やはり俺の特典は間違っている。 (大枝豆もやし)
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日常その1 死後転生

 暗い。光がひとつもない部屋。温度も感じない閉じた空間。しかし、同時に朝方のように程より光と適度な温度の部屋。そんな、夢が混じったような空間に俺は居た。

 遥か果てまで続くような夜空が上には広がり、白と黒のモノトーンな床からは神性な何かを感じる光の小さな星のようなものが点在している。

 そんな光景は、どう見ても俺のいた世界とは似ても似つかない、非現実感で満ちている。

 

 ふと、自分の目の前に、やけに綺麗な女性が居ることに気づく。

 

 南国の海のように蒼く美しい髪。煽情的でありながら、品を感じさせる服。そして男が描くような理想の女体。黄金比と言っても過言ではないプロポーションだ。

 まるで、女神がそこに居るような、そんな感覚を俺は感じた。

 

「……ようこそ死後の世界へ。私の名は水の女神アクア。比企谷八幡さん。貴方の人生は先程終わってしまいました」

「……え?」

 

 女神の美しさに見惚れていた俺は、その一言によって思考をフリーズさせてしまった。

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 嘘告白をした後、俺は竹やぶで一人黄昏ていた。

 

「・・・なにやってんだろう、俺?」

 

 思い出すのは雪ノ下の怒りに塗れた顔と由比ケ浜の泣き顔。あの顔を思い出す度に、黒歴史以上に俺の心を抉られる。

 しかし俺にはあれしか方法がなかった。いつものように最低で最悪な、反吐が出るようなくだらない方法。それこそが俺のやり方であり、俺しかできなこと。そして、この方法しか俺は知らない。

 

 だが、果たして本当にそうなのだろうか。

 本当は自分が気づいてないだけで、もっといい案があったのではないか。自分が決めつけているだけで、見向きもしてない選択肢があるのではないか。

 

 くだらない自問自答を繰り返す。そんなことを考えて何になるのだろうか。

 たとえゲームのようにコンティニューしても、選択肢が決まっている以上結果は同じ。前にもそう自分にいったではないか。

 ならば何故、俺は未だに迷っている?何故自分のやり方を受け入れられない?

 

 俺は自分が好きだ。このひねくれた性格も、この腐った目も、全て愛している。ならば、このやり方だって俺自身だ。なのに何故愛さない。

 たとえ世界が俺を認めなくても、周囲が俺を否定しても、俺自身は俺を愛し肯定する。変化などまっぴらごめんだ。

 

「・・・そろそろ時間か」

 

 もう一人行動の時間は終了だ。そろそろ戻らないとバスが行ってしまう。

 俺はぼっちで嫌われ者だ。もし遅れたら待ってくれなどしない。誰も俺がいないことに気づかず、万一気づいても無視する。そういやヒキタニいねえな。まいっかという感じで。

 何も変わらない。小学も中学もそして今も、現に小学生の頃修学旅行ではおいてけぼりにされたではないか。そして担当にもクラスメイトにも怒られ、両親にも怒られた。迷惑かけるなと。

 

 そう、何も変わらない。俺はいつまでも一人で嫌われ者。今までがおかしかったのだ。

 これを期に、全てリセットしよう。何もかも、全ての関係を・・・

 

「がッ!?」

 

 突如、背中に痛みが走った。

 痛みのあたりを触る。触れた手は真っ赤に染まっていた。

 

「うっ…くそっ、なんだよ、これ!」

 

 背中を見ていたおかげで、俺を指したであろう人物を見ることができた。そこには、見たこともない男子生徒がナイフを握って俺を睨んでいた。

 

「…お前が悪いんだ。……お前のせいで……!」

「な・・・なに言ってんだ?つか誰なんだあんた一体・・・?」

「なんで・・・なんでお前があの二人といつもいるんだ!?」

 

 男子生徒はそう言って俺に飛びかかった。

 いつもならば俺も抵抗出来ただろう。背丈は俺の方がデカかったし、その男子生徒はおそらく文系。なら多少運動神経があってそれなりに筋肉のある俺が力負けするはずかなかった。

 だがその時の俺は刺されたせいで力がうまく出せない上、気が動転している。いつもの半分も力の出せない俺はなす術なく押し倒された。

 

「なんでお前ばっか周りに美少女がいんだよ!?

 俺は勉強も出来てスポーツも出来るイケメンなんだぞ!なのになんでこの俺が振られて、お前みてえな陰キャラが結衣ちゃんや雪乃さんみてえな美少女の近くにいられんだ!?

 邪魔なんだよ!キモキャラはキモキャラらしく教室の隅っこでナメクジみてえにしてろ!俺の女に近づくんじゃねえよ!」

 

 男子生徒は馬乗りになって滅多刺しにする。怒りで顔を真っ赤に染め、涙や涎をまき散らしながら、鬼の形相で怒り狂っていた。

 早口で何言ってるか分かんねえんだよ。人と話す時は落ち着いて、焦らずにゆっくりと話せって言われなかったか?・・・あ、これブーメランだわ。

 

「どんな手であの二人にいるかは知らねえが、どうせろくな手じゃねえんだろ!じゃなきゃお前みたいなクラスのゴミがあの二人に構って貰えるわきゃねえもんな!」

「(刺しすぎだバカ。・・・そんなにしなくても死んじまうよ)」

 

 刺されているというのに、俺は気味が悪いほど冷静だった。人間は自分より感情的な人間を見てると落ち着くと言われるが、それかもしれない。こんなに怒り狂っているの見てたら、そりゃ冷静になるか。

 それとも現実離れしすぎて頭がついてけないのか、またはもう生きれないから死ぬ準備をしているのか、或いは単なる諦めか。・・・まあ、死に逝く俺にとってはどうでもいい話か。

 

「汚い手であの二人を縛り付けておいて、次は姫菜ちゃんか!?欲張りすぎなんだよおまえ!テメエみてえなクサレ陰気ヤローがいるから性犯罪が減らねえんだよ!」

 

 今日初めて、俺は“鬼”というものを見た気がする。鬼とは人の中にいると本で読んだことがあるのだが、なるほど、こういうことを言うのだろうな。中学生の頃、俺の中にも鬼の力が宿っているのではと下らない妄想をしていたのだが、もし当時にこの鬼を見ていればそんな幻想など粉々にぶち壊されていただろう。

 

 そろそろ目を開ける力もなくなった。音も段々と小さくなってきた。

 眠気に身を任せ目を閉じる。この瞬間、俺の意識は深い闇の底へと沈んだ。



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特典選び

「思い出しましたか?」

「・・・はい」

 

 女神に声をかけられて俺は現実に戻された。まあこの空間が現実離れしてるから少し語弊がある気はするが。

 気が付くと俺の体は震えていた。あの時は自分も状況も異常だったから恐怖心は麻痺していたが、冷静になると怖くて堪らない。

 

「貴方を殺したのは自分がイケてると勘違いしたバカな男です。少し顔と頭がいいだけで自分はモテると、少し優しくされただけで自分に好意があると勘違いするような、キモイ男です。

 あの男がなにをいったかは知りませんが、気にすることはありません。所詮は自意識過剰ヤローの戯言ですから」

「・・・」

 

 それだけ聞くと、何か自分に刺さるような感覚がした。

 なるほど。道理でどこか俺に似た感じがしたと思えば、そういうことか。

 あいつも俺と同じように、馬鹿な自意識を持っていたのか。

 

「あの男はすぐに見つかって捕まりました。無事逮捕されてあなたを除けば被害者はいません。あの二人も無事です」

「・・・そうか」

 

 それはよかった。あの形相なら二人や小町にも怒りが向くほどだったから心残りだったのだが、それなら心配ない。

 

 

 俺は迷いなく逝ける。

 

 

「・・・本当にそれでいいのですか?」

「・・・え?」

 

 だが、女神は俺の諦めを否定するかのように、厳しい声色で言った。

 

「あなたには3つの選択肢があります。ゼロから今と同じ人生を歩むか、天国的なところへ行っておじいちゃんみたいな暮らしをするか。・・・それとも私たちの依頼を受けて願いを叶えるか」

「・・・はい?」

 

 願いを叶える。その言葉に俺は過剰反応してしまった。

 いつもの俺ならな絶対に疑う話。おいしい話には絶対毒がある。これは比企谷家の家訓と言ってもいい。

 これは俺の処世術でもある。常に疑い、慎重に慎重を重ねて歩いてきた。…あんな思いをしないように。

 

「ど・・・どんな願いでもいいのか!?」

 

 だが、この異常状態で頭のおかしくなった俺は、それしか縋るものがない俺は。毒と知りながらも飛びついた。

 

「慌てない慌てない。あなた、ゲームは好きでしょう」

「・・・まあ、人並みには」

「実はRPGみたいに魔王によって蹂躙されている世界があるの。そんな世界だから、みんな生まれ変わるのを拒否して人が減る一方。それで、他の世界で死んだ人を肉体や精神はそのまま送って上げてはどうかってことになってるのよ」

「その魔王を倒せと?何の能力も経験もない俺が?」

「そう。それで死んだら元も子もないでしょ?だから大サービス♪何か一つだけ何でも好きなものを持って行ける権利をあげてるの!」

 

 なるほど。強力な武器とか、能力とかでもいいってことだな。

 聴けば聴くほど嘘くさい話。人のことは言えないが、まるで中高生が描いた妄想のようだ。

 普段の俺ならば鼻で笑うし、もし現実に起きても何か裏があるのか探り、絶対に受けない提案だった。

 

「もし魔王を倒すことができたら貴方を現世に蘇らせることを特別に認めてあげるわ!」

「・・・本当か!?」

 

 だが、絶大な餌を目の前にして、俺は冷静な判断が出来なかった。

 

「さぁ、選びなさい!あなた達に一つだけ何にも負けない力をあげるわ!」

 

 そう言って女神は俺にカタログを渡した。

 おぉ!聖剣エクスカリバーとか魔槍グングニールとか、俺の厨二心をくすぐるものばかりだ!!

だが、待て!ここにあるということは、これを持っていた先人たちが倒されたからここにあるんじゃないか?これらを持っていたとしても彼らの二の舞になるだけだろ。・・・あ、複写魔眼とかもある。幻想殺しも。これって著作権的にありなのか?

 いや、変な突っ込みは自分の首を絞めることになる。ここは大人しく受け取るか。

 

「貴方におすすめなのはコレよ。カリスバックル」

「・・・かりす?」

 

 渡されたのは仮面ライダーブレイドの三号ライダー、カリスのベルトだった。

 

「これはカリスバックル。これを腰に当てるとカリスのベルトが一体化してアンデッドの力が使えるようになるの。あ、もちろんアンデッドとの融合計数は剣崎クラスね」

「いえ、別のでお願いします」

 

 折角異世界転生出来るのだ。ここは中二の夢を取り戻し、異世界に相応しい武器を選ばなければ。

 

「…仮面ライダーの力は凄まじく、現在進行形で作られている神話と言っても過言ではないでしょう。おそらく、ほかの勇者たちよりも有利になれるかもしれません」

「いえ、別のでお願いします」

 

「・・・仮面ライダーは神器クラスの武器と身体を強化する装甲、そして特典にも匹敵する能力を手に入ります。つまり、この特典だけで複数の特典をセットで持つことができるのです」

「いえ、別のでお願いします」

 

 いい加減しつこいなこの女神。俺は違うのがいいっているんだ。

 

「・・・ウワァァァァン!なんでコレ選んでくれないの!?」

 

 ついに女神がカリスマブレイクして泣きつきだした。

 

「私のためにコレ選びなさいよ! カリスバックルは本物を再現しすぎたせいでアンデットくさいのよ!」

「お前…やっぱり厄介払いかよ」

 

 やはり押し付けられたものはワケありのようだった。

 

「何が不満なのよ!?仮面ライダーに変身できるのよ!それだけで男の子にとっては喉から手が伸びるでしょうが!

 それにラウズカードも使えるのよ!仮面ライダーに変身するだけでほかの特典よりも強いのに、その上アンデッドの力も使えるのよ!チート級のチートよ!中二心擽るでしょうが!

 元名も無き神(笑)とか痛いこと言ってたあんたなら欲しいでしょ?ねえ欲しいでしょ!?」

 

 ・・・さっきはちょっといいかな~って思ったけど、最後ので台無しだ。絶対にその特典は選ばん!

 

「嫌に決まってんだろ!仮面ライダーの末路は大体同じじゃねえか!しかももしアンデッドが解放されたらどうすんだ!?」

「大丈夫よ!キングフォームを乱用しなければアンデッドにはならないわ!それにアンデッド全員可愛い女の子にするから!アンデッドハーレム作ればいいじゃない!」

「何も解決してねえよ!」

 

 なんだよ特典で得たハーレムって。中学の俺なら飛びついたかもしれないが、今の俺はそんな偽物いらねえよ。

 

「お願いったら!なんならフォームチェンジもつけるから!ジャックフォームもつけるからカリス選んで!」

「・・・いいのかよそんなことして?」

「これは厳密に言うとエースの力で仮面ライダーに変身するアイテムであって、別にカリスに変身するものじゃないの。だからジョーカーの力とは別物よ。もっと詳しく言うなら、ブレイドの全ライダーに変身するアイテムね。変身するためには専用のカードがいるけど」

「・・・なるほど」

 

 女神の話を聴いて俺は一考えを変更した。

 これはかなり美味しい話かもしれない。できれば平成二期の仮面ライダー、出来るならハイパームテキにしてほしかったのだが、流石に贅沢すぎた。

 それにカリスやブレイドもキングフォームになればチートライダーになれるのだ。問題はない。

 

「わかった。じゃあそれを貰おう」

「ホント!?ありがとう!これ本当に再現度高すぎてアンデッド臭がすんごいのよ!」

 

 女神の言葉を無視してとりあえず試着してみる。

 バックルを腰に当てた瞬間、バックルからカードが腰に巻き付き、一周してバックルの反対側にたどり着いたとこで連結。カードは帯となって固定された。

 その時だった。ベルトがまるで吸収されるかのように消えたのは。

 

「それは盗難防止用よ。もし盗まれることがあったら大変でしょ。だからこうして盗まれないように内蔵型になってるの」

「なるほど」

 

 要はクウガのベルトのように融合しているということだ。ここではまだ肉体を持ってないので魂の一部に付着することで絶対に離れない仕様になったらしい。

 なんか人外になるようで怖いが、話を聞くと一部になっただけで人間をやめたわけではないらしい。ならよかった。

 

「では、転生の儀式を行うわ。中央に寄って」

 

 言われた通り中央に立つ。瞬間、床から魔法陣のようなものが現れ、光りだした。

 

「では、行ってらっしゃい」

「…ああ」

 

 光がより一層強くなり、体が浮遊する。光が俺の視界をすべて覆った瞬間、俺の魂はその世界から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

「あ~よかった。これで匂いが・・・あれ?なにこのプリント?・・・あ~そういえば本部から緊急の通達があったわね。めんどくさかったから見てないけど、一段落したから確認しよっと。

 なになに…? 特典の一部に新特典開発用の試作品が混じっていることが発覚。誤って試作品を送ったものは理由の如何にかかわず処分する。…バッカね~。そんな危険なもの渡すわけないじゃん。そんなの馬鹿よバカ」

 

 

 翌日、アクアは《不完全な神器》を横流しにした罪によって降格処分された。

 

「で、ここはどこだ?」

 

 俺は森の中にいた。鬱蒼と茂っている広葉樹が太陽の光を隠し、見たことないような植物が生えている。

 鳥や虫の鳴き声、土と草木の香り。それらすべてがここが現実の世界だと思い知らせる。

 

 どうやら転生には成功したようだ。何故RPGなどでよく見る最初の町とかではなく森なのかは疑問だが些細なこと。とりあえず俺は森から抜け出すため歩き出した。

 

「ん?」

 

 いきなり俺のポケットの中からラウズカードが飛び出してきた。そして・・・

 

 

 

 

「「「「「キシャァァァァ!!!」」」」」」

 

 カードの中からアンデッドたちが飛び出してきた。

 

「ぁ…ウワァァァァァァァァァァァァン!」

 

 その数50体。いきなり化物の人口過密状態になった森の中、俺はダディのように顔を恐怖に歪め、みっともなく転げ回った。

 たしかに彼女たちは見た目こそ可愛らしい美女美少女だったが、中身はアンデッドだ。闘争と血に飢えた目とオーラは、現代社会のぬるま湯しかしらない俺をビビらせるのには十分な迫力だった。

 

 アンデッドたちは俺に目も呉れず、瞬く間に解散。飛んだりジャンプしたり中には地面に潜るなどして俺の目の前から消えていった。

 

「・・・は?」

 

 俺は残されたハートのエースと2のカードを見ながら、途方にくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

@?年後

 

 

 

「はあッ!」

 

 とある崖の上。黒い弓の戦士とキメラを模したアンデッドが剣戟を繰り広げていた。

 

「お前で最後だ…。キメラアンデッド!」

「キシャ嗚呼アアああああああああああ!!」

 

 一閃。刃上の弓がキメラアンデッドを切り裂く。アンデッドは緑色の血飛沫を吹き出しながら倒れ、アンデッドのバックルが割れた。

 黒い戦士は一枚のカードを取り出す。それをアンデッドの胸元に押し付けた瞬間、アンデッドは緑色の光となってカードに吸収されることによって封印された。

 アンデッドを封印したカードが自分の意思でもあるかのように男の手元へ戻る。それをキャッチした男はカードを仕舞い、別のカードを取り出した。

 

《スピリット》

 

 カードをバックルのくぼみに通す。機械音が鳴り響き、男が装着していた鎧が消えた。

 

「…神の奴、余計なアンデッドもポンポン増やしやがって。だがこれで終わりだ。・・・今度こそすべてのアンデッドを封印した」

 

 男は、比企谷八幡は新たに封印したカードをいじりながらため息をついた。



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ぼっちは異世界でもぼっちなのか

ここから本編突入です。


「…ここが始まりの街アクセルか」

 

 俺は専用のバイク、シャドーチェイサーに乗って街を眺めていた。

 街は古風なヨーロッパ風。異世界ものライトノベルでも定番中の定番。ベタにもほどがる。

 

 

「頭では、わかっているつもりだが定番のものといっても感動するもんだな。」

 

 シャドーチェイサーから一旦降りて、手で押しながら街中を見渡す。行き交う人を観察してみると、獣人やエルフなど、亜人系の種族がちらほらといた。

 この世界では亜人でも差別されない平和な世界らしい。少しダークなラノベだと、獣人とかは奴隷だったり、エルフと敵対しているなどの設定があったので少し不安だったのだが、その心配は消えた。

 しかしそれにしても亜人か…。去年までは森にこもってアンデッドと戦ってばっかりだから感覚がおかしくなってしまったが、本当にファンタジーの異世界なんだなと感動した。

 

「おい、そこの。変な装備の奴。」

 

 行き交う人を観察しながらと歩いていると、後から声を掛けられた。声の方を向くと、世紀末から来たのではないかと思う風貌の男がいた。

 見た目のせいで身構えてしまったが、この人からは敵意を感じない。俺は一旦戦闘態勢を解いて返事した。

 

「だ…ダリナンだアンタ?」

 

 ・・・やばい。間違えてオンドゥルってしまった。

 人と会話するのはかれこれ一週間ぶりだ。そのせいで上手く声が出なかったのだ。

絶対そうだ。ベルトやアンデッドたちの呪いではない。

 

「…なかなかいい目をしてるな。今まで強敵と戦い、勝利してきた戦士の目だ」

「・・・え?」

 

 いきなり目を褒めてくれたモヒカンの戦士。

 なんだよこの人。見た目によらずめっちゃいい人じゃん。今度何かおごってあげよ。金はけっこうあるし。

 

「坊主、お前も冒険者になりにきたのか?」

「・・・はい」

「ほぅ、そうか。なら、あのでかい建物に行ってみるといい。あそこで登録出来る。

 

 モヒカンの戦士はデカい施設を指さした。

 本当に好い人!前の世界だったらカツアゲされて、この間も盗賊に襲われたのに! 後者はぶっとばしたが。

 ここまで他人に優しくされたのは初めてだ。向こうでもこっちでも敵ばっかの四面楚歌状態だから…。あれ、なんか目が熱くなってきた。

 

「ありがとうございます」

「おう!頑張れよ! 」

 

 モヒカンの戦士に一礼して施設に向かう。

 シャドーチェイサーに乗って路地裏を通って建物に向かう。遠回りにはなるが人ごみを避けれれうし、なによりもこっちはバイクだ。移動時間の差はかなりデカイ。

 建物の前にバイクを停めて中に入る。そこには様々な人種や種族(と言っても亜人系だけだが)が食事をしていたり、ボードに貼り付けられている依頼書らしきものを見たりと、ゲームやラノベで見るようなギルドの光景そものもだった。

 

 俺は窓口らしき場所に向かう。混んでない時間帯なのか、俺は時間を消費することなく向かうことができた。

 

「では、次の方どう…ひっ!アンデッド!」

「こう見えても一応人間です。」

 

 おいおい、やっぱりアンデッドに見えちゃうの。たしかにアンデッドと融合してるけどさ、俺は一応まだ人間だから。ジョーカー化は大分先だから。

 てか、一応人間とか言ってる自分が一番心に来るわ。さっきのモヒカンの時とは違う意味で目頭が熱くなってきた。

 

「し、失礼しました!」

「いえいえ、慣れてますから…。」

 

 受付嬢は直ぐに頭を下げてきた。

 いえいえいいんです。こうやって頭を下げてくれているおかげで私はたわわを眺めることが出来ましたので。

 

 この世界のファッションってかなり露出が多いな。俺の天敵、吸血姫や英雄姫はエロ衣装同然だったし、俺を洗脳しやがった女悪魔なんて乳○ピアスしておっぴろげ状態のR-18装備だぞ。一体どんな貞操観念してんだよ。

…まあ、かなり極端な例だが、それでもこの世界の女性は露出が多い。童貞には危険だ。

 

「えっと、今日はどうされましたか?」

「冒険者登録をお願いします」

「はい、分かりました。では、こちらに名前と登録料をお願いします。登録費用は1000エリスです。」

 

 俺は渡されたカードに名前を書き、ポケットから金を取り出して渡す。

 

「ありがとうございます。ではこちらの水晶に触れて下さい。ヒキガヤ ハチマンさんの潜在能力などが機械を通してこのカードに記載されます」

 

 言われた通り水晶に触れると、淡い光が俺の体を包み込んだ。

光自体は暖かくて気持ち良いのだが、体内だけでなく魂まで見られている感じがするのであまりいい気はしない。

まあ、そんな贅沢言ってられないのはわかってるが。

 

「もう大丈夫ですよ。では、ヒキガヤ ハチマンさんのステータスを拝見させて頂きます。・・・ってなんですかこれは!?」

「うおッ!?」

 

 俺のカードを-見た途端、受付嬢は大きな声で驚いた。驚きたいんはこっちだ!

 

「筋力、俊敏性、生命力…。幸運を除くすべてが桁違いです! しかも最初から《斬撃》や《加速》などのスキルや、《火炎》や《回復》などの魔法まで覚えているではありませんか! 貴方は一体何者ですか!?」

 

 森の中で仮面ライダーやってました。毎日人目を忍んで女体化されたアンデッドたちを封印してその力を使い、さらに強力なアンデッド娘たちボコって封印してました。・・・やだ、なんか淡々と並べてたらすごい犯罪臭がする。

 違うよ。アンデッドは野放しにすると異世界に迷惑かかっちゃうから。見た目は可愛くてもアンデッドはアンデッドだから。本当に怖いんだからね。何度あいつらに殺されかけたことか…。

 

 

 

「すごいです…。これならなんだってなれます!魔法剣士のさらに上級のルーンナイトやアークプリーストとソードマスターのハイブリット、パラディンになってなれますよ!」

「「「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」

 

 受付嬢の話に聞き耳を立てていたのであろう。受付嬢だけでなく、周りの冒険者らしき人たちまでも騒ぎ始めた。

 ギルド内にもざわめきが広がってゆく。

 

「・・・あれ?でもおかしなスキルが…。え!?不死生物の支配者(アンデッド・マスター)!?」

「「「「「・・・え?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『アンデッド娘たちを力でねじ伏せ、己の下僕とすることでその力を貢がせる。また解放したアンデッド娘を強制的に絶対服従させ、己の奴隷にする』・・・なにこれ最低」

「「「「「・・・」」」」」

 

 受付嬢だけでなく、この場にいる全員、特に女性からゴミ虫のような目で俺を見てきた。

 ギルド内は先ほどまでの期待と興奮はなく、重苦しい沈黙が漂う。冒険者達は目が合おうとした途端、サッと顔を背けて目を合わせないようにした。

 

「(あ、やっぱここでも俺はぼっちなのね・・・)」

 

 不意に、封印されたアンデッドの絵柄が嬉しそうに動いた気がした。




・カリスバックル
神々が協力して作っ変身アイテム。魂に付着するため物理的には奪えない仕様になっている。
使い方は原作通り。念じると腰に現れ、エースをスラッシュすることで変身する。
完全なアンデッドにはなってないため、どちらかというとクウガのベルトに近い。


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どげせんアクア

「あんたねアンデッドの支配者っていうのは!」

「・・・はあ?」

 

 あの騒ぎががあった翌日、俺は早速クエストに向かおうとボードに向かった途端、青い髪のアホっぽい女に絡まれた。

 

「街の少女たちをアンデッドに変えて支配する極悪非道アンデッド使いよ!ここで退治してやるわ!」

「え…ちょ、ダディッテンダ?」

「何それアンデッドにする呪文?けど私には通じないわ! 喰らいなさい!ターンアンデット!」

 

 アホっぽい女は俺の反論を許さず、まくし立てて光を放った。・・・また噛んでオンドゥルっちまったぜ。

 

「な…なんで効かないの!?ターンアンデット!ターンアンデット!ターンアンデット!」

 

 青髪の女はさらに謎の光を俺に当てる。てかさっきからなんだこの光? 体には害なけど、眩しくて鬱陶しいんですけど。

 てかこの女どっかで・・・あ。

 

「な…なんで私の力が通じないの~!!?女をアンデッドにするようなカズマにも劣る性犯罪者ごときが!」

「ヴェ!?ダディガドンドゴイッダ!?」

「・・・え?」

 

 またオンドゥルってしまうと、女は突如顔を蒼くした。体もブルブル震えてるし歯からはガチガチといった音が聞こえてきた。

 

「そ…それってオンドゥル語? あとターンアンデッドが効かないアンデッドの気配。その上その死んだ目……」

 

 一つ一つ確認するように呟く青い髪の女。その度に体の震えはどんどん大きく、顔はさらに真っ青になっていく。

おいおい大丈夫か。マジでゾンビみたいに顔青いぞ。あの吸血姫よりも青いし。

 

「も・・・もしかして・・・・・・・比企谷八幡さん?」

「ああ、そうだが」

「・・・」

 

 

 

「す…すいませんでしたァァァァ!!!」

 

 女神は突然土下座した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまりアクアはこの人に危険な欠陥品を渡した挙句、渡した特典からアンデッドが50体も逃げ出し、その後処理に追われていたと」

「その通りです。大変申し訳ございませんでした」

 

 青い髪の女――アクアは土下座を続けながら謝った。

本当に見事な土下座だ。これは熟練のどげ○んの為せる技。コイツ…土下座を極めているな! よほど土下座の機会に恵まれているのだろう。・・・それって土下座するような失態をよくするってことだよね。ダメじゃんそれ。

 

「…アクア。無能のクソ駄女神だとは思っていたがここまで酷いとは・・・」

「ちょ、なによそこまで言わなくてもいいじゃない!」

「ざけんな!逃げ出したアンデッドを倒すのにどんだけ苦労したと思ってんだ!?」

「はい!申し訳ございません八幡様!」

 

 相棒らしき男性、カズマとやらには強気でいたのに、俺には土下座して謝るアクア。

 なんだろうこの相手によって切り替える女子特有のスキル。本当に怖いね。…俺もこれのせいで痛い目を見てきた。

 

「け…けどアンデッドは全部美少女化されているから貴方様も得するんじゃ・・・」

「擬人化してるから逆に戦い辛いんだよ!モンスターのままの方がやり易いわ!」

 

 擬人化されたアンデッド娘をカードに封印し、その力を使う。文字にしたらハーレムだの性奴隷だのと、オタクたちから羨ましがられるかもしれない。

 

 

 だからこそ言いたい。アンデッド娘たちとの戦いはそんな生易しいもんじゃねえよ!

 

 

 想像してほしい。顔の整った美少女たちが殺意と野性をむき出しにして襲いかかる構図を。ダラダラと涎を垂れ流し、血に飢えた目と表情で睨まれる恐怖を。

 あの恐怖は筆舌に尽くしがたい。最初あの姿を見て俺は逃げ出してしまった。

 

 それだけではない。恐怖を克服した後も障害は残っている。

 考えてみてほしい。美少女に刃物で切りかかったりする自分の姿を。・・・すんげえ精神的に来るんだよ。

 誰かを殴るって、こっちも精神的な負担が来るんだよ。拳から伝わる肉と骨の感触に、倒れて震える相手。

 その上相手は美少女だからさらに精神的ダメージが加わる。

 加えて刃物や銃などの殺傷力のあるものを使うのだから、精神的ダメージはさらにアップ。これなら最初から怪人の状態でやってほしい。

 

「わかるか?これを50体片づけるこっちの苦労が。加減したらこっちがやられるし、見逃せば被害はさらに大きくなる。幸い森の中から出てこなかったから二次被害はなかったと思うが、もし出て行ってしまったらどうなってたことか。…こいつらをほぼ一人で封印するのはマジ骨が折れた」

「お察しします。本当に苦労したようですね」

 

 俺が一通り説明すると、カズマも頭を下げた。

 いや、お前別に頭下げる必要ないよね? なのになんで頭下げてるの?もしかしてこの女の彼氏・・・なわけないか。

 

「ありがとうございます。あなた様が被害を食い止めてくださったおかげで更なる罰は免除されました。ほんっとうに感謝しています!」

「…お前、ここまで話が進んでおいてまだ保身しか頭にねえのか・・・」

「だって仕方ないでしょ!まさかアンデッドが解放されて暴れるなんて私たちどころか作った神も気づかなかったんだから!

 ……けど、もしアンデッドがこの世界の人に危害を加えていたら・・・減給どころか降格されちゃったのかもしれないわ!ホントにありがとう八幡様!」

「…ホントにお前ダメダメだな」

 

 何度も土下座を繰り返すアクアを、カズマが呆れた様子で見下す。無論俺も。

 この女、見てくれはいいが中身は本当にダメッダメだな。保身と楽することしか頭にねえな。人のこと言えないけど。

 

「…いいよ。もう過ぎた話だし。ほぼ押し付けられた形とはいえ、特典を選んだのは俺だ」

「ありがとうございます八幡神さま!」

「・・・お前女神だろ。自分の正体忘れちまったのか?」

 

 まるで祭壇でお祈りするかのように何度も頭を下げるアクア。

 女神に神扱いされるとか…。これ喜んでいいのか? 女に土下座されるのは悪い気しねえが、女神が人間に頭下げるとか、なんか世知がねえなねえな。

 

「話は終わりか。なら俺はクエストに行かせてもらうぞ」

「あ、ちょっと待って」

 

 席を立つとカズマに止められた。なんだまだ話があるのか。

 

「お前まだパーティ組んでないんだろ?なら俺たちのパーティに入らないか?」

「ヴェ?何言ってんだ?」

 

 俺はカズマの言ったことがわからず、ついオンドゥルが混ざってしまった。

 

「パーティだよパーティ。やっぱしチーム組んだ方が便利だぜ」

「いいです。俺一人で出来るんで」

 

 俺は断った。既に俺はひとりで4人のライダーになれる上、ラウズカードを全て使える。つまり剣、銃、弓、槍を使えるに加え、魔法も使えるのと同意義なのだ。

 さらに俺は今まで一人で戦ってきた。・・・まあ、何度か他のライダー達と組んだことはあるがアレは例外だ。相手がリッチとかキングドラゴンとかヤバいモンスターばっかだったし。

 よってパーティなど不要。俺は今まで通り一人で戦わせてもらう。

 

「け…けど一人よりもパーティ組んだ方がいいぜ」

「いいです。俺一人で出来るんで」

 

「…ま…まあそう言わずにさ。試しに俺たちと組まないか?」

「いいです。俺一人で出来るんで」

 

 しつこいなコイツ。俺はいいって言ってんだ。なのに何故食い下がる。

心なしかコイツ俺が断る度に焦ってるし。顔と態度にめっちゃ出てるぞ。

 

「い…いいい、い~のかな~? 妙な噂のせいでお前孤立してるぜ? 事情を知ってる俺たち以外は聞いてくれねえぞ」

「いらねえって言ってんだ。しつこいぞ」

 

 うぜえ。いい加減にしてくれねえかな。そろそろ怒るぞ。

 

「・・・うわあぁぁぁん! お願いします仮面ライダー八幡さま!俺たちのチームに入ってください!」

「ヴェ!?何引っ付いてんだ!?」

 

 俺は足元に引っ付いたカズマを振り払おうと足をブンブンさせる。コイツ力強!?

 

「お願いします!ウチのパーティはアホばっかで俺はストレスで死んじまいそうなんです!俺をストレスという怪人から助けてください仮面ライダー!」

「ざけんな!俺がヘシンすんのはカリスだ!正義のヒーローのブレイドじゃねえんだぞ!正道のヒーローが欲しいなら他を当たれ!」

「だったらロリっ子用意しますから!アマネチャンクラスの上級ロリいますから!これでやる気出たでしょ!?」

「そういう問題じゃねえ!てか俺はロリコンでもねえし始でもねえ!そんなんでやる気出るか!」

 

 あ~もう、うっざいな~。いい加減力ずくで引き剥がそうか・・・うわ!?コイツ俺のズボンに鼻水つけやがった!

仕方ない。少しだけ譲歩するか。こういうタイプは頼みを聞かないと延々と来るからな~。・・・少しだけ聞いてやるか。

 

「あ~もう!わかった!今日一日だけパーティ組んでやっから、話はその後だ!」

「ホントですか!?あ…ありがとうございます神様!」



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ハーレム接待

転生モノの名物といえばハーレム。某スマホしかり、遡って悪魔の転生者然り。会う先の女たちはどんどん主人公に惚れる。もはや形式美です。
けど、この世界のハーレム()は少し特殊なようです…。


 場の雰囲気に流されて一時的にカズマたちのパーティに入った俺。その初仕事はジャイアントトードというでっかいカエルの討伐だ。

 なんでも駆け出しの冒険者はカエル狩りからスタートするのが習わしのようだ。

 

 さて、今からクエストを開始するため現地に向かおうとシャドーチェイサーに乗った。

 

「あ、待ってくれ八幡さん。まずはパーティメンバーを紹介したいから」

「あん?」

 

 カズマが俺の前に立って進路を塞ぐ。…ッチ。現地で合流してテキトーに狩って、そのまま何もなく解散する予定だったのに。

 だがこうなってしまった以上仕方ない。テキトーに無難で印象に残りづらい自己紹介して、さっさと解散するか。

 

「それで、後ろの女子たちがお前のパーティメンバーか? マジで美少女しかいねえな。俺いなかったらお前のハーレムじゃねえか」

「ハハハ。何をおっしゃってるのでしょうか。・・・これから貴方のハーレムになるのだ?」

「ヴェ?」

 

 悪い顔でいうカズマ。ダディ? 何やら不吉な言葉が聞こえた気がするんだが・・・気のせいだよな?

 

「はい皆さん注目!この方は今日一日我らのチームに入って下さる比企谷八幡先生だ!みんな粗相のないように仕えるんだ!いいな!」

 

 怒鳴るかのような大声で俺のことを紹介するカズマ。ねえ、さっき君は仕えるとか何とかって、なんか大げさすぎね?

 

「ほう…貴方がカズマが言ったルーンナイトのハチマン様か。私はダクネス。見ての通りクルセイダーを生業とする者だ」

「貴方が封印されし古(いにしえ)の怪物を使いし王者ですね?私の名はめぐみん。古の闇を従えるアークウィザード…です」

「私のことはもうご存知ですよね。私はアークプリーストのアクア。今日からあなた様に仕える女神です」

 

 ・・・なんかドイツもコイツも腰が低いな。めっちゃ怪しいんだけど。

 

 金髪の女、たしかダクネスだっけ? コイツは美少女でスタイルもいいんだけど、発情している目が怖いな。俺をレ○プしようとしたサキュバスそっくりだ。

 このめぐみんって名乗っている子は中二臭がプンプンする。今は隠しているが俺には分かる。コイツは中二病だ。もし材木座みたいなことになったら面倒そうな奴だ。

 アクアは言わずもがな。見た目は最高だが中身はアホ。あの場では責めなかったが俺は別にコイツを許したわけではない。正直、コイツが一番関わりたくない。

 

 結論。出来るならばコイツらとは関わりたくない。今日の仕事終わったらさっさとこの街から出るか。

 

「ではハチマン様。馬車をご用意致しましたのでどうぞお乗りください」

 

 俺の手を引いて馬車に乗せようとするアクア。俺はその手を振り払おうとするも、即座に反対側からダクネスが俺の腕に自分の腕を巻き付かせて、それを防いだ。

 

「不肖ながら私共がエスコートさせて頂きます。」

「え…ちょ、ヴェ?」

 

 エスコートと称して俺を馬車に連行するダクネス達。てかコイツら力強! 全然振り払えないんですけど!

 俺バイクで行くから! そっちの方が断然速いし精神的にも楽だし! だからバイクに乗せて!

 

「な……ダンダンダイッタイ!?」

 

 俺はまたドンドゥルってしまいながら、馬車に乗せられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではお前ら、八幡を俺たちのパーティに迎えるための打ち合わせを行う」

 

 八幡が連行される数分前。カズマたちはアクアたちと事前の打ち合わせをしていた。

 

「なあカズマ、あいつは噂のアンデッド使いなんだろ?いいのかそんな輩をパーティに入れて本当に大丈夫だったのか?」

 

 ダクネスが心配そうに問う。それも当然のことだろう。なにせ八幡は女を奴隷にするだの死体愛好家だの噂されている。そんな相手を誰が仲間にしたいだろうか。そう、普通ならば…。

 カズマはダクネスを部屋の隅に引き連れ内緒話を始めた。 

 

「…なあダクネス、お前は八幡のことをどう思う?」

「最高だ!」

 

 この女たちは普通には当てはまらなかった。

 

「あの吐き気を催すような邪悪の雰囲気と腐った眼は普通の人間には出来ない!噂の真偽は分からんが私には分かる。・・・あの男は超高校級のドS調教師だ!…ああ、早くあの目で罵られたい!」

 

 体をクネクネさせて顔を赤くしながら言うダクネス。どうやら根っからのドMにとって八幡の目は忌避するべきものではなくありがたいものらしい。

その上八幡はとある理由でドS調教師の心得を取得することになってしまった。その理由は…面倒だから後で出す。

 

「そうだ。彼はエリートの調教師だ。だから最初からドMのメス豚には興味がない。…お前は高潔で気高い女騎士を演じろ。一流の調教師はそういった女を調教したがる傾向にある」

「…わ、わかった!」

 

 テキトーなことをほざくカズマ。彼は八幡の過去など露程も知らない。全部口から出まかせだ。

だが単純なダクネスはすべて受け入れた。彼女は興奮で顔を赤くしながらも、言われた通り凛々しい騎士の仮面をかぶる。・・・すぐ取れると思うが。

 

「ちょっとめぐみん」

「なんですかカズマ? また何か企んでいるんですか?」

 

 今度はめぐみんを部屋の隅に引き連れる。

 

「…八幡の纏う雰囲気についてどう思う?」

「・・・なんか影があってかっこいいです! 邪悪なる闇の香り…あんなのを人間が耐えられるとは考えられない。もしや彼は内なる悪魔を体内に飼っているのでは!?」

 

 普通でないのはこの女も同じらしい。めぐみんは中二的妄想を全開にして、まるで仲間ができたかのように嬉しそうな様子で言った。

 八幡の纏うオーラの正体はアンデッドマスターの副作用のようなものだ。簡単に言えばフェロモンのようなもので、この匂いが強ければ強いほどアンデッドや悪魔に好かれやすく、そして奴隷にしやすい。

まあ、八幡にとってはいい迷惑なのだが…。

 

「そうだろう。あの男は古より存在した生物たちの始祖、不死身の化け物たちを封じ、その力を肉体と融合させて戦っているんだ」

「な…なんだってー!? つ…つまり彼は闇を以て闇を制す悪の戦士ということですか!?」

「ああ。あいつは闇に生まれ、闇に忍び、闇を切り裂く。孤独と共に戦い続ける。そういた定めを背負ているんだ」

「ナニソレかっこいい!」

 

 またもやテキトーなことをほざいて仲間を騙すカズマ。しかも口から出まかせだというのに多少当たっているのだから余計に性質が悪い。

 

「しかし闇の戦士はその正体を知られてはない。もうこれで帰れない。さすらいの旅路だけだ」

「そ…そんな! では私たちが彼の正体に気づいているということは・・・」

「もちろん内緒だ」

 

 どんどん話がおかしな方向に進んでいく。いや、カズマがおかしな方向へと誘導していく。

話がおかしくなる度にめぐみんが八幡に向ける熱い視線はより強くなり、カズマの次の言葉で最高点へと達した。

 

「だがめぐみん、あの戦士は長引く戦いで心身ともに疲れ切っている。………その傷を癒せるのは、同じ忌避される存在であるお前だけだ」

「な…なんですと!?」

 

 おいバカやめろ。これ以上ちびっこを騙そうとするなこの悪人め。

 

「お前はその魅力であの戦士を労わってやれ。だが決して正体に気づいていることを悟られるな。いいな?」

「はい!」

 

 さりげなく自分が魅力あると言われた気になって浮足立つめぐみん。こうして彼女もカズマに騙され、八幡を迎えるキャバクラ要員と化してしまった。

 

「じゃあ次はお前だアクア。けどお前はわざわざ言う必要ねえな」

「ええ分かってるわよ。美少女三人であのアンデッドマスターを骨抜きにして、あれよあれよとパーティにする気でしょ?」

「流石アクア。俺のことよく知ってるじゃねえか」

 

 悪い顔でコソコソと話し合う二人。やはりカズマの狙い

 

「けど私嫌よ? たしかにカリスの特典は強いけどアンデッド臭がめっちゃするのよ。いくらターンアンデッドしても浄化魔法使っても消えないし。ずっとあの匂いに耐えろとか、私に死ねっていうの?」

「・・・お前そんなこと言える立場か?」

「はい?」

 

 突如カズマがジト目で言う。その意味が分からず、アクアは頭に疑問符を浮かべた。

 

「いいか?あの人は他の特典を持って転生したチート野郎共と違って、自分の力でチート特典を獲得した猛者だ。ハートのエースと2を除くアンデッドを全て封印してきたという経歴から、あの人が唯者でないことは分かるだろ?」

「ま…まあ確かに。そこらのバカ共とは違って善戦しそうね。精神的にも鍛えられてそうだし」

「だろ?その上仮面ライダーはチート中のチートだ。キングフォームだけじゃなく52枚全部のアンデッドと融合することだってあり得る」

「まあ、そうね。カリスバックルは危険だけどその性能は正規の特典とは桁違いの性能よ」

「そうだろ?つまりあいつが戦力上一番魔王を倒しえるということだ」

「そうね。けどそれが何?」

 

 いい加減この問答が面倒になったのか、アクアは少しイライラした様子でカズマに質問した。

 元来アクアはこういった長ったらしいやりとりが嫌いだ。そのことはカズマも知っているので余計にむかつくのだろう。

 しかし、そのイライラも次の言葉で吹き飛ぶことになる。

 

「それでもし神にお前の悪事・・・アンデッドが逃げて被害を出したって報告されたらお前はどういうことになると思う?」

「・・・はッ!!?」

 

 ここでアクアはやっと気づいてしまった。八幡の言葉一つでより自分の立場が悪くなることに…。

 

「ただでさえお前はあの人に欠陥の特典を渡して立場が悪くなった。ここで追い打ちをかけられたらどれだけ下がるだろうな?」

「ちょ…ちょっと待って。もしアンデッドによる被害が出たら・・・ああ! 私首飛んじゃう!」

 

 一人百面相をしながら、奇妙な踊りをして慌てるアクア。顔は髪より青くなり、嫌な汗が『お前本当に水の女神か?油の神だろ』と言いなくなるほどドロドロ流れる。

もしばれたら減給だけでは済まされない。もしかしたら降格処分され、この世界よりもヤバい世界の担当にされる。その不安が彼女を追い立て、冷静な判断を失わさせた。

 

 そういった隙間に悪魔は漬け込むのだ。

 

「だろ?つまりあの人はお前の命綱を握っている状態なんだ。だからご機嫌取って味方にしなきゃ・・・お前死ぬぜ?」

「は…はい! この不肖アクア! 誠意を以て八幡様に媚びます!媚びて味方につけます!」

 

 悪魔の言葉に乗せられていい返事をするアクア。それを内心しめしめと眺め、悪魔はさらに煽った。

 

「そうだ。お前の女神的な美貌とプロモーションで骨抜きにするんだ。そして味方につけて、事実を抹消しろ!」

「合点!」

 

 急いで八幡の元へ駆けつけ、彼の足元にひれ伏す。こうなればもう女神の威厳など捨てたも同然。アクアは八幡専属のキャバクラ要員になり果てた。

 

「(どうぞお受け取りください英雄さま!異世界転生名物、美少女ハーレムです!)」

 

 こうして、八幡の疑似ハーレムが完成した。

 

 

 

 

「八幡様、こちら紅茶になります。私の浄化能力によって少し薄くなっておりますが、清いものなのでご安心ください」

「茶菓子です。よければ私をテーブルにお使いになりますか?」

「肩をお揉みします。闇の戦士たるもの、ひと時の安らぎを堪能するものです」

「(しめしめ…。なんかボロが所々出ているが、あいつらちゃんとハーレムしているじゃん。この調子で我がパーティに!)

 

 馬車の中でカズマの用意したハーレム要員たちが八幡に甲斐甲斐しく世話をする。カズマはその様子を眺めながら、召使のように八幡の側に控えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(・・・なんか、あの女悪魔に洗脳されて女を囲っていた時期思い出すな)

 

 だが、ハーレム接待はあんまし受けがよくなかった。



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カエル狩り

「…やっと到着したか」

 

 馬車の中を数十分ほど。俺たちは目的地の町外れにある草原についた。

 いや~、あんましいい心地しなかった。美少女を侍らすのは悪い気はしないはずなのだが、一人は発情した目を、一人は材木座のような中二オーラを、もう一人は明らかに媚売っていた。

 まるで下心見え見えで社長などの重鎮に接待するバーみたいだ。よく露骨に媚売られるとイラっと来ると言われるが、あれマジだったんだな。

 あのカズマって奴、あからさまに俺の特典狙いだよ。そのためにハーレム用意するとか必死すぎだろ。お前も特典もらってるんだから頑張れよ。

 

「八幡さんどうでしたかウチの美少女達は。どうやら彼女たちはあなた様にほの字でございますよ」

 

 ごまをすりながら近づくカズマ。コイツ本当に必死だな。

 その召使みたいな態度やめろ。いじめっ子や悪代官に擦り寄るような取り巻きみたいで小物臭がプンプンするぞ。

 まあ、俺にはどうでもいいが。どうせすぐ抜け出すし。

 

「それで、このジャイアントトードって本当に初級者向けなのか?明らか人間よりでかいぞ」

 

 俺は3mはあるデカイ蛙、ジャイアントトードを指さした。

 ギルドから聞いた話だと、あの蛙は駆け出し冒険者が一番最初に相手するモンスターであり、某RPGに例えるならスライム的な扱いらしい。

 

 なのにあのサイズおかしくね?軽自動車くらいはあるぞ。

 

 俺はせいぜい成人男性半分ほどの蛙を思い浮かべたのだが、俺の指差すソレは明らか大きさがおかしいぞ。もうキングクラスじゃん。大王だよアイツ。

 知ってると思うけど、蛙ってめっちゃ跳ぶからね。ウシガエルなんて弾丸みたいになるからね。それが3mとか、もう砲弾みたいになるぞ。

しかもあの色、めっちゃ目立ってるぞ。蛙って毒ないのは忍んでいるけど、あいつ全然隠れてないし。中には水色と黒の縞模様とかあるし。絶対毒持っているだろ。

 みんな知ってる?トードってヒキガエルを表すこともあるんだって。しかもヒキガエルってかなり強力な毒持ってるし・・・あれ?つまり俺も毒持ちってこと?だから嫌われてるの?だからぼっちなの?

 

「俺も最初見たときはびびったけど、あいつかなりトロいんです。ジャンプ力もせいぜいあいつの足一歩分ですし。ほら、あんな風に」

 

 カズマが蛙を狩ろうとする他の冒険者を指差す。

 …なるほど。たしかにあれならなんとかいきそうだ。あとはあの巨体に気をつけるだけだな。あんなにでかいと槍も矢も刺さりづらそうだ。

 

「…とりあえず様子見だ。まずは変身せずこの世界の武器で戦うか」

「そ…そうですか。・・・って、いつの間に武器を!?」

「バイクに乗せた」

 

 シャドーチェイサーには自動で持ち主に向かう機能が搭載されている。それで武器を運んでもらったのだ。

 予め積んでおいた武器をシャドーチェイサーから降ろし、武装する。といっても槍一本と弓と矢が数本程度だ。

 

「…風向きはこっちが下か。なら匂いが飛ぶこともねえな」

「あ、大丈夫です。あいつらめっちゃ鈍感ですから。目の前でバカみたいに騒がない限り気づきません」

「・・・」

 

 ま…まああの巨体なら天敵少なそうだし仕方ないか。

 

「じゃ、早速狩りを始めるぞ。俺が最初の攻撃を食らわせるから、カズマとダクネスは続いてその剣で切りかかれ」

「「はい!」」

 

 いい返事をする二人。カズマは何か言いたそうにしてたが無視だ。俺に全部押し付けて自分たちは楽するとか絶対許さん!

 

「(距離は20mほど。本当にこの距離で気づかないのか?)」

 

 半信半疑になりながらも俺も攻撃を開始した。

 まずは投槍。カエルに狙いを定め、助走をつけて投げる。20mならわざわざ助走をつけなくと投げられるが、ここでは威力が重視。あの巨体だからそれなりの力が必要だろう。

 もちろんこれで倒せるとは思ってない。続いて弓矢を構え、カズマたちと共に走る。…おい、先に走ったお前がなんでもう俺に追いつかれている。お前らやる気あんのか!?そんなんじゃあのカエルに飲み込まれるぞ!

 

「チッ! ならここで足止め…あん?」

 

 弓矢を構えて射ろうとするが、異変を感じて急遽下ろす。

 

「・・・え?もう死んでる?」

 

 耳を澄ませて呼吸と血液の流れを確かめる。・・・これは完全にストップしているな。

 

「…終わり?」

 

 …なんというか、デカさの割りに打たれ弱すぎやしないだろうか?しかものカエル、槍が飛んできたのにも気づかず、悲鳴も上げずに逝ってしまっている。初心者御用達の雑魚モンスターというのは伊達ではなかったということか?

 というか、俺にとってはせっかくの冒険者人生スタートなんだから・・・いやかなり張り切ってしまっていたのに、実際にはこんなアッサリと…。これでいいの俺の初戦闘?

 

「さ…さすがチート転生者! 本当に強いじゃない!」

 

 しかし、そん俺の内心など知る由もないのだろう。アクアは無邪気に笑いながら俺に向かって走り、俺の胸元に飛び込むかのように抱き着いてきた。

 

「やるじゃない八幡!正直こんなアンデッド臭い男が本当に強いのかって思ってたけど、あのジャイアントトードを一発で仕留めちゃうなんて・・・やっぱり私の目に狂いは無かったってことね!」

「お、おう…」

 

 …うん、美少女のアクアにこんな風に素直に喜ばれることはイヤなわけではないんだけど、それでも…ね。

なんていうか……強敵を倒したっていう達成感が微塵もねえんだよ。だからここまで褒められると逆に恥ずかしいんだよ。

ラノベで例えるならアレだ。大したことしてないのに褒められたり、主人公が自分の力ではなくご都合展開に助けられて主人公マンセー状態になっているアレだ。

 

「流石ですハチマン!真の力を解放することなく、技術だけであの巨大な怪物を倒すとは・・・。やはり闇の戦士の名は伊達ではないということですか!?」

「ああ、うん。ありがと。…って、なんだその恥ずかしい二つ名は!?今どきの小学生がもっといいあだ名考えるぞ」

 

 この二人には全く悪気はない。むしろ、あの巨大なカエルを一瞬で倒してしまった俺は主人公のようなものだろう。……そんなことは分かってる。

 だが、俺にとっては、おのカエルは強敵でもなんでもない。むしろ手応えが無さ過ぎて拍子抜けするような雑魚だ。それどころか、何か弱い者いじめしてるみたいであまりいい気がしない。

 だから俺は・・・

 

「ああ…うん。じゃあ今度はあいつらを助けようか」

「「か…カズマ~~~!」」

 

 カエルに苦戦するカズマとダクネスを援護することで、話題を変えた。

 



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スーパートード

ただのカエル狩りだとつまらないので少し強敵を用意します。
・・・カズマたちには悪いですが。


「これ使え」

 

 カズマたちをカエルから助け出した後、俺はカズマにサーベルを渡した。

 刺突に適した、ありふれたデザインの武器だ。それなりの業物だが、量産出来る物のためあまり値も張らなかった。よかったらくれてやる。

 

「ん?なんだこれ?くれるのか?」

「ああ。これであのカエルのココを貫け」

 

 俺は仰向けに倒れているカエルの死体の喉元を指す。

ここがあのカエルの弱点だ。俺はこのカエルを矢で倒すことができた。もちろん一撃だ。

 

「け、けど俺にやれるのか?」

「出来る。こんな細い矢でも貫通させることが出来たんだ。その剣で貫けないはずがない。突進して思いっきりぶっ刺せ。たどり着くまで俺が矢で援護する」

「え?でも一撃で倒せたんなら別に俺がやらなくてもよくね?」

「そうなったらお前の存在価値がなくなるぞ。結果、報酬は全て俺のになる。それでもいいのか?」

「やらせていただきます!」

 

 少し脅し…ハッパをかけるとやる気を出してくれたカズマくん。コイツ欲望に正直だな。

 

「じゃあダクネス、お前もそれでいいな」

「いや…私は不器用で当たらないのだが・・・・」

「何ってる?あんなに的がでかいんだから外しようがねえだろ。ほらさっさと行け」

「あん!む…無理やり命令されるのもいいものだな……」

 

 自信がなさそうに言うダクネスの腰を蹴って、無理やり行かせる。なんか途中、妙な言葉が聞こえたが気のせいだ。俺は気にしない。

 

「じゃあ行けお前ら!」

「へい親びん!」

「うむ。では行ってくりゅ!」

 

 俺の合図で二人は目標めがけて走った。

 あのカエル、なんであんなにうるさい二人に気づかないんだ?これなら援護射撃マジでいらねえかも。

 

「…けど、振り向かせなけりゃいかねえしな」

 

 俺は石を投げてこちらに意識を向かせようとした。

 槍どころか加減して射た矢ですら倒れるほど貧弱なカエルだ。ここは手加減しねえとマジで殺しかねない。

 だが、その心配は思い過ごしに終わった。

 

「あん?思った以上に痛がらねえな」

 

 カエルは石が当たっても『何?』といった感じでゆっくりと振り返るだけだった。

 加減したとはいえ血ぐらいは流れると思ったんだが…打撃には耐性があるということか?

 

 続けて石を投げる。今度は少し力を入れて。けどあいつらは痛がる素振りをしなかった。物理耐性でか過ぎだろ。

 

「ジャイアントトードは斬撃に弱い反面、打撃には滅法強いのです。ですから駆け出しなら上級職の打撃を食らってもビクともしません」

「…なるほど。耐打撃に偏りすぎて刃物ではあの有様ということか」

 

 最初はあんな雑魚にどうやったら負けるのかと思ったが、打撃が効かないのか。それなら納得だ。

 駆け出しは装備が満足に揃わない。鉄製の剣や槍なんて手に入らなさそうだし、某RPGでも最初はヒノキの棒だった。そんな状態ではたしかにあのカエルは強敵だろう。

 

 けど、それにしても偏りがありすぎるだろ。刃物ではあんなに簡単に倒れるのに、打撃ではピンピンしてるとか…ポケ○ンの相性か!?

 

「おりゃ!」

「ゲコッ」

 

 そうこう考えてるうちに、カズマの剣がカエルの喉を貫く。その一撃でカエルは息絶え、ゆっくりと横になった。

 

「やったぜ比企谷さん!」

「よくやった。じゃあ次はダクネス…何やってんだ!?」

 

 ダクネスに視線を戻す。本来ならばカズマ同様、カエルを始末している様子を思い浮かべたのだが、なんと彼女はカエルにめちゃくちゃなめられていた。甘く見るという意味ではなく物理的に。

 なんでだ?カズマとは違ってコイツは前衛のスペシャリスト、しかも上級職なんだろ? あんなにいい装備をしているのだから腕も確かなはずだと思ったんだが…。

 

「くう!や…やはり当たらない!」

「なんでだァァァァァ!!!?」

 

 俺は二本の矢を発した。一本はカエルの脳を貫き、もう一本はダクネスの頭にスポンッと張り付いた。

 仕留めた獲物たちが同時に倒れる。一応言っておくが、ダクネスのは矢先がラバーカップみたいになってるおもちゃだから。本気で人間を射抜くわけないからね。

 

「・・・なんで当たらねえんだよ。あんなにでかい的相手に、そんなでかい武器で何で当たらねえんだよ!?」

「わ…私は不器用なんだ。この通り今まで私の攻撃が敵に当たった試しが一度もない」

「嘘つけ!いくらなんでもここまでひどいはずねぇだろ!? まだおもちゃを持った四歳児のほうが上手いわ!」

 

 もう一回矢を向けて怒鳴る。いやだってさ、普通ここまでひどい奴なんていねえだろ。ふざけているとしか思えないだろ。だから俺は正しい。

 

「ほ…本当なんだ!必死で攻撃しているのに攻撃が当たらず、このもどかしい感じがとてつもなく心地良いんだ!」

「・・・ヒドォチョグテルトヴッドバスゾ!」

 

 ・・・まずい。怒りのせいでまたオンドゥル語が出てしまった。

 いや、だけど弁解させて。だってコイツ、すんごい荒い息でこんなふざけたこと言ってるんだよ? 仕事中に、その中でも命の危険がある討伐系の仕事で。

 人の性癖に文句を言う気はないが、ここは命の殺り取りをする場だ。おふざけなど許されるはずがない。

 

「いや比企谷さん、コイツの言ってることはマジなんだ」

「はい、ダクネスの攻撃が当たったことは一度もありません」

「・・・マジか?」

 

 カズマとゆんゆんがダクネスをフォローする。どうやらコイツは信じられないことに、マジで攻撃が当たらないらしい。信じられないことに。大事なことなので二回言いました。

 よくそんなんで今まで生き残れたな。逆に尊敬するわ。

 

「・・・お前、なんで冒険者やってんだ?」

 

 攻撃が当たらないというのはあまりにも致命的だ。ここまで生き残れたことについては称賛するが、そんな幸運が何度も続くはずがない。だからさっさと足を洗うべきなのだが・・・。

 

「決まっているだろ!モンスターに凌辱されるためだ!!」

 

 ・・・この女の頭は俺を洗脳した淫乱悪魔(サキュバス・クイーン)よりも更におかしいようだ。

 

「雑魚中の雑魚であるジャイアントトードに力及ばず、飲み込まれて粘液ヌルヌルになる。・・・ああ、考えただけでも興奮する!」

「・・・ねえ、コイツっていつもこうなの?これがコイツの本性なの?」

 

 作り物臭い仮面をはぎ取り、獣のような本性を見せた変態を指さす。

 やはりコイツ、ドMの変態女だったか。なんか変態の匂いがすると思ったら案の定だ。この世界で何度も変態を見て培った俺の観察眼を舐めるなよ?

 

「ち…違うんです八幡様!これはその…アレがアレでしてこうなったんです!」

「・・・それで誤魔化せると本気で思ってんの?」

 

 全身から脂汗を流していると錯覚させるほど慌てるカズマ。アレとソレとか言われても訳わかんねえよ。俺も似たような言い訳してたけど。他人から見たらこんなにもアレなのか…。治そっか。とか言って早速アレって言っちゃてるけど。

 

「…おおよそ何を考えてるのか当ててやる。どうせ俺の能力目当てで勧誘しようと考えたんだろ」

「へ・・・っへ!!!? な・・・・・・なななななななな!!!・・・なんのことですかな!!!?」

「…全然隠しきれてねえぞ」

 

 まるで直接心臓を鷲掴みされたかのように慌てるカズマ。汗はもう滝のように流れ、目は渦巻のように泳ぎ、口からは魂のようなものが出かけている。

 ・・・おい。いくらなんでもそれは動揺しすぎだろ。見てるこっちが心配になるぞ。やっぱ入ってやろうかな…?

 

「…んなこと最初から気づいてんだよ。もちろんお前のパーティに入るかどうかの答えはノーだ」

「ウェイ!!!?」

 

 これはもう最初から決まっていた。今回一緒に討伐イベントに参加したのは俺が一人でやれるかの確認のようなものだ。

 結果は出た。これからも一人でやれる。大半の敵は変身せずとも戦えるし、まずくなったら変身すればいい。よって何も問題ない。

 

「な…何でレスか!?美少女ハーレムっすよ!?男の夢じゃないレスか!」

「ふざけんな。あのアホは俺にしょうもない理由で欠陥品を押し付けた前科あるし、あの変態は攻撃当たらねえし、あの中二は爆裂魔法しか使えねえじゃねえか。ほら冒険者カード」

「・・・な!?いつの間に!?」

「移動中に」

 

 カードを盗む隙はいくらでもあった。密着しているおかげでな。

 しっかし爆裂魔法ねえ…。一度紅魔の里で見たが、あれは完全にネタだ。馬鹿みたいに火力が強いから仲間ごとぶっ飛ばすし、地形が変わるせいで何度も使えない。・・・こんな欠陥魔術しか覚えないなんて、絶対コイツもあの二人同様にやばい奴だ。

 

「とうわけで俺はここでさよならだ。報酬とその剣はやるわ。じゃあな」

「ちょっと待ってくらさいよ! そりゃないれしょ!?」

 

 バイクに乗って帰ろうとすると、カズマがバイクにへばりついてウソ泣きをしだした。

 お前必死だな。まあ、たしかにお前のパーティからは残念のにおいがプンプンする。余計なことしそうなアホに攻撃の当たらない変態に爆裂魔法という馬鹿火力しか取柄のないネタ魔法しか使えない中二。

 なんかさっきからオンドゥルってない?

 

「ジャーロレドースンデス? せっかくパーティしんせーシタノニ! イヴァサラ!?」

「知らねえよ。それはそっちの事情だろ。てかいつまでひっついてんだ。轢くぞ」

 

 なんかこのやり取りどっかで見たことあんな…。どこだっけ。

 

「あ~たすけてゆうしゃさま~」

「(…今度は何だ?)」

 

 アクアの悲鳴が聞こえたので振り返る。見るとアクアがカエルに踏まれているではありませんか。

 

「たすけて~。このままではアクアがカエルにころされる~」

「うわ。このカエルつよすぎます~。ここはつよくてかっこいいやみのせんしでしかたおせませ~ん」

 

 …泣き落としの次はくだらない小芝居か? 全く、無駄なことを。そんなことしても俺は助けないぞ。カズマに助けてもらえ。

 

 

 ・・・いや、待てよ。あのカエル、なんかおかしくね?

 

 

「(あいつ、1.5倍ほどほかのカエルよりでかいな。それにあの角みたいな突起とほかのカエルより毒々しい色合い。・・・まさか!)」

 

 俺は嫌な予感がしたので咄嗟に矢を放つ。念のためもう2本矢を撃った。

 俺の思い過ごしならこの矢があのカエルを貫いて終わるだろう。だが、予感が的中しているならこれだけでは終わらない。次の攻撃が必要だ。

 

「ちょっと返してもらうぞ」

「え?なに?」

 

 カズマから一旦サーベルを返してもらい、切りかかる。

 全力の突進。あのカエルと同類なら、このカエルがほかのジャイアントトードより優れていても真っ二つに出来る威力だ。

 そのはずなのだが・・・。

 

 

「げっこ~?」

「なッ!?」

 

 剣は刺さることなく、油のような粘液で滑ってしまった。

 いや、ただ滑るだけではない。見た目は柔らかそうだが、このカエルかなり固いぞ!

 

「クソ!」

 

 二度、三度と斬撃を繰り返す。

 しかしビクともしない。剣先はヌルヌルと滑り、攻撃する度に奴の皮膚は固くなってきた。

 おそらくダイラタンシー現象だ。コイツの皮膚は圧力をかけると固くなる仕組みになっている。強い圧をかければかけるほど、強い攻撃をすればするほどコイツは防御力が上がる。

 

「も…もしやそのカエルはスーパートードではありませんか!」

「え?なにそれ?」

「十年に一度の確率で現れるジャイアントトードの変異種です!その戦闘力は通常種の10倍だそうです!」

「なんだよそのスーパーサ○ヤ人みたいな設定!?」

 

 なんでそんな希少種がこのタイミングで現れるわけ? そういうのいいから。どうせまた100年に一度とかいいながらポンポン出るんでしょ?

 

「え?なんか強敵っぽいの?まさか・・・私ピンチ!?」

 

 カエルの足元から少し慌てた様子の声が聞こえた。やれやれ、ここでやっとアホは今の自分の立場が理解できたようだ。

 けど大丈夫だ。安心しろ。お前は別にピンチではない。

 攻撃する度に固くなるなら、今度は一撃で仕留める。俺は一旦下がり、刺突の構えに入った。

 だが、このカエルはジャイアントトードみたいにゆっくりさせてくれなかった。

 

「ゲコォ!」

 

 カエルがすさまじいスピードで舌を伸ばして攻撃してきた。

 転生前の世界でもカエルの舌のスピードは凄まじい。瞬きほどの僅かな時間で敵を捕らえ捕食する有様はまさしくハンターだ。

 けど、相手が悪かったな。

 

 俺は剣を振って舌先を弾いた。

 一度だけではない。二度三度と、俺は剣を振ってカエルの舌攻撃を防いだ。

 スピードは大したものだがタイミングと方向さえ分かれば問題はない。目視はできないがついていける。

 

「げ…ゲコ・・・・」

 

 カエルは自分の攻撃が通じないことに焦り、一歩下がる。

 その隙を見逃すほど俺は間抜けじゃない。俺は踏み込んでカエルの腹に刺突した。

 

「げっこ!」

 

 だが、カエルは俺の剣先をジャンプして避けた。足をバネのように伸ばし、何十メートルも後ろへ跳ぶ。

 そりゃあカエルだもんな。そんぐらい跳ぶわ。

 けど、逃げるということはさっきの刺突に危険を察知したということ。つまり有効だと認めたことになる。ならこのまま押し切れば勝てる!

 

「一応聞いておくが大丈夫か?」

「あ…ありがとうハチマン様~。お礼にターンアンデッドしてあげる」

「効かねえから」

 

 踏みつぶされていたアクアは声こそ絞んていたが、かなり元気だった。

 

「じゃ、さっさと始末して・・・!!?」

 

 俺は咄嗟に後ろに跳ぶ。

 何故こうしたのかは分からない。しかし俺の勘は言っている。ここは危険だ。逃げろと。

 その時だった。地面が盛り上がって何かが這い上がったのは。

 

「グルゥァァァアアアアアアッ!!!!」

 

 なんと、そこに居たのは、巨大な体躯を持つ目のない蛇だった。

 

 しかし、驚くのはまだ早い。なぜなら、空からも大きな影が現れたのだから。

 

 

「コッケェェェ得ええええ!」

「こ…今度はぁぁあああ!!!??」

 

 空から落ちてきた影の正体お、巨大鳥の足を咄嗟によけながら俺は叫ぶ。

 なんなの今日は!?スーパーカエルが出たと思ったら次は大蛇で、その次は鳥か?一体なんつー厄日だ!

 

「あ…あれはランドサーペイントにロック鳥!なんでこんな辺境の地に!?」

 

 あの鳥と蛇の正体を知っているであろうめぐみんが叫ぶ。

 

「なんだお前!?あれ知ってるのか!?」

「はい!図書館で一度読んだことがあります。ランドサーペイントもロック鳥も上級の危険なモンスターです!ベテランでも準備なしでは勝てないほどの!」

「なんでそんな危険な化け物がここにいるんだ!?聞いてねえぞ!」

「私もですよ!」

「…そうだな。お前に当たっても仕方ねえ。…おいダクネスにカズマ……カズマ?ダクネス?」

 

 振り返って後ろにいるであろうカズマたちに注意を呼びかけようとするも、そこには誰もいない。

 ・・・いや、その前にカズマとダクネスってこの場にいたっけ?

 

 

 

 

 

「た~す~け~て~!!!」

「いい…いいぞ!このまま私はモンスターの寝床に連れていかれて性欲の塊のようなモンスターたちの苗床に・・・・・・最高の展開だ!」

 

 

 

 

 

「か…カズマーーー!ダクネース!」

 

 どうやら、すでに手遅れだったようです。




・スーパートード
ジャイアントトードの変異種。通常のジャイアントトードの数十倍もの能力差があり、中にはエンシェントドラゴンにも匹敵する個体が存在する。ただし数は少ないため遭遇することは稀。
十年に一度のペースで生まれ、確認された場合は王都から討伐隊が出る。


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初めてのバトル

「・・・まずいな」

 

 最悪の状況だ。

 デカイ蛇はダクネスを咥え、デカイ鳥はカズマを足で捕らえている。・・・もう一度言う。最悪だ。

 

「ど…どうするんですかハチマン!? ダクネスだけでなくカズマも拐われちゃいましたよ! ダクネスなら頑丈だからまだ大丈夫だけど、ひ弱なカズマは……うわああぁぁぁ!!」

「まずは落ち着けめぐみん。兎に角今はこれ以上被害が出ないようにするんだ!」

 

 めぐみんを落ち着かせ、残されためぐみんとアクアの安全を確保させる。

 ただでさえ二人も人質がいる状態なのだ。これ以上状況を不利にしたくない。

 ・・・あれ?アクアはどこ行った?あの蛇が出てきてから見かけてないんだが…。

 

「げこっ」

「た…たじけて~!!」

「「…す、既に拐われてる~~~!」」

 

 最悪だよ!また被害が出ちまったよ。また人質取られたよ!

 なんだよカエルちゃっかりしてるんだよ! 俺らが蛇と鳥に集中してる間にアクアを拐うとか・・・カエルの癖に知能高すぎだろ!

 

「ゲコッ!」

「シャァ!」

「ケェ!」

 

 三匹の動物は揃って動き出す。カエルはその脚力で蛇と鳥から逃げるように跳び、蛇は滑るかのように蠢いてカエルを追いかけ、鳥はその翼を羽ばたかせてカエルと蛇を追いかけた。

 そのスピードはまるでレースカーのようだ。三匹は並んで生存を賭けたチェイスを行う。

 ・・・って、感心してる場合じゃねえ!

 

「糞が!」

 

 俺は三匹を追いかけようとバイクに跨る。クラッチを踏んでアクセルを捻り、バイクを走らせる準備をした。

 

「(…やっぱ、ここで変身するしかねえか)」

 

 出来ればまだ使いたくなかったが仕方ない。せめて幹部や中ボスに当たるまでは生身で挑戦したかたったんだが仕方ない。

 

「ま…まってください!今行っても勝ち目はないです!ここはいったん撤退してギルドに救助の要請をするべきです」!」

「そんなモタモタ出来るか! あの三人が食われるぞ!」

「じゃあこのまま無駄死にするというのですか!?」

 

 めぐみんはものすごい剣幕で怒鳴った。

 

「希少種のジャイアントトードだけでも滅多にない危険だというのに、ランドサーペイントにロック鳥と戦うなんて無理です!ベテランの冒険者や王宮の騎士でも無理です!!」

「・・・」

 

 めぐみんの言うことは最もだろう。

今の状況を分かりやすく言うなら、スーパーサイヤ人に加えてフリーザ様やセルが同時に襲ってきたようなものだ。駆け出しの冒険者なら瞬殺、ベテランでも嬲り殺しにされる可能性が高い。

 おそらく以前の俺もそうしていただろう。力がないから、どうせ無駄だから。色々と理由をつけてやらなった。

 

 けど今は違う。

 

「・・・俺にはある。戦う力が!」

 

 今の俺は違う。戦う理由も、戦う意思も、そして戦う覚悟もある。

 

 懐から一枚のカードを取り出す。すると、俺の意思に呼応して腰にベルトが現れた。

 

 

 

「変身!」

 

 それは俺にとって魔法の言葉。力を呼び覚まし、戦う自分へと変わるためのスイッチ。

 俺はその言葉を唱えてカードをベルトのくぼみにスラッシュした。

 

《チェンジ》

 

 黒い波動が俺を包み込んで鎧を形成。胸元と手足には銀色の鎧が、身体は金色のラインが描かれたボディースーツが包み込んだ。

 

「仮面ライダー・・・カリス」

 

 俺は仮面ライダーに変身した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

 変身した八幡、仮面ライダーカリスは専用のバイク、シャドーチェイスに乗って三体のモンスターを追いかけた。

 人間状態ではついていけなかった速度でも、アンデッドと融合することによって底上げされた反応速度でついていける。今の彼にはあのモンスターたちに追いつけない道理などない。

 

「す…すごいです!それが変身ですか!?」

『…なんでわざわざついてきた』

 

 いつの間にかカリスの後ろにひっついているめぐみんにエコーのかかった声で文句を言う。

 このままカエルに食われても目覚めが悪いので連れて行ったのだが、うざそうなので若干八幡は後悔していた。

 

「どういった仕組みなんですか!?カズマの話だと古の邪悪なアンデッドの力から形成された闇の力と聞いたのですが本当なんですね!あとあと…」

『悪いが今は急いでいる。後にしてくれ』

 

 無理やり話を中断して敵に目を向ける。

 シャドーチェイサーの加速力によってモンスターとの距離は格段に縮んでいる。今なら攻撃の範囲内と確信したカリスは専用の武器、カリスラウザーを召喚した。

 バックルの横についているデッキからカードを取り出す。

 

「待ってください!あの三匹は特別強いモンスターです。並大抵の攻撃では足止めにもならない。ここは私の爆裂魔法で足を止めます」

『そうか。なら任せた。時間がないから早くしてくれ』

「ええ! 黒より黒く、闇より暗き古の力よ‥」

『時間がないといっているだろ!』

「これがないと気分的に打てないんですよ!」

 

 呪文が長くなりそうなので急かすも、めぐみんはあれこれと理由をつけて続けた。。

 

「(そういえば見事に食物連鎖が成立してるな。……もしかして俺の後ろにも天敵いんじゃねえの!?)」

 

 アクアを咥えている蛙を先頭に蛇、鳥、そしてカリスと。見事に食物連鎖が成立している。

 もしかして自分の後ろにも天敵がと思い、めぐみんが長い呪文を唱えている間に後ろを見てみる。しかしそこには何もいない。

 彼は安心した。もし後ろに彼の天敵である吸血姫や英雄姫とかいたらどうしようかとビクビクしていたが、その心配はないらしい。

 

「(そろそろ呪文が完成する頃か…)」

 

 クソ長い呪文もそろそろ終盤に入りそうな頃合。カリスはタイミングを見てバイクにブレーキをかける。

 

「エクスプロージョン!」

 

 

 

 瞬間、空が爆発した。

 

 

 

 空がまるで燃えていると錯覚する程の巨大な業火。空が地震を起こしていると勘違いしそうな爆音と大気の揺れ。

 めぐみんの発射した魔法が空を染め上げる景色を八幡は仮面の中でポカンとした表情で眺めていた。

 

「ック!」

《ロック》

 

 襲ってくる衝撃波をアンデッドの力で岩の障壁を作って防ぐ。

無論カリスの鎧でも耐えられるが今はめぐみんがいる。彼女に傷をつけないようにするため、わざわざ彼は防壁を創った。

 

「フッ!どうですか我が究極の爆裂魔法の威力はッ!」

 

 カリスの後ろにいるめぐみんは実に得意気な表情で言う。

 実際に凄まじい魔法であった。さすがのカリスも少し驚いたした様子でめぐみんに話す。

 

『あ…あぁ。凄まじい威力だ。だがあんなのをくらったら中のアクアたちも木っ端微塵じゃないのか?』

「残念ながら全員危機を察知して回避されました。しかもピンピンしてます」

 

 ランドサーペイントに目を向けると、彼らはたしかに多少のダメージはあるがピンピンしていた。

 ・・・ちなみに、その口にくわえられたアクアたちはピクリとも動いてない。

 なんというか、あの女神様はカエルに攫われるわ、その上走って振り回されるわ、挙句の果てには至近距離で爆裂魔法に巻き込まれるわ…。

 ・・・結局、カエルは倒すことは出来なかったが、クエストの報酬くらいは分けてやってもいいかもしれない。そんなあまりにも運の悪いアクアたちを見て、そんなことを思うカリスだった。もちろんカズマにも分けてやろう。

 

「いい・・・。いいぞ!まさか至近距離で爆裂魔法もくれるサービスがあるなんて!」

 

 ・・・そこにいるドM以外は分けてやるか。

 

 とまあ、現在スーパートードとランドサーペイント、そしてロック鳥はカリスたちに敵意の目を向けている。

 

「・・・どうやら、彼のモノは我が力を見ても尚、愚かにも牙を向けてくるつもりらしいですね!その無知故の蛮勇!後悔させてやりましょう!!

 と、ととと‥ということで・・・せ、先生!よ、ヨロシクオネガイシマスッ!」

『…なにチンピラみたいなこと言ってんだ』

 

 迫力満点のモンスターたちにビビったのか、一時はかっこいいセリフを吐きながらも、ガクブルと震えてカリスに助けを求めてきた。

 

『まあいい。足止めはやってくれたのだからな』

《シャッフル》

 

 次のカードをスラッシュする。瞬間、カリスの握っていた小石とモンスターたちの持ち物、つまりカズマたちがトレードされた。

 

「あ…もうサービスタイムは終わりか」

 

 カズマとアクアは気絶しているというのに、少しショボンとした表情でダクネスは言った。

 その様子を見てカリスは助けたことを若干後悔するも仕方ない。助けてしまったのだから。

 

『おいダクネス、お前はカズマたちとめぐみんを任せたぞ』

「こ…声色は違うがお前はハチマンなのか!?」

『では任せたぞ!』

 

 役立たずを押し付けてカリスは敵へとその刃を向け、駆け寄る。

 

「シャア!」

 

 まずはランドサーペイントからの攻撃。蛇は口から岩石を砲弾のように吐き出した。

 カリスはボクシングのフットワークの要領で岩の弾丸を避け、隙を見てカリスラウザーから光の矢を射出。見事全て命中させた。

 

「シャアアア!!?」

 

 痛みの咆哮をあげるランドサーペイント。カリスはその隙に敵の懐に潜り込み、カリスラウザーをふり下ろそうとする。

 その瞬間だった。弾丸のようにスーパートードが弾丸のようにランドサーペイントの影から突撃したのは。

 スピード、タイミング、そしてパワー。全てが彼のベストを行った一撃。この前ではたとえドラゴンだろうが一撃で屠れる。だが・・・

 

『はあ!』

「ゲッコォォォォ!!?」

 

 死角からの奇襲だというのにカリスは見事対処。己の得物で敵の体を切り裂いた。

 馬鹿な、何故俺の渾身の一撃がこんな小さい生物に防がれた。ドラゴンをもノックアウトしたこの一撃が、何故こんなチビごときに!

 見抜かれた挙句カウンターを食らったショックで止まるスーパートード。そんな隙を見逃すほどカリスは間抜けではなく、再びその刃を向けた。

 

 しかし、邪魔が入った。

 

『チッ!』

「ケェ!?」

 

 カリスがスーパートードに斬りかかるタイミングを見計らい、ロック鳥がその爪で奇襲する。

 スーパートード同様、いやそれ以上の一撃。しかしカリスはその攻撃を読んで回避。体を無理やり後ろに倒して爪から逃れた。

 

『らぁ!』

「ケケェェェ!!?」

 

 それだけではない。なんと彼はオーバーヘッドキックの要領でロック鳥の胸に蹴りを叩き込んだ!

