モーモーモーさん (ちみっコぐらし335号)
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第六特異点 胸にしぼうを キャメロット(前編)


 ――――――それは、人類の胸に夢と希望(物理)を取り戻す物語。




 ――――ああ、ついにこの日が来てしまった。

 

 顔立ちを隠すために被った兜の下で、オレは息を潜めた。

 

 この日この時のためにオレは生み出されたといっても過言ではない。

 これは計画の始まりだ、この国を崩壊させる愚かで大いなる一歩の。

 

「――――モードレッド、入れ」

 

「はい」

 

 心臓がばくばくと早鐘を打つ。ガチャリガチャリと鎧の音を立て、開かれた扉から入室した。

 

 まあるく席を囲む十人程度の人影。中央に(あつら)えられているのが音に聞く『円卓』だろう。そこに着いている奴らこそが『円卓の騎士』。

 

 これより足を踏み入れるのは、人外魔境だ。

 

 生み出されてから今までずっと鍛えられてきた。そこらの騎士が束になって掛かってこようが、余さずぶちのめせる自信がある。

 しかし、そこは精鋭の集う場所。きっとオレより強い奴はいるのだろう。一人か、二人か、あるいは全員か。

 だが、オレは負けるわけにはいかない。負けることは許されない。なぜならそれがオレに与えられた存在意義だから。

 

 オレを見つめる瞳の中に、一際目を惹く奴がいた。若い男――――いや、少年にも見える、場違いにも思える風貌の騎士。

 しかし、オレは知っていた。この人物こそが計画の要、オレの『父』であるアーサー王だ、と。

 

「ここに」

 

 片膝を立て、臣下の礼を取る。正直こういうのは性に合わないんだが、四の五の言ってられない。

 不敬だのなんだのと理由付けられて、「兜を取れ」とでも言われた日には首を括るかいっそ全てを破壊し尽くすしか――――――――って、何だ?

 

「――――――おい、よく見ろ」

 

「あれは――――」

 

「…………ああ、私にはわかるぞ――――」

 

 声からして数人の男が、何やら囁き合っているらしい。ずいぶんと声を潜めているので会話の詳細はわからない。が、タイミングといい、オレの話題であることは想像に難くない。

 一般騎士ならともかく、王の御前に来てまで素顔を晒さないのだ。これは怪しまれるのも当然か。

 

 とりあえず今まで通り、実力行使で誤魔化せるか――――?

 

 剣に手が伸びかけた、その時。

 

「貴様、女だな?」

 

「……………………………………は?」

 

 ポロリと声が零れた。

 え、ていうか待て。おいそこの…………名前わからないけど何かの騎士! 今何か重大なこと言わなかったか!?

 

「その反応…………やはり我が目に狂いはなかったか」

 

「まあ、ある意味わかりやすいですし」

 

 周りの奴らもさも当然のように頷いてやがる。

 ちょっと待て。お前らどこ見てんだ。何でさらっとバレてんだ――――!?

 

「ここでは性別を隠す必要などないでしょう」

 

 ニコニコと笑いかけながら、優男っぽい奴が近づいてくる。

 言葉には出してないが一目瞭然だった。手を差し出しているあのポーズ、あれは兜をさっさと取れと言っている。

 

 不味い。確かに性別も隠したかったがオレが本当に隠したいのは…………。

 

 立ち上がり逃れようとするが、遅かった。既に背後を取られ、囲まれてる。

 未だに円卓に着いたままの奴もいるが、それは少数。

 

 思わずアーサー王を見た。ムスッとした表情からは「とりあえずテメェさっさとその兜脱げや」と言っているようにしか思えなかった。

 別に助けを求めたわけじゃないけど! 絶対違うけど!

 

 オレを取り囲む円卓の騎士を見て思った。

 

 ヤバい、これ詰んだ、と。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 兜が床に打ち捨てられ、耳障りな音を奏でた。

 しかし、それに顔をしかめる者は誰一人として存在しない。皆一様に目を奪われていたからだ。

 

 モードレッド。それが今日、円卓に加入することになっていた騎士の名だ。

 氏素性の知れぬこの騎士の円卓加入が決定したのは、ひとえにその実力故。隔絶した技能、圧倒的な膂力、多数からの不意打ちに対応するだけの判断力もある。

 このまま一介の騎士にしておくのは惜しい。多くの者がその意見に賛同した。

 

 円卓の座に招かれたその姿を実際に見て、察しない者はいなかった。()の者の性別は女である、と。

 

 大きく湾曲した鎧の胸部。飾りや厳めしい兜で視線を集めないようにしているが、見る者が見れば女性用――――――より正確に言うならば『巨乳の』女性用の物だと一瞬でわかる。

 

 そこまでくれば、素顔を晒さない理由も自ずと理解できるというもの。すなわち、性別を隠すため。

 

 兜で声はくぐもるし、元々ハスキーな声質なのだろう。顔さえ見られなければバレる心配も少ない。

 

 聞くに『彼女』はずいぶんと負けん気の強い性格らしい。女だと知られ、周囲にナメられたくない。その一心で兜をかぶり続けていたのも頷ける話だ。

 

 しかし、ここは円卓。そして、円卓の騎士だと聞いて敬意を抱かぬ者も、ましてやナメる者などいるはずもない。

 

 故に、彼女にそのことを知らしめるため――――――無論、何がしかの下心を持つ者が若干名混じっていたことは否定しないが――――――示し合わせて兜を取ろうとしたのだ。

 

 だが、彼らは己の行為が軽率であったと悔いることになる。

 

 隠そうとした理由は明白だった。『彼女』の顔立ちを見た瞬間、時が止まったような気さえした。

 

 アーサー王の顔からも血の気が引いた。

 

「お、王と同じ顔…………だと…………!?」

 

 誰かが漏らしたその言葉が全てを物語っていた。

 そう、『彼女』はアーサー王に瓜二つだったのだ。

 

 これまでにも富や名声などを求めてアーサー王の『遠い親戚』を名乗る不埒(ふらち)な輩はいたが、せいぜい髪や瞳の色が似ている程度。

 

 しかし今回はそのようなレベルではなかった。

 顔付きから何まで、王と何かしらの関係があることはまず疑いようがない。ここまでくれば偶然の一致など、それこそありえない話だ。おそらく、全てが必然。

 しかし、だからこそ解せなかった。王の血筋の中に『モードレッド』という名の人物は存在していないのだから。

 

 そうなると、魔術的なもので詐称しているのか。

 魔術による可能性を思いつく者も中にはいたが、すぐに(かぶり)を振った。

 そうなれば、宮廷魔術師のマーリンが放っておくまい。奴はクズでロクデナシのヒトデナシだが、腕だけは確かである。

 

 件の騎士は形容し難い呻き声と共に、両手で顔を覆いながらうずくまっていた。

 表情こそ見えないが、この世の終わりだと言わんばかりの負のオーラを発している。

 

 この様子では詐欺を働こうなどとは考えてもいるまい。演技であればむしろ天晴れだ。神さえも欺けるだろう。

 

 絶望感満載といった(てい)で、ポツリポツリと『彼女』から聞こえてくる言葉は「ヤバいもう終わりだ、とりあえず全部ぶっ壊して括ろう」などという物騒な内容ばかり。

 一体、何を壊し、何を括ろうというのか。あまり詳しく考えたくはない。取り急ぎフォローすべきだろう。

 

 しかし誰も動こうとはしない。いや、正確には動けないのだ。

 進んで見え見えの地雷原に飛び込む阿呆はいない。それもただの地雷ではなく、おそらく王に直結しているようなもの。

 

 下手を打てば、首が飛ぶ。

 

 勇み足で兜を剥がしにいった者たちは及び腰になっていた。

 

 唯一、鶴の一声を出せるであろう王は、彫像の如き寂寥感溢れる面持ちで佇んだままだ。

 

 このままでは埒があかない。一人の騎士――――ガウェインは決心し、うずくまるモードレッドの側に近づいた。

 目線を合わせ、誠意を見せるために片膝を立てたものの、モードレッドは一向に顔を見せる気配がない。

 

 もしや、気づいていないのでは?

 一つ、咳払い。

 

「あー………………もし、レディ?」

 

「………………………………オレはレディじゃねー」

 

「失礼、サー・モードレッド。よろしければ、何故このようなことをしたのかお聞かせ願えますか?」

 

「うるせー…………」

 

 指と指の隙間からジト目が垣間見えた。

 反応こそあったものの、望む答えは得られそうにない。ガウェインは内心嘆息した。

 

 他の騎士たちも拘束が解けたかのようにゆるりと動きだした。ガウェインの動きを見て、やらねばならぬことを思い出したらしい。

 

 ガウェインの問いかけが呼び水となって、他の騎士たちも詰問に加わった。

 お前の正体は何なのか。一体何が目的だ。誰かから指示を受けているのか。もし指示を受けているのなら、その黒幕は誰なのか――――。

 

 そのいずれにも回答はなかった。喧々囂々。騎士たちの表情に、次第に険が宿り始める。

 

 モードレッドを囲む人だかりを、蒼白な顔で睨みつけるアーサー王。

 しかし、ふいに立ち上がるとずんずんとモードレッドの元へ近づいていく。

 

 騎士を押しのけ、或いは接近に気づいた騎士に道を譲られ、未だうずくまったままのモードレッドにたどり着いた。

 無言。されど確固とした意思を以て、アーサー王はモードレッドの腕をむんずと掴んだ。

 

「へ?」

 

 呆けた声。為す術もなく、アーサー王に引っ張られるモードレッド。

 両者の向かう先には荘厳な細工が施された扉があった。どうやら王は円卓の間から退出しようとしているらしい。

 慌てたように投げかけられた問いがその背に追従する。

 

「あ、アーサー王、何を!?」

 

「少し、二人で話したいことがある」

 

 この場でしばし待機せよ。

 淡々とした王の命令に、騎士は皆(こうべ)を垂れたのだった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 オレは一体、どこに連れて行かれるのだろうか。

 ブリテンの騎士王にしてオレの『父』でもあるアーサー王に、右手を掴まれ引きずられながらぼんやりと考える。

 

 こんな初っ端から顔が見られた時点で、計画は間違いなく頓挫した。

 元々オレが立てたものではないとはいえ、寝物語代わりに聞かされていたこともあり、それなりに衝撃的ではあった。あの時あの場ですぐさま斬り捨てられてもおかしくはないと感じていた。

 だからこそ『母親(クソババア)』の計画ごと全てをぶち壊して自分の終わりを飾ってやろうと、そんな自暴自棄な考えすら抱いていたのに。

 

 それがどうしてこうなったのか。

 オレは今、『父』と共に城内を歩いている。

 

 途中、すれ違った女中や見回りの兵士に人払いを命じるアーサー王。

 出会う者たちは皆最初こそ首を傾げるが、オレの姿を捉えるとどこか得心したようにそそくさと退散していく。

 やがて修練の喧騒すら遠くに引いていき、オレたちの周囲には鎧の擦れる音のみが響くようになった。

 

 右手はがっしりと掴まれ固定されているとはいえ、左手は自由な状態。武装解除もされておらず、腰の剣も帯びたままだ。

 抜け出そうと思えば、恐らく抜け出せるだろう。だのに、オレはアーサー王の先導に従い、黙々と足を動かし続けている。

 

 しばらくして目の前に現れたのは、執務室と書かれた扉だった。

 アーサー王はその部屋の中へ、自然オレも中に引きずり込まれる。

 

 移動中、アーサー王は決してオレの方を見なかった。

 

 ………………ああ、馬鹿馬鹿しい。オレは一体、何を期待しているというんだ。

 連行された先で人知れず首を斬り落とされるかもしれないのに。

 

「あ………………」

 

 ついに手が離され、アーサー王が扉を閉めた。

 光源は一つ、壁にはめ込まれた窓から差す光のみ。部屋はどこか薄暗く、それがオレのほの暗い将来を暗示しているようで、知らず唾を飲んでいた。

 

 アーサー王は書簡の積み上げられたデスクに着いた。

 両肘を立て指を組み、その目はオレを見据えている。

 

「さて、モードレッド」

 

 私が何を言いたいか、わかるか。

 その眼光は、鋭い。

 

 唇が震え、うまく声が出せない。こんなこと、あの母親(クソッタレ)と対峙した時には一度としてなかったのに。

 自分の情けなさに涙しそうになるが、堪える。今求められているのは、そんな感情の発露ではない。

 オレは歯を食いしばり、努めて平静に首肯した。

 

 アーサー王の視線に促され、オレは白状した。

 誰に生み出されたのか、その生まれも含めたオレの知る限りの全てを。

 

「……………………そうか」

 

 オレが全てを吐き出し終えた後、アーサー王は俯いた状態でポツリと呟いた。

 室内の暗さも相まって、その顔色を窺い知ることはできない。

 

 ――――オレは、アーサー王のホムンクルスだ。

 生みの親であるモルガンによって作り出された複製品でしかない。

 アーサー王が『父親』であることは間違いないが、所詮は認知されていない子供。

 だからこそ、頑張っていっぱい活躍して、誉めてもらいたい――――――認めてほしい。その一心で度し難い計画にも乗ったのに。

 自分の目的さえ達成できれば、残りの計画なんてどうとでもなる。そんな『母親(大馬鹿野郎)』に対する薄情な企みに罰が当たったのだろうか。

 結局オレは何も成せなかった。きっと何一つ残せず、このまま終わるのだ。

 

 突如として立ち上がったアーサー王に、ガシッと肩を鷲掴みにされた。

 オレはこの後に来るであろう罵詈雑言を覚悟して――――。

 

「ホムンクルス、と言ったな?」

 

「あ、ああ」

 

「私のコピーということだな?」

 

「そうだよ……」

 

「それは間違いないんだな?」

 

「だぁぁあー! そうだっつってんだろ!?」

 

 何だこれ。

 わけが分からず叫んでしまったが、多分オレは悪くない。っていうか本気で何なんだこれ。

 

 何でアーサー王は嬉しそうなんだ、いやちょっと待て何でそこで力強くガッツポーズ!?

 

「これで私の勝利は約束された」

 

 だからそれは何の話だ――――!?

