絶望の世界に希望の花を (Mk-Ⅳ)
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プロローグ1

始めましての方は始めまして、Mk-Ⅳと申します。
他の作品で知っている方は、本作も目を通して頂きありがとうございます。

本作は、個人的に好きな作品をスパロボ風に掛け合わせたものとなっております。多くの方に楽しんでもらえるよう頑張りますので、アドバイス等を頂けると嬉しく思います。


世界がどれだけ絶望に包まれていても、僕達の世界は壊れることはないと信じていた。
大切な人達と一緒に遊んで笑って、悲しいことがあれば共に泣いて、辛いことがあれば励まし合う。そんな大好きな日常がすっと続くと信じていた。
でも、そんな幻想は空が落ちてきたあの日に崩れ落ちた――









































徳島県にある神社の神楽殿にて、10~11歳程と見られる少年が目を覚ました。

「起きましたか優君?」
「ん…ひなた…」

目を開けた少年――蒼希 優(あおき ゆう)の視界に同年代の少女の顔が映る。
上里(うえさと) ひなた――優の幼馴染の少女の1人である。
優は彼女の膝に乗せた頭を上げると周囲を見回す。
彼らは通っている小学校の修学旅行で、香川から徳島へやってきていたのだった。
位置的には隣り合う県同士であり、その気になれば学校行事と関係なく訪れることもできるが。今の世界情勢では仕方のないことであった。




『バアル』――そう総称されている人ならざる侵略者によって、世界はその在り様を大きく変えてしまった。




十数年前。突如宇宙から飛来した隕石が南極に落下し、そこから現れた異形の存在『サベージ』が人類に襲い掛かった。
現存するあらゆる兵器を上回る力を持ったサベージによって、多くの都市が壊滅し。人類は滅亡の危機に瀕した。
だが、アメリカにある『ワルスラーン社』が、未知の鉱石『ヴァリアブルストーン』を核とした新型兵装『百武装(ハンドレッド)』を開発したことで、対抗手段を得た人類によって地球上から駆逐された。
この出来事は『第一次遭遇(ファーストアタック)』と呼ばれることとなり。その3年後に再びサベージが出現する、『第二次遭遇(セカンドアタック)』が起きてしまう。
しかし、既にハンドレッドを用いる者『武芸者(スレイヤー)』を中心とした防衛体制を構築していた人類に敗北はないと誰もが信じていた。
だが、セカンドアタック勃発後暫くして。人類に新たな脅威が出現した。
生物に寄生してその遺伝子を書き換え、サベージとも異なる異形の怪物へと変貌させてしまう新種のウィルス『ガストレアウイルス』が世界中に蔓延し。地球上に存在するあらゆる生物が『ガストレア』と呼称された怪物に変異し、サベージと共に人類に襲い掛かった。
非常に強い再生能力と、人間すら瞬時にガストレア化させる繁殖力によって。天文学的に増殖したガストレアに、サベージの対処だけで限界だった人類は瞬く間に駆逐されていった。
今度こそ滅亡するかと思われたが、『バラニウム』と呼ばれるヴァリアブルストーンとは異なる未知の鉱石が、ガストレアとサベージに非常に有効であることが判明した。
さらに、日本の科学者である日野 洋治(ひの ようじ)とミツヒロ・バートランドがパワードスーツ『ファフナー』を開発したことで決死の反抗を行う。
激しい戦いの末、消耗した今の人類では勝機はないと判断した人類は、バラニウムによる巨大な壁『モノリス』を建造し。その内部に立て籠もることで生存することができた。
現在の日本は、バアルによって国土を分断され。残された生存圏は東京・大阪・札幌・仙台・博多、長野、沖縄――そして、優達が暮らす四国のみであり。それぞれが独立した国家として国連に承認されたのだ。




セカンドアタックから7年の月日が経ち、崩壊しかけた秩序はある程度の回復を見せ。世界中のエリア間での空路と海路による交通網は構築されているも、それでも100%安全とは言えず。余程のことがない限りは、エリア間を移動することは暗黙の了解として禁止されていた。
そのため修学旅行地が近隣であろうとも文句を言う生徒は殆どいなかった。
優もひなたともう1人の幼馴染と共に修学旅行を楽しんでいたが、そこで強い地震に見まわれた。地震はその後も断続的に起こり、教師達が非常事態と判断して、地域の避難所であるこの神社へ生徒達を避難させたのだ。他にも近隣住民が避難しており、神楽殿には老若男女問わず多くの人が集まっていた。
老人を始めとした大人は、先行きが不透明なことに不安を隠せていない者が多く。逆に学生ら若者は何かのイベントに参加したかのように楽しんでいる者が殆どであった。

「具合はどうですか?」
「うん、大分良くなったよ。ありがとうひなた」

ひなたが不安そうに問いかけるも、優が微笑んで答えると。ホッとしたように胸を撫でおろした。
優は生まれつき身体が弱く。長時間体を動かすことができないのである。そのため学校にも余り通えず、家に閉じ籠ることが多かった。
だが、必死の治療の甲斐もあり。小学5年生となった今年は体調も良くなり、医師から今回の修学旅行への参加が許されたのだった。
とはいえ、激しい運動は厳禁であり。適度に体を休ませることが条件となっていたが。地震のため今いる神社に休みなく避難したことで、体に負担がかかってしまい。ひなたの好意で膝を借りて休んでいたのである。

「――そういえば、若葉は?」

優がキョロキョロと辺りを見回し。もう1人の幼馴染を探す。

「若葉ちゃんならあそこですよ」

そういってひなたが指さした方に視線を向けると。見知った少女が1人立っていた。
凛とした顔立ちをしており、その佇まいかた育ちの良さを感じさせるも。その表情はどこか困ったように曇っていた。
――乃木 若葉(のぎ わかば)優のもう1人の幼馴染であり、学級委員長を務めている。
彼女の視線の先には、クラスメートである3人組の少女がおり。一様に若葉から向けられる視線に困惑した様子であった。

「(やれやれ)」

その光景見ただけで優は状況を把握し、隣にいるひなたへ声をかける。

「僕のことはもういいから。若葉の方に行ってあげてひなた」
「でも…」

優と若葉を交互に見ながら戸惑いの色を見せるひなた。若葉の元にも行きたいが、優のことを放っておくことできないのだろう。そんな彼女の優しさに、思わす笑みを浮かべる優。

「僕は十分休んだから、動かなければ大丈夫だから、ね」
「…わかりました。何かあったらすぐに呼んで下さいね?」
「うん」

一瞬だが逡巡するも。意を決したようで若葉の元へと向かうひなたを、微笑ましく見送る優。
ひなたが携帯で写真で若葉を撮りながら話しかける。彼女の『若葉コレクション』なるものの収集を趣味にしており。早い話が自分で撮った若葉の写真集である。
そこから若葉を交えて3人組と話始め、最後は先程までの気まずさはなく皆笑顔となっていた。
若葉はよく言えば真面目で、曲がったことを嫌うが。逆に言えば融通が利かず、頑固でもあった。人付き合いは得意とは言えず、優やひなたのような見知った相手以外には愛想良く接せられず。それ故、クラスメートからは『鉄の女』などど誤解されてしまっているのだ。
先程3人組を見ていた困っていた表情も、付き合いの長い優やひなただから気づけたが。他の者からは不機嫌そうに睨みつけているように見えただろう。
きっと、仲良く話していた3人組に注意すべきか考え、今の状況なら不安も和らぐから問題ないだろうと思っていたのだろうが。マイナスイメージで悪く見られただけなのだ。
ひなたはそのマイナスがを取り払い、若葉と3人組の橋渡しの役割を果たしたのだ。

「(もう、大丈夫か)」

心配事もなくなったので、その場から立ち上がる。ひなたにはああ言ったが、夜とはいえど、7月の暑さはなかなかのものなので。風にあたりたくなり神楽殿の外へと歩き出すのだった。




神楽殿の外には他に人はおらず。静寂に包まれていた。
古来、神社の鳥居は外界との境界という意味を持っていた。まだ人々が信仰心を忘れていなかった時代、神社は異界とされていたのだ。優は神社の持つそんな意味など知らなかったが、この場の静謐な空気を感じることはできた。
空を見上げると、この神社は住宅地等から離れているためか、無数の星が輝いている。

『にゃー』

ふと鳴き声が聞こえたので視線を落とすと。一匹の黒毛の子猫が優を見ていた。

「おいでー」

しゃがみ込んで微笑みながら右手の人差し指だけを伸ばし、上向きにして前後に軽く振りながら子猫を呼ぼうとする。
子猫は最初は警戒した様子だが、やがてゆっくりと優の元へと歩み寄って来る。

「よいしょと」

優は寄ってきた子猫をそっと抱きかかえると、近くにあった観光者用に長椅子に腰掛け。子猫を膝の上に乗せると背中を優しく撫でる。

『ふにゃ~』

子猫は気持ちよさそうに鳴くと、丸くなって寛ぐ。

「♪~」

そんな子猫を撫でながらご満悦な様子の優。

「おーい、優~」

境内に聞きなれた声が響いた。

「若葉どうしたの?」

声のした方を向くと、若葉が駆け足気味に向かって来ていて。その後ろにはひなたの姿もあった。

「どうしたのって。お前がいなくなったから何かあったんじゃないかと…」

安堵した様子で話す若葉。どうやら無断で外へ出た優を心配して捜しに来てくれたらしい。
優の姿を確認すると、ホッとした様子で隣に腰を下ろす。ひなたも優を挟む形で座る。

「ごめんね。ちょっと夜風に当たりたくなってさ」
「そうか。だが、せめて誰かに一言話してからにしてくれ。昔より良くなっているとはいえ、何があるかわからないんだぞ?」

『もしも』のことを考えてしまったのか、不安そうな表情で俯いてしまう若葉。
優はそんな彼女の頭に手を置くと、そっと撫でる。

「心配かけてごめんね。次からは気をつけるよ」
「あ、ああ」

若葉は嫌がる素振りも見せず、先程の子猫のように気持ちよさそうに目を細める。
すると、パシャリと機械音が鳴る。

「やりました!久々に撫でられ若葉ちゃんゲットです!」

そちらを向くと、携帯を片手に目を輝かせるひなたがいた。彼女的には優に撫でられている若葉の姿は、レア度が高いらしく。いつもよりテンションが高くなっていた。

「ひ~な~た~!だから撮るな!消せ!」
「嫌です!これだけは何がなんでも死守します!」

若葉が携帯を取り上げようとするも、ひなたは優を盾にして対抗する。

「あの、ひなた事あるごとに僕を盾にしないで。後、若葉くっつきすぎだから」

優の言葉に若葉はハッと自分の状況を把握する。
携帯を取り上げるのに夢中になって、自分から優に体を押しつける形になっており。傍から見れば抱き着いているようにも見えるだろう。
そのことを自覚すると、若葉の顔がみるみると赤くなっていく。

「%&#$##%%&&#$!?!?!?」

普段の彼女ならまず発しないだろう言語を上げながら、慌てて優から離れる若葉。その顔は最早トマトのように真っ赤で、湯気らしきものまで出ていた。
そんな彼女をひなたは、赤面若葉ちゃん頂きましたー!と言って激写していた。

「えっと、大丈夫若葉?」
「&##%&&%#%%&$!!」

若葉の状態に不安になった優が声をかけるも。若葉はテンパり過ぎて謎の言語しか話せていない。
そんな彼女を落ち着けようと、これだけ騒いでも優の膝の上で寛いでいた子猫を抱きかかえると。若葉に近づいて彼女の頭にポフッと乗せた。

『ゥ~』

子猫は、最初は優から離れたことに不満そうだったが。すぐに今の場所が気に入ったのか、上機嫌そうに鳴くと寛ぎだした。

「……」
「?どうした優?」

どうにか落ち着きを取り戻した若葉は、自分をジッと見て黙ってしまった優に不思議そうに声をかける。

「いや、子猫頭に乗せてる若葉可愛いなぁって」
「か、かわッ!?」

不意に優が放った言葉に、再び若葉の顔が赤く染まり。ひなたがキャーと歓喜の声をあげて、さらなる速度で激写する。

「な、ななななな、何を言ってるんだお前は!?」
「え?何か変なこと言った僕?」
「お前はッそういうことを軽々しく言うなといつも…!」

目じりを吊り上げながら優に詰め寄る若葉。しかし、その口角も吊り上がっており、言葉とは裏腹に喜んでいるように見えた。

「ブハッ!!」

若葉を激写していたひなたが、何かのキャパシティをオーバーしたのか。鼻血を物凄い勢いで噴き出す。

「わぁぁぁぁぁぁ!ひなたぁ!?」
「お前はどうしてそうなるんだ!?」

優と若葉は慌てて止血に走るのであった。




「ふぅ。ごめんなさい、若葉ちゃん優君。ご迷惑をおかけして」
「まあ、もう慣れたけどね」
「そうだな」

あれからひなたの出血を抑え、3人は仲良く長椅子に腰かけて談笑していた。

「それで、優君。修学旅行は楽しめていますか?」

ひなたが、隣にいる優に微笑みかけながら問いかける。

「うん。こんな風に外に出たのは初めてだから、すっごく楽しいよ」

物心着いたころから優は持病のため、外出できたとしてもたまに学校へ行く時くらいであった。
そのため今回の修学旅行で見たものはどれも新鮮であり、かけがいのない思い出となっていた。

「これもひなたと若葉のおかげだよ。本当にありがとう」
「何を言う。友として当然のことをしたまでだ」
「そうです。私達も優君と一緒に来れて楽しいですしね」

感謝の気持ちを述べる優に、若葉とひなたは当然とばかりに微笑む。
今回の修学旅行に際して。若葉とひなたは事前に優専用のスケジュールの作成や、体調が悪化してしまった時の対応を考え。担任と掛け合い、他の生徒の迷惑ならないよう3人だけの班合わせをしたりと動いてくれたのだ。

「そうだ!さっきですね、若葉ちゃん私達以外のお友達ができたんですよ!」
「それって、さっき話してた子達?」
「はい!」

優の問いに、まるで自分のことのように満面の笑みを浮かべるひなた。

「おお、よかったね若葉!」
「あ、ありがとう優」

優も同じように喜ぶと、照れくさそうに頬を掻く若葉。

「優君もせっかくの機会ですから、お友達を作ったらどうです?流石に班行動中は難しいですけど。今みたいに皆でいる時にでも」

ひなたが両手をポンッと合わせながらそう提案してくる。これから優も、学校へ通える日が今まで以上に増えていくだろう。だから彼女としても、もっと彼に学校生活を楽しんでもらいたかった。

「…僕はいいよ」
「どうしてだ?私だってできたんだ。お前ならもっと簡単にできるさ」

だが、当の優は乗り気ではないという風に首を横に振ってしまう。そのことに若葉が不思議そうに首を傾げた。

「僕はいついなくなるかもわからないから…。その人を悲しませちゃうかもしれないからアタタタタ!?」

優が言い終わる前に、若葉とひなたが彼の頬をそれぞれ抓った。

にゃにゃにすふの(な、何するの)!?」
「お前が馬鹿極まりないことを言うからだ」
「そうです。なんですか私達は悲しんでいいってことですか?」
しょしょーゆーわへひゃないひぇほ(そ、そういう訳じゃないけど)ひぇか、ひゃなしてほぉ(てか、離してよぉ)