 ロック鳥の突進力とカリスの脚力が同時にロック鳥の胸に集中。その威力に肺から全ての空気が吐き出され、飛行のコントロールを失い地面に激突した。

 

『どうした畜生共。このままでは俺が全部食っちまうぞ?』

「「「・・・」」」

 

 再び武器を構え直すカリス。悠々と、余裕に。

 その様子を見て三匹は同時に思った。この敵は強敵だ。全員で協力しなければ絶対に倒せない。

 食う食われるの関係ではあるが、今は忘れて協力しなければ。一時的とはいえ協力体制をとり、カリスを取り囲む。

 ランドサーペイントとスーパートードがカリスの左右を、ロック鳥が真上を取り囲む。

 

『・・・』

 

 カリスラウザーを構え直し、敵の動きを観察。全員カリスの視界外に逃げようと、そして気配遮断のスキルで不意打ちの準備をする。

 ほんの隙を晒した瞬間が戦闘の合図となる。ここは戦場。食うか食われるかの世界。一瞬の油断が命取りだ。

 両サイドがにらみ合って数秒後・・・

 

 

 

 

 

「八幡さま助けてください!また食われそうになってます!」

『なにやってんだァァァァァ!!!?』

 

 バカ共がまたバカをやらかした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クソ! こいつらを倒してから・・・って。逃げんな!』

 

 早く片づけて戻ろうと敵に目を向けるが、そこには何もなかった。

 スーパートードは水の中に潜って、ランドサーペイントは地面を潜って、ロック鳥は飛んで逃げてしまった。

 そりゃあもういい逃げっぷりだった。敵が見せた隙を攻撃ではなく、逃げの一手に賭けたその逃亡は、生物としても軍師としても一流だったといえる。

 せっかく盛り上がったのに今更逃げるとか興ざめ? 最後まで戦え?・・・知るかそんなの。勝てるかどうかわからない博打に付き合う義理などない。

 折角生存のチャンスが巡ってきたのだ。ここで戦う選択するなど愚か。生き抜いた個体こそ勝者なのだ。文句あっか人間ども。

 

 

『クソッ!今はこいつらだ!』

 

 一瞬追うかどうか迷ったが、カズマたちの救助を優先してあきらめた。

 逃げるのならば無理して戦う意味などない。その上カズマたちがピンチなのだ。助けない道理はない。・・・たぶん。

 

『そいつらを返せカエル共!』

 

 カリス初の獲物、ただのジャイアントトード3匹。




やっぱ正しいバトルなんてこのすばには不要だよね!


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パーティ誕生(強制イベント)

 

「ぐすっ…ぐすっ…生臭いよ~! 折角チート野郎がいるのになんでまたヌルヌルなの~~~!? 途中から記憶もないし・・・私に一体何があったのよ!!?」

「さ…最悪です!まさかあそこでまたカエルに飲み込まれるなんて……もう二度とカエルにはいきません!」

「な…なんで俺もズルズルなんだよ!?」

「はぁ…はぁ。か…カエルプレイもなかなかいいものだな!」

「(や・・・やっとついた・・・・・・)」

 

 アクセル街の路面。八幡はヌルヌルになっためぐみんとアクアを 抱えながら帰って行った。

 彼にとって、この一日は最悪の日だった。妙な接待を受け、いきなり強敵と鉢合せするわ、最後はこのヌルヌルを背負って持って帰ることになるわ…。本当に最悪の日だ。

 

「うわ!?どうしたんだ!?」

「ヤダ!?あの人達なんであんなにヌルヌルなの!?」

「あんな小さな・・・小さな女の子?も交えて・・・!一体どんなプレイをしたっていうの!?」

 

 さらにこの影口。街の人々は思いっきり聞こえるヒソヒソ声で喋っている。

 彼女たちを助けたのは八幡である。なのになんだこの言われようは。

 特に、今日一日中、カエル狩りに、3匹の上級モンスターとの闘いという超絶ハードスケジュールをこなし、ヌルヌル女子二人を背負ってで帰って来た彼は、もはやこうして立っているだけでもゴリゴリと体力を削っていく苦行に他ならなかった。

 

 とにかく早く休みたい。さっさと風呂に入ってヌルヌルを落とし、洗濯して綺麗な寝間着を着てベッドにダイブしたい。それだけが八幡の頭の中にあった。

 

「そ…それで今日は・・・どうでした?」

「決まってんだろ。最悪の日だ」

「・・・・・・ですよね~」

 

 八幡の返答に対して微妙な顔をする。

 当然といえば当然。ここまで最悪な目にあって誰が『最高の日だ!こんなにいい思いをしたのはお前たちのおかげだ!今日からよろしく!』と言えるだろうか。

 

「(ま…まずい!このままでは八幡先輩が離れてしまう!)

 

 カズマは焦っている。このままでは八幡が逃げてしまう。それだけはなんとしても避けねばならない。

 彼にはこの欠陥だらけのハーレムを押しつけ・・・支えてもらわなくてはならないのだ。彼こそ主人公にふさわしい。俺など友人ポジションで十分だ。だからこいつらをマジで頼む!

 

「と…というわけで今日からお願いしますハチマン先生!」

 

 ゆえに、カズマは八幡が自分たちのチームであると宣言するような発言をした。

 

「・・・は?」

 

 無論、八幡はカズマのチームに入る気などないので一瞬わけの分からないような顔をする。

 

「よろしくお願いしますハチマン!今日からは仲間ですね!!」

「そ…そうよハチマン様!今日みたいに敵を倒してかっこいいとこを見せて!!」

「そうだ!今日から私たちはお前の支配下に下ったのだ!!」

 

 カズマの意図を察したのか、それとも単純に八幡を歓迎してくれてるのか。アクアたちまで八幡が仲間に入ったようなことを言い出した。

 これで八幡はカズマのチームであるとギルドの冒険者や関係者に印象付けられた。翌日には噂になって町中に広がっているだろう。

 

「・・・あれ?もしかして確定事項?」

 

 八幡はここで気づいた。もうカズマから逃げられないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、比企谷先輩は今まで何やってたんですか?」

 

 風呂からあがって飯を食ってると、カズマがいいなりそんなことを聞いてきた。

 

「別に。解放されたアンデッドの封印をしていただけだ」

「ふ~ん。・・・本当にそれだけ?」

 

 そういいながら奴は一枚の紙を取り出し、俺はカズマの渡した紙、手配書を破り捨てる。

 なんでここがここにあるんだ!?この事件は遠い国の話だぞ!?

 

「お…おい。お前それをどこで手に入れた?」

「・・・俺がひいきにしてる店で手に入ったんだ。それで、この手配書に書かれている内容、明らかあんただろ」

「・・・・・・チッ!」

 

 もう言い逃れができないので俺は素直に吐くことにした。

 まったく、今日は本当に最悪の日だ。せっかっくここまで逃げたのに、なんで初日でバレるんだよ!?ここなら絶対にバレないて思ってたのに…。

 

「で、なにがあったんだ?あんためっちゃいい人そうだから事件なんて起こしそうにないんだけど」

「・・・アンデッドとの戦いに慣れて実力もついた頃、アンデッドを使って利益を得ようとした馬鹿が現れやがった!それがその国で俺を探してる我侭姫だ」

 

 俺は怒りを噛み殺しながら事情を話した。

 

「幸い計画は実行する前に俺が防いだ。その時に惚れたとかなんとか抜かして求婚された」

「ヴェ!? お姫様に求婚されて断ったの!?なんで!?」

「見た目は理想の女体だが中身は吐き気を催す邪悪そのものだった。あんな毒蛾の夫になったらいつ食われるか気が気でならない。だから逃げた」

 

 他にもアンデッドや俺の力を利用しようとした者はいる。女悪魔に吸血姫に悪の魔法少女に・・・なんで美少女ばっか俺の敵に回るんだよ!?

 人が必至こいてアンデッドを封印しているのに、どいつもこいつも横から首突っ込んで邪魔しやがって。たしかにラウズカードを持ち込んだのは俺だが、その責任とって戦ってるんだぞ!

 ・・・まあ、使えそうな弱者を利用しようとする考えはどこでも一緒なのだろう。原作ブレイドでもアンデッド解放には人間の思惑が絡んでいたし。……本当にそういうものなのだろう。腹が立つことに。

 

「というわけで俺はいろんな陣営が俺を血眼で探している。切るんなら今のうちだぞ」

「な…なるほど。正義のヒーローが大変なのはわかりました」

 

 正義のヒーロー?俺が?・・違うぞ。俺は責任を果たしただけだ。

 あ、後特典でfa○eのサーヴァントのおっぱいキャラ召喚するために聖杯選んで、英霊たちに殺されたバカいたな。

 あの後俺がすべてのサーヴァントと戦って封印したんだが・・・関係ないし黙っておくか。

 

「けど、別に俺は気にしないぜ」

 

 ・・・は?

 

「だってあんた今まで勝ったんだろ?ならこれからも勝ち続けるさ」

「・・・そこでお前と一緒に戦ってやるって言えないのか」

「俺がそんなこと言える人間に見えるか?」

 

 見えないな。

 

「とにかくこれからもよろしく頼むぜ、先輩!」

「・・・ああ」

 

 手を出して言うカズマ。俺は自分でも驚くほど素直に握手した。

 

「(こいつ、組まないとバラすって脅しているんだろうな・・・)」

 

 だって、ここで握手しないと俺の居場所なくなるもん。




八幡は延伸しなくても戦える上にラウズカードも全て持ってます。けどそれじゃあこのすばにした意味がいないんで無理やりカズマたちのパーティにしました。
これから八幡には苦労してもらいます。


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フォレストライガー

今回はオリジナル回です。
このまま本編通りでいくとカリスが活躍できないのと、カズマたちの活躍を全部取ってしまう可能性があるので彼らの見せ場を作りたいと思い、急きょ考えました。


「仕事・・・ですか?俺を指名して?」

「ええそうです。お願いできませんか?」

 

 ギルド受付嬢のルナさんは前屈みになってそういってきた。

 前かがみになった結果、二つのおもちが強調されて・・・マテ、鎮まれ化け物の性欲よ。

 俺はお前を克服し、女悪魔の洗脳という縛から解放されたのだ。もう二度と性欲に溺れて暴走してたまるか。

 

「…ごほん。…ヒキガヤさん、ダメですよ、女性の胸を見ちゃ」

「す・・・すんません!」 

 

 咄嗟に頭を下げて謝る。

 ヤバい、やはり胸に視線にいっていたことがやっぱりバレちまったよ。ただでさえ腐った眼なのに、さらに性欲に塗れているなんてシャレにならねえよ。性犯罪者だと思われても文句言えねえよ。

 どうやってこのピンチを乗り切ろうか。やはり親父に倣って頭下げまくって示談に持ち込むべきか?

 

「まったく…。女性は視線に敏感何ですから、今後あまり見すぎないこと。いいですね?」

「は、はい!気をつけます。」

 

 ルナさんは怒っていたように見えたが、イタズラっぽく微笑んでいた。

 よ…よかった!許してもらえた! これで少ない金を示談金に使わずに済む!

 それにしても、なんて優しいい人なのだ。俺が大人だったら指輪持って告白するわ。そして盛大に振られるわ。この人なら振られても問題ないわ!

 

「それでは、話を戻させてもらいます。今回八幡さんに戦ってもらう敵の名前はフォレストライガー。密林の狩人と呼ばれる上級モンスターです」

「・・・フォレストライガー?」

「ええ。本来ならもっと上級者向けの場所に現れるらしいのですが、なぜが最近この近くの森に出るらしいのです」

「ではなぜ俺を指名したのです?俺はまだ初心者ですよ」

 

 そう、普通ならばありえない。俺は昨日冒険者になったばかりだ。まだ冒険者の右も左もわからない状態で仕事をしても失敗するのは目に見えている。やるとしてもせいぜい勉強のための仕事である。

 なのに何故?

 

「実は…このクエストは王都から派遣される上級冒険者が受ける予定だったのですが、ヒキガヤさんと戦闘した例のモンスターとの戦闘に急きょ変更したのです」

「・・・ああ、そういうこと」

「申し訳ございません。その冒険者はかなりの戦い好きらしいですので、是非その三体のモンスターと戦いたいと。それとギルドも例のモンスター討伐を優先する方針をとったので。・・・スーパートードだけでもこの町の冒険者にとってはすべての仕事を放棄して町に籠るのに十分です」

 

 なるほど。つまりあのモンスターを逃がした責任を取れということか。

 いつもならばまだ入ったばかりの俺に何デカい仕事押し付けてんだと怒鳴りたくなるが、あの三匹が逃げたのは俺がよそ見したせいでもある。責任の一端は俺にもあるのだ。

 いいだろう。その依頼引き受けよう。正直消化不良だったし。

 

「わかった。そのクエストは俺が受ける」

「あ…ありがとうございます!」

 

 ルナさんは満面の笑顔で俺の手をつかんだ。

 ちょっと、そういうのマジやめて。勘違いしちゃうから。衝動に流されて告っちゃうから。そして玉砕しちゃうから!

 

「あと、フォレストライガーは密林の狩人と呼ばれますが、スーパートードよりは弱いので安心してください!スーパートードとランドサーペイントとロック鳥を同時に退けたヒキガヤさんなら問題なく戦えるはずです!!」

 

 わかったわかった!だからその手を離して! 見えちゃうから。その胸元が協調されている服から谷間に目が行っちゃうから!

 

「報酬はご安心ください!今回は危険な任務ですので危険手当はもちろん、指名制ですので更に上がります!・・・昨日入ったばかりだというのに、こんな危険な仕事を引き受けてくださり本当にありがとうございます!!」

 

 本当に離してくれない?じゃないと俺の野獣がお山に飛び込むよ?侵略しちゃうよ?悪魔やら魔法少女やらヴァンパイアに洗脳されて野獣化した俺は人目も気にせず襲い掛かるよ?

 

「わかりましたから離してください!」

 

 ルナさんの手を振り払って離れ、急いでギルドから出た。

 

「ちょっと待ってください!どこの森とかモンスターの情報聞かなくてもいいのですか!?」

 

 ・・・なかなかうまく決まらないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ、ウサギ捌けたぞ。じゃ、あとは頼んだ」

「任せてください。俺こういうのは得意なんで」

 

 その日の昼頃、俺たちは平原でバーベキューをしていた。

 食料の調達及び捌くのは俺が担当。適当に仕掛けておいた罠に引っ掛かった肉食ウサギを捌いてカズマに渡す。

 

 言っておくが俺は別にサボっているわけではない。俺たちが今いるのはフォレストライガーがいる前の森。今回の敵は鼻がいいためこうして離れた場所で飯を食っているのだ。やはり戦う前の腹ごしらえは必要だ。

 だからここで飯を食うのはいいんだが・・・

 

「・・・なんでお前らも付いてくんの?」

「いいじゃないッスか。俺たち仲間じゃん」

 

 ・・・何故かこいつらまでいるのだ。

 

「ライガーの毛皮って高く売れるらしいわね!そのお金でお酒飲み放題よ!」

「ケダモノに凌辱されるのも悪くない!皆を庇って私は死体に体を汚され…あん!」

「パーティメンバーの仕事は私たちの仕事です・・・一人邪な考えをしてますが」

 

 あ、やっぱ俺ってパーティに入ってることになってるんだ。心のどこかで期待してたけど、そんな都合のいいことは起きなかったらしい。仕事しろ主人公補正。・・・俺主人公じゃないけど。

 

「それで、本音は?」

「あんただけこんな高額の報酬受けるとか羨ましい!分け前くれ!」

 

 なるほど。清々しいほど欲望塗れの返答だ。

 

「…わかったわかった。けど仕事に応じて分け前には色つけろ。それを守れるならいい」

「「「ありがとございます!」」」

 

 三人は俺に頭を下げる。そこまで卑屈にならなくてもいいぞ。ていうか卑屈は俺のアンデンティティーだからとらないで。

 

 

「…まあいい。今は飯だ」

「やったー!認めてくれるんですね!後でなしとかはなしですよ!」

「分かったから。だから退け。今火使ってんだ」

 

 カズマをどかしながら、捌いたウサギを燻製にして臭みを消す。

 今繊細なとこだから邪魔されると失敗する。だから放っておいてくれ。

 

「お、うまそうじゃん」

「ハチマンってサバイバル技術があるのですか。…すごいです」

「これぐらい一か月ぐらい山に籠ってりゃ誰でもできる」

「いや、出来ねえよ!」

 

 出来るよ。葉○隼○とか普通に山賊飯作ってたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飯を食い終えた俺たちは数分ほど休憩、十分消化した後に森へ入った。

 無数の木が生い茂る森はフォレストライガーの陣地。どこに潜んでいるか分かったものではない。全ての木が奴にとっての足場であり、身を隠す壁なのだ。全方向あらゆる場所から襲い掛かる可能性がある。

 

 いつ敵が襲ってもおかしくない。だから常に警戒を怠らず、慎重に進むべきなのだが・・・

 

「ぷはー!食った食った」

「いつも食べてる干し肉より断然うまいですね。また作ってくれます?」

「ねえ今度お酒のおつまみの燻製作ってよ!」

『・・・わかったから黙ってろ』

 

 このバカ共は完全に油断しきっている。これでは俺が少し目を離した瞬間にパクッとやられても文句は言えんぞ。

 

「まあそんな緊張しなくてもいいじゃん。ここには八幡先輩がいるんだし」

「そうですよ。スーパートード、ランドサーペイント、ロック鳥の上級モンスターを同時に相手取った暗黒騎士ならばたかが狩人の一匹や二匹、そこらの雑魚と同じであろう?何を恐れるか?」

『・・・』

 

 ずいぶん簡単に言ってくれるなコイツら。

 たしかに俺はそのフォレストライガーとやらに負ける気は微塵もない。たとえどこに潜んでいようが、俺に襲ってきた瞬間にカリスラウザーで撃ち落とす自信がある。

 しかしそれは一人の時だ。俺は自分に襲い掛かる敵意には敏感だが、それ以外には鈍いのだ。

 もしこいつらに襲い掛かってきたら、俺は守れる自信がない。だからじっとしててくれ。

 

「しっかし立派な木だな。まるでト○ロだ」

『そうだな。出てくるのは森の妖精じゃなくてモンスターだが』

 

 この世界にはトトロなんて可愛いモンスターなどいやしない。てかいたら版権的にまずいだろ。

 あと、なんかアクアを除く現地の住民が聞きたそうな顔してるが今は無視だ。

 

「いっそのとこダクネスのデコイでフォレストライガーをおびき寄せてはどうですか? データでは群れないんですよね? なら俺たちを守りつつ戦えますよね?」

『…なるほど。その手があったか』

 

 カズマの作戦なら最初から敵が誰に襲ってくるのか分かるから対処は楽だ。その上、万が一フォレストライガーの攻撃をくらっても爆裂魔法を間接的にとはいえくらってもピンピンしていたコイツならば問題ないはず。ま、現れた瞬間にお陀仏になっているとは思うが。

 

『ではやってくれダクネス』

「ック!まさか私を盛ったケダモノの囮にしておびき出すとは・・・なんたる鬼畜!そのまま連れ去られてケダモノに犯されて・・・ああ!興奮する!!」

『やれと言っているだろ!』

「きゃあん!」

 

 ダクネスの腰に軽い蹴り入れて急かす。盛っているケダモノはお前の方だこの雌犬が。

 

「いい…いいぞ!その盛った雌犬を見下す視線!やはりお前は私のご主人さまだ!」

『いいから働け。褒美はそのあとだ』

「ほ・・・本当か!? 今更ナシとかなしだぞ!」

『ああ。分かってる』

 

 褒美は忘れないぞ。ちゃんと報酬分けてやるからね。

 ダクネスがデコイを発動した瞬間、カズマも敵感知スキルでフォレストライガーを探す。

 

「反応ありました!そこです!」

『了解した』

《バレット》

 

 俺はカードをスラッシュしてカズマが指さした方角にカリスラウザーを向け、光の矢を射出した。

 矢は獲物を隠している木を貫通して敵を刺し抜く。当たり所は大体ネコ科動物の心臓がある所。そこをぶち抜いた瞬間、獲物であるフォレストライガーは茶色の液体を口から履いて地面に落ちた。

 

『・・・楽な仕事だな』

 

 確かな手ごたえを感じた俺は弓を下す。

 本当に楽な仕事だ。

 

「・・・ねえ八幡さん?なんか他にも反応がするんですけど」

『何? まあここにはフォレストライガー以外にも敵はいるんだ。ほかの敵がつられて来てもおかしくない』

 

 デコイはヘイト値を上げるだけで何も特定の敵をおびき出すスキルではない。ならば他のモンスターが来ても不思議ではないのだ。

 なに、問題ない。フォレストライガーが特別つよいだけで他は初心者用のモンスターばかり。少し力の差を見せたらビビッて逃げるだろう。

 

『それで、数はどれぐらいだ』

「・・・全部で20くらい。あと、全員フォレストライガーです」

『・・・何?』

 

 ・・・今、なんていった?俺の耳がバクったのか?

 

「全部フォレストライガーです!しかもさっきよりデカいのばっかり!!てか数も増えてる~~~!!」

『・・・報告する必要はない。すでに囲まれている』

 

 あたり一帯を見渡す。木の枝や草むらなど、あらゆる場所に何十匹ものフォレストライガーが潜んでいた。



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なんかいっぱい出た

「はあッ!」

「げえええええええええええ!!?」

 

 一閃。八幡はカリスアローを振るうことでフォレストライガーを切り裂いた。

 

「たすけて八幡先輩!」

 

 カズマに襲い掛かったフォレストライガーを光の矢で撃ち落とす。フォレストライガーは心臓のある部位を貫かれ、絶命した。

 

「おらあ!」

「ああ!タマさまーーー!!?」

 

 ダクネスに襲い掛かったフォレストライガーを蹴り飛ばす。フォレストライガーは大岩に頭をぶつけて絶命した。

 ・・・何かダクネスが変な名前をつけてフォレストライガーの死を嘆いているがそこは無視する。

 

『クソ!何匹いやがんだ!!? フォレストライガーは群れないんじゃねえのか!?』

 

 カリスは敵を蹴散らしながら怒鳴った。

 ギルドから貰った情報によると、フォレストライガーは単体で奇襲を仕掛けて獲物を狩るとある。

 しかし現状はどうだ? フォレストライガーは一斉に襲い掛かり、彼が切り裂いた敵は既に10体を超えている。完全なイレギュラーだ。

 唯一の救いといえば連携が取れていないということ。全員本能に任せて獲物に襲い掛かってくるのでカズマを守りながら戦ることが出来ている。もし群れで攻撃したら・・・カリスも少し無理する必要があった。

 

『おいこれはどういうことだ!?こんな話聞いてねえぞ!!』

「わ…私もですよ!! フォレストライガーは同種でも縄張り争いで殺してしまう本物のぼっちなんですよ!」

『喧嘩売っているのか!?』

「なんでです!?」

 

 ぼっちという言葉に過剰に反応して怒鳴るカリス。まあ、彼のぼっち論は今どうでもいい。

 

 本来ならばフォレストライガーという中級モンスターがアクセル町の近くにいるだけでおかしいのに、そのうえ群れで襲い掛かるなどおかしいにも程がある。

 単体でも奇襲を仕掛けるならば上級モンスターを屠ることが出来るモンスターが数十体。連携こそ取れてはいないが、それでも前回上級モンスターに襲われた時以上のピンチだ。

 

『クソが!このままじゃらちが明かない!』

 

 襲い掛かる敵を撃ち落とし、切り裂き、蹴り飛ばしながらカリスは叫ぶ。

 群れで襲う相手にはめぐみんの爆裂魔法で吹き飛ばすのが一番なのだが、この閉塞空間でそんなことをすればカズマや術者であるめぐみんまでも蒸発してしまう。

 完全に八方塞がり。カリスが頑張って戦うしかないのだ。

 

『こうなったら・・・ここで大人しくしてろ!』

《ロック》

 

 カリスはカードをスラッシュしてカズマたちにかざす。地面が盛り上がり、4人を岩で隠した。

 

「・・・え!?なにこれ!?」

『岩のシェルターだ。しばらくそこにいろ!』

「ああ!せっかくのチャンスが!?」

 

 ダクネスの言葉を無視して再び武器を構えなおす。

 

『じゃあ行くぞ!』

 

 フォレストライガーが群れる木に飛び移り、カリスアローを振るった。

 

『はあ!』

 

 飛び移った木にいるフォレストライガーを切り裂く。首を切断して絶命させた。

 

 これで大分数が減った。30は超えた敵が今は数えるほどに減っている。今までのペースでいけばあと数分で片付くだろう。

 だが、残った敵はそんなに甘い相手ではなかった。

 

「がア!」

 

 フォレストライガーはカリスの放った光の矢をよけ、カズマたちのいる岩のシェルターに爪を振り下ろした。

 カズマたちのシェルターに襲い掛かった敵は他にもいたが、表面が削れる程度だった。なのに何故この個体のは一撃で砕けたのだろうか?

 

『って関心してる場合ではない!』

≪バレット≫

 

 カードをスラッシュして貫通力を上げて矢を放つ。しかし矢はよけられ、フォレストライガーは森の中へと逃げてしまった。

 

『…大丈夫か?』

「あ…ありがとうざいましゅハチマンしゃま~!」

 

 カリスから八幡に戻ると、さっそくアクアが八幡に抱き着いてきた。

 

「も…もっと早く来てください!ちびっちゃうと思っちゃいましたよ!」

「なんで助けたんだ!あのままお持ち帰りされてモンスターの苗床になる展開だったのに!!」

 

 ・・・何故か責められるのだが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ帰ろうか」

 

 フォレストライガー襲撃後、やっとパーティメンバーが落ち着きを取り戻すと、突然カズマが真顔でそう言った。

 

「このままじゃ命がいくつあっても足りねえ!さっきは八幡がいたからたすかったけど、か~な~り~ギリギリだった!もし次攻撃されたら全滅だぜ全滅!なあ帰ろうぜ八幡~!」

「そうよ!さっきだってけっこう危ないシーンあったからね!少し間違えたら即死よ即死!! ねえ帰りましょうよハチマン!!」

「・・・お前ら、勝手に付いてきて今度は勝手に引き上げるのか?」

 

 少し軽くにらむと、アクアたちは躊躇なく土下座をして謝った。

 

「す…すんません。正直異世界なめてました。八幡先輩があまりにも強いんで油断してました」

「同じく。貴方様の御力に縋れば楽できると思っていた私たちが愚かでした」

「・・・・本当に愚かだな」

「「へへ~!」」

 

 侮蔑を込めた目で土下座する二人を見下す。しかし二人は文句一つ言わずに更に遜った。

 お前ら、さっきまで助けてやった俺に文句言っていたくせに、立場が悪くなるとすぐ手のひら返すな。嫌いじゃないぞ、お前らのそういうとこ。

 

「ですがハチマン、ここはカズマたちの言う通りです。フォレストライガーを何十体も倒したのですからすでに依頼は達成してます。これ以上深追いする必要はありません」

「そうだな。フォレストライガーが群れで襲うなど異常だ。ここはギルドに報告する義務がある」

 

 珍しくまともなことをいう二人。

 言ってることは正しいのだが、コイツらが言うとイラッと来るな。さっきまで必死に戦ってた俺がバカみたいじゃん。

 

「そうだな。じゃあ歩きながら少し俺の疑問に思ったことを話すか」

「疑問に思ったこと?そんなのいくらでもあるでしょ?」

「ああお前の言う通りだアクア。今回の仕事はあまりにも不可解なことが多すぎて疑問だらけだ。だが、これから話すのは実際に戦った俺が疑問に思うことだ」

「なんですかそれは?もったいぶらずにさっさと言ってください。あと、さっさと出ましょう」

「ああ、それは・・・」

 

 めぐみんが急かすので早歩きしながら話す。その時だった。

 

「まあお前たちの言う通り、ここは撤退が妥当だろう。だがな、どうやら手遅れみたいだ」

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」

 

 森の奥からおぞましい彷徨をあげて姿を現したのは。

 

 

「「な…なんだありゃああああああああああああああああああ!!!!?」」



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フォレストライガーの正体

『おいおい、なんだありゃ?』

 

 突如現れた大岩のような巨体の化物。そいつは鼓膜が破れるほどの大音量で吠えながらこちらに接近した。

 見た目は岩石の鎧を纏っている巨象。岩からは小さめの木や草が生えている。

 

「あ・・・あれは巨岩象!? なんであんな化物がここにいるんですか!?」

「し…ししし!知っているのかめぐみん!?」

「え…ええ!!あれは未開の地で発見されたとても強力なモンスターです!ドラゴンなどの強力なモンスターを主食にする肉食の象です!フォレストライガーなんてあれに比べたら雑魚ですよ!!」

「なんでそんなヤバイのがこんな初心者向けの森にいるんだよ!?」

「私が聞きたいですよ!」

「あ~もう!そんなことより逃げましょうよ!!」

 

 後ろにいるカズマたちがおもしろい具合に混乱している。見ていて冷静になるどころか、少し笑えるぐらいだ。そんな謎の踊りをする余裕あるならさっさと逃げろよ。

 まあ気持ちは分かる。正直言って、もし俺も同じ立場、つまり何も力がなければ逃げ出したい気分だ。

 だが、今の俺には戦う力も覚悟もある。簡単には下がらねえぞ。

 

『さっき俺は奴らを切り裂いた時、肉や骨の感覚ではなかったのは植物だったからか。あのフォレストライガーは奴の分身のようなものだったと』

「なに冷静に納得してるんだよ!?あんな化物見て!!」

『それがどうした?』

 

 俺がそう言うと、全員が『え!?』といった顔で俺を凝視した。

 

『あんな化物、俺がこもっていた秘境では何度も倒してきた。・・・そして今回も、戦い続ける!』

 

 光の矢を象に放つ。矢は太い枝を貫き、断面から緑色の体液を噴水のように撒き散らした。

 

「ぎゃああああああ!!?」

 

 象は騒ぐも再生する様子はない。

 良かった。これで再生するタイプなら戦法を変えなくてはならないが、そうならないのならばいつもどおりの作戦でいける。問題はない。

 

『さあこっちだ!ついてこいノロマ!』

 

 木に飛び移って矢を複数放つ。的がデカイおかげで全て敵の急所らしきとこに命中した。

 一応痛がっているが、デカイせいでダメージ自体はそれほどないようだ。やはり数で補うしかないか。

 

「ぐるぅおおおおおおおおおお!!!!」

 

 象が巨大な足を振り下ろして俺を踏みつぶそうとする。

 俺は上にジャンプしで避けながら矢を放ち、木に跳び移る。そして次の攻撃に備えて木から木に飛び移りながら離脱した。

 たしかに敵は巨体だが、この森の木はバカみたいにデカイ。普通ならば邪魔になるのだが、俺にとっては、カリスにとっては心強い武器になってくれる。

 

 木から木に飛び移りながら、光の矢を放って牽制、時折すれ違いざまにカリスアローで切り裂きながら、俺は獲物を翻弄させた。

 

「ぶるおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 象は鬱陶しそうにしながら、背中に生えている植物による蔦の鞭で攻撃してきた。

 俺は枝から枝に飛び移り、生い茂る葉の中をすり抜けて避ける。まるで猿にでも還ったかのような気分だ。・・・俺の世界の猿はこんな動き出来ないと思うが。

 

 木と葉を壁にして姿を隠しながら、矢で反撃する。こちらは障害物で姿を隠しながら、盾にしながら攻撃するのに対して、向こうはむき出しで図体もでかい。これで射撃戦でどちらが有利なのかは明白だ。

 俺は攻撃を避け、木を盾に、葉で姿を隠しながら矢を放つ。ダメージは少ないが、今は確実に攻撃を当てること、そして自分がダメージを受けないことを優先する。ラウズカードコンボはまだ取っておこう。

 

「ぶるおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

『下手うちゃ当たると?なめるな!』

 

 今度は刃のように鋭い葉や銃弾のように種も撃ってきた。種と葉の弾幕が木々を、そして葉を貫いて俺に襲い掛かる。

 鞭では俺を捕らえられないと判断して、一斉射撃に切り替えたか。だが、狙いも精度もないただ弾幕をばらまくだけの攻撃に当たるほどカリスはトロくない。

 

《バイオ》

 

 プラントアンデッドの力を借りて蔦のロープを作り、敵に生えている木に巻き付かせて移動した。

 気分は立体機動装置で移動する調査兵団。立体的な移動で敵を翻弄させ、弱点を執拗に攻撃する。

 

 

『陰湿な攻撃で悪いが、これが俺とカリスの戦い方なんだ。許せ』

「ぶるおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す・・・すげえ!」

「いけ!そこよ!ぶったおせ!!」

 

 カズマとアクアはカリスの戦闘を興奮した様子で遠くから眺めていた。

 前世で仮面ライダーを視聴していた彼らにとって、仮面ライダーカリスはテレビの中だけの存在だった。

しかし空想上の産物である仮面ライダーが今目の前で戦っている。次元が違う立体運動で敵を翻弄させ、特異な能力で追い込んでいる。仮面ライダー好きにとっては堪らない光景だ。

 

「そこよカリス!必殺技使うのよ必殺技!」

「いや、あのタイミングは早すぎだろ! …ていうかなんで射撃ばっかなんだ?」

「バカねカズマ。刃の部分は接近されたとき用に決まってるでしょ。あんなのメイン武器にしたら攻撃当たらなくなるじゃない」

「え!?そうなの?」

 

 アクアの回答に一瞬カズマは驚いたが、すぐに納得した様子をした。ああ、あの武器って使いにくそうだなと。

 

 ぶっちゃけ、八幡はカリスアローを近接武器としてよりも、弓矢として使っている。 

 正直言って、カリスの武器は他のライダーの武器と比べると使いづらい。最初、八幡がカリスラウザーを使ったときは全く攻撃が当たらなかった。スッカスッカと攻撃を外しまくり、何度もボコられた。

 

 しかしそれも仕方ない。カリスアローは特殊な形状により、かなり癖の強い武器となってしまった。これを最初からうまく使いこなせるのには訓練がいる。

 劇中ではそういった様子もなく戦うことが出来たが、あれは特撮ならではの事情によってだ。アレだよアレ。特撮では例外除いて必殺技使ったり変身するときは待ってくるじゃん。作品を面白くするためにはそういった演出もいるんだよ。

 あとは単に始さんに才能があったか。あの方は人間じゃないから。

 

「まあ…それは仕方ないけどさ、なんか戦い方が違うと・・・な?」

「何言ってるのよ!?カリスの力はあくまでカリスをモデルにした神器よ!カリス本人じゃないの!!」

 

 そう、アクアのいう通り八幡はカリスそのものになっているわけではないのだ。

 あくまでもカリスの力を模した神器。よって八幡はジョーカーアンデッドでもないしましてや相川始でもない。姿形は仮面ライダーカリスだが、ブレイドに出演したカカリスとは全くの別人なのだ。

よって戦い方に違いが出るのも当然のこと。むしろ無いのがおかしいのだ。

 

「それにあの戦い方もかっこいいじゃない!いけそこよ!」

「まあそうだな。がんばれカリス!!」

 

 視線をカリスに戻して応援を再開する。

 

 八幡の変身するカリスの戦い方は本家のカリスとは違うものの、カリスの力を最大限に引き出すものだった。

 木や岩などの障害物を利用して巧みに姿を隠し、敵の死角に回って矢を放ち、居場所を特定される前に逃げならかく乱させる戦法。いわゆるヒットアンドウェイ。

 敵の弾幕を掻い潜り、木々や岩に隠れながら矢を放つ。少しづつではあるが、ダメージを蓄積させていった。

 

 カリスはその特性上、奇襲などの暗殺者としての戦い方が一番効力を発揮する。よって森の中は彼にとってテリトリー。最も力を発揮する絶好の狩場なのだ。

 そして八幡は前世ではステルスヒッキーという妙な特技を持っていたが、この世界ではさらにレベルアップ。オンオフを切り替えることで奇襲スキルとなった。・・・日常生活では時々勝手に切れたりついたりするが。

 更に観察眼はアンデッドとの死闘からさらにアップ。敵の弱点を見抜く目となり、虚をかぎ分ける暗殺スキルとなった。

 存在感が薄く、相手の嫌な点や弱点を目敏く見抜く八幡の特性。立体的な動きを得意とし、高い瞬発力と敏捷性を誇るカリスの特性。この二つを掛け合わせて初めてこの戦法は役立つのだ。・・・八幡も最初からこんな動きが出来たわけではないのだが。

 

「ぶるおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 象が叫びながら種の弾丸を放つ。しかし今回は先ほどの弾丸とは一味違った。

 

『…なるほど。そうやって分身を作るのか』

 

 カリスは感心したような声で地面を眺める。

 種子が着弾した地面から植物が生え、獣の形を象って動き出した。それこそ先ほど八幡が殺したフォレストライガーの正体だ。

 

「がああああああああ!!」

 

 分身たちは八幡に襲い掛かって邪魔を始める。もちろんカリスは彼らを相手にする必要などないので逃げながらけん制を続けようとした。

 ある分身は時折撃ち落とし、接近した敵はカリスアローで切断する。やっていることは前回と同じ、一つ条件が違うのは本体をけん制しながら行っているということだ。

 しかし、今回違うのは本体がいるだけではなかった。

 

『チッ!今度は数より質を優先したか!』

 

 分身から逃れながらカリスは悪態をつく。

 前回のように数は多くないが、分身たちの力も少し上がっていた。前回は一撃で倒れたというのに、今回は首を切断しようが心臓を貫こうがお構いなしに襲ってくる。

 無論それほどそ脅威ではないのだが、それは分身のみの場合。今回は本体とも戦わなくてはいけないのだ。あまり分身に集中しすぎると本体へのけん制が疎かになって回復の時間を与えてしまう。

 

「ぶるおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 本体が援護射撃を行う。何匹か分身が巻き添えをくらったが、しょせんは使い捨て。また新しい戦力を投入してカリスを追い詰めようとした。

 

『…なるほど。不死身の軍隊で俺を追い詰めると。モンスターにしちゃやるじゃねえか』

 

 仮面の中で八幡は苦笑いした。ぶっちゃけこの状況でも負ける気はないが、これ以上の戦闘は森に負荷がかかる。もし自分たちのせいで森の生態系が変わったら後でギルドから何を言われるかわかったものではない。

 それに、ぼっちは自然と地球に優しいのだ。環境破壊など許すはずがない。・・・地球に優しいことにボッチだのリア充だの関係ないと思うが。

 仕方ない、ジャックフォームで一気に決着つけようかよ思うと、カズマが大声でカリスに何かを伝えた。

 

「八幡!一度使ったカードはまた使えるのか!?」

『・・・問題ない!回数制限はない!』

「そうか…。ならあの作戦でいける!」

 

 今度はカリスだけでなくパーティ全員にカズマは指示した。

 

「ダクネス!お前はデコイであの分身を集めてくれ!めぐみんは爆裂魔法でそいつ等を吹っ飛ばして、アクアは八幡に支援魔法かけて、八幡はバイオの鞭でダクネスを引き上げてくれ!」

『・・・なるほど。ならもっといい案があるぞ!!』

「え?それはどういう・・・うわぁ!?」

 

 カリスは木から風のように木々を飛び移りながらカズマたちのところに戻り、飛び降りざまにダクネスを浚う。そしてダクネスを抱えながら風のように木々を飛び回った。

 

「にゃ…にゃにをするんだハチマン!ま…まさか人気のない森の奥に私をお持ち帰りしてあんなことやこんなことをするのか!?と…時と場合を考えろこの変態め!!」

『お前こそ時と場合考えろ。発情すんじゃねえよ』

「し…してない!期待などしてない!」

 

 少しがっかりした様子でダクネスは否定した。このパーティの女性陣営はTPOを弁える者など一人もいないのは今更である。

 

『ダクネス!デコイであの分身を誘え!』

「え?しかし・・・」

『さっさとやれこの駄犬が!!』

「はいご主人さま!!」

 

 一瞬カリスの意図が分からず訳を問おうとするが、強めに命令するとあっさり聞いた。

 そのとき、八幡が仮面の下でチョロイ女だと口元を歪ませたのは言うまでもない。

 

『じゃ、行ってこい!!』

「え・・・え~~~~~~~~~~~!!!?」

 

 ダクネスがデコイを使ったタイミングで、カリスは肩に抱えているダクネスを象の背中に生えている木に向かって投げつけた。

 

「「「ひ…ひどい!!」」」

 

 そのあんまりな仕打ちにカズマでさえも引いた。

 女をモンスターめがけて投げるなどカスマでもクズマでも考え付かない鬼畜の所業だ。それを平然とカリスは行ったのだから驚くのも当然のこと。

 しかし別にカリスはダクネスを虐めたくてこんなことをしたわけではない。・・・やられた本人にとってはご褒美だが。

 

《ポイズン》《ブリザード》

 

 二つのカードをスラッシュしてその力を解放、カリスアローから毒の氷の矢を放った。命中した矢は紫色の氷となって象の足を覆う。

 

『オマケだ!』

《トルネード》《ドリル》

「ぶるおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 さらにカリスは風を纏うドリルキックで象の体を貫いて更にダメージを与える。

 その時だった。分身たちがカリスに追いつき、標的であるカリスよりもデコイを使っているダクネスが突っ込んでいる木に向かおうとしたのは。

 

『よし今だめぐみん!爆裂魔法をうちこめ!ダクネスはちゃんと回収する!!』

「・・・は!? そ、そういうことですか!けどちゃんとダクネス回収してくださいね!!」

 

 カリスの意図を察知しためぐみんはダクネスを案じつつ爆裂魔法を放つ。

 呪文は省略。長いし書くのめんどいから。

 

《バイオ》

 

 蔦の鞭でダクネスを回収。そのままダクネスをお姫様だっこで抱え、全速力で飛び降りて爆発から逃れた。

 そのとき、ダクネスの離せだの辱めだの聞こえたが、カリスは無視した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぐっ…なぜだ!なぜ、あの時に…ヒッグ・・・」

「…八幡、代わろうか?」

「いや、大丈夫だ。」

 

 カズマは、俺に気遣いをしてくれた。

 何故カズマから気遣いされてるのかというと、俺の背中で泣いているダクネスを、おんぶして街まで歩いてきたからだ。

 

 どうしてダクネスが泣いているのかというと、巨岩象を爆裂魔法で消し飛ばす際に、ダクネスを回収もとい救出した事で泣いているのである。

 おかしいだろ。普通は感謝されるはずが、コイツはなぜ助けただの、邪魔するなだのほざいてきたんだぜ?やっぱコイツ頭おかしいわ。

 その上愚図ってその場から動かなくなるし。だからこうして俺が運んでいるのだ。

 

「でも、今回の作戦は上手くいきましたね!」

「あぁ、そうだな。」

 

 めぐみんは、爆裂魔法が思いのほか上手く決まった為か、魔力が回復次第に直ぐにテンションが高くして歩き出したほどだ。

 そんな、めぐみんに続いて、もう1人テンションが高いやつが口を開いた。

 

「それにしても今回のクエストは大儲けね!まさかフォレストライガーじゃなくて巨岩象が出るなんて…。その上倒したんだから報酬もガッポリよ!! ちょろい、ちょろすぎるわ!冒険者家業!」

「・・・お前なぁ。今回は上手くいったから良いけど、八幡が居なかったらマジで死んでたからな。しかもこれ八幡の依頼だから山分けの取り分の計算とかは八幡次第だぞ」

 

 アクアは、ぶーっと頬膨らましながらぶつくさ言っていた。

 確かに、今回は上手く行ったが、もしダクネスがあれに巻き込まれてたら取り分は、きっとカエルの討伐と変わらないんじゃないか。

 でも、まぁ……。

 

「よし、今日は飯は豪勢にいくとするか。焼き肉とかどうだ?」

「「「いい(んですか!?)(の!?)のか!?」」」

「うお!? …あ、あぁ」

 

 俺の言葉で、3名が目を輝かせていた。

 

「よっしゃ飲むわよ!」

「言っておくが吐くなよ。吐いた分返してもらうからな」

「何言ってんのよ!吐くまで飲むのがいいんじゃない!」

「・・・お前本当に女神か?」

 

 その日の飯は豪華に焼き肉だったのだが、カズマとアクアが豪勢に吐いたのは言うまでもない。



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ゾンビメーカー退治

 俺たちは今、平原でバーベキューをしている。

 言っておくが俺は別に遊ぶためにここへきたのではない。これもちゃんとした仕事の一環だ。

 

 今日の仕事は墓の見張り。なんでも最近アンデッドが徘徊するようになったのでその元を絶ってほしいという依頼が俺を指名して来た。言うまでもなくアンデッドマスターという称号のせいだ。

 けどこれも仕事だ。しかも指名の分、報酬も通常より色を付けてもらっちる。だからクエストそのものには文句ないのだが・・・

 

「まあいい。カズマ、火」

「うっす。《ティンダー》」

「ありがと。じゃ、焼くか」

 

 俺は火に酸素を送ったり、薪を増やすことで火を調節する。そして十分温まったとこで、切った野菜を鉄板にぶちまけて焼き始めた。

 よし、いい感じだ。これならすぐ焼けるし、肉に取り掛かってもいだろう。

 

「なによ野菜ばっかりじゃない。肉も焼きなさいよ肉も」

「すぐ焼く。だからまず野菜を食え」

「ホント!じゃあさっさと焼きなさい!」

 

 アクアが興奮気味に言うので、肉を焼き始めた。まあ肉を楽しみにしているのはアクアだけじゃない。早く焼くか。

 

「じゃ、飯にするぞ」

「「は~い」」

 

 ・・・そういうや、一人以外で食べるのって久々だな。

 

「う…うめえ!」

「すごいわ八幡!これだったらどこにお嫁行っても恥ずかしくないわ!」

「たしかに超美味しいです!焼き加減も調味料の塩梅も最高です!」

「確かに美味い!」

 

 ゆっくり食うカズマとかき込むように食うアクア。そしてアクアみたいに急いで食うめぐみんと上品に食べるダクネス。

 お世辞とはいえここまで褒められるのは嬉しいな。

 

「八幡が料理できるのか。意外だな」

「これぐらいなら誰でも真似できる。一人暮らし・・というかサバイバル生活が長かったからな」

 

 この街に来る前は人の入らない秘境でアンデッドを封印するために戦う日々だった。

 そんな環境では当然買い物なんて出来ない。だから基本は自給自足だ。おかげで料理、洗濯、裁縫…すべて身についた。

 

「おーい。もうコーヒーできたぞー」

 

 カズマは『クリエイト・ウォーター』で用意した水を《ティンダー》で沸かし、人数分に用意されたコーヒーの粉入りマグカップに入れた。

 コイツ器用に魔法使うな。俺も使いたい。

 

「カズマも魔法使いより魔法使いこなしてますよ。初級魔法なんてほとんど誰も使わないものなのですが……なんか便利そうです」

「いや元々こういった使い方するもんだろ …あ、そうそう。クリエイト・アースってこれ何に使うんだ?」

「それは土を作る魔法で畑とかに使うと良い作物が作れるらしいです」

 

 めぐみんが説明すると、アクアが吹き出した。

 

「なになにカズマさん?畑作るんですか?農家に転向ですか!土も作れるし水も撒ける!カズマさん、天職じゃないですかー。やだー!ぷーくすくす!」

「《ウインドブレス》」

「あー!?眼がー!!」

 

 カズマがウインドブレスを使ってアクアに砂かけをした。…っうわ、風向きが変わってこっちにも砂が来たじゃねえか!

 俺は剣を振って風を起こし、砂を飛ばした。

 

「おいカズマ、目潰しをするのは勝手だが砂はやめろ。食材にかかっちまうだろ」

「あ、すまん」

「…なんか仲いいですね、二人共」

「いや、俺たちあってまだ間もないから。ていうか俺友達いねえし」

 カズマ、お前肉ばっかで野菜食ってないじゃないか。ちゃんと野菜食え」

「いや~、俺キャベツの一件以来苦手になったんだよ。なんか食うときにはねそうな気がして」

「安心しろ。ちゃんと切ったから動かねえよ。ほらお前らもちゃんとバランスよく食え」

「…おかんですか」

 

 こうして、日が暮れるまで俺たちは遊んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が沈んで数時間後、俺たちは墓地に潜伏してゾンビメーカーが現れるのを待っていた。

 

「さすがに冷えてきたわね。ねぇカズマ、引き受けたクエストってゾンビメーカー討伐よね?私、そんな雑魚じゃなくて大物のアンデッドが出そうな予感がするんですけど」

「バカ、お前それフラグだろ。今日はゾンビメーカーを一体討伐。そして取り巻きのゾンビもついでに討伐する。それが終わったら帰って寝る。予想外のイレギュラーが起こったら即撤退。いいな?」

 

 カズマのセリフにアクア以外が頷いた。敵感知を持つカズマを先頭に、直感スキルがある俺が背後からの不意打ちを警戒して一番後ろになって進む。

 

「(カズマの言うとりフラグだが、嫌な悪寒がする…)」

 

 俺の直感スキルが反応している。この先に何かあると。

 認めたくないが、俺の直感はこういうことに限ってはよく当たるんだ。・・・本当に嫌なことだけど。

 無駄だと思いながらも一歩踏み出した瞬間、背中に氷を突然入れられたかのような、強烈な悪寒を感じた。

 

「!?…何だろう、敵感知に引っかかったぞ」

「…逃げるぞ」

「え、何故です?まだどんな敵か見てからでも遅くは…」

「いいから逃げるぞ!」

 

 俺は少し強めに言った。

 めぐみんの言うとおり、普通ならどんな敵か分かってから逃げるものだろう。何もせずに敵前逃亡するのは職務放棄だ。

 しかしそれは通常のケースだ。今回は違う。

 

 この悪寒・・・ゾンビメーカーなんてチャチなものではない。もっとやばい化物だ。

 間違いない。この吐き気を催すような濃い死の匂いと陰鬱な瘴気。こんな化け物がゾンビメーカーなんて雑魚に収まるはずがない。

 

「何言ってるのよ! アンデッドを前にノコノコ逃げることが出来るわけないじゃない!」

「待ちやがれ」

 

 そう言ってアクアはアンデッドの気配がする方角に走っていこうとしたので、俺はアクアの襟元を掴んで止めた。

 こいつなんて瞬発力だ。止めるのに遅れて俺も走ってしまったではないか。

 

「止めないで!やっと私が活躍できる場なのよ!そんでレベルを一気に上げたいのよ!」

「やめろ、リスクが高すぎる」

 

 気持ちは分かる。アークプリーストは後衛専門のジョブなのでレベルが上げにくい。だからカズマ達は報酬よりもアクアのレベル上げを狙っている。

 せっかくのレベルアップの機会をなしにするのは心苦しいが、ここは仕方ない。非常事態になった以上、引くしかないのだ。

 

「そうだぞアクア。イレギュラーが出たら即撤退って言ったろ?ここは直感スキルを持つ八幡さんを信じて帰るぞ」

「嫌よ!アンデッドを全員ぶったおすのよーーー!!」

 

 暴れるアクアを羽交い締めにして、撤退する。こいつ力も強いな。

 

「ダクネス、この馬鹿を頼む。俺はアンデッドを確認しに行く」

「え?だが危険ではないか?」

「そうです。ここは私たちと一緒に逃げた方が…」

「大丈夫だ。俺はアンデッドの専門家だ」

 

 俺を止めるダクネスたちを振り切って前に出る。

 もし敵があの化け物ならば企みを実行される前に潰しておかなくてはならない。

 奴らは残忍で狡猾だ。俺はそれを嫌というほどこの世界で学んだ。バカみたいにクソ高い授業料を取られてな。

 

 墓石の陰に隠れながら、目標の気配がする先を進む。ゆっくりと、慎重に、敵に気づかれないように。もし気づかれたらカズマたちまで巻き込んでしまう。

 罠や配下たちを警戒しながら前に進む。気配がより濃厚なものとなり、弓矢の射程内に入ったとこで一旦俺は止まった。

 墓石からそっとのぞき込む。さて、敵はどんな化け物か・・・。

 

 

 

「覚悟しなさい薄汚いリッチーめ!ここで水の女神ことアクア様が退治してやる!」

「や…やめてくださーーーい!!!」

 

 何やってんだアイツ!!?



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リッチー退治

「や…やめやめ、やめてえェェェ!誰なの!?なんでいきなり体当りして、なぜ私の魔方陣を壊そうとするのですか!?やめて、やめてください!!」

「うっさい!黙りなさいアンデッド!どうせ怪しげな魔法陣でロクでもないこと企んでるんでしょ?なによこんな物!こんな物!!」

「やめてーーー!」

 

 リッチーはアクアの腰に泣きながらしがみつき、魔法陣を消そうとするアクアを止めようとする。しかしアクアはそれを無慈悲に振り払い、魔法陣を乱暴に踏んで消そうとした。

 しっかしひどい顔だな、アクアの表情。まるで虐殺を楽しむ世紀末のモヒカンだ。これではどちらがアークプリーストでリッチーか分からんぞ。

 だが、今はそんなことを気にしてる暇はない。俺はロープ付きの弓矢を射ることでアクアにロープを巻き付けた。・・・巻き付いたとこが首なんだが、まあいんだろう。緊急事態だし。

 

「ぐえッ!?…な、何すんのよハチマン!」

「よせアクア!相手はあのリッチー、なにをされるか分からんぞ!」

「わ…私なら楽勝よ!それに見てよあの頼りなさそうな感じ!あれなら楽に倒せるでしょ」

「油断するな!リッチーは残忍で狡猾だ!!甘く見てると逆にやられるぞ!!」

 

 俺はリッチーとの戦闘経験したことが一度だけある。諸事情があって共和国に向かった時、リッチーの策略に嵌められて転生者と戦う羽目になった挙句、犯罪者に仕立て上げられたせいで町にすら近づけなくなった。

 他にも宝の近くに罠を設置したり、パーティの中で一番弱いものを殺してアンデッド化させて操ったり、相手に気づかれないうちに状態異常をかけて殺したり…。散々な目にあった。

 実際そんな風に殺されたという話は聞いたことがある。決して油断はできない。

 

「大丈夫か八幡!?」

「すまないハチマン、アクアの力が思った以上に強くて振り払われてしまった。簡単な仕事もできないダメな私にお仕置きしてくれ!」

「言ってる場合ですがダクネス!?リッチーが相手なんですよ!」

 

 追いついてきたダクネスとめぐみんはそれぞれ違った反応をした。…よく見るとめぐみん震えているな。やはり、リッチーを目の前にするとこうなるのか。まあ当然の反応といえよう。

 

「…逃げろ。ここは俺一人で戦う」

「な…何言ってんだよ八幡!そんな事できるわけ・・・」

「テメエらがいたら邪魔なんだよ!さっさと行け!!」

 

 俺は大声で怒鳴った。キツイ言い方だが、今の俺には話し方に気をつける余裕など微塵もない。

 なにせ俺は高位魔術と不死を兼ね備え、残忍で狡猾な最悪の存在、リッチーを目の前にしているのだから。

 魔術に関する豊富な知識と物理無効のスキル、そして聖騎士の力すら飲み込むほどの死の力。これらの前では駆け出し相手など戦いどころかお遊びにすらならない。

 カリスの力を以ってしても敗北のリスクは存在する。

 

「…こりゃ本気で働くしかなさそうだな」

 

 カードデッキからカテゴリーKを取り出す。

 …やはりこのカードを使うべきなのか?

 

「あ…あれ?もしかして貴方もアンデッドですか?」

 

 リッチーはうれしそうな声色で、顔を少し赤くして俺に近づこうとした。

 なんだそれは色仕掛けのつもりか?あいにく俺にはそんなものは効かない。

 しっかしこの世界のリッチーは美人しかいないのか?俺を嵌めたリッチーも同レベルの美人だったぞ。

 ……魔法少女のコスプレで痛いしゃべり方するメンヘラだったが。その癖卑怯な手段をバンバン使えるほど狡猾なのだから始末に負えない。

 

「違うわよ!ハチマンはアンデッドと融合してるだけの英雄よ!闇を討つ神の使者なのよ!ま、力を使いすぎるとアンデッドになっちゃうリスクがあるけど」

「・・・そういうのは黙ってくれる?」

 

 ・・・この女神さま、何俺の弱点をシレっとばらしてくれちゃってんですかね?

 

「そ…そうなんですか~。まだアンデッドじゃないのですか…。なら今すぐなるのは・・・どうですか?」

 

 なんかモジモジしながら言うリッチー。とてもとても大きなおもちが強調されており、桃もとても美味しそうだ。相手がリッチーでなければ一度告ってフラれてしまっただろう。それほど目の前のリッチーは素晴らしい女体美を誇っている」

 

「そ…そんな。女体美なんて・・・照れちゃいます・・・」

「ちょっとカリス!何リッチーなんて褒めてるのよ!?」

 

 ・・・どうやら長年の癖は異世界に転生しても治らなかったらしい。いや、秘境に籠ってたから前世よりも人としゃべらなかったせいか?

 でも心の声を聴いても引かれなかったのはうれしい。けどたぶん演技だろう。心の中では『うわっ。なにあの目の腐ったガキ。気持ち悪。私のことエロい目で見るんならその腐った眼をつぶすぞ』とか思ってるんだろうな。リッチーって演技うまいらしいから。だけど演技でもうれしそうなフリしてもらえるのはうれしい。夢を見せてくれてありがとう。

 

「(・・・いや、なんかそれにしては口説き文句がひどくなかったか?)」

 

 何度も言うがリッチーは狡猾だ。奴は人心掌握術にも長けて人を惑わす話術もある。それにリッチーからは対峙するだけで狡猾さがにじみ出るのだが、コイツからはそういうのがない。

 むしろ悪賢いの逆。すんごい残念臭がプンプンする。それもアクアやダクネスと同レベルの。

 例えばさっきの発言。あのズレた回答はどこか間抜けさを匂わせる。たとえるなら、店主なのに売れない商品ばかりを当てて赤字経営になるような残念店主のような匂いだ・・・もしかしてこれも偽装工作か?

 

「(いや、それは考えすぎか?コイツは)

 

 俺は今までこの嗅覚と腐った目と疑り深さで生き残ってきた。

 アンデッドと死闘を繰り広げ、悪魔の策略や国の陰謀に巻き込まれ、バカ転生者のしわ寄せによって俺はさらに観察眼とかぎ分ける力を上げてきた。

 この力で俺は今まで生き残ることができたのだ。理論上では正しくても、この力がヤバいといならそっちを信じている。

 

 

 だから俺は今までの経験より、この勘のような力を最後に信じることにしている。

 

 そして、勘は言っている。あのリッチーは前回戦ったリッチーとは違うと。決してずる賢い敵ではないと。

 思えば、俺がリッチーと戦ったのは一度きり。それだけを参照して判断するのは少し軽率すぎやしないだろうか。

 それにリッチーも元は人間だ。もしかしたら話せばわかる敵かもしれない。だからここは一旦矛を収めて・・・

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?でも目がすごく腐ってますよね?それに貴方のゲロ以下の邪悪な匂いがプンプンするオーラ、どう見たってアンデッドですよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・変身」

《チェンジ》

 

 俺はカリスバックルを出してカリスに変身した。

 相手がリッチーな以上、キングフォームで戦うのが妥当なのだが、キングは魔王を倒すまで温存したい。よってまずは通常フォームで様子見、ダメだと確信したらジャックフォームを駆使して戦うしかない。

 

「こ…この気配はアンデッド!?しかも上級です!やっぱりアンデッドなんですね!?」

『違うと言っているだろ!』

 

 まずは距離を取って光の矢でけん制と様子見。魔法を使う隙を与えず、このまま畳み込む!

 

『誰がゲロ以下だ!?聞いていれば好き勝手ばかり言いやがって!お前はここで倒す!』

「え・・・え~~~~!!?も、もしかして怒らせてしまいました!?ち、違うんです!そんなつもりじゃないんです!」

 

 うるさい!ヒドォオチョグリヤガッテ!オレァクサマォヴットバズ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、あんたは悪いリッチーじゃないんだな?」

「は…はい……」

 

 このリッチーと手合わせして数分後、俺はリッチーとの誤解を解くためこうして話し合っている。

 戦いが始まって一分ぐらいは普通に戦っていたのだが、アクアがターンアンデッドをぶちこんでからは一気に優位になった。

 だってアクアのターンアンデット、一撃でリッチーを浄化して成仏一歩手前にまで追い込んだもん。余波で存在をかき消すかの如く、周囲のゾンビも次々と消えていったもん。何あの威力、あれ俺いらなかったじゃん。

 

 それで続けてリッチーを消そうとしたのだが、戦いの中で殺意や悪意などがなかったので事情を聴くためこうしてアクアを止めている。

 

「何するのよ、ハチマン!私は悪を退治しようとしただけよ!」

 

 簀巻きに拘束されているアクアを無視してリッチーに目を向ける。

 

 よく見ると、足元が消えかかっていた。

 このままではマジで消えそうなので俺の生命力を少しあげる。少しぐらいなら痛くもないし。・・・俺自体既にアンデッドのごちそうみたいなものだし。

 力を補給すると、徐々に消えかけていた足の線が復活し、涙目で足をフラフラしながら立ち上がった。

 

「た・・・助けて頂きありがとうございます。アンデッドマスターさん」

「…その名で俺を呼ぶな」

 

 とても丁寧に返されたのはいいがその名は許さん。その名のせいで俺は避けられてるし。・・・あ、避けられてるのは前世からか。

 ウィズさんは、真っ黒フードを脱いで素顔を現した。

 

 その見た目は、20代くらいの茶髪のロングウェーブの美人の女性。リッチーというから、骸の姿などを思い浮かべていたが、普通に俺らと変わらない姿だ。

 すでに一度消えかけたのだから偽の姿ということはないはずだ。アンデッドは消える際に本当の姿を現すものだし。

 前回戦った相手はミイラのような見た目だったが、こいつはどうやら違うらしい。

 

「えっと…ウィズさん?こんな墓場で何をしてんだ?さっきの話しを聞いてたら、死者の魂を成仏させるとか言っていたが、リッチーがやる事ではないんじゃないか?」

「ちょっと、ハチマン!こんな腐った蜜柑みたいなアンデッドと話してると、それ以上に目が腐る上にアンデッド臭が強くなるわよ!

 

 おい、アクア。今は俺の目については、どうでもいいだろうが。てかアンデッド臭ってなんだよ。俺が臭いみてえじゃん。・・・臭くないよね?

 

「待てアクア。この人には敵意はない。さっき戦って分かった」

「うるさい!アンデッドは見つけ次第殲滅がこの世界のルールよ!早く差し出しなさい!」

 

 アクアは立ち上がってウィズさんに飛びかかろうと、ウィズさんはアクアに怯えて俺の背中の後ろに隠れた。

 あの…そんなに密着しないでもらえます?勃起しそうなんですけど。

 あとカズマ、歯ぎしりしながらそんな目で俺を見るな。祟り殺す気か。 

 

「そ、その……。私は…見ての通りリッチーで、ノーライフキングをやっています。……それで、アンデッドの王なんて呼ばれてるくらいなので、私には彷徨える魂の声が聞こえるんですよ。そして、この共同墓地には多くの方々がお金がないなどして、禄に供養なども受けられずに彷徨っているのです。そこで、アンデッドの王の私が定期的に墓地に訪れ、成仏をしたがっている魂を成仏をさせているのです」

 

 おどおどしながらも、リッチーウィズは芯のある発言をした。

 めちゃくちゃいい人じゃねえか。いや、アンデッドか。

 俺も今までこの世界のアンデッドやこのカードに封印されているアンデッドと戦ってきたが、こんないい奴は初めて見た。・・・アンデッドも最善の嶋さんことクラブのカテゴリーKも容赦なく俺に襲い掛かったのに。

 

「…それは立派な事だ。良い事だと思うんだけどさ、そういった事は、街にいるプリーストとかに任せればいいんじゃないのか?」

 

 カズマは、至極真っ当な質問した。

 その通りだ。それは聖職者の仕事であって、真逆の立場である死の王(リッチー)の仕事ではない。むしろアンデッドにとっては罪じゃないのか。同種殺しみたいなものだし。

 

 カズマの質問にウィズさんはチラチラとアクアに視申し訳なさそうな視線を向けた。。

 

「えっと…とても言いづらいですが……。街にいるプリーストさん達は、拝金主義で……。いえ、その…。お、お金が無い人を後回しと言いますか・・・」

 

 ああ、アークプリーストのアクアが居るから、言いづらいんだろうな。

 てか拝金主義って……。やはり、どの世界でも金が無いとやって貰えないのが現実なんだな。

 まあ仕方ないとは知りながらも、ちょっと切ない気分になったわ。

 

「つまり街のプリースト達は金儲けを優先で、こんな共同墓地に埋葬された金がない奴らに関しては供養どころか寄り付きもしないと言うことか?」

「え…えぇ・・・、そ…そうなんです。」

 

 ウィズさんは困った顔で答えた。

 …カズマ、流石だ。俺でも言いづらいことをずばっと言うとは。

 

 ウィズさんの肯定したことにより、その場の全員がアクアに視線を向ける。が、アクアは、視線が向けられるなり目をそらした。

 おいお前、女神なんだったら、こういう所にこそ女神の慈愛とやらを見せろよ。せっかくの女神の見せ場だぞ。

 

「…事情は分かった。だが、今回の依頼がゾンビメーカーの討伐なんだ。ウィズさん、ゾンビを呼び起こさずに成仏させることは出来ないのか?もしないならここであんたを倒さなくてはならない」

 

 カードをかざしながら言うと、ウィズさんは困惑した様子で答えた。

 

「・・・その、私が呼び起こしている訳ではないんですよ。私が来ると、死体の中に残っている魔力が反応して、勝手に目覚めてしまうですよ。その……私としては、埋葬された方々を成仏させれば、ここに来る必要が無くなるんですけど……。えっと…どうしますか?」

「…仕方ない。ここはアクア。お前の出番だ」

「・・・え?」

 

 訳が分からないという顔をしたアクアに俺は説明してやった。

 

「納得いかないわよ!」

 

 ・・・まあ、そういう答えが返ってくるのは予想してました。

 

「しょうがねぇだろ。元はと言えばプリーストが動かないのが悪いんだからな。仕事の後の酒を飲みたくないのか?」

「う…。わ、分かったわよ。でも……」

 

 結果から言うと、ウィズさんを見逃した。

 これからは、暇を持て余しているアクアに定期的に墓地を浄化しに行くという事で折り合いがついた。

 

 腐ってもコイツは女神だ。一応、迷える魂を成仏させる事には納得をしていた。

 ただ、酒が呑む時間が減るなどやお金にならないとなどと駄々をこねていたが、俺が終わったら酒を奢るという条件を提示したら即答してくれた。

 

 ウィズさんに関しては、最初はめぐみんとダクネスは見逃すという事に抵抗があったが、ウィズさんが今までに人を襲った事が無く、むしろ善行の方が多いと聞いて、ウィズさんを見逃す事に同意してくれた。

 

「しっかしウィズが街のにで住んでんとか…。街の警備とかどうなってんだ?」

 

 俺とカズマははウィズさんが住んでいる住所、というかチラシを見てため息をついた。

 リッチーみたいな化け物が普通に暮らして普通に生活をしている。しかも、小さなマジックアイテムの店を経営しているらしい。

 リッチーでも店を経営して働いてるんだから、世知辛い世の中だ。

 

「はぁ…この世界に来てから、オレが思っている異世界冒険のイメージが崩れている。ていうか、オレが期待していた世界と違う……」

「なら秘境にでも飛ばされるか?ヤバいモンスターばっかで退屈しないぞ」

「それはそれでいや」

 

 即答するカズマ。

 お前の言う通り、この世界が前世で想像していた異世界とは違うという気持ちは分かる。

 けど世の中そんなものだ。やってみたら想像してたのと違うなんて、よくあることだ。

 

「しかし穏便に済んで本当によかったです。・・・いくらアクアが居ると言っても、相手はリッチーですから。もし戦闘にでもなってたら、私やカズマは死んでいたでしょう」

 

 何気になく発言をした、めぐみんの言葉にカズマは顔面を蒼白させた。

 

「えっ?そんなにやばかったのか?」

「何を当たり前のことを言ってるんですかカズマ。ヤバかったってレベルではありませんよ。リッチーっていうのは、魔道を極めた魔術師が行う禁断の儀式でなれる者なんですから。強力な魔法防御の装備や支援魔法、アイテムを準備を万全の状態で挑む必要がありますし。それに、リッチーに触れられるだけでも、状態異常を起こしたり、生命力を奪われるという話を聞きました。多分ですが、爆裂魔法も使えると思います。なので、アクアのターンアンデッドが効いたのが不思議です」

 

 ヤバいなんてものではない。この中で何人か死んでも文句は言えないほどの状況だったのだ。

 腐ってもリッチー。あの時はウィズさんも加減してくれたが、もし本気で俺を殺す気ならばキングフォームにならなくてはいけない状況になっていた。

 

「そういうえば・・・ゾンビメーカーの討伐依頼どうなるんだ?」

「「「「あっ」」」」

 



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相変わらずのポンコツ店主

どうしよう!折角ヒッキーが死んで鬱展開を現世でやろうとしてるのに、全く筆が進まない!
奉仕部や葉山たちがどうしようもない悪意によって苦しむ様を見たいのに、全くかけない!
ある程度の構想は浮かんでいるはずなのに・・・!


「八幡、手配書に関しての情報まとめたぜ」

「ん。あんがと」

 

 カズマに渡されたメモ、指名手配カリスについてのデータを受け取った。

 この町にも俺の手配書が回っているらしいのだが、どこまで知られているのかは分からない。だからカズマに頼んでどこまでこの町の住民に知られているのか聞き込みしてもらった。

 自分のことなのだから自分でやるべきだと思うが、俺には聞き込みなんて出来るコミュ力はない。だからコミュ力オバケのカズマに頼んだのだ。

 

「一応手配書はこの町にもあるけど、そんなに有名じゃねえ。知ってるのは一部だ」

「なるほど。ならバラされても信じる奴は少なそうだな。お前この町での信用低いし」

「え…え~とそうですが・・・」

 

 少し意地悪して言うと、カズマは面白具合に冷や汗をかいて慌てた。本当にからかい甲斐のある奴だ。

 

「・・・冗談だ」

「ありがとうございます!!」

 

 土下座して感謝を伝えるカズマ。本当におもしろい奴だ。

 こんなことはあいつらにもやらなかった。いつも少し距離を開けて会話する程度。しかしこの世界では、コイツらには何故かこういったことをする。なぜだろか。

 

 ・・・考えても無駄か。

 

「じゃあ続けるぜ。手配書の対象は八幡本人じゃなくてカリスだ。どこにも八幡の容姿や変身能力とかについてはない」

「…なるほど。じゃあ変身は控えた方がいいと」

「まあそうだな。たぶん気づかれることはないと思うけど、変身する時は人目を避けた方がいい。あと、八幡って他のライダーとかにも変身出来るのか?」

「ああ。カリスと比べたら熟練度が低いが」

「ならまずくなったらそっちに変身した方がいい。とりあえずカリスは一人か俺たちの前だけの方がいい」

「・・・そうだな」

 

 かなり大きな収穫だ。これでどこまでがアウトかの線引きがはっきりと出来る。

 しっかし詳し情報がビッシリだ。意外と頭も回るからコイツに頼んだのだが、ここまでとは思わなかった。

 コイツ、こんなにコミュ力あるのになんで引きこもりになったのだろうか?

 

「それにしてもマイナーとはいえこんな辺境の地まで手配書が来るなんて…。一体何やらかしたんですか?」

「話した通りだ。お国の厄介ごとに巻き込まれたり、貴族や商人の利権争いに巻き込まれたり、リッチーの策略に嵌ったり、あとは・・・奴隷から抜け出して反乱起こしたぐらいか」

「…………え?」

 

 突然カズマはコップを地面に落とした。あ~あ、お前それ弁償だぞ。

 

「あんたそんなハードな人生おくってたのか!?」

「……声がでかい。聞かれたらどうする?」

 

 立ち上がって怒鳴るカズマを宥めて落ち着かせる。

 ここでもし注目されて俺の正体がばれたらどうする。もしばれなくても俺は注目を浴びるのが嫌いなんだよ。だからそっとしてくれ。

 ・・・まあ、お前が驚くのも無理ないとは思うし、俺自身今思えばなんてハードなんだと思ってるから。

 

 あの頃は本当に大変だった。いきなり一人モンスターが跋扈する秘境に飛ばされ、アンデッドの襲撃に怯え、ソレを封印するために死にかけて戦う日々。飛ばされた当初は何度もみっともない醜態を晒し、何度も泣き叫んだ。

 そんな絶望と悲嘆、どうしようもない焦りと恐怖、そして孤独を忘れるために戦いに溺れた。

 

 あの時の唯一の救いは戦いだった。

 ハートのカテゴリーエースの影響で、俺の闘争本能は日々強くなっていった。戦えば戦うほど、アンデッドを封印すればするほど、そして敵を倒せば倒すほど。俺は痛みを忘れ、より強くなり、そして好戦的な獣に近づいた。

 すべてを忘れて戦いに没頭するのは楽しかった。ただ目の前の敵を倒すことだけを考え、その他全てを忘れる。そうやってケダモノに徹することで俺は心を保ち、精神を病むことなく戦いを続けられ、生きることができた。 ・・・代償としてカテゴリーエースに乗っ取られた時期があったのだが。

 

 けど今は違う。なんとか乗り越えて力を物にした。アンデッドの支配も受けることがなくなった。・・・まあ、また別の壁が次々と立ちふさがったのだが。

 

「とまあ、この世界にきて俺はいろんなことに巻き込まれたんだ。・・・お前もいつかそういったことになるかもな」

「お・・・脅かさないでくださいよ。こ、ここは平和な町なんで」

 

 分からねえぞ。起動要塞やら魔王幹部がいきなり現れたりするかもしれんぞ。

 なにせこの世界はゲームではない。パワーバランスを考えてくれる保証などないのだ。実際、この間も上級モンスターが襲ってきたし。

 

「別に決定事項じゃねえが、警戒しておけっていうことだ」

 

 とまあ、危機感を煽るものこれぐらいでいいか。

 たしかに常日頃イレギュラーに備えることも必要だが、それだけすればいいっというものではない。並行して日常の業務もしておかなければ。

 

「そんじゃあ、次の用事を片付けに行くか」

「え?用事?」

「ああ。武器についてだ」

「武器って…ああ、マジックアイテムのことか」

「そうだ。先週頼んだのだが、そろそろ出来るらしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お~いウィズ~。遊びにきたぞ~」

「バカ、遊びじゃなくて依頼だろうが」

 

 俺と八幡は現在、ウィズの魔法商店にいる。

 言っておくが、決してウィズのすんばらしい爆乳を拝むために来たのではない。いや、俺はそれもあるのだが…。けど今はそうじゃない。信じてくれ

 

 ウィズに用があるのは俺ではない。八幡だ。

 

「あ、ハチマンにカズマさん。こんにちは」

「ああ。で、例の装備は出来たか?」

「ええ。これですよね」

 

 店のカウンターからウィズが宝石のようなものがついた矢と短刀を俺たちに出した。

 

「ご覧の通り、属性を付与した武器です。使い捨てですが効果は保証しますよ」

 

 八幡は渡された武器を確認した。

 そう、八幡の用は変身前の武器を取り寄せることだ。

 この人は特典に安易に頼ることを良しとしない、そしてあまり乱用するとまずいので、こうして武器を取り寄せたのだ。

 

 だが普通の武器では心もとない。だからこうしてマジックアイテム特別な武器を買いに来たのだが・・・

 

「・・・しっかし今回もろくなアイテムがねえな」

「そ・・・そんなぁ~~~~!!?」

 

 この店にはまともな品が一つもないのだ。

 駆け出し冒険者用の町だというのに、アホみたいに高い装備。デメリットがバカみたいに高い使いどころのよくわからないアイテム。呪いがかかった品まで。正直、こんなポンコツばっか取り揃えて本当に売れるのかと心配になるほど品ぞろえが最悪なのだ。

 

「うぅ…。そんな・・・。今回もまた売れないのですね・・・」

 

 どうやらマジで売れないみたいだ。

 

「…なあウィズ、この魔道具はどう使うんだ?」

「あ、それは触っちゃダメです。レベルが低いと呪われます」

「・・・じゃあこれは?」

「それは雷魔法が魔力なしで使える代わりに使用者も帯電します」

 

 ・・・うん、どうやら今回は自爆シリーズらしい。

 

「はあ~。また妙な品を取り寄せたのか。前も言ったろ、ニーズを合わせろと。ここは初心者の人間の冒険者が来る店なんだから」

「そ・・・そうしてるんですが・・・」

「・・・まあお前の商才はいい。それよりも早く代金を払いたい」

「…あ、わかりました。ではその前に商品を改めて説明しますね」

 

 ウィズさんは商品に違いがないのか確認するためもう一度説明してくれた。

 この人、本当にいい人なのになんでこんなに商才ないんだ?あったらとてもいい店になっているのに…。

 

「この矢には魔法石がついて属性が付与されています。紫は神経毒の属性、この矢の毒が体内に侵入すると周囲の部位が紫に染まります。それが毒の回っているサインです。ですからこれで狩りをした際には変色した部位を取り除いてください。それ以外は加熱すれば毒は消えます」

「ああ。注文通りだ。次を頼む」

「はい。黄色は雷の属性、これが当たると電気ショックで相手を気絶させます。気絶といかなくてもしびれが出ますので、強敵にも使えます」

「なるほど。注文通りスタンガンと同じ効果だ」

「そのスタンガンというものがどういったものかは存じ上げませんが、比企谷さんが考えているものと同じだと思います」

 

 八幡が注文したのは状態異常を起こす矢と投げナイフだ。最初はここで普通に売っていると思ったのだが、なかったのでこうやって注文している。

 なるほど。これなら変身しなくても今のレベルで強敵を倒せる。正直俺もほしい。・・・買おっかな?

 けどこの矢と投げナイフ。ついている宝石みたいなのがでかいせいでちょっと重そうなんだよな。正直、飛ばせそうにない。

 

「じゃあお代は150万エリスになります!」

 

 ・・・は?

 

「・・・ウィズさん、どうやら俺は耳がおかしくなったらしい。今、150万エリスと聞こえたが」

「そ・・・そうですか。でしたら140万にまけます!」

 

 ・・・どうやらマジで150万と言っていたらしい。

 ナニコレ?もしかしてこの店ってぼったくりバーも兼ねてるの? やっぱこの人もリッチーらしくあくどい商売してるの?ウィズさんと数秒話すたびに数十万ほど追加するとか。

 

「・・・ねえ、俺はここの弱めのモンスター倒すための武器を注文したんですよ?なのになんでそんなぼったくりバー真っ青な法外極まりない金額を?」

「ええ!これはエンシェントドラゴンも気絶させるほどの威力の矢ですよ!!それぐらいの価値はあります!」

 

 ・・・ねえ、なんで店なんてやってるんだ?本当はもう倒産しているんだろ?

 

「・・・変身」

《チェンジ》

 

 八幡は変身してカリスアローから光の矢を連射した。

 

「きゃあああああああああああああ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、なんでこの辺のモンスター倒すようなのにそんな強度になってるんだ?おかしいだろ色々と」

 

 カリスアローで軽く折檻した後、俺は変身を解いて尋問した。

 リッチーにとって光の矢など蚊に刺されたようなものだ。今は焦げてるがギャグマンガのように復活するに決まっている。

 

「だ…だってハチマンさんはランドサーペイントやロック鳥のような上級モンスターを追い払い、巨岩象も倒せる最強のルーキーだと噂されてましたので、それぐらいの武器がいるかと・・・」

「・・・はあ~。そうか。・・・・・・悪かったな矢を放っちまって」

「いや、あんたが謝るのかよ!?」

 

 うるさいよカズマ。今はうちの問題児いないから突っ込む必要ねえぞ。

 

「しっかし140万か…。前回の報酬があって助かったぜ」

「…払うのかよ。律儀だなお前」

「…仕方ねえだろ。注文したの俺なんだから」

 

 出来てしまったものは仕方ない。

 

「ていうか、いくらなんでも雑魚用の武器、しかも使い捨てで140万は高すぎだって。普通なら幹部に使う武器だぜ?」

「え…えっと…。幹部相手に150万はかなり破格だと思いますが・・・」

「あんたは黙ってろヘボ店主!」

「すいません!ヘボですいません!」

 

 カズマが怒鳴ったのでウィズは俺の後ろに隠れながら謝った。

 ていうかなんでお前が怒ってるんだ? 俺の金なのに。言っておくが有り余ってもお前には奢らんぞ。

 

「…なあウィズ、これ効能落としてもいいから増やすことって出来ないのか?

「え?出来ないことはありませんよ。この宝玉を砕くと量産できます」

「じゃあそれやれよ!」

「は・・・はい!すぐにやります!!」

 

 ウィズは矢を回収した。

 

「じゃあいったんクーリングオフだ。その矢を出来るだけ量産してくれ。威力はジャイアントードを付与された属性だけで殺す程度でいい」

「え?それだとかなり小さく砕かなければいけませんよ。それに同じ大きさでも粗悪品でも代用できますし…。せっかく純正品の大きな魔法石で作ったというのに、そこまで威力落とすのはもったいないですよ」

「・・・全部あんたのせいだろ。あんたが注文通りの品用意してたら、そんな糞高い品を八幡が購入する必要なかったんだよ」

「す・・・すいません!自腹切って注文通りの品を粗悪品としての値段で売ります!!」

 

 いや、そこまでしなくてもいいんだけど…。どうせほかにも高収入のクエストを指名されてるんだし。

 

「・・・まあ、増やせるんなら頼むわ」

「はい!千本作ってきます!!」

「いや、それなら100本作って残りの代金返してこの店で売ってくれ」

 

 使い捨てとはいえ状態異常の属性が付与された矢や短剣が安値で売ってるならだれか買ってくれるだろう。その利益で店の売り上げを上げてくれ。

 

「わ…わかりました!全力で用意します!」

 

 そういってウィズは部屋に上がってしまった。

 

「・・・大丈夫だろうか」

 

 本当に、俺の身の回りにはなんでこうもポンコツばかり集まるのだろうか。




もしウィズさんに魔道具を注文しても、注文通りに届くことはなさそうだな…。


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ユッキー

今回はほんの少しだけ現世の様子が出ます。
すまない…。ほんの僅かしかなくて本当にすまない……。


「お、今噂のルーキーじゃねえか!」

「お前巨岩象倒したんだってな!やっぱお前からは並々ならねえオーラを感じてたぜ!」

 

 ウィズの店に品を受け取りに行く道中、いきなり同業者が大声で声をかけてきた。

 え・・・ちょ…何? なんでいきなりこの人たち俺に声をかけてきたの?しかもこんな人の多い場所で。そんなことしたら周りの方々に知り合いだって思われちゃうでしょ。

 

 いきなりのことで俺は混乱してしまうも、隣にいたカズマが代わりに相手をしてくれた。

 

「ふ~ん、どんなオーラ?」

「「吐き気を催す死のオーラ!」」

「やっぱりか!」

「どういう意味だ!?」

 

 あんまりな答えに俺も膠着が解けて怒鳴った。

 

「ハッハッハ!わりぃわりぃ。お前の邪悪なオーラで最初は勘違いしちまってた」

「ああ。なんていうか…魔王幹部かっていうぐらいのオーラ出してたからな」

 

 …俺ってそんなにやばいオーラ出してたのか。

 まあ、俺はアンデッドと融合したせいで残り香みたいなものがあるからな。それに悪魔に洗脳されたり魔獣の力を感染されたりしたから余計に臭いのだろう。・・・本当に心苦しいのだが。

 

「ま、お前がアンデッドマスターでかわいい女をアンデッドにしてるって噂聞いて、アクアさんがピンチになってると思ったんだが、そんなこともなかったしな」

「ああ。なんか逆にあの頭おかしい連中を止めてくれるみてえだからな。俺たちは特に何も言わねえぜ」

「「というわけでこれからも頭おかしいパーティを頼むぜ!!」」

 

 ・・・うん、褒めてくれるのはわかってるよ。でも頭おかしいパーティって何?俺おもりなの?