 

 

 

 

 

 

 

 そしてオレは、何故か円卓の間へと戻ってきていた。

 あの場で断罪されるとばかり思っていたので、正直理解が追いついていない。

 アーサー王の、あのいい感じの笑みの正体は何だったのだろうか。

 

 とはいえ、オレはまだ「自分が助かった」なんて思っちゃいない。

 もしかしたら、アーサー王は自身の手を汚すことを厭って、他の円卓の騎士に手を下させる気かもしれない。

 そうなったら、せめてモルガンをブッた斬る機会だけでも恵んでもらおう。

 とんでもない計画の片棒を担ごうとしていたのだから、それぐらいのケジメは付けたい。

 

 案の定、円卓でオレを待っていたのは詰問の数々だった。正体だの目的だの、質されている内容自体は先ほどと変わり映えがない。

 だがオレの袂にあるのは、答え方によっては即斬首となってもおかしくないものばかり。

 どうしようか。普通に考えて手駒が親玉をブッ倒そうとしているとか信じがたいだろうし。

 

 オレがあれこれと思索していると、意外すぎる場所から手が差し伸べられた。

 

「そこの騎士は私の『娘』だ」

 

 え。まって。

 

 オレは思わず二度見した。

 

「なっ――――王よ、それは誠ですか!?」

 

「ああ。だが姫として扱う必要はない。同じ円卓に座す者として扱うように」

 

「な、なんと…………」

 

「そのようなことが…………」

 

 よくわからないうちに話が勝手に進んでいく。

 当事者なのに、話に着いていけないとかどうなってんだ。

 

 まだ疑惑の目を向ける者もいるが、だいたいの騎士は目を丸くしている。弾劾(だんがい)しようなんて雰囲気は微塵もない。この場は収まった、ということなんだろう。

 だけどなテメエら、信じられないものを見ているような視線だが…………奇遇だな、オレもだよッ!!

 そもそも信じられないのはこっちの方というか!

 

 だってアーサー王が――――父上が今さっきオレのことを『娘』って………………まさかオレを認めてくれた、のか?

 いやでも『息子』って言ってほしいし…………。

 

 何だろう、この気持ち。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 あれから幾ばくかの月日が流れた。

 円卓の騎士に叙任されたモードレッドであったが、無名の騎士であった頃の日々と特に変わりなかったりする。

 そんなモードレッドの主な任務、それは毎度毎度傍迷惑なハイキングをしにやってくる蛮族と戦場でタップダンスすることである。

 

 今日も今日とて、モードレッドは一歩ごとに敵をかち割るという見事なステップを披露し、万雷の如き怨嗟(えんさ)の声を一身に集めていた。

 その艶姿は薔薇色の血飛沫にまみれ、見る者全ての目を引きつけてやまない。

 マナーのなっていない蛮族共が我先にとモードレッドに飛びついていき、その余りのスキルに須臾(しゅゆ)と保たず剣の錆と化した。

 それはまさに死の舞踏。パートナー殺しの孤独な演武。

 

「――――――ふぅん、撤退か」

 

 遠く地平線の向こう側へと波が引いていくように、蛮族の大軍が退却し始めた。

 まだ周辺の蛮族が退く気配はないが、適当に相手を続けてやればそのうち逃げ出すだろう。

 

 モードレッドが新たにいくつか敵の首を地面に転がしていると、ようやく周りの蛮族も逃げ惑い出した。

 

 モードレッドは騎士である。

 騎士とはただ戦う者に非ず。

 騎士道を、礼を尽くす者である。

 ゆえにモードレッドは蛮族に対しても、ここまで付き合ってもらった礼を忘れない。

 

「そら、忘れ物だ、ぜッ!!」

 

 足元からひん曲がった侵略者の武器を見繕うと投擲(とうてき)

 モードレッドに背中を向けている蛮族の頭に刺さり、柘榴(ザクロ)のように鮮やかに花開いた。

 二度、三度と風切り音がするたびに、蛮族の頭部が弾け飛ぶ。

 ぐずぐずしていた残りの蛮族も血相を変え、脇目も振らず逃走した。

 

「ま、今回もこんなもんだろ」

 

 途中で切れ味が悪くなったのでその辺に突き刺しておいた剣を回収していると、モードレッドの元に伝令が走ってきた。

 どうやらこちらも撤退してこいとのことだった。

 モードレッドには蛮族を深追いする気も、ましてや命令違反をする気もない。武具の整備も行いたいし、何より身体の汚れを落としたかったので、戻るにはいい頃合いだった。

 

「さぁて、凱旋だ」

 

 築き上げた屍の山に背を向け、モードレッドは戦場を去った。

 

 一度陣に立ち寄り、待機していた防衛戦力に後を引き継いでからキャメロット城に帰還した。

 

 血糊を洗い落とし、髪を雑に結い上げたモードレッドは城内をぶらついていた。

 激しい任務を終えた直後の休養期間中。特にこれといった趣味のないモードレッドは暇を持て余していた。

 

 修練場にでも行って身体を動かそうか。

 そう思ったが、脳裏に愛剣のことがチラつく。

 先ほど鎧等と一緒に点検したが、全体的にだいぶガタが来ていた。刃こぼれしている箇所もある。そろそろ何とかせねば。

 

 とはいえ、曲がりなりにも魔女モルガンの元から持ってきた剣である。

 名だたる聖剣には及ばないが、それでもモードレッドの馬鹿力に足る耐久性を備えていた。代わりの物などそうは見つかるまい。モードレッドはため息を吐いた。

 

 せめて騎士団付きの鍛冶師の元に持っていきたいが、モルガンから「剣に自分以外の者の手を入れさせるな」と口酸っぱく言われてしまっている。

 あの女の意図は不明だが、『一番すごい剣』を要求した時に提示された条件がそれだったのである。

 今思えばその際のモルガンの表情は、まるで、素面でやんちゃしてた過去(黒歴史)に直面したスカシ(元中二病)のように真っ赤であった。

 あの時はあまりの迫力と勢いに流されてしまったが、正直、剣がダメになってしまった時のことを考慮していなかったと言える。

 

 このまま修練場に向かうか、それともダメ元で武器庫にお邪魔するか。

 悩んでいると正面から兵士の一団がやってきた。立ち上る熱気といい、肌に浮かぶ汗といい、どうやら彼らは訓練帰りのようだ。気分良く雑談に興じている。

 

「――――でな、こないだの戦いも蛮族共に圧勝したらしいぞ」

 

「さすが常勝の王、陛下様々だな! 俺たちみたいなのも安心して戦えるってもんよ!」

 

 兵の口々から漏れ出るのは常勝の騎士王、アーサー王を褒め称える言の葉たち。

 

 ――――そうだろうそうだろう、何たって父上(アーサー王)は最強だからな!

 ニンマリと笑いながら、モードレッドはしきりに頷いている。

 

 ――――よし決めた、身体を動かしに行こう。

 モードレッドは目的地を修練場に定め、駆け足で向かった。

 城内には局所的につむじ風が起こり、たちまちモードレッドの姿は見えなくなった。

 

「なっ、何だったんだ今の…………?」

 

「わっかんねー…………円卓の騎士様か何かかねぇ?」

 

「だなぁ。あー、そういや聞いたか? 騎士王に勝利をもたらす麗しき姫騎士の話――――」

 

 

 

 

 

 

 

 修練場では威勢の良い声と打ち込む音が絶えず上がっていた。戦場とはまた違った喧騒だが、これはこれでいいものだ。

 モードレッドは小さく伸びをすると訓練用の模造剣を借り受けた。

 握り、振るう。風圧で木々が乱れる。

 やや物足りなさがあるが、まあ仕方ないだろう。

 刃引きのされていない剣でうっかり味方の首を飛ばそうものなら、それこそアーサー王に申し訳が立たない。

 

「おっし」

 

 まずはいつもの素振りから。

 父上への感謝(憧れ/隔意)を込めた高速千本スイング、ちなみに終了までにかかる時間は平均して三分ほどである。

 

 周りを衝撃波で吹き飛ばさないように気遣いながら剣を振り始めたが、何かがおかしい。

 モードレッドは素早く目を走らせ、気がついた。

 周囲の兵士たちが訓練を止め、しきりにモードレッドの方を盗み見ているのである。

 

 確かにモードレッドの素振りは特異な物だ。

 その姿が霞み、無数に分裂したように見えることから、『分身剣』なるあだ名を付けられたこともある。

 だが、修練場に来るたびに実施していたので、もはや馴染み深い光景だろう。

 これほど注目を集めたのは、王城に来て初めて訓練を行った時以来だった。

 

 一体原因は何なのだろうか。頭の片隅で思考する。

 以前との違いがあるとすれば、訓練中にも被っていた兜がないことか。ついでに、鎧も置いてきている。

 しかし、既に何度か修練場にも面通ししてある。素顔のことではあるまい。

 

 素振りの片手間に観察していると、何やら兵士たちの口元が動いている。

 何を話しているのだろうか。モードレッドは聞き耳を立てた。

 

「おお…………!」

 

「あれはもしかして…………」

 

「金髪碧眼にあのライン…………間違いない、噂通りだ」

 

「勝利の姫騎士殿って奴か?」

 

「何でも王の御姿と生き写しだとか」

 

「じゃあ『彼女』がアーサー王の姫騎士か」

 

 素振りがピタリと止まった。

 予期せぬことにコントロールが乱れ、砂塵が吹き荒れた。

 

 アーサー王に騎士は数多くおれども、今聞いた内容に該当する者はおそらく一人しかおるまい。

 とどのつまり、モードレッドのことである。

 

「…………………………姫騎士?」

 

 姫騎士って何のことだ。モードレッドの眉間に皺が寄る。

 一体どこから、どのような情報が漏れたのかはわからない。だが、遠巻きに見られ、ひそひそヒソヒソと。

 まるで見世物にでもされたようで、気分が悪い。

 

 身体の一部分が著しく不躾な視線に晒されているのをモードレッドは感じ取った。

 思わず舌打ちしたくなるのを堪える。こんな荒んだ心境では、訓練にはなるまい。

 

 モードレッドとしては、『姫騎士』とやらの噂について徹底的に(つまび)らかにしたい。

 しかしそれも無理やり行えば、アーサー王の評判に傷を付けることに繋がるだろう。心に荒波が立っているモードレッドに、相手を(おもんばか)るだけの余裕はない。

 すなわち、今この場にモードレッドの心を晴らす手段は存在しない、ということだ。

 

 目に見えて機嫌の悪くなったモードレッドに、声をかける猛者(愚者)がいた。

 

「…………ほう、卿も特訓ですかな?」

 

「テメエは確か――――」

 

 ランスロット。

 円卓の騎士が一人であり、湖の騎士としてその勇名を馳せている、円卓でも指折りの実力者。

 彼はその恵まれた体格に紫紺の鎧を纏い、悠然と佇んでいる。

 

 モードレッドにとって、ランスロットと正面から一対一で対峙するのは初めてのことだ。正直、顔もうろ覚えだった。

 面構えは整っている方か、とモードレッドが検分していると、彼の目に周りの奴らと同様の色が窺えた。苛立ちが募る。

 

「どうですかな? ここは一つ」

 

 ランスロットが模造剣を構えた。模擬戦にでも誘っているのだろう。

 確かに彼は強い。戦えばいい経験になるだろう。だが。

 モードレッドは舌打ちを隠さなかった。

 

 ランスロットの視線は明らかに、モードレッドの首より下の部位に集中していた。

 あわよくば接触でも狙っているのだろうか。

 

「…………いいぜ、テメエをブッ倒してや」

 

「では私が勝利したら噂の『姫騎士』殿には――――」

 

 台詞を被せられ、散々耳にし聞きたくなかった単語を面として言われ。

 

 心のどこかで抑え、張り詰めていた何かが――――――キレた。

 

「こ、ンの――――――――ッ!!」

 

 猛る魔力の奔流を、本能の赴くままに放出。

 自重を忘れた踏み込みによって、固く踏み均された地面は陥没した。

 鈍い音と共にその姿はかき消え、認識を超越した不可視の一撃がランスロットに叩き込まれた。

 

「我がうごばぐェギどぅボッ!?」

 

 まだ話し途中だったためか、複雑怪奇な悲鳴を上げながらぶっ飛ばされたランスロット。

 そのまま宙を突き進み、頭から城壁にめり込んだ。

 すわ天変地異かと思うほどの衝撃。音を立て亀裂から砕けた石材がこぼれ落ちた。

 

 修練場からはそれ以外の一切の物音が消えていた。

 居合わせた者は皆、モードレッド、あるいは城壁に突っ込んだまま出てくる兆しのないランスロットを注視している。

 

「あっ………………」

 

 ――――――ああ、やっちまった。

 モードレッドは我に返った。

 

 訓練の度を超えていることは、誰の目から見ても明白。

 傷害(ランスロット)の件といい、器物損壊(城壁)の件といい、言い逃れようのない大失態である。

 それも大衆の面前での出来事であり、ごまかしようがない。いや、被害者からの弁護でもあれば話は別であろうが。

 

 モードレッドは問題の方向をチラリと見やる。

 

 ランスロットの上半身は未だに城壁の中、足はピクピクと痙攣しているが復活の見込みはない。

 アウトである。

 

 しかし、モードレッドに後悔はなかった。

 

 己の処遇は何やかんやとなあなあになってきたが、今回こそはとりあえずクビになるだろう。

 

 そうなったなら荷物を纏め故郷に戻り、モルガンをぶっ飛ばそう。それがひいてはアーサー王のためになるはず。

 そう心に決めて、モードレッドは神妙な面持ちで王の元へ出頭していった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「ランスロット、有罪(ギルティ)

 

「何故ですかッ!?」

 

 臨時で開かれた円卓の間での会議にて。事情を聴き終えた(父上)の第一声がそれだった。

 あれ、それオレじゃないの? そう思うが、ランスロット以外誰も声を上げない。

 オレが目を白黒させていると、肩にポンと手を置かれた。

 

「もう大丈夫」

 

 そう笑って親指をビシッと立てるのは円卓の騎士の一人。

 お願いだから主語を省くな。

 

「我々はあなたの味方です」

 

 だから! オレを置いて話を進めるな同僚(ガレス)

 

「何が問題だったというのです!?」

 

 ランスロットの叫びにも必死さが(にじ)む。

 そう、理由だ、オレもそれが知りたい。

 どうしてそんなハチャメチャな結論に至ったのか、その推測の助けになるはず。

 

 ランスロットの抗議を受けて、アーサー王は手元の調書を取り上げた。

 

「先刻、修練場にて。『城壁が破壊された』との通報があった。多数の目撃者の証言に拠れば、直前までモードレッド卿とランスロット卿が模擬戦を行っていたとのこと。また同時に、『ランスロット卿がモードレッド卿に対して猥褻(わいせつ)な発言をし、(みだ)らな行為に及ぼうとしていた』との証言も寄せられた。崩れた城壁も、モードレッド卿が抵抗したが故のものだという。で、あるならばその咎はランスロット卿が負うべきだ」

 

 違うか。

 そう淡々と告げる王の眼光に、ランスロットは怯んだように喉を鳴らした。

 が、すぐに顔を赤く染め上げ、立ち上がった。

 

「お、お待ちを! 猥褻などと、一体誰がそのようなことを!?」

 

「現場を監督していた兵士長だが?」

 

 ――――兵士長め、さてはランスロットを売り渡したな。

 オレは思わず、ちょくちょく修練場で顔を合わせる兵士長が、白い歯を見せて呵々大笑している姿を幻視した。

 周りの兵士たちの口を止められなかった、その贖罪(しょくざい)のつもりだろうか。だとすれば、相当義理堅い奴だ。大した付き合いがあるわけでもないのに。

 

 とはいえ、話が大袈裟過ぎやしないか? もし虚偽だと判定されれば立場が悪くなるのは間違いない。

 

 未だペタペタと絡んでくるガレスに気付かれないように、周りを窺う。

 

 アーサー王と白熱しているランスロット以外、ちらちらとオレの方を向き、同情的な表情を浮かべている。

 こっち見んな。

 

 驚いたことに、鉄面皮で冷血漢としても有名なアグラヴェインでさえ、顔を歪めランスロットを睨み付けている。

 いや、この男の場合、ランスロットを蹴落とすのにいい口実を見つけた、とでも思っているだけかもしれないけど。

 

 本人以外の全員が、今回の『ランスロットがやらかした』という話を疑っていない。

 というか、コイツならやりかねない的な負の信頼感がひしひしと伝わってくる。

 果たして、オレが入るまでの円卓に何があったのだろうか?

