なんでこうなるの? (とんこつラーメン)
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なんでこうなるの?

あらすじにも書いた通り、かる~い気持ちで見てください。

その方が私も有り難いので。






 あ~…どうも。

 突然ですが自己紹介します。

 私は『板垣弥生』と言う、皆さんもよくご存じの『TS系転生者』って奴です。

 因みにこれ、『いたがき やよい』って読むのであしからず。

 今は立派な女になってますけど、前世ではちゃんと男をしてました。

 今ではもう完全に女としての生活に慣れました……多分。

 完全に恥の上塗りなので、転生までの詳しい経緯は今は省くけど。

 テンプレの如く死んでから、これまたテンプレの如く神様に会って、テンプレの如く転生しました。

 テンプレだらけの第二の人生を与えられた私は今……非常に拙い事になっています。

 

「ど…どうした!? 気分でも悪いのか!?」

「い…いや……私…はだい…じょう……」

「まぁ! 大変ですわ!」

「聞いて……」

 

 クラスメイトの『篠ノ之箒』と『セシリア・オルコット』がこっちを心配そうに覗きこむ。

 誰もそんな事を頼んでいないのに。

 

 この二人を見れば分かると思うが、私は『インフィニット・ストラトス』、通称『IS』の世界に転生した。

 この世界がISだと気が付いた瞬間から、私は原作キャラとは一切関わらずモブキャラとして第二の人生を全うしようと思っていたのに……。

 

「大丈夫? 保健室にでも行く?」

「そ…そんな…事よりも……私…の事は放…っておい……」

「ほら。僕が背中をさすってあげるよ」

「そうだ! 軍から支給されている薬が部屋にあった筈。今から取ってきて……」

「話を聞いて……」

 

 今度は凰鈴音とシャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒか。

 なんで揃いも揃ってヒロインズが私に構うんだよ~!?

 

 私は一人が大好きなボッチ至上主義者だ。

 どこぞの目の腐った男子高校生ではないが、一人でいられる時間をこよなく愛している。

 前世でもずっとボッチを貫いてきた……と言うよりは、人見知りが激しくヘタレな自分にとって、誰かと一緒にいる事は苦痛でしかない。

 大人になって引き籠りにジョブチェンジしてからは、より一層ボッチ主義が強くなった。

 自分で言ってて悲しくなってきた……。

 

 と…とにかく! こうして廊下のど真ん中で自分を中心に賑やかにされると、それだけでストレスで胃が痛くなる。

 ほら、周囲の皆も何事だと思ってこっちを見てるし~!

 うぐ……! 本格的に腹が痛くなってきたし……!

 

「や…弥生ちゃん! しっかりして!」

「お姉ちゃん、落ち着いて。下手に騒いだら弥生が困るよ」

「そう思う…のなら……私を一……人にして……」

 

 って言っても、誰も聞いちゃいないんですけどね。

 ……やべ。マジで限界かもしれない……。

 つーか、そこの更識姉妹は割と本気で黙れ。

 

「お…おトイ……レに…行って…きます……」

「弥生が心配だから、私も一緒について行こう」

「来な…くて…いい…です……!」

 

 くそ……! おじいちゃん以外の人と話すこと自体が辛いってのに、この期に及んで私の数少ない安息の地であるトイレにまで一緒に来られてたまるか!

 でも、私のような根性なしに面と向かってそんな事を言う勇気は無いわけで……。

 一刻も早くこの場をなんとか切り抜けてトイレに行かないと、私の六法全書並に分厚い黒歴史にまた新たな一ページが刻まれてしまう!!

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「ふぅ~……」

 

 ようやく一息つけた。

 流石の彼女達も、トイレの個室にまでは入ってこなかった。

 お蔭で私の精神ポイントも僅かではあるが回復してきている……ような気がする。多分。

 

「おじいちゃん……」

 

 今世における唯一の家族であるおじいちゃん。

 このIS学園に入ってから一体何回会いたいと思った事か。

 私はとっくの昔にホームシックになっているのですよ。

 

「………出よ」

 

 いつまでもこんな所にはいられない。

 今の私にとって真の安息の地である学生寮の自室に帰って、そこでゆっくりと引き籠ろう……。

 

 自分が座っている便座の水を態と流してから、そっと扉を開けて周囲を確認。

 

「……いない」

 

 よかった~…。

 意外だったけど、ここに誰もいないのは本当に有難い。

 

 静かに扉を開けてから個室の外に出て、手を洗う為に洗面場に。

 そこについている鏡に自分の姿が映し出される。

 

「はぁ……」

 

 全く……こんな私の何処がいいのやら。

 本気で理解に苦しむよ。

 

 長い黒髪を太腿の辺りまで自然に伸ばしている私の姿は、確かに傍から見れば綺麗に映るかもしれない。

 顔だって自分から見てもかなり整っていると思うし。

 でも、その顔の左半分を前髪で覆い隠して、その下には訳あって包帯を巻いている。

 それに……この体だって……。

 

「こ…んな醜い体(・・・)を持…つ私な……んか……」

 

 ……ここで落ち込んでいても仕方が無いか。

 今は部屋に戻る事を最優先にしよう。

 

 と言う訳で、自分で自分に課した『学生寮にある自分の部屋まで帰還せよ!』ミッションを発令させて、気持ちを新たにトイレから出たのだが……。

 

「や…弥生! 大丈夫か!?」

 

 な…なんでこいつが女子トイレの前にいるんだよぉ~~~!!!!!

 

 私の事を心から心配そうな顔をして寄ってくるのは、ISの原作主人公の織斑一夏。

 皆もよく知っている人類史上最高峰の鈍感王だ。

 

「箒達が弥生の事を話してたの聞いてさ、心配になって後を着けたんだ」

「ちょ……」

 

 お前はいつから私のストーカーになったんだ!! ふざけんな!!

 

「なんか長い事トイレに入っていたみたいだけど、どこか具合でも悪いのか?」

「えっと……」

 

 お前等が私に付きまとうから、そのせいでストレスが溜まって胃が痛くなるんだろうが!

 って声を大にして言いたいけど、こんな往来でそんな事を言う勇気は私にはなんですよぉ~! チクショ~!!

 

「大丈夫だぞ! 弥生は俺が絶対に守ってみせるからな!」

 

 はいきました~。お得意の『守る』宣言。

 こいつのこの発言が大嫌いだから、私はこの男と一切関わらないように心に誓っていたのに……。

 

「はぁ……」

「溜息? 何か困った事でもあるのか? 俺でよかったらなんでも相談に乗るぞ!」

 

 お前がこの場にいる事に困ってるんだよ。

 少しは私の『寄ってくんなオーラ』を感じ取って近づこうとするなよ!

 ISに乗ってる時は無駄に勘がいいくせに、一度降りると馬鹿みたいに鈍感になりやがって!

 

「ちょっと! なに弥生に言い寄ってんのよ! 一夏!」

「げ……鈴。それに皆も……」

 

 最悪のパターンだ……。

 今の私にとってヒロインズと織斑一夏は『混ぜたら危険』な組み合わせなのだ。

 本来ならばこの男のハーレムな筈なのに……。

 

「弥生! 一夏に何かされてはいないか!?」

「何かってなんだよ? 俺は別に何もしてないぞ?」

「その言葉を素直に信用できるとお思いで?」

「唯でさえ弥生は体が弱いのに……」

 

 別に私自身は至って健康体だよ!

 ただちょっと運動不足で体力が無くて、後ついでに外に出る機会が少ないから肌が人並み以上に白いだけで。

 少なくとも、お前等が私に関わってこなければ、私だって飲みたくもない胃薬とフレンズにならなくて済んだんだ!

 ちっとは自覚せんかい! このチョロインズが!

 

「貴様等、トイレの前で何を騒いでいる」

「こ…この声は……」

 

 ギギギ……と壊れた機械人形のように後ろを振り向くと、そこには私の所属する一組の担任であり、このIS学園に置いて私が勝手に指定した『最重要危険人物』の一人でもある『織斑千冬』だった。

 

「千冬姉……!」

「私の事は『織斑先生』と呼べと、何回言えば分かるんだ。この馬鹿者が」

「ぶべらっ!?」

 

 さ…炸裂した……!

 やっぱり目の前で見ると凄い迫力だな……出席簿アタック……。

 これがあるからこの人は怖いんだよ……。

 

「また、お前達は板垣の事で揉めていたのか?」

「それは一夏が!」

「黙れ」

 

 鶴の一声。

 彼女の『黙れ』で全員が沈黙した。

 私は最初から静かにしてたけど。

 

「助けようとしている対象を困らせてどうする。少しは落ち着かんか」

「「「「「「「はい……」」」」」」」

 

 完全に委縮している面々。

 こいつ等を黙らせてくれたことに関しては素直に感謝しよう。

 それでも警戒は解かないけど。

 

「板垣。何かあれば私の元に来い、喜んで力になってやる」

「ど…どうも……」

 

 誰が好き好んで、お前みたいなブラコンで身内贔屓な暴力系女教師の所に行くか!!

 って! 頭を撫でるな!その手で私の脳みそを握りつぶす気か!!

 

(いつ撫でても、こいつの髪はサラサラしているな……)

 

 ひっ!? なんか今、物凄い悪寒が背中を走ったんですけど!?

 

 全く……私からは何も特別な事をした覚えは一切無いのに、どうしてこいつ等は私に構ってくるんだよ~!

 本当にもう……

 

「なんでこうなるの……?」

 

 一体……何がどうしてこんな事になったのか、私には皆目見当がつかないよ……。

 

 

 

 

 

 

 




初めての勘違い系。

上手に書けるかが心配です。

あと、主人公のTSは完全に死に設定です。


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前回はプロローグ、ここからが第一話だ

新年度と言う事で、心を引き締めると言う意味も込めて、こちらを投稿。

別に関係無いけど、最近のマイブームは『ラーメン大好き小泉さん』です。

小泉さん可愛い。






 転生者~なんて言っても、生前の私自身はどこにでもいるヒキニートだった。

 ここで私の事を長々と語っても誰も興味は無いと思うし、それ以前に文字数が勿体ないからバッサリとカットします。

 そーゆーのは後から部分的に語っていけばいいでしょ。

 

 私は一人でいるのが好きな『ボッチ』で、他人との会話が苦手な『コミュ症』で、人並みの勇気も無ければ根性も無い『ヘタレ』。

 取り敢えずはこれだけ分かってくれていれば十分だと思う。

 

 私が死んだ切っ掛けも、これまた実にテンプレなのです。

 普段は滅多に家から出ようとしない私が、ちょっとした気紛れでコンビニに行こうと軽い気持ちで外出したのが運の尽き。

 その途中で居眠り運転の大型トラックに轢かれて見事な人肉のミンチが一人前出来上がりましたとさ。ちゃんちゃん。

 

 その後、私はテンプレその2の真っ白な空間にいて、そこで神を自称する謎の男性と遭遇したのですよ。

 その彼が言うには、私は生前に何も成す事無く死亡した為、転生をしてもう一度人生をやり直せ……と言われた。

 

 ぶっちゃけ言って、そんなのは真っ平御免だった。

 どこぞのチートゲーマーの兄妹も言っていたじゃないか。

 『リアルなんて無理ゲー』だと。

 それには私も激しく同意する。

 唯でさえ小、中、高を卒業して栄光の引き籠りになるまで苦労したのに、またあの苦労を私にしろってか?

 それはちょっと酷いんじゃないか?

 天国……は無いと思うから、とっとと地獄にでも落としてくれない?

 ……と言えたらどれだけよかったか……。

 人間相手でさえ会話の度に緊張MAXなのに、自称とは言え神を相手にそんな大それた事は絶対に言えない。

 言う前に緊張でストレスがマッハになって私がまた死ぬ。

 

 結局、私は何も抗議が出来ずに、流されるがまま転生する事になった。

 転生先はランダムで、どこの世界に行くかは全く不明らしい。

 少なくとも、生前と同じ世界だけは絶対に無いらしいが。

 

 転生の際に神様は私に転生者のお約束とも言うべき『特典』を授けてくれたのだが、それがまたエライものだった。

 一応、よくある『頭脳&身体能力チート』とかじゃない事は明記しておく。

 勿論、他の作品のチートな能力とかでもない。

 どんな特典なのか、それはネタバレになるからここでは言うのはやめておこう。

 因みに、私の女体化は特典ではなくて『罰』らしい。

 性別を入れ替えて心機一転頑張れって事か?

 このこと自体は特に気にはしなかったけど。

 

 神様は特典の他に私に『設定』も与えてくれた。

 これは簡単に言うと、私の存在をちゃんと世界に認識させて『異物』として排除されないようにする処置らしい。

 それと、私に授けてくれた特典もこの設定のお蔭で違和感無く使う事が出来る。

 これを怠った連中が俗に言う『踏み台転生者』と呼ばれる連中なんだと。

 そりゃ、いきなりポッと出のアホみたいなチート野郎が同じように違和感しかないチートな能力を持っていれば、どんな馬鹿でも速攻で怪しむに決まっている。

 それを聞かされて、私はめっちゃ納得した。

 もしかして、この神様って本当は凄くいい奴?

 

 なんて思っていた私がアホだったと、転生してから思い知らされた。

 神が私に与えた『設定』の全ては知らないが、少なくとも自分の『体』が関係している事は明らかだった。

 この体のお蔭で、前世以上に普段の生活を苦労させてしまった……!

 神……絶対に許すまじ…!

 まぁ……『おじいちゃん』に会わせてくれたことは素直に感謝してるけど。

 

 転生後も色々な事があって、自分がいる世界が『インフィニット・ストラトス』であると知り、紆余曲折の果てにIS学園に入学する羽目になってしまった。

 この時点で、私の考えた第二の人生設計が全てご破算になったのは言うまでもない。

 そして、連鎖的におじいちゃんの存在自体が私に与えられた特典だと思い知った。

 何故なら、おじいちゃんとの出会いが私の専用機取得フラグになっていたから。

 

 こうなったら、せめて原作キャラ達と別のクラスになる事を心から祈り、連中には一切近づかずにひっそりとモブキャラライフを満喫しよう!

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 なんて思っていた時期が私にもありました。

 

「はぁ~……」

 

 どうも、私は今、IS学園の一年一組の教室にて盛大な溜息を吐いております。

 

 何事も無く入学式を終えた私達は、自分達がこれから一年間過ごす事になる教室へと案内されたのだが、そこが一組なのを知ってリアルに絶望した。

 なんでよりにもよって一組なんだよ……。

 ここは原作キャラの巣窟じゃないか……。

 せめてもの救いは、自分の席が窓側の一番後ろである事か。

 今日も天気が良くてお日様がぽかぽかだな~♡ あはは~♡(現実逃避)

 

 少しだけ周囲を見てみると、いるわいるわ……私が知っている原作キャラ達が。

 数席離れた場所にはイギリスの代表候補生であるセシリア・オルコットが。

 私のいる列の一番前には天災兎の実の妹である篠ノ之箒。

 あと、教室で堂々とお菓子を食べている布仏本音もいる。

 今更だけど、仮にも名門校であるIS学園の教室でお菓子を食べてもいいのか……?

 普通の学校でも怒られて没収されるとおもうけど。

 

(で、極めつけは……)

 

 教壇の真ん前に位置している席に座って肩身が狭そうにしている男が、原作主人公の『織斑一夏』。

 私が一番嫌いなキャラの一人でもある。

 こいつにだけは絶対に接触しないようにしないと。

 最重要警戒人物の一人に指定しよう。

 

 今はとにかく、誰にも話しかけられないように極限まで気配を薄くしてジッとしているが吉。

 

(おじいちゃん……)

 

 入学前におじいちゃんから渡された、左腕に装着している機械的なデザインをした鉛色のリングにそっと触れる。

 これだけで少し精神が回復していくようだ……。

 つーか、どうでもいいからとっとと来てくれないかな?

 私にとって学校の教室なんて拷問部屋と同じなんですけど。

 

(早く帰りたい……)

 

 未だ見ぬ自分に割り当てられた学生寮の部屋を夢見ながら妄想に耽っていると、教室のドアが開く音が聞こえた。

 

「全員揃ってますね~。それじゃあ、今からSHRを始めますよ~」

 

 来た!

 

 入ってきたのは一組の副担任である山田真耶先生。

 緑色の髪と眼鏡が特徴的な人物。

 この人も原作キャラの一人であるが、私の中では警戒心は薄い。

 なんつーか……いい人過ぎて、下手に警戒とかしたら逆に罪悪感で死にそうになる。

 

(すげー胸……)

 

 山田先生がなんか色々と言っているが、私の視線は彼女の爆乳に向けられていた。

 童顔爆乳な美人眼鏡っ子教師とか、ふつーに有り得ない……。

 この世界の日本人は色々とおかしい。

 主に体のスタイル的な意味で。

 

「ん……?」

 

 次々と女子達が立って何かを話している。

 これは……もしかして自己紹介か!?

 ま…不味い!! 私は板垣の『い』だから、織斑一夏の『お』よりも早く来る!

 アイツよりも後だったら、有耶無耶になって自己紹介なんてクソ面倒くさいことをしなくて済むのに!

 

 私が密かに焦っている内に、自分の順番が回ってきてしまった。

 

「では次、板垣さん。お願いします」

「は……い……」

 

 し…心臓がバクバクして振動が体全体にまで伝わってくるみたいだ……!

 な…何を話せばいい……?

 まずは名前だろ? そして……趣味か? 趣味でも話せばいいのか?

 よ…よし! それでいこう! 速攻で言って、速攻で席に座ろう!

 前世でこんな局面、何度だって乗り切ってきたじゃないか!

 

「ひっ!?」

 

 きょ…教室中の視線が全部こっちを向いてる……!

 この視線のレーザーマシンガンは完全に凶器だ……!

 

「あの……板垣さん?」

「ひゃ…ひゃいっ!?」

「だ…大丈夫ですか?」

 

 と…とにかく! 今はとっとと自己紹介を終わらせる事だけを考えよう!

 

「い……板垣……弥生……です」

 

 よし言った! 言ってやったぞ!

 自分の名前を言えた事に情けなくも感動した私は、自分でも驚くような速度で席に座った。

 

「そ…それだけですか? 趣味とか……」

「………………」

 

 もう自己紹介は終わったんだから、野暮な事を聞いてくるんじゃねぇよ!!!

 私の趣味とかどうでもいいだろうが!!!

 

(あの感じ……まさか昔、イジメとかにあっていたんじゃ……)

 

 な…なんだ? 山田先生のこっちを見る視線が急に慈愛に満ちてるんですけど?

 

(板垣弥生さん……。あの子の事はよく見るようにしておいた方がいいかもしれない……)

 

 なんだろう……。

 どこかで建たなくてもいいフラグが建ったような気がする……。

 

 私の後も自己紹介は続いていき、遂に織斑一夏の番となった。

 しかし、案の定と言うべきか、奴はボケ~っとして近くで呼んでいる山田先生の事が全く視界に入っていない。

 最終的に彼は気が付いたが、自己紹介までの流れは私が知っている通りだった。

 

「以上です!」

 

 はい出た。最初の馬鹿発言。

 周りの女子達と同じように呆れながらも内心は爆笑していると、静かに教室の扉が再び開かれて、そこから織斑一夏に匹敵するレベルの最重要危険人物が姿を現した。

 

 奴さんの出席簿の一撃が炸裂し、教室内に実にいい音が響き渡った。

 黒いスーツを着た彼女こそが、この一組の担任にして織斑一夏の実の姉でもある『織斑千冬』その人である。

 また何か話しているが、私には関係ない事なので無視することに。

 そんな事よりも、今はこの後に来る事態に備えて予め通販で購入しておいた高級耳栓を装備してっと。

 

「「「「「「キャ~~~~~~~~~~!!!!」」」」」」

 

 し…振動が凄い……!

 耳栓をしていてもこの威力かよ……!

 

 なんか女子共がぺちゃくちゃと話しているけど、喉が痛くならないのかね?

 あ、なんかまた叩かれてやんの。

 うむ、実に愉悦。

 

 様子を見て静かになったと判断して、ようやく耳栓を外すことが出来た。

 耳栓解除と同時にチャイムが鳴り、教壇の前に立つシスコン暴力女のありがた~い話があった。

 どうでもいいんで普通に聞き流したけど。

 しかし、あの女はあれだな。人の皮を被った鬼だな。うん。間違いない。

 

 ……織斑一夏はいつまで立っている気だ?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 な…なんとか二時間目の授業まで終了した……。

 いくらエリート校だからと言って、なにも入学式の日から早速、授業をしなくてもいいと思うんですけど?

 まぁ、勉強自体は嫌いじゃないからいいんだけど。

 昔はやる事が無い時は暇つぶしに勉強してたぐらいだし。

 

 そういや、一時間目の休み時間に織斑一夏の奴が剣道ポニーテール女に連れられてどっかに行ってたな。

 ま、どうせ原作通りの事しか話してないんだろ?

 二人の会話の内容とか、心底どうでもいいわ。

 

 休み時間は持参したMP3に装着してあるワイヤレスイヤホンを耳に付けて何も聞こえない振りをする。

 と言っても、何も曲を聞いていない訳じゃないんだけどね。

 音量を小さくして周囲の状況はすぐに察知できるようにしてある。

 本当は教室から出て一人になれる場所でのんびりと過ごしたいんだけど、まだ私は校舎の中を完全に把握しているわけじゃない。

 だから、初日は否が応でもこんな事をするしかないのだ。

 

(あ……)

 

 堂々とした歩き方でセシリア・オルコットがワンサマーの方に歩いて行ったぞ。

 これはあれか。原作にもある二人のファーストコンタクトか。

 あの発言は聞いてるだけで不快になるから、ここは音量を上げて本当に聞かないようにしよう。

 あ~…やっぱJam projectは最高だわ~…。

 

 曲に聞き入っていると、金髪イギリス女が自分の席に戻った。

 そのタイミングでMP3のスイッチを切ると、丁度チャイムが鳴った。

 

 ちゃんと時間を計っていたのか、チャイムと同時に担任と副担任が入ってきた。

 暴力行為さえなければ教師として優秀なのかもしれない。

 その暴力が全ての利点を消滅させてるんだけど。

 

 三時間目は確か、実戦で使用する各種装備の特性について……だったっけ?

 

「三時間目は実戦で使用する各種装備の特性について説明していこうと思う」

 

 よかった。俺の記憶は正しかったようだ。

 

「だが、その前に再来週に開催されるクラス対抗戦に出場するクラス代表を決定しておかないとな」

 

 …………そういや、それがありましたね。

 一つ一つの困難を乗り越えるのに必死で、すっかり忘却の彼方に行ってましたよ。

 まさかとは思うけど……私が推薦されたりとかはしないよな……?

 やば……想像しただけで胃が痛くなってきた……!

 早く、この時間が終わらないかな……私を一切巻き込まない形で。

  

  




序盤は流石に勘違い要素は殆どありません。

でも、次回以降は少しずつ勘違いさせていきたいです。

今の私にはこれが精一杯です。


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早速ピンチになりました

とある方の作品を読んでモチベーションが上がったので、またまた投稿します。

でも、連続で投稿するのは取り敢えずは最後だと思います。

次回以降は不定期にしていきます。






 三時間目が始まると思いきや、織斑先生の提案によりクラス代表を決める事に。

 この辺りは原作通りだな。

 それじゃあ、私は沈黙を貫きたいと思うので、どうぞ好き勝手に自薦でも他薦でもしてくださいな。

 勿論、私を巻き込まない事を前提にして……だけど。

 

「う……」

 

 なんか少し眠くなってきたかも。

 昨夜、緊張してよく眠れなかったからな~…。

 え~と、こんな時の為にポケットにブラックミントの眠気覚ましの錠剤があったと思うんだけど……。

 

「はい! 私は織斑君を推薦します!」

 

 私が錠剤のケースを探している間に先生の話が終わって、早速誰かが手を上げて鈍感星人を推薦したようだ。

 そうそう、その調子で頼みますぜ。

 私の事はそれこそ、そこら辺に転がっている石ころとでも思っててちょうだいな。

 全員の関心が織斑一夏に向いている間に、私はブラックミントを一粒パクリとな。

 

「うぐ……!」

 

 うごごごご……!

 なんか想像以上に効き目があるんですけど……!

 あれ~? 前に食べた時はこんな感じじゃなかったような気がするんだけどな~?

 女の子になって若返ったから、味覚もそれなりに変化してるのかな?

 そんな自覚は全く無いんだけど……。

 

 あ。なんか苦すぎて涙出てきたし。

 で…でも、お蔭で眠気はスッキリとしましたよ?

 

 ……と思ったら、次は強烈な尿意が!!

 は…早く終わってくれぇ~!!

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 弥生が必死に身を潜めて自分の気配を薄くしている頃、教室内では着々と一夏の事をクラス代表に推薦する声が響いていた。

 

「では、候補者は織斑一夏のみと。他には誰かいないのか?別に自薦他薦はこの際問わないぞ?」

 

 少しだけ呆けていた一夏だったが、すぐに自分が推薦されていたことに気が付いて、思わず立ち上がってしまう。

 

「お…俺ぇっ!?」

「そうだ。分かったら早く席に着け」

「ちょ……ちょい待ち! 俺はそんな事や「私に二度も同じ事を言わせる気か?」ぐ……!」

 

 一夏の必死の抗議も、千冬の眼光の前では全く意味を成さず、結局は大人しく言われた通り座る事に。

 

「理由はどうあれ、お前は彼女達から選ばれた。ならば大人しく覚悟を決めろ」

「り…理不尽……」

「それが社会と言う物だ」

 

 御尤も。

 入学初日にして早くも人生の厳しさを身を持って実感した一夏君であった。

 

「ちょっとお待ちください! 納得いきませんわ!!」

 

 決まりかけていた会議に待ったをかけたのは、イギリス代表候補生のセシリア・オルコット。

 長い金髪を靡かせながら立ち上がり、全員を見渡しながら大きく叫びだす。

 

「そのような選出なんて決して認められませんわ! そもそも……」

 

 そこからは、出るわ出るわ……日本や男に対しての罵詈雑言の数々。

 無論、それを聞いていた日本出身の女子生徒達は眉間をピクピクさせながら切れかけていた。

 約数名を除いて……ではあるが。

 勿論、その数名の中には弥生も含まれている。

 今の彼女は自分の存在を隠す事に必死な為、既に原作知識として知っているセリフに耳を傾ける余裕は全く無いのだ。

 

 ある程度セシリアが言い終わると、今度は彼女の発言にぶち切れた一夏が反撃開始。

 やれ『飯が不味い』だのなんだのと言い始め、遂には完全な口喧嘩に発展。

 当人達は全く気が付いていないが、二人がしている事は間違いなく国際問題に発展するレベルに大変な事だ。

 知らぬが仏とはよく言ったものである。

 この場でそれを正しく認識しているのは千冬と真耶の二人のみ。

 故に、千冬は後で二人を呼び出して説教する事を密かに心に決めた。

 

「決闘ですわ!!」

「あぁ! 俺は一向に構わないぜ! その方がお互いに後腐れが無い!」

 

 結局はこうなるのか。

 決闘騒ぎになっても口喧嘩が終わらない二人は、ある意味でいいコンビなのかもしれない。

 

 更にそこからハンデの話になり、女子達に馬鹿にされる一夏であったが、それで少しは冷静になったのか、ハンデは無しと言う事になった。

 

「さて、話は纏まったな………」

 

 一先ずの収束を確認した千冬は、手を叩いて全員の視線を自分に向けさせたが、そこでふと、ある事を思い出した。

 

(そう言えば……このクラスにはオルコットの他にもう一人、専用機持ちがいた筈。確か名前は……)

 

 その瞬間、弥生の背筋に悪寒が走り、顔が急速に青くなっていく。

 

(な…なに……? なんか猛烈に嫌な予感がする……!)

 

 その予感は間違ってはいない。

 彼女にはシックス・センスでもあるのかもしれない。

 

「……私からも一人推薦しようか。板g「織斑先生」……ん?なんだ?」

 

 千冬が弥生の名前を呼びかけた瞬間、真耶が彼女の腕を引っ張って教室の隅へと連れて行く。

 そこで二人は小さな声で話し始めた。

 

「あのですね……。板垣さんを推薦するのは止めた方が……」

「なんでだ? 彼女も専用機持ちなのだろう?」

「そうですけど……」

 

 チラッと真耶が弥生の方に視線を向ける。

 そこには、涙を流しながら体を震わせている彼女がいた。

 

「……アイツが板垣弥生か?」

「はい。先程、自己紹介をした時……あの子、酷く怯えていたんですよ」

「怯える? 何に?」

「それは分かりませんけど……」

 

 少しだけ視線を下げて、それから千冬の目を真っ直ぐに見た。

 

「これはあくまで私見なんですけど、板垣さんは過去に人間不信になるような酷い目に遭ってきたんじゃないんでしょうか?」

「イジメなどか?」

「恐らく。多分ですけど、こうした人が沢山いる場所にいるだけでも相当に勇気を振り絞っているんだと思います。その上更にクラス代表に推薦すると言うのは流石に酷かと……」

「…………」

 

 そう言われて、千冬は弥生の姿を少し観察する。

 長い前髪で顔の左半分を覆い隠しており、着ている制服は改造されている。

 基本的にIS学園は制服の改造を認めているため、これ自体は決して校則違反ではない。

 弥生の制服は極端なまでに肌の露出が少ない。

 上は首まで覆い隠していて、スカートに至ってはかなりのロングスカートになっていて、足首まで隠れている。

 その上、手には黒い手袋をはめていて、スカートの下も黒いストッキングを穿いているようだ。

 余談だが、弥生は箒やセシリアに負けず劣らずのレベルのスタイルをしていて、同年代の女子達と比べても相当にバストは大きい。

 本人は全く気にしていないが。

 

「泣いている……?」

「織斑君とオルコットさんの口論が怖くて泣いているのかも……。体も震えてますし……」

「かもしれんな……」

 

 なんとも都合のいい解釈ではあるが、涙の理由は単純にブラックミントの味が予想以上に苦かっただけであり、体が震えているのは怖いと言うよりも、トイレを我慢しているだけだ。

 故に、こうして二人で話していないで、一刻も早く話し合いを終了させて授業を再開させてほしいものである。

 主に弥生の膀胱の為に。

 

「彼女が専用機の所持を認められているのも、そこが関係しているのかもしれませんね……」

「そうだな……」

 

 千冬とて人の子。

 目の前で涙を流して震えている教え子に対して『私が推薦するからクラス代表になれ!』とは言えない。

 まぁ……本当は彼女達の大きな思い違いなのだが。

 少なくとも、弥生はこれまでの人生でイジメには一度も遭っていない。

 何故なら、自分から他者との接触を極端なまでに避けていたから。

 結果として空気のような存在となっていったが、それこそが本人の望みだったので、それなりに満足した学校生活だった……と、少なくとも弥生本人は思っている。

 

「入学試験の時の実技、アイツのだけ見ていなかったな」

「そうですね。私達が用事で外している間に始まって、戻ってきた頃には終わってましたから」

 

 これも偶然なのか、弥生の専用機は彼女達には見られてはいないようだ。

 ネタバレ防止の読者に優しい偶然である。

 

「兎に角、板垣の推薦はやめておくことにする」

「それが賢明です。それと……」

「承知している。担任として、アイツの事は注意して見るようにしよう」

 

 自分が与り知らぬ所で危機を脱した弥生であったが、同時に別の不安材料が浮上した事を彼女はまだ知らない。

 

 その後、改めて話を纏めて、一週間後の月曜日の放課後、第3アリーナにて試合をする事になった。

 

(の…乗り切った……?)

 

 辛うじてではあるが、確かに乗り切る事には成功したと言える。

 だが、まだまだ弥生の受難は終わってはいない。

 いや、寧ろここからが始まりと言っても過言ではない。

 

 因みに、トイレにはちゃんと間に合いました。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 全ての授業が終了し、今は私が待ちに待った放課後タ~イム!

 顔には決して出さないけど、心は最高にルンルン気分になってます。

 なんとか初日を乗り越えた!

 今日はもう疲れたから寮に直行するけど、明日からはちゃんと一人でまったりできる『ベストプレイス』を見つけに行かないとな~。

 唯でさえ寮生活なんてする羽目になったんだ。

 自分の安らげる場所を少しでも多く開拓するのは急務と言える。

 

(そういや、ここの食堂のご飯って美味しかったな~……)

 

 流石は天下のIS学園と言うべきか。

 人が無駄に多い事と、食堂のおばちゃん達が無駄にフレンドリーな点を除けばパーフェクトだった。

 メニューも凄く豊富だったしね。

 

(けど、使用するのは昼食の時だけだろうな)

 

 誰が好き好んで、あんなリア充の溜まり場みたいな場所に行かなくてはいかないのだ。

 昼御飯は仕方が無いとしても、朝御飯と夜御飯は自分の部屋で食べるようにしよう。

 確か、購買部で食材も購入可能だったよね?

 料理道具も売ってたりするのかな?

 それとも、予め部屋に完備してあるとか?

 

(……実際に行ってみれば分かるか)

 

 入学式の前に渡された紙に自分の部屋の番号が記されている。

 これを見ながら行くとしますか。

 

 誰よりも早く教室から出て寮に向かう私だったが、その途中で沢山の生徒達が一組に行くのを目撃した。

 多分、あの男が目当てな連中に違いない。

 本当に物好きと言いますか、暇人と言いますか。

 あんな口だけ星人の何処がいいのやら。

 私には全くもって理解が出来ない感覚ですな。

 けど、そのお蔭で私も校舎内で動き易くなるから、その点だけは感謝してあげよう。

 

 さて、私も早く自分の部屋に行って、とっとと荷解きをしなくては。

 その途中で購買部によって食材を買っていきますか。

 ちょっと緊張するけど、流石にこれは慣れていかないと。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「思っ…た以上……に品数…が豊富……だった……」

 

 現在、私の右手には鞄が、左手には購入した食材が入ったビニールを持っている。

 手に食い込んで痛いけど、これぐらいなら我慢できるもん!女の子だし。

 

(私の部屋の番号は確か……1026号室だったな)

 

 ……あれ?なんだろう……?妙に嫌な予感がまたするんですけど……?

 1026ってそんなに不吉な数字だったっけ?

 ネガティブな事ばかりを考えても仕方が無い為、今はとにかく部屋に向かう事に。

 おじいちゃん……ちゃんとご飯食べてるかな……?

 家じゃ私が家事を担当してたからな……。

 

(外食とかしてないだろうな?)

 

 前世がヒキニートの分際で何言ってんだと思われるかもしれないが、ニートだってちゃんと栄養管理ぐらいはするんだぞ?

 何事も健康が第一だからな。

 

「あ」

 

 考え事をしながら歩いていると、いつの間にか部屋の前まで来ていた。

 ここが今日から私が住む事になる部屋か。

 

 ちゃんと鍵は預かっているから、鞄の中から取り出して鍵を開けてから扉を開ける。

 

「お……おぉ~……」

 

 これはまたなんとも……。

 普通に高級ホテルクラスの内装じゃないですか。

 え?なんで分かるのかだって?

 実は、転生してから何回かこう言った場所に泊まった経験があるのですよ。

 そこと見比べても遜色無いな、こりゃ。

 

「ちゃん…と荷物が届い……てる……」

 

 部屋の隅に幾つかの段ボール箱が並んで置いてあった。

 これ全部が家から持って来た荷物になる。

 と言っても、中身は各種ゲームやパソコン、漫画にラノベとかが大半だけどね。

 後は私の外出用の服装や部屋着とかだな。

 私の場合は特に服装に気を付けなきゃいけないから。

 

「……この『体』を……誰かに…見られる……わけ…にはいか……ないか…ら……」

 

 そう。それだけは例え何があっても絶対に回避しなければいけない。

 

「………片付け…よ」

 

 鞄をベットに置いて、食材を全て設置してある冷蔵庫に収納してから、私は荷解きを開始した。

 

 因みに、基本的にこの寮は二人で一つの部屋を使用するのだが、私の場合は『おじいちゃんパワー』で一人部屋になっている。

 流石は私のおじいちゃん! そこに痺れる! 憧れる!

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 荷物の整理が全て終わってから、私は心と体をリフレッシュさせる為にシャワーを浴びる事にした。

 しかし、そうすると必然的に自分の体を露出する事になる。

 そう……私が最も他人に見せたくない『体』を。

 

「なんで……こんな体……なんだ…ろうね……」

 

 自分の右手を見つめると、そこには無数の傷跡が刻まれている。

 切り傷に刺し傷、打撲の跡もあれば火傷の跡も見受けられる。

 この傷は右手限定ではなくて、私の全身に広がっていた。

 それこそ、首の部分から爪先までびっしりと。

 

 更に、私が普段から前髪と包帯で二重に隠している顔には、大きく醜い火傷跡が存在している。

 この顔の傷は私の体にある傷で最も酷くて、これのせいで左目の視力を完全に失ってしまった。

 だから、傷痕と目を隠す意味も込めて包帯と前髪で覆い隠しているのだ。

 そうでもしないと、やってられないから。

 

 けど、私にこんな傷を負うような覚えはない。

 この全身の傷跡は私が転生した時からあったものだ。

 これを見てすぐに、これこそが神が私に与えた『設定』の一部なんだと把握した。

 どうやら、神は私を悲劇のヒロインにでも仕立て上げたいようだ。

 

「今更……怒る気…力も無……いけど……」

 

 したくも無い転生をさせられた時点で、私は神に対する怒りの感情を失っていた。

 勝ち目のない存在に怒るよりも、これからどうするかのほうが重要だったから。

 

「って……」

 

 人が折角シリアスモードになっているって言うのに、なんかお隣の部屋が五月蠅いんですけど?

 一体何をやっているんだ?

 これから長い間、一緒に暮らすんだから、初日から揉め事を起こそうとするなよな。

 ちゃんと仲良くしようぜ? 仲良くね?

 

「……私が……言って…も説得……力…皆無……だね……」

 

 なんせ私ってばコミュ力ZEROの美少女(笑)ですからね! はっはっは~!

 ……なんか急に空しくなってきた。

 もうシャワーを出よう。

 

 しかし、ここで私は完全に油断をしてしまい、史上最大の致命的なミスを犯してしまった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「スッキ…リした……」

 

 誰も部屋にいないのをいい事に、私はバスタオルで体を覆った状態で他のタオルを使って頭を拭いていた。

 前髪を持ち上げながら丁寧に拭いていると、なにやら廊下からドタドタと音がしてきた。

 

(……廊下は走るなよ)

 

 もしも、あの暴力女教師に見つかりでもしたら、本気で一巻の終わりだぞ?

 勿論、生命の危機的な意味でね。

 

「た…助けてくれ!!」

 

 いきなり、誰かの叫び声と一緒に部屋の扉が勢いよく開かれた。

 そして、そこから入って来た声の主は……

 

「「え?」」

 

 私にとって最も接触したくない人物……織斑一夏だった。

 

 空気を入れ替える為に開けておいた窓から風が入って来て、私の体に巻かれているバスタオルを床に落とした。

 

「「……………」」

 

 一瞬、私の頭の中は真っ白になってしまった。

 

「見られた……」

 

 今にして思えば、彼に私の秘密を見られた、この瞬間から私の艱難辛苦のデスロードは始まったのかもしれない。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




弥生、最初にして最大のピンチ到来。

そして、一夏はこの作品で初めてのラッキースケベ。

次回から本格的に勘違いをしていく予定です。


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一夏ハーレム崩壊の瞬間

主人公の弥生は、悪い意味で原作知識やISアンチ系二次小説の影響を受けています。

タグにもある『思い込みが激しい面々』には、原作キャラ達だけでなく弥生も含まれています。

と言うよりも、彼女こそが筆頭です。






「「………………」」

 

 突如として弥生の部屋に入って来た一夏。

 弥生は一番会いたくない人物に一番見られたくない秘密を見られて、一夏は目の前にいる少女の裸を見てしまった事に加え、その体に無数に刻まれた傷跡を見て、お互いに時が止まってしまったかのように呆然となってしまった。

 

 この状況でどうすればいいのか混乱している弥生は、未だにその場で棒立ちになっている。

 そんな彼女を見て、いきなり一夏が動き出した。

 

「お…おい! その体はどうしたんだ「ひっ……!」……え?」

 

 突然、自分に迫ってきた一夏に恐怖を覚えた弥生は、反射的に顔をひきつらせてから……

 

「キャァァァアァァァァァァァァァァァアァァァァァァァァアアアァァッ!!!!!」

 

 両手で思いっきり一夏の体を押し出して、そのまま開いたままになっている扉から彼を追いだした。

 一夏も、その勢いに負けて廊下の壁に軽く体をぶつけてしまった。

 

「いてて……」

 

 一夏が廊下に出た瞬間、弥生は急いで部屋の扉をバンッ!と力強く閉じた。

 

「あ……ちょっと!?」

 

 思わず扉に向けて手を伸ばしながら叫ぶが、部屋からは何も返事が無い。

 唯でさえ原作キャラを避けている弥生から返事が来る筈も無いのだが。

 

「……一体何なんだよ……」

 

 本当に自分のしでかした事を理解していないのか。

 鈍感もここまで来れば、もう一種のスキルではないだろうか?

 

「……そこで何をしている」

「げ」

 

 そんな一夏に一人の少女が近づいてくる。

 一夏のルームメイトであり、同時に幼馴染でもある少女『篠ノ之箒』だ。

 彼女は剣道着を身に纏っていて、その手には木刀が握られていた。

 

「先程、隣の部屋から出てきたように見えたが?」

「そ…それは……」

 

 気まずくなって目を逸らす一夏。

 彼は自分に与えられた部屋にて、図らずも箒のあられもない姿を見てしまい、その結果として彼女の怒りに触れてしまって、つい先程、箒の木刀攻撃から逃げてきたのだ。

 だが、逃げた先が最高に拙かった。

 

「何故に目を逸らす?」

「べ…別に?」

 

 彼の態度に不審なものを感じた箒は、目の前にある扉をノックしてから、軽い挨拶と一緒に少しだけ扉を開いた。

 そして、箒の目に映ったのは……

 

「う……うぅぅ……」

 

 ベッドに顔を埋めて泣き声をあげている弥生の姿だった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 一夏を部屋から追い出した後、弥生は速攻で部屋着へと着替えた。

 下着を着た後に二の腕まで覆い尽くす腕袋にニーソックス。

 その上から中学時代に着ていた紺色のジャージを身に纏った。

 基本的に部屋にいる事が多い彼女にとって、この恰好こそが最も落ち着くのだ。

 

(見られた……見られた……見られた……見られた……見られた……)

 

 弥生が体の傷を見られたくなかったのは、見られたから嫌われるとか、イジメに遭うとかと言った理由ではない。

 

(あの偽善が服を着て歩いているような男に見られたら……絶対にこれから先、ずっと付き纏われる……)

 

 これである。

 原作キャラと関わらず、その上でボッチ生活を満喫するには、体の傷跡を隠し続けて自分の特異性を秘匿する事が必須事項である……と弥生は思っていた。

 

(それなのに……よりにもよってあの野郎に見られてしまうなんて……もうおしまいだ……)

 

 初日から早くも詰んでしまったと半ば絶望していた弥生は、涙を流しながらベッドにうつ伏せながらシーツを濡らしていた。

 

「う……うぅぅ……」

(最悪だ……完全に終わった……)

 

 そんな時だった。

 

「失礼する。少しいいか?」

 

 ノックと共に再び部屋の扉が開かれた。

 しかし、泣いている弥生はその事に全く気が付いていない。

 

「な…泣いている……のか?」

 

 部屋に入って来た箒は、弥生の様子を見てただ事ではないと悟った。

 普段は気丈な彼女も、目の前で涙を流している同級生を見て、無粋な態度をするような酷い少女ではない。

 

「見られた……見られた……」

「見られた?」

 

 弥生が発した言葉を聞いて、箒は自分の中で現在の状況を推理する。

 

(この部屋は彼女の部屋であり、そこから一夏が飛び出してきた。そして、彼女は『見られた』と言いながらここで泣いている……)

 

 瞬間、箒の頭脳に一つの答えが舞い降りた。

 

「まさか……!」

 

 自分の考えが正しいか確かめるため、急いで廊下にいる一夏の元に戻った。

 その際に扉は開いたままになってしまったが、それがまた余計な混乱を招く事になる。

 

「一夏ぁっ!!」

「ほ…箒!?」

「貴様ぁ……彼女に何をした……!」

「彼女……?」

「部屋の中で泣いている彼女の事だ!!」

「え……?」

 

 箒に言われて、一夏も立ち上がって部屋の中を覗いてみる。

 そこには、未だに泣き続けている弥生がいた。

 

「あ………」

 

 お人好しが服を着て歩いているような男である一夏にとって、守るべき対象である女性を泣かせるなど論外であるが、現にさっき裸を見てしまった少女…弥生が目の前で泣いている。

 いくら鈍感と言えども、流石に一夏の心にも罪悪感が生まれて、室内に気まずい雰囲気が流れ出す。

 

「ふぇ……?」

 

 その時だった。

 少しだけ涙が収まった弥生は、部屋の中に自分以外の声が聞こえたのを感じ、思わず顔を上げた。

 

「…………!?」

 

 一夏だけでも一杯一杯なのに、その上、箒まで目の前にいる。

 弥生の心を追い詰めるには充分すぎる程の状況だった。

 

(し…篠ノ之箒ぃぃっ!? なんでこいつもここにいるのっ!?)

 

 思わず目を見開いて箒の姿を見る。

 

(篠ノ之箒と言えば、織斑一夏を常に最優先に考えて、口よりも先に手が出る剣道を暴力行為に使う女じゃないか!!!)

 

 弥生の中では、基本的に原作ヒロインは一夏をいつも中心に考えていて、彼の気を引いたり、周囲に女性がいたりする時は手段を選ばず暴力を振るう最悪の存在として強く認識されている。

 故に、ある意味で弥生にとって一夏以上に近づきたくない存在でもあるのだ。

 そんなヒロインの筆頭とも言うべき少女が自分の部屋にいる。

 弥生にとって、絶対に有り得てはならない地獄のような光景だった。

 

(ぼ……木刀持ってる!? って事は……)

 

 弥生の頭の中に最悪の光景が過る。

 

(『よくも一夏をたぶらしたな! 成敗してくれる! 死ねぇぇぇぇぇっ!!!』とか言われて殺される!!!)

 

 剣道の有段者(篠ノ之箒)が木刀を持って自分に殺意を向けている(と思い込んでいる)のを見て、弥生は激しく混乱した。

 

「ひ…ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

 

 悲鳴をあげながら尻餅をついた状態で後ずさりをして、壁にぶつかってから頭を抱えて体を震わせながら、また泣き出してしまう。

 

「お……おいっ!?」

 

 尋常ではない弥生の様子に一夏は心配になって近づくが、声を震わせながら泣いている弥生を見て、その動きが止まった。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいお願いだから打たないで殺さないでおじいちゃん助けて……」

 

 一夏が接近しただけで怯えた弥生を見て、箒の堪忍袋の緒が切れた。

 

「一夏ぁぁぁっ!!! お前と言う奴は!!!」

「箒……俺……」

 

 鬼の形相で近づいてきた箒に胸倉を掴まれた一夏であったが、それを振り払う事もせず大人しく受け入れていた。

 

「私の裸を見ただけに飽き足らず、見ず知らずの少女にここまで怯えさせるほどの仕打ち……お前は男として! いや……人として恥ずかしくないのか!!!」

「俺は………」

 

 実際には箒と木刀に怯えているのだが、真実を知らない当人達は弥生の涙の理由を完全に勘違いし、全ての原因は一夏にあると思い込んでいる。

 

 ここで余談であるが、この箒と言う少女は昔は確かに一夏に対して恋心を抱いていたが、転校して彼と長い間離れていた結果、その恋心は年月と共に薄れていって、こうして再会した今では完全に冷めきっている。

 現在の箒の中での一夏は『昔一緒に過ごした幼馴染』程度の認識でしかなく、少なくとも『数年振りに再会して初恋再び!?』なんてことは無いと本人は思っている。

 

「参考書を捨てたり、自己紹介すらちゃんと出来ない時点でもしかしてと思っていたが……暫く会わない間にお前はどこまで落ちぶれれば気が済むんだ!!!」

「ごめん……」

「私に謝ってどうする!! お前が謝るべきは彼女だろう!!!」

「そう……だな……」

 

 箒の手が離れて、一夏はまだ体を縮こませて恐怖に震えている弥生の傍に近づいて目線を合わせる為に腰を低くする。

 

「えっと……その……本当にごめ「何を騒いでいますの?」……え?」

「お前は……」

 

 この部屋での騒ぎに気が付いてやって来たのは、教室で一夏に啖呵を切ったイギリスの代表候補生のセシリア・オルコットだった。

 よく見れば、彼女の他にも野次馬と化している生徒達が部屋の前に押し寄せていた。

 

「……本当に何をやってますの?」

「実は……」

 

 箒はセシリアに(自分がそうと思い込んでいる)これまでの出来事を説明する。

 話を聞いていく内に、セシリアの心にも怒りが込み上げてくる。

 

「貴方と言う人はどこまで……!」

 

 ズンズンと部屋に上がり込んで一夏に近づいていくセシリア。

 目の前まで行くと、まずは蹲っている弥生を見て、その次に一夏を見た。

 

「確か……板垣弥生さん…でしたわね……」

「…………ぇ?」

 

 またまた聞き覚えのある声に反応して目だけを動かして声のした方を見る。

 

(セ…セシリア・オルコットまでいるぅぅぅぅぅぅっ!? アイエェェェェッ!? ナンデッ!? イギリス人ナンデッ!?)

 

 三度の乱入者に、もう弥生の頭はパンク寸前。

 頭の中がグルグルと回りだし、ネガティブな考えだけが頭を支配する。

 

(この時期のこいつは女尊男非で日本人を見下していた筈……。こんな姿を見られたら……)

 

『なんて無様なお猿さんなんでしょう。目障りだから、せめて苦しまずに逝かせて差し上げますわ。慈悲深い私に感謝しなさい……この薄汚いイエローモンキー風情が!』

 

(とかなんとか罵倒されながら撃ち殺される!!!)

 

 んなわけねーだろ。

 もしかしてそれはギャグで言っているのか?

 思わずそうツッコみたくなる程のネガティブシンキングだが、人と言うのは一度でも後ろ向きな考えが始まると、そう簡単には立ち直れない不器用な生き物。

 それが人一倍コミュ症でヘタレな弥生ならば猶更だ。

 

「お願いしますすみませんでした許してください私が悪かったです死にたくありません……」

「なんて可哀想に……こんなにも体を震わせて……」

 

 弥生のイメージとは裏腹に、セシリアは心の底から心配そうに弥生を見つめる。

 実は彼女、部屋に戻ってから少し自分の発言を振り返り、冷静に考えた結果、流石に自分が悪かったと反省していたのだ。

 故に、今のセシリアは女尊男非思考はそのままであっても、日本人を見下したりはしていない。

 

「織斑一夏……貴方と言う人は……!」

 

 セシリアの方を振り向いていた一夏に向かっての全力ビンタ。

 バチンッ!といい音が部屋に鳴り響いた。

 

「恥を知りなさい! この最低男!!」

 

 この瞬間、セシリアフラグが完全に折れてしまった。

 

 ビンタをされた一夏は、自分がどれだけの事をしてしまったのか改めて思い知り、無言でふらふらと歩いて部屋を出て行ってしまった。

 

「お…おい! まだ謝罪が……」

「放っておきなさい。今の状況で下手に謝られては、却って逆効果ですわ」

「そうだな……」

 

 部屋に残ったのは弥生と箒とセシリアの三人。

 しかし、まだ弥生は怯え続けている。

 それもそうで、弥生にとっての恐怖の対象は箒とセシリアであって一夏ではない。

 この二人が部屋にいる限りは弥生の心に平穏は訪れない。

 

「一夏が去っても、まだこんなに怯えて……」

「あの男は板垣さんにどんな酷い事をしたんですの……!」

 

 二人の中で一夏の評価が急降下していった。

 哀れ原作主人公。

 様々な偶然と勘違いの末に、君の嫁候補が二人もいなくなってしまった。

 

 だがしかし、ここで弥生の精神にトドメを刺す存在が降臨する。

 

「お前達。ここで一体何をしている……」

 

 我らが偉大なる担任様、織斑千冬先生のお出ましである。

 

 優れた観察眼を持つ彼女は、すぐに部屋の状況を見て何かがあったと察した。

 

「……何があった?」

「その……」

 

 自分が把握している部分だけを事細かに説明していく箒。

 そう……彼女が把握している部分だけ(・・・・・・・・・・・・・)を。

 

「あの馬鹿者が……!」

 

 思わず頭を抱える千冬。

 女子達の中に男が一人混ざるのだから、何かあるとは思ってはいたが、まさか初日から問題を起こすとは予想もしていなかった。

 しかも、その当事者である弥生の様子が尋常ではない。

 

「後で織斑には事情を聞きつつも話をするとして……」

「問題は板垣さんですわね……」

 

 一人の教師として、同じ女として、ここまで怯えている少女を目の前にして何もしないなんてことは千冬には出来なかった。

 

「板垣……」

 

 出来るだけ優しく千冬は弥生の事を抱きしめた。

 最初はビクッ!となっていたが、人肌の温もりを感じて安心したのか、体の震えは収まった。

 

(この様子……真耶の言った通り、過去に何者かからとても酷い事をされたに違いない……。それも、私達が想像すら出来ない程の所業を……)

 

 そっと弥生の頭を撫でながら、千冬のある決意をした。

 

(私達教師がこいつの事を全力で守ってやらねば……! 大人として…いや、教師として教え子の笑顔を守るのは当然の義務だ!)

 

 教師として非常に立派な考えであるが、弥生にとっては最悪のフラグが立った瞬間でもあった。

 そんな事はつゆ知らず、彼女は千冬の抱擁を堪能しながら、ある事を思った。

 

(なんだろう……凄くいい匂いがする……。暖かくて安心するけど……これって誰なのかな……)

 

 僅かではあるが警戒心が溶けつつある弥生。

 自分を抱きしめている人物の顔を見ようと顔を上げるが、その顔は一瞬で凍結する事となる。

 

 さて、ここで読者諸君に質問だ。

 弥生は全身に傷跡を抱えてはいるが、それでも誰もが認めるレベルの美少女だ。

 片目を隠しているミステリアスな雰囲気を抱えた美少女が、自分の胸の中で涙目になりながら上目使いで己の事を見つめてきた。

 もしも、そんな状況に遭遇したら大抵の人は一体どうなると思う?

 答えは……

 

「はぅ……?」

「「「はぅわっ!?」」」

 

 こうなる。

 ズキューン! と言う効果音がどこからともなく聞こえてきて、この場にいる三人の心を直撃した。

 天使のラッパが鳴り響き、キューピットがハートの形をした矢を三人の胸に突き刺す。

 

(((か…可愛い!!!)))

 

 一方、当の弥生はと言うと?

 

(お…織斑千冬ですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!? マジで殺されるぅぅぅぅ!!)

 

 最大最悪の存在に抱きしめられていると言う事実が弥生の精神に最強の一撃をぶちかました。

 その結果、弥生は……

 

「キュウ……」

 

 ぱたりんこ。

 完全に白目を剥いて気絶し、そのまま千冬の胸に飛び込むような形になった。

 

「大丈夫だ。私はここにいるからな」

 

 とても優しい笑顔で弥生を撫でる千冬であったが、抱きしめられている本人は絶賛気絶中である。

 その事に誰も気が付いていないのが、なんとも皮肉な事だ。

 

(ぷりーず……へるぷみ~……)

 

 美少女ヒッキー弥生ちゃんの魅力に取りつかれた三人と、艱難辛苦の毎日が約束されてしまった弥生、色んな意味で不憫な目に遭っている一夏。

 彼等、彼女等の明日はどっち~?  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちゃんと出来ているのかな……?

非常に不安が大きいです。

あと、この作品は別に一夏アンチじゃないのであしからず。

ちゃんと弥生からの各ヒロイン達の印象は少しずつ改善していく予定です。

それと人見知りが治るかどうかとは全くの別問題ですけどね。


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夢であるように

最近思ったんですけど、アマリちゃんって魔法少女……ですよね?

そうなら、スパロボ初の魔法少女主人公爆誕?

ま、可愛いからどっちでもいいんですけどね。






 自分の部屋に戻った一夏は、ベッドに座って一人で静かに考え込んでいた。

 そう、一人で……だ。

 

 本来ならいる筈の箒は部屋にはいない。

 彼女は千冬に『このまま一緒の部屋で過ごしていたら、今日のような事がまた起こる可能性があります。ですので、私は部屋替えを希望します』と言って、この部屋から出て行った。

 色々と言いたい事もあったが、今回は完全に自分に非があると認めているため、一夏は何も言わずに箒を見送った。

 

 千冬からの有り難い説教を受けて、部屋にトボトボと戻ってきたまではいいが、彼の頭の中にあったのは弥生の体に刻まれた無数の傷跡の事だった。

 

「あの子の傷……」

 

 女は男が守るべき。

 そんな前時代的思想に完全に染まっている一夏にとって、弥生の傷跡は見るに堪えない物だった。

 

(あの子に何があったのか知らないけど……俺のせいで思い出したくもない事を思い出させてしまったのかもしれない……)

 

 確かに意図せず弥生の裸を見てしまったが、彼がした事はそれだけで、それ以外には何もしていない……と思っている。

 本当は、一夏が弥生の前に現れたこと自体が彼女にとっては大事なのだが。

 

「あんなにも怯えさせて……泣かせて……くそっ! 入学初日から何やってんだよ俺は……!」

 

 心の中が自己嫌悪に包まれていく。

 今でも弥生が怯えながら泣いて自分を見ていた目をはっきりと思い出せる。

 

「最低だ……俺は……」

 

 その自覚があるのはいい事だが、その前に彼にはまずやる事がある。

 

「今日はもう無理かもしれないけど……明日、絶対に謝ろう。例えどんな事をされても謝り続けるんだ。何をされても文句は言えない……俺はそれだけの事を彼女にしてしまったんだから……」

 

 決意は固いようだ。

 良くも悪くも真っ直ぐなのが彼の美点ではあるが、それが相手にとってもいい事であるとは限らない。

 例えば、こんな風に。

 

「板垣さん……って言ったっけ。俺は強くなる……強くなって、君の事を絶対に守って見せる……!」

 

 力強く拳を握りしめて心を決めた一夏。

 だが悲しいかな。

 弥生はそんな事は全く望んではいない。

 寧ろ、彼女の事を思うのであれば可能な限り近づかない事こそが正しいのだ。

 しかし、守ること大好き人間である一夏は、そんな考えに至る事は無いのであった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「ん……んん……?」

 

 次の日の朝。

 弥生は自分のベッドで目を覚ました。

 

「朝……?」

 

 起き上がりながら頭を押え、少しだけボ~ッとして頭を起動させる。

 

「なんか……凄く嫌……な夢を見た……よう…な気が……」

 

 彼女にとっての最悪の状況。

 最も恐ろしく、同時に忌むべき存在である原作キャラ達が次々と自分の部屋にやって来るという夢。

 

(そ…そんな訳ないよね~? アイツ等がこぞって私の部屋に来るなんて、普通有り得ないよね~?大体、なんの用があってあいつ等がここに来るんだって話ですよ)

 

 見事な現実逃避。

 弥生にとっては悪夢に等しい出来事であったため、夢だと思いたいのも無理は無い。

 

「朝ごは…んの…準備……でもしよう……かな……」

 

 ベッドから降りて、洗面所で顔を洗って眠気を飛ばしてから備え付けのキッチンに向かう。

 

(基本的に朝はパンでもご飯でもいいんだけど、今日はなんとなくパンな気分かな~)

 

 冷蔵庫を開けて中身を確認。

 数秒間見てから、朝ごはんのメニューが決定した。

 

「よし……!」

 

 この学園に来て初めてみせる笑顔を浮かべて、弥生は冷蔵庫から食材を出そうとした……その時だった。

 

 コンコン

 

「え?」

 

 いきなり、部屋の扉がノックされたのだ。

 こんな朝に一体誰が自分の部屋に来ると言うのか。

 嫌な予感に苛まれながら、弥生は慎重に扉まで向かってちょっとだけ開いた。

 

「おはよう! 弥生!」

「おはようございます。弥生さん」

「……………………」

 

 扉の向こうにいる人物達を見た瞬間、弥生は速攻で扉を閉めた。

 

「「えぇっ!?」」

 

 返事も無く扉を閉められれば、そりゃそんな声も出ると言うもの。

 

(…………夢じゃなかった)

 

 現実とは非情である。

 昨日の事で弥生の事が気になった箒とセシリアは、完全に場所を把握した彼女の部屋まで迎えに来たのだ。

 弥生にとっては非常に大きなお世話なのだが。

 

『弥生さ~ん? ここを開けてくださ~い!』

『一緒に朝食を食べに行こう』

(じょ…冗談じゃない! 何が悲しくてお前達と一緒に朝ごはんを食べなきゃいけないんだよ!)

 

 朝は一人で静かに食べたいと思っていたのに、まさかの介入者によって折角の爽やかな朝が台無しになってしまった。

 

(でも、ここで下手に逆らったりしたら……)

 

 弥生の脳内に頭を木刀で叩き割られて、体を蜂の巣にされる姿が思い浮かんだ。

 

(今度こそ殺される!!!)

 

 もう選択肢なんてあってないようなものだった。

 入学二日目の朝にして、弥生は早くも追い詰められていた。

 

(行くしかない……! さもなければ……私の命が危ない!!)

 

 心を決めた弥生は、再び扉を少しだけ開けて、勇気を出して二人に話しかけた。

 

「よ…用意をする…から……少し…だけ……待ってて……」

「大丈夫だ。幾らでも待つぞ」

「と言っても、遅刻をしては本末転倒ですから、出来るだけ急いでくださいね?」

「う……うん……」

 

 二人はとても爽やかな笑顔を見せるが、その笑顔も弥生にとっては般若の面ににしか見えない。

 

 急いで扉を閉めてから、弥生はこれまでの人生で最高の速度で着替えを済ませて登校の準備をした。

 まさか、こんな日々がこれからずっと続く事になろうとは、この時の弥生は想像もしていなかった……と言うよりも、したくなかった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

(思うように身動きがとれない……)

 

 弥生は食堂への道中を、箒とセシリアに挟まれながら歩いていた。

 本当に機嫌がよさそうにしているが、彼女達の笑顔が何かを企んでいるとしか思えない弥生は、必死に顔に出さないように恐怖心を抑え込んでいた。

 

「箒さん? 弥生さんが歩きにくそうにしていますわよ? もう少し端を歩いてはいかがかしら?」

「それはこっちのセリフだ。お前こそ端の方を歩け。弥生が困っているだろう」

(お前等二人が私から離れれば、万事解決するんですけどね!)

 

 その一言が言えればどれだけいいか。

 しかし、オリンピックでヘタレ世界大会があれば確実に金メダルを狙えるレベルのヘッタレさんである弥生に、そんな言葉を発する勇気なんて、これっぽっちも無い。

 結局は、二人に流されるがまま食堂へと歩いて行く。

 

「あの子ってさ……」

「うん。昨日、寮で泣かされてた子だよね……」

「ちゃんと来たんだ。よかった……」

 

 昨日の事件はある程度の人数には知られていて、それなりに話も広がっている。

 その当事者である弥生は、必然的に望んでもいない有名人となった。

 

(なんか複数の視線を感じるような……。どうして私の事を見るの? ちゃんと顔に包帯も巻いたし、腕も足も完璧に隠しきれているよね?)

 

 どこかから自分の傷跡が見えていると思って不安に思ったが、それに関してはどれだけ急いでいても常に細心の注意を払っている。

 だから、なんで自分が注目を浴びているのか本当に分かっていない。

 

「皆さんも弥生さんの事を心配なさっていたんですのね……」

「当然だ。弥生は完全に被害者なのだからな」

(加害者はお前等だけどな)

 

 心の中でもいいから言わないと、弥生の精神が本当に持たない。

 弥生の日課に『心の中でツッコむ』が追加された瞬間だった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 食堂について、販売機にて食券を購入してから注文をする。

 注文した品を受け取ってから、またもや箒達と一緒に移動をする。

 

(どさくさに紛れて離れられると思ったけど……駄目だったか)

 

 武道を修めている箒と代表候補生であるセシリアの目を盗んで離れるのは、普通に考えて無謀でしかないが、それでもしなければいけない時が人間にはあるのだ。

 それが今かどうかは微妙だが。

 

 丁度三人で座れる場所を箒が見つけたので、そこで並んで座る事に。

 

(あれ? この二人ってこんなに仲が良かったっけ?)

 

 仲がいいと言うよりは、二人は弥生の傍にいたいだけだ。

 少なくとも、現状では仲良しではないだろう。

 

「あの……弥生さん?」

「本当にその量を食べるのか……?」

「ほぇ?」

 

 箒は日替わり定食、セシリアはトーストセット、量は至って普通だ。

 しかし、弥生は違った。

 彼女が注文したのは『かつ丼定食』。

 ただし、超大盛りだが。

 

(そんなに変かな? つーか、小食なんだな……二人って)

 

 超大盛りと言えば簡単だが、単純計算で普通盛りの約5倍近くの量がある。

 通常ならば絶対に注文などしないが、弥生にとってはこれが丁度いい量なのだ。

 本当に空腹の時は、こんなものではないし。

 

「と…取り敢えず食べるとしよう」

「そうですわね……」

「ん……」

 

 箸を手に取ってからいただきます。

 イギリス人のセシリアは流石に違ったが、同じように見よう見真似をしていた。

 

「ん……美味いな」

「IS学園は至る所に力を入れていますからね」

 

 味を噛み締めながら咀嚼する二人を余所に、弥生は食べる事に夢中になって凄い勢いで箸を動かし続けている。

 その様子はまるで掃除機、いや…バキュームカーを呼ぶべきか。

 とにかく、そこにはリアルフードファイターが存在していた。

 

「見る見るうちにかつ丼が無くなっていく……」

「まるで、早送りの映像を見ているようですわ……」

 

 弥生は基本的に非常に大飯食らいで、同時にアニメやラノベと同じぐらいに食事が大好きな女の子だ。

 食べている間は余計な事を考えずに、只管に食事に集中出来るから。

 

 二人が食べ終えると同時に、弥生もかつ丼を食べ終えた。

 

「美味し…かった……♡」

「本当に食べてしまった……」

「この小さな体の何処に先程の食事が入るのかしら……」

 

 恐らく、その殆どが胸に行っているのだろう。

 かと言って、弥生が馬鹿と言う訳じゃないが。

 

 因みに、食堂には一夏もいたが、その周囲を彼に興味を持ち、尚且つ昨日の出来事を知らない女子生徒達に囲まれて、弥生の所に行きたくても行けない状況になっていた。

 

 彼女達が食事を終えて食堂を後にした直後に千冬もやって来たが、弥生の姿が見えない事に心の中で残念がっていた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 二時間目が終わり、私は素早く教室を出てからトイレに直行した。

 本当はもっとゆっくりと向かいたかったが、そうでもしないと『あの二人』がついて来てしまう。

 全く……どうして私に付きまとう? 私が一体何をした?

 

「はぁ……」

 

 もう何度目になるか分からない溜息を吐きながら、私はトイレから出て教室に戻ろうとした。

 だが、そこにある人物が立ちはだかった。

 

「板垣さん……」

「!!!!!」

 

 お…織斑一夏!?またなんでこいつがここに!?

 って言うか、まさか女子トイレの前で待ち構えてたのか!?

 こいつ普通に変態じゃね?

 

「本当は朝一番で会うべきだったんだろうけど、ちょっと出来なかったから、ずっと君と二人きりになれるタイミングを待ってた」

「二人……きり……!?」

 

 な…何を考えてるんだよ……こいつは……。

 昨日の事と言い、今回の事と言い、こいつが考えている事が全然分からない……。

 

「何を言うべきか色々と考えたけど、俺の頭じゃ碌な言葉は思いつかなかった。だから、はっきりと言うよ」

 

 な…何を言う気だよ……。

 なんか、軽い恐怖を感じるんだけど……。

 

「板垣さん!」

 

 俺が密かに身構えていると、こいつはいきなり、その場で土下座をしてきた!

 

「昨日の事は本当にゴメン!! 何が君を怖がらせたのかは知らないけど、昨日のアレは間違いなく俺が全て悪い!! こんな謝罪一つで許して貰えるなんて全然思ってないけど、それでもこうしないと俺の気が済まないんだ!! 君が望むのであれば、好きなだけ俺の事を殴るなり蹴るなりしてくれ!! 俺は君にそうされるだけの事をしてしまった!!」

 

 こ…こいつ……思ったよりも誠実……

 

「さぁっ! やってくれ!! 早く!!」

 

 前言撤回。

 やっぱこいつ唯の変態だわ。

 謝罪の気持ちがあるのは認めるけど、だからと言って自分を殴れとか……普通にドMじゃねぇか!!

 原作キャラとか主人公云々以前に、純粋に気持ち悪いわ!!

 

「そ…そう言うのは……いい……です…から……だから……顔を……上げて……」

「板垣さん……君は……」

 

 うをっ!? 今度は何さ!? 

 急に立ち上がって私の手を握りしめてきたんですけど!?

 

「あんな事をした俺なんかを気遣ってくれるなんて……なんて優しいんだ……君は……」

「ちょ……離して……」

 

 強く握りしめすぎだっつーの……!

 手ぇ痛いんですけど……!

 

「俺……強くなる。強くなって板垣さんを……弥生を守れるように強くなる!! いや! 絶対に守ってみせるから!!」

「あ…あの……えっと……その……」

 

 そーゆーの本当に結構ですから!!

 十分に間に合ってますから~!!

 

「俺はもう……君を泣かせたりしない!! 約束する!!」

「そ…そう……です…か……」

 

 それならまずは私から離れてくれよ~!

 もしもこんな場面を誰かに見られりしたら……。

 

「何を……」

「やっていますの……!」

「「げ」」

 

 言った矢先にこれだよ!!

 篠ノ之箒とセシリア・オルコットとか、最悪のタイミングじゃないか!!

 私とこいつが手を握り合っている姿とか、絶対に見せちゃいけない場面じゃん!!

 

「おぉ~りぃ~むぅ~らぁ~……!」

「いぃ~ちぃ~かぁ~……!!」

 

 こ…今度こそ本当に殺されるぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!

 

「一度ならず二度までも!!」

「貴方は何度すれば気が済むのですか!!」

「い…いや、俺は弥生の事を……」

「「問答無用!! あと、弥生(さん)の事を気安く名前で呼ぶな!!!」」

「えっ!? ちょ…ちょっとっ!?」

 

 物凄い形相でこっちに向かってくるっ!?

 だ…誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇっ!!!

 

「…………え?」

 

 と…通り過ぎた?

 

「「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」」

「誤解だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 ……行ってしまった。

 

「…………戻ろ」

 

 その後、あの三人は授業に遅れてしまい織斑先生の出席簿アタックの餌食となった。

 まさか織斑一夏は、この出席簿アタックを態と受ける為にあんな事をしたんじゃ……。

 

 そう言えば、結局のところ…織斑一夏は何がしたかったんだ?

 私に昨日の事を謝りたかったのは分かったけど、その後の事がインパクト強すぎて謝罪の精神が薄く感じてしまう。

 ま…まさか! 私にぶたれて快感を得る事が一番の目的だったんじゃ……。

 

 偽善者で、口だけで、女たらしで、おまけに変態かよぉぉぉぉぉっ!?

 私……とんでもない奴に目をつけられたのかもしれない……。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




弥生のストーカ一夏、誕・生。

ヒロインの二人も人の事は言えませんが、一夏は更に弥生から変態と思われました。

複数の意味で一夏に対する警戒心上昇です。


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癒し系キャラ

ここらで弥生にとって数少ない癒しとなるキャラを投入しようと思います。

ISにおける癒し系と言えば、大体の人が『彼女』を想像するでしょうね。

その想像の通りの彼女です。







 三時間目になって織斑(フルネームで呼ぶのが面倒くさくなった)の専用機の話が出た。

 その一連の会話は原作通りだったので、特に特筆すべき事は無い。

 唯一違う所があるとすれば、専用機を用意して貰えると聞いた途端に私の方を向いて見事なサムズアップをした事か。

 それを見て数人の女子がうっとりとしていたが、それを向けられた私は一体どんな反応をしろと?

 他の子達のように顔を赤らめろとでも?

 そりゃ無理だわ~。

 アイツの本性を垣間見た今となっては、もう最初から0だった好感度がマイナス値になってるし。

 そんな顔はお前さんのハーレム達に対して向けなさい。

 ほら、織斑の顔を見て篠ノ之辺りがうっとりとして……

 

「馬鹿かあいつは……」

 

 ……あれ? なんか呆れてる?

 ま…まぁ……彼女ってあんまり人前で色恋沙汰を持ち出すような人間じゃないし、これはこれでいいの……かな?

 どっちにしても、私には関係ない話だけどさ。

 

 専用機の話の流れから、篠ノ之があの天災兎の妹であると担任様が暴露して、周囲の女子達の反応にブチ切れて大声で怒り出した。

 はっきし言って……めっちゃ怖かったです……。

 なんかまた泣きそうになったし……。

 うぅ……やっぱり原作ヒロインはおっかない連中ばかりだよぉ~……。

 

 オルコットもオルコットで休み時間に入った直後に喧嘩を売りに行ってたし。

 

「よかったですわね。政府から専用機を用意して貰えて」

「お……おう……?」

「これで心置きなく貴方に引導を渡せますわ」

「い…引導……?」

「もうお忘れですの? 貴方が弥生さんにした所業を……!」

「そ…それは! さっきちゃんと謝ったよ……」

「まぁっ! 謝罪した程度で本当に全てが許されるとでも!?」

「ど…どういう意味だよ!?」

「あの時、弥生さんがどれだけの恐怖に震えて泣いて怯えていたか……貴方はほんの少しも理解していないようですわね!」

「う………!」

「もうクラス代表なんてどうでもいいですわ……。今の私の目的は唯一つ! それは…貴方をこの手で完膚なきまでに叩きのめし、弥生さんの無念を少しでも晴らす事!!」

「そ…そうはいくかよ! 弥生は俺が守るって決めたんだ!!」

「どの口が仰るのかしら? 貴方なんかに弥生さんを守る資格が本当にお有りと思って? それ以前に、貴方に弥生さんは相応しくはありませんわ!!」

「勝手に決めんな!! お前になら弥生の隣に立つ資格があるって言うつもりかよ!?」

「当然ですわ! 私はイギリスの代表候補生! 地位、実力、その両方で弥生さんの隣に立つに最も相応しい人間と言っても過言じゃありませんわ!」

「「いや、過言だろ」」

「ちょ……貴方ねぇ! それと箒さんもしれっと混ざらないでください!」

「弥生の隣に立つ資格は私にだってある筈だ。何故なら、あの時…一番に弥生の事を心配して駆けつけたのが私なのだからな!」

「「そ…それは……」」

 

 なんか妙に盛り上がってるな~。

 私はイヤホンをつけて音楽を聞いてるから、あの三人が何を話しているか聞こえないんだけど。

 多分、早くも原作キャラ同士で仲良く乳繰り合ってるんでしょ。

 その調子でくっついて、もう私に関わらないでくださいな。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 昼休みになって私は誰にも気づかれずに食堂へとやって来ることに成功した。

 やっと一人でのんびりと食事が楽しめるよ~♡

 この日をどれだけ待っていた事か……。

 よ~し! 今日はテンションを上げて、ちょっと奮発しちゃおうかな~?

 

「こ…これ……」

「はいよ。……本当にこれを注文する気かい?」

「………? はい……」

「そうかい……分かったよ。ちょっと時間が掛かるから、この番号札を持って席で待っていてくれるかい? 出来上がり次第、席の方に持っていくから」

「わ…かりました……」

 

 まぁ……確かに、時間は掛かるかもしれないな。

 ここはちゃんと割り切って、席の方で大人しく待っている事にしよう。

 

 『1』と書かれた番号札を受け取ってから、私は一番端の方にある席へと向かった。

 どんな場所でもそうなんだけど、端っこが一番落ち着くんだよね~。

 

 待っている間は今ハマっているソシャゲをする事に。

 

(あ……もうこのイベント始まってるんだ……)

 

 こんな時の為にストックはしてあるから、早速ガチャをしなくては。

 上手くSRとかが出るといいなぁ……。

 

 私がスマホゲーに夢中になり始めると、すぐ後ろから声が聞こえてきた。

 

「あ! かんちゃん、ここが空いてるよ~」

「ちょっと本音……待ってよ……」

 

 本音? 本音ってまさか……。

 スマホの画面から目を離して後ろを振り向くと、そこには一人のクラスメイトと、この時点では会わない筈の存在が立っていた。

 

「あ………」

「お! なんか見た事のある後ろ姿だと思ったら、やよっちだったのか~」

 

 布仏本音……。

 数多くいる原作キャラの中でも、比較的大人しい部類に入る子だったよな……。

 性格的に見ても、他の連中とは違って暴力的な描写も無かったし……。

 でも、問題はその隣にいる子なんだよね……。

 

「『やよっち』って?」

「板垣弥生だから『やよっち』だよ~」

「また勝手に人の渾名をつけて……」

 

 彼女の隣で溜息を吐いている水色の髪の少女は……原作ヒロインの一人でもある『更識簪』じゃないか!!

 私の記憶が正しければ、本人は至って大人しい少女だが、問題は彼女の姉にある。

 

 更識楯無。本名『更識刀奈』。

 暗部である『更識家』の現当主であり、自由国籍を取得したロシア代表。

 そして、このIS学園の生徒会長でもある。

 ここまで言えば凄い人物に聞こえるが、その中身は痛々しい程のシスコン。

 妹に危害を加える存在には敵対心丸出しにして、己の権力を使って色々と脅しをかけて、場合によっては排除すらもしようとする女……!

 私の中では織斑姉弟と並ぶ程の危険人物として『弥生ブラックリスト』に記入してある。

 

「ねぇねぇ、やよっち~。隣に座ってもいいかな~?」

 

 更識簪は言うに及ばず、この布仏本音も生徒会のメンバーだった筈。

 ここで下手に断って、あのシスコン会長を敵に回すのだけは絶対に御免だ!

 慎重に……慎重に言葉を選ばなくては……!

 

「ど…どうぞ……」

 

 急いで立ち上がって、二人の分の椅子を引いてあげる。

 これぐらいしないと、後でどんな目に遭うか分かったもんじゃない。

 

「お~…ありがとね~♡」

「ありがとう……」

 

 よし! まずは第一関門突破!

 ここからは大人しくしていれば大丈夫……。

 

「あ……貴女は昨日の騒ぎの……」

 

 え? 昨日の騒ぎ?

 

「大丈夫だった……?」

「な…んとか……」

「そう……よかった……」

 

 私の中じゃ姉に対するコンプレックスの塊ってイメージなんだけど、こうして話せば普通にいい子なんだな……。

 本当に……あの会長様が全ての元凶なんじゃないだろうか?

 

 布仏さんは『お茶漬け定食』を、更識簪は『月見うどん』を注文していた。

 たったこれだけで本当にお腹いっぱいになるのかな?

 

「えっと……二人は……」

「あ、そう言えばまだじこしょーかいしてなかったね。うっかりうっかり」

「本音……」

 

 そこ、呆れてあげないであげて。

 こればっかりはマジで仕方が無いから。

 悪いのはあの朴念仁だから。

 

「私は『布仏本音』。同じクラスだから、仲良くしようね、やよっち~」

「更識簪……四組……です」

 

 これはこれはご丁寧に。

 ここは私も自己紹介をしなくてはいけませんな。

 

「板垣弥生……です」

 

 完っ璧! 今回はちゃんと言えたぞ!

 

「よろしく……板垣さん」

「は…はい……更s「名字で呼ばれるのは好きじゃないから名前で呼んで」ひぃ……!」

 

 こ…怖ぇ~!?

 なんか急に言葉を遮って睨み付けてきたんですけど~!?

 

「かんちゃん~。やよっちを苛めちゃだめだよ~」

「別にそんなつもりじゃ……」

「それでも……だよ。昨日の事……忘れたの?」

「あっ………」

 

 な…なんちゅー子だ……。

 天然キャラに見えて、その実はちゃんと他者の気遣いが出来る優秀キャラだったとは……!