 

「・・・なあカズマ」

「・・・言わんでください」

 

 カズマは哀愁漂う背中でそう返した。苦労してるんだな、お前。

 

「そういえば八幡は今からどこに行くんだ?」

「ウィズの店だ。今日が商品完成する日だから受け取りに行っている」

「あ、そういうことか。・・・俺も何本か買いたいから行っていいか?」

「? 別にいいぞ」

 

 なんで俺の許可がいるんだ?てかお前、付いて行く気か?・・・まあ別にいいけど。

 俺たちはウィズの店に向かう。ここからは本当に近いのですぐについた。

 

「お~いウィズ~。今日が矢の完成する日だろ?」

 

 店に入ると同時にカズマがウィズを呼ぶ。するとあわただしく階段を降りる音と返事が返ってきた。

 

「い…いらっしゃいませハチマンさん。前回は・・・ほんっとうに申し訳ございませんでした!」

「ああ、そういうのいいから早く商品を」

「え…あ、はい」

 

 ウィズは何か面食らった様子でカウンターの棚から20本の矢を取り出した。

 前回と違ってでかい宝石など何処にもついてない普通の矢。けどそこらの矢よりは少し立派なつくりをしている。

 俺が求めていたのはもう少し安っぽいものなのだが、これ以上いうのはやめるか・・・ちゃんと注文通りなら。

 

「はい、では改めてお支払いの話です。この矢はどれも一本800エリス、ハチマンさんのお買い上げが20本ですので1万6千エリスになります」

「ああ」

 

 矢20本で1万を超えるのは高い気がするのだが、魔法効果のあるものなら仕方ない。俺は値切りすることなく支払った。

 これで矢の問題は解決だ。だから次の問題、結局ウィズは矢を何本作ったかだ。

 

「・・・それで、結局何本出来たんだ?」

「矢は500本、投擲用ナイフは300本、ジャベリンが100本、です。現在あそこの棚に飾ってます」

 

 言われた通り棚を眺める。そこには武器が無造作に置かれていた。

 商品なんだからもう少し品の揃え方に気を配れよ。そんなんだから売れないんだよ。

 

「・・・結局全部作ったのか」

「ええ。一週間夜なべして作りました」

 

 ・・・アンデッドも睡眠いるんだ。

 

「アンデッドは睡眠がいらないのですが、精神的には必要なんです。元は人間なので・・・」

「ああ、そういうことか」

 

 なるほど。たしかに人外になったからといって、いきなりモンスターの仲間入りして人間性を捨てるのは無理だ。たとえ自覚や覚悟があっても、何処かで引きずってしまう。

 

「そか。じゃあ140万エリスは売上でちゃんと返せよ」

「・・・はい」

 

 この人の性格上、踏み倒されることはないとは思いつつも釘をさす。

 

「え?結局あんた140万払ったの?」

「ああ。クーリングオフされるの予想してなかったから仕入れ先に全額既に払ってしまったらしい。しかもクーリングオフ不可の契約してまでな」

「・・・この人本当に商人?」

「はぐあ!!」

 

 ウィズさんはカズマの一言でノックアウトしてしまい、カウンターに倒れこんでしまった。

 …さすがにこれはかばい切れない。商人ならリスクを分散するため、色んなルートに保険をかけておくべきだ。

 なのにそういったことをせず、ちゃんと支払ってくれると希望的観測でこの人は動いてしまった。本人を目にして言えることではないが、正直商人失格だと思う。

 

「あ・・・あの・・・。少しいいですか…?」

「あん?なんだ?」

「徹夜して精神が・・・だから・・・その・・・」

 

 何かモジモジしながら、顔を赤くして言った。

 

「生命力を・・・分けてくれませんか?」

 

 ・・・それそんなに恥ずかしそうに言うことなの?

 

「…はあ~。あまり吸いすぎるなよ」

「あ…ありがとうございます!流石に一週間働きっぱなしはすごく辛くて……自業自得とは理解してますけど感謝します!」

 

 ウィズは俺の手を取って生命エネルギーを吸い取った。どうせ生命力は有り余るほどあるのだから問題ない。

 だからカズマ、そんな目で見るんじゃない。これは餌を提供しているだけでお前の思ってるようなものじゃねえぞ。

 

「・・・そういやウィズって八幡に借金してる状態なんだよな。で、期限とかは」

「そういうのはない。全部売れたら」

「無期限かよ!人が良すぎるぞ!!」

 

 いきなりカズマが怒鳴った。なんなんだ一体?

 

「だってこの人がしたこと考えたら、おっぱい揉ませるぐらいは許させるぞ!なのに何もなしで、無条件で無利子で金貸すとか優しすぎるぞあんだ!?」

「・・・お前の発想最悪だな」

 

 その発言俺に喧嘩売ってきた挙句、自分の特典に食い殺されたおっぱいバカ連想させるからやめて。

 

「いや、たしかにさっきのは自分でもどうかって思ったけど…。・・・俺、あんたが詐欺とかで引っかからないか心配になってきたぜ」

 

 失敬な。俺の警戒心は前世でもこの世界でもまず最初に鍛えられたのだぞ。俺の警戒心に…弱点はナァイ!!

 

「じゃ、俺の心配事は一つ片付いたから仕事行くか」

「そうだな」

 

 店を出てギルドに向かう。その時だった、すごいサイレンが鳴り響いたのは

 

『緊急警報!ユッキーの大群が押し寄せました!冒険者の皆さんはユッキーに備えてください!』

 

 ・・・雪ノ下(ユッキー)の大群?なにそれ悪夢。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「比企…谷くん・・・」

 

 一人しかいない教室の中、雪ノ下雪乃は呟いた。

 彼女の呟きを聞くものなど誰もいない。いつもならいるはずの腐った目の少年は、いつも明るい声をかけてくれる少女はもういない。

 彼女はまた一人に戻ってしまった。去年いつも感じていた、空っぽの教室。自分ひとりだけの空間だ。

 

「・・・今日は・・・甘く、ないわね」

 

 腐った目の少年が好物だった甘いコーヒーを口に含む。

 前に飲んだ時は甘くてとても飲めるようなものではなかった。これを飲めるあの男は将来糖尿病にでも進んでなる気か。本気でそう思い、あの男の味覚を疑っていた。

 しかし味覚がおかしくなったのは自分も同じらしい。まるで練乳を丸々入れたような甘い液体が、塩を一袋入れたほどしょっぱく感じる。

 

「・・・なんで私から離れていくのよ!!?」

 

 雪ノ下は缶を投げ捨てる

 

 もう証明など出来やしない。彼がいなくなった以上、何もかもが無意味になった。

 由比ケ浜はショックで不登校。母親がつきっきりで見るも、未だに回復の傾向は見られない。

 小町も同様だ。彼女は八幡の部屋に篭もりっきりで最低限の用事でしか外に出ようとしない。

 

 彼女は失ってしまった。せっかくの拠り所も、居場所も……特別な何かを。

 

 

 前回、平塚先生から無理して部活を再開する必要はないといわれた。しかし彼女はそれを断った。何故ならここは証なのだから

 ここは砦のようなもの。ここがなくなってしまえば、本当に彼との何かが消え去ってしまう。そんな気がしてならないのだ。

 

 ゾクリと、悪寒が襲う。

 

「いや……。それだけは嫌!!」

 

 そうだ、忘れるわけにはいかない。彼との関係を、そして彼自身を自分の手で否定することなど許されないのだ。

 

 

 

 

 

 だから、この場所だけは捨てるわけにはいかない。誰であろうと、たとえ自分であろうともこの場所を――比企谷八幡の居場所を否定するものは許さない。




ぬるい!奉仕部や総武高校生たちの苦しみがぬるい!
私は決して奉仕部や葉山アンチを書きたいわけではない。八幡の死という強烈な起爆剤を投入することで、彼ら彼女らが苦しみ悶えながらも、前に進もうと足掻く様を見たいんですよ!!
・・・しかし私は力不足だった。私には彼女たちの心象を表現する能力も、そして足掻く様を伝える文才もなかった。

だれか・・・だれかそういった内容を書いてくれ!!


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ユッキー狩りじゃ!

 ユッキーが何か分からない俺たちはアクアに教えてもらった。

 

「ユッキーとはこの世界のブリがさらに大きくなったビッグサイズの魚よ。ブリからユッキーになった魚は寿命で死ぬんだけど、その前に死に場所を探すかのように飛び立つの。それで、そのユッキーはすっごくデカくておいしいのよ。だから無駄死にする前に私たちが美味しく食べようてわけなのよ」

「「へ・・・へえ~」」

 

 雪ノ下、お前こっちじゃ出世魚なんだな。熟したらおいしく食べられるってよ。……まあ魚のことなんだけど。

 

「ユッキーは一匹10万もする高級品、質がいいと100万も超えるほどのおいしいクエストよ!けど、ユッキー狩りには少し欠点があるの。まず、ユッキーは強くて速いの。時速100㎞で飛ぶユッキーをしとめるのはすごく手間がかかるし、かといって正面から止めようとすると突進力で吹っ飛ばされるの」

「なるほど。つまりリスクもリターンも高いと」

「そうよ。だから罠とかで仕留めるの。ユッキーはかなり頑丈だからちっとやそっとじゃ傷一つつかないわ」

「そういうことか。ま、キャベツ狩りの難易度高いバージョンだな」

 

 どうやらこの世界ではいろんなものが飛ぶらしいです。

 

「キャベツ狩り?そんなのリスクもリターンも比べものにならないわよ!ユッキーは止まったり曲がったりするのが大嫌いだから、障害物を破壊しながら進むの!だから町があろうがお構いなしに突進して無茶苦茶にするのよ!!」

 

 なんでそこだけ本人と同じ設定にしたんだよ。しかも本人よりも周囲の影響デカいし。

 雪ノ下、こっちの世界のお前も曲がったことや腐るのが大嫌いらしいぜ。

 

「な、なるほど。リスクもリターンもデカいと。・・・で、それなら何でみんな落ち込んでいるんだ?」

 

 カズマはどんよりとした空気を放って下を向く冒険者たちを指さした。

 あんら~、今まで気づいてなかったわ。なんでこんなに陰気臭い空気まとっていながら、存在感薄いの? まさかこいつ等もステルスヒッキーを!?・・・いや、それ普通のステルスだわ。

 

 …おふざけはこれぐらいで少し真面目にしよう。冗談を抜きにしてもこの落ち込み具合はおかしい。

 冒険者は基本的に命知らずだ。モンスター討伐や罠の多いダンジョンを探索するなどの危険な仕事で生計を立ているのだから当然だろう。

彼らの本質は冒険家(ギャンブラー)。たとえリスクがあろうとも相応のメリットがあるのならば何人かは意気込むはずなのだ。

 

 しかしこの場にいるものは誰もそういった様子がない。かなりひど言いようだが、負け犬ムードだ。一体何が無駄に騒がしい彼らを黙らせている?

 

「・・・実は、ユッキーを狙って飢えたガッハーマもやってくるのよ」

 

 ・・・雪ノ下の次はガ浜さんですか。一体この世界はどれだけ知り合いの名前のモンスターを出す気ですか。

 しかも飢えた由比ヶ浜が熟した雪ノ下を狙うってどんなゆるゆりですか。ユリユリ展開は前世の教室だけで十分です。

 

「ふ~ん。で、そのガッハーマってどんな奴なんだ?」

「こんなのよ」

 

 アクアは一枚の紙を見せる。そこには、メガシンカ進化したガブリアスを更にクリーチャー化させたかのような化け物が描かれていた。・・・この世界の由比ヶ浜は前世の由比ヶ浜のようにユルユルしてませんでした。

 唯一の救いといえば女性的なフォルムをしているという点でしょうか。細めの腰つきや大きな胸部と臀部はどことなく彼女を連想させる。・・・まあだからなんだと言いたくはなるが。

 

「なんだよこれ!?バイオハザードのスカルミリオーネじゃねえか! 両手鎌にしただけじゃ誤魔化せねえぞ!!」

「それほどひどくないわよ。カズマってすぐ言い過ぎるんだからひきこもりになるのよ。…このモンスターはすんごく強くてね、しかも人肉も好物なやばいモンスターなの」

「…ああ。見た目通りだな。この世界で初めてのザ・モンスターって感じのモンスターだ」

 

 ああ。この世界のモンスターってかなり緩い見た目の奴が多いからな。バイオでハザードなグロいのはなかなかお目にかからない。

 

「そんなにやばいモンスターが来るなら漁を中止にすりゃいいじゃねえか。命あっての物種だろ?」

「そうだけど、このモンスターは鼻が良いから隠れても無駄なのよ」

 

 なんでそこだけ由比ヶ浜再現してんだよ。しかも子犬系じゃなくて猟犬系だし。

 

「・・・で、あとどれぐらいで魚はつくんだ?」

「最低で3時間後よ」

「早すぎだろ!?」

「仕方ないじゃない。あいつら飛ぶのめっちゃ速いんだから!」

 

 あまりにも少ないタイムリミットにカズマは叫んだ。

 気持ちはわかる。もしこいつが叫んでなかったら俺が叫んでいただろう。

 

 与えられた時間はたったの3時間。たったのこれだけでどうやって対策を立てることが出来ようか。

 しかし慌てたとこで時間は増えない。むしろ無駄にする行為だ。焦りは精神と頭にも負荷をかけて出来ることも出来なくなってしまう。

 だからまずは情報の整理だ。そうすることで見えるものがある。俺はこの世界でそうやって生き残ってきた。

 

 とりあえずそのガッハーマはなんとかなりそうだ。情報によればスーパートードたちよりは弱いらしいからカリスでもなんとかなる。それにこのタイプならあのライダーが一番やりやすい。もしやばくなればジャックフォームもあるし大丈夫だろう。

 問題はユッキーだ。この魚は数が多く、俺自身はガッハーマと戦うせいで手が回らない。さて、雪ノ下をどう攻略するか・・・決してギャルゲー的な意味じゃないよ?

 

「・・・いや、案外何とかなるかもしれん」

 

 俺はふと、あの道具について思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラ急げ!ユッキーとガッハーマはすぐそこまで迫っている!!さっさと防波堤を作れ!!」

 

 冒険者の掛け声が草原に響く。

 町の近くにある草原に多くの冒険者たちが対ユッキー用の防波堤を作っていた。

 ちなみに現場の指揮はカズマがしている。意外な話かもしれないが、カズマは新人でありながら仕事の時限定で評価されているらしい。人柄は最悪だが頭は信用できるとこの間ルナさんが言っていた。・・・カズマェ。

 

「おい!めぐみんが最近爆裂魔法を打ち込んだとこの土は掘りやすいぞ!こっから土を取れ!」

「さすがめぐみん!俺たちの最後の希望だぜ!!」

「それでも硬いとこがありやがるぞ!!」

「希望っていうのはタチの悪い病気だ。それも人に伝染する。めぐみんはそうやって病原菌を撒き散らしているんですよ」

 

 冒険者は好き勝手言っていた。

 掘りにくいところを見つけてはめぐみん使えないとほざき、そのめぐみんが昔開けたであろう穴を見つけてはやっぱりめぐみんは最高だぜ!と叫ぶ。その繰り返しだった。

 この手のひら返し、まるでカズマみたいだ。まあ嫌いじゃないんだが。

 

「・・・ずいぶん好き勝手言われてるな」

「ハチマン、後でめぐみん使えないって言った男を覚えてください。後で爆裂させます」

 

 マジでやりかねない目で杖を構えるめぐみん。とりあえず無視だ。 

 

「普段からみなさんこんなにやる気ならいいんですけどね・・」

 

 作業を眺めていると、ルナさんがこちらに近寄ってきた。

 

「お疲れ様ですハチマンさん。見たところ首尾は順調ですね」

「ええ、しかしこの作戦に乗ってくれるとは思ってもみませんでしたが・・俺駆け出しの冒険者ですし」

 

 冒険者たちに防波堤を作ってもらっているのは俺の計画の一部である。この作戦には人手がいる。だからこうして手伝ってもらっているのだ。

 ただ、新参者である俺の作戦など受け入れてくれるかはわからなかったが、意外にも街の男性陣がすごい勢いで賛成してくれた。

 

「すんなり受け入れてくれたことは助かりました。・・・説得に時間をかけてしまっては作業が遅れるのを予想してましたので」

「そうですね、それだけ皆さんこの街が大好きなんです。それに、ハチマンさんは注目されているルーキーですから」

「・・・それって逆にいうこと聞いてくれなさそうな肩書だと思うんですが?」

 

 人間は自分より優れている同業者に対して悪感情を抱くものである。

 ソースは雪ノ下。あいつはその容姿と能力か周囲の反感を買っていじめのターゲットとなり、人のことは言えないが今のように捻くれた性格となってしまった。

 

 しかしこの町ではそういったことはない。優れた人間を過度に担ぐことも、逆に攻撃することもない。

 それはコイツらが単純なのか、それとも単にお人好しなのか。答えはわからないが、ただ・・・

 

「・・・悪くない」

「え?何か言いましたか?」

「いや、なんでもない」

 

 ルナさんは普段もあれだけ頑張ってくれたらいいのにと愚痴っていたが、俺は無視した。

 ・・・後にただこの町を守るためだけに彼らが頑張っているわけではないことを知ることになる。それはまた別の話だ。

 

「それで、あとどれぐらいでユッキーは来る?」

「えっ・・えーと・・観測情報からして・・あと1時間ほどですね・・」

「早すぎだろ!」

 

 やっぱ待ってくれるわけではないのか。

 クソ、やっぱユッキーたちは冒険者任せになってしまう。・・・本当にそれでうまくいくのだろうか?

 

「こんなこと言うのもあれなんですが…。とりあえずやるだけのことはやります。でも失敗したときは・・・」

 

 俺が言い終える前に、ルナさんは俺のセリフを遮った。

 

「…ハチマンさん、今すごい悩んでいますよね」

「いや、そんなことは・・・」

「顔に出ていますよ。意外とわかりやすい方なんですね」

 

 クスリと笑っていうルナさん。

 俺ってそんなに分かりやすいのか?戦いではよくフェイントとか多用しているから、もう顔には出なくなったと思ってたのに。・・・あ、どうせ仮面被ってるから関係ありませんよね。

 

「・・・たしかに失敗したらとんでもない被害になるのは間違いないです。だから立案者のハチマンさんが重圧を感じるのは当たり前です」

「でも、これはハチマンさんの責任なんかじゃありません。なにせ案を受け入れたのは私達ギルド。つまり背負う責任は私たちにあります。それに私たちが貴方の案を受け入れると、自分の意思で決めたのですから。

「ですから、貴方に責任を追求するなんてこと、この街の皆さんはしませんよ。・・・まぁ多少の愚痴はあるかもしれませんが」

「それに、皆さんがここまで力を貸してくれたんです。大丈夫、必ず成功しますよ」

 

 最後ににこっと微笑んでルナさんは締めた。

 

「(・・・ルナさん、その言葉はやっぱ卑怯ですよ)」

 

 そんな言葉をかけられたら、余計に失敗が怖くなるじゃねえか。むしろ、前世の小学校や中学の頃の同級生みたいな言葉の方がよほど軽く感じられる。

 感情的な文句や冷たい押し付けの方がよほど気が楽だ。どうせ失うものも、罪悪感も感じることもない。

 

 この人は俺の心理など計算していない。おそらく本心からの言葉だ。

 そして、俺みたいなタイプ人間はそう言葉が一番効く。・・・だから俺は優しい言葉が嫌いだ。

 

 けど何故だろうか。やはり嫌な気はしない。どこかで悪くないと思える自分がいる。

 

「じゃあ、俺は行くか!」

 

 シャドーチェイサーに飛び乗り、俺は敵のいる戦場に向かう。

 ここまで言われたのだ。なんとしてでも俺はこの作戦を全うしてみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「矢を放てェェェェ!!!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」

 

 八幡の指示で全員がウィズの店から支給された矢、ポンコツ店主が夜なべして造った属性の付与された矢が射出された。

 そう、八幡の考えた案のひとつ、それはウィズの失敗によって作られた大量の武器をここで使うことだ。

 

 ユッキーもガッハーマも真っ直ぐにしか動かないおかげで当てるのは簡単だ。しかし、彼らの鱗から構成された装甲は貫かれることを許さない。出来たとしても少し刺さるだけだ。

 ユッキーもガッハーマも中級モンスターなのである。よって彼らを一撃で倒すのには相応の技がいる。そんなものを持つ者はアクセル街には限られていた。

 

 だが、この矢を使うのなら話は別だ。

 何も矢で倒す必要はない。当てればいいのだ。後は毒と電気が彼らを停めてくれる。そういった使い方では、この武器はユッキーとガッハーマを倒せるほどの技量がない者でも戦うことを可能にしてくれた。

 

 次々と矢が、投げナイフが、そして投槍がユッキーとガッハーマに刺さる。彼らにとって武器による攻撃そのものは針を刺された程度のダメージしかないが、毒や電気によって次々と空から墜落させていった。

 

 しかしそれでも数が多い。そして全ての武器が無駄なく当たるわけでもない。よってとてもウィズの用意した量では足りなかった。

 そんなことは八幡も承知だ。よって次の攻撃に移った。

 

「アクア、水を流せ!!」

「了解!クリエイトウォーター!!

 

 八幡の合図とともに、アクアが水を一気に放出させる。しかし相手は魚。これきしの激流など海で腐るほど体験してきた。

 そんなことは八幡も承知している。よって次の攻撃を仕掛けた。

 

《ブリザード》

「「「フリーズ」」」

 

 八幡はブリザードのカードをラウズ、冒険者たちはフリーズで流した水を凍らせた。

 全ての水を凍らせることは不可能。よって狙うのは“縁”の部分だけ。そうすることでユッキーたちを閉じ込める氷の水槽を創った。

 

「よし、第二次波だ!」

「「「おおおおおおおおおおおお!!!」」」

 

 八幡の合図で冒険者たちは次々と魔法やら毒薬やらを水槽の中にぶち込んでいった。

 魔法以外でぶち込まれた物の大半はウィズが購入した不良品だった。水に触れると毒になる不良品ポーションやら、鞘から抜くと持ち主も感電する魔剣やら、敵の攻撃から守る代わりに毒素を排出する盾やら。危険な不良品や欠陥品を次々と放り込んで中にいるユッキーとそれを狙うガッハーマを倒した。

 

「よし、この調子ならまだいける!」

 

 一人の冒険者がそう言って攻撃を続行する。彼の言葉はこの場にいる全員の心境を表していた。

 

「エクスプロージョン!」

 

 ユッキーを追いかけるガッハーマの本陣にめぐみんの爆裂魔法が発動。結果、ガッハーマは全て焼きヶ浜と化した。

 

 どれほどの時間が経っただろうか。気が付けばユッキーも全て倒れていった。こうして、八幡の作戦により、アクセル街は無傷のまま無事にユッキーを討伐することに成功した。

 

 

 

 

 

 

「まだだ!まだ奴がいる!!」

 

 

 

 

 

「ヒィィキィィィィィィィィィィィ!!!!!」

 

 八幡が指差す向こうには、一際大きなガッハーマと、ガッハーマの群れがいた。



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ガハマさん討伐!

「ヒィィキィィィィィィィィィィィ!!!!!」

「(・・・どうしょう。いきなり名前呼ばれちゃった)」

 

 俺は一際大きなクリーチャー版メガガブリアスを見て少しビビった。

 なにあの鳴き声?なんでヒッキーなの?どんだけガ浜さん意識してるのこの世界!?

 

「あ・・・あれはマザーガッハーマ!?」

「な・・・なんでそんな上級モンスターがいるんだよ!?あいつらはハルーノを食うんじゃないのか!?

 

 ・・・どうやらこの世界には由比ガ浜だけでなく由比ケ浜マと陽乃さんまでいるらしい。

 やだもう。どんだけ前世の俺の知り合い出す気?戦いづらくて仕方ないんですけど。

 

「(・・・いや、もうふざける時間はないか)」

 

 辺りを見渡すと、既に全員絶望オーラを放っていた。

 

「ま・・・まずいです!あんな化物が相手だともう勝目ありません!」

「お・・・終わった・・・」

「お…お助けくださいエリス様!!」

 

 あるものは腰を抜かし、あるものは武器を落とし、あるものは神に祈る。

 完全に戦意喪失。いやそれ以下だ。もう生きる気も放棄しかねなほどの敗戦オーラだ。

 

 なるほど。それほどの空気から見て相手は上級モンスター、しかもすんごく凶暴なんだな。

 まったく、なんで最近はこうもイレギュラーばかり起きるんだか…。仕方ない、俺が相手するか。

 

「し…仕方ねえさ。俺たちは十分戦ったんだ・・・」

「ああ。十分だ。お前たちはやってくれた。・・・だからこっから先は俺の領分だ」

 

 俺の前を塞ぐベテラン風の冒険者をどかして前に歩く。

 

「ま・・・待てお前死にに行く気か!?}

「誰もあいつと戦う気がないんだろ?なら俺が行く」

 

 言っておくが俺は別に心の折れた冒険者を見下す気はない。

 彼らは本当によくやってくれた。こんな何処の馬の骨とも知らない俺の案を信じて実行し、見事街を守って力を使い果たした。だから後はゆっくり休んでくれ。

 

 

 ここからはまだ力が残っている俺が、戦える俺が戦えない彼らの代理として戦うのが道理。最適解だ。

 

 

「(だろ?一真さん)」

 

 俺はクズじゃない方のカズマさんを思い浮かべながらカードを取り出す。

 カードのカブトムシもまた、久々の戦いで意気込んだ様子で蠢いた。その動きはさっさと俺を使えと、戦わせろと言っているうように見える。

 

「さて…あとは俺の仕事だ。・・・ヘシンッ!」

《チェンジ》

 

 俺はカードをスラッシュして仮面ライダーに変身する。けど、今回はカリスではなかった。

 

『ウェェェェェェェェイ!!』

 

 全ての戦えない人のために戦う青い剣士、仮面ライダーブレイド。

 俺はブレイラウザーを構えて敵陣に突進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウェイ!』

 

 ブレイドが剣を振り下ろす。ガッハーマは咄嗟に防御するが、剣はガッハーマの両鎌ごと身体を真っ二つに切断した。

 

『ウェイ!ヤァ!ウェエイ!!』

 

 ブレイドは剣を振るって次々と敵を切り裂く。高熱放射と高周波振動で切れ味を倍増させたヒーティング・エッジはガッハーマの装甲を安易と切断。次々と屠った。

 

「ヒッキィ!」

 

 ガッハーマの一体がブレイドに斬りかかる。ブレイドはガッハーマの鎌を、側面を打つことで防ぐ。そして剣を翻し、そのまま首を切断した。

 次の標的のガッハーマをフェンシングのような刺突で貫く。その見事な突きは一撃でガッハーマの心臓を破壊。ブレイドは死体から剣を引き抜いた。

 別のガッハーマが三体ほど襲いかかる。ブレイドは死体をガッハーマたちに投げて足止め。止まっている隙に飛び越えて後ろに回り込み、高速の刺突で全て絶命させた。

 

 ブレイドの猛攻は止まらない。集団で襲ってくるガッハーマの攻撃を避け、時には防いで反撃。刺突、斬撃、ナックルガードによる打撃。次々と亜音速で剣を振るい、敵を倒していった。

 

《キック》

 

 ラウズカードをスラッシュして力を解放。空を飛んでいるガッハーマに蹴りを食らわせた。

 蹴ってはその反動で跳んで次の標的を蹴り飛ばし、その反動でまた次の標的へ。それを繰り返して空にいるガッハーマを墜落させていった。

 

「す…すげえ・・・」

「ガッハーマの大群をこんなあっさりと・・・」

 

 冒険者たちはブレイドの奮闘ぶりに感動する。

 中級モンスターであるガッハーマを一撃で倒す見事な剣技。あの段階に到達するまでどれほどの年月が、そしてレベルを上げなくてはならないのか。

 少なくとも、駆け出しの範疇には決して収まらない。俺たちとはレベルが違うのだ。

 そう思った瞬間であった。

 

『そいつらはお前たちの獲物だ! ダメージをやったからもう戦闘力は半減した。俺はこっちをやる!』

 

 ブレイドはそう言って倒れているガッハーマから目線を外し、マザーガッハーマと向き合った。

 そう、これは決してブレイドだけの戦いではない。冒険者全員の戦いなのだ。貢献度に違いはあれど、さっきまでは八幡だけでなく冒険者たちが協力してユッキーから街を守ったではないか。

 まだ俺らにもやれることがある。まだ俺らの戦いは終わっちゃいねえ。冒険者たちは総意気込み、再び手に武器を取った。

 

 

「いくぞお前ら!ルーキーばっかに出しゃばらせんじゃねえ!!」

「「「おおおおおおおおおお!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 負け犬ムードから一変、手のひら返して猛烈なやる気を見せる。良くも悪くも彼らは単純なのである。・・・まあ、そこを気に入っているのだが。

 

『…さて、問題はこっちか』

 

 俺は後ろをちらりと見たあと、目の前の敵に視線を戻した。

 マザーガッハーマ。名前はふざけているが、その強さは本物らしい。上級モンスター並の戦力とルナさんは言っていたが、この様子から見て信ぴょう性が増した。

 ガッハーマと違う点は殆どない。せいぜいガッハーマよりも少し大きいのと、落ち着きがある程度。・・・こっちの世界でも特徴同じだね。ジャンルが違うけど。

 

「ヒッキィィィ…」

『だからその鳴き声やめろって』

 

 軽口を叩きながら構え方を変える。左腕は腰に当て、フェンシングのように構えて突進した。

 

『ウェイ!』

「ヒッキ!」

 

 同時に攻撃を開始する。俺は刺突、マザーは斬撃でお互いの急所に武器を向けた。

 当然最初に当たったのは俺の攻撃。刺突と斬撃では予備動作も威力も違う。その上スピードは俺の方が、ブレイドが上だ。

 ブレイラウザーはマザーの胸の厚い装甲に傷をつけた。

 

 鎌が振り下ろされる前に離脱。といっても後ろに逃げるのではなく、前に逃げた。

 戦いにおいて逃げ道は決して後ろだけではない。前に進み、敵の後ろや側面などの死角に逃れる。そこから俺は、敵の攻撃が届かない所から攻撃が出来るのだ。

 敵の攻撃から逃れ、且つ勝利への一歩を進む術。これを前世では歩法やフットワークと呼ばれている。

 

『ウェイ!』

「ヒッキ!?」

 

 敵の右脇を通り過ぎながら、持ち手を逆手に変更。すれ違いざまに斬撃を叩き込んだ。

 僅かだが装甲にヒビをいれた感触があった。胸部や臀部の装甲は分厚いが、細い腰は比較的薄いらしい。・・・前世でもそうだったね、由比ケ浜マさん。

 

『ウェイ!ウェア!ウェエエエイ!!』

 

 バックをとって振り向きざまに刺突を叩きつける。後ろから腰の部分に剣を突きまくった。

 よし、このまま勢いで流せばやれる!

 

「ヒッキィィィ!!」

『チッ!』

 

 と、思いきや奴は振り返りざまに鎌を振るった。

 咄嗟にブレイラウザーで防御するが衝撃を殺しきれず、俺はなぎ倒されてしまった。

 地面に転がるも次の攻撃に備えて俺は即座に立ち上がる。

 

『クソ!やっぱボスは取り巻きよりも強いか!』

 

 どうやらパワーは向こうが上らしい。まあ当然だろう。なにせあいつら、細身とはいえ俺の二倍くらいの身長してるんだから。

 だが、パワーが上だからちってそれが負ける要素にはならない。いつも通りの戦い方、ブレイドとしての戦い方で十分勝てる。・・・なんかベルトからブレイドのbgm、覚醒がまた流れてるよ…。

 

『ウェーーイ!』

 

 マザーに突進。鎌を振り回して即頭部に当たりかけるが前転で避け、立ち上がりざまにブレイラウザーを腹部で突く。

 更にすれ違いざまに付いた部分に斬撃を叩き込む。わずかだかそこに亀裂が生じた。

 

「ヒッキィィィイ!!」

 

 マザーは振り返って鎌を振り落とす。けど俺はそれを横に転がって避け、立ち上がりながら剣を振り回して胴を切りつけた。

 剣を翻し、返しの剣で切りつけ、次に思いっきり踏み込んで突きを食らわせた。

 

 今度は両手の鎌を振り下ろしたので後天して下がる。打ち合いや鍔競り合いなどしない。そんなことしてもパワー負けするのは目に見えている。

 

 俺の攻撃は続いた。敵に接近して加速した勢いを乗せて突きを食らわせ、怯んでいる隙に畳み掛け、敵が攻撃したら逃げる。そしてまたスピードを活かして突進。この繰り返しだ。

 

 ブレイドの特徴は速さだ。第一号であるギャレンはパワー、第二号であるブレイドはスピードがある・・・という設定がある。

 特撮の設定などアテにできないものが多いが、どうやらこのカリスラウザーの作者はその設定を採用したのだろう。変身する中ではブレイドが一番スピードに特化している。

 だから俺はブレイドを専らスピードフォームとして使っている。その間、掛け声がおかしくなるが気にするな。俺は気にしない。

 

 ヒットアンドウェイを繰り返す内にマザーの腹と腰のヒビが大きくなった。…そろそろか。

 腰のデッキから2枚のカードを取り出し、 カードをスラッシュして読み込ませた。

 

《スラッシュ》《サンダー》

『うぇええええい!』

 

 突進した上での刺突。剣を思いっきり突き上げて、亀裂の入ったマザーの腹部を貫き、電撃を直接体内に流し込んだ。

 

「ヒッキィィィィ!」

 

 剣を引き抜きながら胴体を切り裂く。左脇腹からブレイラウザーが飛び出すと同時に、血しぶきと肉片が舞った。

 力が抜けたかのように、マザーはゆっくりと仰向けに倒れる。彼女の体からは煙としゅ~という肉が焼ける音が聞こえた。

 

《スピリット》

「…これでおわりだ」

 

 俺は変身を解除しながら、町へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「いぇええええええええええええい!!!!」」」

 

 ギルドに戻ると、一気に祝宴会ムードでにぎわっていた。

 ねえ、後処理とかいいの? 片付けもなしにいきなりパーティとか、少し君たち急ぎすぎじゃない?

 そんな風に思っていると、めぐみんがシュワシュワを持って俺に近づいた。

 

「ハチマンも飲みましょう!今日はユッキーとガッハーマを討伐できたんですから!しかも無傷で!」

「・・・そんなものか?」

 

 受け取ったシュワシュワをとりあえず飲んでみる。キンキンに冷えた液体が喉を潤し、いい感じの喉ごしが温まった俺の身体を冷やしてくれた。

 

「おッ!主役の登場だぜ!」

「おっしゃ!じゃあいっちょ祝いますか!」

「え?ちょ…何?」

 

 いきなりガタイのいい男たちが俺の周囲を囲み、身体を拘束した。

 ちょっと何する気?俺なんかよりもルナさんやダクネスの方が絵になるよ。しかもダクネスなら喜んでくれるから。だから代わってダクネス!

 

「よーし行くぜ!せーの!」

「「「よいしょーーー!!!」」」

 

 いきなり胴上げをされた。

 ちょっとまって。今俺右手にシュワシュワ持ってるんですけど。そんなことしたら掛かっちゃうから!

 

「てめえ何酒かけてくれたんだ!お返しだ!」

 

 俺のシュワシュワがかかってしまった冒険者が受付嬢から受け取った酒をかけてきた。ナニコレ理不尽。

 

「お、なら俺も」

「俺も酒の飛沫かかっちまったしな!」

「仲間の仇!」

「仲間の弟の仇」

「仲間の弟の親戚の仇!」

 

 今度はなんでか次々と俺に酒をかけてきた。

 ねえなんでみんな僕にかけてくるのぉ?僕この街を救った英雄的な存在だよね?てか仲間の弟の親戚って完全な赤の他人だろ!

 

 あら、受付嬢さんが都合よく俺にシャンパン持ってきてくれたぞ。・・・いいだろう、受け取ろうかソレを。

 

「上等だ!俺もお返しだ!」

「「「ひゃはああああああああああああ!!!!」」」

 

 俺が酒をかけると、なんか急に盛り上がって酒をかける頻度が多くなってしまった。

 中には関係のないものまで巻き込まれ、更に被害は広がって騒ぎが大きくなる。

 そんなにかけられたいの? じゃ次行っちゃうよ?後悔しないんだね?

 

「あ~~~!!?あんたたち酒で遊ぶんじゃないわよ!!もったいないじゃない!」

「固いこと言うなよアクアさん」

「そういうわけにはいかないわ!お酒を粗末にするような輩はこのアクア様が許さないわ! 喰らいなさいマックス花鳥風月!」

 

 アクアは俺たちに向かってどこからか水をかけてきた。

 元からベチャベチャなので特に怒ることもないし、むしろ酒の匂いが消えてありがたいのだが・・・。やはりムカつくものだな。

 

「おっしゃあ!アクアさんが浄化でキレイにしてくれたぞ!じゃあもう一回やるか!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」

「ちょっと話聞きなさいよ!!」

 

 こうして酒の掛け合いは結局朝まですることになった。

 

 全く、ここの連中は馬鹿ですぐ騒いで本当にウザイ。けどなぜだろうか・・・

 

 

 

 俺にはこの空間が、そんなに悪いものではないと感じてしまった。

 



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ロイコクロリディウム

推奨BGM 《カリス激情》《red fractiom》


 皆さんはロイコクロリディウムという寄生生物をご存知だろうか。

 鳥を本来の宿主としており、他の寄生虫と同じく大人しく腹の中にいるのだが、カタツムリには容赦のない寄生虫だ。

 この虫、鳥のフンと一緒に自分の卵を産み落とすのだが、それをカタツムリが食べることがある。そこからカタツムリの体内で卵から孵化して脱皮を繰り返してそのまま成長する。

 

 ここまではふつうの寄生虫だが、カタツムリの中に入ってからコイツはその本性を現す

 

 なんとコイツはカタツムリの体内で成長すると、カタツムリの頭部に移動を開始し、カタツムリの特徴である長い触覚に入り込むのだ。

 カタツムリは、触覚に寄生されたことで視界が遮られ、違和感を感じたカタツムリが触覚を回転させて抵抗する。そしてこのロイコクロリディウムが動くことで、蝶の幼虫である芋虫に見えるせいで、イモムシを好物とする鳥に間違えられて食べられるのだ。

 鳥が食べることでまんまと鳥の体内に侵入したロイコクロリディウムは、その鳥の腸管内で卵を産む。

この卵は鳥のフンと共に排出され、カタツムリがこのフンを食べることで、またロイコクロリディウムはカタツムリの体内で成長し、カタツムリの触角に入り込んでまた鳥に食われる。

 こうして、カタツムリと鳥の間でグルグルと周り続けているのだ。……カタツムリを使い捨ての車にしてな。

 

 とまあ、ロイコクロリディウムの生態は以上なのだが、カタツムリの触覚に寄生している状態がとにかく気持ち悪いのだ。俺もこの画像を夕方の生き物特集で見てしまって気分を悪くしてしまった、しかも食事中に。

 はっきり言う、この寄生虫を検索するな。画像を見るな。もし見て気分を悪くしても俺は一切責任を取らない。

 

 この生物のことをこれ以上思い出したくないのでさっさと終わらせよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやああああああああああ!いや、いや、怖い!怖い!ひゃああああ!」

「うっせえぞアクア!お前も手を動かせ!」

 

 俺は現在ロイコクロリディウムに寄生されたような動物共と戦っている。

 

 矢を放って寄生された動物をヘッドショットでしとめる。脳やら変な液体が飛び散り、目から飛び出した寄生虫がビチビチ蠢いて奇声を上げた。

 

 ま…まじできも!この世界で内臓とかは見慣れたが、この虫の気持ち悪さはそういったレベルではない。もはやリアルバイオハザ○ドだ。

 

「ああああああああぁぁぁ!助けてぇぇえええええ!八幡!いや、カリス様ぁぁぁぁ!」

「ギチギチギチギチ、ケダゲゲケダケダゲケダ」

 

 本来なら、こういう時にツッコミを入れてるカズマだが、そんな余裕も無かった。なにせ今はアイツも目から芋虫が飛び出したような山羊に追われているからだ。

 

「ああわあわあわあわ、わ、わ、、わ、我がば、爆裂魔法にいいいい、け、消し、消し、飛ばして、や、やる!!ひい!今、アレと目が合いました!は、はち、ハチマン、お願いします!」

「・・・俺も後衛なんだけど。今握ってる弓矢見えないの?」

 

 めぐみんに押される形でグロテスクなモンスターの前に出された。

 ていうかダクネスはどうした。こういうのは盾役のダクネスの仕事だろ。汚れ役は全員だからな。

 

「さ・・・さすがにあれは・・・」

「てめえマゾの分際で相手選んでんじゃねえぞ!」

「マゾじゃない!」

 

うそつけ!お前がマゾっていうのはみんな知ってんだぞ!

 あ、さてはオメー、エゴマゾだな。

 

「おいアクア!お前のせいだぞ!お前がこのクエスト簡単ていうから、八幡が変身しなくても勝てるっていうから行ったんだぞ!」

「仕方ないじゃない!だって八幡が変身したくないっていうからこのクエストに変更したんじゃない!」

「あの人は冤罪で追われてるって言ったろ!」

「そんなの堂々としてりゃ晴れるでしょ!!」

「そう簡単にいかねえから八幡は逃げてんだよ!まあ、お前みたいな駄女神には国家のゴタゴタは理解できねえけどな!!」

「あ~~~!言っちゃいけないこと言った!カズマ謝って!ねえ謝って!」

 

 ・・・向こうでは仲間割れしてるし。

 

 しかしアクアのいう通り、このまま変身なしでは勝てそうにない。

 報告ではあのモンスターは10体ほどだと聞いたが明らかにその倍はいる。てかゼロ一個追加するほどいるぞ。

 

「てか依頼を引き受けたのはお前だろ、アクア!」

 

 俺は数分前の出来事を思い出して怒鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、みんな。コレなんて良いんじゃないかしら?ほら、寄生モンスターの討伐だって」

 

 アクアがボードに貼られている、1枚の依頼を指していた。

 依頼内容は死体に寄生するモンスターの討伐。寄生されたモンスターを一匹倒すごとに1万エリス払われるらしい。尚全滅させなくてもいいこと。これはかなり美味しいのでは?

 俺が悩んでいると、カズマがアクアにクエストのモンスターについて質問をした。

 

「アクア、この寄生モンスターってなんだ?」

「言葉通りよ。死体に寄生して脳を侵食して、大型モンスターにわざと食べられて体に侵入する嫌なモンスターよ。寄生するのは基本的にモンスターだけど、死体なら基本的になんでもいいらしいわ。強さは寄生した動物によって変わるけど、普通の動物なら雑魚よ。あいつらトロいらしいから」

「ふ~ん。じゃあ楽そうでいいな」

「でしょ?じゃあコレにしましょうよ!」

「そだな

 

 こうして俺はこのクエストを選んだ。あの時は特に反対する理由もなかったし、むしろ美味しい仕事に思えた。

 ・・・今思えば、あそこで止めるなり他の冒険者に事情を聞くなりすればと、今になって後悔してる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ま、今更後悔しても無駄か」

 

「仕方ない・・・変身」

《チェンジ》

 

 俺はカリスではなく、仮面ライダーギャレンに変身した。

 

《ジェミニ》

 

 ラウズカードの効果でギャレンラウザーを二つにする。

 二つの銃を構えてゾンビの集団に突っ込んだ。

 

『消えろガナード共』

 

 両手の銃を構えて、敵に発砲。全ての銃弾が敵の頭をヘッドショットして中の虫をむき出しの状態にした。

 生理的嫌悪感を催す叫び声。飛び出した虫はビチビチと悶え苦しみながら、怖気がする声を出して絶命した。

 

「ハチマン!カッコイイです!」

「そのまま、どんどんやっちゃってー!」

 

 女子たちは既に戦意喪失して腰を抜かしていながらも、俺を応援していた。ダクネスも平気そうにしていたが、なんか体が震えている。

 おいおい、全部俺任せかよ。まあ気持ちは分かる。俺も嫌だから。

 

「すげえガンカタだ!マジモンの二丁銃だ!」

 

 兎に角、銃を連射しまくる。二丁銃を乱射しまくって、目に映る全てのガナードにヘッドショットを決めてやった。

 だが決して無駄弾は使わない。全ての弾丸を漏らすことなく頭に命中させてやった。

 

「う~・・・」

「あ~・・・」

 

 しかしいくら片付けてもキリがない。次々とガナードもどきが現れて襲ってきた。中にはゴブリンなどの人型モンスターまで混じっていきた。

 しっかし、ここはどこのデンジャラスなバイオだ?う~う~唸る死体はラクーンシティだけで十分なんだよ。こっちの世界に出てくんな!!

 ・・・いや、○ウイルスじゃなくてガナードだからキシュジュ自治区か。

 

 とにかく撃ちながら俺は前に進む。より撃ち安く、より一気に倒しやすい場所を目指して。俺は銃を振り回して周囲の敵を一掃しながら場所取りした。

 

「クシャァァァ!!」

 

 ・・・なんか変異種プラーガ混じってました。

 

 なんだよアイツ!頭ぶっ飛ばしたら触手みたいなもんが出て攻撃してきたぞ!?

 まあ、それぐらいならば簡単によけられるし攻撃されてもライダーの鎧のおかげで大して痛くないが、絵面が非常に気持ち悪い。

 想像してほしい。ロイコクロリディウムをブッ飛ばと思ったら、今度は首から上がムカデやミミズの化物になった図を。

 

《ファイア》《ラビッド》

 

 良い陣地を取ったと同時にアンデッドの力を解放。力は二丁銃に宿り、360°全ての敵に連射。全ての弾丸を余すことなく敵の頭にぶち込んだ。

 半回転した後に反回転。より敵の密集した地点に両手の銃を向けて連射。全ての方角の敵に銃弾を叩きつけ、銃弾が体内に入ったと同時に燃焼させた。

 炎がガナードの頭を燃やし、中の虫を焼き尽くす。これならたとえあの虫が飛び出そうが関係ない。

 

「・・・やべえ。これじゃあ死体数えられねえや」

 

 どうやらあのゾンビはかなり燃えやすいらしい。頭の中の虫を燃やすつもりが、体全体を焼き尽くしてしまった。

 俺はゾンビを全て燃やしたことを後悔しながら、炎の中歩いて帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ~」

 

 変身を解いて一息つく。岩陰に隠れていためぐみんとアクアが合流した。

 

「ハチマン、先程の戦いカッコよかったです!あれはアクシズ教団に入ったからですか!?」

「・・・何の話だ?」

「ハチマンはアクシズ教で選ばれた者のみが使える武術、ガン=カタを習得すると話を聞いたのですが、どうなのですか?」

 

 ・・・ホントに何の話? あの駄女神、一体何を吹き込んだの?

 

「違うからなめぐみん。……おいアクア」

「な・・・何かしら?」

 

 少しおびえた様子のアクアに俺は先が吸盤になった矢を放った。矢はスポンッといい音をしてアクアのでこに刺さる。

 

「いったーーーーい!な……何するのよ、ハチマン!?」

 

 余程痛かったのか、アクアは矢を抜きながら涙目で反論してきた。

 

「アクア、俺はいつからそんな邪教に入ったんだ?」

「じゃ、邪教てなによ!?」

「…質問に答えろ。またやられたいか?」

「…ごめんなさい」

 

 もう一弓矢を構えると、アクアは土下座で謝った。

 やっぱコイツも町の冒険者やカズマ同様、ピンチになるとすぐ手のひら返しだ。お前のそういうとこ愛してるぜアクア。

 

 けど俺をアクシズ教徒呼ばわりしたことは許さん。あの邪教だけは絶対に許さん。マジで。

 もしかしてあの邪教徒がプラーガ撒き散らしたんじゃねえだろうな?・・・いや、いくら同じ邪教同士とはいえそこまで悪い連中じゃ・・・ないと思う。

 

「それで、まだあの寄生虫いるんだけど・・・どうする?」

 

 カズマがそう言うと、全員が嫌そうな顔をした。

 

「・・・自分が取ってきたクエストですけど・・・なんて言うか・・・あんなキモいモンスターをもう見たくないといいますか・・・。てか、戦力になるのがハチマンだけで・・・めぐみんは1発こっきりで、ダクネスはつかえないし・・・。私は杖で殴るとか嫌だし・・・」

 

 この駄女神め。全部俺に押し付ける気か?

 

「…だな。それにクエストじゃ全部を倒す必要もないし。一応報告だけするか」

「流石に私もあれは受け付けられない。さっさと帰って明日に備えるか」

「決まりだな。…そもそもなんでそんなに湧いて出てくるんだ?こんだけ出るんだから何か原因があるだろ」

 

 カズマの言うとおりだ。いくらなんでもギルドから聞いた数とあまりにもかけ離れている。

 何度かギルドの報告とは違う結果になったことはあるが、今回はあまりにも違いすぎる。一体何があったというのだ?

 

「・・・そういやあのモンスターって他の生物に寄生するために死体に宿るっていったよな?ならそのモンスターが偶然来たから集まったっていう可能性は?」

「ありえません。あの寄生モンスターは他のモンスターに死体を食べさせることで寄生するのですが、その主なモンスターがタイラントなんですよ?」

 

 ・・・今度はタイラントかよ。

 でもどっちのタイラントだろうか。怪獣の方か生物兵器の方かで対応変わるぞ。

 もし生物兵器の方なら大問題だ。今度はウェスカーとかGとか出てきそうで怖すぎる。

 

「そのタイラントっていうモンスターはアンデッドでして、とてつもない上質な死のオーラを出しているんです。ですからそんな生物がアクセルの近くに・・・・あ」

 

 あ~どっちだろう。両方とも死のオーラといえばそうだからな。

 ・・・ん?待てよ、さっき死のオーラって言った?それってもしかして・・・。

 

「「「・・・」」」

 

 全員の目がこちらに集中する。その目が言いたいことはすぐにわかった。

 心なしか、距離も若干取られている気がする。いや、気のせいでじゃない。あいつらはジリジリと距離を開けていっている。

 

「ちょ・・・ちょっと?」

 

 

 ザッ

 

 

 一斉に逃げやがった。

 

「ちょ・・・待てよ!」

 

 カズマたちを追いかけようとすると、突如プラーガたちが俺たちに・・・いや、俺めがけて襲いかかってきた。カズマたちには見向きもせず、カズマたちの方が近いのに。何故か奴らは俺だけを見ていた。

 

「や…やっぱりハチマンが目当てじゃない!」

「わ…悪いハチマン!いつもなら代わってくれと懇願するのだが相手が相手だ。今回はお前が相手をしてくれ!」

「このモンスターを一番倒したのはお前だハチマン。報酬は全部お前のもの。つまりこれはお前の仕事だ」

 

 そう言ってアクアたちは俺を置いて逃げていった。誰よりもあのモンスターを駆逐したこの俺を差し置いて。何もしてないはずのあいつらが逃げやがった。

 

「ふ・・・ふじゃけるな!俺は養う立場じゃなくて養われる立場にいたいんだ!!」

 

 再びギャレンに変身してガナードたちを駆逐した。




ロイコクロリディウムなんてグロイものを出してしまったのは私の責任だ。だが私は謝らない。


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八幡抜けるってよ

更新遅れて申し訳ございません!


「・・・」

「「「申し訳ございませんでしたハチマン様!」」」

 

 俺の眼前には土下座して報酬を乞う恥知らず共がいる。…さて、どうやってこいつらを料理するべきか…。本当に悩む。

 

「邪魔だ。除け」

 

 まずはクエストの終了をルナさんに知らせることだ。コイツらの処分はそのあとでいい。

 俺は道を塞ぐ邪魔な石ころを蹴り飛ばし、無理やり道を作った。あと、何か物欲しそうな目で見る石ころが一つだけあるが無視だ。

 

「ルナさん。報酬を受け取りに来ました。俺だけの報酬を」

「は…はあ。では報告通りの報酬をお支払い致します。…ただ、今回は上限値を超えてますので後の報酬は・・・」

「大丈夫だ。どうせ受け取るのは俺だけなんだし」

 

 俺だけを強調して報酬の話をする。すると、金と酒に飢えた亡者二匹が俺の足に引っ付いてきやがった。

 

「ちょっと待ってくらさい!そらないれしょ!?」

「そーよ!あれは私が受けた依頼よ!なのに俺だけってなによ!?」

 

 ・・・この亡者ども、本気で言っているのか? もし本気ならばこの足で蹴り飛ばさなくてはならない。

 というかいいよね?俺こいつら蹴り飛ばしていいよね?

 

「…逃げたくせに。頑張ってる俺を見捨てて逃げたくせに」

「「申し訳ございません!!」」

 

 ひたすら土下座して許しを乞うアクアとカズマ。

 クソが!コイツらすぐに手のひら返しやがって!俺は前々からお前たちのそういうとこが嫌いなんだよクソが!

 

「…皆様、この依頼はハチマンさんが行ったものです。手柄の横取りは冒険者として恥ずべき行為ですよ?」

 

 ルナさんはカズマたちをゴミでも見るかのような冷たい目で見下しながら、拒絶の意を示した。

 おお、さすがルナさん! やっぱりあんたは外側も中身も大人の女だ。

 

「では報酬をお支払いします。ハチマンさんだけに」

 

 だけにを強調して報酬の一部を払ってくれた。

 

「大金ですから全額お渡しすることは出来ません。ですので後ほどお支払いします。・・・くれぐれも無茶をしないように」

 

 最後に金だけ受け取って、俺はギルドから出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や・・・やばいわ!このままじゃハチマン出て行っちゃう!」

 

 ハチマンがギルドから出て行ったあと、アクアはご覧のとおりめっちゃ焦っている。

 八幡は俺たちのせいでご立腹だ。俺だって同じ立場ならアクアをボロクソに罵って泣かしてるし、俺をぶん殴る。むしろそうしないあの人の方が大人だ。

 

「まあ待てよアクア。あいつはたしかに繊細で傷つきやすいとこあるけど、けっこう寛大だぜ。少し間を置いてもう一回謝りに行こうぜ」

「そ・・・そうだけど・・・」

「いや、あの人は本気で嫌う相手には一切口をきかない。だからすぐ許してくれるって」

 

 前回酒場で過去について語り合ったとき、俺はあの人の隠された人間性に触れた気がした。

 まあ、あれだけであの人の全てをわかりきったつもりはしないが、それでもこれだけは分かる。あの人は俺なんかよりもよっぽどできた人だってことは。

 

「だから今日はとりあえず待とうな」

「う…う~ん・・・。ニートのカズマに言われるんは癪だけどそうね。あいつの経歴みたら許してくれそうだし!」

「・・・ニートはやめて」



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洞窟探索

しばらく更新止めて申し訳ございませんでした!


「…ここが新しいダンジョンか」

 

 森の中にひっそりと空いた洞穴の前、そこで俺は愛用のバイクを止めて穴の中を覗いた。

 

 今回の依頼はダンジョンの探索。なんでもここはアンデッドや悪魔がうじゃうじゃいるらしく、高レベルのアークプリーストや聖騎士でもない限り探索は難しいらしい。

 そこで指名されたのが俺。どうやらアンデッドマスターの称号は悪魔にも通じるらしく、レベルの低い悪魔は逃げてしまい。同レベルでもけん制することが出来る。・・・なんか最近ルナさん俺によく仕事指名するね。俺のこと好きなの?

 ・・・いや、それはないか。そうやって少しのことで勘違いして自爆するのはもうたくさんだ。

 

 アクアも一応アークプリーストではあるが戦闘力はクソだ。ステータスが高いだけではクエストを成功させることはできない。

 ソースは俺。スペックではカリスが勝っているのに技術や経験の差でボコられたことがあった。無論リベンジしてぶっ飛ばしたが、それでもあれは苦い経験として今でも残っている。

 

「・・・じゃ、行くか」

《インビジブル》

 

 封印したアンデッドではなく、封印したこの世界の悪魔の力を借りて姿を消す。

 この悪魔の力は姿を隠すだけで気配そのものは消えない。だからそこはステルスヒッキーと足音を消すなどの配慮がいる。

 

 俺は気配を悟られないように気を付けながら洞穴の中に入った。

 洞穴の中は至って普通だった。入りたてのせいかモンスターなど一匹も存在せず、ただまっすぐ道が続いているだけ。

 

 ・・・いや、至って普通というのはおかしい。訂正しよう。やはりこの洞穴はおかしい。

 普通ならば蝙蝠ぐらいいてもおかしくないのだが、この洞穴には虫すらいない。これはおかしい。どういうことだ?

 

 俺は警戒しながら前に進む。大体1分ほどだろうか。俺は開けた場所にたどり着いた。

 だが動物の気配はしない。何も聞こえない無音の空間。暗闇と静寂が支配する、寂しい場所だった。

 

 何も見えない、何も感じない。それは人に恐怖を与える絶好の場所でもある。

 俺自身静かなところは好きだが、真の無音の空間には恐怖を抱く。人間とはそういうものなのだ。といっても俺にとっては少し不気味に感じる程度なのだが。・・・本当に強がってるわけじゃないよ?

 

「(…って、俺は誰に言い訳してるのか)」

《スコープ》

 

 ダイヤのカテゴリー8、バッドアンデッドの力で周囲を探索する。すると、ここから南西20㎞離れた先にアンデッドや悪魔の気配があったのを感知した。

 さすがに姿形までは分からないが、いると分かっただけで十分だ。けどもっと情報がほしいのでフォーカスしてみる。すると、人間の存在を2つ感知してしまった。

 

「…まずい!」

《チェンジ》

 

 流石に見過ごすわけにはいかないので変身しながら気配に向かって走った。

 変身したライダーはブレイド。カリスには敏捷性で劣るが、加速力ではこちらが上だ。俺はブレイドのマッハの力で一気に加速した。

 

 数秒もかからずに目的地が見えた。どうやら気配の元は冒険者、しかも一人は二人とも女子らしい。一人は胸元を強調している服、もう一人は露出がかなり多い。なんでこの世界の奴らってこうもエロ衣装が好きなんだ?

 

『ウェイ!』

 

 気配のもとにたどり着くと同時に、一番近くにいた悪魔に体当たり。加速の十分ついた俺の体当たりは悪魔を吹っ飛ばし、石の壁に激突させて絶命させた。

 

「しゃあああああ!!」

 

 俺の存在に気付いたアンデッドや悪魔たちが俺に襲い掛かる。

 俺に怯むどころか、異常な敵意を見せている。どうやらコイツらは俺よりもレベルが上らしい。・・・いや、決めつけはよくないか。

 

《チェンジ》

 

 俺はレンゲルに変身。専用の武器である醒杖レンゲルラウザーを構えて敵の襲撃に備えた。

 スピードではブレイドやカリスに劣るが、パワーでは圧倒的に優位。ただ、原作よりもワンランクダウンされているせいで最強のライダーではなくなってしまったが、それでも使いどころを間違わなかったら心強いフォームだ。

 

『フン!』

 

 錫杖を振り回して敵を一掃する。パワーの乗った杖の刃は敵を切り裂き、石突は敵の頭部を粉砕した。

 この程度で俺の攻撃は止まらない。刃で敵を切り裂けば今度は石突きで敵を吹っ飛ばす。刺突を繰り出し、次に襲い掛かる敵は石突で薙ぎ払う。後ろから襲い掛かった敵は振り返りざまに石突で頭を勝ち割ってやった。そして懐に潜りこみ、噛みつこうとした敵は至近距離で串刺しにしてやった。

 

「ぐ・・・ぐう・・・」

 

 悪魔の死体を放り投げ、次の敵に目を向ける。先ほどの戦闘を見て戦意がなえてしまったのか、だれも俺に襲い掛かろうとはしなかった。

 このまま逃がしてもいいがせっかくだ。敗者にはふさわしいエンディングを見せてやる。

 

《ブリザード》《トルネード》

『フン!』

 

 アンデッドの力を解放させ、杖を振って氷の風を起こす。それは吹雪となって悪魔とアンデッド達に襲い掛かり、数秒ほどで氷の像へと変えた。

 復活することはないと思うが念のため氷をたたき割る。

 

『…大丈夫か?』

「・・・へ?…あ! あ…ありがとう・・・ございます」

 

 突然声をかけられて焦っているのか、女性冒険者は戸惑いながら返事をした。

 おかしいな。今は仮面ライダーに変身してるから俺の目は見えないはずなのに、なんでこんなにおびえられてるのだろうか。

 

「た・・・助けてくれてありがとうございます・・・。そ…それで…。あ、あなたは・・・?」

『…俺はレンゲル。森の中に突如ダンジョンができたということでこうして調査に来た』

「だ・・ダンジョン!? 洞穴じゃないんですか!? あ、でも確かに遺跡っぽいし・・・」

 

 少女は慌てながら自分の世界にトリップしてしまった。

 この様子だと、どうやら彼女はここがダンジョンだと気付かず、ただの洞穴だと思って入ってしまったらしい。

 

 次に露出の多い少女に目を向ける。本当に露出が多いな。サラシみたいな布で胸を覆い、脚をほぼ出しているホットパンツ。正直誘っているようにしか見えない。・・・いや、そんなのは今更か。

 少女は呆けた顔で俺を見ており、なぜかフリーズしていた。

 

「あ~~~!貴方仮面ライダーですね!」

『!!?』

 

 仮面ライダー。その名を呼ばれて俺はとっさに離れて警戒した。

 カリスなり本名なり名乗ったことはあるが、今まで仮面ライダーという名前を出したことは一度もなかったはず。もしかして無意識に名乗ったことがあるのか?いや、それもないとは思うが…。

 

「あ・・・あの! 私ずっと貴方のファンだったんです!サインください!」

『...は?』

「サインですよサイン!この紙に貴方のサイン書いてください!」

 

 ポーチから一枚の紙とペンを出して俺に差し出す少女。

 え?なんで俺のサインなの?すんげー怪しいんですけど。まさか俺の筆跡とって捜査するつもり?

 

『…一回認めるとほかにもしなくちゃいけない。だからダメだ』

「・・・そうですか。残念です」

 

 とりあえずそれっぽいこと言って誤魔化す。よかった、納得してくれたようだ。

 

「「…ねえ、レンゲルさん、今回のクエストに・・・私たちも入れてほしいのだけど」

「ご、ご迷惑で無ければ一緒に行きたいです」

『・・・何を言っている?』

 

 いきなり何を言ってるのでしょうかこの二人は。いくら助けてくれたといっても、俺は邪悪なオーラを出してるんだよ。吐き気催すほどだよ?怖くないの?・・・自分で言ってなんか泣きたくなった。

 

「だって今回の仕事、かなりおいしそうなにおいがするのよ。でしょゆんゆん?」

「う…うん。たしかにダンジョンの調査はお金も多いし、もしかしたらお宝も見つかるかも・・・」

「ということで分け前がほしいの。・・・この間アクアさんやカズマにお金貸して貯金がないのよ」

『・・・』

 

 突然うちのパーティメンバーの名前が出て俺は焦ってしまった。

 すいません!うちのパーティメンバーがよそ様にご迷惑かけて!本当にごめん!

 

『・・・分け前は仕事の貢献度に釣り合う額だけだ』

「「よっしゃー!」」

 

 二人はガッツポーズして喜んだ。

 

「じゃ…じゃあ先に…し、自己紹介ですよね!…でも……あれやりたくないな……。でも……!」

 

 胸元の露出が大きい少女は立ち上がり、心呼吸をした。

 自己紹介って、そんなに意気込むもんなのか? いや、俺も自己紹介の度に意気込でるわ。そして、噛んで失敗してるわ。

 

「ふぅ……。我が名は、ゆんゆん!アークウィザードとして、上級魔法を操る者!やがては、紅魔族に長となる者!」

 

 少女ゆんゆんは独特なポーズ、というかめっちゃ見覚えのある振り付けを取りながら自己紹介をした。

 あー…。完全にウチのポンコツ爆裂魔法娘の知り合い、もしくは同類だな。

 数秒ほど、微妙な空気が流れる。

 

「だ、だから、この自己紹介は、いやだったんですよー!」

「だ、大丈夫だよ!ちょっと、驚いただけだから。ねっ!レンゲルさん!」

『…あぁ。てか、ウチにも似たような奴いるからな。大丈夫だ』

「うっ…、ありがとうございます。」

 

 なんとも言えない空気になってしまった。

 だが、やっぱり紅魔族の名前って、あんな感じなんだな。

 ついでに、自己紹介も…。

 

「えっと…あたしの名前はクリスだよ。見ての通り、職業は盗賊だよ。よろしくね!ほら、次。」

『俺の名前は、ハチマン。レンゲルはこの鎧の名前だ』

「そんじゃ自己紹介も終わったし、行こう!」

「おぉー」

 

 こうして、俺達の仮パーティに新たな2人が加わった。



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初レンゲル

『でやあ!』

「はあ!」

「おりゃ!」

 

 レンゲルが槍を振るい、クリスがダガーなどを投擲、ゆんゆんが魔法を放つ。それで周囲の悪魔やアンデッドは次々と倒れていった。

 3人の息は驚くほど合っていた。レンゲルが戦ってゆんゆんとクリスが支援する。理想的な組み合わせだ。

 

『…意外とやるな』

「お褒めにあずかり光栄です!」

「そりゃあ冒険者稼業長いからね。いくらレンゲルさんでも、まだ新入りには負けないよ!」

 

 口を動かしながらレンゲルを支援する二人。クリスは盗賊スキルで敵を阻害、ゆんゆんは攻撃魔法で援護、そしてレンゲルが全てを薙ぎ払った。

 しかし数が多い。このままでは埒が明かないと判断したレンゲルは二人に敵を一か所に集めるよう指示した。

 

《スクリュー》《ファイアー》

『フン!』

 

 再びレンゲルがアンデッドの力を解放して放つ。炎の竜巻となったその功攻撃は一か所に集まった敵を全て焼き尽くした。

 

『…こんなところか。二人のおかげで助かった』

「い…いえいえ。ほとんどハチマンさんが頑張ってますし…」

「僕もまさかここまでレンゲルさんが強いとは思わなかったよ。まさにチートだね」

 

 レンゲルは二人の返事を謙遜だと思ったが、本人たちにその気はない。本心で言ったことだ。

 レンゲルの戦闘力は駆け出しの冒険者にしてはあまりにも高い。無論チートを使っているおかげでもあるが、それを差し引いても強いことに変わりなかった。

 

『しかしここはなんだ?洞穴を抜けたかと思いきやまったく別の場所になっているぞ』

 

 レンゲルが天井を見上げる。そこは洞穴らしく土と岩から出来た自然の天井・・・ではなかった。

 そこにあったのは石畳のように整理された立派な天井だった。自然の状態ならばまずこうはならない。人が手を入れたのはまず間違いない。

 天井だけではない。床も手入れされており、扉や柱といった人工物もちらほらとある。燭台やランプなどにも火が灯されているおかげで道は明るい。

 この中はもう洞穴などではなく、完全に人工物の迷宮だ。

 

 そして今彼らがいるのはそんな迷宮の一室。こうして一つ一つ調べることでマッピングしながら調査をしているのだ。

 ちなみにマッピングしたり罠がないか調べるのはクリスの役目である。彼女のジョブは盗賊なので、こういった仕事は彼女に任せているのだ。

 

「いったいこのダンジョンはどうなってるのよ?人工物があるのは兎も角、明かりまで用意してくれるなんて親切すぎない。…あ、お宝見っけ」

「そうですね。建物の質もかなり良いですし、老朽化も見られません。おそらく専門の魔法がかかっているのかと。…あ、こっちにもありました」

『…にしても、ずいぶん無防備に宝が置いてあるな。普通こういったとこに罠が仕組まれているのではないのか?』

「そうだね。だけどここは違うみたい」

 

 宝を漁りながら会話する三人。宝といっても大したものはない。せいぜい薬草や保存食であり、貴金属や宝石などはあまり見当たらななかった。

 しかしそれでも大量の宝を手に入れたことに変わりない。いくら少し安いからと言って、ここまで安全かつ大量に宝が手に入ることなど普通はないのだ。

 

 明らかにおかしいダンジョン。出現するモンスターは悪魔やアンデッドばかりで宝も多い。三人は少し不気味に思いながらも探索をつづけた。

 

『…おしゃべりは終わりだ。そろそろ本拠地にたどり着くぞ』

 

 探索が一区切り終えた処でレンゲルが槍で扉を差す。

 その扉は他の扉と比べて異様に大きかった。悪魔と天使が戦っているような絵図が刻まれ、取っ手には禍々しい金細工が施されている。

 

「…どうする?」

 

 正直、開けたくないというのが全員の感想だ。

 既に扉の向こう以外の調査は終えており、十分な成果を残している。基本的な探索は終えているので、本格的な探索は次のパーティに回す方がいいのだ。

 

「なんかいかにも何かありますっていう扉だよね。こういった扉はボスを倒すまでは出られないといった仕組みが多いから…」

『だな。では帰るか』

「そうですね。十分収穫はありましたし」

 

 三人は帰ろうと足を翻す。その時だった。扉が突然開いたのは。

 

 

「おいてけーーーー!女をおいてけーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 突如扉が開き、中から猿のような悪魔が現れた。



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レンゲル無双

俺(レンゲル)は最強のライダーだ!


「げへへへ…。おっぱいの大きい美少女にエロい尻の美少女・・・。げへへっ」

「「・・・・・・・・・・うわぁ」」

 

 ゆんゆんとクリスは突然現れた悪魔にドン引きした。

 女性の体を嘗め回すような視線。ゆんゆんの露出された胸元を、クリスの臍と足をジロジロと眺めて息を荒くしている。

 その悪魔は猿のような悪魔だった。両手には血塗られた大剣を携え、鉄の鎧を身に着け、背中には4対の翼が生えていた。

 

「さ・・・最悪。まさかこんなとこで変態モンキーにエンカウントするなんて思わなかった。

『…ずいぶん率直な名前だな』

「名前通り変態なのよ!女を見つけたら見境なく攫う、交尾しか頭にない性欲の塊!けどそのくせ強いの!!」

『ふーん。そんなエロゲみたいなキャラ、この世界にもいるんだ』

 

 レンゲルにとっては関係なかった。

 

『…こいつらは俺の連れだ。おとなしく帰ってくれないか?』

「男、いらない。お前帰れ」

 

 猿の悪魔は下卑た笑みを浮かべ、レンゲルを無視する。ただ色欲に塗れた目で二人を見ていた。

 

 フラスは慌てながら三人を止めようとするも、構わずにその場から去ろうとした。

 それを見過ごせないフラスは扉を念力のような力で閉じる。だがレンゲルが蹴りで無理やり開けた。

 

『…そうか。帰るぞお前ら』

「「・・・は~い」」

「ま・・・待ちやがれ!」

 

 二人は猿の悪魔を無視してレンゲルと一緒に出ていこうとする。それを見過ごせない猿の悪魔は扉を念力のような力で閉じる。

 

「お前のメスよこせ!ここに来るまで宝取ってきたんだろうが!!だから寄こせ!!」

「宝ってあの安物のことですか? あれでアークデーモンと戦えって・・・少し安すぎない?」

「そうだよね~。あんなくそ安い宝で何か要求するとか、やっぱり悪魔ってケチだよね」

「や…安い!!? ケチ!!?」

 

 二人の言葉に猿の悪魔の心は傷つくも、彼女たちの言うことはもっともだ。

 たかが安物の薬草や宝で身体を買おうとする魂胆。女性を舐めているとしか思えない発言。そして女性を性欲のはけ口にしか見ない眼。キレるのには十分すぎる材料だ。

 今すぐぶん殴ってやりたいが、相手は大悪魔。彼女たちは怒りを抑えて無駄な戦いを回避しようとした。

 

『そういうことで俺らは帰らせてもらう』

「フジャケルナ!お前からメス奪う!」

 

 猿の悪魔は剣を振るいながらオンドゥルって剣を振るう。剛腕によって振られた剣からカマイタチが起こり、斬撃となって三人に襲ってきた。

 

『フン!』

 

 レンゲルも槍を振るう。すると槍から冷気の斬撃となってカマイタチを切り裂き、猿の悪魔に牙をむく。しかし、猿の悪魔は大剣で斬撃波を防いだ。

 

 

 

「・・・お前邪魔する。お前嫌い。・・・殺す」

『…無視だ。帰るぞお前・・・手下がいんのかよ』

「「・・・ええ!?」」

 

 槍を肩に担いで逃げようとするレンゲル。しかしシャッターを蹴り飛ばすと、既に手下らしき猿の悪魔の群れが接近する気配を感じ取った。

 出口を抑えられた以上逃げることは出来ない。袋の中の鼠だ。

 

「ゲヘへへ。その通り。全員女に飢えたケダモノだ。わかったら女おいてくんだな」

「「そ・・・そんな・・・」」

『・・・最悪だな』

 

 手下が来る。しかも全員こんな猿以下のケダモノだと知ってゆんゆんもクリスも怯えてしまった。

 いくら冒険者とはいえ彼女たちは女の子。やはりモンスターに犯されるという薄い本のような事だけはなんとしても避けたいに決まっている。・・・例外はいるのだが。

 

「ど…どどど!どうしよう!!このままじゃわ・・・私たちレ○プされちゃう!!」

『…安心しろ。俺がいる限り君たちに手出しはさせない』

「え?それってどういう・・・」

《ロック》

 

 ゆんゆんの返事を聞く前に、二人を岩の城壁で隠す。今はもう時間がない。ゆっくり話す暇などないのだ。

 そうこうしているうちに猿たちが近づいてきた。猿共は皆性欲に飢えた目を向けており、一斉に彼女たちが籠っている岩の城壁に襲い掛かる。

 

『さて、猿狩りだ!』

 

 レンゲルは槍を振り回しながら構えた。

 

『でやあ!』

「「「うっきい!!?」」」

 

 レンゲルラウザーを振う。ゆんゆんたちに群がろとする猿共を纏めて切り裂いた。

 槍を回して持ち替え、返しの刃で敵を再び切り裂く。一秒もかけることなく最前列の敵を死体に変えた。

 

『たあ!』

「きい!?」

 

 第二陣の先頭をきる敵をカードスラッシュ部分になっている石突で突き飛ばす。続けて槍を振るって右前側にいた敵を全てなぎ払い、再びなぎ払うことで第二陣を全滅させた。

 

『らあ!』

 

 槍を剣のように持ち替え、猿の集団たちに飛びかかる。身の丈を超えるその槍は猿たちを巻き込み、一気に数十体も薙ぎ払った。

 

『この子達に、近づくなあぁぁぁ!!』

 

 足元に転がった猿悪魔の死体を猿の大将めがけて蹴り飛ばす。しかし猿の大将は大剣で死体を切り裂いて防いだ。

 無論それだけでは終わらない。レンゲルを槍を構えて猿の大将に飛びかかり、銛突きのように槍を振り下ろした。

 

「ぐあッ!!」

 

 猿の大将は咄嗟に大剣を盾にして攻撃を防ぐ。しかしその衝撃までは相殺しきれず、壁側まで吹っ飛ばされた。

 壁に背中が激突し、衝撃で肺から空気が吐き出される。

 

『でや…チッ、邪魔するな!』

 

 倒れているボス猿にトドメをさそうとした瞬間、取り巻きの猿たちがレンゲルに襲い掛かる。

 彼は槍を一振りすることで、飛びかかってきた猿を片付けた。

 

『スタブ』『ラッシュ』

『オラァ!』

 

 槍を構えて投げる。ラウズカードによって強化されて放たれた槍は、まるで猿たちの体を紙のように貫いた。

 最後の獲物を3体同時に串刺しにしたとこで、レンゲルは予めラウザーに絡めておいた蜘蛛の糸を引っ張って槍を手元に呼び寄せた。

 

「か…固まるな!散らばれ!!」

 

 レンゲルの投擲を警戒して、全員が同時に全方向から飛びかかる。

 後先考えない無謀な突撃。これで何匹からは必ず死ぬだろうし、ほとんどがレンゲルに当たりすらしないだろう。

 しかし逃げ場がないのは事実だ。猿たちは隙間を全て埋め尽くし、レンゲルに襲い掛かる。

 戦いでは色々と考えて戦える常識的な相手より、こういった癇癪染みた攻撃をする相手が厄介なのかもしれない。

 

 まあ、結果は全員死ぬことになるのだが。相手が悪かったとあきらめてくれ。

 

《ポイズン》《スクリュー》

 

 ラウズカードをスラッシュしてその力を解放。毒の風をばら撒いて猿たちを毒殺した。

 続けて猿共に飛びかかろうとした瞬間・・・

 

『…な!?』

 

 突然床が壊れ、レンゲルは穴に落ちてしまった。




おい、俺(レンゲル)を笑ったな?


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八幡の戦い方

「す・・・すごいです!レンゲルさん強すぎです!!」

「うん、わかったから押すのやめて。・・・その脂肪の塊引きちぎるよ」

 

 岩の城壁の中、ゆんゆんはクリスの盗賊スキル、盗撮で映し出されたレンゲルの戦闘シーンを見て興奮した。

 レンゲルの戦闘力は凄まじかった。猿の大群を槍でなぎ払い、大将の攻撃を受け流しては反撃、時々襲う取り巻きたちの攻撃を避けながら戦っていた。

 

 あの猿のような悪はよく女を攫う性欲の塊ではあるが、その裏腹に上級モンスターに匹敵する格闘能力を誇る。全員猿のくせに体術のスキルを習得し、武器も使えるのだ。

 特に一番大きなボス猿は一体討伐するのに熟練の冒険者1チームで向かわなければ戦闘が成立するらしない。それほどこのエロ猿共は強いのだ。

 しかしレンゲルはそれをボス猿だけではなく、周囲の取り巻きで相手にしていた。彼は苦戦することなく、曲芸のように槍を操って倒していった。

 

 その戦う様子はまさに絵本から飛び出た勇者。闇の鎧と槍を手に持ち、下劣な敵を打ち払う巨悪。闇と死の力を纏う英雄に二人はすでに釘づけとなった。

 

「…お前強い。けど女欲しい。だから頑張って殺す」

『…やれやれ。いくら女好きの猿でも平和的に解決したいんだがな』

 

 レンゲルはため息をつきながら周囲の猿に目線をやる。全員怯えてはいるが、ゆんゆん達を諦めるつもりはないらしい。爪を立て、牙を向いてレンゲルに敵意を顕にしていた。

 

「な…なめんなアンデッド!」

「女を独り占めするな!!」

「モテる雄は死ね!!」

 

 猿の悪魔たちはレンゲルの強さを見て恐れるも、勢いと癇癪のようなもので誤魔化して威嚇する。

 

「・・・うっわ~。なんですアレ? 自分の変態性を棚に上げて、一方的にモテる男が悪いって決めつけるとか…。最低ね」

「本当よ。女の人のことを考えず、性欲だけで行動するからモテないのよ。それでカリス様を馬鹿にするとか、本当に知能が低いわね」

「・・・カリス様?」

 

 クリスの言葉に戸惑いつつも、二人は変態モンキーへの陰口を続ける。

 自分はモテるための努力をしないくせに、女の体だけ見て中身を見ないくせに、自分たちよりもモテる存在を妬み、自分たちがモテないのは全てモテるオスのせいにする。そんな下劣な生物に悪感情を抱かない女性などいるのであろうか。

 そうこうしているうちに、次の戦いが始まった。

 

『その壁はかなり固いぜ。俺を殺さない限り、壊すのは不可能だ』

「・・・じゃあお前殺せば俺たちの勝ち。なら殺す!」

 

 猿の大将が大剣を構えて切りかかる。それに続いて子分たちも武器を取って襲い掛かった。

 レンゲルはその槍で、そして道中見せた魔法ともスキルとも違う特殊な力で次々と猿たちを倒していった。

 

「す・・・すごい!!なにあれ!?あれってどうやってるの!!?もしかして、あれが町で噂になっていたブレイドの力、封印した闇の力なの!?」

「お、落ち着いてゆんゆん。やっぱり貴女も紅魔族なのね………」

 

 アンデッドの力に興奮するゆんゆんを落ち着かせるクリス。少しほかの紅魔族とは違っても、やはり彼女も紅魔には変わりないのだ。どこかで似たような感性を持つのは当然と言えよう。

 

 しかしその時だった。レンゲルが突如できた穴に落ちてしまったのは。

 

「「は…ハチマンさぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあん!!!!」

 

「や・・・やったど!あのむかつくオスを殺したぞ!」

 

ボス猿は喜んだ。やっと、やっと倒した。これであのメスたちも俺たちのものに………

 

『…何の話だ?』

 

 そう思った瞬間、突き落としたはずのレンゲルが天井から飛び降りた。

 

「な…なんで!!?」

『お前たちの考えそうなことなんて大体分かる。それにここはお前たちのテリトリーだ。地の利もあるし、当然罠も警戒する。・・・当たり前のことだろ』

 

 レンゲルは穂先から毒の飛沫をぶっかけながら答えた。

 

「ぎゃああああああああああ!!?」

 

 ボス猿が苦しんでいる間に接近。槍を振り上げて連打した後、石付きでぶっ飛ばす。するとビリヤードのようにほかの集団を巻き込み、大将と子分共々ダメージを与えた。

 

「な…なんでだ!? なんでアイツがいる!?だってあいつ落ちたんじゃ……!!?」

 

 ぶっ飛ばされながら天井を眺めるボス猿。そのとき、彼の目にはあるものが映った。

 それは糸だった。ワイヤーのような糸が天井からぶら下がっているのが見えた。そして、それが子分を縛り上げているのも。

 

「お…お前!戦いながら糸を仕掛けたな!」

『あん? やっと気づいたか』

 

 そう、八幡はこの部屋に入った時から準備をしていたのだ。

 カテゴリーAの蜘蛛を放ち、蜘蛛の糸を張り巡らせる。自分が派手に立ち回ることで目を自身に向け、その隙に子分のサルたちもこっそりと縛り上げていたのだ。

 更に縛った糸で巣を作る。敵のテリトリーを乗っ取って自分に都合が良いフィールドへ変える準備をしていたのだ。

 

 

 当たり前だが、八幡の戦闘パターンとモデルになったライダーの戦闘パターンには大きな違いがある。

 例えばブレイドの場合、剣崎と違って八幡はスピードを活かしてのフェンシングをする。ギャレンの場合はインファイトを好む橘とは違って射撃をメインにした戦闘を行う。レンゲルではこのように蜘蛛と杖術を操って戦ってきた。

 そして、そこに八幡がライダーの力を使う所以が存在する。

 

『はあ!』

「ぎゃあ! 何故俺の弱点が!?」

 

 日々リア充共の粗探しをすることで培った観察眼。これで敵の弱点を見抜く。

 

『っと』

「な…何故俺のフェイントに気付いた!?」

 

 地雷を極度に恐れることで身についた危険察知能力。これで危険から逃れる。

 

『ったあ!』

「こ……このタイミングで突っ込んだ!?」

 

 自暴自棄に慣れることで身に着けた諦めの良さ。これで時に勇敢に行動できる!

