ダンジョンにサーヴァントを連れて潜るのは間違いな気がする (キョウさん)
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レベル4・5のサーヴァント

あくまで自分のイメージですのであしからず
相手を倒す力が高いほど高レベル、というイメージで書いてます
基本的にFGOをそのままダンまちに持ってくるのを意識して書きました
文字数まったく足りないのでオマケ書きました


清姫

Lv.4

力:G253

耐久:H159

器用:E466

俊敏:F328

魔力:D521

《宝具》

【転身火生三昧】

・対象を燃やし尽くす

《スキル》

【変化C】

・小さな竜に変化する

【ストーキングB】

・主神の居場所を確実に探知できる

【焔色の接吻A】

・主神の側にいる時、状態異常を無効化する

・主神の側にいる時、力が1レベル上昇する

・主神がピンチの時、レベルが三段階上昇する

【嘘吐きへの報復】

・嘘を見抜くことができる

・嘘をついた人間が主神の場合、レベルが三段階上昇する

 

マシュ・キリエライト

Lv.4

力:E450

耐久:A826

器用:F308

俊敏:F366

魔力:F352

《宝具》

【いまは遥か理想の城】(ロード・キャメロット)

・城を数分具現化させる

・認識している味方全員の耐久を激上昇させる

・認識している味方全員の力を激上昇させる

《スキル》

【誉れ堅き雪花の壁】

・認識している味方全員の耐久を上昇させる

・認識している味方全員に見えない鎧を付与する

【時に煙る白亜の壁】

・攻撃を完全に防ぐ

・自分は動けなくなる

【奮い断つ決意の盾】

・全ての敵の注目を集める

【守護天使】

・他者を守る時、耐久のレベルを上げる

 

~~~~~~~~

 

清姫・幕間の物語【どこにいても】

 

僕の趣味は鬼ごっこだ。

嘘だ。

開幕早々クソくだらない嘘をつき、なんの発展性も無いまま訂正したことを深く詫びたい。

それほど僕の神経が疲労していることを理解していただけると嬉しい。

今僕が何をしているのか、なぜこんなにも疲れているのか。

それはとあるサーヴァントが僕を探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探してうわああああああ!!!!

 

マシュのことを考えたら落ち着いた。

とにかく某絶対逃がさないガールが朝早くから僕の部屋を襲撃して、その後隠れ鬼ごっこが始まってしまったからだ。

今日はちょっとダンジョンにでも遊びに行こうかと思っていたので暇といえば暇だったし、たまには清姫に付き合ってあげるかなんて考

 

嘘です無理矢理です強制的にです全力回避を試みたのです許してください。

あの子何回逃げても絶対気配を察知するし、完全に撒いたと思ったら後方にいることもある。

ストーキングBは伊達じゃない。本気でやばい。

何故徒歩の清姫が全力疾走している僕に追い付いて来れるのか、これがわからない。

だがまだ策はある。

あそこの板の裏に僕の痕跡をわざと見えるように残した。

清姫があれを見つけて探しに行った一瞬の隙に、清姫が今来た方へ逃げる。

台風の目作戦だ。

 

「……あら。ますたぁ、そこにいたのですね♪」

 

探し人を見つけて楽しそうに笑う清姫。可愛い。

が残念! それは僕では無いんだなぁ!

まだだ、慌てるな……清姫が板を持ち上げ…………今だ!

 

………………ミッションコンプリート。

僕は隣の家の裏に隠れることができた。

清姫がこちらに来ることは無いだろう。

あとは清姫が向こうに歩いて行くのを見送っ

「ま す た ぁ」

 

心臓が跳び跳ねる。

こんな馬鹿な。だって僕が移動してからまだ数秒も

「よくやく捕まえました……うふふ」

 

「くっそー、捕まっちゃったか。じゃあ今度は僕が鬼! 十数えるね!」

 

「はい?」

 

「え? あれ? 鬼ごっこしてたよね? 僕たち」

 

僕の辞書に諦めの二文字は無かった。

最後まで決して諦めなければ奇跡は起こる。

僕はそれを知っているから。

 

「僕家から出るときに言ったよね? 『へいへい鬼さんそちらぁぁぁぁ』って」

 

嘘ではない。捕まったときの為に種は蒔いていたのだ。

そう、僕はこの決死の逃走劇を鬼ごっこだと思うことに成功していたのだ。

勿論捕まったら色んな意味で死ぬ可能性のある超ハード鬼ごっこだが、そこまで違いなんて無い……と思い込んでいた。

 

「……そうだったのですか」

 

当然清姫のセンサーには引っ掛からない。

だが清姫の疑いの目から完全に逃れられた訳ではない。

 

「何故急に鬼ごっこなどと」

 

「清姫がいきなり襲いかかって来たから! 慌てちゃったけど、そうだ! 鬼ごっこにしよう! って唐突に思ったんだ!」

 

慌てて逃げようと思ったのも、口実を鬼ごっこにしようと閃いたのも本当のことだ。

 

「ますたぁは私から逃げていた訳ではないのですね?」

 

「不思議なことを聞くね清姫。鬼ごっこは逃げないと出来ないぞ!」

 

「そうですね」

 

「じゃあ十数えるね!」

 

「いえ……鬼ごっこはもう終わりにしましょう。それよりも私、ますたぁとしたいことがあります」

 

「奇遇だなぁ、僕も清姫としたいことがあるんだ!」

 

「え? なんでしょうか?」

 

「せっかくだしデートしよう! 可愛い女の子とこの街を歩いてみたかったんだ!」

 

「でぇと! はい! 行きます!」

 

目を輝かせる清姫に、僕は自分が救われたことを喜んだ。

勝った……辛く苦しい戦いだったけれど、僕は清姫を制御することに成功したんだ……。

 

「…………でもますたぁ。それなら朝のあの時に言えば良かったのでは? 何故、わざわざ鬼ごっこなどと」

 

「朝はダンジョンにでも行こうかなと考えていたからね!」

 

「そうではなく。私が部屋にお伺いした時、でぇとに誘ってくだされば良かったのではないですか」

 

「そ、その時はまだ……」

 

何も考えてない、とは言えなかった。

それは嘘になる、清姫が部屋に来たとき咄嗟に僕は「やばい逃げよう」と考えていたのだ。

しかも清姫と鬼ごっこしたかったとも言えない。

 

「身体が咄嗟に動き出しちゃったんだよ!」

 

「……ふふ、そうですか。安珍様はやんちゃなのですね」

 

僕は心のなかでガッツポーズを取った。

これでようやく安心して街を歩ける。

清姫は可愛い女の子だから一緒に遊んでいる分には楽しい時間を過ごせる。

清姫のこれはたまに起こる発作のようなもの、今日を過ぎればまたしばらくは問題なくなる。

(※カルデアではマスターの部屋を守護している人がいたのだが、マスターはその事を知らない)

ということで今日を楽しもうキャッホーイ!

 

清姫に手を握られ、僕も握り返した。

ふふ、デートっぽくなってき

「つ か ま え た」

ふぁ?

 

「……ふふ、うふふ……ますたぁは清姫を愛してくれていますか?」

 

「大好きです!!!」

 

「私も愛しております、安珍様」

 

力がつよーい! すごーい! どんどん人のいない方につれてかれてるー!

 

「もう離しませんよ……?」

 

 

 

などとちょっと脅されたものの。

少し歩いた所で辺りに何もなくて、どうすれば良いのか分からなくなった清姫は涙目で僕を見上げてくる。

その辺の廃屋に連れ込んで一発、なんて考えが無いところが清姫らしいといえばらしいし、仮に僕がここで清姫に迫っても拒絶されるだけだろう。

実の所清姫は追いかける恋愛しか知らず、いざ恋の中身に触れると照れてしまってダメになってしまうのだ。

だからこそ僕は清姫の望むまま、清姫に楽しんでもらえるように僕の出来る全てを使って清姫から逃げ、時に騙す。

それが清姫の幸せなら、僕はそれでいいのだ。

勿論逃げることに全力を出すから疲れるし、追ってくる清姫はホラー映画そのものなのでかなり怖いが、それでも。

 

「ますたぁ、このお菓子がとても美味しいですよ!」

 

僕に屈託無い笑顔を向けてくる清姫を見る為なら、なんだってしてやれるのだ。




清姫は14歳なんですよ


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レベル6のサーヴァント NEW

そろそろ更新しようかと思ったので書きました
相変わらず文字数足りないのでオマケ書きましたけど短いです


アーラシュ

Lv.6

力:B751

耐久:B776

器用:C623

俊敏:D588

魔力:G231

《宝具》

【流星一条】

・矢を放つ

《スキル》

【頑健EX】

・自身の耐久力以下の攻撃への耐性を得る

【千里眼A】

・戦闘中、味方の位置を常に把握できる

・戦闘中、敵の位置を常に把握できる

・戦闘中、敵の弱点を見抜くことができる

【弓矢作成A】

・魔力を用い瞬時に弓矢を作成する

 

エミヤ

Lv.6

力:F311

耐久:E485

器用:A832

俊敏:D591

魔力:S974

《宝具》

【無限の剣製】

・■■■■■??■

《スキル》

【心眼(真)B】

・目で見ず相手の動きが分かる

【鷹の瞳B+】

・遠距離まで見通せる

【投影魔術A】

・■!!■?■

 

エミヤ

Lv.6

力:E435

耐久:E486

器用:S995

俊敏:S910

魔力:F311

《宝具》

【時のある間に薔薇を摘め】

・銃弾を放つ

《スキル》

【魔術B】

・魔術をあ■■?

【聖杯の寵愛A+】

・周りの運気を吸い取る

【スケープゴートC】

・誰かを自分と誤認させる

 

 

~~~~~~~~

 

 

エミヤ・幕間【正義の代償】

 

「まったく治安の悪い」

 

逃げていく男たちの情けない姿を見送り、男たちに絡まれていた女性へと顔を向ける。

しかしそこには誰もいない。

僕はこっそり逃げていく女性を見ていたから知っていたけど。

 

「礼のひとつも無いとは。淑女にあるまじきだな」

 

「気にすることはないエミヤくん。イケメンで強くて背が高くてイケメンクソ野郎でも人も女の子に逃げられることはあるさ」

 

「マスター、時々思うんだが妙に私にたいして辛辣ではないか? 特に女性が絡んだときだ」

 

「シャイン☆」

 

「何故だ!」

 

本気でそう思ってる訳じゃないんだ。

ないんだけどね……女性職員をナチュラルに口説き落としていく天然ジゴロ具合いに苛立ったこともあったものだ。

 

「いやね。マシュにまで魔の手が延びそうになった時はスタイリュッシュ令呪自害も辞さない覚悟でしたわよ」

 

「さりげなく身の危機を回避できていたわけだな……というよりも。マスター、何度も言うが私にそのつもりはない。マスターの言うように私が無自覚に女性を口説き落としていたとしても、私には他意がない。だから当たられても困る」

 

「クッソなんだこいつ令呪で裸にひんむいて女の子になってから街中馬乗りで歩かせようかな」

 

「待て! そもそもマスターだってナチュラルに女性サーヴァント……どころか男性サーヴァントも口説き落としているだろうが! 自身のことを棚にあげる行為はどうかと思うがね!」

 

「んなことするかい! ちょっと襲われることはあるけどアレは向こうが過激なんだい!」

 

醜い言い争いがしばし続き、やがてお互いに馬鹿らしくなって口をつぐむ。

 

「……僕はエミヤのこと好きだよ。好きだから……だからムカつくんだ。エミヤの態度が」

 

「私の態度? 何か不満な点があるなら直す努力をするが」

 

「エミヤは自分のことを省みなさすぎる。多分自分のことを道具か何かだと思ってるんじゃないかな。僕を信用するとか何とか言ってる癖に僕の指示をたまに無視して大怪我を負って、判断ミスでしたーってそんな話通じるわけないよね。エミヤの意思を尊重してあえて言わなかったけど僕は本当に本当に心の底から不満だったし、どうせ言っても無駄なこともよくわか」

 

「待て! 頼むから待ってくれ! そんな負の感情を真正面からぶつけられても対処に困る!」

 

僕はむーと膨れる。

この際ぶっちゃけてしまおうと思ったのに、エミヤは思った以上に動揺していた。

いやまぁ今までそんな素振り見せてこなかったけどもさ。

 

「……マスター……いや……私はこう生きる以外の術を知らないんだ……」

 

「分かってるよ。だから言わなかったんじゃない。そういうところも含めてエミヤのことは好きだけど、僕は不満だって話だよ」

 

「……すまない。指示は確かに、聞いていたのに無視をしたこともあった。私よりも他のサーヴァントを生き残らせるべきだ、と思ってな」

 

「知ってる」

 

「………………」

 

「はーイケメン滅びろ」

 

「マスター、私は」

 

エミヤの口を右手で掴む。

アヒル口のようになってイケメンを台無しに…………おいこいつイケメン過ぎて台無しにならないぞ。

いやそれはもういい。

 

「良いかエミヤ。僕はエミヤの生き方を尊敬も軽蔑もしてる。だから僕に弁明なんてするな、そんな必要は無い。自分を誇れ」

 

答えは聞かずに僕は背を向けて歩き出す。

くっそ恥ずかしい、本心を明かすのはいつまでも慣れないなぁ。

 

「あ、あの!」

 

背後で女性の声が聞こえてきた。

僕は後ろを振り返る。

 

「先ほどはありがとうございました! あの、よければお礼をしたいのですが、どこかでお食事でも」

 

「ま、待ってください! 私も前に助けられてお礼を言いそびれて」

 

「私もお礼をしようと!」

 

エミヤが数人の女性に囲まれていた。

なんかあいつ滅茶苦茶困ってるけど助ける気分ではまったく無いので、そのまま女性の波に飲まれて溺死しろ。

 

「マスター! すまないが助け」

 

「イケメンは滅びろ!!! それも正義の代償だー!!!」

 

僕も正義の味方を目指そうかなぁ!




イケメン揃いの英雄達ですが、無自覚にいい男で無意識に女性からモテる
それが真のイケメンだと思っています


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0話―前夜―

僕たちの全てを賭した戦いの終止符。

その時、僕は紛れもなく生きていた。

マシュが、ヘラクレスが、孔明先生が……皆が。

僕を見て歓声をあげた。

 

そこにいてほしかった人がいない。

共に生を喜び、これから来る未来に夢を見たかった人がいない。

 

でも僕は後ろを見ない。

いつだってどんな時代だって僕は前だけを見て歩いて来たんだ。

悲しくても辛くても……僕はそこには留まらない。

どんなときだって前進してやるんだ。

 

そしてまずはマシュに抱きついた。

涙を流して、皆に見守られながら、恥ずかしかったけど。

僕は子供のように泣いた。

 

~~~~~~~~

 

あれから数日後……先ほどようやく外の世界との連絡がつき、ようやく人心地ついたのだが、今日は休もうと思っていた時に清姫に捕まってしまった。

僕の手を握るなりそのまま僕の部屋に連行され、そして清姫は口を開く。

 

「ますたぁ!」

 

「はい」

 

「なぜあの時まず真っ先に私の元へ来てくれなかったのですか! 清姫は、清姫は胸が締め付けられる思いでした……!」

 

清姫が顔を真っ赤にさせながら、僕の胸をポカポカと叩いてくる。

君が怖いからだよなんて口が裂けても言えないので、「一番初めに目に入った人につい」と嘘のない範囲で無難なことを言った。

マシュに泣きついたのは自分でも予想外のことで、マシュの笑顔を見て思わず……というのが真相なのだが、それを話してしまうとそれはそれで怒られそうだ。

清姫は先ほどのマシュとのあれを再演を求め、俺はもう涙も枯れたというのに清姫を抱きしめる。

 

「さぁ! 泣いてくださいますたぁ!」

 

「えーんえーん、助かってよかったよぉ」

 

「あぁ安珍様……怖かったのですね……」

 

僕の背中を擦る清姫に言いたい。

君は、本当にそれでいいのかい……?

 

満足そうにしているので何も言わないが、それよりも気になることがあった。

僕の背中に刺さる無数の視線だ。

清姫は気付いてないのか気にしてないのか分からないが、とにかく今後ろくなことにならないのは確定している。

今日くらいはゆっくりしたいと思っていたのに……。

最近は忙しくて他の子も遠慮していたみたいなのだが、清姫の接触で皆今が好機だと思っているようだ。

 

「……皆見てるよ?」

 

「見せつけているのです」

 

そんな僕たちを見て耐えきれなくなったのが、数人が部屋に乱入してきた。

 

「トナカイさん! 辛いのなら私が慰めてあげますよ!」

 

とジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ……以下ジャンタが僕の腕に抱きついた。

 

「マスター……私の胸でよければ……お貸しします」

 

と静謐のハサンが僕の手を握って胸の方に持っていった。

 

「お母さん! 解体するよ!」

 

一人物騒なことを言っているがつまり遊んでほしいみたいだ。

仕方なく清姫の腕を外そうと……はず………………外れない……!

 

「ますたぁ、今日だけは清姫だけのますたぁでいてください……」

 

潤んだ瞳で見上げてくるのはずるいと思います。

こんな顔で懇願されたら許可するしか無いじゃない!

なんてことをすればこれから毎日サーヴァントの子達の面倒を見なければいけなくなってしまう、それは色んな意味で勘弁だ。

 

「ふふ、変な清姫。僕は清姫のマスターだよ?」

 

「誤魔化そうとしてもダメです! 今日だけは! 一人占めすると決めていますから!」

 

チッ、昔の清姫ならこれでも騙されてくれていたのに。

清姫が意地でも離そうとしないのを見て、ジャンタとジャックは更に暴れ始めた。

 

「ずるいですずるいです! 私もトナカイさんと遊びたいです!」

 

「お母さんを一人占めしちゃダメなんだよ?」

 

便乗するようにフェルグス、クーフーリンまで入ってくる。

ついでにアサシンのエミヤがそっと俺の側による。

 

「よう坊主! 落ち込んでやしないかと思ったが、楽しそうだな!」

 

「どうだ、酒でも一杯」

 

そして他のサーヴァントまで乱入してきて、場が混沌としてきた。

所謂すし詰め状態だ、もうだめだ収拾がつかなくなる……。

僕は近くで僕を守ろうとしてくれた殺エミヤに全てを任せて逃げ出した。

 

「エミヤごめん、スキル3を自分にかけておいて」

 

「わかっ……なに!?」

 

「あーっ! マスターが逃げようとしてますぅ☆」

 

スキル3が発動した瞬間に僕は殺エミヤを指差して声をあげる。

そして僕は外に出た。

 

「うぐおおお!?」

 

瞬殺される殺エミヤ。

 

「これは……マスターじゃねぇぞこいつ!?」

 

「お母さん! 逃げちゃダメだよ!」

 

あっという間に気付かれて、追いかけてくる声。

僕は心のなかで謝罪をしながら、隠れられそうな場所を目指してとにかく走った。

 

「マスター、どうかし……うぐおおお!?」

 

エミヤが死んだ。

 

「おい雑種! 貴様我を無視して……な、何をするうがあああ!?」

 

ギルガメッシュも死んだ。

 

「マスターじゃん! 何して……ええええありえないしーー!!」

 

鈴鹿も飲み込まれた。

道中大切な仲間たちがやられていくなか、そして僕を追うサーヴァントが増えていくなかを僕はひた走った。

今捕まったら酷いことされる。

絶対に捕まる訳には……。

 

ぽにょん、と。柔らかなものに当たった。

 

「わっぷ」

 

「あら、まあ」

 

キ、アラ…………終わった……一番捕まるとやばいのに当たってしまった……。

 

「うふふ……怖がらないでください。私が守ってさしあげますから」

 

「どさくさに紛れて変なところ触ろうとしないで?」

 

「うふ、うふふふふ」

 

「くっ……この言葉を叫ばなければならないとは……」

 

僕は全てを諦めて、最期の言葉を口にした。

 

「や~~ら~~れ~~た~~!」

 

そしてここで僕の意識は暗闇に落ちていったのだった。




台本形式廃止してみました
読みにくくなっていましたら感想の方で指摘してください


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1話―迷宮都市―

眩しい……目を閉じているのに隙間から射し込んでくる強烈な光に、僕の意識は覚醒した。

あれからどうなったのだろう。

遠くなる意識のなか皆が騒いでる音は聞こえたけれど……と僕は目を開けた。

 

「…………ここ、どこ?」

 

見覚えのない建物の前、僕は長椅子の上で寝転がっているらしい。

これは夢だろうか……雰囲気はキャメロットに似ている気もするけど、それとも違う気がする。

でも何て言うか……良い陽射しだ……。周りの人が僕を奇異の目で見てくるがそれも気にならないくらいに気持ちが良い……。

 

ああ、良い天気だな………………。

 

……………………なんて、こんなことを考えてボーッとしていれば、いつもならマシュかダヴィンチちゃんにツッコミを入れてもらえるのだけど、今日に限ってはそれがなかった。

起きてからもう一時間くらいここでこうしているのに誰からの声もかからない。

どうなってるんだ……暖かくて気持ちいいや……。

 

「……ちょっと良いか」

 

「はい」

 

ようやく声がかかった僕は、ゆっくりとそちらに視線をやった。

黒い服を着た気の良さそうな男の人が、困惑した表情をしていた。

 

「こんなところで何をしているんだ?」

 

「何をしているように見えますか?」

 

「え? ……日向ぼっこ?」

 

「残念ハズレです」

 

「ええっ」

 

やれやれ、と僕は首を竦める。

とりあえずこの人が悪い人では無いことは分かった。

 

「正解が聞きたいんですか?」

 

「まあ、気になるからな」

 

僕は残念そうにため息をつき、ゆっくりと息を吸う。

 

「正解は……仲間がどこにも居なくて二進も三進も行かなくなったからどうにか前に進みたいんだけどここが暖かくてそのうち仲間が来てくれるかなぁと願って日向ぼっこしてました」

 

「日向ぼっこじゃねーか!?」

 

「日向ぼっこしてます」

 

「最初からそう言えよ!」

 

くすくすと笑う僕を見て苦虫を噛み潰したような表情で頭をガシガシと掻いている。

最近マウント取られる人生しか歩んでいなかったのでちょっと楽しい。

 

「てかあんた、どこのファミリアに所属してんのか?」

 

急に聞き覚えのない単語が出てきて、僕は首を傾げた。

ファミリアに所属……ファミリアってなんだろう?

……ギャング? ○○ファミリーみたいなそういう話?

 

「いえ、そういうのやってないんで」

 

「はい?」

 

「僕は健全に太陽の下を歩ける……かどうかは分からないけど悪いことはしないんで。ほんとそういう勧誘は断固お断りしております」

 

「……いや、ギャングのお誘いに来たわけでもねーよ! なんなんだこいつ!」

 

「ほんと僕ってなんなんでしょうね……いつも皆に助けられて皆僕を慕ってくれてるけど僕なんてちょっと令呪あるだけの馬の骨…………ああ、太陽が暖か――ー」

 

「寝るな! 寝るんじゃねぇ!」

 

「寝たら死ぬんですか?」

 

「死なないけど危ないだろこんなところで寝てたら! 物盗まれたり最悪拉致されるなんてこともあんだから!」

 

治安はあまり良くないのだろうか?

とは言え日本であろうと野宿していればそういう危険がある以上、僕らホームレスには本当に安心して生きていける場所なんて無いのかもしれない。

 

「そうでしたか。僕は藤丸 立夏と言います。よろしくお願いします」

 

「今!? 今自己紹介するのか!? 話の流れってもん掴めなさすぎるだろ!」

 

「いやぁ、悪い人には見えなかったので」

 

「お前ひょっとしてあれだな? コミュ障だろ? まともに他人と話したこと無いだろ?」

 

「君の名は?」

 

「自分勝手に過ぎる! ……はぁ、もういい……俺はヴェルフ、一応鍛冶師だ。まだレベル1だけどな」

 

鍛冶師……レベル? この人はサーヴァントなのだろうか?

とてもそうには見えないけど、でもサーヴァントのなかにはそうは見えない人も多い。ジキルとかパッと見ただのもやし眼鏡だし。

あとレベルが低いことを気にしているみたいだな、そんなの気にしなくて良いのに。

 

「大丈夫大丈夫、種火食べればレベルなんてすぐ上がるよ」

 

「た、種火? なんだそれ?」

 

どうやらレベルを上げるための種火を知らないようだ。

それならレベル1にも頷ける。

僕は種火について説明してあげることにした。

 

「苦くて固くて食べづらい上にいっぱい食べさせられ、しかもクセにもならない最悪な食べ物です」

 

「食べんなよんなもん!」

 

皆我慢して食べてます。

なんでも食べれると豪語しているサーヴァントもこれだけは嫌だって叫ぶけど、僕が無理やり食べさせています。

キングハサンが食べながら嫌そうな顔をしているのを見るのが楽しかったです。

 

「どんな食べ物なんだ……」

 

「人間が食べると爆発して最低一週間は寝込みます」

 

「食べ物ですらねぇ!?」

 

「辛かったです」

 

「食べたのか!? 食べたんだな!?」

 

「…………ああ、暖かい……」

 

「自由気まま! 寝るんじゃねぇ! ったく、お前の仲間の苦労がよくわかるぜ!」

 

なん、だと……?

僕の仲間の苦労がわかる……?

それは流石に聞き捨てならない。

 

「君は、なにもわかってない」

 

「え?」

 

「僕は、仲間内では、常識人枠…………ああ、暖かい…………」

 

「……お前……現実逃避してるだけだったんだな……なんか、悪い……」

 

「良いんだ、ごめん、ありがとう。……ありがとう……陽射しが眩しくて涙が出てきた……」

 

別に本気で悲しかった訳でもないのに、涙が出てきた。

おかしいなぁ……おかしいなぁ……ぐすっ。

 

「と、とにかく。まぁ問題無さそうなら良いんだけどよ、仲間だってお前のこと心配してるだろうし程ほどにして帰れよ?」

 

帰る……そうだ、帰らないといけないんだ。

だけどそもそもここどこなんだ?

僕、いつの間にレイシフトしたんだろう?

僕が寝ている間だろうから、キアラが?

ダメだ、僕だけで考えていても仕方ない。

とにかくこのヴェルフと名乗る人から情報収集をしてみよう。

孔明先生がいたら「もっと先にやっとけこのバカ!」とか言われるんだろうなぁ。

 

「帰る場所が分からない……というか、ここはどこですか?」

 

「どこって、ここは迷宮都市オラリオ……おい、そんなことも知らないでこんなところにいるのか?」

 

「というか気がついたらここに寝てました」

 

迷宮都市オラリアなんて聞いたことも無い。

現地人がそう呼んでる……とか? いつの時代なんだ。

 

「なんだそりゃ……仕方ねぇ、俺が案内してやる」

 

「わーいありがとうございます助かります」

 

起き上がってヴェルフに着いていく。

ヴェルフはため息をつき、仕方ねぇな……と苦笑いを浮かべた。

 

「ん?」

 

「どうした?」

 

「いや……」

 

後ろに二人の気配を感じた。

そちらを見ても誰もいない、が誰かは分かる。

ありがとう、二人とも。

 