抓られたままの優が涙目で訴える。

「もう馬鹿なことは言わないって誓えるか?」
ひかいまひゅ(誓います)
「よろしい」

優の言葉に、若葉とひなたは満足そうに手を離した。

「うー痛い…」
「自業自得です」

頬を摩りながらあーうー唸る優に、ひなたが軽く溜息をつくのだった。
そんな折、優が咳き込み始めてしまう。

「優!?」
「大丈夫。ちょっと冷えてきたから…」

夏場とはいえ長い時間外にいたため、体に負担がかかってしまったらしい。

「戻りましょうか、先生達も心配しているでしょうし」
「そうだな。優歩けるか?」
「うん。それくらいは大丈夫」

優を気遣いながら立ち上がると、神楽殿へと歩き出す3人。
2人に迷惑をかけていることに申し訳なく想いながら。こんな自分のことを、友達として大切に思ってくれる彼女達に出会えたことに、優は幸福を感じていた。
願わくは、これからも彼女達と共にいられることを神様に願いながら、夜空を見上げた。

「――えっ?」

同時に今までとは比べ物にならない程、地面が激しく揺れ始めるのだった。



プロローグなのに書きたいことが多すぎて、分割することにしました。ご了承下さいませ。

※捕捉
ブラック・ブレット原作では、東京・大阪・札幌・仙台・博多のみですが。本作では長野、四国、沖縄が追加されています。
また、乃木若葉は勇者である原作で。若葉とひなたの修学旅行先は島根でしたが。本作の世界観に合わせるために、徳島に変更されています。


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プロローグ2

「(今までで一番大きい!)」

人生で体験したことのない激しい揺れに、ひなたは小さな悲鳴を上げて尻もちをつき。優はそんな彼女を庇うように片膝をついて、その華奢な体を支える。若葉は武道の心得があることもあり、中腰になって上手く姿勢を保っていた。
揺れは十数秒程続いた後、次第に収まっていく。

「凄い揺れだったな…。優、ひなた、大丈夫か?」
「僕は大丈夫。ひなたは?」

若葉が2人の安否を確かめ。優は何事もなく立ち上がり、座り込んいるひなたに手を差し出す。

「……」
「?ひなた?」

しかし、彼女はその手を取らず。真っ青な顔をして呟いた。

「怖い…」
「え?」

ひなたの体は小刻みに震え、何かに怯えていた。

「ゆ、優君、若葉ちゃん…。な、何か、凄く、怖いことが…」

そう言って彼女は空を見上げた。
優と若葉は何かあるのかと思い、顔を上げる。
そこにあるのは、なんの変哲もない星空のようだった。
だが、何かが違う。そう優は直感した。
無数の星々は、まるで水面を漂うように(うごめ)いていた。
星のように見える『それ』は、鳥か何かにも見えた。
しかし、動きが不規則な上に、夜にあれ程の数の鳥が空を飛んでいるの不自然であることは、滅多に外出しない優にもわかる。
そして、星々の幾つかが次第に大きくなっていき――








































絶望が、空から降ってきた。








































星のように見えたものの1つが、神楽殿の屋根に落下した。それは、やはり鳥などではなった。全身が不自然な程白く、人間よりも遥かに巨大で、不気味な口のような器官を持つモノ。陸生動物とはかけ離れた進化を辿った深海生物か、あるいは不完全な状態で生まれてしまった無脊髄動物のようにも見えた。しかし、それは明らかに人間が知る従来の生物とは異なっていた。

「(バアル!?)」

テレビで放送された、7年前の大戦の特集でその姿を見たことのある優は咄嗟にそう思うも。だが、目の前に現れた異形の存在は、サベージともガストレアとも合致しなかった。
始めてみる怪物は1匹だけでなく2匹、3匹…と次々に落ちてきて、神楽殿の屋根や壁を食い破り、中に侵入していく。

「あれはバアル、なのか…」

若葉の呟きに、優は何も答えられなかった。目の前で起きている異常な光景を、ただ唖然と見ていることしかできなかった。
そんな中、ゆらり――と何かが立ち上がる気配が彼らの背後からした。ひなただ。しかし、彼女の目にはどこか異様な光が宿り、口からは呪詛のような言葉が漏れる。

「――…――……――…――」

若葉がどうしたのかと問おうとし瞬間、神楽殿の中から、悲鳴と共に弾かれたように人々が逃げ出てきた。

「きゃああああああああああああっ!!」
「な、な、なんだ、あの化け物はっ!?」

「(くっ)」
「待って、若葉ッ!」

中にいるクラスメートの安否が気になり。咄嗟に若葉は優の静止を聞かず、神楽殿へ駆け出す。その手をひなたが掴んだ。

「私も行きます」
「ひなた!?」

若葉を止めるものと思っていたひなたの言葉に、優が驚愕の声を漏らす。
彼女の目には先程までの異様な光が消え、代わりに強い意志が感じられた。口調もしっかりしている。
そんなひなたの目を見た若葉は、頷くと共に駆けだす。

「若葉、ひなた!!」
「優はここにいろ!すぐに戻る!」

若葉がそう告げると、2人の姿が神楽殿の中へと消えていった。




「……」

阿鼻叫喚の渦に包まれた境内で優は、幼馴染達が駆けて行った。神楽殿を唖然と見つめていた。
若葉の言う通り、優が一緒に行っても足手纏いにしかならないだろう。持病の発作も強くなり、息が苦しい。

「(だからって!)」

役立たずでも、女の子だけを危険な場所に向かわせることは優にはできなかった。
弾かれるように駆けだすと、自身も神楽殿の中へと入っていく。

「ッ――!?」

そこで見たものは正に地獄であった。
白い異形の生物達は、その口のような器官で、逃げ遅れた人々を貪っていた。口の中は血で紅く染まり、巨体の下には食い残した人間の欠片が残っていた。食われている者には、優達と同学年の生徒らも多く――その中には若葉と友達となった少女達までが、変わり果てた姿になっていた。

「そん、な…」

優の口から呻きが漏れる。
目の前の光景が信じられなかった。余りに現実感がない。つい数十分前まで日常を生きていた人々が、今は物言わぬ姿になり果てている。

「ううああああああああああああああっ!!」

突如耳に絶叫が響いた。そちらを向くと、若葉が木材の切れ端を手に化け物へと駆けだし、その先端を突き刺した。
しかし、化け物は蚊にでも刺されたかのようにものともせず。虫を払うように、若葉をその巨体で体当たりし吹き飛ばした。
その小さな体は、社殿奥にある祭壇の上に落下した。

「若葉ぁぁぁぁああああああ!!!」

優は無意識に、彼女の名前を叫んで駆け寄ろうとする。しかし、化け物の1匹が立ちはだかる。

「どけぇえええええ!!:

優は足元に転がっていた野球ボール程の大きさの瓦礫を掴むと、化け物目がけて渾身の力を込めて投げつける。
だが、瓦礫は化け物に命中するも、傷一つくかなかった。化け物は餌を見つけたと言わんばかりに、その巨大な口を開けて優に迫って来る。

「(僕にも母さんみたいな力があれば!!)」

優の母親はスレイヤーであり。それも日本はおろか世界有数でも指折りの実力者であり『戦女神(バルキリー)』の異名で呼ばれていた。しかし、数年前にとある任務中に帰らぬ人となっていた。
スレイヤーの子にはスレイヤーになれる才能があると言われ、息子の優にも期待されていたが。しかし検査の結果、優にはスレイヤーとしての適性がないことが判明したのだった。
何もできない優に化け物が目前まで迫り、呑み込もうとする。

「(力が、若葉とひなたを守れる力があればッ!!!)」

出会った当初から守られ続け、今危機に瀕している大切な人達を守る力を、優は神に縋る思いで願った――








































だが、神は彼の願いを聞くことはなかった。








































ザシュッ!








































神楽殿内に何かを切り裂く音が木霊した。
同時に優を食らわんとしていた化け物が動きを止め、背後に向き直る。
すると、化け物に亀裂が入ったかと思うと。両断されて形容しがたい鳴き声を上げて消滅してしまった。

「――え?」

突然の事態に、思わず間の抜けた声が優の口から洩れた。
化け物がいた場所には、見知った少女が立っている。

「若、葉?」

優がその少女の名を呼ぶ。そう、立っていたのは、先程化け物によって吹き飛ばされた幼馴染だった。
遠目から見ても、かなりに勢いで吹き飛ばされていたにも関わらず。その身には傷一つなく、その手には1本の刀が握られていた。
この神社に祭られていたのであろうその刀は、年代を感じさせる古めかしさがありながらも。その刀身は今まさに研がれたかのような輝きを放っていた。

「無事か優?」
「あ、うん」

唖然としていた優に、若葉が優しく語り掛ける。その姿には先程の焦燥感はなく、普段の落ち着き払った頼もしさに溢れていた。
そんな彼女に化け物が次々と襲い掛かってきた。

「若葉!」
「大丈夫だ!」

若葉は刀を鞘に納めると、左足を踏み出して柄を握り、居合を構えを取った。彼女の実家は由緒ある武家の末裔であり、若葉も幼い頃からその武技を修めていたのである。

「ハァッ!!」

裂帛の声と共に、解き放たれた刃が一刀の元、化け物を次々と葬っていく。その光景を優は、ただ眺めていることしかできなかった。
瞬く間に、神楽殿内の化け物は彼女によって一掃されたのだった。

「……」

神がかり的な力を発揮した幼馴染を、優は唖然と見つめる。同時にただ守られるだったことに、胸の奥で何かが軋むような音がした気がした。

「若葉ちゃん!外にもあの変なのが溢れています!」

そんな彼のことなど露知らず、ひなたが若葉に駆け寄りながら、そう叫んだのだった。




3人で神楽殿の外に出ると。いつの間にこれ程湧いたのか、神楽殿の外は大量の化け物達に囲まれていた。逃げようようとした人々は、退路もなく絶望にくれている。
若葉は、刀を握り締める。
例え敵が何十匹いようと、負ける気がしない――

「…な、何?」

化け物達の異変が起こった。
複数の個体が一箇所に纏まり、粘土を集めるように巨大化しつつ姿を変えていく…。まるで授業などで聞いた、ガストレアが他の生物のDNAを取り込んで進化するかのように――
ある個体はムカデのように長い体形となり。
あるものは体表面に矢のようなものを発生させ。
あるものは体組織の一部が角のように硬質化して隆起し。

「(…進化…している)」

単体では乃木若葉に勝てないことを学習したのだろう。彼らが自分達より強力な存在に対抗するために選んだ手段は『進化』であった。それもガストレアよりも早く、柔軟性をも持ったものであった。
進化した個体の内の1体が、その体に発生した矢を射出した。矢は進行方向上にいた人間複数人を貫き、その先にいた優にも迫る。

「あ――」

そのことを優が知覚したのは矢が目前に迫った時だった。回避も防御も間に合わず、彼にできるのはただ矢に貫かれることだけ――








































優ッッッ!








































真横から突き飛ばされる感覚と共に、優の体が地面に倒れる。矢は優の背後の神楽殿をたった一撃で、三分の一程崩壊させてしまっていた。
一瞬何が起きたのかわかららなかったも。自分が生きていることを不思議に思う。

「(どうして?))

決まっている誰かが助けてくれたからだ。では、誰が?あの時そんなことができたのは――

「若葉ちゃんッ!」

すぐ側でひなたの悲鳴が響き、優は上半身を起こし。恐る恐るそちらに視線を向ける。

「わか、ば…?」

視線の先には若葉が倒れ込んでおり、脇腹から血がとめどなく流れており端正な顔は苦痛歪んでいた。

「あ、ああ…」

どうして彼女が?いや、わかっている。だが、その事実を認めたくなかった。








































自分を庇って彼女が傷ついたことなど(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。――







































「う、あ、ぁぁ――ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

優の絶叫が響き渡る。なんで?どうして?自分を庇った?この絶望的な状況を切り抜けられるのは、彼女だけなのに――

「――友を…助けるのは…当然、だろう?」
「!?」

優の心を見通したかのように、若葉が息も絶え絶えに精一杯の笑みを浮かべる。
そんな彼女の言葉に、優は強い衝撃を受けた。こんな時でも、彼女は自分よりも友の身を案じたのだ。

「(僕のせいだ。僕のせいで、若葉が、ひなたが他の人が…!)」

自分が足手纏いにならなければ。きっと若葉ならこの状況でも、この場にいる全ての人救えた筈だ。自分がいなければ(・・・・・・・・)、こんなことにはならなかった。
深い絶望が優の心を蝕んでいく。
そうしている間にも化け物の小型個体が増え、大型の個体と共に押し寄せてくる。

「もう、駄目だ…。終わりだ…」

その場にいた1人の男性がそう呟くと、両膝を地面について項垂れる。その表情は絶望に染まっていた。
そんな男性の感情が伝播したように、他の人々も次々と死にたくない泣き叫び、怨嗟の声を上げる。
化け物はそんな者達の恐怖を更に煽るように、ゆっくりと迫っていく。

「大丈夫です。来ました」

誰もが諦めかけた時――ひなたがそう呟いた。同時に上空から無数のミサイルが化け物の群れに降り注ぎ、爆発と炎に包んだ。









































理不尽な力によって生み出される絶望。ならば、それを覆せるのもまた力なのであろう――








































『オッラァァァァアアアアアア!!!』

爆発と炎によって小型個体が全て消し飛び。残った大型個体も体の至る所に亀裂が走っていた。
そんな大型個体の――1番硬質と見られる角つきに、上空から新たに飛来した1つの人影が、両手で逆手に保持していた槍状の武器を亀裂がある箇所に突き刺した。

『くたばれやぁ!!』

そして、槍の矛が中央から上下に展開し。柄に内蔵されていたレールガンが露出する。矛がレールとなり、そこをバラニウム制の弾丸が走り大型個体を一撃で粉砕した。

『よっと』

レールガンの衝撃を利用して人影は、他の大型個体から距離を取りながら着地した。
その姿は全長2メートル近くあり。全身を紫の装甲で包まれていた。

「ファ、フナー?」

優はその人影の名を呆然気味に呟く。『ファフナー』日本の科学者が生み出した、人類を守護するための力である。
そして、大型個体を撃破したのは。『メガセリオン・モデル』と呼ばれる、指揮官あるいはエース用の機種であった。
よく見ると、そのメガゼリオンモデルは優の知るものより装甲が薄く、ブースターが大きなっており。個人用に、機動性重視でカスタマイズされたもののようであった、

「自衛隊だ!自衛隊が来てくれたぞ!!」

助けが来たことに、絶望に包まれていた人々から歓喜の声が上がる。

「それにあれって『マスターオブセリオン』だ!」

カスタムモデルの肩部に描かれた666の数字の上に。十の角と七つの頭と、七つの冠を持つ火のように赤い竜のエンブレムを見た者から、更なる歓喜の声が上がる。

『マスターオブセリオン』――それはメガセリオン・モデル搭乗者の中のエースには『マスターセリオン』の異名が与えられ。さらに、その中で最も優れた者に与えられる唯一の称号である。
そして、その称号を与えられた者の名は――

