やはり俺の特典は間違っている。 (大枝豆もやし)
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死後転生

 暗い。光がひとつもない部屋。温度も感じない閉じた空間。しかし、同時に朝方のように程より光と適度な温度の部屋。そんな、夢が混じったような空間に俺は居た。

 遥か果てまで続くような夜空が上には広がり、白と黒のモノトーンな床からは神性な何かを感じる光の小さな星のようなものが点在している。

 そんな光景は、どう見ても俺のいた世界とは似ても似つかない、非現実感で満ちている。

 

 ふと、自分の目の前に、やけに綺麗な女性が居ることに気づく。

 

 南国の海のように蒼く美しい髪。煽情的でありながら、品を感じさせる服。そして男が描くような理想の女体。黄金比と言っても過言ではないプロポーションだ。

 まるで、女神がそこに居るような、そんな感覚を俺は感じた。

 

「……ようこそ死後の世界へ。私の名は水の女神アクア。比企谷八幡さん。貴方の人生は先程終わってしまいました」

「……え?」

 

 女神の美しさに見惚れていた俺は、その一言によって思考をフリーズさせてしまった。

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 嘘告白をした後、俺は竹やぶで一人黄昏ていた。

 

「・・・なにやってんだろう、俺?」

 

 思い出すのは雪ノ下の怒りに塗れた顔と由比ケ浜の泣き顔。あの顔を思い出す度に、黒歴史以上に俺の心を抉られる。

 しかし俺にはあれしか方法がなかった。いつものように最低で最悪な、反吐が出るようなくだらない方法。それこそが俺のやり方であり、俺しかできなこと。そして、この方法しか俺は知らない。

 

 だが、果たして本当にそうなのだろうか。

 本当は自分が気づいてないだけで、もっといい案があったのではないか。自分が決めつけているだけで、見向きもしてない選択肢があるのではないか。

 

 くだらない自問自答を繰り返す。そんなことを考えて何になるのだろうか。

 たとえゲームのようにコンティニューしても、選択肢が決まっている以上結果は同じ。前にもそう自分にいったではないか。

 ならば何故、俺は未だに迷っている?何故自分のやり方を受け入れられない?

 

 俺は自分が好きだ。このひねくれた性格も、この腐った目も、全て愛している。ならば、このやり方だって俺自身だ。なのに何故愛さない。

 たとえ世界が俺を認めなくても、周囲が俺を否定しても、俺自身は俺を愛し肯定する。変化などまっぴらごめんだ。

 

「・・・そろそろ時間か」

 

 もう一人行動の時間は終了だ。そろそろ戻らないとバスが行ってしまう。

 俺はぼっちで嫌われ者だ。もし遅れたら待ってくれなどしない。誰も俺がいないことに気づかず、万一気づいても無視する。そういやヒキタニいねえな。まいっかという感じで。

 何も変わらない。小学も中学もそして今も、現に小学生の頃修学旅行ではおいてけぼりにされたではないか。そして担当にもクラスメイトにも怒られ、両親にも怒られた。迷惑かけるなと。

 

 そう、何も変わらない。俺はいつまでも一人で嫌われ者。今までがおかしかったのだ。

 これを期に、全てリセットしよう。何もかも、全ての関係を・・・

 

「がッ!?」

 

 突如、背中に痛みが走った。

 痛みのあたりを触る。触れた手は真っ赤に染まっていた。

 

「うっ…くそっ、なんだよ、これ!」

 

 背中を見ていたおかげで、俺を指したであろう人物を見ることができた。そこには、見たこともない男子生徒がナイフを握って俺を睨んでいた。

 

「…お前が悪いんだ。……お前のせいで……!」

「な・・・なに言ってんだ?つか誰なんだあんた一体・・・?」

「なんで・・・なんでお前があの二人といつもいるんだ!?」

 

 男子生徒はそう言って俺に飛びかかった。

 いつもならば俺も抵抗出来ただろう。背丈は俺の方がデカかったし、その男子生徒はおそらく文系。なら多少運動神経があってそれなりに筋肉のある俺が力負けするはずかなかった。

 だがその時の俺は刺されたせいで力がうまく出せない上、気が動転している。いつもの半分も力の出せない俺はなす術なく押し倒された。

 

「なんでお前ばっか周りに美少女がいんだよ!?

 俺は勉強も出来てスポーツも出来るイケメンなんだぞ!なのになんでこの俺が振られて、お前みてえな陰キャラが結衣ちゃんや雪乃さんみてえな美少女の近くにいられんだ!?

 邪魔なんだよ!キモキャラはキモキャラらしく教室の隅っこでナメクジみてえにしてろ!俺の女に近づくんじゃねえよ!」

 

 男子生徒は馬乗りになって滅多刺しにする。怒りで顔を真っ赤に染め、涙や涎をまき散らしながら、鬼の形相で怒り狂っていた。

 早口で何言ってるか分かんねえんだよ。人と話す時は落ち着いて、焦らずにゆっくりと話せって言われなかったか?・・・あ、これブーメランだわ。

 

「どんな手であの二人にいるかは知らねえが、どうせろくな手じゃねえんだろ!じゃなきゃお前みたいなクラスのゴミがあの二人に構って貰えるわきゃねえもんな!」

「(刺しすぎだバカ。・・・そんなにしなくても死んじまうよ)」

 

 刺されているというのに、俺は気味が悪いほど冷静だった。人間は自分より感情的な人間を見てると落ち着くと言われるが、それかもしれない。こんなに怒り狂っているの見てたら、そりゃ冷静になるか。

 それとも現実離れしすぎて頭がついてけないのか、またはもう生きれないから死ぬ準備をしているのか、或いは単なる諦めか。・・・まあ、死に逝く俺にとってはどうでもいい話か。

 

「汚い手であの二人を縛り付けておいて、次は姫菜ちゃんか!?欲張りすぎなんだよおまえ!テメエみてえなクサレ陰気ヤローがいるから性犯罪が減らねえんだよ!」

 

 今日初めて、俺は“鬼”というものを見た気がする。鬼とは人の中にいると本で読んだことがあるのだが、なるほど、こういうことを言うのだろうな。中学生の頃、俺の中にも鬼の力が宿っているのではと下らない妄想をしていたのだが、もし当時にこの鬼を見ていればそんな幻想など粉々にぶち壊されていただろう。

 

 そろそろ目を開ける力もなくなった。音も段々と小さくなってきた。

 眠気に身を任せ目を閉じる。この瞬間、俺の意識は深い闇の底へと沈んだ。



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特典選び

「思い出しましたか?」

「・・・はい」

 

 女神に声をかけられて俺は現実に戻された。まあこの空間が現実離れしてるから少し語弊がある気はするが。

 気が付くと俺の体は震えていた。あの時は自分も状況も異常だったから恐怖心は麻痺していたが、冷静になると怖くて堪らない。

 

「貴方を殺したのは自分がイケてると勘違いしたバカな男です。少し顔と頭がいいだけで自分はモテると、少し優しくされただけで自分に好意があると勘違いするような、キモイ男です。

 あの男がなにをいったかは知りませんが、気にすることはありません。所詮は自意識過剰ヤローの戯言ですから」

「・・・」

 

 それだけ聞くと、何か自分に刺さるような感覚がした。

 なるほど。道理でどこか俺に似た感じがしたと思えば、そういうことか。

 あいつも俺と同じように、馬鹿な自意識を持っていたのか。

 

「あの男はすぐに見つかって捕まりました。無事逮捕されてあなたを除けば被害者はいません。あの二人も無事です」

「・・・そうか」

 

 それはよかった。あの形相なら二人や小町にも怒りが向くほどだったから心残りだったのだが、それなら心配ない。

 

 

 俺は迷いなく逝ける。

 

 

「・・・本当にそれでいいのですか?」

「・・・え?」

 

 だが、女神は俺の諦めを否定するかのように、厳しい声色で言った。

 

「あなたには3つの選択肢があります。ゼロから今と同じ人生を歩むか、天国的なところへ行っておじいちゃんみたいな暮らしをするか。・・・それとも私たちの依頼を受けて願いを叶えるか」

「・・・はい?」

 

 願いを叶える。その言葉に俺は過剰反応してしまった。

 いつもの俺ならな絶対に疑う話。おいしい話には絶対毒がある。これは比企谷家の家訓と言ってもいい。

 これは俺の処世術でもある。常に疑い、慎重に慎重を重ねて歩いてきた。…あんな思いをしないように。

 

「ど・・・どんな願いでもいいのか!?」

 

 だが、この異常状態で頭のおかしくなった俺は、それしか縋るものがない俺は。毒と知りながらも飛びついた。

 

「慌てない慌てない。あなた、ゲームは好きでしょう」

「・・・まあ、人並みには」

「実はRPGみたいに魔王によって蹂躙されている世界があるの。そんな世界だから、みんな生まれ変わるのを拒否して人が減る一方。それで、他の世界で死んだ人を肉体や精神はそのまま送って上げてはどうかってことになってるのよ」

「その魔王を倒せと?何の能力も経験もない俺が?」

「そう。それで死んだら元も子もないでしょ?だから大サービス♪何か一つだけ何でも好きなものを持って行ける権利をあげてるの!」

 

 なるほど。強力な武器とか、能力とかでもいいってことだな。

 聴けば聴くほど嘘くさい話。人のことは言えないが、まるで中高生が描いた妄想のようだ。

 普段の俺ならば鼻で笑うし、もし現実に起きても何か裏があるのか探り、絶対に受けない提案だった。

 

「もし魔王を倒すことができたら貴方を現世に蘇らせることを特別に認めてあげるわ!」

「・・・本当か!?」

 

 だが、絶大な餌を目の前にして、俺は冷静な判断が出来なかった。

 

「さぁ、選びなさい!あなた達に一つだけ何にも負けない力をあげるわ!」

 

 そう言って女神は俺にカタログを渡した。

 おぉ!聖剣エクスカリバーとか魔槍グングニールとか、俺の厨二心をくすぐるものばかりだ!!

だが、待て!ここにあるということは、これを持っていた先人たちが倒されたからここにあるんじゃないか?これらを持っていたとしても彼らの二の舞になるだけだろ。・・・あ、複写魔眼とかもある。幻想殺しも。これって著作権的にありなのか?

 いや、変な突っ込みは自分の首を絞めることになる。ここは大人しく受け取るか。

 

「貴方におすすめなのはコレよ。カリスバックル」

「・・・かりす?」

 

 渡されたのは仮面ライダーブレイドの二号ライダー、カリスのベルトだった。

 

「これはカリスバックル。これを腰に当てるとカリスのベルトが一体化してアンデッドの力が使えるようになるの。あ、もちろんアンデッドとの融合計数は剣崎クラスね」

「いえ、別のでお願いします」

 

 折角異世界転生出来るのだ。ここは中二の夢を取り戻し、異世界に相応しい武器を選ばなければ。

 

「…仮面ライダーの力は凄まじく、現在進行形で作られている神話と言っても過言ではないでしょう。おそらく、ほかの勇者たちよりも有利になれるかもしれません」

「いえ、別のでお願いします」

 

「・・・仮面ライダーは神器クラスの武器と身体を強化する装甲、そして特典にも匹敵する能力を手に入ります。つまり、この特典だけで複数の特典をセットで持つことができるのです」

「いえ、別のでお願いします」

 

 いい加減しつこいなこの女神。俺は違うのがいいっているんだ。

 

「・・・ウワァァァァン!なんでコレ選んでくれないの!?」

 

 ついに女神がカリスマブレイクして泣きつきだした。

 

「私のためにコレ選びなさいよ! カリスバックルは本物を再現しすぎたせいでアンデットくさいのよ!」

「お前…やっぱり厄介払いかよ」

 

 やはり押し付けられたものはワケありのようだった。

 

「何が不満なのよ!?仮面ライダーに変身できるのよ!それだけで男の子にとっては喉から手が伸びるでしょうが!

 それにラウズカードも使えるのよ!仮面ライダーに変身するだけでほかの特典よりも強いのに、その上アンデッドの力も使えるのよ!チート級のチートよ!中二心擽るでそうが!

 元名も無き神(笑)とか痛いこと言ってたあんたなら欲しいでしょ?ねえ欲しいでしょ!?」

 

 ・・・さっきはちょっといいかな~って思ったけど、最後ので台無しだ。絶対にその特典は選ばん!

 

「嫌に決まってんだろ!仮面ライダーの末路は大体同じじゃねえか!しかももしアンデッドが解放されたらどうすんだ!?」

「大丈夫よ!キングフォームを乱用しなければアンデッドにはならないわ!それにアンデッド全員可愛い女の子にするから!アンデッドハーレム作ればいいじゃない!」

「何も解決してねえよ!」

 

 なんだと特典で得たハーレムって。中学の俺なら飛びついたかもしれないが、今の俺はそんな偽物いらねえよ。

 

「お願いったら!なんならフォームチェンジもつけるから!ジャックフォームもつけるからカリス選んで!」

「・・・いいのかよそんなことして?」

「これは厳密に言うとエースの力で仮面ライダーに変身するアイテムであって、別にカリスに変身するものじゃないの。だからジョーカーの力とは別物よ。もっと詳しく言うなら、ブレイドの全ライダーに変身するアイテムね。変身するためには専用のカードがいるけど」

「・・・なるほど」

 

 女神の話を聴いて俺は一考えを変更した。

 これはかなり美味しい話かもしれない。できれば平成二期の仮面ライダー、出来るならハイパームテキにしてほしかったのだが、流石に贅沢すぎた。

 それにカリスやブレイドもキングフォームになればチートライダーになれるのだ。問題はない。

 

「わかった。じゃあそれを貰おう」

「ホント!?ありがとう!これ本当に再現度高すぎてアンデッド臭がすんごいのよ!」

 

 女神の言葉を無視してとりあえず試着してみる。

 バックルを腰に当てた瞬間、バックルからカードが腰に巻き付き、一周してバックルの反対側にたどり着いたとこで連結。カードは帯となって固定された。

 その時だった。ベルトがまるで吸収されるかのように消えたのは。

 

「それは盗難防止用よ。もし盗まれることがあったら大変でしょ。だからこうして盗まれないように内蔵型になってるの」

「なるほど」

 

 要はクウガのベルトのように融合しているということだ。ここではまだ肉体を持ってないので魂の一部に付着することで絶対に離れない仕様になったらしい。

 なんか人外になるようで怖いが、話を聞くと一部になっただけで人間をやめたわけではないらしい。ならよかった。

 

「では、転生の儀式を行うわ。中央に寄って」

 

 言われた通り中央に立つ。瞬間、床から魔法陣のようなものが現れ、光りだした。

 

「では、行ってらっしゃい」

「…ああ」

 

 光がより一層強くなり、体が浮遊する。光が俺の視界をすべて覆った瞬間、俺の魂はその世界から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

「あ~よかった。これで匂いが・・・あれ?なにこのプリント?・・・あ~そういえば本部から緊急の通達があったわね。めんどくさかったから見てないけど、一段落したから確認しよっと。

 なになに…? 特典の一部に新特典開発用の試作品が混じっていることが発覚。誤って試作品を送ったものは理由の如何にかかわず処分する。…バッカね~。そんな危険なもの渡すわけないじゃん。そんなの馬鹿よバカ」

 

 

 翌日、アクアは《不完全な神器》を横流しにした罪によって降格処分された。

 

「で、ここはどこだ?」

 

 俺は森の中にいた。鬱蒼と茂っている広葉樹が太陽の光を隠し、見たことないような植物が生えている。

 鳥や虫の鳴き声、土と草木の香り。それらすべてがここが現実の世界だと思い知らせる。

 

 どうやら転生には成功したようだ。何故RPGなどでよく見る最初の町とかではなく森なのかは疑問だが些細なこと。とりあえず俺は森から抜け出すため歩き出した。

 

「ん?」

 

 いきなり俺のポケットの中からラウズカードが飛び出してきた。そして・・・

 

 

 

 

「「「「「キシャァァァァ!!!」」」」」」

 

 カードの中からアンデッドたちが飛び出してきた。

 

「ぁ…ウワァァァァァァァァァァァァン!」

 

 その数50体。いきなり化物の人口過密状態になった森の中、俺はダディのように顔を恐怖に歪め、みっともなく転げ回った。

 たしかに彼女たちは見た目こそ可愛らしい美女美少女だったが、中身はアンデッドだ。闘争と血に飢えた目とオーラは、現代社会のぬるま湯しかしらない俺をビビらせるのには十分な迫力だった。

 

 アンデッドたちは俺に目も呉れず、瞬く間に解散。飛んだりジャンプしたり中には地面に潜るなどして俺の目の前から消えていった。

 

「・・・は?」

 

 俺は残されたハートのエースと2のカードを見ながら、途方にくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

@一年後

 

 

 

「はあッ!」

 

 とある崖の上。黒い弓の戦士とキメラを模したアンデッドが剣戟を繰り広げていた。

 

「お前で最後だ…。キメラアンデッド!」

「キシャ嗚呼アアああああああああああ!!」

 

 一閃。刃上の弓がキメラアンデッドを切り裂く。アンデッドは緑色の血飛沫を吹き出しながら倒れ、アンデッドのバックルが割れた。

 黒い戦士は一枚のカードを取り出す。それをアンデッドの胸元に押し付けた瞬間、アンデッドは緑色の光となってカードに吸収されることによって封印された。

 アンデッドを封印したカードが自分の意思でもあるかのように男の手元へ戻る。それをキャッチした男はカードを仕舞い、別のカードを取り出した。

 

《スピリット》

 

 カードをバックルのくぼみに通す。機械音が鳴り響き、男が装着していた鎧が消えた。

 

「…神の奴、余計なアンデッドもポンポン増やしやがって。だがこれで終わりだ。・・・今度こそすべてのアンデッドを封印した」

 

 男は、比企谷八幡は新たに封印したカードをいじりながらため息をついた。



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ぼっちは異世界でもぼっちなのか

ここから本編突入です。


「…ここが始まりの街アクセルか」

 

 俺は専用のバイク、シャドーチェイサーに乗って街を眺めていた。

 街は古風なヨーロッパ風。異世界ものライトノベルでも定番中の定番。ベタにもほどがる。

 

 

「頭では、わかっているつもりだが定番のものといっても感動するもんだな。」

 

 シャドーチェイサーから一旦降りて、手で押しながら街中を見渡す。行き交う人を観察してみると、獣人やエルフなど、亜人系の種族がちらほらといた。

 この世界では亜人でも差別されない平和な世界らしい。少しダークなラノベだと、獣人とかは奴隷だったり、エルフと敵対しているなどの設定があったので少し不安だったのだが、その心配は消えた。

 しかしそれにしても亜人か…。去年までは森にこもってアンデッドと戦ってばっかりだから感覚がおかしくなってしまったが、本当にファンタジーの異世界なんだなと感動した。

 

「おい、そこの。変な装備の奴。」

 

 行き交う人を観察しながらと歩いていると、後から声を掛けられた。声の方を向くと、世紀末から来たのではないかと思う風貌の男がいた。

 見た目のせいで身構えてしまったが、この人からは敵意を感じない。俺は一旦戦闘態勢を解いて返事した。

 

「だ…ダリナンだアンタ?」

 

 ・・・やばい。間違えてオンドゥルってしまった。

 人と会話するのはかれこれ一週間ぶりだ。そのせいで上手く声が出なかったのだ。

絶対そうだ。ベルトやアンデッドたちの呪いではない。

 

「…なかなかいい目をしてるな。今まで強敵と戦い、勝利してきた戦士の目だ」

「・・・え?」

 

 いきなり目を褒めてくれたモヒカンの戦士。

 なんだよこの人。見た目によらずめっちゃいい人じゃん。今度何かおごってあげよ。金はけっこうあるし。

 

「坊主、お前も冒険者になりにきたのか?」

「・・・はい」

「ほぅ、そうか。なら、あのでかい建物に行ってみるといい。あそこで登録出来る。

 

 モヒカンの戦士はデカい施設を指さした。

 本当に好い人!前の世界だったらカツアゲされて、この間も盗賊に襲われたのに! 後者はぶっとばしたが。

 ここまで他人に優しくされたのは初めてだ。向こうでもこっちでも敵ばっかの四面楚歌状態だから…。あれ、なんか目が熱くなってきた。

 

「ありがとうございます」

「おう!頑張れよ! 」

 

 モヒカンの戦士に一礼して施設に向かう。

 シャドーチェイサーに乗って路地裏を通って建物に向かう。遠回りにはなるが人ごみを避けれれうし、なによりもこっちはバイクだ。移動時間の差はかなりデカイ。

 建物の前にバイクを停めて中に入る。そこには様々な人種や種族(と言っても亜人系だけだが)が食事をしていたり、ボードに貼り付けられている依頼書らしきものを見たりと、ゲームやラノベで見るようなギルドの光景そものもだった。

 

 俺は窓口らしき場所に向かう。混んでない時間帯なのか、俺は時間を消費することなく向かうことができた。

 

「では、次の方どう…ひっ!アンデッド!」

「こう見えても一応人間です。」

 

 おいおい、やっぱりアンデッドに見えちゃうの。たしかにアンデッドと融合してるけどさ、俺は一応まだ人間だから。ジョーカー化は大分先だから。

 てか、一応人間とか言ってる自分が一番心に来るわ。さっきのモヒカンの時とは違う意味で目頭が熱くなってきた。

 

「し、失礼しました!」

「いえいえ、慣れてますから…。」

 

 受付嬢は直ぐに頭を下げてきた。

 いえいえいいんです。こうやって頭を下げてくれているおかげで私はたわわを眺めることが出来ましたので。

 

 この世界のファッションってかなり露出が多いな。俺の天敵、吸血姫や英雄姫はエロ衣装同然だったし、俺を洗脳しやがった女悪魔なんて乳○ピアスしておっぴろげ状態のR-18装備だぞ。一体どんな貞操観念してんだよ。

…まあ、かなり極端な例だが、それでもこの世界の女性は露出が多い。童貞には危険だ。

 

「えっと、今日はどうされましたか?」

「冒険者登録をお願いします」

「はい、分かりました。では、こちらに名前と登録料をお願いします。登録費用は1000エリスです。」

 

 俺は渡されたカードに名前を書き、ポケットから金を取り出して渡す。

 

「ありがとうございます。ではこちらの水晶に触れて下さい。ヒキガヤ ハチマンさんの潜在能力などが機械を通してこのカードに記載されます」

 

 言われた通り水晶に触れると、淡い光が俺の体を包み込んだ。

光自体は暖かくて気持ち良いのだが、体内だけでなく魂まで見られている感じがするのであまりいい気はしない。

まあ、そんな贅沢言ってられないのはわかってるが。

 

「もう大丈夫ですよ。では、ヒキガヤ ハチマンさんのステータスを拝見させて頂きます。・・・ってなんですかこれは!?」

「うおッ!?」

 

 俺のカードを-見た途端、受付嬢は大きな声で驚いた。驚きたいんはこっちだ!

 

「筋力、俊敏性、生命力…。幸運を除くすべてが桁違いです! しかも最初から《斬撃》や《加速》などのスキルや、《火炎》や《回復》などの魔法まで覚えているではありませんか! 貴方は一体何者ですか!?」

 

 森の中で仮面ライダーやってました。毎日人目を忍んで女体化されたアンデッドたちを封印してその力を使い、さらに強力なアンデッド娘たちボコって封印してました。・・・やだ、なんか淡々と並べてたらすごい犯罪臭がする。

 違うよ。アンデッドは野放しにすると異世界に迷惑かかっちゃうから。見た目は可愛くてもアンデッドはアンデッドだから。本当に怖いんだからね。何度あいつらに殺されかけたことか…。

 

 

 

「すごいです…。これならなんだってなれます!魔法剣士のさらに上級のルーンナイトやアークプリーストとソードマスターのハイブリット、パラディンになってなれますよ!」

「「「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」

 

 受付嬢の話に聞き耳を立てていたのであろう。受付嬢だけでなく、周りの冒険者らしき人たちまでも騒ぎ始めた。

 ギルド内にもざわめきが広がってゆく。

 

「・・・あれ?でもおかしなスキルが…。え!?不死生物の支配者(アンデッド・マスター)!?」

「「「「「・・・え?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『アンデッド娘たちを力でねじ伏せ、己の下僕とすることでその力を貢がせる。また解放したアンデッド娘を強制的に絶対服従させ、己の奴隷にする』・・・なにこれ最低」

「「「「「・・・」」」」」

 

 受付嬢だけでなく、この場にいる全員、特に女性からゴミ虫のような目で俺を見てきた。

 ギルド内は先ほどまでの期待と興奮はなく、重苦しい沈黙が漂う。冒険者達は目が合おうとした途端、サッと顔を背けて目を合わせないようにした。

 

「(あ、やっぱここでも俺はぼっちなのね・・・)」

 

 不意に、封印されたアンデッドの絵柄が嬉しそうに動いた気がした。




・カリスバックル
神々が協力して作っ変身アイテム。魂に付着するため物理的には奪えない仕様になっている。
使い方は原作通り。念じると腰に現れ、エースをスラッシュすることで変身する。
完全なアンデッドにはなってないため、どちらかというとクウガのベルトに近い。


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どげせんアクア

「あんたねアンデッドの支配者っていうのは!」

「・・・はあ?」

 

 あの騒ぎががあった翌日、俺は早速クエストに向かおうとボードに向かった途端、青い髪のアホっぽい女に絡まれた。

 

「街の少女たちをアンデッドに変えて支配する極悪非道アンデッド使いよ!ここで退治してやるわ!」

「え…ちょ、ダディッテンダ?」

「何それアンデッドにする呪文?けど私には通じないわ! 喰らいなさい!ターンアンデット!」

 

 アホっぽい女は俺の反論を許さず、まくし立てて光を放った。・・・また噛んでオンドゥルっちまったぜ。

 

「な…なんで効かないの!?ターンアンデット!ターンアンデット!ターンアンデット!」

 

 青髪の女はさらに謎の光を俺に当てる。てかさっきからなんだこの光? 体には害なけど、眩しくて鬱陶しいんですけど。

 てかこの女どっかで・・・あ。

 

「な…なんで私の力が通じないの~!!?女をアンデッドにするようなカズマにも劣る性犯罪者ごときが!」

「ヴェ!?ダディガドンドゴイッダ!?」

「・・・え?」

 

 またオンドゥルってしまうと、女は突如顔を蒼くした。体もブルブル震えてるし歯からはガチガチといった音が聞こえてきた。

 

「そ…それってオンドゥル語? あとターンアンデッドが効かないアンデッドの気配。その上その死んだ目……」

 

 一つ一つ確認するように呟く青い髪の女。その度に体の震えはどんどん大きく、顔はさらに真っ青になっていく。

おいおい大丈夫か。マジでゾンビみたいに顔青いぞ。あの吸血姫よりも青いし。

 

「も・・・もしかして・・・・・・・比企谷八幡さん?」

「ああ、そうだが」

「・・・」

 

 

 

「す…すいませんでしたァァァァ!!!」

 

 女神は突然土下座した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまりアクアはこの人に危険な欠陥品を渡した挙句、渡た特典からアンデッドが50体も逃げ出し、その後処理に追われていたと」

「その通りです。大変申し訳ございませんでした」

 

 青い髪の女――アクアは土下座を続けながら謝った。

本当に見事な土下座だ。これは熟練のどげ○んの為せる技。コイツ…土下座を極めているな! よほど土下座の機会に恵まれているのだろう。・・・それって土下座するような失態をよくするってことだよね。ダメじゃんそれ。

 

「…アクア。無能のクソ駄女神だとは思っていたがここまで酷いとは・・・」

「ちょ、なによそこまで言わなくてもいいじゃない!」

「ざけんな!逃げ出したアンデッドを倒すのにどんだけ苦労したと思ってんだ!?」

「はい!申し訳ございません八幡様!」

 

 相棒らしき男性、カズマとやらには強気でいたのに、俺には土下座して謝るアクア。

 なんだろうこの相手によって切り替える女子特有のスキル。本当に怖いね。…俺もこれのせいで痛い目を見てきた。

 

「け…けどアンデッドは全部美少女化されているから貴方様も得するんじゃ・・・」

「擬人化してるから逆に戦い辛いんだよ!モンスターのままの方がやり易いわ!」

 

 擬人化されたアンデッド娘をカードに封印し、その力を使う。文字にしたらハーレムだの性奴隷だのと、オタクたちから羨ましがられるかもしれない。

 

 

 だからこそ言いたい。アンデッド娘たちとの戦いはそんな生易しいもんじゃねえよ!

 

 

 想像してほしい。顔の整った美少女たちが殺意と野性をむき出しにして襲いかかる構図を。ダラダラと涎を垂れ流し、血に飢えた目と表情で睨まれる恐怖を。

 あの恐怖は筆舌に尽くしがたい。最初あの姿を見て俺は逃げ出してしまった。

 

 それだけではない。恐怖を克服した後も障害は残っている。

 考えてみてほしい。美少女に刃物で切りかかったりする自分の姿を。・・・すんげえ精神的に来るんだよ。

 誰かを殴るって、こっちも精神的な負担が来るんだよ。拳から伝わる肉と骨の感触に、倒れて震える相手。

 その上相手は美少女だからさらに精神的ダメージが加わる。

 加えて刃物や銃などの殺傷力のあるものを使うのだから、精神的ダメージはさらにアップ。これなら最初から怪人の状態でやってほしい。

 

「わかるか?これを50体片づけるこっちの苦労が。加減したらこっちがやられるし、見逃せば被害はさらに大きくなる。幸い森の中から出てこなかったから二次被害はなかったと思うが、もし出て行ってしまったらどうなってたことか。…こいつらをほぼ一人で封印するのはマジ骨が折れた」

「お察しします。本当に苦労したようですね」

 

 俺が一通り説明すると、カズマも頭を下げた。

 いや、お前別に頭下げる必要ないよね? なのになんで頭下げてるの?もしかしてこの女の彼氏・・・なわけないか。

 

「ありがとうございます。あなた様が被害を食い止めてくださったおかげで更なる罰は免除されました。ほんっとうに感謝しています!」

「…お前、ここまで話が進んでおいてまだ保身しか頭にねえのか・・・」

「だって仕方ないでしょ!まさかアンデッドが解放されて暴れるなんて私たちどころか作った神も気づかなかったんだから!

 ……けど、もしアンデッドがこの世界の人に危害を加えていたら・・・減給どころか降格されちゃったのかもしれないわ!ホントにありがとう八幡様!」

「…ホントにお前ダメダメだな」

 

 何度も土下座を繰り返すアクアを、カズマが呆れた様子で見下す。無論俺も。

 この女、見てくれはいいが中身は本当にダメッダメだな。保身と楽することしか頭にねえな。人のこと言えないけど。

 

「…いいよ。もう過ぎた話だし。ほぼ押し付けられた形とはいえ、特典を選んだのは俺だ」

「ありがとうございます八幡神さま!」

「・・・お前女神だろ。自分の正体忘れちまったのか?」

 

 まるで祭壇でお祈りするかのように何度も頭を下げるアクア。

 女神に神扱いされるとか…。これ喜んでいいのか? 女に土下座されるのは悪い気しねえが、女神が人間に頭下げるとか、なんか世知がねえなねえな。

 

「話は終わりか。なら俺はクエストに行かせてもらうぞ」

「あ、ちょっと待って」

 

 席を立つとカズマに止められた。なんだまだ話があるのか。

 

「お前まだパーティ組んでないんだろ?なら俺たちのパーティに入らないか?」

「ヴェ?何言ってんだ?」

 

 俺はカズマの言ったことがわからず、ついオンドゥルが混ざってしまった。

 

「パーティだよパーティ。やっぱしチーム組んだ方が便利だぜ」

「いいです。俺一人で出来るんで」

 

 俺は断った。既に俺はひとりで4人のライダーになれる上、ラウズカードを全て使える。つまり剣、銃、弓、槍を使えるに加え、魔法も使えるのと同意義なのだ。

 さらに俺は今まで一人で戦ってきた。・・・まあ、何度か他のライダー達と組んだことはあるがアレは例外だ。相手がリッチとかキングドラゴンとかヤバいモンスターばっかだったし。

 よってパーティなど不要。俺は今まで通り一人で戦わせてもらう。

 

「け…けど一人よりもパーティ組んだ方がいいぜ」

「いいです。俺一人で出来るんで」

 

「…ま…まあそう言わずにさ。試しに俺たちと組まないか?」

「いいです。俺一人で出来るんで」

 

 しつこいなコイツ。俺はいいって言ってんだ。なのに何故食い下がる。

心なしかコイツ俺が断る度に焦ってるし。顔と態度にめっちゃ出てるぞ。

 

「い…いいい、い~のかな~? 妙な噂のせいでお前孤立してるぜ? 事情を知ってる俺たち以外は聞いてくれねえぞ」

「いらねえって言ってんだ。しつこいぞ」

 

 うぜえ。いい加減にしてくれねえかな。そろそろ怒るぞ。

 

「・・・うわあぁぁぁん! お願いします仮面ライダー八幡さま!俺たちのチームに入ってください!」

「ヴェ!?何引っ付いてんだ!?」

 

 俺は足元に引っ付いたカズマを振り払おうと足をブンブンさせる。コイツ力強!?