 

「美しいものを美しいと言って、手を出すことの何が悪いのです!?」

 

 あっ、これダメなヤツだ。

 

「サー・モードレッド、何か希望は?」

 

「――――ふぇ!?」

 

 父上から予想外の呼びかけに、マヌケな声を漏らしてしまった。考え事で集中していなかった…………不覚。

 注意力散漫だと思われるのが嫌で、わざと咳き込んで誤魔化す。

 そもそも、どうしてここでオレに振るんだ? 父上が判断を下すべきところじゃないのか?

 

「ふふ、王はあなたの意向を酌みたいとお思いなのですよ」

 

 そばにはいつの間にやら隻腕の騎士にして王の世話係でもあるベディヴィエールが。彼は手を添え、耳打ちするかのように囁いた。

 とはいえ、そこまで小さな声でもない。円卓に座るほぼ全員が聞き取れたようで、ベディヴィエールの言葉に微笑む者もいれば顔をしかめる奴もいた。

 

「この男を極刑に処したければ、その旨をきちんと述べるように」

 

 眉間に深く皺を刻み、横からさらっと恐ろしいことを述べるアグラヴェイン。

 あんたは威圧感すごいから引っ込んでてくれ。

 

 横目で様子を見れば、ランスロットは膝を着いている。

 ブツブツと、男として当たり前だろう的な内容が聞こえてくる。全く同意できないが。一体どこで物事を考えているのだろうか。

 

「ふー…………」

 

 落ち着こうオレ。

 

 まあそれなりに嫌な思いもしたんだが…………正直、さすがにここまで意気消沈されると哀れというか。ランスロットの目線はアレだったが、一応手は出されなかったというか。

 ならば、

 

「い、いや、そこまで重い罰じゃなくてもいい、です…………」

 

 話していて、だんだんと尻すぼみになっていく声。

 自分でも、迷った。円卓の騎士の反応を見るに、似たような事例は一度や二度ではなさそうだし。女癖が悪いのはどうかと思う。

 だが、剣の腕が立ち、いれば間違いなく戦力になる。

 それに大陸の方に領地も持っているらしい。そちらとの繋がりがなくなると、アーサー王が――――この国が困窮する恐れがある。

 

 あとランスロットが重罪になると、いざオレが罪に問われた時が怖い。

 

「ふむ……………………」

 

 アーサー王は一度(まぶた)を閉じ、

 

「で、あるならば――――――サー・ランスロットはこれより一週間、サー・ガウェインの元で『三倍マッシュポテトの刑』とする!」

 

「労役ですね、畏まりました」

 

 とガウェインは恭しく一礼。力なく了承の意を示したランスロットを引きずり、退出していった。

 早速厨房に向かうのだろう。この時間からならば、夕食の分か。

 

 ――――三倍マッシュポテトの刑。

 それは、マッシュ係であるガウェインの三倍量ポテトをマッシュし、更にはそのマッシュしたポテトだけを食さなければならないという、慈悲深くもある意味(むご)い刑である。

 ガレスの話に拠ると、これまでにも円卓内で問題が発生した際に、たびたび行われてきたのだという。

 ちなみに等倍、二倍、三倍の順に重い刑罰となる。今回のはかなり重い判決と言えよう。

 

 ガウェインのマッシュポテトを思い出し、オレはげんなりした。

 ガウェイン本人は労役と言っていたが…………多分食事の方が罰ゲームである。

 

 オレはガレスに連れられ、そのまま無罪放免となった。

 …………城壁修繕の手伝いぐらいはしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の早朝。

 オレはせめてもの償いとして、壊れた城壁周辺の警備に赴こうとしていた。

 

 昨夜、城壁修繕の補助をしたいと執務中の父上に打診したところ、近くの机でペンを走らせていたアグラヴェインに「お前がやると余計に壊れるから止めろ」と差し止められてしまった。

 実際に壊した手前、反論もロクにできず、代替案として周辺警備を願い出たのだ。

 

 さすがに蛮族連中がここまで攻めあがってくる可能性は万に一つもないが、王の命を狙う不遜な輩が忍び寄ってくるかもしれない。例えばモルガン(クソババア)とか。

 そうでなくても、作業中の工兵が獣にでも襲われればひとたまりもない。ネズミ一匹通すものかとオレは己の両頬を叩いた。気力は充分。

 

 鎧を纏い、愛剣を携える。

 耐久に不安が残るが、無限に蛮族と斬り合い続けるわけでもなし。今回は問題ないだろう。

 

 外に出るため城内を移動していると、対面から歩いてきた女中のグループと目があった。

 途端、女中たちは何やら色めき立った。顔を見合わせ、すぐさまこちらに向かってくる。

 …………オレに用事でもあるのか?

 

「キャー! モードレッド様よ!」

 

「まあ、お噂の姫騎士様!?」

 

「モードレッド卿! モードレッド卿ですよね!?」

 

「あ、ああ」

 

 何だこれ。

 

 どう考えても初めてのはずなのに、どこか既視感のある状況にオレは陥った。

 というか、これもまた詳細不明の『姫騎士』とやらの関係なのだろう、そう聞こえたし。兵士たちの噂話と違い、直接ぶつけてくるだけまだマシな気もするが。

 何にせよトラブルだけは勘弁してほしい。

 

 対応に困り、オレが内心冷や汗をかいている間も、彼女たちのトークは止まらない。

 

「何でも、『円卓最強談義』で常に名前の上がるランスロット卿を倒されたとか!」

 

「無理やり××(ピーッ)しようとした悪しき騎士を見事撃退されたとも聞きましたわ!」

 

「まあ!!」

 

「やはり女性は斯くあるべきね!」

 

「女も強くならなくっちゃ!」

 

 昨日の今日で、もうあの話が出回っていることにも驚いたが…………(かしま)しいとかいうレベルじゃない。

 大人数に密着され、かといって下手に動いて怪我をさせるわけにもいかず、完全に身動きが取れない状況になってしまった。

 

「あ、あのっ! どうか握手してください!」

 

「いや、オレそんな立派な者でもないし――――」

 

「キャーッ!! さすが勝利の姫騎士モードレッド様!!」

 

「勇ましいだけでなく、謙虚でもあらせられる!」

 

「こんな朝早くからモードレッド卿に出会えるなんて、何という幸運なのかしら!」

 

「これで今日のお勤めも頑張れます! ありがとうございます!!」

 

 お触りやら握手やらで散々揉みくちゃにされた後、ようやっとオレは解放された。

 短時間だというのに、精神の疲労は戦闘の比ではない。

 もしや、この城の女中って蛮族よりも手強いのでは。

 

「あら、いけない! そろそろ仕事を始めなくっちゃ!」

 

「名残惜しいけど…………私たちの仕事がモー様を支えているのよ!」

 

「ふふっ、モー様パワーのおかげで今日は三倍働けそうよ」

 

「何言ってるのよアナタ――――――十倍に決まってるじゃない!!」

 

「ありがとうございます、本当にありがとうございます! この手は一生洗いません!」

 

 オレが真剣に対蛮族戦への女中動員を検討していると、嵐のような一団は去っていった。来た時も唐突だったが、帰る時もまたえらく唐突だった。

 …………もしかしなくとも、『モー様』ってオレのことか?

 というか最後の奴はちゃんと手を洗え!

 

 とりあえずハッキリしたのは、今回の騒動もまた『姫騎士』とやらの話が原因だということ。

 女中たちもオレのことを『姫騎士』だ何だと口にしていたので、それは間違いない。

 

 オレについてどんな噂が流れているのか。

 気にはなるし、いつか聞かなければならないのはわかっているんだが…………聞くのが怖い。特にさっきの女中集団は熱狂的過ぎて。

 

 本当に、どうしてこうなった…………?

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、

 

「おお、偶然ですね。いかがです? 警備の後、一緒にティータイムでも」

 

「いや反省しろよあんたも」

 

 ランスロットからの言い寄りはなくならなかった。何でだ?

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 





※先生が4月2日を取り戻す旅に出てしまったので、今回が最終回となります。先生の次回作にご期待ください。




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第六特異点 胸にしぼうを キャメロット(中編)

 いやあ、リヨモンのネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング魔神柱は強敵でしたね……。

 正直もうダメかと思いましたが、それだけに増援に来たダ・ヴィンチちゃんのロケットパンチが親指立てながら溶鉱炉に沈んでいく場面は涙なしでは語れません。



(前話にて、色々なランキングにお邪魔していたようです。この場を借りて深く御礼申し上げます)



 

 

 煌々と太陽が輝く空の下、度重なる戦闘によって錆色に染め上げられた平原に、モードレッドは仁王立ちしていた。その姿は、全身完全フル装備。戦場に在り戦意に満ち溢れているはずのその顔には、しかし活力がない。付け加えると仏頂面であった。

 

 その答えはモードレッドの目の前に広がっていた。見渡せども見渡せども、そこには無人の景色が続く。

 

 どういうわけかここ最近、珍しく蛮族との殺し合い(ランデブー)が途切れているのだ。

 

 この場所に陣を展開してから三日ほど経過したが、いつまで経っても敵は来ない。()る気満々で出陣してきたが、見事に出鼻を挫かれた形だ。兵士やら女中やらランスロットやらで溜まったストレスを、蛮族退治で発散しようと画策していたのだが………………それも不発に終わってしまった。

 

 モードレッドは不機嫌な表情を隠そうともしない。鬱屈を紛らわすため、力任せに地面を踏み砕いた。

 モードレッドの後方で息を呑む音が聞こえた。ここまで共に進駐してきた騎士のものだろう。モードレッド(規格外)からすれば頼りないが、平凡なりにその努力は認めている。

 

「あ、あのっ、モードレッド卿?」

 

「…………別に何でもねぇよ。腰抜け共がアーサー王の威光を恐れ、来なかった。ただそれだけのことだ」

 

 連れてきた兵士たちはやや離れた所に待機しており、戦端が開かれなかったことに安堵している。あるいは、ここ数日の緊張が緩んだだけなのかもしれないが。

 

 モードレッドには、彼らを「弛んでいる」などと叱る気はない。平和を尊ぶ。それが当たり前のことだ。

 

 もっとも、戦わずに済むことを喜んでばかりもいられない。無論、戦いがないのが一番ではあるのだが、未だ蛮族は降伏したわけではないのだ。奴らは、今もどこかで牙を研ぎ澄ましているのだろう。

 

「ふん、一寸の虫(ムシケラ)にも一丁前に恐怖心があったっつーわけだ」

 

 ナヨナヨとした騎士はおっかなびっくりといった様子で、首を何度も縦に振った。別に同意が欲しかったわけではないのだが。モードレッドは鼻を鳴らした。

 

 少しして、モードレッドの放っていた斥候が戻ってきた。それらの報告に拠ると、蛮族の侵攻の兆候どころか影も形もないらしい。となれば、此度の出陣は無駄骨か。このまま粘ったところで兵糧が尽きるだけ。

 

 引き延ばしても無意味だ。そう判断したモードレッドは、すぐに撤収の指示を出した。日が傾く前に移動を開始できればいいな、と思いながら。

 

 

 

 

 

 夜の帳が降りた頃、何事もなくキャメロットに帰還したモードレッド麾下(きか)の一軍。

 

 モードレッドが損耗確認をした後、解散命令を出すと、兵士らは思い思いに城下町に繰り出していった。店で酒をかっくらうも良し、そのまま寝床で鼾(いびき)をかくでも良し、今後のために英気を養ってくれればいい。モードレッドは彼らを見送ると、お供の騎士と共に城内へ。まだやるべきことが残っている。まずは王に報告をせねばならない。

 

 執務室にて書類と格闘しているアーサー王に、戦闘の有無と全員無事に帰ってきたことを伝えた。その後、騎士を次回の兵糧の工面のため走らせた。彼には、大まかな計画が提出できれば自由にしていいと言いつけてある。それなりに作業したら休むだろう。

 

 残ったモードレッドは単身円卓の間に向かった。先の報告時、アーサー王は各円卓の騎士に伝令を出していた。蛮族について考察の場を設けるのだという。夜も深まってきたとはいえ、そろそろ彼らが集まってくる頃合いか。

 

 部屋に入り、モードレッドが席に着くと円卓の過半が埋まった。さほど経たずして残りのメンバーも到着。アグラヴェインに次いで、ベディヴィエールを侍らせたアーサー王が着席すると、円卓会議は始まった。今回の議題は『蛮族について』。

 

 ブリテンの地に攻めあがってくる蛮族については、今まで飽きるほど意見交換されてきた。それにも関わらず、奴らの正体といい、目的といい、どうも不可解な点が多い。

 

 モードレッドの素人目で見ても、ブリテンの環境は過酷だ。土地は大陸ほどの面積もなく、その土壌は農耕に適しているわけでもない。おまけに、宝飾に使える宝石類が出土したりもしない。特徴といえば精々『幻想種』と呼ばれる生命体が多く生息していることぐらいだが…………それとて人間の生活は疎か、時には命をも脅かすことを思えばマイナス要素でしかない。謎である。

 

 が、現在の話題の中心は蛮族の目的ではなく、奴らの今後の行動。目的が判明すれば自ずと行動も絞れるが、手がかりすらないこの状況で闇雲に話し合っても会議が踊るだけである。故に、雲を掴むような頭の痛い話はすっ飛ばして、今できる最善の策を練るのだ。

 

 最近の傾向を踏まえて、蛮族の動きを分析していく。今までは、ただ単純に継続的な侵攻と物量で押し入ろうとしているように思えたが、蛮族の方でも何かが変わったのやもしれない。

 

「――――思えば」

 

