スーパーロボット大戦OGs~獅子の牙~ (Mk-Ⅳ)
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第一話

初めまして、アニメを見直していたら書きたくなり始めて見ました。
設定等でおかしな所があればご指摘してくださると大変助かります。


テスラ・ライヒ研究所

 

荒野を駆ける人影が一つ、だが人にしては余りに大きく20mはあるだろう。

その人影の名はパーソナルトルーパー。通称PTと呼ばれる人類が青き星”地球”を守る為に生み出した鋼の巨人である。

疾走するPT”ゲシュペンスト”の量産機をカスタムした、”量産型ゲシュペンストMk-II カスタム”に乗る男に通信が入る。

 

「こちら管制室、予定通りテストを始めるぞ」

「りょ~かい。所長」

 

通信に対して軽い口調で返す男の声はまだ、幼さを感じられる。

 

「今回は最終調整の為のテストだ、軽く目標を撃破してくれ」

「小難しい事をしなくていいから楽チンですね」

「だが今回は実弾だヘタをしたら死ぬぞ」

「今更それくらいでビビりませんよ、爺ちゃんのお陰で何回も死にかけてますし」

「それは頼もしいな。それにしてもかなり加速しているのに良く平気で話せるな…」

「そうですか?まだまだ余裕ですけど」

 

現在少年が乗っている機体は従来機のスペックを遥かに超えた速度をだしており、余りの振動に並みの人間では前を見ることすら困難であろう。

試しに知り合いの女性パイロットがシミュレーターでテストしてみたが、体調を崩して「こんなの人間が乗る物じゃない」と人外扱いされてしまった。

失敬なと思いながらシミュレーターでは、参考にならないと言ったら周りにドン引きされてしまったが。

 

「さすが先生に鍛えられているだけあるな、ではターゲットを出す。くれぐれも無理はするなよ」

「了解」

 

少年は気を引き締めてレバーを握り直した所でターゲットである”71式戦車バルドング”4両を視界に捉える。

 

「来たか、行くぞ”レオ”!」

 

機体の愛称を呼び背中にマウントされている機体の身長程の長さの鞘から、日本刀型の”シシオウブレード改”を抜き背面にある二つの大型ブースターが、肩まで迫り上がり進行方向と平行に向きながら火を吹き、一気にバルドングに接近する。

対するバルドングの小隊は主砲で迎撃するが、少年は機体をスケートのように左右に滑らせながら回避する。

 

「おせぇよ」

 

先頭の車両をすれ違い様の両断しそのまま突き抜け小隊の背後を取り再び突撃する。

未だに反転中のバルドングの二両をシシオウブレード改で切り裂き、最後の一両は突き刺して撃破した。

 

「何だもう終わりか?」

「いやまださ、最後はこれだ」

 

所長の通信と共にレーダーに反応があり、その方向へ機体を向けると空からこちらに向かってくる機影を確認した。

 

「うげっ戦闘機かよ…」

 

接近して来る機体は”F-28メッサー”が二機、大気圏内では飛行できないPTにとって航空戦力は天敵なのである。

 

メッサーからミサイルが放たれるが、頭部のバルカンで撃ち落としながら回避する。

 

「まっ二機なら問題ねぇけどな!」

 

そう言ってペダルを限界まで踏み抜くと、ブースターが地面と垂直になるように向きを変え、機体を空へと持ち上げていく。

そのまま突撃するMk-II カスタムにメッサーがバルカン砲で迎撃するも、強固な装甲に阻まれて傷一つつけられない。

メッサーの目前まで迫ったMk-II カスタムが、シシオウブレード改を振り下ろすと、メッサーが綺麗に真っ二つとなり爆散する。

 

「コイツでラストだ!」

 

残りのメッサーに向かって機体を回転させながら、シシオウブレード改をぶん投げると刀身や鍔、柄に設置されているスラスターが火を吹き、ブレードがブーメランのように加速しながらメッサーを切り裂く。

投げたシシオウブレードが回転しながら戻ってきて、それを掴むと地面に着地する。

 

「きまったね完璧だよさすが俺」

 

自画自賛しながらうんうんと頷いていると通信が入る。

 

「ご苦労さん、帰ってきていいぞ」

「あ~お腹すきましたよ帰ったら飯にしよっと」

「その前にレポートを提出したらな」

「鬼!悪魔!そんなに俺を働かせたいのか!」

 

わざとらしく泣き出す少年に所長と呼ばれている男性は、呆れが混じったような溜め息を吐く。

 

「いや、テストパイロットなら当然の義務だからな」

「そう言うのはロブさんに任せた方がいいですって」

「それでこの前押し付けられてロブの奴おもっきり泣いてたぞ」

「後でちゃんとご飯おごってあげたじゃないですか」

「飯奢られてなんでも喜ぶのはお前さんぐらいだと思うぞ」

「なんですかそれ!まるで俺が飯に簡単に釣られてしまう男みたいじゃないですか!」

「違うのか?」

「否定はしない!!」

「ハァ、もういい早く帰ってこい…」

 

堂々と胸を張って言うと、もう疲れたといった感じに通信を切られる。

 

「ふむ、やっぱり所長疲れてるな、今度栄養ドリンクでもプレゼントしよう」

 

テスラ研所属者に原因はお前だよと、ツッコまれるだろう事を言いながら少年、イサム・トウゴウは機体をテスラ研へと向けて帰還するのであった。

 

 

 

 

 

テスラ・ライヒ研究所 管制室

 

「ハァ、イサムのあのマイペースぶりは少しはどうにかならないもんか…」

 

ため息を吐く初老の男はテスラ研所長ジョナサン・カザハラでつい先程までイサムと話していた疲れがどっと出ていた。

 

 

「所長、お疲れ様です」

そんなジョナサンに対して一緒にいた研究員が労いの言葉をかける。

 

「まあ、あいつの性格は難が有るが腕は確かだからな実際助かっているよ」

「そうですね。15であそこまでPTを扱える人間なんてそうそういませんよ。特に近接戦闘なら正規軍人を軽く超えていますもんね」

「その代わりに射撃能力は驚異的酷さだけどな」

「ええ、ほぼゼロ距離でやっと命中しましたもんね…」

「本人曰く「もともと人間は殴り合って戦っていたんだから銃が使えなくても問題ない!」だったな」

 

恥ずかしげも無く言い張った時は逆に清々しさ感じられたものであった。

 

「お陰で彼の機体を調整するのに苦労して、結局外部の人に協力を要請したんですよね」

「ああ、ラングレー基地のマリオン・ラドム博士かと言うかもはや調整じゃなくて新しく開発したようなもんだな」

「要請していきなり「なら、一気に加速し接近して攻撃すればいいだけですわ」て言って、イサム君と意気投合して勝手に進めていきましたよね」

「まあ、別に構わなかったんだがね」

 

実に楽しそうに笑いながら図面を引いていた女傑と、それに便乗して勝手に資材を使いまくった少年のことを思い起こし、苦笑いをする二人。

 

「ただ装甲を厚くして、陸戦機に付けないようなブースターや、スラスターを付けまくったりしたせいで機体バランスが最悪になってしまったよ」

「正真正銘の彼専用機になりましたね。他の人間が乗ったら確実にお陀仏ですよ」

「本当にな…実は試しに乗ってみたんだ」

「えっ」

 

研究員が信じられない物を見るような目で、ジョナサンを見る。

 

「好奇心がまさってシミュレーションで乗ってみたんだ。そしたら加速した瞬間意識がブッ飛んだよ」

「正しく「好奇心は身を滅ぼす」ですね…」

「時折アイツが人間か疑うよ、この前なんかテスラ研の壁をよじ登って屋上にたどり着いていたし」

「どこの超人ですかそれ?」

「まあ、ワシに言わせればまだまだだじゃがの」

 

顔面を蒼白にして話す二人とは別の声がし、そちらを向くと右手に持った杖を使いながら、歩み寄って来る老人リシュウ・トウゴウが見えた。

 

「これはリシュウ先生、姿が見えませんのでどちらにいらしゃるのかと思いましたよ」

「フォッフォッフォッ、何屋上からしかと見届けていたわ。壁をよじ登ってな」

 

左手でサムズアップしながら、ドヤッといいそうな表情をするリシュウ。

 

((ホント何者だよこの人達…))

「どこにでもいる老人とその孫じゃよ」

((いや、そんなこと出来るのあんた達だけだよ…。つーか、心読まれた!?))

 

ジョナサン達が驚愕していると管制室のドアが開きイサムが入ってくる。

 

「ただいまー」

「おう、イサムお帰り」

 

身長は同年代の男子より少し低く、女性寄りの顔立ちをしているためよく女子と間違えられることが多く、その愛らしさで研究所や関わりのある施設の女性から絶大な人気がある(本人は男らしくしようと、努力しているようであるが…)

黒色の髪を腰まで伸ばし、根元から束ねた所謂ポニーテールを(本人は切りたいのだが周りがさせてくれない)揺らしながら駆け寄って来るイサムを、左手を軽く振りながら出迎えるリシュウ。

 

「あっ爺ちゃん、ねえねえ今日のテストどうだった?」

「ふむ、最初の一太刀は良かったが、刀を無闇にぶん投げてはいかんと言っておろうが」

 

ワクワクといった感じに感想を求めるイサムに、たしなめるように己の評価を伝えるリシュウ。

 

「えーだって、戦闘機が相手だしその方が確実に仕留められるもん」

「外したらどうするんじゃ、ただでさえまともな武装がシシオウブレードしかないのに」

 

両腕を後ろに組みながら特に反省している様子の無いイサムに、頭を掻きながらどうしたものかといった感じのリシュウ。

 

「そん時はぶん殴る!」

「前向きなのは構わんが、相手が格上だったら確実に詰むぞ」

「つーか親分だって斬艦刀投げてるじゃん」

「零式には他の武装が有るし、あやつはちゃんと考えておるわい」

 

ここには居ない弟弟子を引き合いに出すがあっさりと切り捨てられる。

 

「俺だってちゃんと考えてるもん!」

「本当かの~、お前は熱くなるとすぐ何かしら投げたがるからのぅ。

この前レポートが終わらないでイラついて投げたペンがロバートの尻に刺さっておったし」

「((ああ、だからあいつ(あの人)もうお婿に行けないて言ってたのか))」

 

よく少年によって災難にあっているロバートという男性に同情を禁じ得ないジョナサンと研究員。

 

「う、うるさいなーもう、お腹すいたからご飯食べに行こうよお爺ちゃん」

「他にも言いたいことがあったが、まあいいお前に伝えねばならんことがあるしの」

「伝えねばならんこと?」

「食事が終わってから話そう。では行こうか」

「うん!」

 

実に嬉しそうに笑うイサム。

その姿はおあずけをくらう子犬が、許しを得て喜んでいるかようである。

ちなみにその姿を見た周りの女性職員の鼻からは愛が溢れていた。

 

「では、失礼するぞジョナサン達よ」

「所長も皆さんもまったねー!」

「ええ、私たちはデータを纏めたいのでお二人でどうぞ」

「イサム君またね」

 

リシュウが一礼してドアへと歩き出し、イサムはジョナサンや他の職員たちにも元気よく、手を振りながらその後を追っていく。

 

「仲が良いですよね本当に」

「ああ何でも先生が日本にいた頃に親に捨てられていた赤子のイサム君を孫として引き取り育てたそうだ」

「最初に知り合った時は血の繋がった家族にしか見えませんでしたよ」

「血の繋がりが家族に必ず必要ではないと言う事さ。それに比べてアイツは…」

「また、息子さんと喧嘩したんですか?」

 

頭を抑えて溜め息を吐くジョナサンをまたかよといった目で見る研究員。

 

「まあな、リン君の事で励ましてやろうと思ったら「うるせぇ、ほっとけ!」と怒り出してな」

「ヘタにからかったんじゃないんですか?」

「ははは、いかにも落ち込んでますオーラが出てたんでついな」

「やれやれ、グルンガストの事は伝えたんですか?」

「ああ、そっちは後は送るだけだから問題はない」

 

心配無用といった感じのジョナサンだが、正直いまいち安心感が沸かないと思ってしまう研究員。

 

「さて、”コイツ”を早く仕上げないとな」

「そうですね、ですが”エアロゲイター”に対抗する為とは言え、イサム君のような子供に戦わせなければならないとは、正直辛いです」

 

自分達大人の不甲斐なさを嘆く研究員。

 

「あの子が自分で選んだ道さ、ならば我々大人は全力で応援しようじゃないか」

「はいそうですね」

 

そう言ってジョナサンが、PCを操作するとモニターにイサムが乗っているゲシュペンストに似ているが別の機体のデータが表示されるのであった。




リシュウの話とは何なのか次回をお楽しみに!

※2014/1/9に大幅に書き直させて頂きました。


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第二話

この作品に目を通して頂きまた、お気に入りに登録してくださった方誠にありがとうございます。

今回は戦闘がありません!(オイ
ですがATXチームのあの女性に登場して頂きますので、どうかそれでお許し下さい。

それでは本編をどうぞ!

PS.第一話の細部を修正しました。(主に主人公の機体の愛称等)


テスラ・ライヒ研究所 食堂

 

「それで、話ってなんなのお爺ちゃん?」

 

管制室を出た後食堂で食事を済ませイサムがリシュウに話しかける。

ちなみに彼の周りに重ねられた無数の皿は、彼一人によるものである。

小柄な体つき似合わぬ大食いなのである。

 

「うむ、実はお前に日本に行ってほしいのじゃ」

「日本に俺だけで?何でさ」

「スペースノア級は知っておるな」

「うん、連邦が建造している最新鋭艦だよね」

「そうじゃ、近い内に弐番艦が伊豆で就航予定でな、その為に護衛の戦力必要なのじゃ」

「ふーん、それで数少ないPTとそのパイロットの俺に行ってほしいわけね」

 

納得がいったといった感じに頷くイサム。

 

「ラングレー基地のグレッグ指令がこの前の模擬演習での結果を見て推薦してくれてのじゃ」

「ああ、あのゲシュペンスト3機をボコッたやつね」

「まあ、あれはやり過ぎていたがの」

「だって、あいつら「刀なんて古くさいんだよ」って馬鹿にしてきたんだよ、それにお爺ちゃんの事も」

 

リシュウの忠告に少し不機嫌そうに言うイサム。

 

「気持ちはありがたいが、怒りに身を任せるのはいかんぞ、トウゴウ家家訓にある…」

「健全な肉体は健全なる魂によって育まれるでしょ?耳にオクトパスが出来る位に聞かされてるよ」

「無理に英語で言わんでも良いが…」

 

首を横に振りながらボケるイサムにツッコムリシュウ。

 

「とにかく肉体だけでなく精神の鍛練を怠るでないぞ」

「わかったよ、それにしても日本かここの皆と離れるのも寂しいな…」

「じゃが、お前の才能は腐らせるには惜しい、見聞を広める良い機会じゃと思うぞ」

「う~ん、そうだね。イルムさんやロブさんにも合いたいし」

「それに伊豆基地のレイカー指令は懐の深い人物と聞いておる。ある程度の自由は保障してくれるそうじゃ」

「それは有難いね。軍にいれば”アイツ”を見つけられるかもしれない」

 

”アイツ”と言った瞬間、イサムの顔から笑みは消え怒りと後悔に彩られた。

 

「…イサムよ、あれはお前のせいでは無い。あ奴の本質を見抜ききれなかったワシにある」

「それに敵討ちなど”シノ”は望んではおらん」

「わかってる。わかってるけどあの時俺に力が有れば”アイツ”を止められたし、お婆ちゃんが俺を庇って死ぬことはなかったんだ」

「イサム…」

「”アイツ”を倒さないと俺は前に進めないんだ。」

「だから、PTのパイロットになったし、腕も磨き続けてきたんだ」

「……わかった、これ以上は何も言わん」

「じゃが、忘れるなワシが教えた剣は”悪を絶つ剣”じゃ、決して怒りや憎しみで振るってはいかんぞ」

「うん、”アイツ”せいで苦しむ人を増やさない為に戦うよ」

 

イサムにリシュウは優しくも厳しさをを持った声で語りかける。

それに対してイサムも覚悟を決めた顔で頷く。

 

「今回の件で一番重要な事じゃがな」

「何だい?」

 

突然意味深な顔をするリシュウに思わず身構えてしまう。

 

「同い年くらいの子が伊豆基地にいるそうじゃ、いい加減歳の近い友人を作れ」

「うるせー!!ほっとけコンチクショォォォォォォォォ!!」

 

一転して呆れたような表情で気にしていることを言うリシュウに、思わず叫びながらツッコムイサム

 

「じゃって、お前イルムやロブのような年の離れた者としか親しくしておらんじゃないか」

「いいじゃん!別にそれでいいじゃん!」

「学校ですぐ喧嘩腰になるから誰も近づかんのじゃろう?」

「仕方ないだろ!そうしないと舐められるんだよ!」

「まあ、おまえは見た目が女寄りじゃしな(後背が小さいし)」

「聞こえてんぞ!コラ!160は有るわい!まだまだ伸るわい!」

「いや、無理じゃろここ数年伸びてないし」

「のーびまーすー!毎日牛乳ワンパックは飲んでるし!」

「イサムよ…、時には諦めも必要じゃぞ…」

「ヤメロー!優しく諭すなー!安○先生も諦めたら負けだって言ってたんだー!」

 

一番突かれたくない所を突かれたイサムは机を強く叩きながら抗議したり、頭を抱えてポニーテールを激しく振りながら否定する。

 

「あら、どうしたのかしらん?イサム君」

 

声のした方を振り向くと軍服を纏ったエクセレン・ブロウニングを見つける。

彼女はラングレー基地に所属しており、以前、Mk-II カスタム開発のために立ち寄った際に、弟弟子の部下ということもあり親しくなり、それ以来姉のように慕っているのである。

 

「あり、エクセ姉じゃん久しぶり隣座っていいよ」

「ありがとう」

「先生もお久しぶりです」

「うむ、久しいなエクセレン」

 

イサムが自分の席のとなりを勧め、エクセレンが礼を言って座りリシュウに挨拶する。

 

「それで、今日はどうしたのさ?」

「ラドム博士が今日のイサム君のテストのデータを取ってこいって言われたのよ」

 

めんどくさそうにぼやくエクセレン。

 

「そうなんだ、親分やブリットさんは?」

「最近物騒だからボスはお留守番でブリット君は別件で居ないのよ」

「物騒って”エアロゲイター”の事?」

「そっ出現する回数が増えてきているのよ」

「へー何かの前触れなのかな?」

「そうかもしれないって事で各基地とも警戒してるってワケ」

「……」

「爺ちゃん?」

「ん、いやなんでもない気にするな」

「?」

 

リシュウの様子に疑問を感じたので尋ねるもはぐらかされてしまう。

 

「(やはり”アノ”噂に関係しているのか?)」

「それにしても俺のデータなんか役に立つのかね?」

「何でも今開発している機体ってイサム君のアイディアを基にしているそうよ?」

「まさか全部採用するとは思わなかったな…」

 

流石のイサムも呆れてしまう。

 

「博士曰く「これで歴史は変わる!」とか言ってるらしいわよ」

「フンッ、本当にあんな物が採用されると思っとるのかのう」

「爺ちゃん、斬艦刀を”出刃包丁”て言われた事まだ気にしてるの?」

「まったくあ奴は武士道と言う物をまるでわかっておらん!」

 

「近頃の若い者は…」と愚痴り出すリシュウ。

 

「どう見ても”出刃包丁”にしか見え無いんだけどね」

「爺ちゃんは置いといて、どんな機体になるんだろう?」

「まあ、ブッ飛んだ物になるのは確実ねぇ」

「俺のレオがアレですもんね」

「さてとお仕事のお話はこれくらいにして、よいしょ!」

「わぷ!」

 

突然イサムを抱きしめるエクセレン、豊満な胸に顔を埋められて呼吸難に陥るイサム。

 

「弟分を補充しないとね~♪」

「フガフガ(何だよそれ)」

「いや~イサム君をこうしてると落ち着くのよね~」

「(俺はペットか何かかつーかマジで苦しくなってきた…)」

「エクセレンよそろそろイサムが限界じゃぞ」

「あら、やだんやり過ぎちゃたかしら」

「ゲホッゲホッ死ぬかと思ったぁ~」

 

いつの間にか戻ってきていたリシュウが忠告すると、慌ててイサムを離すエクセレン。

 

「も~ソレやめてよエクセ姉ぇ」

「だってイサム君抱き心地いいんだもん♪」

 

恥ずかしそうに言うイサムに、満足そうな表情のエクセレン。

 

「まあ、しばらくはお預けになるじゃろうけどな」

「え?どゆこと?」

「俺しばらく日本に行くんですよ」

「え~!何で!?」

 

驚きのあまり身を乗り出しながらイサムに詰め寄るエクセレン。

 

「軍から要請が有ったんですよ」

「そんなの断っちゃえば良いじゃないの、私の安眠の為に」

「これを機会に見聞を広めに行くんですよ」

「だから、ぶっちゃけ諦めてください」

「ム~じゃあ私も付いていく!」

「いや、無理でしょう…」

 

無茶苦茶なことを言うエクセレンに呆れ気味に言うイサム。

 

「定期的に弟分を補充しないと夜グッスリと眠れないのよ!寝不足は美容の敵なんだからね!」

「あくまで自分の為か、流石エクセ姉そこに憧れるでも痺れない」

「じゃあ私今晩泊まっていくから一晩弟分を補充さ・せ・て♪」

「だが断る」

 

可愛らしくお願いするもバッサリと断られる。

 

「私がこんなに可愛くお願いしてるんだからちょっとくらい良いじゃないの~」

「つーか、アンタラドム博士からお使い頼まれてるんでしょうが、早く帰らないと吊るされますよ」

「そこは、ブリット君を生贄にして…」

「後輩いじりも程々にしなさいよ、流石にそれは可哀想でしょうが」

「これもブリット君の為よ」

「意味わからん、ホントに帰りなよでなきゃレオで強制送還するよ」

「あはは…、流石にそれは勘弁」

 

あの殺人的加速を味わいたくないようで、冷や汗を流すエクセレン。

 

「おお、此処にいたかエクセレン少尉」

 

そこにジョナサンが現れる。

 

「あら、所長さんどうかなさったの?」

「どうかなさったのって、頼まれたデータを纏めたんで届けに来たんだよ」

「いやん、そうでしたこれは失敬」

「ほら、早く帰りなよ」

 

いい加減にしろ的な表情で帰るように促すイサム。

 

「もう冷たいわねぇ、そんなんじゃ恋人できないわよ?」

「アンタも居ないだろうに…」

「私は居ないんじゃなくて、つくらないだけよ」

「いつか、白馬の王子様が来てくれるまでね」

「わーロマンチックだな~」

 

乙女オーラ全開で自分の世界に入ろうとするエクセレンに、棒読みで答えるイサム。

 

「フン、先に恋人つくって自慢しちゃうもんね~」

「いやさ、本当に早く帰りなよ冗談抜きで吊るされるよ」

「そうね、それじゃあ最後におまじないしてあげる」

「おまじない?」

「そっ目つぶって」

「こう?」

 

言われたとうりに目をつぶると額に柔らかいモノが触れる感触がした。

 

「えっ?」

 

慌てて目を開けると、イタズラが成功した子供のような笑みを浮かべるエクセレンがいた。

 

「なっ、なっ」

「ふふ、良く効くからこれで安全よ」

 

そう言って顔を真っ赤にしたまま固まっているイサムを置いてエクセレンは去って行った。

ちなみにジョナサンも「若いね~」とか言って去って行った。

 

「お~い、大丈夫かイサム」

「はあっ!」

 

今まで二人のやり取りをお茶を啜りながら眺めていたリシュウに声をかけられて、再起動したイサム。

 

「うまくからかわれた気分はどうじゃ?」

「う、うるさいな~」

「それで日本に向かうのは何時なの?」

 

ニヤニヤしながら聞いてくるリシュウから話題を逸らそうとするイサム。

 

「3日後じゃ、それまでに準備を怠るでないぞ」

「うん、わかった」

「じゃあ今から始めるね」

「レオの方はワシに任せておけ」

「よろしくねお爺ちゃん、じゃあね」

 

出口へ向かって行くイサムの背中を見送るリシュウ。

 

「(どうかあの子を見守ってやってくれ”シノ”)」




次回も会話だけになりそうだ(オイ

補足
”シノ”とは本作オリジナルのリシュウの妻つまりイサムの養祖母です。
公式では若い頃の容姿がクスハに似ているくらいしか公表されていないので勝手に名前など捏造しました。
本編開始時には”ある事件”でイサムを庇い他界しています。
どのような人物かは物語の中で明かしていきたいと思います。

それでは、次回もお楽しみに。


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第三話

実際に書いてみると大変さが身に染みますね、後モンハン4が楽しい(ぇ

小説書くのを忘れないように気を付けないと。

それでは本編どうぞ!


伊豆基地 滑走路

 

「日本よ!俺は帰ってキタァァァァァァァァァァァァァァ!」

「そういうのは、色々と危ないからやめたほうがいいぞ…」

「どうも、ロブさんお久しぶりです」

 

輸送機”タウゼントフェスラー”の前で叫んでいると、迎えに来たロバート・H・オオミヤに声を掛けられる。

 

「最近はそういうのは敏感な世の中だからさ、気を付けてくれよ」

「ヒュッケバイン問…」

「だから、ダメだってば!!」

 

何か言おうとしたイサムを慌てて止めるロバート。

 

「いやー、すいませんね久々の日本で舞い上がっちゃったよ」

「君はいつもそんな感じだけどね…」

 

マイペースなイサムに思わずため息が出てしまうロバート

 

「それにしてもロブさん」

「何だい?」

「何でずっと尻を両手で隠してるんですか?」

「ああ、”あの時”のことがね…」

「本当、すいませんでした!」

 

遠い目をするロバートに思わず土下座するイサムであった。(詳しくは一話参照)

 

 

 

 

 

「お~、ラングレー並に広いですねここ」

 

基地指令に挨拶に向かうためのジープに乗りながら、興味深々といった感じに周りを見回す。

 

「極東の要だからな。PTを部隊規模で運用しているし、元教導隊のメンバーもいるしな」

「親分と同じ?わお、あってみたいな」

 

楽しそうにはしゃぐイサムを見ながら、変わらないなと微笑むロバート。

 

「そういえば、今ロブさんが関わっている計画の方はどうなんですか?」

「ああ、EOTを多く使っている分、調整が難しくてな。なかなかにやり応えがあるよ」

 

疲れが見られるが、楽しそうに話すロバート。

 

「無理はしないでよ?テスラ研の皆も心配するからさ」

「ありがとうなイサム」

 

心配そうな顔をしているイサムの頭を撫でると、気持ちよさそうに笑顔になるのを見ると疲れが和らぐロバートであった。

 

伊豆基地 指令執務室

 

「始めましてイサム君、私が基地司令のレイカー・ランドルフだ」

「始めまして!イサム・トウゴウです!未熟者ですがよろしくお願いします!!」

 

ロバートに指令執務室に案内されたイサムは基地司令のレイカーに無駄にデカい声で挨拶していた。

 

「君の話はラングレー基地のグレッグ指令から聞いているよ。何でもPTの三体一の模擬演習で近接ブレードだけで、圧勝したそうじゃないか」

「いえいえ、相手が大した事…あ、すいません」

「いや、実際君の言うとおりPTの配備が遅れており、パイロットの練度も不足している状態だ」

「今の連邦では”エアロゲイター”に対抗するのは困難だろう。だからこそ君のような力有る者が必要なんだ」

「はい!精一杯頑張ります!」

「うむ、期待しているよ」

 

元気よく返答するイサムに満足するように頷くレイカー。

 

「では、こちらにいる二人を紹介しよう。私の参謀を務めてくれているサカエ・タカナカ中佐と、”SRX計画”の責任者であるイングラム・プリスケン少佐だ」

 

「…サカエ・タカナカだ」

「イングラム・プリスケンだ」

「イサム・トウゴウです!よろしくお願いします!」

 

サカエの疑念とイングラムの観察するような視線を気にする事なく挨拶するイサム。

 

「イングラム少佐は君が身を置く部隊の指揮官を務めている」

「それでは、少佐後は頼む」

「了解しました」

「では、部下を紹介する着いてこい」

「わかりました」

 

イングラムが退出しイサムもそれに続いていく。

 

「……」

「不満かサカエ?」

 

イサムを伊豆基地へ招くことを告げた時から、いまだ納得のいっていない様子のサカエに、声を掛けるレイカー

 

「当然です!貴重なPTを子供に任せるのは納得できません!」

「だがこれはノーマン・スレイ少将も認められた事だ」

「ですが…」

「それにこれからの結果を見て判断しても良いのではないか?私は彼の可能性に賭けたいのだ」

「可能性ですか…?」

「そう、あの真っ直ぐな瞳にな…」

 

期待のを込めた目でイサムが出て行ったドアを見つめるレイカーであった。

 

 

 

 

 

伊豆基地 ブリーフィングルーム

 

イングラムに連れられブリーフィングルームに着くと二人の男女が待っていた。

 

「彼がテスラ研から派遣されたイサム・トウゴウだ」

「イサム・トウゴウです!イサムって呼んでください!」

「アヤ・コバヤシよ階級は大尉、よろしくね」

「ライディース・F・ブランシュタイン、少尉だ」

 

互いに自己紹介するもライディースからは疑念の視線を向けられる。

 

「どうした?ライディース」

「お言葉ですが少佐、本当にこんな子供を戦場に出すのですか?」

「ちょっと!ライ!」

「いえいえ、いいんですよ大尉」

 

厳しい口調で疑問を呈するライディースを、咎めようとするアヤを気にした様子の無いイサムが止める。

 

「イサム君…」

「こんな子供に、背中は預けられないとおっしゃりたいのでしょう?」

「そうだ…」

「でしたら役立たずと判断されたら、見捨ててくださった結構です」

「そんな…!」

 

なんの躊躇いも無く言い放つイサムに驚愕するアヤ。

 

「わかった、そうさせてもらおう」

「少佐!?」

 

即答したイングラムに、彼を信頼しているアヤも困惑してしまう。

 

「レイカー指令からは極力彼の意思を尊重させるよう言われている」

「それに我々にはお荷物を抱えている余裕はない」

「…わかりました」

「まあまあ、自分で言った事なんでお気になさらず」

 

自分に為に落ち込んでくれるアヤに対して、慰めながら優しい人だなと思うイサム。

 

「それで、この部隊はどういった事をするんですか?」

「”SRX計画”と言う計画で開発された機体を扱うための部隊だ」

「確か、人型機動兵器の性能向上に重点を置き、対異星人用の人型機動兵器を開発する兵器開発計画、でしたっけ?」

「そうだ。お前には、スペースノア級の護衛やこの部隊の訓練を支援してもらう」

「わかりました」

「では、明日からイサムも交えての訓練を行う。本日はこれで解散だ」

 

そう告げるとイングラムは去って行く。

 

「(いやー、ぶっちゃけ何か信用できん気がするわぁー)」

「イサム君、よければ私たちと一緒にお食事でもどうかしら?」

「いいわよね?ライ」

「ええ、構いません」

 

イングラムについて色々と考えていると、アヤから食事の誘いを受ける。

 

「おお、いいですね!さあ、行きましょう!親睦を深めましょう!お腹を満たしましょう!」

「ちょっ、ちょと変わった子かしらね…」

「え、ええ…」

 

イサムのテンションに戸惑う二人であった。

 

伊豆基地 食堂

「いやー、テスラ研もですが、ここの飯も美味いですねー」

「それは良かったんだけど…」

「よく食うな…」

 

イサムの周りには五人分はあろうかという程の食器が積み重ねられていた。

 

「食ったら背が伸びるかなー、て思ってたらこんなになっちゃいまして」

「まあ、確かに…」

「低いな…、それに最初は女の子だと思ってしまった。」

「……(泣)」

「す、すまない!泣かせるつもりは…」

「いえ、いいんです、事実ですから。それにしてもライディース少尉は俺のこと嫌っているのかと思いましたけど」

「ライで構わない、別に嫌っているわけじゃない。ただ、PTに乗るということがどういう事かわかっているのかと思ってな」

「異星人と戦うのはもちろん地球人同士で戦う事もあるってことでしょう?そこらへんの覚悟はとっくの昔に出来てますよ」

「昔に?」

「ええ、ぶっちゃけ昔に色々あって人を本気で切ろうとしましたし」

「それって…」

「まあ、力及ばず返り討ちにあって、その時に人が死ぬのはどういう事なのかってのも身に染みましたよ」

「イサム…」

 

知り合ってからずっと笑みを浮かべていたイサムの表情が曇り戸惑ってしまうアヤとライディース。

 

「ああ、すいませんね変な話をしてしまって、どうか気にしないでください」

「…わかった」

「だが、一人で背負い込み過ぎるのはやめておけよ」

「そうよ、もう私たちは仲間なんだから一緒に助け合いましょう」

「…はい、必要になったらお二人のお力を借りさせて頂きます」

「(すいませんそれでも、”アイツ”とは自分の手で決着をつけないといけないんです」

 

伊豆基地 通路

 

居室に案内してくれると言うアヤとライについていっていると後ろから声を掛けられる。

 

「よおイサム、早速仲良くやってるな」

 

声のした方を向くとイルムガルト・カザハラとその後ろに一人の男がいた。

 

「わお!イルム兄だ!この基地にいたことをすっかりと忘れていたよ」

「ほおぉすっかりと言うようになったじゃねえか…」

「ははは、ジョークだよジョーク。だからその握り締めた拳を降ろしてよ。ほ、ホラ!後ろにいる方を紹介してよ!」

 

鬼の形相で拳を握り締めるイルムに、冷や汗を流しながら両手で静止し話題を変えるイサム。

 

「ああ、コイツはキョウスケ・ナンブ俺の後輩だ。ホラ、キョウスケコイツがよく話してたイサム・トウゴウだ」

「キョウスケ・ナンブ曹長だ、噂は中尉より聞かされている」

「どんな噂か激しく気になりますけど、イサム・トウゴウです」

 

互いに自己紹介し握手する二人。

 

「お二人もお見知りおきを」

「アヤ・コバヤシ大尉よ」

「ライディース・F・ブランシュタイン少尉だ」

 

イサムと一緒にいたアヤとライディースにも敬礼で挨拶をするキョウスケに二人も敬礼で返す。

 

「ブランシュタイン?もしやコロニー統合軍の?」

「ああ、そうだが、もう俺には関係の無い事だ」

「…そうでしたか、失礼しました」

 

ブランシュタインと言う名に心当たりがあり、確認するもライディースの雰囲気を察し謝罪するキョウスケ。

そんな雰囲気変える為、イルムがライディースに話し掛ける。

 

「よお、ライ。久しぶりだな」

「ええ、お互い忙しく時間が取れませんでしたからね」

「二人は知り合いなの?」

 

仲良く話す二人に疑問を感じたアヤが質問する。

 

「ええ、以前月で行われたテストの時に知り合ったのです」

「そうだったの(月でと言うとライが左腕を失うことになった暴走事故があった…)」

 

その事故の事をイングラムから聞かされていたアヤだったが、口にするのはやめるのであった。

 

「アヤさん、この人は俺の兄貴分のイルムガルト・カザハラさんでえ~と階級は」

「中尉だ。後、イルムでいいぜ」

「年下のアヤさんより低いんだ」

「うるせーこの野郎」

「ひひゃいよー、いひゅむにー」

 

余計なことを言ったイサムの口を、思いっきり引っ張るイルムガルド。

 

「仲が良いのね二人共」

「イルム兄はですね、テスラ研の所長の息子さんで、暮らし始めた時から遊んでくれたんです」

「そうそう、コイツは昔っから生意気でね手を焼いたよ」

「イルム兄こそ恋人いるのにナンパしまくってるじゃないか、だからアヤさんも気を付けた方が良いですよ」

「ええ、そうさせてもらうわ」

「オイィィィィィィィィィィィ!!彼女の視線がゴミを見るような目になっちまったじゃねえか!!」

 

イサムの襟を掴んでおもっいきり揺らすイルムガルドだが、屁でもないように笑っているイサム。

 

「事実です中尉」

「キョウスケ、お前まで…」

「人として感心しませんね」

「ライ!?」

 

泣き崩れるイルムガルドを見ながら、大笑いするイサム。

 

「お前!しょっちゅうエロ本貸してやっただろうが!」

「知るか!人前で言うなよ!」

 

突然の暴露に慌てだすイサム。

 

「イサム君それ本当?」

「い、いやアヤさん!これはそこの最低野郎が!」

 

ものすごく怖い目で睨みつけてくるアヤに、冷や汗が溢れ出すイサム。

 

「オメーから借りに来てたじゃねか」

「やめれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「ちょっとイサム君そこに座りなさい、正座で」

「え、いやここ廊下…」

「いいから!」

「は、はい!」

 

オカンオーラ全開のアヤの気迫に押され、正座するイサムを見て逃げ出そうとするイルムガルド。

 

「中尉もです!」

「うげぇ!」

 

その矛先はイルムガルドにも向き、一緒に正座させられる。

その視線は先ほどよりも冷めていた。

 

「いいですか!子供になんて物を…!」

「(なんて事をしてくれたんだよ馬鹿!)」

「(元はと言えばお前のせいだろうが!)」

「聞いているの!!!」

「「はっはい!すいません!」」

 

イサムとイルムガルドはライディースとキョウスケに目線で助けを求める。

 

「では、曹長これからシュミレーターでも一緒にどうだ」

「喜んでお付き合いします少尉」

「((あっさりと見捨てやがった!!))」

 

触らぬ神に祟りなしといった感じで、そそくさと去って行く二人。

 

こうしてアヤオカンによるお説教は夜が明けるまで続くのであった。

 

「((だれかマジで助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!))」




というわけで、これからはリュウセイルートで物語は進みます。

ああ、早くラト出したいなぁ。

では次回もお楽しみに!

※2014/1/10大幅に書き直させて頂きました。


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第四話

お待たせしました!

キャラが増えると口調とか合わせるのが大変ですね。変だったら教えてもらえると助かります。

それでは本編をどうぞ!


伊豆基地での生活が始まってから、一週間が経ちイルムガルドとじゃれあい、SRXチームや元教導隊出身のカイ・キタムラ率いる小隊との訓練や、戦闘指揮官のハンス・ヴィーパーと罵りあったりと忙しくも充実した日々を送るイサムであった。

 

伊豆基地 医務室

 

「いや~、あれだけ派手に爆発したのに骨数本折っただけで済むなんて、何か憑かれてるんじゃないんですか?キョウスケさん」

「いきなり失礼だなお前」

 

ベットで包帯だらけの状態で横たわっているキョウスケに向かって、見舞いに来たイサムが思っきり失礼な事を行っていた。

なぜこんな事になったのかと言うと基地司令のレイカーが不在中、ハンス・ヴィーパーが実験機PT”ビルトラプター”のテストを欠陥が改善しないままキョウスケに命令した結果、機体が空中で大破してしまったのだ。

幸い命に別状は無かったが、安静のために入院しているのである。

 

「にしてもあのハンスの奴、絶対わざとですよ」

「おそらくそうだろうな」

「このまま泣き寝入りしちゃうんですか?」

「騒いだところで誤魔化されるのがオチだ」

「でも、このままだと北米のラングレーに放り投げられるんですよ!」

 

ハンスは実験の失敗を開発元の”マオ社”とテストパイロットのキョウスケに押し付けたのである。

結果、キョウスケは北米のラングレー基地に転属となってしまったのである。

 

「悪くない基地なんだろ?それに2階級特別昇任で少尉になれたしな」

「確かにラングレーはいい所ですけど、昇任は嫌がらせですよ」

「怪我もすぐ治るんだ、昇進出来たと考えるさ」

「前向きなのは良いですけど…]

「はあ、イルム兄はラプターマオ社に送る為に帰ちゃったし、やっぱアイツ殴りに行こうかな」

 

拳を強く握り締め、シャドーボクシングを始めるイサム。

 

「やめておけ、養祖父に迷惑はかけたくないだろう」

「…解りました」

 

しょんぼりとするイサムの頭を撫でながら微笑むキョウスケ。

 

「ほら、訓練があるんだろう?早く行ってこい」

「うん、キョウスケさんまたね」

 

渋々といった感じに退出するイサム。

 

「優しいな、そのままでいてほしいが…」

 

窓の外を眺めるキョウスケ、そこには青空が広がっていた。

 

 

 

 

 

キョウスケがラングレーへ発ってから暫くして。

 

 

海浜幕張

 

市街地の道路に止めてあるPT輸送用トレーラーに懸架されている機体、”量産型ゲシュペンストMk-II カスタム”に乗り込んでいるイサムはモニターを凝視していた。

 

「よーしいいぞ、そこだ!あっ当たっちゃった。む~あのテンザンって奴強いな、顔はムカつくけど…」

 

今、イサムが見ているのは、全日本バーニングPT選手権大会決勝戦の中継である。

”SRX計画”に必要な人材をスカウトする為に、会場の近くでモニターしているイングラムとアヤの護衛の為に同行していた。

 

「あっ、リュウセイって人負けっちゃった…」

 

試合終了のアナウンスが流れがっくりとうなだれてしまうイサム。

 

「サンプル55番からテレキネシスαパルスを検出。リンク係数、0.22…」

「あの少年か、アヤ?」

「はい、少佐。この大会にエントリーした者の中では、最も適性があると思われます」

「サンプル55番…リュウセイ・ダテか」

「(…偶然とは言え、血筋は争えんな)」

 

顎に手をあて、奇妙な縁を感じるイングラム。

 

「その人が”念動力”て言うの扱えるんですか?」

「他にも何人かいるけど彼が一番強力ね」

「にしても超能力って本当にあるんですか?」

 

説明は受けているが、未だに半信半疑なイサム。

 

「世間には公表してないから、知っているのは軍関係者の極一部だけね」

「無駄話はそこまでだ。アヤ、イサム、大会終了後、リュウセイ・ダテの身柄を拘束しろ」

「はい、少佐」

「別に拘束しなくても、素直に協力してくださいって言えばいいんじゃないんですか?」

「万が一もある。我々以外にも同じ目的の者がいるかもしれん」

「まあ、そう言う事なら仕方ないか…」

 

行動開始しようとした時、警報が鳴り響く。

 

「どうしたの!?」

「入間より入電!第4警戒ラインにAGX-01の集団が出現!」

「何ですって!」

 

オペレータの報告に驚愕するアヤ。

 

「スクランブルで上がった百里の飛行隊と交戦中!この付近に接近しつつあります!」

「居住区間に現れやがったのか!」

「少佐、どうしますか?」

「サンプル55番のモニターを続けろ。それから、タイプTTの機動準備を」

「了解です。私も出撃準備をしてきます」

「AGX-01が急加速!この区域に侵入してきます!」

 

 

 

 

 

「ん?何だ?外が騒がしいな…」

 

幕張ドームを出ようとした、リュウセイ・ダテと幼馴染のクスハ・ミズハが窓の外を見ると、地球では”AGX-01バグス”と呼称されている”メギロート”と、メッサーの編隊による戦闘が幕張ドーム上空で展開される始める。

 

「敵機確認!これより攻撃を開始する!ミサイル発射!」

 

メッサーのパイロットが安全装置を外し、トリガーを引くと機体からミサイルが放たれる。

ほとんどのミサイルが回避されるが、一発だけメギロートの一体に直撃し、バランスが崩れ幕張ドームへ落下する。

 

「AGX-01が1機、会場へ落下しました!!」

「何ですって!?」

「アヤ、サンプル55番の適正を試す。トレーラーのカバーを開け、タイプTTを外に出せ」

 

予想外の事態に動揺するアヤだが、イングラムは冷静に指示をだす。

 

「まさか、少佐…!」

「そう。そのまさかだ」

「おいおい!いきなりPTで戦わせる気かよ!」

 

イングラムの意図に気づいたイサムが、モニター越しに声を荒げる。

 

「構わん。そのためのタイプTTだ。…俺の命令に従え」

「わ、わかりました」

「それから付近の友軍機を下がらせろ」

「はあ!?素人だけでやらせる気かよ!?何考えてやがる!」

 

無謀過ぎると、イングラムを止めようとするイサム。

 

「イサム君、ここは少佐を信じましょう」

「…了解」

 

渋々とだが、引き下がるイサム。

 

「イサムはいつでも出れるように準備しておけ」

「はいはい!了解しましたよ少佐殿!」

 

イングラムの真意が読みきれず、見守ることしか出来ないことに苛立ちを隠せないイサム。

 

「アヤは通信でサポートしてやれ」

「了解!」

 

その間にもリュウセイが乗ったタイプTTが、メギロートと交戦を開始するも一方的に攻撃される。

 

「やっぱ無理だ!俺が出る!」

「いやまだだ」

「素人が戦えるほど世の中甘くはねえよ!」

「バグスを捕まえたの!?」

 

イングラムと言い合いをしていると、アヤが驚いたように叫ぶ。

モニターを見るとタイプTTが、メギロートを掴んでタコ殴りにしていた。

 

「おいおい…、マジかよ…」

「よし、イサム出撃しろ」

「へ、あっああ了解」

 

メギロートを一体撃破するも、残りのメギロートに包囲されてしまうタイプTT。

 

「よっしゃぁ行くぜ!レオ!」

 

イングラムから許可が出たので、素早く機体を起動させコンテナから出すとペダルを限界まで踏む。

主の意思に応えるかのようにバイザーが輝き、ブースターが火を噴き機体を空へと押し上げ市街地を飛び出す。

タイプTTの元へ向かいながら、通信を入れるイサム。

「そこのゲシュペンスト!跳べ!」

「えっ?うおぉ!?」

「チェストォォォォォオオオ!」

 

指示通り跳ぶのを確認するとシシオウブレード改を抜刀し、メギロート数体をなぎ払うMk-II カスタム。

 

「なっなんだ、アンタ!?」

「援軍だよ!後は任せてさがってな!」

「ダメだ!クスハが幼馴染が瓦礫に埋まって動けないんだ!」

「何!?しゃあねぇ!アンタはその人を守っててくれ、こいつらは俺がやる!」

「わ、わかった!」

「さあ!バラバラになりたいヤツからかかってきな!」

 

挑発しながらシシオウブレード改を構えさせると、メギロート数体が飛び掛かって来る。

 

「チョイサァ!」

 

連続でシシオウブレード改を振るうと、一瞬で微塵切りにされ地面へと散らばるメギロート。

残った三体がその隙を突いて口の部分から、サークル・レーザーを発射してくる。

 

「甘い!」

 

跳躍して回避すると1体をそのまま踏み潰し、そのまま隣にいた一体の角を左手で掴み持ち上げると、陥没する程の勢いで地面へ叩きつける。

 

「残り一!」

 

二体が機能を停止したことを確認すると、最後の一体が飛翔し離脱を開始する。

 

「逃がすかよ!」

 

逃走経路を予測すると、ブースターを全開にし追撃する。

瞬く間に距離を詰めシシオウブレード改で切り裂く。

 

「敵機反応無し、増援は見られません」

「なら救助部隊を送ってくれ、怪我人がいる」

 

オペレーターの報告に、すぐさま救助部隊を要請するイサム。

 

「わかった。ではイサム、リュウセイ・ダテを確保しろ」

「要は一緒に来てもらえれば良いんだろ」

 

するとモニターに映っていたオペレーターではなく、イングラムが応える。

 

「そうだ、方法は任せる」

「了解」

 

通信を終えるとタイプTTの方へ向かう。

 

「そこのゲシュペンスト聞こえるか?」

「アンタはさっきのて言うか子供!?しかも女の子!?」

 

自分の予想とイサムの容姿がだいぶ違ったのか、あからさまに驚いているリュウセイ。

 

「そっちとたいして歳は違わないさ、それに俺は男だ。それよりアンタの幼馴染は?」

「男!?マジで!?」

 

再び予想と違っていたことに先ほど以上に、驚くリュウセイ。

 

「んなこたぁ良いから状況を教えろ!」

 

気にしている所を突かれたので、少しイラつきながら怒鳴るイサム。

 

「あ、ああ。無事だけど怪我をしているんだ。早く病院に連れて行かないと」

「もう手配している。すぐに救助部隊が到着する」

「よかった。ところで君は軍人なのか?」

「ちょっと違うけど、詳しい話をしたいから基地に付いて来てほしんだけど」

「基地に?何でだよ?」

 

理由がわからないのか首を傾げるリュウセイ。

 

「その機体を勝手に動かしてしまったからさ」

「そんな!仕方なかったんだ!」

 

イサムが理由を告げると、予想外の事で動揺するリュウセイ。

 

「それでもPT、特にその機体は軍の最重要機密でね外に漏らすわけにはいかないのさ」

「なら、俺はどうなるんだ?」

「このままならブタ箱行きだろうな」

「マジかよ!そんなのゴメンだぜ!」

 

躊躇うことなく言い放つイサムに、見るからに顔が青ざめていくリュウセイ。

 

「そうならない方法もあるけど…」

「どんな方法だ!?」

 

言い淀むイサムに、藁にも縋るような感じで尋ねてくるリュウセイ。

 

「このまま軍に入るのさ」

「なっ!?軍人になれってのか!?」

「そうすれば罪に問われないだろうな」

「……」

 

イサムが告げると、考え込むように俯いてしまうリュウセイ。

 

「残念ながら他の選択肢は無いだろうな(そう言う風に少佐が仕組んだからな)」

「俺は…」

「まあ、アンタには才能があると思うよ」

「俺にか?」

 

戸惑うリュウセイに、自分の思ったことを話すイサム。

 

「訓練も受けてないのに”バグス”を撃破したし」

「”バグス”?さっきの虫みたいのか?」

「そう、その辺も知りたければ入ることを薦めるよ」

「…わかった。君に着いていくよ」

 

一瞬思考すると、イサムの申し出を受け入れるリュウセイ。

 

「OK、着いて来てくれ。少佐これより彼を連れて帰還する」

「わかった帰還したら俺の所に連れてこい」

 

それを確認すると、イングラムに通信を入れるイサム。

 

「了解…」

 

あからさまに不満そうに答えるイサム。

 

「不満そうだな」

「いくらなんでも強引過ぎるだろ」

 

他に方法が無かったのかと、目で訴えるイサム。

 

「我々には手段を選んでいる余裕はない」

「そうかもしれないが…」

「嫌なら、拒否する権限がお前にはあるぞ?」

 

淡々と告げてくるが、どことなくイサムを気遣っているようにも感じられるイサム。

 

「どっちにしろ彼の罪が消えるわけじゃないし従うよ」

「では、帰投しろ」

「はいよ。ふぅ、やになるねぇ」

 

通信を終えため息を吐くと、リュウセイを連れ帰還するのであった。

 

 

 

 

 

病院

 

あの後、イングラムと面会し、軍に入ることになったリュウセイは、しばらく会えなくなる母親のお見舞いに訪れていた。

イサムは彼の護衛(正確には監視)の為に同行し病院の前で待機していた。

 

「母親か…」

 

イサムは赤子の時に捨てられていた所をリシュウに拾われ、その妻シノと孫として育てられたため、親との思い出はおろか顔すらわからないのである。

 

「まあ、別にもう興味ないけどさ」

 

物心ついた頃はどんな両親でなぜ捨てたのか知りたかったが、今ではどうでもよくなっていた。

そんな事を考えているとリュウセイが病院から出てきた。

 

「早かったですね、もっとゆっくりしていけば良かったのに」

「いや、そうしたら決心が鈍っちまうからな」

「そうですか。ねえリュウセイさん」

「何だイサム?」

「これからあなたが進むのは茨の道だ」

 

目つきと口調が鋭くなり、リュウセイを見据えるイサム。

ただならぬ雰囲気を感じ取り、思わず唾を飲み込むリュウセイ。

 

「茨の道…」

「俺たちが戦うのは異星人だけじゃない、同じ地球人にも銃を向けなくちゃならない時もある」

「!!」

 

つきつけられた現実に衝撃を受けるリュウセイ。

 

「アンタにその覚悟があるか!」

 

そう言って肩に担いでいる袋から愛刀”獅子丸”を取り出し、抜刀して切っ先をリュウセイに向ける。

 

「俺は…」

「もうアンタに逃げ場は無い、此処で覚悟を決めてもらう。今までやってきたゲームとはもう違う、命のやり取りをするな」

「正直まだ実感が湧かねえんだ…」

「……」

 

ゆっくりとだが紡ぎだされるリュウセイの言葉を、静かに聞き取るイサム。

 

「でも、俺の力でおふくろやクスハ、誰かを守れるんなら。俺はその為に戦う!」

 

向けられる刀に臆する事なく、イサムを見据えて話すリュウセイ。

 

「OK、それでいいさ」

 

獅子丸を下げながらそう告げると同時に、何時もの和らいだ口調に戻るイサム。

 

「イサム…」

「誰だって他人を傷つけるのは怖いさ、まして死ぬのはもっと怖い。それでも人は、大切な物を守る為ならその恐怖に立ち向かえる。大丈夫アンタなら生き残れるよ」

 

獅子丸を収めながらリュウセイを勇気づけるイサム。

 

「なあ、イサム頼みがある」

「頼み?」

「俺を鍛えてくれ」

「え?」

 

思いがけない申し入れに一瞬戸惑ってしまうイサム。

 

「いやぁ。俺なんかに教えてもらうより、イングラム少佐辺りに頼んだ方が良いと思うけど…」

「もちろん他の人にも頼む。少しでも早く強くなるために。だからお前にも鍛えて欲しいんだ、頼む!」

 

年下相手にも構わず頭を下げるリュウセイ。

その姿勢に本気であることを感じ取りるイサム。

 

「柄じゃないんですけど、仕方ないですね。その代わりにビシバシ行きますよ!」

「おう!頼むぜ師匠!」

 

”師匠”という単語に無性に恥ずかしさを感じてしまうイサム。

 

「いや。イサムでいいんで、くそ恥ずかしいから」

「ならよろしくな!イサム!」

「ええ!よろしくお願いしますリュウセイさん!」

 

互いに固く握手をするイサムとリュウセイ。

 

「じゃあ、まずはアンパン買って来てください」

「それパシリじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

「あはは、冗談ですよ冗談」

「(だっ大丈夫なのか俺?)」

 

背中を勢いよく叩きながら笑い飛ばすイサムに、先生きが思いっきり心配になるリュウセイであった。




出来るだけゲームと被らないように気をつけているけどどうでしょうか?

では、次回をお楽しみに!

※2014/1/13に大幅に書き直させて頂きました。


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第五話

今回は本格的な戦闘を書いてみたけどうまく、表現できているだろうか。

そこらへんのアドバイスを頂けると助かります。

それでは本編をどうぞ!


伊豆基地 グラウンド

 

早朝のグラウンドを走る男が一人、彼の名はリュウセイ・ダテつい最近入隊したばかりの新兵である。

いや正確に言えばもう一人いる。

 

「なぁ、イサム」

「なんです?リュウセイさん」

「これって意味あるのか?」

 

そう言って彼は腰に巻きつけてあるロープを見る。

その先にはタイヤが括り付けられており、その上にイサムが乗っているのである。

 

「有るっちゃ有るし、無いっちゃ無いですね」

「何だよそれ…」

 

曖昧な返答をするイサムに呆れ気味の表情をするリュウセイ。

 

「まあ、気分ですよ気分」

「気分って…」

「何事にも体力は必要ですよ、ホラホラスピードが落ちていますよ。もう十週追加しちゃうぞ~」

「だぁもう!走りゃ良いんだろ!走りゃ!」

 

ヤケクソ気味にスピードを上げるリュウセイ、これがイサムに鍛錬を頼んでからの彼の日課の一部である。

 

伊豆基地 食堂

 

「つ、疲れたぁ」

「あれしきでへばってちゃ、これから先持ちませんよ?」

 

テーブルに突っ伏してぐったりとしているリュウセイと次々と皿を積み上げていくイサム。

 

「あれしきってあの後、腕立てやら組手までやったんだぜ?」

「あんなのまだ序の口ですよ、それに生身でも強くなっておいて損はないですよ」

「あれで序の口って…」

 

知りたくない事実を知り項垂れるリュウセイ。

 

「おはよう二人共。今日もしごかれてるわねリュウ」

「おはようございます、アヤさん」

「おはようアヤ…」

 

二人の元に食事を持ったアヤがやって来た。

 

「イサムが今日模擬演習有るってのに、手加減してくれないんだぜ」

「してますよ10%くらい」

「それしてなくね?」

「そうですか?」

 

イサムの発言に疑問を呈すと可愛らしく首を傾げるイサム。

 

「何事も極力全力で打ち込めが家の家訓の一つなので」

「そう言えばお前のお爺さんってテスラ研で顧問してるんだよな」

「ええ、特機の斬撃モーションパターンの作成もやってますよ」

「特機ってスーパーロボットだろ乗ってみたいなぁ」

「テストで何回か乗ったことがあるけど男のロマンが詰まってますよ。ロケットパンチとか」

「マジで!いいなぁ」

 

目を輝かせながら羨ましがるリュウセイ。

 

「あなただってPTに乗ってるじゃない」

「PTもいいけど変形・合体が出来るのにも乗ってみたいんだよ!」

「私には良く解らないわ」

 

ロボットについて熱く語り出すリュウセイに、首を横に振りながら答えるアヤ。

 

「やかましいぞ、他の人に迷惑だろう」

 

今度はライディースが呆れ気味な表情でやって来た。

 

「何だよライお前には解んねぇのかこのロボット魂が」

「解らん」

 

同意を求めるリュウセイにスッパリと答えるライディース。

 

「イサム、ライの奴が解ってくれねえよ」

「大丈夫だよリュウセイさん、演習後にバーンブレイド全話一挙鑑賞すればせんのゲフンゲフン解って貰えるよ」

「不要だ。と言うか不吉な事を言わなかったかイサム?」

「ナンノコトデスカー?」

 

ライディースの指摘に、目線を逸らしながらカタコトで答えるイサム。

 

「まあいい、それよりも今日の模擬演習では足を引っ張るなよリュウセイ」

「よくねえ!ロボット魂が解らねえとはお前はそれでも男かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「いきなりどうした!?知らなくても別に問題なかろう!」

「大ありだ!いいかロボット魂ってのはだな…!」

「(最初は心配だったけどうまくやってるわね。これもイサム君おかげね)」

 

知り合った当初は、性格が正反対な事もあり険悪な雰囲気の二人だったが、イサムが間を取り持ち今ではだいぶ緩和されている。

 

「まあまあ、とりあえずそれくらいにして今は演習の事に集中しましょうよ」

「しゃあねえな、それで相手は何処なんだ?」

「何故俺が悪いみたいになっているんだ…」

「気持ちは解るけど落ち着いてライ」

 

余りの理不尽に拳を握り締めるライディースをなだめるアヤ。

 

「今日の相手は百選練磨のハルマ隊よ、二人共気を引き締めてね」

「了解です、大尉」

「おう、任せろアヤ!」

「じゃあ、負けたら明日の訓練メニュー倍でいきますか」

「ぜっ、ぜってー負けられねぇ!」

 

イサムの発言に冷や汗を流しながら闘志を燃やすリュウセイ。

 

「負けてもらっては困るな」

「イングラム少佐!」

 

突然のイングラムの登場に驚く一同。

 

「お前達は俺が選び出した者達だ期待している」

「はい!期待に答えてみせます少佐!」

 

頬を赤らめながら敬礼するアヤ。

 

「(やっぱりアヤさんって少佐の事好きなんですかね?)」

「(お前もそう思うか?なあライ)」

「(俺に聞くな人のプライベートに口を出す気は無い)」

「(おいおい、気になるくせにクールぶってるぜコイツ)」

「(言えよ!気になるって言っちまえよ!吐いて楽になっちまえよ!)」

「(貴様ら…)」

「何話してるの三人とも?」

「「「いえ何でもありません」」」

 

イサムとリュウセイにからかわれ拳を再び握り締めるライディースだが、アヤに話し掛けられ慌てて誤魔化す三人。

 

「演習は時間通り行われる。それからイサム」

「何ですか?」

「食うのはそれくらいにしておけ、基地の食料を食い潰す気か?」

「えっ、これからなのに…」

「「「まだ食う気だったの(か)!?」」」

 

話している間も食べ続けていたイサムだった。

 

 

 

 

 

富士山麓 連邦軍演習場

 

それぞれの機体に登場し待機しているリュウセイ達に通信が入る。

 

「アヤ、お前達は三機でフォーメーションを組み制限時間内に戦車隊を撃破せよ」

「了解!」

「ところで何で実弾まで持ってくんだ?」

 

今回行われるのは模擬演習なので、必要の無いはずの実弾が用意されていることに、疑問を感じるリュウセイ。

 

「演習の最後に行われるプロセスのためだ」

「最後ですか?それは一体…」

「これ以上の質問は受け付けん」

「…了解」

 

これ以上は教える様子の無いイングラムに疑問を感じつつも、目の前の演習に集中することにしたリュウセイ達。

 

「リュウ、ライのシュッツバルトはゲシュペンストより足が遅いから、隊列を乱さないように注意してね」

「解ってる。イサムから「戦場では味方との連携が一番重要」だって、耳にタコが出来るぐらい言われてるからな」

「リュウセイ、後ろはカバーしてやるお前は前だけ見ていろ」

「おう!任せるぜライ!」

「それじゃ行きましょう!」

「それでは、訓練開始だ!」

 

イングラムの掛け声と共に前進する三機。

 

指揮車

 

「いい感じですね。待ち伏せにもうまく対応していますよ」

「ああ、リュウセイの動きも悪くない」

 

モニターには戦車の撃破マークが次々表示されていく。

 

「お前にリュウセイの指導を任せたのは正解だったようだ」

「いえいえ、元々センスが良かったんで大して教えてませんよ。終わったら褒めてあげたらどうです?」

「それで調子に乗られては困る」

「照れくさいだけだけでしょう」

「…そろそろお前も準備に入れ」

「りょーかい」

 

はぐらかすイングラムに微笑みながら指揮車を出て、トレーラーに固定されている愛機に向かうイサム。

 

「良しラスト!」

 

リュウセイの乗るゲシュペンストが放ったマシンガンが、最後の戦車に直撃し機能停止する。

 

「敵機反応消失これで終わりね」

「終わったか。ふぅ」

「気を抜くのはまだ早いそリュウセイ」

「え?何でだよライ」

「まだ終了のアナウンスがされていない」

「そう言えばそうね何が…」

 

アヤが言い終わる前に機体のレーダーに機影が映る。

 

「これは!」

「早い!通常のゲシュペンストの三倍の速度が出ているぞ!」

「それって、まさか!」

 

リュウセイ達がうろたえている間に、接近中の黒に金色のラインが入ったゲシュペンストがモニターに表示される。

 

「やはり、イサムか!」

「こっちに向かって来るぞ!」

「全機回避!」

 

慌てて三機回避行動に入る間に、ゲシュペンストMk-II カスタムはシシオウブレード改を抜刀し突撃する。

 

「チェストォォォォォオオオ!!」

 

すれ違い様にリュウセイのタイプTTに横一線で打ち込むMk-II カスタム。

 

「うわぁぁ!!」

 

ギリギリで回避するがタイプTTの右腕が吹き飛ぶ。

そのまま距離を取り、包囲するように旋回するMk-II カスタム。

 

「リュウ大丈夫!?」

「あ、ああ。くそ!どうなってんだ!?」

「C.Cとの通信が遮断されている。どうやらあいつが最後の目標らしい」

 

納得のいった様子のライディース。

 

「まじかよ!?そんなの聞いてないぞ!?」

「どうやら不足の事態にも対処しろって事みたいね」

「だから実弾を持たせたってのかよ!?」

「仕方ないわ二人共、実弾に換装を」

「了解です」

「お、おう」

 

換装し終わったのを見計らったように、Mk-II カスタムが突撃して来る。

 

「そこだ!」

 

シュッツバルトのツイン・ビームカノンが発射されるが、ジグザグに機動し回避される。

 

「何!?あれほどの速度を出しているのにあんな機動ができるのか!」

「あんなに食ってたのに吐かねえのかあいつは!?」

「そんなこと言ってる場合じゃないわ!T-LINKリッパー!」

 

アヤがT-LINKリッパーで迎撃するも、シシオウブレード改で弾かれてしまう。

 

「まずは支援機から潰させてもらう!」

「来るか!」

 

シュッツバルト目掛けて突撃して来るMk-II カスタムに、両腕の3連マシンキャノンで弾幕を張るも、シシオウブレード改を盾にしながら強引に距離を詰められてしまう。

 

「もらったぁ!」

「クッ!」

「やらせるかぁ!!」

 

シュッツバルトにシシオウブレード改を振り落とそうとしたところで、リュウセイのタイプTTのタックルを受け体勢を崩すMk-II カスタム。

 

「なら、アンタから落とす!」

「うおぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」

 

リュウセイのタイプTTに攻撃しようとするMk-II カスタムに、T-LINKリッパーを発射するもジャンプして避けられる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

その勢いのままシシオウブレード改を振り下ろすも、アヤのタイプTTがシシオウブレード改を狙いトリガーを引く。

放たれた弾丸がシシオウブレード改に当たり、軌道が逸れた刃が地面に叩きつけられ粉塵が巻き上がる。

 

「そこだ!」

 

その隙を突きシュッツバルトが、両腕の3連マシンキャノンで追撃するも堅牢な装甲に弾かれ、ダメージを与えられない。

 

「やはり堅い!」

「せいやぁ!」

 

 

シュッツバルトに横一線でシシオウブレード改を振るうもバックステップで回避される。

 

「そんな重い機体で良く動く!」

「お前もな!」

 

シュッツバルトが右腕の3連マシンキャノンで反撃する。

左へ機体を滑らしながら後退し、距離を取るMk-II カスタム。

 

「三体一なのにこちらが押されているなんて…」

「あれが彼の全力なのでしょう大尉」

「アヤ、ライ弾幕を張ってカスタムの動きを制限してくれ」

「何をする気なのリュウ?」

「射撃武器じゃあの装甲を抜けないプラズマカッターじゃないと」

「接近戦をする気!?危険すぎるわ!」

 

リュウセイの提案に驚愕するアヤ。

 

「でもそうしなきゃイサムには勝てねえ」

「だからって…」

「下手をすれば死ぬかもしれないんだぞ」

「ああ、わかってる。俺を信じてくれ二人共」

「……ここはリュウセイを信じましょう大尉」

「ライ…。わかったあなたを信じるわリュウ」

 

リュウセイのタイプTTは右腕が損失している為、武装を取り出せないのでアヤのタイプTTが自身のメガ・プラズマカッターを取り出し、リュウセイのタイプTTに渡す。

 

「おう!行くぜ!」

 

Mk-II カスタムに突撃するリュウセイのタイプTTを援護する為、残りの二機が弾幕を張る。

 

「ほぉ、その思いっ切りは良し!ならば真っ向勝負!!」

 

Mk-II カスタムも弾幕をもろともせず突撃する。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

Mk-II カスタムが先手を取り、シシオウブレード改を振り下ろし、ブレードに設置されているスラスターで加速される。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」

 

機体を左に逸らし右肩が切り落とされるも直撃を避けるタイプTT。

 

「何とぉ!!」

「そこだぁ!!」

 

左腕に持っているメガ・プラズマカッターで、Mk-II カスタムの両腕を切断し、コックピットに切っ先を向ける。

 

「勝負、有りだ…」

「参りました…」

 

こうして模擬演習は幕を閉じるのであった。

 

 

 

 

 

伊豆基地 ブリーフィングルーム

 

「ご苦労だった。模擬演習の結果は上々だ」

「もっと褒めてくれても良くないか?死にかけたんだぜ?」

 

イングラムの評価に不満の様子のリュウセイ。

 

「やだなー、ちゃんとコックピットは外してましたよ」

「全然そうには見えなかったんだけど。殺る気まんまんだったんだけど」

「気のせいですよー」

 

あははーと笑うイサムに苦笑いしか出来ないリュウセイであった。

 

「ですが、実戦形式で行うのならシュミレーターでも良かったのでは?」

「今後の為にも早い内に、死への恐怖をアヤやリュウセイに体験させる為だ」

「俺とアヤに?ライは」

「それは本人に聞くのだな」

「?」

「……」

 

イングラムの意味深な発言に、首を傾げるリュウセイと自分の左手を見つめるライディース。

そしてそのまま解散となるのであった。

 

伊豆基地 通路

 

「はぁーぁ負けちゃったな」

 

リュウセイ達と別れたあとイサムは一人で歩いていた。

教え子であるリュウセイの成長を感じれて嬉しいと思う反面、悔しいと思ってしまう心を紛らわすために散歩しているのである。

 

「俺もまだまだだなぁ」

 

とぼやいていると曲がり角で誰かとぶつかってしまう。

 

「うわっと!」

「きゃっ!」

 

イサムは踏みとどまるもぶつかった相手は尻餅を着いてしまい、持っていた資料が散乱してしまう。

 

「すっすいません。考え事をしていて」

「……」

 

良く見ると相手は紫色の髪でメガネを掛けた自分と同い年程の女の子だったので、思わずじっと見てしまう。

 

「…何?」

「あっいや同い年の人と久しぶりに会ったなって、じゃなくて資料拾わないとね」

 

そう言って慌てて資料を拾い集めるイサム。

 

「いい、大丈夫…」

「良くないよ俺の不注意なんだから」

「……」

 

そう答えると女の子も黙々と資料を拾い集める。

 

「はい、これで全部かな?」

「……」

 

自分の集めた分を渡すと女の子はそのまま走り去ってしまう。

 

「ありゃ、やっぱり怒ってるのかな?迷惑をかけたぶん倍にして謝罪するのが家の家訓なんだけど…。同じ基地にいるしまた会えるよね」

 

仕方なく散歩の続きをするイサムであった。




最後にちょこっとだけヒロインを登場させてみたぜ!