 

「お願いします!ウチのパーティはアホばっかで俺はストレスで死んじまいそうなんです!俺をストレスという怪人から助けてください仮面ライダー!」

「ざけんな!俺がヘシンすんのはカリスだ!正義のヒーローのブレイドじゃねえんだぞ!正道のヒーローが欲しいなら他を当たれ!」

「だったらロリっ子用意しますから!アマネチャンクラスの上級ロリいますから!これでやる気出たでしょ!?」

「そういう問題じゃねえ!てか俺はロリコンでもねえし始でもねえ!そんなんでやる気出るか!」

 

 あ~もう、うっざいな~。いい加減力ずくで引き剥がそうか・・・うわ!?コイツ俺のズボンに鼻水つけやがった!

仕方ない。少しだけ譲渡するか。こういうタイプは頼みを聞かないと延々と来るからな~。・・・少しだけ聞いてやるか。

 

「あ~もう!わかった!今日一日だけパーティ組んでやっから、話はその後だ!」

「ホントですか!?あ…ありがとうございます神様!」



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ハーレム接待

転生モノの名物といえばハーレム。某スマホしかり、遡って悪魔の転生者然り。会う先の女たちはどんどん主人公に惚れる。もはや形式美です。
けど、この世界のハーレム()は少し特殊なようです…。


 場の雰囲気に流されて一時的にカズマたちのパーティに入った俺。その初仕事はジャイアントトードというでっかいカエルの討伐だ。

 なんでも駆け出しの冒険者はカエル狩りからスタートするのが習わしのようだ。

 

 さて、今からクエストを開始するため現地に向かおうとシャドーチェイサーに乗った。

 

「あ、待ってくれ八幡さん。まずはパーティメンバーを紹介したいから」

「あん?」

 

 カズマが俺の前に立って進路を塞ぐ。…ッチ。現地で合流してテキトーに狩って、そのまま何もなく解散する予定だったのに。

 だがこうなってしまった以上仕方ない。テキトーに無難で印象に残りづらい自己紹介して、さっさと解散するか。

 

「それで、後ろの女子たちがお前のパーティメンバーか? マジで美少女しかいねえな。俺いなかったらお前のハーレムじゃねえか」

「ハハハ。何をおっしゃってるのでしょうか。・・・これから貴方のハーレムになるのだ?」

「ヴェ?」

 

 悪い顔でいうカズマ。ダディ? 何やら不吉な言葉が聞こえた気がするんだが・・・気のせいだよな?

 

「はい皆さん注目!この方は今日一日我らのチームに入って下さる比企谷八幡先生だ!みんな粗相のないように仕えるんだ!いいな!」

 

 怒鳴るかのような大声で俺のことを紹介するカズマ。ねえ、さっき君は仕えるとか何とかって、なんか大げさすぎね?

 

「ほう…貴方がカズマが言ったルーンナイトのハチマン様か。私はダクネス。見ての通りクルセイダーを生業とする者だ」

「貴方が封印されし古(いにしえ)の怪物を使いし王者ですね?私の名はめぐみん。古の闇を従えるアークウィザード…です」

「私のことはもうご存知ですよね。私はアークプリーストのアクア。今日からあなた様に仕える女神です」

 

 ・・・なんかドイツもコイツも腰が低いな。めっちゃ怪しいんだけど。

 

 金髪の女、たしかダクネスだっけ? コイツは美少女でスタイルもいいんだけど、発情している目が怖いな。俺をレ○プしようとしたサキュバスそっくりだ。

 このめぐみんって名乗っている子は中二臭がプンプンする。今は隠しているが俺には分かる。コイツは中二病だ。もし材木座みたいなことになったら面倒そうな奴だ。

 アクアは言わずもがな。見た目は最高だが中身はアホ。あの場では責めなかったが俺は別にコイツを許したわけではない。正直、コイツが一番関わりたくない。

 

 結論。出来るならばコイツらとは関わりたくない。今日の仕事終わったらさっさとこの街から出るか。

 

「ではハチマン様。馬車をご用意致しましたのでどうぞお乗りください」

 

 俺の手を引いて馬車に乗せようとするアクア。俺はその手を振り払おうとするも、即座に反対側からダクネスが俺の腕に自分の腕を巻き付かせて、それを防いだ。

 

「不肖ながら私共がエスコートさせて頂きます。」

「え…ちょ、ヴェ?」

 

 エスコートと称して俺を馬車に連行するダクネス達。てかコイツら力強! 全然振り払えないんですけど!

 俺バイクで行くから! そっちの方が断然速いし精神的にも楽だし! だからバイクに乗せて!

 

「な……ダンダンダイッタイ!?」

 

 俺はまたドンドゥルってしまいながら、馬車に乗せられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではお前ら、八幡を俺たちのパーティに迎えるための打ち合わせを行う」

 

 八幡が連行される数分前。カズマたちはアクアたちと事前の打ち合わせをしていた。

 

「なあカズマ、あいつは噂のアンデッド使いなんだろ?いいのかそんな輩をパーティに入れて本当に大丈夫だったのか?」

 

 ダクネスが心配そうに問う。それも当然のことだろう。なにせ八幡は女を奴隷にするだの死体愛好家だの噂されている。そんな相手を誰が仲間にしたいだろうか。そう、普通ならば…。

 カズマはダクネスを部屋の隅に引き連れ内緒話を始めた。 

 

「…なあダクネス、お前は八幡のことをどう思う?」

「最高だ!」

 

 この女たちは普通には当てはまらなかった。

 

「あの吐き気を催すような邪悪の雰囲気と腐った眼は普通の人間には出来ない!噂の真偽は分からんが私には分かる。・・・あの男は超高校級のドS調教師だ!…ああ、早くあの目で罵られたい!」

 

 体をクネクネさせて顔を赤くしながら言うダクネス。どうやら根っからのドMにとって八幡の目は忌避するべきものではなくありがたいものらしい。

その上八幡はとある理由でドS調教師の心得を取得することになってしまった。その理由は…面倒だから後で出す。

 

「そうだ。彼はエリートの調教師だ。だから最初からドMのメス豚には興味がない。…お前は高潔で気高い女騎士を演じろ。一流の調教師はそういった女を調教したがる傾向にある」

「…わ、わかった!」

 

 テキトーなことをほざくカズマ。彼は八幡の過去など露程も知らない。全部口から出まかせだ。

だが単純なダクネスはすべて受け入れた。彼女は興奮で顔を赤くしながらも、言われた通り凛々しい騎士の仮面をかぶる。・・・すぐ取れると思うが。

 

「ちょっとめぐみん」

「なんですかカズマ? また何か企んでいるんですか?」

 

 今度はめぐみんを部屋の隅に引き連れる。

 

「…八幡の纏う雰囲気についてどう思う?」

「・・・なんか影があってかっこいいです! 邪悪なる闇の香り…あんなのを人間が耐えられるとは考えられない。もしや彼は内なる悪魔を体内に飼っているのでは!?」

 

 普通でないのはこの女も同じらしい。めぐみんは中二的妄想を全開にして、まるで仲間ができたかのように嬉しそうな様子で言った。

 八幡の纏うオーラの正体はアンデッドマスターの副作用のようなものだ。簡単に言えばフェロモンのようなもので、この匂いが強ければ強いほどアンデッドや悪魔に好かれやすく、そして奴隷にしやすい。

まあ、八幡にとってはいい迷惑なのだが…。

 

「そうだろう。あの男は古より存在した生物たちの始祖、不死身の化け物たちを封じ、その力を肉体と融合させて戦っているんだ」

「な…なんだってー!? つ…つまり彼は闇を以て闇を制す悪の戦士ということですか!?」

「ああ。あいつは闇に生まれ、闇に忍び、闇を切り裂く。孤独と共に戦い続ける。そういた定めを背負ているんだ」

「ナニソレかっこいい!」

 

 またもやテキトーなことをほざいて仲間を騙すカズマ。しかも口から出まかせだというのに多少当たっているのだから余計に性質が悪い。

 

「しかし闇の戦士はその正体を知られてはない。もうこれで帰れない。さすらいの旅路だけだ」

「そ…そんな! では私たちが彼の正体に気づいているということは・・・」

「もちろん内緒だ」

 

 どんどん話がおかしな方向に進んでいく。いや、カズマがおかしな方向へと誘導していく。

話がおかしくなる度にめぐみんが八幡に向ける熱い視線はより強くなり、カズマの次の言葉で最高点へと達した。

 

「だがめぐみん、あの戦士は長引く戦いで心身ともに疲れ切っている。………その傷を癒せるのは、同じ忌避される存在であるお前だけだ」

「な…なんですと!?」

 

 おいバカやめろ。これ以上ちびっこを騙そうとするなこの悪人め。

 

「お前はその魅力であの戦士を労わってやれ。だが決して正体に気づいていることを悟られるな。いいな?」

「はい!」

 

 さりげなく自分が魅力あると言われた気になって浮足立つめぐみん。こうして彼女もカズマに騙され、八幡を迎えるキャバクラ要員と化してしまった。

 

「じゃあ次はお前だアクア。けどお前はわざわざ言う必要ねえな」

「ええ分かってるわよ。美少女三人であのアンデッドマスターを骨抜きにして、あれよあれよとパーティにする気でしょ?」

「流石アクア。俺のことよく知ってるじゃねえか」

 

 悪い顔でコソコソと話し合う二人。やはりカズマの狙い

 

「けど私嫌よ? たしかにカリスの特典は強いけどアンデッド臭がめっちゃするのよ。いくらターンアンデッドしても浄化魔法使っても消えないし。ずっとあの匂いに耐えろとか、私に死ねっていうの?」

「・・・お前そんなこと言える立場か?」

「はい?」

 

 突如カズマがジト目で言う。その意味が分からず、アクアは頭に疑問符を浮かべた。

 

「いいか?あの人は他の特典を持って転生したチート野郎共と違って、自分の力でチート特典を獲得した猛者だ。ハートのエースと2を除くアンデッドを全て封印してきたという経歴から、あの人が唯者でないことは分かるだろ?」

「ま…まあ確かに。そこらのバカ共とは違って善戦しそうね。精神的にも鍛えられてそうだし」

「だろ?その上仮面ライダーはチート中のチートだ。キングフォームだけじゃなく52枚全部のアンデッドと融合することだってあり得る」

「まあ、そうね。カリスバックルは危険だけどその性能は正規の特典とは桁違いの性能よ」

「そうだろ?つまりあいつが戦力上一番魔王を倒しえるということだ」

「そうね。けどそれが何?」

 

 いい加減この問答が面倒になったのか、アクアは少しイライラした様子でカズマに質問した。

 元来アクアはこういった長ったらしいやりとりが嫌いだ。そのことはカズマも知っているので余計にむかつくのだろう。

 しかし、そのイライラも次の言葉で吹き飛ぶことになる。

 

「それでもし神にお前の悪事・・・アンデッドが逃げて被害を出したって報告されたらお前はどういうことになると思う?」

「・・・はッ!!?」

 

 ここでアクアはやっと気づいてしまった。八幡の言葉一つでより自分の立場が悪くなることに…。

 

「ただでさえお前はあの人に欠陥の特典を渡して立場が悪くなった。ここで追い打ちをかけられたらどれだけ下がるだろうな?」

「ちょ…ちょっと待って。もしアンデッドによる被害が出たら・・・ああ! 私首飛んじゃう!」

 

 一人百面相をしながら、奇妙な踊りをして慌てるアクア。顔は髪より青くなり、嫌な汗が『お前本当に水の女神か?油の神だろ』と言いなくなるほどドロドロ流れる。

もしばれたら減給だけでは済まされない。もしかしたら降格処分され、この世界よりもヤバい世界の担当にされる。その不安が彼女を追い立て、冷静な判断を失わさせた。

 

 そういった隙間に悪魔は漬け込むのだ。

 

「だろ?つまりあの人はお前の命綱を握っている状態なんだ。だからご機嫌取って味方にしなきゃ・・・お前死ぬぜ?」

「は…はい! この不肖アクア! 誠意を以て八幡様に媚びます!媚びて味方につけます!」

 

 悪魔の言葉に乗せられていい返事をするアクア。それを内心しめしめと眺め、悪魔はさらに煽った。

 

「そうだ。お前の女神的な美貌とプロモーションで骨抜きにするんだ。そして味方につけて、事実を抹消しろ!」

「合点!」

 

 急いで八幡の元へ駆けつけ、彼の足元にひれ伏す。こうなればもう女神の威厳など捨てたも同然。アクアは八幡専属のキャバクラ要員になり果てた。

 

「(どうぞお受け取りください英雄さま!異世界転生名物、美少女ハーレムです!)」

 

 こうして、八幡の疑似ハーレムが完成した。

 

 

 

 

「八幡様、こちら紅茶になります。私の浄化能力によって少し薄くなっておりますが、清いものなのでご安心ください」

「茶菓子です。よければ私をテーブルにお使いになりますか?」

「肩をお揉みします。闇の戦士たるもの、ひと時の安らぎを堪能するものです」

「(しめしめ…。なんかボロが所々出ているが、あいつらちゃんとハーレムしているじゃん。この調子で我がパーティに!)

 

 馬車の中でカズマの用意したハーレム要員たちが八幡に甲斐甲斐しく世話をする。カズマはその様子を眺めながら、召使のように八幡の側に控えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(・・・なんか、あの女悪魔に洗脳されて女を囲っていた時期思い出すな)

 

 だが、ハーレム接待はあんまし受けがよくなかった。



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カエル狩り

「…やっと到着したか」

 

 馬車の中を数十分ほど。俺たちは目的地の町外れにある草原についた。

 いや~、あんましいい心地しなかった。美少女を侍らすのは悪い気はしないはずなのだが、一人は発情した目を、一人は材木座のような中二オーラを、もう一人は明らかに媚売っていた。

 まるで下心見え見えで社長などの重鎮に接待するバーみたいだ。よく露骨に媚売られるとイラっと来ると言われるが、あれマジだったんだな。

 あのカズマって奴、あからさまに俺の特典狙いだよ。そのためにハーレム用意するとか必死すぎだろ。お前も特典もらってるんだから頑張れよ。

 

「八幡さんどうでしたかウチの美少女達は。どうやら彼女たちはあなた様にほの字でございますよ」

 

 ごまをすりながら近づくカズマ。コイツ本当に必死だな。

 その召使みたいな態度やめろ。いじめっ子や悪代官に擦り寄るような取り巻きみたいで小物臭がプンプンするぞ。

 まあ、俺にはどうでもいいが。どうせすぐ抜け出すし。

 

「それで、このジャイアントトードって本当に初級者向けなのか?明らか人間よりでかいぞ」

 

 俺は3mはあるデカイ蛙、ジャイアントトードを指さした。

 ギルドから聞いた話だと、あの蛙は駆け出し冒険者が一番最初に相手するモンスターであり、某RPGに例えるならスライム的な扱いらしい。

 

 なのにあのサイズおかしくね?軽自動車くらいはあるぞ。

 

 俺はせいぜい成人男性半分ほどの蛙を思い浮かべたのだが、俺の指差すソレは明らか大きさがおかしいぞ。もうキングクラスじゃん。大王だよアイツ。

 知ってると思うけど、蛙ってめっちゃ跳ぶからね。ウシガエルなんて弾丸みたいになるからね。それが3mとか、もう砲弾みたいになるぞ。

しかもあの色、めっちゃ目立ってるぞ。蛙って毒ないのは忍んでいるけど、あいつ全然隠れてないし。中には水色と黒の縞模様とかあるし。絶対毒持っているだろ。

 みんな知ってる?トードってヒキガエルを表すこともあるんだって。しかもヒキガエルってかなり強力な毒持ってるし・・・あれ?つまり俺も毒持ちってこと?だから嫌われてるの?だからぼっちなの?

 

「俺も最初見たときはびびったけど、あいつかなりトロいんです。ジャンプ力もせいぜいあいつの足一歩分ですし。ほら、あんな風に」

 

 カズマが蛙を狩ろうとする他の冒険者を指差す。

 …なるほど。たしかにあれならなんとかいきそうだ。あとはあの巨体に気をつけるだけだな。あんなにでかいと槍も矢も刺さりづらそうだ。

 

「…とりあえず様子見だ。まずは変身せずこの世界の武器で戦うか」

「そ…そうですか。・・・って、いつの間に武器を!?」

「バイクに乗せた」

 

 シャドーチェイサーには自動で持ち主に向かう機能が搭載されている。それで武器を運んでもらったのだ。

 予め積んでおいた武器をシャドーチェイサーから降ろし、武装する。といっても槍一本と弓と矢が数本程度だ。

 

「…風向きはこっちが下か。なら匂いが飛ぶこともねえな」

「あ、大丈夫です。あいつらめっちゃ鈍感ですから。目の前でバカみたいに騒がない限り気づきません」

「・・・」

 

 ま…まああの巨体なら天敵少なそうだし仕方ないか。

 

「じゃ、早速狩りを始めるぞ。俺が最初の攻撃を食らわせるから、カズマとダクネスは続いてその剣で切りかかれ」

「「はい!」」

 

 いい返事をする二人。カズマは何か言いたそうにしてたが無視だ。俺に全部押し付けて自分たちは楽するとか絶対許さん!

 

「(距離は20mほど。本当にこの距離で気づかないのか?)」

 

 半信半疑になりながらも俺も攻撃を開始した。

 まずは投槍。カエルに狙いを定め、助走をつけて投げる。20mならわざわざ助走をつけなくと投げられるが、ここでは威力が重視。あの巨体だからそれなりの力が必要だろう。

 もちろんこれで倒せるとは思ってない。続いて弓矢を構え、カズマたちと共に走る。…おい、先に走ったお前がなんでもう俺に追いつかれている。お前らやる気あんのか!?そんなんじゃあのカエルに飲み込まれるぞ!

 

「チッ! ならここで足止め…あん?」

 

 弓矢を構えて射ろうとするが、異変を感じて急遽下ろす。

 

「・・・え?もう死んでる?」

 

 耳を澄ませて呼吸と血液の流れを確かめる。・・・これは完全にストップしているな。

 

「…終わり?」

 

 …なんというか、デカさの割りに打たれ弱すぎやしないだろうか?しかものカエル、槍が飛んできたのにも気づかず、悲鳴も上げずに逝ってしまっている。初心者御用達の雑魚モンスターというのは伊達ではなかったということか?

 というか、俺にとってはせっかくの冒険者人生スタートなんだから・・・いやかなり張り切ってしまっていたのに、実際にはこんなアッサリと…。これでいいの俺の初戦闘?

 

「さ…さすがチート転生者! 本当に強いじゃない!」

 

 しかし、そん俺の内心など知る由もないのだろう。アクアは無邪気に笑いながら俺に向かって走り、俺の胸元に飛び込むかのように抱き着いてきた。

 

「やるじゃない八幡!正直こんなアンデッド臭い男が本当に強いのかって思ってたけど、あのジャイアントトードを一発で仕留めちゃうなんて・・・やっぱり私の目に狂いは無かったってことね!」

「お、おう…」

 

 …うん、美少女のアクアにこんな風に素直に喜ばれることはイヤなわけではないんだけど、それでも…ね。

なんていうか……強敵を倒したっていう達成感が微塵もねえんだよ。だからここまで褒められると逆に恥ずかしいんだよ。

ラノベで例えるならアレだ。大したことしてないのに褒められたり、主人公が自分の力ではなくご都合展開に助けられて主人公マンセー状態になっているアレだ。

 

「流石ですハチマン!真の力を解放することなく、技術だけであの巨大な怪物を倒すとは・・・。やはり闇の戦士の名は伊達ではないということですか!?」

「ああ、うん。ありがと。…って、なんだその恥ずかしい二つ名は!?今どきの小学生がもっといいあだ名考えるぞ」

 

 この二人には全く悪気はない。むしろ、あの巨大なカエルを一瞬で倒してしまった俺は主人公のようなものだろう。……そんなことは分かってる。

 だが、俺にとっては、おのカエルは強敵でもなんでもない。むしろ手応えが無さ過ぎて拍子抜けするような雑魚だ。それどころか、何か弱い者いじめしてるみたいであまりいい気がしない。

 だから俺は・・・

 

「ああ…うん。じゃあ今度はあいつらを助けようか」

「「か…カズマ~~~!」」

 

 カエルに苦戦するカズマとダクネスを援護することで、話題を変えた。

 



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スーパートード

ただのカエル狩りだとつまらないので少し強敵を用意します。
・・・カズマたちには悪いですが。


「これ使え」

 

 カズマたちをカエルから助け出した後、俺はカズマにサーベルを渡した。

 刺突に適した、ありふれたデザインの武器だ。それなりの業物だが、量産出来る物のためあまり値も張らなかった。よかったらくれてやる。

 

「ん?なんだこれ?くれるのか?」

「ああ。これであのカエルのココを貫け」

 

 俺は仰向けに倒れているカエルの死体の喉元を指す。

ここがあのカエルの弱点だ。俺はこのカエルを矢で倒すことができた。もちろん一撃だ。

 

「け、けど俺にやれるのか?」

「出来る。こんな細い矢でも貫通させることが出来たんだ。その剣で貫けないはずがない。突進して思いっきりぶっ刺せ。たどり着くまで俺が矢で援護する」

「え?でも一撃で倒せたんなら別に俺がやらなくてもよくね?」

「そうなったらお前の存在価値がなくなるぞ。結果、報酬は全て俺のになる。それでもいいのか?」

「やらせていただきます!」

 

 少し脅し…ハッパをかけるとやる気を出してくれたカズマくん。コイツ欲望に正直だな。

 

「じゃあダクネス、お前もそれでいいな」

「いや…私は不器用で当たらないのだが・・・・」

「何ってる?あんなに的がでかいんだから外しようがねえだろ。ほらさっさと行け」

「あん!む…無理やり命令されるのもいいものだな……」

 

 自信がなさそうに言うダクネスの腰を蹴って、無理やり行かせる。なんか途中、妙な言葉が聞こえたが気のせいだ。俺は気にしない。

 

「じゃあ行けお前ら!」

「へい親びん!」

「うむ。では行ってくりゅ!」

 

 俺の合図で二人は目標めがけて走った。

 あのカエル、なんであんなにうるさい二人に気づかないんだ?これなら援護射撃マジでいらねえかも。

 

「…けど、振り向かせなけりゃいかねえしな」

 

 俺は石を投げてこちらに意識を向かせようとした。

 槍どころか加減して射た矢ですら倒れるほど貧弱なカエルだ。ここは手加減しねえとマジで殺しかねない。

 だが、その心配は思い過ごしに終わった。

 

「あん?思った以上に痛がらねえな」

 

 カエルは石が当たっても『何?』といった感じでゆっくりと振り返るだけだった。

 加減したとはいえ血ぐらいは流れると思ったんだが…打撃には耐性があるということか?

 

 続けて石を投げる。今度は少し力を入れて。けどあいつらは痛がる素振りをしなかった。物理耐性でか過ぎだろ。

 

「ジャイアントトードは斬撃に弱い反面、打撃には滅法強いのです。ですから駆け出しなら上級職の打撃を食らってもビクともしません」

「…なるほど。耐打撃に偏りすぎて刃物ではあの有様ということか」

 

 最初はあんな雑魚にどうやったら負けるのかと思ったが、打撃が効かないのか。それなら納得だ。

 駆け出しは装備が満足に揃わない。鉄製の剣や槍なんて手に入らなさそうだし、某RPGでも最初はヒノキの棒だった。そんな状態ではたしかにあのカエルは強敵だろう。

 

 けど、それにしても偏りがありすぎるだろ。刃物ではあんなに簡単に倒れるのに、打撃ではピンピンしてるとか…ポケ○ンの相性か!?

 

「おりゃ!」

「ゲコッ」

 

 そうこう考えてるうちに、カズマの剣がカエルの喉を貫く。その一撃でカエルは息絶え、ゆっくりと横になった。

 

「やったぜ比企谷さん!」

「よくやった。じゃあ次はダクネス…何やってんだ!?」

 

 ダクネスに視線を戻す。本来ならばカズマ同様、カエルを始末している様子を思い浮かべたのだが、なんと彼女はカエルにめちゃくちゃなめられていた。甘く見るという意味ではなく物理的に。

 なんでだ?カズマとは違ってコイツは前衛のスペシャリスト、しかも上級職なんだろ? あんなにいい装備をしているのだから腕も確かなはずだと思ったんだが…。

 

「くう!や…やはり当たらない!」

「なんでだァァァァァ!!!?」

 

 俺は二本の矢を発した。一本はカエルの脳を貫き、もう一本はダクネスの頭にスポンッと張り付いた。

 仕留めた獲物たちが同時に倒れる。一応言っておくが、ダクネスのは矢先がラバーカップみたいになってるおもちゃだから。本気で人間を射抜くわけないからね。

 

「・・・なんで当たらねえんだよ。あんなにでかい的相手に、そんなでかい武器で何で当たらねえんだよ!?」

「わ…私は不器用なんだ。この通り今まで私の攻撃が敵に当たった試しが一度もない」

「嘘つけ!いくらなんでもここまでひどいはずねぇだろ!? まだおもちゃを持った四歳児のほうが上手いわ!」

 

 もう一回矢を向けて怒鳴る。いやだってさ、普通ここまでひどい奴なんていねえだろ。ふざけているとしか思えないだろ。だから俺は正しい。

 

「ほ…本当なんだ!必死で攻撃しているのに攻撃が当たらず、このもどかしい感じがとてつもなく心地良いんだ!」

「・・・ヒドォチョグテルトヴッドバスゾ!」

 

 ・・・まずい。怒りのせいでまたオンドゥル語が出てしまった。

 いや、だけど弁解させて。だってコイツ、すんごい荒い息でこんなふざけたこと言ってるんだよ? 仕事中に、その中でも命の危険がある討伐系の仕事で。

 人の性癖に文句を言う気はないが、ここは命の殺り取りをする場だ。おふざけなど許されるはずがない。

 

「いや比企谷さん、コイツの言ってることはマジなんだ」

「はい、ダクネスの攻撃が当たったことは一度もありません」

「・・・マジか?」

 

 カズマとゆんゆんがダクネスをフォローする。どうやらコイツは信じられないことに、マジで攻撃が当たらないらしい。信じられないことに。大事なことなので二回言いました。

 よくそんなんで今まで生き残れたな。逆に尊敬するわ。

 

「・・・お前、なんで冒険者やってんだ?」

 

 攻撃が当たらないというのはあまりにも致命的だ。ここまで生き残れたことについては称賛するが、そんな幸運が何度も続くはずがない。だからさっさと足を洗うべきなのだが・・・。

 

「決まっているだろ!モンスターに凌辱されるためだ!!」

 

 ・・・この女の頭は俺を洗脳した淫乱悪魔(サキュバス・クイーン)よりも更におかしいようだ。

 

「雑魚中の雑魚であるジャイアントトードに力及ばず、飲み込まれて粘液ヌルヌルになる。・・・ああ、考えただけでも興奮する!」

「・・・ねえ、コイツっていつもこうなの?これがコイツの本性なの?」

 

 作り物臭い仮面をはぎ取り、獣のような本性を見せた変態を指さす。

 やはりコイツ、ドMの変態女だったか。なんか変態の匂いがすると思ったら案の定だ。この世界で何度も変態を見て培った俺の観察眼を舐めるなよ?

 

「ち…違うんです八幡様!これはその…アレがアレでしてこうなったんです!」

「・・・それで誤魔化せると本気で思ってんの?」

 

 全身から脂汗を流していると錯覚させるほど慌てるカズマ。アレとソレとか言われても訳わかんねえよ。俺も似たような言い訳してたけど。他人から見たらこんなにもアレなのか…。治そっか。とか言って早速アレって言っちゃてるけど。

 

「…おおよそ何を考えてるのか当ててやる。どうせ俺の能力目当てで勧誘しようと考えたんだろ」

「へ・・・っへ!!!? な・・・・・・なななななななな!!!・・・なんのことですかな!!!?」

「…全然隠しきれてねえぞ」

 

 まるで直接心臓を鷲掴みされたかのように慌てるカズマ。汗はもう滝のように流れ、目は渦巻のように泳ぎ、口からは魂のようなものが出かけている。

 ・・・おい。いくらなんでもそれは動揺しすぎだろ。見てるこっちが心配になるぞ。やっぱ入ってやろうかな…?

 

「…んなこと最初から気づいてんだよ。もちろんお前のパーティに入るかどうかの答えはノーだ」

「ウェイ!!!?」

 

 これはもう最初から決まっていた。今回一緒に討伐イベントに参加したのは俺が一人でやれるかの確認のようなものだ。

 結果は出た。これからも一人でやれる。大半の敵は変身せずとも戦えるし、まずくなったら変身すればいい。よって何も問題ない。

 

「な…何でレスか!?美少女ハーレムっすよ!?男の夢じゃないレスか!」

「ふざけんな。あのアホは俺にしょうもない理由で欠陥品を押し付けた前科あるし、あの変態は攻撃当たらねえし、あの中二は爆裂魔法しか使えねえじゃねえか。ほら冒険者カード」

「・・・な!?いつの間に!?」

「移動中に」

 

 カードを盗む隙はいくらでもあった。密着しているおかげでな。

 しっかし爆裂魔法ねえ…。一度紅魔の里で見たが、あれは完全にネタだ。馬鹿みたいに火力が強いから仲間ごとぶっ飛ばすし、地形が変わるせいで何度も使えない。・・・こんな欠陥魔術しか覚えないなんて、絶対コイツもあの二人同様にやばい奴だ。

 

「とうわけで俺はここでさよならだ。報酬とその剣はやるわ。じゃあな」

「ちょっと待ってくらさいよ! そりゃないれしょ!?」

 

 バイクに乗って帰ろうとすると、カズマがバイクにへばりついてウソ泣きをしだした。

 お前必死だな。まあ、たしかにお前のパーティからは残念のにおいがプンプンする。余計なことしそうなアホに攻撃の当たらない変態に爆裂魔法という馬鹿火力しか取柄のないネタ魔法しか使えない中二。

 なんかさっきからオンドゥルってない?