~~~~~~

 

「でここが酒場。なんとなく分かったか?」

 

「いや、まったく。迷宮都市って意味は分かりましたけど。迷ったら二度と生還できませんね」

 

あれから一時間ほど歩いただろうか。

ヴェルフに説明されながら歩いてみたけど、ごちゃごちゃしていて何がなんだか分からなかった。

 

「いや迷宮はそっちのことじゃ……言ってもわかんねぇか」

 

どうしたもんか、とヴェルフが考え込んでいるとき、前から男が歩いてくるのが見えた。

どうにも僕の方を目掛けて歩いて来ているのがわかる。

これはあれだ、明らかにあたり屋なやつだ。

直前で避けてやろう、と思ったのだが避けようとしたときに急加速してきて結局ぶつかってしまった。

 

「っと……ごめんなさい」

 

「いてぇな……どこ見て歩いてんだ?」

 

「強いて言えば明日ですかね」

 

「あぁ!?」

 

僕は遠い太陽の光を手で遮りながら、ふぅ……と黄昏た。

当たり前だが僕の態度が気に食わなかったのだろう男は僕の胸ぐらを掴みあげる。

慌ててヴェルフが間に入ってきた。

周りには人がいるが、誰も助けてくれそうにない。

ひそひそ、と「レベル3」「傭兵崩れ」「たちが悪い」なんて聞こえてくる。

せっかくだ、この状況を利用してやろう。

 

「おいおいちょっと待て。こいつ今日初めてここに来た奴なんだ、勘弁してやってくれないか?」

 

「テメェこいつの仲間か?」

 

「いや、そういう訳じゃないが……」

 

「なら引っ込んでろ。俺はこいつと話があんだよ」

 

「そういう訳にゃいかねぇな」

 

「んだと?」

 

今度はヴェルフの方に難癖をつけようとしたので僕は叫んだ。

 

「やめて! 僕の為に争わないで!」

 

「テメーはもうちょい危機感を持て!」

 

「ナメてんのかテメェ……」

 

ヴェルフに迷惑をかけるわけにもいかない。

僕は掴まれてる状態なので男を見下すようにして言ってやる。

 

「こっちを認識してあえてぶつかってくる人にそんな事を言われるなんて……はい、これ」

 

鞄のなかから出した鏡を男の顔に向ける。

男は困惑したような顔をしていた。

 

「これは今一番他人をナメてる人の顔でございます、荒くれ者様」

 

「この野郎!!!」

 

ついに堪忍袋の緒が切れた男は空いている手で僕を殴り付けようとした。

ヴェルフがその手を止めようとしてくれる。

そろそろ良いだろう、と僕は叫び始めた。

 

「いやーーーー!!! やめてーーー!!! 僕に寄ってたかって酷いことするつもりなんでしょ!!! エロ同人みたいに!!! エロ同人みたいに!!!」

 

「大声でなに意味わからねぇこ」

 

「乱暴に服を破いて辱しめられるんだ!!! ホモ達に歪んだ欲望ぶちまけられるんだ!!! やだーーーー!!!」

 

「やめ、やめろ!! クソ!!」

 

男は吐き捨てるようにそう言って走り去ってしまう。

あの程度で逃げ出すなんて当たり屋の面汚し目。

 

「助かった」

 

僕は澄ました顔でそう言ったが、再び苦虫を噛み潰したような顔をヴェルフはしていた。

 

「…………お前のどこが常識人枠なんだよ」

 

「君は知らない。今の茶番を繰り広げようものならマジで囲まれて乱暴(意味深)するような集団がいるということを」

 

フェルグスとかギルガメッシュとかうちの男性陣は男女に拘らない人が中々多い。

まだどちらの清純も保っているが、世界が平和になった今近々散らされるだろうと覚悟していました。死にたい。

 

「お前それは本当に仲間なのか……?」

 

その問いには一瞬も迷わず笑顔で返す。

 

「一番大切で大好きな仲間達だよ」

 

そして僕は男の逃げていった方へ振り返る。

ドカッ!! バキッ!! と先ほどの男が僕たちの足下に転がってきた。

 

「ぐええ…………」

 

「良かった、大声で叫んだ甲斐があったみたい」

 

「え?」

 

「「「マスターー!!」

 

見慣れた顔の三人、クーフーリンと清姫、アーラシュが僕に駆け寄ってきた。

 

「無事だったみたいだな坊主」

 

「良かった! 本当に良かったです! 安珍様の貞操を守れて!」

 

「心配したぜ。心の傷だけはどうにもなんねぇからな」

 

「ね?」

 

僕に抱きついてくる清姫の頭を撫でながらヴェルフに笑顔を向ける。

 

「お前の仲間か?」

 

「そっちのはさっきの奴の仲間だな?」

 

「え?」

 

クーフーリンがヴェルフも蹴散らそうとしたので、僕はすぐに訂正する。

 

「違うよ。僕を助けてくれたんだ、恩人だよ」

 

「おっそうかい。うちのマスターはどこか危なっかしくていけねぇ、助けてくれてありがとな!」

 

相変わらず良い笑顔でヴェルフの手を握るアーラシュ。

ヴェルフは頬を掻く。

 

「助けた、って良いのか分からないんだけどな」

 

「あぶねぇな、もうちょっとでこいつ同じようにぶちのめす所だったわ」

 

ガハハと笑うクーフーリン。

おっと、それよりも本題に入らないと。

 

「それより三人とも、ここがどこだか分かる?」

 

「いえ、それがまったく……私たちも先ほど起きたばかりで、何故ここにいるのかも分からないんです」

 

「俺とアーラシュも同じだ」

 

アーラシュが頷くのを見て、僕は腕を組んだ。

確か昨日のあの時、クーフーリンとアーラシュ、清姫は僕を追いかけていた。

それからの記憶も無さそうだ。となると。

 

「うーん……特異点じゃなさそうなんだよね、これ……なんだろう?」

 

「あともうひとつだけ、訳のわからんことならあるぜ」

 

「なに?」

 

「俺らな、受肉してるみたいなんだ」

 

クーフーリンのその言葉は、思ってもみないことだった。




おらに文才別けてくれぇー!


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2話―神―

我がカルデアのギルガメッシュはカニファン寄りです。


「…………アーラシュはもうステラできないね」

 

クーフーリンから衝撃的な事を言われたにも関わらず、僕の開口一番はどこか気の抜けたものだった。

やれやれと肩を竦めながらクーフーリンはアーラシュを見る。

 

「本当に必要とあれば俺は遠慮なく射るぜ?」

 

かなり本気っぽく弓を射るような動作をしたアーラシュの右腕を掴む。

 

「ダメ、マスター命令」

 

「ハハッ! マスターは心配性だな」

 

当然だ。この世界でのサーヴァントの死がどうなるかも予測できないのに、受肉しているなんて本物の死となにも代わり無い。

皆は死んでもカルデアに戻る……そう教えられていたからこそ時には捨て駒のように使うこともあったけど、そうでないなら話は別だ。

 

「ああ、安珍様! 清姫は何がなんだか分からなくて怖いです!」

 

「僕は清姫の方が怖いんだ」

 

強く抱きしめてくる清姫につい口から本音が漏れてしまった。

ニコリ。まるで笑えない笑みの清姫。

 

「なにか言いましたか?」

 

「それより他の皆は? 見てない?」

 

僕は誤魔化すことにした。

アーラシュは少し考えて、

 

「俺たちはまとめて同じところに倒れてたんだけど、他のは見なかったぜ」

 

と頷きながら話す。

誰がどのくらい来ているのかは分からないけど、でも皆なら心配はないだろう。

そう信じたい。

 

「心配しなくてもそのうち見つかるよね。とりあえず話を聞いて回ろう。ねぇヴェルフ」

 

「な、なんだ?」

 

「道案内とかお願いできない? ここのことまったく知らないから不安でさ。勿論お礼なら……って待てよ? ここの通貨知らないな……」

 

「いやそんな、礼なんて別にいらねぇよ。道案内くらいしてやる」

 

「……身体で払わせようとしてる……?」

 

「してねぇ!」

 

ヴェルフの反応がよくてついからかい過ぎちゃうな、自重せねば。

と思ったら清姫が早速ヴェルフを睨んでいた。いかんいかん。

 

「(な、なんだ? こっちを見てるだけなのに、殺気を感じる……)」

 

「こーら、清姫。今のは僕の冗談なんだから本気にしちゃダメだよ!」

 

ていっ、と清姫にチョップを入れると涙目になった清姫が「はい……」と言って僕の胸に抱きついた。

ごめんね、とヴェルフに視線を送る。

少し引いていたがおほんと一度咳をした。

 

「……なあ、お前らどこのファミリア所属なんだ?」

 

またファミリアか……この世界では誰もがファミリアに所属しているものなんだろうか?

どこのというくらいだ、色んな派閥があるのだろう。

 

「ファミリア……ってのがよくわからないんだよね。なんなの、それ?」

 

「……そうか、そうだよな。来たばかりでファミリアって話もないか。にしてはあんたら……立夏以外の三人、相当出来るだろ?」

 

僕以外の三人を指差してそう言うヴェルフ。

三人の持つ異様な雰囲気には気づいていたらしい。

 

「あん? へへ、まあな!」

 

「三人とも僕の信頼してるサーヴァント達だしね」

 

サーヴァントと聞いてヴェルフは「なんだそれ?」というような顔をした。

サーヴァントについては知らないのか……。

ここまで常識が違うとどう話せば良いか分からないな……。

どう会話の舵を取ろうかと考えようとしたとき、この状況で一番出会いたかった人の声が聞こえてきた。

 

「おい!! このバカ!!」

 

出会い頭に僕をバカとなじる孔明先生。

 

 

「あ、先生。やっぱり先生も来てたんだ」

 

「来てたんだ、じゃないだろ! 騒ぎが聞こえてきたから慌てて飛んできたんだよ!」

 

「ごめん、あれ嘘」

 

「そんなの分かってる! 恥ずかしいこと叫ぶなって言ってるんだ! 一緒に行く僕らが恥ずかしいんだからな!」

 

先生には僕の考えはバレていたらしい。

確かに大声で叫ぶだけならあんな内容じゃなくても良いかなーとも思ったのだけれど、本気で助けを求めると大事になりそうだったからああなったんだよなぁ。

 

「それにぐえっ!」

 

さらに小言を続けようとした孔明は背後からやってくる巴に気付かずにぶっ飛ばされた。

 

「マスター!!」

 

「うおっ!」

 

僕を見つけたと同時に抱きつく巴。

相変わらず力が強くて痛い。

 

「良かった……無事のようですね。では今から鬼畜狩りを始めます! マスターを襲う鬼はこの手で燃やし尽くしてやりますとも!」

 

瞳に灯る憤怒の炎を矢に乗せ、近くの住民へ殺気を向ける巴。

それだけで見物客は蜘蛛の子を散らしたように逃げていった。

腕を擦りながら涙声の孔明がよろよろと起き上がる。

 

「うう……さっきの騒ぎを聞いたサーヴァントがここに集まって来たらどうするんだよ……! 馬鹿! この馬鹿! ここを地獄に変える気か!」

 

「おい、この先は地獄だぞ」

 

「うるさい! 馬鹿ーーーー!!」

 

いつの間にか側にいたエミヤが冗談めかしてそう言ったが、孔明先生にはちっとも笑えなかったらしい。

僕も正直、あまり笑えなかった。

 

~~~~~~~~

 

少しして……いったんその場を離れて開けた場所に僕らはいた。

あれから更に人数は増え、念願のマシュとも再会できたのだが……。

 

「先輩! 先輩はどうしていつも!」

 

マシュも孔明先生同様、大変激怒していた。

マシュの怒り方って本気なんだろうけどまず先にこちらの心配から入っているから、なんだか可愛く見えてしまう。

不謹慎だがマシュは可愛いので仕方ない。

 

「いや、ああした方が近場にいる皆を集められると思って」

 

「正に地獄絵図というしかなかったな。主に暴走しがちなメンバーを押し止めるのが大変だった。我ながらよく止められたものだと思うね」

 

そう、巴の他に新たに合流したジャックと静謐が暴れそうになり、クーフーリンはそれに便乗。

あわや大惨事となりかけたのを駆けつけたマシュ、アーサーと協力して抑え込み、ようやく現在に至る。

 

「一度こうと決めたら真っ直ぐ行く、美点でも難点でもあるところが僕たちサーヴァントらしいじゃないか」

 

「ふ、確かに」

 

アーサーとエミヤは和やかな会話をしているが二人ともボロボロだった。

アーサー一回巴にぶん投げられてたしなぁ。

 

「それにしても……」

 

現在のメンバーを整理してみる。

孔明先生、エミヤ、マシュ、巴、槍クーフーリン、清姫、アーラシュ、アーサー、ジャック、静謐……計10名。

 

「けっこういるね。それに……」

 

僕は後ろを振り返り、そこにいる二人にも声をかける。

 

「ずっと後ろにいてくれたんだよね、二人とも」

 

数秒の沈黙、そしてすぅ……と二人の影が姿を現した。

 

「何があるか分かったものじゃないからな」

 

一人はエミヤ(アサシン)、相変わらずフードを目深に被り表情は窺えない。

ただ右手に持った銃器から彼の心境はよくわかった。

そしてもう一人……死神のような風体をしているキングハサンは、大剣をいつものように構えてこう言った。

 

「先ほどの者、やはり首を断っておくべきか」

 

「首禁止」

 

「そうか」

 

あっさりと諦めるとまた闇に消えるキングハサン。

その様子を見ていたヴェルフはなにかを言おうとして、こちらもすぐに諦めたように口を閉ざした。

言うだけ無駄だと判断したのだろう。

キングハサンに関しては説明するだけ無駄なので僕の方からも何も言わない。

 

「とりあえず戦力は確保した。後は今のこの状況を打破するためにも情報を」

 

「僕が集めておいたよ……馬鹿マスターが寝てる間にな!」

 

「流石先生。それで?」

 

このバカマスターは! と憤る先生を軽くスルー。

先生はこれ以上話しても無駄だと判断したようだ。

 

「ったく……これは僕なりの推理だけど、まずここは僕たちの知る世界じゃないのは確実だ。迷宮都市オラリオなんて聞いたこともない。そもそもここには人間以外の種族がけっこういたから、異世界に飛ばされて来たのはほぼ確実と言って良いだろうな。信じたくないけど」

 

なんとなくそうなのかなーとは思っていたけど、孔明先生に言われて一気に現実味を帯びてきた。

孔明先生が知らないならオラリアなんて都市は僕たちの世界には存在しないということだろう。

 

「それと僕らサーヴァントが全員受肉していることの説明は、悔しいけどまったくしようがない。一人くらいなら聖杯の力を使えば可能だろうけど全員は不可能だ。あり得ない」

 

「でも現実に俺ら全員なっちまってるしなぁ。何らかの力が作用したのは間違いねぇな」

 

クーフーリンが槍でコンコンと地面を叩いた。

 

「分かってるよそれくらい。こっちに来たサーヴァントがどれくらいいるのかは分からないけど……。あぁあともうひとつ、この世界にはその辺に普通に神がいる、らしい」

 

孔明先生の冗談のような発言に空気が固まる。

マシュがおずおずと口を開いた。

 

「か、神様ですか?」

 

「こんなときに冗談は……と言いたい所だが、その様子だとどうやら嘘では無さそうだな」

 

孔明先生がこんなときに冗談を言うタイプでないのか皆分かっている。

少し眉根を寄せて腕を組むエミヤは深いため息を吐いた。

 

「僕だってにわかには信じがたいけど、でも誰に聞いても疑問にも感じてない様子で即答されたから多分本当にいるんだろうな」

 

「ねーねーおかあさん、神ってなに?」

 

「雲の上に住んでる人達だよ」

 

雲を指差してからジャックを抱き上げる。

 

「雲の上に人が住んでるの? 私達も行ってみたい!」

 

「そのうちね」

 

ジャックを肩車すると、わーいとはしゃぎだしたので僕も一緒になってぴょんぴょん跳び跳ねる。

 

「そこ! 状況理解してる!? 今までみたいには行かないんだぞ!」

 

「受肉してるってことは死んだらそこまで……カルデアでもないここじゃ俺の宝具は封印しておくしかないって訳だ」

 

「それもだけど……どうやって戻るかとか……」

 

弓を見つめるアーラシュ。

でもアーラシュなら、必要とあったら自分の命を省みないんだろうなぁ。

孔明先生は腕を組んで顔をしかめながら思考している。

 

「戻る必要はあるのでしょうか? ここでならますたぁと子供を作って幸せな一生を……」

 

「うーん、仮に清姫と幸せになるなら俺はあっちの世界が良いな」

 

「さぁ!! 戻る手段を考えますよ! ハリィハリィハリィ!!」

 

やる気を出してくれたようで何よりだ。

僕は嘘はいってない。清姫と幸せになる未来を想像するならこっちよりあっちの方が良いと言うのは本音だもの。

清姫の矛先は孔明先生の方に向かった。

 

「僕を揺らすなぁ!!」

 

がくがくと孔明先生が揺らされている。

振り払おうとしたが力が足りないようだ。

エミヤが孔明先生から清姫を引き剥がしてくれる。

 

「落ち着け清姫、今考えてどうなることでもあるまい。他に考えるべきは」

 

「誰がこちらに連れてきたのか、だ」

 

殺エミヤがフードから視線を覗かせる。

そのまま全員を見渡すが、誰も口を開かない。

結局それも現段階ではまったく分からないのだ。

 

「とりあえず……そうだなぁ、他に誰か来てるなら早く合流しないと」

 

「残念なことにここに来てから上手くマスターの気を辿れない。僕がマスターを見つけたのも偶然だったからね」

 

「あれ、そうなんだ?」

 

殺エミヤの言葉に何人かが反応した。

 

「うん、確かにそうだね。前まではマスターがどこにいてもすぐに分かったのに、マスターがひと騒動起こすまで探すのに手間取ったよ」

 

アーサーにほぼ全員が頷く。

 

「私は愛の力で乗り切りました!」

 

清姫だけは予想通りというか、流石清姫と言った所だな。

 

「でも縁があれば会えるでしょうよ。僕はギルガメッシュが来ていないことを心のそこから祈るだけだな」

 

フハハハハハ!! と、空の方から高笑いが聞こえた。

フハハハハハハ!!と、一人では無いことが分かった。

フーハハハハッハッハ!!と、声の主達が近付いて……いや落ちてくるのが見えた。

 

「どうやらその願いは叶わないようだ」

 

殺エミヤがフッと鼻を鳴らす。

目の前に降り立った二人、ギルガメッシュとオジマンディアスは、結構な高さだった筈なのに元気そうだった。

 

「雑種ぅ……話は聞かせてもらったぞ。何故我を呼ばん? よもや我のことを忘れてはおるまいな?」

 

「フハハハハ! 我らなど忘れたくても忘れられ、いや!? 忘れたいとも思わんだろうな!!」

 

仲の良い王様コンビが高笑いをするが、僕はオジマンの手を握った。

 

「やったぁ、オジマンディアスだ! 今後ともよろしく!」

 

「貴様ぁ!! やはりこの我を邪魔者と思っているな!?」

 

すかさずギルが僕とオジマンの間に手刀を入れて邪魔をする。

 

「いやだってギルガメッシュがいると場が引っ掻き回されるし」

 

「我がルールだ、問題あるまい」

 

これだもん。オジマンはこんなノリで意外と周りの状況をよく見て行動してくれる。

この王様、自分が気に食わないことはしないし、その癖僕が王様を通さないとご機嫌が斜める。

カルデアなら好きにさせとくしギルのことは好きだけど、流石に今ギルのご機嫌取りばかりするわけにはいかない。

そんなわけで僕は酷い人間だと罵られようとギルには冷たくするのだ。

決してギルがいると僕も一緒になってふざけ始めちゃうから今のうちに距離を取っておくとかそういうことではない。断じてない。

 

「全部終わるまで遊んでて良いよ。オジマンディアス、協力してほし」

「待て待て待てぇい! 何故太陽のには協力を要請し我にはせん!?」

 

言い終わる前に片手で僕の顎を引っ付かんでギルに正面から睨まれる。

 

「ギルガメッシュ。目の前に声をかけてくれる人がいたらどうする?」

 

「雑種如きがこの我に声をかけるなど、死刑でも生温い」

 

「そういうとこだよ。よーし皆、まずは拠点を探そう」

 

ギルだけを輪から外して皆を集めようとする。

 

「きぃさぁまぁ……!! 良いのか! 我がいなくなると困るぞ! 良いんだな! 寝返るぞ!」

 

凄い脅し文句だった。

ただかなり効果的でもある。

ギルが敵に回ると本気で厄介だ。

こちらで対処できそうなのはオジマンとキングハサンしかいない。

 

「やれやれ……マスター、あれは本気で寝返って満足するまで暴れるぞ。確かに味方にいても面倒だが敵だともっと面倒だ、ここは堪えてくれ」

 

「なんだとフェイカー!!」

 

まぁ元々仲間外れにする気はなくてギルの反応が……おほん。

僕は誰も見捨てたりはしない!

キリッ、とキメ顔を作ってギルの手を取った。

 

「……ギルガメッシュ、冗談言ってごめんね? 僕にはギルガメッシュが必要なんだ、一緒に戦ってくれ」

 

僕のカリスマはEXまであるぞ……!

 

「ふっ、最初から素直にそう言え雑種」

 

ギルも満足したようで僕の手を離すと喧しい高笑いを始めた。

オジマンもそれに同調して更に喧しい。

 

「…………お前の言った通り、本当に楽しい集団みたいだな」

 

「いや本当にね。騒がしくしてごめん」

 

すっかり場の空気に呑まれてしまったヴェルフに謝罪する。

長いこと一緒にいるマシュですら着いてこれないのに、ヴェルフには悪いことをしてしまったなぁ。

 

「それより今の話、俺が聞いても良かったのか?」

 

そんな疑問に孔明先生はにやりと笑った。

 

「現地での協力者は絶対必要だからな。むしろここまで聞いて逃げ出さないってのは、最善と言って良い」

 

僕もそう思う。ここまで話を聞いても逃げ出さないというのはポイントが高い。

勿論こちらの話にはまったく着いてこれないだろうが、それで問題はないのだ。

彼には彼の知ってることだけを聞けば良いし。

 

「ひとまずは……この世界のお金を稼がないとね。野宿でも良いけど、一部のギルガメッシュとかいう王様がワガママだから」

 

「貴様ぁ!! 何故我にはいつも冷たいのだ!」

 

分かってるじゃない、と皮肉を言おうとしたが喉元で止める。

この王様、本当に分かっていない可能性があるのだ。

 

「お金に関してはあてがある……と言いたかったんだけど……」

 

孔明先生が口ごもるのは珍しいな。

 

「その辺りの説明はヴェルフにしてもらった方が良い。ダンジョンについて皆に説明してくれないか?」

 

「ダンジョン? あぁ、なるほど。分かった」

 

孔明先生に促されてヴェルフは僕たちに、この街の地下にあるダンジョンについての説明を始めた。

ダンジョンのなかにはモンスターがいること。

深層に潜れば潜るほどモンスターが強く狂暴になること。

神の眷属になることで恩恵を得た者を冒険者と呼び、ダンジョンにはその冒険者が潜ること。

神の下に集まった眷属達をまとめてファミリアと呼ぶこと。

そのファミリアに属さない事にはダンジョンに潜れないこと。

ダンジョンのなかで活躍をすれば能力に経験値が貯まり、一定値以上になるとレベルが上がること等々。

ヴェルフが知っている知識を大まかに聞くことができた。

 

「なるほど、迷宮都市の意味がよくわかった」

 

話を聞き終えて僕は迷宮都市という言葉の本当の意味を理解した。

街が迷宮みたいだからとかくだらない理由では無かったようだ。

 

「どこの馬の神とも知れん奴に仕えるなど、そんなことは出来んな!」

 

「馬の神ってなんだよ……」

 

オジマンに鋭いツッコミを放つヴェルフ。

馬の神はともかく、神と契約なんてしてしまっても良いのかどうか悩んでしまう。

 

「どうしよう先生」

 

「やることは決まってるだろ? 神なら誰でも同じことができるみたいだから手っ取り早く適当な神のファミリアになって乗っ取り、そこを拠点として戻る方法を探す」

 

流石先生。容赦がない。

 

「穏やかじゃなさ過ぎるだろ。乗っとるっておい」

 

ヴェルフは知らない。

孔明先生が冗談ではなく本気でそんなことを言っているということを。

 

「全員殺せば良いんだよね? 任せて!」

 

「ジャックはおかあさんと遊んでれば良いんだよー」

 

そしてこちらも冗談ではなく本気だ。

なので僕はジャックを持ち上げてくるくると回った。

 

「わーい」

 

きゃっきゃっと喜ぶジャックに満足する。

清姫と静謐が「ぐぬぬ……」と羨ましげにこちらを見ていることについては当然スルーだ。

どうせ後で僕に直談判してくるし。彼女達はそういう人間だもの。恐い。

 

「人数の少ない所が良いな。それでいてそれなりに良いホームを持ってる所。どこか知らない?」

 

「お前さてはマジで言ってんな!? 知らねぇ! 知ってても教えねぇ! 誰かを不幸にする事に荷担したくねぇ!」

 

ようやくヴェルフも目の前にいるショタが人間の皮を被った悪魔であることを理解してくれたらしい。

孔明先生が舌打ちをしたのを見てヴェルフは戦慄していた。

 

「おーおったおった」

 

「ろ、ロキ神!?」

 

ロキシン? 間接の痛みに効きそうだな。

とヴェルフが見ている方に視線を向けると、糸目のお姉さんがやあやあと腕を挙げてこちらへ来ていた。

 

「よー、探しとったでー。おーおー! 確かに強そうなのが沢山おるな!」

 

サーヴァントの皆を観察するように上から下までじっくり眺めている。

 

「誰ですか?」

 

「この人が神の一人、ロキ神だ」

 

これが神か……なるほど、確かに皆とこの人とはオーラが違う気がする。

人でないオーラ……という訳でもないよく考えたらサーヴァントの皆も人外みたいなものだし。

もっとこう、言葉では言えない何か特別な感じだ。

 

「どうしたんですか? こんなところに一人で」

 

「いやぁ、こっちに強そうなのがぎょうさんおるっちゅう噂を聞いて…………ん?」

 

なんで関西弁なんだろう。

神様としての威厳が足りない気がしているが、ヴェルフは畏まっているので他の神様もこんな感じなのだろうか?

まぁ良い、自己紹介は掴みが肝心だ。

 

「初めまして、神様と話すなんて光栄だなぁ。この口洗わないでおこう」

 

「接触すらしてないのに!?」

 

ちょっとしたお茶目にもマシュは全力だ。

 

「接触したら私、絶対に許しませんけど」

 

清姫は全力というか目が危ないや。

 

「それなら、私が」

 

静謐は静謐で僕に唇を近づけてくる。

マシュと清姫が静謐を引き剥がし、あー、と引きずられていった。

相変わらず三人とも楽しそうだなぁ。

 

「はいはい、三人とも静かに。今大事な話が進むところだ」

 

エミヤママが三人を抑えていてくれるみたいなので、僕はロキ神に向き直る。

ん? 何やら神妙な顔でロキ神は僕を見つめていた。

 

「……お前……誰や?」

 

「え? あぁ、自己紹介忘れてましたすいません。僕は藤丸 立夏と申します。よろしく」

 

「そんなん聞いてないわ。お前誰や。なんでここにおんねん」

 

「はい?」

 

どういうことだろう。

何故ここにいるのかなんて僕達が聞きたいくらいなのだが、そういう話をしている風でもない。

どういうことか聞こうとして、僕は衝撃的な言葉を投げられた。

 

「私も知らん神が下界に来たなんて話聞いてないで」

 

…………………………。

場が静寂に包まれる。

長いような短いような沈黙。

全員の視線が僕に集中し、僕は後を押されるように声を出した。

 

「……あの」

 

「なんやねん」

 

「誰のことですか? 神?」

 

「はぁ? なにとぼけとんねん。お前神やろ」

 

おまえかみやろ。お前神やろ。

僕のことを神だと、そんなことを言っているらしいことがわかった。

僕は振り返ってダブルピースで笑顔を作った。

 

「いぇーい、みんな、僕が神だよ」

 

というわけで僕は神になったのだ。




なにか感想やミスなどありましたらよろしくお願いします。


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3話―選択―

「いやいやいやいや!!! えええ!? 先輩神様だったんですか!?」

 

慌てふためき手をバタバタとさせるマシュに僕は右手を差し出した。

 

「そうだよ? ほら崇めて崇めて。余は酒池肉林を」

 

「ま す た ぁ ?」

 

「求めて三千里! そんなものに興味を抱いたこともない!」

 

「圧倒的矛盾」

 

目を怒りの炎に燃やす清姫に即座に掌を返すとクーフーリンに馬鹿にされた。

酒池肉林に興味ないのは本当だ! サーヴァント相手じゃ命がいくつあっても足りないし普通の人間相手にしようとしてもサーヴァントが弊害になるからな!

 

「お前らちょっと黙れ! こいつが神ってどういうことだよ!?」

 

僕のおふざけにキレてから、孔明先生は僕を指差した。

ロキ神は糸目を少し開けて僕を睨んだままだ。

 

「どういうもなにもこっちが聞きたいわ。どういうことやねん」

 

「こんなへちゃむくれの能天気な奴が神な訳………………」

 

孔明先生が言い留まる。

何か思うところがあるようだ。

押し黙った孔明先生へ畳み掛けるようにエミヤ、清姫、クーフーリンが明後日の方向を見ながら口を開く。

 

「神の中にはそんな印象の奴もいるがな」

 

「自分が楽しむ為に世界を混乱に陥れるようなのもいますし」

 

「つーか神なんてどっかしら能天気な奴らばっかだぜ? まぁなんとかなんだろーつって災厄振り撒いたりするし」

 

「ぐぐぅ……いや百歩譲ってそういう神がいるのは良いとして! こいつは普通の人間な筈だ!」

 

「そーだそーだ、僕は人間だー」

 

「ん……? ……いいや、間違いなくお前は神や。威光は上手く隠しとるようやけど、神は騙せんで。私ら神は相手が神か子供たちか分かる。お前もそうやろ?」

 

顎をクイッとさせて僕に同意を求める。

僕は少し考えて頷いた。

 

「ええまぁはい、実はそうなんですよ孔明先生。皆とこの人、ロキさん? とは何となく雰囲気違うなーってのは分かってたんだ」

 

「そういうことは最初に言えよこの馬鹿!」

 

ぐいっと孔明先生に口を引っ張られた。地味に痛い。

 

「お前、神だったのかよ……全然気づかなかったぜ……」

 

「今知ったんだけど、なんかごめんね?」

 

「い、いや謝られても。むしろ何があったら神であることを忘れるんだ」

 

少し遠慮がちなヴェルフ。

重ね重ね悪いことをしてしまったなぁ。

 

「でもさ先生、これで条件は整ったんじゃない?」

 

「非常に遺憾だけど、そうだその通りだ。僕たちはお前の下に入ってファミリアを形成する。そうすればダンジョンに潜ることもできる」

 

僕が神だというのは謎だけど、これで身内だけで全て処理できる。

乗っ取られる可哀想なファミリアなんていなかったんだ。

 

「おいちょお待て。まだ話は終わっと」

 

僕の肩を掴んだロキ神の腕を逆に掴んで引き寄せ肩を組んだ。

咄嗟のことに反応できていないロキ神に僕はチェケラ、と呟く。

 

「ヘイYOそこのお神さん。僕今日神になったばっかだYO! あっちで二人、手取り足取り神について話そうYO!」

 

「は、はぁ? え、ちょ……おあああ」

 

引きずるように僕はロキ神を近くのベンチで連れていった。

 

 