まあ、本格的に絡むのはもうちょっと後だけど…。

次回もお楽しみに!


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第六話

お待たせしました!

今更ながらコミックス買いました(ぇ

これからはゲームとコミックスを合わせながら進めていきたいと思います。

それでは本編をどうぞ!


水鳥島

 

「では、これより沿岸地帯の敵基地制圧作戦を想定した訓練を行う」

「了解、でもこの前みたいな乱入はゴメンだぜ教官」

 

イングラムからの通信にリュウセイが不安げに答える。

 

「大丈夫ですよ、俺の機体は金が掛かるんでそうホイホイ出せないんですよ」

「そりゃ良かった。あんなの何度もされた堪んねえよ

 

イサムの返答に安堵するリュウセイ。

その時アラームが鳴り響く。

 

「どうした?」

「第3特別航空輸送隊所属のT5より…エマージェンシーコールですっ!!」

「状況は?」

 

オペレーターに確認を取りつつ、対応を考えるイングラム。

 

「南西30キロの海上で所属不明機の追撃を受けているようです」

「所属不明機…ひょっとして、エアロゲイターなの!?」

「…訓練は中止だ。T5をこの海域へ誘導し、救助する」

「アヤ達はPTの火器を実弾を装填した後、出撃。輸送機を救助しろ」

「「「了解!」」」

「少佐俺は?」

 

俺も出してと目で訴えているイサム。

 

「お前にも出てもらう。海上では対空戦闘が出来るお前の機体は必要だ」

「了解!」

 

イングラムの指示を受け行動に移るイサム達。

 

「T5がこの海域に侵入してきます!」

「イルム中尉、所属不明機を振り切れません!」

「やれやれ、ついてないねえ。地球へ降りて来た途端にこれとは」

 

慌てているパイロットに対して、至って冷静のイルムガルド。

そこにイングラムからの通信が入る。

 

「T5、応答せよせよ。こちらは極東支部所属のイングラム・プリスケン少佐だ。今からPTで所属不明機を牽制する。その隙にこの海域から離脱しろ」

「すみませんね、イングラム隊長。面倒をかけてしまって」

「おまえは…」

「イルム兄じゃん」

「のようだな」

「何だ?教官達の知り合いか?」

 

イルムガルドのことを知らないリュウセイが、首を傾げる。

 

「俺の兄貴分ですよ」

「イルム…何故、お前がそこにいるのだ?」

「ちょっとワケありで、月のマオ社から出戻る羽目に…」

「イルム中尉、駄目です!所属不明機に追いつかれました!!」

 

タウゼントフェスラーのパイロットが告げると、”F-32シュヴェールト”の編隊と戦闘機とPTを合わせたような外観をした機体が一機迫って来る。

 

「テンザン、引き返せ!これ以上は危険だ!!」

 

シュヴェールト隊の隊長機が、先行している詳細不明機を止めるべく通信を入れる。

 

「何言ってんだ。せっかく面白くなってきたのによ」

「お前の機体はまだ連邦軍に知られるわけにはいかない!命令に従え!」

「もう遅いっての。それに俺はビアン博士の命令でこの”リオン”のテストをしてんだぜ?」

「文句はあのおっさんと、俺を引き入れたアートラーに言えっての」

「き、貴様…!」

 

テンザンの物言いに激しい憤りを感じる隊長。

 

「…ちぇっ、あんだらがグダグダ言うから、腹が減ってきちまった」

「はっ、腹だと!?」

「さっさとあの輸送機を落とすとするか」

「やめろ、テンザン!我々の任務はもう完了したのだ!」

「あ~もう、うるせえな!俺はまだ遊び足りねえの!」

「馬鹿を言うな!逆にお前が撃墜されでもしたらどうする!?」

「ま、このリオンは秘密兵器って奴だからな。そうなっちゃ、やばいわな」

 

それでも静止を聞かずにリオンを加速させるテンザン。

 

「あっアイツ!」

「ここでリオンを失うわけにはいかん!やむをえん援護するぞ!」

「了解!」

 

シュヴェールトの編隊も後を追うように加速する。

 

「お、おい!あの戦闘機、手と足が生えてるぞ!」

「あれ、PTなの!?」

「現状では、単独飛行可能な機体はいないはずですが…!」

「俺のレオでも短時間しか対空戦は出来ないのに…!」

 

初めて見る機体に驚愕するリュウセイ達。

 

「各機へ。イルムの輸送機がこの海域から離脱するまで敵機を牽制しろ」

「って事で、イサム、ライ…悪いけど、よろしく頼むわ」

「あいよ!」

「了解です、中尉」

 

イルムとの通信を終えて迎撃行動に移るイサム達。

 

「ターゲットインサイト!ツイン・ビームカノン発射!」

 

射程の長いシュッツバルトが先制でツイン・ビームカノンをリオンに向けて放つ。

 

「おおっと!」

 

リオンを横に滑らせて回避するテンザン。

 

「おかえしだぁ!」

 

リオンの左腕に装備されているレールガンで反撃する。

 

「くっ!」

 

ギリギリで回避するライディース。

 

「そこ!」

「行けぇ!T-LINKリッパー!」

 

アヤとリュウセイのタイプTTが同時にT-LINKリッパーを発射する。

 

「ホッ!おもしれぇ!」

 

回避しながらレールガンで打ち落とすテンザン。

 

「なんだぁ、ただのゲシュペンストじゃねぇみたいだな。っと!」

 

真下から反応があり、そちらを向くとるMk-II カスタムが突撃してきていた。

 

「何っ!?」

「うおらぁ!」

 

シシオウブレード改で切り裂こうとするも、僅かに掠るのみで避けられてしまう。

 

「危ねぇな!コイツ!」

 

反撃でリオンの右腕に装備されているホーミングミサイルを、Mk-II カスタムに放つテンザン。

 

「チィッ!」

 

頭部のバルカンで迎撃しながら回避するイサム。

 

「くそっ、アイツ速い!」

「あんなに自由に飛び回られたら当たんねぇぞ!」

 

攻撃が当たらないことに悪態つくイサムとリュウセイ。

 

「後続が来るぞ!」

「リュウ、イサム君後続は私とライで抑えるわ!貴方たちは不明機を!」

「了解です大尉」

「わかったアヤ!」

「任された!」

 

アヤの指示にそれぞれ答えると、アヤとライディースはシュヴェールトの編隊へと向かう。

 

「リュウセイさん俺が空から抑えるからその隙に攻撃を!」

「頼むイサム!」

 

Mk-II カスタムが飛び上がりリオンへ突撃する。

 

「速ええが突っ込んでくるだけじゃあな!」

 

後退しながら、レールガンで撃ち落とそうと攻撃するテンザン。

 

「多少くらったところで!」

 

被弾しながらも構わず、突撃するMk-II カスタム。

 

「何っ!?効いてねぇのか!?」

 

驚きながらも振り下ろされるシシオウブレード改を、ギリギリで回避するテンザン。

 

「クソッ!限界か!」

 

対空限界時間となり降下するMk-II カスタム。

 

「ひゃっはぁ!PTはPTらしく地べた這いずりまわってろっての!」

 

その隙を逃さず攻撃しようとするテンザンだが、別方向からの攻撃に阻まれる。

 

「やらせるかぁ!」

 

マシンガンを連射する、リュウセイのタイプTT。

 

「邪魔だってのぉ!」

 

銃撃を回避され反撃のレールガンで、タイプTTの左肩が吹き飛ぶ。

 

「うわぁ!」

「リュウセイさん!」

 

追撃しようとするリオンを止めるべく突撃するイサム。

 

「かかったな!」

「何っ!?」

 

振り下ろしたシシオウブレード改を、背後に回るように回避しレールガンを構えるリオン。

至近距離で放たれたレールガンが直撃し、背中のブースターが破損してしまい、海へ墜落するMk-II カスタム。

 

「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「イサム!」

「後はテメェだ!」

 

タイプTTに猛攻を加え追い詰めていくテンザン。

 

「こっ、このままじゃ!うわぁ!」

 

タイプTTの左足にホーミングミサイルが直撃しバランスを崩してしまう。

 

「これでゲームオーバーだ!」

 

レールガンで、タイプTTのコックピットに狙いを定めるテンザン。

 

「やっ、やられる!」

 

もう駄目かと思った時、何かがリオンのレールガンを切り裂く。

 

「な、何っ!?」

「あれは!」

 

リュウセイが攻撃が飛んできた方を確認すると、アヤのタイプTTとシュッツバルトが向かって来ていた。

先ほどの攻撃はアヤ機のT-LINKリッパーである。

 

「リュウ大丈夫!?」

「アヤ!助かったぜ!」

「クソッ他の奴等はどうした!?」

 

連絡を取ろうとするもいっこうに繋がらない。

 

「やられたのか使えねぇ!んっ!?」

 

海の方から反応があり、何かが飛び出して来る。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおらぁ!!」

 

それはMk-II カスタムで、シシオウブレード改に設置されているスラスターで浮上し、ミサイルのようにリオンへ突っ込む。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

避けきれずにリオンの右肩が吹き飛ぶ。

 

「リュウセイさん今だ!」

「おう!」

 

リュウセイ機が、マシンガンで追撃しリオンの左足が破損する。

 

「じょ、冗談じゃねぇっ!!俺はこんな所で死ぬキャラじゃねぇっての!!」

 

慌てて撤退していくリオンであった。

 

 

 

 

 

伊豆基地 リュウセイの部屋

 

水鳥島での戦闘後イサム達は待機を命じられており退屈だったので、リュウセイの部屋へ遊びに来ていた。

 

「にしてもあの人型モドキなんだっんでしょうね?」

「わかんねぇけど、あんな形状でどうやって飛んでるんだろうな」

 

リュウセイと共に今日の戦闘を振り返るイサム。

 

「多分EOTが使われてるんでしょうね」

「EOTって異星人の技術の事だよな」

「ええ、アイドネウス島に落下した”メテオ3”を解析して得られた技術の事です」

「そんなのを使ってきたアイツらは何者なんだ?」

「そこら辺は俺たちが考えても仕方ないんで、情報部にでも任せましょう」

「そうだな…」

「他に気になることでも?」

「いや、何でもない(あの動き、バーニングPT決勝で戦ったテンザンに似ていたけど、そんなはず無いよな)」

 

考えにふけっていると部屋のチャイムが鳴る。

 

「リュウ居る?今すぐ第3エレベーターの前に集合よ。後イサム君もいたら伝えて頂戴」

「アヤか、わかったすぐ行く」

「お呼びですか?」

「第3エレベーターの前に集合だってよ」

「では行きましょうか」

 

そう言ってリュウセイと共に部屋を出るイサム。

 

伊豆基地 通路

 

エレベーターの前でライディースと合流し、エレベーターが来るまで談笑していると、ドアが開きイルムガルドが出て来る。

 

「よぉイサム、ライ、アヤ大尉!」

「おっひさぁ~、イルム兄」

「お久しぶりですイルム中尉」

「ご無沙汰していますイルム中尉」

 

再開を喜ぶ四人についていけずにいるリュウセイに、イルムガルドが歩み寄る。

 

「で、お前さんが噂のルーキーのリュウセイ・ダテか?」

「は、はぁ…」

 

イルムガルドが言った事が良く解らず、困惑しながら返答するリュウセイ。

 

「リュウセイさん、この人はイルムガルド・カザハラって名前でテスラ研所長の息子であり、俺の兄貴分です。後階級は中尉で年下のアヤさんよりしたの男です」

「そのネタまだ引っ張るのかよ!?もういいだろ!」

 

余計な事を言うイサムに思っいきり突っ込むイルムガルド。

 

「で、わざわざ月のマオ社に行ってたのに何で帰ってきたのさ?」

「流しやがったコイツ…。何だよ俺は元々この基地の所属だぜ?別におかしくないだろ」

 

華麗に流すイサムに憤りを感じつつも、何かを誤魔化すように答えるイルムガルド。

 

「どうせ浮気でもしてリンさんを怒らせたんでしょう?」

「(あ、相変わらず鋭いな…)」

 

あっさりと見破るイサムの洞察力に、戦慄するイルムガルド。

 

「イサム、リンさんって?」

「イルム兄の恋人だよ。この人しょっちゅうナンパしては喧嘩してるんだよ」

 

リュウセイの質問に呆れたような表情で、イルムガルドを見ながら答えるイサム。

 

「え~」

「最低です中尉」

「いい加減にしてください中尉」

「やっやめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!そんな目で俺も見ないでくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

リュウセイ達の冷めた視線に悶絶するイルムガルド。

そんな時再びエレベーターのドアが開き二人の男性と小女が出てくる。

 

「あっ!君あの時の!」

「!?」

 

少女に見覚えがあったので思わず大声を出してしまうと、驚いてしまった少女は走り去ってしまう。

 

「あ、おいラトゥーニ!!わりぃあの子訳ありなんだ許してくれ」

 

そう言って一緒にいた男性が後を追いかけていく。

 

「うーまたお話できなかった…。ねえイルム兄あの子って…」

「いいさ…どうせ俺なんて…」

「チッ、役に立たんか」

「いやいや、ここまで追い込んだのお前でもあるからな」

 

地面に座り込んで負のオーラをまき散らしながら、のの字を書いているイルムガルドを見て、吐き捨てるように言うイサムに思わす突っ込むリュウセイであった。

 

 

 

 

伊豆基地 ブリーフィングルーム

 

「…アヤ大尉、ライディース少尉、リュウセイ曹長に特別任務を与える。イングラム少佐、説明を」

 

落ち込むイルムガルドを放置して集合したリュウセイ達に、サカエが内容を伝え呼びかけられたイングラムが説明を始める。

 

「昨日、俺が勧めているSRX計画の試作機の組み上げが作業が終了した。以後、お前達には機体の調整作業を手伝ってもらう」

「教官、質問!そのSRX計画って…何ですか?」

「エアロゲイターに対抗するための特殊人型機動兵器の開発計画だ」

 

元気良く手を挙げて質問するリュウセイ、その表情にはかなり期待が込められている。

それに対して何時ものように冷静に返答するイングラム。

 

「じゃあ、俺達がテストパイロットとして乗り込むのは…」

「そう。現在、SRX計画では”Rシリーズ”と呼ばれる3機の試作機の開発が進められている」

「では、少佐…彼らに試作機のデータを」

 

サカエの呼びかけに頷いたイングラムが、パネルを操作するとモニターにデータが表示される。

 

「こ、こいつは…パーソナルトルーパー…?しかも、3機も…」

「(標準型と砲撃専用…残りの一機はゲシュペンストより一回り小さいな)」

「これらがお前達にいずれ与えられることになる試作機…”Rシリーズ”だ」

「なお、今後の時別任務遂行にあたり、お前達のチームを”SRXチーム”と呼称する」

「SRXチーム…」

「SRXって…何の略だ?」

「それはいずれわかる。では、お前達にスペックデータと操縦マニュアルのファイルを渡す」

 

疑問の表情を浮かべるリュウセイをはぐらかして話を進めるイングラム。

 

「三日以内にそれらを熟読しておけ。以上だ」

「熟読って…。睡眠学習機とか無いのかよ?」

「寝てる間に…って奴?」

「そうそう」

「そんな便利な物があったら、とっくに使ってるわよ~」

「……そうだよね」

 

期待するような表情で言うリュウセイに呆れたような表情で答えるアヤ。

 

「第一、そんな楽して得たものなんて役に立ちませんよ。日々の反復の中で得たものがいざという時に生きるんです」

「イサム君の言うとうりよ。じゃあ毎日、勉強会をしましょ。わからない所があったら、私達で教えてあげる」

「おう!よろしく頼むぜ!」

「いいだろう。ただしやるからには徹底的に殺らせてもらう」

「泣き叫ぼうが、命乞いをしようともなぁ!」

「字が違くねえかライ!?後、何をする気だイサム!?」

 

怪しい笑みを浮かべて物騒なことを言う二人に、冷や汗を浮かべまくりながらツッコムリュウセイ。

 

 

 

 

 

伊豆基地 自室

 

「そうか南極に行くのか…」

「うん、そこで行われる式典の警備だってさ」

 

ブリーフィングが終わり自室に戻ったイサムは、久々にリシュウに連絡を取り次に行われる任務について話していた。

 

「スペースノア級壱番艦とEOTI機関の新型機のお披露目らしいけど…」

「何か裏があると踏んでいるのだな」

「そう、そっちで何か掴んでいるかなって思ってさ」

「確かにジョナサンの奴も怪しいと言っておったのう」

 

イサムの問いかけに、顎に手を添えながら答えるリシュウ。

 

「せっかくのお披露目会なんだから、もっと目立つ場所でやればいいのにさ」

「わしらも詳しいことは掴めていないが、ゼンガー達も参加することからおそらく、人に知られたくないことが行われるのかもしれん」

「親分達が?零式まで出すなんておかしすぎるよ」

「うむ、気を付けよイサム何やらよからぬことが起きそうじゃ」

 

違和感を感じるイサムに警告するリシュウ。

 

「わかった気を付けるよ。そういえばみんな元気にしてる?」

「うむ皆息災じゃ、お前に会えなくて寂しがっておるし、エクセレンなぞ禁断症状とやらが出始めておる」

「あはは、次あったら大変そうだなぁ…」

 

その時のことを想像して思わず冷や汗が出るイサム。

 

「お前さんが”ATX計画”のテストパイロットに、推薦したキョウスケもうまく馴染んどるよ」

「よかった。あの人なら親分達と上手くいくと思ったんだ」

「マリオンの奴も良いパイロットが来たと喜んでおったわ」

「ずっと不満言ってたもんね」

「一番の候補だったお前がいなくなってしまって、さすがのあやつもへこんでおったよ。お陰でずっと愚痴を聞かされたわい」

「それはごめん…」

「いや、気にするなお前を送り出したのはわしだからの」

 

かなり堪えた様子のリシュウに思わず謝るイサム。

それに対して首を横に振りながら答えるリシュウ。

 

「じゃあ、もう寝ないといけないからもう切るねお爺ちゃん」

「ああ、おやすみイサム」

「うん、おやすみなさい」

 

通信を切りベットに横になるイサム。

 

「無事に終わるといいけど…」

 

静かに願うもその願いは大きく裏切られることとなる。

そして世界が大きく動くことをまだイサムは知らなかった。



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第七話

残業やらで遅くなってしまいました。

いよいよOG1序盤も終わります。

それでは本編をどうぞ!


南極 コーツランド基地

 

「へックション!」

「う~っ、ヒーターが効かねえや」

「あなた…もしかして、ハッチを開けているの?」

 

盛大にくしゃみをしたリュウセイにアヤが呆れ気味に問いかける。

 

「ああ。あの新造戦艦を直に見てえからな」

「写真とか撮っちゃダメよ」

「わかってるよ。機密だろ?」

 

仕方ないといった感じでコックピットに戻りハッチを閉めるリュウセイ。

 

「やれやれ、コックピットの中がすっかりと冷えちまったよ」

「あなったて、ホントにああいうのが好きなのね」

「まあね」

「ロボット系専門だと思ってたわ」

「そういうわけじゃねけど。でも、なんでもいいってわけでもねえんだ」

「じゃ、他に好きなのは?」

「リアル系のロボットだろ、あと戦闘機とか戦車、ヘリコプター、戦艦、潜水艦、怪獣、怪人」

「(何でもいいんじゃないの?)」

 

範囲の広さに再び呆れるアヤ。

 

「男はそういう物に憧れを抱くんですよアヤさん」

「そうなのイサム君?」

「そういうもんですよ」

「っていうかあなたもハッチを開けてて大丈夫なの?」

「心地いいですよ。アヤさんもどうです?」

「え、遠慮しておくわ」

 

ハッチを開けて堂々としているイサムに、この手のことに慣れてきたアヤも別の意味で呆れてしまう。

 

「…ところで、ライ。イテマエ機関の新型のデータ、まだ回ってきてねえのか?」

「イー・オー・ティー・アイ機関だ。詳細なデータは来てないが…名前はわかったぞ」

「何て言うんだ?」

「”グランゾン”…だそうだ}

「ふ~ん。何か敵メカっぽい名前だね」

「パイロットがライバルキャラで、後で味方になりますよ的な感じですね」

「そうそう、実は敵の親玉に操られてましたてな」

「お前達、何をわけわからんことを…」

 

二人で盛り上がっているイサムとリュウセイに呆れながら突っ込むライディース。

 

「でもさ、どうしてこんなところで新型のお披露目をやるんだ?」

「そうね。伊豆とか、ラングレー基地でもいいのに」

「(…確かに、大尉とリュウセイの言う通りだ。それに、この緊迫した雰囲気…ただの式典とは思えん。まるで、これから戦闘が始まるかのようだ)」

「……」

 

不自然な状況に違和感を感じ始めるライディース達の中でイサムは沈黙を保っていた。

 

「む…?グランゾンが出てくるようだぞ」

 

地面のハッチが開きPTサイズのロボットがせり上がって来る。

 

「す、すげえ…。悪役っぽいのは名前だけかと思ったら、見た目もそうだぜ」

「あ、あれパーソナルトルーパーなの?」

「外見や期待構造がPTとは違います。おそらく、我々の期待とは別系統のものですね」

「(何だ?あの機体から感じる威圧感は、本当にただの新型機なのか?)」

 

グランゾンを目の当たりにし驚愕するリュウセイ達と本能的に危機感を感じているイサム。

その時スペースノア級”シロガネ”より通信が入る。

 

「プラチナ1より各機へ。間もなく式典が始まる。周辺の警戒を怠るな。ただし、命令があるまで一切の戦闘行為を禁止する」

「SRXチーム、了解(周辺の警戒…敵でも現れるっていうのかしら?それに…何だか嫌な予感がする…)」

 

シロガネ副長テツヤ・オノデラの命令に疑問を感じていると、基地上空の空間が歪み始め見たことのない艦船が現れる。

 

「な、何だ…あれ!?いきなり現れやがったぞ!」

「地球の物には見えん…!」

「!なら、エアロゲイターか!?」

「そうだとしたら、戦闘禁止命令が出るはずがないわ」

「そ、そうか…」

「……」

「(やはりお披露目会なんかじゃなかったか…。だとしたら何が始まるってんだ?」

 

驚愕するイサム達をよそに、未確認艦船より人間が降りてくる。

 

「お、おい、中から人間が出てきたぜ。やっぱ、地球の艦なのか?」

「出向えの人もいるみたい…」

「(…何かの会議をしているというのか…?)」

「なあ、これがお披露目式典だっていうのかよ?」

「……」

「ん?」

 

リュウセイ達が戸惑いを隠せないでいる中、グランゾンに向かって歩いている男を見つけるイサム。

 

「(あの男、何を?)」

 

注意深く観察していると男はグランゾンに乗り込んでしまう。

 

「…では、そろそろこの茶番劇の幕を閉じることにしましょうか…」

 

グランゾンに乗り込んだ男が呟くと、グランゾンの胸部装甲が開き高出力エネルギー弾が形成され、未確認艦船へ発射される。

 

「え!?」

「グランゾンが未確認艦船を攻撃した!?」

 

直撃を受けた未確認艦船が墜落し、未確認機が多数出撃してくる。

 

「な、何だ、あれ!?」

「バグス…!いや、違うぞ!」

「こちらのデータにないきたいだわ!」

「エアロゲイターじゃないのか!?」

 

突然の事態に混乱している防衛部隊に、未確認機が攻撃を開始する。

 

「プラチナ1より各機へ!アンノウンを迎撃せよ!」

 

シロガネからの命令で防衛部隊が反撃を開始し、コーツランド基地は瞬く間に戦場と化す。

 

「く、くそっ!戦闘が始まっちまうなんてよ!!」

「やるしかない!行こうリュウセイさん!」

「SRXチーム行くわよ!」

「了解!」

 

アヤの号令に合わせて未確認機”ガロイカ”へと攻撃するイサム達。

 

「ターゲットインサイト!ツイン・ビームカノン発射!」

「行って!T-LINKリッパー!」

 

シュッツバルトのツイン・ビームカノンがガロイカを貫き、アヤのタイプTTのT-LINKリッパーが切り裂く。

 

「落ちろぉぉぉぉおおお!」

「はぁ!」

 

リュウセイ機のマシンガンがガロイカを撃ち落とし、残りをMk-II カスタムがシシオウブレード改で両断していく。

 

 

 

 

 

「これで終わりか?」

「みたいだな」

 

数分後、最後のガロイカを撃墜し周辺を確認しながら問いかけるリュウセイに、同意するイサム。

 

「こんなことになっちまうなんて…」

「くそっグランゾンはどこだ!」

 

荒れ果ててしまった基地を見ながら呟くリュウセイと、悪態つきながら元凶であるグランゾンを探すイサム。

その時大きな爆発音がした。

 

「「!?」」

 

その方向を見るとグランゾンが、防衛部隊のゲシュペンストを手に持っているグランワームソードで切り裂いていた。

 

「あ、あいつ味方じゃないのかよ!?」

「それに、あれだけの戦闘で無傷だと!?」

 

先ほどの戦闘でガロイカから集中砲火を受けていたグランゾンだが、まるで何事もなかったかのような程無傷であった。

 

「アヤさん!ライさん!応答してくれ!」

 

イサムがアヤ達に通信を入れるも返事が無い。

 

「まさか、奴に…」

「そんな、そんなはずねえ!!」

 

最悪の事態を思い浮かべるイサムに必死に否定するリュウセイ。

その間にグランゾンがシロガネの方を向く。

 

「な、何をする気だ貴様!」

「見せしめですよ。腰抜けどもに我々の意思を示すためのね」

 

 

オープンチャンネルで呼びかけるイサムに、若い男性の声が帰って来る。

 

「見せしめ、だと?」

「ええ、貴方がたには生贄になって頂きます」

 

そう言うとグランゾンの胸部装甲が開き、先程のようにエネルギー弾が形成されていく。

 

「まさか、やめろぉおおおおお!!」

 

グランゾンを止めようとイサムが機体を突撃させるも、エネルギー弾が発射されその衝撃で吹き飛ばされてしまう。

 

「シロガネが…」

「…やはりこれくらいの抵抗しかできませんか…。ならば利用する価値も利用される意味もありませんね」

 

攻撃を受けたシロガネが墜落していくのを見ながら、呟くグランゾンのパイロット。

 

「…くそっ…!」

 

衝撃で仰向けに倒れている機体を起こしながら、マシンガンをグランゾンに向けるリュウセイ。

だがその銃口は震えてしまっていた。

 

「……フッ」

 

リュセイ機に歩み寄ってグランワームソードを振り上げるグランゾン。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」

「!」

 

グランゾンの背後に回ったMk-II カスタムが、シシオウブレード改を振り下ろすも、見えない”何かに”阻まれてしまう。

 

「ほう、この状況でも私とグランゾンに向かって来ますか」

「うるせえよ!!」

 

シシオウブレード改を何度も振るうも、グランワームソードで軽々と防がれてしまう。

 

「ですが、君は私の相手をするには余りに未熟!」

「舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

グランワームソードを弾き、一度距離をとりシシオウブレード改を上段に構える。

 

「全身全霊と言う訳ですか。いいでしょう受けて立ちましょう」

 

楽しんでいるかのように、グランワームソードを構える男。

 

「(俺は剣、ひと振りの剣、奴を断つ剣!!)」

 

極限まで集中力を高めるイサム。

 

「イサム…」

 

場が静寂に包まれる中、見守ることしかできないリュウセイ。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」

 

ブースターを全開にして、常人には視認不可能な速度でグランゾンへ突撃するMk-II カスタム。

 

「フッ」

 

それをあざ笑うかのように、的確にグランワームソードを振り下ろすグランゾン。

 

「おらあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

刃が頭部を掠りながらも、さらに加速して懐へ飛び込むMk-II カスタム。

 

「!?」

 

予想外の事態に男の余裕の表情が驚きのものへと変わる。

 

「チェストォォォォォォォォォォォォォォオオオ!!!!」

 

渾身のひと振りを打ち込むも、目に見えない何かに再び阻まれてしまう。

 

「残念ですが、それではこのグランゾンのバリアは敗れませんよ」

「まだだ!!まだ俺たちの限界はこんなもんじゃねえだろレオ!!!!」

 

イサムの呼びかけに応えるかのようにMk-II カスタムのバイザーが輝き、シシオウブレード改に設置されているスラスターがさらに火を噴き、刃がバリアーに食い込んでいく。

 

「これは…もしや」

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」

 

さらに刃を押し込もうとするがアラームが鳴り響き、全身から煙を吹き出して機能を停止してしまうMk-II カスタム。

 

「な、オーバーヒート!?」

「どうやらその機体ではこれが限界のようですね」

 

突然の事態に戸惑っていると、グランゾンから通信が入る。

 

「…負けだ。殺せ…」

「潔いの結構ですが君はここで終わるには惜しい。ここまで私に迫れる者がいるとは、今回の茶番は無駄では無かったようです」

「……」

 

楽しそうに語る男に無言を貫くイサム。

 

「私はシュウ・シラカワ。是非君の名前を教えて頂きたい」

「…イサム・トウゴウだ…」

「では、イサム君また近い内に会いましょう」

「近い内に?どういうことだ?」

「何、すぐにわかりますよ。すぐにね…」

 

シュウの言葉に引っかかりを感じ問いかけると、意味深なことを言い背を向けるグランゾン。

だが、その時グランゾンのレーダーに接近する機体を捉えた。

 

「これは…」

 

シュウが呟くと一つに影がグランゾンの前に降り立つ。

 

「やっと見つけけたぜ!!シュウ!!」

「マサキ…こんな所まで私を追いかけて来るとは…ご苦労なことですね」

 

降り立った機体”サイバスター”のパイロット、マサキ・アンドーがグランゾンに言うと呆れたように返すシュウ。

 

「あの時の復讐という訳ですか?結構」

「ふざけるな!!このザマは何だ!?てめえ地上まで滅ぼす気か!?」

「まさか…まだそんなつもりはありませんよ。私を利用した人間に身の程を知らしめてあげただけです」

「ほざくなっ!!」

 

グランゾンに斬りかかるサイバスターだが、あっさりと受け止められてしまう。

 

「いつもいつも同じ事の繰り返し…よく飽きませんね」

「うるせえ!!今日こそ決着をつけてやるぜ!!

「残念ですがお断りします」

 

サイバスターを弾いてグランゾンが手をかざすと周囲の物が、押しつぶされていく。

 

「きっ、機体がっ…思うように動かねえ…!!」」

 

サイバスターもその重さに耐え切れずに膝を着いてしまう。

その間にグランゾンが飛び去って行く。

 

「まっ待ちやがれシュウ!!」

 

「あなたと遊んでいるヒマはありません。これからビアン博士の所へ行かなければなりませんのでね」

「!?…ビアン!?」

「では、ごきげんよう」

 

グランゾンはそのまま高度を上げて行き、姿が見えなくなってしまう。

 

「くそっ…!」

「シュウを追わニャいの?マサキ」

「もう反応が消えちまってる。それよりあいつが言っていたビアンってのは何者だ?」

「おいら達まだそんなに地上の情報仕入れてニャいから…」

 

一緒に乗っている二匹を猫と今後のことを考えるマサキ。

 

「調べてみる必要があるな」

「ニャにを?」

「あいつがいっていたビアンって奴のことを、だ行くぞ、シロ、クロ!」

 

上空へと飛び上がったサイバスターは、そのまま高速で飛び去って行った。

 

「…終わったのか?リュウセイさん大丈夫か?」

「あ、ああなんとかな」

 

ハッチを開けて顔を出し、安全を確認するとリュウセイに通信を入れて安全を確認するイサム。

 

「サム…君。リュウ!イサム君返事をして!」

「アヤ!」

「無事だったんですね!」

 

静けさを取り戻した大地を、眺めることしか出来ないイサムにアヤから通信が入る。

 

「ええ、ライも無事よ」

「よかった…」

 

アヤ達の無事を確認して安堵するイサム。

 

「今、救助部隊がそっちに向かっているから、そのまま待機していてちょうだい」

「了解です」

 

アヤとの通信を終えると再び外へ視線を向けると、大破したシロガネと多数の残骸が広がっていた。

 

「…くそっ、また”あの時”と一緒で何も守れなかった…」

 

自身の無力さと忌まわしき記憶を思い起こし、拳を血が滲み出るほど握り締めるイサム。

 

「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」

 

極寒の地に少年の絶叫が響いた。

その日EOTI機関は”ディバイン・クルセイダーズ”通称”DC”を名乗り、地球連邦に対して宣戦布告を行った。

人類存続を賭けた戦いの幕が上がる。




これにて序盤は終わり中盤が始まります。

そろそろ主人公設定でも載せた方がいいですかね?

それでは次回をお楽しみに!


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主人公設定

Mk-Ⅳ「合計UA5000とお気に入り100突破だぜヒャッハー!!」
イサム「テンション高すぎてうぜぇなおい」
Mk-Ⅳ「いやね、まさかこれだけの人に見てもらえるとは思わなかったよ」
イサム「まあ、投稿当初は「お気に入り10もあればいいよね」とか言ってたしな」
Mk-Ⅳ「それが10倍だよ!喜ばずにはいられるかってんじゃい!」
イサム「(うぜぇ)わかったから早く資料見せろよ」
Mk-Ⅳ「もう、しょうがないなぁイサム君はぁ」
イサム「……」
Mk-Ⅳ「ぎゃあっ!無言で日本刀突きつけないで!わかりました!真面目にやりますから!」
イサム「次はねえぞ」
Mk-Ⅳ「そっそれではどうぞ!」


イサム・トウゴウ(勇 稲郷)

・種族:地球人

・出身:日本

・性別:男

・年齢:15

・身長:160cm(誤魔化している可能性あり)

・所属:テスラ・ライヒ研究所⇒地球連邦軍SRXチーム(出向中)

・階級:テストパイロット

 

本作の主人公。赤子の時捨てられていた所をリシュウ・トウゴウに拾われ、彼と妻のシノ・トウゴウ(本作オリジナル)の孫として育てられる。その為、二人には多大な感謝と尊敬の念を持っており、侮辱した者等には容赦が無い。

 

性格は明朗活発で他人をからかうのを好む。女性寄りの容姿のため年上の女性に人気がある。髪型は腰まで伸びている後ろ髪をポニーテールにしている(本人は切りたいが周りがさせてくれない)

 

本人は男らしくしようと一人称を「俺」にしたり、背を伸ばそうと牛乳を一日ワンパック飲んでいるが効果わ見られていない(リシュウ曰く諦めたほうがいいとのこと)

 

リシュウから教えられた薩摩示現流の使い手で、15にして免許皆伝の腕前を持ち見た目によらず馬鹿力である。ゼンガー・ゾンボルトやブルックリン・ラックフィールドの兄弟子と言えるが、本人は二人を兄のように慕っている。

 

本編開始時の4年前に起きた事件で祖母のシノを殺め、リシュウを裏切り修羅道へ走った男を探し出して止めるためにPTのパイロットとなる。

 

 

 

 

 

量産型ゲシュペンストMk-II カスタム(愛称レオ)

・分類:カスタム型パーソナルトルーパー

・機体カラー:黒に金色のライン

・型式番号:RPT-007C

・全長:22.0m

・重量:78.6t

・動力:核融合ジェネレーター

・基本OS:TC-OS

・開発者:マリオン・ラドム

 

イサム専用に改造された量産型ゲシュペンストMk-IIでテスラ研で開発が行われていたが、近接戦闘一筋に偏りすぎているイサムに合わせるのはテスラ研だけでは限界と判断したジョナサンが北米のラングレー基地で行われているATX計画との共同開発を打診し興味を持ったマリオン・ラドム博士が受託しラングレー基地で開発されることとなる(この時にイサムはエクセレン達と知り合っている)

 

本気は「圧倒的加速力と装甲を以て敵機の懐に接近し一撃で撃破する機体」をコンセプトとし武装は近接ブレードと牽制用の頭部バルカンのみとし、例によってEOTは使用されす堅牢な装甲と航空機に使用される大型ブースターを採用しており、短時間ながら空戦も可能で変則的な機動を可能にするためにスラスターを多数設置しており、PTとは思えない馬力を持つ(本機のデータは後のアルトアイゼンの基となる)

 

その加速力は通常機の3倍以上で、ジョナサンが試しに乗ってみたが加速した瞬間意識を失うほどであるが、反面オーバーヒートしやすく戦闘継続時間が極端に短くなってしまっている。

 

※シシオウブレード改

本機に採用されている近接ブレード、シシオウブレードの刀身を機体全長の2倍にまで伸ばし背の部分にスラスターを設置している(PT版零式斬艦刀とも言われている)




イサム「……」
Mk-Ⅳ「あれ?どうしたのイサム?」
イサム「俺の身長の部分に誤魔化している可能性ありって何だよ」
Mk-Ⅳ「お前が見栄を張っているかもしれないってことさ」
イサム「張ってねえよ!」
Mk-Ⅳ「では、この前の健康診断の結果を見てみようか…」
イサム「チェストォ!!」
Mk-Ⅳ「ぐはぁ!!!」
イサム「悪は滅びた…」


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第八話

Mk-Ⅳ「設定に続いて本編も投稿します!」
イサム「生きていやがったか…。つうかこのパターンでやってくのか?」
Mk-Ⅳ「その方がおもしろそうだからね!」
イサム「さいですか」
Mk-Ⅳ「冷たいなぁ、私泣いちゃうぞ!」
イサム「やっぱうぜえわコイツ」
Mk-Ⅳ「そんなこと言うと身長バラしちゃう「フン!」ゾゲラ!」
イサム「そのまま寝てろ。それでは本編をどうぞ」


伊豆基地 屋上

 

「(連邦は苦戦し日本が戦場になるのは時間の問題か…)」

 

DCは宣戦布告後、新型機動兵器”アーマード・モジュール”(AM)とそれを運用可能な潜水母艦、陸上戦艦、空中戦艦を投入した電撃作戦で戦局を有利に運んでいた。

 

「俺の力でどこまで守れるんだろう…」

 

南極での戦いを思い起こしながら拳を握り締めるイサム。

その時、ドアが開く音がした。

 

「ん?」

「あっ…」

 

ドアの方を振り向くと以前廊下でぶつかってしまった少女が立っていた。

 

「君は…」

「……」

 

イサムが話し掛けようとすると少女は怯えるように後ずさってしまう。

 

「えーと、俺はイサム・トウゴウ。君は?」

「……」

 

とりあえす自己紹介をしてみるも、怯えたままの少女。

 

(どっどうする!?どうしたらいいの!?くそ!こんな時イルム兄ならどうする!?)」

 

同い年の女性と話したことが殆どないイサムは、兄貴分の女たらしを思い出そうとする。

 

(ダメだ!どれも失敗するビジョンしか思い浮かばねえ!つくづく役に立たねえな!)」

 

悶絶しながら相変わらず酷い言い様であるが、一応慕ってはいるのである。

 

「大…丈夫…?」

「え?あ、はい大丈夫です」

 

余りの悶絶ぶりに心配になったのか近寄って来てくれる少女。普通なら逃げられてもおかしくない。

 

「いやー体が丈夫なのが取り柄だから。うん、大丈夫だよ」

「そう…良かった…」

 

安心した様子の少女。流石に同い年の女性と話したことが殆どないから迷っていたとは言えないイサム。

 

「その、君も外の景色を見に来たのかな?」

「うん…ここの景色、好きだから…」

 

ここへ来た理由聞くと途切れ途切れながら答えてくれる少女。どうやら取っ掛りを得られたようである。

 

「うんうん、ここはいい所だよね日本に帰って来て良かったよ」

「帰って…来た?」

 

イサムの発言に疑問を感じたのか首を傾げる少女。

 

「ああ、俺つい最近まで北米のテスラ・ライヒ研究所にいたんだよ」

「北米から?」

「うん、俺PTのパイロットなんだよ。それで戦力拡充のために呼ばれたんだ」

「そうなんだ…。私も…PTのパイロットなの」

「え?」

 

彼女がPTのパイロットとは思っていなかったので、驚いてしまうイサム。

 

「私には、それしか出来ないから…」

 

嫌なことを思い出してしまったのか、表情が暗くなってしまう少女。

 

「ん~何って言うかさ。自分ではそう思っているだけで、意外と生き方って色々とあると思うんだよね」

「え?」

「いやそのさ、そんなことしか出来ない人間って決め付けないほうがいいと思うよ」

「……」

 

俯いて口を閉ざしてしまう少女。

 

「ご、ごめん偉そうなこと言ちゃって」

「そうじゃないの…。そんな風に言ってくれたの…”あの二人”だけだから…」

「あの二人?」

「うん…、居場所の無くなった私に…新しい居場所をくれたの…。だから…少しでも役に立ちたくて…PTに乗ってるの」

「そっか。いい人達だね」

「うん…」

 

徐々に心を開いてくれている様子の少女に、嬉しくて頬が緩んでしまうイサム。

 

「どう…したの…?」

「い、いや!なんでもないよ!アハハ…」

 

少女に指摘されて慌ててごまかすイサム。

 

「えーえっとさそのメガネなんだけどさ」

「?うん」

「なんか合わないと思うんだよね」

「度が?」

「そうじゃなくてさ、似合わないと思うんだよね。せっかく可愛いのにさ」

「!?!?」

 

話題を変えようと思った事を言うと、顔を真っ赤にして俯いてしまう少女。

 

「そっそんなこと…」

「あるよ。よっと!」

「ひゃっ!?」

 

メガネを外すと可愛らしい悲鳴をあげる少女。

今まで地味だった少女が一転して美少女となる。

 

「うん、やっぱり可愛いよ」

「あ、あうぅぅぅぅぅぅ」

 

もう一度思ったことを言うと、ますます顔を赤くして俯いてしまう少女。

 

「?大丈夫」

「っ!か、返して!」

 

様子が変なので心配になり顔を覗き込もうとすると、慌ててメガネを奪い返して掛け直す少女。

 

「ご、ごめん変なこと言っちゃった?」

「そ、そうじゃなけど…」

 

怒らせてしまったと思い謝るイサムに、今だに顔を赤くし俯きながら答える少女。

 

「あ、あの!」

「は、はい!」

 

いきなり顔を上げて大声を出す少女に若干驚いてしまうイサム。

その時警報が鳴り響く。

 

「!?非常警報…」

「まさか、もうDCが攻めてきたのか!?ごめん!俺行かなきゃ!」

「ま、待って!」

 

走り去ろうとするイサムを慌てて呼び止める少女。

 

「どうしたの?」

「ラトゥーニ…」

「え?」

「ラトゥーニ・スゥボータ…。私の名前」

 

顔を赤くしながら自分の名前を告げる少女。

 

「ラトゥーニか、教えてくれてありがとう!またね!」

 

笑顔でそう言うとドアを開けて去って行くイサム。

 

「……」

 

ラトゥーニはイサムが通って行ったドアを名残惜しそうに見つめていた。

 

 

 

 

 

伊豆基地 格納庫

 

「今から5分前…佐世保基地が、DCの攻撃を受けているという報告が入った」

「本当ですか、少佐!?」

「ああ。この基地では飛行隊の他に、PT部隊にも出撃命令が出た」

「虎の子のPT部隊をエアロゲイター戦以外で出撃させるとは……。…敵部隊の中に、例の機体がいる可能性が高いのですね」

「そうだ」

 

ライディースの質問に頷きながら答えるイングラム。

 

「……」

「確かにありゃ、従来の兵器じゃ相手にならにからなぁ」

 

険しい表情のリュウセイと思わすぼやくイサム。

 

「我々にも待機命令が出ている。おそらく。出撃することになるだろう」

「テストチームまで出すとは、それだけ厳しい状況ってことですか」

「PTの絶対数が少ない以上、出し惜しみしている余裕は無い」

 

イサムの発言にやむを得ないといった感じに答えるイングラム。

 

「少佐!」

 

慌てた様子の兵士が駆け寄って来る。

 

「どうした?」

「基地司令よりSRXチームへの出撃命令が出ました!」

「聞こえたな、総員直ちに出撃準備に入れ!」

「「「「了解!」」」」

 

イングラムの号令に敬礼するとそれぞれの機体に向かうイサム達。

 

 

 

 

佐世保基地

 

「この野郎ォ!」

 

ゲシュペンストが放ったマシンガンがリオンに直撃し爆発する。

 

「クソッ!残っているのは俺達くらいなもんか!?」

 

ゲシュペンストのパイロットジャーダ・ベネルディが悪態をつく

 

「…地上部隊の残存戦力は?」

「戦車部隊と歩兵部隊はもうそのほとんどが…!」

 

部隊指揮官であるカイ・キタムラが味方戦力を部下に確認すると、壊滅状態であることを告げる。

 

「限界か…、俺が殿を務めるお前たちは撤退して後方部隊と合流しろ」

「し、しかし!」

 

カイが撤退を指示すると部下が反論する。

 

「貴重なPTを失うわけにはいかん。ここは俺に任せろ」

「…りょ、了解です。どうか、ご武運を…」

 

渋々といった感じに撤退を始める部下たちを見送るカイ。

 

「カイ少佐!」

「ジャーダ達か、お前達も撤退しろ」

 

自機に接近するジャーダ隊3機を確認して、撤退指示を出すカイ。

 

「一人で殿をする気ですか?」

「これ以上戦力を失えば伊豆も危うくなる」

 

ジャーダ隊のガーネット・サンデイがカイに尋ねると、そうだと答える。

 

「少佐にもしもがあれば、それこそでしょう。ここは俺とガーネットが引き受けますよ」

「…ジャーダ、私は…?」

 

自分のことが入っていないので、ラトゥーニがジャーダに問いかける。

 

「お前は撤退するんだラトゥーニ」

「!?そんな…私、まだ戦える!」

 

一人で下がる訳にはいかないと、ラトゥーニは残ることを希望する。

 

「無茶はしないラトゥーニ」

「…ガーネット…」

「恋をする前に命を落としたんじゃ…切なすぎるわよ」

 

ガーネットに言われて、ふと出撃前に知り合った少年のことを思い出すラトゥーニ。

 

「そ、そん、なの、興味、無い、から…」

「?どうしたラトゥーニ?」

 

顔を赤くして俯いてしまったラトゥーニに心配して声をかけるジャーダ。

 

「お前達俺の命令に従え!こんな所で命を粗末にするな!」

 

ジャーダ達を下がらせようと説得しようとするカイ。

そこへリオンとシューベルトの編隊が押し寄せて来る。

 

「お言葉ですが少佐、もうあちらは待ってくれないようですよ」

「くっやむをえん。死ぬんじゃないぞお前達!!」

 

迎撃しようとするカイ達だが空戦能力を持つDC部隊に次第に押されていく。

 

「くそっ!チョロチョロと飛び回りやがって!」

「ぼやかないでとにかく撃つ!」

「…それだけじゃない…。パイロットの錬成度も高い…」

「機体ならまだしも、腕前の差でDCなんかにまけてたまるかってんだ」

 

気合と共にマシンガンを放ち、シューベルトを撃墜するジャーダ。

 

「その意気だ!だがゲシュペンストはAMには負けん!ジェット・マグナム!!」

 

右腕のプラズマ・ステークでリオンを殴り倒していくカイ機。

 

「ええい!手こずらせてくれる!シューベルト隊は緑色のゲシュペンストを抑えろ!まずは他の3機から仕留めるぞ!」

 

痺れを切らしたDC部隊の隊長が指示を出すと、カイとジャーダ達を分断しに掛かる。

 

「おい!これってやばくねえか!?」

「そんなのわかって、あぁ!!」

「ガーネット!!」

 

ガーネット機が被弾してしまい、ラトゥーニ機がフォローに入る。

 

「やらせねえ、やらせるかよぉ!!」

 

ジャーダ機が注意を逸らそうとマシンガンを放つも、集中砲火を浴びて被弾していく。

 

「ジャーダ!」

「だ、大丈夫だ。これくらい、ぐあぁ!」

 

右足に被弾して転倒してしまうジャーダ機。

 

「ジャーダ!!キャァァァ!!」

 

二人を守るためにラトゥーニ機が前に出るが、物量さに次第に追い詰められていき、遂にマシンガンを持っている右腕を破壊されてしまう。

 

「これでおわりだぁ!!」

「!?」

 

1機のリオンがラトゥーニ機に接近しながらレールガンを構える。

 

「ラトゥーニ!!」

「逃げてぇ!!

 

ジャーダとガーネットを叫びも虚しく、レールガンが発射されようとする。

 

「(このままじゃ、ジャーダもガーネットも…。誰か!!)」

 

恐怖の余り目をつぶって助けを求めた時、何かが空を切り裂きながら飛来し、ラトゥーニ機を狙っていたリオンに突き刺さる。

 

『!?』

 

突然の事態にその場にいる全員の動きが止まってしまう。

そこへ何かが上空から猛スピードで降下してくる。

 

「必殺!!ゲシュペンストキィィィィィィィィィィク!!!」

 

そのままの勢いで何体かのリオンを蹴り抜き、爆発を背に着地するゲシュペンストMk-II カスタム。

 

「なっ何だあれは!?」

「ゲシュペンストか!?細部が違うようだぞ!」

「か、カッコイイ…」

「ええい!怯むなたった1機だ囲んで叩くぞ!」

 

動揺する部下(一人何か違ったが)を一喝し、陣形を整え直そうとする部隊長。

 

「よっこらせと」

 

リオンに突き刺さっているシシオウブレード改を引き抜き、肩に担ぐMk-II カスタム。

 

「あなたは…」

「ん?その声はラトゥーニか?」

 

声を聞き助けた相手がラトゥーニであることを知り、少し驚くイサム。

 

「ここは任せて。とにかく下がってな」

「う、うん」

 

イサムにそう言われて機体をジャーダ達の所まで下げるラトゥーニ。

 

「さてと始めるとするか!」

 

ラトゥーニが下がるのを確認すると、機体のブースターを吹かし手近なリオンに一気に加速して、シシオウブレード改で横一線で切り裂く。

 

「なっ!?」

「目で追えなかったぞ!?」

 

あっという間に1機落とされたことで、敵部隊全体に動揺が走る。

 

「悪いが一気に片付ける!」

 

野球の投手のように、手に持っているシシオウブレード改を振りかぶるMk-II カスタム。

 

「大車輪!!」

 

ブーメランのようにぶん投げ、ブレードに設置されているスラスターが点火し、さらに加速する。

 

「そんなもの!」

 

散開して回避するリオン部隊。

その機動を先読みし加速し、1機に肉迫して右拳を握り締めて構えるMk-II カスタム。

 

「オラァ!!」

 

そのまま殴りつけて、コックピットごと貫かれ爆散するリオン。

 

「キサマァ!!」

 

味方が撃破され激昂したパイロット達のリオンが、レールガンを構えると背後から警告音が鳴る。

 

「何!?」

 

慌てて背後を確認すると、先ほど飛んできたブレードが迫ってきており、そのまま切り裂かれる。

 

「ば、馬鹿な…半数が1分も経たずに撃墜されただと!?」

 

戻って来たシシオウブレード改を掴み、肩に担ぐMk-II カスタムを見据えながら恐怖で竦んでしまうDC兵達。

そこへ母艦より通信が入る。

 

「…了解した。全機時間だ後退する!」

 

DC部隊が後退して行く。

 

「?この状況で撤退だと…」

 

敵の不自然な行動に疑問を感じていると、イングラムより通信が入る。

 

「各機へ。敵の戦闘原潜と思われる物体からMAPW(大量広域先制攻撃兵器)の発射が確認された。直ちに、この戦域から離脱せよ」

「チィッ、そう来るかよ!」

 

敵の次なる手にたまらず舌打ちするイサム。

 

「クソッ!なんとかならねえのかよ!」

「…現状の装備では無理…」

 

諦めきれないジャーダに、打開策が無いことを告げるラトゥーニ。

 

「…やむを得ないか、あんた達機体は動くか?」

「ええ、なんとかね」

「なら、俺達が乗って来た輸送機があるから乗せてもらおう。着いて来てくれ」

 

ガーネットの返答を聞き、自身の乗って来た輸送機までラトゥーニ達を誘導しながら撤退するイサム。

その数分後、佐世保基地はMAPWによって壊滅した。

 

 

 

 

 

伊豆基地 格納庫

 

「クソッ!」

 

怒りのままに壁を殴りつけるリュウセイ。

 

「おーおー、えらく荒れとりますなリュウセイはん」

 

そこに変な口調のイサムがやって来る。

 

「DCの奴ら基地を潰すために民間人を巻き込みやがった!」

「まあ、戦争に綺麗も汚いも無いって言いますしね」

「それに、もしかしたら佐世保の人達を助けられたかもしれないんだ!」

「いや、無理でしょ」

 

壁を殴りながら怒りをあらわにするリュウセイに、冷静に現実を突きつけるイサム。

 

「ゼロじゃなかったはずだ!1%でもあったはずだ!