 挙手し、次なる発言をしたのは幽弦の使い手、嘆きのトリスタン。曲を奏でるかの如く敵の首を跳ね飛ばす術(すべ)を持った円卓の騎士である。

 

 燃えるような赤髪を肩口まで伸ばしたこの伊達男は、モードレッドの知る限り常に目を瞑っている。だが、盲目なのかといえば違う。何も見ていないように思えるが、腕は百発百中。弓として使う弦楽器が狙いを誤ったことはないという。楽器を用い音波で首級を上げるという点において、個性派揃いの円卓の騎士の中でも、相当の変わり種である。

 

 先ほどまで、皆が様々な意見を述べる中でも静かに目を閉じ俯いていたので、もしや寝ているのでは、とモードレッドは密かに疑っていた。

 

「前回の戦いもどこか散発的でした。これまでの常であれば、果断なく指を動かし続け、それでもなお敵影に足りず、戦闘が終わる頃には疲労で指が震える程だったのに」

 

 前回の出撃においては、戦闘の間隙に別の曲を奏でる余裕がありました。そう、例えば恋の歌などを。

 

 そう、いけしゃあしゃあと語るトリスタンに、くらりと眩暈を覚えたのはモードレッドだけではなかった。

 

「何故それを、帰還してすぐ王にご報告しなかったのか?」

 

「何故って、いつも通りでしたから。『我が弓で数多の蛮族共を屠った』、この事実に変わりありませんからね」

 

 トリスタンの報告に対し、アグラヴェインの唸る声が室内に響いた。怒っているのか、呆れているのかは定かではないが、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。

 

 普段のアグラヴェインは他の騎士と意見衝突することがままあるが、この時ばかりは大多数の騎士と意見が一致していた。すなわち――――お前(トリスタン)もう少し真剣にやれよ、と。

 

「…………次からはどんな些細なことでも報告を上げるように。それが王にお伝えするまでもない些末な事柄か否かは、私が判断する」

 

 疲れたように首を横に振り、トリスタンへの追及は打ち止めとなった。

 

 話が脱線していたが、蛮族の動きの変化と、今後向こうが取る可能性の高い動きを探るための議論は再開された。――――だが、案の定議論は紛糾した。

 

 誰かが「奴らは諦めたのではないか」と希望的観測を出せば、別の誰かから「いや、それならばとっとと降伏するのでは」と否定が飛んでくる。

 

 ある者は「蛮族が何か作戦を企てている可能性もあるのでは」と言うが、肝心の作戦内容は検討も付かない。

 

 時間は進めども、ただ眠気ばかりが積み上がっていく。モードレッドは欠伸をかみ殺した。

 

 結局、『奴らが敗北を宣言するまで徹底して叩き潰すべき』という至極当然の意見に集約されたのは、開始から二時間ほど経ってからであった。にも関わらず、特にめぼしい対策が打ち出せたわけではない。

 

 最終的にモードレッドたちに与えられたのは、『情報を密に集め、如何なる状況にも対応できるように』という何とも抽象的な指針である。発表した際のアーサー王の目が、やけに据わっていたのが印象に残った。

 

 命令がふわっとしていても何とかなるという自信と信頼の表れか。はたまた睡眠欲に負けて投げやりになったのか。

 

 後者でないことを祈りつつ、眼(まなこ)を擦りながらモードレッドは退出したのであった。…………アーサー王の頭がゆらゆらと揺れていたのは、見なかったことにした。

 

 

 

 

 

 翌日。いつもより遅く起床したモードレッドであったが、特に焦ることなく悠々と支度を整えていた。それというのも、今し方モードレッドに伝達された内容が理由である。

 

 伝令役に曰わく、「蛮族について、より精密な情報を収集しているので、周辺警戒以外での出撃はない」という。続けて「各自修練を怠らず、また傷病の快癒に努めよ」との王の言葉も伝えられた。おかげで、久方ぶりにモードレッドはまったり微睡(まどろ)んでいられるのである。最近では人目を忍んでのんびりするのが、二番目に至福の時になりつつあった。だいたい『姫騎士』だのと無駄に面白おかしく持ち上げられているのが原因だ。ちなみに、同僚の目があるために心安らぐわけではないが、アーサー王(父上)に会っている時がモードレッドにとって一番の幸せである。例えどれほど短い間でも。

 

 どうやら情報集めには、アグラヴェイン子飼いの専門集団が動いているらしい。何故か前屈みになり、目を逸らしていた伝令がボソボソとそう口走っていた。走り去る前に風の噂だと嘯(うそぶ)いていたが、なかなかどうして、噂もバカにはできないものだと身に沁みている。出回りは早いし、事実が混ざっていたりもする。無論、噂である以上情報の確度は下がろうが、何割かは真実が混ざっているだろう。……それを選り分けるのは容易ではないが。

 

 乱雑に身嗜みを仕上げると、モードレッドはそのまま部屋で息を吐いた。さて、今日はどう過ごすべきか。

 

 仕事はあるにはあるのだが、書類仕事(デスクワーク)はやる気が起きない。目は覚めたが、頭が冴えたわけではないのだ。頭が重い中取り組んでもロクな効率ではなかろう。元々得意とは言い難い上に、最近では下手に取り組むと鉄面皮(アグラヴェイン)からお叱りが飛んでくるようになっていた。仕事に生真面目、かつこの国の内政の要であるのは理解している。しかし、もう少しあの人当たりの悪さは何とかならないのだろうか。

 

 苦手意識を押し込めるように、丹田に力を入れ深く息を吐いた。

 

 残りの選択肢は少ない。その内、一番簡単で実りがあるのは運動だ。許可だの報告書だのもなく身体を鍛えられる。アグラヴェインに何かをネチっこく言われる恐れも低い。

 

 モードレッドは修練場に足を向けかけて、ピタリと止まった。何とはなしにトラブルの予感がする。そう、例えるなら同僚を壁に埋めてしまった時のような。もしくは、熱心なファンに取り囲まれた時のような。

 

 今までまともな仕事をしてこなかった己の直感(B)が懸命に囁いている。――――今日はちょーっとお外に行くのは止めた方がいいんじゃないっすかね? お部屋に引きこもるのとかマジベターっすよ、と。

 

「なるほど」

 

 特に宛てにならない気がするので、直感(B)の意見は封殺した。

 

 近頃の修練場周辺での経験から、少々行きづらさを感じるのは事実だ。とはいえ、せっかく身体を動かす気分になったのだから、書類仕事で水を差されたくない。代替案として自室での筋トレ――――は力加減を誤ると室内が吹き飛ぶから無理。代わりにガレスの部屋――――でやると多分泣かれる、却下。

 

 比較的無害で人懐こく、何も考えていなさそうでその実やっぱり何も考えていないらしい円卓の騎士(ガレス)が脳裏に浮かんだ。何故か一目で毒気が抜かれる顔。よく絡まれるので若干辟易するが、さりとてわざわざ泣かせてやろうとも思わない。

 

 そういえば、先日ピクニックに誘われた時、城内にある中庭の話をしていた覚えがある。「すごい綺麗だよー。癒されるよー」といった内容を、握り拳をブンブン振り回して力説していた気もする。

「周りは脳筋ばっかりだから、話しても全然興味持ってもらえないんですよッ!」

 確かそのようなシャウトもしていた。彼女(ガレス)の誤算は、モードレッドもその『興味ない側の人間』であったことか。しょぼくれたように会話を打ち止めていたが、こうしてモードレッドの頭の片隅には残っていた。場所についても仕切りに説明していたので、行こうと思えば行けるはずだ。その点においては、ガレスの宣伝(アピール)も無駄ではなかろう。

 

「中庭か…………」

 

 その時の話以外ではとんと耳に入ってこないので、知っている人は少なさそうだ。あるいは、知っていても自(おの)ずから行こうとは思わないのか。どちらにしても、余計なトラブルは避けられるに違いない。

 

 モードレッドは目的地をまだ見ぬ中庭に定めた。

 

 中庭というからには修練場よりは狭いはず。地面も踏み均されてはいまい。動くには不向きな環境であろうが、それもまた体捌きの訓練となろう。

 

 それに、とモードレッドは人通りのない静かな空間を思い描いた。別に騒音が苦手な訳ではない。だが、血潮が沸き立つような戦場(いくさば)の大音声ならばともかく、心をささくれ立たせる噂話の類いは勘弁願いたい。そう、例えば姫騎士とか姫騎士とか姫騎士とか。

 

 歩いているうちに、段々と人の気配が遠ざかっていく。代わりに近づいてくるのは、木の葉の擦れる音と土の匂い。よかった、無事に到着したようだ。

 

 人があまり訪れないからといって、整備を怠っている訳ではないらしい。緑は多いが決して鬱蒼としておらず、どことなく落ち着ける雰囲気を醸し出していた。『植物だらけの庭園』という共通項はあれど、不気味なだけのモルガン(クソババア)の薬草部屋とはワケが違う。

 

 ――――さすが父上、趣味もいいな! ガーデニングの知識は皆無だが、モードレッドはアーサー王を誉めそやした。

 

 しかし、想像以上に整えられた一画だ。人目が多い修練場と異なり、精神的に消耗することはなかろうが、ここでいつもの素振りなどを実施すれば、激しすぎて木立が吹き飛んでしまう。

 

 さて、如何なる手を打つか。こういった時、真っ当な剣術を学んだ者であれば、型のおさらいでもするのだろう。が、残念ながら型にはまっていられるほどモードレッドのお行儀は良くない。只管にその場その場の刹那を、全身全霊を以て切り抜けるのみ。第一、敵を討つのに剣の型を覚える必要はない。その時の状況に合った最適な動きをすれば良いのだから。

 

「…………うっし」

 

 そうだ、基本に立ち返るべきだ。我が身はただ(父上)の敵を打ち払う剣である。ならば、あらゆる場所で敵を倒す訓練を――――!

 

 脳内でモルガン(クソババア)顔の仮想敵を構築。現在地に適したシミュレーションを開始した。…………状況仮定、周囲は繊細な稀少品でいっぱいだ。例えば、父上の私室。絶対に被害を出してはならない。

 

「ン、グッ――――――この、ッ…………!」

 

 強張った太刀筋は、イメージの中の憎き(モルガン)にひらりひらりと回避されてしまう。周りの枝葉を揺らしているようではダメだ。この状況では、無尽蔵の力(いつもの馬鹿力)は用いない。狙いはただ一点。迅速に、最短距離で曲者の首を――――取る!

 

()ッ!!」

 

 吸い込まれるように剣を突き刺すと、モルガンの幻影はゆらりと消えた。

 

「おや…………? 珍しいですね、このような場所でお会いするとは」

 

「お前は――――」

 

 晴れ空の下、瑞々しく輝く中庭に一人の騎士が足を踏み入れていた。ブリテンが誇る円卓が一員、太陽の騎士ガウェイン。装飾の見事な胴鎧を彩るように、癖のある蜂蜜色の頭髪が僅かにそよぐ。

 

「何故このような場所に?」

 

「…………やることがないから身体を動かしてただけだ」

 

 モードレッドは投げやりに答えた。今はあまり他人と会話したい気分ではない。特別嫌いになる要因もないし。ガウェインは、料理スキル(マッシュ一択)以外は比較的まともな人材である。…………まあ、ランスロットと比べれば誰でも人格者に見えるかもしれないが。

 

「訓練ならば修練場に行けばいいのでは?」

 

「…………ひそひそ話がなくなればな」

 

「確かに、今城内は卿の噂で持ちきりです。あれでは身も入らないでしょう」

 

 ははは、とガウェインは朗らかに笑った。彼にとっては実際他人事だろうが、少しぐらい火消し作業を手伝ってくれないものか。

 

 そういえばこの男、とモードレッドはガウェインを見つめた。他人事と言ったが、彼の母親は魔女モルガンなのだという。ついでにアグラヴェインやガレスもそうらしい。

 

 モードレッドはアーサー王とモルガンの子供である。そして、彼ら兄妹はどこぞのお偉いさんとモルガンの子供である。

 

 ――――あれ、つまりこいつらとオレは異父兄妹とかいうやつなのでは? というかモルガンの子供、円卓に居過ぎでは?

 

 全員が全員、獅子身中の虫ということでもないだろう。一番ウケが悪いアグラヴェインですら、内政になくてはならない存在だし。え、何、モルガンの奴、実はアーサー王(父上)のことが好きだったりする、のか? …………いやいや、そんなまさか。あれだけ王を害そうとしているのに、好意を抱いているとか有り得ないだろう。きっとただの偶然だ。そうに違いない。

 

 混乱から立て直すようにモードレッドは首を横に振った。その様子を観察していたガウェインの目がすっと細められる。

 

「しかし――――果たしてそこまでして訓練する必要があるのですか?」

 

「何…………?」

 

「アーサー王の『娘』である貴方が戦場に出る理由を問うているのです」

 

 甘え、媚びを売るためですか。次々と吐き出されるのは、どこか辛辣な言葉の数々。その語り口は、ここにはいない誰かをモードレッドに想起させて――――。

 

『――――お前は私の言うことだけ聞いていればいいのよ』

 

 聞こえるはずのない魔女(モルガン)の言葉が耳元で反響する。太陽の騎士に重なる陽炎のごとく、あの女(クソババア)の姿が立ち上った。

 

『お前は私の言う通りに――――』

 

「――――――違う」

 

 音もなく剣を抜き放ち、ガウェインの背後に見え隠れするモルガンの影を断ち切った。

 

「っ」

 

「オレは父上の――――アーサー王の騎士だ。王に楯突く輩を討伐し、王の命令に従い国と民を守る者だ」

 

 確かに始まりはアイツ(モルガン)のせいだったかもしれない。けれど、今はモードレッド自身の意思で、アーサー王と共に在りたいと願っているのだ。ましてや、親に甘えるためなどではない。

 

 剣を鞘に収めながら断言すると、ガウェインは感心したように息を吐いた。

 

「なるほど。よく見ると…………ふむ」

 

 先ほどの姿勢、太刀筋、何よりも…………。最後は聞き取れなかったが、モードレッドに注がれていたガウェインの視線が獲物を見定めるような物に変貌した。柄に手をかけ、ピリピリとした空気を纏う。

 

「よろしければ私が訓練のお相手をしましょう」

 

「ハッ――――――上等ッ!」

 

 ちなみに太陽三倍剣は卑怯だった。

 

 

 




※先生がゆうしゃロマの意思を継ぐ旅に出てしまったので、今回が最終回となります。先生の次回作にご期待ください。




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第六特異点 胸にしぼうを キャメロット(後編)

 去年までのあらすじ。


モードレッド
 きょにうサーヴァント
 とつぜんへんいにより体のいちぶぶんが大きくへんかしたモードレッド。
 むねにためこんだエネルギーをほうしゅつして、ぶんしんしたりむじかくに男をたらしこんだりする。
 まじょの黒れきしでほかのかぞくにも知られていない、あるいみレアなサーヴァント。
 くろうしょうでもあるので、かたをもんであげるとよろこぶぞ。