 

「……ごめんなさい。少し言い過ぎた……」

「大丈夫……です。こっち…こそ……すみません……でした……」

「はい、仲直り」

 

 布仏さんが私達の手を取って、そっと握らせてきた。

 腕袋越しではあったけど、彼女の手はとてもポカポカしていた。

 

「これで、私達はお友達だね」

「友……達……?」

 

 私と……彼女達が……友達……?

 

「うぅ……」

「や…やよっち!?」

「ど…どうしたの?」

「私……今まで…ずっと一…人(でいる事が好き)で……(相手の方から)友達っ…て言われた……の(前世も含めて)初め…てで……」

「やよっち……」

「板垣さん……」

 

 くそ……ボッチ道を極めつつ私が……まさか『友達』と言われただけで泣いてしまうとは……。

 けど……だけど……なんでか嬉しかったんだ……。

 一人が好きな筈なのに……一人の方が気楽な筈なのに……。

 

「私はやよっちを一人になんてしないよ。大切な『友達』だから。ね? かんちゃん」

「うん。私と板垣さん……いや、弥生は今日から友達」

「二人…とも……」

 

 やば……涙が止まらないや……。

 

「ありが…とう……」

「「…………!?」」

 

 ちゃんと笑顔……出来てたかな?

 今にして思えば、この二人って原作でもとてもいい子達だったじゃないか……。

 この二人なら心を許してもいいかもしれない……。

 少なくとも、第一期ヒロインズ(暴力女達)のような事はしないだろうし……。

 

(やよっちの笑顔……とっても可愛かったよ~♡)

(え? ちょっと? なんで私こんなにドキドキしてるの? 相手は同い年の女の子だよ?)

 

 おじいちゃん……弥生は生まれて初めて、心から信頼出来る人間……友達が出来ました。

 私もとうとうリア充の仲間入りか……。

 

「おやおや。なんだか楽しそうにしてるじゃないのさ」

「「「あ」」」

 

 私が注文した品を持ってきてくれた食堂のおばちゃんが、ニコニコしながら大きな木製の桶と熱いつゆが入っている器を私の目の前にドンッ!と置いてくれた。

 

「それじゃ、確かに渡したからね。無理しない程度に食べるんだよ」

 

 さっきまで置いてあった番号札を代わりに持っていった。

 

「や…やよっち……?」

「これはなに……?」

「えっと……釜あげ…うどん?」

「いや、それは見て分かるんだけど……」

「量が……」

 

 そんなに驚くような事かな?

 木製の大きな桶に並々と入っている熱々のお湯に入っているのは、16人前の釜あげうどん。

 普段でも食べられる量ではあるけど、リア充の仲間入りを果たした今の私ならば、余裕で平らげられる自信がある!!

 

「二人…は食べない……の?」

「「あ!」」

 

 忘れてたのかよ……。

 

「「「いただきます」」」

 

 簪のうどんは少し危なかったが、それでも何とか食べられた。

 本音はなんともスローなペースで食べていて、見ているこっちが心配になってくる。

 

「「おぉ~……」」

「ほうひはひふぁ?」

「凄いね~……」

「美少女フードファイター……」

 

 フードファイターって……私なんてまだまだでしょ。

 本職のフードファイターの人は私なんて比較になんてならないよ。

 

「人は見かけによらない……」

「だね~…。それでいて、本当に美味しそうに食べてるよね~」

 

 実際に美味しいからね。

 あ~……マジで麺料理大好き。

 うどんも蕎麦もラーメンもどんと来い!

 他にもちゃんぽんとかもいいよね~。

 いつか長崎まで行って、本場の長崎ちゃんぽんを味わってみたいな~。

 

 後で知ったんだけど、私の事を追いかけて織斑も食堂にやって来ていたらしいが、お約束のように篠ノ之とセシリア・オルコットと遭遇して、また追いかけられたらしい。

 向こうも向こうでリア充をしてるんだな~。

 早くハーレムを築いて、私の事なんか無視して原作のようなドタバタした毎日を送ってくれたまへ。

 私は私で、ここにいる『友達』と充実した毎日を送るからさ。

 

 そういや、本来ならここで織斑が上級生に『ISの事を教えてあげる』って言われていたっけ。

 そんでもって、それにムキになった篠ノ之が自分の素性を明かして、自らあの野郎の特訓を受け持つ事にしたんだよな。

 先輩に誘われなくても、結果的に放課後に一緒に練習をするんだろうな。

 ……私には関係無いか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、少し一夏を救済したいと思います。

流石にこのままじゃ不憫ですからね。

でも、その事でまた弥生に気苦労が増えるかも?


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甘~い!!

今回は勘違い要素が少ないかもしれません。

何故なら、今回は少しだけ弥生の中で一夏の株を上げるつもりだからです。

果たして、ワンサマーはどんな事をして弥生の好感度を向上させるのでしょうか?






 放課後になり、一夏は職員室へと向かっていた。

 と言うのも、ISの事を殆ど知らず、訓練すらも碌にした事が無い自分では、確実に一週間後の試合で敗北してしまうと思ったからだ。

 原作通りならば箒に頼るのだが、昨日の事件によって箒の中で一夏の株は急降下しており、ちゃんとした会話をする事すら困難で、ISの事を教えて貰う事なんて論外だった。

 そんな彼が真っ先に頼ったのが、自身の姉であり一組の担任でもある織斑千冬。

 ことISに関してはプロ以上の存在である彼女であれば、きっといいアドバイスをくれると思ったから。

 

「で? 私の所に来たと?」

「うん……」

 

 職員室の千冬の机までやって来て、覇気のない顔で彼女と話している。

 

「確かに、私ならばお前に色々と助言をする事は出来るだろう」

「じゃあ……「しかし」……?」

「試合の形式をとっている以上、教師としてお前にだけ肩入れをする訳にはいかない。それは分かるな?」

「あ…あぁ……」

 

 なんとなく分かっていた答え。

 いくら血を分けた姉とは言え、ここでは教師と生徒。

 ここで一夏に何かを言えば、間違いなく身内贔屓と揶揄されるのは明らかだった。

 そうなれば、一夏にも千冬にもいい事は何も無い。

 

「そう落ち込むな。そうだな……」

 

 かと言って、ここで何もせず放り出す事もしたくない。

 千冬は少しだけ考えて、あるアイデアを思い付いた。

 

「そうだ。板垣にでも教えて貰ったらどうだ?」

「弥生に?」

 

 意外な人物の名前が姉の口から出た事に、一夏はキョトンとなった。

 

「弥生? あぁ……板垣の事か。その通りだ。普段のアイツの様子からは想像も出来ないかもしれんが、ああ見えても板垣は学年次席なんだぞ」

「次席って……入学試験で二番目の成績だったって事か?」

「そうだ。因みに、主席はオルコットだ」

「マジかよ……。弥生ってそんなに凄かったんだ……」

「私も後で知って驚いたがな」

 

 その食事量もさることながら、弥生は意外と優等生だったりする。

 オタク故に、変な部分に知識が偏ってはいるが。

 

「昨日の事を詫びるついでにダメ元で頼んでみたらいい。真面目に頑張っている姿を見せれば、アイツも少しはお前の事を見直すかもしれんぞ?」

「弥生が俺を……」

 

 弥生と一緒に勉強できる。

 それを想像しただけで、一夏の心臓は大きく高鳴った。

 

「アイツだって、勉強を教えて欲しいと言われて無下にはしないだろうしな。試しに言ってみろ。勿論、その前にちゃんと謝罪をする事は忘れずにな」

「分かったよ! 弥生に頼んでみる! ありがとう! 千冬姉!」

 

 来た時とは打って変わって、テンションを高くして職員室を出て行った。

 

「私の事は織斑先生と呼べと……まぁ…いいか」

 

 なんかかんだ言って、弟には甘い織斑先生なのだった。

 

(しかし、一夏の奴……板垣の事を言った途端に嬉しそうにしていたな。まさかアイツ、板垣の事を……? 確かに、シチュエーション的には少し前の恋愛マンガのようではあったが……。もしもそうならば、あの朴念仁にもようやく春が訪れたと言う事か……。仮にあいつ等が両想いになって付き合い始めて、そこから段々と関係が深まっていき、そして最終的には結婚……。そうなれば、板垣は私の義理の妹と言う事に? それは……)

「悪くないな……」

 

 弟の幸せを願っているように見えて、その実は弥生が身内になる事が嬉しい千冬。

 そこでちょっとだけ妄想をしてみる。

 

『御飯が出来ましたよ。千冬お姉さま』

『もう……変な所を触らないでください……』

『きゃっ! こんな事……でも、お姉さまになら私……』

 

 遠い目になりながら、地味に鼻血を流す。

 その顔は明らかに二やついていた。

 

 机の上にある不要なプリントの裏に思わず『織斑弥生』と書いてみる。

 

「織斑弥生……か。悪くないな……」

「せ…先輩?」

 

 後ろで二人分のお茶を持って来た真耶が、苦笑いをしながら見つめていた。

 

 流石の彼女も、まさか目の前の女が妄想の中で実の弟の婚約者をNTRする事を考えてるとは、夢にも思わないだろう。

 

 こうして、またもや弥生の知らぬ場所で彼女の望まないフラグが立ったのだった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 放課後の図書室。

 私は勉強の為の資料や参考書を借りに来た。

 ん~? 私だってちゃんと勉強ぐらいはするんですよ?

 唯でさえIS学園は超がつく程のエリート校だからね。

 授業に遅れないように普段から勉強は怠らないようにしないと。

 趣味などはやるべき事をちゃんとしてからすればいいんだから。

 

「んん……!」

 

 と…届かない……!

 あの上の棚にある参考書が取りたいのに、あと少しだけ届かない……!

 台……台はどこかにないのか……?

 

(げ……!)

 

 周りを見たら、台は全部使われてる……。

 こうなったら、自力で取るしかないのか……!

 仕方が無い。これだけは使いたくは無かったけど、最終奥義『棚昇り』を使って……。

 

「ほら。これだろ?」

「あ………」

 

 横から手が伸びて、誰かが私が取ろうとしていた参考書を持って私に渡してきた。

 

「あ…りが…と……う?」

「弥生の為ならこれぐらい、いつでもするよ」

 

 げ! 織斑一夏!?

 図書室とは縁も所縁も無さそうなこいつがなんでここに!?

 

「弥生は真面目なんだな。放課後に図書室に来るなんて」

「な…んで……?」

「弥生の後ろ姿を見つけて、後からついて来た」

 

 やっぱこいつストーカー!

 私なんかに付き纏って、何のつもりだよ!

 はっ! まさか……あの時の事を利用して、私を脅すつもりか!?

 

「その……さ。実は弥生にお願いって言うか……頼みがあるんだよ」

 

 矢張りか! な…何を言う気だこのヤロ~!

 

「俺にISの事を教えて欲しいんだ!」

「え………?」

 

 えええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?

 なんで!? なんで俺にそれを言うの!?

 

「千冬姉に聞いたらさ、弥生に頼んでみればいいんじゃないかって言ってくれてさ。弥生って学年次席なんだろ?」

 

 ま…マジで!? 私ってそんな好成績を残してたの!?

 そんな話、今初めて聞かされたんですけど!?

 って言うか、あのバカ姉はなんで余計な事を吹き込むんだよ!

 私を巻き込もうとするんじゃないよ!

 

「頼む! このままじゃオルコットに何も出来ないで負けちまう! それだけは絶対に嫌なんだ!」

「……………」

 

 男としてのプライドってヤツ?

 私も元男としてその心境は理解出来るけど、ここで協力するってのは話が別だしな……。

 でも、ここでもしもこいつの頼みを断ったりしたら、間違いなく織斑千冬の逆鱗に触れて、そして……。

 

(100%の確率で死亡フラグが立ちますな)

 

 これもう選択肢なんて無くね?

 『はい』と『いいよ』しか無くね?

 

(ここは……本気で腹をくくるしかないようだな……)

 

 でも、このまま普通に教えたんじゃ駄目だしな。

 ちゃんとこっちから条件を付けないと。

 

「わ…分かりまし…た……」

「え? いいのか?」

「…………(コクン)」

「やった! 本当にありがとな!」

 

 こらそこ! 興奮して私の手を握るな! つーか五月蠅い!

 

「ここ……図書室……だから……静かにして……」

「あっ……そうだったな。悪い……」

 

 バツが悪そうにして手を離すが、それでも嬉しさは隠しくれてないようだ。

 だって、なんかニヤニヤして気持ち悪いし。

 

「あれ……織斑君だよね?」

「嬉しそうに手を握ってたって事は……もしかして彼女?」

「マジか~……そうだよね~……あれだけイケメンなら、彼女ぐらいいるよね~……」

 

 ほらぁ~……なんか注目されてるし~!

 それと! 誰がこいつの彼女か! そんなの死んでも御免だわ!!

 

「んじゃ早速ここで「でも……」どうした?」

「ここでする……のは恥ずかしい……から、その……私の部屋でしま……せんか?」

「や…弥生の部屋で……?」

「う……ん……」

 

 こんな大衆の目がある場所で一緒に勉強なんてしたら、間違いなくヒロインズの耳にも入る。

 もしもそんな事になれば、別の方面で死亡フラグが立つは必然!

 何が悲しくて死亡フラグを幾つも立てなきゃいけないんだっつーの。

 

(や…弥生からのお誘い!? うわ……マジで嬉しい!! 弥生と部屋で二人っきりで一緒に並んで座って勉強か……最高だな)

 

 ……絶対に碌な事を考えてないな。

 女になってから男のそんな部分に敏感になったから、よく分かるよ。

 

「わ…たしは先に行ってるから……準備を……して…後で来てください……。出来…れば誰にも……見られないで……」

「了解だ。任せてくれ」

「そ…それじゃ……」

 

 ここは敢えて分かれて行動しないと、移動中に一緒にいるところを見られたら一巻の終わりだからな!

 けど……なんでこんな事になったんだろ……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 十数分後。

 一夏は勉強道具一式を持って弥生の部屋の前にいた。

 と言っても、隣の部屋なのでそこまで言うほどではないのだが。

 

「な…なんか緊張するな……。前に来た時は俺も弥生も色々と普通じゃなかったしな……」

 

 お互いの考えている事は真逆ではあるが、それでも短時間でここまで来れたのは奇跡的だと言えるだろう。

 なんせ、二人のファーストコンタクトは最悪に近かったのだから。

 

「だ…誰もいないよな?」

 

 周囲を見渡して、誰もいない事を改めて確認する。

 一夏は弥生が誰にも見られないで来るように言ったのか全く理解してないが、それよりも弥生の部屋に本人の許可を取って入れる事が何よりも嬉しかったので、大して気にはしていなかった。

 

「えっと……ちゃんとノックぐらいはしなきゃ……だよな?」

 

 疑問形ではなくて、人としての当然のマナーである。

 それでも、ノックと言う行動を出来るようになっただけでも、少しは進歩している……のか?

 

 震える手でドアを軽く数回ノックして、室内にいるであろう弥生に話しかける。

 

「や…弥生? 俺…一夏だけど」

 

 数秒後、少しだけ扉が開いて、その隙間からそっと弥生が顔を覗かせた。

 

「早く……入って……」

「お…おぅ……」

 

 彼女が静かに扉を開けて、一夏が中へと入る。

 

「ここが弥生の部屋か~…」

 

 実家から色々と持ってきているとは言え、弥生の部屋は結構小ざっぱりとしている。

 本棚には持って来た漫画やラノベが収納してあって、テレビの近くには各種ハードのゲーム機が置いてある。

 ソフトはテレビの近くにある収納棚に丁寧に仕舞ってあった。

 本当はもっと様々な物を持って来たかったのだが、荷物の都合上、今はこれが限界だった。

 弥生は密かに連休の時にでも一度家に帰って、その時にでも持ってこれなかった物を持ってこようと思っている。

 

「あの……恥ずかしいからあんまり……」

「そ…そうだよな。女の子の部屋をあまりジロジロと見渡すもんじゃないよな。ゴメン…」

 

 またまたデリカシーの無さを露呈してしまった一夏。

 ここから挽回する事は出来るのだろうか?

 

「んじゃ、早速お願いしてもいいかな?」

「は…はい……」

 

 備え付けの椅子を二つ並べて、二人は並ぶように椅子に座った。

 本当は少し離れた場所から教えようと思っていた弥生だったが、一夏の視線に負けて渋々一緒に座る事に。

 

「えっと……どこ…から……?」

「恥ずかしいんだけどさ、その……一番最初から……」

「え……?」

 

 予想だにしていなかった一夏の言葉に、思わず目が点になる弥生。

 

(最初って……教科書の一番最初って事か? マジで? 冗談でしょ? 確かに原作でも『参考書捨てた~』って言ってたけど、それでも昨日今日の授業を聞いていれば、最低限の事ぐらいは分かるでしょ?)

 

 まさかの展開に早くも頭と胃が痛くなる弥生。

 一夏に勉強を教える事だけでも相当に神経をすり減らしているのに、その教え子が何も理解していないとなれば、彼女でなくても気が滅入るだろう。

 

「じゃ…あ……ここ…から……」

「よし!」

 

 そこから、弥生主導の一夏の勉強が始まった。

 弥生は可能な限り丁寧に自分の言葉で教えていって、それを一夏は真剣に聞きながら教科書とノートを何回も見ながらペンを走らせていた。

 

「PIC?」

「パ…パッシブ……イナーシャル……キャンセラー……の略……で、ISはこのPIC……を搭載…することで……宙に浮いたり……加速や…空中停止……が出来る……んだよ……」

「そっか~……。これがISの根幹って事か」

「IS…の根幹…は…ISコア……で、PICは…あくまで付随している…装置……。IS…が普及…し始めた頃……には、このPICが搭載…されていなかった……陸上…特化型の機体……も少数だけ……あったり…してる……」

「成る程な~。そういや、授業でもISコアは467個しかないって言ってたっけ」

「う…ん…。コア…の製造…方法は……篠ノ之博士…しか知らない…から……」

 

 最初は嫌々でやっていた弥生だったが、時間が経つにつれて普通に勉強を教えていた。

 

(思ったよりも真面目に勉強するんだな……。ふふ……ほんの少しだけ見直したかも)

 

 弥生の中で僅かに一夏の評価が上方修正された。

 

(や…弥生の髪からいい匂いがする……。髪をかき上げる姿が凄く綺麗だ……)

 

 だと言うのに、肝心の一夏は間近で見る弥生の姿に夢中になっている。

 実際、勉強を教えている弥生の姿は非常に絵になっていて、この光景を世間の男達に見せれば、間違いなく彼女のファンが爆発的に増える事は確実だった。

 

「こうして勉強して知識をつけるのはいいけどさ、やっぱこれだけじゃ駄目だよな……」

(へぇ~……ちゃんと分かってるじゃん)

「なぁ…弥生。IS学園にはISの訓練機ってのがあるんだろ? それを使って実際にISの特訓って出来ないのかな?」

「それ…は難しい……と思う……」

「なんでだ?」

「この時期……は…訓練機……の貸し出し…は私達…新入生よりも……上級生…が優先される……から…」

「マジか~……」

「訓練機……の数は限られてる……し…入学したて…の私達…よりも…この時期…の上級生…は色々と…大変だから……」

「新参者の俺達の都合で先輩達の訓練の邪魔をするわけにはいかないって事か……」

「そう言う……事……」

 

 残念そうに俯く一夏。

 幾ら接触を避けている相手とはいえ、こうして直接勉強を教えている以上、ここでフォローをしないのは無いなと思う弥生は、安心させるように一夏に優しく語りかける。

 

「で…も……IS…を使って訓練…するだけが……全てじゃない…から……」

「そうなのか?」

「ISはあくまでスポーツ……だから……まずは体力作りから……始めればいい…と思う…よ…?」

「体力作り……か」

 

 幼少期から剣道をしていた一夏にとって、体力面だけが数少ない長所だった。

 それは、箒が転校して剣道を止めた今となっても変わらない……と本人は思っている。

 

「でも……今は勉強……」

「だな。続きしようぜ」

 

 マンツーマンの勉強会が再会し、二人は再び教科書とノートに視線を向ける。

 弥生と一夏の声とペンがノートを走る音、そして時計の針が動く音だけが室内に聞こえていた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 外がすっかり暗くなり、すっかり体が強張った一夏が思いっきり背を伸ばす。

 

「う~~~~ん……!疲れたぁ~……」

「キリがいい……から、今日はここ…まで……」

「りょ~かい。って……『今日は?』」

「明日も……今日と同じ時間にする……から……」

「マジでっ!?」

 

 望外の言葉が聞けて、一夏の元気が急速に復活した。

 

(途中で投げ出したりしたら、それはそれでまた死亡フラグが立ちそうだしな……)

 

 本当なら絶対に嫌ではあるが、自分の命には代えられない。

 弥生にとっては、原作キャラとの関わり合いの一つ一つが文字通りの死活問題だから。

 

「で…でも……試合の日まで……だから……ね…?」

「それでもいいよ! 充分だよ!」

(よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! また弥生と一緒に勉強が出来る!! 怪我の功名って言うかなんて言うか、兎に角、今だけはオルコットに心から感謝するぜ!!)

 

 お前は弥生と勉強がしたいのか、それともセシリアとの試合に勝ちたいのか。

 今の一夏は完全に手段と目的が逆転していた。

 

「あまり遅くまでいちゃ弥生にも悪いしな。俺はそろそろ戻るよ……っととと……!」

「え……ちょ……!」

 

 椅子から立ち上がった途端、軽い立ち眩みに襲われる。

 そのまま、足元がふらついて弥生の方に倒れ込んでしまった。

 

 弥生の座っていた椅子が倒れて、大きな音が響く。

 

「いたた……悪い。大丈夫……か……?」

「うぅ……」

 

 ここでまたもやラノベ主人公特有のラッキースケベが発動した。

 

「「……………」」

 

 床に倒れた弥生の上に覆いかぶさるようにして、一夏が倒れ込んでいた。

 その顔はキスする直前にまで近づいていて、お互いの顔は真っ赤に染まっている。

 

(や…弥生の顔がこんなに近くににににににっ!?)

(顔が近すぎて息がかかってくすぐったいんですけど……。つーか、早くどけよ……)

 

 こんな状況になれば、最早やる事はたった一つ!

 そう言わんばかりに、一夏は更に顔を近づけながら目を閉じようとしたが、そうは問屋が降ろさない。

 

「織斑……くん……」

「なんだ……弥生……」

「……………右手」

「右手?」

 

 そう言われて、ふと右手が何か柔らかい物を握っている事に気が付く。

 思わず右手を動かして感触を確かめてみると、なんともプニプニでポニョポニョしていて、その中心部分には何かポッチの様な物があった。

 

「…………早く……どいて……」

「……………げっ!?」

 

 ここまで来れば大抵の読者諸君は気付くだろう。

 そう、一夏が握る…もとい、揉んでいたのは弥生の豊満な胸だった。

 

「ご…ごごごごごごごごめん!!!」

 

 慌てて立ち上がって、自分の分の勉強道具を持って部屋から出ようとした。

 

「きょ…今日は本当にアリガトな! んじゃ! おやすみ!」

「お…やすみ……」

 

 揉まれた胸を隠しながら、弥生も起き上がった。

 

(やっぱアイツ……変態だわ。ナチュラルにセクハラしやがった……)

 

 一夏が去っていたドアを見つめる弥生の目は、絶対零度の瞳をしていた。

 結局、弥生の中での一夏の評価は、少しだけ上がってから、その直後に地の下まで急降下していったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一夏の想いは一方通行。

色んな意味で前途多難です。



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羞恥プレイか!!

最近、これからの話の展開に迷っています。

一夏はアンチにせずにギャグ枠にしたいと思ってはいるんですが、上手くいくか不安だし、弥生のヒロインを誰にしようか完全に迷走してます。

ストーリーの軸自体はちゃんと考えてあるのですが、それ以外の肉付きが未だに不安定なんですよ。

……気晴らしに、今週末にジムⅢビームマスターを買いに行こうかしら……。







 一夏が弥生に勉強を教わってから約一週間が経過して、遂に約束の試合の日となった。

 あれから一夏は言われた通りに、毎日のように放課後の決まった時間に弥生の部屋に行き勉強を教わった。

 勿論、弥生に言われた通り、箒達に見つからないようにして。

 それと並行して、空いた時間を使って密かに筋トレを初めとした体力作りを率先してやり始める。

 弥生に指摘されたからと言えばそれまでだが、それでもやるべき事をきちんとこなしているのは大きな進歩なのかもしれない。

 

 一方の弥生と言えば、勉強会初日の最後に起きたラッキースケベによってほんの僅かに上がった一夏への好感度がマイナスにまで下がっているせいか、表面上はいつもと変わらないようにしているものの、心の中では完全に『乗りかかった舟』と言う気持ちと『義務感』、それと『いのちをだいじに』の命令を自分に下してから、非常に冷めた気持ちで勉強を教えていた。

 最初こそ『自分が教えたのだから、どうせなら奇跡的な勝利を掴んでほしい』と思っていたが、今となってはもう勝ち負けとかどうでもよくなっていた。

 それどころか、『最終的には原作通りに負けるんだろ?』なんて考えるようになっていた程。

 いくら転生前は男だったとは言え、それでも好きでもない男に押し倒された挙句に胸まで揉まれれば、感情表現が苦手な弥生でもブチ切れると言うもの。

 果たして、セシリアとの試合に無事に勝利して、一夏は僅かでも弥生からの信頼を取り戻せるのだろうか?

 それとも、テンプレのように負けてしまうのか?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 翌週の月曜日の放課後。

 なんでか私は第3アリーナのAピットに立っていた。

 

「……妙に浮かれている……いや、自信に満ちている……のか? とにかく、緊張だけはしていないようだな」

「当然だぜ! なんせ、この一週間の間、弥生が二人っきりで勉強を教えてくれたり、アドバイスをしてくれてたんだからな!」

「ほぅ……? 板垣がなぁ……」

 

 お願いだから、ニヤニヤしながら目を細くしてこっちを見ないでください。

 私だって、やりたくてしたわけじゃないんですから。

 下手に断ったり、中途半端に終わらせれば、次の瞬間にはアンタの手によって私の首が刎ねられる可能性があったから、仕方なくやってあげただけだ。

 ……一応言っておくけど、これは別にツンデレ発言なんかじゃないからな。

 割と深刻な問題なんだからな!

 

「板垣。一体何をこいつに教えたんだ?」

「い…一応……基本的な……事と……ちょっとした……応用……。後は……試合…までにして…おいたほうがいい……と思った事を言っただけ……です……」

「成る程な。まぁ……この馬鹿にはそれぐらいが丁度いいのかもしれんな。学年次席であるお前が本気で勉強を教えたら、間違いなくアイツは知恵熱で倒れる」

 

 あ~…なんとなく分かるわ~。

 なんと言いますか、容易に想像がつくわ。

 学園に来て初めて、この人と意見が合った気がする。

 

「なんにしても……だ。板垣」

「わふ……!」

 

 あ…頭を撫でられた!?

 こ…これはあれか!? ここから必殺のアイアンクローになる流れか!?

 そんなことしたら私の脳みそが飛び出しちゃう!!

 

「私の弟に色々と教えてくれて感謝している……ありがとう。この借りはいつか必ず返す事にしよう」

「は……い……」

 

 お…お礼を言われた? いやいや……ここで早とちりするのは素人のする事。

 私は簡単には騙されないからな……。

 借りを返すとか言いながら、絶対にまた碌でもない事をするに違いない!

 それがなんなのかは、私の乏しい想像力じゃ思いつかないけど……。

 

 因みに、本来ならここにいる筈の篠ノ之箒は、今回は観客席に移動している。 

 その観客席には簪と本音も一緒にいて、本当なら私も一緒に二人と観戦をするつもりだったのだけれど、移動する前に一夏(何度もしつこく『名前で呼んでくれ』と言われて、最終的に弥生が折れた)が私の手を引っ張って、ここに連行してきた。

 その際、その場にいた三人は親の仇でも見るような目で一夏を鬼の形相で睨み付けていた。

 あの歩くマイナスイオン発生装置である本音ですら、言葉に出来ない顔をしていたし。

 

「俺の専用機ってまだ来てないのか?」

「今、山田先生が取りに向かっている。もうそろそろ来るんじゃないか?」

 

 なんて適当な……。

 

「お…織斑君! 織斑君! 来ました! 来ましたよ!」

 

 あやや……ピットの中に山田先生が今にこけそうな駆け足でやって来ましたよ?

 

「はぁ……はぁ……つ…疲れましたぁ~……」

「わふっ」

 

 にゃ…にゃんと!? 疲れてよく前が見えていないのか、山田先生が私に抱き着いてきましたよ!?

 実を言うと、私は山田先生の事を基本的に信用も信頼もしている。

 何故なら、原作でもこの人は全くと言っていい程に暴力的な描写がされていなかったし、実力も申し分ない。

 おまけに、滅茶苦茶いい人だし。

 それは実際に何回か話して改めて実感した。

 私の中では、山田先生はこのIS学園における数少ない『良心』だと本気で思っている。

 残りの良心は簪と本音ね。これゼッタイ。

 

「おい……何を抱き着いている……!」

「え……? あわわわわ! ご…ごめんなさい! 板垣さん! 別にそんなつもりでしたんじゃなくてですね……」

「だ…大丈夫……です」

「いいなぁ~……」

 

 寧ろ、私的には役得でした。

 あ~……なんで日本って同性愛&一夫多妻じゃないんだろう……。

 もしも許されるなら、絶対に山田先生と簪と本音と結婚するのに……。

 あと、お前だけには絶対に抱き着かれたりなんてされたくないから。

 

「で? どうしたんだ?」

「そ…そうでした! 来たんですよ! 織斑君の専用機が!」

 

 やっとですか。

 生で主人公機を見てるのは、地味に興奮するな~。

 色々と問題が指摘される機体ではあるけど、それも使い手次第なんだと思うんだよな~。 

 だとしても、普通はトーシロにブレオンの機体なんて与えないと思うけど。

 

「もう準備は出来ているな?」

「おう」

「ならば……」

 

 織斑先生の視線に山田先生が頷いてから、ピットの搬入口がゆっくりと開かれていく。

 その向こう側にあったのは……少しくすんではいるが、実に綺麗な純白の機械鎧だった。

 

「これが織斑君の専用機……『白式』です!」

「こいつが……」

 

 やっぱり名前の通りに白いんだな。

 見た目だけはかなりカッコいいけど、癖が強すぎる上級者向けの機体。

 ……あの天災兎が手を加えたんだから、これぐらいはまだ生易しいレベルなのかもしれないけどさ。

 

「あの……私……そろ…そろ……」

「む? もう行くのか?」

「友達……待たせてる……ので……」

「そうか…………残念だな……」

 

 最後、ちゃんと聞こえてたからな。

 私に何をする気だったんだよ。

 

「弥生」

「ん?」

 

 またまた……男らしい笑顔なんて見せてくれちゃって。

 これが私じゃなかったら、普通に惚れてたかもね。

 

「絶対に勝ってみせるからな。だから、見ててくれ」

「う…ん……」

 

 どうぞご勝手に。

 勝てるもんなら勝ってみなよ。

 でも、代表候補生はそう甘くは無いぞ。

 

「失礼……しま…した……」

「「「あ……」」」

 

 その場から逃げ去るようにして、私は簪達の下に急いだ。

 最後、山田先生も一緒に声出してなかったか?

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 予め言われていた席まで行くと、そこには本音と簪以外にも別の人物が一緒に座っていた。

 

「お? 遅かったな」

 

 なんでこいつ……篠ノ之箒がいるんだよ……。

 確かに彼女も観客席に行くとほのめかしていたけど、数ある席の中でどうしてここに来るのかな~!?

 

「いや~、あのまま別れるのも忍びなかったから、一緒にいるんだ~」

「意外と話が合って楽しかった」

「私もだ。簪とはいい友達になれそうな気がするぞ」

「こちらこそ」

 

 わ…私の癒しが剣道女に懐柔されてしまったぁ~!!

 そんな……どうして……。

 

「立ってないで、ここに座ったらどうだ?」

「そう……だね……」

 

 んでもって、指定された席も篠ノ之の隣だし……。

 人類に逃げ場無し。私にも逃げ場無し。

 諦めて、大人しく座った。

 下手に導火線に火をつけるぐらいなら、私が流れに従った方がいい。

 

「はい。やよっちの分のジュースも買っておいたよ」

「ありがとう……」

 

 うぅぅ……本音ぇ~!!

 やっぱり私、貴女と結婚するぅ~!!

 

(本音がくれたジュース……美味しい……)

 

 市販のジュースでも、本音が渡してくれただけで美味しさが二乗だよ~!

 

「ところで……一夏の奴はどうしていた?」

「張り切ってた……」

「そうか。別に張り切るのはいいが、アイツの事だから、変に空回りとかしそうだな」

 

 お? おぉぉ? なんだかんだ言って、やっぱり愛しの幼馴染の事が心配なんですな~?

 いいぞいいぞ~! そのままゴールインしちゃえ!

 

「織斑一夏……」

「あ………」

 

 そっか……簪はあの男がISを動かした事によって、専用機の開発を凍結されたんだっけ。

 彼女としては、なんとも複雑な気持ちなんだろうな……。

 でも、それならなんで試合を見に来たんだろ?

 あれか? せめて怨敵の顔ぐらいは見ておきたいってか?

 

「あ! おりむーが来たよ!」

「それに合わせて、セシリアもやって来たな」

 

 タイミングを計っていたのか?

 別にどうでもいいんだけどさ。

 

(あれがブルー・ティアーズ……)

 

 あっちも遠目とは言え現物を拝めることが出来た。

 機体の形状自体は私が知っている通りなんだけど……。

 

(本当に上から下まで真っ青なのな……)

 

 『名は体を表す』とはよく言ったもんだ。

 白式も同じ様なもんだけど。

 

「一夏の機体が白で、セシリアが青か……。対照的な機体だな」

 

 言われてみれば確かにそうかも。

 ん? なんか二人して話してないか?

 

『ようやく、この時が来ましたわね』

『あぁ……俺も待ち遠しかったぜ』

『ここで貴方を屠り、弥生さんにこの勝利を捧げる……。なんて素敵なんでしょう……♡』

『それはこっちのセリフだ! 絶対に勝って、弥生に勝利の報告をするんだ!』

『叶わない夢を語るなんて哀れですわね~。何度も言っている通り、貴方に弥生さんは相応しくありませんわ』

『それを決めるのはお前でも俺でもない。弥生自身だ』

『言うではないですの……。でしたら……』

『…………!』

『この場にて弥生さんに証明してみせますわ! 私こそが彼女の伴侶に相応しいと!!』

『やってみろ!!』

 

 オルコットの長身のレーザーライフルの先制射撃が炸裂。

 一夏は上手く回避出来ずに、胴体部に直撃を受けてしまった。

 つーかさ……

 

(こんな大勢が見てる前で! 弥生弥生弥生って人の名前を連呼するんじゃねぇよ!!滅茶苦茶恥ずかしいじゃないか!!)

 

 思わず両手で顔を覆って体を縮こませてしまった。

 顔が熱い……私が二人の話していた弥生だって気が付かれませんように……!

 

「ど…どうした弥生!? 大丈夫か!?」

 

 そこで私の名前を出すんじゃないよ!! ちっとは空気を読め!!

 

「あの子が二人の言ってた弥生って子……?」

「そう言えば……前に図書室で一緒にいるところを見たような……」

 

 もうバレてるし~!

 しかも、あの時の事も見られてたのかよ!?

 

「意外と頑張ってはいるが……」

「防戦一方……」

「だね~…」

 

 三人の会話を聞いて、指の隙間からチラッとだけステージの様子を見る。

 そこには、一本の近接用ブレードを持ったまま、レーザーの雨を前に回避に専念している一夏の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キリがよさそうなので、続きは次回に。

今回は、ある意味で弥生の好感度を上げる貴重なイベントなのですが、果たしてそう上手くいくのやら……。

いざって時にやらかすのが一夏クオリティですからね……。


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頑張れ、男の子

天候が不安定で、私の体調も不安定。

でも、コンビニのお弁当のラインナップが少し早目に夏仕様になっているのは嬉しいですね。

今日のお昼はコンビニ弁当のざる蕎麦でしたし。

山葵が鼻に沁みました……。

ちょっとだけ、原作で山葵を丸ごと口にして悶絶していたシャルの気持ちが理解できた気がします……。






 一夏とセシリアの試合は中盤に差しかかっているが、近接用ブレードしか装備していない…と言うよりは、それしか武装が無い一夏は思うように攻撃が出来ないでいた。

 

「どうやら、逃げ回る事だけは一人前のようですわね」

「お褒め頂いて光栄だよ……!」

「でも、それもここまでの話」

 

 セシリアの顔が急に真剣みを帯びた瞬間、白式の左脚にレーザーが直撃した。

 

「なっ!?」

 

 一夏は何が起きたのか理解できていなかった。

 確かに視線はセシリアから離していない。

 彼女の手にあるレーザーライフルの銃口はこちらに向いていないと言うのに、何故か攻撃が命中した。

 

「ん……? なにか後ろに浮いている物が少なくなっているような気が……」

「やっと気が付きましたの? ご自分の周囲を見てごらんなさい」

「こ…これは……!?」

 

 一夏が自分の周りを見渡すと、そこにはブルー・ティアーズのフィン状のパーツが四つほど自立稼働していた。

 

「これこそが、私の専用機の第3世代兵装……『ブルー・ティアーズ』ですわ」

「機体と同じ名前の武器かよ……」

 

 この時、一夏は弥生との勉強で教わった事を思い出した。

 

(これが弥生に前に教えて貰ったイギリスの十八番の『ビット兵器』ってヤツか……! 一撃の攻撃力が低い代わりに、機動性と命中性能は通常のISの比じゃないって言ってたっけ……!)

 

 一夏の額に汗が流れる。

 相手が切り札を投入してきたと言う事は、彼女がこちらにトドメを刺しに来たと言う事でもある。

 

(まだ……まだなのか……!)

 

 白式は、原作同様に初期設定が未だに終了していない状態でいきなり実戦に駆り出された。

 思わず焦ってしまうが、だからと言って時間が加速する訳でもない。

 目の前に設定終了までの時間が表示されているが、まだ結構な時間があった。

 

「休憩は終了。さぁ……いきますわよ?」

(く…来るっ! 今はとにかく、設定が終わるまで回避に専念するしかない!)

 

 セシリアが空いている左手を高々と掲げたと同時に、四基のビットが一斉に襲い掛かってくる。

 青白いレーザーが空を裂き、次々と一夏に向かって殺到する。

 その様子はまるで、レーザーの雨。

 

「くそっ!!」

「あらあら……逃げているだけでは勝負には勝てませんわよ?」

「んな事は俺だって分かってるよ!」

 

 分かってはいても、それを行動に移せなければ意味が無い。

 徐々に追い詰められていく中、一夏は自身の得意とする観察眼にて、よくセシリアの動きを観ていた。

 

(ビットを操作している時、なんでアイツは攻撃をしてこないんだ? ……まさか! ビットに命令を出している時はアイツ自身は身動きが取れないんじゃ……!)

 

 ここに来て逆転のチャンス到来か?

 SEは心許ないが、それでも自分の勘を信じてみる事にした。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 今の自分の技量では、飛び回るビットを剣で破壊するなんて絶対に不可能。

 だったら、肉を切らせて骨を断つ戦法で、一気に自分の距離にする!

 これが今の自分に出来る唯一の策!

 

「そんなっ!? 攻撃を受けながらもこちらに突貫してくるなんてっ!?」

 

 まさかの行動にセシリアが目を見開いて驚愕する。

 そして遂に、セシリアの懐に潜り込んだ!

 

「しまっ……!」

「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 攻撃を思った以上に受けてしまい、攻撃出来るのはこれが最後。

 これが直撃しなければ、一夏の敗北は必至。

 

「……な~んて、私が言うとでも思いましたの?」

 

 一夏の剣が命中する直前、セシリアの顔が笑顔に変わる。

 明らかにおかしい事ではあるが、今の一夏にそんな事を気にしている余裕は無い。

 この攻撃に全ての神経を集中させる!

 

 ………そんな簡単に攻撃を通らせるほど、代表候補生はそんなに甘くは無かった。

 

「ぐほっ!?」

 

 突如として、一夏の腹部に衝撃が走る。

 反射的に衝撃の原因を見てみると、そこにはセシリアの握っているレーザーライフルの銃身が突き刺さっている。

 

「これは……!」

「まさかとは思いますけど、私が射撃ばかりをしているからと言って、近接戦が不得手だと勝手に思い込んだんではありませんでしょうね?」

「…………!」

 

 思い込んでました。

 

「代表候補生たる者、いついかなる時も、あらゆる状況を想定して訓練を行うもの。自分が射撃型のISを授かった時から、相手が必ず機体の弱点である接近戦を行ってくることは予想済み」

 

 ですよね~。

 

「大体、私が本国でどれだけの同胞達と汗水流して訓練をしてきたと思いますの? 自身の弱点である近接戦を補う技術ぐらい、身に付けて然るべきだと思うのが当然ではなくて?」

 

 御尤も。

 

 セシリアはレーザーライフル『スターライトMk-Ⅲ』を棒術使いのように振り回し、一夏の顔を強く殴打して吹っ飛ばした。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 体を回転させながら派手に吹っ飛ぶ一夏。

 更に、そこに追い打ちをかけるようにライフルとビットの標準を合わせた。

 

「それともう一つ。私がいつ、ビットと自分との連携が出来ないと言いました?」

「ま……さか……!」

「その通り。ビットしか動かさなかったのは、貴方にそう思わせるため。まさか、ここまで見事に引っかかるとは思いませんでしたけど……ね!」

 

 ライフルの引き金が引かれ、同時に各ビットからもレーザーが発射される。

 それらが全て一夏に命中し、そのまま地面に激突した。

 

「………………」

 

 傍から見ると、これで決着はついたかのように見える。

 だが、セシリアの顔は未だに真剣なまま、一夏の落下地点に広がる土煙を見つめていた。

 

 すると、突如として周囲を覆っていた煙が吹き飛んで、そこから純白の機体が姿を現した。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「あれがセシリアの実力か……。悔しいが、見事としか言いようがないな……」

「イギリスの代表候補生は伊達じゃない」

「別にせっしーは隕石を一人で押し戻したりはしないよ?」

 

 そう言う簪だって、栄えある日本の代表候補生でしょうが。

 

 一夏とオルコットの試合は、終始オルコットの優勢だった。

 これはある意味で当然だ。

 機体性能が幾ら上でも、操縦者の実力と経験に天と地ほどの差がある。

 いくら知識を植え付けても、いくら体を鍛えても、経験の差だけは覆しようがない。

 

「しかし……あんな風に銃を扱って、本当に大丈夫なのか?」

「ISの武装は多少乱暴に扱ったぐらいじゃビクともしないよ。あの程度で壊れていたら、とてもじゃないけど実戦じゃ使い物にならないし。だよね? 弥生」

「う……うん……」

 

 そこで私に振られても困りますよ? 簪ちゃんや。

 

(それにしても、まさかライフルをあんな風に利用するなんてな~。あれじゃ、スナイパーと言うよりは、まるで中国の映画に登場する棒術使いだ)

 

 簪も言っていたけど、伊達に国の旗を背負ってはいないって事か。

 懐に飛び込まれた程度で危機に陥ったり、狼狽えたりしたら、代表候補生なんてやってられないってか?

 でも……原作じゃ思いっきりビビってたし、ビットと一緒には動けなかった筈……。

 もしかして、私が知らない所でオルコットが成長している……?

 

「む……? あの光は……」

「や…っと……終わった……みた…い……だね……」

「「「???」」」

 

 三人揃ってハテナマークを浮かべない。

 ステージを見ていれば嫌でも分かるから。

 

「あ…あれはっ!?」

「まさか……」

「ほぇ~……」

 

 あの真っ白な装甲……あれこそが白式の真の姿か。

 さて、ここから原作のように負けてしまうのか。

 それとも、奇跡の逆転勝利でもしてくれるのか?

 普段は両者揃って忌み嫌っているけど、試合の時ぐらいは応援してやってもいいか。

 別に私の事なんて見てないだろうし。

 

「がん……ばれ……」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「矢張りでしたか……」

 

 一人だけ納得したような顔で復活した一夏を見つめるセシリア。

 その顔には一切の油断は無い。

 

一次移行(ファースト・シフト)……貴方、初期状態でずっと戦ってましたわね?」

「分かってたのかよ……」

「えぇ。幾ら素人が乗っているにしても、専用機にしてはどうも動きに精彩が欠けていたように思いましたから」

「それなのに、あの猛攻撃をしてたのか……」

「獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすものでしてよ?」

 

 得意気に微笑むセシリアではあったが、すぐに笑みが消えて真剣モードに。

 

「これで勝負は分からなくなったな」

「本当にそうだといいですわね」

「……どういう意味だ?」

「さぁ?」

 

 肩をすくめるセシリアの姿にカチンときそうになったが、ギリギリの所で踏みとどまる。

 

(待て待て。ここで熱くなったら、それこそ相手の思う壺だ。弥生がアドバイスしてくれたことをよ~く思い出せ!)

 

 一夏の脳裏に、弥生の言葉が蘇る。

 

『ど…んな時も冷静……にならなきゃ駄目……だよ? 冷静さ……を欠いたら……勝てる勝負……も勝てなく…なる…から……。一番いい…のは……頭はクール…に……心はホットに……する事……』

 

 ほんの少しだけ目を閉じて心を落ち着かせる。

 

(頭はクールに……心はホットに………よし!)

 

 カッ!と目を開いて、手元にある剣…『雪片弐型』をしっかりと握りしめる。

 

(雪片……千冬姉が現役の時に使っていた愛刀……。それ以外にも、俺には弥生から沢山の事を教わった……。俺は今、千冬姉と弥生…二人の想いを背負ってここにいるんだ!)

 

 腰を低くして、いつでも飛び出せる態勢を取る。

 

「この勝負……絶対に勝つ! 千冬姉の為にも……弥生の為にも!!」

「それはこちらのセリフですわ!!」

 

 二人の戦意が高まり、今まで以上にアリーナが盛り上がった。

 その時だった。二人の機体のハイパーセンサーが、ある姿を捉えた。

 

「「あ…あれは……!?」」

 

 それは、弥生がこちらに向かって何かを言っている姿。

 遠距離故に声までは拾えなかったが、弥生の姿を見つけた時点で二人はセブンセンシズに覚醒しているため、その口の動きだけで彼女が何を言っているのかを理解した。

 

(弥生が……)

(弥生さんが……)

(俺に!)

(私に!)

((頑張れと言ってくれている!!!))

 

 弥生の何気ないエールが、二人に精神コマンド『愛』を発動させた。

 

「おっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!! いくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

「今度こそ完全に息の根を止めて差し上げますわっ!!!!」

 

 こらこら。殺してどうする。

 

 先に飛び上がったのは一夏。

 雪片の刀身が展開し、そこから白い光の刃が出現した。

 本能と勘で、その刃が危険だと判断したセシリアは、即座にビットに命令を下すと同時に自分も攻撃に参加する。

 

「そこっ!!」

「当たってたまるかっ!!」

 

 弥生のアドバイスの通り、頭を冷静に保つ事でビットの動きだけでも読むようになっていった。

 

(オルコットの攻撃は位置的にも正面からしか来ない。今の俺なら避ける事もなんとか可能だ。だから、ビットの動きだけに意識を集中させれば!)

 

 流石に被弾率0とまではいかないものの、確実に回避率は向上していた。

 

「やりますわね……! ですが!」

(迂闊に近づいても、あの銃身を使った攻撃が待っている! 理想なのは銃身ごと相手を斬る事だけど、そう簡単に上手くいくとは思えない……。どうする……!?)

 

 残念な事実ではあるが、体術に置いてもセシリアの方が何枚も上手であり、武術に対して長いブランクがある一夏では現状、手も足も出ない。

 回避をしながら接近を試みてはいるが、こちらの距離に入っても直撃させられなければ意味が無い。

 そうして悩んでいる間にも、徐々に二人の距離は近づいていく。

 

「こうなったら!!」

「…………!!」

 

 あと少しと言う所で、レーザーの包囲網を掻い潜りながら、一夏が加速を掛けて一気に接近する。

 先程と同様に剣が届く場所まで近づく事に成功するが、今回の一夏は少し構えが違った。

 

「これでどうだぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「なぁっ……!?」

 

 下段から弾き上げるようにして雪片を振るい、セシリアが持っていたライフルを遠くに吹っ飛ばした!

 

「チャンスッ!! 今度こそっ!!」

 

 そのまま流れるように上段からの唐竹割り!……となればカッコよかったのだが……。

 

「…………え?」

「私が先程言った事……もう忘れてしまったんですの?」

「それって……」

「数分前に確かに言いましたわよね?『あらゆる状況を想定して訓練をしている』と。ならば、何らかの理由で武器が手元に無い場合の訓練もしているに決まっている…とは少しも思いませんでしたの?」

 

 振り下ろそうとしていた一夏の両腕は、セシリアの両手に掴まれてビクともしなかった。

 勿論、雪片は彼女の体に触れてもいない。

 更に言うと、この時の一夏は白式のSEがリアルタイムで減少している事に全くもって気が付いていなかった。

 

「ここまでの奮闘は称賛に値しますけど……」

 

 一夏の目の前で、二基のミサイルビットが自分の方に向けて発射態勢になっているのが見えた。

 

(ミ…ミサイルっ!? この距離じゃ避けられないっ!)

「これで……王手(チェック・メイト)ですわ」

 

 超至近距離でミサイルが直撃、爆発した。

 この距離ならばセシリアにも多少のダメージが入ってしまうが、それでも直撃するよりは遥かに損害は少ない。

 

 黒煙に包まれながら落下していくが、その目はまだ諦めていない。

 

「まだだ……!」

 

 顔だけをセシリアの方に向かせて、そこから体も無理矢理方向転換。

 

「まだ終われないんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 その状態から三度の突貫。

 セシリアもそれに応戦すべく、近接用ショートブレード『インター・セプター』を逆手に持って構える……が、彼女の警戒は杞憂で終わる。

 

【試合終了! 勝者……セシリア・オルコット!】

 

「「…………は?」」

 

 二人とも全く状況が飲み込めないまま、決着が付いてしまった。

 

 雪片から放出されている光の刃が静かに消滅し、その装甲もゆっくりと閉じていった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 試合が終了し、観客席にいた生徒達はそれぞれに戻り始めていた。

 私も席から立って帰ろうと思ったが、その前に少しだけ寄り道をしようと思った。

 三人には適当に誤魔化して、私は先程までいたAピットに足を運んだ。

 自分で指導した手前、顔ぐらいは見せないと後で怖いような気がしたから。

 

 ピットに入ると、そこでは落ち込んだ一夏に教師二人が何か話しかけていた。

 多分、原作のように『馬鹿』とか『訓練しろ』とか言われてるんだろう。

 彼に手には分厚い本まであったし。

 あれって多分、専用機の使用に関する規則が書かれた本だよね?

 私も持ってるよ。今では普通に部屋のオブジェクトと化してますけど。

 

「あ……弥生……」

「板垣か……」

 

 私の存在に気が付いた女教師二人は、顔を見合わせてから頷いて、静かにピットから去っていった……って! なんで出て行くのっ!?

 いや……別にここにいて欲しいとも思ってないけど、それでもこいつと二人っきりでここにいるのはちょっと……。

 

「……ゴメン……弥生……俺…勝てなかった……」

「一……夏……」

 

 どうやら、人並みには落ち込んでいるようだ。

 もうちょっと普通にしていると思ったけど、そんなにもこの試合に意気込んでたのか?

 

「折角……弥生に勉強を教えて貰ったのに……俺……俺……!」

 

 ちょ…ちょっと! なんでここで泣き出すのさっ!?

 お前は私に何を求めてるんだ!

 

「………………」

 

 あ~……もうっ!

 顔だけを見るつもりだったのに…目の前で泣かれちゃ、私だって何もしないわけにはいかないじゃないか……。

 

「一…夏……」

「弥生……?」

 

 少しだけ背伸びして、一夏の頭をそっと撫でる。

 

「一夏…は……頑張った…と思う…よ? 初めて…で…代表…候補生…と……あれだけ…渡り合え…れば……充分…に凄い……方だよ……」

「けど俺……試合に負けて……」

 

 こいつって、こんなにもウジウジトしたキャラだったっけ?

 はぁ~……仕方が無い奴……。

 

「負け……を知らずに……一人前…になった人は……いない……。誰…だって……最初から上手くいく……ことなんて……無い……」

「弥生もか?」

「う…ん……。失敗は…成功の母……とも言うし……この負けを……次に生かせばいい……。そうすれ……ば……一夏は……もっと強くなれる……よ……」

「弥生……」

 

 涙をISスーツの袖で拭ってから、一夏は目を赤くしながら私の顔を真っ直ぐに見つめた。

 

「俺……次は負けないから……! 絶対に勝ってみせるから……! だから…見ててくれよな……!」

 

 やっとらしくなったか。

 ったく……どうして私がこいつを慰めなくちゃいけないのやら。

 

「ん……頑張れ……男の子……」

 

 でも……ずっとこのままでいられるよりは……少しマシかもしれないな。

 

 この後、一夏と別れてからオルコットの様子も見に行ったのだが、私の顔を見た途端に物凄く興奮して、幼い子供のようにはしゃぎながら私に抱き着いてきて、ちょっとだけウザかった。

 試合に勝って嬉しいのは理解出来るけど、だからと言って私に抱き着くのだけは勘弁願いたい。 

 試合直後の汗が制服について汚れるだろうが。

 予備の制服があって本当によかった……。

 

 その時の篠ノ之の顔がいつも以上に怖かったのが忘れられなかったな……。

 割と本気でちびりそうになった……。

 後で本音と簪に癒して貰おう……。

 

 

 




か…勘違い要素が消えたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?

試合中心だから、仕方が無い……のかな?

予告ですが、そろそろ例の生徒会長様の出番を考えてます。


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生徒会長と女の子の日

やっとスパロボX、終盤戦に突入ですよ~…。

毎日が忙しくて、一話一話少しずつ頑張っています。

やっぱり、一週目は苦労しますね……。

2週目以降は格段にスピードアップするんですけど……。

因みに、私はどんなスパロボでも最低は4周する派の人間です。

前作のVも、たっぷりと周回プレイをして、最終決戦の大量のネバンリンナ相手にモビルスーツだけの部隊で無双プレイをしてました。







 一夏とセシリアの模擬戦が行われた日の放課後。

 IS学園の生徒会室にて、二人の女子生徒が話をしていた。

 片方は水色の髪の少女、もう片方は眼鏡を掛けた黒髪三つ編みの少女だった。

 制服のリボンの色から、水色の髪の少女は2年生、眼鏡の少女は3年生である事が窺える。

 

「噂の男子君がイギリスの代表候補生と試合……ねぇ~……」

「見に行かれますか?」

「別にいいわよ。こんな事を言っては彼が可哀想だけど、見る前から勝敗は確定しているわ」

「そうでしょうね。男女云々以前に、彼と彼女とでは余りにも経験と実力の差が大きすぎます。将来的にはどうなるか分かりませんが、現時点では……」

「どんなに足掻いても、イギリスの子が勝つでしょうね。代表候補生はそこまで甘くは無いわ。彼女が慢心でもしない限りは……ね」

 

 ハッキリと非情な現実を言い放つ水色の少女。

 手元にある紅茶をクイッと飲んでから、目の前にある書類に目を通す。

 

「いずれは彼にも本格的に接触しないといけないでしょうけど、今はまだ様子見程度で問題無いわね。彼には非常に大きな後ろ盾が存在しているから」

「本人はそれを自覚していないでしょうけどね」

 

 一夏の事が書かれた書類を机に置いて、もう一つの書類を手に取った。

 

「それよりも、現状として私が気にしなくちゃいけないのは……」

「例の『彼女』……ですね?」

「ええ。まさか、『あの人』の義理の娘が入学してくるとは夢にも思わなかったわ。確かにこのIS学園には色んな人間が集まるけど、その中でもこの子はぶっちぎりのVIPよ……」

 

 体を伸ばしてから、首をコキコキと鳴らす。

 

「この子には比較的早めに近づいた方がいいかもしれないわ」

「護衛をする為……ですか?」

「それもあるけど……」

 

 手に持っている書類を隅から隅まで見ていく。

 書いてある事は至って普通のプロフィールだ。

 

「『あの人』の義娘にしては、書いてある事が普通過ぎるのよ。明らかに何かを隠しているとしか思えないわ」

「何か……とは?」

「それが分からないから、直接本人と会って確かめるんじゃない」

 

 カップに残った紅茶を全て飲み干して、ソーサーに置く。

 そこに、眼鏡の少女によって紅茶のお替りが注がれた。

 

「あまり無茶な事はしないでくださいね? お嬢様も分かってはいるでしょうが、彼女は本音や簪様とも非常に仲が良くて、完全に友達関係になっています。下手に彼女を刺激して入学初日の事件のような事が起きてしまえば……」

「間違いなく、簪ちゃんから軽蔑の眼差しで見られるわね……」

「その程度で済めば、寧ろ御の字だと思いますよ? 下手をすれば、簪様から敵視される可能性も……」

「やめて……想像もしたくないわ……」

 

 ズ~ン……と落ち込みながら、司令のポーズをする。

 

「兎に角、彼女との接触には細心の注意を払うようにする。こっちだって、可愛い後輩を下手に怯えさせたりはしたくないし」

「それが賢明ですね」

 

 こうして、また本人の全く知らない所で妙なフラグが立つのであった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 次の日の朝のSHR。

 そこでは、私が予想していた通りの光景が広がっていた。

 

「と言う事で、一組のクラス代表は織斑君に決定です。無事に決まってよかったですね~」

 

 一部を除いた女子達は、まるで祭りのように大はしゃぎをしている。

 私は昔から、祭りとかでそこまで騒ぐような性格じゃないから、彼女達の心境が全く理解できない。

 一部例外もあるけどね。夏コミとか冬コミとか新作ゲームの発売日とか。

 

「あ…あの~……俺、確か昨日の試合で負けました……よね?」

「そうですね」

 

 は…ハッキリと言うな~…山田先生。

 

「その俺がどうしてクラス代表になってるんですか?」

「それはですね~……」

 

 山田先生が説明をする前に、オルコットが立ち上がって勝手に説明を始めた。

 

「貴方は本当に物覚えが悪いですわね」

「なんだと?」

「もう何回言ったか分かりませんが、もう一度だけ言って差し上げますわ。私は前にこう言いました。『私の目的は貴方を叩きのめす事。クラス代表なんてどうでもいい……』と」

「あ……」

 

 ふぅ~ん……前にそんな事を言ってたんだ。

 なんか意外だけど、無駄にクラス代表に拘るよりは好感が持てるかもな。

 つーか、一夏は今思い出したんかい。

 

「分かります? あの試合に勝利した時点で、既に私の目的は達成されているのです。故に、私は自らクラス代表の座を辞退したのですわ」

「そうだったのか……」

 

 ま、これもある意味で自然の流れだからさ。

 大人しく諦めてクラス代表になっちゃいなさい。

 

「別に、貴方にクラス代表を押しつければ、弥生さんと一緒にいられる時間が増える上に、貴方を弥生さんから引き離せるなんて事は、これぽっちも考えてはいませんわ」

「いやいやいや! どう考えたって、そっちの方が本音だろ!?」

「私の事を呼んだ~?」

「「「「誰も呼んでませんよ」」」」

 

 おう……山田先生を含む、原作キャラ四人同時のツッコみとは……。

 なんか貴重なシーンを目撃した気がする……。

 

「なんか……板垣さんを中心に回ってない?」

「私も思った……。なんで?」

 

 そりゃ私の方が知りたいですよ。

 それと、別に誰がクラス代表になっても、私は簪と本音以外と一緒にいる気はないから。

 これ、重要だからね。テストに出るぞ。

 

「あ~…お前等。気持ちは分かるが、少し落ち着け」

 

 ここで織斑先生様のお言葉ですか。

 と言うか、分かるな。分からないで。分からないでください。

 

「理由はどうあれ、クラス代表はお前に決定した。これはもう確定した事だ。ここで幾ら吠えても意味は無い。大人しく現実を受け入れろ」

「これが大人の社会か……」

 

 そうだよ。いい勉強になったじゃないか。

 学校はある意味で社会の縮図って言われてるからね。

 

(…………ん?)

 

 な…なんか一夏がこっちを見てるんですけど……。

 

(いや……逆に考えるんだ。ここでクラス代表として頑張っている姿を弥生に見せれば、彼女も俺を見直すようになって、そして……)

 

 またぞろ碌な事を考えてないと見た。

 私がこれを言うのもあれだけど、ここは敢えて言わせて貰おう。

 

(男って……本当に馬鹿ばっか)

 

 転生して、この事を改めて思い知りました。

 これはある種の真理ではなかろうか?

 

「兎に角、クラス代表は織斑一夏。誰も文句は無いな?」

「「「「「はいっ!!!」」」」」

「俺の意思はっ!?」

 

 わ~…元気な返事。

 私には真似出来な~い。

 それと一夏、ここまで来たらアンタの意思とか関係無いから。

 

 こうして、一組のクラス代表は原作通りに織斑一夏に決定しましたとさ。

 ちゃんちゃん♪

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 4月も下旬に差し掛かり、少しだけ春から夏への季節の変わり目とも言うべき時期。

 窓から見える青空はとても綺麗で、どこまでも透き通っていた。

 

(空はこんなに青いのに……)

 

 なんで私は……

 

「う……ぐぐぐ………!」

 

 朝っぱらから、こんなにも苦しまなくちゃいけないんだ……!

 

(お…お腹が痛い……! 猛烈に痛い……!)

 

 眠りから覚めた途端に、この激痛が私を襲って、一気に目が覚めてしまった。

 痛みに苛まれながら思い出したけど、この時期は丁度『あれの周期』に入ってるじゃないか……!

 くそ……! ここに来て色んな事が一度にありすぎて、頭の中から忘れかけてた……!

 

 一応、激痛と戦いながら、血で汚れた下着やパジャマは水を入れた容器に浸してあるけど、そこで私の限界が来て、そこからは這うようにしてベッドまで戻ってきました……。

 言っておくけど、ちゃんと着替えはしたんだからね?

 読者の皆が期待しているような恰好じゃないからな。

 と言っても……ズボンまでは履ききれずに、布団の中はショーツだけなんだけど。

 寝る時は基本的に腕袋と足を隠しているニーソは外して寝ているから、実際には結構恥ずかしい格好してるよな……。

 

(今日はもう絶対に無理だ……! なんとかして休む旨を先生に伝えないと……!)

 

 でも、痛すぎて携帯なんて持てないし、かと言って誰かが都合よく来てくれるわけもない。

 普段は呼ばなくても来るくせに、どうして肝心な時には誰も来ないんだよ!!

 

 私の心が痛みに負けそうになっていると、やっと私の想いが世界に伝わったようだ。

 

「弥生? 起きてるか? 起きてるなら、一緒に朝ごはんでも食べに行かないか?」

 

 い…一夏ぁ~! 今日だけはお前が来てくれたことが有難いよ~!

 もうノックはいいから、とっとと入って来てくれ~!

 

「返事が無い……? 弥生、悪いけど勝手に入るぞ」

 

 待ちに待った瞬間。

 一夏が扉を開けて入って来て、真っ先に私の事を見る。

 

「弥生……? 弥生っ!? ちょ…マジでどうしたんだ!? 顔が真っ青じゃないか!?」

「一…夏……それ……とっ……」

「ど…どうすればいいんだ……!? ここは千冬姉を呼んで……いや、ここから寮長室までは遠いか……!」

 

 直接呼びに行こうとせずに、普通に携帯使って呼び出せよ!!

 それよりも、そこの机の上にある薬を取ってほしい……。

 

「弥生、いるか~? ……一夏……何故にお前が弥生の部屋にいる?」

「この男はまた……!」

 

 篠ノ之にオルコット……! 天の助けがやって来た~!

 男の一夏ならいざ知らず、同じ女子であるこいつ等ならきっと分かってくれる筈……。

 

「ほ…箒! それにオルコットさんも! 今は俺よりも弥生が!」

「……一体どうした?」

 

 一夏の様子をおかしく思ったのか、二人もこっちまで来てくれた。

 これでなんとかなるかも……。

 

「あ…ぐうぅぅ……!」

「や…弥生っ!? 大丈夫かっ!?」

「弥生さん! しっかりしてください!!」

「あれ……取って……」

「あれ?」

 

 なんとか頑張って声を出して、目線で机を指し示す。

 彼女達の前で生身の腕とか足とか出せないからね。

 

「これは……まさか……」

「そう言う事ですのね……」

 

 薬のパッケージを見て察してくれたか……。

 ヤバイ……痛みで朦朧としているせいか、二人に対する好感度が爆上げしてる……。

 

「一夏。お前は出て行け」

「はぁっ!? なんでだよ!? 俺だって弥生が心配で……」

「いいから出て行きなさい! 今回の事は男である貴方に出番はありませんわ!」

「な…なんだよそれっ!? 意味分からねぇよ!」

 

 頼むから……ここで騒ぐのだけは止めて……。

 普通に五月蠅いから……。

 

「弥生。一緒に朝ごはんに……」

「……なんで皆がいるの?」

 

 ほ…本命キタ――――――――――――――!!!

 簪と本音……君達の登場を心から待ってたよぉ~!!

 

「丁度いい所に来た! 二人とも、こっちに来てくれ!」

「どうしたの……?」

 

 あぁ……ある意味で役者が揃った……。

 余計な奴も一人いるけど…。

 

「や…やよっちっ!?」

「ど…どうしたのっ!?」

「これだ……」

 

 後から来た二人に薬を見せる篠ノ之。

 それを見て、納得した顔になった。

 

「成る程ね……」

「そ~ゆ~ことか~…」

 

 私の痛みの原因が分かった途端、皆は動いてくれた。

 

「おりむ~? ちょ~っと私と一緒に行こうか~?」

「え? で…でも……弥生が……」

「聞き分けのない子は~……実力行使で追い出しちゃうよ~?」

 

 あれ……? とうとう痛みで幻覚まで見えてきちゃったのかな……?

 私の大好きな本音が、手の骨をゴキゴキと鳴らしながら一夏の事を凄い顔で脅している様子が見える……。

 

「ほら~…行くよ~?」

「いや……だから俺は!」

「私は先生にやよっちが休む事を伝えてくるね~」

「お願いね、本音」

 

 本音は一夏の手を無理矢理引っ張って、部屋から出て行った。

 その間に篠ノ之がコップに水を汲んできてくれて、背中を支えながら体を優しく少しだけ起こしながら、水と一緒に薬を飲ませてくれた。

 

「急がなくていいからな。そっと……そっとだ……」

「ん……ん……」

 

 薬を飲んだ事で痛みが幾分か和らぎ、やっと考える余裕が出来た。

 

(前にコレが来た時って、ここまで痛かったかな……?)

 

 もうだいぶ前の事だから、よく覚えてないんだけど。

 少なくとも、ここまでじゃなかった気がする。

 ……成長期だからか?

 

「大丈夫……」

「ん……。少し……楽…になった……」

「よかったですわ……」

 

 私もそう思うよ。

 今回ばかりは本当に彼女達に感謝だ。

 少しは見解を改めた方がいいかもしれないな……。

 

「用意はしてあるんですか?」

「そこの棚……にある……」

 

 オルコット……いや、ここは感謝の意も込めて、二人を名前で呼ぶことにしよう。

 セシリアが私の言った棚を開けて、中を確認する。

 別に見られて恥ずかしい物は入ってないから大丈夫。

 

「有りましたわ。これなら安心ですわね」

 

 箒がそっと私をベッドに寝かせてくれて、ついでにちょっぴりだけ頭も撫でられた。

 

「今日みたいな日は、お腹をよく温めてから体を楽にした方がいいんだよ」

「ん………」

 

 そう言いながら、簪が布団を掛け直してくれた。

 箒とセシリアに対する好感度は上がったけど、簪と本音に対する好感度は完全にカンストしちゃったよ……。

 マジで二人と結婚したい。って言うか、もう簪と本音は私の嫁。これ決定。

 

「私達はもう行かなくてはいけないが、今日は大人しく休んでいるんだぞ?」

「放課後にまた様子を見に来ますわ」

「無理をしちゃ駄目だよ?」

 

 この状態で何かをする程、私は根性無いからモーマンタイ。

 それよりも、この場にいる三人に礼を言わなくては……。

 

「箒…さん……セシ…リア…さん……簪……」

「「えっ?」」

「弥生?」

「……ありがとう」

 

 言えた~……。

 なんか薬を飲んだせいで眠たくなってきた……。

 瞼が重いや……。

 

「や…弥生が……」

「弥生さんが……」

「「名前で呼んでくれた……♡」」

「注目するのってそこ?」

 

 三人の声が遠くなっていく……。

 私の意識が段々と眠気に支配され、気がついた時には完全に眠りに落ちていた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 放課後。

 朝の痛みで精神的にかなり疲労したのか、弥生は昼食も食べずにぐっすりと眠っていた。

 

「す~……す~……」

 

 彼女の寝顔はとても安らかで、今朝までの苦しみが嘘のようだった。

 そんな安らぎの空間に、一人の侵入者がやって来た。

 

「うふふ……♡ 弥生ちゃんが戻ってくる前に、部屋の中で待ち伏せしましょうか……。授業が終わって即座にここまで来たから、大丈夫な筈よね?」

 

 ノックもせずに無音で扉を開けて入って来たのは、生徒会室にいた水色の髪の少女こと、IS学園の生徒会長である『更識楯無』であった。

 

「あ…あれ? なんか人の気配が……って……」

 

 抜き足差し足忍び足で奥まで進むと、彼女の目に穏やかな寝顔を見せている弥生が映った。

 

「……今日はお休みしてたのね。仕方が無い……弥生ちゃんと話すのは次の機会に……」

 

 流石の彼女も、病人の睡眠を邪魔するほど馬鹿じゃない。

 入室した時と同じように退出しようとしたが、ふと、弥生の額に汗が出ているのが見えた。

 

「このままじゃ風邪を引いちゃうわね……」

 

 足音を立てないようにしてキッチンまで向かい、そこで備え付けのタオルを濡らしてから絞って、弥生の所まで戻って来てから、そっと額に浮かんだ汗を拭いてあげた。

 

「あら……首にも汗が……」

 

 少しだけパジャマの首元を緩めてから、同じように汗を拭こうとするが、そこで楯無の手が止まってしまった。

 

「な…なに……これ……」

 

 パジャマの首元を緩めた時に見えてしまったのだ。

 普段から弥生がひた隠しにしている無数の傷跡、その一部を。

 

「き…傷跡……? それも……こんなに……」

 

 見えるだけでも10か所近く傷跡が見えた。

 そこから更に、首に大きな傷がついているのが見えた。

 

「この大きな傷跡は……!」

 

 弥生の首には、横一文字に深く傷つけられた跡があった。

 普段は服で首元を隠しているから見えない場所。

 見ているだけで悲しい気持ちになってくる。

 

「んん~……」

 

 楯無の手がくすぐったかったのか、弥生が寝返りをうつ。

 それによって、弥生の生身の手が外に晒された。

 

「…………!?」

 

 その手にも首元と同様に無数の傷跡があったが、それ以上に楯無に衝撃を与えた光景があった。

 

「爪が……無い……?」

 

 弥生の両手の爪は全て無くなっていて、そこには爪の代わりに無残な傷跡があるだけ。

 しかも、その爪は自然に剥がれたようには見えず、明らかに何者かによって強制的に剥がされたと思われる感じだった。

 

「どこのどいつが、こんな残酷な事を……!」

 

 誰とも知らない人物に激しい怒りを覚える楯無。

 だが、そんな怒りを一瞬で霧散させる存在が部屋にやって来た。

 

「お…お姉ちゃん……?」

「簪……ちゃん……?」

 

 更識姉妹、弥生の部屋にてまさかの邂逅。

 非常に気まずい空気が室内に流れるが、夢の世界にいる弥生には関係無かった。

 

「むにゃ…むにゃ……まだ…まだ……それぐらいなら……食べられる……よ……?」

 

 楯無、まさかの大ピンチ。

 弥生はまだまだ夢の中。

 簪は軽く混乱中。

 

 この状況……これから一体どうなるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本来ならある授業は無く、その代わりに弥生の『あの日』が到来。

そんでもって、楯無さんは登場早々にピンチに。


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私の出番が無いっ!?(by弥生)

今回はタイトル通りの内容です。

だって弥生、寝てるんですもん。

話に絡みようがありません。







 濡れタオルにて弥生についた汗を拭っている時に、偶然にも彼女の痛々しい無数の傷跡を見つけてしまい、更にそこへ追い打ちをかけるようにして、現在進行形で避けられている妹、更識簪と出会ってしまった更識楯無。

 

 両者は互いを見つめ合ったまま、完全に固まってしまった。

 

「……なんでお姉ちゃんが弥生の部屋にいるの……?」

「そ…そう言う簪ちゃんはなんで……」

「質問に質問で返さないで……と言いたいけど、別にいいか……」

 

 会話だけ見れば簪が妥協をしているように見えるが、その顔は全く許していない。

 

「私は弥生の事が気になって、授業が終わってすぐにここに来たの。今日は実習が無かったし」

「そ…そうなのね……」

「で? なんでお姉ちゃんはここにいるの?」

「そ…それは~……」

 

 『弥生ちゃんに接触しようとして、こっそりと部屋の中で待ち伏せて第一印象を少しでも良くしようと思ってました~』なんて、口が裂けても言えない。いや本当に。

 もしも言ったら、本当に楯無の口が裂けてしまうかも。

 主に簪の手によって。

 

「はぁ……。ここで下手に騒いだら弥生が目を覚ましちゃうから、こっち来て」

「ワカリマシタ……」

 

 下手に逆らったらどんな目に遭うか分からない。

 楯無は本能的にそう悟った。

 

 簪の言う事に従って、楯無は大人しく廊下に出た。

 その際、ちゃんと弥生の手と首を隠すために布団を掛け直しておいた。

 

 静かに扉を閉めてから、改めて問い詰める事に。

 

 委縮して申し訳なさそうに廊下のど真ん中で正座をしている姉と、それを見下ろしながら目の前で仁王立ちをする妹。

 

 ……なんだ、この構図は。

 

「えっとね……簪ちゃん。私は……」

「下手な言い訳なんていいから。私の質問にだけ答えて」

「ハイ……」

 

 完全に立場が逆転していた。

 姉としての威厳も、先輩としての威厳も、生徒会長としての威厳も何も無い。

 そこには一人の妹に頭が上がらないヘタレな少女がいた。

 

「なんで弥生の部屋にいたの?」

「えっと……話せば長くなるんだけど……」

「手短に言って」

「弥生ちゃんがとあるお偉いさんの娘さんだと分かって、それで……」

「護衛をする為に接触しようとした……と?」

「そう……よ。別に依頼されたわけじゃないけど、だからと言って無視できるような事でもないし……」

「ふぅ~ん……」

「ほ…本当よ?」

 

 彼女の名誉の為に言っておくが、嘘はついていない。

 それ以前に、ここで嘘をつけば楯無の今後が大ピンチになる。

 

「…………分かった。一応はそれで納得してあげる」

「よかった……」

 

 ほっと一安心して胸を撫で下ろす。

 これで少しは楯無にも余裕が出来た。

 

「それじゃあ、さっきは弥生に何をしようとしていたの?」

「最初は私もそのまま踵を返して帰ろうと思ったんだけど、その途中で彼女が汗を掻いているのを見ちゃって、少しでもスッキリさせてあげようと濡れたタオルで汗を拭いて……」

「本当にそれだけ?」

「本当にそれだけよ! 他には何もしてないわ!」

「さっきの話は暗部としての話だったから私自身も納得したけど、一度そこから離れたお姉ちゃんの言葉や行動はどうも信用に欠けるから」

「酷っ!? 簪ちゃんは私の事をどんな風に見ているのっ!?」

「痴女。変態。露出狂。バ会長。シスコン。どれがいい? 好きなので罵倒してあげるよ?」

「どれもイヤァ~っ!? って言うかバ会長っ!?」

「虚さんも陰では似たような事を言ってるよ」

「嘘でしょっ!?」

 

 ここに来て妹の口から明かされる衝撃の真実。

 少しは自覚を持ちましょう。

 

「……もういい。お姉ちゃんに関しては色々と諦めてるから」

「諦めないでっ!? お願いだから!」

「だったら、私から取った下着をいい加減に返してよ」

「そ……れは……」

「なんでそこで目を逸らすの」

「…………」

 

 どこまで行っても、彼女は彼女であった。

 

「この事は本音から虚さんに伝えて貰うようにするから」

「それだけは本気で勘弁してぇ~っ!?」

 

 楯無が簪にしがみ付きながらの涙の懇願。

 姉としてそれでいいのか。

 

「……お姉ちゃんも女の子なら分かると思うけど、今日の弥生は『アレの日』で体調が冗談抜きで最悪なの」

「そ…そうだったのね……」

「弥生が弱って寝ている時に、もしも何か変な事でもしたら……」

「したら……?」

「……お姉ちゃんの事、絶対に許さないから。って言うか、今後は『更識先輩』って呼ばせて貰うから」

「やぁぁぁぁぁめぇぇぇぇぇぇてぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 更識楯無。高校二年にしてガチ泣き。

 もう生徒達が知っているカリスマ溢れる彼女はどこにもいなかった。

 

「弥生はまだぐっすりと寝ているみたいだし、後で皆にも伝えないと。取り敢えず、今は安静にさせておいた方がよさそうだって」

「まさかの無視っ!?」

 

 もう姉には見向きもしないで、簪は寮の入り口へと向かって行った。

 

 これは余談ではあるが、弥生の部屋から皆が退出した後、ちゃんと原作通りに実習は行われ、そこで一夏は見事な犬神家を皆の前で披露し、一人で寂しく自分が作ったクレーターの後始末をしていたそうな。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 外はすっかり暗くなり、星空が美しく瞬いている。

 そんな時刻のIS学園の正面ゲート前に、一人の少女がそこそこの大きさのボストンバッグを持って立っていた。

 

「ここが天下に名高いIS学園ね~……。流石に大きいわね」

 

 長く纏まったツインテールが夜風に舞い、彼女の顔に当たる。

 

「受付受付~……っと。見当たらないわね」

 

 適当に周囲を見渡すが、それらしき施設は見当たらない。

 自力で見つけるのを断念した彼女は、ポケットの中から皺だらけになった一枚のメモ紙を取りだした。

 

「本校舎一階総合事務受付……って事は、少なくとも一階にあるって事よね?」

 

 僅かなヒントを頼りに、少しだけ歩いてみる。

 夜と言う事もあって、流石に人の姿は見えない。

 寮や一部の施設の窓から漏れる明かりが眩しく輝いて、何とも言えない寂しさを演出していた。

 

「ま、適当に歩いていれば見つかるでしょ。多分」

 

 見事な楽観主義。

 それで探し物が見つかれば、世の中には警察も探偵も必要ない。

 

「ここまで来た以上、まずはあいつに会いたいな~……」

 

 彼女がこのIS学園に来た目的は唯一つ。

 昔からの想い人に会いたいからだ。

 彼女の上の方では全く別の思惑があるのだろうが、彼女はそんな大人の事情には全く興味を示してないし、そもそも自分には関係無いとすら思っている。

 

「そういや、こっちに来る前に何か言ってたような……なんだっけ?」

 

 う~ん……と頭を捻らせて思い出そうとする。

 頭の隅っこの方に行ってしまった記憶であるが、何故かポンッ!と思い出せた。

 

「そうだ……思い出した。確か、この学園に日本の超偉い人の娘が在学しているから、その子と仲良くなって日本との友好な関係を築く第一歩にしろ……って言ってたわね。名前は………忘れちゃった」

 

 肝心な事を忘れては意味が無いだろうに。

 だが、当の本人は全く気にしている様子は無い。

 

「はぁ……弥生ぃ~……」

「いい加減にその溜息を止めてもらえませんこと? 本気でウザいので」

「オルコットさんって俺に対して辛辣過ぎじゃねっ!?」

「その理由は自分の胸に聞いたらいかがですの?」

「ソーデスネ……」

 

 聞き覚えのあるような声。

 同時に見えた複数人の人影。

 

(お? これはナイスタイミング! 丁度いいから、あの子達に受付の場所を聞こうっと)

 

 そうと決まれば早速、行動開始。

 彼女は声のする方に真っ直ぐに歩いて行き、その姿を視界に入る所まで近づいた。

 その時、彼女は自分の目に映った光景に驚いた。

 

(さっき言った事が現実になっちゃった……)

 

 女子達が集団で前を歩き、その後ろを一人の男子が歩いている。

 男子は先程から落ち込んでいるようで、溜息交じりに猫背で歩を進めていた。

 

「貴方の事を指導してくださった弥生さんの顔を立てる為に、態々貴重な時間を消費して貴方の訓練を仕方なく手伝っていると言うのに、肝心の貴方がそれでは意味が無いじゃありませんの」

「だってよ~……弥生の事が心配で心配で……」

「さっき簪も言っていただろう。今日一日は部屋で大人しく安静にしておいた方がいいと。それとも何か? お前は弥生にしなくてもいい気遣いをさせて、体調を悪化させたいのか?」

「んなわけねぇだろ! 弥生の体が第一に決まってるじゃねぇか!」

「だったら、今日はお前も大人していろ。私達だって本当は、今すぐにでも弥生の部屋まで行ってその手を握りしめたり、体を拭いてやったりしたいのを我慢していると言うのに……」

「箒……」

 

 シリアスなシーンのようにも思えるが、よく聞けばとんでもない事を普通に話している。

 本人達は全く気にもしていないだろうが。

 

「そう言えば~、今日は食堂でおりむ~の就任パーティーがあるんだよ~」

「俺の? なんで?」

「さぁ? 私が考えた訳じゃないし~」

「それもそっか。でもなぁ~……弥生が病気の時に俺だけがパーティーってのも……」

「馬鹿か貴様は。よく考えろ」

「馬鹿って……」

「あの優しい弥生が自分のせいで一夏がパーティーに出られなかったと知ったら、間違いなく責任を感じて落ち込んでしまうぞ」

「それは絶対に駄目だ! 俺のせいで弥生が落ち込むなんて……」

「だったら、弥生の為にもパーティーに行くべきだ。分かるな?」

「あぁ……そうだな。ところで、三人はパーティーには来ないのか?」

「私は人の多い場所は苦手だ」

「そんな気分にはなれないのでパスで」

「私もかな~。今はお部屋でお菓子を食べたい気分~」

「夜中に間食したら、後々が大変だぞ?」

「だいじょ~ぶ~」

「本音さんのそんな所が少し羨ましいですわ……」

 

 完全に話しかけるタイミングを逃してしまい、集団は彼女の前を通り過ぎていった。

 勿論、彼女の存在には全く気が付かないまま。

 

「………………」

 

 手を前に出したままの恰好で固まってしまった。

 数秒後に再起動した彼女は、その後にすぐ目的の場所である受付が見つかった。

 先程の集団が出てきた場所の近くに、探していた本校舎だった。

 

「はい。これで手続きは終了です。ようこそIS学園に。凰鈴音さん」

 

 人当たりのいい受付の女性の言葉を半ば聞き流しながら、鈴は先程の事を思い出していた。

 

(なんなのよあれは……! 当たり前のように女の子達を侍らせて! それに、弥生って何処の誰よ!? まさか…この学園で知り合った女の子の名前!? 一夏の奴~…私と言うものがありながら~!)