日野 道陽(ひの みちあき)…」

ファフナー開発者の1人日野 洋治の息子であり、テストパイロットとして開発に参加し。前大戦で初の実戦投入型である『ティターン・モデル』で初陣にも関わらず多大な戦果を挙げ。ファフナーの正式配備後は、メガゼリオン・モデルを駆り英雄的活躍を続ける『生きた伝説』とさえ言われる男である。そして、優が最も憧れる人物でもあった。

『さぁて、暴れるぜ!行くぞ光輝(こうき)!!』

メガゼリオン・モデルの掛け声に応えるように、もう1体のメガセリオン・モデルがパラシュート降下で境内に降り立つ。
こちらは黒色の装甲で従来機より重厚であり。バックパック一体型の2門のレールキャノンと、右腕に装備されたシールドと一体型の大口径ガトリング。さらに、左腕には火炎放射器と見られる物まで装備された重装型のカスタムモデルとなっていた。

『てか、遅ぇよ!もっと早く来い!』
『あ?あの高度からパラシュート切り離しなど、アンタのような酔狂しかやらんよ』

軽装型が何やら重装型に文句を言うも、重装型は馬鹿を見るような感じで対応している。その声はかなり若く、優達と同年代ではないかと思われる。
そんなことをしていると、矢つきの大型個体が矢を次々と放ってきた。
ファフナー部隊の背後には優達がいるため。避ければ彼らが犠牲になり、その身で受ければ串刺しになってします。まさに、絶対絶命の状況であった。

『よっと』

だが、軽装型は手にしていた槍状の武器『ルガーランス』を左手にし、背部パイロンに懸架していた折り畳み式の大型ソード『ロングソード』を右手に持つと。1歩前出て、それらを目にも止まらぬ速さで交互に振るい、危険度の高い矢のみを斬り落とすか、刀身と矛先に滑らせ軌道を変えて捌いていく。
放たれた矢は全て両断されて地に落ちるか、あらぬ方向に飛んでいき。自身はおろか、誰一人傷ついた者はいなかった。

「凄い…」

素人の優でも、今のことを他の者にやれと言われても、不可能であることが理解できる程の絶技であった。しかも、当人は息1つ乱していないことから、逸話通りその技量の高さが伺える。

『まったく、しゃあねぇ。俺はムカデモドキをやる。お前は矢生やしてるのをやれ!』
『俺が悪いみたいになっているのは気に入らんが。了解だ』

コントのようなやり取りを終えると。軽装型はブースターを吹かし、ムカデ型の大型個体へと向かっていき、重装型は矢つきへとゆったりとした足取りで向かっていく。
矢つきは重装型へ再び矢を放つ。対する重装型は、ガトリングを構えると連なった砲身が回転を始め、次々とバラニウム制の弾丸を吐き出していく。
弾丸は飛来する矢を次々と撃ち落とし、撃ち漏らした矢が装甲に当たるも弾かれる。いや、先程の軽装型同様、危険度の高いものだけを撃ち落とし。その他は強固な装甲と角度をつけることで、威力を殺し受け流しているのだ。こちらも常識外れの技量を持っていることを伺わせる。
やがて、矢つきの体からは、息切れしたかのように矢が生えてこなくなってしまった。

『なんだ、もう終わりか。つまらんな』

重装型は、まるで興味が尽きたかのように呟くと。装甲の各部が展開し内部のミサイルが露出する。

『消し炭になれ』

ミサイルが放たれると、途中でその先端が解放され、小型のミサイルが飛び出していくと。次々と着弾し爆発と炎に包まれる。
矢つきは形容しがたい鳴き声を上げて炎に焼かれ、やがて跡形もなく燃え尽きてしまったのだった。




『そぉりゃっと!』

重装型が矢つきと交戦を始めた頃。軽装型もムカデ型の大型個体目がけて突進していくと。左手のルガーランスを背部パイロンに懸架し、腰部からサブマシンガンである『スコーピオン』を持ち発砲する。
連続で撃ち出された弾丸がムカデ型に殺到するも。大したダメージは与えられず、ムカデ型は煩わしそうに体を振るわせ、体を持ち上げると巨大な口を開け軽装型へと体当たりしてくる。

『はいな!』

軽装型は軽々と横に跳んで回避すると、ムカデ型がぶつかった地面が深々と抉られ砂塵が舞い上がる。例えファフナーであろうとも、掠れても致命傷になりえる威力であった。
だが、軽装型は恐れなど微塵も見せず再び左手にルガーランスを持つと、接近しすれ違い様にその脚を数本斬り落とす。
ムカデ型は軽装型を捉えようと巨体を振るうも、軽装型はまるで動きが読めているかように避けながら脚を次々と斬り落としていく。
やがて自重を支えきれなくなったムカデ型は、地面に這いつくばり陸に打ち上げられた魚のようにもがくことしかできなくなった。

『よっと!』

待ってましたと言わんばかりに、軽装型がムカデ型の頭頂部にあたる部分に跳び乗る。ムカデ型はどうにか振り落とそうと暴れるも、軽装型はそれさえ楽しんでいるかのように、難なくバランスを取って立っていた。

『暴れるんじゃ、ねぇ!』

軽装型はロングソードとルガーランスを交互に振るい、頭頂部を削り取っていく。ムカデ型はより激しく暴れるも、その猛攻は止まるどころかより激しさを増していった。

『せい!』

止めと言わんばかりに、軽装型はルガーランスを薄くなった箇所に突き刺しレールガンを撃ち込む。ムカデ型の頭部が弾け飛び一瞬ビクッと体を震わせ、動きを止めて倒れ込むと。残っていた体が朽ちるように崩れていき、跡形もなく消滅していくのだった。








































化け物が全て倒され、境内には静寂が訪れる。

「助かったのか?」

誰かが呟くと、その声が次々と伝播し。やがて大きな歓声となった。
ある者は側にいた者と抱き合って生の実感を確かめ合い、ある者は涙を流して神に感謝を捧げている。

『光輝。医療部隊を呼んでくれ』
『もうやっている』

流石、と部下の手際の良さに関心した軽装型は周囲の警戒に入った。

「若葉、若葉!」

そんな中、優は傷ついた幼馴染に懸命に呼びかけていた。血を流し過ぎたため、彼女の顔色は青白くなっており。呼びかけても返事はなかった。
そんな幼馴染の姿に、優は再び後悔と無力さに苛まれる。

「若葉ちゃん…」

若葉に膝を貸しているひなたも、今にも泣きだしそうな顔をしていた。そのことが更に優を苦しめる。

『おい』

そんな彼らに、重装型が話しかけてきた。

「あなたは…」

優の言葉を無視して重装型は片膝をつくと、若葉の傷口を抑えていた優の手をどかす。

「!?何を…!」
『落ち着け。もうほとんど塞がってるぞ』

激昂しようとした優に、重装型は冷静に告げる。

「え?」

傷口を見ると、確かに塞がりかけており出血は収まっていた。顔色もよくなってきていて、息苦しそうだった呼吸も安定しており。辛そうであった表情も和らいでいた。
だが、どう見てもそんなすぐに塞がるような傷ではなかったのにである。

『『子供達』…ではないな。なのにこの再生力。こいつ人間か?』

さらっと失礼極まりないことを重装型が言うも。優もこの事態には困惑せずにはいられなかった。
ちなみに『子供達』とは。セカンドアタック後、妊婦がガストレアウイルスに接触することにより、ウイルス抑制因子を持ち生まれた子供のことを指す言葉である。
そのためウイルスへの強い耐性を持ち、常人よりもガストレア化するまでの期間が長く。人の形を保ったまま、驚異的な治癒力や運動能力を発揮できるのである。
だが、抑制因子保有者は全て前大戦時に生まれた7歳以下の子供のみであり。若葉が該当することはありえないのである。

「きっと、『神樹』様の加護のおかげです」
「『神樹』様?」

幼馴染の口から出た聞き覚えのない単語に、優は首を傾げる。

『それは、もしや『アレ』のことか?』

そういって重装型の向いた方を見ると、優は我が目を疑った。
四国中心部の方角に、巨大な『樹』としか表現のしようがない物がそびえ立ているではないか。
優達がいる神社からかなりの距離があるにも関わらず。高層ビル程の大きさに見えることから、その巨大さを伺うことができる。

「何、あれ?」
『わからん。さっきの化け物共が現れるのと同時期に、いきなり現れたそうだ』

優の呟きに、重装型が興味深々といった様子で答える。

「あれは私達人類を守るために、土着の神々が集まりこの世に現界された姿、だそうです」
「ひな、た?」

そう語るひなたに、優は困惑の色を隠せない。
そういった知識はない筈の彼女が、なぜそんなことを知っているのか。
若葉に起きたことといい。優はまるで、幼馴染達が自分の手が届かない程遠くに行ってしまった錯覚に陥るのだった。



※捕捉
本作におけるファフナーの各モデルは、一部を除きAlvis制と人類軍制は同一線上のものとして扱います。


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第一話

セカンドアタックから7年後、人類は新たなる未知の生命体による襲撃を受けた。
各国は持てる総力を用い、多大な犠牲を払うもこれを撃滅することに成功する。
その後。国連はこの新種の敵性生命体を『バーテックス』と呼称し、バアルに分類することを決定する。
それと同時期。歴史の裏で活動していた『大社(たいしゃ)』と名乗る組織が台頭した。彼らはバーテックスが天の神々が人類を粛正するために生み出した眷属であることを世界に告げた。
また、四国に出現した巨大植物は。その天の神々に反抗した土着の神々の集合体で、彼らは『神樹』と呼びその声を代弁者であるとも語った。
大社曰く、神樹を中心とした日本の神々は日本列島を中心とし。世界規模で結界を張り、バーテックスの人間界への侵入を阻むことに成功した。だが、これは一時的なもので。天の神々は近い内に、再度人間界への侵攻を再開するであろうと。
結界は四国の地を中核とし。長野、沖縄、北海道の地がそれを支える形で形成されており。侵攻が再開された場合、天の神々は結界を破壊するため、それらの地が最優先で標的とされるため。対抗策として、神樹ら日本の神々は自らの力の一部をそれらの地に住まう、選ばれた数人の少女に与えたことも告げられた。
これを受け、四国エリア国家元首である乃木 大葉(のぎ おおば)は。日本の各エリアに日本の再統一を果たしこの事態に対処すべきと打診するも、東京、長野以外のエリア元首は『大社の発言は信用できないと』これを拒否したため。四国、東京、長野の3エリア同盟を結ぶに留まる。
第三次遭遇(サードアタック)』と呼ばれることになるこれらのできごとから半年後。予言通り長野、沖縄、北海道エリアにバーテックスが再侵攻を開始。各エリアは神樹から力を与えられた少女『勇者』を中心とした戦力で対抗するも。バーテックスの動きに同調したかのように、他のバアルからの侵攻にもさらされ2年後には長野、沖縄エリアが陥落してしまう。
残る北海道エリアでは、要である『勇者』が突如姿を眩ませてしまう事態が起き。それと同時に、北海道の結界としての機能が失われてしまう。その結果、バアルは興味をなくしたかのように、北海道エリアへの侵攻が止んだことで滅亡を免れる。
そして、支えである3エリアの結界が失われたことで、遂には四国エリアがバアルの侵攻を受ける。四国エリアも所属する勇者を中心とした戦力でこれを迎え撃ち、激戦が展開されることとなった。








































サードアタックから3年の月日が経ち。日本を中心として、世界の混沌が深まる中。蒼希優は、東京エリア外周区の一画で雑草の上に寝ころび、気持ちよさそうに寝息を立てていた。自衛隊が使用している迷彩服を身に纏って――。

外周区――
各エリアと、バアルに占領された外界とを隔てるモノリス周辺の区画を指す言葉。
過去の大戦で荒廃したまま一部の発電施設や、ゴミ捨て場等、エリアのインフラに関わる設備以外は整備されておらず。何らかの理由で、内地に住むことのできない物達の隠れ家として利用されている。そのため一般人が立ち入ることはまずない。

「zzz」

基本無法地帯同然の地である筈にも関わらず、優は無防備も同然であり。寧ろ安らぎを得ているようでさえあった。
また彼の周りには、10歳かそれ以下と見られる少女が数人寄り添うようにして共に眠っていた。彼女達は『子供達』と呼ばれる、ガストレアウイルス抑制因子を持った者達である。
その特徴の1つとして。感情の昂ぶりや能力の使用時に、目がガストレア同様赤く発光するため、ガストレアによって被害を受けたことで、精神的に深い傷を負った親の元に生まれた子供達は迫害され捨てられてしまうことが多いのである。
そういった『子供達』は外周区で孤児としての暮らしを余儀なくされるのだ。だが、僅かによれていたり、汚れが見られる服を身に纏っていて。少々みずほらしさを感じさせるも、彼女達も優同様スヤスヤと穏やかな寝息を立てている。
そんな彼に1人の少年が近づいてくる。
14~5歳程であり、ショートカットの黒髪で。その目つきはかなり鋭く、不良などと言われそうな顔つきをしている。そして、彼も優と同じく迷彩服を身に纏っていた。
少年は優達の元まで近づくと。眠っている少女達を起こさないよう細心の注意を払った様子で、ソロリソロリと優に近づいていく。

「おい、起きろ優」

そして、優を見下ろせる位置まで辿り着いた少年は、しゃがみ込み優の体を揺する。


「zzz」

しかし、優は起きる素振りも見せず夢の世界にいる。


「おいこら。起きろ」

少年は先程より強めに揺すりながら、再度起こしにかかる。

「zzz」

それでも一向に起きる気配のない優。すると、少年から何かが切れる音がした。

「オラァ!」
「ぐぎゃ!?」

男は立ち上がると、片足を持ち上げ優の腹をおもっいきり踏みつけると。その激痛で目覚めた優は、少女達に害が及ばない場所まで飛び跳ねると。両手で腹部を抑えながらのたうち回る。

「ちょ、ちょっと、光輝!何すんのさ!!」

暫くして痛みが治まった優は起き上がると。涙目で元凶である少年に抗議した。

「あっ?お前が呼びかけに応じず、起こしに来てやっても起きないからだろうが」

少年――天童 光輝(てんどう こうき)は、不機嫌そうに優を睨みつけながら吐き捨てる。

「え?」

その言葉に、優はキョトンとして自身の携帯端末『PDA (Private Digital Assistant)』を取り出すと着信履歴を表示させる。すると、確かに彼からの着信が連続でされていることがわかる。

「え~と」
「……」

優は恐る恐る光輝の方を向くと。彼はさあ、俺のどこに非はあるのか言ってみろ、といわんばかりのオーラを放っていた。

「ご、ごめ~んねっ!」

テヘッと言った感じで舌を出しながら、右手を頭の上に乗せながらポーズを取り謝罪する優。そんな彼の尻に、光輝はハイキックをかます。

「オウッ!?」
「ごめ~んね、じゃねえよドアホウ。なんのためのPDAだ、ん?」
「すいませんでした」

眼光だけで人を刺せそうな顔でなじる光輝に、誠心誠意平謝りする優。そんなやり取りをしていると、クスクスと複数の笑い声が聞こえてきた。
どうやら騒ぎすぎてしまい、少女達を起こしてしまったようだ。

