4月1日の邂逅...? (奏者りおん)
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4月1日の邂逅...?

4月1日滑り込みセーフ、ということで思いつきネタです。

ただただ駄弁ってるだけです。

嘘つきなアーティストと、嘘つきなお医者さんの話。


私、マリア・カデンツァヴナ・イヴはとある喫茶店で人を待っている。そして私は今最ッッッ高にイライラしている。

4月1日の今日。本当は今頃、SONGのみんなで桜の下にシートを敷いてお弁当を食べてるはずなのに。昨日唐突に入った仕事のせいで、今から私は雑誌用のインタビューを受けることになってしまった。

場所は緒川さんが貸し切ってくれた、町外れのカフェ。人の目を避けられるようにしてくれたというが、それにしても恐るべし風鳴機関、そして恐るべし緒川さん。仕事が細かい上、早すぎて怖い。

日程をずらす出来たがそこは世界の歌姫マリア、私情で仕事を断るなどその名が廃ってしまう。今は気を引き締めなさい、心を鬼にするのよマリア・カデンツァヴナ・イヴ!

なんて考えていると、ポケットのスマホが震えた。通知の主は切歌。メッセージアプリを開くとそこには満面の笑みを浮かべたみんなと、綺麗な桜の写真。普段は大人しい調もいい顔をしている。そして送られた『今度マリアとお花見したいデス!』のメッセージを読んだ時、仕事を断らなかったことに少しだけ後悔を覚えた。

...ええそうよ!本当は私も行きたかったわよ、みんなとお花見!あの翼が調に料理を教えてもらってたのよ!?多分アレ1番私が楽しみにしてたわよ!?なのに...仕事だなんて...。

「...はぁ」

思わずため息を漏らし、テーブルのコーヒーに手を伸ばした時。

 

「あんまり怖い顔すんなよ、おねーさん?」

 

突然、横から声をかけられた。

振り向くといつの間にいたのだろうか、男が1人立っている。サングラスをかけていて顔はよく見えないが、恐らく20代後半くらいだと思う。白基調のアロハシャツに赤いライダースに七分丈と、オシャレなカフェとは真逆な雰囲気のド派手な風貌。

「...あら、顔に出てたかしら?」

「そりゃもう。」

「機嫌はそれなりにいい方なんだけど?」

「嘘が下手だねぇ...あ、隣失礼〜。」

私の返答を待つことなく、男は隣の席にちょこんと座りブラックコーヒーを頼む。

「軟派ならごめんなさいね、今から仕事なの。」

「こっちも今から仕事なのさ。人を待ってるんだけどなかなか来なくてな...」

どうやら私と同じ立場なようだ。

「へぇ...怪しい商談か何かかしら?」

「見た目で判断してくれんなよ。」

笑いながら、運ばれてきたブラックコーヒーにミルクと砂糖を入れる彼。甘いのが好みなようね、2つめに手をかけたわ。

そのまま3つめも入れる。4つめ...5つめまで来たところで耐えかねてしまった。

「...流石に入れ過ぎじゃない?」

「こうしないと飲めないんだよ。」

「なら最初からカフェオレにすればいいじゃない。」

「そうじゃないんだよ。甘さを自分で調節するのがいいのであって...ってこれ伝わりにくいんだよな...。」

そういいながら6つめを入れる。よし、とばかりにそのままカップを口元に運んだ。うわ、ほんとに飲んでる...。

「ヒくなよ。」

「ヒかない方が難しいわよ。」

そういうと彼は途端に残念そうな顔をする。クリスが見てたアニメのように、紫色のオーラが見えるようだ。思った以上にへこんでしまったみたい。ため息をしながら彼はサングラスを外す。...あら?

「意外と可愛い顔してるじゃない。サングラスで隠すなんて勿体無いわよ?」

せっかくだ、ちょっとからかってみる。

「えマジ?あ...コホン」

だめだこの人。もう今ので色々察した。

「まあ、仕事の相手が来るまでは暇だし。話くらいなら付き合ってあげてもいいけど?」

「だからナンパじゃないって...でもいい暇つぶしにはなるかもな。」

今この男、私との会話を『暇つぶし』って言った!?

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「それで、貴方は一体何者なの?風鳴機関の保有する喫茶店で打ち合わせだなんて、どう考えても只者じゃないわよね?」

「んー?お医者さんだよ。甘いコーヒー好きの。」

「医者ッ!?」

その格好で...医者、ですって!?