 

 顔は能面のようにしながらも、その心の中はマグマのように怒りでグツグツと煮えたぎっていた。

 

「あの……織斑一夏君ってどこのクラスか分かりますか?」

「あ~…彼なら一組の筈よ。確か、クラス代表になったって聞いたけど。流石は織斑先生の弟さんって事かしら? 貴女は二組だから、隣のクラスね」

「ソーデスカ……」

 

 棒読みで返事をする彼女……凰鈴音。

 相変わらず顔は無表情のまま。

 

「二組のクラス代表ってもう決まって……?」

「決まってるけど……それがどうかしたの?」

「いえね……ちょっと頼みごとをしたいと思って……」

「た…頼みごと……?」

 

 後に受付の女性はこう語った。

 この時の凰さんの背後には怒りに染まった仁王が垣間見えたと……。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 本音の言った通り、夕食後の自由時間に食堂で一夏のクラス代表就任パーティーが行われていた。

 パーティーの主役である一夏は、あまり気乗りしてはいなかったが、途中で箒に言われた事を思い出して、作り笑いを浮かべてパーティーを乗り切っていた。

 

 一夏が精神的にもキツくなってきた時、一人の上級生がボイスレコーダー片手にやって来た。

 

「どもども~。こちら新聞部で~す! 噂の新入生の織斑一夏君にインタビューをしに来ました~」

「イ…インタビュー? 俺に?」

「そうだよ。君はこの学園で一番の有名人だからね。あ、私は二年の黛薫子。新聞部の副部長をやってま~す。これ名刺ね」

「はぁ……。俺が有名人ねぇ~……なんで?」

「そりゃあ、君はこの学園で唯一の男子生徒だし、あの織斑先生の弟さんだしね」

「やっぱりそこっスか……」

 

 分かってはいてもやりきれない。

 いくら姉を通して見て欲しくないと思っていても、彼が千冬の弟である事実は覆せない。

 その事に納得していないのは本人だけ。

 

「最初に君に聞きたい事があるんだけど、いいかな?」

「な…なんですか?」

「前に君が図書室にて、とある女の子と一緒にいるところを目撃したって情報があるんだけど、それって誰なの?」

「図書室……? 弥生の事か?」

「弥生っ!? それが女の子の名前!?」

「しまった……」

 

 ふと漏らした迂闊な一言が薫子に聞かれてしまった。

 一夏は気まずそうに顔を逸らして苦笑いになる。

 

「それでそれで? その弥生ちゃんとはどんな関係なの? まさか、彼氏彼女の仲だったり?」

「いやいやいや! 俺が弥生の彼氏なんてそんな……。弥生は俺なんかとは違って頭もいいし、凄く美人だし……。俺は弥生に勉強を教わってばかりで、何もお礼を返せてないし……」

「勉強を教わったっ!? もしかしてマンツーマンで!?」

「それは~……」

 

 ここまで来たら、もう誤魔化せない。

 さっきから墓穴を掘ってばかりの原作主人公だった。

 

「くはぁ~! 入学して早速、青春してるわね~! んじゃ、これからの事に関して何か抱負とかってある?」

「抱負……」

 

 抱負なんて言われても、すぐに思いつくようなもんじゃない。

 しかし、一夏は少しだけ考えた後に口を開いた。

 

「やっぱ……弥生の隣に立つに相応しい男になる事……ですかね?」

「それ最高! 捏造なんてしなくてもいい一言頂きました~!」

 

 興奮がMAXになる薫子に対し、周囲の女子達は少し残念そうになった。

 

「板垣さんが織斑君の彼女候補か~……」

「確かに、あの子って美人でスタイルもいいけど……」

「私達にもワンチャンないのかな~……」

 

 知らぬが仏とはよく言ったもので、一夏は弥生が最も嫌う事の手伝いをしてしまっていた。

 これを弥生が知った時、一体どんな反応をするのやら。

 この場にどこぞの激辛マーボー神父がいれば、最高の笑顔を浮かべたに違いない。

 

「織斑君に勝ったセシリアちゃんにも色々と聞きたいと思ってたけど、ここにはいないんだね~…。適当に捏造……をしたら、なんかヤバいような気がするから、止めておこうかな……」

 

 好奇心の塊である彼女も、流石にイギリスの名家である『オルコット家』を敵に回す勇気は無かったようだ。

 

 最後に集合写真を撮ったが、一夏の顔はずっと固いままだった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 最後に、今までずっと出番が無かった弥生はと言うと……

 

「お腹が……空いた……よ……」

 

 昼間にずっと寝ていた為に夜に全く寝付けず、おまけに昼食をしなかった為、空腹に襲われていた。

 体が万全ならば普通に料理をするのだが、今の体調で料理をするのは無謀すぎた。

 結果、朝になるまで待つしかない弥生だった。

 

 弥生の部屋には一晩中お腹の虫が鳴き続けて、先程までとは別の意味で苦しんでいた。

 

「ご飯……ぷり~ず……」




次回はちゃんと弥生の出番が?

そして、中国から来た彼女が本格的に登場します。

弥生と鈴とのファーストコンタクトはどうなるのか?


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中国から来た少女

今日の夕飯はかつ丼とうどんとお味噌汁。

弥生ほどではありませんが、私も人並み以上には食べるんです。

でも、何故か全く太らない不思議ちゃん。






 弥生がまだ『あの日』の痛みから完全に解放されていない日の夜。

 楯無は一人、自分の部屋で思案に耽っていた。

 

「まさか、簪ちゃんがあんなにも弥生ちゃんの事を大事に思っていたなんてね……。羨ましいやら、妬ましいやら……」

 

 なんて事を言いつつも、楯無の中に弥生に対する黒い感情は無い。

 それよりも、今は気になる事があるから。

 

「私が偶然にも見てしまった、あの弥生ちゃんの傷跡……。あれはどう考えても普通じゃない」

 

 楯無は、さっきからずっと弥生の傷跡の事ばかりを考えていた。

 暗部の人間としてもそうだが、それ以上に後輩の女の子があんなにも凄惨な傷を無数に負っているのを見て、言葉では言い表せないような気持ちになっている。

 

「簪ちゃんの様子から、他の子達はあの傷の事は知らないようだし……。普段から彼女が肌を露出しないような改造制服を着用しているのは、間違いなくあの体の傷を隠す為でしょうね。きっと、あの体の事で幼い頃に嫌な目に沢山あってきて、それで……」

 

 人間とは、少しでも自分達と違う部分を見つけると、途端に排他的になる生き物だ。

 中には違いを受け入れてくれるような殊勝な心を持つ者もいるが、世の中はそんな人間ばかりじゃない。

 大半は、集団から排除しようとする動きをするだろう。

 

「…………決めた」

 

 普段は滅多に見せない『暗部』としての顔を覗かせて、スッ…と目を細めた。

 

「私に出来る全力で、弥生ちゃんの『過去』に何があったのかを突き止めよう…。その上で、私もあの子の味方になってあげないと……」

 

 生徒会長として、先輩として、何より、同じ女として、弥生の力になってあげたい。

 これは、楯無の純粋な思いだった。

 

 しかし、弥生本人すらも知らない『空白の過去』を調べる事によって、彼女は知る事となる。

 この世の中には、己の欲望を満たす為だけに他人の全てを踏みにじる、最低最悪とも言える『吐き気を催すような邪悪』が確かに存在していると言う事実を。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 次の日の朝。

 私の体調はすっかりとよくなって、いつものように、本音と一緒に教室へと足を踏み入れた。

 すると、入った途端に私の方に駆け寄ってくる一団がいた。

 

「や…弥生っ!! 大丈夫なのか? もう苦しくないのか?」

「弥生……元気になってよかった……」

「えぇ……本当に……本当に良かったですわ……」

 

 ちょ…ちょっと? このお三方は何をそんなに声を荒げているんですか?

 一夏は無駄に顔が近いし、箒とセシリアに至っては、何故に涙ぐむの?

 

「私達も女故に、あの時の弥生の苦しみは共感できるが、それでもベッドの上で顔を歪めていたお前を見た時は生きた心地がしなかったぞ……」

「そうですわ。今回の事は流石に仕方が無かったですけど、今後はご自分の体調管理にもお気を付け下さいましね?」

「う……うん……分かった……よ…。心配かけ…て……ゴメン……ね…?」

「もういいんだ……。弥生が元気になってくれれば、それだけで……」

「でも、無理は禁物ですわよ? 時期はまだ完全には過ぎ去った訳ではないですからね?」

「そう……だね……」

 

 心配してくれることは本当に有難いと思うけど、私の事を思うのなら、その過剰な反応はやめて欲しい。

 罪悪感で逆にストレスになるわ。

 

「それだけ、皆がやよっちの事を心配してくれてたって事だね~」

「そう言う本音だって、凄く心配していたじゃないか」

「あの後、とても狼狽えていて、今にも泣きそうにしていましたわよね?」

「うぅ~……それは言わないでよぉ~……」

 

 恥ずかしそうに俯く本音の顔、頂きました!

 朝からあざーす! これで今日も一日頑張れるぞ!

 

「なんか……俺だけ女子の輪に入り損ねてるんだけど……」

 

 それはしょうがないんじゃない?

 女子って何気に閉鎖的な所があるからね。

 

 それから、私は本音に手を引かれながら席へと向かった。

 

(そういや、教室の中が妙に浮かれているような気が……。この時期って何かあったかな?)

 

 う~ん……思い出せん。

 女子達はしきりに『転校生』とか『中国』とか言っている。

 ん? 『中国』の『転校生』? それってまさか……。

 

「どうしましたの? 弥生さん」

「な…んでもない…よ。少しお腹…が減った……だけ」

「やよっち、今朝は少ししか食べなかったもんね~」

「少しってどれぐらいだ?」

「卵粥……10人前……」

「「確かに少ない」」

「10人前っ!? しかも、それで少ないのかよっ!?」

 

 やっぱり、病み上がりにはお粥が一番いいよね。

 でも、念の為に無理しないように食べる量を減らしたけど、あれだけじゃ物足りない……。

 お昼まで持つかな……。

 

(ん? なにか教室の入り口に見慣れない誰かが立ってこっちを見てるような気が……)

 

 あんな奴、この学校にいたっけかな?

 ここからじゃよく姿が見えないけど。

 

(あ。教室の喧騒でよく声は聞き取れないけど、なんか言ってるっぽい)

 

 ……別に気しなくてもいいか。

 なんて思っていた私が馬鹿でした。

 

 入口にいた少女は、なにやらこちらに向かって一直線にズンズンと大股開きで歩いてきた。

 

「ちょっとっ!! いい加減に気が付きなさいよ!!」

「なぁっ!?」

「あら?」

「ん~?」

「誰だ?」

「あ……」

 

 こ…このツインテールの少女は……まさか……!

 

「お前って……鈴か?」

 

 原作ヒロインの一人にして、中国の代表候補生でもある『凰鈴音』じゃないかっ!?

 そうだった……! 確かこいつはこの時期に隣のクラスに編入してくるんだった……!

 アレの痛みを乗り越える事に必死になって、すっかり忘れていた!

 

「そうよ。アンタのよ~く知っている凰鈴音よ。久し振りね、一夏」

「おう! 本当に久し振りだな! でも、なんでお前がIS学園にいるんだ?」

「今のアタシは中国の代表候補生……って言えば、大体は分かるんじゃない?」

「いや全く」

 

 まさかの即答。

 せめて考える姿勢ぐらいは見せて欲しかった。

 

「あ…あんたねぇ~……。一体ここで何を学んでるのよ……」

「そりゃ、ISに関する事全般?」

「それなのに即答って……。呆れを通り越して感心するわ……」

 

 あ~あ。登場早々に頭を抱えちゃったよ。

 気持ちは分かるが、まぁ……ご愁傷様。

 

(な…なんだ? 彼女の視線がこっちを向いている?)

 

 凰鈴音……もう普通に鈴って心の中では呼ばせて貰おう。

 その鈴が私達全員を舐め回すように見渡していた。

 

「ふぅ~ん……」

「お前はどこを見ている?」

 

 心なしか、少し視線が下を向いているような……。

 

(揃いも揃って、一夏が侍らせている女の子全員が巨乳ですって? ふざけんじゃないわよ! なにか? これは私に対するあてつけか!? それとも、一夏もやっぱり胸が大きい子の方が……)

 

 急にこっちを睨み付けてきたと思ったら、今度は溜息交じりに落ち込みだしたし。

 睨まれた時はかなり怖かったけど、この哀愁溢れる姿を見せられたら、何も言えなくなる……。

 

「「「「「あ」」」」」

「え? なによ?」

 

 志村! 後ろ! 後ろ~!

 早く気が付いて~! 貴女の後ろに出席簿を手にした最強の刺客がいますよ~!

 

「おい貴様……」

「あ? アタシの邪魔をしないでくれ……」

 

 彼女が振り向いた途端、教室の中の時が凍りついた。比喩でなく。

 

「他の教室に入って何をしている」

「ち……千冬さん……?」

 

 あっ! それは……

 

「織斑先生だ。ちゃんとけじめをつけろ、馬鹿者が。とっとと自分のクラスに戻れ」

「す…すみませんでした……」

 

 恐怖に屈した鈴は、あっという間に教室から出て行った。

 気持ちは分かるけど、廊下は走るなよ……

 

 にしても……しゅ…しゅごいプレッシャー……!

 こ…怖い……本気で怖いよ~!!

 泣いていい? 私ってばすっごく頑張ったから、もう泣いていいよね?

 

「ったく……。織斑と言い、アイツと言い、公私のけじめぐらいちゃんとつけられないのか……」

「え? なんで俺が引き合いに出されてるの?」

 

 完全なとばっちりですな。ざまぁww。

 

「板垣」

「ひゃ…ひゃいっ!?」

 

 な…なんだっ!? やるのかこのヤロ~!

 今なら速攻で五歳児のように泣き喚く事が出来る自信があるぞ!

 

「昨日のお前の事は聞いている。幸い、今日は外での実習は無いが、それでもあまり無理をせずに大人しくしておけ。いいな?」

「は……い……」

 

 ま…また頭を撫でられた……?

 なんだ…この人は……。

 あれか? 所謂『飴と鞭』ってやつか?

 いや違うな。この人の場合は寧ろ『砂糖一粒と核弾頭』だろう。

 箒とセシリアに関しては少しだけ見直したけど、この女教師はまだまだ油断は禁物だ。

 次の瞬間に何をしてくるか、全く予想が出来ないからな……。

 

「なんか……千冬姉って弥生には甘いよな……」

「何か言ったか?」

「ナンデモナイデス……」

 

 またプレッシャーが……。

 全然甘くなんて無いよ! 激辛だよ! 超激辛だよ!

 辛いのは食べ物だけで沢山だよ!

 

「二度目は無いからな」

「りょ…了解……」

 

 こうして、私の爽やかな朝は一瞬にして恐怖に染まってしまい、また一日が始まる。

 これ……本気で胃薬を買う事を考えないとな……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 お昼休み。

 私は本音と一緒に簪と合流して、一緒に食堂に向かう事にしたが、そこに箒とセシリアが乱入、更には一夏が後ろから勝手について来た。

 因みに、授業中に余計な事を考えて出席簿の餌食に~…なんて事は無かった。

 てっきり一夏と鈴との関係を考えて集中出来ていないと思ったんだけど、どうやら私の思い違いだったみたいだ。

 そうだよな。あの人の授業で馬鹿な真似をするような勇者はいないよな。

 

「それにしても、朝に来た彼女はなんだったんでしょうか?」

「一夏の知り合いのように見えたが?」

「知り合いって言うよりは、鈴は…「待ってたわよ! 一夏!」……噂をすればなんとやら……」

「だね~」

「この子が……」

 

 野生の凰鈴音が現れた!

 どうしますか?

 

  逃げる

 

  土下座

 

  泣く

 

→ 一夏に丸投げ

 

「私達は先に行ってるぞ」

「どうぞごゆっくり」

「んじゃね~」

「……………」

「え? ちょっとっ!? みなさ~んっ!?」

 

 鈴は一夏にべったりだったので、ここは彼に全てを任せてから、私達はお昼ご飯としゃれ込む事に。

 

「あ…あれ? なんで?」

 

 何がだよ。それじゃ、お幸せに~。

 

 販売機の前に行って、何を食べようか考える……けど、実は最初から今日の昼食のメニューは決まっていたので、それを迷わず選択。ポチっとな。

 

「弥生は決まったの?」

「う……ん……」

「それじゃ、早く並ぼ~」

 

 カウンターの列に並びながら、置いてきた二人を見る。

 

「あんたってばまた背が伸びた? もう頭に手が届かないんですけど」

「成長期だしな。お前も本当に久し振りだよな」

 

 仲良さそうで、なによりなにより。

 今度こそ、私から離れてくれると助かるよ。

 

「弥生さんは何を頼んだんですの?」

「ちょっと……ね……。後で行く……から……先に行って…て……」

「? 分かった……」

 

 皆を先に行かせてから、私はカウンターの向こうにいるおばちゃんに食券を手渡す。

 

「お? お嬢ちゃんかい? 今回は何を食べるんだい?」

「こ……れ……」

「ほぅ~? これはまた……よし! 少しだけ待ってな。すぐに用意してあげるよ」

「お願い……しま…す……」

 

 ちょっとだけ列から離れて、おばちゃんを待つことに。

 

「あれ? アンタなんでまだ……」

「注文待ちか? 弥生」

「そんな……と…こ……」

「何を頼んだの?」

「すぐに……わかる…よ……」

 

 待っている間に一夏と鈴がやって来て、同じように食券をカウンターに置いていった。

 二人が注文している間におばちゃんがやって来て、大きな台車に私の注文した物を乗せてきてくれた。

 

「はいよ、お待ちどうさま」

「ありがと…う…ござい……ます……」

「これぐらい別に構いやしないよ。アンタの食いっぷりは見ているこっちも気持ちがいいからね。いくら量が多くても、作り甲斐があるってもんさ」

 

 おぉ~……なんて良いおばちゃんなんだ……。

 食堂なんて昼食以外に使わない! って思ってたけど、今後も積極的に利用させて貰おうかな……。

 

「や…弥生……それって……」

「私……のお昼……ご飯……」

 

 おばちゃんから台座を引き継いで、簪達の待っている席に行くことに。

 鈴は向こうを向いていたから、私の昼食を見ていない。

 早く席に行って食べたいな~♡

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 席まで行くと、皆が私の持って来た食事を見て呆気にとられていた。

 う~ん……今回は少し多かったかな?

 でも、今の私はこれぐらい食べたいんだよね~。

 

「や…弥生……? その灰色の山は一体……」

「うわぁ~……」

 

 台座に置かれた巨大なざるを体全体で持ち上げて、テーブルの上に置いた。

 

「よっ……こいしょ……っと……」

「い…意外と力もあるんだな……弥生は……」

 

 そう? 至って普通だと思うけど?

 

「こ…これはなんですの……?」

「ざる蕎麦……」

「一応聞くけど……何人前?」

「20人前……」

「「「「20人前っ!?」」」」

 

 テーブルの中央を完全にざる蕎麦が陣取って、圧倒的な存在感を示していた。

 そばつゆは5つくらい用意してあって、その全部にたっぷりと注がれてあった。

 

「……この山を見て、弥生がここにいるってすぐに分かったぜ……」

「ちょっ……! なんなのこれっ!?」

 

 あ、私のざる蕎麦がデコイになって一夏と鈴を呼び寄せてしまった。

 態々ここに来なくてもいいのに。

 二人で向こうにでも行って、ゆっくりしていってね。

 そんでもって、ゆっくりボイスで実況でもしてもらえ。

 

「なんでここに来るんだ?」

「何よ? あたしたちがどこで食べようと、アタシ達の勝手でしょ?」

「少しは空気を読んで欲しいものですわ……」

「大方、そこの男にほだされたんでしょ?」

「なんで俺が悪者になってるんだよ……」

 

 こっちの了承を得ないまま、鈴は勝手に席に座って、一夏もそれに続くように席に座った。って……なんで一夏は私の隣に座るんだよ。他にも席は空いてるだろうが。

 

「んな訳で、失礼するわよ」

「強引に割り込んでこないでくださいな……」

「礼儀がなってないぞ」

「うっさいわね……って、一夏! どうしてその子の隣に座るのよ! 座るならアタシの隣に座ればいいじゃない!」

「いや……それこそ俺の勝手だろ……」

 

 なんか場の空気が険悪になってきたんですけど……。

 こんな時は食事だけに集中して、食べている間だけでも現実逃避をしよう!

 

 頼むから、暴力沙汰だけは勘弁してくれよ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




鈴ちゃん本格登場。

楯無さんはなにやら不穏なフラグを立てました。

実はこれが、この物語の根幹に関わってくる事に。

回収はかなり先になると思いますけどね。


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ご飯ぐらい静かに食べられないの?

私の中で弥生の専用機が決まりつつありますよ~。

色々と考えたのですが、今は二つにまで絞られてきました。

ぶっ飛んだ機体にするか、それとも貧弱な機体にするか。

悩み所ですね~……。







 ある程度は予測していた、凰鈴音の昼食時の乱入。

 頼むから、騒ぎだけは起こさないでくれよ~?

 食堂を出禁になるとか、割とマジで洒落になってないからな?

 

「そういや、鈴はいつ頃こっちに戻ってきたんだよ?一言でも連絡くれれば、出迎えぐらいはしてやったのに」

「しょ…しょうがないでしょ。こっちだって色々と急だったんだから……」

「ふぅ~ん」

「そ…それよりも! そっちこそ、なにISを動かしちゃってるわけ? テレビの緊急速報を見た時、本気で驚いたわよ?」

「俺に言われても困るっつーか……」

 

 このざる蕎麦……美味い!

 つるつるで喉越し爽やか! 味も申し分ないし、これなら20人前と言わず、この倍は軽く食べられる気がするぞ!

 このつゆもコクが合っていいし、ネギや山葵との相性も抜群!

 口に入れた時の鼻にツ~ンってくるのが最高なんだよね~♡

 

「ここでイチャつくのは構わないが、もうそろそろ彼女の事を教えてくれないか?」

「そうですわ。別に彼女の事はどうでもいいですけど、朝からあんな風に登場されては、名前ぐらいは知りたくなりますもの」

「私も別にどうでもいいかな」

「おいし~ね~♡ ん? 何を話してるの?」

 

 あ~……もう4分の1も減ってしまった。

 やっぱり、昨日何も食べてないのが今日に響いてるな~。

 

「べ…別にイチャついてなんか……。って言うか、サラッと傷つくような事を言わなかった?」

「「別に?」」

「???」

 

 つゆが薄くなってきた……。

 ちゃんとおばちゃんから替えのつゆを貰ってきて正解だったな。

 

「まぁ、簡単に言えば、鈴は俺の幼馴染だよ」

「「幼馴染……?」」

 

 おや? 少し視線を向けてみれば、なにやら険悪なムードになってませんか?

 箒は普通にハテナマークを浮かべているだけだけど、鈴の方は凄い形相で一夏の事を睨んでいる。

 いつもの私ならば、ここでガクブルしていただろうが、今日は違う!

 私の目の前には絶品のざる蕎麦があるのだからな!

 これを食べていれば、嫌な現実とは少しの間だけおさらばよ!

 

「ん? なんでこっちを睨む?」

「別に!」

 

 さてさて。こちらに飛び火しない間に、私も食事タイムに戻りましょうかね。

 あ、山葵が薄くなってネギも少なくなってきた。

 予備のヤツから追加しないと。

 

「もしや、小学生の時に私が転校した直後に小学校にやって来たのか?」

「お! よく分かったな~! そうなんだよ。鈴は丁度、箒と入れ替わるようにして中国から転校してきたんだ」

「そうだったのか。成る程な」

「そうよ! って……なんかリアクション薄くない?」

「そうか? 別に普通だと思うが?」

「えぇ~……?」

 

 なんか盛り上がってますなぁ~。

 まだまだ余裕だな~。

 そういや、ここってわんこ蕎麦とか出来ないのかな?

 前から一度やってみたかったんだよ。

 一杯の量が非常に少ないから、軽く1000杯はいける自信あるけど。

 

「こいつが篠ノ之箒。前に話した事があっただろ? 小学校からの幼馴染で、俺や千冬姉の通っていた剣道場の娘」

「あ~……アンタが」

 

 やば。無呼吸で蕎麦を貪っていたから、軽い呼吸困難に陥りかけた。

 いくら美味しいからって、息ぐらいはしないとな。

 

「初めまして、凰鈴音よ。今後ともよろしく」

「そうか。まぁ、適当に頼む」

「……あれ? それだけ?」

「それ以外に何か?」

「えっと~……」

(ちょ…ちょっと? これってどういう事? てっきり火花を散らした睨みあいに発展すると思ってたのに、なんかかなりフラットなんですけど? どうして?)

 

 ん? なんか鈴が困惑してないか?

 つーか、早く食べないとラーメン伸びちゃうぞ~。

 

「そんで、そっちのアンタは……」

「イギリス代表候補生のセシリア・オルコット。別に覚えなくてもよろしくてよ? 私も貴女には大して興味はありませんので」

「それってどういう事かしら?」

「そのままの意味ですわよ?」

「アンタ……アタシに喧嘩売ってんの? それとも、同じ代表候補生として、アタシに負けるのが怖いとか?」

「強いとか弱いとか、勝つとか負けるとか、そんな目先の小さな事柄に対してのみ興味を示せない時点で、貴女と私は相容れませんわね」

「……なんですって?」

「確かに、ISの操縦技術を向上させて自分の故国に貢献するのは大事な事ですが、今の私にはそれよりももっと重要な事がありますの。私にとってある意味で人生すらも賭けた大勝負が……」

「そ…そう……」

(あ…あれ~? なんかこの金髪もアタシが予想してたようなリアクションじゃないんですけど~? 私的に思いっきり正面から喧嘩売られると覚悟してたんだけど……)

 

 うあ~……もうかなり無くなってきちゃったよ~。

 これはもう、夕食もタップリと食べる事確定ですな。

 

「えっと~……眼鏡を掛けたアンタは……」

「四組の更識簪。以上」

「終わりっ!? 他には!?」

「趣味は読書と音楽鑑賞。これでいい?」

「適当過ぎる!」

(この子は……別のクラスだから警戒しなくてもよさそうね……)

 

 またつゆが薄くなってきた。

 こりゃ、食べ終わるまでに後数回は継ぎ足さなくちゃ駄目だな。

 

「布仏本音だよ~。よろしくね~リンリン~」

「リンリン言うな! あたしゃパンダか!」

「おぉ~…ナイスツッコみ」

 

 一時の清涼剤として、我が嫁である簪と本音の顔を見よう。

 あぁ……本当に癒されるな~……。

 鋼鉄の拳がいつ飛んでくると知れない環境において、二人の存在は私の宝だよ~。

 

「ねぇ……このさっきからずっと山盛りのざる蕎麦を食べまくっている子は……」

「この子は板垣弥生。俺と同じ一組で、ある意味で俺の恩人なんだ」

「お…恩人?」

「おう。前に色々と勉強を教わって、勉強以外にも沢山のアドバイスを貰ったよ。弥生がいなかったら、俺は今も授業についてこれなかっただろうな……」

「へ…へぇ~……そう~なんだ~……」

(この子が昨夜、一夏が話していた『弥生』ね。この細身で大飯食らいなのは本気で驚いたけど、見た限りは大人しそうな子よね。でも、一夏と凄く仲がよさそうだし、勉強も教わったって……。まさか!? この子の部屋で二人っきり!? それってモロに部屋デートじゃないの!?)

 

 な…なんだ? 背中に未だ嘗て体験した事が無いような悪寒が走ったような気が……。

 

(間違いない! この弥生って子こそが最大のライバル! アタシから見ても相当な美少女だし、スタイルだって凄くいい……。くっ……! なんか自分で言ってて惨めになってきた……)

 

 なんか……鈴がこっちをジッと見てるんですけど……。

 え? 何? 私ってば何もしてないよね? 普通に食事をしてただけだよね?

 

「よろしく、板垣弥生さん。アタシは凰鈴音。鈴って呼んでくれていいわ。私もそっちの事は弥生って呼ばせて貰うから」

「よ…よろ……し…く……」

 

 なんか握手を求めてきたんだけど、ここで断れば絶対に報復が待ってるよな……。

 かと言って、素直に握手に応じれば、その瞬間に手を握りつぶさそうだし……。

 

 少しだけ悩んだ結果、私は意を決して握手に応じた。

 握力は普通だったけど、彼女の目は全くもって笑っていなかった。

 

(これから長い付き合いになりそうね……この子とは)

(な…なんだ……!? この脊髄に氷柱を入れられたような感覚は……!)

 

 言葉に出来ないプレッシャーを感じ、即座に手を離して食事を再開。

 怖い事はお蕎麦を食べて早く忘れよう……。

 

(初対面で早くも弥生の事を呼び捨てだと!?)

(なんて暴挙を……! 許せませんわ……!)

(私の嫁である弥生を本人の許可なく呼び捨てするなんて……! 排除すべきか?)

(む~……。やよっちと握手するなんて……リンリンズルいな~……)

 

 気のせいか? 私の目の前にいる四人から殺意の波動が垣間見えたような気がしたんだけど……。

 んな訳ないよな? 箒やセシリアならともかく、私の嫁達がそんな物騒な事を考える筈ないもんね。

 うん、気のせい気のせい。

 

「しっかし、弥生の食事風景を始めて見たけど…本当によく食べるんだな……。これだけ食べて、このスタイルだろ? 一体どうなってるんだ?」

「ずるるる……ごくん。お…お蕎麦……は消化にいい……から……」

「いやいや。これだけ食べれば消化がどうとか関係無いからね?」

 

 私の事はどうでもいいから、お前は自分の食事をしろっつーの。

 お昼時間だって無限じゃないんだぞ?

 

「もう4分の1ぐらいになってるわよ……。これだけの量をお腹に入れて、尚且つこのスタイル……」

 

 なんでまたこっちを見る?

 

(絶対に全ての栄養があの胸に行ってるわね。じゃないと説明がつかないわ)

 

 またスゲー目で睨み付けてくるし……。

 怖いから、私の事は放置して、好きなだけ隣のキングオブ鈍感とチョメチョメしてろよ。

 それが私の望みでもあるんだからさ。

 

「ねぇ一夏。ちょっと小耳に挟んだけど、アンタってクラス代表をしてるんですって?」

「そうなんだよ~…。なんか、気が付いたらなってた……」

「へぇ~……」

 

 あと少し……あと少しで本当に終わってしまう~!

 こんな事なら、天ぷら(20人前)も一緒に注文しておけばよかった。

 天ぷら蕎麦、最高だよね? 私大好き♡

 

「じゃあさ、アタシがISの操縦の訓練とか見てあげよっか?」

「う~ん……俺としては助かるんだけど、それっていいのかな?」

「ど…どういう事?」

「いやさ。鈴は二組で、俺は一組のクラス代表な訳だろ。それってつまり、今度あるクラス対抗戦ってやつで試合相手になるわけじゃんか。対抗戦が終わった後ならともかく、この時期に他のクラス代表から教わるのはいかがなものかと……」

「い…一夏の癖に妙に頭が回るじゃない……」

(まさか……これも弥生の入れ知恵? くそ……! まさか、こんな形で先手を取られるなんて! 可愛い顔して侮れないわね……)

 

 あぁ……あと数口で終了してしまう……。

 すっごく美味しかったよ……お蕎麦さん。

 絶対にまた食べるからね……。

 

(チッ! 一夏め……余計な知恵を身に付けおって! これでこの中国女とくっつけば、晴れて弥生に付き纏う余計な存在が合法的に排除出来たものを!)

(ですが、これはチャンスでもありますわね……。織斑一夏が彼女に気を取られている隙に私が弥生さんと……エヘヘヘ~……)

(弥生の名残惜しそうにしている顔も、また可愛い……♡ そうだ、携帯で撮ってちゃんと保存しておかないと……)

(なんだろ~……あの顔を見ていたら、むしょ~にやよっちにご飯をあげたくなっちゃうね~)

 

 終わってしまった……私の至福の時間が……。

 麺一本残さずに胃の中へと流し込んで、ついでに薄くなったつゆもゴクゴクと全部飲み干す。

 そんでもって、手と手をちゃんと合わせて御挨拶。

 

「ごちそうさま……でした……」

 

 満腹満腹……♡

 でも、これも数時間後には無くなるんだよね……。

 

「本当に全部食べちゃった……」

「しかも、この短時間に……」

 

 少しお腹が物理的に膨れてしまった。

 妊娠しちゃったっ♡ テヘペロ♡ 

 ……誰かツッコめよ。ここは笑う所だぞ。

 

「これぐらい、弥生さんならば普通ですわ」

「そうだな。私達はもう、この光景は見慣れてしまった」

「弥生の胃袋はブラックホール」

「世界の舞台に立てるフードファイターだよね~」

 

 慣れって怖いもんですね。

 でも、下手に何か言われるよりは、慣れて貰った方がずっと楽ちん。

 こっちも気軽に食事を楽しめるからね。

 

「一……夏……」

「ん? どうした?」

「食べない……の……?」

「え?」

 

 おいおい……話すのに夢中になってご飯を食べてないとか、小学生じゃないんだから……。

 しっかりしようよ。お前はもう高校生なんだぞ?

 

「お…俺だけ? 皆は……」

「私ならもう食べ終わったぞ」

「私もですわ」

「右に同じ」

「お腹いっぱい~♡」

「言っとくけど、アタシも終わってるわよ」

「マジで俺だけかよ……」

 

 一人だけ取り残されての食事とか、普通に悲しすぎだろ。

 って言うか、虚しい。

 

「早…く食べない…と……お昼…の授業…に……間に合わ…ない……よ…?」

「弥生の言う通りだ。もしも食事が遅くて遅刻しました~…なんて事が織斑先生に知られでもしたら……」

「間違いなく、あの出席簿が光って唸り、輝き叫びますわね」

「シャイニング出席簿」

「IS学園校則第一条。頭部を破壊された者は退学となる?」

「退学以前に普通に死ぬわ!!」

 

 流石にこのまま放置するのは可哀想と言う事になったので、一夏が食べ終えるまで待つことに。

 こいつが一人で食べている間、私達は女同士の会話に花を咲かせていた。

 と言っても、私が喋っていたのは主に簪と本音だけだけど。

 他のメンバーからは話を振られた時に返事をする程度。

 

 その後、一夏はなんとか食べ終わって、急いで教室に戻ったお蔭で遅刻はせずにすんで、彼はシャイニング出席簿からは逃れられた。

 けど、今度もし遅刻でもしたら、その時は真っ赤に燃えるゴッド出席簿か、東西南北中央不敗なダークネス出席簿が炸裂するに違いない。

 それを避けるためにも、今後は私も遅刻しないように気を付けないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 




お昼だけで丸々一話……。

どうしてか、私がISの二次小説を書いた時って、この場面は食事風景だけで終わってしまうんですよね……。
 
本当に不思議です……。


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私にどうしろと?

最近になって、また一日の気温の緩急が激しくなって、地味に辛い私です。

寒かったり暑かったり、どっちなんだよ! って言いたくなりますね。

こんな時こそ気を付けないと、油断するとすぐに体調を崩してしまいますから。












 放課後になり、私は一夏達が向かった第3アリーナではなくて、それとは真逆の場所にある第2格納庫へと足を向けていた。

 と言うもの、実は私…既に簪から専用機の事を色々と聞いていたりします。

 話を聞く限りは、原作と全く同じようになっていて、一夏がISを動かしたせいで彼女の専用機の開発が凍結、未完成だけど機体はあげるから、欲しけりゃ自分で勝手に作ってちょ! ってな感じに半ば放置に近い形で機体を受領したらしい。

 原作知識で最初から分かってはいても、当事者から直に話されると、なんとも言えないもどかしさを感じた。

 

 確かに一夏がISを起動させてしまった事が原因かもしれないが、彼とて意図して動かしたわけじゃない。

 一応は『偶然』的な感じに言われてはいるが、偶然で本来動かない機械が動けば苦労は無い。

 ISは精密機器の塊、技術の結晶とも言うべき存在だ。

 故に、そこには必ず何かしらの『原因』が存在し、その『原因』にこそ誰かの『意思』が介入している……と考えるのが普通だ。

 ま、その『誰か』についてはおおよその見当がついてるんだけどね。

 敢えて誰とは明言しないけど。

 仮に分かった所で、私に出来る事なんて何も無いんだし。

 

 この事の一番の問題は、これには明確な加害者が存在しない事なんだよなぁ~…。

 ある意味では、一夏だって巻き込まれた側になるんだし。

 そして、簪は完全にそのとばっちりを受けた事になる。

 

(こればっかりは……時間が解決するのを待った方がいいの……かな~……)

 

 簪の為ならなんだってする覚悟は出来ているけど、ならば何をするんだと言われれば、言葉に詰まってしまう。

 

(……馬鹿の考え休むに似たり。今はこの手にある『差し入れ』を一刻も早く持っていってあげよう)

 

 少しだけ歩くスピードを速めて、簪達がいる格納庫へと急ぐことに。

 

 暫くして、目的の格納庫前まで辿り着き、全自動式の扉がプシュ~っと言いながら空くのを待って、恐る恐る中へと入る。

 

「し…失礼…しま……す……」

 

 一応、挨拶はしておく。

 他にも誰かいるかもしれないしね。

 

「あ! やよっち~♡」

「弥生……今日も来てくれたんだ……」

「う……ん……」

 

 少し離れた場所に陣取っているのに、私の事を見つけるや否や、即座にこっちを振り向いた二人。

 あれですか? 二人は『気』とか『小宇宙』とか感じちゃう人ですか?

 どこぞの次回予告みたいに、小宇宙を感じた事があるのか?

 

「これ……持って……きた…よ……」

「やよっちぃ~…♡」

「ありがとう……♡」

 

 二人の傍まで歩いて行って、この手に持っているバスケットに入れてきた、二人分のスポーツドリンクとおしぼりを手渡す。

 勿論、スポドリは人肌の温度にしてある。

 

 簪達がスポドリを飲んでいる間に、私は目の前にあるハンガーに固定された簪の専用機『打鉄弐式』を見上げる。

 所々にまだむき出しの内部が見え隠れしていて、素人の私にも分かるぐらいに、完成には程遠いと感じた。

 

(でも、これがちゃんと出来上がれば、きっとカッコいいんだろうなぁ~……)

 

 自己満足かもしれないが、私も早くコレが大空を翔る姿を見てみたいもんだ。

 

「スッキリした……」

「やよっちがいてくれて、本当に助かるよ~」

「わ…たしには……これぐらい…しか手伝え……ないから……」

「「そんな事無いよ!」」

 

 うぉいっ!? びっくりした~……。

 

「やよっちが一緒にいるだけで、私達はとっても嬉しいんだよ!」

「うん。こうして弥生がドリンクとか持ってきてくれるから、本当に助かってる」

「だから、そんなに自分を卑下しないで……」

 

 本音……簪……。

 

「そ…そう言って……貰える…と……私…も…嬉しい……♡」

 

 これは、偽りなき私の心からの言葉だ。

 こんな私でも何かの役に立てるのなら、こんなに嬉しい事は無い。

 

「私も……二人…の作業……が終わるまで……一緒…にいる……ね…?」

「「うん!」」

 

 と言っても、流石にこのまま棒立ちでいるのは嫌だから、少しでも手伝う為に、必要な道具を持ってきたりとか、休憩時に肩を揉んであげたりとかしてあげた。

 なんでか肩を揉むと、二人とも顔を真っ赤にするんだよな……。

 そんなにくすぐったかったのかな?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 結局、あれから外が暗くなるまで作業は続いた。

 格納庫の使用時間が来たため、続きは次に回す事に。

 そのままの流れで食堂で夕食も食べていった。

 え? 私の夕食? 今日の晩御飯はちゃんぽんだよ。

 量は……言うまでもないよね?

 

(すっかり遅くなっちゃったな~…。流石に疲れたし、今日はもうちゃっちゃとシャワーでも浴びて、とっとと寝よう)

 

 本当はゆっくりと湯にでも浸かりたいけど、今から部屋の浴槽に湯を張るのは面倒くさいし、かと言って人の目がある大浴場に行くのは論外中の論外。

 

(……ん?)

 

 寮の中に入ってからエントランスを通り抜けようとすると、そこにあるベンチに非常に見覚えのある姿の少女が俯いて座っていた。

 あのツインテールは……間違いなく彼女だよね……。

 

「うぅ……ひくっ……ひくっ……」

(泣いている……のか?)

 

 このタイミングからすると、一夏の部屋まで行って色々と話した場面……だよな?

 

(でも、今は箒がいなくて一人部屋になってるから、何も問題無いんじゃ……)

 

 取り敢えず、ここで見つかると面倒な事になりそうだから、物音を立てないようにしながら、この場を通り過ぎよう。

 爪先立ちでそ~っと……そ~っとね……。

 

「ひくっ……ひくっ……ひくっ……!」

 

 なんか泣き声が大きくなってきたぞ……。

 こ…こんな事じゃ私は屈しないぞ!

 

「しくしくしくしく!」

 

 とうとう普通に『しくしく』言い出したし。

 ここで声を掛けたら、音速で付け込まれそう……。

 

しくしくしくしくしくしくしくしくしくしく(早く声を掛けなさいよ)!」

 

 ……もしかしたら、彼女がこの場にいて、私がここに現れた時点で全ては決していたのかもしれない。

 だって、しくしくの声に交じって『早く声を掛けなさいよ!』って聞こえた気がしたもん。

 

「…………大丈……夫…?」

「……………(コクン)」

 

 最終的に私は自分の安全と、これを無視した時に起きるであろう悲劇を天秤に掛けて、自分の安全を取ってしまった。

 いや……こうでもしないと、本気でどうなるか分からないからね?

 

「………部屋……来る……?」

「行く………」

 

 あ~あ……やっぱりこうなるのかぁ~……。

 

 部屋まで行く途中、なんでか鈴は私の制服の袖を抓んで離そうとしなかった。

 服が伸びるから、純粋に止めてほしいんだけどな~。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 自分の部屋まで鈴を案内してから、彼女を椅子に座らせる。

 はぁ~……これから何をやらされるのやら……。

 

「へぇ~……これが弥生の部屋なのね~。まさか、アイツの隣だったとは思わなかったけど」

 

 アイツとは……聞くまでも無いよな。

 

 一応、彼女は客人ではあるので、もてなしとしてコーヒーでも出す事に。

 私は砂糖とミルクを適量入れて、鈴のはまだブラックのまま。

 どれぐらい入れれば分からないから、砂糖の入った瓶とミルクの入った小ぶりな容器を持っていった。

 

「コーヒー……砂糖……とミルク……は自分……で好きなだけ…入れて……」

「あ、ありがとね。弥生は気が利くわね~。あのバカとは大違いだわ」

 

 早速、始まりましたよ~。

 きっと、この愚痴を延々と聞かされるに違いない。

 

「でさ! 聞いてよ! 一夏ったらマジでムカつくのよ!」

「どう…した……の…?」

「……実はね…アタシさ、小学生の時に一夏とある約束をしていたのよ」

「約……束……」

 

 それって……

 

「『アタシの料理の腕が上がったら、毎日酢豚を食べてくれる?』……そう言ったの」

 

 やっぱりぃ~!

 で、それをあのバカが間違えて記憶していて、それに激怒した鈴が部屋から出て行った……だろ?

 言わなくても分かるっつーの。

 

 でもさ、昔の約束なんて、正確に覚えているのは難しいと思うんだけどな~。

 小学生の時の約束なら猶更でしょ。

 それに、鈴の言い方も悪いと思うんだよね。

 あの鈍感男に、そんな遠回しな言い方じゃ通用しないでしょ。

 言うなら、もっとストレートに言わないと。

 つまり、今回は一夏にも少しは情状酌量の余地があるって事だ。

 

「んで、そしたらアイツ……なんて言ったと思う?」

 

 はいはい。ちゃんと聞いてあげますよ~。

 なんて言ったんですか~?

 

「『そんな約束なんてしたっけ?』って言ったのよ!? 信じられるっ!?」

 

 …………ゴメン。流石にこれは弁護できないわ。

 

「忘れ……た……?」

「そうなのよ! あのバカ一夏ったら、アタシとの約束を完全に忘れてたのよ! 覚え間違いくらいなら、まだなんとか許せるけど、記憶に無いってどういう事よ!?」

 

 私に言われても。

 

 それにしても……まさかの忘却とは予想が出来ませんでしたな。

 流石は一夏。私の予想を遥かに上回る事をしてくれる。

 勿論、悪い意味でな。

 

「全く……そもそも、アイツは昔っから……」

 

 そこから先は、まぁ~出るわ出るわ、鈴の口から一夏に対する愚痴が壊れた蛇口のように吐き出された。

 コーヒーを飲みながら、まるで酒に酔ったOLのように私に絡んでくる。

 ……マジでコーヒーで酔ったりはしてないよね?

 でも、これも時間の経過と共に次第に惚気話へと変化していくんでしょ?

 はっきりわかんだね。

 

「それで、女の子に告白された後、あのバカってばなんて答えたと思う?」

「さ…さぁ……?」

「『どこに付き合うんだ? 荷物持ちなら幾らでも付き合うぞ!』ですって! ふざけてんじゃないわよ! どこをどう解釈したら、そんな言葉が飛び出すのよ!!」

 

 あれぇ~? いつまで経っても惚気話へと移行しませんよ~?

 どこまで行っても愚痴しか出てこないんですけど~?

 

「はぁ~……折角、一夏に会いに態々ここまでやって来たのに……。なんでこうなっちゃうんだろ……」

 

 今度は落ち込んじゃった。

 別に落ち込むのは勝手だけど、出来れば自分の部屋で落ち込んで、自分のルームメイト相手に愚痴を零してほしかった。

 

「……なんかゴメンね。聞きたくもない愚痴なんか聞かせちゃって」

「気にし…ない……で……」

「弥生って本当に優しいわよね……。そんな所にアイツも惚れたのかも……」

「ん……?」

 

 最後の方、なんて言った? よく聞き取れなかった。

 

「ねぇ……なんで弥生はアタシに優しくしてくれるの? アタシ達って今日初めて会ったばかりなのよ?」

 

 お前があからさまに私を呼んだからだろうが!

 なんて言えば、次の瞬間には鋼鉄の拳によって赤い血と共に壁に埋まって愉快なオブジェクトになるんだろうな……。

 ここはどんな風に応えるのがベストだ? う~ん……。

 そうだ! こんな時こそ、困った時の『アニメ・漫画・ゲームの名言集』の出番じゃないか!

 

「泣いて……いる…誰か……を助ける……のに……理由……がいる…の……?」

「弥生……アンタって子は……なんで……」

 

 『ファイナルファンタジー9』の主人公、ジタン・トライバルの名言を私風にアレンジしてみました。

 って……どうした!? 急に立ち上がって私の方に来たぞ!?

 

「幾らなんでも…優しすぎよ……」

「鈴………!?」

 

 だ…抱き着かれたっ!? なんでどうしてっ!?

 

「弥生は……暖かいわね……」

「そ…う……」

 

 腕を思いっきり体に回されてるから、動きたくても動けないんですけど……。

 と言うかですね、私の胸に顔を埋めるのは止めてもらえません?

 

「あの……鈴……?」

「なに……?」

「一夏……もね…IS…を動かして…から……本当……に色々とあった…みたいで……覚える事……も一杯あった……から…きっと…一時的……にど忘れ…してるだけ……だと思う…よ……?」

「ど忘れ?」

「う…ん……。少し…だけ……時間…を置いて……冷静…になれば……思い出す……かも…しれない……」

「本当に弥生は……」

 

 ここで険悪になり過ぎて、関係が修復不可能になられたら、こっちが困るからな。

 なんせ、鈴は一夏とくっつく可能性がある女の子の一人だから。

 主に私の平穏の為にも、ここは一夏をなんとかしてフォローしておかねば。

 

(あそこまで一夏に関する愚痴を聞かされたのに、こんな言葉がすぐに出せるなんて……。やっぱり、一夏と弥生は両想いなんだ……。じゃなきゃ、あんなセリフなんて到底言えないわよ……。最初からアタシの介入する余地なんて無かった……。アタシは……遅すぎたんだ……)

 

 ひぃっ!? またもや背中がゾクってした!?

 うぅ~……気持ち悪いなぁ~……。

 

(なんでかな……こうして弥生に抱き着いていると不思議と落ち着くのよね……。優しくて、気が利いて、可愛くて、おまけに包容力もあるなんて……。もしもアタシが男だったら絶対に惚れてたな……。いや……別に同性でも……好きに…なって……も……)

 

 おっと。鈴の頭が丁度いい位置にあるから、つい自然と頭を撫でてしまっていた。

 私ってこんなキャラだったかな~?

 ……あれ? 鈴さ~ん? お~い? もしも~し?

 

「すぅ~……すぅ~……」

「寝てる……の……?」

 

 おいおいおいおいっ! 冗談でしょ!?

 なんでここで寝ちゃうかな!?

 

「泣き…疲れた……の…かな…?」

 

 このままには……しておけないよねぇ~……。

 私も寝ることが出来ないし。

 

(しゃーない……)

 

 起こさないようにしながら鈴をお姫様抱っこして、ベッドにそっと降ろして布団をかけてあげる。

 鈴……ちょっと軽すぎじゃない?

 

(今度こそシャワーを浴びてスッキリしよう……)

 

 彼女をベッドに残したまま、私はシャワーを浴びて一日の疲れを取る事に。

 

 私……今夜はどこで寝ればいいのかな?

 床で寝たら痛そうだし……かと言って一緒に寝るのは……大きさ的には可能なんだけど、向こうが嫌がるだろうしなぁ~……。

 後で土下座でもすれば、許してくれるかな……?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 次の日の朝。

 アタシは瞼越しに網膜を刺激する光を感じて目を覚ました。

 

「ん……?」

 

 そっと瞼を開けると、目の前には弥生の寝顔があった。

 

「…………!?」

 

 思わず声が出そうになったけど、ギリギリの所で踏み止まった。

 

(危な~…。弥生の事を起こしちゃうところだった……)

 

 自分の体に布団がかけられているのを見て、自分の最後の記憶を探る。

 

(昨夜は……弥生の部屋に誘われて、そこで一夏の愚痴を聞いて貰って、それで……)

 

 あ。あれからアタシは弥生に抱き着いて、そのまま寝ちゃったんだ。

 って事は、あれから弥生がベッドまで運んでくれたって事?

 

(食堂の時も思ったけど、弥生って見た目に反して力があるわよね……)

 

 この細い腕の何処に、あれだけの筋力があるのかしら?

 

「んん……」

 

 こうして近くで見ると、弥生って本当に美人よね……。

 顔が整っているのは当然だけど、髪もサラサラしてるし、肌もスベスベ、おまけに睫毛も長くて唇もプニプニ……。

 

「はっ!? アタシは何をして……」

 

 目の前で寝ている女の子の顔を触るなんて、普通に変態じゃない!

 どうしちゃったのかしら……? アタシってこんな事するような人間だったっけ?

 

「腕……」

 

 ふふ……寝ている時も腕に付けている袋を外さないのね。

 理由は敢えて聞かないけど、いつか弥生から話してくれるのを待ちましょうか。

 

(そう言えば、昨夜からずっとアタシって弥生と二人きり……なのよね……)

 

 この部屋にはアタシ達以外には誰もいない。

 しかも、もう一人の住人である弥生は目の前で夢の中だ。

 つまり……

 

「弥生……」

 

 弥生の寝顔に吸い込まれるように、アタシは自分の顔を近づけていく。

 アタシの視線は弥生の唇に釘付けになって、それが自分の唇と重なって……

 

「や・よ・い・さぁ~ん♡ ご一緒に朝食でも……」

「お…おい……奥を見ろ……」

「あ…あれは……」

「嘘……」

 

 …………終わった。

 そして、今ハッキリと分かった。

 この四人も弥生の事が好きなんだ。

 ……四人”も”?

 

「アタシ……も……?」

 

 いやいやいや……いくら優しくされたからって、アタシってそんなに惚れっぽいわけ……。

 

(一夏の時は虐められている所を助けられて、それで……)

 

 あ。アタシ、かなりチョロいわ。

 

「り~ん~さ~ん~?」

「弥生と一緒にベッドで寝て……何をしようとしていた……?」

「って言うか、そもそもなんで弥生の部屋にいるの……?」

「やよっちの唇……やよっちの寝顔……」

 

 完全に四人の目が逝ってる……!

 このまま、ここにいたらアタシの命が危ない!!

 こうなったら、ジョースター家に伝わる伝家の宝刀を使うしかない!

 

「逃~げるのよ~!」

「「「「待てぇぇぇぇ~~~っ!!!!」」」」

 

 待つわけないでしょ~が!

 ったく! 折角、弥生の寝顔を堪能してたのに~!

 

「お代わりぷり~ず……むにゃむにゃ……」

 

 こんだけ騒いでるのに起きないの!?

 なんか可愛い寝言も言ってるし!

 

 ま、弥生と話したお蔭で、今のアタシがしたい事がハッキリと決まったんだけどね!

 まずは、今度あるクラス対抗戦で一夏の馬鹿を全力でぶっ飛ばす!!

 それから、改めてアイツと話してみよう……。

 

 そんな訳だから、首を洗って待ってなさいよ! 一夏!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  




鈴、落城。

彼女も結局はチョロインでした。

次回から、弥生の気苦労がもっと増えそうです。


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なにがどうしてこうなった?

終わりが……やっと終わりが見えてきた……。

もうすぐスパロボXの一週目が終わるぞぉぉぉぉぉぉぉっ!!

でも、私的には二週目からが本番。

ガッツリと資金を稼いで、自軍を魔改造していきますよ~!

最終的には全部の機体を15段階改造して……。





 鈴が転校して来てから暫くが経過して、今はもう五月に突入。

 私が鈴の愚痴を聞いてからというもの、彼女の私に対する態度が完全に一変した。

 

 例えば朝。

 

「弥生! 一緒に朝ごはんを食べに行きましょ!」

 

 例えば昼休み。

 

「や~よ~い♡ よかったら一緒にお昼食べに行かない?」

 

 そして、放課後。

 

「ねぇ~弥生~。 実は少し分からない問題があってさ、ちょっと教えてくれない?」

 

 トドメは夜。

 

「……今日もここに泊まっていい?」

 

 ここまで過剰に接触してくれば、流石の私でも理解出来る。

 ……完全に懐かれた……。

 

 なんで? どうしてなの? 別に何も特別な事ってしてないよね?

 それとも、私なんかに愚痴を聞いて貰った事が、そんなによかったの?

 

 正直に言うとね、別に仲良くなるのは構わないんだ。

 でも、ここまでグイグイと来られると、却って落ち着かないんだよね。

 少しずつ改善(?)はされてきているとは思うけど、それでもまだ私の中じゃ……

 

 第一期原作ヒロイン=導火線に火の着いた爆弾

 

 のイメージが完全に払拭出来ていないんだわ。

 いくら性格がよくなっても、ふとした拍子でいつ私に向かって爆発するか分かったもんじゃないし。

 

 つーわけで、可能であればこれ以上は私に近づくな……とは言わないけど、少しは接触を控える事を覚えて欲しい。

 じゃないと、本気で私の方がヤバいから……。

 

 いっつも冷や冷やしながら会話してさ、その度に胃がキリキリ言ってるんだよ?

 お蔭で、私の部屋には『あの日の薬』以外にも胃薬君が新たなルームメイトになってしまった。

 昨日早速、私は胃薬君のお力を借りてしまったよ……。

 

 いつの日か、胃に穴が開いて吐血……なんて事にならなきゃいいんだけど……。

 現状、それが最大の心配事です……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「や~よい♡ 今日も一緒にお昼食べに行こ?」

 

 ま~た教室に呼びに来ましたよ……。

 お昼休みに突入した途端に速攻で呼びに来るから、逃げられないんだよな~……。

 ここで断れる勇気があれば、こんな事にはならないんだろうけど……。

 あ~あ……私って本当に駄目だなぁ~…。

 こんなんじゃいつか、本当に詐欺で騙されて莫大な借金とか作りそう……。

 

「鈴さん! いい加減にしつこいですわよ!」

「なによ。 別にアタシが誰とご飯を食べようと勝手でしょ?」

「それでも限度と言うものがありますわよ! 毎日毎日、弥生さんと仲がよさそうにくっついて……!」

「あれ~? もしかしてアンタ……アタシに嫉妬してんの?」

「そ…そうですわよ! 悪いですかっ!?」

 

 否定しないのかよ。

 

「いや……そこは普通、否定しなさいよ……」

 

 考えが同じだった。

 なんちゅーシンクロ。

 

「大体! 織斑一夏はどうしましたの!?」

「あ~…アイツ? うん、今は別にどうでもいいかな?」

「なんですのそれ……」

 

 そうなんだよ。

 なんて言うか……一夏に対する態度が『不機嫌』とかじゃなくて『無関心』って感じがするんだよ。

 原作があれだけ激おこプンプン丸だったのに、一体彼女に何があったんだ?

 私にこれだけベタベタするのと何か関係があるのかな?

 

「一々気にしていたら身がもたないぞ。それよりも、行くんだろ?」

「そうよ。気にしたら負けよ? 箒も偶にはいい事言うじゃない」

「偶には余計だ」

 

 まぁ、場の流れに逆らう発言力も無い私には、ここで皆と一緒に行くと言う選択肢以外ないわけで。

 せめてもの救いは、本音や簪とも一緒に行ける事か。

 それが無かったら、もう普通に学校にも胃薬持ってきてるわ。

 

「そう言えば、おりむ~がいないね~」

「アイツなら、さっき織斑先生に呼ばれていたぞ。恐らく、クラス代表としての雑用じゃないのか?」

「ププ……一夏ざまぁww」

 

 こらこら、人の仕事を笑うもんじゃないぞ。

 例え雑用でも、クラス代表の立派な仕事なんだから。

 

「んじゃ、早く行きましょ? 座る場所が無くなっちゃう」

 

 おっと、それは普通に大変だ。

 生徒数が多いから、少しでも出遅れたらすぐに込み合ってしまう。

 そうなれば、座る席を探すだけでも困難になる。

 

「って、何をしれっと弥生さんの腕に抱き着いているんですの!」

「私がこうしたいから、こうしてるだけだけど?」

「あー言えばこう言う……!」

「なんとでも言ってちょ~だい」

 

 あああああ~……なんかもうセシリアの顔に血管が浮き出てるんですけど~!?

 

「私もリンリンの真似っこする~♡」

「ちょっ!? 本音さんまでっ!?」

「早くしないと置いて行くぞ」

「なんで箒さんは、そんなに落ち着いてるんですの!?」

「ふっ……大人の余裕と言うやつだ」

「貴女は私達と同い年でしょうっ!」

 

 あの~……私の周りでコントをするのは止めてくれませんかね?

 ほら……一組まで来てくれた簪が冷めた目線でこっちを見てるから……。

 

「何やってるの……?」

「私……に…聞かない…で……」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 食事をして教室に戻ろうとしている途中の帰り道、廊下にある掲示板にクラス対抗戦のトーナメント表が大きく張り出されてあった。

 とっくの昔に確認したんだけどね。

 

「まだこれ貼られてるのね」

「少なくとも、来週のトーナメントが終わるまでは貼られているだろう」

「それもそっか」

 

 そういや、トーナメントって来週だったね。

 今回、最も重要な一年生の部のトーナメントの第一試合は、1組VS2組と言った組み合わせで、私的には捻りの何も無い組み合わせだった。

 だって、モロに原作通りじゃん。

 つーことは、当然のように『アレ』も介入してくるんだよな……?

 

「はぁ~……」

「弥生? 何か悩み事でもあるの? アタシでよかったらいつでも相談に乗るわよ」

「ありが…とう。でも…大丈…夫だか…ら……」

「そう?」

 

 言えるわけないだろ? 君と一夏の試合に無粋な奴が乱入してくるなんて。

 もしも来たら、私は即座に避難する方がいいだろうな。

 私なんて戦力になるわけないんだから。

 

「やっぱり、鈴さんに付き纏われてうんざりしてるんですわよ。ねぇ? 弥生さん?」

「んな訳ないじゃない。だって、アタシと弥生の仲だもんね~?」

 

 悪いが、ここはセシリアが大正解だよ……。

 君にはスーパー弥生ちゃん人形を差し上げたい。

 5つ集めて、自腹でハワイ旅行にでも勝手に行ってきてくれ。

 君なら楽勝だろ?

 

「あ……弥生。それに皆も」

「一…夏……」

 

 廊下のど真ん中で会うなんて、もしかして今から昼御飯か?

 

「あの……鈴」

「なに?」

「えっと……俺……」

「あぁ~……別に今は謝罪とかはいいから」

「い…いや、でも……」

「約束とか謝罪とかより前に、まずは今度のトーナメントでアンタの事をぶっ飛ばす事にしたから」

「ぶ…ぶっ飛ばす……?」

「そ。精々、アタシのストレス発散に付き合って頂戴」

「俺はお前のサンドバックか……」

「今のままじゃそうですわね」

 

 ここでセシリアの援護攻撃。

 

「女の敵には相応しい末路」

「俺……君に何かしたか……?」

「社会の敵が何か言ってる」

「しれっとランクアップしてるし!?」

「それじゃあ、日本の敵にしてあげようか?」

「なんで出身国と敵対しなくちゃいけないんだよっ!?」

「仕方が無い……んじゃ、もう世界の敵でいいじゃん」

「別に俺は世界征服とか目論んでないんですけど!?」

「最終的には宇宙の敵に」

「凄いけど普通に嫌だ!!」

 

 か…簪が一夏と漫才をしてるだと……!?

 よもや、生きている内にこんな光景にお目にかかろうとは……。

 

「廊下のど真ん中でコントをするな」

「別にしてない。唯のストレス発散」

「君もかよっ!?」

「悪い?」

「そこで開き直られても困るんだけど……」

 

 容赦にないなぁ~……簪も。

 

「一夏。今から食事か?」

「そうなんだよ~。千冬姉ってば、俺を思いっきりこき使いやがって……」

「姉弟水入らずでいいじゃないか」

「仕事中に色々と言われなきゃな……」

 

 色々って……一体何を言われたんだよ…。

 

「『板垣とはどこまで行ったんだ?』とか『知り合いに聞いた、いいデートスポットでも教えてやろうか?』とか……肉体よりも精神的に疲れたよ……」

「「「「「織斑先生……」」」」」

 

 あの暴力教師は~! よりにもよって、私と一夏をくっつけようって魂胆なのかっ!?

 残念だがそうはいかんぞ! 私はもう簪と本音の二人を娶るって決めてるんだ!

 既にネットで式場とかも探してるんだぞ!

 後はなんとか法律改正すれば問題無し!

 

「油断ありませんわね……」

「よもや、あの人がそんな風に動いているとは……」

「まさかの伏兵……」

「織斑せんせ~……」

「それでも、アタシは負けるつもりとかないけどね」

 

 その自信はどこからくるんですか……。

 

「ところで、こんな所で呑気に話してていいのか? 早く食べないと、午後の授業に遅刻してしまうぞ?」

「そ…そうだった!」

「あの人の事だ。どんな言い訳も通用しないだろうな……」

「お昼を抜けばオールオッケー」

「それだけは御免だ! それじゃ!」

 

 あらら……いくら時間が無いからって廊下は走っちゃ駄目でしょ~。

 もしも先生に見つかったら、その時点でアウトですよ?

 

「何を走っている?」

「ち…千冬姉……!?」

 

 ほら、言わんこっちゃない。

 

「廊下は走っていけないと言う事も理解できないのか? 今時、小学生でもちゃんと守っているぞ?」

「いや、それはクラス代表としての仕事で時間が押して……」

「言い訳をするな」

「きらっ!?」

 

 い…痛そ~……。

 普段は心の中でほくそ笑むんだけど、今回だけは本気で同情するわ……。

 

「それと……」

「あすらんっ!?」

 

 二発目っ!?

 

「私の事は『織斑先生』と呼べ。お前は何度言えば分かるんだ?」

「ずびばぜんでじだ……」

「分かればよろしい。とっとと行け」

「ばい……」

 

 一夏……哀れな奴。

 前のクラス代表決定戦の時みたいに、ほんの少しだけ優しくしてやってもいいかもしれない……。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 またまた時間は過ぎ去って、あっという間にクラス対抗戦当日。

 既に開会式は終わり、後は第一試合の開始を待つばかり。

 

 あれからもずっと鈴は私に付き纏い、それはついさっきまで続いていた。

 『アタシの勇姿、ちゃんと目に焼き付けてよね!』ってウィンク付きで言われたら、そりゃ私も見学に来ざるを得ないわけですよ。

 

 私は今、今から試合が行われる第2アリーナの観客席の一番前に座っている。

 隣には本音と箒、その向こうにセシリアもいる。

 4組のクラス代表である簪はここにはいなくて、既に待機場所に移動しているとメールを貰った。

 

「最初は鈴さんと織斑一夏との試合ですわね……」

「アイツには悪いが、勝敗はする前から決しているだろう」

「ほんの一ヶ月ちょっとの努力で代表候補生と互角に渡り合えたら、誰も苦労とかしないよね~」

 

 全くもって本音の言う通り。

 仮にも国を背負ってここにいるんだ。

 それに、鈴はかなり短い時間で代表候補生まで上り詰めた逸材。

 努力の鬼でもあるんだろうが、それ以上に秘めていた才能も開花したに違いない。

 元から才能を持っている者が必死に努力をすればどうなるのか。

 ある意味で、鈴はその体現者なのかもしれない。

 

「同じ負けるにしても、せめて無様な姿だけは晒さないでもらいたいな。普通に一組の恥になるから」

「私も箒さんに同感ですわ。いくら経験を積むためにクラス代表になったとは言え、すぐに負けてしまっては意味が無いですもの」

「このポップコーン美味し~♡」

 

 箒とセシリアは辛辣な意見で、本音に至っては興味の範囲外……と。

 

「弥生さんはどう見ますか? 今回の試合は」

「私…は……」

 

 どうと言われてもな~……。

 専門家でもない私の意見なんてなんの参考にもならないでしょうよ。

 それでもいいなら言わせて貰うけど。

 

「私か…ら見ても……一夏…の勝ち目は薄い……とは思う……。白式…には遠距離……の武装…が無いから……離れた位置……で射撃戦…に……持ち込まれたら……危ない……。仮に…チャンスがある……とするなら……白式…の高い……機動性…と運動性……を利用した撹乱…戦法……が有効……。け…ど……それ…は……一夏…が白式の……性能…をフル…に発揮……する事……が前提条件……になるけど……」

「撹乱……。白式のスピードで相手を翻弄し、隙を狙って渾身の一撃を叩き込む……と?」

「う…ん……。攻撃……の時に……瞬時(イグニッション)加速(ブースト)…を使えれ…ば……もっといい……。確…か……練習して……るのを…見た……から……」

「成る程な……。弥生の言う通り、もしも一夏が勝ち目を狙えるとしたら、それぐらいしかないな……」

「で…でも……鈴……の事…だから……瞬時加速……を使っ…ても……普通……に対応…してみせる……可能性……が高い……」

「そうですわね……。悔しいですけど、私から見ても鈴さんの実力は紛れも無く本物。普段の動きを見ていれば、嫌でもそれが分かりますわ」

「私もそれは分かった。なんと言うか……歩き方一つとっても、隙が無かったな。あれは間違いなく武芸者の動きだ」

 

 え? そうだったの? 私には普通に見えたけど……。

 

「流石は弥生さん! 見事な分析ですわ!」

「そうだな。弥生も私達と同じように、普段の動きから鈴の秘められた実力をきちんと理解していたに違いない」

 

 な…なんか過大評価しすぎてない!?

 私は自分が思った事を言っただけであって、別に鈴の隠された実力とか全然分からなかったからね!?

 彼女の実力が分かったのは、単純に『原作知識』と言う予習をしていたからだよ!?

 

「あ! おりむーとリンリンが入って来たよ!」

「遂に始まるのか……」

「精々、頑張ってほしいものですわね」

「がんばれ~」

「ん………」

 

 アリーナのステージに、真っ白なISと紅色のISが入場してきた。

 あれが鈴の専用機の『甲龍(シェンロン)』か……。

 これ、絶対に読み方間違えてるよな?

 

 私としては、心情的には鈴を応援したいけど、一応は一組の生徒である以上、自分達の代表である一夏の応援もしなくてはいけないと思うわけでして。

 つまり、この場で私は二人を平等に応援しようと考えるのです。

 

「鈴……一夏……二人…とも……頑張れ……」

 

 例の奴がやって来るまでには試合が終了する事を祈るよ。

 割と切実に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公なのに、全く戦闘シーンが無い弥生ちゃん。

でもいいんです。彼女は基本的に平和主義者ですから。

そして、このクラス対抗戦にて、遂に弥生の専用機が明らかに!


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試合開始!

一日休んで元気復活!

いやはや、ちょっと調子に乗って飛ばしすぎましたかね?

やっぱり、仕事が終わってからの投稿をずっと続けるのは無理がありました。

ま、それでも可能な限り頑張るつもりなんですけどね。






 第二アリーナのステージにて、お互いに専用機を纏った一夏と鈴が試合開始を前に向かい合っていた。

 

(すげー人の数と歓声だな……)

 

 今までの人生の中で、これまでの数の人間に見られるのは初めてな一夏にとって、この状況はなんとも新鮮だった。

 

(弥生も観客席でこの試合を見てくれている……。絶対にカッコ悪い姿は晒せないな……)

 

 たった一人の女性の為に戦う。

 お前はいつから、そんなに偉くなったのか。

 

「もうすぐ試合開始ね。一夏」

「そうだな」

 

 何気なく返すが、心の中では初の大舞台に緊張をしていた。

 このぶっきらぼうな返事は、それを隠すためのポーズだ。

 

(あれが鈴の専用機か……。白式と同じように、接近戦に強そうだな……)

 

 鈴の手にしている二振りの青龍刀のような武器を見て、即座にそう判断した。

 

(だからと言って、俺に出来る事なんて限られてるんだけどな)

 

 そう。一夏の白式にある武装は『雪片弐型』のみ。

 否が応でも近づくしか、彼にダメージを与える術はない。

 

「丁度いい機会だし、ここらで弥生にあたしの実力も知って貰おうかしら」

「俺を踏み台にして……か?」

「あら。鈍感な一夏にしては鋭いじゃない」

「誰が鈍感か」

 

 お前だ、お前。

 他に誰がいると言うのだ。

 

「もしかしてとは思うけど……一夏、あたしに勝つ気でいる?」

「当然だろ? 何を今更……」

「ふ~ん……。セシリアとの試合に負けたって聞いてたけど、どうやら、全然懲りてないみたいね」

「懲りるって……何がだよ?」

「あんたの、その上から目線の事よ」

「は? 俺がいつ上から目線になったって言うんだよ?」

「現在進行形でよ。あんたさ、専用機を手にしたからって、ちょっと調子に乗ってるんじゃない?」

「べ…別に調子になんて……」

「乗ってるわよ。じゃなきゃ、特例で専用機を受領した程度で代表候補生に本気で勝とうだなんて、そんな思い上がった考えは普通は出来ない筈だもの」

「……………!」

 

 鈴の目は全く笑っていなかった。

 彼女は本気で怒っている。

 

「あたし達代表候補生はね、文字通り血の滲むような努力を必死にこなしてきて、それで今の場所に立って専用機を手にした。それを、男だから……特別に専用機を手に入れたから……世界最強の弟だから……そんなふざけた理由で……」

 

 鈴の怒りのボルテージが上がっていっている途中でアナウンスが聞こえ、同時に試合開始のブザーがアリーナ全体に鳴り響いた。

 

「あたし達のこれまでの努力を全否定されちゃ!! たまんないのよ!!!」

「なっ!?」

 

 試合開始と同時に、鈴の姿が一瞬で一夏の視界から消え去った。

 

「ど…どこに行ったっ!?」

「ここよ」

「!!!」

 

 後ろから声が聞こえ、急いで振り向くと、そこには既に青龍刀を振りかぶった鈴がいた。

 

「しまっ……」

「遅いっ!!」

 

 雪片でガードしようとするも、時すでに遅し。

 咄嗟に動いた一夏よりも、最初から攻撃態勢に入っていた鈴の方が圧倒的に早く、ガードが間に合わずに、そのまま斬撃を胴体に受けながら派手に吹っ飛んだ。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁあぁっ!!」

「はい。まずはファーストアタックいただき。これはハンデよ」

「ハ…ハンデ?」

 

 なんとか体勢を整えた一夏が、疑問符を浮かべながら構える。

 この時、本来ならセシリアから事前に習った『三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)』が使えればよかったのだが、彼はまだ完全に習得していない。

 

「こう言った試合はね、基本的に先制攻撃をしてしまった方が不利になるの。何故なら、自分の手の内を相手に早々に曝け出してしまうから」

「つっても……いきなり過ぎて何が何だか分からなかったぞ……」

「つまり、それがあんたの今の実力って事よ。ここでそこそこな成績を取ってる連中なら、今のを見ただけでも多少の分析は出来るでしょうね。弥生ならきっと、もうこの甲龍の基本スペックまで割り出してるんじゃないかしら?」

「弥生なら本当に出来そうだ……」

 

 二人の弥生に対する評価は上がる一方。

 試合中故に二人の会話は観客席からはよく聞き取れないが、もしも本人が聞いていたら、間違いなく顔を真っ赤にして悶絶していただろう。

 それはそれで見てみたい気もするが。

 

「来なさい。今度はアンタに攻撃させてあげるから」

「ちくしょう……舐めやがって……!」

「いや……普通に舐めるでしょ」

 

 それもそうだ。

 ISに乗り始めて一か月で、知識も技術も未だに素人の領域から抜け出せてしない。

 そんな相手に、どうして本気になれようか。

 

 以前にセシリアは『獅子は兎を狩るのにも全力を尽くす』と言ったが、生憎と鈴は『獅子』ではない。

 今の彼女は紛れもない『龍』。

 弱者を嫌い、強者を友と呼ぶ気高き存在。

 そんな龍が、己の部も弁えない弱者に、己の全力を尽くして戦うだろうか?

 答えは否。断じて否である。

 

(悔しいけど……鈴は強い。俺よりもずっと……! でも、だからと言って……何も出来ないまま終わるのだけは御免だ! もう……あの時の二の前だけはしたくないんだ!)

 

 その決意は本当に立派だ。

 そこに実力が伴えばもっとよかったのだが、今の彼にそれを求めるのは余りにも酷と言うもの。

 

「せめて……」

「ん?」

 

 腰を低くしてから、一気に加速して鈴に接近。

 そこから雪片弐式で斬りかかる!

 

「一撃ぐらいは当ててやるよ!!」

「はぁ……」

 

 雪片弐式の刃が鈴に近づくが、彼女はそれをジッと見据えてから、徐に両手に持った大型ブレード『双天牙月』を上空に大きく投げ飛ばした。

 

(な……なんだっ!?)

 

 意味不明な行動に一瞬だけ警戒するが、もう振り下ろし始めた刃は止まらない。

 このまま相手を攻撃するまで、全力を尽くすのみだ。

 だが、そう簡単に事が上手く運べば、誰も苦労はしない。

 

「がはぁっ!?」

 

 いきなり、一夏の腹部に強い衝撃が走った。

 目線だけを下にやると、鈴が腰を低くした状態で一夏の懐に潜り込み、この腹に掌底をぶちかましていた。

 

「アンタって……真正の馬鹿ね」

 

 そこから更に、顎に向かっての掌底!

 

「ぐっ……!」

 

 一夏の脳が大きく揺さぶられ、一時的に体が麻痺してしまった。

 ISの操縦者保護機能によって、すぐに回復はするが、それでも確実に数秒間のラグが存在する。

 実戦における数秒間の隙は、間違いなく致命的だ。

 

「真正面から馬鹿正直に突っ込んできて!」

 

 動けない一夏の胸に肘打ち!

 

「そんなの!」

 

 更にそこからの膝蹴り!

 

「あたしに『どうぞカウンターをしてください』って言ってるようなもんじゃない!」

 

 トドメの顔面に向けての正拳突き!!

