースモンスターを大切にする良いデュエリストだったんだろうがな。

一体何が彼を変えてしまったのだろう。ましてやまだだいぶ若いだろうに。

 

いや……むしろ変わったのではなく、元からそう育った……の方が正しいのだろうか。

まぁ今はそんなことはどうでもいい。

このまま【ブラックフェザー・ドラゴン】を狙われれば私は2500ポイントのダメージを受けてしまうこととなる。

 

「バトルだ! 今度こそ消えてよ、【覚醒の魔導剣士】で【ブラックフェザー・ドラゴン】を攻撃! "リインバース・デュランダル!"」

 

【覚醒の魔導剣士】

ATK/2500

【ブラックフェザー・ドラゴン】

ATK/1400

 

二つの双剣が迫りかかってくる。

次に繋げるためにここは耐えなければならない!

 

「リバースカードオープン! 罠カード【BF-アンカー】を発動! 自分の場の"BF"モンスターをリリースして、他の自分のシンクロモンスターの攻撃力をエンドフェイズ時までリリースしたモンスターの攻撃力分アップさせる!」

 

【ブラックフェザー・ドラゴン】

ATK/1400+2500→3900

 

【ブラックフェザー・ドラゴン】に黒いオーラのようなものが纏い、攻撃力が上昇していく。

 

「くっ……やるね。なら攻撃はキャンセルだ。僕はカードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

赤見 手札1 LP3500

魔ーー裏ー

ーーーーー

 シ ー

ーーシ裏ーフ

ペー裏裏ー

ネロ 手札0 LP2800

 

よし……ここに準備は整った。

これ以上デュエルを長引かせても勝機はない。

このターンに……私の5年間の思いを込める……!

 

「私のターン、ドロー! 魔法カード【闇の誘惑】を発動! デッキからカードを2枚ドローし、手札の闇属性モンスター【BF-銀盾のミストラル】を除外。そして、【BF-南風のアウステル】を召喚!」

 

ーーー

【BF-南風のアウステル】☆4 闇 鳥獣 ④ チューナー

ATK/1300

ーーー

 

「そして、永続魔法【黒い旋風】の効果発動! デッキから【BF-熱風のギブリ】を手札に加える。さらに【南風のアウステル】の効果で先ほど除外した【銀盾のミストラル】を守備表示で特殊召喚!」

 

ーーー

【BF-銀盾のミストラル】☆2 闇 鳥獣 ② チューナー

DEF/1800

ーーー

 

「チューナーばかり並べて……何か企んでるね?」

 

「すぐにわかる。私は罠カード【ナイトメア・デーモンズ】を発動! 私の場のモンスター、【南風のアウステル】をリリースし、相手の場に【ナイトメア・デーモン・トークン】3体を攻撃表示で特殊召喚する!」

 

ーーー

【ナイトメア・デーモン・トークン】☆6 闇 悪魔 ①と②と⑤

ATK/2000

ーーー

 

「くっ、それは最初に手札に加えていたカード。なんだか嫌な予感がするね」

 

「ふっ、お前に敗者の苦痛というものを教えてやる! 墓地から【南風のアウステル】を除外し効果発動! 相手の場のカードの枚数分の黒羽カウンターを【ブラックフェザー・ドラゴン】へと乗せる! そして、カウンター一つにつき、攻撃力は700ポイントダウンする」

 

【ブラックフェザー・ドラゴン】

カウンター0→8

ATK/2800→0

 

「なに? そうか、僕の場のカードを増やしたのはこのため……。ってことはこの後に狙いが……」

 

「あぁ。受けてもらうぞ! 今まで俺たちSFSの仲間達が受けてきた苦痛を! 【ブラックフェザー・ドラゴン】の効果発動! 自らのカウンター全てを取り除き、相手の場のモンスター1体の攻撃力をカウンターの数×700ポイントダウンさせ、そのダウンさせた数値分のダメージを相手に与える!」

 

「なに……!?」

 

【ブラックフェザー・ドラゴン】の羽が黒色から真っ赤に染まると、ネロを目掛けて大きく羽ばたいた。

そこから発生する赤黒い竜巻はネロのモンスター達を襲い始める。

 

「対象は……私が送りつけた【ナイトメア・デーモン・トークン】だ! 攻撃力を2000ポイントダウンさせ、お前には2000ポイントのダメージを与える! "レジスター・リベレーション!"」

 

「ふふふ……さすが赤見くんだね……。この効果と攻撃を合わせれば僕のライフはあっという間になくなるってわけか。だけど、僕には通用しないよ! 罠カード発動! 【ブレイクスルー・スキル】! 相手モンスターの効果を無効にする!」

 

 

くそ、私の【ブラックフェザー・ドラゴン】による戦術は止められてしまったか。

だが、ここまでは想定内だ。ネロのことだから"この一手だけ"ではトドメはさせないと思っていたところだ。

 

「ならば、バトルだ! 【ブラックフェザー・ドラゴン】で【ナイトメア・デーモン・トークン】を攻撃! "スカーレッド・ストーム!"」

 

【ブラックフェザー・ドラゴン】

ATK/2800

【ナイトメア・デーモン・トークン】

ATK/2000

 

【ブラックフェザー・ドラゴン】は口元に赤黒いエネルギーを溜め込むと、自らの翼で飛び立ち、【ナイトメア・デーモン・トークン】に向かってエネルギーを解き放った。

 

「くっ……うわあああ! だけど、この程度じゃ僕のライフは痛くも痒くもないよ赤見くん?」

 

ネロ LP2800→LP2000

 

「まだだ! 【ナイトメア・デーモン・トークン】は破壊された時、コントローラーに800のダメージを与える!」

 

「まったく……邪魔なカードだね……!」

 

ネロ LP2000→LP1200

 

「だけど、君の場は【ブラックフェザー・ドラゴン】以外は木偶の坊だよ? これ以上僕にダメージを与えるのは不可能だ。意外と大したことなかったね?」

 

「黙れ……。いい気になれるのも今のうちだネロ。【ブラックフェザー・ドラゴン】の効果を止められるのは想定内だ」

 

「へぇ。でも、もうバトルは終わっちゃったから僕にダメージを与えることはできないよ?」

 

「……メインフェイズ2。私はレベル8の【ブラックフェザー・ドラゴン】にレベル2の【銀盾のミストラル】をチューニング! "収束せよ、黒き旋風! 黒鉄に輝く武装に宿り、劣勢覆す嚆矢となれ! シンクロ召喚! 【BFフルアーマードウィング】!"」

 

ーーー

【BF-フルアーマード・ウィング】☆10 闇 鳥獣 ①

ATK/3000

ーーー

 

全身に黒鉄に煌く鎧を纏い、冷たく光る大剣とガトリングを装備したまさにフルマーマー呼ぶに相応しい鳥獣モンスターが出現した。

これが私の最後の希望。決着をつける切り札だ。

 

「レベル10のシンクロか……なかなかやるじゃん」

 

「感心してられるのも今のうちだ。もうお前のターンはないからな」

 

「もうバトルフェイズが終わったというのに僕を倒せるっていうの?」

 

「あぁ、当然だ。ここで決着をつける。速攻魔法発動! 【異次元からの埋葬】! 除外されているカードを3枚まで墓地へ戻す! 私は除外されている【南風のアウステル】を墓地へ戻し、再び除外することで効果発動! こいつにはさっき使った効果とは別にもう一つの効果がある。相手フィールドの表側表示モンスター全てに楔カウンターを1つずつ乗せる!」

 

「楔カウンター……?」

 

【ナイトメア・デーモン・トークン】①と②

楔カウンター1

【覚醒の魔導剣士】

楔カウンター1

 

「そして、【フルアーマード・ウィング】の効果は、エンドフェイズ時に場の楔カウンターが置かれたモンスターを全て破壊することができる!」

 

「僕のモンスターが破壊されるってことは……つまり……」

 

「あぁ、破壊されるモンスターのうち2体は【ナイトメア・デーモン・トークン】。よって合計1600ポイントのダメージを受けるってことだ!」

 

「僕のライフは残り1200……」

 

「終わりだ、ネロ! 私はエンドフェイズ時に【フルアーマード・ウィング】の効果発動! 場の楔カウンターの乗ったモンスター全てを破壊する! "ブラックウェッジ・ヴァレット!"」

 

【フルアーマード・ウィング】の腕に装着されたガトリング砲より、数多の銃弾が放たれ、ネロのモンスター達に襲いかかる。

 

「くっそお……赤見くん……!」

 

「命の尊さを……その身に刻め! ネロォォォォ!」

 

私の叫びと共に、大きな爆発が発生し、あたりに煙が立ち込める。

 

やったぞ……。私はとうとうあのネロを打ち倒すことができた……。

5年間の悲願の達成だ。これで……特殊機動班長としての……いや、私の憧れであった真吾班長からの任務を達成することができた。

 

長かったな……。本当に長かった。

毎日のように生きるか死ぬかの瀬戸際で生きてきた身としてはな。

 

「ふふふ……ふふふふふ……」

 

ふとネロの笑い声が聞こえ私は奴の下を見つめる。

まさかと思い私はすぐさまデュエルウェポンの画面を確認する。

するとそこにはまだネロのライフポイントが残っている表示が映されていた。

 

ネロ LP400

 

「なんだと……馬鹿な」

 

「いやあお見事だったね赤見くん。思わず負けるかと思っちゃったよ」

 

「なぜだ。なぜライフポイントが残って……そのカードは……」

 

「いやあね、僕は【フルアーマード・ウィング】の効果にチェーンして、罠カード【闇の閃光】を発動したんだ。この効果で、僕の場の闇属性で攻撃力が1500以上ある【ナイトメア・デーモン・トークン】リリースし、このターン特殊召喚されたモンスターを全て破壊する効果を発動させてもらったんだ。だから破壊されたのは1体だけってこと。僕が受けたダメージはたったの800だったってわけさ」

 

「くそ……! だが、私の場の【フルアーマード・ウィング】はカードの効果を受け付けない効果を持っている。したがって、【闇の閃光】の効果では破壊されず健在だ」

 

「なるほどねー。だけど今度は僕がチェックメイトだ。赤見くん」

 

「……っ!」

 

もう私はターンエンドしてしまった。よって何もすることはできない。

だが、私の場にはカードの効果を受けない【フルアーマード・ウィング】。さらに手札にはいざという時の盾となる【熱風のギブリ】。

どんな手でも守り抜けるほどの防御力は備わっている。

対してネロは現在の手札が0枚。【魔導書院ラメイソン】の効果を含めても2枚だけでは……さすがに1ターンでやられることはないと思いたい……。

 

赤見 手札1 LP3500

魔ーーーー

ーーーーー

 シ ー

ーーー裏ーフ

ペー裏ーー

ネロ 手札0 LP700

 

「次こそ、君の肉体を切り裂いてあげるよ! 僕のターン、ドロー! 【魔導書院ラメイソン】の効果で【グリモの魔導書】を戻し、もう1枚ドロー! 【シャドール・ファルコン】を反転召喚、そしてリバース効果発動。墓地から【シャドール・リザード】を裏側守備表示で特殊召喚する!」

 

ーーー

【シャドール・リザード】☆4 闇 魔法使い ②

DEF/1000

ーーー

 

「さらに手札の【黒牙の魔術師】を再びセッティング! この時、もう片方にいる【賤竜の魔術師】の効果発動! EXデッキの"魔術師"Pカード1枚を手札に戻せる。僕はもう1枚の【黒牙の魔術師】を手札に戻し、このままペンデュラム召喚! 手札より【黒牙の魔術師】、【シャドール・ビースト】」

 

ーーー

【黒牙の魔術師】☆4 闇 魔法使い ①

ATK/1700

ーーー

【シャドール・ビースト】☆5 闇 魔法使い ⑤

ATK/2200

ーーー

 

チューナーと非チューナーが並んだ。狙いはシンクロ召喚か……?

いや、だがまだ【黒牙の魔術師】のペンデュラム効果があったか。

 

「そして、【黒牙の魔術師】のペンデュラム効果発動! 【BF-フルアーマード・ウィング】を効果の対象とし、このカードを破壊。その後、墓地から【覚醒の魔導剣士】を再び特殊召喚!」

 

ーーー

【覚醒の魔導剣士】☆8 闇 魔法使い ③

ATK/2500

ーーー

 

「だが、攻撃力を半減する効果は【フルアーマード・ウィング】には効かない。その攻撃力では私のモンスターを倒せないはずだ」

 

「それはどうかなあ? 本当の切り札を見せてあげるよ……僕はレベル8の【覚醒の魔導剣士】にレベル2の【シャドール・ファルコン】をチューニング! "平穏なる未来を照らす、真実の剣よ! 混沌より顕現し、真に正しき道を照らせ! シンクロ召喚! 【涅槃の超魔導剣士】!"」

 

ーーー

【涅槃の超魔導剣士】☆10 闇 魔法使い ②

ATK/3300

ーーー

 

あいつもレベル10のシンクロモンスターを出してきやがったか……!

攻撃力は私の【フルアーマード・ウィング】を凌駕している。

このままでは……。いや、だが私のライフポイントはまだ3500もある。大丈夫だ……。

 

「僕にこのモンスターを出させたのは久しぶりだよ赤見くん……褒めてあげる! だからこそ、とびっきりの断末魔を聞かせてよ!」

 

「ふざけるな! デュエルモンスターズは他者を痛みつける兵器なんかじゃない! 人類に夢と楽しさを与える、かけがえのないものだ!」

 

「その通りだよ……。でもね……僕にとっては……忌々しい政府の犬どもを痛みつけるのが最高に楽しいんだよ……! これが僕の夢なのかなぁ!」

 

「ネロ……お前……」

 

目を見開きながらも満面の笑みでそう訴えかけてくるネロにもはや私は何も言い返せなかった。

これが……お前にとってのデュエルモンスターズの最高の形だとでも言うのか……。

 

「さぁさぁバトルだ! 【涅槃の超魔導剣士】で【BF-フルアーマード・ウィング】を攻撃! "リリービングソウル・ジャッジメント!"」

 

【涅槃の超魔導剣士】

ATK/3300

【BF-フルアーマード・ウィング】

ATK/3000

 

【フルアーマード・ウィング】の放つ数多の銃弾を掻い潜りながら、【涅槃の超魔導剣士】は急接近し、手に持つ剣でその喉元を切り裂いた。

 

赤見 LP3500→LP3200

 

「くっ……ぐああ」

 

「そしてこの瞬間、【涅槃の超魔導剣士】の効果発動! 相手モンスターを戦闘で破壊した時、相手のライフポイントを半分にする!」

 

「なんだと……ぐおわ!?」

 

赤見 LP3200→LP1600

 

これは……私の体から力が吸い取られていくような感覚だ。

かすかに見える紫色をした光が私のところから【涅槃の超魔導剣士】の元に吸収されているのが見える。

 

そして、私のライフポイントが半分になったことが意味するのは私の敗北。

手札の【BF-熱風のギブリ】だけでは到底防げそうにない状況となってしまった。

 

やはり私は……。どんなに努力したところで真吾班長を超えることは……ネロという宿敵を倒すことは叶わなかったということか。

 

「ふふふ……続けて、【黒牙の魔術師】でダイレクトアタック! 死ねえ!」

 

「くそ……手札の【熱風のギブリ】の効果発動! 相手がダイレクトアタックしてきた時、このカードを守備表示で特殊召喚する!」

 

【黒牙の魔術師】

ATK/1700

【BF-熱風のギブリ】

DEF/1600

 

「そのまま砕け散れ! そして……これで今度こそおしまい! 【シャドール・ビースト】でダイレクトアタック! ばいばい、赤見くん」

 

【シャドール・ビースト】

ATK/2200

 

【シャドール・ビースト】が私の眼前まで迫ってくる。

そして、その鋭利な爪で私の体を引き裂いた。

 

赤見 LP1600→LP0

 

体にえぐられるような衝撃が走る。

それと同時にライフポイントが0になる音が聞こえると、更なる痛みが私の体を襲った。

この感覚……久しぶりだな……。だが、もう二度と味わうことはないだろう……。

 

朦朧とする意識の中、私の体はその場へ崩れ落ちるように倒れた。

 

「さーて、君をギタギタに切り刻んで、SFSの奴らに見せてあげればそれはいいエサになるんじゃないかな? ねえ赤見くん?」

 

「……くそ」

 

痛みに耐えながらもなんとか言葉を発し、ネロのことを睨みつける。

だが、もはやこの状況では私になすすべはなかった。

 

やがて、ネロが【覚醒の魔導剣士】を召喚し始める。

 

あの鈍く光る剣でこれから体を切り刻まれると思うと寒気がする。

だが、既に意識が朦朧としているんだ。

あまり痛みに苦しむことなく死ねそうだな。

 

「まずは……邪魔な手足から削ぎ落としていこうかな! ふふふ……やれ、【覚醒の魔導剣士】!」

 

頼むから……さっさと急所を一突きしてくれないだろうか……。

これが拷問ってやつか……。助からないとわかっていると思うと本当に早く殺してほしいと思ってしまう。

恐怖に目を閉じ、来るべく痛みを待つ……。

 

だが、しばらくすると急遽大きな金属が擦れ合うような音が聞こえ、思わず目を開く。

 

「おらおら! 貫け、"スプリント・スピア!"」

 

馬と一体化した騎士が操る大きな槍が【覚醒の魔導剣士】に向けて突き刺されており、それを【覚醒の魔導剣士】は2本の剣で受け止めていた。

 

あれは間違いない。郷田のモンスターだ。

そうか……助けが来てくれたか……。

 

郷田はデュエルの腕はまぁまぁだが、カードを使用した戦闘においては右に出るものはいないといっても過言ではない程の暴れん坊っぷりを見せる。

距離が遠い今ならデュエルに発展する危険はないし、ネロに対して遅れを取ることはないだろう。

 

「【ガイアナイト】! 撤収だ。ここは退くぞ!」

 

郷田がそう叫ぶと、【ガイアナイト】は私の服をうまい具合に槍で突き、洗濯物を運ぶかのように宙吊りにしながら、駆け抜け始めた。

 

「あぁー! せこいよ君!」

 

ネロが思わず叫ぶが、【ガイアナイト】のスピードはとても早く、部屋を飛び出した後、あっという間に廊下を駆け抜けていった。

 

こうして、郷田の助けを経て私は生き残ることに成功した。

 

 

 



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第五章 崩壊のSFS
Ep54 - 憂鬱の特殊機動班


ーー国防軍出張での事件から数日。

俺はSFS医療室前の椅子に座り、途方に暮れていた。

 

あの国防軍出張での被害はかなり甚大であったらしい。

国防軍の主力部隊の多くは負傷し、施設も局長室を中心としてかなりの被害を受けたようだ。

最終的には、数によるゴリ押しでジェネシスを迎撃し、撤退へ追い込んだらしい。

 

それに、魁偉さんに任せたあの"赤いペンダント"も報告によるとジェネシスの奴らに奪われてしまったと聞いている。

 

あの包囲状態でリリィの奴は勝ち抜いたと言うのか……。

それともなにかしら離脱の手段があったか。はたまた増援があったのかもしれない。

 

かと言っていくら調べたり聞いたりしても情報としては、奪われたという事実だけしかわからなかった。

 

そして、なんといっても肝心なのは我々特殊機動班のメンバーだ。

結衣はこないだの負傷で治療中だ。

治療班の人からは少しずつ回復に向かっているとは聞いているが、まだデュエルウェポンを用いたデュエルを行うには危険な状態らしい。

それに颯のやつもジェネシスのデュエリストに負けて負傷状態らしい。

負けた直後に賤機の奴が助けてくれたようだ。

デュエルで負けたら助けがない限り死んだも同然だからな。本当によかった……。

 

最後に、赤見さんがネロに負けたとの知らせを聞いた時は驚いたな。

郷田さんがすごい焦りながら赤見さんを運んできてくれて……生きていてくれてよかった。もうそれが一番の心配だった。

俺と結衣の命を助けて死ぬなんて……そんなこと……悔やんでも悔やみきれないからな。

 

それにしてもネロの奴……。あの赤見さんを倒すなんて……よほどのデュエルの腕前を持っているんだろう。

だけど……赤見さんがかなわなかった相手だとしても俺は戦って……絶対に倒さなければいけない。

俺の生きてきた成果が果たせる時がようやく来たんだ。頼んだぜ、【セフィラ・メタトロン】。

 

とまぁ、そんなこんなで今特殊機動班は壊滅状態となっている。

今日も赤見さん達のお見舞いに治療室にきたところだ。

隣には郷田さんが寂しそうに座っている。その姿にはいつものような元気は見られなかった。

 

「残ったのは俺たちだけか……繋吾ちゃん」

 

「そうですね……」

 

「なぁ……繋吾ちゃん。俺たちはジェネシスに本当に勝てるんか」

 

「郷田さん……。確かに今回の国防軍の襲撃で奴らの力を思い知らされた感じがするな……」

 

「あぁ……。特殊機動班に来て数年。任務の度に誰かが負傷したってのは散々あったが、ここまで一気に……ましてや赤見の奴がここまで負傷するなんて初めてだよ。こんな強大な奴ら相手に、たった5人でなんとかできるのかって思ってな」

 

郷田さんが言うのはごもっともな話だ。

なんて言ったって今回はあの国防軍の多くの兵隊を葬る程の力を見せたんだ。

まず正攻法では無理だろう。

 

それに正面から戦わずに、幹部クラスを集中狙いするって言っても、まさに今回全敗している状況だ。

このままではいくら情報を得たところで勝ち目がない。

 

「今のままでは……ダメだと思う。俺たちがもっと強く……変わっていかないとダメなんじゃないですかね」

 

「はあ、繋吾ちゃんはまだ諦めてないって表情してんな? さすが赤見の奴が見込んだだけのことはあるな」

 

「当たり前ですよ。俺はあいつらを倒さなくちゃいけない理由がいっぱいあるからな。それに今回の件でますますネロの奴はどうにかしないといけないと思った」

 

「あー、赤見の報告書にあったネロの話か。人を切り刻んで苦痛を与えるのが趣味……ってか。まったく気味悪い話だよなあ」

 

赤見さんの報告書によると、ネロは喜んで人を切り刻み苦痛を与えていたという。

それに、国防軍……いや、国家に対してかな。なにかしら憎悪を抱いているようにも感じたとも書いてあったな。

 

ジェネシスは一体……なんのために活動しているのだろうか。

仮にネロのように人へ苦痛を与えるためだけに活動しているというのであれば……到底許せるものではない。

それはデュエルウェポンという力を乱用し、好き勝手しているだけに過ぎないからな。

絶対に止めないと……。これ以上、仲間や家族を失う悲劇を起こしてはいけない。

 

「どうぞー」

 

突如、治療室の中から女性の声が聞こえた。

治療班の人だ。

 

「おし、繋吾ちゃん。そろそろ行ってこい。赤見に聞きたいことがいっぱいあるんだろ?」

 

「はい、郷田さん。それではまた」

 

俺は郷田さんへ軽く頭を下げると、治療室の中へと入った。

 

中は広くカーテンで仕切られた空間にベッドが6つ程並んでいた。

その中の一つのカーテンを開けると、そこには清潔感溢れるベッドに横たわる赤見さんの姿があった。

 

「おぉ、繋吾か。まぁそこに座れ」

 

赤見さんに言われ、俺はベッド脇に椅子へと座る。

 

「悪かったな。あれだけ言っといて負けてしまうとは情けない限りだ」

 

「いえ、赤見さんのおかげで今俺は生きることができています。ネロは相当強かったんでしょう」

 

「あぁ……。遊んでいるように見えてその裏で何を考えているのかわからないような奴だ。私も最善を尽くして戦ったが、トドメを刺しきることができなかった。不甲斐ないよ」

 

赤見さんは悲しそうな表情をしながら俯く。

きっと、赤見さんも俺と同じくらいの思いを背負ってネロと対峙したに違いない。

だけど、その思いだけでは届かなかった。それほどまでにネロという存在は大きかったということだ。

 

「まぁネロについては、今後どうしていくかは考えるさ。それよりも今日来たのはあの話だろ?」

 

「はい。赤見さんと合流した直後に話していた5年前の真相についてです」

 

「少し長くなる。聞いてくれるな?」

 

「はい」

 

ーーあれは今から5年前。私はごく普通の特殊機動班員だった。

 

その頃はまだ特殊機動班もいっぱい人員がいてな。今の10倍くらいはいたな。

 

ある日、突然私は生天目社長に呼ばれ社長室に行った。

急だったもんだから班異動の内示か何かかと思い、内心びくびくしながら向かったな。

 

だが、そこには当時の特殊機動班長の遊佐 真吾班長の姿もあった。そう、お前の父親だ。

 

その時、お前の父親から言われた。

お前に一つ、重大な任務を任せたいと。

 

内容を聞いたら緑のペンダントを息子に渡すから、それを誰の手にも渡らないように……特にジェネシスには渡らないよう守り抜いてほしいと。

 

その緑のペンダントはいつも真吾班長が任務中に身につけていたものだったから私もよく知っていた。

 

だけどなぜ誰の手にも渡らないようにする必要があるのか、なぜ息子の手に渡すのか。いきなり言われたものだから正直意味がわからなかった。そこで私は真吾班長に聞いたんだ。

 

そしたら、真吾班長はあのペンダントには不思議な力があって、それを悪用すればとんでもない災いが起きると言い、ジェネシスはその力を求めていると言っていた。

そして、最後に私は近いうちに死ぬかもしれないとも言っていたんだ。

 

その発言に驚いていると今度は生天目社長が衝撃的な発言をしたんだ。近日中に、真跡シティに大規模襲撃テロが起きると。

標的は国防軍真跡支部。そして主犯はジェネシス。ジェネシスが主導となるデュエルテロには当然特殊機動班は急行しなければならない。だからこそ死ぬかもしれないってことだった。

 

それなら出撃をやめて……とも思ったが、ジェネシスに対する特別部隊。それが特殊機動班。行かない手はなかった。

ましてや、班長がいなければ誰が指揮を取る? そこで真吾班長は息子にペンダントを渡すと決意したらしい。

 

でもなぜ、私にその防衛任務を任せたのか。

その時、真吾班長は誰からも息のかかっていない純粋で勇敢な人物にしかこの任務は頼めない。そして、この任務を任命することは次期特殊機動班長を任命することと同義と言ったんだ。それが私であったそうだ。

結局その意味はよくわからなかったけど、私は引き受けることにした。

 

だからこそ、今回の大規模襲撃テロでは、一切の交戦行為を行わずに、ペンダントと繋吾の命を安全な場所へ確保させることだけに専念するように言われた。何があったとしても私を生き残らせるためにな。

 

そして、当日だ。

真吾班長から指示を受けた私は急ぎ繋吾の下へ行き、お前の後頭部を殴り気絶させた後に運び出した。

 

だが……お前も少し覚えているだろうが、既にネロの奴には見つかった後だった。少し実行するのが遅かったんだ。

そう、あの時私は真吾班長の援護に回ろうか最後まで悩んでいた。その結果がこの様だよ。

 

簡単にネロから逃げられるはずはなく……ひたすらジェネシスの部隊から追われ続けた。

 

そこで私以外の特殊機動班員は当初の予定通りに私の盾となり、ネロやその他ジェネシスの敵と戦い続けてくれた。

最終的には路地裏のゴミ箱の中で身を潜め、なんとかジェネシスの目を退けることができたんだ。

 

あたりからは仲間の断末魔が響き渡っていたよ……。あの時程悔しくて苦しい日はなかった。

 

そこから私は繋吾をSFSに連れて行くかも考えたが、SFSにいてはジェネシスに狙われる身になるのは間違いない。

それに、SFSが狙われればジェネシスに対抗できる力があるのかあの時は自信がなかった。

 

やむを得ずお前をゴミ箱の中に放置して私は帰還したんだ。

ジェネシスに対し、ペンダントはこの街にはないと思わせた後であれば、繋吾はずっと安全な環境で暮らしていけると思ったからだ。

しばらくの間はジェネシスは私のことを狙うだろうし、真吾班長の任務を達成するにはそれが最善の方法だと思ったんだ。

 

それが5年前の事の顛末だよ。

 

私がジェネシスから集中的に狙われていた理由もそれだ。ジェネシスは私がペンダントの在り処を知っていると思い込み、SFSをおびき出すような襲撃ばかりを行っていたんだ。

 

そして先日、再度真跡シティに襲撃があった時、ジェネシスに繋吾の存在がバレてしまったかもしれないという思いと、今度こそ私が自らの手で守り抜かなきゃいけないという思いでお前をSFSに迎えた。

だが、お前に事情を伝えなかったのは、お前を戦いに巻き込みたくなかったという私の身勝手な思いだ。それほどまでにジェネシス……いや、ネロは危険な人物だからな。

 

一通り話し終えた赤見さんは、苦笑いしながら天井を見上げていた。

確かにネロの凶悪さは赤見さんの報告書を見て痛いほどにわかった。

ただ、自分自身の復讐心だけでぶつかってもおそらく叩き潰されるだけだと言うこともよくわかる。その凶悪さを赤見さんは知っていたからこそ、俺に事情を伝えなかったということもだ。

 

「隠していて本当に悪かったな。お前にとってそれがわかっていればもう少し良い行動が取れたのかもしれない」

 

「いえ、俺の命を考えての判断、むしろ感謝してます。おそらく……俺は勝てなかったと思いますから」

 

「そうか……。そう言ってくれるのなら救われるよ」

 

「だけど、今回の戦いも無駄じゃないですよ赤見さん。俺たちが今回負けたのは情報が足りなかったから……だと思います。赤見さんもネロと戦うのは初めてだと聞きましたし。俺も今回の件を通じて、無知識で相手にぶつかることはどれほど危険なことか痛感しました。情報を得ることで結果は変わるはずです」

 

その言葉を聞いた赤見さんは、少しだけ口をにやけさせた。

 

「ふっ、さすがはあの班長の息子だな。その通り、今回我々は苦しみを味わうことで大きな進展を得た。ジェネシス壊滅に向けた着実な一歩をな」

 

そう呟く赤見さんは真剣な眼差しで自らの拳を見つめる。

よかった。赤見さんもまだ諦めてはいないようだ。

 

「実はな。ネロのデッキ情報以外にも大きな情報を得てる」

 

「え、それは一体……?」

 

「まぁそれは後ほど話す。それよりもまずは目の前の事柄を片付けないとな。私の怪我もそうだが、案の定また今回の件でSFS本会議が開かれるらしいんだ」

 

本会議……。まさか今回の件で再び特殊機動班の撤廃が議題に上がるんじゃ……。

今回ばっかりは俺たちのせいじゃないっての……。むしろ被害者だ。

 

「それはまた……しんどいですね」

 

「まぁ、今の特殊機動班は常に崖っぷちみたいなもんだ。むしろチャンスと思っているよ」

 

なんというプラス思考。

でも今回は監視の賤機の奴も現場はしっかり見ているわけだし、前回ほどひどい展開にはならないと思いたい。

 

「それよりも結衣達の見舞いは行かなくていいのか? 颯はもう退院したらしいが、結衣の方はまだ厳しいと聞いたぞ」

 

颯はもう治ったのか。さすがお調子者なだけあって回復は早いなあいつ。

それに結衣の方は医療室に運んでその日面倒を見てから会いに行ってないな。顔出しに行くか。

 

「そうですね。向かってみます。赤見さん、絶対にジェネシスを壊滅しましょう」

 

「あぁ。もちろんだ。また何か聞きたいことがあったら聞いてくれ。ではな」

 

俺は軽く挨拶をし、赤見さんのいた治療室を後にすると、結衣がいた治療室へ向かった。

 



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Ep55 - 果たすべき役割

赤見さんと別れ、今度は結衣のいる治療室前へとたどり着いた。

さっきの赤見さんのいた部屋とは違い、ここは重症患者用の部屋みたいで、一人につきひと部屋と豪華な仕様となっている。

 

俺は部屋の扉を軽くノックし、静かに開く。

中を覗くと大きめのベッドに寝ている結衣の姿があった。

 

その瞳は閉ざされており、寝息でベッドがかすかに動いているのが見える。

どうやら寝ているらしい。タイミングが悪かったかな。

 

無理に起こすのもよくないだろうし、手紙でも置いておくか。

この部屋に何か書くものと紙はないだろうか。

 

部屋を見渡してみると部屋の入口に置いてあるテーブルにメモ用紙の束とボールペンが置いてあった。

ちょうどいいあれにお見舞いのメッセージでも書くとするか。

 

メモ帳とペンを取ろうとしたが、取るときに勢い余って床に落としてしまう。

 

「……誰ですか。人が寝ている時に不法侵入とは。通報しますよ」

 

落とした時の音で起こしてしまったらしい。

そんなに大きな音は立ってないが……けっこう音に敏感なのだろうか。

 

「あっ……」

 

結衣の声に気がつき振り向くと、俺の顔を見た結衣が驚いたような顔をする。

 

「悪い。寝てたから手紙でも置いておこうと思って」

 

「あなたでしたか……。それなら起こしてくれてよかったのに」

 

「随分と気持ちよさそうに寝てたからな。具合の方はどうだ?」

 

俺はベッドの脇に置いてある椅子に腰掛け、結衣の様子を伺う。

 

「かなりよくなりました。まだ医療班の人にはデュエルは控えるよう言われていますが……」

 

そう話す結衣は穏やかな感じだった。

なんというか以前とは違って気を張っていないような……そんな印象を受けるな。

 

「あと……改めてありがとうございました。私が今こうして生きていられるのも、安心していられるのも……あなたが助けてくれたからです」

 

俺から顔を逸らし、照れくさそうに言う結衣。

なんだか素の彼女の姿が見れたようで嬉しくなるな。

 

「いや、俺は大したことしてないよ。俺だってあの時、あのままネロと戦っていたらここにいなかったかもしれない」

 

「赤見班長……負けたみたいですしね……。私も、あの女の人に負けないようにしないと……」

 

リリィのことか。

力量がどの程度かはわからないが、おそらく相当な実力の持ち主だろう。

俺が見た時は桂希の操っていた【サイバー・ドラゴン】のような機械竜モンスターを操っていたな。きっとあれがエースモンスターなのだろう。

 

「結衣なら勝てるさ。だって、"SFSの特殊機動班"だろう?」

 

「ええ……。というかなんか繋吾くんにそう言われるとちょっと……」

 

「ん……?」

 

「……悔しいですね」

 

なんだか不満足そうな表情の結衣に言われ、俺は思わず吹き出してしまった。

 

「ちょっと何を笑っているんですか! 私にデュエルで1回勝ったからっていい気になってるんじゃないですか!」

 

「いや、そういうつもりじゃないって! お前を励ますつもりで……」

 

「むー……。でも今思いっきり笑ってたじゃないですか。私を馬鹿に……!」

 

「そりゃあ……結衣はやっぱり変わらないなぁって思っただけだよ」

 

「あ、また何か含みのある言い方じゃないですか! 大体、繋吾くんはデュエルは強いかもしれませんけどーー」

 

結衣がいつもの調子に戻ってきたところで、治療室の扉が開く。

その音に気がつき、入口を向くと一人の女性がいた。

 

「あれえー? 随分と元気じゃん? もう退院していいんじゃない結衣ちゃん?」

 

「……なんの用ですか。野薔薇さん」

 

そう、野薔薇だった。

結衣の表情が一気に臨戦態勢のような……きつい表情へと変わっていく。

 

「遊佐くんもおつかれさまー! この間の国防軍出張は災難だったみたいだね……。桂希先輩から聞いたよー」

 

「ああ。まさかジェネシスの襲撃に巻き込まれるとは思わなかったよ……」

 

「びっくりだねー。っと、遊佐くんと喋ってると結衣ちゃんの視線が痛いなー! てかてか……」

 

すると野薔薇は小走りで結衣の耳元へを顔を近づけ小声で呟いた。 

 

「結衣ちゃん。遊佐くんとデキてるの?」

 

「っな……何を言ってるんですか! そんなわけないじゃないですか!」

 

結衣は顔を真っ赤にしながら野薔薇を突き飛ばすように叫ぶ。

 

「いやあーだって"繋吾くん"って呼んでたからさ! 何かあったんでしょ? 聞かせてよー!」

 

「何もないですから! っていうか仮にあったとしてもあなたにだけは話しません!」

 

「いいじゃない減るもんじゃないしー! "あの結衣ちゃん"が親しく下の名前で呼ぶなんてよっぽど何かがあったんじゃないー? ねえ遊佐くん?」

 

うわ……話がこっちに降ってきた……。

参ったな……。

 

「いや……。大したことはないよ」

 

その場をごまかすために、苦笑いで答えると、なぜかその発言に対し結衣の方が突っかかってきた。

 

「大したことはないってなんですか! あの時の言葉は嘘なんですか! あっ……」

 

こいつ……せっかくごまかしてあげたというのになんてこと……。

勢いで叫んでしまった後に気がついたのか結衣は口をぽかんと開け呆然としていた。

その様子を見た野薔薇はにやにやした表情で結衣のことを見る。

 

「へえー……。ほんっとに嘘つくの下手なんだねー。さてさて、その話詳しく聞かせてもらいましょーか! 結衣ちゃん」

 

「ちょっと、離してください野薔薇さん! あなたに話すようなことは何もないですから! 早く出てってください。ほら、ぼーっとしてないで繋吾くんもなんか言ってください」

 

これは野薔薇に説明するのはめんどくさそうだ……。

俺はこのままありのままの話をしてしまった方が、かえって楽に済むと思うんだけどな……。

結衣の昔の話を聞いただけっていうことをな。

 

「もう諦めて言ったほうがーー」

 

「馬鹿言わないでください! 野薔薇さんに勘違いされるじゃないですか! 誰がこんなホームレスと……!」

 

「ホームレスだったらお前もだろ?」

 

「え? 結衣ちゃんホームレスだったの?!」

 

「あぁもう! これ以上混乱させないでください!」

 

俺はため息をつきながら、しばらくの間結衣と野薔薇の不毛な争いを見守っていた……。

 

 

ーー場所は変わり決闘機動班長室。

 

椅子に座り腕を組む白瀬班長とその前に姿勢よく立っている桂希の姿があった。

 

「国防軍襲撃の報告書。ご苦労だった。特殊機動班は全員無事のようだな」

 

「はい。重症は負ったようでしたが、命を落とすまでには至らなかったようです。ですが……ジェネシスの奴らは白瀬班長の言うとおり遊佐のことをピンポイントで狙っていました」

 

「なるほどな。緑のペンダントが奪われなくてよかったものだ」

 

「はい……。しかし、白瀬班長はなぜ国防軍基地に襲撃があったことをいち早く察知したのですか?」

 

「国防軍の基地にある……いや、あったというべきか。紅色に輝くペンダントが保管されていただろう。あれも遊佐がもっているペンダントと同様の力を秘めているらしい。当然、ジェネシスはそれも欲しがるはずだ。そこに遊佐 繋吾が行くとなればジェネシスとすれば少ない労力で一気に二つのペンダントを手に入れることができる。それならば襲撃するには好都合だろう?」

 

白瀬班長は口元をにや付かせながら静かな表情で桂希を睨む。

 

「確かにそうですね……。あの赤のペンダントについても白瀬班長はご存知だったのですか?」

 

「ああ。昔、国防軍と共同訓練か何かをやっている時に教えてもらってね。そして、遊佐のもっているペンダントと性質が似ていることに気がついた。そこでお前を行かせたってわけだ」

 

「なるほど……。しかし、赤のペンダントはジェネシスによって奪われてしまった。となれば次の狙いは間違いなくSFSです。我々にジェネシスの攻撃を凌ぐ力があるのか……」

 

桂希は自信なさそうに自らの足元に視線を落とす。

しかし、その右手は固く握り締められていた。

 

「それについては、何かしら手を打たねばならんだろう。そのためにも次のSFS本会議ではペンダントの話をせざるを得ないだろうな。対ジェネシスに対する防衛線を引くためにも」

 

「しかし……それこそ開発司令部が黙ってないでしょう……。ペンダントの危険性がわかればその排除にかかるのではないですか? そうすると特殊機動班の撤廃は加速するものと思いますが……。それでいいのでしょうか?」

 

「そうだな。緑のペンダントを開発司令部で管理するなんてことを言い出すかもしれない。楼、お前はどちらの方が安全だと思うかね? 開発司令部か、特殊機動班か?」

 

「そうですね……」

 

桂希はしばらく考えるように天井を眺める。

 

「個人的には開発司令部の人間は信用なりません。特殊機動班を支持しますね」

 

「同感だな。私もその方が都合がいい。特殊機動班の撤廃については、そこが焦点となるだろう。いくら会社の中枢である開発司令部が撤廃と言おうと、決闘機動部の大半を納得させなければこの件は実行されんよ。つまり、我々決闘機動部が命運を握ることができるってわけだ」

 

「決闘精鋭班……神久部長はどのようなお考えなのでしょうね。ペンダントのことは知っているんでしょうか?」

 

「神久部長はおそらく知らんだろう。あいつはスピード出世だ。私よりも後に入社している。知るはずがない!」

 

少し険しい表情をしながら白瀬は強い口調で言った。

その口調からは何か憎悪のようなものが感じ取れられる。

 

「それだと少し不安はありますね……。もし、厳重な保管が良いという決断になれば開発司令部に……」

 

「それは有り得ないだろう。国防軍ですら一つのペンダントを守りきることはできなかったんだ。SFSでは到底不可能だろう。特定の人物が持っていた方が危険度は高まるが、相手の目をごまかす方法がいくらでもある。そんな危険な役目をやってくれるという特殊機動班がいるのなら、SFSとしては撤廃する理由はない」

 

「確かにそうですね。これで特殊機動班の撤廃はなんとか凌げそうですか……。しかし、肝心なジェネシスに対する対抗策は何か……あるんでしょうか……」

 

「それは気にするな楼。我々はSFSと特殊機動班の防衛だけを考えていればいい。ジェネシスに対する策は赤見班長が考えるべき仕事だ」

 

「そうでしたね……。そうすると我々が考えるべきことは防衛線をどうするかですね」

 

白瀬はその言葉を聞き、椅子にもたれかかりながら唸るような声を上げる。

 

「……今のままでは実力的にも兵隊の数的にも足りなさすぎる。近々臨時の新規隊員募集をやらねばなるまいな」

 

「決闘機動班が防衛の主力となるでしょうし、いいと思います。攻めるよりは守る方が圧倒的に有利でしょうし、十分な兵隊さえ確保できれば勝機は十分にあります」

 

「ああ。我が決闘機動班の副班長連中はお前と野薔薇こそ実力は優れているが、小早川と坂戸については指揮者としては向いているがデュエルの腕はいまいちだ。その指揮下に優れた新兵さえ入れば、ジェネシスに十分対抗できるはずだ。足りないところは野薔薇と協力して補ってやってほしい」

 

「了解しました。ひとまずは新兵の募集ってところですね。しかしまぁ……お先が暗いというかなんというか……」

 

「そうでもない。先は見えている」

 

白瀬班長の想定外の一言に驚いたような表情をする桂希。

その様子を見た白瀬班長は、口元をにやつかせながら言葉を続ける。

 

「もう少しの辛抱だ、楼。ジェネシス壊滅へのカウントダウンは始まっている」

 

「どういうこと……ですか? 白瀬班長?」

 

「私を信じたまえ。今はまだ言えんが、私にも策があるということだ」

 

「……はい」

 

自信に満ち溢れた表情の白瀬に対し、桂希は少し戸惑ったような表情をしていた。

 

 



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Ep56 - 波乱の本会議

結衣たちの見舞いに行ってから数日後。

赤見さんが話していたとおり、SFS本会議が開催されることとなった。

 

今回は各部の部長、そして、班長達が勢ぞろいの大規模な会議だ。

俺のような班員まで入るとさすがに会議室には収まりきらないため、一班員については本来は会議室の隣にある控え室にて会議内容を傍聴するのだが、特殊機動班員については全員会議室内に入るように言われていた。

 

そこから推測するには、特殊機動班に関する議題が何かしらあるということだろう。

 

例の国防軍襲撃についての話がどこまで開発司令部に知れ渡っているかはわからないが、特殊機動班の監視についていた賤機の奴が報告はしているはずだ。

それならば、むしろ俺たちは被害者であり、何かを失敗したというわけではないかと思うが……。

それと気になるのは国防軍に保管されていたペンダントだろうか。

あれがもし、俺のもっているペンダントと同様な力を秘めているのだとしたら……いや、ジェネシスが狙っていたということはそう考える方が自然だろう。

同等の力を持つ俺のペンダントの存在がSFSに知れ渡れば、SFS内では混乱が起きるだろう……。

 

だが、実質、既にジェネシスには目を付けられている現状。近いうちに大きな戦いになることは避けられない。

SFSが一丸とならなければならないが、ペンダントの事実を知った上でジェネシスと立ち向かうという意思がある人物は果たしてSFSにどれだけいるかが問題だ……。

 

これは俺ばかりが考えていても仕方がない話しだ。

念には念を考えて予めペンダントが周りから見えないよう服の中へとしまい込んでいた。

もしカンのいい人がいたら俺のペンダントを見て気が付く可能性もあるからな。

 

会議室の中に入り、辺りを見渡すと見覚えのある特殊機動班のメンバーや、決闘機動班の連中。そして、あまり見覚えのない人が多く入っていた。デュエルをする班以外の人とはあまり関わりがなかったから、こうして見ると知らない人ばっかりだな……。

 

「繋吾。こっちだ」

 

赤見さんが俺の様子に気がつき、手を振っている。

見ると赤見さんの隣の席ががひとつだけ空いていた。

隣には郷田さん。その脇に颯と結衣が座っていた。みんな無事退院できたみたいだな。

 

「相変わらず遅いですね。こんな大事な日だというのに」

 

結衣が少し睨みつけながら言ってくる。

別にまだ定刻前なんだけどな……。あまり早く来すぎても暇だろう。

 

「まぁまぁ。いいじゃねえか。繋吾ちゃんが遅いのはいつものことなんだからよ!」

 

「郷田さん……あなたも人のこと言えないですよ。さっき来たばかりじゃないですか」

 

「うっ……お前が早すぎんだよ結衣。ほら、繋吾ちゃん。ここ座れや」

 

郷田さんに手招きされながら俺は自らの椅子へと腰掛ける。

なんだか颯の奴が浮かれないような表情でずっと黙り込んでいるな。

何かあったんだろうか。もしかして何からやらかして今回の本会議で議題にあげられているとか……? ってんなわけないか。

 

「おい、颯。何かあったのか?」

 

「……あっ、いやなんでもねえよ。何かおかしかったか? 俺」

 

「いや、お前にしては随分と大人しいなあって思ってさ」

 

「確かに、いつもなら遅れてきた繋吾くんに真っ先に突っかかっていくものなのに、珍しいですね」

 

「い、いやあ……。ちょっと変なもん食べちまってな。元気がないんだハハハ……」

 

「そうか……。無理するなよ颯」

 

「あぁ。悪いな」

 

何か無理してそうな表情をしている。

本当に体調がよくないのかもしれないな。そういえばあいつは襲撃後に真っ先に退院したみたいだし、もしかしたら回復が不十分だったのかもしれない。

 

「……それでは。定刻となりましたので第32回、SFS本会議を開始します」

 

おっと、もうはじまる時間みたいだ。

中年の男性がマイクを使って喋りだす。あの人が議事進行の人だろうか。

 

「では、はじめに生天目社長よりご挨拶をお願いいたします」

 

白髪の人物……生天目社長が自らの席から立ち上がり、手に持つマイクを口元へ近づける。

 

「お忙しいところ集まりいただき申し訳ない。各班長には既に伝えているが、今回はジェネシスに対する我が社の方針を固めるために会議を開催させていただいた。その経緯についてはこれから開発司令部長より話があると思うが、皆自らの思うことは遠慮なく発言していただき、有意義な時間としていただきたい。以上」

 

生天目社長はそう述べた後、再び椅子へと座った。

 

「それでは、本日の議事に入りたいと存じます。議題について、開発司令部長より説明願います」

 

「はい」

 

進行の人に呼ばれて席を立つのは前回も特殊機動班の撤廃について議論していた開発司令部長の黒沢さんだ。

今回もきっとあの人の仕業だろうか。くそ、どれだけ特殊機動班を廃止したいんだよ……!

 

「本日はジェネシスに対する当社の活動方針を決定していきたいと考えております。まずは、先日の本会議であった国防軍への協力要請についてですが、特殊機動班が国防軍へ向かい協議をしてきております。それにつきましては、決闘精鋭班の賤機副班長よりお話願いたい」

 

え、それって赤見班長が報告すべき内容じゃないのか?

実際にメインとなって行ったのは俺たち特殊機動班だぞ。なんで賤機が……。まぁ確かにあいつも監視として一緒に行ったわけだが。

自分に有利に話を進められるようにするための人選ってとこだろうか。汚いやり方だ。

 

「はい! それでは僭越ながら私よりご報告申し上げます!」

 

いつも通りハキハキした口調で賤機は喋りだす。

副班長の中では野薔薇と同じ最年少にも関わらずこの大きな会議の場で発言権を持つのはさすがだな本当に。

俺だったら緊張でダメになりそうだ。

 

「先日、イースト区でのジェネシスとの交戦記録と、そこで得た情報共有を目的として、特殊機動班同行の下国防軍真跡支部へ協議に行きました。ジェネシスでの危険人物……幹部と思われる人物の詳細情報とデュエルウェポンに記録されたデュエルモンスターズ使用カード情報。人物の顔や服装等、知り得た情報を伝えたところ、国防軍の時田長官より、感謝の言葉と共に、得た情報を元に更なるジェネシス壊滅へ向けた活動を本格的に開始したい旨の発言をいただきました。報告といたしましては、今後は共同で作戦の立案や共同での戦闘行動を行っていくとの協議結果となりました」

 

賤機は一切噛むことなく、スラスラと読み終える。

そして、大きく深呼吸し「以上です!」と発言すると、自らの席へと座った。

 

「今、賤機の申し上げたとおり、国防軍からは積極的なご協力をいただける方向で話はついている。これについて何か問題があるのか? 黒沢部長」

 

賤機の隣にいる決闘精鋭班長である神久部長が黒沢部長へ投げ返した。

今回は味方になってくれるのだろうか。決闘機動部に所属している身として、神久部長が味方になってくれれば心強い。

 

「いや、問題はないと思いますよ。ですが、ここからが本題ですよ神久部長。その協議の後、国防軍真跡支部へデュエルテロの襲撃がありました。奇襲を受けたということで国防軍には大きな損害出ているようですな。特に、国防軍で秘密裏に保管されていた災いを起こすペンダント……"レッド・ペンダント"がジェネシスに奪われてしまったと聞いております」

 

あのリリィが手にしていた赤いペンダントのことだ。

その情報は既に開発司令部も握っているんだな。

 

「ではこの"レッド・ペンダント"については、うちの者から一度ご説明させていただきます。須藤班長」

 

黒沢に須藤と呼ばれた黒縁のメガネを光らせたスーツ姿の男性が、手元の書類を見ながらマイクを口元に近づける。

机の上には"総務管理班長"と書かれている。SFSの人事権や情報を管理している部署だ。まさかペンダントの情報を握っていたとはな。どのあたりまでが公開情報なのだろう。

 

「はい。"レッド・ペンダント"は国防軍の研究によると、今から10年ほど前にできたものとされています。そして、そのうちにはデュエルウェポンとデュエルモンスターズのカードの組み合わせで発生される実体化するエネルギーと同系統のエネルギーが秘められており、その力はデュエルモンスターズのカード1億枚を超えるほどのものだと言われております」

 

1億枚……だと……!? とんでもないエネルギーじゃないか……!

このペンダントにそんな力が……? 確かにそれだけあれば、俺のデッキに新しくカードを1枚作ったり、結衣のやつをリリィの攻撃から守るために出たバリアのようなものを作ったりするのは容易いってことか。

だけど、使い方がまったくわからないけどな……。

 

今の発言を聞き、少し会議室内もざわめきはじめる。

そんな中特殊機動班のメンバーは誰ひとりとして口を開かなかった。おそらく……俺のペンダントのことを悟られないようにだと思う……。うっかり失言してしまう可能性もあるからな。

 

「……続けますよ? このエネルギーについては、国防軍で研究を重ねていましたが、未だ放出方法はわかりませんでした。ですが、今回の襲撃でジェネシスはこのペンダントをピンポイントで狙っていたそうです。つまり……ジェネシスはこのエネルギーの活用方法を知っている可能性があります。そこから導き出されることとしては、何か大きなエネルギーを使用した破壊活動である。と開発司令部内では考えているところです」

 

確かに……それだけのエネルギーがあるのだとしたら、一瞬で真跡シティを滅ぼすほどの力があっても不思議じゃない。

それが既にジェネシスの手に渡っている……。もしかしたら俺のペンダントなんてなくてもジェネシスは目的が達成されているのかもしれない。

 

「今、須藤班長から話があったとおり、非常に危険なものがジェネシスへ渡ってしまった。これに対して国防軍としては総力をあげて奪還作戦を考えているらしい。当然、我々SFSとしては、それの協力する形で参戦し、この真跡シティを脅かすジェネシスという存在を抹消するべきだ。だが……それは国防軍に協力する形が望ましいと考えている」

 

「それは……どういうお考えでしょう?」

 

「神久部長。今後は我々も現実的な戦い方をせざるを得ないということですよ。SFSが主体的になってジェネシスと戦うのは非効率的。国防軍に協力する形の方が、成功確率が高いうえにSFSの出費は少なく、真跡シティの住民のためにもなる」

 

「つまり、特殊機動班を廃止しろと?」

 

「さすがは神久部長。話が早くて助かりますよ。特殊機動班を廃止し、決闘機動部内の再編成を行う。白瀬班長を筆頭に住民防衛をメインとした決闘機動班。そして、神久部長を筆頭に国防軍の助力をメインとした"国防機動班"。この2つをメインとした部内構成はいかがかな?」

 

なんだよそれ……。

決闘機動部を再編成だと……赤見班長の存在を完全に抹消しようとしに来ているじゃないか。

 

「黒沢。それはジェネシスに対しての活動をやめるということか?」

 

ここで生天目社長が黒沢部長へ問う。

生天目社長としては、ジェネシスの殲滅はこだわっていた要素のひとつでもある。気になるところだろう。

 

「いえ、そうではございません。あくまでジェネシスに対しては"現実的な戦い方"をするまでです。今後は国防軍はジェネシス殲滅がメインとなる活動へ切り替わっていくことでしょう。あくまで我々は本来の趣旨から外れずに、国防軍と共同でジェネシス殲滅任務にあたる。そのための作戦行動のやり方を変えるだけです」

 

「しかし、国防軍とは違いSFSの特殊機動班には自由に動けるという利点がある。国防軍では規律等があり動きづらい任務等でも対応できるように国より依頼され創設されたのがこの特殊機動班だ。民間企業であるSFSだからこそできることもある中でその利点を潰すことには同意しがたいな」

 

神久部長は熱く黒沢部長に対して主張している。

第三者の視点からするとどちらも間違ったことは言っていない。この判断を生天目社長がどうつけるかが鍵ってところか。

 

「利点? そうですね……。しかし、先日の国防軍襲撃の際はこんな記録も残っておりましてね。当日の特殊機動班は、赤見班長を含め壊滅状態。ジェネシスに対する専門部隊でありながら、肝心なジェネシスにやられている現状。これのどこに利点があるとお考えですかな? 治療費が増えるだけではないかね」

 

「それは……。ジェネシスの実力は未知数なところが多い。赤見も全力をあげて戦った結果だ。むしろ戦闘を通して新たなるデュエルデータも取得できている。失敗というわけではない!」

 

「情報情報と……。不確かなものばかりの主張が多いですな決闘機動部は。実際に形に残る結果がないと意味がないでしょう? 赤見班長が勝てなかった。では誰かが勝てるのですか? ジェネシスを殲滅できるとどこに保証がある。そんな不確かなものへの投資は、SFSの倒産に直結してしまう」

 

「黒沢部長……。あなたは住民の命とお金。どちらが大事なんだ。会社のことばかり考えて本来の目的を見失っているのではないか?」

 

「そう熱くならないでくださいよ神久部長。どちらも大事に決まっているではありませんか。ですが、我々も企業のひとつ。お金がなくては住民の命を守ることはできません。だからこそ、持続可能な……そして、確実性のある方法での提案をしているまでですよ」

 

「うーむ……。確実性のある方法か……」

 

黒沢部長の主張に押され、少しずつ神久部長の勢いが弱くなっていく。

言っていることは間違ってはいないが……。だけど俺は……納得いかない……。

 

「……黒沢部長。僭越ながら発言をさせてください。その話であると、国防軍では確実にジェネシスを殲滅できるということですか」

 

突如、赤見さんが声をあげる。

ここからが本番ってところか。

 

「おや、赤見班長。体調は大丈夫かね? 私はそうは言っていないよ。現実的に考えて、国防軍とSFSが独自で行動するよりも国防軍が主体的になって協力する形の方が成功確率が高いと言っているのだ」

 

「それだけであれば、我々特殊機動班が国防軍の任務に協力すれば良いのでは? 協力しつつ、独自での作戦も実行できれば、国防軍の言いなりになるよりも柔軟な作戦行動が取れます」

 

「なるほどな。しかし、その分危険な任務が増え、国防軍のバックアップも受けきれない。その上、ただでさえジェネシスにやられている今の特殊機動班では、独自行動できるほどの実力はないと思うがね」

 

「逆です。むしろ我々は一度ジェネシスの幹部陣と交戦し、なんとか生還いたしました。この経験を生かし次の勝利へ繋げる方法はいくらでもあります」

 

「だからといってこれ以上特殊機動班の身勝手な行動で経費が増えるのは問題なのだよ赤見くん! 国防軍の作戦の範囲内での戦闘活動で十分ではないか。ジェネシスが壊滅できればそれでいいのだろう赤見班長?」

 

「ええ……。特殊機動班の目的はそれですからね。ならば、今国防軍でジェネシスに対する有効的な作戦は立案されているのでしょうか? それを踏まえた上で黒沢部長は現実的で確実な方法と仰っておられると……」

 

「いや……。国防軍からはどのような作戦かは聞いていない。だが人数も人材も国防軍の方が圧倒的に上だ! どう考えても確実だろう」

 

赤見さんの一言で少し黒沢部長が動揺した様子を見せる。

確かに……国防軍ではどのような作戦を考えているのか。そこが一番重要だ。

ましてや、ジェネシスについての情報はSFSの方が詳しいだろう。

 

「それについては、SFSの新規国防機動班と国防軍の間で決めればよい話だ。私は今後のやり方や方針についての話をしているのだよ」

 

「いえ、それでは遅いのですよ黒沢部長。私にはもっと確実に早くジェネシスを殲滅する作戦があります」

 

「……なに?」

 

そんな作戦があったのか……?!

赤見班長は一体何を……。そういえばお見舞いの時に言っていたな。大きな情報を得ていると。

 

「私は今回ジェネシスの幹部にひとり。ネロという人物と交戦しました。彼と接近する際に彼の体に発信機を取り付けることに成功しましてね。今は破壊されてしまいましたが、そこからジェネシスがどこに滞在しているのかがある程度把握することができたのです」

 

いつの間にそんなことを……。そういえば、赤見さんがネロと対峙する時、デュエルを仕掛けるためにネロに随分と接近していた。

あの時か……。気がつかなかった。

 

「それは本当か赤見!」

 

「ええ。奴はずっと真跡シティ内の座標を行ったり来たりしていました。私の推測によると……ジェネシスの本拠地は真跡シティの地下です」

 

その発言を聞き、再び会議室内はざわめきはじめる。

地下……そういえばイースト区のアジトも地下だったな。同じような形で地下に大きな迷宮のようなものでもあるのだろうか。

 

「そこで私は突入作戦の計画を行っております。この作戦が成功すれば、ジェネシスの壊滅は間違いありません」

 

「待ちたまえ、赤見くん。それこそSFSで行ったところで全滅するだけだ。国防軍が主体となって突入作戦を行えばいい」

 

「突入作戦については、特殊機動班は幾度となく行ってきており、国防軍より経験は豊富だと考えております。いずれにしても作戦の指揮を私に委ねてくれるのであれば、国防軍との協力は良いと思います」

 

「国防軍は戦闘のプロだぞ? 赤見班長、少し自意識過剰ではないかね? つべこべ言わずに国防軍の指揮下に入ればいい。元々SFSだって国防軍から任務依頼を受けてお金をもらう。それが本来の趣旨だ」

 

「逆にですよ。国防軍が真跡シティの地下に対して大規模な攻撃行為ができるでしょうか? 地下で爆発でもあれば街の住人に被害で出る可能性もあります」

 

「……失礼。それについては、街の住人を避難させればいい。赤見班長。これ以上身勝手な発言は控えていただきたい」

 

そう横槍を入れてきたのは駐屯機動部の斎藤部長だ。

 

「斎藤部長。街の住民の避難させるといった大掛かりなことをすればジェネシスに突入を予告するようなものです。その間に逃げられてしまい振り出しに戻るだけです」

 

「赤見班長。あなたは、アジトの場所を知り得たかもしれませんが、それだけでは到底ジェネシスの殲滅などできません。黒沢部長の言うとおり資金も足りなければ人材も足りない。敵の存在が未知数なら尚更だ」

 

「私は死ぬ覚悟はできています! それでもなお、突入作戦を実行すると考えているまでです」

 

「無駄死にほど無駄なことはない! 赤見班長。この程度小学生でもわかる話だ。君はプロデュエリストのチャンピオンでもなければ、英雄でもない。実際にネロという人物に負けているのだろう。こんなふざけた作戦など却下だ。私は黒沢部長を指示しますよ」

 

「……しかし……!」

 

「あとは……神久部長。今までのお話を聞き、どうお考えですかな?」

 

再び話は黒沢部長から神久部長へと切り出される。

赤見班長の必死な叫びも斎藤部長には届かなかったようだ。

 

「そうだな……」

 

神久部長は悩んだ表情で口ごもっていた。

くそ! なんでだよ……。せっかくジェネシスの情報を手に入れたというのにその手柄を横取りされたあげく言いなりになれと?

こんな時こそ、協力し合うんじゃないのかよ……!

 

「危険を冒してまで情報を入手し、ジェネシス壊滅に向けた活動は賞賛に値するが、如何せんジェネシスという強大な組織に立ち向かうにはやはりSFSでは実力不足ですな。もう特殊機動班としての活動目的は達成されたとし、解体するとともに新たな決闘機動部内再編成を行う方向のがよろしいかと」

 

「黒沢部長の言うとおりです。我々駐屯警備部もここで一度再編成すべきだと考えます。今回の件でよくわかったではありませんか。ジェネシスにはかなわないと。ジェネシスのような危険な存在は国防軍に任せるべきです」

 

「はっはっは。神久部長もご決断いただきたい」

 

「いたしかた……あるまいか。再編成については……」

 

神久部長がそう呟きながら、赤見班長をちらと見る。

それでもなお、赤見班長はまっすぐと目の前を真剣な表情で見つめていた。

 

このまま特殊機動班が解体されるのかよ……。

危険な目にあいたくないから? お金がかかるから?

おかしいだろう……SFSってなんのために存在してるんだよ。利益だけ求めるならもっと小規模な民間軍事組織でも行けばいい。

SFSは……デュエルテロ組織の壊滅を目的としているんだろ。

 

「生天目社長。よろしいでしょうか?」

 

そう会議室内に響き渡る黒沢部長の声。

こんな上層部の保身のためだけに……俺たちの努力は水の泡となるのか。

俺の父さんと赤見班長が命をかけてきた特殊機動班の努力は……死んでいった隊員達の力は……。

 

そんなもの、納得いくわけがないだろう!

 

「……失礼します!」

 

「繋吾……?」

 

俺は気が付くと自ら挙手をし、叫んでいた。

もう見ているだけなんて我慢できなかった。

 

「あなたたちはなんのためにSFSにいるんですか! 今日ここで話している内容なんて自分の保身のことばっかりじゃないですか! 口では住民の命がとは言ってますけど、結局は自分が安全に暮らしていくため。違いますか?」

 

「君……遊佐くんか。君は特殊機動班という狭いところしか見ていないからそう思うかもしれんが、会社全体を考えるということはこういうことなんだよ。いいから黙っていたまえ」

 

「なにが会社全体だ! 結局はみんな自らの保身のために"経費"がだの"人材"がだの言ってるだけ。ジェネシスとの直接戦闘なんか誰だってわからないんです。それは国防軍も同じ。国防軍に任せていたからって本当にジェネシスが壊滅できると思ってるんですか?」

 

「国防軍は我々とは規模も違うし、デュエルのために訓練もしているプロだ。彼たちなら我々よりも確実に殲滅できるだろう」

 

「黒沢部長。あなたはジェネシスとろくに戦ったことないからそういうこと言えるんですよ。あいつらのデュエルの強さ……そして、人を容赦なくデュエルで殺す姿を! こんな机の上で会社のことばっかり考えてるあんたたちにジェネシスの壊滅についてどうこう言われる筋合いはない!」

 

「繋吾……落ち着けって……」

 

「赤見班長。止めないでください。我々を含め歴代の特殊機動班はジェネシス壊滅のために命を張ってきた。その努力を、あなたたちは踏みにじろうとしているんですよ! 身勝手な保身のためだけに仲間の命を無駄にしている。命の無駄かお金の無駄か! どっちが大事かは明白でしょう!」

 

「命の無駄だと? 彼らの犠牲によって得た情報は国防軍に伝わり、解決へと向かう。なんの無駄もないだろう。おい、須藤。遊佐を会議室から追放したまえ」

 

「ふざけるな! 功績をあげたはずの特殊機動班の行動を縛り付け、ジェネシスの問題を国防軍に丸投げしてるだけだ。なんの解決にもなってねえ!」

 

俺は思わず思っていたことを全て吐き出してしまった。

もう後戻りはできない。今後はSFSにいられなくなるかもしれないな。まぁそれでもジェネシスの位置さえ掴めれば一人でだって突入してやるさ。

須藤班長が俺の近くまで来て腕を引っ張ってくる。デュエルでの前線にも立ったことないやつに……!

特殊機動班が踏みにじられるなんて……!