「……」

「でも、俺達が撤退して…佐世保には1%の望みすらなくなったんだ」

「甘ったれんなよ」

「!?」

 

悔しさの余り拳を握り締めるリュウセイに、軽い口調から一転怒気のこもった口調に変わるイサム。

 

「なんだ?ヒーロー気取りで死ぬ気かオイ」

「そ、そんなんじゃねえけど、あのまま逃げなくてもミサイルを打ち落とすべきなんじゃなかったのかって」

「それでお前が死んだらこの基地はどうなる?ただせさえAMに対抗できるPTが少ないってのによ」

「そうかも知れねえけどよ…」

 

初めて見せるイサムの雰囲気に戸惑いを隠せないリュウセイ。

 

「それに、お前の無謀のために他の人間が巻き込まれることを考えたか?」

「!?」

「アヤさんなんかはきっとお前のために残るだろうよ。自分の未熟さを理解しないで無茶して、そんな人達を犠牲にしていいのかよ?」

「イサム、お前…」

 

まるで自分のことのように語るイサムに、何も言えなくなってしまうリュウセイ。

 

「…ごめんなさい、言いすぎました。でも、誰かを守るために死のうなんて考えないで下さい。皆が悲しみますから」

 

そう言ってその場を去るイサム。

 

 

 

 

 

伊豆基地 通路

 

「熱くなりすぎちゃったな」

 

先程の格納庫でのことを思い出し、ため息を吐き出すイサム。

そこに誰かが近づいて来る気配を感じる。

 

「よお、お前だよな佐世保で俺達を助けてくれたのは」

「あなた達はあの時の…」

「そっ俺はジャーダ・ベネルディ。こっちはガーネット・サンデイ」

「あなたのおかげで生き延びられたわ、本当にありがとう」

「いえ、当然のことをしただけですよ」

 

お礼を言われて照れくさそうに頬を掻くイサム。

 

「それから、ほらラトゥーニも」

「う、うん…」

 

ガーネットの後ろから恐る恐るといった感じに、ラトゥーニが出てくる。

 

「そ、その助けてくれてありがとう…」

「ど、どういたしまして」

 

顔を赤くしながらラトゥーニにお礼を言われ、ますます照れくさくなってしまい顔を逸らしてしまうイサム。

 

「えっと、そうだ!ねえラトゥーニ俺と友達になってよ!」

「え、友達…?」

 

いきなりの申し出に可愛らしく首を傾げてしまうラトゥーニ。

 

「うん、せっかく同じ基地にいるんだしさ。嫌かな?」

「…嫌、じゃない…」

 

笑顔で話すイサムに、少しの間の後に頷くラトゥーニ。

 

「ホント!やった!よろしくねラトゥーニ!」

 

満面の笑みで右手の差し出すイサム。

 

「うん、よろしくねイサム…」

 

その手を恥ずかしがりながら握るラトゥーニ。

 

「良かったわねラトゥーニ」

「この子は人と接するのが苦手なんだけどよろしくな」

 

様子を見守っていたジャーダとガーネットが二人に話し掛ける。

 

「はい!じゃあさ、まずはご飯食べに行こうよラトゥーニ!」

「いいけどジャーダ達も…」

 

イサムの提案に頷きながらジャーダ達に確認するラトゥーニ。

 

「俺達のことは気にすんな」

「二人で行ってらっしゃい」

 

笑顔で二人で行くように言うジャーダとガーネット。

 

「わかりました!よ~し行こうラトゥーニ!」

「う、うん…」

 

手を引いて歩き出すイサムに、恥ずかしそうに頬を赤くしながらも着いて行くラトゥーニ。

 

「あんなに嬉しそうなラトゥーニ、初めてみたわねジャーダ」

「ああ、あいつならラトゥーニの心の壁を、壊してくれるかもしれねえな」

 

イサムとラトゥーニの背中を見ながら、微笑ましく見守るジャーダとガーネットであった。

 




Mk-Ⅳ「ニヤニヤ」
イサム「あの世に行くか?」
Mk-Ⅳ「言えよ!嬉しいって言っちまえよ!」
イサム「黙れハゲ」
Mk-Ⅳ「ハゲてねえよ!ふっさふさじゃい!」
イサム「そう言う奴ほどハゲるんだよ」
Mk-Ⅳ「やめて!これでハゲたらどうしてくれるんだ!」
イサム「祝宴を催す」
Mk-Ⅳ「この悪魔めぇぇぇぇぇぇえええ!!」
イサム「お前の毛髪何かどうでもいいから、早く次話を書けよ」
Mk-Ⅳ「感想くれたら書けるんだけどなぁ(チラ、チラ
イサム「催促してんじゃねえよ。すいません書いて下さる方はコイツを罵ってくれると喜びますので」
Mk-Ⅳ「喜ばないよ!私はどっちかって言えばえす「ウオラァ!」アベンチ!」
イサム「失礼しました。それでは次回をお楽しみに!」


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第九話

Mk-Ⅳ「感想をくれてたら早く書くと言ったな」
イサム「ああ、そうだな」
Mk-Ⅳ「あれは嘘だ」(ドヤ
イサム「……」
Mk-Ⅳ「あ、ごめんなさい。たたっ切ろうとしないで」
イサム「なら、なぜ遅くなったか言え」
Mk-Ⅳ「いやね、パソコンの調子が悪くなってさ、ショックでやる気出なくてさ」
イサム「ドライバーインストールしようとしたら、画面真っ暗になったもんな」
Mk-Ⅳ「それでノーパソ引きずり出して書いたんだけど、処理が遅い遅い」
イサム「五年くらい前のだからな」
Mk-Ⅳ「そんなわけで申し訳ありませんが、これかれ更新が遅くなると思います」
イサム「パソコンを修理に出しているので結果次第で、新しいのを買うと思うので来月ぐらいまでこんな感じだとおもいます」
Mk-Ⅳ「では、言い訳はこれくらいにして本編をどうぞ!」


伊豆基地 通路

 

「う~ん暇だなぁ」

 

訓練も無く、知り合いも立て込んでおり暇を持て余しているイサムは、退屈しのぎに散歩していた。

 

「ラトゥー二も見当たらないし、どうしたもんかねぇ」

 

ぼやいていると見知った後ろ姿が視界に入る。

 

「わおイルム兄だ。おーいどこ行くのぉ」

 

これ幸いと駆け寄りながら声を掛けるイサム。

 

「おっイサムじゃねえか、これからリュウセイのところに行くんだ」

「そうなんだ。俺もついて行っていい?」

「ああ、いいぜ」

 

イサムが同行したいことを伝えると、笑顔で了承するイルムガルド。

 

「それで何しに行くの?」

「リュウセイが乗る新しい機体について話に行くんだ」

「新しい機体?どんなの?」

「”ビルトラプター”さ」

 

疑問符を浮かべているイサムに、機体名を告げるイルムガルド。

 

「ビルトラプターて、”あの”?」

「そ、”あの”っだ」

「大丈夫なの、それ?」

 

イサムの脳裏に以前のテストで、パイロットのキョウスケを乗せたまま、墜落していくビルトラプターが思い起こされる。

 

「大丈夫さ、あの時のデータを見直してマオ社で改善されているから」

「なら大丈夫か。そういえば追い出されてから、リンさんとは連絡してるの?」

「お、追い出されたんじゃねえ、ガミガミうるせえからこっちから出ってたんだよ!」

 

突かれたくない所を突かれ、見栄をはって怒鳴るイルムガルド。

 

「逃げたんですね。わかりたくねえ」

「やかましいわ!」

 

呆れた視線を向けてくるイサムに、拳を振るうが軽く避けられるイルムガルド。

 

「チッ、あいかわらずすばしっこい奴だ」

「フフン、俺に当てようなんて百年はやあいたっ!」

 

カッコつけようとしたイサムにゲンコツをみまうイルムガルド。

 

「いったいなぁ!話してる途中で攻撃すんなよ!」

「油断大敵ってやつだ!未熟者めが!」

「いったな!この!」

「でっ!やりやがった!この!」

 

脛に蹴りを入れるイサムに、両頬を思いっきり引っ張るイルムガルド。

こうしてじゃれあいながら、目的地へ向かって行く二人であった。

 

伊豆基地 ブリーフィングルーム

 

「うーす、リュウセイさん新しい機体に乗るそうですね」

「ああ、そうだけどなんで疲れた顔してんだ?イルム中尉も」

 

披露困憊で入ってきた二人にそう問いかけるリュウセイ。

 

「いやなにこの人の駄目っぷりを再認識したんですよ」

「お前は黙ってろよ」

「イヤデース」

「このこの野郎!」

 

睨み合って取っ組み合いを始めようとする、イサムとイルムガルド。

 

「そ、それで二人は何をしに来たんだよ」

「ああ、お前さんがラプターに乗るって聞いてな」

「ええ」

「気を付けろよ。何せ、あの機体には実験中に大破したっていう過去があるからな」

 

まずいと思い話題を変えるリュウセイに、衝撃の事実を告げるイルムガルド。

 

「な、何だって…!?ホントかよ、ロブ!?」

「あ、ああ…。あの機体は変形機構その他に問題が多くてな…」

 

驚愕したリュウセイは、慌てて一緒にいたロバートに確認し、申し訳なさそうに答えるロバート。

 

「俺は、あいつのテストパイロットだった、キョウスケの奴に同情するね」

「でもあの事故はハンスの野郎が無理やりやらせたからで、ラプターは悪くないよ」

 

今はいないキョウスケに同情の念を送るイルムガルドに、原因はハンス・ヴィーパーにあると言うイサム。

 

「ハンス・ヴィーパーって…ああ、あの陰険そうなオッサンか」

「おいおい口には気を付けろよ?その陰険に睨まれて、飛ばされた奴も多いんだ」

 

顔を思い浮かべ嫌そうな顔をするリュウセイに、忠告するイルムガルド。

 

「イルムもあの人にいちいち逆らわなければ、もっと出世していただろうに…」

「出世なんか願い下げだね。俺は気楽な立場の方がいいのさ」

「だからリンさんに尻に敷かれるんじゃないの?」

 

もったいないと言うロバートに、自分の生き方を話すイルムガルド。そして容赦なくツッコムイサム。

 

「お前という奴は…」

「と、とにかくビルトラプターはホントに大丈夫なのかロブ?」

「一応、問題点は俺たちの方でクリアしてある」

 

再び取っ組み合いを始めようとするので、話題を変えるリュウセイとロバート。

 

「一応か…」

「リュウセイ、ビルトラプターはハガネの格納庫内に置いてある。細かい調整作業をやるから、先にハガネに行っておいてくれ」

「ああ、わかった」

「俺たちも手伝おうよイルム兄」

「ああ、そうだな」

 

そう言ってハガネのある地下ドックへと向かうイサム達。

 

伊豆基地 地下ドック

 

「ふ~ん…これが私達の艦、ハガネか…。結構カッコいいと思わない?」

 

スペースノア級弐番艦”ハガネ”を見ながら、リオ・メイロンが隣にいるクスハ・ミズハに話し掛ける。

 

「リオはこういうのに興味あるの?」

 

「ん…。父様の仕事の影響かもね」

 

何かを思い出すような仕草をするリオ。

 

「これがハガネか…。艦首部分がシロガネと違ってるな」

「リ、リュウセイ君…!」

「ク、クスハ…!何でここに!?」

 

思わぬ再会に驚愕するリュウセイとクスハ。

 

「な、何?あなたの知り合いなの、クスハ?」

「う、うん…。幼馴染みで、同じ高校に通ってたの…」

「へ~え…。私、リオ・メイロン。ハガネのオペレーターなの。よろしくね」

「あ、ああ。それより、クスハ…どうしてこんな所に…!?」

 

戸惑いながらもクスハに問い詰めるリュウセイ。

 

「リュウセイ君こそ…突然連絡が取れなくなって…」

「そ、それは…」

 

守秘義務があるため、答えることが出来ずに俯いてしまうリュウセイ。

 

「先に行き過ぎですよリュウセイさん。いくら新造艦が見れるからって」

「ん?何か取り込み中みたいだな」

 

やれやれといった表情で追いつくイサムと、取り入った状況であることに気付くイルムガルド。

 

「…どういうことなの?」

 

二人の様子が変なので間に割って入るリオ。

 

「これには色々とわけがあって…」

「って言うか、クスハ…ハガネのドックにいるってことは、もしかして…!?」

 

リュウセイの言葉を遮るように、突然警報が鳴り響く。

 

「!な、何だ!?」

「お客さんがいらっしゃったか!」

「イサムとリュウセイは出撃準備だ!お譲ちゃん達はハガネへ行け!」

「あいよ!」

「了解!」

 

イルムガルドの指示に従い駆け出すイサムとリュウセイ。

 

「リュウセイ君!」

「大丈夫だ!心配するな!

 

クスハの呼び止めにそう答えながら、走り去るリュウセイ。

 

「リュウセイ君…」

「クスハ!早く!」

「う、うん!」

 

不安を拭えないクスハだが、リオの呼び掛けでハガネへ向かうのであった。

 

 

 

 

伊豆基地

 

PT隊が出撃するとすでに戦闘が始まっていた。

 

「チッ、何て連中だ!今までのとはレベルが違うぜ!!」

 

ジャーダが戦況の悪さに悪態づく

 

「早くも正念場ってことね。こうなったらキメなきゃ…!」

「何をキメるんだ?」

「覚悟よ、覚悟!」

「へッ…じゃあ、奴らに見せてやるとするか!」

「見せてやるって…?まさか……」

「闘士だよ、不屈の闘志!」

「なあんだ、良かった。あんたのことだから、てっきり…」

「お前ら、何度言わせればわかる!作戦中は私語は慎め!!」

 

コントをかますジャーダとガーネットに、カイの雷が落ちる。

 

「す、すみません、少佐」

「…まあ、いい。この状況で軽口を飛ばせるのは、度胸がある証拠だ」

「…そりゃ、どうも」

「お前たちはハガネへの転属が決まっている。こんな所で死ぬんじゃないぞ」

「わかってますぜ、少佐」

 

気合いを入れてカイに答えるジャーダ。

 

「よし…ゴースト1より各機へ!ハガネの発進路を確保するぞ!!」

「了解!」

 

カイの指示に返答しレバーを握りしめるイサム。

 

「イサム…」

「どうした、ラトゥーニ?」

「これ…」

 

ラトゥーニから通信が入り、データが送られてくる。

 

「敵機の行動パターンを分析したの、よかったら使って…」

「おお!この短時間ですごいな、ありがとう!」

「う、うん…」

 

笑顔でお礼を言うと顔を赤くし俯いてしまうラトゥーニ。

 

「お、何だずいぶんとその子と仲がいいじゃないかイサム」

 

イルムガルドがニヤつきながら通信に割って入ってくる。

 

「そりゃ友達だからな」

「友達ねぇ」

「何だよ」

 

意味深な顔をするイルムガルドを軽く睨みつけるイサム。

 

「そこんところどうなんだい、お嬢ちゃん?」

「えっと、その…」

 

イルムガルドがラトゥーニに聞くと、ますます顔を赤くして俯いてしまう。

 

「おい、ラトゥーニが困ってるだろ」

「お前達、私語はそれくらいにしておけ」

 

イサムが止めようとするとイングラムから通信が入り、一機のPTが格納庫から出てくる。

 

 

「イングラム少佐、ビルトシュバインに問題はないな?」

 

「…ええ」

 

カイが確認を取ると問題の無いことを告げるイングラム。

 

「む…?リュウセイ曹長はどうした?」

「機体の調整が済み次第出撃します」

「わかった。よし、各機迎撃開始だ!!」

「よっしゃぁ!行くぜレオ!!」

 

先陣を切りブースターを全開にして飛翔し、敵陣へ突撃するMk-II カスタム。

 

「おらぁ!」

 

手近なリオンに肉薄しシシオウブレード改で切り裂く。

 

その隙を突いて他のリオン部隊がレールガンやホーミングミサイルを放つ。

 

「おっとぉ!」

 

機体を左右に滑らしたり、バルカンで撃ち落としながら回避するMk-II カスタム。

 

追撃しようとするリオン部隊だが、別方向からの銃撃で撃墜されていく。

 

「先行し過ぎイサム…!」

「この戦力差じゃ、俺がかき回すのが一番だろ」

 

着地したMk-II カスタムに、ラトゥーニ機が並び立つ。

 

「イサムはそのままかく乱を続けろ。ラトゥーニは援護してやれ」

「了解!行くぞラトゥーニ!」

「わかった…!」

 

カイの指示に答えると機体を敵機に向けて、加速させるイサムとラトゥーニ。

 

「ターゲット・インサイト…!」

 

接近してくるイオン部隊に、マシンガンを放ち散開させるラトゥーニ。

 

「チェストォォォォォ!!」

 

その隙を突き機体を接近させ、シシオウブレード改で撃墜していくイサム。

 

「すごいなこのデータ、敵の動きを予測しやすい」

 

ラトゥーニの送ってくれたデータに感心しているイサム。

 

「おい!そっちに一機向かったぞ!!」

「え、うぉっと!?」

 

ジャーダが慌てた様子で通信を入れてくるが、それに答える前に直感に従い機体を上昇させると、今までいた場所に弾丸が撃ち込まれる。

 

「なんだ、あいつは!?」

 

攻撃してきた機体を確認すると

 

AMのようだが四肢があり黒のカラーリングをした機体であった。

 

「…四肢がついている…。近接・格闘戦もこなせる新型AMなのね」

 

機体を分析したラトゥーニ通信を入れてくる。

 

「マジかよ、PTの取り柄が無くなっちまうぞ」

「でも多くは生産されていないはずだから…」

「なら、ここで落とす!」

 

ブースターを吹かし、新型機”ガーリオン”へ一気に突撃するMk-II カスタム。

 

「はぁっ!」

 

シシオウブレード改を振り下ろすも、回り込むように回避され、背後を取られてしまう。

 

「なっ!?がぁっ!!」

 

驚愕している隙に背中を蹴り飛ばされ、地面に叩き付けられるMk-II カスタム。

 

「イサム!」

 

ラトゥーニがマシンガンやスプリットミサイルを放つも、すべて軽々と回避されてしまう。

 

「早い…!」

「こなくそぉ!!」

 

機体を起き上がらせ、投擲モーションに入るMk-II カスタム。

 

「大車輪!」

 

シシオウブレード改を投げつけると回避行動に入るガーリオン。

その回避先を予測して肉迫し、拳を振るうMk-II カスタム。

 

「っ!?」

 

だが、腕を掴まれ止められてしまう。

 

「まだだ!」

 

投げつけたシシオウブレード改が、戻って来てガーリオンの背後に迫る。

 

「(よし!動揺した隙に手を振りほどいて…)」

 

そこで思考が止まってしまう。

なぜならあろうことか、ガーリオンは背後を見ずにバーストレールガンでシシオウブレード改を撃ち落としたからである。

 

「うそ、だろ…」

 

余りの事態に唖然としてしまうイサム。

 

「成程、シラカワ博士の言う通り素質は有るようだ」

「!?オープンチャンネル!?」

 

ガーリオンがオープンチャンネルで語りかけてくる。

 

「私はエルザム・V・ブランシュタイン。コロニー統合軍少佐だ」

「まさか、教導隊の!?」

 

相手の名前を聞き戦慄するイサム。

 

「はっ!」

「ぐぁ!」

 

コックピット部に、ひざ蹴りを受け吹き飛び、地面に叩きつけられるMk-II カスタム。

 

「うぁ、ぁ」

 

あまりの衝撃に意識が飛びかけるイサム。

だがガーリオンはそのまま追撃せず、ハガネの発進口へと向かって行く。

 

「イサム!!」

 

ラトゥーニ機が慌ててMk-II カスタムに駆け寄る。

 

「なんくるないさぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

「!?!?!?」

 

突然沖縄方言を叫びながら、機体上半身を起き上がらせるイサムに、驚いてしまうラトゥーニ。

 

「痛ってえな、こんちくしょぉ!」

「い、イサム大丈夫なの…?」

「ちょっと危なかったがな!」

 

そう言って機体を立ち上がらせるイサム。

だが先程の衝撃で頭部を打ち付けたのか、ヘルメットのバイザーが割れ、額から流血していた。

 

「あいつはどこいった?」

「ハガネに向かっていったけど…」

「なら追いかけるぞ!」

「でも…」

 

これ以上の戦闘は危険だと、止めようとするラトゥーニ。

 

「でももへったくれもねえ!このまま寝てても後悔するだけだ、そんなんじゃ死ぬまで笑ってられねえよ!」

「死ぬまで笑って…」

「そうさ!死ぬときは後悔の無かったって、笑っていられるような生き方をしたいんだよ俺は!」

「…わかった…。でも忘れないであなたは一人じゃない、私や皆がいることを」

「ああ、力を貸してくれラトゥーニ!」

「うん!」

 

笑顔で頷き合うと、戦場へと戻って行くイサムとラトゥーニ。

 

 

 

 

 

戦場に戻るとハガネが発進しており、それを阻もうとDCが攻撃を加えていた。

 

「押されてるな、あの黒いのはどこだ!?]

「あそこ、ハガネに肉迫してる!」

 

ラトゥーニの指示する方向を確認すると、ガーリオンがハガネの機銃を破壊しているのが確認出来た。

 

「とにかくあいつを止めるぞラトゥーニ!」

「わかった!」

 

ラトゥーニの返答を聞き機体を加速させるイサム。

再びハガネへと接近しようとするガーリオンへ、体当たりして阻むMk-II カスタム。

 

「何!?」

 

突然のことで反応が遅れ回避できず、体制を崩すガーリオン。

 

「お前の相手は俺だぁ!!」

「むっ!」

 

追撃で振るわれるシシオウブレード改を回避して、距離を取るエルザム。

 

「まさか、あの状態から追って来るとはな」

「はは、丈夫さが俺の取り柄なんでねぇ!」

 

シシオウブレード改を構えながらそう言うイサムと、後ろで援護体勢に入るラトゥーニ。

それに応えるように構えるエルザム。

 

「イサム、ラトゥーニ無事だったか!」

「カイ少佐、こいつは俺達が抑えます!」

「なっ無茶だ!お前達が敵う相手じゃないぞ!」

 

イサムの発言に驚き止めようとするカイ。

 

「誰かが相手せにゃならんでしょうが!」

「それなら俺がする!お前達は下がれ!」

「そんな敵に囲まれている状態じゃ、無理でしょうが!」

 

イサムの言う通りカイ機は、多数の敵機に囲まれ身動きが取れないでいた。

 

「ここは彼らに任せましょうカイ少佐」

「イングラム少佐、しかし…」

「ハガネが離脱すれば敵も撤退するでしょう。それまでの時間さえ稼げれば…」

「…わかった。だが無茶はするなよお前達!」

「了解!」

 

カイにそう答えるとガーリオンを見据えるイサム。

 

「待っててくれるとは余裕だな」

「君とはいや、君達とは正々堂々戦いたいのでな」

「そうかい!」

 

ガーリオンに接近しシシオウブレード改を振るうMk-II カスタム。

左腕に持ったアサルトブレードで剣尖を逸らされ、バーストレールガンを放とうとするが、ラトゥーニ機がマシンガンを放ち阻止する。

 

「ならば!」

 

ラトゥーニ機にバーストレールガンを放つエルザムだが紙一重で回避される。

 

「良い腕だ。だが!」

 

一気にラトゥーニ機に接近して、アサルトブレードで横から切り掛かるガーリオン。

 

「っ!?」

 

余りの速さに対応しきれず、左腕を犠牲にして回避し、マシンガンを放ちながら距離を取るラトゥーニ。

 

「オラァァァァァァアアア!!」

 

背後からMk-II カスタムが、シシオウブレード改で切り掛かるも、カウンターの蹴りを受けて吹き飛んでしまう。

 

「私の動きを分析しているようだが、それでは甘いな」

「クソッ、なんて奴だ!」

 

余りの強さに思わず悪態づくイサム。

 

「こうなりゃ、一か八かだラトゥーニ!牽制頼む!」

「わかった!」

 

ラトゥーニ機が牽制している隙に、ガーリオンへ突撃するMk-II カスタム。

 

「甘いと言ったはずだ!」

 

バーストレールガンで撃ち落とそうとするエルザム。

 

「行っけぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!」

 

背部の大型ブースターを切り離し、ガーリオンへと放つMk-II カスタム。

 

「何と!?」

 

思わぬ戦法に動揺するもすぐに冷静になり、バーストレールガンで撃ち落とすエルザム。

爆煙が巻き上がり視界が悪くなる。

 

「なるほど、煙幕か」

 

爆煙で視界が塞がれるも、敵機を探そうと集中するエルザム。

 

「うらぁ!」

 

右側の煙からMk-II カスタムが飛び出し、殴り掛かるがアサルトブレードで切り落とされてしまう。

 

「残念だが…」

 

ふとMk-II カスタムが、シシオウブレード改を持っていないことに気付くエルザム。

 

「まさか!」

 

アラームが鳴り上方を向くと、シシオウブレード改を持ったラトゥーニ機が迫っていた。

回避行動をとるが、シシオウブレード改のスラスターによって加速された一撃を避けられず、左肩を切り落とされるガーリオン。

片腕で強引にシシオウブレード改を振るった反動で、左腕がもげてしまうラトゥーニ機。

 

「我がトロンべにここまでのダメージを与えるとは…」

「…エルザムハガネから離れろ。今から戦術巡航ミサイルを発射する」

 

イサム達の健闘を称えるエルザムに、母艦で指揮を執っているテンペスト・ホーカーから通信が入る。

 

「ハガネを沈める気ですか?」

「こちらの戦力を分断されすぎた。敵の増援が来る前にハガネの推進部を破壊し足を止める」

「…復讐に焦るあまりに、ことを急ぎすぎてはいませんか?」

「…作戦前に言ったはずだ。ハガネと試作機の奪取が難しい場合は…とな」

「…了解」

 

少し思案した後、撤退するエルザム。

 

「退いてくれたか…」

「うん…。!?これは…」

「どうしたラトゥーニ?」

「敵の戦術巡航ミサイルがハガネに向かってる!」

「何だと!?」

 

ラトゥーニから告げられた内容に驚愕するイサム。

 

「ハガネで迎撃出来るか?」

「先の戦闘で迎撃装置が破損していて…」

「マジかよ!どうすれば…。ってあれはR-1か?」

 

どうするか悩んでいるとハガネの甲板で、ブーステッドライフルを構えているR-1を発見するイサム。

 

「ミサイルを狙撃するつもり?」

「出来るのかよそんなこと?」

「普通は無理だけど…」

「もしかしてT-LINシステムか?とにかく頼むぜリュウセイさん」

 

成功を祈っているとR-1から、ブーステッドライフルが放たれミサイルに直撃し爆散する。

 

「よっしゃぁ!やったぜ!!」

「うん!」

 

ラトゥーニと成功を喜んでいると、帰還命令が出る。

 

「よう、イサム、お嬢ちゃん!無事か!」

「イルム兄!ああ無事だよ!」

「すげーなお前ら!あの”黒い竜巻”を追っ払ちまうなんて!」

「ラトゥーニ怪我してない!?」

「うん、大丈夫だよジャーダ、ガーネット」

 

イルム達からの通信に笑顔で答えるイサムとラトゥーニ。

 

「あれ、ラトゥーニお前笑って…」

「え?私笑ってる…」

 

ジャーダに指摘されて、自分が笑えていることに気が付くラトゥーニ。

 

「うん、笑えてる、笑えてるよラトゥーニ!」

「ガーネット私…」

 

信じられないと言った表情で、ガーネットにつぶやくラトゥーニ。

 

「おお!そういえば君が笑ってる所初めて見たよ俺!」

「イサム…」

「うん、やっぱり笑ってるのが一番可愛いね」

「!?!?!?!?!?!?!?」

 

イサムにそう言われて顔を真っ赤にして、ハガネへ向かって行ってしまうラトゥーニ。

 

「あれ!?ラトゥーニ!おーい!」

「いきなりじゃ、あの子には刺激が強すぎたんじゃねえか?」

「えー、そうかな?」

 

イルムの発言にうーんと首を傾げるイサム。

 

「イサムありがとうな」

「どうしたんですジャーダさん?」

「俺たちじゃあの子の笑顔を取り戻してやれなかったんだ…」

 

悲しそうにイサムに告げるジャーダ。

 

「あの、ラトゥーニって」

「あの子はね”スクール”って言うパイロット養成機関の出身なんだけど…」

「そこでの過酷な訓練や精神操作が原因で、重度の対人恐怖症になったちまったんだ。今でこそだいぶマシになってきたがな」

「…そうなんだ…」

 

ラトゥーニの過去を知り悲痛な表情になるイサム。

 

「だから、あの子ことをよろしく頼む」

「これからも仲良くしてあげてね」

「はい!わかりました!」

 

笑顔で力強く頷くイサム。

 

「よし、女のことなら百戦錬磨のこの俺に任せておきな!」

「せめてリンさんとよりを戻してから言えよ尻軽野郎が」

「言ったなお前!それを…!」

 

自信満々に言うイルムに冷たく吐き捨てて、通信を切り帰還するイサムであった。

 




Mk-Ⅳ「いやー8000文字いったよ」
イサム「今までの倍ぐらいだな」
Mk-Ⅳ「つーかこれ遅くなったのPCのせいじゃなくね?」
イサム「やる気喪失した分は遅くなったな」
Mk-Ⅳ「ま、まあ今回はかなり盛り上がる話だしね」
イサム「これからはキャラも増えていくから忙しくなるぞ」
Mk-Ⅳ「とりあえず週一更新はしていきたいね」
イサム「よしでは今すぐに…」
Mk-Ⅳ「モンハンやるぞー!!」
イサム「ってそれが一番の原因だろうがぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
Mk-Ⅳ「デットエンド!」
イサム「たくっ、ではビシバシ書かせますので次回をお楽しみに!」


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第十話

Mk-Ⅳ「どうも、PCが戻ってきました…」
イサム「のわりにはテンション低いな」
Mk-Ⅳ「中身のデータが逝ってしまわれた…」
イサム「…バックアップ取ってなかったのか」
Mk-Ⅳ「うん…」
イサム「まあ、諦めろとしか言えんな」
Mk-Ⅳ「皆さんは取っておこうね、意外とこれ大事」
イサム「それでは本編をどうぞ!」


ハガネ 格納庫

 

「う~んとここはこうして、これはこうっと」

「どうだ?イサム」

 

Mk-II カスタムのコックピットで、機体の整備をしているイサムにロバートが覗き込みながら尋ねる。

 

「よし、OSも問題無しっと」

「お疲れさん、ところでラトゥーニが来ていないんだが何か知らないか?」

 

パネルを操作しながら異常が無いことを確認すると、体を伸ばして一息つくイサムに、ロバートが問いかける。

 

「ラトゥーニが?何かあるの?」

「あの子の機体の調整作業をしたいんだが…」

「OK、俺が探してくるよ」

「悪いな、頼むよ」

 

困ったように頭を掻くロバートに、コックピットから出て自分が探しに行くことを伝えるイサム。

 

「さてと、とりあえす部屋に行ってみようかな」

 

リフトから降りて、いる可能性の高い場所から探す為に歩き出すイサム。

 

 

 

 

 

 

 

ハガネ 通路

 

「自分の部屋にいないならここかな?」

 

ラトゥーニの部屋にいなかったので、次に可能性が高いガーネットの部屋の前に立っているイサム。

呼び出そうとすると突然ドアが開き何かか飛び出してくる。

 

「うおぉっと!?」

 

驚きながらも咄嗟に受け止めるイサム。

 

「って、ラトゥーニじゃん、どうしたのさ?」

「い、イサム?」

 

よく見てみると何時もの軍服ではなく、いわゆるゴスロリ服と言われる物を着ていた。

 

「わお、すごい格好してるね」

「あ、あぅ」

 

余程恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして俯いてしまうラトゥーニ。

そこにガーネットが顔を出す。

 

「あら、イサム君ちょうどよかった。こっそりと持ち込んでおいたんだけど、似合うでしょう?」

「ええ、よく似合ってますよ」

「ほ、本当?」

 

自信満々に感想を求めるガーネットに思ったことを告げると、ラトゥーニが恐る恐る尋ねてくる。

 

「うん、すげー似合ってるよ」

「そ、そっか。えへへ」

 

嬉しそうにはにかむラトゥーニを見ていると気恥ずかしくなってしまい、思わず視線を逸らしてしまうイサム。

 

「ふふ、よかったわねラトゥーニ」

「うん!」

「えーと、そういや何でその服を?」

 

ふと疑問に思ったのでガーネットに問いかけるイサム。

 

「イサム君以外の人とも仲良くなる切っ掛けになるかなって思ったの」

「ほうほう成程、いい考えですな。じゃあ皆にも見てもらおうよラトゥーニ」

「で、でも…」

「大丈夫だよ、皆も気に入ってくれるって」

 

自信が無い様子のラトゥーニの背中を押して行こうとすると警報が鳴り響く。

 

「チッ空気が読めない連中だ。先に行ってるから着替えてから来いよ!」

「でも…」

「その格好のままは不味いだろ!ガーネットさんお願いします!」

「ええ、わかったわ!」

 

ラトゥーニをガーネットに任せ格納庫へ急ぐイサム。

 

 

 

 

Mk-II カスタムに乗り込み起動させると、ロバートから通信が入る。

 

「すまない、イサム!他の機体が発進出来るまで敵機を抑えてくれ!」

「あいよ、任せんさい!」

 

機体をカタパルトに固定させ、発進準備に入るイサム。

 

「進路クリア!発進どうぞ!」

「Mk-II カスタム、イサム・トウゴウ行くぜ!」

 

リオの指示を受け、スロットルを全開にし機体が加速するに伴いGが体全体に圧し掛かるが、気にすること無く発進するイサム。

続いてイルムガルドのヒュッケバイン009とリュウセイのビルドラプターも発進する。

 

「出れるのは俺たちだけなのかよ!?」

「しゃあないでしょリュウセイさん。他の機体は整備中なんだから」

「そ、文句はDCに言えよ」

 

不安を隠せない様子のリュウセイに対し、落ち着いた様子のイサムとイルムガルド。

そこに量産型ゲシュペンストMk-IIが一機発進して来る。

 

「ん、あれはラトゥーニか、って誰!?」

 

モニターに表示されたラトゥーニの姿に驚愕するイルムガルド。

 

「お前着替えて来なかったんかい!!」

「着替えるのに時間が掛かるから…」

 

ゴスロリ服もままのラトゥーニに思わずツッコムイサムに、訳を伝えようとするラトゥーニ。

 

「いやだからって…」

「お、おいイサムその子ってもしかして…」

「え、ラトゥーニだけど何だよイルム兄」

「な、何だってーーっ!?」

「マ、マジ!?」

「いや、何でそんなに驚いてるんだよ」

 

驚愕しているイルムガルドとリュウセイに、呆れながらツッコムイサム。

 

「な、何でそんな格好してるんだ!?」

「細かい話は戦闘が終わったらな!」

「あ、ああ…(なんてこった…。この俺としたことが、まったくのノーマークだったぜ…)」

 

ラトゥーニのことを見抜けなかったことに、動揺している様子のイルムガルド。

 

「んじゃま、行きますか!」

 

気合を入れなおしてリオン部隊に突撃するイサム。

迎撃しようと弾幕を張られるが、シシオウブレード改と装甲で弾きながら肉迫するMk-II カスタム。

 

「オラオラオラ!!」

 

シシオウブレード改で次々とリオンを切り伏せていくMk-II カスタム。

他の機体が陣形の乱れたところを追撃していく。

 

「っと、一通り片付いたかね」

「みたいだが、相変わらずお前の戦い方は危なっかしいな」

 

周囲に敵機がいないか確認するイサムに、同意しながらも戦い方に呆れた様子のイルムガルド。

 

「いいんだよ、これが一番合ってるんだから」

「だからって援護する身にもなれよ」

「無論感謝してますよ、お兄様」

「やめろ、見た目が女の奴そんな言い方されると余計気持ち悪い」

「んだとコラ!!」

 

いつものようにじゃれあうイサムとイルムガルド。

そうこうしている内にレーダが新たな機影を捉える。

 

「来たかって、人型もいやがるな」

 

敵の増援の中に、この前遭遇したガーリオンの色違いを見付けるイサム。

 

「……。この時を…、連邦軍との戦いの場へ赴ける時をどれほど待ち望んだことか。あれから16年…。レイラ、アンナ…お前達の無念を俺のこの手で晴らしてやる」

 

憎悪の炎を燃え上がらせ、ハガネを睨み付けるテンペスト・ホーカー。

 

「エルザム・V・ブランシュタインじゃないみたいだが…」

「それでもエースパイロットっぽいな。敵さんも次から次へと面倒な相手を送り込んでくれるもんだぜ、まったく」

 

ガーリオンを警戒しながら迎撃態勢に入るイサム達。

 

「連邦軍に与する者には死を…!我が妻と娘に対する最初の手向けとなるのは…。お前だ!」

「!来る…!」

 

ラトゥーニ機にバーストレールガンを放ってくるが、寸前で回避する。

 

「その機体の動き、データで見た記憶があるわ…」

「あの機体、子供が乗っているのか…!」

 

自分が攻撃した機体に乗っているのが、子供であることを知り、驚きを隠せないテンペスト。

 

「…あなたはエルザム少佐と同じ、元教導隊のメンバー…」

「あいつも教導隊…!?」

「へえ…」

 

相手が元教導隊であることを知り、驚くイルムガルド達だが、イサムだけは興味を持ったような笑みを浮かべていた。

 

「(…あの声…アンナが生きていれば、同じ年頃か…?…俺は…あのパイロットを撃てるのか?)」

 

ラトゥーニに娘の姿を重ね迷いが生じ攻撃を躊躇うテンペスト。

 

「いや…慈悲の心はとうに捨てた。俺は連邦軍の人間を一人で多く血祭りに上げるために…。16年目の復習を果たすために、鬼となる!」

「…復讐…!」

「ラトゥーニ、その敵はヤバい!離れろ!」

 

テンペストがラトゥーニに、狙いを定めたことを察知したイルムガルドがラトゥーニに警告する。

 

「恨むなら、連邦軍に身を置いた己を恨め!」

「来る…!」

 

バーストレールガンを放ちながらラトゥーニ機に接近し、アサルトブレードを構えるテンペスト機。

マシンガンで迎撃しながら後退するが、一瞬で接近されてしまう。

アサルトブレードが振るわれるが、間に影が割って入る。

 

「おいおい、俺も混ぜてくれよ!」

「また子供だと!腐る所まで腐ったか連邦め!!」

「少なくとも俺は好きでここにいるんだ!勘違いしてんじゃねえ!!」

 

子供が戦場にいる事に憤怒するテンペストに、怒鳴り返しながら受け止めていたアサルトブレードを弾くイサム。

 

「イサム!」

「お前は下がってろ!コイツには言いたいことがあるんでな!」

 

ラトゥーニに下がるように指示し、テンペスト機に向き直るイサム。

 

「ならばお前も家族への手向けとなれ!」

「なるかよ!」

 

互いに振るったブレードがぶつかり合い火花が散る。

 

「何が復讐だ笑わせんじゃねえ!」

「だまれ!貴様に何がわかる!」

「わかんだよ!憎しみだけで戦おうとすることの虚しさがな!」

「!貴様は…」

 

イサムの発言に動揺した隙に、踏み込まれ右腕を切り落とされるテンペスト機。

すぐにバーストレールガンを連射しながら距離を取る。

 

「誰かの未来を奪うことが、あんたの家族が望んだことなのかよ!!」

「!?」

「恨むことしかしないで前に進まないあんたに、笑っていてくれてるのかよ!!」

「黙れ、黙れ!!!」

 

激昂したテンペストは機体を上昇させ、ブレイクフィールドを展開させる。

 

「砕け散れ!!ソニック・ブレイカー!!」

 

前面にブレイクフィールドを纏ったガーリオンが、Mk-II カスタムに突撃する。

危険を察知し咄嗟に回避するも、ガーリオンが通り過ぎた地面が抉り取られていた。

 

「ありゃ、テスラ・ドライブの圧力場を応用してやがるのか」

 

冷静に分析しながら再び突撃してきたガーリオンを回避するイサム。

 

「(AMのジェネレーターじゃ長くは続かないだろうが…。それじゃ逃げに撤されたらきついな。だったら!)」

 

恐れることなくガーリオンへ向かって、突撃するMk-II カスタム。

 

「正面からだと!?舐めるな!!」

「チェストォォォォォォオオオ!!!」

 

すれ違い様に振るったシシオウブレード改が、ブレイクフィールドとぶつかり合う。

 

「うらぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

「何!?」

 

咆哮とともに振り抜いたシシオウブレード改が、フィールドごとガーリオンの右肩を切り落とす。

 

「馬鹿な…!」

「少佐、ハガネから後続が!」

 

ハガネから出撃準備が完了した機動部隊が、展開されていく。

部下の報告を聞き戦況を確認すると、レーダーに友軍機が次々と撃墜されているのが映る。

 

「…潮時か、全機撤退せよ!」

 

引き時と判断し、撤退を指示し一度Mk-II カスタムを見た後、自身も離脱を開始するテンペスト。

 

「……」

「おい、大丈夫かイサム?」

「ああ、レオには無茶させちまったがな…」

 

イルムガルドからの通信に答えながら機体の状態を確認すると、負荷が掛かりすぎて各間接部が損傷していた。

 

「一人で戻れそうか?」

「問題無い、これから帰還する」

 

 

 

 

 

ハガネ 格納庫

 

「驚いたわ…。ラトゥーニがあそこまで変わるなんて」

「素材もいいけど…あたしのコーディネートも中々でしょ?」

 

賞賛するアヤに自信満々に答えるガーネット。

 

「ああ。眼鏡を取った可愛い子ちゃん…っていうお約束をあそこまで地で行くとはね」

「俺もあの子を見たときは、自分の目を疑ったよ」

 

アヤ同様感心しているイルムガルドとロバート。

 

「正体がもっと早くわかってたら、口説いていたんだが…」

「口説くって…あの子、まだ14歳ですよ?」

「十分、守備範囲だね」

 

イルムガルドの発言に若干引き気味になる一同。

 

「ホント、節操が無いよなアンタ」

「ん、検査終わったのかイサム」

 

そこに無茶な戦闘をしたので、念のために検査を受けさせられていたイサムと、付き添っていたラトゥーニが入って来る。

 

「皆大袈裟なんだよ、ちょっと打ち付けただけでさ」

「そう言ってこの前、怪我をしていたのを隠そうとしてた…」

 

釘を刺すようにイサムに言うラトゥーニ。

 

「あんなの怪我の内に入らないって」

「……」

「やめて!その突き刺さるような視線地味に痛いから!」

 

無言で自身を見つめてくるラトゥーニに軽く恐怖を感じるイサム。

 

「そういえば、ラトゥーニ…もう着替えちゃったんだ?」

「…あんな格好じゃ艦内を歩けない…」

 

ガーネットが指摘すると恥ずかしそうに俯くラトゥーニ。

 

「服装は置いといてさ、眼鏡ぐらい変えたら?目が見えるようなのに」

「イサムは、その方がいいの?」

「うん!」

「…考えておく…」

 

イサムが笑顔で頷くと頬を染めながら答えるラトゥーニ。

 

「…ガーネット」

「しょ、少佐…」

「訳を聞かせてもらおう」

 

イングラムが現れガーネットを問い詰める。

 

「え、えっと…あの子に、皆と打ち解ける切っ掛けを作ってあげようと思って…」

「……」

「す、すみません……始末書ものですよね?」

「ガーネット…」

「…イングラム少佐、格好がああでも任務はやり遂げましたし…ガーネットの気持ちも…」

「(…一種のリハビリということか)いいだろう。今回は不問とする」

 

アヤが助け舟を出し、今回の件は咎めないことを告げるイングラム。

 

「あ、ありがとうございます!」

「では、以上だ」

「あ、少佐…あの子の服装、どうでした?」

「……」

「が、ガーネット?」

「(おいおい、それをおカタイ少佐に聞くかね)」

 

突然の質問に考える素振りをするイングラムと驚愕する一同。

 

「嫌いでは…ないな」

「そうですか。ありがとうございます!」

「(こりゃまた意外なお答えで…)」

「(私も…着てみようかな、あの手の服。でも…似合わないわよね~、きっと)」

 

イングラムの意外な一面を目の当たりにしさらなる驚愕に包まれる一同と、何かを考え諦める様子のアヤであった。

 

「そういやよ、イサム」

「何だい、イルム兄?」

「いや、お前は着ないのかと思ってな」

「突然何を言い出すのこの人?」

 

突然の発言に怪奇な表情を浮かべるイサム。

 

「あ、そうそうイサム君のも用意してあるのよ」

「何で用意してんのアンタ!?」

 

どこからともなくラトゥーニが着ていた服の、黒色のを取り出すガーネット。

 

「そういや昔はテスラ研の職員に、よく着せ替えさせられてたな」

「言うんじゃねえよ糞兄貴!!」

 

恥ずかしい過去を暴露したイルムガルドに殴りかかろうとするが、ガーネット達に取り押さえられる。

 

「ちょ、はな…ってラトゥーニまで!?」

「どんなの着てたんですか?」

「すんごい興味津々だこの子!?」

 

ラトゥーニの意外な反応に戸惑うイサム。

 

「ああ、今度アルバム持ってきてやるよ」

「や、やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

ハガネに一人の少年の絶叫が響き渡ったのであった。

 




Mk-Ⅳ「ラトゥーニ+ゴスロリは至高、異論は認めん」
イサム「それには同意するが、立ち直り早いな」
Mk-Ⅳ「過去は振り返らない、それが私だ!」
イサム「まあ、続きを書いてくれるなら、何でもいいが」
Mk-Ⅳ「というわけで、次回はついにイサムの因縁の相手が出る予定なので、お楽しみに!」


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第十一話

Mk-Ⅳ「どうも寒くなってきましたねと、Mk-Ⅳです」
イサム「体調管理には気を付けましょうねと、イサムです」
Mk-Ⅳ「今回は超闘士とイサムの新機体が登場します」
イサム「後、一話以来のあの人も登場します」
Mk-Ⅳ「ついでに私の職場で金魚を飼い始めました」
イサム「いきなりだな…」
Mk-Ⅳ「少しでも雰囲気を変えられるようにらしいよ、ちっちゃくて可愛かった」
イサム「まあ、大きくなったら可愛げも無くなるだろうがな」
Mk-Ⅳ「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ、そういうこと言うなよ!!」
イサム「それでは本編をどうぞ!」
Mk-Ⅳ「ぶった切るなぁぁぁぁぁぁあああ!!」


ハガネ 格納庫

 

「どう、ラトゥーニ?」

「もう少しで終わる」

 

ビルドラプターのコックピット内で作業しているラトゥーニに、手伝いながら問いかけるイサム。

何をしているのかというと、飛行戦闘が苦手と悩んでいるリュウセイ用に、新しいマニューバデーターを組み込んでいるのである。

 

「助かったよ。俺だけじゃどうにもならなかったからさ」

「何、これくらいどうってことないですよ」

 

手伝いながら申し訳なさそうに礼を言うリュウセイに、笑顔で答えるイサム。

 

「終わったわ…」

「サンキュなラトゥーニも」

「うん…」

「(この前の件以来、だいぶ他の人とも話せるようになってきてるな)」

 

リュウセイと話しているラトゥーニを見て微笑むイサム。

 

「戦闘機やリオンのマニューバデーターを組み込んだから、だいぶ扱い易くなってますよ」

「ああ、足手まといにならないようにしなきゃな」

「……」

「ん?どしたラトゥーニ」

 

ラトゥーニが心配そうに自分を見ていることに気が付くイサム。

 

「北米地区の戦況を聞いて…」

「連邦軍が苦戦してるんだよな。確かラングレー基地にお前の養祖父がいるんだっけか」

「ええ、でも簡単に死ぬ人じゃないし、親分達もいるし大丈夫ですよ」

 

胸を張って自信満々に言うイサム。

 

「親分?」

「ゼンガー・ゾンボルト少佐のことです」

「元教導隊の?」

「うん。お爺ちゃんの門下生で、”ATX計画”で運用されている部隊の隊長をしてるんだ」

「何かSRX計画と似た名前だな」

「SRX計画と対をなすんだそうですよ」

 

談笑していると、イルムガルドが慌てた様子で走って来るのが見えた。

 

「F-28を回してくれ!すぐに出撃する!!」

「そんなに慌てて、どうしたんねんイルム兄?」

 

普段と違う様子にただ事ではないことを感じ取るイサム達。

 

「奴だ、奴が近くに来てるんだよ!」

「奴ってまさか所長が!?」

 

イルムガルドがここまで慌てだす人物は、一人しかいないので、すぐにわかったイサム。

 

「そうだ!行くぞイサム!」

「あいな!」

「って待ってくれよ二人共!」

「行っちゃった…」

 

あっという間に、機体に乗り込んでしまうイサムとイルムガルドに、置いていかれるリュウセイ達であった。

 

 

 

 

 

「フッ…私は運がいい。日本から引き揚げる途中で、あんな獲物と遭遇出来るとはな…」

 

ガーリオン・トロンベのコクッピット内でほくそ笑むエルザム。

 

「あれがゼンガーからの情報通りの輸送機だとしたら、中身は超闘士…。入手すれば、我らDCにとって強大な戦力となる。奴の零式のようにな…」

「エルザム少佐!この空域に接近する機体を感知しました!」

 

部下から通信が入り、モニターにMk-II カスタムとメッサーが映し出される。

 

「案の定、敵機に囲まれてやがるな。応答しろ、T3!」

「おお、イルム。待っていたぞ、イサム君も来てくれたか」

「うっ…。やっぱり、俺を呼びつけたのはあんたか」

「おひさー所長」

 

タウゼントフェスラーに乗っているジョナサンがモニターに映り、嫌そうな顔をするイルムガルドと笑顔で手を振るイサム。

 

「久しぶりだな。元気だったか?」

「元気百倍ですよー」

「のんびり挨拶してる場合か!何やってんだよあんた!」

「お前に渡したい物があってここまで来た。早く私のT3まで来るんだ」

「渡したい物…?」

「そう。とっておきのプレゼントだ」

「…何なんだよ?」

 

もったいぶるジョナサンに、いぶかしむイルムガルド。

 

「それは見てのお楽しみだ」

「…あのな、今まであんたが俺にまともなプレゼントをしたことがあったか?」

「ん?…昔の話は忘れたな」

「…俺は覚えてるぞ。ロケットブースター付きの三輪車とか変形機構付きの自転車とか…」

「仕事のついでに作ったワケのわからん物を押しつけやがって!死にかけたのは二度や三度じゃねえんだぞ!!」

「いいから、早く来ないか。でないと損をするのはお前だぞ」

「そこまで言うからには、この状況を何とか出来る代物なんだろうな?」

 

今までの不満をぶつけるイルムガルドだが、何食わぬ顔のジョナサン。

 

「チッしょうがねえ、イサム援護してくれ!」

「ガッテン承知!」

 

Mk-II カスタム先行しその後にメッサーが続く。

 

「各機へ輸送機に近づけるな!」

 

エルザム号令の元、迎撃行動に移るAM部隊。

 

「ところがどっこい!」

 

Mk-II カスタムが筒状の物体を投げつけると底の部分が点火し、AM部隊に向かって行く。

 

「ミサイルか!」

 

リオンがレールガンで打ち落とすと視界が煙幕で包まれる。

 

「これは…!」

「少佐、レーダーが!」

「チャフか!」

 

視界とレーダーを封じられ混乱するAM部隊。

 

「よっしゃぁ!ハッチを開けといてくれよ所長!」

「もうやっているよ」

「さっすがぁ。んじゃ行くぜイルム兄!」

「ああ、やってくれ!」

「フルブーストだレオ!!」

 

メッサーを抱えて最高速で煙幕の中を突っ切るMk-II カスタム。

 

「グッォ」

 

標準的な対G装備しか搭載されていないメッサーに乗っているため、すさまじいGが圧し掛かるが、歯を食いしばり耐えるイルムガルド。

 

「どっせい!」

 

タウゼントフェスラーの格納庫へ飛び込み、メッサーを降ろすMk-II カスタム。

 

「待たせたな、親父。ご要望賭通り、来てやったぜ」

「さすが、私の息子だ。さあ…これを受け取るがいい」

「!?」

「お前へのプレゼントだ」

「こ、こいつは…!!」

 

イルムガルドの視線の先にPTよりも巨大な鉄人が横たわっていた。

 

「グルンガスト…!こいつはラングレーにあった奴か!親父、あんたはわざわざこいつを…!」

「フフフ…だから、言ったろう?とっておきのプレゼントだと」

「(だったら、初めからそう言えってんだ)」

 

隠す必要があったのかとツッコミそうになるが、非常時なのでやめておくイルムガルド。

 

「さあ、起動させるぞ。イサム君すまんが、それまでそこらの武器で敵機を抑えといてくれ」

「って言われても射撃はなぁ…。おっこれなんかどうかな?」

 

とりあえず近くにある武器を持つとコンソールに”試作大型ビーム砲”と表示される。

 

「うっしゃぁ!行けぇい!」

 

AM部隊に向けてトリガーを引くと高出力ビームが放たれ、数機のリオンが跡形も無く飲み込まれる。

 

「すげぇな…。ん?」

 

適当に撃ったのにと感心していると突然アラームが鳴り出し、ビーム砲がショートし始める。

 

「ああ、そういえばそれはジェネレーターの調整が上手くいかなくて、下手すると爆発するんだった」

「それを早く言えぇぇぇぇえええ!!」

 

慌ててブン投げると空中で盛大に爆発するのであった。

 

「殺す気かアンタは!?」

「落ち着け次はそのガトリングガンを使ってみるんだ」

「大丈夫なんだろうな…」

 

不安になりながらも指示に従い、Mk-II カスタムの両手に二丁のガトリングガンを構えさせ、トリガーを引くイサム。

すると複数の銃口が回転し弾丸が吐き出される。

 

「しょ、少佐接近出来ません!」

「お前達は下がっていろ。私が抑える!」

 

余りの弾幕にうろたえる部下に指示し、突撃するエルザム。

 

「真正面から来やがった!!」

 

弾幕をもろともせず突き進んで来るガーリオン・トロンベに驚愕するイサム。

弾幕をガーリオン・トロンベに集中させようとした瞬間、ガトリングガンが停止してしまう。

 

「なっジャムりやがった!?」

「ふむ、弾が詰まりやすいと…」

「落ち着いてデーター取ってんじゃねぇ!!」

 

マイペース過ぎるジョナサンにおもいっきりツッコムイサム。

 

「もらう!」

「クソッ!」

 

バーストレールガンを構えるガーリオン・トロンベを迎え撃つべく、ガトリングガンを投げ捨て、シシオウブレード改を抜刀しようとするMk-II カスタム。

 

「イサム、屈め!オメガレーザー!!」

「え?うお!?」

 

イルムガルドの指示に咄嗟に機体を屈ませるとレーザーが頭上を通り過ぎる。

 

「!?」

 

突然の攻撃を回避し距離を取るエルザム。

その間にグルンガストを乗せたトレーラーが、タウゼントフェスラーから出てくる。

 

「よし、いいぞイルム!」

「おう!行くぜグルンガスト!!」

 

トレーラーを運転しているジョナサンが叫ぶと、グルンガストを立ち上がらせるイルムガルド。

 

「超闘士グルンガスト見参!!!」

 

決めセリフと共に構えをとるグルンガスト。

 

「目覚めたか、超闘士が…。では、その力を見せていただこうか!」

 

ガーリオン・トロンベが先陣を切り、AM部隊がグルンガストに迫る。

 

「来たぞ。さあ、グルンガストの力をDCに示すのだ!」

「何か、上手く親父に乗せられてるような気もするが…。DCにグルンガストの実力を思い知らせてやるってのは、やぶさかじゃないんでな!」

 

ジョナサンのペースに乗せられやる気を上げるイルムガルド。

 

「くらえ!ブーストナックル!!」

 

グルンガストの両腕がAM部隊目掛けて打ち出される。

ガーリオン・トロンベは回避するも後方のリオンが粉砕されていく。

 

「まだまだ!ファイナルビーム!!」

 

機体中央部から放たれた高出力ビームがリオンを飲み込んでいく。

 

「この攻撃力、流石は特機だ…。だが、運動性ならこちらの方が上だ!」

 

ガーリオン・トロンベがグルンガストの死角に回り込み、バーストレールガンを放つ。

その間にMk-II カスタムが割り込み弾丸を切り払う。

 

「あんたの相手は俺がさせてもらう!イルム兄、他は任せる!」

「おうよ!」

 

Mk-II カスタムとグルンガストが背中を合わせながらそれぞれ構える。

 

「行くぜ、黒い竜巻!!」

 

Mk-II カスタムがガーリオン・トロンベに接近しながら、シシオウブレード改を振るうがことごとく回避されてしまう。

 

「残念だがそれでは私には届かないぞ」

「チッ相変わらず早いな!」

 

ガーリオン・トロンベが反撃しようとするが、別方向ビームが飛来する。

 

「エルザム!!」

「ライディース、ハガネが来たか」

 

シュッツバルトの砲撃を回避しながら、反撃するガーリオン・トロンベ。

 

「今日こそ、貴様を討つ!!」

「出来るかな、お前に?」

「俺を忘れてんじゃねえ!!」

 

イサムとライディースを同時に相手にしながらも圧倒するエルザム。

だが、他の戦域ではハガネ隊が優位に戦闘を進めていた。

 

「これ以上は限界か、全機撤退せよ!」

「逃がさんぞ、エルザム!!」

「待ったライさん!何か来る!」

 

ガーリオン・トロンベを追撃しようとするシュッツバルトを、一機の”コスモリオン”が阻む。

 

「おやめなさい、ライディース!!」

「その声、レオナか!?」

 

コスモリオンの乗っているのが、レオナ・ガーシュタインであることに気づくライディース。

 

「レオナ、何故お前とトロイエ隊がここに?」

「大気圏突入前にヒリュウ改と交戦した影響で、降下コースを逸脱しこの付近に降りたのです。ここは我らトロイエ隊にお任せ下さい」

「しかしお前達には重要な任務が…」

「あなたを見捨てたとあっては総司令に顔向けできません。どうかお任せを」

「…わかった。頼むぞレオナ」

 

そう言い残し撤退していくエルザム。

 

一方イサムはと言うと。

 

「落ちろや!」

「甘い!」

 

トロイエ隊隊長ユーリア・ハインケルと戦っていた。

 

「宙間戦闘仕様の機体で戦ってるこいつらはなんなんだよ!?」

「おそらくコロニー統合軍の親衛隊トロイエ隊だろう」

「何でそんな連中がこんな所にいるんだよ!」

 

イングラムの説明に疑問の声を上げるイサム。

 

「…データではトロイエ隊は女性のみで構成されたエリート部隊…」

「お、女だけの部隊っ!?それを早く言えよ!だったらこのイルム、もっと手加減を…っと!!」

 

ラトゥーニの説明に反応している隙に、被弾しそうになるイルムガルド。

 

「初顔見せで撃墜とかマジで勘弁してくれよ馬鹿兄貴!」

「うるせぇ!どんな時にでも女性には紳士的ってのが俺のモットーなんだよ!」

「そうやって女の尻追っかけてるから、リンさんに愛想尽かされるんだよ!」

「尽かされてねえよ!あれだ男と女の関係ってのは複雑なんだよ!」

「意味わかんねえよ!あんたは前から…!」

 

いがみ合いながらも背を合わせて互いの死角をカバーする、イサムとイルムガルド。

 

「っと、撤退したみたいだな」

「流石親衛隊、引き際も鮮やかだな」

「うっし。じゃあ帰ったら決着つけるとするか」

「おう、上等だ覚悟しろよ糞兄貴」

「いやいや、まだやる気なのかよ!?」

 

拳を収める気の無い二人を止めようとするリュウセイ。

 

「当たり前だ。今日こそ減らず口を叩けなくしてやる」

「おもしれえ、やってみやがれ。そのひん曲がった根性叩き直してやるよ」

 

そう言ってハガネへと帰還して行くイサムとイルムガルド。

 

「少佐…」

「ほうっておけ」

 

リュウセイがイングラムに助けを求めるが、投げやりに答えが返ってくるのであった。

 

 

 

 

 

ハガネ 格納庫

 

「うらぁ!!」

「おらぁ!!」

 

ハガネに戻った後、華麗なクロスカウンターを決めて仲良くぶっ倒れるイサムとイルムガルド。

 

「ぶっ倒れちまったぞあの二人…」

「どうするのこれ…」

 

どうしたらいいのかわからず、戸惑うジャーダとガーネット達一同。

 

「大丈夫、ほうっておけばすぐに目を覚ますよ」

「そうなのかロブ?」

「ああ、テスラ研の頃は良くあったからね」

 

ロバートの説明にとりあえず安心する一同。

 

「やれやれ、相変わらずだな」

「所長…!ご無事でしたか…!」

「久しぶりだな、ロバート。君も元気そうで何よりだ」

 

久しぶりの再会を喜び合うロバートとジョナサン。

 

「あの人、誰なの?」

「テスラ・ライヒ研究所の所長で、イルム兄の父親ですよ」

 

ジョナサンのことを知らないガーネットに説明するイサム。

 

「うお!?もう起きたのかイサム!」

「ええ、慣れてますんで」

 

驚くリュウセイ達にケロッと答えるイサム。

ちなみにイルムガルドも起き上がっている。

 

「おお、イルム、イサム君無事だったか」

「何を今さら…。グルンガストを持って来たんなら、最初からそう連絡しろっての」

「そんなことをして、スーパーロボットの登場シーンを盛り下げるつもりはない」

「あ、あのなぁ…」

 

堂々と言い放つジョナサンに呆れ果てるイルムガルド。

 

「ところで、博士…北米のラングレー基地がDCに制圧されたと聞いていますが…」

「…うむ。DC機動部隊と、彼ら側に寝返った連邦軍部隊の猛攻を受けてな…。あっと言う間に我々の基地は制圧されてしまった」

「えっ!?」

 

ジョナサンの告げた内容に衝撃を受けるロバート達。

 

「…私はグルンガストと”アレ”を持ち出し、逃げるのだけで精一杯だった…」

「でも、あの基地には親分達がいるはずでしょう…?」

「その理由は一つ。ゼンガー・ゾンボルト少佐がDC側についたからだよ」

「親分が!?なんで…」

「それはわからないが、事実だ…」

 

ゼンガーのことを良く知るイサムは到底信じることが出来なかったが、ジョナサンの表情から事実なのだと認めるしかなかった。

 

「では、カザハラ博士…。キョウスケやエクセレン…それにリシュウ先生は!?」

「彼らは、私達の脱出を手伝ってくれたが…その後の消息は不明だ」

「……」

「だが、心配はいらん。ATX計画の機体を乗りこなす彼らのことだ…。私は、無事だと信じている。君達ハガネのクルーがこうしてここにいるようにな」

「……」

「イサム…」

「大丈夫だよラトゥーニ。言ったろ簡単に死ぬ人じゃないって」

 

ラトゥーニが心配そうに声を掛けるが、笑顔で答えるイサム。

 

「では、イサム君にもプレゼントを渡すとしよう」

「俺にも?」

「そう、先生やテスラ研にATX計画とマオ社の人達が君のために用意した機体だ」

 

ジョナサンがそう告げながら自身が運んで来たコンテナの一つを開放すると、中から一体の漆黒のPTが姿を現す。

 

「このPTは…」

「RTX-010-04R”レオーネ”イタリア語で雄ライオン、転じて勇者の意味を持つ」

「RTX-010ってヒュッケバインMk-IIですよね?そうは見えないんですが…」

 

レオーネと呼ばれる機体の頭部アンテナは鶏冠状となっており、フェイスカバーで覆われており、従来のヒュッケバインタイプとは異なっていた。

 

「今の状態は”セーフティモード”と言う形態でリミッターが掛かっているんだ」

「リミッター?」

「ああ、元々この機体は、プラズマ・リアクター搭載試験機である四号機を改修した物なんだ」

「プラズマ・リアクターって、特機用のジェネレーターだよな。大丈夫なのかよそんなもんPTに乗せて…」

 

説明を聞いていたイルムガルドが不安そうにジョナサンに問いかける。

 

「PT用に小型化したので出力調整が難しくなってしまい、かなりピーキーな機体だがどうするかねイサム君?」

「はい!乗ります!」

 

ジョナサンが問い掛けると躊躇い無く答えるイサム。

 

「即答だな!?いいのかよこんな危なっかしい機体で…」

「皆が用意してくれた機体だから、大丈夫だよイルム兄」

「まあ、お前がそう言うんならいいけどよ…」

 

自身満々に言うイサムにこれ以上言うのをやめるイルムガルド。

 

「そう言ってもらえると嬉しいよ。では私も調整を手伝うためにこの艦に残ろう」

「げっマジかよ…」

 

ジョナサンが告げると明らかに嫌そうな顔をするイルムガルド。

 

「どうした?不満かイルム」

「ああ、さっさと伊豆にでも行けよ」

「レオーネを中途半端のまま置いていくのは目覚めが悪いのでな。何より…」

「何より?」

「美女だらけのこの艦から離れるのが惜しいのでね」

「「だと思ったよ」」

 

予想通りの返答にハモリながらツッコムイサムとイルムガルドであった。




Mk-Ⅳ「公式ではヒュッケバインMk-IIは三号機までしか存在しませんのであしからず」
イサム「で、出番は何時なんだよ」
Mk-Ⅳ「早ければ二話ぐらいしたらかな」
イサム「もう少し先か…。で、次の予定は?」
Mk-Ⅳ「マサキ再登場と遂にイサムの因縁の相手が登場します!」
イサム「となると俺の過去も明かされるわけか…」
Mk-Ⅳ「あんなことやこんなことまでまるっと…ア、ヤメテクダサイワタシノカンセツソンナニマガリマセンヨ、ギャァァァァァァァァァァァァ!!!」
イサム「よし、ゴミの処分完了と。それでは次回もお楽しみに!」


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第十二話

Mk-Ⅳ「UA10000突破だぜヒャッハー!とMk-Ⅳです」
イサム「多くの方の閲覧誠にありがとうございますとイサムです」
Mk-Ⅳ「初投稿から早二ヶ月、これも読者の皆様のおかげです!」
イサム「これからも頑張っていきますので応援よろしくお願いします!」
Mk-Ⅳ「それでは本編をどうぞ!」


テスラ・ライヒ研究所 格納庫

 