 

「がああぁぁぁぁあぁぁっ!!」

 

 再び吹っ飛ばされる一夏。

 試合を開始してから、まだ10分程しか経過してないが、試合の流れは完全に鈴の方に向いていた。

 

 一夏がステージの壁に激突した直後に上に投げた双天牙月が戻ってきて、それをナイスキャッチ。

 

「弥生に勉強を教わって、その上であいつ等に訓練して貰ったって聞いてたから、もう少しぐらいは善戦すると思ってたけど……流石に高望みしすぎたわね」

「なん……だって……!」

 

 いくらISとは言え、操縦者に向けられる衝撃や痛みは緩和出来ない。

 フラフラとしながら浮かび上がり、なんとかして雪片を握りしめて鈴と対峙する。

 

「まさかとは思うけど、あたしが中国でISの操縦だけをひたすらに頑張ってきた……とか、アホな事を考えてたんじゃないでしょうね?」

「……違うのかよ?」

「弥生が教えてくれなかった? ISは体面上は『スポーツ』って事になってるのよ? スポーツにおいて最も重要で基礎的な事は何か……流石の一夏でも分かるでしょ?」

「それは……」

 

 その時、一夏の脳裏に弥生から教えて貰った事が頭をよぎった。

 

『ISはあくまでスポーツ……だから……まずは体力作りから……始めればいい…と思う…よ…?』

 

 一筋の汗が一夏の頬を伝って地面に落ちた。

 

「理解した?」

「あ……あぁ……」

 

 鈴は、中国にて何か武道のようなものを会得して帰ってきた。

 一夏はそう推測した。

 

「セシリアも言ってたんじゃない? 代表候補生たる者、あらゆる状況を想定して訓練を行っているって」

「言ってた……」

「それはあたしだって例外じゃないって事。まぁ、もうすぐ終わる一夏には関係ないでしょうけど」

「なんだt……ぐあっ!?」

 

 一夏が言葉を言いかけた時、甲龍の肩部アーマーがスライドして、その中心部にあった球体が発光した瞬間、彼は三度吹っ飛ばされた。

 

「はぁ……はぁ……。見えない何かに殴られた……?」

「どう? 不可視の龍の咆哮(ブレス)の威力は?」

 

 ニヒルな顔で笑った後、またもや見えない一撃を受ける。

 

「ぬぁぁあぁああっ!!」

 

 今度は壁ではなくて地面に叩きつけられる。

 衝撃と痛みが全身に走り、白式のSEを確実に削っていた。

 

(やばい……これは冗談抜きでヤバい……!)

 

 一夏、男の見せどころである。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 あ~らら。

 見てられないぐらいにボコボコじゃないのさ。

 まさか、ここまでの実力差があったとは思わなかったな~。

 

「一夏の奴め……言った矢先にこれか……」

「いくら鈴さんが実力者とは言え、もう少し攻めようがあるでしょうに……」

「おりむ~の動きって、まるで猪さんみたいだね~」

「猪…突猛…進……って…こと……?」

「そうそう。ちょとつも~しん」

 

 ちゃんと意味を分かってて言ってるのか……?

 

「あれならばまだ猪の方がマシだ。あれの全力の突進の威力は本当に凄まじいからな」

「おまけに立派な牙もありますしね」

 

 ありゃりゃ。遂には一夏が猪以下の存在に格下げされてしまった。

 

「しかし……まさか本当に鈴が武道を修めていたとはな。道理で普段の生活の中からも隙が見当たらない訳だ」

「彼も昔は剣道をしていたのでしょう? それなのに、武道家相手に真正面から何の策も無しに突っ込むなんて……」

「ワンパターンだよね~」

 

 言われてるぞ、原作主人公。

 にしても、もうちょっとどうにかならないもんか?

 少し冷静になって考えれば、策の一つや二つぐらいは思いつきそうなもんだけど。

 少なくとも、私はすぐに対策が一つ思いついたよ。

 

「それよりも、あの一夏を吹き飛ばした一撃はなんだ? まるで見えない拳に殴られたようだったが……」

「あ…れは……衝撃砲……だよ」

「「衝撃砲?」」

 

 本音と箒がこっちを向いて小首を傾げる。

 そうだよね。衝撃砲なんて普通は聞き慣れないよね。

 

「衝撃…砲……は……空間自…体…に圧力……をかけてから…砲身……を形成し…て……その余剰…で生み…出され……た衝撃……を砲弾にして……発射する……んだよ……」

「「おぉ~…」」

 

 な…なんか照れるな……。

 箒と本音だけじゃなくて、周囲の子達からもパチパチパチと拍手を貰ってしまったし。

 

「よ…余談だけ…ど……あの…衝撃砲…は……射角の制限……が殆ど無い……らしくて……その気…になれば……正面を向いた…まま……真後ろ……を攻撃する……事…も可能……みたい……」

「それはもう…普通にチートじゃないのか?」

「そうでもありませんわよ? 衝撃砲の威力と射程は精々、アサルトライフルと同程度ですから」

「一長一短だね~」

 

 セシリアが補足をしてくれて、なんだか本人は嬉しそうだ。

 そんなに皆に褒められたかったのだろうか?

 

「おりむ~……勝てるかな~……」

 

 分かんないけど、このままじゃ難しいだろうな~。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「意外と粘るじゃない。てっきり、すぐにやられると思ってたわ」

「男の意地ってもんがあるんだよ……!」

 

 などと強がってはいるが、機体も本人も満身創痍だった。

 白式のSEは風前の灯で、衝撃砲の雨に晒されて思うように接近できず、攻撃を当てる以前の問題になっている。

 そのもどかしさと悔しさと焦りで、一夏の精神はガリガリと削られていった。

 

「男の意地……ね。意地だけで勝負をひっくり返せたら、どれだけいいか」

「うっせ」

 

 頭をフル回転させて、なんとかして逆転の策を考えていた。

 

(なんとかして攻撃を当てないと、本当にこのまま終わってしまう……! いくら目を凝らしても全く見えないし、見えない以上は回避も出来ない……。もう少しSEに余裕があれば、多少のダメージなんか無視して無理矢理にでも自分の距離にするのに……!)

 

 雪片を握る手に力が籠る。

 

(現状で俺が一発逆転することが出来る方法があるとすれば、『これ』しかない……)

 

 白式の最強にして唯一の切り札。

 『バリアー無効化攻撃』の効果を持つ、自らのSEを消費して放たれる一撃必殺の攻撃。

 それこそが、白式の『唯一使用能力(ワンオフ・アビリティ)』である『零落白夜』。

 かつて千冬の愛機だった『暮桜』と全く同じ能力だ。

 

(これも弥生が教えてくれたっけ……。攻撃力は間違いなく最強だけど、その代償が大きいと……。だけど、これを完全に使いこなせたからこそ、千冬姉は世界一にもなれたんだって……)

 

 因みに、その際に射撃戦について少し聞いてみたが、見事に完全論破されてしまい、それ以降は射撃戦でなんとかしようと言う考えは捨てた。

 

(いくら不利でも、気持ちで負けたら本当に終わりだ……! 某有名バスケット漫画でも言ってたじゃないか! 『諦めたら、そこで試合終了だよ』って!)

 

 折れそうにある心を奮い立たせて、頭を切り替える。

 

「へぇ~……やっといい目になったじゃない」

「そりゃどーも。……ここから捨て身でいくからな」

「捨て身……ね」

 

 一夏にトドメを刺すために衝撃砲が放たれるが、それを偶然にも間一髪で回避。

 それに動揺すること無く鈴は再び衝撃砲を発射しようとするが、その一瞬の隙を狙って、一夏は習得したばかりで成功率も2割にも満たない技術『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』を奇跡的に発動成功させる。

 

「これは……!」

 

 これまで余裕の表情を崩さなかった鈴が、初めて真剣な顔になる。

 凄まじいスピードで迫ってくる一夏を迎撃しようと双天牙月を連結させて構える。

 

「この一撃でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

「その気合は認めるけど……どれだけ速度があっても、発動の瞬間と軌道が丸見えなら、全くもって意味が無いっつーの!!」

 

 一夏にとって最後の一撃。

 これが決まらなければ、彼の敗北は決まったも同然。

 しかし、実力差と言うものはどこまでも非情に立ちはだかるものであって……。

 

「そ…んな……」

「まるで闘牛士にでもなった気分ね」

 

 一夏の渾身の一撃を、鈴は体を横にずらしただけであっさりと回避。

 

「んじゃ、終わりね。ご苦労様。敢闘賞ぐらいはくれてやるわ」

「くそ……!」

 

 鈴のフィニッシュ・ブローが一夏に迫る。

 その刃が白式の装甲を無情にも切り裂く……瞬間。

 

「な…なにっ!?」

「あれは……!?」

 

 突如として、アリーナ全体をつんざくような衝撃と音が走り、二人の背後……ステージ中央付近から土煙とも違う煙がアリーナの一番上まで立ち上っている。

 

「なんなのよ……あれは……」

 

 動きを完全に止めた鈴は、いきなりの出来事に戦慄し、一夏は思考停止していた。

 そして、この時の出来事が様々な者達のターニングポイントになろうとは、この時は誰もが予想すらしていなかった。

 そう、原作知識を持っている弥生でさえも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一夏君ボコボコ。

いい場面が一つもありませんでした。

でも、これが普通だと思うんですよね。

だって、これってプロ野球選手と小学生の野球クラブがガチンコの試合をするようなものですよね?

いくらアドバイスや練習、勉強をしても、そう簡単に実力差が埋まるわけないですよ。


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逃げろ!逃げろ!逃げろ!

もう完全に弥生の専用機が確定しました。

それに伴い、序盤の待機形態に関するセリフの一部を変えました。

これからオリジナル設定やオリジナルキャラも登場予定です。

果たして、弥生は一体どうなってしまうのでしょうか?











 クラス対抗戦、一年の部の第一試合。

 鈴と一夏の試合は、鈴の圧倒的な強さによって一夏が追い込まれ、絶体絶命のピンチに陥っていた……のだが……。

 

「なん……ですの……? あれは……」

 

 突如として、二人の試合に割り込むような形で謎の物体がアリーナの上部を覆い尽くしているシールドをぶち破って落下してきた。

 

(いきなりの事で皆が呆然としている……。無理も無いか……。いきなり、こんな事が起きれば、誰だって普通は混乱する……)

 

 原作知識を持っている私だって、こうなると分かってはいても、やっぱり大なり小なり驚きは隠せない。

 

「い…いきなりなんなんだ……?」

 

 しかし、謎の物体は落下してから沈黙していて、アリーナ全体が完全に静まりかえっている。

 耳が痛くなる程の静寂……。これが却って不気味さを演出しているように感じる。

 

「…………っ!?」

 

 土煙の中で……何かが光った……?

 まさか……あれはっ!?

 

 思わず立ち上がって、ステージ中央で土煙に包まれた『ソレ』を凝視する。

 

「やよっち……?」

 

 手が……手が震える……! くそ……!

 分かっていても……分かっていても怖いものは怖い!

 

「あ……危…ない!!」

「「「え?」」」

 

 次の瞬間、一筋の真紅のビームが発射されて、それを鈴と一夏がなんとか回避。

 だがしかし、回避されたビームはそのまま二人の後ろまで直進し、あろうことか、強固に守られている筈のアリーナのシールドを易々と貫通した!

 

「くっ……!」

「そ…そんなことが……!」

 

 爆音と閃光がこっちまで迫り、反射的に腕で顔を隠す。

 

 数秒の無音状態の後、この場にいる皆は自分達が置かれた状況をようやく理解し、その恐怖心が一気に爆発した。

 

「「「「「きゃぁあぁああぁぁああぁあぁああぁあぁあぁぁっ!!!!!」」」」」

 

 全員が一斉に観客席の出口へと殺到する。

 皆は一種の恐慌状態に陥っていて、誰もが我先にと他の人間を押しのけて先に進もうとしている。

 

「私が先よ!! そこどきなさいよ!!!」

「うっさい!! あたしが先に来たんだから、大人しく後ろに下がれ!!」

「私は二年生よ!! 分かったらさっさとどいて!!!」

「早くっ!! 早く行ってぇぇぇぇぇっっ!!!」

「死にたくない! 死にたくないよぉぉぉぉっ!! お母さぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」

 

 仕方が無いと言えばそれまでだけど、見てられない……。

 全員が完全にパニックになって、精神状態が普通じゃなくなってる……!

 

「ど…どどどどどうしよう……やよっち……」

「本…音……」

 

 完全に怯えている本音を少しでも安心させる為、彼女の手をぎゅっと握りしめる。

 

「け…煙が……晴れる……」

 

 レーザーの発射の余波で煙が吹き飛ばされて、その姿が白日の下に曝される。

 

「あ……れは……」

 

 そこには、私がよく知っている無人機の姿があった。

 異常なまでに両腕部が長く、肩部と頭部が融合しているようなデザイン。

 最も特徴的なのは、全身を完全に覆い尽くしている『全身装甲(フルスキン)』の姿。

 二次創作などのオリ主の専用機などは大抵がアレと同類になるが、この異様なまでの不気味さは普通じゃない……!

 アレはまるで、最初から敵対する相手を畏怖させることが目的でデザインされたような感じだ……。

 

「くっ……!」

 

 悔しそうに顔を歪めながら、セシリアは行動を開始する。

 

「箒さん! 弥生さんと本音さんを連れて、急いでここから脱出を!」

「お…お前はどうする気だ!?」

「代表候補生として、成すべき事を成すだけ……ですわ」

「せっしー……」

 

 うわぁ……不謹慎だと分かってはいるけど、今のセシリア……ちょっとカッコいい……。

 

「まずは管制室まで行って、織斑先生達と合流をしながら通信で状況把握をしますわ。皆さんは一刻も早く避難を! 先程のように、今度はこちらにあの強力なビームが来るやもしれません!」

「わ…分かった! セシリアも気を付けろよ!」

「勿論ですわ!」

 

 強気な笑顔を見せたセシリアは、彼女の専用機の待機形態であるイヤーカフスに手を当てながら皆とは逆方向に向かって走り出した。

 

「……私達も急ごう。走れるか?」

「う……ん……!」

「だ…だいじょーぶだよ!」

「よし! なら、逸れないように気を付けながら行くぞ!」

 

 私は空いている方の手で箒の手を掴んで、一緒にこの場から避難するために走り出した!

 

(大丈夫だと信じたいけど……気を付けてね……皆……!)

 

 何も出来ない無力な私ではあるが、それでも皆の無事ぐらいは祈りたい。

 例え疎ましく思ってはいても……大事な人達である事には違いないのだから……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 同時刻。

 試合に向けて待機していた簪も、いきなりの乱入者に驚き、周囲の混乱に巻き込まれていた。

 

「これじゃあ先に行けない……! 弥生たちの事が心配なのに……!」

 

 彼女が待機場所として使っていた更衣室に備え付けられたモニターの向こう側では、謎の機体と鈴が交戦をしていた。

 一夏は端の方で大人しくしている。

 

「下手にこの人込みに突っ込めば、どこに流されるか分からないし……。どうすれば……」

 

 焦る気持ちだけが募っていく。

 こんな時に自分の専用機が完成していれば……。

 無駄だと理解していても、そう思ってしまう。

 

「セシリアが一緒にいるから、多分大丈夫……だよね……?」

 

 セシリアの代表候補生としての実力は簪も十分に認めている。

 頭脳明晰な彼女ならば、きっと皆をきちんと避難させている筈。

 

「……私は私で、自分に出来る事を探そう……! 私だって更識の人間で……日本の代表候補生なんだから……!」

 

 自分で自分を鼓舞して、簪も覚悟を決める。

 もうそこには、姉にコンプレックスを抱いていた気弱な少女はいなかった。

 今いるのは、己の役目を全うしようと奮起している一人の選ばれし少女だった。

 

「必ず駆けつけるから、それまで無事でいてね……弥生……皆……!」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「な…んなのよ……あの威力は……!」

「冗談……だろ……!?」

 

 自分達に向かって放たれたビームの威力を見て、唖然とする鈴と一夏。

 

「アリーナを守っているシールドは、基本的にISと同じように出来ている。それを易々と貫通してここまで来た挙句、あんなバ火力なビームを見せつけられるなんてね……!」

 

 間違いなく強者である鈴でさえも、冷や汗を隠しきれない。

 鈴でそうならば、素人である一夏は……?

 

「一夏。取り敢えず試合は中止よ。って……流石に言わないでも分かるわよね?」

「当たり前だ! それよりもアレは……」

 

 どうやら、素人すぎて逆に正しく状況判断が出来ていないようだ。

 彼は驚きこそすれ、それ以上の感情は抱いていないようだった。

 

「「なっ!?」」

 

 少し話した隙に、二人は相手によってロックオンされた。

 白式と甲龍が警告音とメッセージを発信し、二人に危険を促す。

 

「アンタは急いでピットに戻りなさい!」

「はぁっ!? この状況で何言ってんだよ! そもそも、お前はどうする気だっ!?」

「決まってるでしょ……!」

 

 苦笑いを浮かべながら、鈴はその手に双天牙月を握りしめる。

 

「なんとかして、アンタと観客席の皆が逃げる時間と、先生達がやって来る時間を稼ぐのよ」

「ひ…一人でかっ!?」

「そうよ。なんか文句ある?」

「当たり前だ! 女を一人置いて男の俺がおめおめと逃げるなんて、そんな情けない真似できるかよ!!」

「アンタ本気で馬鹿じゃないのっ!? 実力も無い! 体力も無い! SEも無い! 無い無い尽くしな上に碌な状況判断すらも出来ないアンタが、この場に残って一体何をするって言うのよ!!!」

「それ……は……」

 

 はい論破。

 一夏は急に黙りこくってしまった。

 

「ちっ! のんびり話もさせて貰えないっての!?」

「ちょ……うわぁぁぁっ!?」

 

 再び放たれたビームを一夏を蹴飛ばしながら自分も回避。

 蹴り飛ばされた一夏はアリーナの壁にぶつかり、そこで尻餅をついていた。

 

「今ので本当にSEも底をついたでしょ? 分かったら、大人しくそこで先生達が来るのを待ってなさい」

「ま…待てよ! 鈴!!」

 

 一夏の言葉に耳を貸さず、鈴は謎の機体の前にせり出た。

 そこに、管制室からプライベート・チャンネルで通信が入ってきた。

 

『凰さん! 織斑君! 無事ですかっ!? 無事なら、一刻も早くそこから脱出してください! すぐにでも先生達がISで駆けつけて鎮圧しますから!』

「それが出来れば苦労しませんよ! 向こうは完全にこっちをロックしてるし、先生達が駆け付けるまでここを無人には出来ないでしょう? そうしたら最後、それこそアイツは縦横無尽に暴れますよ?」

『それは……そうですけど……』

「心配しないでください。アタシだって、出来る事なら一秒でも早くこんな所からおさらばして、弥生の胸に飛び込みたいんですから」

『凰さん……』

「代表候補生として、こんな状況で人命を無視する事なんて出来ませんからね。可能な範囲で時間を稼いでみせます。だから……」

『分かりました! こちらも急いで先生達をそちらに送るようにしますから! ですから、くれぐれも十分に気を付けてくださいね!』

「了解です!」

 

 器用にビームを回避しながら、真耶と通信越しに会話をする。

 口では強がっていたが、実際は鈴も焦りを隠しきれないでいた。

 

(意味不明な状況な上に、正体不明のIS……。マジでどうなってんのよ! あぁ……今、猛烈に弥生に会いたい……。会ってからギュッて抱きしめて貰いたい……)

 

 愛しい彼女の事を思いながら、必死に避ける事に専念する。

 

(でも、ここでこいつを食い止めるって事は、弥生の事を守る事に直結するのよね……。そう思うと、なんだか元気が沸いてきた!)

 

 迷いに満ちていた鈴の目が生き返った。

 

「さぁ……来なさい! 中国代表候補生、凰鈴音! そう簡単にこの首を取れるとは思わないことね!!」

 

 回避をしながら、着実に自分の距離へと近づいていく。

 そんな鈴の顔は笑っていて、八重歯が眩しく光っていた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「お嬢様!! 早くこちらに来てください! 私達だけではもう耐えられません!!」

『分かっているわ! 私も急いでそっちに向かってるから、もう少しだけ待ってて!!』

 

 生徒会書記にして、本音の実の姉でもある『布仏虚』は、生徒会役員の一人として、教師達と一緒に避難をしている生徒達の誘導を手伝いながら、通信機で生徒会長である楯無と連絡を取っていた。

 

「このままでは暴動も起きかねない……! それに、こんな状況では先生達も鎮圧に向かうことが出来ない……」

 

 まさに八方塞な状況だった。

 生徒達もそうだが、教師達も段々と精神を疲弊させていた。

 

「こんな感じじゃ、いつまで経っても避難が終わらないわ!」

「でも、だからと言ってここを離れる訳にはいかないでしょ!」

「ほらほら! 押さない駆けない喋らないを守って!」

 

 これは避難訓練ではなくて、本当の危機的状況である。

 混乱の渦にある生徒達に『お・か・し』を守る精神的余裕など、あるわけも無かった。

 

「本音……お願いだから無事でいて……」

 

 生徒達を避難させながら、虚は密かに妹の事を案じていた。

 それは、この場で彼女の許された唯一の自由だった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 箒と本音と一緒に避難をしていると、案の定と言うべきか、私達は圧倒的な人込みに巻き込まれていた。

 

「絶対に離すなよ! ここで逸れたら終わりだぞ!!」

「分か……ってる……!」

「うぅ~…!」

 

 凄い奔流だ……! 万が一にでも足を崩したら、大怪我じゃ済まないぞ!

 下手をしたら、本当に死んでしまいかねない!

 

 先程まではしっかりと握りしめていた手も、今では離れる寸前になっている。

 力を込めて離さないようにしないと、冗談じゃ済まされない!

 

(ここはどの辺りなんだろう……? かなりの距離を歩いたようにも思えるし、少ししか進んでいないようにも感じる……)

 

 時間の感覚が無くなってきたかも……。

 これは普通にヤバいな……。

 

『……ジジ……ジジジ……』

 

 なんだこれ…? 上から聞こえる……放送?

 

『助け……! 腰が抜…て歩…な……』

 

 途切れ途切れに聞こえる……。

 まさか、まだ中継室にまだ誰かが残されているのか!?

 

(こんな状況じゃなければ、助けに行ってもよかったんだけど……)

 

 助けに行くどころか、碌に身動きすら出来ない。

 寧ろ、こっちの方を助けて欲しい。

 

 そんな風に考え事をして油断をしていたせいで、ノロノロとしていた歩みが急に早くなった事に追いつけなかった。

 

「きゃぁぁぁぁっ!? やよっち! しののん!」

「「本音っ!?」」

 

 しまった!! 本音と手が離れてしまった!

 彼女の姿が人込みに飲まれて消えていく!

 

「くっ! 本音ぇぇぇぇぇっ!!」

(なんで……なんで手を離したんだよ!! 私は!!!)

 

 今、初めて自分の事を憎いと思った……!

 こんな時に……こんな時に限ってなんで私は無力なんだ……!

 

「わ…私達も流される!?」

「く……あぁぁぁぁ……!」

「せめて弥生だけでも……!」

 

 箒の手が先程よりも強く握りしめられた。

 少し痛いぐらいだが、今はこれぐらいが丁度いい。

 

 次第に端の方に追いやられ、壁にぶつかりそうになる。

 このままじゃ……!

 

「弥生!!!」

「きゃぁあぁぁぁぁっ!?」

 

 箒が私を庇うように抱きしめて、そのまま私達はどこかに入るように投げ出された。

 強い衝撃が体に走って、痛みで僅かに心が冷静になる。

 

(床……に転がっている……のか……?)

 

 人込みが無い……。ここは廊下じゃない……?

 

「や…弥生……大丈夫か?」

「なん……とか……」

「そうか、よかった……」

 

 二人一緒に起き上がって、今いる場所を確かめる。

 

「ここは……?」

 

 床に座りながら怯えている女子生徒達がいる。

 一人は泣きながら頭を抱え、一人は端っこの方で震えていて、もう一人は虚ろな目で只管に『お母さん……お母さん……』と呟いている。

 この場にいる全員が、恐怖によって精神が壊れかけてる……!

 

「ここは……?」

「中継……室……?」

 

 すぐ傍に放送機器が転がっている。

 と言う事は、さっきの放送はここから聞こえてきたのか……。

 

「なんで避難をしようとしないんだ……?」

「まさか……!」

 

 急いで立ち上がって、中継室の扉に手を掛けた。

 

「やっぱ…り……!」

「ど…どうした?」

「このド…ア……壊れ……てる……!」

「なんだってっ!?」

 

 箒も立ち上がってドアノブを握るが、ビクともしない。

 

「なんで……? ここには入ってこれたのに……」

「多…分……この騒動……で……扉…が壊れて……内側…から…は……開けられなく……なってる…んだと……思う……」

「そんな馬鹿な……」

 

 きっと、この子達はこの壊れたドアによって逃げ道を阻まれて、精神的に追い込まれてしまったんだろう……。

 よりにもよって、なんでこんな器用な壊れ方をするんだよ! もう!

 

「……! 箒! ドア…から手を離し……て!」

「なにっ!?」

 

 彼女の手を掴んでドアノブから離す。

 すると、扉の前に固そうなシャッターが下りてきて、完璧に逃げ道が無くなった。

 

「う……そ……!」

「冗談じゃないぞ……!」

 

 そんな……こんな事が……。

 

「扉……が……ロックされ……た……!」

 

 そういや、原作でも無人機がこんな事をしていたような気が……。

 じゃあ、これも奴の仕業か!?

 

(ここがロックされたって事は、他の場所も……)

 

 これは……確実に混乱の度合いが増すぞ……!

 最悪の事態も想定しないといけなくなるかもしれない……。

 

「いやあぁぁぁあぁあぁあぁああぁぁあぁあぁぁあぁぁぁっ!!!!!!」

「出してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!! ここから出してよぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

「助けてぇぇぇぇぇええぇぇぇぇっ!!!! 助けてぇええぇぇぇええぇぇっ!!!」

 

 さっきよりも更に恐慌状態になった!?

 

「お…おい! なんか奴がこっちを向いているぞ!?」

「えっ!?」

 

 なんでっ!?

 別に箒はマイクを使って大声なんて出してないのに!?

 

「はっ!?」

 

 恐る恐る設置されているマイクを見てみる。

 

(冗談……でしょ……?)

 

 中継室のマイクのスイッチが入ったままになっている!?

 これがこの子達の叫び声を拾ってしまったのかっ!

 

(アイツのビーム砲がこちらに向かって……!)

 

 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!

 どうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうする!!

 

(やるしかない……のか……!)

 

 自分の腕にある鉛色のリング。

 私の『専用機』の待機形態。

 専用機なんて言うのも憚られるような代物だけど、それでも……!

 

(今……なんとか出来るのは私しかいない……!)

 

 覚悟を決める時が来た……のかもしれない……。

 

「私…は……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、遂に弥生の専用機が登場!?

やっとここまで来たって感じです。


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守る為の勇気

ようやく弥生の専用機のお披露目です。

そして、やっとここで『クロスオーバー』のタグが仕事をします。







 弥生達が中継室に閉じ込められてしまう数分前。

 セシリアは人込みを避けながら、やっとの事で千冬達がいる管制室へと辿り着いた。

 

「織斑先生!! 山田先生!!」

「オルコットさん!?」

「やっと来たか」

 

 いきなりの訪問者に真耶は驚いて、千冬は予め想定していたかのような反応をした。

 

「ハァ……ハァ……早速……現在の状況を教えてくださいまし……」

「それもいいが、まずは水でも飲んで落ち着け」

「あ…ありがとうございますわ……」

 

 千冬からペットボトルに入ったミネラルウォーターを貰って、それを一気飲みする。

 よっぽど喉が渇いていたのだろう。

 

「プハッ……」

「落ち着いたか?」

「はい…。それで、状況は?」

「これを見ろ」

 

 千冬が真耶に目配せをして、彼女がコンソールを操作してモニターに映像を出す。

 

「現在、凰が一人でなんとか頑張って教師部隊が来るまでの時間を稼いでいる」

「鈴さんが一人で……!? 織斑一夏は……」

「あのバカなら、今は端の方で大人しくしている。あの機体も織斑の事は眼中にすらないようで、完全に無視をしている。こちらとしてはありがたいがな」

 

 余計な事をして被害が増えるよりは、ああして大人しくしていた方が賢明だ。

 行動する事がいつでも事態を好転させるとは限らない。

 

「避難状況は芳しくないな。生徒会と他の先生達が避難をさせているが、未だに半分以上の生徒がアリーナから出られていない」

「あのパニックですからね……。無理もありませんわ」

「板垣と篠ノ之、布仏はどうした? 一緒にいたんだろう?」

「弥生さん達ならば、こちらに来る前に急いで避難するように言っておきましたわ。箒さんが一緒にいるから大丈夫だとは思いますが……」

「そうだな。いざという時の行動力はあるからな」

 

 昔馴染みとして、箒の能力は高く評価している千冬。

 決して身内贔屓と言う訳でなく、一人の人間として見た評価だった。

 

「オルコット。分かっているとは思うが、いくら凰でもいつまで持ち堪えられるか分からない。だから……」

「はい。今すぐでも増援に行く準備は出来てますわ」

「よし。ならば早速……」

 

 千冬がセシリアを送り出そうとした……その時、真耶の表情が急変した。

 

「お…織斑先生!! 大変です!!」

「どうした!?」

「しゃ…遮断シールドのレベルが3から4に上がって、アリーナ内の扉が順にロックされていきます!!」

「な…なんですってっ!?」

 

 おおよそ考えられる中で最悪の事態。

 まだ避難が終わっていない状況での扉のロック。

 間違いなく今まで以上の混乱が起きる事が予想されるだろう。

 

「くっ……! これでこちらに制限時間が出来てしまった……! 真耶! 緊急事態として政府に救援の要請を!」

「今やっています! 今の総理は『()()()』ですから、連絡が届き次第、すぐにでもやって来るかと……」

「そうだな……」

 

 現在の内閣総理大臣を心から信用している様子の二人。

 セシリアは現在の日本の政府の内情をよく理解していないので、その心情はよく分からないが。

 

「それから、三年生の精鋭達が自己判断でシステムのクラックを実行しているみたいです!」

「流石は三年……! こちらが何も言わなくてもいい仕事をしてくれる!」

 

 少しだけ希望が見えてきて心にも若干の余裕が生まれた千冬は、改めてセシリアの方を振り向いた。

 

「ここは私達に任せて、お前は隔壁が全て降りてくる前に凰の元へと向かえ!!」

「了解です!!」

 

 力強く頷いてから、セシリアは再び全力疾走で管制室を後にして、鈴の元まで急いだ。

 

「これでなんとか……」

 

 と思ったのもつかの間、事態はまた急変する。

 

『いやあぁぁぁあぁあぁあぁああぁぁあぁあぁぁあぁぁぁっ!!!!!』

『出してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!! ここから出してよぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』

『助けてぇぇぇぇぇええぇぇぇぇっ!!!! 助けてぇええぇぇぇええぇぇっ!!!』

 

 スピーカーから、突如として謎の悲鳴が聞こえてきた。

 

「な…なんだこれはっ!?」

「えっと……これは……どうやら中継室からのようです!!」

「中継室だとっ!?」

「はい! ……そんなっ!?」

「今度はなんだ!?」

 

 目を見開いた真耶が、冷や汗を掻きながら千冬に信じたくない状況を報告する。

 

「ちゅ…中継室に……まだ五人程生徒が取り残されています……。しかも、扉は完全にロックされていて……閉じ込められているみたいで……」

「なん……だと……!?」

 

 密室に閉じ込められた生徒達。

 唯でさえ精神をガリガリと削るようなシチュエーションだと言うのに、今そんな目に遭えば、最悪の場合はPTSDになりかねない。

 

「しかも……その中の二人が……板垣さんと篠ノ之さんのようです……!」

「なっ……!?」

 

 よりにもよって、閉じ込められたのが色んな意味で()()()()()()()()()()()()()

 間違いなく、状況は最悪と言える。

 

『お…おい! なんか奴がこっちを向いているぞ!?』

『えっ!?』

 

 スピーカーから聞こえてくる箒と弥生の声。

 それを聞いて千冬と真耶もモニターに注目する。

 

 すると、そこに映し出されたのは……謎のISがその腕に固定された銃口を中継室へと向けている光景だった。

 

「まさか……!?」

 

 それを見て全てを理解した千冬は、機材を使ってセシリアに通信を送る。

 

「オルコット!! 急げ!!!」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 一方の鈴サイド。

 彼女と一夏も、当然のように先程の叫び声を聞いていた。

 

「な…なんなの……さっきの叫び声は……。弥生と箒の声も聞こえたけど……」

「………っ!? 鈴っ!! 奴が!!」

「えっ!?」

 

 一夏の声に反応した鈴は、急いで目線を乱入者へと戻す。

 すると、目下の敵である異形のISはその腕に装備されたビーム砲の標準を声が聞こえてきた中継室にロックしていた。

 

「や…やめなさい!! あそこには弥生と箒が!!!」

 

 鈴は急いでISに斬りかかり、その攻撃を中断させようと試みる。

 しかし、謎のISは彼女の叫び声を当たり前のように無視して、鈴の持つ刃が己の身に触れる前に、その赤黒いビームを発射した。

 

「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 時間はほんの僅かだけ遡って、ビームが発射される直前の中継室。

 

「やるしか……ない……!」

「や…弥生……?」

 

 普段は絶対に見せない弥生の真剣な顔に、思わず驚いてしまう箒。

 弥生はその場から移動して、敢えてISのビームの発射先に行った。

 

「な…何をする気だ!?」

「大丈……夫……!」

「弥……生……」

「私が……皆を…守る……よ……!!」

 

 銃口が暗く光り、その高出力のビームがこちらに向けて無情にも発射される。

 その直前に、弥生は自分の両腕を前に出し、今出せる一番の大声で叫んだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーキ……テクトォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弥生ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒の慟哭が木霊する中、弥生の体が眩しく光り輝き、その光に中継室の壁を破壊したビームが直撃した……かに思えた。

 

「く……くあぁぁぁぁぁぁ……っ!!!」

 

 光が止み、その中心にいた弥生は、その体に自らの専用機を身に纏ってからビームを辛うじて防いでいた。

 

「弥生……なのか……?」

 

 その体は、必要最低限の装甲に覆われていて、お世辞にも強そうには見えない。

 肘と膝を覆うパーツも、他のISと比べて非常に小さく、背部には何も設置していない。

 灰色に染まったその機体は、ISと言うよりは軽装の鎧と言った方が正しいかもしれない。

 それ程までに、弥生のISは弱々しい印象を与えているのだが、それを全て払拭する要素が他にあった。

 

 まず、弥生の着ている紺色と黒のISスーツは他の生徒達が多用している物とは違い、額や耳の部分を通過して、そこから下の全ての体を覆い尽くすボディスーツような構造になっていて、顔以外の肌を全く露出していない。

 それに加え、両肩や腰の部分に青白いクリスタルが設置してあって、不思議なアクセントとなっていた。

 

「頑……張って……! インパクト……ナックル……!」

 

 両腕の装甲に追加として装備されている巨大な機械の腕『インパクト・ナックル』の手を広げて、それを盾のようにしてビームを防御しているが、そのパワーの前に徐々に押され始めていた。

 

「ひ…ひぃぃぃぃぃぃっ!?」

 

 目の前で起きた非現実的な現象に恐怖し、箒以外の女子達が全員、入り口の方まで尻餅をつきながら後ずさりをした。

 ハイパーセンサーでそれを確認した弥生は、心の中で少しだけ安心した。

 

(これで……少しだけ無茶が出来るようになった……!)

 

 思い切り歯を食いしばり、本当ならばしたくはない命令を自分の愛機に下す。

 

「インパクト……ナックル………出力……最大……!!!」

 

 インパクト・ナックルの各部から煙が吹き出て、その黒い装甲が真っ赤に赤熱する。

 それと同時に、弥生が一歩ずつ前に踏み出した。

 

(怖いままでもいい……!)

 

 ビームの熱量がアーキテクトのSEを少しずつ削っていく。

 

(臆病なままでもいい……!)

 

 だが、自分のダメージなんてお構いなしに、弥生は自らの歩みを止めようとしない。

 

(それ……でも……!)

 

 インパクト・ナックルの手甲部がビームに耐え切れずに融解し始める。

 

「ここで何も出来なかったら!!!! 私は私を一生許せない!!!!!」

 

 左手だけでビームを僅かな間だけ防ぎ、その間に右手を全力で振りかぶり、ビームに向かってその鋼鉄の拳を叩きつける!!

 

「これでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」

 

 弥生の全身全霊を込めた一撃は高出力のビームを完全に相殺し、中継室を狙った攻撃は見事に雲散霧消した。

 

「はぁ……………はぁ……………はぁ……………」

 

 だが、それによって弥生は自分の体力と機体のSEを全て使い切り、機体は強制解除、弥生自身もその場に倒れてしまった。

 

「弥生っ!!!」

 

 急いで箒が駆け付けて弥生を抱き上げるが、完全に気を失っているのか、全く返事は無い。

 

「弥生……しっかりしてくれ弥生!! 目を開けてくれ!! お願いだから!!」

 

 涙を流し、必死に弥生の名前を呼び続けるが、彼女は何の反応も返さない。

 

「誰かぁぁぁぁぁぁっ!!! 誰か来てくれぇぇぇぇぇぇぇっ!!! 弥生を……弥生を助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」

 

 箒の嘆きが人の少なくなったアリーナに空しく響いた。

 

 誰もそれを聞いていないように思えたが、その声を聞いている者達は確かに存在していた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「……ぶっ潰す……!!」

 

 鈴の顔が一気に憤怒に染まり、強烈なまでの殺気が体を覆った。

 

 急激な鈴の変化を感じ取ったのか、ISはこの場から撤退しようと宙に浮く。

 だが、そんな事を見逃すような彼女ではない。

 

「どこに行くのよ?」

 

 ISの逃走経路に一瞬で回り込み、そのカメラアイを能面のような表情で見つめる。

 

「あんだけの事をしておいて……五体満足でいられるなんて思ってんじゃねぇよ!!!」

 

 鈴の怒りの拳がISの顔面に直撃し、地面に勢いよく叩きつけられ、綺麗なクレーターを作り上げた。

 

「よくも……よくもあたしの大事な人達を殺そうとしたわね!!!」

 

 迷わず追撃し、今度は急降下からの蹴りが炸裂!

 

「弥生はね……弥生はね……!」

 

 拳と蹴りのラッシュが放たれ、先程まで優勢だった筈の敵機が一気に追い込まれていく。

 

「ちょっと臆病で……ちょっと人見知りで……でも!!」

 

 いつの間にか鈴の目にも涙が溜まっていて、それが攻撃の度に撒き散らされる。

 

「誰にでも凄く優しくて!! とても思いやりのある女の子なのよ!!!」

 

 全力のストレートが直撃し、壁に叩きつけられる。

 

「アンタが何処の何とか、そんなのどうでもいい……」

 

 体中から火花を散らして起き上がろうとするISだが、ダメージが相当に深刻なのか、思うように動けないでいた。

 

「あたしは……お前を絶対に許さない……!」

 

 辛うじて右腕を動かしてビームを撃とうとするが、それすらも鈴の背後から発射された青いレーザーによって右腕を撃ち貫かれて不発に終わった。

 

「私も同じ気持ちですわ……!」

「セシリア……」

 

 鈴の後ろから飛んできたのは、同じように怒りに満ちたセシリアだった。

 その体には既にブルー・ティアーズを纏っていて、いつでも戦闘可能状態になっている。

 

「弥生さんは……」

 

 右手だけでレーザーライフルを支えて、それをISに向けて発射。

 一陣の閃光は真っ直ぐに進んで、満身創痍となったISに無情な一撃をお見舞いする。

 

「アナタのような無粋な輩が無遠慮に傷つけていいようなお方ではないのです!!!」

 

 レーザーの次はビットを射出し、ISにトドメを刺していく。

 複数の細いレーザーがISを蜂の巣にして、身動きすら出来なくする。

 

「オラァッ!!!」

 

 セシリアの攻撃が一旦止んだと同時に、鈴は自身の双天牙月をISの肩の関節部に突き刺し、そのまま壁に縫い付けた。

 

「鈴さん」

「セシリア」

 

 二人は互いに目を見て頷き、衝撃砲とレーザーライフルを最大出力で連続発射した!

 

「これで!!」

「終わりですわ!!」

 

 二人の攻撃をまともに受けて、あっという間に原型すら留めない程に見るも無残な姿となった。

 

 全てのSEを使い切る直前まで攻撃した結果、敵ISは文字通り、完全完璧に沈黙。

 全身から紫電を散らすだけで、もう攻撃は愚か、身動き一つしなくなった。

 

「お…おい!」

「「ん?」」

 

 全ての怒りを吐き出した二人に後ろから話しかける一夏。

 その顔はかなり焦っているようだった。

 

「そいつにムカつくのは分かるけど、そこまでする必要はないんじゃないかっ!? 中の人が死んじまったら……」

 

 余りにも場違いな発言に、鈴とセシリアは再び顔を見合わせて大きな溜息を吐いた。

 

「アンタねぇ……。これは無人機よ?」

「はぇ?」

「この機体が無人である事は、かなり早い段階で気が付いていましたわ」

「な……なんで……?」

 

 まさかの答えが返って来て、目が点になる。

 

「挙動に機体のデザイン。他にも色々あるけど、あたしはそこら辺で分かったわね」

「現在、様々な国で無人で動くISの研究は行われています。恐らく、コレもその研究で生まれた試作機の一機なんでしょう」

「多分、何らかのバグで暴走でもしたんじゃない? 完全に鉄屑になっちゃったから、よく分かんないけど」

「…………………」

 

 『あんな事をした直後なのに、なんか冷静すぎやしないか?』と思う一夏だったが、それが代表候補生と言うものである。

 因みに、国家代表はもっと凄い。己の姉を見ていればよく分かるであろう。

 

「それよりも! 今は弥生の所に急がないと!」

「そうでしたわ!」

 

 二人は機体に残されたごく僅かなSEを使って、急いで弥生と箒達がいる壊れた中継室へと向かった。

 

「ちょ……待ってくれ!」

 

 一夏も急いで後を追おうとするが、その直後に白式が強制解除されて、地面に転がってしまう。

 

「くそ……! こんな時に限って……!」

 

 だが、往生際の悪さだけには定評のある一夏君は、この程度では諦めない。

 彼はすぐに立ち上がり、弥生の元まで全力ダッシュで向かう事にした。

 

「待っててくれ!! 弥生ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

 

 誰もいないアリーナを走る一夏の姿は、何とも言えない哀愁を漂わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




つーわけで、弥生の専用機はフレーム・アームズ・ガールから『アーキテクト』でした。

ISスーツの方は、スパロボOGで新たにデザインされたリューネ・ゾルダークのパイロットスーツを参考にしました。

敢えてアーキテクトにしたのには深い訳がありまして、それは後々に明らかにしていきます。

弥生の実力が強いか弱いかは、まだまだ秘密です。

この辺りの調整が本当に難しいです……。


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知らない所で終わった事件

今回は事後の話。

けど、特定のキャラにとっては重要な回でもあります。




「ん……?」

 

 なにやら人口の灯りが私の瞼を貫通して、直接眼球を刺激する。

 その感覚で私は重い瞼を開けた。

 

「……………」

 

 視界の先には清潔そうな天井が見えていて、全身に感じる柔らかな感触。

 私はどうやらベッドに寝ているらしい。

 と言う事は、ここは……

 

「見た事……も無…い天j「何を言ってんのよ……」……え?」

 

 起きて一番のボケに誰からかツッコまれてしまった。

 誰だと思って首だけを動かすと、そこにはいつもの原作キャラ達が勢揃いしていた。

 あ、山田先生はいないけどね。

 

「みん……な……?」

 

 あれ? なんで揃いも揃って心配そうにこっちを見るの?

 

「や…弥y「やよっちぃ~!!」ぬぁっ!?」

 

 箒が喋ろうとした瞬間、それを遮って傍にいた本音が私にいきなり抱き着いてきた。

 うん。いい匂いがする上にプニプニな二つのお山がたまりません。

 え? 自分にも立派なものがついているじゃないかだって?

 それはそれ。これはこれだよ。

 

「よかった……よかったよぉ~……」

「本音……」

 

 『よかった』は私のセリフでもあるんだけどね。

 人込みの中で逸れてからどうなったか、本当に心配していたから。

 

「弥生……自分がどうなったのか……覚えているか?」

「え……っと……」

 

 自分がどうなったかって言われてもな……。

 え~と……確か~……。

 

(例の無人機のビームを防ぐために、止む無くアーキテクトを起動させて、それから……)

 

 あ、もしかして私……気絶しちゃった?

 

「思い出したか?」

「気絶……する前後……が…少し曖昧……だけ…ど……」

「そうか……」

 

 お…おぉ? なんか箒が妙に大人しいぞ?

 どうした? 何かあったのか?

 また一夏に裸でも見られたのか?

 

「弥生っ!!」

「わぷ……」

 

 今度は箒が本音とは反対側から抱き着いてきたし!

 ぬぉぉ……! 彼女の日本人離れした二つのメロンが私に当たってててて…!

 

「ありがとう……本当にありがとう……! 弥生は間違いなく私の……私達の命の恩人だ……!」

 

 命の恩人……ね。

 まさか、この私がそんな風に言われる日が来るなんてね……。

 って言うか、私って今は制服を着た状態でベッドに寝てるから、こんな風に抱き着かれると制服が皺になるんですよね?

 ちょっと、分かってます?

 

「怪我……は……無い……?」

「私よりも自分の事を心配しろ! あれから大変だったんだぞ!」

 

 た…大変とな?

 一体、私が気を失ってから何があったって言うのさ?

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 弥生が敵のビーム攻撃を身を挺して防いでくれた後、鈴とセシリアが二人がかりで敵機を撃破してくれた。

 その直後だった。私達がいた中継室に救助がやって来たのは。

 

「弥生!!」

「弥生ちゃん!! 皆!! 大丈夫!?」

 

 固く閉ざされた扉を破壊してやって来たのは、ISスーツを着た簪と、似たような容姿の上級生、それからリヴァイヴを纏った複数の先生達だった。

 後で聞いたのだが、彼女は簪の姉であり、この学園の生徒会長でもあるらしい。

 その生徒会長が、自らの専用機で扉をこじ開けるようにして救出に駆け付けてくれたんだ。

 

「か…簪!! 弥生が……弥生が!!」

「分かったから、まずは落ち着いて」

「ひっく……ひっく……」

 

 柄にもなく泣いてしまった私の事を宥めてくれた簪は、弥生の容体を会長と一緒に看てくれた。

 

「体に熱が籠ってるけど……」

「見た限りでは、これと言った外傷は無いみたいね……よかったわ」

 

 二人が言うには、弥生は単純に精神と体力の限界が来たから気絶してしまっただけであって、命に別状はない……らしい。

 詳しくはちゃんと調べてみないと分からないが。

 

「弥生……頑張ったね……」

 

 簪も今にも泣きそうな顔で弥生の頭を優しく撫でていた。

 本当は自分も私みたいに泣きたいだろうに、きっと我慢していたんだろうな……。

 私ももっと精進しなくては……。

 

 それからすぐに鈴とセシリアも駆け付けてくれて、皆の手で弥生を保健室まで運んだんだ。

 

 それと、私達の他にいた生徒達は、先生達にちゃんと保護されていた。

 かなり精神が疲弊していたようだったが、彼女達は大丈夫だろうか……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「そう……だったん……だ……」

 

 なんか、思った以上に皆に助けられたんだな……。

 なんと言いますか……感謝の言葉しか出ないな……。

 

「その……会長……さん……は……?」

「お姉ちゃんなら、まだやる事があるからって、先に行っちゃった」

「そう……」

 

 図らずも、私は更識楯無に助けられた。

 出来ればこの場でお礼を言いたかったけど、本人がいないんじゃ仕方が無い。

 いつか機会を作って、直接生徒会室まで足を運んで礼を言うしかないな。

 おじいちゃんの子供として、礼節を重んじるのは当然の事だ。

 幾らヘタレとは言え、感謝の気持ちすら忘れるような外道には成り下がりたくない。

 

「本当に……弥生が無事でよかったわ……」

「そうですわね……。目の前で気絶している弥生さんを見た時は肝を冷やしましたわ」

 

 こらこら。仮にもお嬢様が『肝』なんて言うもんじゃないぞ?

 

「ところで……」

「な…に…?」

 

 なにやら、皆の視線が私の腕輪……アーキテクトの待機形態に集まっているような……。

 

「弥生も専用機を持っていたのね。驚いたわ」

「えぇ。あの時はISを展開しておらず、遠目でしたのでよくは分かりませんでしたけど……()()()()()()()()()()ような気がしましたわ……」

 

 セシリアの見解は間違っていない。

 私の専用機『アーキテクト』は、ISに詳しく携わっている人間ならば、()()()()()()()()()()()()筈だから。

 

「あ~……板垣」

「先…生……」

 

 ここで我らが担任様のご登場です。

 後ろから悠然と現れましたよ。

 

「一応……な。ここの教師として、お前が専用機を所持している以上は、お前の機体を調べなければいけないのだが……問題無いか?」

 

 確かに。

 スペック不明のISとか普通に学園側も容認しにくいだろう。

 

「分か……りまし…た……」

 

 私は自分の腕から腕輪を外すと、織斑先生へと手渡した。

 

「済まんな。それと……」

 

 ほわ……。

 またこの人に頭を撫でられたよ……。

 これで通算何回目だ?

 

「教師としてはあまり無茶をするなと言いたいが、ここは敢えて一人の人間として言わせて貰おう」

 

 な…何をでっしゃろか?

 

「本当によく頑張ったな……弥生。お前の勇気によって助かった命がある。弥生のような生徒を教え子に持てた事を、私は心から誇りに思うよ」

 

 な……名前で呼ばれたですとぉっ!?

 あ…あれ? 私……なにかこの人の好感度を上げるような事をしましたか!?

 全っ然見当もつかないんですけどっ!?

 

「凰とオルコットもよくやった。まさか、教師部隊が到着する前に倒すとは予想もしなかったぞ。流石は代表候補生だな」

「い…いえ……。私は当然の義務を果たしただけですわ……」

 

 セシリアは照れくさそうに髪を弄っていて、鈴は……

 

「ち…千冬さんに褒められた……? 明日は雪かしら……」

「それはどういう意味だ? そうか。今からグラウンド100周したいのか。それは感心感心」

「すいませんでした!!!」

 

 はい。速攻土下座。

 鈴には『口は災いの元』と言う言葉を贈ろう。

 

「では、私はこれで失礼する。お前達も、あまり長居せずに早く戻れよ」

「あの……私……は……」

「板垣は念の為、今日一晩はここで寝た方がいい。保険の佐藤先生もそう言っていた」

「分かり……まし…た……」

 

 保健室でのお泊り。

 なんだかワクワクしますね~。

 私、結構ホラー物とかって好きですよ?

 

 そういや、さっきからずっと一夏が一番後ろで黙りこくっているけど、大丈夫なのか?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 千冬が保健室を後にする直前、去り際に一夏がそっと彼女に話しかけていた。

 

「千冬姉……」

「……なんだ」

 

 いつもならば『先生と呼べ』と指摘するが、一夏の様子がおかしいため、敢えて何も言わないでいた。

 

「俺……弱いのかな? 調子に乗ってたのかな……?」

「…………」

 

 心の中で密かに溜息を吐く。

 やっとその事に気が付いたのか……と。

 

 姉として、一人の教師として、ここはハッキリと言う事にした。

 

「そうだな。お前は弱い。恐らく、この学園で最弱と言っても過言じゃない」

「最弱って……」

「少なくとも、お前よりも布仏のほうが強いぞ」

「マジかよ……」

 

 まさか、いつも『のほほ~ん』としている本音よりも弱いと知って、愕然とする。

 

「板垣は言わずもがなだな。私もまだ完璧に把握しているわけではないが、それでも専用機を所持し、今日のあの局面での動きを見れば、ある程度の腕前は分かる」

「そうか……」

 

 流石はブリュンヒルデ。

 一度は世界の頂点に君臨したのは伊達ではないようだ。

 

「俺……何も出来なかった……。倒れた弥生の元に駆け付ける事すら……」

「…………」

 

 ここは黙って聞く事に。

 

「それで? お前はどうしたいんだ?」

「俺は……」

 

 ここで初めて、一夏の中に『迷い』が生じた。

 いつもは二言目には『守る』と言う筈の彼が。

 

「分かんなくなっちまった……。誰かを守れるような人間になりたいと思ったのは本当だけど、それだけでいいのかなって……」

「ふぅ……」

 

 ようやく『迷う』事を覚えた弟に対し、姉は一言だけ告げた。

 

「ならば、思う存分迷う事だな。強さへの道に正解のルートなんてものは無いし、強さへの答えもまた一つではない。私だって、昔は散々迷いに迷った」

「千冬姉も……?」

「だから」

 

 軽くポン…と出席簿で頭を叩いて、保健室の扉を開ける。

 

「お前はこれから沢山迷え。迷った分だけ大人になれる。それが青春と言うものだ、一夏」

 

 自分の頭を触りながら、一夏は去り行く姉の背中を見ていた。

 

「迷った分だけ大人になれる……か」

 

 織斑一夏、成長の時。

 ここから彼は変わっていく……のかもしれない。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 千冬が保健室から出ると、そこに待ち構えていたように白衣を着た黒髪の女性が立っていた。

 彼女こそが、先程の話にも出てきた保健教員の佐藤である。

 

「千冬。ちょっと時間ある?」

「今からか?」

「うん」

 

 かなり真剣な顔をしている彼女を見て、ただ事ではないと察した千冬は、携帯で真耶に少し遅れる旨を伝えた。

 

「大丈夫だ」

「じゃあ、こっちに来て」

 

 そう言って、千冬を先導するようにその場を移動する。

 

「ここでは出来ない話か?」

「まぁね。これはあの子の担任である千冬にしか話せない」

「私にしか……?」

 

 佐藤が言う『あの子』が弥生の事を指しているのは分かったが、それが何故自分にしか話せないのかが分からなかった。

 

 彼女について行った先は、普段は生徒や客人と内密な話をする際に使用する『面談室』だった。

 

 佐藤は密かに持っていた面談室の鍵を使って扉を開けて、千冬と一緒に中へと入った。

 

 供えられたテーブルに向かう合うように座り、白衣のポケットからある物を取り出してテーブルの上に置いた。

 

「説明するよりも、まずはこれを見て」

「これ……は……!」

 

 テーブルの上に置かれたのは、一枚の写真。

 そこに写されていたのは、無数の傷跡に晒された少女の腕。

 

「これは……あの板垣弥生ちゃんの腕よ」

「…………っ!!」

 

 見せられた瞬間に少しだけ予想していた事。

 しかし、面と向かって言われると、千冬と言えども動揺は隠しきれない。

 

「腕だけじゃない。こんな傷跡が体中に無数に存在しているの。それこそ、顔の下から爪先まで……ね」

「そんな……」

 

 普段から弥生が肌を決して出そうとしない理由が、ここでようやく判明した。

 この体にある無残なまでの傷跡を隠す為だったのだ。

 

「しかもね、これだけじゃないのよ……」

 

 次の写真を出そうとポケットの中を探る。

 

「彼女には悪いとは思うけど、私も保健室を任されている以上は、ちゃんとした精密検査ぐらいはしなくちゃいけないし、何かあった時はこうして資料として写真等を残しておかないといけない……っと、あった」

 

 二枚取り出したが、まずはその内の一枚を千冬に見せた。

 

「彼女の爪……全部剥がされてた。手だけじゃない、足の爪も……」

「くっ……!」

 

 見たくも無い現実。

 だが、弥生の担任教師である以上、ここで目を逸らす訳にはいかない。

 

「これね、自然に剥がれたような感じじゃなかった。明らかに誰かによって無理矢理剥がされた痕よ」

「なんて惨いことを……!」

 

 顔も知らない何者かに、激しい怒りを覚える千冬。

 その拳が強く握られて赤く滲む。

 

「けどね、一番酷いのは……これ」

 

 佐藤自身も本当に辛そうにしながら、もう一枚の写真を見せる。

 それを見た途端、千冬は思わず手で口を覆った。

 

「彼女の顔……左半分が酷い火傷を負っていたわ。髪や包帯で隠していたけど」

「なんでだ……なんでなんだ……!」

「それはこっちが聞きたいわよ。……この火傷によって板垣さんの左目ね……完全に機能を失っているの」

「失明している……のか……」

「そうなるわね。まだ右目があるから生活には支障は無いんでしょうけど」

 

 ここに来て知られてしまった弥生の体の真実。

 千冬は、これまで全く知ろうともしなかった自分を心の中で激しく責めた。

 

(私は……私は何をやっていたんだ……! アイツがこんな傷を背負っているなんて……全然知らなくて……! 担任失格じゃないか……!)

 

 悔しさと悲しさで思わず涙が零れそうになる。

 

「ねぇ……あの子って本当に何者なの? 体の傷と言い、顔の火傷と言い、明らかに普通じゃない。どう考えても、現代日本の女子高生が負うような傷じゃないのだけど?」

「……………」

 

 その問いには答えられない。

 正確には、その答えを千冬は持ち合わせていないのだ。

 

「その様子じゃ、アンタも知らないのね……」

「済まん……」

「別に責めてるわけじゃないわよ。でも、一度ちゃんと調べた方がいいと思う。これは……放置しておくには余りにも問題が大きすぎる」

「分かっているさ……」

 

 ゆっくりと立ち上がりながら、千冬は面談室から出ようとする。

 

「悪いが……そろそろ行かせて貰う」

「そう……。引き止めて悪かったわね」

「いや……。いずれは必ず向き合わなければいけない問題だ。いい機会だったよ…」

 

 暗い空気を漂わせる千冬の背中を見て哀れに感じた佐藤は、諭すように話しかけた。

 

「別に千冬が責任を負う必要は無いんだからね。勿論、板垣さんも悪くない。こんな傷、誰だって隠そうと思うわよ」

「そうだな……」

「一番悪いのは、彼女をこんな目に遭わせた腐れ外道。どんな奴かは知らないけど、そいつは紛れも無く最低最悪の人間ね……」

 

 佐藤も辛いのだ。

 なにせ、この傷跡を実際に目の前で目撃してしまったのだから。

 医学を志す者として、決して見逃してはいけない事例だった。

 

「板垣さんのこの傷はかなり古いもので、いくつかは治療する事も可能だけど、全部は……」

「そうか……」

 

 言われなくても分かっていた。

 あの顔の火傷など、素人目で見ても普通に治る事は無いと理解出来る。

 

「教えてくれて感謝する……。板垣の事……頼んだ」

「任されたわ。あの部屋にいる以上は私がちゃんと面倒を見るから」

「あぁ……」

 

 ガチャ……と扉が閉まって、室内には佐藤一人だけ。

 

「……彼女って無駄に責任感が強いから、変に気負ったりしなけりゃいいんだけど……」

 

 時期尚早だったかもしれない……と、全てを話してから密かに後悔する佐藤だった。

 

「これ……轡木さんにも報告すべき……よね? はぁ……また同じ事を話さなきゃいけないと思うと、気が重いわ……」

 

 思わず胸ポケットから煙草を取り出して火をつける。

 煙草の煙が天井まで昇って、すぐに霧散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まだまだ事後処理の話は終わりません。

そうなると、必然的に弥生の出番がまた減るんですよね……。

これでいいのか!? 主人公!!


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また私の出番が無い!?

事後処理編パート2です。

今回は止む無く(?)弥生の出番はありません。

彼女にはゆっくりと療養して貰いましょう。






 弥生達が保健室でワイワイしている頃。

 生徒会室では楯無と虚が様々な事後処理に追われていた。

 

「よかったのですか? 簪様と一緒にいなくて」

「……私の方がまだ心の準備が出来てないから。それに……」

「それに? なんです?」

「弥生ちゃんが休んでいる所にこれ以上人間がいたら、彼女だって休むに休めないでしょう?」

「お嬢様にもそんな気遣いが出来たのですね……」

「それどういう意味っ!?」

「そのままの意味ですが?」

(前に簪ちゃんが言ってた事って……もしかして本当に……?)

 

 自分に対する周囲の評価が妙に気になってしまう楯無だった。

 

「……今日のあの子達は本当にお手柄だったわ」

「そうですね。流石は代表候補生と言うべきでしょうか」

「それもだけど……」

「弥生さんの事……ですね?」

 

 楯無は無言で頷き、パソコンを操作する指を速める。

 

「自分の身を挺して他者を守る…。こんな事、普通はやりたくても出来ないわよ?」

「いくら自分が専用機を所持しているからと言って、それでも危険な事には変わりないですからね……」

「弥生ちゃんは文字通り『人命』を救った。これは紛れもない善行よ。場合が場合なら感謝状とか勲章が貰えたかも」

「本人は自覚していないかもしれませんが」

「かもね。本音ちゃんから話を聞く限りじゃ、自分の事には本当に無頓着みたいだし」

 

 少し苦笑いを浮かべて、小休止の為に手を止めて体を伸ばす。

 

「……なんであそこまで優しい子に、あれ程の非道な事が出来るのかしらね……」

「狂人のやる事なんて、私達のような人間には到底理解できませんよ」

「そうね……」

 

 紅茶を飲みながら心をリラックスさせて、指をポキポキと鳴らす。

 

「さて……と。弥生ちゃん達の頑張りに報いる為にも……」

「今は私達が頑張りましょう。そして……」

「必ずや弥生ちゃんの傷の事を判明させてみせるわ」

「前当主様にもご協力を頼んだと聞きましたが?」

「一応ね……。私の権限だけじゃ可能な事はどうしても限定されちゃうから……。お父さんの事だから、来月初頭辺りに調査結果は出ると思うけど……」

「それに甘んじることなく、我々は我々で調べられることを調べましょう」

「当然! それが……私が今、弥生ちゃんに出来る唯一の事だから……」

 

 その日、夜遅くまで生徒会室の灯りは消える事は無かったと言う。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 バンッ! と言う音と共に、理事長室の扉が開かれた。

 

「来ましたか……」

 

 轡木十蔵。

 普段は学園の用務員を装っている老人の男性だが、その正体はIS学園の頂点に君臨する理事長その人である。

 彼は覚悟を決めた顔で机に座って佇んでいた。

 

「十ちゃん!! 弥生が倒れたとはどういう事じゃ!!!」

 

 必死の形相で入室してきたのは、白髪をオールバックにして黒縁の眼鏡を掛けたスーツ姿をした初老の男性。

 

「すまない……平ちゃん……」

「謝罪はいい! どういう事か説明してくれ!!」

「分かった……」

 

 十蔵は心から申し訳なさそうにしながら、事の経緯を詳細に説明した。

 

「謎のISがいきなりやって来て、それから他の生徒を護る為に弥生が……」

「あぁ……。我々大人がついていながら……本当に不甲斐ないと思っているよ……」

「いや……。それを言うなら、大事な義娘の危機に対し、真っ先に駆け付けられなかった私も同罪じゃ……」

 

 メガネの男性は落ち込みながら備え付けのソファーに座った。

 

「だが……彼女には本当に感謝しているんだよ。あの子がいなかったら、間違いなくあの場にいた生徒は死んでいた……」

「そうじゃな……」

 

 入室当初とは違い、今は少しだけ嬉しそうにしている男性。

 その顔は僅かではあるが笑っていた。

 

「それにしても、あの弥生が自分から誰かを守るために行動するとはな……」

「そんなに珍しいことなのかい?」

「そうじゃな……。弥生は基本的に他人と余り関わろうとはしない。小学校、中学校でも基本的には一人でいる事が多かったようじゃ」

「そうなのか……。私が聞いた話では、彼女は多くの友達と一緒に過ごしているらしいが……」

「弥生に友達が……?」

 

 これまでの弥生の事を知っている身としては到底信じられず、思わず目頭が熱くなる。

 

「矢張り……弥生をIS学園に入学させたことは間違いじゃなかったのかもしれん……」

「それを言って貰えると、私もこれまで頑張った甲斐があると言うものだよ」

 

 彼に釣られるように、十蔵もニコニコ顔になる。

 二人の老人が笑いあうと言う、なんとも言えない光景ではあるが、不思議と変な感じはしない。

 

「あの専用機は平ちゃんが用意を?」

「一応はな。私にも独自の伝手があるからのぅ。勿論、弥生に手渡す前に私の手で細かい調整や改造は施しておいたがの」

「だと思った」

 

 全てを納得したように頷き、背もたれに体を預ける。

 やっと安心できたといった顔だ。

 

「彼女なら今は保健室にいる筈だが、顔でも見て行くかい?」

「いや……今はやめておこう。下手に会ってホームシックにでもなったら大変じゃし、弥生の療養の邪魔はしなくはない」

「そうか……」

「さて……と。そろそろ私はお暇させて貰うとするかの。いきなり押しかけて済まなかったな」

「いや……平ちゃんの行動は当たり前だよ。寧ろ、来なかったらこっちから直接国会まで謝罪をしに行くつもりだったぐらいだ」

「相変わらず、妙な所で律儀じゃの」

「それはお互い様じゃないのか?」

「確かに」

 

 はっはっはっ……と笑い声が理事長室に木霊した。

 彼らの友情は、幾つになっても不動のものらしい。

 ある意味で、最も理想的な関係かもしれない。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 屋上。

 真っ赤な夕焼けが水平線に沈もうとしている景色を見ながら、一夏と鈴は向かい合っていた。

 

「で? こんな場所まで呼び出して何の用? わたしもクタクタだから、部屋に戻って休みたいんだけど」

「そんなに時間は取らせない」

「そ。ならいいけど」

 

 鈴の態度はとてもそっけない。

 嫌っているわけではないが、かと言って好意的とも言い難い。

 

「俺……さ。ついさっき思い出したんだ。前にした鈴との約束ってヤツ」

「今更?」

「あぁ……今更だ」

 

 約束を思い出してしまったからこそ、一夏は先程以上に落ち込んでいた。

 自分がした事がどれだけ酷い事なのか理解してしまったから。

 

「『あたしの料理が上達したら、毎日酢豚を食べてくれる?』……だったよな?」

「アンタにしては上出来じゃない。正解よ」

「そっか……」

 

 思い出したと言っておきながら、自分の記憶力にいまいち自信が無かったのか、正解だと聞いて心からホッとしていた。

 

「でもさ……これってどういう意味なんだ? 毎日酢豚って……」

「はぁ……。んな事だと思ったわよ」

「え?」

 

 この男は……。

 約束を思い出しても、その意味を正しく理解していなければ全く意味が無い。

 やっぱり、朴念仁はどこまで行っても朴念仁なのだった。

 保健室でのやり取りを考えると、三歩進んで二歩下がる……と言った感じか。

 

「もういいわよ。ぶっちゃけ、約束の事とか意味とか、マジでどうでもいいから」

「そ…そうなのか?」

「そうよ」

 

 あれだけ怒られたのに、想像以上に鈴のサッパリした態度に、一夏の方が逆に驚いてしまった。

 

「それよりも、一夏に聞きたい事があったのよね」

「なんだ?」

「アンタさ……弥生の事をどんな風に思ってるの?」

「や…弥生の事っ!?」

 

 弥生の名前が出た途端、一夏の顔が夕日のように真っ赤に染まる。

 

「あぁ~……やっぱいいわ。その顔見ただけで分かったから」

「え……えぇ?」

「自覚ないの?」

「はぁ……?」

 

 どうやら、この朴念仁は自分の気持ちにすら鈍感なようだ。

 彼が恋愛をする日は本当に来るのだろうか?

 

「言っとくけど……あたし、負けないから」

「お…おう?」

 

 この宣戦布告をどんな形で受け取ったのか。

 それは彼だけが知っている。

 

 この日から、一夏と鈴は昔のような友人関係から、別の意味で一歩進んだ『好敵手(ライバル)』関係にランクアップした。

 それは、別の少女達にも言える事なのだが、一夏はその事を全く自覚していないだろう。

 ライバルは、彼が思っている以上に多い。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 IS学園の地下50メートルに存在する空間。

 そこはレベル4の権限を持つ者しか入室を許可されない、特別な場所だった。

 

 千冬はそこに暗い表情のまま入ってきた。

 

「織斑先生ですか?」

「遅くなって悪かったな……」

「い…いえ……大丈夫ですよ?」

 

 普段は凛としている千冬が落ち込んでいるのを見て、途端に焦りを見せる真耶。

 

「い…板垣さんはどうでした?」

「元気そうにしていたよ。少なくとも、『今回のこと』でこれと言った外傷は無かったみたいだ」

「それはよかったです……。私も本当はお見舞いに行きたかったんですけど……」

「後で様子ぐらい見てきてもいいだろう。それよりも……」

「はい」

 

 仕事の顔になった二人の教師は、目の前の台に鎮座している残骸と化したISに視線を向ける。

 

「凰さんやオルコットさんの見解通り、これは無人機で間違いないです」

「矢張りか……」

 

 千冬も、無人機の動きを見た時点である程度の予想はしていたが、こうして改めて解析結果として見せられると、不思議と納得してしまう。

 

「二人の攻撃によって機能の中枢が完全に破壊されてますから、修復などは不可能だと思います」

「コアの方は?」

「未登録のコアでした。念の為にコアナンバーから調べてみたんですけど……」

「いや。未知のコアだと分かれば、それでいい」

 

 未登録のISコア。

 それの存在が、千冬にある人物の顔を思い出させていた。

 

「……真耶」

「なんですか?」

「後で時間があれば、佐藤先生の所に行ってくれないか?」

「佐藤先生?」

「……副担任として、お前も知っておくべきだと思ってな……」

「はぁ……」

 

 こんな事を言っているが、実際は真耶にも自分と同じ物を背負ってほしいと思っているのかもしれない。

 彼女が知ってしまった真実は、人一人で抱えるには余りにも重すぎるものだったから……。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 某所にあるとある施設。

 

 一人の女性が顔からバイザーのような物を取って、シミュレーターのような機材から出てきた。

 黒く長い髪と目元に装着している不気味な目が描かれたバイザーが特徴的な美女だった。

 スタイルが非常によく、大人の女性と言った雰囲気だ。

 

「ご苦労様でした。姉さま」

「……………」

 

 それを出迎えたのは、白髪のショートヘアの褐色肌の少女で、彼女は逆に控えめなスタイルで、少し幼さが残っている。

 

「………………」

「そうですか。いくら不完全な遠隔操作をしていたとは言え、姉さまが遅れを取るなんて……。代表候補生と言う存在を甘く見ていたかもしれません。各国の候補生と代表の評価を上方修正しておきましょう」

 

 『姉』と呼ばれた黒髪の美女は一言も喋っていないが、それでも意思の疎通は出来るようで、普通に会話が成立していた。

 

「……………」

「はい。それに関しては問題無いかと。我々の技術によって精密に複製しましたから、こちらの仕業とバレる可能性は限りなく低いでしょう。その代わり、あの『天災兎』が全ての罪を被ってくれますよ。なにせ、あの『ゴーレム』のオリジナルは彼女の作品ですから」

 

 手に持っていたドリンクを手渡し、美女はそれを無言で飲む。

 

「上の命令とは言え、こんな下らない事をさせられるなんて……。いくら私達姉妹が『彼女達』の後釜とは言え、雑事にかまけている暇は無いのに……」

「……………」

「分かっています。この騒ぎを聞きつけて『姉さま』もこちらに気が付いて動いてくれればいいですね」

 

 手に持ったタブレットを操作しながら椅子に座り、その灯りで顔が照らされる。

 

「あの時、姉さまの攻撃を防いだ少女……。彼女は一体……」

 

 そう呟く彼女のタブレットには、アーキテクトを装備した状態でビームを必死に防いでいる弥生が映し出されている。

 

 誰も知らない場所で、闇の胎動はとっくの昔に産声を上げていた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「かくして、漆黒の破壊者は勇気ある少女達によって倒され、学園には再び平和が戻った……と言ったところですか」

 

 目の前の食事を食べ終えた、とある金髪の美女が口元を拭きながら静かに呟いた。

 

「それ……なんスか? 詩かなにかですか?」

「そんな所です。私は吟遊詩人ですから」

 

 自分の所持品である竪琴を見せながら、傍にいる赤い髪の少年に微笑んだ。

 

「つーか、マジでいたんですね~…吟遊詩人って。てっきりゲームや漫画の中だけの存在だと思ってましたよ」

「そうでもないですよ? 日本にはいないでしょうが、北欧などに行けば意外といるものです」

「マジっスか……」

 

 感心するように頷きながら、食べ終えた皿を片付け始める。

 

「そういや、お姉さんも外国の人ですよね? 日本には観光か何かで来たんですか?」

「観光……と言うよりは、妹達に会いに来た…んですかね」

「妹さんスか……。ここら辺に住んでるんですか?」

「いえ。正確には『会えるかもしれない』と言った方が正しいんです」

「……詳しくは聞かない方がいいみたいですね」

「すみません」

「いえいえ! お客さんのプライベートに踏む込むような事をした俺こそすんませんでした」

「お気になさらず。私は別に気にしてませんから」

 

 にっこりと微笑んだ彼女の笑顔に、少年は思わず照れてしまう。

 

「それでは、お会計をお願いしましょうか」

「はい。んじゃこっちに……」

 

 少年の後ろを着いていき、会計を済ませる女性。

 笑顔を絶やさぬまま、優美に店を後にした。

 

「ありがとうございました~!」

 

 少年の定型文を聞きながら、彼女はふと後ろを振り返って店の看板を見る。

 

「五反田食堂……ですか。また機会があれば訪れたいですね」

 

 去り行く女性の姿は、まるで女神のように美しく、道行く人々を全て魅了し尽くしていた。

 

「IS学園……か。少しマークしておいた方がいいかもしれませんね……」

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 




今回は本当に弥生の出番がなかった~!?

初めての『おじいちゃん』登場。
名前はまだ出しません。
べ…別に考えていない訳じゃないからね!

そして、オリジナルキャラもご登場いただきました。
どんな形で物語に絡んでくるのかは、これからのお楽しみ。


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久々の帰省

今回から原作第二巻に突入です。

今話はある意味でネタ満載になってます。






 6月初頭の日曜日。

 私、板垣弥生は久方振りに実家へと帰省していた。

 学園を出る際に一悶着あったけど、それは一先ず横に置く。

 

(たった数か月の事なのに、随分と懐かしく感じるんだな~……)

 

 門の前で家……と言うよりも屋敷と言った方が正しい目の前の建築物を見上げる。

 

 私の住んでいる家である『板垣家』は、非常に大きい屋敷と同じ位大きな敷地を持っている。

 簡単に言うと、敷地だけで東京ドーム丸々一個分ぐらい。

 屋敷はそれを少しだけ縮小したぐらいの広さがある。

 

 この屋敷は4階建て(地下一階と上に三階)の和風建築で、家の殆どの場所に木材が使われているのが特徴。

 畳の部屋も結構多くて、私はかなり気に入っている。

 私の部屋はフローリングだけど。

 

 他にも色々と紹介したいけど、それは入ってからする事にしよう。

 

「え……っと……」

 

 門の柱の所にある特殊な機器に自分の手を翳す。

 すると、そこから近赤外線が放射されて、私の静脈を検知、これで門が開く仕組みになっている。

 因みに、この機械に登録されているのは、私とおじいちゃんを除けば、他にはおじいちゃんの知り合いの人が少数だけ。

 それ以外の人間では門を開く事すら叶わない。

 もしも無理矢理にでもここを乗り越えようとでもすれば、次の瞬間には超強力レーザーにて炭になる。

 実際に被害に遭った人間は一人もいないけど。

 

 門をくぐって石畳の上を歩いて行くと、屋敷の玄関が見えてきた。

 大きな木製の扉で、これを見ると帰ってきたんだな~って実感する。

 

「ただい…ま……」

 

 扉を開けて玄関をくぐると、私の大好きな木の匂いが鼻孔を擽る。

 これだよ! これ! これこそ我が家の匂い!

 

「ワンワン!」

「あ……」

 

 私が靴を脱いで上がったのと同時に、奥から一匹の雌の柴犬が走ってきて私の目の前で座った。

 

「ただ…いま……外務…大…臣……」

「ワン!」

 

 このワンコこそが、おじいちゃんの愛犬にして我が家の数あるペットの筆頭格である『外務大臣』だ。

 名前こそアレだが、つぶらな瞳とふわふわの尻尾がたまらないんだよね~♡

 

 私が外務大臣の頭を撫でていると、スマホにおじいちゃんからメールが来た。

 

【すまん! 本当は私も家に帰ろうと思っていたんじゃが、急な仕事が入ってしまった! 本当にすまん! この埋め合わせは必ずする! 必ずじゃ!!】

 

 まぁ……仕方が無いよね。

 なんせ、おじいちゃんはこの国で一番忙しい人(・・・・・・・・・・)だから。

 

【気にしないで。それよりも、お仕事頑張ってね】

 

 これでいいだろう。

 家に入った時におじいちゃんの出迎えが無い時点で、なんとなく予想はしてたけど。

 

(他の皆の事も見たくなったな……)

 

 ここには外務大臣以外にも、複数のペットがいて、それら全てがおじいちゃんの大事にしている存在だ。

 でも、おじいちゃんも私もいない時、おじいちゃんの知り合いの人達がこの子達の世話をしてくれるから、その点に関しては問題無い。

 

 外務大臣と一緒に自分の部屋(二階の一番端)まで行って、荷物置いてから私服へと着替えて、念の為に携帯と財布をポケットに入れてから部屋を出る。

 そして、そのままこの家に一緒に住んでいる大事な『家族』達の顔を見に行くことに。

 

 まずは、縁側でポカポカと日向ぼっこをしていた猫の『財務大臣』。

 アメリカンショートヘアの雄で、おじいちゃんと同じくらい私に懐いてくれている。

 私も猫好きだから、この子を見ているだけで心が癒されていく。

 

「ただ…いま……」

「ニャ~オ」

 

 一回だけ鳴いて、私の足にすり寄って来た。

 あぁ~…可愛いなぁ~…♡

 

「おい…で」

「にゃう」

 

 私の腕までジャンプしてきた財務大臣を腕に抱きながら、次の場所に移動開始。

 

 お次に来たのは、屋敷の端の方にある大きな部屋で、そこには多くの設備と一緒に非常に大きな水槽が設置してある。

 その水槽の中にいるのが、なんでかおじいちゃんがこの家で飼っているマグロの『農林水産大臣』

 一体何処でこの子を手に入れたのか、冗談抜きで謎。

 最初見た時は、余りの迫力におしっこちびりそうになったっけ。

 今では大事な家族になってるけど。

 

「帰ってきた……よ……」

 

 おう……。こっちに向かって口をパクパクしてますよ。

 餌が欲しいのかな?

 

「うんしょ……っと」

 

 備え付けのバケツを持ちながら脚立を昇って、農林水産大臣の餌であるお魚(名前は知らない)を一匹ずつ投げ入れた。

 彼がすぐに魚に反応し、あっという間に食べてしまった。

 

「また後……で…ね……」

 

 彼に手を振って、最後の一匹の所に行こうか。

 財務大臣、いつも思うけど、ジッと農林水産大臣の事を見るのは止めなさい。

 あの子、地味に怖がってるよ?

 

 今度は裏口にあるサンダルを履いて、そこから屋敷の裏にある少し開けた牧場のような場所に行く。

 そこに、おじいちゃんの愛馬である雄のサラブレットの『文部大臣』がいる。

 休みの日とかは、よく文部大臣の背に乗って乗馬を楽しんでいる。

 因みに、私も少しだけなら乗馬できますよ?

 おじいちゃんに習ったからね!

 

 外務大臣と財務大臣を柵の外で待たせて、私だけが柵の中に入り、のんびりと過ごしている文部大臣の傍まで近寄る。

 

「帰った……よ……文部…大…臣……」

 

 私が来た途端、彼は僅かに頭を低くして、私に合わせてくれた。

 

「ん……」

 

 彼の頭を撫でると、サラサラの体毛が気持ちいい。

 夏休みとかになったら、また彼に乗ってみるのもいいかもな……。

 

 その後、いくつかニンジンを食べさせて、そこを後にした。

 

 屋敷に戻った私は、中庭にて外務大臣と財務大臣にも食事を与えて、その様子を静かに縁側から眺めていた。

 

「美味…しい……?」

「ワンッ!」

「ニャ~ウ」

 

 返事してくれたし。

 まさか、人の言葉が分かる……わけないか。

 

(私もお腹空いたな~……)

 

 外務大臣の散歩がてら、私も外に食べに行こうかな……。

 広い屋敷で一人で食事ってのも、なんだか味気ないし。

 それに、前々から行ってみたい場所もあったし。

 

(……そうしよう。外務大臣のリードってどこにあったっけ……)

 

 この子達の食事が終わり次第、私も出かける準備をして、外務大臣と一緒に少し早い昼食に向かう事にした。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「はぁ~……」

「人の家に来るなり、溜息ばっかり吐いてんじゃねぇよ」

「はぁ~……」

「だめだこりゃ」

 

 俺、織斑一夏は現在、休みの日を利用して中学からの親友である『五反田弾』の家まで遊びに来ていた。

 

 あの無人機事件から色々とあったが、なんとか事態は収束した。

 事件自体は学園側から箝口令が敷かれて、表向きは何も無かったことにされた。

 それで全て解決……とは流石にいかなくて、新入生の内の十数人が自主退学をしてしまった。

 幸いな事に、俺が所属する一組からは一人もいなかったが、鈴のいる二組や更識さんがいる四組は数人、三組に至っては十人近くが辞めたらしい。

 

 それを聞いて、俺は改めて、あの事件がどれだけ大変なものだったのか実感した。

 

 気晴らしにと思って、こうして弾の家まで来たが、やっぱり色々と考えてしまう。

 

「そういやメールでも言ってたけどよ、鈴も転校してきたんだって? どうよ?」

「どうって言われてもな……」

 

 なんて言えばいいのか迷うな……。

 変わってないと言えば変わってないし、変わってる所も多々あるし……。

 

「お前……また何かやらかしたな?」

「またって何だよ、またって」

「自覚ねぇのかよ……」

 

 なんなんだよ、勿体ぶった言い方しやがって……。

 

「にしても、お前の溜息って、まるで恋煩いみたいだな」

「………!!」

 

 こ…恋煩い……。

 なんで、その言葉を聞いた途端に弥生の顔が思い浮かんだんだ……?

