カルデアのマスターも異世界から来るそうですよ? (白ウサギ@FGO)
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1 マスターと問題児
その日、俺こと藤丸立香は少し遅めの朝を迎えていた。
新しい特異点がまだ見つかっておらず、俺は久方ぶりにマイルームでゆっくりしていた。
普段なら起こしに来るマシュも、疲れている俺に気を使ったのかいまだに起こしには来ない。
ふと、視界に見慣れないものが飛び込んできた。どうやら手紙のようだ。
うちのカルデアに手紙を書くようなサーヴァントがいたかな?そう考えつつ、机に置いてあった手紙を手に取る。
その手紙には、達筆な時で『藤丸立香殿へ』と書かれていた。
可能性としては、牛若丸か清姫辺りだろうか?
俺が手紙を開こうとしたところで、マスタールームの扉が開く。
扉の先には最近仲間になったオジマンディアスが立っていた。たぶん食事を終えたあとなのだろう。
俺が手紙を持っているのに気づいたのか、興味深そうにこちらに近づいてくる。
「ほう……立香よ、面白いものを持っているな」
この時点で嫌な予感。この手紙、絶対何かあるな……
開けたくはないが、開けなければそれはそれでヤバい気がする。
俺は恐る恐る手紙の封を切り、中身を取り出した。つられるように手紙の中身を見るオジマンディアス。
手紙に目を通せば、こんな内容が書かれていた。
『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。
その
己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、
我らの“箱庭”に来られたし』
「え?」
手紙を読み終わると同時に視界が暗転。間を置かず、大空に投げ出された。
特異点に来て、死にそうになったことは何度かあるがこれはヤバいかもしれない。
「オ、オジマンディアス!」
咄嗟に、先ほどまで一緒にいたサーヴァントの名を呼ぶ。それと同時に体を抱えられる感覚。
「全く……召喚しておいて早々に余のマスターを殺しにかかるとはな」
そう言ってため息をつきつつ、俺を抱えるオジマンディアス。
しばらくして、ほとんど衝撃もなく陸地に着地する。
「し、死ぬかと思った……ありがとう、オジマンディアス」
オジマンディアスにお礼を言い、腕から降ろしてもらう。周囲を見れば、どうやら湖の近くのようだ。
「し、信じられないわ!まさか問答無用で引きずり込んだ挙げ句、空に放り出すなんて!」
どうやら俺たち以外にも呼ばれた人がいるようだ。
「右に同じだくそったれ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜこれ。石のなかに呼び出された方がまだ親切だ」
「石のなかに呼ばれたら動けないんじゃ……」
「俺は問題ない」
「え、ええ……」
もし彼が今言ったのが本当なら、サーヴァント同じくらいのスペックがあるとということだろうか。
「此処……どこだろう?」
「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?」
よくそんなしっかり周りを見れたものだ。オジマンディアスに聞けば、確かに世界の果てのようなものが見えたとのこと。
ここはどこかの特異点なのだろうか?
「まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前たちにも変な手紙が?」
「貴様、ファラオである余に向かってお前とは……不敬である!」
「ちょ、ファラオ落ち着いて!」
さすがに少年を殺さないとは思うけど……
「私もお前って呼び方は気に入らないわ。訂正して。――私は久遠飛鳥よ。以後は気を付けて。それで、そこの猫を抱き抱えているあなたは?」
「……春日部耀。以下同文」
「そう。よろしく春日部さん。それで、そちらの二人は?」
「俺は藤丸立香っていいます。よろしくね、久遠さん、春日部さん。で、こっちが……」
「我が名はオジマンディアス、王の中の王である」
オジマンディアスの自己紹介に、金髪の少年が反応する。
「オジマンディアスだと?オジマンディアスといえば古代エジプトのファラオじゃねえか。
熱狂的なファンかただの厨二病か?」
疑うようにそう言う少年。一般人からしたら本物とはさすがに思ってないのだろう。
「えっと、疑ってるところ悪いんだけど、彼は本物のオジマンディアスだよ。ちょっと事情があって今は俺のサーヴァントなんだけど」
「サーヴァント……つまり従僕か」
そう言って俺とオジマンディアスを興味深そうに見る金髪の少年。
「それで、最後にそこの野蛮で凶暴そうなあなたは?」
「見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろったダメ人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれよ?お嬢様」
「そう。取り扱い説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」
「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」
☆☆☆
(あ、あれ?……何故五人もいるのでしょうか?)
茂みにかくれていた黒ウサギは困惑していた。
なぜなら、本来彼女が召喚するはずだったのは四人だけのはずだ。なのに何故かそこには五人いる。
(いったいどういうことなのでしょうか……あちらの方からはとんでもない力を感じますし……)
彼女が戸惑っている間にも、話は続いていく。
「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんなんじゃねえのか?」
「確かにね。なんの説明もないと、勝手に動くわけにもいかないし」
「……あなたたち、この状況で落ち着きすぎではないかしら?」
「そう言うあなたも落ち着きすぎ」
(全くです)
黒ウサギはこっそりツッコミを入れた。
もっとパニックになってくれれば飛び出しやすいのだが、場が落ち着きすぎているので出るに出られない。
(まあ、悩んでいても仕方がないです。これ以上不満が噴出する前にお腹をくくりますか)
ふと、オジマンディアスがため息混じりに呟いた。
「――そこに隠れている者に話を聞けばよいだろう」
物陰に隠れていた黒ウサギは心臓を掴まれたように跳び跳ねた。
他の四人も気づいていたのか、視線が黒ウサギに集まる。
黒ウサギは殺気のこもった視線を受け、怯みながら草むらから出ていく。
「や、やだなあ皆様方。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここはひとつ穏便にお話を聞いていただけたら嬉しいでございますよ?」
「断る」
「却下」
「お断りします」
(あの娘、なんとなくニトクリスっぽいような……)
「あっは、取りつくしまもないですね♪」
ばんざーい、と降参のポーズをとる黒ウサギ。
(肝っ玉は及第点。この状況でNOと言える勝ち気は買いです。あちらの二人も言葉を発してはいませんが、全く動揺していないみたいですし)
黒ウサギはおどけつつ、五人とどう接するか冷静に考え――
「えい」
「フギャ!」
何を思ったのか、耀が力一杯うさみみを引っ張った。
「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きにかかるとはどういう了見ですか!?」
「好奇心のなせるわざ」
「自由にも程があります!」
「へえ?このうさみみって本物なのか?」
今度は十六夜が右から掴んで引っ張る。
「……。じゃあ私も」
「ちょ、ちょっと待――!」
今度は飛鳥が左から。左右に力一杯引っ張られた黒ウサギは、言葉にならない悲鳴を響かせた。
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