 ブリテン全土に夜の帳が降りて久しかった。星の輝きすら疎らで、光源と呼べる物はキャメロット城内に所々焚かれた松明と夜空に浮かぶ月くらいか。夜警担当の兵士を除けば、城に詰め掛ける殆どの者が夢を見ている頃だろう。

 常であれば武具の手入れも終えて、寝床に着こうかという時刻だ。正直、眠気があるのは否定しない。だが、オレの姿は本来あるべき自室にはなかった。寝こけてなんていられるはずもない。今から重大案件と向き合わなければならないのだ。今宵オレは――――騎士モードレッドは恐れ多くもアーサー王の私室へと呼ばれているのだから。

 何故、オレが呼び出されたのだろうか。移動中もずっと考え続けていたが、思い当たる節はない。

 執務室であれば幾度となく訪れた。だが、こんな夜半に、それも王の私室に来い、などと申し付けられたのは初めてのこと。

 一体、何の用件だろう? モルガン(クソババア)関連のことは吐き出せるだけ吐き出したから、もう情報らしい情報は何もない。そもそも他の円卓の騎士らに隠したいことでもないから、恐らく違うだろう。内務に関しての呼出ならば、オレではなくアグラヴェインにお呼びがかかるはず。人格面はともかく、実務面においては円卓内でもアグラヴェインが突出している。だから、内務関連の話でもない。軍務に関しての相談でも――――悔しいが、ガウェインやランスロットの方が適任だ。個としての武勇なら、あの二人に何ら劣らないと自負している…………が、軍団指揮となると話は別だ。魔女(クソババア)から集団を煽動するコツは教授されども、御する術についてはロクに与えられなかった。円卓に座してからは軍略についても学んでいるが、まだ発展途上だ。実戦で培われてきた二人の指揮能力には敵わない。ならば、何故オレが選ばれたのか。

「ッ――――」

 気付けばオレは、扉の前に立っていた。アーサー王の私室――――これより先は、何者であれ易々と入ることの許されない聖域だ。無意識のうちに生唾を呑んでいた。

 扉をノックしようとして、逡巡した。例えどれほどの武勲や逸話を打ち立てようと、許可なく立ち入れば死を以て(あがな)わねばならない。そんな神聖な場所に、本当にオレが足を踏み入れてもいいのか? 無論、戦果はそれなりに上げてきたし、色んな場面で父上に貢献してきた……はずだ。だが、どういうわけか聞こえてくるのは『姫騎士』だのという望まぬ逸話(ウワサ)ばかり。元々の出所からして不明な『姫騎士譚』はあちこちで流れているようだが、未だに話の全貌が掴めない。『アーサー王の姫にして騎士だ』という噂はまだ良い方で、『笑顔を向けられると男は全員昇天する』だの『騎士は皆籠絡されていて姫騎士の手駒だ』なんてものまで小耳に挟んだ。……いや、オレは父上の息子だから、最初の内容も別に良くはないんだが。まあ、比較すれば後者よりはマシというやつだ。内容を列挙すると『姫騎士譚』はどうも良からぬ流言っぽいんだが、かと思えば見知らぬ人間から握手やサインを求められたりもする。城下町を普通に出歩くだけでよくわからない悲鳴が上がり、人波が押し寄せ、いつまで経っても事態が鎮静化する気配すらない。

 …………不安になってきた。やっぱオレ、このまま王の私室に入るのはふさわしくないのでは? 何か、手土産でも持参した方が良かったんじゃないのか? 今からでも何か適当な嗜好品でも見繕って――――。

「――――モードレッド卿か」

 オレの気配に気づいたのだろう。ぼやぼやしているうちに、中にいる父上から声がかかった。敬愛する王には見えぬとわかっていても、オレは即座に礼を取った。

「はッ、円卓の騎士が一人、モードレッド。王の召還命令に応じ参上いたしました」

「入れ」

「失礼いたします」

 ――――悩むな、覚悟を決めろ。如何なる用向きであっても、アーサー王の選択ならばそれが国にとっての最善手。そう信じて、往くしかないのだ。

 初めて入った王の私室。オレの目に真っ先に飛び込んできたのは、壁に掛けられた王の象徴たる赤き龍が描かれた旗だった。その見事なほど精緻な技巧に思わず息を呑む。常勝の騎士王に相応しい壮麗さだ。しかし、別の意味でもオレは驚いた。他に目を引くような華美な装飾はなかったのだ。それどころか調度品そのものが少ない。これを『質素』という一言で片付けてもいいものか。あるいは、執務室の方が生活感がある気さえする。本当にこの部屋で暮らしているのだろうか。…………もしや父上、極々稀にしか帰ってきていないのでは?

 殺風景な空間の奥、王は蕭条(しょうじょう)と椅子に腰掛けていた。暗がりの中で瞳を閉じ、何か思案に耽っているようにも見える。

 御前に膝を着こうとしたオレを制止したのはアーサー王本人だった。

「…………公ではなく、私的な場だ。楽にしていい」

「は、はぁ」

 しかし話は続くことなく、再びの静寂が場を支配した。部屋の主たるアーサー王は口を閉ざしたまま、用件を告げるわけでもない。間が持たないが、果たしてオレが口火を切っていいものやら。

 微かな擦過音に視線を落とすと、僅かに身体が震えていた。すわ貧乏揺すりか、武者震いか。オレは…………緊張、しているのか。節操なく音を立てるなど、らしくない。ああ、だが、王と二人きりなんて、円卓の騎士となった日以来だった。…………モルガン(クソババア)なら事に及ぶ千載一遇のチャンスだと感じるのだろうが。あの時のオレはただただ素顔を暴かれた己の身の振り方ばかりを勘案していたように思う。自分自身が置かれた状況すら、理解が追いついていなかった。

 オレはアーサー王を尊敬している。魔女(クソババア)からアーサー王について語られる度に、王への憧憬は高まっていった。かつては王のために働けるだけでも幸運だと思っていた。だから、多少の気苦労はあれど、オレは現状にそこそこの充足感を得ている。

 だが、父上は――――アーサー王は、本当のところオレをどう思っているのだろうか。円卓の騎士らに詰問され、オレを『娘』と言ったアーサー王の真意は一体――――。

 騎士として仕えるようになってから今まで、じっくり話す時間はなかった。なればこそ、きちんと向き合わなくては。

 恐る恐る正面から王の尊顔を拝する。薄暗い部屋であっても、アーサー王の整った顔立ちは美しかった。今でも一部の不遜な貴族らの間で『少年王』と揶揄されているようだが、そいつらはきっと遠距離での謁見すら許されていないのだろう。もしくは、審美眼を欠片も持ち合わせていないか、だ。

 美しさと力強さが同居する父上の(かんばせ)は、もはや一つの芸術品と称しても過言ではない。だが、昼間に王として見せていた凛とした佇まいとは異なり、だいぶやつれているように感じた。見れば見るほど質実剛健なイメージから離れ、今この瞬間にもふらりと倒れてしまいそうな――――。

 ポロリと。気付けば、そんな感想がオレの口を衝いて出ていた。マズい。煮詰まりすぎて頭がおかしくなったか。『王がやつれている』だの『ふらりと倒れそうに見えた』だのと直接告げるなんて、公的な場であれば間違いなく不敬行為。私的な場であっても、許されるものではない。

 叱責を覚悟したが、王はほんの僅かに目を丸くしただけだった。

「…………そう、見えますか」

 疲れの滲む溜め息混じりの声が、三更(さんこう)の暗がりに解けていった。口調も物腰もいつもより柔らかいが、こちらの方が父上の素…………なのだろうか。

「近年、作物の育ちが悪いのです。そのせいか、農地を持つ一部の貴族は収穫量を過少に報告するなど、その分の税をちょろまかしているようです」

「なっ…………!?」

「まあ、後者に関しては既にアグラヴェイン卿が動いているので大丈夫ですが――――」

 トップの口から語られるこの国の問題点は止まることを知らなかった。

 蛮族の襲来やそれに伴う被害については言うに及ばず。というか、ついこの間も軍議で散々取り上げられていたので嫌でも精通しているが。

 農業の不調は聞きしに勝る深刻さだった。

 いくら耕せども大した量の実らぬ穀物類。民は飢え、新天地を求めて頻発する人口の流出。……ただまあ、この人口減少のおかげで若干食糧の消費量は抑えられているようだが、それも決して良いこととは言い難い。結局、労働力不足に歯止めがかからなければ益々食糧難は悪化するし、国力は低下する。ついには村の取り潰しまで候補に挙がっているらしい。もし、いくつかの村を取り潰してしまえば民からの不平不満は爆発的に増加するだろう。国自体も先細りから逃れ得ない。

 それ以外にも問題は多々あり、幻想種による被害報告の数も馬鹿にならないという――――。

 ノンストップで放たれる父上の愚痴を傾聴しつつ、オレは冷や汗をかいていた。

 …………ヤバい。何か、想像していた以上にヤバかった。駄目だこの国、早く何とかしないと。もっと訓練して、父上の負担を少しでも減らそう。

 オレは決意を新たにして――――。

「あと胸は全く成長しません」

「へっ、胸?」

 何故だ父上。何でそこで胸の話になるんだ!? 

「はい、胸です。一ミリたりとも増えないのです」

 場を和ますためのジョークかと思ったが、王の表情は至極真面目で冗談を言っている風ではない。『胸が成長』って何かの隠語か……?

「あなたが頑張っているという話はよく届くのです。私もあなたの仕事ぶりは評価に値すると思っています」

 けれど親としての威厳が云々、正直羨ましいなど云々。オレの胸部に突き刺さる父上のジト目が全てを物語っている。どうにも、言葉のままの意味らしい。

 …………いや、待って。本当に、何で胸の話? 成長しないも何も、元々父上の胸は膨らむものでは――――――って、まさか。『少年王』とか言われてるけど。王だから可能性を端っから除外していたけど。もしかして父上の性別って…………女!?

 否定材料が欲しくて父上を凝視したが、逆効果だった。というか試しに脳内で女物の服を父上の身体と合成してみたが、少女にしか見えなかった。

 図らずもどうでもいいところでとんでもない真実を知ってしまった気がしないでもない。

 オレの性別はモルガン(クソババア)が弄ったからだとばかり思っていたが、父上由来の自然な結果だったりするのか? あれ、なら父上は父上じゃなくて、母上? いやいや、魔女(クソババア)も女だし。でもそうなると親の性別が………………まあ、いいや。オレがアーサー王の息子だからアーサー王も父上でいいだろ。

「どうにかこの膠着した現状を打破したいのです……!」

 いい感じのこと言っているように聞こえるけど、父上が指しているのは豊胸のことだよなコレ。

 オレと父上の年齢にはそれなりに開きがある。だのに背格好や見た目年齢が同じに見えるのは、まずホムンクルスであるオレの成長が早いということが一つ。そしてもう一つの理由が『アーサー王が老いないため』。つまり『王が何故いつまでも若々しいのか』という話になる。

 で、気になったオレは以前、何か知っていそうな宮廷魔術師(マーリン)(シメ)たことがあった。案の定、件のヒトデナシは知っていた。王は肉体がこれ以上成長しないから、老いることもまたないのだ、と。

 原因までは聞き出せなかったが、恐らく父上の胸が育たないのは『不老』のせいだ。だからその…………父上の願望(のぞみ)は多分叶わない。

 しかし、口に出すことは(はばか)られた。というか顔面蒼白な王にそういうことをできるのは、あのロクデナシぐらいなものだろう。

 豊胸が叶うかどうかは別として、オレが協力を約束すると父上は目に見えてホッとした様子だった。

「安心したらお腹が空きましたね」

 台所の騎士を呼びましょう。と王の合図を受け、暫しの間の後に夜食を運んできたのは一人の騎士………………ええい、言葉を濁すのはやめだ! 台所の騎士として現れたのは、何やかんやで交流のある同僚(ガレス)だった。

「え、お前ガレ――――――」

「今は台所の騎士です!」

 唇に指をシーッと当て、『黙っていて』のジェスチャー。ならせめてその顔を隠してこいお前(ガレス)

「ガレス――――――ンンっ、台所の騎士よ、こちらのおかわりをください」

「待って父上隠せてないから待って」

 

 

 

 

 

 夢のような、あるいは悪夢のような時間は瞬く間に過ぎ去った。

 翌日、キリリと厳めしい顔付きで責務を果たしているアーサー王を眺めていると、()()父上は幻覚だったのではないかと思いたくなる。だが、すれ違い様に召集を告げられ、嫌でも現実だと認識させられた。つまり昨晩のアレも現実(ガチ)だということで…………今から頭が痛い。

 王の横でいつも通り、せっせと補佐に勤しむベディヴィエールが恨めしかった。オレも何も知らないままでいられたなら――――父上がありのままの自分をさらけ出してくれたと言えば聞こえはいいが、オレの心中は複雑だった。まあ、オレが何をどう感じていようと、王との約束を違えるなんて論外だ。

 夜、再び父上の私室に赴くと、開口一番『胸のために早速協力してほしい』と言われ、オレは窓から遠くを見つめた。

 …………いや、それよりももっと重要な案件があるのでは? そう思ったが、領主どもの脱税にアグラヴェインが対処しているように、きっと他の問題にもとっくに取り組んでいるのだろう。ならば戦働き以外でオレにできるのは、父上の心労を少しでも軽くすること。

 しかし、

「大きくする、っつってもなぁ…………」

 思いつくことは少ない。というか勝手にデカくなっていった。動きは阻害されるし、鎧の内部で蒸れるし、良いことなんて一つもないんだが…………。魔女(クソババア)の関与を疑ったが当人もアタフタしていたので、これに関してだけは無実な気がする。

 が、オレに心当たりがないとわかると、父上はあからさまに元気がなくなった。いつもピンと立っている一房の髪も萎れている。ざ、罪悪感がすごい――――。

「……いえ、見方を変えましょう。同じ人間に違う部分があるなら、二人の生活環境の差異に原因があるはず」

 一日の過ごし方や普段やっていること、心がけていることを教えるよう王に迫られた。って、さっきまでしょんぼりしていたはずなのに、気持ちの切り替えが早すぎる……!

 訓練所での素振りを始め、一部の女中衆からの逃走(かくれんぼ)まで洗いざらい吐かされた。オレが口を開く度、父上は何故かしきりに頷いている。

「なるほど、女中たちと…………ならばきっとそこでBPを摂取しているのですね」

「び、BP…………?」

「バストパワーの略です」

 何だその謎用語。

 その後も憧れの父上との会話は続いたが、中身はどこを取っても胸、胸、胸………………精神的に参った。まさか胸の話題でこうも気骨を折る日が来ようとは。

 一段落着いた頃、父上に断って部屋の片隅でへたばっていると、何か甘い香りがオレの鼻腔をくすぐった。どこか嗅ぎ覚えのあるような匂いだが…………?