 

「………図星かよ。適当に言ったのに……」

「図星って言うか……なんか気になる女の子ならいる……かも」

「マジでっ!? ど…どんな子だ!? 写真とかあるのか!?」

「一応、携帯になら……」

 

 俺は密かに携帯で撮影した弥生の写真(本人未許可)を弾に見せた。

 

「え……?」

 

 ……なんでそこで黙る?

 

「おいおいおいおいおい! これ……マジで言ってるのか!?」

「いや……何が?」

「だって……この子……」

「弥生の事を知ってるのか?」

 

 弥生と弾に何か接点があるのか?

 ……なんか面白くねぇな。

 

「お前覚えてないか? 俺等が中学の時に、隣町にある学校にクールビューティーな超絶美少女がいるって噂!」

「そんなのあったか?」

 

 全然知らないぞ?

 

「……お前は昔から、その手の話には無関心だったもんな……」

「うっせ」

 

 余計なお世話じゃ。

 

「まぁ……簡単に説明するとだな。隣町に超セレブな子しか通えない超お嬢様学校、名前は確か……『(セント)マリアンヌ学園』…だったかな? があって、そこに……」

「弥生が通ってたって?」

「そうなんだよ!」

 

 こら、こっち指差すな。

 聖マリアンヌって……昔のアッチ系の漫画に出てきそうな学校名だな……。

 そんな場所に弥生は通ってたのか……。

 

「あれ?」

 

 そうなると、弥生って実は超がつくほどのお嬢様? マジで?

 

(俺……とんでもない子に勉強を教わってたのかも……)

 

 お…俺……何か失礼な事をしてないよな……って、思いっきりしてるじゃん!

 裸を見たり、押し倒したり!

 

(あはは……オワタ)

 

 弥生が優しくなかったら、今頃どうなっていたんだろう……。

 

「前に俺も噂を確かめる為に、数馬と一緒にそこまで行ったし」

「お前等……」

 

 呆れるっつーか……暇人だな~…弾も数馬も。

 因みに、数馬ってのは、もう一人の俺の男友達である『御手洗数馬』の事だ。

 

「いや~…ぶっちゃけ、一目見ただけでスゲーって思っちまったね。スタイルは抜群だし、顔も申し分なし。クールな表情がまたよくて……」

 

 中学時代の弥生か……俺も見てみたいな。

 俺も誘ってくれればよかったのに。

 

「しかも、かなりのエリート校であるにも関わらず、成績は常にトップクラスで、裏でかなりの人気があったみたいだぞ」

 

 それはなんとなく分かる。

 弥生の成績は今でもトップクラスだし、箒達を筆頭にかなりの人気がある。

 噂では『弥生ちゃんを愛で隊』なる存在があるとか無いとか。

 

「そんな子とテメェはお近づきになりやがって……!」

「お近づきって……。一緒のクラスなだけだって」

「嘘つけ!! 学校中の人間から揃って朴念神とまで言われたお前がそこまでお熱になる程の相手だぞ!! 絶対に何かあったに決まってる!!」

「勝手に決めつけんなよ。あと、勝手に人を神にするな」

「いいから話せ! ほれ!」

「暑苦しいから離れろって……」

 

 弾の奴、いきなり首に腕を回してきやがって。

 俺はソッチの趣味は無いぞ。

 

「……別に特別な事なんてしてねぇよ。弥生の部屋で勉強教わって、その時に役に立つアドバイスも貰って、俺が試合に負けた時は慰めて貰って……」

 

 そうだ。俺と弥生の関係なんて、所詮はその程度。

 俺は彼女に何もしてあげられなかった。

 病気で寝込んだ時も、体を張って箒達を守って倒れた時も……。

 

「うぉっ!?」

 

 弾が無表情のまま血涙を流している!?

 

「リア充爆発しろ!! もしくは死ね!!」

「全力で断る!!」

 

 冗談抜きで意味が分からんわ!!

 

「こんな超セレブ系美少女と二人っきりで勉強会をした挙句、慰めて貰うとか……! お前は世のモテない男子全員に喧嘩売ってんのか!!!」

「別に売っとらんわ!!」

「生まれてこの方、一度も女子と二人っきりの空間で勉強とか教わった事なんて無いのに……! 羨ましいやら、妬ましいやら……!」

「中学の時に鈴と一緒に勉強したじゃねぇか」

「あの頃はお前や数馬も一緒だったろうが!! あんなの問答無用でノーカウントだ!!」

 

 こいつの価値基準が全く理解できない……。

 なんで弾はここまで切れてるんだ?

 

「負けてたまるか!! 俺も絶対に可愛い彼女を作るぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

「が…頑張れ……」

 

 と言うか、こんな場所で大声とか出すなよ。

 そんな事をしたら……

 

「お兄!! さっきからずっとお昼が出来たって言ってるじゃん!! ちゃんと返事してよ!! それと、普通に五月蠅い!!」

 

 ほらな。

 部屋の扉を蹴破って、弾の妹である『五反田蘭』が入ってきた。

 歳は一個下の中学3年生。

 タンクトップとショートパンツを着ているけど、家では思ったよりもラフな格好をしてるんだな。

 

「い…一夏さん!? 来てたんですか……」

「おっす。邪魔してる」

 

 蘭とこうして会うのも久し振りに感じるな。

 

「全寮制の学校に通ってるって聞きましたけど……」

「その通り。今日は外出届を出して、家の掃除をしたついでにここに立ち寄ったんだ」

「そうだったんですか……」

 

 久々の家の掃除も大変だった。

 思った以上に埃が溜まっていたからな。

 

「蘭、せめてノックぐらいは「それよりも! なにやら気になる事が聞こえたんですけど!?」……俺は無視かい」

 

 気になる事? なんだ?

 

「い…一夏さんが気になる女性がいるって……」

「あぁ……弥生の事か?」

「や…弥生……さん?」

 

 一応、さっき弾に見せた写真を蘭にも見せる。

 

「す…凄い美少女……」

「ほら、前にお前にも話しただろ? 噂のクールビューティーなセレブ系美少女の事」

「昔、お兄がウザいくらいに熱く語ってた、あの……?」

「そうだ! この子がその美少女だ!!」

 

 蘭にも話してたのかよ……。

 この話、どこまで広まってるんだ?

 

「終わった……」

「あらゆる面で向こうの方が上だよな……」

 

 それを具体的に説明したら、お前の命が危ないぞ。

 だから、絶対に言うなよ? 絶対だぞ!

 

「上ってどこが?」

「そりゃ……胸t「ら…蘭! さっき昼飯が出来たって言ってたよな!? 早く行こうぜ! 俺もすっかりお腹空いちまったよ!」い…一夏……」

 

 速攻でフラグ回収してんじゃねぇよ!

 俺がフォローしなかったら、間違いなくお前はあの世行きだったぞ!?

 

「そ…そうですね! ほら、お兄!」

「お…おう……」

 

 なんとか誤魔化せたか……。

 一緒に部屋を出て、階段を下りて店舗になっている一階に向かう。

 

「お兄」

「なんだ?」

「ちゃんと聞こえてたからね……」

「うぐ……!」

「一夏さんに感謝しなよ……」

「ハイ……」

 

 ん? 二人してなにひそひそ話してるんだ?

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 俺達が一階に降りた直後、店の扉が開かれて、一人のお客さんが入ってきた。

 蘭は途中で自分の部屋に戻って着替えてくるって言って、今はここにいない。

 

「いらっしゃいませ~」

 

 二人の母親である蓮さんが挨拶をして、お客さんを出迎える。

 優美な感じで礼をして、とても絵になる。

 

 だが、それとは反対に、入ってきたお客さんを見て俺達は絶句してしまった。

 

「嘘……だろ……?」

「お…おぉ~……!」

 

 五反田食堂に入ってきた客とは……私服を着た弥生だったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本当は一回に纏めたかったんですけど、例の如く、またまた二話構成に……。

次回、別の意味で弥生無双!?


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伝説の少女A

明日から待望(?)のゴールデンウィークですね。

と言っても、何の予定も無い私はずっと家にいると思いますけど。






 いきなり五反田食堂にやって来た弥生の姿に、俺は言葉を失った。

 

 純白のワンピースに薄紅色のカーディガン。

 腕にはいつものように腕袋をつけて、その足はストッキングによって隠されている。

 肌を露出しない恰好はいつもの通りだが、普段は決して見る事のない弥生の私服姿に、俺は初めて女性を『美しい』と思った。

 

「す…すげー美人……。こうして近くで見ると、改めてそう思うわ……」

 

 隣にいる弾も、弥生の姿に口をポカ~ンと開けている。

 それは、食堂にいる他のお客さんも同様で、弥生が中に入ってきただけで、店の雰囲気が一気に変わった。

 なんて言うか……ここだけ別の空間になったみたいだ……。

 

「……………」

 

 少しだけ周囲をキョロキョロとしてから、弥生は誰も座っていない端の方にある席に座った。

 それを確認した蓮さんが弥生に近寄ってから注文を聞いた。

 

「何になさいますか?」

 

 皆の視線が弥生の口元に注目される。

 彼女は何を頼むつもりなんだろうか?

 

「そ…れじゃあ……」

 

 ゴ…ゴクリ……。

 

「………『友情セット』……を一つ……」

 

 ……友情セット? なんじゃそりゃ?

 この食堂にそんなメニューあったか?

 

「マ……マジかよ……!」

「え…………?」

 

 え? 弾? 何をそんなに驚いてるんだ?

 蓮さんも珍しく動揺してるし……。

 俺が状況が分からず声も無く狼狽えていると、いきなり厨房にいる厳さんの表情がキッ! っとなった。

 あ、厳さんって言うのは、弾のお爺さんの事で、この食堂の料理全般を受け持っている人だ。

 俺の料理の師匠的存在だったりもする。

 

「おい……そこの嬢ちゃん」

 

 厳さんの声がいつも以上に低くなってる……。

 なんか……すげぇ迫力……。

 

「悪い事は言わねぇ。冷やかしのつもりなら大人しく帰んな。どこでその事を知ったのか知らねぇが、適当につついて金だけ払うつもりの物見遊山ならハッキリ言って迷惑だ」

「ちょ……!」

 

 幾らなんでも言いすぎじゃないか!?

 なにもそこまで言わなくても……。

 

「そもそも、『友情セット』ってなんなんだよ? 今まで聞いた事もないぞ?」

「そうだろうな……。なんせ、友情セットってのはこの五反田食堂の裏メニューだからな」

「そんなのあったのかよ……」

 

 裏メニューなんて初耳だ……。

 

「俺も蘭も実際にこの目で目撃した事は無いんだけどな。母さんの話じゃ、この食堂を始めた頃に話題作りで始めた、所謂『大盛りメニュー』って奴らしい」

「大盛りメニュー……」

 

 それが一体どんな大盛りなのかは知らないが、超大食いな弥生には最高の食事なんだろうな……。

 

「『友情セット5000円。ただし、30分以内に完食した場合は無料』……これが一応の概要だ」

「5000円……」

 

 なんだろう……。

 弥生なら、普通に金払ってでも食べそうな気がする。

 

「別……に……遊び…で頼ん…では…いません……」

「ほぅ?」

「私…は……『お昼ご飯(・・・・)』を食べに来た…だけ……です……」

「お前……」

 

 普通の女子高生は、お昼ご飯に大盛りメニューなんて頼まねぇよ……。

 

(あの目……間違いない……! あれは今時のチャラついたガキ共の目じゃねぇ……! 幾多の戦場(食堂)を制覇しながらも、まだ見ぬ強敵(大盛り)を求めてさ迷い歩く戦士の瞳!!)

 

 え……え? なんか食堂全体の空気が心なしか燃えるように熱いんですけど?

 

「ふっ……」

 

 笑った……?

 

「恐れを知らないのは若者の特権……か。いいだろう。作ってやるよ……『友情セット』をな」

 

 注文通ったし!?

 

「ただし、こいつは作るのにちっとばっかし時間が掛かる。大丈夫か?」

「問題無い……です。既に前菜……は食べてきま……したか…ら……」

 

 ぜ…前菜!? ここに来る前にも何か食べてきたのかよ!?

 

「テメェ……」

 

 げ…厳さんの目に火が着いた!?

 

「ん?」

 

 なんだ? 店の電話に着信か?

 厳さんが直接電話に出たけど。

 

「もしもし?」

『ご…五反田の旦那かっ!?』

「おう。その声は中華料理店『泰山』の言峰に世話になってる青髪か。どうした? そんなに慌てて。お前らしくもねぇ」

『大変なんだよ! とうとうこの街にも例の『伝説の少女A』が来たんだよ!!』

「な…なんだと……!?」

 

 厳さんが驚いている?

 今日は珍しいものが沢山見れる日だな……。

 

『数多くの店の大盛りメニューをことごとく打ち破ってきた伝説の少女A……。奴が遂にこの街の食事処までターゲットに定めやがった! 早速ウチもやられちまった……!』

「お…お前の所の『超大盛り激辛麻婆豆腐』がかっ!?」

『あぁ……。軽く10分でペロリとな……。食べ終わってから、五反田食堂の方に歩いて行くのを目撃したからよ、一応知らせておこうと思って……』

「……そいつの特徴はなんだ……?」

『見た目は至って普通の女子高生って感じだ。ただ、長い前髪で顔の左半分を覆ってたな……』

「!!!!!」

 

 うぉっ!? 厳さんの顔がめっちゃ渋くなった!?

 なんかクワッ!って効果音が出そうな顔つきだ。

 

『ど…どうした?』

「そいつな……今、ここにいるぞ……」

『マジかよっ!? クソ……一足遅かったか……!』

「心配すんな。この俺がそう簡単にやられるかよ」

『んな事は分かってる。でも、油断すんなよ。アイツは俺等の想像の遥か上を行く存在だぜ……!』

「おう。任せとけ」

『………健闘を祈る』

 

 あ、電話が終わった。

 

「……………」

 

 受話器をそっと置くと、静かに厨房の奥に消えていった。

 

「もしかしたら、今日は歴史的な日になるかもしれないな……!」

 

 なんか弾まで変な顔になってるし!?

 

「お待たせ~……って、なにこれ?」

 

 後から着替えを済ませてやって来た蘭が、この空気に目が点になっていた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 既に用意されていた俺達の昼食を食べながら、横目で友情セットを待っている弥生を見る。

 彼女の方も俺の事に気が付いたが、すぐに目を逸らしてしまった。

 

(なんで一夏がここにいるんだよ!? って、確か休みの日に五反田弾の家に遊びに行っている場面があったっけ……。まさか、今日がその日だったとは……迂闊だった……)

 

 どこまでも真剣な表情の弥生。

 俺には分からないが、弥生にとってこれは紛れもない『勝負』なんだろう。

 ……凛々しい弥生も可愛いな……。

 

「あの……一夏さん?」

「なんだ?」

「後ろに座っている人が例の『弥生さん』なんですよね?」

「そうだぞ」

 

 蘭が弥生の事をそっと見た。

 なんか顔が赤くなってるけど、暑いのか?

 

(生で見ると物凄い美人さんじゃん!! スタイルも最高だし……一夏さんと同じクラスで勉強を教えて貰う仲だって言うし……)

「はぁ~……」

 

 今度は溜息。

 蘭って表情豊かだよな。

 

「奥から何かを焼くような音が聞こえるんだけど……なんだろう?」

「さぁ……。母さんは知ってるんだろ?」

「一応ね……。でも、口で説明するよりは直接見た方が早いと思うわ」

 

 百聞は一見に如かず……か。

 

 俺達三人が昼食を食べ終わった頃に丁度完成したみたいで、厳さんが厨房から出てきて、出来上がった『ソレ』を巨大な皿に乗せてやって来た。

 その皿に乗っている代物を見て、俺は我が目を疑った。

 

「はいよ! 友情セット一つ! おまち!!」

 

 ドンッ! と弥生の前に置かれたソレは、恐ろしく大きなお好み焼きだった。

 この食堂にお好み焼きがあるのも驚きだが、それ以上にこのサイズのお好み焼きがこの世に存在する事が信じられない。

 

「な…なんなのあれ!?」

「あれがこの五反田食堂の裏メニューの『友情セット』よ」

「なんで友情……?」

 

 そのネーミングセンスは普通に謎だが、そんな事すら些細に感じる程に存在感がある……!

 

「見た目は普通に美味しそうだよな……」

「ソースの香りが溜まらないわね……。食欲ないけど」

「仮にあっても、あれは無理だろ……」

 

 その威容だけで他を圧倒している……。

 弥生……本当にやれるのか……!?

 

「で…は………」

 

 徐にポケットから一本のリボンを取り出して、それで後ろ髪を結んでポニーテールにした。

 それも凄く可愛い……。

 

「制限時間は30分だ。分かってるな?」

「は…い……」

 

 厳さんもいつの間にかその手にストップウォッチを握りしめてるし。

 

 割り箸をパチンと割ってから、両手を合わせた。

 

「……いただきます」

「始め!!」

 

 挑戦が始まった直後から、弥生は割り箸で力強くお好み焼きを切り取って口に入れる。

 その大きさはそこまでじゃないが、それでも彼女は迷わず口に入れていく。

 

「美味……」

「感想まで言う余裕があるか……やるな」

 

 その後も弥生は黙々とお好み焼きを胃の中に放り込んでいく。

 一口一口は小さいのに、食べるペースが半端じゃなく早い。

 前にも見た光景だが、何度見ても信じられないな……。

 これを普通と感じている箒達を今更ながらに凄いと思うよ。

 

「なにこれ……」

「あっという間に減っていく……」

「しかもあの子、全く水に手を付けてないぞ!」

 

 言われてみれば。

 普通は水を飲んで流し込もうとするんじゃないのか?

 

「こいつ……こういう時の食べ方を熟知してやがるな」

「え?」

「普通に考えれば、水分を取って一気に流し込もうと思うだろうが、それは素人の浅知恵だ。水分ってのは、思っている以上に腹に溜まるんだ。最悪の場合は水分だけで胃が満たされちまう。だから……」

「敢えて水を飲まずに食べ続けている……」

「そう言うこった。それに、あの食べ方も見てみな」

 

 食べ方? 俺には至って普通に食べているように見えるけど……。

 

「あまり大きく切り分けずにして、更に口をお好み焼きの大きさギリギリまでしか開かない。ああする事によって、胃の中に無駄な空気が必要以上に入らないようにしているのさ」

「空気?」

「そうだ。人ってのはな、食べる時に無意識の内に食べ物と一緒に空気まで胃の中に入れてるのさ。麺類とかをすする時は特にな」

 

 すするって行為は確かに息を吸うようにして食べるから、嫌でも空気が腹に入ってしまうのか……。

 これからの人生で全く役に立たないと思うけど、勉強にはなるな~。

 

「お兄……。あの人、もう半分以上を食べ終わってるんだけど……」

「大食い女子ってジャンルは確かに存在するけどよ……。あんな清楚なお嬢様があんなに食うなんて、誰が予想するかな……」

 

 なんて話している間にも、弥生は着々と食べてるんだよな~。

 しかも、その顔が心の底から美味しそうにしてるから、この子の事を別の意味で末恐ろしいって感じてしまう。

 いつもは滅多に見られない弥生の満面の笑みを見られるから、俺的には役得なんだけど。 

 

「まだまだ時間にはかなりの余裕がある……。だが……」

 

 だが……だよなぁ~…。

 もう少しで食べ終えてしまいそうな勢いだ。

 

「おいおい……冗談だろ……!?」

 

 それから数分の後、弥生は皿の上にある超巨大お好み焼きを平らげてしまった。

 

「タ…タイムは……」

「どうなの……おじいちゃん……」

 

 震える手で蓮さんにストップウォッチを見せた。

 そこに刻まれた数字を見た途端、蓮さんの表情が固まった。

 

「嘘……でしょ……?」

「真実だ……」

 

 無性に気になった俺は、弾達と一緒にストップウォッチを除き見た。

 

「「「えぁっ!?」」」

 

 じゅ……13分20秒っ!?

 制限時間を半分以上残して完食だってっ!?

 

「これは……現実なのか?」

「凄すぎ……」

 

 五反田兄妹も驚愕のあまり、空いた口が塞がらないみたいだ。

 

「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」

 

 うわっ!? びっくりした……。

 他のお客さんが一斉に騒ぎ出したぞ!?

 

「すげぇじゃねぇか! 嬢ちゃん!!」

「あの見た目であの食べっぷりかよ……! 感服した!!」

「俺は……俺は今! 猛烈に感動している!!」

 

 僅か十数分の間に、弥生のファンが一気に増加したな……。

 

「み…見事だったぜ……嬢ちゃん。流石は伝説の少女Aだな」

「「「伝説の少女A?」」」

 

 なにそれ? 弥生の渾名か?

 

「…………?」

 

 案の定、弥生自身も何の事だか分からないって顔してるし。

 

「おじいちゃん……。これってさ、他にも制覇した人っているの?」

「二人程な。その時はお前等が学校に行っている時だったから知らないだろうが」

「それって誰だよ?」

「一人は紫の髪に頭に妙な物をつけてる女だったな。機械で出来た兎の耳……だったか?」

 

 その条件に該当する人物を約一名だけ知ってるんですけど……まさかね……?

 

「もう一人は?」

「千冬の嬢ちゃんだ」

「千冬姉っ!?」

 

 俺が知らない所で何やってんだよ!?

 

「二人とも、タイムはギリギリだったんだが、まさかそれを大幅に上回る記録を叩きだす人間がいたとはな……」

 

 俺的には、これを制覇した人間が揃いも揃って俺の知ってる人である事実に一番驚いてるよ……。

 

「実に見事な食べっぷりだったぜ。名前を聞かせてくれねぇか?」

「板垣弥生……です」

「弥生……か。よし、覚えた」

 

 早いな!?

 

「そろそろ……行こう……かな……」

 

 本当に昼飯を食べに来ただけなんだな……。

 俺達には衝撃的な姿だったけど。

 

「それ…じゃあ……」

 

 急に立ち上がって、髪を結んでいるリボンを解きながら振り返り微笑を浮かべた。

 

「ごちそうさま……でした……」

 

 出口の隙間から漏れる陽光に包まれた姿は、まるで女神のように美麗で、秀麗で、繚乱だった。

 

「ちょ……待ってくれよ弥生! 悪い弾! 俺ももう行くわ! んじゃな!」

「い…一夏っ!?」

 

 俺は外に向かう弥生の後を追って、一緒に店の外に出た。

 

「素敵……♡」

「「「「は?」」」」

 

 最後の一言、蘭が言ったのか?

 

 それから俺は、弥生と一緒に行くことにしたが、俺の驚きはまだまだ終わらなかった。

 

「まだ……お昼…は…終わってない……」

「ど…どういう意味だ?」

「食後……のデザート…がある……」

「デザートとなっ!?」

 

 次の店で弥生は超巨大パフェを分殺して、それでようやく彼女の昼食は終わりを告げた。

 

 そういや、彼女の連れていた犬の『外務大臣』に妙に吠えられたけど、俺って何かしたかな?

 別に嫌われるような事をした覚えはないんだけど。

 

 そして、弥生を彼女の家の前まで送り届けて、俺は三度驚かされた。

 

「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 弥生の家って超豪邸じゃねぇか!?

 俺の想像なんか軽く月までぶっ飛ぶレベルのお嬢様だったんですけどぉぉぉぉっ!?

 

 余談だが、その日の夜に弾から電話があって、蘭がIS学園に進学するって言い出したそうだ。

 弾は猛反対していて、俺としても微妙な気持ちだったが、本人の意思を尊重したいから、『家族で相談してから決めれば?』って言っておいた。

 大切な事は家族で話し合うのが一番……だよな?

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 とある場所にある暗闇に包まれた空間。

 そこにある光源はモニターからの光だけで、それ以外には何も無い。

 床には多くのコードが散らばっていて、足の踏み場もない。

 

「へぇ~……この子、面白いねぇ~……」

 

 モニターを見ながら、一人の女性が嬉しそうに呟く。

 紫の髪に機械的なウサ耳。

 まるで不思議の国のアリスを彷彿とさせる恰好は、どこか不思議な奇妙さがあった。

 

 彼女こそが、世界的な有名人であり、ISを作り出した張本人であり、千冬の親友でもあり、箒の実の姉である『篠ノ之束』である。

 

「箒ちゃんの事を命懸けで守ってくれるなんて、感謝感激雨霰だね~。にしても、どこのどいつが私のゴーレムを真似したんだろう……? すっごいムカつくんですけど」

 

 表情をコロコロと切り替えながら、キーボードを操作して何かを調べる。

 

「ふ~ん……板垣弥生ちゃんって言うのか~。なら『やっちゃん』だね!」

 

 弥生の事を渾名で呼ぶ。

 それは、彼女が弥生の事を己の身内に認定した事と同義だった。

 

「ん? あの機体は……」

 

 モニターに顔を近づけて、ある部分を食い入るように見る。

 

「あ……ははは……!」

 

 束はいきなり顔に手を当てて大笑いをしだした。

 

「ははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!」

 

 その声は静かな空間に響き、束はお腹を抱えている。

 

「なにこれ!? これなんてご都合主義!? 納得! 超納得! これなら確かにあの強力なビームも防げる!」

 

 彼女の笑い声は消える事は無く、まだ笑い続けている。

 

「まさか、私が密かに流した『アレ』が、やっちゃんの手に渡っていたなんてね! ……あの子なら『アレ』を真の意味で覚醒させてくれるかもしれない……」

 

 スッ……と表情が変わり、怪しい笑みを浮かべる。

 

「やっちゃんの事を猛烈に知りたくなっちゃった。ちょっとばっかし調べてみようかにゃ?」

 

 世界の裏側にて、孤高の天災兎も密かに動き出す。

 表と裏、その全ての中心にいるのは板垣弥生と言う一人の転生者の少女。

 これもまた、神の掌の上なのか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うそぉぉっ!? 私やちーちゃんが苦戦した超巨大お好み焼きをたった13分足らずで!? やっちゃんって本当に何者なのっ!? しかも、その後に同じぐらい大きなパフェを食べてるし! ええい! やっちゃんの胃袋は化け物か!?」

 

 ある意味で、超人二人を軽く超越した弥生だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




しれっと弥生の家(の門の前)まで行った一夏。

弥生は弥生で相変わらずの大食いを披露。

なんか書いてて楽しかったです。

そして、次回は超シリアス…?


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残酷な現実の一端

今回は今までと違って超シリアスであり、同時に鬱展開かもしれません。

弥生が知らない彼女の過去……つまり、神が彼女に与えた『設定』の一部が明らかになります。

念の為に言っておきますが、今回の話はかなりエグい事になってます。

ぶっちゃけ、閲覧注意です。

グロい表現が苦手な方は、ここでブラウザバックをする事を推奨します。

……私は言いましたからね? どうなっても知りませんからね? 自己責任ですからね?

それでもいいと言う方のみ、どうぞお読みください。






 6月初頭の日曜日の更識家の屋敷。

 その一室にて、更識楯無と彼女の父親である先代楯無が正座をした状態で向かい合っていた。

 

「お前が言っていた少女の調査が一通り終わった」

「……! 本当なの!?」

「こんな事で嘘を言ってどうする。だが……」

「……? どうしたの?」

 

 先代の表情が急に曇り、楯無が心配そうに顔を覗く。

 

「調査対象の少女の名前は……板垣弥生……だったか」

「そうだけど……?」

「いや……ちょっとな……」

 

 何か思うところがあるのか、先代の顔色は暗いままだった。

 

「板垣……か。偶然と言うには、余りにも出来過ぎだな……」

「お父さんは弥生ちゃんの事を知っているの?」

「そうじゃない。ただ……な……」

 

 いつもは何事にもハッキリと言う父が、今回に限ってもどかしい態度を取っている。

 それが普通じゃないと思った楯無は、これ以上追及する事を止めた。

 

「お前も独自に調べていたようだが、首尾は……言うまでもないか」

「えぇ……。私と虚ちゃんだけじゃ、やっぱり限界があったわ……」

「だろうな。彼女の過去には、それ程の闇が潜んでいた」

「闇……ですって?」

「そうだ」

 

 先代は自分の懐から、一枚のディスクを取り出して、楯無の前に置いた。

 

「これは?」

「今回の調査で我々が押収したVTRだ」

「押収? 押収って? それにVTRって……」

 

 眉間に深い皺を作りながら言うべきか考えたが、先代は敢えて言う事にした。

 

「お前は知らんと思うが……スナッフムービーと言う物がこの世にはある」

「スナッフムービー?」

 

 『ムービー』と言われるからには映画の類と想像するが、これはそんな甘っちょろいものではない。

 

「『スナッフ』とは……日本語で『殺害』と言う意味だ」

「殺害……!?」

 

 予想外の単語が飛び出した事で、楯無の目が開かれる。

 

「ちょっと待ってよ……。なんで弥生ちゃんの事を調べようとして、そんな物騒な物が出て来るわけ!?」

「お前も分かっているんじゃないのか?」

「…………」

 

 信じられなかった。否、信じたくなかった。

 だが、眼前にあるディスクと父の言葉が、己の希望的観測を全て否定する。

 

「スナッフムービーとは、どこからか拉致してきたり人身売買で購入した子供を殺害する現場をカメラで撮影した映像だ」

「それに……弥生ちゃんが……」

「何故彼女がそんな事に……そこまでは調べる事が出来なかった。かと言って、ここで調査を中断する訳にはいかない。全てが明らかになるまで、可能な限り調査は続行するつもりだ」

「……そうしてくれると助かるわ」

 

 先代の目には決意が宿っていて、それは嘗て、幼い頃に楯無がよく見ていた現役時代の彼の顔だった。

 

肝心な部分(・・・・・)は作り物だと言う噂もあるが、そんな事は我々の誰もが信じてはいない」

「でしょうね……」

 

 ディスクを手に取りながら、それを見つめてカバーに反射する自分の顔を見つめる。

 

「それを見るかどうかはお前の意思に委ねる。私としては見て欲しくないがな……」

「そう……」

「それでも見ると言うのなら、自分の部屋で見てきなさい。その際は部屋の外に音が漏れないようにイヤホンでもした方がいい」

「分かったわ……」

 

 憂鬱になりそうな心をなんとか奮い立たせて、楯無は立ち上がる。

 

「刀奈」

「なにかしら……?」

「昼飯で部屋を汚すなよ」

 

 いきなり自分の真名を呼ばれ、少しだけ驚いたが、次の瞬間には笑みを浮かべた。

 

「大丈夫よ」

 

 強がってみせたが、それが根拠のない自信である事は自分自身がよく分かっている。

 その証拠に、楯無の手は僅かに震えていた。

 それを先代の目は見逃さなかった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 自分の部屋にてパソコンにディスクを入れて、映像を再生しようとしている楯無の脳裏に、父から話して貰ったスナッフムービーの説明が過った。

 

(被害者は主に乳幼児から15歳ぐらいの未成年者だ。彼等、彼女等はまず軽いドラッグを投与されて緊張を解される。その後に男女問わず、多数の男達に長時間に渡って凌辱されて、最終的に多種多様な拷問を受けることになる)

 

 イヤホンをつけて、いつでも見れるようにする。

 マウスを動かす手に汗が滲み、思わず唾を飲む。

 

(両手足の爪を全て剥がされて、各部の骨を折られ、場合によっては指も切断される。全身を色んな道具で傷つけて、嘗ての面影すら完全に無くなったら、最後に殺害される)

 

 震える指でマウスをクリックし、映像を再生する。

 

(チェーンで殴ったり、ロープで首を絞めつけたり……バイクや車で轢き殺すんだ)

 

 自分のパソコンのディスプレイに、父が言っていた光景がまざまざと映し出されている。

 ただし、その対象は名も知らぬ子供ではなく、彼女がよく知っている妹の親友である後輩の少女の幼い姿だった。

 

(一応、我々もこれを見たが、何人かは余りの凄惨さに耐え切れずに数日間だけ休みを要請してきた)

 

 目を逸らしたい。けど、自分にはこれを見る義務がある。

 自分にそう言い聞かせて、精神をすり減らしながら映像に視線を集中させる。

 

(刀奈。私はな……お前にこの世の『闇』に関わってほしくなかった。だから、お前が更識家の当主となった今でも、仕事をそれなりに選んできたつもりだ。ハッキリ言って、お前にこの稼業は不向きだ。何故なら、お前は幸せに育ちすぎている。この世の中と人間と言う存在を心のどこかで善いものと信じてしまっている)

 

 強烈な吐き気が込み上げてきて、涙が流れて止まらない。

 耐え切れなくなった彼女は、イヤホンを耳から取ってからゴミ箱まで這い蹲って、そこに顔を突っ込んでから、胃の中のものを全て吐き出した。

 

(こんな事をして喜ぶ人間がいると、こんな映像を見て興奮する人間がいると、こんな人間を人間とすら思わない残酷すぎる事件が世の中に星の数ほど行われていると、お前は想像すら出来ないだろう?)

 

 文字通り、胃の中の昼食を全て出した後も、酸っぱい胃液がゴミ箱に溜まっていく。

 

(これが、お前を『こっち側』に来させたくない理由だよ。だからと言って、お前を当主の座から降ろそうとは思わないがな)

 

 部屋にはイヤホンから僅かに聞こえる音声と、楯無の鳴き声だけが響く。

 

「もう止めて……もう止めてよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 

 精神が我慢の限界に到達した彼女は、思い切り泣き叫んだ。

 だが、そんな彼女の訴えなんて聞くはずも無く、映像は淡々と進んでいく。

 

「お…お嬢様っ!? 一体どうしたんですか!?」

「虚……ちゃん……」

 

 楯無の叫びを聞いた虚が、慌てて部屋の中へと入ってきた。

 因みに、簪は外に外出していて屋敷内にはいない。

 ある意味で不幸中の幸いだった。

 

「だ…大丈夫ですか!?」

「うぅぅ……。止めて……止めてよぉ……」

「止める……?」

 

 楯無を抱き留めながら背中を擦っていると、パソコンに映っている映像が目に映った。

 

「こ…これは……!?」

「や……弥生ちゃんの……」

「皆まで言わなくて結構です……」

 

 弥生の名が出た時点で大方の予想はついた。

 映像の中では、妹と仲良くしている後輩の少女の幼少期と思われる人物が、大勢の男達によって残酷な仕打ちを受けている。

 虚も思わず目をギュッと瞑って視線を逸らす。

 

「これは……現実なのですか……?」

「そうよ……。認めたくないけど……これが弥生ちゃんの隠された過去の一端……」

 

 虚は全てを見た訳ではないので、辛うじて嘔吐はしていないが、それでも猛烈な気持ち悪さを感じている。

 

「なんでよ……なんでこんなことが出来るの……? 弥生ちゃんがあなた達に何をしたって言うの……?」

「お嬢様……」

「あんなに優しくて……誰からも好かれている子に……どうしてこんな……」

 

 映像の最後に、見るも無残な姿になって完全に動かなくなった彼女の体をどこかへと運んでいく。

 

「なんと言う事を……!」

 

 普段は滅多に怒りの感情を見せない虚が、ソレを見た途端に怒りを露わにした。

 何故なら、運ばれた場所とは……ゴミ捨て場だったからだ。

 この映像を撮影した連中は、あろうことか彼女の事を死んだものと判断し、その体をゴミのように捨てたのだ。

 全身が鮮血に染まった彼女が多数のゴミ袋の山に埋まった直後に映像は終了した。

 

「虚ちゃん……この事は……」

「承知しています。簪様や本音には決して……」

「お願いね……」

 

 ようやく涙は止まったが、それでも楯無の精神が回復する事は無かった。

 

「ねぇ……虚ちゃん……」

「なんですか?」

「今日はここに泊まっていってくれない……? 一人でいたら……またさっきの事を思い出しそうで……」

「私も同じ事を考えていました……」

 

 その日、虚は楯無の部屋にて一緒に寝ることにした。

 だが、どれだけ寝ようとしても寝る事は出来ず、結局は一晩中、布団の中で起きていた。

 勿論、あんな物を見た直後に食事なんて出来る筈も無く、楯無と虚は揃って夕食を抜いた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 束の憤怒に満ちた叫び声がラボの中に響き、周囲には彼女が暴れた後と思わしき残骸が散らばっている。

 

「私のやっちゃんによくもこんな事を……! こいつ等だけは絶対に許さない!! 全員纏めてぶっ殺してやる!!!」

 

 他人の事でここまで束が怒るのは本当に珍しい。

 それだけ、弥生の事を気に入っている証拠なのか。

 

「いや……殺すだけじゃ生温い……。こんな事をしている連中だから、当然……自分達が同じ事をされる覚悟もあるってことだよね? だって、あの有名なアニメの仮面の主人公も言ってたもん。『撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ』って」

 

 かなり物騒な事を呟きながらハイライトのない目で見ている先にあるのは、先程、楯無達が見ていた映像と同じ物だった。

 彼女達とは違い、束はこれを見て、気持ち悪さよりも先に怒りの感情が全てを支配したようだ。

 

「やっちゃんは私の希望(・・・・)なんだ……だから……」

 

 抱き着くようにモニターに近づき、うっとりとした顔で映像に映っている現在の弥生の姿を見る。

 

「君は必ず私が守ってあげるからね……やっちゃん……♡」

 

 言葉だけは優しく聞こえるが、その目にあるのは間違いなく『狂気』だった。

 一体何が彼女をそこまで駆り立てるのか、それは本人にしか分からない。

 

「それじゃあ早速……明日にでもこの馬鹿な連中を文字通りの生き地獄に送ってこようかな? この世に生まれてきたことを後悔させてやる……!」

 

 彼女の事を止められる人間はここにはいない。

 いや、この世界に篠ノ之束と言う人間を止められる存在はどこにもいないかもしれない。

 

 『天災』とは即ち『天』の力。

 一度でも発生した荒れ狂う嵐を人の手で止める術は……無い。

 

 

 

 

 

 




少し短めにしましたが、今回はこれぐらいが丁度いいかと。

ここまでしておいてなんですが、これでもまだ弥生の『設定』の一部に過ぎないんですよね。

彼女にはまだ隠された秘密があります。

例えば……『弥生がどこで生まれた』……とか。

それらはこれから物語が進みにつれて明らかにしていきます。
 
その前に私の心が折れなければ……ですが。


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フランスとドイツからコンニチワ

前回の話は今までとは毛色が違う話にも拘らず、沢山の感想を下さってありがとうございます。

正直言って、お気に入り登録数や評価が下がるぐらいの覚悟で書いたのですが、想像以上に反響があった事に驚いてます。

さて、そんな今回は、やっと『あの二人』のご登場です。

またまた弥生の気苦労が増えてしまう……?

そう言えば、私の家の付近にある本屋では何故か、まだISの12巻が発売されてないんですよね……。

前の11巻の時も、かなり時間が経ってから店頭に並んだし……。

今回も、手に入れるには時間が掛かりそうです。






 フランス デュノア社ビル 社長室。

 

 そこで二つの人影が向かい合い、なにやら話をしていた。

 

 一つは少し小柄で子供のようで、もう一つの影は大柄で、大人の男性を彷彿とさせる。

 

「なんでしょうか……『社長』」

「お前を呼んだのは他でもない。まずはそこにある書類を見ろ」

「分かりました」

 

 淡々とした返事で、小柄な影が机の上にある書類を手に取って確認する。

 

「これは……?」

「私がお前に与えた仕事は、日本に行き、例の少年の生体データを入手、あわよくば専用機も共に強奪すること……」

「承知しています」

「だが、それとは別に、お前にはもう一つ仕事を与える」

「もう一つ……?」

「手にある書類をよく読んでみろ」

「はい…………こ…これは……!?」

 

 小柄な影の人物は驚愕した。

 その書類には、本来のターゲットと同等か、もしくはそれ以上の存在の人物の情報が書かれていた。

 

「IS学園には今、現在の日本における最大級の重要人物の家族が在籍している。下手をすれば、例の少年なんぞ霞むレベルのな」

「ぼ…僕にどうしろと……?」

「簡単だ。その少女と接触し、関係を持て」

「関係……」

「別に肉体関係を持てとは言っていない。その少女と仲良くなり、彼女の警戒心がとけた所で……」

「この子の親と接触しろ……と?」

「そうだ。上手く行けば、フランスと日本の友好関係を更に強固なものに出来る。それに貢献できたとなれば、例の少年の生体データなんぞ無くともデュノア社は安泰だ」

 

 男の方は嬉しそうにしているが、それとは裏腹に小柄な方は渋い顔になっている。

 

「その少女は例の少年と同じクラスだと聞いている。こっちにとっては実に都合がいい。お前も同じクラスになるように手配をしておいた。首尾よく接触しろよ? 無論、怪しまれる事が無いようにな」

「心得ています……」

「よし。ならば、さっさと出発の準備を済ませろ。明日には出国するんだからな」

「了解です……父さん」

「ここでは社長と呼べ」

「はい……社長」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 ドイツ 某所に存在する特殊部隊の基地。

 その司令室に、軍服を着た一人の少女と、一人の軍人の男が向き合っている。

 少女は銀色の髪と左目にある眼帯が特徴的で、男の方は幾つもの勲章らしきものを制服の胸ポケットにつけている事から、相当な地位にいる事が窺える。

 

「いきなり呼びだして済まないな。少佐」

「いえ! 問題ありません! 准将閣下!」

 

 ビシッ! と敬礼をして応える少女。

 その姿は実に様になっている。

 

「日本行きの準備は進んでいるかね?」

「はい! もう既に完了しており、後は明日になるのを待つばかりであります!」

「そうか。それは丁度いい」

 

 准将と呼ばれた男は、自分の机の引き出しから一枚の書類を取り出して、机に置いた。

 

「今回、少佐をここに呼んだのは他でもない。まずはこの書類に目を通してくれたまえ」

「はっ! 失礼します!」

 

 少女は机まで近づき、置かれた書類を音も無く手に取った。

 

「そこに記載されている少女は、これから少佐が行くことになっている日本において、最も重要なポジションにいる人物の娘だ」

「重要……とは?」

「下までよく読んでみたまえ」

 

 そう言われて、少女は書類を隅から隅まで読んでみる。

 全てを見終わってから、顔には出していないが、心の中では驚愕していた。

 

「……このような少女が何故……?」

「さぁな。だが、彼女がIS学園に滞在する生徒の中において、トップクラスのVIPである事は確実だ。……私が何を言いたいか……分かるな?」

「はい。これから行くIS学園にて、彼女の護衛をするのですね?」

「そうだ。別に日本から直々に依頼があった訳ではないが、かと言って、これをそのまま無視するのは出来ない」

 

 准将は少し椅子に座り直し、軽く咳払いをした。

 

「我々、軍人の本分は民間人を守る事にある。だが、何事にも『優先順位』と言う物があるのもまた事実。実に嘆かわしい事だがな」

 

 足を組み直し、背もたれに体を預ける。

 

「故に、少佐には学園にて彼女と接触して貰い、その護衛を命じる」

「はっ! 了解であります!!」

「よろしい。では、下がっていいぞ」

「はっ! 失礼いたします!」

 

 綺麗な歩き方で少女は退出し、彼女が完全にいなくなった事を確認してから、准将はポケットから葉巻を取り出して口に咥え、火をつけた。

 

「ふぅ~……。彼女には少し悪い事をしたが、ああでも言わなければ、少佐は向こうで孤独になってしまうからな」

 

 窓の向こうに見える青空を見上げながら、葉巻を口から取り出す。

 

「ブリュンヒルデ……。君は感謝しているが、君が本当に教えたかった事は少佐には全く届かなかったようだ……。それを、あの少女と触れ合う事で学んでくれればいいのだが……」

 

 そっと目を瞑ってから、物思いに耽るようにして肩の力を抜く。

 

「ボーデヴィッヒ少佐……。生まれがどうであれ、君は軍人である前に一人の少女なのだ……。日本にて、彼女に『友』が出来る事を祈ろう……」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 次の日の月曜日。

 私はいつものように自分の部屋で目を覚ますが、部屋の様子がいつもとは違う。

 と言うのも、私が日曜日に家に戻った時に持って来た、沢山の私物があるからだ。

 量的な問題で持って来れなかった他のゲームや漫画やラノベの数々。

 他にも、各種ゲーム機が多数並んでいる。

 これでこそ私の部屋……私の楽園……♡

 

「で……も……」

 

 一つだけ懸念している事がある。

 昨日の夕方に学園の寮にある自分の部屋まで戻って来た時、何故か私の部屋に本来無い筈のもう一つのベッドがいつの間にか設置してあった。

 見た時、意味不明過ぎて自分の時が少しガチで止まってしまった程。

 このベッドは間違いなく、何かの暗示だと考えている。

 

(この時期と言えば確か……)

 

 フランスとドイツから『彼女達』がやって来る頃か?

 

(…………まさかね)

 

 よりにもよって、そんな事は無いでしょ~。

 ちょっと色々とありすぎて、考えがネガティブになり過ぎてるな。うん。

 こんな事じゃ、また胃薬君のお世話になってしまう。

 君は掛け替えのないフレンズだが、だからと言って世話になり過ぎるのもどうかと思う。

 

 こんな時は、私の嫁達(簪と本音)の顔でも見て癒されようっと♡

 

 そうと決まれば、早く登校の準備をすませよ~っと♡

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 食堂までの道のりにて、いつものように簪と本音の二人と合流。

 三人で並んで歩いていると、そこに箒とセシリアと鈴がやって来て、一緒に食堂まで行くことに。

 これがいつもの朝の流れになっている。

 場合によっては、ここに一夏も加わるんだけど、今日はどうやらいないみたい。

 寝坊でもしてるのかな?

 昨日は結構、連れ回してしまったしな~。

 

「弥生さん。もうお体は大丈夫なんですの?」

「う…ん……。昨日……も…家……まで行ってきて……帰り…に食事もして…きたから……」

「やっぱり、お外でもやよっちは一杯食べるのかな~?」

「普通に有り得るな……」

 

 なんでそこで呆れる?

 つーか、もうリハビリは大丈夫でしょ。

 別に大した怪我をしていた訳じゃないんだし。。

 

「弥生の家か……」

「興味あるわね。どんな家なの?」

「えっと……」

 

 なんて言えばいいのかな? あまり説明って得意じゃないんだよな~。

 

「……和風……の大きな……家……?」

「情報が少なすぎるわね……」

「和風……。私の家と同じかな?」

 

 そういや、簪もお嬢様だったね。

 まだ見た事は無いけど、案外、似たり寄ったりのデザインかもしれない。

 

 そんな事を話している内に食堂に到着。

 ルーチンワークのように食券を購入し、カウンターに置く。

 

「お? 今日もまた食べるね~!」

 

 当然。朝食は一日の糧になるからね。しっかりと食べないと。

 そんな訳で、私の朝ごはんは超大盛りの親子丼。

 ふわとろ卵の黄色い山が目の前に形成されています。

 

「いい匂いだね~♡」

「親子丼か……」

「ほんと、弥生の食欲って底を知らないわよね」

「それが弥生クオリティ」

「ですわね」

 

 なにそれ?

 

(女子達は噂話とかしてないんだな……)

 

 原作では、女子達が一夏の事についてある噂を流していたけど、今見る限りではそんな事は発生していないみたいだな。

 ま、これはこれでいいんじゃない?

 自分の知らない内に景品扱いにされてるとか、普通に同情するし。

 

「あ…あの! 板垣さん!」

「ふぁい……?」

 

 誰だ? 私の数少ない楽しみを邪魔するのは?

 

「お前達は……あの時の……」

 

 あ。私に話しかけていた、この三人の女子は……

 

(無人機騒動の時に中継室に閉じ込められていた子達?)

 

 あれから地味にどうなったか気になってたんだけど、この様子を見る限りは大丈夫そうだね。

 

「えっと……その……」

 

 なんですか? 御用があるなら手短にお願いしますよ?

 

「「「あの時は助けてくれて、本当にありがとうございました!!!」」」

 

 うぉっ!? いきなり大声を出すなよ!?

 普通にびっくりしたぞ……。

 

「あの事件の時、板垣さんがいなかったら私達……今頃……」

 

 だろうな。敢えてどうなるかは言わないけど。

 

「本当はもっと早くにお礼を言うべきだったんだろうけど……」

「私達、あれからずっと、この学園に残るべきか話してたんです……」

 

 成る程な。

 無理ないよ。あの事件以降、自主退学した子達が結構いるって聞いたし。

 

「気にして……ない……よ……」

「でも……」

「あんな目……に遭えば……心…を落ち着かせる時間……も必要……だって思う…から……」

 

 なんたって、命の危機に陥ったんだ。

 場馴れしていない子達に即座に復帰しろってのは、流石に酷な話だ。

 

「「「板垣さん……♡」」」

 

 ……なんで潤んだ目でこっちを見る?

 

「何回もここから退学しようって思ったんですけど……」

「命の恩人である板垣さんに、何も恩返しが出来ないまま自主退学なんて絶対に出来ません!」

「だから、皆で一緒に在学し続けようって決めたんです!」

 

 恩返し云々はともかく、ここで『逃げる』と言う選択肢を選ばなかったのは本当に偉い。

 それだけでも賞賛に値するって思うよ。

 

「これからは、板垣さんに恩返しをする為に頑張ります!」

「そ…そう……」

 

 彼女達の気持ちを無下にはしたくないんだけど……別に恩返しをしてもらいたくて助けたんじゃないんだよな~……。

 あの時は無我夢中だったけど、単純に見捨てられなかったんだよね。

 なんでかは知らないけど、どうしても命が消えようとする事が(・・・・・・・・・・・)許せなかった(・・・・・・)

 

「また増えたな……」

「こればっかりは仕方が無いでしょ。実際に自分の命を目の前で救って貰ったら、誰だってこうなるわよ」

 

 こうなる? こうなるってなによ?

 

「ほら。そんな所に突っ立ってないで、折角だし一緒に食べましょうよ」

「い…いいんですか?」

「いいに決まってるじゃない? ねぇ? 弥生?」

「そう…だ…ね……」

 

 ここで断ったら普通に外道だし、私としても断る理由は無い。

 

「「「ありがとうございます!」」」

 

 こうして、今日の朝食はいつも以上に賑やかになった。

 一人で静かな食事も悪くないけど、こんな風に皆と一緒に食べるってのもいいかもな……。

 こんな事を考えるようになるなんて、私も少しずつ変わってきてるのかもしれない…。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 朝食を食べ終えて、恩返し三人組と別れた後、私達はそれぞれの教室に向かった。

 え? 一夏? 彼なら私達と入れ違いで食堂に入っていったよ。

 今頃は超特急でご飯を食べてるんじゃないかな?

 

「あら?」

「何を話してるんだ?」

 

 教室はISスーツの話題で持ち切りになっていた。

 皆でパンフレットを見ながらワイワイと話していて、この間の事件が嘘のように学園に『日常』が戻ってきている。

 

「そう言えば、あの時見た弥生のISスーツはどこで製作されたんだ?」

「箒さんは見たんですのよね? どんなスーツでしたんですの?」

「なんと言うか……全身を覆うような感じだったな。私もうろ覚えで詳しい形状までは記憶してないが」

  

 箒の言う通り。私のISスーツは特別製なのだ。

 なんたって、普通のISスーツ着たら、モロの体に傷跡が丸見えになっちゃうからね。

 それを隠すために、首元まで完全に覆い隠すようなデザインになっているのです。

 

「私……のスーツは……おじいちゃん……が作った…んだよ……」

「なんと! 弥生の祖父殿の手作りなのか!?」

「ISスーツを一着製作するのにもかなりの金額が必要な上に、相当な技術力と素材が必要ですのに……」

「やよっちのおじいちゃんは凄いんだね~!」

 

 当たり前だ。おじいちゃんは私の誇りであり、世界で一番大好きな自慢の家族なんだから。

 

 それから、山田先生が教室に入って来て皆にスーツの説明をしてくれたが、すぐに皆にからかわれてしまった。

 親しみやすくはあるんだけど、見た目的にも教師とは思えないと言いますか……。

 それでも、私にとっては貴重な癒し系女子である事には違いないんだけどね!

 

「あ! 板垣さん!」

 

 こっち来たし。

 歩き方が今にもコケそうなんですけど……。

 

「何か困った事があれば、いつでも言ってくださいね! 喜んで協力しますから!」

「あ…ありがとう……ございます……?」

 

 急に手を握ってきて、どうしたと言うんですか?

 山田先生の手……プニプニしてるな~…♡

 

(佐藤先生に教えて貰った板垣さんの体の傷……。なんであんな傷跡が体中にあるかは分からないけど、この腕や足の服装は間違いなく傷を隠すためにしてるんだろう……。そんな彼女のフォローをするのも、教師として立派な役目よね!)

 

 いつまで手を握っているつもりなんだろう……。

 こっちとしては嬉しいけど、なんか視線が集まってるんだよな……。

 

「いつまでそうしているつもりだ?」

「はっ!?」

 

 お? 私の心を代弁してくれる人の登場か? って……。

 

「全く……。板垣」

 

 天下無双の担任様じゃないですか~! ヤダ~!

 

「回復したとは言え、お前はあまり体が丈夫な方とは言えない。だから、無理だけはするなよ」

「は……はい……」

 

 なんでこの人はいつも私の頭を撫でてくるの?

 あれか? 私にナデポでもしたいのか?

 

(あんな事を知ってしまった以上、もう弥生の事を普通には見れない……。これからは教師として以上に、一人の人間としてこいつを助けていこう……。にしても、こうして弥生の頭を撫でていると本当に癒されるな……。よし、これから弥生の頭を撫でる事を私の日課にしよう。そうしよう)

 

 ひぅっ!? なんでまた私の背中に悪寒が走ったの!?

 また何か悪い事がある前兆か!?

 

「む? そう言えば織斑はどうした?」

「一夏なら……」

 

 まだ食べてるのか?

 先生が来ている以上、どう足掻いても遅刻確定なんだけど……。

 

「うっしゃ! セーh「な訳ないだろ」わたるっ!?」

 

 教室の扉を勢いよく開けながら入ってきた一夏だったけど、普通に遅刻だったから、毎度の如く出席簿の一撃によって教室の床に沈みましたとさ。

 

「時間ぐらいちゃんと守れ。バカ者が」

「目覚ましが電池切れになってて……」

「言い訳するな。ちゃんと目覚ましの電池残量ぐらい把握しておけ」

 

 ……一夏って、何気にプチ不幸に見舞われる事が多いよな……。

 大きな不幸じゃない所が地味に辛いだろうに。

 

「山田先生。あいつ等は……」

「ちょっと待ってください」

 

 山田先生が教室の扉まで行って、廊下を除き見た。

 

「大丈夫です。二人とも今来ました」

「そうか。ではホームルームを」

「はい。皆さん、席についてください」

 

 そう言われて、私達は急いで自分達の席に座った。

 一夏。 早く座らないと、また出席簿が頭上に降りてくるよ。

 

「ホームルームの前に私から連絡事項がある。よく聞くように」

 

 連絡事項……なんだろう?

 

「本日から本格的な実践訓練を始めていく。訓練機とは言え、ISを使用しての今年最初の授業になるから、各々気を抜かないようにすること。それぞれに注文したISスーツが届くまでは学校指定の物を使う事になるから忘れるなよ? 仮に忘れたりしたら、スーツの代わりに学校指定の水着で訓練をしてもらうからな。それすらも忘れた場合は……下着でいいか」

 

 よくねぇよ!! 下着で授業受けるとか死んでも嫌だよ!!

 

「「「……………」」」

 

 で、箒とセシリアと本音はどうしてこっちを見てるの?

 

「「…………」」

 

 そこの教師二人もこっち見るな!!

 

(弥生の下着姿……)

 

 んで、そこの男子は私をイヤらしい目で見るな。

 そう言うのって、女子は敏感に分かるんだぞ。

 

「んん……! 山田先生、続きを」

「あ! はい!」

 

 ワザとらしく咳払いをしても意味無いですからね?

 

「そ…それでですね! 今日はなんと転校生を紹介したいと思います! しかも二人!」

 

 とうとう来たか……。

 分かっているとは言え、いや……分かっているからこそ緊張するな……。

 

 普通ならここで『なんで二人? 分散させたりしないの?』とか考えるんだろうが、そんなの幾ら考えたって意味が無い。

 だって、それが『流れ』なんだから。

 

 教室の扉が開かれ、そこから二つの人影が入ってくる。

 一人は金髪、もう一人は銀髪。

 見た目からして対照的な二人だが、片方は明らかに私達とは恰好が違う。

 何故なら……男子の制服を着ていたから。

 

 こうして、第一期原作ヒロインが勢揃いした。 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっと原作のヒロインが揃いました。

弥生と彼女達は、これからどんな風に絡み合っていくのでしょうか?

次回はアーキテクトの説明が……?


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胃薬ください・・・

ようやく全ての原作ヒロインが勢揃いしました。

ここから弥生を中心にした物語はどのようになっていくのでしょうか?

少なくとも、彼女の胃には平穏は訪れなさそうですけど……。






 遂に原作における全てのヒロインが揃ったか……。

 にしても……

 

「初めまして。僕はフランスから来た『シャルル・デュノア』と申します。こうして日本に来たのはこれが初めてで、色々とご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうかよろしくお願いします」

 

 ……先入観を持っているせいか、見れば見る程、女にしか見えない……。

 他の皆は知らないが、もう私には彼女が男には見えないよ……。

 

「お…男の子……?」

 

 おっと。早く密かに通販で購入した『英雄王印の最強の耳栓(特価4000円)』を装着しなくては。

 私の推測が正しければ、ここで……

 

「はい。こちらに僕と同じような境遇の人がいると聞いて、本国から転入をして……」

 

 く…来るぞ! 総員! 対ショック防御!!

 

「キャ……」

 

 ガクガクブルブル……。

 

「「「「「「「きゃぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」」」」

 

 うにゃあぁぁあぁあああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!?

 この耳栓を持ってしても、完全に音を防ぎきれないだとぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?

 

 それからは、女子達が盛りのついた動物のように騒ぎ出して、教室内が阿鼻叫喚状態になった。

 

 箒やセシリアは普通に指で耳を防いでいるだけで平気そうにしていた。

 さ…流石は剣道全国王者と代表候補生……!

 この程度じゃビクともしないのか……。

 

「~♪」

 

 で、本音に至っては耳を全く防御していないにも関わらず、普通にお菓子を食べていた。

 この状況でそんな事が出来る君を本気で尊敬します……。

 もし仮に簪や鈴がここにいたら、同じ様に平気でいられるのかな……?

 だとしたら、暗部と代表候補生ってパネェ……。

 

「騒ぐな! まだ自己紹介は終わっていないぞ!」

「そ…そうですよ~! 静かにしてくださ~い!」

 

 教師二人の声にてようやく教室に静寂が戻った。

 感謝しますぜ……お二人さん……。

 

(弥生が耳栓のような物をつけるのを見たが、それでも全く効果が無かったみたいだな。全くこいつ等は……)

(板垣さん……大丈夫でしょうか……?)

 

 そう言えば、隣にいる『あの子』も平気そうにしているね。

 軍人って耳まで鍛えているのかしらん?

 

「はぁ……悪いな」

「いえ。私は大丈夫です」

 

 すげ~……。軍人すげ~…。

 

「では、次はお前が挨拶をしろ」

「了解しました、教官」

 

 敬礼をしながら『了解』って……。

 

「最初の一回は特別に許すが、二度目は無いぞ? ここでは私は教官ではなくて一教師であり、お前も一生徒にしか過ぎない。だから、これからは私の事は織斑先生と呼ぶように」

「はっ!」

 

 本当に分かってるのかな……。

 

「ドイツから来た『ラウラ・ボーデヴィッヒ』だ」

 

 …………それだけかい!

 いや、私も人の事は全然言えないけどさ。

 あ、それを言うなら一夏もか。

 

「あ…あの……それだけですか?」

「これ以外に何か?」

「いえ……なんでもありません……」

 

 山田先生がラウラの眼光に負けて引っ込んでしまった……。

 ちょっぴり可哀想かも。

 

 名前を言ったって事は、次に来るのはアレか?

 

「む? 貴様は……」

 

 やるか? やるのか? バチコ~ンってやっちゃうのかい!?

 

「な…なんだよ?」

 

 トコトコと一夏に近づいて、大きく手を振り上げてか~ら~の~?

 

「……はっ!?」

 

 ん? なんか目が合ったんですけど。

 

「チッ…! あの方の前で無様な真似は出来んか……」

「はぇ?」

 

 と…止まった? なんで?

 あ…あれ? 今度はこっちに来てる? どうして?

 

「危うく忘れるところだった…。今はこのような男に構っている暇は無いのだった」

「このようなって……」

 

 あろうことか、一夏ガン無視!? マジで!?

 原作じゃ見ていて気持ちいいぐらいのビンタをブチかましたのに!?

 

「間違いない……」

「え……?」

 

 何が『間違いない』の?

 

「私の名はラウラ・ボーデヴィッヒと申します! この度は上官からの命令により、今日から貴女様の護衛をする事になりました! よろしくお願いします! 『姫』!」

 

 ………………なんだって?

 

「「「「「「はぁあぁあぁあぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」」」

 

 ひ…姫ぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? 私が姫!? どういうこっちゃ!? 

 本気で意味不明なんですけどぉぉぉぉっ!?

 

「お…おい! 板垣が『姫』とはどういう事だ!?」

「クラリッサが言っていました。彼女のような立場にいる方は一般的に『姫』と呼ばれるのだと」

「あの似非日本バカめ……!」

 

 クラリッサって…ラウラの副官の人……だったよね?

 なんでそんな事を言うのかな!?

 

(確かに弥生は『あの人』の義娘であるから、『姫』と呼称されても不思議ではないが……)

(それを堂々と言うなんて……)

 

 なんか皆がこっちに注目してるし~!

 ほらぁ~! さっきまで話題の中心にいたシャルル君(笑)が完全に置いてきぼりになってますよ~! あの子にも構ってあげて~!

 

「え? ええ? これってどういう事?」

「板垣さんって、もしかして凄い立場の人?」

「そう考えて見ると、なんだか高貴な雰囲気があるような……」

 

 そんなものないよ! あるわけないでしょ!

 

「どういたしました? もしや! あの男が何か不埒な事をして……!」

「ち…違う……よ…?」

 

 いや、ある意味では正解だけど。でも、今は違うから!

 

「ひ…姫……は止め…て……」

「何故ですか!?」

「なんで……でも……」

「むぅ……」

 

 そんな悲しそうな顔をしないでよ~!

 なんかこっちが悪いみたいじゃないのさ~!

 

「では、なんとお呼びすれば?」

「好きに呼べ…ばいいと思う……よ…?」

「では矢張り『姫』d「それだけはやめて」…そうですか……」

 

 珍しく途切れることなく言えたよ……。

 あれなの? この子は天丼が好きなの?

 

「ならば『お嬢様』と呼ばせて貰うのはどうでしょうか?」

「それ…は誰か…と被る……から…アウト……」

「被る?」

 

 どこぞの生徒会長さんと被って紛らわしくなるから、それだけはダメ。

 

「普通……に名前…で呼ぶのはダメ……なの……?」

「私は軍人であり、貴女様はそうr「それ…は言わな…いで…!」むぎゅ……」

 

 あ…危なかった~…。

 『あの事』がバレたら、絶対に私の平穏が御臨終してしまう!

 それだけは絶対に避けなくては!

 

「で…では、『弥生様』でよろしいですか?」

「もう……それでいい……よ……」

 

 本当は様付けも嫌だけど、この辺で妥協しないと、延々と続きそうな気がする……。

 

「もういいか?」

「はっ! 大丈夫です!」

「そうか……」

 

 なんか織斑先生も疲れたご様子。

 気持ちは分かりますよ、ホント。

 

(にしても、なんで私の護衛なんて話になってるんだ? まさかおじいちゃんが? いや……基本的におじいちゃんは私を必要以上に束縛するような事は絶対にしないしな……。だからこそ、私に『アーキテクト』を持たせてくれたんだし)

 

 う~む……本気で意味分からん。

 上官って言ってたけど、ドイツの軍人さんが私の護衛をしろってこの子に言ったのかな?

 

「はぁ……。では、これでHRを終了する。お前達はすぐにISスーツに着替えてから、第2グラウンドに集合する事。今回は2組と合同でISの訓練をする事になっている。では、解散!」

 

 まだ朝のHRが終わっただけなのに、もうかなり疲れたよ……。

 うぐ……! 久し振りに胃に痛みが走って……!

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 実習がある時は、一人しかいない男子である一夏が更衣室を使用し、女子は教室で着替えている。

 私もそれは例外ではなく、皆と一緒に教室でISスーツに着替えなくてはいけない訳で……。

 

(普通なら、ここで間違いなく詰んでしまう場面だが、こんな時こそ専用機持ちとしての最大の利点を利用させて貰う!)

 

 頭の中でイメージを固めて、自分がISスーツを着用している姿を想像する。

 すると、あら不思議。あっという間に私の体が光に包まれて、制服から特性の全身を覆うISスーツになったではありませんか。

 

 自分の専用機の『パーソナライズ』が完了していると、ISの拡張領域内に自身のISスーツが自動的に内臓されるようになって、展開時に機体と一緒にスーツも着用出来るようになる。

 と言っても、ISとスーツを同時に展開すると、それなりにエネルギーを消耗するから、普段はスーツ→ISの順番で装備するのがベターだ。

 前の時は緊急時だったから同時に展開したけど、そのせいでSEの消耗が早かった。

 

「あれが板垣さんのISスーツ?」

「肌は露出してないけど……」

「体のフォルムがモロに出てるから、逆にエロいよね……」

 

 え? そうなの!? 全く自覚無かった……。

 そう言われたら、急に恥ずかしくなっちゃうな……。

 でも、これはおじいちゃんが私の為に用意してくれた物だから、使わないなんて選択肢は無いし……。

 

(ここは私が我慢すればいいだけの話か)

 

 心の中で密かに決意をしていると、私と同じようなやり方でISスーツを着ているセシリアとラウラがいた。

 着替える時間は本当にすぐだから、凄く便利だよね。

 だからと言って、箒や本音を置いて行くって事はしないんだけど。

 本音はともかく、箒はここで下手に置いて行ったりしたら、どんな事態に発展するか分からないしね……。

 

「情報の通り、弥生様も専用機を所持しているのですね」

「い…一応……ね……」

 

 私のアーキテクトは専用機って言っていいのか分からないんだけどね。

 ……そこで私の事に関する情報を入手したとか、聞かない方がいいんだろうな……。

 

「姫……弥生が姫か……」

「お姫様姿の弥生さん……」

「可愛いんだろうね~♡」

 

 本音はいいとして、そこの二人。

 私で変な妄想はしないでくれますか?

 

「え? 板垣さんって専用機持ちなの?」

「ま…まぁ……」

 

 仕方が無かったとは言え、こればかりは流石にバレるか。

 実習がある以上、避けては通れない道だから、別にいいんだけどね。

 

「代表候補生でもないのに専用機持ちって事は……」

「実は相当な実力者なのか。それとも……」

「ボーデヴィッヒさんが言ってた通り、凄い立場にいるお嬢様なのか……」

「案外、どっちも正解だったりして」

 

 立場はともかく、私の実力なんて大したことないよ。

 機体と同じように、貧弱を絵に描いたような人間ですよ?

 

「あ……時間……」

「「「「「げっ!?」」」」」

 

 お喋りは楽しいかもしれないけど、早く行かないと私達も一夏と同じように出席簿の餌食になってしまう。

 私は一夏のような石頭じゃないから、一度でも直撃を食らえば頭蓋骨骨折しちゃう!

 

 時計を見た瞬間、この場にいる女子達の気持ちは一つになって、急いで第2グラウンドへと向かった。

 

 因みに、一夏はシャルル君(便宜上、今はそう呼ぶことにする)を連れて更衣室へと向かったけど、何もしてないだろうな?

 アイツの事だから、彼女が女だって気が付かないでナチュラルにセクハラしてそうだ。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 グラウンドに到着すると、既に2組の皆が整列していて、その前に織斑先生がジャージ姿で立っていた。

 見た感じ、まだ一夏達は来てないみたいだ。

 

「来たか。……それが板垣のISスーツか?」

「は…はい……」

 

 教師として気になるのは分かるけど、ジロジロと見ないでほしいな……。

 

(成る程。肌が露出しないようなデザインになっているのか。だが……これはこれでまた、別の意味でエロいぞ……)

 

 あ、鼻血出てる。

 

「おっと」

 

 ……どうして鼻血が出たとか、聞かない方がいいよね。

 主に織斑先生の名誉の為に。

 

 先生の事は取り敢えず放置して、私達は2組の隣に整列する事に。

 

「そ…それが弥生のISスーツなのね……。凄いピッチリしてるじゃない……」

「幾らなんでも体にフィットし過ぎな気がするが……」

「弥生さんのお尻……弥生さんの胸……弥生さんの腰……弥生さんの太腿……」

「セクシ~だよね~♡」

 

 おいこら。本音以外のそこの三人も、何気に鼻血流してるんじゃないよ。

 

「貴様等。姫様をイヤらしい目で見る事は、この私が許さんぞ」

 

 いつの間にか私の隣に陣取っていたラウラが、私の前に庇うように移動した 

 

「……なに? この子」

「今日来た転入生の一人だ」

「あぁ……一組にいきなり二人も来たって、皆が騒いでたっけ。で、何故に姫?」

「姫様は姫様だ」

「名前……で呼んで…って言った……よね……?」

「す…すいませんでした! 姫様! ……はっ!?」

 

 ついさっき言った事だよね? もう忘れちゃったの?

 ほら~…2組の子達も私の方を見だしたし~!

 

「姫様?」

「どういう意味だろう?」

「さぁ……?」

 

 ……アーキテクトの拡張領域に水筒と胃薬ってあったっけ……?

 あ、どっちとも部屋に置きっぱなしだわ。

 

「別に『姫様』でいいんじゃない? あたしは結構似合ってるって思うけど」

「プリンセス弥生……いいですわ……♡」

 

 セシリアって、こんなにも妄想する女の子だったかな?

 イギリス貴族としての矜持はどこに消えた~?

 

「む? もう一人もお出ましみたいだぞ」

 

 やっと来たのか……って、なんか一夏だけ息切れしてない? なんで?

 

「遅いぞ! 今まで何をやっていた!」

「ろ…廊下が混んでいて……」

「だとしたら、別の部分で急ぐようにしろ! いいな!」

「で…でも……毎回毎回あんな風に道を塞がれたら……」

 

 バチコ~ン! ……と、青空の下に実に気持ちのいい音が響きましたとさ。

 

「い・い・な?」

「わ…わかりました……」

 

 今回の一撃で、一夏の脳細胞ってどれだけ死滅したのかな?

 このまま行けば、一夏がデフォルト以上に馬鹿になりそう……。

 

「ならば、二人共とっとと並べ」

「「は…はい……」」

 

 転入初日に早くも伝統の出席簿アタックを目の当たりにして、シャルル君が完全に怯えてますがな。

 無理も無いと思うけどね……。

 

 そう言えば、私ってこれが初めての実習訓練じゃない?

 前は『アレの日』で休んじゃったし。

 そう思うと、ちょっとだけドキドキしてきましたよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本当はここでアーキテクトの説明をする筈が、話の都合上、次回になる事に……。

まだシャルルとは本格的に接触してませんが、ラウラとはいきなりの大接近。

でも、想像してみるとかなり可愛いんですよね。

ラウラが弥生の後ろをチョコチョコとついていく様子って。


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ARCHITECT

明日からゴールデンウィーク後半ですね!

……どこにも出かける予定なんて無いんですけどね。

きっと、前半と同じように、一日中パソコンの前に座っていると思います。






「それでは、今からISの起動及び歩行訓練を開始する」

「「「「「はい!」」」」」

 

 遂に始まりました、弥生ちゃんの初めてのIS実習。

 実況はこの私、板垣弥生でお送りしま~す。

 

 今日は一組だけじゃなくて二組の皆もいるから、返事一つだけでも結構な迫力があるね~。

 と言っても、二組の生徒の数は一組に比べて僅かに少ないけど。

 こうして見ると、改めて退学者が出たんだなって実感する。

 

「マジで痛い……」

「だ…大丈夫?」

「なんとかな……。これが初めてじゃないし……」

「初めてじゃないんだ……」

 

 だよね。呆れますよね。

 そのお気持ち、よ~く理解出来るよ。

 

「まずは目の前で実戦でもして貰おうか。丁度、専用機持ちがいることだしな」

 

 あ、これはアレですね。山田先生の大活躍するヤツですね。

 私も早く山田先生の勇姿を見てみたい。

 普段は可愛い人がふと見せるカッコいい姿って、かなりキュンってするよね。

 これも立派なギャップ萌え。

 

「そうだな……。オルコット、それから凰。二人共前に出ろ」

「「はい」」

 

 はい。ご指名入りました~!

 

「あの……実戦って、私達でするんですか?」

「別に私はそれでも構いませんけど……」

「そう慌てるな。お前達の相手はちゃんといる。もうそろそろ来ると思うんだが……」

 

 ど…どこから来るんだ?

 やっぱり、上空からの自由落下?

 

「ん……?」

 

 この耳を劈くような音は……?

 

「わ…きゃぁぁあぁぁぁぁっ!? そ…そこをどいてくださ~~~い!!」

 

 急いで上を見ると、来ましたよ! 山田先生が緑色のIS…『ラファール・リヴァイヴ』を纏った状態で絶賛落下中!!

 早く一夏の傍から離れないと……あれ? なんか方向が違くない?

 なんか慌てている山田先生と目が合って………って! 私の方に落ちてきてない!?

 

「姫様!!」

「「弥生!!」」

「弥生さん!!」

「やよっち!!」

 

 皆が私の名を叫ぶ中、私自身は恐怖のあまり、足が竦んで動けなくなり、思わず目をギュッと瞑ってしまった。

 

「弥生ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

 

 その時、眩い光と共に私の体が誰かに抱えられて、少し離れた所に行った。

 

「あ……あれ……?」

「大丈夫か? 弥生……」

「い…一…夏……?」

 

 いつの間にか白式を纏っていた一夏が私をお姫様抱っこをして、ホッと一安心していた。

 

「怪我は……無いみたいだな。よかった……」

 

 こ…怖かったぁ~…(泣)

 今のは割とマジで怖かったよぉ~!

 

「嘘でしょ……?」

「一瞬でISを展開して、弥生さんを救出するなんて……」

「そんな馬鹿な……」

 

 ド…ドキドキしたぁ~……。

 まだ心臓がバクバクしてるよぉ~……。

 

「あ……!」

 

 ん? 一夏がこっちを見てる?

 

(急いでいたから、思わず弥生の事を抱きかかえちまったけど……弥生の体って細くて軽いんだな……。あ、ISを装着してるから軽いのは当たり前か)

 

 出来れば早く降ろしてくれませんかね?

 皆が私達に注目してるんですけど。

 

(ヤ…ヤバイ……。俺……今すっごいドキドキしてる……。顔を赤くしている弥生って滅茶苦茶可愛いな……。それに、このスーツもとてもセクシーで……。俺、やっぱり弥生の事を……)

 

 少しだけ向こうを除き見ると、ついさっき落下してきた山田先生は、見事に地面にクレーターを形成していた。

 勿論、皆はちゃんとその周囲から退避している。

 

 あ……先生がこっちに来た。

 

「いつまでそこでイチャついているつもりだ」

「ぐぇっ!?」

 

 うわぁ~…! まさかの出席簿を縦にした一撃が炸裂した……。

 これはISを守っていても痛そう~……。

 

「無事か? 板垣」

「は…はい……なん…と…か……」

「そうか」

 

 やっと私は一夏の腕から降ろして貰えた。

 まさか、こいつに助けられるとは思わなかったな……。

 

「しかし……」

 

 ん? なんか織斑先生が微笑んでいる?

 

「先程の動きは悪くなかった。よく板垣を助けたな」

「え? あ……ははは……」

 

 で、一夏は一夏で珍しく照れてるし。

 学校ではアレでも、やっぱり弟の事は心配なんだな。

 素直じゃない大人だ。

 

(でも……家族を大事にする人は嫌いじゃないかな)

 

 その気持ちは私もよく理解出来るしね。

 うん。家族は大事。これ絶対ね。

 

 列まで戻ると、ラウラを含めたいつものメンバーが急いで寄って来た。

 

「ひ…姫様! お怪我はありませんでしたか!?」

「う…うん……。大丈夫……だよ……」

「よかったですわ……」

「やっよちぃ~!」

「にしても……」

 

 白式を解除して戻ってくる一夏を一瞥する。

 

「まさか、あの一夏があんな動きを見せるなんてね……」

「少し驚いたぞ……」

 

 もしかして、今のが一夏の秘めた潜在能力の片鱗なのかもしれないね。

 これを機にやる気が出ればいいんだけど。

 

「山田先生。今回は偶然にも誰も怪我などが無かったからよかったものの、次からはこのような事が無いようにしてほしい」

「はいぃ~……本当にすみませんでしたぁ~……」

 

 背中を丸めてシュン……となっている様子からすると、本当に反省しているみたい。

 確かに今回は危なかったけど、次回から気を付けてくれれば十分だと思う。

 

「さて、時間もあまりない事だし、早く始めるか」

「は…始める?」

「それってまさか……」

「そのまさかだ。お前達の相手は山田先生だ」

「「わぉ……」」

「なんかその反応酷くないですか!?」

 

 二人仲良く同じリアクション。

 そりゃ、数秒前に目の前に墜落した人間と試合をしろって言われたら、誰だって似たような反応するわな……。

 

「五月蠅いぞ。とっととしろ」

「「「は…はい!」」」

 

 セシリア、鈴、山田先生はこれ以上もたついて織斑先生の逆鱗に触れる前に、急いで上昇して試合を開始した。

 

「さて……あの三人が試合をしている間に……そうだな。デュノア、山田先生が使用しているISの説明を頼む」

「わ…分かりました」

 

 私達の頭上で繰り広げられている試合を眺めながら、シャルル君が丁寧に説明を始めた。

 この辺は教科書に書いてある通りの説明だったから、ここで言う必要は無いと思うから割愛する。

 え? それでも知りたい? だったら自分で調べるがよろし。

 

 三人の試合は思っている以上に拮抗していて、原作のようにセシリアと鈴の代表候補生コンビが圧倒される…なんてことは無かった。

 山田先生も地味に慌てている様子だし。

 

「あれがあの山田先生か……?」

「まややん先生……すごいね~……」

「ほぅ……。最初見た時はどうかと思ったが、どうしてなかなか……。それに、あの二人もやるな……」

 

 おぉ? ラウラが彼女達を褒めてる? これはまた珍しい。

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」」」

 

 セシリアのレーザーライフルの銃身が山田先生の顔面に突きつけられて、同時に山田先生が両手に持っている二丁のアサルトライフルがそれぞれにセシリアと、背後から斬りかかろうとしている鈴の眼前に向けられていて、鈴の近接ブレード『双天牙月』の刃が山田先生の首元に当たる直前で静止していた。

 

「「「……………」」」

 

 三人が三人共動けなくなった状態で完全に硬直。

 私達もその空気に当てられて、誰も言葉を発しない。

 

「そこまで!」

 

 織斑先生の一言によって、ようやく時間が流れ出す。

 試合をしていた三人はゆっくりと降りてきて、列の傍に着地した。

 

「凄かった……」

「山田先生……カッコよかった……!」

「うんうん! なんか見直しちゃったかも!」

 

 どうやら、織斑先生の目論見は大成功みたいだ。

 この人、山田先生の試合を見せて、普段からちょっと生徒達に舐められている彼女に対する態度を改めさせようと考えたんでしょ?

