ガンダムビルドファイターズ 闘いは数より質 (タロウMK-Ⅱ)
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ガンプラトレースシステム
ガンプラバトル、始めは一対一のバトルから始まった。次第に競技として盛り上げるためにチーム戦を導入した。
そして今、ガンプラバトルは新境地の開拓に乗り出していた。
新しいバトルシステム。
新しい戦場。
全てはガンプラとガンプラバトルの未来のために。
月面基地をイメージしたバトルフィールド。
その中央にはアロンダイトを肩に担いだデスティニーガンダム。周囲には切り刻まれた敵機の残骸が漂っている。色とりどりの残骸からして5,6体分はありそうだ。
《次の戦闘では武装をパルマフォキーナに限定する》
男性の声でアナウンスが流れた。同時にずんぐりとした丸みを帯びた敵機が5体横一列に出現する。バトルシステムの作り出した仮想敵機モック。
「光の翼とビームシールドも使用禁止ですか?」
デスティニーを操るファイターが質問する。彼の両手には球状のコンソールが握られているが、それだけではない。両肘、両膝、腰、首に光の輪が結ばれている。
《禁止。水倉なら余裕でこなせるレベルだ》
「言ってくれますね。そんな風に煽てられたら1機につきパルマ一回で勝負しますよ」
《そこまでのハードルは求めていないが、やってみたまえ》
デスティニーはアロンダイトと長距離ビーム砲を無造作に投げ捨て、ファイティングポーズをとる。その姿はファイターである
水倉は大学を卒業たばかりであるが、ガンプラの操縦技術を買われてヤジマ商事のテストファイターとして活動している。彼にとっては始めての大仕事である。
《試合開始!》
5機のモックが一斉にビームライフルを構える。デスティニーに照準を合わせビームは放つ。
水倉は手元のコンソールを操作せず体を捻る。するとデスティニーも同じように体を捻り攻撃を回避する。
『ガンプラトレースシステム』アナウンスを流していた男、
ガンプラトレースシステムを扱いこなすためにガンプラの特性・癖を今まで以上に熟知しなければならない。また自分自身の体で操作するためそれ相応の運動神経も要求されるハイレベルな操作システムなのだ。
モック達は扇形に広がりデスティニーに集中砲火を浴びせる。
「単調な攻撃だ」
水倉はそう呟き全弾かわす。モックのレベルが低いのか敵機の中央部ばかり狙って撃ち、相手の動きを牽制する攻撃や移動先を予測した攻撃をしてこない。
水倉は手始めに5体のうち真ん中のモックにターゲットを絞る。
あっという間モックに接近したデスティニーは関節技を決めるように絡みつく。左右4体のモックは味方機がいようがお構いなしにビームライフルを撃つ。
「俺の撃墜が優先かよ!」
水倉は掴んでいるモックを盾にして身を守る。
《肉を切らせて骨を断つ。誰もが仲間思いとは限らんよ》
「普通のCPUは味方ごと撃ってきませんよ!」
水倉は悪態をつきながらも、攻撃を避けつつ残り4体のモックに接近する。
紅石はバトルルームとは別の部屋でバトルを観戦していた。三十代後半に差し掛かる彼だがバトルそのものにはあまり興味がない。紅石が興味を示しているのは新しい技術、自分が新しいシステムを創り出す事である。
紅石の企画したガンプラトレースシステムに要求されるものは操縦技術と運動神経に優れていること。水倉はその2つを兼ね備えており、ガンプラトレースシステムをえらく気に入った。
しかし、社内から「使用者が限定されて大衆向けではない」「もっと子供も遊びやすい操作にしてくれ」などの非難ばかり。
紅石と水倉もガンプラトレースシステムの扱い辛さを重々理解している。理解しているにも関わらず開発を止めないのは彼らの信念である。上の者や世間から酷評されても、いざ発表・発売したらヒットした商品や映画だってある。あるいは時代が追いつかないだけで後の世で再評価されることだってある。
ガンプラトレースシステムが評価されることを彼等は信じている。
デスティニーが立て続けに敵機を撃破する。4体とも胸のど真ん中からパルマフォキーナで爆発させられている。
「1匹だけ誤射ですが、有言実行でいいですか」
《目的は十二分に達成できている。素晴らしい結果だ》
バトルフィールドが消滅していき仮想敵のモックの残骸も一緒に消える。筐体の上にはデスティニーガンダムだけが残る。
水倉がデスティニーを手に取ると紅石が部屋にやってきた。
「そろそろ対人戦もやりたいですね」
「設計上3対3のバトルまで対応しているが実際にテストしてみなければな。適当にファイターを見繕ってくるか」
「とりあえず、頭数だけでも揃えましょう」
「まったく、大規模バトル班から5人借りてくるか。水倉はそれまで食堂で休んでいたまえ」