「これは一体――――?」

「疲労には甘いものが一番ですから」

 父上が取り出したのは小さな瓶。中身は花の蜜だと言うが、そんなのを出す余裕が(ウチ)にあったっけ?

宮廷魔術師(マーリン)印の逸品です。安全性は保障されています」

「その………………つまり?」

「マーリンの花から搾り取りました」

「え」

 マーリンの花ってあれだろ? 偶にアイツが歩くとどこでも生えてくる奴だろ? それ、食っても大丈夫なのか? 食える奴なのか?

「以前、書類仕事で疲労困憊気味だったアグラヴェインに一服盛りましたが、何も起こらなかったので無害です」

 おっかなびっくり瓶をつついていた指が止まった。既に鉄面皮(アグラヴェイン)が実験台になっていたようだ。

 花の蜜に害はなく、仄かな甘さが美味で、難点はマーリンがしおしおに萎びるくらいだとか。

 ――――よし、実質難点ゼロだな。もっと搾り取ってこようぜ父上!!

 

 

 ◆

 

 

 

 モードレッドはその日、ガレスとのピクニック――――という名の冒険活劇に行っていた。

 ガレス、それは円卓の騎士が一人の名である。よく笑い、蛮族の話題で暗くなりがちな円卓を明るく盛り上げるムードメイカー。マッシュするだけではない料理技能を持ち、厨房というもう一つの戦場に立てる猛者。あの色ボケ……失礼、ランスロットに懐いていることだけは理解できないが。

 ここだけの話、ガレスの母親も魔女モルガンである。つまりモードレッドとガレスは、隠れ姉妹だったのだ。

 ガレスはこの血縁のことをまだ知らないようだが、『マーリン蜜の会』の縁もあって、モードレッドとはちょくちょく四方山話をする仲になっていた。

 なお、マーリン蜜の会の正式名称は『マーリンから蜜を搾り取って美味しい思いをしつつバストアップを目指す会』。命名は、第四回目の会合の際に三徹目に突入していた我が王である。王の虚ろな顔とあんまりな正式名称に、モードレッドは自室でしとどに泣いた。一体誰が、いや何が父上をここまで追い詰めたのか。

 ――――このままではマズい。どうにかして突破口を見つけねばならない。

 そんなような内容を、ふと城内で出会ったガレスにいつもの無駄話のつもりでつらつらと話した。同時に、父上を元気付けたいとも言った。

 するとガレスは「なら探しに行きましょう!」と思考時間コンマゼロ秒で提案した。モードレッドもその後の予定が空いていたので深く考えずに頷き、突発的ピクニックが実施されることと相成った。

 軽食を携え、キャメロット近隣の山林の散策に入った二人。気分転換の軽い散歩のつもりだったのに、平和なはずの王城のご近所にて、何故か出くわす野生の騎士やら野良の幻想種ども。

 まさかこんなことになるとは夢にも思わず、二人揃ってロクな武装をしてこなかったので、とんだ冒険譚となったわけだ。

 まあ出会い頭にぶん殴りアーサー王の偉大さを説いたお陰か、今回遭遇した在野の騎士たちは『アーサー王に仕えたい』と言い出したので、得るものはあった。……目的のものとは甚だ違ったが。

 「今日は楽しかったー!」などと脳天気に笑うガレスと別れたその帰り道、

「何だコイツ…………? 」

 モードレッドが見慣れぬ装束の行き倒れを見つけたのは偶然だった。

 まずは服。緻密な紋様は見たことのないデザインで、上等な設えだということはすぐにわかった。そんじょそこらの貴族(ボンクラ)程度では手は出せまい、そういった美術品に近しい衣類である。

 女自身の顔の彫りは浅く、思い当たる民族はいない。どこの国の出身か不明だった。

 腰には細身の剣が複数並んでいる。こんなにジャラジャラと武器を持ち歩くなど、伊達や酔狂か、あるいは本物か。

 目下、城下に現れた不審者である。行き倒れに見せかけた刺客という可能性もありえる。場合によっては即刻斬り捨てるため、警戒しながらモードレッドは声掛けすることにした。あくまでも慎重に、揺すり起こす。女はしばし、無反応だったが、

「お、お腹空いた…………」

 腹の虫が一等大きな声で鳴いた。

「おうどん食べたい…………」

 それだけ呟いて、あとはうんともすんとも喋らない。いや、腹の音は誰より雄弁であったのだが。

 モードレッドは出鼻を挫かれ――――もとい、呆気に取られた。これで油断させておいてグサリ、ということもあるかもしれないが、それにしては間抜けが過ぎる。空腹は嘘ではあるまい。

 とりあえず連れ帰り、様子を見ることにした。目的地は王城内の自室でも、城近くにあるモルガンがこっそり見繕っていた屋敷でもなく、モードレッドが個人的に用意しておいた城下町の拠点だ。

 近頃、姫騎士の噂が城の外でまで広まっているので、休憩所を自分で用意しなくては心休まる空間がない。握手やら話を求められ、ロクな休暇にならないため、苦肉の策だった。むしろこちらの方が街で過ごす時間より長いまである。プライベートが欲しいモードレッドだった。

 コソコソと戸をくぐり、異国の女を寝台に寝かせてやる。女はぐーすかと鼾をかきながら、ギュルギュルと腹をけたたましく鳴らしている。

 かなりうるさい。外の通りにも響き渡っていそうだ。静かに目立たないための隠れ家なのに、こうも騒がしくされては非常に困る。となるとやはり、腹の主張を収めてやらねばなるまい。

 戸棚に常備していた乾物を用い、適当な軽食を拵える。腹を刺激するいい匂いが立ち込め始めると、何かが動く気配がした。

「ここは――――?」

「起きたか」

 女は目覚めるなり、モードレッドをまじまじと見つめた。

「おや、キミは確か………………いえ失礼、私の勘違い、他人の空似でした」

 一瞬、姫騎士絡みかと身構えたが、どうも違うようだ。

「助けていただきありがとうございます」

 今の間は何だったのか。訊こうにも、その女の雰囲気が追及を拒んでいた。まあ、重要なことでもないだろう。

「ほらよ、腹減ってるんだろ」

 女の目の前に差し出した皿ははあっという間に空になった。食べるの速すぎだろうと思ったが、行き倒れならこんなものか。

 さて食後には楽しい尋問…………ではなく、質問コーナーが待っている。

 モードレッドの問い掛けに、女は素直に口を開いた。曰わく、旅をしていたらうっかり行き倒れてしまったらしい。手持ちの武器は護身用。幾つか質問を重ねたが、女はブリテンの内情に疎かった。蛮族でも刺客でもなさそうだ。よって、拘束する必要はない。

「色々聞いちまって悪いな」

「いえいえ。あなた、王様を守る騎士なんでしょう? ならば、見慣れぬ異邦人を警戒して当然」

「そう言ってもらえると助かる」

「さて、それじゃ」

 ――――食後の運動といきますか。

 キンと響いた金属音に、意識が戦場へと引き戻される。音の出所は、女が佩いた剣とは異なる刃の反った武器。あれはタルワールの類だろうか。蛮族の中にもああいった得物の使い手はいる。だが、ああも刃が薄く、刃紋の美しいものはいないだろう。握りの造りも凝っている。着衣の件と合わせて、やはりただ者ではなさそうだ。

 刃を僅かに露出させるあの動作は……誘っているのだろうか。アーサー王の円卓の騎士は強い。普通の騎士とは隔絶している。それを彼女は理解しているのか。

「おい…………本気か? オレは強いぞ」

「でしょうね。だって私が誘ったらすぐにビリビリするような殺気を叩きつけてきたのだもの。今まで会った武芸者の中でも間違いなく指折りの強者よ」

 ()()()()()()()()()()()()()()

「なるほど、な」

 モードレッドは合点がいった。この女は戦闘中毒者(バトルジャンキー)というわけだ。本当の旅の理由もまさか――――。

「いや、これに関しては体質というか仏様の采配というか、私の意思が介在するところではないのですが。まあ、それはそれとして」

 ――――やるでしょう?

 モードレッドは首肯した。強くなればそれだけ王のために働ける。強敵との戦闘は忌避するものではない。

 ただ、街中で暴れるわけにはいかないので、城壁の外まで移動した。街道からも離れた何もない平原だ、ここなら思いっきりやれるだろう。

「やあやあ、それではお立ち会い。これなるは二天一流、根無し草の風来坊。相対するは怪力無双の親切騎士。いざ、いざ! 尋常に勝負――――ッ!!」

 変わった口上に気を取られ――――瞬間、二つの鋭利な閃きがモードレッドの喉元に迫っていた。

「ッ!?」

 即座に剣で打ち払う。女は二刀流の使い手だった。単純な力ではモードレッドに部がある、が、如何せん相手の手数が多い。

 それにしても、華奢だがしなやかな刀身はなかなか刃こぼれしない業物だ。しかも、扱いきれぬか力任せに粗雑に振るうが関の山の二刀流で、ここまで繊細な剣技を身につけるとは。

 騎士との打ち合いでは味わえない、新鮮な驚きに満ちた試合(死合い)に思わず笑みが零れる。何のしがらみもない勝負がここまで気持ちの良いものとは。

 打ち合うこと数十合。不意に女が武器を鞘に仕舞った。周囲に漂う清澄な気配――――ゆらり、と女の背後が揺れた。

「仁王倶利伽羅!」

「んなっ!?」

 出現したのは巨大な何かだった。四本の腕を持つ男の虚像が剣を振るう。幻覚か、はたまた虚仮威しか。――――いや、違う。間違いなく、彼女は真剣だ。戦いに無意味なことはしない。幻なんかじゃない。これは、()()()

「往くぞ! 剣轟抜刀!」

「――――――」

 モードレッドは無我夢中で剣を振るった。ようやく息を吐き周りに目をやると、大地が抉れていた。

 ――――何だ、今のは? いや、アーサー王を筆頭に騎士の中にはポンポン光の柱をぶっ放す奴もいるが、これは別物。撃ったのではなく、()()()のだ。

 ――――面白い。

「お見事。今のを回避しますか」

 そもそも、あの大男は一体何だ。四本の腕で切りかかって来た後に消えたあれは。生き物ではあるまい。となると異教の神の類か。

 あとの問題はどのようにして行ったかということ。女が武器を納めた刹那、何かを念じ、召喚していた――――?

「ぶつかる一瞬、僅かに軌道を反らし、攻撃を避けること五度。言うは易し、行うは難し」

 神に祈ればいけるのか――――いや、戦場にあって、モードレッドが崇めるのは神ではなく王だ。敬虔なる神の信徒に信仰心では遠く及ばない。されど、王の忠実なる騎士として、忠誠心では負けるわけにはいかない。

「我が剣技を偉大なる父上に捧ぐ――――」

 敗北とはすなわち王に対する不義だ。それが野良の死合いであろうとも。

 流浪の武芸者が斬るのであれば、円卓の騎士(モードレッド)もまた斬らねばならない。

 ――――これは詭弁だ。そんなの、わかりきっている。円卓の騎士として世界を知れば知るほど、思い知らされる。モードレッドには足りないものが多すぎる。個の武勇でも、将としての采配もモードレッドはまだまだ未熟だ。ガウェインやランスロットが相手でも、恐らく実際の殺し合いであればモードレッドの勝率は三割ほどだろう。…………ランスロットはどうもモードレッドとの模擬戦では甘さが出るようだが。

 しかし、しかしだ。常勝無敗、騎士の中の騎士、理想の権化たるアーサー王の騎士であるならば。例え気概の上であっても劣るわけにはいかぬのだ。

「王の路を邪魔する不届きもの、その悉くを――――」

 ――――斬る。

「雄雄雄ォォォオオオオッ!!!」

 剣の間合いの外とはいえ、さほど離れていない。魔力を込め、一歩踏み出せば瞬く間に縮む距離だ。

 だが、モードレッドはそうしなかった。大きく振りかぶった剣をそのまま振り下ろした。聖剣でも魔剣でもない、ただ魔女(モルガン)の所持していただけの剣。何の神秘も内包していない武具。当たるはずのない一撃。しかし、斬ると決めた。だから、これは斬れる。

 モードレッドの背後に影が差した。いや、それは影ではない。幻の、しかし実体を持った大剣を翳す二本の腕だった。

「って、嘘ぉ!?」

 女は素っ頓狂な声を上げ、目を見開いた。が、すぐに気を持ち直す。戦場において、呆けている暇などない。女とは違えど、目の前の騎士もまた何がしかの境地に手をかけたであろうことは想像に難くない。

 全力で全力に応えてくれた。ならば、こちらは更に死力を尽くして返礼するのが筋。それが強者に対する礼儀に他ならないのだから。

「何の…………これしきィ――――!!」

 女武芸者もまたモードレッド渾身の一撃をいなしてみせた。本家本元の矜持がある。

 互いに大技を打ち合い、決着は付かず。勝負はまだまだこれから。

「いやはや、旅を始めて長いこと色んな世界を見聞してきたけど、アレを見た直後にここまで再現されたのは貴方が始めてです。腕だけとはいえ、感服致しました、はい。お互いまだまだ余力はある、しかし――――」

 遠くからガシャガシャと慌ただしい音。

「まあ、あれだけ暴れれば物見が気付くだろうな」

 あれだけ派手に斬り合ったのだ。むしろ、気付かなければクビである。アーサー王の配下に節穴はいらない。

 聖剣も魔剣も持たず必殺(ぶっ放し)技がないモードレッドとしては、今身に付けたばかりのあの感覚を完全に己のものにしたいという思いがある。チマチマと雑魚どもの相手をするのは意外と疲れるのだ。

 だが、

「で、どうするの?」

 兵士を斬りますか、とでも言いかねない女に、モードレッドは首を横に振った。

「適当に言いくるめてやるさ。で、色々気付かれない内にトンズラする」

「オッケー。なら私は黙っていた方が良さそうね」

 剣呑な様子の複数の兵士はすぐそこまで来ていた。ちゃんと任務に精を出しているようだ。

「おい! そこの二人! ここで何をして――――」

「あれ…………? ちょっ、ちょっと待て!」

「あ、何だよ急に。騎士様相手でもこれが俺らの仕事だぞ」

「ちげーよ! やっぱりそうだ! この方はただの騎士じゃねぇ、姫騎士様だ!」

「な、何だって!?」

「姫騎士様、だと……!?」

「姫騎士…………というと、()()モードレッド卿か!」

「やっべ、俺今夜寝れないかもしんねぇ……」

 一気に騒々しくなる兵士の一団。比例して苦々しい顔になるモードレッド。せっかく仕事人だなと感心していたのにコレである。

「あらまー…………ものすごい人気っぷりね」

「やめろ、言うな…………」

 相変わらずどんな内容かは把握仕切れないが、いちいち『姫』と付けられるのだ。アーサー王の嫡男なのに。そのせいで、精神的な疲労感が半端ない。あとせめて個人的な時間くらいは静かに過ごさせてほしい。