 多分、私だけじゃなくて、実際に相手をしたセシリアと鈴もその事は分かってたんじゃないのかな?

 だからこそ、二人も本気で試合をしたんだと思うし。

 

「これぐらいは出来て当然だ。これでも山田先生は元日本の代表候補生だったからな」

「候補生止まりでしたけどね……」

「何を言う。お前は私の補欠だったじゃないか」

「「「「補欠っ!?」」」」

 

 えっと……補欠って事は、万が一にで試合の前に織斑先生が怪我をしたり体調不良に陥った場合は、代わりに山田先生が試合に出ていた可能性があるって事?

 

「山田先生って……」

「実は、物凄い人だった?」

「あはは……」

 

 皆の前で色々と暴露されたから、照れくさそうに頭を掻いている。

 まぁ……可愛いからよし!

 

「では次に……」

 

 おや? 織斑先生がこちらを見てる?

 ……こんな時は大抵が碌な事じゃない……。

 でも、授業中のこの人に逆らうなんて、素手でマジンガーZEROに挑むのと同じぐらいに無謀な行為だ。

 だから、私は流れに身を任せます。 それが一番だと信じて。

 

「板垣。少しいいか?」

「は…い……?」

 

 案の定、今度は私をご指名ですか。

 はいはい、行けばいいんでしょ、行けば。

 

「一度、お前の専用機の事も全員に見せておいた方がいいと思ってな。構わないか?」

「それぐ…らいなら…別…に……」

「ならば、早速展開をしてくれ」

「分かりま…した……」

 

 心を集中させて……!

 

(来て! アーキテクト!)

 

 私が頭の中で念じると、すぐにアーキテクトの待機形態である鉛色の腕輪が反応し、自分の体に装甲が展開、装着されていく。

 

「出来ま…した……」

「展開まで約0.4秒程か。見事だ」

「ど…どうも……です……」

 

 何かある度に頭を撫でるのは止めませんか?

 

「あ…あれ? ちょっと待ってよ。 弥生のその機体って……」

「嘘……ですわよね?」

「これって……」

「なんと……」

 

 予想通り、代表候補生組はこれを見て驚きを隠せないか。

 他の皆は『なんのこっちゃ』って顔をしている。

 本音だけは例外で、一人だけ唸り顔でこっちを見てる。

 

「これが板垣の専用機。機体名は『アーキテクト』だ」

「「「「やっぱり……」」」」

 

 四人でハモったし。

 

「ど…どういう事だ? 鈴達は弥生の専用機の事を知っているのか?」

「知っているって言うか……」

「なんて言えばいいのでしょうね……」

 

 言葉に迷っている感じ?

 私が説明をしてもいいけど、それだと時間が掛かっちゃいそうなんだよな。

 

「ふむ……ボーデヴィッヒ」

「はっ!」

「板垣の機体について説明してみせろ。無論、お前が分かる範囲で構わん」

「了解であります!」

 

 ラウラが列から一歩前に出て、皆に説明を始める。

 

「アーキテクト。正式名称は『アーキテクト・フレーム』と呼称される代物で、普段はISの基本フレームとして使用されています」

「き…基本フレームだと? 弥生のISはちゃんとしたISではないのか?」

「本来ならばな。だが、見た限りだと、姫様のアーキテクト・フレームには本来ならば無い筈の装甲が幾つか追加されている。恐らく、これらの増加装甲はフレームを本格的なISとして使用するにあたって後付けで装備されたんだろう」

 

 にゃんと。その慧眼の通りだよ、ラウラ。

 流石は軍人さんだ……。見事な目をしているね。

 

「フレームと言っても、この状態でもちゃんとISとしての最低限の機能は備わっている。絶対防御やシールド・エネルギー、PIC等がな」

「それじゃあ、板垣さんの機体でも、ちゃんと他のISみたいに空中飛行は可能なの?」

「無論だ。ただし、他の専用機や訓練機とは違って、そこまで速度は出ないと思われるが、増加装甲を見る限り、他の機能も何らかの形で強化されている可能性があるな」

 

 これまた大当たり。

 この『アーキテクト』は、フレームとして使われている他の『アーキテクト』とは違って、おじいちゃんの手によって強化改造が施されている。

 そこまでずば抜けた魔改造は流石にされていないけど、IS学園に配備されている訓練機よりも僅かに上……ぐらいの性能はあると思う。

 

「この『アーキテクト・フレーム』は現状、全てのISに共通規格として正式採用されていて、第1世代、第2世代、第3世代の全てに使われている」

「って事は、オルコットさんのティアーズも、凰さんの甲龍も、織斑君の白式も、一度装甲を外せば板垣さんが纏っているヤツと同じ物が出て来るって事?」

「そうなるな。それと、これはあくまで噂ではあるが……」

 

 ラウラが一息入れてから、再度話し出す。

 

「このアーキテクト・フレームは、全てのISの元祖とも言うべき『白騎士』にも使用されていた……と言う話もある。本当かどうかは不明だがな」

 

 ほぇ~……私も知らないような情報が次々と飛び出してきたし。

 にしても、ラウラが普通に説明をして、皆と話している光景が信じられない。

 この子もある意味でコミュ症じゃなかったっけ?

 

「………もういいぞ。よくやってくれた」

「はっ!」

 

 来た時と同様に敬礼をして、ラウラは列に戻っていった。

 

「これでお前達も板垣の機体がどのような物かは理解した筈だ。他のISとは毛色が違うからと言って、決して変な目で見ないように。いいな?」

「「「「「はい!」」」」」」

 

 うぉっ!? ここから皆の返事を聞くと、凄い迫力だな……。

 耳がキーンってした……。

 

「武装は……今はいいか。時間がない」

 

 よかった……。

 ここから更に武装まで展開してみろって言われたら、どうしようかと思ったよ。

 

 このアーキテクトには、前に見せた『インパクト・ナックル』以外にも多数の装備が拡張領域内に格納されている。

 拡張領域の大きさだけなら、全ISの中でもトップクラスじゃないのかな?

 だって、実際にかなりの数の武装があるからね。

 例えば、インパクト・ナックル専用の換装装備とか。

 

「さて、では今から各班に分かれてISの実習を行う事にする」

 

 あ~……あの、面倒臭そうなアレね。

 確か、専用機持ちがグループリーダーをするんでしょ?

 それって私も該当するのかな?

 仮にする羽目になったとしても、私のグループに集まる人なんて一人もいないだろけど。

 

 

 




丁度よさそうなので、ここで一旦区切ります。

実習後半は次回に。

それと、アーキテクトの説明は完全にオリジナルです。

ここで問題です。

今回の話の中で、実はあるキャラがこの物語の根幹に関わるレベルの非常に重要な発言をしているのですが、皆は分かるかな?

勘のいい読者の皆さんならばきっと分かると思いますけど。

仮に分かっても、その答えは心の奥深くに閉じ込めてくれると助かります。

下手をすると、芋蔓式にネタバレしちゃいますから。


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じょ・・・冗談でしょ?

実習後半。

弥生の元に生徒達は集まるのでしょうか?









 山田先生と鈴、セシリアとの模擬戦が終了し、その後に私の専用機を紹介してから、本格的な実習が始まった。

 

「これから専用機持ちをグループリーダーにしてから実習を行う事にする。確か……織斑にオルコット、凰にデュノアにボーデヴィッヒ、それから板垣の6人か。ならば、各グループにつき8人……は無理そうだから、5~6人ごとのグループになってから実習をする事にする。では、早速分かれろ」

 

 ……やっぱり、私もするんですね~……。

 まぁ……何気に人気がある一夏や噂の転入生であるデュノア君、代表候補生としての実績があるセシリアと鈴に現役軍人であるラウラの所には皆は来るだろうが、私みたいに専用機を持っているだけの女の所に来るような酔狂な奴なんて一人もいる訳が……。

 

「よろしく頼むぞ! 弥生!」

「わ~い! やよっちと同じグループだ~!」

 

 いましたよ……。

 箒と本音が真っ直ぐに私の所にやって来ましたよ……。

 

「私達も来たよ! 板垣さん!」

「何気に板垣さんって成績優秀だし、期待してるよ!」

「うんうん!」

 

 あ…あれぇ~? なんでかな~?

 いつもつるんでいる二人はともかく、他の子達が私の所に来る理由が分からないですよ~?

 

(って言うか、成績だけならセシリアの方が上なんですけど)

 

 色々と言われているけど、私はあくまで学年次席。

 つまりは二番目、ナンバー2に過ぎないんだよ?

 オリンピックで言えば銀メダル。

 金メダルと銀メダルの間には山より高く海より深い隔たりがあるのですよ?

 

 試しに他の所を見てみると、意外や意外、思ったよりも皆が均等に分かれていた。

 

「さっきの織斑君、カッコよかったよ!」

「デュノア君! 丁寧に教えてね!」

「セシリアなら大丈夫でしょ」

「鈴、お願いね!」

「さっきの説明、丁寧で分かりやすかったよ! ボーデヴィッヒさん!」

 

 な…なんと言う事でしょう……。

 まさか、織斑先生に何か言われるよりも前に皆がやるべき事を成してしまった……。

 これはもう、やるしかない流れになってますな……。

 

「よし、ちゃんと分かれたな」

「それじゃあ皆さん、これからグループリーダーさんが訓練機を1班につき1機ずつ取りに来てくださいね。機体は『打鉄』と『リヴァイヴ』がそれぞれ3機ずつです。どちらでも好きな方を班の皆で決めて取りに来てくださいね。一応言っておきますけど、早い者勝ちですからね~」

 

 ……だ、そうだ。

 さて、やると決めた以上は、中途半端な事はしたくない。

 どっちの機体にしようかな?

 念の為、他の皆の意見も聞いておこうか。

 

「み…皆…は……どっちが…いい……?」

「私はどちらでも構わないぞ」

「私も~」

「「「私達も」」」

 

 どっちでもいいと言うのが一番困るんですよ?

 

(行ってから決めるか)

 

 こんな時は、適当に決めてしまおう。

 別に今から試合をするわけじゃないんだ。

 細かい機体性能なんて気にする必要は無いか。

 

 テクテクと訓練機が置いてある場所まで歩いて行くと、もう既に何体かは無くなっていた。

 今あるのは打鉄とリヴァイヴが一機ずつ。

 

「あ、板垣さん。どちらにしますか?」

「え……っと……」

 

 訓練機の隣に立っていた山田先生がにこやかに訪ねてくる。

 言い方がまるで店員さんみたいだけど、学生時代にコンビニとかでバイトをしていた経験でもあるんだろうか?

 

「こっち……で……」

「リヴァイヴですね。分かりました」

 

 実は私、リヴァイヴみたいな無骨な機体が好きなんだよね。

 機体色が緑色なのも私的にポイントが高い。

 なんか、ミリタリーっぽいから。

 

「あ、大丈夫ですか? ちゃんと運べますか?」

「なん……とか……」

 

 いくらインドア派だからと言って、これぐらいは運べますよ?

 重そうに見えるけど、IS自体はタイヤがついた移動式のコンテナの上に乗ってるわけだし、コンテナ自体にもある程度の自走機能は搭載してあるから。

 

 つーわけで、ゴロゴロ~っと皆がいる場所まで運んできました。

 

「お待た……せ……」

 

 コンテナの上からリヴァイヴを降ろして、地面の上に置く。

 勿論、これも簡単な操作で自動的に行われる。

 

「誰から……にす…る……?」

「出席番号順でよくない? その方が分かりやすいし」

 

 確かに。

 こっちとしても、そのほうが有難い。

 

「じゃあ……出席…番…号…で……」

 

 そんで、このメンバーの中で一番早いのは誰よ?

 

「んじゃ、まずは私だね!」

 

 そんな訳で、私指導の下で行われる実習が開始された。

 ちゃんと教えられるか不安だけど、やるっきゃない!

 

「と…取り敢えず……は……装着…をしてから……起動して……少しだけ歩いてみ…ようか……?」

「うん! りょ~かいです!」

 

 意気揚々と最初の子がコックピットに乗り込んで、装着、起動、歩行と順調にこなしていく。

 

「上手……だ…ね……」

「そ…そう? 前に授業で乗った事があるから……って、あの時は板垣さんは休んでいたんだっけ……」

「うん……」

 

 因みに、あの時、私が休んでいた理由は一夏以外の皆が知っている。

 同じ女子と言う事もあって、あの苦しみは女なら誰しもが共通して必ず体験する事だから、敢えて知らせておいた……と、後で織斑先生から聞かされた。

 

「また何かあったら遠慮なく言ってね? アレに関しては、ここにいる皆(一夏は除く)が関係しているんだから」

「そう……だね……」

 

 なんて優しい子なんでしょ……。

 名前は知らないけど。

 

 一人目の子が終了し、二人目の子に移る。

 

 二人目の子も一人目の子を見習って、何の問題も起こさずに装着から歩行までを済ませていった。

 

「ちゃんとやっているな」

 

 おや、織斑先生がやって来た。

 見回りでもしているのかな?

 

「少し見ていたが、矢張り板垣は人に教えるのが上手だな」

「そうかも。板垣さんの教え方ってすっごく分かりやすかったし」

 

 そ…そこまで褒められると……少し照れる。

 

「板垣の教えに関する才能は、織斑の一件でなんとなく分かってはいたが、こうして直に見せられると、改めて実感する」

「そう言えば、前に弥生は一夏にも勉強を教えていたことがあったな」

「マジで!?」

 

 そんな事もあったね~……って言ってるけど、実は何気にあれってまだ続いてるんだよね。

 アイツってば、流石に部屋まで押しかけるような事は無くなったけど、それでも授業で分からない所があれば真っ先に私に聞いてくるんだよ。

 お蔭で、私の貴重な休み時間がパーですよ。

 

「私は他の連中の所を見回る。その調子で続けていくように」

「「「「はい!」」」」

 

 ははは……元気だね。ホント。

 

 言われた通り、調子を崩さないようにしながら実習を続けていくと、箒の番になった時にちょっとしたトラブルが起きてしまった。

 

「あ! しまった!」

 

 なんと、三番目の子が立った状態のままで装着解除をしてしまったのだ。

 基本的にISは降りる時には膝立ちとかして姿勢を低くしないといけない。

 そうしないと、コックピットが高過ぎて次の人が乗る事が出来ないから。

 

「ご…ごめんなさい……。これどうしよう……」

「弥生、どうする?」

 

 ムッフッフッ~。

 心配ご無用なのですよ、御両人。

 普通ならば原作のようにISを展開してお姫様抱っこ~…的な展開になると思われるかもしれないが、こんな事もあろうかと! 実は密かにこのような時の対策に関する勉強をバッチリとしてきているのですよ! ニャッハッハッ~!

 

「任せ…て……」

 

 え~っと……私の記憶が確かなら、この辺りの装甲に~……

 

「あった」

 

 見つけましたよ~。

 脚部にあるこのハッチを開けてから、そこの緊急用のタッチパネルをピピピ……とな。

 すると、あら不思議。

 さっきまで立っていたリヴァイヴがゆっくりとしゃがんだじゃありませんか。

 

「「「「おぉ~!」」」」

 

 むふふ~……驚いてる驚いてる。

 頑張って勉強をした甲斐があるってもんですよ。

 

「す…凄いですね~…。まさか、緊急用のタッチパネルを使うなんて……」

 

 おっと。いつの間にか傍まで来ていた山田先生に褒められた。

 

「緊急用?」

「そうです。ISには緊急用の対策として、普段は使えないタッチパネルが設置してあるんです。今回みたいに、立った状態での装着解除などをしてしまった場合、ほんの少しではありますが、これを使って外部からコントロールをして、ISを動かす事が可能なんです」

 

 私が勉強してきたことを全て言われてしまった。

 流石は山田先生。そこに痺れる! 憧れる~! ……って、これ前にも言わなかった?

 

「板垣さん。どうしてコレの事を知っていたんですか?」

「いざ……という時…の為…に……勉強……していたん…です……」

「えぇっ!? これって、習うのは3年生になってからですよ!?」

「「「「はぁっ!?」」」」

 

 え……マジ?

 私、普通に勉強しちゃったんですけど……。

 

「はわ~……板垣さんって本当に勉強熱心なんですね~……」

「そ…れほど……でも……」

 

 しまったな~……。

 まさか、そこまで先の事を予習してしまっていたとは。

 これは完全に予想外。

 

「板垣さんって……」

「うん……。私達が想像している以上に凄い子なのかも……」

「普通に尊敬しちゃうな……」

 

 尊敬しないで! しなくていいから!

 

「弥生はやっぱり凄いんだな……♡」

「やよっち……♡」

 

 はいそこ! 目をハートマークにしてないで、さっさとやるよ!

 じゃないと、織斑先生の雷ならぬ出席簿が落ちるからね!

 

「次…は箒……だよね……?」

「おっと、そうだったな。では、よろしく頼む」

「ん……」

 

 箒もここで遅れればどんな目に遭うかは分かっている為、素早く丁寧にやってくれた。

 勿論、降りる時はしゃがんでくれた。

 

「最後……は本音……」

「よ~し! がんばるぞ~! お~!」

 

 この掛け声だけで不安になってしまうが、実際にはそんな事は無かった。

 

「うんしょ……うんしょ……」

 

 こちらの想定以上の動きをしてくれて、今まで一番早く終わった。

 

「終わり~!」

「早……」

「本音ちゃんって、こんなにキビキビした動きが出来たんだね……」

「意外な一面を垣間見た感じがする……」

 

 コラコラ。そんな事を言うもんじゃないぞ?

 気持ちは理解出来るけど。

 

 本音のお蔭で、私達の班が一番早く終わることが出来た。

 

 これは余談だが、原作では険悪なムードを漂わせていたラウラの班だったが、ここでは……

 

「そうだ。その調子だ」

「よし……と。これでいいのかな?」

「よくやった。では次!」

 

 この通り。私の心配が杞憂であった事を思い知らされた。

 もしかして、このラウラは私が知っている彼女よりも『いい子』なのでは……?

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「では、午前の実習はこれで終了にする。午後からは今回使用した訓練機の整備の実習を行う予定なので、昼休みが終わり次第、教室ではなくて第1格納庫へと直接集合するように。猶、専用機持ちは訓練機と自身の専用機の両方の整備をしてもらうから、そのつもりで。……解散!」

 

 全ての起動テストを終わらせた私達は、使ったISを格納庫に戻してから、またグラウンドに戻ってきた。

 私達以外の班も比較的順調に終わらせたから、時間に余裕を持って格納庫に置いてこれた。

 

 先生コンビは連絡事項を言い終えてから、そそくさと去っていった。

 

(そう言えば……まだ私、一夏にお礼言ってなかったな……)

 

 形はどうであれ、一夏に助けられたわけだし。

 お礼位は言っておいたほうが……。

 

(いや……それだけじゃ物足りないかも)

 

 もしも一夏が動かなかったら、絶対に重傷、下手をすれば死んでいたかもしれない。

 礼を言うだけで終わりって言うのは、流石にどうだろう。

 

(もうちょっとちゃんとした礼をして……)

 

 でも、何をすればお礼になるのかな?

 一夏が喜ぶような事と言えば……。

 

(……さっぱり分からん)

 

 いかに一夏が鈍感大魔王とは言え、一応は男にカテゴライズされる存在だ。

 ならば、一般的に男が喜ぶような事をしてあげればいいのではないか?

 

(男が喜ぶ事……男が喜ぶ事……)

 

 ……なんだろう?

 前世が男だったから、私が昔されて嬉しかったことをしてやれば……

 

(前世の私ってば最強クラスのボッチだったじゃねぇか!! 女の子と付き合ったことは愚か、手も繋いだことも無いよ!!)

 

 いや……何かある筈だ! よ~く思い出せ! 私!!

 

(…………そうだ)

 

 『アレ』なら喜んでくれるかもしれない。

 元男だから分かるけど、男ってのは大抵が馬鹿ばっかりだからな。

 女が大した事ないって思っているような事でビックリするくらいに喜んだりするんだよ。

 

(よし! そうと決まれば早速、一夏に……)

「弥生? ボ~ッとしてどうしたの?」

「……!? な…なんでもない……よ……」

 

 顔を覗きこむようにして、いきなり鈴に話しかけられてビックリした……。

 授業が終わったのに、ここでジッとしているのはよくないよな。うん。

 

 キュ~……

 

「「「「「「「あ……」」」」」」

「うぅぅ……」

 

 このタイミングでお腹の虫が鳴るし~!

 これはかなり恥ずい……。

 

「空腹なのですか!? ならば、急いで食堂に急ぎましょう! 姫様!」

「そ…そうだ…ね……」

「私達もお腹が空きましたわね。早く着替えて行きましょうか?」

「だな」

 

 今はとにかく、お昼の事に集中しようか。

 一夏へのお礼はその後って事で。

 

(あれ? この辺りで箒から屋上で弁当食べよう的なお誘いがあるんじゃなかったっけ? 何も言われなかったな……)

 

 別に、何も無いなら私はいいんだけど。

 その方がこっちには都合がいいし。

 

(今日は何を食べようかな~?)

 

 午前で色々と疲れたし、ガッツリとしたものを食べたいよな~。

 

 多分、ラウラも一緒に来るよな……。

 でも、そうなるとシャルル君は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




実習が終わり、お昼ご飯に。

でも、屋上には行かないっぽい?

そして、弥生が一夏へのお礼に考えた事とは?


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弥生ちゃんの耳かきボイス(一夏編)

タイトルの通りです。

敢えて、それ以外は語りません。

今回の話の中盤以降は一夏の姿を自分に投影すると、より楽しめるかもしれません。









 お昼になって、私達はいつものように食堂に向かうが、今日は少しメンバーが違っていた。

 

「ぼ…僕も一緒でよかったのかな?」

「気にすんなって。どうせ、これから嫌でもここには何回も通う事になるんだし。場所を覚えるついでに、こうして皆と少しでも交流出来る。一石二鳥じゃないか」

「そう……かもね」

 

 まず、例の二人目の男性IS操縦者(仮)ことシャルル君が同行。

 それに加え、私の隣には例の如くドイツからやって来た可愛い護衛さんが座っている。

 一夏の事はやっぱり毛嫌いしているみたいで、彼もそれを察してか、ラウラからは離れた場所に座っている。

 

「そこの金髪は一夏が誘ったにしても、なんでアンタまでいるのよ……」

「私は姫様の護衛。姫様の行く所に私ありだ」

「そこまで堂々と言われると、逆に納得してしまいそうですわね……」

 

 結果として、私達が座っている席には合計で9人もいることになる。

 なんだ、この個性に溢れまくったグループは……。

 明らかに目立ちまくっている……。

 

「と…ところでさ……」

「ん? どうした?」

「その……板垣さんの目の前に置いてあるソレは……」

「「「「「「「あぁ~…」」」」」」」

 

 え? 私のお昼ご飯がどうかした?

 なんで皆して納得したような顔になってるの?

 

「ひ…姫様……。本当にその量を食べるのですか……?」

「そう…だ……けど……?」

 

 今日の私のお昼は、超大型のハンバーグ5段重ね。

 ジュージューと言う音が食欲をソソリ、ナイフで切ればたっぷりの肉汁がジワァ~っと滲み出てくる。

 このデミグラスソースの香りが最高だよね~♡

 

「弥生さんのお食事には早めに慣れた方がよろしいですわよ?」

「もうこの光景は日常茶飯事」

「IS学園の名物の一つになりつつあるわね」

 

 嘘でしょ? 私は普通に食事をしているだけだよ?

 

「ほらほら。早く食べましょ」

「そ…そうだね……」

「う…うむ……。姫様の食事に口出しをするなど言語道断だしな」

 

 口の中が涎で一杯になってきた……。

 もう辛抱たまらん! いただきま~す♡

 

「はむ……♡」

 

 んん~♡ 美味し~♡ なんてジューシーなんでしょ!

 さくさくとナイフとフォークが進んでいくよ~!

 

「えぇ~!?」

「なんと言う食べっぷりか……。はっ! そうか! 姫様は有事の際に備えて、こうして日頃から栄養を蓄えているのか!」

 

 んなわけねぇだろ。

 単純に普通の量じゃお腹いっぱいにならないだけだよ。

 

「いつ見ても、弥生の食事風景は凄いわよね~」

「見慣れてくると、清々しさすら感じてくるな」

「やよっちは本当に美味しそうに食べるからね~」

 

 実際に美味しいからね。

 

 食事をしながら、初めて顔合わせをした簪が自己紹介をしていた。

 

 そうだ。後で一夏を呼びださないといけないんだった。

 皆の目を盗みつつ、私はテーブルの下に携帯を隠して、密かに一夏の携帯にメールをしておいた。

 

 これを食べ終えたら、まずは購買部に行かないと。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 昼飯を食べ終えた後、俺は弥生に屋上へと呼びだされた。

 俺から行くことはあっても、彼女の方から俺を呼ぶことはこれまで一度も無かった。

 だからだろうか。

 俺は心臓をバクバクさせながら屋上へと向かっていた。

 

(女の子から呼び出されて、その場所が屋上……。このシチュエーションは…まさか……)

 

 違うと頭で理解していても、どうしてもソッチの妄想が先走ってしまう。

 自然と足が速くなっていき、すぐに屋上へと続く扉に到着した。

 

「ぼ…僕の名前は織斑一夏……」

 

 緊張のあまり、何故か自己紹介をしてしまった。

 

 震える手でドアノブを握りしめて、そっと扉を開ける。

 昼の太陽が眩しく照りつけて、俺の目に直撃する。

 

 腕で目元を隠しながら歩いて行くと、そこには……

 

「やっと来た……ね……」

 

 髪を美しく靡かせながら優美に佇んでいる弥生がいた。

 

 冗談抜きで、彼女の姿に見惚れてしまった。

 

「ど…どうし…た…の……?」

「えっ? あ……ははは……」

 

 あ…あれ? どうしちまったんだ俺?

 頭が沸騰して、思考が上手く回らないぞ……。

 

「ど…どうして俺をここに呼んだんだ?」

「お礼……をした…くて……」

「お礼?」

 

 俺、何かしたっけかな?

 

「さっき…の授業……で……」

「あ……」

 

 山田先生が落ちて来た時の事か。

 確かにあれは危なかったよな。

 

「こっち……来て……」

「お…おう……」

 

 弥生の手招きに応じて近づくと、彼女は屋上に備え付けてあるベンチに座った。

 

「ここ……座って……」

 

 ポンポンと自分の隣を叩くので、俺はそっと弥生の隣に座った。

 

「な…何をする気なんだ?」

 

 何であっても、弥生のする事なら俺は全てを受け入れるけどな。

 

「じっと……してて…ね……」

「ん?」

 

 や…弥生さん!? 俺の顔に手を添えて何をなさるおつもり!?

 ま…ままままままままままさか本当に!? 

 

(俺は……俺は遂にやっちまうのか!? やっちゃうのか!?)

 

 心臓の鼓動が最高潮になっていく。

 顔も凄く熱くなって、きっと真っ赤になっているに違いない。

 よく見たら、弥生の顔も赤くなっている。

 彼女も緊張しているのか?

 

「うんしょ……っと」

「ぬわっ!?」

 

 いきなり顔を持っていかれて、視界が反転する。

 気がついた時には、俺の顔は横になっていた。

 

(あれ……? この側頭部に感じる柔らかな感触は……)

 

 弥生の顔が上に……って、胸に隠れてよく見えないし!

 弥生の胸ってこんなに大きかったの!?

 

(これは……膝枕か!?)

 

 弥生の膝枕……だと……!?

 これは本当に現実なのか……?

 

「動かない……でね……?」

 

 弥生の手に握られているのは……耳掻き棒?

 

「男の人……が喜びそう……な事って分からな…くて……」

「それで耳かきを?」

「う……ん……」

 

 弥生に膝枕をされながらの耳かき……。

 なんだこの天国は!?

 俺は一生分の幸運をここで全て使い果たしてしまったんじゃないのか!?

 

「い…痛かった…ら……言って…ね……」

「わ…分かったよ……」

 

 ある意味、さっき以上に緊張してるよ!!

 ヤバイ~…! 動悸が激しくなっていく……。

 

「お……」

 

 弥生の耳かき棒(意味深)が俺の耳に入ってくる……。

 

「まず…は……手前…から……」

 

 き…気持ちがいい……♡

 女の子にしてもらう耳かきって、こんなに気持ちがいいものだったのか……。

 弾……俺は今、間違いなく新たな境地に立った気がするよ……。

 

「思ったより……も……溜まって…る……ね……」

 

 最後に自分で耳掃除をしたのっていつだっけ?

 一々記憶してないしな。

 

(最高だ……最高すぎる……! 今日は間違いなく、今までの人生で最良の日だ……!)

 

 耳から直接聞こえる音を聞きながら、弥生のしてくれる耳かきの快楽に溺れていく。

 こんなに気持ちのいい事が、この世の中に存在したのか……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 一夏が弥生から耳掃除をして貰っている場所から少し離れた場所に、複数の影が見えていた。

 

「弥生の様子が少しおかしいと思っていたら……!」

「や…やややややややや弥生さんがあの男に膝枕をををををを……」

「なんて羨ま……げふんげふん。けしからんことをしているのかしらね……!」

「私の嫁に耳掃除をしてもらうなんて……! 許さん……!」

「私も頼んだらしてくれるかな~?」

 

 屋上のドアから顔を覗かせているのは、弥生に好意を抱いている女子達。

 その顔は様々な色に染まっていて、怒りや嫉妬、果ては純粋に羨ましがっている者も。

 

「おのれ~…! なんで姫様はあのような男に~…!」

「って言うか、どうして僕まで連行されてるのさ……」

 

 そして、今日やって来た転入生組も一緒にいた。

 ラウラも他の女子達と同様に怒りを露わにし、シャルルは明らかに疲れている。

 

「ちょっと待て皆。ここはひとつ、冷静に考えようじゃないか」

「そ…そうですわね。ここで弥生さんが織斑一夏に好意を抱いていると考えるのは早計ですわ……」

「確かに、動揺しすぎて冷静さを欠いていたわね」

「深呼吸をして……ス~…ハ~…」

 

 箒とセシリアと鈴と簪が揃って深呼吸。

 傍から見れば、なんじゃこれな光景である。

 

「まず、なんで弥生が一夏にあんな事をするに至ったかを考えよう」

「えぇ。恐らくですけど、今日の午前の実習で助けられたのが直接の原因でしょうね」

「弥生って優しいだけじゃなくって義理堅くもあるしね。助けられた以上はちゃんと相手にお礼をしなくちゃ……って考えたんじゃないかしら?」

「何があったかは知らないけど、それなら納得」

 

 恋する乙女の推理力は凄まじい。

 この瞬間だけ、彼女達の頭脳はコ○ンに匹敵しているかもしれない。

 

「姫様……いくら助けられたとはいえ、あのような男にすら慈愛の心をお与えになるとは……。なんとお優しい人なんだ……。まるで聖母のようなお方だ……」

「それはちょっと大袈裟なんじゃ……」

 

 この場にて貴重な常識人枠のシャルル。

 しかし悲しいかな。彼(彼女?)の言葉は誰に届いていない。

 

「もしもあの時、おりむー以外の人が助けてたら、あそこには別の人がいたのかな~?」

「「「「「はっ!?」」」」」

 

 本音の何気ない疑問に、箒とセシリアと鈴と簪とラウラの五人に雷が落ちた。

 

「や…弥生の耳かきか……。それは素晴らしいな……♡」

「弥生さんの耳かき……弥生さんの耳かき……弥生さんの耳かき……」

「や……ちょ……ダメよ~♡ そこは耳じゃないってば~♡」

「なんで私は別のクラスなんだろう……」

「ひ…姫様からの耳かき……だと……! して……ほしいな……」

 

 箒は頭がお花畑になり、セシリアは完全にオーバーヒート。

 鈴は妄想の世界に入り込み、簪は別クラスである事に絶望。

 ラウラは純粋な心で弥生からの耳かきを求めていた。

 

「一夏と板垣さんって……もしかして付き合ってるの?」

「「「「「「あ?」」」」」」

 

 シャルルの迂闊な発言をしっかりと聞き取った面々は、言った本人に向かって全力のメンチを切る。

 

「ひぃっ!? ご…ごめんなさい……」

 

 己の発言が彼女達の逆鱗に触れるどころか、思いっきり正拳突きをかましてしまった事を瞬時に理解したシャルルは、速攻で謝った。

 

 彼女達がコント染みた事をしている間も、弥生と一夏の耳かきタイムは続いていた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

「ここ……に……大きい…のが……」

 

 お……おぉぉぉぉ……!

 頭が別の意味で痺れてきた……!

 

「………取れた」

 

 耳から耳かき棒を抜いてから、先端についている耳垢を傍に敷いているティッシュの上の置く。

 俺の脳内フィルターには、その様子すら眩しく見えて仕方が無い。

 

「仕上げ…にこの……反対…のフワフワ…で……」

「はふ……」

 

 フワフワ(名前は知らない)で耳の中をかき回される感触もまた……。

 

「最後…に……フ~……」

「ひゃうっ!?」

 

 み…耳に息を吹きかけられた!?

 弥生は俺を萌え殺す気か!?

 

「くす…ぐった……かった……?」

「す…少しな」

 

 嘘です。最高に気持ちよかったです。

 

「逆……向い…て……」

「おう……」

 

 少しだけ頭を浮かせて、顔を逆向きにする。

 

「………!?」

 

 ちょっと待てよ……反対側に向くって事は、つまり……。

 

(弥生の方を向くってことじゃないか! や…弥生の匂いが直に!? 吸い込め! 肺一杯に吸い込め俺! しかも、顔の近くに弥生の腰とかがががががが……)

 

 ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!! 沈まれ! 沈まれ我が分身よ!!

 ここが一番の頑張り時だぞ!!

 

「いく…よ……」

 

 さっきとは逆側の耳の中に棒が優しく侵入してくる。

 手つきが丁寧で、全く痛みとか感じないんだよな……。

 今までにも誰かに耳掃除をしてあげた事があるんだろうか?

 

「一…夏……」

「なんだ?」

「ありがとう……」

 

 ……なんでもない一言の筈なのに、その言葉が俺の心に深く響いた。

 これが胸キュンってやつか……。

 

「一夏……が助けて…くれな…かった…ら……どうな…っていた…か……分からな…かった……」

「あれぐらい、どーってことないって。寧ろ、俺の方が礼を言いたいぐらいだよ。弥生にはいつも勉強とか教えて貰ってるし……」

 

 弥生にはどれだけ礼を言っても言い尽くせない。

 それなのに、恩返しをされているのは俺なんだよな……。

 おほ……♡ そこ……そこいいぃ……。

 

「それこ…そ……気にしな…くても…いい……。勉強…を教えている……のも……お礼……をしている……のも……私……が勝手……にしてる…だけ……だか…ら……」

 

 弥生……お前はどれだけ……。

 

「本当に優しいんだな……」

「そん…な…事は……ない…よ……」

 

 そして、どれだけ謙虚なんだよ……。

 俺だけじゃない。箒達も弥生に感謝しまくってるんだぞ?

 

「あ………」

 

 余りにも気持ちがよくって、なんだか眠気が……。

 

「眠い……の……?」

「みたいだ……」

 

 弥生が俺の頭を優しく撫でてくれた。

 

「午後……も忙し…く…なりそう……だか…ら……少し……仮眠…すれ…ば……? 時間……になった…ら……私が…起こす……から……」

 

 弥生の目覚ましか……最高だな。

 

「おや……すみ……」

 

 弥生の声を聞きつつ、耳から感じる気持ちよさを堪能しながら、俺は重たくなった瞼を素直に閉じることにした。

 

 今、この瞬間だけは……俺は間違いなく世界一の幸せ者だ。

 だって、自分が惚れた女の子に耳かきをして貰って、その上、その膝枕で眠る事が出来るのだから……。

 

 君の事を好きになったのは……間違いじゃなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




自分で書いていて思いました。

マジでリア充死ね~~~!(血涙)

今回、なんで耳かきなのかと言うと、つい最近になって『耳かきボイス』なる物にドップリとハマってしまいまして。

聞いた途端に『絶対に耳かきのシーンを作品内に取り入れよう!!』と固く決意しました。

『一夏編』と書いてある通り、これからも別のキャラの耳かきシーンを書く可能性が非常に高いと思います。

もしかしたら、近いうちに2人のキャラの耳かきシーンを書くかも……?



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弥生ちゃんの耳かきボイス(楯無編)

もう皆まで言う必要はありませんね。

今回はそう言う事です。

やっと、弥生と楯無が初めて会います。






 放課後になって、私は本音に頼んで、ある場所へと連れて行ってもらった。

 

「やよっち~。生徒会室に何の用があるの~?」

「お礼……を言おう……と思って……」

「お礼って?」

「この間……の事件……の……」

「あぁ……あの時の……」

 

 そう、私はまだ更識楯無生徒会長に、無人機事件の時に助けて貰ったお礼を何もしていない。

 一夏の方が先になってしまったのは皮肉だが、同じクラスの人間と上級生では、会う機会も必然的に限定されてしまう。

 だから、今はこうして時期を窺ってこっちから訪問するしか会う方法が無い。

 本音は生徒会の役員だから、こうして一緒に来てもらった……と言う訳だ。

 因みに、簪は私が生徒会室に行くと知ると、途端に難色を示して、いつものように格納庫に行ってしまった。

 別にそれに関しては何も言わない。

 時期的に考えて、まだ更識姉妹の仲はお世辞にも良好とは言えないと思うから。

 でも……

 

「なん…で……一緒…に来た……の……?」

「私は姫様の護衛! 姫様の行く所に同行するのは当然の義務です!」

「そ…そう……」

 

 なんでかラウラも私達について来た。

 これと言って邪魔じゃないから、来ること自体は私も構わないんだけど……。

 

「ラウラウは偉いね~」

「ふっ……。これぐらい、軍人として当然だ」

 

 ニヒルな表情をしているが、傍から見れば背伸びをしている幼女にしか見えない。

 ちょっぴり微笑ましい。

 

 生徒会室は、学園にある他の施設や教師とは少々、趣が違う。

 なんと言えばいいのか……昔懐かしの学校を彷彿とさせると言いますか……。

 とにかく、そんな感じ。分かる人には分かる……と信じたい。

 

「ノックしてもしも~し?」

 

 本音が申し訳程度にノックをするが、次の瞬間には一切の躊躇なく扉を開けた。

 

「ノックをした意味が無い!?」

 

 ラウラ、ナイスツッコみ。

 

「しつれ~しま~す♡」

 

 仕方なく、私達も本音に続く形で生徒会室へと入っていくことに。

 初めて入る生徒会室には、大きなテーブルが中央にデン! と置かれていて、そこには……

 

「いらっしゃい……」

 

 IS学園のパンフレットにも顔写真が載っていて、以前に入学式で顔を見かけた更識楯無が疲れた顔で座っていた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「お嬢様。本当に大丈夫ですか?」

「なんとかね~……」

 

 結局、私は昨晩は一睡も出来なかった。

 あんな映像を見た直後に熟睡出来る人間がいるとすれば、そいつは間違いなく人としての心が無い存在だろう。

 

 眠る事が出来なかったのは虚ちゃんも同様で、彼女の目の下にも見事な隈が出来ていた。

 

「あまり無理をしないで、早く部屋に戻って休まれた方がいいのではないですか?」

「この状態で寮に戻るのはちょっとね……」

 

 仮にも生徒達の長である私が体の不調を見せていれば、それだけで皆が不安がる。

 本当は、目の下に隈が出来ている姿なんて他人に見せたくはないんだけど。

 だから、今日の授業は目の下の隈を誤魔化すために、伊達眼鏡を掛けて受けた。

 なんでか受けはよかったけど。

 

「今日は書類仕事とかも無いし、もう少しだけここで休んでから寮に戻る事にするわ……」

「ならば、私もお付き合いします」

「ありがとう……」

 

 肉体的にと言うよりは、精神的に疲れ果てている。

 知りたくなかった真実。私の理想の全否定。

 正直言って、これはかなり堪える……。

 

 コンコン

 

『ノックしてもしも~し?』

 

 あら? この声は……本音ちゃん?

 

「あの子が自分から来るなんて珍しい……」

 

 虚ちゃんの言う通り。

 普段は虚ちゃんに引っ張られながら来るのに、今日は自らの足でここに来た。

 何かあったのだろうか?

 

「「あ」」

 

 こっちが返事をする前に開けちゃった。

 あの子らしいと言うか……。

 

「いらっしゃい……」

 

 ……あれ? 本音ちゃんの後ろに誰かがいるような……。

 

「失礼……しま…す……」

「失礼する」

 

 えぇぇぇえぇぇぇっ!? 弥生ちゃん!? なんで!? どうして彼女がここに!?

 それと、その隣にいるのドイツから来たって言う転入生のラウラちゃん!?

 あの二人がどうして一緒に来ているの!?

 

「かいちょ~? 目の下に隈ができてるよ~?」

「あはは……ちょっとね~……」

 

 流石に、本音ちゃんにはアレの事は言えないわよね……。

 この子には刺激が強すぎるから……。

 

「あ…あの……」

「あぁ……貴女の事はよく知ってるわ、板垣弥生さん」

「え?」

「何気に貴女って結構な有名人になってるもの」

「そ…うなんです…か……?」

 

 学年次席で、学園で一番の大飯食らいで、あの織斑君と仲がいいって。

 他にも、代表候補生達の子達といつも一緒にいるから、必然的に目立っちゃうのよね。

 それに……この子は簪ちゃんの大事なお友達だから……。

 

「私は更識楯無。IS学園の生徒会長よ」

「は…初め…まし…て……」

「えぇ。初めまして」

 

 彼女と話すのはこれが初めてだけど、噂通りの礼儀正しい子みたいね。

 伊達に『あの人』の義娘って訳じゃないみたい。

 

「私はドイツの代表候補生の「ラウラ・ボーデヴィッヒちゃん……でしょ?」…最後まで言わせろ……」

 

 あらら、拗ねちゃった。ちょっと可愛いかも。

 

「それで、こっちの子が……」

「本音の姉で、この生徒会でお嬢様……会長の補佐をしている布仏虚と言います。初めまして、板垣さん」

「ど…うも……はじめまし…て……。本音…にはいつ…もお世話…に……なって…て……」

「いえいえ。こちらこそ、妹がご迷惑を掛けてませんか?」

「もう~…お姉ちゃ~ん……」

 

 ……まるで、ご近所に住む奥様の井戸端会議みたいな会話ね……。

 

「あの……体調……が優れない…んです……か…?」

「あ、これ? 大丈夫よ。 ちょっと寝不足なだけだから」

「寝不足だと? 感心せんな。私が聞いた情報では、IS学園の生徒会長は自由国籍を持つロシアの代表だとも聞く。それ程の人物が寝不足とは、どういう事だ?」

 

 あはは……このちっちゃな現役軍人さんは痛い所をついてくるわね……。

 

「代表ともなると、休みの日も色々と忙しいのよ……」

「むぅ……。それを言われるとこっちも言葉に詰まるな……。確かに、国家の代表ともなれば、我々のような代表候補生とは比較ならない程に忙しいだろうな……」

 

 よかった……なんとか誤魔化せたっぽい?

 

「お邪魔……だった……です…か…?」

「べ…別に気にしてないわよ! これと言って何かをしていた訳じゃないし!」

「でも……そ…の隈……」

「寝不足程度、どうって事無いわよ! ほら!」

 

 なんて言いながら、少しだけ強がってみる。

 我ながら、似合わない事をしているって自覚はあります……。

 

「で? 弥生ちゃんはここに何の御用があったのかしら?」

「先輩……にお礼…が…言いたく……て……」

「お礼……?」

 

 私……彼女に何かしたかしら?

 

「この間……私……を助け…てくれた……から……」

「それって……」

 

 例の無人機の乱入事件の時の事を言っている?

 でも、私がした事と言ったら、閉じ込められていた弥生ちゃん達を解放して、彼女を保健室まで運んだ程度なんだけど……。

 

(その時の事をずっと覚えていて、態々お礼を言いにここに……?)

 

 私的には大したことをしたつもりはないんだけど、この子は律儀にお礼をしに来た……。

 本当に噂通りの子……なのね……。

 

「楯…無先輩……」

 

 姿勢を正してから、弥生ちゃんは丁寧にお辞儀をした。

 

「あの時……は……本当…に…ありがとう……ございまし…た……」

「弥生ちゃん……」

 

 あ……ヤバ。不覚にもウルってきちゃった……。

 

「ふむ……。事情は分からないが、彼女は姫様の危機を救った事がある……と言う事でいいのか?」

「そうだよ~」

 

 ひ…姫様? 姫様って弥生ちゃんの事? なんでそんな呼び方をされてるの?

 弥生ちゃんの出している雰囲気は、確かにお姫さまみたいなところがあるけど……。

 

「ならば、私からも礼を言わなければな。姫様を助けてもらい感謝する」

「ど…どうも……」

 

 ラウラちゃんからのお礼に、私はなんて反応すればいいの?

 

「板垣さんは真面目な方なんですね。それだけを言いにここまでいらっしゃるなんて……」

「そうなんだよ~。でもね~、やよっちはお礼を言うだけじゃ嫌なんだって」

「どういう意味?」

「他にも何かお礼がしたいって言ってるんだよ~。ね~?」

「う…ん……」

「そんな……。別にそこまで気にしなくてもいいのよ? あの時の私は、殆ど義務感でしたようなものだし……」

「それで…も……助けら…れた……のは事実……ですか…ら……」

 

 弥生ちゃん、なんていい子!

 伊達にあのお嬢様学校に通っていただけはあるわね……。

 

「そ…うだ……」

「ん?」

 

 弥生ちゃんが端の方にあるソファーに移動して、そこに座った。

 なんでそんな場所に? 座るなら椅子の方に座ってくれればいいのに。

 

「こっち……に来て……くれま…すか……?」

「何かしら?」

 

 う~ん……無表情だから、弥生ちゃんの意図が全く読めない。

 この子は何がしたいのかしら?

 

「ここ……に座って……」

「うん?」

 

 言われた通りに彼女の右隣に座ったけど……。

 しれっとラウラちゃんと本音ちゃんも、弥生ちゃんの左側に座ってるし。

 

「頭……をここ…に……っと……」

「ふぁ!?」

 

 弥生ちゃんにそっと頭を掴まれて、そのまま彼女の膝まで一直線。

 

「やよっち……また……」

「うぅ~……姫様ぁ~……」

 

 また? またって何?

 って言うか、これってもしかしなくても膝枕!?

 

「眠気……で辛そう…に見えた……から……。人肌……に触れていれ…ば……少し……は寝やすくなる……かもしれ…ない……です…よ……?」

「弥生ちゃん……」

 

 どうして……どうして貴女はそこまで他人に優しくできるの……?

 一番辛い目に遭っているのは、間違いなく弥生ちゃんなのに……。

 

 私の頭を弥生ちゃんが優しく撫でてくれる。

 久しく誰かに頭を撫でられた事なんて無かったから、不覚にも胸が高鳴った。

 

「ついで……だか…ら……」

 

 制服のポケットから、弥生ちゃんが耳かき棒を取り出した。

 え? 私に耳かきをしてくれるの?

 

「こうし…て……耳かき…をしていれ…ば……眠気…も促進……される……かも……」

 

 そう言うと、弥生ちゃんは徐に私の耳に耳かき棒を入れてきた。

 

「綺麗……にしてま…すね……」

「そ…そう……?」

 

 そう言われちゃうと、なんか照れちゃうわね……。

 

「んん……♡」

 

 気持ちいい……♡ 弥生ちゃんの耳かき……いいわぁ……。

 

「また姫様の耳かきが……」

「いいなぁ~……」

 

 さっきから気になってたけど、他にも弥生ちゃんに耳かきをして貰った子がいるの?

 なんか羨ましい……って! なんでそんな事を考えてるの!?

 

「どうで……すか…?」

「うん……上手ね……」

「それほどで…も……」

 

 ボソボソと聞こえる音に紛れて、弥生ちゃんの『ん…』とか『ここ……』とか聞こえる。

 この手付き、まるでお母さんみたい……。

 

(そっか……。弥生ちゃんって、母性に溢れてるんだ……)

 

 この暖かさは、誰にも真似出来ることじゃない。

 成る程な……。弥生ちゃんが皆に好かれる理由……なんとなく分かった気がする……。

 

「右……が終わった…から……今度…は……」

「ん……」

 

 右側の耳がスッキリした時点で、私はかなり眠くなっていた。

 弥生ちゃんに促されながら、私は体ごと動いて顔を逆向きにした。

 

「こっち……もそこま…で…汚れて…ない……」

 

 私も女の子ですもの。

 いくら忙しくても、手入れは怠ったりはしないわ。

 

「いきます……ね……」

 

 左耳にも耳かき棒が入って来て、あの気持ちよさが再びやってくる。

 

「外側…から……順に……」

 

 コリコリと音が聞こえ、それが段々と奥に近づいてくる。

 痛みは全く無く、なんと言えない気持ちよさだけが耳全体に広がる。

 

(これは……いいかも……)

 

 さっきまで段階的にきていた眠気が、ここにきて急激に襲ってきた。

 

「弥生ちゃん……私……」

「寝てもいい……ですよ……?」

「そう……させて貰うわね……」

 

 さっきまでは、少しでも寝たら最悪な悪夢を見てしまうと思っていたけど、今は……今だけは……きっと、最高の夢が見れそうな気がする……。

 

「おやす……み……」

 

 微睡に身を任せながら、私は弥生ちゃんの温もりに包まれながら目を閉じた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「あら?」

 

 暇潰しに書類整理をしていたら、急に静かになった。

 板垣さんがお嬢様を膝枕して耳かきをしていた筈なのに。

 

「す~……す~……」

 

 板垣さんの膝の上で、お嬢様が静かな寝息を立てていた。

 

「よかった……」

 

 あの映像を見てからこっち、お嬢様はずっと眠れないでいた。

 あんな凄惨な光景を、画面越しにとは言え目の当たりにすれば、誰だって眠れなくなって当然だ。

 事実、私だって昨日から碌に寝ていない。

 本音に心配を掛けさせないようにしてはいるが、それでもいつか限界は来る。

 

「ん?」

 

 よく見たら、板垣さんの隣にいる本音とボーデヴィッヒさんも、彼女に寄りかかるようにして眠っていた。

 

「うふふ……」

 

 そして、耳かきをしている本人もいつの間にか夢の中に入っている。

 その手に握られている耳かき棒は手から離れて、ソファーの上に零れ落ちた。

 

「こんな風に目の前で寝られると、こちらも眠たくなってしまうわね……」

 

 まさか、事態の中心にいる板垣さんにお嬢様が心を癒されるとは、なんだか皮肉ね……。

 

「さて……と」

 

 奥の部屋から四人分のブランケットを取ってきて、彼女達の体にかけておいた。

 

「お嬢様がいるから、ここは大丈夫でしょう……」

 

 猛烈な眠気に勝てなくなってきた私は、念の為に扉の鍵を閉めた状態で生徒会室を後にして、寮の部屋へと戻る事にした。

 

「よい夢を……」

 

 今ならば、私も悪夢を見る事だけはなさそうな気がする……。

 

 感謝します……弥生さん。

 

 因みに、生徒会室の扉は内側から鍵を開けられるので御安心を。 

 

 

 




これまで散々登場しておいて、やっと弥生と会話しました。

まさかの二回連続の耳かき回。

まぁ……私の趣味が爆発しただけなんですけどね。


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弥生ちゃんの添い寝ボイス(ラウラ編)

はい、ゴールデンウィーク最後の日をガッツリと休んで英気を養った私です。

似たようなタイトルが続きますが、つまりはそう言う事です。

あまり深く気にしたら負けです。











 まさか、生徒会室で寝落ちしてしまうとは……。

 我ながら情けないと言いますか……。

 

 楯無さんが辛そうに見えたから、少しでも癒し効果になればいいと思って耳かきをしてあげたんだけど、彼女の眠気に釣られて私まで眠ってしまった。

 しかも、私の隣ではラウラと本音まで一緒に寝ている始末。

 いつの間にか虚さんはいなくなっているし、結局、生徒会室にはソファーで眠っている私達だけが取り残された。

 

「不覚……。よもや、あのような形で眠ってしまうとは……」

 

 で、起きた頃にはもう外が暗くなりかけていたから、急いで部屋まで戻ってきたわけだけども……。

 

(まさか……ラウラが私と同じ部屋になっているとは……)

 

 いやね? この部屋にいつの間にかもう一台のベッドが運び込まれていた時点で、なんとなく想像はしていたんだよ?

 でもさ、希望的観測ってしたくなるもんじゃない?

 

 部屋に戻る前に偶然出会った山田先生曰く、『キチンとした部屋割りが完了するまでは、一時的にラウラを私と同じ部屋にしてほしい』…とのこと。

 

 ラウラがこっちに来ているって事は、シャルル君は一夏の部屋にいる訳か。

 でも、彼の部屋って隣だよね……?

 つまり、転入生が二人揃って同じ方角に来たのか……。

 

「少し遅れましたが、これから暫くの間、ご一緒させていただきます。どうか、よろしくお願いします! 姫様!」

「う…うん……よ…ろしく……」

 

 暫く……ね。

 それがどれだけの間、続くかは未定だけど。

 

「しかし、これで姫様の護衛もしやすくなります。姫様をお守りする為には、常日頃からご一緒するのが一番ですから」

 

 それはアレか? 私の前で堂々とストーカー宣言ですか?

 

(……同じストーカーでも、一夏よりかは遥かにマシか)

 

 いくら顔がよくても、向こうは男。

 私だって、付き纏われるなら、男よりもラウラみたいな美少女の方がずっといいに決まっている。

 

(にしても、ラウラの荷物……少ないな~)

 

 今、この部屋の中にあるラウラの荷物は、彼女が持ってきたキャリーケースに入っている物と、少し大きめなギターケースのような入れ物だけ。

 

「荷物…はそれだ…け……なの……?」

「はい。必要以上に荷物を持ってきて、いざという時に身動きが取れないなど論外ですから」

 

 あら、素敵な考えですこと。

 

「持って来たのは、学園から所持を許された幾つかの銃火器と、後は制服の予備と軍服……後は普段から使用しているノートパソコン等の機器ぐらいですね」

 

 うん。見事なまでに娯楽系の荷物が皆無です。

 それに、着替えが制服の予備と軍服って……私服は無いんかい。

 

(これは……私の想像以上の世間知らずかもしれない……)

 

 ラウラが来た事によって、私はヒッキーから苦労人に性格変更ですか?

 別に特殊な本なんて読んでませんけど?

 って言うか、それは本来、隣にいるシャルル君(仮)の役割なんじゃないんですかね?

 

「ところで、姫様はお食事はどうなされますか? 今からでは食堂も開いていないと思われますが……」

 

 その通り。

 窓から見える空はすっかり暗くなってきていて、この時間帯になると食堂は閉まってしまう。

 こればっかりは完全に私達の自業自得だから、誰も責める事は出来ないんだけど。

 

「適当……に作る……よ……」

「姫様は料理が出来るのですか?」

「一応……ね……」

 

 料理と言っても、殆ど我流なんだけどね。

 少しはネットや本とかで調べはしたけど、基本は自分の匙加減で作ってるかな?

 

「すぐに作る……から……ちょっと待って…て……ね…?」

「え? まさか、私の分も……?」

「う…ん……。一人分……も…二人分……も……作る量…は大して…違わない……から……」

「あ…ありがとうございます!」

 

 はい。いい返事いただきました。

 

 と言うか、ラウラの事だから、軍から支給された栄養補助食とか普通に夕食として食べそうなんだよね。

 そんなものを食べているのを横目に食事なんて出来ないでしょ。

 だったら、私の手で食事管理をすればいいだけの話。

 私がいる限りは、彼女にちゃんとした食事をさせますよ!

 

 さて……何を作ろうかな? エプロンエプロンっと……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「ごちそうさま……でし…た……」

「ご…ごちそうさまでした?」

 

 食事を終えて、ラウラが見よう見まねで私と同じように手を合わせる。

 

「実に美味でした……。姫様は勉強や指導能力があるだけでなく、料理も出来るのですね」

 

 お口に合ったようでなにより。

 私が作った夕飯は、ラウラに合わせてオムライスにした。

 彼女の好みが分からなかったから、万人受けするオムライスをチョイスしてみました。

 そうしたら、彼女は喜んで食べてくれた。

 私? 私は勿論、自分用に超巨大オムライスにしたけど?

 お蔭で買い込んでいた食料が一気に無くなってしまった。

 また機会を作って買いに行かないと。

 

「ん?」

 

 ラウラの口の周りにケチャップがついている。

 本人は気が付いていないようだ。

 

「じっと……して…て……」

「はい?」

 

 ティッシュを一枚取ってから、ラウラの口についたケチャップを拭っていく。

 

「す…すみません……」

 

 顔を真っ赤にして俯いてしまったラウラ。

 軍人として堂々たる立ち姿を見せていた彼女から一変、まるで年相応、いや…それ以下の少女のような表情を見せた。

 

(……あれ? この子ってこんなにも可愛かったっけ?)

 

 いや……ラウラが美少女なのは認めるけど、こんなあどけない顔って見た事が無いような気が……。

 

(もしかして、ラウラは私次第では原作のような暴力キャラから脱却出来るのでは?)

 

 ラウラは生まれた時から軍の中で育ってきたせいか、良くも悪くも世間を知らない。

 謂わば、彼女は真っ白なキャンパスのような存在なのだ。

 このまま原作のような道を歩めば、原作のような性格になるかもしれないが、ここで私の手によって少しでも普通の女の子のようにしていけば、あるいは……

 

(可能性はある……よね?)

 

 幸いな事に、なんでか彼女は私に凄く懐いてくれている。

 私も嫌な気分はしないし、特別な事をせずに今みたいな普通の生活を継続していければ……。

 

(よし! これはもうやるっきゃない!)

 

 上手く行けば、原作のようにセシリアと鈴に暴力を振るう事も無くなるかもしれない。

 今日見た感じでも、二人とは普通に話していたし。

 

(そうと決まれば、早速……)

 

 食べ終わった後のお皿洗いだ!

 え? 食事の後に片づけをするのは当然でしょ?

 考え事をして忘れかけていたけど。

 

「お皿……を洗ってい…る間……に……シャワー…を浴びてきていい……よ…」

「そ…そんな訳には! 皿ならば私が洗います! 姫様がお先にどうぞ!」

「ラウラ……は転入したて……で疲れている……でしょ…?」

「しかし……」

「いいか…ら……ね?」

 

 彼女の頭を少しだけナデナデしてあげると、ラウラは観念したのか、大人しく荷物の中からタオルなどを取り出してシャワーへと向かった。

 

 ラウラがシャワーを浴びている間に、パパッと終わらせますか。

 

 ……あれ? そう言えばあの子……着替えはちゃんと持っていったよね?

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 ここ最近で割とマジで慌てた。

 だって、シャワーから戻ってきたラウラが一糸纏わぬ姿になって出てきたから。

 本人的にはOKなのかもしれないが、日本では…と言うか、どこの国でも普通はアウトだよ!

 だから、私は急いで彼女に私の持っている服を適当に着させた。

 

「夕飯を作って頂いただけでなく服まで……。姫様にはお世話になってばかりで申し訳ございません……」

「き…気にしない……で……」

 

 善意と言うよりは、私が普通に耐えられなかっただけだから。

 いくら同性とは言え、越えてはいけない一線ぐらいは弁えているつもりだよ?

 寧ろ、同性だからこそ超えてはいけないと言いますか……。

 

 因みに、彼女に渡したのは【タ○リの音楽は世界だ】と書かれた白いTシャツ。

 どこで手に入れたかは……忘れた。

 流石に下着は履かせたから、今のラウラはTシャツと下着だけという、世の男子を欲情させるような格好になっている。 

 

「次……は私…が行ってくる……ね?」

「はい。ごゆっくりどうぞ」

 

 別にこんな時まで敬礼をしなくてもいいのよ?

 

 ラウラがいるから、シャワーを浴びた後も腕袋や靴下とかを忘れないようにつけないとな。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 姫様がシャワーを浴びている間、私はベッドに座って今日の事を振り返っていた。

 

(まだ初日だと言うのに、色々な事があったな……)

 

 忌々しいと思っているあの男を見つけた矢先に、姫様の姿を発見して、すぐさま挨拶に行った。

 あの方は驚いていらしたが、無理も無いだろう。

 しかし、護衛の任を受けた以上は、必ずやり遂げる!

 それがドイツ軍人としての生き様だ!

 

 資料にもある通り、姫様は間違いなく、この国における重要な位置におられる人物。

 故に、私が姫様の事をなんとしてもお守りしなくては!

 

 姫様は単純に上流階級に属する人物であるだけでなく、様々な才能にも溢れている人だった。

 午前の実習で見せた教練の上手さ。

 食事の時も気を抜かずに大量にエネルギーを補給し、あの男にすら優しさを見せる広い心。

 そして、放課後に生徒会室で見せた義理堅さ。

 トドメに、先程の調理スキル。

 

 ……どれも、私には致命的に欠けているものばかりだ。

 

 更には、姫様は非常に多くの交友関係を持っていた。

 いや……あの方ほどの人物となれば、あれぐらいは当然かもしれないな。

 あの人ぐらいなものだろう。各国の代表候補生達とああも親しくなれるのは。

 昼食時も、あの男も一緒にいたと言うのに、姫様がいただけで不快さが消えていた。

 それどころか、いつの間にかアイツの事を頭の中から忘れていたほどだ。

 

「なんなんだろうな……これは……」

 

 姫様と一緒にいると、不思議と胸がポカポカしてくる。

 この服を着させてもらった時や、頭を撫でて貰った時は、何故か本当に嬉しかった。

 こんな気持ちは今まで感じた事が無い。

 教官にすら抱いた事のない気持ちだ。

 

「けど……不快じゃないな……」

 

 寧ろ、心地がいいと言うか……。

 クラリッサなら、この感情がなんなのか知っているのだろうか?

 

「ふぅ……」

 

 私が物思いに耽っている間に、姫様がシャワーから戻ってこられた。

 姫様は青いジャージを上下に着て、タオルで頭を拭きながら出てきた。

 よく見たら、その手にはシャワーを浴びる前と同じ腕袋が装着されていて、それは足も同様だった。

 首元までジャージのチャックが閉められているから、事情は知らないが、姫様は人前にあまり肌を晒す事を好まないようだ。

 そういえば、ISスーツも肌を露出しない全身を覆うタイプだったな。

 

 タオルで長い髪を纏めながら、姫様がこっちに寄って来た。

 

「髪……は乾かし…た…?」

「あ……」

 

 そう言えばまだだった。

 考え事に夢中ですっかり忘れていたな。

 

「後ろ……向い…て……」

「は…はい……」

 

 言われた通りに後ろを向くと、なにやら温かな風が吹いてきた。

 

「ジッとしてて……ね……」

 

 ドライヤーで私の髪を乾かしてくれているのか……。

 また胸がポカポカしてきた……。

 本当になんなのだ? これは……。

 

 暫くして、すっかり乾いた私の髪を数回触って『よし』と呟いた後、今度はタオルを外して自分の髪を乾かし始める。

 い…いや、ちょっと待て! 私だけが乾かして貰って、姫様に何もしないなんて有り得んぞ!

 

「ひ…姫様! 姫様の髪は私が乾かします!」

「え……?」

「大丈夫です! お任せください!」

「ん……」

 

 姫様は黙って私にドライヤーを手渡してくれた。

 これは、私の事を信じてくれたと言う事か……。

 ならば、絶対にヘマだけは出来ない!

 

 恐る恐るドライヤーのスイッチを入れて、姫様の髪を触りながら乾かしていく。

 

(なんて触り心地がいい髪なんだ……)

 

 濡れているせいもあるのか、姫様の黒曜石のように黒光りする髪は、部屋の灯りに美しく反射していて、その肌触りはスベスベで素晴らしかった。

 

 貴重な芸術作品を扱うように、慎重に髪を乾かしていく。

 私の乾かし方に何か不備は無いだろうか……。

 今はそれだけが心配だ。

 

「……………」

 

 姫様は気持ちよさそうに目を閉じたままで微笑を浮かべていた。

 なにも問題は無い……と見てよさそうだ。

 

「お…終わった……」

 

 初めての事だったので、かなりの時間が掛かってしまったが、それでもどうにかして姫様の髪を乾かす事に成功した。

 ここまで緊張したミッションは久し振りだ……。

 私がドライヤーを使っている間、姫様は何も言わずにずっと私に体を預けてくれた。

 それが何故か嬉しくて仕方が無かった。

 

「ありが…とう……ね……」

 

 美しく微笑みながら、また私の頭を撫でてくれた。

 今度はポカポカだけでなくドキドキもした。

 おかしいな……。なんだか顔が熱いぞ……。

 

「少…し早い……けど……今日…は疲れた……から……もう休もう……か……」

 

 そう言われて時計を見てみると、もう21時を回っていた。

 

「了解しました」

 

 流石は姫様。

 早寝早起きは生活の基本だからな。

 教官もいつもそう仰っていた。

 

 だが……なんでだろうな……。

 もっと姫様のお側にいたいな……。

 

「あ…あの! 不敬を承知でお願いしたい事があります!」

「ん……? どうし…た…の…?」

「そ…その……」

 

 どうした私! しっかりしろ! 一言言えばいいだけじゃないか! 簡単な事だ!

 

「い……」

「い?」

「私も姫様とご一緒に寝てもいいでしょうか!?」

 

 言った……言ってしまった……!

 なんて答えられるだろうか……。

 やっぱりダメ……かな……。

 

「ふふ……」

「姫様?」

 

 姫様が微笑みながら私を手招きししている。と言う事は……。

 

「いいよ……。一緒……に寝よう……?」

「………! はい!」

 

 嬉しくなった私は、早足で姫様のベットまで向かって、そのまま彼女が入っているシーツの中へと潜り込んだ。

 これが姫様の温もりか……。

 

「電気……消す…ね……?」

「はい」

 

 リモコンを使って姫様が室内の灯りを消す。

 途端に部屋が真っ暗になるが、それでも姫様の温もりは消えていない。

 

「おやすみ……」

「おやすみさない……姫様……」

 

 お互いに向き合うように寝て、暗闇の中で姫様はそっと目を閉じた。

 普段から夜目に慣れているお蔭か、この暗さの中でも姫様の顔がよく見える。

 

 少しして、姫様から穏やかな寝息が聞こえてきた頃を見計らって、私は思い切って姫様の体に静かに抱き着いた。

 

(最高の温もりだ……♡)

 

 生徒会室でも寝たと言うのに、こうして姫様の事を直に感じているだけで、瞬く間に二度目の眠気がやってくる。

 その本能に逆らおうとせず、己の睡眠欲に意識を委ねた。

 

 今日は……いい夢を見れそうだ……。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 ラウラが抱き着いてきた直後。

 実は弥生はまだ起きてきて、いきなりの事に心の中で驚いていた。

 

(う…うわぁ~……。え? なに? マジでこの子が可愛いんですけど?)

 

 ラウラの純粋無垢な寝顔に、心臓をバクバクさせていた。

 

(もしかして私は、本音に簪、山田先生に続く第4の癒し系キャラに出会ったのかもしれない……)

 

 まさか、原作第一期のヒロインの一人に癒される日が来るとは、流石の弥生も完全に想定外。

 

 そっと弥生の方からもラウラの事を抱きしめて、お互いの温もりを肌で感じながら、深い眠りへと落ちていく。

 

 抱き合いながら眠る弥生とラウラは、まるで本当の姉妹のように仲睦まじく見えた。

 

 

   




まさか、部屋での出来事だけで一話を丸々使う羽目になるとは……。

これこそ完全に想定外です。

でも、今回の話は今までで一番の癒し回だったような気がします。

これを読んで、少しでも読者の皆様も癒されてくれたら幸いです。


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舞台裏の役者達

少し本筋からズレますが、今回の話はある意味で欠かせないと判断した為、ここで書かせて貰います。

本当は、前回の話の最後にちょこちょこっと書こうと思ってたんですけどね……。

なんでか書いている内にキャラが勝手に動き出して、気が付けばまたいつのも悪い癖が出てしまって……。





 更識家屋敷 夜

 宵闇と静寂に包まれている屋敷内に、一際大きな男の声が聞こえてくる。

 

「先代様!! 先代様!! 大変でございます!!」

「どうした?」

 

 黒服を着た声の主は、急いだ様子で楯無の父親である先代楯無がいる部屋へと入ってきた。

 

「はぁ……はぁ……あ…あの連中が……」

「何があったのかは知らんが、まずは落ち着け」

「は…はい……」

 

 数回の深呼吸の後、男は汗を垂らしながら静かに報告した。

 

「先代様……。我々が拘束していた例の映像を撮影していた連中が、何者かによって拉致されました……」

「なんだと!?」

 

 普段は冷静沈着を地で行く先代が、目を見開くほどに驚いた。

 

「……一体何処の馬鹿がそんな事をした? あそこは我らの中でも特に手練れの連中を警備として回していた筈だが……」

「それが……」

 

 黒服は少しだけ言い淀んでから、素直に話し出す。

 

「襲ってきたのは……ISです」

「ISだと……!?」

 

 予想外の襲撃者の正体に、驚きばかりが続く。

 

「どこの機体だ?」

「漆黒の体躯に異常なまでの腕の長さ……。機体の特徴が一致している事から、以前にIS学園を襲撃したと言う例の無人機の同型機だと思われます……」

「無人機か……!」

 

 無人の機体ならば、仮に捕える事に成功したとしても、口を割らせることは不可能。

 機体の解析ぐらいならば出来るかもしれないが、そう簡単に出処を分からせるとは到底思えない。

 

「分かった……。で? 怪我人などはいるのか?」

「いえ……それが、ISはこちらには殆ど見向きもせずに、施設だけを破壊して連中を捕縛、そのまま逃走をしました。僅かに軽傷者がいますが、それだけです。少なくとも、死傷者は誰一人もいません」

「不幸中の幸い……か」

 

 ISに襲撃を受けて誰も死なずに済んだ。

 普通ならば『運がよかった』とか『奇跡的』と喜ぶところだが、先代はそんなにも楽観的な性格はしていなかった。

 

(間違いなく、襲撃者の目的は連中の拉致だけ。それ以外の事は眼中にすらなかったと見るべきだ。しかし、それだけの事を易々とやってのける奴とは…一体何処のどいつだ……?)

 

 現役時代の眼力を見せて思案し始める先代に、黒服がある物を差出した。

 

「それと、現場にはこんな物が落ちていました」

「なんだこれは……兎?」

 

 黒服が見せたのは、黒いカードに白い兎が書かれた物だった。

 

「この事はお嬢様には……」

「いや。報告はしなくてもいい」

「よろしいのですか?」

「構わん。そもそも、アイツはこちらが連中を確保していた事すら知らないんだ。ならば、黙っていた方が賢明だろう。他の連中にも箝口令を出しておけ。いいな?」

「しょ…承知しました。では、失礼します……」

 

 丁寧なお辞儀をした後、黒服は静かに部屋を退出していった。

 

「例の無人機の同型に兎の書かれたカード……。まさかな……」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「よしよし……作戦大成功! 流石は束さん! ブイ!」

 

 篠ノ之束の移動式ラボ。

 その研究室にて、束が一人で飛び跳ねながら作戦の成功を喜んでいた。

 

「や~っとゴーレムが役に立ったよ~。どこかの無粋な馬鹿がレプリカなんか作ったせいで、活躍の場が無くなっちゃからね~」

 

 彼女の背後では、まるで守護者のように無人機『ゴーレム』が鎮座していて、その真紅のカメラアイが怪しく暗闇の中で光っていた。

 

「束さま」

「お? お疲れ様~クーちゃん」

 

 奥の方から銀髪の髪を持つ幼さを醸し出す、束が『クーちゃん』と呼んだ少女である『クロエ・クロニクル』がやって来た。

 

「あの蛆虫共はちゃんと飛ばした?」

「はい。束さまの言いつけ通りに、あの連中は段ボール箱に詰め込んでから、束さまが暇潰しで製作なされた使い捨ての片道限定のロケットにて、各国に点在している様々な違法研究所に送りました。勿論、『実験台としてどうぞ』と書いたメモと一緒に」

「お~! よくできました~!」

 

 嬉しさを全身で表現しながら、クロエの頭を撫でまくる。

 

「飛ばされる寸前、あの男達は泣きながら何回も『助けて』と訴えてきましたが、それを聞く道理は全く無い為、無視しておきました」

「それが正解だよ。あいつ等は人命を無視どころか、自分達の性欲の発散させる道具ぐらいにしか思ってないからね」

 

 笑顔でそう言う束だったが、その心の中はマグマのように憤怒に染まっていた。

 

「それならば、殺した方がよかったのでは?」

「ノンノン。クーちゃんは分かってないね~」

「……? どういう意味ですか?」

 

 疑問符を頭に浮かべながら小首を傾げるクロエ。

 それを見て、自分の指を指揮棒のように振るいながら説明をする。

 

「あ~んな糞虫連中の血で自分達の手を汚すなんて絶対に嫌じゃん。それに、あいつ等には死なんて生温すぎるよ。連中は私の大事なやっちゃんに人として最低最悪の事をしたんだよ? だったら、同じような目に遭わせないと気が済まないじゃん」

 

 嬉々として話す束の目にはハイライトが無く、完全に狂気が宿っていた。

 その目を見て、少しだけ束が恐ろしくなったクロエ。

 

「そう……ですね。あのような輩には、もはや人権など必要ないでしょう。この世に生を受けた事を後悔しながら、永遠に生き地獄を味わったほうがよろしいかと」

「うんうん! クーちゃんも分かってきたじゃない! えらいぞ~!」

 

 本当は分かった振りをしているだけなのだが、それも時間の問題かもしれない。

 

「早くやっちゃんに会いに行きたいな~。箒ちゃんに負けず劣らずの美少女だし、オッパイも大きいし……グヘヘ~……」

「束さま。顔が思いっきりド変態です」

「だってだってだって~! ここのモニターで見る限りじゃ、やっちゃんの女子力と言うか母親力って半端ないよ? もしも、やっちゃんのお胸にフワッ…って抱きしめられたら、私でも思わず『お母さん』って呟いちゃうかも」

「それはちょっと大袈裟じゃ……」

「そんな事無いって。クーちゃんもきっとやっちゃんの母親力の虜になっちゃうから」

「そうでしょうか……?」

 

 クロエから見ても、確かに件の少女…やっちゃんこと弥生は魅力的な少女だが、束のほめ言葉は過剰な気がした。

 

(いずれにせよ、直に遭えば分かる事ですか……)

 

 束とクロエが弥生と出会う日は何時になるのか。

 それは誰にも分からない。

 

 因みに、クロエによって放り出された『糞虫達』は、二人の思惑通りに違法研究所に掴まり、そのまま未来永劫、実験動物として生きることとなった。

 これから先、彼らは死ぬことすらも許されず、人の姿を失い脳髄だけになっても猶、永遠に人体実験に使用され続けるだろう。

 永遠に……永遠に……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「………………」

 

 机の上にあるパソコンのディスプレイから漏れる光だけが室内を照らし出す。

 褐色肌の少女はショーツだけを穿いた格好で椅子に座り、マウスを動かしながらボ~っとしていた。

 その後ろでは、彼女が『姉』と呼んでいた黒髪の美女がベッドの中で横になり、寝息を立てている。

 

「おや?」

 

 突如、パソコンにメールが来た。

 

「これは……諜報部? もしかして、前に依頼していた例の少女の事が分かったのでしょうか……」

 

 メールに添付されていたファイルを開くと、そこには彼女が望んでいるデータが表示されていた。

 

「流石は諜報部。仕事が早い」

 

 机の引き出しの中から棒付きキャンディーを取り出して、口に咥えて、画面を下へとスクロールさせていく。

 

「名前はヤヨイ・イタガキ。なんとなく予想はしていましたが、やっぱりジャパニーズでしたか」

 

 目を動かしながら、画面に映し出される情報を一字一句漏らさずに読んでいく。

 

「現在はIS学園の一年一組に在籍。ほぅ……? 担任はチフユ・オリムラ……ブリュンヒルデですか。これはまた……」

 

 キャンディーを舐めながらマウスを動かしていく。

 

「同じクラスにはイギリスの代表候補生に天災兎の実妹、更には噂に聞く男性操縦者君も一緒……と。最近になってフランスとドイツからも転入生が……。ドイツの方は例の黒兎部隊の隊長が……。これは別に問題は無いですが、フランスの方は……」

 

 マウスをクリックして、シャルルの情報を画面全体に表示する。

 

「どっからどう見ても女でしょう……。こんなお粗末な男装でどうにかなると本気で思っているのならば、私はデュノア社の社長に脳を検査した後に即座に入院を勧めますね」

 

 思わずジト目になる少女。

 彼女がそうなるのも無理は無いが、先程までのシリアスが一時的にどこかに去ってしまった。

 

「っと、今はこんなバカの事はどうでもよかったんだった。どうせ、遅かれ早かれバレるでしょうし。どうなったとしても私には関係無いですから」

 

 確かにその通り。

 画面を元に戻してから、スクロールを再開する。

 

「なんと……。どこかで聞いた名だと思ったら、彼女は彼の娘でしたか。いや……よく見たら養女でしたね。しかし、血の繋がりは無くても娘は娘。重要人物である事には違いない」

 

 更に下へと進んでいくと、そこで彼女が無表情になった。

 

「……成る程。納得しました。この情報が確かならば、彼女が姉さまの攻撃を砕いた事も頷ける」

 

 咥えていたキャンディーを無意識の内に噛み砕く。

 破片が膝や机の上に落ちて、少しだけ散らかった。

 

「ヤヨイ・イタガキ……。これが貴女の『正体』ならば、間違いなく彼女こそが我々の最大の障害になる確率が高い。それに……」

 

 最後に咥えていた棒も、口から吐き出してゴミ箱へと直行させる。

 

「裏切り者の『雨』と『秋』もきっと近いうちに動き出すでしょうね。一応、私達は彼女達の粛清も命じられていますが、そんなのは二の次です」

 

 一番下まで画面を動かして、彼女の顔が怪しい笑顔に変わる。

 

「専用機の情報までは探れませんでしたか。ま、見ただけでなんとなく分かるからいいんですけど。それよりも……」

 

 まるで得物を見つけた獣のように目を細めて、ペロリと舌なめずりをする。

 

「どうやら、面白い経歴(・・・・・)の持ち主のようですし……。これはいいカードを手に入れましたね……」

 

 『姉さま』が寝返りをうち、それを見て彼女が微笑んだ。

 

「少し気分を変えましょうか。念の為にデータをコピーして……っと」

 

 パソコンにUSBを挿し込んでからデータのコピーを開始する。

 それを見届けてから、彼女は裸になって姉が寝ているベッドに潜り込んだ。

 

 パソコンが静かに動く中、二人の女性の艶めかしい喘ぎ声が室内に響いていた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 都内某所にあるビジネスホテル。

 その一角にある部屋にて、二人の女性が話し合っていた。

 

「その情報は確かなのか? スコール」

「間違いないわ。信用出来る情報屋から教えて貰ったから」

 

 バスローブを着た金髪の見目麗しい女性『スコール』が真剣な顔で対面している女性の顔を見る。

 

「『あの子』がずっと探していた『彼女』はIS学園に在籍している」

「その担任が千冬とはな……。皮肉っつーかなんつーか……」

「気持ちは分かるけど、言っちゃ駄目よ。オータム」

「わーってるって」

 

 スコールに『オータム』と呼ばれた女性は、苦笑いを浮かべながら手をひらひらさせた。

 

「いつ動く? 出来れば早い方がいいと思うけど……」

「慌てちゃ駄目よ。下手に行動すれば、間違いなくアイツ等も動き出す」

「……だな。連中は裏切り者であるアタシ等を殺す事に躍起になってるからな」

 

 手に握っていた缶ビールをグイッと一気飲みして缶を握りつぶすオータム。

 そのまま潰れた缶はゴミ箱へとポ~イ。

 

「おし! ……で、アイツにも知らせるのか?」

「一応ね。言わなかったら、絶対に後で面倒くさい事になると思うから」

「……だな」

 

 今度はテーブルの上にある煙草の箱を手に取ってから、一本だけ取り出して火をつける。

 

「プハ~……。アタシ等の後任って……」

「『R』と『A』の二人らしいわ」

「あのレズ姉妹か」

「レズの部分に関しては、私達もあまり人の事は言えないけどね……」

 

 この二人も立派なレズビアンだった。

 

「けど、近いうちに接触する必要はあると思う。そうしないと五月蠅そうだし」

「同感」

 

 煙草を口から出して灰皿に押し付ける。

 

「けどよ、そうすれば確実に連中も動き出すんじゃねぇか?」

「かもね。その時は私達で迎撃すればいいだけじゃない?」

「簡単に言うなよ……」

 

 げんなりしながら缶ビールをもう一本取ってからプルタブを開ける。

 

「タイミングを計る必要はあるでしょうね。念の為に『レイン』に連絡して『あの子』と接触して護衛みたいなことをさせておこうかしら?」

「それがいいかもな。仮にもアメリカの代表候補生なんだし、それぐらいは楽勝だろ」

「IS学園の3年生でもあるしね。……普通に可愛い後輩として食べちゃう可能性もあるけど……」

「アイツもそれぐらいの分別はある……と信じたい」

「そのセリフだけで、貴女がレインの事を普段からどう思っているのかが丸分りよ」

「本人には言うなよ?」

「はいはい」

 

 そこからは、普通に雑談をしながら二人っきりの時間を楽しんだ。

 この穏やかな時間が、逆にこれから起こる出来事の前触れである事を、この時の二人は知る由も無かった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 IS学園を遠くから見渡せる高台。

 そこに、美しい金髪を風に靡かせながら佇んでいる一人の『吟遊詩人』がいた。

 

「今はまだ……『その時』じゃない。ですが、時が来ればいずれは……」

 

 ポロン……と竪琴を奏でて、空を見上げる。

 

「少女達よ。今だけは一時の日常を楽しんで、その心の中に沢山の『幸せ』を溜めこんでください。いずれ来る『その時』に備えて……心が折れてしまわないように……そして……」

 

 踵を返し、吟遊詩人が歩き出す。

 その顔にはどこか決意が満ちていた。

 

「必ずや貴女達の事を止めてみせる。間違った道を歩む『妹達』を止めるのは……『姉』として当然の義務ですから……」

 

 彼女の穏やかな顔からは想像も出来ない程に真剣な顔。

 

 こうして、彼女達が知らない所でも、舞台は止まることなく進んでいく。

 この世界の行く末は……誰にも分からない。

 例え……『神』であったとしても……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




取り敢えず、書きたい事は書けました~……。

弥生達が普通に暮らしている間も、世界は回っていく。

その中心にいるのは……?