 

 

 これら全ては確かにマイナスイメージであり。通常ならば良い方向に働くはずがない。

 しかしタイミングを誤ることがなければ、使いこなせば欠点も時に武器となるのだ!

 

「ぐ……うう……」

 

 ボロボロになったボス猿。既に彼は八幡との戦闘で戦える状態ではなかった。

 目だけを動かして逃げ道を探す。しかし視界には既に蜘蛛の巣が囲んであり、逃げ道など存在しなかった。

 そう、攻撃している間にも蜘蛛を操作して逃げ道を塞いでいたのだ。

 そこはまさしく檻の中。レンゲルと対峙した瞬間からこの猿が檻に入れられることは決まっていたのだ。

 

『さて、これでお前は逃げれないし助けも呼べない。

 あまり柄じゃないんだが……正々堂々と雌雄を決しようじゃないか。リングの中でな』

 

 蜘蛛の巣で出来たリングに上がるレンゲル。悠々と、余裕そうに。

 

「ふ……ふざけるなァァァァァァァ!!」

 

 それがボス猿の逆鱗に触れた。

 最後の攻撃だとでも言わんばかりに魔力を暴走させ、レンゲルにとびかかった。

 これは彼に残された最後の技。魔力を暴走させて敵に体当たりすることで、至近距離で大爆発を起こす技だ。

 この行為は決して覚悟や勇気などというかっこいいものではない。寧ろその逆。怒りに我を忘れることによる無謀な突撃だ。

 

「死ねえええええええええええええええ!!」

 

 熱暴走して赤く染まるボス猿の身体。……こうするように誘導されてしまったと知らずに。

 

 

 

 

《ジェル》《スモッグ》

 

 無情にもその攻撃は避けられてしまった。

 煙幕が二人を覆い、レンゲルは地下をまるで水の中を潜るかのように沈んで攻撃を避けた。

 

 そう、これこそレンゲルの戦い方。棒を振り回すのではなく、パワフルな一撃を流れるかのように敵へ叩きつける。

 杖術だけではない。カードを最強のライダーの名に恥じないよう使いこなすことで真の最強へと至るのだ。

 

《ブリザード》《ヴァイト》

 

『…ブリザードクラッシュ!』

 

 猿の大将の背後から飛び出し、その無防備な背中にレンゲルのブリザードクラッシュが炸裂。

 レンゲルが飛び上がって冷気を纏った挟蹴。それはボス猿を氷漬けにして破壊。粉々のシャーベットと化した。



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俺の居場所

 仕事を終えた俺たちは報告するためにギルドに向かった。

 ゆんゆんとエリス……じゃなかったクリスは用事があるようなので一時的に解散。後に報酬を分け合うことになっている。

 こういうのは持ち逃げを阻止するため一緒に来るか担保を確保するために何か預かるかをするべきなのだが、あの人たちは俺を信用してくれた。……ホンマに二人ともエエ子や。

 小学生の時、俺が集金したわけでもないのに遠足のおこずかいがなくなったのを俺のせいにされ、中学で物がなくなったときはとりあえず『ヒキガエルが盗んだんじゃないの?』と言われて笑われ……黒歴史を振り返るのはやめよう。鬱になる。

 とまあ、こんなことが日常茶飯事の前世から抜け出し、ゆんゆんやクリスのようないい子たちに巡り合えたのだ。もうこれだけで告っちゃいそうだ。そしたら即刻振られて二度と会えなくなるからやらないけど。

 

「たで~ま~」

「は……ハチマンしゃま~~~!!」

 

 ギルドの入り口に足を踏み入れた時だった。青い何かが俺に跳んで来たのは。

 

「よかっだ~! ホンドによがった~! もしハチマン様に抜けられたらどうしようかとマジで心配だったんだから!

 パーティの男があんな童貞ニートだけとかマジで危険よ! ハチマン様がいなかったらいつ襲われるか分かったものじゃないわ!」

 

 涙と鼻水を流しながら俺に泣きつくアクア。

 

 ……いきなり何だ? コイツは何を言っている?

 アイツはリスク計算ぐらいは出来るはずだ。いくらエロくてもそこだけは信用してやれよ。同じパーティだろ。

 というか、抜けるってなんのことだ?

 

「お前あんなの冗談に決まってるだろ。何本気にしてんだ?」

 

 俺は一度も抜けると言った覚えはないのだが……。

 

「本当ですか!?」

「当たり前だ」

「また後でなしとかなしだからな!」

「わかったわかった」

 

 詰め寄るめぐみんとダクネスをあしらってルナさんのとこに向かう。

 まったく、なんで俺が抜けるって話になってるんだ?もしかしてそんなに俺に抜けてほしいとか……。

 

「なあ、俺が抜けたら……「「「絶対ダメ!」」」……そ……そうか………」

 

 血気迫る勢いに気圧される俺。あれは演技ではない。俺の危機察知センサーもそう言ってる。むしろ別の意味で危機だと言ってるほどだ。

 

「(……俺は、必要とされているのか?)」

 

 結局、俺はあの場所でも必要とされなかった。

 本気で信じられると思った。俺が欲しかったものが、自分でも分からなかったものが手に入ると。……けどそれは俺の思い過ごしだった。

 言い訳をするつもりはない。むしろ裏切ったのは俺の方だ。だから自業自得と言えばそうなのだろう。

 けど、それでも求めてしまう。もう一度あの場所で……。

 

 

 けど、もう二度と手に入らない。

 

 

 もし俺が魔王を倒してあの場所に戻れたらまたやり直せるだろうか。答えはノーだ。一度ヒビを入れたら決して直すことは出来ない。

 関係はリセット出来るが修復は出来ない。服のように修繕することはできないのだ。

 そうと知らずに手を出しても、それはその場しのぎにしかならない。問題を後回しにするだけの虚しくて無意味な足掻きだ。

 だから捨てなくてはならない。覆水盆に返らず。嘆くだけ無駄なのだ。

 

「ほら、さっさと帰って飯にすっぞ」

 

 せめて、ここだけでも……。




え~、見れば分かると思いますけど、八幡はまだ奉仕部に未練があります。
今までは生き抜くのに必死で思い浮かびもしませんでしたが、余裕が出来たことでこうして昔のことを引きずるようになりました。
いや、少しは俺ガイル要素ださいないと……ね?
あと、現世で雪ノ下たちのこと書きたいんだけどどうしようか?


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クレーム対応

カズマのパーティってけっこうクレーム来そうですね。


「あ、比企谷さんおはようございます」

 

 日が昇る前の早朝、馬小屋から出ると比企谷さんに会った。

 

「あん?……カズマか。こんな朝早くに何してるんだ? まさかまた覗きか?」

「いや違いますよ! 情報収集ですよ情報収集! そう言う比企谷さんは……お疲れ様です」

 

 俺は比企谷さんが肩に担いでいる物体―――アクアを見たと同時に頭を下げた。

 

「また……アクアの回収ですか?」

「……まあな」

 

 比企谷さんが来てから、こうしてアクアが回収されることが多々ある。

 アクアはよく酒を飲みすぎて店の中で吐いたり、道の上で寝たりして苦情が来ており、その対応をこの人がやってるのだ。

 その代表的な例がアクアの送迎。寝込んだアクアをこうして荷物のように持ち帰ってるのだ。

 

 本当に申し訳ございませんウチの馬鹿共が!

 

 この人にはいつもいつもお世話になっている。クエストではコバンザメさせてもらってるが、それ以上にあのバカ共の世話としての面が強い。

 馬鹿共の暴走を察知して止めてくれたり、その説教や懲罰をしたり、苦情を受け付けたりと。本当にお世話になりっぱなしである。

 最近では爆裂魔法の無駄打ちに関する苦情が多い。騒音被害や周辺の環境問題など、あのバカのせいで色んな方々にご迷惑をおかけしている。

 その度にこの人がクレーム処理を担当しているのだ。この間、比企谷さんが在住している宿屋に向かったのだが、部屋の中に菓子折りが常備されているとこを見てしまった……。

 

 重ねて申し上げます。本当に申し訳ございませんウチの馬鹿共が!

 

「よし、これで回収終了」

「へぶっ」

 

 ボスンと、アクアを、藁の上に投げる。・・・最初はもっと丁重に扱っていたのに。

 最初は本当に紳士だった。お姫様抱っこだったりおんぶして運び。胸や尻とかが当たって顔を赤するなど、紳士らしくも男子らしい反応をしていた。

 だが、呼び出される回数が増えるにつれ、日数を重ねるにつれて。段々と扱いが雑になってしまった。

 今ではこうして荷物のように運んでいる。

 

 うん、あんた正しいよ。俺なら初日で荷物扱いするわ。

 むしろ、毎日苦情やら何やらで手一杯なのに、投げ出さずにやり遂げる時点ですげえよ。俺なんて絶対川に捨てちまうよ。

 もしこの人がいなかったら……。考えただけでもゾッとする。

 

「(もうこの人なしなんて考えられないな……)」

「あ、俺しばらくパーティ抜けるから」

 

 

 それを聞いた途端、俺は佐藤家に代々伝わる最終奥義、スライディング土下座を反射レベルで行った。

 

「お願いします!どうか……どうかボクたちを見捨てないでください!」

 

 何度も地面に頭を叩きつける。

 プライド? 尊厳? ……そんなものジャイアントトードにでも食わせておけ! 俺たちにはそんな下らないものよりも大事なものがあるんだよ!

 

「お、落ち着けカズマ。何も止めるわけじゃない。一時的に離れるだけだ」

「………へ?」

「実はルナさんから俺を指名に上級クエストを注文されてな、それの片付けのために少し遠出することになった」

 

 それを聞いて俺は少し安心した。

 

 比企谷さんはそのレベルの高さと強さ、あと特殊なジョブとスキルのおかげでよく指名クエストを受けている。

 その中には上級クエストもあるのでレベル稼ぎと報酬のおこぼれを貰いに付いていくこともあるのだが、付いていけないクエストも当然ある。そういう時は一時的に抜けて引き受けることがあるのだ。今回もソレだろう。

 

「なんか最近魔王幹部が古城に潜伏してきたせいで下級モンスターは鳴りを潜め、上級モンスターは活発化しているらしい。だから一気にクエストが舞い込んできた」

「なるほど。その処理を引き受けることになったと。……お疲れ様です」

 

 ホントにこの人よく働くな。前は社畜になりたくないとか言ってたけど、もう十分社畜なんじゃないのか?……いや、立派に働いて町に貢献しているのだから違うか。

 比企谷さんは腐った目と最低な称号のわりには人気がある。ならず者の集まりである冒険者だというのに勤務態度は真面目で腕もいい。依頼の達成度も満足度が高い。

 おそらくこの人の前世はとてもすごい人なんだろうな……。

 

「じゃあ俺は行ってくる。バカ共の管理を頼んだぞ」

「行ってらっしゃいませ!」




いつも思うんですけど、カズマがクズマになった原因って仲間たちのせいだと思うの。そのストレスを解消するために変態行為に走ったり、ゲスいことをする。だから、尊敬できる人や共に苦労を分かち合える人がいればマトモになれるのかも。
今回はそういうテーマです。


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アンデッド娘たちのストレス発散

アンデッドマスターとしての力が一部だけ出ます。


「アッハッハッハ~! 死ねやクソ犬共! 汚物は消毒だ~!」

 

 とある雪原の中央。そこに露出の多いボンデージ服のくぎゅうボイスロリ———ダイヤのカテゴリー6が炎を操ってモンスター達を焼き尽くしていた。

 ほかにもちらほらと似たような格好の美少女美女たちが暴れている。彼女たちは美しい顔を残虐な笑みで歪め、愉快そうに殺しを堪能していた。

 素肌が血で濡れようと気に留めない。むしろ恍惚とした表情でそれを舐めている。

 

『お前らやりすぎるなよ』

「「「は~い」」」

 

 彼女たちは俺の封印しているアンデッドたちだ。封印しているままだと色々とストレスが溜まるらしいので、偶に解放して戦わせる必要があるのだ。

 大半は俺も参加のバトルファイトを開くのだが、彼女たち曰く、俺の指揮下で戦いがしたいときもあるらしい。なので条件が合えばこうして討伐クエストに参加させることもある。

 

『しっかし今月は豊作だな。これならアンデッド共を使って稼げるぜ』

 

 なんでも最近は幹部がこの近くに引っ越したらしく、弱いモンスターは隠れてしまい、強いモンスターは逆に活発になってしまったらしい。

 だからこうして強いモンスターの討伐を片っ端から受けて働かせているのだ。おかげで楽できるぜ。……暴走しないように監視する必要はあるが。

 

 おら働けメス奴隷共!……なんかこう言うと俺が美女美少女をソープに沈めてるようだな。やめよう。

 そもそも俺の命令に従うこと自体彼女たちが望んでいることだ。だからこれは虐待でもなければ奴隷商でもない。ウチは決してぶらっくではありません!

 

 本来なら韮沢靖のデザインする生物的な見た目の怪人なのだが、あの駄女神の余計なサービスのせいでご覧の通り美女美少女と化してしまった。

 怪物に囲まれるよりかわいい女の子の方がやりやすくなるとか訳の分からん理由をほざいてたのだが……。

 

「「「ヒャッハー!!」」」

 

 ・・・逆に怖いんだよな。

 

 封印する際は本当に表情があるおかげで殺意や敵意がダイレクトに伝わるし、戦う時もか弱い婦女子に手を挙げてるようなので心が痛む。むしろマイナス面にしか働かなかった。

 何よりも、中身は戦闘狂のアンデッド共なのだ。どいつもこいつも考えることは一に殺し合い二にバトルファイト三に殺し。戦いのことしか頭にない脳筋ばっかりだ。一応頭の良いアンデッドもいるが、やはり戦いのことしか考えてない。

 更に、アンデッドの良心であるクラブのKとQも獰猛なアンデッドなのだ。本編で睦月を支えてくれた方々のような優しさなど皆無であり、高い知能を悪用するような奴になってしまっているのである。

 

 味方どころか知り合いすら存在しない世界。特典も誰一人として俺の味方ではない。……この辛さが皆様方にご理解出来るだろうか。

 

「撤収!」

「「「ヒャッハー! 片付けだぜ!」」」

 

 死体をはぎ取って素材を集めるアンデッド少女たち。すべてを持ち帰ることは無理なので重要な部分だけを取り出し、他は残すことにした。

 決してゴミを捨てているのではない。死骸は他のモンスターや動物たちの貴重な栄養源なのだ。むしろ、全部持ち帰る方がルール違反なのだ。

 

 カードにアンデッドを戻してデッキに仕舞う。これでオオカミ共のせん滅は終了だ。さて、次のクエストに向かうか。

 

「……さてと、次は絵札を解放させてやるか」

 

 コイツらにはグリフォンとマンティコアをぶつけてやろう。中級には一撃熊を。キング達はエンシェントドラゴンが妥当……あ、キングはお留守だった。




アンデッド娘たちはテキトーにアニメキャラをイメージしてます。例えば炎だと某灼眼です。後は考えてません。


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アクア漬け

「……なんだアレ?」

 

 久々に帰ってみると、アクアが檻の中に入れられて沼に不法投棄されていた。

 

 ……自分で言っても訳が分からない。しかしそうとしか言いようがないのだ。

 檻の中で体育座りして少し沼の水に浸かっているアクア。一体どんな状況なんだ。

 

 愛用バイクであるシャドーチェイサーを走らせてアクアを見守るカズマたちに接近する。

 

「あ、比企谷さんだ」

 

 バイクのエンジン音に気付いたカズマが振り返る。すると残りの二人も俺に気付いて反応した。

 

「久しぶりですねハチマン。最近見かけないので心配しましたよ」

「そうだそハチマン。せっかくお前も誘おうと思っていたのに一体何処へ行っていたんだ?」

「実は最近ルナさんに頼まれていた依頼を片付けていたんだ。上級クエストは誰も受けたがらないからな」

「そ……そうですか」

 

 俺の答えに少し申し訳なさそうな、同情するような目で見るカズマ。

 大丈夫だ。俺は決してムリに押し付けられたわけではない。だから俺はいじめられてないよ? 前世みたいに掃除当番押し付けられた時とは違うからね。

 

「それってもしかしてボードに溜まっていた難易度の高いクエストですか? 今朝見かけたら粗方なかったのですが」

「ああそうだが……」

「「ズルいです(ぞ)!」」

 

 突然ドMと爆発狂がドアップで近づいてきた。

 やめろよお前ら。中身はアレだけど見た目は美女美少女なんだから。ドキッとくるじゃん。

 

「私だって一重くて強い一撃を食らえるようなクエストを受けたかったのに! お前だな一撃熊とマッスルゴーレムの討伐クエストを奪ったのは!」

「私もです! 雑魚モンスターの中心に爆裂魔法をぶち込みたかったのに!貴方ですねジャイアントパラポネラの軍勢のせん滅依頼を奪ったのは!」

 

 ……あっれ~? なんでがんばって働いている俺が怒られているの? おかしいぞコレ~。

 この一週間宿にも帰らず働き続けたのに。風呂にも入らず食事もインスタントや保存食ばっかだったのに。なんでこんなに頑張った俺が怒られるのかな?かな~?

 まあ風呂はさっき入ったけど。服も新品に着替えたし。

 

「…で、アレは何?」

 

 とりあえず二人を無視してアクアに指をさす。

 

「ん! わ、私たちのことは無視か……」

「あれは水の浄化しているんです」

 

 何やら興奮してるメス豚の代わりにめぐみんが答えてくれた。

 

「ここは泉だったのですが汚染されて沼のようになったのです。ですから浄化の依頼が来たのです」

「なるほど。確かにアクアは常時浄化魔法発動状態だからな。ああやって浸していれば自然に浄化するということか」

「そういうことです」

 

 なるほど、そういうことか。しかし疑問がまた一つ。

 

「じゃあなんで檻の中に入れるんだ? 浄化するだけなら足を突っ込んでおくだけでいいだろ」

「アレは浄化しておくとブルータルアリゲーターが来るからです。ですから檻でアクアを守っているのです」

「ふーん。じゃあその鰐共からアクアを守ればいいんだな」

「ええ。ですがブルータルアリゲーターは淀んだ水を好みますので浄化が成功すれば逃げて行きます」

「なるほど。無理に戦う必要はないと」

 

 めぐみんが丁寧に説明している内に鰐がアクアに近づいてきた。……めっちゃゾロゾロと。

 

「ねぇ! ちょっと多くない!? 多いよね!?」

「キシャー!!」

「わきゃああああああ!?」

 

 一斉に襲いかかるワニたち。 どうやらワニたちはアクアを自身の住処を汚す(彼らにとっては浄化=汚染なのだろう)外敵とみなしたらしい。

 普通逆だよね? 人が檻の外にいて、中の動物が暴れるのが普通だよね? まるっきり逆だよこの構図。

 とまあ、そんなふざけた感想を抱きながら俺は木にもたれかかった。何度か噛みついたら無駄だと理解して諦めるだろう。

 

「うぉお、あんなでっかいワニはじめて見た……!」

「檻、大丈夫ですかね? なんか変な音たててます」

 

 諦めずにかぶりつくワニたち。そんなワニの努力が報われたのか、何やらミシミシと嫌な音が檻からなり始めた。……そろそろヤバいかな?

 

「キシャー!」

「ワニとはああ鳴くのか。それにしても楽しそうだ」

 

 だったら代わってやれ。そう言いたくなったが妙なことを仕出かしそうなので引っ込めた。

 あ、デスロールだ。アレって一度決まったらなかなか抜け出せないんだよなー。……そろそろ助けるか。

 

「ちょ、折れる! これ絶対折れる!」

「アクアー! ちょっと周りだけ真水に変えろ!」

「へ?」

 

 ピュリフィケーションを何度もかけながら呆けた顔でこちらを見るアクア。

 

「早くしろー! 痺れてもしらないぞ!」

「なにするつもりですかハチマン?」

「まあ見てろ」

 

 ブレイドラウザーを取り出し、スペードの6をスラッシュする。するとブレイドラウザーからカテゴリー6の力の一部が解放され、バチバチバチ!!と沼に放電された。

 某ゲームのせいで水=電気を通すという構図があるが、それは間違いだ。水が電気を通すのではなく、水に溶け込んでいる物質が電気を通すのだ。むしろ真水はあまり通さない。

 淀んだ沼の水は電気をよく通し、一撃でワニたちは失神。一網打尽にしてやった。

 

「か、雷だと!?」

「魔法ですか!?」

「似たよなモンだ」

 

 初めて見るわけではないのに何故そこまで驚くのか。

 

「それよりさっさと行くぞ。……めっちゃ怯えてるぞアイツ」

「た……たじゅがっだ(助かった)……」

 

 俺は檻の中で涙を流しているアクアの元へ向かった。……彼女の股から妙な匂いがしたのは気にしないようにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっすがハチマン様! 見事な救出劇ね!やっぱり転生チーレム勇者はこうでなくちゃ! 」

 

 檻の中でアクアが俺の腕に抱き着きながら騒いでいる。

 それに対して俺のテンションは仏像の如く不動であり冷めている。コイツ美少女だけど中身と状況のせいで俺のだからなぁ……。豊満な胸が当たり、顔をドアップで近づけられているものの、色気は欠片も感じられない。

 普通なら舞い上がって告白して攻略するとこまで妄想出来るのに。正直ここまで来たら振られるどころかラノベ並のご都合展開しか見えない。だというのに……。

 

「さすがハチマンです。貴方こそチーレムに相応しい勇者です!」

「ああ、ハチマンはきっといいチーレムになる。そして私もいつかそのハーレムに!」

 

 チーレムチーレムうるせえよ! というかチーレムってあんまりいい意味ないよね? もしかして俺バカにされてる?

 というか君たちチーレムの意味知ってるの? 絶対間違った意味で覚えてるよね?

 

「そろそろこっから出してくれない?というかハズいんだけど」

 

 周囲を見渡す。当たり前のことだが、道行く人たちの目が俺たちに集中していた。

 まるで珍獣にでもなったかのような気分だ。チラチラと奇異の目を向け、中には笑ってる者もいる。

 これは本当にひどい。クラスで女子の上履きがなくなって俺のせいにされ、翌日学校中に知れ渡った時もここまでひどくはなかったぞ。……いや、アッチの方が辛いわ。

 

「ママ見てー。カップルが売られてるよ」

「きっと借金が返せなくなって身売りされたんだねー」

「しっ。見ちゃいけません」

 

 ……いや、この場合は売られる奴隷と奴隷商の構図か。

 おそらく檻に入ってる俺らが奴隷で、その隣にいるカズマが奴隷商。………どうしよう、客観的に見たらそうとしか思えない。

 

「おい、そろそろ降りていいか?」

「ダメよ! またワニが襲ってきたらどうするの!?」

「その時はいつでも守ってやる」

 

 あの程度なら変身しなくても実力で倒せる。たとえ大群でやって来ても変身して追い払ってやる。……だからここから出してくれ!

 

「さ……さすがハチマン様ね! そういうことを素で言えるあたり、やっぱり貴方はチーレム主人公の才能があるわ!」

「バカにしてるのか!」

 

 お前絶対にバカにしてるだろ! さっきので確信したわ。コイツ絶対俺のことバカにしてる! じゃないとそんなセリフ出ないし。あんなアニメみたいなセリフ、某黒い剣士みたいな真のチーレム主人公じゃないと似合わないだろ! 俺みたいな偽物が言っても寒くなるだけだ! ……だったら何故あんなセリフが出たんだろう? ふっしぎー!

 

 ああ、来たわ。後から羞恥心が烈火のごとく沸き立ってきたわ。

 何か叫びたくなってきた。早く帰って宿屋の布団に包まってゴロゴロしたくなってきた。

 誰か時を戻してくれ。あんなセリフをほざきやがった中二患者をぶん殴って来るから。……その前にアレを何とかするべきか?

 

 

 

「一体こんな所でなにやってるんですか!?」

「む?」

 

 そんな時だった。いきなり檻が葉山みたいな奴に壊されたのは。



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最強の勇者ミツルギ

 僕の名はミツルギ・キョウヤ。どこにでもいる平凡な高校生だった。

 しかしあの日、ボクは女神アクア様の導きによって異世界に転生し、今は魔王を倒すため冒険している。

 

「さすが私のキョウヤね! 一撃で倒しちゃうなんて!」

「そんな事ないさ、君たちがいるから僕は戦えるんだ」

 

 そうだ、今の僕には仲間がいる。決して一人じゃない。だから戦えるんだ。

 

「ちょっと、いつからあんたのキョウヤになったのよ!」」

「何よ!」

「ハハハ。二人ともケンカしないで」

 

 僕はこの世界を救って見せる! すべてはあの方のために・・・!

 

 

 

 

 

 

「なあ、いい加減出てこいって」

「いやよ、ここが私の聖域なのよ」

「女神さま!?」

 

 気のせいだろうか、僕の目の前をアクア様が通った。……檻に入れられた状態で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体こんな所でなにやってるんですか!?」

 

 ソイツはぐにゃりと檻を力づくで曲げて中に入ってきた。

 凄い力だ。これでもこの檻は街の中でも良い質なのに。最低でも中級レベルの級モンスター並の筋力でないと破壊出来ないらしい。それをあっさり破るとは。 

 

「誰だ? アクアの知り合いか?」

「知らないわよこんな似非さわやか野郎なんて」

「……アクア、たぶんコイツ転生者だ」

「……え?」

 

 装備品とレベルの割には動きが素人くさい。気配は丸わかりだったし、少し殺気を出してもコイツは一切反応しなかった。

 おそらく背中に背負っているあの剣が特典なのだろう。前に戦った転生者の武器と同じ力を感じる。

 

「僕です! ミツルギ・キョウヤです! あなたから魔剣グラムを授かりこの世界へ転生した!」

「……ああ! そういえばいたわねー! 結構な数の人を送ったし忘れてもしょうがないわよね!」

 

「……ふ~ん。じゃあコイツはちゃんとした特典があるんだ」

「……失礼するが、君は?」

 

 特典に嫉妬したのか、ジト目でにらむカズマ。対してそれを警戒心と敵対心のこもった目で返すミツルギ。……やばい、なんか揉めそう。

 

「(……どうか敵対しませんように)」

 

 転生者との戦いは本当に厄介だ。

 使う側は俺と同じ普通の中高生ばかりなのに、その特典が凶悪なものばかりなのである。おそらく、転生者一人いればこの町を一夜で滅ぼすのも可能ではないのだろうか。

 たった一人で小国程度の軍事力なら超えられる。それほど特典の力は凶悪なのである。

 

 武器系なら奪えば済むのだが油断は出来ない。例えば持ち主に帰る機能が付いていたり、持ち主以外が触ると呪われたりと。便利な機能が働くことがあるのだ。

 能力系はもっと厄介だ。この世界のスキルや魔法とは別の力だから無効化することが出来ないし、どういった能力か知らない限り万全の対処は出来ない。

 だから敵対しないことに越したこしたことはない。これは、転生者と一度でも戦ったことがあるものなら理解出来るのではないだろうか。

 

 しかし、そうはいかないのだ。

 

 奴らの中身はクソ平和な日本で育った普通の高校生。その精神は脆弱だ。

 前世では善良な人間でも力に溺れたり、抑えていたり諦めていた欲望を力によって満たそうとするバカが出て来ることがある。それを止めるため何回キングフォームになったことか!

 かく言う俺もかなりギリギリだったのだが……。

 

「め、女神さまを無理やり連れてきた挙げ句、檻に閉じ込めて湖に漬けた!? 何を考えてるんだ君は!?」

 

 昔の辛い戦いの日々を思い出していたが、大声によって現実に引き戻された。

 

「ちょ、ちょっと、私はもう気にしてないし、今の生活も結構気に入ってるから!」

 

 たしかにお前が一番適応してるな。

 

「ちなみにアクア様はどこで寝泊まりをしているんですか?」

「馬小屋だけど」

「なんと! ……おい、君、カズマくんだったかなあ? アクア様にそんな仕打ちをするなんて、一体どういう了見だ!?」

 

「アークウィザードにクルセイダーか、パーティーメンバーには恵まれているんだね」

「……んだと?」

 

 ……あ、やべ。アイツカズマの逆鱗を触りやがった。

 

「こんな優秀そうな人たちがいるのにアクア様を馬小屋に寝泊まりさせて恥ずかしいとは思わないのか」

「……」

 

 黙ってうつむくカズマ。

 分かる。俺にはわかる。カズマは今、無性にいら立っていると。

 以前、カズマはダストという男に『上級職の美女美少女ハーレムにおんぶにだっこで恥ずかしくないのか。俺と代わってくれよ』という旨の挑発を受けてブチ切れたことがある。

 切れたカズマはパーティを交代して自身の苦労を知ってもらうことで後に和解したらしい。

 では今回はどうか。似たようなやり方で和解することは出来るだろうか。……無理だろう。

 

 なにせ、あのミツルギという男はダストと違って特典を持ってるのだから。

 

 カズマはミツルギが特典をちゃんと受け取った転生者という時点ですでに敵視している。その上カズマと違って彼のハーレムは従順。彼自身も絵にかいたような異世界転生系の主人公であり、葉山のようなリア充オーラに溢れている。

 いや奴のソレは葉山以上だ。葉山以上に葉山ってる。……いったい何を言ってるのか俺は。

 

「君のような人間にアクア様を預ける訳にはいかない!」

 

 お、決まったな。もしカズマがラノベでよく見る踏み台なら、アクアも惚れているだろう。

 だが、現実は無常である。

 

「ねえ、こいつすっごくウザいんだけど。なんかゾワゾワするんだけど」

「打っちゃっていいですが? あいつを杖で殴っていいですか?」

「基本受けの私でもこれはちょっと」

 

 むしろウチの女性陣は引いてしまった。

 

「だったら僕と勝負しないか?」

「え?」

「僕が勝ったらアクア様を譲って貰う。君が勝ったら何でも一つだけ言うことを聞こう。それで、どうかな?」

「……何で勝負する流れになるんですか?」

 

 その通りである。

 

 

 

 

 

 

「無理だ。俺はただの小間使い。リーダーは比企谷さんだ。あと、ハーレムもあの人のモノだ」

 

 

 

 

 

 ・・・おい、何テキトーなことぬかしてやがる。

 

「そうね。ハチマンがこのパーティのリーダーね」

 

 え?

 

「うむ、ハチマンこそハーレムにふさわしい」

「ええ、私はハーレムの一員です」

 

 ヴェ!? 何馬鹿なこと言ってるんだ(ダディバガナゴトイッデンダァ)!

 

 

「なるほど、では早速行くぞ!」

「|何故だ!何故だ!何故なんだぁ!?《ンナヅェダァ!ンナヅェダァ!ナヅェダァ⁉》」

 

 俺は冷やし土下座の体勢になってこの世の不条理を恨んだ。



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僕のグラム返してくれ!

前回は申し訳ございませんでした! 間違えて別のを投稿してしまいました。
八幡の物語、というか受難はまだ続くので安心してください。


 ・・・勝負は呆気なく終わった。

 

 

 最初はグラムを持っているミツルギが優勢だったが、比企谷さんがグラムを奪ったところで形勢逆転。格闘戦に持ち込んで滅多打ちにした。

 あと、比企谷さん変身してません。素手の状態です。……マジすげえ。

 なんていうか格が違う。ミツルギはただ剣をブンブン降ってるだけだったけなのに対し、比企谷さんは最小限の動きで全てを避け、一瞬の隙を突いて一気に勝利しちまった。

 流石比企谷さんだ。この中で唯一マトモで唯一ちゃんと戦える勇者。唯一の戦闘員だ。この世界の主人公はアンタに決まりだ!

 最後に、これは後で知ったことだが、本編通りにキングを通常フォームでカード使わずに封印したらしい。

 マジすげえな。ちゃんと異世界勇者してるじゃん。……出る作品間違ってるんじゃねえか?

 

「それじゃ、片付いたことだし次の問題に入るか」

「次の問題?」

 

 はて、なんのことだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

「この馬鹿共のクレームがまた来たのでその対処だ」

「ホンット毎度毎度すいません!」

 

 やっぱアンタがこの世界の主人公だぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、俺たちはギルドで待ち合わせをしていた。

 

「遅いなアクア。まだ報酬もらえないのか?」

「きっとごねてるんです。浪費家の癖にがめついなんてどうしようもないです」

「……まったくだ」

 

 俺はため息を付きながら同意した。

 アクアの浪費癖とがめつさには本当に参っている。そのせいでどれだけ俺が謝りに向かったり呼び出されたか……。

 

「な、なんでよ!? なんでこれっぽっちなのよ!?」

 

 ・・・どうやら本当みたいだな。

 

 しょんぼりした様子のアクアが俺たちの方へ向かって来た。

 うっわ~、すっげえ嫌な悪寒。これ絶対面倒事に巻き込まれるパターンだろ。……出来るなら関わりたくないな~。

 

「檻の弁償代を引いても10万エリスしかもらえなかった……私が壊した訳じゃないのに」

「ああ、そりゃ災難だったな」

「あの男今度会ったらゴッドブロー喰らわせてやるんだから!」

「その前に弁償要求しろよ」

 

 金よりも先に憂さ晴らしを考えるあたり、コイツは金の管理の才能が皆無なのだろう。

 だが喜べアクア。お前の望みはすぐに叶うぞ。だってアイツから会いに来てるのだから。

 

「探したぞカズm…「ゴッドブロォォォォ!!!」…はぐぁ!」

 

 ミツルギの接近を察知したと同時に殴りかかった。

 

「ちょっと壊した檻の修理代払いなさいよ! 30万よ30万!」

「は、はい……」

 

 ちゃっかり上乗せしてるあたり少しは金の管理の才能があるのだろう。……いや単にがめついだけか。

 

「シュワシュワとタコサワくださーい!」

 

 金を受け取ったアクアは早速酒とつまみを注文した。

 おい、お前借金はどうした? 俺が立て替えた分がまだ未返済なんだけど!? 5件は余裕で超えているぞ!

 

「屈辱だが、今日は君に頼みがあって来た……!」

「ん? 俺に?」

「負けておいてなんだが、グラムを返してくれないか?」

 

 

 

 

 

 

『これ、持ってきましょうよ! 強い武器ですよ!』

『まるで追い剥ぎだな。まあたまには攻めもいいか』

 

 ・・・そういえば、アイツらが持って行ったな。

 

「知らない」

「そ、そんな!?」

 

 うん、俺は知らない。だって俺は一切関与してないもん。

 

「き、昨日の無礼は謝罪する。あの時は僕も頭に血がのぼっていたんだ。だから許してもらえないだろうか?」

「いや、本当に知らないんだ。だから…」

「謝ってるだろ!」

 

 突然感情的になって怒鳴るミツルギ。

 

「謝ってるのになんで返してくれないんだ!?」

「だから知らないんだって!」

 

 ヤバい、コイツ人もあのバカたち同様に人の話聞かないタイプだ。

 

 

「僕のグラム返してくれよおおおおお!」

 

「返せぇ! 返してくれよぉ! 僕のグラムゥウウウ!」

 

 なんか某ザビーゼクターを奪われた元シャドーみたいに泣きつくミツルギ。

 何コイツ一人で盛り上がってるの? ホントやめて。さっきからギルドの方々が変な目で見てるから。俺も同類と思われるからホントやめて!

 

「捨てちゃったわよ」

「…………え?」

 

 

「グラムは裏のゴミ捨て場に捨てたわ。早くしないと持ってかれちゃうわよ?」

「は、はいぃいい! ありがとうございましたああああああ!」

 

 ダダダと 、ゴミ捨て場に向かったミツルギ。その様子はまるで蜘蛛の糸を垂らされた囚人のようだった。……後の展開的にも。

 だって、グラムもうないもん。この女は嘘言って希望を与え、後に絶とうとしているのだ。……いくら何でもそれはないだルォ!?

 

「……なあアクア、あの剣って確か……」

「あースッキリした♪」

 

 ひ、ひでえ……。とても女神がやる行為とは思えない。こんなの、お前が嫌悪してるリッチーもしねえぞ。

 お……鬼だ。鬼ガイル。

 

 と、そんなふざけたことを考えていると……。

 

『緊急! 緊急! 全冒険者の皆さんは直ちに武装し街の正門に集まって下さい! 』

「ウェ!?」

「またですか?」

 

 突然鳴り響く警報と呼び出しに俺は仰天する。……っておい、またってなんだ?俺聞いてない!

 

『特にハチマン様とその一行は大至急でお願いします! 』

「どういうこと……?」




一応言い訳させてもらいます。自分はミツルギが嫌いではありません。むしろ、カズマよりもちゃんと転生者としての使命を真面目に遂行するあたり、カズマよりも好印象があります。
ただ、これはこのすばのキャラ全員に言えるかと思うんですけど、コイツ人の話を聞かないんですよね。だからギャグキャラになってもらいました。


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ベルディア編 こんの人でなしが!

このすばって敵がマトモなこと言って、味方がアレなんですよね。……ベルティアさん、クズマたちボコってよかったんだよ?


「何で城に来ないのだ! こんの人でなしどもがあぁぁぁああ!!」

 

 俺とカズマが大急ぎで正門に向かうと、そこには最上級アンデッドモンスター———デュラハンがいた。

 純黒の鎧を纏い、首の無い黒馬に跨る首なしの騎士。自分の首を片手に抱き、死のオーラをまき散らしている。そのオーラと迫力にカズマ達だけでなく、この場にいる全ての者が覚えていた。ただ一人、

 

「(人でなしって……。あんたそもそも人じゃないだろ)」

 

 俺を除いて。

 アンデッドにはもう慣れている。上級アンデッドと幾度もなく手合わせしてきたし、リッチーやヴァンパイアといったこの世界の最上級アンデッドとも戦い勝利した。だから今更だ。

 

「……」

 

 俺がビビってないと気づいたのか、デュラハンが俺をまじまじと眺める。

 

「そこの奴は……見覚えが無いな。まぁ、諸事情で居なかっただけだろう。

 では本題に入る。貴様らぁ!!何故俺の城に来ないのだ!?」

 

 城? なんのことだ?……もしかして!? 

 

「カズマ、もしかしてコイツ……」

「.....あぁ、魔王軍幹部のデュラハンのベルディアだ。でも、俺達が城に行く理由がないんだが.....。」

 

 カズマが、俺のバインドから解除されためぐみんを庇うように前に出る。

 

「ええっと.....。何で城に行かなきゃならないんだ?それに人でなしってどういう事だよ?もう爆裂魔法も撃って無いし、何を怒ってんだよ。」

 

 ・・・待て。一体お前らは何の話をしている?

 なに? めぐみんがなんかやらかしたの? 全くついていけねぇ.....。話に取り残されるって……疎外感あってキツイね。

 

 デュラハンが、怒りを隠しきれず左手に持ったものを地面に叩きつけようとするが瞬時にそれが自分の頭と気づき慌てて持ち直す。

 

「爆裂魔法を撃って無いだと!?何を抜かす!白々しいっ!そこの頭のおかしい紅魔の娘が、あれからも毎日欠かさず通っとるわ!!」

 

 ・・・ん? 爆裂魔法? 最近は俺が説教して迷惑のかからないとこでやるよういったのだが………。まさか!!

 俺とカズマがほぼ同じタイミングでめぐみんを見る。するとめぐみんはソレに合わせて明後日の方向を向いた。

 

 それを見た俺は蔓の鞭でめぐみんを捕獲してデュラハンに向かった。

 

「なぁ、アンタはベルディアっていうんだな?」

「そうだ。それが何だ?」

「俺は少しパーティを離れてたから全く事情が分からん。だから時間をくれないか?」

「勝手にしろ!」

 

 許可を得たので早速話し合い説教してきまーす。

 

 

 

 それから俺は全てを知った。

 ベルディアの城だと気づかず毎日爆裂魔法をぶっぱなしに通ってたこと。

 叱られたにも関わらず、謝らなかったせいでベルディアを怒らせてダクネスが死の宣告を受けたこと。

 ダクネスの呪いは解除されたが城に謝りにも行かず、反省するどころかより激しく爆裂魔法を毎日撃ち続けたこと。

 うん、これって……。

 

 

 

「それ、全部お前らが悪いんじゃねぇか!!!」

「「「な、なんでですか(だよ)(よ)!?」」」

 

 

 なんでじゃねえよ! ベルディアさんめっちゃ良い人じゃねぇか!! いやアンデッドか。

 毎日毎日ポンポンポンポン騒音出されてるにも関わらず、街に来たのは説教しに来ただけ。説教しても聞かなかったから呪いをかけただけ。……いや、さすがに死の呪いはやりすぎか。けど謝りに来たら解いてやる気だったからマシか。少なくともコイツらよりは!!

 このバカ共は謝りにも行かずに毎日毎日ポンポンポン! ポンポンポン攻撃しまくった挙句!! 謝るどころか『なんで城に行かなきゃいけない』とかほざいている。

 そりゃキレるわ。全面的にうちのパーティが悪いわ。

 

「わ、私は、何も悪くないですよ!ただ、今までならば何もない荒野に撃つだけで満足してたのですが、城に撃つ魅力を覚えて以来!.....大きくて硬いものじゃないと我慢出来ない身体に」

 

 モジモジしながら卑猥な表現をするめぐみん。普通ならドキッとするはずが、その内容と状況のせいで俺のドキドキが怒気怒気に変換された。

 

「わ、私はあいつのせいで、クエスト受けれないから腹いせがしたかったんだもの!!」

 

 ・・・コイツに至っては論外だ。

 

 

「……おい」

「「「ヒッ!?」」」

 

 大分抑えたつもりが、怒気があふれて思ったより低い声が出てしまった。

 三人の肩がビクリと跳ね上がる。

 

「お前らそこに座れ」

「「「……」」」

 

 三人は渋ることなくサッと座る。俺はベルディアに身体を向け……。

 

「ベルディア……一つ言いたいことがある」

「……何だ?」

「これだけはハッキリ言う。…………すいませんしたぁぁぁああ!!」

「「!?」」」

「ふぁ!?」

 

 比企谷家から代々受け継いだ奥義、スライディング土下座をした。

 

「ほんと、うちの馬鹿どもがすいませんした!!」

「お、おい!八幡?い、いきなりどうしたんだよ!?」

「ハチマン!?頭どうかしちゃったの!?頭にヒールかけて上げよっか?」

「ハチマン!頭を上げてください!!ガッハーマ襲撃の際に活躍したかっこいいハチマンはどこに行ったんですか!?そんなハチマン、私は見たくありません!!」

「ふぁ!?いや……ほぇ!?」

 

 ベルディアは初めての体験なのか、声が裏返っている。

 

「お前ら.........何しでかしたかわかってんのか?」

 

 三人は、ぽかんとした表情を浮かべる。どうやらマジで分からないようだ。

 馬鹿共を残してパーティを離れた俺が馬鹿だった。

 一旦立ち上がって説明を始める。

 

「まずはカズマ、貴様からだ」

「……え? 今回に関しては俺に非はないだろ!?」

「お前情報収集した時の事を覚えてるか?」

「………………あ」

 

 俺たちは魔王の幹部が近づいていることを警戒して予め情報収集をしていた。だからあの城を拠点にしていることも気づいているのである。

 なのにこいつは……。 

 

「知っていたんだろ? もちろんパーティー内で共用してるはずだよなその情報を」

「………忘れてました」

「このバカが!!」

 

「もし城にいたのがベルティアみたいに親切なモンスターじゃなかったらとっくに奇襲されて滅ぼされてたぞ! 俺なら爆裂魔法を撃ち込まれた時点で宣戦布告とみなし、即刻めぐみんを殺す!

 それだけじゃない。残虐な魔物ならこの街に攻め込むぞ。駆け出ししか居ないこの街に魔王軍の幹部が攻め込んだらこの町は一夜で崩壊だ! それをお前は理解しているのか!?」

「ほんと、すんませんした」

 

 カズマが俺に土下座する。おい、する相手間違ってるだろ。ベルティアにやれ。

 

「次めぐみん」

「……は、はい」

「貴様……あれほど爆裂魔法は迷惑のかからないところでやれと言ったよな?」

「はぐぅ!.....その、ご、ごめんなさい!!」

 

 ぺこりと勢い良く頭を下げる。

 しかしそれも長続きしないだろう。毎度毎度叱ってもまたやらかして苦情が来る。……ああ、胃が痛い。

 

「お、おぉい!貴様!もう、もういい!!もういいから!」

「続いてアクア」

「私悪くない!だって、相手はにっくきアンデッドよ?手加減なんてする必要無いじゃない!」

 

 ……本当に論外だな。反省する気なしかよ。

 ならば仕方ない。彼女には厳しめに行こうか。

 

「俺ならまず奇襲を仕掛ける。出来るだけ生きた状態で嬲りたいからな」

「……え? 何言ってるの?」

 

 黙って聞いてろメス犬が。

 

「やるなら夜がいい。敵は寝静まっているしアンデッドは闇夜でも昼間同様に目が使えるからな。

 街に侵入し寝ているとこを狙って毒を盛る。魔法とスキルを使えないようにするためにな。いくらアークプリーストでもスキルが使えない状態にすれば無効化されるだろ」

「む……無駄よ! 私は」

 

 

「なら声帯を切る」 

 

 

「………へ?」

「だから声が出ないように声帯を切除する。そのあと手足も切断してスキルの使えない状態にする」

「「「・・・」」」

 

 アクアだけでなく街の皆全員黙ってしまった。

 俺は何かおかしなことを言っただろうか。確かに俺の発言はかなり残酷だがあり得ないことではないはずだ。

 もしここに来たのがベルティアではなくオ〇ロのデミウル〇スならこれぐらいはするはず。むしろ生ぬるいくらいだ。

 もちろんこの世界はオバ〇ほど殺伐としてないのでその可能性は低いと思うが、このバカにはキツメにいう必要がある。

 

「そ、そんなオーバーな……」

「俺ならそうする」

「「「・・・」」

 

 繰り返し言っておくがこれはかなり厳しめの話であり、〇バロ基準である。決して俺の基準ではない。

 ただ、アクアにはわかってもらいたいだけなのだ。取り返しのつかない失敗をする前に。

 

「う……嘘よね?だって私たちには無敵のハチマン様がいるもの。あんなアンデッドすぐに追い払えるよね? 私たちを……守ってくれるよね……!?」

 

 お、いい感じにビビってる。あともう一押しでいけそうだな。

 

「保証は出来ない。俺も万能じゃないからな。けど万が一そうなったら……」

「な……なったら…………?」

 

 

 

 

 

「最後はアンデッドの苗床だな」

「嫌あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 大音量で響き渡るアクアの泣き声。

 

 

 

「アンデッドに孕まされるなんて嫌よ!」

「わ……わかったから! もういいから! お前たちの謝罪受け取るから! だからその残酷な処刑方法を俺がすると仮定するな!」

 

 よかった。どうやら許してもらえたらしい。

 ならば問題は解決だ。お詫びの品なりおもてなしなりしてベルティアには御帰り願おう。

 

「……だが、俺の怒りの原因はもう一つある。むしろこっちが本命だ」

 

 ・・・まさかこいつ等他にも!?

 

「なぜ誰もあの騎士の呪いを解こうとしないのだ!?

 こう見えても生前は全うな騎士としての矜持があった」。その俺から言わせれば、仲間を庇って呪いを受けたクルセイダーは騎士の鑑のような者だった! 奴の死を無駄にするなど………ん?」

 

 突然、ベルティアの激高が止まる。何事かと思って振り向くと、人混みの中から見慣れたドM騎士が飛び出た。

 

「そ、その.……騎士の鑑などと……」

 

 モジモジと照れながらそう言うバカ四号。途端、ベルディアが、石のように固まった。

 

「あ……あれ? …………アッルゥェェェェぇぇぇぇぇええ!!!?」

 

 ベルディアの驚愕と混乱が混ざったような叫びが周囲に響く。兜のせいで表情は分からないが多分凄いことになってんだろうな。

 

「あららぁ?なになにぃ?ダクネスに呪いを掛けたのにピンピンしてるから驚いてるの?このデュラハン、私達が呪いを解くために城に来るはずだと思って、ずっと私達を待ち続けてたの?帰った後、あっさり呪い解かれちゃったとも知らずに?プークスクス!うけるんですけど!ちょーうけるんですけど!」

 

 このまま帰ってもらおうと思ってたのにコイツ……!!

 おい貴様、さっきあんだけビビてったのにもう忘れやがったのか? 鳥頭でももう少し覚えるぞ! お前の脳みそは由比ガ浜以下か!? ……いや、分かり切ったことだな。むしろ由比ガ浜に失礼だ。

 

「おい!やめろ!挑発すんな!!」

「もう貴様らは許さん!!やれ!部下共!!」

 

 こうして戦いの火蓋は切られたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 もうハチマンお家帰る!



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アクア死す!

今回はアクアがひどい目に遭います。
敵の大群に追われたり、味方に投げ飛ばされたり、爆発を近距離でくらったりと。……あれ、いつもと変わらなくね?


「出でよアンデッドソルジャーたちよ!」

 

 ベルティアが手を挙げる。すると彼の影が伸びて中から百は優に超えるほどの軍隊が現れた。アンデッドソルジャー達だ。

 

 アンデッドソルジャー。ゾンビの上位互換モンスターであり、戦闘スキルも所有している不死の兵士たちだ。

 個体としての戦闘力はせいぜい一般の兵士程度であり知能も低い。しかし中には生前兵士だった個体が混じっており、そういった者は体が技術や戦術を覚えているのだ。油断は出来ない。

 更に、上位個体が指令を下すことで完全に統率の取れた軍と化す。奴らは上位個体には絶対服従であり、下された命令を遂行するために全力を尽くす。たとえ肉体が崩壊しようとも。

 恐怖も痛みも感じず、上位個体の命令を忠実にこなす不死の軍団。 駆け出し冒険者どころか国家の軍隊ですら恐れる存在だ。

 

「おい!やべぇぞ!プリーストを!誰かプリーストを呼べ!!」

「誰か!!教会行って、聖水ありったけ貰って来い!!」

 

 

 あちこちから冒険者達の叫び声が響く。当然だ。なにせ相手はアンデッドソルジャーなのだから。

 アンデッドは通常の方法では倒せない。例外を除くと、肉体を完全に破壊するか聖職者のスキルを使うかしないと倒せないのだ。

 手段が限られている以上、当然戦える者も限られる。アークプリーストであるアクアや完全に肉体を破壊出来る上にその例外を使える俺ぐらいだ。カズマやダクネスでは無理だ。そもそもダクネスは勝てる敵がいない。

 めぐみん?あぁ、あいつは一発撃っておしまいだから言うまでもないだろ?

 

「みんな! ここは私に任せろ!」

 

 ダクネスがアンデッド共の前に立ち塞がりデコイとかいうスキルを発動した。

 ダクネスさんマジイケメン。……中身とその願望を知ならなければな。

 どうせアイツのことだ。アンデッドに蹂躙されるのに興奮しているのだろう。マジ変態。

 

 

 

 

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!なんで!なんで私が狙われるの!?」

 

 ………召喚されたアンデッドソルジャーは変態ではなくアクアを追いかけ回した。

 

「私、女神なのに!神様だから、日頃の行いも良い筈なのに!」

 

 毎日毎日店長に叱られ、酒場からクレームが来てるのによく日頃の行いも良いなんて言えたな。この間も呼び出されて誤ったんだぞ、この俺が!!

 あと、俺の立て替えた借金もまだ未払いだぞ。いつになったら返してくれるんだ? そろそろ俺もお前を売り払うからな。

 

「あぁっ!?ず、ずるいっ!私は本当に日頃の行いはいい筈なのに、どうしてアクアの所にばかりアンデッドナイトがっ!「黙れ変態。」っ!?は、ハチマン!戦闘中だぞ!そういうプレイは後にしてくれっ!」

 

 ……やはりか!

 マジでこの変態どうしてくれよう。いつもいつも自分の欲望なかり優先しやがって! そのせいで前回は敵に回さなくてもいい奴と戦う羽目になったんだからな!

 アンデッドナイト達は他の冒険者やカズマには目もくれず、ただひたすらにアクアを追いかける。

 

「こ、こらっお前達!そいつじゃない!あのめぐみんとかいうふざけた奴を取り囲め!……ああもう!」

 

 その光景を見たベルディアが、焦った声を上げている。

 おかしいな。アンデッドソルジャーは上位個体には絶対服従なのに。もしかしてアイツも人望ないの?

 というかアンデッドソルジャーもアンデッドソルジャーだ。なに自分たちの設定無視してんの? 理由も伏線もない設定無視はアンチ対象になるからやめろ!

 

「(まあ、大方の理由は分かるが)」

 

 アンデッドが上位個体の命令を聞くのはそういう呪いがかけられている場合と、単に知能が低いから聞いているだけのパターンが多い。

 この場合は後者だろう。その場合は命令よりも強い命令―――強い本能には逆らえなくなる。

 意思を持たない迷える下級アンデッド達は、本能的に女神であるアクアに救いを求めて集まっているのだろう。一部ではアンデッドは生者を憎んでいるという説があるが、それは別作品だ。少なくともこの世界ではそんな殺伐とした設定はない。

 

「ぎゃぁぁぁぁああ!!なんで!?なんでターンアンデッドが効かないの!?」

 

 いや、効いているいるには効いているが、弱体化されている。

 おそらく加護的なものであろう。よくRPGでも邪神とかの加護を受けてるしな。俺も戸塚を受けていたら確実になにせ戸塚は天使だからな!

 

「うわぁぁん! カズマさーん! 助けてーーー!!」

 

 自分の魔法が効かないという非常事態に焦りに焦ったアクアは近くにいたカズマに助けを求めた。

 

「おいバカッ!こっち来んな!!向こう行ったら今日の晩飯奢ってやるから!」

 

 あの馬鹿……ほんと何したいんだよ。なんでカズマに向かうんだよ。なんですぐに暴走するの? 初号機なの? 敵をムシャムシャするの?

 なんてふざけていると馬鹿たちは街に向かって逃げていた。

 

「ちょ!?お前ら!!そっちは街だ!」

「「ぎゃぁぁぁぁああ!!」」

 

 慌てて方向転換して原っぱに向かう馬鹿たち。よし、これで最悪の事態は避けられたな。

 

「めぐみん! 俺たちが引き寄せているから爆裂魔法を放つ準備をしてくれ!」

「な、なるほど! その手がありましたか!」

 

 お、やっぱりカズマは頭が回るな。

 カズマ達は走りながらアンデッドソルジャーたちを爆裂魔法を撃っても良い距離に誘導する。その間にめぐみんはプリショットルーティンのつもりか長々しい呪文を唱えた。

 しかし、相手は疲れ知らずのアンデッド。肉体が崩壊しようとも全速力を維持できるのだ。これでは駆け出しのカズマ達では追いつかれてしまう。

 

「……それじゃあ俺も働くか。変身!」

《チェンジ》

 

 ブレイドに変身して二人に駆け寄る。

 距離は200mほど。だが、100mを十秒以内に完走する仮面ライダーにとっては大した距離ではない。

 変身したと同時にクラウチングスタートして走る。するとマッハでも使ったと思うほどのスピードでカズマたちに追いつき、二人を抱きかかえた。

 

「ひ……比企谷さん!」

『黙ってろ。舌噛むぞ』

『あ……ありがとうハチマンしゃま~!』

 

 俺は二人を抱きかかえ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前は向こうだ!』

「え~~~~~~~~~~~~!!?」

 

 

 そのうちの一人――アクアを投げ飛ばした。

 

 

 これは決して憂さ晴らしではない。爆裂魔法を放つ際に彼女が巻き込まれないようにするためだ。

 そう、これは決して復讐ではない。未だに帰ってこない立て替えた分の借金や、酒場からのクレームや、冒険者たちの風評被害や。そういったものを晴らすためではない。そう決して!!

 しかし少しだけすっきりしたのは内緒だ。やっぱり溜めるのはよくないよね!

 

 アクアが空高く、そしてアンデッド達から離れたところを確認したところで爆裂の指示を出した。……なんか思った以上に飛んでるね。もしかして投げる時に融合率上がっちゃった?

 

『今だめぐみん! やってやれ!』

「最高のシチュエーションです! 感謝します! 深く感謝します!」

 

 爆裂魔法がアンデッドソルジャー軍団の中心にさく裂。めぐみんの魔力は巨大な炎の球体となり、アンデッドソルジャーたちを包み込んだ。

 

『っく!』

 

 カズマを庇うために背中を爆発の方に向ける。……クソッ、なんて威力だ!?

 

 

 

 

 今までみた爆裂の中でもこの爆裂はトップだ。

 爆音が体の芯までズシリと響く。吹き溢れる爆風は爽快感に溢れ、肌を焦がすような爆熱は太陽のようだ。

 

 爆炎が晴れる。そこには骨どころか塵すら存在しない。まるで巨人が使うスプーンでくりぬかれたかのようなクレーターがその威力を証明していた。

 間違いない。めぐみんの爆裂魔法は威力が上がっている。……これ、俺が仮面ライダーになってなかったらカズマも灰になってたんじゃね?

 

「やったぜ! 犠牲なしにあの大群をやったぜ!」

『ああ、めぐみんとお前のおかげだ。お手柄だぞ』

 

 

 

 

 

「ぎにゃぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!?」

 

 ……一名だけ被害に遭ってしまったがアレは仕方ない。必要な犠牲なのだ。

 

『カズマ、お前は先に町に戻れ』

「あ、ハイ」

 

 カズマを下してアクアを回収しに向かう。

 ジャンプしてアクアをキャッチ。そのまま受け止めても落下の衝撃でペシャンコになるからな。

 

『これ懲りたら二度とあんな真似するなよ。……アクア?』

「……」

 

 コイツ、気絶している!?……まあいっかアクアだし。

 むしろうるさい奴が黙ってくれていいではないか。だってコイツがいたらまたベルティア挑発するし。

 

 これで平和的解決が出来る。そう思ったのだが……。

 

「……貴様がブレイドだな」

「だったら何だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ならば手ぶらで帰るわけにはいかない」

 

 

 突然、ベルティアから殺気が溢れた。

 

 凄まじい覇気と殺気だ。先ほどまでのアタフタした彼とは別人のよう。……いや、これが彼の本来の状態なのだろう。

 さっきのコントのせいで忘れていたが、奴は魔王軍の幹部なのだ。種族と風貌からして武闘派、それもかなりの使い手だ。

 ラスボス戦前のボス。それが魔王軍の幹部だ。上級モンスターなんて比べるのもおこがましい。

 もう一度言う。彼は魔王の幹部で武闘派なのだ。強くないわけがない。

 

「悪いな、頭のおかしい爆裂魔法の紅魔族の娘よ。クルセイダーが生きているのなら許してやってもいいと思っていたが、そうはいかなくなった」

「………」

 

 めぐみんは何も答えなかった。いや、答えることが出来なかった。今彼女が口を開いても、出てくるのは擦れた声だけだろう。

 ベルティアの圧力に押されているのだ。奴から発せられるオーラ。それによって力の差を本能で味あわされているのだ。

 いくら上級職とはいえ所詮はポンコツ。爆裂魔法しか使えない彼女では蟻と象ほどの差がある。……いや、それすらおこがましいか。

 

『なんだ急に殺気立って。もしかして俺の首に懸賞金でもかけられているのか?』

「ご名答。仮面剣士ブレイド、仮面銃士ギャレン、仮面槍士レンゲル、仮面弓士カリス。この四名は見つけ次第排除しろと魔王様から勅命が下っている」

 

 どうやら奴のお目当ては俺の首らしい。

 

『ほう、つまり仲間の弔い合戦か。なかなか義理堅い男だな』

「馬鹿を言え。貴様が倒してきたのは悪逆非道の者たちばかりだ。むしろ俺は一人の男としてお前に敬意を払いたい」

『……何?』

 

 一瞬訳が分からなくなったが、倒してきた奴のことを思い出して納得した。・・・あいつら、人望なさそうだもん。

 

「貴様の活躍は聞いている。なんでもあの淫乱クソサキュバスを倒したそうだな。俺個人としてはよくやったと言いたいが、魔王軍幹部としての立場から見れば貴様は危険分子だ。故に危険の芽を摘ませてもらう!」

『……面白い。やってみろ!』

 

 互いの武器を抜き、同時に構える。

 

「我が名はベルティア! 魔王軍最強の剣士にして最高位のデュラハンだ!」

『俺は仮面剣士ブレイド。戦えない者たちのために剣を振るう者だ!』

 

 名乗りをあげたと同時に俺たちは目の前の敵目がけて向かう。

 

「『行くぞォォォォォォォォ!!!』」




次からはガチバトル!


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参上、ジャックフォーム

やっとジャックフォームが出せる! 他のss見るとブレイドのジャックフォームが出ないんだけど、これはどいうことかな? かな?


「『行くぞォォォォォォォォ!!!』」

 

 俺たちは同時に駆け出し、互いの射程距離に入ったと同時に武器を振るう。

 

 

 俺の武器は片手剣。対してベルティアは身の丈を超える大剣。……この状況でどちらが有利なのかは火を見るよりも明らか。

 

 

 戦闘において距離の優位性は大きい。剣よりも槍、槍よりも弓、弓よりも銃。戦闘の歴史は射程拡大の歴史と言ってもよい。

 だから、俺は少し工夫してみた。

 

「なッ!」

 

 武器を振るうと見せかけて、攻撃を中断する。フェイントだ。

 同時にでんぐり返ってベルティアの大剣を通り抜ける。ただ避けるだけではない。敵の攻撃を凌いだと同時に相手の懐にも入れたのだ。

 

 

 俺の武器は片手剣。対してベルティアは身の丈を超える大剣。……この状況でどちらが有利なのかは火を見るよりも明らか。

 

 

 この距離ならば小回りの良さが優先される。

 剣を逆手に持ち替え、鎧の防御が薄そうな部分を刺す。

 

 高熱放射と高周波振動で切れ味を倍増させたヒーティング・エッジとオリハルコンプラチナを極限まで研磨したオリハルコン・エッジ。二つの刃を融合したブレイドラウザーは地球に存在するすべての固体を切り裂くとされている。

 当てるだけでも鉄板を軽く切り裂く。この刃の前では如何なる鎧の前でも無意味!

 

「っぐ! なかなかいい切れ味だな」

 

 だが、この鎧には通じなかった。

 

 この世界では物理法則よりもレベルやスキルが優先される。故に物理法則を覆されることが多々あるのだ。

 だが、ダメージは与えられている。なら蓄積すれば!

 

「おのれ鬱陶しくいらやしい距離に付きまといおって!」

 

 もちろんベルティアは抵抗する。

 俺から距離を取ろうと格闘術で対抗。スキルによるものなのか、それとも彼自身の技術なのか。独特の動きで俺の攻撃を邪魔した。

 クソッ! 邪魔なんだよその腕! そんなトコに足を置くな! 動きづらいだろ!!

 

「(意地でもこの距離を維持してやる!)」

 

 俺は走り回って剣を振るった。

 スピードは俺の方が上。ならばこのまま動き回りながらダメージを与えれば俺が勝つ!

 

 

「(ダメだ! 俺の体力が持たない!)」

 

 ベルティアの膝蹴りが腹に直撃。その威力に一瞬怯んでしまい動きを止めてしまった。

 その隙にベルティアは俺から距離を取り、大剣を掲げた。

 ほんの少しの隙。おそらく一秒にも満たないほどの刹那。だが、俺たちにとっては十分すぎるほどの時間だ。

 

「蛮骨斬!」

「(スラッシュ!)」

 

 同時にスキルを使って互いの攻撃を相殺した。

 実を言うと、俺はノーモーションで力を使える。カードをスラッシュする際と比べると疲れるし威力も低いが、スピードのみに限定すればスラッシュするより断然優れている。

 

 よし、相手が怯んだ。この隙にジャックフォームに……。

 

「なめるな!」

 

 腰のデッキに手を伸ばした瞬間、ベルティアの蹴りが飛んできた。

 死角からの蹴り。威力こそないものの、俺をけん制するには十分だった。

 

 クソッ、甘かった! あの程度で魔王幹部が怯むなんて嘗め過ぎていた!!

 

「油断したな、ブレイド!」

「(………ヤバッ!)」

 

 ダメージを最小限にするために構える。次の瞬間に来るであろう攻撃に耐えようよした瞬間……。

 

 

 

 

「クリエイトウォーター!」

 

 水が飛んできた。

 おそらく初級魔法のクリエイトウォーターだろう。掛かっても特にダメージを負わない普通の水。むしろ美味い水によって回復する個体だって存在する。故に本来なら無駄なのだが……。

 

「おのれ! いい所で茶々入れおって!」

 

 ベルティアは慌てて避ける。

 どういうことだ?あれは害のある水ではないはずだ。なのに何故……?

 

「デュラハンの弱点は水だ! 水の弾幕を張ってブレイドを守れ!」

 

 カズマの号令と共に冒険者たちが水の弾幕を張る。

 水を避けるため距離を取るベルティア。どいうわけか知らんが、これでアレが使える!

 

『……ナイスだカズマ!』

 

 このチャンス、ぞんぶんに活かさせてもらうぜ!

 

 俺は腰のデッキから二枚のカードを抜き取り、腰に装着されているスキャナー———カリスバックルにスラッシュした。

 

 

 

 

 

《アブゾーブクイーン》

 

 ――――――クイーンでカリスバックルを強化。

 

《フュージョンジャック》

 

 ――――――ジャックをバックルにスラッシュ。

 

 

 

 瞬間、金色の光が俺を包み込んだ。

 

 マスク、アーマーの各部が金色の鎧―――ディアマンテゴールドへと強化され、胸部はイーグルアンデッドの鷲の紋章が刻印されたハイグレイドシンボルが装着された。

 背中からによって形成された翼―――オリハルコンウイング・フライトが展開。ブレイドラウザーにも黄金の刃―――ディアマンテエッジが装着され、より強力な剣と化した。

 光が止むと同時にその姿を顕す。そこにいるのはタダのブレイドではない―――。

 

 

 

 

『この姿になるのも久々だな』

 

 ブレイドジャックフォーム。カテゴリーエースだけでなく、上級アンデッドも取り込んだブレイドの強化形態である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カズマは目の前で起こる、怒涛の展開の連続に終始目を奪われっぱなしであった。

 

 またやってきた魔王幹部の一人、ベルティア。

 百は優に超えるアンデッドの大群。

 ブレイドに変身した八幡とベルティアのガチバトル。

 そして最後に、八幡が今回初めてジャックフォームを見せたこと。

 

 全てが悪夢のようなものばかり。しかしこれは紛れもない現実。目の前に繰り広げられている激戦がその証だ。

 

 

「(……比企谷さん、ホンットすいません!)」

 

 思えば、彼らが八幡の足を引っ張ったことのないクエストなど存在しなかった。

 今回もバカ共が余計なことをしなければ、自分がちゃんとしていれば彼がこうして剣をぶつけるようなことなどなかったはずなのだ。

 もし、あの城に爆裂魔法をぶち込まなければ。もし、あの時ちゃんとめぐみんに謝らせておけば。もし、あの時……。

 後悔したらキリがない。溢れるように出てくる八幡への謝罪の言葉。ホントにすいません!!

 

 見届けなければならない。八幡とベルティアの激戦の行く末を。それが、彼に迷惑を重ね続けた自身の義務なのだから。

 

 

 

 

 

 

「これは……」

「あれが……、ハチマン……ですか?」

 

 ダクネスとめぐみんが目の前でジャックフォームへと変貌したブレイドを見て、唖然とした表情で呟く。

 無理もあるまい。一般人がこれを見て平然としていられる方が少ない。

 ハチマン―――ブレイドはそんな二人を横目で伺いながらも剣を構えて突撃準備をする。

 

 瞬間、ブレイドが消えた

 無論、言葉通りに消えたわけではない。しかし、その場にいる者にとっては消えたと同じことであろう。

 なにせ、突然その姿が見えなくなったのだから。……魔王幹部であるベルティアを除いて。

 

「!!?」

 

 

 ベルティアが慌てて剣を横に振るう。瞬間、『ガキィン!』と鉄板を無理やり引き裂いたような音が響いた。

 剣に何かがぶつかると同時に火花が散る。それは日中だというのに辺りを照らす強烈な光であった。

 

 いや、それは振ったのではなく、盾にしたのだろう。面積の一番広い面の部分に大きな亀裂が走っている。

 

 馬の上から押し飛ばされたベルティアは、襲撃者の正体を目で追った。

 上空で翼を広げる金と青の剣士、ブレイドジャックフォーム。

 先ほどのスピードの正体は背中から展開されているウィングの応用、飛行に回すエネルギーを推力にして、一瞬で飛んできたのだ。

 

「……なるほど。これは俺も本気を出さなくてはな」

 

 亀裂の入った大剣を捨て、自身の首を掲げる。すると、ベルティアの首が一瞬で一本の剣と化した。

 彼の身体に見合った、標準的なサイズのバスターソード。しかし、その有様は異様だった。

 

 柄は骨のような質感であり、柄頭には顎のような装飾が、そして宝玉に当たる部分には目玉のようなものがギョロリとブレイドをにらんでいた。

 まるで死を具現化したかのような剣。アンデッドに相応しい、不気味なものであった。

 

『……それがお前の本来の武器か』

「そうだ。これは俺が認めた相手にしか使わん。魔王様の盟約によってな……そしてぇ!」

 

 突如ベルティアの鎧が熱せられたかのように赤くなる。それと同時だった。彼の速度が急上昇したのは。

 

「この剣を抜かせた者は誰一人として生きて帰った者はおらん!!」

『そうか。なら俺がその最初の人間だな!!』




本当の闘いはこれからだぜ! ……一応言っておくけど、コレはこのすばだからね。


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超スピードバトル

これ書いてて思ったこと。あれ、これってこのすばだよね?


 誰も視認できない、超スピードで激しい攻防を繰り広げるブレイドとベルティア。

 ブレイラウザーとベルティアの剣が火花を立てて打ち鳴らされる。

 オリハルコンウイング・フライトによる高速移動とベルティアの超加速。そのスピード対決は互角であった。

 どちらも一歩も譲らない超スピードバトル。ブレイドもベルティアも。無駄な事は一切せずに互いの武器をぶつけ合っていた。 

 薄氷の上に成り立つ剣劇。ほんの僅かな隙でも見せた瞬間、少しでも悪手を打った途端。その瞬間に敗北が決まる。

 

 だが、その薄氷も溶ける時間がやって着た。

 

「(……ック! もう時間がない!)」

 

 ベルティアは焦っていた。

 理由は単純明快。ベルティアの超高速は時間制限があるからだ。

 

 ベルティアの超高速の正体は強力なエンジンによるもの。心拍数を無理やり上げ、筋肉もリミッターを外すことでパワーとスピードを極限まで引き出している。

 それにスキルや魔力などでブーストさせることで更に向上。肉体崩壊一歩手前まで強化しているのだ。

 そう、肉体崩壊一歩手前なのだ。使いすぎればアンデッドでも肉体が壊れる。

 いや、アンデッドだからこそ出来る荒業だ。

 

 対し、ブレイドの超高速はオリハルコンウイング・フライトによるもの。ブレイドの体力が続く限り行える。

 

 現状のままではベルティアが不利。もしこの状態が続けばどちらにも決定的なダメージがないまま高速戦は終わる。

 その瞬間、対抗手段のなくなったベルティアの敗北は決定する。

 

 ならばこのままではいけない。イチかバチかでも勝負に出る必要がある。

 ベルティアは一気に距離を詰め、ブレイドの頭上から剣を思い切り振り下ろす。だが、それはあっさりと受け止められた。

 攻撃が大振りすぎた。それ故簡単に読まれてしまったのだ。

 更に、大きな隙を曝してしまってもいる。それを見逃すほどブレイドも鈍間ではない。

 

『(今だ!)』

 

 その隙をつき、剣を滑らせて切り裂こうとしたその瞬間……。

 

『……な!?』

 

 滑らせていた剣が突如なくなった。思わずブレイラウザーに目を向けるブレイド。

 するとそこには剣などなく、醜い肉の塊しかなかった。

 

『……っが!?』

 

 醜い肉の塊が再び剣となってブレイドの胸部を切り裂いて一瞬怯む。

 ほんの一瞬だ。軽く切った程度で大したダメージにはなってない。故に簡単に立ち直った。

 

 嫌な予感を感じ取ったブレイドは咄嗟に前頭受け身を取る。

 何故そうしたか。それは彼自身理解できなかった。敢えていうなら本能や勘のようなものだろうか。

 その判断は間違ってはいなかった。もしそうしていなければ両断されていたのは背中の翼ではなく、自身の肉体であっただろうから。

 

 焼かれたような姿から通常の姿へと戻っていくベルティア。それを仮面の下で苦い顔で苦笑する、羽を失ったブレイドジャックフォーム。

 

『まさかそういった使い方をするとはな……』

 

 振り下ろした剣が受け止められた瞬間、ベルティアは手にしていた剣を肉塊へと戻していたのだ。

 そこにあったはずの重量がなくなったブレイドは当然動揺する。その隙をついて真後ろへと回りこみながら剣を再形成。腹に刃を当て、背中の翼を切り裂いたというわけだ。

 もっとも、ベルティアとしてはブレイドそのものを両断して決着をつけてしまうつもりでいた。だが切断できたのは翼のみであった。これは予想以上にブレイドの危機察知能力が優れていたということだろう。

 

「これでもそれなりの修羅場を経験しているのでな」

『……みたいだな』

 

 レベルの高い者は相応の経験を積んでいる。当然だ、最初は誰だってレベル1から始め、高レベルになるために修羅場を経験しているのだから。

 ブレイド―――八幡も修羅場を突破してきたがまだ一年ほどだ。ベルティアには到底届かない。

 経験不足。それが八幡の敗因……。

 

『もう勝ったつもりか!?』

 

 ……というわけではない。

 

 まだ八幡が負けたわけでもないし、決定的な敗因が出たわけでもないのだ。

 ただ振り戻しに戻っただけ。まだ決着がついたわけではない。

 

 むしろ、本当の闘いはここからだ。

 

「『第二ラウンドだ!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す……すげえ……」

「こんな戦い……二度とお目にかかれねえぜ……」

 

 ブレイドとベルティアが剣をぶつけ合う中、周囲の冒険者たちはそれをただ見守っていた。

 誰も加勢しようとはしなかった。もし行ったとしても足手まといにしかならない。先ほどの超高速バトルを誰も認識することが出来なかったのがその証拠だ。

 彼らとは立つ土俵が違うのだ。無理に入ったところで潰されるのがオチだ。

 

「だから俺たちはアイツらをなんとかしねえとな……」

 

 後ろを振り向くカズマ。そこには、ベルティアの部下らしきアンデッドがひしめき合っていた。

 おそらくベルティアが心配になって来たのだろう。彼らは突如地面から現れたのだ。

 先ほどのようなアンデッドソルジャーとは違う。中には知能のある者まで存在しており、ベルティアの敵であるブレイドを睨んでいる。

 

『奴がブレイド……』

『我ら魔王軍の仇敵……!』

『魔王幹部候補だったジョーカー様だけでなく、ベルティア様もやろうというのか!?』

『許せん……。この場で討ち取るべし!』

『皆の衆、奴の首を魔王様に捧げようぞ!』

 

 まずい。冒険者たち全員が危機を感じた。

 いくらブレイドは強くてもそれは個の強さ。集団でやられたら一たまりもない。

 そのうえ、同格であるベルティアがいるのだ。それにアンデッド軍団も敵に回られたら彼に勝ち目など無い。

 そう理解しているのだが……。

 

「「「(俺たちはいけるのか?)」」」

 

 相手は魔王軍のアンデッド。駆け出しの冒険者では一般兵でも勝てるかどうか……。

 その上アンデッド軍の中にはベルティアには届かなくとも上級アンデッドがちらほらと存在している。

 逃げよう。それが冒険者たちの共通する意見だった……。

 

 

 

「そうはさせないわ!」

 

 彼女たちを除いて。

 

 

「ハチマンは命懸けで戦っているのよ! なのに私たちだけ見てるなんてかっこ悪いじゃない!」

「「「・・・」」」

 

 一人でも立ち向かおうとするアクア。それを見て冒険者たちも目を覚ました。

 

「そうだな……。あんなガキばかりにいい格好させてたまるかよ」

「ああ、俺たちだって冒険者なんだ!」

「やるときはやってやるぜ!」

 

 アクアの言葉に勇気を奮い立たせ、立ち上がる冒険者たち。

 そうだ、俺たちは冒険者だ。ガキが一人で戦ってるのに俺らだけ逃げるなんてダサすぎる!

 

「ダメだ!そのままいってもみすみすやられるだけだ! ここは協力するんだ!」

 

 カズマが先頭に飛び出す。

 彼もアクア同様に逃げようなんて思っちゃいない。そもそもそんな選択肢、最初から彼には存在しなかった。

 仲間(ハチマン)が命懸けで戦っているのだ。なのに何故逃げるなんて出来る?

 

「ダクネス、お前はデコイでアンデッドたちをポイントまで引き寄せてくれ。指示は俺が出すから聞いてくれ。

 めぐみん、お前は街の皆から魔力を分けてもらって爆裂魔法をもう一度打て。俺がネガティブタッチで力をお前に流す。

 アクア、お前は小出しにターンアンデッドをかけて奴らをけん制しろ。もし一気に使ったら警戒されるからな。

 前衛職はアクアを守る防壁になってくれ! 後衛職はダクネスをフォロー、機動力のある一流冒険者はかく乱を担当!

 みんな、がんばってくれ!」

「「「おう!」」

 

 

 

 

 

 

「行くよみんな! あんな腐った死体共にあの聖域を汚させはしないわ!!」

「「「おう!」」」

 

 

 冒険者軍団VSアンデッド軍団の戦争が幕を開いた。

 

 

 

 

 

 

「これはこれは。比企谷くんに会おうと思ったけど、それ以上に面白そうなことになりましたね」

「いや、さっさと助けろし」

「ここは行くっきゃないでしょー!」

 

 何処からか三人の少女が彼らの戦いをじっと見ていた。




これはこのすばですか?


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騎士の激戦

……これってこのすばだっけ?