「大変失礼致しました! モードレッド卿はご公務でしょうか?」

 洗練された動作で敬礼する兵士らは、しかし有名人に会えた興奮のためか顔が上気しており、色々と台無しである。

「いや、ただの私的なトレーニングだ。あー、『知り合い』に手伝ってもらってたんだが…………ついついヒートアップしちまってな」

 知り合いのところで女に視線をやれば、兵士たちは得心したようだった。

「なるほど、そうでありましたか」

「悪いな、余計な仕事を増やして」

「い、いえ! とんでもない!」

「モードレッド卿からお言葉を頂けるなんて…………!」

「僥倖…………圧倒的僥倖ッ…………!」

「余計な仕事どころか、モー様と出会えた幸運でお釣りがきます!」

「そ、そうか」

 聞き間違いだと思いたかったが、兵士らの顔は至って真面目であった。こいつらもか、とモードレッドは嗟嘆(さたん)した。

 握手を求められ、一人一人に応じていると彼らは満足したようだった。

「では我々は戻ります!」

「お、おう。頑張れよ」

 最後に一際野太い歓声を上げながら、兵士集団は城門の方に戻っていった。

 会話の内容が想像と百八十度違った。萎えた気力は早々回復しない。女もそれを察しているのだろう。

「今回はこれでお開き、ね」

 モードレッドは無言で首を縦に降り、激闘の跡が刻まれた草原を発った。

 街に戻り、女に隠れ家のベッドを使っていいと言うと、彼女は喫驚した。

「え、それまでしてもらっていいの!?」

「乗り掛かった船だ。そのぐらいの面倒は見てやるよ」

「やった! すごい! ぃよっ、太っ腹!」

「煽てても何も出ねぇぞ」

 とはいえ、打算込みだ。

 彼女が持っているであろう異国の知識といい、戦闘能力といい、アーサー王の役に立つはず。そんな考えがモードレッドの根底にあった。

 しかし、モードレッドの見込みは外れることになる。

 翌朝、女を勧誘しようと再び拠点を訪れると、ベッドはもぬけの殻だった。戸には鍵が掛かったまま、忽然と消えていたのだ。

 一体どうやって。しばし首を捻っていたが、そういえば、旅の理由として『体質』がどうのと女が言っていたのを思い出した。この消失が件の体質なのだろうか。残念だが、そういう(運命)だったのだろう。別れの挨拶もできなかったのは少し心残りだが。

「ん…………?」

 ベッドを整えていると、枕元に覚えのない紐が落ちているのを発見した。綺麗に編み込まれた飾り紐だ。忘れ物か、置き土産か。

「…………ま、今度あった時に聞けばいいか」

 ベルトに紐を巻き付け、モードレッドは秘密の拠点を後にした。

 

 

 

 

 

「…………おや? こんな夜更けに出会うなんて珍しいですね」

 毎度お馴染みとなった『マーリン蜜の会』の会合に向かう途中、思わぬ声にドキッとしてモードレッドは足を止めた。声の主は円卓の変わり種・トリスタン。いつもの弓の代わりに、小さな竪琴(ハープ)をポロロンと鳴らしている。

「あん? って、トリスタンか。何してんだこんなところで」

「いえ、夜の散歩を少々。そちらは?」

「あー…………まあ、オレも似たようなもんだ。眠れなかったからな」

 秘密の集いについては言えないのでぼかしながら答える。モードレッドが眠れなかったのは満更嘘でもない。アーサー王からのご用命に、約束の時間ギリギリまで睡眠していられるほど肝は据わっていなかった。

「んじゃな。トリスタンもちったぁ真面目に戦えよ」

 一方的に別れの挨拶を告げ、モードレッドは足早にその場を去った。

 もはや『マーリン蜜の会』会場として馴染み深くなってしまった王の私室にて。

「ふふ、それでですね。モードレッドがしていたように私も――――」

「そ、そっかー…………良かったな父上」

 微々たる変化を嬉しそうに報告するアーサー王の話に合わせ、合いの手を入れるモードレッド。身体の成長そのものが止まっているので、その変化も全て勘違いだろうなと思いつつもモードレッドは口に出さない。

 宮廷魔術師であれば胸ぐらいちょちょいと盛れそうなものだが…………恐らくマーリンは『成長しない? 性別バレにくくなるからいいよね』の精神で放置しているのだろう。やはりあの半夢魔はヒトデナシだ。

「じゃじゃーん! 今日の『マーリン蜜の会』特製デザートです!」

「おい馬鹿、声がデケェ!」

 トレイを運ぶ台所の騎士(ガレス)の大音声にモードレッドが苦言を呈している頃、私室の横の柱の陰に隠れ、聞き耳を立てている者がいた。

 トリスタンである。先ほどのモードレッドのどこか急いた様子を訝しみ、スニーキングをやらかしていたのだ。

「む…………詳しい会話内容までは聞き取れませんでしたが、王があのように楽しげなトーンで話されるなんて」

 王も子を持つ一人の親だった、ということですね。

 トリスタンは愉快そうに呟いた。

「しかし『マーリン蜜の会』とは一体…………とはいえそれを本人に訊ねるのも気まずい…………ここは一度ガウェイン卿やランスロット卿に確認を取るべきですね」

 癖で竪琴に触れようとして、すんでのところでトリスタンは思いとどまる。そう、ここはあくまでも内密に退散せねば。

「おっと、危ない危ない…………ここで鳴らしては見つかってしまいます。それにしても『マーリン蜜の会』…………何と蠱惑的でファビュラスな響きでしょう…………ふふっ」

 

 

 ◆

 

 

 円卓の騎士内で馬上槍の模擬戦を行うことになった。まあ要する訓練だ。今回の言い出しっぺはガウェイン、ランスロット、トリスタンの三人らしい。この組み合わせは少し珍しい。ただの偶然かもしれないが、そうでないとしたらどういう縁だ?

 オレは初戦で顰めっ面のアグラヴェインをぶっ飛ばし落馬させ、二回戦でガレスに辛くも勝利し、ガウェイン、ランスロットとの三つ巴の戦いにも何とか白星を上げた。

 次はついに決勝戦。父上が――――騎士王アーサー王が出てくる。アーサー王の試合とあって、取り囲む見物人の数は恐ろしいほど膨れ上がっていた。見学者の見る目を養うために、騎士や兵士の見学を許可したらしいが…………ここまで増えるとは予想していなかった。

 さすがにこうも多いと…………いや、いくら人目があろうと関係ない。日頃の訓練成果を今こそ見せる時。父上に頼りがいのあるところを見せつけるのだ。

 そう、息巻いていたのだが、気掛かりなことがあった。

「どうかしました?」

「あー、鎧の留め金がやられたみたいでな……」

 声を掛けてきたガレスにそう返す。先ほどの試合で穂先が当たってしまったのだろう。鎧の一部分に歪みが生じていた。

「え!? 急いで交換してきますか?」

「何と交換すんだよ。特注品だぞこれ」

 オレは鎧の胸部を小突く。不本意だが、普通の鎧では着られないのだ。「ですよねー」と頬を掻くガレスの提案を一蹴して、オレは馬に跨がった。……まあ、試合ぐらいであれば問題ないだろう。無理やり外そうとしたり、何度も激しくぶつからない限りは。

 観客の興奮が否が応でも緊張感を高めてくる。

「――――始め!」

 審判役のベディヴィエールの声を合図に、オレは馬の腹を蹴る。一撃必倒のつもりで肉迫するが、父上の騎乗スキルの方が巧かった。オレの槍はひらりと回避されてしまう。

 そして父上の槍がオレに迫る。狙いはまっすぐ、一直線に胸元へ――――心臓狙いか。やばい、父上のやる気が違う。

「くそっ!」

 穂先が鎧を掠める。思うようにカウンターをいなせず、オレは毒づいた。手綱を繰り、もう一度。今度は槍の持ち手を狙うも、やはり父上の方が一枚上手だ。思考を読まれ、反撃を叩き込まれる。

 何とか身体を捩り、紙一重で有効打を逃れるがこのままだと――――焦燥感が募る。

 何度繰り出そうとオレの攻撃は避けられ、父上の反撃を食らうというループに陥る。マズい。というか父上の攻撃が胸に集中し過ぎ――――!?

「あッ!?」

 ギャリンと金属が弾ける嫌な音がした。視界の端にあったはずの歪んだ留め金が外れ、いくつかのプレートがすっ飛んでいた。父上の執拗な猛攻に耐えられなかったか。鎧が壊れた以上、次に槍を突きつけられれば、アーサー王の勝利は揺るぎない。

 ――――ここまでか。

 半ばオレは諦めていたが、いつまで経っても追撃は来なかった。父上は何故かオレを凝視し、愕然としたように硬直している。

 何で固まってるんだ? ……いや、理由は後だ、この隙を逃す手はない――――!

 オレはここぞとばかりに魔力を込めて槍を突き出す。ずしりとした衝撃と共に父上の手から槍が弾かれた。間髪入れずに、穂先を父上の顔に横付ける。

 辺り一帯が、静まり返った。

「しょ――――勝者、モードレッド卿!!」

 ベディヴィエールの宣言。万雷の喝采がキャメロット城に響き渡る。

 オレが、勝った、のか…………? 父上に…………?

 決勝が始まってから終始父上に圧されていたので、実感はない。だが、見物していた兵士らの快哉を聞いていると、徐々に込み上げてくるものがあった。

「本当に――――」

 オレが勝ったんだ。

 決着した後も、父上はしばらくの間茫然としていたが、ハッと我に返ると試合会場を見渡した。

「…………モードレッド卿。しばし、ここで待機するように」

 そしてふらりと出ていったかと思うと、一振りの剣を携えてアーサー王は戻ってきた。あの剣…………遠目でしか見たことがないが、確かあれ……王剣クラレントでは? 宝物庫に保管されているはずの。

 何でそれを今ここに――――?

「これを」

 膝を付いたオレの肩に、クラレントが触れる。つまりこれって、もしかしてオレは――――。

 歓喜にうち震えるオレに、父上は小さく耳打ちした。

「これからもより一層精進し続けるのですよ、モードレッド」

 認めてもらえた――――オレはついに報われた!

 

 

 ……あれ、オレ何しに円卓入ったんだっけ? でもまあ、父上に認めてもらえたから別にいいよな!!

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 そのうちアルトリアとモルガンがキャットファイトします(しません)。

 

 アルトリアが聖杯の話を聞き、豊胸のために探させます(させません)。

 

 ちなみに後世では『アーサー王が「自らの勝利を約束する存在だ」と語った』だの『男の円卓の騎士全員を骨抜きにし、自らが後継者となれるように秘密裏に動いていた反逆者』だのと伝わっています(いません)。

 

 




【オチ的な】

元凶「やっべ、配分ミスった」

青王「まけたしのう」

太陽三倍剣「おっと、私のガラティーンが(ry」

ヒトヅマニア「うむ、やはり素晴らしい」

ポロロン「あの王がこのような顔をされるとは…………やはり王も人の子でしたか」

盾(聖杯探索――――えっ、豊胸?)

花の魔術師「」

???「マーリンイイキミ、フォウ!」




【宝具】

『燦然と輝く王剣』
《クラレント》

 よくあるアレ。省略。
 ちなみに、普通にブッパするだけである。
 こちらの宝具でスタンドの剣(二本)からビームを出せたりはしない。


『極大王剣・三煌一尽』
《クラレント・エクステンション》

 クラレントの真名開放に合わせ、武蔵ちゃん印のスタンド(腕単品一組)を召喚。クラレントのごんぶとビームと剣二本の物理攻撃で、三方向から滅多打ちにする技。相手は死ぬ。
 例え正面からのビームを食い止めても、別方向から巨大な剣(×2)で斬りつけられるという。
 この宝具を防ぎたくば、全方位への完全な防御、複数人で連携して対処、そもそも宝具を撃たせない――――などの対策が必要。
 なお、通常時スタンドの剣からビームは出ない。(出せないとは言ってない)

 FGO的な効果は以下のようなイメージ。
『敵単体に超強力な防御力無視攻撃&強化状態を解除+自身のNPをリチャージ〈オーバーチャージで効果アップ〉』

 つまりアルトリア(通常種)×武蔵ちゃん



【スキル】

『勝利約せし叛逆の姫騎士』(初期CT7→CT5)
 味方単体を超強化する代わりに、味方〔男性〕の弱体耐性がダウンしそう(こなみ)。
 具体的には多分以下のような感じ。
『味方単体の攻撃力をアップ(1ターン)&与ダメージアップ状態を付与(3回)&防御力をアップ(1ターン)&被ダメージカット状態を付与(3回)
 +味方全体〔男性〕の防御力をダウン(10%)(1ターン)【デメリット】&弱体耐性をダウン(20%)(3ターン)【デメリット】』
モー×3「姫騎士ィ? 何の話だそりゃ」

『分身剣』(初期CT8→CT6)
『自身に通常攻撃のヒット数が2倍になる状態を付与(1ターン)〈ヒットあたりの威力は大きく落ちるがスキルレベルに応じて威力が上昇〉&スターを大量獲得』
 要するに第五勢+直感。
モー×3「父上に捧げし我が剣技――――受け切れるか?」

『魔力放出(胸)』(初期CT8→CT6)
『自身のBusterカード性能をアップ(3ターン)&スター集中度をアップ(1ターン)&クリティカル威力をアップ(1ターン)』
 マーリンのスキル・英雄作成のHP増加の代わりにスター集中が付いたような奴。なお、使用すると星よりも視線が集中する。
モー×3「っ、テメエ……どこ見てやがる!?」



 なお、兜はない(迫真)。




【キャラクター紹介】

☆モードレッド
 本作の主人公。
 運命の悪戯とか乱数調整とかの末、何故か胸に(物理的に)色々溜め込んじゃった人。魔改造物二次創作の犠牲者ともいう。
 モルガンの手によって作り出されたホムンクルス…………という辺りまでは原作と相違ないが、モルガンの(ミスという名の)やんごとなき事情により秘匿されて育った。そのためモルガンの他の子供たちはモードレッドのことを知らなかったし、円卓側でも把握していなかったのである。
 若干拗らせている感があるが、割と純粋でツッコミ気質。親が少々アレだったが、反面教師で無事たわわに育った。……これ精神的に豊かという意味ですよ?
 メタ的な話だと、冒頭部分のアルトリアに別室まで連れて行かれる場面まで書いた後、長らく放置。そうこうしている間にアポのアニメが始まり、「あの兜可変式かよォ!?」と作者を(おのの)かせた結果、そのまま兜はドナドナされた。兜「解せぬ」
 なお、本人的にはアーサー王の『息子(嫡男)』のつもりなので、『姫』扱いされると機嫌が悪くなる。モルガンが何やかんやとチラホラやらかしていたため、意外にも女子力が高い。
小モーさん「うー……おれアーサーおーのむすこだから、りょーりとかべつにいーだろー……」
母魔女「何言ってんの時代は男も家事をするものよ」
小モーさん「わかった! ちちうえのためにがんばる!」キラキラ 
母魔女(吐血)