「悪いが、仕事が入ったから俺達はそろそろ帰るな」

光輝が少女達にそう告げると、ええー!と寂しそうな顔をした彼女達は。光輝と優に抱き着いてくる。

「お兄ちゃん達もう帰っちゃうの?」
「うん、ごめんね。また明日来るから」
「本当?」
「ああ、約束だ」

2人が少女達の頭を撫でながら告げると、渋々ではあるが離れてくれた。

「いってらっしゃ~い!」
「お仕事がんばってねー!」

少女達の声援に手を振って応えながら、離れていく2人。
少しは離れた場所に止めてあった自衛隊が使用しているジープに近づくと、優は助手席に、光輝が運転席に座りキーを刺してエンジンをかけると、内地へ向けて発車させるのであった。




内地に向かってジープを走らせること暫くして、横浜まで移動し。東京エリアに駐屯している陸上自衛隊の活動拠点である横浜基地へと向かっていく。
ゲート手前でジープを停めると、近づいてきた警備担当に、光輝と優はPDAを取り出し身分証明書を表示させると提示する。それを確認した担当者が敬礼した後、ゲートに向けて合図を出すを開放される。
2人は担当者に返礼し、ジープを発進させると基地内を進んでいく。司令部がある建物前で停車すると、ジープから2人共降り、駆け寄ってきた隊員にジープを預け司令部の扉を通る。
エントランスを抜け、エレベーターに乗ると。パネルに備えつけられている読み取り機に、光輝が懐からPADの画面を読み取らせると、エレベーターが降下を始める。
パネルに表示された階数表示が変わっていき、BF3と表示されたところでエレベーターが停止し扉が開く。
扉から先は1本道になっており。少し進んだ先に別の扉があった。2人はそこまで歩いて移動すると、扉の横に備えつけられた装置に、光輝が手の平を押し当て指紋認証と、扉に備えつけられたカメラで網膜認証を行う。

『認証完了。天道光輝2尉と認証』

天井と一体化したスピーカーから機械音性が流れると、次に優が同じ手順を行う。

『認証完了。蒼希優3尉と認証』

スピーカーから機械音性が流れると、扉が開き2人はそのその先にある部屋に入っていく。
部屋の中は如何にも研究室だとわかる作りになっており。幾つかある机の上にはビーカーや試験管といった用具や、研究結果と見られる文章が書かれた紙が机に散らばっていた。

「ただいま戻りました博士」

光輝がそう告げるも、部屋はシンと静まり返っており人がいる気配がしない。だが、2人は慣れた様子で部屋の中を進んでいき、別の扉の前まで移動する。
光輝が扉を開けると、内部は灯りが点いておらず暗闇に包まれている。光輝が扉の側の壁にある電源パネルに触れると、天井にある蛍光灯が光を放ち部屋全体を照らす。








































「ふふ、美しいよチャーリー」








































部屋の中心にある手術台に、シートによって体は隠された1人の成人男性が横たわっている。そして、その男性に跨り、片手で頬を撫でながら愛の言葉を囁いている1人の白衣を纏った女性の背中が2人の視界に映った。
一見すれば男女の情事にしか見えないだろう――








































相手の男性が死体(・・)でなければ、だが。

「博士」
「ああ、君を見ている若かりし日の情熱を思い出すよ」

光輝が女性のことを呼ぶも、死体に話しかけることに夢中なのか気づいた様子はない。

「博士」
「そう、あれは私がまだ――」

光輝は今度は大き目の声で呼ぶも、女性は依然気づいた様子は見られない。
すると光輝から何かが切れる音がした。優はこれから起きることを予見し、両手で耳を塞いだ。

「は・か・せェ!!!」

怒鳴るように叫ぶと、密閉された地下空間では実によく響き渡った。優の耳がキーンとするくらいには。

「おや、2人共お帰り」

そこで、ようやく2人の存在に気がついた女性が、呑気そうに顔だけ振り返った。

「ちょっと待ってくれ、今いいところだから」
「はっ倒すぞあんた!!」

再び死体を愛でようとした女性に、光輝が軽く殺気を放ちながら怒鳴る。
これ以上は身に危険が及ぶと判断したようで、ようやく女性――室戸 菫(むろと すみれ)は手術台から降りて2人に向き合った。
美人なのだが、肌は不健康な程青白く。髪を伸び放題にしており髪で目元が半分隠れており、存在感が希薄で幽霊にさえ見えてしまう程である。
彼女は重度の引きこもりにして死体愛好家であり。寝床にしているこの研究室に死体安置所を作らせ、そこに運ばれてくる死体を勝手に恋人にしてしまう、変態としか表現のしようのない人格破綻者なのである。

「やれやれ。光輝君、そんなにイライラしていると将来ハゲてしまうぞ?」

菫がやれやれといった様子で、軽く息を吐きながら失礼なことを言ってくる。

「誰のせいですか」

対して光輝は額に青筋を浮かび上がらせながら、こめかみをピクピクと引きつらせて睨みつける。

「だいたい、あなたが機体との同調テストをしたいと言うから戻ってきたのに。なんで死体とイチャついてんですか!」
「ムラムラしたから」
「少しは欲求を抑えろ!」

はばかることもせず本音をぶちまける菫に、光輝はツッコミを入れる。

「てか、博士~。スーザンさんはどうしたんですか?」

優の言うスーザンとは、この前まで菫が恋人にしていた女性の死体である。ちなみに、菫は死体であれば性別をとわない。

「彼女は残念ながらもういない。代わりの彼だ。死体はいいよ、無駄口きかないし。彼らだけさ、私の気持ちを理解してくれるのは」

菫はそう言って、防腐処理の施された死体に頬ずりをする。ちなみに彼女の座右の銘は「この世には死んだ人間と、これから死ぬ人間しかいない」である。

「すいません。僕達博士みたいなド変態さんじゃないので、理解できなくて…」
「優君。思ったことを素直に言ってしまうのは、君の利点であり欠点だな。私はド変態さんでないよ」

申し訳んなさそうな顔で、とんでもないことを言い放つ優に。薫はハハハとにこやかに笑いながらツッコミを入れる。

「あ、すいません。そうですよね!博士は『超』ド変態さんでしたね!」
「ハハハ、どうしよう光輝君。泣きそうなんだが」
「自業自得でしょう」

悪気を一切感じさせず、無自覚に追撃をかます優に。流石の薫も傷ついたようだ。そして、光輝はそんな2人を見て激しい頭痛に見舞われ、片手で顔を抑えるのであった。

東京エリア駐屯陸上自衛隊所属――国家代表直属遊撃小隊『Alvis(アルヴィス)
次世代ファフナー開発計画で開発された新型機『ノートゥング・モデル』を実戦運用するために、開発計画兼整備班総責任者『室戸菫』部隊長『天童光輝』副部隊長『蒼希優』を中心に構成された部隊である。
その特異な部隊編成と、従来の部隊より突出した戦闘力を最大限に発揮するために。通常の指揮系統から外され、国家代表である『聖天子(せいてんし)』が直轄し。非常時には独自の判断で行動する裁量が与えられているのが特徴である。

「もういいから早くテストを――」








































ウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――――!!!








































光輝の言葉を遮るように、非常事態を告げるサイレンが鳴り響くのであった。



※捕捉
室戸菫
ブラック・ブレットの登場人物であり。原作では1法医学教室の室長だが、本作ではオリ主達の技術面でのバックアップ要員も兼ねてもらうため立場が大きく変わっている。
性格面は変わらず引きこもりの変態である。


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第二話

Alvis専用に設けられた横浜基地BF3エリア。そのブリーフィングルームに光輝と優は並び立っていた。
彼らの視線の先には、壁に埋め込まれた大型モニターに1人の少女が映し出されていた。
雪を被ったような純白のドレスに銀髪――『聖天子』東京エリアを統べる国家代表である。
東京エリアは襲名制であり、聖天子という名は代表が代々受け継ぐ者の象徴と言えるものなのだ。

『天童2尉、蒼希3尉――あなた達の力が必要になりました』

どこまでも透き通る声で聖天子は厳かに告げる。

『未踏破領域にあるとある施設から最重要機密が盗み出されました。奪還に部隊を派遣しましたが、反撃を受け失敗しました。Alvisには彼らに変わり奪われた機密の奪還を命じます』

未踏破領域――
バアルによって支配された地域の総称。その全ての土地が、ガストレアウィルスによって異常進化した植物が多い茂り、ジャングル化しており生態系は完全に崩壊してしまっている。

聖天子の説明に光輝は顎に手を添えて思案すると。

「その最重要機密についての情報は?」
『…それはあなた方であってもお教えできません』

光輝の言葉に聖天子は光輝らを一瞥し、躊躇うかのように目を伏せた。直属部隊である彼らにも明かせないとうは、かなりの機密らしい。
聖天子個人としては話したくても、国家元首としての立場がそれを許さず、その板挟みに苦しんでいることは十分に感じ取れたので。光輝としては無理に聞き出す気はないため、深くは追求はしなかった。

「では、強奪犯については」
「1組の民警とのことです」
「民警、ですか」

民警――
民間警備会社の通称。セカンドアタック後に生まれた業種であり、エリア内に侵入したバアルの対応を主な業務とし、その戦闘力を生かし身辺警護といった業務も受け持つこともある。
『子供たち』であるイニシエーターと、その監視役のプロモーターのペアで行動するのが基本となる。

光輝は聖天子の言葉に目を細める。民警はあくまで民間組織だが、その戦闘力はピンからキリまでが激しく。基本はチンピラ程度の実力しかない者が殆どだが、中に単独で軍隊を壊滅させられる者さえいるのだ。
そして、そういった実力者は国に工作員として雇われることが多いのだ。
バアルの出現後、人類同士での争いは終結したように見えるが。水面下では民警による工作員を送り込み合う、かつての冷戦期のような対立構造ができ上がっていた。

「了解しました。それではただちに出撃します」

光輝が敬礼すると優もそれに続く。
光輝自身としては人類同士で争うこと等、無駄以外のなにものでもないと考えているが。自衛隊員である以上命令に従うだけであった。
そして、光輝は優に目配せすると退出していく。

「……」
『……』

残った優と聖天子は何も言わず、ただ視線を合わせる。そこに気まずさはなく、寧ろ心地よさがあるようであた。

『優さん…』

沈黙を破ったのは聖天子であった。だが、今の彼女には先程までの神聖な雰囲気はなく。16歳である年相応の少女のものであった。

『ごめんなさい。またあなたを戦場へ送り出してしまいます』

今にも泣きだしそうな彼女の口から出たのは、謝罪の言葉であった。厳格な国家代表としての彼女を知る人間が、その弱弱しい姿を見れば仰天することだろう。

「泣かないで『(せい)ちゃん』。君はなにも悪くないんだから」
『でも、わたくしがもっとしっかりとしていれば。こんな事態にはならかったかもしれないんですよ?』

自分の采配1つで国の生末が決まる。即ち、そこに住む全ての人々の未来を決めることとなるのだ。その重圧と彼女は日々戦っているのだ。
今回の事変への対処も、要所ごとに、自分の判断が間違っているのではないかという不安がつきまとっていた。あの時もっと適切な判断ができたのではないか?そうすれば早期に解決でき、無用な犠牲を――優を危険に晒さずに済んだのではないかと思えた。

「君は精一杯やってると思う。他の人はどう言うかわからないけど、僕はそう信じているよ」
「――ッ!」

そう言って優が微笑むと、聖天子は頬を赤らめて俯いてしまった。

「それにこれは、僕が自分で選んだことなんだ。だから、後悔はしてないよ」
『優さん…』

優はモニターに近づいて右手で触れると、聖天子は顔を上げるとその手に自分の左手を重ねた――遠く離れた場所にいる互いの存在を確かめ合うように。

「守るよ、君が守ろうとしているもの全てを。そして、君を――それが、僕が『命』の使い道の1つだから」
『どうか、お気をつけて…』

モニターから優が手を離すと、聖天子は名残惜しそうにするも。部屋から去り行く彼の背中に、手を合わせて無事を祈るのだった。




一足先にモニタールームを出た光輝は、更衣室でファフナー用戦闘服へと着替える。『シナジェティック・スーツ』と呼ばれ、体つきがはっきりわかる形状をしており、両肩・両脇腹・両膝部分には布地がないのが特徴的である。
更衣室から格納庫に繋がる扉を開くと、整備責任者である菫が光輝を待ち構えようにして立っていた。

「今更だけど、いいのかい?君と聖天子様は許嫁なんだろ?」

腕を組んで前髪に隠されていた目を僅かに覗かせ、問いかけてくる。その目は光輝を案じているようであった。
実は光輝の実家は、東京エリアの政治経済を裏から牛耳る程の力を持っており。彼の祖父であり当主である天童 菊之丞(てんどう きくのじょう)――は聖天子補佐官としてこのエリアの№2の地位にいるのだ。
光輝には政府の要職に就いている多くの異母姉弟や従兄弟らがいるも、祖父は自身の後継者は光輝とすることを決めており。また祖父は聖天子を敬愛しており、光輝は彼女と歳が近いこともあり。いずれは婚姻を結ばせ公私において聖天子を支えさせたいと考えているのだ。
そのため幼い頃から光輝と聖天子は交友があり、幼馴染といえる関係であった。

「勝手に決められたことですからね。俺はあの2人はお似合いだと思いますよ」

だが、光輝自身は聖天子とは姉弟のような関係で満足しており、正直婚姻には乗り気でなく。そして、とある任務で優と知り合ってから、聖天子が彼を想い慕っていることに気がつき、彼女を応援したいと考えていた。

「しかし、優君は優秀とはいえ一介の兵士に過ぎない。いくらなんでも身分が違い過ぎる。君は悲劇的な恋が好きなのかな?」
「そういう趣味はありませんね。今は博士の言う通りですが、あいつはいずれ大きくなりますよ。誰もが無視できない程にね」
「彼を信頼する気持ちは理解できるよ。だが、天童閣下がとても許すとは思えないがね」

菫は眉を潜ませて言う。菊之丞は光輝を溺愛し、聖天子には揺るぎない忠誠心を持っている。そんな彼が光輝以外に聖天子を任せるとは思えなかった。

「そこは俺がなんとかしますよ。例えおじい様を敵に回したとしてもね」
「そんなことをすれば、東京エリアにいられなくなるぞ?」
「幼馴染と親友の幸せのためなら、喜んで命をかけますよ」

そういって笑みを浮かべる光輝。彼は滅多に笑わないので珍しい光景であった。

「そうか…。君にそこまでの覚悟があるなら、もう何も言わないよ」

そんな彼を見て、菫はこれ以上語るのはやぼだと理解した。

「お待たせ。どうかしたの?」

シナジェティック・スーツ着替えた優が更衣室から出てくると、光輝と菫から流れる妙な気配に不思議そうに首を傾げる。

「なんでもないさ。博士準備は?」
「こちらは終わっているよ。後は君達と輸送機待ちさ」

光輝の問いに菫は右手の親指で格納庫の奥を指す。

「では行くぞ優」
「うん」

光輝と優は格納庫の奥へ向かうと、ハンガーに固定された2体の黒色と空色のファフナーが姿を見せる。
ノートゥング・モデル――次世代機開発のための最新装備のテスト用に開発された試作機であり。最大の特徴は、ガストレアの心臓を加工した『コア』と呼ばれる新型動力を搭載していることである。
そして、ノートゥング・モデルに使用されているコアは、ガストレアでも11体しか確認されていない、ステージV『ゾディアック』と呼ばれる最大級個体の心臓から作られたものである。