大規模バトル班とはガンプラトレースシステムとは別に動いている企画である。大規模と名乗るだけあり目標は100人によるバトルだそうだ。
「了解です。やっぱトレースシステムは体力使いますね」
「格闘技に近いからな。体力回復のための休憩が増えるのも課題か」
ガンプラトレースシステムはまだまだテスト段階であり、今後クリアする課題もどっさりある。
水倉は食堂の端っこでスポーツドリンクを飲んでいた。人見知りや友達がいない訳ではない。社員の半分以上が大規模バトル班であり、ガンプラトレースシステムのメンバーは殆どいないのだ。
同じヤジマ商事の社員なので敵対とは言いがたいが、仲良くともいえない状況だ。紅石は自己中心的なところがあるので他の人から煙たがれることもあるが。
「おっ水倉君こんな所にいたのか? そちらの班は上手くいってるかい」
「
佐伯は紅石と同期の男性であり、大規模バトル班でありながガンプラトレースシステムにも多少興味を持っている。始めは理解者の振りをして大規模バトル班へ勧誘することが目的と疑っていたが、佐伯はその様な事を口にしたことはない。
「そりゃ勝ち馬に乗ろうと思ったら大規模バトル班に流れるのが自然だよ。多くのガンプラの行動を処理できるように容量を増やせばいいんだから。まっ、君たちはそれが不服のようだが」
不服、一言で表せばそうなる。
「大勢でゴチャゴチャ戦うより、一対一の真剣勝負のほうが好きなんですよ。格闘技だって素人の喧嘩じゃ見世物になりませんよ。鍛え抜かれたプロが試合するから面白いんです」
ガンプラバトルと格闘技を同じように考える人は少ないかもしれないが、闘う姿を見せる点ではどのような競技も同じである。
「君達の意見も十分理解している。ただ、ガンダムシリーズの要塞、拠点の攻防戦を再現するには今まで以上の人数によるバトルが不可欠なんだ」
「ガンダムシリーズあってのガンプラですからね」
「それとだ、近々大規模バトルシステムのテスト運用が決定されつつある。君達も何らかの実績を出さないと潰されてしまうかもしれない」
「予定より速いですね。紅石さんにも伝えておきます」
水倉の返事を聞くと佐伯はその場から離れていった。
大きく息を吸って溜息を吐く。水倉と紅石が大規模バトルに納得できないもう1つの理由、それは大規模バトルが選ばれる為の社内競争だからだ。過程と結論が反転しているのだ。
決して企画は大規模バトルとガンプラトレースシステムの2つだけではない。カプセル型の媒体に入りよりコックピット感を出す企画、バトルシステムの省エネ化、さらには初めから不可能だと分かりながら企画された携帯型バトルシステム等。
様々な企画がありその中から大規模バトルが選ばれるのではなく、いかに大規模バトルが優れているか面白いかを示すための踏み台にされる。
これが出来レースであることを知りながらも開発を投げ出さないのは、ガンプラトレースシステムが革新的な技術になると信じているからだ。
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完成を目指せ
予定通り紅石の待つバトルルームに戻った水倉は肩を落とした。
部屋には紅石1人しかい、他のテストファイターが見当たらない。
「・・・またメンバー集まらなかったんですね」
ガンプラトレースシステムの協力者は少ない。さらに水倉以外のチームファイターは紅石の要求するレベルが高すぎて別の班に逃げていった。
「人員不足で自らテストすることにした、このモビルアーマー・ビグロで」
ビグロは人型ではなく三角形のような形から大型クローが2本生えているモビルアーマーだ。人体の動きを再現するシステムだと操作方法は変わってくる。
「ついでにお前はこれだ」
紅石はジオングを水倉に差し出す。ジオングは脚が無いがそれ以外は人型である。
水倉はジオングを受け取ると本来装備されていないはずのバックパックに気付いた。サザビーの物だ。
「中途半端な人型。それとオールレンジ攻撃のテストが今回の目的だ」
「3対3のバトルは先送りですか。そうだ、佐伯さんから聞きましたが大規模バトル班は予定よりも速くテスト運用が始まるみたいですよ」
「ふんっ、あんな容量だけ増やしたものに負けてなるものか技術革新は我らにある!」
バトルシステムが起動する。球体コンソールだけではなく両肘、両膝、腰、首に光の輪が現れる。
「ジオング出ます!」
「行けッ! ビグロ!」
2機ともカタパルトに押し出され、宇宙要塞ア・バオア・クー中域を模したバトルフィールドへ出現する。
水倉は膝の曲げ伸ばしをしてみるがジオングは僅かに揺れるだけだ。足踏するとスカート裏のスラスターが前後に可動する。
「スラスターを脚部と認識しているのか。次の試してみるか」