 

「待て、須藤班長。繋吾はまだ新人なんだ。大目に見てやって欲しい」

 

「赤見班長。相変わらず教育が甘いですよ。社会人として礼儀というものは真っ先に身につけなければならない」

 

こいつ……知的で理屈っぽいいかにもって感じの人だ。総務管理班長って名前がよく似合う。

 

「あなたはデュエルで戦ったこともないんでしょう? それじゃわからないでしょうね……デュエルの怖さを……! 戦う覚悟を! そんなんじゃいつまで経ってもーー」

 

「静かにしろ。いい加減黙れ!」

 

突如、別の机から大きな叫び声か聞こえた。

 

「遊佐。ここをなんの場だと思ってる。喧嘩しに来たのなら帰れ」

 

叫んだのは桂希だった。席から立ち上がり、俺のことを静かに見つめている。

 

「須藤班長。申し訳ございませんが、このまま会議を継続させてはいただけませんでしょうか」

 

「遊佐を追放せずにということか?」

 

「ええ。遊佐にも聞いて欲しいことがありますので」

 

そう言われると須藤班長は俺の腕から手を離し、舌打ちをすると自らの席へと戻っていった。

 

「皆さんに一つ、提案がございます。今からお話する内容は紛れもない事実です。それを知った上で、特殊機動班の撤廃については考えていただきたいと存じます」

 

桂希のやつ……特殊機動班の撤廃を止めようとしてくれて……いるのか?

しかし、一体なんの話をするのだろうか……。

 



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Ep57 - 決闘機動部の意思

桂希の一声でざわついていた会議室は一気に静まる。

会議室にいる皆が桂希の発言に対して注目しているのが目に見えてわかった。

 

だけどなんだか……とても嫌な予感がする。

決闘機動班が素直に特殊機動班の味方をしてくれるとはわからないしな。

 

「桂希副班長、言ってみたまえ」

 

黒沢部長が桂希の発言に対して興味深そうに尋ねた。

 

「国防軍の持っていた危険な代物。"レッド・ペンダント"の脅威については、須藤班長のわかりやすいご説明によりよく理解できたかと思います。ですが、それは一つだけ……というわけではありません」

 

おいおい……。まじかよ。

ここに来て俺のペンダントのことを話すつもりじゃないだろうな。桂希のやつ。

 

というかなぜ桂希のやつが"これ"の存在が"レッド・ペンダント"と似たようなものであることを知っているんだ。

野薔薇か誰かから知れ渡ったか……まぁこの際そんなことはどうでもいい。

 

それを話せば、俺はますますSFSにいられなくなる。というか一つ間違えばテロリスト扱いされて逮捕なんてこともあるんじゃないか?

危険なものと知っていながら密かに保管していた……とかなんだかで。

 

「なに……? それはどういうことかね?」

 

「少なくとも私の知る限りでは2つあります。一つは国防軍から奪われた"レッド・ペンダント"。もう一つは……」

 

そこまで言いかけた桂希はちらっと俺の方へ視線を向ける。

まずい……。もう逃げられないぞ……。

 

「SFSの中にあります」

 

案の定、その発言後あちらこちらで「誰がもっているんだ」だの、「開発司令部で隠しているのか」だの話し声が聞こえ始めた。

どうする……? 素直に言い出すべきか……?

 

「繋吾。流れに身を任せよう。下手な行動はしないほうがいいだろう」

 

「え……?」

 

赤見さんが勘づいたのか声をかけてくれた。

確かにわざわざ言い出しにいくことはないな。

 

「あいつも決闘機動部の人間だ。我々をハメるといったことも考えられるが、何か考えがあってのことだろう……」

 

赤見さんも想定外だったみたいだ。冷や汗をかいている。

ますます特殊機動班の立場が悪くなってきそうだな……。

 

「それは驚いたな。一体誰が持っているのかね? 当然、開発司令部では持っているわけがない。持っているのであれば真っ先に国防軍に送りつけているところだ」

 

「なるほど……やはりですか」

 

「ん……?」

 

「いえ、なんでもありません。そのペンダントは特殊機動班で所有しています。そうですね……せっかくですから"グリーン・ペンダント"と名付けましょうか」

 

くそ……もうだめだ!

隠し通す方向での作戦は諦めたほうがよさそうだ。

持っていることを素直に言うとして……どういう言い訳をするかってところか。

 

「赤見班長、それは本当ですかな?」

 

「……ええ。うちのメンバー、遊佐 繋吾が所有しております」

 

「また遊佐くんかね。出したまえ。そんな危険なもの任せておけるか」

 

「……くっ……」

 

俺は言われ渋々ペンダントを服の中から取り出し机の上へと置く。

その瞬間、会議室のあちらこちらで話し声が聞こえてくる。そりゃそうだろうな……真跡シティを破壊するほどの力を持っているとされるめちゃくちゃな代物が目の前にあるのだから。

そもそも、そんなめちゃくちゃな話信じられないけどな。俺は……その力を間近で見てしまったから信じざるを得ないけども。

 

「黒沢部長、このペンダントをどのようにするお考えですか?」

 

「もちろん国防軍に渡し厳重に保管してもらう。君たち特殊機動班に任せるよりはるかに安全だろう。それに我々が所有していては次の標的がSFSになるだけだろう」

 

「申し訳ございませんが、我々はそうは思いません。国防軍は"レッド・ペンダント"の防衛に失敗しているのですよ? 我々特殊機動班はこのペンダントを先日の襲撃やイースト区の作戦等でもジェネシスの手から守りきったという実績があります」

 

「ジェネシスにボロ負けした分際でよく言うね赤見班長。国防軍は遠方出張から戻ってきたばかりで、少し気が抜けていたところもあったに違いない。同じ失敗は二度は繰り返さないだろう。いずれにしても特殊機動班の廃止に変わりはない以上、そのペンダントの処遇は開発司令部で決めさせていただこう。いいかね? 神久部長」

 

「うーむ……国防軍と……一度協議を行った方が良いとは思うが……」

 

「それでは遅いのですよ神久部長。その間にジェネシスからの襲撃を受けたらどうするのですか?」

 

「すまないが、発言をさせてもらってもよろしいかな?」

 

二人の部長の間に入るように白瀬班長が声を上げる。

とうとう来たか。決闘機動班がどのように考えているのか……それがあきらかになる。

 

「おっと、白瀬班長。どうぞ」

 

「まだうちの桂希が説明途中でしてな。勝手に話を進められては困りますよ黒沢部長。桂希、続きを頼むぞ」

 

「はい、我々としては"グリーン・ペンダントが"このSFSに存在することに対して二つの問題があると考えております。一つはこのペンダントの防衛方法。もう一つはジェネシスへの対抗方法についてです」

 

「そんなものはわかりきっている。ペンダントは国防軍で厳重に保管。そして、ジェネシスに対しては国防軍へ協力する形での殲滅作戦を展開。異論はないだろう? 桂希副班長」

 

「申し訳ござませんが、わたしは同意しかねます。現場にいる立場から言わせていただくとそれはかえってSFSでの作戦行動を取りづらくさせる上に、SFSの被害が増えるだけと考えますね」

 

これは……味方になってくれているということか。

期待してもよさそうだ。

 

「なに……? それはどういうことかね?」

 

「まず、国防軍にペンダントの防衛を委ねれば施設の一箇所に保管することになることが想定されます。その場合、施設に保管されたペンダントの防衛となるため実行できる作戦は限られる。だが、SFSの場合は特殊機動班という"人"が所有している状況。影武者を立てるなり、常に逃げ回るなり臨機応変な対応ができますし、所持者本人が強ければまず奪われることはありません。ただ、この場合は所持者には大きな危険が伴うので、国防軍ではやろうと言う人はまずいないでしょう。ですがSFSにはわざわざその危険な任務を受け持つ特殊機動班がいる。それだけでもSFSで所有していた方が防衛策は多いと考えます」

 

動かない一つの場所を守るより、動ける一人を守る方が楽ってことか。

言われてみれば確かにそうだな。

 

「ふむ……だが結局はSFSの被害が甚大になるし、SFSの戦力は限られている。それを考慮したらさほどメリットにはならんのではないか?」

 

「いえ、今の状況をよくお考えください。先日の国防軍襲撃時に遊佐はジェネシスと接触しています。ペンダントの存在も勘付かれている可能性が高いです。それを考えると国防軍にペンダントを渡したとしても、狙いはSFSから変わらないと思います。SFSにペンダントはない、という情報が彼らに伝わらない限りは」

 

「まったく余計なことを……。一般住民にこの情報を公開してはパニックだ。何かジェネシスにペンダントを持っていないと伝える方法はないものだろうか……」

 

「それは聞き捨てなりませんな黒沢部長。我々はデュエルテロ組織の壊滅を目的に活動している民間軍事組織。ジェネシスが我々を狙っているのなら立ち向かうべきではないかね? なぜ逃げ腰なのだ」

 

黒沢部長の発言を逃すまいと白瀬班長までもが声を上げる。

結局この黒沢部長は自分の命が惜しくてしょうがないんだろう。情けない限りだ。

 

「もちろんそれは理解しているが、とても我々の実力ではジェネシスと対等に戦える自信がないのだよ白瀬班長。私は現実的な視点での話をしている」

 

「黒沢部長は現場にあまり行かなくなりましたからなあ。我々決闘機動部の実力は知らんのでしょう。任務において失敗知らずの決闘精鋭班、そしてジェネシス幹部を打ち破る実力者のいる特殊機動班。そして、我々統率の取れた大規模部隊の決闘機動班。あとは作戦次第でいくらでも勝機は掴める」

 

「相手の数は未知数なんだぞ! 白瀬……お前も自意識過剰だぞ! だからいつまで経っても班長から上がれぬのだよ」

 

「無策で安全策ばかり言う黒沢部長に言われたくはございませんな。もちろん、数的には足りていないと踏んでおるよ。だからこそジェネシスへ対する対抗策として、臨時の部隊増強を執り行おうと考えている。ペンダントの防衛は特殊機動班に任せ、特殊機動班とSFSの防衛は我々決闘機動班が責任を持って行う。いかがかな?」

 

「次の採用試験までまだ半年近くある。隊員を増やせば人件費が……」

 

「そんなこと言ってる場合ではないだろう? この真跡シティが破壊されてしまうかもしれないのですよ黒沢部長」

 

白瀬班長に言われ、黒沢部長は険しい表情をしながら腕を組む。

激しい葛藤があるのか、あるいはどのように反論しようか考えているのか……。

 

「そうだな。少しは覚悟を決めてもらおう黒沢部長。防衛部隊が潤沢となれば、駐屯警備部の負担も減るだろう。斎藤部長はどうかな?」

 

「……うーむ。それはジェネシスに対する戦闘責任を決闘機動部で持つということですか? 神久部長」

 

「ああ。我々で責任を持とう! もちろん、司令直属班が出向くほど攻めこまれる事態はないように尽力しますよ。黒沢部長」

 

「……まったくをもって現実味がない方針だ。どうなのかね。神久部長は可能であるとお考えなのですか?」

 

「特殊機動班のめちゃくちゃな作戦に比べれば遥かに確実性のある防衛体制であると考えている。デュエルでの戦いは数ではない。実力だ。」

 

「……はぁ。わかった。だが、作戦立案時は開発司令部の許可なく作戦行動を取らないこと。それは約束してもらおう」

 

「いいだろう。だが、決闘機動部内の班編成は従来のまま行わせていただく」

 

よかった……。どうやら今回も特殊機動班の存続は決まったようだ。

ジェネシスとの戦いはこれからだって時に余計なことしてくれるぜまったく。

 

だけど、決闘機動部内の増員をしてくれるというのはありがたい話だ。

おかげでジェネシス本拠地へ攻め込む作戦が現実味を帯びていく。特殊機動班の作戦に協力してくれるのであればの話だがな。

 

「結論は出たな。隊員増員については、総務管理班と決闘機動班にて調整を行ってくれ。ジェネシスの同行は見逃さないよう偵察警備班と特殊機動班は情報収集をよろしく頼む。作戦立案については、決闘機動部内で協議の上、開発司令部へ持ち寄り実行の有無を決めていく方向としたい」

 

「承知……しました」

 

生天目社長の一声によって、今回のSFSの方針が打ち立てられることとなった。

俺たちによっては良い方向の結論とはなったが、それとは別に事態は深刻だ。

これからの戦いはもっと厳しくなっていくだろう。気を引き締めていかないとな……。

 

「あとは"グリーン・ペンダント"については内密にしてくれ。赤見班長、そして遊佐くん。この真跡シティの命運は君達の守るそのペンダントにかかっていると言っても過言ではない。くれぐれもよろしく頼むよ」

 

「ええ。必ずや守り抜き、ジェネシスを殲滅してみせます」

 

赤見班長の発言を聞き、ゆっくりと頷いた生天目社長は司会の人へ合図するとそのまま着座した。

これで今回の会議は終了だろうか。

 

「それでは、以上で第32回SFS本会議を終了いたします。お疲れ様でした」

 

司会の人がそう発言すると、会議参加者は各自席を立ち会議室から出て行く。

はぁ。なんだかすっごい長かった気がするな。

 

「今回ばっかりはダメかと思ったな……。よかったな繋吾」

 

「はい。もうおしまいかと思いました……」

 

「白瀬班長には礼を言わないとだな。いくか繋吾」

 

赤見班長に連れられて白瀬班長の下へと向かう。

隣には桂希の姿もあった。

 

「白瀬班長。助け舟をいただきありがとうございました」

 

「おぉ赤見班長か。礼には及ばんよ。私はSFSと真跡シティにとって良い未来へ向かうためをと思ってSFSの決闘機動部の皆を信じたまでだ」

 

「感謝します。あの白瀬班長達の声がなければ我々は戦場から身を引かねばならないところでした」

 

「それよりもだ赤見班長。おかげさまで今後はジェネシスとの全面戦闘となるだろう。その指揮は任せたぞ」

 

「はい、必ずやジェネシスを殲滅してみせますよ。白瀬班長も増員関係についてよろしくおねがいしますよ」

 

「任せたまえはっはっは! まぁ人気のない特殊機動班員については約束はできんがな」

 

白瀬班長と赤見さんは和やかなムードで会話をしている。

少し前の対立した感じからするとまったく想像もつかない様子だ。

 

「では、我々も失礼するよ。遊佐くん。くれぐれも"ペンダント"をよろしく頼むよ」

 

「は……はい!」

 

白瀬班長は目を細めながらそう言うと、桂希達副班長を引き連れて会議室を後にした。

 

「さーて、今後についてどうするか考えないとな。これからさっそく取り掛かるとするよ。またな繋吾」

 

「はい、無理はしないでください赤見さん」

 

「ふっ、むしろ一番気がかりだった本会議が終わったんだ。今はモチベーション上がりまくっているところだよ」

 

すごく嬉しそうに話す赤見さんを見て俺も思わず嬉しくなる。

ひとまずSFS内部的な問題は解消された。ここからは本格的にジェネシスへ対抗していくための準備がはじまるといったところか。

ネロ……絶対にこの俺がデュエルで倒してやる……!



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Ep58 - 開発司令部の接触

SFS本会議も終わって、本格的に対ジェネシスの準備をはじめることとなったSFS。

俺たち特殊機動班は偵察警備班の人たちと共同でジェネシスの情報収集にあたることとなった。

赤見さんの知り得たジェネシスの本拠地は地下にあるという情報だけでは、どこからその地下へ入れるのか、どの程度の深度なのかがわからなかったため、現状では手のうちようがないのが現実だった。

だからこその情報収集だ。もし見つかれば一気にジェネシス殲滅の目標は現実的なものとなる。

 

だが、もっと着実に進んでいるものがある。もう一つの大きな準備。

SFSの新規隊員の臨時募集だ。

 

赤見さんに聞いた話だとどうやら100名近くの応募があったらしい。特殊機動班にいる身としてはとても大人数に感じる。

聞いたところによると臨時の募集にも関わらず、通常の採用の時と同じくらいの人数の応募とのことで、SFSとしては想定外だそうだ。

 

要因はいまいちわからないらしいが……この間から立て続けに真跡シティで起こっているジェネシスの襲撃に影響を受けたか……身を守る術がほしいからと志願してきたか……。まぁそんなところだろう。

 

班長クラスの人たちはその採用試験の試験官に回されているらしく、赤見班長もその試験官となっていた。

もしかしたら特殊機動班も人が増えるかもしれないしな。赤見さんの活躍に期待だ。

 

そんな中俺たちはというと、情報収集の休憩がてらデュエル訓練場で特訓をしていた。

眼前にはデュエルをする颯と郷田さん。俺の隣には結衣がいた。

 

「く、くそおお! また負けちまった!」

 

「やっぱり颯は負けるのがお似合いだぜ! ハハハ!」

 

デュエルの勝敗がついたみたいだ。結果は郷田さんの勝ち。

お互いに笑いながら話している姿は、楽しいデュエルができた様子が伺える。

 

デュエルを楽しんでできるのもこういう時くらいだろう。実戦ではそうはいかない。

たまにはこういう息抜きをしてないとデュエルが嫌いになっちゃいそうだよ本当に。

 

「繋吾くん。ちょっとおかしいと思いませんか?」

 

結衣が少し目を細めながら訊ねてきた。

おかしいって何に対してだろう。まったくわからん。

 

「何がだ?」

 

「上地くんですよ。今日郷田さんと何度もデュエルしてますけど、全部負けてます」

 

「まぁ……颯の勝率はうちのメンバーの中じゃ一番低いし……。今日は調子が悪かったんじゃない?」

 

「それならいいんですけど……。いずれも伏せカードが残っている状態で負けているんですよね。そんなに死に札になるカードを入れていたのかなと思ったんです」

 

確かに……今のデュエルなんかは2枚も伏せカードが残っている状態で負けていた。

本当に使えないカードだったという可能性はあるが……。

 

「……わざと負けているとか?」

 

「うーん……彼の性格的にそれもちょっと考えにくいですね……。まぁ、どうでもいいですけど。なんだかすっきりしませんね」

 

気にしてるんだか気にしてないんだか……。

まぁせっかくだから聞いてみるか。

 

「なぁ颯。最後伏せカード2枚もあったけど、けっこう手札が事故っていたのか?」

 

「あ、ああ……そうなんだよ繋吾。新しく発動条件は厳しいけど強いカード入れてみたんだけどさ。うまくいかねえぜ」

 

「なるほどな。どんなカードを入れたんだ?」

 

「いやあー……それは内緒だぜ! 繋吾くん! 手のうちはあまり知られたくないんでな!」

 

そう自信満々そうに答える颯。一体どんなカードを入れたのかすごく興味があるが教えたくないのなら仕方がないか。

そんな会話をしていると訓練場の扉が開く音が聞こえた。

入口を見てみると3名の人物がこちらに向かって歩いてきていた。

 

「開発司令部の連中かありゃ……」

 

黒縁メガネに茶髪のポニーテールの女性とその脇にはおなじく黒縁メガネのスーツを着用した眉毛の濃い男性。そしてその反対側には白衣を着た50代後半くらいの男性がいた。

いずれも見たことのない人だ。

 

「訓練中失礼。郷田副班長。そして、遊佐 繋吾隊員」

 

そう発言したポニーテールの女性は俺たちのことを一通り眺める。

誰なんだこの人は。

 

「私は司令直属班の副班長。"斉場"と申しますわ。隣にいるのは同じく司令直属班の"闇目"。そして、こちらは機器開発班の"研"班長よ」

 

紹介された二人の男性は軽く頭を下げる。

そして、そのうち白衣を着た方の男性が口を開く。

 

「急ですまないが、遊佐くんの持っているペンダントのことで相談があってね。少しお話してもいいかな?」

 

「俺のペンダントですか?」

 

「ああ! 君も聞いたと思うがそのペンダントには大きな力が宿っている。その力についてはあの国防軍ですらどのように操るのかを解明することはできなかった。だが、ジェネシスができてSFSにできないことはない! そこでぜひそのペンダントを機器開発班に貸していただきたいのだよ! そのペンダントの研究がしたい!」

 

なるほど。このペンダントの力を現実のものにできないか研究したいと。

 

「すまねえが国防軍でできなかったものをうちでできるわけねえだろう? 帰りな」

 

すかさず郷田さんが突き返すように言う。

だが、研班長はまったく動じる様子がなかった。

 

「何を言う! 私を筆頭にした機器開発班はこの真跡シティでもトップレベルの科学者だ! 国防軍ですら作れなかった【空間移動】のカードも作り上げることができた! この私に不可能はない!」

 

この力がどのようなものなのかわかるのは確かに便利かもしれないけど……それじゃやっていることはジェネシスと同じだ。

もし、悪意のある人がペンダントを手に入れれば誰だって大きな力を得ることとなる。それは良いとは思えない。

それになんといってもこれは……父さんが俺に残してくれた大事なペンダントだ。

 

「そうだとしてもこれは父親からもらった大事なものなんです。例え大きな力があったとしても、手放したくはありません」

 

「遊佐隊員。これは真跡シティの存続がかかっているの。私情は挟まないでくれないかしら?」

 

「あなたたちは……このペンダントの力を用いて何をするつもりですか?」

 

「決まっているわ。ジェネシスがペンダントの力を用いてきた時に対抗できるように抑止力として使用する。あなたはどうやら既に何度かこのペンダントの力を使用したみたいじゃない? あなたの協力さえあれば、SFSは十分にジェネシスに対抗できる武器を手に入れることができる。だからこそ研究する必要があるのよ」

 

抑止力……か。聞こえはいいけど、武器に変わりはない。

使う人次第で、その力はいくらでも変わる。貸したところで俺に戻ってくる保証はないしな。

 

「俺はこの力を使おうとして使ったわけではありません。ペンダントが俺の危機を守ってくれたまでです。これは意図的に操れるものではないんですよ。それを無理やり使おうと言うのであればやっていることはジェネシスと同じだ」

 

「物分りが悪いようね。まったく……少しは賢い人間であることを期待したのだけども……本会議での様子はそのままね。ペンダントなしにペンダントの力を持つジェネシスに勝てっこないのよ。根性論だけでは無理。ジェネシスのデータから戦闘をシミュレーションした結果、今のままだとSFSが敗北する可能性は99%なのよ。ペンダントの力は必要不可欠、現実を受け入れなさい」

 

なんだよそのシミュレーション結果。そんなの信用できるか!

反論しようとしていると隣にいた颯が突如大きな声をあげた。

 

「待てよ! お前ら勝手なことばかり言ってるけどな! 俺たちはジェネシスの奴らと交戦してんだよ! 実際に繋吾は幹部クラスの構成員を倒してる。お前らの手を借りなくても特殊機動班はやってけるんだよ。ペンダントに手を出すんじゃねえ」

 

「その幹部クラスの構成員が何人いるかも知らずによく言うわね。もちろんその交戦データは全てこちらで分析しているわ。それでも今の現状じゃ到底無理ね」

 

「だからこそ、一丸となってジェネシスへ対抗するための準備をしているんだろうが! 新規隊員を増やして、デュエルの腕を磨き、作戦を立案する。それが俺たちSFSの方針だろう。お前らの思い通りにはさせねえ! ペンダントは渡さねえよ!」

 

「はぁ、それだと無理だって言ってるのよ! 開発司令部はあらゆるデュエルモンスターズの情報を知り得ている。そして、それに基づいた正確なシュミレーションができる。今までSFSがテロリスト相手に好成績を収めてここまで大きくなれたのもそのシミュレーションのおかげなのよ」

 

「戦場はシミュレーションだけでは計りきれねえ! なにが起きるかわからねえんだ。ろくに戦場に行きもしない司令直属班に言われる筋合いはねえ!」

 

「言うわね……。なら、見せあげようじゃない。闇目、行きなさい」

 

斉場副班長に指示を受けた黒縁メガネの男性が自らのネクタイを整えながら俺たちの前へと来る。

ペンダントは俺の問題だ。ここは……俺が受けて立つ!

 

「颯、下がってくれ」

 

「おい、繋吾……。やる気か?」

 

「ああ。特殊機動班の力、見せてやる」

 

相手は司令直属班員。

優秀な人材が集うと言われているその班員の力がいかほどか……試させてもらうか。

 

「遊佐隊員。初のお手合せがこんな形になって残念だが……覚悟してもらおう」

 

「望むところだ。いくぞ!」

 

「デュエル!」

 

繋吾 手札5 LP4000

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

闇目 手札5 LP4000

 

先攻は俺からか。

手札を見るに悪くはない。まずは様子見をさせてもらうかな。

 

「俺の先攻。俺はモンスターをセット。カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

繋吾 手札3 LP4000

ー裏ーーー

ーー裏ーー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

闇目 手札5 LP4000

 

「それだけか? その程度の布陣。すぐに崩してくれよう。私のターン、ドロー! 手札から【ダーク・ホルス・ドラゴン】を墓地へ送り、手札から【ダーク・グレファー】を特殊召喚!」

 

ーーー

【ダーク・グレファー】☆4 闇 戦士 ③

ATK/1700

ーーー

 

「【ダーク・グレファー】の効果発動。手札から闇属性モンスターの【ダークストーム・ドラゴン】を墓地へ送り、デッキから【デッド・ガードナー】を墓地へ送る。さらに【終末の騎士】を通常召喚」

 

ーーー

【終末の騎士】☆4 闇 戦士 ④

ATK/1400

ーーー

 

「このカードは召喚に成功した時、デッキから闇属性モンスターを墓地へ送ることができる。これによって【ネクロ・ガードナー】を墓地へ送ろう。バトルフェイズ、【ダーク・グレファー】でセットモンスターを攻撃! "ヘルシアス・ソード!"」

 

目を赤く光らせた禍々しき戦士が鈍く光る剣を構え、俺のセットモンスターへと斬りかかる。

 

【ダーク・グレファー】

ATK/170

【光竜星ーリフン】

DEF/0

 

「【リフン】が破壊された時、デッキから"竜星"モンスターを特殊召喚できる。俺はデッキから【闇竜星ージョクト】を守備表示で特殊召喚!」

 

ーーー

【闇竜星ージョクト】☆2 闇 幻竜 チューナー ③

DEF/2000

ーーー

 

「【終末の騎士】では勝てないか。ならばメインフェイズ2に入り、レベル4の【ダーク・グレファー】と【終末の騎士】をオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! "束ねし闇より生まれし力よ、我が勝利へ導く標となれ! エクシーズ召喚! ランク4、【No.66 覇鍵甲虫マスター・キー・ビートル】!"」

 

ーーー

【No.66 覇鍵甲虫マスター・キー・ビートル】ランク4 闇 昆虫 ①

ATK/2500

ーーー

 

カブトムシのような大きな一本角を持つ、巨大なモンスターが出現した。

その攻撃力は俺の【セフィラ・メタトロン】と並ぶ2500。なかなかに強力だ。

 

「私はカードを2枚伏せて、【マスター・キー・ビートル】の効果を発動! オーバーレイユニットを一つ使い、私の場のカード1枚を選択する。選択したカードはカードの効果によっては破壊されなくなる。私は2枚伏せたうちの【マスター・キー・ビートル】の真後ろのカードを選択しよう。これでターンを終了だ」

 

繋吾 手札3 LP4000

ー裏ーーー

ーーモーー

 エ ー

ーーーーー

ー裏ー裏ー

闇目 手札0 LP4000

 

あの伏せカードはよほど大事なものなのだろうか。わざわざカードの効果破壊から守るとは。

何か考えがあるに違いない。

 

効果的な戦術としては手札やデッキに戻す"バウンス"だが、現状バウンス効果を持つモンスターを出せそうにはないな。

わざわざあの罠を踏みに行くのも危険ではあるが……むしろ攻撃を躊躇させるための戦略という可能性もある。

 

どうするかな……。とりあえずドローしてから考えるか……。

この戦いは開発司令部へ俺の実力を示すためのいい機会だ。絶対に負けられない。



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Ep59 - 暗黒の双翼

繋吾 手札3 LP4000

ー裏ーーー

ーーモーー

 エ ー

ーーーーー

ー裏ー裏ー

闇目 手札0 LP4000

 

「俺のターン、ドロー! 俺は墓地に存在する【光竜星ーリフン】を除外して、手札から【暗黒竜コラプサーペント】を特殊召喚!」

 

ーーー

【暗黒竜コラプサーペント】☆4 闇 ドラゴン ②

ATK/1800

ーーー

 

「レベル4の【コラプサーペント】にレベル2の【闇竜星ージョクト】をチューニング! "焦土を焼き尽くす紅蓮の翼よ! その内に秘める赤き闘争を解き放て! シンクロ召喚! 【レッド・ワイバーン】!"」

 

ーーー

【レッド・ワイバーン】☆6 闇 ドラゴン ②

ATK/2400

ーーー

 

この【レッド・ワイバーン】には、自身より攻撃力の高いモンスターを1度だけ破壊することができる効果がある。

伏せカードで迎撃される可能性も考えられる以上、一番安全な攻め方ができるってことだ。

 

「墓地へ送られた【コラプサーペント】の効果でデッキから【輝白竜ワイバースター】を手札に加え、さらに【レッド・ワイバーン】の効果発動! このカードよりも攻撃力の高い相手モンスター1体を破壊する! 燃やし尽くせ、"バーニング・フレイム!"」

 

【レッド・ワイバーン】より大きな火球が放たれる。

だが、それを見透かしたように闇目は伏せカードを発動させた。

 

「リバースカードオープン。永続罠【竜魂の城】! このカードは墓地のドラゴン族モンスター1体を除外することで、場のモンスター1体の攻撃力を700ポイントアップさせる。私は墓地の【ダーク・ホルス・ドラゴン】を除外して、【マスター・キー・ビートル】の攻撃力を700ポイントアップさせる」

 

【マスター・キー・ビートル】

ATK/2500→3200

 

攻撃力をあげてきた……? だが、それではこの効果による破壊は防げないはずだ。

何を狙っている……?

 

効果処理後、【マスター・キー・ビートル】に火球が当たり、大きな爆発が発生した。

だが、その火球を受けてもなお【マスター・キー・ビートル】は場に残り続けていた。

これはおそらく……自身のモンスター効果かなにかか。

 

「甘いぞ、遊佐隊員。【マスター・キー・ビートル】は自身が破壊される代わりに自身の効果で選択したカードを墓地へ送ることでその破壊を身代わりにできる。そして、代わりに墓地へ送られたのは、今しがた発動した【竜魂の城】! このカードが墓地へ送られたことで、更なる効果を発揮する。除外されているドラゴン族モンスター。つまり、【ダーク・ホルス・ドラゴン】を特殊召喚!」

 

「なに……?!」

 

ーーー

【ダーク・ホルス・ドラゴン】☆8 闇 ドラゴン ③

ATK/3000

ーーー

 

黒い大きな翼を羽ばたかせながら、大きなドラゴンモンスターが出現した。

攻撃力も3000。【レッド・ワイバーン】では歯が立たないか……。

 

「想定外だったようだな。こんなもの司令直属班においては序の口。どこまで戦えるか見ものだな」

 

「くっ……まだ俺は負けていない。俺はモンスターをセット。さらに墓地の闇属性、【コラプサーペント】を除外することで、手札から【ワイバースター】を守備表示で特殊召喚して、ターンをーー」

 

「おっと、待っていただこう。そのメインフェイズ中に更なるリバースカード、速攻魔法【銀龍の轟咆】を発動。墓地からドラゴン族通常モンスターを特殊召喚する。いでよ、【ダークストーム・ドラゴン】!」

 

ーーー

【ダークストーム・ドラゴン】☆8 闇 ドラゴン ④

ATK/2700

ーーー

 

大きな竜巻を発生させながらもう1体の黒いドラゴンが出現した。

こいつも強力そうなドラゴンだ。くそ、俺のターンだっていうのに……。

 

「さらに、相手のメインフェイズ中に"魔法カード"が使用されたことで【ダーク・ホルス・ドラゴン】の効果が発動! 墓地よりレベル4の闇属性モンスターを特殊召喚できる。こいつだ、【終末の騎士】!」

 

ーーー

【終末の騎士】☆4 闇 戦士 ⑤

ATK/1400

ーーー

 

「このカードが特殊召喚したことで、再びデッキから闇属性モンスターを墓地へ送らせていただこう。デッキから【シャドール・リザード】を墓地へ送り、このカードの効果でさらに"シャドール"カードを墓地へ送ることができる。よって、【シャドール・ビースト】を墓地へ送り、こちらの効果でデッキからカードを1枚ドロー!」

 

「やるな……俺はターンエンドだ」

 

 

繋吾 手札2 LP4000

ー裏ーーー

ーー裏モー

 エ シ

ーーモモモ

ーーーーー

闇目 手札1 LP4000

 

 

気が付けば相手の場には強力なモンスターが3体。

ライフこそ互角だが、押されているのは見るに明らかだろう。

 

だが……こんなピンチこそ逆にチャンスなんだ。相手が司令直属班だろうとこのまま負けてたまるか!

 

「では……私のターン、ドロー! 【ダークストーム・ドラゴン】を再度召喚。このカードはデュアルモンスター。場に出たときは通常モンスターだが、再度召喚権を行使して再度召喚することで効果モンスターへと変わる。このままバトルだ、【ダーク・ホルス・ドラゴン】で【レッド・ワイバーン】を攻撃! "シャドウ・ヘル・フレイム!"」

 

【ダーク・ホルス・ドラゴン】

ATK/3000

【レッド・ワイバーン】

ATK/2400

 

真っ黒な光線が解き放たれ、【レッド・ワイバーン】の体を貫通する。

たちまち【レッド・ワイバーン】は破壊されてしまった。

 

「くぅっ……」

 

繋吾 LP4000→LP3400

 

「続けて、【マスター・キー・ビートル】で【輝白竜ワイバースター】を攻撃! "ダークネス・ホーン!"」

 

【マスター・キー・ビートル】の頭部にある大きな角が【ワイバースター】へと直撃する。

このモンスターではとても耐えることはできない。

 

「だが、【ワイバースター】の効果発動。デッキから再び【コラプサーペント】を手札に加える」

 

「いいだろう。さらに、【ダークストーム・ドラゴン】でセットモンスターを攻撃、"シャドウ・テンペスト!"」

 

今度は黒き暴風が発生すると、俺のセットモンスターへと襲いかかる。

 

【ダークストーム・ドラゴン】

ATK/2700

【ドッペル・ウォリアー】

DEF/800

 

「これで場はガラ空きだ。【終末の騎士】でダイレクトアタック! "アルマゲドン・ソード!"」

 

【終末の騎士】が俺に接近し、手に持つ剣で大きくなぎ払いながら斬りかかってきた。

 

「……まだだ……!」

 

繋吾 LP3400→LP2000

 

「壁モンスターの掃討は終わった。次のターンなんとかしないとラストターンになるぞ遊佐。私はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

繋吾 手札3 LP2000

ー裏ーーー

ーーーーー

 エ ー

ーーモモモ

ーー裏ーー

闇目 手札1 LP4000

 

ここが正念場だ。頼む……何かいいカードを……!

 

「俺のターン、ドロー! 来てくれたか! 手札から【ジャンク・シンクロン】を召喚!」

 

ーーー

【ジャンク・シンクロン】☆3 闇 戦士 チューナー ③

ATK/1300

ーーー

 

俺の期待に応えるように逆転のキーカードが来てくれた。

墓地には【ドッペル・ウォリアー】もいる。十分巻き返し可能だ。

 

「【ジャンク・シンクロン】の効果発動! 墓地から【ドッペル・ウォリアー】を守備表示で特殊召喚する!」

 

ーーー

【ドッペル・ウォリアー】☆2 闇 戦士 ②

DEF/800

ーーー

 

「ならばここでリバースカードオープン。速攻魔法【月の書】。【ジャンク・シンクロン】を選択し、裏側守備表示に変更しよう」

 

「裏側……しまった!」

 

裏側守備表示にされてしまってはシンクロ召喚の素材にすることはできない……。

これでは【ドッペル・ウォリアー】の能力も生かすことができないということだ。やられた……。

 

「そして再び【ダーク・ホルス・ドラゴン】の効果を発動。墓地から【デッド・ガードナー】を守備表示で特殊召喚だ」

 

ーーー

【デッド・ガードナー】☆4 闇 戦士 ②

DEF/1900

ーーー

 

さらにモンスターも増えてしまった……。くそ、どうしたら……。

このターン、何もせず守ることに専念したらおそらく次のターンはない。

手札にあるカードを全て使い切ってでもなにか活路を見出さないと……負ける……!

 

「お前のデッキ、戦略はテロリストとの交戦記録によって分析済み。お前のやりたいことは手に取るようにわかる」

 

「くっ……」

 

本当に分析ってやつが好きなんだな司令直属班っていうのは。頭がキレるやつが多そうだ。

だけど、俺のデッキはテロリストと対抗するために日々変化し続けている。

お前の思い描いたとおりにいかせるものか! 絶対に!

 

「どうした手詰まりか? その程度では私の"暗黒結界"はそう簡単には突破できないぞ」

 

挑発するように闇目は俺の選択を急かしてくる。

落ち着け……自分のペースが乱れないように気をつけるんだ……。それが今後のジェネシスとのデュエルでも大事になってくる。

 

「まだだ! 俺は墓地の【ワイバースター】を除外して、手札から【コラプサーペント】を特殊召喚。そして来てくれ、心を繋ぐサーキット。俺は【コラプサーペント】と【ドッペル・ウォリアー】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚! リンク2、無垢なる力、【コード・トーカー】!」

 

ーーー

【コード・トーカー】リンク2 闇 サイバース ② 上下

ATK/1300

ーーー

 

「再び【コラプサーペント】の効果で【ワイバースター】を手札に加える。そして、墓地の【コラプサーペント】を除外して【ワイバースター】を特殊召喚! 【ワイバースター】と【コード・トーカー】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、リンク2。【セキュリティ・ドラゴン】!」

 

ーーー

【セキュリティ・ドラゴン】リンク2 光 サイバース ② 上下

ATK/1100

ーーー

 

「リンク2を素材にまたリンク2とは……何を考えている?」

 

「答えはこれだ。魔法カード【貪欲な壺】を発動! 墓地の【ジョクト】、【ドッペル・ウォリアー】、【レッド・ワイバーン】、【コード・トーカー】、【ワイバースター】の5体をデッキに戻し、新たに2枚ドローする!」

 

これで俺の墓地にモンスターはいなくなった。ぎりぎりの発動ってわけだ。

それでも今現状の手札ではどうしようもなかったからな。仕方がない。

 

「なるほど、そのドローに託すか。期待させてもらおう遊佐隊員」

 

「ああ……。俺はカードを2枚ドロー! なるほど……」

 

引いたカードは【仁王立ち】と【おろかな埋葬】。これならまだ行ける……!

 

「魔法カード【おろかな埋葬】を発動! デッキから【ジェット・シンクロン】を墓地へ送る。そして手札の【仁王立ち】を墓地へ送り、墓地から【ジェット・シンクロン】を特殊召喚!」

 

ーーー

【ジェット・シンクロン】☆1 炎 機械 ④

DEF/0

ーーー

 

「ほう……。何を見せてくれる?」

 

「再び来てくれ! 心を繋ぐサーキット! 俺は【ジェット・シンクロン】1体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク1、【リンクリボー】!」

 

ーーー

【リンクリボー】リンク1 闇 サイバース ④

ATK/300

ーーー

 

「さらに【セキュリティ・ドラゴン】と【リンクリボー】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! "正しき心を導く守護の神星! 今ここに絆を繋ぐ閃光となれ! リンク召喚! リンク3、【セフィラ・メタトロン】!"」

 

ーーー

【セフィラ・メタトロン】リンク3 光 幻竜 ② 左下下右下

ATK/2500

ーーー

 

ようやく出すことができた。俺のデュエルはここからが本番よ!

 

「それは遊佐隊員のエースカードと言われているカードか。だが、そのモンスターは自身以外にモンスターがいてこそ真価を発揮する。今はただの攻撃力2500モンスターに過ぎない」

 

「ああ、確かにお前の言うとおりだ。だが、俺のデッキはこいつと共にある! このカードが出たことで使えるカードもあるってことだ。罠カード【パラレルポート・アーマー】を発動! 【セフィラ・メタトロン】の装備カードとなり、装備モンスターは戦闘によって破壊されず、カードの効果対象にもならない!」

 

「なるほどな。これで強力な耐性を得たか」

 

「ああ、このままバトルだ! 【セフィラ・メタトロン】で【マスター・キー・ビートル】に攻撃! "ヴェンジェンス・ディバイニング!"」

 

【セフィラ・メタトロン】は自らの腕の水晶の槍を【マスター・キー・ビートル】を目掛けて突き出す。

 

「相打ち狙い……だがそちらは【パラレルポート・アーマー】の効果により破壊されないか……。ならば【デッド・ガードナー】の効果を発動! 相手が私のモンスターを攻撃対象に選択してきた時、その攻撃対象をこのカードへと変更させる」

 

「なに!?」

 

【デッド・ガードナー】が【マスター・キー・ビートル】を守るように出現し、【セフィラ・メタトロン】の攻撃を受け止める。

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500

【デッド・ガードナー】

DEF/1900

 

これでは【マスター・キー・ビートル】は破壊できない。

となると……【ダーク・ホルス・ドラゴン】がいる限り、魔法カードを使うだけで【デッド・ガードナー】の壁が出てくることとなる。

これは思ったより厄介だな……。

 

「かわされたか。俺はこれでターンエンドだ」

 

繋吾 手札1 LP2000

ー罠ーーー

ーー裏ーー

 エ リ

ーーモモモ

ーーーーー

闇目 手札1 LP4000

 

以前状況は不利なままだが、【パラレルポート・アーマー】がついている【セフィラ・メタトロン】ならあの2体のドラゴンの攻撃を受け切れる。

まだ逆転のチャンスは残されているはずだ。

 

「では、私のターン。ドロー! 装備魔法【ドラゴン・シールド】を【ダークストーム・ドラゴン】に装備。このカードを装備したモンスターは戦闘及びカードの効果では破壊されなくなる。だが、ここで【ダークストーム・ドラゴン】の効果を発動! 私の場の表側表示の魔法・罠カードを墓地へ送り、場の魔法・罠カードを全て破壊する!」

 

「なに……俺の罠カードが」

 

大きな竜巻の発生と共に俺の【パラレルポート・アーマー】が破壊されてしまった。これでは戦闘破壊されてしまうこととなる。

 

「ふふふ……。トドメを刺してやろう。バトルだ! 【ダーク・ホルス・ドラゴン】で【セフィラ・メタトロン】を……」

 

「やらせはしない! 墓地から【仁王立ち】の効果発動! このカードを除外することで、相手はこのターン俺の選択したモンスター以外を攻撃することはできない! 俺はセットされた【ジャンク・シンクロン】を選択!」

 

「ほうほう……。なかなかのしぶとさがあるな。ならばその【ジャンク・シンクロン】を攻撃だ」

 

【ダーク・ホルス・ドラゴン】

ATK/3000

【ジャンク・シンクロン】

DEF/500

 

「危なかった……」

 

「次はないぞ? では、【終末の騎士】を守備表示に変更し、ターンエンドだ」

 

繋吾 手札1 LP2000

ーーーーー

ーーーーー

 エ リ

ーーモモモ

ーーーーー

闇目 手札1 LP4000

 

いよいよを持って後がなくなってきたぞ……。

だが、相手も伏せカードがなくなった。そう考えると今が絶好の攻めるチャンスなんだ。

 

まぁ……【デッド・ガードナー】の存在を考えると、魔法カードを使わないことが前提になるけどな……。

 

「頼む……俺のターン、ドロー!」

 

これは……魔法カード【死者蘇生】。

墓地には【セキュリティ・ドラゴン】、【リンクリボー】、【ジャンク・シンクロン】の3体がいる。

 

これを使うからには相手に【デッド・ガードナー】を使われることを前提に考えなければいけないか……。

くそ、どうする……。

 

「さて、いいカードは引けたか?」

 

「……ああ。俺は魔法カード【死者蘇生】を発動! 墓地からモンスター1体を特殊召喚する」

 

【セキュリティ・ドラゴン】を使えば確実にモンスター1体を手札に戻すことができる。

大型モンスターを手札に戻すことができれば儲け物か。

 

だが……。ここはあのカードへ繋げる……!

 

「来い、【ジャンク・シンクロン】!」

 

ーーー

【ジャンク・シンクロン】☆3 闇 戦士 チューナー ③

ATK/1300

ーーー

 

「ほう、【セキュリティ・ドラゴン】を選ばなかったか。ならば再び【ダーク・ホルス・ドラゴン】の効果を発動! 墓地より【デッド・ガードナー】を守備表示で特殊召喚」

 

ーーー

【デッド・ガードナー】☆4 闇 戦士 ②

DEF/1900

ーーー

 

「さらに手札より【ナイトドラゴリッチ】を召喚! 効果によってEXデッキから特殊召喚されている【マスター・キー・ビートル】を守備表示にする。そしてレベル4の【ナイトドラゴリッチ】にレベル3の【ジャンク・シンクロン】をチューニング! "異次元を照らす電光の疾風よ! その翼に光る純白の意思を解き放て! シンクロ召喚! 【サイバース・クアンタム・ドラゴン】!"」

 

ーーー

【サイバース・クアンタム・ドラゴン】☆7 闇 サイバース ④

ATK/2500

ーーー

 

紫の光と共に純白の翼を広げたドラゴンモンスターが出現する。

これが俺の新たなる仲間。新たなる力だ!

 

「どうだ闇目。こいつはお前のデータにはあったか?」

 

「くっ、そいつはない……。攻撃力は2500ということは厄介な効果を持っていそうだな」

 

「ああ、すぐにわかる。バトル! 【セフィラ・メタトロン】で【デッド・ガードナー】を攻撃! "ヴェンジェンス・ディバイニング!"」

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500

【デッド・ガードナー】

DEF/1900

 

【セフィラ・メタトロン】の槍が【デッド・ガードナー】の鎧を貫き、爆発が起こる。

 

「だが、【デッド・ガードナー】の効果を発動! 先ほどは【パラレルポート・アーマー】があったから使えなかったが、こいつは破壊された時、場のモンスター1体の攻撃力をエンドフェイズ時まで1000下げる効果がある。これでお前の【サイバース・クアンタム・ドラゴン】の攻撃力を1000下げる」

 

ーーー

【サイバース・クアンタム・ドラゴン】

ATK/2500→1500

ーーー

 

「それでも無駄だ。俺は続けて【サイバース・クアンタム・ドラゴン】で【ダーク・ホルス・ドラゴン】に攻撃! "ライトニング・ゲイル!"」

 

【サイバース・クアンタム・ドラゴン】の翼に雷のようなものが纏わりはじめる。

 

「【サイバース・クアンタム・ドラゴン】の効果を発動! 1ターンに1度、このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ前に、その相手モンスターを手札に戻すことができる!」

 

「なるほどな……。それであれば攻撃力は関係ない」

 

やがて、翼に十分な電子が充填されると大きな光と共に【ダーク・ホルス・ドラゴン】を襲った。

 

「大型モンスターゆえに手札に戻ると出すのは至難の業だな……。いいだろう」

 

「さらにこの効果を使った後、【サイバース・クアンタム・ドラゴン】はもう一度攻撃できる! 続けて【終末の騎士】を攻撃! "ライトニング・ゲイル!"」

 

【サイバース・クアンタム・ドラゴン】

ATK/1500

【終末の騎士】

DEF/1200

 

続けて【終末の騎士】にも雷のようなものが解き放たれ消滅した。

これでなんとか巻き返せたか……?

 

「俺はこれでターンエンドだ。そして【サイバース・クアンタム・ドラゴン】がいて、俺の場にリンクモンスターがいる時、【サイバース・クアンタム・ドラゴン】のモンスターは攻撃の対象にも効果の対象にもできない」

 

繋吾 手札0 LP2000

ーーーーー

ーーーシー

 エ リ

ーーーモー

ーーーーー

闇目 手札2 LP4000

 

「なるほどな、いいものを見せてもらった。分析データのアップデートができそうだよ。では私のターン、ドロー! 【マスター・キー・ビートル】を攻撃表示へ変更し、【サイバース・クアンタム・ドラゴン】を攻撃!」

 

【マスター・キー・ビートル】

ATK/2500

【サイバース・クアンタム・ドラゴン】

ATK/2500

 

攻撃力は互角か。このままでは相打ちになってしまう。

効果は使わざるを得ないか。

 

「【サイバース・クアンタム・ドラゴン】の効果発動! 戦闘を行う相手モンスターを手札に戻す。戻ってもらおうか、【マスター・キー・ビートル】!」

 

「これは致し方あるまい。だが、続けて【ダークストーム・ドラゴン】で【サイバース・クアンタム・ドラゴン】を攻撃! "シャドウ・テンペスト!"」

 

【ダークストーム・ドラゴン】

ATK/2700

【サイバース・クアンタム・ドラゴン】

ATK/2500

 

続けて黒い竜巻に包まれ【サイバース・クアンタム・ドラゴン】は破壊されてしまった。

それと同時に俺の周りにも黒い竜巻が発生し、襲いかかる。

 

「すまない。【サイバース・クアンタム・ドラゴン】」

 

繋吾 LP2000→LP1800

 

「だが、この瞬間【セフィラ・メタトロン】の効果発動! 墓地より【ナイト・ドラゴリッチ】を手札に加える!」

 

「厄介なカードを手札に加えてきたか。まぁいいだろう。私はメインフェイズ2に速攻魔法【神の写し身との接触】を発動。手札もしくは場のカードで"シャドール"モンスターを融合できる。私は手札の【ダーク・ホルス・ドラゴン】と【シャドール・ビースト】で融合! "闇の結界よりいでし偽りの魂よ、ここに権限し幻惑をもたらせ! 融合召喚、【エルシャドール・ミドラーシュ】!"」

 

ーーー

【エルシャドール・ミドラーシュ】☆5 闇 魔法使い ①

ATK/2200

ーーー

 

「このカードが存在する限り、お互いに1ターンに1度しか特殊召喚ができない。お前のリンク召喚やシンクロ召喚はこれで封じたようなものだ。そして、【シャドール・ビースト】が効果で墓地へ送られたことで1枚ドロー。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

繋吾 手札1 LP1800

ーーーーー

ーーーーー

 融 リ

ーーーモー

ーー裏ーー

闇目 手札0 LP4000

 

【エルシャドール・ミドラーシュ】のせいで展開ができず、【ダークストーム・ドラゴン】を攻略する布陣は整えられない。

かつ、【エルシャドール・ミドラーシュ】を倒そうとすると、このターンのバトルフェイズでは【ダークストーム・ドラゴン】は倒せない。

なんとも動きづらい場だ……。

 

だけど、そろそろ大きな一撃を与えたいところ。まだあいつのライフポイントは4000だからな。

 

「俺のターン、ドロー! 【ナイトドラゴリッチ】を召喚!」

 

ーーー

【ナイトドラゴリッチ】☆4 闇 幻竜 ③

ATK/1700

ーーー

 

「こいつの効果で【エルシャドール・ミドラーシュ】を守備表示に変更させ、その守備力を0とする」

 

「構わない。さて、攻撃をしてくるか?」

 

「ああ、もちろんだ! バトル、【セフィラ・メタトロン】で【ダークストーム・ドラゴン】を攻撃! "ヴェンジェンス・ディバイニング!"」

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500

【ダークストーム・ドラゴン】

ATK/2700

 

「馬鹿な! 攻撃力の低い【セフィラ・メタトロン】で攻撃だと? 優先すべきは【エルシャドール・ミドラーシュ】の破壊じゃないのか」

 

「いや、俺は【ダークストーム・ドラゴン】に攻撃だ! なにかあるのか?」

 

「ぬぅ……ならばリバースカード、2枚目の【竜魂の城】。墓地の【ダーク・ホルス・ドラゴン】を除外して、【ダークストーム・ドラゴン】の攻撃力を700ポイントアップさせる。迎え撃て!」

 

【ダークストーム・ドラゴン】

ATK/2700→3400

 

「発動タイミングが迂闊だったな。ダメージステップ開始時に手札より【オネスト】の効果発動! 【セフィラ・メタトロン】の攻撃力を戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分アップさせる!」

 

「っな……【オネスト】だと……!」

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500→6900

【ダークストーム・ドラゴン】

ATK/3400

 

【セフィラ・メタトロン】を包み込んでいた黒い竜巻に一筋の光が差し込むとその竜巻は太陽のように輝く竜巻へと姿を変え、【セフィラ・メタトロン】の腕の槍に纏わりはじめる。

そして、その槍は【ダークストーム・ドラゴン】の胸元を貫いた。

 

闇目 LP4000→LP1500

 

「くそお! 私の2体のドラゴンが両方とも破壊されてしまうとは……!」

 

「残念だったな闇目。そして、続いて【ナイトドラゴリッチ】で【エルシャドール・ミドラーシュ】を攻撃!」

 

「今度は通さない! 墓地より【ネクロ・ガードナー】の効果を発動! こいつを墓地から除外し、相手の攻撃を1度無効にする」

 

「だいぶ前に墓地へ送られていたカードか……。だけどそのモンスターは残させない! 墓地より【パラレルポート・アーマー】の効果を発動! 墓地からこのカードとリンクモンスターである【セキュリティ・ドラゴン】と【リンクリボー】を除外することで、【セフィラ・メタトロン】はもう一度攻撃できる! 続けて【エルシャドール・ミドラーシュ】を攻撃! "ヴェンジェンス・ディバイニング!" 」

 

続けて【セフィラ・メタトロン】は先ほどとは逆の腕も水晶の槍に変化させると、そのまま【エルシャドール・ミドラーシュ】の体を貫いた。

 

「くっ……これで私の場はガラ空きか……」

 

「今度はお前の番だ。次のターンなんとかしなければお前の負け。ターンエンド!」

 

繋吾 手札0 LP1800

ーーーーー

ーーモーー

 ー リ

ーーーーー

ーー罠ーー

闇目 手札0 LP1500

 

「SFSでもトップレベルの私が追い込まれるとは……。私の磐石な布陣を土壇場のドローでなんとか解決していくそのスタイル。とても読み切れるものではないな。遊佐隊員」

 

「デュエルがどうなるかなんてわかるものじゃない。デュエルっていうのは情報分析だけじゃわからないものなんだ」

 

「確かにお前が言うのであれば説得力があるな。だが……私にも司令直属班としてのプライドがある。負けるわけには……いかない! ドロー!」

 

闇目は力強くカードを引き、そのカードを眺める。

そして、小さく笑うと俺のことを見て呟いた。

 

「お前には我々司令直属班の人とは違うものがあるようだな。私のような計算によって成り立っているデッキは計算が狂った瞬間に全てが狂い始める。そう簡単には奇跡は起こせるものではないんだ……」

 

「闇目さん……。もちろんあなたたちのやっている情報分析とか計算みたいな難しいことは大事だと思う。だけど、俺はそれよりも自分のカードを、デッキを信じることを大事にしている。それが導いた結果が今の場の状況だ。それを見た上で考えてほしい。俺たちSFSの力でペンダントを守り抜けるのかを」

 

「なるほど。この結果ではもう私からは何も言うことはできないな。完敗だよ遊佐隊員。私はこのままターンエンドだ」

 

繋吾 手札0 LP1800

ーーーーー

ーーモーー

 ー リ

ーーーーー

ーー罠ーー

闇目 手札1 LP1500

 

「俺のターン、ドロー! バトル、【セフィラ・メタトロン】でダイレクトアタック! "ヴェンジェンス・ディバイニング!"」

 

【セフィラ・メタトロン】

ATK/2500

 

【セフィラ・メタトロン】の槍が闇目の下へ行き、その槍を突き刺した。

 

闇目 LP1500→LP0

 

「私の負けだ。見事だよ」

 

闇目の一言と同時にデュエルが終了した。

固すぎる布陣で突破できないかと思ったけどなんとか勝つことができた……。

まだまだ強い人はいっぱいいるなあ本当に……。

これでペンダントについては諦めてくれるだろうか。

 



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Ep60 - 諦めぬ斉場

闇目さんとのデュエルが終わり、お互いにデュエルウェポンを畳む。

闇目さんは少し呆れたような……難しい表情をしていた。

 

今の俺とのデュエルで何か感じたものがあるのかもしれないが、かといって後ろにいる斉場副班長には逆らえない難しい立場ゆえの表情だろう。

 

「繋吾ぉ! さすがこの俺の見込んだデュエリストだぜ!」

 

突如颯のやつが後ろから抱きしめるように突っかかってきた。

まったくこいつは……。

 

「おいおい……気持ち悪いから離れてくれ……」

 

「気持ち悪いとはつれねえなぁ繋吾くん。あの司令直属班に勝ったんだ。すげぇことなんだぜこれ」

 

「そりゃありがとよ。でも確かに決闘機動班の連中とは桁違いの強さのように感じたよ。最上級モンスターを扱うのは難しいしな」

 

俺や颯のようなEXデッキにエースモンスターを入れているデッキならば、下級モンスターを複数使用することで出すことができる。ゆえにデッキ全体が下級モンスターを多めに構築することができ手札事故も少なくなるが、エースモンスターがメインデッキに入る大型モンスターの場合はそうはいかない。

 

手札に来てしまった時の対処や、如何にして場に出すか。

それも自らのメインデッキに含めて構築しなければならない以上、個人的にはうまく回すのが難しいと思う。

 

「感心しているのもいいですけど、あの人まだ諦めてなさそうですよ」

 

「え……」

 

結衣に言われ斉場副班長を見ると、闇目さんに対して何かを言っているようだった。

その言葉を聞くと闇目さんは急に走り出し、デュエル訓練場を出て行った。

何があったのだろうと考えていると、今度は斉場副班長が俺の下へと近づいてくる。

 

「おい斉場! うちの繋吾ちゃんはそっちの班員を倒した。もうこれで手出しはできねえってことでいいよな?」

 

俺を庇うようにして郷田さんが前へと出る。

 

「思ったよりデュエルはできるようね。だけど今日は実力を見に来ただけよ」

 

「負け惜しみかあ? 素直に敗北を認めたらどうだ? 斉場!」

 

「我々司令直属班の一班員に勝った程度で随分の浮かれようね。まぁいいわ。またお会いしましょう。遊佐隊員、そして特殊機動班の皆さん」

 

斉場副班長はそう言うと、訓練場の出口へ向かって歩き出した。

そして去り際に再度口を開く。

 

「最後に一つだけ。あなたたちのせいでこの真跡シティが滅んだとしたら……私はあなたたちを一生恨むから……。覚悟しておくことね」

 

「ちっ……言うだけ言いやがって……もう来るんじゃねえぞ!」

 

郷田さんの罵声に耳を貸すこともなく斉場副班長達はデュエル訓練場を後にした。

 

「……終わりましたね」

 

「まったく、疲れちまったぜ。繋吾ちゃん気にすることはねぇからな? ペンダントがどんなものであろうと俺たち特殊機動班の目的は変わることはねえ。ペンダントは俺たちの力で守るって話だったしな!」

 

「はい。ありがとうございます」

 

斉場副班長の言っていたペンダントにはペンダントの力を持って対抗しなければ勝てないシミュレーション。

正直、ペンダントの力を見てしまっている俺からすると、あり得る話だと感じる。

 

そして、開発司令部へこのペンダントへ渡すことで、俺の目的であるジェネシス殲滅への道は近づくのではないか。そんな思いもないと言えば嘘になる。

 

だけど……俺の父さんはそうはしなかった。

きっとそれには何か理由があって、あえて俺へ渡したのだろう。

 

父さんは俺へのお守りとしてこのペンダントを渡してくれた。

このペンダントは父さんの言うとおり、実際に俺のことや結衣のことまでも守ってくれた。

 

俺に与えられた力……だからこそ……このペンダントは俺自身が守り抜いて行かなければならないんだと思う。

 

それに……研究したって使えるようになる保証はないし、その間にジェネシスに襲撃されようものにはもう特殊機動班は手出しのしようがない。

司令直属班を信用していないってわけじゃないけど……。ジェネシスとろくに交戦したこともない連中にこのペンダントは任せられない。

 

こう頭の中で整理していくと徐々に自分の中での考えもまとまってきた。

 

決めた。このペンダントは俺自身の手で守ってみせる。

そして、真跡シティがもしペンダントの力に襲われて手がつけられなくなってしまったら、俺自身がこのペンダントの力をなんとかして引き出してやるんだ。

 

「どうしたんですか? 考え事して」

 

決意が固まったところで結衣に声をかけられ我へとかえる。

 

「いや、このペンダントについてどうするか考えていたんだ」

 

「あそこまで開発司令部に反発した後で渡すなんて言えたもんじゃありません。今更悩んでも困るのですが」

 

「安心しろ。このペンダントは俺自身で守りぬく。シミュレーションでは敗北する可能性が99%なんて言ってたが、それは俺たち特殊機動班の成長と、俺自身がこのペンダントを操るという可能性を考慮しないでの考えだ。決まったわけじゃない」

 

「繋吾くん……そのペンダントを操るつもりですか?」

 

「ああ。前にお前を守ったように……いざという時に力を発揮できるかもしれない」

 

どうすれば操れるなんてわからないけど、ここぞという時にこいつは力を発揮してくれた。

ならば……今後ジェネシスが何か武力行使してきた時も、きっと助けてくれるはずだと信じたい。

 

「ん? 繋吾ぉ……その結衣ちゃんを守ったって話ちょっと聞かせてくれねえか……」

 

そういえば颯のやつには話してなかったっけ……。

ちょっとめんどくさそうだからざっくりとだけ話しておくか。

 

「結衣がジェネシスの幹部に負けた時、吸収されそうになったんだが、その時にペンダントが結衣を守ってくれてな。おかげでこうして結衣は生き残ることができたってわけだ」

 

「いつの間にそんなおいしいところを……ぐぬぬ……」

 

なんかすごく悔しそうにしているが気にしないでおこう。

この調子の颯も久しぶりに見た気がするしな。

 

「……それよりもさっき繋吾くんが言ってたとおり私たちももっと力をつけなければいけないですね。司令直属班があれだけ負けることを示唆してきたってことは、今のままじゃジェネシスにデュエルでも勝てないということだと思います」

 

「ああ、そうだな。デッキも戦術も見直す必要があるかもしれない」

 

今のところ俺は運が良く勝てたところだが、結衣や颯、そしてあの赤見さんでさえジェネシスの幹部に遅れを取っている。

もっと力をつけなくちゃ到底勝つことなんてできない。ペンダントの話はそれからだ。

 

「……そうだ! よかったら繋吾のデッキ貸してくれねえか?」

 

「ん? 俺のデッキをか?」

 

「ああ! 俺のデッキの可能性をさらに追求するために参考にしたいんだ! いいだろ? 繋吾」

 

デッキはあまり手放したくはないが……まぁ颯ならいいか……。

仲間が強くなってくれるのなら俺としてもありがたいしな。

 

「うーん……俺のが参考になるのならいいよ。くれぐれもなくすなよ?」

 

「心配すんなよ! 明日には返すから!」

 

そういうと颯は若干食い気味に俺のデッキを手に取ると自らのポケットへとしまい込む。

 

「んじゃ、俺は先に帰ってデッキの研究と行くぜ、じゃあな!」

 

「あ、あぁ……」

 

気合が入っているのはいいんだろうが、こう自らのデッキを持っていかれるとなんとも喪失感があるな。

まぁ仕方がない。

 

「相変わらず張り切り方だけは一人前ですね。上地くん」

 

「猪突猛進なところがあいつのいいところかもしれないな」

 

「それにしてもデッキを渡してしまったよかったのですか? 繋吾くんにとっては魂みたいなものでしょう?」

 

「まぁ確かにそうだけど、今後のことを考えると少しでもみんなの力になるのならって思ってな。それに颯だったら信頼してるし」

 

「決闘機動班の連中に比べればそうですね。くれぐれも気をつけてください。仮に今、テロリストに襲われたとしたらあなたは無防備なのですから」

 

言われてみればそうだな。手持ちのカードで護身用サブデッキでも作るか。

っても明日には帰ってくるわけだし、大丈夫だろう。

 

「もし何かあったら連絡ください。……あなたの盾になるくらいは……できますから」

 

「いや、そんな気を使わなくて大丈夫だよ結衣。自分の身は自分でーー」

 

「わ、私が心配してあげてるんですから、素直に受け取ってください! ……それにこの間の借りを返すってわけじゃないですけど……今度はわたしの番です」

 

結衣は少し照れながらも怒るように叫ぶ。

なんだか気に障る返し方をしてしまったみたいだな。いまだに距離感が掴めないよほんと……。

 

「わかったわかった! いざという時は頼むよ」

 

「……はい。何かあれば絶対連絡してくださいね」

 

興奮気味の結衣をなだめながらこの日の特訓は終了した。

 

 

 

 

ーー翌日、けたたましく鳴るチャイムの音で目を覚ます。

 

こんな朝方から一体誰だろう。

眠い目を擦りながら部屋の扉を開けると、見覚えのある女性とその後方に多くの人たちが並んでいた。

 

斉場副班長だ……。

 

「朝方に失礼。遊佐隊員」

 

「俺の部屋に押しかけて……どういうつもりだ」

 

ペンダントを強引に奪うつもりか……?

そんな汚い手を使ってまで自らの描いたとおりにことを進めたいのかよ。

 

こんな手段を使う奴なんか信用できるわけがない。絶対にペンダントを渡すものか。

 

「あら、勘違いしないで頂戴。何も今日来たのはペンダントを取りに来たのではないわ。あなたを引き抜きにきたの」

 

「引き抜き……だと?!」

 

それってつまり……俺を特殊機動班から司令直属班へと異動させるってことか……?

勘弁してくれ……なんで俺が司令直属班なんかに……。

 

ジェネシスとの戦いで前線に出れなくなるし、信頼できる仲間もいなくなってしまうじゃないか。

俺にとって良い事なんて何一つない。

 

「そう。あなたを司令直属班へ異動させる。既に総務管理班には話をつけてあるわ。近々異動の内示が出るでしょうね」

 

「待ってください。俺は別に異動なんてしたくない! 勝手に決めないでくれ」

 

「あなたの意思なんて関係ないの。異動の内示が出たらそれには逆らえないわ。それにSFSでは一番トップと呼ばれる司令直属班への異動ほど光栄なことはないわ」

 

「そんなのおかしい……。俺はジェネシスを殲滅するためにSFSに入った。そして、そのために志を共にする特殊機動班の人達と協力してきたんだ。なぜそれを邪魔するんですか!」

 

「おかしいのはあなたの方よ。ペンダントの力を抑止力として扱わなければ真跡シティに未来はない。あなたの行動こそがSFSを敗北へと導いているのよ」

 

「違う! 何のためのこの間の本会議だったんだ! ジェネシスに対する対策は既に決まってるじゃないか。それにいざとなれば俺はこのペンダントの力を操って見せる。あんたたちの力なんて借りなくてもな!」

 

会議で決めた方針を覆そうとでも言うのか……。

でもSFSの中枢である司令直属班なら可能なのかもしれない。現に総務管理班を動かして俺を異動させようとしているのだからな。

 

「ならば……こうしようかしら。確か遊佐隊員はデータによればとんだデュエル馬鹿だと聞いている」

 

「余計なお世話だ」

 

「ふふっ。もしあなたが私にデュエルで勝てれば異動の話は取り消してあげましょう。ですが、もし私が勝てば司令直属班へ異動し、そしてペンダントを我々に引き渡す。既に決まった異動を取り消すのは大変だから、このくらいの条件は飲んでもらわないとね。どうかしら?」

 

要は勝てばいいって話だろ……。

って待てよ……。今俺のデッキって……颯が持ってるじゃないか……。

これじゃ戦えない。颯のやつから返してもらわないとだ。

 

「いいが、少し待ってくれ。今俺のデッキはーー」

 

「待つことはできない。今ここで決断してくれるかしら。下手に部外者に入られては困る」

 

くそ、仲間に声をかける時間も与えないってわけかよ。

一応、昨日サブのデッキを作ったはいいが、使ったこともないデッキでこの斉場副班長に勝てるのか……?