ステージ――
ガストレアは進化の度合いで区分されており、感染して間もないステージIから完成形であるステージIVまで4段階に分けられる。
ステージの進行段階でさまざまな生物のDNAを取り込むため、ステージII以降のガストレアはそれぞれに異なる異形の姿と特徴を持ち、「オリジナル」とも呼ばれる。主だった個体には星座にちなんだ識別名が付けられている。
ゾディアックは通常は発生し得ないステージVに分類され、なぜこのような個体が生まれたのかは不明である。

ゾディアックの心臓――
ゾディアックの内、撃破された金牛宮(タウルス)処女宮(ヴァルゴ)の心臓を、国連より次世代ファフナー開発のため東京エリアへ『譲渡』されたのだ。
当時、貴重なゾディアックの部位を独占させるこの決定には、四国と長野以外の日本エリアから反対の声が大きかったが。ハンドレッドの開発元であるワルスラーン社社長や、一国の王と同等の権力を持つ『神聖教会(ピューリタリア)』教皇等の世界に強い影響力を持つ者達からの賛成の声を受け、実現したのだった。
この結果、コアシステムを始めとする最新技術が搭載可能となり。ノートゥング・モデルは従来機を凌駕した性能を獲得することに成功している。
反面、適性のある者にしか機体を起動させることができなくなり。『特殊な適性を必要としない起動兵器』であるファフナーの利点が潰れてしまったことが、最大の欠点となってしまった。

ハンガーに収められた。全身に固定火器が装備され、堅牢な装甲で覆われた黒色の機体――マーク・ツヴァイに光輝が近づき、背中を預けるようにして乗り込む。すると装甲が閉じ全身が装甲に包まれ、空気を抜く音と共に最初から身体の一部だったかの様な一体感を感じる。
優もスマートなフォルムに、背部だけでなく、両脚部に装備された大型ブースターが特養的な空色の機体――マーク・アインに同様の手順で乗り込むと。両者に内部に備えられている両肩・両脇腹・両膝に先端が、剣山のようになっているコネクターが打ち込まれる。シナジェティック・スーツには、この際生じる痛みを軽減する機能もあり、着ていなくても搭乗はできるが最悪激痛で気絶る可能性もある。
もっともスーツを着ていてもそれなりの痛みはあるが、優も光輝もすでに慣れているのでなんともない様子である。
コネクターを通して機体と神経接続がなされ、文字通り機体と一体となり。機体が受ける皮膚感覚が、搭乗者にダイレクトにフィードバックされる。
そして、2人の瞳が紅く(・・)なり、機動を完了する。

『2人共調子はどうだい?』
『マーク・ツヴァイ問題なし』
『マーク・アイン同じく』

通信ルームに移動した菫の声に2人が答えると、ハンガーのある区画が上昇を始める。
その間に機体の最終チェックを終えると、地上に繋がるゲートが見えてくる。
ゲートが開くと日が沈みかけた空が広がり、機体が地上へと出ると、ハンガーのロックが解除される。
視界の先には、現地までの移動に使用する輸送機が待機しており、その後部ハッチまで2人は機体を移動させるのであった。




元千葉県房総半島――バアルによって占領されたこの地は、かつて人類が築いた都市群は軒並みバアルによって破壊され尽くし。ガストレアウィルスによって異常進化した植物に覆われ、人の営みの痕跡は消え失せ化け物が跋扈する密林と化していた。
南米のジャングルと同様の様相を呈している空間で。日が沈み、月が放つ光以外照らすものがない薄暗い森林の中、いくつかの人影があった。
最重要機密奪還のために派遣されたファフナー部隊である。隊長機である一般仕様のメガセリオン・モデルと、正式量産機であるグノーシス・モデル数体で構成されていた。
だが、どの機体も大小様々な損傷を受けており、ただならぬ事態があったことは容易に想像できた。

『――様子はどうだ』
「…駄目です」

隊長機であるメガセリオン・モデルの問いに、地面に寝かせられた部下を見ていた別の部下が無念そうに首を横に振った。

『…そうか』

二度と目を覚まさなくなった部下に冥福を祈ると、隊長機は状況を整理する。
強奪犯を探索中、木々に覆われた暗闇から何かが姿を現した。
それは、人であった――1人はタキシードにシルクハットに身を包み、笑顔を浮かべた仮面で顔を隠した長身の男と、黒いドレスを纏い腰にバラニウム製と見られるの小太刀を2本携えた10歳程の少女であった。
恐らく、彼らが強奪犯なのであろう。隊長機はそのことを問いただそうとする。
――が、イニシエーターが小太刀を抜刀すると同時に、姿が消えたかと思うと。隊長機と共に前衛にいた2体のグノーシス・モデルが首から血を噴き出し崩れ落ちた。彼らの側にはイニシエーターがおり、手にしている小太刀には血が滴り落ちていた。
そこで攻撃されたことを自覚すると、隊長機は手にしていたアサルトライフルを構え、部下に攻撃を指示すると同時にイニシエーターへと発砲する。
それに続くように部下のグノーシス・モデルも、腕部と一体化しているガトリングとレールガンを放ち、10機分の弾幕がイニシエーターへと襲い掛かる。
だが驚くことに、イニシエーターはまるで踊るかのように弾幕を掻い潜りながら接近し。次々と部下を小太刀で斬り伏せていった。それもまるで遊んでいるかのような笑みを浮かべて――
このままでは全滅すると悟った隊長機は、イニシエーターを残った部下に抑えさせ、自身はプロモーター目がけて突撃した。イニシエーターは確かに高い戦闘力を持つが、それでも10歳程度の子供なのである。そのため判断を相方であるプロモーターに一任していることが多く、プロモーターが倒されると無力化されることが殆どであった。
その職業柄、民警同士での戦闘になることも珍しくなく。その場合、ただの人間であるプロモーターが優先的に狙われることが多いのである。

『はぁぁぁあああ!』

そのためプロモーターが狙われれば、イニシエーターはプロモーター守るために動くものだが。小太刀持ちのイニシエーターは、そのような素振りも見せず部下に襲い掛かっていた。
そのことに隊長機は違和感を覚えるも、ライフルをプロモーターへと構えトリガーを引く。撃ち出された無数の弾丸は、まるで見えない壁に阻まれたかのようにプロモーターの眼前で弾かれた。

『何!?』

その事実に驚愕すると同時に隊長機は理解した。イニシエーターがプロモーターを守ろうとしなかったのは、その必要がなかったからだと(・・・・・・・・・・・・・)

『クッ!』

隊長機は再度ライフルを発砲するも、先程と同様に弾丸は何もない筈の空間に弾かれた。まるでその光景は、サベージの張る防御フィールドのようであった。
対するプロモーターは、隊長機の行動を仮面の奥で嘲笑っているようであった。

『ならば――!』

射撃武器では効果がないと判断した隊長機は。ライフルのマガジンを交換し左手に持ち、背部パイロンから近接用ブレードを右手に持ち、プロモーターへと突撃する。
牽制のためにライフルを放つと、やはり弾丸は見えない何かに弾かれるも。接近した隊長機はブレードをプロモーターへと突き立てた。
刃は弾丸同様に、プロモーターに届く前に見えない壁に阻まれ、それ以上前に進まなかった。

「無駄だよ。その程度では私には届かない」

プロモーターがどこまでも冷え切った声音で言葉を発する。

『舐めるなァ!』

隊長機がライフルを手放し、腰部からグレネードを取り見えない壁に押し付け起爆させる。
握ったままグレネードを起爆させたことで、集約された威力が見えない壁に炸裂し、その衝撃で後方へ吹き飛び背中から地面に叩きつけられる隊長機。
捨て身の代償として代償として左手が吹き飛び、激痛に顔を顰めながら上半身を起こすと、その視線の先には無傷のプロモーターが立っていた。

「ふむ。無能な国家元首に率いられているからと、少し油断してたな」

プロモーターは感心したように頷く。そして、右手の指をパチンッと鳴らすとイニシエーターが男の元へを戻った。

「もう終わりなのパパ?もっと斬りたい」
「我慢だ娘よ。じきに(・・・)多く斬れるのだから」

不満そうに唇を尖らせるイニシエーターを、意味深な言葉で宥めるプロモーター。

「では、我々はお暇させてもらうよ。精々足掻いてくれたまえ」

そういうと2人組は背を向ると、茂みの奥へと消えていってしまった。それと同時に周囲から獣のよな咆哮と地響きが響渡った。

『ッ不味い!森が起きたか(・・・・・・)!』

先程の戦闘音で、周囲にいたバアルがこちらに向かって来ているのだ。
隊長機は素早く部下に負傷者を連れて撤退を命じるのであった。




あれからバアルに気取られぬよう移動している最中、負傷していた部下の容体が悪くなり、部隊を一旦停止させることとしたのだ。
中隊規模の部隊が1組の民警に半壊させられるなど、悪夢以外の何物ものでもなかったが。現実として危機的状況であることに変わりなかった。
既にことの顛末は司令部に報告しているので、新たな追撃部隊が派遣されているであろう。だが、自分たちの救助に戦力を割く余裕はないため、自力で安全圏まで離脱しなければならない。
そのため部下の遺体は持ち帰る余裕がないので、タグだけ回収し地面へと埋めると部隊は移動を再開する。

『クソッ。なんでこんなことに』

部下の1人が悪態をつく。本来なら止めるべきだが、この状況では無理もないことであり、隊長機も内心は同じことを思っていたからでもあった。
奪還すべき対象も、強奪した相手に関する情報も伏せられたまま派遣されたことに、口にこそ出さないが上層部に対する不信感は拭えなかった。

『うわぁ!?』

突然僚機の1機の片足に蔦のようなものが巻き付き、強烈な力で引っ張られ地面に叩きつけられると、茂みへと引きずられていく。

『このッ!』

側にいた他の僚機が蔦のようなものへと発砲し切断する。すると、苦しむような獣の咆哮と共に、茂みからカマキリ型のガストレアが飛び出してくる。
カマキリを3m程にまで巨大化させた外観に、背部から2本の触手が生えており。他の生物のDNAを取り込んで進化したステージⅡであり、1本の触手が途中でちぎれていて蔦に見えたのは、この個体の触手であった。
カマキリ型は、腕と一体となっている鎌を引きずり込もうとしていた僚機目がけて振り下ろす。
隊長機は狙われた僚機の前に立ち、手にしているブレードで鎌を受け流し、狙いが逸れた鎌は何もない地面へと突き刺さった。

『撃て!』

隊長の合図と共に、僚機全機がカマキリ型へと一斉射撃を浴びせる。
蜂の巣にされたカマキリ型は、絶叫を上げながら崩れ落ちて絶命した。

『大丈夫か!』
『はい。助かりました隊長…』

隊長機が助けた僚機の腕を掴んで起き上がらせようとすると、センサーが頭上に新たな反応を捉えた。

『隊長!』

腕を掴んでいた僚機が隊長機突き飛ばす。すると、僚機は落下してきた巨大な物体に押しつぶされてしまった。

『正木曹長ォ!』

突き飛ばされた隊長機が地面を転がると、上半身を起き上がらせながら押しつぶされた僚機を呼ぶ。だが、返事が変えてくることはなかった。
落下してきたのはバアルの1種であるサベージだった。甲殻類――特にザリガニ近い形状をしており、黒光りする装甲が不気味さを放っていた。大きさは、先程のカマキリ型ガストレアより5m程と大きいが、サベージの中では小型に分類されるも。今の状況では脅威度ではカマキリ型以上であった。
残っている僚機がサベージへと発砲するも、周囲に展開された防御フィールドに阻まれダメージを与えられない。
煩わしそうに体を震わせたサベージが、ザリガニでは口にあたる部分が開き輝き始める。

『いかん!散開しろ!』

隊長機が叫んだ直後、輝が強くなり閃光――ビームが僚機目がけて放たれた。
僚機は左右に散って回避すると、ビームは射線上の木々を焼き払っていった。

『ギャぁ!?』
『栗須小尉ィ!』

回避した僚機の1機が飛来した無数の巨大な針に串刺しとなる。
針の飛来した方を見ると、ハリネズミ型のガストレアが新たな針を生成していた。そして周囲から新たなサベージやガストレアが集まてきており、完全に包囲されてしまっていた。
生き残っている機体同士で背中を合わせて周囲に弾幕を張るも、バアルの勢いは止まることなく群がってくる。

「(これまで、か…)」

隊長機は状況を分析し、部隊生存の望みは絶たれたことを悟った。
残ったのは自身を含め3機のみであり、最早包囲を破ることは不可能であった。残された手段は、機体に内蔵された機体の機密保持や、搭乗者がガストレアとの戦闘で、ウィルス感染しガストレア化するのを防ぐための措置として搭載された。燃料気化爆弾『フェンリル』を敵を1体でも多く巻き込んで起動させる――所謂自爆(・・)して果てることだった。
ファフナー乗りとなってバアルと戦うことを決めた時から、このような事態になることは覚悟していたことであった。まして、ガストレア化して化け物の仲間入りをして、人類に牙を剥くことだけは避けなければならない。部下達へ視線を向けると、皆語らずとも理解しているように頷いた。彼らも自分同様に当に覚悟を決めていたのだろう。

「(許せ…)」

残していく者達――妻や生まれたばかりの我が子を想いながら、行動に移そうとした時。センサーが上空にバアルでない反応を捉えた。

『あれは…』

無意識に上を向くと、月夜に照らされた空色のファスナーが、こちら目がけてパラシュートが必要な筈の高度から真っ逆さまに落下してきていた。
空色のファスナーは空中で姿勢を整えると、ブースターとスラスターを吹かせながら減速を始め、背部パイロンから近接用武装ルガーランスを両手で取り出し逆手に持った。

『ハァァァァァァアアアアアア!!』

空色のファスナーは、落下の速度を乗せながら1体のサベージの頭上にランスを突き立てた。その威力は、衝撃でサベージの足元の地面が陥没する程であり。ランスは防御フィールドを軽々と破り、頭部にあるサベージの急所である『コア』に突き刺さった。

『くらえぇぇぇえええ!』

ランスの矛先が展開すると、レールガンが撃ち込まれコア諸共サベージの頭部が吹き飛び、残された体は力なく崩れ落ちた。

『救援、ノートゥング・モデルか!』

落下してきたファフナー――マーク・アインを見た隊長機が思わず驚愕の声を上げる。
ツヴァイはランスを左手に持ち替え、右手に背部パイロンから取り出したロングソードを持つと、近くにいたガストレアに目にも止まらぬ速さで迫った。