 

「ジャーロレドースンデス? せっかくパーティしんせーシタノニ! イヴァサラ!?」

「知らねえよ。それはそっちの事情だろ。てかいつまでひっついてんだ。轢くぞ」

 

 なんかこのやり取りどっかで見たことあんな…。どこだっけ。

 

「あ~たすけてゆうしゃさま~」

「(…今度は何だ?)」

 

 アクアの悲鳴が聞こえたので振り返る。見るとアクアがカエルに踏まれているではありませんか。

 

「たすけて~。このままではアクアがカエルにころされる~」

「うわ。このカエルつよすぎます~。ここはつよくてかっこいいやみのせんしでしかたおせませ~ん」

 

 …泣き落としの次はくだらない小芝居か? 全く、無駄なことを。そんなことしても俺は助けないぞ。カズマに助けてもらえ。

 

 

 ・・・いや、待てよ。あのカエル、なんかおかしくね?

 

 

「(あいつ、1.5倍ほどほかのカエルよりでかいな。それにあの角みたいな突起とほかのカエルより毒々しい色合い。・・・まさか!)」

 

 俺は嫌な予感がしたので咄嗟に矢を放つ。念のためもう2本矢を撃った。

 俺の思い過ごしならこの矢があのカエルを貫いて終わるだろう。だが、予感が的中しているならこれだけでは終わらない。次の攻撃が必要だ。

 

「ちょっと返してもらうぞ」

「え?なに?」

 

 カズマから一旦サーベルを返してもらい、切りかかる。

 全力の突進。あのカエルと同類なら、このカエルがほかのジャイアントトードより優れていても真っ二つに出来る威力だ。

 そのはずなのだが・・・。

 

 

「げっこ~?」

「なッ!?」

 

 剣は刺さることなく、油のような粘液で滑ってしまった。

 いや、ただ滑るだけではない。見た目は柔らかそうだが、このカエルかなり固いぞ!

 

「クソ!」

 

 二度、三度と斬撃を繰り返す。

 しかしビクともしない。剣先はヌルヌルと滑り、攻撃する度に奴の皮膚は固くなってきた。

 おそらくダイラタンシー現象だ。コイツの皮膚は圧力をかけると固くなる仕組みになっている。強い圧をかければかけるほど、強い攻撃をすればするほどコイツは防御力が上がる。

 

「も…もしやそのカエルはスーパートードではありませんか!」

「え?なにそれ?」

「十年に一度の確率で現れるジャイアントトードの変異種です!その戦闘力は通常種の10倍だそうです!」

「なんだよそのスーパーサ○ヤ人みたいな設定!?」

 

 なんでそんな希少種がこのタイミングで現れるわけ? そういうのいいから。どうせまた100年に一度とかいいながらポンポン出るんでしょ?

 

「え?なんか強敵っぽいの?まさか・・・私ピンチ!?」

 

 カエルの足元から少し慌てた様子の声が聞こえた。やれやれ、ここでやっとアホは今の自分の立場が理解できたようだ。

 けど大丈夫だ。安心しろ。お前は別にピンチではない。

 攻撃する度に固くなるなら、今度は一撃で仕留める。俺は一旦下がり、刺突の構えに入った。

 だが、このカエルはジャイアントトードみたいにゆっくりさせてくれなかった。

 

「ゲコォ!」

 

 カエルがすさまじいスピードで舌を伸ばして攻撃してきた。

 転生前の世界でもカエルの舌のスピードは凄まじい。瞬きほどの僅かな時間で敵を捕らえ捕食する有様はまさしくハンターだ。

 けど、相手が悪かったな。

 

 俺は剣を振って舌先を弾いた。

 一度だけではない。二度三度と、俺は剣を振ってカエルの舌攻撃を防いだ。

 スピードは大したものだがタイミングと方向さえ分かれば問題はない。目視はできないがついていける。

 

「げ…ゲコ・・・・」

 

 カエルは自分の攻撃が通じないことに焦り、一歩下がる。

 その隙を見逃すほど俺は間抜けじゃない。俺は踏み込んでカエルの腹に刺突した。

 

「げっこ!」

 

 だが、カエルは俺の剣先をジャンプして避けた。足をバネのように伸ばし、何十メートルも後ろへ跳ぶ。

 そりゃあカエルだもんな。そんぐらい跳ぶわ。

 けど、逃げるということはさっきの刺突に危険を察知したということ。つまり有効だと認めたことになる。ならこのまま押し切れば勝てる!

 

「一応聞いておくが大丈夫か?」

「あ…ありがとうハチマン様~。お礼にターンアンデッドしてあげる」

「効かねえから」

 

 踏みつぶされていたアクアは声こそ絞んていたが、かなり元気だった。

 

「じゃ、さっさと始末して・・・!!?」

 

 俺は咄嗟に後ろに跳ぶ。

 何故こうしたのかは分からない。しかし俺の勘は言っている。ここは危険だ。逃げろと。

 その時だった。地面が盛り上がって何かが這い上がったのは。

 

「グルゥァァァアアアアアアッ!!!!」

 

 なんと、そこに居たのは、巨大な体躯を持つ目のない蛇だった。

 

 しかし、驚くのはまだ早い。なぜなら、空からも大きな影が現れたのだから。

 

 

「コッケェェェ得ええええ!」

「こ…今度はぁぁあああ!!!??」

 

 空から落ちてきた影の正体お、巨大鳥の足を咄嗟によけながら俺は叫ぶ。

 なんなの今日は!?スーパーカエルが出たと思ったら次は大蛇で、その次は鳥か?一体なんつー厄日だ!

 

「あ…あれはランドサーペイントにロック鳥!なんでこんな辺境の地に!?」

 

 あの鳥と蛇の正体を知っているであろうめぐみんが叫ぶ。

 

「なんだお前!?あれ知ってるのか!?」

「はい!図書館で一度読んだことがあります。ランドサーペイントもロック鳥も上級の危険なモンスターです!ベテランでも準備なしでは勝てないほどの!」

「なんでそんな危険な化け物がここにいるんだ!?聞いてねえぞ!」

「私もですよ!」

「…そうだな。お前に当たっても仕方ねえ。…おいダクネスにカズマ……カズマ?ダクネス?」

 

 振り返って後ろにいるであろうカズマたちに注意を呼びかけようとするも、そこには誰もいない。

 ・・・いや、その前にカズマとダクネスってこの場にいたっけ?

 

 

 

 

 

「た~す~け~て~!!!」

「いい…いいぞ!このまま私はモンスターの寝床に連れていかれて性欲の塊のようなモンスターたちの苗床に・・・・・・最高の展開だ!」

 

 

 

 

 

「か…カズマーーー!ダクネース!」

 

 どうやら、すでに手遅れだったようです。




・スーパートード
ジャイアントトードの変異種。通常のジャイアントトードの数十倍もの能力差があり、中にはエンシェントドラゴンにも匹敵する個体が存在する。ただし数は少ないため遭遇することは稀。
十年に一度のペースで生まれ、確認された場合は王都から討伐隊が出る。


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初めてのバトル

「・・・まずいな」

 

 最悪の状況だ。

 デカイ蛇はダクネスを咥え、デカイ鳥はカズマを足で捕らえている。・・・もう一度言う。最悪だ。

 

「ど…どうするんですかハチマン!? ダクネスだけでなくカズマも拐われちゃいましたよ! ダクネスなら頑丈だからまだ大丈夫だけど、ひ弱なカズマは……うわああぁぁぁ!!」

「まずは落ち着けめぐみん。兎に角今はこれ以上被害が出ないようにするんだ!」

 

 めぐみんを落ち着かせ、残されためぐみんとアクアの安全を確保させる。

 ただでさえ二人も人質がいる状態なのだ。これ以上状況を不利にしたくない。

 ・・・あれ?アクアはどこ行った?あの蛇が出てきてから見かけてないんだが…。

 

「げこっ」

「た…たじけて~!!」

「「…す、既に拐われてる~~~!」」

 

 最悪だよ!また被害が出ちまったよ。また人質取られたよ!

 なんだよカエルちゃっかりしてるんだよ! 俺らが蛇と鳥に集中してる間にアクアを拐うとか・・・カエルの癖に知能高すぎだろ!

 

「ゲコッ!」

「シャァ!」

「ケェ!」

 

 三匹の動物は揃って動き出す。カエルはその脚力で蛇と鳥から逃げるように跳び、蛇は滑るかのように蠢いてカエルを追いかけ、鳥はその翼を羽ばたかせてカエルと蛇を追いかけた。

 そのスピードはまるでレースカーのようだ。三匹は並んで生存を賭けたチェイスを行う。

 ・・・って、感心してる場合じゃねえ!

 

「糞が!」

 

 俺は三匹を追いかけようとバイクに跨る。クラッチを踏んでアクセルを捻り、バイクを走らせる準備をした。

 

「(…やっぱ、ここで変身するしかねえか)」

 

 出来ればまだ使いたくなかったが仕方ない。せめて幹部や中ボスに当たるまでは生身で挑戦したかたったんだが仕方ない。

 

「ま…まってください!今行っても勝ち目はないです!ここはいったん撤退してギルドに救助の要請をするべきです」!」

「そんなモタモタ出来るか! あの三人が食われるぞ!」

「じゃあこのまま無駄死にするというのですか!?」

 

 めぐみんはものすごい剣幕で怒鳴った。

 

「希少種のジャイアントトードだけでも滅多にない危険だというのに、ランドサーペイントにロック鳥と戦うなんて無理です!ベテランの冒険者や王宮の騎士でも無理です!!」

「・・・」

 

 めぐみんの言うことは最もだろう。

今の状況を分かりやすく言うなら、スーパーサイヤ人に加えてフリーザ様やセルが同時に襲ってきたようなものだ。駆け出しの冒険者なら瞬殺、ベテランでも嬲り殺しにされる可能性が高い。

 おそらく以前の俺もそうしていただろう。力がないから、どうせ無駄だから。色々と理由をつけてやらなった。

 

 けど今は違う。

 

「・・・俺にはある。戦う力が!」

 

 今の俺は違う。戦う理由も、戦う意思も、そして戦う覚悟もある。

 

 懐から一枚のカードを取り出す。すると、俺の意思に呼応して腰にベルトが現れた。

 

 

 

「変身!」

 

 それは俺にとって魔法の言葉。力を呼び覚まし、戦う自分へと変わるためのスイッチ。

 俺はその言葉を唱えてカードをベルトのくぼみにスラッシュした。

 

《チェンジ》

 

 黒い波動が俺を包み込んで鎧を形成。胸元と手足には銀色の鎧が、身体は金色のラインが描かれたボディースーツが包み込んだ。

 

「仮面ライダー・・・カリス」

 

 俺は仮面ライダーに変身した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

 変身した八幡、仮面ライダーカリスは専用のバイク、シャドーチェイスに乗って三体のモンスターを追いかけた。

 人間状態ではついていけなかった速度でも、アンデッドと融合することによって底上げされた反応速度でついていける。今の彼にはあのモンスターたちに追いつけない道理などない。

 

「す…すごいです!それが変身ですか!?」

『…なんでわざわざついてきた』

 

 いつの間にかカリスの後ろにひっついているめぐみんにエコーのかかった声で文句を言う。

 このままカエルに食われても目覚めが悪いので連れて行ったのだが、うざそうなので若干八幡は後悔していた。

 

「どういった仕組みなんですか!?カズマの話だと古の邪悪なアンデッドの力から形成された闇の力と聞いたのですが本当なんですね!あとあと…」

『悪いが今は急いでいる。後にしてくれ』

 

 無理やり話を中断して敵に目を向ける。

 シャドーチェイサーの加速力によってモンスターとの距離は格段に縮んでいる。今なら攻撃の範囲内と確信したカリスは専用の武器、カリスラウザーを召喚した。

 バックルの横についているデッキからカードを取り出す。

 

「待ってください!あの三匹は特別強いモンスターです。並大抵の攻撃では足止めにもならない。ここは私の爆裂魔法で足を止めます」

『そうか。なら任せた。時間がないから早くしてくれ』

「ええ! 黒より黒く、闇より暗き古の力よ‥」

『時間がないといっているだろ!』

「これがないと気分的に打てないんですよ!」

 

 呪文が長くなりそうなので急かすも、めぐみんはあれこれと理由をつけて続けた。。

 

「(そういえば見事に食物連鎖が成立してるな。……もしかして俺の後ろにも天敵いんじゃねえの!?)」

 

 アクアを咥えている蛙を先頭に蛇、鳥、そしてカリスと。見事に食物連鎖が成立している。

 もしかして自分の後ろにも天敵がと思い、めぐみんが長い呪文を唱えている間に後ろを見てみる。しかしそこには何もいない。

 彼は安心した。もし後ろに彼の天敵である吸血姫や英雄姫とかいたらどうしようかとビクビクしていたが、その心配はないらしい。

 

「(そろそろ呪文が完成する頃か…)」

 

 クソ長い呪文もそろそろ終盤に入りそうな頃合。カリスはタイミングを見てバイクにブレーキをかける。

 

「エクスプロージョン!」

 

 

 

 瞬間、空が爆発した。

 

 

 

 空がまるで燃えていると錯覚する程の巨大な業火。空が地震を起こしていると勘違いしそうな爆音と大気の揺れ。

 めぐみんの発射した魔法が空を染め上げる景色を八幡は仮面の中でポカンとした表情で眺めていた。

 

「ック!」

《ロック》

 

 襲ってくる衝撃波をアンデッドの力で岩の障壁を作って防ぐ。

無論カリスの鎧でも耐えられるが今はめぐみんがいる。彼女に傷をつけないようにするため、わざわざ彼は防壁を創った。

 

「フッ!どうですか我が究極の爆裂魔法の威力はッ!」

 

 カリスの後ろにいるめぐみんは実に得意気な表情で言う。

 実際に凄まじい魔法であった。さすがのカリスも少し驚いたした様子でめぐみんに話す。

 

『あ…あぁ。凄まじい威力だ。だがあんなのをくらったら中のアクアたちも木っ端微塵じゃないのか?』

「残念ながら全員危機を察知して回避されました。しかもピンピンしてます」

 

 ランドサーペイントに目を向けると、彼らはたしかに多少のダメージはあるがピンピンしていた。

 ・・・ちなみに、その口にくわえられたアクアたちはピクリとも動いてない。

 なんというか、あの女神様はカエルに攫われるわ、その上走って振り回されるわ、挙句の果てには至近距離で爆裂魔法に巻き込まれるわ…。

 ・・・結局、カエルは倒すことは出来なかったが、クエストの報酬くらいは分けてやってもいいかもしれない。そんなあまりにも運の悪いアクアたちを見て、そんなことを思うカリスだった。もちろんカズマにも分けてやろう。

 

「いい・・・。いいぞ!まさか至近距離で爆裂魔法もくれるサービスがあるなんて!」

 

 ・・・そこにいるドM以外は分けてやるか。

 

 とまあ、現在スーパートードとランドサーペイント、そしてロック鳥はカリスたちに敵意の目を向けている。

 

「・・・どうやら、彼のモノは我が力を見ても尚、愚かにも牙を向けてくるつもりらしいですね!その無知故の蛮勇!後悔させてやりましょう!!

 と、ととと‥ということで・・・せ、先生!よ、ヨロシクオネガイシマスッ!」

『…なにチンピラみたいなこと言ってんだ』

 

 迫力満点のモンスターたちにビビったのか、一時はかっこいいセリフを吐きながらも、ガクブルと震えてカリスに助けを求めてきた。

 

『まあいい。足止めはやってくれたのだからな』

《シャッフル》

 

 次のカードをスラッシュする。瞬間、カリスの握っていた小石とモンスターたちの持ち物、つまりカズマたちがトレードされた。

 

「あ…もうサービスタイムは終わりか」

 

 カズマとアクアは気絶しているというのに、少しショボンとした表情でダクネスは言った。

 その様子を見てカリスは助けたことを若干後悔するも仕方ない。助けてしまったのだから。

 

『おいダクネス、お前はカズマたちとめぐみんを任せたぞ』

「こ…声色は違うがお前はハチマンなのか!?」

『では任せたぞ!』

 

 役立たずを押し付けてカリスは敵へとその刃を向け、駆け寄る。

 

「シャア!」

 

 まずはランドサーペイントからの攻撃。蛇は口から岩石を砲弾のように吐き出した。

 カリスはボクシングのフットワークの要領で岩の弾丸を避け、隙を見てカリスラウザーから光の矢を射出。見事全て命中させた。

 

「シャアアア!!?」

 

 痛みの咆哮をあげるランドサーペイント。カリスはその隙に敵の懐に潜り込み、カリスラウザーをふり下ろそうとする。

 その瞬間だった。弾丸のようにスーパートードが弾丸のようにランドサーペイントの影から突撃したのは。

 スピード、タイミング、そしてパワー。全てが彼のベストを行った一撃。この前ではたとえドラゴンだろうが一撃で屠れる。だが・・・

 

『はあ!』

「ゲッコォォォォ!!?」

 

 死角からの奇襲だというのにカリスは見事対処。己の得物で敵の体を切り裂いた。

 馬鹿な、何故俺の渾身の一撃がこんな小さい生物に防がれた。ドラゴンをもノックアウトしたこの一撃が、何故こんなチビごときに!

 見抜かれた挙句カウンターを食らったショックで止まるスーパートード。そんな隙を見逃すほどカリスは間抜けではなく、再びその刃を向けた。

 

 しかし、邪魔が入った。

 

『チッ!』

「ケェ!?」

 

 カリスがスーパートードに斬りかかるタイミングを見計らい、ロック鳥がその爪で奇襲する。

 スーパートード同様、いやそれ以上の一撃。しかしカリスはその攻撃を読んで回避。体を無理やり後ろに倒して爪から逃れた。

 

『らぁ!』

「ケケェェェ!!?」

 

 それだけではない。なんと彼はオーバーヘッドキックの要領でロック鳥の胸に蹴りを叩き込んだ!

 ロック鳥の突進力とカリスの脚力が同時にロック鳥の胸に集中。その威力に肺から全ての空気が吐き出され、飛行のコントロールを失い地面に激突した。

 

『どうした畜生共。このままでは俺が全部食っちまうぞ?』

「「「・・・」」」

 

 再び武器を構え直すカリス。悠々と、余裕に。

 その様子を見て三匹は同時に思った。この敵は強敵だ。全員で協力しなければ絶対に倒せない。

 食う食われるの関係ではあるが、今は忘れて協力しなければ。一時的とはいえ協力体制をとり、カリスを取り囲む。

 ランドサーペイントとスーパートードがカリスの左右を、ロック鳥が真上を取り囲む。

 

『・・・』

 

 カリスラウザーを構え直し、敵の動きを観察。全員カリスの視界外に逃げようと、そして気配遮断のスキルで不意打ちの準備をする。

 ほんの隙を晒した瞬間が戦闘の合図となる。ここは戦場。食うか食われるかの世界。一瞬の油断が命取りだ。

 両サイドがにらみ合って数秒後・・・

 

 

 

 

 

「八幡さま助けてください!また食われそうになってます!」

『なにやってんだァァァァァ!!!?』

 

 バカ共がまたバカをやらかした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クソ! こいつらを倒してから・・・って。逃げんな!』

 

 早く片づけて戻ろうと敵に目を向けるが、そこには何もなかった。

 スーパートードは水の中に潜って、ランドサーペイントは地面を潜って、ロック鳥は飛んで逃げてしまった。

 そりゃあもういい逃げっぷりだった。敵が見せた隙を攻撃ではなく、逃げの一手に賭けたその逃亡は、生物としても軍師としても一流だったといえる。

 せっかく盛り上がったのに今更逃げるとか興ざめ? 最後まで戦え?・・・知るかそんなの。勝てるかどうかわからない博打に付き合う義理などない。

 折角生存のチャンスが巡ってきたのだ。ここで戦う選択するなど愚か。生き抜いた個体こそ勝者なのだ。文句あっか人間ども。

 

 

『クソッ!今はこいつらだ!』

 

 一瞬追うかどうか迷ったが、カズマたちの救助を優先してあきらめた。

 逃げるのならば無理して戦う意味などない。その上カズマたちがピンチなのだ。助けない道理はない。・・・たぶん。

 

『そいつらを返せカエル共!』

 

 カリス初の獲物、ただのジャイアントトード3匹。




やっぱ正しいバトルなんてこのすばには不要だよね!


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パーティ誕生(強制イベント)

 

「ぐすっ…ぐすっ…生臭いよ~! 折角チート野郎がいるのになんでまたヌルヌルなの~~~!? 途中から記憶もないし・・・私に一体何があったのよ!!?」

「さ…最悪です!まさかあそこでまたカエルに飲み込まれるなんて……もう二度とカエルにはいきません!」

「な…なんで俺もズルズルなんだよ!?」

「はぁ…はぁ。か…カエルプレイもなかなかいいものだな!」

「(や・・・やっとついた・・・・・・)」

 

 アクセル街の路面。八幡はヌルヌルになっためぐみんとアクアを 抱えながら帰って行った。

 彼にとって、この一日は最悪の日だった。妙な接待を受け、いきなり強敵と鉢合せするわ、最後はこのヌルヌルを背負って持って帰ることになるわ…。本当に最悪の日だ。

 

「うわ!?どうしたんだ!?」

「ヤダ!?あの人達なんであんなにヌルヌルなの!?」

「あんな小さな・・・小さな女の子?も交えて・・・!一体どんなプレイをしたっていうの!?」

 

 さらにこの影口。街の人々は思いっきり聞こえるヒソヒソ声で喋っている。

 彼女たちを助けたのは八幡である。なのになんだこの言われようは。

 特に、今日一日中、カエル狩りに、3匹の上級モンスターとの闘いという超絶ハードスケジュールをこなし、ヌルヌル女子二人を背負ってで帰って来た彼は、もはやこうして立っているだけでもゴリゴリと体力を削っていく苦行に他ならなかった。

 

 とにかく早く休みたい。さっさと風呂に入ってヌルヌルを落とし、洗濯して綺麗な寝間着を着てベッドにダイブしたい。それだけが八幡の頭の中にあった。

 

「そ…それで今日は・・・どうでした?」

「決まってんだろ。最悪の日だ」

「・・・・・・ですよね~」

 

 八幡の返答に対して微妙な顔をする。

 当然といえば当然。ここまで最悪な目にあって誰が『最高の日だ!こんなにいい思いをしたのはお前たちのおかげだ!今日からよろしく!』と言えるだろうか。

 

「(ま…まずい!このままでは八幡先輩が離れてしまう!)

 

 カズマは焦っている。このままでは八幡が逃げてしまう。それだけはなんとしても避けねばならない。

 彼にはこの欠陥だらけのハーレムを押しつけ・・・支えてもらわなくてはならないのだ。彼こそ主人公にふさわしい。俺など友人ポジションで十分だ。だからこいつらをマジで頼む!

 

「と…というわけで今日からお願いしますハチマン先生!」

 

 ゆえに、カズマは八幡が自分たちのチームであると宣言するような発言をした。

 

「・・・は?」

 

 無論、八幡はカズマのチームに入る気などないので一瞬わけの分からないような顔をする。

 

「よろしくお願いしますハチマン!今日からは仲間ですね!!」

「そ…そうよハチマン様!今日みたいに敵を倒してかっこいいとこを見せて!!」

「そうだ!今日から私たちはお前の支配下に下ったのだ!!」

 

 カズマの意図を察したのか、それとも単純に八幡を歓迎してくれてるのか。アクアたちまで八幡が仲間に入ったようなことを言い出した。

 これで八幡はカズマのチームであるとギルドの冒険者や関係者に印象付けられた。翌日には噂になって町中に広がっているだろう。

 

「・・・あれ?もしかして確定事項?」

 

 八幡はここで気づいた。もうカズマから逃げられないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、比企谷先輩は今まで何やってたんですか?」

 

 風呂からあがって飯を食ってると、カズマがいいなりそんなことを聞いてきた。

 

「別に。解放されたアンデッドの封印をしていただけだ」

「ふ~ん。・・・本当にそれだけ?」

 

 そういいながら奴は一枚の紙を取り出し、俺はカズマの渡した紙、手配書を破り捨てる。

 なんでここがここにあるんだ!?この事件は遠い国の話だぞ!?

 

「お…おい。お前それをどこで手に入れた?」

「・・・俺がひいきにしてる店で手に入ったんだ。それで、この手配書に書かれている内容、明らかあんただろ」

「・・・・・・チッ!」

 

 もう言い逃れができないので俺は素直に吐くことにした。

 まったく、今日は本当に最悪の日だ。せっかっくここまで逃げたのに、なんで初日でバレるんだよ!?ここなら絶対にバレないて思ってたのに…。

 

「で、なにがあったんだ?あんためっちゃいい人そうだから事件なんて起こしそうにないんだけど」

「・・・アンデッドとの戦いに慣れて実力もついた頃、アンデッドを使って利益を得ようとした馬鹿が現れやがった!それがその国で俺を探してる我侭姫だ」

 

 俺は怒りを噛み殺しながら事情を話した。

 

「幸い計画は実行する前に俺が防いだ。その時に惚れたとかなんとか抜かして求婚された」

「ヴェ!? お姫様に求婚されて断ったの!?なんで!?」

「見た目は理想の女体だが中身は吐き気を催す邪悪そのものだった。あんな毒蛾の夫になったらいつ食われるか気が気でならない。だから逃げた」

 

 他にもアンデッドや俺の力を利用しようとした者はいる。女悪魔に吸血姫に悪の魔法少女に・・・なんで美少女ばっか俺の敵に回るんだよ!?

 人が必至こいてアンデッドを封印しているのに、どいつもこいつも横から首突っ込んで邪魔しやがって。たしかにラウズカードを持ち込んだのは俺だが、その責任とって戦ってるんだぞ!

 ・・・まあ、使えそうな弱者を利用しようとする考えはどこでも一緒なのだろう。原作ブレイドでもアンデッド解放には人間の思惑が絡んでいたし。……本当にそういうものなのだろう。腹が立つことに。

 

「というわけで俺はいろんな陣営が俺を血眼で探している。切るんなら今のうちだぞ」

「な…なるほど。正義のヒーローが大変なのはわかりました」

 

 正義のヒーロー?俺が?・・違うぞ。俺は責任を果たしただけだ。

 あ、後特典でfa○eのサーヴァントのおっぱいキャラ召喚するために聖杯選んで、英霊たちに殺されたバカいたな。

 あの後俺がすべてのサーヴァントと戦って封印したんだが・・・関係ないし黙っておくか。

 

「けど、別に俺は気にしないぜ」

 

 ・・・は?

 

「だってあんた今まで勝ったんだろ?ならこれからも勝ち続けるさ」

「・・・そこでお前と一緒に戦ってやるって言えないのか」

「俺がそんなこと言える人間に見えるか?」

 

 見えないな。

 

「とにかくこれからもよろしく頼むぜ、先輩!」

「・・・ああ」

 

 手を出して言うカズマ。俺は自分でも驚くほど素直に握手した。

 

「(こいつ、組まないとバラすって脅しているんだろうな・・・)」

 

 だって、ここで握手しないと俺の居場所なくなるもん。




八幡は延伸しなくても戦える上にラウズカードも全て持ってます。けどそれじゃあこのすばにした意味がいないんで無理やりカズマたちのパーティにしました。
これから八幡には苦労してもらいます。


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フォレストライガー

今回はオリジナル回です。
このまま本編通りでいくとカリスが活躍できないのと、カズマたちの活躍を全部取ってしまう可能性があるので彼らの見せ場を作りたいと思い、急きょ考えました。


「仕事・・・ですか?俺を指名して?」

「ええそうです。お願いできませんか?」

 

 ギルド受付嬢のルナさんは前屈みになってそういってきた。

 前かがみになった結果、二つのおもちが強調されて・・・マテ、鎮まれ化け物の性欲よ。

 俺はお前を克服し、女悪魔の洗脳という縛から解放されたのだ。もう二度と性欲に溺れて暴走してたまるか。

 

「…ごほん。…ヒキガヤさん、ダメですよ、女性の胸を見ちゃ」

「す・・・すんません!」 

 

 咄嗟に頭を下げて謝る。

 ヤバい、やはり胸に視線にいっていたことがやっぱりバレちまったよ。ただでさえ腐った眼なのに、さらに性欲に塗れているなんてシャレにならねえよ。性犯罪者だと思われても文句言えねえよ。

 どうやってこのピンチを乗り切ろうか。やはり親父に倣って頭下げまくって示談に持ち込むべきか?

 

「まったく…。女性は視線に敏感何ですから、今後あまり見すぎないこと。いいですね?」

「は、はい!気をつけます。」

 

 ルナさんは怒っていたように見えたが、イタズラっぽく微笑んでいた。

 よ…よかった!許してもらえた! これで少ない金を示談金に使わずに済む!

 それにしても、なんて優しいい人なのだ。俺が大人だったら指輪持って告白するわ。そして盛大に振られるわ。この人なら振られても問題ないわ!

 

「それでは、話を戻させてもらいます。今回八幡さんに戦ってもらう敵の名前はフォレストライガー。密林の狩人と呼ばれる上級モンスターです」

「・・・フォレストライガー?」

「ええ。本来ならもっと上級者向けの場所に現れるらしいのですが、なぜが最近この近くの森に出るらしいのです」

「ではなぜ俺を指名したのです?俺はまだ初心者ですよ」

 

 そう、普通ならばありえない。俺は昨日冒険者になったばかりだ。まだ冒険者の右も左もわからない状態で仕事をしても失敗するのは目に見えている。やるとしてもせいぜい勉強のための仕事である。

 なのに何故?

 

「実は…このクエストは王都から派遣される上級冒険者が受ける予定だったのですが、ヒキガヤさんと戦闘した例のモンスターとの戦闘に急きょ変更したのです」

「・・・ああ、そういうこと」

「申し訳ございません。その冒険者はかなりの戦い好きらしいですので、是非その三体のモンスターと戦いたいと。それとギルドも例のモンスター討伐を優先する方針をとったので。・・・スーパートードだけでもこの町の冒険者にとってはすべての仕事を放棄して町に籠るのに十分です」

 

 なるほど。つまりあのモンスターを逃がした責任を取れということか。

 いつもならばまだ入ったばかりの俺に何デカい仕事押し付けてんだと怒鳴りたくなるが、あの三匹が逃げたのは俺がよそ見したせいでもある。責任の一端は俺にもあるのだ。

 いいだろう。その依頼引き受けよう。正直消化不良だったし。

 

「わかった。そのクエストは俺が受ける」

「あ…ありがとうございます!」

 

 ルナさんは満面の笑顔で俺の手をつかんだ。

 ちょっと、そういうのマジやめて。勘違いしちゃうから。衝動に流されて告っちゃうから。そして玉砕しちゃうから!

 

「あと、フォレストライガーは密林の狩人と呼ばれますが、スーパートードよりは弱いので安心してください!スーパートードとランドサーペイントとロック鳥を同時に退けたヒキガヤさんなら問題なく戦えるはずです!!」

 

 わかったわかった!だからその手を離して! 見えちゃうから。その胸元が協調されている服から谷間に目が行っちゃうから!

 

「報酬はご安心ください!今回は危険な任務ですので危険手当はもちろん、指名制ですので更に上がります!・・・昨日入ったばかりだというのに、こんな危険な仕事を引き受けてくださり本当にありがとうございます!!」

 

 本当に離してくれない?じゃないと俺の野獣がお山に飛び込むよ?侵略しちゃうよ?悪魔やら魔法少女やらヴァンパイアに洗脳されて野獣化した俺は人目も気にせず襲い掛かるよ?