不安しかない以上、素直に状況を話そう。そうすればデッキを取りに行くことだけは認めてくれるかもしれない。

 

「聞いてください。今俺のデッキはうちの班員の上地 颯に渡している。だから、それを返してもらわないとデュエルができないんだ」

 

「そう? もし今すぐにデュエルができないのならこの勝負はなし。あなたの異動もそのままってことよ」

 

そうなるのかよ……。仕方ない。サブのデッキを使うしかないか。

 

「いや、わかった。もう一つのデッキならある。デュエルは可能だ」

 

「いいわよ。ならばデュエル訓練場へ移動しましょうか」

 

俺は司令直属班の人達に囲まれながらデュエル訓練場へと移動した。

まるで囚人みたいだ。

 

ーーやがてデュエル訓練場へ到着すると俺は斉場副班長と対峙するようにして、デュエルリングへと立つ。

 

このサブデッキ。ホームレス時代に拾ったカードの寄せ集めだからなんともまとまりがない。

言わばいつも使っているデッキに入れたり抜いたりしたカード達ってことだ。

正直勝てる自信がないが……だけど、引くわけには……。

 

「さて、覚悟はできたかしら?」

 

対戦相手は斉場副班長。どんなデッキを使うかすらわからない。

少なくともかなり強い実力を持っているとは思う。

対策のしようもないな。もう当たって砕けろか。

 

「……あぁ」

 

「ではいくわよ。デュエルーー」

 

「待ってもらおう!」

 

扉が開く音と共に一人の男性の声がデュエル訓練場へ響き渡る。

ショートカットの金髪に金色目を光らす人物。桂希だ。

 

「斉場副班長。そいつは非常に問題のある隊員でしてね。作戦を無視して独断行動をとったり、敵の幹部に危険を顧みず突っ込んでいったり、はたまたこの間の本会議のような場所でも無礼極まりない態度を見せる等、とても司令直属班に置いておくには難があると思われますがどうです?」

 

ひどい言われようだが……否定はできないな。

ここは様子を見てみよう。

 

「桂希副班長。なぜその話を知っているのですか」

 

「いやあ、たまたま廊下を通りかかったら遊佐の部屋の前に人だかりができていたので、気になって様子を見ていたら会話が聞こえただけですよ。遊佐を司令直属班に異動させていいのか?」

 

「ええ、グリーン・ペンダントを所有しているだけで大きな戦力となりますし、何より司令直属班員を打ち破る実力を持っている。今後のSFSの発展のためには不可欠と判断したまでだわ」

 

「なるほどな……そういうことか。だが、仮にそうでもしたら司令直属班を目指す他の隊員からは大ブーイングだと思うぞ。遊佐が異動することについて、他の隊員への明確な説明ができると判断しての決断でしょうか斉場副班長」

 

桂希は考える素振りを見せながらも、鋭く斉場副班長を睨みながら言った。

 

「もちろんよ。新規隊員ももうすぐ入るこのタイミングに合わせ数名の人事異動を行うこととなった。遊佐隊員の異動のそのうちの一つに過ぎません。口出しは無用よ桂希副班長」

 

俺の異動をごまかすために他の人も動かすってことか。

司令直属班の考えは見え見えなのに……こいつら隠蔽するつもりだ。

 

「そうか。だが一つだけ言わせていただこう斉場副班長」

 

「何かしら……?」

 

「私はあなたの説明では納得していない。ということは決闘機動班員の大半も同様……と思っていただきたい」

 

桂希は低い声で言い立てる。

 

「何度も言わせないでくれるかしら。異動は決定事項。口出し無用だと」

 

「本人が目の前にいるところで言うのもアレだが、こいつは問題児だ! 司令直属班への異動など断じて認めん!」

 

「はぁ、あなたも上昇志向の隊員ってことね。いいわ。ならば黙らせてあげましょうか。仕方がない。遊佐隊員との勝負の前にこちらを片付けないとね」

 

「望むところだ」

 

桂希はそう言い俺の方へと向かってくる。

 

「遊佐はそこらへんで見てろ。お前が司令直属班などありえんわ!」

 

桂希は真剣な表情で怒声をあげた。普段冷静な彼が急に大きな声を出すから少し驚いてしまう。

言われるがまま俺は桂希とすれ違うようにして、デュエルリングから離れる。

 

「任せておけ」

 

桂希はすれ違いざまに俺の耳元で呟くようにして言った。

なるほどな。もしかすると桂希のアレは演技かもしれない。

頼んだぞ桂希……。

 

「さぁ、いくぞ。デュエル!」

 

 

桂希 LP4000

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー 

ーーーーー

ーーーーー

斉場 LP4000

 

 



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Ep61 - 衝突する情報と経験 前編

桂希 手札5 LP4000

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー 

ーーーーー

ーーーーー

斉場 手札5 LP4000

 

「先攻はいただこう、私のターン!」

 

先攻は桂希。あいつが味方になってくれるのならこれほどまでに頼りになるやつはいないだろう。

なんといっても決闘機動部でもトップクラスの実力者だ。

 

しかし、相手はSFSきっての精鋭部隊、司令直属班の副班長を務める人物。

デュエルレベルは計り知れない。このデュエル、どのような展開になるのか……。

 

俺の処遇が関わっているとはいえ、そのハイレベルな対戦カードに俺は少しだけ興奮していた。

 

「決闘機動班の切り札……なんて呼ばれてるみたいだけど慢心しないことね。あなたのレベルなんて司令直属班からしてみれば大したことないわ」

 

「ふっ、言ってくれるな。ならばその目に見せてやろう……私のデュエルを! 手札より【サイバー・ドラゴン・コア】を召喚!」

 

ーーー

【サイバー・ドラゴン・コア】☆2 光 機械 ③

ATK/400

ーーー

 

「このカードが召喚に成功した時、デッキから"サイバー"もしくは"サイバネティック"と名のついた魔法・罠カードを手札に加えることができる。この効果により、【サイバネティック・レヴォリューション】を手札に加える。私はカードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

桂希 手札3 LP4000

ー裏裏ーー

ーーモーー

 ー ー 

ーーーーー

ーーーーー

斉場 LP4000

 

桂希は場に下級モンスターを呼び出したのみで大きくは動いていない。

慎重になっているのかそれともあの伏せカードに狙いがあるのか。先ほど一枚の罠カードを加えていたあたり伏せカードに何かありそうだ。

 

「では、私のターンね。ドロー。魔法カード【封印の黄金櫃】を発動、デッキからカードを1枚除外し、2ターン後のスタンバイフェイズ時に手札に加える。私はデッキの【ドットスケーパー】を除外するわ」

 

「ご丁寧にキーカードのサーチか」

 

「ふふ、甘いわね。私は2ターンも待っていられるほど悠長なデュエルなんてしないわ。あなたを倒すのにそんなにターンはいらない! この【ドットスケーパー】は除外された時、場に特殊召喚できる! 来なさい、【ドット・ケーパー】!」

 

ーーー

【ドットスケーパー】☆1 地 サイバース ③

DEF/2100

ーーー

 

なるほど。モンスター効果を駆使してデッキから直接呼び出してくるとは。

だが、場にモンスターが1体増えただけだ。斉場の狙いはまだわからない。

 

「来なさい、栄光を導くサーキット! 私は【ドットスケーパー】1体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、リンク1【リンク・ディサイプル】!」

 

ーーー

【リンク・ディサイプル】リンク1 光 サイバース ② 下

ATK/500

ーーー

 

「さらに手札より【レディ・デバッガー】を召喚。このカードが召喚に成功した時、デッキからレベル3以下の"サイバース族"モンスターを手札に加えることができる。私は【プロフィビット・スネーク】を手札に加える。そして、再び来なさい。栄光を導くサーキット! 私は【レディ・デバッガー】1体をリンクマーカーにセット。リンク召喚! リンク1【リンク・ディヴォーティー】!」

 

ーーー

【リンク・ディヴォーティー】リンク1 地 サイバース ④ 上

ATK/500

ーーー

 

リンク1のモンスターが2体。それぞれの攻撃力は低いが……。一体どんな効果が……。

気になるのは2体のモンスターが"相互リンク"していることだ。それぞれのリンクマーカーが向き合っている。

 

「相互リンクが狙いか?」

 

「ええ。だけどこれは始まりに過ぎないわ。【リンク・ディサイプル】の効果を発動。リンク先のモンスター1体をリリースして、デッキからカードを1枚ドロー、そしてその後1枚をデッキの一番下に戻す。しかし、この瞬間【リンク・ディヴォーティー】の効果が発動。相互リンクしているこのカードがリリースされた場合、私の場に【リンクトークン】2体を守備表示で特殊召喚するわ」

 

ーーー

【リンクトークン】☆1 光 サイバース ③と④

DEF/0

ーーー

 

手札の調整を行いつつ、場のモンスターを増やしてきたか。

無駄のない動きだ。なんというか"デキる女"って感じのイメージを受ける。

 

「さらに行くわよ? 私は【リンクトークン】1体と【リンク・ディサイプル】をリンクマーカーにセット。リンク召喚! リンク2【サイバース・ウィッチ】! そしてさらに、【リンクトークン】1体をリンクマーカーにセット。リンク1【リンク・スパイダー】!」

 

ーーー

【サイバース・ウィッチ】リンク2 闇 サイバース ② 左下 下

ATK/800

ーーー

【リンク・スパイダー】リンク1 地 サイバース ④ 下

ーーー

 

「そして、【サイバース・ウィッチ】の効果を発動! このカードのリンク先にモンスターが特殊召喚された時、墓地から魔法カード【封印の黄金櫃】を除外して、デッキから儀式魔法【サイバネット・リチューアル】と儀式モンスター1体を手札に加えることができるわ。私は【嵐竜の聖騎士】を手札に加える」

 

「儀式……だと?」

 

儀式モンスターは儀式魔法を使用することで手札から特殊召喚のできるモンスターだ。

その場合、場か手札より儀式モンスターのレベル分リリースが必要となることから、召喚するには大きな代償が必要であり、他の召喚法より専用にデッキ組まなければ召喚すらできないほど難しい召喚法だ。

しかし、その難しさを感じさせないほどにリンクモンスターを駆使してスムーズに儀式の準備を行っている。

これは桂希のやつも想定外だろう……。

 

「あら? そんなに驚くこと? やはり大したことないようね。【サイバース・ウィッチ】の更なる効果を発動するわ! この効果を使用したターン、墓地からレベル4以下の"サイバース族”モンスターを特殊召喚できる。来なさい、【レディ・デバッガー】!」

 

ーーー

【レディ・デバッガー】☆4 光 サイバース ③

ATK/1700

ーーー

 

「そして、儀式魔法【サイバネット・リチューアル】を発動! 召喚対象は手札の【嵐竜の聖騎士】。私は場の【レディ・デバッガー】をリリース! "吹き荒ぶ電子の波を貫き、勝利への光を導きなさい! 儀式召喚! 【嵐竜の聖騎士】!"」

 

ーーー

【嵐竜の聖騎士】☆4 光 サイバース ③

ATK/1900

ーーー

 

白き小さなドラゴンに乗った聖騎士が出現する。

見たところ攻撃力は下級モンスター程度だが……。そこまで脅威には見えない。

 

「そこまでした出した以上何か効果があるんだろう? その攻撃力じゃ大したことはない」

 

「当たり前じゃない。【嵐竜の聖騎士】の効果を発動! このカードをリリースして、デッキからレベル5以上の"サイバース族"モンスターを特殊召喚できる! 来なさい、二色に煌く電光迸る力! 【デュアル・アセンブルム】!」

 

ーーー

【デュアル・アセンブルム】☆8 闇 サイバース ③

ATK/2800

ーーー

 

体の中心を境に赤と青に光る機械仕掛けのような龍型モンスターが出現した。

攻撃力も2800ある。エースモンスターと呼ぶには相応しい能力だ。

 

「なるほどな。そいつが本命か」

 

「ええ、あなたのモンスター程度ならこのカードで致命傷を与えることができる。受けてもらうわよ? 桂希 楼! バトルフェイズ、【デュアル・アセンブルム】で【サイバー・ドラゴン・コア】を攻撃! "エレクトリック・デュアルフォース!"」

 

異なる二色の翼より赤と青の光線が放たれる。

その交わり合いながら放たれる光景はまるでイルミネーションのように綺麗だ。

 

「リバースカードオープン! 【サイバネティック・レボリューション】! 場の【サイバー・ドラゴン】をリリースして、EXデッキから"サイバー・ドラゴン"を素材とする融合モンスター1体を特殊召喚する! いでよ……【サイバー・エンド・ドラゴン】!」

 

ーーー

【サイバー・エンド・ドラゴン】☆10 光 機械 ①

ATK/4000

ーーー

 

突如大きな三つ首の巨大な機械龍が現れる。

あれが……桂希の使う【サイバー・ドラゴン】の融合体か……。まさか罠カードで瞬時に呼び出すとは。

 

「くっ……とんでもないカードを使うわね……。だけど、その程度では私の攻撃を止められないわ」

 

「ほう? 現状のモンスターで私の【サイバー・エンド・ドラゴン】を倒せるということか」

 

「ふふ……あなたのデッキごときじゃ私のタクティクスを上回ることはできないってことよ! 【デュアル・アセンブルム】の攻撃はキャンセル。【サイバース・ウィッチ】、【サイバー・エンド・ドラゴン】を攻撃しなさい!」

 

【サイバース・ウィッチ】は【サイバー・エンド・ドラゴン】に向かって自らの手に持つ杖を振りかざし、光線を放つ。

攻撃力の差は3200。まともにくらえば斉場は大ダメージを受けることになるが……。

 

「迎え撃て、"エターナル・エヴォリューションバースト!"」

 

「無駄よ! 手札から【プロフィビット・スネーク】の効果を発動するわ! 私の場のリンクモンスターが相手モンスターを戦闘を行う時、このカードを墓地へ送ることで戦闘を行う相手モンスターを手札に戻す!」

 

「くっ……なかなかやるな。斉場副班長」

 

たった1枚のカードで切り札級の攻撃力を誇る【サイバー・エンド・ドラゴン】を処理してしまった。

彼女はおそらく……桂希のことも知り尽くしているのだろう。俺と戦った闇目さんのように。

だからこそ【プロフィビット・スネーク】をあらかじめ手札に呼び込んできていた……。情報ってやつは恐ろしいな本当に。

 

「さらに【リンク・スパイダー】でダイレクトアタック! "サイバー・スレッド!"」

 

続けて、稲妻を纏った糸が放たれ、桂希に襲いかかる。

 

「くっ、軽いものだ……」

 

【リンク・スパイダー】

ATK/1000

 

桂希 LP4000→LP3000

 

「このくらいなんて序の口よ? まぁせいぜい楽しませてもらおうかしら。桂希 楼! 私はカードを2枚伏せてターンエンドよ」

 

桂希 手札3 LP3000

ー裏ーーー

ーーーーー

 ー リ 

ーーモリー

裏裏ーーー

斉場 手札2 LP4000

 

まだ桂希は本気を出していないように見える。斉場の場がまだ整っていないうちに大打撃を決めてほしいところだな……。

 

「……実に司令直属班らしい戦い方だな」

 

「なに? 私の完璧なデュエルにケチつける気かしら?」

 

「いや、あなたのデュエルは"ある意味"での完成形だとは思う。まるで計算しつくされたような無駄のない綺麗な動き。だが……」

 

「なによ。言いたいことがあるのならはっきり言いなさい!」

 

「ふっ、頭で思い描いただけのデュエルなど、戦場では通用しないということをな! 私のターン、ドロー!」

 

桂希はそう大きく叫ぶと、力強くデッキからドローした。

たしかに俺も昨日の闇目さんとのデュエルで同じようなことは感じていた。

 

司令直属班の人たちは、高レベルのデッキに見事なデュエルタクティクスをもっている。

しかし、それは全て頭の中で思い描いた中での話。

外での実戦経験が薄いことから来ているんだろうが、想定外の出来事……に弱いと感じる。

 

それは情報からくる慢心か。

ジェネシスとの戦いにおいては、情報を得ることは重要と学んでいたが、あまり過信しすぎるのもよくないのかもしれない。

 

「相手の場にのみモンスターが居る場合、墓地から【サイバー・ドラゴン・コア】を除外することで効果を発動! デッキから【サイバー・ドラゴン】を特殊召喚する! さらに、手札より【ライティ・ドライバー】を召喚! このカードの効果により、デッキから【レフティ・ドライバー】を特殊召喚!」

 

ーーー

【サイバー・ドラゴン】☆5 光 機械 ③

ATK/2100

ーーー

【ライティ・ドライバー】☆1 地 機械 ④ チューナー

ATK/100

ーーー

【レフティ・ドライバー】☆2 地 機械 ⑤

ATK/300

ーーー

 

「ふふふ……かかってきなさい。融合でもシンクロでもエクシーズでもリンクでも! あなたが全ての召喚法を扱うのはわかっているわ」

 

「ほう、悪趣味なやつだ。なら容赦なく行かせてもらおう! 私はレベル5の【サイバー・ドラゴン】とレベル2の【レフティ・ドライバー】にレベル1の【ライティ・ドライバー】をチューニング! "天空に煌く光の結晶! 今こそ輝きて未来への道を切り開け! シンクロ召喚! いでよ、我が意志を導く光の使者! 【ロード・ウォリアー】!"」

 

ーーー

【ロード・ウォリアー】☆8 光 戦士 ①

ATK/3000

ーーー

 

黄金の鎧に身を包む高貴なる騎士型モンスター。

桂希のエースモンスター【ロード・ウォリアー】だ。

あのカードにはデッキからレベル2以下の戦士か機械族モンスターを呼び出す効果がある。

いくらでもこの先の展開に繋げることができる……まさに桂希にとって"道"を作り出すモンスターといっても過言ではない。

 

「きたわね……だけど消えてもらおうかしら。リバースカードオープン。速攻魔法【サイバネット・クロスワイプ】を発動! 場の【リンク・スパイダー】をリリースすることで、あなたの【ロード・ウォリアー】を破壊させてもらうわ!」

 

【リンク・スパイダー】が球体となり、【ロード・ウォリアー】へ激突すると、たちまち破壊されてしまった。

 

「くっ、だが甘い! トラップカード、【リビングデッドの呼び声】を発動! 蘇れ! 【ロード・ウォリアー】!」

 

ーーー

【ロード・ウォリアー】☆8 光 戦士 ③

ATK/3000

ーーー

 

「よほどそのモンスターで戦いたいみたいね。いいわ、許してあげる」

 

「では、お言葉に甘えさせてもらおう。【ロード・ウォリアー】の効果発動! デッキからレベル2以下の戦士または機械族モンスターを特殊召喚できる。"トライス・サモン!" 来い、【D・クリーナン】!」

 

ーーー

【D・クリーナン】☆1 風 機械 ④

DEF/0

ーーー

 

「【D・クリーナン】の効果発動。1ターンに1度、相手の攻撃表示モンスターをこのカードの装備カードとして装備する! 吸収しろ、【デュアル・アセンブルム】!」

 

「小さい癖に厄介なカードだわ……」

 

「これでお前の場はガラ空き同然、バトルだ! 【ロード・ウォリアー】で【サイバース・ウィッチ】を攻撃! "アブソリュート・ホーリーレイ!"」

 

【ロード・ウォリアー】は両手を合わせ力を込め始める。

すると徐々に光の球体のようなものが出来上がり、それを【サイバース・ウィッチ】に向かって解き放った。

 

「この程度は想定の範囲内よ。速攻魔法【セキュリティ・ブロック】を発動するわ! 私の場の"サイバース族"モンスター1体は戦闘では破壊されず、このターン受ける戦闘ダメージも0となる!」

 

これで斉場の場の【サイバース・ウィッチ】は戦闘破壊されず、戦闘ダメージも0となった。

したがって、まだお互いのライフポイントは大きく動いてはいない。

 

なんというか……すごい緊張感があるデュエルだな……頼むぞ……桂希……!

 

「そうでもしてくれなければ張り合いがないってものだ。安心したぞ斉場副班長。私はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

桂希 手札2 LP3000

ー罠裏裏モ

ーーシモー

 ー リ 

ーーーーー

ーーーーー

斉場 手札2 LP4000

 

お互いに少しずつではあるが、カードは消耗し始めている。

このバランスが崩れた時、その勝負は決まるだろう……。

 



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Ep62 - 衝突する情報と経験 後編

前回の前編において、斉場の【リンク・スパイダー】でのダイレクトアタック描写が抜けておりましたので追記いたしました。
したがって、LPに変動がございますのでよろしくお願いいたします。


桂希 手札2 LP3000

ー罠裏裏モ

ーーシモー

 ー リ 

ーーーーー

ーーーーー

斉場 手札2 LP4000

 

「私にダメージすら与えられていないというのに強気ね? そろそろ叩き潰してあげる。私のターン、ドロー! 【サイバース・ガジェット】を召喚。このカードが召喚に成功した時、墓地からレベル2以下のモンスターを守備表示で特殊召喚できるわ。私は【ドットスケーパー】を特殊召喚」

 

ーーー

【サイバース・ガジェット】☆4 光 サイバース ③

ATK/1400

ーーー

【ドットスケーパー】☆1 地 サイバース ④

DEF/2100

ーーー

 

「再び来なさい、栄光を導くサーキット! 私は【サイバース・ウィッチ】と【サイバース・ガジェット】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン。リンク召喚! まずはあなたよ、【トランスコード・トーカー】!」

 

ーーー

【トランスコード・トーカー】リンク3 地 サイバース ②

ATK/2300 上 右 下

ーーー

 

あれは俺も使っている【コード・トーカー】や【エンコード・トーカー】とかと同じ仲間のリンクモンスターだ。

何種類かあるとは聞いていたが、実際に見るのは初めてだ。どんな効果を持っているんだろう。

 

「そして、墓地へ送られた【サイバース・ガジェット】の効果で私の場に【ガジェット・トークン】1体を守備表示で特殊召喚する。さらに、【トランスコード・トーカー】の効果を発動するわ! 墓地からリンク3以下のサイバース族モンスターを特殊召喚できる! 再び来なさい、【サイバース・ウィッチ】」

 

ーーー

【ガジェット・トークン】☆2 光 サイバース ③

DEF/0

ーーー

【サイバース・ウィッチ】リンク2 闇 サイバース ②

ATK/800 下 左下

ーーー

 

「さらに私は【サイバース・ウィッチ】と【ドットスケーパー】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚! 次はあなたよ【シューティングコード・トーカー】!」

 

ーーー

【シューティングコード・トーカー】リンク3 水 サイバース ④

ATK/2300 上 左 下

ーーー

 

「墓地へ送られた【ドットスケーパー】の更なる効果で、このカードを墓地から特殊召喚できるわ!」

 

ーーー

【ドットスケーパー】☆1 地 サイバース ②

DEF/2100

ーーー

 

リンク召喚しながらもどんどんモンスターが増えていく……。なんて展開力なんだあのサイバース族のデッキは。

この調子だとまだリンク召喚できそうだ。

 

「何も発動してこないわね? その伏せカードはブラフかしら?」

 

「どうだろうな。現状お前のモンスターは私の【ロード・ウォリアー】の攻撃力を下回っている。発動する必要性がないって考えもあるだろう?」

 

「確かにそうね。だけどマストカウンターを見極められないようじゃ甘いわよ桂希 楼! 既に私の布陣は整いつつある!」

 

「ほう……? 既に勝利できる状況であると?」

 

「ええ。あなたに対抗する手段がなければ……ね?」

 

おいおい……まじかよ。

桂希のことだ。このまま何もなしに負ける……とは思えないけど、もし桂希の目論見を上回る対策が斉場副班長にあったとしたら……?

桂希のデッキを知り尽くしているんだろうし少し不安はある。

 

「お前が私の何を知っているのかはわからないが、私の情報を少し得たところで全てを知った気になるなど浅はかだな。斉場」

 

「戦いというのは情報の多さが勝敗を決める。そこまで言うのなら……私に勝ってみなさい! 桂希 楼! 私は手札から【マイクロ・コーダー】の効果を発動するわ! このカードは手札のこのカードと場のモンスターをあわせてリンク召喚ができる!」

 

「手札からリンク素材にだと……? ふっ、なるほど。おもしろい真似をしてくれる」

 

斉場副班長のデッキはよほどリンク召喚に特化されたデッキみたいだな……。まさかそんなリンク召喚の方法があったとは。

まだまだ世界は広いなと感じる。状況が状況だけどやはりハイレベルのデュエルは見ていてためになるな。

 

「いくわよ! 私は場の【ガジェット・トークン】と【ドットスケーパー】と手札の【マイクロ・コーダー】の3体をリンクマーカーにセット! サーキット、コンバイン! リンク召喚、三体目のトーカー! 【エクスコード・トーカー】!」

 

ーーー

【エクスコード・トーカー】リンク3 風 サイバース ③

ATK/2300 左 上 右

ーーー

 

俺の知らない"コード・トーカー"モンスターがこれで3体。

1ターンでリンク3のモンスターを3体も展開してくるとは……。なかなかのものだろう。

 

「これが私のサイバース・デッキの布陣といったところかしら? 今からその真価を味わってもらうわよ……?」

 

「いいだろう……。その連携された力がどの程度のものか見させてもらおう!」

 

「ふふっ、まずはリンク素材になった【マイクロ・コーダー】の効果でデッキから"サイバネット"と名のついた魔法または罠カードを手札に加える。私は【サイバネット・コンフリクト】を手札に加えるわ」

 

斉場副班長が手札を増やした後、3体のコード・トーカーモンスター達にオーラのようなものが纏い始めた。

 

「くっ……」

 

「今更遅いわ。まず【トランスコード・トーカー】の効果! このカードとこのカードと相互リンクしているモンスターは攻撃力が500ポイントアップし、カードの効果の対象にならない!」

 

【トランスコード・トーカー】

ATK/2300→2800

【シューティングコード・トーカー】

ATK/2300→2800

 

「続けて、【エクスコード・トーカー】の効果! このカードのリンク先のモンスターは攻撃力が500ポイントアップし、カードの効果によっては破壊されなくなるわ」

 

【シューティングコード・トーカー】

ATK/2800→3300

 

「そして、最後よ! 【シューティングコード・トーカー】はリンク先のモンスターの数+1回、相手モンスターへの攻撃ができる!」

 

「つまり……【シューティングコード・トーカー】はカードの効果で破壊されず、カードの効果の対象にもならない上に攻撃力が1000ポイントアップし、モンスターへ3回攻撃できるということか」

 

「ええ。物分りが早くて助かるわ。覚悟しなさい、バトル!」

 

桂希がまとめてくれたが、とんでもないことになっているぞ……。

防御手段がなければいくらライフポイントが3000あるとはいえこのターンで負けてしまう。

 

「【シューティングコード・トーカー】で【ロード・ウォリアー】を攻撃! "スプラッシュ・アロー!"」

 

【シューティングコード・トーカー】

ATK/3300

【ロード・ウォリアー】

ATK/3000

 

水しぶきを纏った矢が放たれ【ロード・ウォリアー】へと迫っていく。

しかし、その様子を見た桂希は表情をにやつかせていた。

 

「その程度の耐性をつけただけで、勝利を得たと思うのならお前こそ慢心が過ぎるぞ。斉場」

 

「なんですって?」

 

「永続トラップ! 【ディメンション・ゲート】を発動! 【ロード・ウォリアー】を対象にし、そのモンスターをゲームから除外する!」

 

エースカードを自ら逃がし、破壊を免れたか。

だけどこれでは攻撃を防げたわけではない。どうするつもりなのだろうか……。

 

「ふふっ、そこまでそのモンスターが大事ってわけね……。だけど私の攻撃の手が緩んだわけではないわ。それなら攻撃対象を【D・クリーナン】に変更。行きなさい! "スプラッシュ・アロー!"」

 

「くっ……」

 

水しぶきを纏った矢が【D・クリーナン】の体部分に命中すると同時に爆発し消滅する。

 

「私のサイバース族モンスターが相手モンスターを破壊した時、墓地の【プロフィビット・スネーク】の効果を発動するわ! 墓地の【封印の黄金櫃】を除外して、このカードを手札に戻す。これであなたがどんなモンスターを出そうと問答無用に手札に戻すことができるってこと……」

 

あれはサイバース族のリンクモンスターが戦闘を行うときに使える戦闘補助カード……。

あれが手札にある以上、桂希は攻め手も考えなきゃいけなくなった。まずいな……。

 

「モンスターにしか連続攻撃のできない【シューティングコード・トーカー】はもう攻撃ができない。だけど、まだ2体のコード・トーカーが私の場にいる。その伏せカードで防げるものなら防いでみなさい!」

 

「まったくお前はよく喋るな。余計な雑談はお前の好きな情報を漏らすことになるぞ」

 

「負け惜しみかしら? カッコ悪いわよそういうの。【トランスコード・トーカー】でダイレクトアタック! "ディトネイト・キャノン!"」

 

【トランスコード・トーカー】が装備している大きな長銃より鈍く光る銃弾が発射される。

 

【トランスコード・トーカー】

ATK/2800

 

桂希の様子を見ると伏せカードを発動させる様子は見受けられない。

ということは直撃か……?! まさか守る手段がないとか……。

いや、だが【ディメンション・ゲート】の効果を使えば相手に【プロフィビット・スネーク】の効果を使われたとしてもこのターンは耐え切ることができるはずだ。代償として【ロード・ウォリアー】は失うこととなるが……。それを使ってこない桂希は何を考えているのだろう。

 

やがて銃弾が衝突したような大きな音が鳴り、俺は思わず目を塞ぐ。

 

そして恐る恐る目を開けるとそこにはライフポイントが一切減っていない桂希の姿があった。

 

「なぜ……? あっ……。そういうことね……」

 

斉場の目線の先には一つの小さなかかしのようなものが立っており、その顔面には先ほどの銃弾が被弾したであろう銃痕が残されていた。

 

「私は手札の【速攻のかかし】の効果を発動した。相手がダイレクトアタックをしてきた時、このカードを捨てることで、バトルフェイズを終了させる」

 

「くっ……。なかなかしぶといわね……」

 

「伏せカードにばかり気を取られるとは甘いな」

 

「少し防いだだけで調子に乗らないでくれるかしら? バトルフェイズ終了時、【シューティングコード・トーカー】の効果で戦闘破壊したモンスター1体につき1枚ドローできる。私はカードを2枚伏せてターンエンドよ」

 

桂希 手札1 LP3000

ー罠裏罠ー

ーーーーー

 ー リ 

ーーリリー

ー裏ー裏ー

斉場 手札2 LP4000

 

ダメージを受けずになんとかターンが回ってきたが、相互リンクで強固な力を得ているあの布陣を桂希はどのようにして攻略するつもりだろう……?

あいつを信じて今は見守るしかない……。

 

「私のターン、ドロー! まずは墓地から【レフティ・ドライバー】を除外し、その効果でデッキから【ライティ・ドライバー】を手札に加える。さらにリバースカードオープン。【マジック・プランター】を発動! 場の永続罠カードを墓地へ送ることでデッキからカードを2枚ドローできる」

 

あの桂希の伏せカード……魔法カードだったのか……。

ブラフを伏せていたとは。

 

おそらく……斉場が情報を過信して戦うデュエリストだと思い、伏せカードで翻弄しようとしていたのかもしれない。

だが、それ以上に伏せカードを使われても大丈夫なくらい耐性をつけて攻撃してきたのが斉場のやり方だったみたいだが。

 

「なるほど……。この状況で私よりカードアドバンテージを稼がれるのは好ましくないわね……。デュエルはカードの枚数を制すものが制す。基本中の基本よね?」

 

「否定はしない。カードの質というものを考慮しなければそうなるだろう」

 

「質なんて全てが最高レベルに決まっているじゃない。私たち司令直属班はね? カウンター罠【サイバネット・コンフリクト】を発動するわ! 相手が発動したカード効果を無効にし、ゲームから除外する! あなたにドローはさせないわよ?」

 

「そう来ると思っていたぞ。私の狙いはドローすることではない」

 

「なんですって……?」

 

しばらくすると桂希のフィールドに【ロード・ウォリアー】が出現する。

 

ーーー

【ロード・ウォリアー】☆8 光 戦士 ③

ATK/3000

ーーー

 

「【マジック・プランター】を発動する際のコストとして私は【ディメンション・ゲート】を墓地へ送った。それさえ使えれば十分だ」

 

「くっ……。いちいちムカつくやり方してくるわね……桂希 楼……」

 

「ふっ。では【ロード・ウォリアー】の効果を発動! デッキより【サイバー・ドラゴン・ヘルツ】を特殊召喚! そして、手札より【ライティ・ドライバー】を召喚し、効果によってデッキから【レフティ・ドライバー】を特殊召喚させる」

 

ーーー

【サイバー・ドラゴン・ヘルツ】☆1 光 機械 ②

DEF/100

ーーー

【ライティ・ドライバー】☆1 地 機械 ④ チューナー

ATK/100

ーーー

【レフティ・ドライバー】☆2 地 機械 ⑤

ATK/300

ーーー

 

「そして現れよ! 我が信念を貫くサーキット! 私は【サイバー・ドラゴン・ヘルツ】と【ライティ・ドライバー】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、リンク2【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】!」

 

ーーー

【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】リンク2 光 機械 ①

ATK/2100

ーーー

 

「さらに、墓地へ送られた【サイバー・ドラゴン・ヘルツ】の効果発動! デッキから【サイバー・ドラゴン】1体を手札に加える。ではバトルだ! 【ズィーガー】の効果を発動し、自身の攻撃力を2倍にする! 【トランスコード・トーカー】を攻撃! "ヴィクトリア・エヴォリューション・バースト!"」

 

【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】

ATK/2100+2100=4200

【トランスコード・トーカー】

ATK/2800

 

「まずは耐性を剥がしにきたってところかしら。ならばこれを使おうかしら。トラップ発動、【リコーデッド・アライブ】! 場の【トランスコード・トーカー】を除外して、EXデッキから"コード・トーカー"モンスターを特殊召喚するわ。私は【エンコード・トーカー】を特殊召喚!」

 

ーーー

【エンコード・トーカー】リンク3 光 サイバース ②

ATK/2300

ーーー

 

あれは俺もよく使っているやつだ。

リンク先のモンスターを戦闘破壊から守り、反撃可能な強力な攻撃力を与えるカード。

つまりこの状況であれば、真っ先のあのカードを倒さないと、返しのターンで反撃を食らう可能性が高い。

 

「なるほどな。いいだろう、ならば【エンコード・トーカー】を攻撃だ!」

 

「くっ……いいわ。だけど、【ズィーガー】のデメリットで私はダメージを受けない」

 

「ああ、そのとおりだ……」

 

桂希は突如自らの手札を見ながら考え始めた。

あいつの手札は今3枚。そのうち1枚は【サイバー・ドラゴン】だ。

 

そして、残りの【ロード・ウォリアー】で攻撃をしかければ間違いなく【プロフィビット・スネーク】の効果が発動され、【ロード・ウォリアー】はEXデッキへと戻されてしまうだろう。

 

その展開を予想しての判断を決めかねているのだろうか……。

 

「ふふっ、詰み……かしら? 口では強がっていても所詮はその程度ということよ? よくわかったかしら桂希副班長」

 

「勝手にこの私が詰んでいるなどと勘違いされては困るな。ここでバトルを終了だ。カードを2枚伏せてターンエンド」

 

桂希 手札1 LP3000

ー罠ー裏裏

ーーシモー

 リ ー 

ーーリリー

ーーーーー

斉場 手札2 LP4000

 

「じゃあ見せてもらおうかしら? あなたの逆転の布石であるその伏せカードをね? 私のターン、ドロー! まずは墓地の【リコーデッド・アライブ】の効果を発動するわ。墓地からこのカードを除外して、除外されている【トランスコード・トーカー】を私の場に呼び戻すわ」

 

ーーー

【トランスコード・トーカー】リンク3 地 サイバース ②

ATK/2300

ーーー

 

「そして、手札の【SIMダブラス】の効果を発動! 墓地からレベル4以下のサイバース族モンスター……【サイバース・ガジェット】を手札に戻すことで、手札のこのカードをリンクモンスターのリンク先に特殊召喚できる。さらに【サイバース・ガジェット】を召喚。この子の効果で墓地より【ドット・スケーパー】を特殊召喚させるわ」

 

ーーー

【SIMダブラス】☆5 闇 サイバース ③

DEF/1800

ーーー

【サイバース・ガジェット】☆4 光 サイバース ①

ATK/1400

ーーー

【ドット・スケーパー】☆1 地 サイバース ⑤

DEF/2100

ーーー

 

また始まったぞ……。モンスターの大量展開。

次は何が出てくるんだ……。

 

「さぁ来なさい、栄光を導くサーキット! 私は【SIMダブラス】と【サイバース・ガジェット】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、リンク2【セキュリティ・ドラゴン】!」

 

ーーー

【セキュリティ・ドラゴン】リンク2 光 サイバース ②

ATK/1100 上 下

ーーー

 

あれも俺が使ってるカードだ。相互リンクであれば相手モンスター1体を問答無用で手札に戻せる強力な効果を持っている。

現在の位置だと……【シューティングコード・トーカー】と相互リンクか。

 

「まずは【サイバース・ガジェット】の効果で私の場に【ガジェット・トークン】を特殊召喚するわ」

 

ーーー

【ガジェット・トークン】☆2 光 サイバース ①

DEF/0

ーーー

 

「【セキュリティ・ドラゴン】の効果を発動するわ。あなたの【サイバー・ドラゴン・ズィーガー】を手札に戻す」

 

「仕方があるまい」

 

桂希の主力モンスターがあっさりと……。残すは【ロード・ウォリアー】のみ。

だが、【プロフィビット・スネーク】の存在を忘れるわけにはいかない。

 

「随分と冷静ね? まだ勝ち筋があるのか……それとも諦めて開き直っているのか……。まぁいいわ。続けて私は【トランスコード・トーカー】の効果を発動! 墓地より【エクスコード・トーカー】を特殊召喚! さらに、【ガジェット・トークン】1体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! 来なさい【リンク・スパイダー】!」

 

ーーー

【エクスコード・トーカー】リンク3 風 サイバース ③

ATK/2300

ーーー

【リンク・スパイダー】リンク1 地 サイバース ①

ATK/1000

ーーー

 

【セキュリティ・ドラゴン】EX② 上 下

【シューティングコード・トーカー】④ 上 左 下

【エクスコード・トーカー】③ 左 上 右

【トランスコード・トーカー】② 下 右 上

【リンク・スパイダー】EX① 下

 

斉場の場には5体のリンクモンスターが並んだ……。しかもフィールドの2つのEXゾーンを支配している。

通常、EXデッキからモンスターを出す際は、いずれか一つのEXモンスターゾーンしか使用できない。

だが、二つのEXゾーンを全て相互リンクさせる形で繋いでいった場合、反対側のEXゾーンも使用することが可能となる。

これがEXリンクってやつだ……。

 

相当難易度は高いとされているが、斉場はそれを成し遂げたというのだ。

 

「EXリンク完成ね。これでもうあなたに勝ち目はなくなったわ」

 

「くっ……。EXリンク……」

 

二つのEXゾーンを支配されれば基本的にはEXデッキからのモンスターを封じられたも同然だ。

だが、今回は【セキュリティ・ドラゴン】により一つだけ桂希のモンスターゾーンへリンクマーカーが向いている。

まだチャンスがなくなってしまったわけではない! 頑張ってくれ……桂希!

 

「さてと、フィナーレよ。桂希 楼! 司令直属班の格の違いをその目に焼き付けなさい! 再び来い、栄光を導くサーキット! 私は【エクスコード・トーカー】と【ドット・スケーパー】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! "電脳世界を制した者に与えられる禁断の力……事象を震撼させる波動となりなさい! リンク召喚! リンク4、【トポロジック・ガンプラー・ドラゴン】!"」

 

ーーー

【トポロジック・ガンプラー・ドラゴン】リンク4 闇 サイバース ③

ATK/3000

ーーーー

 

いよいよリンク4のモンスターのお出ましだ。

攻撃力もかなり高いが、おそらく効果も強力なのだろう。気になるところだ。

 

「物騒なモンスターが出てきたな……」

 

「ええ。私が司令直属班に配属できた理由……それは今まで完璧な勝利を収めてきたからよ。そして、私の完璧な勝利にふさわしいカードはこのカードってこと」

 

「どういうことだ?」

 

「すぐにわかるわ。【トポロジック・ガンプラー・ドラゴン】の効果を発動! EXリンク状態である時、相手は手札を2枚捨てなければならない。あなたは1枚しかないから1枚ね。そして、この効果で相手の手札が0枚になった時、相手に3000ポイントのダメージを与えることができる!」

 

桂希の残りライフポイントは3000。つまりこの効果が決まれば桂希の負けということか……!

 

「完璧な布陣であるEXリンク。そして、その状態でのみ使用できる効果を持つ【トポロジック・ガンプラー・ドラゴン】! パーフェクトとはこのことを言うのよ!」

 

「デュエルに完璧などない。デュエルとは互いの全てをかけたぶつかり合いだ。力比べから逃げ、情報ばかりを重視し、自らが有利な位置から相手をたたきつぶすデュエルなどもはやデュエルではない!」

 

「ふふっ、私はあなたみたいに子供じゃないの。SFSにおいてのデュエルは武器なのよ? せっかくだからあなたに一つ教えてあげる。デュエルで勝敗を決めるのは1に戦術、2にデッキ。そして3つ目は情報。例え実力が同じ相手同士だったとしても、情報を制したものが勝利する。古臭い力比べなんてしてる決闘機動部は私に勝てやしない……つまり……到底ジェネシスになんて勝てるわけないってことよ!」

 

「……」

 

斉場に言われた桂希は反論することなく静かに目を閉じる。

 

「少しは理解してくれたようね。では終わりにしましょう。【トポロジック・ガンプラー・ドラゴン】! 桂希 楼を焼き払いなさい! "デウス・エクス・マキナ!"」

 

大きな爆発音が聞こえるとフィールドは大きな煙に包まれていく。

おそらく桂希の手札が破壊されたのだろう。……ということは斉場の勝ち……。俺の司令直属班への移動が確定したってことか……。

 

「……笑わせるな、斉場」

 

煙が立ち込めるフィールドより桂希の声が響き渡る。

 

「え……? どういうこと! 桂希 楼!」

 

桂希 LP3000

 

桂希のライフポイントは一つも減っていなかった。

伏せカードを発動させたのか。

 

「私とお前では確かに情報力に差はあるかもしれない……。だが、逆にお前には決定的なものが欠けている……。現場でしか知りえない……実戦経験がな!」

 

「なんですって……? それは……!」

 

ーーー

【シンクロバリアー】通常罠

自分フィールド上に存在するシンクロモンスター1体をリリースして発動する。

次のターンのエンドフェイズ時まで、自分が受ける全てのダメージを0にする。

ーーー

 

なるほどな……。

【ロード・ウォリアー】は失ったが、これでこのターン桂希はあらゆるダメージを受けないってわけだ。

 

「お前はおそらくこう考えただろう。私は今まで一度も効果ダメージを防ぐようなカードを使ってこなかった。つまり、効果ダメージを与えるカードであれば私に確実に勝利できると」

 

「ええ……。あなたの分析結果からそう思ってEXリンクの状態を用意したわ……」

 

「情報を過信したあげく、個人の日々の変化を考慮しない。甘いのはお前だ斉場。私や遊佐、決闘機動部の皆は日々テロリストとの戦いで経験を積み、常に進歩し続けている。この【シンクロバリアー】は私の中での変化ということだ」

 

「くっ……」

 

「戦場では常に周りが変化していく中で戦っていかなければならない。テロリストとの戦いで求められるのは情報よりも変化に対する対応力だ。だが、お前ら司令直属班は電子機器の前でデュエルデータを研究しているのみ。相手の対策ばかりをして、己の鍛錬をしない者が戦場で生き残れると思うな!」

 

「い、言ってくれるじゃない……。だけどいよいよを持ってあなたの場は伏せカード1枚と弱小モンスターが1体。手札も0。この状態で勝てるって言うわけ!」

 

「この程度の修羅場……いくらでもくぐり抜けてきたわ。私の進む"道"に……敗北はない」

 

「い、いいじゃない……。えっと……」

 

斉場副班長が動揺している様子が手に取るようにわかる。

多分対峙してたら俺も同じことを思うだろう。今のままでなら確実に勝てる。だけど、相手の自信の有り様に自分に何か見落としがないかと不安になる。

 

「バトルよ! 【シューティングコード・トーカー】で……」

 

斉場は【レフティ・ドライバー】に攻撃宣言しようとするが、その動きを止める。

 

「どうした? かかってこないのか?」

 

「……その手には乗らないわ。メインフェイズ2に入り、私はカードを1枚伏せて、ターンエンドよ」

 

斉場は伏せカードを恐れたのかもしれない。まだ桂希の場には1枚の伏せカードが残されている。

いずれにしても桂希の手札があれば何度でも【トポロジック・ガンプラー・ドラゴン】の効果は使えるし、手札に【プロフィビット・スネーク】もある。

このターンは【シンクロ・バリアー】で決着はつけられないし、現状万全な状態ゆえに危険な橋は渡らないようにしたのかもしれない。

 

「エンドフェイズ時にリバースカード発動! 【DNA改造手術】! 場のモンスターを全て私の指定した種族へと変更させる! 私は機械族を選択!」

 

「なるほど……ね。攻撃しておけばよかったかしら。いいわよ、あなたのターン」

 

桂希 手札0 LP3000

ー罠ーー裏

ーーーモー

 リ リ 

ーりリリー

ーー裏ーー

斉場 手札1 LP4000

 

「私のターン……」

 

桂希は再び目を閉じ、静かにデッキに右手を当てる。

そして、無言のまま力強くカードを引いた。

 

「何を引いても無駄よ! 特別に教えてあげる。私の伏せカードは【サイバネット・コンフリクト】。あなたが魔法カードでも罠カードでもモンスター効果でも発動したらなんでも無効にして除外できるカードよ。勝ち目はないのだからもう諦めなさい!」

 

「……だと思っていた。だからエンドフェイズ時に"切り札"を発動させた」

 

「そのカードが切り札……だって言うの……?」

 

「ああ。そして私の覚悟にデッキも応えてくれたようだ。【レフティ・ドライバー】をリリースし、いでよ、我がデッキの起源! 【サイバー・ドラゴン】!」

 

ーーー

【サイバー・ドラゴン】☆5 光 機械 ③

ATK/2100

ーーー

 

ここで【サイバー・ドラゴン】……?

あのカード1体のみで何をしようと言うのだろう……?

 

「嘘……まさか……嘘でしょ……!」

 

「あれだけ私の情報を探っていたのならば理解しただろう斉場? 【サイバー・ドラゴン】を含む場の機械族モンスターを融合素材として墓地へ送ることで融合できる特殊な融合モンスターが存在することをな!」

 

「ええ……。まさか【DNA改造手術】を用いて私の場のモンスターを全て……」

 

「その通りだ。お前の大好きな耐性ってやつは通用しない。私は場の全てのモンスターを墓地へ送り、融合! "限界を超える機械仕掛けの力! 万物を贄とし、戦場を焦土と変えよ! 融合召喚! いでよ、【キメラテック・フォートレス・ドラゴン】!"」

 

ーーー

【キメラテック・フォートレス・ドラゴン】☆8 闇 機械 ①

ATK/0

ーーー

 

斉場のモンスター全てが【サイバー・ドラゴン】に吸い込まれるようにして、場から消滅する。

そして、大きな輪っかのようなものが連なる体をした機械龍が現れ、咆哮を上げた。

 

「ううぅ……くそ! なんで……この私が! ここまで展開して負けたことなんて一度もなかったのに!」

 

「自らが思い描いたとおりにいかないデュエルはどうだ? これが戦場でのデュエルってやつだ」

 

「ふざけないで! 桂希……楼……!」

 

「一度帰って出直してくるんだな。【キメラテック・フォートレス・ドラゴン】は融合素材にしたモンスターの数×1000ポイントの攻撃力を得る。素材にしたモンスターは合計6体。よって6000だ。バトル! 【キメラテック・フォートレス・ドラゴン】でダイレクトアタック! "エヴォリューション・レザルト・アーティレリー!"」

 

数多の輪っかより機械龍の頭がそれぞれ出現し、光線を発射する。

その圧倒的なまでの光線の数は視界が真っ白になるほどだった。

 

【キメラテック・フォートレス・ドラゴン】

ATK/6000

 

「私が……負けるなんて……」

 

斉場LP4000→LP0

 

やがて視界が戻る頃には桂希の勝利でデュエルは終了していた。

これで俺が司令直属班へ移動することはこれでなくなるはずだ。

助かったぜ……桂希。

 



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Ep63 - 不可解な異動

無事桂希の勝利でデュエルが終わったことに安堵し、思わずため息をつく。

 

正直、もうダメなんじゃないかと思うようなデュエルだったな。

斉場副班長のサイバース族リンクデッキは、多くのモンスターを並べることで圧倒的なる制圧力を誇り、一撃必殺のパワーもある強力なデッキだった。

 

もしかしたら桂希のやつは途中からそれを見越しての展開へシフトしていったのかもしれない。

それでも最後はドローを信じた結果の勝利だろうが……。俺にはあんな危険な橋を渡るのはできないかもしれない。

 

桂希にはそれほどまでの固い意志ってものがあるんだろうな。そういえば聞いてなかったが桂希はなんのために戦っているのだろう。

今更ながら気になってきた。

 

「斉場副班長。これではっきりしたはずだ。司令直属班と決闘機動班の副班長同士のデュエルで勝利したのは私だ。つまり、"グリーン・ペンダント"の所有は司令直属班には認められないと」

 

「……ふふっ……」

 

斉場副班長は桂希の発言を聞くと口をにやつかせた。

 

「確かにあなた達の実力はそれなりにあるのはよくわかったわ。だけど私たちは"グリーン・ペンダント"の処遇についての話をしているわけではないの。あくまで遊佐 繋吾の異動は普通の人事異動での話。先日の本会議での話はまったく関係ないのよ」

 

「何を言っている! 普通の人事異動であるのであればましてや遊佐を司令直属班に配属する理由がないだろう?」

 

「まぁそう熱くならないで桂希副班長? 正直なところあなたに負けたのは事実だし、私としては潔く手を引きたいところだわ。デュエルの腕もなまってしまったみたいだしね。それにこんなど素人を司令直属班に歓迎なんて本音を言えばしたくはないし」

 

余計なお世話だ。

俺こそあんたみたいな強引なやり方をするやつなんて御免だ。

 

「なに……? どういうことだ」

 

「私が聞きたいくらいよ。今回の一件も須藤総務管理班長から指示されたまでだわ」

 

「なるほどな……人事を司っている総務管理班か……。ならば直接言いに行くか。いいな、遊佐?」

 

「えっ? ああ……」

 

今のデュエル結果を踏まえて異議を申し立てにでも行くってところか?

桂希から言ってくれるのなら俺としてはありがたい限りだが……。

 

「おいおい腑抜けた返事して大丈夫か? それと責任を持って斉場副班長にもご同行願おうか?」

 

「仕方がないわね……。負けは負け。今回ばかりは言うことを聞いてあげようかしら」

 

「感謝する。では行くぞ」

 

斉場副班長と桂希副班長についていくようにして、俺は総務管理班長室へと向かった。

 

「異例の入隊者……遊佐 繋吾。あなたはどうしてSFS入ったのかしら?」

 

道中、斉場副班長が話しかけてきた。

話してみれば……意外とそんなに悪い人ではないのかもしれない。

 

「まぁ……簡単に言えば復讐ってやつですかね」

 

「特殊機動班ってことは……ジェネシスに復讐ってところかしら。無謀すぎて逆に笑えるわね」

 

「おい……あんた馬鹿にしているのか?」

 

「そう怒らないで。冗談よ。いいじゃない、SFSは本来あなたみたいな人が配属されるべき会社だしね」

 

「え……」

 

この人の距離感はいまいちよくわからないな……。

 

「まっ、斉場の言うとおりだな。遊佐は他の奴らに比べれば度胸もあるし、実力もある。今のSFSには貴重かもしれん」

 

「あら……? あなたさっきと言ってること違うじゃない? この子のこと"問題児"って言ってたじゃない」

 

「お前と無理やり戦う口実作りに決まってるだろう。遊佐が司令直属班に行かれては困るんでな」

 

あれ……? それって言っちゃって大丈夫なのか……?

演技だったってことだろう。

 

「相変わらず憎めないやつねあなたは。まんまとやられたってわけか。それにしてもあなたと遊佐 繋吾はどういう関係なのかしら?」

 

「戦場を共にした後輩ってところか? な、遊佐」

 

「まぁ……そうなるかな。それにしてもさっきの桂希が演技だったみたいだけど、それでも総務管理班長室へいくのか? 斉場副班長」

 

「負けは負け。その結果に変わりはないわ。さっきも言ったけど私はあなたを歓迎するつもりなんてないしね。むしろ断る理由ができたってところかしら」

 

意外と自分に正直に生きているんだなこの人は。

 

「だけど、それじゃ黒沢部長とか須藤班長から何か言われるんじゃないか? 俺を……いや、"グリーン・ペンダント"を司令直属班に持ってくるのが開発司令部の方針なんでしょう?」

 

それを聞くと斉場副班長は目を閉じひと呼吸をおいてから口を開く。

 

「確かに、出世のことを考えたら今の私の行動はよくないわね。だけど、私は自らのやることには自分なりに筋を通したいって思っているの。現に私は桂希 楼に負けた。それは私の実力が足りてないからで、負けたまま何かを押し通そうとするような筋が通っていないことはしたくないのよ。だからこそ今は桂希 楼に従うってだけ」

 

完璧を求める斉場副班長らしい考え方……なのかな?

ある意味でこの人も明確な意志を持っているってことだろう。

 

「かっこいいこと言ってるが、ただ負けず嫌いなだけだからな遊佐」

 

「う、うるわいわね……。この調子乗ってるところ見るとほんとムカつくわ……。桂希 楼……」

 

なんかちょっと結衣にも似てるかもしれないな。この人。

それにしても桂希とは親しそうだな。何か関係があったりするのだろうか。

 

「そういえば桂希と斉場副班長は知り合いなのか?」

 

「ああ、こいつとは2年前決闘機動班員だった頃に同じ班だったんだ。やたら張り合ってきてな」

 

「ええ……そうね。功績を争いあっていたわ……」

 

この二人が一緒の班だったらどんな相手でも負ける気がしないだろうな。

そう考えると数年前のSFSってとんでもなく強かったんだろうと感じる。

 

「あの頃はもっと規模も大きかったからな。我々が霞んで見えたレベルだ」

 

「そんなに大きかったのか……ってことはSFSに何かあったのか?」

 

「2年前くらいにな。夜間に小規模デュエルテロ組織によるSFS襲撃があったんだよ。決闘機動班の一部の班が爆発に巻き込まれて全滅。特に大きな戦闘はなかったみたいだが、金めのものが多く盗まれた。その時に死んだものもいるし、経営の悪化によって人員削減がなされた……。だから歳食ってるベテランの一部は国防軍に流れたんだ。そのせいか今のSFSは若いものばっかりになってる」

 

そんなことがあったなんて……確かに赤見班長や紅谷班長といった人たちも班長にしては若いしな。

 

「黒沢部長はその当時を知ってる。だからこそいまの特殊起動班は目に余って仕方ないんだろうな」

 

なるほどな……。当時の悲劇を繰り返してはならない。

そのためにムダを省く……。そういう方針を打ち立てていても不思議じゃない。

 

SFSのあり方というか……難しい問題だな。

 

「さて……ついたわよ。総務管理班室。失礼します」

 

斉場が総務管理班室へ入り、俺と桂希も後に続くようにはいっていく。

中にはワイシャツにネクタイを身につけたいかにもサラリーマンといった感じの人たちが忙しそうに目の前のPCを操作していた。

なんだかこれはこれで大変そうだ。

 

「なんだね、斉場副班長。決闘機動部の連中を連れて」

 

「お忙しいところすみません。須藤班長。人事異動の関係でお話がございまして」

 

「遊佐 繋吾の異動についてか? もうあれは決定事項だ。明日の新規入隊者の配置と共に決行される」

 

明日だって? そんな急な異動ってあり得るのかよ!

 

「ちょっと待ってください。俺は今日そのお話を聞きました。いくらなんでも急過ぎませんか?」

 

「まぁ……な。だが、いい話じゃないか。司令直属班だぞ?」

 

「俺は……自らが希望して特殊機動班にいるんです! なぜ異動しなければいけないんですか!」

 

「……。それは……」

 

俺の言葉を聞き、須藤班長は黙り込んでしまう。

 

「やはり……ペンダントですか? 黒沢部長に言われての異動なんですよね?」

 

「なんとか言ったらどうだ? 本会議で決断は出ているのにも関わらず往生際が悪いぞ。開発司令部は。ペンダントの処遇は決闘機動部に委ねられているはずだ」

 

「……」

 

俺の言葉に便乗するように桂希も須藤班長へと言った。

だが、それに対しても須藤班長は下を向いたまま口を閉ざしている。

 

「ペンダントを抑止力として頼るのでは……本当の意味での平和は訪れません。それに俺は……この力を操ってみせる。ジェネシスへの抑止力ではなく、制裁の刃として!」

 

「わかったわかった……。だが私の立場ではどうにもできないのだよ……」

 

「それなら黒沢部長に話をつければいいんだろう?」

 

「いや……この件については……黒沢部長とは異動の口実を作る相談をしたのみだ」

 

「……どういうことだ?」

 

異動の口実を作るのみ……? 命令は黒沢部長ではないってことなのか?

 

「この異動命令を下したのは……生天目社長なんだよ……」

 

「なんだって……?」

 

生天目社長だと……? これは一体……。

 

「だからどうしようもないんだよ私にも……」

 

「……生天目社長はSFS本会議で決断をしたはずだ。一体どんなお考えが……」

 

想定外の展開に桂希も頭を悩ませているようだ。

いっそのこと社長へ話を付けに行くか……?

 

「とりあえずこの件はもう変えることはできない。斉場、お前にも言っただろう? 決定事項だ。と」

 

「申し訳ありません……」

 

「すまないが人事異動の話は終わりにしていただこう。明日には辞令が出る。準備しておいてくれ」

 

「……わかりました」

 

社長決断に対して総務管理班にいくらいっても状況は変わらない。

仕方がないのかこれは……。

 

生天目社長は赤見班長に対して信頼を置いてそうに見えた。

俺の父さんの件でも赤見班長は直接話をされていたみたいだし。

きっと俺の異動も何か考えがあってのことなのだろう。

 

「失礼しました」

 

俺たちは須藤班長に挨拶を済ませ、総務管理班室を後にした。

 

「遊佐、これからどうするつもりだ? 社長室にでも行くか?」

 

「いや……やめておくよ」

 

「お前らしくないな?」

 

「そんなことはないさ。ただ俺は……生天目社長を信じてみたいってだけだ」

 

「そうか……お前がいいならいいんだろう。また何かあれば声をかけてくれ。ではな」

 

「それじゃ私も失礼するわ。明日からよろしくお願いするわ。遊佐 繋吾」

 

桂希と斉場の二人に挨拶を済ませると、俺は自らの部屋へと戻るべく足を進めた。

 

ーー部屋の前へ差し掛かった頃、俺の部屋の前に一人の人物が立っていた。

あの黄金色の長髪は……結衣か?

 

「どうしたんだ?」

 

「っひゃ!?」

 

後ろから声をかけると驚いた表情をして手に持っていたカードの束を床へ落とす。

案の定床にはカードの束が散らばってしまった。

 

「急に後ろからなんてびっくりするじゃないですか!」

 

「悪い悪い……ってこれ俺のデッキか……?」

 

床に散らばっていた結衣の落とした束は颯貸していた俺のデッキだった。

なぜ結衣が持ってるんだ……?

 

「はい。上地くんが今日急に情報収集に外部偵察任務に行くって言いだしてて、デッキ返そうとしたら繋吾くんが部屋にいないから、代わりにこのデッキを返すように頼まれたんです」

 

外部偵察任務なんて颯のやつ張り切っているな。

ジェネシスのアジトへ繋がる地下への入口でも探しにいってるのだろうか。あるいはそれに繋がりそうな情報収集とか……。

にしても、結衣のやつもよく引き受けたな。いつもだったら断りそうなものなのに。

 

「それはめんどうをかけたな」

 

「まったくです。私の返事も聞く間もなくデッキを私に渡して走って行ってしまったものだったので……。おまけに繋吾くん連絡しても繋がらなかったし……。まだ寝てるのかと思ってましたよ」

 

颯のやつそんなに急いでどうしたんだろうな。

それはさておき……まさかまたデュエルウェポンの着信を見逃していたかもしれない……。

 

「悪い悪い……気がつかなったよ……」

 

「あなたのだらしなさはもう慣れました。それにしても今日はどこに行ってたのですか?」

 

「ああ……それがな……」

 

俺は今日あった話を結衣に話した。

俺が司令直属班へ異動することになったこと。斉場副班長が押しかけてきたこと。桂希がそれを阻止してくれたこと。

そして……それを生天目社長が指示していたことを。

 

「一体どうなっているのですか……。繋吾くんが司令直属班に……」

 

「俺も困ってるんだ。せっかくこれからだというのに……」

 

「なら私が今から社長に話してきます。安心してください」

 

「おい、待て! それはいい」

 

俺はすぐさま走り出しそうとする結衣の腕を掴む。

 

「何か考えあってのことかもしれない。それに……赤見さんにも一度相談した方がいいと思ってな」

 

「でも明日には決行なんでしょう? 赤見班長は今日は新規入隊者の最終試験なはずです。連絡が取れません」

 

「明日でも話はできるだろう? それに俺はどこの班にいてもやることを変えるつもりはない」

 

「出撃ができなくなるかもしれないんですよ? せっかくあなたの目的が近づいてきたというのに……」

 

なんと言われようと最悪独断で行動して、特殊機動班と共に作戦を行えばいいだけの話だ。

斉場副班長になにか言われようと知ったことじゃない。

 

「ただ所属する班の名前が変わっただけ。俺は誰に何を言われようと特殊機動班の作戦には同行するつもりだ」

 

「それなら……いいですけど……。何かあったら絶対に連絡してください。あなたは私の中で数少ない信頼のおける人……なんですから」

 

結衣はそう言った直後に顔を真っ赤にしながら「それでは」と小声で呟くと俺の下から去っていった。

 

信頼のおける人……か。結衣にとってはただでさえ人数の少ない特殊機動班から仲間が減ることは寂しくて辛いのかもしれない。

異動しても、あいつには声かけるようにしないとな……。できることならあいつにはもう辛い思いをさせたくはない。

 

とりあえず明日になってから細かいことは考えるとするか……。辞令前に赤見班長が何かしてくれるかもしれないしな。

一体……これからどうなるんだろうか。



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Ep64 - 疑惑の深まるSFS

翌日、俺を含め多くのSFS隊員達はSFS大ホールへと招集されていた。

もちろん辞令を行うためにだ。

 

周囲を見渡すと、大半は見たことのない顔ぶれだった。

おそらくほとんどが今回臨時で募集した新規隊員達だろう。

 

当初の予定では辞令は午後からのはずだったんだが、昨夜急遽朝一番で行うとの連絡があったものだから、赤見さんへ相談する時間もなかった。

一応デュエルウェポンでのメール機能で伝えてはみたが……。まだ返信はない。

 

ここまで来たら今後司令直属班でどうしていこうかを考えていった方がいいかもしれない。

幸い斉場副班長や闇目さんとは面識があるから、うまくやっていきたいところだな。

 

ホールの壇上では、開発司令部の人と思われる人たちが集まってパイプ椅子へ腰掛けており、そのうちの一人が辞令の進行を行っていた。

何やら100名ほどの新規隊員が追加されたらしい。かなりの人数だな……。

それほどまでに白瀬班長は本気で迎撃するつもりなのだろう。金銭面で慎重だった開発司令部もよく了承したものだ。

 

しばらく話を聞いていると、デュエル実戦部隊の班長たちが壇上へと上がっていく。

そこには見知った顔の白瀬班長や宗像班長の姿。そして赤見さんの姿もあった。

 

なんだか赤見さんを見るのは久しぶりなような気がするな……。しばらく新規隊員試験の試験官をやっていたから会えていなかった。

やっぱり赤見さんがいてこその特殊機動班だ。

 

そんなことを思いながらぼんやりと赤見さんを見ていると、赤見さんと目が合った。

俺の様子に気がついた赤見さんは驚くような様子もなく、静かに笑みを返してきた。

俺がこの場に呼ばれることは知っているのだろうか。俺が特殊機動班から司令直属班へ移動するということを……。

 

再び壇上の喋る人の声に耳を傾けていると、一人一人の名前を読み上げた後にどこの班への配属かを伝えていた。

やはり大半は決闘機動班。ちらほらと偵察警備班や救助護衛班の名前も聞こえた。

しかし……。特殊機動班の名前はまったくと言っていいほど聞こえてこなかった。まぁ無理もないだろう。

特殊機動班を希望先として書く人なんてよほどの物好きなんだろうからな……。

 

「ーー続いて……遊佐 繋吾隊員。特殊機動班より司令直属班への異動を命ずる。続いて……」

 

そして俺に関する辞令も聞こえてきた。

やはりこのような場で言われると実感が湧いてくるな。今日から俺は司令直属班か……。

とりあえず一通りこの辞令が終わったら赤見さんや特殊機動班のメンバーに連絡を取ってみよう。

今後どうするかはその後考えるのでもいいはずだ。

 

「以上、辞令伝達を終了します。続きまして開発司令部長より緊急連絡がございますので、もうしばらくその場でお待ちください」

 

緊急連絡……? 一体どうしたのだろう。

そのアナウンスと共にホール内はざわめきはじめた。

しばらくすると壇上へ黒沢部長の姿が見えた。

 

「SFS隊員の諸君。せっかくの晴れ舞台の日にお時間をいただき申し訳ございません。緊急事態が発生しましたのでこの場でお知らせします」

 

黒沢部長は俺たちに向かって一度頭を下げると、手元にある書類を開き始めた。

 

「昨日の夜。かのデュエルテロ組織ジェネシスよりSFSへ宣戦布告のメッセージが届きました。その内容はSFSを攻撃し破壊するというものです」

 

ジェネシスからの宣戦布告だと……!?