~~~~~~~~

 

 

「向こうは馬鹿に任せとこう。とにかく問題の一つは片付きそうだから、あとはこっちのことだな」

 

孔明もマスターがロキにしたように、ヴェルフと肩を組んだ。

 

「え? え?」

 

「すまないな。これも人助けだと思って諦めてくれ」

 

孔明に続いてエミヤもヴェルフの肩を掴む。

 

「ちょっ、まっ」

 

「君たちはここでマスターを待っていてくれ」

 

エミヤが女性陣にそう言うと、男たちはヴェルフを連れ闇の中へ消えていったのだった。

 

 

 

「買い物できる所を教えろだなんて、口で説明しろよ!」

 

現在エミヤ達は商人で賑わう通りにやって来ていた。

不機嫌そうにしているヴェルフにエミヤはククッ、と笑う。

 

「この体になってから空腹感を覚えてね。すまないな」

 

金が無いが腹は減るということでヴェルフに立て替えてもらうという算段だった。

珍しいことにエミヤ達についてきていたギルガメッシュが、黄金をカランと鳴らす。

 

「フェイカーは剣の腕は三流だが料理の腕は超一流だ。どれ、今回も精々我を楽しませろよ?」

 

「貴様だけ飯抜きだ」

 

「貴様ぁ!! 最近益々我に対する扱いが雑になってきたな! 無理矢理にでも奪って我の宝物庫に入れてやる!」

 

掴みかかろうとするギルガメッシュをいなしながら、エミヤは売り出されている商品に目を光らせる。

とギルガメッシュの発言に孔明があっ! と声をあげた。

 

「あーーー!! そうだ、そうだよ! 今まで確認するのを忘れてた僕の馬鹿! おいギルガメッシュ! お前宝物庫は使えるのか!?」

 

「ふん、使えぬ筈がないだろう戯け」

 

背後に【王の財宝】を展開するギルガメッシュ。

それを見て他の面々も孔明の発言の意味に気がついた。

 

「そうか、宝具か。僕たちって今どういう扱いなんだろう? 少なくともマスターとの契約は切れている状態のようだけど」

 

「ダンジョンに潜るにしてもその辺りのことがわからない内は危険か? ……投影、開始」

 

アーサーは自分の手を、そこにある聖剣を見る。

隣でエミヤが夫婦剣の模倣品を投影する。

当然見慣れていないヴェルフは驚くが話はそのまま進行した。

エミヤの投影した剣を触るクーフーリン。

 

「問題無さそうだな?」

 

「まだ分からないよ。エミヤの固有結界を展開できるかどうか」

 

「無くても戦えない訳ではないが、敵の全容が明らかでない内は危険だろう」

 

アーサーの心配に少し神妙な表情になるエミヤ。

固有結界が全てでは無いものの、エミヤの奥義は強力だ。

自力で勝てない相手と戦う為の手段は必要になる。

 

「この辺りで試せば良かろう」

 

「では行こうか!」

 

ギルガメッシュとオジマンディアスがそう言って魔力を高め……ようとして孔明が大慌てで阻害した。

 

「やめろーー!!」

 

「落ち着いて。ここがどういう場所かも分からない内から敵を増やすのは良くない」

 

アーサーもオジマンディアスをなだめる。

そうこうしている内にようやく目的の場所に着いた。

孔明の心労だけが増えていく時間だった。

 

「……とりあえず着いたぜ。ここら辺なら一通りのものは揃う筈だ」

 

「では行ってこよう、そちらも頼んだ。……ついでに調理器具でもあると良いが」

 

「頼んだ。お前はマジでうちの生命線だからほんと、頼んだ」

 

少し楽しげに張り切るエミヤに、孔明はこれから世界が終わると聞かされた人のような顔をして懇願した。

 

「泣けてくるからその顔はやめてくれ……」

 

同じく心労をかけられる組であるエミヤだが、彼の場合はまだ心に余裕がある分諦めという形で受け流せる。

孔明は全部受け止めて完全解決を目指す傾向にあるため、負担はエミヤの比ではなかった。

とりあえず買い出しはエミヤに任せることにして、アーサー達は辺りを見渡す。

 

「さて、こっちも始めようか。僕たちは今はただの人間と言えるから、住む場所を探さないとね。風呂や食事、睡眠、その他色々も必要になってくる」

 

「んなもんその辺の山で全部事足りるだろ」

 

「僕やマスターはお前らみたいに野蛮じゃないんだよ!」

 

クーフーリンは山で野宿することに苦を感じない。

だが近代文明人には中々厳しい話だ。

頭を悩ませる孔明、それに呼応するようにざわつく周囲。

 

「っと、考えるのは後にした方が良さそうだぜ。向こうの方で騒ぎが起きてるみたいだ」

 

アーラシュが指差した方では、人々が逃げ惑っているのが見えた。

 

わーー!!

モンスターだー!!

 

そう言ってアーラシュ達の横を過ぎて逃げて行く民衆。

 

「モンスターだと!?」

 

「ここは安全って話じゃなかったのか!?」

 

「モンスターが地上に出てくるなんて、そんな話最近じゃ聞いたことも無いぜ!」

 

驚愕するヴェルフと孔明だが、他の面々はそれぞれの得物を手にとって笑った。

 

「ちょうど良いぜ! ちょっくら遊んでくるかぁ!」

 

「この世界のモンスターに興味はある。我が行くから犬は座っていろ」

 

「テメェ!」

 

「喧嘩する前にさっさと行こうぜ?」

 

喧嘩するクーフーリンとギルガメッシュをなだめながら警戒を怠らないアーラシュ。

その時、孔明だけがとても嫌な予感を感じていた。

 

 

 

「だぁかぁらぁ! 姫たちはモンスターじゃないってばぁー!」

 

「■■■■■ーーーーーーーーー!!!!!」

 

「くっ、マスターを早く探さなければいけないというのに……!」

 

「ほらぁー! ヘラクレスだー! モンスターだよあれは確かに!」

 

騒動の中心にたどり着いた孔明は、囲まれる刑部姫、ヘラクレス、ランスロットを見つけて頭を抱えた。

確かにヘラクレスは誰がどう見てもモンスターにしか見えなかった。

 

「確かにどこからどうみてもモンスターだわな」

 

クーフーリンは肩透かしを喰らったように地面に座る。

 

「チッ……くだらん。我は行く! 後は貴様らでなんとかしておけ!」

 

踵を返してどこかへ行こうとするギルガメッシュ。

 

「ちょ、どこに!?」

 

「どこへでも良いだろう。雑種にはすぐに戻ると伝えておけ」

 

アーサーの問い掛けには答えず、ギルガメッシュはさっさと人混みを蹴り飛ばしながら消えていった。

 

「相変わらず自由な王様だ。仕方ない、俺達だけでやるか」

 

「任せろ勇者。余にかかればあのような雑兵共、瞬く間に蹴散らしてやる!」

 

楽しそうにアーラシュの隣に立つオジマンディアス。

 

「兄さん、加減してくれよ?」

 

「加減なら余以上に出来る者はいない!」

 

オジマンディアスの高笑いは、孔明の頭へ更なるダメージを負わせた。

 

「ああ、頭が……」

 

「あーーー!!! いたーーー!!! 助けてよーーー!!!」

 

刑部姫が孔明達に気付き、大声をあげながら手を振る。

 

「■■■■■■ーーーッッッ!!!」

 

ヘラクレスの怒号で周囲の屈強そうな冒険者達が威圧される。

そしてランスロットもアーサーの姿を確認し、救いの手が来た! と膝を地面についた。

 

「王よ! それに他の皆さんも! 申し訳ないがヘラクレス殿についての釈明を手伝ってはいただけないだろうか!」

 

「い、いつもこうだーーー!!!」

 

「■■■■■■ーーーッッッ!!!」

 

孔明の何度目かの叫びは、ヘラクレスにかき消されたのだった。

それから二時間後……。

ようやく誤解が解いた頃に合流してきたエミヤは、経緯を聞いてため息を吐く。

 

「お前たちはいつも楽しそうだな」

 

「楽しくないよ! なんっにも! ひとっつも! まったく!!!」

 

「あんまり怒ってると倒れちまうぜ?」

 

顔を真っ赤にする孔明にアーラシュは笑いかけた。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「皆さんお帰りなさい!」

 

「遅かったね」

 

何だか疲弊している孔明先生だが、後ろにいる三人を見つけて僕は理由を察した。

心のなかで孔明先生に合掌する。

 

「まーーちゃーーん!!」

 

僕の胸に駆け込んでこようとする刑部姫。

だが僕はサッ! とそれをかわして横を駆け抜けた。

向かう先は当然……。

 

「ヘラクレスー!」

 

「■■■■■ーー!」

 

「僕のヘラクレスは最強なんだー!」

 

「■■■■■ーー!」

 

抱き付いたヘラクレスにブンブン振り回される。

楽しい! 清姫達の嫉妬に晒されるより十倍楽しいや!

それはそれとしてマシュに声をかけようとして冷めた視線で出迎えられるランスロットが不憫でなら無い。

女の子って恐い。

 

「またけったいな……」

 

「ロキ神、まだいたんですか」

 

「私だってはよ帰りたかったわ! 神についておしえろー言われて仕方なく……それにこんな謎の集団放置して行くのも寝覚め悪い」

 

はぁー……と深く吐く神に苦笑いするヴェルフ。

 

「さてと。それじゃあ買い出し班にも説明をしよう。まず僕はこの世界ではカルデアという名前の神様を名乗ることにした。そして皆を眷属とした、カルデア・ファミリアを発足する。僕が主神だ」

 

「えへへ……」

 

「当然ですとも!」

 

清姫と静謐に両脇を固められる。

何故この子達はいつも距離が近いのだろう。

そんな意味の無い疑問を頭から消して……。

僕は気持ちを落ち着けるように深呼吸をした。

 

「これは皆に強制はしない。なりたい人だけ、僕のファミリアに入ってほしい」

 

「……どういうことだ」

 

「孔明先生。考えたんだけどさ、皆受肉して人間になれたんだよね。だから好きに生きて良いんじゃないかと思うんだよね僕は」

 

少し怒気を孕ませる孔明先生にも僕は物怖じしない。

嘘、ちょっと怖い。

 

「ここでは僕は君たちのマスターじゃない。契約が解除されてるのは皆分かってる筈だ。それに僕は神で君たちは人間。だから、他の神がよければそっちに行ってくれて良いし、戻りたくない、ここで生きていきたいというなら僕はそれを尊重」

 

「馬鹿者」

 

ポカッ、と頭を叩かれて僕は驚いた。

後ろにはギルガメッシュがいた。

ギルガメッシュも少しだけ怒っているのが気配でわかる。

 

「あれ、そういえばいなかったね。どこにいってたの?」

 

「少し出ていた。それよりも、今更そんなこと聞くまでもなかろうが。我らが他の者と行くなどと本気で思っている訳でもあるまい?」

 

「思ってないから言ってみたんだよ。君たちには新しい道が開かれたってね」

 

ギルガメッシュの視線を正面から受け止め、視線を返す。

僕の真意を探るような視線は、戯け……という呟きで反らされた。

ギルの視線の先、そこにいた皆の表情。

全員がまったく悩むそぶりも見せずに、答えを示していた。

 

―あなたと共にありたい―

 

「……皆ってほんと、馬鹿だよ。せっかく好き放題できるのに、僕は気にしないって言ってるのに」

 

「我々は普段マスターにうるさく言ったり、時に罵倒したりもする。だが、お前の馬鹿さに我々は惹かれているんだ。その愚直さ、諦めの悪さ、どんな苦難も乗り越える強さ。敬意を抱いている」

 

エミヤが遠くを見るように僕を見る。

 

「ずっと前しか見ないで歩いて、どいつもこいつもを仲間にして世界を救った。マスター以上に信頼できる奴も一緒にいたいと思える奴もいないな」

 

アーラシュは快活に笑い、最大限の賛辞を贈ってくれた。

 

「当然貴様が神だろうとなんだろうと、お前が我に仕えるというところには変わりないがな」

 

ニィッ、と笑うギルガメッシュはいつも通りだ。

 

「……分かった。ありがとう皆」

 

「それともうひとつ。雑種の為に動くのは癪であったが、なにもしない奴だと思われるのはもっと癪なのでな。拠点を手に入れて来てやったぞ」

 

正直ここに来て一番の驚きがここにあった。

ギル、意外と僕の発言気にしてたんだ……。

 

「たまには役に立つじゃねぇか」

 

「貴様は死刑だ犬ーー!!」

 

「うおおおお!!?」

 

クーフーリンの軽口を封じようと【王の財宝】から剣が飛んでいく。

 

「ん、ランサーが死んだー」

 

「おっ。この人でなしー、って奴だな!」

 

エミヤに合わせてアーラシュが続けると、オジマンディアスが喜んだ。

 

「いよし余が許そう! 死ねランサー!」

 

喜んだ拍子で酷いことを言っている。

 

「テメーら人で遊んでんじゃねぇぞ!!」

 

その叫びを聞いて皆笑いだした。

クーフーリンは本気で死にかけてるけど、まぁ大丈夫だろう。

ただこの空から剣が降ってくる光景を見慣れていなかったロキ神は目を剥いて愕然としていた。

 

「なんなんやこれ!?」

 

「さぁ、なんなんでしょうね……」

 

皆と散歩している間に全てを諦めたのか、ヴェルフの目は冷たかった。

 

「っと、俺はこの辺りで失礼するぜ」

 

「え? これからママのご飯だよ? 食べていけばいいのに」

 

「いやこれからちょっと用事があるからよ」

 

「そっか、分かった。今度お礼に行くね」

 

「ははっ、だから良いって。またな」

 

ヴェルフが片手を挙げて去っていく。

 

「ロキ神は来るの?」

 

「当たり前やろ。あんだけ美味い飯美味い飯言われたら食べたなるわ!」

 

ということでギルガメッシュに先導されてぞろぞろと僕たちは新たな拠点へ向かうのだった。




おらに……文章力を……


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4話―ギルド―

一度見たことのある人でも楽しめるように、前に書いたときより大幅に変更しました。
嘘ですごめんなさい詳細には覚えてないのでノリで書きました。


僕たちを出迎えたのは、豪邸でした。

いや冗談でもなんでもなく軽く数十人は住めそうな豪邸に僕は素直に驚かされた。

 

「流石ギルガメッシュ」

 

「我の財の中でも質の低い物をくれてやったわ。あの程度で喜ぶなどこの世界の底も知れるというもの」

 

ギルガメッシュが鼻を鳴らして中へ入って行き、そして僕の横で孔明先生が静かに崩れ落ちた。

 

「そうだよな……カルデアだとそんなことなかったから忘れてたけど、うちには金に困るなんてこととはまったく縁の無い奴もいたんだよな……僕って本当馬鹿だ……」

 

「まぁまぁダンジョンに行く必要が無くなったから良かったじゃないの。ねぇアーサー?」

 

「そうだね。ほらせっかくだから室内で休もう、捕まって」

 

アーサーに肩を抱かれながら孔明先生も家に入っていく。

なんとなく背中に哀愁が漂っていた、南無。

他の皆も家の中や、花壇に咲いた花などを見に行ったりと自由に動き出した。

エミヤママなんて少し楽しそうにキッチンへ向かって行った。

豪邸に驚いていたロキ神は気を持ち直したのか、「あんなぁ」と僕に声をかけた。

 

「ファミリア作り立ての神がこんな家に住んだら他の奴になに言われるか分かったもんじゃないで」

 

「ママの作るご飯美味しいから楽しみにしててよ」

 

「聞けやぁ!!」

 

パチコーンと頭を叩かれた。痛い。

何事かと思ったマシュが玄関から駆け出そうとしてきたので、来なくて良いとジェスチャーを送る。

 

「うーん……他人の嫉妬に驚くほど興味が持てない」

 

「嫉妬ってのは怖いで。いつか悪意に変わって、何かしら理由をつけて手を出してくるんや」

 

「凄くどうでも良い。勝手にやってれば良いと思う」

 

「こっちは心配して」

 

僕はロキ神を見つめた。

そして、

 

「覚悟はある?」

 

そう問い掛けた。

 

「は? 覚悟?」

 

「そう、覚悟。覚悟があるなら、僕は、僕たちはどこまででも相手になるよ」

 

「…………なんや、覚悟って」

 

「誰を敵に回そうが己の意志を貫く覚悟だよ」

 

僕たちの敵は全員、その覚悟を持っていた。

敵だけではない。それに立ち向かった僕たち全員も同じ覚悟を持って戦っていた。

 

「その覚悟を持っているなら、僕らは全身全霊で相手になる。持てる力を全て使ってはね除けるよ」

 

「……ったく。軟弱そうにヘラヘラしてるだけの奴や思ってたけど、しっかり男の顔するやんけ」

 

おっと、それはいけないな。

僕はあくまで状況を楽しむだけだ。

僕はすぐにロキ神の言う軟弱そうなヘラヘラした表情に戻した。

 

「まぁ僕は何にもできないんだけどね。皆が凄いから僕も凄く見えるらしいけど、僕は後ろで見てるだけだから」

 