『オォォォオオオ!』

裂帛の気迫と共に振り下ろされたソードは、軽々とガストレアの皮膚と肉を絶ち両断する。悲鳴を上げる間もなく絶命したガストレアを見向きもせず、アインは他のバアルに襲い掛かった。
アインを危険と判断したのか、バアルは隊長機らを無視してアインに殺到していく。
背部と脚部の大型ブースターと各部のスラスター駆使し。周囲の木々と、バアルの巨体をも足場にして、目にも止まらぬ速さでジャングルを縦横無尽に跳びながら、次々とバアルを葬っていくアインに隊長機らは戦慄した。その強さそうだが、何より戦い方が異常だった。
カメ型のガストレアが前腕をアインへと振り下ろすと、それを僅かに機体を横にズラし。触れるか触れないかギリギリの位置で回避すると、アインはランスをカメ型の喉元に突き刺す。
そこに1体のサベージがビームを放ってくるも、アインは突き刺したカメ型の甲羅を盾にして防ぐだけでなく、そのままブースターの出力を上げサベージへと突撃していく。
ビームによってカメ型の甲羅に亀裂が入っていき、遂には砕けて肉の部分を焼いていく。するとアインは、カメ型が消し飛ぶ前にランスを引き抜くと、スライディングしてサベージの懐に潜り込むんだ。そして、ビームを撃った反動で膠着しているサベージの片足をソードで斬り落とすと、バランスを崩して傾いたサベージの口にランスを突き刺し、レールガンで頭部ごと粉砕した。

『あいつ、死ぬのが怖くないのか!?』

僚機の1機が、信じられないものを見ているように声を震わせる。
あらゆる攻撃を紙一重で回避していくアイン。それも、そうせざるを得ないのではなく、意図的に行っているのだ。
確かに最小限の動きであれば、反撃に転じやすくなるも。基本一撃必殺になりえるバアルの攻撃を、そんな避け方を続ければ精神が摩耗して最悪自滅しかねない。鋼の精神という言葉すら生ぬるい精神力でなければできない芸当だ。あるいは――

『聞いたことがある。聖天子様直轄部隊には、まるで死に場所を求めるように戦う者がいると』
『では、あれが?』
『恐らく、な」

アインの戦いに気を取られている間にも、多数の新たなるバアルが茂みから現れるも。飛来したミサイル次々に着弾し、爆炎に飲み込まれた。

『今度はなんだ!?』

新たに巻き起こった事態に僚機が動転した声を上げると、炎を掻き分けて新たなるファフナーが姿を現す。
従来の機体よりも重厚な装甲をしており、バックパック一体型の2門のレールキャノンと、右手には自身の全長に匹敵する程の大口径ガトリングを保持しており、左肩背面に固定されている大型ドラムから弾丸がベルト式に繋がっている。さらに、左腕には火炎放射器と見られる物まで装備されていた

『こちら聖天子直属遊撃小隊Alvis。これよりそちらを援護する」

そう告げると、重装型――マーク・ツヴァイは、自身に迫りくるバアルに対し、大口径ガトリングを両手で保持すると銃口を向けた。そしてトリガーを引くと、銃身が高速回転を始め轟音と共に弾丸が次々と撃ち出されていく。弾丸はガストレアはおろか、サベージをフィールドごと貫き風穴を開けていく。
そして、レールキャノンの長大な砲身から高速で放たれた砲弾は、複数のバアルを巻き込んで吹き飛ばし。装甲各部が展開すると、露出した無数のミサイルが発車され、途中でその先端が解放され、小型のミサイルが飛び出していく。さらに、両脚部に追加されているポッドからは対艦ミサイルも放たれ、それらがバアルに着弾し爆発と炎に包む。
暫くしてツヴァイが射撃を止めると、その眼前にはバアルだった無数の死骸と、それを飲み込むようにして広がる炎のみだった。

『――――』

その光景を、隊長機らは唖然と見ていることしかできなかった。
たったの2機で大隊規模は必要とするバアルを殲滅した事実に、まるで夢でも見ているかのような錯覚さえ覚える。

『このポイントで輸送機と合流します。我々が敵を抑えますので行って下さい』

ツヴァイより、ポイントのデータが派遣部隊に送られてくる。それと同時に新たなバアルの群れが押し寄せてくる。
その群れにアインが斬り込み、かき乱したところにツヴァイが火力を叩きこんで薙ぎ払う。

『了解した頼む』

敵地の真っ只中である以上、敵はとめどなくやって来る。いかにAlvisが強力でも限度があるので、早急に離脱する必要があった。
隊長機は部下を連れてポイントへ移動を始め、追撃してくるバアルをAlvisが迎撃しながら後退していく。

『もういい優。俺達も退くぞ』

暫く殿を務めていたツヴァイが、派遣部隊が安全圏まで後退したのを確認すると、アイン――優に撤退を指示する。

『了解』

ガストレアの頭部を跳び退きながらソードで斬り落とすと、アインも離脱に入る。最後にツヴァイが制圧射撃をしながら離脱していくのであった。




時は少し遡り。Alvisがいる戦場から離れた場所に生えている木々の中でも、最も高い木の頂点に近い枝の上に派遣部隊を襲撃した仮面のプロモーターは立ち、小太刀使いのイニシエーターが腰かけていた。

「ふむ。あれが、ノートゥング・モデルか」

バアルと戦っているアインとツヴァイを見て、プロモーターが愉快そうに笑う。

「ねぇパパ。あれ斬りたい!」

イニシエーターが足をプラプラとさせながら、ウキウキした様子で今にも飛び出しそうであった。

「我慢だと言っただろう娘よ。楽しみは最後まで取っておくものだ」
「えー」

プロモーターが窘めると、むーとむくれるイニシエーター。

「『例の物』がどこかに行ってしまって面倒なことになったが。おかげでいいものが見れた。無能な国家元首にしてはいい仕事をする。これは益々楽しめそうだ」

撤退に入ったAlvisを見ながら、獲物を定めたように目を細めるプロモーター。

「さて、『例の物』を探しに行くとしようか娘よ」
「は~い」

プロモーターが枝から枝へと移りながら地面に降り、プロモーターもそれに続くと。ジャングルの闇の中へと去っていくのであった。

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第三話

四国エリア善通寺基地。四国エリア駐屯自衛隊の総司令部、その滑走路に学生服を身に纏い、旅行鞄等を持った13~15歳程と見られる数人の少女がいた。
彼女らは神樹によって『勇者』と『巫女』に選ばれた者達であり、この四国エリア防衛の要と言える存在であった。

「にしても東京か~。上手い食い物とか一杯あるといいなぁ」

その中の1人である、土居 球子(どい たまこ)が両手を頭の後ろで組みながら陽気な声で話す。

「もぉ、タマッち先輩は食い意地張りすぎだよ。それに遊びに行くんじゃないんだから」

そんな珠子に、伊予島 杏(いよじま あんず)が呆れを滲ませた声で苦言を呈す。

「折角四国から出られるんだから、それくらいの楽しみがあってもいいじゃんかよぉ。なあ、千景?」
「伊予島さんの言っていることが全面的に正しいわね」

球子が別の少女、郡 千景(こおり ちかげ)に話を振るも。千景はそっけなく返すのだった。

「でも、あっちにしかないゲームがあるかもしれないから、一緒に探してみようよぐんちゃん!」
「…いいの?」
「うん!」
「ありがとう、高嶋さん」

そんな千景に高嶋 友奈(たかしま ゆうな)が話しかけると、球子の時とは違い嬉しそうに答える千景。

「なんだよ。もう少しタマにも優しくしてくれていいじゃんかよ~!」
「優しくしてるわよ十分に」
「さっきのやり取りのどこが!?」

ワイワイと楽しそうに騒ぐ彼女らから少し離れた場所で、乃木若葉はどこか落ち着かない様子で青空を眺めていた。
そんな彼女の耳にシャッター音が聞こえてきたので、そちらを向くと幼馴染の上里 ひなたが携帯を片手に立っていた。

「だから、私を撮るなといってるだろうひなた!」
「だって、無防備過ぎたので撮っていいのかと」

だって、ってなんだと変わらない幼馴染に溜息をつく若葉。

「なんか、東京に行くって決まってからボ~っとしてるよな若葉」

そんな彼女らの元に球子らが集まって来る。
1ヶ月前に起きた『丸亀城の戦い』の後。当面の間は、四国がバアルによる侵攻を受けることはなくなったと神樹は信託を下した。
そして、その間に四国エリアは、友好を深めるために同盟国である東京エリアへ勇者を訪問させることを提案し、東京エリアもこれを受諾。そして今日、若葉達が出発の日となったのだった。
また、そのことを伝えられてから、若葉は考え事をするようになり。授業中も上の空になって教師から注意を受けるという、生真面目である彼女には、非常に珍しい光景が見られるようになった。

「そんなにフラれた彼氏のことが気になんのかよ?」
「だ~か~ら~、あいつとはそんな関係ではないと言っているだろう!」

球子のからかうような発言に、鬼のような形相で睨みつける若葉。しかし、顔が真っ赤でどうにも迫力がなかった。

「でも、3年近く連絡取れてないんだよね?」
「何か怒こらせることでもしたんじゃないかしら?」

球子のからかいは置いておいて、友奈と千景が会話に混ざる。サード・アタック後、若葉とひなたが、他に勇者と巫女として目覚めた者達共に大社に集められている間に、優は2人に何も伝えずに東京エリアに移り住んでしまったのだった。
それから優からなんの音沙汰もなく。その後、ネットに上げられている『子供達』の保護活動を掲載しているブログで。彼が自衛隊に入り、その活動を支援する任務に就いていることくらいしか、若葉は知ることができないでいた。

「いや、そんなことは…ない、筈…」

記憶を辿るも、優に嫌われるようなことはなかったと思いたいが。自分では気づいていないだけではと不安になり、ひなたに不安そうに視線を向ける若葉。

「…ここで考えても仕方ありません。本人会ったらに直接問いただしましょう」
「?まあ、そうだな」

話を打ち切るように言うひなた。確かにその通りだが、何か強引さを感じて違和感を覚える若葉。
そのことを問いかけようとすると、彼女らの側で出発の準備中の輸送機から声をかけられる。

「おい、お前らそろそろ時間だが準備はいいか?」

輸送機から降りてきた男性――土居 球樹(どい たまき)が若葉らに話しかける。
彼は球子の兄であり、四国エリア駐屯陸上自衛隊所属第1迎撃隊所属のファフナー搭乗者で階級は2尉である。今回の若葉達の派遣に伴い、道中の護衛を彼の小隊が担当することとなっている。

「おう、兄ちゃん。いつでも行けっぞ」
「ホントか?忘れ物しててもしらんからな。電話で泣きつかれてもどうにもできんぞ」
「タマのことをいつまでも子供扱いするなよ兄ちゃん!」

兄の態度に、プンスカと怒りながら抗議する球子。

「もう少しおしとやかになったらな。杏ちゃん悪いけど、この馬鹿妹のことしっかりと見ててくれな」
「はい、もちろん」
「はい、じゃない!タマの方がお姉ちゃんなんだから、そこは逆だから!」

球樹と杏のやり取りに、球子が更なる抗議を入れる。球子と杏は姉妹同然の絆で結ばれており。球子は杏を妹として、杏は球子を姉として接している。最も身長や言動で逆に見られることが多いが…。

「冗談だってば、向こうでも頼りにしてるよお姉ちゃん」
「む、そういえばなんでも許すと思うなよ。まあ、タマはいつでも頼りにはなるがな!」

悪戯が成功した子供のように笑う杏に、腕を組んでムスッとした顔をする球子だが。姉と呼ばれてなんだかんだで嬉しそうであった。

そんなことをしていると彼女らの側に1台のジープが停車し、人の少女が降りてくる。

「球樹さん!」
「よお、真鈴(ますず)。どうしてここに?」

珠樹は、その少女――恋人である安芸 真鈴(あき ますず)の姿を見て少し意外そう顔をする。
彼女はひなた同様大社所属の巫女であり、勇者付きである彼女とは違い、基本的には大社本部にいるのだ。

「私が連れてきた。君に渡したい物があるそうだ土居2尉」
「父さん!」

真鈴の後に続くようにジープから降りてきた壮年の男性に、今度は若葉が驚いたような顔をした。
乃木大葉――若葉の父であり、彼はこの四国エリアの国家代表を務めているのだ。そのため日夜政務の終われ、この場に来る余裕はないと思っていたからである。
大葉の姿を見た球樹が敬礼をすると、大葉は楽にしてくれと告げる。

「お仕事は大丈夫なのですか?」
「何、見送りするくらいの時間はあるさ。お前や高嶋君達にはいつも無理をさせているからな。これくらいのことはせねばな」

若葉の問いに、にこやかに答える大葉。

「それで、俺に渡したい物ってなんだ真鈴?」
「これ、お弁当を作ったので。よかったら食べて下さい」

そういって照れながらも、お弁当包みにくるまれた弁当箱を球樹に手渡す真鈴。

「マジか!ありがとうな真鈴!」

受け取った弁当を大切そうに抱えながら喜ぶ珠樹。
その様子を見ていた球子がヒューヒューと茶化していたり、恋愛小説を好む杏はいいなぁ~、と羨ましがっているようである。

「もう!球子は茶化さない!向こうでくらいは少しは女の子らしくしなさい!」
「は~い」

妹を叱るように注意するが、余り効果はない模様。真鈴はやれやれといった様子で軽く溜息をつくと、今度は杏に声をかける。

「杏も大変だろうけど、いってらっしゃい」
「はい、お土産一杯買ってきますね!」

球子と杏のことを本当に心配している様子の真鈴。そして、球子は態度こそあれだが2人もそのことを嬉しく思っているようであった。
真鈴はサード・アタックの際。彼女が神託により、球子に杏の居場所を伝え助けるように伝えたのが縁で、2人を妹のように気にかけ。球子らも真鈴を姉のように慕っているのだ。

「若葉」
「はい、父さん」

父親に呼ばれて若葉は姿勢を正す。

「今回の訪問だが。最近東京エリアでは反政府勢力の不穏な動きが見られる、十分に気をつけるように」
「はい!必ずやお役目を全うしてみせます!」

強く意気込む娘に、大葉は微笑みながら肩に手を置く。

「それも大事だが。元気な姿で帰ってくることが大切だ。それを忘れないでくれ」
「父さん…」

その言葉に心から嬉しそうに笑う若葉。そんな親子のやり取りを、少し離れた位置で千景はどこか羨ましそうに見ていた。そんな彼女に友奈が話しかける。

「いいお父さんだよね、大葉さんって」
「ええ」
「そう言えば、郡ちゃんのお父さんはどんな人なの?」

屈託のない笑顔で問いかける友奈に、千景はなぜか言葉を詰まらせる。

「私、の」
「うん!」
「(私のお父さんは…)」

父のそして、故郷のことを思い出そうとして心がそれを拒絶した。

「えっと、ごめんね変なこと聞いちゃって。そうだ!あっちに着いたらどこを見て回るか決めようよ!」
「ええ、そうね」

千景の様子の変化から話題を変えた友奈に、内心申し訳なく想いながらも。千景はその気遣いに乗らせてもらうことにした。

「……」

思い思いに会話を弾ませる若葉らの中で、ひなたは1人何かを憂うように東京エリアのある方角の空を見上げる。

「(優君…。私はあなたの選択(・・)を許すことができません…)」

ひなたは、これから再会することになる(・・・・・・・・・・・・・)幼馴染に思いを馳せるのだった。




横浜基地にある菫の研究室にて、光輝は椅子に腰かけてPCと向き合っていた。だが、その表情は僅かではあるが険しく、苛立った様子を醸し出していた。

「光輝君少しは休んではどうかね?ここ1週間碌に休んでいないだろう」

菫が話しかけながらコーヒーが入ったビーカーを差し出すと、輝はそれを受け取ると軽く顔をしかめる。

「また器具でやったんですか?優に怒られますよ」
「ちゃんと洗浄はしてあるんだ。この方が効率的だろ?」
「単に面倒くさがっているだけでしょうに…」

おどけた様子で自論を展開する菫に、光輝は呆れを含んだ目を向けながらコーヒーに口をつける。
様々な理由があり菫の生活能力は壊滅的である。かつては部屋は散らかしぱっなしで、風呂にも滅多に入ろうとせず、果ては死体の胃袋に入っていた物を平然と食べていた程だった。
優が入ってからは、そういった生活態度を徹底的に改めさせられ。毎日風呂とまではいかないがシャワーを浴び、食事もまともな物を口にするようになり大分改善されたのだ。