「そんなに驚くなよ...」

「...ヤバい方面の、かしら?」

「だから見た目で...いや、もういいや。これでも真っ当な医者だよ。でも手術をしたり、診察をしたりっていう、普通の人が医者って聞いて想像する仕事じゃない。」

「?医者って一括りじゃないの?」

「色々あるだろ?お姉さん外科医とか内科医とか聞かない?」

言われてから納得する。確か調が見てたテレビのドキュメンタリーでそんな話あったわね...。

「それで貴方はどういう仕事を?」

「遺体の解剖とかだな。亡くなった患者の死因を特定したりするのさ。」

「よく司法解剖って聞く、アレ?」

「あれはちょっと違うけど、まあ似たようなもんさ。それで...」

そこまで言うと彼はこちらを向く。

「折角だしお姉さんのことも聞きたいんだけど。」

しまった、質問攻めをしてしまっていた。

「なーんでまたあんな怖い顔してたんだ?」

された質問に思わず、また残念な気持ちが蘇ってしまう。

「あぁ、それね。本当なら知り合いと花見の予定だったんだけど、仕事が入ってくれたおかげで行けなくなったのよ。」

「あー...なんかすんません。」

「気にしないで。送られてくる写真で満足だから。」

「あ、そう...それで、その仕事って?」

「取材よ。『世界の歌姫、その原動力とは?』なんて題材で雑誌に載るらしいわね。」

「世界の...歌姫...?」

そう言いながら彼は目をキョロキョロさせる。まるで何かを、誰かを探しているような...まさか。

「...一応私のことよ?」

「嘘ん!?お姉さん有名人だった!?」

「な...ッ!?」

この男、今まで私が誰か知らずに話しかけて来てたの!?

「仕方ないわね...ちょっと待ちなさい。」

「?」

そういうと私はバッグから1枚のCDとペン取り出す。取材用に使うと思って持ってきたのが正解だった。彼が覗き込んでくるのが気になるが、なるべく見ないようにしつつジャケットにサインする。

「はいこれ、サイン入りのこのシングルなんて、今じゃどこ探しても見つからないわよ。はじめましての挨拶には、少々重すぎかしら?」

「こいつは親切にどーも。えーっと...マリア・カデンツァヴナ・イヴ...」

「《Dark Oblivion》。アメリカにいた頃の曲ね。」

「アメリカ...?んじゃマリア姉さん、何で」

「その呼び方は止めて。」

「...歌姫マリア様?」

「馬鹿にしてる?」

「...マリアさん?」

「はぁ。この際なんでもいいわよ、どうせ私の方が年下だし。」

「嘘だろ!?...んじゃ歌姫、なんで日本に来たんだ?アメリカで売れてたんだろ?」

結局呼び方はそれなのね。それと、本当に彼は何も知らないのかしら。やっぱり医者って世間のことに目を向けられないくらい忙しかったりするの...?

とはいえ、S.O.N.G.の内部の事情や奏者であることは当然漏らすわけにはいかない。

「日本に、どうしても隣に立ちたい歌姫が居てね。彼女を追って日本に来たの。」

という事にする。まあ、事実な部分でもあるけれど。

「へぇ...それで、あんたを魅了したそのお姫様とは仲良くできてるのか?」

お姫様...翼が...ふふっ、想像すると笑えてしまうわね。

「当然。良きライバルとして、良き仲間としてね。ただ...」

「...ただ?」

 

「...かつて私は、偽りの自分を振り翳していた。沢山の人を悲しませ、沢山の人を落胆させた。それを知って尚隣に立ってくれる彼女は、一体何を考えているのかしらね。」

 

気づけば自嘲するような言葉が漏れる。いつの間にかあの時の記憶がフラッシュバッグしていた。

自らをフィーネと偽った時。ライブ後、自動人形に襲撃されたあの時。偽りの自分を演じて、翼の隣で歌う自分にどこか罪悪感を覚えて、気が付いたら翼にまた護られていた。何も出来なかった自分に苛立ちと不安が募る日々を過ごしていた。アガートラームを私の力とした今、背中を任せてくれるくらいには強くなれたはず。だけど彼女は...。

「もしもーし、歌姫ー?聞こえてますー?」

「え、あ...」

「あんまり考え過ぎんなよ。それと話くらいは聞いてくれ、無視は寂しい。」

「わ、悪かったわね。」

「はぁ...まあ、自分自身をどう思おうが、あんたの姿に勇気をもらってる人だっているはずさ。トップアーティストなんだろ?」

「えっ...?」

「自分はあんたの事はよく知らない。でも、あんたの歌やパフォーマンスに勇気を貰ってる人も必ずいる。自分の嘘で誰かの運命を変えたことだって、知らないうちにあったかもしれないだろ?」

誰かの...運命?私の歌で、誰かが救われている?