 

「わかりましたから離してください!」

 

 ルナさんの手を振り払って離れ、急いでギルドから出た。

 

「ちょっと待ってください!どこの森とかモンスターの情報聞かなくてもいいのですか!?」

 

 ・・・なかなかうまく決まらないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ、ウサギ捌けたぞ。じゃ、あとは頼んだ」

「任せてください。俺こういうのは得意なんで」

 

 その日の昼頃、俺たちは平原でバーベキューをしていた。

 食料の調達及び捌くのは俺が担当。適当に仕掛けておいた罠に引っ掛かった肉食ウサギを捌いてカズマに渡す。

 

 言っておくが俺は別にサボっているわけではない。俺たちが今いるのはフォレストライガーがいる前の森。今回の敵は鼻がいいためこうして離れた場所で飯を食っているのだ。やはり戦う前の腹ごしらえは必要だ。

 だからここで飯を食うのはいいんだが・・・

 

「・・・なんでお前らも付いてくんの?」

「いいじゃないッスか。俺たち仲間じゃん」

 

 ・・・何故かこいつらまでいるのだ。

 

「ライガーの毛皮って高く売れるらしいわね!そのお金でお酒飲み放題よ!」

「ケダモノに凌辱されるのも悪くない!皆を庇って私は死体に体を汚され…あん!」

「パーティメンバーの仕事は私たちの仕事です・・・一人邪な考えをしてますが」

 

 あ、やっぱ俺ってパーティに入ってることになってるんだ。心のどこかで期待してたけど、そんな都合のいいことは起きなかったらしい。仕事しろ主人公補正。・・・俺主人公じゃないけど。

 

「それで、本音は?」

「あんただけこんな高額の報酬受けるとか羨ましい!分け前くれ!」

 

 なるほど。清々しいほど欲望塗れの返答だ。

 

「…わかったわかった。けど仕事に応じて分け前には色つけろ。それを守れるならいい」

「「「ありがとございます!」」」

 

 三人は俺に頭を下げる。そこまで卑屈にならなくてもいいぞ。ていうか卑屈は俺のアンデンティティーだからとらないで。

 

 

「…まあいい。今は飯だ」

「やったー!認めてくれるんですね!後でなしとかはなしですよ!」

「分かったから。だから退け。今火使ってんだ」

 

 カズマをどかしながら、捌いたウサギを燻製にして臭みを消す。

 今繊細なとこだから邪魔されると失敗する。だから放っておいてくれ。

 

「お、うまそうじゃん」

「ハチマンってサバイバル技術があるのですか。…すごいです」

「これぐらい一か月ぐらい山に籠ってりゃ誰でもできる」

「いや、出来ねえよ!」

 

 出来るよ。葉○隼○とか普通に山賊飯作ってたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飯を食い終えた俺たちは数分ほど休憩、十分消化した後に森へ入った。

 無数の木が生い茂る森はフォレストライガーの陣地。どこに潜んでいるか分かったものではない。全ての木が奴にとっての足場であり、身を隠す壁なのだ。全方向あらゆる場所から襲い掛かる可能性がある。

 

 いつ敵が襲ってもおかしくない。だから常に警戒を怠らず、慎重に進むべきなのだが・・・

 

「ぷはー!食った食った」

「いつも食べてる干し肉より断然うまいですね。また作ってくれます?」

「ねえ今度お酒のおつまみの燻製作ってよ!」

『・・・わかったから黙ってろ』

 

 このバカ共は完全に油断しきっている。これでは俺が少し目を離した瞬間にパクッとやられても文句は言えんぞ。

 

「まあそんな緊張しなくてもいいじゃん。ここには八幡先輩がいるんだし」

「そうですよ。スーパートード、ランドサーペイント、ロック鳥の上級モンスターを同時に相手取った暗黒騎士ならばたかが狩人の一匹や二匹、そこらの雑魚と同じであろう?何を恐れるか?」

『・・・』

 

 ずいぶん簡単に言ってくれるなコイツら。

 たしかに俺はそのフォレストライガーとやらに負ける気は微塵もない。たとえどこに潜んでいようが、俺に襲ってきた瞬間にカリスラウザーで撃ち落とす自信がある。

 しかしそれは一人の時だ。俺は自分に襲い掛かる敵意には敏感だが、それ以外には鈍いのだ。

 もしこいつらに襲い掛かってきたら、俺は守れる自信がない。だからじっとしててくれ。

 

「しっかし立派な木だな。まるでト○ロだ」

『そうだな。出てくるのは森の妖精じゃなくてモンスターだが』

 

 この世界にはトトロなんて可愛いモンスターなどいやしない。てかいたら版権的にまずいだろ。

 あと、なんかアクアを除く現地の住民が聞きたそうな顔してるが今は無視だ。

 

「いっそのとこダクネスのデコイでフォレストライガーをおびき寄せてはどうですか? データでは群れないんですよね? なら俺たちを守りつつ戦えますよね?」

『…なるほど。その手があったか』

 

 カズマの作戦なら最初から敵が誰に襲ってくるのか分かるから対処は楽だ。その上、万が一フォレストライガーの攻撃をくらっても爆裂魔法を間接的にとはいえくらってもピンピンしていたコイツならば問題ないはず。ま、現れた瞬間にお陀仏になっているとは思うが。

 

『ではやってくれダクネス』

「ック!まさか私を盛ったケダモノの囮にしておびき出すとは・・・なんたる鬼畜!そのまま連れ去られてケダモノに犯されて・・・ああ!興奮する!!」

『やれと言っているだろ!』

「きゃあん!」

 

 ダクネスの腰に軽い蹴り入れて急かす。盛っているケダモノはお前の方だこの雌犬が。

 

「いい…いいぞ!その盛った雌犬を見下す視線!やはりお前は私のご主人さまだ!」

『いいから働け。褒美はそのあとだ』

「ほ・・・本当か!? 今更ナシとかなしだぞ!」

『ああ。分かってる』

 

 褒美は忘れないぞ。ちゃんと報酬分けてやるからね。

 ダクネスがデコイを発動した瞬間、カズマも敵感知スキルでフォレストライガーを探す。

 

「反応ありました!そこです!」

『了解した』

《バレット》

 

 俺はカードをスラッシュしてカズマが指さした方角にカリスラウザーを向け、光の矢を射出した。

 矢は獲物を隠している木を貫通して敵を刺し抜く。当たり所は大体ネコ科動物の心臓がある所。そこをぶち抜いた瞬間、獲物であるフォレストライガーは茶色の液体を口から履いて地面に落ちた。

 

『・・・楽な仕事だな』

 

 確かな手ごたえを感じた俺は弓を下す。

 本当に楽な仕事だ。

 

「・・・ねえ八幡さん?なんか他にも反応がするんですけど」

『何? まあここにはフォレストライガー以外にも敵はいるんだ。ほかの敵がつられて来てもおかしくない』

 

 デコイはヘイト値を上げるだけで何も特定の敵をおびき出すスキルではない。ならば他のモンスターが来ても不思議ではないのだ。

 なに、問題ない。フォレストライガーが特別つよいだけで他は初心者用のモンスターばかり。少し力の差を見せたらビビッて逃げるだろう。

 

『それで、数はどれぐらいだ』

「・・・全部で20くらい。あと、全員フォレストライガーです」

『・・・何?』

 

 ・・・今、なんていった?俺の耳がバクったのか?

 

「全部フォレストライガーです!しかもさっきよりデカいのばっかり!!てか数も増えてる~~~!!」

『・・・報告する必要はない。すでに囲まれている』

 

 あたり一帯を見渡す。木の枝や草むらなど、あらゆる場所に何十匹ものフォレストライガーが潜んでいた。



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なんかいっぱい出た

「はあッ!」

「げえええええええええええ!!?」

 

 一閃。八幡はカリスアローを振るうことでフォレストライガーを切り裂いた。

 

「たすけて八幡先輩!」

 

 カズマに襲い掛かったフォレストライガーを光の矢で撃ち落とす。フォレストライガーは心臓のある部位を貫かれ、絶命した。

 

「おらあ!」

「ああ!タマさまーーー!!?」

 

 ダクネスに襲い掛かったフォレストライガーを蹴り飛ばす。フォレストライガーは大岩に頭をぶつけて絶命した。

 ・・・何かダクネスが変な名前をつけてフォレストライガーの死を嘆いているがそこは無視する。

 

『クソ!何匹いやがんだ!!? フォレストライガーは群れないんじゃねえのか!?』

 

 カリスは敵を蹴散らしながら怒鳴った。

 ギルドから貰った情報によると、フォレストライガーは単体で奇襲を仕掛けて獲物を狩るとある。

 しかし現状はどうだ? フォレストライガーは一斉に襲い掛かり、彼が切り裂いた敵は既に10体を超えている。完全なイレギュラーだ。

 唯一の救いといえば連携が取れていないということ。全員本能に任せて獲物に襲い掛かってくるのでカズマを守りながら戦ることが出来ている。もし群れで攻撃したら・・・カリスも少し無理する必要があった。

 

『おいこれはどういうことだ!?こんな話聞いてねえぞ!!』

「わ…私もですよ!! フォレストライガーは同種でも縄張り争いで殺してしまう本物のぼっちなんですよ!」

『喧嘩売っているのか!?』

「なんでです!?」

 

 ぼっちという言葉に過剰に反応して怒鳴るカリス。まあ、彼のぼっち論は今どうでもいい。

 

 本来ならばフォレストライガーという中級モンスターがアクセル町の近くにいるだけでおかしいのに、そのうえ群れで襲い掛かるなどおかしいにも程がある。

 単体でも奇襲を仕掛けるならば上級モンスターを屠ることが出来るモンスターが数十体。連携こそ取れてはいないが、それでも前回上級モンスターに襲われた時以上のピンチだ。

 

『クソが!このままじゃらちが明かない!』

 

 襲い掛かる敵を撃ち落とし、切り裂き、蹴り飛ばしながらカリスは叫ぶ。

 群れで襲う相手にはめぐみんの爆裂魔法で吹き飛ばすのが一番なのだが、この閉塞空間でそんなことをすればカズマや術者であるめぐみんまでも蒸発してしまう。

 完全に八方塞がり。カリスが頑張って戦うしかないのだ。

 

『こうなったら・・・ここで大人しくしてろ!』

《ロック》

 

 カリスはカードをスラッシュしてカズマたちにかざす。地面が盛り上がり、4人を岩で隠した。

 

「・・・え!?なにこれ!?」

『岩のシェルターだ。しばらくそこにいろ!』

「ああ!せっかくのチャンスが!?」

 

 ダクネスの言葉を無視して再び武器を構えなおす。

 

『じゃあ行くぞ!』

 

 フォレストライガーが群れる木に飛び移り、カリスアローを振るった。

 

『はあ!』

 

 飛び移った木にいるフォレストライガーを切り裂く。首を切断して絶命させた。

 

 これで大分数が減った。30は超えた敵が今は数えるほどに減っている。今までのペースでいけばあと数分で片付くだろう。

 だが、残った敵はそんなに甘い相手ではなかった。

 

「がア!」

 

 フォレストライガーはカリスの放った光の矢をよけ、カズマたちのいる岩のシェルターに爪を振り下ろした。

 カズマたちのシェルターに襲い掛かった敵は他にもいたが、表面が削れる程度だった。なのに何故この個体のは一撃で砕けたのだろうか?

 

『って関心してる場合ではない!』

≪バレット≫

 

 カードをスラッシュして貫通力を上げて矢を放つ。しかし矢はよけられ、フォレストライガーは森の中へと逃げてしまった。

 

『…大丈夫か?』

「あ…ありがとうざいましゅハチマンしゃま~!」

 

 カリスから八幡に戻ると、さっそくアクアが八幡に抱き着いてきた。

 

「も…もっと早く来てください!ちびっちゃうと思っちゃいましたよ!」

「なんで助けたんだ!あのままお持ち帰りされてモンスターの苗床になる展開だったのに!!」

 

 ・・・何故か責められるのだが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ帰ろうか」

 

 フォレストライガー襲撃後、やっとパーティメンバーが落ち着きを取り戻すと、突然カズマが真顔でそう言った。

 

「このままじゃ命がいくつあっても足りねえ!さっきは八幡がいたからたすかったけど、か~な~り~ギリギリだった!もし次攻撃されたら全滅だぜ全滅!なあ帰ろうぜ八幡~!」

「そうよ!さっきだってけっこう危ないシーンあったからね!少し間違えたら即死よ即死!! ねえ帰りましょうよハチマン!!」

「・・・お前ら、勝手に付いてきて今度は勝手に引き上げるのか?」

 

 少し軽くにらむと、アクアたちは躊躇なく土下座をして謝った。

 

「す…すんません。正直異世界なめてました。八幡先輩があまりにも強いんで油断してました」

「同じく。貴方様の御力に縋れば楽できると思っていた私たちが愚かでした」

「・・・・本当に愚かだな」

「「へへ~!」」

 

 侮蔑を込めた目で土下座する二人を見下す。しかし二人は文句一つ言わずに更に遜った。

 お前ら、さっきまで助けてやった俺に文句言っていたくせに、立場が悪くなるとすぐ手のひら返すな。嫌いじゃないぞ、お前らのそういうとこ。

 

「ですがハチマン、ここはカズマたちの言う通りです。フォレストライガーを何十体も倒したのですからすでに依頼は達成してます。これ以上深追いする必要はありません」

「そうだな。フォレストライガーが群れで襲うなど異常だ。ここはギルドに報告する義務がある」

 

 珍しくまともなことをいう二人。

 言ってることは正しいのだが、コイツらが言うとイラッと来るな。さっきまで必死に戦ってた俺がバカみたいじゃん。

 

「そうだな。じゃあ歩きながら少し俺の疑問に思ったことを話すか」

「疑問に思ったこと?そんなのいくらでもあるでしょ?」

「ああお前の言う通りだアクア。今回の仕事はあまりにも不可解なことが多すぎて疑問だらけだ。だが、これから話すのは実際に戦った俺が疑問に思うことだ」

「なんですかそれは?もったいぶらずにさっさと言ってください。あと、さっさと出ましょう」

「ああ、それは・・・」

 

 めぐみんが急かすので早歩きしながら話す。その時だった。

 

「まあお前たちの言う通り、ここは撤退が妥当だろう。だがな、どうやら手遅れみたいだ」

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」

 

 森の奥からおぞましい彷徨をあげて姿を現したのは。

 

 

「「な…なんだありゃああああああああああああああああああ!!!!?」」



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フォレストライガーの正体

『おいおい、なんだありゃ?』

 

 突如現れた大岩のような巨体の化物。そいつは鼓膜が破れるほどの大音量で吠えながらこちらに接近した。

 見た目は岩石の鎧を纏っている巨象。岩からは小さめの木や草が生えている。

 

「あ・・・あれは巨岩象!? なんであんな化物がここにいるんですか!?」

「し…ししし!知っているのかめぐみん!?」

「え…ええ!!あれは未開の地で発見されたとても強力なモンスターです!ドラゴンなどの強力なモンスターを主食にする肉食の象です!フォレストライガーなんてあれに比べたら雑魚ですよ!!」

「なんでそんなヤバイのがこんな初心者向けの森にいるんだよ!?」

「私が聞きたいですよ!」

「あ~もう!そんなことより逃げましょうよ!!」

 

 後ろにいるカズマたちがおもしろい具合に混乱している。見ていて冷静になるどころか、少し笑えるぐらいだ。そんな謎の踊りをする余裕あるならさっさと逃げろよ。

 まあ気持ちは分かる。正直言って、もし俺も同じ立場、つまり何も力がなければ逃げ出したい気分だ。

 だが、今の俺には戦う力も覚悟もある。簡単には下がらねえぞ。

 

『さっき俺は奴らを切り裂いた時、肉や骨の感覚ではなかったのは植物だったからか。あのフォレストライガーは奴の分身のようなものだったと』

「なに冷静に納得してるんだよ!?あんな化物見て!!」

『それがどうした?』

 

 俺がそう言うと、全員が『え!?』といった顔で俺を凝視した。

 

『あんな化物、俺がこもっていた秘境では何度も倒してきた。・・・そして今回も、戦い続ける!』

 

 光の矢を象に放つ。矢は太い枝を貫き、断面から緑色の体液を噴水のように撒き散らした。

 

「ぎゃああああああ!!?」

 

 象は騒ぐも再生する様子はない。

 良かった。これで再生するタイプなら戦法を変えなくてはならないが、そうならないのならばいつもどおりの作戦でいける。問題はない。

 

『さあこっちだ!ついてこいノロマ!』

 

 木に飛び移って矢を複数放つ。的がデカイおかげで全て敵の急所らしきとこに命中した。

 一応痛がっているが、デカイせいでダメージ自体はそれほどないようだ。やはり数で補うしかないか。

 

「ぐるぅおおおおおおおおおお!!!!」

 

 象が巨大な足を振り下ろして俺を踏みつぶそうとする。

 俺は上にジャンプしで避けながら矢を放ち、木に跳び移る。そして次の攻撃に備えて木から木に飛び移りながら離脱した。

 たしかに敵は巨体だが、この森の木はバカみたいにデカイ。普通ならば邪魔になるのだが、俺にとっては、カリスにとっては心強い武器になってくれる。

 

 木から木に飛び移りながら、光の矢を放って牽制、時折すれ違いざまにカリスアローで切り裂きながら、俺は獲物を翻弄させた。

 

「ぶるおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 象は鬱陶しそうにしながら、背中に生えている植物による蔦の鞭で攻撃してきた。

 俺は枝から枝に飛び移り、生い茂る葉の中をすり抜けて避ける。まるで猿にでも還ったかのような気分だ。・・・俺の世界の猿はこんな動き出来ないと思うが。

 

 木と葉を壁にして姿を隠しながら、矢で反撃する。こちらは障害物で姿を隠しながら、盾にしながら攻撃するのに対して、向こうはむき出しで図体もでかい。これで射撃戦でどちらが有利なのかは明白だ。

 俺は攻撃を避け、木を盾に、葉で姿を隠しながら矢を放つ。ダメージは少ないが、今は確実に攻撃を当てること、そして自分がダメージを受けないことを優先する。ラウズカードコンボはまだ取っておこう。

 

「ぶるおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

『下手うちゃ当たると?なめるな!』

 

 今度は刃のように鋭い葉や銃弾のように種も撃ってきた。種と葉の弾幕が木々を、そして葉を貫いて俺に襲い掛かる。

 鞭では俺を捕らえられないと判断して、一斉射撃に切り替えたか。だが、狙いも精度もないただ弾幕をばらまくだけの攻撃に当たるほどカリスはトロくない。

 

《バイオ》

 

 プラントアンデッドの力を借りて蔦のロープを作り、敵に生えている木に巻き付かせて移動した。

 気分は立体機動装置で移動する調査兵団。立体的な移動で敵を翻弄させ、弱点を執拗に攻撃する。

 

 

『陰湿な攻撃で悪いが、これが俺とカリスの戦い方なんだ。許せ』

「ぶるおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す・・・すげえ!」

「いけ!そこよ!ぶったおせ!!」

 

 カズマとアクアはカリスの戦闘を興奮した様子で遠くから眺めていた。

 前世で仮面ライダーを視聴していた彼らにとって、仮面ライダーカリスはテレビの中だけの存在だった。

しかし空想上の産物である仮面ライダーが今目の前で戦っている。次元が違う立体運動で敵を翻弄させ、特異な能力で追い込んでいる。仮面ライダー好きにとっては堪らない光景だ。

 

「そこよカリス!必殺技使うのよ必殺技!」

「いや、あのタイミングは早すぎだろ! …ていうかなんで射撃ばっかなんだ?」

「バカねカズマ。刃の部分は接近されたとき用に決まってるでしょ。あんなのメイン武器にしたら攻撃当たらなくなるじゃない」

「え!?そうなの?」

 

 アクアの回答に一瞬カズマは驚いたが、すぐに納得した様子をした。ああ、あの武器って使いにくそうだなと。

 

 ぶっちゃけ、八幡はカリスアローを近接武器としてよりも、弓矢として使っている。 

 正直言って、カリスの武器は他のライダーの武器と比べると使いづらい。最初、八幡がカリスラウザーを使ったときは全く攻撃が当たらなかった。スッカスッカと攻撃を外しまくり、何度もボコられた。

 

 しかしそれも仕方ない。カリスアローは特殊な形状により、かなり癖の強い武器となってしまった。これを最初からうまく使いこなせるのには訓練がいる。

 劇中ではそういった様子もなく戦うことが出来たが、あれは特撮ならではの事情によってだ。アレだよアレ。特撮では例外除いて必殺技使ったり変身するときは待ってくるじゃん。作品を面白くするためにはそういった演出もいるんだよ。

 あとは単に始さんに才能があったか。あの方は人間じゃないから。

 

「まあ…それは仕方ないけどさ、なんか戦い方が違うと・・・な?」

「何言ってるのよ!?カリスの力はあくまでカリスをモデルにした神器よ!カリス本人じゃないの!!」

 

 そう、アクアのいう通り八幡はカリスそのものになっているわけではないのだ。

 あくまでもカリスの力を模した神器。よって八幡はジョーカーアンデッドでもないしましてや相川始でもない。姿形は仮面ライダーカリスだが、ブレイドに出演したカカリスとは全くの別人なのだ。

よって戦い方に違いが出るのも当然のこと。むしろ無いのがおかしいのだ。

 

「それにあの戦い方もかっこいいじゃない!いけそこよ!」

「まあそうだな。がんばれカリス!!」

 

 視線をカリスに戻して応援を再開する。

 

 八幡の変身するカリスの戦い方は本家のカリスとは違うものの、カリスの力を最大限に引き出すものだった。

 木や岩などの障害物を利用して巧みに姿を隠し、敵の死角に回って矢を放ち、居場所を特定される前に逃げならかく乱させる戦法。いわゆるヒットアンドウェイ。

 敵の弾幕を掻い潜り、木々や岩に隠れながら矢を放つ。少しづつではあるが、ダメージを蓄積させていった。

 

 カリスはその特性上、奇襲などの暗殺者としての戦い方が一番効力を発揮する。よって森の中は彼にとってテリトリー。最も力を発揮する絶好の狩場なのだ。

 そして八幡は前世ではステルスヒッキーという妙な特技を持っていたが、この世界ではさらにレベルアップ。オンオフを切り替えることで奇襲スキルとなった。・・・日常生活では時々勝手に切れたりついたりするが。

 更に観察眼はアンデッドとの死闘からさらにアップ。敵の弱点を見抜く目となり、虚をかぎ分ける暗殺スキルとなった。

 存在感が薄く、相手の嫌な点や弱点を目敏く見抜く八幡の特性。立体的な動きを得意とし、高い瞬発力と敏捷性を誇るカリスの特性。この二つを掛け合わせて初めてこの戦法は役立つのだ。・・・八幡も最初からこんな動きが出来たわけではないのだが。

 

「ぶるおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 象が叫びながら種の弾丸を放つ。しかし今回は先ほどの弾丸とは一味違った。

 

『…なるほど。そうやって分身を作るのか』

 

 カリスは感心したような声で地面を眺める。

 種子が着弾した地面から植物が生え、獣の形を象って動き出した。それこそ先ほど八幡が殺したフォレストライガーの正体だ。

 

「がああああああああ!!」

 

 分身たちは八幡に襲い掛かって邪魔を始める。もちろんカリスは彼らを相手にする必要などないので逃げながらけん制を続けようとした。

 ある分身は時折撃ち落とし、接近した敵はカリスアローで切断する。やっていることは前回と同じ、一つ条件が違うのは本体をけん制しながら行っているということだ。

 しかし、今回違うのは本体がいるだけではなかった。

 

『チッ!今度は数より質を優先したか!』

 

 分身から逃れながらカリスは悪態をつく。

 前回のように数は多くないが、分身たちの力も少し上がっていた。前回は一撃で倒れたというのに、今回は首を切断しようが心臓を貫こうがお構いなしに襲ってくる。

 無論それほどそ脅威ではないのだが、それは分身のみの場合。今回は本体とも戦わなくてはいけないのだ。あまり分身に集中しすぎると本体へのけん制が疎かになって回復の時間を与えてしまう。

 

「ぶるおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 本体が援護射撃を行う。何匹か分身が巻き添えをくらったが、しょせんは使い捨て。また新しい戦力を投入してカリスを追い詰めようとした。

 

『…なるほど。不死身の軍隊で俺を追い詰めると。モンスターにしちゃやるじゃねえか』

 

 仮面の中で八幡は苦笑いした。ぶっちゃけこの状況でも負ける気はないが、これ以上の戦闘は森に負荷がかかる。もし自分たちのせいで森の生態系が変わったら後でギルドから何を言われるかわかったものではない。

 それに、ぼっちは自然と地球に優しいのだ。環境破壊など許すはずがない。・・・地球に優しいことにボッチだのリア充だの関係ないと思うが。

 仕方ない、ジャックフォームで一気に決着つけようかよ思うと、カズマが大声でカリスに何かを伝えた。

 

「八幡!一度使ったカードはまた使えるのか!?」

『・・・問題ない!回数制限はない!』

「そうか…。ならあの作戦でいける!」

 

 今度はカリスだけでなくパーティ全員にカズマは指示した。

 

「ダクネス!お前はデコイであの分身を集めてくれ!めぐみんは爆裂魔法でそいつ等を吹っ飛ばして、アクアは八幡に支援魔法かけて、八幡はバイオの鞭でダクネスを引き上げてくれ!」

『・・・なるほど。ならもっといい案があるぞ!!』

「え?それはどういう・・・うわぁ!?」

 

 カリスは木から風のように木々を飛び移りながらカズマたちのところに戻り、飛び降りざまにダクネスを浚う。そしてダクネスを抱えながら風のように木々を飛び回った。

 

「にゃ…にゃにをするんだハチマン!ま…まさか人気のない森の奥に私をお持ち帰りしてあんなことやこんなことをするのか!?と…時と場合を考えろこの変態め!!」

『お前こそ時と場合考えろ。発情すんじゃねえよ』

「し…してない!期待などしてない!」

 

 少しがっかりした様子でダクネスは否定した。このパーティの女性陣営はTPOを弁える者など一人もいないのは今更である。

 

『ダクネス!デコイであの分身を誘え!』

「え?しかし・・・」

『さっさとやれこの駄犬が!!』

「はいご主人さま!!」

 

 一瞬カリスの意図が分からず訳を問おうとするが、強めに命令するとあっさり聞いた。

 そのとき、八幡が仮面の下でチョロイ女だと口元を歪ませたのは言うまでもない。

 

『じゃ、行ってこい!!』

「え・・・え~~~~~~~~~~~!!!?」

 

 ダクネスがデコイを使ったタイミングで、カリスは肩に抱えているダクネスを象の背中に生えている木に向かって投げつけた。

 

「「「ひ…ひどい!!」」」

 

 そのあんまりな仕打ちにカズマでさえも引いた。

 女をモンスターめがけて投げるなどカスマでもクズマでも考え付かない鬼畜の所業だ。それを平然とカリスは行ったのだから驚くのも当然のこと。

 しかし別にカリスはダクネスを虐めたくてこんなことをしたわけではない。・・・やられた本人にとってはご褒美だが。

 

《ポイズン》《ブリザード》

 

 二つのカードをスラッシュしてその力を解放、カリスアローから毒の氷の矢を放った。命中した矢は紫色の氷となって象の足を覆う。

 

『オマケだ!』

《トルネード》《ドリル》

「ぶるおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 さらにカリスは風を纏うドリルキックで象の体を貫いて更にダメージを与える。

 その時だった。分身たちがカリスに追いつき、標的であるカリスよりもデコイを使っているダクネスが突っ込んでいる木に向かおうとしたのは。

 

『よし今だめぐみん!爆裂魔法をうちこめ!ダクネスはちゃんと回収する!!』

「・・・は!? そ、そういうことですか!けどちゃんとダクネス回収してくださいね!!」

 

 カリスの意図を察知しためぐみんはダクネスを案じつつ爆裂魔法を放つ。

 呪文は省略。長いし書くのめんどいから。

 

《バイオ》

 

 蔦の鞭でダクネスを回収。そのままダクネスをお姫様だっこで抱え、全速力で飛び降りて爆発から逃れた。

 そのとき、ダクネスの離せだの辱めだの聞こえたが、カリスは無視した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぐっ…なぜだ!なぜ、あの時に…ヒッグ・・・」

「…八幡、代わろうか?」

「いや、大丈夫だ。」

 

 カズマは、俺に気遣いをしてくれた。

 何故カズマから気遣いされてるのかというと、俺の背中で泣いているダクネスを、おんぶして街まで歩いてきたからだ。

 

 どうしてダクネスが泣いているのかというと、巨岩象を爆裂魔法で消し飛ばす際に、ダクネスを回収もとい救出した事で泣いているのである。

 おかしいだろ。普通は感謝されるはずが、コイツはなぜ助けただの、邪魔するなだのほざいてきたんだぜ?やっぱコイツ頭おかしいわ。

 その上愚図ってその場から動かなくなるし。だからこうして俺が運んでいるのだ。

 

「でも、今回の作戦は上手くいきましたね!」

「あぁ、そうだな。」

 

 めぐみんは、爆裂魔法が思いのほか上手く決まった為か、魔力が回復次第に直ぐにテンションが高くして歩き出したほどだ。

 そんな、めぐみんに続いて、もう1人テンションが高いやつが口を開いた。

 

「それにしても今回のクエストは大儲けね!まさかフォレストライガーじゃなくて巨岩象が出るなんて…。その上倒したんだから報酬もガッポリよ!! ちょろい、ちょろすぎるわ!冒険者家業!」

「・・・お前なぁ。今回は上手くいったから良いけど、八幡が居なかったらマジで死んでたからな。しかもこれ八幡の依頼だから山分けの取り分の計算とかは八幡次第だぞ」

 

 アクアは、ぶーっと頬膨らましながらぶつくさ言っていた。

 確かに、今回は上手く行ったが、もしダクネスがあれに巻き込まれてたら取り分は、きっとカエルの討伐と変わらないんじゃないか。

 でも、まぁ……。

 

「よし、今日は飯は豪勢にいくとするか。焼き肉とかどうだ?」

「「「いい(んですか!?)(の!?)のか!?」」」

「うお!? …あ、あぁ」

 

 俺の言葉で、3名が目を輝かせていた。

 

「よっしゃ飲むわよ!」

「言っておくが吐くなよ。吐いた分返してもらうからな」

「何言ってんのよ!吐くまで飲むのがいいんじゃない!」

「・・・お前本当に女神か?」

 

 その日の飯は豪華に焼き肉だったのだが、カズマとアクアが豪勢に吐いたのは言うまでもない。



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ゾンビメーカー退治

 俺たちは今、平原でバーベキューをしている。

 言っておくが俺は別に遊ぶためにここへきたのではない。これもちゃんとした仕事の一環だ。

 

 今日の仕事は墓の見張り。なんでも最近アンデッドが徘徊するようになったのでその元を絶ってほしいという依頼が俺を指名して来た。言うまでもなくアンデッドマスターという称号のせいだ。

 けどこれも仕事だ。しかも指名の分、報酬も通常より色を付けてもらっちる。だからクエストそのものには文句ないのだが・・・

 

「まあいい。カズマ、火」

「うっす。《ティンダー》」

「ありがと。じゃ、焼くか」

 

 俺は火に酸素を送ったり、薪を増やすことで火を調節する。そして十分温まったとこで、切った野菜を鉄板にぶちまけて焼き始めた。

 よし、いい感じだ。これならすぐ焼けるし、肉に取り掛かってもいだろう。

 

「なによ野菜ばっかりじゃない。肉も焼きなさいよ肉も」

「すぐ焼く。だからまず野菜を食え」

「ホント!じゃあさっさと焼きなさい!」

 

 アクアが興奮気味に言うので、肉を焼き始めた。まあ肉を楽しみにしているのはアクアだけじゃない。早く焼くか。

 

「じゃ、飯にするぞ」

「「は~い」」

 

 ・・・そういうや、一人以外で食べるのって久々だな。

 

「う…うめえ!」

「すごいわ八幡!これだったらどこにお嫁行っても恥ずかしくないわ!」

「たしかに超美味しいです!焼き加減も調味料の塩梅も最高です!」

「確かに美味い!」

 

 ゆっくり食うカズマとかき込むように食うアクア。そしてアクアみたいに急いで食うめぐみんと上品に食べるダクネス。

 お世辞とはいえここまで褒められるのは嬉しいな。

 

「八幡が料理できるのか。意外だな」

「これぐらいなら誰でも真似できる。一人暮らし・・というかサバイバル生活が長かったからな」

 

 この街に来る前は人の入らない秘境でアンデッドを封印するために戦う日々だった。

 そんな環境では当然買い物なんて出来ない。だから基本は自給自足だ。おかげで料理、洗濯、裁縫…すべて身についた。

 

「おーい。もうコーヒーできたぞー」

 

 カズマは『クリエイト・ウォーター』で用意した水を《ティンダー》で沸かし、人数分に用意されたコーヒーの粉入りマグカップに入れた。

 コイツ器用に魔法使うな。俺も使いたい。

 

「カズマも魔法使いより魔法使いこなしてますよ。初級魔法なんてほとんど誰も使わないものなのですが……なんか便利そうです」

「いや元々こういった使い方するもんだろ …あ、そうそう。クリエイト・アースってこれ何に使うんだ?」

「それは土を作る魔法で畑とかに使うと良い作物が作れるらしいです」

 

 めぐみんが説明すると、アクアが吹き出した。

 

「なになにカズマさん?畑作るんですか?農家に転向ですか!土も作れるし水も撒ける!カズマさん、天職じゃないですかー。やだー!ぷーくすくす!」

「《ウインドブレス》」

「あー!?眼がー!!」

 

 カズマがウインドブレスを使ってアクアに砂かけをした。…っうわ、風向きが変わってこっちにも砂が来たじゃねえか!