ジオングがファンネルを全機射出する。周辺に漂うスクラップを標的にする。
ファンネルは手元のコンソールで操るため従来の操作と何ら変わりない。ファンネルは次々とスクラップを打ち抜いていく。
「ん? 紅石さんは何処だ?」
《モビルアーマーのスピードは素晴らしいな!》
何かがジオングの頭上を一瞬にして通過していった。
「えっ!? レーダーには反応が無い・・・」
このバトルフィールドには2人しかいない。頭上を通過したのはビグロ以外ありえない。だがレーダーには映らない。
《ふはははぁぁぁ! これが開発者の特権だ!》
「何が特権だよ! ただのインチキだろ!」
紅石はシステムに細工している。水倉はそう判断した。
《ジャミング機能は細工だが、この速度は改造によるものだ!》
「どうせ市場じゃ出回らない、あるいは禁止パーツか塗料でも使用してるんだろ!!」
《システムに不可をかける実験とでも受け取りたまえ》
何が実験だ、ただバトルに負けるのが嫌なだけだろ。水倉は今にも口にしてしまいそうな台詞を我慢する。フェンネル全機をビグロに飛ばす。
《少しは手加減したまえ》
紅石の言葉に従うようにファンネルが停止する。
「あんたファンネルジャックまで用意していたのか!」
怒りを通り越して呆れそうだ。
《ついでに言うが全方位にIフィールドも装備している》
メガ粒子砲しか武装のないジオングではダメージを与えられない。いいや、武装が無いのならそれなりの闘い方をするしかない。
ビグロがまたしてもジオングの頭上を通過する。
《俺が認めたファイターならこの劣勢を挽回してみろ》
「言ってくれますね。だったらお望みどおり応えてやりますよ」
ビグロがUターンして戻ってくる。
水倉は全てのメガ粒子砲を一斉に発射する。が、全てのビームがビグロの手前で弾かれてしまう。
お返しとばかりにビグロはミサイルとメガ粒子砲を打ち返す。
水倉は迫る攻撃に最大推力で突進した。ミサイルは打ち落とすことが出来てもビーム攻撃はそういかない。右肩が焼き切らながらも前進を止めない。
《特攻か!?》
超高速のビグロと全速力のジオング。衝突するまで時間は掛からなかった。
互いの機体がグシャりと潰れ原型が留まらないほどにパーツを撒き散らす。
「俺の勝ちです」
ジオングヘッドとして脱出していたため。軍配は水倉に上がった。
「バトルでは勝てないな。まっ良いデータが得られてなにより」
紅石は悔しがる表情1つ見せずガンプラとその破片を回収する。
「モビルアーマーの操縦はいかがでしたか?」
「ファイターの重心移動にあわせてくれることぐらいだな。バイクの運転に近いのかもしれん。バイク乗ったこと無いからわからんが」
「わからんのに何で例えた!」
思わず水倉がツッコミを入れる。
「人型じゃないガンプラはトレースシステムの恩恵をあまり受けないということだ。人の動きを再現するシステムだから当然の結果とも言える。不利に働かないだけましといったところか。今回の実験は成功だ」
もし、モビルアーマーが一方的に不利になるようなら改修が求められるが、紅石にとっては問題ないようだ。
着実にガンプラトレースシステムは完成に近づいている。
「水倉、バトルの前に大規模バトルの運用が始めるとか言っていたな」
「はい。佐伯さん情報です」
紅石は天井を見上げ、ふと思い出したように口を開いた。
「よし! 乱入するぞ! 直接バトルで雌雄を決める」
「はっ・・・、乱入!?」
水倉には意味がわからなかった。
「我々もガンプラトレースシステムを持っていく。それでガンプラバトルを挑む」
「無茶苦茶です! どうやって許可取るんですか!? それにファイターの腕を競ったところでどうなるんですか!?」
これはバトルして勝利すればいいというものではない。いかに自分達が開発した商品が優れているのか示さなければならないのだ。
「お前がやるんだ。ガンプラトレースシステムを使いこなせば旧式より優れた操縦が出来ることを、魅せる闘いってやつをだ」
『魅せる闘い』それは水倉の胸に突き刺さる言葉だった。観客を盛り上げ感動させるバトル、全力がぶつかりあう極限の闘い。
とはいえ水倉もガンプラトレースシステムも対人戦は今回が初めてだった。
「まずはお前を鍛え上げる。準備するから少し待ってろ」
紅石はバトルシステムを弄りだす。開発者の特権とやらを使うのであろう。
使用するガンプラもサイコガンダムMK-Ⅱやクイン・マンサのような圧倒的なものと予想できる。
「準備完了。デスティニーを出せ」
「了解です。・・・って、え?」
筐体に置かれているガンプラを見て拍子抜けしてしまった。
ジ・O。強力なモビルスーツだが反則染みたものではない。
「もっと大層なガンプラだと思ってただろ」
「えぇ、まぁ火力重視の大型機だと」