「それで話を戻すが。前回の出撃から、1日3時間程しか寝ていない君は働き過ぎだと私は思うがどうかね?」
「そうですね。この件が片付いたら存分に休ませてもらいますよ」

そう言ってPCに向き直る光輝を見て、やれやれといった様子で息を吐く菫。
前回の出撃にて。光輝は現地の状況から判断し、機密の奪還は不可能と判断し友軍の救助を優先したが。結果としては機密の奪還を優先せよという命令に背く形となり、上層部から責任を問われる声もあったが。聖天子の、その場において指揮官は最良の判断をしたとして不問となった。
そして、Alvisは引き続き機密の奪還を命じられたのだが、どうにもややこしい事態となっていた。
その後の調査で、どうやら強奪犯は東京エリア内に潜伏しようとしたが。その途中でガストレアに襲われエリア内まで逃げ切るも、ウィルスに感染してしまっており。そのままガストレア化してしまい、機密毎エリア内に潜伏してしまっているのだ。
そのためすぐに見つけ出し排除しなければならないが、正規部隊や警察を動かすとメディアの目につくので大規模な捜索が行えずにいたのだ。

「しかし、東京エリアには至る所に監視カメラがあるんだ。それなのに1週間も経って見つからないのは妙だね」
「恐らく特異能力を持った変異種なのでしょう。それも隠密に優れたね」

ガストレアは進化する際に、極稀にだがその個体特有の特殊な能力を身に着けることがあるのだ。そのため外見だけで判断して対処しようとすると、手痛い反撃にあう事例が報告されていた。

「私も同意見だ。最早市民の目を気にしている場合ではないだろう。聖天子様に本格的な捜索を進言することを薦めるよ」
「俺も初めからそう言っているんですがね。周りの官僚が反対しているそうですよ。世論の批判が怖いんでしょうね」
「こんな情勢下でも権力という椅子にしがみつくか。どこまで行っても人間の本質は変わらないものだな」
「同感です」

そんな話をしていると、キッチンから3つの丼が載ったお盆を持った優が姿を現す。
菫が極度の引きこもりのため人前に余り出たがらず、基地の食堂を利用しようとしないため、彼女の食事は自前で用意していうのだが。そうすると前述したように碌な物を食べないので、代わりに優が作っており。その流れでAlvisの食事は、彼が担当することとなったのである。

「お昼できたよー」
「ああ、ありがとう」

優から、かけうどん入りの丼を受け取った光輝は早速麺を啜る。

「うん、やはり優君の作るうどんは格別だな」
「ありがとうございます~」

同じようにうどんを味わう菫に褒められ喜ぶ優。

「……」
「どうしたの光輝?何か変だった?」
「いや、ただお前が来てから、うどんかそばしか食ってないなと思っただけだ」

優が入隊してからの3年間。Alvisのメンバーは彼の作る物しか食べていないのだ。そして、優が作れるのはうどんかそばのみなので、必然的にそれだけしか食べていないことになる。
それでも不満が出ないのは。麺から出汁に至るまで優の自作であり、季節毎や果てはその日によって最適な味に調整し、常に飽きがこないことを意識し続けているからであろう。

「他のが食べたいの?ん~自信ないけど頑張ってみるよ」
「別に不満がある訳ではないが。ただ香川人のうどんへの執念に感服しただけだ」
「そうだね。こっちに移り住む際に、自前の調理道具を持参してきていたくらいだからね」

さらには、お気に入りの小麦粉の種まで持ち込んできて栽培を始め出した時には、最早唖然とするしかなかったことを2人は思い出していた。

「まあ、そんなお前がそばも受け入れたことは以外だったがな」
「そうだね。歌野には感謝しないとね~」

歌野とは長野の勇者である白鳥 歌野(しらとり うたの)のことであり。1年前の長野陥落の際、生き残った人々と共に東京エリアに逃げ延び、現在は外周区の一画を借り受けた地に築かれた亡命政府の代表を務める少女である。
彼女との交流によって、香川人にとって縁のなかったそばの魅力に気づいた優は、以降そば料理も作るようになったのだ。

「……」
「え?何、光輝。こっちの顔見つめて」
「いや、なんでもない。(こいつ、その内女に刺されるかもな)」

光輝が意味深なことを考えていると。テレビから流れていたニュース番組のキャスターから、興味の引かれる話題が出てきた。

『それでは、四国勇者のリーダーを務める、乃木若葉様へのインタビューを始めさせて頂きたいと思います。乃木様よろしくお願いします』
『はい、よろしくお願いします』

画面には、椅子に腰かけて司会者と向き合う若葉の姿が映し出される。
彼女は司会者から振られる質問に淀みなく答えており。とても14歳とは思えない程様になっていた。

「また彼女か。確かに画面映りはいいが、私としては他の子も見たいんだがね」
「国家代表の娘でもありますからね。その方が都合がいいんでしょう」

神に選ばれた『勇者』は人類の希望として英雄視され。人々の不安を和らげるカンフル剤として、マスメディアを通して積極的な宣伝公報が行われていた。
四国エリアには複数の勇者がいるが。基本メディアに露出するのは若葉であり、他の勇者は余り取りざたされていなかった。

「それにしても、このタイミングで訪問を受け入れるとはね。政府は何を考えているのやら」

いくら友好国とはいえ、最重要機密が奪われている中。他国の要人を受け入れるのはリスクが高いと言わざるを得なかった。

「それに、最近は人革連の連中も怪しい動きを見せているんだがね」

人革連――
人類革新連盟の略称。
セカンド・アタック後、現在の国連主導の防衛体制では、バアルに対抗できないと考えた者達が立ち上げた反国連組織。
国連を打倒し、全ての国家を統一することで新たなる防衛体制を構築し、バアルから人類を守護することを目的として掲げ。その思想に賛同した世界中の政財界から影ながら支援を受けており、ファフナーを始めとする最新鋭の装備を有する巨大組織へと成長する。
しかし『来る物は拒まず』という姿勢から、政争で敗れた物やアウトロー、果ては過激な思想を持つ者を多く取り込んだ結果。組織の統制がまともに取れなくなっており、無差別テロを多発させていることから、世間からはただのテロ組織として見られることが多い。

ここ最近人革連が東京エリアでの活動を活発化させており、今回の機密強奪事件への関与は現状不明だが。近い内に大規模なテロを行おうとしているのではないかと警戒していた。

「まあ、何か考えがあるんでしょう。何であれ俺達は命令に従うだけですが」

菫と光輝がそれぞれの意見を交わす中、優はただ画面をジッと見ていた。しかし、その表情には不機嫌さがありありと出ていた。

「…そんなに気に入らんのか。幼馴染が活躍するのが?」
「……」

やれやれといった様子で問いかけてきた光輝に、優は何も答えない。
その間にもテレビでは、司会者が若葉を『救世主』『希望』と褒めたたえていた。そんな司会者に、優は不快そうな目を向ける。

「…若葉は、どこにでもいる女の子なんだ。特別なんかじゃない。歌野だってそうさ」

ようやく口を開いた優は司会者の言葉を否定した。その声音には苛立ちと憤りを感じられる。

「そうだな。だが、大多数の人間にとっては、力を持つ者は特別な存在に見えるのさ。ましてや、自分の命を守ってくれるならな」
「それでも、彼女達だって傷つくし悩むんだ。歌野はどんなに苦しくても、勇者だから、皆に期待されているからって弱音も吐けずに抱え込んで1人で泣いてたんだ」

どれだけ超人的な力を宿しても、心は15にも満たない少女なのだ。多くの人を守るという責任と、否応なしに寄せられる期待という重荷に耐え続けている友の姿を思い浮かべ。優は歯を食いしばり、丼を持つ力を強くする。

「…だから、彼女達の分までお前が戦う、か」
「うん。それが僕の命の使い道だから」
「少なくとも歌野はそんなこと望んでないぞ」
「それでもいいさ。勝手な自己満足だからね」

そういって笑う優。今更考えを変えさせる気はないので、呆れた様に溜息をつくも、光輝はそれ以上は何も言わなかった。






























ウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――――!!!






























そんな中、非常事態を告げるサイレンがけたたましく鳴り響いた。

それと同時に、その場にいた全員が慣れた動作で行動に移る。優と光輝はブリーフィングルームに駆け込み、光輝がモニターを起動させると、その前で並び立たつ。
すると、モニターに聖天子の姿が映し出される。

『こちらへの訪問のため、移動されていた勇者方を乗せた輸送機が。伊豆諸島にて人革連の襲撃を受けました』
「!」

聖天子の告げた内容に優の目つきが鋭くなる。

「こちらの領域内で、ですか」
『そうです』
「なる程、彼女らに来られると困る者が政府内にいると…」

顎に手を添えて何かを察した様子の光輝。

『戦況は極めて劣勢とのこと。Alvisには直ちに救援に向かってもらいます』
「勇者が5人もいるのにですか?」

告げられた命令に疑問を挟む光輝。
勇者1人で最低ファフナー1個中隊相当の戦闘力があると言われている。それが5人もいるのであれば、余程の事態が起きない限り、人革連が相手でも苦戦することはないというのが光輝の分析であった。

『いえ、勇者は戦闘には参加していません。迎撃は全て護衛のファフナー部隊だけです』
「参加していない?何故です?」
『天童2尉。勇者には対人経験がありません(・・・・・・・・・)
「…了解」

聖天子の一言で、光輝は自身の分析が誤りであることを理解した。勇者が想定しているのは対バアル戦であり、対人戦はせいぜい訓練のみなのであろう。そんな者達を出しても足手纏いにしかなるまい。

「状況は理解しましたが、距離が離れすぎています。今から輸送機を全力で飛ばしても間に合わないのでは?」
『その点については手を打ってあります。司馬重工の新型装備を用います』
「例の装備が完成したので?」

その言葉に光輝が興味深そうに反応する。

司馬重工――
東京エリアに本社を構える軍事企業であり、日本の基幹産業を受け持つ程の巨大企業でもある。
ファフナーの開発にも深く関わり、日本の各エリアの生産や新装備開発の最大手であり。ノートゥング・モデル用の各種兵装も司馬重工製が殆どである。

『…あくまで試作品なので、あなた方次第となりますが…』
「それが我々の役目ですので、どうかご期待下さい」

危ない橋を渡らせることに申し訳なさを滲ませる聖天子に、光輝は気にするなと目で応える。
ノートゥング・モデルの開発と並行して、ファフナー用の新装備のテストもAlvisの任務なのである。

「それでは、出撃します」

光輝が敬礼すると優もそれに続く。そして、いつものように光輝は優に目配せすると退出していく。
優と聖天子は立場上、表立って私的に接することができないため。光輝の計らいで、厳重なセキュリティが施されているこの専用通信で、出撃前に友人として僅かに話す時間を得ているのだ。
聖天子にとっては貴重な瞬間だが。今回はその時間すら惜しまれる状況であり、何より優には今すぐにでも現場に駆け付けたい理由(・・)があるのを理解していた。
だから彼女は――

『優さん。どうか、あなたの大切な人を守って下さい』
「うん、ありがとう聖ちゃん」

それだけの言葉を交わして退室していく優。
聖天子は、ただ想い人の無事と彼の願いが叶うことを祈るのだった。



※捕捉
本作におけるファフナーの部隊単位は、原作だと明記されていないので。マブラヴ オルタネイティヴを参考に

2機で分隊
2個分隊4機で小隊
3個小隊12機で中隊
3個中隊36機で大隊
3個大隊108機で連隊

としております。


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第四話

伊豆諸島にある島の浜辺に四国エリア所属の輸送機が不時着しており。その周囲を球樹の乗るメガセリオン・モデルと部下のグノーシス・モデルが展開しており。
それを取り囲むように。人革連所属を示す、青色に塗装された数機メガセリオン・モデルと、2個大隊程はいるであろうグノーシス・モデルが展開されており。球樹らへと距離を詰めながら銃撃や砲撃を加えていた。

『こっちに来んじゃねぇ!』

球樹機は標準装備のアサルトライフルに、両肩に光学シールド発生装置『イージス』と、背部には2門式キャノン砲を装備した拠点防衛仕様であり。イージスを展開して攻撃を防ぎながら、ライフルで牽制しつつキャノン砲を放ち。砲弾は1体のグノーシス・モデルに直撃し、上半身を吹き飛ばした。
また、僚機も同様に拠点防衛仕様であり(キャノン砲は1門)球樹機同様にイージスを展開しつつ射撃と砲撃で弾幕を張っているも。人革連側は物量を持って押しつぶそうと包囲を狭めてくる。
四国エリアを出発してから暫くは何事もなく順調だったが。伊豆諸島にまで差し掛かると、島にある森から対空ミサイルによる攻撃を受け、主翼に被弾した輸送機は島の浜辺への不時着を余儀なくされたのだ。
幸い落ちたのが砂浜だったので衝撃も少なく、勇者や巫女らに怪我はなかったものの。パイロットら非戦闘員に何名かの負傷者が出てしまった。
そして彼らは、浜辺に近い森から現れた人革連のファフナー部隊の攻撃を受けることとなった。

「(情報が洩れたってのか!)」

完全に待ち伏せを受けたことから、勇者訪問の情報が人革連に漏れていたことに他ならない。彼らのシンパは世界各国にいるので、どこから洩れてもおかしくはないのだが…。

『そんなこと考えてる場合じゃないか!』

より苛烈さを増す人革連の攻撃に、舌打ちしながらも迎撃する球樹。同時に全周波数帯で通信を開く。

『テメェら、自分達のやってることがわかってんのか!勇者に何かあったらどうなると思ってんだ!』

万が一にも戦闘を止められる可能性に賭けてみるも、人革連から帰ってきたの予想通りのものであった。

『我らは軟弱な国連を打倒し、新たなる秩序を生み出す!故に、現支配体制の象徴である勇者は粛正せねばならん!青き清浄なる世界のために!!』
『『『青き清浄なる世界のために!!』』」

青き清浄なる世界のために――
人類革新連盟の掲げるスローガンであり。新たなる秩序が構築され、バアルが駆逐された世界を指している。また、ガストレアウィルスを宿す『子供達』の差別にも用いられている。

通信機越しに聞こえてくる人革連の言葉に、苦虫を噛み潰したような顔をする珠樹。やはり彼らとは、どちらかが倒れるまで戦うしかないと再認識させられた。

「兄ちゃん!」

そんな折、輸送機の亀裂から妹の球子が顔を出しながら声をかけてきた。

「タマ達にも戦わせてくれよ!」
『いいから、隠れてろ馬鹿妹!!』

今まで聞いたことのない兄の怒声に、球子が怯えた様に体を震わせる。
球樹は球子ら勇者は戦いには参加させず、身を隠しているよう指示を出していた。それは、光輝は分析したように、勇者には対人経験がないこともあるが。何より妹とその友人に、人と戦わせたくないという思いがあった。
彼女らの力は人類を守るためのものなのだ。このようなことに使われるべきではないというのが球樹の考えであった。