僕は笑いながらガンドを撃つように手を突き出した。

ロキ神は僕の顔を無表情で眺めている。

やれやれ、真面目空間反対なんだけどなぁ失敗した。

こっち側に入っちゃうと僕はとことんネガティブになっちゃうから嫌だ。

 

「ごめん」

 

ロキ神に素直に謝ると、謝罪なんていらないと言うように手をヒラヒラと振った。

マシュがまだこちらを心配そうに見ていたので、そろそろ僕も中に入ろう。

 

「ひとつ言っとくで。あまり自分を卑下すんなや。つまらんで」

 

僕の心臓が跳ねる。

卑下するな、なんて何度言われたかも分からないのに、僕は未だに感情的になってしまいそうになる。

いやいや僕だって成長したんだから落ち着け自分。

 

「卑下くらいさせてくれよ!!!」

 

全然ダメ、まったく冷静でいられない。

僕は今まで何度も口にしてしまった悪癖を大声で叫んでしまった。

あっと口を塞いだがもう遅い。

大声をあげた僕に驚いているロキ神から逃げるように僕は家へ向かった。

 

「先輩!?」

 

マシュに声をかけられたが恥ずかしすぎて反応する余裕もなかった。

 

 

~~~~~~~~

 

 

「悪いな姉ちゃん。マスターはちょっと思春期って奴なんだわ」

 

藤丸が走り去るのを見ながら、ロキに声をかけたのはクーフーリンだった。

横にはアーラシュもいる。

 

「あいつ自分がすげぇ奴だってのが分かってねぇんだわ。俺らみたいなのに憧れてるみたいでな。なんつーの適材適所って奴? 戦いの才能はからきしでよ」

 

「『僕は見てるだけ』『指示してるだけ』……ってな。あいつがいたから世界が救われたことを理解してない。変な奴だろ?」

 

何気なく世界を救った、という発言が出たことにロキは少しだけ困惑した。

二人がまったく嘘をついていないことが、より藤丸から聞いたことが嘘では無いことを証明していたから余計にその困惑は増していく。

 

「でも俺たちにとっては最高のマスターだから。仲良くしてやってくれや」

 

ニィッと爽やかな笑顔のクーフーリンを見て、ロキは去っていった藤丸の方を見た。

 

「ほっといてええんか? あのままだとどうなるかも分からんで。最悪、死ぬ事になるかも知れんわ」

 

「大丈夫大丈夫、そんな柔な奴じゃねーから。つーかそれで死んでるならもう何回死んだかわかんねーわ!」

 

「それは確かだな! マスターはあれだ、無茶はするけど無謀な奴じゃ無い。ちゃんとその時の自分の行ける位置は心得てるから安心して見てられる」

 

「あいつが嬢ちゃん庇って敵の攻撃受けたときはヒヤッとしたけどな!」

 

クーフーリンとアーラシュは一頻り笑い終わってから、真顔になってロキへ向き直る。

 

「んでまぁ……同じ神としてってのもなんだけどよ、暇だったら坊主のこと気にかけてやってくれや」

 

「マスターのことを一番信用してないのはマスター自身でな。この世界で良い巡り合わせがあることを期待してるぜ」

 

それだけ言って二人も家へ、ロキは少しだけ思考してから首を振り二人に続いた。

 

 

~~~~~~~~

 

 

ああ恥ずかしい子供の癇癪以上に恥ずかしいものなんてこの世にあるのかってくらい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。

無い物ねだりをする時期なんてとっくの昔に過ぎ去っているだろうにまだあんな事を言っちゃうなんて僕って本当成長しない。

と僕がゴロゴロ床を転がっていたのを見かねたのか、マシュが優しく僕を起こしてくれる。

 

「何があったのかは分かりませんが……もし辛いようなら……その……私の膝で」

 

「うええええいマシュの膝枕うえええええい!!!」

 

先ほどの事を振り払うように僕はマシュの膝に飛び付いた。

咄嗟の事にマシュが体勢を崩してしまうが、僕はマシュの下敷きになるように体をずらした。

マシュのお尻が僕の腹部に乗っかるが、これはこれで夢見心地という奴だ。

 

「せ、先輩!?」

 

「癒されるぅ……あーマシュほんっとマシュマシュ……」

 

「意味がわかりません……! 今降ります……え、先輩!? 離してください!」

 

「男なら 得られた幸福 逃すなかれ」

 

「全然上手くありませんよ!?」

 

なんてイチャついている僕たちを許せない奴らがいつの間にかいた。

無論清姫と静謐、あとジャックと刑部とランスロットまで僕たちを羨ましそうに睨んでいた。

ただ皆踏み込んで来ないのは、僕の様子がおかしいことに気付いているからだろう。

ただ遠巻きに見ているだけだが、サービスタイムはそろそろ決壊しそうかもしれない。

ランスは柄を力強く握っているし、清姫と静謐は徐々に距離を詰めてきている。

ジャックと刑部は頬を膨らませているだけだから可愛いもんだけど、多分清姫静謐が乱入してきたら迷いなく騒動に加わって来るだろう。

至福の時なんてあっという間なんだ、僕は泣く泣くマシュを手放した。

 

「もう! マスター、こういうことは二人きりのときに」

 

「マシュさん?」

 

「……二人きりのときに?」

 

「あっ」

 

あーーー、とマシュが二人の妖怪に捕縛されて引きずられて行った。可哀相なマシュ。

でもマシュって最近けっこう本気で僕のこと好きになって来てるみたいなんだよなぁ。

それはとても嬉しいことなんだけど、ランスは自分のことを棚にあげてマシュと僕の間には中々厳しい。

まだマシュには早い、と目で訴えかけて来てるからなんだかなぁと言った所だ。

 

「マスター。どうか、正しき道をお進みあれ……」

 

直に語りかけてきた。

モンスターペアレント……って言ったらマシュが怒りそうだから僕はなにも言わない。

沈黙は金だ。

 

「すまない遅くなったな、元の世界とは勝手が違い……と今は良いか。今回は客人もいるということで少し贅沢をさせてもらった。たのしんでいただければ良いのだが」

 

そういって並べられた料理は一品一品でも御馳走と呼べる物だらけだった。

肉に魚に野菜にデザートまである。

 

「おおおおなんやこれぇ!? こんなん酒場でも見んで!」

 

早速手を出すロキ神。

それから皆が食堂に集まってきて、思い思いの料理に手を出し始める。

ギルとオジマンの姿は見えないけど、まぁあの二人のことは良いか。

「うまぁ!」とガツガツ食べているロキ神を見てエミヤは満足げだった。

 

「こんなにいっぱい大変だったでしょ」

 

「タマモとブーディカがいないから確かに大変ではあったが、いつもより作る量も少ないからそれほどでもない。それに巴とじ……アサシンも手伝ってくれたからな」

 

「頑張りました!」

 

笑顔の巴さんが手を握る。可愛い。

殺エミヤの表情は見えないけど僕の視線に気付いて逃げた。可愛い。

おっとそれはそうとして、今のうちに言っておかないといけないことがあったなそういえば。

 

「マシュ、ご飯が終わったら……僕の部屋に来て……」

 

「えっ」

 

無駄に含みを持たせちゃった。

いかん皆の視線が僕に集まってる。

顔を真っ赤にさせてフリーズしているマシュには頼れなさそうだし、早く誤解を解かないと。

 

「いや違うんだ。ちょっとマシュに裸になってもらうだけで」

 

何も違わなかった。なんだ僕疚しいことの為にマシュ誘ってたんじゃないか。

さて、僕の命の残り時間も少なくなって参りました。

 

「ますたぁ……? それはどういうことでしょう……」

 

清姫が持っていたナイフを机に突き立てる。

お行儀が悪いぞぉ。

 

「マスター……私はいつでも……」

 

あぁ僕の持っていた料理が毒を付与された。

 

「私達もおかあさんと遊びたい!」

 

ジャックは黙ってなさい。

 

「じゃなくて、マシュと契約してステータスを見るだけなんだってば。ごめん紛らわしい言い方して、ちょっと何も考えてなかった」

 

僕が謝ると空気が柔らかくなる。

なんだぁそんなことかぁ、みたいなそんな

 

「ますたぁの一番はこの清姫です!!!」

 

いやダメだった清姫がまったく納得行ってない。

一瞬下ろしかけた腰を上げて机を叩いた。

いやでも僕もこれだけは譲れない。

 

「マシュは僕の一番初めのサーヴァントだからこれだけは譲れない譲りたくない渡さないの三段活用! 清姫、許せ!」

 

くっ、と清姫が悔しそうに俯いた。

 

「……契約の一番はお譲りしましょう。確かに安珍様と一番始めに契約したのは、とても悔しいことにマシュさんですから……ですが契約の! 二番は譲りませんよ!」

 

妥協案を出して清姫は泣きそうになりながら席についた。

いつの間にか復帰していたマシュが申し訳なさそうに言ってくる。

 

「あの……私は別にいつでも……」

 

「初めてはマシュって、決めてるんだ」

 

顔を紅潮させるマシュが可愛いのでまた冗談を言ってしまった。

また騒動になるのも嫌なので僕はマシュの手を取り、契約を始める。

そんなに時間もかからずに契約は終わった。

僕はロキ神を見る。

 

「それで終わりや。嬢ちゃんの背中にステイタスが現れとる筈やで。んで必要ならさっき教えた通り紙を貼って力込めて終わり、簡単やろ?」

 

「どれどれ」

 

「きゃあ! な、何をするんですかぁ!」

 

マシュの後ろ襟を捲ると、凄まじい早さでマシュが逃げた。

名前とレベルが4ってことしか分からなかった。あとマシュの肌が綺麗ですべす

 

「どうか……どうか……正しき道をお進みあれ……そうである限り……」

 

「待って待ってごめんなさいごめんほんとちょっとした冗談なんだってば」

 

神速で剣を抜いたランスの剣の刃がキラッ、と光った。

まったく、冗談も通じない。

 

「でも随分レベル下がっちゃったね、マシュのレベル4だってさ」

 

「4……またここから鍛え直しですね!」

 

「は?」

 

なに言ってんだこいつらみたいな表情をして食事の手を止めたロキ神は、しばらく僕とマシュを交互に見たあとに茶碗を置いて立ち上がった。

 

「れ、レベル4ーー!?」

 

「あ、でもこの世界に種火とかないらしいからどうやってレベル上げよう」

 

「無視すんなやー!」

 

スパンっと頭を叩かれた。痛い。

 

「嬢ちゃんレベル4なんか!? 2、3に上げるんも大変やのにいきなり4!? いままでどんなバケモノ相手にしてきたんや!?」

 

「どんなバケモノと言われましても……あまりにも強大過ぎてなんと言えば良いのか……」

 

「……まさか、皆嬢ちゃんくらいに強いんか……?」

 

「そんな! そんなことありません!」

 

「ほ……なんや、嬢ちゃんがエース」

 

「私なんてみなさんに比べたら……あくまでサポート役ですから!」

 

謙遜するマシュに、ついに言葉を失ったロキ神。

ロキ神の慌てぶりを見た孔明先生が悪い顔をして耳打ちしてきた。

 

「僕たち、この世界じゃ一大勢力みたいだな」

 

「元の世界でもそうだったと思うけど」

 

「そりゃあまぁ、そうだけど」

 

僕は孔明先生のノリには付き合わず手を出した。

 

「それよりも孔明先生、契約しようか」

 

「え? なんで僕なんだよ?」

 

特に意味なんてない。

男ならこの場で脱いでも特に問題無いと思ったという程度の話で、近くにいたのがたまたま孔明先生だったというだけだ。

 

「そんな! ますたぁ、なんでですか!」

 

「ごめんね! 僕って孔明先生のこと大好きだから☆」

 

特に意味もなくそんなことを言ったせいで、清姫と静謐のターゲットが孔明先生に移った。

 

「ちょっやめ、さ、触るなァァァ!!! これは罠なんだァァァ!!!」

 

意味もなく孔明先生を追い詰められて僕は大変満足です。

さて、と僕はアーラシュを見ると僕の考えが読めてたかのように僕の手を握ってくれた。

速やかに契約を済ませると、アーラシュは上着を脱ぐ。

流石の千里眼……。

僕と、それからロキ神が素早くアーラシュの背中に注目した。

まったく何が書いてあるのか分からなかったのだけど、それがどんな言葉なのか正確に把握することができた。

 

アーラシュ

Lv.6

力:B751

耐久:B776

器用:C623

俊敏:D588

魔力:G231

《宝具》

【流星一条】

・矢を放つ

《スキル》

【頑健EX】

・自身の耐久力以下の攻撃への耐性を得る

【千里眼A】

・戦闘中、味方の位置を常に把握できる

・戦闘中、敵の位置を常に把握できる

・戦闘中、敵の弱点を見抜くことができる

【弓矢作成A】

・魔力を用い瞬時に弓矢を作成する

 

矢を放つって。

放ったら死ぬんだけど。雑だなぁ。

ロキ神も食い入るようにアーラシュのステータスを確認している。

 

「なんやねんこのステイタス……あり得んやろ……」

 

じっくりと眺めてから、深くため息を吐いたロキ神は諦めたように吐き捨てた。

 

「こりゃ認めるしかないわ。こんな強力なスキル持った奴が団長なら文句も」

 

「団長? アーラシュにはいつもお世話になってるけど、主戦力って言われるとちょっと違うかな」

 

「俺の場合すぐにぶっ飛んじまうからな!」

 

アーラシュ、笑って言うことじゃないそれ。

けっこう僕の胸を抉る発言だ……。

ロキ神の開いた口が塞がらなくなっているのが面白い。

 

「いやいやいやいや……え? なに? レベル6で主戦力じゃない? なんの冗談や? は?」

 

「弓兵って呼んで良いのか分からねぇけど、古代の王様には流石に勝てねぇな。俺の弓で撃ち落とすにも限度があるしな!」

 

「でもアーラシュ、ギルの剣全部撃ち落としてたよね」

 

「あれじゃジリ貧だったな」

 

あの時のオジマンの子供のように喜んでいる表情は今でも忘れられないし、ギルが滅茶苦茶楽しそうだったのが印象的だった。

僕も……いや今考えるのはやめておこう。

 

「そ、そのギルっちゅう奴のステイタスは!?」

 

がっと僕に掴みかかってきたロキ神だが、僕とロキ神の間に見た目にも分かるくらいに疲弊した孔明先生が割って入ってきてロキ神を止めた。

 

「残念だがサービスはここまでだ! ステータスは大事な情報! 情報は命! つまり軽々しく見せられないってことだ!」

 

「ぐ……確かにその通りや……」

 

僕は別に良いのに、と言おうとして止めた。

孔明先生は別に意地悪で情報を明かさないというわけでは無い。

ロキ神が僕らの敵になるかもしれない……という最悪の事態を想定するなら残念ではあるが孔明先生の行動は正しい。

勢いの削がれたロキ神は椅子に座って頭を掻いた。

それから天井、床、サーヴァントの皆へと視線を右往左往させる。

 

「……で結局誰が一番強いんや?」

 

「キングハサン」

 

聞こうか悩んでやっぱり気になって聞いてきたのだろうその質問に、僕は少しの間も無くその名を告げた。

心情的にはヘラクレス、と言いたい所だけれどこれだけは変わらない。

カルデア最強の存在がキングハサンだ。

…………ギルガメッシュは「我だ!」と譲らないけど、多分ギルでも勝てないと僕は思っている。

 

「キングハサン……誰や?」

 

ロキ神はキングハサンを探すが、キングハサンは普段隠れているので見える所にはいない。

 

「普段は出てこないよ。呼べば出てきてくれるけど」

 

実のところキングハサンは僕の後ろにいるけど、わざわざ姿を見せる必要は無いだろう。

納得はしていなさそうだがそれ以上しつこく迫ってくる事はなく、食事を続けることにしたようだ。

 

「んまーーー!」

 

 

 

食事を終えた後、ロキ神はまたご飯を食べに来ると言って帰っていった。

僕は現在自分の部屋として宛がわれた場所にいる。

 

「さ……脱いで、マシュ」

 

「せ、先輩……」

 

潤む瞳を見つめ、僕はそっとマシュの手を取

 

チャキッ……

 

僕の手が取れそうなのでゆっくりと引っ込めた。怖い。

別に僕はエッチなことをしている訳ではなくマシュのステータスを確認しようとしてるだけなのに、清姫と静謐、あとくっついてきたランスにエミヤまで僕を監視している。

 

「ますたぁ……ダメですよ、おいたは」

 

「清姫熱いよ清姫」

 

ちょろちょろと清姫の口から漏れるとろ火に焦がされる。

 

「んもぅ、ますたぁはそんなにおっ……胸が見たいのですか?」

 

「当たり前だろうが!!! マシュのおっぱいだけじゃない!! 静謐のだって清姫のだって僕は平等に愛そう!!」

 

「な、なんと男らしい! 好き!」

 

「流石は我がマスター……!」

 

「私のなら……いつでも」

 

僕の堂々とした宣言に感銘を受けたのか、清姫、静謐、ランスが胸に手を当てて片膝をつく。

その光景をエミヤは冷めた目で見てきた。

 

「こいつらは放っておこう。今のうちに準備を」

 

「は、はい」

 

僕がおっぱいに対する熱い感情を吐き出し終わったのは、マシュが上半身をはだけさせてベッドにうつ伏せになったあとのことだった。

憎しみで人を殺せるのなら、エミヤは既に呪殺されていただろう。

項垂れた僕に視線で早くしろ、と飛ばしてくるエミヤに殺気を返して僕はマシュに股がる。

 

マシュ・キリエライト

Lv.4

力:E450

耐久:A826

器用:F308

俊敏:F366

魔力:F352

《宝具》

【いまは遥か理想の城】(ロード・キャメロット)

・城を数分具現化させる

・認識している味方全員の耐久を激上昇させる

・認識している味方全員の力を激上昇させる

《スキル》

【誉れ堅き雪花の壁】

・認識している味方全員の耐久を上昇させる

・認識している味方全員に見えない鎧を付与する

【時に煙る白亜の壁】

・攻撃を完全に防ぐ

・自分は動けなくなる

【奮い断つ決意の盾】

・全ての敵の注目を集める

【守護天使】

・他者を守る時、耐久のレベルを上げる

 

殆ど僕の知っている情報なのだが、少し説明がザックリとしているな。

あとこの守護天使ってなんだろ? 初めて見るな。

とりあえずマシュの背中に用意しておいた紙を押しつける。

これでなんか力を込めて……おお、マシュのステータスが紙にコピーされた。

 

「終わったのか?」

 

僕は紙をエミヤに渡す。

ランスとエミヤがそれを見て、ほう、と声を漏らした。

こうしてみると本当に防御一辺倒だな。

 

「せ、先輩もういいでしょうか? 服を着たいのですが……」

 

恥ずかしがるマシュを無視してマシュの肢体に指を這わせる。

防御高いなーマシュの肌はすべすべで瑞々しく僕はこの感触を楽しむために今まで生きてきたんだなということを瞬時に理解した清姫や静謐の肌も柔らかくて気持ちいいんだけどその感触を楽しむ暇なんて

 

「ひゃ、せ、先輩!」

 

無い状況であることが多いしこう純粋に楽しめるこのマシュの反応も相まってとても興奮するマシュはあれかな異性を誘惑する天才かななにこの女の子女の子してる感じ大人しいし僕がこうして触っても身体をくねらせるだけで拒絶も逃走もしないマシュえろ

 

判決

 

死刑

 

 

 

朝。あのあと僕は三人からの粛清を受けたあとに四人と契約をし、速やかに気絶した。

生きてて良かった……なんて言えない程の地獄を経験した僕は、それでもこうして生を実感していた。

今日もエミヤの飯がうまい。

 

「マスター。傷は大丈夫か」

 

「大丈夫じゃないけど僕がマシュに与えた心の傷はこんなんじゃハカリシレナイ」

 

「ダメだ、まだ治っていない」

 

僕は別段性に狂ってる訳じゃない。

昨日のもいつもの悪ふざけの一環だったんだ、少なくとも僕はそのつもりだったけど。

結果はギルティ。

僕は僕のしたことにはいつも罰を受け入れるようにしているが、流石に気絶するまで責められるとは思わなかった。

 

「あ、あの先輩……私はその、気にしてないので……」

 

顔を赤くして僕の手を上から握るマシュに、こいつわざとか……? と疑心暗鬼になっていた。

マシュはもしかしたら、僕の命を確実に奪う気なのかも知れないな。

 

―――ああ、でも

 

―――マシュの胸のなかで眠ることができたなら

 

―――どれだけ良いかと、僕は憧れた

 

―――この気持ちは、間違いなんかじゃない

 

いや間違いだこれは悪魔の囁きだ。

正気に返った僕はマシュのことを親の仇でも見るように睨んだが、何を勘違いしたのか顔の赤みが耳まで達していた。

クソッ! この後輩め! 可愛い!

 

チリンチリン

 

どこからかベルの音が鳴って、僕の思考が切り替わる。

何の音だ?

 

「どうやら来客のようだ」

 

僕が音の出所を探していたのを見てエミヤが答えた。

そういえば家の入り口のところに垂れた糸のようなものがあった気がする。

僕は立ち上がり、客人を迎えようとして……殺エミヤに手で制された。

 

「僕が出る」

 

殺エミヤは僕の返事も聞かずにさっさと玄関へ向かっていく。

殺エミヤの雰囲気がどうもピリピリしているな……と思ったけど、よく見たら他の皆も似たような状況だった。

僕は気になって殺エミヤの後をこっそりと着いていく。

殺エミヤが玄関の扉を開けると、美人なお姉さんが笑顔(何となく嫌そうにしてるのが伝わってくる笑顔だった)で立っていた。

 

「どちら様ですか?」

 

「ギルドの者ですが。こちら新規発足されたカルデア・ファミリアの拠点でよろしいでしょうか?」

 

「ええそうですが」

 

「主神のカルデア様をお呼びしていただいても? 書類の提出をしてもらいたいんですけど」

 

「申し訳無いが主神はまだ寝ているんだ。……あぁそれと、僕達はダンジョンには行かないんだ。だからギルドと関わる必要もない」

 

「えっ」

 

相手の反応も待たずに殺エミヤは扉を閉めた。

向こうで大声をあげながら扉を叩く音が聞こえているがガン無視して戻ってきた。

 

「マスター、囲まれている。かなりの数だ、100は越える」

 

殺エミヤの報告で皆が警戒していた理由が分かった。

それに気付いていたから武器なんて身に付けてたのか。

でもどうしたもんかな……全面戦争?

 

「いったん皆で相談しようか」

 

僕が大広間に戻ると既に臨戦態勢の面々が今すぐにでも飛び出そうとしていた。

血気盛んな連中の多いことよ。

 

「ちょっと待って待って。やる気出すの早すぎだから」

 

「向こうがやる気出してんだ、仕方ねぇだろ」

 

「もっともらしいこと言ってるけどクーフーリンはただ暴れたいだけでしょ」

 

「まぁな!」

 

笑って認めた潔さだけは僕も認めたい。

うーん……でもどうしたもんかな。

向こうがその気なら僕らもしっかり受け止めるつもりだけど……。

 

「ねぇ孔明先生、向こうの目的なんだと思う?」

 

「さぁな。【僕に分かるわけ無いだろ】」

 

あ。……嘘をついてるのが分かるってこういうことだったのか。

いや孔明先生の様子見てたら嘘なのは分かったけど、これだけ明確に分かると誰かの反応に鈍くなりそう。

とりあえず孔明先生のことは後回しにして、どう戦争を回避しようか……。

 

ドンドンドンッ!

 

「おう! ここ開けろや!」

 

ロキ神がチンピラのような台詞を言いながら、扉を乱暴に蹴る音が聞こえてきた。

それで僕は今回の襲撃の理由を理解した、ついでに孔明先生の狙いも。

僕は立ち上がって駆け足で玄関へ向かう。

 

「先輩!?」

 

「誰かあいつを止め」

 

遅いぞ孔明先生!