「そこまで鬼ではない。第一段階から最終兵器を出す訳ないだろ」
水倉は背筋が凍りついた。紅石が親指を指した先にあるもの、ネオ・ジオングに。
「ダメージレベルはCにしてある。これで何度もバトルが出来るな」
悪魔の宣告にして地獄の特訓が始まった。
ジ・Oのビームライフルはかすめるだけで通常のガンプラが全壊する破壊力を有し、散弾モードと連射モードを自由に切り替えられる。ビームサーベルは鞭の様に伸びる。極めつけは移動するだけで残像を出現させロックオンが出来ない。
全てガンプラの改造ではなく紅石による不正行為である。
「こんなの練習になる訳無いだろぉぉぉぉぉ!」
水倉は発狂した。
「防御面にはまだ手を入れていない。攻撃を当てれば勝てる設定だ」
『まだ』ということは今後強化する事を意味する。水倉は憂さ晴らしのサンドバックにされている気がしてきた。
ジ・Oが左腕に持ったビームサーベルを振り下ろした。デスティニーはビームシールドを展開し受けとめる、はずだったがそのまま真っ二つにされる。
「敵機のビームを叩き切る技術はよくあるだろ」
確かにその様な改造テクニックはある。ただ今回の場合は不正によるもの。
「さあ、ガンプラを立て直せ。ダメージレベルCなら損傷はないだろ」
水倉は唇を噛み締めた。こんな練習に意味があるのかわからない。それでも逃げ出したら本当の負けだと思える。
「勝ちますよ・・・あんたが納得するやり方で!」
水倉はデスティニーを再び筐体にセットした。
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己の信念
予算が無い、人員が居ない、誰からも期待されない。
自分が信じるものは他人から鼻で笑われる。
俺達は負ける為に用意された存在。
消されてなるものか。
敗者になろうとも積み上げてきた信念がある。
惨めに生きていく位なら、華々しく散ってやる。
ガンプラトレースシステムの製作者である紅石は声を上げて笑った。火力、防御機能、機動性、どれもシステムに干渉して得た機能だ。それだけの能力得たジ・Oが今まさにやられようとしている。
水倉と一心同体に成ったデスティニーガンダムは左手でジ・Oの顔面をガッチリと押さえパルマフォキーナで貫く。破損した頭部の付け根に右手を叩きつける。
デスティニーの掌から光が瞬く。次の瞬間、ジ・Oの胴体が膨れ上がり大爆発を引き起こす。爆発はデスティニーを飲み込みさらに拡がっていく。
「あっはっはっはぁぁ・・・こいつは予想外だ! 不正行為に不正行為を重ねた結果大爆発するとは。このバトルデータじっくり解析せねば」
紅石は手を叩いて笑う。
「笑い事じゃないだろ! おかげで試合はドローじゃないか!」
「そう怒るな、これは水倉の勝利だ。俺が保障する」
水倉のムスッとした表情は直らない。
「今回のバトルデータ解析よりも、大規模バトル班のテストに同行させて頂けるように頭下げに行くべきじゃないですか」
「そのためにはガンプラトレースシステムの資料を纏めて提出しなければな。そもそも午後10時過ぎてるから社員など居ないだろうが」
水倉はバトルに何度も挑むうちに時間感覚を忘れていた。
「そんじゃ事務作業だ。不眠不休で明日の朝までに仕上げるぞ」
「あんた労働基準法で訴えっぞ!!」
全身を使った運動の後の不眠不休の事務作業。どれだけ文句を垂れようとも最後まで付き合ってしまう、水倉義晴とはそういう人物なのだ。
翌日、目の下にクマができやつれた表情で紅石は佐伯にガンプラトレースシステムの資料を渡した。
「大規模バトルのテスト運用会に乱入とは君達らしいね。しかしね熱意は伝わるが私は責任者じゃないんだが」
「お前経由ならどうにか成るだろ。どうせ俺が直接渡しに行ったら門前払いだ」
「精々前座かエキシビションぐらいだよ」
「大規模バトルだって正式発表じゃないだろ。かぁぁぁ、どうして中間発表でこんなに差が付くんだよ」
出来レースだとしても途中経過ぐらいは平等にやってほしものだ。紅石は改めて自分の開発が見向きもされていないことを思い知る。
「せめて対戦ぐらいさせてくれよ。こっちにはガンプラトレースシステムを使いこなすファイターが居るんだ。大規模バトルなんかより高度で観客を沸かせるバトルが出来るって示せるんだよ」
「高度なバトルねぇ、水倉君も似たような事言ってたな。鍛え抜いたプロが闘うから試合は面白いとか」
「流石は俺の一番部下だ。理解してんな」
紅石はニヤニヤとした笑みを浮かべたがクマのせいで不気味にしか見えない。
「でも、正直バトルは無理だろうね」
佐伯はきっぱりと言い切った。
「何しろ大規模バトルは100人近くの情報を捌くことになる。その為に従来よりも操作システムを簡略してるんだ。君達の人体の動きをするガンプラと闘えば勝てるはずない」