☆アルトリア(アーサー王)
 主人公の父親(♀)、兼上司。『stay night』のヒロインであり、製作会社の顔とも呼ばれる存在。
 人々の安寧のため、国王という人ならざる装置になることを良しとした人。しかし、モードレッドの胸を見て、捨てたはずの女の憧れとかプライドとかその辺りが刺激されてしまった。
 本人はアヴァロンの効果で成長が止まってしまっているが、自身のホムンクルスだというモードレッドの胸に一縷の望みを見いだした。もうこの時点で相当ヤバいレベルまで病んでいたと思われる。
 モードレッドと交流が深まってからはやや人間味を取り戻せたらしいが、まだ夢と希望という名の未来(物理)は取り戻せていない。
 頑張れ女性ホルモン、アヴァロンに負けるな。ちょっとだけ、あとほんの先っちょだけでいいから頑張って。


☆モルガン
 主人公の母親。もともとは原作における黒幕的な存在、つまり悪役である。
 しかし、本作においては中二病罹患者だったことにされたりと、ある意味被害者。何やらモードレッドからは蛇蝎のごとく嫌われているが、多分ツンデレのデレが伝わっていないだけである。時代を先取りし過ぎた女。『†理想王を守護(まも)りし漆黒の姉君†』。
 原典の伝説において、アーサー王にちょっかいを出した理由は判然としない。そのため本作でもその辺りの動機は不明である。……が、「ふん、あなたには荷が重いからこの国潰してあげる。膿とか全部絞り出して存分にいたぶってあげるから、その後は好きにしたら?」とか言っていても不思議ではない気がしなくもない。おい誰だこんな業の深いキャラ付けしたのは。
 なお、当初は普通に悪女のつもりで書いていたので、この着地点は作者をも大いに困惑させた。さすがモルガン、略してさすモル!


☆ランスロット
 円卓の騎士の一人。湖の騎士として名高いプレイボーイ。原典であるアーサー王伝説でも大活躍()しているが、その場合だいたいフランス系の話を纏めた物なので、物語の成立から考えると後付けが多いと考えられる。
 本作では何故か若干Mじみた感じに収まった。こちらも想定外である。最終的にモードレッドを取るかギネヴィアを取るかは神のみぞ知る。
 なお、感想欄において未来の義娘からの熱い風評被害が発生していたが、考えてみれば勘違いでも何でもないので残当。


☆ガウェイン
 円卓の騎士の一人。モードレッドの異父兄。アーサー王の聖剣、エクスカリバーの姉妹剣であるガラティーンを所持する。
 円卓が誇るポテトマッシャー。雑な味付けで食べた者のSAN値を直葬してくるナイスガイ。
 彼の自前のガラティーンがモードレッドに反応している節があり、二人の関係を見るにヤバげだが…………原典のアーサー王誕生経緯からして色々とアレなので、当時のブリテンからすれば割と普通だったのかもしれない――――という言い訳を並べてみる。


☆トリスタン
 円卓の騎士の一人。通称、嘆きのトリスタン。出番はあったが比較的影は薄め(当社比)。私は悲しい(ポロロン)。
 彼の心はどちらにせよイゾルデの物なので、モードレッドには靡かなかった。
「それはそれとして眼福ですね」ポロロン


☆ベディヴィエール
 プロットの時点では特に登場予定がなかった人その一。
 アーサー王のお世話係の騎士。本作ではよくアーサー王に引っ付いている。ぶっちゃけいつ頃円卓に座ったのかうろ覚えだったので、とりあえずまだ円卓ではないという設定で書いた。比較的キャラ崩壊という名の蹂躙の被害が少なかった人。


☆アグラヴェイン
 プロットの時点では特に登場予定がなかった人その二。
 円卓の騎士の一人。武力よりは知力に優れた男。優秀な仕事人で実はそんなに悪い人ではないのだが、鉄面皮で言葉少ななために勘違いされがちな可哀想なお方。まあ母親が母親なので是非もないよね!
 モードレッドの素性については、調べている内に「……あれ?」となったが、他にも頭痛案件が山のようにあったため放置した。割と兄妹は多いので、今更一人増えたぐらいじゃ動じない。


☆ガレス
 プロットの時点では特に登場予定がなかった人その三。キャラクターは当然捏造。第二部六章が怖い。…………とか書いていたら中編と後編の間にいきなり実装されやがりましたよこの娘は!! やったぜ!!(ヤケクソ)
 円卓の騎士の一人。ちょくちょく台所にも顔を出しているらしい。
 同性なことも相まって、モードレッドとはいいお友達。一緒にいると何だか他人の気がしない。もしかしてこれって運命かな?
 本作において、二人の関係がFGOと微妙に異なるのは仕様。いいですね?(迫真)
Q:ところで『マーリン蜜の会』に一言お願いします。
A:女子会楽しいです!


☆ガヘリス
 円卓の騎士の一人。しかし、出番はなかった。モードレッドとは異父兄妹の関係にある。だが出番はなかった。許せ。
 FGO第二部六章に全ての望みを託すのだ!


☆ケイ
 円卓の騎士の一人であり、アルトリア(アーサー王)の義兄。しかし、出番は以下略。


☆ギャラハッド
 ランスロットの息子にして、いずれ円卓の呪われし十三番目の席に着く騎士。聖杯探索にも成功しているなど、原典的に考えると超チート。いつ頃円卓に加わったのかうろ覚えだったので、本作では特に語られることがなかった。
 某マシュマロ後輩と関係があったりなかったりするかもしれない無責任ボーイ。


☆ギネヴィア
 アルトリア(アーサー王)の妃。原作における、円卓崩壊要因の一人。いつ頃輿入れされたのかうろ覚えだったので、障らぬ神に祟りなしとばかりに全力でスルーされた。ランスロットがやらかした辺り、多分豊かに実っておられるはず。
 なお、詳しく描写したら描写したで、全部ぶっちゃけたアルトリアに「羨まけしからんぞキサマー」とか言われて乳繰られていそう(こなみ)。キマシタワー。そのため描写されない方が幸せと思われる。


☆マーリン
 キャメロットの宮廷魔術師の職にある半夢魔。魔術が得意ではない凄腕の魔術師。余談だが、FGOにおいては孔明(ウェイバー)と並び称される二大、もといスカ様を加えて三大便利サポーターの一人なので、ピックアップの機会を逃さぬよう注意されたし。諭吉? 知らんな。そんなことは俺の管轄外だ。
 色々と計画を張り巡らしていたが、モードレッドのおかげでその悉くがおかしな方向へと行ってしまった。本人は目が点状態である。
 なお、最後はヤケになり楽しんで見ていた模様。


☆フォウ
 FGOでお馴染みの癒し系モフモフ小動物。而してその正体は、人類にとってデンジャラスなビーストであるとか何とか。フォウ!
 本作中では特に出番がなかったが、「こんなはずでは……」と頭を抱える花の魔術師のおかげで存分に愉悦できた模様。


☆見慣れぬ装束の流浪の剣士
 プロットの段階では影も形もなかった人。なかなか良いおもちをお持ち。いったい宮本某ちゃんなんだ……。
 行き倒れ状態のところをモードレッドに助けられた。モードレッドとの真剣チャンバラはなかなか楽しかった模様。
 書いている内に「多分これ剪定事象だよな……」とか血迷ってしまったのが運の尽き。こうして余計な要素と文量が増加していくのであった……。エタる原因にもなるので、良い子は決して真似しないように!
 




【後書き】
 ということで後書きです。こんな後ろの部分にまで目を通していただきありがとうございます。
 全ての発端は二〇一七年某日、私の誕生日のことでした。浮かれポンチになった私はその場の思いつきと勢いに任せ、語感のままに突っ走ったメモを残します。
 内容は、二千字程度の簡易プロットとそれを書き起こした冒頭部分がおよそ三千字。プラス、オマケ的なナニカ。
 ぶっちゃけ、いつもの突発的な病気なので、このままメモ帳の肥やしとして朽ちていく――――ハズでした。
 二〇一八年某日、まさかのセイバーウォーズ復刻。ばらまかれたアルトリウムに触発されたのか、まさかまさかの執筆再開。
 で、本編を書いてみれば、当初の予定を遥かにオーバー(知ってた)。全然キンクリできてない! 全然ごり押しできてない! 長いんだよゴルァ!!
 そんな感じの、(ある意味)魔改造モーさんのお話でした。そして後編を投稿するまでに三年掛かりました。アホか自分。
 最初はただ胸がデカくなっただけの話の予定だったのに……何故ここまで魔改造されてしまったのか。今でもよくわかりません。だいたいその場のノリとフィーリングで書いてます。
 一応、話が進むにつれて、モーさんからアルトリアへの「父上」呼びの割合が増える……というギミックを仕込んだつもりですが、これまたフィーリングでやっていたので実際にできていたのかどうかは甚だ疑問だったり。
 誤字脱字の修正もできてたりできていなかったりなので、今後暇で気力のある時に取り組みたいと思います(こなみ)。

 前編を投稿した時にはここまで多くの方に目を通して頂けるとは思ってもみませんでした。本当にここまでお付き合いいただき感謝です。
 他の投稿作も完結目指してボチボチ書きたいなと思いつつ。

 ――――まあ、とりあえずマイロストベルトをクラフトするよね!!






【追記】
 メモ帳に初期のアイディア書き的なプロットがそのまま残っているのを発見したので、もったいない精神で載せておきますね。
 本編と見比べると、どれだけ脱線しまくったのかがよくわかるな!()






【プロット】

 モーさん円卓加入。胸のあたりの鎧に違和感を抱かれる。兜を剥がされる。顔バレ。「な、王と同じ顔だと!?」的な動揺。アルトリアも顔色が変わる。円卓メンバーから詰問されているモーさんをアルトリアが連れ出す。
「少し、二人で話したいことがある」

 王の執務室に連れてこられる。人払い済み。観念して正直に生まれを話す。「そうか」俯きながらアルトリア。ガシッと肩を掴まれる。ホムンクルスというところを再三確認される。肯定するとアルトリアはガッツポーズ。呆然としているとアルトリアの呟きが聞こえた。「これで私の勝利は約束された」……何ですと?

 円卓に戻る。案の定円卓メンバーから問い詰められる。モーさんがうろたえているとアルトリアが、「そこの騎士は私の『娘』だ」「なっ――――王よ、それは誠ですか!?」「ああ。だが姫として扱う必要はない。同じ円卓に座す者として扱うように」まだ疑惑の目を向けてくる者もいるがその場は収まる。父上が娘って……認めてくれた? いやでも息子って言ってほしいし……

 モーさんの主な任務は毎週ハイキングしに来る蛮族と戦場でタップダンスすることである。それを幾度か繰り返した後耳に届いたのはアーサー王の姫騎士の噂だった。つまりモーさんのことである。どこからか情報が漏れたらしい。遠巻きに見られてヒソヒソ話され気分が悪い。イライラしているとヒトヅマニア登場。諸々あってぶっ飛ばす。やっちまった。しかし後悔はなかった。とりあえずクビになるだろう。そうしたらモルガンもぶっ飛ばそう。心に決めて神妙な面持ちで王の元へ。

「ランスロット、ギルティ」「何故ですかぁ!?」
 皆モーさんに同情的。とりあえずランスロットはマッシュポテトの刑になった。円卓の騎士以外にも話は伝わる。モーさんは女性を無理やり××しようとした悪しき騎士を撃退した勇ましき姫騎士らしい。特に城に勤務している女性からの人気が鰻登り。どうしてこうなった……?

 ちなみにランスロットからの言い寄りはなくならなかった、何でさ。

 珍しく蛮族とのランデブーが途切れている。晴れ空の下中庭で稽古。ガウェインと遭遇。どこか辛辣なガウェイン。親に甘えるために来たのではないと断言すると感心された様子。「よく見ると…………ふむ」ガウェインはモーさんを獲物に見定めたようだ。「私がお相手しましょう」ちなみに太陽三倍剣は卑怯だった。

 アルトリアの部屋に呼ばれたモーさん。今まで何やかんやでじっくり話す時間が取れてなかった。アルトリアはだいぶやつれているように見えた。指摘するとそこから始まる愚痴の数々。ヤバいこの国早く何とかしないと。決意を新たにするモーさん。しかし直後に飛び出てきたのは胸の話。何でだよ。親としての威厳が云々、正直羨ましいなど云々。成長止まってるとかマーリンの野郎が言ってたし多分無理だろうなとか思いつつ協力することを約束。
「安心したらお腹が空きましたね」アルトリアと部屋で夜食。台所の騎士が運んできてくれた。

 翌日もアルトリアからの呼び出しが。胸のために早速協力してほしいのだとか。しかし思いつくことは少ない。なら何か違うことに原因があるのでは。一日の過ごし方や普段やっていることや心がけていることなどを洗いざらい吐かされる。疲れたころにアルトリア「疲労には甘いものが一番です」そんなのを出す余裕が城にあったっけと思っていると出されたのは花の密。マーリンの花から絞り取ったものらしい。マーリンの花ってあれだろ、奴が歩くとどこからでも生えてくるのだろ。食べて大丈夫なのか?

 その後もアルトリアとの会合(笑)は続いた。微々たる変化でも嬉しそうに報告するアルトリア。勘違いだろうなとか思いつつも話を合わせる。その様子を陰から見ているトリスタン、アルトリアとモーさんのやり取りを見てトリスタンの心証が変わった様子。やったねアルちゃん崩壊原因が減ったよ!

 アルトリアとモーさんが馬上槍の試合をするとモーさんの胸ばかりを狙ったりとか。見物人増えた中でモーさんが勝っちゃって話誤魔化すためにクラレントを渡したりだとか。
「これからもより一層精進し続けるのですよ、モードレッド」

 ……あれ、オレ何しに円卓入ったんだっけ? でもまあ、父上に認めてもらえたから別にいいよな!!

【プロットここまで】







 ………………………………………………。

 ちなみに「『もしドラ』~もし巨乳モードレッドがFGOのカルデアに召喚されたら~」なんて電波を受信しちゃったけれども、続きません。
 いいか、絶対だぞ! 振りじゃないからな!


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