 

「オープンザドアー!」

 

「うおっ!?」

 

勢いよく扉を開けたせいでロキ神がバランスを崩して僕にぶつかり、僕も僕でスピードが出ていたので二人してもつれ合いながらごろごろと外へ転がってしまった。

……こういうアクシデントの時、僕は殆ど毎回柔らかさに包まれる。

だが今回はそれがない。

 

「固い」

 

「皮一枚一枚剥いだるわ」

 

怖い。やっぱり女性だ。

と僕はおちゃらけた空気を作ってみたが、ロキ神はすぐに無表情に変わった。

 

「つーか起きとったんかい」

 

「つーか起きとったんやわ」

 

「まぁええわ。お前ギルドから来い言われとんやろ。今から行くで」

 

「それなんだけどもね。僕達」

 

「拒否権は無い。これは決定事項や」

 

取りつく島もないやん。

こっちの皆もかなり苛立ってる。

立ち上がったロキ神は僕の首根っこを掴もうとして、クーフーリンとエミヤが阻んだ。

 

「悪いがマスターを引き渡す気はない」

 

「問答無用じゃ仕方ねぇ。そっちが望んだ事だ、文句ねぇよな?」

 

「別に取って食ったりせんよ。ただファミリアになったならギルドに所属せぇ言う話や」

 

ロキ神凄いな、二人の殺気にもまったく怯んでない。

ロキ神の後ろにいる二人も武器を手にとっていつでもやる、と目が暗に告げている。

参ったなぁ……いや参った。

これじゃあ孔明先生の望む通りになってしまうじゃないか。

いや……ロキ神もかな。

こちらの手の内を見ておきたいって所だろう。

 

「悪いけど、力づくでも連れてくで」

 

それが合図になった。

ロキ神の後ろにいた無表情の少女がエミヤに、獣耳のついた男がクーフーリンに斬りかかる。

 

「おせぇ!」

 

獣耳もかなりのスピードだったが、クーフーリンを捕らえるにはまるで足りない。

獣耳の蹴りが放たれた頃には既に背後に回っており、槍で横っ腹を殴り付けた。

空中に投げ出された獣耳は浮いたまま器用に体制を立て直したが、大分ダメージが入ったようで攻撃部位を押さえて荒い呼吸を繰り返した。

 

そんなハイスピード戦の後ろではエミヤvs無表情少女戦が始まっていた。

いつもの夫婦剣を投影したエミヤは無表情少女から大分距離を取っている。

エミヤから動く気配は無い。

無表情少女も出方を伺おうとしていたのか、動かないエミヤと視線を交えている。

少しして無表情少女は走ってエミヤに近付いた。

こちらはあまり速度は早くない(あくまでクーフーリン達からすれば、という話であり僕じゃまったく追い付けない)。

エミヤも剣を構えて

 

「目覚めよ」

 

瞬間、急加速した無表情少女はエミヤの剣を弾き飛ばしてそのまま蹴りつけた。

剣を弾かれ一瞬無防備になったが、即座に防御姿勢に移りダメージを軽減させるエミヤ。

剣は遠方へ飛んで行き、取りに戻るなんてことになったら一方的に痛めつけられることになるだろう。

 

「投影、開始」

 

エミヤにはまったく関係がないことだが。

同じ武器が瞬時にエミヤの手元に出現したことに無表情少女は一瞬驚愕した、がすぐに先ほどと同じように急加速からの攻撃を繰り出した。

だが同じ戦法が通じるほどサーヴァントは甘くはない。

下からの一閃を干将で綺麗に受け流し、莫耶で剣を弾こうと横から殴るように振るった攻撃を無表情少女は身を退いてかわす。

 

今のエミヤとクーフーリンの戦いを見て僕は確信した。

まず負けることは無いだろう。

手の内はまだ隠しているようだが、戦闘力と戦闘経験という点で二人は相対している二人に大きく差をつけていた。

獣耳も無表情少女も弱くはない、非戦闘員のマシュや孔明先生が戦ったなら大苦戦を強いられるだろう。

ロキ神も僕と同じことを思ったのか、奥の方で控えている何人かに目配せをした。

うわ、まだやる気だ。こっちの二人は先遣隊って所か。

これ以上無駄な戦いは避けたいというか、向こうに殺す気がないから対処に困る。

切りの良いところで僕が間に入―――

 

 

 

全員の動きがぴたりと止まった。

 

音が消えた。

 

鳥の鳴き声も草木のざわめきも何もかも一切合切全部だ。

 

まるで世界から生が消えてしまったような、そんな錯覚を覚える程の静寂。

 

そしてそこにただ一人、存在感を放つそれは告げる。

 

「そこまでだ、これ以上の無益な争いを止めよ。双方に争う意思無し。それでも剣を振り翳すのならば……首を出せ」

 

圧倒的な死の恐怖が、この場にいる全員を支配した。

 

 

 

無表情少女と獣耳、そしてロキ神が同時に尻餅をついた。

そこにはもう誰もいない。死は通り過ぎた。

というかキングハサンやり過ぎ。

向こうさん、見ちゃいけないものを見た、みたいな顔をして全員その場に腰を下ろしてるよ。

 

「……んん。まぁほらあれだ。僕ちょっと行ってくるから」

 

「どうしてそうなるんだよ!?」

 

陰でこそこそと見守っていた孔明先生が鋭くツッコミを入れてきた。

 

「いや僕が行けば解決じゃん? 元々僕行くつもりだったし。キングハサンも言ってたけど、顔見せはもう十分だよ」

 

「それはまぁ、そうだけど」

 

ロキ神がまだ呆然としたまま座った状態で、震える声を抑えて口を開いた。

 

「お前……今のが、昨日言ってた……」

 

「うちの最強さんことキングハサン。ビビった?」

 

「ビビったなんてもんやない……死ぬかと思った。……いや、死ぬんやろな。天界に帰ることも出来ずに、私は死ぬ」

 

軽口ガンスルーで神妙な表情をしてるよ。

もうどぎつい下ネタでもぶっ飛ばして空気変えようかな……。

 

「まぁそんな訳で。行ってくるから、留守番よろしくね」

 

皆が見守る中、結局僕は空気に耐えかねてロキ神に手を貸し、その場からそそくさと立ち去った。

僕の思い付く程度の下ネタなんて、「マシュのマシュマロ柔らか過ぎマシュ」とかどうしようもなくくだらないものだったのだ。

 

 

 

そんな訳でinギルド上層階。

大柄な老神ことウラノス神、そしてその傍らに控える揺らめく人影と対面していた。

到着一番僕への質問は「お前は何者だ?」。

僕は懇切丁寧に僕の世界での出来事を包み隠さず教えた。

にも関わらずだ。

 

「嘘をつくな」

 

人影さん、まるで信じてくれず。

そりゃそうだろうさ、なんだよ気付かないうちに世界滅んでたから特異点一つ一つ修復して世界救いましたって。

今どき小説でももう少し納得できる理由で世界救ってるよ。

 

「で僕はどうすればいいんですか?」

 

「正直に話せ」

 

「正直に話したのに信じてもらえない場合どうすれば?」

 

「お前が真実を話せば良いだけだ」

 

「オーケィ話を聞く気が無いことだけは分かった。よーしじゃあ凄く本当っぽいこと言うぞぉ!!! 彼女探しに来ました!!! いい人紹介してください!!!」

 

沈黙。僕は深く深くため息を吐いた。

最初から信じる気のまったく無い人間と話す必要性を感じない。

もう少し話ができるかと期待したからここに来たのに。

 

「信じる信じないはそちらの好きにしてよ。僕は真実を話した。僕は世界を救って間も無く前の世界の仲間とこの世界に来てしまった。以上。それじゃあ帰らせてもらうから」

 

僕はペコリと頭を下げて入口へ向かっていく。

 

「私はお前を信じよう」

 

ウラノス神の迷いの無い声音に僕はホッと小さく息を出した。

良かった、この神すら聞く耳持たないタイプじゃなくて。

 

「ウラノス!?」

 

「真実を告げているのは分かった。 非礼を詫びよう、すまない」

 

僕は満面の笑みで振り返り、ウラノス神へ向け手をつきだしてぐっと親指をあげた。

 

「うん許そうじゃないか! 疑う心は大事だけど、相手の何もかもを疑って話も聞かないんじゃ話し合いの意味がない。自分の知識や経験に無いことを有り得ないと断じるのはやめた方がいいよ人影さん」

 

どんなに有り得ないと思う事だって起こるときは起こるんだ。

世界消滅なんて最たる例だろう。

人影さんはフードで表情は窺えないものの少し悔しそうにしている。

 

「…………分かった。まだ完全にはお前を信じられないが、私はウラノスの判断を信じるよ」

 

「僕たちのことは疑ってても良いさ。ゆっくり調査してよ。僕たちに隠すことなんて無いから、すぐに疑いは晴れるだろうし」

 

人影さんはこほんと、わざとらしく音をならした。

それからようやく本題に入った。

 

「それで神カルデア、お前は何故ギルドに所属することを拒む?」

 

「いや僕は別にどっちでも良いと思ったんだけどもさ。うちの軍師が「帰る方法探さなきゃいけない時にこっちの世界の都合に付き合ってられるか」って言ってましてね」

 

「……遠征か」

 

「そうそう。それでギルドに所属する理由もないし見送ろうってことになったんだ」

 

「そちらの事情は分かるが……」

 

金銭的な問題もギルとオジマンが解決してしまうのでいよいよダンジョンに行く必要が無い。

遠征に時間を取られるくらいなら帰る為の手がかりを、という意見には僕も同意だし。

ウラノス神は少し考えるように顎に手をあてて、十秒ほど悩んで考えを口にした。

 

「話は分かった。だがカルデア・ファミリアもこの世界に生れたファミリア、であるならばギルドへの所属は義務となっている。なので落とし所として、カルデア・ファミリアへの遠征義務の免除。代わりに強制任務には必ず参加してもらう……ということでどうだろうか?」

 

「ウラノス! 特別扱いしては他のファミリアからの不信感にも繋がるぞ!」

 

「ならどうする? 力づくでどうにかなる相手で無いのはお前もよく分かっただろう。この辺りでお互いに妥協できるならそうするべきだ」

 

あれ、二人ともさっきの揉め事を見ていたのかな。

人影さんは押し黙って「うむむむ」と唸り出した。

 

「っと、強制任務ってなに?」

 

「緊急事態の時、ギルドは特定のファミリアへ依頼を出す。それほどの緊急事態故に拒否することはできない、だから強制任務と呼んでいる」

 

緊急事態……世界が滅びたとかかな。

 

「一応言っておくが、世界滅亡レベルの緊急事態は一度も無いからな? モンスターが街で野放しになってるとか、あとは秘密裏に行ってもらいたい事がある時だ」

 

人影さんに思考を読まれてしっかり釘を刺されてしまった。

にしても秘密裏に……か。

 

「うーん……納得の行かない内容なら僕は当然拒否するけど、大丈夫?」

 

「基本的に拒否することは許されていない。……一応聞いておくがお前の拒否するラインはどこだ?」

 

「邪魔者を消せとかライバル企業を潰せとかとか」

 

「そんなこと頼まんわ!」

 

それは良かった。

悪いことは基本お断りのクリーンなイメージに傷をつけるわけにはいかないもの。

どこかからツッコミを受けそうだけど我々はクリーンな企業です!

 

「なら契約成立ってことで。人助けなら僕らは協力を惜しまないから、困ったらいつでも言ってよ」

 

人影さんは明らかにホッと緊張を解いた。

僕らはどれだけ心労をかけていたのだろうか。

 

「よーしようやく懸念も消えたし、彼女探すぞー酒池肉林だーキャッホーイ!」

 

「まだそれを続けるのか……変なやつだ」

 

仮に彼女探しなんて始めたら一時間後に火炙りだけどね。

おお怖い怖い。

 

「ウラノス?」

 

ウラノス神はあまりこういう冗談は好かないのか、目をクワッと見開いて僕を見つめている。

少し気恥ずかしい。

くそぅ余計なこと言うのは僕の悪い癖だ。

 

「……まさか、こんなことがあるとは……」

 

「どうしたんだ?」

 

険しい顔を更に渋くさせて、僕を凝視するウラノス神。

僕はそんなに悪いことをしたのだろうか。

ハーレム嗜好は悪なのだろうか。

良いじゃないか夢くらい見ても。

どうせ僕にまともな恋愛なんて待ってないんだし。

 

「神カルデアは、藤丸 立夏は……冒険者になる資格がある。立夏は神でありながら子供達でもある、ようだ」

 

「あぁクソ! ストーカーしない物理攻撃に訴えてこない照れ隠しに手を出さない僕のベッドに潜り込んで来ない僕を巡って争わない僕の安全を第一に考えてくれる優しい女の子に出会いたい!!」

 

一番近い存在だったマシュも回りに感化されたのか嫉妬で盾を使ってくるようになってしまった。

儚い夢よ。

 

「横でとんでもないこと言ってる時にボケを重ねてくるんじゃない! 目が本気過ぎるから笑い飛ばすことすら出来ないだろうが! いやそれは良い、今のはどういうことだ!?」

 

「言ったままだ。神でありながら立夏は他の神と契約をすることができる。眷属としてな」

 

「な、な……!」

 

人影さんが驚きのあまり後ろに下がって行く。

ガクッと動いた衝撃でフードが脱げた。

 

「なるほど骸骨じゃねーか」

 

フードが脱げた人影さんは、レイシフト先でよく見た骸骨の姿をしていたのだった。

 

 

 

「ということがありましてね。改めて自己紹介をば……」

 

拠点に帰ってきた僕は皆の視線を一身に浴びていた。

その視線に込められた気持ちは……紛れもなく怒りだった。

今すぐ逃げ出したい。

だが僕は今日、生まれ変わったのだ。

 

「僕の名前は藤丸 立夏! ロキ・ファミリアのビッグホープな男の子、よろしくね!」

 

「な…………なにしてるんだこのバカァァァーーー!」

 

そう、僕は冒険者になったのだ。

藤丸 立夏の冒険はこれからだ!




間違えて消さないように気を付けます
変なところや感想ありましたらよろしくお願いします


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5話―冒険者に―

新しくなった四話に合わせて修正、あと表現を一部変更しました


「で? 説明してもらおうか?」

 

「かくかくしかじか」

 

「今そんな冗談を言うつもりなら本気で覚悟してもらうからな」

 

マジと書いて本気と読む目をしている孔明先生は、閉じた扇子で手のひらを鳴らした。

エミヤママとマシュまで明らかに激怒しているし、僕の罪がどれだけ重いことか。

だが僕だって負ける訳にはいかないんだ。

 

「ということで続きは回想で!」

 

勿論僕が口頭で説明するんだけどね。

 

~~~~~~~~

 

ウラノス神との面談が終わったのは、日も上りきった頃。

外に出てきた僕を出迎えたのは意外にもロキ神だった。

 

「お疲れさん」

 

「おつー」

 

「かっるいな」

 

旧来の友人のようなノリで挨拶する。

ロキ神の雰囲気が柔らかくなっているので、少なくとも僕と敵対する気は無いことが分かってちょっと安心した。

 

「どうやった?」

 

「ウラノス神と友達になりました」

 

「そりゃ良かったな。飯でもどうや?」

 

「まさか僕に禁断の恋を?」

 

「アホ。朝の詫びでもしよ思っただけや」

 

頬を掻いて少し照れくさそうにしている。

ロキ神はしっかりケジメをつけるタイプなんだなぁ。

僕の好感度高まり。本当に攻略されちゃうよ。

でも詫びなんて別に良いのになぁ。

 

「でもお腹すいたのでありがたくいただきます」

 

「おう、この辺りで美味い飯屋あんねん」

 

行こか、と歩き出すロキ神の後ろを着いていく。

かなり注目されている中を歩くのはちょっとだけ辛かったけど、目的地はそこまで遠くはなかった。

十分ほど歩いたくらいでロキ神がここや、と指差した店は、そこそこ賑わっている大衆酒場のような場所だ。

看板には僕の読めない字で【豊饒の女主人】と書かれている。

店の前で呼び込みをしていた猫耳の美少女が僕達に気付いて客寄せの看板を持ったまま近寄ってきた。

 

「そこなカップル、よければうちの店に寄ってかないか?」

 

「そのつもりやで。てかなんや、新人か」

 

犬のような手足、獣耳、メイド服。

どこからどう見てもタマモキャットだった。

 

「おう! 世を渡り愛知らぬ心の荒んだ者たちに猫の手を、タマモキャットとは我のことだぜ! んで飯か? 美味い飯あるぞー」

 

「うちはここの常連やから案内されんでも分かるで」

 

「それなら良かった。おお?」

 

あ、僕に気づいた。

タマモは何度かパチパチとまばたきをし、そうしてから看板を放り投げて僕に抱きついてきた。

 

「ご主人!!」

 

「タマモも来てたんだね」

 

頭を撫でてやると、僕の胸にぐりぐりと擦りつく。

 

「ずっと探していたワン! タマモがいてご主人がいないなんて話も無いと思ってな!」

 

「痛い痛い痛い痛い」

 

ミシミシと僕の背骨が悲鳴をあげた。

それに気付いて「おおっ」と手を離してくれた。

 

「つい嬉しさを過剰摂取しちゃったぜ。大丈夫か?」

 

「なんとか……」

 

「こいつもお前の仲間なんか」

 

「うちの厨房担当の一人、タマモキャットだよ。彼女がいなかったら僕らは修羅に落ちていた可能性があるくらいに命の恩人なんだ」

 

誇張じゃなくマジでそうなのだ。

今でこそエミヤがメインで頑張っているが、エミヤが僕達の所に召喚されてきたのは第五特異点を修復した直後で、対してタマモは一番初めに来てくれた最古参。

料理のできるサーヴァントは今は数多くいるものの、タマモがいなければカルデアは終わっていたかもしれない。

マシュを除けば、唯一本音で話せる相手でもある。

 

「それでご主人、ここはいったい何なのだワン?」

 

「異世界ということしか分かってないワン」

 

「なるほどつまりあれだな? 異世界ハーレム物だな?」

 

「僕は異世界に行く必要無かったでしょ」

 

こう言うのもなんだけど、僕は複数のサーヴァントから好意を寄せられているし。

 

「ここで話すのもなんや、注目も浴びてるしとっとと中入らんか?」

 

「おおっそうだな! 二名様ご案内だワン!」

 

僕の手を握ったままタマモが店内に入っていく。

中に入ると騒がしかった声が一気に静まった。

タマモは気にせず空いている席に僕を座らせて、「待ってろ!」と笑って行ってしまう。

 

「なんや居心地悪いな……まだ今朝のこと引きずっとんのか?」

 

周りの反応に不快感を滲ませながらロキ神も席に座る。

そして早速というか、ロキ神はギルドでのことを聞いてきた。

 

「それでウラノスとは何の話したんや?」

 

「ギルドに所属するように話をされた、それは多分ロキ神も薄々気づいてるよね」

 

「そらな。ギルドに報告したのは私やし」

 

「だと思った。アーラシュのレベル知ってるのは僕らとロキ神しかいない筈なのに、あれだけ警戒されちゃね」

 

「そっちは私も予想外やったで? 見たまま伝えたけど、まさか強制任務って形であんだけ数揃えるとは思わんかったわ」

 

「この街を思ってのことなのは分かったけどね。で、僕らの世界のことを話してダンジョン行く気はそんなにないからギルドにも所属しません、って言ったのね」

 

「お前異世界から来た言うとったなそういや」

 

「ウラノス神もロキ神と同じで僕のことすぐ信じてくれたよ。まぁそれで、遠征は免除するからギルドに所属しろって言われてそこで手を打った訳だよ」

 

「なんやその条件羨ましい」

 

「そうそうロキ神に相談あるんだけどさ」

 

ウラノス神にあの話を聞かされてから考えていたことをロキ神に頼もうとした。

だが横からドンッと太い腕が僕らの机を叩いて中断されてしまう。

 

「あんたがタマモの主人ってやつかい」

 

僕よりも一回りは大きい女性が睨み付けるように僕を見た。

うっ……と僕は言葉に詰まる。

僕は今まで色んな特異点に行き、色んな敵と戦ってきた。

度胸はついたと自負しているし、仮に僕のサーヴァントが本気で僕を殺しに来たとしても恐怖することは無いだろう。

だがどうしても慣れないものがあった。

それは年上の女性だ。

ただ年上だから弱い、という訳ではない。

 

「は、はい!」

 

「タマモを連れていこうって話、待ってくんないかい? タマモの料理の腕はかなりのものでね、今逃げられると店の損失になっちまうんだ。人気もあるしね」

 

こういう、なんというか母親的な雰囲気の女性が苦手なのだ。

威圧的に来てる訳では無いのだが有無を言わさない迫力がある。

いつまで経っても慣れる気がしない。

 

「えーと……僕は別に良いんですけど……タマモがどうしたいかで決めてもらえれば」

 

「そうかい!」

 

「アタシ的にはご主人と一緒にいたいんだけどもなー。そこまで言われちゃタマモ魂に火がつくワン。ご主人、構わないか?」

 

「うん。迷惑はかけないようにね」

 

「あたしはミア・グランド、ここの店主だ。悪いね無理言って」

 

僕の背中をバシバシ叩いてくる。

タマモが役に立てるなら僕はそれでいいと思う。

寂しく無いと言えば嘘になるが、タマモのことを必要としてくれる人がいるのなら僕の心情なんて二の次だ。

 

「ただタマモとも今後のことを話したいので……一時間ほど時間をいただいてもよろしいですか?」

 

「そろそろ休憩の時間だし構わないよ。今回のお代はこっちで持つから、好きなもん食べていきな! ロキ様も、邪魔して悪かったね」

 

笑いながら去っていく豪快な女主人を見送ると、タマモも僕の隣に座った。

そしてすぐに従業員の一人が皿を持ってくる。

カルデアでたまに作ってもらっていたオムライスがほかほかと湯気を上らせていた。

 

「タマモ特性オムライスだ、よく味わえ!」

 

「おお、いただくで」

 

そう言うと一口食べて「美味い!」とすぐにがつがつ食べ始めた。

 

「それでタマモ、いつこっちに?」

 

「昨日だぞ。お日様の気持ちいい場所で目が覚めてな」

 

「一人で?」

 

「ヴラドとすまないさんが一緒にいたが、太陽の光が嫌だと逃げるヴラドについて行ってしまった。アタシは人参を求めてさ迷っているところを店主に拾われたという話だ!」

 

受肉しているとは言っても苦手なものは苦手なんだな。

ヴラドは吸血鬼だしそれもそうか。

 

「ご主人は今なにをしているのだ?」

 

「神になりました」

 

「神になったのか! 流石ご主人だな!」

 

疑うことなく笑顔で僕の手を握る。

タマモはどこまでこの世界の事情を知っているのだろう?

……タマモはなにも知らなくても僕の言うことを疑わないか。

 

「じゃあちょっと契約しようか」

 

「勿論それは構わんが、アタシはダンジョンに行く暇は無いぞ?」

 

やべぇ結構事情把握してるっぽい。

流石謎のキャット。

 

「あっ! ええなええなー! どうせその子も強いんやろ?」

 

「戦闘は専門外だワン。美味い飯を作り家を守る、それがタマモクオリティ」

 

嘘やー! と叫ぶロキ神を放っておいてタマモとの契約を結ぶ。

ステータスは暇なときにでも見せてもらおう。

さて冷めないうちにオムライスを……とその前に。

 

「それでロキ神、お願いなんだけども」

 

「あぁせやったな。なんや、言うてみ?」

 

「僕をロキ神のファミリアに入れて欲しいんだ」

 

ふんふんと聞く体制になって頷いていたロキ神の動きがピタッ、と止まった。

ゆっくりと顔をあげて、驚愕した表情で僕を見る。

 

「………………は?」

 

人影さんと同じ反応だ。

だがすぐに何故か頭を抱えて机に突っ伏した。

 

「ああああああああああ! そういうことやったんか……!なんで気付かんかったんやアホ……!」

 

「何やらうちひしがれている様子。ご主人は人心を惑わす天災か?」

 

「そんなつもりはないんだけれども。ロキ神、どういうこと?」

 

「下界の住人が嘘をついているどうか、神なら分かる。そや、最初に会ったときに違和感はあったんや……お前が神だと分かったからなんも疑問に思っとらんかった……」

 

「僕が嘘をついていないと分かってた、ってことか」

 

「よく思い出してみればあん時、お前の眷属もまったく嘘ついとらんかったし……ウラノスもそれに気付いたっちゅうことか。あーくそ、冷静さを欠くな口酸っぱく言ってきた自分がそうなってたなんて、笑えんわ……」

 

「まぁまぁ。それでどう? 雇ってみない?」

 

「アタシが言うのもなんだが、ご主人は戦闘は出来んぞ!」

 

本当にタマモが言うことじゃなかった。

正しい情報は大切だけどさ。

僕だってあれだよ? 修羅場潜り抜けてるから多少は心得とか身に付けてるんだからね?

まぁサーヴァント達に比べたら、そりゃなんの役にも立たないけども。

 

「いやでも僕のガンドは凄いんだよ! 褒められたし!」

 

「急に騒ぐなや。まぁええよ、これも何かの縁やし……」

 

「『それにこいつと契約すれば眷属達も抱き込めるしな』」

 

「心読むなや!」

 

僕のことをからかうサーヴァントが日に日に増していくせいで、自分の身を守るために学んだ技術の一つが読心術である。多分ランクはCかDくらい。

ロキ神には悪いけどこれも処世術の賜物なのだ。

ほれ、と差し出された手を握ると速やかに契約を完了させた。

 

「………………」

 

「それにしてもまさか神が冒険者に……ん? なんやそんな怖い顔して」

 

おっと危ない危ない。

ちょっとだけ気が抜けてた。

 

「いやぁわーいって感じですよもう。なんてったって」

 

「ご主人はいつも戦えない自分を嫌っていたからな」

 

マシュにも言ったことのない僕の本音をあっさりとぶっちゃけられてしまった。

タマモめ……でもサーヴァントのなかには薄々と感付いている人も多いから……別に良いし……。

くそぅ昔の僕よ、何故タマモに泣きついたのだ!

ギルとアーラシュにはバレバレで罵倒(ギル)と慰め(アーラシュ)を受けていたりするけどそれはそれだ。

 

「そらあんな連中に囲まれてたら惨めにもなるわ」

 

「言わないでよ……」

 

「んじゃこのあとうちの拠点に行くか」

 

「うっす」

 

期せずして僕はきっかけを得られたんだ。

チャンスは最大限生かすさ。

隣でニヤニヤ笑っているキャットがムカつく可愛いのでチョップを落としておいた。

 

~~~~~~~~

 