「はぁ!? ふざけんなよ! それじゃあバージョンアップに成ってないだろ!」
操作システムの簡略化。それはガンプラバトルが流行する前のTVゲームに逆戻りするようなものだ。
「上層部はね『誰もが楽しめる・扱いやすい』を目指しているんだ。初心者にもやりやすいように。もちろん今のバトルシステムが撤廃されるわけじゃない、住み分けはされる」
『誰もが楽しめる・扱いやすい』この壁とガンプラトレースシステム班は幾度と無くぶつかってきた。紅石は今まで自分を認めたくない言い訳程度に思っていた。本当に操作系を簡略化するとは想像もしなかった。
「畜生! 直接バトルして負ければ印象が悪くなる、だからバトルはしないって事か」
「そんな事より、腕利きのファイターを借りてガンプラトレースシステム同士でバトルすればいいだろ」
「ふん、ポッと出の奴が水倉の相手になる訳ないだろ。ガンプラトレースシステムを扱いきれない奴とバトルしても面白くない」
時間をかけて育成すれば水倉レベルのファイターは用意できる。だが、その時間も無ければテストに協力する人材も居ない。
紅石は思考を巡らせる。どうすれば『魅せるバトル』をこの短期間で成せるか。
「・・・・・・・そうだ。俺達が不利ならいいんだろ」
「不利? いやいや5対1でもそっちの圧勝だよ」
バトルに使われるガンプラは支給品でありカスタマイズは不能。ファイターの技量で勝敗は決する。佐伯は5人がかかりでも負けると踏んだのだ。
「いいや、その10倍で来い。水倉のデスティニーで50機相手する。これなら誰が観ても俺達が不利だ」
「確かにその条件なら上も納得するかもしれない。わざわざ当て馬になりに来たと思うだろうさ」
「じゃあその条件で伝えてくれ」
「いいのかい、そんな負け戦で」
「俺達の力が見せ付けられればそれでいい。もっとも50機撃墜しちまうかもな」
2日後、佐伯の交渉の結果によりガンプラトレースシステム班はデモンストレーションの一部で出席が許された。
「はぁ!? 50人と同時にバトル!」
ガンプラトレースシステムのバトルルームに呼び出された水倉はあまりにも唐突な出来事に驚いた。
「なぁに恐れるな、プラフスキー粒子供給と武装補給用のガンプラで俺も参加する。支給品のガンプラだと50体を相手にするのは武装とエネルギー面両方で不可能だからな」
紅石はすでに勝ち誇ったように上機嫌だった。
「だとしても50対2じゃないですか。しかも紅石さんのガンプラ先程説明だと戦闘力ないじゃないですか」
「まぁな実質お前1人と言っても過言じゃない。大規模バトル班の奴等はバトルに負ける姿を晒したくないからな。だからこそ俺はこの不利なバトルを要求した」
「バトルする為とはいえ、自分から負け勝負を仕掛けますか」
「水倉どうやら勘違いしていないか? 50体全てを撃墜するに越したことはない。だが肝心なのは魅せることだ。俺達の開発したシステムがどれだけ凄いかを証明出来ればいい」
勝敗ではなく動いている姿を披露する。少しでも自分達の知名度を広めるいい機会だ。
最低でも半分の25体程は撃墜できれば話題性も出ると紅石は押さえている。
「テスト運用の会場はヤジマスタジアム。中高生の全国大会が開かれるぐらい立派な施設だ。魅せ付けるには格好の場所だ」
さらにその昔は世界大会を開催した土地でもあり、ガンプラバトルの聖地ともいえる。
そこで新しいガンプラバトルシステムが人目に触れる。
時代と人が選ぶシステムはどちらか?
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闘いは数より質 前編
新たなガンプラバトルの試作品の発表会が行われるヤジマスタジアムには多くの報道陣に関連企業が押し寄せる。
発表されるシステムは完成品ではなく、まだ開発途中であるにもかかわらず会場は賑わっている。スタジアムの中央には50台以上のバトルシステムの筐体が引っ付いている。
薄暗い控え室で水倉は極度の緊張により心臓の鼓動が自分でも感じられるほど高ぶっていた。行きかうスタッフは大規模バトル班の人ばかり。事実ガンプラトレースシステム班は水倉と紅石の2名である。
「俺達こんなにも速く準備終わって良かったんでしょうか?」
「良いも何も俺達のバトルシステムを端っこにセットする以外やることないだろ」
紅石は冷静であり緊張している様子は微塵もない。
「発表会の後、俺達も含め他の班どうなっちゃうのでしょうか。体裁の為に建てられた班だから解体されるんでしょうか」
「さあな。観客の心を掴むことが出来る俺達は生き残れるだろうがな」
「余裕ですね。それもそうですよね、俺達はガンプラトレースシステムを魅せるために来たんですから」
紅石の強気な態度が感染してきたと水倉も自覚している。自信の無い人間は紅石の下で働くことなど出来ないだろう。