暗闇を照らす月が見えない程の豪雨の中、誰も居ない薄暗闇で一台のトラックに何かを積み込んでいる少年が一人。

ドイツで生まれた母から受け継いだ赤い瞳に、銀髪をショートヘアにしている。

 

「……」

 

コンソールを見つめる赤い瞳は何の感情も宿さず、ただひたすら作業を行っていた。

積み込みが完了すると、シャッターを開けトラックに乗り込もうとする少年。

 

「ケン!!」

 

少年を呼ぶ声に振り向くと、ここまで全力で走ったために、息を荒げたイサム・トウゴウがいた。

 

「何でだよ…何でだケン!!」

 

訴えるように叫ぶイサムの目には涙が溜まっていた。

 

「……」

「答えろ!!」

 

今だ無言を貫く少年ケン・トウゴウに耐えかねるように叫ぶイサム。

 

「…俺はここを出て行く」

「出て行くって、何でだよ!?」

 

やっと口を開いたケンの告げる内容を信じることが出来ないイサム。

 

「俺は外に出て生きたいように生きる」

「生きたいように?」

「そうだ。こんな檻の中では死んでいるようなものだからな」

「檻?檻って何だよ!?」

 

ケンの言っていることが理解出来ずに困惑するイサム。

 

「せっかくの力を振るうことを嫌う奴に、これ以上学ぶことは無い」

「お前!!」

「俺があのジジイの教えを受けていたのは、技と”コイツ”を手に入れるためだ」

 

そういうとケンはトラックに積み込まれいる布をまくり上げる。

 

「それはシシオウブレード!?」

「これからの時代はこいつが役に立ちそうなんでな。いただいて行く」

「よせ!自分のためだけに力を振るうな!!」

「だったら、止めてみせろ活人剣とやらでな!!」

 

無表情から一転獰猛な笑みを浮かべて、腰の左右に下げている鞘から日本刀を抜き二刀流の構えをとるケン。

 

「やめろ!俺はお前とは…」

「戦えない、か?だから甘いのだお前は!!」

 

刀を抜くことを躊躇うイサムに容赦なく切り掛かるケン。

咄嗟に抜刀し防ぐイサム。

 

「ハァァ!!」

「っく!」

 

両手に持った日本刀”鷲爪(しゅうそう)”を縦横無尽に振るい、切り掛かるケンに反撃できずに防戦一方のイサム。

 

「どうした!反撃してこい!」

「嫌だ俺は…!ぐぁ!」

 

腹部に蹴りを受けて吹き飛ばされるイサム。

 

「ハッ!!」

「!?」

 

仰向けに倒れたイサムに、一瞬で間合いを詰めたケンが、刀を逆手に持ち突き刺そうとする。

 

「う、ぅぁぁぁァァァァァアアア!!!」

 

突き刺さろうとしている鷲爪を、咆哮と共に獅子丸で弾くイサム。

余りの衝撃に吹き飛ばされるが、空中で体制を整え着地するケン。

 

「フンッ!やっとその気になったか」

 

待ち望んだ様に笑みを浮かべイサムを見据えるケン。

 

「ウォォォォォォォォオオオ!!!」

 

獣の様な咆哮と共に斬撃を放つイサム。

それに怯むこと無くケンが迎え撃ち、互いの刀がぶつかり合い火花が散る。

 

「ハハハ!やっぱり俺もお前も、この瞬間が一番幸せな顔をするよなイサム!!」

「違う!俺は…!」

「なら他にどんな生き方が出来るってんだ。ええ!!」

「それは…!」

「刀で、人を殺すことしか脳が無い俺達によぉ!!」

「っ!?」

 

ケンの言葉に動揺してしまった隙に、獅子丸を弾き飛ばされ尻もちをついてしまうイサム。

 

「…じゃあな、兄弟」

 

一瞬間を置くとイサム目掛けて刀を振り下ろすケン。

恐怖の余り目を瞑ってしまうと、何かがイサムを包み込む。

 

「…お、ばあ、ちゃん…?」

「ババア…」

 

恐る恐る目を開けると、それが養祖母のシノであることに気付く。

ケンも予想外だったのか、目を見開いている。

 

「お婆ちゃん!お婆ちゃん!」

 

力無く自分に寄りかかるシノを抱えて懸命に呼び掛けるイサム。

背中を支える右手からドロッとした感覚がし良く見てみると血で真っ赤に染まっていた。

 

「そこまでだケン!」

 

そこに警備員を連れたジョナサンが現れ、ケンに呼び掛ける。

 

「!」

 

ハッとしたように、トラックへ向かって走り出すケン。

 

「逃がすな!撃て!」

 

ジョナサンの指示を受けた警備員が持っている銃をケンへ放つ。

銃撃を避けながらトラックに乗り込み逃走するケン。

 

「クソッ!止まれ、止まれよ!!」

 

ケンを追いかけようとする人々の喧騒の中、イサムは必死にシノの傷口を抑えていた。

だが、出血は止まることなく溢れ出していた。

 

「イサム君、シノさん!!」

 

ジョナサンがイサム達の下に駆け寄るよるも、その惨状に絶句する。

 

「所長!お婆ちゃんが!!」

「ああ!すぐに病院を手配する!」

 

イサムにそう告げて走り去っていくジョナサン。

 

「い…さむ…」

「!?お婆ちゃん!!」

 

声を絞り出してイサムに呼び掛けるシノ。

 

「話さないで!今病院に連れて行くから!!」

「いいから、聞きなさい…」

 

取り乱すイサムをなだめる様に話し掛けるシノ。

 

「あの子を…恨んでは…いけませんよ…」

「何でだよ!あいつは!!」

「あの子の…心を…支え…られなかった…私達…にも…責任は…あるのだから…」

 

息も絶え絶えに言葉を紡ぐシノ。

 

「でも…これ…だけは…やく…そく…して…」

「やく、そく?」

「あの…こ…ケンを…と…めて…あげて…あなた…に…しか…でき…ない…こと…だから…」

「うん!約束する、俺があいつを止めるよ!だから死なないでよ、お婆ちゃん…!」

 

決壊したダムの様に涙を流すイサムの頬をそっと撫でるシノ。

 

「あなた…たち…に…あえて…しあわせ…だった…わ」

 

その言葉と共に頬を撫でていた手が地面へと落ちた。

 

「お婆、ちゃん?」

 

イサムが呼び掛けるも返事は返ってこない。

笑顔のまま息絶えていたのだから。

 

「お婆ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

 

 

 

 

ハガネ 個室

 

「お婆ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!痛っい!!」

 

痛みと共に覚醒し、辺りを見回すとハガネの自室であった。

景色が逆さまになっているので、どうやら頭から床に落ちたようだ。

 

「いてててて。夢か…」

 

頭をさすりながら起き上がるイサム。

 

「(にしても、久々に見たな…)」

 

ここしばらく見なかった夢を見て胸騒ぎを覚えるイサムであった。

 

 

 

ウェーク島 司令室

 

「帰還命令ですか…」

「そうじゃ、直ちにアイドネウス島に戻ってくるのじゃテンペスト」

 

アードラー・コッホから告げられた命令に、不服の表情を浮かべるテンペスト。

 

「このウェーク島基地で、ハガネ迎撃任務を続行するのではないのですか?」

「いや。お前には、別の任務が与えられる。」

「しかし一隻とは言え、その戦力を侮るのは危険です。今、自分が基地を離れることは…」

「心配は無用じゃ。以降の任務はテンザン・ナカジマに引き継がせる」

「あの男に…?パイロットとしての腕前はともかく、指揮が執れるとは思えませんが」

 

自分の後任に疑問を隠せないテンペスト。

 

「それに”あの男”がそちらに向かっておる」

「…”彼”がですか?」

 

忌々しそうに吐き捨てるアードラーと驚いた様子のテンペスト。

 

「お前の帰還命令は、総帥が直々に出されたものじゃ。エルザムやシュウ・シラカワも同様の命令を受け、こちらへ向かっておる」

「(エルザムとシラカワ博士が…)」

「よいな?早急に総司令部へ帰還しろ。総帥がお前をお待ちじゃ」

 

通信が切られモニターには何も映らなくなった。

 

「(まさか…私の心が見透かされたか?ハガネの奪取ではなく、撃沈しようと考えている私の……)」

 

テンペストが考え事をしていると、一人の男が司令室に入ってくる。

 

「さーて、今日から俺がここの戦闘指揮官だからな。ちゃんと命令を聞けよ」

「……」

「!な、何だ、少佐…まだいたのかよ」

「……」

 

入って早々威張り散らすテンザンを軽く睨み付けるテンペスト。

 

「総帥があんたを呼んでんだろ?さっさと行かなきゃマズいんじゃないの?」

「言われるまでもない」

「ま、後のことは任せてくれ。ハガネは俺が手に入れてやるからさ」

「お前では無理だろうがな」

 

司令室のドアが開き、そう言って少年が入って来る。

 

「てめぇは!?」

「やはりおまえか、ケン」

「どうもテンペスト少佐。そこの太っちょは俺が見ておこう。安心して、総司令部に戻るといい」

「何だとテメェ!年上への敬意が足りねえぞ!!」

 

ケンの発言に激昂し胸倉を掴むテンザン。

 

「お前が言うなよ。模擬戦で俺に勝てたら考えてやらんでもない」

「ぐっ!」

 

言い返せず言葉を詰まらせるテンザン。

彼がDCに入ってから、ことあるごとに模擬戦をしているが、一度もケンに勝てたことが無いからである。

そんなテンザンの手を払い、テンペストに向き合うケン。

 

「ケン、総帥がお前を向かわせたのか?」

「いえ、俺の出番はこの防衛線を抜かれたらですが、退屈なので勝手に出張らせてもらいました」

 

悔しそうに唸っているテンザンを無視して話を進めていく、ケンとテンペスト。

 

「俺を無視してんじゃねえ!」

「…うるさい騒ぐな。そう言うことなので、後は任せてもらおう少佐」

「わかった。頼むぞケン」

 

納得したように頷き、司令室を後にするテンペスト。

 

「クソッ!オイ、ガキ!指揮官は俺だってことを忘れんなよ!

「俺は総帥から独自行動権(ライセンス)を与えられている。だから好きにやらせてもらおう」

「くっ!ああ、そうかよ!!」

 

怒鳴り散らしながら司令室を出て行くテンザンを、冷めた目で見送るケン。

 

「特務大尉…」

「…総員に脱出の用意をさせておけ」

 

不安そうに声をかけてくる兵士にそう指示するケン。

 

「は?」

「死にたくなければ、な」

「りょ、了解です」

 

慌てて駆け出す兵士を横目に、レーダーに映るハガネも見据えるケン

 

「さあ、来いイサム。おの時の続きを始めよう」

 

どこか待ちわびている様子で、ケンは呟くのであった。

 

 

 

 

 

ウェーク島 海域

 

ウェーク島基地攻略を目指すハガネからビルトシュバイン、ビルトラプター、Mk-II カスタム、ウィングガストが発進する。

 

「とりあえず、砲台を潰せばいいんだよな少佐?」

「そうだ。その後ハガネと残りの戦力で一気に制圧する」

 

リュウセイの問い掛けに頷きながら答えるイングラム。

 

「にしても、静かだな…」

「ああ、とっくに射程圏内のはずだ…」

 

敵の迎撃が無いことに違和感を感じる、イサムとイルムガルド。

 

「…まだだ…まだ撃つんじゃねぇぞ…。ギリギリまで引き付けるんだ!」

「了解!」

「へへへ…さぁ来やがれ!飛んで火にいる夏の虫共!今度こそ叩き潰してやるぜ!!」

 

モニターに映るハガネ隊を睨み付けるテンザン。

 

「…何だありゃ?」

「こっちのデータには無いぞ、新型の砲台か?」

「…もしやあれは…」

 

見たことの無い砲台を怪しむイサム達。

 

「撃って来ねぇんなら好都合だ!」

 

先走るリュウセイが砲台の一つに狙いを定め、ハイパー・ビームライフルを放つが、砲台が飛行し回避する。

 

「何!?飛んだ!?わっ!?」

 

予想外の事態に戸惑い背後を取られ、攻撃されるもギリギリで回避するリュウセイ。

 

「野郎!!」

 

ウィングガストがダブルオメガレーザーを放つも、軽々と避けられてしまう。

 

「奴は砲台なんかじゃねぇ!」

「…AMか」

「シュッツバルトみたいな砲撃戦型だな!」

 

他の砲撃戦型AM”バレリオン”が、次々と頭部に備えられた大砲からレールガンを放ってくる。

 

「ん~面倒だな。どうします少佐?」

「ここは我々で抑える。お前はこのまま司令部を落とせ」

「了解!」

 

進路を塞ぐバレリオンにむかって、機体を加速させるイサム。

砲撃が飛んでくるが、機体を左右に滑らせながら回避する。

 

「チェストォォォォオオオ!!」

 

並んでいたバレリオン三体を、右側から左側へと纏めてシシオウブレード改で両断する。

 

「よし、このまま一気にって、ん?」

 

レーダーにこちらへ近づいて来る機影を確認するイサム。

 

「あれは、南極に現れた奴か!」

 

突然現れたサイバスターが基地の上空で停止し、輝きだすとAMのみが撃墜されていく。

 

「何だ!?DCだけ攻撃したのか!?」

 

予想外の光景に困惑しているとハガネのエンジン部が爆発した。

 

 

 

 

 

「こ、これはあのアンノウンがやったのか!?」

 

予想外の事態に驚愕するハガネ副艦長テツヤ・オノデラ。

 

「あの機体の目的はわからんが、敵では無いのかもしれん」

「し、しかしそうと判断するには…」

 

ハガネ艦長のダイテツ・ミナセに進言するテツヤ。

 

「無論、警戒は怠るな。全部隊にも伝えろ」

「了解です」

 

リオが機動部隊と通信していると、もう一人のオペレーターのエイタ・ナダカが異変に気付く。

 

「っ!?本艦真下の海面より浮上して来る機影あり!!」

「何!?数は!」

「い、一機です!!」

「何だと!?」

 

ハガネ真下の海面より一つの影が飛び出し、エンジン部を切り裂いた。

 

「くっ、損害は!!」

「エンジン部損傷!テスラ・ドライブの出力が低下しています!!」

 

テツヤに叫ぶように損害を伝えるエイタ。

 

「もたせろ!!敵機は!!」

「直衛部隊に向かっています!!」

「先発隊を呼び戻せ!!」

 

動揺する部下を静めるように指示を飛ばすダイテツ。

 

「クソっこいつ!!」

 

ジャーダ機がハガネを強襲したアンノウンにマシンガンを放つも、その瞬間には視界から消えていた。

 

「な、消えやがった!?」

「ジャーダ!後ろ!!」

「うおぉう!?」

 

ジャーダ機の背後に回ったアンノウンは、両手に持っている日本刀を振り下ろそうとする。

ラトゥーニの警告で気付き回避しようとするも、左腕が切り落とされるジャーダ機。

他の機体が弾幕を張るが、それを嘲笑うかのごとく軽々と回避し、空中で停止するアンノウン。

 

「何て早さだあの人型!!」

「でも今までのとは形状が違う…」

「確かに鳥みたいだけど、新型なの?」

 

アンノウンはガーリオンに似ているが、背中には羽が付いており、足のつま先は鉤爪がになっている等、鳥を彷彿させるデザインをしている。

宙返りし助走をつけたアンノウンが、再び突撃して来る。

 

「これ以上はやらせん!」

 

シュッバルトがツインビームカノンを放つも、バレルロールで回避される。

アンノウンが、その勢いのままシュッバルトの懐に潜り込み、両手の日本刀を振り上げ両肩のキャノン砲を切り裂く。

 

「くっ!」

「ライ!」

 

アヤ機がマシンガンでカバーに入り、距離を取るアンノウンだが、回避先を予測してきたように飛来してきたレーザーを羽で防ぐ。

 

「チェェェンジ!グルンガスト!」

 

ウィングガストからグルンガストに変形し両拳を構える。

 

「ブーストナックル!!」

 

打ち砕かんと迫り来る両腕を、軽々と避けるアンノウン。

 

「そこだ!ファイナルビーム!!」

 

回避先にビームを放つも上昇して回避される。

太陽を背にしながら、降下を始め重力を得ながら加速し、グルンガストへと突撃するアンノウン。

 

「なっ!?ぐぉ!」

 

太陽光に視界を塞がれて反応が遅れ、胴体を切り裂かれるグルンガスト。

 

「その動き…。お前ケンか!!」

 

何かに気付いたように叫ぶイルムガルドに、反応するように動きを止めるアンノウン。

 

「流石ににお前には気付かれるか、イルムガルド」

「テメェ…。こんな所でなにしてんだ!!」

「何って、お前らの小手調べだが」

「小手調べだと?」

 

ケンの発言を訝しむイルムガルド。

 

「ビアンのおっさんがお前達に興味があるそうでな、代わりに俺が試してやろう」

「何よ偉そうに!」

「俺達を舐めてると痛い目みるぜ!」

 

ケンの言い様に怒りを顕にするガーネットとジャーダ。

 

「意気込みは十分か。だが、実力の方は…」

「ケェェェェェェェェェン!!!」

「ムッ」

 

会話の途中でMk-II カスタムがシシオウブレード改を振り落ろして来たので、機体を翻し回避するケン。

 

「見つけた、見つけたぞケン!!」

「来たかイサム。さあ、お前の今の力を見せてみろ!」

 

互いに振るったブレードがぶつかり合い火花が散る。

 

「御託はいいんだよ!俺はお前をぶん殴るためにここまで来たんだからなぁ!!」

「そのような間に合わせの機体でできると思うな。俺とこの”アリオール”相手にな!」

 

気迫を乗せてブレードを打ちつけ合う両者。

だが、アリオールの機動性に着いていけず、次第にMk-II カスタムの装甲に傷が増えていく。

 

「っ!」

「遅いィ!」

 

右手から振り上げられたシシオウブレードで、シシオウブレード改を弾かれるMk-II カスタム。

追撃で左手から振り下ろされたブレードを、交差させた両腕で防ごうとするも、両腕ごと胴体を切り裂かれる。

 

「ぐっう…!」

 

辛うじてコックピットは逸れるも、ブレードが掠れた衝撃で弾けた計器が、イサムの体に突き刺さる。

 

「終わりだッ!」

 

アリオールが追撃で突きを放とうとするが、飛来したビームに阻まれる。

 

「そこまでにしてもらおう」

「ビルトシュバイン、隊長機か」

 

ビルトシュバインの左腕に装備されたサークル・ザンバーが発光し、アリオールへと振り落ろされる、両手のシシオウブレードを交差させて防ぐアリオール。だが、その隙を突かれ蹴り飛ばされる。

 

「流石は元PTXチームの隊長、手強いか」

 

ハガネ隊の集中砲火を舞うように避けるアリオール。

 

「ハァ!」

「ッ!」

 

高速で迫るサイバスターを物ともせず、迎え撃つアリオール。

 

「テメェ!ビアンて言ったな!」

「それが?」

「なら、シュウの奴の居場所も知ってるのか!」

「だったら、どうした!」

 

シシオウブレードで、サイバスターのディスカッターを押し返すアリオール。

 

「大人しく吐きやがれ!」

「ならば、力を示せ。戦場では強者が全てを手に入れるのだ!」

 

目にも止まらぬ速さで空を舞いぶつかり合う、サイバスターとアリオール。

 

「サイバスターに着いて来るだと!?」

「シラカワ博士の言う通り、大した機動性だな。だが!」

 

サイバスターの背後に回り蹴り飛ばすアリオール。

体制を立て直せず、海面に叩きつけられるサイバスター。

 

「クソッ!」

「消耗したままじゃ無理にゃマサキ!」

「シロの言う通りよマサキ!」

 

頭に血が上っているマサキを、同じコックピットに乗っている白毛と黒毛の猫が人語(・・)を離し止めようとする。

 

「だったらこのまま引き下がれってのかよ!!」

「先のMAPW(大量広域先制攻撃兵器)で消耗しているか?まあいい、これで…」

「そこまでです。ケン」

 

残念そうに呟くと、浮上して来ないサイバスターを追撃しようとするアリオール。

だが、上空の降りて来てたグランゾンに阻まれる。

 

「シラカワ博士か、何をしに来たので?」

「君が熱くなり過ぎたら止めて欲しいと、ビアン総帥に頼まれましてね」

「チッ、あのおっさんめ…」

「総帥の指令は彼らの力を見極めることであり。イサム・トウゴウ以外は無用な犠牲は避けるよう言われていた筈ですが?」

「…了解。これより帰投する」

 

渋々といった様子で飛び去っていくアリオール。

 

「シュウ!!」

「フッ」

 

マサキが呼び止めようとするが、そのままアリオールを追って飛び去って行くグランゾン。

 

「待て!ぐっ…!」

「「マサキ!?」」

 

追いかけようとするマサキだが、体力の消耗が激しく気絶してしまう。

 

「退いたか…。至急部隊を収容後現宙域を離脱するぞ」

「了解です。あのアンノウンは?」

「回収しろ、パイロットの話を聞いてみたい。それと格納庫に救護班を向かわせろ」

「了解しました」

 

ダイテツの指示に敬礼しながら返答するテツヤ。

 

 

 

 

 

ハガネ 格納庫

 

「担架急げ!!クスハ君バイタルチェック!」

「はい!」

 

救護班によってMk-II カスタムからイサムが降ろされているが、腹部から血が流れ出ており、既に意識は無い。

簡単な応急処置が施され、担架に乗せて運ばれて行く。

 

 

「イサム…」

「大丈夫、大丈夫だから」

 

今にも泣きそうなラトゥーニを抱きしめるガーネット。

 

「クソッ何なんだよ!あのケンって奴は!!」

 

怒りに任せて壁を殴るリュウセイ。

 

「奴はケン・トウゴウ。イサムが探し続けていた男だ」

「では中尉、奴がイサムの…」

「ああ、養祖母のシノさんを殺め二振りのシシオウブレード持ち去ったんだ」

 

ライディースの問い掛けに頷きながら答えるイルムガルド。

 

「トウゴウと言うことは…」

「奴は10年前に孤児だったのをイサムが見付けて、トウゴウ家の養子になったそうだ」

「それがどうして…」

「養子になる前に親を強盗に殺されてな、「自分の無力さが許せなかった」って言って、力を求めていた奴だったな…」

 

アヤの問い掛けに、やるせない表情をするイルムガルド。

 

「それがあの子を狂わせてしまったのかもしれんな」

「親父…」

「悪いが悲観に暮れている暇は無いぞ」

「でも…」

 

やってきたジョナサンの告げる内容に、割り切ることが出来ないリュウセイ達。

 

「彼の乗る機体に対抗するためには”コイツ”が必要だ、すまないが手伝ってくれないか?」

 

ジョナサンの視線の先には漆黒のPT”レオーネ”が佇んでいた。

 

「私、手伝います!」

「ラトゥーニ…」

 

涙を拭いながら告げるラトゥーニを、心配そうに見つめるジャーダとガーネット。

 

「彼は必ず戻ってくるから、だから」

「ああ、そうだな。その時に戦えないんじゃカッコつかないもんな」

「ええ」

「俺も手伝おう」

 

ラトゥーニに続いてレオーネへと向かって行くリュウセイ達。

 

「さてと、俺も弟分のために一肌脱ぎますか。…だから絶対戻って来いよイサム」

 

そう呟くと、作業を手伝いに向かうイルムガルドであった。




Mk-Ⅳ「ムラタは犠牲になったのだ…」
イサム「お前のエゴのな」
Mk-Ⅳ「いやね、なんかムラタだとイマイチ面白みが無いんだよね」
イサム「それで、オリキャラに変更したのか」
Mk-Ⅳ「気に入らない方もいると思いますが、どうかご容赦下さい。なんでもしますから」
イサム「ん?今なんでもするって言ったな」
Mk-Ⅳ「えっそんな、こんなところでなんて…」
イサム「じゃあ、あそこでこっちを見ているムラタの相手をしてもらおうか」
Mk-Ⅳ「ちょっおま、ってもういねえし!?い、いやアーーーーーーーーー!!」


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新キャラ&機体設定

Mk-Ⅳ「どうもMk-Ⅳです、第十二話から登場のケンとその機体のアリオールの設定集です」
イサム「こいつあんまり深く考えてないので、おかしな部分があればぜひ教えて下さい」



ケン

・種族:地球人

・出身:日本

・性別:男

・年齢:15

・身長:173cm

・所属:ディバイン・クルセイダーズ

・階級:特務大尉

 

ディバイン・クルセイダーズに所属する少年。5歳の時に家族を強盗に殺害され保護施設に入るも周囲に馴染めずに抜け出した時に、イサムと出会いトウゴウ家の養子となる。

 

リシュウの教え子として薩摩示現流を習っていたが、イサムら他の門下生と違い相手の防御ごと断ち切れるだけの力が無い為、他の流派の技も取り入れ”相手が防御も回避も出来ない程早く切る”ことを主眼に置き二刀流を好む我流と言える剣術を用いる。

 

イサムとは兄弟であり、ライバルとして切磋琢磨しながら暮らしていたが、本編が始まる4年前に養祖母であるシノを殺め、二振りのシシオウブレードを持ち去る(それからはトウゴウの名は名乗らなくなった)

 

以後、傭兵として紛争地帯を渡り歩いていた際に、ビアン・ゾルダークの警護を引き受け彼の思想に賛同してからはDCへ参加しAMのテストパイロットとなる。

 

戦いを好む戦闘狂な面を持つが、非道な行いを嫌うの為、副総裁のアードラー・コッホや部下のテンザン・ナカジマとは折り合いが悪い。

 

逆にビアン・ゾルダークやシュウ・シラカワ、エルザム・V・ブランシュタインには敬意を払っているおり、テンペスト・ホーカーとは家族を奪われた境遇から彼の復讐を応援している。

 

※独自行動権

ビアンよりケンにのみ与えられたライセンス。どの部隊にも属さず独自の判断で行動が可能で、総帥であるビアンのみ指揮権を持つ。

 

 

アリオール(ロシア語で鷲)

・分類:改良型アーマードモジュール

・機体カラー:紫と白のツインカラー

・型式番号:DCAM-006VA

・全長:21.1m

・重量:30.2t

・動力:プラズマ・リアクター

・基本OS:LIEON

・開発者:ビアン・ゾルダーク

 

ケン専用機としてガーリオン・カスタムをベースに開発された機体で鷲をモチーフとしている。

 

高機動近接特化型として設計されており、機体背面に羽型の大型ブースター(高い強度とビームコーティングによりシールドとして使用可能)と多数のスラスターに動力のプラズマ・リアクターによってサイバスター並の機動性を持つ。

 

本気に採用されているプラズマ・リアクターは20mクラス用に小型化されているが、ビアン・ゾルダークの技術力により同型の動力を持つレオーネより安定した稼動が可能である。

 

ケンの意向により、武装はシシオウブレード×2のみである。(ビアンが色々と武装を開発していたが、すべて却下された)

 

 



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第十三話

Mk-Ⅳ「どうも死に装束を着せられて、短刀を持たされているMk-Ⅳです」
イサム「介錯してやるから早く腹切れよとイサムです」
Mk-Ⅳ「いやいや、ちゃんとした理由があるんですよ」
イサム「ほう、言ってみろ」
Mk-Ⅳ「BF4楽しいです」
イサム「さて、ギロチンにするか」
Mk-Ⅳ「待って!年末の準備で忙しくなってきたの!!」
イサム「最初からそう言えよ…」
Mk-Ⅳ「ですのでしばらく更新が遅くなると思いますが、これからもよろしくおねがいします」
イサム「それでは、本編をどうぞ!」


アイドネウス島 総帥執務室

 

室内に備え付けられた椅子に腰掛け写真を眺める中年の男。その表情には写真に写っている人物への愛情が感じられる。

そこへ来訪者を告げるベルが鳴る。

 

「私だ」

「おい、おっさん帰ったぞ」

「ケンか。入れ」

 

写真を机に置き対応すると、見知った少年が机のモニターに映し出されたので、入室を許可する。

 

「邪魔するぞ」

「ああ、それでハガネはどうであった?」

 

まるで欲しかった物を待ちわびていた子供のように、催促してくるビアン・ゾルダークに歳を考えろよと言いたくなったが、無駄なことはわかっているので口には出さないケン。

 

「アンタの睨んだ通り、中々面白い連中が揃っていたぜ」

「ふふ、そうかご苦労だった。本来であれば私が直接出向きたかったのだがな」

「立場を考えろよ。万が一ってこともあるだろうが」

「何だ、私の心配をしてくれるのか?」

「ほざけ。とにかくアンタらの願いが叶いそうなのはハガネと宇宙の”ヒリュウ改”になりそうだな」

 

茶化してくるビアンを軽く睨みながら、話題を変えるケン。

 

「うむ、これで我々が敗れようともこの星を守る剣が打ち上がる」

「礎になりますってか。たいした覚悟だな」

 

愉快そうに笑うビアンに若干呆れ気味のケン。

 

「誰かがやらねばならんのだ。誰かがな」

「それで娘に嫌われてもか?」

「……」

 

机に突っ伏して暗いオーラを放つビアン。僅かにすすり泣く声が聞こえてくる。

 

「自分で言っておいてあれだが、一々落ち込むなよ…」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉんんんリューネ!!!私は、私は!!!」

 

写真を抱きしめて泣き叫ぶおっさんが落ち着くまで、部屋に置いてある漫画で時間を潰すケンであった。

 

 

 

 

 

「すまない、取り乱してしまった」

「安心しろ、もう慣れた」

 

二人のやり取りから日常的に起こるようである。

 

「では、お前には今後もハガネ迎撃に就いてもらおう」

「いいが、アイツとの決着を優先させてもらうぞ」

「構わん、元々そういう契約だからな」

 

不適に笑いながら去るケンの背中を、同じように笑いながら見送るビアンであった。

 

 

 

 

 

「転属、だと?」

「は、はい…。あなたの指揮下に入れと辞令が…」

 

格納庫に向かうと一人の男に敬礼して出迎えられるケン。

 

「だ、第15機動部隊から本日付けで転属となりました、リョウト・ヒカワ曹長です…」

「そんな話聞いてねえぞ」

 

弱弱しく告げるリョウトを訝しむケン。

 

「おい、その書類見せろ」

「は、はい!」

「総帥直々か…。チッあのおっさんめ、黙ってやがったな」

「あ、あの…」

 

書類を確認しているとリョウトが恐る恐る尋ねてくる。

 

「そういやぁお前、アードラーのジジイが太っちょと一緒に拉致った奴か」

「ら、拉致って…」

「避難のドサクサに紛れてしょっぴいて来られたんだろうが」

「いえ、その…」

「成程、そういうことかおっさんめ…」

 

何かに気付き面倒臭そうに舌打ちするケン。

 

「え、あの…」

「で、お前はどう思ってんだ?」

「え?」

 

ケンの質問の意味がわからず首を傾げるリョウト。

 

「今の状況に満足かってことだよ」

「そ、それは…」

 

答えられずに俯いてしまうリョウト。

 

「不満か、当然だろうがな。後、お前はDCのやり方をどう思う?」

「……」

「いいから正直に答えろ」

「ち、力で解決するのは好きではありません」

 

今までより強い口調で返答するリョウト。

 

「そうか、ならここはお前の居場所ではないのだろう」

「それは…」

「後は自分で考えろ。これから俺達はお前の古巣の部隊と一緒にハガネに仕掛けるぞ」

「りょ、了解です」

 

ケンが話を打ち切ると人影が近づいて来る。

 

「ホッ!そんな役立たずを押し付けられるとは災難だなガキ」

「……」

「ん?何だ太っちょか」

 

現れたテンザンに縮こまるリュウトと興味の無い様子のケン。

 

「誰が役立たずだと?」

「お前の隣にいる腰抜けだよ。折角のゲームを楽しめないな」

「げ、ゲームだなんて…」

「ひゃは!そんなんだからテメェは腰抜けなんだよ」

「……」

 

嘲笑うテンザンに何も言い返せずに俯いてしまうリョウト。

 

「黙っていろ雑魚」

「あっ!?」

「コイツはお前より見所がある」

「特務大尉…」

「ハッ!笑わせんなこんな…」

「命を背負う気の無い奴よりは、ある」

「意味のわかんねえ…」

「止めておけテンザン」

 

横からやって来た男が、ケンの胸ぐらを掴もうとするテンザンの腕を掴んで止める。トーマス・プラット、テンザンの所属する部隊の隊長である。

 

「トーマス少佐…」

「そんなことしたってお前が損するだけだぜ」

「このガキが!」

「価値観の違いって奴だ。そうでしょう特務大尉?」

「ああ、そうだな」

「そろそろブリーフィングの時間ですので、また後で」

 

そう言うと、テンザンを連れて去っていくトーマス。

 

「す、すいません僕のせいで…」

「……シッ!」

「!?」

 

謝罪してきたリョウトの顔面にいきなり蹴りを放つケン。

それを両腕を交差させてガードするリュウト。

 

「男が軽々しく頭を下げるな、見ていて腹が立つわ!」

「す、すいま…」

「そんな態度しかしねえから、あんな奴になめられるのだ!」

「で、でも僕なんか…」

「お前が本気になれば、あんな奴簡単に捻れるだろうが!」

「む、無理ですよ!」

「男が泣き言を言ってんじゃねえ!」

 

容赦なく連続で蹴りを放つケンに、避けながら涙目で抗議するリョウト。

このやり取りはブリーフィングが始まるまで続くのであった。

 

 

 

 

 

ライン諸島 スターバク島海域

 

空中で待機しているアリオールのコックピット内で手と足を組んでくつろぐケン。

眼下のサンゴ礁の暗礁海域に配置された陸上戦艦”ライノセラス”が二隻付近を通過中のハガネに砲撃を行っている。

 

「確かに餌としては最適だな…」

 

一人で呟いているとトーマスから通信が入る。

 

「そろそろハガネが来ますんで、活躍を期待してますよ特尉」

「勝手にしていろ、俺は好きにやらせてもらう」

「ええ、お任せしますよ」

 

含みのある笑みを残し通信を切るトーマス。

 

「ケッ、何であんな奴にヘコへコしなきゃなんねぇんだ」

「まあ、そう言うなビアン総帥の懐刀と呼ばれてる奴だ。精々利用させてもらうさ」

「ホッ、話がわかるじゃん少佐」

「ああいう馬鹿は踏み台になるのが一番なんだよ」

「ちげえねぇ」

「っと獲物が来やがったな」

 

嘲笑っているとレーダーが、ハガネのPT隊を捉えのであった。

 

 

 

 

 

「DCの奴ら好き勝手やりやがって!」

「落ち着けリュウセイ。まずは敵の砲撃を止めるのが先だ」

 

焦れるリュウセイを落ち着かせるライディース。

 

「リオ、前に出過ぎないように気を付けてね」

「了解です!」

 

アヤの言葉に、量産型ゲシュペンストMk-IIにのったリオが力強く答える。

 

「って、何でリオがPTに乗ってるんだよ!?」

「イサム君がいないんだから戦力の補強は必要でしょ!オペレート、私の分も頼むわよ!」」

 

驚愕しているエイタとの通信を切りレバーを握り締めるリオ。

 

「各機へ敵部隊を突破し敵艦を叩け」

「了解!くらえ、ファイナルビーム!!」

 

イングラム号令の元、ウィングガストがグルンガストに変形して胸部から放ったビームがリオン数機を消し飛ばす。

 

「このまま押し切る!」

「させん!」

 

追撃に入ろうとしたグルンガストに、急降下してきたアリオールが切り掛かる。

 

「計都羅喉剣!」

 

肩から取り出した大剣で弾き、返し刀で切り掛かるグルンガスト。

 

「フンッ!」

 

両手のシシオウブレードで受け流した勢いを利用して、逆手に持ち替えてグルンガストの頭部に突き刺そうとアリオール。

 

「ッ!オメガレーザー!!」

 

両眼から放たれたレーザーを、羽で受け止めながら距離を取るアリオール。

 

「どうした超闘士名は伊達か!」

「その機体、ケンか!イサムには悪いが、ここで落とさせてもらう!」

「来い、イルムガルド!!」

 

切り結ぶグルンガストとアリオール。

 

「特尉、例のサイバスターという機体は確認出来ません」

「なら、お前は他の奴を抑えていろ」

「りょ、了解です」

 

ケンとの通信を終えると、自身へ向かって来る機体郡を確認するリョウト。

 

「中尉があの鳥野郎を抑えてる間に、敵艦を仕留めるぞ!」

「き、来た!」

 

戦闘のジャーダ機をロックオンするが、撃つことを躊躇いトリガーを引けないリョウト。

 

「捉えた!当たれ!」

「うわぁ!」

 

リオ機が放ったマシンガンを慌てて回避するリョウトのリオン。

 

「反撃してこない?舐めてるの!?」

「ぼ、僕は…」

 

果敢に攻めるリオと、戦うことに迷ってしまうリョウト。

 

 

 

 

 

「さぁて、そろそろ頃合だな。おい、ライノセラス、バレリオン隊、PT部隊に砲撃だ」

「しかし特尉の部隊がまだ後退していませんが…」

「問題ねぇ打ち合わせ通りだからよ」

「りょ、了解しました」

 

通信を終えると不敵な笑みを浮かべるトーマス。

 

「ひゃはははは!本当はなんも話してねぇけどな!!」

「その方がいい足止め役になるからな」

 

まるで劇を鑑賞するかのように戦場を眺めるトーマスとテンザンであった。

 

 

 

 

 

「ムッ」

「う、うわぁ!!」

 

アリオールとリョウト機を巻き込んだ砲撃がハガネ隊を襲う。

 

「な、何だ!?こいつら味方にも…!」

「各機へ散開しろ!狙い撃ちされるぞ!」

 

イングラムの指示で回避行動に入るも何機か被弾してしまう。

 

「おい、生きてるかリョウト」

「と、特尉僕を庇って…」

 

右側の羽と腕が吹き飛び、傷だらけとなるアリオール。

 

「捨石にされたようだな俺達は」

「そ、そんな!」

 

ケンから告げられた内容に驚愕するリョウト。

 

「そう言うこった!」

 

テンザンのガーリオンが、バーストレールガンをアリオールとリョウト機へ放つ。

 

「あの砲撃でくたばってくれりゃぁ楽だったが、まあいい!俺の手でプチッと潰してやるよぉ!」

「ぼ、僕達は味方じゃ…!?」

「てめえらは気に入らねぇから、ここで海の藻屑にしてやるよぉ!」

「そ、そんな…」

 

自身の置かれた状況に唖然とするリョウト。

 

「ヒャハハハァ!とっ!」

 

飛来してきた弾丸を回避するテンザン機。

 

「ちょっとあなた!味方を攻撃するなんて何考えてるのよ!!」

「うぜぇんだよ雑魚が!」

 

バーストレールガンで反撃しギリギリで回避するリオ機。

 

「そこのあなた、逃げなさい!」

「え?」

「ハガネに事情を話せば回収してもらえるから!」

「で、でも君が…!」

「いいから!こんな奴、私だけで!」

「笑わせんな雑魚が!!」

 

アサルトブレードで右腕を切り裂かれるリオ機。

 

「ホラホラ!踊れ踊れ!」

「く、ぅぅ…」

 

痛めつけるように攻撃するテンザン機。

 

「や、やめるんだ!」

「うるせえ!指図すんな!」

 

リョウトの言葉に耳を貸さずに攻撃を続けるテンザン。

 

「やめろ…」

「ヒャハハハ!!」

「やめろって…」

「ああ!?聞こえねえぞ!?ハッキリ言いやがれ!!」

 

嘲笑うテンザンにリョウトの中の何かが切れた。

 

「やめろって、言ってるんだ!!!」

「うおおぅ!?」

 

リョウト機から放たれたレールガンで吹き飛ぶテンザン機。

 

「て、テメェ…!」

「もう下がれ出来れば、傷つけたくない」

「舐めてんじゃねえぞ!!」

 

激昂してリョウト機に攻撃するがことごとく回避される。

 

「退かないのなら!」

 

ホーミングミサイルで牽制し、回避先にレールガンを打ち込みダメージを与えていく。

 

「こ、この俺が!?」

 

予想外の事態に動揺している隙にリオ機が肉薄し左腕を構える。

 

「ジェットマグナム!!」

「ぐ、おおおぅ!?」

 

頭部を殴り飛ばされるテンザン機。

 

「ち、ちくしょう!覚えてやがれ!!」

 

捨て台詞を残して撤退していくテンザンであった。

 

 

 

 

 

砲撃にさらされ損傷していくハガネ。

 

「損害を報告しろ!!」

「第一主砲損壊!第五、第八ブロック炎上!!PT隊の損害も増大!!」

 

テツヤに切羽詰まった表情で損害を伝えるエイタ。

 

「…やむをえん。トロニウム・バスターキャノンを使用するぞ」

「し、しかし切り札をここで…」

「活路を切り開くためにはやむを得ん」

「その前に俺を出してくれますか?」

 

ダイテツが決断しようとした時、聞き慣れた少年がモニターに映る。

 

「イサム君!?」

「どうもーって挨拶している暇は無いみたいですね」

「だが、その傷でPTに乗るのは…」

 

包帯だらけのイサムを見て身を案じるダイテツ。

 

「そうも言っていられないでしょう。ここは一つ俺に賭けてもらえませんか?」

「…わかった。その賭けに乗らせてもらおう」

「ありがとうございます!期待してて下さいな!」

 

イサムが笑顔でサムズアップして通信が切れる。

 

 

 

 

 

 

 

「いいかイサム君。まだプラズマ・リアクターの調整が十分では無い、くれぐれもリミッターは外さないように」

「OK、所長」

 

レオーネをカタパルトへ固定させながら、ジョナサンの説明を聞くイサム。

 

「進路クリアー。頼むから無事に帰ってきてくれよ、お前がいなくなると寂しくなるからな」

「大丈夫ですよエイタさん。皆と一緒に帰って来ますから」

 

不安そうな表情をするエイタに、笑顔で答えるイサム。

 

「さあ、行こう相棒。イサム・トウゴウ、レオーネ行くぜ!」

 

カタパルトから漆黒の機体が打ち出される。

 

「艦長…」

「今は託そう。彼の可能性に」

「はい」

 

戦場へ向かう黒獅子を見送るダイテツとテツヤ。

機体を加速させシシオウブレード改を抜刀させるイサム。

 

「うおらぁ!」

 

すれ違い様にリオンを一機切り裂く。

 

「イングラム少佐!」

「その機体に乗っているのはイサムか?」

「ええ、俺が敵艦を叩くんで援護頼みます!」

「いいだろうやってみせろ」

 

矢継ぎ早にイングラムと通信し、機体をライノセラスに突撃させるイサム。

 

「何だ新型か?おい、バレリオン隊奴に砲撃を集中させろ」

 

トーマスの指示を受けバレリオンの砲口がレオーネへと向けられる。

降り注ぐ砲弾を避けきれず被弾し、立ち往生してしまうレオーネ。

 

「糞っ!機体が重い!!」

 

思うように機体を操れないことに戸惑うイサム。

 

「このままじゃ、カッコ付かないんだよ!!」

 

シシオウブレード改を盾にして強引に前進していくレオーネ。

 

「しぶてぇな。ならコイツでどうだ、ブレイクフィールドオン!!」

 

トーマスのガーリオンがブレイクフィールドを纏い、レオーネへと突撃する。

 

「っ!?ぐおぉぉぉぉぅ!」

 

シシオウブレード改で受け止めようとするも、堪えきれず弾き飛ばされるレオーネ。

 

「イサム!」

「ラトゥーニ!?よせ!下がれ!」

 

ラトゥーニ機がマシンガンで牽制しながら、レオーネを庇うように立つ。

 

「へ、獲物がノコノコ来やがったか!」

 

弾幕を回避しながら、バーストレールガンを放つトーマス機。

懸命に反撃するも、レオーネを庇っているために回避出来ず、次第に被弾していくラトゥーニ機。

 

「もういい!俺を置いていけ!!」

「嫌!!」

 

イサムの呼びかけに頑なに首を振るラトゥーニ。

 

「ずっと、ずっと守られてきたけど、今度は私が守る!!」

「お前…」

 

ラトゥーニの姿に自分を庇って死んでしまった、養祖母のシノの姿が重なる。

 

「(また、守れないのか?結局俺じゃあ…)」

 

イサム…

 

「!?お婆ちゃん?」

 

諦めるなんてらしくないわよ。どんな逆境にも立ち向かうのがあなたの取り柄でしょ?

 

「ああ、そうだねお婆ちゃん。まだ、こんな所でつまづいてられるかよぉ!!!」

 

イサムの意思に応えるかのように、レオーネの間接部が金色に輝きだす。

 

「しゃらくせぇ!纏めて潰してやる!ソニック・ブレイカー!!」

 

ブレイクフィールドを纏ったトーマス機が、ラトゥーニ機へ迫る。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」

 

レオーネがラトゥーニ機を押し退けて前へ出る。

 

「へっ今更テメェに何が出来る!」

「うらあぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

シシオウブレード改とブレイクフィールドがぶつかり合い閃光を放つ。

だが、次第にレオーネが押されは始める。

 

「イサム!!」

「大丈夫だラト!!お前は俺が守る!!!」

 

イサムが叫んだ瞬間、レオーネに変化が訪れる。

コンソールに”burstmode starting”と表示され各部の装甲がスライドし、露出した内部フレームが廃熱によって金色に輝きだす。

最後に頭部のバイザーが開きツインアイと顎部分の四角い突起があらわになり、鶏冠状のアンテナが左右に別れ獅子の鬣のような形へと変わる。

 

「へ、変形しただと!?」

 

変形したレオーネに驚愕するトーマス。

 

「うぉらぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

拮抗していたシシオウブレード改が、容易くブレイクフィールドごとトーマス機の右肩を切り落とす。

 

「ば、馬鹿な!パワーが、桁違いだ!おい、ライノセラス!こ、コイツを砲撃しろ!!」

 

叫び散らすように指示を飛ばすトーマス。

 

ライノセラスから打ち出された砲撃が、レオーネへと降り注ぎ爆煙に包まれる。

 

「イサム!!」

 

溜まらず悲鳴を上げるラトゥーニ。

 

「へ、へへ、これなら一溜まりも…」

 

言い終わる前に、爆煙から無傷のレオーネが飛び出す。

 

「そ、そんなはずが…」

「すごい…」

 

驚愕する二人をよそにライノセラスへと突撃するレオーネ。

迎撃しようと直援のバレリオンと共に弾幕を張るライノセラスだが、レオーネに達する前に展開しているG・テリトリーに阻まれる。

 

「G・テリトリー収束!」

 

バレリオン隊を飛び越え、シシオウブレード改を構える。

すると、機体を包んでいたG・テリトリーがブレードへ集まり、ピンク色へと輝きだす。

 

「切り裂け!グラビティ・スラッシャー!!!」

 

すれ違いながら、ライノセラスの船体を紙のように切り裂いたレオーネ。

ライノセラスの爆発を背に廃熱の煙が内部フレームから漏れ出す。

 

「ら、ライノセラスを一撃で…」

「どうやらここまでだな」

 

余りの事態に唖然としているトーマス機にアリオールが上空から近づいてくる。

 

 

「ま、まだ前線の…」

「前線の連中は増援で現れたサイバスターのMAPW(MAP兵器)で壊滅したぞ」

「な!?」

 

予想外過ぎる事態に、もはや開いた口が塞がらないトーマス。

 

「じゃあ、用事も済んだし俺は帰るぜ」

「!ま、まさか貴様こうなることが…」

 

トーマスが言い終わる前に撤退するケン。

 

「フッそうでないと張り合いが無い」

 

実に愉快そうに笑いながら撤退していくケンであった。

 

 

 

 

 

岩場に膝を着き、バーストモードからセーフティーモードへ戻るレオーネ。

 

「オーバーヒートしちゃったか、ごめんね無理させちゃって」

 

労うようにコンソールを撫でるイサム。

 

「イサム大丈夫!?」

 

ラトゥーニ機が駆けつけ、慌てた様子のラトゥーニがモニターに映し出される。

 

「うん、大丈夫。機体がフリーズしちゃっただけだから」

「そう、良かった…」

 

安堵の表情を浮かべるラトゥーニ。

 

「ね、ねえイサム…」

「ん?何」

「さっき私のことラトって…」

 

頬を染めて恥ずかしそうに問い掛けてくるラトゥーニ。

 

「ああ、前からラトゥーニってちょっと呼びづらいかなって思っててさ。嫌だったかな?」

「そ、そんなことない。凄く嬉しい…」

 

嬉しそうにはにかむラトゥーニ。

 

「うにゃぁ…よかったぁ…」

「イサム?」

 

可愛らしい声と共に静かになるイサム。

何事かと慌てて自分の機体の手を足場にコックピットを出て、レオーネのコックピットハッチを開け覗き込む

すると、寝息を立てているイサムが目に入った。

 

「寝てる…」

 

コックピットに入りイサムのヘルメットを取ると、幸せそうな寝顔である。

 

「ふふ、お疲れ様…」

 

頭を優しく撫でると「ふにゃぁ」と鳴くイサム。

 

「っ!?」

 

鼻から何かが溢れそうになり、慌てて手で押さえるラトゥーニ。

深呼吸して落ち着ける為に別のことを考えようとする。

そこでふと、イサムに庇われた際の言われたことを思い出す。

 

大丈夫だラト!!お前は俺が守る!!!

 

恥ずかしさと嬉しさが胸の奥から込み上げてくると同時に、イサムと出会ってから抱き続けた想いに気付く。

それは…

 

「大好き、イサム…」

 

そう言ってイサムの頬に口付けをするラトゥーニ。

その瞬間物音がする。

 

「え…?」

 

恐る恐る音のした方を向くと、ハッチから覗きこんでいるイルムガルドと目が合う。

 

「やべっ」

「……」

「や、やあ二人とも大丈夫かな?お兄さんが助けに来たよ」

 

明らかに口調がおかしいイルムガルド。

 

「見ました?」

「い、いや覗き込んだばっかりだから何も見てないよ」

 

顔から冷や汗が流れ始めるイルムガルド。

 

「見ましたよね?」

「ちょ、胸倉掴まないで、苦しい、から…」

 

右腕でイルムガルド胸倉を掴み持ち上げるラトゥーニ。

 

「中尉ちょっと来てもらえます?」

「で、デートの、お誘いなら、また、こん、どで…」

「大丈夫です、少し記憶を消すだけですから」

「それ、ぜんぜん、だい、じょうぶ、じゃない…」

 

どんどん青ざめていくイルムガルドだが、構うことなく引きずっていくラトゥーニ。

 

 

 

 

 

ラトゥーニサンハナシアイマショウ。ボウリョクジャナニモ…#%’%&I')&%&%$$!!"~!!!

 

 

 

 

「うにゅぅ~ラト~」

 

断末魔が響き渡る中でも気持ちよさそうに眠っているイサムであった。




Mk-Ⅳ「詰め込みすぎたかもしれん」
イサム「計画的に書かんからだ馬鹿め」
Mk-Ⅳ「今後の展開を考えるとこうするしかなかったんや」
イサム「まあ、せっせと書いてくれば構わんが」
Mk-Ⅳ「よかろう!ではまず、ラトゥーニの唇の感触をおしえ…」

ア、ギロチンハヤメテクダサイ、ジオングミタイニナッチャイマスヨ。アレーカオガコロガッテイクー

イサム「それでは次回もお楽しみに!」

※11/29追加

Mk-Ⅳ「お待たせしました。イサムの新たな牙レオーネの設定です」
イサム「これくらいもっと早くやれよボケ」
Mk-Ⅳ「もうちっとでも優しく出来ませんかね!?」
イサム「それではどうぞ!」
Mk-Ⅳ「だから聞けよ!!」

レオーネ(イタリア語で雄ライオン)
・分類:試作型パーソナルトルーパー
・機体カラー:黒
・型式番号:RTX-010-04R
・全長:セーフティモード時:19.7m
    バーストモード時:21.7m
・重量::58.0t
・動力:プラズマ・リアクター
・空中浮揚機関:テスラ・ドライブ
・基本OS:TC-OS
・開発者:ジョナサン・カザハラ、カーク・ハミル、マリオン・ラドム

PTへのプラズマ・リアクター搭載試作機ヒュッケバインMk-II四号機(本作オリジナル)をベースとしている。
プラズマ・リアクターにより膨大な馬力を誇るが、操作性が劣悪になり扱える者がいないためイサム専用に改造された機体。テスラ・ライヒ研究所、ラングレー基地、マオ社の協同で行われた。
プラズマ・リアクターの小型化に成功したが、出力調整が困難になり、対策として各部装甲を展開し廃熱させることで安定させている。そのため装甲展開時にフレームが金色に発行する。その反面フレームが露出するので、耐久性に難があるためG・テリトリーで補強している。
武装はMk-II カスタムに引き続きシシオウブレード改とバルカンのみであるが、G・テリトリーを収束させることで切れ味を増加可能。

※文字数が足りないのでこちらに載せさせて頂きます。申し訳ありません


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第十四話

Mk-Ⅳ「やっと、やっと投稿できたぞぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!ヤハー!!ヤフー!!」
イサム「久々だからってはっちゃけ過ぎだろ…」
Mk-Ⅳ「書類と残業の合間をぬってやっとだぜヒャッハー!!」
イサム「お疲れって言うとでもおもったかぁ!!」
Mk-Ⅳ「うええぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!?」
イサム「さあ、続きだ!続きを書けぃ!
Mk-Ⅳ「そんな殺生な!あ、アッーーーーー!!!」

※新しいオリキャラが出ます。


スターバク島での戦闘後、医師から「こんな体で動けるとは、人間じゃない」という実にありがたい言葉と、絶対安静を言い渡されたイサム。

涙で枕を濡らしながら、心の傷も癒す為に数日寝込んだのであった。

 

ハガネ 食堂

 

「じゃあ、あなた達も一緒に戦ってくれるんですか?」

「おう!マサキ・アンドーだよろしくな!」

「オイラはシロだよ!」

「私はクロにゃよろしくね」

「僕はリョウト・ヒカワだよ、よろしくね」

 

驚異的な回復力で復活したをイサムは(再び医師からありがたい言葉を頂いたが)、新たに仲間となったマサキとリョウトにシロ、クロを加えて食事をとっていた。

 

「にしてもしゃべる猫っているんですね」

「正確にはファミリアって言うんだが、まあ使い魔って思ってくれ」

 

イサムが撫でると気持ちよさそうに唸るシロとクロ。

 

「あっさりと受け入れ過ぎる気もするが…」

「実際にいるんだし、いいんじゃね?」

 

今だ怪訝そうなライディースともう慣れた様子のリュウセイ。

 

「……」

「どうしたのリョウトくん?」

 

少し戸惑った様子のリョウトに声を掛けるリオ。

 

「その、DCにいた時と大分雰囲気が違うなって思ってさ」

「まあ、俺は民間からの出向でリュウセイさんは民間上がりですからね」

「俺も軍人じゃねえしな」

「マサキはここに来たばっかりじゃにゃいの…」

 

ボケをかますマサキに呆れながらツッコムクロ。

 

「艦長が度量が広いし、イングラム少佐もそこら辺うるさくないしな」

「そうね、でも意外と天然のけがあるわよねあの人」

 

ジャーダに同意するガーネット。

 

「個性が強すぎるだけとも言う」

「イサムにだけには言われたくないけどね」

「何か厳しくありませんラトゥーニさん?」

「手懐けるにはムチ打った方がいいってこの本に」

「”男を手懐ける百の方法”って何!?怖いんですけど!?」

 

ラトゥーニが見せる本に戦慄するイサム。

 

「カザハラ所長がくれたの」

「あのオッサンが…」

 

だからそそくさと伊豆に飛んでったのかと拳を握り締めるイサム。

 

「お前達、参謀本部からの指令が降りた」

「指令ですか?ハガネは現在アイドネウス島攻略を目指しているはずですが…」

 

やって来たイングラムの告げた内容に、疑問を感じるアヤ達。

 

「現在、コロニー統合軍がジュネーブへの降下作戦を実施すべく、地球衛星軌道上に部隊を展開中だ」

「それを叩いて来いって言ってきたんですか、上の連中は」

「そうだ。宇宙にいる”ヒリュウ改”との協同で作戦を行う」

「ヒリュウですか、無事だったんですね」

「ああ、通信衛星コルムナを奪還したのもその部隊だ」

 

イサムやライディースの問いに頷くイングラム。

 

「その流れに乗ろうって訳か、よっしゃぁやってやるぜ!」

「勢いに乗り過ぎて尻拭いだけはさせるなよ」

「何時も申し訳ありませんライディースさん」

 

ひたすら土下座するリュウセイ。

 

「ひたすら突撃してるからなリュウセイさん」

「そうだよね、イサム」

「いやね、俺はちゃんと考えてですね…」

「そう、じゃあもう援護しなくてもいいよね?」

「すいません。何時も感謝しておりますラトゥーニ様」

 

強い口調で釘を刺すラトゥーニにひれ伏すイサム。

 

「そういやイルム中尉は?」

「何でもラトゥーニとイサムを迎えに行った時に負傷したらしい」

「負傷って大丈夫なのか?」

「何かに脅えてみたいだけど少佐の話では次の作戦には問題無いそうよ」

「ラトゥーニも話してくれないしね」

「一体何が…」

「天罰でも下ったんだろう」

「まあ、自業自得って奴か」

 

さほど心配していないリュウセイ達であった。

 

 

 

 

大気圏を離脱し衛星軌道上で、ヒリュウ級汎用戦闘母艦ヒリュウ改と合流したハガネ。

ハガネから機動部隊がヒリュウ改の格納庫へ収納されていく。

 

ヒリュウ改 格納庫

 

「ここの造りってハガネと同じなんだな」

「スペースノア級の基となった艦ですからね。他のところも似てると思いますよ」

「確か初の外宇宙調査艦だったんだよな?」

「ええ、冥王星宙域でエアロゲイターに襲われて大破したのを改修したんですよ」

 

各々の機体から辺りを見回しながら呟くリュウセイに、隣を歩きながら説明するイサム。

すると見知った顔が目に止まる。

 

「あっキョウスケさーん、ブリットさーん」

「イサムか。久しぶりだな」

 

その人物の名を呼びながら手を振ると、それに気が付いたキョウスケと共にいたブルックリン・ラックフィールドが歩み寄って来る。

 

「イサムすまない。先生を守ることが、出来なかった…」

「ああ、お爺ちゃんのことなら大丈夫ですよ。その内ひょっこり現れますって」

 

ブルックリンが頭を下げて謝るが、気にしていない様子で笑うイサム。

 

「でも…」

「ほら、後悔するより前を向きましょうって」

 

ブルックリンを励ますように背中を叩くイサム。

 

「つーか、エクセ姉は?」

「お前を探しに真っ先に飛び出したぞ。目が危なかったな」

「うわぁ…」

 

その姿を想像し冷や汗が流れ出るイサム。

 

「イサム、この人達は?」

「前に話したATXチームの人達ですよ」

「ちなみにキョウスケさんはあなたが乗っているラプターの、テストパイロットだったんです」

「あ!じゃあ奇跡の大脱出したパイロットてあんたのことか!」

 

イサムの説明に興奮気味になるリュウセイ。

 

「脱出してないです」

「え」

「脱出出来ずに、そのまま墜落したんですよ」

「何で生きてんだあんた…?」

「……」

 

話し合っているとイサムの背後に人影が忍び寄る。

 

「ゲッチュー!!」

「ぬぎゃぁ!?」

 

エクセレンがイサムを抱きしめ撫で回す。

 

「ふふふ、この感じ肌触りこれぞイサム君よぉ!」

「ちょっエクセ姉やめてよぉ!」

「よいではないかぁ、よいではないかぁ」

「うにゃぁ!?くすぐったいよぉ」

 

突然の事態に固まるリュウセイに慣れているのか呆れているキョウスケとブルックリン。

 

「はにゃ!?」

 

ただならぬ気配を感じて振り向くとそこにはラトゥーニが立っていた。

 

「ら、ラトゥーニさん?」

「何かなイサム?」

「いや、怒ってる?」

「別に怒ってないよ」

 

笑顔だが眼鏡が反射していて見えないが、恐らく目は笑っていないだろう。

 

「じゃあ、私はこれで」

「あ、待ってよぉラト~!!」

 

立ち去っていくラトゥーニを慌てて追いかけるイサム。

 

「わお、これぞ青春?」

「お前は反省しろ」

 

可愛らしく首を傾げるエクセレンの頭に、キョウスケのツッコミが入る。

 

 

 

 

ヒリュウ改 通路

 

「待てよラト!」

「……」

 

一向に止まらないラトゥーニの腕を掴み、振り向かせるイサム。

 

「何怒ってるんだよ」

「怒ってない」

「そういうのを怒ってるって言うんだ。お前のそんな顔は見たくないんだ」

「……あの人と付き合ってるの?」

「え?違うけど」

 

恐る恐る尋ねられた内容に一瞬呆気に取られるも、すぐに否定するイサム。

 

「本当?」

「ああ、あの人は北米にいた時にお世話になった人であって姉みたいなものさ」

「そう、なんだごめん」

 

申し訳なさそうに俯くラトゥーニの頭に手を置き、優しく撫でるイサム。

 

「いや、判ってくれたならいいよ。それに拗ねてるラトも可愛かったし」

「~~」

 

顔を赤くして俯くラトゥーニの手を引き歩き出すイサム。

 

「そろそろブリーフィングの時間だから行こう」

「うん」

 

微笑みながら手を握り返すラトゥーニであった。

 

 

 

 

アイドネウス島から打ち上げられたシャトルが、統合軍の艦艇の中を進んで行く。

シャトルの座席に座っているケンは、流れていくをじっと見ていた。基幹艦隊の中心へ近づくとやがて旗艦アルバトロス級マハトがのハッチが開き、アリオールがスラスターを吹かしながら宇宙空間へ飛び出す。

今回ビアンから与えられた指令は、連邦の心臓部であるジュネーブへの統合軍の降下作戦、”オペレーション・ユグノー”の支援である。

やがて旗艦アルバトロス級”マハト”が視認出来る距離までシャトルが接近する。

更に接近するとマハトのハッチが開き、ガイドビーコンに従いシャトルが格納される。

 

「ふむ、やはり軽く感じるな」

 

シャトルから降り無重力を感じながら、愛機であるアリオールの搬出作業を眺めているケン。

 

「おーいケーン!!」

 

声のした方を振り向くと、一人の女性が抱きついて来る。

 

「久しぶり!ご飯にするお風呂にするそれともワ・タ…」

「ブリーフィングだ」

 

言葉を遮りながら女性を引き剥がすケン。

 

「チッ」

「お前は相変わらずだなエール」

「そういうアンタは恋人に再会したんだから、もっと喜べよ」

「あー嬉しい嬉しい」

「……」

 

投げやりに答えるケンにヘッドロックを決めるエール。

メキメキと骨が軋む音が鳴っているが、喰らっている当人は涼しい顔をしている。

 

「落ち着けハグぐらい後でいくらでもしてやるよ」

「本当!?絶対だかんね!」

 