藤丸 立夏

Lv.1

力:I59

耐久:H195

器用:I47

俊敏:H156

魔力:H131

《魔法》

【変化B】

・性別を変更できる

【ガンドEX】

・相手をスタンさせる

《スキル》

【大英雄】

・仲間の能力を上昇させる

【縁故収集】

・人との縁が強まる

【虚空投影】

・強く想う相手を投影する

 

食事を終えてロキファミリアの拠点に来た僕は、ロキ神に渡された僕のステータスが写された紙を見てため息をついた。

ある程度期待していただけにこのガッカリ感と言ったら無い。

それでもロキ神がかなり驚いていたからこれでも凄いんだろう。

 

「大英雄……なんつーレアスキル持ってんねんお前」

 

僕もそう思う。

大英雄なんて僕が得られる称号だとは思えない。

そりゃ戦場で指揮したりするし、可能ならサポートもするけど。

 

「このスキル、かなり昔に持ってた奴がいるらしいけど、今は見かけんようになったわ。実績が必要……って噂しか聞かんし当然っちゃ当然やけど」

 

「流石世界の救世主」

 

「誰が聞いても冗談や思うやろけどな」

 

「この基本的な能力はどうすれば成長するの?」

 

「力なら攻撃、耐久なら防御ってな具合に、能力が向上しそうな行動をすれば上がってくで。早い話攻撃受けまくれば耐久ばっか上がってくっちゅう話や」

 

痛いのは嫌だな……冒険者も大変だ。

うーん僕の場合魔力が他よりもちょっと高いけど……。

 

「この性別変更できるってなんやねん」

 

「生まれつきの特技みたいなもんだよ。心も身体も女の子になれるんだよね」

 

「お前なんなん?」

 

「両生類かな」

 

「……まぁええわ。このガンドって魔法は聞いたことも見たことも無いわ」

 

「大したこと無い魔法なんだけど、何故か僕のガンドは異常らしいね」

 

あのビースト・ティアマトに最後の足掻きで打ったガンドが効いた時は、その場にいた全員が凍りついたもんなぁ。

一回打つごとに13分のクールタイムが必要だけど、それでも切り札としては十分すぎる。

 

「つーかレベル1からスキル三つもあるし、全部レアスキルやしなんなんやほんま」

 

「異分子ってやつなんやろなぁ」

 

「真似すんな」

 

コツンと頭を叩かれる。

 

「縁故収集と虚空投影ってのが何なのかは分からんけど、大英雄……このスキル持ってるゆうだけで第一線に投入してもええくらいやな。お前これからどないするんや?」

 

「ダンジョンに入ってみたいなぁ」

 

「ん? ええんか?」

 

「皆には怒られると思う。けど……僕は戦えるようになりたい」

 

マシュが僕の前から消えた時。

ロマンと別れた時。

僕は無力だった。あの場に僕がいることが不思議なくらいに。

もうあんな思いは御免だ。

まっすぐロキ神を見つめると、ロキ神は口角をつり上げた。

 

「分かった。んなら明日さっそく、うちの新人達とダンジョン行ってこいや」

 

~~~~~~~~

 

「というのが全貌でございます」

 

一部を誤魔化しつつ、先ほどまでの出来事を思い出しながら説明した。

話をしている最中にもどんどんと圧力が強まり、最終的に僕は今土下座をしている。

静謐とアーラシュだけが僕の傍にいてくれているが、旗色は悪すぎた。

 

「まぁなんだ、マスターも男の子ってことだ」

 

「こんな馬鹿庇うなよアーラシュ。もう地下牢にでも監禁しとくしかないんだから」

 

「あまりにも重たい刑罰過ぎて僕泣きそう。そんなに悪いことしましたか……?」

 

「当たり前じゃないですか。当たり前じゃないんですか?」

 

ああマシュが笑いながらキレてる。

これは本気で怖いやつだ、洒落にならないレベルで。

でも僕にだって男の子の意地があるんだぞ!

 

「ちょっと待ってよ。そりゃ勝手に行動した僕は悪いけどさ、現状手掛かりがないんだからダンジョンを探すのもありだと思うんだ」

 

「お前が行く意味無いだろ」

 

流石孔明先生、見事な論破でございます。

ふん、朝になったら勝手に出ていくもんね。

 

「というわけで清姫、静謐。今日は朝まで馬鹿の部屋に一緒にいてくれて良いぞ」

 

「おまかせあれ!」

 

「分かりました……!」

 

「おのれ孔明! 謀ったな!?」

 

そんなことしたら色んな意味で逃げ道が無くなるだろ!

 

「安心してください先輩。私も一緒にいますから」

 

マシュの後ろには巴とエミヤまでいる。

僕のダンジョンデビューは始まる前から人生ごと終わりかけていた。

 

 

 

なんてな!!!

 

翌朝。僕は拠点から無事に脱出することに成功していた。

馬鹿め孔明、僕を甘く見すぎたな!

とはいってもここまで上手く行ったのは勿論協力者のおかげだ。

 

「ありがとう、静謐、それにエミヤ」

 

「いえ……マスターのお願いでしたから」

 

「まったく……後が怖いな」

 

そう……エミヤを懐柔することに成功した僕に敗北はなかった。

説得には苦労したが、僕の本心を少しだけ打ち明けたら渋々と了承してくれたのだ。

といっても本日のダンジョン潜りにこの二人が着いてくることになってしまったが……後ろにいつもキングハサンがいるんだ、今さら何人増えようが関係ないだろう。

 

「自分を鍛えたい、というのは良いことだマスター。普段私は君のことを何か考えているように見せかけて何も考えていない、ただ状況に流されて楽しみたいだけの男だと思っていた」

 

エミヤから見れば僕はそんな奴だったようだ。

昔の僕を知ってる人は絶対にそんな風には言わないから新鮮だな。

途中から開き直ることにした結果今の僕がある。

 

「向上心があるのは結構、だがマスターは戦闘経験が皆無。確かに時折サーヴァントと訓練はしていたようだが、だからと言って」

 

「もう昨日いっぱい聞いたってば。分かってる分かってます無茶はしません勝手な行動もしません」

 

僕を心配してくれるのはありがたいけど、少しでも皆に追いつく為なら無茶をするくらいじゃないと無理なんだ。

まだ僕を疑っているような視線を向けてくるエミヤから逃れるように、僕はロキ神との待ち合わせ場所に向かった。

 

 

 

「おう、おはようさん」

 

先に来ていたロキ神が手を挙げて挨拶をしてきた。

なので僕はハイタッチしながら挨拶する。

 

「おはよう」

 

「なんでハイタッチやねん」

 

「なんとなく」

 

「マスターのやることに一々反応していては日が暮れてしまう。ダンジョンに行くのだろう?」

 

ん? とロキ神がエミヤと僕の後ろにいる静謐に目をやった。

 

「確か……エミヤ言うたか。昨日は悪かったな」

 

「気にするな。そちらの行動は当然のものだった」

 

おう、と軽くロキ神は受け入れた。

 

「にしてもお仲間連れてきたんなら必要なかったかもな」

 

ロキ神の後ろにいる少女達にそう告げる。

一人だけ、異彩を放っている美少女と目があった。

というか昨日エミヤとやりあった無表情少女だった。

何を考えているのかまるで読めないその少女は、僕を観察してからすぐに興味が失せたように視線をエミヤにやる。

 

「くそぅイケメンは滅びろ」

 

「私を見ながらふざけたことを言わないでほしいのだが」

 

「紹介するわ。こっちの三人はお前と同じ最近うちのファミリアに入った新人や。挨拶せぇ」

 

「ベルラですわ」

 

「アリスです……」

 

「アティーです!」

 

年齢は僕よりも下に見えるけど、こんな子達でもダンジョンに潜るのか。

三人の挨拶に、僕も紳士的に返さなければいけないな。

 

「やったー! 可愛い女の子達とダンジョン潜りサイッコー!!!!」

 

僕はどうやらテンションが上がってしまっているようだ。

よろしく~と軽く挨拶しようとしたのに思ってもいない言葉が僕の口をついて出てしまった。

ああ、僕を見る視線の冷たさと言ったらない。

 

「一応言っとくけど……うちの眷属に手ぇ出したら……」

 

「人の心を縛ることなんて神にすら出来やしない。特に恋心なんてのぁなぁ!」

 

恥ずかしさを誤魔化すために恥の上塗りまでしてしまった。

誰か僕を殺

 

「あの……私、口の軽い男性は……嫌いなので……」

 

「私も知性の感じられない男性は無理ですわね」

 

「私はー……好みのタイプじゃないかなぁ」

 

殺された。バッサリ殺されたよ今。

男として何か大事なものを失いました。

 

「どうしたマスター? 足が震えているぞ?」

 

エミヤの煽りにも動揺しない鋼の精神力を僕は手にいれたんだ……またひとつ強くなった。

 

「ったく朝っぱらから疲れるやっちゃな」

 

苦笑しながら僕の頭を撫でる。

それからもう一人、僕の発言を聞いても興味無さそうにしていた美少女に目を向けた。

 

「っと一人紹介まだやったな、今回の監督役のアイズたんや。レベルは5、昨日エミヤと戦ったんやし実力は分かったやろ。積極的に戦闘には参加しないけど何かあった時はアイズたんに頼れや」

 

なんでアイズ"たん"なんだろう。

とにかくつまらなさそうにしているアイズたんへ僕からも挨拶した。

 

「アイズたんよろしく」

 

「ぶち殺したる」

 

ただ挨拶しただけなのにロキ神の逆鱗に触れてしまった。

なんでや。

 

「まぁ冗談はこの辺にして。僕は藤丸 立夏。最近神になったばかりの新米冒険者、よろしく」

 

「神になった? あの、どういうことかしら?」

 

「あーそうか言っとらんかったな。最近カルデア・ファミリアってのが発足されたのはまぁ知っとるよな? そのカルデアがこいつや」

 

目を丸くして驚く三人はお互いに顔を見合わせる。

 

「でも神は冒険者にはなれないと聞いてますけど……」

 

「そらな。神が神の眷属になるなんて一大事やで。こいつが例外ってだけや」

 

「どこに行っても例外扱いされるんだ」

 

平和な世界で幸せに生きたい。

とりあえず僕の紹介はそんなもので、僕は二人の紹介をすることにした

 

「次はこっちの番だね。こっちがエミヤ、色んな意味で剣の達人なんだ」

 

「達人というほどの腕はないが、知識面で言えば確かに多少の心得はあるな。よろしく」

 

ベルラとアリスが顔を赤くさせてエミヤを見つめている。

嫉妬で人が殺せるならば……僕はエミヤに殺意の念を送る、エミヤは迷惑そうにして僕から目をそらした。

 

「あとこっちのが……あー……静謐って言うんだけど、見ての通りちょっと人見知りなところがあるんだ。良い子なんだけどちょっと特殊な体質でさ。絶対に触れちゃダメだよ」

 

「そんなこと言われてもなぁ。こんな可愛い女の子に触れんな言う方が無理やわぁ」

 

手をワキワキとさせるロキ神、多分冗談で言っているのだろう。

だがこっちは冗談じゃない。

うっかり事故で死なせてしまうなんて事があってからじゃ遅い。

僕は静謐を守るように背中に隠す。

 

「最悪ロキ神死んじゃうから」

 

「急に物騒やな!?」

 

アイズたんの目が少し細まる。

うーん……隠してあげたかったけど、ここで喧嘩になるよりは事前に話しておくべきだよな。

そう考えて口を開こうとしたのだが、静謐が僕の前に出てきてそのまま抱きしめ直した。

 

「……私の身体は全身が猛毒です。足の爪の先から髪の毛一本一本までが生物を死に至らしめる物です。ですから、お願いします。どうか、私には触れないでください」

 

そう言って静謐は僕を抱きしめる力を少し強くさせる。

頭を撫でると僕を見上げて嬉しそうにはにかんだ。

 

「……マジなん? いや、フジマルは触ってるやん」

 

「僕とか、あと一部の人は耐性があるので大丈夫なんだけど大抵はヤバイよ。触れるだけでも動けなくなったりするから」

 

「こわぁ」

 

ロキ・ファミリアの面々は静謐から少し距離を取った。

仕方がない事とはいえ、可哀相だ……「マスターさえいてくれれば良い」なんて言ってはくれてるけど、本当は色んな人と交流したいだろうに。

ロキ神が気の毒そうな視線を静謐に向け、気を取り直すように手をパンパンと叩いた。

 

「よっしゃ、そろそろ時間も勿体無いしダンジョンに……ん?」

 

僕、エミヤを見てロキ神が怪訝そうな表情をした。

ゆっくり僕らの腰の辺りや背中を見る。

 

「自分ら、武器はどないしたん? 防具も無いし」

 

「武器……あっ」

 

忘れてた、僕の武器無いじゃん。

完全に失念してた。

見ればアティーは剣、ベルラは弓、アリスは杖を装備している。

 

「エミヤ、僕の使えそうな武器ある?」

 

「普段私が使っている双剣で良いだろう。多少質を落としてマスターでも楽に取り扱いできるように調整する。……投影、開始」

 

スッ、とエミヤの手に握られているのはエミヤの愛用する干将・莫耶……のちょっと質が落ちたもの。

それを見てロキファミリアの面々が声を上げた。

 

「え? その剣、今どこから!?」

 

「昨日もいつの間にか取り出していた……」

 

それも気にせず双剣を手渡すエミヤ、少しずっしりとはしていたが僕の手にも驚くほどすんなり馴染んだ。

試しに振ってみようと思ったのだが、「借りるで」と横から夫の剣はロキ神に、妻の剣はアイズたんにそれぞれ掻っ攫われてしまう。

二人は不思議そうに剣をしげしげと眺めていた。

 

「こりゃ……ええ物やな。お前が作ったんか?」

 

「それは贋物だ。見様見真似で模倣しただけの型落ち品でしかない」

 

「贋物? これが? そうは見えんけどなぁ」

 

「そう言っていただけるとありがたいがね」

 

僕は自嘲気味に笑うエミヤに思わず吹き出しそうになってしまった。

出会った頃のエミヤならもっと嫌味なことを言ってただろうなぁ。

 

「で、エミヤの方の武器は?」

 

「私にもこれがある」

 

そしてエミヤはいつも使っている版の干将・莫耶を投影してみせた。

僕が持っている物とまったく同じ剣を、また虚空から取り出したエミヤに言葉を失うロキ神。

だが数秒で立て直した。驚いても仕方ない、という心構えが身に付いて来たようだ。

その後静謐を見たが、先ほどの説明を聞いていたからか特に装備には言及することはなかった。

 

「うし……じゃあこれからダンジョンに行ってもらうけど、その前に私から。お前ら四人はまだ新人や、モンスターと戦ったこともない素人や。初めての冒険に気分が高揚するかもしれんけど、良いか? 冒険者は冒険したらアカン。確実に全員で生きて帰ることだけを考えて安全を第一にせぇ。分かったな?」

 

三人がはい! と元気良く返事をした。

冒険者が冒険するな、か。

なんとなくおかしくなって笑ってしまう。

 

「なんやねん」

 

「いや。必ず生きて帰るよ」

 

「おう。私は一緒に行けんけど今回はアイズたんに、そっちの二人もおるから大丈夫やろうけど、それでも何が起こるか分からないのがダンジョンや。十分気を付けぇや」

 

今度は僕も三人に合わせてはい! と声を出した。

いよいよ僕の冒険の第一歩が始まる。

今回でせめて手応えだけでも感じて帰る、それが今日の目標だった。




ぐだ男スキルの名前も適当だし能力も適当
あとオリジナルキャラを出したのはロキ・ファミリアの新人メンバーが本編に出てなかったので仕方なくの措置です
感想や誤字等ありましたらよろしくお願いします


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6話―初めてのダンジョン―

イベントからイベントへ……FGOは忙しない


ダンジョンに入って一番初めに抱いた感想は、RPGで見たような風景だなぁとかそんなものだった。

洞窟には何度かレイシフト先で入った事はあるけど、明かりがしっかりとついているので外と変わらない感じで歩けるのは初心者にはありがたい。

横道が無いか、罠はないか……あるわけ無いだろうとは思ってはいたものの周りを見ていると、興味深そうに僕を見ているアイズたんに気がついた。

 

「随分落ち着いているんだね」

 

「そう?」

 

「さっきまでとは雰囲気が違う」

 

そうなのかな? 僕に自覚はなかったけど……。

ああでも確かに、今は何となくレイシフト先に来てるような緊張感の中にいる気がする。

 

「怯えは身体を無駄に疲れさせる。怠けは人を殺す。うちの大軍師に教えてもらったんだ」

 

それはサーヴァント全員が当たり前のようにしていることで、僕も気がついたら身に付いていたことだ。

適度な緊張感、言葉にすれば簡単だがこれがなかなか難しい。

 

「貴方はダンジョンに潜る為の心構えがもう出来ている。良い師匠に出会えたんだね」

 

「問題はその心構えに相応しい戦闘技術がまったく無い事なんだけどね……」

 

苦笑しか出てこない。

何度か色んな英雄達に師事を受けたが、皆揃って「お前には才能がない」と突きつけてきた。

それでも巴やエミヤなんかは辛抱強く面倒を見てくれたが、二人もその内僕を諦めさせることにした。

「指揮の才能なら間違いなくある」「後方からサーヴァントを支援する腕は凄い」

違う。僕は皆と一緒に戦いたいんだ。

僕はその言葉を呑み込んだ。

 

「どうしたの?」

 

「いや。…………彼女達が羨ましいなぁ、と」

 

「あの子達が?」

 

僕たちの前を緊張しながら進んで行く三人の少女。

僕にはどうにも眩しく見えてしまう。

彼女達にはまだ輝かしい未来が見えている。

勿論いずれ壁にぶつかるだろう、どこかで挫折するかもしれない。

でもゆっくりと、彼女達は自分の道を進んで行ける。

 

「僕は無力だから―――」

 

気持ちが沈んでいく。

ああダメだ、またあの時のことを、あの時の光景がフラッシュバックしてしまう。

まずいと思ったときには手遅れだった。

 

 

『……良かった。これなら何とかなりそうです、マスター。』

 

『……でも、ちょっと悔しいです。わたしは、守られてばかりだったから――最後に一度ぐらいは、先輩のお役に、立ちたかった。』

 

『―――いよいよだな。ボク……いや、ボクたちが最後に見るものはキミの勝利だ。』

 

『さあ―――行ってきなさい、立夏。これがキミとマシュが辿り着いた、ただ一つの旅の終わりだ。』

 

 

身体が浮遊感に支配される。

自分が立っているのか倒れているのかも分からない。

全部終わってようやく休めると思ったのに、僕は一歩も動けなくなりそうだった。

静謐の声が聞こえてきて、アイズとエミヤが何かを叫んでるのが分かったけど、言葉の意味がわか

 

「マスター、敵だ!」

 

「マシュ! 戦闘体せ……」

 

カチッ、とスイッチが切り替わった。

周りの風景が鮮明に視界に映し出される。

エミヤが僕の肩を痛いくらい強く握っていて、アイズは剣を抜いて僕と三人娘の様子を気にしていた。

冷汗が背中を流れていくのを感じながら、僕は息を調える。

……早々に情けない姿を晒してしまったみたい、恥ずかしいな。

 

「……ごめん、もう大丈夫。ありがとう」

 

僕の顔を見て数秒、エミヤは小さく息を吐き道を開けてくれた。

敵は典型的なゴブリンが8匹、あまり強くなさそうだけど三人娘は随分翻弄されているようだ。

アティーはアリスを背に5匹のゴブリンを相手にし、残りの3匹はベルラを追い回しベルラはそれを弓で迎撃している。

一人一人の動きは悪くないんだけど、統率力と数の差が大きくでている。

エミヤと静謐に待機を指示して、僕はまず近付いてくる敵へ闇雲に弓を放つベルラの肩を掴んだ。

そのまま干将を投げつけて、こちらに向かっていたゴブリンを追い払った。

 

「落ち着いてもっと敵をちゃんと見ようか」

 

「な、なによ! 邪魔しないで!」

 

「アティーたちの方を見て。少し離れた所で様子を見ながら攻撃しているゴブリン、見えるよね? あいつらに弓を射って、意識を散らしてくれ。狙って当てようとしないでとにかく数を撃つ感じで」

 

僕の言っていることが理解できないのか、はぁ? と不満げに僕の方を見ようとしたベルラの視線を僕は指先で目標のゴブリン達へ誘導する。

3匹のゴブリンだけはアティー、アリスを囲んでいる他のゴブリンから一歩離れて様子を伺い、隙を見ては横槍を入れて来ている。

その動きに二人が少しずつ追い詰められていることにベルラも気付いたようだ。

 

「多分あんな感じに前衛と後衛を入れ換えて戦っているから、後衛を攻撃してあの二人から意識を反らしてあげて。追ってきてるのは適当に撒くだけで良いから」

 

「…………分かったわ」

 

渋々了承したといった風だがそれでも良い。

僕はベルラの前に立ち、投げつけた干将の位置を確認……地面に転がっている。

今は取りに行っている暇は無さそうだ、アティーが剣を上手く弾かれてもう1匹のゴブリンから斬られそうになっている。

流石にアリスを庇いながらは難しいだろう、そもそも後衛二人に対して前衛一人となるとなぁ。

僕も前衛なのかも知れないけど、数には入れられない。

一太刀入れようとしていたゴブリンに残った莫耶を投げ、腕を弾いて邪魔をする。

その衝撃で地面に落ちた莫耶は律儀にも干将の近くに滑っていった。

攻撃を邪魔されたゴブリンは当然怒ったみたいで、こちらを睨んで襲いかかろうとした……のだがその瞬間、アリスの氷塊に吹っ飛ばされて地面に激突し気を失ったようだ。

 

「アリス! あと何回打てる!?」

 

「ぇ……ええと、多分二回……」

 

アリスの魔法は中々強力だがそこまで精密に当てられるという程では無い上に、彼女のレベルが低いから何度も撃てるほど魔力も無い……と聞いている。

当てることさえできればゴブリン程度なら確実に倒せる、それなら……。

僕はアリスの視線を引いたまま干将・莫耶へと駆け出した。

それを待っていたとばかりにベルラを適度に小突いていたゴブリン2匹が間に入り、僕へと牙を向ける。

あっ、と叫ぶアリスに構わず僕は一直線に突っ込んだ。

驚き戸惑うゴブリン達……その一瞬の隙が命取りだ。

僕の動向に注目していたアリスが、ゴブリン二匹が直線上に並んでいることに気付いてくれたようで氷塊を発射してくれた。

2匹のゴブリンは仲良く地面に叩きつけられ、僕は安全に干将・莫耶を回収する。

 

「ありがとう!」

 

アリスに手を振ると彼女は恥ずかしそうに顔を背けた。

残りは5匹。

ベルラの攻撃に苛ついたゴブリン2匹がそっちを追い回し、残った3匹は連携をとってアティーを攻め立てている。

アティーの方は殆ど問題無さそうだ、ゴブリン3匹を相手にしても冷静に受けている。

一瞬アティーと目があった、かまベルラが騒いでいるので慌てて1匹のゴブリンに狙いを定めた。

 

「ガンド!」

 

バチンッ! と音が走り、ベルラの方の1匹がひきつけを起こしたかのように動きを止める。

そのゴブリンへと逃げながらもベルラは頭部を撃ち抜いた。

1匹になったゴブリンはもう怖くない。

ベルラの構えた弓に意識が集中しているゴブリンの背中を双剣で突き刺した。

だが前に出過ぎていたせいか、ゴブリンに深く刺さりすぎた剣を無理に引き抜こうとしてバランスを崩して倒れてしまった。

倒れたまま僕はベルラへ叫んだ。

 

「ベルラ! アティーの援護! 1匹集中狙いだ!」

 

「分かってるわよ!」

 

数で勝った以上勝敗は決したも同然だ。

残りのゴブリンを制圧するのにはそれほどの時間はかからなかった。

 

 

~~~~~~~~

 

 

「上手い」

 

後ろで新人達の戦いを見守っていたアイズは藤丸の動き方に、熟練の戦士と比べても遜色無いものだと感じていた。

藤丸の動きは決して自ら前に出て戦う人間のものではない。

だが常に仲間の邪魔をしない位置へと動き回り、サポートも邪魔にならない且つ効果的な方法を選んでいる。

指示の仕方も、前衛にはあえて触れずに好きに動かせておき、サポート役で最大限に攻撃役を生かそうとする方法を選択していた。

小さい部隊の指揮官は自分の思い通りに戦線を動かしたがり、結果的に足並み揃わず壊滅することも少なくないが、藤丸はかなりの場数を踏んでいることがアイズにもよくわかった。

マスターを褒められたからか少し嬉しそうに静謐が頬笑む。

 

「あれでも大分マシになった方なんだが、見ての通り剣の腕は三流にすら届かない。だがマスターは他人を動かす天才なんだ。本人に自覚はないが、誰も彼もつい踊ってしまう」

 

数日前の最終決戦のことを思い浮かべるエミヤ。

そこには藤丸の全てがあった。

全ての特異点で結んだ縁……敵であった者も味方であった者も藤丸の背中を押していった。

エミヤは各特異点については詳細を聞いていただけだったが、それでもただの人間である藤丸に対して憧憬の念を抱くには十分過ぎる光景だった。

 

「訓練はしていると聞いているけど」

 

「私も何度か稽古をつけてみたが……鍛えがいが無いというか才能が無いというか……。あと一歩踏み込む所で半歩足りない、かと思えば踏み込みすぎて先ほどのようになってしまう」