 俺は剣を振って風を起こし、砂を飛ばした。

 

「おいカズマ、目潰しをするのは勝手だが砂はやめろ。食材にかかっちまうだろ」

「あ、すまん」

「…なんか仲いいですね、二人共」

「いや、俺たちあってまだ間もないから。ていうか俺友達いねえし」

 カズマ、お前肉ばっかで野菜食ってないじゃないか。ちゃんと野菜食え」

「いや~、俺キャベツの一件以来苦手になったんだよ。なんか食うときにはねそうな気がして」

「安心しろ。ちゃんと切ったから動かねえよ。ほらお前らもちゃんとバランスよく食え」

「…おかんですか」

 

 こうして、日が暮れるまで俺たちは遊んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が沈んで数時間後、俺たちは墓地に潜伏してゾンビメーカーが現れるのを待っていた。

 

「さすがに冷えてきたわね。ねぇカズマ、引き受けたクエストってゾンビメーカー討伐よね?私、そんな雑魚じゃなくて大物のアンデッドが出そうな予感がするんですけど」

「バカ、お前それフラグだろ。今日はゾンビメーカーを一体討伐。そして取り巻きのゾンビもついでに討伐する。それが終わったら帰って寝る。予想外のイレギュラーが起こったら即撤退。いいな?」

 

 カズマのセリフにアクア以外が頷いた。敵感知を持つカズマを先頭に、直感スキルがある俺が背後からの不意打ちを警戒して一番後ろになって進む。

 

「(カズマの言うとりフラグだが、嫌な悪寒がする…)」

 

 俺の直感スキルが反応している。この先に何かあると。

 認めたくないが、俺の直感はこういうことに限ってはよく当たるんだ。・・・本当に嫌なことだけど。

 無駄だと思いながらも一歩踏み出した瞬間、背中に氷を突然入れられたかのような、強烈な悪寒を感じた。

 

「!?…何だろう、敵感知に引っかかったぞ」

「…逃げるぞ」

「え、何故です?まだどんな敵か見てからでも遅くは…」

「いいから逃げるぞ!」

 

 俺は少し強めに言った。

 めぐみんの言うとおり、普通ならどんな敵か分かってから逃げるものだろう。何もせずに敵前逃亡するのは職務放棄だ。

 しかしそれは通常のケースだ。今回は違う。

 

 この悪寒・・・ゾンビメーカーなんてチャチなものではない。もっとやばい化物だ。

 間違いない。この吐き気を催すような濃い死の匂いと陰鬱な瘴気。こんな化け物がゾンビメーカーなんて雑魚に収まるはずがない。

 

「何言ってるのよ! アンデッドを前にノコノコ逃げることが出来るわけないじゃない!」

「待ちやがれ」

 

 そう言ってアクアはアンデッドの気配がする方角に走っていこうとしたので、俺はアクアの襟元を掴んで止めた。

 こいつなんて瞬発力だ。止めるのに遅れて俺も走ってしまったではないか。

 

「止めないで!やっと私が活躍できる場なのよ!そんでレベルを一気に上げたいのよ!」

「やめろ、リスクが高すぎる」

 

 気持ちは分かる。アークプリーストは後衛専門のジョブなのでレベルが上げにくい。だからカズマ達は報酬よりもアクアのレベル上げを狙っている。

 せっかくのレベルアップの機会をなしにするのは心苦しいが、ここは仕方ない。非常事態になった以上、引くしかないのだ。

 

「そうだぞアクア。イレギュラーが出たら即撤退って言ったろ?ここは直感スキルを持つ八幡さんを信じて帰るぞ」

「嫌よ!アンデッドを全員ぶったおすのよーーー!!」

 

 暴れるアクアを羽交い締めにして、撤退する。こいつ力も強いな。

 

「ダクネス、この馬鹿を頼む。俺はアンデッドを確認しに行く」

「え?だが危険ではないか?」

「そうです。ここは私たちと一緒に逃げた方が…」

「大丈夫だ。俺はアンデッドの専門家だ」

 

 俺を止めるダクネスたちを振り切って前に出る。

 もし敵があの化け物ならば企みを実行される前に潰しておかなくてはならない。

 奴らは残忍で狡猾だ。俺はそれを嫌というほどこの世界で学んだ。バカみたいにクソ高い授業料を取られてな。

 

 墓石の陰に隠れながら、目標の気配がする先を進む。ゆっくりと、慎重に、敵に気づかれないように。もし気づかれたらカズマたちまで巻き込んでしまう。

 罠や配下たちを警戒しながら前に進む。気配がより濃厚なものとなり、弓矢の射程内に入ったとこで一旦俺は止まった。

 墓石からそっとのぞき込む。さて、敵はどんな化け物か・・・。

 

 

 

「覚悟しなさい薄汚いリッチーめ!ここで水の女神ことアクア様が退治してやる!」

「や…やめてくださーーーい!!!」

 

 何やってんだアイツ!!?



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リッチー退治

「や…やめやめ、やめてえェェェ!誰なの!?なんでいきなり体当りして、なぜ私の魔方陣を壊そうとするのですか!?やめて、やめてください!!」

「うっさい!黙りなさいアンデッド!どうせ怪しげな魔法陣でロクでもないこと企んでるんでしょ?なによこんな物!こんな物!!」

「やめてーーー!」

 

 リッチーはアクアの腰に泣きながらしがみつき、魔法陣を消そうとするアクアを止めようとする。しかしアクアはそれを無慈悲に振り払い、魔法陣を乱暴に踏んで消そうとした。

 しっかしひどい顔だな、アクアの表情。まるで虐殺を楽しむ世紀末のモヒカンだ。これではどちらがアークプリーストでリッチーか分からんぞ。

 だが、今はそんなことを気にしてる暇はない。俺はロープ付きの弓矢を射ることでアクアにロープを巻き付けた。・・・巻き付いたとこが首なんだが、まあいんだろう。緊急事態だし。

 

「ぐえッ!?…な、何すんのよハチマン!」

「よせアクア!相手はあのリッチー、なにをされるか分からんぞ!」

「わ…私なら楽勝よ!それに見てよあの頼りなさそうな感じ!あれなら楽に倒せるでしょ」

「油断するな!リッチーは残忍で狡猾だ!!甘く見てると逆にやられるぞ!!」

 

 俺はリッチーとの戦闘経験したことが一度だけある。諸事情があって共和国に向かった時、リッチーの策略に嵌められて転生者と戦う羽目になった挙句、犯罪者に仕立て上げられたせいで町にすら近づけなくなった。

 他にも宝の近くに罠を設置したり、パーティの中で一番弱いものを殺してアンデッド化させて操ったり、相手に気づかれないうちに状態異常をかけて殺したり…。散々な目にあった。

 実際そんな風に殺されたという話は聞いたことがある。決して油断はできない。

 

「大丈夫か八幡!?」

「すまないハチマン、アクアの力が思った以上に強くて振り払われてしまった。簡単な仕事もできないダメな私にお仕置きしてくれ!」

「言ってる場合ですがダクネス!?リッチーが相手なんですよ!」

 

 追いついてきたダクネスとめぐみんはそれぞれ違った反応をした。…よく見るとめぐみん震えているな。やはり、リッチーを目の前にするとこうなるのか。まあ当然の反応といえよう。

 

「…逃げろ。ここは俺一人で戦う」

「な…何言ってんだよ八幡!そんな事できるわけ・・・」

「テメエらがいたら邪魔なんだよ!さっさと行け!!」

 

 俺は大声で怒鳴った。キツイ言い方だが、今の俺には話し方に気をつける余裕など微塵もない。

 なにせ俺は高位魔術と不死を兼ね備え、残忍で狡猾な最悪の存在、リッチーを目の前にしているのだから。

 魔術に関する豊富な知識と物理無効のスキル、そして聖騎士の力すら飲み込むほどの死の力。これらの前では駆け出し相手など戦いどころかお遊びにすらならない。

 カリスの力を以ってしても敗北のリスクは存在する。

 

「…こりゃ本気で働くしかなさそうだな」

 

 カードデッキからカテゴリーKを取り出す。

 …やはりこのカードを使うべきなのか?

 

「あ…あれ?もしかして貴方もアンデッドですか?」

 

 リッチーはうれしそうな声色で、顔を少し赤くして俺に近づこうとした。

 なんだそれは色仕掛けのつもりか?あいにく俺にはそんなものは効かない。

 しっかしこの世界のリッチーは美人しかいないのか?俺を嵌めたリッチーも同レベルの美人だったぞ。

 ……魔法少女のコスプレで痛いしゃべり方するメンヘラだったが。その癖卑怯な手段をバンバン使えるほど狡猾なのだから始末に負えない。

 

「違うわよ!ハチマンはアンデッドと融合してるだけの英雄よ!闇を討つ神の使者なのよ!ま、力を使いすぎるとアンデッドになっちゃうリスクがあるけど」

「・・・そういうのは黙ってくれる?」

 

 ・・・この女神さま、何俺の弱点をシレっとばらしてくれちゃってんですかね?

 

「そ…そうなんですか~。まだアンデッドじゃないのですか…。なら今すぐなるのは・・・どうですか?」

 

 なんかモジモジしながら言うリッチー。とてもとても大きなおもちが強調されており、桃もとても美味しそうだ。相手がリッチーでなければ一度告ってフラれてしまっただろう。それほど目の前のリッチーは素晴らしい女体美を誇っている」

 

「そ…そんな。女体美なんて・・・照れちゃいます・・・」

「ちょっとカリス!何リッチーなんて褒めてるのよ!?」

 

 ・・・どうやら長年の癖は異世界に転生しても治らなかったらしい。いや、秘境に籠ってたから前世よりも人としゃべらなかったせいか?

 でも心の声を聴いても引かれなかったのはうれしい。けどたぶん演技だろう。心の中では『うわっ。なにあの目の腐ったガキ。気持ち悪。私のことエロい目で見るんならその腐った眼をつぶすぞ』とか思ってるんだろうな。リッチーって演技うまいらしいから。だけど演技でもうれしそうなフリしてもらえるのはうれしい。夢を見せてくれてありがとう。

 

「(・・・いや、なんかそれにしては口説き文句がひどくなかったか?)」

 

 何度も言うがリッチーは狡猾だ。奴は人心掌握術にも長けて人を惑わす話術もある。それにリッチーからは対峙するだけで狡猾さがにじみ出るのだが、コイツからはそういうのがない。

 むしろ悪賢いの逆。すんごい残念臭がプンプンする。それもアクアやダクネスと同レベルの。

 例えばさっきの発言。あのズレた回答はどこか間抜けさを匂わせる。たとえるなら、店主なのに売れない商品ばかりを当てて赤字経営になるような残念店主のような匂いだ・・・もしかしてこれも偽装工作か?

 

「(いや、それは考えすぎか?コイツは)

 

 俺は今までこの嗅覚と腐った目と疑り深さで生き残ってきた。

 アンデッドと死闘を繰り広げ、悪魔の策略や国の陰謀に巻き込まれ、バカ転生者のしわ寄せによって俺はさらに観察眼とかぎ分ける力を上げてきた。

 この力で俺は今まで生き残ることができたのだ。理論上では正しくても、この力がヤバいといならそっちを信じている。

 

 

 だから俺は今までの経験より、この勘のような力を最後に信じることにしている。

 

 そして、勘は言っている。あのリッチーは前回戦ったリッチーとは違うと。決してずる賢い敵ではないと。

 思えば、俺がリッチーと戦ったのは一度きり。それだけを参照して判断するのは少し軽率すぎやしないだろうか。

 それにリッチーも元は人間だ。もしかしたら話せばわかる敵かもしれない。だからここは一旦矛を収めて・・・

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?でも目がすごく腐ってますよね?それに貴方のゲロ以下の邪悪な匂いがプンプンするオーラ、どう見たってアンデッドですよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・変身」

《チェンジ》

 

 俺はカリスバックルを出してカリスに変身した。

 相手がリッチーな以上、キングフォームで戦うのが妥当なのだが、キングは魔王を倒すまで温存したい。よってまずは通常フォームで様子見、ダメだと確信したらジャックフォームを駆使して戦うしかない。

 

「こ…この気配はアンデッド!?しかも上級です!やっぱりアンデッドなんですね!?」

『違うと言っているだろ!』

 

 まずは距離を取って光の矢でけん制と様子見。魔法を使う隙を与えず、このまま畳み込む!

 

『誰がゲロ以下だ!?聞いていれば好き勝手ばかり言いやがって!お前はここで倒す!』

「え・・・え~~~~!!?も、もしかして怒らせてしまいました!?ち、違うんです!そんなつもりじゃないんです!」

 

 うるさい!ヒドォオチョグリヤガッテ!オレァクサマォヴットバズ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、あんたは悪いリッチーじゃないんだな?」

「は…はい……」

 

 このリッチーと手合わせして数分後、俺はリッチーとの誤解を解くためこうして話し合っている。

 戦いが始まって一分ぐらいは普通に戦っていたのだが、アクアがターンアンデッドをぶちこんでからは一気に優位になった。

 だってアクアのターンアンデット、一撃でリッチーを浄化して成仏一歩手前にまで追い込んだもん。余波で存在をかき消すかの如く、周囲のゾンビも次々と消えていったもん。何あの威力、あれ俺いらなかったじゃん。

 

 それで続けてリッチーを消そうとしたのだが、戦いの中で殺意や悪意などがなかったので事情を聴くためこうしてアクアを止めている。

 

「何するのよ、ハチマン!私は悪を退治しようとしただけよ!」

 

 簀巻きに拘束されているアクアを無視してリッチーに目を向ける。

 

 よく見ると、足元が消えかかっていた。

 このままではマジで消えそうなので俺の生命力を少しあげる。少しぐらいなら痛くもないし。・・・俺自体既にアンデッドのごちそうみたいなものだし。

 力を補給すると、徐々に消えかけていた足の線が復活し、涙目で足をフラフラしながら立ち上がった。

 

「た・・・助けて頂きありがとうございます。アンデッドマスターさん」

「…その名で俺を呼ぶな」

 

 とても丁寧に返されたのはいいがその名は許さん。その名のせいで俺は避けられてるし。・・・あ、避けられてるのは前世からか。

 ウィズさんは、真っ黒フードを脱いで素顔を現した。

 

 その見た目は、20代くらいの茶髪のロングウェーブの美人の女性。リッチーというから、骸の姿などを思い浮かべていたが、普通に俺らと変わらない姿だ。

 すでに一度消えかけたのだから偽の姿ということはないはずだ。アンデッドは消える際に本当の姿を現すものだし。

 前回戦った相手はミイラのような見た目だったが、こいつはどうやら違うらしい。

 

「えっと…ウィズさん?こんな墓場で何をしてんだ?さっきの話しを聞いてたら、死者の魂を成仏させるとか言っていたが、リッチーがやる事ではないんじゃないか?」

「ちょっと、ハチマン!こんな腐った蜜柑みたいなアンデッドと話してると、それ以上に目が腐る上にアンデッド臭が強くなるわよ!

 

 おい、アクア。今は俺の目については、どうでもいいだろうが。てかアンデッド臭ってなんだよ。俺が臭いみてえじゃん。・・・臭くないよね?

 

「待てアクア。この人には敵意はない。さっき戦って分かった」

「うるさい!アンデッドは見つけ次第殲滅がこの世界のルールよ!早く差し出しなさい!」

 

 アクアは立ち上がってウィズさんに飛びかかろうと、ウィズさんはアクアに怯えて俺の背中の後ろに隠れた。

 あの…そんなに密着しないでもらえます?勃起しそうなんですけど。

 あとカズマ、歯ぎしりしながらそんな目で俺を見るな。祟り殺す気か。 

 

「そ、その……。私は…見ての通りリッチーで、ノーライフキングをやっています。……それで、アンデッドの王なんて呼ばれてるくらいなので、私には彷徨える魂の声が聞こえるんですよ。そして、この共同墓地には多くの方々がお金がないなどして、禄に供養なども受けられずに彷徨っているのです。そこで、アンデッドの王の私が定期的に墓地に訪れ、成仏をしたがっている魂を成仏をさせているのです」

 

 おどおどしながらも、リッチーウィズは芯のある発言をした。

 めちゃくちゃいい人じゃねえか。いや、アンデッドか。

 俺も今までこの世界のアンデッドやこのカードに封印されているアンデッドと戦ってきたが、こんないい奴は初めて見た。・・・アンデッドも最善の嶋さんことクラブのカテゴリーKも容赦なく俺に襲い掛かったのに。

 

「…それは立派な事だ。良い事だと思うんだけどさ、そういった事は、街にいるプリーストとかに任せればいいんじゃないのか?」

 

 カズマは、至極真っ当な質問した。

 その通りだ。それは聖職者の仕事であって、真逆の立場である死の王(リッチー)の仕事ではない。むしろアンデッドにとっては罪じゃないのか。同種殺しみたいなものだし。

 

 カズマの質問にウィズさんはチラチラとアクアに視申し訳なさそうな視線を向けた。。

 

「えっと…とても言いづらいですが……。街にいるプリーストさん達は、拝金主義で……。いえ、その…。お、お金が無い人を後回しと言いますか・・・」

 

 ああ、アークプリーストのアクアが居るから、言いづらいんだろうな。

 てか拝金主義って……。やはり、どの世界でも金が無いとやって貰えないのが現実なんだな。

 まあ仕方ないとは知りながらも、ちょっと切ない気分になったわ。

 

「つまり街のプリースト達は金儲けを優先で、こんな共同墓地に埋葬された金がない奴らに関しては供養どころか寄り付きもしないと言うことか?」

「え…えぇ・・・、そ…そうなんです。」

 

 ウィズさんは困った顔で答えた。

 …カズマ、流石だ。俺でも言いづらいことをずばっと言うとは。

 

 ウィズさんの肯定したことにより、その場の全員がアクアに視線を向ける。が、アクアは、視線が向けられるなり目をそらした。

 おいお前、女神なんだったら、こういう所にこそ女神の慈愛とやらを見せろよ。せっかくの女神の見せ場だぞ。

 

「…事情は分かった。だが、今回の依頼がゾンビメーカーの討伐なんだ。ウィズさん、ゾンビを呼び起こさずに成仏させることは出来ないのか?もしないならここであんたを倒さなくてはならない」

 

 カードをかざしながら言うと、ウィズさんは困惑した様子で答えた。

 

「・・・その、私が呼び起こしている訳ではないんですよ。私が来ると、死体の中に残っている魔力が反応して、勝手に目覚めてしまうですよ。その……私としては、埋葬された方々を成仏させれば、ここに来る必要が無くなるんですけど……。えっと…どうしますか?」

「…仕方ない。ここはアクア。お前の出番だ」

「・・・え?」

 

 訳が分からないという顔をしたアクアに俺は説明してやった。

 

「納得いかないわよ!」

 

 ・・・まあ、そういう答えが返ってくるのは予想してました。

 

「しょうがねぇだろ。元はと言えばプリーストが動かないのが悪いんだからな。仕事の後の酒を飲みたくないのか?」

「う…。わ、分かったわよ。でも……」

 

 結果から言うと、ウィズさんを見逃した。

 これからは、暇を持て余しているアクアに定期的に墓地を浄化しに行くという事で折り合いがついた。

 

 腐ってもコイツは女神だ。一応、迷える魂を成仏させる事には納得をしていた。

 ただ、酒が呑む時間が減るなどやお金にならないとなどと駄々をこねていたが、俺が終わったら酒を奢るという条件を提示したら即答してくれた。

 

 ウィズさんに関しては、最初はめぐみんとダクネスは見逃すという事に抵抗があったが、ウィズさんが今までに人を襲った事が無く、むしろ善行の方が多いと聞いて、ウィズさんを見逃す事に同意してくれた。

 

「しっかしウィズが街のにで住んでんとか…。街の警備とかどうなってんだ?」

 

 俺とカズマははウィズさんが住んでいる住所、というかチラシを見てため息をついた。

 リッチーみたいな化け物が普通に暮らして普通に生活をしている。しかも、小さなマジックアイテムの店を経営しているらしい。

 リッチーでも店を経営して働いてるんだから、世知辛い世の中だ。

 

「はぁ…この世界に来てから、オレが思っている異世界冒険のイメージが崩れている。ていうか、オレが期待していた世界と違う……」

「なら秘境にでも飛ばされるか?ヤバいモンスターばっかで退屈しないぞ」

「それはそれでいや」

 

 即答するカズマ。

 お前の言う通り、この世界が前世で想像していた異世界とは違うという気持ちは分かる。

 けど世の中そんなものだ。やってみたら想像してたのと違うなんて、よくあることだ。

 

「しかし穏便に済んで本当によかったです。・・・いくらアクアが居ると言っても、相手はリッチーですから。もし戦闘にでもなってたら、私やカズマは死んでいたでしょう」

 

 何気になく発言をした、めぐみんの言葉にカズマは顔面を蒼白させた。

 

「えっ?そんなにやばかったのか?」

「何を当たり前のことを言ってるんですかカズマ。ヤバかったってレベルではありませんよ。リッチーっていうのは、魔道を極めた魔術師が行う禁断の儀式でなれる者なんですから。強力な魔法防御の装備や支援魔法、アイテムを準備を万全の状態で挑む必要がありますし。それに、リッチーに触れられるだけでも、状態異常を起こしたり、生命力を奪われるという話を聞きました。多分ですが、爆裂魔法も使えると思います。なので、アクアのターンアンデッドが効いたのが不思議です」

 

 ヤバいなんてものではない。この中で何人か死んでも文句は言えないほどの状況だったのだ。

 腐ってもリッチー。あの時はウィズさんも加減してくれたが、もし本気で俺を殺す気ならばキングフォームにならなくてはいけない状況になっていた。

 

「そういうえば・・・ゾンビメーカーの討伐依頼どうなるんだ?」

「「「「あっ」」」」

 



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相変わらずのポンコツ店主

どうしよう!折角ヒッキーが死んで鬱展開を現世でやろうとしてるのに、全く筆が進まない!
奉仕部や葉山たちがどうしようもない悪意によって苦しむ様を見たいのに、全くかけない!
ある程度の構想は浮かんでいるはずなのに・・・!


「八幡、手配書に関しての情報まとめたぜ」

「ん。あんがと」

 

 カズマに渡されたメモ、指名手配カリスについてのデータを受け取った。

 この町にも俺の手配書が回っているらしいのだが、どこまで知られているのかは分からない。だからカズマに頼んでどこまでこの町の住民に知られているのか聞き込みしてもらった。

 自分のことなのだから自分でやるべきだと思うが、俺には聞き込みなんて出来るコミュ力はない。だからコミュ力オバケのカズマに頼んだのだ。

 

「一応手配書はこの町にもあるけど、そんなに有名じゃねえ。知ってるのは一部だ」

「なるほど。ならバラされても信じる奴は少なそうだな。お前この町での信用低いし」

「え…え~とそうですが・・・」

 

 少し意地悪して言うと、カズマは面白具合に冷や汗をかいて慌てた。本当にからかい甲斐のある奴だ。

 

「・・・冗談だ」

「ありがとうございます!!」

 

 土下座して感謝を伝えるカズマ。本当におもしろい奴だ。

 こんなことはあいつらにもやらなかった。いつも少し距離を開けて会話する程度。しかしこの世界では、コイツらには何故かこういったことをする。なぜだろか。

 

 ・・・考えても無駄か。

 

「じゃあ続けるぜ。手配書の対象は八幡本人じゃなくてカリスだ。どこにも八幡の容姿や変身能力とかについてはない」

「…なるほど。じゃあ変身は控えた方がいいと」

「まあそうだな。たぶん気づかれることはないと思うけど、変身する時は人目を避けた方がいい。あと、八幡って他のライダーとかにも変身出来るのか?」

「ああ。カリスと比べたら熟練度が低いが」

「ならまずくなったらそっちに変身した方がいい。とりあえずカリスは一人か俺たちの前だけの方がいい」

「・・・そうだな」

 

 かなり大きな収穫だ。これでどこまでがアウトかの線引きがはっきりと出来る。

 しっかし詳し情報がビッシリだ。意外と頭も回るからコイツに頼んだのだが、ここまでとは思わなかった。

 コイツ、こんなにコミュ力あるのになんで引きこもりになったのだろうか?

 

「それにしてもマイナーとはいえこんな辺境の地まで手配書が来るなんて…。一体何やらかしたんですか?」

「話した通りだ。お国の厄介ごとに巻き込まれたり、貴族や商人の利権争いに巻き込まれたり、リッチーの策略に嵌ったり、あとは・・・奴隷から抜け出して反乱起こしたぐらいか」

「…………え?」

 

 突然カズマはコップを地面に落とした。あ~あ、お前それ弁償だぞ。

 

「あんたそんなハードな人生おくってたのか!?」

「……声がでかい。聞かれたらどうする?」

 

 立ち上がって怒鳴るカズマを宥めて落ち着かせる。

 ここでもし注目されて俺の正体がばれたらどうする。もしばれなくても俺は注目を浴びるのが嫌いなんだよ。だからそっとしてくれ。

 ・・・まあ、お前が驚くのも無理ないとは思うし、俺自身今思えばなんてハードなんだと思ってるから。

 

 あの頃は本当に大変だった。いきなり一人モンスターが跋扈する秘境に飛ばされ、アンデッドの襲撃に怯え、ソレを封印するために死にかけて戦う日々。飛ばされた当初は何度もみっともない醜態を晒し、何度も泣き叫んだ。

 そんな絶望と悲嘆、どうしようもない焦りと恐怖、そして孤独を忘れるために戦いに溺れた。

 

 あの時の唯一の救いは戦いだった。

 ハートのカテゴリーエースの影響で、俺の闘争本能は日々強くなっていった。戦えば戦うほど、アンデッドを封印すればするほど、そして敵を倒せば倒すほど。俺は痛みを忘れ、より強くなり、そして好戦的な獣に近づいた。

 すべてを忘れて戦いに没頭するのは楽しかった。ただ目の前の敵を倒すことだけを考え、その他全てを忘れる。そうやってケダモノに徹することで俺は心を保ち、精神を病むことなく戦いを続けられ、生きることができた。 ・・・代償としてカテゴリーエースに乗っ取られた時期があったのだが。

 

 けど今は違う。なんとか乗り越えて力を物にした。アンデッドの支配も受けることがなくなった。・・・まあ、また別の壁が次々と立ちふさがったのだが。

 

「とまあ、この世界にきて俺はいろんなことに巻き込まれたんだ。・・・お前もいつかそういったことになるかもな」

「お・・・脅かさないでくださいよ。こ、ここは平和な町なんで」

 

 分からねえぞ。起動要塞やら魔王幹部がいきなり現れたりするかもしれんぞ。

 なにせこの世界はゲームではない。パワーバランスを考えてくれる保証などないのだ。実際、この間も上級モンスターが襲ってきたし。

 

「別に決定事項じゃねえが、警戒しておけっていうことだ」

 

 とまあ、危機感を煽るものこれぐらいでいいか。

 たしかに常日頃イレギュラーに備えることも必要だが、それだけすればいいっというものではない。並行して日常の業務もしておかなければ。

 

「そんじゃあ、次の用事を片付けに行くか」

「え?用事?」

「ああ。武器についてだ」

「武器って…ああ、マジックアイテムのことか」

「そうだ。先週頼んだのだが、そろそろ出来るらしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お~いウィズ~。遊びにきたぞ~」

「バカ、遊びじゃなくて依頼だろうが」

 

 俺と八幡は現在、ウィズの魔法商店にいる。

 言っておくが、決してウィズのすんばらしい爆乳を拝むために来たのではない。いや、俺はそれもあるのだが…。けど今はそうじゃない。信じてくれ

 

 ウィズに用があるのは俺ではない。八幡だ。

 

「あ、ハチマンにカズマさん。こんにちは」

「ああ。で、例の装備は出来たか?」

「ええ。これですよね」

 

 店のカウンターからウィズが宝石のようなものがついた矢と短刀を俺たちに出した。

 

「ご覧の通り、属性を付与した武器です。使い捨てですが効果は保証しますよ」

 

 八幡は渡された武器を確認した。

 そう、八幡の用は変身前の武器を取り寄せることだ。

 この人は特典に安易に頼ることを良しとしない、そしてあまり乱用するとまずいので、こうして武器を取り寄せたのだ。

 

 だが普通の武器では心もとない。だからこうしてマジックアイテム特別な武器を買いに来たのだが・・・

 

「・・・しっかし今回もろくなアイテムがねえな」

「そ・・・そんなぁ~~~~!!?」

 

 この店にはまともな品が一つもないのだ。

 駆け出し冒険者用の町だというのに、アホみたいに高い装備。デメリットがバカみたいに高い使いどころのよくわからないアイテム。呪いがかかった品まで。正直、こんなポンコツばっか取り揃えて本当に売れるのかと心配になるほど品ぞろえが最悪なのだ。

 

「うぅ…。そんな・・・。今回もまた売れないのですね・・・」

 

 どうやらマジで売れないみたいだ。

 

「…なあウィズ、この魔道具はどう使うんだ?」

「あ、それは触っちゃダメです。レベルが低いと呪われます」

「・・・じゃあこれは?」

「それは雷魔法が魔力なしで使える代わりに使用者も帯電します」

 

 ・・・うん、どうやら今回は自爆シリーズらしい。

 

「はあ~。また妙な品を取り寄せたのか。前も言ったろ、ニーズを合わせろと。ここは初心者の人間の冒険者が来る店なんだから」

「そ・・・そうしてるんですが・・・」

「・・・まあお前の商才はいい。それよりも早く代金を払いたい」

「…あ、わかりました。ではその前に商品を改めて説明しますね」

 

 ウィズさんは商品に違いがないのか確認するためもう一度説明してくれた。

 この人、本当にいい人なのになんでこんなに商才ないんだ?あったらとてもいい店になっているのに…。

 

「この矢には魔法石がついて属性が付与されています。紫は神経毒の属性、この矢の毒が体内に侵入すると周囲の部位が紫に染まります。それが毒の回っているサインです。ですからこれで狩りをした際には変色した部位を取り除いてください。それ以外は加熱すれば毒は消えます」

「ああ。注文通りだ。次を頼む」

「はい。黄色は雷の属性、これが当たると電気ショックで相手を気絶させます。気絶といかなくてもしびれが出ますので、強敵にも使えます」

「なるほど。注文通りスタンガンと同じ効果だ」

「そのスタンガンというものがどういったものかは存じ上げませんが、比企谷さんが考えているものと同じだと思います」

 

 八幡が注文したのは状態異常を起こす矢と投げナイフだ。最初はここで普通に売っていると思ったのだが、なかったのでこうやって注文している。

 なるほど。これなら変身しなくても今のレベルで強敵を倒せる。正直俺もほしい。・・・買おっかな?