いつか攻めてくるだろうと思ってはいたがまさか堂々と宣戦布告してくるとは……。

もしかして……辞令がこんな朝方からやるとなったのはそれが原因だろうか。

 

「彼らはSFSの持つ極秘の品を要求しており、それを本日の夜までに渡さなければ攻撃をしかけるとメッセージには書かれています。そこで異動者はともかく新規隊員にもこの防衛戦に参加していただこうと考えている」

 

新人に対していきなりジェネシスとの戦闘をさせるのか?

いくらなんでも無茶じゃ……。訓練もろくにしてないんじゃ戦力になるわけがない。見殺しにするつもりか……。

 

「今回の入隊試験において、実戦演習を試験内容に取り入れたのは即座にテロリストと交戦を可能にするためです! その演習を無事乗り越えここに来ている君たちであればジェネシスが相手だろうと遅れを取ることはありません! 我々には奴らを迎え撃つ作戦がある! 安心してください」

 

黒沢部長はホールにいる隊員に強く呼びかける。

だが、俺の予想に反してホールにいる多くの隊員はその黒沢部長の発言に応えるように右腕を振り上げ大声をあげていた。

 

なるほど……。試験の段階である程度の演習をしたということなのか。

赤見班長を含め全班長が試験官をやらされていたのはそういうことだったのかもしれない。

 

しかし……それでも本当に大丈夫なのだろうか。

戦う術はあっても肝心なのは連携だ。生半可な戦力ではジェネシスには通用しない……と思う。

 

「あ、あの……」

 

突然隣にいた新人であろう背の小さな少女が話しかけてきた。

その表情は見るからにおびえている様子であり、小さく震えていた。

 

「これって……今日いきなり戦えってことですよね……?」

 

少女は震えた声で話しかけてくる。

そりゃ怖いよな。そこらへんの小さなゴロツキならともかくかの有名な巨大なデュエルテロ組織ジェネシスといきなり戦えっていうのだから。

 

「だろうな。怖いか?」

 

「え……いや……あの……」

 

少女はもじもじしながら口ごもってしまう。

今すぐにでも逃げ出したそうだ。

 

「大丈夫だ。お前の反応が普通だと思うよ俺は。むしろこんなに命知らずの人がいるなんて驚いているところだ」

 

「そ、そうですよね。やっと就職先見つかったと思ったのにいきなり戦わなきゃいけないなんて……私死にたくないです……」

 

「死ぬと決まったわけじゃないさ。それはお前次第だろう? デュエルは得意なのか?」

 

俺の発言を聞いた少女は少し驚いた表情をしながら俺のことを見つめてきた。

 

「デュエルは……強くはないですけど好きです。だからSFSに入ろうと思って……」

 

「好きという思いが強さに繋がるはずだ。自信を持てばきっと生き残れるさ」

 

「はい……」

 

少女は少し笑顔を見せると小さく頷きながら答えた。

うまく励ませられたかな……? まぁ今はそれよりも俺は今後のことを考えなければいけない。

ジェネシスが攻めてくるということは狙いは当然俺だ。

いつ攻められても戦えるように準備をしておかないと……。

 

「遊佐 繋吾。こっちへ来なさい」

 

続いて背後から聞き慣れた女性の声が聞こえた。

斉場副班長だ。今日からは同じ班としてお世話になる。

 

「斉場副班長。よろしくおねーー」

 

「いいから、こっちへ」

 

挨拶しようとしたが斉場副班長はそれを遮り俺の手を引っ張っていく。

どうやらかなり急いでいるようだ。

 

「どこへ行くんですか」

 

「内緒。いいから黙ってなさい」

 

言われるがままに俺は斉場副班長へ引っ張られSFSのどこかの一室へ連れ込まれた。

 

 

ーーしばらくすると狭い会議室のようなところに連れて込まれ、椅子に座るように斉場副班長に言われる。

 

「はぁ。まったくとんだ面倒ごとに巻き込まれたわね」

 

部屋についた途端斉場副班長はため息をつく。

一体何がどうしたのいうのだ。

 

「あなたにはちゃんと説明するから待ってなさい。もうすぐ来るはずだわ」

 

「来るって……誰が?」

 

俺がそう問いかけると同時に部屋の扉が開き一人の人物が部屋に入ってきた。

 

「久しぶりだな。繋吾」

 

赤見班長だ! ようやく会うことができた……。

 

「赤見班長! 一体何があったんですか! 俺が司令直属班へ異動したのも何か関係があるのですか?」

 

「ああ……。お前には何も伝えることができなくてすまなかったな。今回の一件は全て生天目社長の指示だ。お前のペンダントを開発司令部へ渡そうとしたことも、お前を異動させることも……な」

 

開発司令部の人たちが俺に対して行ってきたことは全て社長の指示だというのか……!

あのSFS本会議で社長自らが結論は出していたというのに……一体どういうことなんだ。

 

「もちろん私は社長には反論したがダメだった。社長はそれが繋吾のためになると言っていたんだが私にはそれが信じきれなくてな。何が正しいかわからなくなってしまった」

 

「そこで赤見班長は私に遊佐 繋吾を極秘に合わせられる場所を設けてくれと頼み込んできたってわけ。ここまでの経緯を話すためにね」

 

「ありがとう……ございます。しかしなんで斉場副班長が?」

 

「今あなたは司令直属班の身……というのも理由だけど何より私自身も赤見班長から話を聞いてどうかと思ったから協力してるってわけ」

 

そんなに今SFSはめちゃくちゃになっているのか……?

これからジェネシスが攻めてくるというのに大丈夫なのだろうか……。

 

「さて、まず社長が仰っていた話を話そう。この前のSFS本会議が終わったあと、私は社長室に呼ばれた。今後の作戦行動についての話だったよ。本会議での話のとおり増強したSFSの戦力でジェネシスを迎え撃つ。そこまでは同じだ。だが……その作戦では遊佐 繋吾の存在を隠し通す。それが社長の意向だった」

 

「俺の存在を……隠す……ですか?」

 

「ああ。おそらくジェネシスの標的になり得る繋吾は戦線には出さずに戦うってことなんだろう。それだけならまぁ……納得はできたが……。作戦次第で逆に繋吾を理由にジェネシス幹部をおびき寄せることもできる。私はそう考えた。そして社長に言ったんだ。だが……」

 

そこで赤見さんはひと呼吸を置く。

確かに、俺の存在を見つければネロをはじめとした幹部連中はすぐさま狙いに来るだろう。

そこを叩くという戦術は有効的だ。

 

「社長はその目的を白瀬班長から繋吾の存在を隠すため……と言っていた」

 

「白瀬班長だと……? 一体何が目的で?」

 

「実は私は生天目社長に少し前から白瀬班長の動向を見張るよう指示されていた。話が遡るが前に決闘機動班と特殊機動班で行った合同訓練があっただろう? あれのきっかけとなった日……うちの結衣と野薔薇が戦った日を覚えているか?」

 

確か……俺たちがデュエル訓練場を使っていたら決闘機動班の連中が割り込んできて……。

それで揉めてたら野薔薇が来て……デュエルすることになったんだっけ。

そういえばあの時赤見さん、来るの遅かったな。

 

「はい、赤見さんが後から来て白瀬班長の提案に乗ったやつですよね?」

 

「ああ、そうだ。あの日、私は国防軍への出張結果を生天目社長に報告していたんだが……あの時社長から最近白瀬班長の様子がおかしいから見張ってくれないかと頼まれた。それで戻る前に白瀬班長の後を付けていたから遅くなってしまったんだ。私は白瀬班長がよく特殊機動班への嫌がらせをするからそのためかなと軽く考えていたんだが……。生天目社長からの話によると白瀬班長はどうやら国防軍の時田長官と繋がっているらしいんだ」

 

時田長官ってあの国防軍真跡支部の頂点に立つ人物のことか。

あの人と白瀬班長に繋がりがあったなんで驚いたな。

 

「国防軍との繋がりですか……それで見張られるということは何か悪いことでもしてたってことですか?」

 

「あの日見張っていた時は、白瀬班長がSFS全てのデュエル訓練場を確保し、特殊機動班と決闘機動班でデュエル訓練場を奪い合うという事象作り出したという話をしていたのを盗み聞きした。他にも作戦は予定どおりだ……とか話していたな。だが結局社長の目的はわからなかった」

 

「なるほど……それは誰と話していたんですか?」

 

「電話で話していたみたいだからわからない。国防軍の人間かもしれないな。その直後にデュエル訓練場の中へ入って……あとはお前も知るとおりだ」

 

相手先は一体誰なんだ……? それに作戦って一体……。

だけど、それが今回の俺の存在を隠し通すこととどう関係してくるんだろう。

 

「白瀬班長が何か怪しい動きをしていたとして……なぜ俺の存在を隠さなければならないんでしょう?」

 

「そこからの出来事をよく思い出してくれ繋吾。イースト区の襲撃作戦、国防軍でのジェネシス襲撃、そして、先日の司令直属班と特殊機動班の騒動……。全ての出来事で関連する内容がある」

 

全ての出来事での関連……。

共通することと言えば……。

 

「桂希……がいたこと……。ですか?」

 

「あぁ、そうだ。全ての事柄においてあいつは私たち……いや、繋吾の側にいたことになるな。それはおそらく白瀬班長の命令によるものだろう」

 

「だけども赤見さん。桂希はいつだって俺を守るように……味方となって戦ってくれました。それに対して何か悪いことってあるんですか?」

 

「正直なところ私にも白瀬班長の目的がわからないからなんとも言えないな。だが、生天目社長はもしかしたらわかっているのかもしれない。社長から言われたのは"遊佐 繋吾を白瀬班長のコントロール下には置くな”ということだったんだ。つまり白瀬は繋吾を狙っていると想定される」

 

なるほどな……。まぁ俺というよりかは緑のペンダントなんだろうが……。

 

「白瀬は繋吾の動向を伺うために偵察を兼ねて桂希を繋吾の側においた可能性がある。そこから考えると……私の仮説だが白瀬班長は誰かしらと通じていて、繋吾の緑のペンダントを狙っているのかもしれない。それが国防軍なのか……ジェネシスなのか……」

 

「ジェネシスだとしたら、今回の襲撃で裏切る可能性もあるということですか……?」

 

「あぁ、そうかもしれない。内部で大きな勢力を持つ決闘機動班に裏切られたら私たちに勝ち目はないだろうな」

 

白瀬班長がジェネシスと繋がっているというのは信じたくはないが……。

いずれにしても白瀬班長がペンダントを狙っているのだとしたら社長からしてみれば疑うのも無理はないって話か。

 

「だが、繋吾。生天目社長は国防軍との繋がりを睨んで私に白瀬班長を監視させた。ってことはジェネシスと繋がっていることはないんだと思う。それにもしそうだとしたら今夜の襲撃ではっきりするだろうしな。まっ、いずれにしても最悪の想定をしておいた方がいいんだろうが……」

 

「そうですね……。しかし、国防軍は一体何を……」

 

「国防軍も赤のペンダントを保管していた。主に研究のためにな。力を検証するために……研究材料を集めたいってところだろうな。特にレッド・ペンダントは奪われてしまったから余計に……というところがあるんだろう。国家の部隊、国防軍はテロリスト以外に対しては真っ当な理由がなければ武力行使できない。つまりSFSからペンダントを奪うことは到底できないだろうからな。ましてやこのペンダントについては極秘事項だ。そこで白瀬班長を使って極秘のうちに奪おうとしているのかもしれない」

 

それならばありえそうな話だな。うちの開発司令部の機器開発班長の研って人だって研究したさそうにうずうずしてたし。

 

「まったく、影でこそこそとしているのは本当に気に食わないわね。堂々と言えばいいのに。ああいうの苦手だわ」

 

「まぁ……斉場さんは部屋に殴り込みに来るくらいだしな……」

 

「あれは命令だったから仕方がなかっただけ。勘違いしないでくれるかしら?」

 

まぁ……結果的には社長命令だったわけだ。

今となってはどうでもいいか。

 

「それで……赤見さんは社長のことが信じきれなくなってきたって言ってましたけど……。今回どうするんですか?」

 

「あぁ。今夜の襲撃には……とりあえず表向きには作戦のとおりに従う。そして……無事生還できた時には社長に話をつけにいくつもりだ。繫吾を特殊機動班に戻させるために。私たちに求められているのは国防軍や白瀬班長といった味方の問題よりも先にジェネシス殲滅への一歩を踏み出すことだ。そんなことを気にしていてはいつまでたっても前に進めなくなる」

 

こればっかりは赤見さんの言うとおりかもしれない。

もしジェネシスを倒せれば国防軍が持っていたであろう赤のペンダントだって取り戻せる。

俺を狙う必要だってなくなるはずだ。

 

「赤見班長。本当にあの作戦に賛同するつもり? 決闘機動部……下手したら壊滅するわよ?」

 

「壊滅……? どんな作戦なんだ?」

 

「決闘機動部全班はSFS基地正面へ。駐屯決闘班は裏門の配置。司令直属班は社長室及び遊佐 繋吾の防衛。正面の部隊は特殊機動班を囮にジェネシスの戦力を集中させ、敵を迎撃。だけど実はSFSの大半の人には遊佐 繋吾が戦線にいないことは伝えられていない。特殊機動班の配置にいるものとされ伝えられている」

 

「白瀬班長に知られないためってことか?」

 

「おそらくそうね。今回、既に国防軍への援軍要請はしている。国防軍の援軍が来て混戦化してきた時に白瀬班長がどさくさに紛れてあなたからペンダントを奪い取ったっておかしくはない。例えば……あえてあなたをジェネシスに倒させるとかしてね」

 

そんなとんでもないことをしやがるっていうのか……。例えばの話とはいえ恐ろしいな。

しかし……白瀬班長であればやれないことはないんだろう。国防軍と決闘機動班のコントロールができる人物だ。

人員配置を操作すれば、俺のところだけ手薄にするっていうことだっていくらでもできる。

 

だけどわざわざ研究のためにそんな危険な橋を渡るなんておかしいだろう。

ひとつ間違えればジェネシスにペンダントを奪われてしまう。いや、そもそもが例えばの話か……。考えないようにしよう。

 

「あとは……社長としては疑いがかかっている白瀬班長の部隊を弱体化させる目的もあるんじゃないかしら? 全指揮権は神久部長にあるとはいえ、大部隊の直属の班長は白瀬班長だしね」

 

「それって決闘機動部の人間を殺すってことじゃないですか……! 社長は殺して解決しようとしているんですか!」

 

「さぁ? 真意は私にも赤見班長にもわからない。だけど……なんか社長に関しても白瀬班長に関しても隠し事をしている気がして信用できないのよね。それで私は赤見班長に協力しようって思ったわけ」

 

「あぁ。だから我々特殊機動班は戦闘が始まったら持ち場を離れ臨機応変に行動するつもりだ。作戦で描いた囮にはならない。決闘機動部の連中を見殺しにしたくはないからな。ただ、繋吾を司令直属班に防衛させるという点だけは社長の作戦のままがいいと思う。だから今回はひとまず作戦の通りに従うつもりだ」

 

「ジェネシスに対しては有効的に使える策ってわけね。いいわよ、この子の面倒は私が預かりましょう」

 

「すまないな斉場副班長。我々は今回、繋吾の情報をネタにジェネシスの動きを攪乱するつもりで動く。そうすればジェネシスの部隊も分散させて被害も分散させられるしな」

 

赤見さんは俺の偽情報は伝え回ってジェネシスの攻撃を分散させることが目的みたいだ。

実際には俺の居場所を知るものはほとんどいないんだから味方でさえ混乱しそうだな。

 

「念のため結衣と颯にはこのことは伝えておく。郷田はまぁ……伝えたところで無駄だろうが……」

 

「わかりました。皆と一緒に戦えないことは少し残念ですが……」

 

「我慢してくれ繋吾。この作戦さえ乗り切れば次は我々が奴らへ攻め入る番だ。偵察警備班との合同での調査はうまく進んでいるようだしな」

 

真跡シティ地下にあると言われるジェネシスの本拠地。

その情報さえ掴んでしまえばいくらでも作戦は立てられる。もうしばらくの辛抱か。

 

「安心して頂戴赤見班長。この子がこの部屋から出ないように厳重に見張っておくから」

 

「あぁ頼んだぞ。繋吾の存在がばれたら今回の作戦は一気に辛いものとなる。どれだけ被害を受けようとペンダントが奪われなければ我々の勝利なのだからな」

 

「そうね……。あとは……向こうがペンダントの力を使ってこなければいいのだけども……」

 

赤のペンダントは結衣の状況からしてダメージの増幅。カードの破壊力をあげられてはもはやSFSの施設ごとぶっ壊される可能性だってある。

そうなれば本当にどう戦えばいいのだろうか……。

 

「もし何かあれば私に連絡を頼む。仮に想定外の事態が起きたとしても特殊機動班なら小回りが効く」

 

「わかったわ。だけどきっと連絡することはないと思うわ。司令直属班の力侮らないでよね?」

 

「ははっ、これほど頼もしいものはないな。それじゃ私は色々と準備があるからこれで失礼するよ。繋吾、必ずまた会おう」

 

「はい、赤見さん。お気をつけて」

 

その言葉を最後に赤見さんは部屋から出て行った。

正直、ここ最近は衝撃を受けるような話ばかりでもう頭がおかしくなりそうだ。

ひとまず赤見さんの指示に従っておこう……。独断で行動したことには何が起こってもおかしくない。

 

誰が味方で誰が敵なんだかわけがわからなくなりそうだ。

 

この斉場副班長は……信用していいんだよな……?

桂希と繋がっている可能性もあるが……。まぁ最悪は反抗すればいい。今は自分のデッキもあるしな。

 

「さてと、夜までしばらく待機ね。安心しなさい。あなたがここにいることはほんの一部の人間しか知らないわ」

 

「わかりました。一応聞いとくが……桂希と繋がってたりしてないだろうな?」

 

「大丈夫よ。別にあなたの思うほど私はあいつと仲良くはない。前も言ったでしょ? 私は自らの行動には筋を通したい。今は赤見班長の行動が正しいと思うから協力してるってだけよ。私は情とかで流されるような人間じゃない」

 

ここまで言うのなら……信用してもいいのかな。

考えてもキリがない。自分の身のことだけを考えていよう……。

 

「まぁ無理もないわよね。しばらくそこでゆっくりしてるといいわ。何か用があったら声をかけてちょうだい」

 

さてと……今夜にくるべき襲撃に備えるべく自分のデッキ調整でもするかな……。

果たして今夜どうなることやら……。

 



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Ep65 - SFS大防衛戦開幕

この狭い部屋に篭もりはじめてから何時間が経過しただろうか。

ここには窓がないからいま外が明るいのか暗いのかもよくわからない。

 

手元のデュエルウェポンの時刻を見る限りもう夕方ってところだろう。

 

司令直属班の人たちは俺が不自由しないよう色々と世話をしてくれた。

飯から飲み物。そして、話し相手になってくれたりと。

 

案外話してみればみんな悪い奴ではないっていうのがよくわかる。

まぁ、今は非常事態で俺を守ることが任務とされているから……なのかもしれないが。

普段からこのような調子であれば、SFS内での対立も減るんだろうな。

 

「調子はどうだ? 遊佐隊員」

 

そう声をかけてきたのは闇目さんだ。

司令直属班の中では面識があるからか気を使って闇目さんがこの部屋の見張りに回ってくれている。

 

「大丈夫ですよ。今、SFS内はどうなってるんですか?」

 

「少し前に決闘機動部内で今夜のジェネシス襲撃に向けての情報伝達があったそうだ。各班、作戦に向けて準備を進めている……ってところだな。部屋の外はけっこう騒がしいことになっている」

 

そりゃジェネシスが攻めてくるって聞きゃ大騒ぎもするだろう。

逃げ出してしまう隊員がいてもおかしくはない。

 

「そういえば……今日配属の新人……。本当に作戦に参加させるんですか?」

 

「あぁ……あれには驚いたな。だが、確かに今回の試験は実戦演習を取り入れたものだった。決闘機動班の普段行っている演習を参考にしたものをな。だがたったあれだけで到底戦えるとは思えん……」

 

よかった。闇目さんも同意見みたいだ。

今日の辞令の場は本当に異質だった。凶悪なデュエルテロ組織が攻めてくるというのに、なぜ多くの人間が好戦的になれるのか……。何か……引っかかる。

 

「まぁ、後方支援とか担当なのだろう。それでも……規模的に直接戦闘は避けられないとは思うがな。今までにない程の大規模な戦闘になると想定している」

 

今までSFSが襲われたケースというのは物品の略奪とかが大半だ。そこまで大規模な攻撃をしてくるようなものではない。

それに今まではジェネシスから直接襲われたということはないみたいだし、過去にないほどの大戦闘になるのかもしれない。

 

「まぁそう暗い顔をするな。仲間の無事を祈ろう」

 

「そうですね。司令直属班の想定では、ジェネシスからの攻撃はいつくらいに……」

 

闇目さんを話をしていると、闇目さんのデュエルウェポンから電子音が流れはじめた。

どうやら緊急連絡か何からしい。

 

「……どうやらジェネシスからの伝達が本部にいったらしい。黒沢部長が応じない旨の返答をしたから……だろうな」

 

「ってことは……そろそろ始まるってことですか」

 

俺たちを含め、周りにいる司令直属班の人たちの表情が自然と険しくなっていく。

いよいよジェネシスの攻撃が始まるってわけだ……。

 

「この部屋は司令室に近い場所にあってな。司令直属班はそこを防衛するように配置されている。もし敵が来たとしてもここの部屋には入れないようするから安心してくれ」

 

「ありがとうございます」

 

これからみんなが戦うというのにここでじっとしてなければいけないというのは少し辛いが、作戦を台無しにしないためにも俺はここにいなければいけない。

特殊機動班のみんな……無事でいてくれよ……!

 

仲間のことを考えながらふと自分のデュエルウェポンに目をやると新着メッセージの表示がされていた。

結衣や颯、郷田さんからのメッセージだった。赤見班長から聞いて送ってくれたんだろう。

 

結衣からは丁寧に書かれた俺を鼓舞してくれる長文。そして、颯からは俺のことをからかいながらも心配してくれる文章。郷田さんからはグッジョブしている仕草を表した顔文字がひとつ。

特殊機動班のメンバーらしいメッセージがそれぞれ送られていた。

 

見ていると思わず笑みがこぼれる。

死ぬなよ……みんな。

 

返事をしようかとしているところに今度は大きな爆発音のような音が聞こえてきた。

それと同時にSFS内でサイレンの音が鳴り始める。

どうやら始まったみたいだ。返事は到底できそうにないな。

 

それと同時に部屋にいた司令直属班の人たちも臨戦態勢を取り始めた。

 

「いいか、遊佐隊員。何があっても絶対この部屋からは出るんじゃないぞ。例え味方の救難信号があったとしてもだ」

 

「わかってますよ。……だけどもし救難信号があったら助けにいってやってください」

 

「あぁ……。その時我々に余裕があればな。ベストは尽くす」

 

といってもここからじゃ前線の部隊に合流するのには時間がかかる。

闇目さんが微妙な表情をするのも無理はないか。

俺はデュエルウェポンの戦況報告情報を注視しながら戦いの行方を見守るのだった。

 

 

ーーここはSFS正面入口前。

眼前には大きな駐車場と屋外デュエルリングが広がっている。

 

「莉奈ちゃん。うちの班員はみんな準備OKだぜ!」

 

そう声をかけてくるのは私の部隊の一員である片岡だ。

年齢やSFSの入隊経歴からすると先輩にはなるけど、立場上私の方が上になる。

そのせいか……やたら馴れ馴れしく話しかけてくる。普段ならいいけど、今はそういう状況じゃない。

 

「片岡くん。作戦中は言葉遣いを気をつけて」

 

「あ、すまん……つい」

 

私も普段はくだけた喋り方をするけど、作戦中だけはできるだけ控えるようにしている。

生きるか死ぬかの戦いでは気の緩みが死に直結することもあるしね。

 

「野薔薇副班長。先ほど本部がジェネシスへ要求には応じない旨の返答したそうです。白瀬班長より配置につけとの伝令が」

 

「わかりました。では決闘機動第4班。配置につきましょうか」

 

私の班の伝令係の人から連絡を聞き私は皆へ指示を出す。

いよいよ始まるんだ……。あのジェネシスって組織との戦いが。

 

私は……デュエルテロ組織には大した力はないとずっと思っていた。

決闘機動班の私たちはいつもそのへんで悪さをしている小規模デュエルテロ組織を倒しているだけだったし、負けることなんてなかったから。

 

だけど、この間のイースト区の作戦ではじめてジェネシスって組織と対峙した時、私ははじめて恐怖を感じた。

遊佐くんと出会わなければ私は死んでいたし、なによりデュエルではまったく歯が立たなかったんだ。

 

そんなとんでもないやつとこれから対峙しなければいけない。もちろん怖くもあるけど、私はひとりじゃない。

絶対に私たちのSFSは守りきってみせる。

 

正直なところあのジェネシスの現実を見せられてからは特殊機動班に対する意識が変わった。

私たち決闘機動班の大半は特殊機動班のことを給料泥棒呼ばわりしてたけど、今思えばあんなに強いやつとずっと対峙してくれていたのだなって。

口だけだと思ってたけど、実際に遊佐くんは入隊したばっかりなのに強かったし、あの結衣ちゃんだって悔しいけど強かった。

だけど……私だって負けていない。だからこそ……今回の戦い絶対に逃げないよ……!

 

決闘機動班の配置はSFS正面玄関からVの字型に広がる陣形……いわば鶴翼の陣というところか。

その中で第4班の配置は右翼側の最前列。真っ先に敵と交戦する位置になる。

下手すれば全滅にもなるその位置……。だけど今回の作戦はVの字の中央部に配置された特殊機動班を囮にし、方位して撃破することにある。

私たちの部隊が集中砲火されることはないと信じたい。

 

それにしても気になるのは今日から配属された新人だ。

即戦力のための中途採用が多いのか大半は私より歳上だ。

こんな事態だというのにひどく落ち着いて迎撃準備を整えている。私だって少し緊張しているくらいなのに。

 

まだ本当の怖さってやつを知らないのかもしれないな。無駄死にだけはさせないようにしないと。副班長として。

まぁでも新人の役割は囮となった特殊機動班への援護攻撃。直接的なデュエルでの戦闘は桂希先輩の第1班と白瀬班長の本隊が行うことになってる。

そして敵の迎撃は私とか既存の隊員が行うことになってるからそんなに危険な目には合わないはずだ。

 

「全部隊に配置につきました! 各部隊、周囲の警戒をしてください!」

 

デュエルウェポンより本隊の人からの伝令が聞こえた。

いよいよってところか……。私の背後には救助護衛班の人と小早川副班長の率いる決闘機動第2班の人たち。そして、左側には特殊機動班。

ってあれ……。あそこには4人しかいないような……。ここからだとよく見えないけど誰か一人いない……?

 

結衣ちゃん退院したって聞いてたけどもしかしてまだ復帰できてないのかな? この戦い無事に乗り切ったらいじりにいってやろうっと。

 

特殊機動班の様子を眺めていると突然目の前が真っ白に光りだす。

それと同時に大きな爆発音が鳴り響いた。

ジェネシスの攻撃がはじまった……? 場所はどっちだろう。

あたりを見渡していても敵らしき存在は見受けられない。

 

「空だ!」

 

誰かの叫びに思わず空を見上げると大きな飛行機……いやUFOって言った方がいいのかな。

おそらく【巨大戦艦 ビック・コア】だろう。それが空中に何機か浮かんでこちらに向かって砲撃を開始していた。

 

すぐさま私は手元のカウンター罠【攻撃の無力化】をセットし、砲撃から身を守る。

早くあれをなんとかしないと……。

 

「決闘機動第4班、迎撃開始! 撃って!」

 

私の合図と共に私の仲間が自らの遠距離攻撃可能なモンスターを召喚し、攻撃を始める。

よし、攻撃は当たってる。でもモンスターがいるってことはそれを召喚している人物がどこかにいるはず……。

 

だけど辺りを見渡してもそれらしき人物は見当たらない。一体どこに……。

すると私の少し前方の地面に亀裂が出来始める。

 

「避けて!」

 

私が叫んだ瞬間、地面が大きく開き中から白いジェット機のようなドラゴン族モンスターが出現した。

そして、その穴の中から数十名のテロリストと思われる人物が現れ、それぞれモンスターを召喚し始める。

 

あのモンスターは……【シューティング・スター・ドラゴン】だ。忘れるわけもない。あのジェネシス幹部構成員が使っていた主力モンスター……。

まずい……。あいつはかなり強力だ。なんとしてでも止めないと……。

 

【シューティング・スター・ドラゴン】は目に見えぬほどのスピードで空を飛び、そして私の班員たちをひくように衝突していく。

これ以上やらせるものか……! 私は【ブラック・ローズ・ドラゴン】と【月華竜ブラック・ローズ】の2枚を取り出し召喚した。

 

「頼んだよ……攻撃!」

 

私の指示に従い、2体のドラゴンはテロリストたちに攻撃を始める。

しかし、【シューティング・スター・ドラゴン】には早すぎて追いつけない。

 

「おやおや、あの時のお嬢さんではありませんか。まだ生きていたとは」

 

「くっ……」

 

【シューティング・スター・ドラゴン】の主、オリバーって言ってたっけ。あいつが私の存在に気がつき近づいてくる。

 

「近づかせない……!」

 

私はさらにモンスターを追加で召喚し、オリバーへ攻撃を始める。

 

「一手遅いですねえ。罠カード【神風のバリアーエアフォース】!」

 

大きな突風が発生すると私の攻撃は宙へと受け流されてしまう。

既に罠を張られていたなんて……。このままじゃデュエルになってしまう。

戦うのもいいけど……そうすれば班員に指示を出せなくなってしまう。

今デュエルするのは避けた方がいい。

 

「莉奈……副班長には近づかせないぜ! いけ、【ブリキの大公】!」

 

オリバーの背後を突いて、片岡くんのモンスターがオリバーへ攻撃をしかける。

不意打ちが成功したのか、その剣はオリバーの体を切り刻んだ。

 

「うっ……。やりますねえ。ですがあなたも同じです」

 

オリバーがそう発言した後に今度は片岡の背後のテロリストが操るモンスターの攻撃によって片岡の体にたくさんの銃弾のようなものが打ち込まれていた。

 

「うはぁっ……。くっそお……」

 

「片岡くん!」

 

膝をついて苦しそうにしている片岡にテロリストの一人が近づき……そして、二人を囲うように障壁のようなものが現れ始める。

あれはデュエルがはじまった時に生じる不可侵領域を生み出すためのものだ。ということは片岡くんはテロリストにデュエルを仕掛けられたことになる。

 

「心配するなよ……いや、しないでください莉奈副班長! このくらい俺が倒してみせますから」

 

片岡くんを応援したいところだけど、もしここでデュエルになれば……あれだけテロリストがいっぱいいるんじゃ連戦になるのは明白だ。

負担をかけないようにデュエル以外の迎撃でなんとか戦力を減らしたいところだけど……相手の数は私の班の4倍近くはいる。

このままじゃ押し負けてしまう……。

 

「デュエルしている隊員が数名。敵との距離は徐々に接近してます。野薔薇副班長。どうしますか?」

 

「上空への攻撃を放棄します! 標的を眼前の部隊へ! 撃ってください!」

 

上の敵は他に任せよう。私たちの目の前には幹部構成員がいるんだ……! 優先すべきはそっち!

私の号令とあわせて再びブラックローズ達に攻撃を指示する。

上空への攻撃を行っていた仲間の攻撃も合わさり、オリバー率いるテロリスト達にはかなりの規模の攻撃となった。

 

「ふふふ……意外とやりますねえ。そろそろ……第二部隊、攻撃開始してください!」

 

オリバーがそう発言すると今度は私の足元に亀裂が入りはじめているのが見えた。

まずい……! そう思った時には既に遅く私の体は宙を舞っていた。

 

しばらくして地面に叩きつけられ体に大きな痛みが走る。

敵の規模は……? 早く迎撃しないと……。

痛みに耐えながらも起き上がり周りを確認すると今の攻撃に怯んだ味方に対し、敵の第二部隊が近づきデュエルをはじめているようだった。

そして、肝心のオリバー達はその後方からモンスターを召喚しつつゆっくりと近づいてくる。

覚悟を決めてデュエルを仕掛けるしかないかな……もしここで食い止めることができれば、SFSへの被害は最小限にできるし。

 

「私はここだ! ジェネシス! ペンダントの行方は私を倒さないとわからないぞ!」

 

突然、中央部の特殊機動班が大声を上げた。あれは赤見班長だろう。

その声に真っ先に反応したのは言うまでもなくオリバーだった。彼はにやりと不敵な笑みを浮かべると、侵攻方向を中央部へと変える。

 

思ったより動きが早かったな。作戦通りといえば作戦どおりだけどこんなに早く特殊機動班が動き出すとは思わなかった。

私の部隊の反対側に位置する坂戸副班長率いる決闘機動第3班がどういう状況かわからないけど、既にジェネシスの部隊を挟撃する準備はできているのかもしれない。

 

それはともかくとして今がチャンスだ。

オリバー達の本隊が標的を変えた今なら目の前の第二部隊を殲滅するチャンスだ。

 

「決闘機動第4班! デュエル攻撃へ移って!」

 

迷わず私は突撃号令を出す。

その声を聞いた班員達はジェネシスの部隊へと突撃していった。

さてと……あとはこのまま凌ぎ続けられればいいんだけど……。

この後の動きは特殊機動班が前線から撤退して、追撃しにきたジェネシスの部隊を叩く。シンプルな作戦だ。

だけど……仮にジェネシスが追撃してこなかった場合は失敗に終わってしまう。だからこそ特殊機動班がどのようなやり方で撤退するかが一番の問題となっているんだ。

 

様子が気になり特殊機動班の方を見てみると、そこには不思議な光景が広がっていた。

郷田副班長と赤見班長によるデュエルウェポンの攻撃。そして、その後方にはフードを被った人物が2名。

あれは一体……。遊佐くんと……確か上地って人だったかな。なるほど、影武者ってやつかもしれない。

 

さらにしばらく様子を見ているとそのフードを被った二人はデュエルウェポンに1枚のカードをセットする。

すると、その二人はその場から姿を消した。まさか……あれは【空間移動】のカード?

ってちょっとまって。ここからいなくなっちゃうんじゃ特殊機動班を囮にして挟撃する作戦はどうなるの?

せっかくの作戦が台無し……。私、聞いてないんだけど……。

 

「さぁジェネシス! お前らの狙っている遊佐 繋吾はSFS裏門へ移動した! こんなところで油売ってていいのか?」

 

続けて赤見班長が挑発するように言った。

攪乱作戦かな……? 白瀬班長からそんな話はなかった。ってことは特殊機動班の独断行動?

 

「なかなかに面白いことをしてくれる……。いいでしょう。第3部隊は裏門へ。私たちはこのまま正面突破しますよ!」

 

変わらずオリバーの率いる本部隊は特殊機動班へ攻撃を仕掛けるようだ。

赤見班長が攪乱作戦を仕掛けた理由は……わかりきってないけどおそらく敵部隊の分散が目的なのかな? 現状の兵力では勝ち目がないって判断したのかも。

実際のところ私の部隊もこれ以上の増援がきたらかなり厳しいし、私個人としては助かるかな。

 

「覚悟ぉ!」

 

気が付くと私のデュエルウェポンにはデュエルの文字が表示されていた。

特殊機動班に気を取られて近くにジェネシス構成員がいたのに気付かなかったみたい。

 

「残念だけど、覚悟してもらうのはあなたの方よ! デュエル!」

 

多くの人々の叫び声が聞こえる中、私の戦いもまもなく始まるのだった。

 

 

 

 

 



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Ep66 - 裏口の刺客 前編

現在、Ep1から内容の修正を随時行ってます。
ですので最新話の投稿は少し更新は遅くなるかもしれません。
よろしくお願いいたします。


ーーはじめて使ったけど……不思議な感じだ。【空間移動】ってカード。

 

今回私が使ったのはあらかじめ指定された場所にしか移動できず、SFSの中でしか使えない限定的なやつだけど、使った瞬間宙に浮いたような不思議な感覚に陥り、気が付けば場所が移されていた。

 

ジェネシスからSFSを守る大防衛戦。私と上地くんの二人は、繋吾くんの影武者として動き、敵を攪乱する役目を担っている。

 

あえて前線でアピールしたことであのジェネシスの人たちは私か上地くんのどっちかが繋吾くんだと勘違いしているはずだ。

あとはうまいこと赤見班長達が前線で戦ってくれればいいけど……。それに作戦内容を聞いていない決闘機動班の人たちが何をしでかすかわかったものじゃない。

 

きっと野薔薇さんなんかぶーぶー言ってるでしょう。あいつにはお似合いですね。なんにも知らないのでしょうから……。

 

それはそれとして……ここから先、赤見班長から言われた指示は二つ。

一つ目は無駄な交戦はしないこと。そして、二つ目は危なくなったら顔を隠すフードを取ること。

 

繋吾くんと思って狙ってくるのであればジェネシスは私を全力で潰しにくる。だからこそ下手に交戦はしないこと。

じゃないと……殺される可能性が高いから……。

 

それにいざという時は繋吾くんじゃないことを示すことで逃走を図る。

それでも情報を聞き出すために捕らえようとしてくるかもしれないけど。

 

でも今回の作戦で敵部隊を分散させたとして……それでもSFSは勝てるのだろうか。

きっと先ほどの挑発で敵の主力部隊は裏口へ侵攻経路を変えてくる可能性が高い。

 

だが、肝心の裏口の防衛は駐屯決闘班。

決闘機動班に比べれば戦いは慣れていない。

施設の防衛に関してはぴかいち……だなんて聞いたことはあるけど、実際にデュエルが強いという人物は駐屯決闘班では聞いたことがない。

だからこそ私は下手に顔を出さないほうがいいかもしれない……。駐屯決闘班の人を混乱させてしまうし、判断を誤れば全滅してしまうかもしれない。

 

私は裏口へ転移後、廊下に配置された大きな棚の影に身を潜め、裏口の様子を伺うことにした。

 

ざっと見る限り駐屯決闘班は40~50人くらいだろうか。班長である斉藤部長の姿も見える。

その様子は少しざわついていた。きっと正面口の決闘機動班より特殊機動班の行動について連絡を受けたのかもしれない。

 

あぁ……また特殊機動班が問題視されてしまうのだろうな……。だけど今回の作戦は司令直属班も関わってる。

赤見班長はあの斉場副班長って人のことを信頼してたみたいだけど……本当に大丈夫なのかな。少し心配だ。

 

それはそうと繋吾くんは今頃どうしてるんだろう。

司令直属班が責任を持って守るらしいけど。彼のことだからきっと何か起きればじっとなんかしてられないんじゃないかな。

メッセージは送ってみたけど返事はこないし……少しくらい状況を教えてくれたっていいのに。

 

突然、大きな叫び声が聞こえてきて裏口に目を向ける。

どうやらジェネシスの構成員たちが現れたみたいだ。斉藤部長が何か叫んでいる。

いよいよこちらも戦闘開始ってところだろうか。

 

しかし、しばらく経っても駐屯決闘班の人たちは出入り口付近から一切動こうとしていなかった。

それに本来真っ先に聞こえそうなデュエルウェポンでの戦闘する音もまったく聞こえてこなかった。

一体何が起きているんだろう……。

 

「次はどいつだ! かかってきやがれ!」

 

外から男の人の叫び声が聞こえる。

気になった私は棚の影から出ていき、裏口の窓から外を見る。

するとそこには多くのジェネシス構成員を前に仁王立ちするフードを被った人物が立っていた。

うん……あれはきっと上地くんだ。下手な交戦は避けろって言われていたのに何をしているんだか……。

 

だけど……彼の前には倒れたジェネシス構成員が数名。それに他の構成員も上地くんを前にそれ以上攻めてこようとしない。

そんなにデュエルが強かった印象はなかったけど……随分と調子がいいみたい。

その様子を見ていた駐屯決闘班の人たちは特殊機動班を賞賛するような声を上げていた。

 

私たちにとってはいいことなんだろうけど……ちょっと妙な光景に違和感は感じる。

だけどもしかしたら……ジェネシスも部隊によってはこの程度なのかもしれないな。

 

上地くんがギブアップするまではこのままでもいいかもしれない。もうしばらく様子を見ていよう……。

 

「あなた、特殊機動班の方ですよね?」

 

「え……」

 

突然、見知らぬSFS隊員の男性から声をかけられる。

駐屯決闘班の人だろうか。

 

「いや、フードを被っていたのでそうかなと……」

 

「あなたはどこの配属ですか?」

 

「あー……私は決闘機動班所属の栗下って言います。あなたは?」

 

「……名乗るほどのものではありません。それで私に何か用ですか?」

 

すると男性は少し考えた仕草をし、デュエルウェポンをいじりだす。

しばらくすると再び私の方を向いて口を開いた。

 

「裏口部隊の状況の偵察に来たのですが、こちらは大丈夫そうですね。それで……敵部隊の攪乱のためあなたには再び正面口へ向かっていただきたいのですけども」

 

「私が……?」

 

決闘機動班も私たちの目的が攪乱であることはわかったってことなのかな。

ターゲットは裏口だと思わせて再び正面口に行けば、更なる攪乱効果は見込めるかもしれない。

だけどなぜわざわざ裏口にまで人を割いたんだろう? その連絡だけならデュエルウェポンの通信機能で話せばよかったのに。ましてや正面口の方は激しい戦闘の真っ最中だろうし……。

 

「ええ。早くしないと敵が裏口に回ってしまいます。急いで!」

 

その男性は急かすようにして私の腕を掴み引っ張り出す。

 

「離してください。私は決闘機動班に指図される筋合いはありません」

 

「ちっ……」

 

私が反抗するとその男性は舌打ちをし、今度は力強く突き飛ばしてきた。

突然の出来事に対応できず、私はその場で尻餅をついてしまう。そして、その反動で私の被っていたフードがめくられ私の素顔が明らかとなってしまった。

 

「もう少し人気のないところでやるつもりだったが仕方ねえ。性別も違うのに影武者なんて務まると思ってんじゃねえよガキが!」

 

「……っく!」

 

その男はいきなりデュエルウェポンを構えだした。そして、私の周りにはデュエルによる不可侵領域が広がっていく。

 

やっぱり怪しいと思った。

よくよく考えれば決闘機動班の連中は自らを名乗る時は決闘機動第○班といった所属班まで答えるはずだ。この人はそれを知らない。

ってことはSFS関係者ではないってことになる。おそらくジェネシスの構成員だろうか。

仕方ない……戦うしかないか。

 

「お前には遊佐 繋吾を引きずり出す餌になってもらうとするか! へっへ」

 

「誰のことだかわかりませんが、ジェネシスの構成員なら容赦しません」

 

「そっちもお見通しってわけか。いいぜ、デュエル!」

 

栗下 手札5 LP4000

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー 

ーーーーー

ーーーーー

結衣 手札5 LP4000

 

先攻は相手みたいだ。

まずは相手の出方を見て、どういうタイプのデュエリストか見極める……!

 

「んじゃ、俺のターン。【ハイドロゲドン】を召喚! カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

ーーー

【ハイドロゲドン】☆4 水 恐竜 ③

ATK/1600

ーーー

 

栗下 手札2 LP4000

ー裏ー裏ー

ーーモーー

 ー ー 

ーーーーー

ーーーーー

結衣 手札5 LP4000

 

相手の場に現れたのは攻撃力1600の奇妙な形をした恐竜モンスター。

攻撃力はあまり高くないけど……おそらくあの伏せカードで何かしらの迎撃を取るって感じかしら。

迂闊に攻めれば思わぬ反撃を受けるかもしれないな……。

 

「私のターン、ドロー。【魔界発現世行きデスガイド】を召喚! このカードが召喚に成功した時、デッキからレベル3の悪魔族モンスター1体を特殊召喚できます。来てください、【エッジインプ・シザー】!」

 

ーーー

【魔界発現世行きデスガイド】☆3 闇 悪魔 ③

ATK/1000

ーーー

【エッジインプ・シザー】☆3 闇 悪魔 ④

ATK/1200

ーーー

 

「そして、現れてください。心を変えるサーキット! 私は【デスガイド】と【エッジインプ・シザー】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン。リンク召喚、リンク2。【彼岸の黒天使 ケルビーニ】!」

 

ーーー

【彼岸の黒天使 ケルビーニ】リンク2 闇 天使 EX①

ATK/500 左下 右下

ーーー

 

「【ケルビーニ】の効果を発動します。デッキからレベル3のモンスター1体を墓地へ送り、そのモンスターの攻撃力分エンドフェイズ時まで自身の攻撃力を上げます。私は【魔神童】を墓地へ送ります。このカードの攻撃力は0……ですが、この【魔神童】は墓地へ送られた時、場に裏側守備表示で特殊召喚されます」

 

ーーー

【魔神童】☆3 闇 悪魔 ③

DEF/2000

ーーー

 

「だがその程度では俺の【ハイドロゲドン】すら倒せねえようだな。そんな雑魚並べてどうするって言うんだ?」

 

「そんなこと言っていられるのも今のうちですよ。私はカードを2枚伏せて、ターンエンドです」

 

栗下 手札2 LP4000

ー裏ー裏ー

ーーモーー

 リ ー 

ーー裏ーー

ー裏ー裏ー

結衣 手札3 LP4000

 

「なんだよ……口ほどでもねぇみたいだな。とっとと倒して遊佐 繋吾のところに案内してもらうぜ! 俺のターン、ドロー! 【魂喰いオヴィラプター】を召喚! このカードは召喚した時、デッキから恐竜族モンスターを手札に加えられる! 俺は【オキシゲドン】を手札に加えるぜ」

 

ーーー

【魂喰いオヴィラプター】☆4 闇 恐竜 ②

ATK/1800

ーーー

 

レベル4のモンスターが並んだけどエクシーズ召喚でもしてくるのかな。リンク召喚の可能性もある。

いよいよ相手の主力モンスターがわかるかもしれない。

そのモンスターを見極めなければデュエルに遅れを取ってしまう。

 

もう……デュエルに負けて痛い思いはしたくない。それに……私が負ければ繋吾くんに迷惑をかけることになる。

どんなモンスターが来ようと絶対に負けない……!

 

「何やら随分身構えているみたいだが、このままバトルに入らせてもらうぜ。【ハイドロゲドン】で【ケルビーニ】を攻撃! ハイドロ・プレッシャー!」

 

「え……くっ!」

 

何も出さずに攻撃? 私の予想は大きく外れることとなった。

あの人は私の伏せモンスターの【魔神童】の守備力を知っているはず……。現状のモンスターでは倒せないからてっきり何かモンスターを出してくるかと思った。

だけど少し予想が外れただけ。取り乱さないようにしないと。ただの下級モンスターの攻撃に過ぎないのだから。

 

やがて、【ハイドロゲドン】の口から放たれた水流が【ケルビーニ】へ被弾し、そのダメージが私の体に襲いかかる。

 

【ハイドロゲドン】

ATK/1600

【彼岸の黒天使 ケルビーニ】

ATK/500

 

結衣 LP4000→2900

 

「これだけじゃないぜ。【ハイドロゲドン】の効果発動! 戦闘で相手モンスターを破壊した時、デッキから同名モンスターを呼び出す。いでよ、2体目の【ハイドロゲドン】!」

 

ーーー

【ハイドロゲドン】☆4 水 恐竜 ④

ATK/1600

ーーー

 

なるほど。あのカードは自身の効果でモンスターを増やせたのか。だから先にバトルフェイズに入ったのかもしれない。

ということはメインフェイズ2に本命のカードが……。

 

「続けて俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「え……?」

 

まだ何も出してこない……? 何を狙っているのかな。

想定外のプレイングに私は不抜けた声をあげてしまう。

もしかして……EXデッキから出せるモンスターを持っていないとか……? そうなれば現状下級モンスターしかいない相手のデッキはかなりレベルが低いこととなる。

そんなに苦労しなくても勝てるかもしれない。

 

「なんか文句あるのか? おい」

 

「いえ、大したデュエリストじゃないと思っただけです」

 

「んだと? 口だけは達者なやつだな……。ならたっぷりと痛い目にあわせてやらねえとな……?」

 

そんな子供じみた脅し私に効くものですか。

私は私のデュエルをするだけでいい。深いことは考えないようにしよう。いつもどおりにやれば勝てる相手だ。

 

栗下 手札2 LP4000

ー裏裏裏ー

ーモモモー

 ー ー 

ーー裏ーー

ー裏ー裏ー

結衣 手札3 LP2900

 

「弱い人に用はありません。私のターン、ドロー。手札より【ティンダングル・エンジェル】を召喚。そして、【魔神童】を反転召喚し、リバース効果を発動します。デッキから悪魔族モンスターである【ティンダングル・イントルーダー】を墓地へ送ります」

 

ーーー

【ティンダングル・エンジェル】☆4 闇 悪魔 ②

ATK/500

ーーー

【魔神童】☆3 闇 悪魔 ③

ATK/0

ーーー

 

「来てください、心を変えるサーキット! 私は【ティンダングル・エンジェル】と【魔神童】の2体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚、【サブテラーマリスの妖魔】!」

 

ーーー

【サブテラーマリスの妖魔】リンク2 地 幻竜 EX①

ATK/2000 左下 右下

ーーー

 

「【サブテラーマリスの妖魔】の効果を発動します。デッキからリバースモンスター1体を墓地へ送ることで、手札のモンスター1体をこのカードのリンク先に裏側守備表示で特殊召喚できます。私はデッキより【魔神童】を墓地へ送り、手札のモンスター1体をセット! さらに、墓地へ送られた【魔神童】は裏側守備表示で場に特殊召喚できます。そして、それに反応し、墓地に存在する【ティンダングル・イントルーダー】は墓地から裏側守備表示で特殊召喚することができます!」

 

ーーー

【魔神童】☆3 闇 悪魔 ②

DEF/2000

ーーー

【ティンダングル・イントルーダー】☆6 闇 悪魔 ①

DEF/0

ーーー

 

「ちっ……わらわらとモンスターが増えてきたか……。だけど裏守備じゃ恐れることはねぇな?」

 

「甘いですね。バトルフェイズに入りリバースカードオープン。永続トラップ、【ゴーストリック・ロールシフト】を発動! バトルフェイズに一度私の場の裏側守備表示モンスターを表側攻撃表示にできます。これにより【ティンダングル・イントルーダー】を攻撃表示に。この時、リバース効果が発動し、デッキから"ティンダングル"モンスター1体を手札に加えることができます。さらに【サブテラーマリスの妖魔】の効果発動! リンク先のモンスターがリバースした時、デッキからリバースモンスター1体を手札に加えられます。これで私は【ティンダングル・ベース・ガードナー】と【魔神童】の2枚を手札に加えます」

 

「攻撃モンスターを増やすと同時に手札も増やしやがったか。まぁいい。そのくらいは許してやるよ」

 

「……では、あなたのモンスター、倒させていただきます。【ティンダングル・イントルーダー】で【魂喰いオヴィラプター】を攻撃! ダーク・ディフューザー!」

 

【ティンダングル・イントルーダー】

ATK/2200

【魂喰いオヴィラプター】

ATK/1800

 

相手に強力なモンスターを出させる前に各個撃破して優位に立つまで……!

問題はあの伏せカードが何か……だけど。

 

「ならばリバースカードオープン。トラップカード、【立ちはだかる強敵】を発動! 相手の攻撃宣言時に発動でき相手はこのターン、俺の指定するモンスターにしか攻撃することができなくなるぜ! 俺はそのまま【魂喰いオヴィラプター】を選択!」

 

私は元々【魂喰いオヴィラプター】を攻撃対象に選択していた。

それなのにあえて使ってきたということは、【ハイドロゲドン】を守りきりたかったから……かな?

【立ちはだかる強敵】の指定モンスターがいなくなれば私は攻撃対象を失い、もうバトルの続行が不可能になる。

つまり【サブテラーマリスの妖魔】で【ハイドロゲドン】を攻撃することができなくなるってことだ。

ただのその場しのぎか……それとも何か考えがあってのことか……。一応警戒はしておいた方がよさそうだな。

 

「いいでしょう……ならばそのまま攻撃! 受けてください!」

 

「ちぃっ……」

 

栗下 LP4000→3600

 

「メインフェイズ2、私の場に裏側守備表示モンスターがいる時、手札の【ティンダングル・ベース・ガードナー】は特殊召喚できます。そして、再び来てください。心を変えるサーキット! 私は【サブテラーマリスの妖魔】と【ティンダングル・イントルーダー】と【ティンダングル・ベース・ガードナー】の3体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚! 閉ざされた闇を開く、撃鉄の号砲打ち鳴らせ! リンク4、【ヴァレルガード・ドラゴン】!」

 

ーーー

【ヴァレルガード・ドラゴン】リンク4 闇 ドラゴン EX1

ATK/3000

ーーー

 

朱色に光る透き通る翼を宿し、銃口のような顔を持つドラゴンモンスターが出現する。

このカードは好きなタイミングで場のモンスターを表側守備表示にできる。つまり、いつでもリバース効果が使えるってことだ。

次のターンに主力モンスターを出して、一気に勝負を決めてみせる……!

 

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンドです」

 

 

栗下 手札2 LP3600

ー裏ー裏ー

ーモーモー

 リ ー 

ー裏裏ーー

ー裏裏罠ー

結衣 手札2 LP2900

 

 

 

 



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Ep67 - 裏口の刺客 後編

栗下 手札2 LP3600

ー裏ー裏ー

ーモーモー

 リ ー 

ー裏裏ーー

ー裏裏罠ー

結衣 手札2 LP2900

 

「んじゃ、俺のターンだな。ドロー」

 

再びあの男のターンがはじまる。

EXデッキからモンスターを出さないとすると……メインデッキに大型モンスターがいる可能性が高い。

既に相手の場にはモンスターが2体以上いる。リリースするモンスターには十分だ。

 

だけどもちろんばっちり対策はしてある。私の伏せカード2枚を使えば大抵のカードには対応できるはずだ。

 

「永続トラップ発動! 【リビングデッドの呼び声】! 墓地から【魂喰いオヴィラプター】を特殊召喚し、再び効果を使わせてもらうぜ。デッキより【デューテリオン】を手札に加える。そして、この手札に加えた【デューテリオン】を墓地へ送ることでデッキから魔法カード【ボンディングD2O】を手札に加える!」

 

ーーー

【魂喰いオヴィラプター】☆4 闇 恐竜 ③

ATK/1800

ーーー

 

モンスターを経由して見知らぬ魔法カードを加えてきた。

あのカードになにか秘策があるのだろうか。

 

「まだまだこんなもんじゃないぜ。魔法カード【トランスターン】を発動! 場の【ハイドロゲドン】をリリースして、そのモンスターと種族、属性が同じでレベルの一つ高いモンスターを特殊召喚する! いでよ、【デューテリオン】! そして、【デューテリオン】が特殊召喚に成功した時、墓地よりもう1体の【デューテリオン】を特殊召喚できる!」

 

ーーー

【デューテリオン】☆5 水 恐竜 ①と②

ATK/2000

ーーー

 

これでモンスターは4体並ぶこととなった。ここからどうしてくるつもりなのだろう。

 

「さぁて……そろそろお遊びは終いだ。覚悟してもらうぜ、女! 魔法カード【ボンディングD2O】を発動! フィールドか手札から【デューテリオン】2体と【オキシゲドン】を墓地へ送ることでそのモンスター達を合体させる! デッキからいでよ……【ウォーター・ドラゴンークラスター】!」

 

ーーー

【ウォーター・ドラゴンークラスター】☆10 水 海竜 ②

ATK/2800

ーーー

 

【デューテリオン】と【オキシゲドン】がそれぞれ形を崩し混ざり合うと、徐々にその姿は激しく水しぶきをあげる竜へと姿を変えていく。

どうやらあれがあの男のエースモンスターみたい。ここからが本当の勝負ってことですね……。

 

「へっ、んじゃこいつの効果をとくと味わってもらうとするか! 【ウォーター・ドラゴンークラスター】の効果発動! 相手の場のモンスターはこのターン効果が発動できず、攻撃力は0となるぜ! 受けてもらうぜ、【ヴァレルガード・ドラゴン】!」

 

効果を封じるだけでなく、攻撃力まで0にしてくるなんて……。

このままじゃ私のライフを大幅に削られることになってしまう。それは避けないと。

 

「甘いですよ。リバースカードオープン。【迷い風】を発動します! 相手の特殊召喚されたモンスターの効果を無効にし、その攻撃力を半分にします!」

 

このカードの効果で【ウォーター・ドラゴンークラスター】の効果を封じてしまえば、私のモンスターは弱体化することはない。

したがって、相手は無駄にカードを4枚も消費しただけという結果に終わることとなる。

 

「当然、効果対象は【ウォーター・ドラゴンークラスター】です!」

 

「甘いのはおめえだよ! 【ウォーター・ドラゴンークラスター】の更なる効果を発動! 自身をリリースして、デッキから【ウォーター・ドラゴン】2体を守備表示で特殊召喚する! さぁ、分離せよ! 【ウォーター・ドラゴン】!」

 

ーーー

【ウォーター・ドラゴン】☆8 水 海竜 ①と②

DEF/2600

ーーー

 

これは……見事にかわされてしまった。まさか分離効果も持っているなんて……。

【ウォーター・ドラゴンークラスター】が墓地へ送られてしまったことで【迷い風】は対象不在となり、不発に終わる。

つまり……【ウォーター・ドラゴンークラスター】の効果は無効にできず有効……ということだ。さすが大量のカードを消費して出したモンスターなだけはある。

 

【ヴァレルガード・ドラゴン】

ATK/3000→0

 

「やってくれますね……」

 

「へっ、所詮強がってるてめぇのデュエルはそんなもんだ。んじゃとことん痛ぶってやろうか……。トラップ発動! 【重力解除】! 場の表側表示モンスターの表示形式を変更する! 起き上がれ、【ウォーター・ドラゴン】!」

 

まさかあの男はここまでの展開を想定して……。分離後に守備表示となる【ウォーター・ドラゴン】を戦わせるカードを用意していたなんて。

【ヴァレルガード・ドラゴン】はリンクモンスターゆえに守備表示はない。したがって、相手のモンスターだけが変更されることとなる。

 

「【ハイドロゲドン】を攻撃表示に変更して、バトルだ! 【ウォーター・ドラゴン】で【ヴァレルガード・ドラゴン】を攻撃! "ハイドロ・カノン!"」

 

【ウォーター・ドラゴン】より渦巻いた大きな水流が放たれる。

だけど……私の伏せカードはもう1枚ある。こっちだってそう簡単にはいかないってところを見せてあげます!

 

「慢心が過ぎますよ。リバースカードから【つり天井】を発動します! 場にモンスターが4体以上いる時、場の表側表示モンスターを全て破壊します!」

 

「ちっ、おめえの場は【ヴァレルガード・ドラゴン】以外は裏側表示……。ってことは破壊されねぇってわけか」

 

「それだけじゃありません。【ヴァレルガード・ドラゴン】はカードの効果によっては破壊されません。つまり、あなたのモンスターだけが破壊されるってことですよ」

 

「ほう……」

 

上空に大きな針山が出現し、場のモンスターを押しつぶすように降下する。

やがて、その針が【ウォーター・ドラゴン】達へ接触し、大きな破裂音とともに消滅した。

 

「あなたの戦術は全て無駄に終わったということです。やはり大したことはないですね」

 

「……へへへ……。馬鹿が!」

 

「え……?」

 

男の様子に不審がっていると、殲滅したはずの相手の場にモンスターが出現し始める。

これは一体……。

 

「大したことねえのはてめえだって言ってるだろ? 【ウォーター・ドラゴン】は破壊された時に、分離する効果がある。墓地から【ハイドロゲドン】2体と【オキシゲドン】1体を特殊召喚させる効果がな!」

 

ーーー

【ハイドロゲドン】☆4 水 恐竜 ①と②

ATK/1600

ーーー

【オキシゲドン】☆4 風 恐竜 ③

ATK/1800

ーーー

 

嘘……。これだけ防御カードを駆使したのに無力化しきれないなんて……!

それに私の【ヴァレルガード・ドラゴン】は攻撃力0の状態で生き残ってしまっている。まずい。

 

「お前みたいな生意気なガキには教育が必要みてえだな。やれ、【オキシゲドン】。【ヴァレルガード・ドラゴン】を攻撃! "エアー・ストリーム!"」

 

「くっ……!」

 

結衣 LP2900→LP1100

 

私の【ヴァレルガード・ドラゴン】が破壊されると同時に、突風が私を目掛けて吹き荒れる。

やがて体中に針を刺されるような痛みが襲いかかってきた。

 

痛い……痛いよ。これを受け続けたらあの国防軍基地でリリィと戦った時みたいに……私は……。

デュエルウェポンでのダメージを受けたせいか、あの時の記憶が蘇ってくる。

 

デュエルって……こんなに痛いのに……嫌で泣きたいくらいなのに……なんで私は戦っているのだろう?

だんだんわからなくなってくる……。もうあの時みたいな痛い思いはしたくはないはずなのに……。

負けたら今度こそ私は死ぬ。今回は繋吾くんだって助けには来てくれない。

 

「へっ、すっかり戦意喪失かよ。まだまだたっぷり痛ぶってやるよ! 【ハイドロゲドン】、セットモンスターへ攻撃! "ハイドロ・プレッシャー!"」

 

相手の攻撃で私の伏せていた【ジェット・シンクロン】が破壊された。

だけど……私はそんなことはどうでもよくなってきていた。

 

「【ハイドロゲドン】の効果でデッキから3体目の【ハイドロゲドン】を特殊召喚するぜ!」

 

ーーー

【ハイドロゲドン】☆4 水 恐竜 ④

ATK/1600

ーーー

 

「残りの伏せモンスターは守備力2000の【魔神童】か。まぁ仕方ねえ。俺はメインフェイズ2に入り、魔法カード【死者蘇生】を発動! お前のその【ヴァレルガード・ドラゴン】を俺の場に復活させるぜ!」

 

ーーー

【ヴァレルガード・ドラゴン】リンク4 闇 ドラゴン ⑤

ATK/3000

ーーー

 

あぁ……まただ。また私のモンスターが奪われていく。

リリィと戦った時も結局私は自分の大切なモンスターを取り返すことができなかった。

今回もきっとそうだ……。私は自分の大事にしてきたカードに殺されるんだ……。

 

「あぁその死んだような表情たまらねえな! 生意気な奴ならなおさらだぜ。もっと絶望的な状況に追い込んでやるよ! 俺はレベル4の【ハイドロゲドン】2体をオーバーレイ! そして、【オキシゲドン】と【魂喰いオヴィラプター】の2体もオーバーレイ! エクシーズ召喚! 完全制圧してやるよ! いでよ! 【エヴォルカイザー・ラギア】! 【エヴォルカイザー・ドルカ】!」

 

ーーー

【エヴォルカイザー・ラギア】ランク4 炎 ドラゴン ④

ATK/2400

ーーー

【エヴォルカイザー・ドルカ】ランク4 炎 ドラゴン EX②

ATK/2300

ーーー

 

続けて炎のヴェールのようなものを纏った2体のドラゴンモンスターが出現する。

いかにも強力そうなモンスターだ……。

 

「【エヴォルカイザー・ラギア】はオーバーレイユニットを2つ使って相手の魔法、罠もしくはモンスターの召喚、特殊召喚を無効にできる。そして、【エヴォルカイザー・ドルカ】はオーバーレイユニットを1つ使って、相手のモンスター効果を無効にできる。もはやてめえにはもう何もできねえってことだよ!」

 

そんな……。召喚も、魔法カードも罠カードも無効。頑張ってモンスター出してもその効果も無効だなんて。

それに【ヴァレルガード・ドラゴン】がいる限り、私のモンスターを守備表示に変えられてしまう。

 

はぁ……やっぱり私って弱いんだな。絶望的なフィールドを見て私はますます卑屈になってしまう。

頑張って特訓しても……強がってみせても……結局私は弱くって……人に迷惑をかけるだけなんだ。

今回だって私が負けたら繋吾くんの居場所がばれて、そして……SFSはジェネシスに負ける……。私のせいで。

こんな私なんか死んでしまった方がいいのかもしれない。そう……やっぱりあの時、リリィに負けて私は死ぬべきだったんだ。

死んでしまえば、痛い思いだってもうしなくていいんだし……。ここで繋吾くんの居場所を吐かされるくらいなら、自分で死んでしまった方がいいのかもしれない。

 

デュエルウェポンに水滴がついているのを見て、私の頬に涙が垂れていることに気が付く。あぁ……また泣いちゃっているんだな私。

世間のみんなが私のことを悪く言っていたように、やっぱり私はこの世には不要な存在だったんだ。

赤見班長や繋吾くんみたいな親切な人に会ってしまって夢でも見てたのかな私……。もう疲れちゃった。

 

「へっへ! 次のターン抜群の悲鳴を聞かせてもらおうか……女!」

 

あの男は相変わらず私を痛みつけて喜んでいるみたいだ。

あんな卑劣な男にやられるくらいなら、自らサレンダーしてやる。もう終わりにしよう……。

 

するとデュエルウェポンから電子音が鳴り響いた。

その音に気づきデュエルウェポンに視線を向けるとそこには新着メッセージ1件と表示されていた。

宛先を見るとそこには繋吾くんの名前が書かれていた。私のメッセージに返事してくれたんだ……。

 

"ありがとう、俺のことは心配しなくて大丈夫だ。それよりも結衣の方こそ絶対に死ぬなよ。お前はひとりじゃないんだ。俺たちがついてる"

 

そう……そうだよね……。死んじゃったらもう……夢を見ることもできなくなっちゃうじゃない。

繋吾くんはこんな私でもちゃんと一人の人間として見てくれた。

なら……別にいいじゃない。人に迷惑かけたって。世間から嫌われていたって。私が強がっているだけの弱い奴だって。私には大事な仲間がいるんだ……!