 

誰のどんな指導でも矯正されることのなかった藤丸の動きに、訳が分からないとばかりにエミヤは肩をすくめて首を振った。

本当に藤丸にはまるで戦闘の才能が無かった。

剣に槍に弓に銃……とにかくありとあらゆる武器を用いての訓練は評価E・才能なしの烙印を押されている。

剣を振れば振り回され、槍を振れば放り投げ、飛び道具はどこに飛ぶかも定まらない。

誰かのサポートをする時だけは不思議と上手くことを運ぶのに、自身が前衛として立ったときには驚くほど無力となる。

 

「そんなマスターが良いんです」

 

静謐が珍しくハッキリと口を出した。

ゴブリンと相対する藤丸を見る目が怪しく輝いている。

『弱い上に才能が無いことを自分で理解もしているのにそれでも自分達を目指すマスター』……そんなマスターにむしろ弱いままでいてほしい、と歪み始めているサーヴァントすら出て来ていたりする。

静謐もその一人か……とエミヤは藤丸に同情した。

 

「いきなり武器を投げたのには驚いた」

 

「マスターにとってはあれが最も効果的な使い方だ。酷い話だがな」

 

「……努力すれば誰でも一定のレベルに達することができる筈。なのに何故?」

 

「分からない。私はそれで良いと思っているしな」

 

え? とアイズはエミヤを見た。

 

「変に戦えるようになってしまえば、それだけ慢心や無理をする場面が増える。ならば己を弱者と自覚しその中でやるべきことをやっていてもらえる方が個人的にはありがたい」

 

「なら、なぜマスターをダンジョンに……?」

 

静謐のそれには答えず、エミヤは自嘲気味に微笑むだけだった。

 

 

~~~~~~~~

 

 

ゴブリンの死体から魔石というものを取り出すと、その死体は崩れるように消えてなくなってしまった。

三人娘は随分疲れたようで、肩で息をして座り込んでしまっている。

 

「初戦は大勝利だね」

 

「な、なんであんたは平気なのよ……」

 

「なんでと言われても、一目見て上手く三人と連携が取れれば負けることはないと思ってたし」

 

それにゴブリンが何匹出てこようとサーヴァントが敵にいないなら恐れる理由なんてまったく無い。

勿論油断はしない、例えゴブリンだろうと油断すればあっさり殺されるだろう。

 

「今回は三人ともよく考えて戦ってくれたからね、完璧な勝利だ。この調子で頑張ろう」

 

「よく考えて? ……それは嘘だよ。全部フジマルさんの考えた通りになっただけ……正直私たちじゃ、力不足だと思う。貴方の期待に応えられるかな……」

 

アティーの僕を見る目が少し嫌な感じで、戸惑ってしまう。

何故か僕を高く険しい壁でも見るような目をしている、自信を無くしたような……。

 

「戦況を常に把握して、私たちの力を見ただけで先を理解し……その上で今日会ったばかりの私たちを上手く操り当たり前のように勝利した。私の考えすぎなんかじゃない、明確に貴方と私たちじゃレベルが違いすぎる」

 

……いや、まさかこの僕が恐れられる日が来るだなんて思ってもいなかったなぁ。

確かにベルラがエミヤだったら、とかアティーがモーさんだったら……なんてことを考えなかったと言えば嘘になるけど、それはちょっとした思考トレーニングの一種で彼女たちに失望した訳ではない。

……今はそんなことを考えている場合じゃないか。

ベルラとアリスも戸惑っている、このままだとこのパーティの空気が最悪なものになってしまうだろう。

なんとかせねば。

 

「僕なんてアティーと斬りあったら五秒で瞬殺されちゃうような奴なんだから、そんなに怯えないで欲しいんだけどなぁ」

 

自分にクリティカルダメージを出しつつフレンドリーな空気を出してみたけれど、あまり効果はなかった。

あまり深く考えていなかったベルラとアリスも戦闘中の僕のことを思い出したのか、段々と表情を暗くさせて行っているような気がする。

参った。僕は散々見上げるだけだったから、見上げられることに慣れてない。

 

「……そんな目で見られても困る。僕は君たちの目指すべき形じゃない」

 

確かに経験値の差はあるかも知れないけど、だからといって彼女達を役立たずだなんて思わない。

 

「僕はあくまでサポーターだ。君たちを最高の状態で戦わせるのが僕の役割なんだよ」

 

僕は足を引っ張らないようにと必死なんだ。

一緒に戦ってくれる人には誰にでも感謝している。

だから……うん、そう!

僕はずっとそうだったんだ!

 

「だから、ありがとう! ゴブリンに勝てたのは君たちと協力できたおかげだ!」

 

僕は落ち込みかけた気持ちをこじ開けた。

心の底からの感謝を笑顔で彼女達に贈る。

 

「僕は弱い、強くなりたいけどあまりにも弱すぎる。だから君たちが必要なんだ」

 

弱い自分は嫌いだけど……皆が認めてくれた僕は大好きなんだ。

だから僕はこれで良い。

戦闘訓練は止めないしサーヴァントの皆と肩を並べて戦えるようになるっていう僕の願いは変わらない、変えられない。

でも元々一人で戦うつもりなんて毛頭無かったんだ。

戦力になりたかった、それだけなんだ。

 

「だから僕と一緒に戦ってくれ」

 

僕は彼女達に手を伸ばす。

三人は少しだけ顔を見合わせて、ふっと笑いあったあとに僕の手を掴もうとして、忍び寄る影に気付いた僕は三人の手を掴んで立たせた。

ゴブリンが更に6匹、僕らへと走ってきている。

 

「よし、それじゃ早速新パーティの絆を深めようか!」

 

「……ええ! 精々私たちを上手く使いなさい!」

 

「あんまり連続で魔法は使えませんけど……頑張ります……!」

 

「うん! 誰でも最初は初心者……そうだよね、頑張ろう!」

 

皆との結束が強まった所で早速次の戦闘だ。

僕も三人に負けずに頑張るぞ!

 

「きゃーフジマルさん!」

 

「貴方は後ろで指示してなさいよ!」

 

男の子だもの! 泣かないわ!

 

 

 

「今日はここまで」

 

第一階層を踏破した僕らは、下の階層に降りる穴の前でアイズたんに待ったをかけられた。

今回はとりあえず研修だけということなのだろう。

今回の戦果はゴブリンが18匹、それとコボルトというモンスターが8匹だ。

僕が直接倒した敵は最初のゴブリンだけだ! 泣かない、泣かないんだから。

三人娘はまだまだやれると言った風だが、こういうのは少しずつやっていくのが良い。

 

「種火があればすぐにレベル上げられるのになー」

 

「うっ……」

 

「…………うう……」

 

エミヤと静謐が呻く。

大量にあのどうしようもなく不味い物を食べさせられたんだから仕方ない。

強くなるのは楽じゃないんだなぁ ぐだお

ぐだおって誰だ。

くだらないこと考えてないでさっさと帰ろう、と僕は来た道を戻ろうとして……前から三人の人影が歩いてくるのが見えた。

 

「まったく……やっぱりここにいたか」

 

「げぇっ、孔明!」

 

孔明先生と、その後ろにランスロットとアーサーが剣を構えていた。

僕、マスター狩りにあうのだろうか。

 

「マスター! 勝手な行動は控えてくださいとあれほど!」

 

「まぁまぁランスロット、一応エミヤ達を連れてるんだから良いじゃないか」

 

「しかし……」

 

おや、連れ戻しに来たって訳じゃ無いみたいだ。

そうなると別に疑問が出てきた。

 

「あれ? じゃあなんで三人はダンジョンに?」

 

「今日まで考えたこともなかったことで僕としては非常に恥ずかしいことだけどさ。ここが特異点なんじゃないか、と思ったんだ」

 

「…………特異点? え、でも」

 

「分かってる。受肉してるのと僕たちの契約が切れてるなんて今までにないことが起こってたから有り得ないと断じてた、けど思えばカルデアでのことなんて有り得ないことの連続なんだ。有り得ないなんてことが有り得ないくらいには」

 

「そっか、となると怪しいのはこの辺りだと」

 

つまり孔明先生はダンジョンに聖杯がある可能性に思い至り、二人を連れてダンジョンに潜りに来たと言うことか。

それなら僕のやることはもう決まったようなものだ。

 

「なら僕たちも付き合うよ。三人なら心配はいらないと思うけど戦力は多い方が良いしね」

 

「こっちも見つけたら無理矢理連れてくつもりだったから丁度いい」

 

まったく孔明先生の手の平で転がされるのは何度目のことか。

全部分かっててやってそうだから一生敵わなさそう。

 

「それと…………マスター。マスターの自由を侵害するつもりは無いのですが、もう少し我々サーヴァントのことも考えていただけると。分かりやすく言うならマシュを泣かせるようなことは止めていただきたい」

 

「やっぱり怒ってた?」

 

「怒ると言うよりは……信用されていないのでは、と本気で泣いてしまっていました」

 

あ、ダメそういう本気なの僕の心に来るから。

そんなつもりじゃないんだ、マシュを戦いから遠ざけようとして……避けて……。

 

「うぐぅ……」

 

「うんうん、思い当たることがあったみたいだね。マスターの気持ちはよく分かるよ。ただね、言わない方が良い、言わなくて良いと相手のことを思って本心を打ち明けず、そうしてスレ違いが増えていって何もかもを失うこともある。マシュのことを本当に想うならもう少し話し合った方が良い」

 

やべぇ言葉の重みが段違いすぎてどんな顔をすればいいかわからない。

今すぐにでも戻ってマシュを抱き締めて一頻り撫で回した後で清姫に燃やされたい。

罪悪感半端ねえや。

 

「ええと……そういうわけで僕たちはここから更に下に行くので今日はここで解散……ということで良い?」

 

「良いけど……大丈夫? ダンジョンに行くのは初めてと聞いている」

 

「大丈夫じゃないかな」

 

弓持った敵が100体出てきたら八裂きにされる気もするけど……そういえば相性ってどうなってるんだろう。

うん……まあ大丈夫だ、うん。

アイズたんが何かを言いたそうに三人娘と僕の間で視線を往き来させる。

アイズも着いてきたいようだが、三人娘のことを放っておくこともできないと行ったところなのだろう。

 

「……あの、この三人は私が地上まで送りましょうか?」

 

それに気付いた静謐がそんな提案をする。

じっと静謐を見つめたアイズは、数秒ほど考えて「お願いします」と頭を下げたのだった。




イベント終わって書いて散々展開に悩んで没没没没、ようやく書けました


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7話―怪物の宴―

やはり彼らは……強い。

十階層まで難なく進んできて、改めてそれを再確認した。

私は昨日少しだけ刃を交えた双剣の剣士・エミヤを見る。

あの時、エミヤに自分の剣が届かないことをすぐに悟り、それでもけして遠くない背中だとも思った。

遠くない未来にはあそこにいる、そう決意することができた。

だが今先頭にいる二人の騎士は……もっとずっと遥か彼方にいる。

エミヤを強者だと思っていた、カルデア・ファミリアの中でも上位の存在なのだと思っていた。

でもその推測は大きく外れていた。

アーサーもランスロットも後ろから見ていてまるで隙と呼べるものがない。

ここに来るまでに何度も頭の中で攻撃を行うシミュレートをしてみた。

だが私の思考の内では、全ての攻撃を軽くいなされて私は呆気なく殺されてしまう未来しか想像できなかった。

勝てるビジョンが浮かばない。

特にランスロットは……多分一生を剣に費やしてようやく勝負になるか……と言ったところだろう。

迷宮都市での最強はレベル7のオッタルだ、それは誰でも知っている。

でも……オッタルには彼らほどの凄みを感じたことは無い。

勿論オッタルも勝てない相手であることは分かっているが……それでも、彼らほどではない。

実際に剣を交えてみたい。

自分に足りないものを知りたい。

そんな欲求を抑えるのに私は苦労していた。

いったい彼らはなんなのだろう?

 

 

~~~~~~~~

 

 

「ここは霧が濃いんだね。マスター、僕から離れないように」

 

僕の方に微笑みかけて来るアーサーが眩しい、イケ騎士過ぎて立つ瀬がヤバイ。

強くて優しくてかっこよくて人望もあるとか本当なんなのかな。

僕の男の子魂がキュンキュンしちゃうのでここはアレするしかないよね。

そんなわけで僕は悔しさ紛れにただちに性転換を行うと、隣のエミヤが呆れたように言った。

 

「何故性別を変えた?」

 

「女の子になっちゃうのおほぉ……って奴」

 

「黒ひげの影響を強く受けすぎだ……」

 

黒ひげは良い意味でも悪い意味でも私に近い英霊だからなぁ。

スケベだけど面白くて、悪い所もあるけど男特有の馬鹿な所もある。

親友のようなポジションのおかげで気軽に接することができて助かっていたりもする。

だからこそ影響を濃く受けてしまったんだけれど。

 

「僕にはお前が分からないよ……」

 

孔明先生には受けがあまりよくない。

男の時の私を知っているから気味が悪いのだとか。

自分で言うのもなんだけど、そこそこ可愛いと思うのに。

 

「そうかしら。私なんて分かりやすいくらいだと思うのだけれど」

 

「その気色の悪い喋り方をやめろよ!」

 

「うふふ、照れてるのかしら。うぶな人、可愛いわね」

 

「お前本当なんなんだ!?」

 

反応するのも疲れたと言わんばかりに私を押し退けようとした。

だが待ってほしい……今の私には胸がある。

肩を押そうとしている孔明先生だが、それは甘すぎるんだよなぁ!

 

ぽにょん

 

「きゃっ……」

 

「おいお前今わざとずれただろ!?」

 

「チッ……。でも良いもん胸さわったのは事実だし清姫にあることないこと吹き込んでやる」

 

「基本無いことだろそれ!? やめろよ!」

 

孔明先生はからかいがいがあるなぁ。

面白かったので今日はこのくらいにしておいてあげよう。

 

「………………」

 

おや。アイズたんが目をまんまるくさせて私を見ている、なんだろ?

いやよく考えたら私の性別が変わるのを見るのは初めてか、そりゃ驚く。

 

「あぁごめんね? 私昔から性別を自由に変えれるの」

 

「おかしな話だ」

 

「ほんとにね」

 

エミヤに大きく同意する、実際私もそう思うし。

私にとっては普通のことだったんだけど、流石に幼稚園を卒業する頃には自分が異端であることを自覚した。

同じ性転換仲間のダ・ヴィンチちゃんに聞いてみたけど、そもそも僕の場合いつでも好きなタイミングで変われる上に服装まで今着てるものの異性物に変わるため、「そんな魔術古今東西見回しても無い!」と何故か怒られた。

 

「…………なんで変わったの?」

 

「アーサーがイケメン過ぎたからこっちの方が良いかなと」

 

「どっちが本当の貴方?」

 

「うーん……私にも分からないんだよね。一応生れた時は男の子だったらしいけど、お母さんのお腹の中にいたときに男の子か女の子か判別不明っていう不思議な現象が起こってたみたいだから。だから私はどっちでもあるんだと思ってる」

 

「不便じゃないの?」

 

「別に? 生まれた頃から行ったり来たりしてたから慣れちゃった。勿論両親しか知らないことだったけれどね」

 

そんな話をしながら下に降りる穴を見つけて全員で飛び降りる。

結局十階層ではモンスターに襲われることがなかった。

続く十一階層、十二階層でもモンスターに遭遇しない。

もしかして私たちよりも少し先に誰かがいるのかな。

更に下へ下へと進んで来て十五階層。

降りてすぐにようやくモンスター達に遭

 

「ハァ!」

 

遇するも間も無く全滅していた。

なんだろうね、強くてニューゲームをしてるような感覚だ。

……って、奥から更にゾロゾロとモンスター達が出てきた。

 

「急にヤバくない? なんか物凄い数だけど。ここからはこんな状態が続くの?」

 

「怪物の宴……一匹一匹はそこまで強くない」

 

「つまりモンスターハウスってことか」

 

アイズたんの説明でとあるゲームのトラウマが蘇る。

操作ミスには気を付けようね!

まあ少し時間はかかるかもしれないけど、今回はランスロット達がいるから平気だろう。

 

「ん?」

 

少し遠くの横穴から、数人の男女がこちらへ走ってきた。

よく見ると大柄な男性に背負われた女性に手斧が刺さっており、血まみれになっている。

そして彼らの後ろからこれまた大量のモンスターが追いかけてきていた。

もうすぐそこまで迫っている、まずい!

 

「エミヤ!」

 

「投影、開始」

 

私の合図とほぼ同時に弓と剣を投影し、逃げてきているパーティのすぐ後ろにいたモンスターへと射出した。

 

「壊れた幻想」

 

そして直後に起こった爆発で一気にその数を減らした。

私は爆風で倒れた男女に駆け寄る。

 

「大丈夫!?」

 

「く…………あ、あぁ。ただ仲間が」

 

私は手斧の刺さっている部分を確認する。

傷が深く出血が激しい……手斧を抜いていれば危なかっただろう。

こんなときにジャックか治癒ができるキャスターの誰かがいればあっという間に傷を治せるが、残念ながら孔明先生には無理だ。

くそー、私に魔術の才能があれば……。

苦しそうに呻く少女の頭を撫でる。

 

「大丈夫だよ。すぐに上に戻れるからね」

 

鞄から常備してあった鎮痛剤と水を取り出し、一緒に口に入れて飲ませてあげる。

これで痛みは引くだろう、あとは……。

次から次へと出てくるモンスター達をどうするかだ。

いやなんかもう本当凄い数としか言いようが無い、エリアを埋め尽くす程の夥しい数のモンスター達が殺到してきている。

ランスロットとアーサーが最前線で押し止めてくれているけど、こちらに雪崩れ込んでくるのも時間の問題だろう。

孔明先生があちこちの援護で首が回らなくなってきたのか大声で叫んだ。

 

「いくらなんでも数が多すぎるだろ! ダンジョンってのはいつもこうなのか!?」

 

「こんなこと、今までなかった!」

 

アイズたちが必死に数を減らしているが、圧倒的物量で押し込まれている。

こちらの戦力はサーヴァントの四人にアイズだけ。

いくらサーヴァントとアイズの攻撃が一撃必殺でも、無限のように湧いてくるモンスター達に苦戦を強いられていた。

後から合流したパーティも戦おうとはしたが、足手まといにしかならないことに気づいたのか今は私の側で怪我人の護衛をしていた。

どうしたものか……状況が悪すぎる。

こんな所でアーサーの宝具を使うわけにもいかないしなぁ……。

となるとエミヤなら……そう思った時にエミヤと目が合い、私の所まで下がってくる。

 

「マスター、アレをやるぞ」

 

「うん、お願い」

 

わざわざ許可を取りに来たのか、別に良かったのに。

そして聞きなれたその詠唱に耳を傾け……。

世界が侵食される。

それから敵の殲滅まではあっという間だった。

無限の剣が四方八方から出現しては次々とモンスターを串刺しにしていく。

更にここでならギルガメッシュのような宝具でない限り問題なく使用することができるから。

 

「エクス……カリバーーーッ!」

 

巨大な光線が一直線に放たれた。

光が去った後には何もない、モンスターは跡形もなく消え去っていた。

範囲外だったモンスターも飛んできた剣に貫かれ絶命する。

ついに残りの一匹がランスロットに斬られた所で、世界は元のダンジョンの景色へと戻っていった。

 

「早く上に戻ろう。どうやら今のダンジョンは少しおかしくなっているようだし」

 

ふと見るとこちらの世界の人たちは、今起きた現実をよく理解できていなかったのか硬直していた。

すぐにハッと怪我人のことを思いだしたかのように撤収作業を始める。

その最中……何か、一瞬だけ悪意のようなものを感じた。

でもそれは気にせず私たちはその場を立ち去る。

 

 

~~~~~~~~

 

 

まさか……あれほどとは想定していなかった。

世界をまるごと変化させるスキルなんて聞いたことも見たこともない。

自分よりも高レベルの存在を見るのも初めてのことだ。

それも今日だけで3人も……聞いた話ではこのレベルの相手がごろごろといるらしい。

失っていた熱が再び燃え上がりそうになるが、すぐに己の役割を思い出す。

 

「この辺りのモンスターを全て集めても足りないか」

 

上層、下層から集められるだけ集めてきたのだが、ものの数分で全て片付けられてしまった。

もっと強力なモンスターを集めなければ奴らの実力は測れない。

特にあの紫の鎧を着たあの騎士……。

手加減をしていたわけではない……がまだ実力を出しきっていない事だけは分かる。

例え奇襲をかけたとしても恐らく自分に勝機は無い。

ゾクッ、と背筋を嫌な感覚が走る。

良くないことが起こる前兆だ、これに何度助けられたかもわからない。

一度帰って報告

 

「汝の目的がどうあれ……踏み込み過ぎぬ事だ。もし」

 

反射的に背後へと剣を振り抜いた。

神速の如き刃と謳われたそれはしかし、容易に大剣で払われた。

 

「――――戯れが過ぎれば、貴様の信ずる者の首ごと断たれよう」

 

溶けたかのように骸骨の頭をした……それは、消え失せた。

そして全身から汗が噴出する。

まさか、そんな、なんだこれは?

現実か? 現実であるならば、この世界は何を招き入れたというのだ?

あれは強者などと言う次元ではない。

生物が絶対に抗えないもの……死そのものだ。

そうか、これか。

話に聞いていた髑髏の騎士。

弱者が己を正当化する為に敵の強さを盛って伝えた話なのかと思っていた。

足がガクッと揺れ、その場に崩れ落ちる。

あれはただの警告だった。

だから自分はまだ生きていられている。

もし殺すつもりだったなら……恐らく、俺は死んだことにも気付かぬうちにこの世から去っていただろう。

あんなものを従えているというのか、カルデアという神は。

フレイヤ様に急いで伝えなくてはいけない。

手を出してはいけないと。

 

 

~~~~~~

 

 

地上に帰還した私はロキ神に抱き締められていた。

 

「はー……もうずっとこっちでいればええやん……」

 

「やーそれはちょっと。うちのサーヴァントの一部から不満噴出するんで」

 

どうにも私の容姿はロキ神の合格基準には達していたらしい。

女として軽く自信がついたが、そろそろ離してほしい。

胸に贅肉がついてないせいで骨が当たって痛い。

 

「ロキ様、その辺で。マスターも疲れているからそろそろ帰って休ませてあげたい」

 

白い騎士が笑顔でやんわりと私をロキ神から助けてくれる。

ロキ神が「お、おう」と頬を染める様を見て私の中の男の子の部分が舌打ちをしていたけど、私には気持ちがよくわかるから今はそっとしておく。

それからタケミカヅチという、ダンジョン内で会ったパーティの主神が頭を下げてきた。

 

「今回は本当に助かった。助けてくれてありがとう」

 

「困ったときはお互い様だからね。助けられて良かったよ」

 

「もし何か困ったことがあれば……と言いたいが戦力として助けられることもあまり無さそうだな」

 

タケミカヅチは腕を組んでムムム……と唸りだした。

別に無理してお礼を考えなくても良いのに。

でもこの人、いや神か。良い神だということは伝わったので、私は手を差し出した。

 

「分からないことばっかりだから、よければ友人になってほしいな」

 

「お、おお! うむ、そうだな。困ったことがあればお互い様……こちらも出来る限りのことはする、何かあったら言ってくれ」

 

タケミカヅチ神と固い握手を交わす。

それから眷属の様子が気になる、と走って自分のホームへと帰っていった。

 

「にしてもなんで下まで潜ってったん?」

 

「そういえば説明してなかったね。……でもどう説明すれば良いか分からないからこの話は無かったということに」

 

「お前どっちになっても変わらんなぁ!」

 

「いやぁそれほどでも」

 

テヘヘと照れると頭をスコンと叩かれる。

なんだ褒めてたんじゃないのか。

つまらないなー……と思って私は僕になった。

 

「……いやもう言葉も出んわ」

 

シッシッと野良犬でも追い払うように手を振られた。

それで今日は解散ということになった。

 

「はー疲れた疲れた」

 

「マスター、もしお疲れでしたら私がお運びしましょうか?」

 

ランスロットが何か言い出した。

冗談を言っているような眼じゃない、ランスは本気で僕をお姫様だっこして連れて行こうとしているみたいだ。

僕は即座に距離を取る。

 

「変態!」

 

「何故!?」

 

ガーンとショックを受けるランス。

他のサーヴァントのほとんど全員に言えることだけど、基本善意100%で僕に何かしてくれようとするもんだから対処に困るんだよなぁ。

ただ理不尽な罵倒をしてしまったのはやり過ぎたったな……。

落ち込むランスに謝罪しようとしたとき……。

 

「ん……!?」

 

強い感情を籠められた視線に気付いて咄嗟にそちらを見た。

そこには扇情的な衣服に身を包んだ美人が立っていた。

僕が見ているのに気付いてか、こちらに笑いかけてくる。

む……何か嫌な予感がする。

なんだろう、キアラ感というか迷惑姉妹感というか……。

逃げ出そうか迷っているうちに、女性は僕の目の前まで寄ってきた。

近くにまで来て分かった。この人神様だ。

 

「初めまして」

 

少し身構えていると、普通に挨拶されてしまって面食らう。

まだ嫌な予感は消えないがここは冷静に対応しよう。

 

「初めまして?」

 

「私はフレイヤ、よろしく」

 

手を差し出してきた。

ダメだ、このままここにいると厄介なことになる。

僕はそれを確信したし、周りの皆も全員同じことを思っているみたいだ。

アーサーとランスロットが間に割って入ってこようとする気配を察知した。

なので僕は素早く手を握った。

 

「よろしく!」

 

「マスター!?」

 

そっちの方が面白そうだったしね、是非もないよね。

やーこう近くで見ると本当に美人だ。

サーヴァントの皆も美人揃いだが、フレイヤは少し特別に感じる。

うん凄い好き、滅茶苦茶好きだ。

 

「あーこれ魅了かぁ」

 

無意識に僕の口から出てきた言葉にフレイヤは少し口を開けて驚いていた。

うんこれはあの姉妹に魅了を受けたときに似ている。

フレイヤの為なら何でもしたい、尽くしたい……なんて気持ちが溢れてくる。

が僕はこの気持ちへ蓋をする術を知っていたりする。

 

「皆、ここで争うのはやめてほしい」

 

フレイヤを敵と認識したサーヴァント達が武器を抜こうとしたが、彼女を死なせる訳にはいかないので止めるように指示した。

これが惚れた弱みってやつか、初体験。

 

「えーと……それで僕に魅了をかけて何が目的で?」

 

「……貴方が欲しい、と言ったら貴方は私のものになってくれるかしら?」

 

「うーん……なってあげたいけれど、心の底からフレイヤのお願いを叶えてあげたいけどそれは無理だなー。僕は僕のもので誰のものでも無いから」

 

「じゃあ貴方の眷属が欲しいと言えば?」

 

「それは別に好きにすればいいと思うよ。皆がそれを願うなら僕は許可するつもりだし。……うんでもただ……魅了をかけて本人は望んでないのに眷属にしようとするなら……戦争になるのは覚悟してほしいかな」

 

僕は人の心を無理矢理縛るのはとても嫌いだ。

それはその人の誇りや芯を無理矢理ねじ曲げる行為であり、サーヴァントを尊敬する僕には到底許せることではない。

それは例え愛するフレイヤであろうと変えようの無いことで、もしそんなことをしたなら僕は僕の全てを使ってフレイヤを殺す。

 

「今日は挨拶だけで、喧嘩をしに来た訳では無いの。異世界からの住人が神になるなんて話を聞いて少し興味があっただけよ」

 

「小悪魔のような笑顔も素敵だけど、そんな理由で魅了をかけるのは正直どうかと思うんだなぁ」

 

「……ふふ。確かに魅了はかかっているのに、それを押し込めるなんて……素敵ね。並外れた精神力よ」

 

「お褒めいただき恐悦至極。ところで魅了解除してほしいんだけども」

 

「一度かけたら解けないわ、ごめんなさいね」

 

そんなー。

別にあまり問題ないけどこの胸の失恋感はできるなら解いてほしかったなぁ。

と少しガッカリしていたら、いつの間にか目の前にいたキングハサンが空を切った。

……魅了が完全に解けた。

 

「……いやもうなんていうか……流石キングハサン」

 

流石カルデア最強のチートサーヴァント、やることが一々凄まじい。

まさか魅了を断ち切るなんて思わなかった。

ここでもうひとつアクシデントが起きた。

横から物凄い早さで突っ込んできた人影が、僕とフレイヤの間に素早く潜り込んでそのままフレイヤを連れて大きく距離を取ったのだ。

 

「フレイヤ様! ご無事で!」

 

「オッタル? 何を?」

 

「……申し訳ありません。今は何も聞かずに、塔に戻りましょう」

 

「………………わかったわ。それじゃあね、カルデアくん。貴方は……ええ、すごく良いわ」

 

慌ただしく二人はそのまま去っていってしまった。

一体なんだったんだろうか?