 ブレイドがベルティアの鎧に傷をつけて火花を散らす。次の瞬間、大剣がブレイドの装甲に傷をつけて火花が散った。

 攻撃の応酬。どちらかが攻撃を加えると次の攻撃が返ってきた。

 それは一つの演武。まるで最初からシーンが決まっているような、そんな印象を周囲の者たちに与えた。

 

『らあ!』

 

 ブレイドの刺突がベルティアの装甲を貫く。

 鎧のプレートの一部が剥がされ、血肉が飛び散った。

 

「ぬん!」

 

 ベルティアの剣がブレイドの頭部を叩く。

 鎧の内部を揺らし、内部にダメージが浸透。マスクにもヒビを入れた。

 

「むぅん!」

『でやあ!』

 

 同時に剣がぶつかる。装甲を貫通し、外装を切断し、互いにダメージを負い合う。

 

「楽しい…楽しいぞブレイド!」

『ああそうか!』

 

 互いの武器をぶつけ合い、にらみ合う二人。鍔迫り合いを行い、ジリジリと、前進と後退を繰り返す。

 二人の実力は拮抗している。ほんの僅かな綻びで、この薄氷の上に成り立つ演武は幕を閉じる。

 

「たあ!」

『やあ!』

 

 同時に斬撃波を発する両者。ブレイラウザーの刃から青い稲妻の刺突が、大剣から毒々しいオーラの斬撃が放たれる。

 二つはぶつかり合い爆発。電気と瘴気が一体に拡がる。

 その隙にブレイドはカードをスラッシュ、ベルティアは魔力をチャージする。

 

《キック》

「やあああぁぁーーーーーっっ!!」

 

 高く飛び上がり、膝を抱えて一回転。落下すると同時に足を延ばし、全ての力を蹴撃に込めた。

 

「獄魔剣刃!」

 

 それに対し、ベルティアの剣技がブレイドを迎え撃つ。

 電気と瘴気が、不死の力と不死の力が激突する。拮抗状態が続き、ついには両者共に弾かれるように吹き飛んだ。

 

『クソが!』

「まだだ!」

 

 すぐに起き上がり、同時に互いに向かって駆ける両者。

 

《ビート》

「冥狼剛腕!」

 

 これもまた同時。ライオンアンデッドの力が、そしてベルティアの特殊スキルがお互いの腕力を増強させ、同時に炸裂した。

 結果も同様。暫しの拮抗状態が続き、弾かれるかのように両者は吹っ飛んだ。

 

「…ふ、フハハハハ……。楽しいな。そうは思わないかブレイドよ。この時間が永遠に続けばいいと思わないか?」

『俺はお前と違ってバトルマニアではない。だからさっさとこの時間が終わってほしいと切に願っている』

「そう邪見にするな。……向こうは終わったようだな」

 

 冒険者たちの方に振り向く。どうやら向こうは既に戦闘が終わりに近づいているらしい。

 先ほどまでいたはずのアンデッド軍団は既に半分もいない。

 

「待ってろと言ったのに……。お節介な奴らだ」

「……そうか」

 

 哀愁漂う声で言うベルティア。

 どんな表情をしているのかは分からない。だが、その声から凡そ予想はついた。

 しかしブレイドは何も言わない。ただ剣を交えるだけだ。

 

 再び剣をぶつけ合う。その時だった、アンデッド軍団の一部が閃光と共に吹き飛ばされたのは。

 眩い光だ。それは大分離れているはずのブレイド達にも視認することが出来た。

 それを見てブレイドはため息をついた。

 

『……ああ、あいつらがようやく来たのか。遅すぎなんだよ』

「あいつら?」

「なんでもない。忘れてくれ!」

 

 同時に繰り出される蹴り。

 文字通り同時。二人の攻撃は一寸の狂いもなく同じタイミングで放たれた。

 そして開けられる距離。だがそれも数コンマもせずに埋められた。

 

「ヌン!」

『はあ!』

 

 何度もぶつけ合う剣と剣。ブレイドは振り下ろされた剣を受け止め、斜めにすることで下に受け流す。そのせいでベルティアはバランスを崩してしまった。

 瞬間、ブレイラウザーの返しの刃がベルティアに迫る。

 

 通常、人間はバランスを崩すと、それを取り戻そうとその場で踏ん張る。その“習性”を利用してブレイドは一撃をいれようとした。

 

 

 だが、その常識は彼に通じなかった。

 

 

『・・・ッチ!』

「ふう~危なかったわ」

 

 ベルティアは敢えて転倒することでそれを避けた!

 

 そのまま転がりながらベルティアはブレイドから距離を取り、再び剣を構えなおす。

 

「素晴らしい腕前だ。もし貴様がもう少し年を重ねていれば俺はもうやられていた

『…そりゃどうも』

 

 ブレイドも武器を構えなおしてベルティアを睨む。

 

 少し余裕そうにするも、内心はかなり焦っていた。

 本来ならあの一撃が入った時点で流れは完全にこちらのものになっていたはず。しかし、咄嗟の判断によってそれが覆された。…いや、ここは白紙に戻されたといったとこか。

 

「では行くぞ!」

 

 再び突進して得物をぶつけ合う。お互いのラッシュがぶつかり合い、陣を奪い合う。

 振り下ろしが来たかと思えば突き、突きが繰り出された瞬間にはカチ上げ、その次薙ぎ払い。様々な技の応酬が繰り広げられた。

 

「ぬぅん!」

『はあ!』

 

 戦いはまだ終わらない。




……俺、また違うもの投稿しちゃったのかな?


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騎士の決着

やっと……やっとケッチャコがついた!


「はあっ!」

 

 ベルティアの剣がブレイドに振り下ろされる。それに体勢を崩しながらも避け、ブレイラウザーのナックルガードで殴るブレイド。

 カチ上げによって吹き飛ぶベルティア。そしてブレイドも無理な体勢からの反撃でバランスを崩して膝をつく。

 

「ハァ……ハァ……」

「ぜぇ……はぁ……」

 

 この両者の息は完全に上がっていた。繰り出される攻撃には以前ほどの苛烈さがなくなっており、ただ負けられないと言う執念のみで互いに攻撃を繰り出しているようだ。

  いや、息だけではない。二人はすでに戦えるのが不思議なほどボロボロの状態だ。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 ブレイド―――八幡の鎧は見るも無残な状態だった。

 金色に輝いているはずのアーマーには、いくつも欠損部分が見られる。

 スーツの部分も例外ではない。抉られたかのように黒い傷跡がびっしりと刻まれていた。

 ジャックフォームのシンボルであるハイグレイドシンボルは見るも無残に剥がされ、翼も両方とも切断されていた。

 ヘッドも無残だ。右半分が破壊され、血に染まっている素顔が晒されている。

 

「ぐぅ……フゥ……」

 

 ベルティアに至ってはもっと無残だ。

 鎧の各所にはいくつもの穴や抉れた箇所があり、そこから血が溢れている。

 その下にあるのは肌ではない、ベルティアの血肉だ。ブレイドの猛攻によって鎧ごとやられたのだ。

 肌が切られている個所などまだ優しい方。酷い部分に至っては骨が露出している個所もある。

 そんなザマでも尚立てるのは彼がアンデッドからだろうか、それとも意地とプライドによるものなのか、あるいは両方なのか。……それは本人にしかわからない。

 

 

 そんな二人の様子を仲間たちは一切の手出しをせずに見守っていた。

 今のベルティアは満身創痍だ。今、皆でかかれば確実に仕留めることができる。

 既にアンデッド軍は消滅した。作戦が『ある者たち』のおかげで狂いなく、そして最高の状況で進めることが出来たのだ。

 残すはベルティアだけ。コイツを倒せばこの戦いは終わる。誰も死なずにこの戦いが終わる。

 

 そうわかっているはずなのに、仲間どころか周囲の冒険者達もそうしようとは言い出せないでいた。

 

「さて……そろそろ終わらせるか」

「……ああ、そうだな」

 

 同時に立ち上がる両者。お互い剣を杖にして無理やり起き上がり、同時に構える。

 その時だった……。

 

 

 

 

『ベルティア様! 助太刀致します!』

『どうか魔王軍に勝利を!』

 

 幾多の人魂のようなものがベルティアの周囲を飛び回り、彼の体に取り込まれたのは。

 瞬間、ベルティアの負傷している箇所の肉が盛り上がり、まるで逆再生するかのように傷や欠損が修復された。

 いや、傷だけではない。ブレイドとの激戦で負ったダメージや疲労が一切消え去っていた。

 

「……なるほど。魂を吸収して回復したか。アンデッドらしいな」

「まあな」

 

 余裕そうに言う八幡。素顔も決して焦燥は見られない。だが、内心は焦りでいっぱいだった。

 

「(クソ! やはりキングフォームしかないのか!?)」

 

 現在、八幡の手元にはキングがない。とある事情で手放しているのだ。

 キングフォームにはなれない。故に、ジャックフォームに頼るしかないのだ。

 

「(他のジャックフォームになるしかないのか!?)」

 

 背に腹は代えられない。ベルティアとは相性が悪いが、ボロボロの今よりはマシだ。

 デッキからカードを抜きった途端……。

 

 

 

 

 

 

「セイクリッドキュア!」

 

 呪文と共に八幡の身体が水色に輝いた。

 光は鎧の欠損部分に集まって欠けていた鎧を修復。破壊されていたはずの頭部や胸部のシンボルも元通りにした。

 背中からオリハルコンウイング・フライトが再形成。再び大空を飛び交うための翼を取り戻した。

 

「これでもう一度必殺技がつかえるはずよ!

『……ナイスだアクア!』

 

 手足は動く。感覚もクリアだ。さっきまでボロボロだったのは嘘のよう。

 行ける。まだ戦える。俺はまだ剣を振るえる!

 

「どうやらまだ戦えるようだな」

『ああ。だが次で最後だ』

「……フッ。どうやらお前もその気らしいな」

 

 二人とも剣を構える。

 ブレイドは剣を身体で隠す、飛び掛かるような下段の構え。対してベルティアは剣を掲げ、迎え撃つ上段の構え。

 次の一撃で決着がつく。この一撃でどちらが生き残ろうか決着がつくのだ。

 

 

 

 

《サンダー》《スラッシュ》《ラッシュ》

《ライトニングスマッシュ》

 

 

 

 デッキからカードが自動に飛び出し、スキャナーにスラッシュされる。

 ディアブロの身体からオーラが溢れ、肉体と剣を強化させる。

 

「『行くぞ!』」

 

 翼を広げて急加速したブレイドがベルティアに刺突を繰り出す。

 あまりの速さ故に視認すら不可能な一撃。胴体の中心に射出される巨大な青と金の魔弾。それを直感だけで打ち倒そうと、自身の剣を振り落とす。

 

「『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』」

 

 結果は相打ち。超スピードによるブレイドの刺突と限界以上のパワーによるベルティアの一撃が同時にぶつかり合った。

 急加速によるソニックブームか、ブレイラウザーとベルティアの剣が衝突した衝撃波なのか。両者が剣を合わせたと同時に空気が震えた。

 

「(な……なんて一撃だ……!)」

 

 まるで隕石でも直撃したかのようだ。自身よりも一回りの小さい少年の繰り出す攻撃とは思えない威力に、彼は手にしている剣を思わず手放してしまいそうになった。

 文字通り限界以上の力限界を超えた過剰な負荷に、身体中が悲鳴をあげる。

 筋骨が軋む。血管は千切れ、内臓が破裂。神経もズタズタだ。もしアンデッドでなければとっくに死んでいる。

 だが耐えた。ブレイドの最後の一撃に彼は耐えることが出来たのだ。

 

『う……グオオオオおおオオオオオオ!!!』

「お……オオオオオおおオオオオオオ!!!」

 

 更に踏ん張ってベルティアを貫こうとするブレイドと、負けじと押し返そうとするベルティア。

 エネルギーの余波が周囲に漏れる。青色の稲妻が、毒々しいオーラが辺り一帯を照らした。

 

「『おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』」

 

 しばしの拮抗状態が続き、ベルティアが押されだした。……時間切れだ。

 ブレイドのラウズカードの持続時間がベルティアの限界時間を僅かに上回っていたのだ。

 

 骨は先の衝撃と負荷で砕かれた。筋も同様に千切れ、もはや立つことすら不可能な状態だ。

 しかし、彼は剣を放さなかった。

 

「(止まれぇぇぇェェェェぇ!)」

 

 踏ん張るベルティア。だが止まらない。

 肉体を動かす体力も、術を使うための魔力も、戦うための肉体も。既に限界を超えてしまった。

 

「(止まれ……!)」

 

 だというのに彼は剣を放さない。

 足はブレイドを止めようと踏ん張り、腰は押し返そうと力む。

 

「(止ま……れ……)」

 

 しかし彼の望みは叶わない。既に限界を超えてしまった彼にはブレイドを押しのける力はない。

 ブレイドに引きずられ、踏ん張っている足が地面に線を描く。 

 剣には何十本ものヒビが入り、むしろ折れてないのが不思議な状態だ。

 

「(俺の……負け…か……)」

 

 城壁に叩きつけられ、壁を突破して向こう側に吹っ飛ぶ。

 町の中に放り出されたベルティアの身体は地面に叩きつけられ、その反動で宙に浮き上がる。そして周囲の物を巻き込みながら転がっていった。

 ようやく回転が止まった時には、彼の胴体に大きな風穴が空いていた。




やっと終わった。次でベルティア編は終わりです。最後までお付き合いください。


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八幡死す

いつから、このすばが真面目な異世界モノだと錯覚した?


「か……勝った……」

 

 変身が解除されたと同時に俺は地面に倒れこんだ。

 直ったのは鎧だけらしい。体力も傷もそのままであり、今尚流血中だ。

 

 もう限界だ。動けない。指一本動かせる自信すら今の俺にはない。 

 

「安心するのが……早いんじゃないのか?」

「……かもな。けど、無理なものは無理だ」

 

 首が元に戻ったベルティアと目が合う。その目はさっさとトドメをさせと言っていた。

 そうしたいのは山々だが、そのための体力が尽きてしまった。正直、せんべい一枚も割れそうにないぞ。

 それに第一……。

 

「どうせお前、もうすぐ消えるんだろ? なら心配する必要なんてない」

 

 コイツにはもう戦う力がない。

 胴体は完全に機能を停止した。魔力も体力も途絶え、攻撃どころか動くことすら不可能だ。それに部下のアンデッドらしき気配もない。……ここはもう安全だ。

 

「俺の……俺たちの勝ちだ」

「……ああ、そうだ。俺の負けだ」

 

 どこか清々しい声で敗北を認めるベルティア。そこには俺に対する恨みも、敗北の無念も感じられなかった。

 

「なあブレイド、こうは思わないか? もしかしたら、俺たちは立場が違わなければ……いや、ほんの少しでも切っ掛けがあれば共に戦うことができたんじゃないか、とな」

「……さあな」

「最初は魔王様の勅命を遂行するため、魔王軍のためにお前を倒そうとしたんだがな。騎士にあるまじきことだが、途中からそれがどうでもよくなったてしまった。……お前はどうなんだ?」

「そんなことを聞いてどうする? どうせ戦わないなんて選択肢は最初からなかったんだろ?」

「……まあな」

 

 フフッと笑いながら答えるベルティア。

 

 最初はあんなふざけた理由で戦いが始まった。ベルティアも謝れば許してくれそうだったが、俺をブレイドと認識してからのベルティアは俺を本気で殺しにかかった。あの状況で逃げるなんて選択肢は思い浮かばない。

 もしブレイドに変身しなければ、こんなことにはならなかったかもしれない。だが、そんなIFの世界を考えるなど無意味だ。

 あの状況で変身しないんて選択肢は存在しなかった。少なくとも、今の俺にはそれ以外考えられなかった。

 最初からこうなることは決まっていたのだ。それはコイツも同様だ。……あんなバカげた事が発端なのは非常に癪なのだが。

 

「魔王様には恩がある。それを仇で返すわけにはいかない。それに今までに散っていった者たちの命が重過ぎる。味方も敵も同様だ」

「だから今更止まれないってか。……損な性分だな」

「お互いにな」

 

 ベルティアが笑った。顔は見えないはずなのに俺にはそう思えた。いや、理解出来た。

 俺もつられて少し笑ってしまった。

 

「……もう時間のようだな」

「……ああ」

 

 スウッと消えていくベルティアの肉体。どうやらその時間が来たらしい。彼らアンデッドが還るべき時に。

 フッと一瞬悟ったような笑みを浮かべると、こちらに目を向ける。その目はアンデッドとは思えないほどに、まるで青空のように澄んでいた。

 

「ブレイドよ、お前には義務がある。最後まで生き抜く義務がな」

 

 

 

 

 

 

「お前の血肉は今まで食してきた命から、お前のレベルは今まで戦ってきた敵の魂によって支えられている。お前の命はお前だけのものではない」

 

「お前は最後まで生きることを放棄してはならない。それはお前を支えるために散った者たちの命と魂を踏みにじる行為だ」

 

「お前が死を許される瞬間はただ一つ。最後まで戦い、力尽きたときのみだ!」

 

 

 

 

 

 

 

  ……ああ、なんだ。そんなことか。

 最後の遺言みたいな覚悟で何を言うかと思えば、そんな単純な言葉か。

 

「何言ってやがる。俺はあと百年は生きるつもりだ」

「ッハ、言いやがる」

「そんなのが最後の言葉でいいのかよ? ……本当にバカな奴だ」

 

 心の底から思う。自分を殺した奴にエールを送るなてバカな奴だと。

 そこは普通恨み言や無念の言葉だろうが。なのに何スッキリした感じに逝こうとしてやがる?それじゃあまるで……。

 

 まるで、お前の方が“勝った”ようじゃねえか。

 

「言ったな? じゃあ生き抜け! もしくだらない死に方してみろ、その時は冥土でお前をぶっ殺すからな!」

 

 それだけ言い残して奴は消えていった

 サァ…と砂がそよ風に吹き飛ばされるかのように黒い欠片が舞い散る。それは青空の彼方へと飛んで行き、旅立っていった。

 

 ……なんだよコレ。まるで勝ち逃げされたような気分だ。……だが何故だろうか。

 何故だが悪い気分にはならない。むしろ、こちらにも満足感のようなものがあった。

 

 何だこの感覚は? こんな感覚、俺は知らないぞ。

 勝利による達成感でもなく、敵を倒したことによる万能感でもない。

 どこか空しくも温かい何か。じんわりと熱が広がるも何かが欠けたような感覚。これは一体何なんだ?

 

 この感じの正体を探ろうとする。しかし答えは出ない。

 必死になって考えていたのだろう。そのせいで周囲に注意を払えなくなっていた。

 だからだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「比企谷さん逃げてぇぇぇェェェェ!!!」

「・・・へ?」

 

 突然、俺に大きな津波が襲い掛かったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やってんだアクアァァァァァァァァ!!?」

「ごべんなざい! ごべんなざい八幡様(バジマンじゃま)!!」

 

 俺たちは今、アクアの津波によって死にかけている比企谷さんの蘇生を行っている。

 

 こうなった原因はもちろんのこと駄女神のせいだ。……いや、今回ばかりは責めるのは無理か。

 

 事の発端はアンデッド軍団との攻防で追い込まれた時だった。

 突然現れた『助っ人』とアクアのおかげで最初は俺たちに優位だった。

 おそらく最初は俺たちを駆け出し冒険者だと侮っていたのだろう。だから本気を出さずに遊んでいたのだと思う。けど、アクアの並外れた聖なる力と助っ人たちの戦闘力、そしてちらほらといる『何故か今だこの町にいる高レベルの冒険者たち』の力を思い知って本気を出し始めたのだ。

 

 本気を出したアンデッド軍団は本当に強かった。どんどん怪我人や戦闘不能に陥った者たちが出始め、戦闘が不可能となったとき、アクアが本気を出したのだ。

 

 

 

 そう、水の女神が本気の一撃を繰り出したのだ。

 

 

 

 大量の水を呼び出して一気にアンデッド達を押し流してしまった。

 まるでノアの箱舟の津波みたいだった。アンデッド達を一匹残らず押し流し、全てを飲み込んでいった。

 幸いこちら側には犠牲者が出ないように気を配ってくれたのだが、あいつの知能じゃそれが限界だったらしい。だって……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死んじゃう! 比企谷さんが死んじゃう!」

 

 一番の負傷者の存在を忘れていたのだから。

 

 ぶっちゃけ、この人が一番の重傷者だ。

 剣を振るうことすら無理なほどのダメージを負っている状態で戦い、あんな大技まで使ったのだ。瀕死にならない方がおかしい。

 その状態でトドメを味方にされた……! 本当にすいません比企谷さん!!

 

「息してないです! 目がいつも以上に腐っていますよ!?」

「ダメだ! ポーションをありったけかけても回復しない!」

 

 めぐみんとダクネスが口移しで無理やりポーションを飲ませたり、服を脱がせて傷薬を塗るも、一向に回復の兆しを見せない。

 いつもの俺ならば美女と美少女に口移ししてもらい、服を脱がせてもらうなんて、いくら比企谷さんでも爆発を願うだろう。だが、今はそんな思いは微塵もない。

 むしろ逆。この世全ての美女美少女が比企谷さんの物になってほしいと願った。だってこんなの……こんなのあんまりじゃん!!

 

 折角あんなにボロボロになって戦ったのに、ご褒美どころか味方に殺されかけるなんて悲惨すぎる!!

 

「早く回復させろ! 街のために命を張った英雄をこんなアホな死に方させるな!!」

「今やってるわよ!!………どうしよう! セイクリッドキュアが効かない!?」

「復活させろ! 何が何でもこの人を死なせるな!! 七つの玉使っても甦らせるんだ!!」

「早く帰ってきてハチマンしゃまぁ~~~~~~~!!」

 

 ……神よ、このヒーローに祝福をお与えください!!




やっぱり最後はこうなるのね!


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日常その2 このような葉山で申し訳ございません!

今回は葉山が登場します。
葉虫にならないように気を付けますが、もっとタチが悪くなるかも。


 

 

 

 ………新たに借金が増えました。

 

 

 

 どうやら俺が城壁を破壊してしまったのがいけなかったらしい。

 ベルディアを貫いた際に出来た大穴からアクアの呼び寄せた洪水が流れ、町に甚大な被害をもたらしてしまった。結果、いくらかの家屋が沈んでしまい、城壁と水害の被害を弁償させられてしまった。

 

 ………今回は俺のせいだ。

 

 戦う際に周囲を気に掛けるなんて仮面ライダーたちにとっては当たり前のことだ。それを怠るなどあってはならない。かつて、原作のブレイドもカリスが周囲を気にかけず、一般人を巻き込んだことに怒ったことがあるじゃないか。……俺がしたことはまさしくソレだ。

 間抜けな話だ。戦いに夢中になって大事なものを見落とすなんて……!

 

「「「はあ~」」」

 

 ギルドにある食堂。いつもの席に座ってため息をつく。

 今は日中だというのに俺らに周囲だけが暗く見える。じめじめした空気のせいか、椅子にはカビが生えているかのような感触があった。

 

「まさか……こんなことになるなんてな……」

「……すまん」

「いや、なんで比企谷さんが謝ってんですか」

「そうですよ。一番の功績者は貴方ではないですか」

「ええそうよ。一番悪いのは……」

 

 

 

「「「コイツだ!」」」

 

 めぐみん、アクア、カズマ。三人が同時に自分以外の二人を指さした。

 

「何よ! 私は一番役立ってたじゃない! ハチマンの鎧を直したりアンデッド軍を一掃したり! 役に立ってないのは後ろで偉そうにしてるカズマだったり、すぐに燃料切れためぐみんでしょうが!」

「俺の指示があったから被害が最小限なんだろうが! 第一、お前があんな洪水起こさなけりゃ町も沈まず、比企谷さんも死にかけることなかったんだよ! それに城壁が脆くなった原因に爆裂魔法の影響があるって聞いたぞ!」

「そんなのは言いがかりです! 私の爆裂魔法がなくてはあのアンデッド軍を倒すことは出来ませんでしたよ!」

 

 ……醜い争いだ。人間ここまで落ちたくないな。

 

「やめろ見苦しい。……すべての責任は私にある。だが私は…「「「お前は引っ込んでろ!」」」…ああ、いいぞこの罵声!」

 

 お前は引っ込んでろ肉壁が。

 

「とにかく、今は金だ。なんとかして稼がないと今日の飯も食えないぞ」

「「「・・・」」」

 

 再び重い沈黙。

 うん苦しいね。俺も色々と苦しいよ本当に。まさかこの年で億単位の借金を抱えるなんて思わなかったもの。

 マジでどうしようか。皆で夜逃げしよっかな……?

 そんなことを思っていると……。

 

 

 

 

「お困りのようですね比企谷くん!」

 

 突然、リア充オーラに満ち溢れた声が聞こえた。

 

 

 

「………ハァ~」

 

 嫌々ながらも振り返る。そこには俺の一番会いたくなかった奴らがいた。

 

「町を救ったヒーローがなんてザマですか。ほら胸を張ってください」

 

 突如現れた金髪のリア充。そいつはかつて俺が通っていた高校の制服を異世界風に改造し、見事にこの世界でマッチするよう着こなしている。

 腰にはホルスターに収められた剣を掛けている。

 

「おっす~比企谷くん! 英雄がそんな顔しちゃいけねえぜ~?」

「うっわ~。ここだけメッチャ湿気てるけど。これヒキオの妖気?」

 

 茶髪の軽薄そうな男子とキツそうな金髪女子。ソイツも金髪のリア充同様の恰好をしていた。

 男子は槍を肩に担ぎ、女子はボーガンを腰に掛けている。

 

 ……うん、どこからどう見ても奴らですね。

 

「お久しぶりです比企谷くん! 君の大親友である葉山隼人です!」

 

 何の因果かコイツも転生しちうまったんだよなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「比企谷さん、あいつら誰です?」

 

 声がしたので振り向くと、そこにはいかにもトップカーストのリア充っぽい奴らがいた。

 どう見ても俺や比企谷さんとは縁も因もなっそうな集団。むしろ俺たちの敵と言ってもいいほどだ。

 

「金髪のセイバーが葉山、ランサーが戸部、アーチャーが三浦だ。転生前は同じクラスでそれなりに交流があった」

「何を他人律儀なことを言ってるんだ。俺たちは共に苦難を乗り越えた『ナマカ』じゃないか」

「古いんだよ。そのネタ知ってる奴いんのか。作者も銀魂見て知ったような内容だぞ」

 

 ……なんか、また厄介そうな奴が来てしまった。

 

「それでヒキオ、またアンタ指名手配になったん?」

「いや、これはアレっしょ。また姫サマとか領主の娘に目を付けられて逃げてる最中っしょ」

「いやいや、幹部の一人倒して追っ手にビクビクしているシーンですよ」

 

 ……え? この人いつもそんなハードな目に遭ってるの? 一人だけ世界観違うんじゃね?

 

「……どれも違う。というか理由が違うだけで全部追われてるじゃねえか。何でそんなしょっちゅう追われてる設定なの? レアポケモンか何か?」

「「「え? 追われてないの?」」」

「……」

 

 ・・・比企谷さん、あんたこの世界に転生してからロクな目に遭ってないね。

 

「一応話は聞いている。なんでも壁を破壊してしまってその弁償を要求されてるようじゃないか」

「……知ってるならボケるな」

「すまないすまない。ただ、追っ手のことは忘れていいのかなと思ってね」

「……」

 

 黙って俯く比企谷さん。その様子だとまだ追われているんですね。……可哀そうすぎる!

 どんだけこの世界の作者はこの人嫌ってるの!? 絶対嫌ってるよ! 普通異世界転生モノの主人公ってチーレムだよね? 楽に色々と出来るはずだよね?なのになんでこの人はこんなに不幸なの!?

 

 そんなことを考えていると葉山と呼ばれた金髪リア充がこちらに振り向いた。

 

「それで、君が比企谷くんのチームの一人……かい?」

「……あ、そうです。冒険者をやってます、カズマと申します」

「冒険者……ねぇ」

 

 ジロジロと俺を見定めるような目を向ける葉山。

 

「失礼ですが、貴方は本当に彼のチームメンバーなのか? それにしてはレベル不足なようだけど……」

「そうそう、あいつ意外と天然ジゴロなとこあるからパーティ=ハーレムになるっしょ」

「ソレ。カリスになってから男前度が爆上がりしたし。色々と無双しまくりっしょ」

 

 ……言われている内容は腹立つけど事実なので言い返せない。

 あの人は普通に強い。ベルディア戦では押されていたがアレは相手が強すぎたせいだ。むしろこの世界に転生して半年ほどでの強さは脱帽してしまう。

 

 けど、そのせいであの人色んな勢力から狙われてるんだよなぁ……。

 

 何か色々とあるらしいわ。政治的な何かに巻き込まれたり、魔王軍のお偉いさん殺しまくって指名手配されたりと。……聞いた話では帝国のお姫様を傷物にしたという話だが真偽はどうなのか?

 

「それで、君は本当に彼の仲間なのか?」

「あ、はい。といっても俺は小間使いみたいなものでハーレムは他にいます」

「小間使い…ですか」

「ヘブッ!?」

 

 そういうとソイツはいきなり俺に腹パンしてきた。な……なんでぇ……?

 

「ハザードレベルたったの0.3ですか。……クズめ」

「いやいきなり腹パンするような人にクズ呼ばわりされたくねえよ!」

 

 ホントに何なの!?

 そんなことを思ってるとアクアたちがやってきた。

 

「ちょっと何の騒ぎ?」

「あ、アクア。ちょうどいいとこに来てくれた。実は変な奴に絡まれてるんだ」

「変な奴? ……って、なんかハチマンの服と似てるわ…ふぐっ」

 

 アクアが言い終える前にソイツは腹パンをしてきた。

 

「ハザードレベル7! 首席で合格!」

 

 続けてめぐみんにもやる。

 

「へぶし!」

「ハザードレベル3! ギリギリ合格!」

 

 そしてダクネスにもやろうとする。……何かソワソワしながら殴りやすい体勢を取っているが無視だ。

 

「!!?」

 

 ダクネスを殴った瞬間、葉山は拳を抑えて蹲った。どうした? ダクネスの腹筋に拳でもやられたか?

 

「な……なんて硬さだ!? まるで地面にどっしりと根を下ろす巨木を殴っているかのよう! 腹筋の塊だ!!」

「か……固くないぞ!」

 

 あ、やっぱりそうなるのね。

 

「おい何バカなことしてる? 俺に話があるんじゃないのか?」

「あ、そうでした」

 

 

 

 

「比企谷くん、冬将軍の首を取りに行きませんか?」

「……は?」



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ライダーと特典は別物です

八幡の使うベルトはカリスのベルトそのものではありません。
その違いをまとめました。


「冬将軍ってアレだろ? 気候の呼び名で別に将軍そのものじゃないだろ」

 

 今回のクエストに向かう道中、カズマが馬車の中でそういった。

 馬車というか荷台だな。吹き曝し状態になっており、並走している俺と会話できる距離にいる。

 あ、ちなみに俺はバイクに乗ってます。後ろには誰も乗ってません。

 

「そうだったんだけどね、転生者の冬将軍に対するイメージを冬の気候が飲み込んで具現化しちゃったの。それが冬将軍よ」

「……また転生者絡みかよ」

「いえ、どうせ何時かは具現化するものですから些細な違いだ」

 

 付いてくる三台のバイク。葉山たちだ。

 

「バイクかぁ。いいなホントに。俺も仮面ライダーにしとけりゃよかったか?」

「……ハチマンの特典は厳密に言うと仮面ライダーじゃないわよ」

「え?そうなの? じゃあ何?」

「そ、それは……」

 

 アクアが説明しようとするも、表現できないらしいので俺が代わりにすることにした。

 

「まず、俺のベルトはカリスのベルトじゃない。仮面ライダーの力をモデルにして創られた神器だ」

 

 最初これを見た奴らは皆勘違いしていたが、厳密に言えばカリスバックルではない。

 これは仮面ライダーブレイドに登場するアイテムではなく、仮面ライダーをモデルに創られた特典だ。列記とした神器である。

 故に、原作のブレイドとは異なる点が多々ある。

 

 例えばバックルの在り方。原作のカリスバックルは同時にジョーカーバックルでもあるが、俺のはブレイドたち同様の変身アイテムだ。

 変身出来るのが4人のライダーだけなのがその証拠。原作のカリスのように、カテゴリーエース以外で変身することは出来ない。

 その代わり、ブレイド達の使うアブゾーバーとしての機能を果たすことが出来る。だから劇中では未使用だったカリスジャックフォームも可能だ。

 

 俺のカリスバックルと原作のは全くの別物。だから俺はジョーカーじゃないよ。ホントだよ。

 

「あと、変身するライダーにも差異がある。というか全然違う」

「え? そうだっけ?」

 

 ……アクアが妙なことほざいてるがまあいい。

 ブレイドとギャレンは同世代のライダーシステムなので、融合率を除けば総合的なスペックは両者とも同じだ。そして、新生代型であるレンゲルはそれを超える設定になっているのだが……。

 

「俺のは4ライダー全員のスペックは総合的に見ると同じなんだよ」

 

 そう、レンゲルが全然最強ではないのだ。

 原作では最強(笑)とか言われているが、それはムッキーが経験不足なせいだ。むしろついこの間まで高校生だった彼がプロのライダー達と共に戦えた点を評価すると、レンゲルのスペックはブレイド達より高いと言える。

 しかしそれは原作の話だ。俺の変身するレンゲルは全く違う。

 

 俺の変身するレンゲルはパワータイプだ。仮面ライダーキバのドッガフォームを思い浮かべてほしい。アレと同じだ。

 つまり俺のはパワーと耐久力がある代わりに遅いのである。最初に登場した時のように、ダガーモードのレンゲルラウザーでスピーディーにカリスを翻弄させることは出来ない。

 

「だから俺はカードを使いわける必要があるんだ」

 

 どれが最強というわけではない。それぞれに長所と短所が存在し、使いこなすことで全てが最強となる。

 

「なるほど。つまりフォームの使い分けが重要ということね、益々仮面ライダーっぽくなって面白いわ!」

「……お前のくれた特典だろうが」

 

 この女神、自分の作った特典を把握せずに渡しやがったのかよ。

 

「そろそろ見えてきたぞ。あそこが冬将軍のいる雪山だな」

「ええそうです」

 

 嘘くさい笑みを浮かべる葉山。

 

「……ねえ大丈夫? なんか雰囲気的に裏切りキャラっぽいんだけど」

「……大丈夫だ」

「おいさっきの間は何だ?」

 

 嘘くさい奴だが大丈夫だ。……たぶん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムン!」

『チッ!』

 

 雪山の頂上。そこで俺はギャレンに変身して冬将軍と戦っている。

 

 銃は剣より強い。リーチの差は戦闘における重要な因子だ。

 だが、それはあくまでも元の世界のルール。異世界ファンタジーには通用しない。

 

 この世界では銃が剣に必ず勝利するとは限らない。

 銃弾を避けられたり、矢避けの加護で無効化されたり、更には剣で弾かれたりと。近接武器でも銃に対抗できる手段は山ほどある。

 

 流石はファンタジーの世界だ。武器では不利でも使い手次第で勝てるとかロマンがある。……今の状況ではムカつくが。

 

『チッ! やっぱ平原じゃ銃撃戦は不利か!』

 

 弾幕を掻い潜る冬将軍を見て舌打ちする。

 射程距離はカリスよりギャレンの方が長いんだけど、この状況じゃ関係ないか。

 

「ムン!」

 

 二丁拳銃をクロスさせて剣を受け取める。

 前右に全身しながら剣を逸らして衝撃を操り、懐に潜り込む。そして鎧の隙間に銃口を押し付けて発砲……。

 

『……チッ!』

 

 しようとしたところを肘打ちで顔面を殴られてしまった。

 狙いは反れて見当違いな方向に飛んでいく弾丸。

 

 だが俺もこのままで終わらせない。

 

「——!」

 

 肘が直撃する前に回転して衝撃を受け流す。そして反対の手に持つ銃を向け、発砲した。

 冬将軍はそれを剣で弾き、刃を翻して首筋に剣を振るう。俺はそれをバックステップで避けながら撃つ。

 それを紙一重で冬将軍は避けた。

 

『この!』

「———!」

 

 そこから始まるガン=カタ銃の白兵戦。

 フットワークで互いの攻撃を避ける。弾から逃れ、刃から逃れ。

 互いに死角から攻撃を仕掛けえる。剣を振るい銃を向ける。

 この拮抗状態が続くかと思いきや……。

 

 

「待ちなさい! ここは俺たちがやる!」

「……葉山!」

 

 突如葉山たちが乱入した。

 冬将軍の死角から振り下ろされる剣と槍、そして撃ち出されるボーガンの矢。それを咄嗟に下がってよける俺たち。

 

『危ないな! 俺にも当たるとこだったぞ!』

「当たっても大したダメージないでしょ」

 

 そりゃそうだが……何というか……。

 

「これはチーム戦です。……ここからは協力してやりましょう。」

 

 彼らはそれぞれの特典——— バックルを腰にかざす。するとバックルからトランプの束のようなベルトが腰に巻き付き、一周するとカチャッと音を立て装着された。

 

「「「変身」」」

『『『OPEN UP』』』

 

 バックルを開く。すると開かれたバックルの中央にあるAの紋章から光のゲートが放出された。

 アーマーを分解した等身大のカード型エネルギーフィールド、オリハルコンエレメントである。

 

 三人は放出されたオリハルコンエレメントをくぐり抜ける。

 1/500秒の内にミスリル‘スキン’スーツとオリハルコンプラチナの装甲で構成されたアーマーを纏い、俺とは違う仮面ライダーがその姿を現す。

 ただ俺と違うのは……。

 

 

「行くわよみんな!」

 

 俺と違ってライダー少女みたいになることだ。……だから嫌なんだよお前のヘシンッは!




え~、突然の急展開に唖然としている人もいらっしゃると思いますが、これにはちゃんとワケがあります。
葉山たちの変身システムは八幡と違います。ではどう違うのか。それを次回にやりますのでどうか見捨てないでください。


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異界の力

転生ものでは前世の家族や友達などの未練があまりないパターンがありますよね。それで『なんで前世の家族とか想わないの?』とか『前世に未練が一切ないとかよほど悲惨な前世だったんだろうな』とかいった意見が出ますが。実は転生者たちは気づいていたんじゃないのでしょうか。

もしかしたら彼らはもう帰れないことを本能的に知っているのではないのでしょうか。


 新世代ライダー特典。それが彼らの正式な特典だ。

 俺のプロトライダー特典から入手したデータを参考にして開発された特典であり、出力も安定性も俺より高い。

 仮面ライダーファイズで例えるなら、俺のは劣化デルタで葉山達のは上位ファイズといったところか。まあ、拡張性は俺のが高いが。

 

 

 ところで話は変わるが、「異世界に適応しすぎた者は二度と元の世界に帰れない」という都市伝説を知っているだろうか。

 これは俺たち転生者の間に流れている都市伝説であり大半は信じてない。だが、俺は半分くらいは信じている。

 

 異界の者に近づき過ぎると異界の者になってしまう。……その最もたる例は仮面ライダーではないだろうか?

 例えば敵と同じ原理で異形の超人達、例えば怪人たちのの科学技術によって変身道具を手に入れた超高速の戦士、例えば星座の力に対して同じく宇宙の力が入ったスイッチで変身する高校生。……彼らは異形の力を手にしたことで異形に近づいたと言えなくはないだろうか。

 中には近づきすぎたことで異形の側へと到達してしまい、戻れなくなった者も登場している。俺の特典のモデルであるブレイドがその最もたる例だ。

 これと同じことが特典にも言えると俺は考えている。

 

 転生モノの特典は理外の象徴、即ち“異形≒異世界の力”だ。

 

 特典という異世界の理を宿すことで異世界の存在に近づく。そして適応することで異世界側の存在になってしまう。……俺にとってはこの世界こそが元の世界になってしまう。

 そうなってしまえば俺はもう帰れない。一生異世界で生き続けるしかない。

 

 勿論最初は俺もこんな突拍子のないことを考えたわけじゃない。異世界の力だろうが所詮は力だ。それだけで何かが変わるわけじゃない。最初はそう思っていた。……あいつらを見るまでは。

 

「覚悟しなさい冬将軍! 貴方はこの私、ライダー少女グレイブがこらしめてやるんだから!」

 

 

 

 ライダー少女と化した葉山達。……あいつらはアンデッド娘たちに近い存在なのだ。

 

 

 ブレイドのライダーシステムはアンデッドと融合することで効果を発揮する。つまり異形に近づくことになる。

 そう、この世界ではアンデッド娘に近づくことになるのである。

 

「危ないグレイブ!」

「ありがとうランス!

「女子を傷つけるなんてなんて酷いモンスターだし!」

 

 ……あれがその成れの果てだ。

 

 新世代ライダー特典のコンセプトは『異形に近づくならいっそのこと帰り道を用意したうえで限界まで近づこう』という感じになっている。

 つまり変身している瞬間のみ一時的にライダー少女というアンデッド娘に変身。バックルを外して変身を解除するとアンデッド娘から人間へと帰り道を通って戻るのだ。

 何故そんなことが可能なのか。詳しいメカニズムは知らんが、受肉した際に俺とは違う小細工をしたらしい。……別に俺は知りたくもないしされたくもない。

 あと融合率は俺のが高いんだよな。……不思議だね。

 言っておくが俺は鎧のでも女体化なんてしてない。胸板は厚いしちゃんと下も付いてある。……ただ爪や歯とかに違和感があるが気のせいだ。

 

「(……いや、今はそんなこと考えてる)

 

 デッキからカードを抜き取る。

 折角時間を稼いでくれているのだ。有効に使わなければ申し訳が立たない。

 今は戦闘中。余計なことを考えている時間はないのだ。

 

《バレット》《スコープ》

 

 アンデッドの力を解放して援護射撃を行う。弾丸は三人の間を掻い潜り、冬将軍の鎧に命中。しかし、決定打は与えられなかった。

 

()()()()()

 

 だがそれで充分だ。アイツらがカードをスキャンする隙は与えられたのだから。

 

「はあ!」

 

 まずは葉山。重力波を纏う斬撃を冬将軍の腹に叩きつける。

 

「やあ!」

 

 次に戸部。衝撃波を纏う投槍で冬将軍の背中を突く。

 

「死ね!」

 

 最後に三浦。エネルギー弾を冬将軍の胸に撃った。

 

「———! —————!」

 

 ダメージのあまり倒れる冬将軍。しかし彼は完全に膝をつくことなく、剣を杖にして必死に立ち上がろうとしている。

 だが、次で終わりだ。

 

《ファイア》《ドロップ》《ジェミニ》

《バーニングディバイド》

 

 奴らが攻撃している隙にカードをスキャン。そして奴らの跳び越え、冬将軍にバーニングディバイドを繰り出した。

 

「——————!」

 

 炎を纏うドロップキックが炸裂。分身と同時に振り下ろされた脚は冬将軍を挟むかのように直撃し、爆発が発生。爆風に乗って俺は遠くまで再び飛び上がり、スタっと着地した。

 

 あの三人が爆発に巻き込まれた気がしたが、それはたぶん気のせいだ。

 アイツらだって冒険者だ。そんな間抜けな真似しないはず……。

 

「うきゅ~」

「ちょっとヒキオ! いきなり何するんだし!」

 

 訂正。あいつら間抜けでした。

 とりあえず今は無視だ。見たところそれほどダメージもないのでいらない世話だろう。

 

『冬将軍、討伐完了』

 

 デッキからカードを抜き取って冬将軍のいた場所に投げる。すると冬将軍のエネルギーがカードに封印され、俺の手元に戻った。

 これでしばらく冬将軍は現れないだろう。カードをデッキに入れながら俺は変身を解いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石です比企谷くん! まさか俺たちを囮にするとは!」

 

 討伐完了後、葉山はまた嘘くさい笑みを浮かべながらそんなことを言ってきた。

 

「え?あれってお前らが時間を稼いでる隙に必殺技を使えってニュアンスじゃなかったのか?」

「……え?」

「え?」

 

 ……おい、嘘だろ。お前らまさか無策でしゃしゃり出て来たのか?

 

「ま、まあいいだろう。こうして依頼は達成したのだから」

「おい誤魔化すな」

「さて、ここからが本題なのですが……」

「ああ、もういいよ。……そういやカズマたちはどこ行った?」

「ん? 彼らなら先に報酬を受け取りに行きました」

 

 マジかよ。俺を置いてけぼりにして先に帰っちゃったのかよ。……やっぱりコッチでも置いてけぼりなのね。

 

「それで本題なんだけど……王国主催の武道会に参加する気はないか?」

「……は?」

 

 あまりにも予想外の言葉に俺は一瞬何を言ってるのか分からなかった。

 

「武道会? 追われている俺が? それって捕まれってことか?」

「違う違う。かなり規制の緩い武道会があってね、犯罪者でも参加出来るんだ」

「……ふ~ん」

「賞金は最大で1億エリス。加算方式で勝てば勝つほど賞金が増え、一度でも勝てば辞退しても賞金がもらえる。

 その上優秀な成績を出したりお客さんを歓ばせるとボーナスがつく。ボーナスだけでも1億エリスを稼いだ猛者もいるらしい」

「……へえ~。じゃあやりようによっちゃその大会だけで借金を返済出来るってわけか」

 

 なかなか魅力的な提案だ。

 賞金があまりにも高いのは怪しいが、今の俺たちには借金がある。悠長なことは言ってられない。

 しかし、だからといってリスク計算もなしに飛び込むのは危険だ。急がば回れ。危ない状況の時こそ慎重に行動しなくてはならない。

 

「今日中に決めなくてもいい。まだ時間はあるから後日報告してくれ。ここが俺たちの宿だ」

 

 葉山は俺に宿の名前が書かれた紙を渡し、バイクに乗ろうとする。

 俺はその肩を掴み……。

 

「待て。俺のカテゴリーキングたちを返せ」

「覚えて……ましたか」

 

 借パク駄目ゼッタイ!




ライダー少女とアンデッド娘は私の趣味だ。いいだろ?……というのは半分冗談です。
本当は異形化をマイルドにするためです。だっていきなり化け物になって戦うとか葉山たち可哀そうでしょ?だから女体化で異形の力を誤魔化しました。
あ、八幡はガチで異形化ルートだから。お前は使いすぎると醜いジョーカーになるから。
バイザーは紫、触角の代わりに鬼か山羊のような角、典型的な鬼や悪魔のイメージでジョーカー化してほしいな(愉悦)。


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八幡はアクセルでは英雄である

 馬小屋の付近。そこでガキンガキンと、金属をぶつける音が響く。

 

「力を力で相殺しようとするな!持ち方を調整して受け流せ!」

 

 音源は八幡とカズマの模擬剣から。彼らは鉄の棒をぶつけ合っていた。

 これはカズマのための剣の練習だ。数日前からカズマが八幡に戦い方の師事を頼み込んできたのだ。

 八幡はめんどくさがりながらもカズマの頼みを承諾。今でも所々めんどくさがりながらもちゃんと付き合い、今ではこうして訓練が日課となっている。

 

「いだッ!」

 

 八幡の小手打ちがカズマの腕に当たった。

 彼にしては軽く当てた程度。しかし鉄の塊、しかも八幡の方がレベルが上であり、上級職である。当然本人が思うほど軽いものではない。

 

「胴体や面ばかり狙うな。腕を少し切ったけでも戦闘維持は難しくなる」

「な、なるほど……」

「派手な技よりこういった小技の方がお前には向いている」

 

 いったん手を止めて説明する。

 しかし相手はクズマことカズマ。たとえ相手が恩人であろうとも隙を見れば逃すはずがない。

 

「バインド!」

 

 説明の途中でバインドを仕掛けてきた。

 しかし無駄だった。カズマの浅知恵などお見通しなのだ。

 八幡は慌てることなく避ける。拘束する箇所を見抜き、その部分だけ最小限に動くことで躱した。

 

「こういうのは相手の気を逸らせてからやれ」

「いやいや十分逸らしたでしょうが!」

「お前がやることなんて全部粗方わかってるんだよ」

 

 八幡の突きが飛んでくる。それを避けるも薙ぎ払いを繰り出し、カズマをふっ飛ばした。

 

「一つの動作を分けるな。全ての動作を繋げろ。防御から攻撃に繋げ、攻撃は次の攻撃の布石にしろ」

「……うぅ。《マッハ》!」

 

 スピード強化を使って剣を避ける。

 

「それ、結局取ったのか」

「攻撃力がない俺みたいな奴はこうやって動きで相手をどうにかするしかないんでな。逃げるのにも便利だし、ポイントも少なかったし」

「あっそう」

「この前も憲兵に捕まりそうになった時はマジ助かった。潜伏並みに便利だ」

「……おい、またやったのか」

「あ、やべ……」

 

 先日、カズマはダストと共に女湯を覗きに行っていた。それで両方とも八幡に捕獲されたが、また行っていたらしい。

 本当にどうしようもないクズ男共である。どうしようもない。まるでダクネスみたいだ。学習力もない。まるでアクアみたいだ。後先考えない。まるでめぐみんだ。

 流石ダスト。名前そのものがクズなのは伊達ではない。カズマのパーティの駄目な部分全部備えている。

 悪いとこだけ揃ってる!コンプリートしてる! 汚点のスリーカードだ!

 

「(あんのバカ、マジでやめねえと今度本気でぶっ飛ばすぞ。……まあ、今はどうでもいいか。今は、そんな奴の共犯に一体どんな罰を与えるべきかということが問題だ)」

 

 ダストをどうやって処刑するか考える八幡。しかし手は一切止まってない。隙を一切見せず、淡々とカズマを追い詰める。

 

「じゃあ今日は厳しめに行く。その後説教だ」

「ヒィ!どうかご勘弁を!」

 

 それから、カズマの訓練はいつもの数倍は厳しく行われた。

 

 

「剣ばかり見るな! 全体を見ろ! 死角から攻撃が飛んでくるぞ!」

 

「周囲もちゃんと確認しろ! 格上や複数の相手には場を利用して勝機を掴め!」

 

「止まって考えるな!止まった瞬間お前の首は飛ぶぞ!」

 

 カズマは……フルボッコにされました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フルボッコにされて説教をされ、鉄拳制裁を受けた上で銭湯の皆様に謝罪させられたカズマ。

 そんな彼は今、ウィズの魔法道具店でぐったりしている。

 

「あ~………。死神が……緑のバイザーの……黒い悪魔みたいな死神が……長い触角の死神が……」

「何ブツブツ言ってるのよ。傷はもう治したんだから痛くはないでしょ?」

 

 そんなカズマをゴミでも見るかのような目で見るアクア。そんな彼女はウィズで脅迫染みたやり方で紅茶を出させていた。

 美少女が紅茶を優雅に飲むのは絵になっているが、彼女の性格と紅茶を取得したやり方を見ればそんな感想も消し飛ぶ。

 まあ、ぐったりしている奴のクズさを見た後では大分マシに見えるのが怖い所だが。

 

「クソッ!あいつの口車に乗るんじゃなかった!」

「関係ないでしょ。覗きをしたカズマが悪いのよ」

「そうですよ俺が悪いんですよ!」

 

 クズマを弁護するつもりはないが、彼はいつも変態行為を繰り返しているわけではない。むしろこのSSでは原作よりも変態行為の頻度は大分下がっている。

 このSSでは八幡という頼れる理解者であり、バカ共のストッパーであり、師事してくれる人がいるから彼のストレスが大分軽減されているが、原作ではそういった存在が……兄貴分がいないのだ。

 故に原作の彼は変態行為を繰り返す。……まあ、性根はクズなので溜まりに溜まった屑か汚れ程度の屑かの違いなのだが。結局屑に変わりはない。

 

「……次したら銭湯の前で案山子にするって脅された」

「当然ね。むしろ甘いくらいよ」

「アハハハ……」

 

 この場には誰もカズマに同情する者はいなかった。

 

「しかし生意気ね。リッチーがこんな立派な店を構えるなんて。私は馬小屋で生活しているっていうのに」

「すいませんすいません!私ごときがこんないい家にいてすいません!」

「本当よ。リッチーはナメクジみたいにジメジメした洞窟がお似合いよ!」

「そ、そんな! ひどい!」

 

 全くである。

 

「話が逸れてるぞバカ共。……ウィズ、俺たちは……俺はお前に報告したいことがあってここに来た」

「……え?」

 

 真剣なまなざしで言う八幡に戸惑いを見せるウィズ。

 真っ直ぐ見つめる瞳。覚悟も様な強い意志により目の腐りは晴れ、本来のイケメンとなっている。

 その様はまるで……愛の告白ではないか。

 

「俺が……幹部の一人であるベルディアを殺した」

「あ、そうですか」

 

 何やらがっかりした様子で言うウィズ。

 その様子は期待していたものが手に入らなかったかのような子犬に似ていた。

 

「……え?そんなあっさり!?」

「ええ、幹部といってもそんなに深い付き合いはないので。寧ろあの方は苦手といいますか……」

「そうか」

 

 あまりに軽い反応なので一瞬驚くも、事情を知って納得した。

 彼女にとってベルディアは知っているだけの同僚なのだろう。同じクラスだからといって仲がいいわけではないのと似たような物そう八幡は納得した。

 

「あの方には……その……セクハラを受けていたので」

「…………ふぁ?」

 

 ウィズはベルディアから受けてきた数々の仕打ちを八幡に話した。

 いきなり首をボウリングの様に転がしてスカートの中をのぞき見しようとした、風呂の椅子に首を置いて覗こうとした、箪笥に首を置いて着替えを覗こうとした……どれもこれもクズマ並みの下種さである。

 

 八幡はそれらを聞いて唖然とした。

 なんだそれは。全力で剣を交え、死闘を繰り広げた相手がそんな変態野郎だったのか。

 あの時俺を追い詰めたお前は本当に彼女の語るお前と同一人物なのか? あの時ジャックフォームの翼を切り落としたのは本当にお前なのか? あの時俺より生きろと激励したお前は何処の誰なんだ!?

 

「………嘘だろオイ」

 

 ハァ~と深いため息をつく八幡。

 

 あの時、八幡はガラにもなく本気でベルディアとの決闘を楽しんでいた。

 肉体も精神もボロボロ。疲労はピークに達し、いつ倒れてもおかしくない状態。いや、倒れないほうがおかしい状態だというのに立ち上がった。 

 

 知恵を限界まで搾り、死力を全身から引き出し、命を削って戦った。たとえ魂がすり減ってなくなろうとも決着(ケッチャコ)をつけるつもりだった。……なのにこれはどういうことだ。

 

 自身を追い詰めたライバルが、戦いを通して通じ合った漢が。それがまさかカズマクラスの変態だったのだ。……そりゃ失望するわ!!

 

 そんな八幡を見かねたウィズはなんとか励まそうとする。

 

「そ、それにしてもすごいですね。ベルディアさんは魔王軍随一の剣の使い手なのに倒すなんて」

「……いや、俺が奴に勝てたのはブレイドの力のおかげだ。素でやりあえば俺が負けていた」

 

 たしかに剣技ではベルディアが勝っていた。駆け引きの末に翼を切り落とされたことを考えればベルディアに分があったといえる。……まあ、あの状況で咄嗟に避けられる八幡も八幡だが。

 

「駆け引きだけじゃない。剣技も、レベルも、経験も。全てが俺よりも勝っていた」

「そんなことはありませんよ!」

 

 突如ウィズが興奮した様子で詰め寄った。

 

「ハチマンさんは剣でベルディアさんを倒したそうじゃないですか!」

「いや、でもアレは武器の差といいますか……」

「関係ありませんよ! 武器も実力のうちです! 武器を使いこなしてこその剣士ですから!」

「そ、そうだけどさ、でも武器が強すぎれば……」

「でももくそもありません!」

 

 今度はかつての頃みたいに強気になって叫んだ。

 

「私は貴女の活躍を聞きました! 何度も技をぶつけ合い、お互いボロボロになり、仲間の力で回復してからの必殺技! まるで英雄譚みたいですよ!」

「お、おう……」

 

 あまりに熱心に言うウィズ。その気迫にハチマンに気圧され、つい肯定してしまった。

 彼女の言うことは決して嘘ではない。町では八幡達の活躍が噂され、子供たちの間ではブレイドごっこが流行り、酒場などでもブレイドの話で持ち切りだ。

 

 ブレイドの物語は正確に語られている。八幡とベルディアの技、駆け引き、そして言動。全てを再現しているのだ。

 どうやらカズマが全て暗記していたらしく、それを本にして売って金儲けしていたらしい。

 現在それはベストセラーになっており、借金返済に充てているそうだ。……その何割かは酒代に消えているようだが。

 

 こうして八幡たちは人気者になった。ベルディアが魔王軍随一の剣士に対し、八幡は『黄金の稲妻纏いし有翼の剣士』と呼ばれている。……本人はそのことを知らないが。

 あと、アクアやめぐみんも技の派手さとその貢献度から人気だ。それは葉山たちも同様だ。

 カズマも意外と人気が高い。どうやらあの指示やサポートがなかなか評価されたようだ。

 このように、八幡は町で英雄扱いされているのだ。

 

「……その英雄が借金まみれとか世も末ね」

「あれはお前のせいだろ!」

「いいやあんたのせいよ!」

 

 ……このやりとりも何百回目だろうか。

 

「とにかくハチマンさんはよくやりました! ハイこの話はおしまい!」

「お……おう」

 

 もう反論する気も起きない八幡であった。というか、いい加減彼女には離れてほしかったのだ。

 何故なら、二つのお山がダイレクトに当たっているのだから。

 

 いつもならば嫉妬の目を向けるカズマも今はぐったりしてこちらを見ていない。アクアは店の品に気を取られて気づいてない。ならば今のうちに……!

 

「あ、そういえばカズマさんは家をお探しでしたよね」

「え?」

 

 ウィズはお山を押し付けた状態でとある物件を紹介した。……その間、八幡のラウザーがラウズしないように抑えられていたのは言うまでもない。




・カズマによる被害の対応
セクハラに遭った女性への謝罪とメンタルケア
盗まれた下着類の奪還。
覗き対策のための肉体労働。

・アクアによる被害の対応
酔っ払ってその場で寝たので引き取りに向かう。
借金の保証人にされる。
暴れて物を壊したので謝りに向かう。
エリス教の教会にイタズラしたので謝りに向かう。
ect…。

・めぐみんによる被害の対応
爆裂魔法の騒音によるクレーム対応
爆裂魔法の被害の弁償
爆裂魔法の生態系破壊の対処
ect…。

・ダクネスによる被害の対応
放置


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ウィズさんがサキュバスなのは間違っている

「(やばい……沈まれ俺のエクスカリバー(笑)!)」

 

 現在、俺はウィズさんに腕を組まれた状態で件の屋敷に向かっている。

 

 こうなったのはつい数分前、カズマがウィズさんにネガティブタッチを披露しようとした時だ。

 冒険者がスキルを覚えるには他人がスキルを使っている瞬間に居合わせ、それを見学しなくてはならない。それでドレインタッチ同様にリッチー特有のスキルを習得しようとしたのだ。

 この中で魔力耐性が高いのは俺とアクアだ。しかし俺は明日も高ランクの仕事がるため除外され、印税で稼いだ金を酒代に溶かしたアクアが指名された。

 

 

 だがこのアホ、ネガティブタッチをされた瞬間に神力を注ぎ込みやがったのだ。

 

 

 神の力は悪魔やアンデッドにとって猛毒であり、不死の王であるリッチーも例外ではない。

 そして、神の力の大本である女神のソレを食らったのだ。完全な不意打ち状態で。結果、ウィズさんは倒れた。

 それで俺がこうして体力とアンデッドの力を与えながら支えているのだ。

 

「うぃ、ウィズさん? そろそろいいんじゃないんですかね?」

「うふふふ。ダメです。もう少し、もうすこしだけこのままで……」

 

 もうだいぶ回復したころだというのにウィズさんは離してくれないのだ。

 なんなの? 俺に憑いてるの?お山で誘惑して俺の精気を吸い尽くすつもりなの?

 

「えへへへ……」

 

 振り向くと、とても柔らかいマシュマロみたいな感触がずっと俺の右肩に集中している。

 うれしそうな顔をしながら、ギュッと俺の腕を抱きしめる。頬を赤くしてはにかみながら、潤んだ瞳で上目遣いをしていた。

 これだけで落ちそうだ、この爆乳サキュバスめ。

 

 抜け出そうとするも腕をガッチリホールドされているせいで抜け出せない。まるでスキッドアンデッドのアームロックでもかけられた気分だ。

 しかも、この人もしかしてわざとやってるのかと思うぐらい何度も当ててきたんよ。あの大玉スイカかムニムニと俺の腕を包み込み、顔がドアップで上目遣い。

 前の俺ならこの時点で陥落しちゃうね。告白して財布になってゴミ箱コースへまっしぐら! ……って、それ美人局じゃねえか。ウィズさんはそんな人じゃない。……そうじゃないよね?信じていいよね!?

 

 とまあ、こんな感じで俺は必死に耐えた。本当に俺がドキドキゴーストしてないことを隠すのに精一杯だった。

 まさしく怪力、技術、お山、お色気、天然、のストレートフラッシュ。今日改めてウィッチーの力を思い知ったぜ、色んな意味で。

 

「ここですハチマンさん」

 

 ウィズさんに案内された先は、ギルド並にデカい庭付き豪邸だった。

 

「いいわ! いいじゃない! この私が住むのに相応しいんじゃない!」

「やったぞ……やっとまともな家に……!」

 

 興奮して叫ぶアクアに感動のあまり泣き出すカズマ。ダクネスとめぐみんも喜んでいる。

 予めこの屋敷の図面を見て驚いたが、改めてこの屋敷の豪華さを確認した。

 立地条件も良い。陽当りが良くて周囲には墓地以外何もないためかなり静かだ。

 部屋の中には大浴場があり、庭園も花がキレイに咲いている。

 素晴らしい。まるで貴族にでもなったかのようだ。俺たちみたいな野暮ったい冒険者には手に余るほどの良い物件だ。

 

「本当にここをこんな格安でいいのか?」

「ええ。ウチに来るお客さんがこの別荘を格安で売りたいという依頼が来ましてね」

「……何かあったのか?」

「はい、ここ最近悪霊が出るようになって値段がガタ落ち、オーナーも不気味がって所持もしたくない状態らしいです」

 

 なるほど、事故物件という奴か。しかしこの世界にはプリーストのような霊を祓う力を持つ人間がいくらでもいる。だから依頼すれば確実に処理はできるはずだ。

 ウィズさん曰く、何度も依頼して悪霊を浄化しても何度も湧いてくるのでキリがないらしい。

 

「(万が一は俺の中にいる『悪魔の力』を使うか)」

 

 悪霊に関してはアークプリーストで女神のアクアがいるから問題ない。もし失敗したとしても、俺には悪霊に対抗する力がある。それにウィズさんがよかったというのもポイントが高いな。

 ということでこの家を購入することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家を購入して引っ越しを開始する。といっても家具だけでなく皿などの日用品も揃ってるので俺たちの用意するものは極僅か。だからすぐに終わった。

 

「フフフフ……。見えるわ、見えるわよ。私の霊視でなんでもわかるわ……」

 

 そしてアクアはインチキ臭いことをほざいている。俺たちはそれを無視して各々自由に行動した。

 

「だ、大丈夫ですかねここ……」

「え?何が?」

 

 何やら怖がっているめぐみんに聞く俺。一体何を恐れてるんだ? まさかアークウィザードのくせに幽霊が怖いのか?

 

「悪霊憑きとは言え、こんなお屋敷があの値段で買えるはずがありません。せいぜい小さい家を買うぐらいの値段です。もしかして、今回の街中の悪霊騒動が起きる前から問題がある、訳有り物件なんじゃ……」

「ふ~ん、あっそ」

「軽!?」

 

 俺のリアクションを信じられないという目で見るめぐみん。

 

「人間なんてどこかで死んでる。それが偶々ここだっただけだ」

「そういう問題じゃないですよ! というかなんですかその余裕の意見は!? どれだけ怖いもの知らず何ですか!?」

「何を怖がってるんだ? 冒険者なんて死が隣り合わせの仕事しておいて」

 

 この世界は緩く見えるが、それでも厳しい自然のルールが存在している。食物連鎖、モンスターによる被害、魔王軍の襲撃……この世界にも悲劇は存在しているのだ。

 何処かでそれらの悲劇によって死んで行く人がいるのだ。その迷える魂をエリス様は浄化させている。

 

「たしかにそうですが……そうですが!」

 

 顔が青くなる。声が小さくなる。身体もプルプル震える。……どれだけ怖がってんだよめぐみんは。

 

 

 

 

 

『怖いよお兄ちゃん……』

 

 

 

 

「………」

 

 自然と手が、めぐみんの頭を撫でた。

 

「うゅ」

 

 めぐみんから変な声が出たが、目を細めながら鼻歌交じりに心地よさそうにしていた。

 

 ……俺は何をしている。まさかコイツを小町に重ねているのか?……くだらない。

 

「すまない。さっきのは忘れてくれ」

「……あ」

 

 手を放しでアクアの方に向かう。

 

「この屋敷では貴族が遊び半分でメイドに手を出して、そのメイドとの間にできた子供が幽閉されていたみたいね。その貴族は生まれつき体が弱かったことから病死、母親のメイドもゆくえ行方知らず。この屋敷に幽閉された女の子が若くして父親と同じ病で伏して、両親の顔知らず一人寂しく亡くなったみたい。名前はアンナ・フィランテ・エステロイド。好きなものはぬいぐるみや人形、そして冒険者達の冒険話。でも安心して、この子は悪い霊ではないわ。私達に危害を加えたりしないはずよ。おっと、でも子供ながらにちょっぴり大人ぶったことが好きで、時々甘いお酒を飲んだりしているみたい。お供え物はお酒を用意していて……」

 

 未だにインチキくさい事を延々と口走るアクアを放置して、俺は自分の部屋に籠った。




ハチマン、この世界でとってもひどい目に何度も遭ってます。そのせいでアンデッドだけでなく悪魔や天使やモンスターとも融合できる特異体質になっております。


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八幡はやはりこの世界では英雄である

 屋敷の地下にある闘技場。そこで八幡は日課の鍛錬をしていた。

 光も音もない真っ暗闇の中、重りを付けてのトレーニング。一見すると普通の鍛錬にしか思えないが、事実はソレとはかけ離れていた。

 

「……!」

 

 八幡の目の前には“敵”がいた。見えざる敵へ剣を振るい、見えざる敵からの攻撃をいなし、実際は一人にも拘らず確かに戦っていた。

 敵は一体だけではない。二人、三人……。次々と八幡に襲い掛かる。

 

 それは、いわゆるシャドーボクシングと言われるモノに近い。彼が過去に戦った相手を思い浮かべ、仮想敵として剣を振るっていたのだ。

 

「———!」

 

 前の敵を切り捨てると同時に後ろからも攻撃が飛んでくる。八幡はそれを剣で受け流し、同時に相手が体勢を崩す。その隙を突き、前に一歩踏み出しながら相手の首を刎ねた。

 右から敵が来る。相手は大振り、心臓ががら空きだ。大方隙を突いたと勘違いしているのだろう。それを見逃すほど八幡は鈍間ではなく、一突きで心臓を貫いた。

 後ろから敵が襲いかかる。剣は既に敵を突き刺しており振るえる状態ではない。故に蹴り飛ばしてけん制し、同時に剣を引き抜いて切り捨てた。

 

「———っ!」

 

 避けきれずに敵の攻撃を受けてしまう。それに合わせて八幡の身体も動く。実際に衝撃で流されたかのように動きを再現した。

 流された勢いに逆らわずに身体を回転。トドメとばかりに追撃してくる相手目掛け、回転裏拳の要領で柄頭を側頭部に叩きつけてやった。

 今度はこちらから追撃する。刃を引きながら相手の首に裂傷を刻み、突きでトドメを刺そうとした瞬間……!

 

 

 

 

 

 

「ハチマンいますか!?」

 

 突然の乱入者によって現実の世界に引き戻された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソが、なんだよ?」

 

 静まり返った中で、突然訓練所に乱入してきためぐみん。

 おい、ふざけるなよ。こんな夜中までうるさいのかお前は。うるさいのは爆裂だけにしろ。

 

「ハチマン」

 

 モジモジしているめぐみん。一体どうしたというのだ、そう思っていると恥ずかしそうにめぐみんは口を開いた。

 

「は、ハチマン……。あ、あの……。と……イレに……」

「……はいはい、トイレね。」

「う~……」

 

 恥ずかしいのか、うねり声を発してながらもトイレに向かうめぐみん。しかし怖いのか、立ち止まって先を進むように道を譲る。……仕方ない。

 めぐみんの手を引いてトイレへと向かう。そこに着くくなりめぐみんはそそくさとトイレの中に入って行った。

 

「ハチマン、外にいますか!?」

「いるぞ」

「本当ですか!?」

「はいはい、いるぞ」

 

 その後、何度も同じ確認をさせられトイレから出てきた。

 

「ハチマン、ありがとうございます」

「はいはい」

 

 さて、部屋に戻ってもう一度訓練するか。そう思って訓練場に戻ろうとした瞬間、遠くからカズマの悲鳴と叫び声が聞こえた。……そして幽霊の気配も。

 十体や二十体どころではない。もっと多い。

 

「な、なんですかさっきの悲鳴は!?」

「さあな。それより俺から離れるなよ」

 

 俺の服をぎゅっと掴んみ、ビクビクと震えながら悲鳴の方を見つめる。

 そして、悲鳴を上げている人物の姿が俺達の前に現れた。

 

「ハチマン、めぐみん助けて~!」

「ふぅ……。なんだ、カズマでしたか。驚かせ……・ひゃあああああああああ! 逃げますよハチマン!」

「まあそう慌てるなめぐみん」

 

 カズマの後に続く幽霊———多数のフランス人形からめぐみんを隠すかのように立ちはだかる。

 

「子供の幽霊、しかも悪霊ではない。……なら『アレ』は使えな……ん?」

 

 どうやって子供の幽霊を止めようかと考えていると、ニゴリエースが『俺を使え』と騒ぎ出した。

 

「はいはい……変身」

 

 レンゲルに変身すると同時に眷属———子蜘蛛たちを製造。蜘蛛は天井や壁を走りながら糸を掛け、人形たちを捕獲した。

 

『良い子は寝る時間だぞ。それは幽霊になっても変わらない』

 

 バタバタと動くが糸はびくともしない。

 当然だ、この糸はアンデッドをも縛り上げる。たとえスピード優先で創った眷属でも、子供の霊が動かしている程度の人形を縛るぐらい造作もない。

 さて、じゃあ残った人形も同じように捕獲するか。いたずらっ子はちゃんと懲らしめないと。

 

 しかし人形達はまったく掛かってこようとはしなかった。それどころか俺に向かって拍手をしてくる始末。……おいおい、どう反応すればいいんだ?

 

「覚悟しなさい悪霊! 私が来たからには……え? ナニコレ? ……どういう現状?」

『俺にもわからん』

「……とりあえず、話聞いてみるわ」

 

 そこからアクアは人形達に話しかけ始めた。どうやら女神は死者と意思疎通することが出来るらしい。……女神っぽい能力あったんだな、お前。

 要約すると子供たちは仮面ライダーに興味があるらしく、もっとライダーのことを知りたいそうだ。

 

 この世界に転生して長いため忘れていたが、仮面ライダーはテレビの中のヒーローだ。ちびっ子向けであることを前提にデザインされた以上、子供受けはいいはず。俺もヒーロータイムではしゃいでたしな。

 

「ねえねえハチマン、折角だから話してよ、貴方の活躍を」

「そうだな……。じゃあ吸血鬼と戦った話でもするか」

 

 それから俺は仮面ライダーとして戦ったエピソードをした。

 アンデッド娘たちとの闘い、悪辣リッチーの陰謀を打ち砕く冒険、とある帝国の内政争いと裏に潜む悪魔の影。それらをアンデッド娘たちと協力して演劇のように再現した。

 一応言っておくが、現実は演劇のように綺麗ではない。中にはドロドロした愛憎劇のような出来事もあったし、正義がいつも勝つとは限らないような胸糞悪い展開、またクウガのような汚い暴力を振るうことだってあった

 それらを省略してフィクションで包み込み、子供たちの前で偽物(ヒーロー)を演じる。

 

 以前までの俺はこういった行為を偽善だの洗脳教育だのほざいていたし、今でも時折思うことがある。しかし、来世に夢見るぐらいはいいだろう……。

 この世界は彼らに優しくなかった。だから幽霊となって彷徨っている。……なら俺ぐらいは優しくしてやろうじゃないか。

 

「マジですかハチマン! 改めて貴方のすごさを再確認しました!」

「かっけえ!マジかっけえ! マジでそんな少年漫画みたいなことあったのかよ!?」

「すごい……すごいわハチマン! これならマジで魔王討伐いけるわよ!!」

 

 はい、騙されるバカ達。俺はこんなに綺麗なライダーじゃないぞ。

 最初、この力を手に入れた時は散々迷った。本当に俺が仮面ライダーでいいのか、俺なんかが敵の命を奪ってでも生き延びる価値があるのか、元の世界に戻れたとしても今更戻って何が出来るのか……そんな下らないことばかり考えていた。

 しかしそんなことは子供たちに見せない。ハッタリだろうがビッグマウスだろうが堂々としなくてはいけない。

 ほら、殺せんせーも言ってたじゃん。『本当に自分のベストの答えを教えているのか、内心散々迷いながら、生徒の前では毅然として教えなくてはいけない。決して迷いを悟らせぬよう、堂々とね』と。

 あ、今の俺ってめっちゃかっこいい。……すいません、調子に乗りました。

 

「………なんか癪に障る」

 

 しかしダクネスには不評だった。

 彼女が言うには、あまりにも英雄譚の英雄すぎて逆につまらないというのだ。……なんてこと言うんだあのメス豚は!?

 

 フジャケルナ! 何度アンデッド娘たちに泣き喚かされたと思っている!? 何度恐怖心に支配されて身体がボトボトになったと思う!? 何度ニゴリエースに支配されたと思ってるんだ!?

 

 嬉しそうに俺の演劇を見る子供霊たち。一緒に変身ポーズを取ったり、必殺技のポーズをしたり、技名を叫んだりと。幽霊たちはとても楽しんでくれた。

 夜明けと同時に子供たちはアクアに頼んで浄化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜明けと同時に子供霊の浄化は完了した。ということで俺たちはギルドへ報告に向かう。

 朝早いというのにルナさんがいたので彼女に報告すると、思いもよらぬことがあった。

 

「悪霊退治したということで臨時報酬を出させていただきますね」

 

 思わぬ臨時収入にアクアは無言でガッツポーズをしていた。

 

「除霊してもまた次から次へと悪霊が取り付くので私たちも手を焼いていたんです」

「らしいですね。一体何が原因なのでしょうか」

「それなのですが、街の共同墓地がありますよね」

 

 共同墓地? たしか最初にウィズと会った場所だな。

 

「あの墓場に何者かが神聖属性の結界を張ったんですよ。それで、墓地で発生した霊達が行き場所がなくなって、空き家に住み着くようになったのです」

 

 それを聞いたアクアの体がビクンと震えた。……まさか?

 

「すいません、ルナさん。少し待ってもらってもいいですか?」

「ええ、いいですよ」

 

 不思議そうに首を傾げていたルナさん。俺はアクアをギルドの隅に連行した。

 

「アクアさん、何か心当たりがあるじゃないんですか」

「……はい。ウィズに頼まれて、定期的に墓場の霊を成仏させるって話があったじゃないですか。でも、しょっちゅう墓場に行くのって面倒くさいじゃないですか。……それで、墓場に結界張っておけば霊もどっか適当なところ行って、勝手に散ってくれるって思いまして……」

 

 ……完全にマッチポンプじゃねぇか!

 

「……おい、臨時報酬はなしな」

「……はい」

 

 ルナさんに臨時報酬は貰えないと伝え、ギルドを後にし不動産に向かって事情を説明する。しかし彼は怒るどころかにこやかな表情で許してくれた。

 どうやらこの屋敷の前の持ち主と知り合いであり、身体が弱くて外に出れなかった自分の代わりに、娘に外の世界を教えてくれる冒険者に売って欲しいという遺言を遺されたらしい。

 

「貴方の活躍は聞いています。私も家族も貴方のファンでして、よくブレイドグッズを娘にねだられるのですよ。ですからこれはファンからのプレゼントとして受け取って下さい」

「し、しかし……」

「友との約束を守れるうえに英雄様に住居を売った商人として自慢できるのですよ。これ以上にうれしいことはありません。どうか受け取ってください」

 

 そう言ってその人は頭を下げた。

 

「頭を上げてください!あんな良い物件を断る理由なんてありません!むしろ、住まわせてしてください」

 

 彼は頭を上げて、にこやかに礼を言って店へと戻っていった。

 

 屋敷に帰る道中、花と人形を買って屋敷の外にある小さなお墓に供えた。

 ついでに冒険中にあった出来事を話す。すると一陣の風が俺の髪を撫でた。……その時、耳に入った風の音はまるで子供が笑っているようだった。

 



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アンデッドになっちゃえ

もうハチマンアンデッドになっちゃえばっていう声があるんですが、そうなったらもう元の世界に帰れませんよ(愉悦)


『……凄まじいな、あのロボットは』

 

 現在、俺はギャレンジャックフォームとなってとある場所を視察に向かった。

 

 ギャレンは4つの形態の中で一番視力が高い。仮面ライダークウガで例えるならペガサスフォームだ。

 ジャックフォームになると翼が生えて機動力は上がるし、ブレイドジャックフォームと比べてスピードは劣るが小回りが利く。偵察にはもってこいだ。

 

 視察の対象は巨大な蜘蛛のような機械———機動要塞デストロイヤーだ。

 デストロイヤー。かつて栄華を誇っていた古代文明が創造した最強の要塞であり、現代では暴走状態の超迷惑粗大ごみだ。

 それの前に立つことは滅びを意味する。人も建物もそして国も。デストロイヤーが通った後には何も残らない。

 本当に迷惑な話だ。暴走する前に自爆するようなシステムぐらい設定しておけよ古代人。

 

 とまあふざけた内容だが、その被害は洒落にならない。人死には勿論、実際に国を滅ぼしたという記録もある。決して笑いごとではないのだ。

 

『……少しちょっかいをかけてみるか』

《スコープ》

 

 視力を強化して射撃体勢に入る。

 何もアレを破壊する必要はない。今回の目的は視察であって戦闘ではないのだから。

 

 この距離なら流石に気づかれない。そう判断して引き金を引いた。

 吐き出される弾丸。しかしそれらはデストロイヤーに当たることなく、バリアのようなものに阻まれてしまった。

 

『クソッ。ギラファと同じパターンか』

『あら、でしたらキングフォームになります? そうすればあのデカブツも破壊出来ますわよ』

 

 頭の中に声が響く。ギラファのテレパシーだ。

 アンデッドは封印されても力を使える個体が存在する。原作でもムッキーがエースの支配を受けたように、上級アンデッドは封印されている状態でも俺に干渉することが出来るのだ。

 

『そうよ、さっさとキングフォームになってアンデッドに近づきましょ』

『アンデッドになれば幸せになれるぜ。年も取らないし死ぬこともない!』

『しかも神公認のアンデッドだから浄化もされない。なるしかないでしょ!』

『うるさい! 黙れ!』

 

 あ~もう! だからキングを手放したかったんだよ!

 一番強いアンデッドであるカテゴリーキングはアンデッド娘たちの中でも自由度が高い。そのためテレパシーで好き勝手に話し、俺にキングフォームを乱用させてジョーカーに進化させようとするのだ。

 

『それよりも問題は奴だ!』

 

 見てみるとデストロイヤーは崖の近くを歩いている。……よし、突き落そう。

 

《ファイア》《バレット》《ラピッド》

《バーニングショット》

 

 空高く舞い上がり、蜘蛛みたいな機械目掛けて火炎の弾丸を連射する。

 無論狙うのは本体ではない。足場だ。

 

 奴は自身に来る攻撃には敏感だが、他を狙う攻撃には鈍感どころか無反応だ。それはさっきのけん制射撃で確認した。

 どうやら俺の読み通りにいってくれたらしい。バリアが発動されることなく足場に攻撃が当たり、デストロイヤーは脆くなった足場から崖の下に転がり落ちた。

 

『見たろ、別にキングフォームにならなくてもやれるんだよ』

『『『ぶーぶーぶー!』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~す」

「遅いぞハチマン」

 

 デストロイヤーの一件を片付けた後、俺はウィズの店に向かった。

 待ち合わせしていたカズマは既にお茶をのんびりと飲んでおり、ウィズたちは何やら騒ぎ、アクアに至ってはお茶の駄目出しをしていた。

 

「あ、ハチマンさん。お久しぶりです」

「ああそうだな」

 

 ゆんゆんに軽く挨拶してカズマに向かう。決して材木座のように軽んじているわけではない。

 少しウザいところはあるが、材木座よりも大分マシだ。アイツとゆんゆんを選べと言われたらゆんゆん選ぶね。

 

「それで、今度はどういう要件だ?」

「いや、特にない。ただ遊びに来ただけ」

「……じゃあ俺帰っていいか?」

 

 他にも依頼があるのだ。あまりゆっくりしていけない。あと、こいつ等のバカ騒ぎに巻き込まれたくない。

 

「いや、ダメに決まってるだろ。あんたがいなくなったら誰がこの集団止めるんだ」

「知るか。答えは聞いていない」

「……どこのイマジンだよあんた」

 

 カズマはそう言いながらチョーカーを首に着けようとした。……おい、それ店のだろ。

 

「はぁ~、たまには癒しが欲しいぜ」

 

 あのチョーカー、何か嫌な予感がする。魔力みたいな何か力を感じるんだが……。

 あ、それよりもやることがあるな……。

 

「何やってるんだこのバカ共が!」

「「「ぎゃふんッ!」」」

 

 俺は突っ込み用の矢を撃ってバカ共を沈めた。

 

「危ないじゃないですかハチマン!」

「そうよ! 弓矢で射るなんて何を考えてるのよ?」

「鏃をよく見ろ。吸盤になってるだろ」

 

 マジで刺すわけないだろ。本当は殴るのもいいが、今のご時世暴力に対して過剰に批判的だからな。……って、ソレはアッチの世界か。ハチマンうっかり!