 

私はそう……大事な仲間とこれからも一緒に過ごすために戦う! 例え痛い思いをしたとしても……周りに迷惑をかけたとしても……私はせっかくできた"かけがえのない自分の居場所"を守るために戦うんだ!

 

「うわあああああああ!!」

 

「うおっ!? なんだよ! いきなり叫びやがってびっくりするじゃねえか」

 

「知るかあ! 私はもう絶対に振り返らない! 私は私だ! 周りなんて知ったことかあ! あなたがEXデッキからモンスターを出した時、墓地の【迷い風】は場にセットすることができます!」

 

そうですよ……私は周りを気にしすぎなんです。

それでどんどん卑屈になっていく。もっと自分勝手に生きればそれでいい。弱いから強がっちゃいけないなんて誰が決めたんだ。

私の望んでいることは……この男に勝って赤見班長や繋吾くんに会いたい。それだけだ。

そのためならいくらでも痛い目にあってやりますよ……!

そんな単純なことさえ私はひとりだと気づけなかった。だけど私はもうひとりじゃない。

だから……待っててください。繋吾くん……。

 

「ちっ、だがお前にはもうどうしようもできねえはずだ! 俺はこれでターンエンド!」

 

 

栗下 手札0 LP3600

ー罠ーーー

ーーーエリ

 ー エ 

ーー裏ーー

ー裏ー罠ー

結衣 手札2 LP1100

 

もう迷わない! このドローがどんな結果だとしても私の頭の中で考えうる最善の方法で戦うだけ!

 

「私のターン、ドロー!」

 

このカードは……! 私の覚悟にデッキが答えてくれたのかもしれない。

ここは……行くしかない!

 

「まずはトラップ発動! 【迷い風】! 【エヴォルカイザー・ラギア】の効果を無効にします!」

 

「仕方ねえか。【エヴォルカイザー・ラギア】の効果発動! オーバーレイユニットを全て使い、【迷い風】を無効にし、破壊する!」

 

「これでそのモンスターはもう木偶のぼうとなりました。【魔神童】を反転召喚し、さらに手札の【魔神童】を通常召喚!」

 

ーーー

【魔神童】☆3 闇 悪魔 ②と③

ATK/0

ーーー

 

効果を使えば【エヴォルカイザー・ドルカ】の効果が発動し、私のモンスターは破壊されてしまう。

ここは我慢だ。

 

「せっかくのリバース効果も使えば死ぬだけだ。そんな雑魚モンスターばかり出したところでどうしようもねぇよ」

 

「うるさい! 私はレベル3の【魔神童】2体でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! "暗影より出でし冷酷なる悪魔よ! 黒白の牙を持ちて暗闇を穿て! エクシーズ召喚! ランク3 【ゴーストリック・アルカード】!"」

 

ーーー

【ゴーストリック・アルカード】ランク3 闇 アンデッド EX①

ATK/1800

ーーー

 

「攻撃力たかが1800かよ! 効果でも使うか? 無効になるけどな!」

 

「そんな馬鹿な発言するのはあなたくらいですよ。私はさらに【ゴーストリック・アルカード】1体でオーバーレイネットワークを再構築! "闇夜を羽ばたく嘲笑の翼よ! 悪戯の幻想より舞い降りて! ランクアップ、エクシーズチェンジ! ランク4、【ゴーストリックの駄天使】!"」

 

ーーー

【ゴーストリックの駄天使】ランク4 闇 天使 EX①

ATK/2000

ーーー

 

「ちっ……ランクアップをしてくるとはな……」

 

「エクシーズ使いを舐めないでください……! そしてこれも通過点に過ぎません! 魔法カード【RUMーヌメロン・フォース】を発動! 場のエクシーズモンスターを一つ上のランクへランクアップさせます! "闇夜に凍てつく漆黒の翼よ! 氷獄の旋律打ち鳴らし、終わりなき闇を開け! ランクアップエクシーズチェンジ! 来てください! 【CNo.103 神葬零嬢ラグナ・インフィニティ】!"」

 

ーーー

【CNo.103 神葬零嬢ラグナ・インフィニティ】ランク5 水 天使 EX①

ATK/2800

ーーー

 

「攻撃力2800か……だが、それでも俺の場にはてめぇからもらった【ヴァレルガード・ドラゴン】がある。無駄なあがきってことよ」

 

「ふふっ、それはどうでしょうか。【RUMーヌメロン・フォース】の更なる効果発動! 場の表側表示カードの効果を全て無効化します!」

 

「なんだと……? それじゃ俺の【エヴォルカイザー・ドルカ】も【ヴァレルガード・ドラゴン】も効果を使えねぇってことか……!」

 

「ええ。そして、私は魔法カード【おろかな埋葬】を発動します。デッキから【暗黒魔族ギルファー・デーモン】を墓地へ送ります」

 

「くそっ……なんだこれは……!」

 

男が驚く視線の先は、私から奪っていった【ヴァレルガード・ドラゴン】だった。

そこには先ほどまでの覇気はなく、手足には邪気のようなものが纏っていた。

 

「私は今墓地へ送った【暗黒魔族ギルファー・デーモン】の効果を使いました。このカードは墓地へ送られた時、場のモンスターに攻撃力を500ポイントダウンさせる装備魔法として装備されます」

 

「これで【ヴァレルガード・ドラゴン】の攻撃力を上回ったってことか……」

 

「ですが、それだけじゃありません。【ラグナ・インフィニティ】の効果を発動! 1ターンに1度、攻撃力が変動しているモンスターを対象にし、その元々の攻撃力との差分のダメージを相手に与え、そのモンスターを除外します! "ブローデッド・アンガー!"」

 

【ヴァレルガード・ドラゴン】に氷の結晶が纏わり始める。そして、そこに【ラグナ・インフィニティ】が手に持つ鎌を振り払うとその結晶が爆発し、【ヴァレルガード・ドラゴン】は消滅していった。

 

「ぐおわあ!」

 

栗下 LP3600→LP3100

 

奪い返せぬのならせめて私の力で倒すまで。ごめんね、【ヴァレルガード・ドラゴン】。

だけど、私のコンボはまだ終わっていない。ここからが本当の勝負。

 

「再び墓地へ送られた【ギルファー・デーモン】の効果を発動します! 今度は【エヴォルカイザー・ドルカ】に装備します!」

 

「くそ……これじゃ俺のモンスターは次々とやられちまう……!」

 

「バトルです! 【ラグナ・インフィニティ】で【エヴォルカイザー・ドルカ】を攻撃! "フリージング・サイス!"」

 

今度は赤黒いオーラを纏った鎌が【エヴォルカイザー・ドルカ】の喉元を引き裂いた。

 

【エヴォルカイザー・ドルカ】

ATK/2300→1800

【ラグナ・インフィニティ】

ATK/2800

 

「ぐっうおおお!」

 

栗下 LP3100→LP2100

 

「まだまだ! 私は【ギルファー・デーモン】の効果を発動し、最後に【エヴォルカイザー・ラギア】に装備させます!」

 

【エヴォルカイザー・ラギア】

ATK/2400→1900

 

なんとか巻き返せた。このままいければ勝てるかもしれない。

デュエルは最後まで何があるかわからない。繋吾くんが言ってた言葉だ。だからこそ私も最後まで諦めずに戦おう。

 

「私はこのままターンエンドです」

 

栗下 手札0 LP2100

ー罠ーーー

ーーーエー

 エ ー 

ーーーーー

ーモー罠ー

結衣 手札0 LP1100

 

「ちくしょう、俺のターン。ドロー! へっ、俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

よかった、相手は伏せカードを増やしてきただけ。私のモンスターを超えられるようなカードは引けなかったみたいだ。

ならば、この隙を逃す手はない。

 

「ならばあなたのターンに【ラグナ・インフィニティ】の効果を発動! 【エヴォルカイザー・ラギア】を除外し、あなたには500のダメージを受けていただきます!」

 

「おのれえ……」

 

栗下 LP2100→LP1600

 

「そして、私のターン。ドロー! このままバトル。【ラグナ・インフィニティ】でダイレクトアタック! "フリージング・サイス!"」

 

これが通れば私の勝ち……。だけどあの男にはまだ1枚の伏せカードがある。

まだ終わるとは思えないな。

 

「トラップ発動! 【ボンディングDHO】! 墓地の【ハイドロゲドン】、【オキシゲドン】、【デューテリオン】をデッキに戻し、墓地から【ウォーター・ドラゴンークラスター】を特殊召喚するぜ!」

 

ーーー

【ウォーター・ドラゴンークラスター】☆10 水 海竜 ③

ATK/2800

ーーー

 

「効果でお前のモンスターの攻撃力は0になるぜ! 残念だったな?」

 

「くっ……攻撃はキャンセルします。私はカードを1枚伏せて、ターンエンドです」

 

だけどあのカードの効果はエンドフェイズ時まで。

次のターンは攻撃力が元に戻る。攻撃力は互角ってところか……。

 

栗下 手札0 LP2100

ー罠ーーー

ーーモーー

 エ ー 

ーーーーー

ー裏ー罠ー

結衣 手札0 LP1100

 

「よっしゃ、今度こそチェックメイトだ! エンドフェイズ時に墓地より【ボンディングDHO】を除外して効果発動! 墓地から【ウォーター・ドラゴン】を手札に加える。そして、続けて【ウォーター・ドラゴンークラスター】の効果も発動! 自身をリリースして、デッキと手札から【ウォーター・ドラゴン】を1体ずつ特殊召喚するぜ!」

 

ーーー

【ウォーター・ドラゴン】☆8 水 海竜 ②と③

DEF/2600

ーーー

 

再び分離して2体のモンスターへと変化した。

次のターン、攻撃表示に変えて1体は相打ち、そしてもう1体のダイレクトアタックでトドメを刺そうと考えているのだろうか。

 

「そして……俺のターン、ドロー! 2体の【ウォーター・ドラゴン】を攻撃表示に変更! これで終わりよ! 【ウォーター・ドラゴン】で【ラグナ・インフィニティ】を攻撃! "ハイドロ・カノン!"」

 

再び水流が私と【ラグナ・インフィニティ】目掛けて押し寄せてくる。

だけど……この勝負もらいました!

 

「トラップ発動! 【びっくり箱】! 相手の場にモンスターが2体以上いる状況で攻撃宣言を受けた時に発動! その攻撃を無効にし、攻撃してきたモンスター以外のモンスター1体を墓地へ送ります! もう1体の【ウォーター・ドラゴン】を墓地へ」

 

「なんだとぉ! これじゃ攻撃が通らねえってことかよ」

 

「それだけじゃありません。攻撃を無効にしたモンスターの攻撃力は、墓地へ送られたモンスターの攻撃力分ダウン……。つまりあなたの【ウォーター・ドラゴン】の攻撃力は、墓地へいった【ウォーター・ドラゴン】の攻撃力分ダウンします!」

 

【ウォーター・ドラゴン】

ATK/2800→0

 

【ウォーター・ドラゴン】の体を構成する大量の水の動きが弱まり、徐々にその体積が小さくなっていく。

 

「そのセリフ。私が言うべきでしたね。チェックメイト! 【ラグナ・インフィニティ】の効果発動! オーバーレイユニットを一つ使い、相手モンスター1体の攻撃力と元々の攻撃力の差分ダメージを相手に与える! "ブローデッド・アンガー!"」

 

【ウォーター・ドラゴン】の水が氷へと姿を変えると、その体ごと弾けるように爆発し、消滅した。

そしてその氷片は男へと降り注ぐ。

 

「馬鹿なァ! ぐおおおお!」

 

栗下 LP2100→LP0

 

デュエル終了の文字が表示され、不可侵領域が解除されたのが確認できる。

どうやら私は無事生き残ることができたみたいだ。よかった。

 

ようやく私も決意できたかもしれない。私がなんのために戦うのか。なんのために生きるのか。

自分を変えるために? 他の人に自分の力を証明するために? 自らがエリートになるために?

それは違う。私がするべきことは自分自身の性格や周りの人の評価を変えていくことじゃない。

そう……私は……"心を変える"のではなく……自分らしい"心を強く"していくんだ。

 

 

 



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Ep68 - 独眼の侵攻

デュエルが終わり栗下と名乗った男のうめき声があたりに響き渡る。

苦しくてもがいているその姿を見ると、自分は助かったのだなと改めて安心するな。

 

しかし、この男はジェネシスの構成員のようだった。

それはつまり既に施設内への侵入を許しているということ……?

正面の部隊はもうやられてしまったのだろうか。そうなるとまさか赤見班長は……。

裏口の駐屯決闘班はいまだに交戦していない。つまり……敵は正面から来た可能性が高いと思う……。

 

あたりから微かに足音が聞こえてきた。

更なるジェネシス構成員だろうか。この栗下って人以外にも侵入しているの人がいると考える方が自然だ。

さすがに私一人じゃ危険だな。せめて駐屯決闘班の方へ逃げないと……。

裏口に向けて走り出そうとすると私の前に数人の男性が立ちはだかる。既に遅かったみたい。

 

「待てよ。お前は特殊機動班だな?」

 

「くっ……」

 

戦うしかないっていうのなら……望むところです……!

この程度の困難……私が今まで生きている中で味わってきた屈辱や苦しみに比べれば遥かに楽なのだから……!

 

「まぁまぁ。少し落ち着けよ。お前らもだ。そいつは殺さなくていい」

 

すると続けて私の背後から渋い声が聞こえてくる。

その声の主へ視線を向けると、そこには片眼に眼帯をし髭を生やした見覚えのある顔がいた。

あれはイースト区の作戦の時に赤見班長と戦ったデントって人だ。ジェネシスの幹部構成員……。

 

「よお、佐倉 結衣。俺の顔くらいは覚えてるよな?」

 

私の名前も既にバレているなんて。どんな情報網なのだろうジェネシスは。

だけどこのデントって人は幹部の中でも比較的弱いという印象がある。

きっと繋吾くんなら好機と思って戦うだろう。幹部構成員を打ち破れば敵の戦意を大きく削ることだってできる。

だったら……私がやることはあただ一つ……!

 

私はデントを睨みつけながらデュエルウェポンを構える手を動かさずに臨戦態勢を取り続ける。

 

「まっ、無理もねえか。お前がそこまで死にてえならお望みどおり相手になってやろうか。結衣ちゃんよ?」

 

「あなたたちの狙いはわかっています。絶対にペンダントは渡しません……!」

 

「へっ、俺が赤見に負けたからってさぞ強気になってるみたいだが……あんなの手抜いてやってたに決まってる。このまま俺の言うこと聞かずに戦ったら後悔することになるぜ……?」

 

「そんな負け惜しみ信じると思いますか? いいからさっさと構えてください」

 

あんなこと言ってるけど赤見班長とのデュエルであの人は本気で悔しそうにしていた。

きっとでまかせに過ぎないだろう。

 

「ま、信じる信じないは任せるさ。結果的にあそこで痛い目に合うのをを我慢したおかげで作戦は順調に進んでるんだからなあ?」

 

確かにイースト区の作戦がきっかけでペンダントの情報はジェネシスへ渡ることとなってしまった。

元からそれが狙いでジェネシスが動いていたのだとしたら……。いや、だけどデントとしては助からない可能性もある中で自らを犠牲にしての作戦は非効率すぎる。それにデントとしてはあそこで勝った方が楽だったはずだ。

偶然……だと思いたいが……。まさか負けることまでジェネシスの筋書きどおりだとしたら……。

額に冷や汗がこぼれ落ちる。あの人のハッタリなのか……それとも真実なのか……。わからない。

 

「よーし、いい準備運動にはなるか! いくぜ……!」

 

「待て! くそ! こちらは侵入を許しているのか!」

 

すると今度はデントの背後から数十名の集団が現れた。

 

「お前は……佐倉か。よく耐えたな。全班員、デュエル攻撃を開始せよ!」

 

私の名を呼んだ人物は桂希副班長だった。決闘機動第1班が勢ぞろいでいるみたいだ。

なぜ裏口に来たのかはわからないけど……。あれだけの人数なら数もジェネシス構成員よりも多い。デントを倒すのも一気に現実的になった。

 

「ちっ、こりゃ聞いてねぇ話だ。仕方ねえ、作戦を変えるっきゃねえか。行くぞお前ら!」

 

桂希の号令を聞き、デントは仲間を引き連れて逃走を始めた。

デントの部隊を壊滅させる良い機会だ。ここは追撃するチャンス。

 

「くっ、追撃だ。佐倉、お前も戦えるか?」

 

「ええ。せいぜい足を引っ張らないでくださいね」

 

決闘機動班だと思うとつい口が悪くなってしまう。

それに突っぱねてきた人を相手にすると感謝しようにもプライドが許さなくて言葉にできないんですよね……。

 

「顔がぐちゃぐちゃの割には随分と余裕そうだな。その心構えだけは立派だ……とでも言っておこうか」

 

「っな……?!」

 

そういえばさっきデュエルした時、泣いていたんだっけ……。

鏡がないからどんな表情しているのかはわからないけど、ぱっと見でわかるくらいにひどい顔になってしまっているのかな……。恥ずかしい。

 

「まぁそれよりもだ。ジェネシスがいるということは裏口は突破されてしまったのか?」

 

「え……? 裏口は無傷ですよ。正面が突破されたのではないのですか?」

 

「何を言ってる。正面は五分五分といったところで戦っている。裏口に増援が来ると想定したからこそ我々がこちらに来たんだ」

 

ということは……あのデントの部隊は正面口でも裏口でもないってこと……?

一体どころから入ってきたのかしら……。

 

「なるほどな……。まぁジェネシスのことだ。地下から出てきたとしても不思議ではない。これはやられたな……裏口の部隊はフェイクかもしれん。俺たちSFSの注意を向けるためのな」

 

「そんな……」

 

なるほど……裏口の部隊は攻めてこないのではない。攻める必要がなかったんだ。

だから上地くんが戦っている程度だけで動きがない。

かといって駐屯決闘班としては、敵部隊がいるのにその場を離れるわけにはいかないし、攻めることに関してはまるで慣れていないのが駐屯決闘班だ。

私たちSFSの弱点をうまいように使っているといっても過言ではない。

 

「さて、驚いている暇はないぞ佐倉。すぐさまデントの部隊を追撃する! 行くぞ!」

 

桂希の問いかけに頷くと私はデントが走っていった方向へ走り出した。

 

 

 

ーー戦闘開始から1時間くらいは経過しただろうか。

司令直属班の護衛の下、狭い部屋に閉じ込められた俺は暇を持て余していた。

 

戦況はどうなっているのだろう。

ジェネシスに探知をされないように、SFS内の伝令は高度に暗号化された状態で送られる。

だが、もちろん情報を送れば電波が飛ぶため、送受信した隊員がどこにいるのか電波をたどればわかってしまうことになる。

つまり……俺にはまったく情報が入ってこなかった。

 

そもそも今回の戦闘においては、決闘機動部内での作戦と司令直属班の作戦はまったくちがう。

決闘機動部の情報はSFS全てに共有されているが、司令直属班の情報伝達は開発司令部にしか届かない。

 

そんな複雑な状況で果たして本当に連携できるのか少し不安ではあるが、俺にはこの部屋でみんなを信じることしかできない。

 

とりあえず時間があったからみんなのメッセージに返信してみたけど、こんな戦闘中にメッセージ送られても迷惑だろうな……。

まぁ祈るよりかは直接伝えた方が気持ちも伝わるだろうし、悪く思わないでくれみんな。

 

「くっ……いつの間に侵入しているんだ……!」

 

突然、部屋の中にいる闇目さんが深刻そうな声をあげた。

 

「どうしたんですか?」

 

「SFS施設内に敵部隊が侵入したらしい。決闘機動部の話だと正面口は突破されていないし、裏口は交戦すらしていないというのに……!」

 

ということは別経路から侵入したということになる。

奴らの侵攻方向はどちらなのかわからないが、いずれにしても侵入を許すことはまずい。

仮に正面口に行かれたら決闘機動部は挟撃され退路を失うことになる。そうなれば全滅は時間の問題だ。

 

「奴らの進路は……どちらに来ているんですか!」

 

「報告だと……司令室。情報網は……桂希副班長……? なぜあいつがいるんだ……」

 

桂希……。正面口担当だったあいつが……。

あいつのことだ。きっとカンの良さを発揮して敵部隊を発見し、追いかけてくれていたのかもしれない。

 

「遊佐隊員。できるだけ音を立てないようにしてじっとしているのだ。敵が近くにきている」

 

「わかりました。バレないように……ですね」

 

闇目さんに言われおとなしくしていると部屋の外から銃撃音やモンスターの叫ぶ音が聞こえ始めた。

近くにジェネシスの構成員がいるのか……!

 

今すぐにでも飛び出して行きたいところだが、赤見さんや斉場副班長に迷惑をかけることになる。

くそ……目の前に倒すべき敵がいるというのに……!

 

「まずいな……。思ったよりも敵の人数がいるみたいだ。頼みましたよ斉場副班長……」

 

闇目さんも相当焦っているようだ。

司令室は言わばSFSの本陣。ここまで大人数の部隊に攻め込まれたのが想定外だったのか、その表情ますます険しくなっていた。

 

そして、俺たちのいる部屋の扉が静かに開き始める。

ここは司令室じゃない。だけどこんなところにわざわざ入ってくるなんて……。それほどまでに制圧されてしまったのか……?

 

「よお、遊佐 繋吾。こんな狭いところに隠してるとは……SFSにはなかなかの策士がいるみてえだな?」

 

「お前は……!」

 

俺の目の前に現れたのはデントだった。

その姿に思わず身構えてしまう。

 

「だけどよ、お前の位置なんてもんはバレバレなんだよ。お前らSFS内にいる裏切りものによってな?」

 

裏切りもの……なるほどな。赤見さんが言ってた白瀬班長の話はやはり本当だったのか。繋がっているのはジェネシス……!

だが、白瀬班長は俺がどこにいるのかは知らないはずだ。どこからから情報が漏れたか……?

まぁそれよりも白瀬班長が繋がっているという事実が確認できればそれでいい。そしたらすぐにでも全部隊に伝令しないと大変なことになる。

 

「白瀬班長のことか……!」

 

「白瀬? そんな奴は知らねえなあ。まぁ、いずれにしてもおかげで"ジェネシス"はお前からペンダントを奪うことができるってワケだ」

 

「しらばっくれてんじゃねえぞ……! お前をぶっ潰せば済む話だ……!」

 

「まぁ待てって遊佐 繋吾くんよ。俺はなにもお前と戦いに来たわけじゃねえ。一つ交渉をーー」

 

「黙れ! 遊佐には指一本触れさせない! 私が相手だ!」

 

何かを話そうとしているデントとの間に割って入るようにして闇目さんがデュエルウェポンを構えはじめた。

 

「今回の作戦においては、司令室よりも大事なのは遊佐、お前だ。お前は戦ってはいけない。生き延びなければSFSが……世界が滅びることになる」

 

「闇目さん……」

 

「だからこそ、そこで見ていたまえ。司令直属班の実力、見せてくれる!」

 

「ほう……なかなか味のある野郎がいるじゃねえか。仕方ねえ、話し合うって雰囲気じゃねえな」

 

「覚悟してもらおう! いくぞ、デュエル!」

 

闇目 LP4000

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

デント LP4000

 

頼むだぞ闇目さん……。幸いデント以外にこの部屋に入り込んできた人はいない。

つまり……ジェネシス幹部構成員を拘束する絶好のチャンスってわけだ。

 

 

 

 



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Ep69 - 黒炎と毒眼

闇目 LP4000

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

デント LP4000

 

闇目さんの先攻でデュエルが始まるようだ。

早いところ闇目さんの強力な布陣が整えられればいいが……。

 

「私に先攻を取らせたことを後悔させてやろう! 私のターン、ドロー! 【ダーク・グレファー】を召喚! このカードの効果により、手札の闇属性モンスター【デッド・ガードナー】を捨てることで、デッキから闇属性モンスターである【ダーク・ホルス・ドラゴン】を墓地へ送る」

 

ーーー

【ダーク・グレファー】☆4 闇 戦士 ③

ATK/1700

ーーー

 

「さらに魔法カード【復活の福音】を発動! 墓地よりレベル8のドラゴン族モンスターを復活させる! いでよ、【ダーク・ホルス・ドラゴン】!」

 

ーーー

【ダーク・ホルス・ドラゴン】☆8 闇 ドラゴン ④

ATK/3000

ーーー

 

1ターン目から闇目さんのエースモンスターにふさわしい【ダーク・ホルス・ドラゴン】が特殊召喚された。

墓地には既に【デッド・ガードナー】が存在しているし、俺に使ってきたコンボも使える状況が整っている。

これであれば、デントも一筋縄では行かないはずだ。

 

「飛ばしてくるねえ……いきなり物騒なモンスターがでてきやがったか」

 

「私のドラゴンの力、そう簡単に突破できると思うなよ。私はカードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

闇目 LP4000 手札0

裏裏ーーー

ーーモモー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

デント LP4000 手札5

 

「さーて、俺のターン。ドロー! なかなかいい手札じゃねえか。【捕食植物オフリス・スコーピオ】を召喚。こいつの効果で手札のモンスターカード1枚を捨てることで、デッキから【捕食植物サンデウ・キンジー】を特殊召喚させるぜ!」

 

ーーー

【捕食植物オフリス・スコーピオ】☆3 闇 植物 ③

ATK/1200

ーーー

【捕食植物サンデウ・キンジー】☆2 闇 植物 ④

DEF/200

ーーー

 

あの植物のモンスターは融合召喚することができる効果を備えていたはずだ。

つまり……デントの方もいきなり融合召喚でエース級のカードを出してきそうだ。

 

「ふっ、甘いぞ。リバースカードオープン! 速攻魔法【月の書】を発動! 場のモンスター1体を裏側守備表示へ変更させる。私は【サンデウ・キンジー】を選択しよう!」

 

融合召喚できる効果を内蔵しているのは【サンデウ・キンジー】だ。

あのカードを裏側守備表示にしてしまえばその効果を使うことができない。封じてくるあたりさすがは闇目さんといったところだろうか。

 

「ほう……? やりやがるな。ならこれならどうだ。チェーンして速攻魔法【ラピッド・トリガー】を発動! このカードは場のモンスターを破壊することでそれを素材に融合召喚できるカードだ!」

 

「くっ……。【月の書】をかわした上で融合してくるか……」

 

「そういうことよ! 俺は【オフリス・スコーピオ】と【サンデウ・キンジー】の2体を破壊し、融合! "暗影より権限する紫毒の咆哮よ! 弱者を喰らう絶望の波動を解き放て! 融合召喚! いでよ、【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】!"」

 

ーーー

【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】☆8 闇 ドラゴン EX①

ATK/2800

ーーー

 

前赤見さんと対峙した時に召喚した【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】に似たようなモンスターが出現した。

攻撃力だけ見れば【ダーク・ホルス・ドラゴン】を下回ってはいるが……。

 

「だが、相手のメインフェイズ時に魔法カードが使われたことで【ダーク・ホルス・ドラゴン】の効果を発動させてもらおう! "イービル・サモン!" 蘇れ、【デッド・ガードナー】!」

 

ーーー

【デッド・ガードナー】☆4 闇 戦士 ⑤

DEF/1900

ーーー

 

これで闇目さんの場には【デッド・ガードナー】の守りの布陣が整った。

デントも迂闊に攻撃ができないはずだ。

 

「なるほどねえ。だがこのターン攻撃するつもりはねえよ。【ラピッド・トリガー】の効果で融合したモンスターはEXデッキから特殊召喚されたモンスターにしか攻撃することはできないからな。さーて、俺はカードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

闇目 LP4000 手札0

裏ーーーー

ーーモモモ

 融 ー

ーーーーー

ーー裏裏ー

デント LP4000 手札1

 

いい調子だ。デュエルは闇目さんのペースで動いているように見える。

デントの伏せカードが気になるところだが、次のターンが攻め時というところだろう。

 

「所詮はその程度か、ジェネシス! 私のターン、ドロー! 私はレベル4の【ダーク・グレファー】と【デッド・ガードナー】の2体をオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! "束ねし闇より生まれし力よ、我が勝利へ導く標となれ! エクシーズ召喚! ランク4、【No.66 覇鍵甲虫マスター・キー・ビートル】!"」

 

ーーー

【No.66 覇鍵甲虫マスター・キー・ビートル】ランク4 闇 昆虫 EX②

ATK/2500

ーーー

 

「【マスター・キー・ビートル】の効果を発動! 場のカード1枚を選択し、そのカードはカードの効果では破壊されなくなる。私は【ダーク・ホルス・ドラゴン】を選択しよう」

 

「なかなか厄介な真似をしてくれるじゃねえか……。いいぜ」

 

「バトルだ! 【ダーク・ホルス・ドラゴン】で【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】へ攻撃! "シャドウ・ヘルフレイム!"」

 

【ダーク・ホルス・ドラゴン】

ATK/3000

【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】

ATK/2800

 

強大な黒き光線が解き放たれ、【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】はその攻撃を受け弾けるように消滅した。

 

デント LP4000→LP3800

 

「くっ……。だが【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】は破壊された時、場の特殊召喚されたモンスター全てを破壊する! 消え失せよ、"ヴェノミー・ディザスター!"」

 

「なるほどな……だが、【ダーク・ホルス・ドラゴン】はカードの効果では破壊されない!」

 

「承知の上よ。その昆虫には消えてもらうぜ」

 

【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】の消滅間際に発せられた紫光により、【マスター・キー・ビートル】が消滅した。

 

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

闇目 LP4000 手札0

裏ー裏ーー

ーーーモー

 ー ー

ーーーーー

ーー裏裏ー

デント LP3800 手札1

 

お互いにまだ大きくライフは動いていない。両者譲らない展開だ。

闇目さんは相変わらず伏せカード2枚と万全そうな体制をとっている。まだどうなるかは想像がつかないな……。

 

「さてさて……。そろそろ本気出すとするかな。俺のターン、ドロー! リバースカードから速攻魔法【クイック・リボルブ】を発動! デッキから"ヴァレット"モンスター1体を特殊召喚する。来い、【アネス・ヴァレット・ドラゴン】!」

 

ーーー

【アネス・ヴァレット・ドラゴン】☆1 闇 ドラゴン ③

DEF/2100

ーーー

 

「さらにもう1枚の伏せカードより【スクイブ・ドロー】を発動。【アネス・ヴァレット・ドラゴン】を破壊することで、デッキからカードを2枚ドローできる」

 

ここに来て手札増強か。ということはここでデントの方が大きく動いてくる可能性が高い。

耐え抜いてくれよ……闇目さん。

 

「だが、魔法カードが使われたことで再び墓地より【デッド・ガードナー】を特殊召喚させてもらおう!」

 

ーーー

【デッド・ガードナー】☆4 闇 戦士 ③

DEF/1900

ーーー

 

「いいぜ。だが、これで俺の墓地には闇属性モンスターが5体になった。さらに場にモンスターが1体も存在しない時、手札の【ダーク・クリエイター】は特殊召喚ができるぜ」

 

ーーー

【ダーク・クリエイター】☆8 闇 雷 ③

DEF/3000

ーーー

 

「くっ……そのカードは墓地の闇属性モンスターを復活させるカード……!」

 

「ほう? ご存知か。さすがは本部近くの兵隊ってところだな? こいつの効果を発動! 墓地より闇属性モンスターを1体除外し、墓地の闇属性モンスターを復活させる。俺は【オフリス・スコーピオ】を除外し、【サンデウ・キンジー】を特殊召喚!」

 

ーーー

【捕食植物サンデウ・キンジー】☆2 闇 植物 ②

DEF/200

ーーー

 

「【サンデウ・キンジー】の効果を発動させてもらうぜ……。場のモンスターで融合召喚を行う! 【サンデウ・キンジー】と【ダーク・クリエイター】の2体を融合! "暗黒に束ねし紫毒の結晶よ! ここに冷酷なる殲滅の波動を解き放て! 融合召喚! いでよ、【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】!」

 

ーーー

【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】☆10 闇 ドラゴン EX①

ATK/3300

ーーー

 

とうとう出現したか……デントの切り札モンスター。

あのカードは相手のモンスターを無力化する効果とフィールドのモンスターを全て破壊する効果を備えている強力なカードだ。

 

「きたか……。そのカードの効果は把握済みだ。遅れは取らんぞ!」

 

「これはこれは俺も有名人になったってことか? んじゃ対策をどう取るのか見せてもらうとするか! 【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】の効果発動! エンドフェイズ時まで相手モンスター1体の効果を無効にし、その攻撃力を0にするぜ! "ヴォイド・アブソーバー!"」

 

「させるか! 罠発動、【スキル・プリズナー】を発動! 場の【ダーク・ホルス・ドラゴン】を対象にし、そのカードを対象とするモンスター効果を無効にする!」

 

「なるほどな……ならばこの手で行くか。【ヴァレット・トレーサー】を召喚。こいつの効果で自分の場のモンスター1体を破壊し、デッキから"ヴァレット"モンスターを特殊召喚させる。俺は【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】を破壊し、デッキから【ヴァレット・シンクロン】を特殊召喚する。だが、この瞬間【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】の効果を発動! 場のモンスターを全て道連れに破壊する!」

 

「くっ……」

 

再びフィールドに無数の紫光が解き放たれフィールドのモンスター達全てに照射される。

大きな爆風が発生し、あたりは煙で見えないほどだった。

やがて、視界が戻ってくるとそこには2体のドラゴンが対峙していた。

 

【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】

ATK/3300

【ダーク・ホルス・ドラゴン】

ATK/3000

 

「ほう……? 何か小細工をしたってわけか。なかなかやるなお前。俺の【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】は破壊された時、墓地のレベル8以上のモンスターを除外して蘇る。これで俺は【スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】を除外した」

 

「その程度の攻撃など分析済みだ。私は墓地の【復活の福音】を除外することで場のドラゴン族モンスターの効果による破壊を無効にしたまでだ」

 

さすがは闇目さんだ。きっと赤見さんとデントの交戦記録を熟知しているのだろう。

そして、それを即座に行動に移している……。これが司令直属班の実力ってやつか。

しかし、攻撃力差は300ある。このままでは戦闘破壊されてしまう。

 

「やるねえ……。いいぜ、真っ向勝負と行かせてもらおうか! バトル、【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】で【ダーク・ホルス・ドラゴン】を攻撃! "インディミネイト・ストリーム!"」

 

耐え続けてきた闇目さんだが、攻撃力の差ではデントのモンスターの方が上。

そして、ここで【ダーク・ホルス・ドラゴン】を失えば手札が0の闇目さんはかなり苦しくなる。

だが、闇目さんの瞳にまだ輝きは失われていなかった。

 

「ダメージステップ、リバースカードオープン! 【幻影翼】を発動! 場のモンスター1体の攻撃力を500ポイントアップさせる! 迎え撃て、【ダーク・ホルス・ドラゴン】! "シャドウ・ヘルフレイム!"」

 

【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】

ATK/3300

【ダーク・ホルス・ドラゴン】

ATK/3000→3500

 

「ちっ、ダメージステップか!」

 

両者のドラゴンがそれぞれ光線を放ち、激しいぶつかり合いを見せる。

しかし、禍々しく光る幻影の翼を宿した【ダーク・ホルス・ドラゴン】の光線は力を増し始め、その力の均衡は崩れ始めた。

 

デント LP3800→LP3600

 

「くっ、だが【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】の効果を受けてもらうぜ! 場のモンスター全てを破壊する!」

 

「それも通じん! 【幻影翼】の効果を受けたモンスターはこのターンに限り一度だけ効果による破壊を無効にできる!」

 

「へっへへ……。おもしれえ! そこまで対抗してきたヤツは久しぶりだぜ! ならば最高のダメージをプレゼントしねえとな! 墓地の【ダーク・クリエイター】を除外して、破壊された【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】は復活する!」

 

ーーー

【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】☆10 闇 ドラゴン ③

ATK/3300

ーーー

 

またしても蘇ってきたか。なんともしぶといモンスターだ。

だが、もう墓地に復活に必要なレベル8以上のモンスターはいない。そして、攻撃力も【ダーク・ホルス・ドラゴン】を下回っている。

これ以上デントはバトルの続行が不可能なはずだ。

仮に次のターン以降になったとしても【幻影翼】であがった攻撃力はそのままだし、墓地に送られた【スキル・プリズナー】は墓地から除外することで同じ効果をもう一度使うことができる。

つまり……デントはかなり苦しい状況に追い込まれているはずだ。

 

「だが、私の【ダーク・ホルス・ドラゴン】の攻撃力の方が上だ。そのモンスターを自爆特攻させれば今度こそ私のモンスターは破壊されるが、代償としてお前のモンスターも死ぬこととなるぞ」

 

「あぁ、その通りだ。もう俺の墓地にレベル8以上のモンスターはいねぇ……。だがいくぜ! 続けてバトルだ! 【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】で【ダーク・ホルス・ドラゴン】を攻撃! "インディみネイト・ストリーム!"」

 

「あくまで道連れを狙うつもりか! ならば全力で迎え撃て! "シャドウ・ヘルフレイム!"」

 

再び両者の光線が発射される。拮抗しているデュエルに俺は興奮は隠せずにいた。

状況がテロリストとSFSの戦争という状況でなければ、それは最高のエンターテイメントだろう。

 

「わりぃな。熱いデュエルしているところすまねえが、俺は抜け駆けさせてもらうぜ! 速攻魔法【決闘融合ーバトル・フュージョン】を発動! 融合モンスターが戦闘を行う攻撃宣言時に発動でき、相手モンスターの攻撃力分融合モンスターの攻撃力をアップさせる!」

 

【グリーディー・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】

ATK/3300→6800

【ダーク・ホルス・ドラゴン】

ATK/3500

 

「なんだと!? まだそんな隠し玉を用意していたのか……!」

 

「お前の伏せカードを警戒していたんでな」

 

「ぐおわぁッ!」

 

闇目 LP4000→LP700

 

とうとう闇目さんの鉄壁の防御が崩れてしまった……。

だが、まだライフは残ってる。まだ負けてない!

 

「闇目さん!」

 

「気にするな……遊佐……隊員……。私はまだ戦える……」

 

闇目さんはふらふらした足取りで立ち上がりながらも真剣な眼差しをデントに向けていた。

 

「堅物だと思ってたがけっこう熱い男だったんだなお前。嫌いじゃないぜお前みたいなデュエリストは」

 

「テロリスト風情に褒められる筋合いはないな。さぁ、まだ私は生きているぞ! かかってこい!」

 

「んじゃ死んでもらうとするか。悪く思うなよ」

 

デントはカードを1枚デュエルウェポンにセットしながら、口元をにやりとさせる。

そして、1枚のカードが俺たちに向かって発動された。

 

「それは……【火竜の火炎弾】……!」

 

「あぁ。俺の場にドラゴン族モンスターがいる時に使えるカードで、相手に800ポイントのダメージを与えることができる。じゃあな!」

 

「おのれ……! ばかな……!」

 

真っ赤に燃え上がる火球が闇目さんに襲いかかる。

そして、闇目さんの悲鳴とともにその体は燃え上がった。

 

闇目 LP700→LP0

 

闇目さんが……負けた……。

くそ……あの司令直属班の闇目さんが……。こうなったら俺が敵をとってやる……!

 

俺はすぐさまデュエルウェポンを構えるとデントに向かって走り出した。

 

 

 



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Ep70 - 世界の理

仕事が多忙期に入り、更新が遅れてます。申し訳ございません…(;_;)
ゆっくりは書いてますので、気長にお待ちいただければ幸いです……!


これ以上俺のせいで仲間達が傷つくのは見ていられない……。

デントの狙いは俺のはずだ。ならば俺が相手になるまで。

 

闇目さんは命を張って戦ってくれた。その戦ってくれた思いを無駄にするわけには行かない。

だから俺は逃げずにここで戦うぞ……。闇目さんも絶対に死なすものか!

 

俺は闇目さんを庇うようにしてデントに向かってデュエルウェポンを構える。

 

「覚悟を決めやがったか? それとも……その男がやられたのを見て火がついたか?」

 

デントは俺がデュエルウェポンを構えだしたのを見て鼻で笑いながら言った。

 

「黙れ……! お前の狙いは俺のペンダントだろう! ならばここで決着をつける!」

 

「まぁ待てよ。お前もそこの男も血の気が強すぎるったらありゃしねえ。少し話をしようぜ、遊佐」

 

話だと……? 奴は俺のペンダントが狙いじゃないのか?

一体なんの狙いが……。何か罠だったりするのだろうか。

 

「ハハッ。何も企んじゃいねえよ。お前を罠にハメるだなんてそんなことできる余裕ないっての。どっちかといえば追い込まれてんのは俺の方だ。もうすぐお前の仲間さんがここに助けにくるしな?」

 

誰かこっちに向かってきているということなのか?

それならば助かる話だが……本当なのだろうか。

 

「なに……。それじゃお前は一体なんのために」

 

「実のところを言えば俺はペンダントを奪うつもりはないんだ。って言えばお前は信じるか?」

 

ジェネシスの幹部であるデントがペンダントを奪うつもりはない……?

今回ジェネシスがSFS施設を襲った理由はペンダントにあるはずだ。それは本部にきたジェネシスからの要求内容からして明らかだ。

もしこのデントが言っていた内容が真実なのであれば、デントはジェネシスの命令に背いていることとなる。

くそ……どうしたらいいんだ……。

ジェネシス幹部であるデントを今すぐに潰したいという思いと、想定外の発言をされたことでその真意が気になるという思いが混在してしまい、俺はどうしたらいいのかわからなくなってきていた。

 

「……信用できないな」

 

「だろうねえ。んじゃ逆にジェネシスはなんでペンダントを集めているのか。気にならねえか?」

 

気にならないと言ったら嘘になる。あのペンダントには強力な力が宿っているからそれをつかって何かをしようとしているのだろうが……。

SFSでは"破壊活動"を見解としてあげていたが、実際のところはどうなのだろう。

 

「お前、何が目的だ?」

 

「少しは俺と話する気になったか遊佐? お前がそのデュエルウェポンを下げてくれれば続きを話してやるよ」

 

「……わかった」

 

俺はデントに言われるがままにデュエルウェポンを下げた。

こいつを信用していいかには疑問が残るが……。デントの言っていることが本当なら俺の仲間がここに向かっていることになるし、俺にとっては好都合だしな。

それに何かあったとしたら、デュエルをして潰せばいいだけの話。赤見さんとのデュエル、そして闇目さんのデュエルでこいつの手の内はわかっている。デュエルに遅れを取るはずはない。

 

「話がわかるやつで助かるよ。まずは……そうだな。ペンダントについてはどこまで知ってる?」

 

ペンダントといえばデュエルモンスターズのカードおよそ1億枚ほどに相当する力を秘めていること……。

そして、現在判明している中では俺の緑色のペンダント。そして国防軍に保管されていた赤色のペンダントがあること。

時に不思議な力を発揮すること……。俺が知っているのはそんな程度だろうか。

 

「大きな力を秘めていて……時に不思議な力を発揮する……」

 

「ほう? 随分とざっくりしたもんだな?」

 

「やはりお前ら……ジェネシスは……これが何だか知っていて集めてるんだな……?」

 

「当然だろう。まっ、国のおエライ方々は知ってるかもしれねえが、言うわけがない。それがこの世界のルールってやつだ」

 

何を言ってるんだこいつは……。ペンダントのことを……国が知っているだと……?

そんなわけがないだろう。そうでもしたらジェネシスの実態や活動目的なんてもっと明らかになっているはずだ。

 

「ふざけたこと言いやがって……。聞いても時間の無駄だ。俺とデュエルしろ!」

 

「まぁ待てって! まだ話は終わっちゃいねえ! 俺とデュエルするかはどうかは全部聞いてから判断してくれねえか?」

 

必死に止めようとしてくるデントに思わず俺は静かに頷いた。

こんなに取り乱しているデントの姿は初めて見たからだ。赤見さんとのデュエルで負けた時もこんなに焦っている様子は見受けられなかった。

一体こいつはどうしたというのだろう……。

 

「ったく……。まぁペンダントにはとんでもねえ力ある。それで何をするかっていうのはお前らの想像通りかもしれねえな。今の世界をぶっ壊して新しく世界を作り直す。それだけの話だ」

 

「やはり……お前らの目的は破壊行為なんじゃないか。その犠牲の上に訪れる未来にいいものなんてあるわけがない! 大事なものを失う悲しみが……お前にはわかるっていうのか!」

 

家族を失うかなしみ……居場所を失うかなしみ……。

生きる意味を見いだせぬ絶望……。俺はそんな中5年という歳月を生き抜いてきた。

そんな思いをする人を……これ以上増やすわけにはいかない。

 

「そうだな……。わからんでもない。だが、なぜジェネシスがそんなことをするのか。お前は考えたことはあるか?」

 

「なに……?」

 

「この国は法やルールによって縛られている。普通に暮らしてる人には別に不自由しない程度のルールだ。だけどな。それは普通じゃない人にとっては生きるのが縛られるってもんなんだよ。"居住権のない人間"……"周りに同調できない人間"……"周囲から妬まれる人間"……。何かしら"普通とは異なる"人間はこの決まったルールのレールから阻害されてしまう……。それはおまえもよくわかってんだろ?」

 

俺は……今の話で行けば居住権のない人間……だろうか。

家を失い、家族も失い、お金もない。実際のところ俺という存在は5年前の襲撃で死んだことにされているだろうしな。

その証拠に学校には俺の椅子はなかった。

 

「そういった人たちはこの国のくだらないルールとやらに多くの苦しみや悲しみを受け続けてきた。そのような人たちに手を指し伸ばしたのが"ジェネル"……。ジェネシスのボスってわけだ。全ての人類が平等に暮らせる世の中を作るという大きな目標を掲げてな」

 

デントの話を聞き、徐々に俺が路上生活をしていた頃の記憶が蘇り出す。

物乞いをしても唾を吐かれ、ゴミ箱と一緒に蹴飛ばされたり、ゲテモノを食わされたり……。色々されたな。

公園で寝泊りしてたら国防軍に追い出されたこともあった。

確かに……"普通"というレールから外れた人間にとってはこの世の中は辛く厳しいのかもしれない。

 

「視点を変えればジェネシスのやっていることも正義ってワケだ。ま、大多数は反対するだろうがよ」

 

「そんな……」

 

俺が怒りの矛先を向けていたジェネシスという組織は……。

どちらかといえば俺の境遇に近い人の集まりだった。

 

「まぁお前の言う人を犠牲にした上での未来はろくでもねえっていうのはあながち間違いじゃねえな。結局、"普通"の人を取るか、そうでない人を取るか……そういう話だ」

 

「だが……俺は……。お前らジェネシスのせいでお前の言う"普通"という立場を失った。だからこそ俺にとってはジェネシスを潰すことが生きる意味なんだよ……!」

 

「そう、お前には自分を突き動かす明確な意志がある。俺からしてみれば羨ましいぜ。だが、多くの人間はそうはいかねえ。だから自分が動く原動力を他人に求めるんだ。俺たちのジェネシスもそう。SFSだって国防軍だってそうさ」

 

結衣なんかは……まさにそうなんだろうな……。

あいつは生きる目的を見失っていた。それをSFSに入ることで見つけたって言っていたし。

 

「さて、話を戻すか。ペンダントをジェネシスは集めてるわけだが……これは元々は一つの結晶だったんだ。それが何らかの理由で分離してしまった。その一つがお前の緑色のペンダントってわけだ。ジェネシスはそれを再び結晶に戻そうとしている。大きな力を呼び起こすためにな」

 

「その結晶ってやつになれば……世界を作り変える力が発生するってことか?」

 

「おそらくな。それは俺にもわからねえよ。だが、俺にとってはそうなっちゃ困る。だからお前からペンダントを奪うつもりはねえ」

 

「困る……? なぜだ? お前はジェネシスの考えに賛同してジェネシスに入ったわけじゃないのか?」

 

「どうなんだろうな。俺にとっちゃ今の生活は不自由してねえ。ジェネシスでそれなりの地位につけたしな。だから世界の変化ってやつをどこかで恐れてる……って言ったらお前は信じるか?」

 

くそ……こいつの言うことのどこまでが本気なのか、どこからが嘘なのかわかったもんじゃない。

これだけジェネシスの内情を話している癖にその目的は達成できないように動いている……。

なんなんだこいつは……。

 

「わからないな。だが……お前はジェネシスの内情を俺に話してしまっていいのか?」

 

「構わねえさ。それをお前らが知ったところで何も変わらねえだろ。それよりも自分達の心配をした方がいいぜ? SFSが今後どうなるか……。お前は決断を迫られることになるだろう」

 

「どういうことだ……?」

 

「おっと、そろそろさすがにまずいな。お前らの仲間さんも……あとは援軍も来たみたいだぜ? 長話に付き合ってくれてありがとな遊佐。また会おうぜ」

 

「おい……どこに行く! デント!」

 

俺が手を伸ばした先には既にデュエルウェポンに一枚のカードをセットしながら存在が消えかかっているデントの姿があった。

【空間移動】のカードか……!

 

彼に近づく間もなくその場から消えてしまう。

一体あいつは……何を考えていたんだろう。

結局俺とまったく戦う様子もなく、話すだけ話していなくなってしまった。

先ほどまで話していたことが本心であるのなら……。俺はこれからどうするべきなのだろう。

ジェネシスにいる大半の人は俺と同じ境遇な人物。おそらくは俺と同じ思いで……"復讐"として国防軍や真跡シティへの襲撃を行っているのだろう。

 

俺だって怒りや苦しみを味わってきた。それをぶつけるのに……俺は苦しみの根源であるジェネシスにぶつけていた。

俺にとって国防軍は罪じゃない。罪なのはネロ……そしてジェネシスなんだ。

だけど、苦しんだもの同士が戦うなんて……この世界は残酷すぎるな……。

くそ、調子が狂う……。俺は怒りの矛先を誰に向ければいいんだよ……!

 

「繋吾くん!」

 

俺の名前を呼ぶ声と同時に部屋の扉が開き数十名のSFS隊員が入ってきた。

そこには結衣と桂希の姿があった。

 

「無事だったか! 遊佐」

 

「あぁ……結衣に桂希……」

 

どうやらデントが言っていたことは本当だったみたいだな。

ということは……あいつは嘘はついていない。あの話は全てが本当なのかもしれない。

 

「先ほど国防軍の援軍が来たみたいだ。それを見たジェネシスは全部隊を撤退させ始めた。さすがに勝算がないって判断したのかもしれないな。つまりは……我々の防衛成功ってことだ。喜べ、遊佐」

 

「勝ったのか……。SFSは……」

 

正直戦っていない俺からすればあまり実感はわかない。

だが、勝ったという報告を聞き思わず安堵した。

みんなは無事だろうか。赤見班長、郷田さん、そして颯。安否が気になるところだ……。

 

「特殊機動班の皆は……無事か?」

 

「少なくとも上地くんは無事ですよ。赤見班長達はまだ……連絡は取れてませんが……」

 

確か赤見さんから聞いていた話だと正面口は赤見さんと郷田さん。裏口は結衣と颯だったっけか。

裏口は闇目さんの話だとろくに交戦している様子はなかったみたいだし、あまり危険もなかったんだろう。よかった。

だが、それにしては結衣は随分とくたびれた様子だった。目が真っ赤だし、髪も少しボサボサだ。

 

「そういう結衣は大丈夫だったのか? 様子を見るに戦ったみたいな感じだけど」

 

「え? あぁ……その……。もちろん戦いましたよ。余裕で勝ちましたけどね」

 

さすがは結衣だ。ジェネシスにも遅れを取らずに戦っているみたいだ。

リリィに負けて少し自信なさげなところがあったからな。

 

「さすがだな。それにしてはまるで泣いたように目元が赤いが……。相当激戦だったみたいだな」

 

「な、なんでもありません! ちょっとデュエルが長引いただけですから!」

 

結衣は自らの顔を隠すようにしながら、怒りっぽく答えた。

何かあったんだろうな……。まぁ深くは聞かないようにしよう。

 

「だが楽観するには早いぞ遊佐。本部はひどい有様だからな……。お前も来てくれ」

 

「なに……? 本部が」

 

本部が……どういうことだろう?

俺は桂希に言われるがままSFSの本部である司令室へと向かった。

 

 



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Ep71 - 白瀬の陰謀

SFS司令室に入った俺は信じられない光景を目の当たりにすることになった。

 

機械関係が木っ端微塵に破壊し尽くされ、周囲には倒れた司令直属班と思われる遺体の数々。

思わず目を塞ぎたくなるような光景だった。

あのエリート揃いの司令直属班が防衛するこの司令室がここまでやられるなんて。

 

デントらが率いていたテロリストの大半はここを襲撃していたのだろうか。

それにしてもこれじゃ全滅……と言わざるを得ない状況だ。

一体ここではどれだけの激しい戦闘が……。

 

「裏口にいた戦力がここに集中したんだろうな。狭い室内じゃデュエルに持ち込めなければ逃げ場がなくなり防衛側は不利になる。遠距離攻撃を多発されればもう司令直属班からすれば身動きがとれないだろうからな」

 

桂希はこの状況を見てなお冷静に状況分析をしている。

なんとも場慣れしているものだな。

 

既に治療班らしき人たちが部屋に出入りしており、負傷者を運び出していた。

生存者が何人いるかはわからないが……。俺の持つペンダントのせいでこの人達が亡くなるかと思うと苦しいな。

それに……先ほどまでジェネシスに対して同情しそうになっていた自分に腹が立つ。

あいつらは……これほどまでに人の命を奪ってきているんだ。やはり……許せるものではない。

 

「桂希副班長。生存状況確認が完了しました。データを送ります」

 

「あぁ、ご苦労。このデータは白瀬班長にも報告してくれ」

 

決闘機動班の人と思われる人物が桂希と何やらやり取りしているようだ。

俺たちよりも前にこの部屋の状況確認をしていたみたいだな。

 

「なるほどな……これは思ったよりひどい」

 

「どのくらいだったんだ? 桂希」

 

「あぁ……。負傷者6名、死者32名だそうだ。黒沢部長、生天目社長共に……亡くなったらしい……」

 

黒沢部長に……生天目社長が……死んだ……?!

嘘だろ……SFSのトップとも言える二人が一気に……。

 

「嘘だろ桂希……。あの精鋭揃いの司令直属班が……」

 

「これが現実だ……。敵が相当強かったのか、それとも司令直属班がやらかしたのかはわからん。だが、結果はこのとおり変わることはない」

 

「私が……甘かったのよ。桂希……楼……」

 

その声の主に視線を向けると担架に乗せられている斉場副班長の姿があった。

デュエルウェポンのおかげか目立った外傷はないが、ぐったりと横たわっている。

 

「斉場?! お前は無事だったのか!」

 

「当たり前……でしょ……。だけどジェネシスの撤退がもう少し遅ければ私も死んでいたかもしれないわね……」

 

そう話す斉場副班長の頬には涙が流れていた。

その様子から司令室での戦闘は相当なものであったことが伺える。

 

「一体ここで何があった? お前ほどのデュエリストがここまでなるとは……」

 

「それは……後で話すわ……。今は休ませて……」

 

そう呟いた後斉場副班長は決闘機動班員の手によって部屋の外へと運ばれていった。

なんだか知った顔が生きているとわかると安堵するな。

 

だが……俺がペンダントを所有し続けてしまったせいで社長も部長も死んでしまった。

俺のせいで……SFSは……崩壊したも同然だ。

それに今回は勝利といえどもジェネシスからの襲撃を乗り切っただけで、根本的な解決には至っていない。

 

今後SFSはどうしたらいい……。誰が指示を出す? 何を信じて戦えばいい。

それに……このペンダントはどうしたらいいんだ……。国防軍に渡していればみんな無事だったのか……?

 

「くそ……俺のペンダントを守るために……SFSは……」

 

「繋吾くんは悪くない……。責任を感じないでください……。悪いのはジェネシス……」

 

「……わかってる。だけど……この結果を招いたのは俺が……無力だったからだ。俺がこのペンダントを国防軍や開発司令部に渡していれば今頃こんなことには……」

 

ペンダントには1億枚にもおよぶカードの力が宿る。

ならば、ジェネシスの部隊を一掃するくらいの力は扱えるはずなんだ。

だけど俺はこのペンダントを操るどころかなんなのかすらもよくわかっていない。

もしかしたら開発司令部でこのペンダントの力を引き出すことだってできたかもしれないのに、俺は自らの思想と自分たちの力の過信からそれを実行するに至らなかった。

 

社長達が死んでしまったのは俺のせい……って言われても俺は何も反論できないだろう……。

 

「違います! 繋吾くん言っていたじゃないですか……ペンダントの力を無理やり行使しての反撃はジェネシスのやっていることと同じだって……。SFSはジェネシスと同じ道を歩まない。そして、父親からの大事な形見を守っていくんじゃなかったんですか?」

 

「結衣……お前」

 

「みんな……ジェネシスという強大な敵に対しても逃げずに戦っていたのは……繋吾くん。あなたの選択が正しいと信じていたから。あなたが正しいと思ったから戦っているんです。なのに……あなたが諦めたらその人達に顔向けできないじゃないですか」

 

最初は反対していた斉場副班長だって、あんなになるまで戦っていた。

それに黒沢部長だってきっと最後まで逃げずに戦ったんだろう。開発司令部ならきっと【空間移動】のカード1枚くらいは持っているはずだ。なのに逃げることはなかった。

あの人達は……最後の最後までテロリストから街のみんなを守るSFSの隊員として最後まで戦い抜いてくれたんだ。

それは……ひと思いにこの緑色のペンダントが……それが世界を救う最後の鍵だと信じて……俺や赤見班長達の考えを信じてくれた結果なのかな……。

死んでしまった以上どのような考えがあったのかはわからない。

だけど……結衣の言うとおり俺が一度決めた道を諦めてしまえば、ここまでしてきたこと。そして失った命が全て無駄になる。

 

「……そうだな。俺はもう引き返すことはできない。多くの思いだけじゃなく命も背負って俺はこのペンダントを守っていく義務があるんだ。目が覚めたよ結衣。俺はもう迷わない」

 

「なにもあなたひとりで背負うことはないんですよ。私が……ついてますから」

 

「ありがとう結衣。俺のやるべきことは変わらない。ジェネシスを殲滅すること。それだけだ」

 

ペンダントを俺が所持している限り、俺たちはジェネシスに負けたことにはならない。

あいつらを殲滅するまで俺は諦めない……。俺を信じてくれたSFSの人たちのためにも……!

 

「しかしこれからが大変だぞ遊佐。おそらくジェネシスは諦めてないだろう。戦略的撤退……ってところだろうな」

 

「戦略的撤退……?」

 

「国防軍の援軍がきたから撤退……それももちろん考えられるが……この状況を見るに司令室の殲滅という任務が完了したから撤退したようにも思える」

 

言われてみれば確かに……。俺たちはペンダントの防衛ばかりを考えていたが、実際には司令室へ激しい攻撃がなされている。

もしかしたら今回は頭を潰すことが目的で……弱ったところを追撃という可能性もあるってことか……。

 

「つまりだ。近いうちに本命であるペンダントを奪うための追撃が来る可能性があることも視野に入れておくべきだということだ。それまでにSFSの防衛線を再度敷かなければ我々は各個撃破されて我々は全滅することとなる」

 

「その通りだ楼。次の一手をうたねばならんのだ」

 

司令室入口より低い声が響き渡る。

そこには白瀬班長と多くの決闘機動班員。そして国防軍の魁偉さんの姿と国防軍の集団の姿があった。

 

「白瀬班長。ご無事で何よりです」

 

「はっはっは。君たちも何よりだな。遊佐くんもよく生きていてくれた」

 

「はい」

 

俺は白瀬班長に向けて大きく頭を下げる。

いま現状……一番このSFSをまとめられるのは……白瀬班長なんじゃないか。そんな気がしてだ。

 

「司令室は残念なことになりましたね。白瀬さん」

 

「えぇ、まったくこれでは天下のSFSがジェネシスに笑われてしまう」

 

こんな状況でありながら白瀬班長と魁偉さんの二人は笑いながら話し合っていた。

社長が死んだというのに……何も思わないのだろうか……?

 

「さて……。司令室の電子端末のデータのサルベージはできたか? 三枝?」

 

白瀬班長は司令室の整理を行っていた決闘機動班員らしき人物へ声をかけると、30代前半くらいの坊主頭の男性がその声に返事をし、白瀬班長の下へ駆け寄ってきた。

 

「ええ。ジェネシスからの受信データは全て残っておりました。これです」

 

三枝と呼ばれた男からデータの送受信を受けた白瀬班長は自らのデュエルウェポンの画面を眺め、にやりと不敵な笑みを浮かべた。

いったいどのようなデータが……。

 

「魁偉一等陸佐。ジェネシスから更なるメッセージが届いていたみたいだよ。これを見てくれたまえ」

 

「ふむ……なになに。"我々に勝利したとでも思っているのかな? SFSの諸君。今回の攻撃は僕たちにとっては挨拶程度さ。威嚇射撃とでも言えばいいのかなあ? 明日の夕方、再び僕たちは一斉攻撃を仕掛けるつもりだ。今日の規模の倍以上でね"」

 

明日……?! そんなすぐにボロボロのSFSを立て直すなんて……どうしたらいいんだ……。

それに倍以上の規模だなんて……本当かどうかはわからないけど耐えられるわけがない。

やっぱり……デントが言っていたことは嘘なんだろう。元々今回の攻撃はペンダントなんてどうでもよかった。あいつらジェネシスは……俺たちを徹底的にいたぶって、国際的に自らの力は強大であることを世界に示したいのかもしれない。

じゃなければ……あのタイミングでペンダントをわざわざ見逃すなんておかしいだろう。

 

「SFSがこんな状況ではかなり厳しいな……。しかし、ジェネシスがこれまでにSFSを狙うのには何か理由が……? 白瀬班長」

 

ジェネシスからの文章を読み上げた魁偉さんが疑問そうな声をあげる。

そうか……。ペンダントを所有しているという情報は外部には機密事項になっていたんだっけ……。

 

「実はですな……。国防軍であったレッド・ペンダント……」

 

「ーーちょっと待ってください!」

 

国防軍にその情報が知れ渡ったら、おそらくこれは国防軍へ渡すという話になってしまうだろう。

それはSFSではしないとの方針だったじゃないか!

国防軍ではこのペンダントは守りきれない。それを主張していたのは白瀬班長たち決闘機動班だったはずだぞ……。

 

「どうしたのかね? 遊佐くん。今のSFSじゃこれを守りきる戦力はない。そうだろう?」

 

「それはやってみなければわからないじゃないですか! SFS本会議でこれは自らで守っていくとの方針を決めたじゃないですか!」

 

「……ほう」

 

白瀬班長は俺の言葉を聞くとそれを嘲笑うかのように口元をにやつかせる。

 

「その方針を決定したのは生天目社長。だが、もう彼はこの世にはいない。つまり"その方針はもう生きていない"のだよ。大事なのは"残された人物が今を生きるためにどうするか"を考えることだ。私はペンダントを守りきることは無理だと断定しよう」

 

「そんな……。そんなふざけたこと……!」

 

「遊佐……落ち着けって……」

 

白瀬に殴りかかるばかりの勢いだった俺を近くにいた桂希が止めに入る。

白瀬班長の言っていることもわかる。俺たちSFSの前体制は崩壊したといっても過言ではないからだ。会社の中枢である開発司令部……そして社長がいなくなってしまったのだからな。

 

「なんだか……取り乱しているようですが……。どういうことです? 白瀬班長」

 

「お見苦しいところをお見せしましたな。実は……SFSにもレッド・ペンダントと同様の力を持つグリーン・ペンダントがございましてな。ジェネシスはそれに目をつけて攻撃してきた……という状況だよ」

 

「なるほど……。まさかペンダントが他にも存在したとは……」

 

俺が再び叫ぼうとした時にはもう遅かった。

魁偉さんにペンダントの存在が知れ渡ってしまった……。

 

「我々SFSは既にジェネシスに対抗できる体力は残されていない。もはやジェネシスに降伏するしかあるまいな。ただ、ジェネシスにペンダントを渡すということはとてもできない。そこで……」

 

「なるほどな。そこで白瀬班長はそのペンダントを国防軍に委ねる……その方向でジェネシスに降伏すると」

 

「さすがは魁偉一等陸佐! 話が早くて助かるな。そのとおりだ。残存するSFS隊員にもはやジェネシスと戦えるほどの気力は残っておらんのでな。お願いできないだろうか……」

 

「いえ、俺たちはまだ諦めてません! 特殊機動班は……まだ……ジェネシス殲滅の作戦を……」

 

「気持ちだけで解決できる問題ではないのだよ遊佐くん。そうそう、そのペンダントを所有しているのはこの男。遊佐 繋吾だ」

 

白瀬は俺が突っかかったのを利用し、魁偉さんにペンダントの在り処まで伝えてしまった。

これでは取り上げられるのは間違いない……。何か……いい方法は……。

 

「遊佐くんか。君も随分と頑張ってくれたみたいだがもう大丈夫だ。あとは国防軍に任せたまえ。必ずジェネシスを殲滅してみせよう」

 

「それじゃ……意味がないんですよ……。それじゃ……父さんの思いも……死んでいった仲間たちの思いも……全てが無駄になるんだ……」

 

「はぁ。君の気持ちもわかるが、それは大変危険なものなんだよ。むしろSFSが所有していることでその力を行使されてしまう危険性もある。見方を変えればそれを所有しているSFSがテロリストとして認定される可能性もあるんだ」

 

「それでもSFSは国との契約でジェネシスをはじめとしたテロリスト殲滅のために活動してきた企業です! テロリストに対する抑止力としてペンダントを行使することは何ら問題はないはずでしょう! それにあなたたち国防軍だって、レッドペンダントを守りきれなかったじゃないですか!」

 

「ふむ……。どうしますかね、白瀬班長?」

 

俺の態度を見て呆れた表情をした魁偉さんは白瀬に助けを求めるかのように話を振った。

 

「ふっ……物分りの悪いガキが……。もう君たちの理想論には飽き飽きだ。それにもう特殊機動班も君も用済みだしな。魁偉さん。応じなければ認定してもらってよいかと。こいつを国に逆らう"テロリスト"として」

 

白瀬は少しイラついた様子で魁偉さんに言う。俺をテロリストにだと……ふざけたことを言うのもいい加減にしろ……。

 

白瀬がなにを考えているのかはわからないが……生天目社長がいなくなった途端にかつて言っていた方針を捻じ曲げた。ここから考えられることは……SFSを国防軍のいいなりにさせることが目的か……? わざわざ国防軍と繋がって……一体なんのために……。

それとも単純に戦意喪失でジェネシスと戦う意思を失ったか……。そんな小さな男だとは思わなかったけどな。

 

「白瀬班長! いくらなんでもそれは……! 遊佐は自らの意志で……」

 

「楼。今は静かにしていたまえ。それに次期社長にふさわしき人物はこの私だ。逆らおうと言うのかね」

 

「白瀬班長……」

 

いまこいつ……自らが社長になると言ったか……。

だから社長や黒沢部長が死んでも悲しそうな素振りを見せなかったんだ。

むしろ……死んでくれて出世できると……考えて……。

 

「お前が社長だなんてわからないだろう! 神久部長や斉藤部長だっている!」

 

「どうだろうな。トップに立つべきものは人望がなくてはなれんのだよ。私には多くの信頼できる部下がいる。つまり私がなった方が今後円滑な運営が可能ということだ」

 

確かに決闘機動班の人物は人数が多いけど……! だけど……!