呆れた様子で告げるケンに腕を放して喜ぶエール。

 

「ん、あれは零式か」

 

そんなエールを置いて、格納庫に格納されている”グルンガスト零式”へ視線を向けるケン。

 

「そういやアンタ前はテスラ研にいたんだっけ」

「ああ、パイロットは元教導隊だったか」

「そうだ」

 

零式を見て複雑な表情をしているケンに、一人の男が歩み寄って来る。

 

「アンタがゼンガー・ゾンボルトか。」

「ああ、よろしく頼む」

 

握手を求めるゼンガーに応えようとしないケン。

 

「…ジジイ達から俺のことは聞いていないのか?」

「いや、聞いている」

「ならば…」

「裏切り者と言うならば俺も同じこと。今は志を共にする同士だ」

「…そうか。なら、よろしく頼む」

 

ゼンガーの意思を読み取り手を取るケン。

 

「では、また後で会おう」

 

そう言って立ち去っていくゼンガー。

 

「ハグまだー」

「せっかち過ぎだろ、戦闘が終わってからにしろ」

「ぶー」

 

頬を膨らませて不貞腐れるエール。

 

「それより、お前の機体を持って来たから後で確認しておけ」

「お、マジで改造したバレリオンじゃ物足りなかったんだよねぇ」

 

喜び勇んでコンテナに向かおうとするエールの首根っこを掴むケン。

 

「だーかーらーブリーフィングだってんだろ!」

「あーそっか」

「たっくこのアホは」

 

そのまま引きずっていくケンであった。

 

 

 

 

 

ヒリュウ改 格納庫

 

「本艦はまもなく戦闘宙域へ突入します。機動部隊格機は出撃準備に入って下さい」

 

ヒリュウ改の艦首に鎮座するレオーネ。そのコックピット内で、オペレータであるユン・ヒョジンの通信を聞きながら機体のチェックをするイサム。

 

「にしても本当に二隻だけでやることになるとはな」

「まあ、他の部隊がいても焼け石に水ですしね。上の方も余計な損害は出したく無いんでしょう」

 

ヒリュウ改の前面に展開している”ジガンスクード”のパイロット、タスク・シングウジのぼやきにしょうがないと言った感じに答えるイサム。

今回立てられた作戦は、ハガネとヒリュウのブレイクフィールドを、ジガンスクードで束ねて盾とし、敵の攻撃を凌ぎながら敵陣を突破し途中で二手に別れる。

その後、ハガネは降下部隊をヒリュウは旗艦マハトを叩くという、傍から見れば無謀と思われても仕方の無い作戦である。

 

「向こうさんの歓迎が始まったか」

 

イサムがそう呟くと、進行方向から無数の輝きが迫って来る。

敵艦隊からの砲撃であり、フィールドにぶつかる度に衝撃がコックピットを揺らす。

 

「これは…!グルンガスト零式来ます!!」

 

砲撃が止むと一筋の光が迫って来るのが見えた。

徐々に近づいて来るにつれて、その姿が浮き彫りとなってくる。

PTの倍以上の、見るものすべてを威圧せんが如し漆黒の体を持ち、グルンガストシリーズの祖となる機体グルンガスト零式。

なにより目を引くのは、その手に持っている自身の体をも上回る巨大さを誇る、”零式斬艦刀”である。

すべてを一刀のもとに切り伏せるべく、イサムの養祖父リシュウによって生み出された刃が、ヒリュウへと向けられる。

 

「タスクさん、頭部借りるぞ!!」

「おう!頼むぜ!!」

 

ジガンスクードの頭部に飛び上り、シシオウブレード改を構えながら勢いをつけるべく、回転し始めるレオーネ。

零式も斬艦刀を構え、ジガンスクード目掛けてさらに加速して来る。

 

「G・テリトリー収束!!グラビティ・スラッシャー!!!」

「斬艦刀!!疾風怒涛!!!」

 

互いの刃がぶつかり合い激しい閃光を散らす。

 

「「うおおおおおおォォォォォォォォォオオオオオ!!!!」」

 

相打ちとなりジガンスクードの頭部から弾き飛ばされ、甲板を転げ回るが直ぐに体制を立て直すレオーネ。

零式も体制を立て直し追撃しようとするが、零式を抑える為に出撃したキョウスケが駆る”アルトアイゼン”と、エクセレンが駆る”ヴァイスリッター”に阻まれる。

 

「イサム君大丈夫!?」

「問題無い!このまま突き進め!!」

 

心配するユンに答えている間にも、敵の防衛線を突破しマハトを捉えるヒリュウ改。

 

「重力衝撃砲ッ撃てッ!!」

 

艦長のレフィーナ・エンフィールドの号令と共に、重力衝撃砲が放たれるも身を挺した護衛艦に阻まれてしまう。

 

「防がれたか!」

「敵砲艦来ます!」

「このまま進めェェェェェェエエエ!!!」

 

迫り来るビーム砲艦をジガンスクードが弾き飛ばす。

 

「PTカタパルト開放!サイバスタースタンバイ!」

 

開放されたカタパルトからサイバスターが飛び出す。

 

「アァアカシックバスタァァァァァァアアアア!!!!」

 

魔方陣を展開して、サイバードに変形し魔方陣を潜ると炎に包まれるサイバスター。

マハト目掛けて突進するも、直援のガーリオン部隊のソニックブレイカーとぶつかり合い、相打ちになる。

 

「まだまだ!!」

 

その隙を突き、レオーネが続いてマハトへ突撃する。

 

「グラビティ・スラッシャーpart2!!」

 

マハトの艦橋へと、シシオウブレード改を振り下ろそうとした瞬間、影が割って入る。

 

「ブレイク・フィールド収束!ソニックスレイヤー!!」

 

割り込んだ影、アリオールの持つシシオウブレードが青く輝き、シシオウブレード改を弾く。

 

「チィッ!」

「ハッハァ!いい機体だなぁこれなら楽しめそうだ!!」

 

そのまま打ち合いを始める両者。

 

 

 

 

「おーおー、殺ってるねぇ」

 

レオーネとアリオールのぶつかり合いを、離れた場所で見つめる人型に搭乗しているエール。

 

「エール聞こえるか?」

「ユーリア隊長、聞こえてますよ」

 

そこにトロイエ隊のユーリアから通信が入る。

 

「そこからヒリュウを狙えるか?」

「モチのロン。この”ディバイソン”ならね!」

 

そう言ってバックパックと一体かしている17門突撃砲を構えるディバイソン。

 

「んじゃぁ、艦橋を吹き飛ばしますか」

 

密接しているマハトを傷つけないように、ヒリュウ改の艦橋を狙撃すべく17門の内の2門を起動させトリガーを引こうとするエール。

その瞬間飛来してきたビームが直撃し、明後日の方向にビームを打ち出すディバイソン。

 

「痛っぁ…。って機動部隊を出してきた!」

 

ヒリュウ改から出撃した部隊が、敵の追撃を阻むように展開される。

 

「ビームキャノンに耐えるとは、ビームコーティングされているのか!」

 

ディバイソンを砲撃したライディースが思わず舌打ちする。

 

「全隊散開ここで敵機動戦力を阻止する」

『了解』

 

「敵部隊を突破する!全機続け!」

『了解』

 

ヒリュウ改を追撃しようとするようとするトロイエ隊と、それを阻もうとするヒリュウ・ハガネ部隊の攻防が始まる。

 

「クソッなんだコイツ効いてないのか!?」

 

ヒリュウ改所属、オクトパス小隊隊長のカチーナ・タラスクの搭乗する赤色の量産型ゲシュペンストMk-IIが、ディバイソンへマシンガンを放つも、機体に届く前に何かに弾かれてしまう。

 

「中尉!あの機体ブレイク・フィールドを長時間展開できるようです!」

 

僚機の量産型ゲシュペンストMk-IIに乗る、ラッセル・バーグマンが解析内容を告げる。

 

「お返しってね!」

 

ディバイソンの両腕に保持しているジャイアント・ガトリングから、大量の弾丸が吐き出される。

 

「うおッおぶね!?」

 

慌てて回避するカチーナ機、ラッセル機。

 

「もういっちょ!」

 

装甲の各部が開きミサイルが打ち出され、突撃砲から高出力ビームが発射される。

 

「ッその声、この間の弾幕女か!」

「あの時はどうも!お礼に纏めて吹き飛ばしてやるよ!!」

 

余りの弾幕に防戦一方になるカチーナ、ラッセル機。

 

「いけ!リープ・スラッシャー!!」

 

カチーナ機らへ攻撃している隙を突き、リョウトの搭乗するヒュッケバイン009が、扇型のブーメランをディバイソンに射出するも、装甲に弾かれてしまう。

 

「攻撃の間はフィールドを張れない見たいだけど、なんて堅牢なんだ」

「だったら俺に任せろ!ファイナルビーム!!」

 

グルンガストが胸部から高出力ビームをディバイソンへ撃ち出す。

 

「なんのぉ!」

 

突撃砲一斉射で迎撃しビーム同士がぶつかり合い閃光を放つ。

 

「もらったぁ!計都羅喉剣!」

 

閃光の中を突き進み、肉薄し計都羅喉剣を振りかぶるグルンガスト。

 

「させないわ!」

 

レオナの搭乗するガーリオン・カスタムの、ソニック・ブレイカーで弾き飛ばされるグルンガスト。

 

「エール!」

「OK!」

 

ディバイソンの突撃砲の先端からビーム状の刀身が形成され、刀身以外の機体全面がブレイク・フィールドに包まれる。

 

「ぶっ潰れな!クラッシュ・ホーン!!!」

 

そのままグルンガストへ突撃するディバイソン。

 

「っ!スパイラル・アタック!!!」

 

ウィングガストへ変形し機体をエネルギーフィールドで覆い、機体をバレルロールさせながら迎え撃つ。

互いのフィールドがぶつかり合い弾き合う。

 

「やるなお嬢ちゃん、敵にしておくには惜しいぜ!」

「あはは!何、口説く気?悪いけどアイツ以外の男には興味無いから!」

 

ディバイソンの突撃砲が火を噴き、その弾幕の合間をトロイエ隊が進軍する。

 

「一機でいい!ヒリュウ改に取りつけ!!」

 

ユーリアの搭乗するガーリオン・カスタムのアサルトブレードと、ビルトシュバインのサークル・ザンバーがぶつかり合う。

 

「お前が指揮官機か」

「邪魔だ!どけぇい!!」

 

互いの獲物が何度もぶつかり合い、ユーリア機が左手でバーストレールガンを構えるが蹴り落とされてしまう。

 

「まだだぁ!!」

「これ以上は構ってやれん」

 

右手のアサルトブレードで刺突しようとするが、右腕を切り落とされた後、胴体を両断され爆散するユーリア機。

 

「ゆ、ユーリア隊長ぅ!!」

「っ!マハトが、沈む…」

 

ユーリア機が撃墜されるのと同時に、マハトがヒリュウの重力衝撃砲に貫かれ爆発し、大気圏に突入していく。

 

「マイヤー総司令!!」

「駄目!レオナ!」

 

マハトに向かおうとするレオナ機を押さえ込むディバイソン。

 

「離して!総司令が、マイヤー伯父様が…」

「あなたは生きなきゃ駄目よ、あの人もユーリア隊長もそれを望んでいるから」

 

泣きじゃくるレオナの機体を牽引しながら、他のトロイエ隊と共に撤退を開始するディバイソンであった。

 

 

 

 

 

「マハトが沈んだか…」

「俺達の勝ちだケン」

 

互いに距離を取り、大気圏に突入していくマハトを見据えるイサムとケン。

 

「だな、今回はここまでとするか」

「逃がすかよ!」

「慌てるな。続きは地上でだ」

 

アリオールへ迫ろうとするレオーネだが、別方向から飛来したビームに阻まれる。

 

「ケン!」

「ああ」

 

合流したディバイソンらと共に撤退していくアリオール。

 

「…地上、アイドネウス島、か」

 

眼前に広がる地球を見つめるイサムであった。




イサム「時間が掛かった割には短いと思った方はぜひ、作者を罵って下さい」

ヤメテクダサイ、シンデシマイマス。

イサム「多分、これが今年最後の更新になると思います。どうか来年もよいお年を」

クリスマスナンテナインヤー。

イサム「おら、さっさと書けや」

アッー!リアジュウバクハツシローーー!

新キャラ&機体設定

エール・エンフェリート
・種族:地球人
・出身:アメリカ
・性別:女
・年齢:20
・身長:166cm
・所属:ディバイン・クルセイダーズ
・階級:特務中尉

北米のスラムで暮らしていた時に、テスラ研を去った後のケンと出会い、何も無い退屈な日常を変えてくれそうという理由で共に行動することを選んだ女性。

弾幕を張って相手を圧倒するトリガーハッピーなスタイルを好む。敵を纏めて吹き飛ばすのに快感を得る等ケン同様常人とは違った感性を持っている。

ケンとは出会った当初は一方的に恋人を自称し、ケンは否定していたが時間と共にうまくやっているようである。




ディバイソン
・分類:改良型アーマードモジュール
・機体カラー:モスグリーン
・型式番号:DCAM-006VD
・全長:27.5m
・重量:130.8t
・動力:プラズマ・リアクター
・基本OS:LIEON
・開発者:ビアン・ゾルダーク

エールー専用機としてアリオールと共に開発され闘牛をモチーフにしている。

バレリオン以上の装甲とビームコーティングに両腕にジャイアントガトリング、装甲各所にミサイル、バックパックに17門ものキャノン砲と装甲と火力に特化されている。

プラズマ・リアクターから得られる出力によって、ブレイク・フィールドを従来機よりも長時間の展開が可能。キャノン砲からビームの刀身を形成しブレイク・フィールドを纏い突撃するクラッシュ・ホーンによる接近戦もこなせる。


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第十五話

Mk-Ⅳ&イサム「「新年明けましておめでとうございます」」
イサム「てっ言っても、もう一週間経とうとしてるけどな」
Mk-Ⅳ「し、仕方ないだろう!新年始まっていきなり5連勤だぞ!ファック!」
イサム「そりゃ運が無かったと諦めろ。そんなことよりいよいよDC戦争編も大詰めだな」
Mk-Ⅳ「そんなことって…。まあ、長くなるから今回は前後編に分けたけどね」
イサム「ほお、お前にしては頑張ったな」
Mk-Ⅳ「そこは素直に褒めてよ…」
イサム「だが断る(キリッ)」
Mk-Ⅳ「もういいよ。それでは本編をどうぞ…」


ハガネ 格納庫

 

先のオペレーションブレイク・アウトで辛くも勝利したハガネ・ヒリュウ改だが、損傷した機体が多く、次の作戦に備え整備兵が休むことなく格納庫内を駆け回っていた。

 

「俺達だけでアイドネウス島への大気圏からの強襲か、また貧乏クジか」

「現状他に打つ手が無いからな連邦は」

「艦隊が包囲網を敷いてはいるそうだけど」

「そんなもん形だけだろ。手柄を独占されたくないんだろうよ」

 

自分達の機体の整備がひと段落しコンテナに腰掛けながらぼやくイサムに、壁に寄り掛かりながら肩をすくめるイルムガルド。

 

「仕事熱心だねぇ。ま、やるしかないけどさ」

「ああ、そういやラトゥーニはどうした?」

「なんでおどおどしてんのさ…。ラトなら今回からラプターに乗るからその調整だよ」

「そ、そうか。リュウセイがR-1に乗るからな」

「(なんで安心してんねん…)にしてもまだ調整中のはずだけど大丈夫なのかな?」

「変形しなけりゃ問題は無いそうだ」

「(リュウセイさんの潜在能力に賭けるってことか、イングラム少佐は)」

「つーか、あんまり他人を気にしてられねーんじゃねえかお前は?」

 

考えにふけるイサムにそう指摘するイルムガルド。

 

「わかってるよ。次はケンも全力で来るだろうしね」

「…今更だけど、どうしてこうなっちまったんだろうな。同じ道を見ていると思っていたのにな」

「なんとなくだけど、今でも目指している先は一緒じゃないかって思うんだ」

 

天井を仰ぎ見るイサム。

 

「どうしてそう思うんだ?」

「変わって無いんだよね、アイツの剣が昔とさ。だから、アイツなりにこの星を守ろうとしてるんじゃないかな」

「イサム…」

「だから、俺も全力でぶつかりたいんだよ。どんな結果になろうともさ」

「そうか…。なら、絶対に勝てよ!」

 

そう言って拳を突き出すイルムガルド。

 

「ああ、もちろん!」

 

コンテナから降りて拳を合わせるイサムであった。

 

 

 

 

 

アイドネウス島 DC本部屋上

 

太陽が沈み夜が訪れていても、DCの総本山であるこの島では来るべき敵に備えて戦闘員、非戦闘員問わずに慌しく人が行きかっていた。

そんな喧騒の中でも夜空には星々が光り輝き幻想的な光景を映し出していた。

 

「……」

 

フェンスの上に立ちながら夜空を眺めているケン。

 

「美しいな」

「おっさんか」

 

やってきたビアンに視線だけ向けるケン。

 

「いいのかよ、決戦前にこんな所をうろついててよ」

「私のやるべきことは終わった後は他のものがやってくれる。お前こそいいのか?」

「ああ」

 

そっけない返事をするケンだが、ビアンは気にすることなく言葉を続ける。

 

「マイヤーのことを気にしているのか?」

「……」

「あ奴も覚悟していたことだし、お前もやるべきことはやった。誰もお前を責めたりはせん」

「…エルザム少佐も同じことを言いやがってよ、俺一人だけ馬鹿みてえじゃねえか」

 

夜空を眺めながら自嘲的な笑みを浮かべるケン。

 

「ケンよ明日の戦いで私が敗れたならば…」

「わかっている。それも契約の内だからな」

 

それからは無言で夜空を眺める二人の頬を夜風が心地よく撫でる。

少ししてケンが口を開く。

 

「アンタと出会って4年くらいになるか。まあ、なんだ色々と面白かったぜ」

「私もだ。息子が出来たようだったよ」

 

照れくさそうに言うケンに、実に楽しそうに笑うビアン。

 

「お前はお前の道を進め、自分の信じた道をな」

 

そう言って去っていくビアン。

振り返ることなく夜空を眺め続けるケン。

 

「自分の信じた道、か」

 

目をつむり明日の戦いに思いを馳せるケンであった。

 

 

 

 

 

 

太陽が昇り始め朝日が差し込み鳥が鳴き始める中、突然とサイレンが鳴り響き轟音が静寂を打ち破る。

アイドネウス島を包囲している連邦艦隊が、ミサイル攻撃を開始し島の迎撃システムが稼動した為である。

 

アイドネウス島 司令室

 

「対空システム正常に作動中、地上施設への損害は極軽微」

「”グレイストーク”アードラー副総裁より通信です」

「繋げ」

 

オペレーターの報告にビアンが指示するとモニターにアードラーが映し出される。

 

「ビアン総帥、あの程度の封鎖艦隊、我らの戦力にとってものの数ではありませぬぞ?」

「この程度なら防空システムのみでシャットアウト出来る。今少し待て」

「待つと申しましてもこの期に及んで何を…」

「本命の一矢を、だ」

 

再びサイレンが鳴り響き、レーダーに大気圏から突入してくる艦影が映し出される。

 

 

 

 

ハガネが大気圏からの突入を完了し艦首をアイドネウス島へと向ける。

 

「トロニウム・バスターキャノン、エネルギー充填完了!」

「基準砲撃座標までカウント300、照準アイドネウス島軸線クリア!」

 

エイタらオペレーターの報告を聞き、トロニュウム・バスターキャノン用のトリガーを起動させ握り締めるテツヤ。

 

「重力ブレーキスタンバイ!カウント…」

「待て!」

 

ダイテツが何かに気がつきテツヤのカウントを遮る。

ハガネの眼前に広がる雲を何かがを突き破り迫り来る。

 

「スペースノア級参番艦”クロガネ”!」

 

その正体に気づき驚愕するテツヤ。

 

「艦首超大型回転衝角起動、対艦格闘戦用意」

 

クロガネが艦首に装備されているドリルを回転させながら、ハガネへ突撃して来る。

 

「急速転舵!かわせ…」

「ならん!進路このまま!照準維持カウント続行!」

 

ダイテツの指示に慌ててカウントを再開するテツヤ。

 

「カ、カウント3…2…1…」

 

「トロニウム・バスターキャノンッてぇい!」

 

ダイテツの号令と共にテツヤがトリガーを引くと、ハガネ艦首モジュールから高出力エネルギーが解き放たれ、クロガネのドリルとぶつかり合い互いに軌道が僅かに逸れ片翼をもぎ取り合いながら交差する。

ハガネが放ったバスターキャノンは、本来狙っていた司令部から外れた部分に着弾する。

 

「て、敵艦の砲撃射線北東へずれました!ひ、東部地下研究ブロック被害甚大!」

「指揮管制機能を”ヴァルシオン”へ移せ、その後戦闘員、非戦闘員問わず本部施設より退避せよ」

 

指示し終わると席を立ち格納庫へ向かうビアンであった。

 

 

 

 

 

クロガネとハガネが交差した際の格納庫内

 

「うわぁ!?何かにぶつかった!!」

「そのようだな」

「いやいや、冷静すぎるでしょうキョウスケ!?」

「慌てたところで何も変わらん。艦長達を信じるのみだ。何なら賭けるか?」

「「いえ、結構です」」

 

突如襲った衝撃に動揺するブルックリンとエクセレンだが、いたって冷静なキョウスケ。

 

「大丈夫だ最終決戦にピンチはつきものだからな!」

「アニメと一緒にしないの…」

「というか涙目になっているぞリュウセイ」

 

痩せ我慢しているリュウセイに呆れながらツッコム、アヤとライディース。

 

「あ、何か昔の思い出が頭の中を駆け巡ってるぅ~」

「それ、走馬灯ですよタスク曹長!?」

「男がこれくらいでピーピー泣いてんじゃねえよ!」

 

悟りを開いたような表情のタスクを心配するラッセルと、活を入れようとするカチーナ。

 

「やっぱり、僕達だけじゃ無理なんじゃ…」

「何弱音はいてるのよ!前の作戦も上手くいったじゃない大丈夫よ!」

 

弱気になっているリョウトを励まそうとするリオ。

 

「そうだぞリョウト。男たるものどっしりと構えていればいいんだ」

「いやイルム中尉、そんな如何わしいもの見ながら言われても…」

「失敬だなリオ君、これは男の精神を高める神聖な物であってだな…」

「コックピットにそんなものを持ち込むな。後で没収だ」

「そんな殺生な少佐!?」

 

グラビア本を読みながら偉そうに言い放つイルムガルドに引き気味のリオと、容赦なく宣告するイングラム。

 

「俺、この戦いが終わったら…」

「やめてジャーダ!それフラグだから!」

 

不吉なフラグを立てようとするジャーダを、全力で阻止するガーネット。

 

「うぷっ」

「大丈夫かにゃマサキ?」

「クスハのドリンク飲んだかにゃね。よく倒れなかったにゃ」

「これも、シュウを倒す為だ…」

「だからってあんにゃに飲まにゃくても…」

 

顔色はいいのに今にも倒れそうなマサキと、マサキが飲んだ量を思い出し身震いしているシロとクロ。

 

「フフッ」

「どうしたんですかギリアム少佐?」

 

楽しそうに笑うギリアム・イェーガー(オペレーションブレイク・アウト前に情報部から合流した)に疑問に感じ話し掛けるラトゥーニ。

 

「いや、いい部隊だと思ってね。これならきっと成功するだろう」

 

確信に満ちた表情で言うギリアム。

 

「うぇぷっ」

「ってお前も大丈夫かイサム?」

 

具合が悪そうなイサムを心配するイルムガルド。

 

「う~食い過ぎたかな」

「やっぱりな!だから止めとけっていったんだ!ここぞとばかりに食いやがって!」

「いやいや大丈夫、大…丈…夫うぇ」

 

さらに顔色が悪くなっていくイサム。

 

「大丈夫じゃないだろう」

「ちょ、ちょ本当に出そうなのイサム君!?」

「待て!早まるな!深呼吸するんだ!」

「そ、そうだ。ハイ!ヒッヒッフー!」

「ジャーダ違う!それ出ちゃうからぁぁぁぁあああ!!」

 

予想外の事態に慌てふためく一部のメンバー。

 

「う、もう…」

「諦めんなよ…」

「イルム兄…」

「諦めんなよ、お前!!どうしてそこでやめるんだ、そこで!!もう少し頑張ってみろよダメダメダメ!諦めたら!周りのこと思えよ、応援してる人たちのこと思ってみろって!あともうちょっとのところなんだから!もっと、熱くなれよぉおおおおおおおお!!!

「お、俺はうおぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」

「おい、茶番はもう終わったか?」

「「はーい」」

 

どこぞの炎の妖精のようなことを言い出すイルムガルドと、それで復活したイサムを冷めた目で見るイングラムだが、それは決して彼だけではないだろう。

 

「ここは、いつもこんな感じなのかな?」

「…はい」

 

流石に苦笑いのギリアムに恥ずかしそうに俯きながら答えるラトゥーニ。

 

「良し、各機ジガンスクードを盾に出撃。ATXチームとイサム、ラトゥーニが先頭になり一気に司令部を制圧するぞ!」

 

イングラム指示の下、ジガンスクードが敵の攻撃を防いでいる間に出撃していく機動部隊。

 

「さあ!派手に行くぜぇ!!」

 

G・テリトリーで弾幕を弾きながら、シシオウブレード改でリオンを切り裂いていくレオーネ。

 

「馬鹿が!背後ががら空きだ!」

 

レオーネの背後を地上の”ランドリオン”が狙おうとするが、その瞬間機体を影が覆う。

咄嗟にパイロットが上を向くと、飛び上がったアルトアイゼンが両肩のハッチを開いて迫って来ていた。

 

「クレイモア、持って行け!」

 

両肩のハッチから打ち出されたベアリング弾が、豪雨の如くランドリオン部隊の降り注ぎ粉砕していく。

ハッチを閉じ、着地したアルトアイゼンが残ったランドリオンに、右腕に装備されたリボルビング・ステークを突き刺す。

 

「打ち抜く!!」

 

パイロットのキョウスケがトリガーを引くと、リボルバー式の弾倉が回転し杭打機が作動して、ランドリオンを粉砕する。

 

「こ、こいつら!」

「落ち着け!距離を取って仕留めろ!」

 

リオンとランドリオン部隊が距離を取り、バレリオン部隊がビッグヘッド・レールガンで、レオーネとアルトアイゼンに狙いを定め発射しようとした瞬間、次々と砲口を打ち抜かれて爆散していく。

 

「はいはーい、おいたは駄目よぉ」

「ターゲット、ロック」

 

エクセレンの駆るヴァイスリッターとラトゥーニが乗り換えたビルトラプターが、空中からバレリオンを狙撃していく。

 

「スナイパー!?小癪な!」

 

ヴァイスリッターとビルトラプターを狙おうとリオン部隊が迫る。

 

「チャクラム・シューターGO!」

 

その隙を突き、ブルックリンが駆る”ヒュッケバインMk-II”が飛翔し、右腕に装備している有線式の小型チャクラムで撃墜していく。

 

「でかしたブリット君!後でいいことしちゃうわよん」

「そう言う場合碌なことがないんで遠慮します」

「もう、最近可愛げがないんだから」

「前方、高エネルギー反応。砲撃来ます!」

 

何時ものようにトークをかますエクセレントとブルックリンに、ラトゥーニが警告する。

 

「散開しろ!」

 

キョウスケの指示通りに回避行動に入ると、先ほどまで自分達が居た場所にビームの雨が降り注ぐ。

 

「うおっと、あぶねっ!」

 

砲撃で出来たクレータを見ながら冷や汗をかくイサム。

 

「あら、避けられちった」

 

砲撃を行ったディバイソンのコックピット内でエールが残念そうに言う。

 

「ま、あれ位は避けてもらわんとな」

 

ディバイソンの横に並び立つアリオールに乗るケンはさも当然といった表情である。

 

「あらら、強敵登場ね」

「エクセレン後続の部隊は?」

「他の増援に足止めされてるわね。流石悪の総本山わんさか出てくるわね」

「…今、ハガネから連絡があった。プランBに意向だ」

「敵をおびき寄せて、サイバスターのMAPWで一網打尽か」

 

作戦前のブリーフィングを思い返すイサム。

 

「ならあいつらを足止めしないと」

「イサム、羽つきはお前に任せるぞ」

「おうよ!」

「俺とエクセレンは砲撃型の相手をするぞ」

「倒しちゃってもいいのよね?」

「不吉だからやめろ。ブリットとラトゥーニ少尉は他のを任せる」

「「了解!」」

 

散開しそれぞれの目標へ向かって行くイサム達。

 

「まずはこれをどうぞ!」

 

ヴァイスリッターがディバイソンに、オクスタン・ランチャーをEモードで発射するも、ブレイク・フィールドに阻まれる。

 

「ステーク、行け!」

 

その隙に接近したアルトアイゼンがリボルビング・ステークを突き刺そうとする。

 

「ととっ!」

 

機体を逸らしながら、抱えているジャイアント・ガトリングを格納し右脇で、アルトアイゼンの右腕を挟み込むディバイソン。

そのまま力比べの状態となる。

 

「ならば、クレイモア!」

 

両肩のハッチが開きスクエア・クレイモアの発射体勢に入るアルトアイゼン。

 

「うおりゃぁ!!」

 

発射される前に力ずくでアルトアイゼンをぶん回し、放り投げるディバイソン。

追撃で左側のジャイアント・ガトリングを放とうとするが、ヴァイスリッターの狙撃に阻まれる。

 

「鬱陶しいっての!」

 

ジャイアント・ガトリングと装甲各部からミサイルをヴァイスリッターへ放つディバイソン。

 

「ちょちょ!多い多い!」

 

弾丸を避けながらミサイルを打ち落とすヴァイスリッター。

 

 

 

 

 

アルトアイゼンとヴァイスリッターがディバイソンと対峙している頃、レオーネとアリオールも地上でぶつかり合っていた。

 

「はあぁぁぁぁアアア!!」

 

シシオウブレード改の推力を利用し叩きつけようとするレオーネ。

 

「おおぉぉぉぉオオラァ!!」

 

機体を逸らしながら回避し、右手に持ったシシオウブレード突き立てるアリオール。

それを左腕で受け流しながらタックルをするレオーネ。

 

「うらぁぁぁぁあああ!!」

 

そのままスラスターを吹かしかち上げ、勢いのままに回転切りを放つレオーネ。

 

「チィッ!」

 

バク転の要領でレオーネの顎を蹴り上げ、距離を取るアリオール。

 

「はは!やはりお前と闘り合っている時が、一番心躍るなぁイサムぅ!!」

「なんだかんだでそうみたいだな、ケン!!」

 

再び距離を詰め互いに持つブレードがぶつかり合い、火花を散らす。

 

「そらよ!」

 

鍔競合っている状態からアリオールが力を抜き機体を退る。

 

「うおっと!?」

 

突然押し込んでいた相手がいなくなったことで、つんのめるレオーネ。

 

「らぁ!」

 

そこへ右膝を思いっきりレオーネの胴体に叩きつけるアリオール。

 

「ぐ、おおぅラァ!!」

 

膝が当たると同時に左腕で膝を抱え、スラスターを吹かしながらアリオールを押し倒すレオーネ。

 

「もらう!!」

 

右腕でシシオウブレード改を持ち上げ、突き立てようとするレオーネ。

 

「なめんなぁ!!」

 

スラスターを吹かしながら空いている左足で、レオーネの横腹を蹴り飛ばし強引に引き剥がすアリオール。

左手を支点に体操選手のような機動で、体勢を立て直すレオーネ。

両足で地面を蹴り上げてバク転しながら起き上がるアリオール。

体勢を立て直したまま睨み合う両者。

 

「強く、強くなったなぁイサム」

 

感慨深そうに呟くケン。

 

「ああ、あの日からお前を倒す為に、な」

「そうだ。それでいい!もっと強くなれイサム!!」

 

喜びを隠し切れないように笑うケン。

 

「やはりお前は…いや言うまい」

 

何かを感じ取ったが、敢えて言わないイサム。、

 

「そろそろ時間だ…。次で決めさせてもらうケン!」

「いいだろう。来いイサム!」

 

レオーネはシシオウブレード改を上段に構え、左足を前へ大きく開き限界まで腰を降ろす。

アリオールは両手のシシオウブレードを鞘に収め、前のめりになるほどに上半身を下げる。

 

静寂が訪れる中、仕掛けるタイミングを見極めようとする両者。

そこへ流れ弾が両者の間に着弾する。

その瞬間、両者共に飛び出す。

 

「「チェストォォォォォォォォォオオオ!!!!」」

 

ピンクと青色に輝く刃がぶつかり合い交差する。

 

両者が駆け抜けた後に、ハガネがいる方角が光に包まれるのであった。

 

 

 

 

 

「っ!?あれはサイバスターのMAPW!?」

 

ハガネがいる方角からあふれ出す輝きに、思わず動きを止めてしまうディバイソン。

そこにヴァイスリッターが放った弾丸が、両腕のジャイアント・ガトリングを破壊する。

 

「しまっ!」

 

エールが言い終わる前にアルトアイゼンが懐へ潜り込む。

 

「もらったぞ!」

 

突き刺さろうとするリボルビング・ステークを、両腕を交差させて受け止めるが、続けて放たれた衝撃に耐え切れず、両腕が破損し吹き飛ぶディバイソン。

 

「マサキ君が上手くやってくれたみたいね」

「そのようだな」

 

作戦が成功したことに安堵するキョウスケとエクセレン。

 

「キョウスケ少尉、エクセレン少尉!」

 

そこへブルックリン機とラトゥーニ機が合流する。

 

「サイバスターのMAPWで敵部隊の半数を撃破、まもなく後続と合流出来ます」

「そうか。イサムの方は…」

「待てよ、何もう勝った気でいるんだよオイ」

 

イサムと合流しようとするキョウスケ達を阻むように、立ち塞がるディバイソン。

 

「まだ立ち上がるか…」

「見た目通りのタフさねぇ」

 

半壊している状態でも稼動しているディバイソンに、驚嘆するキョウスケとエクセレン。

 

「行かせない、ケンの邪魔は誰にもさせない」

「あいつ、あんな状態でも戦う気か…」

 

エールの気迫に押されるブルックリン。

 

「何故、そこまであの男に尽くす?あの男は…」

「知った風に言うな!ケンのことを何も知らないくせに!それにあいつは変えてくれた!何もなかった私の世界を!生きる意味を与えてくれた!」

「あなたは…」

「この気迫本物ね…」

 

キョウスケの言葉に激怒するエールに、その愛が本物だと感じ取るラトゥーニとエクセレン。

 

「どちらにせよ邪魔をする気は無い。確認しに行くだけだ」

「ケンの戦いの邪魔をさせることは何もさせない」

「あらら。どうするのキョウスケ?」

「……」

 

頑なに道を塞ぐディバイソンの対応を思案するキョウスケ。

 

「キョウスケ少尉、私達は先に司令部を目指しましょう」

「ラトゥーニ少尉?だが…」

「彼女がケンという人を信じているように、私達もイサムを信じましょう」

「…わかった。ハガネにもそう伝えよう。エールといったな、それでいいか?」

「ええ、それならいいわ」

「いいのか、本陣に敵を通して?」

 

キョウスケの提案をあっさりと受け入れたエールに、疑問を投げかけるブルックリン。

 

「あんた達なら”最後の試練”を受ける資格があるからね」

「最後の試練って何なのよ?」

「行けばわかるわ」

 

エクセレンが問い掛けるも、これ以上答える気は無いようである。

 

「なにがあろうとも進むだけだ。行くぞ」

「あ、待ってよキョウスケ~」

 

先行するキョウスケを追い掛けていくエクセレン達であった。

 

「行ったか…」

 

キョウスケ達が去ったのを確認するとヘルメットを脱ぎ頭を抑えるエール。

すると手に赤色の液体が付着する。

 

「あーあ…派手に出てるわねぇ…」

 

先ほどアルトアイゼンの攻撃を受けたさえに、頭部を計器に打ち付けており、大量に出血していたのである。

 

「ま、取り合えず…役目は…果た…したし…いっか…」

 

自分のやるべきことは終わった。

後は愛する彼の勝利を願って、エールは意識を手放すのであった。




Mk-Ⅳ「果たしてイサムとケンの決着は、そしてエールはどうなるのか!?次回”究極ロボヴァルシオン起動!”を待て!」
イサム「おい、作者」
Mk-Ⅳ「ん、何?」
イサム「お前のフォルダから違う小説が出てきたんだけど」
Mk-Ⅳ「ちょ!?勝手に漁るなよ!」
イサム「いいから答えろや」
Mk-Ⅳ「待て待て!刀を向けるな!ちゃんと説明するから!」
イサム「で、これは何だ?」
Mk-Ⅳ「いやさ、この小説ってさコミックスをベースにしているじゃん」
イサム「ああ」
Mk-Ⅳ「今、ジ・インスペクター編やってるけど。その先ってコミックス化されるのかなって最近思い始めたのよ」
イサム「まあ、先にアニメ化されるかだろうな」
Mk-Ⅳ「でしょ?まだジ・インスペクター編も完結してないしさ、ぶっちゃけ何年後って話になるわけよ」
イサム「つまり、それまでの繋ぎにしたいと?」
Mk-Ⅳ「そうそう。この先この小説進めなくなっちゃうかもしれないしさ」
イサム「それが何時になるかもわからんだろうが…」
Mk-Ⅳ「つーか、息抜きが欲しい」
イサム「そっちが本音か…。で、書きたい作品は?」
Mk-Ⅳ「”問題児たちが異世界から来るそうですよ?”にオリ主を混ぜたもの」
イサム「ほう、理由は?」
Mk-Ⅳ「アニメで知って、最近このサイトの作品を読んでいて主人公達のフリーダムさや設定に引き込まれていったのよ」
イサム「それでプロローグだけ書いたのか」
Mk-Ⅳ「うん、そう。DC戦争編が終わったら少しの間だけ新しいのを書いてみたいんだよね」
イサム「そこは読者の皆様の意見しだいだろうな」
Mk-Ⅳ「そんな訳でして、活動報告にこの件に関して書いておくので、よろしければご意見を下さい。それでは次回をお楽しみに!」


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第十六話

Mk-Ⅳ「お待たせしました!いよいよDC戦争編クライマックスです!」
イサム「……」
Mk-Ⅳ「あり、どしたのイサム?」
イサム「いやだって、お前半透明なんだもん…」
Mk-Ⅳ「ああ、黄泉の国から帰ってきたら体が見つからないんだよ」
イサム「まあ、俺が地面に埋めたからな」
Mk-Ⅳ「ひでぇ!?」
イサム「ほら、早く掘り返してこいよ」
Mk-Ⅳ「えー手伝ってよぉ」
イサム「このままだと気持ち悪いし、しょうがねえぇかぁ」
Mk-Ⅳ「ホント鬼畜だなお前!?」
イサム「それでは本編をそうぞ!」


DC本部アイドネウス島攻略のため、大気圏から降下したハガネは、トロニウム・バスターキャノンによる司令部制圧を試みるも、DCが保有するスペースノア級参番艦クロガネの妨害により失敗に終わる。

次なる策として機動部隊による直接攻撃に移り、ATXチームやラトゥーニと共に先陣を切るイサムは立ち塞がるケンとの一騎打ちに挑む。

死闘の末に待つものは…。

 

 

 

 

 

交差すると同時に、互いの刃がぶつかり合う。

一瞬の間の後、アリオールのシシオウブレードが砕け散り、膝を着く。

 

「敗れた、か」

 

自身の敗北を認めるケン。

だが、その表情には清々しさを感じられる。

 

「ケン…」

「さあ、お前の勝ちだ。首を取れ」

「断る」

「何?」

 

予想外の返答に、呆気に取られるケン。

 

「何故だ!?何故!」

「四年前、あの日お前は止めを刺さなかった」

「あれは、邪魔が…」

「それでも、お前なら俺を切ってから逃げることなんて容易かった。だから、その借りを返す」

「…また、敵として立つとしてもか」

「その時は遠慮なく切る」

 

不敵な笑みを浮かべるイサム。

 

「ならば行け。最後の試練へな」

「ああ」

 

そのまま立ち去っていくレオーネ。

 

「ホントに強くなりやがったよ、ばあさん」

 

満足げな表情で呟くケンであった。

 

 

 

 

 

「ここが、地下司令部への入り口か」

「誰もいないなんて無用心ねぇ」

 

地下施設へのゲートを見上げるキョウスケと、周囲に敵機の反応が無いのを訝しむエクセレン。

 

「罠、でしょうか?」

「その可能性が高いかと」

 

エクセレント同じように警戒しているブルックリンとラトゥーニ。

 

「先程のエールという女の言った、最後の試練がどういうものかは分からんが、今はハガネが到着するまで待機だ」

「ふー、やっと一息つけるわねぇ。そういえばラトゥーニちゃん聞きたいことがあるんだけど」

「何でしょう、エクセレン少尉」

「イサム君のどこに惚れたの?」

「ふぇ!?」

 

突然の不意打ちに、すっとんきょうな声を上げてしまうラトゥーニ。

 

「な、なななななな何を!?」

「いやー、だってお姉ちゃん分としては、そこん所知っておきたいし」

「そ、それはその…」

「ほらほら、プライベート通信にしてあげるから吐いちゃいなさいな!」

 

カモン!と手をわきわきと動かしながらと迫って来るヴァイスリッターに、じりじりと退がるビルトラプター。

 

「…止めなくていいんですか?キョウスケ少尉」

「…かまわん」

 

あ、面倒くさいんだなと思ったブルックリンだった。

 

 

 

 

 

暫くしてハガネと合流し、各機突入準備に入る。

 

「よし、全機突入…」

 

イングラムが突入を指示しようとした瞬間、地下施設へのゲートを赤と青の螺旋状のビームが吹き飛ばし、蛇のようにうねりながらハガネを掠める

 

「よくぞここまでたどり着いた」

 

ゲートから舞い上がった砂塵を払いながら、一体のロボットが歩き出てくる。

赤を強調し、相手を畏怖させんが如しデザインの50メートルクラス機体である。

 

「歓迎しよう。剣たる資格を持つ者達よ」

 

その名はヴァルシオン、DC総帥ビアン・ゾルダーク自らが造り上げた機体である。

 

「久しいな、ビアン」

「フフフ、まったくだ。ヒリュウの進宙式以来かダイテツ?」

 

互いに懐かしそうに名を呼び合う。

 

「単騎で我々と闘う気か?」

「いやその前に。我が軍門に降れいッ!」」

 

ダイテツが問い掛けると、堂々と言い放つビアン。

 

「お前達の力は見させてもらった。私が認めようお前達はこのホシを守る力たり得る。我が下に降り民草を守る剣となるのだ」

「ばっ、戦いを始めて無関係な人間を巻き込んだ張本人の言うことかよ!!」

 

自信満々に言いビアンに、リュウセイが仲間が思ったことを代弁する。

 

「力を持つ者の無知は罪だ。お前達は知らねばならん」

 

ビアンがそう言うと、それぞれの機体にあるデータが送られてくる。

 

「これは南極式典の会談記録か」

「EOTI特別審議会の議事録もだな」

 

イングラムとギリアムの言う通り、送られてきたデーターには、南極で行われた会談についての詳細が記されていた。

 

「あの時、あの場所で我々が行動を起こさねば、この地球は一部の思慮浅き為政者によって、異星人へ売り渡されていた」

「地球人同士が戦争する理由にはならねぇ!」

 

DC蜂起の理由を語るビアンに、それでも同じ星の人間同士で戦う必要は無かったと、否定するリュウセイ。

 

「この戦なくば、高次の技術と知識を持つ異星人と、対抗し得る力は地球人類には育たなかった。それはお前達自身の存在が証明しておる!」

「……」

 

ビアンの言葉に、敵となり立ちはだかったゼンガーを思い起こすキョウスケ。

 

「ごたくを並べちゃいるが、お前自身が世界を手に入れたかった、支配者になりたかったってだけじゃねぇのか!?」

「私は連邦とは違う自覚がある!この世界をこの手で守りたいという自覚、この星を愛しているという自覚が!」

 

マサキの言葉に自身の思いを語るビアン。

その時、空からレオーネが降りて来る。

 

「なら、俺達がとるべき道は一つ、アンタを倒すのみだ」

 

そう言って、シシオウブレード改をヴァルシオンへ向けるレオーネ。

 

「その機体、お前がケンの言っていたイサム・トウゴウか。ここに来たということは、ケンを打ち倒したか見事だ」

「ああ、次はアンタを倒す。それで、この戦いも終わりだ」

「あくまで連邦に順ずるか、それもよかろう」

「関係ねぇ。ただ、アンタのやり方を認めたく無いだけだ!」

 

そう言ってレオーネがヴァルシオンを指差す。

それに呼応するかのように暗雲がアイドネウス島を覆いだす。

 

「交渉は決裂か。だが、その決意あればこそこの場へ辿り着けたのだろう。それは好ましいものだ。しかしスペースノア級戦闘母艦。それはこれからの戦いに必要な船だ。」

 

ヴァルシオンの左腕に装備されている砲口が展開される。

 

「我らのものとするために、おとなしくしていてもらおうか」

「ッ!全機散開!」

 

攻撃を予測したイングラムの指示に従い、回避行動に入る各機。

 

「クロスマッシャァァァァァアアア!!」

 

ヴァルシオンの左腕の砲口から、ゲートを破壊したのと同じ、赤と青の螺旋状のビームが発射され、地面を抉り取りながら迫り来る。

機動部隊は回避出来たが、そのままビームがハガネの艦首へ向かっていく。

 

「どっせい!!」

 

ジガンスクードが射線上に割り込み、辛うじて受け止める。

 

「VLSホーミングミサイル全管射て!」

 

テツヤの号令と共に、ハガネからミサイルが発射される。

ミサイルがヴァルシオンの周囲に着弾し、砂塵が舞い上がり視界を塞ぐ。

 

「((間合いを詰めてあの大砲を封じる!))」

 

砂塵に紛れてクロスマッシャーを破壊しようと、リョウト機の援護を受けながらブルックリン機が切り掛かる。

迎え撃つべく、ヴァルシオンが右腕に保持している大剣を振り上げる。

 

「ディバイン・アーム!!」

 

大剣が振り下ろされて、リョウト機が左足をブルックリン機が右腕を切り飛ばされてしまう。

そこにR-ウィングとフライヤーモードのビルトラプターが、通り過ぎて上昇していく。

 

「うおお!」

 

PT形態に変形した二機が、ヴァルシオンの頭上からG・リボルバーとハイパー・ビームライフルで攻撃する。

だが、当たる前に弾道が不自然に曲がってしまう。

 

「油断大敵、大胆不敵!」

 

ヴァイスリッターや他の機体も射撃武器で攻撃するが、すべてヴァルシオンに当たる前に弾道が不自然に曲がってしまう。

それによりビアンの意識がヴァイスリッターらに向いている隙に、ヴァルシオンの背後に回ったアルトアイゼンが、突撃しながらスクエア・クレイモアを発射する。

クレイモアが爆発し、ヴァルシオンが爆煙に包まれる。

 

「!」

 

だが、無傷のヴァルシオンが爆煙を払い、ディバイン・アームをアルトアイゼンに横薙ぎに振るう。

 

「ほう」

 

ビアンが感心したような声を上げる。

アルトアイゼンが左腕を犠牲にして、刃を受け止めていたからである。

 

「…イルム中尉」

「おう!」

 

アルトアイゼンの背後から、グルンガストがヴァルシオンに殴り掛かる。

 

「グルンガスト!カザハラの息子か!」

 

ヴァルシオンがアルトアイゼンごとグルンガストを殴り飛ばす。

 

「うらぁぁぁぁぁぁぁアアア!」

 

今度はレオーネが空中から降下しながら、シシオウブレード改を叩き付けるも、見えない何かに受け止められてしまう。

 

「ぶち破れぇぇぇぇぇぇぇえええ!!」

 

機体とシシオウブレード改のスラスターがさらに噴射され、徐々に刃がヴァルシオンに迫っていく。

 

「むぅ!」

 

レオーネを右腕で掴み地面に叩き付けるヴァルシオン。

 

「その物言い!上から見下している奴に世界は救えねぇ!」

 

空中からサイバスターがハイ・ファミリアを召喚し攻撃する。

 

「気分で世界は、救えぬ!」

 

クロスマッシャーでサイバスターを叩き落とすヴァルシオン。

 

「ほう…」

 

今までの戦闘データーを分析し、何かに気付くイングラム。

 

「歪曲フィールドだな」

 

そこにギリアムの乗るゲシュペンストRタイプが歩み寄る。

 

「ハガネのトロニウム・バスターキャノンが使えるならともかく、手持ちの火力であれは破れんぞ」

「エクセレン、ラトゥーニ今の打ち込みの測距データをまわせ、トリガータイミングのログもだ」

「りょーかーい」

「了解」

 

イングラムが送られてきたデータを解析している間にも、ヴァルシオンの攻撃で行動不能に陥る味方機が増えていく。

 

「全機割り当てられたマーカーに従い、フォーメーションを変更。擱座(かくざ)した機体も使える兵装があればタイミングを合わせて打ち込め。始動タイミングは本機に合わせろ」

「待ってくれイングラム教官!突貫するならR-1の方が耐久力が高い俺が…」

「それでは最大効果時間を得られん。ミッションマニュアルに従えこれが最適のフォーメーションだ」

「教官…」

 

イングラムの指示通りに各機が配置に着いていく。

 

「まだ心は折れておらんようだな、それでこそだ。ならばこれを受け生き残って見せよ!」

 

ヴァルシオンの背部に設置されているユニットが展開される。

 

「我が意を識れ!メガ・グラビトンウェーブ!!!」

 

ヴァルシオンを中心に重力が増大し、周囲の物を押しつぶしていく。

 

「何…だ…これ…くそっ」

「空間が…ゆ…がむ…」

「重…い…動かね…え」

「重力…衝撃派が…発生…する…。この…ままじゃ…」

 

誰もが諦めかけた時、何かが飛び出し、ヴァルシオンのフィールドのぶつかる。

 

「がらぁぁぁぁぁァァァァァァアアア!!!」

 

レオーネがシシオウブレード改を、歪曲フィールドに突き刺しながらスラスターを吹かしていく。

 

「良い思い切りだな。だが、押し切れるか?」

 

「やったらぁぁぁぁぁァァァァァアアア!!!」

 

イサムの意思に応えるかように、出力が上がっていき間接部の輝きが増していくが、想定外の廃熱量に機体が溶解し始める。

徐々に刃が歪曲フィールドに食い込んでいくと、機体を束縛していた重力が緩んでいく。

 

「今だ!行けアルト!!」

 

他の機体より高い馬力を持つアルトアイゼンが拘束を抜け出し、歪曲フィールドにリボルビング・ステークを打ち込んでいく。

 

「アサルト1換われ!」

 

他の機体も拘束を抜け出し、ビルトシュバインがアルトアイゼンと位置を換える。

 

「サークル・ザンバー!」

「G・テリトリーカット!押しつぶせジガン!」

 

ビルトシュバインが右腕の光輪を歪曲フィールドに叩き付け、ジガンスクードが上空からのしかかる。

さらに他の機体も同時射撃を開始する。

 

「食い破れ!レオーネ!!」

 

レオーネがシシオウブレード改をさらに食い込ませる。

 

「T-LINKナッコォ!!」

 

R-1が念を纏った右腕で殴り付ける。

 

「保てよアルト」

 

アルトアイゼンが弾倉を交換したリボルビング・ステークを打ち込む。

 

「ぬッ」

 

攻撃を受け続けた歪曲フィールドが結晶化し、視認出来るようになっていく。

 

「見えた!計都羅喉剣真っ向唐竹割り!」

 

グルンガストが空高く飛翔し、計都羅喉剣で歪曲フィールドを斬り付けるとフィールドが砕け散る。

さらにグルンガストの背後から魔方陣が現れる。

 

「アァアカシックバスタァァァァァァアアアア!!!!」

 

サイバスターがサイバードに変形し、魔方陣を潜ると炎に包まれ、ヴァルシオンへと突撃していく。

 

「ぬるいわ!!!」

 

ヴァルシオンがディバイン・アームで突きを放ち迎え撃ち、切っ先と炎がぶつかり合う。

しかし、次第にサイバードに罅が入っていく。

 

「世界を守ると大口叩いた人間が、守るべき者を切り捨てるようなことは、口にしちゃならねぇんだ!」

「力を持つ者には責任がある!理想だけでは世界は救えぬ!!」

「”それを”捨てても、世界は救えねぇ!!」

 

拮抗していたエネルギーが大爆発を起こし二機を包む。

 

「正義の味方にでもなるつもりか」

「なる!」

 

爆発が止むと、左腕を失い傷だらけのサイバスターが、瓦礫を押し退けて右腕でディスカッターを支えに立ち上がる。

その視線の先には、コックピット以外の上半身を失い、両膝を地面に着いているヴァルシオンが映る。

 

「くっくっくっくっ、かっかっかっかっかっかっ!!」

 

剥き出しとなったコックピットで、傷だらけになりながらも実に愉快そうに笑うビアン。

 

「私にか勝った責任は取ってもらうぞ。世界をこの星を守ってもらう」

「言われるまでもねぇ」

 

損傷が限界を迎えたヴァルシオンが、小規模の爆発を起こし始める。

 

「おい!脱出しろ今なら…」

「寄るな!!!」

 

助けに向かおうとするマサキを制止するビアン。

 

「戦を始めた者の責任というものがある。それがどんな理想の果てであろうともな」

「……」

 

ビアンの言葉を噛み締めるマサキ。

 

「--何と目覚めるばかりに自然の照り映えていることよ」

 

旧西暦に詠まれた詩を紡ぎ出すビアン。

 

 

 

 

 

「何と大地の輝いていることよ」

 

 

 

 

「木々からは花が吹き出て、心からは歓喜が湧き溢れる」

 

 

 

 

「おお太陽よ黄金成すその美しさよ、お前は祝福するこの香しい大地を」

 

 

 

 

「私はどんなにお前を愛していることだろう。どんなにお前の目に輝いていることだろう」

 

 

 

 

「いつまでも幸せであれ、私がお前を」

 

 

 

 

「愛する限り」

 

最愛の者を思い浮かべながらビアンの意識は光に飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

ビアンと共に爆発したヴァルシオンを見つめるイサムだが、勝利したはずなのに素直に喜べないでいた。

他の者も同様なのか誰も言葉を発せずにいた。

 

「…任務完了。全機帰投せ…」

「まだだ!”奴が”いねえぇ!」

 

やがてイングラムが帰還を指示しようとするが、マサキがそれを遮る。

 

「何処かで見ている筈だ!出て来いシュウ!」

 

するとイサム達のいる場所の空が歪み始め、一体の人型機動兵器が姿を現す。

 

「!?こいつ今までどこに…」

「重力の井戸の底に身を隠していたか、重力の魔神グランゾン」

「シュウ・シラカワ…!」

 

突然現れたグランゾンに、驚くリュウセイと推論を述べるギリアム。

南極での出来事を思い起こし鋭く睨みつけるイサム。

 

「…何故、ビアンを見殺しにした?シュウ!」

「私はこの戦いの一部始終を、見届けるよう頼まれたまで。ビアン博士から一切手出し無用とね」

「とうとう捕まえたぜ!今度こそお前…を…」

 

グランゾンに仕掛けようとするが、ふらついてしまうサイバスター。

 

「およしなさい、ビアン博士と戦った後です。そんな元気が残っているはずは無いでしょう?」

「マサキ!プラーナの使いすぎニャ!これ以上は無理ニャ!」

「ぐ…」

 

それでも動こうとするマサキを止めようとするシロ。

 

「どの道あなた達と戦うつもりはありませんよ。あなた達には博士とした約束があるでしょう?」

 

シュウがそう言うと、徐々に上昇を始め暗雲を裂きながら、遠ざかっていくグランゾン。

 

「ま…て…」

「闘いに備えなさい、見も心も緩めることなきよう。その日は、ほんのすぐそこまで来ています」

 

サイバスターが手を伸ばすも、空の彼方へと消えていくグランゾン。

 

「グランゾンの反応完全に消えました。どうしますか艦長?」

「帰還だテツヤ大尉、それから休憩だ。今の我々に出来ることは何もないよ」

「そうですね…」

 

 

 

 

「……」

 

次々と味方機がハガネに帰還していく中、イサムはセーフティーモードとなった、レオーネのコックピット内で空を仰ぎ見ていた。

 

「(次なる戦いか…、アンタの想いはしっかりと受け取ったぞビアン博士)」

「イサムどうしたの?」

 

考えにふけっていると、ビルトラプターがレオーネの隣に歩み寄り、モニターに心配そうな表情をしているラトゥーニが映し出される。

 

「何、ちっとばかし誓いを立てたところさ」

「誓い?」

「そ、このこの星を必ず守り抜くってな」

「うん、そうだねこの戦いで散っていった人達の分まで、頑張らないとね」

「ああ、だからこれからもよろしくなラト」

「こちらこそ、よろしくねイサム」

 

そう言って笑い合いながら帰還していく二人であった。

 

 

 

 

アイドネウス島が陥落し、ビアン・ゾルダークを失ったDCの大半が連邦に降伏したことにより、後に”DC戦争”と呼ばれる戦いは終結した。

だが、それはこれから巻き起こる動乱のほんの始まりに過ぎなかったことを、イサム達は知る由もなかった。




Mk-Ⅳ「いやー戻れた戻れた」
イサム「つーか臭ぇ」
Mk-Ⅳ「お前が埋めたからだからね!?」
イサム「で、これからどうすんだ?」
Mk-Ⅳ「え?あ、うんとりあえず息抜きに違う作品を書いていこうかなと」
イサム「えー俺の出番が…」
Mk-Ⅳ「ああ、そこは心配いらんよ。お前が他の作品にいたらどうなるかって感じで書いていくから」
イサム「つまりパラレル的な感じか」
Mk-Ⅳ「そゆこと。細かいことは活動報告に載せますので、よければ見てみて下さい」
イサム「それでは、また会いましょう!」
Mk-Ⅳ「シュワッチ!」(某巨大ヒーロー風なポーズを取りながら、ワイヤーで持ち上げられていく)
イサム「手の掛かることを…」


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第十七話

Mk-Ⅳ「どうも。第三次Z発売を記念して久々に投稿しましたMk-Ⅳです」
イサム「覚えている人はいるのだろうかとイサムです」
Mk-Ⅳ「き、きっといるよ。ともかく!今回はL5戦役のプロローグなので短いです。ご了承下さい」
イサム「それではどうぞ!」


”DC戦争”が終結してから一ヵ月後、DCの大半は連邦に投降するも、今だ一部の戦力は残党化し抵抗を続けていた。

 

アフリカ地区 砂漠地帯

 

強い日差しが降り注ぎ熱砂が吹きすさぶ中、断続的に爆発と砲撃音が鳴り響く。

DC残党の、ランドリオン部隊が張り巡らす弾幕をものともせず、レオーネが突き進む。

時折砲撃が直撃するが、機体に周囲に張り巡らせたG・テリトリーによって阻まれる。

ランドリオン部隊は、キャタピラを全開にしながら後退しようとする。

その内の一機はレオーネの後方から飛来した弾丸によってキャタピラを破壊され擱座(かくざ)する。

 

「今だイサム!」

「おう!」

 

ランドリオンを擱座(かくざ)させた、ジャーダからの通信に答えながら、レオーネにシシオウブレード改を構えさせるイサム。

擱座(かくざ)したランドリオンをすれ違い様に両断し他の機体を追撃するレオーネ。

 

「うわぁぁぁあああ!来るなぁ!」

 

ランドリオン数機が接近を阻もうとマシンキャノンを放つが、装甲の硬さに任せて距離を詰め次々斬り裂いていく。

 

「おのれぇ!」

「怯むな!囲んで仕留めるぞ!」

 

三機のランドリオンが、レオーネの周りを旋回しながらレールガンを撃ち込んで行く。

シシオウブレード改を盾にしながら回避に専念するレオーネ。

 

「よし!このまま押しこ…がっ!?」

 

レオーネを包囲していたランドリオンの一機がコックピットを撃ち抜かれ横転する。

 

「カーク!?ぐぁっ!」

 

味方機が撃墜されたことに動揺し、動きを止めてしまったランドリオンが被弾し行動不能に陥る。

 

「う~ん狙撃って苦手なのよねぇ」

「文句を言わずに撃てガーネット!」

 

ブーステッドライフルを装備した、量産型ゲシュペンストMk-IIに搭乗しているガーネットがぼやくと、同じ装備の機体に乗っているジャーダに一喝される。

了解と答えながらランドリオンを狙撃するガーネットと、それに続くジャーダ。

 

「貴様ら連邦なぞにぃ!!」

 

右腕を狙撃によって破損しながらも、反撃しようとしたランドリオンを、投擲されたシシオウブレード改が貫く。

ランドリオンが機能停止したことを確認し、シシオウブレード改を引き抜くレオーネ。

 

「地上は片付いたか。後は…」

 

イサムが撃破したランドリオンから上空に視線を移すと、ラトゥーニの駆るフライヤーモードのビルトラプターがリオンと空戦を繰り広げていた。

と言っても、あちらももう直ぐ片付きそうだが、手を貸さないと小言を言われるので援護するために機体を飛翔させるイサムであった。

 

 

 

 

 

アイドネウス島での戦闘後、ハガネは伊豆基地へ帰還し、船体と艦載機の修復も含めて搭乗員には一週間の休養が与えられた。

そして、休暇が終わるとパイロット各員に召集が掛けられた。

 

伊豆基地 ブリーフィングルーム

 

「全員揃ったな。これより今後の作戦について説明する」

 

モニターの前に立っているイングラムがモニターを操作すると、世界地図が表示される。

 

「DC、コロニー統合軍共にその殆どが無条件降伏したが、戦後残党化し地下に潜った主幹クラスの部隊も少なくない。我々は今後これらの対応に当たることになるが、潜伏拠点の判明するまでは小規模戦力の鎮圧を行う」

 

再びイングラムがモニターを操作すると、モニターの世界地図に赤いマーカーが表示される。

 

「小規模とは言え残存勢力はいまだAM部隊を有しており、即存の連邦戦力では対処が困難だ。イスルギ重工により、連邦軍にリオンシリーズの生産ラインが提供されたため、順次連邦の機動戦力も拡充されるが、機種転換訓練も含めて暫くの時間が必要だろう」

 

「リオンシリーズって、敵が使っていたのを連邦も使うのか教官?」

「そうだリュウセイ。リオンシリーズの量産主力機としての優秀性は、先の連邦軍の敗退ぶりによって証明されている。形の上では外部のイスルギ重工によって生産ラインが敷設されたため、連邦による増産体勢への移行も障害は少なく、生産コストも低いからだ」

「そのイスルギはお咎め無しなんですか?」

「連邦議会での案件には上がったが、戦力拡充への協力を優先して取引が行われた様だ」

「背に腹は代えられないですか…」

 

イサムが手を上げながら質問をすると、止むを得んといった感じで答えるイングラム。

他の面々も不満はあるが、それ以上は言ってもしょうがないと、口に出すのを止めた様である。

それを確認してイングラムが説明を続ける。

 

「PT部隊はハガネ所属と言う形のまま小隊単位でローテーションを組む。編成は…」

 

 

 

 

 

「周囲に敵影無し、作戦終了」

 

周囲を索敵し、敵影が映らないことを確認してラトゥーニが告げる。

それを聞きヘルメットを脱ぎ、肩の力を抜くイサム。

 

「うっし、後は現地の部隊に任せて引き揚げるとしますか」

「そうしましょ。ここ紫外線が強くてお肌に悪いし」

 

この小隊の隊長であるジャーダが撤収を支持すると、早く伊豆に帰りたそうな表情のガーネット。

確かに日光が容赦なく降り注ぐこの地域は女性としては長居はしたくないだろう。

 

「にしても、残党て言っても結構な数がいるよね」

「指導者を失っただけで、組織全体の戦力は健在だから。大半が投降したと言っても、十分な戦力が残ってるの」

「それだけ、連邦への不満が溜まってるって訳か。俺達の活躍も持ってかれたしなぁ」

 

ラトゥーニの説明に、呆れ混じりに溜め息を吐くイサム。戦後、ハガネ・ヒリュウ隊の戦果は、EOT特別審議会が派遣した部隊によるものとされてしまったのである。

 

「今ならアイツが飛び出して行ったのもわかるねぇ」

「アイツってケンって人のこと?」

「ああ、素直に投降する奴じゃないから、今頃は何してるかなぁ…」

 

コックピットから見える空を見ながら、そう呟くイサムであった。

 

 

 

 

 

???