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僕だって頑張ってるんだよ~?

今回は、話題の転入生であるにも拘らず、ストーリーの都合上、どうしても出番が少なくなってしまった『あの人物』にスポットを当てたいと思います。

そして、弥生のイメージCVですが、私の中で色々と考えた結果……

『能登麻美子』さんに決定しました~! パチパチパチ~!

頭の中で弥生が声付きで話している姿を想像したら、何故か能登さんの声が自然再生されたんですよね~。

他のオリキャラに関してもイメージCVは決まっているので、プロフィールを書く時などに紹介したいと思います。






 僕が転入して来て、もう五日が経過して、今は土曜日の放課後。

 日本では週休二日制とやらになっている筈なんだけど、このIS学園だけは例外みたいで、土曜日も普通に授業がある。

 と言っても、授業があるのは午前だけで、午後からは基本的に自由な時間となっている。

 自由なんて、僕には最も縁遠い言葉だけどね……。

 

「つまりね、一夏がオルコットさんや凰さんに勝つことが出来ないのは、シンプルに射撃武器の特性をちゃんと把握してない事にあると思うんだよ」

「それ、前に弥生にも言われた事があるな~…。俺的にはきちんと理解しているつもりなんだけど……」

 

 自由と言っても、このIS学園では、殆どの生徒達がこの時間を実習に当てている。

 下級生、上級生に関わらず、実習を重ねて少しでも腕を向上させることは大切だしね。

 

「『つもり』じゃダメだよ。上辺だけ知っていても意味無いよ? 実際、さっき僕とやった模擬戦じゃ、殆どと言っていい程に間合いを詰められなかったでしょ?」

「ハイ……ソノトウリデス……」

 

 一応、念の為に彼の実力を測る為に模擬戦を行ってみたが、結果は僕の圧勝。

 いくら近接武器だけしか装備していないとは言え、一夏の専用機である『白式』の圧倒的な機動力と運動性があれば、いかようにも攻めることが出来たと思うんだけどなぁ~……。

 

「こう言っちゃなんだけどさ、僕が攻撃している最中に真正面から突っ込むのはどうかと思うよ?」

「んなこと言っても……。まだ上手く機体を操れないし、瞬時加速の成功率もまだまだ伸びないしな……」

「ん?」

 

 あれ? ちょっと待ってよ……?

 

「ね…ねぇ……そこにいる皆さん?」

「なによ?」

「なんですの?」

「なんだ?」

 

 ある意味で最も有り得ない事を、僕は後ろで見ている三人に向かって聞いてみた。

 

「もしかしてさ……一夏って、専用機を受理する前に訓練機を使った実機訓練とか一度もしなかったの?」

「「「あ」」」

 

 ちょっと!? その顔を見ただけで分かっちゃうんですけど!?

 

「あの頃は訓練機も今みたいに使用出来なかったしな」

「一応、弥生さんに言われて体力トレーニングぐらいはしていたみたいですけど……」

「ぶっちゃけ、アイツが訓練機で練習している姿なんて、一度も目撃してないわね」

「やっぱり!?」

 

 そうハッキリと言われると、流石に驚くよ!?

 

「え…えっと……訓練機で練習しとかないとヤバいのか……?」

「ヤバいって言うか……」

 

 この場合、なんて説明すればいいのかな……?

 

「え~っと……。今の一夏は、運転免許を取得してすぐにF-1を運転しているようなもの……って言えば分かるかな?」

「え? マジで?」

「うん」

 

 よかった……理解してくれた。

 ちょっと幼稚な説明かもって思ったけど。

 

「あ…あのさ……鈴やセシリアも専用機の前は訓練機を使って特訓とかしてたのか?」

「「当然」」

「デスヨネ~」

 

 そりゃそうでしょ。

 僕だってそうしてたし。

 

「訓練機でISの操縦に関する基礎的な事を全てマスターして、そこから実力を認められた一握りの人間に専用機が特別に与えられるんだよ」

「うぐ……! そう言われると、途端に罪悪感が……」

「で…でも、一夏のソレは、名目上はデータ取得の為に貸し与えられてるんでしょ?」

「そうだとしても……な……」

 

 一夏の顔色が一気に悪くなった。

 なんでかお腹も押えてるし。

 

「けど……一夏って板垣さんから色々と教わってたんだね」

「ま…まぁな……。弥生からは本当に沢山の事を教わってるよ。あの子がいなかったら、今頃は授業にすらついていけなかったと思う……」

「そこまで言うんだ……」

 

 確か、板垣さんって学年次席になる程に優秀で、学園内でも密かに人気があるって聞いてるけど。

 

「その板垣さんは今日も来てないんだね?」

「弥生はあまりこう言った訓練には参加しないわよ」

「運動は得意な方じゃないらしいからな。かと言って、決して訓練を怠っているわけじゃないが……」

「時折、ジャージを着てトレーニングルームで運動をしている姿を見かけますわ」

 

 僕の『目的』の一つに、板垣さんと接触して交友関係を持つ事があるけど、今のところは全くと言っていい程に接点が無い。

 同じクラスだから、幾らでも話しかける機会はあると思っていたけど、今の彼女には僕と同じ時期に転入してきたドイツの子がいつもピッタリとくっついてるし、なんでかすれ違う事が多い。

 一緒に行動する事があっても、その時に限って他の皆も一緒にいるから、どうしても板垣さんと二人っきりで話す事が叶わないし。

 

「今日は確か、簪さんや本音さん、ラウラさんと一緒に格納庫に向かってましたわ」

「弥生の専用機もかなり特殊だものね。大方、簪や本音に整備の仕方でも教わってるんじゃない?」

「ラウラはその付き添いだろう。最近では完全に弥生に懐いて、後ろからチョコチョコとついていくのが日常風景と化しているからな」

 

 同じ転入生なのに、どうしてこうも違いが出るのかな……?

 あの子は板垣さん経由ですっかりクラスにも馴染んでいるし……。

 一方の僕は、遠目から色んな人が見ていたり、物珍しげに話しかけてくる人が大多数。

 いや……こんな格好(・・・・・)をしていれば当然か……。

 

「え…えっと……なんか話が逸れちゃったね」

 

 そこからは、一夏の白式の事(後付武装が無い事や、単一使用能力の事)を聞いて、使用許可を出した僕のアサルトライフルを使っての射撃訓練を実際にやってみた。

 どうやら、白式には本来ある筈のセンサーリンクが存在していないみたいで、徹底的に近接戦だけを考えて造られた事が窺えた。

 一夏の射撃の腕はお世辞にもいいとは言えなくて、止まっている的にすら当てるのに一苦労していた。

 

 因みに、単一使用能力の事は既に板垣さんから教わっていたみたいで、僕が聞いた時はスラスラと答えてくれた。

 板垣さんは一体どんな風に勉強を教えたんだろう……?

 

「そう言えば、板垣さんの実力ってどれぐらいなの? 仮にも専用機を持っているって事は、それなりの腕は持っているって事だよね?」

 

 これは『目的』云々に関係無く、僕の純粋な興味だ。

 あの大人しそうな彼女に、どれだけの実力が秘められているのか。

 僕だって代表候補生の端くれだ。

 他の専用機持ちの実力を知りたいって気持ちぐらいはある。

 

「弥生の実力か……」

「弥生さんが試合をしている場面は一度も見た事がありませんわね……」

「あの弥生が武器を持って戦っている姿なんて、あまり想像出来ないけどね」

「あ、それは俺も思った。弥生には武器よりも、なんつーのかな~……生け花とか似合いそうな気がする」

「「「それ同感」」」

 

 三人が同時に頷いたし……。

 そっか~……誰も彼女の実力を知らないのか~……。

 ちょっとだけ残念かも。

 

 それから、マガジンの中にある全部の弾を使い切るまで一夏に射撃をさせてあげた。

 その後で少しだけ僕の専用機である『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』について説明をした。

 

「おい。貴様等」

「「「「「ん?」」」」」

 

 いきなり上から声が? 

 

「あ…アイツは……」

 

 よく見ると、ピットからボーデヴィッヒさんが制服姿で顔を覗かせていた。

 

「いつまでもそうしていていいのか?」

「ど…どういう意味だよ?」

 

 なんだかピリピリとした空気になってきたな……。

 

「周囲を見ても分からないのか?」

「は?」

 

 あ…あれ? さっきまで僕等と同じように訓練をしていた子達がいなくなっている?

 

「もうすぐアリーナの使用時間が終わるぞ? 早く撤収準備を開始しろ」

「「「「「ああ!!」」」」」

 

 完全に忘れてた!! 僕としたことが……!

 

「あまり姫様達を待たせるなよ」

 

 そう言うと、ボーデヴィッヒさんはピットの中へと引っ込んでいった。

 

「姫様と言う事は……弥生も来ているのか!?」

「い…急ぎましょう! 弥生さんをお待たせするなんて論外ですわ!」

「ほら! アンタ等も急ぎなさい!」

「「は…はい!」」

 

 なんでか、今の彼女達に逆らってはいけないような気がする!

 僕等は急いで準備をして、ピットへと急いだ。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 ピットから更衣室へと入っていくと、そこには人数分のタオルとスポーツドリンクを持ってきていた板垣さんと更識さん、布仏さんとさっきのボーデヴィッヒさんがいた。

 

「お…疲れ……さま……」

「皆の分のタオルとスポドリを持って来たよ~!」

「ちゃんと適度な温度にしてあるから」

 

 気が利いてるな~。

 

「さっすがはアタシの弥生! 気が利いてるわね~!」

 

 あ、同じ事を言われちゃった。

 

「勿論、皆さんにも感謝してますわ。ありがとうございます」

 

 で、ここでオルコットさんがさりげなくフォローを入れるっと。

 

「タオルもスポドリも、姫様が態々ご用意してくださったのだ。有り難く使えよ。特に織斑一夏」

「なんで俺だけ名指しなんだよ……」

「ははは……」

 

 理由は不明だけど、一夏って彼女に目の敵にされてるよね。

 露骨な敵対意識は持たれてはいないっぽいけど、かと言って親しい訳でもない。

 毛嫌いしているって言えばいいのかな?

 

「あ……」

 

 このタオル……すっごくフワフワでいい匂いがする……。

 

「あ~! 生き返るわ~!」

「本当だな。弥生が用意してくれたと思うと、猶の事そう感じる」

「このタオル……頂いてもよろしいかしら……?」

 

 なんでオルコットさんはタオルに顔を当てながら真っ赤になってるの?

 

「さて……と。汗も拭いて水分補給も済んだ事だし、早く着替えましょうか?」

「それがいいな。ならば、我々は向こうの更衣室に行くとしよう」

 

 き…着替えか……。

 なんでか一夏って僕と一緒に着替えたがるんだよね……。

 しかも、部屋でもだらしなく上半身裸の状態でシャワーから出てくるし……。

 本当に心臓に悪いんだよ~……。

 

「んじゃ、俺等も着替えようぜ」

「えっと……僕はあっちのロッカーで着替えるよ……」

「え~? なんでだよ? 一緒に着替えようぜ~?」

 

 またこれだよ……。

 ちょっとは僕の身にもなってよ!

 

「一夏……」

「弥生?」

 

 板垣さん?

 

「男……の人…でも……肌を見られる……のが嫌…な人もいる……から……無理強い…はよくない……よ…?」

「その通りですわ。全くこの男は……」

 

 ナイスフォロー!

 うぅ……板垣さんって本当に気遣いが出来ていい子だなぁ~……。

 よく見れば見た目も可愛いし、凄く魅力的な女の子だよね……。

 例え命令されなくても、この子とは普通に友達になりたいよ。

 

「で…でも……」

「まだ言うか、お前は」

 

 まだ食い下がるの?

 一夏もしつこくない?

 

「日本……とフランス……とでは…文化の違い……もあるし……誰にだって事情……がある…んだよ……?」

「や…弥生にそこまで言われたら、何も言えないな……」

 

 やっとか……。

 

「貴様はあれだな。『デリバリー』が足りないな」

 

 デリバリー? 何を言ってるの?

 

「ラウラウ~。それを言うなら『デリバリー』じゃなくって『デリカシー』じゃない?」

「そう! それが足りんのだ!」

「ちゃんと分かってる?」

 

 ボーデヴィッヒさん……完全な天然キャラだ。

 そして、板垣さんとセットになってる姿に違和感が無い……。

 

「なんか悪かったな、シャルル。しつこくてさ」

「べ…別に気にしてないよ」

 

 本当は凄く気にしてます。

 これからはもう少し自重してくれると助かるな……。

 

「それじゃあ、僕はあっちに行くから」

「おう」

 

 板垣さん達がここから去っていってから、僕は一夏が今いる場所から遠く離れた一番端にあるロッカーまで行って着替え始めた。

 

「はぁ~……」

 

 ほんと、着替えの度に過剰なまでに気を使うよ~…。

 下手に無下にすれば学園での生活にも支障が出るし、丁度いい塩梅が見つからないんだよね……。

 

(今回は本当に板垣さんに助けられたな……。彼女がいなかったら危なかったかもしれない……)

 

 これを切っ掛けにして、板垣さんとお近づきになれたらいいんだけどな~。

 一夏の事もそうだけど、板垣さんの事もなんとかしないといけないし……。

 

 僕等が着替え終わったタイミングで、山田先生が更衣室へと入って来て、一夏に大浴場が使用できるようになった事と専用機に関する書類について話して、先生と一緒に一夏は行ってしまった。

 先に部屋に戻る旨を伝えてから、僕は一足先に行かせて貰う事にした。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 途中まで板垣さんとボーデヴィッヒさんと一緒に移動して、部屋の前で別れることに。

 

「それじゃあ、お疲れ様」

「うむ」

「し…っかり休ん…でね……」

 

 部屋に戻ってからは、まずは着替えて、それから……

 

「……あれ?」

 

 さっき……あの二人、隣の部屋に入っていかなかった?

 

「ま…まさか……!」

 

 板垣さんって僕達の部屋の隣だったの~!?

 

「なんで今の今まで気が付かなかったんだよ……僕……」

 

 自分の不甲斐無さ加減に、思わずその場にへたり込んでしまった。

 

(今思えば、彼女達と僕等っていつも部屋から出る時が全く被ってなかった……。だから、必然的に向こうが部屋から出る瞬間を目撃出来なかったんだ……)

 

 これってもう偶然じゃ片付けられないでしょ……。

 だって、もう五日だよ? 五日間もずっと寮内で出会わなかったの?

 そんなのって有り得るの?

 

「もう……考えるのやめよ……」

 

 これ以上考えたら、増々自分が情けなくなる……。

 

「シャワーでも浴びて、気分転換しよ……」

 

 この時の判断が、僕のこれからの運命を大きく変えることになった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 その後の事を簡単に説明すると、僕がシャワーを浴びている時にボディーソープが無くなっている事に気が付いて、思わず予備の詰め替え用パックを取りに行こうとシャワー室から出ようとすると…………いつの間にか部屋に戻って来ていた一夏に裸を見られました。

 

 僕の人生……最大のピンチ到来です。

 板垣さん……もう一回たしゅけて……。

 

 

 

 

 

 




見られちゃいましたね(笑)

弥生はシャルルのピンチを助けられるのか?


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知ってたよ?

前回、しれっと一夏に自分の正体がバレてしまったシャルル。

その頃、弥生は……?






 なんつーかさ、あれだよね。

 女子ばかりがいる中で数少ない男子同士だから、仲良くしたいって気持ちは理解出来るけどさ、だからと言って最初からグイグイ行くのはどうかと思うのよ。

 何事にも段階ってものがあるわけで、それを無視して一足飛びに行こうとするのはさ、よくないと思うんだよね。

 特に、あの子みたいに特殊な事情を抱えている子はさ。

 

「~♪」

 

 なんて言っている私が今何をしているかと言うと、机の上にノートパソコンを広げて作業をしているラウラの後ろに座って、彼女の髪を自分の櫛で梳いています。

 毎回毎回思うけど、本当にこの子の髪ってツヤツヤサラサラなんだよね。

 同じ女として、普通に羨ましく感じる。

 

 え? 仮にも軍人であるラウラの作業している所を後ろから見るような真似をしてもいいのか?

 あぁ~……大丈夫大丈夫。

 だって、ディスプレイに表示されているのって、全部ドイツ語なんだもん。

 当然だけどさ、私にドイツ語なんて読めるわけないじゃん。

 私が読めるのは精々、日本語と英語ぐらいだって。

 

(姫様に髪を梳いて貰いながら仕事をしていると、不思議と効率が上がるような気がする……。胸の方はさっきからドキドキしっぱなしだと言うのに……)

 

 あ~……ラウラもマジで癒される~♡

 自制心が無かったら、今すぐにでも後ろからギュッって抱きしめたいぐらいだよ~♡

 

「お? なんだ?」

 

 徐にラウラが机の下に潜って、何かを手に取った。

 

「これは……?」

 

 何か小さな物を持ってるけど、何を見つけたんだ?

 

「姫様。机の下にこのような物が……」

「これ……は……?」

 

 彼女が持って来たのは、私もラウラも持っているIS学園の生徒手帳だった。

 

「なん…で……これ…が……?」

「中身を見てみますか?」

「一…応……」

 

 念の為に中身を拝見すると、そこには私達が知らない名前と顔写真があった。

 

「書いてある年月日を見る限りでは、卒業生の物みたいですね」

「うん……」

 

 なんでこんな物が私の机の下に?

 前にこの部屋を使っていた卒業生の先輩さんが忘れちゃったのかな?

 

 何気なくペラペラとページを捲っていると、あるページで私達の目が見開かれた。

 

「こ…これは……!」

「…………!」

 

 ……そっか……そうだったんだ……。

 まさか、こんな事が現実にあるなんてね……。

 でも、冷静に考えて見れば納得できるかも……。

 

 ドンドンドン!

 

「「ん?」」

 

 こんな時間に尋ねてくるなんて、どこのどなたかしらん?

 

『や…弥生! いるか!? いたら返事をしてくれ!』

 

 この声は……一夏?

 なんでアイツが来る?

 

(あ……もしかして……)

 

 バレたのか? 彼女の正体が。

 この時期に一夏が慌てた様子で来るなんて、今のところはそれ以外に考えられないし。

 

(でも、正体がばれたって事は……)

 

 見たんだな……また……。

 

「ちっ……! あいつめ……私と姫様の至福の時間を邪魔しおって……!」

 

 ラウラ怖い! 気持ちは理解出来るけど、その怖い顔だけは止めて!!

 完全に目が据わってるから!

 

(まずは出てあげるか……)

 

 話はそれからだな。

 

「少…し……待って…て……」

「あ……」

 

 今度は見捨てられた小動物みたいな目をしないでください。

 それだけで私の罪悪感が半端ないから……。

 

「どうし…たの……?」

 

 ガチャっと扉を開けて顔を覗かせると、一夏はかなり慌てた様子で私の手を取った。

 

「た…頼む! 今は何も聞かずに俺の部屋まで来てくれないか!」

「え? え?」

 

 事情は把握しているけど、そんなに急かされると流石に引く。

 

「私も一緒に行こう」

「お…お前も?」

 

 いつの間にかラウラも近くまで来ていて、一夏の方を見ている。

 

「なんだ? 私が一緒では不都合な事でもあるのか?」

「そ…それは……」

「もしや……自分の部屋まで連れ込んで、そこで姫様に何かするつもりではあるまいな……!」

「んなことしねぇって!」

「貴様の言葉はいまいち信用に欠ける」

「俺の信頼度ゼロ!?」

「セシリア・オルコットや凰鈴音、篠ノ之箒達が色々と教えてくれたからな」

「おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! あいつらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 あ…あの三人……私が知らない所でラウラに何を吹き込んだんだ……?

 

「とにかく、何もやましい事が無いのであれば、私が一緒に着いて行っても何も問題はあるまい?」

「うぐぐ……」

 

 見事に論破されてるし……。

 そもそも、性格上、一夏に腹芸なんて無理なんだから、大人しく諦めればいいのに。

 

(実は、私もラウラが一緒に来ることには賛成なんだけどね)

 

 幼く見えても、ラウラは立派な現役軍人。

 きっと、私以上に何かいいアイデアを出してくれる可能性が非常に高い。

 

「私……から…もお願い……。ラウラ……も一緒…に連れて…行って……」

「や…弥生まで……」

 

 秘技! 涙を溜めた状態での上目使い!!

 実は普通に目薬を使っただけなんだけどね。

 

「わ…分かったよ! ただし、絶対に内緒にしてくれよな!」

「それは行ってみてからだ」

 

 そんな訳で、私とラウラはすぐ隣にある一夏とシャルル君の部屋まで行くことに。

 ……まずはどんな言葉を掛けたらいいのかな……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

「あ……板垣さんにボーデヴィッヒさん……?」

 

 一夏に連れられて彼らの部屋に入ると、そこにはジャージを着た状態で俯き加減にベッドに座っていたシャルル君がいた。

 髪が僅かに濡れている事から、先程シャワーから上がったばかりなんだろう。

 そして、案の定……

 

(今までは出ていなかった胸がちゃんと出ている……)

 

 はい、これはもう確定。

 一夏、有罪(ギルティ)

 

「なんで二人が……?」

「えっと……。弥生ならいい知恵を貸してくれるかもって思ったんだけど、そうしたらこいつも一緒に来るって言い出して……」

「当たり前だ。私は姫様の護衛だからな」

 

 偉そうに胸を張ってるけど、今の私にはそれすらも可愛く見える。

 

「まぁ……何があったのかは、この状況から大体の想像が出来るがな」

「は?」

「大方、何らかの形で貴様の正体が判明してしまったんだろう? シャルル・デュノア」

「しょ…正体って……まさか……?」

 

 ここまで来たら別にいいでしょ、言っちゃっても。

 私も止める気はないよ。

 

「私も姫様も最初から分かっていたぞ? お前が男装をしている女だってことは」

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」

 

 声が五月蠅い。ご近所迷惑ですよ。

 

「わ…分かってたって!? どこから!?」

「だから、最初からだと言っているだろう」

「最初って……転入初日から?」

「あぁ」

「そ…そんな……」

 

 相当にショックだったのか、シャルル君はその場に膝をついてしまった。

 

「い…板垣さんも……?」

「そうだ。と言うよりも、一番初めに気が付いたのが姫様らしいぞ」

「ど…どうして……?」

「仕草……と体型……。それ…から……声……」

「こ…声?」

「男の子……にして…は……声音……が高過ぎ…る……。それ…に……喉仏……が無かっ…た……」

「で…でも! 男子でも声が高い人や喉仏が無い人だっているじゃないか!」

「それ…でも……そこま…で高く…はない…よ……? 喉仏……は……無い…じゃなく…て……見えにくく……なってる…だけ…で……ちゃんとある……」

 

 ハイ論破。

 少し考えれば分かると思うけど。

 

「一応言っておくが、我々だけじゃなくて、恐らくは他の連中も気が付いていると思うぞ?」

「他の連中って……?」

「いつも姫様と仲良くしている者達だ」

「箒達って事か……」

 

 いぐざくとり~。

 よくできました、一夏君。

 

「オルコットや凰、更識などは代表候補生だから、それぐらいは当然だろう。特にあいつ等ほどの実力者ともなれば猶更だ」

「箒……は……武道……をしている…から……体…のこと…に関して……は…詳しい…と思う……」

「布仏は確か整備班だったな。私から見てもアイツの観察眼は目を見張るものがある。口には出さなくとも、その目は確実にお前が女であることを見抜いていたに違いない」

「「………………」」

 

 完全に空いた口が塞がらない状態に陥ったお二人さん。

 

「まさかとは思うけど……周りでシャルルの男装に全く気が付いていなかったのって……」

「一夏……だけ……」

「マジかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」

 

 超盛大な溜息を吐きながら、今度は一夏が床にへたり込んだ。

 そんなにショックだった?

 

「流石に他の女子共は分からなかったかもしれんが、我等の目は誤魔化せん」

「ははは……。言われてみればそうだよね……。僕も代表候補生をちょっと甘く見ていたよ……。僕自身も代表候補生なのにね……」

 

 とうとう、生気のない顔で乾いた笑いをするようになったシャルル君。

 う~ん……こんな顔を見せられたら、少し哀れに感じてしまう。

 

「事情……は話して……貰える……の……?」

「そうだね……。ここまで完膚なきまでにバレてしまっちゃ、もう隠す必要も無いよね……」

 

 そこから彼女は静かに語りだした。

 自分の父親がデュノア社の社長であり、その命令で男装してIS学園まで来た事を。

 自分が愛人の子で、お世辞にもいい扱いをされなかった事。

 そして、経営危機に陥ったデュノア社をなんとか立て直すために、広告塔になると同時に一夏に少しでも接近しやすくする為に男装した事を。

 

「そんな……そんな事って……」

「……………」

 

 予め知ってはいても、本人の口から直接聞かされると、それなりに心にくるものがあるな……。

 

「……姫様。一つよろしいですか?」

「何……?」

 

 さっきの話で何か分からない事でもあったのかな?

 

「『愛人』とはなんですか?」

「「「うぐ……!」」」

 

 そんなピュアな目でそんな単語を口にしないで~!

 返答にマジで困るから~!

 

「……なんで三人して目を逸らす?」

 

 言えない……言えるわけないよ~!

 教えてあげたいのは山々だけど、教えたら教えたで純粋無垢なラウラが汚れるような気がするから言えない~!

 

「もう…ちょっと……大きくなった…ら……わかる……よ……」

「むぅ~……姫様がそう仰るのならば仕方が無い……」

 

 分かってくれたか……。

 頬を膨らませるラウラ、激カワです。

 

「デュノア社の経営が最近になって傾きつつあったのは知っていたが、わからんな……」

「なに……が……?」

「まず、白式のデータを手に入れた所で、そう簡単に状況が好転するものでしょうか?」

 

 言われてみれば確かに……。

 データの解析にもそれなりに時間が掛かるだろうし、その間も経営は傾いたまま。

 それって意味あるのか?

 

「それに、お前の格好だ」

「僕の?」

「そうだ。仮にもデュノア社は世界的に有名な会社だ。そのデュノア社が本気で自社の社運を賭けてのスパイをするのならば、入念に準備に準備を重ね、情報収集も数年前から徹底的に行い、その上で完全完璧な変装をさせる筈だ。それなのに、実際は……」

「すぐにバレてしまった……」

 

 ラウラの指摘は実に的を得ている。

 この点は私も前世で原作を読んだ際に感じていた疑問だ。

 

「お前が変装としてしていたのはどんな事だ?」

「えっと……コルセットで胸を隠して、それから男物の服を着て……」

「いや……幾らなんでも舐めすぎだろ。それでは変装を通り越して仮装だぞ」

「だよね……。今更ながらに、僕も思えてきたよ……」

 

 あ、薄々自覚はあったのね。

 

「同じ部屋にいながら、そのお粗末な変装に全く気が付く様子すら見せなかった男もいるがな」

「お願いだからもう止めてください! 俺に精神ポイントはもうゼロよ!!」

 

 死者に対して平気で鞭を打つような真似をするんだな……。 

 でも、敢えて私はこう言わせて貰う。

 いいぞ、もっとやれ。

 

「あ…あのさ……。これからシャルルはどうなっちまうんだ?」

「それは、こいつにもよる」

「ど…どういう事だ?」

「別にスパイ自体は否定もしないし肯定もしない。問題はそれを実際に行動に移したかだ」

「それって……」

「未遂ならば、まだ情状酌量の余地はあるって事だ」

「「!!!」」

 

 ラウラの言葉を聞いた途端、さっきまで意気消沈していた一夏とシャルル君の顔に明るさが戻った。

 

「シャ…シャルルはまだ何もしてないよな!? な!?」

「う…うん……。データを取る前に見つかっちゃったからね……」

 

 どうやら、少しずつではあるが光明は見えてきたようだ。

 

「とは言え、お前が経歴詐称をしていた事実だけは覆しようがないから、その辺りはなんとかしないといけないだろうな」

「そ…そっか……」

 

 一難去ってまた一難。

 スパイ疑惑が晴れても、他の部分でまた問題が発生するんだよね。

 ほんと、シャルル君は難儀な星の元に生まれた子だよ。

 

「どうしたらいいんだ……?」

「我々だけで話し合っても結論は出ないだろうな」

「それな…ら……」

 

 携帯を出してピポパ……ってな。

 

「姫様? 何をして……?」

「頼り……になりそう……な人……に心当たり……がある…から……少し来て…もらう……よう…に言って……みる……」

「「頼りになりそうな人?」」

「もしや……?」

 

 何回かのコール音の後に、その人は通話に出てくれた。

 

『もしもし! 弥生ちゃん!?』

「こ…こんばん…わ……」

 

 こっちが何か言う前にもしもしって言われちゃったし。

 

『まさか弥生ちゃんから電話を掛けてきてくれるなんて! はっ!? もしかしてこれは愛の告白!?』

「違います」

 

 何をどう判断したら、そんな話に繋がるんだ?

 

「実…は……相談したいこと……があって……」

『相談? 何かしら? 私と弥生ちゃんの結婚式場の場所とか?』

「なんでやねん」

 

 おっと。思わず関西弁でツッコんでしまった。

 

「詳しい話……は……部屋で話す…ので……出来れ…ば……今か…ら……こっち……に……」

『今から弥生ちゃんの所に!? 行く行く! 超特急で行くから待ってて頂戴!』

「いや……別…にゆっくり…で……」

 

 この間会った時はもうちょっと落ち着いた雰囲気だったのに、なんでこうなったんだろう……?

 

「愛しの弥生ちゃんに声に導かれて、更識楯無ここに参上!!!」

「早っ!?」

 

 さっき話してからまだ10秒も経ってないんですけど!?

 って言うか、まだ通話中なんですけど!?

 

 部屋の扉を勢いよく開きながら来たのは、このIS学園の生徒会長である更識楯無だった。

 

 ロシア代表であると同時に暗部の長である彼女ならば、必ずや力になってくれる筈だ。

 性格に少々問題はあるけど……。

 

 




ここでまさかの楯無さん介入。

でも、頼りにはなると思います。

性格はぶっ飛んでますけど。


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生徒会長大活躍?

前回のあらすじ。

シャルルの正体がバレて一夏に裸を見られて、弥生とラウラが部屋に来て、弥生が楯無を電話で呼び出した。

楯無が変な意味でぶっ飛んでいた。











 楯無さんが来てくれたのは普通に心強いんだけど、マジで来るの早すぎじゃない?

 まだスマホから楯無さんの声が出てて、なんか二重に聞こえるんですけど。

 

「で? これはどういう状況なのかしら?」

「私……が説明しま……す……」

 

 スマホの通話を切ってから、彼女にこれまでの事情を説明する。

 

「かくかくしかじか……」

「かくかくうまうま……」

 

 あくまで私が把握している範囲だけど、大丈夫だよね?

 この人は鋭いから、多少なりとも情報に不備があっても問題無いと思う。

 

「ね…ねぇ……一夏」

「なんだ?」

「日本人って、情報の交換をする時はいつも、あんな風に話しているの?」

「いや……違うんじゃないかな? 少なくとも、俺は『かくかくしかじか』なんて言った事ないし……。それにほら、あれ見てみろよ」

「あれ?」

 

 ……なんでラウラは私の隣で納得顔をして頻りに頷いているの?

 

「なんかボーデヴィッヒさんが満足気に頷いてる……」

「ドイツ軍人だから、ああ言った暗号めいた言葉も即座に理解出来るのかな……?」

 

 そんでもって、そこの二人組はひそひそ話をしているし。

 

「ふむ……流石は姫様と生徒会長……。私にすら理解不能な暗号でここまで会話を成立させるとは、素直に感服するな……」

 

 いや……別に暗号じゃないよ?

 普通に話しているだけなんですけど?

 

「成る程ね……。大体の事は理解したわ」

「「あの会話で!?」」

「うん」

 

 そこまで驚くような事?

 

「ま、実は私もシャルル君の正体が最初から男装をした女の子で、その目的が織斑君の専用機のデータ、もしくは実機の強奪だって事は分かってたんだけど」

「この人にも……」

 

 楯無さんに関しては、驚くような事じゃない。

 代表、暗部の長、生徒会長。

 三足の草鞋を穿いていて、それらを立派にこなしているような人物ならば、これぐらいは楽勝だろう。

 

「普通に調べたんだけどね」

 

 眼力とかじゃないんだ……。

 まぁ……それでも充分に凄いんだけど。

 

「や…弥生……。さっきからずっと気になってたんだけど、この人って誰だ? リボンの色から察するに、上級生なのは分かるんだけど……」

「「「「え?」」」」

 

 今ここでその発言をぶちかますの? 嘘でしょ?

 

「一…夏……。この人……は……更識楯…無さん…って言って……二年生で……ロシ…アの国家代…表……で…I…S学園…の生徒…会長さん……だよ……」

「そして! 弥生ちゃんの将来のフィアンセよ!」

 

 余計なこと言うな。

 

「最後の一言は取り敢えず置いといて……」

「置いておくんだ……」

 

 それが賢明だ。

 

「この人が生徒会長……? しかも、ロシアの代表って……」

「なんだ貴様。この学園に在籍していて、全く知らなかったのか?」

「あ…あぁ……」

 

 ……これには普通に呆れる。

 少し調べれば簡単に分かる事なのに……。

 

「一夏……。これは僕でも擁護出来ないよ……」

「なんで!?」

「IS学園のパンフレットに顔写真と一緒に簡単なプロフィールは掲載されてるし、同じような内容は学園の公式サイトにも載ってるよ?」

「どっちも見た事がありません……」

 

 少しは自分がいる学校の事を知ろうとは思わないのかよ。

 いくら普段の生活が大変だからって、それはよくないと思うぞ?

 

「私の事についてはこれから知ってもらうとして……」

 

 大して気にしてない風を装って、楯無さんはシャルル君の方を見る。

 

「今は彼…いや、彼女の事が先決よね」

「だな」

 

 さっきまでとは完全に打って変わって、かなり真剣な表情になる。

 

「スパイは未遂だから、まだ大丈夫だとしても……性別を偽って入学したのは少しヤバいかもしれないわね」

「そ…そうなんですか!?」

「唯でさえ、ここはISなんて言う世界的に貴重な存在を取り扱っている稀有な学園なのよ? IS学園は、一皮剥けばそこら中に最重要機密がゴロゴロと転がっているの。だからこそ、ここで働く教師達や入学する生徒達の情報や動向は凄く注目されている。そんな場所に経歴詐称で入学しました~…なんて言った日には、普通に捕まるわよ?」

「そんな!?」

 

 一夏が焦りながら立ち上がる。

 その顔には若干の汗も滲んでいた。

 

「でも……」

 

 ……? どうしたのかな?

 

「ラウラちゃんの疑念も理解出来るのよね。なんでそんな、すぐにバレるような変装でスパイなんて危険な行為をさせようと思ったのか」

「それは……会社がピンチで焦っていたから?」

「だからこそ、変装には細心の注意を払うんじゃないかしら?」

「う………」

 

 一夏、瞬殺。

 

「それにね、もう一つ気にかかる事があるの」

「なん…で…すか……?」

「シャルル君、貴女のご両親についてよ」

「僕の両親?」

 

 シャルル君の親がどうかしたの?

 原作通りの話で、何もおかしな点は見受けられなかったけど……。

 

「確認の為に聞くけど、貴女のご両親……特に継母の方はシャルル君の事を憎んでいた様子だったのよね?」

「は…はい……。思いっきりビンタされた事もあります」

 

 だよね? どこが気にかかるって言うんだ?

 

「この際だからハッキリ言うけど、もしも本当にシャルル君の事が憎くて疎ましく感じていたのならば、君の事を間違いなく殺害している筈よ」

「さ…殺害……!?」

 

 ちょ…ちょっと!? なんか話が急に物騒な事になってるんですけど!?

 

「デュノア社程の大会社の社長夫人ならば、幾ら経営が傾いていても、いかようにも処理する方法はあるわ。例えば、事故に見せかけて殺したり、プロの殺し屋を雇ったり……ね」

「………………」

 

 シャ…シャルル君が顔を青くしてから黙って俯いてしまった。

 これは流石に見ていられない……。

 

「い…いや! そんな奴がいるのかよ!? そんな……実の子を殺すような奴が!」

「いるのよ。この世にはね、私達が想像すらも出来ないような腐れ外道が至る所に蔓延ってるの。君が知らないだけでね……」

「…………」

 

 今度は一夏も黙ってしまった。

 シャルル君に至っては今にも泣きそうだ。

 

 で、なんで楯無さんは悲しそうな目で私を見るの?

 

「大丈…夫……?」

「板垣さん……?」

 

 彼女を少しでも安心させる為に、その頭を撫でてみる事に。

 気分が悪い時こそ人肌ですぜ。

 

「気分を害してゴメンなさいね。でも、さっき言った通りにシャルル君をいつでも殺せるはずなのに、実際に行った事と言ったら、君に対して直接的な暴力を振るってからの適当な変装をさせてのIS学園入学。これは幾らなんでもおかしいわ」

「ど…どこが変なんだよ?」

「分からない?」

 

 ……なんとなくだけど、私にも想像がついてきたかも……。

 

「そうか……」

「その顔、弥生ちゃんとラウラちゃんにも分かったみたいね」

「一応……ではあるが……」

「え? えぇ?」

 

 一夏……結構ヒントは出てるよ?

 ちょっと脳みそコネコネすれば分かる問題だよ?

 

「分からないようなら、私達が教えてあげようか?」

「お…お願いします」

「……これから話すのはあくまでも私達の想像…と言うよりは推理ね。それでも聞く?」

「念を押さなくても大丈夫です……。例え推理でも、僕はあの人達の真意が知りたい……」

「……いいわ。話してあげる」

 

 張りつめた空気の中、私達による推理ショーが始まった。

 

「まず最初に、シャルル君は何者かにその身を狙われていた。けどそれは、君の両親じゃない」

「あの人達じゃない……?」

「そうだ。恐らくだが、お前の両親はお前の身柄の安全を確保する為に、敢えてIS学園に送ったのだろう。その『何者か』から少しでもお前を遠ざける為にな」

「け…けど! だったらなんで男装させてスパイなんかを……」

「普通…に日本……に送るだけ……じゃ……相手…も普通に来てしま…う……。だか…ら……IS学園…に入学……させ…る……『大義名分』…が必要……になる……」

「大義名分って……」

 

 一夏も徐々にではあるが全貌が見えてきたようだ。

 ホント、日常生活ではニブニブ星人なんだから。

 

「会社の為に男性IS操縦者の専用機、または操縦者自身のデータを入手すること。つまりはスパイをするって事よ。シャルル君の事を狙っている連中の真の目的は、何らかの理由でデュノア社を手中に収める事」

「その為にデュノアを人質にして、会社の経営権を譲渡するように迫ったとしたら……織斑、お前ならばどうする?」

「そりゃ……護る為に何かを……はっ!?」

「分かっ…た……?」

 

 一夏の顔に汗が溢れて、それを袖で拭う。

 

「相手の目的は会社で、その会社の為って名目なら、敵も容易には手を出せない……?」

「正解。更に言えば、適当な変装をさせた理由は、最初からシャルル君の正体がばれる事を前提にしていたんだと思われるわ」

「不必要に暴力を振るったのも、その為だろうな。お前の口から自分達の悪辣な部分を喋らせて、自分達を必要悪とする為に」

「必要悪……」

 

 シャルル君は信じられないような顔で、静かに私達の言葉に耳を傾けている。

 

「両親……から暴力…を振るわ…れて……会社の為……に無理矢…理スパイ……をさせ…られて男装……をしてい…た……女…の子……。そん…な事情……があれ…ば……学園側……も人道的…な見地…から見て…無下……にはしない……から……ほぼ確実……に保護され…る……」

「そうしてシャルル君の当面の安全が確保されたら、その間に自分達の手で会社と娘を狙った輩をなんとかしようとする。最悪の場合は、自らの命を賭けて……」

「お父さん!?」

 

 わっ!? な…なんですか!? 急に叫んだりして……。

 私はビックリサプライズが苦手なんですよ?

 

「落ち着いて……」

「僕は……僕は何にも知らないで……僕は……」

 

 暴れようとした彼女の体を押える為に、その頭に腕を回してギュッと抱きしめた。

 恰好的に私の胸に顔を押さえつけているようになっちゃったけど、地味に窒息とかしてないよね?

 

(弥生のハグ……)

(いいなぁ~……。私も弥生ちゃんのオッパイに顔を埋めて、その匂いを堪能したいわ……♡)

(なんだ……このモヤモヤとした感じは……)

 

 落ち着いた……かな?

 

「大丈…夫……?」

「うん……」

 

 こらこら。何気に手を私の背中に回さない。

 離れられなくなっちゃったじゃない。

 

「……これだけは覚えておいて。本当に大切だと思うものはね、自分達から一番離れた場所に置いておくものなのよ」

 

 実感が籠ってるな……。

 楯無さんにとっての『大切な存在』って、やっぱり簪の事……だよね……。

 

「それと、お前に暴行をしたのは、もう一つの意味があったと思われる」

「もう一つ……?」

「娘のお前と両親との関係が不仲だと分かれば、向こうもお前に人質としての価値を見出さなくなる……かもしれない。可能性の話だがな」

「シャルルの両親は、シャルルを護る為に何重にも作戦を考えてたんだな……」

「自分の身を犠牲にしてまで娘を助ける……ここまで出来る人はそういないわ。間違いなく、貴女はご両親に愛されている」

「う……うぅぅ……」

 

 抱き着いたまま、遂にシャルル君が涙を流す。

 ここで『制服が汚れる~!』とか言ったら、間違いなくぶっ飛ばされるな。

 

「会社と娘を天秤に掛けられた時、かなり苦しんだでしょうね……」

 

 目を伏せながら楯無さんがそっと呟く。

 

「………と、私達の推理はここまで。事の真相は本人に直接聞いた方がいいでしょうね。緊急連絡用の直通の通信機ぐらいは持ってるんでしょ?」

「はい……」

 

 あ……やっと私から離れてくれた。

 地味に手が痺れました。

 

「でも、その前に織斑先生にも報告しておくべきでしょうね。君達の担任だし」

「それには私も賛成だ」

 

 右に同じ。

 

「い…いや……千冬姉には……」

「言わないつもり?」

「その……千冬姉には迷惑を掛けたくないって言うか……」

 

 ……成る程ね。

 道理で、真っ先に私の所に来たわけだ。

 

「織斑君。それは織斑先生……君のお姉さんの事を馬鹿にしてるわよ」

「は…はぁ!? なんで!? 家族に迷惑を掛けたくないって思っただけで……」

「それを馬鹿にしているって言うの」

 

 いつにも増して楯無さんの口調が厳しい。

 怒ってるのか?

 

「『迷惑を掛ける事』と『困った時に相談する事』は全く違うわよ」

「どこが違うってんだよ……」

「全然違う。……織斑君。もしも織斑先生に何か困った事があって、それを君に一言も相談せずに勝手に色々と決めて、君が知らない場所で全てを解決してしまったら……どう思う?」

「それは………」

 

 言葉にしなくても、その表情が全てを語っているよ……一夏。

 

「今の君は、それと同じ事をしようとしているのよ」

「俺は……そんなつもりじゃ……」

「それと」

 

 さっき以上に強い口調で一夏を睨む。

 

「家族には迷惑を掛けたくないって言いながら、他人である弥生ちゃんやラウラちゃんには迷惑を掛けていいの? それってちょっとふざけてない?」

「そんな事は無い!!」

 

 全力否定ですか。

 でもね、今の一夏の言葉には、あまり説得力は無いよ。

 

「だったら、別に話しても問題無いわよね?」

「…………はい」

「よろしい」

 

 全く……世話がかかる男だよ、こいつは。

 でもね、そんな辛気臭い顔をされると、こっちも迷惑なんだよね。

 

「一夏……」

「弥生……俺は……」

「大切…に思ってい…る家族……に頼られ…て……迷惑…に思う人…はいない…と思う……。一夏……は織斑先生……に頼ら…れて……迷惑…に思った…りする…の……?」

「いや……思わない……」

 

 なら、ちゃっちゃと顔を上げろっつーの。

 

「私……には血…の繋が……った家族…がいない…から……そんな風……にいつで…も相談…出来る家族……がいる……のは羨ましい……な……」

「え……?」

 

 ったく……贅沢な事で悩みやがって。

 世界中の孤児達に謝れっつーの。

 

「いや……おじいちゃんがいるって……」

「弥生ちゃんは……養子なのよ」

「そう……だったのか……」

 

 やっぱり、それぐらいは知ってたんですね。

 いや、この人なら当たり前か。

 

「姫様もですか……。私も訳あって血縁者はいません」

「お前も……」

「軍事機密故に詳しい事は話せんがな」

 

 因みに、私は知っているよ。

 ここでは話さないけどね。

 

「はいはい。シリアスな空気はここまで。織斑先生の所に行くわよ」

「「は…はい」」

「了解」

「は…い……」

 

 そういや、織斑先生の部屋に行くのって初めてだな。

 噂通り、汚部屋になっているのだろうか?

 

 ……お腹が空いてきた。

 食堂……間に合うよね?

 

 

 

 

 




なんか文字ばっかりになってしまいました。

しかも、話は殆ど進んでいない……。

次回もシャルルが中心の話です。


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汚部屋は消毒だ~!

まさか、シャルルの話だけでここまで長引くとは……。

これがいい事なのか、それとも悪い事なのか。

私には分かりません。

黒の騎士団のゼロも、ウィングゼロも、マジンガーZEROも何も言ってくれない……。

教えてくれ! やよっち!





 楯無さんの提案で、私達は織斑先生の部屋まで行くことに。

 

 誰かに見られたら大変なので、シャルル君は再びコルセットを装備してから廊下に出た。

 

「千冬姉……大丈夫だろうな……?」

「大丈夫? 何の事を言っている?」

「…………行けばわかるよ」

 

 一夏のこの反応……やっぱり、私の知識通りの、とんでもない汚部屋なんだろうか……。

 

 そう言えば、こうして織斑先生の部屋……つまり、寮長の部屋に行くのはこれが初めてな気がする。

 だって、普段は特に用事とか無いしな。

 

 私に一夏にラウラに楯無さんにシャルル君。

 なんとも言えない奇妙なパーティー構成で進んでいるが、偶然なのか、誰にも遭遇する事無く無事に(?)寮長の部屋に到着することが出来た。

 

「千冬姉……いるかな?」

 

 って……おい!? なに普通にドアを開けようとしてるの!?

 

「織斑君。幾ら気心の知れた家族とは言え、女性の部屋に入る時にノックの一つもしないのは、普通にマナー違反だと思うわよ?」

「あ……そうだった」

 

 この野郎……! 前にそれで大失敗(私の裸を見た)した事をもう忘れたのか?

 あれから、ちゃんと誰かの部屋に入る前にはノックするようにって、私達全員で教えたじゃないか!

 

「もういいわ。私がするから」

 

 半ば呆れながら、楯無さんが私達の代表としてノックをしてくれた。

 

「もしもし? 織斑先生……いらっしゃいますか?」

 

 数秒の後、部屋の扉がそっと開かれて、そこから織斑先生が顔を覗かせてきた。

 

「こんな時間になんだ?」

 

 あ、よく見えないけど、なんかジャージを着てる。

 あれがこの人の部屋着なのか……。

 ちょっとだけシンパシーを感じるな。

 

「って、なんだこの大所帯は……」

 

 私達の顔を一つ一つ見ていく。

 

「一夏に更識姉にラウラにデュノア、それから弥生も……」

 

 ん? 私やラウラ、一夏の事を名前で呼んだ?

 名字と名前で使い分けるのが、織斑先生流の公私の使い分け方なのか?

 

「実は、織斑先生にお話したい事がありまして」

 

 楯無さんの真剣な顔に、織斑先生も同じ様に真剣な顔で応える。

 

「どうやら、何かあったようだな。いいだろう……立ち話もなんだ。部屋に入って……」

 

 と、そこで一旦言葉が止まって、彼女が振りきながら自分の部屋を見る。

 

「………いや、やはりここは弥生の部屋辺りで……」

「千冬姉」

「うぐ……」

 

 急に私の部屋を指名した直後、一夏がジト目で睨みながら低い声を出した。

 

「また……やっちまったのか?」

「い…いや……そんな事は無いぞ? うむ……断じてない」

「なら、別に俺等が入っても問題無いだろ?」

「そ…それは……」

 

 お…おぉ~……。

 あの一夏が織斑先生に押し勝っている……。

 

「ちょっとだけ見させてもらうぞ」

「ま…待て!」

 

 先生が静止するよりも早く、一夏はドアの隙間から部屋の中を覗き見た。

 

「………………更識先輩、シャルル」

「ど…どうしたの?」

「今から少しだけ、ボーデヴィッヒの目を逸らして貰えませんか?」

「なんで……って、聞くだけ野暮かしら?」

「はい。……弥生」

「な…何……?」

 

 い…いつにも増して真剣な表情……。

 こんな時だけカッコいい顔をして……なんなんだよ……。

 

「少しだけ……手伝ってくれないか?」

「手伝…う……?」

「頼む」

 

 一夏がこれだけ言うのは珍しい。

 どうやら、部屋の中は私の想像を遥かに凌駕しているようだ。

 

「千冬姉……いいよな?」

「あ……あぁ……」

 

 一夏の眼力に負けて、渋々と言った感じで先生は首を縦に振った。

 

「んじゃ……行くぞ」

「ゴ…ゴクリ……」

 

 思わず唾を飲みこみながら、私は一夏と一緒に部屋の中へと入る事に。

 

「こ…これ…は……!」

 

 部屋の中に入った私の視界に映り込んだのは、文字通りの足の踏み場もない部屋だった。

 一体、何をどうすればここまで人は部屋を散らかせるのだろうか……。

 これが俗に言う『片付けられない女』って奴なのか……?

 

「は~い。ラウラちゃんはお姉さん達とこっちを向いてましょうね~」

「むおっ!? こっちを向くと言いながら、私の目を塞いでいるではないか!? これでは何も見えないぞ! 私だって教官の部屋が見たい!」

「いや……ボーデヴィッヒさんは見ない方が……」

「なんでだ!?」

((((確実に幻滅するからだよ))))

 

 この時、初めて私達の心が一つになったような気がした。

 

「とっととやっちまおう。そんな訳で、片付けるまではモザイク処理な」

「私の部屋はそんなに酷いのか!?」

「………………」

「や…弥生~! 頼むから、私の事をそんな可哀想な人を見るような目で見ないでくれ~!」

 

 はいはい。先生は少し廊下に出ててくださいな。

 

 まさか、報告前にこんな難関が待っていようとはな……。

 流石は織斑千冬……伊達じゃないぜ。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             しばらくお待ちください

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「終わった~……」

「つ…疲れ…た……」

 

 私自身、別に掃除自体は嫌いじゃないけど、それでも今回のコレは最強クラスの難敵だった。

 掃除に掛かった時間は僅か十数分に過ぎないが、私にとってはその十数分が無限にも等しく感じた。

 

「こ…これが私の部屋……か……」

 

 流石に隅々まで……とはいかなかったけど、最低限、人を入れても大丈夫なレベルには片付いたと思う。

 

「感謝するぞ! 弥生! 一夏!」

 

 と言いながら、しれっと私に抱き着くのは止めて頂きたい。

 

「これからは小まめに片付けるようにしてくれよ?」

「善処する」

 

 先生? それは『しません』って言っているのと同義ですよ。

 

「ほら、お前達も入れ。好きな所に座っていいぞ」

「「「あ、はい」」」

 

 これでやっと話が先に進むよ……。

 なんで本題に入る前から、ここまで疲れるんだ……。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「で? 何の用で私の元まで来たんだ?」

「……その前に……」

「ん? どうした?」

「なんで弥生ちゃんを後ろから抱きしめてるんですか?」

 

 そうなんです。

 ようやく本格的な話に入れると思いきや、いきなり私の事を背後から抱きしめてきて、そのままベッドに座ったんですよ、この女教師は。

 

「気にするな。それよりも用事を言え」

「…………分かりました」

 

 ここから動きたくても、恐怖と物理的な力が強くて、身動き一つ出来ないんですよね。

 でも、私の腕の中にはラウラも同じ様に座っているから、これでなんとか相殺している感じ。

 彼女がいなかったら、きっと普通に気を失ってたと思う。

 

(まぁ……私は弥生ちゃんに耳かきして貰ったから、いいんだけどね)

 

 最初は羨ましそうにしていて、次の瞬間にはいつも通りの余裕の顔に戻ってから、さっきまで話していた事を事細かに先生へと伝える楯無さん。

 

「かくかくしかじか。かくかくうまうま」

「「またそれ!?」」

「成る程な……そう言う事か」

「「伝わった!?」」

 

 そこの二人、さっきから息の合ったツッコみしてるね。

 もう、いっその事くっついちゃえば?

 

「実を言うとな、デュノアが女であることは、私も最初から看破していたぞ」

「最初からと言うと……」

「まず、お前に関する書類を見た時に違和感を感じて、実際に姿を見てからは、その違和感が確信に変わった」

「まぁ……千冬姉の目は誤魔化せねぇよな……」

 

 仮にも一度は世界の頂点に輝いた人だからね~。

 その観察眼は私達とは次元が違うでしょ。

 

「ついでに言うと、山田先生も分かっていたぞ」

「でしょうね……。見かけによらず、あの人の実力は相当ですから」

 

 楯無さんが褒めている……。

 山田先生が凄い事は知っているつもりだったけど、真の実力はそれ以上なのか……?

 

「僕の正体が分かっていて、それでも黙っていたのって……」

「お前が明確な行動をしなかったからだ。私達だって、疑惑があるだけでは動きたくても動けないしな」

 

 確かに。そんな事になれば、色んな機関が黙ってないだろう。

 

「お前のお粗末な変装では、いつか必ずボロが出るとは思っていたが、まさか……このバカがまたやらかすとはな……」

「それに関しては弁明のしようがございません……」

 

 掃除をしている時の強気な一夏はどこかに行ってしまったのか、今は完全に肩身を狭くしている。

 

「ちゃんと謝ったんだろうな?」

「あ………」

 

 謝ってないのかよ!?

 

「ご…ゴメン! なんかタイミングが掴めなくて謝り損ねてたけど……ホントにゴメン!」

「いや……今更になって謝られても、逆にこっちが困るって言うか……」

 

 だよね、分かる。

 

「話を戻すぞ」

「「は…はい」」

 

 少しだけ緩みかけた部屋の空気が、再び引き締まる。

 

「私から見ても、更識姉と弥生とラウラの推理は間違ってないと思う。そうでもないと説明がつかない事が多いからな」

「教官もそう思いますか……」

 

 これは増々、私達の考えが正解に近づいてきた?

 

「なぁ……俺さ、少し思ったんだけど……」

「どうした?」

「生徒手帳に記載されている『特記事項第22』を使えば、どうにかなるんじゃないのか?」

 

 特記事項……ね。

 原作でも言っていた『アレ』の事か。

 

「特記事項の22と言えば……」

「『本学園…における……生徒……は…その在学中…において……ありとあらゆる国家…組織……団体……に帰属し…ない…。本人…の同意…が無い場合……それら…の外的介入…は原則として……許可されない…ものと…する…』」

「流石は姫様……。見もしないで一字一句全てを暗記していらっしゃるとは……」

 

 これでも、昔から暗記物は得意だったんだよ。

 だからかな、古文や歴史のテストでは常に満点を取ってた。

 

「弥生が全部言っちまったけどさ、これさえあれば、少なくとも三年間は大丈夫なんじゃねぇのかな?」

「…………一夏」

「な…なんだよ……千冬姉……」

 

 溜息を吐きながら、織斑先生は一夏の考えを一蹴した。

 

「その考えは幾らなんでも甘すぎるぞ」

「え? なんで?」

「まず、事は確実に日本とフランスの国家間の話にまで発展する。僅かでも何かが食い違えば、戦争になる可能性すらある」

「せ…戦争!?」

「そうだ。それにな、国家同士の問題がたった3年足らずで解決する訳がないだろう。最低でも、その倍以上の時間は必要になる」

「倍って……それじゃあ……」

「卒業と同時に全てが終わりだ。時間稼ぎにすらならないし、問題の先延ばし以前の話になる」

「……………」

 

 論破1……ってか?

 

「それとな、デュノアが代表候補生である時点で、先程の特記事項は適応されないぞ」

「な…なんでだよ!?」

「先程の特記事項は、簡単に言えば『この学園にいる間は他の国や組織等からの介入は基本的に許されない』と言う内容だが、代表候補生は入学前から既に国家に所属している。オルコットはイギリスに、鈴は中国に、ラウラはドイツに、更識妹は日本に、そこにいる更識姉も自由国籍でロシアに所属している。無論、フランスの代表候補生であるデュノアはフランスに所属している。それなのに、どうして代表候補生や国家代表が入学出来ると思う?」

「…………」

「答えは簡単だ。IS学園が特別に入学を許可したからだ」

  

 だよね~。

 複雑そうで、実はめっちゃ簡単な答えでした。

 

「逆に言えば、IS学園はイギリス、中国、フランス、ドイツ、ロシア、日本の学園への介入を認めていると言ってもいい」

「なんだよそれ……」

「そう思うのも無理は無いが、規則なんてそんなものだ」

 

 そう言われちゃ、身も蓋もない。

 私の記憶が正しければ、他には上級生にアメリカとギリシャの代表候補生もいるよね?

 アメリカとギリシャの介入もOKって事なのかな?

 

「ついでに、もう一つだけ付け加えてやる」

 

 ラウラ? 何を言う気なの?

 

「姫様。先程部屋で発見した『アレ』を見せてもよろしいでしょうか?」

 

 アレって……あの『生徒手帳』の事?

 

「うん……。私……も見せた方…がいい……と思う……」

「了解です」

 

 制服のポケットから、ついさっき見つけた生徒手帳を取り出して、一夏に向かって放り投げた。

 

「うぉっと」

 

 慌ててそれをキャッチする一夏。

 その顔は困惑していたけど。

 

「その中を見てみろ」

「中……?」

 

 見た目は何の変哲もない普通の生徒手帳。

 でも、その中身は……?

 

「その生徒手帳の、特記事項が書かれているページだ」

「え~っと……」

 

 ペラペラとページを捲っていって、ラウラが指定した場所を見つけたみたいで、そこで一夏の動きが止まった。

 

「別に俺が持っている生徒手帳と変わらないけど……」

「もっとよく見ろ」

「はぁ……」

 

 目をジィ~っと動かして、一文字一文字読んでいく。

 すると……突然、一夏の目が見開かれた。

 

「あ…あれ……? なんかおかしいぞ……?」

「どうしたの?」

「これ……足りない(・・・・)

「足りないって?」

「特記事項が一つだけ少ないんだよ! 本当は全部で55個ある筈なのに、ここには54個しか書かれてない!」

「それって……」

「ほぅ……」

 

 一夏の言葉だけで、私達が見せた生徒手帳の正体が分かった様子の楯無さんと織斑先生。

 

「それに、さっき弥生が言ってくれた特記事項22が別のものに置き換わってる……。なんで……」

「簡単だ。その生徒手帳は去年のもの(・・・・・)だからな」

「去年って……」

 

 そう。去年までは私が説明した『特記事項22』は存在していなかった。

 でも、今は確かに存在している。それは何故か?

 これもまた簡単な答えだ。

 

「『今年…の特記事…項22』…は……今年…に入ってか…ら……作られた……」

「……正解よ」

 

 楯無さんが私達の考えが正しいと言ってくれたし。

 

「さっき弥生ちゃんが言った特記事項22はね、織斑君が入学する事が決定した時に、急遽、決められたものなの」

「俺が入学する時に……?」

「分かりやすく言えば、この新しく作られた22番目の特記事項に該当するのは、織斑君だけって事」

「な…なんで俺だけ……」

「そんなの考えるまでも無いだろう。お前は世界で唯一の男性IS操縦者。研究の為と言う名目でお前の身柄を狙っている奴が世界中にいる。仮にIS学園に入ったとしても、それで100%の安全が保障されたとは言い難い。ならばどうすればいいか」

「新し…く……一夏…を守る……特記事項……を作っ…て……それ…を……世界…に公表…すれ…ばいい……」

 

 そうすれば、あら不思議。

 あっという間に、IS学園は一夏君を守る鉄壁(笑)のシェルターに早変わり。

 それでも穴は沢山あると思うけどね。

 

「一応、これは他の一般生徒も該当するようにはしてあるけど、基本的には織斑君の為だけに存在するものなの」

「それだけお前の存在は世界的に見ても非常に重要視されていると言う事だ。いい加減に自覚しろ」

「……………」

 

 一夏が完全に意気消沈してしまった。

 でも、私がこうして織斑先生に抱き着かれている以上、今は何も出来ないんだよね。

 

「もしも、誰にも相談せずにこのまま突っ走っていたら、間違いなく取り返しのつかない事になっていたかもね」

「考えうる限り、最悪のパターンだな……」

 

 実際、想像もしたくないけどね。

 

「だが、真っ先に弥生やラウラに相談したのは上出来だった」

「え……?」

 

 流石にこのままでは不憫と思ったのか、ここで実姉からのフォローが入りました。

 

「普段のお前ならば、誰にも相談せずに猪の如く自分の考えを貫いていただろうしな。それこそ、『皆に迷惑を掛けたくない』とか言う下らん理由で」

「下らんって……」

「下らん。実に下らん。私や弥生が誰かからの相談事を迷惑に感じるような冷血な人間に見えるのか?」

「んなことねぇよ!」

「だったら、アホな事は考えず、遠慮無くいつでもなんでも相談しろ。私はお前の姉であり、たった二人の家族なんだからな」

「千冬姉……」

 

 プライベートじゃ、普通にブラコン全開ですね。

 セリフだけを聞けばいいシーンなんだけど……

 

(この首筋から匂う弥生の香り……たまらん!!)

 

 サラッと私の頭を撫でながら、うなじに鼻をくっつけないでくれませんかねぇ~?

 普通にキモイんですけど?

 いいシーンが根っこから台無しだよ。

 それでいて、誰もツッコもうとしないしね。

 

「なんか、話が完全に逸れてません?」

「おっと、そうだったな。今はデュノアの事を話しているんだったな。弥生が可愛すぎて、すっかり忘れていた」

 

 それは全然関係無い!!

 

「取り敢えず、まずはデュノアが持っている通信機で直接話してみてからだな。デュノアを道具としてしか見ていないような人間なのか、それとも、こいつを護る為に敢えて道化を演じた人物なのか。それを見極めない限りは、こっちも対策のしようがない」

「そうですね。シャルル君、お願い出来るかしら?」

「は…はい」

 

 着ているジャージのポケットの中から、小型の通信機と思われる機械を取り出して、それをテーブルの上に置く。

 すると、そこから投影型のモニターが表示された……んだけど……。

 

『シャ……シャルロット……?』

 

 そこに映し出されたのは、白人の中年男性。

 彼がシャルル君のお父さんなんだろうけど……。

 

(なんで、凄く呆けた顔でこっちを見てるの?)

 

 完全に脱力した状態で椅子に座っている彼を見て、私達も状況が把握できず、部屋の中が微妙な空気になりながらの沈黙に包まれた。

 

 …………なんなの? この状況……。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まだまだ続いてしまうシャルルことシャルロットのお話。

シャルのパパンに一体何があったのか?

彼は本当にいい父親だったのか?

全ては次回に。

それと、自分の部屋は定期的に片付けよう。

弥生ちゃんとの約束だよ!


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娘の為に、会社の為に

少し休んだのと、皆さんからの励ましの言葉を受けて、やる気が復活しました。

それと、気分転換に体も動かしてきました。

気持ちが沈んだ時は、意外と運動っていいですね。

ついでに、この作品のナレーションのイメージVCは大塚明夫さんです。

なんとなく、似合いそうな気がしたので。






 フランスにあるデュノア社の社長室。

 そこに、シャルルの父親であり、このデュノア社の社長でもある『アルベール・デュノア』が、妻と一緒に緊張感と苦痛に満ちた顔で椅子に座っていて、その隣には彼の妻が寄り添うように立っていた。

 

 外はすっかり暗くなっていて、街には所々に明かりが灯っている。

 

「今日……なのよね……」

「そうだ……」

 

 両手を握りしめながら、その手に滲む汗を己の着ているスーツで拭う。

 

「あの子は無事に『例の少女』に接触できたかしら……」

「きっと大丈夫だ。シャルロットは基本的に人と仲良くなる事が上手い」

「そうね……」

 

 『シャルロット』

 それがシャルル・デュノアの本名。

 彼女の事を話す夫婦はとても穏やかで、そこからは全く負の感情は読み取れない。

 

「シャルロットとデュノア社……。その両方を護る為なら、例え命さえ惜しくは無い……!」

 

 机の引き出しをそっと開けると、そこには黒光りする一丁の拳銃が。

 

「あなた……それは最後の手段でしょ?」

「分かっている……分かってはいるが……」

 

 前向きに考えようと思っても、どうしても最悪の事態が頭をよぎる。

 手は震えて汗は止まらない。

 心臓だって先程からバクバクと激しく鼓動している。

 

「すまない……。本当なら、お前を巻き込むつもりはなかったのに……」

「今更何を言っているの。貴方と夫婦となって、シャルロットを共に守るって決めたその時から、私は最後の瞬間まで一緒にいるつもりよ。その覚悟はとっくの昔に済ませてきてるわ……彼女の墓前でね……」

「そう……だな……」

 

 夫婦の決意。

 それは、己の身を犠牲にしてでも大切な娘を絶対に守る事。

 今は亡き、シャルロットの産みの母親の墓の前で二人が誓った事だ。

 

「あの子を守るためとはいえ、我々は親として間違いなく最低の事をした。だが、例え後世の人間達に鬼畜にも劣る『賊』の烙印を押されようとも、我々が愛した娘と、祖父と父が必死に守ってきたデュノア社だけは、何が何でも死守してみせる。両方とも、あのようなテロリスト達の好きにさせてはいけないんだ……!」

「そうね……!」

 

 何かを護る為に何かを犠牲にしなくていけないのが世の理ならば、この夫婦は娘と会社を天秤に掛けられた瞬間に、即座に自分達を犠牲にする事を決めた。

 その為に、夫婦は敢えてシャルロットに辛く当たった。

 彼女には自分達に対する人質としての価値が無いと思わせる為に。

 

 コツ…コツ…コツ…コツ…コツ……

 

 扉の向こうから複数の足音が聞こえる。

 どうやら、『招かれざる訪問者』がやって来たようだ。

 

「来たか……!」

「念の為に、全ての社員を定時よりも早めに退社させてよかったわね……」

「そうだな……。これは我々の問題。彼らを巻き込む訳にはいかない」

 

 この夫婦にとって、娘と同じぐらいに社員達も大切な存在だ。

 『会社は家、社員は家族』

 それがデュノア社の社訓である。

 

 無音で社長室の扉が開かれて、そこから二つの人影が現れた。

 

「貴方がデュノア社の社長であるアルベール・デュノア氏ですか?」

「そうだが……」

 

 正直、夫婦は驚きを隠せないでいた。

 何故なら、今目の前にいるのは、彼らが全く知らない二人組の女性だったからだ。

 片方は褐色の肌に白いショートヘアの年端もいかない少女。

 もう一人は、黒く長い髪を靡かせて、サングラスを掛けているスレンダーな女性。

 なんとも異質な雰囲気を漂わせている二人だった。

 

「あぁ……。もしかして、本来だったらここに来るはずだった人物じゃなくて、驚いてます?」

「う……うむ……」

 

 相手に自分達の反応を読まれないために、必死でポーカーフェイスを作る夫婦だった。

 優れたビジネスマンのであるアルベールは、普段からポーカーフェイスをする事に慣れてはいるが、この女性達の前では何故か意味が無いように思えた。

 

「………………」

「そうですね。何も事情を話さすに、いきなり本題と言うのは、ちょっと礼を欠いていますね。分かりました」

 

 黒髪の女性は何も言っていないのに、何故か会話が成立している。

 この奇妙な光景を見て、夫婦の警戒心は更に高まった。

 

「まずは自己紹介から。私の名は『アトロポス』。こちらが私の敬愛する姉である『ラケシス』姉さまです」

 

 簡単に名前を話す。

 これは間違いなくコードネームの類だと判断した。

 もしくは、この場で自分達を殺害する算段があるのか。

 

 自らをアトロポスと名乗った少女は、悠々と語りだした。

 

「今回、私達は本来なら来る筈だった者の代わりにここに来ました」

「だろうな……。そうでなければ、この時間帯のこの場所に、女性二人で訪れる理由が無い」

「御尤も」

 

 どこまでも余裕の態度を崩さないアトロポスとは逆に、先程からプレッシャーで押し潰されそうになっている夫婦。

 完全に真逆の心境になっていた。

 

「前に彼らが言った事は覚えていますか?」

「覚えているとも……忘れるわけがない……!」

 

 飄々と言葉を発する彼女を見据えながら、怒りで拳が震えるアルベール。

 

「どれだけ脅されようとも、我々は絶対にこの会社の経営権を渡したりはしない!! 無論、資金提供なんてもってのほかだ!!」

「それとね! 貴女達が人質として使おうとしていたシャルロットは、今は日本のIS学園にいるわ!! あそこにはブリュンヒルデもいるし、ミスターイタガキの御息女も在籍している!! そう簡単に手が出せるとは思わない事ね!!」

「御息女……。ヤヨイ・イタガキの事ですか?」

「………!! 彼女の事を知って……!」

「当然です。我々の情報網をあまり舐めないでくださいね?」

 

 まるで先読みをしているかのように話すアトロポスに、心臓が握られたような感覚に陥る。

 

「チフユ・オリムラとヤヨイ・イタガキ……。確かに、現状であの二人を同時に相手にするのは得策とは言えませんね」

 

 『フ~…』と息を吐きながら腰に手を当てるアトロポス。

 少しだけ顔を伏せてから、夫婦の顔を真っ直ぐに見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、別にいいですよ? 資金も経営権も渡さなくても」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 いきなりの事で頭が真っ白になる。

 彼女は何を言った?

 金も会社もいらないと言ったのか?

 

「ど…どういう事だ……?」

「ま、いきなりこんな事を言われても困惑しますよね。では、一からご説明致しましょう」

 

 アトロポスは、どこから出したのか、紙パックのジュースを取り出してストローを挿し、それをチュ~チュ~と飲みながら説明を始める。

 

「確かに最初はこのデュノア社の事を狙ってはいましたが、交渉の途中から上の方が別の事を思いついたようで、いきなり計画が変更になったんです。全く……私達も自分達が中間管理職であることの自覚はありますけど、だからと言って上司からの命令で振り回される方は溜まったもんじゃありませんよ……」

 

 心底疲れてますと言った感じで肩を竦ませながら顔を振る。

 まだ幼さが残る少女とは思えない程に、疲れ切った顔だった。

 

「それだと言うのに、最初にデュノア社との交渉を任されていた担当さんが功を焦ったみたいで、上の命令を完全に無視して貴方達の事を脅していたようです」

「な…ならば……」

「はい。本日、私達がやって来たのは、もうこの会社からは手を引くと言う事をお教えする為です。よかったですね」

「は……はは……」

 

 余りの出来事に、脱力しながら椅子に体を預ける。

 妻の方も、ポカ~ンと口を開けながら呆然となっていた。

 

「そうそう。今までお二人を脅していた男ですけど、命令違反と言う事で、ここに来る前にラケシス姉さまがちゃんと殺処分をしておきましたから、御安心を」

「あ…ありが…とう……?」

「どういたしまして」

 

 思わず礼を言ってしまったが、それが正しかったのかは分からない。

 

「それとですね、彼の腹心の部下が貴方達の御息女を密かに狙って日本に行こうと空港にいたのですが、我等の手で見つけた後で、コンクリート詰めにして海に沈めておきました。ですので、もう娘さんが狙われる事はありませんよ」

「シャ…シャルロットが……」

「よかった……」

 

 この言葉を簡単に鵜呑みにするのはどうかとも思ったが、この時の夫婦は疑惑よりも安心感が勝ってしまい、頭の中に発生した疑いを頭の隅に追いやってしまった。

 

「し…しかし……何故いきなりデュノア社から手を引こうなどと言い出したんだ……?」

「う~ん……一応は機密事項なんですが……お二人になら別にいいでしょう。今まで無用に脅し続けてしまった詫びもありますし、どうせ遅かれ早かれ世間に伝わる事ですから」

「テ…テロリストの類の割には、意外としっかりとしてるんだな……」

「当たり前じゃないですか。慈善事業でやっているわけではないとは言え、今回の事は完全にこちらの不手際で起きた事。ならば、人として詫びを入れるのは当然の事では?」

「た…確かに君の言う通りだ……」

 

 よもや、テロリストに常識的な事を言われる日が来るとは、この夫婦も夢にも思わなかっただろう。

 

「実はですね、こちらの方で別の金づるを見つけたんですよ」

「別の金づるですって?」

 

 それを聞いた途端、すぐに思い浮かんだのは『別の会社を自分達と同じように脅しているのではないか?』と言う疑問だった。

 もしもそうであれば、諸手を上げて喜ぶ事は出来ない。

 

「別に、貴方達が危惧しているような事はしていませんよ」

「なんだと……?」

 

 まるで心の中が読まれたような事を言われて、怪訝な顔になる。

 

「会社の類を脅したりしなくても、いるじゃないですか。無駄に金ばかりを持っていて、更には世界中でアホみたいに威張り散らしている『表側の悪』とも言うべき、ある意味で私達以上に質が悪い連中が」

「表側の悪とは……まさか……!」

「はい。我々が標的にしたのは『女性権利団体』の連中です」

 

 女性権利団体。

 ISの誕生と同時に発足し、それ以来、その名の通りに様々な女性の権利を訴えている団体……と言えば聞こえはいいが、実際には『女性こそが至高の存在』と言うバカげた考えの元に男性を社会から追いやって私腹を肥やし、同時に束と千冬の事を過剰なまでに神聖視していて、世間的に見ればまごう事無き『悪』でしかなかった。

 

「ウザいこと極まりない蛆虫共を堂々と駆除出来る上に、下手に会社を脅すよりも遥かに大金が手に入る。確か、これをジャパンの諺では『一石二鳥』と言うのでしょう?」

 

 淡々と語るアトロポスだったが、話している内容はとても恐ろしかった。

 実際、デュノア夫妻もニュースや新聞などを見て、最近になって各国にある女性権利団体の各支部が何者かによって襲撃されて、次々と壊滅しているのを知ってはいたが、まさかそれが『組織』の仕業だったとは思いもしなかった。

 最悪の場合は、『組織』と『女性権利団体』は手を組む可能性すらあったからだ。

 

「実際、こちらに来る前にも女性権利団体のフランス支部を物理的に壊してきまして、そこからたんまりと活動資金は貰いましたから。ぶっちゃけ、デュノア社の数年分の儲けと同じ金が金庫に眠ってましたよ?」

 

 いくら落ち目になってきているとは言え、まだまだデュノア社の儲けは相当な額になる。

 その数年分と言えば、日本円にすれば間違いなく、少なくて数億、多ければ数十億になる。

 フランスの支部だけでそれだけの金を隠し持っていたのだ。

 世界中の支部を壊滅させて、そこから金を奪っていけば、デュノア社を脅すよりも圧倒的な額の金が手に入る。

 経営者として優れた実力を持つが故に、彼女達の言葉には何とも言えない説得力を感じてしまうアルベールだった。

 

「そんな訳で、もう我々はデュノア社に対してなんにも手出しする事はありません。それとですね、我々とこうして対面した事は誰かに話しても構いませんよ? 流石に名前を出されると困りますが、それさえ言わなければ、先程の話の内容は全部公開しても構いませんし、娘さんに話してもいいです。まぁ、流石に娘さんの誤解を解くためには、否が応でも話す必要はあると思いますけどね」

 

 この二人はどこまで知っているのだろうか?

 普通に佇んでいる二人の事を、今更ながらに恐ろしく思ってしまう。

 

「それと、これは私個人としての詫びの品です」

 

 アルベールの前まで行き、机の上にUSBメモリを置くアトロポス。

 

「これは……?」

「私が独自に開発した第3世代型ISの設計データが入っているUSBです」

「なんだって!?」

 

 現在のデュノア社が喉から手が出る程に欲しているデータが、まさかテロリストの少女から提供された。

 本人としてはなんとも複雑な心境である。

 

「このデータを使うかどうかはそちらに任せますが、これだけはお忘れなきよう。このデータはあくまで『私個人の詫び』ですので、そこまで気に病む必要はございません。デュノア社の技術力ならば、きっとコレを有効活用が出来ると信じています」

 

 震える手でUSBを掴んで、思わず彼女達を見る。

 いくら詫びの気持ちがあるとは言え、何故に彼女達がここまでしてくれるのか。

 それがアルベールには全く理解出来なかった。

 

「それじゃあ、私達はそろそろ行きますね。この後も予定が立て込んでますので」

「……………」

「姉さまがこう仰っています。『これでフランスも【イグニッション・プラン】に再び参加できるな』……と」

「……………!」

 

 世間が知らないフランスの内情すらもこの姉妹は把握している。

 ラケシスとアトロポスに隠し事は出来ないと確信した瞬間だった。

 

「では、夜分遅くに申し訳ありませんでした。これからもどうか、ご家族で仲良くお過ごしください。では、おやすみさない」

 

 丁寧な物腰と会釈をして、二人は静かに去っていった。

 

「……一度に色々と起きすぎて、頭が追い付かないな……」

「私もよ……」

 

 本来ならば、ここで警察に通報でもするべきなのだろうが、ここで警察を呼べば、必然的にデュノア社が今まで脅されていた事なども話さなければいけなくなる。

 そうなれば、今度こそデュノア社は終わりかもしれない。

 だからこそ、二人はあの姉妹を大人しく見送るしかなかった。

 もしかしたら、ここまで計算していたのかもしれないが。

 

 二人が精神的に極限まで疲労している時、突如としてシャルロットに渡していた緊急用の通信機の投影型モニターが机の上に現れた。

 モニターには当然のようにシャルロットの姿が映っているのだが、今の彼等にはモニター越しの再会を喜ぶような気力は残されていなかった。

 

「シャ……シャルロット……?」

 

 出来る事と言ったら、辛うじて残されている気力を振り絞って娘の名前を呼ぶ事ぐらいだった。

 

 こうして、日本とフランスの物語が交錯する。

 

 

 

  




そんな訳で、パパンもママンも本当はいい人達でした。

そして、今まで不明だった一部のオリキャラ達の名前が判明。
 
彼女達の名前の元ネタが分かれば、自然ともう一人の名前も分かると思います。

次回はデュノア家の和解の話に……?