 

「……次は殴って止めるか。アンデッドとの戦いで鍛えたこの腕でな」

「「「すいません!」」」

 

 すぐに謝るバカたち。うん、素直なことはいいことだ。ただ低姿勢過ぎると逆に癪に障るが。

 

「パーティのバカ共は兎も角、ゆんゆんまで馬鹿ノリに参加するな。コイツらみたいなバカになるぞ」

「おい、私のどこか馬鹿なのか聞こうじゃないか」

「店の中で暴れる迷惑な客をバカ以外なんて言えと?」

「……」

 

 そう言うとめぐみんは明後日の方向を向いて黙った。本当に単純な奴だ。

 

「す、すいませんハチマンさん……」

「いや、ウィズに謝れよ。ここの店主だから」

「はい……」

 

 しょぼんとしながら謝るゆんゆん。

 この子は決して悪い子ではないのだ。ただ、俺と同様に一言余計なこと言うからこじれるのだ。それさえなければうまくいけそうなんだけどな……。まあボッチの俺が言ってもブーメランになるけど。

 おっとその前に……。

 

「カズマ、ちょっと後ろ見てろ」

「え?何……うおッ!!」

 

 カズマはいきなり慌てて尻もちをついた。どうしたんだカズマ?

 

「いやアンタがどうしたんだよいきなり剣振り回しやがって!!」

「いや、呪いのチョーカーを切り落とそうと思って」

「呪いのチョーカー? ……あ、これのことか!?」

 

 カズマはさっき俺が切り落としたチョーカーを見せつけた。

 

「それは奴隷用のチョーカーだ。主が指示を出すと締め付ける仕組みになっている。西遊記の悟空が付けられた頭の輪みたいにな」

「な、なるほど……。……って、なんでそんな危ないものがここにある!?」

「いえ、それはダイエット用品です。これを付けると死ぬ気で痩せられるっていう!」

「自分で叶えるパターンかよ!!」

「まあこれはさっきも言った通り主人の命令を聞かせるための道具だからな。自分を奴隷にして命令を聞かせるって考えたらいけるんじゃないか?」

 

 自分に命令を出して自分の命令を実行させる。つまり主人=奴隷=自分というわけだ。まあ奴隷用の首輪には変わりないけどな。

 

「ほら10万エリスだ。弁償してやる」

「あ、いえそんな。こんな危険な魔道具を置いたのは私のミスですから」

「いいから受け取れ。ほら」

 

 無理やりお金を渡して帰ろうとする。さて、これで次の仕事に行けるぜ……。 

 

「ちょっとそこのリッチー、ボクにもお茶をくれる?」

「あ、は~い……って誰ですか!?」

 

 突如スペードのキングが脱走してウィズに茶を要求した。……何やってるんだアイツ!?



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やったねウィズ! アンデッド仲間が増えるよ

「ボクできればコーヒーがいいだんけどな~」

 

 腕を組みながら言うスペードのカテゴリーキング。無駄にでかい胸が腕に押しつぶされて無駄にエロい。

 

「あの金髪爆乳のエロい姉ちゃん知り合いですか!?」

「……カテゴリーキングだ。スペードのカテゴリーキング」

「え!?」

 

 驚くカズマ。まあ当然の反応か。なにせアンデッド娘は初見の者からはアンデッドには見えないからな。

 アンデッド娘はどこからどう見ても美少女だ。露出の高い痴女同然のボンデージ服を着用しているのを除けば、人間と見分けることはほぼ不可能だ。……あ、始祖の動物要素があるけどこれは申し訳程度だからいいわ。

 その上通常のアンデッドとは違って尋常でない精気と神気を持っているからプリーストたちにも見分けがつかない。

 

 しかし、中身はブレイドに登場するアンデッドそのものだ。

 

「気を付けろよ、ソイツ本編で登場したキング以上に性格が悪いから。あとベルディア以上に強い」

「マジかよ、こんなに可愛いのに!?」

「ああ、手を出そうものならバッサリいかれるぞ」

 

 思い出すのはコイツと初めて出会った日。……そして命日となりかけた日だ。

 この女、町に降りて町人全員を洗脳しやがった。そこで某鏡の仮面騎士に登場する犀の仮面騎士みたいなゲームを行おうとし、そこを俺がなんとか止めた。

 

 辛かった。……本当に辛かった!

 ブレイドジャックフォームになって空中戦仕掛けたらコイツも空飛ぶし、コイツの方が若干速いし!

 それでなんやかんやで封印したけど完全には封印しきれずに何度か精神支配しようとしたし。……原作の方は最期なんかいい感じだったのに、なんでコッチは違うのかな?

 

「というわけで手を焼いているんだ」

「はぁ。では具体的にどんな被害に遭ってるんですか?」

「……俺をアンデッドにしようとするんだ」

「「「・・・え?」」」

 

 全員が『何言ってんだコイツ』みたいな顔をしてコッチを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺をアンデッドにしようとしてるんだ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺は冷水をいきなりぶっかけられた気分になった。

 

 正直、俺は比企谷さんが羨ましかった。

 仮面ライダーという男子の夢の特典を使い、その上封印されているアンデッドはみんな美少女。力と女を両方持っている状態だ。

 それを聞いた瞬間俺はは思った、それこそまさしくチーレムじゃんかと。

 

 けど、現実は違った。……あれは邪神の呪いだ。

 

 使いすぎればアンデッド化、手放したらアンデッド解放、弱ければアンデッドの精神支配……欠陥品にも程があるだろ!?

 俺なら御免だ。そんな特典選ばない。手に入れるぐらいなら転生拒否するわ。

 本当に改めて思うわ、この人すげえって。

 

「そういえば比企谷さんって何回キングフォームになったんですか?」

「……5回だ。そのうち一回は52体同時融合だから単純計算であと5回の猶予だな」

 

 ・・・それなりにピンチでした。

 

「融合を抑えてキングのみと融合した本来のキングフォームを数十回ほどやったが、これもカウントに入れるべきか?」

「いや、その心配はないと思いますよ。あれは13体同時融合というのが肝ですから」

 

 そうはいっても絶対とは言い切れない。キング自体本編ではかなり強いアンデットなのでもしかしたらと思う所もある。しかしそれを言っても余計なことにしかならない。

 あまり適当なことを言って不安を煽るもんじゃない。不確定な悪い予想はしない方がいい。……俺の精神的にも。

 

「へえ~そうなんですか」

 

 ウィズはキングから受け取ったカードを、いつの間にか出現したバックルにスラッシュしようとした。

 

「……って、何してんだ!?」

 

 ハチマンさんはウィズを突き飛ばした。……いやマジで何しようとしてるのこのウィッチー!?

 

「何俺をキングフォームにしようとしてんだ!? アンデッドになるって言ったろ!?」

「いいじゃないですか! アンデッドも結構楽しいですよ!」

「そういう問題じゃねえよ!」

「そうだぞウィズ! これ以上ハチマンを困らせるな!」

「なりましょうよアンデッド!! アンデッドは死にません。病気も何もありません!」

 

 ああもう!この人はマトモだと思ってたのにやっぱこうなるのかよ!!

 

「ふざけないで!!」

 

 いきなりアクアがウィズを止めた。おおまさか、コイツも女神としての自覚が……!?

 

「ハチマンは神の御使いになるの! アクア守護天使騎士団の団長になるのよ!」

 

 訂正。どうやら駄女神のままらしい。

 というか何だよアクア守護天使騎士団の団長って!? 初めて聞いたぞ、ぞんな怪しい騎士団! それならまだエリス様の方がマシだボケ! お前みたいな駄女神の騎士団とか、この人の戦士人生棒に振るわボケ!!

 けど実際に出来そうなんだよな、この人。魔王討伐したらエリス様みたいな女神たちに戦士長としてスカウトされそう。

 

「私も見てみたいですハチマンのアンデッド姿! 」

「私も! ハチマンさんのアンデッド姿見たいです!」

 

 おいゆんゆん、お前だけはマトモだと思っていたのに、やはり紅魔族だったのか? めぐみんと同じような病を、業を背負っているのか!?

 

「ああ、私もだ! ケダモノのようなハチマンに襲われる私……想像するだけでもイってしまいそうだ!!」

 

 コイツはいつも通り放置だ。

 

「ええい、やめろ! 放せーーーーーー!」

 

 ああ、誰か八幡と俺に癒しをくれ!



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封印カードと久々のクエスト

オリジナルラウズカードについて質問が来ましたので、ここで説明したいです。


「ん?なんだこれ?」

 

 ある朝、カズマはリビングでカードを発見した。

 机の上に置かれているカード。それは八幡の使うラウズカードに似ているが、何処か違う。

 

 ラウズカードはトランプであるのに対し、このカードは何のカードか分からない。絵と文字以外は特に書かれておらず、どういったカードなのかカズマには理解出来なかった。

 カードをめくる。裏はラウズカードと同じ。もう一度戻して表面を見る。……数字が描かれている箇所には何も書かれてない。

 

「……なんだこのカード?」

「俺のカードに何か用か?」

「うおッ!」

 

 後ろから声をかけられてびっくりするカズマ。

 

「なんだ八幡か。……で、このカード何なんだ?」

 

 カズマはカードを戻しながら八幡に聞く。

 

「それは諸事情があって封印しているこの世界のモンスターだ」

 

 八幡は続けて説明する。

 

「アンデッド・マスターの力の一つで相手をアンデッドみたいに封印する能力がある。それで本来の手段では倒せない悪魔とかを封印したり、諸事情で住処がなくなったモンスターに仮住まいとしてカードの中にいてもらったりしている」

「な、なるほど……。で、このカードは?」

「それは仮住まいを提供しているパターンだ。いいところを見つけたら解放してやる契約でな」

「なるほど。アンデッド・マスターってそんな力があるんだ」

 

 まあなと言いながら座る八幡。

 

「この間悪魔を封印してな、通常のやり方では倒しきれないからその浄化を頼んだんだ」

「(魔戒騎士みたいなことしてるなこの人……)」

 

 カズマは斬ったホラーを封印し、魔界に送り返すシーンを想像した。

 

「こんな感じで俺は相手を封印し、その力を手に入れられる。相手を倒すか場所を提供してその場を解決、その上で力を手に入れられる。一石二鳥だ」

「べ、便利だな……ん?」

 

 カズマは羨ましく思いながらも気になったことを聞いてみる。

 

「そういえば八幡って魔法とか使わないのか?」

「使えないんだ。魔力とスキルポイントはあるが、全部対呪や対魔性へ自動的に割り振られる仕組みになってるせいでな」

「(……それ魔戒騎士じゃん)」

 

 特殊な術は使わず、己の技巧だけで敵をせん滅するとある騎士を思い出すカズマ。

 

「まあ、普通に考えたらソッチの方が得なんだけどな」

「そりゃそうだな」

 

 使いたいスキルや魔法を覚えている相手を封印すれば、その力を使えるようになるのだ。わざわざスキルポイントを消費して覚える必要などない。

 これは余談であるが、アンデッド以外を封印する力はアンデッドマスターの力である。故に葉山たちは使えない。

 

「じゃあ八幡は封印するしか倒せないような厄介なモンスターとよく遭遇するのか?」

「いや、そこまで俺の運は悪くない。どちらかというと……エリス様に頼まれるといった感じだな」

 

 八幡のように成績が良くて真面目な転生者は神託を受けることがある。例えば他の転生者がやらかした事件を解決したり、何かしらの理由で神器がこの世界の人間が使えるようになったりとか、そういった問題に対処することがあるのだ。

 ……その大半が転生者絡みなので神々のマッチポンプみたいに思えるのだが。

 

「とまあ、俺は神のお使いも担当している。まあ報酬はそれなりにもらってるが」

「(……この人は誰かの尻ぬぐいのために生きてるのか?)」

 

 八幡を不憫に思うカズマ。

 転生した当初はアクアの失敗の尻ぬぐいとしてアンデッドの封印。その次は他の転生者の尻ぬぐいとして神託を受け、その次はバカパーティの尻ぬぐい。……本当に苦労人である。

 ならば解放してやれという声が出るが、カズマは決して耳を貸さない。だって解放したら自分があのバカたちの尻ぬぐいをすることになるもん。

 

「それじゃ俺はクエスト行ってくるわ」

「あ、俺も付いて行っていいですか?」

 

 俺はコバンサメする気満々でハチマンに付いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういやハチマンとクエストに行くのも久々だよな!」

 

 ギルド内の酒場。依頼を受理して早速向かう前に、俺たちは腹ごしらえをしていた。

 

 今回の依頼はアンデッド退治。どうやら最近アクセルから少し離れた丘にゴブリンが沸いているらしく、それを退治してほしいとのこと。

 

 いつもならばこの馬鹿たちはカズマに任せて置いていくのだが、今回はそんなに危険な仕事でもない。だから今日は珍しく同行を許可した。

 

「確かに久しぶりだな、こうして全員でクエストに行くのは」

「そうだぜ。この間もハチマン抜きにクエストしちまったし。……そのせいで散々だったけどな」

 

 ああ、本当にコイツらと一緒にクエスト行くのは久しぶりだ。

 あれ? コイツらとはパーティじゃなかったっけ? なのになんで俺だけ一緒にクエストに行ってないだろう。ふっしぎー。

 

「いつもハチマンは何しているの? 馬小屋生活の時はダスト以上に会わないし、屋敷でもちょくちょくどっか行くじゃない」

「そういえばそうだな。この間なんて朝帰りだったじゃないか。……まさか女の家に泊まっているのか!? 最近有名人になってることを傘に着て、商売女を口説いて家に上がり込み、そこで酒に入り浸りながら女性に乱暴を……」

「俺はどこの悪徳芸能人だ」

 

 あまりにも現実離れしすぎて怒る気にもなれない。

 

「ハチマンが抜け出しているのはクエストのためですよ」

「「・・・え?」」

 

 駄女神と変態は呆けた顔をした。

 

「ハチマンは駆け出しでありながら滅茶苦茶強いですからね。それに意外と多才ですから視察や採取のクエストも良くいきますね」

「強い上に知識もあるんだからそりゃギルドから重宝されるわ。この間だって凶暴なワイバーンを討伐しに行ったらしいぜ」

「「なんで言ってくれないのよ(んだ)!?」」

 

 俺がクエストに行っているのを知らなかったアクアとダクネスが鋭い視線を向けた。

 どうやら、俺が高難易度クエストを一人で行ったのが気に入らなかったらしい。

 

「危険な高難易度クエストなら、何で私に声を掛けんのだ!」

「掛けるわけないだろ。自分から罠に掛かっていく足手まといなんて。罠を作るのはめっちゃ面倒くさいんだぞ。買うにしてもそれなりに値が張るし。なんならここでダメにした罠を弁償してもいいんだぜ?」

「クッ……! それは私の身体で全部払えってことか!? 借金を逆手に使って私の身体を要求し、私の心まで支配しようとは……なんたる鬼畜!」

「ムッコロ」

 

 俺はバインドでダクネスを洲巻にして天井に吊るした。

 こんなことをすれば通常なら騒ぎになるのだが、どうやらギルドの皆さんはもう慣れたらしい。気にすることなく酒を飲んだり雑談をしていた。……慣れって怖いね。

 

「そこで反省してろ」

「ほ……放置プレイと羞恥プレイを同時にやるとは……さすがハチマンだ!

 

 ハイハイ無視無視。さて、次はアクアだな。

 ああもう面倒だ。だからわざと声を掛けなかったんだが……。

 いつものしょうもない会話の中、この中で一人金欠に悩まされているのが段々と涙目になっていき、

 

「……ハチマン、あなただけは……私を裏切らないと思ったのにいぃーーー!!」

 

 アクアがとうとう泣き出してしまった。一体どうしたんだ?

 

「つまり、アクアはもうバイトが嫌だから、高難易度でもいいのでクエストに行きたいと」

「お、お願いよおおおおお! コロッケが売れ残ると店長が怒るの! 頑張るから! これからも全力で頑張るからあぁっ!!」

 

 必死に懇願するアクア。どうやらマジでお金がないらしい。

 一体これで何度目の頑張るだろうか。俺はこの頑張るがちゃんと結果を出せた試しを俺は知らない……。

 あ、そういえば借金の立て替えも結局払って貰えなかったな。……壁の修繕費の借金返済したら改めて請求しよう。

 

 このパーティ本当に金が掛かるな……。コスト計算が俺の特技なのに、ここに来ると逆にコストで苦しめられている。……マジどうしよう?

 

「しかし、一人でクエストをこなすとは流石だな」

「まぁ、俺だけじゃなくて、こいつらもいるからな。何だかんだで協力してくれるし」

 

 ダクネスからの言葉にそう返し、カードをテーブルに置くと、めぐみんが不思議そうな表情でラウズカード、厳密にはその中にいるアンデッド娘たちを眺めた。

 

「アンデッドとは敵対していたんですよね? 今ではそうじゃないんですか?」

「ああ今はな。俺をアンデッドにしようとすること以外はそれなりに協力的だ。時々話しかけたりもする」

 

 俺の言葉にめぐみんが何やら思い出したようで、しみじみと、どこか懐かしむように言った。

 

「……私の自称ライバルなら、絶対に欲しがりそうですね。まぁ、あの娘なら一日中カードと話してそうですが」

 

 ……なんか、聞くからに残念そうな娘だな。

 偶然視界にダクネスが入る。

 

「どうした、”相変わらず発情してるな、このメスブタが!” とでも思ったのか?」

「いや、なんでもない」

 

 ただ視界に入っただけで、何故そんな犯罪者認定されなくてはいけないのだろうか。こんなのボッチ時代でもそうそうないぞ。

 

「やっぱり町の英雄様はお金持ってるわね。……本当に羨ましいわ」

「そういやハチマンってあの屋敷に来る前は普通に宿泊って生活してたんだよな。マジで羨ましいぜ」

「まあな。もう野宿に慣れてるんだからそこらへんで寝ようと思ったのけど、ベッドの柔らかさを知るとその気が失せちまった」

 

 人間って一度贅沢をするとなかなか抜け出せないものだ。つい最近まで落ち葉の上で寝て、虫食って生きていたというのに、もうその生活に戻れなくなってしまった。本当に贅沢は怖い。

 あ、怖いのは贅沢に流される俺の怠惰でした。ハチマンうっかり。

 

「も、もしかして……」

「ん? アクア……どうしたんだ?」

 

 突然、アクアが震えはじめた。

 

「ちょっと待って! 毎日宿に泊まる金があるってことは、今もお金持ってるの!? お金隠して借金から逃れようとしてるの!?」

「んなわけなだろ。前までは金があったが、今は借金の返済に溶けている」

「「「ああ……」」」

 

 俺の一言ですっかり羨ましいムードは消え去ってしまった。




・封印カード製造
アンデッドマスターのスキル。ブレイドの封印カードを量産出来る。
この能力はアンデッドマスターの能力であって、仮面ライダーの能力ではない。よって葉山達には存在しない。
本来はブレイドのアンデッドを封印するアイテムなのだが、悪魔やモンスターなども封印出来る。これで通常の手段では倒せない敵や、倒したくないモンスターを一時的に無力化する。
また、悪魔などを封印する際は憑依している依り代を通して地獄にいる本体も封印することが出来る。要するに、悪魔を完全に殺すことが出来る能力である。


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ゴブリン狩りじゃ!

「でやあ!」

 

 サーベルで敵のゴブリンゾンビを切り裂く。

 首を刎ね、続いて胴体を裂くことで上半身と下半身に分けてやった。

 死体になってから大分経ったのか、骨もけっこう脆い。

 

「すごいです! 流石アンデッドマスター! 通常攻撃でゾンビを倒しましたよ!」

「……まあな」

 

 神器であるカリスバックルを魂レベルで内臓しているおかげか、俺には対魔と浄化の神力がある。故に通常の物理攻撃でもアンデッドを浄化することが出来るのだ。無論変身してない状態でもな。

 

「(数は三十程。ゴブリンだけでなく他のモンスターやアンデッドも混じっている。どれも雑魚ばかりだが今回はカズマたちがいる。あまり踏み込むのは危険か)」

 

 ちらりとカズマたちに目を向ける。

 

「たじゅけでハチマンしゃま~~~~~~!」

「うわッ! コッチ来るな駄女神! お前アンデッドや悪魔なら倒せるだろ!?」

「アンデッド以外は無理よ~~~!」

 

 アイツ、また考えなしに突撃して襲われているのか。本当に学習しないな。

 一体コレで何度目だろうか……数えるのも馬鹿らしい。

 

 通常ならばダクネスあたりに守ってもらうのだが妥当だが、アイツは欲望に忠実だからな。だからああして……。

 

「く……! ゴブリン共め、私をそのケダモノのような身で侵す気か!? しかし私は屈しないぞ! たとえ身体は汚されても心までは自由に出来ると思うなよ!」

 

 ……ああして守る対象を放置して、自分から危険に突っ込んでいく。

 いや、アイツだけがくたばるのなら何の問題もないのだ。しかし守る対象を放って自分の欲望を優先するのはクルセイダー失格だろ。もし冒険者の資格に車の免許みたいに更新期間があれば、アイツ間違いなくクルセイダーの資格はく奪されてるな。

 

「撃っちゃっていいですか、撃っちゃっていいですか!?」

「もう少しだ。ダクネスがあの丘の麓まで行ったら撃て。そこを中心にしてな」

「了解です」

 

 めぐみんはまだ使いやすい。とんだ爆弾魔だが一回しか使えないうえに爆発のタイミングもある程度聞いてくれる。……その後役立たずになるのでその護衛が致命的だが。

 

 

 

 

 しかし、こんなバカ達でも長い間いればその使い方も分かる。

 

 

 

「ダクネス! そいつ等を丘の麓まで連れて行け!」

「こ、こんな状況の私に容赦なく命令するとは…・・なんて鬼畜な男なんだ!?」

「行け。二度は言わない」

 

 この世界で獲得したスキルの威圧を発動させて命令口調で言う。

 高圧的に接触するのは嫌いなのだが、コイツはこっちの方が都合がいい。

 

「く……! わ、分かりましたご主人しゃま~~~!」

 

 とまあ、ダクネスはこんな風に言葉攻めをして誘導すればいいのだ。

 

「アクア、クエストが無事終わったらうまい飯と酒だ!」

「よっしゃあ何でも言ってくださいハチマン様!」

 

 アクアはこうして酒と飯さえあれば簡単に動いてくれる。……ちょろいぜ。

 

「ハチマン、あの大群を見ると爆裂衝動が襲ってきます!」

「そうか、じゃあ見ないようにしないとな」

 

 俺は布を取り出してめぐみんを縛り、数枚の布で目隠しと口枷をした。

 コイツは大群を見てしまうから爆裂衝動に駆られる。ならば見なければいいのだ。

 口も手も動かせないから詠唱も出来ない。これで爆裂魔法は封じた。後はタイミングを見て解放すればいい。

 

「うっわ~……。めぐみんみたいな子をハチマンが縛るとか……。どう見ても犯罪臭しかしないわ~」

「さ、流石の俺もコレは引くぜ……」

「バカ、こういうのは遠慮したらやられるんだ。やるなら徹底的にやれ」

 

 爆裂魔法は凶器だ。ダクネスは兎も角、普通なら人を殺すのにあり余りすぎる強力な魔法である。故に軽い扱いは出来ない。だから扱いの軽い爆発間を徹底して管理しているのだ。

 

 めぐみんも縛られ慣れたのか、特に抵抗することなく受け入れている。

 賢いな、最初は嫌がって逃げ出そうとしたり、すぐさま爆裂魔法を撃とうとするからもっと乱暴な手段を使っていたのに、今ではこうしてお利巧にしている。

 

「だい、大丈夫ですよ。最初はびっくりしましたけど、意外と気持ちいいです……」

「ドMになりかけてるじゃねえか! 何ロリっ子を公開調教してんだよ!?」

「そうよ、ドMはダクネスだけでたくさんよ!」

「失敬な! 私はMではありません! 溜めに溜めた後に出すあの感覚……! ソレに病みつきなだけです!」

 

 そうだぞ、俺は調教なんてしていない。ただめぐみんに我慢と自制心を教えているだけだ。

 我慢を覚えることで無闇に爆裂魔法を撃たないようにする。自制心を覚えることで爆裂魔法を正しく使えるようにする。……これは力を使う者には当然持つべき責任。そしてソレは決して生半可なものでは決して許されない者だ。

 俺は悪くない。決してめぐみんを縛って仕事を邪魔された恨みを晴らそうなんてしてないし、教えるのが面倒だからこんなやり方をしているわけではない。そして楽しんでもいない!

 

「よしめぐみん、ダクネスごと撃て」

「りょ、了解しました……」

 

 解放すると同時に詠唱を開始するめぐみん。

 最初はダクネスごと撃つことに躊躇していたのだが、彼女の頑丈さとどうしようもなさをこれでもかと知ってからは容赦なく撃つことになった。しかもダクネスを着弾点にするときがあるくらいだからな。

 

「エクスプロージョン!」

 

 めぐみんの爆裂魔法が炸裂。おびき出されたゴブリンたちは爆炎に飲み込まれ、一匹残らず駆逐された。

 

「ああ……、す、すっきりしました……。溜めに溜めて出すこの感覚……癖になりそうです……」

 

 顔を赤くして、トロンとした表情になるめぐみん。息も荒く、瞳は涙を含んでいるかのように潤んでいる。

 ぱたりと倒れながら股を抑える。……もしかしてソッチも我慢してたのか?

 

「よしよし、よくやった」

 

 めぐみんの頭を撫でると、子犬みたいに身体を摺り寄せてきた。コイツもちょろいな……。

 

「「か…完全にメス犬調教されている……」」

 

 おい、何失礼なことほざいてんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、何でこんなとこにゴブリン共が沸いてるんだ?」

 

 ゴブリンを皆殺しにした後、ハチマンたちはその原因を追究するためゴブリンのアジトに向かった。

 アジトの場所は丘を越えた先にある、森の入り口周辺にある洞窟。崖の下あたりに洞窟は空いており、そこからゴブリン共の気配と匂いがする。

 ハチマンたちはそこを崖で身を隠しながらチラチラ見ていた。

 

「なあ、どうやって攻め入るつもりだ?」

「安心しろ、作戦は考えている。……おいめぐみん、俺の魔力を吸い取れ」

「は…はい頂きます!」

 

 喜んでハチマンの手を掴んで魔力を受け取るめぐみん。

 彼の力の一つ、『シャッフルセンチピード』である。武器や力を交換する能力を応用することで、めぐみんの魔力とハチマンの魔力の一部を交換したのだ。

 

「ああ……いい、いいです。とても素晴らしい魔力です! 闇と冥界の力が身体中から溢れてきます!!」

「お、おう。何言ってるのかサッパリ分からんがさっさとやってくれ」

 

 嘘である。本当は理解している。 昔捨てたはずの何かが彼の中で活性化している。 材木座の幻影がめっちゃうるさい!

 ハチマンは材木座の幻を振り払って弓矢を構える。そして見張りのゴブリンをそれぞれ一本の矢で頭を貫いた。

 

「着弾点は洞窟のずっと奥深く。ボールが真っ直ぐ入り、終着点の壁にぶつかった瞬間爆発する。コレをイメージしてくれ」

「はいです!」

「あと振動を優先した爆裂で頼む。奴らを生き埋めにしたい」

「分かりましたハチマン!」

 

 スコープバットの力で内部をスキャンした後に、めぐみん指示を出すハチマン。……この男、何故視察の任務なのに殲滅しようとしているのだろうか。

 ハチマンの指示通り狙いを付けるめぐみん。詠唱を唱えながら魔力を圧縮し、後半に差差し掛かったところで解放する準備を、そして呪文が終わった瞬間に魔力を一気に解放!

 

「エクスプロージョン!!」

 

 爆裂魔法が炸裂。崖全体に揺れがズシンと響き渡り、地面が大きく揺れた。

 まるで巨大な鉄球をぶつけたかのような威力。爆発ではなく振動に重点を置くことで、洞窟の破壊を優先したのだ。

 

 めぐみんの爆裂魔法で洞窟が陥落。中にいるゴブリンたちは生き埋めになった。

 

「やりましたよハチマン! 揺れを重点に置いた爆裂です! 爆裂魔法の使い分けが使えるようになりました!!」

「ああ、よくやった」

 

 倒れるめぐみんを受け止め、彼女の頭を撫でるハチマン。するとめぐみんは子犬のように頭をハチマンに擦り付けた。

 

「次、アクア。水を中に流して生き残りを駆逐してやれ。あと満遍なく水を撒いて洞窟の地盤を緩々にしてやれ。もっと陥落するから」

「りょうか~い!」

「あ、水は聖水で頼む。もしかしたらアンデッド化するかもしれないからな」

「分かったわ!」

 

 次に、アクアが放水して中にいるゴブリンたちに追撃をかける。

 ゴゴゴと軋みをあげて更に崩れる洞窟。中で生き残っているゴブリンたちはそれで倒れた。

 

「ヴェノムコールドエア!」

 

 ダメ押しにアンデッドの技を使って洞窟内に毒と氷の風を送り込む。

 瘴気と冷気が洞窟の隙間に入り込み、濡れたゴブリンの体温を奪い、肉体を凍らせる。弱っているゴブリンの体力を奪い、肉体を侵食する。

 

「これでOKだ。…アクア、めぐみん、よくやってくれた。流石爆炎のアークウィザードと水の女神だ。お前らの二つ名は伊達じゃない。胸を打つ」

「「やった~!」」

 

 適当な誉め言葉で乗せられるバカ二人。本当に単純なバカ犬共である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…って何やってんだアンタらァァァァァァぁァァァ!!!」

 

 突然カズマが飛び出して叫んだ。

 

「アンタら何やらかしてるんだ!? いきなり巣に爆裂魔法撃つわ特大の放水するわ! 何変な指示出してるんだよ!?」

「見ての通り効率の良い敵のせん滅方法だ。巣が分かったら巣ごと破壊する。基本だろ」

「おかしい! ハチマンはマトモだと思ったけど違った! あんたおかしい!」

「どこがおかしいんだ!?」

 

 カズマの言葉に少し気分を悪くするハチマン。

 俺のどこがおかしい? いきなり巣を破壊するのなら分かるが、ちゃんと安全確認した後にやったのだ。危険人物扱いされる謂れはない。

 

「まさか巣ごと爆破とは……その様な想像をする者がいるだろうか。無法者とはこのことか!」

「誰が無法者だ!」

 

 何だこの謂れ用は。誰も負傷しないで済む方法を提案しただけだ。なのに何故これほどボロクソ言われなくてはならない!?……口には出さずとも顔と目はそう言っている。

 

「ハチマンの非常識人発覚は兎も角、これなら生き残りはいなさそうだな」

「いや、まだだ。……まだ本命が残っているぞ」

 

 突然、崩れたはずの洞窟が盛り上がり、中から飛び出してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴブリンキング……。こんな辺鄙な丘で見るなんて思わなかったぜ」

 



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ゴブリンキング

 ゴブリンキング。ゴブリンの中でもっとも強力なものであり、武力、知能、統率能力ect……全ての能力が通常ゴブリンとは種族レベルで異なる存在である。

 ただのゴブリンがカナブンなら、ゴブリンキングはコーカサスオオカブト。それほど能力に差があるのだ。

 更に、ゴブリンキングの恐ろしさは個体だけの強さだけではない。ゴブリンキングは部下であるゴブリンたちのステータスを上昇させ、絶対服従させることが出来るのだ。

 ゴブリンキングに率いられるゴブリン軍は烏合の衆ではない。完全に統率された、一国の軍団のようなものである。

 

「……って。俺らめっちゃやべえじゃん!!」

 

 カズマが血反吐を吐くような様子で叫んだ。

 そう、カズマは理解した。自分たちは現在、魔王幹部並みにヤバい相手と対峙しているのだと。

 

「そ…そそそ! そんなことないわよ! 私たちにはハチマンが……っていない!?」

 

 ハチマンへ振り返る。しかしそこには頼りになる戦闘員はいなかった……。

 

「え、ちょ……ま、待って!? いないのハチマン!? じゃあどうすんだよ!?」

「そうよ! ハチマンがいない俺らなんて臭みを取ってないレバニラみたいなもんだぞ!!」

「そ、そのたとえはよくわかりませんが……。兎に角ヤバいです! 真面に戦える戦闘員がいません!!」

 

 今ここにいるのは魔力切れのめぐみんと罠に引っかかって身動きの出来ないダクネス、そして終始足手まといのアクアだ。

 ヤバい、死ぬ。俺終わった。……カズマはもう戦うのをあきらめてしまった。なので彼は……。

 

「随分派手にやってくれたのぉ冒険者さんよ」

「す、すいませんでした~~~~~~!!」

 

 すぐさまゴブリンキングに土下座した。

 力なき者が力ある者に敵意を向けられた場合、最も出来るのは命乞いだけである。

 殺害に勝る利益を見せるか、強者を楽しませるか。それが弱者に出来ることだ。

 もちろん従うと見せかけて寝首を搔くという選択肢もあるのだが……。

 

「指示したのは俺じゃないんです! ハチマンっていう戦闘民族です!」

 

 彼にはそんな反骨精神などハナからなかった。

 

 必死に命乞いをするカズマ。それをパーティメンバーたちは冷めた目で……。

 

「違うんです! これはハチマンの指示なんです!」

「そうです!私たちは仕方なくやっただけで

 

 ……やはりコイツらも平常運転だった。

 メス犬も所詮畜生。いくら調教しても状況が悪くなればコレである。

 

「ざけんじゃねえ!!」

「「「!!!?」」」

 

 ゴブリンキングの大声で黙る。……いや、黙るどころか威圧されてしまった。

 

「お前らよくもやってくれたのぅ。………それで、ケジメつける覚悟はあるんやろ」

 

 一歩近づくゴブリンキング。全身から怒りのオーラを放ち、カズマ達を威圧していた。

 動けないカズマ達。まるで蛇に睨まれた蛙だ。腕どころか指一すら動けない。 

 

 右肩に担いでいる巨大なメイスをカズマに投げようと動作を取る。その瞬間……。

 

《バイオ》

 

 ゴブリンキングが動こうとした瞬間、何処からか植物の蔦が生え、ゴブリンキングに絡まることで拘束した。

 

「な……なんじゃいこりゃ!?」

 

 仰天するゴブリンキング。

 続けて異常が起こった。ゴブリンキングの頭上に、突如氷の杭の群れが出現。一本一本に強烈な冷気が込められており、触れただけでも凍傷しそうだ。

 アイスニードルレイン。氷の力を付与した無数の杭が一斉にゴブリンキングへと襲い掛かった。

 

 冷気と霜によって包まれるゴブリンキング。それを見てやったかとカズマ達は思った……。

 

「……これって!?」

「……す、凄いのです!」

「何だ!? これは……!」

 

 パニックから回復した一行が

 その光景にメンバー全員が、驚愕の表情を浮かべていた。

 

「流石ハチマン! 神に選ばれた英雄だわ! そのままやっちゃいなさい!!」

 

 カズマ、めぐみん、ダクネスが口を開いてポカンとした表情をしている中、アクアだけは一人で大喜びしていた。

 別にアクアを喜ばせようとしたのではなく、一撃で仕留めるにはこうするしかなかったのだが……。

 

『駄目押しだ!』

 

 崩れた洞窟の中からハチマン———レンゲルが飛び出してレンゲルラウザーを振り上げる。

 穂先に紫色のオーラが集中し、クローバー型の刃を創造。ソレを霜の発生源の中心目掛けて投げ、同時にエネルギーが爆発した。

 爆風に飛ばされてレゲルラウザーがレンゲルの手中に戻る。……霜と土埃が舞い上がり、更にゴブリンキングの姿を隠す。

 

「……なあ、やりすぎじゃないのかコレ?」

『何言ってんだ? 容赦してたらこっちがやられる』

 

 カズマがかなり引きながら言う。エネルギー刃の投擲で舞い上がった土の中に朧気ながら立っている人影が見えて来ていた。

 

『クソ……浅かったか!』

 

 土煙が晴れてその姿を現すゴブリンキング。

 ダメージを与えてはいるが、レンゲルの想定よりはずっと少ない。多少の傷はあるが、戦闘続行が十分可能といった状態だ。

 こうなったらジャックフォームの使用も考慮しなければならない。そこまでのプランを想定して戦闘態勢へと移行しようとしていた。

 

「……ほう。お前がレンゲルか。噂通りの……」

 

 ゴブリンキングが俺を見据えて何か警戒しながら会話を続けようとした瞬間……。

 

「ハチマン……いきなり相手を相手を拘束し、後ろからあそこまで凶悪な技を撃ち込むとは……! しかも自分は隠れ、カズマを囮にして罠を仕掛ける! なんて……なんて姑息な卑劣漢だ! 

 やはり私の見込んだ男だ! ここまでの外道はなかなかいない! ぜひ次は私に同じ事をやってくれ!」

『黙れ! 殺し合いに卑怯もくそもあるか! 死力を尽くし、知恵を絞ることの何が悪い!? こちとら命賭けてんだぞ!!』

 

 顔を赤らめながら凄まじい批判を浴びせるダクネス。しかしレンゲルはソレに軽く反論するだけで、他には何も言わなかった。

 頭のスイッチを切り替えてシリアスモードに入る。ダクネスの戯言は聞こえない。……ここからはガチバトルだ。

 

「ベルディア様をやったのはお前か、レンゲル?」

『そうだと言ったら?』

「分かったことを聞くなや」

 

 メイスをレンゲルに向けるゴブリンキング。それに対してレンゲルも槍を向けて戦う体勢を取った。

 

『「行くぞ!!」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『でやあ!!』

「おりゃあ!」

 

 日当たりの良い、ハイキングには絶好な丘の上。そこで激戦が繰り広げられていた。

 選手はゴブリンキングとレンゲル。片や幹部とはいかないまでも将官クラスの重鎮、もう片方は魔王軍の幹部や重鎮を幾度も屠った英雄。随分と豪華なメンツだ。

 

 武器をぶつけ合うたびに、二人が踏み出す度に。岩でもぶつけ合うかのような衝撃が走り、地震のような揺れが起こる。

 

『はあ!』

「だりゃあ!」

 

 火花を散らして拮抗する、互いの得物。

 重い。武器から伝わる衝撃がとにかく重い。ジーンとダメージが身体中に響き渡る。それが殺陣の結果抱いた両者の印象だった

 

「な、なかなか重い攻撃やないか……」

『……お前もな』

 

 軽い口調でお互いを認め合う二人。しかしその軽さとは裏腹に、ぶつけ合う衝撃は決して軽くなかった。

 一撃一撃がまるで交通事故でも起こしているかのような威力。衝突する度に鉄塊を壊すかのような音が鳴り渡る。

 

「ど…どうしたのよハチマン!? 魔王幹部も倒したんだから、そんな雑魚すぐに倒せるでしょ!?」

『無茶言うな!』

 

 仲間の応援する声が聞こえてくるが、そんなことに意識を割いている余裕はレンゲルには無かった。

 鈍器のような殺意が、あらゆる角度で迫り来る。不用意に武器を突き出せば、即座にペッシャンコになるであろう。

 

「よそ見しとる場合か!?」

『があッ!!?』

 

 逆袈裟に叩きつけられたメイスが、レンゲルを葉のように軽々と吹き飛ばす。無様に転がりながらも辛うじて受け身を取り、即座に立ち上がる。

 そして、レンゲルが体勢を整える前に、ゴブリンキングが距離を詰めた。

 

「おんどりゃあ!!」

 

 ゴブリンキングがメイスを振り下ろす。

 渾身の力で振り下ろされた鉄塊。一人前の冒険者でも即ミンチ、人一人を殺すにはあまりにも度が過ぎる威力だ。

 おそらく、アダマンタイトの武器を装備している一級冒険者だろうとも、その装備と防御ごと砕く威力だろう。

 だが、レンゲルはソレを受け止めた。

 

 レンゲルラウザーを斜めに構えることで衝撃を反らして防ぐ。

 流しきれない衝撃がレンゲルの身体に走る。並の冒険者ならば骨が粉砕するような威力だ。だからだろうか、ゴブリンキングはさほど慌てず、むしろ逆に、さらに力を加えようとした。

 彼の攻撃を受け流そうとした戦士はそれなりにいる。だが、全て叩き潰してきた。

 

 いくら衝撃を9割方流せたとしても、その一割が1tも10tもあれば意味などない。その一割の力で潰れるだけだ。

 

 どんなに優れた技術を持とうが、圧倒的な力の前では無意味。なにせ、戦いの基本はパワーとスピードなのだから。

 小細工する時間も余裕も与えない。繊細な技は力で潰す。そうやって彼は強敵を倒してきた。

 力こそ全て。力の伴わない技術などただのお遊芸だ!!

 

『おらあ!』

 

 だが、レンゲルはどうやら例外だったらしい。

 

 一割の衝撃に耐えながら反撃。受け流した力を利用してレンゲルライザーを回転させ、石突でゴブリンキングの腹を殴った。

 ゴブリンキングとレンゲルの力が込められた一撃。それは鎧越しとはいえ決して無視できないダメージをゴブリンキングにもたらす!

 瞬間、ほんのコンマ数秒ほどの隙が生まれた。

 

 常人にとっては一瞬の出来事。しかし、彼ら化物にとっては十分すぎる時間だ。

 

『おらオラオラオア!!』

「………!?」

 

 レンゲルラウザーを振り回して滅多打ちにする。刃に当たるクローバー・エッジで鎧の上から傷を刻み付け、石突部分にあたるカードリーダーを叩きつけてやった。

 突き、斬撃、カチ上げ、ブチかまし……。ありとあらゆる攻撃が、あらゆる方向と角度から、息をつく暇もなく繰り出された。

 槍そのものが生きているかのよう。鋼鉄よりも硬いはずのソレが、まるで蛇のように畝りながらゴブリンキングに襲い掛かっているみたいだった。

 

『オッラァ!!』

 

 最後の一撃で派手に打ち上げられるゴブリンキング。

 地面に叩きつけられ、何度もリバウンド。それが終わったと思ったら、ゴロゴロと平原を転がりながら、土埃を起こしてその姿を隠した。

 

 今がチャンスかもしれない。レンゲルは左腰にあるデッキに手を伸ばす。その瞬間……。

 

『……!』

 

 突如、鉄球が飛んできた。

 レンゲルラウザーを曲芸のように振り回すことで鉄球を逸らして身を守るレンゲル。

 土埃が晴れてゴブリンキングの姿が露わになる。そこには無数の傷を負いながらもまだ健在のゴブリンキングがいた。

 

『……ぶっ飛ばす感触に違和感を覚えたが、お前本当は衝撃を逸らしたな?』

「それはお互いさまや。お前かてふっ飛んだアレ、演技やろ?」

『「……」』

 

 そう、二人とも演技を……嘘をついていたのだ。

 

 レンゲルが先ほど吹っ飛ばされたのは演技だ。大げさにダメージを受けていることをアピールすることで、大ぶりな攻撃を誘発。その隙を突くか、受け流して反撃する気だったのだ。

 そして、ゴブリンキングは実際に大ぶりの攻撃を繰り出した。思った以上に隙が無かったのはレンゲルの誤算だったが、すぐさま受け止める方針に切り替えて反撃を食らわせた。

 

 対し、ゴブリンキングがレンゲルのラッシュで滅多打ちになったのも演技。本当は身体をずらして衝撃を逃がし、攻撃が止んだと同時に反撃するつもりだったのだ。

 思った以上に攻撃が正確かつ次の攻撃の繋ぎ目が短かったのが彼の誤算、その上演技を見破られたことで反撃も阻止されたが、ダメージの軽減には成功した。

 

 何よりも驚くべきことは、両者とも互いの演技に気付いたこと。もし気づかなければ、どちらかがやられていたであろう。

 

『……』

 

 再び武器を構え、距離を止める。その瞬間始まる武器のぶつけ合い。

 

 またバカの一つ覚えのように殺陣か? ……それは違う

 

『(よし、このままおびき寄せれば……!)』

 

 予め眷属の蜘蛛を操作することで仕掛けた罠。そこにゴブリンキングを誘えば、この勝負に決着を付けられる!

 

『があっ!!』

 

 わざとダメージを受けて、ふっとばされるレンゲル。今度は演技ではない、本当にダメージを受けたのだ。

 演技では見抜かる。故にわざとダメージを受けることで、ゴブリンキングをおびき寄せた。

 

「(今度はマジや…! これで終わらしたる!!)」

『(良し来た! ここでくたばれ!!)』

 

 このまま行けば罠に掛かる! そうレンゲルが思った瞬間……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、ここは私が助太刀しよう!!」

『NOoooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!!!』

 

 ………変態が全てを台無しにしやがった。




あっれ~? また真面目な戦闘になっちゃったぞ~……と思いきやコレだった。


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ダクネスによる被害

実際にレンゲルのような重い攻撃をする奴がいるならこんな風にダクネス邪魔すると思うの。みんなどう思う?


『ダクネスァァァァァァァァァァ!!! なんてことを……なんてことをしてくれたんだキサマは!!!!?』

 

 今年最高に……レンゲルは滅茶苦茶ぶちギレた。

 普段は絶対に振るわない暴力。ライダー状態ではどんなに怒ってもデコピン程度なのだが、今回ばかりはガチの本気で殴り飛ばした。

 

『折角、折角……セッカク!! 折角作ったチャンスを……! お前は無駄にしやがった!! 分かってんのかお前は!!?』

 

 何度も何度も。殴る蹴るを繰り返して怒りを表現する。

 しかし憤怒の炎は消えない。どれほど強く殴っても、どんなに多く蹴っても。彼の怒りはそんな程度では晴れることはない。

 

 彼がこれほど怒るのも当然である。なにせ、先ほどの策略には文字通り命を賭けていたのだから。

 身体を張って、わざとダメージを負って作った勝機。それを変態のたった一回のバカな行動のせいで全部無駄になってしまった。

 

 それが不慮の事故だったり、自分に少しでも非があるのならばここまで怒らない。注意を怠った自分が間抜け、或いはただ運が悪かったで済むから。

 相手がドジッた結果でも許せる。相手に目を向けなかった自分にも非があるし、こういった罠は運に左右されるから。もしダメになっても運のせいに出来る。

 

 しかしこの変態は自分の性癖を優先した。命を張った罠よりも、自分の性癖を優先したのだ。……そりゃキレるわ。

 キレて当たり前!! 非暴力を訴えるガ〇ジーでも助走をつけて殴り飛ばすわ!!

 

「は……ハチマン! すまなかった、まさかここまで大事な罠だったとは……。けどコレいい!! まるで身体の底に響くような打撃! それをこんなにも食らうなんて……不謹慎だけど気持ちいい!!」

 

 ……ダメだこのド変態。一応自分が仕出かしたことを悪いと思い、反省の意志もあるが、やはり呪われたかのように性癖が邪魔する。

 それを見たレンゲルは無駄だと悟ったのか、盛大に舌打ちをして殴るのをやめた。

 

『クソが! なんでこの変態が野放しになってんだ!? コイツを封印していた罠は……壊れてる!?』

 

 ダクネスが暴走して迷惑をかけないように、予め用意していた罠。ソレに目を向けた。

 罠はメチャクチャに壊されていた。見た目から察するに、どうやら彼女の怪力で破壊されたらしい。

 

 そんなにあの罠に掛かりたかったのか……!?

 

 怒りの炎が再燃するも、理性の仮面で無理やり抑え込む。

 ここで怒っても仕方ない。むしろこの変態を更に喜ばせるだけだ。だからここは落ち着け……!

 

 

 実を言うと、ダクネスがあんな行動をとったのには理由がある。

 レンゲルが命懸けの戦闘をしていたのにも関わらず、こんな行動をしたワケ。確かに性癖もあるが、それよりもレンゲル………いや、ブレイドジャックフォームの存在があるからだ。

 

 このゴブリンキングはベルディアに比べると、レベルもステータスも技術も数段劣っている。

 無論ゴブリンキングは強い。彼女の見てきたモンスターの中でも五本の指に入るほどだ。……しかし、ベルディア程ではない。

 

 ベルディアと同格であるジャックフォームならば、それほど苦にならずに倒せる相手なのだ。

 さっさと金色にならず、通常フォームで遊んでいる。……そんな風にダクネスには見えてしまったのだ。

 ジャックフォームになればすぐ勝てる、なら私も遊んでやろう……そう考えてしまった結果、この悲劇が起こってしまった。

 

『おいカズマ! この変態をそこの木に吊るしておけ! 性癖が治るまで二度と降ろすな!!』

「合点です!」

 

 しかし、ソレを知らないレンゲルはダクネスを許せない。故に出た判決は磔の刑。……まあ、たとえそう思っても遊ぶのはどうかと思うが。

 

「お前……大変じゃのう……」

 

 レンゲルが刑執行から戻ると、ゴブリンキングが憐れむような目線を送った。

 どうやら話が終わるまで待ってくれたらしい。……本当は魔王軍っていい人の集まりじゃないのだろうか。

 

「……おいレンゲル、あの女はお前の仲間……やな……?」

 

 ゴブリンキングが自信なさそうに俺に質問してきた。レンゲルは沈黙したままだったが、さらに、言葉を続けてきた。

 

「お、落ち込むんやない! お前が仲間を助けようとしとったのはよう分かる! それにな、あんな大技使える戦士もそうおらん! ワシが知っている中でも五本の指に入る使い手や!

 ワシもこの鎧がなければ危ないとこやった。せやからこの場で仲間を助けようとした心意気に敬意を表して堂々と戦ったる!」

 

 仲間のはずのダクネスから命懸けで仕込んだ罠を邪魔されたを気の毒に思ったのか、レンゲルをメチャクチャ慰めはじめた。

 ゼッタイいい人だよこのゴブリンキング!!

 

 けどまあ……戦うことに変わりはないが。

 

『では仕切り直しだ。行くぞ!』

 

 デッキからカードを取り出し、スラッシュする動作をしようとする。それを隙とみて、ゴブリンキングは彼に接近した。

 

『(……今だ!)』

 

 その瞬間、レンゲルは指先から蜘蛛の糸を出した。

 そう、先ほどの行動はゴブリンキングを誘い込むためのフェイク。敵の腕を拘束することで動きを制限するのが彼の目的だ。

 

「なめんなや!」

 

 だが、そこはキング。見事糸を腕で弾き飛ばして対処してみせた。

 まあいい、隙を作れた。ならば目的は達成したも同然だ。

 

 ゴブリンキングに飛び掛かるレンゲル。しかしゴブリンキングは爆弾のようなものを投げてソレを阻止した。

 レンゲルにダメージを与えるほどの威力はない。しかし、ほんの少しの隙を作るには十分だ。

 

『なめるな!』

 

 いつの間にかゴブリンキングの脚に絡めた糸を引く。瞬間、ゴブリンキングは派手に転倒してしまった。

 攻撃の動作に入った瞬間を狙った罠。故に注意も認識も遅れてしまい、受け身すら取ることが出来なかった。

 倒れている相手にレンゲルラウザーを振り下ろそうとした瞬間……。

 

 

 

 

「待てレンゲル! コイツらがどうなってもいいのか!?」

 

 そこには、人質になったカズマ達がいた。




・アクアの被害
勝手に突撃して余計な被害を出す。

対処法;酒と飯をご褒美にして『待て』を命じる

・めぐみんの被害
勝手に爆裂魔法を放つ

対処法:予め撃っていい対象を指定する。もしないのなら予め爆裂魔法を撃たせる。

・ダクネスの被害
敵用の罠に自分から引っかかりに来る
勝手に突撃する

対処法:ダクネス用の罠を用意してかかってから敵を倒す。


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ゴブリンスレイヤー

逆に敵が正しく見えるのはこのすば仕様!


「コイツがどうなってもいいのか!?」

 

 おそらく偵察か何かで洞窟から離れていたゴブリンだろう。彼らは丘の外側からゆっくりと現れ、カズマ達をに刃物を首元に突き付けていた。

 

「たじゅけてバヂマンしゃま~~~~~!! 今一番ピンチなんですけど! この世界に入ってめっちゃ命の危険なんですけど!!」

「あ…あのあの! 早く助けてほしいのですが! これは……今回ばかりは無理です!! 早く助けて……助けてください!!」

 

 みっともなく泣き叫ぶアクアと、プルプル震えるめぐみん。

 

 ヤバい。今回ばかりはヤバい。おふざけなしにマジでヤバい!

 今まではふざけた展開だったりバカな世界観のおかげでなんとか助かってきた。しかし、今回はこのすばではありえないシリアスで真面目な展開だ。ギャグ補正は期待できない。

 早く助けてくれ、無敵の英雄様!!

 

「俺たちに構わずソイツを倒せ! 司令塔をなくしたゴブリンなら俺達でも振り払える!」

「そうだ! だから気にするなハチマン! 人質に」

 

 対してカズマとダクネスは大して怖がらなかった。

 

 ダクネスは……言うまでもない。書くのも面倒なので省略。

 

 カズマは必死に頭を回転させていた。

 確かに彼の言う通り、ゴブリンキングを倒せばゴブリンたちのステータスは元に戻る。そうすれば振り払うことも可能だろう。

 しかし、レンゲルが止めを刺すよりも、ゴブリンがカズマたちの首を掻っ切る方が早いに決まっている。故にこの作戦は無意味だ。

 何かないか。この状況を打破する手段は、策略はないのか。彼は必死に考えている。

 

「……こういう決着はつまらんけど贅沢は言えんな。……そういうことや。武器捨てな」

 

 不服そうにするも、人質を取って脅すゴブリンキング。

 こんな決着は望んでいない。出来るなら戦士としてレンゲルと戦いたかった。……その結果がたとえ無駄死にだとしても。

 しかし、そんな勝手は許されない。

 自分は魔王軍の一員なのだ。自分の勝手な都合で折角のチャンスを見逃すわけにはいかない。

 

 むしろ部下を褒めるべきだ。怒りを抑え、自分がするべきことを優先したのだから

 部下にいつも言っているのに自分がするなんてメチャクチャは通じない。故に、彼は人質作戦を続けた。……それがどんなに不服でも。

 

 

 それに対してレンゲルは……。

 

『……如何にも三下が考えそうなやり方だな』

「……なんだと?」

『こうなるのは予測していたんだよ。……行けモグラ!』

「「「!!?」」」

 

 突如、土の中から何かが飛び出す。それを見てゴブリン達は仰天し、動きを止めてしまった。

 しまった、この男も仲間を用意してしたのか。!?

 

「今だ!!」

 

 カズマは自分と味方の拘束をスキルで解き、ゴブリンたちを殴り飛ばして抜け出した。

 同時にレンゲルも糸を放出してカズマ達を回収する。手元に引き戻し、ロックの力をノーモーションで発動させて即席のシェルターを創った。

 

「な……なんじゃこりゃ!?」

 

 突如現れた襲撃者を刀で切り裂く。しかし、それは仲間でも何でもなかった……。

 

「これ……案山子やんけ!!」

 

 ……それは、糸で作った人形だった。

 そう、これは囮だ。万が一のことを考えて仕込んだ罠の一つである。

 

「~~~~~~~! こんの卑怯モンが!!」

 

 感情を抑えられなくなったゴブリンがレンゲルに突撃してきた。

 一斉に襲い掛かるゴブリンたち。連携もクソもない。感情に任せた暴動のような突進。……そんなものは死にに行くようなものだ。

 

「やめい! 無闇に突っ込んだら殺さ……ぐごッ!!」

 

 ゴブリンキングがスキルでゴブリンたちの怒りを鎮めようとした瞬間、レンゲルの攻撃が飛んできた。

 今は戦闘中。しかも相手は格上だ。よそ見をすれば死に直結するのは当然のこと。

 

 レンゲルに意識を向けなければ自分が殺され、部下たちに意識を向けなければ部下たちが殺される。……最悪の状況だ。

 

「やれ! アイツは一人だ! レンゲルを殺しゃ、俺らもゴブリンキングになれるかもしれないぜ!!」

「(……そんな相手とちゃう!!)」

 

 声を大にして言いたい。そんな簡単に倒せるなら、とっくの昔に倒れている。

 魔王軍で賞金首に指定されている者は多対一の闘いに慣れている。故に、無策で攻めても何の意味もない。ただ殺されるだけだ。

 むしろここは逃げるが得策。本部に戻って情報を伝えるべきなのだが……。

 

「「「これで幹部昇格も目じゃねえぜ!!」」」

 

 欲に目がくらんだ彼らにはそんなものは浮かんでこなかった。

 

「お前ら逃げい! コイツの情報を知らせ……ぐお!!」

 

 再び横やりが飛んできた。

 襲うゴブリンを片手間に排除、むしろ障害物に使いながらレンゲルが接近。集団の隙間から槍を刺してきた。

 反撃しようとするも、ゴブリンたちが邪魔で攻撃出来ない。一度槍を刺したかと思いきや、すぐにゴブリンの群れへもぐりこむのだから。

 

 それを繰り返すこと数回。ゴブリンキングは穴だらけになってしまった。

 

『……潮時か』

 

 レンゲルが石突で地面を軽くたたく。カンっと軽い音がした瞬間、地面から何かが現れた。

 どうせまた糸人形だ。なら気にすることない。さっさと行こう。そう判断して進もうとした。……それがいけなかったのだ。

 

 飛び出してきたのはアンデッド娘たちだった。

 予めリモートでアンデッドたちを解放して土の中に待機。何かあれば彼女たちを使役して攻撃するつもりだったのだ。

 

『行け』

「「「ヒャッハー!」」」

 

 一斉に襲い掛かるアンデッド娘たち。

 いくらステータスが上がったとはいえ、所詮はゴブリン。特殊な能力を持つ、不死のアンデッド娘軍団には敵わなかった。

 数分もかからずに蹂躙されていくの軍隊たち。

 

『悪いが、俺の前に現れた以上始末する』

 

 レンゲルラウザーをゴブリンキングに向けるレンゲル。

 彼の周囲に集っていたゴブリンはアンデッド娘たちによって始末された。もう彼を邪魔する者はない。

 

「……潮時か」

 

 武器も鎧もボロボロ。全身傷だらけ。部下も全員殺された。……そう、潮時だ。

 

『選べ。ここで俺の槍で殺されるか、俺の手下に蹂躙されるか』

「……すまんのう」

 

 ゴブリンキングが選んだのは、レンゲルとの決闘だった。

 

 身体がだるい。眩暈がする。頭もジンジン痛む。

 血を流しすぎた。おそらく槍に毒を盛っているのだろう。

 おそらく立つのもやっと。その証拠に足元はおぼつかなく、目の焦点も何処かズレている。

 

「まだや……まだワシは負けてへん!」

 

 だが、彼は立ち上がった。

 右肩から左わき腹にかけてつけられた、背中の深い傷。骨が見え、血が噴き出るほどの重傷だ。

 なのに彼は立った。それは何ゆえか……。

 

「ワシは戦士や。せやから……せやから往生する時は立ってするんじゃい!!」

 

 メイスをもう一度構えるゴブリンキング。

 

『……正気か? 今のお前には勝機どころか戦う力すらない。楽になろうとは思わないのか?』

「お前の言う通り、そうした方が楽やな。けどな、ワシはそんな賢い生き方が出来ひん阿呆なんや」

『理解出来んな。何故勝てないと分かっていながら、どうしようもないと分かっていながら戦おうとする? 苦しい道を進もうとする?』

「……せやな。普通やったら頭おかしいやろな」

 

 一度武器を置いて、先ほどとは違う、穏やかな顔をして言った。

 

「ホンマは分かっとるんや。レンゲルが来た時点でワシは負けるって。あのブレイドと同格なんや。ワシが勝てるわけない」

 

「ワシはホンマに阿呆じゃ……。こんな見晴らしのエエとこを拠点にしとったら、爆破されるんは当たり前や。ワシかてそうしとる」

 

「爆裂魔法を拠点の中心から爆破させて洞窟を破壊。大量の聖水を流し込んで残ったモンを窒息、その上でアンデッド化を防ぐ。そんで氷と毒の風を送り込んでのダメ押しや。……おかげで洞窟におるモンは全員オシャカじゃ」

 

 せやけどと付け足し、再び武器を構えなおす。

 

「ワシは戦士や! せやから布団の上で極楽に行こうとは思わへん! たとえ地獄に行こうとも、最後まで立って死ぬんや! ……せやないと、今まで殺した奴らにも、死んでった奴らにもあの世で見せる顔があらへん!!」

『……そうか。なら行くぞ!!』

 

 同時に武器を振るう。

 

「ガハッ………!」

『……俺の勝ちだ』

 

 完全に決まった。

 レンゲルの渾身の力を以て振り落とされた一撃。

 鎧のプレートを切り裂き、深い傷を刻み込んだ。

 血が噴水のように飛び出る。その深さから、内臓にも到達しているだろう。

 彼の言った通り、レンゲルの勝利だ……。

 

「すまんのう。お前ら。ワシも……ソッチ逝くからな……」

 

 ゴブリンキングは、立ったまま往生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴブリンキングを退治した後、ギルドへ報告に向かう。その道中、横でカズマが俺の顔色を見ながら心配そうにしていた。

 

「……なあハチマン、お前大丈夫か? 相当疲れてるだろ?」

「まあ、けっこう本気でやったからな。疲れが出るのはしょうがない。というか、あんなのがこの町に来てよく被害なかったな……」

 

 カズマに答えたとおり、今回の戦闘でけっこう消耗した俺は、クタクタになっていた。

 

 結局、俺はジャックフォームになってしまった。

 ゴブリンキングを倒した後、今度はゴブリンジェネラルが数体とホブゴブリンが数十体、更に上級職のゴブリンが数百体出てきた。

 ソイツらを倒すためアンデッドを解放し、俺自身もブレイドジャックフォームになって戦闘開始。数分ほどで戦闘は終了し、俺たちは帰った。

 

 おかげでけっこう疲れた。ジャックフォームは確かに便利だが、相応の負担が掛かる。……まあ、デメリットはそれだけじゃないのだが。

 

 冒険者ギルドの入口のドアを開ける。途端、笑い声や酔っ払った冒険者達の談笑が聞こえてきた。

 冒険者達が昼間から宴会を開いている。ゴブリンキング達を倒したことの祝いだ。

 

「あっ! 二人とも遅かったじゃないの! もう既に、みんな出来上がってるわよ!」

「酒くせえぞアクア」

 

 酒はそれなりに好きだ。こちらでの飲酒は年齢的に合法なので、俺自身もよく酒を飲んでいる。金に余裕があった頃は樽ごと飲んだこともある。

 しかし何故か他人の放つ酒の臭いは得意ではない。俺達に近づいてきたアクアの息ですら、むせ返るような感じだ。

 

「二人とも、お金受取ってきなさいよ! なんと……あのゴブリンキングには賞金が掛かっていたのよ!」

 

 どうやら、あのゴブリンキングは魔王軍の中でもかなり地位が高く、高額の賞金がかけられていたらしい。

 キングだけではない。ジェネラルもバーサーカーもホブゴブリンも相応の賞金が掛かっていたらしい。

 

 楽しそうにケラケラ笑っているアクア。前回ベルディア討伐の際に借金を背負ったせいでご機嫌となっている様だった。

 

「すまん、カズマ。俺の分も貰ってきてくれないか?」

 

 俺のお願いを聞いてくれたカズマがカウンターへ向かって行った。

 

「……大丈夫ですか? かなり疲れているみたいですが……」

「仕方あるまい。途中までとはいえ、私たちに攻撃されない様に立ちはだかりながら、一人であの数を抑えていたのだ。疲れもでるだろう」

 

 めぐみん、ダクネスが心配そうな顔をしながら席についていた俺に近づいて来た。

 

「大丈夫ですかハチマン、けっこう疲れているようですが……」

「大丈夫だ。前のベルディア戦の方が疲れた」

「確かにな。ベルディアと戦った後、半日ほど寝込んでいたからな」

「……まあな」

 

 起きてギルドに行ったときは本当にびっくりした。まさか国家予算並みの借金を背負うになるとは……。

 寝耳に水ってこのことだな。……あれ、かなりうまいこと言ったんじゃないの俺?

 

「実は、カズマさんのパーティーには特別報酬が出ています!」

「……特別報酬?」

 

 カズマも同じ疑問を持ったようで驚いたようだが、その答えを示すように周りから声が上がっていた。

 

「おいおい英雄様よ!お前が全部倒したんじゃなねえか!」

 

 お姉さんがコホンと咳払いをし……。

 

「サトウカズマさんのパーティーには、魔王軍幹部ベルディアを見事討ち取った功績を称えて……。まずはゴブリンキングを倒した報酬の5500万エリスを与えます」

「「「5500万!?」」」

 

 それを聞いた周りの冒険者達から奢れコールが巻き起こる。

 

「バカが! 借金に充てるんだよ!」

 

 とは言ったものの、今日ぐらいはいいだろう。なんせ、億に近い賞金が入ったんだからな。少し贅沢したって

 

「マジ!? 奢ってくれんの!?

「お~い皆! 今日はカズマが奢ってくれるらしいぜ!」

「「「いぇ~~~~~い!」」」

 

 途端に巻き起こるカズマコール。それに気を良くしたカズマは奢ると宣言した。

 おいバカ、それは俺の金だぞ。……まあ、今回ぐらならいいか。

 

「「「カンパーイ!」」」

 

 こうして酒盛りになったのだが……

 

「カズマ、あれやれよ!」

「そうだぜアレアレ!」

 

 冒険者たちが何やら布をひらひらさせる。それと同時に巻き起こるスティールコール。

 こいつ等本当にコール好きだな。なんなの、ここ何かの会場なの? カズマは皆のアイドルなの?……いや、こんな汚くて下種なアイドルいないな。

 アイドルとは小町のようなものをいうのだ。決してクズマのような人種ではない。……え? 戸塚はどうなんだって? ……バッカ、あれは天使だ天使。人を超越してるんだよ。

 むしろ女神も凌駕するね。……まあ、俺の知ってる女神はそこにいる駄女神含めて碌な者がいないが。

 

「よっしゃあ行くぜ!」

 

 何やら手をくねくねさせるカズマ。……なんかすんげえ嫌な悪寒がするんだが。

 

「カズマが奢ってくれるって? だったら……」

 

 突然クリスが入ってきた途端、同時にカズマのスティールが炸裂。クリスからパンツをはぎ取った。

 

「何やってんだお前~~~~~!」

「へぶしッ!」

 

 この性犯罪者に制裁を! 俺はカズマの頭部を蹴り飛ばした。

 吹っ飛んで机に激突するカズマ。幸い食器も料理もない場所だから損害はないだろう。

 

「……このノリ、まだやってたのか?」

 

 この馬鹿、まだこんなこと続けていたのかよ!?

 コレのせいで俺がどんだけ女性冒険者に謝り倒してんのか知ってるのかよ!? この間も菓子折り持って来たんだぞ!

 

「そこに並べ! 全員ぶっ飛ばしてやらぁ!!」

「「「ヒャッハー! 制裁だぁ!!」」」

 

 ……何やってんだろう、俺。さっさとこのダメ人間ばっかのここから卒業しねえと!




・ハチマンにかけられている賞金
現在三億エリス。最近どんどん上がっており、時には人間に襲われることもあったという。
なお、三億は他の転生者もかけられており、その転生者からはライバル視されているらしい。


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廃城の調べもの

 ゴブリンキング討伐後の翌日、今日は休んだ方がいいというアクアの言葉に従い、クエストは受けずに家でゆったりしていた。

 

「ちょっと行きたいとこがあるから出かけてくる」

「ん? どこに行くんだ?」

「調べもの」

 

 そう答えると、質問してきたダクネスは余計に分からなそうな顔をした。

 

「ベルディアが陣取ってた廃城を調べたい」

「あ、廃城に行くのでしたら私も連れて行ってください。あの城に爆裂魔法を……」

「駄目だ。調査をするために行くんだから壊すな、調査の後でやってくれ」

「わかりました!」

 

 爆裂魔法を撃てると思って少しはしゃぐめぐみん。

 

「何であんな所に行くの? アンデッドの住処なんて行ったら病気になるわよ?」

 

 ……相変わらずアンデッド嫌いだな。 

 

「前にベルディアが気になること言っててな、しかもあのゴブリンキングもソレを探しに行って来たらしい」

「ソレ?」

「大きな光だ」

 

 大方、転生者か何かだろう。もしかすればアクアがこの世界に落とされた時かもしれない。あれでも一応女神だからな。

 けど一度行ってみようか。もしかしたら違うかもしれないし、ギルドに報告すれば臨時報酬が出るかもしれない。

 

「ふーん、いいんじゃないか。今日はクエスト行かないし、自由行動で」

 

 カズマの言葉を聞いた俺たちは、各自で動くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、何でダクネスがついて来るんだよ? お前がいると足手まといになるんだけど」

「あ、相変わらず辛らつだな……。だが、そんなお前がいい!」

 

 ……コイツやっぱ置いてくべきだった。いつもみたいに愛車のシャドーチェイサーで行くべきだったか。

 

 カズマは訓練、めぐみんは爆裂魔法が撃てない。アクアはアンデッド嫌いなので論外だからダクネスも来ないと思ったが、俺の考えが甘かったか。

 

 今のパーティーメンバーの中ではダクネスが一番相性が悪い気がするんだよな……。

 カズマは小間使い並みに言うこと聞いてくれるし、アクアは色々振り回されてはいるが、餌を用意すれば言うこと聞いてくれるようになった。めぐみんは爆裂魔法意外に関しては意外と常識人だと思う。

 まあ全員、何かしらの飴と鞭を用意出来るのだ。カズマは言わずもがな、アクアは酒と借金で、めぐみんは爆裂魔法で制御できる。

 だが、コイツはそれがないんだよな……・

 

 コイツの前で何かやると大体裏目に出る。

 バインドや罠で相手を拘束する時もそうだし、罠を仕掛けても毎回わざと掛かってダメにされている。ゴブリンキングに攻撃した時もそうだ。最期のトドメを邪魔してくる。

 それで怒ってもコイツは喜ぶだけ。……ホントどうすりゃいいんだよ。

 

「なあ、ダクネス……、やっぱり俺一人で行くから帰った方がいいと思う。残党だっていやしないだろうし」

「遠慮するな。放棄され、碌に手入れもしていない廃城だ。何が起こるかわからんからな。突然床が崩れて落下したり、侵入者用の罠が作動したりするかもしれん。くく……。想像しただけで、体が熱く……」

 

 ……何言っても帰らない気だ。この場で拘束して置いて行こうか?

 

 廃城の玄関の前に到着した。 扉を蹴破って開ける。

 いくら立派な城だったとはいえ、今はもう昔。中はどうせ廃墟同然のボロボロなんだろう……。

 

「……意外と立派だな」

「……う、うむ。実は私もボロボロの城を想像していたのだが……」

 

 確かに城の中は年季があるものの、整理整頓や清掃が行き届いており、ついこの間までアンデッドではなく人間が住んでいたと言っても不思議ではない状態だった。

 

 入口から大広間に進むと一枚の張り紙を見つけた。これだけやけに新しいので、恐らくはベルディア一派が張ったものだろう。

 

『廊下:ベルディア リビング:ジャック 厨房:ケッキー  礼拝堂:サム』

 

 ……なんか小学生の頃見たことある紙だ。まあ、すぐに無意味になっちゃったけど!

 

 この手入れが行き届いている城は、ベルディア達が頑張った成果なんだろうか。荒れ果てていたであろう廃城をここまで綺麗にして使ってたのか。

 しかもアンデッドの癖して礼拝堂まで手入れするとか、どんだけ礼儀正しいんだよ。自称清らかな水の女神に見習ってほしいぜ。まあ借金をネタにするとやるけど!

 

 こんなにキレイにしてるのに、毎日爆裂魔法撃ち込まれて埃立てられたら、そりゃあブチ切れるよなぁ……。

 

「やっぱり俺ら……ベルディアに悪い事しちまったな」

「自分達で綺麗にした城を汚されて散らかされて、片付けの繰り返し……。それはそれで悪くは無いお仕置きだな!」

 

 ハイハイ無視無視。探索を続けようか。

 

 ベルディアの部屋らしき場所に入ると、机の上に一冊の本があった。その本のページをパラパラめくると、面白いことが書いてあった

 

「これは日記……いや、報告書か?」

 

 続けて読んでみる。

 所々赤い染みがついて読みにくいが、単語だけを拾えた。

 首を転がす……ドストライク……ウィズさん………Tバッグ……めっちゃエロい……。

 

 それ以上読む前に、俺は本を燃やした。

 

「見なかったことにするか」

「そ、そうか……」

 

 燃やした本の塵を吹き飛ばす。瞬間、カズマの使う潜伏スキルと同じ気配を感じ取った。

 

 潜伏スキルということは盗賊かスキルを持つモンスターかもしれない。……もしやベルディアの部下の残党か?

 ダクネスには言わない方がいいな。アイツなら余計なことしそうだ。

 

 眷属の蜘蛛を創造して罠を仕掛ける。そして糸に足が掛かった瞬間……。

 

「あ、カリ……」

 

 脚に絡んだ糸を引っ張って転倒させ、そのまま蜘蛛の糸で拘束。手元に手繰り寄せ、腰のナイフを引き抜き……。

 

「……クリス?」

「いきなり何するの!? 二人を見かけたから声を掛けようとしただけなのに!」

 

 クリスが涙目になりながら、俺に対して訴えかけてきた。というか雁字搦めになったクリスに馬乗りになりながら刃物を突きつけてる俺ってどう見ても……。

 

「ハチマン……クリスを拘束した上で剣を突きつけるだと!? つまり『騒ぐな、大人しく犯されろ』ということなのか!? ……何故私ではなくクリスなのだ!?」

 

 ……うん、これは弁明出来ないね。完全に俺が悪いね。……って、冷静に状況を確認してる場合じゃねえ!

 

「す……すんま……!!?」

 

 クリスの拘束を解いて土下座をしとうよすると、何か嫌な予感がしたのでそちらに目を向けた。

 

「停めろ!」

『了解!』

 

 予め解放しておいたスカラベアンデッドにテレパシーで命令する。すると時間が停まり、城の中を探っていたモンスターの動きを停めた。

 それなりに距離が離れているので、罠ではなく時間停止を選んだ。……ま、チートだな。

 

 モンスターにゆっくりと接近する。制限はなくはないが、時間を停止させているのであまり急ぐ必要もない。

 

「……悪魔系のモンスターか。なら使いやすい」

 

 ソイツに触れて洗脳の準備をする。

 精神系のスキルはワケあってあまり使いたくないのだが、今は贅沢を言ってられない。

 

「あばばばばばばばばばばばばばばばば!!!」

 

 時間を動かすと同時に洗脳開始。脳みそを少し弄って支配下に置く。……あ、少し強くしすぎてパァになっちゃった。

 仕方ない。簡単な命令だけを実行させよう。

 

「お前は魔王軍に入ってこう報告しろ。『ベルディアはブレイドに倒された。奴は魔王討伐軍の様子を見るため王都に向かっている』…とな」

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホンットすいませんでした!」

「いいよいいよ! むしろカリス様に押し倒されるとかご褒美だよ!」

 

 土下座して謝ると、エリス…じゃなかった。クリスは快く許してくれた。

 流石は女神だ。やはり本当の女神を名乗るのならこれぐらいではないと。

 あ、戸塚は女神じゃなくて天使だから。また別ジャンルだから。

 

「ではその償いとして私にもやってくれ」

「ほらよ」

 

 ダクネスの身体を蜘蛛の糸で拘束して廊下に転がす。

 この変態役立たずクルセイダーはここで不法投棄しよう。こんな誰もいない廃城なのだ。迷惑なんてかけないだろう。

 

 騒ぐダクネスを放っておいて外に向かう。

 結局光の正体は分からなかったか……。

 

「あ、そういや何でクリスはこんなとこにいるんだ?」

「あ、私は神器を探しに来たの」

 

 ああ、また転生者の特典を回収しに来たのか。……そういや俺も頼まれたな。後でちゃんとやらないと後でイシュタルけしかけられちまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハチマン、お前クリスを押し倒したって本当か?」

 

 俺の所へ来たカズマの言葉を聞き、思わず調べていた武器を落としてしまった

 

「……カズマ。それ、誰から聞いた?」

 

 いや、カズマに質問するまでもない。犯人は現在進行形で噂を流しているクリスだ。

 

「私はハチマンがクリスをいきなり拘束し、馬乗りになって剣を突きつけたと言っただけだが……」

「お前は何てこと言ってやがる。もしかして、もう噂が……」

 

 まあいいや。どうせ俺はボッチだから今更悪い噂が拡がろうとも問題ない。

 そんなことを想っていると、ルナさんが顔を真っ赤にしてこちらに近づき……。

 

「ハチマンさん!なんでそんなことをしたんですか!?」

「いえ、あれはアレでソレがああなったんです」

「訳が分かりません! 今日こそはちゃんと私の家で色々とお話を聞かせてもらいますからね!」

 

 ……気にしないといったけど訂正。やっぱなんとかしねえと!




このハチマンは上級アンデッドたちみたいに洗脳やテレパシーが使えます。バトルファイトに勝ち残ったのですからこれぐらいの特権はあってもいいでしょう。……まあ、悪く言えばジョーカー化の予兆とも言えますが。


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ジョーカーの特典

「おいアクア、あの人本当に大丈夫なのか?」

 

 通帳を確認した後、俺はアクアに思い切って今まで気になっていたことを質問した。

 

「大丈夫って何が?」

「あの人がキングフォームにならねえかってことだよ!」

 

 キングフォーム。本編に登場する、仮面ライダーブレイドの最終形態。

 厳密にいえば主人公である剣崎一真の融合係数の高さによって13体のアンデッドが融合した形態だ。

 全身が重厚な鎧に覆われているため機動力こそ下がっているが、その他の能力は大幅に上昇し、防御力に至ってはミサイルの直撃や200tの衝撃にも耐える。

 劇中では未使用だがある程度の飛行も可能な上、ラウズすることなくノーモーションでその能力が使用可能。

 劇中でも敗戦は無しという最強フォームの名に恥じない活躍を見せた。

 

 

 だが、その代償として使用者は怪人になってしまう。

 

 

 ブレイドシリーズのライダーはアンデッドと融合することでその力を行使、融合係数が高ければ高いほどより強い力を発揮する。……つまり、アンデッドに近づけば使づくほどより強くなれるのだ。

 辿り着く先はアンデッド化。ジョーカーという最凶の怪人に変身するのがゴールだ。

 まさしく諸刃の剣。木乃伊取りが木乃伊になるとはまさしくこのことだ。

 だから俺は……。

 

「なんであんな危ないモンを特典にしやがったんだこの大馬鹿が!!」

 

 俺は、こんなポンコツ特典を用意したアクアを怒鳴った。

 

「何でそんなに怒るの!? ジョーカーになることの何がいけないのよ!? 神になれるのよ神に!」

「……? どういうこと?」

 

 一瞬、言われたことが理解出来なくなった。なのでどういうことか聞いてみる。

 

「特典は神力で創られたものなの。だから仮面ライダーもモデルにしただけで、実際のアンデッドではないのよ。だから統率者もいないしバトルファイトも意味ないの」

「それは前に聞いた。けどソレとジョーカー化がデメリットにならないってどういうことだ?」

「鈍いわねえ。あんた本当はバカじゃないの? ……つまりアンデッド娘の力=神の力なのよ」

 

 ……何言ってるんだこの駄女神は?

 

「カリスの力もアンデッド娘も神の力で創ったものなの。だから厳密にはアンデッドと融合するんじゃなくて、神や天使と融合するといった感じね」

 

 やっと理解出来た。

 俺は今までアンデッド娘と融合する=アンデッドに近づくと考えていた。本編通りジョーカーになって暴走すると。……けど実際は違う。

 アレはブレイドに登場したアンデッドではなく、神の力で再現された別物。だから、あのアンデッド娘たちは神や天使みたいなものということだ。

 統制者はいないのでバトルファイトは無効。アンデッド娘たちもアンデッドではないため融合しても本編のジョーカーにはならない。むしろ、神の力であるアンデッド娘たちと融合することで、神や天使に近づくということだ。

 

 ……あれ? でもやっぱアンデッドの力もあるんだよな? そこはどうなるんだ?

 

「神が全部アンデッドや悪魔と合わないってわけじゃないの。死の神や邪神みたいな。あと善神でも死霊術や悪魔の力を使うのいるし」

「ふ~ん。じゃあ、アクアがアンデッドマスターのハチマンを嫌わないのは神の力のおかげか?」

「そうよ。死の神は特別でアンデッド臭も神の超アレなパワーで消えちゃうの。ほら、臭いのも香りを合わせることでいい匂いになるみたいな」

 

 あの人は消臭剤か何かか。……まあ、それはどうでもいい。

 

 話をまとめると、アンデッドは神々が創り出したものであり、ソレに近づくということはアンデッドと神の力を併せ持つ死の神、ジョーカーになる。

 ジョーカーは悪ではない。統制者がいない以上世界が滅びることはない。むしろ、新たな神が誕生することになる。

 なるほど、それは目出度いことだ。なら何も問題ない……。

 

「……って、そんなわけねえだろうがァァァァァァァァ!!!」

 

 結局人外になるのには変わりねえだろうが!