 けどこの矢と投げナイフ。ついている宝石みたいなのがでかいせいでちょっと重そうなんだよな。正直、飛ばせそうにない。

 

「じゃあお代は150万エリスになります!」

 

 ・・・は?

 

「・・・ウィズさん、どうやら俺は耳がおかしくなったらしい。今、150万エリスと聞こえたが」

「そ・・・そうですか。でしたら140万にまけます!」

 

 ・・・どうやらマジで150万と言っていたらしい。

 ナニコレ?もしかしてこの店ってぼったくりバーも兼ねてるの? やっぱこの人もリッチーらしくあくどい商売してるの?ウィズさんと数秒話すたびに数十万ほど追加するとか。

 

「・・・ねえ、俺はここの弱めのモンスター倒すための武器を注文したんですよ?なのになんでそんなぼったくりバー真っ青な法外極まりない金額を?」

「ええ!これはエンシェントドラゴンも気絶させるほどの威力の矢ですよ!!それぐらいの価値はあります!」

 

 ・・・ねえ、なんで店なんてやってるんだ?本当はもう倒産しているんだろ?

 

「・・・変身」

《チェンジ》

 

 八幡は変身してカリスアローから光の矢を連射した。

 

「きゃあああああああああああああ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、なんでこの辺のモンスター倒すようなのにそんな強度になってるんだ?おかしいだろ色々と」

 

 カリスアローで軽く折檻した後、俺は変身を解いて尋問した。

 リッチーにとって光の矢など蚊に刺されたようなものだ。今は焦げてるがギャグマンガのように復活するに決まっている。

 

「だ…だってハチマンさんはランドサーペイントやロック鳥のような上級モンスターを追い払い、巨岩象も倒せる最強のルーキーだと噂されてましたので、それぐらいの武器がいるかと・・・」

「・・・はあ~。そうか。・・・・・・悪かったな矢を放っちまって」

「いや、あんたが謝るのかよ!?」

 

 うるさいよカズマ。今はうちの問題児いないから突っ込む必要ねえぞ。

 

「しっかし140万か…。前回の報酬があって助かったぜ」

「…払うのかよ。律儀だなお前」

「…仕方ねえだろ。注文したの俺なんだから」

 

 出来てしまったものは仕方ない。

 

「ていうか、いくらなんでも雑魚用の武器、しかも使い捨てで140万は高すぎだって。普通なら幹部に使う武器だぜ?」

「え…えっと…。幹部相手に150万はかなり破格だと思いますが・・・」

「あんたは黙ってろヘボ店主!」

「すいません!ヘボですいません!」

 

 カズマが怒鳴ったのでウィズは俺の後ろに隠れながら謝った。

 ていうかなんでお前が怒ってるんだ? 俺の金なのに。言っておくが有り余ってもお前には奢らんぞ。

 

「…なあウィズ、これ効能落としてもいいから増やすことって出来ないのか?

「え?出来ないことはありませんよ。この宝玉を砕くと量産できます」

「じゃあそれやれよ!」

「は・・・はい!すぐにやります!!」

 

 ウィズは矢を回収した。

 

「じゃあいったんクーリングオフだ。その矢を出来るだけ量産してくれ。威力はジャイアントードを付与された属性だけで殺す程度でいい」

「え?それだとかなり小さく砕かなければいけませんよ。それに同じ大きさでも粗悪品でも代用できますし…。せっかく純正品の大きな魔法石で作ったというのに、そこまで威力落とすのはもったいないですよ」

「・・・全部あんたのせいだろ。あんたが注文通りの品用意してたら、そんな糞高い品を八幡が購入する必要なかったんだよ」

「す・・・すいません!自腹切って注文通りの品を粗悪品としての値段で売ります!!」

 

 いや、そこまでしなくてもいいんだけど…。どうせほかにも高収入のクエストを指名されてるんだし。

 

「・・・まあ、増やせるんなら頼むわ」

「はい!千本作ってきます!!」

「いや、それなら100本作って残りの代金返してこの店で売ってくれ」

 

 使い捨てとはいえ状態異常の属性が付与された矢や短剣が安値で売ってるならだれか買ってくれるだろう。その利益で店の売り上げを上げてくれ。

 

「わ…わかりました!全力で用意します!」

 

 そういってウィズは部屋に上がってしまった。

 

「・・・大丈夫だろうか」

 

 本当に、俺の身の回りにはなんでこうもポンコツばかり集まるのだろうか。




もしウィズさんに魔道具を注文しても、注文通りに届くことはなさそうだな…。


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ユッキー

今回はほんの少しだけ現世の様子が出ます。
すまない…。ほんの僅かしかなくて本当にすまない……。


「お、今噂のルーキーじゃねえか!」

「お前巨岩象倒したんだってな!やっぱお前からは並々ならねえオーラを感じてたぜ!」

 

 ウィズの店に品を受け取りに行く道中、いきなり同業者が大声で声をかけてきた。

 え・・・ちょ…何? なんでいきなりこの人たち俺に声をかけてきたの?しかもこんな人の多い場所で。そんなことしたら周りの方々に知り合いだって思われちゃうでしょ。

 

 いきなりのことで俺は混乱してしまうも、隣にいたカズマが代わりに相手をしてくれた。

 

「ふ~ん、どんなオーラ?」

「「吐き気を催す死のオーラ!」」

「やっぱりか!」

「どういう意味だ!?」

 

 あんまりな答えに俺も膠着が解けて怒鳴った。

 

「ハッハッハ!わりぃわりぃ。お前の邪悪なオーラで最初は勘違いしちまってた」

「ああ。なんていうか…魔王幹部かっていうぐらいのオーラ出してたからな」

 

 …俺ってそんなにやばいオーラ出してたのか。

 まあ、俺はアンデッドと融合したせいで残り香みたいなものがあるからな。それに悪魔に洗脳されたり魔獣の力を感染されたりしたから余計に臭いのだろう。・・・本当に心苦しいのだが。

 

「ま、お前がアンデッドマスターでかわいい女をアンデッドにしてるって噂聞いて、アクアさんがピンチになってると思ったんだが、そんなこともなかったしな」

「ああ。なんか逆にあの頭おかしい連中を止めてくれるみてえだからな。俺たちは特に何も言わねえぜ」

「「というわけでこれからも頭おかしいパーティを頼むぜ!!」」

 

 ・・・うん、褒めてくれるのはわかってるよ。でも頭おかしいパーティって何?俺おもりなの?

 

「・・・なあカズマ」

「・・・言わんでください」

 

 カズマは哀愁漂う背中でそう返した。苦労してるんだな、お前。

 

「そういえば八幡は今からどこに行くんだ?」

「ウィズの店だ。今日が商品完成する日だから受け取りに行っている」

「あ、そういうことか。・・・俺も何本か買いたいから行っていいか?」

「? 別にいいぞ」

 

 なんで俺の許可がいるんだ?てかお前、付いて行く気か?・・・まあ別にいいけど。

 俺たちはウィズの店に向かう。ここからは本当に近いのですぐについた。

 

「お~いウィズ~。今日が矢の完成する日だろ?」

 

 店に入ると同時にカズマがウィズを呼ぶ。するとあわただしく階段を降りる音と返事が返ってきた。

 

「い…いらっしゃいませハチマンさん。前回は・・・ほんっとうに申し訳ございませんでした!」

「ああ、そういうのいいから早く商品を」

「え…あ、はい」

 

 ウィズは何か面食らった様子でカウンターの棚から20本の矢を取り出した。

 前回と違ってでかい宝石など何処にもついてない普通の矢。けどそこらの矢よりは少し立派なつくりをしている。

 俺が求めていたのはもう少し安っぽいものなのだが、これ以上いうのはやめるか・・・ちゃんと注文通りなら。

 

「はい、では改めてお支払いの話です。この矢はどれも一本800エリス、ハチマンさんのお買い上げが20本ですので1万6千エリスになります」

「ああ」

 

 矢20本で1万を超えるのは高い気がするのだが、魔法効果のあるものなら仕方ない。俺は値切りすることなく支払った。

 これで矢の問題は解決だ。だから次の問題、結局ウィズは矢を何本作ったかだ。

 

「・・・それで、結局何本出来たんだ?」

「矢は500本、投擲用ナイフは300本、ジャベリンが100本、です。現在あそこの棚に飾ってます」

 

 言われた通り棚を眺める。そこには武器が無造作に置かれていた。

 商品なんだからもう少し品の揃え方に気を配れよ。そんなんだから売れないんだよ。

 

「・・・結局全部作ったのか」

「ええ。一週間夜なべして作りました」

 

 ・・・アンデッドも睡眠いるんだ。

 

「アンデッドは睡眠がいらないのですが、精神的には必要なんです。元は人間なので・・・」

「ああ、そういうことか」

 

 なるほど。たしかに人外になったからといって、いきなりモンスターの仲間入りして人間性を捨てるのは無理だ。たとえ自覚や覚悟があっても、何処かで引きずってしまう。

 

「そか。じゃあ140万エリスは売上でちゃんと返せよ」

「・・・はい」

 

 この人の性格上、踏み倒されることはないとは思いつつも釘をさす。

 

「え?結局あんた140万払ったの?」

「ああ。クーリングオフされるの予想してなかったから仕入れ先に全額既に払ってしまったらしい。しかもクーリングオフ不可の契約してまでな」

「・・・この人本当に商人?」

「はぐあ!!」

 

 ウィズさんはカズマの一言でノックアウトしてしまい、カウンターに倒れこんでしまった。

 …さすがにこれはかばい切れない。商人ならリスクを分散するため、色んなルートに保険をかけておくべきだ。

 なのにそういったことをせず、ちゃんと支払ってくれると希望的観測でこの人は動いてしまった。本人を目にして言えることではないが、正直商人失格だと思う。

 

「あ・・・あの・・・。少しいいですか…?」

「あん?なんだ?」

「徹夜して精神が・・・だから・・・その・・・」

 

 何かモジモジしながら、顔を赤くして言った。

 

「生命力を・・・分けてくれませんか?」

 

 ・・・それそんなに恥ずかしそうに言うことなの?

 

「…はあ~。あまり吸いすぎるなよ」

「あ…ありがとうございます!流石に一週間働きっぱなしはすごく辛くて……自業自得とは理解してますけど感謝します!」

 

 ウィズは俺の手を取って生命エネルギーを吸い取った。どうせ生命力は有り余るほどあるのだから問題ない。

 だからカズマ、そんな目で見るんじゃない。これは餌を提供しているだけでお前の思ってるようなものじゃねえぞ。

 

「・・・そういやウィズって八幡に借金してる状態なんだよな。で、期限とかは」

「そういうのはない。全部売れたら」

「無期限かよ!人が良すぎるぞ!!」

 

 いきなりカズマが怒鳴った。なんなんだ一体?

 

「だってこの人がしたこと考えたら、おっぱい揉ませるぐらいは許させるぞ!なのに何もなしで、無条件で無利子で金貸すとか優しすぎるぞあんだ!?」

「・・・お前の発想最悪だな」

 

 その発言俺に喧嘩売ってきた挙句、自分の特典に食い殺されたおっぱいバカ連想させるからやめて。

 

「いや、たしかにさっきのは自分でもどうかって思ったけど…。・・・俺、あんたが詐欺とかで引っかからないか心配になってきたぜ」

 

 失敬な。俺の警戒心は前世でもこの世界でもまず最初に鍛えられたのだぞ。俺の警戒心に…弱点はナァイ!!

 

「じゃ、俺の心配事は一つ片付いたから仕事行くか」

「そうだな」

 

 店を出てギルドに向かう。その時だった、すごいサイレンが鳴り響いたのは

 

『緊急警報!ユッキーの大群が押し寄せました!冒険者の皆さんはユッキーに備えてください!』

 

 ・・・雪ノ下(ユッキー)の大群?なにそれ悪夢。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「比企…谷くん・・・」

 

 一人しかいない教室の中、雪ノ下雪乃は呟いた。

 彼女の呟きを聞くものなど誰もいない。いつもならいるはずの腐った目の少年は、いつも明るい声をかけてくれる少女はもういない。

 彼女はまた一人に戻ってしまった。去年いつも感じていた、空っぽの教室。自分ひとりだけの空間だ。

 

「・・・今日は・・・甘く、ないわね」

 

 腐った目の少年が好物だった甘いコーヒーを口に含む。

 前に飲んだ時は甘くてとても飲めるようなものではなかった。これを飲めるあの男は将来糖尿病にでも進んでなる気か。本気でそう思い、あの男の味覚を疑っていた。

 しかし味覚がおかしくなったのは自分も同じらしい。まるで練乳を丸々入れたような甘い液体が、塩を一袋入れたほどしょっぱく感じる。

 

「・・・なんで私から離れていくのよ!!?」

 

 雪ノ下は缶を投げ捨てる

 

 もう証明など出来やしない。彼がいなくなった以上、何もかもが無意味になった。

 由比ケ浜はショックで不登校。母親がつきっきりで見るも、未だに回復の傾向は見られない。

 小町も同様だ。彼女は八幡の部屋に篭もりっきりで最低限の用事でしか外に出ようとしない。

 

 彼女は失ってしまった。せっかくの拠り所も、居場所も……特別な何かを。

 

 

 前回、平塚先生から無理して部活を再開する必要はないといわれた。しかし彼女はそれを断った。何故ならここは証なのだから

 ここは砦のようなもの。ここがなくなってしまえば、本当に彼との何かが消え去ってしまう。そんな気がしてならないのだ。

 

 ゾクリと、悪寒が襲う。

 

「いや……。それだけは嫌!!」

 

 そうだ、忘れるわけにはいかない。彼との関係を、そして彼自身を自分の手で否定することなど許されないのだ。

 

 

 

 

 

 だから、この場所だけは捨てるわけにはいかない。誰であろうと、たとえ自分であろうともこの場所を――比企谷八幡の居場所を否定するものは許さない。




ぬるい!奉仕部や総武高校生たちの苦しみがぬるい!
私は決して奉仕部や葉山アンチを書きたいわけではない。八幡の死という強烈な起爆剤を投入することで、彼ら彼女らが苦しみ悶えながらも、前に進もうと足掻く様を見たいんですよ!!
・・・しかし私は力不足だった。私には彼女たちの心象を表現する能力も、そして足掻く様を伝える文才もなかった。

だれか・・・だれかそういった内容を書いてくれ!!


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17話

 ユッキーが何か分からない俺たちはアクアに教えてもらった。

 

「ユッキーとはこの世界のブリがさらに大きくなったビッグサイズの魚よ。ブリからユッキーになった魚は寿命で死ぬんだけど、その前に死に場所を探すかのように飛び立つの。それで、そのユッキーはすっごくデカくておいしいのよ。だから無駄死にする前に私たちが美味しく食べようてわけなのよ」

「「へ・・・へえ~」」

 

 雪ノ下、お前こっちじゃ出世魚なんだな。熟したらおいしく食べられるってよ。……まあ魚のことなんだけど。

 

「ユッキーは一匹10万もする高級品、質がいいと100万も超えるほどのおいしいクエストよ!けど、ユッキー狩りには少し欠点があるの。まず、ユッキーは強くて速いの。時速100㎞で飛ぶユッキーをしとめるのはすごく手間がかかるし、かといって正面から止めようとすると突進力で吹っ飛ばされるの」

「なるほど。つまりリスクもリターンも高いと」

「そうよ。だから罠とかで仕留めるの。ユッキーはかなり頑丈だからちっとやそっとじゃ傷一つつかないわ」

「そういうことか。ま、キャベツ狩りの難易度高いバージョンだな」

 

 どうやらこの世界ではいろんなものが飛ぶらしいです。

 

「キャベツ狩り?そんなのリスクもリターンも比べものにならないわよ!ユッキーは止まったり曲がったりするのが大嫌いだから、障害物を破壊しながら進むの!だから町があろうがお構いなしに突進して無茶苦茶にするのよ!!」

 

 なんでそこだけ本人と同じ設定にしたんだよ。しかも本人よりも周囲の影響デカいし。

 雪ノ下、こっちの世界のお前も曲がったことや腐るのが大嫌いらしいぜ。

 

「な、なるほど。リスクもリターンもデカいと。・・・で、それなら何でみんな落ち込んでいるんだ?」

 

 カズマはどんよりとした空気を放って下を向く冒険者たちを指さした。

 あんら~、今まで気づいてなかったわ。なんでこんなに陰気臭い空気まとっていながら、存在感薄いの? まさかこいつ等もステルスヒッキーを!?・・・いや、それ普通のステルスだわ。

 

 …おふざけはこれぐらいで少し真面目にしよう。冗談を抜きにしてもこの落ち込み具合はおかしい。

 冒険者は基本的に命知らずだ。モンスター討伐や罠の多いダンジョンを探索するなどの危険な仕事で生計を立ているのだから当然だろう。

彼らの本質は冒険家(ギャンブラー)。たとえリスクがあろうとも相応のメリットがあるのならば何人かは意気込むはずなのだ。

 

 しかしこの場にいるものは誰もそういった様子がない。かなりひど言いようだが、負け犬ムードだ。一体何が無駄に騒がしい彼らを黙らせている?

 

「・・・実は、ユッキーを狙って飢えたガッハーマもやってくるのよ」

 

 ・・・雪ノ下の次はガ浜さんですか。一体この世界はどれだけ知り合いの名前のモンスターを出す気ですか。

 しかも飢えた由比ヶ浜が熟した雪ノ下を狙うってどんなゆるゆりですか。ユリユリ展開は前世の教室だけで十分です。

 

「ふ~ん。で、そのガッハーマってどんな奴なんだ?」

「こんなのよ」

 

 アクアは一枚の紙を見せる。そこには、メガシンカ進化したガブリアスを更にクリーチャー化させたかのような化け物が描かれていた。・・・この世界の由比ヶ浜は前世の由比ヶ浜のようにユルユルしてませんでした。

 唯一の救いといえば女性的なフォルムをしているという点でしょうか。細めの腰つきや大きな胸部と臀部はどことなく彼女を連想させる。・・・まあだからなんだと言いたくはなるが。

 

「なんだよこれ!?バイオハザードのスカルミリオーネじゃねえか! 両手鎌にしただけじゃ誤魔化せねえぞ!!」

「それほどひどくないわよ。カズマってすぐ言い過ぎるんだからひきこもりになるのよ。…このモンスターはすんごく強くてね、しかも人肉も好物なやばいモンスターなの」

「…ああ。見た目通りだな。この世界で初めてのザ・モンスターって感じのモンスターだ」

 

 ああ。この世界のモンスターってかなり緩い見た目の奴が多いからな。バイオでハザードなグロいのはなかなかお目にかからない。

 

「そんなにやばいモンスターが来るなら漁を中止にすりゃいいじゃねえか。命あっての物種だろ?」

「そうだけど、このモンスターは鼻が良いから隠れても無駄なのよ」

 

 なんでそこだけ由比ヶ浜再現してんだよ。しかも子犬系じゃなくて猟犬系だし。

 

「・・・で、あとどれぐらいで魚はつくんだ?」

「最低で3時間後よ」

「早すぎだろ!?」

「仕方ないじゃない。あいつら飛ぶのめっちゃ速いんだから!」

 

 あまりにも少ないタイムリミットにカズマは叫んだ。

 気持ちはわかる。もしこいつが叫んでなかったら俺が叫んでいただろう。

 

 与えられた時間はたったの3時間。たったのこれだけでどうやって対策を立てることが出来ようか。

 しかし慌てたとこで時間は増えない。むしろ無駄にする行為だ。焦りは精神と頭にも負荷をかけて出来ることも出来なくなってしまう。

 だからまずは情報の整理だ。そうすることで見えるものがある。俺はこの世界でそうやって生き残ってきた。

 

 とりあえずそのガッハーマはなんとかなりそうだ。情報によればスーパートードたちよりは弱いらしいからカリスでもなんとかなる。それにこのタイプならあのライダーが一番やりやすい。もしやばくなればジャックフォームもあるし大丈夫だろう。

 問題はユッキーだ。この魚は数が多く、俺自身はガッハーマと戦うせいで手が回らない。さて、雪ノ下をどう攻略するか・・・決してギャルゲー的な意味じゃないよ?

 

「・・・いや、案外何とかなるかもしれん」

 

 俺はふと、あの道具について思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラ急げ!ユッキーとガッハーマはすぐそこまで迫っている!!さっさと防波堤を作れ!!」

 

 冒険者の掛け声が草原に響く。

 町の近くにある草原に多くの冒険者たちが対ユッキー用の防波堤を作っていた。

 ちなみに現場の指揮はカズマがしている。意外な話かもしれないが、カズマは新人でありながら仕事の時限定で評価されているらしい。人柄は最悪だが頭は信用できるとこの間ルナさんが言っていた。・・・カズマェ。

 

「おい!めぐみんが最近爆裂魔法を打ち込んだとこの土は掘りやすいぞ!こっから土を取れ!」

「さすがめぐみん!俺たちの最後の希望だぜ!!」

「それでも硬いとこがありやがるぞ!!」

「希望っていうのはタチの悪い病気だ。それも人に伝染する。めぐみんはそうやって病原菌を撒き散らしているんですよ」

 

 冒険者は好き勝手言っていた。

 掘りにくいところを見つけてはめぐみん使えないとほざき、そのめぐみんが昔開けたであろう穴を見つけてはやっぱりめぐみんは最高だぜ!と叫ぶ。その繰り返しだった。

 この手のひら返し、まるでカズマみたいだ。まあ嫌いじゃないんだが。

 

「・・・ずいぶん好き勝手言われてるな」

「ハチマン、後でめぐみん使えないって言った男を覚えてください。後で爆裂させます」

 

 マジでやりかねない目で杖を構えるめぐみん。とりあえず無視だ。 

 

「普段からみなさんこんなにやる気ならいいんですけどね・・」

 

 作業を眺めていると、ルナさんがこちらに近寄ってきた。

 

「お疲れ様ですハチマンさん。見たところ首尾は順調ですね」

「ええ、しかしこの作戦に乗ってくれるとは思ってもみませんでしたが・・俺駆け出しの冒険者ですし」

 

 冒険者たちに防波堤を作ってもらっているのは俺の計画の一部である。この作戦には人手がいる。だからこうして手伝ってもらっているのだ。

 ただ、新参者である俺の作戦など受け入れてくれるかはわからなかったが、意外にも街の男性陣がすごい勢いで賛成してくれた。

 

「すんなり受け入れてくれたことは助かりました。・・・説得に時間をかけてしまっては作業が遅れるのを予想してましたので」

「そうですね、それだけ皆さんこの街が大好きなんです。それに、ハチマンさんは注目されているルーキーですから」

「・・・それって逆にいうこと聞いてくれなさそうな肩書だと思うんですが?」

 

 人間は自分より優れている同業者に対して悪感情を抱くものである。

 ソースは雪ノ下。あいつはその容姿と能力か周囲の反感を買っていじめのターゲットとなり、人のことは言えないが今のように捻くれた性格となってしまった。

 

 しかしこの町ではそういったことはない。優れた人間を過度に担ぐことも、逆に攻撃することもない。

 それはコイツらが単純なのか、それとも単にお人好しなのか。答えはわからないが、ただ・・・

 

「・・・悪くない」

「え?何か言いましたか?」

「いや、なんでもない」

 

 ルナさんは普段もあれだけ頑張ってくれたらいいのにと愚痴っていたが、俺は無視した。

 ・・・後にただこの町を守るためだけに彼らが頑張っているわけではないことを知ることになる。それはまた別の話だ。

 

「それで、あとどれぐらいでユッキーは来る?」

「えっ・・えーと・・観測情報からして・・あと1時間ほどですね・・」

「早すぎだろ!」

 

 やっぱ待ってくれるわけではないのか。

 クソ、やっぱユッキーたちは冒険者任せになってしまう。・・・本当にそれでうまくいくのだろうか?

 

「こんなこと言うのもあれなんですが…。とりあえずやるだけのことはやります。でも失敗したときは・・・」

 

 俺が言い終える前に、ルナさんは俺のセリフを遮った。

 

「…ハチマンさん、今すごい悩んでいますよね」

「いや、そんなことは・・・」

「顔に出ていますよ。意外とわかりやすい方なんですね」

 

 クスリと笑っていうルナさん。

 俺ってそんなに分かりやすいのか?戦いではよくフェイントとか多用しているから、もう顔には出なくなったと思ってたのに。・・・あ、どうせ仮面被ってるから関係ありませんよね。

 

「・・・たしかに失敗したらとんでもない被害になるのは間違いないです。だから立案者のハチマンさんが重圧を感じるのは当たり前です」

「でも、これはハチマンさんの責任なんかじゃありません。なにせ案を受け入れたのは私達ギルド。つまり背負う責任は私たちにあります。それに私たちが貴方の案を受け入れると、自分の意思で決めたのですから。

「ですから、貴方に責任を追求するなんてこと、この街の皆さんはしませんよ。・・・まぁ多少の愚痴はあるかもしれませんが」

「それに、皆さんがここまで力を貸してくれたんです。大丈夫、必ず成功しますよ」

 

 最後ににこっと微笑んでルナさんは締めた。

 

「(・・・ルナさん、その言葉はやっぱ卑怯ですよ)」

 

 そんな言葉をかけられたら、余計に失敗が怖くなるじゃねえか。むしろ、前世の小学校や中学の頃の同級生みたいな言葉の方がよほど軽く感じられる。

 感情的な文句や冷たい押し付けの方がよほど気が楽だ。どうせ失うものも、罪悪感も感じることもない。

 

 この人は俺の心理など計算していない。おそらく本心からの言葉だ。

 そして、俺みたいなタイプ人間はそう言葉が一番効く。・・・だから俺は優しい言葉が嫌いだ。

 

 けど何故だろうか。やはり嫌な気はしない。どこかで悪くないと思える自分がいる。

 

「じゃあ、俺は行くか!」

 

 シャドーチェイサーに飛び乗り、俺は敵のいる戦場に向かう。

 ここまで言われたのだ。なんとしてでも俺はこの作戦を全うしてみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「矢を放てェェェェ!!!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」

 

 八幡の指示で全員がウィズの店から支給された矢、ポンコツ店主が夜なべして造った属性の付与された矢が射出された。

 そう、八幡の考えた案のひとつ、それはウィズの失敗によって作られた大量の武器をここで使うことだ。

 

 ユッキーもガッハーマも真っ直ぐにしか動かないおかげで当てるのは簡単だ。しかし、彼らの鱗から構成された装甲は貫かれることを許さない。出来たとしても少し刺さるだけだ。

 ユッキーもガッハーマも中級モンスターなのである。よって彼らを一撃で倒すのには相応の技がいる。そんなものを持つ者はアクセル街には限られていた。

 

 だが、この矢を使うのなら話は別だ。

 何も矢で倒す必要はない。当てればいいのだ。後は毒と電気が彼らを停めてくれる。そういった使い方では、この武器はユッキーとガッハーマを倒せるほどの技量がない者でも戦うことを可能にしてくれた。

 

 次々と矢が、投げナイフが、そして投槍がユッキーとガッハーマに刺さる。彼らにとって武器による攻撃そのものは針を刺された程度のダメージしかないが、毒や電気によって次々と空から墜落させていった。

 

 しかしそれでも数が多い。そして全ての武器が無駄なく当たるわけでもない。よってとてもウィズの用意した量では足りなかった。

 そんなことは八幡も承知だ。よって次の攻撃に移った。

 

「アクア、水を流せ!!」

「了解!クリエイトウォーター!!

 

 八幡の合図とともに、アクアが水を一気に放出させる。しかし相手は魚。これきしの激流など海で腐るほど体験してきた。

 そんなことは八幡も承知している。よって次の攻撃を仕掛けた。

 

《ブリザード》

「「「フリーズ」」」

 

 八幡はブリザードのカードをラウズ、冒険者たちはフリーズで流した水を凍らせた。

 全ての水を凍らせることは不可能。よって狙うのは“縁”の部分だけ。そうすることでユッキーたちを閉じ込める氷の水槽を創った。

 

「よし、第二次波だ!」

「「「おおおおおおおおおおおお!!!」」」

 

 八幡の合図で冒険者たちは次々と魔法やら毒薬やらを水槽の中にぶち込んでいった。

 魔法以外でぶち込まれた物の大半はウィズが購入した不良品だった。水に触れると毒になる不良品ポーションやら、鞘から抜くと持ち主も感電する魔剣やら、敵の攻撃から守る代わりに毒素を排出する盾やら。危険な不良品や欠陥品を次々と放り込んで中にいるユッキーとそれを狙うガッハーマを倒した。

 

「よし、この調子ならまだいける!」

 

 一人の冒険者がそう言って攻撃を続行する。彼の言葉はこの場にいる全員の心境を表していた。

 

「エクスプロージョン!」

 

 ユッキーを追いかけるガッハーマの本陣にめぐみんの爆裂魔法が発動。結果、ガッハーマは全て焼きヶ浜と化した。

 

 どれほどの時間が経っただろうか。気が付けばユッキーも全て倒れていった。こうして、八幡の作戦により、アクセル街は無傷のまま無事にユッキーを討伐することに成功した。

 

 

 

 

 

 

「まだだ!まだ奴がいる!!」

 

 

 

 

 

「ヒィィキィィィィィィィィィィィ!!!!!」

 

 八幡が指差す向こうには、一際大きなガッハーマと、ガッハーマの群れがいた。



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18話

「ヒィィキィィィィィィィィィィィ!!!!!」

「(・・・どうしょう。いきなり名前呼ばれちゃった)」

 

 俺は一際大きなクリーチャー版メガガブリアスを見て少しビビった。

 なにあの鳴き声?なんでヒッキーなの?どんだけガ浜さん意識してるのこの世界!?

 

「あ・・・あれはマザーガッハーマ!?」

「な・・・なんでそんな上級モンスターがいるんだよ!?あいつらはハルーノを食うんじゃないのか!?