 

DC残党が潜伏している拠点の一つの内の部屋に、複数の人物が囲んで話せるようにテーブルと椅子が並べられており、二人の人間が向かい合って腰掛けていた。

 

「では、行くのだなエルザム少佐」

 

その内の一人、この拠点に潜伏している残党指揮官バン・バ・チュンが、向かい合っている人物に問い掛ける。

 

「はい、ビアン総帥から託された使命を果たすために。まずは、アードラー・コッホの暴走を止めねばなりません」

 

向かい合っている人物エルザム・V・ブランシュタインが答える。

 

「我々も協力したいが…。体勢が整っていないのだ。すまない少佐」

「いえ、補給を受けさせて頂けただけで十分です大佐」

 

申し訳なさそうに告げるバンに、感謝の念を込めて言うエルザム。

 

「君も頼むぞケン特務大尉」

 

バンの視線の先には、壁に背を預けて立っているケンがいた。

 

「ああ、ビアンのオッサンから貰った報酬分の仕事はさせてもらう」

 

バンの問い掛けに、腕を組んだまま視線だけを向け答えるケン。

 

「それでは、我々はこれで」

「君達の健闘を祈っているよ」

 

互いに敬礼し合うエルザムとケンにバンであった。

 

 

 

 

 

クロガネ艦橋

 

バンと分かれた後、クロガネに乗り込み艦橋へと入るエルザムとケン。

艦橋ではクルー達が発進に備えて動き回っていた。

 

「お二人さんお帰りんさいな」

 

作業を手伝っていたエールが二人を出迎える。

 

「病み上がりが何やってんだよ。寝てろって言っただろうが」

「医師から許可貰ってるし、いいじゃん。じっとしてんのは性に合わないし、リハビリも兼ねてさ」

 

半目で軽く睨みつけるケンに、おどけた様子で答えるエール。

 

「たくっお前という奴は…。もう元気になったのはわかったから、大人しくしていろ」

「えー。つまんなーい」

「『えー』じゃねえよ。ドアホウが」

 

不満そうに頬を膨らませるエールに溜め息を吐くケン。

そんな二人のやり取りを微笑ましく見守るエルザム。

 

「では、行こうか艦長」

「は!クロガネ発進っ!!」

 

今だ戦火の渦巻く世界の中、黒き鋼の艦も新たな戦いへと飛び立って行くのであった。




Mk-Ⅳ「にしても、クワトロは結局シャアになってアクシズ落としをやるみたいだね。何を思ったのだろうか?」
イサム「つーか、フロンタルただのコスプレじゃねーか!とか思ったのは俺だけだろうか…」
Mk-Ⅳ「そこらへんがどうなるのか楽しみだね。それでは、次回の投稿は未定ですがお楽しみに!」
イサム「今後も応援よろしくお願いします!」


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第十八話

Mk-Ⅳ「こちらではお久しぶりです、Mk-Ⅳです」
イサム「同じくイサムです」
Mk-Ⅳ「 -ジ・インスペクター- Record of ATXの新刊発売に合わせて投稿してみました」
イサム「発売から大分経ってるがな」
Mk-Ⅳ「うん、ぶっちゃけスランプ気味みたいなんよ」
イサム「まじか」
Mk-Ⅳ「うん、別に書いている作品がね、オリジナル展開にしたんだけどさ、ネタが思いつかないんだ」
イサム「遂に失踪か…。思ったより粘ったな」
Mk-Ⅳ「いやいやいや、しないからね!絶対最後までやるからね!」
イサム「ならいいがねぇ」
Mk-Ⅳ「取り敢えず本編どうぞ!」


伊豆基地の滑走路

 

アフリカでの作戦を終えたイサムらを乗せた輸送機が、伊豆基地の滑走路へと着陸する。

 

「う~ん、やっと帰って来られたねぇ。アフリカもアフリカで面白かったけど、ラクダ見れたし」

「うん、楽しかった」

 

輸送機から降りたイサムが、体をほぐすために柔軟運動をしながら、一緒に降りたラトゥーニとアフリカでのことで談笑していた。

 

「何だかんだで、日本に帰って来て落ち着くんだから、私達も日本の生活に慣れたもんよねぇ」

「そうだな第二の故郷ってやつだな」

 

イサムの後から輸送機を降りてきたガーネットとジャーダが、感慨深そうに呟く。

伊豆基地に配属されてそれなりになる二人は、日本を故郷と言えるくらい気に入っているのである。

 

「んじゃあ、報告とかは俺とガーネットでやっとくから、お前達は休んでていいぞ」

「分かりました、お願いします。」

 

そう言って、ジャーダやガーネットと別れるイサムとラトゥーニ。

少し歩いたところで、猛烈な勢いで人影がイサムに迫って来た。

影が飛びかかった瞬間、体を逸らして避けるイサム。

 

「きゃん!?」

 

可愛らしい悲鳴を上げて、地面に倒れこむ影ことエクセレン。

 

「よ、避けるなんて酷いじゃないイサム君…」

「ごめん、エクセ姉。つい反射で」

 

結構痛かったのか、涙目で起き上がるエクセレンに謝るイサム。正直そこまで悪いとは思っていないが。

 

「いきなり飛びかかるからだろう。自業自得だ」

「どうも、キョウスケさん。ブリットさんは落ち込んでますけど、どうしたんですか」

「いや、何でもないよイサム。はは…」

 

どんよりとしたオーラを纏いながら、いかにも無理して笑っているブルックリン。今にも泣き出しそうである。

 

「ほらこの子、療養している間、看護していた衛生兵の子がいたじゃない?で、その子に見事に恋に落ちたわけよ」

「ちょ、少尉!?」

「ああ、クスハさんですか」

「そ、でも悲しきかな、その子の側には既に別の男が…!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

わざとらしい演技をしながら説明するエクセレンに、崩れ落ちて両手と両膝地につけ号泣するブルックリン。その目からは赤い涙が溢れていた。

 

「あれ?あの二人って幼馴染だけど、別に恋人って訳じゃないですよ?」

「本当かぁ!!!」

「うひゃぁ!?」

 

物凄い形相で詰め寄ってくるブルックリンに怯えてしまい、ラトゥーニの後ろに隠れて子犬の様に震えているイサム。

 

「あ、あくまで、兄妹みたいなもので、れ、恋愛感情は持ってないと思いますよ、あの二人」

 

余程怖いのか声が思っいきり上擦っているイサム。今にも泣き出しそうである。

 

「な、なら、俺にもまだチャンスはあるのか?」

「は、はい」

「よっしゃぁ!頑張るぞ俺!ファイトだ俺!オッーーーーーー!!」

 

自分を鼓舞しながら一人で盛り上がるブルックリン。体から炎が燃え上がったいるようだ。

 

「あらあら、青春ねぇ」

「そうだな」

「う~~怖かったぁ」

「よしよし」

 

そんな彼を温かい目で見守っている上司二名と、ラトゥーニに頭を撫でてもらいながら慰められているイサムであった。

 

 

 

 

 

伊豆基地 司令室

 

伊豆基地に戻って来て数日後に、イサムとラトゥーニは司令室に呼び出される。

部屋には基地司令のレイカーとその腹心のサカエに、豪勢なドレスを身に纏った見慣れない少女に、その執事と見られる老齢の男性がいた。

 

「警護、ですか?」

「そうだ。こちらにおられるリクセント公国王女殿下、シャイン・ハウゼン氏の身辺警護を君達二人にしてもらいたい」

 

レイカーから紹介されたシャインが、座っていたソファーから立ち上がりイサム達に歩み寄る。

 

「始めまして、わたくしがシャイン・ハウゼンです。どうぞよろしくお願いいたしますわ」

 

両手でドレスの裾をつまみ、軽く持ち上げて頭を下げるシャイン。流れる様な動作に、高貴な身分だと言うことを感じさせられる。

 

「わたくしめは、シャイン王女にお仕えしておりますジョイス・ルダールと申します。どうぞお見知りおきを」

 

続いてシャインの後ろに控えていた執事の男性が、礼儀正しく頭を下げて名乗る。

 

「自分はイサム・トウゴウと申します。テスラ・ライヒ研究所から出向しております」

「私はラトゥーニ・スゥボータと申します。階級は少尉です」

 

民間人であるイサムは、両手を腰に合わせて深々と頭を下げて礼をし、軍人であるラトゥーニは敬礼をしながら自己紹介を行う。

 

「そのように畏まらなくても大丈夫ですわ。普段通りに振る舞って下さいな」

「王女それは…」

「よいのですジョイス。お世話になる身ですし、何より彼らとは友達…いえ、友人になりたいのですわ」

「…分かりました王女がそう望まれるなら」

 

執事と見られる男性と話終えると、改めてイサム達と向き合うシャイン。

そして、緊張した表情で、何か決意したように大きく深呼吸する。

 

「あの、実はわたくし友を言える親しい人がいなくて、皆わたくしが王女だからと遠慮してしまうんですの。だ、だから、どうかわたくしと友達になって下さいませんか!」

 

恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、たどたどしい口調で告げるシャイン。

彼女なりに精一杯勇気を出しているのだろう。

 

「うん、いいよ!俺からもお願いするよ。ね、ラト!」

「そ、そうだけど。いきなり馴れ馴れしすぎイサム」

 

普段通り過ぎるイサムの態度に、思わず注意してしまうラトゥーニ。

 

「ふふ、構いませんわ。これからよろしくお願いしますしますわ、イサム、ラトゥーニ!」

「こっちこそよろしく、シャイン!」

「よ、よろしくお願いしますシャイン王女」

 

余程嬉しいのか今にも踊りだしそうなシャインに、完全に素の態度になっているイサム。そして、生来の生真面目さに軍人であるため、馴れ馴れしい距離感に戸惑ってしまっているラトゥーニ。

 

「あら、シャインで構いませんわよラトゥーニ」

「いえ、流石にそれは…」

「ちょっと真面目すぎるよねラトって」

「あなたが軽すぎるだけ。普通は王女を呼び捨てにしないから。もう少し常識を身に付けてもいいと思う」

「せ、正論だけどヒデェ」

 

ラトゥーニの厳しいツッコミに項垂れるイサム。そんな二人のやりとりに思わず微笑むシャイン。

そんな三人を、温かく見守っている大人達であった。

 

 

 

 

 

伊豆付近の海岸

 

シャインと知り合ってさらに数日が過ぎ、イサムを始めとする一部のメンバーは海水浴に訪れていた。

天候にも恵まれ、照り出す太陽が夏特有の熱気を生み出していた。

そんな中、海岸の一帯がより激しい熱気に包まれていた―

 

「ぬぅおおおおおおおおおおお!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

主に二人の人間によって…。

一人はイサム・トウゴウ。もう一人はイングラム・プリスケンだ(ちなみにイサムは黒のトランクス型の水着にパーカーを羽織っており、イングラムは黒のブーメランパンツ型である)

ネットを挟んで、激しく交互にボールを打ち出している。

俗に言うビーチバレーである。

正確にはイングラム側にはSRXチーム、イサム側にはラトゥーニ、エクセレン、ブリットがいるのだが、ひたすら二人がスパイクを打ちまくっているので、余り目立っていないのだ。

 

「にして意外だよな。イングラム少佐ってこういうの参加しないと思ってたのに」

 

試合を観戦していたタスクがふと、隣にいたリオに話しかける。

 

「ああ、イサム君が誘って連れて来たのよ」

「へ~どうやって?」

「それがね―」

 

 

 

 

 

伊豆基地 通路

 

『今度の休暇に皆で海水浴に行くんですけど、少佐もどうですか?ビーチバレーとか』

『いや、そのその翌日にマオ社とテスラ研から届く機体の搬入準備があるので、遠慮させてもらう』

『少しくらい遊ぶ時間はあるでしょう?ああ、負けるのが怖いのならしょうがないですよねぇ。部下の前で惨めな姿を晒したくないですもんねぇ』

『(ピクッ)いいだろう行こう』

 

 

 

 

 

「―って」

「…スッゲーな、怖いもの知らずかあいつ」

 

イサムの恐ろしいまでの胆力に、感心するタスクら話を聞いていた一同であった。

 

「さすがは少佐、やりますね…」

「ふっお前もなイサム」

 

激しい点の取り合いの末、遂にイングラム組がマッチポイントとなり、エクセレンのサーブから始まる。

 

「エクセ姉ェ!」

「まっかせなさいイサム君。我が魅惑のサーブを受けよ!」

 

軽い言葉とは裏腹に、コート端に突き刺さる様な鋭いサーブが放たれる。

 

「リュウセイ!」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!燃えろ俺の何かぁ!!」

 

撮り損ねたら何をされるか分からないので、必死にレシーブするリュウセイ。

 

「少佐!」

「ハァッ!」

そして、リュウセイが上げたボールをアヤがトスすると、助走をつけてジャンプするイングラム。

 

「デット・エンドシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥトォ!!!」

 

イングラムが打ち出したボールは弾丸の如き速度で―

 

「ギャン!?!?」

 

イサムの顔面に突き刺さった。

 

「む、無念…」

 

そう呟いて仰向けに倒れるイサム。

 

「ゲームセット!イングラム組の勝利!」

 

審判を務めていたジャーダの宣言に合わせて、観戦組から喝采があがった。

 

「お、終わった…」

「やれやれだな…」

 

無事に試合が終わったことに安堵するリュウセイとライディース。

ライディースは本来、日焼けが嫌なので参加しない予定だったのだが、イングラムに命令されて連れて来られたのである。

 

「では、俺は戻る。もう暫くしたらお前達も戻れよ。その後SRXチームはミーティングだ」

 

そう伝えて立ち去ろうとするイングラム。その表情はどこか、充実感を得られたように感じられる。

 

「了解です。あの、少佐…」

「何だ?」

「いえ、何でもありません。すみません、引き止めてしまって」

 

イングラムを引き止めるアヤ。

だが、伝えたいことを言葉にすることが出来ず、諦めてしまう。、

 

「アヤ」

「は、はい!」

「その水着は、悪くないと思うぞ」

「!あ、ありがとうございます!」

 

アヤの水着を褒めると去っていくイングラムだった。

 

 

 

 

 

「う、う~ん」

 

暗闇の中で目を覚ますイサム。

かすかに聞こえてくる波の音で、自分が海にみていたことを思い出す。

ああ、そういえばビーチバレーで、顔面にスパイクされたボールが直撃したんだったなぁと、意識を失う前のことを思い出した。

そして現在、自分は寝かされているようだ。体から砂浜の感触がある。

でも、何やら頭の後ろ側から柔らかい感触と程よい温もりが伝わってくる。昔、おばあちゃんに膝枕してもらった時の感覚に似ているなぁとぼんやりと考えるイサム。

 

「イサム?目が覚めた?」

 

不意に頭上から声がしてくる。心配してくれているラトゥーニの声だ。

 

「うにゃぁラトぉ?」

 

ゆっくりと瞼を開けると、思いがけない至近距離でラトゥーニが自分を見下ろしていた。

 

「うにゃぁ!?」

 

予想外の距離で見つめ合っていたので、思わず起き上がろうとしたら、ラトゥーニに両手で頭を掴まれて固定された。

 

「ちょ、ラト!?痛い、痛い!ギリギリいってるから!めちゃ痛いから!」

「いいから、じっとしてる」

「あっハイ」

 

いつになく強い口調で言われたので、大人しくなるイサム。

それを確認すると手に込めていた力を緩め、イサムの頬に両手を添えるラトゥーニ。

くすぐったいが心地よい感触に、自然と落ち着きを得るイサム。

 

「そう言えばラト」

「何?」

「その水着似合ってるよ」

「うん、ありがとう」

 

イサムが水着を褒めると、ラトゥーニが顔を赤くしながらも嬉しそうに微笑む(ラトゥーニが来ているのは、フリルをあしらった白色のワンピースタイプである」

そんなラトゥーニを見ていると、不意に顔が赤くなって、心臓の鼓動がうるさく感じる程早くなっていた。

そのまま、話すこともなく無言だったが、気まずさは無く寧ろずっとこうしていたいと思えた。

 

「平和だね」

 

ふと、ラトゥーニがそっと呟いた。

その視線の先には、他のメンバーが水遊びをしたり泳いだりと楽しんでいた。

 

「うん、そうだね」

「ずっと、このままだったらいいのにね」

 

本当にそうだったらいいなと考えるイサム。

しかし―

 

「アイドネウス島で、シラカワ博士が言っていたこと覚えてる?」

「うん、『戦いに備えなさい』って言っていた」

 

アイドネウス島での決戦の後、シュウ・シラカワが告げた内容を思い返す二人。

 

「まだ、戦いは終わってないんだ。だから―」

 

そう言いながら頬に添えられていたラトゥーニの手に、自身の手を重ねるイサム。

 

「君は俺が守るよ。何があっても」

「私もあなたを守るから」

 

見つめ合いながら、重ねていた手を握り合うイサムとラトゥーニであった。

今、人類の新たな試練が始まろうとしていた…。




Mk-Ⅳ「でさ、スランプ気味って言ったじゃん」
イサム「ああ」
Mk-Ⅳ「それでさ、前から書いてみたかったのがあるのよ」
イサム「新作を書くだと?そうやって新しいのばっかり書いて、完結出来ないパターンじゃねえか?」
Mk-Ⅳ「さ、三作までなら大丈夫だって(震え声)」
イサム「とにかく、読者様を失望だけはさせるなよ」
Mk-Ⅳ「ウッス!細かいことは活動報告に書きますので、よければご確認下さい」
イサム「それでは、ご愛読ありがとうがざいました!」
Mk-Ⅳ「あざっしたぁ!」


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第十九話

お久しぶりです。
天獄編発売記念に投稿しました。一体どんな展開になるか楽しみですね。


DC戦争が終結して間もなくL5宙域に突如として天体規模の人工物が転移出現し、連邦軍はそれを”ホワイトスター”と呼称した。

そして、ホワイトスターは世界各地にバグズの大群を送り込んで来たことにより、エアロゲイターが遂に侵攻を開始したことを地球人へと告げたのである。

空間転移による波状攻撃により苦戦を強いられる連邦軍。そんな中ハガネは攻撃を受けている北京への救援に向かっていた。

 

ハガネ格納庫

 

「R-3とR-GUNも実戦投入するのかぁ」

 

格納庫にはR-1と同列機であるR-3とR-GUNに、DC残党掃討時にロールアウトしていたR-2が並んで配置されていた。

その側でリュウセイらSRXチームが話し合っており、そこから少し離れた位置でイサムやキョウスケ達が機体を眺めていた。

 

「わお、こうして見ると壮観ねぇ」

「これでSRX計画も本格的に始動する訳だな」

 

RシリーズにはEOTの他に最新技術がふんだんに取り入れたれているが、その調整に手間取り先のDC戦争では、比較的調整しやすかったR-1のみがロールアウトするに留まっていた。

 

「あたしらの方にも新型の試作機でも回して欲しいぜ」

「今の状況だと、ゲシュペンストに乗れるだけ幸いだと思いますよカチーナ中尉?」

 

現在主力PTであるゲシュペンストはEOT特別審議会の妨害により、30機程度しか量産されておらずAMの配備も始まったばかりなので、連邦軍の主戦力は今だに戦闘機や戦車と言った現行兵器が担っているのである。

 

「何ならレオに乗ります?中尉なら相性いいと思いますよ?」

「いや、あんなの乗りこなせるのはお前かキョウスケくらいなもんだろ…」

 

イサムの提案に苦笑いしながら遠慮するカチーナ。

DC戦争時大破した以前のイサムの愛機、量産型ゲシュペンストMK-Ⅱ・カスタムことレオは、予備戦力として修復されハガネに配備されていたのだ。

流石のカチーナもあのぶっ飛んだ仕様は扱いきれないと判断した様である。ちなみに以前にたコンセプトのアルトアイゼンに、ブリットがシュミレーターで搭乗したらGに耐え切れず体調を崩したそうである。

 

「それにしても。ここら辺は全然被害を受けていないな」

「各地の首都への攻撃は、今の所殆ど確認されていないみたいだよブリット」

 

リョウトの言う通りエアロゲイターが目標としているのは、地方の都市を中心としており、軍事基地やホワイトスターに近いコロニーと月は攻撃を受けていなかった

 

「それって普通逆じゃね?」

「タスクの言う通りだがエアロゲイターは、意図的にこちらの戦力を削らない様にしていると見るべきだろう」

「つまり手加減してるってことですか?何のために…」

「占領後のことを考えているのか、あるいは別の目的があるのかもしれんが…いずれにせよ」

「舐められてるってことか!クソッ!」

 

怒りにませて左の手の平に右拳を打ち付けるカチーナ。他の者も同じ様な気持ちなのだろう、皆怒りを滲ませた表情をしていた。

 

「お前らそろそろ戦線に着くぞ!出撃準備に入れ!」

 

イルムの号令にそれぞれ己の機体に搭乗していく。

 

「(遂にエアロゲイターとの戦いが始まったんだ。敵がどんなに強くたって、皆で力を合わせて生き残るんだ!)」

 

レオーネに乗り込んだイサムはそう願った。仲間と共に無事戦い抜くことを。

 

 

 

 

 

しかし、その願いは最悪の形で裏切られることとなるのだった――

 

 

 

 

 

北京

 

戦場へ到着したハガネを中心として機動部隊を展開し、それぞれにエアロゲイターを迎撃していた。

その中でイサムはATXチームと共に先陣を切っていた。

 

「うらああああああ!」

 

レオーネがブレードで、蜘蛛型の陸戦機”スパイダー”と呼称されている機体を次々と薙ぎ払っていく。

アルトアイゼンやヴァイスリッターを始めとするATXチームや、他の機体も次々と撃破していくが、次々と敵機が転移によって現れ続けていた。

 

「くっまだ増えるのか!?」

 

津波の様に押し寄せてくる敵に疲労の色を滲ませるイサム。

戦闘を開始してからかなりの時間が経つが、今だに敵の勢いが衰える気配は無かった。

 

「これは、ちょっと厳しいわねぇ」

「覚悟はしていた。やるだけだ」

「右から敵群体来ます!」

 

今まで正面からのみ敵が来ていたが、新たに右からの攻撃に晒される先陣部隊。

 

「私が迎撃します!マキシ・ブラスター!」

 

援護のために合流していた、クスハの乗るグルンガスト弐式が胸部から放った高出力ビームが、敵の群体を焼き払う。

 

「ラトゥーニ少尉、戦況はどうか!」

「敵が我々を包囲する様に展開し始めています。また各部隊の損耗率も増加しています」

「空はマサキさんとタスクさんがMAPW(大量広域先制攻撃兵器)で抑えてくれてますけど…」

「流石にそろそろ限界よねぇ」

 

エクセレンができるだけ士気を下げないために軽い口調で言うが、このままでは全滅の可能性が高いことは皆理解していた。

それでも諦めずに奮戦するが、敵に変化が見られた。ブルックリンが駆るヒュッケバインMk-IIが放ったフォトン・ライフルが、スパイダーに当たる前に何かに弾かれたのだ。

 

「!?バリア・フィールドだと!」

「そんな情報なかったぞ畜生が!」

「奴らめ新たなカードを切ってきたか」

「わお!そんなサプライズお断りよぉ!」

 

敵が見せた新たな機能にも即座に対応するも、次第に押し込まれていってしまう。

 

『スティール2より各機へ!これよりSRXチームがパターンOOCを実行する、可能な機体は援護せよ!』

「パターンOOC?確かSRXチームの特殊フォーメーションか!」

「各機聞こえたな。ここが賭けどきだ行くぞ!」

「了解です!キョウスケ中尉!」

 

SRXチームの進路を確保するためにルート上の敵機を撃破していくイサム達。

援護を受けたR-GUN以外のRシリーズが変形し合体を開始した。

だが途中でフォーメーションが崩れ、三機共墜落してしまう。

 

「ッ!失敗したのか!?」

「エクセレン。SRXチームのフォローに入る先行しろ」

「おーらいッ」

 

リュウセイらを援護するために急行するイサムら――

 

 

 

 

――そこでR-GUNがR-3を撃つのを目撃した。

 

 

 

 

「何だ?R-GUNがR-3を撃った様に見えたが、誤射か?」

「いえ、違います」

こっち()からは見えてたわ。確実にロックオンしてから撃った」

 

 

 

 

「故意よ、あれ」

 

 

 

 

「そんなッ!そんなのある訳ない!だってあんなにアヤさんのこと大切に…!」

 

イサムの脳裏には不器用ながら、アヤのことを気にかけていたイングラムの姿が思い起こされていた。

そんなイングラムアヤを傷つけたことが、イサムには信じられなかった。

 

「俺がこちら側でやるべきことは終わったか。状況を次の段階に進めるとしよう」

 

イングラムがそう言うと、R-GUNの背後に未確認の人型機動兵器が多数転移出現し、R-GUNの合図と共に一斉に射撃を開始した。

イングラムの裏切りに動揺してしまっていたイサムは回避できず、G・テリトリーでかろうじて受け止める。

 

「ぐぅあああああ!」

「イサム!」

 

ラトゥーニのビルドラプターが援護射撃を行うも、人型もバリア・フィールドを展開し防がれる。

一方でアルトアイゼンがステークをR-GUNに打ち込もうとし、後方に飛び退き回避させた所をヴァイスリッターが狙撃するがこれも機体を回転させながら避けられる。

 

「敵対異星勢力に、交渉が可能な人型生命体が存在していることは、南極会談の時点で分かっていた。地球側の技術の分が悪いこともだ。異星勢力に寝返ろうと言うのか、イングラム・プリスケン」

「――薬が効き過ぎたか、読みが足りんぞキョウスケ・ナンブ。まだお前達に与えられてない情報は多い。例えば――」

 

 

 

 

「そもそも俺は、地球側へ潜入してきた異星人のスパイ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)であるとか、だ」

 

 

 

 

『!』

 

イングラムが放った言葉は、聞いていた者全てに衝撃を与えるには十分過ぎるものだった。

 

「そんな、教官が…異星人?それじゃ俺に…俺達に強くなれって地球を守れる力をつけろって、教えてくれたことは全部嘘だったのかよ!?」

「いいや、それは本当だ。お前達をそれだけの力を持った兵器(・・・・・・・・・・・・)として完成させようとしていたのは事実だからな。だが――」

 

言葉の途中で飛来したビーム・チャクラムを避け、R-2の右腕を切断するR-GUN。

 

「そう言った試作兵器に失敗作はつきものだ。アヤ・コバヤシがそうであったように。ライディース・F・ブランシュタインがそうであるように」

「少佐ッあなたはッ」

「ヒュッケバインのブラックホールエンジン機動試験をしくじり。テクネチウム基地をその職員共々消滅させた負い目が、貴様を奮起する糧となると踏んだのだがな。やはり念動能力者でもない貴様に、R-2のシートは荷が重すぎたようだ」

 

イングラムの言葉に言い返せずに、歯を噛み締めるしかできないライディース。

 

「くッそおおッ」

 

リュウセイが叫びながら、G・リボルバーは放つも碌な狙いが定まっていないため、簡単に避けられてしまった。

 

「だがリュウセイ。お前にはまだ見込みがある。作動不良を起こした部品を廃棄し、新しい部品を集めろ。念動力能者の候補にはこの部隊でなら困らない筈だ。そして俺を追って来い。今度は敵として俺がお前を鍛えてやる。お前をよりハイクラスの念動駆動兵器として完成させてやる。そして――」

「イングラムウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」

 

レオーネが上空からR-GUN目掛けて、ブレードを振り下ろすも読まれていたかの様に回避されてしまう。イサムの怒りに比例する様に、叩きつけられてブレードによって、地面にクレーターができていた。

 

「イサム、貴様も非念動能力者として興味深いサンプルだ。お前もリュウセイと共に鍛えてやろう」

「信じてた!皆あんたを信じていた!仲間だと思っていたんだ!」

 

ブレードを下段から振り上げるが、機体を僅かに逸らして回避するR-GUN。

すかさず振り上げた勢いを利用して回転しながら横薙ぎに振るうが、R-GUNは跳躍して避けるとレオーネの顔面を蹴りつけその反動を利用して距離を取った。

蹴られた衝撃で態勢を崩してしまうが、直ぐに立て直し、再びR-GUNに突貫するレオーネ。

R-GUNが足を止めようと放たれたツイン・マグナライフルをG・テリトリーで強引に受け止めながら突き進む。

そのまま肉薄すると、怒りに我を忘れてブレードを振るうイサム。無論そんな攻撃がイングラムに通用する筈もなく、軽々とあしらわれている。

 

「そう思っていたのはお前達だけだ。俺にとってお前達はただのサンプルに過ぎん」

「アヤさんは、アヤさんはあんたを――!」

「奴の感情は実に利用しやすかった。せっかく手塩をかけて育ててやったが、期待外れだったな」

「貴様アアアアアアアアアァァァァァァァァッ!!!」

 

なおもがむしゃらにブレードを振るうが、逆に右肩にビームカタールソードを突き立てられてしまう。

 

「オオオオオオォォォォォォォ!!!」

 

片手になってもブレードを振るおうとするも、重量のあるシシオウブレード改を片手ではまともに振るえる筈も無く、あっさりと左腕を切断されてしまう。

 

「いいぞ、その獣ような闘争本能は実に興味深い。もっと怒れ、そして俺を憎め。それがお前の力となる」

「イングラム・プリスケンッッ!!!」 

 

武器を失ってもイングラムへ迫ろうとするイサム。だが敵人型が進路を阻むように並び、一斉に銃口をレオーネへと向けると発泡した。

 

「イサム、だめ!」

 

レオーネに迫るビームをビルドラプターが身代わりとなって大破してしまった。

 

「ラト!?」

 

崩れ落ちるビルドラプターを受け止めて呼びかけるも、返事は返ってこなかった。

 

「ラト!返事をしてくれラト!」

 

いくら呼びかけても返ってくるのはノイズだけだった。

 

「(俺の、せいだ…。怒りに任せて戦って、ラトを傷つけて…。守るって約束したのにッ!)」

 

悔しさの余り、歯を噛み締めて操縦桿を握り締めるイサム。

その間にも2機の人型が、ゆっくりとした足取りで二人へと迫って来ていた。

そして人型がレオーネを抑え込むと、1機のバグズがビルドラプターを抱えだした。

 

「ッ!?何…してんだよ…オイッ!!」

「サンプルをいくつか回収しておこうと思ってな。ラトゥーニ・スゥボータは、お前にとっていい起爆剤になるので適任だな」

「ふざ、けんなぁ!!!」

 

人型を振りほどこうとするも今のレオーネにその力は無かった…。

ゆっくりとビルドラプターを抱えながら、浮かび上がるバグズ。イサムにはそれを、ただ見ているしかできなかった。

 

「やめろ、ヤメロォォォォォォォォォォォ!!!」

 

イサムが叫んだ瞬間。ビルドラプターを抱えていたバグズが、飛来してきた影に両断された。

支えを失い落下しようとしたビルドラプターを影が片手で掴んだ。

 

「アリオールだと?」

 

イングラムが訝しげに影の名を呼んだ。流石にこの展開は予測していなかった様である。

アリオールはレオーネとR-GUNの間に降り立ち、ビルドラプターを地面へと降ろした。

 

「無様だなイサム。全くもって情けない」

 

アリオールから不機嫌そうなケンの声が響いた。今のイサムの姿に苛立っているのだろうか?

 

「ケン、どうして?」

「ビアンのおっさんに頼まれた仕事をしにきただけだ。こいつら(エアロゲイター)を潰せってな」

 

ケンがそう言うと周囲で激しい爆音が響く。イサム達から少し離れた場所で、ディバイソンが持ち前の火力でエアロゲイターの機体を殲滅していたのだ。

R-GUNが手で指示すると、レオーネを抑えていた人型がサーベルを構え、左右からアリオールへと襲いかかった。

 

「フンッ」

 

ケンがつまらなさそうに息を吐くと、同時に振り下ろされたサーベルを、その場でコマの様に回転しながら両手のブレードで弾いた。

そして一体目を、回転の勢いを利用し振り上げたブレードで両断すると、もう一体の頭部を右足の鉤爪で鷲掴みにしたら、地面へと勢いよく叩きつけてR-GUNへと投げ飛ばした。

飛んで来た人型を躊躇いなく切り落とすR-GUN。すると目の前にアリオールが両手のブレードを振り上げ様としていた。投げ飛ばした人型を目くらましにして接近したのだ。

迫る刃をバク転して飛び退いて回避したR-GUNはそのまま距離を取った。

 

「チッ」

 

攻撃を外したことに舌打ちしたケンが、再びR-GUNに突撃しようとするも、上空から降ってきたエネルギー弾に阻まれる。

上空から先程戦っていた人型の上位機種と見られる機体が、R-GUNを守るように降り立った。

 

「イングラム。サンプルの確保は完了した戻れるわよ」

「そうか。ならばもうこの場に用は無い」

 

イングラムがそう言うとR-GUNが飛び上がり、高度を上げていく。

 

「奴め、させん!」

 

イングラムが何をしようとしているか気がついたケンが追撃しようとするも、上位機種がライフルで足止めをしてきた。

 

「フフフ…。R-GUNメタルジェノサイダーモード…」

 

戦場を見渡せる位置まで上昇したR-GUNが変形を始めた。

 

「トロニウム・エンジン、フルドライブ」

 

機体そのものが銃と言える姿となったR-GUNが、銃口を真下の戦域へと向ける。

 

「デッド・エンドシュート…」

 

ハガネのトロニウム・バスターキャノンに匹敵するエネルギーが銃口から放たれ、イサムらのいる戦場が閃光に包まれた。

 

「う、うわアアアアアアアアァァァァァァァァ!!!」

 

衝撃からビルドラプターを庇う様に抱えていたレオーネだが、耐え切れずに吹き飛ばされてしまう。

 

 

 

 

閃光が収まると、エアロゲイターの姿は無く。甚大な被害を受けたハガネ隊のみが残されていたのだった…。



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第二十話

お久しぶりです。
OGシリーズの新作が発表されたし。何よりこの作品を放置してから1年が経とうとしていたので、更新しようとしていたら。仕事や諸々のためにモチベーションが上がらず、手間取ってしまいましたが、なんとか1年以内に更新することができました。
…と言っても戦闘部分は長くなりそうだったので、会話部分だけなんですけどね。申し訳ありません。



クロガネ 個室

 

「ねえ。あのまま帰ってきてよかった訳?」

 

艦内に割り当てられた部屋の椅子に腰掛け、背もたれに両腕を乗せ、その上に顎を乗せているエールが部屋の主に話しかける。

 

「構わん。ビアンやマイヤーのおっさんを倒した連中が、あれくらいで潰れるものか」

 

話しかけられたケンは、頭の後ろで両手を組みベットの上で寝転びながら、気楽そうに答える。

彼らは北京での戦闘後、甚大な損害を被ったハガネ・ヒリュウ隊に、最低限の支援をしただけで離脱したのである。

 

「それでもイサムって子くらいには、声かけてくべきだった思うけどなぁ。家族なんでしょ?」

「昔の話だ。あの日俺が過ちを犯した日から、俺はトウゴウの名を捨てた」

「それはあんたが思っているだけで、他の人達はどう思っているのかは聞いてないんでしょ?」

「……」

 

エールの言葉に口をつぐむケン。

 

「『あの人』はもう話せる状態なんだから、いっぺん話してみなよ」

「不要だ。何も話すことはない」

 

そう言って姿勢を変えて背を見せるケンに、軽く溜息をつくをエール。

 

「ホントは話したいんでしょ?やれる内にやっとかないと後悔するわよ」

「……」

 

返事をする気が無いケンにヤレヤレと言った顔で、もう一度溜息をつくと、椅子から立ち上がりベットに近づき潜り込んだ。

そんなエールを上半身を起こして億劫そうな目を向けるケン。

 

「…何をしている?」

「疲れたからもう寝る~」

「なら出て行け」

「嫌で~す。人の話を聞かない奴の言うことは聞きませ~ん」

 

エールの言い分にぬぅ、と言い返せないケン。そんなケンを他所に1つしかない枕を占有してくつろぐエール。

 

「知るか。狭いんだよボケ。さっさと…」

「zzz」

「もう寝やがったこいつ」

 

相変わらず早いなと呆れているケン。こうなったら最早何をしても無駄なので、放置することにする。

 

「たくっ、ホントにお節介な奴だ」

 

呆れ顔で軽く溜息をついて呟くと、横になるケン。しかしその口元は笑っているのであった。

 

 

 

 

伊豆基地 医務室

 

「ぐぅう…」

 

イサムが目を覚ましたのは医務室のベットの上であった。

 

「イサム!」

「ラト…。ここは?」

 

ベットの側に設置された椅子に腰掛けていたラトゥーニが、イサムが目を覚ましたことに気がつき安堵した顔をしていた。だが、身体の所々に包帯を巻いており、痛々しい姿をしている。

 

「ここは伊豆基地の医務室。北京での戦闘後、あなたは気を失っていたの」

「北京…」

 

ぼやけていた意識が覚醒していく中で、ラトゥーニの言葉によって意識を失う前の記憶が呼び起こされていく。

エアロゲイターとの激戦の中。戦況の打開を図りSRXチーム『パターンOOC』を実行するも、失敗してしまう。

 

 

 

 

そして、イングラムがアヤを撃つ瞬間を思い出す――

 

 

 

 

「ッッッ!!!」

 

急速に意識が覚醒し、反射的に上半身を起こすイサム。動悸が激しく呼吸さえままならず、苦しさの余り胸を強く抑えるが。身体はふらつき今に倒れてしまいそうであった。

 

「イサム!大丈夫!?」

 

そんなイサムの様子に、慌てて身体を支えるラトゥーニ。

 

「大丈夫。大丈夫だから…」

 

ゆっくりと深呼吸しながら息を整えるイサム。そしてある程度落ち着いたところで、ラトゥーニと視線を合わせながら口を開いた。

 

「それより、ラト…。イングラム少佐は…?」

 

イサムの問いに言葉を詰まらせるラトゥーニ。真実を告げるべきか迷うが、イサムの真っ直ぐな瞳に、誤魔化しは効かないと悟った。

 

「イングラム少佐はエアロゲイターと共に、私達を攻撃した。彼はエアロゲイターのスパイだった」

「やっぱり。あれは夢じゃなかったのか…」

「うん」

 

ラトゥーニの言葉に俯くイサム。そんなイサムの手に、ラトゥーニは自身の手を重ねた。

 

「あの人はぶっきらぼうだったけど、アヤさんや皆のことを大切にしてくれていた」

 

 

 

 

夢であってほしかった――

 

 

 

 

「どんな時でも俺達を信じて一緒に戦ってくれた」

 

 

 

 

信じていた――

 

 

 

 

「あの人となら、エアロゲイターにだって勝てると思っていたんだ」

 

 

 

 

仲間だと思っていた――

 

 

 

 

――なのに、それは偽りのものだったの?

 

 

 

 

拳を握り締めているイサムの言葉を、静かに聞いていたラトゥーニ。涙を流したイサムを彼女はそっと抱き寄せた。

 

「なのに…。なんで、なんでだよぉぉぉおおおおおおおお!!!」

 

ラトゥーニの胸に顔を埋めて泣くイサム。そんな彼の頭を優しく撫でるのであった。

 

 

 

 

暫く泣いた後、イサムはラトゥーニから離れると。みっともない姿を見せてしまったと思っているのか、気まずそうに視線を泳がせていた。

 

「変なところ見せてごめん…。それと、ありがとうね」

「ううん。大丈夫」

 

照れくさそうに頬を掻くイサムに、微笑むラトゥーニ。

 

「そう言えば皆は?」

「負傷者はいるけど、皆無事よ。でも、エクセレン少尉とクスハ曹長が連れ去られてしまったの…」

「エクセ姉とクスハさんが!?」

 

ラトゥーニから告げられた内容に驚愕するイサム。

 

「そんな…。俺のせいだ…」

「イサム?」

「俺があの時イングラムを止められていれば、こんなことには…!」

「それは違う!イサムは精一杯のことをした!あなたのせいじゃない!」

 

再び拳を握り締めて苦悶の表情を浮かべるイサムを、どうにか宥めようとするラトゥーニ。

 

「それに、君を守るって約束したのに。俺が我を忘れたせいで君を傷つけてしまった…。俺にもっと力があれば!」

「お前だけのせいじゃないさ」

 

不意に聞こえてきた声のした方を向くと、イルムガルトが部屋の入口に立っていた。

 

「イルム兄…」

「今回の件は、イングラム少佐…。いや、イングラムの正体の見抜けなかった俺達にも責任がある。俺なんか奴の部下だった時もあったのにな…」

 

イサム達の側まで歩み寄ったイルムガルトは、そう言って自嘲気味に笑った。彼はかつて、イングラム・プリスケンが隊長を務める、PTXチームと呼ばれる特殊部隊に所属していたのだ。

 

「俺達大人がもっと早くに、イングラムの奴の正体に気がついていれば、こんなことにはならなかった。だからそんなに自分を責めるな」

「でも…!」

「イサム」

 

イサムの言葉を遮ったイルムガルトは、目線を合わせながらイサムの頭に手を置く。

 

「お前の責任感の強いところは悪いとは言わん。だけどな、俺達はそんなに頼りないかく見えるか?」

「そんなことない!そんなことある訳ないじゃないか!」

「だったら1人で背負い込もうとするな。俺達仲間にも責任を背負わせろよ」

 

言いながらイサムの頭を、多少乱暴にだが撫でるイルムガルト。

 

「うん、そうだね。ありがとうイルム兄」

「ま、たまには兄貴分らしいことをしないとな」

 

撫でていた手を話して二カッと笑うイルムガルト。それに釣られて笑うイサム。そんな2人の姿は、血の繋がりは無くともまさしく兄弟であると、見守っていたラトゥーニは思うのであった。

 

「お取り込み中のところ申し訳ないが、失礼するよ」

 

そう言って部屋に入ってきたのは。アイドネウス島での戦いの後、本来の所属である情報部へと戻っていたギリアム・イェーガーであった。

 

「ギリアム少佐。なんであんたがここに?」

「ああ。彼に用があってね」

 

ギリアムの登場に訝しんでいるイルムガルトに答えると、イサムの元にまで歩み寄り、1枚の用紙を懐から取り出すギリアム。

 

「イサム君。連邦軍参謀本部の命令によって、スパイ嫌疑で君を我々情報部の監視下に置かせてもらう」

 

ギリアムの口から放たれた言葉に、イサム達は言葉を失った。




続きは今月中には投稿する予定なので、どうかお待ち下さいませ。


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第二十一話

4月中に投稿する筈が諸事情で時間がかかってしまいました。誠に申し訳ございませんでした。


「スパイ容疑?」

 

ギリアムから告げられた言葉にラトゥーニが驚愕していると、イルムガルトが険しい顔つきでギリアムに詰め寄る。

 

「ちょっと待ってくれ少佐!リュウセイやライはまだ分かるが、イサムはSRX計画には深く関わっていないだろう!」

「確かにイサム君はSRX計画との関連性は薄い。しかし、彼がイングラム・プリスケンと個人的に親しくしていたとの報告があってね」

 

確かにイサムは休暇中や作戦中でも、時間を見つけてはイングラムの元を訪ねていたのだ。

 

「公的な関わりしか持とうとしていなかった彼が、イサム君とだけは私的にも関わりを持っていた」

「それはそうですが。だからって監視対象だなんて…」

「普通ならそこまでしないのだがねラトゥーニ少尉。イングラム・プリスケンは、SRX計画だけでなく。PTやAM、特機と言った対異星人兵器開発の要でもある、EOT解析や他の分野にも深く関与している。そんな彼がエアロゲイターのスパイであったことに、上層部はかなりの衝撃を受けたこともあって、少しばかり神経質になっているのさ」

「だから、少しでもイングラムに同調する疑いがあるイサムを監視すると?」

「そうだ。とは言っても、私も彼が同調するとは思ってはいない。監視もあくまで形だけのものさ。何も監禁する訳ではないよ」

 

憤りを感じているイルムガルトやラトゥーニを宥める様に言うギリアム。

 

「それなら、また戦場に出ることはできますか?」

 

今まで沈黙していたイサムがゆっくりと口を開いた。スパイ容疑に関してより、そのことを一番気にしている様であった。

 

「リュウセイ曹長やライディース少尉同様、ある程度制限はつくがね。貴重な戦力を出し惜しみしている余裕はないのでね」

「だったら問題無いです」

「おい、イサム!?」

 

あっさりと監視されることを了承したイサムに、慌てるイルムガルド。

 

「ギリアム少佐は命令に従っているだけなんだから、文句を言っても仕方ないよ。皆と戦えるなら俺はそれで構わない」

「イサム…」

 

当人であるイサムにそう言われては、この件に対してイルムガルト達から、これ以上何も言うことはできなかった。

 

 

 

 

ジュネーブ近海

 

アースクレイドルのDC残党と合流していたコロニー統合軍精鋭部隊『トロイエ隊』から投降してきたレオナ・ガーシュタインと、その部下からもたらされた情報から。DC残党がジュネーブの連邦政府の本部へ進行すると言うことを察知したハガネ・ヒリュウ隊は迎撃するために出撃していた。

レオーネを駆って出撃しているイサムの右腕には、見慣れない腕輪が装着されていた。戦域外か機体の外に出た場合、内蔵されたセンサーが反応し、脱柵と見なされるのである。最もイサムにとってはする気がさらさら無いので、問題にはならないが。

正面に捉えたシーリオンからレールガンとミサイルが放たれるが、スラスターを巧みに操り回避する。

 

『遅い!』

 

ブースターを全開にして一瞬で間合いを詰めると、シシオウブレード改で両断した。

 

『うおっと!』

 

飛来してきたミサイルが至近で爆発したため、爆風でレオーネの体制が崩れた瞬間を狙いレールガンを構えたシーリオンだが。ライディースの乗るシュッツバルトが放った、ツイン・ビームカノンに撃ち抜かれて爆散する。

 

『前に出すぎだぞイサム!』

『すいませんライさん。助かりました』

 

援護してくれたライディースに礼を言いつつ。レオーネの防御力に頼り過ぎているなと反省しつつレールガンをブレードで弾く。

 

『サークル・ザンバーァ!』

 

イサムがシーリオン注意を引きつけている隙に、リュウセイの乗るビルドシュバインが左腕の光輪で切り裂いた。

リュウセイとライディースは、イングラムの裏切りによってSRX計画が凍結されたため、Rシリーズが使用できなくなったので。代わりの機体で出撃しているのである。

 

『ん?うぉ!?』

 

イサムが真下の海中から殺気を感じ、機体を真横に跳ばすと。先程までいた地点の海を割いた、赤と青の螺旋状の閃光が、上空のヒリュウ改を掠めた。

 

『ぐっ大出力のエネルギー兵器!?それにあれは…!』

 

見覚えのある攻撃に驚愕していると、海面を割って巨大な影が飛び出してきた。

 

『やっぱり、ヴァルシオンか!!』

 

現れたのはDC戦争終盤に、DC総帥であるビアン・ゾルダーク自らが駆り、自分達を苦しめた機体であった。

機体色こそ赤ではなく青であるが。その姿は紛う事なきヴァルシオンであり、それが3体も同時に現れたのである。

それぞれのヴァルシオンが左手首のエネルギー兵器『クロスマッシャー』や右腕に持った大剣『ディバイン・アーム』。さらにオリジナルにはなかった背部ユニットからのミサイルで攻撃したきた。

イサム達は散開して回避すると。1体のヴァルシオンがレオーネへと大剣で斬りかかってきたので、ブレードで受け止める。

 

『このパワー。見せかけだけじゃないか!』

 

機体の出力を上げて押し返すと、蹴りを入れて間合いを離すイサム。

お返しと言わんばかりに斬りかかるも。ヴァルシオンは、まるでこちらの動きを読み取っているかの様に、軽々と回避した。

 

『何!?ガァッ!?』

 

ブレードを振り下ろして動けない隙に放たれたクロスマッシャーを、G・ウォールの出力を最大にして受け止めるも。完全には防ぎきれず弾き飛ばされる。

海面に叩きつけられた機体を起こそうとするも、追撃してきたヴァルシオンが目前まで迫ってきていた。

 

『マズッ!?」

 

大剣を振り上げたヴァルシオンだが。真横から飛来してきたビームを、見えているかの様に(・・・・・・・・・)回避した。

 

『イサム!』

『無事か!』

 

援護してくれたラトゥーニのビルドラプターと、ライディースのシュッツバルトが弾幕を張ってヴァルシオンを牽制する。

 

『速い!』

『機体の性能…いや、パイロットの技量なのか?』

 

特機とは思えない俊敏な機動で、攻撃を回避していくヴァルシオンに違和感を感じる面々。

 

『目標…優先順位…変更…。イルミネーターリンク…』

 

『その声!』

『まさかッ』

『シャイン王女!?』

 

対峙しているヴァルシオンから聞こえてきた声に、驚愕するイサム達。

その声は北京での戦闘中に、離反したハンス・ヴィーパーによって連れ去られた、シャイン・ハウゼンであったからである。

 

『コマンド”殲滅”…。アクション…スタート』

 

シャインの乗るヴァルシオンが、イサム達へとクロスマッシャーを発射する。

 

『やめろシャイン!俺だ、イサムだ!分からないのか!?』

 

複雑な軌道を描きながら襲いかかる閃光を避けながら、イサムが呼びかけるも。シャイン機は止まる気配が無いどころか、背部ユニットのミサイルを放った。

 

『クッ!王女、洗脳されているのか!?』

 

濃密な弾幕を辛うじて回避しながら、ライディースが苦悶する。

 

『クソッ攻撃があたらない!どうすりゃいいんだよ!』

 

どうにか機体を止めようとするも。シャインが持つ予知能力を利用されているのか、一向に有効打を与えることができないことに歯噛みするイサム。

するとイサムの耳に、真下の海中からロックオンされたことを告げるアラートが鳴り響いた。

 

『何!?』

 

咄嗟にG・ウォールの出力を最大にして回避行動を取るが、真下からせり上がってきた金色の螺旋状のエネルギーがフィールドを掠めて機体が激しく揺れた。

 

『ッ!新手か!!』

 

機体を立て直してエネルギーがせり出してきた場所を睨みつけると、何かが海面を割りながらゆっくりとせり上がってきていた。

 

『ふっふっふっふっふ。お主がケンを打ち倒したイサムとか言う小僧じゃな?』

『何者だテメェ!!』

『ワシの名はアードラー・コッホ。新たなるDC総帥にしてこの星の覇者よ。そしてこれこそが我が力の象徴、ヴァルシオン・ザ・キングじゃ!』

 

アードラーの高らかか雄叫びと共に姿を現したのは。全身が金色に塗装と派手な装飾が施され。右手には先端に宝石の様な物が埋め込まれた杖を持ち、頭部は王冠を被っているかの様なパーツに変更されており、背部のユニットにはマントがかかっているヴァルシオンタイプであった。

その姿を見たイサムは言葉を失っていた。

 

『さあ。お主をこの手で倒し、ワシのことを散々見下しおったケンの糞餓鬼を見返してくれるわ!!』

 

ファーハッハッハッハッハッハッ!!!と高笑い上げているアードラーに対して、イサムは俯いて身体を震わせていた。

 

『ぬっふっふっふっふ。この偉大なる姿を見て言葉も出んか。まあ、それも当然のことよの』

 

イサムが戦意を喪失したと思い込んだアードラーは、再び高笑い上げ始める。

 

『……ぇ』

『ん?なんじゃ小僧、命乞いかぁ。よく聞こえんぞぉ?』

『めっちゃ、ダッセェエエエエエエエエエエエエ!!!』

 

勝ち誇った笑みを浮かべるアードラーに、イサムは力の限り叫んだのであった。




アードラーが無駄に頑張った結果→ダサいヴァルシオンが誕生しました。

てか、今回であの糞爺を始末できなかった…。次回には片付けられると思います。


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第二十二話

5月17日に、エクセレン・ブロウニングの声優を演じておられた水谷優子さんが、乳癌のためにお亡くなりになられました。謹んでご冥福をお祈りします。
素晴らしい演技の数々に、本当に心掴まれ大好きな声優さんでした。これからのご活躍を楽しみにしていただけに残念でなりません。


『だ、ダサい!?ダサいじゃと!貴様、ワシの考え抜いてデザインしたザ・キングをダサいと言いおったな!!』

『他になんて言えってんだよ!原型の良さが台無しじゃねーか!!』

 

乗機を貶されたことに激怒するアードラーに事実を突きつけるイサム。

 

『それとテメェ。アードラーって言ったな?パイロット養成機関『スクール』にいたのは間違いないな?』

『そうじゃ。それがどうした?』

『そうか。お前がラトを苦しめた元凶の1人か!!』

 

そう言ってレオーネのブレードをザ・キングへと突きつけさせるイサム。その表情はかつてない程の憤怒の色に染まっていた。

 

『テメェのせいで、ラトやどれだけの人間が苦しんだと思ってやがる!』

『フンッ知らんな。スクールにいた奴らなど、ワシの研究のための道具に過ぎんわ。寧ろ使い道を見出してやったのじゃ。感謝こそされど、恨まれる筋合いはないわ!』

『ああ、そうかい。だったら容赦しねぇ。ここで叩き潰す!!』

『やれるものならやってみるがいいわ。ワシの邪魔をする愚か者は死ねぇい!クロスマッシャー!!』

 

ヴァルシオン・ザ・キングが、手にしていた杖の先端をレオーネへと向けると。先端に埋め込まれていた宝石から、赤と青の螺旋状をエネルギーが放たれる。

スラスターを吹かし機体を横に逸らすことで回避すると、攻撃後の硬直を狙って突撃するレオーネ。

 

『おらぁ!』

 

下段に構えていたシシオウブレード改を振り上げ、切りつけようとするも、刃がザ・キングに触れる前に見えない何かによって弾かれてしまう。

 

『何ッ!?』

 

予想外の防がれ方に一瞬戸惑うも。反撃に振るわれた杖を機体を屈めて避けると、一旦距離を取るレオーネ。

 

『この感じ。歪曲フィールドってヤツか!?』

『その通ぉり!このザ・キングは量産性を重視した改型とは違い、オリジナルと同様の機能を搭載しておるのじゃぁ!』

 

ガハハハハと得意げに語るアードラーに、舌打ちするイサム。

歪曲フィールドの強固さは、オリジナルとの戦いで味わっており。ハガネ・ヒリュウ隊の総力を持って、ようやく打ち破ることができたのである。

しかし、今は他の仲間がそれぞれの敵と戦っている状態で、イサムだけで打ち破らなければならないのだ。

 

『四の五の言ってられんってな!』

 

突破口を見つけようと機体を踏み込ませるイサム。それを迎撃しようとザ・キングがクロスマッシャーを放つ。

機体を僅かに横に逸らすことで軽々と回避すると、間合いを詰めてブレードを振るうもやはりフィールドに阻まれてしまう。

それでも相手が特機故の機動性の低さを突き。張り付きながら何度もブレードを振るっていくレオーネ。

 

『ええいネズミがちょろちょろと、鬱陶しいわ!!』

 

ザ・キングがレオーネを引き剥がそうと杖を振るうも、一向に掠る気配もしない。

 

「(動きが素人だな…)」

 

確かに機体性能はオリジナルのヴァルシオンと同等だが、パイロットの技量は雲泥の差であった。

これなら単独でもどうにかなるか?とイサムが考えていると。上空からクロスマッシャーと同様のエネルギーがレオーネとザ・キングの間に降り注いだ。

 

『ぬぉ!?』

『何だ!?』

 

エネルギーが降ってきた方へ視線を向けると。改型やザ・キングでもない、ヴァルシオンタイプそれもPTサイズの機体が、こちらを見下ろしていた。

敵味方の識別信号が出ていないので、警戒していると所属不明のヴァルシオンタイプから戦場全域に通信が入る。

 

『あんた達。ビアン・ゾルダークを倒したハガネ部隊で間違いないね?』

 

声からして、ヴァルシオンタイプに乗っているのは若い女性のようである。

 

『あたしはリューネ・ゾルダーク。ビアン・ゾルダークの娘だ』

 

女性の言葉に通信を聞いていた者達に衝撃が走る。特にビアンに止めを刺すこととなったマサキは人一倍であった。

 

「リューネじゃと?では、あれがヴァルシオーネか。ビアン総帥から行き先が聞いていらなんだが、丁度良い」

 

ザ・キングのコックピット内で、邪な笑みを浮かべたアードラーは、ヴァルシオーネと呼んだ機体に通信を繋いだ。

 

『リューネ・ゾルダーク。いい所に来たわしらと協力してビアン総帥の敵を…』

『黙ってなじじい!』

 

リューネ・ゾルダークを味方に引き込もうとしたアードラーだが、途中で遮られてしまった。

 

『あたしは親父の仇(・・・・)とケジメをつけに来たんだ。DC総帥の仇を討ちに来た訳じゃない。それにヴァルシオンの量産どころか、その悪趣味なのを造らせるとは思えないね。どう言うつもりだい!』

『あ、悪趣味じゃと!?』

 

アードラーがショックを受けている間に、ヴァルシオーネはサイバスターと一騎打ちを始めるのであった。

 

『お、おのれおのれおのれ!どいつもこいつもワシを馬鹿にしおって!このワシへの無礼の報い思い知るがよいわ!ゲイム・システム起動!!』

 

アードラーが何かをしたのかと身構えると、ザ・キングの姿が消えた。

 

『ッ!?』

 

咄嗟にブレードを殺気のした方へ構えると、踏み込んできていたザ・キングの杖とぶつかり合う。

 

『なんだこいつ。急に動きが!?』

『ふはははは!見たか、これがワシが開発したゲイム・システムの力よ!』

 

次々と振るわれる杖をブレードで受け流すレオーネ。隙を見て反撃しようとするも、軽々と防がれ逆に攻撃されてしまう。

先程までとはまるで、別人の様な動きに翻弄されるイサム。ガードを弾かれ、無防備な胴体に膝蹴りを受けて機体を浮かされて、頭部を掴まれてしまう。

 

『クソッこんの!』

『ケケケケたわいもない。このまま捻り潰してくれるわ!』

 

レオーネの頭部がミシミシと悲鳴をあげていく。ザ・キングの手を剥がそうとするも、ビクともしなかった。

 

『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!』

 

ザ・キングが杖の先端をレオーネの胴体に向けると、クロスマッシャーを放とうとする。

 

『死ねぇイ!!!』

 

エネルギーが放たれようとした瞬間。飛来してきたビームが、ザ・キングのフィールドとぶつかり合う。

その衝撃で拘束が緩んだ瞬間。ブースターを全開にし、拘束を振りほどき機体を離脱させ様とするも。離脱と同時に放たれたクロスマッシャーに左腕が飲み込まれ消し飛んでしまう。

 

『そこまでですアードラー・コッホ』

『リリー・ユンカース。なんのつもりじゃ?』

 

ザ・キングを攻撃したのは、味方である筈の統合軍参謀リリー・ユンカースが搭乗するストーク級であった。

 

『これ以上、あなたにDCを好きにはさせません。マイヤー司令から託された使命を、今こそ果たします!』

『フン。やはり裏切るつもりであったか。しかし貴様如きに、このワシとザ・キングが倒せるものか!』

 

ストーク級が砲撃を加えるも、フィールドに阻まれてしまう。そして、お返しと言わんばかりに放たれた、クロスマッシャーによって大破してしまう。

 

 

 

 

次々と爆発を起こし高度を落としていくストーク級。艦橋で起きた爆発に巻き込まれたリリーは、床に叩きつけられる。

アードラーに攻撃する前に退艦命令を出していたので、艦には彼女1人だけとなっていた。

 

「うぅ…」

 

懸命に顔を上げて、艦橋に備え付けられているモニターを見るリリー。

アードラーと戦っていたPTは左腕こそ失っているも、無事であることに安堵する。

出血が酷く、もはや助からないだろう。それでもマイヤー司令とビアン総帥が託した、希望の1つを守れて死ねるのなら本望であった。

DC戦争末期。コロニー統合軍がハガネ・ヒリュウ隊に敗れた日――

 

『急げリリー。生存者を纏めて脱出せよ。そして使命を果たすのだ』

 

沈みゆく旗艦マハトの艦橋で。リリーを庇って致命傷を負ったマイヤーは、そう言って彼女に希望を託した。

生き延びたリリーは。DCを私物化するであろうアードラーに従うふりをして、彼に合流したのであった。マイヤーとビアンの残した力を悪用する者を止めるために。

 

『ファーーーーハッハッハッハッハッ!愚か者めが。ワシに逆らったことを死んで後悔するがよいわ!』

 

通信機からアードラーの高笑いが響いてきた。

確かに自分はここまでだ。しかし何も問題は無い。『彼ら』とハガネ・ヒリュウの者達が力を合わせれは、あの男ひいてはエアロゲイターからこの母星を守ってくれるだろうと言う確信がリリーにはあった。

 

「最後まで見守ってくれたことを…感謝します…。…後はあなた達に…託します…」

 

『戦を起こしたものの責任』を果たさせてくれた『彼ら』に感謝の念を述べる。もはや思い残すことはなかった。

 

「(ああ…マイヤー様…。今、お傍に…参ります…)」

 

敬愛する者を想いながら。リリーは、爆発の炎に飲み込まれていったのであった。

 

 

 

 