 

「さぁ。魁偉一等陸佐。"SFS社長"として許可しますよ。遊佐 繋吾をテロリスト認定することを!」

 

「ほう……では最後にもう一度聞こう。遊佐くん。ペンダントを国防軍に渡してはくれないだろうか?」

 

ペンダントを渡さないと……俺はテロリストとして認定される。

それが意味することは……国防軍は俺を殺しにかかってくるということだ。

いずれにしてもそれが意味することはペンダントを国防軍が所有するということ。

 

くそ……ここまできて俺は自らの信念を折らないといけないのかよ……。

 

周囲を見渡すと悲しそうな表情をしている結衣と険しい表情の桂希が見えた。

あの二人は……どう思っているのだろう。俺にとって……何が正解なのだろうか。

 

ここで渡してしまうのは簡単だ。

それに……俺はあらゆる責任から逃れることとなる。SFSにいられる限り今後の生活も保証される。

何も不自由なことはないだろう。国防軍から殺されることもない。

 

だけど、渡してしまうことで俺が拒み続けることで痛みを受けた多くの開発司令部の人……そして、俺を信じ続けてくれた特殊機動班を裏切ることとなる。

 

「さぁ、返事をしてくれないか? 遊佐くん」

 

魁偉さんが俺に向かって右手を差し出してくる。

待ってくれ……。そんな大きな決断……すぐにできるわけがないだろう。

 

 

仮にだ……みんなの思いに答えるために……もしここで俺が逆らって……死んでしまったら……。

 

結衣を……ひとりにしてしまうかもしれない……。

 

あいつはひねくれもので変わったやつだけど……。俺にとってはいつの間にか大事な仲間という存在になっていた。

彼女に悲しい思いはさせたくはない。

 

それに……多くの問題を赤見さんに押し付けてしまうことにもなる。

俺の父さんが赤見さん課せた任務……俺を守り抜くという任務も失敗に終わり、赤見さんはそれを一生後悔して生きていくことになるだろう……。

 

くそ……俺はどうしたらいいんだ……!

選べっていうのかよ……!

 

「走れ!!」

 

突然大きな叫び声とともに光線のようなものが魁偉さんたち国防軍の兵士たちに襲いかかる。

あまりの攻撃に司令室内では攻撃による煙が充満し、徐々に視界が悪くなっていく。

 

「繋吾くん!」

 

国防軍の人たちの混乱する声が響き渡る中、結衣の声が聞こえると同時に俺の腕が誰かに引っ張られる。

それに引きずられながら俺は走ることにした。

 

扉を抜けてその姿が明らかになると俺の前には二人の人物がいた。

 

俺の前を走る赤見さんと俺の腕を引っ張る結衣だった。

 

「赤見さん! 俺は……」

 

「安心しろ。俺は……いつでもお前の味方だ。繋吾。結衣」

 

「赤見班長……! よかった……繋吾くん。諦めないでくださいね」

 

結衣が咄嗟の判断で俺を導いてくれたみたいだ。さすがはエリート。俺はどうすればいいのかわからず混乱していて、動けずにいたからな。

それに赤見さんも……どこまで状況を理解してくれていたのかはわからないが……。国防軍に対して攻撃してしまった……。

これじゃ赤見さんは合法的にテロリスト認定されたっておかしくない。

 

「まったく、人生何が起こるかわかったもんじゃないな。話は後だ。今は逃げるぞ! 捕まりたくないだろ?」

 

「……はい! ついていきます……赤見さん!」

赤見さんが導く未来に今は掛けてみよう……。

何が正しくて今俺が何をするべきなのかはわからない。

だけど、俺にとっては今これが一番正しい選択肢だと思えた。

 

 

 

 

 

 



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Ep72 - 逃亡劇

ーーSFSの廊下をひたすら走り続ける俺たち。

後ろには俺たちを追いかける多くの人影が見える。国防軍と決闘機動班の連中だろうか。

 

今はなにがなんでも捕まるわけにはいかない……。SFSから脱出してとりあえず逃げないと……。

なんだかまるで自分が犯罪者にでもなった気分だ。いや、間違ってはいないんだろうが……。

なんとも自分が国防軍に追われる立場になるということにまだ実感がわかない。

今の自分の状況がまだ受け入れられないというか……何が起こっているのかわからなくて混乱している感じだ。

 

とりあえず今は赤見さんを信じて走り続けるしかない。

逃げた先にきっと俺たちのやるべきことが見つかるはずだ……。

 

「繋吾、結衣。SFS裏口から外へ出て、西門前へ行くんだ。私は少しだけここで足止めの準備をする」

 

赤見さんが俺たちの前で急に立ち止まり、振り返りながら言った。

俺たちを逃がすために赤見さんが犠牲になるというのか……?

 

「足止めの準備って……それじゃ赤見さんは……」

 

「大丈夫だ。あとで必ず行く。今通ってきた廊下には侵入者防止用のバリケードが搭載されていてな。それを奴らが来た瞬間に起動させれば時間が稼げる」

 

SFSにはそんな警備システムが導入されていたのだな……。そりゃこれだけ大きい施設じゃ当然か。

失敗しなければいいけど……赤見さんならきっと大丈夫だ。

 

「西門前には郷田が車を準備してる。そこで合流しよう。さぁいけ!」

 

「わかりました! 繋吾くん。行きましょう」

 

結衣の声に頷き、俺と結衣の二人は赤見さんを背に裏口へ繋がる廊下を走り出した。

 

 

ーーしばらく走るとやがてSFSの大きな裏口へと辿り着く。

赤見さんが無事成功したか気になるところだが、郷田さんが待つと言っていた西門には逃走用の車がある。

急いで行かなければ……。

 

裏口を抜けて外へ出るとあたりは真っ暗であり、SFS施設から照らされる照明で見える程度の視界しかなかった。

ふとデュエルウェポンを眺めると既に時間帯は深夜だった。真っ暗なのも当然だろう。

 

だが……逃げる身としてはこの暗闇は好都合だ。今のうちに暗闇に紛れれば追手もすぐには見つけられないだろう。

 

「よお、繋吾。結衣ちゃん」

 

聞き慣れた声の主を確認すべく視線を向けるとそこには颯の姿があった。

 

「上地くん。まだ裏口にいたのですね」

 

「あぁ、ジェネシスを一掃した俺の腕前に惚れたか?」

 

颯は相変わらずの調子で結衣に答える。

しかし、いつもとは違い落ち着いたトーンだった。

 

「にしても繋吾に結衣ちゃんどうしたんだ? もうジェネシスは撤退したってのに外出なんて」

 

「あぁ、実はな……俺たちSFSを追放されるかもしれなくて……」

 

俺が答えるべく話かけると颯は笑い始めた。

 

「おっと、わかってるよ。デュエルウェポンによる暴行罪で指名手配。ペンダントを使用したテロ行為を模索中の疑い……。対象は"遊佐 繋吾"に"赤見 仁"。SFS全隊員に通達されてる」

 

「なに……。もう通達されているのか……」

 

白瀬班長め……なんて仕事の早い……。

こうなればもはやSFSの隊員は全員敵だと思ったほうがよさそうだな……。

 

「違うんですよ上地くん! 繋吾くんは……悪いことしていません! 悪いのは無理やりペンダントを奪おうとした国防軍で……」

 

「まぁまぁ、待てよ結衣ちゃん」

 

俺を庇おうと必死になってくれている結衣を颯は相変わらずのトーンでなだめる。

 

「俺はお前たちとは仲間だ。今ここで戦うつもりなんてねえよ。何があったかは知らねえがいいのか? 結衣ちゃん。繋吾を庇おうというのならお前も立派な犯罪者だ」

 

「……悪いことをしていない人を犯罪者呼ばわりする方が私からすれば犯罪者です。私は正しい思っているからこそ繋吾くんと行動しているまで。あなたも繋吾くんを悪く言うのなら……容赦しません」

 

「まぁ待てって。俺は戦うつもりはねえって言ってるだろ。だが、悪いがお前らと一緒に行くわけにもいかねえ」

 

颯のやつ……あくまで犯罪者と一緒には行動できないって線引きするつもりか。

まぁそれが普通だろうな。今の俺は特殊機動班の志は持とうとも国のルールから反した犯罪者なのだから……。

 

「颯……。お前がそういうのなら無理強いはしないさ。だが、信じてほしい。俺はペンダントを悪用するつもりはない」

 

「あぁ、信じるさ。だが、俺は"今"ここで"テロリスト"にはなるわけにはいかねえ。SFSの隊員だからな。俺には俺の考えがある。ジェネシスの殲滅以上に俺が求めてるものがあるんだよ」

 

そうだよな……颯は別にジェネシスに特別恨みを抱いているわけじゃない。俺とは違うんだ。

 

「だけどな、さっきも言ったとおりお前たちと敵になるつもりもない。お前たちは俺にとっては……かけがえのない信用できる人間だからな……」

 

「ありがとうな……。お前の気遣いに感謝するよ」

 

「なーに、友達だろ? 気にすんなよ! だが、ひとつだけ言っておく。この国っていうのはルールがある。そこから外れた人間っていうのは……茨の道を歩むことになるぞ」

 

茨の道……。国の法から逃れた人間は裁きを受けるということか。

それでも俺は……ペンダント持つものとしてやるべきことがある。国の"ルール"に反してでもな。

 

「だとしても……俺は自分の行動を曲げるつもりはない」

 

「さすが繋吾だな……。俺も……いや、まぁせいぜい気をつけてくれよ。この世の中は力と権力が全てだ……」

 

「なに……颯、それはどういう意味だ?」

 

「力あるものに人は従う。権力ってやつは絶対だってことだ。おっと、そろそろ行った方がいいんじゃねえか? 追手が来てるぜ」

 

颯に言われ裏口を見ると国防軍の制服を身につけた人影が見えた。

くそ……捕まるわけにはいかない……!

 

「くっ……颯。今まで世話になったな」

 

「俺こそお前らと過ごした日々は楽しかったぜ。くれぐれも死ぬなよ? 繋吾。結衣ちゃん」

 

「私が死ぬわけ……。いえ、私は生きるために戦うんですから当たり前です。行きましょう、繋吾くん」

 

「あぁ、行こう」

 

まっすぐと出口に視線を向けながら結衣が走り出したのを確認してから俺もそれを追うように走り出す。

 

「ごめんな……。うまくやってくれよ……最後のトリガー……」

 

去り際に颯が何か呟いたような気がしたが、逃げるのに必死な俺には理解するまでには至らなかった。

 

 

ーーSFSのグラウンドを照らす照明をできる限り避けながら暗闇を走っていくとやがて西門近くへと辿り着く。

そこには一台のトラックが停められており、トラックの脇には郷田さんの姿が見えた。

 

「郷田さん!」

 

俺はその姿に安堵し、トラックへと走り出す。

 

「おうおう、繋吾ちゃんに結衣か。無事ここまで来れたみたいだな? 状況はわかってるぜ。早くこの車の荷台に乗りな」

 

トラックの席は2つしかない以上、乗るところは荷台しかない。

トラックの荷台に乗るなんてある意味貴重な体験だな……。まぁ、いまの状況が非現実的なのだから今更か。

 

「はい! だけどまだ赤見さんが……」

 

「それなら大丈夫だ。さっき赤見のやつから連絡が入ってな。予定通り進んでいるそうだからあと数分後には来るだろうよ」

 

よかった……。拘束でもされてたらどうしようかと思ってたところだ。

さすがは赤見さん。ジェネシスと戦い抜いてきた力は伊達じゃない。

 

「さぁ早く乗れや! 赤見が来次第、すぐに出発するぜ! ってどうやら来たみたいだな」

 

トラックの荷台へ乗り終わってあたりを見渡してみると、こちらに向かって走ってきている人影が見えた。

あれが赤見さんだろうか。

 

「すまないな郷田。細かい話は後でする!」

 

「おうよ! 細かい話も勘弁してほしいけどな! ハハハ!」

 

郷田さんは笑いながら運転席のドアを開け赤見さんを乗せるように促す。

運転は赤見さんがするんだな。てっきり郷田さんが運転するのかと思っていた。

国防軍行った時もそうだったっけ……。赤見さんが運転好きなのか……それとも郷田さんが運転できないのか……どちらなのかはわからないが。

 

「よし、すぐに行くぞ! 追手が迫ってきてるからな!」

 

「わかってるぜ赤見! よーし……」

 

郷田さんが助手席に回り込みドアを開けようとした時、突如周囲が光りだしたと同時に爆発音が響き渡る。

思わず腕で顔を塞ぐ。

これは……俺たちに対する攻撃か……?

恐る恐る目を開けてみるとトラックの周囲の地面が焦げており、煙が立ち込めていた。

 

「くっそ……容赦ねえじゃねえか……」

 

郷田さんはすぐさま助手席のドアを閉めるとデュエルウェポンを構えてトラックの前に立ちはだかる。

そして、直後に再び大きく光ったかと思うと今度は大きな爆発音ともに風圧のような衝撃が襲いかかってきた。

 

衝撃の先に視線を向けると、郷田さんの前には【大地の騎士ガイアナイト】が出現しており、二本の槍を交差する形で構え、攻撃を受け止めていた。

 

「悪く思うなよ。これも命令なんだ」

 

暗闇から響き渡る男性の声。

この攻撃の主だろうか。やつは国防軍か……それともSFSか……。

 

「一樹……?! お前……」

 

誰であるのか把握した赤見さんが運転席より声を上げる。

赤見さんが一樹……と呼ぶ相手はひとりしかいない。赤見さんと仲のよかった偵察警備班の宗像班長だ。

 

「赤見、悪いがお前を逃がすわけにはいかない。お前は……テロリストだからな」

 

「あぁ……私は自らの行動を正当化しようとは思わない。だが……私は間違ったことをしたつもりはない!」

 

「ふっ……時々俺はわからなくなるよ赤見。お前はいつも俺たちが考えていることよりも常に先を見ている。それは俺にとっては尊敬できることでもあるが、同時に理解できないことでもあった」

 

「一樹……。私はそんなにお前と変わらない。私……いや、俺とお前はデュエルモンスターズを本来の娯楽である正しい使い方ができる世界にするため……それを目的にSFSに入団し合ったじゃないか。その思いは俺もお前も変わらないはずだ」

 

赤見さんは険しい表情をしながらも宗像班長へと訴えかけている。

仲の良い仲間が敵に回った状況なんだ。それは辛いものだろう。

例え敵に回ったとしても信じたい。それが赤見さんの思いなのだろうか。

 

それに……赤見さんがSFSにいる理由というのもそんな目的があったのだな。

確かに俺もそうだがデュエルモンスターズが好きだ。デュエルウェポンなんてものがなければ、それこそ娯楽としてもっと楽しいものとして認識されていたに違いない。

赤見さんは……デュエルモンスターズのカードが、デュエルウェポンの媒体として……兵器として使われることに異議と唱えたい。そんなところなのかもしれないな。

 

「あぁ、それはもちろん変わっていない。だがな、俺は理解ができない。なぜそこまでしてグリーン・ペンダントを自らで守り続ける必要があるのか」

 

「それは……約束だからだ」

 

「約束? それがどうであれ、客観的に見ればそのペンダントの力を使ってジェネシスと戦い合うようにしかおもえない。それはすなわちお前たちは国を脅かす存在にもなりかねない。国防軍に渡せないってことはそういう疑惑もかかるってことだよ赤見」

 

確かに……。ペンダントの力を行使できるとしたら……ある意味俺たちだって好き勝手破壊行為を行えてしまうことになる。

それだけでテロリスト認定されることは何ら違和感はないだろう。

 

「国防軍はペンダントを守りきれなかった。それに……俺たちは破壊活動を行うつもりは一切ない。信じてくれ……といっても無駄か……」

 

「あぁ。俺は……お前たちがテロリストとなってしまったのならそれを正すまでだ。そして……願わくば危険すぎるペンダントという代物はこの世から抹消すべきと考えている」

 

「宗像……」

 

「覚悟してもらおうか。あえて言わせてもらおう。国防軍指定テロリスト。赤見 仁! 遊佐 繋吾!」

 

宗像班長は俺たちの名前を叫ぶとデュエルウェポンを構えながら走り出してくる。

 

「くそっ! 赤見! 俺がここで時間を稼ぐ! 先に行け!」

 

「郷田……! どうするつもりだ?」

 

「俺が宗像のやつとデュエルして時間を稼ぐ。いまここには奴しかいねえ。それだったら逃げれるだろ」

 

「だが……そうなれば増援が来るのも時間の問題だ。私が仕掛けた罠にも時間の限界がある」

 

「それよりもお前と繋吾ちゃんが捕まったら……何もかも終わりなんだろ? 今しかねえんだ! 俺様に任せとけ!」

 

「くっ……すまない……。郷田! 必ずあとで合流しよう」

 

郷田さんはその声に無言で力強く頷いた。

しばらくして赤見さんは運転席の扉を力強く殴り、歯を食いしばるような仕草を見せると、トラックのエンジンをかけ始めた。

 

「繋吾、結衣。しっかりつかまってろよ……!」

 

赤見さんが発言した直後にトラックは大きくタイヤ痕を残しながら走り始める。

そして、西門のフェンスを突き破ると山道をかなりのスピードで駆け抜け始めた。

 

SFS側へと視線を向けるとデュエルウェポンを構え対峙している郷田さんと宗像班長の姿が見えた。

ありがとう……郷田さん。生きていてくれよ……!

 

こうして俺たち元特殊機動班の3人は無事国防軍とSFSの包囲網を抜け、逃亡に成功したのだった。

 



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Ep73 - 信じる者と信じぬ者 前編

年末ギリギリの更新です。
来年はもう少しペース上げていければと思いますのでよろしくお願いします…!


大きな爆発音が絶えず響き渡るSFS西門前。

私のデュエルウェポンによる攻撃は全て眼前にいる騎士モンスター……【大地の騎士ガイアナイト】が受け止めていた。

 

思わぬ足止めをくらい、目的であった赤見達の乗る車はどんどん遠ざかっていく。

その様子を見て私は思わず舌打ちをしてしまった。

 

「おい宗像……お前は赤見のダチじゃねえんかよ!」

 

私の足止めをしている郷田副班長が私に問いかけてきた。

あいつはSFSの問題児として有名。追放されそうなところを赤見が拾ったんだったな。

そこまであいつとの面識はないが……あいつも長いこと赤見と戦場を共にした仲だ。

そういう意味では……私と似ているところもあるかもしれない。

 

「あぁ……入隊時は良いライバルとして切磋琢磨し合った仲だ。だが、あいつは自らの目的に溺れ狂ってしまった。だから私はあいつの唯一無二のライバルとして連れ戻すつもりだ」

 

ここ最近になってジェネシスの情報が明らかになってから赤見の行動は私の想定を超えたものばかりだ。

正直……私にはついていけない。何を考えているのかもわからなくなってしまった。

世界平和を求めるはずが、ペンダントをくだらない理由で守り続け、挙句の果てに国防軍に手を出す。

ペンダントの力を行使して破壊行為を……とは思いたくないが、やっていることはテロリストそのものだ。

大きな力を前にして欲に溺れたか……あるいは誰かに命令を受けたか……。

くそ、考えてもキリがない。あいつに直接問いただすまでは……。

どこから狂い始めたのかも今となってはわからない。

 

そして、あの郷田副班長も問題児である以上正常な判断はできない人間と考えた方が良いだろう。

あの男にまともな交渉は通用しない。やるのであればデュエルで決着をつけてしまうのが得策だろうか。

 

赤見の性格をよく理解している私は、赤見が廊下に罠を仕掛けていたのはわかっていた。

だからこそ遠回りしたのだ。

だが、ここにきて単独行動してしまったのが失敗だった。あの男が捨て身覚悟で立ちはだかるとは思わなかったからな。

あの郷田はデュエル以外の戦闘ではかなりの戦闘力を誇る。私一人では到底打ち破ることはできない。

 

「おめえはなんにもわかってねえ! 赤見はペンダントを……世界を守るために戦っている! それがわからねえのか宗像! 白瀬の野郎を信用するっていうのか!」

 

「白瀬班長のことは関係ないだろう。今、お前たちがやっている行動が何よりも証拠だ。そこを通してもらうぞ郷田副班長。デュエルだ」

 

「へっ……望むところよ! 俺様を信じてくれた奴のために一歩も引くつもりはねえ!」

 

郷田副班長は堂々とした表情でデュエルウェポンを構える。

なぜあそこまで赤見のやつを信じれる? あいつも破壊願望があるのか?

赤見と過ごしてきた期間なら私の方がむしろ長いはず。一体あいつは何を聞かされているんだ。

 

何はともあれ私は赤見にもう一度会う必要がある。

破壊行動をするのであれば止めるし、それ以外であれば事情を聞く。

それがSFSで共に戦いあってきた"ライバル"としての決意だ。

 

「覚悟してもらおう! デュエル!」

 

宗像 LP4000 手札5

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー 

ーーーーー

ーーーーー

郷田 LP4000 手札5

 

「私のターン」

 

先攻は私だ。郷田副班長のデッキは情報ではよく知っている。

効果を持たぬシンクロモンスターに、それを素材とする強力な効果を持った融合モンスター。

猪突猛進な相手だ。冷静に対処すれば負けることはないだろう。

 

「私はモンスターをセット。そして、手札の【メタルフォーゼ・ビスマギア】と【メタルフォーゼ・ゴルドライバー】の2体でペンデュラムスケールをセッティング。ペンデュラム召喚はせず、【ゴルドライバー】の効果発動! 私の場の表側表示カード1枚を破壊し、デッキからメタルフォーゼ魔法、罠カードを場にセットする。私は【ビスマギア】を破壊し、【メタルフォーゼ・カウンター】をセットする」

 

「ちみちみとややこしいことしてくれるなぁ! さっさとかかってこいやあ! 宗像!」

 

あいつの猪突猛進なパワーデッキなところからすれば、デュエルのペースを掴むのは簡単そうだ。

うまいこと誘導してやって罠にはめたあと、一気に攻め立ててやろう。

 

「まぁ慌てるな。追加でカードを2枚セットしエンドフェイズ時、【ビスマギア】が破壊されたことで効果が発動する。デッキよりメタルフォーゼモンスター1枚を手札に加える。同名の【ビスマギア】を加えよう。さぁ、お前のターンだ」

 

宗像 LP4000 手札1

ー裏裏裏モ

ーー裏ーー

 ー ー 

ーーーーー

ーーーーー

郷田 LP4000 手札5

 

「俺様のターン、ドロー! 【召喚僧サモンプリースト】を召喚するぜ! こいつは召喚した時、守備表示になり手札の魔法カード1枚を捨てることでデッキからレベル4のモンスターを特殊召喚できる! 手札より【禁じられた聖杯】を捨てて、デッキより【レスキューキャット】を特殊召喚するぜえ!」

 

ーーー

【召喚僧サモンプリースト】☆4 闇 魔法使い ③

DEF/1600

ーーー

【レスキューキャット】☆4 地 獣 ②

ATK/300

ーーー

 

「さらに【レスキューキャット】を墓地へ送り、デッキからレベル3以下の獣族モンスター2体を特殊召喚できる! デッキより来い! 【イリュージョン・シープ】、【X-セイバー・エアベルン】!」

 

ーーー

【イリュージョン・シープ】☆3 地 獣 ②

ATK/1150

ーーー

【X-セイバーエアベルン】☆3 地 獣 チューナー ④

ATK/1600

ーーー

 

「いくぜえ! レベル3の【イリュージョン・シープ】にレベル3の【X-セイバーエアベルン】をチューニング! "大地の力! 鋼鉄なる鎧に宿し、神速の槍を貫け! シンクロ召喚! いでよ、【大地の騎士 ガイアナイト】!"」

 

ーーー

【大地の騎士 ガイアナイト】☆6 地 戦士 EX①

ATK/2600

ーーー

 

現れたか、奴のデッキの切り込み役とも言える効果のないモンスター。

攻撃力はなかなかだが効果がなければそれ以外に恐るものは何もない。

奴にぴったりな脳筋……といったところか。

 

「ハッハッハ、先手はもらったぜえ! 【大地の騎士 ガイアナイト】でセットモンスターを攻撃! ”スプリント・スピア!”」

 

【大地の騎士 ガイアナイト】

ATK/2600

【黒き森のウィッチ】

DEF/1200

 

「私の破壊されたモンスターは【黒き森のウィッチ】。墓地へ送られたことでデッキから守備力1500以下のモンスターを手札に加えることができる。さらにモンスターが戦闘破壊されたことでトラップカード、【メタルフォーゼ・カウンター】を発動! デッキから"メタルフォーゼ"モンスター1体を特殊召喚できる」

 

「くっ……ちょこまかと動きやがって……」

 

「お前の攻撃は単調だ。いくらでも対処がきく。悪いが勝たせてもらうぞ」

 

「おっと、油断大敵だぜ……。俺たち特殊機動班の力、たっぷり味あわせてやるよ!」

 

ずいぶんと自信有りげに郷田は言った。

あいつのあの自信は一体……。あいつのデュエルの成績はよくなかったはずだ。

なにか切り札があるのかあるいはただのハッタリか……まぁいい。今は気にせず自らの戦術を遂行するのみだ。

 

「そいつは楽しみだ。私はデッキから【メタルフォーゼ・ヴォルフレイム】を特殊召喚し、デッキから【サイバース・ウィザード】を手札に加えよう」

 

「俺様はカードを2枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

宗像 LP4000 手札2

ー裏ー裏モ

ーーモーー

 シ ー 

ーモーーー

ーー裏裏ー

郷田 LP4000 手札2

 

「では、私のターン。ドロー! 永続トラップ【光の護封霊剣】を発動! そして、このカードを対象に【メタルフォーゼ・ゴルドライバー】の効果を発動する! 【光の護封霊剣】を破壊し、デッキから【錬装融合】を場にセットする。そして、この破壊をトリガーに、トラップカード【融爆】を発動!」

 

「なんだなんだ? いっぱい効果使いやがるじゃねえか!」

 

「この程度ついてくれないとはよくぞ副班長職になれたものだな。【融爆】は私の場のカードが魔法カードの効果によって破壊された時、相手の場のカード1枚を破壊する効果を持つ。消え去れ、【大地の騎士 ガイアナイト】!」

 

私の目の前にある【光の護封霊剣】のカードが大きな爆発と共に弾け飛ぶのと同時に、郷田の場にある【大地の騎士 ガイアナイト】からも大きな爆発が発生し、あたりには大きな煙が立ちこむ。

 

これで郷田の残りのモンスターは守備表示モンスターのみ。私のエースモンスターを用いれば一瞬で勝負を決めることができる。

さっさとこのデュエル、終わらせてしまおう。

 

「続けてわたしはーー」

 

「反撃だぜ! "リザレクト・スピア!"」

 

「なっ?!」

 

郷田の叫び声が聞こえると同時に私の【メタルフォーゼ・ヴォルフレイム】が大きな槍に突き刺され破壊されていた。

その姿に驚き郷田の方を確認すると、そこには破壊されたはずの【大地の騎士 ガイアナイト】が健在していた。

これは一体……。

 

「あめえよ! 効果のないモンスターが破壊された時、手札に存在する【天威龍-シュターナ】の効果を使わせてもらったぜ! このカードを除外するとな、破壊された【ガイアナイト】を復活させたあとに相手モンスター1体を破壊できる!」

 

「くっ……」

 

想定外の反撃に思わず驚いてしまったが、別にこの程度どうということはない。

わたしはわたしの戦術を遂行するのみだ……。この男にデュエルで遅れを取るつもりはない。

なにせわたしは……赤見と切磋琢磨し合ったSFSの生き残りだ。今の若年化が進んだSFSの中では上位に入るレベルだと自負している。

だからこそ……狂った特殊機動班を……赤見を止めるためにはわたしが動かねばならない!

 

「まだだ! マジックカード【予想GUY】を発動! デッキから通常モンスターである【メタルフォーゼ・スティエレン】を特殊召喚! さらに手札より【メタルフォーゼ・ビスマギア】を通常召喚!」

 

ーーー

【メタルフォーゼ・スティエレン】☆2 炎 サイキック ③

DEF/2100

ーーー

【メタルフォーゼ・ビスマギア】☆1 炎 サイキック ④

ATK/0

ーーー

 

「来い! 魂燃やすサーキット! 私は2体のメタルフォーゼモンスターをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚! リンク2、【ヘビーメタルフォーゼ・エレクトラム】!」

 

ーーー

【ヘビーメタルフォーゼ・エレクトラム】リンク2 炎 サイキック EX①

ATK/1800

ーーー

 

「【ヘビーメタルフォーゼ・エレクトラム】の効果発動! デッキからペンデュラムモンスター1体をEXデッキへ送ることができる! これで【アストログラフ・マジシャン】をEXデッキへ送る。そして、【エレクトラム】の更なる効果発動! 場のカード1枚を破壊し、EXデッキからペンデュラムモンスターを手札に加える。わたしはペンデュラムゾーンの【ゴルドライバー】を破壊し、【アストログラフ・マジシャン】を手札に加えよう」

 

「今度は何する気だあ? よくわかんねえが正々堂々かかってきやがれ!」

 

「お望みとあれば全力で叩き潰してあげようか! 手札に加えた【アストログラフ・マジシャン】の効果発動! 場のカードが破壊された時、このカードを特殊召喚し、同名カードを手札に加える! そして、【エレクトラム】の第3効果でペンデュラムゾーンのカードが破壊された時、カードを1枚ドローする!」

 

ーーー

【アストログラフ・マジシャン】☆7 闇 魔法使い ⑤

ATK/2500

ーーー

 

さて……ここまで進められればもう勝ったも同然か。

わたしのデッキの下準備は終わったようなものだ。

このターンで一気に畳み掛けるまでだ。

 

「墓地の【メタルフォーゼ・カウンター】は除外することでEXゾーンの表側ペンデュラムカードを手札に加えることができる。【ビスマギア】を手札に戻し、手札の【ゴルドライバー】と【ビスマギア】の2体でペンデュラムスケールをセッティング! スケールは1と8。レベル2から7のモンスターが同時召喚できる! ペンデュラム召喚! EXデッキより、【ゴルドライバー】! 【スティエレン】! 手札より【サイバース・ウィザード】!」

 

ーーー

【メタルフォーゼ・ゴルドライバー】☆4 炎 サイキック ①

ATK/1900

ーーー

【メタルフォーゼ・スティエレン】☆2 炎 サイキック ③

DEF/2100

ーーー

【サイバース・ウィザード】☆4 光 サイバース ④

ATK/1800

ーーー

 

「そして再び来い! 魂燃やすサーキット! わたしは【エレクトラム】と【サイバース・ウィザード】の2体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! リンク召喚、リンク3、【サイバース・エンチャンター】!」

 

ーーー

【サイバース・エンチャンター】リンク3 光 サイバース EX①

ATK/2400

ーーー

 

「さらに伏せカードより【錬装融合】発動! 場の2体の"メタルフォーゼ"モンスターを融合! "猛き爆風、鋼鉄の意思に宿りて心肝を貫け! 融合召喚! いでよ、我が燃え上がる炎! 【メタルフォーゼ・オリハルク】!"」

 

ーーー

【メタルフォーゼ・オリハルク】☆8 炎 サイキック ②

ATK/2800

ーーー

 

機械仕掛けのジェット装備を身につけた人型モンスターが出現する。

こいつこそわたしのメタルフォーゼデッキのエース。"鉄壁殺しのオリハルク"だ。

 

「さぁて、覚悟してもらうぞ! バトル! 【サイバース・エンチャンター】の効果発動! 1ターンに1度、相手モンスターを守備表示に変更し、その効果を無力化する! 【大地の騎士 ガイアナイト】には守備表示になってもらうぞ!」

 

「ごちゃごちゃ色々やってるとこわりいが、潰させてもらうわ! カウンタートラップ【天威無双の拳】を発動するぜ! 効果のないモンスターがいる時、相手のモンスターの効果の発動を無効にする!」

 

くっ……さすがにそのまま通してはくれないか。

これが通れば守備力800の【大地の騎士 ガイアナイト】に攻撃することでワンターンキルができたところだったが……。まぁいい。

奴に1ターンの猶予が与えられただけだ。姑息な真似をしやがって……。

 

「ならば【オリハルク】! 守備表示の【召喚僧サモンプリースト】を攻撃! このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、2倍の貫通ダメージを与える!」

 

「2倍だと!? なかなかのパワーじゃねえか!」

 

「ふっ、貫け! "ヴォルケーノ・ダイブ!"」

 

【メタルフォーゼ・オリハルク】

ATK2800

【召喚僧サモンプリースト】

DEF/1600

 

【オリハルク】の背中に装着しているジェット機から迸る火炎の力を受けて、ものすごい速度で【召喚僧サモンプリースト】へと突撃する。その衝撃で大きな爆発が発生し、爆風が郷田に襲いかかった。

 

「ぐおはああああ! いてえダメージだぜ……」

 

郷田 LP4000→LP1600

 

郷田は吹っ飛ばされながらもまるでダメージを受けていないかのように立ち上がる。

デュエルウェポンのダメージをものともしていない。

デュエルでの対決じゃなかったら化物だな。

 

「メインフェイズ2。墓地の【錬装融合】の効果発動。このカードをデッキに戻すことで、デッキからカードを1枚ドローする。カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

宗像 LP4000 手札1

モー裏ーモ

ー融ーーペ

 リ ー 

ーーシーー

ーー裏ーー

郷田 LP1600 手札1

 

 

 



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Ep74 - 信じる者と信じぬ者 後編

 

宗像 LP4000 手札1

モー裏ーモ

ー融ーーペ

 リ ー 

ーーシーー

ーー裏ーー

郷田 LP1600 手札1

 

「おっしゃ、俺様のターン。ドロー! 魔法カード【エアーズロック・サンライズ】を発動! 墓地から【レスキューキャット】を特殊召喚した後に、おめえの場のモンスター全ての攻撃力を俺の墓地の獣1体につき200ポイントダウンさせるぜ! 3体いるから600ポイントダウン!」

 

【サイバース・エンチャンター】

ATK/2300→ATK/1700

【メタルフォーゼ・オリハルク】

ATK/2800→ATK/2200

 

「くっ、攻撃力が下回ってしまったか」

 

単純だが伊達に副班長は名乗っていないな。なかなかに強い。

だが、【サイバース・エンチャンター】がいる限り、奴の【ガイアナイト】は攻撃をすることができない。

【エアーズロック・サンライズ】による攻撃力減少もエンドフェイズ時までだから大した脅威でもないか。

 

「どうだ? これならあんたのモンスターも木偶のぼう同然だな?」

 

「だが、【サイバース・エンチャンター】の効果を忘れたわけではあるまい」

 

「当然だろが! こんなんじゃ俺様のデッキは止まらねえぜ! 【レスキューキャット】の効果発動! デッキから【XX-セイバーダークソウル】と【X-セイバーエアベルン】を特殊召喚!」

 

ーーー

【XX-セイバーダークソウル】☆3 地 獣 ①

ATK/100

ーーー

【X-セイバーエアベルン】☆3 地 獣 ② チューナー

ATK/1600

ーーー

 

「そして、来い! 闘志を導くサーキット! 2体のX-セイバーモンスターをリンクマーカーにセット。リンク召喚! リンク2、【ミセス・レディエント】!」

 

ーーー

【ミセス・レディエント】リンク2 地 獣 EX②

ATK/1400

ーーー

 

「このカードがいる限り、場の地属性モンスターの攻撃力は500ポイントアップするぜ!」

 

【ミセス・レディエント】

ATK/1400→ATK/1900

【大地の騎士 ガイアナイト】

ATK/2600→ATK/3100

 

攻撃力の差でいけば1000ポイント程度か。

それでもまだ許容の範囲内だ。十分迎え撃つことができる。

 

だが……奴のあの自信満々な様子を見るにまだ本命を出していないのだろう。

あいつも【サイバース・エンチャンター】の効果をわすれるほど馬鹿ではない。

知っていてなお攻撃力を上げてくるということは……あの伏せカードに何かあるのか?

 

ひとまずあいつの出方を見ない以上は何とも言えないか。

一つのミスが敗北へ繋がる可能性もある。偵察で鍛えられた私の目で戦況を見極めなければな。

 

「さぁて、宗像! てめえにとっておきを見せてやるよ! そのメタルフォーゼモンスターみたいなただの融合じゃないワンランク上の融合召喚をな!」

 

「なに……?」

 

「魔法カード【ミラクルシンクロフュージョン】を発動! シンクロモンスターを素材とする融合モンスターをフィールドと墓地から素材を除外して融合召喚するぜ! 場の【ガイアナイト】と墓地の【イリュージョン・シープ】を除外して融合!」

 

シンクロモンスターである【大地の騎士 ガイアナイト】を素材とする上級融合召喚か。

なかなか味なマネをしてくれる……。この私に融合で勝負してくるとは燃えてくるじゃないか……。

 

「"天地を貫く大地の咆哮! 今ここに顕現し、能あるものに裁きを下せ! 融合召喚! 【地天の騎士ガイアドレイク】!"」

 

ーーー

【地天の騎士ガイアドレイク】☆10 地 獣戦士 ③

ATK/3500→ATK/4000

ーーー

 

白き翼を宿した馬と騎手が一体化したようなモンスター……。その翼からは威圧するような力を感じる。

攻撃力も4000。かなり強力なカードだな。だが、守備表示にしてしまえば問題ないか。

 

「はっはっは! 驚いたか宗像! おめえのモンスター如き俺様のパワーで粉砕してやるぜ! バトル! 【ミセス・レディエント】で【サイバース・エンチャンター】を攻撃! "ゴージャス・ファング!"」

 

【ミセス・レディエント】

ATK/1900

【サイバース・エンチャンター】

ATK/1700

 

「ちぃ……なら【サイバース・エンチャンター】の効果発動! お前のその【ガイアドレイク】を守備表示にーー」

 

「あめえな宗像! 【ガイアドレイク】は効果モンスターへの反逆効果を持つ! こいつはモンスター効果の対象にならねえ!」

 

「なに?!」

 

私が驚く間もなく、【サイバース・エンチャンター】は【ミセス・レディエント】に噛み付かれ消滅してしまった。

くそ、少し甘く見ていたか……郷田副班長のことを。

 

宗像 LP4000→LP3800

 

「だが! 【エンチャンター】が破壊された時、墓地から【サイバース・ウィザード】を特殊召喚する!」

 

ーーー

【サイバース・ウィザード】☆4 光 サイバース ①

DEF/800

ーーー

 

「構わねえ。続けて【ガイアドレイク】! 【オリハルク】を攻撃! "テンペスト・ソウル・スラスター!"」

 

続けて【ガイアドレイク】の黒光りする大きな槍が【オリハルク】の体に直撃する。

 

【地天の騎士 ガイアドレイク】

ATK/4000

【メタルフォーゼ・オリハルク】

ATK/2200

 

「ぐおぉっ!」

 

宗像 LP3800→LP2000

 

この問答無用なパワーによる攻撃。

これでは奴に破壊衝動があるという説が有力か?

だから赤見の奴に付き、ペンダントの力を行使しようと。

 

「へっ、どうだ! 俺様のデュエルのちからは! 特殊機動班舐めてんと痛い目みるぜ?」

 

「ふっ、想像以上だよ郷田。だが、その破壊に満ちたデュエル。お前たちが成そうとしていることにほかならないな」

 

「んだと? どういう意味だ?」

 

「ペンダントの力を行使して破壊行動を起こす。赤見が何を考えているかはわからないが、名目としてはジェネシスを力による殲滅するといったところだろうな」

 

「てめえ……なに勘違いしてんだ? 赤見がそんなことするわけねえだろ! てめえの妄想で勝手に罪人扱いしてんじゃねえ! 赤見はペンダントの力を行使させないために動いてんだよ!」

 

赤見は……破壊行動が目的ではなく、むしろ封印するために動いているとでも言うのか?

しかし、それならば法を犯してまで国防軍に攻撃し脱走することはないだろう。

こいつが騙されているのかあるいはこいつ自身が嘘をついているか。真意は他にあると見たほうが現実的か。

 

「それならばなぜ本来禁止されているデュエルウェポンの武力行使にて国防軍を攻撃してまでペンダントを自らの管理に置こうとする? それはペンダントを自らの支配下に置きたいという願望にほかならないだろう」

 

「正直なところな。俺はこまけえ話はわからねえ……。だがよ、赤見と一緒に特殊機動班で過ごしてきた俺にはわかる。あいつは敵を傷つけるために戦うんじゃねえ。仲間を助けるために戦う奴なんだってな!」

 

くそっ! こいつの精神論に付き合ってられるか!

俺だって……! 赤見のやつを信じてやりたい。だが、私の中での理性がそれはおかしいと主張してしょうがない。

郷田の言う赤見の性格って奴は私も痛いほどわかる。

ジェネシスの殲滅という任務を引き受けながらも、あいつは救援任務や囮任務を進んで引き受ける。

少しでも仲間に犠牲が出ないようにしようと最善を尽くす。

それがあいつが班長になってからの特殊機動班だからな……。

 

全ては5年前のジェネシス侵攻による特殊機動班全滅が今の赤見を作っているんだろう。

そう……そういう奴なのはわかっている。

郷田みたいに素直に信じることができれば私も楽なんだろうな。こういう時だけは馬鹿になりたかったものだ。

だからこそ……私はあいつに会って話を聞いて、自分を納得させたいのだろう。

理論だけでは語れぬ、赤見班長の策略というやつをな。それが善なのか悪なのか。それを見極めるのは"偵察"警備班の私の仕事だろう!

 

「残念だが郷田。私は自らの目で見るまでは物事の善悪は判断しない。疑いがかかっている以上、他者からの情報は無用だ」

 

「ったくよ。おめえも難しいやつだぜ」

 

「どうだかな。さて、デュエルを続けるぞ。破壊された【オリハルク】の効果発動! 場のカード1枚を破壊する! 私は【ミセス・レディエント】を破壊!」

 

「だが、【ミセス・レディエント】が破壊された時、墓地から地属性モンスターを手札に加えることができるぜ! 俺様は【レスキューキャット】を手札に加える」

 

後続のモンスターもばっちりか。やってくれるな。

対して私の場は壊滅してしまった。次のターンでなんとか立て直したいところだな。

 

「俺様はターンエンド! エンド時【ダークソウル】の効果でデッキから【XX-セイバーフォルトロール】を手札に加えるぜ! さぁおめえのターンだ」

 

宗像 LP2000 手札1

モー裏ーモ

モーーーペ

 ー 融 

ーーーーー

ーー裏ーー

郷田 LP1600 手札2

 

私にターンが回ってくる。驚異的な能力を持つ【地天の騎士ガイアドレイク】だが、所詮受け付けないのはモンスター効果のみ。

魔法、罠の効果を駆使すれば突破は容易いだろう。

 

「私のターン、ドロー! ぬっ……」

 

くそ、ここでこんなカードを引くとは。そういえばデッキに突っ込んだんだっけなあ。

まぁ使う機会はないだろう。これを使わずしても奴には勝てるはずだ。

 

「私は【メタルフォーゼ・ゴルドライバー】の効果発動! 自らの場の【アストログラフ・マジシャン】を破壊し、デッキから【錬装融合】をセットする。さらに墓地の【融爆】の効果を発動! 墓地からこのカードを除外することで、先ほど発動した効果と同様の効果を発動できる。魔法カードの効果で場のカードが破壊されたことで【地天の騎士ガイアドレイク】を破壊!」

 

私の【アストログラフ・マジシャン】が破壊されると同時に【地天の騎士ガイアドレイク】から大きな爆発が発生する。

しかし、爆発が止んでもなお【地天の騎士ガイアドレイク】は場に生存したままであった。

 

「速攻魔法【禁じられた聖衣】を発動するぜえ! 場のモンスター1体の攻撃力を600ポイント下げることで、カードの効果による破壊を防ぐ!」

 

「くっ……!」

 

奴に対する私の秘策が防がれてしまった……。

攻撃力は2900までダウンしたが、【メタルフォーゼ・オリハルク】を融合召喚しても攻撃力は2800どまり。

現状ではどうにもできないか。

 

くそ、あいつ如きに苦戦するとは信じたくはないが、少なくとも数週間前よりははるかに強くなっていると感じる。

これも赤見の……いや、ここ最近のジェネシスとの交戦の成果なのか……?

思い起こせば全ては遊佐 繋吾との出会いとペンダントからおかしくなった。

ペンダントによる影響か? 大きな力は人を惑わす。それに赤見も惑わされてしまったのだろうか。

 

そう考えるとやはりペンダントは恐ろしい代物だ。この手で抹消しなければ……。

これはもうSFSだとか国防軍とかの問題ではない。あれをこの世から消さなければ世界の崩壊は現実味を帯びてくる。

 

考えれば考えるほど焦燥感に駆られてしまう。

冷静にならなければ……いまはこのデュエルに集中するんだ。

ここで勝たなければ世界は崩壊する。負けるわけにはいかないんだ。まだやり残したことが私にはある!

 

「ペンデュラム召喚にてEXデッキから【メタルフォーゼ・ヴォルフレイム】を守備表示で特殊召喚! モンスターを1体セットし、ターンエンドだ」

 

宗像 LP2000 手札1

モー裏裏モ

モー裏ーー

 ペ ー 

ーー融ーー

ーーーーー

郷田 LP1600 手札2

 

「おっしゃあ! 手も足もでねえようだな? 俺様のターン、ドロー! 魔法カード【貪欲な壺】を発動するぜえ! 墓地のモンスター【エアベルン】を2体、【サモンプリースト】、【ミセス・レディエント】、【ダークソウル】の5体をデッキに戻し、カードを2枚ドローするぜ!」

 

ここにきて手札増強か。

さすがに壁モンスター3体いれば耐えられるだろうが、なんとかして逆転の秘策を考えなければ……。

 

「おっし、【レスキューキャット】を召喚! こいつを墓地へ送り、デッキから【XX-セイバーダークソウル】と【X-セイバーエアベルン】の2体を特殊召喚! さらに場にX-セイバーモンスターが2体以上いる時、手札の【XX-セイバーフォルトロール】は特殊召喚できるぜえ!」

 

ーーー

【X-セイバーエアベルン】☆3 地 獣 ②

ATK/1600

ーーー

【XX-セイバーダークソウル】☆3 地 獣 ⑤

DEF/100

ーーー

【XX-セイバーフォルトロール】☆6 地 戦士 ④

ATK/2200

ーーー

 

「レベル3の【エアベルン】にレベル3の【ダークソウル】をチューニング! 深緑の力! 大自然の源を体現し、陰謀砕く龍となれ! シンクロ召喚! レベル6、【ナチュル・パルキオン】!」

 

ーーー

【ナチュル・パルキオン】☆6 地 ドラゴン EX②

ATK/2500

ーーー

 

新たなる自然の力を身にまとったドラゴンモンスターが出現する。

敵の数はこれで3体。まだ大丈夫だ……。

 

「さらに魔法カード【二重召喚】を発動! このターン、もう1回通常召喚ができるぜ! 俺は【融合呪印生物ー地】を召喚!」

 

ーーー

【融合呪印生物ー地】☆3 地 岩石 ①

ATK/1000

ーーー

 

「へっへ、見せてやるよ……宗像! こいつは自身と融合素材モンスターを一緒に墓地へ送ることで、その融合召喚先のモンスターを特殊召喚できる効果を持つ!」

 

「なに……融合魔法を用いずに呼び出すだと……?」

 

「あぁそのとおりよ! 俺は【ナチュル・パルキオン】と【融合呪印生物ー地】の2体を墓地へ送り擬似融合! "森羅万象を統べる大自然の咆哮! 猛き牙と堅き鱗に宿りて、絶対無敵の障壁となれ! 擬似融合召喚! 【ナチュル・エクストリオ】!"」

 

ーーー

【ナチュル・エクストリオ】☆10 地 獣 EX②

ATK/2800

ーーー

 

なんだあのモンスターは……あいつもシンクロモンスターを素材とする上級融合モンスターってわけか。

あんなモンスターは見たことない……。おそらく最近郷田が投入したものだろう。

あいつも【ガイアドレイク】級の厄介な効果を持ち合わせているのだとしたら……。それこそ私はますます窮地に立たされることとなる。

くそッ! 意地でも私は負けんぞ……! 郷田ごときに私の目的を止められてたまるか!

 

「さらに【XX-セイバーフォルトロール】の効果で、墓地から【X-セイバーエアベルン】を特殊召喚!」

 

ーーー

【X-セイバーエアベルン】☆3 地 獣 チューナー ②

ATK/1600

ーーー

 

「んじゃあバトルだぜ! 【エアベルン】で【サイバース・ウィザード】を攻撃! "ダブル・スラッシュ!" 続けて、【XX-セイバーフォルトロール】で【メタルフォーゼ・ヴォルフレイム】を攻撃! "アサルト・ブレード!"」

 

【X-セイバーエアベルン】

ATK/1600

【サイバース・ウィザード】

DEF/800

 

【XX-セイバーフォルトロール】

ATK/2200

【メタルフォーゼ・ヴォルフレイム】

DEF/2000

 

「くっ……私のモンスターが……」

 

目の前にいる私のモンスターが次々に破壊されていく。

残りはセットしたモンスターが1体のみ。対して奴は【ガイアドレイク】と【エクストリオ】の攻撃が待ち構えている。

 

「続けて【エクストリオ】でセットモンスターを攻撃だぜ! "ディトネイト・バイト!"」

 

【ナチュル・エクストリオ】

ATK/2800

【メタルフォーゼ・ビスマギア】

DEF/0

 

このままじゃガラ空きだ。だが、ここで負けるつもりはない!

 

「トラップ発動! 【メタルフォーゼ・カウンター】! 私の場のモンスターが破壊された時、デッキから"メタルフォーゼ"モンスター1体を特殊召喚できる!」

 

「あめえっての! 【ナチュル・エクストリオ】の効果発動! 相手が魔法か罠カードを使った時、墓地のカード1枚を除外し、デッキの一番上のカードを墓地へ送ることで、それを無効にし破壊する!」

 

「なに!?」

 

これでは……あのモンスターを倒さない限り私は一切の魔法・罠カードの発動を封じられる……と。

ただでさえ【ガイアドレイク】を倒す方法は魔法か罠カードしかないと思っていたところだったのに。

なんてやつだ……あの野郎。単純な攻撃力的なパワーだけではなく制圧ということまで身につけてきやがったか……。

これも赤見によるジェネシス対策の一環なのだろうか。これまでの特殊機動班の成長レベルとは桁違いの実力だ。

ペンダントから何か恩恵を受けたか……? あのペンダントには強力な力があるはずだ。なにが起きてもおかしくはない。

 

「……郷田。それもペンダントってやつの力か?」

 

「あ? 何がだよ」

 

「お前のそのデュエルレベルの成長具合だよ。ペンダントによって最適なデッキが構築された……ってところか」

 

「何をふざけたこと言ってんだ。俺たちはジェネシスに大敗北した。だけどなんとか生き残ることができた。だからこそその経験を生かして努力した結果が今なんだぜ。ここ最近俺たち特殊機動班は今までとは想像がつかないほど死地をくぐり抜けてんだ。ペンダントの力なんてこれっぽっちも知らねえ! 特殊機動班の進化は自らの努力によるものだ!」

 

「なるほどな……。あくまでペンダントの力には一切関与していないと。だが私は直接赤見の姿をこの目で見るまでお前の発言を信じるつもりはない」

 

「へっ、なら二度とそれが叶うことはねえな! 俺様は何があろうと全力を持っておめえをここで食い止める! そして、俺自身が正しいと信じたものを貫き通す!」

 

郷田のやつ……。もしかしたら赤見からはペンダントの事情みたいなものはなにも聞かされていないのかもしれないな。

きっと赤見からはいい具合に騙されているのかもしれない。あくまで可能性の話だが……。

 

とりあえずわかったことは郷田は赤見のことを心から信用している。それゆえにその行動を疑おうともしない。ということだ。

そういうまっすぐで馬鹿になれるやつは……今の私からすれば羨ましいものだな。

 

「そして、これでおめえは負ける! 最後だぜ! 【地天の騎士ガイアドレイク】! 宗像へダイレクトアタック! "テンペスト・ソウル・スラスター!"」

 

【地天の騎士ガイアドレイク】

ATK/3500

 

奴の大きな槍が私の元へと迫ってくる。

墓地には除外することでダイレクトアタックを無効にし、バトルフェイズを終了する【光の護符霊剣】があるが、これは罠カードゆえに無効化されてしまう。

くっそ……頼みの綱が手札のこのカードしかないとはな……。今の場面だと皮肉じみてるもんだが。

 

「私は……ダイレクトアタック時に手札の【BF-熱風のギブリ】の効果発動! こいつを守備表示で特殊召喚する!」

 

「なにぃ? "BF"だと?」

 

【地天の騎士ガイアドレイク】

ATK/3500

【BF-熱風のギブリ】

DEF/1600

 

【ガイアドレイク】の大きな槍は私の【熱風のギブリ】が受け止めてくれた。

こいつはモンスター効果。【ナチュル・エクストリオ】の効果を受けない。

 

それにしても危なかった……このターンなんとか生き残ることができた。

まさか赤見の落し物に救われるとはな……思ってもいなかった。

 

「なんでおめえが赤見の"BF"モンスターを持ってんだ!」

 

「SFSの正面口に落ちていたんだ。今回の襲撃は随分と激しい戦闘だったからな。あいつも落としたことに気付かなかったんだろう」

 

「ちっ、そいつは俺様が責任を持って返しといてやる。このままターンエンドだ!」

 

宗像 LP2000 手札0

モーー裏モ

ーーーーー

 ー 融 

ーモ融モー

ーーーーー

郷田 LP1600 手札0

 

「エンドフェイズ時に【メタルフォーゼ・ビスマギア】の効果でデッキから【メタルフォーゼ・ゴルドライバー】を手札に加える。そして、私のターン……」

 

これ以上ペンデュラム召喚での時間稼ぎはできない。そして、魔法・罠カードは無効。実質融合召喚は封じられたようなものだ。

となると私に残されたのはリンク召喚のみ。

せめて……【ナチュル・エクストリオ】を倒せるリンクモンスターが呼べればまだ希望はあるか。

何か……この状況を打開できるカードを……!

 

「ドローッ!!」

 

こいつは……そうか……! こいつならば……いける!

 

「郷田。正直私はお前を見くびっていたよ。命令に従えずパワーでのゴリ押しでしかデュエルができない無能な隊員だと」

 

「随分な言い草だなあ? 負け惜しみか?」

 

「ふっ……。そう聞こえるか? まぁいい。私はお前の姿を見て"慢心することなく現実と向き合い続けることが必要だ"と学べた。あらためて礼を言うぞ郷田」

 

「へっ、人は進化していく。努力っていうのは人を強く成長させていくもんなんだぜ? それが結果の出ないものだとしてもよ。人ってのは経験を積んでかなきゃ人として死んじまう」

 

「お前の言うとおりだ。だからこそ赤見と向き合うには私も更なる高みを目指さなければならないと感じたよ。赤見を止めるには私自身もそれ相応の経験と覚悟が必要だとな!」

 

「なんだとお? だが、おめえのお得意の融合召喚は封じてる! おめえはもう赤見を追うことはできねえ。ここで終わりってことだ」

 

「そいつは大きな間違いだ、郷田! 私はペンデュラム召喚にてEXデッキから【メタルフォーゼ・ヴォルフレイム】を特殊召喚!」

 

ーーー

【メタルフォーゼ・ヴォルフレイム】☆7 炎 サイキック EX①

ATK/2400

ーーー

 

「そんなんじゃ俺様のライフは削れねえぜ!」

 

「まぁ見とけよ。究極の融合をお前に見せてやる。速攻魔法【超融合】発動! これは自分と相手のフィールドから素材を墓地へ送り融合できる! そして、このカードの発動にはカードの効果を発動できない! つまり、無効にすることはできないってことだ!」

 

「んだとお……! 【ナチュル・エクストリオ】の効果をすり抜けてきやがった……!?」

 

「私は【メタルフォーゼ・ヴォルフレイム】と攻撃力が3000以下のモンスター、【XX-セイバーフォルトロール】、【ナチュル・エクストリオ】の2体を融合! "剛なるもの、情熱の炎と交わりて新たなる真炎となれ! 融合召喚! いでよ、【メタルフォーゼ・カーディナル】!"」

 

ーーー

【メタルフォーゼ・カーディナル】☆9 炎 サイキック EX①

ATK/3000

ーーー

 

「まさか……俺様のモンスターを素材に出しやがるとは……。くっそ、やってくれるじゃねえか! だが、まだ【ガイアドレイク】が健在だ!」

 

「だが……バトルだ! 【カーディナル】で【エアベルン】を攻撃! "ダイナマイト・クラッシャー!"」

 

【メタルフォーゼ・カーディナル】

ATK/3000

【X-セイバーエアベルン】

ATK/1600

 

「くっぐおおおお!」

 

郷田 LP1600→LP200

 

これでお互いにモンスター1体、手札は0。ここからは引き勝負ってわけだ。

勝てるかどうかは正直わからない。わからないほどに追い込まれるのは想定外だが……それでもこういう状況ってのは熱くなる。

かつてSFSで赤見と競い合ってた頃が懐かしいな。あの時もこんなギリギリのデュエルをよくしていた。

だが、いつも土壇場で赤見には負けていた。その詰めの弱さが私の弱さでもある。だからこそ今のような場面では一つ一つの行動を慎重にしなければな。

 

「メインフェイズ2。墓地の【メタルフォーゼ・カウンター】を除外して、EXデッキから【メタルフォーゼ・ヴォルフレイム】を手札に加える。そして、リバースカードから【錬装融合】発動! 手札の【ビスマギア】と場の【カーディナル】を融合! 新たなる錬装の力をここに! 【フルメタルフォーゼ・アルカエスト】を守備表示で融合召喚!」

 

ーーー

【フルメタルフォーゼ・アルカエスト】☆1 炎 サイキック EX①

DEF/0

ーーー

 

「そして、墓地の【錬装融合】をデッキに戻すことで、カードを1枚ドロー! 私はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

宗像 LP2000 手札0

モー裏ーモ

ーーーーー

 融 ー 

ーー融ーー

ーーーーー

郷田 LP200 手札0

 

「おっしゃ、俺様のターン、ドロー! きたぜ! 装備魔法【ビックバン・シュート】を【ガイアドレイク】に装備! 装備モンスターの攻撃力は400ポイントアップし、守備表示モンスターを攻撃した時、貫通ダメージを与える!」

 

【地天の騎士ガイアドレイク】

ATK/3500→ATK/3900

 

これで貫通ダメージを受ければ私のライフは0になるか。

本当にこの男の攻撃は容赦がないな……。だが……。

 

「くらえ、宗像! 終わりだ! 【ガイアドレイク】で【オリハルク】を攻撃! "テンペスト・ソウル・スラスター!"」

 

「どうやらこのデュエルの引き勝負。私の勝ちのようだな、郷田! トラップ発動!」

 

私のトラップカードの発動と共に、【ガイアドレイク】の体から大きな火柱が立ち、一気に燃え上がった。

 

「ぐお……そいつはまさか……」

 

「上級トラップと言われるミラーフォースシリーズの1枚。【業炎のバリア -ファイヤー・フォース-】。相手の攻撃表示モンスターを全て破壊し、その攻撃力分の半分のダメージを私が受ける!」

 

続けてその炎は私の体を覆うように取り込み燃え上がっていく。

全身に大火傷しそうなまでの熱さと痛みが襲いかかってくる。

 

宗像 LP2000→LP50

 

ライフは……ギリギリ持った……。少し視界が霞むようだが、このカードの効果はこれだけじゃない。

私が受けきったダメージを相手にも与える効果が残されている。

 

「さぁ……お前もこのダメージを受けてもらうぞ郷田ァ!」

 

「ぐおおあああああッ!」

 

郷田 LP400→LP0

 

続けて郷田の体が燃え上がりライフポイントが0の表示になったと同時に郷田の体はその場へと倒れる。

はぁ……なんとか勝てたか。だが、これで私は赤見へと一歩近づいたというわけだ。

奴へ会うまでは私はどんな手を使おうと……立ち止まるわけにはいかない。

 

 



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Ep75 - 国防軍の追跡

デュエルに破れた郷田は最後の攻撃を受け倒れたまま動くことはなかった。

 

さすがの郷田でもデュエルウェポンによる大ダメージの前にはなすすべはないだろう。

それほどまでにこのデュエルウェポンが体にもたらすダメージは大きい。改めてこの兵器の恐ろしさを痛感する。

 

それはさておいてこいつには聞きたいことがある。

殺すわけにはいかない。赤見の居場所もこいつは知っている可能性が高いからな。

 

「郷田。悪いがお前を国防軍へ突き出す。テロリストに加担したんだ。言い訳はできまい」

 

「……あぁ……。いまさら……言い逃れするつもりは……ねえ……よ」

 

郷田はこうなることを覚悟していたのかもしれないな。そうでなければ体を張って赤見達を守るわけがないだろう。

車もないし、既に周囲には決闘機動班の連中もいる。

時間稼ぎにしてもこの状況からの逃亡は不可能だ。

 

「なぁ郷田。お前はなぜ赤見をそこまで信じれる? 命を張ってまで。あいつから何を聞いた?」

 

「っへへ……。あいつはなんにも教えてくれなかったがよ……。俺様には……わかるんだ。あいつは理由なしには動かねえ……」

 

やはり……郷田自身は赤見からはなにも聞いていないようだな。

こいつを尋問したところで何も吐きそうにはないか。まぁ仕方あるまい。

 

「おめえも……赤見と一緒にいたならわかるんじゃねえか? あいつが何をしようとしてるか……なんてよ」

 

「なに……?」

 

「おめえはしきりに破壊行為がなんだとか言ってんが……赤見がそれをしてなんになるんだ? 赤見の目的はずっと前からかわらねえはずだ」

 

目的……デュエルモンスターズを正しい姿へと戻すこと……。

私だったらペンダントの存在を抹消し、脅威を取り除くことしか方法はないと考えるが……赤見にはそれ以上の答えがあるとでも言うのだろうか。

存在を抹消するだけであれば国防軍へ攻撃する理由はない。

 

「目的は私だってわかる。あいつを信じたい。だが、ここまでの行動がそれを否定している。あいつが何をしようとしているのか……。なぜ国防軍へ反逆行為をとったのか……」

 

「わりいが俺様をいくら尋問しようと……なんにもしらねえぜ。ただ……おめえのために一つだけ言っとくぜ……人を信じることってのは理屈じゃねえ……。人を思いやる……信頼する……"心"ってやつだぜ……」

 

郷田はその一言の告げたあと静かに目を閉じた。

やりきったような満足そうな表情をしながら。

人を信じるのは理屈じゃない……か。だが……大人っていうのは理屈を並べなければ自分を納得させることはできない。私はもう……そういう人間なんだ郷田。お前みたいに純粋な心のままはいられないのだよ。

 

それよりも考え事している場合じゃない。

ここでこいつを殺してはならない。もし殺したとなれば国防軍からはせっかくの情報源を抹消したとされ罰を受ける可能性だってある。

 

私はすぐさま周辺にいるSFS隊員を呼びつけ医療班まで運ぶよう指示した。

なんとか命は落とさないでいてくれればいいが……。

 

「宗像班長。お疲れ様です」

 

私の名を呼ぶ声に振り返るとそこには桂希副班長の姿があった。

彼は確か若手隊員の中でも飛び切り優秀で決闘機動班の中でも中心のような存在だったな。

現にこの状況下にあってもまったく取り乱していないあたりしっかりしている様子が伺える。

 

「あぁ、桂希副班長か。赤見達を取り逃がしてしまった。すまないな」

 

「いえ。我々だけではトラップに引っかかっている間に逃げられていたことでしょう。郷田を仕留めただけでもありがたい限りですよ」

 

「そうか。で、これからどうする? 私は赤見達を追おうと思っているが」

 

「実は我々決闘機動第1班もその任務を受けております。よければ作戦に同行しますか?」

 

「それは助かるな。偵察警備班の皆はジェネシス襲撃で既にいっぱいいっぱいで作戦行動が取れる状況ではない。動けるもので固まって動いた方がいいだろう」

 

決闘機動班の中でも優秀と言われる桂希副班長の率いる部隊とご一緒できるのであればこれほど頼もしいものはない。

仮に赤見達と出くわしたとしてもそのままデュエルで追い込むこともできる。

 

「わかりました。それでは準備を整えたら車を出しますので出発しましょう」

 

「わかった。それにしても……たった一日で随分変わったもんだな……SFSは」

 

「まったくですね。社長と司令直属班が壊滅。特殊機動班がテロリスト認定。にわかには信じられませんよ」

 

「だが、現実で起きていることだ。私たちの知らないところで何があるか……確かめなければならない。赤見の奴にな」

 

「それが宗像班長の目的ですか。なにが起きているのかは……私の知る限りではありますがお話しましょうか?」

 

桂希副班長は今の事態を知り得ているのか……? それならば非常に興味深い話だ。

今回のジェネシス襲撃全体でなにがあったのか。正面口でずっと交戦していた私にはまったく情報が入ってこなかったからな。

赤見が……テロリストになったという知らせ以外は……。

 

「ありがたい。車の中で道中にでも聞かせてもらえるか?」

 

「わかりました」

 

そうして私は桂希副班長率いる決闘機動第1班と共に赤見を追うべく車を走らせた。

 

 

 

ーー郷田さん達と別れて30分くらいたっただろうか。

先程まではここまで起きたことにまだ実感がわかず放心状態であったが、時間が経つとともにようやく冷静さを取り戻すことができた。

 

俺たちの乗っている車は真夜中の山道を進み続けていたが、ようやく街明かりが見えてきた。あれはおそらく真跡シティだろう。

こんな真夜中でも街灯等の光があるあたりやはり真跡シティは都会だなと改めて再認識させられる。

 

後ろを振り返ってみるともう追手は来ていなさそうだった。郷田さんが止めてくれているおかげだろうな。無事だといいが……。

 

にしても国防軍へ反逆して見事テロリストになってしまった俺と赤見さん。そして、それに加担した結衣。

それが意味することは俺たちは犯罪者になったということ。この後一体どうしたらいいんだろう……。

テロリストを殲滅するつもりが自らがテロリスト扱いになってしまったなんて……。笑い話にもならないな。

 

俺は最後までこのペンダントを自らで守り続けるべきなのか躊躇していた。国防軍に逆らってまで……命を張る必要があるのか……だ。

ペンダントを自分が所有し続けることは父さんとの形見だから……そして、国防軍では守りきれないとの判断だから……?