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和解

本当にお待たせしました。

でも、休んだお蔭でいいアイテムも手に入りました。

ギガンティックアームズの一つなのですが、それを弥生のパワーアップアイテムとして劇中に出そうと考えています。

いつになるかはまだ言えませんが。






 シャルル君が出した投影型モニターに一番最初に映ったのは、高級そうな背広を着た白人の中年男性が椅子に座った状態で呆けている姿だった。

 彼がシャルル君のお父さん……なの?

 

「お…お父さん……?」

 

 あ、やっぱそうなのね。

 よく見ると、鼻の辺りとか少しだけ似ているような気がするし。

 

『シャ……シャルロット……?』

 

 あれ? 向こうも彼女が通信を送ってきたことに驚いてる?

 これが緊急用だからか?

 

『こ…この通信をしたと言う事は、何か急を要するような事が起きたのか……?』

「そうじゃない……けど……」

 

 通信越しに親子の対面だけど、二人共めっちゃ困惑してる。

 私達もどうすればいいか分からないから、今は黙っているしかないけど。

 

『まさか……正体がばれたのか?』

「は…はい……」

 

 怯えながらも肯定する。

 その背は少し震えていた。

 

「あ…あの……」

「分かっている。傍に行ってやれ」

 

 お…おぉ~……。

 私が何も言ってないのに、こちらがしたい事を分かっていらっしゃる……。

 

「やはり、姫様はお優しい……」

 

 織斑先生の拘束から解放されて、その場にラウラを置いてからシャルル君の近くまで寄っていく。

 

「大丈夫……?」

「板垣さん……」

 

 取り敢えず、彼女の頭に手を置く。

 すると、彼女の体の震えが止まった。

 

『か…彼女は……!』

 

 え? 私が何か? 

 

『そうか……無事に彼女に出会えたのか……』

 

 いやだから! まるで私を知ってる風な反応は止めてよ!?

 こっちからしたら不気味この上ないから!

 

『ミス板垣に見破られたのか?』

「いや……彼女だけじゃなくて……」

 

 チラっとこっちを向いてから、モニターを部屋全体を見渡せるように体をどかす。

 

『なっ……!? 例の男性操縦者にミス・織斑、他にもドイツの代表候補生とロシアの国家代表まで……!?』

「僕の変装じゃ、この人達は誤魔化せませんでした……」

『と、言う事は……?』

「はい……。僕の男装は、最初から見抜かれていたようです……」

『……………』

 

 黙りこくった。怒ってるのかな?

 

『ハ……ハハハ……! 見抜かれていた……か……』

「お…お父さん?」

 

 今度は急に笑い出した?

 この人本当になんなの?

 

『いや……すまない。別にお前の事を怒っているわけじゃない。流石はブリュンヒルデに国を背負った代表と候補生。そして、ミスター板垣の御息女……ですな』

 

 この人……おじいちゃんの事を知っている?

 

「お父さん……」

『なんだ?』

「貴方に聞きたい事があります」

『……何を聞きたい?』

 

 シャルル君……いや、シャルロットが唾を飲む音が聞こえた。

 

「まず、僕の変装は最初からバレることを想定していたんですか?」

『あぁ……』

 

 まずは私達の推理が一つ当たった。

 

 それからも、彼女は私達が推理した事を一つ一つと社長さんに確認していった。

 彼は、その全てを頷きながら肯定した。

 

『……シャルロット』

「なんですか……?」

『私達は親として、お前に最低の事をしてしまった。これは、どんな言い訳をしても、決して許される事ではない』

 

 どんな言い訳をしても……か。

 私的には、その言い訳にもよると思うけどね。

 

『だが、これだけは言わせてほしい……!』

 

 モニターに社長さん以外にも、もう一人、悲痛な顔をしたスーツを着た妙齢の女性が現れた。

 

『私達は! ただの一度でもお前の事を憎んだ事も疎ましく思った事は無い!!』

『私達の事はどれだけ恨んでくれても構わない!! でも! 私達は貴女の事を心から愛しているわ!!』

 

 涙を流しながら、必死に言葉を紡ぐ夫婦。

 この二人からは、微塵も悪意も虚偽も感じない。

 

「「「「「………………」」」」」

 

 私達も、彼らの言葉を黙って聞いていた。

 

「…………………」

 

 そして、シャルロットは無言で涙を流しながらモニターの向こうにいる両親を見つめている。

 

「………お父さん……義母さん(・・・・)……」

『お前……今……』

「話して……くれますか……?」

『……無論だ。お前には、それを聞く権利がある』

 

 そこから、夫婦はゆっくりと語りだした。

 二人が、娘を致し方なく蔑にしてしまった理由を。

 

『デュノア社は……とある『組織』に狙われていた』

「狙われて『いた』? 過去形?」

『そう……過去形だ。私達も未だに驚きを隠せないでいるが、知らぬ間にデュノア社は助かっていたんだ……』

 

 は? 知らない間に助かっていた?

 

『組織の事は私達もよくは知らない。だが、私たち夫婦は、その組織のエージェントを名乗る男から、会社の経営権と全ての資産を譲るように脅され続けていたんだ……』

「もしか…して……彼女…の事……も……?」

『ミス板垣の予想通りだ。場合によっては娘……シャルロットの事を人質にして、私達を意のままに操ろうと企んでいたようだ。シャルロットの体を使って金儲けをさせるとも言っていた』

 

 ………!! それって……まさか……!

 

「外道が……!」

「どこにでも、性根が腐っている輩っているものね……!」

 

 他の皆も私と同じ考えに至ったようで、その顔は一堂に怒りに満ちていた。

 

『だからこそ……我々はお前に人質としての価値を無くさせる為に、苦渋の思いでお前に絶対に許されない仕打ちを……!』

『ごめんね……本当にゴメンね……』

 

 あれは心の底から悔いている涙だ。

 嘗て、同じ涙を私は見た事があるから、よく分かる……。

 

「僕は……嫌われてなかったの……?」

『『当たり前だ(よ)!!!』』

 

 よかったね……。本当に良かった……。

 

『自分が産んだ訳ではないとは言え、貴女は私の一番の親友が産み、愛した子供……。私は、シャルロットの事を自分の子供のように大切に思っているわ……』

『私もだ……。お前は彼女の忘れ形見である以上に、掛け替えのない私の娘……。例え何があろうとも、私達はお前の事を守ると決めた……! その結果、お前に嫌われようとも……。お前が幸せであるならば、我々はそれだけで十分なんだ……』

『私達はね、貴女のお母さんの墓前で、それを誓ったの……』

「お母さんの……」

 

 生半可な覚悟じゃないのは物凄くよく分かる……。

 子供の為に命を賭けられる親が、悪人な訳がない。

 

「ねぇ……さっき、知らぬ間に助かったって言ってたけど、それってどういう意味なの?」

『ついさっきの事なんだが、私達を脅していた連中とは別の人間達がやって来て、いきなり『デュノア社から手を引く』と言い出したんだ』

「「え?」」

 

 ちょ…ちょっと本当にいきなりだね……。

 ついさっきって事は、私達と通信が繋がる前……ってか、直前?

 

『全く見た事も無い二人組の女性達だった。褐色肌に白髪の少女と、サングラスをつけた黒髪の女性達で、二人は姉妹だと言っていた』

「名前は?」

『褐色の少女は【アトロポス】、黒髪の女性は【ラケシス】と名乗っていた。簡単に名乗り、それを他言する事を許した時点で……』

「偽名。もしくはコードネーム……」

『でしょうね……』

 

 ギリシャ神話に出て来る運命の三女神……。

 どう考えても本名じゃないでしょ。

 

「でも、どうして今まで狙っていたデュノア社から手を引くなんて……」

『シャルロット、それに君達も最近のニュースで知っているんじゃないか? 女性権利団体の各支部が謎の襲撃者によって次々と壊滅していると言う事件を』

 

 それ……知ってる。

 おじいちゃんもその事で凄く頭を悩ませていたし、ネットの中でも最近はその話題で持ち切りになっている。

 根も葉もない噂が所狭しと飛び交ってるけど。

 

「もしか……して……」

『そう。そのもしかして……だよ、ミス板垣。彼女達、正確には彼女達が所属している組織が襲撃の主犯らしい』

 

 らしい……ってことは、確定事項じゃないんだな。

 それは無理も無いか。碌に証拠も無い情報をすぐに信じるのは愚の骨頂だ。

 

『なんでも、権利団体の連中は、密かにかなりの金を隠し持っているらしいわ』

『彼女達は権利団体の事を【表側の悪】と言っていた。堂々と駆除出来るともな。恐らく、【組織】とやらにとっても権利団体の事が目の上のタンコブだったに違いない』

 

 裏と表の【悪人】同士の潰しあい……か。

 なんとも醜いもんだな。

 いい気味と言えばそれまでだけど。

 

『それと、彼女達から【詫び】としてこんな物も貰ったよ』

 

 社長さんがUSBメモリを見せてきた。

 それがどうかしたの?

 

『この中に、彼女達が開発した第3世代型ISの設計データが入っているらしい』

「ちょ……大丈夫なの!? 明らかに怪しいよね!?」

『無論、後で中身をちゃんと確認してみるつもりだ。私達とて、裏の人間からもたらされた代物を簡単に信じる程、馬鹿じゃない』

 

 約一名、私は簡単に信じそうな人間に心当たりがあるけどね。

 そこにいる鈍感大魔神とか。

 

「ね…ねぇ……。僕はもう……スパイをしなくてもいいの……?」

『勿論だ。と言うか、それ以前にお前はスパイとしての知識も技術も身に付けていないだろう?』

「た……確かに……」

 

 変装も『アレ』だったしねぇ~。

 

『これからは、堂々と女子として学園に通うといい。私達も、政府には『代表候補生が一人、IS学園に向かった』としか報告してないしな。何か目立つ事をしない限りは、向こうはお前がどんな格好をしていても気にも止めないだろう』

 

 いやいやいや!? そんな簡単な報告だけでいいのかよ!?

 それで日本行きを易々と許可したフランス政府も大概だけどさ!

 

「もう僕は……皆を騙さなくてもいいんだね……」

『何度も言うが、本当に済まない……。したくも無い男装をさせて、同級生を騙すような真似をさせてしまって……』

「ううん……。男装自体はそれほど気にしてないよ。これもある意味でいい機会だと思うし、それに……」

 

 ん? こっちを見てどうした?

 

「この恰好をしていたからこそ、知り合えた人達もいるしね」

『……どうやら、いい友人達に恵まれたようだな』

「うん!」

 

 なんとも眩しい笑顔ですな。

 ……私には一生かかっても無理だ。

 

『織斑教諭』

「なんでしょうか?」

『明日からでも娘を女子として再編入させることは可能でしょうか?』

「すぐに……となると、少々難しいかと。しかし、急げば来週にはなんとか……」

『そうですか……』

「あ。僕、女子の制服持ってない」

「すぐに用意するのも難しいしな……」

 

 スリーサイズとかも新たに調べないといけないしね。

 しかも、今日は土曜日で明日は休み。

 発注会社だって、休みの日に注文されても困るだろうし。

 

「制服が届くまでは誰かのやつを借りればいいんじゃねぇか?」

「それは~……」

 

 おい。そこでどうして皆の胸を見る?

 

「ふむ……。弥生や更識では胸のサイズが大きいし、ラウラでは逆に小さい。この場にいない連中に借りる訳にもいかんしな。こればかりは仕方があるまい」

「なんか複雑ですけど、そうですね……」

 

 私と楯無さんは苦笑いをするしかないけど、ラウラは全く気にしてない。

 まだまだ、色気よりも食い気なのかもしれないな。

 

「こちらの方でも準備だけはしておく。制服が到着するまでは男子のままでいて貰うが、それでもいいか?」

「こればかりは仕方が無いですからね。わかりました」

 

 なんか妙な空気になってるけど、一応はこれで無事解決……かな?

 

『シャルロット。長期の休みになったら、いつでも帰って来なさい。その時は、家族水入らずで一緒に食事でもしようじゃないか』

「うん……! その時を楽しみに待ってるね!」

 

 家族水入らず……か。

 私もおじいちゃんと一緒にご飯が食べたいな……。

 

「あ…あのさ、もう二つほど聞きたい事があるんだけど……」

『なんだ? ここまで来たら、なんでも答えてやろう』

「僕や会社を狙って父さんたちを脅していた人達はどうなったの?」

『彼ならラケシス達が『殺処分』をしたと言っていた。多分、読んで字の如くだろうな』

 

 当然の末路……だけど、なんとも物騒な世の中ですな。

 

「さ…殺処分って……」

「その部分に関しては考えるだけ無駄よ。織斑君」

 

 だな。この世にはお前が知らなくてもいい世界があるのだよ。

 

「じゃあ、どうして僕に『板垣さんに接触しろ』って言ったの? あの時に言った事が真実じゃないんでしょ?」

『それは、彼女の義父殿が日本において非常に重要な人物だからだ』

「重要な人物?」

『そうだ。詳しくは書類にも書いていなかったから分からないだろうが、少なくとも、彼女と仲良くなっていれば、その繋がりで、日本におけるお前の安全が確保されると思ってな』

 

 あ~……成る程な~。

 おじいちゃんに認められれば、確かに日本では大丈夫だな。

 

「弥生のおじいちゃんってマジで何者なんだ……?」

「すご~~~~~~~~~~~~く偉い人よ」

「その一言に尽きるな」

「ですね。だからこその姫様ですから」

「分かるような、分からないような……」

 

 割と簡単かつ重要なヒントを出してるけど、これでも分からないのか?

 いや……答えが簡単すぎて、逆に分からないパターンかも。

 

『シャルロット。こっちの事は私達に任せて、お前はそっちで思う存分に青春を満喫しなさい。お前にはその権利がある』

『そして、いつか一緒に貴女のお母さんのお墓参りにでも行きましょう? 彼女もきっと喜ぶわ』

「うん……」

『ではな……。私達はお前が元気にいてくれることを何よりも願っている』

『それじゃあね。いつの日か、貴女の母親に相応しい女になってみせるわ』

 

 最後は満面の笑みを浮かべながら、夫婦は通信を切った。

 

「ありがとう……お父さん。お義母さん……」

 

 涙を流しながらも、笑顔で両親に向かって挨拶をする彼女の事を……私はとても可愛らしいと思った。

 

 これで暴力的な部分さえなければ、普通に友達としてもいいと思うんだけどな~……。

 

 

 

 

 




これでシャルロットは両親と和解が出来ました。

次回はこの後のお話。

これからどうするか……とかですね。

多分、次でやっとシャルロットの問題が終わる……と信じたい……。


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ここから始まる

皆さん!! 何日も更新出来ずに……本当に申し訳ありませんでした!!!

これは明らかな言い訳なんですが、先週から今週にかけて、いきなり実家と自分の両方に色々な予想外のトラブルが頻発してしまって、体力的にも精神的にも更新出来るような状態じゃなかったんです。
しかも、こうして書いている今でさえも頭痛に苛まれている始末。

本当は休みたいと言う欲求があるのですが、流石にこれ以上の放置はヤバいと思い至って、なんとか体を振るい立たせながら執筆しています。

これからは可能な限り、こんな事態は無いように心掛けますので、どうか私の作品をこれからもよろしくお願いします。

以上、とんこつラーメンでした。







 無事に両親との和解を果たしたシャルロットを横目に、私はそっと彼女の近くから離れようとした。

 けど、シャルロットが急に私の服の袖を掴んできて、それを許さなかった。

 

「あ…あの……もうちょっとだけ傍に……」

「ん……」

 

 このような場合、私にある選択肢は『はい』か『いいよ』しかない。

 だって~! 彼女達が怒った時の事を考えると、普通に怖いんだもん!!

 え? ラウラ? あの子は私の癒しですが何か?

 

「しかし、あの二人の話を聞いている限りでは、私達のやったことは余り意味が無かったように思えるな」

「そうね~」

「は? なんでだよ?」

 

 お……おい……。

 あのご両親の話、ちゃんと聞いてたの?

 

「はぁ……いいか? あの二人はこう言っていた。『知らぬ間にデュノア社は助かっていた』と。つまり、彼等でさえ預かり知らぬ所で事態は急速に動いていて、その結果としてデュノア社とデュノア家の平穏は守られた」

「仮に私達が何もしなくても、近い内に向こうからシャルル君……じゃなくてシャルロットちゃんの方に直接連絡があって、そこでさっきみたいなやり取りがされた筈よ」

「って事は……」

「私達…がした事……は……その話し合い……のタイミ…ング…を早めた……だけ……」

「マジかよ……」

 

 そう。その通り。

 私達がした事は、完全に『余計なお世話』だったのだ。

 だって、私達がした事を総合的に振り返ってみると……

 

 

 一夏がシャルロットの裸を見て、

 

 その一夏が私とラウラを部屋に呼び、

 

 その後に私が楯無さんを呼びつけて、

 

 そこから軽く話した後の推理大会。

 

 念の為に織斑先生に話をしに行って、

 

 後はモニター越しの親子直接対面。

 

 

 ……私達って、少しでもデュノア家の仲直りに貢献した?

 ハッキリ言って、微塵もしてない。

 唯々、皆で話し合っただけで終わっている。

 一夏に至っては、その話し合いにすら碌に参加してないしね。

 って事は、こいつって普通に女の子の裸を見ただけ?

 うん、ギルティ。

 

「取り敢えず、今回の事は私から真耶の方にも報告しておく。アイツもお前の正体に気が付いていた人間の一人だし、私だけでは色々と面倒だしな」

 

 おい、最後の方に本音が漏れてるぞ。

 

(呼んだ~?)

 

 呼んでないよ?

 って言うか、今確かに本音の声がした!?

 

「流石に今すぐに……とはいかないが、それでも来週には必ずお前の再転入の手続きと制服の手配は済ませておこう」

「あ…ありがとうございます!」

「気にするな。教師として生徒の面倒を見るのは当然の事だ。なぁ……弥生?」

「そう…で…すね……」

 

 なんでそこで私に振る?

 

「私の方でも少し手伝います。そうすれば、少しは早まるでしょうから」

「それは助かるが、いいのか? この時期は生徒会も忙しいだろうに」

「大丈夫です! 虚ちゃんが頑張ってくれますから!」

 

 哀れ……虚さん……。

 今度、割と真面目に生徒会に差し入れでもしようかな……。

 

「それに……」

「きゃぁぁぁっ!?」

 

 い…いきなりなにをするだぁぁぁ!? 許さん!!

 楯無さんや! なんで私の体に抱き着いて鼻をヒクヒクさせる!?

 

「弥生ちゃんの香りがあれば、私は後10年は戦えます!!」

 

 お前はどこのジオン軍の将校だ。

 あれか? この人も骨董品とか集めるのか?

 

「弥生の香り……」

 

 そこの男子。何を想像している。

 

「弥生の香りか……確かに素晴らしかったな……」

 

 この女教師ももうダメだぁぁぁぁぁっ!?

 

「姫様の香り……」

 

 別にラウラならいつでも大歓迎だよ?

 って言うか、毎日一緒に同じベッドで寝てるんだから、もう何とも思ってないでしょ?

 

「ところでシャルロットちゃん?」

「な…なんですか?」

 

 お? なんだ? 楯無さんはまだ何か聞きたい事があるのか? 

 流石は暗部の長。ふざけてはいても、ちゃんと最後まで気は抜かないみたいだ。

 

「さっきから何回も弥生ちゃんに抱き着かれたり、頭を撫でて貰っていたけど……ぶっちゃけどうだった?」

「えぇぇぇっ!?」

 

 周囲に聞こえないように小声で話しているせいか、私には何を言っているのかサッパリだ。

 シャルロットの叫び声はよく聞こえたけど。

 

「な…なんか……いい匂いがして……とっても軟らかくて……」

「それで?」

「ドキドキ……しました……♡」

「でしょうね~……分かるわ~」

 

 なにを大きく頷いてるの?

 傍から見ると、なんか変だよ?

 

「それに……凄く落ち着いて……まるでお母さんに包まれているような感じがしました……」

「そうよね~……。やっぱ、弥生ちゃんの母性って半端ないのよね~……」

 

 お~い。そこの女子二人がなんか顔を赤くしながらヒソヒソ話してるんですけど~。

 誰も止めなくてもいいんですか~?

 

「ところでお前等、もう夕食は終わったのか?」

「あ……」

 

 そうだった! 私にとって夏コミ&冬コミと同じぐらい大事なライフワークをすっかり忘れていた!!

 ぐぉぉぉぉ……! 板垣弥生……一生の不覚……!

 意識すると、途端にお腹が空腹に苛まれて~……。

 

「まだならば、早く行ってこい。この時間帯なら食堂は開いている筈だ」

「早く…行こう……!!」

「おぅ……。弥生が珍しく燃えている……」

「それだけ姫様は空腹と言う事なのだろう」

「それじゃ、お姉さんもご一緒しようかしら」

 

 となると、流れ的に彼女も誘わないとダメですよね~。

 

「行…こう……?」

「え? 僕も一緒に行っていいの?」

「当…然……」

 

 と言うかですね、ここでシャルロットだけハブるとか、普通に鬼畜だから。

 いくら私が彼女達を警戒しているからと言って、さっきの今で何もしないような奴じゃないですよ?

 

「教官はどうされるのですか?」

「私ならばとっくに食べてきた。お前達だけで行け」

「了解です!」

 

 はい。綺麗な敬礼だけど、ベッドの上に座っている状態では普通に可愛いだけだから。

 

 そんな訳で、皆仲良く一緒に夕食タイムと洒落込む事になりましたとさ。

 

 さ~て……今回はいつも以上にお腹が空いてるから、ガッツリとしたものを食べたいにゃ~♡

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 食堂に向かって並んで歩いていると、なにやら生徒達の目線がこっちに向いている事に気が付いた。

 

「なんか……俺達、見られてないか?」

「そりゃね。これだけ学園の有名人が一緒にいれば、普通に注目するわよ」

 

 それもそっか。

 一夏は勿論のこと、楯無さんは生徒会長でロシア代表、ラウラだってドイツの代表候補生。

 更に、シャルロットは便宜上、まだ皆の中じゃ二人目の男性IS操縦者って認識だしな。

 私を除けば、皆が皆、学園じゃなくても普通に街行く人が振り返るレベルの有名人ばかりだ。

 そう考えると、私の周りって凄いんだな~……。

 

「この中でも断トツで有名なのは勿論……」

 

 一夏か楯無s……

 

「「「「弥生(ちゃん)(姫様)(板垣さん)」」」」

 

 なんで満場一致で私!?

 こんな時だけ見事にハモりやがって!

 

「弥生ちゃんは今や『IS学園の聖母』『IS学園の良心』とかって呼ばれてるものね」

 

 なにその羞恥心全開の黒歴史を彷彿とさせる異名は!?

 呼ばれている私が初めて聞いたんですけど!?

 つーか、聖母って何!? 私はアレか!? 処女なのに天使から受胎告知されなきゃいかんのか!?

 

「それなら僕も聞いた事あるかも……」

「私もだ。それを聞いた時、不思議と誇らしくなったな……」

 

 転入生の二人にも既に知られてるの!?

 どんだけ学園に広まってるんだよ!? その異名は!?

 

「ま、始めに言い出したのは新聞部の薫子ちゃんなんだけどね」

 

 薫子って確か……新聞部の副部長をしているって言う二年生か。

 私の記憶の中じゃ、クラス代表就任パーティーの時に一夏にインタビューをしていた場面が印象的だけど、私自身は実際に会った事は無いんだよね。

 だって、その時って丁度、ベッドの上で悶え苦しんでましたから。

 

(取り敢えず、黛先輩さんにもしも出会う機会があれば、その顔面にキツい一撃をお見舞いしてやろう……インパクトナックルで)

 

 鼻の骨が折れるかもしれないけど、是非もないよね!(意味不明)

 

 今になって明らかになった新事実に辟易しながら歩いていると、私達の進行方向から見覚えのある5つの影が歩いてきた。

 

「ん? 弥生?」

「あら……」

「一夏も一緒か……」

「お姉ちゃんも……」

「おぉ~……そ~そ~たる顔ぶれだね~」

 

 箒にセシリアに鈴に簪に本音。

 今回の事に関わらなかったメンバーが見事に揃っていた。

 

(こっちも5人、向こうも5人。なんとも不思議な構図だな)

 

 まるで、今からチーム戦の競技がありそうな場面だ。

 

「そっちから来たと言う事は、今から夕食に……?」

「その通りだ。お前達はもう食べ終えたのか?」

「え…えぇ……そうですわ……」

 

 んん? なんか五人共…焦ってる?

 

(くっ……抜かった……!)

(私達で先に食堂に向かって弥生さんを出迎えようと思っていましたのに……)

(余りにも遅いもんだから、先に食べちゃったのがここで仇になるなんて……)

(お姉ちゃんも一緒に……ユルスマジ……!!)

(う~ん……今回は仕方が無いかな~……)

 

 三者三様ならぬ、五者五様の表情だな。

 見ていてちょっと面白い。

 

「お腹……空いた……」

「「「「「はっ!?」」」」」

 

 早くそこをどいてくれると嬉しいな~。

 もうさ、お腹と背中がくっつきそうなんですよ。

 

「ど…どうぞ、弥生さん! 今ならばきっと席も空いている筈ですわ!」

「そ…そうよ! ほら、行った行った!」

「ありが…と……」

 

 出来れば、夜の事も考えて腹持ちがいい料理を食べたいな~。

 そんな事を考えながら、どいてくれた五人の横を通り過ぎようとすると、楯無さんが簪に、一夏が箒とセシリアと鈴に腕を掴まれて立ち往生していた。

 

「お姉ちゃん……」

「ど…どうしたの? 簪ちゃん……」

「アトデハナシガアルカラ……」

「あ……はい……」

 

 か…簪? 気のせいか、目が光ってない?

 

「一夏……」

「もしも弥生さんに不埒な真似をしたら……」

「………捩じ切るわよ」

「どこを!?」

 

 あの二人は何をしているのやら。

 行かないのなら置いてくよ~?

 

「姫様。我々は我々で先に行っていましょう」

「だね……」

 

 ラウラの提案に従って、私達とシャルロットは先に食堂に向かう事に。

 

「ね…ねぇ……」

「どうした?」

「二人ってさ……いつもそんな風に手を繋いでるの?」

「そうだが? それがどうかしたか?」

「いや……なんでもない」

 

 私達が歩く際に手を繋ぐのは、もう普通にデフォになりつつある。

 だって、こうしておかないと、すぐにどっかにフラ~っと行っちゃいそうなんだもん。

 

(姉妹って言うよりは……完全に親子だ……)

 

 なんでシャルロットを含めた周りの皆が生暖かい笑顔でこっちを見てるの?

 妙に空気がほんわかしてますよ?

 

 皆の反応は私達が食堂に辿り着くまで続いて、一夏と楯無さんは少しだけ遅れてやって来た。

 

 時間的には、割とギリギリな感じだったから、急いで注文をする事に。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 私が注文した『超大盛りカツカレー(23人前)』に舌鼓を打っていると、私の左隣に座ってカルボナーラを食べているシャルロットが話しかけてきた。

 

「あ…あのさ……」

「ん?」

「その……なんで板垣さんは部屋に呼ばれた時、僕の話を黙って聞いてくれたの?」

 

 なんでって言われてもね……。

 私的にはあそこで即座に退出なんて事は出来なかった……と言うよりは出来ない(したらどうなるか想像できない、したくもない)から、あそこでは大人しく話を聞く以外の選択肢が無かったわけだけども……。

 

(そんな事を言ったら、私の危険がピンチになるのは明白。だったら……)

 

 ここは適当に誤魔化しますか。

 

「……放っておけなかった……から……」

 

 正確には『放置したらどんな目に遭うか分からなかったから』が正解だ。

 ……まぁ、原作知識を持つ者として、普通に見過ごせなかったってのもあるけれど。

 

「板垣さん……」

 

 んんっ!? このカツ……サクサクしてて美味しい~♡

 カレーのルーとの相性も抜群だよ~♡

 

(板垣さんは養子だって言ってた……。ある意味では僕よりも辛い目に遭ってきたのかもしれないのに、それでも僕の事を心配してくれて……)

 

 あら、右隣でハンバーグを食べているラウラの口元がソースでベトベトになってる。

 

「ラウラ……こっち…向…いて……」

「姫様? んん……」

 

 テーブルの上に備え付きになってる紙で口元を拭いて……っと。これでよし。

 

「あ…ありがとうございます……」

「ん……」

 

 ラウラの頭を一撫でしてから、食事再開。

 

「……本当にお母さんみたい……」

 

 んあ? 何か言った?

 

「そうよね~……。私も弥生ちゃんにお口拭き拭きしてほしいわ~……」

 

 いや、それは流石に遠慮します。

 そもそも、楯無さんが食べてるのってきつねうどんじゃないですか。

 そこまで口元は汚れないでしょうに。

 

「ね…ねぇ……。僕も板垣さんの事を名前で呼んでも……いいかな?」

 

 私の事を名前で? 別に、そんなの私に一々許可なんて取らなくても、普通に呼べばいいじゃん。

 名前で呼ばれた程度で何かを思うほど、私は繊細な人間じゃないから。

 もしも私が繊細だったら、こんな体な時点で即効アウトですから。主に精神が。

 

「いい…よ……」

「やった! じゃ…じゃあ……弥生?」

「な…に……?」

「ふふふ……なんでもないよ♡」

 

 なんじゃそりゃ。

 

 その後も私達は人の少なくなった食堂で食べ続けたが、なんでかシャルロットは終始、笑顔のままで食事を続けていた。

 

 食堂に残っていた数名の女子達が、私がラウラの口元を拭う度にほんわかとした顔をしていたのが不思議だった。

 

 今日は精神的に疲れたから、たっぷりと熟睡出来るだろうな~。

 部屋に戻ったら、すぐにシャワーを浴びて、それからラウラを抱きしめてお休みしましょうかね!

 

 でも、何か大切な事を忘れているような気が……なんだっけ?

 

 

 

 

 

 

 




今回でようやくシャルロットの問題が解決しました。
 
なんでここまで長くなったんだろう……。
 
自分でも本気で分かりません……。

次回からはラウラが中心(?)になると思います。

弥生は一体何をド忘れしているのでしょうか?


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人の噂も七十五日

何と言いますか……。

やる気と体調が上手く噛み合う時が最近になってめっきり減ってきてます。

朝から『今日はやるぞ~!』と思っていても、いざ書く時になって何故か体調が崩れてしまったりとか。

気温の緩急が激しいせいなのか、そんな事が頻繁に起きます。

ほんと、普段から体には気を付けないといけないですね。






 なんやかんやで、人知れずデュノア家の問題が解決した次の週の月曜日。

 私はラウラ、一夏と一緒に教室へと向かっていた。

 シャルロットは一緒じゃなくて、一夏が言うには、休みの内に再転入の手続きが早くも終了して、彼女は朝早くに部屋を出て織斑先生や山田先生の元に向かったらしい。

 となると、原作よりもかなり早めにシャルロット再転入ですかにゃ?

 

「そ…それは本当なの!?」

「嘘じゃないでしょうね!?」

「いや……まさかそんな事が……」

「それは聞き逃せない……!」

「いいなぁ~……」

 

 ……なんか、教室の中から聞き覚えのある声が聞こえてきたんですけど?

 つーか、約2名、他のクラスの子が混ざってない?

 

「なんでしょうか?」

「「さぁ?」」

 

 そんなの私が知るわけがない。

 ラウラの純粋に疑問を感じている顔を眺めながら、私達は教室へと入っていくことに。

 すると、入った途端に奇妙な話が耳に入ってきた。

 

「うん。私も風の噂で聞いた程度なんだけど、なんか変な噂が学園中に広まっているのは事実だよ」

「なんでも、今度開催されるって言う学年別トーナメントで優勝すれば、何故か板垣さんから耳かきをして貰え……」

 

 んん~? 気のせいかな~? 私の名前が聞こえた気がするぞ~?

 

「おい貴様等。何を話している?」

「「「「「きゃぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!?」」」」」

 

 声デカッ!? 朝から元気あり過ぎでしょ……。

 

「ラ…ラウラさん!?」

「弥生に一夏も!?」

「い…いつの間に教室に……」

「も…もしかして聞かれてた……?」

「かもね~」

 

 少しだけなら聞こえたけどね。

 私がどうのとか、耳かきがどうのとか。

 細かい部分は流石に聞こえなかったけど。

 

「なんか弥生の事を話して無かったか?」

「そ…そうかしら!? 気のせいじゃない!?」

「そ…そうですわ! 若いのに白昼夢を見るなんて、貴方も困った人ですわね!?」

「白昼夢って……今はまだ朝なんだけど」

「なら寝ぼけていたって事で」

「なんでそうなる!?」

 

 明らかに何かを誤魔化そうとしている?

 そういや、この時期って言えば学年別トーナメントがあったよな……。

 来る途中に廊下にイベント告知の張り紙もしてあったし。

 

(あれ? 学年別トーナメントって事は……)

 

 原作では、女子達がある噂で持ち切りだったっけ。

 確か……『学年別トーナメントの優勝者は一夏と交際できる』……だったよね?

 でも、さっきは一夏の名前なんて少しも出てきてないし……。

 

(……これってどゆこと?)

 

 う~ん……分からん。

 

(あ、トーナメントと言えばもう一つ大変な事があったじゃん!)

 

 ラウラのIS『シュヴァルツェア・レーゲン』に密かに仕込まれていた『VTシステム』の起動と暴走。

 大抵の事は『原作パワー』でなんとかなると思って楽観的になるけど、こればっかりは別問題だ。

 今や、ラウラは私の中で簪や本音と同じぐらいに大切な存在へと格上げされている。

 そんな彼女が危険に晒されるなんて、私は絶対に看過できない。

 出来れば起動の阻止を。無理ならば起動してから意地でも救出してみせる。

 今回ばかりは、マジでいかせて貰うよ……!

 

「姫様? どうされました?」

「なんで…もない……よ……」

「???」

 

 可愛らしく小首を傾げる彼女を見て改めて決意する。

 いざとなったら、アーキテクトにまた無理をさせるかもしれない。

 でも、私は信じてる。アーキテクトならば必ず私の想いに応えてくれると。

 

「あ…あたしはそろそろ二組に戻るわね! じゃ!」

「私も四組に戻る。またお昼にね、弥生」

「ん」

 

 鈴と簪が脱兎のように一組の教室を出て行く。

 ま、このままいたんじゃ、織斑先生の出席簿の餌食になるのは目に見えてるから、当然の行動だけど。

 

「なんだったんだ……?」

「「さぁ?」」

 

 このやり取り、二回目じゃね?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「皆さ~ん……おはよ~ございま~す……」

 

 私達が全員、自分達の席に着いた直後、教室の扉が開かれて、かなり疲れた感じの山田先生がふらふらとした足取りで入ってきた。

 その手には某栄養ドリンクのビンが握られている。

 

 なんとなく疲労の原因には想像がつくけど、そんなに大変だったんだ……。

 話では楯無さんも手伝ったって聞いてるけど、それでもこの疲労度……。

 きっと、織斑先生や楯無さんもクタクタになってるんだろうなぁ~……。

 

「……ちょっとだけ待っててくださいね」

 

 そう言うと、徐に山田先生がビンの蓋を開けて、その中身をグビグビグビ~! と胃の中に流し込んでいく。

 

「プハァ~! 少しだけ元気が出ましたぁ~!」

 

 少しだけかよ。

 

「はい。今日はですね、皆さんにお知らせがあります」

 

 『お知らせ』と聞いて、一部を除いた皆がザワ…ザワ……ザワ…ザワ……としだした。

 私達はその『お知らせ』の内容を知っているんだけどね。

 

「まずは説明するよりも直に見て貰った方が早いですね。では、入って来てください」

「分かりました」

 

 廊下から『彼女』の返事が聞こえ、扉が開かれる。

 そこには、見事な女子の制服を着た少女…『シャルロット・デュノア』が立っていた。

 

「え……?」

「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~っ!?」」」」」

 

 案の定と言うか、何も知らない少女達は目を見開き、口を大きく開けて驚きを隠せないでいた。

 約数名、箒とセシリアと本音だけは『やっぱりな……』って顔をしていたけど。

 

「えっと……シャルル・デュノア改め、シャルロット・デュノアです」

「実はですね、彼女は国やお家の都合でどうしてもほんの一時期だけ男子として過ごさなければいけなかった理由があるんです。その理由についてはここでは言えませんが、少なくとも、彼女は悪意があって皆さんを騙そうとしていた訳じゃないと言う事だけは理解してあげてください」

 

 そりゃ、ここでは言えないよね。

 両親が謎の存在に脅されていて、自分も密かに命を狙われていて、それをなんとか躱すために男装していたなんて。

 裏の世界を全く知らずに今まで過ごしてきた彼女達には、余りにも話が重すぎる。

 

「皆さん……本当に申し訳ありませんでした!」

 

 シャルロットの心の底からの謝罪を見て、クラスの皆が少しだけ静かになる。

 

「大丈夫! 別に気にしてないよ!」

「え?」

 

 一人が言い出した事を切っ掛けに、次々とシャルロットを労わるような言葉が飛び出していく。

 

「噂の転入生の正体は美少年じゃなくて美少女だった……ね。いいんじゃない?」

「そうよね。男装女子なんて、今の世の中、そこまで珍しくないし」

「だよね~。寧ろ、それって一種の個性じゃない?」

「それ言えてる!」

 

 誰一人として責めるような意見は無い。

 お人好しと言えばそれまでだけど、この年頃の少女達にしては珍しいと思う。

 それとも、運よく1組にはそんな風なメンバーが集められただけか。

 

「皆……ありがとうございます!」

 

 涙ぐみながら礼を言うシャルロット。

 もうそこには、友情とスパイの二重苦に悩まされていた少女はいなかった。

 私達の前に立っているのは、同じクラスの仲間のシャルロット・デュノア、それだけだ。

 

「あれ? でも確か、デュノアさんと織斑君って同じ部屋だったよね? それで気が付かないって事は……」

「そ…それは~……」

「い…いや! シャルル…じゃなくてシャルロットはさ、俺に勘付かれないように上手に立ち回っていたから、一緒の部屋にいる俺でも全く分からなかったんだよ!」

 

 一夏、必死すぎて逆に怪しい。

 

「……そっか。そうだよね。簡単にバレちゃったら男装の意味無いもんね」

 

 え? まさかの納得? それでいいの?

 

 結局、真実は隠蔽されて、一夏は今の今までシャルロットの正体を知らなかったことになった。

 もしも嘘がバレていたら、即座にクラスの女子全員から『制裁』が与えられただろうな。

 勿論、その制裁には私も加わるけど。

 

「話は終わったか?」

「織斑先生」

 

 おっと、丁度いいタイミングで織斑先生の降臨ですか。

 もしかして、廊下で話が終わるのを待ってたりする?

 

「はい。つい先程」

「そうか……」

 

 山田先生とは違って、織斑先生は疲れた様子を見せていない。

 元世界王者は伊達じゃないって事かしら?

 

「お前等も聞いたと思うが、これからもデュノアの事を今まで変わらないように接してやれ。いいな? 分かったなら返事!!」

「「「「「はい!!!」」」」」

 

 うん。モロに軍隊方式です。

 そして、私にそんなに大きな声は出せません。

 もしも出したら、喉が破裂しちゃう。

 

「デュノア、お前の席は今まで通りだ」

「はい」

 

 シャルロットが先週まで男子として座っていた席に座ると、そこで山田先生と織斑先生の立ち位置が交代する。

 

「では、これより朝のSHRを始める。今日の連絡事項は……」

 

 こうして、本人からすれば大きな、全体的に見れば小さな変化があって、またいつもと同じ一日が始まる。

 今日こそが、シャルロットにとって本当の意味で初めての学園生活の始まりなのかもしれない。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「「「本当にゴメンなさい!!!」」」

「え…えっと……」

 

 一時間目が終わった後の休み時間。

 私は、以前に無人機騒動で知り合った例の三人組の少女達に屋上に呼び出されて、開口一番いきなり謝られた。

 ぶっちゃけ、訳が分からないよ。

 

「あの……今、学園に広まっている噂って知ってますか?」

「私…が耳掻きをする…とか……って言う……?」

「そう、それです! 実はその噂……」

「広まった原因、私たちかもしれないんです……」

 

 ん? それはどういう事かな?

 

「あれは先週の事でした。校舎の廊下を生徒会長が嬉しそうにスキップしながら歩いてていました」

 

 おい生徒会長。生徒の長たる者が廊下をスキップするとは何事か。

 

「で、会長は誰に話しているわけでもなく、一人で嬉しそうに呟いていたんです。『弥生ちゃんの耳かき最高だった』って」

 

 あ~……そこまで聞かされた時点で、なんとなくオチが読めた。

 

「それを聞いた私達は羨ましくなって、『今度の学年別トーナメントで、私達の中で一番いい成績を取った子が板垣さんに耳かきをしてもらえるように頼んでみようか』って話になったんですよ」

「恐らくですけど、その時の話を誰かに聞かれていて、それに色々な尾ひれ背びれが着いていった結果……」

「最終的に『学年別トーナメントで優勝した子は板垣さんから耳かきをして貰える』なんて噂に発展していたんだと思います……」

 

 成る程ね~。

 確かに、噂なんてものは、いつの間にか大きくなっていって、気がついた時には最初の話の原型すら無くなる程に変貌する事が往々にしてあるからね。

 特に、それが学園なんて言う『閉鎖社会』ともなれば猶更だ。

 年頃の少女達の噂好きのレベルは、世間一般の人達が想像しているよりもずっと上だから。

 

「まさか、ここまで話が大きくなるなんて想像もしなくて……」

「本当にすいませんでした……」

 

 謝罪の気持ちは受け取るけど、そこまで気にしなくてもいいと思う。

 噂が学園中に流れても、誰も本気にはしないでしょう。

 それに、私の耳かきなんて興味無いだろうし。

 それ以前に、上級生には私の事を知っている人なんていないでしょ。

 

「大丈夫……だよ」

「「「え?」」」

「人の噂も七十五日……だよ。放っておけ…ば……自然消滅する……と思う……」

「そんなもんでしょうか……」

「そんなもん……だよ」

 

 年頃の女子高生なんて、熱しやすく冷めやすいのが常だ。

 一カ月もすれば、別の話題で持ち切りになって、彼女達の頭から綺麗サッパリと消え去る……と思う。

 

「それ…に……」

 

 ポケットから専用のケースを出して、そこから耳かきを取り出して見せる。

 

「耳かきぐらい…なら……いつで…もする……よ?」

「「「い…板垣さぁ~ん!」」」

 

 うぇぇぇぇっ!? なんでそこで泣きそうになるの!?

 そんなに私に耳かきされるの嫌だった!?

 

「で…でも、ここで板垣さんの好意に甘えたら、却って駄目になりそうな気がする……」

「「うんうん」」

「……よし!」

 

 何が『よし』なの?

 

「最初の話の通り、私達の中で一番の成績を取った子が板垣さんの耳かきを体験できることにします!」

「「賛成!!」」

 

 結局、元の鞘に納まるってことね。

 本人達がそれでいいなら、私としては何も言えないけど。

 

「もうそろそろ休み時間が終わるかも」

「早く行かないと授業に遅刻しちゃう!」

「それじゃ、私達は行きますね! 板垣さん、お話に付き合ってくれてありがとうございました!」

 

 あ……行ってしまった。

 

「……私…も行かない…と……」

 

 次の授業は織斑先生だった筈。

 私も急がないと、本気で遅刻してしまう。

 

 屋上から早歩きで教室まで急いだ結果、なんとかギリギリで教室には辿り着いた。

 教室に入った直後にチャイムが鳴った時はかなり焦ったけど。

 

 




まずはここまで。

時系列で言えば、次はラウラが鈴とセシリアをボコボコにするシーンですが、ここでのラウラはそこまで好戦的じゃないから、どうなるか……?



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私のパートナーは誰になる?

どうも。
最近になってようやくガラケーを卒業して、スマホデビューを果たした作者です。

いや~、スマホって凄いですね。映像綺麗過ぎ。
冗談抜きで文明の利器(死語)って感じがします。

試しにスマホでもハーメルンのサイトを開いて作品を読んでみましたが、思ったよりも普通に読めましたね。

これからは、スマホの電源が切れない限りは、いつでもどこでも小説が読めるようになりました。
それ以外でも勿論、使いますけどね。






 IS学園校舎の一階廊下の一番右端。

 お世辞にも人通りが多いとは言えない場所で、千冬とラウラが対面をしていた。

 

「……教官に少し、お聞きしたい事があります」

「……なんだ。言ってみろ」

 

 いつもならばここで『教官ではなく織斑先生と呼べ』と言うやり取りがあるのだが、今の千冬はその事を全く指摘しなかった。

 ラウラの纏う雰囲気がとても真剣に感じたからだ。

 ここで下手に何かを言うのは逆効果だと考えたのだろう。

 

「教官は何故、この極東の地……いえ、IS学園に教師として留まっているのですか?」

「私にはやらなければいけない事がある。唯それだけだ」

「……やはりですか」

 

 ここで千冬は少しだけラウラの態度に疑問を持った。

 彼女が知っているラウラならば、ここで何かしらの文句に近い事を言ってくると予想していたからだ。

 なのに、実際に彼女の口から出てきたのは、落ち着き払った納得の言葉。

 

(ラウラも……変わってきているのだな……)

 

 嘗て、千冬は教官としてラウラに自分の持つ技術を教えはしたが、彼女が実際に出来たのはそこまでで、そこから先の最も大事な部分……人としての心や仲間を思う気持ちなどは何一つ教えられなかった。

 結果として、千冬がドイツを去る際には冷徹で非情な勝利至上主義な少女がいたのだが、今のラウラからは当時の冷たい雰囲気は全くもって感じない。

 千冬が最も望んでいたラウラの変化の原因は、少なくとも彼女が考える限り一つしかない。

 

(弥生と同じ部屋にした事は、どうやら間違いではなかったようだな……)

 

 弥生の持つ生来の優しさと母性が、ラウラの凍てついた心を溶かし、彼女を一人の少女にしてくれた。

 その事に、千冬は心の中で感謝をせずにいられなかった。

 

「……教官。貴女程の方がここにいる理由とはズバリ……姫様ですね!?」

「…………は?」

 

 いきなりの事で、千冬の目が点になる。

 

「日本政府が極秘裏に姫様の護衛と教練を教官に依頼し、それを遂行する為にIS学園にて教師をしている……違いますか?」

「そ…それは……」

 

 実際には、たった一人の家族である一夏をこれ以上一人にはしていけないのと同時に、IS委員会から半ば強制に近い感じでIS学園の教師にさせられた……が正解である。

 教師になる際、千冬は委員会から無理矢理、教員免許を渡された。

 本人には全く教師としての知識は無いから、免許を貰ってから必死に教師としての勉強をしたと言う、なんともあべこべな経歴を持っていたりする。

 千冬も何気に苦労人なのだ。

 

(どうする? ここで真実を言うか? いやしかし……最近では私の中で弥生の事が一夏と同じぐらいに大きくなってきているのもまた事実……。ならばここは……)

 

 腕を組んでから、敢えてラウラの目を見ながら、それっぽい事を言ってみた。

 

「まぁ……近からずも遠からず……と言ったところだ」

「いつもは毅然としている教官がハッキリと明言しないと言う事は、私の予想通りに政府から内密な任務が……。教官と姫様ならば、それも納得できる……」

 

 千冬がぼかした言い方をしてしまったせいで、ラウラは勝手な解釈の後に、勘違いをしたまま自己完結してしまった。

 しかし、千冬も千冬で『どうせバレないだろうから、ここで黙っていても問題は無いか』と楽観視していた。

 

「ところで、板垣とは仲良くしているか?」

「はい! 姫様は私等には勿体ないぐらいに素晴らしいお方です。いつも後ろから髪を梳いて貰ったり、一緒に寝たりしています」

(な…なんだと……!?)

 

 ここに来て明らかになった弥生のラウラの生活の一部。

 それを聞いて、大人げなくも嘗ての教え子に嫉妬をしてしまう織斑千冬24歳独身。

 

(弥生に髪を梳いて貰うなど……私もしてほしい!! それに、弥生と一緒に寝ているだと……!? こいつめ……なんて羨ましい事をしているんだ……!!)

 

 もしもここが自室で、いるのが千冬一人だったならば、間違いなく彼女は唇を噛み締めながら血の涙を流していただろう。

 

「そ…そうか……。仲が良さそうでなによりだ……」

「はい!」

 

 歳相応の少女のように無邪気で明るい笑顔。

 千冬がラウラに一番なってほしかった姿になっているのは本当に嬉しいが、同時にこれが弥生とのイチャイチャ生活によって齎されている事実に、なんとも言えない心境の千冬。

 

「そ…そろそろ授業が始まる。教室に行け……」

「はっ! では、失礼します!」

 

 綺麗な敬礼をしてから、ラウラは早歩きで去っていった。

 残されたのは千冬のみ。

 

「……少し強引に行けば、私にも髪を梳いてくれたり、耳かきをしてくれるだろうか……」

 

 最近になって学園に流れている噂を聞いていた千冬は、その場に少しだけいて、自分が弥生に耳かきをされる光景を妄想していた。

 

 彼女の顔がにやけている中、校舎内には次の授業を知らせるチャイムが鳴り響いた。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 放課後の第3アリーナ。

 自分達の専用機を纏ったセシリアと鈴が並んでステージに入ってきた。

 授業が終わってから一番に着いたせいか、彼女達以外の人影は見当たらず、見事なまでの貸し切り状態だった。

 

「やっぱ……アンタも例の噂を気にしてるクチ?」

「その話題が出ると言う事は、もしかして鈴さんも?」

「まぁね。ここで馬鹿みたいに取り繕ったって意味無いし。それに……」

 

 甲龍のハイパーセンサーを使って、アリーナの観客席の壁に貼り付けられている学年別トーナメントの張り紙を見る。

 

「ここに来る途中で見た、トーナメントの新しいルール……知ってるんでしょ?」

「えぇ。『より実戦的な戦闘状況を再現する為に、ツーマンセルでの参加を必須とする』……でしたわね」

「『ペアが出来なかった場合は抽選でランダムに選ばれた生徒同士でペアを組む事にする』が抜けてるけど、大体はそんな感じよね」

 

 ペア……この単語が出てきた時、瞬時に二人が思い浮かべたのは弥生の顔だった。

 

「アンタさ……弥生とペア組みたいと思ってるでしょ?」

「当然。貴女もですわよね?」

「当たり前じゃない。きっと、私達だけじゃなくて箒や簪、本音も同じ事を考えてるでしょうね~」

「それに……彼女も」

「あぁ~……シャルル…じゃなくてシャルロットね。薄々勘付いてはいたけど、ああも堂々と女宣言されると、流石に呆気にとられたわ」

「私もですわ。昼食時に少しお話しましたけど、本人は本当に申し訳なさそうにしていて、何も言う気が起きませんでした……ある一点を除いては」

「……いつの間にか、弥生と仲良くなってたわね」

 

 他のクラスである鈴と簪も、後にシャルロットの一件を知らされたのだが、その時にシャルロットが弥生の近くに立っていた事に驚きを隠せないでいた。

 自分達が見ていない間に、一体何があったのか。

 勘ぐらずにはいられない二人だった。

 

「貴様等。そんな場所で何をしている?」

「「あ」」

 

 二人が駄弁っていると、そこに黒い専用機『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏ったラウラが姿を現した。

 

「なにやら姫様の名前が聞こえたような気がしたが……」

「う…うん。まぁね~」

 

 弥生の事を話していたのは本当の事だったので、適当に誤魔化した。

 

「二人はトーナメントに向けての訓練か?」

「一応ね。そっちもでしょ?」

「あぁ。強敵である代表候補生が僅かしかいないとは言え、油断をしていい理由にはなりえないからな」

「獅子は兎を狩るのにも全力を尽くす……ですわね」

「そう言う事だ」

 

 ここにいる三人は、いずれも国の威信を背負った代表候補生。

 弥生を巡ってのライバル以上に、同じ代表候補生として負けられない戦いがそこにはある。

 

「ところで弥生は? 一緒じゃないの?」

「姫様ならもうすぐ来るぞ。今日は一緒に訓練をする約束をしているからな!」

 

 鼻息荒く腰に手を当てて胸を張るラウラ。

 ある意味で同じ身の上の立場故に、鈴はその姿を微笑ましく見ていた。

 

「弥生さんもご一緒出来るなんて……自然といつも以上に頑張れそうな気がしますわね」

「アタシも。今日はちょっと張り切っちゃおうかしら」

 

 なんて事を話している間に、アーキテクトを纏った弥生がステージ内へと入ってきた。

 

「お待た…せ……」

「「弥生(さん)!!」」

 

 弥生が来るや否や、すぐに彼女の傍まで行く鈴とセシリア。

 その目的は勿論一つだけ。

 

「廊下とかに張り出されてるトーナメントの新ルールの事は知ってるわよね? アタシと組みましょ!」

「いえいえ! ここは是非とも、このイギリスの代表候補生であるセシリア・オルコットとタッグを組みませんこと!? 私と弥生さんが組めば優勝間違いなしですわ! そして、その後は弥生さんと二人きりで一緒に……グヘヘ……」

「えぇ~……」

 

 余りの勢いとセシリアの最後に見せた表情にドン引きする弥生。

 そこに待ったをかけるように、ラウラが声を掛ける。

 

「姫様ならば、もうとっくに私と組んでるぞ?」

「「まさかの先制攻撃!?」」

 

 この事態は想定していなかったのか、二人仲良く後ろを振り返る。

 

「ここに来る前に、私達で職員室に寄ってペアの申請書を提出してきた。私達は一緒の部屋だし、作戦も立てやすい。何より、私は姫様の護衛! 姫様と敵対するなど絶対に有り得ん!!」

「「そ…そんなぁ~……」」

 

 完全に希望がついえた二人は、先程までとは打って変わってしょんぼりとしてしまった。

 

「(何を落ち込んでいるんだ?)姫様。姫様はあまり訓練をなさらないので、今日は軽く体を動かしつつ、近接と射撃の訓練を行いましょうか?」

「うん……」

 

 弥生の訓練が見れる。

 それを知った瞬間、落ち込んだ二人のメンタルが復活した。

 

「弥生の実力……」

「とても興味がありますわ……」

 

 興奮する二人を余所に、弥生はラウラの隣で準備運動をした後に拡張領域からインパクトナックルを取り出し両腕部に装備、試しに何回か腕を動かしてみる。

 

「でっかいアームパーツよね~……」

「あれを使った近接格闘戦は、かなり強力でしょうね」

 

 二人が眺める中、弥生はラウラのアドバイスを聞きながら訓練を続けていった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 弥生達がアリーナにて訓練をしている時、一夏と箒と簪とシャルロットの4人は、一緒に彼女達の元へと向かっていた。

 

「ツーマンセル……か。いきなり言われてもなぁ~……」

「確かにな。誰とペアを組むかで勝敗は大きく分かれてくるぞ……」

「個人戦じゃない以上、張り紙が出た時点で戦いは始まっていると言っても過言じゃないかも」

「そうだね。自分の長所を生かせるようなパートナーを選ぶか、それとも、短所を補ってくれるような相手を選ぶか」

 

 なんて思案をしている振りをしているが、実際には頭の中で共通の事を考えていた。

 

((((ペアは弥生がいいなぁ~……))))

 

 知らぬは仏とはよく言ったもので、この4人が既に弥生のパートナーがラウラに決定している事を知ったらどんな反応をすることやら。

 

「あ! いたよ皆!!」

「織斑く~ん!!」

「お? なんだぁ?」

 

 自分の名を呼ばれて後ろを見るが、そこには廊下を埋め尽くすほどの女子達が一夏の事を見て目を光らせていた。

 

「「「「「「私と組んでぇぇぇ~!!」」」」」」

「なんでさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 ドドドドドドドドド~!!!っと地響きを唸らせながら女子達は一夏目掛けて一直線に突っ走ってきた!

 

「そこの横道に隠れるぞ」

「「了解」」

 

 あっさりと見捨てられた一夏は、そのまま追いかけられながら廊下の向こうに消えていった。

 

「一夏、骨だけは拾ってやるから、安らかに眠れ」

「いやいやいや。まだ死んでないからね!?」

「時間の問題じゃない?」

「そう思うなら助けようよ……」

 

 男装をしなくなっても、相変わらず常識人枠のシャルロットだった。

 

「ところで本音はどうした?」

「本音なら、今日は虚さんに引っ張られて生徒会室に連行された」

「本音の姉である三年生……だったな。きっと、気苦労が絶えないだろうに……」

 

 どことなく虚に同情してしまう箒。

 同じ様に、自由人な身内を持っているが故の共感なのかもしれない。

 

 人込みが完全に無くなってから、三人は横道から出てきた。

 

「そう言えば、シャルロットは今、どこの部屋にいるんだ? 流石に一夏と同じ部屋ではないんだろう?」

「うん。男装を解いてからは、年頃の男女が同じなのは倫理的にも良くないって判断されたみたいで、僕はすぐに偶然にも一人部屋だった人の所に住む事になったよ」

「幾ら一夏の存在が貴重とは言え、学園にも世間体と言う物があるからな。これが普通だろう」

「学園側がちゃんと警備や警護をちゃんとしていれば、彼と誰かを一緒にする必要は無い」

「全くだな」

 

 女三人寄れば姦しいとはよく言ったもので、三人は再びアリーナに向かって歩きながら仲良さげに話していた。

 

 この後、一夏が女子達の追跡を振り切れたかどうかは分からない。

 少なくとも、足腰は人並み以上に鍛えているから大丈夫だろう。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 第3アリーナにて弥生達が訓練をしている姿を、観客席から遠めに見つめている二つの影があった。

 

(あれがスコール叔母さんの言っていた例の弥生って奴か……)

 

 ワザと制服を肌蹴させて胸元を露出させている金髪の女子生徒。

 彼女の名は『ダリル・ケイシー』

 アメリカの代表候補生にして、IS学園の三年生である。

 

「運動不足な部分は否めないっポイけど、筋は悪くないな……。一からちゃんと鍛えれば、将来的に大化けするかもな」

 

 大国アメリカの代表候補生をしているだけあって、彼女の実力は他の候補生達とは頭一つ分飛び出している。

 その彼女の言葉には不思議な説得力があった。

 

「……で? お前はそこで何をしてるんだ?」

「それは私に言っているのかな?」

 

 ダリルの隣で穏やか笑顔を浮かべている金髪ショートヘアの少女が、ステージにいる弥生をジッ~と見つめていた。

 

「そうだよ。オランダ代表候補生のロランツィーネ・ローランディフィルネィ」

「フッ……」

 

 ニヒルな笑顔を浮かべると、その歯に陽光が反射してキラ~ンと光った。

 

 ロランツィーネ・ローランディフィルネィ。

 オランダの代表候補生であり、ロランの愛称で呼ばれている。

 歌劇では男性役を演じる事が多く、彼女自身も女性が好きな典型的なレズビアン。

 その点ではダリルと共通しているが、ロランの場合は99人の同性の恋人がいると噂されているらしい。

 俗に言う『男装の麗人』的な少女である。

 

「私は唯、噂に聞いた少女を見に来ただけさ」

「少女って……板垣弥生か?」

「あぁ。こうして直に見て噂が真実だったとよく分かったよ」

「ふ~ん……」

 

 弥生に関する噂自体はダリルも聞いていた。

 やれ母性が強いとか、やれ無駄に優しすぎるとか。

 あと、ミステリアスな美少女とも。

 

「板垣弥生……噂に違わぬ美しさだが、それ以上に彼女からは並々ならぬ母性を感じられる……」

「ま…まぁ……な……」

 

 言葉を濁してはいるが、実は弥生の容姿はダリル的にも結構好みだったりする。

 もしもここにロランがいなかったら、彼女と同じ様に興奮していたかもしれない。

 そんな意味ではロランには感謝である。

 

「……決めたぞ」

「何を?」

「私は彼女を……板垣弥生を100人目の彼女にする!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 いきなりの爆弾発言に、流石のダリルも呆気にとられる。

 

「そうと決まれば、まずは彼女の同じクラスの子達から弥生の情報を収集して、趣味嗜好を知る事から始めなければ! 善は急げだ!!」

「あっ!? ちょ…ちょっと待てよ!!」

 

 ダリルの声を完全無視して、ロランは走り去ってしまった。

 

「……こりゃ……別の意味でオレもうかうかしてられないかもな……。っていうか、しれっとアイツの事を呼び捨てにしてんじゃねぇよ……。まだ本人と会話すらした事も無い癖に……」

 

 叔母からの頼みと自分の中の良心が組み合わさった結果、ダリルはロランの魔の手から弥生を守ろうと心に誓う。

 

「つーか、あんな純情そうな子がロランの奴に堕とされる光景とか、普通に見たくねぇし」

 

 ぶっちゃけ、弥生に対する感情的にはロランと同じなのだが、ダリルはあそこまでぶっ飛んではいない。

 ダリルはもうちょっと健全な関係を望んでいたりする。

 

「可愛い後輩の為に、少しは先輩らしいことでもしますかね……」

 

 こうして、またまた弥生の全く知らない所で不穏なフラグが立つと同時に、楯無、虚に続き、また上級生の味方が増えたのであった。

 

 この日の夜、弥生は言葉に出来ない悪寒を感じて、密かに購買部に予備の胃薬を買いに行ったらしい。

 

 

 

 

 

 




まさかのアーキタイプ・ブレイカーからロラン参戦です。

いきなりの事ではなく、彼女は当初から出そうと決めてました。

弥生のパートナーはラウラ一択。

これしかないですよね?


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・・・・・・誰?

今回はオリジナルの話です。

前回からトーナメントまでの閑話的な感じですね。







 徐々に運命の学年別トーナメントが近づいてくる毎日。

 本日もパートナーのラウラと一緒にトレーニングに励む……とは限らない。

 

 確かに訓練も大切だけど、元々が超インドア派な私がいきなりドイツ軍隊式のラウラブートキャンプをこなすのは流石に無理がある。

 時には休息も立派な訓練になる……とは本人の弁だ。

 

 そんな今日の私達はと言うと、静かな図書室にて勉強会をする事に。

 私とラウラの他には、簪と本音も一緒に同行している。

 

「文武両道をきちんとこなす……か。言うには簡単だが、それを実際に出来ている人間はかなり限られているだろう。やはり姫様は凄いな……」

「褒めら…れるよう…なこと……じゃない…と思う…けど……」

「ううん。私も凄いと思うよ? だって、世の中にはそれが出来てない人だって沢山いるんだし」

 

 そう言いながら机に体を預けながらダラ~ンとしている本音を見ないであげて。

 あれはあれで可愛いんだから。

 

「図書室はなんだか眠たくなっちゃうね~……」

 

 その気持ちは理解出来るけど、かと言って実際に眠ったら、カウンターで仕事をしている図書委員の人達に怒られるよ?

 

「箒達が言ってたけど、結局、二人は正式なルームメイトになったんだって?」

「うむ。最初は正式な部屋割りが決定するまでの暫定的なものだったらしいが、このままでも問題無いと学園側でも判断をしたらしく、このまま姫様と一緒の部屋に住む事になった」

 

 私が説明しようと思っていた事をラウラに全部言われてしまったけど、つまりはそーゆーこと。

 私としても異論は無いし、寧ろ大歓迎でもある。

 癒しが普段から傍にある生活……最高じゃね?

 

「やよっちはラウラウとペアを組んだんだよね~?」

「そう…だ…よ…」

「で~、かんちゃんはしののんと組んで~、せしりんとリンリンがチームになって~」

「織斑一夏がシャルロットと組んだ……だったな」

 

 あれから、皆も皆でそれぞれにペアを組み始めた。

 

 まず、互いに気が合うと言う事で箒と簪がコンビになり、以前に一度、授業中にペアを組んだ経験があると言う事から、セシリアと鈴がペアになった。

 そして、原作通りに女子の大群に追われた一夏は、元ルームメイトのよしみでシャルロットがコンビを組んであげた(・・・・・・)らしい。

 シャルロット曰く『あのままでは流石に不憫だったから』と言っていた。

 

「以前に助けようと思っていた相手に逆に助けられる羽目になるとは……なんとも情けない話だ」

「それ以前に、剣だけしかない猪剣士とペアを組んで十全に力を発揮出来る人なんて、かなり限定されると思う」

「それには同感だ。相棒が近接戦しか出来ないとなると、嫌でも作戦が絞られてくるからな」

 

 それについては激しく同感。

 原作通りのコンビではあるが、そこに至るまでの経緯が全く異なるからね。

 あれは間違いなく、シャルロットが無駄に突っ込む一夏をフォローする形になると思う。

 ……胃薬のおすそ分けでもしてあげようかな?

 

「あ……」

 

 私が取りたいと思っている本が、手の届かない場所ギリギリの高さにある……!

 前にもこんな状況があったっけ……。

 

「弥生、あれを取りたいの?」

「うん……」

「どこかに台は……」

 

 三人で辺りを見渡すが、備え付けの台はどれもが使用中。

 これも前にあったな……。

 前回の反省を生かせず、事前に台を確保しておかなかった私のミスか……。

 仕方が無い。あの本は素直に諦めて、別の本で代用を……。

 

「よっと。これでいいのかな?」

「「「え?」」」

 

 これまた横から手が伸びてきて、私の求めた本を手に取り、こっちに渡してくれた。

 ……似たようなシチュエーションに遭遇するの、これで三回目じゃね?

 なにこれ、デジャビュ?

 

「あ…ありが…とう……ござい…ます……」

「なに。君の為なら、これぐらいどうってことないさ」

 

 なに、この笑顔が眩しい人は……。

 銀髪のショートヘアの女性で、何故か歯が光っている。

 リボンの色を見る限りでは同じ一年生……なんだよね?

 

「む……誰だ貴様は……」

「おっと。私としたことが、君のあまりの美しさに自己紹介を忘れるとは……。全く、罪な女性だな……」

 

 それ、誰の事を言ってます?

 

「私はオランダの代表候補生をしているロランツィーネ・ローランディフィルネィ。君と同じ一年生で、今は5組に在籍しているよ。気楽に『ロラン』とでも呼んでくれたまえ」

「え…っと……私…は……「君の事はよく知っているよ、弥生」……は?」

 

 え……ちょ……何この人? 完全な初対面なのに、いきなり呼び捨て?

 

「貴様……初めて会ったと言うのに、いきなり姫様を呼び捨てにするなど……無礼ではないのか?」

 

 おっと、私の隣で大人しくしていたラウラが激おこプンプン丸ですよ~?

 私の為に怒ってくれたのは普通に嬉しいけどね。

 

「姫……? 姫か……」

 

 お…お~い? ラウラの怒りは無視ですか~?

 

「言われてみれば、弥生の美しさは『姫』と呼ばれても不思議じゃないな……。よし、ならば私も彼女に見習って弥生の事を『姫』と呼ばせて貰おうか」

 

 なんでやねん!! ラウラなら幾らでも呼ばれてもいいけど、何が悲しくて初対面の女の子に姫って呼ばれないといけないんだよ!?

 

「それにしても……」

「な…なんだ……?」

「ふふ……私の姫は随分と可愛らしい従僕を連れているんだね?」

「従僕……じゃない……」

「ん?」

 

 なんか言い方が気にくわないな。

 私にとってラウラや簪、本音はそんな下らない存在じゃ決してない。

 私にとって三人は……

 

「彼女達……は……私の大切…な人達……」

 

 だから、従僕なんて言い方は絶対に止めてほしい。

 

「弥生……♡」

「姫様……私は……」

「やよっち……♡」

 

 そもそも、この人って何が目的でここに来たんだ?

 まさかとは思うけど、私じゃないよな?

 

「……どうやら、これは私が失礼だったようだね。悪かった」

「あ……はい……」

 

 素直に謝ってくれた……?

 ま…まぁ……自分の過ちをちゃんと認められる人は嫌いじゃないけど……。

 

「君達も済まなかった。ドイツのラウラ・ボーデヴィッヒ少佐に日本の更識簪さん」

「私達の事を知って……?」

「同じ代表候補生だからね。軽いプロフィールぐらいは把握しているさ」

 

 彼女の場合、別の目的で覚えているような気がする。

 

「そして、そこの君もな」

「私は気にしてないよ~」

 

 本音は本当にそよ風みたいな子だな~。

 どんな事も軽く受け流す感じ。

 

「お詫びと言ってはなんだが、君達の勉強会が終わってからで構わないから、一緒に夕食でもどうだろうか? なんなら、姫の為に今から一番いい席を予約して……」

「なにしれっとナンパしてやがる」

 

 ぬぉっ!? 私の後ろから手が伸びてロランさんにアイアンクローをした!?

 アイアンクローと言えば織斑先生だけど、彼女の声じゃなかったし……。

 

「いきなり随分なご挨拶じゃないか……! アメリカ代表候補生のダリル・ケイシー先輩殿……!」

「ご丁寧な紹介どうも」

 

 ダリル・ケイシー? その名前どこかで聞いたような気がする……。

 この人も原作キャラの一人だったような気がするけど、どんな人物だったっけ?

 しかし……随分と大胆な格好をしている人だな……。

 制服が肌蹴て胸の谷間が完全に見えてるし。

 

「別に話しかけるなとか、仲良くなるなとは言わねぇけどよ、こんな子までテメェの毒牙にかけようとするんじゃねぇよ」

「毒牙とは失礼だね……。私は純粋に姫と親しくなりたいと思っただけであって……」

「99人の同性の恋人がいるって自称してる癖に、何言ってやがる」

 

 きゅ…99人の同性の恋人!?

 

「オランダに矢鱈と女の子に手を出す代表候補生がいるって噂で聞いた事があるけど、この人だったんだ……」

「ふふ……照れるな」

「照れる場面じゃねぇだろ……」

 

 ダリル先輩はロランさんの首根っこを掴んでから、そのまま引きずるようにして図書室を出て行こうとする。

 

「お前等の勉強の邪魔をして悪かったな。この馬鹿はオレが責任持って連れて行くから、安心して勉強会を続けてくれ」

「ははは……モテる女は辛いな……」

「アホなこと言ってないで、とっとと行くぞ」

 

 行ってしまった……。

 いきなり現れて、いきなり去っていってしまった……。

 

「……なんだったんだ?」

「わかんない……」

 

 私も同じく、本気で意味不明でした。でも……

 

(ダリル・ケイシー先輩……ちょっぴりカッコよかったかも……)

 

 姉御肌のアメリカ人女性の先輩……か。

 今までいなかったタイプだから、少しだけ胸がドキドキした……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 図書室での驚きの邂逅以来、ロランさんは私の行く先々に現れるようになった。

 

 食事時に私が座ろうとしている席に先回りしていたり、一度廊下に出れば一番で出くわすし、放課後にも即座に一組の教室の前で待ち構えていたりするし……。

 

 このパターン……私に懐き始めた頃の鈴と全く同じだ……。

 あれがまた繰り返されると言うのか……!

 

 私と一緒にいる時にはラウラ達にもニコニコ笑顔で接するが、逆に一夏には全く興味を示さず、それどころか存在自体を完全無視している感じ。

 男にはとことん関心がないんだな……。

 

 そんでもって、私がロランさんの事で困っている時に、時折ダリル先輩が助けに入ってくれる。

 先輩の威厳と言いますか、この人は頼りになるという認識が私の中で生まれた。

 

 私の知っている2年生には何とも言えない人間がいるのに、虚さんやダリルさんのような3年生は本当に尊敬できる人達だ。

 たった一年しか学年が違わないのに、この差は一体何処から生まれるのだろうか……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 今日も私はラウラと一緒にアリーナで体とISを動かして訓練を行った。

 まだまだ改善するところは一杯あると思うけど、それでも一応の形にはなってきた。

 ピットに入りながらISを解除し、ラウラと一緒に更衣室に向かう。

 

「姫様のアーキテクトは想像以上に武装が豊富ですね。これならば、作戦の幅もかなり広がります」

 

 アーキテキトに搭載されている武装は殆どがおじいちゃんセレクトなんだけど、私自身も全ての装備を把握しているわけじゃない。

 まだ使った事も無い武器が沢山あるからね。

 いつか機会を作って、全部の武装を試射とかしないと。

 

「お疲れ様。私の麗しのプリンセス」

「またか……」

 

 この子は本当に懲りないな~。

 ダリル先輩からアイアンクローだけじゃなくて、頭グリグリの刑や脳天拳骨まで喰らっておきながら、微塵もめげる事無く来るんだから。

 オランダ人ってこんなにも根性がある人達だったっけ?

 

「障害があればあるほど、愛はより一層燃えがるものさ」

 

 私の心を読むように返事をしないでほしい。

 

「それよりも、ほら」

 

 ロランさんが手渡してくれたのは、私達の分のタオルとスポドリ。

 これもまた前にあった状況と酷似してるな……。

 マジで歴史が繰り返しているみたいだ。

 

「あ…ありが…とう……」

「ふん……感謝はしておく」

「礼を言われる程のことじゃないさ」

 

 どうして、この気遣いだけで終わってくれないんだろうか?

 これだけを見れば、普通に友達になれそうなのに……。

 

「私としては、姫のISスーツ姿を間近で見られれば、それだけで十分すぎるからね」

 

 これだよ~! すぐにこんな風になるから、素直に感謝出来ないんだよ~!

 つーか、今すぐにその鼻血を拭け!!

 いくら容姿が整っていても、鼻血を出しながらの笑顔は普通に変態だよ!!

 

「あ。勿論、君のスーツ姿も素敵だよ。ラウラさん」

「別に何も言ってないだろう……」

 

 ラウラが本気で呆れている。

 割と冷静な子であるラウラがこんな顔を見せるのは珍しい。

 

「ほら、顔から流れている汗を拭いてあげよう」

 

 私が何かを言う隙も与えず、有無を言わさずこっちの顔を拭こうとする。

 決して強引じゃないから、逆に振りほどけないんだよね……。

 

(何も抵抗せずに私のタオルを受け入れている!? これはもしや、遂に姫が私に心を開いたのか!?)

 

 あ~……スポドリ美味し~。

 体が潤ってきますにゃ~。

 

「ひ…姫……」

「は…い……?」

 

 もう姫って呼ばれても何にも思わなくなってきている自分がいる……。

 なんか悲しい……。

 

「キスをしてもいいかい?」

「絶対に駄目です」

 

 またかよ……。これで何回目だ?

 私が時折、彼女のする事を黙っていると、すぐにキスをしようとせがんでくる。

 最初は私も皆も驚いたけど、二回目以降は完全にハッキリと断る事にした。

 このやり取りも何回目になるのかな……。

 

「懲りない奴だ、全く……」

 

 チュ~チュ~とスポドリを両手で持って飲んでいるラウラ可愛い~♡

 ロランさんがいなかったら、今すぐにでもギュ~ってハグするのにな~♡

 

「私はそう簡単にはめげたりはしないよ。何故なら、私は愛の為ならどこまでも頑張れるからね」

 

 その情熱をもっと別の方向に向けられれば、彼女は凄い人物になれるだろうに。

 

「む? この気配は……」

 

 いきなり遠くの方を見てどうした?

 そっちには何も無いよ?

 それとも、ロランさんは人には見えない『何か』が見える人?

 

「心残りではあるが、今日はこの辺でお暇させてもらうとしよう。では、また会おう。私の愛するプリンセス♡」

 

 別れ際にしれっと前髪で隠れていない方の頬にキスをしようとしてきたので、それを手で防ぐと、ロランさんは笑いながら更衣室を後にした。

 

 それを入れ替わるようにして、ダリル先輩がやって来た。

 

「ん? お前等だけか?」

「それはどういう事ですか?」

 

 流石のラウラも、二つも上の上級生には敬語を使う模様。

 この辺はしっかりしてるんだよね。

 

「なにやら、猛烈に嫌な予感がしたから急いでここまで来たんだけどよ……オレの気のせいだったか?」

「いや……その予感は間違いではないかと」

「って事は……さっきまでいたな?」

「はい。別の出口から出て行きましたが、つい先程まで確かに」

「はぁ~……」

 

 なんて大きな溜息。

 ダリル先輩も苦労人系の人と見た。

 

「何もされなかったか?」

「これと言って何も。タオルとドリンクを持って来たまではよかったのですが、それからはいつものように理解不能な発言を繰り返していました」

「そっか……。ま、お前等は理解しなくてもいいよ。つーか、理解出来るようになったら、ある意味終わりだ」

 

 正確に言うと『理解したくない』が正しいけど。

 

「なんかあったら、すぐにオレに連絡しろ。その為に番号交換もしたんだからな」

「了解であります」

 

 私達は密かに携帯の番号を交換して、いつでも連絡が取れるようにしておいた。

 勿論、ロランさんとは交換してない。

 したらどうなるか、容易に想像が出来るから。

 

「んじゃ、しっかりと汗を拭いて体を冷やさないようにな」

 

 私とラウラの頭を交互に撫でてから、爽やかな笑顔と共にダリル先輩も去っていった。

 

「……………」

「三年生で大国アメリカの代表候補生、ダリル・ケイシー……。何回か話して思いましたが、どうやら彼女は信頼に値する人物のようですね。姫様」

「そう…だね……」

 

 これからの学園生活において、頼りになる上級生が増えると言うのは本当に嬉しい。

 困った時は相談とかしてもよさそうだ。

 

 ……ダリル先輩に頭を撫でられた時、少しだけ胸キュンしたのは内緒。

 

 

 

 

    




今回はロランとダリルの話でした。

ロランのクラスは私が勝手に設定しました。

少し調べたところ、どうやら彼女は一年生(リボンが青)みたいだったので。



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これが私の初陣です!(前編)

どうも。

細心の注意をしていたにも拘らず、結局は軽い熱射病になって更新が少しだけ滞ってしまった私です。

昨日はマジで辛かったです……。
頭はガンガン痛むし、なんだか熱っぽかったし……。

でも、早めに寝たらなんとかスッキリしました。

そんな今回は、弥生の初めての戦闘シーン。
果たして、彼女は人生初めてのISの試合を勝利で飾れるのか?
え? 結末は既に知っている?
それを言っちゃあおしまいですよ~。






 ロランさんとダリル先輩と出会ってから少しだけ時間が経ち、今日は遂に学年別トーナメント本番。

 私とラウラは一緒にAブロックの第一試合に出場する選手が着替えをする更衣室に移動して、そこで出場の為の準備をする事に。

 

 私達以外にも沢山の子達がいるが、この場に私達が知っている顔は見当たらない。

 と言うのも、タッグになった事で選手の数も相当な事になってしまい、いくつかの場所に分けて待機して貰っているから。

 因みに、セシリアと鈴は第2ブロック、簪と箒は第3ブロックになっているから、ここにはいない。

 と言う事は、必然的に『あの二人』が私達と同じブロックにいる訳で……。

 

「姫様。こちらは準備完了しました」

「ん」

 

 ISスーツに着替え終わったラウラが毎度のように敬礼をする。

 もう見慣れた光景を見ながら、私も既に着替え終わった自分のISスーツを少しだけ整えてから最終確認をする。

 

 更衣室に設置してあるモニターには、アリーナの様子が映し出されていた。

 

「凄い……ね……」

「はい。各国政府の関係者に研究員、果ては企業のエージェント等もやって来ているようです」

 

 IS学園のイベントって、一つ一つが凄い規模だよね~。

 つくづく、自分がいる場所が特別なんだと実感させられる。

 

「三年生にはスカウトが、二年生は去年の成果の確認を、一年はまだそれほど注目はされていないでしょうが、このトーナメントで上位に入賞すれば、間違いなく注目はされるでしょう」

 

 そうだよね。

 今回のトーナメントには代表候補生も数人混ざっている。

 そんな中で上位に入