 

 ・・・どうやらこの世界には由比ガ浜だけでなく由比ケ浜マと陽乃さんまでいるらしい。

 やだもう。どんだけ前世の俺の知り合い出す気?戦いづらくて仕方ないんですけど。

 

「(・・・いや、もうふざける時間はないか)」

 

 辺りを見渡すと、既に全員絶望オーラを放っていた。

 

「ま・・・まずいです!あんな化物が相手だともう勝目ありません!」

「お・・・終わった・・・」

「お…お助けくださいエリス様!!」

 

 あるものは腰を抜かし、あるものは武器を落とし、あるものは神に祈る。

 完全に戦意喪失。いやそれ以下だ。もう生きる気も放棄しかねなほどの敗戦オーラだ。

 

 なるほど。それほどの空気から見て相手は上級モンスター、しかもすんごく凶暴なんだな。

 まったく、なんで最近はこうもイレギュラーばかり起きるんだか…。仕方ない、俺が相手するか。

 

「し…仕方ねえさ。俺たちは十分戦ったんだ・・・」

「ああ。十分だ。お前たちはやってくれた。・・・だからこっから先は俺の領分だ」

 

 俺の前を塞ぐベテラン風の冒険者をどかして前に歩く。

 

「ま・・・待てお前死にに行く気か!?}

「誰もあいつと戦う気がないんだろ?なら俺が行く」

 

 言っておくが俺は別に心の折れた冒険者を見下す気はない。

 彼らは本当によくやってくれた。こんな何処の馬の骨とも知らない俺の案を信じて実行し、見事街を守って力を使い果たした。だから後はゆっくり休んでくれ。

 

 

 ここからはまだ力が残っている俺が、戦える俺が戦えない彼らの代理として戦うのが道理。最適解だ。

 

 

「(だろ?一真さん)」

 

 俺はクズじゃない方のカズマさんを思い浮かべながらカードを取り出す。

 カードのカブトムシもまた、久々の戦いで意気込んだ様子で蠢いた。その動きはさっさと俺を使えと、戦わせろと言っているうように見える。

 

「さて…あとは俺の仕事だ。・・・ヘシンッ!」

《チェンジ》

 

 俺はカードをスラッシュして仮面ライダーに変身する。けど、今回はカリスではなかった。

 

『ウェェェェェェェェイ!!』

 

 全ての戦えない人のために戦う青い剣士、仮面ライダーブレイド。

 俺はブレイラウザーを構えて敵陣に突進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウェイ!』

 

 ブレイドが剣を振り下ろす。ガッハーマは咄嗟に防御するが、剣はガッハーマの両鎌ごと身体を真っ二つに切断した。

 

『ウェイ!ヤァ!ウェエイ!!』

 

 ブレイドは剣を振るって次々と敵を切り裂く。高熱放射と高周波振動で切れ味を倍増させたヒーティング・エッジはガッハーマの装甲を安易と切断。次々と屠った。

 

「ヒッキィ!」

 

 ガッハーマの一体がブレイドに斬りかかる。ブレイドはガッハーマの鎌を、側面を打つことで防ぐ。そして剣を翻し、そのまま首を切断した。

 次の標的のガッハーマをフェンシングのような刺突で貫く。その見事な突きは一撃でガッハーマの心臓を破壊。ブレイドは死体から剣を引き抜いた。

 別のガッハーマが三体ほど襲いかかる。ブレイドは死体をガッハーマたちに投げて足止め。止まっている隙に飛び越えて後ろに回り込み、高速の刺突で全て絶命させた。

 

 ブレイドの猛攻は止まらない。集団で襲ってくるガッハーマの攻撃を避け、時には防いで反撃。刺突、斬撃、ナックルガードによる打撃。次々と亜音速で剣を振るい、敵を倒していった。

 

《キック》

 

 ラウズカードをスラッシュして力を解放。空を飛んでいるガッハーマに蹴りを食らわせた。

 蹴ってはその反動で跳んで次の標的を蹴り飛ばし、その反動でまた次の標的へ。それを繰り返して空にいるガッハーマを墜落させていった。

 

「す…すげえ・・・」

「ガッハーマの大群をこんなあっさりと・・・」

 

 冒険者たちはブレイドの奮闘ぶりに感動する。

 中級モンスターであるガッハーマを一撃で倒す見事な剣技。あの段階に到達するまでどれほどの年月が、そしてレベルを上げなくてはならないのか。

 少なくとも、駆け出しの範疇には決して収まらない。俺たちとはレベルが違うのだ。

 そう思った瞬間であった。

 

『そいつらはお前たちの獲物だ! ダメージをやったからもう戦闘力は半減した。俺はこっちをやる!』

 

 ブレイドはそう言って倒れているガッハーマから目線を外し、マザーガッハーマと向き合った。

 そう、これは決してブレイドだけの戦いではない。冒険者全員の戦いなのだ。貢献度に違いはあれど、さっきまでは八幡だけでなく冒険者たちが協力してユッキーから街を守ったではないか。

 まだ俺らにもやれることがある。まだ俺らの戦いは終わっちゃいねえ。冒険者たちは総意気込み、再び手に武器を取った。

 

 

「いくぞお前ら!ルーキーばっかに出しゃばらせんじゃねえ!!」

「「「おおおおおおおおおお!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 負け犬ムードから一変、手のひら返して猛烈なやる気を見せる。良くも悪くも彼らは単純なのである。・・・まあ、そこを気に入っているのだが。

 

『…さて、問題はこっちか』

 

 俺は後ろをちらりと見たあと、目の前の敵に視線を戻した。

 マザーガッハーマ。名前はふざけているが、その強さは本物らしい。上級モンスター並の戦力とルナさんは言っていたが、この様子から見て信ぴょう性が増した。

 ガッハーマと違う点は殆どない。せいぜいガッハーマよりも少し大きいのと、落ち着きがある程度。・・・こっちの世界でも特徴同じだね。ジャンルが違うけど。

 

「ヒッキィィィ…」

『だからその鳴き声やめろって』

 

 軽口を叩きながら構え方を変える。左腕は腰に当て、フェンシングのように構えて突進した。

 

『ウェイ!』

「ヒッキ!」

 

 同時に攻撃を開始する。俺は刺突、マザーは斬撃でお互いの急所に武器を向けた。

 当然最初に当たったのは俺の攻撃。刺突と斬撃では予備動作も威力も違う。その上スピードは俺の方が、ブレイドが上だ。

 ブレイラウザーはマザーの胸の厚い装甲に傷をつけた。

 

 鎌が振り下ろされる前に離脱。といっても後ろに逃げるのではなく、前に逃げた。

 戦いにおいて逃げ道は決して後ろだけではない。前に進み、敵の後ろや側面などの死角に逃れる。そこから俺は、敵の攻撃が届かない所から攻撃が出来るのだ。

 敵の攻撃から逃れ、且つ勝利への一歩を進む術。これを前世では歩法やフットワークと呼ばれている。

 

『ウェイ!』

「ヒッキ!?」

 

 敵の右脇を通り過ぎながら、持ち手を逆手に変更。すれ違いざまに斬撃を叩き込んだ。

 僅かだが装甲にヒビをいれた感触があった。胸部や臀部の装甲は分厚いが、細い腰は比較的薄いらしい。・・・前世でもそうだったね、由比ケ浜マさん。

 

『ウェイ!ウェア!ウェエエエイ!!』

 

 バックをとって振り向きざまに刺突を叩きつける。後ろから腰の部分に剣を突きまくった。

 よし、このまま勢いで流せばやれる!

 

「ヒッキィィィ!!」

『チッ!』

 

 と、思いきや奴は振り返りざまに鎌を振るった。

 咄嗟にブレイラウザーで防御するが衝撃を殺しきれず、俺はなぎ倒されてしまった。

 地面に転がるも次の攻撃に備えて俺は即座に立ち上がる。

 

『クソ!やっぱボスは取り巻きよりも強いか!』

 

 どうやらパワーは向こうが上らしい。まあ当然だろう。なにせあいつら、細身とはいえ俺の二倍くらいの身長してるんだから。

 だが、パワーが上だからちってそれが負ける要素にはならない。いつも通りの戦い方、ブレイドとしての戦い方で十分勝てる。・・・なんかベルトからブレイドのbgm、覚醒がまた流れてるよ…。

 

『ウェーーイ!』

 

 マザーに突進。鎌を振り回して即頭部に当たりかけるが前転で避け、立ち上がりざまにブレイラウザーを腹部で突く。

 更にすれ違いざまに付いた部分に斬撃を叩き込む。わずかだかそこに亀裂が生じた。

 

「ヒッキィィィイ!!」

 

 マザーは振り返って鎌を振り落とす。けど俺はそれを横に転がって避け、立ち上がりながら剣を振り回して胴を切りつけた。

 剣を翻し、返しの剣で切りつけ、次に思いっきり踏み込んで突きを食らわせた。

 

 今度は両手の鎌を振り下ろしたので後天して下がる。打ち合いや鍔競り合いなどしない。そんなことしてもパワー負けするのは目に見えている。

 

 俺の攻撃は続いた。敵に接近して加速した勢いを乗せて突きを食らわせ、怯んでいる隙に畳み掛け、敵が攻撃したら逃げる。そしてまたスピードを活かして突進。この繰り返しだ。

 

 ブレイドの特徴は速さだ。第一号であるギャレンはパワー、第二号であるブレイドはスピードがある・・・という設定がある。

 特撮の設定などアテにできないものが多いが、どうやらこのカリスラウザーの作者はその設定を採用したのだろう。変身する中ではブレイドが一番スピードに特化している。

 だから俺はブレイドを専らスピードフォームとして使っている。その間、掛け声がおかしくなるが気にするな。俺は気にしない。

 

 ヒットアンドウェイを繰り返す内にマザーの腹と腰のヒビが大きくなった。…そろそろか。

 腰のデッキから2枚のカードを取り出し、 カードをスラッシュして読み込ませた。

 

《スラッシュ》《サンダー》

『うぇええええい!』

 

 突進した上での刺突。剣を思いっきり突き上げて、亀裂の入ったマザーの腹部を貫き、電撃を直接体内に流し込んだ。

 

「ヒッキィィィィ!」

 

 剣を引き抜きながら胴体を切り裂く。左脇腹からブレイラウザーが飛び出すと同時に、血しぶきと肉片が舞った。

 力が抜けたかのように、マザーはゆっくりと仰向けに倒れる。彼女の体からは煙としゅ~という肉が焼ける音が聞こえた。

 

《スピリット》

「…これでおわりだ」

 

 俺は変身を解除しながら、町へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「いぇええええええええええええい!!!!」」」

 

 ギルドに戻ると、一気に祝宴会ムードでにぎわっていた。

 ねえ、後処理とかいいの? 片付けもなしにいきなりパーティとか、少し君たち急ぎすぎじゃない?

 そんな風に思っていると、めぐみんがシュワシュワを持って俺に近づいた。

 

「ハチマンも飲みましょう!今日はユッキーとガッハーマを討伐できたんですから!しかも無傷で!」

「・・・そんなものか?」

 

 受け取ったシュワシュワをとりあえず飲んでみる。キンキンに冷えた液体が喉を潤し、いい感じの喉ごしが温まった俺の身体を冷やしてくれた。

 

「おッ!主役の登場だぜ!」

「おっしゃ!じゃあいっちょ祝いますか!」

「え?ちょ…何?」

 

 いきなりガタイのいい男たちが俺の周囲を囲み、身体を拘束した。

 ちょっと何する気?俺なんかよりもルナさんやダクネスの方が絵になるよ。しかもダクネスなら喜んでくれるから。だから代わってダクネス!

 

「よーし行くぜ!せーの!」

「「「よいしょーーー!!!」」」

 

 いきなり胴上げをされた。

 ちょっとまって。今俺右手にシュワシュワ持ってるんですけど。そんなことしたら掛かっちゃうから!

 

「てめえ何酒かけてくれたんだ!お返しだ!」

 

 俺のシュワシュワがかかってしまった冒険者が受付嬢から受け取った酒をかけてきた。ナニコレ理不尽。

 

「お、なら俺も」

「俺も酒の飛沫かかっちまったしな!」

「仲間の仇!」

「仲間の弟の仇」

「仲間の弟の親戚の仇!」

 

 今度はなんでか次々と俺に酒をかけてきた。

 ねえなんでみんな僕にかけてくるのぉ?僕この街を救った英雄的な存在だよね?てか仲間の弟の親戚って完全な赤の他人だろ!

 

 あら、受付嬢さんが都合よく俺にシャンパン持ってきてくれたぞ。・・・いいだろう、受け取ろうかソレを。

 

「上等だ!俺もお返しだ!」

「「「ひゃはああああああああああああ!!!!」」」

 

 俺が酒をかけると、なんか急に盛り上がって酒をかける頻度が多くなってしまった。

 中には関係のないものまで巻き込まれ、更に被害は広がって騒ぎが大きくなる。

 そんなにかけられたいの? じゃ次行っちゃうよ?後悔しないんだね?

 

「あ~~~!!?あんたたち酒で遊ぶんじゃないわよ!!もったいないじゃない!」

「固いこと言うなよアクアさん」

「そういうわけにはいかないわ!お酒を粗末にするような輩はこのアクア様が許さないわ! 喰らいなさいマックス花鳥風月!」

 

 アクアは俺たちに向かってどこからか水をかけてきた。

 元からベチャベチャなので特に怒ることもないし、むしろ酒の匂いが消えてありがたいのだが・・・。やはりムカつくものだな。

 

「おっしゃあ!アクアさんが浄化でキレイにしてくれたぞ!じゃあもう一回やるか!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」

「ちょっと話聞きなさいよ!!」

 

 こうして酒の掛け合いは結局朝まですることになった。

 

 全く、ここの連中は馬鹿ですぐ騒いで本当にウザイ。けどなぜだろうか・・・

 

 

 

 俺にはこの空間が、そんなに悪いものではないと感じてしまった。

 



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ロイコクロリディウム

推奨BGM 《カリス激情》《red fractiom》


 皆さんはロイコクロリディウムという寄生生物をご存知だろうか。

 鳥を本来の宿主としており、他の寄生虫と同じく大人しく腹の中にいるのだが、カタツムリには容赦のない寄生虫だ。

 この虫、鳥のフンと一緒に自分の卵を産み落とすのだが、それをカタツムリが食べることがある。そこからカタツムリの体内で卵から孵化して脱皮を繰り返してそのまま成長する。

 

 ここまではふつうの寄生虫だが、カタツムリの中に入ってからコイツはその本性を現す

 

 なんとコイツはカタツムリの体内で成長すると、カタツムリの頭部に移動を開始し、カタツムリの特徴である長い触覚に入り込むのだ。

 カタツムリは、触覚に寄生されたことで視界が遮られ、違和感を感じたカタツムリが触覚を回転させて抵抗する。そしてこのロイコクロリディウムが動くことで、蝶の幼虫である芋虫に見えるせいで、イモムシを好物とする鳥に間違えられて食べられるのだ。

 鳥が食べることでまんまと鳥の体内に侵入したロイコクロリディウムは、その鳥の腸管内で卵を産む。

この卵は鳥のフンと共に排出され、カタツムリがこのフンを食べることで、またロイコクロリディウムはカタツムリの体内で成長し、カタツムリの触角に入り込んでまた鳥に食われる。

 こうして、カタツムリと鳥の間でグルグルと周り続けているのだ。……カタツムリを使い捨ての車にしてな。

 

 とまあ、ロイコクロリディウムの生態は以上なのだが、カタツムリの触覚に寄生している状態がとにかく気持ち悪いのだ。俺もこの画像を夕方の生き物特集で見てしまって気分を悪くしてしまった、しかも食事中に。

 はっきり言う、この寄生虫を検索するな。画像を見るな。もし見て気分を悪くしても俺は一切責任を取らない。

 

 この生物のことをこれ以上思い出したくないのでさっさと終わらせよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやああああああああああ!いや、いや、怖い!怖い!ひゃああああ!」

「うっせえぞアクア!お前も手を動かせ!」

 

 俺は現在ロイコクロリディウムに寄生されたような動物共と戦っている。

 

 矢を放って寄生された動物をヘッドショットでしとめる。脳やら変な液体が飛び散り、目から飛び出した寄生虫がビチビチ蠢いて奇声を上げた。

 

 ま…まじできも!この世界で内臓とかは見慣れたが、この虫の気持ち悪さはそういったレベルではない。もはやリアルバイオハザ○ドだ。

 

「ああああああああぁぁぁ!助けてぇぇえええええ!八幡!いや、カリス様ぁぁぁぁ!」

「ギチギチギチギチ、ケダゲゲケダケダゲケダ」

 

 本来なら、こういう時にツッコミを入れてるカズマだが、そんな余裕も無かった。なにせ今はアイツも目から芋虫が飛び出したような山羊に追われているからだ。

 

「ああわあわあわあわ、わ、わ、、わ、我がば、爆裂魔法にいいいい、け、消し、消し、飛ばして、や、やる!!ひい!今、アレと目が合いました!は、はち、ハチマン、お願いします!」

「・・・俺も後衛なんだけど。今握ってる弓矢見えないの?」

 

 めぐみんに押される形でグロテスクなモンスターの前に出された。

 ていうかダクネスはどうした。こういうのは盾役のダクネスの仕事だろ。汚れ役は全員だからな。

 

「さ・・・さすがにあれは・・・」

「てめえマゾの分際で相手選んでんじゃねえぞ!」

「マゾじゃない!」

 

うそつけ!お前がマゾっていうのはみんな知ってんだぞ!

 あ、さてはオメー、エゴマゾだな。

 

「おいアクア!お前のせいだぞ!お前がこのクエスト簡単ていうから、八幡が変身しなくても勝てるっていうから行ったんだぞ!」

「仕方ないじゃない!だって八幡が変身したくないっていうからこのクエストに変更したんじゃない!」

「あの人は冤罪で追われてるって言ったろ!」

「そんなの堂々としてりゃ晴れるでしょ!!」

「そう簡単にいかねえから八幡は逃げてんだよ!まあ、お前みたいな駄女神には国家のゴタゴタは理解できねえけどな!!」

「あ~~~!言っちゃいけないこと言った!カズマ謝って!ねえ謝って!」

 

 ・・・向こうでは仲間割れしてるし。

 

 しかしアクアのいう通り、このまま変身なしでは勝てそうにない。

 報告ではあのモンスターは10体ほどだと聞いたが明らかにその倍はいる。てかゼロ一個追加するほどいるぞ。

 

「てか依頼を引き受けたのはお前だろ、アクア!」

 

 俺は数分前の出来事を思い出して怒鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、みんな。コレなんて良いんじゃないかしら?ほら、寄生モンスターの討伐だって」

 

 アクアがボードに貼られている、1枚の依頼を指していた。

 依頼内容は死体に寄生するモンスターの討伐。寄生されたモンスターを一匹倒すごとに1万エリス払われるらしい。尚全滅させなくてもいいこと。これはかなり美味しいのでは?

 俺が悩んでいると、カズマがアクアにクエストのモンスターについて質問をした。

 

「アクア、この寄生モンスターってなんだ?」

「言葉通りよ。死体に寄生して脳を侵食して、大型モンスターにわざと食べられて体に侵入する嫌なモンスターよ。寄生するのは基本的にモンスターだけど、死体なら基本的になんでもいいらしいわ。強さは寄生した動物によって変わるけど、普通の動物なら雑魚よ。あいつらトロいらしいから」

「ふ~ん。じゃあ楽そうでいいな」

「でしょ?じゃあコレにしましょうよ!」

「そだな

 

 こうして俺はこのクエストを選んだ。あの時は特に反対する理由もなかったし、むしろ美味しい仕事に思えた。

 ・・・今思えば、あそこで止めるなり他の冒険者に事情を聞くなりすればと、今になって後悔してる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ま、今更後悔しても無駄か」

 

「仕方ない・・・変身」

《チェンジ》

 

 俺はカリスではなく、仮面ライダーギャレンに変身した。

 

《ジェミニ》

 

 ラウズカードの効果でギャレンラウザーを二つにする。

 二つの銃を構えてゾンビの集団に突っ込んだ。

 

『消えろガナード共』

 

 両手の銃を構えて、敵に発砲。全ての銃弾が敵の頭をヘッドショットして中の虫をむき出しの状態にした。

 生理的嫌悪感を催す叫び声。飛び出した虫はビチビチと悶え苦しみながら、怖気がする声を出して絶命した。

 

「ハチマン!カッコイイです!」

「そのまま、どんどんやっちゃってー!」

 

 女子たちは既に戦意喪失して腰を抜かしていながらも、俺を応援していた。ダクネスも平気そうにしていたが、なんか体が震えている。

 おいおい、全部俺任せかよ。まあ気持ちは分かる。俺も嫌だから。

 

「すげえガンカタだ!マジモンの二丁銃だ!」

 

 兎に角、銃を連射しまくる。二丁銃を乱射しまくって、目に映る全てのガナードにヘッドショットを決めてやった。

 だが決して無駄弾は使わない。全ての弾丸を漏らすことなく頭に命中させてやった。

 

「う~・・・」

「あ~・・・」

 

 しかしいくら片付けてもキリがない。次々とガナードもどきが現れて襲ってきた。中にはゴブリンなどの人型モンスターまで混じっていきた。

 しっかし、ここはどこのデンジャラスなバイオだ?う~う~唸る死体はラクーンシティだけで十分なんだよ。こっちの世界に出てくんな!!

 ・・・いや、○ウイルスじゃなくてガナードだからキシュジュ自治区か。

 

 とにかく撃ちながら俺は前に進む。より撃ち安く、より一気に倒しやすい場所を目指して。俺は銃を振り回して周囲の敵を一掃しながら場所取りした。

 

「クシャァァァ!!」

 

 ・・・なんか変異種プラーガ混じってました。

 

 なんだよアイツ!頭ぶっ飛ばしたら触手みたいなもんが出て攻撃してきたぞ!?

 まあ、それぐらいならば簡単によけられるし攻撃されてもライダーの鎧のおかげで大して痛くないが、絵面が非常に気持ち悪い。

 想像してほしい。ロイコクロリディウムをブッ飛ばと思ったら、今度は首から上がムカデやミミズの化物になった図を。

 

《ファイア》《ラビッド》

 

 良い陣地を取ったと同時にアンデッドの力を解放。力は二丁銃に宿り、360°全ての敵に連射。全ての弾丸を余すことなく敵の頭にぶち込んだ。

 半回転した後に反回転。より敵の密集した地点に両手の銃を向けて連射。全ての方角の敵に銃弾を叩きつけ、銃弾が体内に入ったと同時に燃焼させた。

 炎がガナードの頭を燃やし、中の虫を焼き尽くす。これならたとえあの虫が飛び出そうが関係ない。

 

「・・・やべえ。これじゃあ死体数えられねえや」

 

 どうやらあのゾンビはかなり燃えやすいらしい。頭の中の虫を燃やすつもりが、体全体を焼き尽くしてしまった。

 俺はゾンビを全て燃やしたことを後悔しながら、炎の中歩いて帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ~」

 

 変身を解いて一息つく。岩陰に隠れていためぐみんとアクアが合流した。

 

「ハチマン、先程の戦いカッコよかったです!あれはアクシズ教団に入ったからですか!?」

「・・・何の話だ?」

「ハチマンはアクシズ教で選ばれた者のみが使える武術、ガン=カタを習得すると話を聞いたのですが、どうなのですか?」

 

 ・・・ホントに何の話? あの駄女神、一体何を吹き込んだの?

 

「違うからなめぐみん。……おいアクア」

「な・・・何かしら?」

 

 少しおびえた様子のアクアに俺は先が吸盤になった矢を放った。矢はスポンッといい音をしてアクアのでこに刺さる。

 

「いったーーーーい!な……何するのよ、ハチマン!?」

 

 余程痛かったのか、アクアは矢を抜きながら涙目で反論してきた。

 

「アクア、俺はいつからそんな邪教に入ったんだ?」

「じゃ、邪教てなによ!?」

「…質問に答えろ。またやられたいか?」

「…ごめんなさい」

 

 もう一弓矢を構えると、アクアは土下座で謝った。

 やっぱコイツも町の冒険者やカズマ同様、ピンチになるとすぐ手のひら返しだ。お前のそういうとこ愛してるぜアクア。

 

 けど俺をアクシズ教徒呼ばわりしたことは許さん。あの邪教だけは絶対に許さん。マジで。

 もしかしてあの邪教徒がプラーガ撒き散らしたんじゃねえだろうな?・・・いや、いくら同じ邪教同士とはいえそこまで悪い連中じゃ・・・ないと思う。

 

「それで、まだあの寄生虫いるんだけど・・・どうする?」

 

 カズマがそう言うと、全員が嫌そうな顔をした。

 

「・・・自分が取ってきたクエストですけど・・・なんて言うか・・・あんなキモいモンスターをもう見たくないといいますか・・・。てか、戦力になるのがハチマンだけで・・・めぐみんは1発こっきりで、ダクネスはつかえないし・・・。私は杖で殴るとか嫌だし・・・」

 

 この駄女神め。全部俺に押し付ける気か?

 

「…だな。それにクエストじゃ全部を倒す必要もないし。一応報告だけするか」

「流石に私もあれは受け付けられない。さっさと帰って明日に備えるか」

「決まりだな。…そもそもなんでそんなに湧いて出てくるんだ?こんだけ出るんだから何か原因があるだろ」

 

 カズマの言うとおりだ。いくらなんでもギルドから聞いた数とあまりにもかけ離れている。

 何度かギルドの報告とは違う結果になったことはあるが、今回はあまりにも違いすぎる。一体何があったというのだ?

 

「・・・そういやあのモンスターって他の生物に寄生するために死体に宿るっていったよな?ならそのモンスターが偶然来たから集まったっていう可能性は?」

「ありえません。あの寄生モンスターは他のモンスターに死体を食べさせることで寄生するのですが、その主なモンスターがタイラントなんですよ?」

 

 ・・・今度はタイラントかよ。

 でもどっちのタイラントだろうか。怪獣の方か生物兵器の方かで対応変わるぞ。

 もし生物兵器の方なら大問題だ。今度はウェスカーとかGとか出てきそうで怖すぎる。

 

「そのタイラントっていうモンスターはアンデッドでして、とてつもない上質な死のオーラを出しているんです。ですからそんな生物がアクセルの近くに・・・・あ」

 

 あ~どっちだろう。両方とも死のオーラといえばそうだからな。

 ・・・ん?待てよ、さっき死のオーラって言った?それってもしかして・・・。

 

「「「・・・」」」

 

 全員の目がこちらに集中する。その目が言いたいことはすぐにわかった。

 心なしか、距離も若干取られている気がする。いや、気のせいでじゃない。あいつらはジリジリと距離を開けていっている。

 

「ちょ・・・ちょっと?」

 

 

 ザッ

 

 

 一斉に逃げやがった。

 

「ちょ・・・待てよ!」

 

 カズマたちを追いかけようとすると、突如プラーガたちが俺たちに・・・いや、俺めがけて襲いかかってきた。カズマたちには見向きもせず、カズマたちの方が近いのに。何故か奴らは俺だけを見ていた。

 

「や…やっぱりハチマンが目当てじゃない!」

「わ…悪いハチマン!いつもなら代わってくれと懇願するのだが相手が相手だ。今回はお前が相手をしてくれ!」

「このモンスターを一番倒したのはお前だハチマン。報酬は全部お前のもの。つまりこれはお前の仕事だ」

 

 そう言ってアクアたちは俺を置いて逃げていった。誰よりもあのモンスターを駆逐したこの俺を差し置いて。何もしてないはずのあいつらが逃げやがった。

 

「ふ・・・ふじゃけるな!俺は養う立場じゃなくて養われる立場にいたいんだ!!」

 

 再びギャレンに変身してガナードたちを駆逐した。




ロイコクロリディウムなんてグロイものを出してしまったのは私の責任だ。だが私は謝らない。


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八幡抜けるってよ

更新遅れて申し訳ございません!


「・・・」

「「「申し訳ございませんでしたハチマン様!」」」

 

 俺の眼前には土下座して報酬を乞う恥知らず共がいる。…さて、どうやってこいつらを料理するべきか…。本当に悩む。

 

「邪魔だ。除け」

 

 まずはクエストの終了をルナさんに知らせることだ。コイツらの処分はそのあとでいい。

 俺は道を塞ぐ邪魔な石ころを蹴り飛ばし、無理やり道を作った。あと、何か物欲しそうな目で見る石ころが一つだけあるが無視だ。

 

「ルナさん。報酬を受け取りに来ました。俺だけの報酬を」

「は…はあ。では報告通りの報酬をお支払い致します。…ただ、今回は上限値を超えてますので後の報酬は・・・」

「大丈夫だ。どうせ受け取るのは俺だけなんだし」

 

 俺だけを強調して報酬の話をする。すると、金と酒に飢えた亡者二匹が俺の足に引っ付いてきやがった。

 

「ちょっと待ってくらさい!そらないれしょ!?」

「そーよ!あれは私が受けた依頼よ!なのに俺だけってなによ!?」

 

 ・・・この亡者ども、本気で言っているのか? もし本気ならばこの足で蹴り飛ばさなくてはならない。

 というかいいよね?俺こいつら蹴り飛ばしていいよね?

 

「…逃げたくせに。頑張ってる俺を見捨てて逃げたくせに」

「「申し訳ございません!!」」

 

 ひたすら土下座して許しを乞うアクアとカズマ。

 クソが!コイツらすぐに手のひら返しやがって!俺は前々からお前たちのそういうとこが嫌いなんだよクソが!

 

「…皆様、この依頼はハチマンさんが行ったものです。手柄の横取りは冒険者として恥ずべき行為ですよ?」

 

 ルナさんはカズマたちをゴミでも見るかのような冷たい目で見下しながら、拒絶の意を示した。

 おお、さすがルナさん! やっぱりあんたは外側も中身も大人の女だ。

 

「では報酬をお支払いします。ハチマンさんだけに」

 

 だけにを強調して報酬の一部を払ってくれた。

 

「大金ですから全額お渡しすることは出来ません。ですので後ほどお支払いします。・・・くれぐれも無茶をしないように」

 

 最後に金だけ受け取って、俺はギルドから出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や・・・やばいわ!このままじゃハチマン出て行っちゃう!」

 

 ハチマンがギルドから出て行ったあと、アクアはご覧のとおりめっちゃ焦っている。

 八幡は俺たちのせいでご立腹だ。俺だって同じ立場ならアクアをボロクソに罵って泣かしてるし、俺をぶん殴る。むしろそうしないあの人の方が大人だ。

 

「まあ待てよアクア。あいつはたしかに繊細で傷つきやすいとこあるけど、けっこう寛大だぜ。少し間を置いてもう一回謝りに行こうぜ」

「そ・・・そうだけど・・・」

「いや、あの人は本気で嫌う相手には一切口をきかない。だからすぐ許してくれるって」

 

 前回酒場で過去について語り合ったとき、俺はあの人の隠された人間性に触れた気がした。

 まあ、あれだけであの人の全てをわかりきったつもりはしないが、それでもこれだけは分かる。あの人は俺なんかよりもよっぽどできた人だってことは。

 

「だから今日はとりあえず待とうな」

「う…う~ん・・・。ニートのカズマに言われるんは癪だけどそうね。あいつの経歴みたら許してくれそうだし!」

「・・・ニートはやめて」



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洞窟探索

しばらく更新止めて申し訳ございませんでした!


「…ここが新しいダンジョンか」

 

 森の中にひっそりと空いた洞穴の前、そこで俺は愛用のバイクを止めて穴の中を覗いた。

 

 今回の依頼はダンジョンの探索。なんでもここはアンデッドや悪魔がうじゃうじゃいるらしく、高レベルのアークプリーストや聖騎士でもない限り探索は難しいらしい。

 そこで指名されたのが俺。どうやらアンデッドマスターの称号は悪魔にも通じるらしく、レベルの低い悪魔は逃げてしまい。同レベルでもけん制することが出来る。・・・なんか最近ルナさん俺によく仕事指名するね。俺のこと好きなの?

 ・・・いや、それはないか。そうやって少しのことで勘違いして自爆するのはもうたくさんだ。

 

 アクアも一応アークプリーストではあるが戦闘力はクソだ。ステータスが高いだけではクエストを成功させることはできない。

 ソースは俺。スペックではカリスが勝っているのに技術や経験の差でボコられたことがあった。無論リベンジしてぶっ飛ばしたが、それでもあれは苦い経験として今でも残っている。

 

「・・・じゃ、行くか」

《インビジブル》

 

 封印したアンデッドではなく、封印したこの世界の悪魔の力を借りて姿を消す。

 この悪魔の力は姿を隠すだけで気配そのものは消えない。だからそこはステルスヒッキーと足音を消すなどの配慮がいる。

 

 俺は気配を悟られないように気を付けながら洞穴の中に入った。

 洞穴の中は至って普通だった。入りたてのせいかモンスターなど一匹も存在せず、ただまっすぐ道が続いているだけ。

 

 ・・・いや、至って普通というのはおかしい。訂正しよう。やはりこの洞穴はおかしい。

 普通ならば蝙蝠ぐらいいてもおかしくないのだが、この洞穴には虫すらいない。これはおかしい。どういうことだ?