よく分からないけど面倒ごとになるフラグが折れたような気がする。

僕はキングハサンに言った。

 

「そんなこと出来たの?」

 

「人と人には必ず縁が存在する。その縁を一時的に断ち切った」

 

何出来て当たり前みたいな風に言ってるんだろうこの人。

やっぱりキングハサンがいるとつい「もう何も、怖くない」とか言いそうになってしまうなぁ……。

うーむ、これは少し考えなければいけない。

僕の今後のためにも。




いかん、キングハサン強すぎて「もうあいつだけで良くね?」状態になる
なんとかせねば……


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8話―疲労― NEW!

遅くなりました


『彼らは危険です、フレイヤ様。もし争うことになれば……滅びるのは間違いなく我々でしょう』

 

オッタルの報告を思い出して、何度目かも分からない深いため息を吐く。

性別を変えるだなんてありえない、どっちが本当のカルデアなのかしら?

異世界を召喚するなんてスキル聞いたことがない、人間にそんなことができるなんて思わなかった。

全身が毒になっている少女なんて可哀想だわ、他者と触れ合えないなんて考えられない。

数百ものモンスターを一瞬で消滅させるなんてあり得ない、できれば見てみたい。

オッタルが勝てないと断言する紫鎧の騎士……欲しい。

……次から次へと欲求が溢れて来てしまう。

この気持ちは誤魔化しようがなかった。

 

「ダメよ。ダメ、私は彼らが欲しい。特にカルデアのことは絶対に。諦めるなんて出来ない」

 

髑髏の騎士。

オッタルが特に怖れ避けようとする騎士。

ただそこにいるだけで死を覚悟する規格外、報告を聞いただけで背中にゾクゾクと快感が走った。

魅了をかけてでも奪い取りたい。

でもカルデアのような強い意思を持っていることは十分考えられる。

ああ、カルデアも良かった。

殆ど壊れているのになお強く輝く魂を持つ少年。

普通なら廃人になっていてもおかしくない程にボロボロで、にも関わらず精神力一つで形を保っている。

何度も身体の熱を冷まそうとして、気が付くとまた彼のことを思い出してしまう。

私の魅了は見ただけで相手を虜にするもの。

カルデアにはそれが効かず、触れることでようやく魅了に成功した。

そして魅了は確かにかかっていたのに、彼はそれを抑え込んだ。

あの時のカルデアは、まるで何度も魅了にかけられたことのあるような反応だった。

まさかイシュタル?

彼がどこから来たのか気になって仕方がない。

……明日また会いに行ってみようかしら。

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

「ただいまー」

 

「お帰りなさい、先輩」

 

家に入ると笑顔の素敵なマシュに出迎えられた。

いやかわいいね本当マシュ可愛い。

 

「次にお前は、『ご飯とお風呂の前に私をどうぞ』と言う』

 

「言いませんよ♪」

 

よーし本気で怒りマシュモードになっていることを確認した。

目が笑ってない上に完全武装してる段階で察してはいたけれど、普段滅多に怒らない後輩が怒ると少し怖い。

だから僕は予てより考えていた対マシュ決戦兵器を投入することにする。

 

「マシュ」

 

「なんです……きゃっ!」

 

マシュの腕を引いて密着し、そのまま壁まで追い込む。

驚きのあまり硬直するマシュの耳元に顔を近付けて囁いた。

 

「可愛いね」

 

「………………!?」

 

「マシュみたいな後輩を持てて僕は嬉しいよ。優しくて、でも僕の事を想って本気で怒ってくれる。マシュは最高の後輩だ」

 

「ぇ……」

 

「でもマシュは笑顔の方が何倍も輝いてるよ。ほら、笑ってマシュ」

 

「せ、先輩……」

 

「照れてるマシュも可愛いね」

 

茹でダコのようになった照れマシュを見て、僕は勝利を確信すると共に二人の英雄に感謝した。

ありがとう、フェルグス、ダビデ。

 

『女はこう……ガッ! と抱き寄せて耳元で褒めちぎってやればすぐに落ちる。マスターなら百戦錬磨も夢じゃないだろうな』

 

『特にマシュには良く効くだろうね。愛してる、なんて陳腐な言葉でもそれがマスターの言葉なら彼女は簡単に行っちゃうね。ころっと行っちゃうよ』

 

いや僕としても大変クズい行動なのは理解しているさ。

でもこの場を切り抜けるにはこれが安全かつ誰も傷付かない方法な訳で。

なんで背後から溢れ漏れているお父さんの殺気には気付かないことにした。

口をパクパクと動かすマシュから離れ、僕は難から逃れたとホッとした気持ちで居間に入っ

 

ぐちゃ

 

「お帰りなさい、マスター」

 

「申し訳ありませんでした」

 

巴さんがニコニコと笑みを浮かべながら、リンゴを握り潰していたのを見て僕は風よりも光よりも早く、扉を開けた体勢から流れるような動作で土下座した。

 

『良いかマスター? 世の中には逆らえない女ってのもいる。本能で分かるはずだ、もし出会っちまったら……そうさなマスターなら全てを投げ出して許しを乞うしかないな』

 

今の巴さんには本能的に逆らえる気がしなかった。

くぅ、年上のお母さん属性持ちには無条件で降伏してしまう自分が悲しい!

頭の上から巴さんの平坦な声が聞こえてくる。

 

「謝罪は結構。それで?」

 

巴さんに先を促される。騒動を聞き付けてなんだなんだと降りてきた居残り組も、僕の姿を見て事情を察したようだ。

マシュも復帰してきたようで、僕を逃がすまいと盾を構えているけど顔はまだ赤い可愛い。

皆の視線が突き刺さる、ここまでのようだ。

僕は今までのことを細部まで説明することにした。

さて何から話すべきか。

 

「まずは僕の生い立ちからだな。あれは冷たい雨の降り頻る夜のことだった。僕は母のお腹の中でじっとその時が来るのを待っていたんだ」

 

「まだ生まれてすらいねぇのかよ」

 

クーフーリンにコツンと槍で叩かれた。

 

「そうだよ僕が犯人だよ!」

 

「何をしたんですか先輩!?」

 

「家出かな」

 

清姫が反応したのに気付いて即座にフォローをいれる。

清姫検定三級取っといて良かったね。

……そろそろ冗談は止めておこう、巴さんが凄く悲しそうな顔をしてるし。

やめてそんな顔されたら罪悪感に押し潰されるの。

 

「ごめん巴さん、僕が悪かったからそんな顔しないでほしい。えーと……まぁ皆予想していたと思うけど、今日はダンジョンに行って来たんだよね。孔明達と戻ってきたんだから分かるよね」

 

「はい。先輩が居なくなっていることに気付いた後、孔明先生がこの世界が特異点でそれなら怪しいのはダンジョンだ、という仮説を立てランスロット卿とアーサー王を連れてダンジョンに向かいました。なので先輩がダンジョンに居たことは分かりますが……」

 

「問題はなんで黙って行ったのかってこったな」

 

この場にいる皆の気持ちを代弁したクーフーリンに、全員が大小あれど非難の視線を浴びせてきた。

その視線の大元は僕のことを心配してのものなだけに、強く文句を言いにくい。

けど少しくらい反論しても良いよね。

 

「昨日伝えたら、清姫部屋に監禁された上に皆で寄ってたかって僕を揉みくちゃにしたよね? だからもう、強硬手段しかないかなって」

 

「それはそうですが……」

 

「あーいや、僕も悪いんだ。もっと真剣に話すべきだったかもしれないなぁとは思ってるし。皆本当にごめん」

 

僕がダンジョンに行きたかった理由は個人的な事でしかない。

恥ずかしがらずに打ち明けていれば、渋々とでも承諾は得られただろう。

僕はマシュを見た。やっぱり可愛い。最高の後輩。怒り顔も可愛い。

でもさっき本人にも言ったけど、やっぱりマシュには笑顔が似合う。

うん、恥ずかしがっていても仕方ないよね。

 

「僕はマシュを守りたい」

 

「え? ええと、それはどういう……?」

 

「皆知っての通り僕は弱い、皆に戦い方を教えてもらっても一向に上達しなかった。でも僕はここで冒険者になった。強くなる可能性を貰えた、だから……マシュを守れるくらいに強くなろうと思ったんだ」

 

あー顔が熱い。

なんだろうね、屋上から大声で告白してる気分。

マシュも顔を真っ赤にさせている。あー可愛い。

清姫の顔も凄く赤い。怖い。

僕の告白を聞いた皆は顔を見合せ、それからエミヤと静謐に視線が向かった。

エミヤは肩を竦める。

 

「マスターからそう言われては、私と静謐も動かざるを得なくてな。清姫に眠り薬を盛り、インフェルノには我々が監視するからと部屋に戻らせた」

 

「そりゃ好きな女守る為に強くなりたいって言われたら断れねぇよなぁ」

 

「そーなの?」

 

「ガキと女にゃわかんねぇだろうけどな!」

 

良く分からない、と目を丸くしたジャックにクーフーリンは笑う。

マシュは「すっ!?」とようやく落ち着いてきただろうにまたもフリーズしてしまったようだ。

 

「守る必要も無いくらいマシュは強い、それは分かってる。でも……だからって弱いままの自分で良いわけないだろ?」

 

マシュは普通の女の子なんだ。

……そんなこと言われなくてもわかってる。

初めから分かってたさ。

 

「まぁそんな訳で、僕はこれからもダンジョンに潜ると思う。キングハサンもいるから平気だと思うけど……今度からはちゃんと皆を連れていく。それで良いかな?」

 

「……分かりました。ですがマスター……私たちは皆、マスターのことを大切に思っていることを忘れないでください」

 

「ありがとう」

 

隠していた本心を話して、少しだけ気持ちが軽くなった。

いつまでも甘えていられないんだ。

ここから戻ったら皆いなくなっちゃうから、僕は強くならないといけない。

……ん。視界がぼやけてきた。

疲れが溜まってるみたいだ。

 

「今日はそろそろ休ませてもらうよ。お腹減ったなぁ、エミヤママーご飯出来たら起こし」

 

立ち上がろうとした僕の身体は、何の制御も利かずに崩れ落ちた。

身体にはなんの痛みも無い。

 

「……あれ?」

 

「先輩っ!?」

 

なんだろう、意識が遠のいてきた。

皆の僕を呼ぶ声は聞こえるのに口が動かせない。

代わりに僕の口から、生暖かいものが溢れてきた。

そのまま僕は闇のなかに沈んでいった。

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

そんな、なんで。

先輩の口から血が……。

 

「薬はどこだ!?」

 

「薬なんざあんのか!? つかまずなんの薬だ!?」

 

「お、おかあさん……?」

 

「お前ら落ち着けっての! 騒いでも時間を無駄にするだけだ!」

 

「マスター! しっかりしてください!」

 

「仰向けは危険だ! 気道を確保しろ!」

 

皆さんが大慌てで動きだしました。

私は先輩の手を握ることしかできなくて……私はいつもそうです……本当に何の役にも立てない……。

 

「ふん……呆れ返る程の愚鈍さよな。己の身のことにも気付かずにもがき続けるなど、だから雑種だという」

 

「……ギルガメッシュ王」

 

「揃いも揃って情けない。マシュ、貴様のやるべきことはそこで死にそうな面をしていることか?」

 

ギルガメッシュ王の声には、不思議と力があります。

石にでもなってしまったかのような私の体に力が戻って来て、私は先輩の身体を持ち上げてそのままソファに寝かせました。

先輩の体はとても軽くて、辛そうな表情を見ているだけで胸が締め付けられるような気持ちになってしまいます。

ここはカルデアではないので、すぐに適切な治療を施すことができません。

このまま先輩は……。

 

「おい。それ以上我の前で騒ぐようならば、死を覚悟せよ」

 

ギルガメッシュ王の言葉を聞いた途端に喧騒が瞬時に止み、私の思考が一瞬にしてクリアになりました。

そのままギルガメッシュ王は指示を出しました。

 

「フェイカー、いくら異世界と言えど医者の一人二人は居るだろう。人伝にでも探して連れて来い。そこの犬もだ」

 

「犬って言うんじゃねぇ!」

 

「落ち着けクーフーリン。……分かった」

 

「もし居ないようならば魔術師を探せ」

 

いつもならここで一悶着ある所ですが、クーフーリンさんはあっという間に外へ出ていきました。

 

「壊れかけの身体に過度のストレスが耐えられなかったのだろう。まったく……今の人間は貧弱過ぎる」

 

「壊れかけ……? ギルガメッシュ王、それは?」

 

「…………口が滑った。今のは忘れよ」

 

「待ってください! 忘れるなんて無理です! どういうことですか!?」

 

「まったく、王が忘れろと言ったのならそうするのが道理であろう。……が、そうさな……貴様は雑種にとっては特別な存在だ。良かろう、特別に教えてやる」

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

「ファラオの兄さん。飯買って来たぜ、少し休憩するか」

 

「うむ。しかし肉体というのも不便な物だな。食事を摂らねばならぬ上に睡眠まで必要だ。おまけに動けば疲れもする……生前当たり前のように繰り返してきたことだと言うのにな」

 

「良いじゃないか、俺は生きてる感じがして好きだぜ?」

 

「確かに悪くは無いな、うむ」

 

ハハハと笑いかけると、何故かファラオの兄さんは視線をそらしてしまった。

兄さんは時々こういう事がある。

最初は俺の顔が好ましくないのかとも思ったが、悪印象を抱かれている様子はないから気にしないことにしている。

 

「にしても向こうは大丈夫かね?」

 

「ん? あちらは黄金のに任せておけば良かろう」

 

握り飯を食べながら千里眼の使用を試みてみたが、相変わらずうっすらと見えるだけだ。

戦闘中は良く見えるんだが、平時の時には何故か霧がかかったようになっちまう。

……だが今回はうっすらとでも状況が分かった。

 

「おいおい……マスターが血を吐いて倒れたぞ!」

 

「なに? ……まったく、軟弱な……余のマスターたる自覚が無さ過ぎる。…………それで、無事か?」

 

「直接見たわけじゃないから何とも言えないな……」

 

「ふむ、一度戻るべきか……。いや、向こうには数多の英霊が居るのだ。問題無かろう」

 

「治療の得意なサーヴァントがいないのが難しい所だな。外傷ならどうとでもなるけどよ、精神的な問題ってのは厄介だな……」

 

とりあえず向こうは向こうに任せるということにして、飯を平らげながら今朝の事を思い返す。

マスターの失踪で少し騒ぎになったものの、一緒にエミヤと静謐のが居ない事もあって計画的な家出だと判断され、マスター狩りが始まりそうになったのを俺が止めた後。

ダンジョンに行くか街を調べるかしようかと思った矢先にファラオの兄さんに声をかけられた。

 

『名も無き弓兵よ。余は散歩に出かける』

 

『おっ、そうかい。どんな危険があるかも分からないから気をつけてな』

 

『……うむ』

 

『っと、俺も丁度外に出ようと思ってたんだ。どうせなら一緒に行かないか?』

 

『ぬっ! そうまで言われて断る訳にいかんな。……特に赦す! 余の供をせよ!』

 

『おう! ありがとな!』

 

去ろうとするファラオの兄さんの背中が寂しそうだったから声をかけてみたが、楽しそうで良かった。

本来の目的は達することができなかったのが残念ではあるが、息抜きも必要なことだから問題無いだろう。

ん……少し目立ちすぎたか、視線が俺たちに寄ってきているみたいだ。

ファラオの兄さんが食べ終わるのを待って移動しようと思っていたけど、とっとと場所を移した方が良いかもしれないな。

 

「兄さんたち、この辺りでは見ない顔ね? 暇ならうちに寄ってかない?」

 

そう思った矢先に声をかけられてしまった。

妙に胸を強調した装いだ、恐らく娼婦か?

 

「悪い、そういうのは間に合ってる」

 

「あら? もしかしてお二人さん、そういう関係?」

 

「ハハハ! ファラオの兄さんに認められるなら嬉しいけど、残念ながら違うぜ。うちのファミリアじゃそういうのはやめとこうって話になってるだけだ」

 

ファミリアじゃないが、カルデアではサーヴァント同士のそういうのは無しと暗黙の了解になっている。

争いの種になりかねんし、そもそも俺含めて全員マスターが好きだから問題は無い。

何故かファラオの兄さんが信じられないものを見るように俺を見てきたが、とりあえずそれは置いておく。

 

「ここには視察に来ただけなんだ。何分この街は初めてでな」

 

そう言うと、何故か娼婦の姉さんは怯えたような表情をした。

 

「……貴方達、もしかして最近現れたカルデアって神の……」

 

「フハハハ! 何度聞いても面白い! あやつが神などと……フハハハハハ!」

 

兄さんが楽しそうで何よりだ。

娼婦の姉さんはファラオの兄さんに威圧されて、走って逃げてしまった。

 

「む? なんと不敬な……まあ良い、ファラオの威光に恐れ戦くのは致し方ないことよ。……それよりゆう……名も無き弓兵よ」

 

「なんだい? っと、そういやいつも名も無き弓兵なんて面倒だろ? 俺のことはアーラシュで良いぜ」

 

「お、おおおおおお…………! い、いや! ……そ、そうだな。フッ、余が名を覚える栄誉をやろう。アーラシュ!」

 

「おう! ありがとうな! それで何かあったか?」

 

「う、うむ…………先ほどの」

 

兄さんが話始めようとしたその時、急に陽の光りが遮られて俺と兄さんはすっぽりと陰に飲まれてしまった。

遮った何かの方を見てみると、巨大な女が俺達を見下ろすように立っていた。

 

「ゲゲゲゲッ。まさかカルデアの所のがわざわざ来てくれなんてなぁ。しかもどっちも良い男じゃないかぁ。久しぶりに楽しめそうだねぇ!」

 

どうにも友好的な雰囲気では無さそうだ。

舐め回すような視線を無遠慮に向けてくる。

どうしたもんかと考えるよりも早く兄さんが動き出してしまった。

 

「……おい貴様。不敬極まるその行為、万死に値する」

 

と言って、思いきり蹴りつけてしまった。

 

「ぎゃっ!! ……テメェ! いきなりなにしやがる!?」

 

「まったく! 貴様のような醜き者が太陽の輝きを遮るなど、これ以上の罪も無い! 余の気分を害した事も含めて赦しがたい大罪だ! 余自ら断罪してやろう!」

 

「んだとォ!? やれるもんならやってみろやぁ!!」

 

やべぇ、向こうもかなりやる気になっちまった。

止めるのは無理そうだな。

 

「兄さん、せめて周りに被害が出ないようにしてくれ。俺もなるべくフォローするけどな」

 

「無論だ。余に無辜の民を害する趣味は無い」




イベントが忙しかったり書いてはスマホバグって消えを2~3回繰り返しました
最初に書いてたものと大分変わったなぁ

誤字や他なにかありましたらよろしくお願いします


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何時かの消え去った幕間の物語

深い闇の中を落ちていく。

底なんて無い。

このままここを漂うのだろう。

恐怖はあるが、後悔はない。

最後に驚愕もあった。

あの子は今、泣いているのかな。

悲しませたくなかった。

でも心の中は暖かくて、つい笑みを作る。

 

「何故だ?」

 

声は震えていた。

その声に答えることはできない。

声を失ってしまっている。

 

「分からぬ」

 

分からなくても良いんだ。

だから面白い。

分からないから面白いんだよ。

 

「絶望だ」

 

そう……絶望だ。

でもそんなの皆知ってる。

だから笑うんだ。

絶望に飲まれないように。

隣を歩く人が笑顔なら、絶望を忘れられる。

 

「何故だ……何故笑える。もう何も無いと言うのに……」

 

やるべきことはやった。

勝利し、そして敗北した。

結果に満足している。

 

「…………そうか。お前は―――」

 

そこから先は聞こえない。

 

「哀れな。我ら―――」

 

大事なことを言っているような気がするのに、耳に届かない。

聞こうともしていない。

コツン、と何かが頭に当たった。

何かは分からない。

目はもう潰れている。

手足も無い。

どころか形もほとんど無い。

 

「これは―――救い―――」

 

悲しみに打ちひしがれていた声が、喜びに変わったのが分かった。

嬉しいことがあったのなら、それは良いことだ。

こちらまで嬉しくなって、また笑顔になる。

 

「人――――――苦―――界―――」

 

テレビの砂嵐のような雑音が聞こえ、気が遠くなる。

ふわっと身体が浮くような感覚の後、轟音が鳴り響いた。

身体は動かない、その音の波に飲まれ流される。

ベキベキベキ……と何かが剥がれるような音が辺り一帯から響いてくる。

なんの音かは分からないが、何か焦燥感のようなものを覚えた。

知っているような気もするし、知らないような気もする。

ただ気が焦る。

 

「―――――――――」

 

声のようなものが聞こえるが、言語を正しく認識できない。

その声に慈愛を感じた。

生命への敬愛を感じた。

やがてバキバキという音は消え、浮遊感に包まれたまま天へと上って行く。

どこに行くのだろう。

何も分からないまま……どのくらいの時間が過ぎたのか。

突然水のなかに落ちた。

一瞬怯んだが、すぐに自分が既に呼吸を必要としない存在であることを思い出して落ち着いた。

不思議なことに、ここは水のなかである筈なのに暖かい。

そしてそのまま意識は残った身体ごと霧散しかき消された。

消え行く意識の中、ふとくだらないことを考えてしまった。

 

 

(俺は……間違っちゃいない……)

 

 

消える。

世界が消える。

でも、何もかもが無くなる訳ではない。

この心の中にあるものは、無くさない。

 

―――皆、大好きだよ―――




無駄に伏線だけ置いときます
自分の腕でこれを上手く回収できるだろうか……


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