『…後はあなた達に…託します…』

 

通信機から聞こえてきた声を最後に、爆散してしまったストーク級を見ながら唖然としてしまうイサム。

 

『あの人。俺を助けるために…?』

 

自分を庇って死んでいった祖母の姿が思い起こされていく。後悔と己の無力さが怒りとなって、操縦桿を強く握り締める。

 

『フヒヒヒヒヒヒヒ!死ね死ね死ね!ワシに逆らう者には死あるのみじゃぁぁぁぁぁ!!!』

『テメェェェェェェ!!』

 

狂った様に高笑いを上げるアードラーに、怒りのまま機体を突撃させようとするイサム。

そんなレオーネを遮る様に、前方の海面から3つの影が飛び出してきた。

 

『ソニック・スレイヤー!』

 

飛び出してきた影の1つ――ケンの駆るアリオールが、フィールドを纏わせた両手のシシオウブレードを振るい、ザ・キングのフィールドとぶつかり合う。

ダメージこそ与えられなかったが、その衝撃でザ・キングの動きが止まる。

 

『射てトロンベよ!』

『こいつもプレゼントォ!』

 

続いて、エルザムの乗るヒュッケバインMk-II2号機をカスタムした『ヒュッケバインMk-II・トロンベ』が。腰の股間ブロックに接続したキャノン砲から重力弾と、エールの乗るディバイソンが背部の16連装砲から放った大出力ビームがザ・キングへと殺到する。

 

『ぬぅおおう!?』

 

ザ・キングはこれもフィールドで防ぐも。今までのイサムの攻撃によって、負荷がかかっていたこともあってか。流石の歪曲フィールドも限界が近く、発生装置から火花が散る。

 

『グッ!フィールドが!?エルザム、貴様もワシに歯向かうのか!DC総帥…いや、地球圏の覇者たるこのアードラー・コッホに!』

『ハッ。貴様が地球圏の覇者?笑わせるな。ビアンのオッサン達の威を借るだけのクソ野郎が』

 

憤慨しているアードラーを、汚物を見るような目で吐き捨てるケン。

 

『ケン、貴様ァ!!』

『アードラー副総帥。あなたは力を振るう相手を間違えている。今はエアロゲイターの驚異を払うために人類が力を合わせる時なのです』

『だからこそワシが軟弱な連邦の代わりに、地球圏を統一するのじゃ!』

『いたいげな少女を、無理やり戦わせている奴には無理でしょ』

『黙れ小娘がァ!』

 

エールの言葉に反論できないのか、ザ・キングがクロスマッシャーを放った。

散開して回避した間に、アリオールに通信を繋ぐイサム。

 

『ケン!助けられたんじゃないのかお前なら、リリーって人を!?』

『…ああ。できた』

『!だったらなんで…!』

『あの人が…それを望んだ…。それだけだ…』

 

冷徹に振舞おうとしている様だが。自分自身納得しきれていないのか、その声は僅かに震えていた。

 

『俺が仇討ち云々言う権利はないが。それでも奴は放置しておけん。だから力を貸せイサム!』

『ああ、分かった。行くぞケン!』

 

アリオールが先行し、持ち前の機動性を活かしてザ・キングをかく乱すると、その隙に接近したレオーネが正面から切りかかる。

ブレードと機体のスラスターを合わせながら、機体全体を巧みに動かし、片腕だけで長大なブレードを振るうレオーネを、杖を振るって迎撃するザ・キング。

レオーネに気を取られている間に、背後から仕掛けるアリオール。ザ・キングを挟み込んだ2機の一糸乱れぬ連携を、ザ・キングは杖とフィールドで防御する。

 

『カァッ!!』

 

薙ぎ払う様に放たれたクロスマッシャーを避けるために、回避行動を取るレオーネとアリオール。

 

『隙だらけってねぇ!』

『ターゲット・インサイト』

 

ディバイソンがミサイルとガトリングを、Mk-II・トロンベがフォトン・ライフルで牽制し動きを抑える。

その間にレオーネとアリオールが攻め込み、ザ・キングのフィールドに負荷を加えていく。

 

『ぐぅぬああ!』

 

痺れを切らしたのか、ザ・キングがクロスマッシャーを海面に向けて放ち、海水を巻き上げ目くらましをする。

レオーネらが警戒して一瞬動きを止めた隙に、マントを外して背部ユニットを露出させるザ・キング。

 

『死ね死ね死ね死ねぇ!消えてなくなれェエエエエエエイ!!』

 

背部ユニットが展開されると、エネルギーが放出されていき。周囲の大気が乱れ海が荒れていく。

 

『重力兵装!?不味い!』

 

危険を察知して止めに向かおうとするレオーネを、アリオールが手で制した。

 

『フンッ、メガ・グラビトンウェーブか。切り札を使ったな。なら、こちらもジョーカーを切るまでだ』

 

ケンの言葉に合わせる様に、ザ・キングの背後の海面を割って巨大な影が飛び出してきた。

 

『斬艦刀…』

『なッ!?』

 

現れたゼンガーの駆るグルンガスト零式が。零式斬艦刀を構え、重力制御のために、無防備となっているザ・キングへと突撃していく。

 

『疾風怒濤ッ!!!』

 

機体と刀身のブースターを噴射し、神速の速さで振り抜かれた斬艦刀が、ザ・キングのフィールドとぶつかり合いせめぎ合う。

だが、これまでの戦闘による負荷によって、遂に限界を超えたフィールド発生装置が破損する。

これによってフィールドが消失し、阻むものが無くなった斬艦刀が、ザ・キングの背部ユニットを両断した。

 

『ぬァアアアアアア!?』

『我が斬艦刀に、断てぬもの無し!』

 

ユニット爆発によってバランスを崩し、うつぶせで海面に倒れこむザ・キングを背に、残心をするゼンガー。

 

『親分!』

『久しいなイサム。宇宙で刃を交えて以来か…』

 

予期せぬ再開に喜ぶイサムに対して、ゼンガーは敵対したことに、後ろめたさを感じている様であった。

 

『ぐ…ぐぉおおぅ…。ゼンガー、貴様も…貴様もワシに歯向かうのか…。なぜ理解せん…ワシが地球圏を統一せねば、人類に未来が無いことを…』

『黙れアードラー・コッホ!今こそ我らの使命を果たす時!』

『使命、じゃと!?』

 

ゼンガーの言葉に、機体を起き上がらせながら驚愕するアードラー。

 

『そう!我らの使命とは、異星人に対抗しうる戦力を見出し、鍛え上げること!』

『そして、アードラー副総帥。あなたの様に本来の目的を見失い、私欲に走るDC残党を止めること』

『しかる後。見出した者達と力を合わせ、この星を守ることだ』

 

ゼンガー達の言葉に、ぬぅぅと唸り声を上げるアードラー。

 

『親分、それにケン。やっぱり、そうだったのか…』

 

そしてイサムの中での疑惑が、確信へと変わったのであった。

 

『力を合わせると言っても、馴れ合う気は無いがな』

『素直じゃないね~。本当は仲直りしたいくせに』

 

突き放すように言うケンに対して、呆れた様子に言うエールだが。ケンは無視した。

 

『アードラー副総帥。どうか投降を。最早勝負は着きました』

 

エルザムの言う通り。切り札である重力兵装とフィールドを失ったアードラーには、最早勝機は無くなっていた。

 

『ま、まだじゃ…。まだ、ワシは負け、負けておらララララララララ!?!?!?』

 

なおも抵抗しようとしていたアードラーに、突然変化が訪れた。

 

『わ、ワシ…わしが。ワシが、この星の…し、シシシシシシ…しは、支配者しゃしゃしゃしゃしゃしゃ!!!』

『な、なんだ!?何が起こったんだ!?』

 

狂った様に話すアードラーに、不気味さを感じるイサム。

そんなイサムを尻目に、ケンはフンッと鼻を鳴らした。

 

『奴め、ゲイム・システムの限界を迎えたか』

『ゲイム・システム?なんだよそれ?』

 

心当たりがある様子のケンに、問いかけるイサム。

 

『あの糞ジジイが開発していた、パイロットの情報把握能力の拡張を促し、戦闘能力を向上させることを目的としたMMI(マン・マシン・インターフェイス)だ。最も脳への負担が強過ぎるため、使い続ければ廃人になるがな』

『それじゃ、あいつは…』

『ああなったら、手遅れだろうな』

 

自業自得だと哀れむ気も無い様子のケン。

 

『フヒャ、フヒャヒャヒャヒャヒャ!!し、シネ!シネシネシネシネ…シネェエエエエエエエエイ!!!』

 

狂った様に笑いながら、クロスマッシャーをでたらめに放つザ・キング。弾道が不規則なため逆に回避しずらくなっていた。

 

『えぇい、メンドくさいんだよ!』

 

イラついたエールのディバイソンが放った突撃砲が、ザ・キング胴体に直撃し体勢を崩す。

 

『そこだ!』

 

その隙にMk-II・トロンベが放ったライフルの光弾が、ザ・キングの杖を破壊する。

 

『アァアアアア!!!』

 

アードラーが最早言葉にならない叫びを上げて、ザ・キングが両腕を突き出しながら突撃してくる。

 

『往生際が悪いんだよ!』

『滅せよ、アードラー・コッホ!』

 

アリオールと零式がそれぞれのブレードで、ザ・キングの両腕を切り落とした。

 

『これで、終わりだァアアアアアア!!!』

 

レオーネが全てのスラスターを全開にし、ザ・キングへと突撃する。限界まで捻った腰部を戻す反動と、スラスターの推力に機体を回転させた遠心力を用いた一閃が、ザ・キングを左肩から右斜めに両断した。

 

『ば、馬鹿な…。わ、ワシの野望が…こんな所でェエエエエエエ!!!』

 

上半身と下半身が両断されたザ・キングは、最後に正気を取り戻したアードラーの断末魔と共に、爆炎に飲み込まれていった。

 

『この勝負。俺達の勝ちだ!』

 

爆炎を背に、残心するイサムであった。




おまけ

ザ・キング誕生秘話

アフリカ――その広大な大地の地下に建造された地下冬眠施設アースクレイドル。
来るべき異星人の驚異から、人類とその遺伝子を生き延びさせようという『プロジェクト・アーク』に基づいて建造された物であるが。現在はDC残党軍の拠点として使用されていた。

「う~む」

ジュネーブでの戦闘より遡り――アースクレイドル管制室で椅子に座り1枚の用紙を見ながら、何やら唸っているアードラー・コッホ。

「どうしたのじゃ、アードラーよ?」

そんなアードラーに1人の老婆が話しかけた。彼女の名はアギラ・セトメ。かつてアードラーと共に『スクール』に所属しており、組織解体後は生き残りの被験者と共にこのアースクレイドルに身を寄せていた。
自身の研究が一段落したので、気分転換に散歩していると、神妙な顔つきをしているアードラーを見つけたのである。

「アギラか。これを見よ」

そう言って見ていた用紙をアギラに渡すアードラー。

「これは『DCの次期総帥ランキング』?」
「そうじゃ。兵士達が密かにやっているのを入手したのじゃ」

アードラーの言葉にふむ、と唸るアギラ。
DC創設者のビアン・ゾルダークが倒れはしたものの。DC自体の戦力は依然として健在であり、それを率いていく者が誰になるのか、末端の兵士が気にするのも当然と言えた。

「それで、これがどうした?」

一通り目を通してみたが順当な結果であった。アードラーが何故不満そうにしているのかアギラには分からなかった。

「よく見てみるがよい。おかしい部分がある筈じゃ」

そう言われて再び用紙に目を落とすアギラ。

次期DC総帥ランキングベスト100結果発表
第一位シュウ・シラカワ
第二位バン・バ・チュン
第三位エルザム・V・ブランシュタイン



中間ロレンツォ・ディ・モンテニャッコ



最下位手前ケン
最下位アードラー・コッホ

「どうじゃ。おかしいじゃろ?」
「いや、どこがじゃ?」

何度見ても順当な結果である。やはり、おかしい部分は見つけられなかった。

「なぜ、ワシが一位でない?」
「は?」
「なぜ、このワシが最下位なのじゃ!?おかしいじゃろうに!!」

机をドンッと叩きながら勢いよく椅子から立ち上がり、アギラに詰め寄って怒鳴るアードラー。

「知らん。耳元で怒鳴るな」

耳を塞ぎながら、至極どうでもよさそうに答えるアギラ。

「ワシは副総帥じゃぞ!?当然次期総帥はワシとなる!なのに、この低さはおかしいじゃろう!」
「それだけ人望がないのじゃろう。ワシが兵士ならお前が総帥なんて嫌じゃし」

アギラがそう言うと「馬鹿な。そんなことが…」と呟いて、力なく椅子に座り込むアードラー。本気でショックを受けている様である。

「ぐっ一億万歩譲ってこの結果は良しとしよう。しかし、1番気に食わないのはワシよりあの糞餓鬼が上にいることじゃ!!」
「だから、耳元で怒鳴るな」

再び勢いよく椅子から立ち上がり、アギラに詰め寄って怒鳴るアードラー。

「糞餓鬼?ああ、このケンとやらか」
「そうじゃ。15の餓鬼に負けるなどワシのプライドはずたずたじゃ!」

そんなものお前にあったのかと、素直に驚くアギラ。

「お前が総帥になるくらいなら、こやつの方がいいと思われているのじゃろう」
「ありえん。あのクソ生意気な餓鬼がワシより人気だなどと…」

再び力なく椅子に座り込むアードラー。その顔は今にも泣きそうであった。

「ならば…」
「ん?」

ボソリと何か呟いたアードラー。その身体からは、何やら炎が吹き出している様に見えた。

「ならば、ワシが次期総帥にふさわしいことを証明してくれようぞ!!!」
「だから、耳元で怒鳴るなと言っておろうが」

再度勢いよく椅子から立ち上がり、アギラに詰め寄って怒鳴るアードラー。
対して、いい加減に鬱陶しくなってきた様子のアギラ。

「やる気があるのは結構じゃが。どうやって証明するつもりじゃ?」
「ふふふ。それは、今開発中の量産型ヴァルシオンの1体をワシ専用に改造する」
「ふむ」
「そして、次のジュネーブ攻略戦でその機体に乗ったワシが大活躍する」
「ふむ」
「さすればワシの人気が鰻上りとなって、ワシが新たなる総帥となることに誰も反対しなくなる。完璧じゃ。フフフ自身の天才的頭脳が恐ろしくなるわい!」

ファーハッハッハッ!と高笑いをするアードラー。

「しかし、お主機動兵器の操縦などできるのか?」
「そこはこれから特訓をすればよいし、最悪ゲイム・システムを使う」
「あれを使って大丈夫なのか?」

確かにゲイム・システムならば、素人同然の人間でも高い戦闘能力を発揮できるだろうが。反面脳に著しい負担をかけるので、下手をすれば廃人となってしまう。

「なぁに、ゲイム・システムはあくまで奥の手。連邦などワシの手にかかれば使うまでもなく倒せるわい」

ファーハッハッハッ!と再び高笑いをするアードラー。
この時点でアギラにはなんとなく、この男の結末が見えてきていたのであった。

「そうと決まれば、早速ワシ専用の機体の設計に入らねば!」

そう言うと話すだけ話したアギラを置いて、意気揚々と管制室を出て行くアードラー。

「まあ、どうでもいいか」

アギラにとって、アードラーがどうなろうと至極どうでもいいことなので、自分の研究に戻るのであった。


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第二十三話

伊豆基地 医務室

 

ジュネーブ近海での戦闘から数日が経過し、救出されたシャインは伊豆基地にて検査を受けていた。

 

「…とりあえず今の所…。深刻な障害は確認できないわ。きちんとした施設で専門医の精密検査を受けるまで安心できないけれど」

「王女よかった」

「だね」

 

ラーダの診断にその場にいたイサムとラトゥーニは安堵する。

他にもライディースとシャインの執事であるルダールもおり、彼らも安堵した表情をしている。

 

 

「了解です。医師の手配は国元に任せるとして退艦手続きを用意してきます。よろしいですかルダール卿」

「よろしくお願いします」

 

ルダールが頷くのを確認すると、ライディースの言葉は退室しようとするがシャインに呼び止められる。

 

「ライディ様…ラトゥーニ…全部覚えています。呼びかけてくれた声も全部。ありがとう」

「当然のことをしたまでです。失礼」

 

そう言って部屋を出て行くライディースを見送ると、イサムがバツの悪そうな顔をしていることにラトゥーニは気づいた。

 

「どうしたのイサム?」

「いや、結局俺ってシャインを助けることに関われなかったからさ…」

 

どうやらアードラーの乱入によって、ライディースとラトゥーニに任せてしまったことを気にしているらしい。

 

「しかし、イサム殿はアードラー・コッホめを成敗なされました。気に病む必要はないかと存じますが」

「そうです。わたくしのような目に遭う者がいなくなったのは喜ばしいことですわ」

「ありがとうございますルダールさん。シャインも」

 

2人のフォローに気が軽くなるイサムであった。

 

「でも、あいつの助けがあったからでもあるんだけどね」

「ケンって人のこと?」

「うん。戦いが終わってすぐにどっかに行っちゃったけど…」

 

アードラーを撃破後。ケンらDC残党の者達は何も語らずに去っていってしまったのである。

 

「その方はイサムの兄君なのですわよね?」

「まあ。一応ね」

 

シャインの言葉に、どこか懐かしむような様子で頷くイサム。

イサムとケンは年齢は同じだが。生年月日から見るとケンの方が先のため、形式的にはケンが兄となるのだ。

子供の頃は、よくどちらが兄か弟かでちょっとした喧嘩をしていたものだ。まあ、弟であることに納得できていなかったイサムの方が、一方的に突っかかっていていただけなのだが。

 

「彼と話がしたいの?」

「…そうだねラト。できれば話して、みたいかな」

 

彼がなぜ家族を捨ててDCに身を置いたのか。本当に家族の絆を捨ててしまったのか。北京やジュネーブで自分を助けてくれたのは、使命のためだけだからか。本当に家族の絆を捨ててしまっているのか。直接会って聞きたいことが山程あった。

もう、昔のように笑い合うことはできないのだろうか…。そんな思いを馳せるイサムであった。

 

 

 

 

ハガネ 格納庫

 

「今度は南極行きか…」

 

レオーネに搭乗しているイサムが、機体のチェックをしながら誰にともなく呟く。

ジュネーブ近海での戦闘からさらに数日が経過していたが、その間エアロゲイターの攻撃は一部の軍事施設のみに限定されており、まるで何かを待っているかのようであった。

対する連邦軍はL5宙域に出現した構造体『ホワイトスター』攻略作戦を立案し、起死回生の一手とすべく行動を開始していた。

ハガネ・ヒリュウ改の面々もこの作戦に参加すべく準備に邁進していたが。伊豆基地指令レイカーの要請により、ハガネは急遽南極のコーツランド基地へと向かっていた。ちなみにヒリュウ改は月のマオ・インダストリー本社に向かっており補給物資の受け取り後、現地で合流することとなっている。

 

『確かあそこってシュウ・シラカワとグランゾンに破壊されたんじゃなかった?』

『レイカーのおっさんの話だと、あそこはイスルギによって復旧されたんだそうだ」

 

イサムと同じく疑問に思っていたリュウセイに、事情を知っている様子のマサキが答えた。

彼はジュネーブでの戦い後協力を申し出た、リューネ・ゾルダークの処遇を決める場に付き添っており。その場で今回の事態の詳細を知らされたのである。

ちなみに。リューネ・ゾルダークがジュネーブでハガネ・ヒリュウ隊に戦いをしかけたのは、父であるビアン・ゾルダークの後を託すに足るかどうかを自分の目で確かめたかったからであった。

マサキとの戦いを経て、ハガネ・ヒリュウ隊のことを認めた彼女は最終的にDC残党との戦いに協力し。そのまま行動を共にすることを決めたのだった。

 

『さらに、スペースノア級壱番艦シロガネの修復も行われていたらしいぜ』

『シロガネの?』

 

イルムの補足に驚きの声をあげるイサム。

今では『南極事件』と呼ばれることになって戦いで、グランゾンの攻撃によって大破した艦の姿が思い起こされる。

 

『貴重なスペースノア級を直すってのはおかしなことではないが。そこにEOT特別審議会議長殿がいるってのは穏やかじゃないね』

「エアロゲイターに降伏しようとしていた連中か。もしかして自分達だけ逃げようしているとか?」

『そこまではわからんが、レイカー指令は何かが起きると踏んで俺達を派遣したんだろう』

 

確かに目的地に近づくごとに嫌な感じが強まっていた。レイカーも似た者を感じたのだろうと納得するイサム。

そんなことを考えていると、艦内に警報が鳴り響いた。

 

『コーツランド基地がエアロゲイターの襲撃を受けている模様!総員第一種戦闘配備!繰り返す、総員第一種戦闘配備!』

 

アナウンスが流れると整備員達の動きが慌しくなり、待機していた機体らが次々と起動を始め発進準備に入っていく。

 

「嫌な予感的中か。さて、イングラムは出てくるか…」

 

愛機を起動させ、懸架されているシシオウブレード改を持たせるイサム。

北京でイングラムを取り逃がしたことを気にしてか、その表情はいつもより険しかった。

 

『例え出てきても熱くなるなよ?』

「わかってる。そこまで馬鹿じゃないよ」

 

どこか心配そうなイルムに、落ち着いた声で返すイサム。

北京では我を忘れて危うく取り返しのつかない事態になりかけたのだ。同じ轍を踏む気は毛頭なかった。

 

『レオーネ、発進どうぞ!』

「了解!イサム・トウゴウ、レオーネ行くぜ!」

 

カタパルトによって機体が射出されると素早く体勢を整え、周囲の戦況を見渡すイサム。

コーツランド基地のドッグに係留されていたシロガネの艦橋は既に破壊され火を噴いており。少なくともそこに者は誰も生き残ってはいないだろう。

その周囲では、防衛部隊とエアロゲイターの機体との一進一退の攻防が展開されている。

イサムは着地と同時に勢いを殺さず、地面を削りながら機体を滑らせエアロゲイターの人型兵器、コード名『ソルジャー』の一体をすれ違いざまにブレードで胴体を両断する。

続いてライフルからビームを撃ってくるソルジャーの集団に、回避あるいはG・テリトリーで防ぎながら接近に斬り伏せていく。

 

『ッ!?』

 

殺気を感じ取り。咄嗟に機体を跳び退かすと、レオーネが立っていた地面が襲い掛かって来た人型の手刀によって粉砕される。

 

『あれは、ゲシュペンスト!?』

 

襲い掛かって来たのは、黒色のカラーリングをしたゲシュペンストタイプであった。

 

『気をつけろイサム!そいつはタイプSだ!』

『タイプSって初期型の!?』

 

極秘任務名目で徴発され、コーツランド基地の守備隊に加わっていたカイ・キタムラの言葉に驚きを隠せないイサム。

タイプSは、人類初の人型機動兵器『ゲシュペンスト』シリーズの1機であり。特殊戦技教導隊隊長であるカーウェイ・ラウ大佐による宙間運用試験中に、機関暴走によって行方不明となった機体である。

また、プラズマ・ジェネレーター搭載試験機であり。その開発データはレオーネに生かされており、縁の深い機体でもあるのだ。

そんな機体がなぜエアロゲイターと共にいるのか考える暇も無く、タイプSは胸部の装甲を展開させ内蔵されている高出力ビームを放ってきた。

 

『ぐっ!?』

 

機体を横に跳ばし回避するも。近場に着弾したため衝撃でコックピットが激しく揺れる。

その隙を突くように、北京で鹵獲されたグルンガスト弐式が殴りかかってきた。

 

『オォ!』

 

右手でブレードを持ち、左手を添えた腹の部分で弐式の拳を受けとめると押し合い状態となる。

 

『ターゲット、破壊する』

『その声、クスハさん!?』

 

弐式から聞こえてきた声は間違いなくクスハ・ミズハのものであったが。生気を感じられず、まるで人形のように冷たかった。

そして上空から数発の実弾が降り注ぎ、テリトリーで防ぐも負荷によって機体が悲鳴をあげた。

 

『この攻撃はッ!』

 

弾が飛んできた方を確認すると。なんと、ヴァイスリッターがオクスタン・ランチャーをこちらに構えているではないか。

 

『はぁい。皆お久しぶり』

 

ヴァイスリッターの通信からエクセレンの声が聞こえるも。クスハ同様、その声には違和感があった。

それを裏付けるかのように、ヴァイスリッターがランチャーをバトンのように回すと、味方である筈のハガネ・ヒリュウ隊へと銃口を向けた。

 

『再会を祝って…。お土産…受け取ってね』

 

躊躇いも見せずにランチャーのトリガーを引くと、実弾の雨がハガネ隊へと襲い掛かる。

 

『エクセ姉まで!どうなってんだよ!?』

 

何がどうなっているのか分からず、混乱するイサムだが。容赦なくタイプSが電撃を纏った右手の手刀を振りかざして接近してくる。

弐式と押し合い状態となっているため回避は出来ず。威力から察するにテリトリーで防ぐこともできないだろう。

万事休すかとイサムが冷や汗を掻くが。割って入ったカイのゲシュペンストが左手で手刀をいなし、カウンターで膝蹴りを放つも軽々と回避される。

さらに、ギリアムのゲシュペンスト・タイプRが弐式にニュートロンビームを放つが。念動フィールドに阻まれるも僅かに隙ができたのでレオーネは後ろに跳び距離を取る。

 

『恐らく。エクセレン少尉とクスハ曹長はエアロゲイターに洗脳されているのだろう』

『じゃあ、もしかしてあのタイプSも?』

 

ギリアムの言葉にタイプSの方へと視線を向けるイサム。あの機体もエクセレンらと同じ状態ならば、パイロットを助け出せるのではないかと考える。

 

『仮にそうだとしても、年月が経ち過ぎている…。助け出せる可能性は…』

『出来るとしても、殺さずに止められるかどうかだ』

『そ、そんなに強いんですか?』

『ああ。ゼンガーとレーツェルがいても勝てるかどうか分からん』

 

カイの言葉に弱気になりそうな心を奮い立たせると、レオーネにブレードを構えさせるイサム。

 

『それでも、負けるわけにはいかない!ビアン・ゾルダークに託されたんだ!この星を護れって!』

『その意気だイサム!戦いは怖気づいた方が負ける!いくぞ!』

『はい!』

 

ブースターを吹かし、カイ機と共にタイプSへと向かって行くレオーネ。

対するタイプSは胸部の高出力ビーム砲――ブラスターキャノンを放つ。

レオーネとカイ機は左右に別れて回避する。そして、レオーネは発射の反動の隙を突いて一気に加速して接近すると、ブレードを下段から振り上げるも上体を逸らして避けられる。

そこから上段からの振り下ろしに切り替えるも、後ろに跳んで回避されるが。振り下ろした勢いを利用して機体を回転させながら追撃し、横薙ぎへと繋げるもブレードの腹を膝で蹴り上げられる。

その反動で両腕が持ち上げられ、無防備となったレオーネの胴体へと右手の手刀で貫こうとするが。ブレードを手放したレオーネは、突き出されたタイプSの右手を右脇の部分で挟み両手で右腕を掴んだ。

 

『今です!カイ少佐!』

『おう!』

 

動きを止められたタイプSへと、カイ機がジェット・マグナムを打ち込もうとするが。タイプSは右足でレオーネの左足を払い、体勢が崩れたレオーネをカイ機へと投げ飛ばす。

 

『うわぁ!?』

『ぐッ!?』

 

互いに回避することができず、ぶつかり合うレオーネとカイ機。追撃に入ったタイプSが、左手に持ったプラズマカッターで纏めて貫こうとするも。タイプRが放ったビームを跳んで避ける。

 

『まだまだァ!!』

 

直ぐに体勢を立て直したレオーネとカイ機がタイプSへと向かって行った。

 

 

 

 

コーツランド基地上空に、鳥類を思わせるエアロゲイターの大型機動兵器『ヴァイクル』が佇んでおり。搭乗者である指揮官のアタッド・シャムランは、コックピット内で戦場を俯瞰しながら思考を巡らせていた。

戦闘はハガネとヒリュウ改の到着により膠着状態へと陥っており。捕獲した地球人の1匹はイングラムが収集したデータにあるアルトアイゼンと、もう1匹はデータに無いがグルンガスト初期型と同タイプの機体と交戦している。

そして、新たに手にした人形のゲーザ・ハガナーは、SRXチームの1人に執着し始め若干の暴走状態となっており。ガルイン・メハベルのタイプSは優勢ではあるが押さえ込まれている状態となっていた。

 

「どうも場が膠着してきたね。ここらで一回すっきりさせるかい?」

 

にたりと嗤ったアタッドは、自機の側に地球側ではフラワーと呼称されている母艦『フーレ』を転移させると主砲の発射体勢を取らせる。

これはコーツランド侵攻前に連邦議会のあるジュネーブを壊滅させた戦法であり、現状の連邦軍では対抗策は無いに等しかった。

フラワーの出現に気がついたサイバスターとヴァルシオーネが迎撃しようと向かって来るが。アタッドはヴァイクルから無数の小型砲台『カナフ・スレイブ』を射出させ、オールレンジ攻撃によって阻む。

その間にフーレの発射準備が整うと、これから起こすことを想像してアタッドは笑みをさらに歪める。

 

『レギオン・イレイザー撃…』

 

発射を命じようとしたまさにその時――氷海を突き破り何かがフーレ目掛けて飛び出してきた。

 

『!氷海の下から!?』

 

アタッドは一瞬ミサイルの類かと思ったが。それにしては大きい。まるで戦艦のような――いや、戦艦そのもが特攻してきたのである。

スペースノア級参番艦クロガネの艦首超大型回転衝角によってフーレは粉砕されてしまう。

 

『フーレが…。こいつら馬鹿か、なんて野蛮な…!』

 

予想外の事態に動揺するアタッド。そんなヴァイクルに、クロガネから出撃したゼンガーのグルンガスト零式が迫る。

 

『キョウスケ達の邪魔はさせん!』

 

回避の間に合わないヴァイクルに、零式は斬艦刀を振り下ろすが念動フィールドの阻まれる。

だが、咄嗟のことだったためか、十分な強度はなくフィールドが砕け、浅くだが機体を傷つけることに成功した。

 

『くッ!調子に乗るな!』

 

カナフ・スレイブによる弾幕を張り零式を後退させると、アタッドは体勢を立て直そうとする。

 

『それはこちらの台詞なのだがな』

 

男の声が聞こえきたかと思えば。人型の影がヴァイクル周囲を飛び回り、両手にそれぞれ保持したブレードでスレイブを斬り裂いていく。

 

『なッ!?』

 

アタッドが慌てて残りのスレイブに迎撃させるも、アリオールは落ち着いた動作で回避すると距離を取る。

 

『この原始人共が、よくもッ!』

『先程までと動きに余裕がないな?もっと足掻いてくれると思っていたのだがな』

 

忌々しげにアリオールと零式を睨みつけるアタッドに、挑発的な口調で話しかけるケン。

 

『まあ。もっとも、これ以上貴様の遊びに付き合ってやる気はないがな。やれ、エール!』

『あいな~!』

 

エールがハツラツな声で応えると。クロガネのハッチが開放され、固定された状態のディバイソンが姿を現す。

 

『うへへへへへへ。いい感じに固まってるじゃん!』

 

何やら女性がしてはいけない笑い方をしながらも、エールは眼下に展開されているエアロゲイターの集団をマルチロックオンしていく。

 

『メ~ガ~ロ~マーーックス!!!』

 

ロックオン完了と同時にトリガーを引くと、チャージしていた機体背部の17門突撃砲から高出力のビームが発射された。

撃ち出されたビームは空中で拡散し、空に展開していたバグズの集団を飲み込みながら地上のソルジャーら人型の密集していた地点に降り注ぎ、大爆発を起こして跡形もなく消し飛ばしていった。

ちなみにハガネ・ヒリュウ隊らと基地防衛部隊は、事前に勧告がされていたので安全圏に後退していた。

 

『あ、あたしの人形達が…』

 

目の前で繰り広げられて光景が信じられず唖然とするアタッド。たった一撃で戦力の大半が壊滅すれば無理もないが。

 

『すっげぇ…』

 

それはイサムら友軍も同様であった。数えるのも億劫な数がいた敵部隊が少数を残し消え去り、変わりにクレーターとなった大地が広がっていた。

 

『ッ!ガルイン退くよ!残った部隊を纏めて転移座標に集結させな!』

『リョウカイ…』

 

無事であったガルインに撤退を指示すると、アタッド自身も残ったスレイブと胸部か高出力のビームを使いアリオールと零式を牽制しながら後退していく。

 

『覚えておきな原始人共!次には纏めて叩き潰してあげるよ!』

 

アタッドが吐き捨てるように声を張り上げると。数体のバグズが、球体状の物体を集結したエアロゲイターの機体の頭上に投下すると光に包んでいく。

光がすぐに収まるが、同時にエアロゲイターの姿は戦場から消えてなくなっていたのであった。



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第二十四話

南極 コーツランド基地近郊

 

戦闘終了後。ハガネ・ヒリュウ隊はコーツランド基地に留まり、クロガネと接触していた。

 

「……」

「……」

 

互いの艦を挟んだ雪原で、それぞれの代表が対話しており。そこから少し離れた場所で、イサムとケンは互いに向き合う形で立っており、沈黙を保ったまま視線を交わしていた。

 

「…2人だけで話がある」

 

最初に沈黙を破ったのはケンであり、その目には何らかの決意を宿していた。

 

「俺もだ。と言いたいけど…」

 

その目を真っすぐに見返したイサムは頷く――も、手に嵌められた発信機を見た。

現在イサムは、内通者疑惑で情報部の監視下に置かれているのだ。

 

「情報部の人間。こいつを借りるぞ」

「ああ、構わんよ」

 

ケンが側にいたギリアムに向けて言うと、彼はすんなりと了承した。

 

「そんなあっさり、いいんですか?」

「言っただろう。私としては命令でしているだけだからね。個人的には君達は白だと思っているのさ」

 

そういって微笑むギリアムからは、心の底からそう考えていると読み取れた。

 

「では、いくぞ」

「あ!待てよケン!」

 

足早に移動するケンを、イサムは慌てて追いかけるのであった。

 

 

 

 

南極 コーツランド基地近郊

 

基地から少し離れた場所で、氷海を眺めながらイサムとケンは並び立っていた。

互いに黙ったまま景色を眺めていたが、ケンが不意に口を開いた。

 

「…まさかお前とこうして話し合う日が来るとは。人生とは分からんものだ」

 

腕を組んだ状態で感慨深そうに語るケン。

 

「そうだね。…ねえ。どうしてあの時俺達の前からいなくなったの?」

 

当初は祖母を手にかけ家族を捨てた彼を、ただ止めることしか考えていなかった。

だが、DC戦争で剣を交え。その後のエアロゲイターや、DC残党との戦いで共に戦う内に。自分は本当に兄弟のことを理解していたのかと考えるようになった。

だから、今は純粋に彼の気持ちを知りたかったのだ。

 

「俺の親が強盗に殺され、その強盗を俺が殺したのは覚えているか?」

 

ケンの父親は警察官であった。正義感に溢れ誰からも愛される人物で、ケンも大好きであった。

だが、その職業故に恨みを買うこともあったのだ。

ケンが生まれるより前に父が逮捕した1人男が、服役後復讐のために一家の住む家に押し入った。父も母もケンを守ろうとするも、強盗の手によって帰らぬ人となってしまう。

そして最後に残されたケンは、咄嗟に台所にあった包丁を手にし強盗に立ち向かった。

残すは、まだ幼なかったケンだけとなったことで油断もあったのだろう。不意を突かれた強盗は、無我夢中で突き出したケンの包丁が急所に刺さり絶命した。

 

「うん。それで身寄りがないから施設に入ったんだっけ?」

「ああ。だが、そこに俺の居場所はなかった」

 

事件後1人残されたケンを、誰が面倒を見るかが問題となった。

身を守るためとはいえ。人を殺めてしまったケンを、親族は誰も受け入れようとせず。最終的に保護施設で暮らすこととなった。

だが、施設の大人達もケンのことを恐れ気味悪がった。そんな大人の態度は施設で暮らす他の子供にも伝わり、ケンは孤立し邪魔者として扱われたのだ。

 

「施設で暮らす中で、俺は自分の無力さを呪った。あの時俺に力があれば、父も母も死なずに苦しい思いをしなくて済んだとな。そして、俺はお前と出会った」

 

誰も味方のいない施設での暮らしに嫌気がさしたケンは、施設を抜け出しあてもなく彷徨った。

やがて疲れ果てたケンは、とある空き地で身をうずめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねえ、君どうしたの?』

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなケンに声をかけた同い年の少年が現れる。それがイサムであった。

彼は何も話そうとしないケンの側に寄り添い続けた。やがてケンが帰る場所がないことを知ると、強引に自分の家まで連れていった。

そこでケンはリシュウと彼の妻シノと出会い。ケンの事情を知ると、イサムの願いもあったが、彼を引き取り家族として迎えてくれたのだった。

 

「そして、リシュウの元で剣を学ぶようになって強くなれると思った。だが、そこでお前という壁が立ちはだかった」

「え?」

 

ケンの言葉に驚愕の声が漏れるイサム。彼が自分をそんな風に見ていたことが意外だったのだ。

 

「どれだけ努力してもお前を超えられないことに、次第に焦るようになっていった」

「そんなこと…」

「お前はそう思っていなかっただろうが。当時の俺は、どうしようもない才能の差を感じていたのさ」

 

表情こそ変えないが、自嘲するような様子でケンは空を見上げるた。

 

「でも、あの頃手合わせしても君がよく勝ってたじゃないか?」

「…お前、本気出してなかっただろ?」

「それは…」

 

ケンの問いに言葉を詰まらせるイサム。確かに昔の自分は人を傷つけることに躊躇いがあり、無意識に力を抑えていた。それを、ケンは感じ取っていたのだ。

 

「本気のお前を倒すことで、弱い自分を捨てたかった。だから、どうやってお前に本気を出させるか、ない頭を使った結果があんなことさ。つくづく馬鹿だったよ」

 

そういって、今度こそ自嘲するような笑みを浮かべるケン。

 

「でも、今はなんていうか…。俺が知っている以上に丸くなったよね。あれから何があったのさ?」

 

再会してから感じられていたが。姿を眩ませた時に感じられた危うさは消えており、イサムが知るケンよりも丸くなった印象を与えていた。

 

「……」

 

どこか遠くを見るかのような目をして黙ってしまうケン。初めて見る兄弟の姿に、思わず目が点になるイサム。

 

「…ある奴と共にいる内に、いかに自分が矮小であったか気づいてな。まあ、そこから生き方を変えていくことにしたのさ」

「そっか。その人ってどんな人なの?」

「大馬鹿な女さ。こんな俺にどこまでも着いて来ようとする、な」

 

言い方こそ辛辣だが、その口調はどこか暖かみを感じさせるものであった。

 

「大切な人?」

「そうだな。退屈はせん」

「じゃあ、その人にお礼を言わないとね」

「喧しくなるから止めろ」

 

辟易した様子で釘を刺すケンに、本当に丸くなったと思わず笑みをこぼすイサム。

 

「ねえ。これからは一緒に戦ってくれるの?」

「ビアンのおっさんの依頼が終わるまではな。その後は好きにやらせてもらう」

 

暗に再び敵対する可能性も示唆するケンだが。今だけでも肩を並べて戦えるのなら、イサムにとっては十分であった。

 

「じゃあ、今だけはよろしくね」

 

そう言って閉じたままの右手を、スッと差し出すイサム。

 

「…おう」

 

ケンはその手を気恥ずかしそうな目で暫し見つめると、意を決したように閉じたままの左手を突き合わせるのだった。

 

 

 

 

南極 コーツランド基地近郊

 

「ジー」

「……」

「ジー」

「……」

「ジー」

「…あの、何か?」

 

イサムを探していたラトゥーニは、突然現れた女性にジッと目線を合わせられて見つめられて困惑していた。しかも、わざわざジーという擬音を言いながらである。ハッキリ言って、不審者以外の何者でもなかった。

 

「へー、お嬢ちゃんが弟君のお気に入りかぁ」

「弟、君?」

 

やっと口を開いた女性――エール・エンフェリートの言葉に、疑問符を受かべるラトゥーニ。

 

「ん~。ケンの奴が自分の方が兄だって言ってたけど?」

「ケンって、アリオールのパイロットの?」

 

ラトゥーニは、そう言えばイサムが兄弟同然に育ったという話をしていたことを思い出し。目の前の女性が言いたいことをおおよそは把握した。

それと同時に、彼女の声には聞き覚えがあった。

 

「あの、あなたはガーリオンの重装カスタムタイプのパイロットの?」

「ああ、ごめんごめん。自己紹介してなかったっけ?あたしはエール・エンフェリート。えっと、階級は特務中尉ね。で、あなたラトゥーニ・スゥボータであってる?」

「あ、はい」

 

軍人とは思えない余りの軽さに、困惑の色を深めるラトゥーニ。そんな彼女のことなどお構いなしに迫っていくエール。

 

「いや~にしても、こんな可愛い子が連邦さんにいるとはねぇ。どう、あたしの妹にならない?」

「ええ…」

 

撫でまわされながらの突然過ぎる提案に、完全に置いていかれているラトゥーニ。はたから見ると、酔っ払いに絡まれているようにしか見えなかった。

 

「お、どうしたラトゥーニ。DCの奴にいちゃもんつけられてんのか?」

 

そんな彼女に。たまたま通りがかったカチーナが、どこか嬉しそうに声をかけてきた。

 

「そんな中尉じゃないんですから…あいたぁ!?」

 

共にいたラッセルがツッコミを入れると、カチーナに尻を蹴り上げられる。

 

「ありゃ、そういうお姉さんは。ヒリュウんところの、タコさんズの赤ゲシュさんのパイロットじゃないですか」

「オクトパスだ!てか、テメェはあの弾幕娘か!!」

 

エールの正体に気が付いたカチーナは、これでもかというくらいに威嚇して睨みつける。

 

「落ち着いて下さい中尉!クロガネには何回か助けてもらってるわけですから!」

「だからって、こいつらを信用すんのかよラッセル!」

「ですが、エアロゲイターに対抗するには今は協力するしか…」

 

なにやら2人で口論を始めてしまったカチーナとラッセル。

 

「なんか面白くなってきたねラトちん」

「はぁ…。ってラトちん?」

 

それは自分のことなのか?と問いかけようとすると、別の声がかけられた。

 

「エール!」

「お、レオナじゃ~ん!元気だった?」

「ええ。あなたも…元気そうね」

 

声をかけてきたのは、コロニー統合軍トロイエ隊の生き残りであるレオナであった。

彼女はラトゥーニを後ろから抱きしめているエールを見て、相変わらずといった様子で苦笑する。

そんな彼女らの(主にカチーナらの)喧騒につられ、他の者達も集まってきた。

 

「どったのレオナちゃん?」

「タスク・シングウジ…」

 

興味深々といった様子で話しかけてきたタスクを見たとたん、レオナがそわそわしだす。

そんな彼女を見たエールの目が怪しく輝いたように見えて、ラトゥーニは不穏な気配を感じた。

 

「ほう」

「?」

「ほうほうほう」

 

ニタニタと笑いながらレオナの肩に腕を回すエール。その不気味さに冷や汗が出始めるレオナ。

 

「な、何よエール…」

「Oh,yes!」

「え、何この人?」

 

やたらハイテンションエールに、不審者を見る目を向けるタスク。

 

「少年!」

「え、はい!?」

 

突然タスクの肩をガッチリと掴んで絡みだすエール。だが、その目は真剣そのものであった。

そんな彼女の目を見たタスクは、無意識に背筋を正してしまう。

 

「レオナは料理は非常に残念である。でも、それ以外は文句のつけようはない。大事にしたまえ!」

「は、はぁ…」

「エール!?!?!?」

 

まさかの暴露に、レオナが慌ててエールの肩を掴む。

タスクはエールのテンションに着いていけず、目が点になっていた。

 

「あなた何を!?」

「友の青春を応援して何が悪いかぁあああああ!!!」

「もう少しやり方があるでしょう!?じゃなくて!か、彼とはそういうことではなくってよ!!」

 

肩を激しく揺すりながら捲し立てるレオナ。普段の彼女ではまず見せることのない姿であろう。エールという女性の恐ろしさの一端を垣間見たラトゥーニであった。

 

「で、結局何しに来たんだお前は?」

 

カチーナが腕を組みながら、疑わしそうに睨みつけてくるも。意に介した様子もなく、ラトゥーニを後ろから抱きしめた状態で、彼女の頭に顎を乗せてくるエール。正直そろそろ離してもらいたい。

 

「ケンの奴が弟君と話に言っちゃって暇だから、せっかくなんで遊びに来ました」

「イサムと?」

 

エールの発言に、ラトゥーニは一抹の不安を覚える。これまでの行動から敵対することはないだろうが、彼にどのような意図があるのか読み切れないからだ。

ラトゥーニの不安を感じ取ったのか、優しく語り掛けるエール。

 

「だいじょぶだいじょぶ。仲直りしにいっただけだから」

「仲直り、ですか?」

「そっ。ようやく決心したみたいねぇ、あのツンデレ」

 

やれやれと溜息を吐くエール。何やら色々と苦労したようである。

 

「あの、あなたは彼の…」

「うい?妻です」

「つ、妻!?」

 

予想外の返答に、思わず目を見開いて素っ頓狂な声をあげてしまうラトゥーニ。

 

「Yes!ん?なぜそうなったか知りたい?あれは1億と2千年前…でもなく、4年前に遡って――」

「なんか、勝手に回想に入ろうとしてるッ!?」

「そう。その頃のあたしは清く正しい乙女として――」

 

なにやらよく分からない芝居口調と、手振り身振りで語りだすエールに、タスクのツッコミが入るも。知ったこっちゃないと言わんばかりにスルーされた。

 

「流された、だと!?」

「無駄よ。ああなった彼女は簡単には止まらないわ…」

 

強敵と対峙した時のような戦慄を走らせるタスクに、レオナはヤレヤレといった様子で首を軽く振りながらフォローする。

 

「そしてあたしとケンは、世界の中心で愛を叫んであうち!」

 

周りの者の反応など気にかけず、熱く語り続けていたエールの尻を、いつの間にか背後に立っていたケンが軽く蹴りを入れた。

 

「お、お尻が…お尻が2つに割れる!!」

「元からだ。まず、貴様に愛を叫んだことなどない。それに貴様に清く正しい乙女時代があったのなら、今すぐに真実の口に手を突っ込んでみせろ。そして、噛み千切られろ」

 

ボケかますエールを、冷めきった目で見降ろしながら言葉で責め立てるケン。

 

「……」

「頬を赤らめるな」

 

なぜか嬉しそうにしているエールの尻に再び蹴りを入れるケン。蹴られたエールはあふんッと、少なくとも乙女が発すべきでない声を漏らした。

 

「特務大尉!」

 

騒ぎを聞きつけてきたリョウトがケンの姿を見つけると、嬉しそうに声をかけた。

 

「リョウト・ヒカワか。もうお前はDCではないのだから、その呼び方は止めろ」

「ですが、特務大尉にはお世話になりましたし…」

「俺は何もしていない。ただ、ビアンのオッサンから回された面倒ごとを処理しただけだ」

「ビアン総帥が?」

 

腕を組んで不満そうに話すケンの発言に、引っかかりを覚えるリョウト。

 

「お前は、そっちにいた方が本領を発揮できるだろうって考えたんだろうよ。ま、正解だったようだが」

 

リョウトを見比べるような視線を向けるケン。

 

「なんやねん。せっかく慕ってくれてんだからもっと可愛がってやれよ~、やれよ~」

「はいはい。そうだな」

「あしらうなよー!」

 

エールが背中にもたれかかりながら茶化してくるのを、慣れた様子であしらうケン。

 

「(エクセ姉より凄い人っているんだなぁ…)」

 

ケンと共にやってきていたイサムは、エールの予想以上のインパクトの強さにある意味関心していた。

 

「お、弟君じゃん!ひゃっほぅ!!」

「にゃぁぁぁぁぁぁ!?」

 

イサムの存在に気が付いたエールが肉食獣のような目で跳びかかってきたので、思わず可愛らしい悲鳴をあげてしまうイサム。

 

「シッ!」

「あびゃ!?」

 

イサムを庇うように立ちはだかったケンの放った手刀が、エールの頭部に炸裂しビターンと地面に叩きつけられる。

 

「世話をかけた、ではな」

「あ、うん」

 

倒れ伏しているエールの片足を掴むと、さも当然のように引きずりながら去っていくケン。

 

「あ~弟君モフモフしてないのにィィィィィィィ!!!」

 

エールはジタバタとしながらあがくも、その姿は遠ざかっていく。

 

「なんか。嵐みたいな人だったなぁ」

 

暫く唖然としていた一同だったが。タスクが絞り出すように呟いた言葉に、皆無言で頷くのであった。



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第二十五話

南極から伊豆へ帰還したハガネ・ヒリュウ隊は次の作戦へ備えて補給と整備を受けていた。

キョウスケとブルックリンによって、救出されたエクセレンとクスハは後遺症もなく戦線に復帰し、一同はエアロゲイターとの決戦に備えていた。

 

伊豆基地 格納庫

 

「どうだろう状態は?」

「装甲換装はいつも通りですが、サーボモーターがどうにもいけません」

 

キョウスケの問いに、整備員が難しい顔で答える。

先の戦闘でエクセレンを取り戻すために無理をした結果、アルトアイゼンは中破してしまったのだ。

 

「G系アクチュエータとしちゃ、これ以上のトルクは望めないんですが…」

「ないものねだりしても仕方がない、今の仕様で進めてくれ」

 

DC戦争末期より、キョウスケの技量に機体が追い付かなくなってきているのだが、現状では改善策がなく妥協せざるを得ないのだ。

 

「ないものねだりとは、また消極的だこと」

「あなたは…!」

 

格納庫に現れたのは、ラングレー基地陥落時に行方不明となっていたマリオン・ラドムとリシュウ・トウゴウであった。

マリオンは右足に包帯を巻き、松葉杖を使って歩いており。リシュウは右腕に包帯を巻いているも、以前と変わらず健康そうであった。

 

「ラドム博士!リシュウ先生!」

「わお!こんな昼間から化けて出たの!?」

「失敬なっ!もし死んでも、わたくしわそんなあやふやなものに身をやつすつもりはありませんッ!」

 

足があるか、確かめようとするエクセレンの頭を抑えながら怒鳴るマリオン。

 

「よくもまあ、わたくしのMK-Ⅲをここまで使いつぶしてくれましたこと」

 

アルトアイゼンの様子を一瞥したラドムが、感想を述べる。

 

「すみません」

「誉めているんです。限界まで性能を引き出したからこそ、次の()を目指せるというもの」

「この難儀な口と性格は、ちょっとやそっと寝付いた程度では直らんかったの」

 

相変わらずのラドムに、やれやれといった様子を見せるリシュウ。

 

「先生、その怪我は?」

 

リシュウの右腕に巻かれた包帯について、キョウスケが問いかける。

 

「…グレッグに諭されてな。マリオン達を連れてラングレーから脱出する時の立ち回りでちっとな。その後はクロガネに匿われとったので連絡もできんと不義理をしたな」

「いえ、よく生きていて下さりました。ブリットも喜びます。何より…」

 

キョウスケが言い切る前に、ドドドドドと足音が近づいてくる。

 

「おじいちゃ~~~~~~~~~ん!!!」

 

突進の如き勢いで飛び込んできたイサムを、難なく受け止めるリシュウ。

 

「よかった、よかったよぉ…」

「心配をかけたのイサム。許しておくれ」

「うん、いい。また会えたから…」

 

抱き着きながら胸に顔をうずめ、掠れ声で話すイサムの頭をそっと撫でるリシュウ。

 

「ラドム博士もよかったよぉ…」

「あらあら、この子たら」

 

リシュウから離れると、今度はラドムに抱き着くイサム。そんな彼の頭を、慈愛に満ちた顔で抱きしめるラドム。

 

「うう…よかったわねぇイサム君…」

 

そんな光景を見て号泣するエクセレンは、キョウスケがハンカチを差し出すと、鼻をかむ。

 

「かっかっかっ。まあなお前達に不義理を詫びにゃならんならまずこやつからじゃの」

 

リシュウの言葉に合わせるように姿を現したのは、ゼンガー・ゾンボルトであった。

 

「…隊長」

「俺をまだ隊長と呼ぶか。…再び…お前とこうやって話すことがあるとはな」

 

互いに感慨深そうに向き合うキョウスケとゼンガー。

 

「トウゴウ顧問やラドム博士まで無事だった。出来過ぎと言えば出来過ぎです」

「だが、俺は一度お前達を裏切った男だ。生き恥を晒すことは覚悟の上だが。今少しの間この星を守る力となることを…」

 

ゼンガーが深々と頭を下げると、キョウスケは一歩歩み寄る。

 

「…隊長、失礼します」

「む?」

 

顔を上げたゼンガーの頬に、キョウスケが拳を叩きつけ鈍い音が響いた。

その衝撃で軽く仰け反ったゼンガーの口から、血が僅かに流れ出る。

 

「我々が今必要としているのは、この星を護ると悪を絶つとただひたすらに愚直な男です。過去に迷い弱音を吐く男ではありません。未だに目が覚めないというのなら、覚めるまで叩かせて頂きます」

 

殴った拳を見せつけるように言うキョウスケに、ゼンガーはフッと笑みを浮かべた。

 

「そうか…そうだな、その通りだ。これ(・・)は貸しにしておくぞ」

 

吹っ切れた様に口元の血を指で拭うゼンガーに、キョウスケは満足そうに頷いた。

 

「ちょっと貸しっつったわよあの人。返せんのかしらアレ?」

「殴った方がダメージでかいって、流石親分と言うべきか…」

 

拳を痛めているキョウスケを見て、冷や汗を流すエクセレントイサムであった。

 

 

伊豆基地 格納庫

 

ラドムと共に、SRX計画用のブロックに移動したイサムは辺りを見回す。

伊豆の整備員と共に作業をしているマオ社のスタッフが見えた。

 

「なんか人が増えましたね。あれってマオ社の人かな?」

「ええ、補充物資と共に先程到着したそうです」

 

そんなことを話していると、見知った顔を見つけたイサムは声をかける。

 

「サカエ副指令ー!」

「む、イサム君か」

「もしかして、Rシリーズの凍結が解除されてんですか!」

「ああ、レイカー指令の独断だが。次の作戦は、使えるもの(・・・・・)は全て使わねば活路は拓けんと判断されたのだ。だから、マオ社の協力の元修復作業を行っている」

 

Rシリーズは北京での戦闘の直後に凍結が言い渡されたため、破損したままの状態で保管されていたのである。

 

「でも間に合うんですか?」

「問題ない、私もサポートするからな」

「カークさん!」

 

不安そうなイサムに、ロバートと共にいた男性が声をかける。彼の名はカーク・ハミル。ラドムと共にPT開発第一人者として活躍しているマオ社のスタッフである。

思わぬ再会に喜ぶイサム。

 

「それでカーク、先程の話だが…」

「ああ、パターンOOCは現状ではリスクが高すぎる封印すべきだろう」

「え、合体できないんですか?」

 

カークから放たれた言葉に、イサムは衝撃を受けた。

 

「トロニウム・エンジンのフルドライブ出力が概算でも高すぎる。念動フィールドの補正を入れても、ゾル・オリハルコニウムの装甲が保った所で関節サーボモーターが負荷に耐えられん」

「そんな…」

 

説明を受けたロバートとイサムが落胆していると、成り行きを見ていたラドムがやれやれといった様子で溜息をついた。

 

「みっともない有様ですこと。得体のしれない技術にほいほい興味本位でとびつくからそういう目にあうんです」

「ラドム博士!?生きていいたんですか!」

 

ラドムの存在に気がついたイサム以外の失礼な反応に、どいつもこいつもと言いたそうな顔で端末を見せつけるラドム。

 

「…MK-Ⅲとレオーネ用に改良した新型サーボモーターです。今クロガネから搬出させていますが、念のため多少多めに製造させてあります」

「クロガネから?行方不明の間にこれ造ってたんですか」

「歩くのには難儀しましたが、頭を使う方は支障なかったものですから」

 

ふん、と鼻を鳴らしながら包帯が巻かれた右足を見せるラドム。

 

「こんなこともあろうかと、PT系共通規格のパーツです。これならRシリーズの要求スペックにも十二分応えられる筈です。あなた達がどうしてもと言うのなら、分けてさしあげないこともありません」

「マリー…」

 

カークの呼び方にムッとするラドム。

 

「あなたにマリーと呼ばれる理由はもうない筈ですわよ!この件はあくまでついで(・・・)の話です!さあ、おっしゃいなさい助けて欲しいと!」

「あれが『元夫婦』だってんですから、人間には無限の可能性があるなぁ…」

 

2人のやり取りを見たロバートが、しみじみとした様子で作業に入り。イサムは仲良しだなぁと、微笑ましく見ているのだった。

 

クロガネ 格納庫

 

伊豆基地に秘密裏に駐留しているクロガネの格納庫にて、ケンは自身の機体を見上げながら考えに耽っていた。

そんな彼に歩み寄る人物がいた。

 

「この機体、親父が考えたんだろ?いかにも好きそうなデザインだ」

「リューネ・ゾルダークか」

 

隣に立ったリューネに、ケンは視線だけを向けた。

 

「何か用か?」

「ん、この子があんたに会いたがってさ」

 

彼女の言葉に合わせるように一匹の大型犬がケンに近寄ると、懐くように足へ頭を擦りつける。

ラッシーという名のビアン・ゾルダークの愛犬である。

 

「お前か。もう俺に構うなと言っただろうに」

 

構ってほしそうな顔をしているラッシーに、眉を顰めるケン。

 

「あんたのことが気に入ったのさ。気難しいこの子がここまで懐くのは珍しいよ。それと礼を言いたくてさ、エルザム少佐から聞いたよ。親父が死んじまってから、この子の面倒を見てくれていたってさ」

「勝手に寄って来るから、仕方なく相手してやっただけだ」

 

ヤレヤレといった様子で視線を逸らすケンだが、まるで照れ隠ししているようでもあった。

 

「それで、用はそれだけか?」

「いや、あんたの相方らさ、あんたが親父を守れなかったことを気にしてるって聞いてね」

「……」

「あたしとしては、別にあんたを責める気はないよ。寧ろ親父のワガママにつき合ってくれて感謝してるよ。だいたい死ぬことになったのも自業自得だからね。だから、いつまでも引きずることはないんだよ」

 

リューネの言葉を受けても、納得した様子のないケン。

 

「あんたのこともあったが。…あの人は、もう1人の父のような人だった。だから、例え本人が望んだ結果であったとしてもな…」

「そっか。それなら、あたしとあんたは姉弟ってことになる訳か。ふふ、あたし1人っ子で弟か妹が欲しいって思ったこともあったから、悪くないね」

「ム、それは…」

「よし、今度からあたしのことは姉って呼びなよ」

「いや、待て。勝手に話を進めるな」

 

首に腕を回しながら頭を撫でてくるリューネに、困惑しながらも口元に笑みを浮かべているケンであった。

 

 

 

 

伊豆基地 通路

 

「ん~と次はどこに行こっかなぁ」

 

考え込んだ様子で歩いているイサム。自覚はないが、どこか落ち着きがないようであった。

 

「イサム」

「うんにゃ、ラトどしたの?」

「こっち」

 

背後から声をかけられて振り返ると、ラトゥーニがおり。イサムの手を握ると近くにある休憩スペースに連れていき、椅子に並んで座る。

 

「作戦前で落ち着かないのは分かるけど、休める時に休むことも大事だよ」

「ん~そうなんだけど。エアロゲイターとの決戦だし、元々ジッとしてるのって苦手なんだよねぇ」

 

ラトゥーニの言葉に、頬を掻きながら答えるイサム。

 

「イルム中尉が『あいつは昔からそそっかしい』って言ってた」

「え、何。昔のことを聞いたの?」

「うん、罰ゲームで女装した時の…「いにゃぁあああああああ!?!?!?」とか」

 

笑顔でその時の画像が表示された端末を見せてくるラトゥーニに、イサムは悲鳴を上げながら消そうと端末に手を伸ばすも軽やかに避けられる。

 

「他にも『色々と』貰った」

「…嬉しそうでございますね」

 

ホクホクした様子のラトゥーニに、破棄することを諦め元凶(イルム)をとっちめることを決意するイサム。

 

「えへへ」

「どうしたの?」

「ん~やっぱり、ラトとこうしていると落ち着くなって」

「…うん、私もだよ」

 

笑顔のイサムに、頬を赤らめながらはにかむラトゥーニ。

 

「…ずっと、こんなに日が続けばいいのにね」

「そうだね。きっと、そうなる日がくるよ。そのためにも、できることをしていこう」

「うん、一緒に頑張ろうね」

 

イサムの手に自分の手を重ねるラトゥーニ。そんな彼女の行動に、嬉しさを感じると手を握るイサム。手から伝わる温もりが心地良かった。

突然のことに驚いたのか。ラトゥーニはビクッと体を震わせるも、顔の赤みが増しながらもそっと握り返してくれた。

それからは何も語ることなく、時間の許す限り温もりを感じ合うのであった。。



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第二十六話

L5宙域に突如出現したエアロゲイターの拠点『ホワイトスター』を攻略すべく、連邦政府ならび軍は作戦名『オペレーションSRW』を発動す。

指令である、ノーマン・スレイ少将が座乗したアルバトロス級グレートアークを旗艦とした艦隊が総攻撃を開始し、これを迎え撃ったバグスの大軍と激突した。

その中で、ハガネ・ヒリュウ隊は左翼前方へ突出し、敵陣の誘因・撹乱を行っていた。

 

『オラァ!』

 

レオーネの振るったシシオウブレード改が、バグスを軽々と両断していく。

群れの中心に突撃したレオーネを他のバグスが包囲しようとすると、飛来したビームは実弾に叩き落とされていく。

 

『相変わらず数だけは多いぜ!』

『でも、人型は見えないわね。様子見かしら?』

 

次から次へと押し寄せてくるバグスに、ジャーダが辟易していると。ガーネットが疑問に思ったことを口にした。

作戦が開始してから遭遇したのはバグスのみであり、ナイトはおろかソルジャーやファットマンといった人型の姿が見られないのだ。

 

『でも、敵には転移技術があるから。その気になればいつでも好きな場所に戦力を投入できる』

『何であれ、前に進み続けるしかないさ!』

 

ラトゥーニの懸念を吹き飛ばすように。イサムは機体を新たなバグスの群れに突進させ、ブレードで数体を纏めて突き刺すと、そのまま振り回し他の個体諸共なぎ倒す。

 

『うおっと!』

 

新たに現れたバグスが放ったレーザーをレオーネは回避するも、その隙に1体が組み付こうと肉薄してきた。

 

『T-LINKナッコォ!!』

 