だが、それも俺にとってのわがままなのかもしれない。

国防軍が新しい防衛体制を整えることで守りきることも可能だろうし、こんな危険な代物を一民間企業であるSFSが持っていればテロリスト判定されてもおかしくはない。

俺としてはあのネロってやつをぶっ殺せればそれでいいからな。

 

ただ……赤見さんはそうはしなかった。俺が迷っている中、赤見さんは俺の迷いをかき消すように国防軍への反逆をした。

赤見さんはどういう考えなのだろうか。俺を守る使命があるとはいえ、自らが犯罪者になってまで自分達でペンダントを所有し守る道を選んだ。

自分を犠牲にしてまでそんな決断ができるだろうか。なにか裏が……いや、そんなこと考えていても仕方がない。

もう俺は……やってしまったんだ。国防軍への反逆を。

 

今からではいくら弁明しようと逃れることはできない。つまり一生逃げ回って生活することになるのだろうか……。

それに……結衣のやつを……完全に巻き込んでしまう形になってしまった。結衣は決して反逆行為なんてしてはいないのに。

 

「結衣。本当によかったのか? 俺たちと一緒にいて」

 

「……まったく。相変わらず物分りの悪い人ですね。何度も言わせないでください……。私には帰るところなんてないんですから……」

 

「だが、俺たちも逃亡中の身だ。帰る場所なんてないぞ。まだSFSにいた方が……」

 

「いいんです。私は今、"一人じゃない"のですから。だから気にしないでください。私は……後悔してません」

 

俺としては結衣がいてくれれば心強い。

結衣はデュエルは強いし、頭はキレるし、信用できる大事な仲間だからな。

 

「辛い状況に巻き込んで悪かったな。繋吾、結衣。急な出来事で混乱してるだろ?」

 

「はい……ですが落ち着きました。赤見さん、助けてくれてありがとうございました」

 

「いや……繋吾と結衣の意思が再確認できてよかったよ。あそこで国防軍にペンダントを渡すかどうか」

 

俺がどうするのか赤見さんは見ていた……?

一体どういうことだろう。

 

「赤見さん……いつから司令室の扉の影に……?」

 

「白瀬班長があの部屋に入ったくらいからかな」

 

ということは白瀬班長とのやり取りを赤見さんはずっと見ていたってことか。

乱入のタイミングを伺っていた……といったところだろうか。

 

「あの状況なら繋吾の立場からすればペンダントを渡すのも仕方がないと思っていた。だけど、お前は最後まで諦めずに粘った。さすがだよ」

 

「正直悩んでいました。国防軍に楯突いてまで守るべきなのか。だけど……これは父さんとの思い出だし……それに国防軍に渡してしまってはいけない気がして……決断できませんでした」

 

「それで十分だ。でもよかったよ……。それが"あいつ"の手に渡らなくて。本当に助かった。ありがとう、繋吾」

 

「え……? あいつって?」

 

「そうだな。なぜ私が国防軍へ攻撃し法を犯してまで逃げたのか。これからどうするのか。移動しながらでも話そう。気になるだろ?」

 

確かにペンダントを守るためとは赤見さんはかなり強引な手段を使って逃走を図った。しかも手際よく。

なぜ犯罪者になってまで特殊機動班の役割を遂行しようとしたのか。その理由は一体なんなのだろうか。それがきっと赤見さんを強く突き動かす何かなのだろうな。

 

「ええ。普段の赤見班長からは考えられないほど強引な行動でしたし……。犯罪を犯してまで私たちを逃がしたのには理由があるんですよね?」

 

「あぁ。そうでもしなきゃ私も堂々と法は犯せないさ。これからはイチかバチかの大勝負。負ければ死刑ってところだろうな」

 

「とんでもないですねそれ……赤見さん」

 

やはり何かあったんだ。俺が知らないうちにあのSFS防衛戦の中で……何かが。

もう俺は表立って活動することができなくなってしまったし、追われる身として一生過ごしていくことにはなるのだろう。

だが……そのリスクを冒してでもやるべきことがあるということだ。

 

「だが繋吾。おかげさまでジェネシス殲滅への道はぐっと縮まった」

 

「どういうこと……ですか?」

 

「それじゃ、話そうか。これから俺たちがどうするべきかを」

 

そして、赤見さんは車を運転しながら今後についてを話始めた。

 

ーーSFS大防衛戦開始直後。我々特殊機動班はジェネシスの戦力分散を目的とした影武者作戦を実施した。これは戦線維持のために行ったものだ。繋吾がいると思われる前線に戦力を集中されてしまうと戦線は崩壊し、建物内部への敵の侵入を許してしまい、本物の繋吾が襲われてしまう危険性もあったからな。

 

もちろん決闘機動班の連中はそんなものは知らない。混乱の中でも我々の作戦だけでなく決闘機動班が計画していた作戦は実行された。

 

それは特殊機動班が囮になり、決闘機動班にて挟撃する作戦。

だが、想定よりもジェネシスの攻撃は激しく、決闘機動班による両翼の部隊は押されはじめていた。

これでは全滅も有り得ると判断した私は予定よりも早く影武者作戦を実施して決闘機動班の援護を行った。

 

影武者作戦による戦力の分散は成功した。敵の援軍を阻止できた。

だが……それと同時にわたしのデュエルウェポンにひとつのメッセージが届いた。

それは……生天目社長からだった。

そこには恐るべき内容が書かれていた。今回のジェネシスの狙いは繋吾ではなく、社長だったということが。

 

そして、しばらくして社長から長文のメッセージが届いた。遺書になるだろうという一文を添えてな。

そこには……今まで社長が私や繋吾にしてきた内容の本当の理由が書かれていた。

私に白瀬班長の情報収集をさせたり、繋吾を司令直属班に異動させたりといった内容のな。

 

話は生天目社長がSFSを設立した直後あたりまで遡る。

生天目社長のメッセージによると昔、生天目社長は国防軍の研究室出身で、今の国防軍長官である時田長官とはよく交流があったそうだ。そして、SFSの本当の設立目的はジェネシスに対する外部戦闘力の確保。

国防軍のような公的機関では何かしら軍事行動を行うにも国家としての認可がいる。つまり作戦行動の自由度が狭まってしまうと判断し、設立されたのだそうだ。

 

そして、その研究室では当時からペンダントの存在は知り得ていたそうだ。当時は国防軍で緑と赤のペンダントの二種類が保管されていたらしい。だが、自由に研究が可能とされるSFSへと緑のペンダントのみが設立と同時に移動された。

 

ジェネシスの破壊活動が行われる中、国防軍とSFSは共同作戦を行っていたが、だんだんその協力関係が怪しいものとなってくる。時田長官がペンダントを研究目的のためと生天目社長に向かって何度も譲れと要望していたそうだ。

 

生天目社長は当初の目的のとおり、研究の自由さ等で断り続けていたが、そのしつこさに危機感を覚えていた。

ペンダントは強大な力を秘めている。つまり、それを時田長官が私物化してしまったとなれば何か恐ろしいことが起きるのではないか。そう生天目社長は感じていたらしい。

そこでとった行動が、SFSで最も腕が優れる人物にペンダントを託し、国防軍、ジェネシス双方に対する抑止力としてSFSの戦力を維持しようとしたのだ。

 

その人物が当時の特殊機動班長の遊佐 真吾班長であり、結果的には5年前の襲撃で悲惨な結末を迎えた。

 

それから居場所不明とされてきた緑のペンダントだが、ここ最近になって繋吾がSFSに入隊し、その存在が明らかになった。

もちろんあの時社長と繋吾は会っていたからペンダントが見つかったことは社長も知っただろう。

 

だが、社長はペンダントのことは隠し通したかった。ジェネシスの脅威はもちろんのこと国防軍に知られればそれこそ時田長官がどうしてくるかわかったものではないからな。

 

しかし、結果的に時田長官はペンダントの存在を知り得ていると生天目社長は考えている。それは白瀬班長の存在だ。

繋吾が入隊してから白瀬班長の行動は大きく変わった。今までは特殊機動班への嫌がらせが多かったのに協力する姿勢を見せたり、やたら表に姿を見せないようになったりだ。

裏から桂希副班長を動かして、こちらの同行を探っていたのも全て白瀬班長の思惑だろう。

 

私が白瀬班長に対して行った尾行で白瀬班長が時田長官と繋がっていることも明らかになった。

つまり、白瀬班長は時田長官の手駒として動いている。なぜ彼が協力しているのかは不明だが、白瀬班長を使って時田長官は何かをしようとしている。

 

はじめはペンダントを集めることが目的だと思っていた。だが……ジェネシスに赤のペンダントは奪われた。

そうなればせめて緑のペンダントを奪おうと動くものだと思ったが、SFS本会議での白瀬班長の行動は国防軍への引渡しではなく特殊機動班の存続を選択した。

 

ここから導かれる答えとしては、時田長官はペンダントを集めるつもりはないということだ。

 

だが……そしたら白瀬班長を動かして時田長官は何をしようとしていたのか。

生天目社長の予想は"ジェネシスにペンダントを集めさせること"だ。

 

国防軍襲撃の際にジェネシスの幹部であるリリィは国防軍隊員に包囲された状況にありながら脱走に成功した。

リリィがとてつもなく強かった可能性もあるが、もしかすると国防軍があえて奪わせた可能性もある。

そして、今回もSFSにジェネシスが襲撃してきたが、同じようにジェネシスにペンダントを奪わせたかったのかもしれない。

 

その考えの裏には……国防軍は自ら表立って極秘情報であるペンダントを集めることができない。ならば別の者に集めさせようとした。時田長官はそう思ったのかもしれない。

ということは生天目社長でもジェネシスでもなんでも、あのペンダントは集まることで何かしらの事象をもたらすのかもしれない。

 

生天目社長はそう考えて繋吾を白瀬班長の目の届かないところへ避難させようとしたのだ。

司令直属班を使ってペンダントを確保し、存在を隠すため。そして、繋吾自体を決闘機動部から離脱させ、繋吾ごと存在を隠すために。

 

それが生天目社長の狙いだった。

結果的にペンダントは無事で繋吾も生きている。彼らの思惑を外すことには成功したらしい。

 

だが、今回のSFS襲撃で白瀬がなぜ時田長官に協力したのかは明らかになった。

全てはSFSの社長の座として君臨するため。時田長官は生天目社長が目障りだったのもあり、白瀬班長にそういう話を持ちかけたのかもしれない。白瀬班長は元々出世欲の高い人物で自分より若い神久部長が上に立っていることが気に食わない様子だったからな。

 

ジェネシスによるSFS襲撃はおそらく彼らが描いた絵。ペンダントをジェネシスへ渡し、その不手際を問わせることで社長に責任を押し付け、白瀬班長が社長の座に着くこと。

そこで白瀬班長はあえて我々特殊機動班の作戦に乗る形をとり、"新規隊員募集"を行った。

 

そして、今回の新規隊員の実戦への参加は誰もがおかしいと思っただろう。

だが、それは白瀬班長がSFSを乗っ取るための下準備に過ぎない。隊員のうちのほとんどは国防軍からの流れ者だろう。

戦場でも随分と慣れた様子だったからな。野薔薇副班長あたりが困惑していたのを見たよ。

 

結果的に奴らの当初の目論見はずれた。ペンダントの存在場所がわからなくてはジェネシスに渡す作戦なんてできないからな。

そこで……社長を殺させるという判断に至ったのだろう。SFS内部を支配するために。そのためにおそらく私や神久部長も殺したかったはずだ。

殺すことに関してはどういうやり方をしたのかはわからないが、決闘機動班という大組織を操れば戦場のコントロールはある程度できるはずだ。自らが撤退し、あえて侵入を許させたりな。

考え難いが本当に白瀬がジェネシスと通じてる可能性もある。通じていればSFS内部でこんな回りくどいことしなくていいだろうしな。

 

そして……当初の目論見が外れたものの、結果的に社長が死んだことで白瀬班長がSFSにトップに座るという目的は果たされたわけだ。

 

これが生天目社長が伝えてくれたここまでの真実だ。

 

ーーここまでの出来事には全て裏があったということか……。

赤見さんの話を聞いて改めて頭の中が混乱してくる。

誰が味方で誰が敵なのか……わけがわからなくなりそうだ。

 

「さて、これからどうするのか……だが、とりあえずペンダントの集結を阻止しないと大変なことが起きる。つまり、いままで通り私たちは繋吾の防衛をしていく」

 

「ですが……ジェネシスだけじゃなく、これからは国防軍からも狙われるとなるとこれまで以上に辛いですね……」

 

「それに関しては安心してくれ繋吾。これからとある場所に向かう。生天目社長の遺言を他に受け取った仲間がそこにいるらしい。今後どうしていくかは合流してから考えよう。まずは生き残ってからだ」

 

そうだな……。追っ手は振り切れたとはいえまだ俺たちの追跡は続いているはずだ。

まずは……安心して身を隠せる場所にたどり着くまでは油断はできない。

 

「車はここで乗り捨てる。国防軍の目をそらすためにここからは徒歩だ」

 

「わかりました。夜が明けるまでにはなんとかたどりつきたいところだな……」

 

「あぁ、それまでは歩みを止めるわけにはいかない。ジェネシスとの戦闘後で疲れているかもしれないが、辛抱してくれ」

 

俺は実質戦っていないから大丈夫だが、結衣はかなり疲れている表情をしていた。

顔もぐしゃぐしゃだし……。大丈夫だろうか。

 

「結衣、平気か?」

 

「えぇ……。少しふらふらしますけど大丈夫です」

 

結衣は転びそうなほどにフラフラしながら歩いている。これでは途中で倒れてもおかしくないだろう。

俺は咄嗟に結衣の肩を担いだ。

 

「ごめんなさい……迷惑かけてしまって……」

 

「気にするな。お前がいてくれるだけで俺は助かってる。もう少しだから頑張ろう」

 

「はい……」

 

車から降りた俺たちは赤見さんが導くままに夜の真跡シティを歩き出したのだった。

 

 

 



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Ep76 - 路上生活の知恵

 

真跡シティの入口へとたどり着くとそこには大きめの門が立っていた。

さすがにまだ国防軍の見張り等はいない。難なく中には入ることができそうだ。

入口の門には"真跡シティ ノース区"と書かれていた。SFSはノース区を抜けた先の山道にあるため、一番近い入口がこことなる。

 

そして、ノース区といえば俺が一番寝泊まりしていたある意味馴染みが深い場所でもあった。

というのも構造自体が細い道が多く、身を隠すには一番最適だったからだ。ホームレスは国防軍に見つかればやはり色々と面倒なことになるからな。

俺以外にもホームレスが多くいて、そういう人たちを見かけると少し安心した気持ちになっていたっけな。

今もホームレスに戻ってしまったような状況だが、当時を思い出し少し懐かしい気分になった。

 

「よかった。検問とかされてたらやばいと思っていたがまだ大丈夫なようだ。目標は真跡シティのウエスト区。そこまで移動しなければならない」

 

「……はい……」

 

赤見さんの言葉に対して結衣は辛そうな表示をしながら答えた。

ウエスト区に行くにはノース区を通り抜けなければならない分、それなりの距離がある。

結衣の状態からするととても歩ききれるようには見えなかった。

 

「結衣……大丈夫か?」

 

「え……えぇ……。この程度……」

 

赤見さんも結衣の様子を見て悩んだように顔をしかめている。

 

「おそらく……素早く行動しなければ真跡シティに包囲網を張られ我々の行動範囲はぐっと狭まる。できるだけ早く行動したいところだが……。厳しそうだな」

 

「そんな……赤見班長。私は……」

 

「無茶言うな結衣。赤見さん! どうしたら……」

 

さすがにこれだけ疲弊している結衣を放っておくわけにはいかない。

だけど……どうしたらいいんだろう。

 

「わかった。今日はノース区のどこか身を潜められるところで体を休めよう。包囲網についてはなんとか考える。だが……いいところはあるだろうか」

 

「それなら……いいところがあります。ホームレスの時によく寝床にしてたところがあるんです。そこなら国防軍の目につきにくくて身を隠すには向いてる……」

 

ノース区なら知っている場所が多い。

ホームレス時代は国防軍の目を盗みながらの生活だったからな。

 

「そうか! 繋吾の路上生活の知識……今それほど役に立つものはない! 結衣は私が運ぶ。案内してくれ」

 

「わかりました。そこならいざ見つかっても逃げ道もあるし、歩いて数分だ。いきましょう」

 

俺は赤見さん達を連れてノース区の路地裏へと足を運ぶ。

細い通路が入り組んでいるこの形状は素人ではまず迷うだろう。だが、こういうところを寝床にしていた俺にとってはどう進めばどのあたりに出るのかは感覚でわかっていた。

どこにゴミ箱や自動販売機があるか等、それらは景色と方角とともに頭の中に全て叩き込まれている。

そして、なによりも必要なのは逃走経路。これはいざ国防軍に目をつけられた時に逃げる手段として最も重要だった。

ただ人目がつかないだけではダメだ。最悪の自体を想定して追われた時にでも安全に逃げられる場所が必要となる。

 

今回、赤見さん達に案内するのはそんな中でもノース区の北側に近い区画……。ここは真跡シティ外である山道にも近いことから標高の高めの位置にある区画だった。

標高が高めであると商業施設へ買い物へ行った際の帰り道が上り坂になり利便性はかなり悪い。そういう状況から人口が少なかった。そして路地裏ともあれば当然国防軍からの監視の優先度はかなり低い。

 

それから向かう場所は路地と言っても坂道を横切るように作られた通路だ。階段状に街の中央に向かって段差ができるように家が建ち並び、その家を区切るようにして連続した通路が横切っているような形状。

 

つまり、通路から低い方へ家の屋根や構造物を駆使して通路を通ることなく下っていくことができるのだ。

 

これでは国防軍から包囲される危険性は限りなく低い。包囲しようものには周辺の家を全て占拠する必要があるからな。そんなことしている間に俺たちは国防軍に気づくことができるし、逃げる余裕は十分にあるってことだ。

 

俺は向かう道中で赤見さんにその説明をしながら、懐かしいノース区の通路を歩いていく。

ついこの間までいたんだから、まだその景色はあまり変わってはいなかった。強いて言うのなら少しだけ肌寒い季節になったくらいだろうか。

 

そして、俺の寝床の一つであった古びた駐輪場へとたどり着いた。周辺は木に囲まれており屋根もついている格別の場所だ。この駐輪場の持ち主であろう付近の民家はだいぶ前から空家になっているのか錆び付いており人の気配がない。だからこそ俺はここを自由に使えていたのだ。

荒れ放題の木たちが視界を遮ってくれるのも大きい。こっそりと身を隠すのは絶好の場所だった。

 

「こんな隠れてくださいと言わんばかりの場所があったとはな……」

 

「俺も随分と探した場所なんですよこれ。お、まだ残ってるか」

 

そこには俺が以前使っていたボロボロのブルーシートやダンボールの山がまだ残っていた。

冬場なんかは寒いからダンボールで囲って風から凌げるようにしていたっけか。

 

「路上生活……話には聞くがいざ見てみるとこれは過酷だな……」

 

「はい。こういう場所が見つけられるまではもっと厳しかったですよ」

 

「だろうな……だが、おかげで助かったな。よし……」

 

赤見さんはブルーシートにダンボールを使って簡易的な布団……と呼ぶにはお粗末すぎるがダンボールを敷き、そこへ結衣を寝かせた。

 

「休めば大丈夫だろう。幸い結衣はデュエルに負けたわけではないからな。繋吾も今のうちに寝ておいた方がいい。明日はきっと大変になる」

 

「明日にはきっと……国防軍の追跡が厳しくなると思いますけど……どうするつもりですか? 赤見さん」

 

包囲網が敷かれてしまえば、街中を歩いているだけで遭遇する可能性もある。

それに……真跡シティの区間移動には国防軍の管理する門を通過しなければならない。

俺たちが指名手配されているとなると……検問されていてもおかしくはない。そうなればウエスト区に行く手段がなくなるってことだ。

 

「そうだな……手段は二つ。一つはデュエルウェポンでの痺れ薬や閃光弾を使用して力技で検問や追跡を突破する方法。だが、これだと目的に追跡を受けながら到達する危険性がある。そうなれば目的地を国防軍に特定されて終わりだ」

 

「その時は今回みたいな身を隠せる場所でなんとかごまかさなければいけないってことですか」

 

「あぁ……。それともう一つは……。結衣次第だな」

 

「結衣次第? どういうことだ?」

 

「それは明日結衣に聞いてみてからだな。いずれにしても明日の日が暮れるころ……までここで時間を潰すことになる。昼間の行動は危険だ」

 

結衣次第で可能になる作戦か……。一体どんな作戦なのだろうか……。

だが、もうすぐ日が昇る時刻にもなることから俺と赤見さんもその日は体を休めることにした。

 

ーー翌日の日が暮れる頃。俺たち3人は出動すべく準備を整えていた。

 

「しかし、本当にゴミ箱の中にも食い物があるもんなんだなあ。驚いたよ繋吾」

 

「今日はあたりの方ですよ。捨てる人もどうかと思うけどな」

 

昨晩から当然なにも食っていない俺たちだったが、ゴミ箱あさりで多少の食い物を入手することができたことにより、十分とは言えないが少しだけ物を口にすることができていた。

 

「わたしも一歩間違えればこんな生活を……。底辺ってのは大変ですね。繋吾くん」

 

「おすすめはしないよ。それにしてもいいのか? 結衣」

 

昨晩の赤見さんが提案した作戦だが、結衣は迷いはしたものの引き受けることとなった。

そうでもしないと今の現状を打開できないと判断しての決断だろうな。

 

「……はい。できればしたくないですが……仕方がないことなので」

 

「悪いな結衣……。こんな手段しか思いつかないとは……」

 

「いえ、元はといえば私が疲弊していたのが原因ですし……。でも置いていかずに私をそばに置いてくれた。その恩は返すつもりです」

 

「ありがとう。繋吾、状況はどうだった?」

 

「変わりなく国防軍駐在所には3名の国防軍隊員がいました。何名出てくるかはわからないけど、うまく行くと思います」

 

「では行くぞ。結衣、準備してくれ。私たちは少し離れているから」

 

「わかりました。み……見ないでくださいね……?」

 

結衣は少し照れながらそう言うと着替えを始めた。

見れば本気で怒られそうなので俺と赤見さんは少し離れた木の下で待つことにした。

 

「にしてもあの結衣がゴミ箱に捨てられてあったボロボロの服をよく着ようとおもったな……」

 

「たぶん最初で最後だな。貴重だぞ繋吾」

 

そう話す赤見さんは少しだけ楽しそうだった。こんな状況下だけど赤見さんのやんちゃなところが見れた気がして少しだけ嬉しいな。

 

「しかし、繋吾もよくあの結衣と仲良くなれたもんだな」

 

「え……。まぁ色々ありましたけど……あいつ、根は悪くないやつですから」

 

そこまで長い期間結衣といたわけじゃないけど、悪い奴じゃないってことはよく知っている。

人付き合いが少しだけ……うまくないだけなんだ。

 

「そうだな……あの子の境遇が心を歪ませてしまった。繋吾に会うまでは本当に私以外冷たく当たってばっかりだったんだぞ」

 

「やっぱりそうだったんですか……」

 

俺も会った頃はそんな感じだったしな。実際けっこう凹んだし。

 

「いったいどんな手使ったんだ?」

 

「え……」

 

赤見さんがマジな視線で聞いてくる。深堀りしてくるとは。

 

「いや……結衣のことを守っただけですよ。後は昔の話聞いたりとか……」

 

「繋吾も結衣の昔のことを聞いたんだな。なるほど……つまりだ。結衣は繋吾に惚れてるってことか」

 

「えぇ! 何を言ってるんですか! 俺も結衣もそんなつもりじゃないですから! 境遇の似た理解者同士ってだけで……」

 

「そう言いながら顔真っ赤じゃないか繋吾。いいじゃないか。理解し合えるってことはいいパートナーってことだぞ?」

 

「だけど、結衣はそんなつもりないですって……。結衣には釣り合わないというか……」

 

俺は生まれてから恋愛なんてものとは無縁の世界を生きてきた。

人を愛するとか好きだとかそんな感情はよくわからない。

だから……そんな俺が結衣と特別な関係になるのはふさわしくないだろう。

 

「あれだけ仲がいいんだから自信持てよ! その気なら……全てが終わったら気持ち伝えても悪くないと思うぞ繋吾」

 

全てが終わったら……か。無事生きていられるかわからないし、そもそもこれから俺はどうしていけば真っ当に生きていられるのかもわからない。

まぁ……もし全てが解決したら……その時考えてみるか……。

 

「まぁ……わかりました。てか、それよりもそろそろ結衣の準備出来たんじゃないですか?」

 

「ん……あぁそうだな。行くか」

 

俺は半ば強引に赤見さんの話を中断して、結衣のところへと向かった。

 

ーー時をしばらくして俺と赤見さんの二人はデュエルウェポンを構えながら家の屋根の上で準備を整えていた。

 

「結衣のやつ……うまくいったかな……」

 

「心配するな繋吾。結衣は女の中じゃ見た目はいい方だと思うぞ。顔は整っているし、スタイルもいいしな」

 

「赤見さん……そうじゃなくて……あいつの性格ですよ。国防軍相手にうまく喋れるか……」

 

「任務だと思えばきっとうまくやってくれるはずさ。きっとな。信じてやろう」

 

赤見さんがそう言った直後、交差点から曲がり、俺たちの真下を通る通路に結衣と国防軍の隊員2名が歩いてきた。

 

「3名は無理だったか。まぁ2名いれば上々だな。準備はいいな?」

 

「はい」

 

俺はデュエルウェポンに【閃光弾】のカードをセットし、結衣たちが俺たちのいる真下に来るまで待つ……。

結衣は引きつったような顔をしながら二人と話しているようだった。悪いな……結衣。すぐに助けてやるからな。

見て分かるとおり今回の作戦は結衣に一般市民に成りすましてもらい、国防軍隊員を誘惑。家へ案内するという名目でこの通路へおびき寄せ捕らえるという作戦だ。

結衣はちょうど疲れて顔がぐしゃぐしゃにもなっていたから国防軍には親に虐待されただの、酔っぱらいが襲いかかってきただの理由はなんでもいいように伝えてある。

それもうまくいったみたいだった。

 

「しっかしこんな可愛い娘に手を出すとは許せねえなあ! 話し合いしてダメだったらうちに来な? ね?」

 

「え、えぇ……」

 

「辛いんでしょ? なら俺たちが大事に育ててやるからよ。安心しなね? そういう方向でお話して家でれるようにしてあげるからよ! ここらでみるホームレスみたいな生活したくないでしょ?」

 

国防軍の連中は結衣に腕をかけながら耳元でそんな言葉をかけていた。

まったく……こんなことして許されると思っているのかよ。国防軍も田舎の担当だとここまで腐ってやがるのか……。

結衣は本当に辛そうにしながらも笑顔を作っていた。今、行くからな……結衣!

 

真下に差し掛かったと同時に赤見さんが合図を出す。それと同時に俺たちは【閃光弾】を下に投げつけ飛び降りる。

 

「いけ! 【セフィラ・メタトロン】! "ヴェンジェンス・ディバイニング!"」

 

続けて俺は【セフィラ・メタトロン】を召喚し、国防軍隊員の急所を外すようにして攻撃を仕掛ける。

腕と足にその刃を直撃し、国防軍隊員の体から血が流れ出ていた。

同時に国防軍隊員達の叫び声が聞こえてくる。

 

「黙れ! このくそ野郎が!」

 

俺は続けて【しびれ薬】のカードを使用し、奴らの口の中へと流し込む。

その効果は強力ゆえにすぐに彼らは声を出すことができなくなった。

気の毒だが……俺たちはこうするしかない。きっと救助があればこの人たちは助かるはずだ。

 

「繋吾、すぐに服を奪い取れ。叫び声を聞いて増援が来る可能性もあるからな」

 

「はい!」

 

今回の作戦の最終目標。それは国防軍の装備を奪い、検問を突破することだった。

そのために結衣には囮をしてもらい、完全なる奇襲にて装備を奪い必要があったのだ。

幸い、指名手配されているのは俺と赤見さんの二人だったからな。

結衣の顔は国防軍の連中には知られていない。

 

「死ね! もう二度と触るな! あなた達みたいな……最悪な人に触られるくらいなら……虐待される方がマシです!」

 

結衣は国防軍隊員を全力で蹴飛ばしながら叫んでいる。随分と我慢してたみたいだな……。無理もない。

 

「よく頑張ってくれた結衣。すぐに向かうぞ」

 

「はぁはぁ……わかりました。行きましょう」

 

俺たちはその場から逃げるように走り出し、ウエスト区への入口となる門を目掛けて駆けていった。

 

 

 



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Ep77 - 逃走

ノース区とウエスト区を結ぶ門へとたどり着いた俺たちは物陰から国防軍がどの程度配備されているか偵察を行っていた。

 

国防軍の正装を身に纏った俺と赤見さん。そして、相変わらずボロい服を着た結衣。

俺たちの身元を知らなければバレることはない……と信じたい。

 

結衣は市民のフリをする都合上、デュエルウェポンを身につけず赤見さんの持つバッグの中にしまわれているが、俺と赤見さんについては国防軍という名目上デュエルウェポンを堂々とつけていられる。

ましてや今指名手配がなされているのであれば、国防軍の大半は身につけているだろうしな。

 

「入口に2名、検問対応で4名ってところか」

 

「ですね……赤見さん。どういう感じで抜けるつもりですか?」

 

「そうだな。結衣は俺たちが保護した市民っていう建前で通過するとしよう。私が答えるから繋吾は喋らなくてもいい。何か言われたらうまくごまかしてくれ」

 

「わかりました」

 

国防軍がどこまで賢いかはわからないが、顔でばれる可能性は十分に考えられる。

油断はできないな……。

 

「いざとなったら武力行使して逃げる。できればしたくはないがな」

 

もう既に俺たちは国防軍の隊員を襲ってここに来ている。立派なテロリストだ。

今更善人ぶったところでなにも変わりはしないか。

早いところ行かないと裸にされた国防軍が検問されている奴に知れればそれこそ出づらくなる。

あの国防軍の人たちに攻撃してでも出るくらいの覚悟がいるってことか。

 

「では行くぞ。私の後からついてきてくれ」

 

俺と結衣は赤見さんの言葉に無言で頷くと並ぶようにして門へと向かった。

 

門の前へたどり着くと、さっそく国防軍の連中が俺たちのことを気にしているようだった。

そして、近くを通りかかる時に俺たちが歩いている方へ体の向きを変え、頭を下げ始める。

 

「お疲れ様です!」

 

やはり国防軍ともあれば礼儀というものを重んじているのだろう。

丁寧に頭を下げてきた。

 

「お疲れ様です」

 

続けて前を歩いていた赤見さんが何事もないように挨拶を返す。

おれもそれに合わせるようにして、国防軍の人へ頭を下げた。

 

ここまでは不審には思われてないみたいだ。

国防軍の人たちの態度からして、おそらく新兵……っていうような感じではあるが。

 

問題はここからだ。

この先には実際に検問を実施している国防軍二名がいる。

俺たちはすんなり通れたとしても、一般人に紛れている結衣は念入りなチェックを受ける可能性がある。

どう切り抜けるかは……赤見さんにかかっているな……。

 

そんなことを考えていると、検問をしている国防軍の前へとたどり着いた。

 

「ん、お前ら見ない顔だな? ノース区担当の新兵か?」

 

国防軍のうちの一人が俺たちの顔をじろじろと見ながら声をかけてきた。

この人たちは門番の人たちとは違う。態度からしてそれなりに偉い立場にあるのだろうな。

 

「はい、未熟者ですがよろしくお願いします」

 

それに対して演技を続ける赤見さん。

しかし、国防軍の人はそれでもなお、赤見さんのことを怪しそうに見ていた。

 

「今日は例の指名手配犯の関係でノース区担当は区内全域の捜索を行うはずだが……。お前たちウエスト区に何の用だ? 任務の放棄は処罰対象だぞ」

 

なるほどな。それであれば俺たちは任務を放棄していることとなる。

怪しまれるのも無理はないってことか。

 

「申し訳ありません。任務は重々承知しておりますが、不法滞在者を発見したもので」

 

「ん? 不法滞在者だと?」

 

「後ろにいるこの民間人の女性です。身元はウエスト区出身のようですが、ノース区には居住権がない住民のようでしたので、ウエスト区までお連れしようかと」

 

結衣をネタに正統的な行動であると示すみたいだ。ここまでの筋書きを咄嗟に作れる赤見さんはさすがだな……。俺なんか何を喋っていいのかまったく思いつかなかった。

 

「ほう、路上生活者ってやつか。ウエスト区に住居はあるのか? その見た目じゃなさそうだが。そうなれば保護施設行きだ。私どもの方で対応しておくから、彼女は我々に任せ君たちは早く緊急任務へ対応していてくれたまえ」

 

「い、いえ……そういうわけには参りません。彼女は住居持ちですが、ひどく虐待を受けノース区に逃げ延びてきました。そのためには直接同行し、親族への話も伺う必要があります」

 

「ふむ。しかし、今の最優先事項は指名手配犯の拘束だ。テロリストが忍び込んでいるんだぞ! いつ、街の住民が被害にあうかわからない状態だ。優先順位を考えろ新兵」

 

「くっ……」

 

どうにもこうにも手詰まりの様子だ……。

このままでは結衣を引き取られた上に俺と赤見さんはノース区へ戻らざるを得なくなる。

どうしたら……。

 

「さっきから喋らないお前も早く任務に戻れ! 今は……緊急事態なんだぞ!」

 

「はい……」

 

くそ、これではどうしようもないか……。

ここで抵抗したら一瞬で身元がばれる……。

 

「わかりました。国防軍の方、ありがとうございました。私の荷物を返していただけますか?」

 

結衣が俺たちに向かって頭を下げながら言った。

赤見さんはそれに頷き、自らのバックの中からデュエルウェポンとカードを取り出す。

 

「お前……それはデュエルウェポン……か? なぜ一般人がそれを所持している!」

 

案の定持ち物に違和感を感じた国防軍の人は不審そうに睨みつけてくる。

ここで所有物をばらすということは……つまり……。

 

俺の予想通り、結衣がデュエルウェポンをつけたのを確認すると、赤見さんは小声で「いくぞ」と呟いた。

まさか……これは強行突破するつもりか……?

 

「ホームレス一人もまともに救えないんじゃ、到底テロリストってのには勝てないな! お前さん」

 

「んな!」

 

赤見さんは大きく叫びながら1枚のカードを発動させる。

それに合わせるようにして俺たちは自らの目を塞いだ。

強行突破する際に赤見さんが用意してたのはいつもお世話になっている【閃光弾】のカード。

これで目くらまししている間に逃げようって算段だ。

 

「今だ! 突っ走るぞ!」

 

「はい!」

 

赤見さんはさらにカードを3枚ほど伏せながら走り出し、俺たちもそれを追うようにしてウエスト区へ侵入し、逃げるように走り出した。

 

「くそ! 追え! 検問の無断突破だ! テロリストの可能性もある。周辺の国防軍は追跡せよ!」

 

後ろを振り返ると、先ほどの国防軍隊員の他にも周囲にいたであろう数十名の国防軍が俺たちを追うべく走っていた。

だが、そこには仕掛けられたトラップがあった。赤見さんが伏せたカードだ。

 

突如、大きな物音と共に地面に大きな穴が出現する。

そう、【落とし穴】のカードだ。赤見さんは3枚の落とし穴を仕掛け、追手を振り切ろうとしていた。

 

「よし、今のうちにあいつらの目の届かないところまで逃げるぞ! 走れ!」

 

落とし穴にハマる国防軍に目を向けながらも俺たちは赤見さんについていくようにして真跡シティウエスト区の駆け出していった。

 

しかし、既に国防軍には見つかった状態。下手に走り回っていても包囲されてしまうのは時間の問題だろう。どこか身を隠せる場所を探さないといけないか……。

 

前を走る赤見さんはあたりをキョロキョロと見渡しながら走っている。

国防軍がいるかどうかの確認だけでなく、隠れられる場所を探しているのだろうか。

 

「……赤見班長。どこか隠れられるアテはありますか? このまま逃げ続けても……」

 

結衣がぼそっと呟くようにして、赤見さんに問う。

 

「あぁ……そうだな。追手をひとまずは振り切れたとはいえ、奴らに警戒されている最中に目的地にたどり着くわけにもいかない。どこか隠れられる場所を探さなくちゃな。繋吾はこのあたりは知ってたりするか?」

 

「いえ、さっきみたいに居住権のない人間は簡単には区間ゲートを通過することはできないからわからないですね……」

 

「そうか……。ならできるだけ人目につかなそうな場所を探すしかないか……?」

 

少し残念そうな声色で赤見さんは答える。

そう簡単にはまったく国防軍の目に付かない場所は見つけることはできない。俺が紹介したノース区のあの場所だって、探すのは本当に大変だったしな……。

 

人口が少なく、一見人が出入りできるような場所じゃないかつ、いざという時に脱出が容易に出来る場所……。

見渡す限り建物が立ち並んでいるウエスト区にはそのようば場所はなかなかなさそうだった。

 

「あの……」

 

突然結衣が立ち止まり、近くの建物を指さした。

 

「どうした? 結衣」

 

「赤見班長。私と出会った場所を覚えていますか?」

 

「あぁ……確かウエスト区の廃工場だったな……って……」

 

「はい。ここです。私としては二度と思い出したくもない場所ですが……」

 

結衣が指さした先にはシャッターの締まりきった工場があった。

今の話だとここが以前結衣が言ってた知らない犯罪者集団に監禁された場所ってことか。

 

「私が監禁されていた場所はこの工場の秘密経路を通った先にある場所です。工場の構造を熟知している人物でなければわからない場所です」

 

「確かに……依頼を受けた時、私も事前にあの工場の構造図は受け取っていた。そうでなければ結衣を発見できなかったからな」

 

ある意味秘密基地のような場所だったのだろう。

犯罪者集団が隠れ蓑にしていたような場所だ。当然だろう。

 

「迷っている暇はありません。行きましょう」

 

廃工場の中へ走り出す結衣を追って俺と赤見さんも廃工場へと入っていった。

 

中を見渡してみると埃まみれであらゆる機器や建物の骨格が錆び付いていた。

かなり長い間放ったらかしにされているのだろう。

 

「こっちです」

 

結衣に案内されるがままに進んでいくと廃工場の事務室らしき場所へと入っていく。

変わらずそこも埃まみれのテーブルや椅子。随分と旧型タイプのPC等が並べられていた。

 

「よく覚えているな。結衣」

 

「えぇ、まぁ……。この事務室で私は騙されましたから」

 

衰弱していた結衣にとっては手を差し伸べてくれる人はどんな人であっても輝いて見えていたんだろう。

それゆえにここの景色も忘れられないものだったのかもしれない。

 

「ここです。この壁は回転扉になっていて、思いっきり力を入れると中へ入れるようになってます。普段は冷蔵庫等で隠されているんですが、むき出しになってますね」

 

一見白い壁だが、よく見るとわずかな継ぎ目が見えた。

壁紙によくある継ぎ目程度しかないので、これは言われなければわからないかもしれないな。

 

「辛くないか? 結衣」

 

赤見さんが心配するように声をかける。

結衣にとっては思い出したくもない過去。それがフラッシュバックしてもおかしくはないはずだ。

 

「大丈夫……です。だけど……あの部屋には……入りたくないです」

 

「それって結衣が襲われた場所のことか?」

 

「はい……」

 

回転扉さえくぐってしまえば安全は保障されるだろうし、無理に入る必要はないだろう。

 

「そういや繋吾、結衣の昔の話は聞いたことあるのか? 知っていそうなそぶりだったが……」

 

「はい、結衣から聞きました。赤見さんと会った経緯も全部」

 

「そうだったか……それなら話が早くて助かるな。回転扉をくぐった先でしばらく身を置こう。警備が手薄な深夜になるまでな。夜中なら国防軍の連中も体力的に弱っている頃だろう」

 

少なくとも今よりかは状況はマシになるってところか。

目的地までだいぶ近づいてきているんだろうし、あと少しの辛抱だ。

 

赤見さんがゆっくりと壁に寄りかかるようにして前へと押す。

すると壁がゆっくりと動き出し、回転し始めた。その流れに乗るようにして俺たち3人は壁の中へと入り込む。

中には広い空間が一つとその先に扉が何個かあり、いくつかの部屋が繋がっているようだった。

 

「回転扉から距離を置いてここで待機しよう。あの奥が結衣が言ってた場所だ。無理に入る必要はない」

 

「ありがとうございます……私のせいで色々とご迷惑をかけて……ごめんなさい」

 

「結衣は悪くないさ。ここがなければ今頃もっと追い詰められてただろう。ゆっくり休んでくれ」

 

決して居場所のいいところとは言えないが、地べたじゃないだけマシだろう。

それに雨風も凌げる。安全にいられる場所が確保できただけでも十分だ。

 

「深夜には本当に警備が手薄になるんですかね……」

 

「実はな繋吾。外部の状況を把握する手段がある」

 

外部の状況を把握する手段……? 一体何があるのだろう。

俺たちのデュエルウェポンはSFSからの情報探知やGPSによる居場所特定を避けるためネット接続を完全にオフにしている。

そうでもしなければすぐに俺たちの居場所がばれてしまうからだ。

つまり、外部の情報を入手する手段が一切なかったのだ。

 

「デュエルウェポンはすっかり木偶のぼうとなってしまっているが、これを持っている」

 

そうして赤見さんが取り出したのは小型の電話。

デュエルディスクが普及する前に流行っていた携帯電話という代物だ。

今となっては全ての機能がデュエルディスクやデュエルウェポンにも搭載されているから、使う人もすっかりいなくなってしまったみたいだが。

 

「携帯電話! 赤見さんまだ持ってたんですね」

 

「使う機会なんかもうないと思ってたんだがな。SFS大防衛戦が行われる前、レンに社長のことを話したら持っといた方がいいってレンから渡されたんだ。デュエルウェポンでは解析のできない情報伝達手段として、携帯電話は活躍できるんじゃないかってな。今となっては助かってる」

 

確かにあの時は開発司令部の情報と決闘機動班の情報が入り混じっていた。

それにジェネシスもどこかしらから情報と探知していたのだろう。デントの侵入はそれを意味しているはずだ。

まぁ……白瀬班長の差金かもしれないが。

 

「携帯電話の回線はデュエルディスク等の回線とは別だ。旧式の回線を使用しているから、携帯電話での通信は携帯電話でしか受信できない。つまり、ここで取られる情報伝達は安全ってことだ。まさか国防軍も今の時代に携帯電話を使用して連絡を取り合うことなんて想定していないだろうからな」

 

「確かに……ってことは紅谷班長と繋がってるってことですか?」

 

「あぁ。レンとだけなら連絡を取り合うことができる。あいつの話だと今国防軍の厳重警戒体制はノース区からウエスト区へ移ったらしい。それにレン自身も怪しまれないようにウエスト区へ出撃しているそうだ」

 

「なるほど……紅谷班長は疑われなかったんですかね……? 赤見さんとは仲がいいでしょうし……真っ先に尋問も受けてそうだけど……」

 

「レンは宗像と一緒の考えだということで乗り切ってるらしいな。私たちと関わりがあった連中はみんな白瀬に尋問をさせられているそうだ。そして……郷田は国防軍に引き渡されてしまい、颯は行方不明になったって話だ……くそっ!」

 

「そんな……」

 

郷田さんは宗像班長に負けてしまったということだろう。

テロリストに加担した人への罪は重い。無事であるかもわからないだろう。

俺たちのために……郷田さんは……。

それに颯も俺たちと同じように追われている可能性がある。あいつだって協力する気はないとはいえ特殊機動班の一員だ。郷田さんと同じように目をつけられていたっておかしくはないだろう。

あいつは何も悪いことしていないのに……。

 

そんな仲間たちの苦しみを無駄にしないためにも俺たちは目的を遂行しなければならない。

例えどんな険しい道のりだとしてもな。

 

「レンからの状況報告はそんなところだ。ここから出るタイミングはレンからの情報を待ってからにするつもりだ」

 

「わかりました。なんだか外にも仲間がいるとわかると少しホッとしますね」

 

「レンなら信頼のおける仲間だからな。こんな状態になっても私たちのことを見捨てないで信じてくれる。ありがたい話だよ」

 

赤見さんと紅谷班長も固い絆で結ばれているのだろうな。

宗像班長という存在がありながらも、赤見さんを信じる。紅谷さんの立場としては非常に苦しいものだろう。かつての大事な仲間同士が争っているのだからな。

願わくば……宗像班長の誤解が解ければ……いいんだろうなあ……。

 

「赤見さんと紅谷班長、かなり信頼し合っているんですね」

 

「まあ……昔から色々と世話になっているからな。あいつの身に危険が及んでいなければいいが……」

 

心配するのも無理もない。実際に行っているのはスパイみたいなものだ。

バレたらそれこそ殺されてもおかしくはないだろう。国家への反逆行為のようなものだ。

だが、同時に紅谷班長はいつでも俺たちの情報を国防軍に売れる立場でもある。

信用していないというわけではないが、そういう意味では紅谷班長になにかがあったらおしまいだ。

 

正直なところ俺たちは不確かな脅威に対して法を犯している。

ペンダントの集結を阻止することが本当に正しいことなのかもわからないところだ。

俺たちには後がないからそう信じるしかないが、第三者からしてみれば状況は違う。

いつ裏切ったっておかしくはないんだ。

 

「赤見さん、紅谷班長が裏切ったりってことは……」

 

「あぁ。0とは言えないが私はあいつを信じてる。俺にとって大事な人だからな…」

 

「赤見さん……それってーー」

 

俺と赤見さんの会話をかき消すように扉が開くような音がした。

まさか、既に先約がいたのか……? まだ前みたいに犯罪者集団が根城にしていてもおかしくはない。

 

「繋吾、結衣。デュエルウェポンを構えろ……」

 

俺たちはすぐさまデュエルウェポンを構え、音のした扉の方へ視線を向ける。

その扉が開き、中から懐中電灯を持ったひとりの人物が現れた。

 

「こんなところに何者だ。この土地と建物は国防軍が差し押さえている。一般人の立ち入りは禁じられているはずだが」

 

そこには国防軍の制服を着た中年の男性がいた。

まずい……まさか中に国防軍がいるなんて想定していなかった……!

しかし、なぜこんなところにいるんだ。普通の人じゃこの隠し扉の奥なんてわかるはずもないのに。

 

「くっ、やるしかないか、繋吾ーー」

 

「待て! 君は……」

 

赤見さんと俺がデュエルウェポンを構えようとした瞬間、その国防軍の人物が声をあげた。

それに疑問に思い、彼に視線を向けると、結衣の方を見ながら驚いたような表情をしていた。

 

「お前……まさか……結衣か……?」

 

「あっ! え……嘘でしょ……」

 

「知っているのか結衣?」

 

「はい……あれは……私の父親です」

 

結衣が震えながら答えたその国防軍の人物は……驚くべきことに結衣の父親であった。

 

 

 

 

 



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Ep78 - 佐倉家の決別 前編

1年ぶりくらいの投稿になってしまいました。

今までのものを読み直したりしてみたんですが、色々と誤字があったり、文章がおかしいところがあったりしてるので、書き直しか全修正かけたいなとも思っております……。

ただ、物語が中途半端なので、一度最後まで書ききりたいなとも思ったり……。

とりあえず続きを進めていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。


結衣の衝撃的な一言に俺と赤見さんの二人は驚きを隠せないでいた。

まさか……結衣の父親がこんなところにいるなんて……それに国防軍の所属だったとはな。

だけど、国防軍である以上俺たちにとっては敵だ。

そう思い俺はデュエルウェポンを構えを崩さずに結衣の父親に対して臨戦態勢を続けていた。

 

「結衣……生きていたのか……」

 

「なんで……国防軍に……いるんですか……」

 

確か結衣の父親はプロデュエリストなはずだ。

プロデュエリスト世界で通用し続けること……それが佐倉家の伝統……。

 

「あぁ……色々あってな。海外で行っていたプロリーグから帰ってきたら、家にお前の姿はなく、その影響からか妻は自殺して亡くなっていた。全てを失ってしまった私は絶望し、プロリーグの世界からも消えることとなってしまった」

 

「そう……ですか……」

 

「私は食っていくために仕方なく国防軍へ入った。プロリーグで名は売れていたからな。そんなことよりも結衣。今までどこにいたんだ! 私はずっと……」

 

「……っ! 今更親面しないでくれる? あなたはいつも仕事ばかりで家にいなかったじゃない」

 

結衣は真剣な眼差し父親を睨みつけていた。

それは憎悪によるものなのか。あるいは……ほかの感情か……。

 

「プロの世界で活躍できるような名デュエリストとして君臨し続けること……それが代々受け継がれる佐倉家の伝統だ。お前も佐倉家の一員ならその程度受け入れるべきことだろう?」

 

「その程度……? 勝手なこと言わないで! 私がそのくだらない伝統のせいでどれだけ苦しい思いをしてきたことか……!」

 

「苦しいことかもしれないが、その先には必ず栄光ある幸せな生活が待っているはずだったんだ。私や母さんのようにな。だが、お前は私たちの言うことを聞かなかった。そして母さんは死んだ。全てはお前の行った身勝手な行動が生んだ不幸に過ぎない」

 

「うるさい! 何が幸せかは私が決めること……私はもう佐倉家の人間じゃない! 私は……ただの結衣。SFSの結衣だ!」

 

その結衣の発言を聞き、父親の表情が険しくなっていく……。

一体父親はどんな心境でいるのだろうか……。

 

「知らない間にそこまで考えが歪んでしまったか……。SFSに所属してしまったのが悪影響だったようだな……。お前たちSFSのせいということか」

 

「……結衣は自らの意思で我々と行動を共にしている。それは本人の意思だ。あなたに結衣の人生を決めつける資格はない」

 

赤見さんは低い声で言った。まるで結衣の父親を威嚇するように。

ただでさえ国防軍に対して警戒している状態だ。ましてや結衣の過去を知っている者としては敵対して当然だろう。

 

「ほう? 部外者の分際でえらそうなことを言うな。これは家庭内の話だ。これ以上口を挟まないでいただきたい。それに……そこのあなたは指名手配中の赤見 仁……か。なるほど」

 

こちらの素性はばれているということか。

その言葉を聞いた途端、赤見さんはデュエルウェポンを構えながら結衣の父親へと近づいていく。

 

「赤見班長。私にやらせてください」

 

赤見さんを静止するように結衣が声をあげた。

 

「結衣……」

 

「父の言うようにこれは私の家庭内の問題です。佐倉家としてのしがらみを断ち切るには私自身で決着をつけさせてください」

 

その言葉に赤見班長もさすがに動きを止めたようだ。

結衣の意思を尊重すると言った手前手は出せないという判断か。

確かに仮に俺が同じ立場だとしたら、自分の手で決着をつけようとするだろう。

 

「私に勝てると思っているのか? 結衣。私はプロの世界でトップレベルに君臨し続けていた。お前のような親からの教えを聞ずに、独学だけで身に着けたデュエルなど通用するはずがない」

 

「デュエルはやってみなきゃわからない……! それが私がSFS特殊起動班に所属して……地獄のどん底から這い上がってきたデュエルから学んだもの! 国防軍に落ちぶれたあなたに言われる筋合いはない!」

 

そのどん底は俺だったりするのだろうか。少し照れるな。

 

「親になんて口を聞くんだ! いいだろう。徹底的に思い知らせてやる必要があるようだな!」

 

結衣の父親は目を輝かせながら言う。

その様子は少し不気味だった。

 

「望むところです……!」

 

「まったく……この日を何年望んだことか……! 毎週のようにこの廃工場に通い続けた甲斐があった! それに結衣を連れ戻すだけでなく、指名手配犯も確保できるんだ。この数年で落ちた佐倉家の栄光を取り戻すことができる……! あぁ……今までの苦労は今日のためにあったんだな。全てを失った私の栄光を取り戻すために!」

 

確かに結衣の父親であると同時に国防軍だ。

いつ仲間に連絡されるかもわからない。この廃工場の位置特定されていれば逃げようがない。

 

「赤見班長、繋吾くん。逃げてください! でないと国防軍につかまって……」

 

「お前……」

 

逃げるように促してくる結衣。

でもそうなれば結衣だけが俺たちに協力したとして捕まることとなるだろう。郷田さんと同じように。

見捨てていけるわけがないだろう……!

 

「そんな仲間を見捨てることなんてできるか! 逃げるなら一緒だ。結衣!」

 

「繋吾くん……」

 

「繋吾の言うとおりだ。結衣をおいてはいけない」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう! 私の父は国防軍なんです! 当然、仲間に連絡がいってるはず……」

 

結衣の父親に視線を向けると、どうやらデュエルウェポンを操作しているようだった。

 

「当たり前だろう。じきにお前たちは包囲される。私を倒したとしても逃げ場はないぞ。まぁ、そもそも私に勝てるはずがないがな」

 

「くっ……」

 

いまから正面口に出て逃げるか……?

いや、でも結衣を置いてはいけない。

籠城作戦で隠れ続けるのも無理だ。そうなればデュエルで戦いを挑むことになるか……。

相手が何人いるのかわかったものじゃない。到底体が持たないだろう。

いくらデュエルに勝ち続けられたとしても、デュエルウェポンで受けたダメージが蓄積すればライフより先に体に限界がくる。

くそ……どうしたら……!

 

「……わかりました。赤見班長、お願いがあります。例の部屋から飛び降りれる準備をしてください。あそこからなら崖を下って裏通りに出られます。もし私が負けてもそこから逃げれるはずです」

 

例の部屋……? 結衣が襲われていた場所のことか?

そこから出られるというのなら国防軍と遭遇せずに逃げれそうだ。包囲されていなければの話だが……。

 

「例の部屋……お前が連れ込まれた場所か。確かにあそこなら脱出できるかもしれない」

 

「はい……出口の状況次第ですが……」

 

「……わかった。負けるなよ、結衣……。それに繋吾。お前は入口を開かないようにしていてくれ。その間に私が道を用意する!」

 

「わかりました!」

 

「……結衣の近くで見守ってやってほしい。くれぐれも頼むぞ!」

 

赤見さんは俺の両肩にしがみつくようにしながら訴えてきた。状況が状況だ。赤見さんとしては心配で仕方がないのだろう。

俺が頷くのを確認すると、赤見さんは奥の部屋へと走って行ってしまった。

 

さっそく俺はデュエルウェポンで【ジャンク・シンクロン】と【ドッペル・ウォリアー】の2体を召喚し、入口を塞がせる。

これなら仮に入口を見つけられても少しの間なら耐えられるだろう。

 

「そんなことしても無駄なことだ。逃げるのなら今のうちだぞ? 結衣が私に勝てるはずがないからな」

 

さっそく結衣の父親が呆れたように言ってきた。

なんと言われようと俺は結衣を信じる。今はそれしかできないからな。

 

「やってみなければわからないだろう。結衣はあんたが思うほど弱い人間じゃない! 誰よりも人のことを思いやれる強さがある!」

 

結衣は自分の境遇を変えようと行動した。

その行動力は強さだ。誰しも出来ることじゃない。流れに身を任せるだけでなく、自ら運命を変えようと立ち上がったんだ。

俺はその結衣の決意を信じてやりたい。

 

「繋吾くん……そうですね。今まで人を恨んだりすることばかりでしたけど今は違う。私は仲間のために戦っている……」

 

「そんな個人的な感情などデュエルには何の意味もない。さっさと構えろ結衣。本物のデュエルってやつを教えてやる」

 

「……デュエルなら例えあなたでも負けるつもりはありません! 覚悟してください!」

 

「言うようになったじゃないか。いくぞ!」

 

「デュエル!」

 

太郎 LP4000 手札5

ーーーーー

ーーーーー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

結衣 LP4000 手札5

 

先攻は父親の方だ。

プロデュエルがどの程度のものか……見せていただこうか。

 

「私のターン。手札を1枚墓地へ送り、【ティンダングル・ジレルス】の効果を発動! デッキから【ティンダングル・ドールス】を墓地へ送り、このカードを裏側守備表示で特殊召喚する! さらに、【ティンダングル・ドールス】の効果で手札コストで墓地へ送った【ティンダングル・エンジェル】を墓地より裏側守備表示で特殊召喚しよう」

 

ティンダングルモンスターか!

結衣も確か何体か使用していたような気がする。やはり元々持っていたデッキも父親の影響を受けて完成していた戦術みたいだな。

 

「さらにモンスターをセット。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

太郎 LP4000 手札1

ーー裏ーー

ー裏裏裏ー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

結衣 LP4000 手札5

 

裏側のモンスターが3枚。結衣と同じようにリバース効果を主軸をしているようだな。

変わった戦術ゆえに対策も難しい。

結衣はどこまで父親のカードを把握しているのかはわからないが、一筋縄ではいかなそうだ。

 

「いきます。私のターン。ドロー! 【暗黒の招来神】を召喚。このカードの効果でデッキより【七精の解門】を手札に加えることができます。そして、このまま永続魔法【七精の解門】を発動! この効果によってデッキからもう一枚の【暗黒の招来神】を手札に加えることができ、場の【暗黒の招来神】の効果で攻守が0のモンスターである【暗黒の招来神】を追加で召喚できます」

 

ーーー

【暗黒の招来神】 闇 悪魔 ☆2

ATK/1000

ーーー

 

「ほう。いつの間に見ないカードを入れるようになったな結衣」

 

「ええ、あなたの力がなくても戦えることを見せてあげます。【暗黒の招来神】2体でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! "深淵より目覚めし悪魔の囁きよ! 堕とされし弱者を誘い、蠱惑しなさい! エクシーズ召喚! ランク2 【ゴーストリック・サキュバス】!"」

 

ーーー

【ゴーストリック・サキュバス】 闇 魔法使い ランク2

ATK/1400

ーーー

 

結衣の前には悪魔のような羽を生やしながらも、まるで子供のような女性モンスターが現れる。

攻撃力もさほど高くはないが、見た目相応といったところだろうか。

 

「お前が好きだった"ゴーストリック"モンスター。いまだに使っているのだな」

 

「私にとっては……このカードたちだけが家族みたいなものですから」

 

「お前……」

 

その言葉を聞き父親はむすっとしたような表情をする。

ピリピリした空気だ……。いつ声を荒げてもおかしくはないだろう。

 

「……では、私は【ゴーストリック・サキュバス】でオーバーレイネットワークを再構築! "闇夜の帳より誘う嘲笑の翼よ! 幻想に囚われし醒めぬ冀望を打ち砕け! ランクアップ、エクシーズチェンジ! ランク4、【ゴーストリックの駄天使】!」

 

ーーー

【ゴーストリックの駄天使】 闇 天使 ランク4

ATK/2000

ーーー

 

結衣のおなじみのモンスターが現れた。下準備としては順調のようだな。

この調子で頑張れ……結衣!

 

「【ゴーストリックの駄天使】の効果を発動! オーバーレイユニットを一つ使い、デッキから【ゴーストリック・ロールシフト】を手札に加えます。そして、バトル! 【駄天使】で【ティンダングル・ジレルス】であるセットモンスターに攻撃! "ファシネイト・ディザイア!"」

 

「悪いがもう準備はできていてな。永続トラップ発動! 【星遺物の傀儡】! 場の裏側モンスター1体を表側表示へと変える。私はその隣の【ティンダングル・エンジェル】をリバース」

 

「くっ……そのカードは……」

 

どうやら結衣も効果を知っているようだ。

険しい表情を崩さない。

 

「このカードがリバースした時、墓地からリバース効果を持つモンスターを裏側守備表示で特殊召喚し、バトルフェイズである場合はそのバトルフェイズを終了する。私は【ティンダングル・ドールス】を特殊召喚しようか。さて、バトルは終了だ。どうする?」

 

「さすが……ですね……。ですが、このデュエルは佐倉家との決別を決めるためのデュエル。絶対に負けない……私も手札の【ティンダングル・ジレルス】の効果を発動! 手札を1枚捨てて、デッキから【ティンダングル・イントルーダー】を墓地へ送ることで、このカードを裏側守備表示で特殊召喚。カードを2枚伏せて、ターンエンドです」

 

「ふん、何が決別だ。そのカードを使っている時点で、お前は親から何も独立できてはいない! なんなんだ? その"ティンダングル"カードは?」

 

「うっ……」

 

結衣は自らのデュエルウェポンに視線を落とす。

 

「それこそ佐倉家としてデュエルをしていくことに他ならない。お前はただの結衣といったが、それではなんの力もない出来損ないにしかなれないぞ。いいか、今からでも遅くはない。そんな犯罪者たちから離れて私のところへ戻ってきなさい。今ならお前だけ罪を免除してもらうよう私から働きかけよう。な? 結衣」

 

「……」

 

結衣は父親に言い返せない様子だった。

歯で唇を噛みしめながら悔しそうな表情をしている。

そんな結衣の様子を見て黙っていられるわけないだろう。

 

「結衣、気にするな! そのカードは佐倉家だけのものじゃない! お前が信じて使ってきたカードなら、それはお前のデッキであり、お前の力だ」

 

「繋吾くん……」

 

結衣はハッとしたような表情をして俺の方を向く。

お前はこの程度であきらめるような人間じゃないだろう。どんな相手でも負けじと嫌味を言えるくらい強いはずだ!

 

「ふざけたことを言わないでもらえるか? 犯罪者の言うことなんて聞くものじゃない。そもそもそのカードを信じ使っていたならば、お前は佐倉家の力を信じていたことに過ぎない。そう、父親であるこの私が使っていたからこそ"ティンダングル"を強いカードだと信じて使ってきたのだろう? 違うか?」

 

再び結衣は視線を落とす。

だが、その目にはまだ闘志が宿っているように活気があった。

 

「残念だけどあなたの言うことは大きく間違ってる」

 

「なに……?」

 

「……繋吾くんと赤見班長は犯罪者ではないこと……そして私は……あなたが強いと尊敬してこのカードを使っていたわけではなく、私の方がうまく扱えることを証明するために私は"ティンダングル"カードを使ってることを!」

 

「ぐぐっ……調子に乗るなよ結衣! ここまで親に楯突いたことを後悔させてやろう!」

 

結衣の父親はしびれを切らせたのか急に大きな声で叫びだした。

しかし、冷静さを欠いているわけではない。そこはさすがのプロといったところか。

 

「本物のプロはな……時にはエンターテイメントじゃなくて、ただ勝利だけを追求することもある。それは国防軍で戦うには本当に好都合だったよ……。せっかくだから味合わせてやろう……"国防軍殺戮部隊の力"をな……」

 

「殺戮……部隊……?」

 

結衣は少し動揺したように口にした。

そんな部隊聞いたことないぞ……?

 

「ふん、今更怖気づいても遅い。さぁ、私の本気はここからだ! 覚悟しろよ……結衣! お前にたっぷりとわからせてやる……。私のターン、ドロー!」

 

このターンからが父親の本領発揮といったところか。

耐えてくれよ……結衣……。

 

太郎 LP4000 手札2

ーー罠ーー

ー裏裏モ裏

 ー エ

ーー裏ーー

ー裏魔裏ー

結衣 LP4000 手札2

 

 

 



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Ep79 - 佐倉家の決別 後編

太郎 LP4000 手札2

ーー罠ーー

ー裏裏モ裏

 ー エ

ーー裏ーー

ー裏魔裏ー

結衣 LP4000 手札2

 

「これであればお前を殺すことなど容易いな。だが結衣、私はお前を失いたくはない。少し手荒だが我慢してくれよ」

 

「誰が……負けるものですか……!」

 

父親の自信に満ちた発言に結衣も動揺しているように見える。

その声は少し震えていた。

 

「まずは【ティンダングル・トリニティ】を反転召喚。このカードがリバースした時、デッキから【ティンダングル・ベースガードナー】を特殊召喚できる」

 

ーーー

【ティンダングル・ベースガードナー】闇 悪魔 ☆5 ①

DEF/2300

ーーー

 

禍々しい球体型モンスターが出現する。

"ベース"というくらいだから核となるモンスターだろうか?