 

 俺は警戒しながら前に進む。大体1分ほどだろうか。俺は開けた場所にたどり着いた。

 だが動物の気配はしない。何も聞こえない無音の空間。暗闇と静寂が支配する、寂しい場所だった。

 

 何も見えない、何も感じない。それは人に恐怖を与える絶好の場所でもある。

 俺自身静かなところは好きだが、真の無音の空間には恐怖を抱く。人間とはそういうものなのだ。といっても俺にとっては少し不気味に感じる程度なのだが。・・・本当に強がってるわけじゃないよ?

 

「(…って、俺は誰に言い訳してるのか)」

《スコープ》

 

 ダイヤのカテゴリー8、バッドアンデッドの力で周囲を探索する。すると、ここから南西20㎞離れた先にアンデッドや悪魔の気配があったのを感知した。

 さすがに姿形までは分からないが、いると分かっただけで十分だ。けどもっと情報がほしいのでフォーカスしてみる。すると、人間の存在を2つ感知してしまった。

 

「…まずい!」

《チェンジ》

 

 流石に見過ごすわけにはいかないので変身しながら気配に向かって走った。

 変身したライダーはブレイド。カリスには敏捷性で劣るが、加速力ではこちらが上だ。俺はブレイドのマッハの力で一気に加速した。

 

 数秒もかからずに目的地が見えた。どうやら気配の元は冒険者、しかも一人は二人とも女子らしい。一人は胸元を強調している服、もう一人は露出がかなり多い。なんでこの世界の奴らってこうもエロ衣装が好きなんだ?

 

『ウェイ!』

 

 気配のもとにたどり着くと同時に、一番近くにいた悪魔に体当たり。加速の十分ついた俺の体当たりは悪魔を吹っ飛ばし、石の壁に激突させて絶命させた。

 

「しゃあああああ!!」

 

 俺の存在に気付いたアンデッドや悪魔たちが俺に襲い掛かる。

 俺に怯むどころか、異常な敵意を見せている。どうやらコイツらは俺よりもレベルが上らしい。・・・いや、決めつけはよくないか。

 

《チェンジ》

 

 俺はレンゲルに変身。専用の武器である醒杖レンゲルラウザーを構えて敵の襲撃に備えた。

 スピードではブレイドやカリスに劣るが、パワーでは圧倒的に優位。ただ、原作よりもワンランクダウンされているせいで最強のライダーではなくなってしまったが、それでも使いどころを間違わなかったら心強いフォームだ。

 

『フン!』

 

 錫杖を振り回して敵を一掃する。パワーの乗った杖の刃は敵を切り裂き、石突は敵の頭部を粉砕した。

 この程度で俺の攻撃は止まらない。刃で敵を切り裂けば今度は石突きで敵を吹っ飛ばす。刺突を繰り出し、次に襲い掛かる敵は石突で薙ぎ払う。後ろから襲い掛かった敵は振り返りざまに石突で頭を勝ち割ってやった。そして懐に潜りこみ、噛みつこうとした敵は至近距離で串刺しにしてやった。

 

「ぐ・・・ぐう・・・」

 

 悪魔の死体を放り投げ、次の敵に目を向ける。先ほどの戦闘を見て戦意がなえてしまったのか、だれも俺に襲い掛かろうとはしなかった。

 このまま逃がしてもいいがせっかくだ。敗者にはふさわしいエンディングを見せてやる。

 

《ブリザード》《トルネード》

『フン!』

 

 アンデッドの力を解放させ、杖を振って氷の風を起こす。それは吹雪となって悪魔とアンデッド達に襲い掛かり、数秒ほどで氷の像へと変えた。

 復活することはないと思うが念のため氷をたたき割る。

 

『…大丈夫か?』

「・・・へ?…あ! あ…ありがとう・・・ございます」

 

 突然声をかけられて焦っているのか、女性冒険者は戸惑いながら返事をした。

 おかしいな。今は仮面ライダーに変身してるから俺の目は見えないはずなのに、なんでこんなにおびえられてるのだろうか。

 

「た・・・助けてくれてありがとうございます・・・。そ…それで…。あ、あなたは・・・?」

『…俺はレンゲル。森の中に突如ダンジョンができたということでこうして調査に来た』

「だ・・ダンジョン!? 洞穴じゃないんですか!? あ、でも確かに遺跡っぽいし・・・」

 

 少女は慌てながら自分の世界にトリップしてしまった。

 この様子だと、どうやら彼女はここがダンジョンだと気付かず、ただの洞穴だと思って入ってしまったらしい。

 

 次に露出の多い少女に目を向ける。本当に露出が多いな。サラシみたいな布で胸を覆い、脚をほぼ出しているホットパンツ。正直誘っているようにしか見えない。・・・いや、そんなのは今更か。

 少女は呆けた顔で俺を見ており、なぜかフリーズしていた。

 

「あ~~~!貴方仮面ライダーですね!」

『!!?』

 

 仮面ライダー。その名を呼ばれて俺はとっさに離れて警戒した。

 カリスなり本名なり名乗ったことはあるが、今まで仮面ライダーという名前を出したことは一度もなかったはず。もしかして無意識に名乗ったことがあるのか?いや、それもないとは思うが…。

 

「あ・・・あの! 私ずっと貴方のファンだったんです!サインください!」

『...は?』

「サインですよサイン!この紙に貴方のサイン書いてください!」

 

 ポーチから一枚の紙とペンを出して俺に差し出す少女。

 え?なんで俺のサインなの?すんげー怪しいんですけど。まさか俺の筆跡とって捜査するつもり?

 

『…一回認めるとほかにもしなくちゃいけない。だからダメだ』

「・・・そうですか。残念です」

 

 とりあえずそれっぽいこと言って誤魔化す。よかった、納得してくれたようだ。

 

「「…ねえ、レンゲルさん、今回のクエストに・・・私たちも入れてほしいのだけど」

「ご、ご迷惑で無ければ一緒に行きたいです」

『・・・何を言っている?』

 

 いきなり何を言ってるのでしょうかこの二人は。いくら助けてくれたといっても、俺は邪悪なオーラを出してるんだよ。吐き気催すほどだよ?怖くないの?・・・自分で言ってなんか泣きたくなった。

 

「だって今回の仕事、かなりおいしそうなにおいがするのよ。でしょゆんゆん?」

「う…うん。たしかにダンジョンの調査はお金も多いし、もしかしたらお宝も見つかるかも・・・」

「ということで分け前がほしいの。・・・この間アクアさんやカズマにお金貸して貯金がないのよ」

『・・・』

 

 突然うちのパーティメンバーの名前が出て俺は焦ってしまった。

 すいません!うちのパーティメンバーがよそ様にご迷惑かけて!本当にごめん!

 

『・・・分け前は仕事の貢献度に釣り合う額だけだ』

「「よっしゃー!」」

 

 二人はガッツポーズして喜んだ。

 

「じゃ…じゃあ先に…し、自己紹介ですよね!…でも……あれやりたくないな……。でも……!」

 

 胸元の露出が大きい少女は立ち上がり、心呼吸をした。

 自己紹介って、そんなに意気込むもんなのか? いや、俺も自己紹介の度に意気込でるわ。そして、噛んで失敗してるわ。

 

「ふぅ……。我が名は、ゆんゆん!アークウィザードとして、上級魔法を操る者!やがては、紅魔族に長となる者!」

 

 少女ゆんゆんは独特なポーズ、というかめっちゃ見覚えのある振り付けを取りながら自己紹介をした。

 あー…。完全にウチのポンコツ爆裂魔法娘の知り合い、もしくは同類だな。

 数秒ほど、微妙な空気が流れる。

 

「だ、だから、この自己紹介は、いやだったんですよー!」

「だ、大丈夫だよ!ちょっと、驚いただけだから。ねっ!レンゲルさん!」

『…あぁ。てか、ウチにも似たような奴いるからな。大丈夫だ』

「うっ…、ありがとうございます。」

 

 なんとも言えない空気になってしまった。

 だが、やっぱり紅魔族の名前って、あんな感じなんだな。

 ついでに、自己紹介も…。

 

「えっと…あたしの名前はクリスだよ。見ての通り、職業は盗賊だよ。よろしくね!ほら、次。」

『俺の名前は、ハチマン。レンゲルはこの鎧の名前だ』

「そんじゃ自己紹介も終わったし、行こう!」

「おぉー」

 

 こうして、俺達の仮パーティに新たな2人が加わった。



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22話

『でやあ!』

「はあ!」

「おりゃ!」

 

 レンゲルが槍を振るい、クリスがダガーなどを投擲、ゆんゆんが魔法を放つ。それで周囲の悪魔やアンデッドは次々と倒れていった。

 3人の息は驚くほど合っていた。レンゲルが戦ってゆんゆんとクリスが支援する。理想的な組み合わせだ。

 

『…意外とやるな』

「お褒めにあずかり光栄です!」

「そりゃあ冒険者稼業長いからね。いくらレンゲルさんでも、まだ新入りには負けないよ!」

 

 口を動かしながらレンゲルを支援する二人。クリスは盗賊スキルで敵を阻害、ゆんゆんは攻撃魔法で援護、そしてレンゲルが全てを薙ぎ払った。

 しかし数が多い。このままでは埒が明かないと判断したレンゲルは二人に敵を一か所に集めるよう指示した。

 

《スクリュー》《ファイアー》

『フン!』

 

 再びレンゲルがアンデッドの力を解放して放つ。炎の竜巻となったその功攻撃は一か所に集まった敵を全て焼き尽くした。

 

『…こんなところか。二人のおかげで助かった』

「い…いえいえ。ほとんどハチマンさんが頑張ってますし…」

「僕もまさかここまでレンゲルさんが強いとは思わなかったよ。まさにチートだね」

 

 レンゲルは二人の返事を謙遜だと思ったが、本人たちにその気はない。本心で言ったことだ。

 レンゲルの戦闘力は駆け出しの冒険者にしてはあまりにも高い。無論チートを使っているおかげでもあるが、それを差し引いても強いことに変わりなかった。

 

『しかしここはなんだ?洞穴を抜けたかと思いきやまったく別の場所になっているぞ』

 

 レンゲルが天井を見上げる。そこは洞穴らしく土と岩から出来た自然の天井・・・ではなかった。

 そこにあったのは石畳のように整理された立派な天井だった。自然の状態ならばまずこうはならない。人が手を入れたのはまず間違いない。

 天井だけではない。床も手入れされており、扉や柱といった人工物もちらほらとある。燭台やランプなどにも火が灯されているおかげで道は明るい。

 この中はもう洞穴などではなく、完全に人工物の迷宮だ。

 

 そして今彼らがいるのはそんな迷宮の一室。こうして一つ一つ調べることでマッピングしながら調査をしているのだ。

 ちなみにマッピングしたり罠がないか調べるのはクリスの役目である。彼女のジョブは盗賊なので、こういった仕事は彼女に任せているのだ。

 

「いったいこのダンジョンはどうなってるのよ?人工物があるのは兎も角、明かりまで用意してくれるなんて親切すぎない。…あ、お宝見っけ」

「そうですね。建物の質もかなり良いですし、老朽化も見られません。おそらく専門の魔法がかかっているのかと。…あ、こっちにもありました」

『…にしても、ずいぶん無防備に宝が置いてあるな。普通こういったとこに罠が仕組まれているのではないのか?』

「そうだね。だけどここは違うみたい」

 

 宝を漁りながら会話する三人。宝といっても大したものはない。せいぜい薬草や保存食であり、貴金属や宝石などはあまり見当たらななかった。

 しかしそれでも大量の宝を手に入れたことに変わりない。いくら少し安いからと言って、ここまで安全かつ大量に宝が手に入ることなど普通はないのだ。

 

 明らかにおかしいダンジョン。出現するモンスターは悪魔やアンデッドばかりで宝も多い。三人は少し不気味に思いながらも探索をつづけた。

 

『…おしゃべりは終わりだ。そろそろ本拠地にたどり着くぞ』

 

 探索が一区切り終えた処でレンゲルが槍で扉を差す。

 その扉は他の扉と比べて異様に大きかった。悪魔と天使が戦っているような絵図が刻まれ、取っ手には禍々しい金細工が施されている。

 

「…どうする?」

 

 正直、開けたくないというのが全員の感想だ。

 既に扉の向こう以外の調査は終えており、十分な成果を残している。基本的な探索は終えているので、本格的な探索は次のパーティに回す方がいいのだ。

 

「なんかいかにも何かありますっていう扉だよね。こういった扉はボスを倒すまでは出られないといった仕組みが多いから…」

『だな。では帰るか』

「そうですね。十分収穫はありましたし」

 

 三人は帰ろうと足を翻す。その時だった。扉が突然開いたのは。

 

 

「おいてけーーーー!女をおいてけーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 突如扉が開き、中から猿のような悪魔が現れた。



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23話

「げへへへ…。おっぱいの大きい美少女にエロい尻の美少女・・・。げへへっ」

「「・・・・・・・・・・うわぁ」」

 

 ゆんゆんとクリスは突然現れた悪魔にドン引きした。

 女性の体を嘗め回すような視線。ゆんゆんの露出された胸元を、クリスの臍と足をジロジロと眺めて息を荒くしている。

 その悪魔は猿のような悪魔だった。両手には血塗られた大剣を携え、鉄の鎧を身に着け、背中には4対の翼が生えていた。

 

「さ・・・最悪。まさかこんなとこで変態モンキーにエンカウントするなんて思わなかった。

『…ずいぶん率直な名前だな』

「名前通り変態なのよ!女を見つけたら見境なく攫う、交尾しか頭にない性欲の塊!けどそのくせ強いの!!」

『ふーん。そんなエロゲみたいなキャラ、この世界にもいるんだ』

 

 レンゲルにとっては関係なかった。

 

『…こいつらは俺の連れだ。おとなしく帰ってくれないか?』

「男、いらない。お前帰れ」

 

 猿の悪魔は下卑た笑みを浮かべ、レンゲルを無視する。ただ色欲に塗れた目で二人を見ていた。

 

 フラスは慌てながら三人を止めようとするも、構わずにその場から去ろうとした。

 それを見過ごせないフラスは扉を念力のような力で閉じる。だがレンゲルが蹴りで無理やり開けた。

 

『…そうか。帰るぞお前ら』

「「・・・は~い」」

「ま・・・待ちやがれ!」

 

 二人は猿の悪魔を無視してレンゲルと一緒に出ていこうとする。それを見過ごせない猿の悪魔は扉を念力のような力で閉じる。

 

「お前のメスよこせ!ここに来るまで宝取ってきたんだろうが!!だから寄こせ!!」

「宝ってあの安物のことですか? あれでアークデーモンと戦えって・・・少し安すぎない?」

「そうだよね~。あんなくそ安い宝で何か要求するとか、やっぱり悪魔ってケチだよね」

「や…安い!!? ケチ!!?」

 

 二人の言葉に猿の悪魔の心は傷つくも、彼女たちの言うことはもっともだ。

 たかが安物の薬草や宝で身体を買おうとする魂胆。女性を舐めているとしか思えない発言。そして女性を性欲のはけ口にしか見ない眼。キレるのには十分すぎる材料だ。

 今すぐぶん殴ってやりたいが、相手は大悪魔。彼女たちは怒りを抑えて無駄な戦いを回避しようとした。

 

『そういうことで俺らは帰らせてもらう』

「フジャケルナ!お前からメス奪う!」

 

 猿の悪魔は剣を振るいながらオンドゥルって剣を振るう。剛腕によって振られた剣からカマイタチが起こり、斬撃となって三人に襲ってきた。

 

『フン!』

 

 レンゲルも槍を振るう。すると槍から冷気の斬撃となってカマイタチを切り裂き、猿の悪魔に牙をむく。しかし、猿の悪魔は大剣で斬撃波を防いだ。

 

 

 

「・・・お前邪魔する。お前嫌い。・・・殺す」

『…無視だ。帰るぞお前・・・手下がいんのかよ』

「「・・・ええ!?」」

 

 槍を肩に担いで逃げようとするレンゲル。しかしシャッターを蹴り飛ばすと、既に手下らしき猿の悪魔の群れが接近する気配を感じ取った。

 出口を抑えられた以上逃げることは出来ない。袋の中の鼠だ。

 

「ゲヘへへ。その通り。全員女に飢えたケダモノだ。わかったら女おいてくんだな」

「「そ・・・そんな・・・」」

『・・・最悪だな』

 

 手下が来る。しかも全員こんな猿以下のケダモノだと知ってゆんゆんもクリスも怯えてしまった。

 いくら冒険者とはいえ彼女たちは女の子。やはりモンスターに犯されるという薄い本のような事だけはなんとしても避けたいに決まっている。・・・例外はいるのだが。

 

「ど…どどど!どうしよう!!このままじゃわ・・・私たちレ○プされちゃう!!」

『…安心しろ。俺がいる限り君たちに手出しはさせない』

「え?それってどういう・・・」

《ロック》

 

 ゆんゆんの返事を聞く前に、二人を岩の城壁で隠す。今はもう時間がない。ゆっくり話す暇などないのだ。

 そうこうしているうちに猿たちが近づいてきた。猿共は皆性欲に飢えた目を向けており、一斉に彼女たちが籠っている岩の城壁に襲い掛かる。

 

『さて、猿狩りだ!』

 

 レンゲルは槍を振り回しながら構えた。

 

『でやあ!』

「「「うっきい!!?」」」

 

 レンゲルラウザーを振う。ゆんゆんたちに群がろとする猿共を纏めて切り裂いた。

 槍を回して持ち替え、返しの刃で敵を再び切り裂く。一秒もかけることなく最前列の敵を死体に変えた。

 

『たあ!』

「きい!?」

 

 第二陣の先頭をきる敵をカードスラッシュ部分になっている石突で突き飛ばす。続けて槍を振るって右前側にいた敵を全てなぎ払い、再びなぎ払うことで第二陣を全滅させた。

 

『らあ!』

 

 槍を剣のように持ち替え、猿の集団たちに飛びかかる。身の丈を超えるその槍は猿たちを巻き込み、一気に数十体も薙ぎ払った。

 

『この子達に、近づくなあぁぁぁ!!』

 

 足元に転がった猿悪魔の死体を猿の大将めがけて蹴り飛ばす。しかし猿の大将は大剣で死体を切り裂いて防いだ。

 無論それだけでは終わらない。レンゲルを槍を構えて猿の大将に飛びかかり、銛突きのように槍を振り下ろした。

 

「ぐあッ!!」

 

 猿の大将は咄嗟に大剣を盾にして攻撃を防ぐ。しかしその衝撃までは相殺しきれず、壁側まで吹っ飛ばされた。

 壁に背中が激突し、衝撃で肺から空気が吐き出される。

 

『でや…チッ、邪魔するな!』

 

 倒れているボス猿にトドメをさそうとした瞬間、取り巻きの猿たちがレンゲルに襲い掛かる。

 彼は槍を一振りすることで、飛びかかってきた猿を片付けた。

 

『スタブ』『ラッシュ』

『オラァ!』

 

 槍を構えて投げる。ラウズカードによって強化されて放たれた槍は、まるで猿たちの体を紙のように貫いた。

 最後の獲物を3体同時に串刺しにしたとこで、レンゲルは予めラウザーに絡めておいた蜘蛛の糸を引っ張って槍を手元に呼び寄せた。

 

「か…固まるな!散らばれ!!」

 

 レンゲルの投擲を警戒して、全員が同時に全方向から飛びかかる。

 後先考えない無謀な突撃。これで何匹からは必ず死ぬだろうし、ほとんどがレンゲルに当たりすらしないだろう。

 しかし逃げ場がないのは事実だ。猿たちは隙間を全て埋め尽くし、レンゲルに襲い掛かる。

 戦いでは色々と考えて戦える常識的な相手より、こういった癇癪染みた攻撃をする相手が厄介なのかもしれない。

 

 まあ、結果は全員死ぬことになるのだが。相手が悪かったとあきらめてくれ。

 

《ポイズン》《スクリュー》

 

 ラウズカードをスラッシュしてその力を解放。毒の風をばら撒いて猿たちを毒殺した。

 続けて猿共に飛びかかろうとした瞬間・・・

 

『…な!?』

 

 突然床が壊れ、レンゲルは穴に落ちてしまった。



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24話

「す・・・すごいです!レンゲルさん強すぎです!!」

「うん、わかったから押すのやめて。・・・その脂肪の塊引きちぎるよ」

 

 岩の城壁の中、ゆんゆんはクリスの盗賊スキル、盗撮で映し出されたレンゲルの戦闘シーンを見て興奮した。

 レンゲルの戦闘力は凄まじかった。猿の大群を槍でなぎ払い、大将の攻撃を受け流しては反撃、時々襲う取り巻きたちの攻撃を避けながら戦っていた。

 

 あの猿のような悪はよく女を攫う性欲の塊ではあるが、その裏腹に上級モンスターに匹敵する格闘能力を誇る。全員猿のくせに体術のスキルを習得し、武器も使えるのだ。

 特に一番大きなボス猿は一体討伐するのに熟練の冒険者1チームで向かわなければ戦闘が成立するらしない。それほどこのエロ猿共は強いのだ。

 しかしレンゲルはそれをボス猿だけではなく、周囲の取り巻きで相手にしていた。彼は苦戦することなく、曲芸のように槍を操って倒していった。

 

 その戦う様子はまさに絵本から飛び出た勇者。闇の鎧と槍を手に持ち、下劣な敵を打ち払う巨悪。闇と死の力を纏う英雄に二人はすでに釘づけとなった。

 

「…お前強い。けど女欲しい。だから頑張って殺す」

『…やれやれ。いくら女好きの猿でも平和的に解決したいんだがな』

 

 レンゲルはため息をつきながら周囲の猿に目線をやる。全員怯えてはいるが、ゆんゆん達を諦めるつもりはないらしい。爪を立て、牙を向いてレンゲルに敵意を顕にしていた。

 

「な…なめんなアンデッド!」

「女を独り占めするな!!」

「モテる雄は死ね!!」

 

 猿の悪魔たちはレンゲルの強さを見て恐れるも、勢いと癇癪のようなもので誤魔化して威嚇する。

 

「・・・うっわ~。なんですアレ? 自分の変態性を棚に上げて、一方的にモテる男が悪いって決めつけるとか…。最低ね」

「本当よ。女の人のことを考えず、性欲だけで行動するからモテないのよ。それでカリス様を馬鹿にするとか、本当に知能が低いわね」

「・・・カリス様?」

 

 クリスの言葉に戸惑いつつも、二人は変態モンキーへの陰口を続ける。

 自分はモテるための努力をしないくせに、女の体だけ見て中身を見ないくせに、自分たちよりもモテる存在を妬み、自分たちがモテないのは全てモテるオスのせいにする。そんな下劣な生物に悪感情を抱かない女性などいるのであろうか。

 そうこうしているうちに、次の戦いが始まった。

 

『その壁はかなり固いぜ。俺を殺さない限り、壊すのは不可能だ』

「・・・じゃあお前殺せば俺たちの勝ち。なら殺す!」

 

 猿の大将が大剣を構えて切りかかる。それに続いて子分たちも武器を取って襲い掛かった。

 レンゲルはその槍で、そして道中見せた魔法ともスキルとも違う特殊な力で次々と猿たちを倒していった。

 

「す・・・すごい!!なにあれ!?あれってどうやってるの!!?もしかして、あれが町で噂になっていたブレイドの力、封印した闇の力なの!?」

「お、落ち着いてゆんゆん。やっぱり貴女も紅魔族なのね………」

 

 アンデッドの力に興奮するゆんゆんを落ち着かせるクリス。少しほかの紅魔族とは違っても、やはり彼女も紅魔には変わりないのだ。どこかで似たような感性を持つのは当然と言えよう。

 

 しかしその時だった。レンゲルが突如できた穴に落ちてしまったのは。

 

「「は…ハチマンさぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあん!!!!」

 

「や・・・やったど!あのむかつくオスを殺したぞ!」

 

ボス猿は喜んだ。やっと、やっと倒した。これであのメスたちも俺たちのものに………

 

『…何の話だ?』

 

 そう思った瞬間、突き落としたはずのレンゲルが天井から飛び降りた。

 

「な…なんで!!?」

『お前たちの考えそうなことなんて大体分かる。それにここはお前たちのテリトリーだ。地の利もあるし、当然罠も警戒する。・・・当たり前のことだろ』

 

 レンゲルは穂先から毒の飛沫をぶっかけながら答えた。

 

「ぎゃああああああああああ!!?」

 

 ボス猿が苦しんでいる間に接近。槍を振り上げて連打した後、石付きでぶっ飛ばす。するとビリヤードのようにほかの集団を巻き込み、大将と子分共々ダメージを与えた。

 

「な…なんでだ!? なんでアイツがいる!?だってあいつ落ちたんじゃ……!!?」

 

 ぶっ飛ばされながら天井を眺めるボス猿。そのとき、彼の目にはあるものが映った。

 それは糸だった。ワイヤーのような糸が天井からぶら下がっているのが見えた。そして、それが子分を縛り上げているのも。

 

「お…お前!戦いながら糸を仕掛けたな!」

『あん? やっと気づいたか』

 

 そう、八幡はこの部屋に入った時から準備をしていたのだ。

 カテゴリーAの蜘蛛を放ち、蜘蛛の糸を張り巡らせる。自分が派手に立ち回ることで目を自身に向け、その隙に子分のサルたちもこっそりと縛り上げていたのだ。

 更に縛った糸で巣を作る。敵のテリトリーを乗っ取って自分に都合が良いフィールドへ変える準備をしていたのだ。

 

 

 当たり前だが、八幡の戦闘パターンとモデルになったライダーの戦闘パターンには大きな違いがある。

 例えばブレイドの場合、剣崎と違って八幡はスピードを活かしてのフェンシングをする。ギャレンの場合はインファイトを好む橘とは違って射撃をメインにした戦闘を行う。レンゲルではこのように蜘蛛と杖術を操って戦ってきた。

 そして、そこに八幡がライダーの力を使う所以が存在する。

 

『はあ!』

「ぎゃあ! 何故俺の弱点が!?」

 

 日々リア充共の粗探しをすることで培った観察眼。これで敵の弱点を見抜く。

 

『っと』

「な…何故俺のフェイントに気付いた!?」

 

 地雷を極度に恐れることで身についた危険察知能力。これで危険から逃れる。

 

『ったあ!』

「こ……このタイミングで突っ込んだ!?」

 

 自暴自棄に慣れることで身に着けた諦めの良さ。これで時に勇敢に行動できる!

 

 

 これら全ては確かにマイナスイメージであり。通常ならば良い方向に働くはずがない。

 しかしタイミングを誤ることがなければ、使いこなせば欠点も時に武器となるのだ!

 

「ぐ……うう……」

 

 ボロボロになったボス猿。既に彼は八幡との戦闘で戦える状態ではなかった。

 目だけを動かして逃げ道を探す。しかし視界には既に蜘蛛の巣が囲んであり、逃げ道など存在しなかった。

 そう、攻撃している間にも蜘蛛を操作して逃げ道を塞いでいたのだ。

 そこはまさしく檻の中。レンゲルと対峙した瞬間からこの猿が檻に入れられることは決まっていたのだ。

 

『さて、これでお前は逃げれないし助けも呼べない。

 あまり柄じゃないんだが……正々堂々と雌雄を決しようじゃないか。リングの中でな』

 

 蜘蛛の巣で出来たリングに上がるレンゲル。悠々と、余裕そうに。

 

「ふ……ふざけるなァァァァァァァ!!」

 

 それがボス猿の逆鱗に触れた。

 レンゲルに飛びかかるボス猿。彼は怒りに身を任せて感情的に殴り掛かる。……こうするように誘導されてしまったと知らずに。

 

『オラオラオラオラオラ…オラァ!!』

「ぐ……グハァ……」

 

 向かってきたボス猿に槍を振う。

 レンゲルラウザーでのラッシュ。それらは全てボス猿へと直撃し、確実にダメージを蓄積させ、膝をつかせた。

 その隙に腰のデッキからカードを二枚引き抜き、ラウザーにスラッシュ。その力を解放させる。

 

《ブリザード》《ヴァイト》

「ぎゃああああああああああああああああ!!!」

 

 レンゲルが飛び上がって冷気を纏った挟み蹴り―――ブリザードクラッシュを放つ。

 必殺技はボス猿を氷漬けにして破壊。粉々のシャーベットと化した。



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25話

 仕事を終えた俺たちは報告するためにギルドに向かった。

 ゆんゆんとエリス……じゃなかったクリスは用事があるようなので一時的に解散。後に報酬を分け合うことになっている。

 こういうのは持ち逃げを阻止するため一緒に来るか担保を確保するために何か預かるかをするべきなのだが、あの人たちは俺を信用してくれた。……ホンマに二人ともエエ子や。

 小学生の時、俺が集金したわけでもないのに遠足のおこずかいがなくなったのを俺のせいにされ、中学で物がなくなったときはとりあえず『ヒキガエルが盗んだんじゃないの?』と言われて笑われ……黒歴史を振り返るのはやめよう。鬱になる。

 とまあ、こんなことが日常茶飯事の前世から抜け出し、ゆんゆんやクリスのようないい子たちに巡り合えたのだ。もうこれだけで告っちゃいそうだ。そしたら即刻振られて二度と会えなくなるからやらないけど。

 

「たで~ま~」

「は……ハチマンしゃま~~~!!」

 

 ギルドの入り口に足を踏み入れた時だった。青い何かが俺に跳んで来たのは。

 

「よかっだ~! ホンドによがった~! もしハチマン様に抜けられたらどうしようかとマジで心配だったんだから!

 パーティの男があんな童貞ニートだけとかマジで危険よ! ハチマン様がいなかったらいつ襲われるか分かったものじゃないわ!」

 

 涙と鼻水を流しながら俺に泣きつくアクア。

 

 ……いきなり何だ? コイツは何を言っている?

 アイツはリスク計算ぐらいは出来るはずだ。いくらエロくてもそこだけは信用してやれよ。同じパーティだろ。

 というか、抜けるってなんのことだ?

 

「お前あんなの冗談に決まってるだろ。何本気にしてんだ?」

 

 俺は一度も抜けると言った覚えはないのだが……。

 

「本当ですか!?」

「当たり前だ」

「また後でなしとかなしだからな!」

「わかったわかった」

 

 詰め寄るめぐみんとダクネスをあしらってルナさんのとこに向かう。

 まったく、なんで俺が抜けるって話になってるんだ?もしかしてそんなに俺に抜けてほしいとか……。

 

「なあ、俺が抜けたら……「「「絶対ダメ!」」」……そ……そうか………」

 

 血気迫る勢いに気圧される俺。あれは演技ではない。俺の危機察知センサーもそう言ってる。むしろ別の意味で危機だと言ってるほどだ。

 

「(……俺は、必要とされているのか?)」

 

 結局、俺はあの場所でも必要とされなかった。

 本気で信じられると思った。俺が欲しかったものが、自分でも分からなかったものが手に入ると。……けどそれは俺の思い過ごしだった。

 言い訳をするつもりはない。むしろ裏切ったのは俺の方だ。だから自業自得と言えばそうなのだろう。

 けど、それでも求めてしまう。もう一度あの場所で……。

 

 

 けど、もう二度と手に入らない。

 

 

 もし俺が魔王を倒してあの場所に戻れたらまたやり直せるだろうか。答えはノーだ。一度ヒビを入れたら決して直すことは出来ない。

 関係はリセット出来るが修復は出来ない。服のように修繕することはできないのだ。

 そうと知らずに手を出しても、それはその場しのぎにしかならない。問題を後回しにするだけの虚しくて無意味な足掻きだ。

 だから捨てなくてはならない。覆水盆に返らず。嘆くだけ無駄なのだ。

 

「ほら、さっさと帰って飯にすっぞ」

 

 せめて、ここだけでも……。



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