自分達の技術は革新的だと信じているからこの会場までやって来たのだ。
今更臆病風に吹かれる訳無い。
「さてさて、開演まで残り3分だ。俺達の出番は何時ごろだ」
「初めの挨拶があり、新バトルシステムの概要説明、その後のデモンストレーションです」
水倉は一般配布用のパンフレットを見ながら答えた。
「意外と早そうだな」
「その代わり、デモンストレーションの後暇ですけどね」
閉会式まで役割がない。デモンストレーションの後直ぐに帰りたいが自分達のバトルシステムは大規模バトルの物と連結しているため取り外せない。片付けまで控え室で待機である。
新システム発表会は予定どおりに開会された。
まだシステムが稼動していないというのに観客席中からカメラのフラッシュがたかれる。バチバチとシャッター音があちらこちらで鳴り止まない。
「おいおい、司会のおっさんをあんなに撮影して楽しいのか」
「ベストショットを取りたいだけですよ、おっさんフェチで撮影している訳じゃありまんから」
水倉と紅石は舞台裏からステージ上と観客席を除き見ていた。
大規模バトル班の開発者等がステージ上に登り軽い挨拶と意気込みを語り出す。
「糞、俺にもステージで色々と喋らせろよ。ガンプラトレースシステムだって出るんだぞ」
紅石はブツブツと文句をたらす。
水倉と紅石が出演できるのはバトルの時だけ。どちらも壇上で話すことは許されていない。つまりガンプラトレースシステムも大規模バトル班の人により解説されてしまう。ろくに理解していない人がたどたどしく説明するか、欠点ばかりを強調して失敗作のように扱われるのが落ちだ。
「大規模バトルの操作系の簡略化にブーイングでも起きればいいものだが」
「あれは許せない人多いと思いますよ。安易な道ばかり選ぶ衰退するのが世の常ですからね」
とは言え、容量減らすためとは感づかれないよう言葉巧みに説明するのだろう。
ステージ上で話している開発人も大規模バトルの使用を始める。
「我々の開発したバトルシステムは誰もが手軽にガンプラバトルに参加することが出来て、100人での大乱戦する可能にするものです! ガンダムシリーズには欠かせない拠点防衛戦に艦対戦すら再現するのです! この映像をご覧ください!!」
モニターには大規模バトル班が撮影したガンプラバトルの映像が流れる。4枚のひし形が四葉のクローバーの様に合わさった宇宙要塞リーブラとそれを護衛する機体の群れ。
反対側にはピースミリオンを護衛する機体が集まっている。
「このバトルはガンダムWのリーブラ攻防戦をアレンジした内容です。ピースミリオンチームはピースミリオンをリーブラに体当たりさせて破壊できれば勝利です。反対にリーブラチームはリーブラを死守できれば勝利です。どちらも戦艦や要塞に搭載されているギミックを生かして戦う必要があります」
両軍のガンプラがバトルフィール中央で激突する。リーブラチームは7体ほど前線には赴かずその場からリーブラに据え置きの砲台に指示をおくる。
「このようにセンサー類が強化されたガンプラなら司令塔としてフィールド上のギミックを巧みに操る戦術が可能です」
その後も、ギミックを生かした攻撃、バトル中にガンプラの修理等の解説で会場を盛り上げていく。
いよいよ解説は操作システムに差し掛かった。
「操作システムは従来のものよりシンプルに仕上がっております。これはマニュアル車からオートマ車に変更したようなものであります。大規模バトルは個人の操作テクニックより戦略・戦術を重視したバトルです。知略がものをいう・・・・・・・」
これがプレゼンテーション能力なのか、初心者向け・誰にでも等という言葉を選ばずマニュアル車からオートマ車へ。説明はまだ続いていたが水倉は思わず感心した。
すると、ドンと紅石に肘打ちをされた。
「口八丁に騙されるな。頷いていたぞ」
「すみません。ちょっと乗せられてました」
「まったく。それよりガンプラトレースシステムの解説始まるぞ」
良く言われないのはわかっているが、逆にどう表現されるか聞いてやろうと開き直るしかなかった。
「続きましてデモンストレーションに入る予定ですが、今回は特別にもう1つの新バトルシステムの試作版に軽く触れたいと思います」
大規模バトルと違いモニターに映像は流れない。
「ガンプラトレースシステム。つまりファイターの動きをガンプラに投影するシステムです。ガンダムに詳しい人はGガンダムを思い浮かべていただければ結構です。しかし、このシステムは人の動きを反映するためかなりの体力と運動神経を要求され・・・・・・」
知っていた事とはいえ気分を害する。観客はこの説明を自嘲しているだけと捉えるだろう。大規模バトルを引き立たせるために戦略と気付く人はどれ位いるのだろうか?