 

「さらに【ティンダングル・ジレルス】と【ティンダングル・ドールス】も反転召喚しよう。前者はデッキからリバースモンスターである【禁忌の壺】を手札に加えることができ、後者は魔法・罠カードである【オイラー・サーキット】を墓地へ送ることができる」

 

一気に裏側表示のモンスターが表側表示になりその姿を現す。

どのモンスターも不気味な雰囲気を醸し出しており、尋常ならぬ緊張感があった。

 

「……まずいですね」

 

途切れそうなほどに小さな声でつぶやく音が聞こえる。

まぁ効果をよく知らない俺からしてもよくデッキが回っているように見えるし、きっとこのままだとまずいのだろう。

さすがは元プロといったところか……。

 

「現れよ! 栄光輝くサーキット! 私は【ティンダングル・ベースガードナー】と【ティンダングル・ドールス】と【ティンダングル・トリニティ】の3体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚! いでよ殺戮の魔物! 【ティンダングル・アキュート・ケルベロス!」

 

ーーー

【ティンダングル・アキュート・ケルベロス】闇 悪魔 リンク3 EX①

ATK/0

ーーー

 

禍々しい見た目を持った大きな化け物モンスターが出現する。

そのけたたましい咆哮からするに、不気味な狼型のモンスターと言えようか。

 

「【テインダングル・アキュート・ケルベロス】は墓地に【ベースガードナー】を含む、"ティンダングル"モンスターが3種類いる場合、攻撃力が3000アップする。さらにリンク素材の【ティンダングル・トリニティ】の効果発動! デッキから【ジェルゴンヌの終焉】を手札に加え、デッキから罠カード【ティンダングル・ドロネー】を墓地へ送ることができる」

 

やはり攻撃力が0なのは仮の姿だったか。この手のモンスターは何かと裏がある。

パッと見条件は厳しそうだが、ティンダングルデッキにおいて満たすのは容易。まさにエースと呼べるカードだろう。

そして、何やら2枚の罠カードを手札と墓地へ用意してきた。名前から嫌な予感がするが……どういう効果を持つのだろう。気になるところだ。

 

「手札から【ティンダングル・イントルーダー】を捨てて、墓地の【オイラーサーキット】の効果を発動! 墓地から除外することで、同名カードを手札に加える。さらに、速攻魔法【月の書】を発動。これにより場の【ティンダングル・エンジェル】を裏側守備表示に変更できる。さらに裏側になった【ティンダングル・エンジェル】を反転召喚し、リバース効果を発動。手札の【禁忌の壺】を裏側守備表示で特殊召喚しよう。それに反応し、墓地へ送った【ティンダングル・イントルーダー】は墓地より裏側守備表示で蘇る!」

 

目まぐるしくモンスターの表示形式が変わっていく。

結衣のゴーストリックの戦術をはるかに超える動きに正直驚きを隠せない。

 

「まだまだいくぞ! 永続トラップ【星遺物の傀儡】の効果で【禁忌の壺】を攻撃表示に変更! リバース効果により強力な効果を使用できる。その効果の一つとして、相手の場のモンスターを全て破壊する効果を発動!」

 

「すべて……!? くっ……」

 

【禁忌の壺】が色鮮やかな黄金色に輝き出すと同時に結衣の場のモンスター目掛けて大きな稲妻が走る。

けたたましい爆発音とともに結衣の場のモンスターは消え去ってしまった。

 

「これでお前の【ジレルス】はリバース効果を使う間もなく破壊されたな? その程度の戦術など私には通用しない。プロのデュエルは……国防軍の殺戮部隊のデュエルは……勝つために確実にデュエルを遂行する。お前たちSFSのようなまがい物のデュエルとは違うのだよ」

 

「私は……! 私だって……生き抜くために……勝つためにデュエルをしてきた。それにSFSのみんなだってそのために努力してきた。それはーー」

 

「お前などにすべてを失った者の気持ちなどわかるわけがないだろう!」

 

突如怒鳴り散らすような声をあげ結衣の言葉を遮る。

父親の表情にはどこか悲哀の様子が感じられた。

 

「殺戮部隊は時田長官自らが作りあげた部隊。目的のためなら手段を選ばずに確実に任務を遂行するテロリスト専用の殺し屋部隊みたいなものだ。仲間のためだとか、生き抜くためだとかそんな生ぬるいものじゃないんだよ結衣」

 

そして一呼吸置き、低い声で言葉を続ける。

 

「全てを失った者は何をしても生の実感がないんだよ。デュエルウェポンで相手を殺し続けてもな」

 

「そんな……」

 

これでは殺人鬼だ。この親はもはや人の親ではない。精神的に狂ってるとでも言おうか。

 

「だからこそ今ここで結衣を見つけて私は久しぶりに人間としての感情を思い出した。お前は私に残された最後の希望なんだ! だから戻ってきてくれ!」

 

「……私が戻ったら……。どうするつもりですか?」

 

結衣は目を細めながら静かに問う。

 

「決まっているだろう。栄光ある家庭を取り戻す。私が望むことはそれだけだ」

 

そう答える父親の目は輝いているように見えた。

まるで好奇心にあふれる子供のように……。

 

「……それだけですか?」

 

「ん……?」

 

「私の幸せは……そこにはない。それはあなたの理想のために私が都合よく使われているだけ」

 

結衣の声は少し震えていた。

これだけおかしくなっている父親だ。それに答えるのは怖くて仕方なくてもおかしくはない。

 

「私は……あなたの道具じゃない……! 自分の理想を叶えるというのなら、一人でやっててくれる? 佐倉家の栄光なんてあなたで最後! あなたひとりで十分!」

 

「結衣……なんてこと言いやがるこのクソが……!」

 

結衣の叫ぶような発言に相変わらず父親はイライラしているようだ。

 

「お前が少しでも理解を示してくれればお前のために色々してやろうと考えていたが……そうも抵抗されればもう殺すしか選択肢がないじゃないか。いいか、もう命はないと思え。そこのSFSの仲間と共に私自らの手で葬ってやろう!」

 

「や、やれるものなら……」

 

「そんな声が震えてる奴に何ができるって言うんだ? なぁ結衣? 

 

もう吹っ切れたといった様子で敵対姿勢を見せてくる。

なんとも難しい状況だな……。

 

「結衣! 俺たちがついてる! 落ち着いて自分のデュエルをするんだ!」

 

「は、はい! 大丈夫……私は負けません……」

 

さすがに結衣も精神的につらいところだろう。

ただでさえきつい過去がある肉親にこれまで敵意を向けられるのだからな。

 

「口先だけで調子乗るなよ。すぐにわからせてやる……。再び来い! 栄光輝くサーキット! 私は【禁忌の壺】と【ジレルス】と【エンジェル】の3体をリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン! 混沌の力を持ちて抗うものを血祭りに晒せ! リンク召喚! リンク3、【混沌の戦士カオス・ソルジャー】!」

 

ーーー

【混沌の戦士 カオス・ソルジャー】地 戦士 リンク3 ①

ATK/3000

ーーー

 

全身に金色で縁取られた高級そうな鎧を身にまとったいかにも騎士と呼ぶにふさわしいモンスターが出現する。

攻撃力も3000あるしかなり強力そうだ……。

 

「こいつはレベル7以上のモンスターを素材としてリンク召喚した場合、相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。並大抵のモンスターでは倒せない強力なモンスターと言える。ふっふっふ覚悟しろよ結衣……」

 

「くっ……」

 

「親に逆らったことを後悔させてやろう! バトルだ! 【カオス・ソルジャー】でダイレクトアタック! "カオス・ソード・スラッシュ!"」

 

場にはモンスターが1体もいない。だが、結衣と言えば手札からの防御戦術に長けている。

きっとこの程度は想定済みなはずだ。

 

「その程度の攻撃……! 手札から【ゴーストリック・ランタン】の効果を発動! 裏側守備表示で特殊召喚し、【カオス・ソルジャー】の攻撃を無効にします! さらに墓地の【ティンダングル・イントルーダー】を裏側守備表示で特殊召喚します!」

 

やはり持っていたようだ。これであればこのターンは余裕で凌げる。

父親の手札はかなり減っている。ここで巻き返せれば優勢に立てる。

 

「残りは【ティンダングル・アキュート・ケルベロス】の攻撃のみ。これなら私にはダメージが入りません。残念でしたね」

 

「ほう? 相変わらず甘いやつだ。殺戮部隊は相手を潰すことに特化した部隊。この程度で守れると思うな! 【ティンダングル・ドールス】をリンク素材にしたモンスターは3回の攻撃が可能となる!」

 

「3回……?! そんなッ……!」

 

「【ゴーストリック・ランタン】と【ティンダングル・イントルーダー】を攻撃! 八つ裂きにしろ! "アキュート・マス・ブレイズ!"」

 

禍々しい火球が放たれ、紫色に光る炎が結衣のフィールドを焼き尽くしていった。

 

「うぅ……ですが、【ティンダングル・イントルーダー】のリバース効果を発動します。デッキから【ティンダングル・ハウンド】を手札に加えます」

 

「それがどうした! 続けて3回目の攻撃! ダイレクトアタック! 俺の怒りをその身に刻め、結衣!」

 

身構えていた結衣だったが、3発目の火球を受けると大きく体が吹き飛ばされていく。

そして、少し距離の離れていた俺の場所まで飛んでくると落下し、その場で横たわってしまった。

攻撃力3000の直撃は並大抵の衝撃ではないだろう……。

 

「大丈夫か! 結衣!」

 

「うぅ……」

 

あまりの衝撃に体が思うように動かないようだ。

俺はすかさずに結衣の肩を抱きかかえるように持ち上げる。

 

「すみません……繋吾くん……」

 

「気にするな。結衣はデュエルに集中してくれ。こんなところであきらめる特殊機動班じゃないだろ?」

 

「当然です……私は国防軍に落ちた奴なんかに……負けません……!」

 

そう言うと結衣は自力で立ち上がり父親を睨みつけた。

よかった、まだ戦意は喪失していないみたいだ。

 

「まだ俺に従う気はないか結衣。まぁいい、次のターンこそお前の最後だ。【ティンダングル・アキュート・ケルベロス】の効果発動! バトル終了時に【ティンダングル・トークン】を特殊召喚する」

 

ーーー

【ティンダングル・トークン】闇 悪魔 ☆1 ③

DEF/0

ーーー

 

「さらに【ティンダングル・アキュート・ケルベロス】はリンクマーカー先の"ティンダングル"モンスター1体につき、攻撃力を500ポイントアップする。さらにフィールド魔法、【オイラー・サーキット】を発動。カードを1枚伏せてターンエンドだ。さぁ、この私に勝つというのならこの私の布陣を突破してみろ!」

 

太郎 LP4000 手札0

ーー罠裏ー

リーモー裏

 リ ー

ーーーーー

ー裏魔裏ー

結衣 LP1000 手札2

 

「すーっ……はぁ……。いきます! 私のターン、ドロー! 永続魔法【七精の開門】の効果発動! 手札を1枚捨てて墓地から【暗黒の招来神】を特殊召喚します! さらに手札から捨てられた【魔神童】の効果によって墓地から裏側守備表示で特殊召喚、そしてそれに反応し、【ティンダングル・イントルーダー】も裏側守備表示で特殊召喚します!」

 

ーーー

【暗黒の招来神】闇 悪魔 ☆2 ②

DEF/0

ーーー

 

「さらに【暗黒の招来神】と【魔神童】をリリースして、【ティンダングル・ハウンド】をアドバンス召喚!」

 

ーーー

【ティンダングル・ハウンド】闇 悪魔 ☆7 ③

ATK/2500

ーーー

 

父親の使う【アキュート・ケルベロス】に似つつも猛き咆哮をあげる狼のようなモンスターが現れる。

 

「くっ、【ハウンド】を使ってきたか……」

 

「あなたもご存知のとおり、このカードはリンク状態にあるモンスターの攻撃力をその数×1000ポイントダウンさせる効果を持ちます。【アキュート・ケルベロス】は2000ポイントのダウン。その先の【カオス・ソルジャー】は1000ポイントダウンします!」

 

ーーー

【ティンダングル・アキュート・ケルベロス】闇 悪魔 リンク3 EX①

ATK/3500→ATK/1500

ーーー

【混沌の戦士 カオス・ソルジャー】地 戦士 リンク3 ①

ATK/3000→ATK/2000

ーーー

 

よし、これなら戦闘で破壊できる。

それに結衣の伏せカードには【ゴーストリック・ロールシフト】もあったはず。2体とも撃破する絶好のチャンスだ。

 

「バトルです! 永続トラップ、【ゴーストリック・ロールシフト】を発動! 裏側守備表示の【ティンダングル・イントルーダー】を攻撃表示に変更します! リバース効果で【ティンダングル・イントルーダー】を手札に加え、そのまま【カオス・ソルジャー】を攻撃! "ダーク・ディフューザー"!」

 

【ティンダングル・イントルーダー】

ATK/2200

【混沌の戦士 カオス・ソルジャー】

ATK/2000

 

いくら効果破壊耐性や対象耐性があるとしても、戦闘で破壊すれば問題はない。

【ハウンド】の効果による攻撃力弱体化は奴の弱点を突いた見事な戦術と言える。さすがは結衣だな。

 

「くっ、私の【カオス・ソルジャー】が」

 

太郎 LP4000→LP3800

 

「だが、リンク先のモンスターが減ったことで、【アキュート・ケルベロス】の攻撃力は2500までアップする。さぁどうする?」

 

「相打ち覚悟の上です。続けて【ハウンド】で【アキュート・ケルベロス】を攻撃! "シャドー・バイト"!」

 

【ティンダングル・ハウンド】

ATK/2500

【ティンダングル・アキュート・ケルベロス】

ATK/2500

 

両者の攻撃力は互角。2体の獣モンスターがお互いに咆哮し合い、ぶつかり合うべく突撃し始めた。

そして、大きく口を開け鋭い牙をむき出しにしながら衝突する。

 

「よし、これであなたのエースモンスターは……」

 

期待をしながら様子をうかがっているとそこには【アキュート・ケルベロス】のみが健在していた。

相打ちではなく、結衣の【ハウンド】だけが一方的に破壊されていたのだ。

 

「そう簡単にこのカードを倒せると思ったのか? 私はトラップカード【ジェルゴンヌの終焉】を発動していた。このカードを【ティンダングル・アキュート・ケルベロス】に装備させることで、装備モンスターは戦闘・効果で破壊されず、相手の効果の対象にもならない。最強の耐性を得ていたのだ」

 

「そんな……」

 

「そして、【ハウンド】の存在が消えたことで、攻撃力は元に戻る」

 

【ティンダングル・アキュート・ケルベロス】

ATK/2500→ATK/3500

 

攻撃力3000を超えているだけでなく、いかなる破壊もされない上に効果の対象にもならない。

それどころか毎ターン3回攻撃してくるとはなんて化け物なんだ……。

そもそも、結衣の場には攻撃力2200の【ティンダングル・イントルーダー】が攻撃表示になっている。

それを狙われた時点で残りライフが1000しかない結衣は終わりだ。

 

「お前の力はその程度だ。私の"ティンダングル"カードの力を用いたとしても、所詮それは私の真似事に過ぎない。いい加減認めろよ結衣! お前ひとりの力では優秀なデュエリストとは程遠い。雑魚なんだよ!」

 

「わたしは……」

 

結衣はふらふらとした足でなんとか姿勢を保ちながらも戦う意思を崩してはいない。

だが、その頬には涙がこぼれ落ちていた。

 

「……お前が一人前になるまで育てるつもりだっただけなんだ。私も母さんもな。そうなればお前が望むように強いデュエリストにれるし、大好きなデュエルをずっと続けてられるんだ。そう、お前が望んでいるものは全部手に入る」

 

「わたしが……望んでいるもの……」

 

「そうだ。お前はデュエルが好きなんだろう? はぁ、まったく。やはりお前は追い込んでやらないと話にならないな。昔と変わらない。どうだ? 最後のチャンスだ。お前が帰ってきてくれるのであれば、私はここで手を引こうじゃないか。そこのSFSの仲間達を国防軍に売るような真似もしない」

 

自分が勝てると見込んでその条件を出すなんて……それではまるで脅迫しているようなものじゃないか!

もしかして……今の話ぶりからすると、家にいた頃もいつも追い込まれるほどに厳しくされていたのかもしれないな……。

 

「わたし……は……」

 

結衣は言葉に詰まっている。

もしかして本当にもう手がないのだろうか?

そうなれば俺たちだけでも助けるために……そう考えていてもおかしくはない。

 

「俺はあんたに助けを頼んだ覚えはない。だから結衣、俺たちのことは気にするな!」

 

「繋吾……くん……」

 

あまりに汚い父親のやり方に黙っていられない。

俺たちはこんな脅しに動じるような臆病者じゃないことを教えてやるんだ。

 

「それにあんたのそのやり方は……結衣を家に戻すために脅してるだけだ!」

 

「部外者は黙ってろ! お前に何がわかる! 結衣は私に残された最後の希望だ! 私の生きがいなんだ!」

 

「何が生きがいだ! 今までもそうやって自分の目的のために結衣を追い込んで、無理矢理従わせてたんだろう。そんな自分のことしか考えていないやつに、親を名乗る資格はない!」

 

「好き勝手言いやがって……。佐倉家には長きに渡る歴史がある! その歴史が途絶えてしまっては、私は大恥者になってしまうのだよ! それほどまでに大きな荷を背負って生きている。それに加えてすべてを失った者の気持ちが! お前にはわかるというのか!」

 

確かに話を聞くに父親本人も佐倉家に生まれてきたばっかりに色々と辛い思いをしてきたのだろう。

だからこそ、その使命や責務というのは痛いほどわかる。だが、その先には栄光ある名誉があると信じてやまない。それも先代から言われていることなのだろうか。

だが、本人の望んでいない不本意な名誉ほど無駄なものはない。

 

「ああ、わかるさ! 俺だってテロリストのせいで家族を失っている。それにエメラルドのペンダントを持っているばっかりに国防軍からは追われる身。あんたの言う責務ってやつと大事なものを失ってしまった気持ちはわかるさ!」

 

「なに……?」

 

「だがな! どんなに不幸な目にあったり、辛い思いにあったとしても、人の自由を奪う権利はない! 己の生き方は……自分自身で決めるものなんだよ! 佐倉家の名誉だって、あんたの言うやり方が正しいとは限らない。結衣には結衣のやり方があるはずなんだ! 一生懸命自分の夢にむかって努力する。そうやって自分の生きる意味を見つけていくことが"人生"なんじゃないのか?」

 

「……そんなことはわかっている。だからこそ私は! 今までの佐倉家の伝統から外れ、今この時代に求められる国防軍での名誉を得るため殺戮部隊へ志願した! 今やデュエルモンスターズは戦争の道具でしかない。その時代に適応するために私は戦っているのだ! そして、その名誉を自らの子どもに継がせ幸せな人生を歩んでもらうこと。それが私の考えた人生なのだよ!」

 

父親もプロデュエリストとして悩んだところなんだろうが……。国防軍という結論は……。

自分が決断した幸せを子どもにまで強要するのは親として失格だろう。

 

「あんたの名誉にかける思いはわかる。だが、結衣には結衣なりに望んだ生き方がある! 親のお前が結衣の幸せを勝手に決めることはできない!」

 

「犯罪者風情に言われたくないわ! お前の生き方はこの国では犯罪者に過ぎない! つまり大義は私にある! 結衣、それをよく考えて決断するのだな! 犯罪者として生きていくか、それとも私と共に名誉ある人生を歩んでいくか!」

 

「……それは……」

 

結衣はぐしゃぐしゃの顔ながらも自らを奮起しようと拳を力強く握りしめていた。

状況は圧倒的に不利。だが、きっとまだあきらめてはいないはずだ。

 

「……それはこのデュエルで決めます。私が勝てば私の思いが正しいと信じる。もし負ければ……あなたに従いましょう」

 

「なるほど……あくまで敗北するまでは認めないってことか……。いいだろう! ならばその意思が砕けるまでに追い込むまでだ!」

 

「くっ……私はカードを1枚伏せて、ターンエンドです……!」

 

太郎 LP3800 手札0

ーー罠罠ー

ーーモー裏

 リ ー

ーーーモー

ー裏魔罠裏

結衣 LP1000 手札1

 

結衣が伏せたリバースカード……あれ次第でこのターン生き残れるかが決まる。

父親のモンスターは完全耐性をもっている上に攻撃力3500。かなり強力だ……。

 

「それで守るつもりか? いいだろう、私のターン、ドロー! 【ティンダングル・イントルーダー】を反転召喚! 効果で【ティンダングル・エンジェル】を手札に加える。バトルだ! 【ティンダングル・アキュート・ケルベロス】で【イントルーダー】を攻撃! これでしまいだ! 目を覚ませ結衣!」

 

再び紫色に光る大きな火球が結衣に迫ってくる。

これが通れば結衣の負けだ……!

 

「まだ……負けない……! トラップ発動! 【エクシーズ・リボーン】! このカードをエクシーズ素材として、墓地の【ゴーストリックの駄天使】を復活させます! 再び力を貸して!」

 

ーーー

【ゴーストリックの駄天使】ランク4 闇 天使 ③

DEF/2500

ーーー

 

結衣の象徴とも言われる駄天使が再び姿を現した。

だが……モンスターを増やしたところで、もう攻撃は止められない。もはや……打つ手なしということだろうか……。

 

「それじゃなんの解決にもならないな! 往生際が悪いぞ結衣!」

 

「私のデュエルに……無駄なことなど一つも……ない! 墓地からトラップカード! 【ゴーストリック・リフォーム】を発動!」

 

「なにっ! 墓地から……いつの間に……」

 

結衣の墓地のトラップカード……。

そうか! 【ティンダングル・ジレルス】を出す際に送っていたカードか……!

 

「はい、このカードは墓地から除外することで、場のゴーストリックXモンスターの上に重ねて違う名称をもつゴーストリックXモンスターをX召喚できます! さらにそれにチェーンさせて永続トラップ、【レイダーズ・アンブレイカブル・マインド】を発動! このカードが発動されている時に、闇属性エクシーズモンスターを素材にエクシーズ召喚した時、相手の場のカードを1枚破壊できる!」

 

「なんだと……! 私のターンでエクシーズ召喚するだけでなく、破壊コンボを形成するとは……!」

 

「私は【ゴーストリックの駄天使】でオーバーレイネットワークを再構築! "黒曜に煌く漆黒よ! 断罪の剣となりて、闇夜を切り裂け! エクシーズ召喚! ランク1、【ゴーストリック・デュラハン】!"」

 

ーーー

【ゴーストリック・デュラハン】ランク1 闇 悪魔 ③

DEF/0

ーーー

 

「くっ……まさか……」

 

「この時、【レイダーズ・アンブレイカブル・マインド】の効果が発動! あなたの場の【ティンダングル・トークン】を破壊します!」

 

「くっ……直接【アキュート・ケルベロス】は対象にできないが、これで攻撃力を下げることができるってことか……」

 

【ティンダングル・アキュート・ケルベロス】

ATK/3500→ATK/3000

 

「だが、それも悪あがきにすぎん! そのままやれ! 【アキュート・ケルベロス】!」

 

【ティンダングル・アキュート・ケルベロス】

ATK/3000

【ティンダングル・イントルーダー】

ATK/2200

 

「ぐぅぅッ……!」

 

結衣 LP1000→LP200

 

「だが全て無駄なことだ! このカードは3回の攻撃を可能とする! 続けて【ゴーストリック・デュラハン】を攻撃!」

 

「まずい……結衣!」

 

確かに【アキュート・ケルベロス】は3回の攻撃ができる……!

これではいくら攻撃力を下げてもモンスターの数が足りない。

 

「くっ……だけど、私の防御を甘くみないでくれる? 私だって修羅場の一つや二つ、乗り越えてきてる! 墓地へ送られた【ゴーストリック・デュラハン】の効果発動! 墓地から【ゴーストリック・ランタン】を手札に戻す!」

 

その手があったか!

これであれば再びダイレクトアタックを防ぐことが出来る!

 

「ちょこまかとしぶといやつだ……完膚なきまでたたきつぶしてやる! 【アキュート・ケルベロス】、ダイレクトアタック!」

 

「この瞬間、【ゴーストリック・ランタン】の効果発動! 裏側守備表示で特殊召喚し、攻撃を無効にする。さらに墓地から【ティンダングル・イントルーダー】を裏側守備表示で復活させる!」

 

「くっ……【イントルーダー】は残させん! 私の【イントルーダー】でお前の【イントルーダー】を攻撃する!」

 

「ですが、リバース効果で【ティンダングル・ジレルス】を手札に加えます」

 

なんとか耐え切ったみたいだな……。

だが、手札もフィールドもボロボロの状況。ここからどう巻き返していけばいいものだろうか……。

 

「このターンはなんとか耐え凌いだようだな? 結衣」

 

「ええ。これは私の人生をかけたデュエル。私は……私を大事にしてくれる人たちを……そして自分の思いを信じる。そのために諦めるわけにはいかない」

 

「くっ……まだそんなことを……ならば現実を教えてやろう。私の永続トラップ【ジェルゴンヌの終焉】は私の【アキュート・ケルベロス】のリンクマーカー先に全てのモンスターが揃った時、真価を発揮する。このカードと、リンクマーカー先のモンスターを全て墓地へ送り、お前に【アキュート・ケルベロス】の攻撃力分のダメージを与える効果だ」

 

なるほど……全てを揃えたら結衣に3000以上の効果ダメージが入る。

いくら防御の固い結衣でも、効果ダメージを防ぐことは難しい。

だが、【アキュート・ケルベロス】のリンクマーカー先の一つは結衣のモンスターゾーンを指している。

つまり、結衣がその先に出しさえしなければその効果は発動しない。特段気にする必要もなさそうだが。

 

「さらに私のフィールド魔法【オイラー・サーキット】は私のスタンバイフェイズ時に自分フィールド上の"ティンダングル"モンスターを相手へ移すことができる。つまり、次のターン、私のモンスターをお前に移し、リンクマーカーを整えれば、お前の敗北ということだ」

 

なるほどな。

次のターンを迎えれば相手の場にモンスターを移せるゆえに簡単に条件を満たすことができるということか。

 

「それだけではない。【オイラー・サーキット】は私の場に"ティンダングル"モンスターが3体以上いる場合、お前は攻撃できない。既にお前は追い詰められているということだ」

 

「くっ……」

 

「バトル終了時に【アキュート・ケルベロス】の効果でトークンを生成。さらにこの【ティンダングル・エンジェル】を裏側守備表示でリンクマーカー先にセット。これでターンエンドだ! ハッハッハ!」

 

 

太郎 LP3800 手札1

ーー罠罠ー

裏ーモーモ

 リ ー

ーー裏ーー

ー罠魔罠ー

結衣 LP200 手札2

 

【オイラー・サーキット】で攻撃できないだけでなく、【アキュート・ケルベロス】は完全体制を得た攻撃力3500のモンスター。

次のターンでなんとかしなければ効果ダメージで敗北……。絶望的な状況だ。

だけど……結衣ならきっと……。

 

「諦めるな結衣! まだ勝機はある!」

 

「繋吾くん……もちろんですよ。私には仲間がいる。仲間のためにも負けるわけにはいきません……! 私のターン、ドロー!」

 

引いたカードを恐る恐る確認する結衣。

そこにはにやりとわらう表情を浮かべた姿があった。

 

「私は【ゴーストリック・ランタン】を反転召喚。さらに【ゴーストリック・ランタン】は場にゴーストリックモンスターがいる時、召喚できる!」

 

ーーー

【ゴーストリック・ランタン】☆1 闇 悪魔 ④

ATK/800

ーーー

 

「そして、2体のレベル1モンスターでオーバーレイ! 再び来て! 【ゴーストリック・デュラハン】!」

 

ーーー

【ゴーストリック・デュラハン】ランク1 闇 悪魔 ③

ATK/1200

ーーー

 

「【ゴーストリック・デュラハン】の効果発動! オーバーレイユニットを一つ使い、あなたの【ティンダングル・イントルーダー】の攻撃力を半分にする!」

 

「なに? だが、お前はどうせ攻撃できない。仮に攻撃できたとしても裏側の【ティンダングル・エンジェル】を【星遺物の傀儡】の効果でリバースさせれば、バトルは終了だ」

 

「そんなことわかってる! だからこそ、私はエクシーズモンスターの強みを……仲間と力を合わせて強くなるこの力を持って、あなたを超える! 【ゴーストリック・デュラハン】1体でオーバーレイネットワークを再構築! "闇夜の帳より誘う嘲笑の翼よ! 幻想に囚われし醒めぬ冀望を打ち砕け! ランクアップ、エクシーズチェンジ! ランク4、【ゴーストリックの駄天使】!」

 

ーーー

【ゴーストリックの駄天使】ランク4 闇 天使 ③

ATK/2000

ーーー

 

「この時、【レイダーズ・アンブレイカブル・マインド】の効果が発動! 場のカード1枚を破壊する!」

 

「まさか……私の【ジェルゴンヌの終焉】を破壊しようというのか!」

 

確かにこれで元凶となる【ジェルゴンヌの終焉】を破壊できる。

だが、それでも【アキュート・ケルベロス】を破壊するまでには至らない。

根本的な解決にはならないのが現状か。

 

「いえ……私が破壊するのは、【レイダーズ・アンブレイカブル・マインド】です!」

 

「自らのカードを破壊するだと? 何をしている……」

 

「このカードが破壊された時、デッキからRUMカード1枚を場にセットできます! 私は【RUM-ヌメロン・フォース】をセットし、そのまま発動させる!」

 

「RUM……馬鹿な!」

 

「【ゴーストリックの駄天使】1体でオーバーレイネットワークを再構築! "闇夜に凍てつく漆黒の翼よ! 氷獄の旋律打ち鳴らし、終わりなき闇を開け!" カオス・エクシーズチェンジ! 来なさい! CNo.103 ! 神葬零嬢ラグナ・インフィニティ!」

 

ーーー

【CNo.103 神葬零嬢ラグナ・インフィニティ】ランク5 水 天使 ③

ATK/2800

ーーー

 

きたか……結衣の切り札。

【駄天使】が昇華した姿が。

 

「【RUM-ヌメロン・フォース】が適用された瞬間、場の全ての表側表示カードの効果は無効となる! これであなたの戦術は全て無意味です!」

 

「なんだと……!? そんなことが……!」

 

「さらに【ラグナ・インフィニティ】の効果発動! オーバーレイユニットを一つ使い、相手の場のステータスが変化しているモンスター1体を除外し、その元々の攻撃力との差額のダメージを相手に与える! 対象は【ティンダングル・イントルーダー】! 消えなさい、"ブローデッド・アンガー"!」

 

「ぬおわあ!」

 

【イントルーダー】の体から刺々しい氷の刃が解き放たれ、その衝撃で砕け散っていく。

 

太郎 LP3800→LP2700 

 

「さらに効果が無効になった【アキュート・ケルベロス】の攻撃力は0! それに私の攻撃を防ぐ表側表示カードも全て効果は失われている!」

 

「くそ! なぜだ! なぜそこまで都合よく……! お前はどうして……親に歯向かうーー」

 

「うるさい! もう私はあなたの言いなりになるほど弱くないんだ! これで終わらせる……! 【ラグナ・インフィニティ】で【アキュート・ケルベロス】を攻撃! "フリージング・サイス!"」

 

【CNo.103 神葬零嬢ラグナ・インフィニティ】

ATK/2800

 

漆黒に光る黒き大鎌が振り下ろされると、そこから氷を纏う巨大な衝撃波が放たれ【アキュート・ケルベロス】を包み込む。

その衝撃波はそのまま結衣の父親へも到達し、吹き飛ばされていった。

 

「馬鹿なああああ!」

 

太郎 LP2700→LP0

 

無事、結衣は父親に勝ち、親とのしがらみを堂々と絶つことができたみたいだ。

内心びくびくしていたが、結衣が勝利したことで体の緊張感が一気に解き放たれるような気がした。

 

 

 

 



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Ep80 - 束の間の脱出

横たわる父親の前で立ち尽くす結衣。

その表情はどことなく清々しい様子だった。

 

「あなたに対して憎しみだけを感じていたわけではありません。あなたの子でなければ……デュエルを好きにはなれなかったでしょうから」

 

「ぐぅ……結衣……」

 

父親はうめき声をあげながらも苦しそうに結衣のことを見つめていた。

 

「今までお世話になりましたお父様」

 

結衣は冷たくそう呟くとデュエルウェポンから自らのデッキを取り出し、そっと枕元へ置いた。

 

「私の意思をはっきりと伝えておきます。これをもって私はもうあなたの下を離れます。これがその証です」

 

結衣は……自らのデッキを捨てる……ということだろうか。

"ティンダングル"カードを捨てることで親のしがらみを解こうと……。

 

そして、ポケットより一枚のカードを取り出し、父親のデュエルウェポンをセットする。

 

「私は……あなたを殺すつもりは……ありません。これはせめてもの親孝行だと思ってください」

 

あれは……【インスタント・ヒーリング】のカードか……?

さすがに肉親を殺すほど憎んではいないということだろうか。

 

「私はあなたに対して自由を主張しました。だからあなたの自由を奪うつもりはありません。もし私に負けたのに納得がいかなければまた挑んでもらってけっこう。どんな手を使われようと私は正面から立ち向かいます」

 

鋭い視線を父親に向けながら結衣は淡々と言葉を続ける。

しかし、父親は回復カードをセットされたからか少しだけ先ほどよりも余裕のありそうな表情をしていた。

 

「……あ、甘いな……お前は……。それがお前の答えならば……。国防軍として……お前たちを殺すまでだ……!」

 

「瀕死状態のあなたに何ができるんですか? えっ……」

 

デュエルで先ほどまで気が付かなかったが、下の階層から人の足音のような音が聞こえる。それもかなりの量だ。

国防軍の連中だろうか。確か結衣の父親が仲間に位置情報は共有しているようなことを言っていたな……。

 

「結衣! 急ぐぞ!」

 

俺はすぐさま結衣の手を掴み引っ張るように奥の部屋へと誘導する。

結衣は複雑な表情をしていたが、今は気にしている場合ではない。

 

俺たちは赤見さんが手招きする奥の部屋へと足を踏み入れた。

そこにはごみをストックしているような大きな箱があり、その蓋が開かれていた。

 

「うっ……」

 

結衣はその部屋に入るなり頭を押さえ始める。

 

「大丈夫か? 目を閉じていた方がいい」

 

「わかり……ました……」

 

きっと嫌な記憶がフラッシュバックしているのだろう。

苦しそうな表情をしていた。

目を塞いでいる結衣を倒れないように支えながら俺たちはその箱に向けて歩みを進めていく。

 

「繋吾! 結衣! ここから脱出する! 私が先行するからついてきてくれ!」

 

俺たちが箱に到達すると赤見さんは先行してその箱の中に飛び込んでいった。

中を覗き込んでみると簡易的な滑り台のような構造になっている。

広さは大人の人が一人通れるか通れないかの広さ。結衣を抱えてはさすがに入れないか。

 

俺は目を塞いでいる結衣の手を握りしめながらゆっくりとその中に足を踏み入れる。

 

「絶対手を離すなよ? 俺が先に入るから、続けて結衣も入ってきてくれ」

 

結衣は無言で頷き、俺の後に続くように箱へ足を踏み入れていく。

どうやら結衣も無事中に入れたようだ。ゆっくりと速度をあげながら斜面を進んでいく。

 

中はしばらく使われていなかったからか埃だらけで汚かった。

虫も湧いていてこんな状況でなければとても入りたくはない場所だ。

結衣に目を塞いでもらったのはよかったことなのかもしれない。

きっと女性には耐えがたい場所だっただろう。

 

徐々に速度が上がり結衣との手が離れそうになる。

俺は右足を水平にし、斜面に対して摩擦がかかるような姿勢にして速度が遅くなるよう堪えた。

これ以上スピードが上がったら手が離れてしまう。

俺は必死になって脚に力を込めた。

本来は脚が相当こすれてるためひどく出血するだろうが、デュエルウェポンによる防護で俺の体は外傷から守られている。

当然、痛みは伴うが出血しないと思うと無理をしてでも必死になることができた。

 

やがて外の明るい光が見えてくる。もうすぐ出口のようだ。

 

「もうすぐだ。衝撃に備えてくれ」

 

滑り台と言えば出口付近での衝動が大きい。

そこでうまく受け身を取れなければ怪我をするかもしれない。外傷は守れても体に対する衝撃は守り切れない。

デュエルウェポンの防御機能はあくまで皮膚の表面。その例として高所から落ちた場合は普通に死に至ることもある。

そこまで万能な品ではないのだ。

 

俺たちは全身が丸々ような体制を取り、衝撃に備える。

そして、出口へ差し掛かり俺たちの体は殺風景な地面へと叩きつけられた。

全身に大きな痛みが走る。だが、急所は免れたようだ。意識はしっかりしている。

 

「繋吾! 結衣! 大丈夫か?」

 

「なんとか……」

 

後ろにいた結衣もゆっくりと体を起こしている。大丈夫のようだ。

 

「大丈夫……です。国防軍の動向は……?」

 

「あぁ、こちらの裏口にはいないようだ。急いでここから離れるぞ!」

 

赤見さんに続くように俺たちは休む間もなく走り出す。

なんとかして国防軍の追跡を振り払わなければ……。

 

そんなことを考えながら走っていると何かにぶつかる衝動がして、滑るようにして転げてしまった。

どうやら誰かにぶつかってしまったようだ。

 

「きゃっ」

 

ぶつかった相手は女性みたいだ。

服装を見る限り国防軍ではないみたいだな。

 

「悪い……ちょっと急いでて……」

 

俺はそういいながらその場を立ち去ろうとしたが、その着ている服装に見覚えがあった。

そう……胸元には"SFS"の印字がなされた制服を身に着けていた。

 

「お前……SFSか……?」

 

その女性が不審そうに体を起こすとその顔も明らかになった。

どこかで見たことがあるような気がするが……誰だったか……思い出せない。

 

「あなたは……あの……辞令式の時に隣にいた……」

 

その女性のおどおどしたような態度……。

思い出したぞ。辞令式の時に隣で怯えていた少女だ。

 

「あなたのアドバイスのおかげで……ジェネシスの襲撃でもなんとか生き残ることができました。ありがとうございました。私は救護護衛班……だったので最前線には出ませんでしたが……」

 

「いやいや……」

 

彼女を元気づけた記憶はあるが、まさかここまで感謝されるとは思っていなかった。

本来であれば嬉しいはずなんだが……今は事情が事情だ。

もしこの子に俺の身元が知られればきっとショックを受けるだろう。感謝どころではなくなるはずだ。

 

それに"指名手配されているテロリスト"と親しくしていれば、この子も処分を受けるに違いない。

そう思うと俺はうまい返事が思いつかなかった。

 

「でもなんでこんなところに……? あなたも指名手配者の捜索だったり……」

 

「繋吾くん、その子は……?」

 

「あぁ、SFSの顔見知りだ。悪いな。先を急いでいるからまた……」

 

結衣に声を掛けられたチャンスに俺はその場を立ち去ろうとする。

だが、突然「待って」と少女に大きく静止された。

 

「あの……せめてお名前だけでも……」

 

「……」

 

その言葉に俺は体が凍ったように動かなくなってしまう。

俺の名前を言ってしまったら全てが終わってしまう。

彼女もSFSの人物。敵に回ってもおかしくはないからな。

下手に敵を作らないほうがいいだろう。

だが……うまく切り抜けるにはなんとかわしたらいいものか……。

 

「あ、先に名乗らないとですね……私は……小鳥遊 有栖と言います。ってあなたは……!」

 

小鳥遊と名乗った少女は俺の後方に視線を向けながら突然驚きの声をあげた。

俺の背後には結衣と赤見さんの姿があった。

 

「赤見……特殊機動班長……ですか……?」

 

さすがに赤見さんは顔が知れているか。

となると……こちらの所在も感づいてもおかしくはない。

 

「あ、あぁ……。テロリスト……」

 

その子は急に怯えたような表情をしてデュエルウェポンを構える。

くそ! この距離だとデュエルは回避できないか!

 

俺は覚悟を決めデュエルウェポンを構えようとすると、聞き覚えのある女性の声が聞こえた。

 

「あー、有栖ー! 待ちなさい!」

 

その声の主は救助護衛班長の紅谷班長だった。

姿を見るのはかなり久しぶりな気がする。

 

「仁くん、無事でよかった……。有栖? この人たちのことは見なかったことにしといて」

 

小鳥遊はきょとんとした表情で紅谷班長のことを見つめている。

一体何なのかわからない様子だった。

 

「レン……! 本当にこの場所に待機してくれてたんだな。助かる!」

 

赤見さんは喜びの表情を浮かべる。

事前に例の携帯電話で連絡を取っていたのかもしれない。

 

「もう……心配してたんだよ? こんなことになるなんて夢にも思ってなかったよ」

 

「まったくだな……。だが、もう後戻りはできない。お前も私たちとあまり長く一緒にいないほうがいい。連絡はまた"コレ"でする」

 

「せっかく会えたのに残念だなあ……。繋吾くん、結衣ちゃん。絶対無理しちゃダメだからね? 全部仁くんのせいなんだから」

 

俺と結衣は急に話を振られ苦笑いをする。

赤見さんのせいにするつもりはないが……まぁ冗談だろう。

 

「まさかSFSまで動員されているとは思わなかったよ。今、どんな状況なんだ?」

 

「SFSは組織の再編成中ってところ。白瀬班長……いや、社長が大量の新規入団者を使ってSFSを牛耳ってる。乗っ取り計画は順調みたい。どうやら旧決闘機動班の連中がSFSの中枢になり、それ以外の人物は「国防機動班」と「偵察救助班」って組織になる予定みたい。私も今後は副班長って立ち位置になっちゃうみたいで……。それで今は全員が国防軍の援護として真跡シティに動員されてる」

 

俺たちがいた頃からたった数日で随分と変わってしまったみたいだな……。

中枢であった「司令直属班」「決闘精鋭班」は見る影もなさそうだ。白瀬の奴が一番嫌いそうな班だからな。

 

「なるほどな……その……一樹のやつはどうしてる……?」

 

赤見さんは複雑そうな表情をしながら問う。

赤見さんにとっては紅谷班長とともに大事な存在だ。気になって仕方がないのだろう。

 

「かずくんは……すっかり白瀬に従順になっちゃったよ……。私もSFSでは同じような態度を取るようにしてるけど……。"この子"が混乱しているのもそういうことだよ」

 

そう指を指されている小鳥遊は相変わらずきょとんとした表情をしていた。

こいつは……本当に正真正銘の新規入団者なのだろうな。なんとも不運というか……巻き込まれてかわいそうではある。

 

「これからどうするの? 目標地点までまだ距離はあるけど、まずは身を隠さないとだよね……?」

 

「あぁ、とりあえず追っ手を振り切ってからだ。追っ手がいる状態で目標地点にたどり着くわけにはいかないからな」

 

現在俺たちは国防軍に追跡されている状況だ。

すぐにでも身を隠さなければならない。

 

「あ、そうだよね……ごめん。足を止めるようなことしちゃって。もし国防軍が来ても逆方向に逃げていったって伝えておくから! 安心して逃げて!」

 

「ありがとうレン! お前も無茶なマネだけはするなよ?」

 

「仁くんに言われたくないかな? 絶対生きて帰ってきてね……」

 

赤見さんに「行くぞ!」と言われ俺たちは紅谷班長たちの下を離れようとする。

だが、進行方向には既にSFSの制服を着た数名の人物が立ちふさがっていた。

まずい……長く話しすぎたか……?

 

「紅谷さんのことを警戒しておいて正解だったな。止まれ、テロリストども!」

 

集団の先頭に立つ人物に制止され俺たちは歩みを止める。

 

「路上生活に後戻りか? 遊佐」

 

あれは決闘機動班の切り札……桂希だ……。まさかここに来て奴に遭遇するとは……。

 

「赤見元班長。無駄な抵抗はやめていただこう。今ここでデュエルウェポンを外せば命までは奪わない。だが……」

 

続けて桂希は我々を脅すような鋭い目つきで「抵抗するならば容赦しない」と低い声で言った。

実力を知っている相手だからこそ、その言葉には恐怖すら感じる。

 

相手はざっと見るに10名はいないくらいか。

もし桂希以外の敵が大したことなければデュエルで切り抜けられるかもしれない。

 

すると赤見さんはデュエルウェポンを構えながらゆっくりと後ずさりを始める。

 

「聞いているのか! 赤見!」

 

桂希が叫ぶ声にも反応せずに赤見さんは後ずさりを続ける。

 

「紅谷副班長! 背後を包囲してくれ! 赤見を逃すわけにはいかない」

 

桂希は俺たちの背後にいる紅谷さんに向けて指示を出す。

まずいぞ……。俺たちの両側は建物に囲まれている。

実質目の前には桂希、背後には紅谷さん達がいる状況だ。つまり包囲されている……。

 

振り向くと、紅谷さんの周りにもSFS隊員が集まり始めていた。

紅谷さんも都合が悪そうな表情をしている。きっとこうなった責任を感じているのだろう……。

 

「赤見元班長。どうやら降伏する意思はないと見た。ならば、紅谷副班長、赤見の拘束をお願いしたい」

 

「えっ……」

 

なんだと……? まさか仲間同士で戦わせるつもりか!

 

「レン……」

 

赤見さんは視線を背後に向けながら苦しそうな表情を浮かべる。

赤見さんが紅谷班長を傷つけることができるわけが……。

 

「先ほど紅谷副班長が赤見と接触しているのにも関わらず、敵意を見せていなかったとの報告があった。これについての真意を確かめたいのでな」

 

先ほどの様子を誰かに見られていたということか……。それであれば俺たちだけでなく紅谷さんも不利な状況になってしまう。

 

「桂希! 聞いてくれ!」

 

俺は我慢ならず桂希に向けて叫んだ。

 

「黙れ遊佐! お前はその赤見が何をしたのかわかっているのか! 彼は法を破った……デュエルウェポンで人を殺傷した人物だぞ!」

 

「違うんだ……桂希……俺たちは……」

 

「これは事実だ! 弁明の余地もない」

 

「あぁ、弁明するつもりはない。だが、自分がしたことを間違っているとも思わない」

 

桂希に対してはっきりと答える赤見さん。

どうやら覚悟を決めている様子だった。

 

「ほう……。いいかお前たち、この3人には手を出すな。我々は紅谷副班長の忠誠心を確認する必要がある。まずは赤見元班長との一騎打ちを見させてもらうか。これは白瀬社長からの指示だ」

 

白瀬社長の指示だと……。なんて卑劣なやり方をするんだ……。

 

「桂希! お前はそんな卑怯なやり方で戦う奴じゃなかっただろう! 正々堂々真正面から戦うーー」

 

「私だってできることならやりたくはない! だが、彼女には上層部の疑いの目がかかっている以上、仕方があるまい」

 

「くっ……」

 

やはり疑いの目があるらしい。

いくらデュエルウェポンでの赤見さんとのやり取りがないとしても、親しい間柄には違いないからな。

 

「桂希班長。私は前から言っていますが、テロリストになった彼に同情するほど親しい仲ではありません。むしろ、こんなことをする彼を残念に思います」

 

「……」

 

紅谷さんは冷めた表情へと変えながら今度は赤見さんのことを睨みつけ始める。

その様子は普段の明るいイメージとはまったく違い、冷酷な印象を受ける。

 

「容赦せずに叩き潰すまでです。彼には刑務所で罪を償っていただきます」

 

紅谷さんはデュエルウェポンを構え、赤見さんへと近づいていく。

まさか……本当にデュエルしてしまうのか……。一度始まれば桂希たちに包囲されている現状、どちらかが負けるまでデュエルは終わらない。

そうなれば俺たちの未来は……勝ったとしてもそれは紅谷さんを傷つけることに他ならない。

そんな仲間同士で戦い合わなければいけないなんて……。

 

さらに立て続けに桂希たちともデュエルになるだろう。そうなれば生き残れる保障は限りなく薄い。

 

「望むところだ。お前とは一度ケリをつけたいと思っていたからな」

 

赤見さんもデュエルウェポンを構え紅谷さんに対峙する。

すると同時に俺のデュエルウェポンに新着メッセージの通知が来ていた。赤見さんからだ。

どうやら結衣にも来ているようだ。結衣も自分のデュエルウェポンを眺めている。

 

"私の命が危うくなった時にこのメッセージを送る。私の合図とともに自分の身を守るカードを使用して身を守ってほしい。私のデュエルウェポンは私がデュエルに負けた時、自動で大爆発を起こすよう特殊な設定をしている。そうなれば付近の敵を一時的に怯ませることが可能だ。よろしく頼む"

 

赤見さんのメッセージにはそう書かれていた。

まさか……自らの命を犠牲に俺と結衣を逃がせようとしているのか……?

赤見さんを失うなんて考えられない……! 俺と結衣二人だけじゃこの先、生き残れるかもわからないというのに……。

だけど、相手にばれてはいけない以上、声に出して止めることもできない……。くそっ……どうしたらいいんだ……!

 

「繋吾くん……これ……」

 

結衣も不安そうな表情をしていた。

 

「大丈夫だ……なんとかする……」

 

俺は少しでも彼女を勇気づけようとそう答える。

だが、なんとかできるようなものでもない。

赤見さんが紅谷さんに負けるつもりなのか、あるいは負けた時の保険なのかはわからないが、まだ赤見さんが死ぬと決まったわけではないんだ。

それまでに何か方法がないか探るしかない……。

 

「さて、いくぞ……」

 

「デュエル!」

 

この先どうなるかまったく見えないまま赤見さんと紅谷さんのデュエルが始まってしまった。

 

 

紅谷 LP4000 手札5

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赤見 LP4000 手札5

 

 

 

 



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Ep81 - 望まれぬ決闘 前編

紅谷 LP4000 手札5

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赤見 LP4000 手札5

 

繋吾と結衣に事前に用意しておいたメッセージを送ったが、このデュエルどうしたものか……。

最悪の場合を想定して、デュエルウェポンに自爆装置を用意しておいてよかった。

 

目標地点へたどり着けなかったとしても、生天目社長の遺言を遂行する。

それが二人を連れてきた私としての使命だろうからな。

 

二人には申し訳ないが、このデュエル勝ったとしても負けたとしても全員が生き残れる可能性は限りなく低いだろう。

仮にレンに勝てたとしても、桂希率いるSFS主力部隊との連戦で我々が耐えきれる見込みは薄いからな。

 

だからこそ私は最後の手段である自爆を選択した。

不意打ちで自爆することで一時的に敵を無力化できれば、その隙に繋吾達は逃げることができる。

 

彼らが生き残ってさえいれば……まだ白瀬の陰謀を止めることができる。

なんといっても……こちらには"エメラルドのペンダント"もあるからな。

 

私はこのデュエルを持って、最後の使命を果たす。

願わくばデュエルモンスターズが本来の"娯楽"という役割を取り戻した未来が見てみたかったが……。これも運命というヤツなのかもしれない。

特殊機動班長としての運命。

レン、そして一樹。あいつらにもちゃんとした別れの挨拶もできないまま……旅立つことになりそうだ。

 

だが、デュエルをするからには手は抜きたくない。それが私の"デュエリスト"としてのプライドだ。

だからこそこのデュエル、勝つ気で最後まで戦う。このデュエルに勝てれば私の命が延命できることにはなるからな。

いずれにしてもここから脱出するには自爆しか方法がないのだろうが……もしかしたら勝ち続けられる可能性もゼロではない。

レンを不本意ながら傷つけることにはなってしまうが……仕方がないと割り切ろう。

 

せっかくだからあがいてあがていあがきまくってできるところまで国防軍に抗う。

最後まで足掻き続けることが……私たち特殊機動班の戦い方だ!

 

「先攻はもらいます! 私のターン。【カッター・シャーク】を召喚!」

 

ーーー

【カッター・シャーク】☆4 水 魚 ③

ATK/1500

ーーー

 

先攻はレンだ。

あいつは水属性のエクシーズモンスターを主体としたデッキを使っている。

何度も見ているから戦術はわかるつもりだ。

それゆえに強敵であることも十分理解している。このデュエル、気は抜けないな。

 

「【カッター・シャーク】の効果発動! デッキから【ライトハンド・シャーク】を特殊召喚!」

 

ーーー

【ライトハンド・シャーク】☆4 水 魚 ②

ATK/1500

ーーー

 

レベル4モンスターが2体並んだ。

さっそくエクシーズ召喚が可能になったということだ。

 

「先に行かせてもらいます。私は2体のレベル4モンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 来なさい、【バハムート・シャーク】!」

 

ーーー

【バハムート・シャーク】ランク4 水 海竜 ③

ATK/2600

ーーー

 

「【バハムート・シャーク】の効果発動! オーバーレイユニットを一つ使い、EXデッキからランク3以下の水属性エクシーズモンスターを特殊召喚する! 来なさい! 【餅カエル】」

 

ーーー

【餅カエル】ランク2 水 水 ②

ATK/2000

ーーー

 

レンの十八番とも言える序盤の展開札だ。

あの【餅カエル】は見た目が餅をモチーフとしておりふざけた見た目をしているが、あらゆるカード効果を無効にし、それを奪いとる能力がある。

こちらの動きがかなり阻害される厄介なカードだ。

 

「さらにマジックカード【ジェネレーション・フォース】を発動! デッキから【エクシーズ・インポート】を手札に加えます。カードを3枚伏せて……ターンエンド……」

 

紅谷 LP4000 手札1

ー裏裏裏ー

ーエエーー

 ー ー

ーーーーー

ーーーーー

赤見 LP4000 手札5

 

今の状況として、【餅カエル】によるカード効果の無力化があり、手札に加わった速攻魔法【エクシーズ・インポート】が伏せられているのは間違いないとみていいだろう。

あの速攻魔法の効果は……どうだったか忘れてしまったが……さて、どう攻略していくか考えねばならないな。

 

「私のターン、ドロー!」

 

【餅カエル】を攻略するには、効果を一切使わずにあの攻撃力2000を超えてしまうのが一番良い戦法だろう。

それであるならば展開力に長けている私の"BF"であれば難しいことではない。さっそく処理させてもらおう。

 

「【BF-上弦のピナーカ】を召喚! さらに"BF"がいることで手札の【BF-黒槍のブラスト】を特殊召喚!」

 

ーーー

【BF-上弦のピナーカ】☆3 闇 鳥獣 チューナー ③

ATK/1200

ーーー

【BF-黒槍のブラスト】☆4 闇 鳥獣 ④

ATK/1700

ーーー

 

レンは二体のBFモンスターが並ぶ姿を見て、口元を歪ませる。

今の召喚に対して【餅カエル】の効果を挟むタイミングはない。よって、この2体で攻撃力2000以上のシンクロモンスターを出してしまえば【餅カエル】を倒すことができる。それを察した表情だろうか。

だが、問題は3枚の伏せカード。

当然、こちらの攻撃に対するカードくらいは用意しているだろう。

 

「私はレベル4の【ブラスト】にレベル3の【ピナーカ】をチューニング! "吹きすさべ、黒き旋風よ! 金剛不壊なる漆黒纏い、天空を穿て! シンクロ召喚! BF-アーマード・ウィング!"」

 

ーーー

【BF-アーマード・ウィング】☆7 闇 鳥獣 ③

ATK/2500

ーーー

 

鋼鉄の鎧を纏う大きな黒き翼を持った人型の鳥モンスターが出現する。

攻撃力は2500。これであれば【餅カエル】を突破できるはずだ。

 

「バトルフェイズだ。【BF-アーマード・ウィング】で【餅カエル】を攻撃! "ブラック・ハリケーン!"」

 

大きな黒き風が渦巻き、その風に乗って【アーマード・ウィング】は滑空しながら拳を振り上げる。

 

「甘い! 速攻魔法【エクシーズ・インポート】を発動! 場のエクシーズモンスターよりも攻撃力の低いモンスターをエクシーズモンスターのオーバーレイユニットとして吸収する! 【バハムート・シャーク】の攻撃力は2600。よってあなたのモンスターはオーバーレイユニットとして吸収される」

 

「なに!?」

 

【アーマード・ウィング】の勢いが止まり、その姿が球体へと変化すると、【バハムート・シャーク】へ取り込まれてしまった。

これでは【餅カエル】を倒せない……。くそ、やられたか。

このターンはあきらめて、次のターンにつなげるしかないか。

 

「私はカードを2枚伏せてターンエンドだ。そして、エンドフェイズ、【ピナーカ】の効果を発動させる。デッキから"BF"モンスターを手札に加えるが……どうする?」

 

ここで【餅カエル】を使ってくるか否か……。どう来る……レン。

 

「私は……いいでしょう、その効果は無効にしません」

 

「ならば、デッキから【BF-極北のブリザード】を手札に加える。さぁ、お前のターンだ」

 

紅谷 LP4000 手札1

ー裏ー裏ー

ーエエーー

 ー ー

ーーーーー

ー裏裏ーー

赤見 LP4000 手札3

 

「私のターン、ドロー!」

 

伏せカードを警戒してきたのか【餅カエル】の効果は温存したようだ。

現状私の場にはモンスターはいない。伏せカードを警戒するのも無理はないだろう。

 

「再び【バハムート・シャーク】の効果を発動! オーバーレイユニットを一つ使い、EXデッキから【超量機獣グランパルス】を特殊召喚!」

 

ーーー

【超量機獣グランパルス】ランク3 水 機械 ④

DEF/2800

ーーー

 

あの構えは……。いよいよレンの主力モンスターが出てくると見て間違いないだろう。

 

「いかせてもらいます。さらにオーバーレイユニットのないランク3水属性エクシーズモンスターでオーバーレイネットワークを再構築! "漆黒を貫く紅き真槍よ! 深淵なる弾奏と交わりて、牙城を穿つ刃となれ! フルアーマード・エクシーズチェンジ! 現れなさい! FA-ブラック・レイ・ランサー!"」

 

ーーー

【FA-ブラック・レイ・ランサー】ランク4 水 獣戦士 EX①

ATK/2100

ーーー

 

あのカードは正規のエクシーズ召喚だけではなく、特殊な方法でエクシーズ召喚ができる。

結衣の使う【ゴーストリックの駄天使】みたいなモンスターだ。

あの鮮烈に煌めく紅き槍を持ったエクシーズモンスターを操るのがレンのデッキ。

つまりこのターンから本格的に攻めてくるということだ……。

 

「さらに私の場の【バハムート・シャーク】と【ブラック・レイ・ランサー】のオーバーレイユニットを一つずつ墓地へ送り、手札から【エクシーズ・リモーラ】を特殊召喚! このカードを特殊召喚した時、墓地からレベル4の魚族モンスターを2体復活させる! 来て、【カッター・シャーク】、【ライトハンド・シャーク】!」

 

ーーー

【エクシーズ・リモーラ】☆4 水 魚 ④

DEF/800

ーーー

【カッター・シャーク】☆4 水 魚 ⑤

DEF/500

ーーー

【ライトハンド・シャーク】☆4 水 魚 ①

DEF/1300

ーーー

 

一気に三体のモンスターが並んだ……。これは"正規の方法"で出してくるつもりか……?

 

「私は3体のレベル4モンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 真の力を得て、降臨せよ! FA-ブラック・レイ・ランサー!」

 

ーーー

【FA-ブラック・レイ・ランサー】ランク4 水 獣戦士 ④

ATK/2100

ーーー

 

今度は3つのオーバーレイユニットを備えて出現する。

これで一気にエクシーズモンスターが4体か……。恐ろしい布陣だな……。

 

「このカードの攻撃力はオーバーレイユニット一つにつき、200ポイントアップします。つまり、攻撃力は2700。さらに【バハムート・シャーク】は効果を使ったターン攻撃できなくなってしまうので、続けてこのカードもオーバーレイネットワークを再構築! エクシーズチェンジ! 旋壊のヴェスペネイト!」

 

ーーー

【旋壊のヴェスペネイト】ランク5 地 機械 ③

ATK/2500

ーーー

 

蜂のような姿をしたロボットのようなモンスターが出現する。

デメリットを回避しつつ新たなるモンスターを呼ぶ戦術。やってくれるな……。

 

「……」

 

レンは少し悲しそうな表情をしながらその手を止める。

どうしたのだろうか。ここまでまるで死んだような表情をしながら淡々とエクシーズモンスターを召喚してきたというのに。

 

「……私の場には4体のエクシーズモンスターが並びました。がら空きのフィールドであれば……すぐに決着がつく」

 

「早とちりしてくれるな。お前なら私がこの程度で終わることなどないとわかるはずだろう?」

 

その言葉を聞いて目が覚めたようにレンの表情が変わっていく。

やはり口では冷たいことを言っていても私を傷つけることをためらっているのだろうか。

だが、ここまでモンスターを並べておいて、今更攻撃しないということは桂希達に裏切っていることを示すことになる。

そうなれば私のみならずレンも危険な目に遭うかもしれない。

 

「どうした? 私を刑務所へ叩き込むんじゃなかったのか? 仲間としての情でも抱いたか?」

 

「……ずるいなぁ……」

 

「ん……?」

 

「そんなものないって言ってる! 私は犯罪者に情なんて感じないから! それに……"デュエリスト"として、あなたを正面から叩き潰すまで! バトル!」

 

"デュエリスト"として……か。

その言葉を聞いて安心したよ。お前はこんな状況下でも仮初めの兵隊ではなく、"デュエリスト"としていてくれるのだな。

 

「【餅カエル】でダイレクトアタック!」

 

鏡餅のように重なった白いカエルの頭部にあるみかんが放り出され、私の方へと向かってくる。

相手には合計4体のモンスター。とてもじゃないが全ては受けきれない。

 

「ダイレクトアタック宣言時、手札から【BF-熱風のギブリ】の効果発動! このカードを守備表示で特殊召喚させるが……」

 

「いいよ……いいでしょう! ここは【餅カエル】の効果は使わない。そのまま攻撃するまで!」

 

通してくれたか。それであれば計算通りにいける。

きっとレンは私の2枚の伏せカードを警戒しているのだろうが、その警戒が失敗だったな。

 

「ならば【熱風のギブリ】が特殊召喚された時、トラップ発動! 【ブラック・リターン】! "BF"モンスターが特殊召喚された時、相手モンスター1体を手札に戻し、その攻撃力分ライフを回復する。お前の【FA-ブラック・レイ・ランサー】には消えてもらおうか!」

 

「くっ……なるほどね……。ですが……私は【餅カエル】の効果を発動! 手札の水族モンスター、【海亀壊獣ガメシエル】を墓地へ送ることで、その効果を無効にさせてもらいます」

 

やはりここで【餅カエル】の効果を使ってきたか。

ならば、残りの伏せカードで対処するまでだ。

 

「甘いぞレン。カウンタートラップ、【ブラックバード・クローズ】を発動! 相手のモンスター効果が発動した時、場の"BF"モンスターをリリースすることでそれを無効にし、破壊する! さらに……」

 

「なるほど……そのカードを伏せていたなんて……。さらにあのカードが出てくるってことね……」

 

「あぁ、【ブラックフェザー・ドラゴン】を特殊召喚することができる! "漆黒を引き裂く反逆の咆哮! 紅き翼翻し、鮮烈に轟け! 現れよ、【ブラックフェザー・ドラゴン】!」

 

ーーー

【ブラックフェザー・ドラゴン】☆8 闇 ドラゴン ③

ATK/2800

ーーー

 

黒白の翼を羽ばたかせながら、鳥獣のようなクチバシを持ったドラゴンが出現する。

 

「さらに、【ブラック・リターン】の効果は有効! 【FA-ブラック・レイ・ランサー】をEXデッキに戻し、その攻撃力2700を回復させてもらおう!」

 

赤見 LP4000 → LP6700

 

残ったレンのモンスターは攻撃力2500の【旋回のヴェスペネイト】と攻撃力2100の【FA-ブラック・レイ・ランサー】だ。

私の場には攻撃力2800の【ブラックフェザー・ドラゴン】がいる以上、これ以上攻撃は仕掛けられないはず。

 

「ふふっ、さすがは仁くん。想定外のことしてくれるから計算が狂っちゃうね……」

 

レンはそういいながら少し嬉しそうな表情を浮かべる。

元はといえば私とレン、そして一樹の三人で一番デュエルの成績がよかったのはレンだった。

私も一樹も何度やっても全然勝てなかったな……。

彼女が救助護衛班になってからは久しくデュエルはしてこなかったが、やはり対峙してみてよくわかる。

強敵だということが……。

 

「褒め言葉として受け取っておくよ。救助護衛班の活動でデュエルの腕がなまったんじゃないか?」

 

「ふふっ、残念だけどまだまだ私余裕だから。むしろこの程度じゃ私の優勢に変わりはないよ! 【餅カエル】が墓地へ送られたことで、墓地の【カッター・シャーク】を手札に戻す。そして、【FA-ブラック・レイ・ランサー】で【ブラックフェザー・ドラゴン】を攻撃!  "ブラッディ・スピア!"」

 

「なに……?」

 

【FA-ブラック・レイ・ランサー】

ATK/2100

【ブラックフェザー・ドラゴン】

ATK/2800

 

攻撃力は下回っているのに攻撃してきた……?

まだレンには2枚の伏せカードがある。このくらいは余裕で対処できるってことか……!

 

「永続トラップ、【炎舞ー天セン】を発動! 場の獣戦士族モンスターの攻撃力をエンドフェイズ時まで700アップさせ、そしてこのカードが存在する限りさらに300ポイントアップする!」

 

【FA-ブラック・レイ・ランサー】

ATK/2100 → ATK/3100

 

「くっ……上回るか……ぐぅ!」

 

【ブラック・レイ・ランサー】の紅き槍が【ブラックフェザー・ドラゴン】の胸元を貫き、そのまま衝撃が私へと飛んでくる。

少し痛むが、まだこの程度なら大したことはない。

 

赤見 LP6700 → LP6400

 

「続けて、【旋壊のヴェスペネイト】でダイレクトアタック! "アイアン・チャージ"!」

 

さらに大きな蜂型の機械仕掛けモンスターの大きな針が私の体目掛けて襲い掛かる。

 

「ぐおおおおっ!」

 

赤見 LP6400 → LP3900

 

その衝撃で体が地面を滑るように後退していくが、なんとか飛ばされずに耐えることができた。

先ほどライフポイントを回復できたおかげで、まだライフポイントに余裕がある。

厄介なカードもなくなった分、次のターン反撃に出られそうだな。

 

「ふぅ、まだライフがけっこうある……。私の【餅カエル】が消えて安心しているところでしょうが、そう簡単にはいきませんよ。赤見さん」

 

なんだかレンに敬語を使われるとすごく違和感があるな。

さっき思いっきり素が出ていたからもう戻さなくていいのに……と思うのは野暮だろうか。

 

「なにを見せてくる……?」

 

「このターンまだ通常召喚をしていない。なので、【カッター・シャーク】を召喚! その効果でデッキから【ランタン・シャーク】を特殊召喚! この2体のモンスターはエクシーズ素材とする時、レベルを3から5の好きな数値として扱える」

 

まさか……ランク4ではなく、ランク5のモンスターを出してくるつもりか。

 

「私はレベル5扱いで2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! "漆黒を貫く勇猛果敢な真槍よ! 猛き希望を心に宿し、深淵を統べる牙となれ! ヴァリアント・シャーク・ランサー"!」

 

ーーー

【ヴァリアント・シャーク・ランサー】ランク5 水 獣戦士 ④

ATK/2500 → ATK/2800

ーーー

 

先ほど出た【ブラック・レイ・ランサー】に豪華な装飾が施されたまさに強化版と言えるようなモンスターが現れる。

攻撃力も【炎舞ー天セン】で上がっているため、かなり強力だな……。

 

「このカードはオーバーレイユニットを使うことで場のモンスター1体を破壊できる。この効果は他の水属性エクシーズモンスターがいる場合は相手ターンでも発動できる。私はこれでターンエンド」

 

相変わらず私の行動を封じるようなカードを用意してくるとはさすがだな……。

これは雲行きが怪しくなってきたぞ……。

いくら自爆する覚悟とはいえ、ここまで来たら負けたくはない……。デュエリストとして、このデュエル。最後まで諦めるつもりはない!

次のターンが勝負だ……。

 

紅谷 LP4000 手札0

ー裏ー罠ー

ーーエエー

 エ ー

ーーーーー

ーーーーー

赤見 LP3900 手札2



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