『お前達は戦うな!こんなことは俺達だけで十分だ!』
「でも…!ッ!?」

それでも引き下がらない珠子の顔の、すぐ側の装甲に弾丸が当たり甲高い金属音が響き、球子は思わず身を縮ませて隠れる。

『妹に何しやがんだオラァ!』

その弾丸を放った人革連機を、球樹はキャノン砲で吹き飛ばすのだった。




「タマっち先輩大丈夫!?」

輸送機内に戻った球子に、杏が抱き着くようにして声をかける。

「あ、ああ大丈夫だあんず…」

杏を心配させないようにと気丈に振舞おうとするも。その顔色は青白くなっており、体も小刻みに震えていた。
バアルとの戦いで幾度もの死線を超えてきた彼女だが、始めて感じる人から向けられる殺意に怯えてしまっていた。
輸送機内には他にも非戦闘員が集まっており、彼らも迫りくる戦火に不安を募らせていた。

「ッ――!」

そんな球子らの姿を見た若葉は、歯を噛みしめて拳を強く握ると。自身の武器である『生大刀』を手にすると、スカートのポケットからPADを取り出すと、勇者に変身するためのアプリ『勇者アプリ』起動させようとする。

「駄目です若葉ちゃん!」

そんな若葉をひなたが慌てて止める。

「だが、このままでは…!」

こうしている間にも戦闘音は激しさを増しており、今は珠樹らが奮戦しているも。戦力差は歴然であり、いずれは押し切られてしまうだろう。

「でも、相手は同じ人間なんだよ…」
「高嶋さん…」

俯いている友奈が震えた声で若葉に話かける。彼女は誰よりも優しいため、人と戦うことに一際抵抗感があるのだろう。
そんな彼女の不安を和らげようと、千景はそっと手を繋ぐ。

『……』

その場を沈黙が支配する。バアルと戦う覚悟こそしていたが、人と戦う覚悟など誰もしてはいなかったのだ。

「それでも、私はこのまま見ているだけなんてできない…!」
「若葉ちゃん!」

そういって機外に飛び出そうとする若葉を、ひなたは制止しようとする。

「皆はここにいてくれ!戦うのは私だけでいい!」

人と戦うことへの躊躇いはある。それでも、リーダーとして仲間を守るために若葉は決意する。
仲間たちが自分のことを呼ぶ声がするも、若葉は止まることなくアプリを起動させると機外に飛び出した。




『ぐぁッ!?』
『曹長!』
『まだ、やれます!』

僚機のイージスが攻撃の負荷に耐えられず、破損してしまう。それでも僚機は怯むことなく左腕のレールガンで反撃すると、直撃を受けた敵機が爆散した。
他の僚機も破損が目立つようになり、継戦が困難となってきていた。球樹機は目立った損傷こそないものの、弾薬が尽きかけており限界が近づいていた。
だが、敵部隊はまだ20機近く残っており。このままでは全滅しか道はなかった。球樹が打開策を模索していると。背後の輸送機から人影が頭上を飛び越えて戦場に躍り出た。

『乃木!?何をしている戻れ!』

飛び出してきたのは『戦装束』と呼ばれる。神樹の力を科学的、呪術的に研究し、ハンドレッドの技術を取り入れた結果生み出された戦闘服を身に纏った若葉であった。
戦装束を身に纏うことで、勇者はのその力を最大限に発揮でき、起動さえるためのアプリ等も含めて『勇者システム』と呼ばれている。
また、その形状は勇者個人によって違い。若葉のは桔梗を思わせる清楚な青と白の混交が特徴的であった。

「私が敵を引き付けます!援護をお願いします!」

そういって敵機目がけて駆けだす若葉。

『ええい、全機乃木を援護しろ!敵を近づけさせるな!』

引き止められないと判断すると、素早く援護するよう僚機に指示する球樹。

「ハァァアア!!」

球樹らの援護を受けた若葉は1体のグノーシス・モデルに接近すると、刀を振るい両腕の武装だけを斬り落とした。

『ぐぉ!?』
『勇者だ!勇者が出てきたぞ!』

若葉の姿を確認した人革連部隊は若葉に砲火を集中させ始める。
迫りくる無数の弾丸を、若葉は最小限の動きで躱すか、避けれないものは斬り払いながら接近し。1体ずつ搭乗者は傷つけずに機体だけを破壊し戦闘力を奪っていく。戦場において、敵の命を奪わずに無力化することは、相手よりも遥かに高い技量が求められることであり。若葉自身の日々の鍛錬の結果であると同時に、勇者の力がどれだけ強力であるかの証左でもあった。

「くッ!」

それでも敵の数はいまだ多く、足元にレールガンから放たれた弾丸が着弾し。その衝撃で地面を転がる若葉。
すぐに起き上がろうとするも、周囲を敵機に囲まれ銃口が向けられる。

「(避けられない――!)」

若葉は撃たれることを覚悟し、少しでも被弾を減らそうと身を守る。

「ヤァァァァアアアア!」

敵機が発砲しようとした瞬間。山桜を思わせる桃色の戦装束を纏った友奈が、手甲である『天ノ逆手(あまのさかて)』による拳打を1体の敵機に打ち込んで弾き飛ばし。他の機体を巻き混んで吹き飛んだ。
さらに友奈は四国勇者一の瞬発力を生かし、次々と若葉を包囲していた敵機に肉薄し打撃技を浴びせて蹴散らしていく。

『おのれェ!!』

別の機体が友奈へ発砲するも、彼岸花を思わせる紅色の戦装束を纏った千景が、獲物である『大葉刈』の霊力が宿る大鎌を目の前で回転させて防ぐ。
そして、発砲した敵機は飛来した矢が膝や肘のに突き刺さり、身動きが取れなくなる。
矢を放ったのは、紫羅欄花(ストック)を思わせる戦装束を纏った杏である。彼女は『金弓箭(きんきゅうせん)』と呼ばれる弩を武器としており。杏は輸送機を盾にしながら引き金を引くと、矢が連射され敵機の関節に突き刺さり行動不能に追い込んでいき。さらに敵部隊の牽制にもなり動きを鈍らせる。

『チィッ!まずはあの弩持ちから潰せ!』

敵部隊は支援要員である杏を最優先で排除すべきと判断し。森の中に隠れていた、スナイパーライフルを装備していたメガセリオン・モデルが発砲する。
放たれた弾丸は杏の頭部目がけて迫る。だが、姫百合を思わせる橙色の戦装束を纏った球子が、杏と弾丸の間に入り。武器である『神屋楯比売(かむやたてひめ)』の霊力を宿した旋刃盤を、盾に変形させて弾丸を弾いた。

「ありがとうタマっち先輩!」
「へへん!タマがいる限りあんずには傷つけさせるもんか!」

防御力の高い球子が敵の攻撃を防ぎ、遠距離攻撃ができる杏が攻撃に専念する。互いの役割を最大限に発揮した連携を披露する。

『お前らまで何出てきてるんだ!さっさと戻れ!』

勝手に戦場に出てきた勇者達を見て、珠樹が近くにいる妹に怒鳴りつける。

「兄ちゃん達こそボロボロなんだから退がってろよ!後はタマ達に任せタマえ!」
『いつもの化け物相手とは違うんだぞ馬鹿妹!』

互いの主張をぶつけ合って口論になる土居兄妹。そうこうしている間にも、敵の放った砲火が周囲に降り注ぐ。

「タマ達は勇者なんだ!悪い奴らはやっつけてやる!行くぞあんず!」
「うん!」

兄の静止を聞かず、球子は杏と共に前線に向かっていく。

「皆どうしてッ!」
「だって、若葉ちゃんが私達を守りたい気持ちと一緒で。私達も若葉ちゃんを守りたいから!」

若葉の問いに、友奈は叫び返しながら敵を殴り飛ばす。

「それに、若葉ばかりにいいカッコさせられないからな!」
「皆で支え合って戦う。それが仲間です!」
「危なっかしくて、見てられないのよあなたは」

球子、杏、千景、それぞれが戦いながら若葉に語り掛ける。

「皆…」

そんな仲間の頼もしさに支えられるように立ち上がる若葉。

「そうだな私達は仲間だ!一緒に戦おう!」

若葉の掛け声にそれぞれ応えながら、敵部隊へ向かっていく勇者達。

『隊長、我々は?』
『ダァァァ突撃だ!突撃!あいつらを援護しろ!』

部下の問いに球樹はヤケクソ気味に指示を出しながら若葉達の後を追うのであった。




『敵部隊の反応消失しました隊長』
『警戒態勢に移行。生き残った奴らを拘束しろ』

部下の報告に答えながら周囲を見渡す球樹。
砂浜は荒れ果て、破損した人革連の機体と残骸が散乱し、生き残った搭乗者を部下が一箇所に集めていた。
勇者が戦闘に加わってからは戦局は一転し、不利と悟った敵部隊は撤退していったのだった。

「おーい兄ちゃん!」

周囲を警戒する球樹の元に、球子が手を振りながら駆け寄ってくる。戦装束に汚れはあるが、傷らしい傷がないことに内心球樹は安堵する。
妹の後ろには他の勇者達が追いかけてきており、彼女らも目立った傷はないようであった。

『お前ら無事か?』
「はい、皆無事です」
『そうか』

球樹の問いに若葉が答えた。

『いいたいことは色々あるが。とりあえずお前達に助けられたな、怖いのによく頑張った。ありがとうよ』

そういって球樹は球子の頭を撫でると、彼女は嬉しそうに目を細める。若葉達も彼に褒められて嬉しそうにしている。

「へへ、タマ達も強くなったからな!いつまでも子供じゃないさ!」
『アホ。どんなに強くなっても、お前達はまだまだ子供だっつーの』

エッヘン!と胸を張る妹の額を小突く球樹。彼もまた、勇者を特別な存在ではなくどこにでもいる少女と同じで、大人である自分達が支えていく必要があると考えていた。
子供扱いされたことにムーッと拗ねる妹の頭を、今度は少し乱暴に撫でる球樹。髪をクシャクシャにされたことにやめろよー!と抗議する球子。
若葉達は、そんな兄妹のじゃれ合いを微笑ましく見ていると。そんな穏やかな雰囲気を打ち壊すように、PADから警告音が鳴り響く。

『ッ!?バアル反応だと!』

球樹がすぐに機体のセンサーを確認すると、反応は海から出ていた。
反応が近づくのと同時に、浜辺付近の海面が盛り上がっていき。海水を掻き分けるように20メートルはあろう巨体が姿を現していく。

『ステージ、Ⅳだとッ!?』

その姿を見た珠樹の口から驚愕の声が漏れた。
現れたのは岩のようにゴツゴツトした赤色の甲羅に、大木と同じくらいの太さをした節足動物特有の無数の足と、甲殻類によく見られる腕が6本も生えており。極めつけは蟹のような胴体部分に目とイソギンチャクに似た口がビッシリと備え付けられており。嫌悪感を抱かずにはいられないような怪物がそこにはいた。
甲殻類を始め多くの海洋生物のDNAを取り込んで進化を続けた結果。最早元の生物を特定するのが難しいまでに変異している。
最近確認されるようになり、アジア各国の沿岸部で猛威を振るっている『デス・フォートレス』と呼称される。ガストレアの中でも、完全体と呼ばれるまでに進化した個体であった。
デス・フォートレスの全身の目がギョロギョロと動き、若葉達の姿を捉えるとその巨体を動かし、地響きを上げながら接近してくる。

「(最悪だッ!!))」

球樹は心の中で悪態をつく。ステージⅣともなれば、単体であってもその力は計り知れない。若葉達がいたとしても疲弊した今の戦力では対処は困難であった。

『全員逃げるぞ!このままじゃ全滅するだけだ!』

故に球樹が選んだのは逃走であった。幸いデス・フォートレスの動きは遅く、逃げに徹すれば救援の到着まで持ちこたえられると判断したためである。

「でも、人革連の人達が…」

友奈の言葉に、周囲を見回した球樹が思わず舌打ちする。
そう。この場にいるのは球樹達だけでなく、捕縛した人革連の生き残りもいるのだ。中には、負傷して自力で移動することができない者も少なくない。

「た、助けてくれ!頼むから置いていかないでくれ!」

人革連の1人が縋りつくように球樹の足にしがみついてきた。他の者達も若葉達に助けを求める声を上げる。そんな彼らに若葉達は困惑してしまっている。

『ッ――!ざけんな!襲ってきたのはテメェらだろうが!こんな時だけ都合のいいこと言ってんじゃねぇ!』

こんな事態になったのも、全ては人革連の襲撃があったからである。それなのに、いざ自分達が危機に陥ると、手の平を反して助けを求めてくる彼らの身勝手さに思わず怒鳴り散らす球樹。
その自覚はあるのか人革連の者達は一瞬黙るも。そうしている間にも、デス・フォートレスは近づいてきており。その姿を見て再び懇願してくる。
球樹としては、この状況で彼らも連れて行くのは不可能であり。例え見捨てても自業自得としかいいようがなかった。
そうこうしていると、輸送機にいたひなたらが合流してきており。彼女らも助けを求めてくる人革連者に困惑の目を向ける。

『お前ら行くぞ!こいつらに構っている暇はねぇんだ!』

これ以上長居すると、デス・フォートレスに捕捉されてしまう。最早迷っている時間はなかった。

「ですが…!」

だが、若葉達勇者はその場から動けずにいた。彼女らには目の前にある『命』を見捨てることができないのだ。
遂に逃走不可能な距離にまで、接近してきたデス・フォートレスの一部の口から、無数の触手が飛び出してきた。

「わぁぁぁあああ!?!?!?」

触手は近くにいた人革連者に次々と巻き付き持ち上げていくと、そのまま巻き戻るように口へと運ぼうとする。
捕らえられた者は死を覚悟して目を覆うも、ザンッ!という何かを斬り裂くような音がすると同時に。浮遊感に襲われかと思うと誰かに受け止められた感覚がした。

「え?」

恐る恐る目を開けると、自分が若葉によって抱きかかえられていることに気がつく。
周りを見ると他の者達も、他の勇者によって助け出されていた。

「どう、して?」

思わずそんな言葉が漏れる。球樹の言う通り、見捨てられても文句の言えないことをした自分達を彼女らは命がけで助けてくれているのだ。
球樹らの側に降り立った若葉は、抱えていた者を降ろした。

「例え敵対していたとしても、助けを求めて伸ばされた手を掴みたい。少なくとも私はそう考えています」

そう告げると、若葉はデス・フォートレス目がけて駆けだしていった。

『あいつらの底なしの優しさに感謝しろよ。全機勇者を援護する!着いてこい!』

呆然とする人革連者に語り掛けると、球樹は部下を連れて若葉の後を追いかけていった。

「ああ、そうか…」

彼は理解した。なぜあんな少女達に、神からあれだけの力を与えられたのか。それは、どんな命をも尊び他人を思いやれる『強さ(優しさ)』を持ったいたからなのだと。そして、自分がどれだけ愚かなことそしようとしていたのかを悔い、涙を流しながらその場で膝をついて崩れ落ちたのだった。

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