「笑いのネタにされるのは尺に触るな。水倉、どうしてやろうか?」
「バトルで俺達の凄さを示してやればいいんですよ」
緊張していた水倉も、冷静だった紅石も闘いの前から高揚感が押さえられなくなっていた。
「激励はもういらないようだな。俺の信頼を裏切るなよ」
「貴方も人を信頼するんですねちょっと意外です」
「お前から見て人間不信の奴に信じられたんだ、それだけ俺達が積み貸せて来たものがあるってことだ」
「ははっ、紅石さんにそこまで言われたら予想以上の結果を出してやりますよ」
水倉と紅石は互いのガンプラであるデスティニーガンダムとジ・Oをコツンとぶつけた。
後半に続きます。
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闘いは数より質 後編
「それではこれより大規模バトルシステムとガンプラトレースシステムによるデモンストレーションを行います!」
参加者がぞろぞろと入場してくる。
「今回のバトルですが大規模バトルチームは超大型空母ドロスの防衛です。ガンプラトレースチームはミネルバによる単機特攻を仕掛けてきたというシチュエーションです。ガンダムファンならもうお解かりですね、宇宙世紀とコズミック・イラの世界感を合わせたバトルなのです!」
戦場の構図はドロスの側面から攻撃を仕掛けるミネルバ。ガンプラは戦艦から出撃する使用になってある。
「なんと! 驚く無かれ、ガンプラトレースチームはたった2人でこの無謀なバトルに挑むのです! もちろん使用するガンプラは支給品であり独自のカスタマイズはありません。彼等は自分達の作り出したシステムなら戦えると思っているようですが果たしてどうなる!?」
観客があまりの内容にざわめきだす。
対戦人数50人を2人で相手したバトル等今まであったであろうか。あるとすればイジメ以外の何ものでもない。
水倉は目の当たりにしたことのない強大なバトルシステムと対戦チームの顔をさらっと見ていく。
勝ちを確信し笑っている奴、緊張しているのかストレッチをして体を解す者。
「水倉、手始めにミネルバをドロスに特攻させる。俺は後方で待機するからお前はミネルバに釣られた敵を叩け」
「ミネルバを始めから捨て駒にするんですか?」
「戦艦など当てにせず投げつけてやる。このバトルお前が主役なんだからな」
「では、主役らしい活躍してきます」
筐体にデスティニーガンダムをセットした。
バトルシステムから噴出されるプラフスキー粒子の量は周囲のファイターをバトルフィールド内連れ去ってしまう程の散布だ。
《バトルスタートです!!》
水倉にとってガンプラバトルで戦艦のカタパルトから出撃するのは新鮮だった。
格納庫から広大なバトルフィールドに飛び立つのではなく、すでにフィールド内に居る。
「デスティニーガンダム出ます!」
原作のごとくデスティニーがミネルバから出撃する。
《よし、ミネルバの全出力をエンジンに回す。ビーム兵器の分もだ》
紅石がジ・Oから指示を送る。
アニメではゆっくに見える戦艦だが目の当たりにするとかなりの速度で前進していく。並みのモビルスーツでは追いつけない事に納得がいく。
《俺は後方でエネルギーを温存しておく。ただし供給してやれるのも1回限りだ》
「1回あれば十分です。あっ、場合によっては武器ももらっていきます」
《欲張りな奴だな。俺が自衛できなくなるだろ・・・って、そんな腕もないか》
紅石はシステム干渉という反則を使う事で水倉を特訓できたのであってファイターとしての技量はそれほどでもない。
《むっ、すでに敵はミネルバを包囲して撃沈する構えだな。水倉出番だ》
「了解!」
デスティニーはミネルバの後を追うようにスラスターを吹かす。敵機集団を捕捉すると長距離ビーム砲を構える。
敵ガンプラの種類は統一されているわけではなく個性豊かだ。あらゆるシリーズのモビルスーツが立ち並んでいる。
「まずはお前だ!」
水倉は手始めにヘビーアームズ改を手動で狙い撃つ。ヘビーアームズ改が高熱源反応に気付いた時にはビームが腹部を貫いた。
敵機の集団は慌てふためくように隊列を崩す。
《おおぉ! デスティニーが射程圏外の位置から敵機に命中させた!》
紅石が外部スピーカーを使いバトルフィールドのみならず観客席にも聞こえるように実況を始めた。
はぁぁぁ!? 紅石さんどうした!? 水倉は唐突の出来事に動揺しながらも隊列を崩した敵陣に切り込んでいく。
《この反応速度! デスティニーのファイターは機械的なロックオンに頼らず自らの感覚で攻撃しています!》
紅石による実況は止まらない。自分が解説に呼ばれなかった鬱憤を晴らしているのかもしれない。
《ファイターが勝手に実況しないでください! それは我々司会の仕事です!》
《開発者が説明した方が的確だろ!》
ガンプラバトル以外のバトルまで開始されてしまった。
本来、暴走した紅石をなだめるのは水倉がやらねばいけないのだがガンプラバトルを放棄するわけにもいかない。
「紅石さん! あんまり逆らうと試合が中断される恐れがあります!」
水倉は紅石に通信を繋ぎながら、全方向を包囲された状況を打開しようとアロンダイトを抜刀した。
大規模バトルシステムは操縦が簡略化されているため一見操作上手くなった様に見えるが、どこか単純で『機械ぽさ』が残る。
「ここだ!」
水倉はまた1機、1機と切り伏せていく。射撃戦よりも格闘戦に持ち込むと『機械ぽさ』の正体が掴めてきた。姿勢制御をオートで行っている為、わざと体勢を崩した回避が出来なくなっている。