「あんたは偽りの自分を悪く思っているのかもしれない。でも、『自分の嘘がどっかの誰かを救った』くらい考えていれば、少しは自分自身も救われるんじゃないの?」

...。

「私を知らない割には、よく知ってるように喋るのね、貴方。」

「気にするのそっちかよ。」

「でも...ありがとう、少しだけ気が楽になったかもしれない。」

「いえいえ〜。」

この男、ノリが軽すぎて一々返しに困る。アーティストのプライベートな本音なんてどんな記者も欲しがるはずなのに、彼にはそれが全く感じられない。...そうだ。

「そういえば、医者には仕事仲間とかっていないの?それこそプライベートで遊んだりとか...」

「...」

「...ねえ、どうし...」

たの?と聞こうとして思わず身体が強ばる。先程の軽い口調とどこか頼れるような言葉からは想像出来ないほど、彼が深刻そうな表情を浮かべていた。哀しげというか何というか...。

「...歌姫、1つ大事なこと教えてやる。」

彼は険しい面持ちのまま言葉を紡ぐ。

「人を救う嘘に反して、誰かを狂わせる真実だってある。」

「?それってどういう...」

「誰かの運命を変えるために嘘を貫くことも必要だってこと。忘れんなよ?んじゃ。」

そういうと彼は再びサングラスをかけ、席を立とうとする。

「ちょっと!仕事はどうしたのよ?」

「ん。」

ポケットからスマホを取り出し、画面をこちらに見せてくる。

 

【先生すいません!緊急ミーティングのため打ち合わせを延期させてください...】

【マジかよww社長も大変だな、りょーかい。】

 

「ドタキャンされたのね。」

「...仲良いとはいえ、相手は仮にも社長だからな。文句は言えねえよ。今度ハンバーガー奢ってもらう。」

それで済むのね...って、社長ッ!?しかも、その人に対して【ww】なんてッ!?

「んじゃあ自分はそろそろ行くわ。じゃあな、歌姫マリア。」

席を立つ彼。

「ち、ちょっと待ちなさいッ!貴方、本当に何者ッ!?」

そこまで言った時。

 

 

「マリアさーん...あぁ、いたいた!すんません、インタビュー始めたいんスけど...」

入口のドアが開き、カメラバッグらしき荷物を抱えた青年が入ってくる。壁の時計に目をやれば、丁度仕事の時間になっていた。

「...え?」

再び席を確認した時、彼はもうそこにはいなかった。

「...夢?そんなはずは...」

「あのー、マリアさん?」

「え、ええ。そうね、始めましょうか。」

「それじゃあインタビューの方、始めさせて頂きますね。準備するんでちょっとお待ちください...」

さっきまであの男がいた席に座り、青年はインタビューの準備をする。目の前に資料やボイスレコーダーが出される中、私の脳裏にはさっきの彼の言葉が焼き付いていた。

【運命を変えるために貫く、嘘】...そうよね。私の歌で変えられた運命があるのなら、誰かの力になれるなら。

「...コホン。それじゃあ始めさせて頂きます。インタビュワーを務めます、風都出版社の詩島と申します。本日は宜しくお願い致します。まず、歌姫としてワールドワイドに活躍されているマリアさんですが...」

 

嘘偽りも、ひとつの正義の形かもね。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

インタビューが終わった頃には、既に夕日が空に輝いていた。

これからクリスの家で翼が主演の映画を見るという連絡を受けた私は、オレンジ色に照らされた道で迎えの車を待っていた。

乗り込んだ緒川さんの迎えの車の中、私はふと、ポケットの中の紙切れに気付く。

役職と名前、その横に可愛らしい黄色のキャラクターが描かれている名刺。

「聖都大学附属病院監察医、九条貴利矢...」

彼とまた会う日は、もしかするとすぐそこまで迫っているのかもしれない。

 

<4月1日の邂逅...?閉幕>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もいない、深夜2時を回ったCR。

その一角で資料を眺める、一人の男の姿があった。

耳元のイヤホンから流れるのは、先程まで話していた彼女の歌声。

 

「奏者、聖遺物、ノイズ、錬金術に...シンフォギア。アイツ、まーた厄介なことしてくれたな。」

 

机の上には山のような紙の束と、マグカップ。傍らにはスティックシュガーとガムシロップの残骸で小山が出来ている。

 

「人間でもバグスターでもない仕業だとすれば、やっぱり【あっちの世界】が絡んでるよなぁ...はぁ。」

 

振り向いた彼の目に映る、【誰もいないドレミファビートの部屋】。溜息をつき、彼は資料を机へ投げ捨てた。

 

「仕方ねえ、神をこのまま野放しにするわけにもいかないしな...またノッてもらうぜ、歌姫マリア。今度は...で、な。」

 

<4月1日の邂逅...?閉幕?>




お読み頂き誠にありがとうございます。

思いつき、自己満足ネタでした。

最後濁したような終わり方しましたが、続くかどうかは分かりません。多分続きません。


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