 

「なんでよ!? ジョーカーになるってことは生と死を司る神になるってことよ!」

「神だろうがアンデッドだろうが化け物に違いねえだろ! というか、そんな簡単に人間を神や天使にしていいのかよ!?」

「……あ~、その~……それはなんといいますか……」

 

 アクアは少しバツが悪そうに答えた。

 

「仮面ライダーの最終フォームはアイテムがあれば成れるもんじゃないの。ブレイド本編だって封印されたアンデッド達が剣崎の想いに応えて変身出来たのよ。だから……」

「だから、ハチマンもそんな簡単にキングフォームになれると思わなかったと」

「まあ……そういうことです、はい……」

 

 たしかにそうだ。仮面ライダーの最終フォームなんてそうそう簡単に手に入りそうな力ではない。

 

「まさか本当に最終フォームになるなんて誰も思わなかったのよ。せいぜい本来のキングフォーム程度かなって。だけど現実は……」

「……キングフォームになった上に全部のアンデッドと融合したからな」

 

 ああ、本当に……本当に悲惨な結果だ。

 ジョーカー化まであと数回。下手に変身すればジョーカー化は不可避。……本当に厄介な特典だ

 

「あ、ちなみにジョーカー化しても願いは聞き届けられるわ。その後神界にスカウトされると思うけど」

「……でも帰れないんだろ?」

 

 なんかあの人言ってた。ジョーカーになると帰れなくなるって。

 

「一時的には帰れるわよ。期限付きだけどね」

「……?」

 

 意味が分からないという顔をすると、アクアは出来の悪そうな子を見るような目で俺を見た。

 おいやめろ。知能は俺の方が高いんだぞ。

 

「神があんな神秘も魔法もない世界に降りていいわけないじゃない。……まあ、人の寿命程度はいても許されるわね」

「ふ~ん。じゃあ帰れるも同然じゃねえか。なんで帰れないなんて言ってんだ?」

「そりゃ人間じゃないことを隠して生きなきゃいけないもの。家族にも友達にも恋人にも。キツイでしょうね」

 

 ……あの人、前の世界ではボッチだって言ってたからいけるんじゃね?

 

「……じゃあ、ジョーカー化のデメリットってなくね?」

「そうよ、何今更言ってるのよ?」

 

 やはりそういうことか!

 統制者のいないこの世界ではジョーカー化の欠点は存在しない。むしろ、不死になる上に更なる力を手に入れられる。

 それどころか、神になれるのだ。ただのアンデッドなら迫害されるかもしれないが、神ならチヤホヤされる。

 というかあの人は神になるべきだ。こんな駄女神が存在するのだからあんあ英雄みたいな人か神になれば俺ゼッタイ信仰するわ。

 

「それじゃあ、あの人にジョーカー化を勧めに行くか!」

「そうよ! 神が増えたら私のボーナスも増えるわ!」

 

 その後、ハチマンにジョーカー化を勧めたのだが、すんごい微妙な表情された。

 




・ジョーカーアンデッド化
皆さんご存知ブレイドキングフォーム最大の弊害。しかしこの世界はファンタジーなので人外化なんてありふれており、統制者もいないので世界が破滅することもない。
むしろ、上位種に進化することで更なるステータスアップや強いスキルを得られる。既存の全生物を超える身体能力や身体機能、人間を軽く凌駕する高い知能や様々な超能力、そして無限に近い生命力と魔力など、神でありながら様々な肉体的な特典を得られる。
また、信仰度に左右されるが、一応神なので神の力や奇跡を起こす力なども得られる。
代償は天界の神々にスカウトされて社畜のごとく働かされる。

・神々の人事事情
神は数が多い様に思われるが、組織として運営するにはあまりにも少ない。その上神は気まぐれで真面目に働かない者が多く、エリスのようにちゃんとした神は貴重。故にちゃんと働いてくれる社畜……真面目な神を天界は常に探している。


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デストロイヤー編 サキュバスの気配

「……なんだこれは?」

 

 なんとなく町を歩いていると、サキュバスの気配を感知した。

 気配事態は薄い。不自然なほど。まるでケースか何かに閉じ込め、隙間から漏れ出たようだ。

 おそらく結界か何かで隠ぺいしているのだろう。だが、俺の鼻をごまかせるほどではない。

 

 しかし何故こんな街中に? 通常、悪魔は神の敵であり、もっと厳重な結界を張るはずだ。俺ごときが探知出来る薄っぺらい結界程度ではとっくに退治される。……まあ、リッチーが店を開いている時点でこの理屈はアクセルには通じないと思うが。

 

「行ってみるか」

 

 一瞬奇襲をかけて皆殺しにしようと思ったが、もしかしたらウィズさんんみたいな例外中の例外のパターンである可能性もある。平和的に行こう平和的に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある店の中、そこでカズマはそわそわしていた。

 ここはサキュバスが経営している店。つまりアッチ系の店だ。

 そして、そんな場所で男がすることも決まっている……。

 

「ほ、本当にどんなプレイでもいいのですか!?」

「ええ。だって夢なんですもの」

 

 この店は他の店と少し変わっている。

 ここは実際にやるのではなく夢の中でするのだ。故にどんなことでも可能。だって夢なんだから。

 

「(す、すげえ店を紹介してもらったぜ……)

 

 興奮するカズマ。彼は改めてこの店を紹介してくれたダストに感謝した。

 ではどんなプレイを希望するか。煩悩に塗れた頭で色々と考えながら筆を走らせた。

 

 

 

「……なるほど、ここはサキュバスが非公認で経営している店か」

「うっきゃ~~~~~!」

 

 突如、カズマは背中の中につららを突っ込まれたような悪寒に襲われた。

 

「なんだよ比企谷さん! いきなり声をか…け……」

 

 後ろから声をかけた人物———八幡に文句を言おうとするも、その畏気にビビって黙ってしまった。

 

「これはどういうことだ? 何故こんな場所に夢魔がいる? 事によっては皆殺しも辞さないぞ」

「え……これは……その……」

 

 八幡の殺気に気圧されるカズマ。いや、カズマだけではない。

 

「以前、俺はサキュバスに洗脳されたことがあった」

 

「奴は子供を人質にとって俺に降伏を迫ってきた。無論すぐにそれを飲む俺ではない。なんとか隙を作って反撃しようとしたのだが奴はそれを見抜いてな、逆に返り討ちになってしまったんだ」

 

「それで捕まった俺はサキュバスの洗脳魔法をかけられて悪魔化。その後色々あって奴の支配から抜け出してサキュバス・クイーンを倒したのだが、あの屈辱は一生忘れることはない」

 

 覇気を弱めながら淡々と語る八幡。しかし決してその内容は心休まるものではなあった。

 むしろ逆。彼女たちを威圧し敵か味方かを問うものだ。

 返答を誤るわけにはいかない。嘘偽りを語れば切られる。これはそういう問いなのだ。

 

「もしかして貴方が嗜虐の女王を倒したとされる英雄、ブレイドですか!?」

 

 しかし彼女たちはそんなことも知らずにただ純粋に喜んだ。

 

「う、恨まないのか?」

「恨むなんてとんでもない! 私たちサキュバスもあのアバズレには嫌気がさしていたんですよ! いつも高圧的で一般の悪魔を見下すどころか道具扱いするんです! むしろ死んでスッキリしました!」

「……」

 

 八幡は思った、魔王軍ってあまり人望がないのではないのかと。 

 

「お話は聞かせてもらっています。なんでもあの魔王幹部随一の剣士、ベルディア様を剣で倒した方だと。他にも悪辣のウィッチーなどの強敵を倒し、災禍の森などの事件も解決されたと」

「そ、そうなんだが……。マジで恨まないの? ソイツら全員魔王軍の重鎮なんだろ」

「関係ありません。私たちは悪魔というだけで魔王軍に組したつもりはありませんから。むしろ貴方が倒したのは下種ばかりですのでスッキリしています。おそらく他の悪魔もそうではないのでしょうか」

「……」

 

 マジで人気ねえな、魔王軍。

 

「それよりもどうですか一発? 貴方の精気はとても美味しそうなので特別に無料でいいですよ。……何ならここで生で召し上がってもよろしいでしょうか?」

 

 耳元でささやくサキュバス。その言葉を聞いた瞬間、八幡は彼女を一瞬で拘束した。

 

「きゃあ!? こ、こういうプレイがお好きなのですか?」

「俺は悪魔を信用しない。特に夢魔は異性を誘惑して自身のフィールドに引き込むのはお前らの常套手段だろ」

「そ、それはそうですけど私たちはこの町と共存しています!皆様の不利益になることは一切しません!」

「それはさっきのやり取りで理解した。けど苦手なものは苦手だ」

 

 そういって彼はサキュバスを解放した。

 

「どうやらこの店のサキュバスは本当に敵対する気はなさそうだな」

「も、もちろんです!」

「よかったぜ。従順なフリして裏では夢に潜り込む際に洗脳術式をかけ、準備が整い次第に暴動を起こすなんて作戦を考えてるなんて邪推しちまったぜ」

「あ、ソレあのアバズレが考えた作戦です。ご存知でしたか?」

「ああ、それが原因で戦うことになったんだ」

 

 それから彼女たちはその悪魔に関する悪口で盛り上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カズマが家に戻って数分後、八幡もサキュバスの店から戻ってきた。

 この男、ずっと倒した女悪魔の悪口で盛り上がっていたのか? あんな恰好している美女とよくそんな話題で盛り上がれるな。俺なら別のが盛り上がるぞ。

 

「ただいま……ん?なんかいい匂いがするぞ」

「あ、おかりなさいハチマン。聞いて驚いてください、今日は蟹ですよカニ!」

 

 嬉しそうに言うめぐみん。

 

「カニか。この世界でもカニは高級品なのか?」

「普通のカニではこれほど驚きませんが、今回は何と霜降り蟹です!」

「ふ~ん」

 

 席についてカニを取ってみる。

 大きいカニだ。それ以外は普通のカニに見えるがそんなにおいしいのか?

 

「実家から引っ越し祝いに送られてきた。ほら、酒もあるぞ」

「渋いな、日本酒か。……いただきます」

 

 酒はあまり飲まない八幡だが、酒好きのアクアだけでなくダクネスも美味しそうに飲んでいるので釣られて飲んでみた。

 クイッと一杯。八幡の口いっぱいに米独特の甘みと風味が拡がる。

 

「……旨いな。雑味も全くない。米をよく磨いている証拠だ」

「酒についてあまり詳しくないから分からんが、喜んでもらえたら何よりだ」

 

 続いて八幡は比較的小さなカニを選んで食した。……殻ごと。

 バリッバリッバリッ。八幡の口内から食い物が出してはいけない音が漏れる。

 

「「「・・・」」」

 

 唖然とする一同。中には痛そうに口を押える者もいる。

 お前は一体どこの王蛇だ? こんな食い方アイツぐらいしかしないぞ。その中の人もソレやって口の中切ったというぐらいだし。

 

「ぺッ。……たしかに旨いな」

 

 殻入れに向かって吐く。カランと、砕けた殻が鳴った。

 続けてカニに手を伸ばす。今度は大きめのカニだ。これなら丸ごと齧ろうとはしないはずだろう……。

 

「旨い。霜降りに恥じないジューシーさだ」

 

 ガリッガリッガリッ。カニの足をまるでうまい棒でも齧るかのようにかみ砕き、器用に殻だけを吐き出す。

 この男は長い異世界生活でカニの食べ方を忘れたのか? 普通、殻ごと食べようなんて思わないはずである。しかし彼はそうしたのだ、まるでソレが自然であるかのように。

 

 弁護する気はないが、この男は意外と舌が肥えている。未開地で強いモンスターを倒すことで、珍味をしていたのだ。だから舌は肥えているのだ。……舌だけは。

 彼の豪華な食材はサバイバルによって獲得したものなのでマナーは野蛮人並みに衰えている。だから本来の食い方を忘れてしまったのだろう。

 

「お、俺は先に寝ます」

「ん? もういいのか?」

「うん、なんか食う気なくなった……」

「そうか、こんなに美味いのに」

 

 お前のせいだよ!



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サキュバス侵入

「はあッ!」

 

 地下の訓練場。そこで八幡は再び仮想敵を用意して訓練を粉っていた。

 目の前にするは巨大な狼のようなモンスター。全長100mを超え、闘争心に溢れた眼光をギョロリと八幡に向ける。

 

 狼が動く。その巨体に見合わないスピード。それから繰り出される前足。一見すると犬のお手のような動作だが、こんなダイナミックかつ凶悪なお手があっていいはずがない。

 

 八幡は狼の爪を跳んで避け、前腕に着地。攻撃に使われた脚を逆に橋代わりに使った。

 

《マッハ》

 

 一瞬で音速を超えて前足の橋を登りきる。同時に狼の顎が八幡の目的地点を予測するかのように開かれる。そして剣を突き立てようとした瞬間……。

 

 

 

 

 

「者ども曲者よ!!」

「……今度は何だ?」

 

 突如感じた悪魔の気配と、アクアのバカみたいにでかい声によって現実に引き戻された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先ほどまでイメトレをしていたというのに、悪魔の気配によって現実に引き戻されてしまった。

 この悪魔の気配はサキュバス、しかもまだ若いものだ。そんな奴が何故アクアの結界が張ってあるここに侵入した?

 

「ったく、カズマの奴まさかマジで注文したのか?」

 

 そういえば今朝にあの店で何か書類みたいなのを書いてた気がする。……普通女がいる家でデリバリー頼むか?

 夢の中でヤるのだから問題ないと言ったらそうなのだが、それでも……ね?

 

 そもそもあのアクアだ。悪魔や悪霊が入らないように結界やら罠やら仕掛けてもおかしくない。……あ、そういや言うの忘れてたな。ハチマンうっかり。

 

「……行くか」

 

 こうなったのは俺にも責任がある。俺もその場にいたのだから何か忠告しとけりゃよかったぜクソが。

 たしかカズマは寝室にいるはずだ。風呂場で寝ていたから引揚げ、身体を拭いてやって運んだのだ。……まるで介護しているような気分だったぜクソが。

 

 気配のする方に向かう。そこにはサキュバスがアクアの仕掛けた対悪魔用の罠に捕まっており、アクアがソレを睨んでいた。

 

 さて、どうやって助けるか。

 あの子は店にいたサキュバス、しかも魔力からして新人だろう。そんな彼女が退治されるのを黙ってみるのは目覚めが悪い。

 しかしアクアは仮にも女神。悪魔を見逃すという選択肢は存在しない。……よし、アクアをぶちのめすか。

 

 いい機会だ。最初からカンストしているアクアと、この世界で培った俺の技巧。どっちが上か一度ケッチャコを付けてみたかったんだよな……。

 

「あ、ハチマン。ちょうどいいとこに来たわね。このサキュバスを一緒に倒しましょ!」

 

 バカめ、倒されるのはお前の方だ!

 木刀を腰から引き抜いてアクアに突きを繰り出そうとした瞬間……。

 

「待てアクア! お前夢の中でも邪魔する気か!?」

 

 カズマが怒鳴り出た。寸でのところで止まる木刀の剣先。

 

「な、なによカズマ……ってハチマンさっき私をぶっとばそうとしたわね!?」

「状況見ろよ。お前がいたいけな少女捕まえたようにしか見えんぞ」

「違うわよ!アレはサキュバスよ! 第一、女神である私が理由もなく捕まえるわけないでしょうが!」

「日頃の行いを振り返れ駄女神」

 

 私女神なのにとか、言っちゃいけないこと言ったとか。夜中だというのに騒ぐアクア。

 

「あれ? なんでサキュバスの子が捕まって……? じゃあさっき見た夢は……」

《リモート》

 

 混乱しているカズマを放っておいて、俺は結界からサキュバスを解放してやった。

 

「ちょっとハチマン! 何してるのよ!?」

「まあ黙ってみてろ」

 

 右手に力を集中させる。掌に青い炎が生まれ、それをサキュバスに投げつけてやった。

 

「え? ……きゃあああああああああああああああ!」

 

 炎に包まれるサキュバス。ソレはやがて中央部分から吸い込まれるかのように収縮し、炎が消えると一枚のカードが床に落ちた。

 

「なるほど、アンデッドマスターの力で再封印したということね。これなら相手の力を奪えるし浄化も出来るから一石二鳥よ!」

「ということでコイツの浄化は俺に任せてくれないか? この程度なら俺にも可能だ」

「はいは~い。全くとんだ人騒がせな悪魔だったわね」

 

 アクアは満足そうに帰っていった。

 

「さて、いい機会だカズマ。ちょっと話がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カズマに説教と結界の解除法を教えた後、俺はサキュバスを解放してやった。それでサキュバスはカズマに良い夢を見させ、俺は眠りについた。

 解放する際、サキュバスが俺の封印カードにずっといたいと言い出して一悶着あったのだが、それはそれだ。

 そんな感じで昨晩の騒ぎは解決。そして俺はカズマに葉山から紹介された大会のことを説明した。

 

「というわけで近々この大会に出たいんだ」

「なるほど。……いいんじゃない」

「悪いと思ってるが……いいのか?」

 

 予想外の返答に驚く俺。てっきり泣きつかれて反対されると思っていたのだが……。

 

「むしろ謝るのは俺らの方だ。比企谷さんはめっちゃ稼いでるのに俺らはコレだから」

「いや、お前もかなりの額稼いでるだろ」

 

 カズマの書いている本のおかげで今月分の借金が返済されている。

 

「あれはハチマンの伝記を勝手にそれっぽく書いてるだけさ。印税は普通ハチマンに入るべきだろ」

 

 俺はあんたの活躍にあやかっているだけさ。カズマはそう付け足して、どこか気まずそうに答えた。

 

「というか、八幡が何処かに行くのを止める権利なんて最初から俺らにはないんだよ。正直ハチマンのお情けでいてもらっているようなモンだし」

「そんなことはない。たしかにあの時は泣きつかれて渋々お前らについたが、ここにいることを選んだのは俺だ」

 

 たしかにあの時は思った、なんでこんなヘッポコパーティに入らなくてはならないのだと。だが、入ってみると……意外と悪くなかった。

 

 戦力はもう揃っている。一人で遠近も支援も魔法も担当出来るし、何ならアンデッドを解放して使役すればいい。だからパーティなんて組まなくてもやっていけるのだ。

 けど、騒ぐのは別だ。アンデッド娘たちも騒がしいが、打ち負かしたせいか臣下のように接する面がある。キングたちもアレだが、葉山たちに預けた点を考えてみると少し……ね?

 

 アクアの宴会芸をバカにしながらも楽しんだことが多々ある。めぐみんの爆裂魔法に呆れながらも爆発具合を楽しんだことが多々ある。……あいつらの破天荒さにため息をつきながらも、次はどうなるのか楽しみにしていた自分が確かにいた。

 

 それなりに楽しかった。時にはバカ共を止め、時にはバカ共と一緒にバカをやるのがこんなに楽しいとは思わなかった。

 前世の俺ならば内輪ノリ乙とか言いながら鼻で笑っていたであろう。……ぶっちゃけ、外から見れば今でもそう思うかもしれない。

 だが、中でしか見れない景色も確かに存在する。外からではガラクタにしか見えなくても、中にはとんでもないお宝が詰まっていることもこの世にはあるのだ。俺はずっと外からでしか見てこなかったんだよな……。

 

 というわけでこのパーティでしか得られないものはちゃんと得られた。……だから俺は無駄なんて思っちゃいない。

 

「……三日後だ。三日後俺はこの町から離れる」

「……そうか」

 

 

「別に今生の別れってわけじゃないんだ。そんなしんみりするな」

「……だな。じゃあ三日後はパァーとやりましょうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『デストロイヤー警報 デストロイヤー警報! 冒険者の方は直ちにギルドに集まってください!!』

 

『特に比企谷八幡さん! 仮面ライダーブレイドは即来て下さい!』

 

 ……俺、また何かやらかしちゃったのでしょうか?



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機動要塞デストロイヤー

やっとここまで来ました!


「デストロイヤーか……」

 

 機動要塞デストロイヤー。視察の依頼を受けたときはフワッとしか概要を聞かなかったが、改めて見るとその恐ろしさが更に際立った。

 

 元々は対魔王軍制圧兵器として古の魔道技術大国で建造されたが、とある事故のせいで暴走した巨大ゴーレムである。

 この巨大なゴーレムは蜘蛛の様な形状をしており、その大きさは小さな城ほど。

 軽量にして頑丈な魔法金属から造られた装甲で全身を覆い、外見に反して移動は機敏。八本の巨大な脚で馬以上の速度を出す事が出来る。

 踏まれればドラゴンのような大型かつ上級モンスターといえども挽肉にされ、常時最高レベルの対魔法用結界が張られているため魔法攻撃はほぼ意味を成さない。

 

 あまりのサイズ差と速度で接近戦はほぼ不可能。

 上空からの攻撃は備え付けの迎撃機で撃ち落される。

 

 デストロイヤーはまず最初に開発した国を滅ぼし、それから転々と移動しながら国々を滅ぼしたらしい。

 ソレに荒らされた事の無い地はこの大陸には殆ど存在せず、その巨大な八本の脚でどのような悪路も走破し人間もモンスターも蹂躙していく。

 

 故にデストロイヤーが接近してきた場合はさっさと諦めて街を捨てて相手が過ぎ去るのを待ち、そして再び街を建て直すのが常識となっている。

 本来の建造目的にして元来の殲滅対象である魔王軍だが、魔王城は結界に護られているのでデストロイヤーは探知できずに放置しているのだとか。結果、被害を被っているのは人類側だけ。……欠陥品ってレベルじゃねえぞバカ文明が。なんてはた迷惑なゴミ残してきやがった!?

 

 そしてそんな危険物に手を出したバカが一人……。

 

「(お、俺のせいなのかァァァァァァァァァ!!!?)」

 

 もしかしてアイツは一度崖から突き落とした俺を狙ってきたのだろうか? ……いや、違うよね? ゼッタイ違うよね!?

 

「逃げるのよ! 遠くへ逃げるの!」

「もうジタバタしたって始まりませんよ。住む場所も全てを失うなら、もういっそ魔王の城にカチコミにでも行きましょうか!」

 

 アクアは自分の持ち物を荷台に乗せているのに対し、めぐみんは小さな鞄を一つだけ横に置いている。

 

「どうしたんだお前ら。何だこの状態は? 緊急の呼び出し受けてるんだぞ、装備を整えて早く行こうぜ」

 

 デストロイヤーを知らないカズマが緊急アナウンスに従おうとしていたが……。

 

「デストロイヤーはこの街の冒険者が束になったってどうにかできる相手じゃない。一度偵察に行ったとき、ギャレンジャックフォームのバーニングショットを撃っても傷一つ付けることができなかった」

 

 ようやく事態が飲み込めたのか、顔を青くするカズマ。しかし何故か決意に満ちた表情をしていた。まさかギルドに行く気なのか?

 

「……遅くなった! ……ん、どうしたカズマ。早く支度して来い。お前ならきっとギルドへ行くんだろう?」

 

 そうして屋敷の二階から降りてきたダクネスが重装備に身を包み、そんな言葉を発した。

 

「おいお前ら、こいつを見習え! 長く過ごしたこの屋敷とこの街に、愛着は無いのか!ほらギルドに行くぞ!」

 

 カズマがメンバーを引き連れてギルドに行こうとする。

 

「……そうだな、行くか」

「おお流石仮面ライダー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こりゃヤベ~イな」

 

 ギルドに集まって話し合ったものの、なかなかいい案は出なかった。

 それもそのはず。なにせ相手は国々を破壊した実績のある粗大ごみなのだから。駆け出しが集まって何かできるならとっくに解決している。

 

 俺を担いで何とかするという意見もあったが、それもすぐになくなった。

 確かに魔王幹部であるベルディアを倒した実績があるが、アレは流石に規格外だ。

 俺もバーニングショットを撃ったものの、結界に阻まれて傷一つつかなかった。あれをどうにかするのは正直俺一人じゃ無理がある。

 

 では俺たちは何も出来ずに歯を噛みしめるしかないのか。……それは違う。

 

「店主さんだ」

「貧乏店主さんが来た!」

「店主さん、いつもあの店の夢でお世話になってます」

「店主さんが来た! 勝てる! これで勝てる!」

 

 ウィズが来ると同時に熱烈な歓声を上げる冒険者たち。

 元々ウィズは高名なアークウィザードだったらしく、この街では有名人なのだそうだ。……だったら貧乏店主はやめてやれと思ってしまったが。

 

 アークプリーストのアクアが結界の解除、そして丸裸になったデストロイヤーにめぐみんが爆裂魔法を撃ち込むという作戦らしい。

 その作戦を聞いたウィズが爆裂魔法で脚を破壊するよう提案。めぐみんとウィズで左右に爆裂魔法を撃ち込み、機動力を奪うといった感じだ

 

 確かにウィズの言うとおりだ、だったら俺は作戦を確実に遂行できるように、次のように指示した。

 

「なら俺はアクアと結界破壊をする。その後、俺がバーニングショットを爆裂魔法と同時にぶち込んでやる」

 

 最終的な作戦は、結界解除後に爆裂魔法で脚を攻撃。その後、冒険者各員が本体内に突入。

 そのための装備を事務員さんが手配。ロープつきの矢、梯子、更にはウィズの店で売っている飛行用の魔法具など、様々な物資を用意した。

 

 デストロイヤー攻略のため、冒険者や街の住人総出で街の正面のバリケードを張る。その更にジッと立ちはだかるダクネス。

 

「おいダクネス、悪い事言わないから下がってろよ。お前の固さは知ってるが、流石に無理があるし、そこにいても役に立たないって。お前のどうしようもない趣味は置いておいて、俺と一緒に道の端っこに引っ込んでこうぜ」

「私の普段の行いのせいでそう思うのも仕方がない。……が、この非常時に、この私が自分の欲望にそこまで忠実な女だと思うか?」

 

 普段と違う、決意に満ちた表情のダクネスではあったが……。

 

「思うよ。当たり前じゃん」

「むしろ何故思わないと考えている。脳に行く栄養が胸に行ってるのか?」

 

 容赦ないツッコミを受けていた。

 一瞬静かになったダクネスではあったが、そのまま話を続ける。

 

「今はまだ言えないが、私にはこの地の住人を守る義務がある。少なくとも私はそう思っている。だから……。無茶だと言われても、ここからは何があっても一歩も引かん」

「ふ~ん、あっそ」

 

 しかし俺には響かなかった。 

 

「お前の命中率はクソだが、怪力は本物だ。向こうで物資の運搬やバリケート製造の手伝いをしてくれ。………何も盾になることだけが守るってことじゃないだろ?」

「そ、それはそうだが……」

「お前の力は本当に必要としている奴に振るってやれ。それこそ貴族の役目だろ、ララティーナお嬢様」

「!!?」

 

 突然、まるで茹蛸のように顔を真っ赤にして振り返るダクネス、

 

「お・・・お前どこでその名を!?」

「さあな」

 

 それだけ言って俺は持ち場に戻った。



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デストロイヤー破壊

 ずしん、ずしんと大地を揺るがしながらアクセルの街に迫り来る機動要塞デストロイヤー。それをハチマンはギャレンジャックフォームに変身している状態で見ていた。

 こらそこ、ナヅェミテルンディスとか言わない。決して八幡は裏切ったわけじゃないから。だからオンドゥルルラギッタンディスカー!!とかも言わないで。お願いだから。

 

「あ……あばばばばばば……」

 

 まるで感電でもしたかのように震えるめぐみん。

 今のめぐみんはめぐみんがいっぱいいっぱいになっている。

 それもそうだ、自分の手に町の命運が賭けられているのだ。尋常ではないプレッシャーに押し潰されかけて当然だ。

 

「おいめぐみん、少しはハチマンを見習って落ち着けって。ミスっても誰も責めないさ。もし失敗したら街を捨てて皆で逃げりゃいいだけだ。あんまり深刻に考えるな」

「だだだだ、だいじょぶ、だいじょびでしゅ! わぎゃばくれつまほうでけっけけけし、消し飛ばしちぇくれるわっ!」

 

 それを必死に慰めようとするカズマとアクア。しかし緊張は和らぐことなく、更に増大していった。

 

『大丈夫だ。お前の爆裂は何度も見てきた。だからはっきりと言える、お前はアレを破壊できる』

「は、ハチマン……」

 

 これで少しは落ち着いためぐみん。

 

 ハチマンの強さは知っている。魔王幹部を一人で倒し、様々な強敵を打ち倒してきた彼が。

 そんな彼が言ってくれたのだ、お前は大丈夫だと。世辞ではなく本心から言ってくれたのだ。

 あの言葉に、あの目に嘘はない。それは紅魔族特有の高い知能、そして気高い感性から理解出来る。

 

「……いってやります」

 

 ならば応えなくてはいけない。同じ闇の力を探求する者として!

 

『アクア、初撃はお前がやれ』

「ええ、分かったわ!ハチマンは力を温存しておいて。そうすれば何かあってもなんとかできると思うから」

 

 そう言うと同時に飛び立つ八幡。

 クジャクのようにオリハルコンウイングを展開させ、大空へと優雅に舞い上がる。 

 

 

『冒険者の皆さん、そろそろ機動要塞デストロイヤーが見えてきます! 街の住民の皆さんは、直ちに街の外に遠く離れていて下さい!

 それでは、冒険者の各員は、戦闘準備をお願いします!』

 

 号令と共に冒険者たちは動き出した。

 

「セイクリッド・スペルブレイクッ!!」

 

 アクアの周囲に複雑な魔法陣が浮かび上がる。その手には尋常ではない魔力と神気を放つ白い光を放っていた。

 女神アクアは両手を前にかざすと気合いと共に息を吐き出し、魔法陣をデストロイヤーに向けて勢い良く撃ち出す。

 

「ハアッ!!」

 

 高速で撃ち出された魔力の光線がデストロイヤーに触れるかどうかというタイミングで、突如デストロイヤーが唸りを上げた。

 デストロイヤーの全身を覆う紋様の入った魔法陣。恐らくあれこそがデストロイヤーを難攻不落たらしめていた対魔法結界なのだろう。

 

《アブゾーブクイーン》

《リモート》

『クイーンはこういう使い方も出来るんだよ!』

 

 銃口から吐き出される解呪の力。それはアクアのセイクリッド・スペルブレイクを後押しして更に威力を倍増させた。

 機動要塞デストロイヤーを今日まで守り続けて来た結界。それは数秒ほど抵抗したものの、呆気なく硝子が割れる様に粉々に砕け散った。

 

『……良し』

 

 この作戦における最も重要なポイントを無事に越えた事を瞬時に理解した八幡が安堵の息を吐く。

 しかしまだ終わってはいない。デストロイヤーは健在である。 

 

『よし次だ! ……めぐみん!ウィズ!』

『『はい!』』

 

 テレパシーで二人に爆裂魔法発射の合図を出す。それと同時に彼も次の攻撃の準備を始めた。

 

 

《バレット》《ラピッド》《ファイア》

《バーニングショット》

 

『『エクスプロージョン!!』』

 

 目も眩まんばかりの閃光、そして轟音と爆風。

 全く同時に放たれた二人の爆裂魔法と一人の火炎連続弾。それらは長年に渡って人類に災いを齎したデストロイヤーの脚をいとも容易く粉砕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふうっ……』

 

 八幡の口からバイザー越しに安堵のため息がこぼれる。続いて、デストロイヤーの破壊されている個所に目を向けた。……誰が見ても最早走行不可能だと理解出来る損傷である。

 

 めぐみんの破壊した脚は三本。当たり所が良かったと思われる前足がギリギリ辛うじて脚としての機能を果たせそうな程度に大破。

 一方ウィズの担当した脚は四本とも破壊、綺麗さっぱり中央から消し飛ばされ、大破の箇所は融解していた。

 

 めぐみんはいつも見ているから特に驚かないが、ウィズ程のアークウィザードが爆裂魔法を放つと、ここまでの威力を叩き出すのか。八幡は感心するような目で爆発箇所を眺めた。

 

 流石は威力ばかりが無駄に高いネタ魔法として周知されているだけの事はあり、伝説と謳われるリッチーの魔力であった。

 爆裂魔法を強化する自動発動パッシブスキルは習得しているだろうが、爆裂魔法のみを追い求めるめぐみんをも超えるとは……。

 

 いや、ここはむしろ人間のまま、しかもまだ未熟の身でありながらウィズに喰らい付かんとするめぐみんの類稀なる才能を素直に認めるべきなのだろうか。……日々の被害を考えればそんな気も失せるが。

 

『よくやってくれた、ウィズ』

《ウォーター》

 

 めぐみんはカズマたちに任せてウィズの方に降り立つ八幡。

 労いの言葉を送りながら水を渡すと、ウィズは小さく微笑んでそれを受け取った。

 

「ありがとうございます。……流石に魔力をかなり持っていかれちゃいましたね」

『大丈夫だ。何かあれば俺が戦う』

「ふふっ、ありがとうございます。……やはり少し魔力を込めすぎましたかね? やっぱりブランクがあるとここら辺の見極めと調整が甘くなっちゃいますか……」

 

 そんなことはない。確かに若干オーバーキル気味だが、そんなことはどうでもいいのだ。

 何せ今回の作戦は相手の情報が少なすぎる。今まで結界が解除されたことがないため相手の耐久力がどの程度か調べる手段が存在しないのだから。

 故に手加減なんてする必要などないし、逆にしない方が正解だ。もし加減して破壊できなければ悲惨な結果が待つことになるのだから。

 

『……ではいくか』

 

 デストロイヤーの脚を破壊したからには次は突入、制圧、そして強奪の時間である。

 目の前にある巨大な兵器は要塞でもある。古代文明の遺産や資料、運が良ければ金銀財宝などがある可能性がある。ならば狙わない道理はない。

 

『(これで大発見があったら借金なんてチャラどころかデカい御釣りがくるぜ!)』

 

 そんなどこぞの駄女神のようなことを考えていると、カズマとアクアに遭遇してしまった。。

 

「あれ? めぐみんさんは一緒じゃないんですか?」

「アイツはぶっ倒れたから上で休ませてるよ。爆裂魔法撃った後はいつも倒れてるから心配はいらない」

「いやまあ、確かに爆裂魔法は尋常じゃなく魔力を消費しますけど。それにしたって一発撃つだけで倒れるのは無茶しすぎですよ……」

「いつもの事だから俺は慣れたけどな。俺としてはむしろあれだけやったのにこうしてぴんぴんしてるウィズに軽くびびってる」

 

 爆発による煙が収まり、無残に破壊されたデストロイヤーがその姿を顕にする。それでようやく状況を把握し始めた冒険者達から感嘆の声が聞こえ始める。

 そんな中、デストロイヤーが完全に沈黙したと判断したのか女神アクアが大声をあげた。

 

「…………よし、やったわね!」

『「(それフラグ……!)」』

 

 ウィズと歓談していたカズマ八幡がビクリと身体を震わせた。

 他にも何度も何度も『やったか!?』『帰ったらパーティーでもやろうぜ!』『これが終わったら結婚するんだ』などの不穏な言葉を連呼する輩もいる。

 

「……揺れてる?」

 

 誰かがポツリと呟く。

 誰かは分からないしどうでもいい、それよりも重大なことがあるのだから……。

 

 

 

『この機体は、機動を停止致しました。この機体は、機動を停止致しました』

 

『排熱、及び機動エネルギーの消費不能。搭乗員は速やかに、この機体から離れ、避難してください』

 

『この機体は……』

 

 

 突然デストロイヤーから流れ出した警告メッセージ。そして不穏なワードの数々……。

 

 

「ほら見ろこの馬鹿! お前が変な事言うから大変な事になっただろこの馬鹿女神!! どうすんだよこの馬鹿!?」

「待って、ねえ待ってよ! そんなに馬鹿馬鹿言わないでよカ! 今回私まだ何も悪い事してないわよ!? 濡れ衣よ冤罪よ!!」

 

 少々状況は悪い方に傾いてしまったようだが、やる事は何も変わらない。

 

「……行くんですね?」

『……』

 

 何も言わない。答えるまでもない。

 

 他の全員が逃げ出そうとも、彼は一人でデストロイヤーに突入して制圧するつもりだった。

 自分のせいであのデカブツはこの町に来たのかもしれない。ならさっさと潰して隠ぺいしなくては。そして賞金を得て借金をチャラに……!

 

 善は急げとばかりに、八幡は何度も警告音を繰り返すデストロイヤーに向かう。……一切臆する事無く。

 

「待っ……私も……!」

 

 背後から聞こえる、呼び止めんとするウィズの声を置き去りにして。

 我先にと逃げる冒険者たちを、バリケードを飛び越える。その道中、ギャレンの気配に気付いたのか、ダクネスが振り返った。

 

「行くのか? ……いや、皆まで言わなくてもいい」

 

 擦れ違い様にそんなダクネスの声が聞こえた気がした。

 ギャレンはそれを無視して、一跳びでデストロイヤーに飛び移る。そして入り口らしき門を蹴り飛ばし、無理やり開けて中に入った。

 

 中は意外とかなり広い。ギルドの建物を丸々入れてもあと数回分は残っているほどだ。

 おそらくここは格納庫か何かであろう。……それは目の前を見ればすぐに理解できる。

 

 群がる無数の小型ゴーレムや戦闘用のゴーレム。それらは侵入者を撃退せんとすべくギャレンの前に立ちはだかっている。

 ウィーンと、天井が開かれる。おそらく出撃準備だろう。……ここで食い止めなくては町に被害が出る。

 

『……チッ。多いな』

 

 舌打ちするギャレン。内部にゴーレムの製造ラインでもあるのかもしれない。一体一体破壊していく時間など無い。

 

《ファイナルベント》

 

 突如、ラウザーと似たような機械音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てと言っているだろ! 放置プレイも悪くないが、そういうのは時と場所を考えて……きゃあ!!?」

 

 ちょうどいいとこに肉壁がやってきた。なのでクネスの髪に蜘蛛の糸を絡め、無理やり手元に持ってきて構える。

 

 

 

 

 

「んあああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 レンゲルはダクネスでガードベントした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鋼鉄の猛牛から吐き出される弾丸と爆弾の嵐。それはギャレンだけでなく、近くにいるゴーレムや備品をも巻き込んで爆発した。

 爆発する格納庫の全域。格納庫だけでなくデストロイヤーが派手に揺れ、窓や入り口から急膨張した空気が爆風となって外に溢れた。

 凄まじい威力だ。めぐみんの爆裂魔法とはいかないまでも、同レベルの威力。もしこれをアクセルで使われたら、甚大な被害を齎すことになったであろう。

 

 爆炎が晴れて視界が少しだけ元に戻る。

 格納庫の中はボロボロになっており、ほぼ焼け野原状態だ。

 

『中々使える盾だな』

「はぐッ……んん……あんッ……ああ!!」

 

 ボロボロの盾で爆撃を防ぎながら、銃弾を鋼鉄の猛牛の銃口に向かって放つ。

 正確無比な射撃。ラウズカードを使わず、己の勘と銃の腕前のみでソレを行った。

 銃弾は全て命中。発射しようとしていたミサイルに当たり、爆発して猛牛にダメージを与えた。

 

《マッハ》《キック》

 

 邪魔になった盾を投げ捨て、マッハとキックの力で急接近するギャレン。

 ミサイルや爆弾を超高速ジグザグで走りながら避け、射程距離に入ったと同時にジャンプ。空中で一回転し、足を突きだして鋼鉄の猛牛に蹴りを叩きこんだ。

 

『ブモオオオオオォォォォォォォォ!!?』

 

 蹴りが直撃することで大爆発。華麗に着地し、捨てた盾を無視して奥に向かった。

 

「わ、私を盾にするなんて……」

『近くにいた……お前が悪い』

 

 おい、お前はどこの凶悪犯だ。というか近くなかったし。

 

 そんなふざけていたことをしていると、吹っ飛ばされたはずのゴーレム達が再び立ち上がった。

 ギャレンが床に目を向ける。そこにはギャレンのファイアショットを防いだ結界と文様が拡がっていた。

 どうやら先ほどの爆撃の瞬間、デストロイヤーを守護する結界と同じもので防いだらしい。

 しかし、どうやら一回だけの使い捨てらしい。そこからは何の力も感じられなかった。

 

『……はあ~。流石に味方ごと吹き飛ばすバカではないか』

 

 めぐみんじゃあるまいしと付け足しながら構えるギャレン。襲い掛かるゴーレム共を迎え撃とうとした瞬間……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で……デコイ!」

 

 捨てたはずの盾がまた役に立ってくれた。

 

「わ、私に任せて先に行け! 私の事は気にするな!!」

 

 ギャレンの道を切り開かんとするダクネスの台詞は、まさに騎士の鑑と言える程立派なものだった。……鼻息を荒くし、瞳を情欲に濡らしていなければの話だが。

 ぐへへへへとゴーレムを前に笑うダクネスはこんな時でもいっそ清々しいまでにいつも通りだった。

 

『じゃ、後は任せた』

 

 囮になってくれるというのであればありがたい。本人が置いて行けと言うので、ギャレンは遠慮なくダクネスを置いて行く事にした。

 

「くうっ……! いいぞ……いいぞ、己の目的の為ならば一片の躊躇も見せずに利用する様! 盾に使い、囮に使い、欲望のはけ口に使う様は鬼畜そのもの!! それでこそ英雄ハチマンだ!!」

 

 ダクネスに狙いを定めたゴーレムを無視して先に進むギャレンにダクネスがそんな事を言った。

 間違ってはいないが、見捨てるとは随分と酷い言い草である。……盾にしたことは弁明出来ないが。

 

『……少しは助けてやるか』

 

《ジェミニ》

 

 ゼブラアンデッドの力で分身を創るギャレン。

 

《ジェミニ》

 

 もう一度分身を作って4体に増える。

 

《ジェミニ》

 

 8、16、32と。分身を創り出すギャレン。しかしまだ足りない。

 相手の数は千を優に超える。いくらギャレンジャックフォームが強かろうと、この数の差は覆せない……。

 

『『『行くぞ!』』』

 

 しかしやらなくてはならない。でなくてはこの町が滅んでしまうのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「も……もうだめだ!」

 

 デストロイヤーが動き出した瞬間、冒険者たちは恐怖と混乱に陥った。

 貧乏店主と頭のおかしい子が全力を出した。町の英雄が舞い上がった。だというのにあの要塞は落ちなかった。

 もうダメだ。おしまいだ。

 

「も……もう無理!あんな化物が相手だともう勝目ありません!」

「お……終わった……」

「お…お助けくださいエリス様!!」

 

 あるものは腰を抜かし、あるものは武器を落とし、あるものは神に祈る。

 完全に戦意喪失。いやそれ以下だ。もう生きる気も放棄しかねなほどの敗戦オーラだ。

 

「し…仕方ねえさ。俺たちは十分戦ったんだ・・・」

「いいや、まだだ!」

 

 絶望オーラが満ち溢れる中、一人の少年が立ち上がった。

 

「まだ師匠は戦っている! なのに僕たちだけ逃げるなんて許されるはずがない!!」

 

 立ち上がったのはミツルギキョウヤ。かつてハチマンにコテンパンにされた少年である。

 

「皆、あれを見るんだ!」

 

 ミツルギが指さす方角に目を向ける。そこには、ギャレンの分身たちが必死に戦っている姿があった。

 

 

「す…すげえ・・・」

「あんな高性能なゴーレムの大群をこんなあっさりと・・・」

 

 冒険者たちはギャレンの奮闘ぶりに感動する。

 明らかに高性能な戦闘用ゴーレムたちを一発で撃ち落とす見事な腕前。あの段階に到達するまでどれほどの年月が、そしてレベルを上げなくてはならないのか。

 

 何度も思った、あの漢はこんな町で収まる器ではないと。

 

「何をしているんだ!? 師匠があんなに戦ってるのに、君たちはもう怖気づいたのか!?」

 

「若い戦士が戦ってるのに震えるなら冒険者なんてやめてしまえ! 僕はたとえこの町が滅びようとも、あの人が戦い続ける限り諦めない!」

「「「・・・」」」

 

 その言葉に冒険者は何も言い返せなかった。

 そう、これはギャレンだけの戦いではない。この町にいる者全員の戦いなのだ。

 

 この町は誰の町だ? ギャレンだけのものか?……違うだろ、俺らの町じゃねえか!!

 

「そうだ……俺たちの英雄はまだ戦っている!」

「あんなに若い兄ちゃんが必死こいて戦ってんだ。ベテランの俺らが隅で震えてるとかダサすぎるぜ!」

「ああ、やってやろうじゃねえか!」

 

 まだ俺らにもやれることがある。まだ俺らの戦いは終わっちゃいねえ。冒険者たちは総意気込み、再び手に武器を取った。

 

「……やるぞ、俺は」

「……俺も。もうレベル30も超えているのに、なぜ未だにこの駆け出しの街にいるのかを思い出した」

「むしろ今まで安くお世話になって来た分、ここで恩返しできなきゃ終わってるだろ!」

 

 

 

『機動要塞デストロイヤーに、乗り込む奴は手を挙げろー!!』

 

 突然、カズマが拡声器を手に大声を張り上げた。

 

『小型のゴーレムを打ち倒せ! 強い奴は英雄が倒してくれる!俺らはあの小さな奴を倒すんだ!……俺らで英雄の手助けを、英雄の伝説を特等席で見てやろうぜ!!』

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」

 

 野太い冒険者たちの雄たけびが響き渡る。……戦いはまだ終わってはいない!



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小型ゴーレム襲来

小説版ではデストロイヤーを守るゴーレムがいたらしいですね


『おおおおおおお!』

 

 空中に舞うギャレンジャックフォームの分身たちと小型の戦闘ゴーレム。

 数体ものゴーレムが一人のギャレンジャックフォームの分身に群がって攻撃する。

 

 弱い相手はダクネスや冒険者たちに押し付け、ギャレンの分身たちはその中でも強い相手を担当していた。……それでも相手はかなり多い。

 

 数があまりにもバカげている。他の冒険者たちが半分以上を引き受けているというのに、ギャレンジャックフォームが三十体もいなくては釣り合わないほどの大群。……これらを創った奴はよほどのバカである。

 

『はあッ!』

 

 奮闘するギャレン。遠くにいる敵は銃弾で撃ち落とし、接近する敵は刃で切り裂き、蹴撃で沈める。

 

『っぐ!』

 

 しかし、無双タイムも長くは続かなかった。

 突如現れたゴーレム。それは通常のゴーレムよりも数段性能が高い。

 先ほどまでのゴーレムが戦隊モノの雑魚だとすれば、この機体は怪人クラス。それほど実力に開きがあった。

 

『はあッ!』

『■■!』

 

 お互い銃でけん制し、すれ違うと同時に剣を振るう。

 銃声を鳴らしながら打ち出される弾丸と、ガキンガキンとぶつかり合う刃。

 二人の力はおそらく互角。この戦闘、少しでも隙を見せた瞬間にやられる……!

 

『くたばれ!』

『■■■!』

 

 ゴーレムは機械音を出しながら、ギャレンは気合を込めた声を出しながら。両者は空中でチェイスを繰り広げた。

 

 戦いはまだまだ続く……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くらえ!」

 

 魔剣グラムを振るうミツルギ。彼の剣は目の前のゴーレムを切り裂き、爆散させた。

 彼の斬ったゴーレムは上級モンスター並みの性能であった。それをあっさりと倒せるあたり相応のレベルなのだろう。

 しかし、頭はちょっと足りなかった。

 

「!?」

 

 先ほどのゴーレムが蘇り、ミツルギに後ろから襲い掛かる。完全に油断していた彼はそのままやられるかと思いきや……。

 

『よそ見するな』

 

 ギャレンの分身によって救われた。

 銃弾を放ち、まだ修復しきってない部分を破壊。そしてアンデッドマスターの力で封印カードを生み出し、ゴーレムを封じた。

 

『一定の性能以上のゴーレムはデストロイヤーから何らかの供給を受けている。だから何度倒しても復活するから……』

「師匠が封印するんですよね。それで供給を絶って二度と復活しないようにすると」

『……本当に分かってるのか?』

 

 この説明は二度目なのだが、本当にミツルギが理解しているのかギャレンは半信半疑だった。

 

 ゴーレムの供給システム攻略法。これはかつて聖杯を特典にした転生者との戦いで編み出したものだ。

 倒されたサーヴァントは消滅することなく聖杯に還ってしまう。故にエネルギーを与えればまた復活してしまうのだ。よってサーバントを封印して聖杯に還元するのを阻止し、戦力を削ぐという作戦を実行した。

 

『というか何だその師匠というのは』

「何度も言ってるじゃないですか。貴方の元で色々と学ばせてほしいんです」

『……はあ~』

 

 これで何度目のやり取りだろうか。ギャレンは……八幡は何度も師匠でないというのに、その呼び名を直さないのだ。

 

 ミツルギは悪い男ではない。この間、パーティメンバーがひどいことをしたというのに、自分に非があると逆に謝るような好青年だ。

 しかしこの男、人の話を聞かない。まるでどこぞのオンドゥル星人並みだ。故にギャレンは困っているのである。

 

「では次を倒しましょう!」

『……はあ~』

 

 分身はため息をついて他のゴーレムを倒す作業に戻る。

 おふざけタイムはここまでだ。こっからは……シリアスだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ないわ~。マジないわ~』

 

 その頃、本体であるギャレンは機動要塞デストロイヤーの制御室で不貞腐れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どけ』

 

 雑魚を蹴散らしながら一直線に進むギャレン。

 他の冒険者達もデストロイヤーの胴体に乗り込んできたようで、あちらこちらから戦闘音や炸裂音が聞こえてくる。

 

 ふと後方を見渡せば最前線では町の中でも特に強い冒険者たちが活躍している。その中にはゆんゆんやキョウヤもいた。……キョウヤの奴、ちゃんと剣を取り返したんだな。

 この分ならばゴーレムの駆逐はあっという間だろう。ギャレンはそう決断して探索に意識を戻す。

 

 ギャレンラウザーを振るい、ディアマンテエッジで目の前の扉を切り裂く。

 流石は高熱放射と高周波振動で切れ味を倍増させたヒーティング・エッジの性能を搭載した超兵器だ。

 

『……なんだこれは?』

 

 ……その先にあったのは、白骨化した人の骨。

 

 猛烈に嫌な予感を感じ始めたあなたが部屋の中を見渡せば、大きめの机の上に乱雑に積み重なった無数の書類の山と、書類に埋もれた一冊の手記を見つけた。

 

 長い年月が経っているにも関わらず書類も手記も一切風化している様子を見せていないのはデストロイヤーを製造したノイズ国の高い技術力の賜物なのだろうか。

 書類を数枚流し読みし、手記を手に取った所で何者かの怒鳴り声と足音が聞こえてきた。どうやらアクセルの冒険者達がやって来たらしい。

 

 手に取って目を通す。

 もしかすればデストロイヤーの取説か何かかもしれない。ならば何処かに自爆装置停止のヒントが……。

 

『……はあ~』

 

 しかし、その内容はとても古代文明の遺産とは思えないものであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ないわ~。マジないわ~』

「……え? 何があったの?」

 

 八幡が一人でデストロイヤーに突撃した数分後。ある部屋に到着すると、そこでは八幡が椅子に座って不貞腐れていた。

 一応何があったのか聞いてみる。すると彼は反対側の椅子を指さした。

 そこには寂しげに椅子に座り白骨化した人の骨があった。

 

「成仏してるわね。アンデッド化どころか、未練の欠片もないぐらいにそれはもうスッキリと」

「いや、未練くらいあるだろ。こんなの作って一人で死んでるんだから」

 

 その後、アクアが机に埋もれた手記を見つけた。おそらく、座っている遺体が生前書いたものだろう。その手記をアクアが読み上げる。

 

「国のお偉いさんがまた無茶言い出した。こんな予算で機動兵器を作れと言う。無茶だ。それを抗議しても聞く耳持たない」

 

 ……デストロイヤーを作った経緯か。低予算で作ったから、どこかに欠陥があって暴走したのか?

 

「設計図の期限が今日までだ。どうしよう、まだ白紙なんて言えない。悩んでいると突然紙の上に俺の嫌いな蜘蛛が出た。悲鳴を上げながら、手近なもので叩き潰してしまった。用紙の上に。もうこのまま出しちまえ」

 

「設計図が予想外に好評だ。ドンドン計画が進んでる。どうしよう」

 

 ……おい、設計図それで通るのか? 提出する方もアレだが、受理するほうもおかしいだろ! それとも、外観のデザインだけでよかったのか?

 

「――動力源をどうこう言われたけど知るか。そんなの永遠に燃え続けるとか言われている、伝説級の超レア鉱石コロナタイトでも持って来いと言ってやった」

 

「――持ってきちゃった。どうしよう、本当に持ってきた。マジでどうしよう。これで動かなかったら死刑じゃないの」

 

 ……なんか話がおかしな方向に行き始めてるな。なんとなくこの後の展開が予想できそうな……。

 

「――現在只今暴走中。これ俺がやったと思われてる。畜生、国お偉いさんも国王も、みんなクソッタレだ! こんな国滅んじまえばいいのに」

 

「――国滅んだ。やべぇ、滅んじゃったよ! ヤバイ、何かスカッとした! 満足だ。俺、もう満足。よし決めた。ここで余生を暮らすとしよう。だって降りられないしな。止められないしな。これ作ったやつ絶対馬鹿だろ。……おっと!これ作った責任者、俺でした!」

 

 ……すごい開き直りっぷりだ。ここまで来ると清々しいな……。

 というか……。

 

「「「舐めんな!!」」」

 

 それは聞いた瞬間、俺たちは同時に怒鳴った後、あまりの馬鹿馬鹿しさとどうしようもなさに崩れ落ちたくなってしまった。

 

 なんだそのポンコツっぷりは!!? 設計も欠陥、造った連中も命令した奴も頭おかしい、こうなって当然じゃねえか!!

 

 手記を聞き終わり、微妙な雰囲気の俺達ではあったが、コロナタイトがある中枢部へ移動した。コロナタイトは鉄格子で囲まれていたが、それを壊して近づく。

 アクアがもう呆れたような感想をもらしていたが、構わずコロナタイトに近づいた。



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デストロイヤーの最後

「これがコロナタイトか。ってか、これどうすりゃいいんだよ」

 

 今も機動要塞デストロイヤーに動力を供給し続けているであろう、爛々と赤く燃える球体。

 永遠に燃え続けると言われている伝説の鉱石、コロナタイトが安置されている。

 

 ウィズに聞いた所、売れば億は余裕で超えるらしい。いうまでも無く貴重品である。

 

『(……どうやって俺のモノにしようか……)』

 

 無論、ギャレンはこの石を持って帰るつもりだった。

 当然である。デストロイヤーを動かし続ける動力原。これを使えばもしかすればキングフォームにならなくても魔王を倒せるのかもしれないのだから。

 

 しかし持って帰るのはいいが一つだけ問題があった。

 こうして少し離れた場所からでもコロナタイトの熱が伝わってきており、融解寸前状態なのだ。

 

「えっと、コロナタイトは暴走状態でエネルギーも十全どころか破裂寸前です。なので乱暴に取り出そうものなら恐らく……」

「この要塞事ぼんってなるのか。取り出すような装置も無いし、どうしたもんかな……っとそうだ」

 

 何か閃いたのか、おもむろに右手を突き出すカズマ。

 

「スティール!」

「……今すぐ手を離してくださいカズマさん!!」

「……へっ? って熱!?」

 

 ウィズの叫びを聞いた瞬間、ギャレンは反射的にカズマを抱えて後方に跳ぶ。

 ぐえっというカエルの潰されたような声が聞こえた瞬間、ゴトリという重い物が地面に落ちた音がした。

 

「ごほっごほっ……な、なんだ? 何があった!? 一瞬なんか滅茶苦茶熱い物を持った気がしたんだけど!?」

「あのままだとカズマの手に直接コロナタイトの熱が当たるから、無理矢理引っ張ってスティールの発動場所から逃がしてくれたのよ。

 カズマって普段は悪知恵が働くと思ってたんだけど、意外と馬鹿なの?」

 

 反射的に動いたのでまるで意味が分からなかったが、どうやらウィズの発言はそういう意図の下に行われたものだったらしい。

 そんなウィズはコロナタイトに慌てて魔法をかけていた。

 

「フリーズ! フリーズ! ……すみません、コロナタイトに氷魔法をお願いします!!」

《ブリザード》《スクリュー》

《ブリザードゲイル》

 

 初級魔法を使ってコロナタイトを冷やそうとするウィズ。それを見たギャレンはアンデッドの力で急速に冷凍させた。

 氷の膜が瞬時にコロナタイトを覆い、なんとか鎮火した。

 しかし氷の中で爛々と燃えて膜を徐々に溶かしていく。これでは溶けるのも時間の問題だ。

 

『クソ! ……おいアクア、お前の水魔法でコレを冷却できないか!?』

「え!? ……む、無理よ! こんなに熱いと水蒸気爆発しちゃうわ!」

『……クソが』

 

 デッキからスペードの10、タイムのカードを取り出しってスラッシュ。すると時間が停止し、爆発の猶予が出来た。

 

『俺が時間を止めた! その間になんとかするぞ!』

「わ、分かりました! テレポートで何処かに飛ばしましょう!」

 

 ウィズはギャレンの手を掴み、潤んだ瞳を向ける。……状況的には告白シーンに見えるが、ギャレンは勘違いするようなタマではない。

 

「ハチマンさん……吸わせて、もらえませんか?」

『分かった、吸いすぎるなよ』

「はい、ではいただきます!」

 

 そういってウィズはギャレンから魔力を吸い取った。

 

「す……すごいです……。神気と生命力に溢れているというのに、アンデッドを拒絶しない温かさ。り、理想の精気です……」

『おい、そろそろいいだろ。時間がない』

「もうちょっと……もうちょっとだけ……。ああ……とってもおいしいです! 全財産叩いてもいいですから全部吸いたいです!!」

『ジカンガナイタリッタルラロー!(時間がないと言ってるだろ!』

「ひい!すいませんすいません!」

 

 ギャレンのデコピンで現実に戻されたウィズ。

 

「わ、分かりました……。けど座標を指定しないと、下手すると人間が密集しているとこに飛ばしてしまうかも……」

「大丈夫だ! 人間がいないとこなんてこの地球上何処にでもある! 俺は運がいいんだ、なんとかるはずだ! もし何かあれば俺が責任取るから!」

「そ、そうですか。ではテレポート!」

 

 時間停止解除と同時にウィズのテレポートが発動する。こうしてコロナタイトは無事転送された。

 

「…………大丈夫、だよな?」

「……みたいね」

「終わったああああああぁ……」

 

 コロナタイトという目に見える脅威がようやく消えた事でカズマがその場に座り込んだ。

 

「さぁカズマ、こんな辛気臭い場所からはさっさとおさらばして今度こそ帰って宴会よ! 二人は約束した高級なお酒を奉納する事を忘れない事!!」

『何を言っている? 折角の古代文明の遺産だ。そこらへんを漁れば古代文明の利器の一つや二つ、発掘出来るかもしれないぞ』

「いいわねソレ! じゃあ早速漁ってみようかしら!」

 

 まるで墓荒らしのようなことをほざく二人。そんな彼らにバツが下ったのだろうか……。

 

 

「な……なんだ!?」

 

 突如、要塞が揺れ動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《サンダー》《ビーム》

《ライトニングビーム》

 

 分身の一体が荷電粒子砲をゴーレム目掛けて放つ。

 迎え撃つかのようにビームを放つゴーレム。それは数秒ほど拮抗し、やがてゴーレムが貫かれた。

 

《ショット》《トルネード》

《サイクロンショット》

 

 分身の一体が風の散弾をゴーレム目掛けて放つ。

 それはゴーレムの集団に当たり、数体のゴーレムをスクラップに変えた。

 

《ファイア》《ボム》

《バーニングボム》

 

 分身の一体が火炎の爆弾をゴーレム目掛けて放つ。

 それはゴーレムの集団に当たり爆発。数十体のゴーレムを爆散させた。

 

《アシッド》《スプラッシュ》

《アシッドレイン》

 

 分身の一体が酸のシャワーをゴーレム目掛けて放つ。

 それは数百はある小型ゴーレムを溶かした。

 

《スラッシュ》《エクステンド》

《エクステンデッドエッジ》

 

 分身の一体が刃を伸ばして周囲のゴーレムを切り裂いた。

 

『……よし、大分片付いたな』

 

 上級ゴーレムたちを破壊した後に封印していく分身たち。

 ゴーレムの討伐は順調だった。強いゴーレムは封印して弱いゴーレムはそのまま倒す。これを繰り返すことで千体はいたゴーレムがやっと一桁になってきた。

 残すは後一体。分身とはいえギャレンジャックフォームと互角のゴーレムのみ。

 

《ファイア》《ドロップ》《ジェミニ》

《バーニングディバイド》

 

 空高く舞い上がった後、猛スピードで急降下。途中、フェイントやジグザグ移動などを行って敵を混乱させた。

 スピードを緩めることなく、空中で大回転しながら分身。炎を脚に纏い、強烈なドロップキックを最後のゴーレムに叩きつけてやった。

 

『ΦΧΔΟΨΩαΩΣν!?』

 

 意味不明な機械音を立てながら爆散するゴーレム。それ目掛けてカードを翳し、無事封印した。

 

 終わった。これでゴーレムは全て片付いた。

 デストロイヤーもエネルギー源を奪われて自爆する心配もなくなった。……俺たちは勝ったのだ。

 

 

 

 と思いきや、デストロイヤーが再び動き出した。

 

 

 

 

 脚を失い、動力炉を失い、それでもデストロイヤーは終わっていなかった。

 なんとゴーレムを全て倒したのを見計らったかのようにデストロイヤーが再び振動音と共に震え出したのだ。

 ここまでしつこいといっそ感心してしまう。神か何かが悪戯しているのか?

 冒険者たちもそれに気づいて逃げ出す。

 

「っていうか何が起きてんの!? さっきまでは確かに停止してたしコロナタイトもちゃんとぶっ飛ばしたじゃない!!」

「こ、これは恐らくこれまでデストロイヤーの内部に溜まっていた熱が外に漏れ出そうとしているんです。このままでは街が火の海に……!」

「あーあー聞きたくなーい聞きたくなーい!!」

 

 デストロイヤー内部で騒ぐアクアたち。

 ここからアクセルの町までの距離は相当に近い。

 仮にここから脱出しても、この巨体が爆発してしまえば被害は甚大なものになってしまうだろう。

 

「あ、あの……! あなたの魔力を分けてもらってもいいですか……?」

『いや、それよりも確実な方法がある!』

 

《ブリザード》《スコープ》

《スナイピングフリーズ》

 

 天井を突き破って高く舞い上がるギャレン。

 空中を飛んでいるのはギャレンだけではない。分身たちも同じように舞い上がり、同時に同じ地点へと銃口を向けた。

 

『『『これで本当に終わりだ!』』』

 

 ギャレンの銃口から、分身たちのから。冷気を圧縮した弾丸が吐き出される。

 それはデストロイヤーの熱源にそれぞれ命中。弾丸は周囲までも凍らせ、爆発を食い止めた。

 

『お……終わった……』

 

 ゆっくりと地面に降り立ち、変身を解く八幡。それと同時に分身たちも消えた。

 

 終わった。今度こそ終わった。今度こそ戦いは終わったのだ。

 これ以上はもう立てない。というか勘弁してくれ。俺は絶対戦わないぞ。

 寝ころんだ状態でハチマンはそんなことを考えていた。

 

「ちょおーっと待ったあああああ!!」

 

 

 

 突然の乱入者に場の全員の注目が集まる。モヒカンの男に背負われてやってきたのは……。

 

「真打ち登場っ!!」

 

 爆裂魔法に人生を捧げた、紅魔族のアークウィザードだった。



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デストロイヤー討伐の報酬

やっと……やっとデストロイヤーを攻略しました!
でも結果はご存知の通り……。


「……で、結局最後の美味しい所はめぐみんさんが持っていったと」

 

 数時間後、ギルドの受付。そこでハチマンはルナさんに今回の報告をしていた。

 

 あの後、突然現れためぐみんはカズマを通してハチマンから大量の魔力を吸い取り、見事に爆裂魔法でデストロイヤーを粉砕してみせた。

 魔力を送るのはむしろアクアの方が相性的に良かったのだが、悪の力を使いたいという謎の拘りによりアンデッドマスターであるハチマンが魔力を供給する事になったのだ。

 

 しかしそのお陰とでも言えばいいのか、アンデッドの魔力でブーストされた爆裂魔法はウィズのを凌駕する威力でデストロイヤーを粉砕してみせた。

 かくして難攻不落の機動要塞は消滅し、駆け出し冒険者の街アクセルは崩壊の危機を乗り切る事に成功したというわけである。

 

「そういうことで報告は以上です」

「そうですか、ありがとうございます」

 

 事務的な手続きを終えたハチマン。

 

「あ、あの……よければこの町を救っていただいたお礼として、私の家に……ご馳走に来てくれませんか?」

「……え?」

 

 突然、女性からのお誘い。それに八幡はつい動揺してしまった。

 いくら歴戦の戦士といえど彼は男の子。いや戦士だからこそ、その宝山に惹かれる。

 

 普段は硬派を気取っているが、やはりそういったことに興味があるお年頃。言葉以上の何かを期待してしまうのは仕方ないことだ。

 あと、これは余談だが八幡は悪魔の力のせいでアッチの欲望が強くなってしまっている。故に本能の化け物が理性の化け物を食い殺してしまうことが多々あるのだ。

 

「それはまた機会があれば」

 

 しかし理性の化け物の名は伊達ではない。暴れる欲望を押し殺し、見事硬派な男を演じきった。

 男とはかっこつけな生き物である。中学の頃と今とでは恰好の付け方が違うだけで、根本は一緒だ。……まあどうでもいいことだが。

 

 バサリと、コートのようなマントを翻してその場から去ろうとするハチマン。その袖を、ルナは弱弱しく摘まんで彼を止めた。

 

「……やはり行くのですか、例の大会に」

「はい」

「そう……ですか」

 

 葉山が紹介した例の武闘大会。それはあまり良い噂のないものだった。

 当然だ、騎士団だろうが犯罪者だろうが、参加資格を問わない大会なんて碌なものではないに決まっている。

 実際、その大会には犯罪者や殺し屋が集まり、試合中に事故で何人もの選手を殺したという。……マトモな感性を持つものならば絶対に参加しようとはしない、

 

 しかし、彼は行くことを決めた。

 

「俺は行きます。……あのベルディアを倒したのですからいけますって」

 

 思い出すのはあの闘い。死力を出し尽くしてベルディアを貫いたあの感覚。……あの時、ハチマンは言い表せないような何かを感じ取った。

 それは強者との戦いでしか得られないもの。ここ最近は忘れていたがベルディアと剣を交えたことで思い出した感覚……。

 

 あれをもう一度感じ取りたい。そのために彼は再び死地に潜り込もうとしているのだ。

 

「危険です! デストロイヤーを倒した今、もう借金なんて帳消しですよ! なのに何故わざわざ危険に首を突っ込もうとするのです!?」

「冒険者になった時点で危険に突っ込んでいるようなものです。覚悟何て今更ですよ」

「そうじゃありません!」

 

 

「私は……貴方に危険な場所に行ってほしくない……!」

 

 彼女は眼に涙を溜めながら言った。

 

「本当はこんなこと言うのは筋違いだってわかってます。貴方を止める権利がないなんて百も承知です。けど……私は貴方に死んでほしくない!」

「……ルナさん」

 

 温かい涙だ。

 いつもそうだ、自分を想って泣いてくれる涙はとても暖かく……そして辛い。

 

 しかしもう止まれない。一度決意した闘志は、たとえ彼にとっても猛毒であるソレを見ても衰えることはなかった。

 

「ルナさん……これを」

 

 ハチマンは彼女にペンダントを渡した。

 

「……な、なんですかこれは?」

「これを預かってください。帰ってきた時に取りに向かいます」

「ハチマンさん……」

 

 ダイヤ型のペンダントを大事そうに受け取るルナ。彼女はソレを首にかけ、胸あたりに当たるソレを握りしめた。

 

「絶対……ゼッタイ帰ってきてくださいね!」

 

 何も言わないハチマン。代わりに彼は振り向かずに手を上げるだけで応えた。

 

 愛用のバイク、シャドーチェイサーに跨る。バイクのエンジンをかえ、ゆっくりと発進していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでご主人、さっきから気になっていたんだけど、何を読んでいるの?」

 

 とある場所で野宿をしていると、また勝手に出てきたスペードのキングが八幡に這い寄ってきた。

 八幡は何も言わずに本の山から無造作に一冊だけ選んで渡す。

 

「千金て大げさな……って何これ? 設計図? え?ちょ……いや、待って。ちょっと待て待て待て待て!!」

 

 キングは顔中から冷や汗を流して八幡が渡した本のページを凝視している。

 どうやら一目でソレが何か気付いたようだ。偶然開いたページが分かりやすいものだったとはいえ、流石に勘がいい。 

 

「えっ? ひょっとしてその本全部!? 全部がそうなの!? ……嘘でしょ?」

「……」

 

 何も言わずに笑う八幡。キングは腹を抱えて面白そうに笑った。

 

「もう最高! 面白いことになってきたじゃない! 本来正義の味方である勇者様がこんなものに手を出すなんて……ああ楽しみ!」」

 

 

 

「デストロイヤーの設計図とかほんともう……完成が楽しみだわ!」

 

 

 別にデストロイヤーを創ってどうこうしようは露ほども思っていない。ただ、もしかすれば使う機会が来るかも。そんな程度だ。

 

 機動要塞デストロイヤーの最奥を探索していた際、彼は偶然にそれらを見つけた。

 最初の目的である古代文明の遺産などを掘り当てることは出来なかったが、この書類は1ページだけでも千金に値する。しかし、これを提供すると王国の今後がヤバくなる。そして発見者である自分も。故に彼は黙っておくことにした。

 それならさっさと処分しろと思うのだが、せっかく苦労に苦労を重ねて手に入れた宝なのだ。これぐらい取っておいて罰は当たらないだろう。

 

「もしかしたら魔王軍と戦う際に使うかもしれない。ま、完成することはないと思うが……」

 

 こうして改めて熟読してみると、本には装甲やエンジン、更に結界の術式やゴーレムの作り方についても記されている。

 何故研究者が他者に利用されるであろうこの書類を廃棄していなかったかは謎だが、使えるのなら使わせてもらおう。

 

「でもご主人、デストロイヤーの子供たちもいるんだから、早くお母さんに会わせてあげるのが人情じゃない?」

「そう急ぐな。……時が来ればいつか使うかもな」

 

 八幡はゴーレムが封印されているカードを取り出し、それを眺めながらニヤニヤしていた。その在り方は、傍から見ればまるでテロを企むようであったとか、なかったとか。

 

 けどまあ、この程度なら許されるだろう。

 宝を最初に発見したのは八幡なので、その所有権は八幡にある。故にどう使おうが彼の自由だ。

 それに、デストロイヤーの内部で見つけた物に対しての規制なんて存在しない。故に彼を国が罰することなど出来ないのだ。

 

「俺はただ設計図を手に入れただけ。それでテロや戦争をするわけじゃないんだ。……犯罪者呼ばわりされることはないだろう。

 

 彼はデッキから『デストロイヤー』とそれを守るゴーレムたちを封じたカードを取り出しながら息を吐いた。

 ハチマンはただ設計図を手に入れただけ。それを使って何か悪事を働こうとしたわけでもない。だからテロ認定されることはまずないだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行っちゃったわね~ハチマン」

「そうだね~」

 

 ギルドのいつもの席。そこでカズマ達はダラダラしていた。

 俺たちはデストロイヤー討伐という大きなクエストを達成した。なら大金が入ることは確定、借金がチャラになるどころか御釣りが出るのは当然である。

 ならば後はダラダラするだけ。どこぞの真面目な勇者みたいに危険な仕事をする必要などないのだ。

 

「それにしてもいいのですか、ハチマンを一か月以上も放っておいて」

 

 ハチマンが数日ほど家を空けるのは珍しいことではない。

 彼のみを指名した依頼によってカズマたちが付いていけなかった。クエストの場所が遠い場所だったりと、諸事情でアクセルを数日離れることが多々あるのだ。

 しかし、一か月以上離れるのは今回が初めて。故にめぐみんは少し心配していた。

 

「大丈夫よ、あの人はこの中で一番強いし。秘境の地で生き残った実績もあるのよ? むしろ私たちが心配するのがおこがましいわ」

「その秘境に飛ばしたのはお前だけどな」

「……」

 

 何も答えないアクア。このすば名物である都合の悪いときはだんまりである。

 

「まあ、しばらくはクエストに行かないしハチマンの力が必要な場面もないだろう」

「そうね」

 

 引き続きダラダラするカズマ達。そこにルナさんが声をかけてきた。

 

「カズマさーん! 国家騎士団の方々がお見えになりました!」

「? なにかしら?」

 

 ゆっくりと立ち上がるアクアとカズマたち。

 

「騎士団から話ってなんですかね? もしかして国から表彰されるとか!?」

「そうよ、あとお金よお金! なんたって救世主よ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サトウ・カズマとその一行、お前たちには国家転覆罪の疑いがかかっている」

「「「・・・」」」

 

 その答えは、あまりにも予想以外で、そして理不尽なものだった。




やっぱり最後はこうなるのね!


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裁判編 カズマさん逮捕

 とある闘技場。そこはもう夜だというのに昼間のように明るかった。

 当然である、今日は数年に一度の大会なのだから。

 

 全国から荒くれものが集まり、雌雄を決する大会。

 この大会は審査もルールも緩く、野蛮人共がその凶暴性と野性をむき出しにして争い合う。故に通常の闘技場では見られないような『本物の闘い』が見れるのだ。

 そして、この大会は 周辺の領主だけでなく、あらゆる組合や豪商たちが協力して盛り上げ、協力している。つまり地方総出のビッグイベント……いや、この世界にちってはオリンピックにあたるほどのビッグイベントだ。。

 そんな重大かつ目出度い大会なのだ。騒がないわけがない。

 

 そして今日最期の試合。盛り上がりは昼間に比べると衰えてきているが、それでも人がゴミのように集まっている。

 

 一万人は軽く入れそうな観客席。だというのに席は既に埋まっており、観客は歓声やヤジを出しながら試合を楽しんでいた。

 

「でやあ!」

「ぐあっ!?」

 

 ハチマンの刺突が目のまえにいる巨漢の男に繰り出される。その速さに男は防御が出来ず、壁の向こうまで弾き飛ばされた。

 まるでゴムボールでも投げつけたかのように叩きつけられる巨体。ズシンと、壁だけでなく闘技場全体に揺れが響きわたる。これほどの力で突飛ばされたのならば通常であれば骨折程度では済まされないのだが……。

 

「や…やるじゃねえか兄ちゃん」

 

 すぐさま立ち上がる男。どうやら見た目ほどのダメージは負ってないらしい。

 やはりここは異世界。前の世界の常識など通じなかった。

 

「……普通はあの一撃で倒れるだろ」

「普通はな。けど俺は普通じゃねえんだよ」

 

 肉食獣のような笑みを浮かべる男。

 なかなか活きがいいガキだ。まさか一回戦目でこんな『野蛮人』に出会えるとは。……なかなか面白いじゃねえか!

 

「(……ライダーの力がないのがこんなに辛いとはな)」

 

 対してハチマンは悪態を付いていた。

 思っていたよりもレベルが高い。一回戦目ならライダーの力なしでもやっていけると思ったのだが、まさかここまで手こずるとは。

 

 正直、ライダーになればこの漢を楽に倒すことが出来る。痛い思いをして戦うことはないのだ。……だが、そんなことをしても自身の強さの証明にはならない。

 俺は別に賞金だけが目的ではないのだ。自分の力がどこまで通じるかを確認するためだ。この戦いを通して更なる力を手に入れ、強者から技術を学ぶためだ。

 

 強者と牙をぶつけ合うことでしか己の牙は研げないのだ。

 アクセルにいたときのようなぬるま湯に浸かっているままでは強くなれない。止まったままだ。

 

 かつての自分ならばそれで満足していたかもしれない。

 何故わざわざ辛い思いして戦わなければいけないんだ、もうその必要がないのならダラダラするのが人間の本能だろうが。むしろわざわざ冒険しに行く奴がいればソイツの頭を疑うだろう。……まるでカズマみたいな思考だ。 

 

 

 しかし今の彼は違う。

 

 自分は止まっているままではいられない。いてはいけないのだ。

 もう一度あいつらに会うために……あいつらに伝えるために!

 

「俺は……止まってられねえんだよ!」

 

 戦闘を通して力をつけ、技術を盗む。そうやって彼は今まで強くなってきた。

 強敵を倒してきた。アンデッドをすべて封印し、転生者も倒し、魔王幹部やその候補も倒してきたのだ。

 ならば、いつかはもうにも届くはず…!

 

 そのためにも牙をぶつけ、研がなくては!!

 

「ライダーの力なしでもお前を圧勝出来なくちゃ魔王討伐なんて夢のまた夢だな!」

「言うじゃねえか兄ちゃん! だったら俺が圧勝して魔王もさっくりやってやるぜ!」

 

 二人は同時に駆け出し、同じタイミングで攻撃を繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんで俺こんなとこにいるんだろう?」

 

 粗末な牢屋の中でカズマはつぶやいた。

 その後吐き出されるため息。まるでこの世の全てに絶望しているかのようだ。

 

「なんでこんなことになったんだろう……?」

 

 カズマはこうなった経緯を振り返ってみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ……国家転覆……?」

 

 突如やってきた検察官たち。その襲来にカズマ達は数秒ほど唖然とした。

 一体何を言っているんだこの女は? 国家転覆罪? ……一体どこの言葉だ? ちゃんと分かる言葉で話してくれ。

 

「こ、国家転覆って何よ!?」

 

 やっと混乱から回復したアクアが慌てて聞く。

 一体何のことだ。私たちはそんな大それた犯罪をした覚えはない。

 ふざけるな、私たちは無罪だ!

 

「デストロイヤーコアを破壊した奔流が、大領主アルダープ様の屋敷を吹き飛ばした」

「「「………」」」

 

 それを聞いた一行は黙ってしまった。

 

「自分は、王国検察官のセナ。貴様らには現在、テロリストもしくは、魔王軍の手の者ではないかとの疑いが掛けられている」

 

 セナとかいう検察官の言葉にパーティメンバーだけでなくギルドにいる者全員がが慌てふためく。

 容疑はデストロイヤーの動力源のコロナタイトが、ランダムテレポートでこのあたりを治める領主の屋敷に飛ばされてしまい、その屋敷が吹っ飛ばされてしまったということだった。

 幸いにも死傷者は出ていないらしい。……そこら辺は、やはりカズマの幸運か。

 

 

「何かと思えば、カズマはデストロイヤ―戦の功労者ですよ? 確かにコロナタイトの転送を指示したのはカズマですが、あれだって緊急の指示で仕方なくやったことです」

 

 めぐみんの言葉にギルド内からそうだそうだとの声も上がったが、国家転覆罪は主犯以外にも適用されるとのセナの言葉に静まり返ってしまった。

 結局、カズマはアクアとめぐみんの手のひら返しによって二人の騎士にガッチリと取り押さえられて連行されてしまった。

 

「ということでサトウカズマ、お前を逮捕する!」

 

 それから逮捕はとんとん拍子に進んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちきしょう! 何で誰も庇ってくれないんだよ!!?」

 

 思い出すのは黙って自分が逮捕されるのを見ていた仲間たち。

 最初は威勢よく検察官に吠えていたのだが、少し権力をチラつかせるとすぐに黙りやがった。

 ダスト達は兎も角、仲のいい冒険者たちや受付さんまで。ルナさんに助けを求めてもさっさと視線を外してありもしない仕事にとりかかった。

 今度はアクアたちに目を向ける。奴らも自分は事件に関係ないといった風なことをほざいて自分に全ての罪を押し付けた。

 

 ふざけんな。マジでふざけんな。

 俺はテロどころかこの国を守ろうとしたんだぞ。なのになんだこの仕打ちは!?

 俺が本来案内されるのは豪華なベッドに美女が付いたVIP専用の豪華なお部屋だ。断じて布が轢いているだけの寝床しかない牢屋ではない。

 

「こんな時あの人がいれば……」

 

 思い出すのはベルディア戦でもデストロイヤー戦でも大変優秀な成績を残した勇者。このパーティの中で唯一マトモに戦える戦士であり、唯一の戦闘員……。

 

「ハチマン……早く戻ってきてくれ!」

 

 ポンコツ共と違ってパワースピードテクニックそして頭脳と精神の3拍子を超えて5拍子も揃っている仮面ライダー、その名も比企谷八幡である。

 

「日本に……帰りたい!」

 

 ちくしょう、なんで自分はこんな世界に転生してしまったのだろうか。

 あの時、駄女神の口車に乗らず天国行きを選んでいれば、あの時駄女神の挑発に乗らずにチート特典を選んでいれば……そうすればこんな目に遭うこともなかったのに!!

 

 俺も無双したい。チーレムしたい。ちゃんと主人公したい!

 あの人みたいにとは言わない。せめてあのミツルギとかいう奴程度にはチートしたかった!

 

 牢屋の中で後悔に悶えるカズマ。そんな彼の元に何者かがやってっきた。

 看守ではない。一度見まわったのだ、もう一度来るほど彼らは真面目ではない。

 では誰か。……それはすぐに分かった。

 

「……アクアか」

 

 

 一番結果が望めない救世主にカズマはため息をついた。

 



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スーパー弁護士参上!