敵にも同じくデスティニーの使用者がいた。都合よくアロンダイトを構えて突っ込んできてくれる。
「試してみるか」
使い込んだガンプラ同士なら特性を把握しやすいと考え、あえてチャンバラ戦に持ち込む。
「対艦刀をただのビームサーベルじゃない!」
通常のビームサーベルは棒で叩く感覚で扱っても問題ないが、アロンダイトはビームが放出している箇所で決まっている。叩くのではなく切る様にしなければならない。
簡略化された動きでは機体ごとの特性を活かし辛くなっている。
大振りになった敵デスティニーの懐に左の掌を押し当てる。パルマフォキーナの一撃は相手のボディを粉々に撃ち砕く。
《ミネルバがそろそろ沈むぞ! 一度後退しろ!》
「一時撤退します」
水倉は周囲の敵を振り払い退路を開く。光の翼を展開し紅石の待つところまで後退して行く。
敵の手段はドロス防衛を優先する為に水倉のデスティニーを見逃してくれた。
「接近戦に持ち込めば各個撃破も可能です。でも、次からは簡単にはいかないでしょう」
《7機も撃墜されれば接近戦が不利だとわかるだろうな》
紅石のジ・Oが動力パイプからデスティニーへプラフスキー粒子を補充する。
《これで大規模バトル班の連中も操作の簡略化が失敗だった事を思い知っただろう》
「それもそうですが、俺達の目的であるガンプラトレースシステムの底力を『魅せ付けます』!」
《第2ラウンドの開始だ!》
プラフスキー粒子の供給を終えたデスティニーとジ・Oは40機近くが護衛するドロスに直進する。
ミネルバはすでに全壊してフィールドの塵と化した。
普通に40機と闘えばエネルギーの消費力から考え水倉と紅石に勝機は無い。ドロスの内部に侵入する一発逆転の策もあるが、狭い内部で周囲を囲まれてしまうと逃げ場がない。
《ドロスの真下を陣取る。あのデカ物は正面と真下への攻撃手段を持たない》
「そこなら艦砲射撃を気にせず闘える訳ですね」
しかし、ドロスに接近すればするほど弾幕が濃くなる。下手に接近してくる敵は1人もいない。
紅石のジ・Oが脚部に被弾する。
《威嚇射撃の範ちゅうだ! お前だけで・・・》
立て続けにジ・Oの頭部、右碗部と撃ち抜かれる。その反動でクルクルと無抵抗に回転するジ・Oへ更なる攻撃が浴びせられる。
デスティニーの背後で爆発が起き味方の機の反応がロストした。
振り返る事はしない。足を止めれば自分も同じ運命に遭う。
ドロスから追加の敵機が出撃する。戦力を温存していたのだ。
「これで大よそ40機か」
ドロスが艦砲射撃を止める。代わりに40機が一斉に押しかけてくる。人海戦術で一気に押し切るつもりのようだ。
水倉は背部ビーム砲とビームライフル、左腕のアンチビームシールドを投げ捨て身軽さを優先する。
デスティニーはアロンダイトを構え先頭を突っ走るガンダムエクシアと交差する。エクシアが胴から上と下に分かれる。
ベルガ・ギロス、ジェスタ、リック・ドムⅡと黒い機体が立ち並ぶ。
明らかに誘い込んでいる。水倉はあえて誘いに乗った。ちまちまと削りあうより、派手に闘い派手に散る道を選んだ。
『大波乱だぁぁぁ! ガンプラトレースチームのデスティニーが圧倒的な数にも怯みもしない! ファイターの魂すら表現しているかのようだ!!』
司会も驚いて声を上げる。
デスティニーは両手のビームシールドで防御しながらザクⅢを両断する。
四方八方からビーム、実弾が飛び交う。アロンダイトを失えば両肩のビームブーメランをサーベル代わりに、ビームブーメランを失えばパルマフォキーナを主軸に立ち回る。
『信じられません大規模バトルチームが20機撃墜されました!! しかし、デスティニーも翼は折れ左腕に両足ともありません!』
頭上からヴィクトリーガンダムがビームサーベルを突きたてようと迫る。
水倉は左に重心を動かすがデスティニーは上手くいうことを利かず頭部右半分が焼き切られる。
アッパーカットするようにパルマフォキーナをヴィクトリーに食らわせる。ヴィクトリーの爆発の衝撃でデスティニーの右腕も撒きぞいを受ける。
「21機かぁ・・・半分いかなかったな」
周囲からの一斉攻撃は半壊したデスティニーを葬るには十分すぎた。
発表式はその後も滞りなく進行していき無事に閉会した。
水倉と紅石はその日の内にガンプラトレースシステムの筐体はいつものバトルルームへ戻した。
社内はいつもより景気良く浮かれ気味の社員ばかりだ。
「申し訳ございません。目標数に届かなくて」
水倉は紅石に対しスッと頭を下げた。撃墜数が半分に満たなかった為だ。
「気にするな、俺は面白いバトルが見れて満足だ」
「ありがとうございます。紅石さんはこれからどうするんですか?」
「今日のバトルデータを纏めるなり解析するなりする。いつどんな反響が起きてもいいようにしておく」
紅石は何処までもぶれる事を知らない。周りの目等一切気にも留めない。
「俺もやりますよ。俺達のガンプラトレースシステムは最高ですから」
理解者が少なくても信念を曲げず進み続ける。現代では見向きもされなくても未来で認められればそれでいい。
世間は大規模バトルシステムの操作系の簡略化に不満を漏らしながらも受け入れていく。
ガンプラバトルはより大勢で派手な戦いへ変化する。そこにガンプラトレースシステムの姿は見当たらない。
それでも彼等は・・・・・・
《水倉、新しいテストを始めるぞ!》
とても短い間でしたが、一度でも読んでいただいた皆様に感謝いたします。
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