 次の日、朝早く起きて朝食をとった後、日課の鍛錬を行う。

 ハチマンは剣だけでなく、槍や棒、格闘術にも通じている。というか彼の使う剣術も槍術も斬れる棒を振り回す棒術という感じなのだが……。

 とまあ、ハチマンに教わった戦い方をこうして復習したりするのが彼の日課なのだ。

 

「サトウカズマ、起きているか?」

「あ、はい。けど後にしてください。申し越しで終わるんで」

「ダメだ、すぐに来い」

 

 突然セナが現れ、取調室らしき所に連行された。

 

「まずは、貴様の言い分を聞いてやる。その上で、裁判にするかどうかが決まる。よく考えて発言しろよ?」

 

 机の上に置かれた小さいベル。それは嘘を看破する魔道具で、嘘を吐けば鳴る仕組みらしい。

 

「まず、出身地と、冒険者になる前は何をしていたか聞こうか」

「出身は日本の、そこでヒッキーしてました」

 

 正直に答える。嘘はないのでルは鳴らない。

 

「ニホン、ヒッキー……。どれも聞いた事のない単語だがまあいい。では、次に冒険者になった動機を聞こうか」

「なんかかっこいいと思ったのと、生活費を稼ぐためです」

 

 またしてもベルは鳴らない。そのせいか、セナから少し動揺が見られた。

 本当に魔王軍の手先だとでも思われていたんだろうか。あの人は兎も角、俺にはそんな力も度胸もないのに……。

 

「領主様にうらみはあるか?」

「まあ借金に関しては不満がありますけど、だからといってどうこうする度胸もないので何かしようとしたことはありません」

 

 ベルはならない。これも真実だ。

 

「では、今この場にはいない男、ヒキガヤハチマンについて聞く。……彼は何者だ?」

「(……何を聞いているんだコイツは?)」

 

 ハチマンの質問になった瞬間、カズマの眠そうな瞳に火が灯された。

 まさかコイツ、ハチマンが魔王関係者と疑っているのか?……ふざけるな。

 

「この町の勇者ですが?」

 

 苛立ちを隠しながら答える。

 

 あの人はこの町のヒーローだ。いきなり未開の地に飛ばされ、死の恐怖に晒され、それでも尚アンデッドを全て封印せんと戦った猛者である。

 その後も魔王軍の陰謀を破り、転生者たちの暴走を止め、貴族や王族の企みを阻止し、この世界の平和を守り続けてきた。

 そして今はこのパーティの平穏を守るために色々と苦労して戦っている。

 

 彼は本物の勇者だ。ただ特典を手に入れて、何の苦労もなくチーレムしている奴らとは違う。

 

 そんな人を疑うだと? ……ふざけるのも大概にしろ!

 

「そういう答えを求めているんじゃない。私は奴の正体、ブレイドとは何者かを聞きたいのだ」

「質問の意図が分からないから答えようがないんだけど」

 

 カズマの返事にセナはほんの少し眉を動かしながら、もう一度質問する。しかしその答えもまたはぐらかされてしまった。

 

「とぼけるな! 奴はアンデッドマスターとかいう危険なスキルを持っているではないか! 」

 

 カズマのはぐらかしに苛立ったセナがとうとう怒りを表した。

 

「アンデッドを操り、見たこともない武器や鎧を使い、空まで飛べるらしいではないか! その様な者がまともな冒険者であるはずがない!魔王の手下ではないのか!?」

「ふざけるな!!」

 

 苛立ちを感じていたのは彼女だけではない。

 セナの言葉に我慢できなくなった彼も、とうとう怒りを爆発させた。

 

「俺を疑うのなら分かる、素行はクソだし、偶にセクハラとかするからな! けどあの人は違う! 少なくともこの町では一番マトモな人だ!! あの人は魔王の関係者なんかじゃない! さっきの言葉を取り消せ!!」

「……」

 

 カズマの怒りの形相に萎縮し、すっかり苛立ちも吹き飛ばされてしまったセナ。彼女は力なく座り込み、怖がりながらも尋問を続けた。

 

「じゃ、じゃああの人は魔王とは関係ないんですね?」

「当たり前だ! ……いや、指名手配されてるから無関係とは言わないか?」

 

 突然冷静になってハチマンの事情を思い出すカズマ。

 

「あの人魔王軍に賞金が掛けられてるんだよ。ブレイドとしてな」

 

 深く息を吐きながら座るカズマ。

 

「なんか、魔王軍のお偉いさんの悪事を阻止し、討伐しまくって賞金がかけられてるらしいぜ。魔王幹部のベルディアもソレであの人だけは殺そうとしたぐらいだ」

「な、なるほど……。ではハチマンは私たちで言う幹部みたいなものだと」

「そういうことになるな」

 

 ハチマンの疑いが晴れてスッキリしたのか、少し落ち着いた様子でカズマは答えた。

 

「どうやら、あなたに裁判は必要ないようです。貴方のは悪い噂が多いもので、……申し訳ありませんでした」

 

 セナは深々と頭を下げ、今までの態度が嘘のように丁寧に接してきた。

 

「ふ~ん。……じゃあ相応の態度ってあるよね」

 

 カズマは悪い顔をして言う。

 

 

 

 

「ちょっと、ここ無罪の善良な市民捕まえといてお茶も出ないの?」

「す、すいませんすぐ用意します!」

 

「お腹空いたな~。昨日はとんかつだったから今日はあっさり目のモン食べたいな~」

「す、すいませんすぐ用意します!」

 

「あ~あ、今日は報酬のいいクエスト受ける予定だったのにな~。不当逮捕のせいで収入がパァだ」

「す、すいませんすぐ立て替えます!」

 

 

 

 ……おい、このクズマ。さっきまであんなに仲間を庇ってたのに、疑いが晴れたらソレか? 何でお前らはいい話で終わらせられないんだよ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ……不安だ」

 

 翌日、俺は裁判にかけられることになってしまった。

 

 あの時、調子に乗った俺はセナさんに対して横暴にふるまい、また疑われてしまった。

 それで言ってしまったのだ。魔王軍幹部と関係がないって……。

 そのせいでベルが鳴ってしまった。そう、ウィズは魔王軍幹部であるため、一応関係あるのだ。

 

 嘘の供述をした、しかも魔王軍幹部と関係があるということで釈放からまた容疑者に。そしてこうして裁判にかけられてしまった。

 

「(アクアたちは弁護士を用意してくれるって言ったけど……本当に大丈夫なんだろうか?)}

 

 あいつらが弁護するよりも数段マシだが。これはこれで不安だ。あいつらちゃんと真面な弁護士を用意できるんか?

 

「待たせたなカズマとやら」

 

 後ろから突然コツコツと靴音が聞こえた。

 お、どうやら弁護士が来てくれたらしい。さて、誰なのだろうか……。

 

「俺の名はゾルダ。黒だろうと白に変えるスーパー弁護士だ」

 

 そこには、牛を模した鉄仮面を被るスーツ姿の弁護士がいた。

 

「(あれ? あれどう見ても……)」

 

 その奇怪な人物を見て、カズマは目の腐ったとある英雄を思い出した。



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黒を白に変える瞬間

 この世界の裁判は至ってシンプルだ、検察官が証拠を集めて弁護人がそれ反論する。裁判官が疑わしいと判断すればそれで実刑。……現在とほぼ同じである。

 違う点は灰色でも罰すること。現代は疑わしきは罰せずの法則だが、この世界は逆なのだ。

 はたしてカズマは生き残れるのか……。

 

「これより、国家転覆罪に問われている被告人、サトウカズマの裁判を始める!告発人はアレクセイ・バーネス・アルタープ!」

 

 裁判長の言葉に中年の太った男が立ち上がる。

 アルタープは冒険者の女性陣にネットリトした視線を向けていた。それに気付いたアクア達はその目を潰したいだの、薄着でうろついているダクネスを見るカズマと同じ目だのと言っている。

 そしてゾルダはというと……。

 

「ファイナルベントしてやりたいな……」

「頼むからやめてくれ。弁護士が何物騒な方法で事件解決しようとしてるんだ!?」

 

 確かにここはカズマの言うとおりである。

 しかし何故だろうか、ゾルダは領主に対して消さなくてはという強迫観念に近い何かを感じていた。

 そう、アクアがアンデッドや悪魔を見たときと同じようなものだ。それがゾルダの嗅覚をビンビンに刺激しており、許されるならさっさとファイナルベントしてやりたい衝動に駆り立てるのだ。

 

 そんなことをゾルダが思ってると、検察官のセナが起訴状を読み上げた。

 コロナタイトを領主の屋敷に送転送して消滅させたこと。また領主の命を脅かしたということで、国家転覆罪を適用するといった内容だ。

 セナの発言を受けて、アクアが”異議あり”などと言っていたが、ただその台詞を言ってみたかっただけらしい。

 

 正直アクアをぶん殴りたいと思うゾルダ。どうやら徹夜でこの世界の法律を勉強した無理がたたったらしい。

 

「続いては、被告人とその弁護人」

 

 ゾルダとカズマはお互い目を見合わせ、まずはカズマから自身の主張する。

 自分がアクセルの街に対してどれだけ貢献してきたかを多少オーバーな感じで発言し、自分が無罪であることを主張した。次はゾルダだ。

 

「まず、デストロイヤー内部に突入してからコロナタイト転送までの行動を読み上げます。もし、嘘偽りがあれば魔道具のベルが鳴りますので、注意していて下さい」

 

 そうして、突入時の状況を細やかに説明した。事実しか話していないのでベルは鳴らない。

 

「……というように、コロナタイトの転送に関してはあくまで緊急時での処置であり、被害者の屋敷に故意に転送したという事実はありません。

 過去にランダムテレポートが本当にランダムなのか、術者やその周囲の思考等に左右されないのかを確認する実験がありましたが、その結果は……」

 

 専門的なことを話すゾルダ。それに対し周囲の反応は……。

 

「ハチマンが何言ってるかさっぱりなんですけど……」

「簡単に言うとランダムテレポートで領主を特定して狙うのは不可能と言っています。しかし、そんな実験結果があったのですね」

 

 こんな感じだった。

 まあ検察官や裁判官になるには相応の知識が必要なので大体わかってくれてるだろう。 

 あとハチマンじゃないよ、ゾルダだよ。

 

 さらに裁判長に対して発言を続ける。

 

「前例として『爆発物緊急テレポート事件』や『爆弾を遠くに飛ばそうぜ事件』などがあります。

 今回の例と同じく爆発物をランダムテレポートでの転送を行なっており、運悪く町や屋敷などに転送されましたが、これらは緊急性が認められて国家転覆罪にはなっておりません。

 確かに領主様の屋敷を破壊したため建造物等損壊罪が妥当ではありますが、あのままデストロイヤー内にコロナタイトがあった場合の損害と比較すると、損害は軽微となりました。

 むしろ、被告人のように爆発の被害を回避するため賭けに出るのは勇気ある決断だと私は考えておりますが、皆様は違うのでしょうか? これこそ冒険者のあるべき姿だと思うのですが……。

 故に私は被告人の無罪、または建物の弁償の一部負担が妥当と考えます」

 

 スラスラと弁論するゾルダ。その様子に皆は感心した様子を示した。

 

「……その様な判決があったのか。どこまで調べた?」

「……図書館でちょっとな。で、国家転覆罪なんか相当タチ悪くない限り出てない。まあホントは無罪ってのは大げさだけど、人の人生がかかってるんだから強気でいかねえとな」

 

 裁判長がゾルダの発言を聞き、少し考え込んだ後、次の審問に移った。

 

「……では検察官。被告人に国家転覆罪が適用されるに足る証拠の提出を」

 

 セナの合図で証人達が姿を現す。

 

「あははは……。なんか呼び出されちゃった……」

 

 困ったような顔をしたクリスを筆頭にミツルギとそのパーティーなど、見知った人間がその場へ呼ばれていたようだった。

 パンツスティールの件や魔剣を手に入れて売り払った経緯などで、カズマの人格を否定するような証言が出て疑いの眼差しが向けられるが……。

 

「異議あり。それはあくまでも被告の人格の問題であり、今回の事件とは関連性がありません。

 むしろこれらによって被告人の小悪党さが証明され、国家転覆何て大それた犯罪が出来るとは思えませんが……」

「いいえ、関連性はこれからつなげる予定です。まずは最後まで聞いてください」

「弁護人の異議を却下。検察官の証拠提示を続行する」

 

 裁判官の出した返答に舌打ちするゾルダ。無論、ダクネスたちにしか聞こえない音で。 

 

「このように、被告人は被害者に対して恨みを持っていました。このことから被告人は事故を装い、ランダムテレポートではなく通常のテレポートによる転送で被害者宅にコロナタイトを送りつけたのでは……」

「質問、よろしいですか?」

 

 挙手をして発言する旨をあらわし、裁判長もそれを認めた。

 

「コロナタイトは被害者宅のどこに転送されたのですか?」

「爆発の中心点は屋敷の上空です」

「テレポートには事前の登録が必要のはずです。門や壁の周辺ならともかく、入ったこともない屋敷内の上空を登録出来るはずがりません。これはランダムテレポートによるものだという証拠では?」

「しかし侵入すれば上空ぐらい登録出来る!」

「警備が厳重だと評判の領主様の屋敷を侵入!? 駆け出しばかりが集まるこのアクセルでそんなことが出来る冒険者がいると本気で思っているのですか!?」

 

 この発言でセナは苦虫を噛み潰したような表情をした。

 

「先ほどからあなたの証拠は全て推測ではありませんか! 列記とした物的証拠、確固たる状況証拠もなしに被告を死刑にすると……ふざけるな!!」

 

「法とは弱者を……民を守るために存在する! それを使って弱者を虐げるなど言語道断だ!」

 

 ここぞとばかりに攻める。それによって傍聴席はカズマの側に回る。……だが、それもすぐに終わった。

 

 セナは一枚の紙を取り出し、ベルディア戦での洪水被害や共同墓地での結界作成による悪霊騒ぎ、めぐみんの爆裂魔法による日々の被害について説明していた。

 それらの事実を突きつけられたアクアやめぐみんは耳を塞ぎ向こう側を向いていた。ダクネスだけは何のことだか分かっていないようだったが。

 

「裁判長、先ほどから検察側は何の証拠も提示しておりません。被告の人格を貶めて発言の説得性を奪おうとしているだけです! それはあまりにも卑劣ではないですか!

 今回の議題はあくまでも被告人が屋敷を故意に爆発したか否か、被告人が魔王軍の関係者か否かを問うものです! 被告の性格を問うものではない!

 徒(いたずら)に論点をすり替え、不当に 被告の悪印象を植え付けるのはやめていただきたい! 真実が曇ってしまう!」

「……弁護人の異議を容認。検察は事件と関連性のある供述をするように」

 

 ハチマn…ゾルダの異議が受け入られてなんとか論点のすり替えは終わった。しかし一度植え付けられた悪印象はそう簡単には覆せない。……どうする、ゾルダ?

 

「他にも、被告がアンデッドにしか使えないはずのドレインタッチを使えるといった情報があります」

「それだけで判断するのは軽率ではありませんか?」

 

 カズマも耳を塞ぎそうになっていたが、すぐさまゾルダが反論した。

 

「被告のドレインタッチは他の冒険者から教わったものです。これは嘘ではありません。ベルが鳴らないのがその証拠です」

 

 ウィズは冒険者の資格も持っているのだから間違った事は言っていない。それに魔王軍幹部といってもなんちゃって幹部だ。冒険者の色合いの方が強い。

 

「それこそありえません! アンデッドのスキルを使える冒険者がいるはずはない! あるとしたら、それは魔王軍の関係者のみです!!」

「本当にそうでしょうか? 冒険者は全てのスキルを修得可能です。例えば、アンデッドのスキルを食らって修得した冒険者がいても不思議ではないでしょう。それとも検察側は全冒険者のスキル全てを把握しているのですか?ソレが出来ない以上、そちらの主張は説得力に欠けますね」

 

 

 

 

「ちょっとみんな! ハチマンってこんなに口が上手かったの!?」

「ええ、私もよく言い負かされてますよ。正論を言っても屁理屈で煙に巻かれることありますし」

「ある程度事実を開示して信用を得る……。これは詐欺師の常套手段だ」

「……俺としてはありがたいけど、コイツは敵に回すととんでもないんだろうな……」

 

 味方のはずのアクア、めぐみん、ダクネス、カズマから散々な評価を受けるゾルダ。……おい、聞かれてるぞ。

 

「……ですが、署内での取調べの時、魔王軍の者との交流はないかと訪ねた際、交流などないと言った時に魔道具が嘘を感知しました。これこそが証拠ではないでしょうか!?」

「交流=関係者というわけではないでしょう。例えば敵対的な交流という面も考えられます。事実、彼は魔王幹部であるベルディアと会話をしたことがります。

 ベルディアと最初に遭遇した際、仲間の一人が呪いを受け、ソレを解くければ城に来いと言われました。見方によっては城に招かれたとも言えます。そして、その一週間後に彼らは剣を交えました。

 冒険者にとって戦いとは単なる殺し合いであはありません。武力をぶつけ合うことで行う一種のコミュニケーションです。戦いを通して相手を知る冒険者の逸話は枚挙に暇がないのがその証拠です」

「「「これはひどい」」」

 

 カズマ達は、小さな声で見事にハモっていた。

 

「へ、屁理屈を……!」 

「屁理屈も理屈です。というか、交流があるかなんて曖昧な言葉ではなく、魔王軍の手下か命令を受けてやった事かと聞くべきだったのでは?」

 

 苛立ちを見せる検察側の視線を無視してカズマに目を向けるゾルダ。

 

「俺はテロリストじゃない! 借金を背負わさせたことは頭にきたし恨みにも思ったが、それでもコロナタイトをワザと送りつけたわけじゃない!魔王軍の手先でもないし!」

 

 カズマの言葉にベルは鳴らず、領主もセナも悔しそうな顔をしていた。

 裁判長はカズマの嫌疑は不十分であり、不慮の事故の面が強いということで無罪を言い渡そうとしたのだが……。

 

「そいつは、魔王軍の関係者であり魔王の手先だ。さあ、その男を死刑にするのだ」

 

 さもなくばどうなるか分かっているだろうな。口では言わずとも目はそんな風に裁判長へ言っていた。

 

「おい何言ってやがる? これは無罪の判決だろうが」

「その男は、ワシの屋敷を爆破した重罪人だ。死刑にするべきだろう?」 

「そんなわけないでしょう。死傷者が出ていない事故ですよ? カズマはセクハラするし、言動には色々問題はあるけど。……むしろ俺にはアンタの方が逆賊に見えるがな」

「な…何!?」

「あ、裁判長、最後に少し聞きたいことがあるのですが……」

 

 裁判長の返答を待つことなくゾルダは質問した。

 

「たしか魔王軍討伐の際に出た被害は国が補填することになっていますよね?」

「そ、そうだが……」

 

 ソレが何だと聞く前にゾルダは続けた。

 

 

 

「でしたら、ハチマンとその一行が出した被害の弁償費用はどこに行ったのでしょうか?」

「「「!!!」」」

 

 

 

 

「いや、ずっと疑問だったんですよ。いくら町に被害を出したとはいえ、魔王軍幹部を倒したのですよ。なのに一切手当てがないのは聊か不自然ではないのでしょうか? 普通ならばあるべき被害として弁償も免除されるべきですよ!」

「い、異議あり! 弁護人の発言は……」

「それだけではない! 今回、デストロイヤーのアダマンタイトの件でも、国に申請すれば補償されることも可能のはず! なのに何故それを領主様はしない!?」

 

 声を大にして、叫ぶかのようにセナの発言を遮るゾルダ。

 

 

 

「それは屋敷の中には何か秘密があるからだ! 国にバレたらヤバい何かを隠していた! それを調べられえるのが怖くて申請出来なかった!」

 

「だからカズマにその標的を変えた! ベルディアの賞金を取り損ねた逆恨みとして、町の修繕費と偽って彼らから金を奪った時のように!」

 

「さあ答えてもらおうか領主様! 不当にカズマ達から金を奪ったのは真実か否か、今尚屋敷の中には調べられたらまずいものがあるのか否か!」

 

 

 

「…………」

 

 べらべらとしゃべるゾルダに対して、領主は何も答えない。もっとも、それで答えが出ているようなものだが。

 

「告発人、回答を……」

「う、うるさい! その様な質問に答える義務はない!! さっさと判決を下せ!!!」

 

 裁判長からの言葉に、怒鳴り散らしていたアルタープではあったが当事者達だけではなく、傍聴人からも怪しむ声が出ていた。

 

「――裁判長。これを」

 

 突然、ダクネスが紋章のような物が刻まれたペンダントを裁判長に見せた。それを見て裁判長だけでなく検察側や領主も唖然とする。

 

「その男は、私が責任をもって監視する。裁判自体をなかったことにする必要はない。次回の裁判までに、魔王軍の手の者ではないと。……そして、その男が本当に国賊か否かもな」 

 

 当然、アルタープは抗議したのだが……。

 

「黙れ豚が。たかが一つの土地も満足に治められないカス領主の癖に王国の懐刀である私に逆らえると思っているのか?」

「……!」

 

 ダクネスの放つ謎の圧力に押されて黙ってしまった。

 

 

 

 

 こうして事件はとりあえず終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……終わった」

 

 分身がうまくやってくれたのを確認した後、俺は分身を消して意識を目の前に向けた。

 分身の遠隔操作は面倒くさい。途中で妨害したりハッキングすることも可能だから、そういうことに注意しなくてはならないからな。

 

 ごろりと、無駄に豪華なベッドの上に寝転がる。

 天蓋付きのキングサイズのベッドだ。所々に宝石や金細工が散りばめられており、無駄に金をかけている。

 マットも極上だ。沈むかのように全身を包む心地よさ。こんなものは前世でも体験できない。

 

 

 ここは選手専用の個室。コロッセオ内部に予め用意されており、関係者以外は入り込めないようになっている。

 選手は基本的に部屋やエリア外から出ることがないよう言われている。逃亡防止か暗殺予防かは知らんが、そういうルールなのだ。守る他ない。

 

 その代わり、設備は無駄に整っている。カフェや食堂はもちろん、図書館にプールにボウリング会場と。更には娼館まで無料で利用可能なのだ。

 そこで俺は図書館に籠りっきりだった。カズマが捕まる前から自室と図書館を往復する毎日。試合と敵勢調査する以外は大体こんな感じだ。

 

「……まあ、おかげでカズマを助けることが出来たのだが」

 

 この施設は無駄に質がいい。プールはまるでアメリカの金持ちがバカンスにでも来るのかと言いたくなるほど豪華。前世のケチ臭い市民プールとは大違いだ。

 図書館も選手以外は使わないはずなのに、法律関連の本もちゃんと用意されている。しかもかなり本格的なもので、明らかにプロが扱うような物だ。

 なんでこんなとこにあるんだ? もっと人目につくとこに置いとけよ。もったいないじゃん。……まあ、おかげでカズマを助けることが出来たのだが。

 とまあ、この施設の豪華さにはこうして何度か救われている。

 

 あいつら……俺なしでちゃんとやってくれるだろうか?

 

「(ヤバい……色々と心配!)」

 

 何故だろう……ずっと離れたいと思ってたのに、離れたら離れたで不安だ。



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あの人何してるんだろう

「ばっくれっつばっくれつランランラ~ン」

 

 ……あれから、数週間程経過した。

 

 容疑者の身ではあるけど、俺たちの日課は続いていた。

 クエストを受けたり、爆裂魔法撃ったりと。それなりに楽しい毎日だ。

 

「カズマ~。今月もハチマン振り込んでくれたわよ~」

「一千万エリス……めっちゃ稼いでる………!」

 

 ……このままじゃダメだ。俺も頑張って稼がないと!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちはギルドのいつもの席に座ってこれからのことについて話し合い……いや、会議を行っていた。

 これ以上あの人に頼るわけにはいかない。ただでさえ色々と世話になってるのに金も頼るとか……クズのレベル

 

「ということで、俺たちは一山当てるためにダンジョンに潜ります」

「嫌です」

「潜ります」

「嫌です」

「潜ります」

「嫌です」

 

「嫌です! ダンジョンに潜ったら爆裂魔法が使えないじゃないですか! 爆裂魔法の使えない私なんてただの人じゃないですか!!」

 

 めぐみんは立ち上がって怒鳴った。

 

「知るかそんなもの! あの人が何千万エリスも稼いでるのに俺らだけ遊ぶなんて出来ねえだろ! 第一、お前荷物持ちでも何でもするって言ったよな!!」

「そ、それは……」

「ということでダンジョンに潜ります」

 

 もうこれは決定事項だ。今更曲げることは出来ない。

 

「朝っぱらから騒がしいな。周りが見てるぞ……というわけではないな」

 

 そう言いながら俺の隣に座るダクネス。

 一応周囲を見て確認するも、こんなに騒いでるのに誰もコチラを見ていない。

 大方慣れたんだろう。俺らが騒がしいのは元からだし。あとは関わりたくないからだろうか。俺らってハチマン以外は問題児だし。

 

「しかし一千万エリスですか……。一体何があればそんなに稼げるのでしょうか?」

「うむ、確かに試合で勝っただけでそんなに金が入るわけないな。……もしや人気プレイヤーになったことをいいことに、集まってくる無垢な女性ファンを……」

「別に風俗堕ちさせてるわけでも人身売買に手を出してるわけでもないぞ」

 

 誰も信じる奴はいないとは思うが、一応念のため否定する。

 何故ここまでダクネスはハチマンをクズ野郎にしたいのか。俺にはさっぱり理解出来ない。

 

「それで、ハチマンばかりに頼るのは悪いからダンジョンに潜って稼ぐのか」

「ああ、ハチマンがこんなに稼いでるのに俺らが何もしてないのはおかしいだろ」

「それもそうだな。私たちも色々と頑張ってるのだが、思ってる以上に金が集まらない」

「え? ダクネスも何か商売してるのか?」

 

 以外だ。この脳みそに行く栄養がおっぱいと筋肉に行っている変態クルセイダーが。

 

「ああ、実は私たちも小説を書いているのだ。タイトルは『仮面レイパーハチマン この町の女は全て俺の性奴隷だ』というタイトルでな」

 

 ……耳が故障してしまったのだろうか。先ほど妙な単語が聞こえた気がする。

 

「ああ、仮面レイパーシリーズですか。それなりに人気なのですが思っていた以上に売れませんでしたね」

「ああ、やはりこういうのは楽に儲けようと思うのが間違いなのだろうか」

「間違ってるのはお前らの頭だァァァァァァぁ!!!」

 

 なんだそのひっどいタイトル!? 町の英雄を犯罪者にするとか何考えてんだコイツらは!? しかも仮面レイパー?……東映に謝れバカ共!!

 

「ふざけんなよお前ら! あの人あんなに頑張ってるのに、俺らよりも断然真人間なんだぞ! ソレをレイパーとかお前らホント……本当に一回全裸で土下座しろ!!」

「ぜ……全裸土下座で喜ぶのかアイツは!? やはりあいつは……やはりアイツは鬼畜マンだったのか!!」

「やっべ~! 俺があの人の評判落としちまった!!」

 

 ああもう! 本当にウチのバカ共がごめんなさい!!

 

 

 

 ……そういえば、あの人はどうしてるのだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《アクセル! プリーズ》

 

 ウィザードはリングの力で加速した。

 ウィザードはウィザーソードガンをソードモードにしてブレイドに振りかざす。

 魔法によって加速された一撃。それは空気を切り裂き、亜音速でブレイドに襲い掛かる。

 

 ハチマン———ブレイドは最小限の動きで避ける。

 マッハやアクセルなどの加速スキルは思考処理や動体視力などはそのまま。故に動きが単調になりやすく、慣れれば攻撃は避けやすいのだ。

 

 ブレイラウザーをウィザードの移動地点の中間に剣を『置く』。

 汗かいて余計な労力を使う必要はない。ただ剣を底に置くだけで相手は勝手に突っ込んでダメージを負ってくれるのだから。

 

「ぐあぁ!!」

 

 ブレイラウザーの剣先に激突して倒れるウィザード……ではなかった。

 

「なめるなッ!」

 

 パルクールのロールの要領で立て直すウィザード。

 剣先にぶつかる瞬間、彼は衝撃を受け流すことでダメージを軽減したのだ。

 

『やるな』

《マッハ》

 

 ブレイドもマッハの効力で加速した。

 そこから始まる超高速バトル。すれ違う度に剣をぶつけ合わせた。

 常人は決して踏み入れられない、彼らだけの世界。音速の壁を超えられない者はただ「速え!」としか感想が出ない。

 時にはコロッセオの中央で、時には観客席の前で。彼らは常人では追いつけないスピードで剣をぶつけ合う。

 

『らあッ!』

「やあッ!」

 

 剣と剣がぶつかり合う。両者共にトップスピードで、渾身のパワーで繰り出された一撃。それが同時に繰り出された。

 そこから始まる鍔競り合い。盛大な火花が飛び散ると同時に、ソレは始まった。

 

 体重をかけ、全身の力を剣に込める。ウィザードの魔力が、ブレイドの生命力が。お互いを象徴する色のオーラとなってぶつかり合った。

 

「…!? (こ、この感覚は…!?)」

 

 突如、受け止めたはずのウィザーソードガンの重量が0になった。

 この感覚をブレイドは覚えている。ベルディアとの戦闘の際、刀身が消えた現象と同じだ。

 一度は喰らった戦法。故にその対処法も心得ている。

 

『があッ!』

「ぐえッ!?」

 

 バランスを崩した勢いを回転に乗せて斬撃を繰り出す。

 鍔競り合いで堰き止められた力が一気に解放された。ソレによってウィザードは派手に弾き飛ばされた。

 だが、ウィザードも負けていなかった。弾き飛ばされる瞬間、ウィザードはウィザーソードガンガンモードでブレイドを撃ったのだ。

 

 鍔競り合いが始まった瞬間、ウィザードはウィザーソードガンをガンモードに変えた。

 通常、受けていた重量がなくなったブレイドは動揺する。その隙をついて攻撃しようとしたワケだ。

 その上、接近戦からいきなり銃撃されるとは誰も予想しない。つまり二重にフェイントをかけたのだ。……通常ならコレで引っかかる。

 

 しかし、相手は普通ではなかった。

 

「普通……当たるだろさっきの!」

『一度似たようなモン経験したからな、もっとも、銃撃は予想外だったが』

『「・・・」』

 

 それだけ言うと二人は同時に自身の腰に手を伸ばした。

 ブレイドはデッキからカード二枚を、ウィザードはホルダーから指輪を取り出す。

 二人はツールをアイテムにスキャンする。それはほぼ同時であった。

 

《アブゾーブクイーン フュージョンジャック》

《ハリケーン ドラゴン ビュービュー! ビュービュービュー!》

 

『「いくぞォォォォォォ!!!」』

 

 両者は翼を広げ、コロシアムの上空へと飛び交った。

 



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ダクネス帰還

「決まってるだろ、テレポートで移動したんだよ」

 

 ハチマンはソファの上で横になりながら言った。

 

「いいのかよこんなとこで油売って。たしか今日も試合あんだろ?」

「いや、延期になった。この間選手が何人か殺されて試合を見合わせているんだよ」

「……へ?」

 

 あまりにも予想外かつ重いセリフ。それにカズマは戸惑った。

 

「いつかはこうなると思ってたんだよな~。俺さ、この間も対戦相手が雇った暗殺者に殺されかけたんだよ。飯にも毒入ってたし、押しかけて来た娼婦も刃物を隠し持ってやがった。この間なんて組織ぐるみで襲われたんだぜ? だからここでしばらく避難するわ」

「な…なるほど……。そりゃ大変でしたね……」

 

 なるほど確かに。それなら遠く離れたこの地の方が安全だ。

 

「敵勢調査とか情報収集は分身にやらせてるから大丈夫だ。本体の俺は試合までこうやってのんびりやらせてもらう」

「そ、そうですか……」

 

 カズマは何も言えなくなった。

 

 

「んで、なんでこうなったんだ?」

 

 現在、ハチマンはめぐみんやアクア、そしてゆんゆん達と一緒に屋敷の庭に出ていた。

 

「お久しぶりですハチマンさん! 今日はたっぷりお相手してもらいます!」

「ちょっと待ちなさいゆんゆん。ハチマンの相手をするのはこの私です。今度こそ私はレンゲル式杖術をマスターするのです!」

「いいや、レンゲルになるのはこのアクア様よ!」

 

 ……そう、今日は久々にめぐみん達の特訓を見ることになったのだ。

 

 彼女たちの特訓を見るようになったのは割と昔からだ。

 ゆんゆんはハチマンと知り合ってからよく戦い方について師事を乞うようになり、屋敷を購入してからは毎日のようにハチマンに会いに来た。………決して師事を言い訳にしてハチマンと友達になろうとしたわけでは……ないと思う。

 

 ハチマンがゆんゆんに教えたのは喧嘩殺法と杖術、そしてスキルの実戦的な使い方だ。

 ゆんゆんは優秀すぎるせいか、今まで苦戦した経験がない。大抵は魔法で片付くからだ。

 もし仮に強い敵が来ても、ライトオブセイバーで何とかなる。故に体術のスキルなんて戦闘中に使ったことないし、剣術のスキルも特に役に立たないのだ。

 

 

 無論、ハチマンにはそんな理屈など通じなかった。

 

 

 ハチマンは魔力や生命力の大半を対魔や対呪に回している。故に魔法が効かないのだ。

 そこにいるだけでゆんゆんの魔法を無効化出来る。上級魔法も無効化出来なくとも弱体化は可能、スキルで相殺出来る。必殺技のライトオブセイバーも、ライトニングスラッシュで打ち破った。

 勝敗の結果は言うまでもない。

 

 勝者は敗者の手当てを行い、目が覚めるまでずっと付き添っていた。そして目が覚めたゆんゆんはハチマンに弟子入りしたのだ。めぐみんを倒すための力が欲しいと。

 無論最初はハチマンも断った。しかし同じゆんゆんのぼっちアピールに心動かされ、嬉々として彼女の頼みを聞くことになった。

 それからなんやかんやでめぐみんやアクア、更にはミツルギまで訓練を見るようになったのである。

 

「しかしいつ見てもえげつないですねこの喧嘩殺法。目潰しやら噛みつきやら金的やら。本格的に殺しにかかってますよね」

「そこがいいんじゃない! このダーティな戦い方こそ喧嘩殺法よ!……まあ私も使う技は選ぶけどね」

 

 少し弱弱しい声で言うアクア。そう、ハチマンの喧嘩殺法はあのアクアでさえも躊躇するほど危険かつ野蛮なものなのだ。

 たしかに喧嘩殺法は暴力をかなり生々しく再現したものだ。……しかし、それも仕方ないものだ。

 密林に閉ざされた未開地の中、アンデッド娘との殺し合いや高レベルのモンスターとの生存競争。その結果生まれたのが彼の喧嘩殺法である。

 野蛮かつ残酷な醜い戦い方。というか、暴力自体が醜いものである。

 

 杖術も同様。剣や槍を棒のように振り回し、敵の命を刈り取る。ぶっちゃけ、剣士や騎士というより蛮族にしか見えない。

 

「そんじゃ次は弦術を教えてもらおうかしら~♪ アレ宴会芸とかで使えそうだし」

「おい、俺が命懸けで生み出した技術をそんなことに使うなよ。まあ使えるとは思うけど」

 

 

 

「何で誰も迎えに来ないのだァァァァァァァァァァ!!!!?」

 

 突如、高級そうな服に着飾った貴族令嬢が扉を蹴飛ばして入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あんた誰?」

「どちら様ですか?」

 

 突如現れた貴族令嬢に、ハチマン達は疑問の声をぶつけた。

 ハチマンの知り合いにこんな貴族のお嬢様みたいな人物はいない。……いや、ハチマンのみに限定すればいるにはいるのだが、こんなとこにいるはずがないのだ。もしいたらそこで冒険が終わる。

 

「んんっ……!? くっ……!? 二人とも! 今はふざけている場合じゃない! そういったプレイは後にしてくれ!」

「ああ、ダクネスか」

 

 その反応で彼女がダクネスだと分かったハチマン達。

 

「おおダクネス帰ってきたか。そんじゃゆっくり風呂にでも入ってろ。その間俺はハチマンに喧嘩殺法教えてもらうわ……一部だけだけどな」

「おう、少し私をぞんざいに扱いすぎじゃないか? いくら私でも怒るときは怒るぞ」

 

 ダクネスの肩にはニゴリエースの子蜘蛛がひっついており、そこから情報が伝わってくる。だからダクネスが領主に手籠めにされてないことは既に知っているので、原作より安心しているのだ。

 ダクネスは返答代わりにアルバムを突きつけてきた。中を見ると、そこには一人の男が写った写真が収められている。

 

「……何だこのイケメン。ムカツク」

「領主の息子じゃん。なんでこんな写真持ってるんだ?」

 

 カズマと俺が中の写真を見ての一言ではあったが、ダクネスは訝しげに眉をひそめた。

 

「……ハチマン、何でコイツが領主の息子だと知っている?」

「大会で聞いた。なんでもかなり立派な人物で貴族だけでなく庶民からも人気が高いと」

「……やはりそんな人物か!?」

 

 ギリッと歯を鳴らしながら言うダクネス。……何が気に入らなかったのだろうか?

 詳しく話を聞くと、写真の人物はダクネスの見合い相手らしい。人柄も申し分なくダクネスの父親もその縁談に乗り気であり、断わるのが難しい状態だそうだ。ここ最近屋敷に戻らなかったのもお見合いを阻止するためだったらしい。

 ダクネスの親父さんは危険な冒険者家業を辞めさせたいらしく、隙あらばお見合いを画策していたのだが、全てダクネスがぶち壊してきたそうだ。

 

「私は今の暮らしに満足している。冒険者を続けていれば魔王の手先に抵抗もむなしくやがて捕まり、すんごい目に遭わされてしまうかもしれない。全身を拘束され、あられもない姿でとんでもない目に……!」

 

 ウチのクルセイダーはたとえ貴族の恰好しようともブレない。

 その後、カズマは見合いを破談にする気でいるらしく、写真を破って何やら息巻いていた。そしてハチマンは……。

 

「ハチマン、お前に頼みがある。……協力してくれるか?」

「……あん?」

 

 何やら嫌な予感がするも、しぶしぶ聞くことにした。



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ダクネス結婚するってよ

「さ……最悪だ……」

 

 俺は、右腕に引っ付いている変態を見ながらつぶやいた。

 最悪だ。本当にサイッアクだ。なんでよりによって……。

 

 

 

 

「まあダーリン♡ そんなに緊張しなくてもいいのよ~? いつも通り『デカパイ』とか『コキ穴』って呼んでくれないの?」

「(こんのアマァ!!)」

 

 なんでよりによってこのエゴマゾの恋人の不利なんてしなきゃいけないんだよ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の発端はダクネスに頼まれて一緒にお見合い会場に向かう道中。ダクネスは突然俺にどうやって婚約を潰すのか相談してきた。それで俺かカズマかのどちらかが恋人のフリをすればと提案し、じゃんけんで相手を決めることにした。それで俺が恋人役になったのだが……。

 

「どうしたのダーリン?」

「(なんでこんな頭の悪いカップル設定で行くんだよ!?)」

 

 そう、何故か俺たちは頭の悪いDQNカップル設定で行くことになってしまったのだ。

 どういうカップルで行くかは特に決めてなかった。相手に合わせて相応しい演技をするよう言ってあった。……その結果がコレである。

 これはいったいどういうことなのだろうか。もしかしてダクネスは俺の相応しい相手はこんな頭の悪い女だと思われているのだろうか? ……心外にも程があるぞ!!

 

 俺は清楚で幸薄な、どこにでもいるモブっこい子がタイプなんだよ! 決してこんな頭悪そうな乳デカDQN女なんかでは断じてない! というか苦手な分野だ!!

 

「だぁ~りん♡」

「(どうしよう、今すぐ助走付けて殴りたい)」

 

 やめたい。心底ここから逃げ出したい。

 恋人のフリはいいよ。こんな変態に何言われても勘違いしないし。だけどね、なんで俺の一番苦手タイプをチョイスしてくるのかな? しかも一番合シチュエーションで選択したし。俺そんなにDQNみたいかな?

 むしろ俺は正反対だと思うんだけど。むしろDQNに泣かされる立場だと思うんだけど。

 

「(あんた一時DQNになったことあるでしょ)」

「(うっせえニゴリエース共! 元はお前らが原因だろうが!!)」

 

 一時、俺はアンデッド娘たちに精神を支配されることがあった。そのせいで俺は好戦的な性格になってしまい、ひどいときはモズク風呂に浸かった後のダディ以上に凶暴化していた。

 ああ、黒歴史だ。なんで俺あんなにイキっちゃったんだろう。なんでこんな頭に行く栄養が全部乳と尻に行ってるようなアホ共に精神で負けっちゃったんだろう!?

 

「というわけだ。領主さん、ダクネスのことは諦めてくれねえか?」

 

 しかしまあ、引き受けた以上はやる遂げて見せる。それがぼっちとしての誇りだ。

 

「(私たちがいる時点でボッチじゃないけどね!)」

「(うっせえ)」

 

 頭に響く声を無視して俺は続ける。

 

「親父さん、この通り俺は野蛮な男だ。貴族様から見りゃ下賤な生き物に見えるかもしれねえ。けどな、ダクネスを想う気持ちは誰にも負けねえ」

 

 うっわ~。恥ずかしい。メッチャ恥ずかしい! 黒歴史大更新だよ。今までの中でトップに躍り出る黒歴史だよ。

 ほら見ろ。隣にいるダクネスなんてめっちゃ笑ってるじゃん。爆笑するのを必死に抑えて蹲ってるじゃん。……あとバカ共、お前らは笑ったら後で殺す。絶対だ。

 

「俺はダクネスを愛してる。全てを差し出していいと思うくらいにな」

 

 恥ずかし!超恥ずかし!

 なにこの歯が浮く様なセリフ?今時の少女漫画でも言わねえぞ。

 これは俺みたいなクソぼっちが言っていいセリフじゃない。ありし頃の葉山でも許されないレベルだ。

 もし小町たちに聞かれたら死ぬね。そして今度こそはちゃんとした特典貰って転生するね。……もう頭のおかしい爆乳ハーレムは勘弁してください。

 

「……そうですか。では私は身を引くしかありませんね」

「なにを言っているこの玉無しが!」

 

 ……折角いい感じに終わりそうだったのに、この変態がまた暴走した。

 

「貴様それでも貴族の息子か!? 貴族の息子なら権力を濫用して無理やり寝取って……ふぇ!?」

 

 ・・・この馬鹿が!

 

「おいダクネス、お前は俺のモンだって言ったろ」

「え、あ……うぅ………」

 

 ダクネスを無理やり抱き寄せて黙らせる、するとダクネスは顔を真っ赤にして黙ってしまった。

 おい、普段から変態まっしぐらなくせに、何普通の女子みたいにしおらしくなってるんだ。

 唯一マトモな俺がこうして耐えてるんだ。普段から恥ずかしいを通り越したセリフを吐くお前が恥ずかしがるな。俺が余計に恥ずかしくなるじゃん。

 

「う……うん………」

 

 おふざけか、それとも演技なのか。ダクネスは恥ずかしながらも俺に身をゆだねて胸元に擦り寄ってきた。

 おい、そこまでする必要はねえよ。てかお前ノリノリじゃん。なんで俺の首に抱きついてるの?なんでその無駄にでかい脂肪の塊を余すことなく俺に押し付けようとするの?

 演技にしてはやりすぎだ。本当にやめて。本気で我慢できなくなるから。

 

「……これは本当に奪えそうにありませんね。そうでしょう、ララティーナ卿」

「うむ、そうだな。しかしハチマンくん、君には一つ試練を課したい」

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま……参りました」

 

 領主の息子様はあっさりと自分の敗北を認めた。

 

 ダクネスの父がハチマンに課した試練。それはばルターと剣の模擬試合で勝つことである。

 娘を預ける以上、弱い口先だけの男に任せるわけにはいかない。その言葉が真実かどうか試したいと彼は言った。

 その結果は御覧の通り。いつもと勝手が違ってハチマンは一時追い込まれるも、某携帯で変身するライダーのようにカウンターで形成逆転。そのまま勢いの良いラッシュを叩きこんで見事勝利した。

 眼は腐っていようとも、仮に全てのアンデッドを一人で封印し、あのベルディアを倒した戦士なのだ。騎士団隊長程度なら造作もない。

 

「本当に強いですね。これほどの実力、騎士団でもやってきますよ」

「いや、俺みたいなのは騎士団とかに入っちゃいけないって法律で決まってるんで」

 

 ハチマンの戦闘スタイルは某食うか食われるかのライダーに近い。故に騎士団のようなおキレイな組織には向かない。

 

「それじゃあ合格ということでお流れ…」

「何をしているハチマン!?」

 

 突如、ダクネスが彼らの間に割り込んだ。

 

「なんだあの腑抜けた試合は!? お前はそんな優しい戦い方をするような男ではないだろ!?」

「な、何言って……」

「お前はもっと野蛮な戦い方をするだろ!」

 

 ああ、あの喧嘩殺法のことね……。

 

「いや、貴族のご子息相手に目潰しだの金的だのするわけにゃいかねえだろ」

「ならば私にしろ!」

 

 ……こういう流れでハチマンはダクネスとも戦う羽目になってしまったのだが……。

 

「や……やりすぎだ!」

「これほっとんどハチマンの圧勝じゃない!」

 

 結果は御覧の通りである。

 攻撃の当たらないへっぽこクルセイダーと全てのアンデッドを一人で封印し、あのベルディアを倒した戦士。結果は火を見るより明らかである。

 

「はあ……はあ! もっとだ、もっと来いハチマ……ぐぇ!?」

 

 ハチマンの攻撃がダクネスの脇腹に直撃する。するとダクネスの口から女が出してはいけない音が漏れ出た。

 そう、ダクネスはクソドMだ。ハチマンの攻撃はむしろご褒美なのである。

 

「話している際中の相手に攻撃……いいぞ、いいぞハチマン!」

 

 ダクネスが再び突っ込んでくるも、攻撃は当然スカ。それどころか、突っ込むタイミングを見極めたハチマンによって木刀で再び殴られてしまった。その上、続いて木刀の柄で顔面を殴られる。

 

「じょ、女性の顔面を柄で殴るなんて……!」

「うっせえ、戦いに女も子供もあるか」

 

 相手が女性だから手心を加えることが正しいとは限らない。場合によっては侮辱となり、その弱みに付け込むことだってあるのだから。

 故にハチマンはたとえ相手が女子供だろうが容赦しない。何者だろうと叩き潰す。

 

 続いて、ダクネスの木刀を自身の木刀で弾き。膝蹴りを腹にぶち込んだ。

 

「け…剣の試合で相手を蹴るなんて……!?」

「剣だけが剣術じゃねえんだよ」

 

 ハチマンにとって剣など切れるだけの棒。それを使うことで如何に相手を効率よく殺すか。それだけを考えている。

 蛮族の発想。しかしこれでハチマンはこの世界で生き残ってきたのだ。

 

 今度はダクネスの髪の毛を掴んで拘束、木刀で滅多打ちにした。

 

「相手の髪を掴むなんて反則じゃないのか!? しかも女性の髪を!?」

「実戦に反則もクソもあるか!!」

 

 実戦では何も剣で殺すことのみに拘る必要はない。殺せば勝ちなのだから。……まあ、彼もダクネスが相手出なければここまでしないが。

 

「う……うぅ……」

 

 あまりの猛攻の前に、ついにダクネスは倒れた。

 いくら頑強な防御力を誇っていようとも、彼女は人間だ。こんなに滅多打ちにされたら体力も底を尽きる。

 だが、それでもこの悪魔は容赦しなかった。

 

「らあッ!」

「「「(あ、蹴った)」」」」

 

 必死に立ち上がろうとしているダクネスを蹴り飛ばした。

 猛攻の前に膝をつくも、必死に立ち上がろうと、勇敢に立ち向かおうと最後の力を振り絞っている。……そんな風にバルターには見えていたのだろう。

 しかし、この蛮族は相手が立つのを待ってやるほど紳士的ではない。むしろわざわざ蹴りやすい体勢になってくれてありがとうと言わんばかりに蹴り飛ばした。

 

「あああああああああああ!」

 

 サッカーボールのようにゴロゴロ転がるダクネス。それを追いかけてもう一度蹴る。そしてまたもう一度と。この蛮族は容赦しなかった。

 むしろ、何か楽しくなってきている。ハチマンはノリノリで筋肉ボールを転がして遊んだ。

 

「す……すばら…素晴らしい!」

 

 無論、ダクネスはこの笑顔である。

 

 素晴らしい、なんて素晴らしい体験なんだ。

 色んなプレイを経験してきたが、ボールのように扱われることなんてなかった。

 ボコボコに殴られ、乙女であるというに顔面を容赦なぐ殴られ、毎日手入れを欠かさない髪の毛を引っ張られ、そしてボール扱い。……なんて最高なんだ!

 

 やはりこの男の容赦のなさは本物。こいつこそ私のご主人様だ!

 

 

 

「蹴るのも飽きてきたな」

「そ、そんな……もっと………もっと蹴って……」

 

 突如蹴るのをやめたハチマンに縋りつくダクネス。その有様はまるで奴隷のようだった。

 これはもう試合とかそんなレベルではない。どこからどう見ても公開調教である。

 

「だからこれで終わりにする」

「え? ……あああああああああああ!!!?」

 

 突如、ダクネスの身体に電流が走った。

 そう、これもハチマンのスキルの一つ。ディアーアンデッドと融合することで手に入れたスキル、サンダーである

 

「け、剣の試合で魔法を使うなんて!?」

「魔法じゃないよスキルだよ。しかも剣から流しているから剣術だよ」

「「「(…屁理屈)」」」

 

 ハチマンの残虐ファイトに引くバルターと、それを日常のように見るカズマ一行。

 

 カズマ達はハチマンの喧嘩殺法など見飽きているのだ。

 こんなのはまだ優しいレベル。本気のハチマンは相手の喉元を噛み千切り、引っ掻きで相手の眼球を傷つけ、金的は本当に玉を潰す。

 特にゴブリンとの戦いは酷かった。一体何度ゴブリンたちの悲痛な叫びを聞いたことか……。

 そんなハチマンの残虐ファイトを知っている彼女たちからすれば、ダクネスへの行為はむしろ生ぬるいとさえ感じてしまう。

 

「あばばばばばばばばばばいいいいいいいいい!!!」

 

 そして、ダクネスは初めての電撃にこれでもかというほど愉しんでいた。

 身動きの取れない状態で女として大事な部分に電撃を流される。……ああ。なんて鬼畜ばシチュエーションなんだ!?

 

 電撃を流されるという状況自体なかなかないのに、更にその上を行くというのか!?

 限界ギリギリに耐えられるほどの電撃。決して強すぎず、かといって弱すぎることもなく。この漢は私が一番気持ちいいと思える痛みを与えてくれる

 素晴らしい。本当に素晴らしい。やはりこの漢こそ私のご主人様に相応しい。

 

 ただ不満があるとすれば、この男は有能かつ意外と働き者なところだろうか。

 普段は働きたくないとか言ってる癖になんやかんやで働き、女にも意外と優しい。

 

 見た目はこんなでも意外と紳士なのだ。それが玉に瑕だ。

 

「あ……もう……無理ぃ………」

 

 視界がチカチカする。全身からポワ~とした浮遊感が、まるでのぼせたかのように頭がぼ~としてきた。

 嫌だ、まだ気絶したくない。もっと……もっとこの苦痛を楽しみたい!

 

「しゅ・・・…しゅごしゅぎるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

 ダクネスは変な液体を流しながら気絶した。

 ソレと同じタイミングに……。

 

「どうだハチマン君の腕は? それと、ちょっとした飲み物の差し入れを……」

 

 そこに現れたダクネスの親父さんが飲み物が入ったかごをボトリと落とし、ダクネスの方を見ていた。

 今のダクネスはスカートは裂かれ、全身痣だらけで気絶しているのだ。そしてアクアがカ俺を指差し……、

 

「アイツがやりました

「よし、こいつを処刑しろ」

「違うんです、誤解です!」

 

 この後、カズマの必死な説得により何とか事なきを得た。

 それと、ダクネスがお腹にハチマンの子がいるなどと言い出して一騒動あったが、それはどうでもいいことだ。

 とまあ、こんな感じでお見合いは無事に破談させることができた。

 

「ハチマン、今日の試合は素晴らしかった。あの容赦の無い攻撃と私のツボをおさえた電撃……。やはりお前は私のご主人様だ! あと次は弦術もアリで行こう。また屋敷で私をハムみたいに縛ってくれ!」

 

 その場にいる全員が思った。やっぱりダクネスは結婚させた方が良かったんじゃないかと……。




マンティスアンデッド
八幡が最初に使ったラウズカードに封印されていたアンデッド娘。
転生して間もない八幡の弱った精神に付け入れ、肉体を乗っ取った前科がある。
手口はかなり陰湿。雪ノ下や由比ヶ浜達が八幡を責め立て、否定する幻を見せ続けた。
あともう少しで八幡を完全に支配しかけたが、とある女性のおかげで立ち直った。ちなみにその後フラれた。
そのせいで八幡は戦いの愉しみを覚え、今は大分落ち着いたものの、好戦的かつ乱暴になった。
八幡がハチマンになったのは大体コイツのせい。

スタッグビートルアンデッド
格上との戦闘で弱ったハチマンの精神に付け入れ、ボトボトにして乗っ取った前科あり。
何とか自力で乗り越えて回復したものの、しばらくDQN度が上がった。本人曰く、ぶっちゃけモズク風呂に浸かってる方がマシだと思えるぐらいの暴れっぷりだったらしい。
なんとか一線で踏みとどまったものの、しばらくイキっていた。

ビートルアンデッド
度重なる戦いに疲れ果てたハチマンの精神に干渉し、戦闘狂に仕立て上げた張本人。そのせいでしばらく死にたがりな性格になってしまい、危険地帯でありながら飛び込む無謀さを発揮するようになった。ハチマンが時折自身の命を粗末にしてるのは大体コイツのせい。

スパイダーアンデッド
皆さんご存知ニゴリエース。腹の中も頭も目も濁っており、本編同様に使用者を暗黒面に引き込もうと策を練っていた。
人間に騙されて誰も信用できなくなったハチマンの弱った精神に付け入れ、肉体を乗っ取った前科あり。
慣れたのかすぐに回復したが、捻くれ度と悪だくみするための知能とATフィールド(心の壁)の強度が格段に上がってしまった。ハチマンがアクマンになるのは大体コイツのせい

他のアンデッド娘
全員乗っ取ろうとしたり、精神に働きかけて悪堕ちさせようとした前科あり。そして全員今尚ハチマンのジョーカー化を望んでいる。


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悪魔倒すべし!

「サトウカズマ! サトウカズマはいるかあああああ!」

 

 突然、検察官セナが大声を上げながら、屋敷に飛び込んできた。

 聞くとカズマが先日潜ったダンジョンから謎のモンスターが湧き出してきているらしく、それでカズマが疑われているらしい。

 

「てっきりまたカズマさんが何かやらかしたと思ったもので。となると、誰か人を雇って調査しなければならないのですが……」

 

 当然俺達には何の覚えも無いので説明するとすぐに納得してくれた。

 どうせなら協力してくれないかなーなんて目でチラチラこちらを見ていたが、全員協力する気も無く、その旨を伝えると肩を落として屋敷から去って行った。

 

「なあ、念のためもう一度聞いておくけど、お前ら本当に心当たりは無いんだよな?」

 

 カズマが心配そうに再度心当たりが無いかと尋ねてきたが、めぐみん、ダクネス、もちろん俺も心当たりなんてあるわけは無い。最後にアクアに尋ねていたが、

 

「まったく、少しは私を信用なさいな。というかあのダンジョンに関しちゃむしろ、私のおかげでモンスターは寄りつかないはずよ?

 あの時リッチーを浄化するのに使った魔法陣は本気も本気、物凄く気合を入れて作ったものよ。だから邪悪な存在が立ち入れない様になっちゃってるはずよ!」

 

 それを聞いたカズマと俺は目を見合わせた後、カズマはアクアの方を向く。

 

「このバカがあああああー!」

 

 カズマは頭を抱えながら絶叫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アクアから魔法陣の件を聞いた、俺たちは件のダンジョンへと向っていた。

 

「……ぐすっ……。私のせいじゃないはずなのに……。絶対違うのに……!」

「お前、前回の失敗に懲りてないのか?」

 

 前回、この馬鹿が墓場に張った結界によって、溢れた幽霊が怪奇現象を引き起こしてしまった。その失敗を全然活かしてない。……本当に学習力のない駄女神だな。

 

 ダンジョンに辿り着くと、妙な仮面をした人形が行列を作って歩いていた。

 

「私、この人形を生理的に受け付けないわ。これを見てるとムカムカしてくるんですけど」

「同感だ。無性に潰したくなる」

 

 アクアと俺は何故かは分からないが仮面のモンスターに対して良くないものを感じていた。

 何故だろうか……あの人形から悪魔の気配がするんだよな。

 

「サトウさん……! もしやモンスターの調査に協力してくれる気になったのですか?」

 

 後ろから声を掛けられたので振り返ると、そこには多数の冒険者を引き連れたセナの姿があった。

 カズマはモンスターに怯える人々を守るのは冒険者の義務だと格好つけていたが、何やら疑いの目を向けられていた。これも日ごろの行いのせいか。……あまり人のこと言えないけどね!

 

「カズマ、ちょい待った。ここからでもどうにかなるかも知れない」

 

 俺がそういうと、全員こちらを注目していた。

 

「何か手立てがあるのですか?」

「ああ、まずはこっからダンジョン内を探索してみる。……変身」

 

 俺はギャレンに変身し、スコープを発動させる。

 超音波でダンジョン内部をサーチ。すると奥に人影が見えた。

 詳細を知ろうと更に調べようとする。その時だった……。

 

『ほう……。この吾輩を探ろうとするとはどんな無謀な冒険者だ』

「!!?」

 

 奴はこちらに目を向けた。クソが! 気付かれた!

 

 俺には常時隠密系スキルが発動している。一応ON/OFFの切り替えは可能だが、もちろんさっきは逆探知されないよう発動させてサーチをかけた。……しかし奴はこちらに気付いた

 それは奴が俺のスキルを無効化するほどの強さである証拠だ。……魔王に匹敵する脅威を切り捨ててきたこの俺と同程度の強さを。

 

 

 なら、やることは一つ。……先手必勝だ!!

 

 

《ビーム》《ライト》《キャノン》

《シャイニングシュート》

 

 ラウザーにカードを読み込ませ、ダンジョン内に向って砲撃を発射した。

 銃口から凄まじい熱量の光線が吐き出される。それはダンジョンの壁を貫き、人影へと逸れることなく真っ直ぐ向かう……。

 

「い…いきなり撃ちやがった……」

「私は爆裂魔法を撃てなかったというのに……羨ましいのです!」

「まさか壁を抜くとは……まさしく無法者だなハチマンは!」

「ダンジョンから出てくるモンスター、ムカムカするから私の分もやっちゃいなさい!」

 

 俺の行動に呆れるカズマと、砲撃したことを羨ましがるめぐみんと、自分の事情から応援するアクアと、最後にハアハア言いながら俺を貶すダクネス。……やっぱしダクネスとは一度話を付けるべきか。唯一アクアだけは応援してくれていたが、まあ自分の都合だろう。

 

「な……何をしているんです貴方は!?」

 

 ただ一人、セナだけはとんでもないと言った顔で俺を責めて来た。

 たしかにいきなり確認もせずに撃った俺が悪い。しかし今は緊急事態なのだ。……説明する暇もないほどのな。

 

『不意打ちは失敗だ。完全に防がれた』

「「「「……なっ!?」」」」

 

 メンバー全員が一斉に驚愕の声を上げた。

 

「防がれた……とは、どういう……」

『言葉通りだ。アイツ、何事もなかったみたいにまだ胡坐かいてやがる』

 

 わざわざスキルを使うまでもない。奴の気配は未だにビンビン感じている。

 

「ではもう一度撃ってみてはどうですか? そうすれば倒せるかもしれません」

『駄目だ。これ以上の火力だと、めぐみんの爆裂魔法くらいだ。……いっそのことダンジョン破壊して生き埋めにしてやるか?』

 

 それを聞いたセナがやはりダンジョンに潜って調査するしかないかと言ってきた。

 そんな中、人形がコチラに近づいてきた。俺らの中でも近くに居たアクアへとしがみ付き……。

 

「あら、もしかして私に甘えてるの? ……なんだ、こうして見れば意外と可愛い……」

 

 自爆した。

 

 その人形はアクアの膝にしがみ付き、大爆発を起こした。

 どうやらこの仮面の人形は動いているものに取り付き自爆するらしい。アクアは無事だったが半泣きしていた。

 というか、あの爆発であの程度で済んでるアクアも結構頑丈なんだな……。普通なら大怪我してるところだ。

 

 中々厄介である。動くものに取り付き自爆、少しでもダメージを受ければ自爆。

 仮面ライダーの鎧なら爆発に耐えられるが、コイツらはどうなるか……。

 しかしそれにしても多いな。この調子だとダンジョン内にどれだけの人形が徘徊している事やら……。

 さてどうするかと悩んでいると、ダクネスが人形の一体に近づくと、無言で殴りつけた。

 

「……うむ。これならいける。問題ないな」

 

 続いて、他の人形たちがダクネスにしがみついて盛大に爆発した。……が、ダクネスにはダメージはない。

 

『人形の数が多い。ここは爆発の効かない俺とダクネスでダンジョンに潜り、入口まで誘導して一気に叩くべきだ』

「なるほど、ではその案で行きましょう」

 

 俺の提案にセナは同意したのだが……、

 

「流石ハチマンだぜ。部屋に入られないよう身内だけで行こうとしてるぜ」

「ハチマンって口から先に生まれたの? よくもまあ色々出てくるわね」

「けど今は頼りになります。……いつ犯罪に走るかとても心配になりますが」

「本当にな……。一歩道を踏み外すと、とんでもない人間になりそうだ」

 

 カズマを除いた全員が呆れたような、どこか心配するような表情で俺に語りかけてきた。……ハイハイ無視無視。

 

 ということで俺とダクネスで潜る。めぐみんは爆裂魔法で狙い撃つため、アクアはアンデッドが寄って来る可能性があるため、そしてカズマはこの二人を止めるため入口で留守番となった。

 

『じゃあ、先頭はダクネスで、その後ろが俺でいく』

「また私を盾代わりとして使う気か! 相変わらず鬼畜な男だな!」

『安心しろ。全部撃ち落としてやる』

「あ、そうですか……」

 

 ダクネスはしょんぼりした様子で言った。……それなら俺もサボろうかな?

 そんなことを考えてると、早速的が見えてきた。

 

 設定上、仮面ライダーは人間と比べ物にならないほどの視力を持つ。更に暗視効果もあるのでこんな暗闇の中でも遠くから狙い撃てるのだ。

 ここから全ての人形を撃ち落とす。するとダクネスはつまらなそうにしていた。

 

「……もう少し加減して欲しいのだが。できれば人形を少し私にもまわしてくれないだろうか?」

『……分かった』

 

 そうして、人形の迎撃をダクネスに任すと……。

 

「見ろハチマン!当たる、当たるぞ! こいつらは私の剣でもちゃんと当たるぞ!」

 

 ダクネスの剣を避けようともしない人形達をバサバサ切り裂いていった。

 もちろんその度ににダクネスの至近距離で爆発していくのだが、ダクネスは平気な顔をして突き進む。

 というか。アイツ今まで攻撃が当たらない事を気にしていたんだろうか? だったら意地を張らずに攻撃用のスキルでも取ればいいのに……。

 

 そんなことを考えてると、リッチーの部屋の前で胡坐かいて土をこね回しせっせと人形を作る影が見えた。

 黒いタキシードに白い手袋、そして人形と同じ仮面をつけている。俺はソイツを見るなり、早速射撃を開始する。しかし全ての弾丸は見えない壁により阻まれた。

 

「……我がダンジョンへようこそ冒険者よ! 我輩こそ魔王軍の幹部にして、悪魔達を率いる地獄の公爵! この世の全てを見通す大悪m……うおッ!!?」

 

 俺は、名乗りの途中で銃撃を喰らわした。




・八幡の固有スキル一覧

《孤高を進む者(エリートぼっち)》
 ソロ活動で行動場合のみ、全ての分野において早熟する
 単独戦闘の際、能力が向上する
 パーティー参加した場合、この効果は無効化する。パーティメンバーが奴隷や手下の場合は除外。

《理性の怪物(モンスター・カルム)》
 精神異常無効
 動揺してもすぐ冷静になれる
 早い話がアインズ様の精神異常無効スキルの劣化版

《隠滅の存在感(ステルスヒッキー)》
 隠密行動の効果向上
 察知系無効

《バトルファイトの勝利者(アンデッド・マスター)》
 封印カードを製造できる
 勝利して封印した相手を従えることが出来る
 従える者を強化し、繁栄させることが出来る

《蛮族(ワイルド)》
 文明の及ばない自然の中で早熟する
 未開の地では能力が向上する

《狩人(ハンター)》
あらゆる状況、分野で適切な先読みを瞬時に行う


《終焉と全種の幼獣(プレジョーカー)》
ラウズカードの力を使用、支配することが出来る
破壊衝動と支配衝動に飲まれる

《不死と始祖の戦士(アンデッド・バトルファイター)》
 戦場に身を置くことで早熟する
 強敵、格上を打ち倒すことでより早熟する
 倒した相手の力を得られる
 戦闘狂になる


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悪魔退治

久々に真面目に戦うよ!


 ギャレンはバニルを視認すると同時に銃撃を開始した。

 腰のホルダーから引き抜き、狙いを定めるまでの時間、ほんのコンマの世界。見事な射撃であったのだが……。

 

「おい貴様! 名乗りを上げている途中で攻撃するなど一体何を……って、撃つな!」

『知るかドンどコドン!』

 

 相手には不評であった。

 折角名乗りを上げているのに、途中で邪魔されたのだ。そりゃ怒る。

 

「(しかし厄介だな。この鎧の攻撃が全然見えない)」

 

 銃撃を避けながら、珍しくシリアスなこと考えるバニル。

 この鎧には見通す眼が通じない。使おうとしてもモヤがかかる、あるいは無理やり弾かれるのだ。

 今は銃口の向きから辛うじて避けているが、これほどの腕前ならいつかは当たってしまう。

 

 やれやれ。遊んでいる暇はないな。

 バニル何処から禍々しいデザインのレイピアと歪なデザインのナイフを取り出し、ソレで切りかかった。

 

《チェンジ》

 

 ブレイドに変身し、ブレイラウザーで受け止める。

 

「なに!? 鎧が一瞬で変化しただと!?」

 

 動揺するバニル。その隙をついてブレイドは仮面目掛けて突きを繰り出す。

 首を逸らしてギリギリ避けるバニル。仮面に若干の傷が付いたが気にしない。そのまま下がって体勢を立て直そうとするが……。

 

「らあッ!!」

 

 柄の部分で部分で殴られた。

 刃から逃れて油断したのだ、これ以上追撃はないと。まさか意表を突かれるとは考えもしなかった。

 

 無様。なんて間抜けな失敗なのだろうか。普段ならばこんな失態など犯さないというのに。

 常に見通す眼を発動して相手の策を見抜き、その度に煽るのが彼のスタイル。たとえ使えなくても、元から高いステータスで見抜いてきた。

 だが、この男にはそれが通じない。

 

 この男のスペックが高いというせいもあるが、戦い方がとにかく無茶苦茶なのだ。

 

 剣筋は素人同然。だからこそ逆に読みにくい。

 おそらく我流なのだろう。無茶苦茶ながらに合理的であり、一種の洗練された美がある。

 

 踏み込みと間合いの取り方は天才的だ。臨機応変に移動して翻弄させ、時折飛んでくる手足には何度もひやひやした。

 そして旨い具合に組み合わされているスキル。至近距離で電撃を流そうとするわ、突然スピードアップするわ、蔓の鞭で締め上げようとするわ……マジで無茶苦茶だ。

 

 まさしく相手を殺すためだけに特化した剣術。蛮族の戦い方だ。

 こんなにやりにくい戦い方をする奴は冒険者でもそうそういない。ゼッタイこの男は性格が悪い。

 

 

 そして何よりも、この男の攻撃には通常攻撃にも神力が込められているのだ。

 

 

 一発喰らう度に慣れない痛みが走る。聖属性の無効スキルがあるというのにソレを突破し、甚大なダメージを与えているのだ。

 地獄の大公爵である彼が痛みを覚えるのだ。通常攻撃のみで高名な大悪魔を圧倒する実力と神力。それだけでブレイドの力は推し量れる。

 

 バニルは予想した。おそらく女神の加護を受けているのだろう。しかも、高名な女神のものを。もっとも、こんな野蛮な戦い方をする戦士に加護を与える神など碌なものではないと思うが。

 

「しかし! この程度では吾輩は負けぬわ!」

 

 突如肉体がスライムのように変化。ブレイドの斬撃をやり過ごそし、下がろうとした。

 この体は泥で出来ている。故に戻すことなど造作もないのだ。

 

 だが、この相手に限って言えば悪手だった。

 

《ブリーザード》《スクリュー》

《ブリザードゲイル》

 

「まずい…!『ダーク・オブ・シールド』」

 

 ブレイドの拳から吹雪が発生。バニルは咄嗟に魔法で防御しようとするも、ブリザードゲイルは魔法を突破してバニルを凍結化させた。

 

《サンダー》《スラッシュ》《ラッシュ》

《ライトニングスマッシュ》

 

 稲妻を纏って突進するブレイド。突風の如く汚い氷像に向かい、粉々に粉砕した。

 

『(……あっけないな)』

 

 妙だ。根拠はないが、あの悪魔はベルディアよりも強者のはず。なのに何故あっさりやれた?

 不安になったブレイドは念のためにカードを取り出す。あの悪魔を封印するためだ。

 ブレイドがカードを投げようとした途端……。

 

「もしや討ち取ったとでも思ったか? 残念、何のダメージもありませんでした!」

 

 突如、バニルの仮面が天井から落ち、ダクネスの顔に張り付いた。

 仮面をつけたダクネスがゆらりと顔を上げる。それを見たブレイドは……。

 

 

 

 

 

 

 

『死ね!』

「はぐあッ!?」

 

 レンゲルに変身して、レンゲルラウザーで思いっきり殴り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よし行くか』

 

 レンゲルは蜘蛛の糸でダクネスをバニルごと拘束し、洞窟の入口まで連れてアクアに浄化してもらう事にした。

 バニルに体を乗っ取られると、抵抗すると激痛が走るらしい。しかしダクネスにはご褒美だ。故に気にすることはない。

 グリンクローバーに跨って発進させる。 

 

「貴様! 仲間を縛り上げて引きずるとは……なんて鬼畜な男だ!? それでも人間か!?

(体を乗っ取られた挙句、罪人の様に縛られ引きずられるとは……何というご褒美だ!)」

《ゲージ》

 

 仮面をダクネスから外して体外へ行こうとしたバニル。しかしレンゲル透かさずウズカードをスラッシュしてスキルを発動。ダクネスから出て行くのを防いだ。

 更に、アクアから貰った封印の札を張る。ダメダメとはいえアクシズ教徒にあそこまで信仰されている女神の力だ。悪魔とてその呪縛からは逃れられない。

 

「小僧、なんだそのスキルは!? 悪魔の力でこの吾輩を封印だと!? 貴様の全てを見通す事ができん!?

(重ねてスキルで封印とは……まるでケダモノ扱いされているようだ! 今日は素晴らしい日ではないか!!)」

 

 バニルの誤算は見通せない敵と遭遇した事とダクネスの体に入ってしまった事だ。もっとも、そのまま逃げようとしても、ラウズカードで封印されるだけだが。

 

「あばばばばばばばば! な……なんたる屈辱だ! この吾輩が……この吾輩が罪人の如く引き摺りの刑にされるとは!!?

(うひぃぃぃぃぃぃぃ! な、なんて素晴らしい日なんだ! クルセイダーの私がまるで粗大ごみのように扱われるなんて! )」

 

 地面に身体が擦れ、でこぼこ道に全身を打たれる。そして曲がり角ではわざと壁に叩きつけられた。

 乗っ取ているバニルは屈辱と苦痛を覚え、乗っ取られているダクネスは快感を堪能する。……後ろではそんな珍妙なことが起こってるのに、レンゲルは知らん顔でバイクを走らせていた。

 

「セイクリッド・エクソシズム!!」

 

 ダンジョンから出ると同時に、いきなりアクアが浄化魔法らしきものをダクネスに対して放ってきた。

 悲鳴を上げるバニルではあったが、バニルを浄化することはできなかった。どうやら聖騎士のダクネスは光の魔法に対して特に強い対性があるらい。なので……。

 

『じゃあダクネスごとボコって弱らせるか』

「「「「……へっ!?」」」」

 

 レンゲルの言葉に全員が素っ頓狂な声を上げた。

 

『隙が多くて実戦では使えない大技があってな、こういう機会じゃないと出来ないからな。あ、本気でやるから気絶するなら早めにな』

「貴様、仲間を手加減抜きで技の実験台にするだと!? キサマの方がよほど悪魔ではないか!!

(ああ! 絶対に気絶などせん! 思いっきりやれ!!)」

 

 そうして、ダクネスを蜘蛛の糸で拘束した。まずは手始めに一発……。

 

『オッラァ!!』

「「「本気で殴った!?」」」」

 

 レンゲルの一撃に一同は驚く。

 

『これ邪魔』

「はあん!」

 

 鎧を剥ぎ取って殴りやすい状況を作るレンゲル。

 まるで日焼けの皮でも剥いているかのようだ。手際よくべリベリと剥ぎ取っていく。

 

「(すげえいい手際だな。後で教えてもらおう)」

 

 あれほど手際良く女性の鎧を剥ぎ取れるのなら、服を脱がすのもうまいはず。よし、教えてもらってセクハラに使おう。そうカズマは考えた。

 

 鎧を剥いた後、攻撃に移行する。レンゲルは自身の槍を振り回し、身動きの取れないダクネスを殴り始めた。

 重い。ぶつけられる衝撃がとにかく重い。ジーンとダメージが身体中に響き渡る。それが……それがとても………!!

 

「あああああああああああん! いい、いいぞハチマン! なんて重い攻撃だ!! いいぞ、この調子でもっと殴ってくれ!!」

 

 とても気持ちがいい! だからもっとやってご主人様!!

 

「ダクネスさんは本当に大丈夫なんですか? あの攻撃では最悪……」

 

 ボコボコ殴るレンゲルを見てセナは青くしていたが、この程度ではダクネスは倒れない。そんな心配は無用だ。現に……

 

「フハハハハハハ!! 素晴らしいぞ娘! 伊達に腹筋が割れておらぬな。無駄に高い魔法防御を持つ貴様でなければ危ないところであったわ!

 (腹筋が割れているなど噓っぱちだ! 信じるんじゃない!!)」

 

 現にこうしてピンピンしているのだから。

 

『その立派な腹筋ならこれ食らっても大丈夫そうだな』

《スクリュー》《ビート》

 

 まずは小手調べ。ワンペアを揃えて一発ぶん殴る。いわゆるドリルパンチだ。

 

「ぶはあ! ほ、本気で殴りやがったぞこの鬼畜! 最低すぎるぞキサマ!!

(んひい!な、なんて重くて容赦のない攻撃だ! 素晴らしすぎるぞハチマン!!)

 

 その一撃を受けて悶絶するバニルとダクネス。無論バニルは苦痛に、ダクネスは快感でだ。

 

『次はこれだ』

《バイオ》

 

 次に蔓の鞭で滅多打ちにする。鋭い鞭打ちはインナー越しでもダメージを与え、彼女の柔肌に痛々しい傷跡を付けて行った。

 その上、この鞭には棘が付いているのだ。……もっとも、殺傷力はそれほど高くないので拷問用にしか使えないのだが。

 

「これ…これ拷問用の技だろ! こんなのもを仲間に使うなんて……いったいどんなパーティなんだ!?

(いい…いいぞこのプレイ! こんなに……こんなに私を気持ち良くしてくれるなんて!?)」

「「「(ごもっともです)」」」

 

 無視して鞭打ちを続けるレンゲル。それを見た一行は思った、これなんてプレイだと。

 確かにその通りだ。縛られて身動きの取れない相手に鞭打ち。……どう見てもSMです。

 そんな周囲の反応や感想なんて知ったことかでもいわんばかりに鞭打ちを続ける。完全に二人の世界だ。……こういうと語弊があるが。

 

《バインド》《サンダー》

「(あばばばばばばばばばばいいいいいいいいい!!!)」

 

 鶴の鞭を巻き付け、一気に締め上げる。そして強烈な電撃を一気に流し込んだ。

 

「クソ! 今日はなんて最悪な日なんだ!?

(ああ! 今日はなんてて最高な日なんだ)」

 

 電撃を喰らいながら、バニルはハチマンに出会ったことを後悔し、ダクネスはハチマンに出会ったことを感謝した。

 バニルは思った、なんだこのクソ野郎は。何故これほど躊躇なく女を痛めつけることが出来る。この男こそ悪魔に相応しいのではないだろうか。いや、絶対そうだ!!

 ダクネスは思った、なんだこのドS野郎は。何故これほど私を気持ちよくさせることが出来る。この男こそ私のご主人さまに相応しい。いや、考えられない!!

 

『そして使いどころに迷うコイツからだ』

《パワー》《クラウル》《エンテングル》

 この世界で封印した悪魔の力を使ってみる。このカードは使いどころに迷っているためあまり使わない。せっかくの機会なので使うことにしてみた。

 蛇のように這行(はっちく)し、ダクネスの身体に纏わりつく。そしてライダーの力でダクネスを締め上げた。

 

 関節技なら筋肉でも魔法抗力でも無効化出来ない。有効のはずだ。

 

「うげえぇぇぇぇぇ!!?

(気持ちいぃぃぃぃぃ!!)」

 

 事実、有効だった。ダクネスの性癖にも。

 

「ひ……ひどい! 女性にあんな攻撃をするなんて!?」

「いや。あれは……うん、仕方ない」

 

 レンゲルの所業にドン引きのセナ。カズマはなんとかレンゲルを弁明しようとするも、なんと言っていいか分からず口ごもってしまった。

 というか、セナだけでなく全員が引いている。いくらダクネスがクソドMでも、いくらなんでもあれは……。

 

「なんていうか、ハチマンも楽しんでませんか?」

「うん、あれは本人も楽しんでるわね。なんていうか……ね?」

「確かにそうだな。ハチマンってドSなとこあるし。……もしかしてアンデッドの影響か?」

「…………」

 

 何気ないカズマの一言。瞬間、アクアは黙ってしまった。……もっとも誰も気づいてないが。

 

『じゃあトドメだ。そろそろ飽きて来たしな』

《スモッグ》《バイト》《ブリザード》

《ブリザードハイド》

 

 カードをスラッシュし、レンゲルラウザーを天に掲げる。瞬間、冷気の煙幕が煙幕が辺りを包み込んだ。

 ダクネスの視界が霜によって遮られ、体温が冷気によって奪われる。体力が、魔力が、そして気力が鬱陶しい神気によって消えていく!

 

 ただでさ先ほどの拷問で体力も気力もないというに、まだ攻めるというのか。なんて……なんて……!

 

「なんて非道な男なんだ貴様は!!?

(なんて素晴らしい男なんだお前は!?)」

 

 

 そんなことを思ってると、蹴りがダクネスに炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

「うげええええええええええええええええええええ!!!

(気持ちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!)」

 

 突如霧の中からレンゲルが現れ、ダクネスの胸に強烈な蹴りを食らわせた!

 ぶるんと水風船のように揺れるダクネスの乳。レンゲルはまるでサッカーボールをけるかのようにダクネスのたわわに実っているメロンを蹴り飛ばした!

 

『クソッ! 失敗した!』

 

 舌打ちしながら悔しそうな声を出すレンゲル。

 そう、何故かいつも失敗して変なとこを蹴ってしまうのだ。先ほどはバニルの仮面を狙ったというのに、なぜかその下を蹴り飛ばしてしまった。

 ブリザードハイドの煙幕は自身の視界も遮る。そのせいだろうか。……いや、そんなことはない。

 彼は視界を遮られた程度で攻撃を外してしまうような愚図ではないハズ。筈なのだ。なのに何故か……何故か失敗してしまう。

 だが、この状況に限って言えば少し違っていた。

 

「き…気持ち……よかった………」

 

 この女にとっては大成功だった。

 彼の蹴りは正確にダクネスにとって気持ちのいい部分に当たり、的確に快感を与えた。

 素晴らしい、彼以上に素晴しいご主人様など存在しない!

 

「(ありがとう……ございます………)」

 

 ダクネスはエリス神に感謝せずにはいられなかった。

 ありがとうございます。このようなドS野郎を私の元に遣わせてくださりありがとうございます!

 沈みゆく意識の中ダクネスは思った。私は幸せだ、もう彼以外何もいらない……と。

 

「お……おのれ…………」

『……やっと終わった』

 

 バニルの仮面が割れる。それを確認したレンゲルはデッキからカードを取り出し、ソレをバニルの仮面めがけて投げつけた。

 

「(ま…まずい!)」

 

 レンゲルの投げたカードを見た瞬間、バニルは大いに焦った。

 仮面戦士のカードはただ封印するだけではない。悪魔に使用すると地獄にいる本体の魂までも封印するほど強力な力を有しているのだ。

 無論バニルはその効力を知らない。しかし見抜く悪魔としての勘が働いたのか、そのカードに触れると本体までも危険に晒されると理解した。

 

 しかし、ラウズカードから逃れることは出来なかった。

 

 カードはバニルの魂までも吸い取り、レンゲルの手元へと戻っていった。

 

『……今日は本当に疲れた』

 

 ダクネスとのお見合いに、魔王幹部との戦いに。今日は本当に色んなイベントがあった。

 もう疲れた。明日は試合も控えているというのに。……そろそろ寝るか。

 

 レンゲルはバイクに乗って自宅へと戻った。




・ブリザードハイド
この世界でのレンゲルのコンボ必殺技。♣のカテゴリー5、6、9、の力を同時に解放することで発動する。
冷気の煙幕で視界を遮ぎつつ、動きを鈍らせる。その隙に死角から強烈な一撃を叩きこむ。
この技は自分も見えないせいか、ハチマン自身は頭部を狙っているつもりが、いつも変なとこに当たってしまう。
ブレイド、ギャレンがカテゴリー5,6,9を使って必殺技を繰り出すので、コイツも同じでいいんじゃねという発想でこの必殺技を思いつきました。


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