そのバグスをR-1が念を纏った拳で破壊した。更に、それに続くようにR-2の砲撃と、R-3のミサイルが残りのバグスを撃破していく。

 

『ありがとうございます、助かりました』

『いいってことよ』

『リュウ、ライ私達はこのままハガネ前衛の敵陣を切り崩すわよ』

『了解です大尉』

『ガーネット、ラト、イサム、俺らも続くぞ!』

 

SRXチームと共にハガネ進路上の敵そ撃破していくイサムら。

北京での戦いから意識不明で療養していたアヤは本作戦から復帰しており。目が覚めた当初は、イングラムの離反を認められず錯乱してしまうも、リュウセイとライディース、他の仲間らの励ましによって立ち直り、イングラムと決着を着けるべく強い決意と共にこの戦いに挑んでいた。そして、それは他の2人も同様であり、立ちはだかるバグスの群れをものともせず蹴散らしていく。

 

『アイアン2より各機へ、これよりフェーズ2へ移行する!射線上より退避せよ!』

 

機動兵器による露払いである、フェーズ1が完了したことを告げるエイタからの通信に、各機が回避機動に入っていく。

本隊から発射される核ミサイルがホワイトスターに殺到していき、眩い閃光に包まれた。

 

『やったか!?――なッ!?』

 

閃光が収まると、幕のような輝きに包まれた無傷のホワイトスターが姿を現す。

 

『無傷だと!?』

『あんたが余計なこと言うからでしょジャーダ!?』

『俺のせいかガーネット!?』

『そんなこと言ってる場合じゃないですよ!ラト、あれって…』

『うん、ホワイトスターを覆っているのは、念動フィールドよ』

『でも、直径40㎞の念動フィールドなんて…』

 

驚嘆の声を漏らすアヤ。念動力者である彼女には、それがどれだけ途轍もないことか理解してしまえるのだろう。

 

『ッ!艦隊後方より転移反応!』

『転移戦術に移行したか!』

 

ラトゥーニに警告に、ジャーダが思わず舌打ちする。

次々と出現するソルジャーとファットマンが、背後から艦隊へと襲い掛かり。人型の攻撃により被弾した本隊所属の機体らに、バグスが取りついていく。

 

『ヒッ!た、助け…!』

 

コックピットをこじ開けたバグスが、パイロット拉致していく。

 

『くそっ!サイフラッシュで纏めて蹴散らすぞ!』

『ダメニャ!敵は味方機に取りついてニャ、サイフラッシュで虫共を攻撃したら、味方機が爆発に巻き込まれるニャ!』

 

悪化していく戦況に、誰もが焦燥感を募らせる中。ダメ出しと言わんばかりにフラワー――敵艦が現れ主力艦隊側面へと迫っていく。

 

『おい、アレってヤベーんじゃねーか!?どうするッ追うか!?』

『貴様らの役目を忘れるなドアホウ共』

 

焦れるリュウセイの言葉を遮るように、アリオールを駆るケンがシシオウブレードでエアロゲイターの機体を斬り伏せていく。

他にも、ゼンガーのグルンガスト零式が斬艦刀でフラワーを一刀で両断し、エールのディバイソンが一斉射でバグスらを吹き飛ばす。それに続くようにクロガネを中心としたDC、統合軍残党部隊が連邦軍に加勢していく。

 

『アイアン2、ならびにドラゴン2所属の機動部隊は母艦へ帰投せよッ。本遊撃艦隊はこれよりフェイズ4を実行する!』

 

本来であればフェイズ3――艦隊機動部隊がホワイトスターに接近し、内部に核を撃ち込む予定だったが。フィールドによって阻まれ実行不可能となり、最終手段であるフェイズ4――少数精鋭による敵中枢への電撃戦へ移行したのだ。

 

『進め、貴様らに許されたのは前進のみだ』

『でも…』

 

ケンの言葉に、躊躇いを見せるイサム。こうしている間にも、友軍が拉致されておりそれを見過ごせないのだ。

 

『俺達に構わず行けッ!ハガネ、ヒリュウ!』

『こうなったら、あんたらが頼りだ!行ってくれ!』

 

躊躇うイサムらの背を押すように、正規兵らが果敢に敵部隊に立ち向かっていく。中には敵機を巻き込んで自爆していく者もいた。

 

『ッ!』

『行くぞイサム。彼らの想いを無駄にするな』

『…はいッ』

 

ライディースの言葉に意を決したように答えると、他の機体と共にハガネに帰還するイサム。

 

『でも、突撃するにしたって、どうやってフィールドを破るんだろう?』

『テスラドライブ搭載艦で並列陣形を構成して、収束されたブレイクフィールドを先頭のクロガネの艦首回転衝角で旋穿尖スパイラル・エネルギー・フィールドに変換、敵要塞のフィールドを貫通させるみたい』

『艦隊そのものをドリルにするって感じか、ん~なんか覚えがあるような…』

『オペレーション・ブレイクアウトでお前らがコロニー統合軍に使った戦法の応用だ。エルザム少佐が提案した』

 

イサムの疑問に、ラトゥーニとケンが答える。

 

『やられた側が言うのも何か因果やね、ダーリン』

『――ハッ』

『うわ、こいつ人の愛情表現を全力で鼻で嗤いやがった!』

『使えるものは使う、それだけだ』

『しかも完全に無視しやがった!ふぇえええん、ラトちんウチの彼氏が酷いよ~!』

『えっと、頑張って下さい』

『でも、そんなところが好き』

『えぇ…』

『面白い人だなぁ』

 

そんなやり取りをしていると、クロガネ船体に強い衝撃が走ったのだった。

 

 

 

 

『ふん、またあの黒いのか。2度も通用すると思ってんのかい原始人め。アウレフ!』

『了解、メタルジェノサイダー起動』

 

ヴァイクルに乗ったアタッド・シャムランの指示に、イングラムはR-GUNを変形させチャージを始める。

その砲口はホワイトスターに突撃している遊撃艦隊に向けられた。

 

『デットエンド・シュートッ』

 

チャージが終わるのと同時に放たれた高出力ビームは、艦隊を覆うブレイクフィールドごとクロガネ右舷を貫いた。

 

『いい仕事をしたねアウレフ。誉めてやるさね。さあ、後は足を止めた奴らをいたぶって――ん?』

 

失速し艦列から離脱していくクロガネを見て。目論見通りにいったとほくそ笑むアタッドの意に反し、遊撃艦隊は止まることなくハガネ、ヒリュウのみでホワイトスターを覆うフィールドへと激突した。

 

『足掻きやがって。アウレフ!』

『メタルジェノサイダーの次砲発射には時間がかかる』

 

冷却中のR-GUNを見て、アタッドは舌打ちする。

 

『使えないねぇ。それなら、ガルイン!』

『リョウカイ』

 

本隊と交戦していたゲシュペンスト・タイプSが、標的を遊撃艦隊へ変更し接近していく。

そんなタイプSへと複数のビームが飛来し機動が阻害される。

 

『カーウァイ隊長、あなたを縛る呪いは我々が断ち切る』

 

タイプSの前に、ギリアムら元教導隊の面々が立ちはだかった。

南極での交戦記録の分析と、エクセレンとクスハの事例から。タイプSに搭乗しているのは特殊戦技教導隊の隊長であるカーウァイ・ラウ大佐であることが判明したのだ。

だが、彼女らと違い拉致されて年時が経ち過ぎていること。そして何より、相手の技量からして救出することは不可能との見解で一致された。

ならばせめて、自分達の手で敬愛するかつての上官を解放すべく、彼らは戦いを挑むのであった。

 

 

 

 

『ステージの真ん中でフリーズとかッ。ホ!脳みそバグってんじゃねえのかッアハハハハハッ!』

 

ゲーザ・ハガナーが駆るヴァイクルが率いる部隊が、ガルインとは別のルートで遊撃艦隊へと迫っていた。

それを迎撃すべく、レオーネら機動部隊が出撃していく。

 

『いけェ!』

 

レオーネが投擲したブレードを80mはある巨体にも関わらず、俊敏な機動で回避するヴァイクル。

 

『ホッ!甘ぇてのォ!』

 

お返しと言わんばかりに、ヴァイクルが放ったビーム砲を回避するとブーメランの要領で戻ってきたブレードを手にし斬りかかるレオーネ。

だが、小型砲台から放たれる無数のビームに阻まれてしまう。

 

『加勢するよ弟君!』

 

そこにディバイソンが一斉射で援護に入り、迫る弾丸やビームを回避しながら小型砲台でミサイルを撃ち落としていくヴァイクル。

その隙にビルドラプターが、ハイパー・ビームライフルで背部の推進系を狙撃してダメージを与える。

 

『こんのッ雑魚共がさっさと落ちグぉ!?』

『邪魔だデカブツ』

 

被弾の衝撃で動きの鈍ったヴァイクルに、肉薄したアリオールが顎を蹴り上げると。ブースターを全開まで吹かし両手を水平に広げ独楽のように回転しながら、蛇が這いまわるように斬り刻んでいく。

更にレオーネが追撃に入り、放たれた斬撃を回避しようとするも、鳥の翼を模したブースターが片方切断された。

 

『グォォォおおおおお!?この俺が、ゲーザ・ハガナー様が猿なんかに押されるだとォ!?』

『チッ無駄に頑丈だな』

 

流石に堪えたのか、一度距離を取るヴァイクル。各部がショートし火花を散らしているも、未だ健在な姿に鬱陶しそうに舌打ちするケン。

 

『リュウ!ライ!やるわよッ。機動エリア確保!』

『おうよ、俺達の力見せてやろうぜ!』

『了解!ハイゾルランチャー、シューッ!』

 

イサムらがゲーザを抑えている間に。他の敵機を蹴散らし、Rシリーズが加速していく。

 

『パターンO・O・Cプロテクト解除ッ。T-LINKフルコンタクト!』

『トロニウム・エンジン、フルドライブ!』

『念動フィールドON!各機変形開始!』

『行くぜッ、ヴァリアブル・フーメーション!』

 

Rシリーズが変形を開始し、合体を始めていく。

 

『舐めてんのかッ。全部見えてるっての!』

 

それを見たゲーザが、被弾を無視しながら強引にRシリーズに接近し。放たれたビーム砲をフィールドで逸らし本体への被弾は防ぐが、脚部となるR-3のプラスパーツが弾き飛ばされてしまった。

 

『しまった、R-3のプラスパーツが!』

『振り切れ!宙間戦闘なら脚はなくても何とかなる!』

 

動揺するリュウセイをライディースがフォローしつつ、不完全ながら合体は継続される。

 

『潰れろよおッ!プチっとッ!!』

 

リュウセイの声に激しい頭痛に見舞われたゲーザは、錯乱気味に小型砲台と合わせビームを乱射していると。ヴァイスリッターによって砲台が次々と撃ち落とされていく。

 

『ホ!?』

『合体中は手出し無用のお約束よ、学校で習わなかった?』

『いい加減大人しくしてろこの鳥ィ!』

 

追いついてきたレオーネに蹴り飛ばされるヴァイクル。その間にR-3のプラスパーツを手にしたアルトアイゼンが駆け付ける。

 

『キョウスケ中尉!』

『初見せで半欠けでは格好がつかん。見せつけてやれSRXチーム』

 

プラスパーツが装着され、合体を完了させたSRXへ敵機の大軍が迫る。

放たれた攻撃を回避しつつフィールドで防ぎながら、全ての射撃武装を開放していくSRX。

 

『S・R・Xッフルバーストッ!!』

 

放たれたビームとミサイルが、眼前一面に広がる敵機を飲み込み吹き飛ばしていく。

 

『天下無敵のスーパーロボット!SRXここに見参!!』

 

大軍の背後に控えていたR-GAN――イングラムと対峙するSRXチーム。

 

『人類の、俺達の力を見せてやる!!』

 

ついに人類の英知の結晶たる巨人が誕生し、戦いは次なるステージへと進んでいくのであった。



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第二十七話

ここまで来たら、今年中にOG1完結目指していきます。


『潰れろ、潰れろ虫ケラ共ォ、ヒャハハハハハァ!!』

 

正気とは思えない様子でビームを乱射してくるゲーザ。その攻撃は味方すら巻き込んでいた。

 

『お前らは、俺の経験値になるためだけに生まれたモブキャラなんだよォ!』

『ッこいつ無差別に!それにこの言動って…』

『テンザン・ナカジマだろうな。エアロゲイターの奴ら、ジュネーブでの戦いの裏でも暗躍していたんだろう』

 

DC戦争後、テンザン・ナカジマはアードラー・コッホの元に身を寄せており。ジュネーブでの戦いではヴァルシオン改を駆り参戦していたのだ。

結果として、ゲイム・システムの負荷に耐えられず精神が破壊され、最後はリュウセイの手によって撃墜されることとなった。

 

『あれでは最早救いようもないな。最もそんな気はないが』

 

アリオールが小型砲台を切断すると、弾幕に切れ目が生じ。すかさずヴァイクル本体へ肉薄すると、ビーム砲へブレードを突き刺し離脱す。

 

『ホッ!?』

 

ビーム砲が爆発しその衝撃で動きが鈍ったところに、ビルドラプターとディバイソンが火器で追撃をかけ

ていく。

度重なるダメージに限界が近いのか、各部から小規模の爆発を繰り返すヴァイクル。全ての小型砲台も落とされ、満身創痍であるのも関わらずゲーザは戦いを止めようとはしない。

 

『楽しい、楽しいなァこのゲームは!ゲームの中だけは!アヒャッアヒャハハハハハァ!!』

 

剥き出しになったコックピットから見えるゲーザの体は、至る所から金属のフレームが剥き出しになっており、最早人の身ではないことを告げていた。

 

『……ッ!』

「おい、まさか助けようなんて言うなよ。奴の場合は自業自得なんだぞ』

 

そんなゲーザの姿に、思わず攻撃の手を止めてしまうイサムへ、ケンが釘を刺すように話す。

 

『確かに碌でもない奴だったけど。こんな、こんな人形みたいに扱われて言い訳ないだろッ!ふざけるな、エアロゲイターァ!!』

 

目の前の理不尽に憤慨するイサム。そんな彼の感情に反応するように、レオーネの出力が高まる。

 

『プチプチプチプチップチィィィ!』

『オオオォォォ!』

 

突進してくるヴァイクルへ向け、ブレードを構えながら突撃するレオーネ。

 

『チェストォォォオオオ!!』

 

交差する間際に振るわれるブレードは、袈裟切りにヴァイクルを斬り裂いた。

 

『ひ、ヒは…リセットだ。りせっと、そうさ…俺様は、ム…てき――』

 

切断面から爆発が起ると。それに続くように各部から小規模の爆発が続き、最後は機体全体を覆う程の大爆発がゲーザごと飲み込んでいくのであった。

 

『……』

『イサム、大丈夫?』

 

言いようのないやるせなさに、歯嚙みするイサム。そんな彼に寄り添うように、ラトゥーニは機体を寄せる。

 

『ありがとう大丈夫だよ。行こう皆、こんな戦い終わらせるんだッ』

『うん、行こう』

『立ち止まる気など元よりない』

『にしし、さ~て何が出てくるかねぇ』

 

決意を新たにイサムはラトゥーニらと共に、ハガネとヒリュウが切り開いた進入口よりホワイトスター内部へ突入するのであった。

 

 

 

 

ホワイトスター内部は閑散としており、迎撃を受けるでもなく一同は隔壁を破壊しながら中心部へと進んでいき。いくつかの障壁を破壊すると、開けた空間へと出た。

 

『何だここ…?』

『中枢エリアではないようだが』

『大気構成は地球と完全に一致している…』

 

イサムとケンは訝しげに周囲を観察し、ラトゥーニが分析結果に眉をひそめる。

 

『な~んか牧場って感じがしないでもないわねぇ』

 

エールがそんな感想を漏らしていると、別の隔壁がいくつか吹き飛び他の面々が姿を現す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとう。地球人種の中でも選ばれた者達よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如響いた声に視線を辿ると、空間の中心部にある丘。その上に玉座のような椅子に腰かけた、イサムらと同年代の少女が一同を見下ろしていた。

 

「お前達はクラス・ギボルたる資格を得た。この園はお前達のための檻である。そのヒトガタから降り、来るべき時まで寛げ。心安らに我が踵下(かか)に跪くがよい」

 

尊大な態度で語る少女に、一同は困惑や疑念の目を向ける。

 

『女の、子?』

『随分プリティーな妖精さんだこと』

『何であれ、敵なら潰せば一緒だ』

『君がエアロゲイターの統率者なのか?』

 

問いかけるイサムに、少女はまるでペットを愛でるかのように視線を向ける。

 

「いかにも。我が名はレビ・トーラー。この自動惑星ネビーイームを統べる者である」

『…で、手前らは降伏しろと、そうぬかしやがるか』

 

そんな少女――レビの態度にマサキが不快感を隠さず問う。

 

「フ…。お前達の性能を評価し、我らの尖兵として闘う場を与えてやろうというのだ」

『性能…』

「そうだ、我らと言葉を交わらせる程度には発達した知性を持ちながら、蟲毒の如くたった一つの惑星上で飽くことなく殺し合い争い発展させてきた旺盛な繁殖能力と闘争本能。そして、我らが与えたお前達には本来オーバーテクノロジーである技術の種(・・・・)を闘争のためとあらば解析し応用を可能とする異常な順応性」

『技術の種…メテオ3か…』

 

レビの言葉に、ラトゥーニは眉を潜ませライディースは思い当たる節を連想する。

 

「先行収穫したクラス・エヴェッドのサンプルは、そのデータをこの自動惑星ネビーイームの中枢システムジュデッカに記録された後自立兵器用サーキットとして加工されるが。このネビーイームーへの攻略戦という試練をくぐり抜け、この場この私の面前に辿り着いたお前達は、クラス・ギボルとしてその姿のまま我らに仕えることが赦される歓べ」

『地球を狙ったのは侵略のためなんかじゃない、私達を家畜として狩るため…』

『うわ、牧場って表現当たっちゃったよ、適当に言ったのに』

 

完全に自分達を人として見ていない言葉に、レオナが怒りさえ感じ、エールは自分の勘が当たったことに舌打ちした。

 

最初(ハナ)からこの戦争はお前達の手の上だった、そう言いたいのかッ』

「事実だ」

『よもやこの人工惑星が全構成戦力という訳ではあるまい。お前達の属する勢力の規模は?』

「答える必要はない」

『あらん、ヘッドハンティングしようっていうなら、説明責任があるんじゃない?そもそも私達を使って誰と戦おうってのかしら』

「答える必要はない」

「(…何だ?答える気がないのか、答え自体を持っていないのか…?)」

 

タスク、キョウスケ、エクセレンの問いに答えていくレビだが、途中からこれまでの尊大ない態度でなく、まるで機械のように決められたパターンに従っているかのように淡々と語る様子に。イルムは違和感を覚える。

 

「貴様達に許されるのは恭順の言葉のみだ。さあ答えよ、我らの軍門に降りその力を我らに捧げるか」

『断るッ。我らはこの星を護り悪を絶つ剣。貴様らに屈する膝は持たぬ!』

 

レビの勧告をゼンガーが問答無用に両断する。そして、それはこの場に皆の気持ちを代弁するものである。

 

「フッ…この期に及んでもまだ己らを(ふるい)にかけることを選ぶか。勤勉なことだ、よかろう」

 

そういってレビが立ち上がりローブのような衣服を脱ぎ捨てると、その下からパイロットスーツが露わになる。

それと同時に背後の隔壁が開いていき、R-GUN、タイプS、アタッドのヴァイクル、そしてそれらの背後に上半身が4本腕の人型で、下半身が大蛇を思わせる異形の特機クラスの機体が姿を現す。

 

「この時を持以て最終審判と成す。なるべく多く生き残ってほしいものだな」

 

異形の特機が4本の掌からビームを放ち、一同はそれを回避するも、着弾の衝撃で外部まで押し出されてしまう。

 

『何、だこいつはッ!?』

『一瞬で追い出されたッ』

『『ジュデッカ』この自動惑星ネビーイームーの中枢機関である』

 

振るわれた腕をレオーネは回避するも、その隙を突いてタイプSがプラズマ・スライサーを突き出してきた。

 

『させんッ!ブースト・ナックル!』

 

零式が撃ち出した左腕を、タイプSは攻撃を中断して回避すると、胸部の装甲を展開させブラスターキャノンで反撃しようとする。

 

『フンッ!』

 

頭上からカイの駆るM型ゲシュペンストが、ステークを起動させた左腕で殴りかかる。

タイプSは裏拳で軌道を変えて逸らすと、プラズマ・スライサーを振り下ろし、カイ機も片手で軌道を変えて逸らしてその勢いを利用し機体を横回転させながら裏拳を放ち、タイプSはタックルで吹き飛ばして防ぐ。

 

『このッ!』

 

そこにレオーネが蹴りを放ち、タイプSは片腕で受け止めるも、態勢が崩れていたこともあり押し出される。

 

『射抜け、トロンベ!』

 

ヒュッケバインMk-II・トロンベがフォトン・ライフルで追撃を加え、両腕を交差させて耐えるタイプS。

 

『ぬうんッッ』

 

背後から零式が斬艦刀で斬りかかり、迎え撃ったプラズマ・スライサーと交差する。

 

『!』

 

零式の背後に隠れていたギリアムが駆るゲシュペンストMk-II・タイプRが迫る。この時機械的に淡々と動いていたタイプSに、初めて動揺らしき人間らしさが見えた。

タイプSはプラズマカッターで迎撃し、タイプRは身を屈めて避け、光刃は手にしていたライフルのみを切断するに留まる。

そして、タイプRは左手に保持していたプラズマカッターをタイプSの胸部へと突き立てた。

だが、寸前でタイプSは上半身を逸らし、タイプRの一撃は胸部を掠れ右肩部に刺さった。

 

『ッ!浅いか!?』

 

タイプRを殴り飛ばしたタイプSは、ブラスターキャノンを放とうとし、そうはさせまいとレオーネがブレードを構えながら突進する。

そんなレオーネにタイプSは標的を変え、ブラスターキャノンを放った。

 

『ぐァッ!?』

 

G・テリトリー展開し受け止めるも、勢いに押されていくレオーネ。

 

『負け、るかァァァァ!』

 

出力を上げて徐々に押し込んでいくレオーネ。それに対抗しようとタイプSも出力を上げようとすると、発射口がスパークしビームの勢いが弱まっていく。先程のタイプRの一撃がエネルギー伝達系にダメージを与えていたのだ。

 

『!そっこだァァァァアアアア!!』

 

好機と捉えたイサムは、機体を加速させてビームの奔流を突き進んでいき、ブレードを発射口へと突き刺すと、タイプSの上半身が爆発を起こし吹き飛ぶ。

 

『…機体、大破…。戦闘、続行…不可能…。――手間、ヲカケタ…皆…』

『!大佐、意識を…!?』

 

辛うじてコックピットは残っており、発せられたガルインの言葉にギリアムが反応する。

露出したコックピットから見えるガルイン――カーウァイの姿は頭部と胴体以外は人としての姿を残しておらず、埋め込むようにして納められており、完全に機体を動かす部品として扱われていた。

 

『アリガ、トウ少年…コレデ、私ハ…眠ル、コトガ…デキ、ル』

『カーウァイ大佐ッ!』

 

スパークが強まり、今にも機体が爆発しそうになり、イサムは彼をコックピットから引き出そうとすると、タイプSは残った片腕でレオーネを突き放す。

 

『ソ…ノ勇気、アル…心ヲ、忘レズ…アノ、青キ…母、星ヲ…マモッテ、クレ――』

 

その言葉を残し、カーウァイは機体の爆発に飲み込まれていったのだった。イサムには、彼が最後に穏やかな笑みを受かべていたように見えた。

 

『く…う…うう…!』』

『カ、カーウァイ大佐!!』

『やはり…この方法しかなかった…なかったが…!』

『…大義のための犠牲…受け入れるしかないというのか…!我が妻の時と同じように…!!』

 

敬愛する上官の死に、元教導隊の面々は覚悟していたとはいえ、沈痛な面持ちとなる。

 

『カーウァイ大佐、あなたの分まで戦います。どうか安らかに…』

 

イサムは戦士の安息を願い黙祷を捧げるのであった。



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第二十八話

『イングラムッ』

 

イングラムと交戦しているSRXチームは、R-GUNを捉えようとするも、合体したことで大型になった機体を上手く操れず翻弄される。

 

『鈍いぞリュウセイ。合体したSRXの機動はR-1とは別物だと教えた筈だがな』

 

両手に持った、実弾とビームを同時に発射できるツイン・マグナライフルで牽制するR-GUN。

 

『少佐ッ私はあなたを…あなたの影から脱してみせます!』

『フ…できるのかアヤ、お前に。妹の顔さえ忘れたお前に?』

『え…』

 

予想外の言葉にアヤに動揺が走る。その間に、バグスの群れに取りつかれ動きを封じられてしまう。

 

『いい子だアウレフ。さあ、そのまま料理してやるよ』

 

ヴァイクルが小型砲台からビームを浴びせていき、SRXは念動フィールドで防ぐ。

 

『いかん、このままでは大尉の負担が』

『ライ!これだ!攻撃系のT-LINKナーヴを俺に!』

 

右腕に張り付いていたバグスを強引に振り払うと、手の平に念の球体を生成していく。

 

『ドミニオン・ボォオル!』

 

放たれた球体は、進路上のバグスを吹き飛ばしながらヴァイクルへ向かっていくも、ヴァイクルが放つビームに阻まれ届かない。

 

『鳥野郎には届かねぇかッ』

『念動兵装?結界兵器か。うッ!?』

 

突如アタッドの脳裏に、見覚えのない場所、人の記憶が浮かび上がってくる。知らない筈なのに、それらがどこか懐かしく感じるのであった。

 

 

 

 

『フッ…。T-LINKシステムに引き寄せられたかアタッド』

 

アタッドに起きた異変に、心当たりのある様子のイングラム。そんな彼の背後からバグスの塊が迫って来た。

 

『クレイモア』

 

塊が弾け飛ぶとベアリング弾が散布され、R-GUNの動きを制限する。そして、塊の内部からアルトアイゼンが襲い掛かる。

 

『初手は譲った。後は早い者勝ちだリュウセイ』

 

リボルビング・ステークを繰り出すも、紙一重で躱される。

 

『フ…。特異能力を持たない個体としては破格の性能だ。だがまだ足りんな。あの女を生きたまま取り戻したことで腑抜けたか?キョウスケ・ナンブ』

 

アルトアイゼンの加速力を活かせないショートレンジを保ちながら、ライフルを浴びせていく。

 

『やはり死体にしなければ、あの女はお前の起爆剤には『黙れ』』

 

言葉を遮えぎりながら、再びステークを繰り出すキョウスケ。

 

『フ…』

 

隠しきれぬ激情を見せるキョウスケを、嘲笑いながら回避するイングラム。だが、ステークの陰から迫る弾丸がR-GUNの頭部アンテナを抉り取る。

弾道の先には、アルトアイゼンの背後に隠れていたヴァイスリッターが、オクスタン・ランチャーの銃口を向けていた。

 

『はぁい♪』

 

狙いを定めるエクセレンは、口調こそ普段のものだが、その目はどこまでも冷え切っていたのだった。

 

 

 

 

『動けるかイサム?』

『…無理させすぎちゃいましたから、暫く冷却させてあげないと』

 

ゼンガーの問いに、機体のコンディションを確認しながら答えるイサム。

これまでの戦闘で負荷がかかり過ぎたため、リミッターが作動しレオーネはセーフティモードに戻ってしまっていた。

 

『今は時間が惜しいですから、俺に構わず皆の所に行って下さい』

『いや、敵地に1人にはしておけん。せめて誰か残るべきだ』

『それなら私が引き受けますカイ少佐』

 

カイの言葉に、合流してきたビルトシュバインのパイロットである女性が答える。

 

『君は確かマオ社の…』

『ヴィレッタ・バディムです。SRXチームらの援護に向かう途中でした。できれば、イサム君もそちらに回ってもらうべきかと…』

『わかった、俺達は敵司令官撃破に向かう。イサムはそれで構わないか?』

『はい、大丈夫ですカイ少佐』

 

ヴィレッタからの提案に賛同するイサム。イングラムとの決着を望む彼からしても、断る理由はなかった。

 

 

 

 

ホワイトスター表面をなぞるように巨体を這わせるジュデッカは、結晶体を生成させる。

 

『第二地獄アンティラノ』

 

結晶体が弾けると、破片が雨のように対峙する一同に襲い掛かる。

 

『チッ!』

 

迫る破片をブレードで斬り払うアリオール。他の機体も回避に専念して耐える。

 

『第一地獄カイーナ』

 

次に、サソリのような形態に変形したジュデッカが前足を振り上げる。

その下には、元トロイエ隊所属でレオナと共に加わったシャマルのガーリオンがいた。

 

『!シャマル回避ッ!』

 

エールが叫ぶも、破片の回避に意識を取られていたシャマルは反応が遅れてしまい。振り下ろされた足に無残に踏み潰されてしまった。

 

『シャマル!』

『テメェ!』

 

友とも呼べる付き合いの長い同僚の死に、激怒したレオナとエールが、機体にフィールドを展開させて突貫する。

 

『クソッたれ!』

『シッ!』

 

タスクとケンもそれに続きシールドとブレードで仕掛けるも、ジュデッカの周囲に展開されたフィールドに弾き返されてしまう。

 

「(念動フィールドか。ホワイトスターに張られていたのはこいつのか…)」

 

ジュデッカからの攻撃を回避しながら、得られたデータを分析するケン。そして、あるファイルを開いた。

ファイルに納められた画像には、レビと同じ顔をした少女が映し出された。

 

「(特脳研被験者…五番マイ・コバヤシ。ビアンのおっさんの読みは当たり、だな)」

 

これまで得られた事象から、予想が確信に変わるのだった。

 

 

 

 

『はッ、何だい今のは…』

『…今視えたのは何だ…誰の記憶だ』

 

突如触れた何者かの記憶に、困惑するアタッドとリュウセイ。

 

『私は今の記憶を、あなたを知ってる…。あなたはジェニファー・フォンダ地球人(・・・)よ』

『嘘だ…あたしが、下等な地球人な筈が…!』

 

アヤの言葉に激しく狼狽するアタッド。自分と言う存在が足元から崩れていきそうな恐怖に、今までの威圧的な姿はなくなっていた。

 

『思い出して特脳研で一緒に居た頃のことを。私や私の妹のマイと一緒に…妹…?私…顔…』

 

妹の顔を思い出そうとして、激しい頭痛に襲われるアヤ。

 

『黙れッ!まやかすなァッ!』

 

錯乱したようにビームを乱射するアタッド。アヤが不調に陥り、満足に動けないSRXは辛うじて防御することしかできない。

すると、ブーメランのように飛来したシシオウブレード改が、小型砲台を斬り裂いていった。

 

『どっせいィ!』

『グぁ!?』

 

レオーネの加速を乗せた蹴りを受け吹き飛ばされるヴァイクル。その先には、ビルトシュバインがサークル・ザンバーを構えて待ち受けていた。

 

『あなたのアレンジ・ペルソナは、もう引き剥がすことができない…。せめて苦しまないように一瞬で送ってあげる』

『ヴェート・バルシェムッ!?』

『デッド・エンド・スラッシュ』

 

振るわれた光輪がコックピットのある頭部を切断し、巻き起こった爆発はアタッドを飲み込んでいった。その表情は事実を受け入れられず、憔悴しきったものであった。

 

『あんたは…』

『リュウセイ、今の内に機体に強制冷却をかけなさい。ライディースはアヤのバイタルチェックを。イサムは私と周囲の警戒を。手遅れになる前に』

 

リュウセイの問いに答えることなく、的確に指示を飛ばすヴィレッタ。何かを知っているのか、どこか焦りのような緊迫さを感じられた。

 

『さっき聞いた、あの人が地球人だって言うのは本当なんですかリュウセイさん?』

『ああ、間違いないと思う。どうなってんだ一体?』

『…これまで倒したエアロゲイターの主要な人物は皆元は地球人でした。もしあのレビって子もそうなら、ホワイトスターにいる人間はイングラム以外は操られていただけってことになるのか?』

「(そうではない、彼もまたジュデッカの枷の犠牲者…。それを解くためにはあなた達の力が必要になる。だから私は…)」

 

イサムの言葉を心の内で否定するヴィレッタ。その目には、悲哀と確かな決意が宿っていた。

 

 

 

 

3連マシンキャノンで牽制しつつ接近しようとするアルトアイゼンを、後退しながらライフルで牽制するR-GUN。

 

『お前は潰す』

『フ…ハハッ。いいぞ、お前等は予想以上の高性能サンプルだ』

 

キョウスケ、エクセレンの技量にイングラムは歓喜するように笑う。

 

『わお、おだてても何もでないわよ少佐?』

 

エクセレンはオクスタン・ランチャーのEモードで狙い撃ち、R-GUNの機動を制限する。

 

『こないだの一軒じゃ私、そりゃもお死んじゃうぐらい恥ずかしい思いしたのよ?だ・か・ら代わりに少佐が死んでね』』

 

すかさずWモードを起動させると、実弾とビームを連射していく。

的確に回避先を潰していき、片足に被弾させ吹き飛ばし動きを止める。

そして、アルトアイゼンが残る脚を掴み両肩のクレイモアを展開させる。

 

『一瞬で死ねるとは思うなよ』

 

撃ち出されたベアリング弾が、R-GUNのボディを削り取っていく。

 

『うッ!?』

 

その瞬間、イングラムの脳内に衝撃は走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――枷を解くんだ。奴に力を利用されるぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かは分からないが、どこか聞き覚えのある男の声が響く。

だが、そのことを考える間もなく、ステークとランチャーがR-GUNに突き立てられる。

 

『終われイングラム・プリスケン』

『バイバイ少佐』

 

ステークの連打とBモードの連射が叩きこまれ、R-GUNが粉砕されていく。

 

『フ…ハハハハハッ』

 

突如謎の力によってR-GUNから引き剥がされる両機。

 

R-GUNの周りには、まるで魔法陣のような奇妙な紋様が展開されており。コックピットから出ているイングラムが不敵な笑みを浮かべていた。

 

「お前達の兵器としての成長に敬意を表し。その魂に枷をかける好敵手を用意してやろう」

 

イングラムが手を掲げると。魔法陣がR-GUNを包み込んでいき、卵のような形状を形作っていく。

そんな異常事態を訝しみながらも、キョウスケは攻撃を加えようと構える。

 

『待て!今あの『門』に近づくな!何が起こるか分からんぞ!』

 

だが、駆け付けてきたギリアムによって制止される。彼の声には驚愕と動揺の色が含まれていた。

 

「(間違いない、あれはクロスゲート!ならば奴も俺と同じ、並行世界の放浪者だというのか!?)」

 

魔法陣に亀裂が入ると、中から『何か』が這い出して来る。

それは50mはあろうサイズに各部が禍々しさを感じる異形の人型であり、その頭部にはイングラムとR-GUNが納められていた。

 

『ちょッ、でっかくなっちゃった!?成長期ってレベルじゃないでしょ!?』

「(R-GUNに異界の存在を憑依、変貌させたのかイングラム・プリスケン)」

 

予想外の事態に驚愕するエクセレンと、この事態に心当たりがある様子のギリアム。

 

『この機体の名はR-GUNリヴァーレ。今からお前達を…『喋るな』』

 

イングラムの言葉を遮るように。突貫したアルトアイゼンが、頭部にいるイングラム目がけてステークを打ち込む。

 

『!』

『解き放たれたお前の内なる感情、確かに見せてもらった』

 

満足そうに話すイングラム。ステークは彼の喉元に触れる寸前で止められていた。

 

『ッ』

 

リヴァーレが銃砲と化している両腕から、エネルギー状にの手を発生させる。

キョウスケは本能的に機体を後退させると、振るわれた両腕の爪に両脚を切断されてしまう。

 

『フ…装甲固着前を狙うなどよくもやる』

 

リヴァーレの損傷個所が、まるで何もなかったかのように再生されていく。

 

『もう十分だ。お前達は現レベルのままキブツに保管する』

 

リヴァーレから怪しい光が放たれると、周囲にいた機体に異変が起きる。

 

『機体のモーメントがコントロールできない!?』

『奴が周辺空間を湾曲させているんんだッ』

『…サマ師め。ならばもう2枚コール、だ』

 

他の2人が焦燥感に駆られる中、キョウスケが冷静に呟くと。リヴァーレの頭上かたら、SRXとレオーネが突撃してくる。

 

『『ツイン・クラッシュ・キィイック!』』

 

同時に放たれた蹴りが、リヴァーレへと炸裂する。

 

『フ、来たか』

 

だが、周囲に展開されているフィールドによって、さしたるダメージは与えられていなかった。

 

『イングラムッ!』

『もう逃がさん!ここで決着を着けるッ!』

 

今、鋼の巨神と黒獅子が裏切りの銃口と対峙する。

 

 

 

 

蛇のようにホワイトスター表面を悠々と這うジュデッカ。対するアリオールらは消耗し、追い詰められていた。

 

『…ふむ、もう少し焦燥してもらおうか』

 

突如本隊へと向かっていくジュデッカは、大量のバグスを繰り出す。

 

『劣等サンプルに存在価値は最早ない。第三地獄トロメアに沈め』

 

波のように押し寄せるバグスの群れに飲み込まれていく本隊。これまでの戦闘で疲弊していた艦隊にとって、致命的なまでの損害が出てしまう。

 

『む?』

 

ジュデッカ目がけて無数の拳が迫る。フィールドによって弾かれるも、ジュデッカの動きが止まる。

弾かれた拳は、グルンガスト各機の元へ戻っていく。

 

『大黒落としは城攻めの常道。奴が要塞中枢であるならば、いかに守りが堅かろうと斬り倒すのみ』

『ああ、ここでケリを着けさせてもらおう』

 

ゼンガーの言葉に、ケンも同意する。

 

『ビアンのヴァルシオンと戦った時のフォーメーションだ。ミッションマニュアルの記録はあるなラトゥーニ?』

『!はい、アレンジ可能ですイルム中尉』

『そういうことなら、とっておきを喰らわせてやるぜクロ!シロ!』

『マサキ、それは!』

 

何かをしようとするマサキを、シロが慌てて止めようとする。

 

『るせえ!ここでやるっきゃねえだろうが!!』

『魔装機神!お前は特に面白いサンプルだ。特別に、先に、確実に解体して保管してやろう乗り手も共にな』

 

チャージを始めたサイバスターへと迫っていくジュデッカ。

 

『各機サイバスターを援護しろ、奴を近づかせるな!』

 

カイの指示に、各機がジュデッカの前に立ちはだかりながら攻撃を加えていく。

 

『ハッ!』

 

だが、ジュデッカはフィールドを張りながらものともせず押し寄せるのであった。

 

 

 

 

『ハイフィンガーランチャー!』

 

SRXが両手指からビームを放つと、リヴァーレは回避しながら小型砲台からビームを撃ち反撃する。

そこへ、レオーネが懐に飛び込んでブレードを振るい、腕の爪と交差した。

 

『隙間だらけのお前の心を操るのは実に容易かったぞ。もう一度俺に身も心も預けてみるかアヤ?』

『少…佐…マイは…妹は…』

 

頭痛を堪えながら問いかけるアヤ。その問いに答えたのはギリアムであった。

 

『マイ・コバヤシは特脳研爆発事故で死んだと見せかけ、お前が拉致し『レビ・トーラー』として操心した。そうだな?イングラム・プリスケン』

『…その通りだ、ギリアム・イェーガー』

『そして、ジェニファー・フォンダも同じく。…このホワイトスターにエアロゲイター(・・・・・・・)1人もいない(・・・・・・)そうだな?』

 

その言葉に一同に衝撃が走る。対しイングラムは不敵に嗤っていた。

 

『ならば、お前は(・・・)何者だ?』

『フ…お互い様だ。だがここでお前の放浪も終わる。行けガン・スレイヴ』

 

リヴァーレがタイプRへと小型砲台からビームは放つと、SRXが間に入って防ぐ。

 

『…何者だ?そうだ、お前は一体誰だ?いつからイングラム・プリスケンじゃなくなったんだ』

『ハ!』

 

リュウセイの言葉に、イングラムの中から(・・・)漏れるように不快な声が響く。

リヴァーレが手の形状をサーベルのようにし斬りかかると、レオーネがブレードで弾くと蹴り飛ばした。

 

『その機体に化けてから感じてた気持ち悪い気配。カーウァイ大佐達から感じてたのと同じだッ、お前が全ての元凶か!』

『それは素質開花の片鱗か?それとも幼さ故の直感か?面白い、我が元に来い。お前達の力は我らが先遣に相応しい』

『『断るッ』』

『で、あるか。ならば滅びよ。枷無きまま荒ぶる魂、それはいずれ十重二十重(とえはたえ)の我が計画を妨げる存在になりかねん』

 

不良品を捨てるかのように言い捨てると、腕と小型砲台からビームを浴びせてくるリヴァーレ。

 

『クソッ熱量が!』

『計画だと?お前は一体!?』

 

余りの弾幕に防戦一方になるレオーネとSRX。機体の負荷が増していくことに焦りが募っていく。

 

『リュウ、ライ、イサム君!念動フィールドであの機体の歪曲フィールドを中和するわ。接近して最大出力であの敵を斬って!あれは私達が倒さなければいけない敵よ』

『…大尉』

『了解だアヤ』

『ガッテンだ!』

 

一同が覚悟を決めていると。リヴァーレは自身の前に小型砲台を展開させると胸部から砲身を露出させ、小型砲台は五芒星のような紋様を描く。

『アヤ、ライ!』

『T-LINKフルコンタクト!』

『トロニウム・エンジンフルドライブ!Z・Oソード!刀身形成!』

 

 

対しSRXは、胸部装甲を展させしゾル・オリハルコニウム・ソードを取り出す。

 

『G・テリトリー収束、出力最大!』

 

そして、レオーネはフィールドをブレードに収束させていく。

 

『この一撃で冥府へ堕ちよ。アキシオンバスター、デッド・エンド・シュート』

 

砲身から放たれた閃光は、五芒星を押し出しながら迫って来る。

 

『天上天下ッ無敵剣!』

『グラビティ・スラッシャー!』

 

リヴァーレへと突貫したレオーネとSRXは、紋様へと互いの刃を突き立てる。

最初は拮抗するも、徐々に押されていってしまう。

 

『ぐッ』

『こんのぉぉぉぉおおおお!』

『貴様らには斬れんよ。虚無へと還れ』

 

リヴァーレが更に出力を上げようとした時、アルトアイゼン、タイプR、ビルトシュバインが小型砲台を破壊していく。

 

『歪曲フィールドで、本体には届かなくとも』

『子機が開いているパワーゲートのバランスを崩す』

『イングラム。あなたに託された使命、今果たすわ』

 

紋様に亀裂が入っていくと同時に、突き立てられている刃が押し進んでいき。遂には紋様が砕け散り、刃がリヴァーレの胴体を貫いた。

 

『『おおおッ!!!』』

 

そのままレオーネとSRXは加速していき、リヴァーレをホワイトスター表面に叩きつけた。

リヴァーレはエネルギー状の腕を発生させて振るい、両機を弾き飛ばす。その際にSRXのソードの刀身が折れる。

 

『念動、爆砕!!!』

 

リュウセイが念を送ると、折れた刀身がリヴァーレを巻き込んで大爆発を起こすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どことも知れぬ空間にて。死神、あるいは悪魔のような2体の機動兵器がぶつかり合っていた。

 

『お前は俺という存在を拒絶することはできない。俺達は1つになるのだ』

『そして数多の世界を彷徨えというのか。多くの者を失って!』

 

片方の機体に乗るイングラムの言葉に、もう片方の機体に乗る――リヴァーレが出現する直前に、彼に語り掛けていたのと同じ声を持つ青年が拒絶の意を示す。

 

『この運命を拒むというのなら、その呪われた機体を抹消するまでだ!虚無へと帰れ!!』

『ディス・レヴよその力を開放しろ!テトラクテュス・グラマトン!!』

 

それぞれ胸部から魔法陣と砲身を展開させる。

 

『インフィニティ・シリンダー――!』

『デッド・エンド・シュー―ーッ!』

 

放たれた閃光が両者はおろか、空間までをも包み込んでいき――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…ここは…?」

 

次にイングラムが目覚めた時。目の前に広がるのは先程までの何もない神秘的な空間ではなく。様々な機器が置かれた人工的な空間であった。

 

「俺の名は…アウレフ…いや…」

 

記憶が曖昧となり困惑していると。何もなかった空間に、仮面をつけた顔がホログラムで映し出された

 

『緊急非常コードの発信は、誤作動ではなかったようだな』

「お前は…?」

『…今、この時に憑依したか…因縁だな』

 

まるで、イングラム(・・・・・)のことを知っているかのような口調の仮面の者は、声からして男のようである。その声に、おぼろげな記憶から何かが引き出されそうになる。

 

「ガッ!?」

『だが、今なら取り込めるやもしれぬ』

 

まるでそれを遮るように、全身を見えない何かによって拘束されるイングラム。そして、それは徐々に彼の内側に入り込み塗り替えようとしていく。

 

「ぐッ…ぐ…う…』

『お前に枷を与える。今度こそ我が傀儡となるがいい』

 

膝を突き悶絶するイングラムに、男は一方的に話しかける。

 

『禁断の地より踏み出し者がいる。彼らは自ら結界を破ったのだ。これで我らはあの星に干渉できる…』

 

ホログラムに、ヒリュウ改の前身である艦影が映し出された。

 

『だが、愚帝や監察官より先に手を打たねばならぬ。切り札を手に入れるのは、我らゴッゾォであらねばならぬ。任務を遂行せよアウレフ・バルシェム。我らは遠き地よりそれを見守ろう…』

 

ホログラムが消え、残されたイングラムは苦しみに苛まれながら、1つのポッドの元に辿り着く。

 

「俺の…代わりとなる者を…。生成プログラムに修正を…」

 

薄れゆく意識の中で、コンソールを操作していくイングラム。そのポッドにはヴィレッタと同じ姿をした女性が納められていた。

 

「今なら…せめてお前だけでも…枷を…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『くッ…』

『まだ動くのか…!?』

 

腹部から胴体の大半と片腕が抉り取られても動くリヴァーレに、リュウセイとイサムは強張った声を漏らす。

 

『…よくやったリュウセイ、イサム。これで俺は…枷から解き放たれた…』

『少佐!?』

『イングラム隊長…あんたもやっぱり操られて…』

『少し違う…俺は地球人でもバルマー人でもない。任務遂行のためだけに造られた虚ろな存在に過ぎないからな』

 

そう話す間にも、リヴァーレの全身に亀裂が広がっていく。

 

『生と死の狭間にのみその自我を確立できる宿命…。だが…それも当然の報いか』

 

そして、亀裂は彼自身にまでも及んでいた。

 

『リュウセイ。心のまま進め、お前の母に育てられた心にままにな』

『!』

『ライ、後を頼む。己の能力を疑うな』

『隊長…』

『…アヤ。これからは過去に囚われず、新しい道を歩め』

『…イングラム…少佐…』

 

イングラムの本心は、リュウセイらの心に確かに刻まれていくのであった。

 

『イサム、お前と過ごした時間。あの時だけは、俺は自分として過ごせた礼を言う」

『少佐…。俺も楽しかったです…』

『…この先、何があっても挫けるな。お前なら必ず乗り越えられる』

 

その言葉を最後に、イングラムはリヴァーレ共々砕け散ってしまう。残ったのは大破したR-GUNだけであった。

 

「(イングラム…。後は任せて、安らかに眠って…)」

 

その光景を見守っていたヴィレッタは、涙を流しながら1人黙祷を捧げるのであった。

 

 

 

 

『最終宣告を申し渡す。耐え切れぬ者は死ね』

 

ジュデッカは全ての手からビームを放ち、対峙しているハガネ・ヒリュウ隊に次々と被害が出ていく。

 

『壱式必殺剣ッ』

『弐式必殺剣ッ』

 

ブルックリンの駆るグルンガスト2号機と、クスハの駆るグルンガスト弐式がそれぞれ剣を手にし構える。

 

『『計都羅喉(瞬獄)剣!』』

 

互いに振るった刃は、それぞれ片手に掴まれ止められてしまう。

 

『八方的殺曼事凶(ばんじきょう)天に目叩(またた)凶ツ星(まがつぼし)ッ』

 

その間にイルムガルドの駆るグルンガスト1号機が、上昇しながら剣を構える。

 

『その名も!計都羅喉剣、暗・剣・殺!』

 

降下しながら必殺の刃を振るうも、これも手に掴まれ防がれる。

 

『悪くない。だが、私とジュデッカに魅入られたら終わりだよ?』

 

ジュデッカは変形を始め、その形を変えていく。

 

『最終地獄を見せてやろう』

 

蛇型に変形したジュデッカは縦横無尽に駆け巡り、その巨体を持って押しつぶそうと襲い掛かって来た。

 

『糞ォっ止まれッ。ジガンテ・ウラガーーノッッ!!』

『各機集中砲火!胴体…頭部へ収束させろ!』

『はっはっはっはっ。足掻け!足掻け!』

 

ジガンスクードは質量で押し止めようとし、他の機体は一斉に火器を浴びせるも。ジュデッカの勢いを衰えることはなかった。

 

『マサキ!』

『今ニャ!』

『地獄は手前ェが見てきやがれッ!コ・ス・モ・ノヴァ!!!』

 

シロとクロの合図に、マサキはチャージしていたエネルギーを開放させる。

サイバスターの周囲に展開された4つの魔法陣から放たれたエネルギーが、ジュデッカを挟み込むように光球を生み出し、そこから巨大な爆発を発生し巨体を飲み込む。

 

『カッ、私の念ごと…ズフィルード・クリスタルが…ジュデッカが焼かれる…!?』

 

爆発がまるで檻のようにジュデッカを包んでゆく。

 

『足りんなぁ!』

 

だが、それを突き破り人型に戻ったジュデッカがサイバスターに迫る。

そんなジュデッカへ、零式とアリオール、ヴァルシオーネが立ちはだかる。

 

『やれ、リューネ!』

『どうなっても知らないからね!クロスマッシャー!!』

 

前に並ぶアリオールに、ヴァルシオーネが手から螺旋状のエネルギーを放ち。それをブレイクフィールドで受けると、推進力にして加速するアリオール。

 

『零式斬艦刀、疾風ッ怒涛ッッ!!』

『貫け、ソニック・スマッシャーッ!!』

 

斬艦刀を構え、フルブーストで突撃する零式と。機体を水平にし、横方向に回転しながらフィールドを弾丸状に収束させ両手のブレードを突き出して突撃するアリオール。

 

『『チェストォォォオオオ!!!』』

 

アリオールに胴体を貫かれた上に、零式に両断されたジュデッカは遂に力尽き倒れ伏した。

 

『我らに絶てぬもの無し』

『終わりだな。手こずらせやがって』

 

ジュデッカの装甲が再生しようとするも、すぐに崩れ落ちやがて再生すらされなくなる。

 

『再生が…かからない?ジュデッカの自己修復能力を超過した?』

『マイ!』

 

敗北を受け入れられず唖然とするレビに、駆け付けたSRXからアヤが語り掛ける。

 

『思い出して!あなたの本当の名前はマイ・コバヤシ!私の妹なのよ、地球人なのよ!』

『愚かな…このネビーイームをジュデッカを操る私が地球人だなどと。私はレビ・トーラ―生粋のバルマー人であるぞ…』

『…やはり、他の奴ら同様に手遅れ、だな』

 

アリオールが止めを刺そうとすると、レオーネがそれを制止する。

 

『待てよ!そこまでしなくても…』

『生かしたところで、他の奴らのように『壊れる』だけだ。楽にしてやる方が幸せだろうよ』

『そうと決まった訳じゃない!元に戻れる可能性だって…!』

『ふ、フフ…』

 

イサムとケンが言い争っていると、レビは嘲笑うように声を漏らす。

 

『…本当に愚かだお前達地球人類は。我らが兵器として在ることを拒むならば、このジュデッカを超える野卑な力を持つならば、お前達には滅びだけが与えられる…。そう、最後の審判者(セプタギン)が目覚める』

『セプタギン、だと?』

 

ケンが疑惑の声を漏らすと、ジュデッカが突如浮かび上がり、地球目がけて飛び去ってしまう。

 

『空間転…位?いや違う何かに引き寄せられて…。一体何に…』

 

その光景を見ていたリュウセイが、唖然とした声を漏らすと。地球内から現れた物体に、ジュデッカは取り込まれてしまった。

 

『何だ、あのでっかいのは!?』

『間違いない、あれはメテオ3(・・・・)だッ』

 

仰天するイサムにケンが答える。

そうしている間にも、メテオ3の表面から結晶体が生えていきその姿を変えていった。

そして、メテオ3はその結晶体を一同と本隊へと次々と撃ち出していく。

 

『各機迎撃ッ!』

 

カイが叫ぶと、各々結晶体を迎撃するも。余りの物量に撃ち漏らした結晶体が本隊の艦艇や機体に突き刺さっていく。

 

『ヒッ!?』

『何だ、機体が浸食されて――ッ』

 

突き刺さった結晶体は瞬く間に増殖していき、対象を飲み込んでしまう。

 

『これは、機体も搭乗員も諸共に金属結晶化されている!?一体?』

『エアロゲイターの偵察機には、未知の自立・自覚型金属細胞が組み込まれていたそうよ』

 

ギリアムの疑問に、ヴィレッタが推測を述べる。

 

『レビ・トーラ―が口にしていた、『ズフィルード・クリスタル』というのが恐らくその金属細胞のこと。そしてそのネットワーク中枢であり、収集した情報の集積システムがあの『ジュデッカ』』

『そうか、あのメテオ3そのものも『ズフィルード・クリスタル』の塊…。一切の選別もなく何もかも無差別に取り込む殲滅兵器!』

『…ビアンのおっさんは、アレがただ情報が詰め込まれただけの技術の種ではなく。万が一エアロゲイターにとって、想定外の事態が起きた際に発動するカウンタープログラムも仕込まれていると見ていた。だから監視するために、軍事拠点として不便なアイドネウス島にDCの本拠を構えた。とはいえ、あんなモノでは意味もなかったか…』

 

面積を増大させていくメテオ3に、苦虫を嚙み潰したような顔をするケン。巨大化するにつれ、撃ち出される結晶体の数も増加していた。

そして、遂には地球へも結晶体が撃ち出されてしまう。

 

『不味いよマサキ、あの弾地球にも!』

『くッ!リューネ着いて来い!何とかサイフラッシュで…』

『無理ニャ!この位置からじゃ間に合わないニャ!』

 

サイバスターとヴァルシオーネが慌てて追いかけようとすると、地球へ放たれた結晶体が全て消滅していった。

 

『な…グランゾン!?』

『地表方向への攻撃は私とグランゾンが引き受けましょう。まあ、いつまででもという訳にはいきませんが』

『シュウ!テメェッ…』

『どういうつもりだ…などと、今更言わないで下さいよマサキ。勿論この星を護っているのですよ見ての通り』

『ぐッ』

 

突然現れたシュウに不信感をあらわにするも、正論に何も言い返せなくなるマサキ。

 

「(滅びられては困るのですよ。少なくとも今はまだ)」

 

とはいえ、彼にも何らかも思惑はあるようではあるのだが。

 

『つーても、あんなのどうすんねん?』

『ジュデッカとやらがホワイトスターの中枢――心臓であったのなら、メテオ3にも核となる物がある筈だ。それを叩く』

『でも、質量が大き過ぎて特定のための観測を阻害していて…』

『ど真ん中にあるもんじゃない?そういうのってさ』

『構造的にも機能的にも、その確率は高いけど…』

 

イサムの推測に、自信があまり持てない様子で答えるラトゥーニ。

 

『これまでのことを考えれば、アレを仕向けた奴がここにきて小細工などしまい。遠距離攻撃では埒が明かん、殴り込んで直接叩く。来いイサム、フィールド持ちならある程度結晶体の浸食を抑えられるらしい。俺達の機体なら小回りが利く、突っ込むのに適任だ』

『ああ、分かった』

『エール、ヒリュウに残存戦力全てに援護させるよう要請しろ』

『ん、もうしてる。それでいくってさ』

 

相方の返答に、ケンは満足そうに口角を釣りあげる。

 

『うっしやるか、援護頼むラト』

『うん、信じてるからねイサム』

 

揺るぎない信頼を寄せてくれるパートナーに、通信越しにサムズアップで応えるイサム。

そして、全ての艦艇と機体から集中砲火がが加えられ、メテオ3の一部が削り取られていく。

 

『イサム!』

『いっけぇぇぇぇレオーネェ!』

 

フルブーストで、その箇所目がけて突撃していくレオーネとアリオール。

 

『生きて帰って来いイサム!』

『あんたの人生、これからなんだからね!』

『可愛い弟君のために、お姉さん奮発しちゃうわよォ!』

 

ジャーダとガーネット、それにエクセレンがレオーネを援護していく、

 

『行けケン、兄貴分がケツ持ってやるからよ!』

『頼みます特務大尉!』

 

アリオールにはイルムガルド、リョウトが援護に入り、他のハガネ・ヒリュウ・クロガネ隊の面々もそれに続いていく。

次々と押し寄せる結晶体を粉砕していくと、レオーネとアリオールはメテオ3内部へと突入する。

両機はフィールドを最大出力で展開しながら突き進んでいくと、細胞のように結晶体が張り巡らされた空間へと出る。

 

『核は!?』

『あれだ!』

 

空間の中心にある脳のような物体目がけ突貫すると、両機はブレードにフィールドを収束させる。

 

『砕けろォ!グラビティ・スラッシャー!!』

『終われ、ソニック・スレイヤー!』

 

同時に構えた刃が核に振られる瞬間、核を突き破った()が手をかざすと、見えない何かに弾き飛ばされる両機。

 

『なッ!?』

『歪曲フィールド、だと!?』

 

予想外の展開に、イサムとケンが驚愕していると、核に変化が起こる。まるで、卵が孵化するように核全体に亀裂が走り、左右に割れると中から何かが姿を現す。

 

『…よもや、ここまで至るとは。よかろう、褒美に我自ら絶望を与えよう。この『ズフィルード』でな』

 

リヴァーレと対峙した時、イングラムを介していた声と共に、結晶体と同じ装甲素材で構成された30mサイズの人型の機動兵器が立ちはだかるのであった。




ゲームで出番がなくて非常にがっかりしたので、登場させましたズフィルード。
核の防衛用でセプタギン内部での戦闘を想定し、サイズだけは本来の半分程となっています。


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第二十九話

『ライ、まだかッ』

『強制冷却した所で、これ以上の戦闘機動に耐えられるかどうか…』

 

イサムとケンがメテオ3内部に突入するより時を遡る。ホワイトスター表面にて、SRX内で焦れた声で急かすリュウセイに、各種モニタリングしているライディースは険しい声で答える。

現状のSRXは、合体できたこと自体が奇跡とも言える程突貫の調整しかされておらず、これまでの強引な運用によって、いつ自壊してもおかしくない状態となっていたのだ。

 

『!外からのデータ転送?一体どこから』

 

突然送られてきた謎のデータを追跡すると、崩壊したリヴァーレの残骸の中に、大破状態で残されていたR-GUNから送信されているものであった。

 

『ツイン・ドライブ・トロニウム・バスターキャノンの試作制御プログラム…イングラム少佐の遺した…』

『それじゃ!』

『無理だ。あのR-GUNの状態で変形などできる訳ない』

 

差し込んだ一筋の光明に、リュウセイは歓喜の声を上げるも、ライディースに現実的な問題を突きつけられる。

 

『リュウ、ライ。ここにはもう一基、トロニウム・バスターキャノンがある筈よ』

 

そんな二人に、アヤは側に落着している、ホワイトスター突入時、要塞を覆っていたフィールドを破壊した際にパージされたハガネの艦首を示すのであった。

 

 

『さあ、絶望せよ。圧倒的な力の前にッ』

 

ズフィルードが両腕を突き出すと、腕部と一体化している砲口から無数のレーザーが放たれる。

 

『イサムッ』

『わかってる!』

 

レオーネとアリオールは散開しながら回避すると、左右から同時に斬りかかるが、フィールドに阻まれて本体には届かない。

それでも2体は攻撃の手を緩めず攻めようとする。

退路は既に再生した結晶によって塞がれていることもあるが、いずれにせよ命運を託してくれた者達のためにも、この場で後退という選択肢はどちらにもありえなかった。

 

『トロニウム搭載機ならともかく、貴様ら程度ではこのズフィルードに傷一つつけられんよ』

 

嘲笑うかのような声と共に、ズフィルーは両手を広げてそれぞれに向けると、放たれた衝撃波によって2機とも吹き飛ばされてしまう。

更にズフィルードの両肩にある突起物が射出されると、それが合わさり両刃剣へと変形し、それを手にすると一瞬でアリオールへと肉薄し上段から斬りつける。

 

『チッ!』

 

刃をシシオウブレードで受け止め、その反動を利用しながら機体を回転させながら逸らすと。カウンターで斬りつけるが、ズフィルードの姿がかき消えてしまう。

 

『ッ!』

 

咄嗟に振り返ると、ズフィルードがブレードを振り上げており、両手のブレードを交差させると、受け止めるも軽々と吹き飛ばされ刃に亀裂が入ってしまう。

 

『ケンッ!!』

 

レオーネが援護しようとするも、ズフィルード全身の突起物が分離し、レオーネを囲むとエネルギー波を受け拘束されてしまった。

 

『うぁぁぁあああああ!?』

『そこで見ているがいい。己の無力さを』

 

そう言いながら斬りつけてきたアリオールを殴り飛ばすと、ズフィルードは巨体に見合わぬ速度でブレードによる連撃を加えていく。

アリオールは辛うじて耐えるも、完全に防戦一方となり、受けきれなかった刃が機体を斬りつけていく。

 

『足掻くな、受け入れよ己が運命をッ』

 

ズフィルードが突き出したブレードがアリオールの防御を崩すと、止めを刺さんと大きくブレードを振り上げた。

刃が触れる瞬間、今度はアリオールの姿がかき消える。

 

『ム?』

 

相手を見失ったズフィルードの背後に衝撃が走った。

背後に回ったアリオールが横薙ぎに振るったブレードが、フィールドごと(・・・・・・・)ズフィルードを浅くだが斬りつけていた。

 

『図に乗るなッこのド三流が!!』

 

反撃で振るわれたレーザーを、残像が残る程の速度が回避すると、四方に移動しながら撹乱しつつ次々と斬りつけていくアリオール。

 

『…ジェネレーターをオーバロードさせたか』

 

悪足掻きをと言いたそうに呟くズフィルード。

アリオールの手にしているブレードの刃には、今まで以上の出力のフィールドが覆っていた。だが、機体各部は無理やりに高められたエネルギーによる廃熱に耐えられず、徐々に融解を始めていた。

 

『うおらあああああああ!!!』

『!』

 

アリオールと同じく、ジェネレーターをオーバロードさせて拘束を抜け出したレオーネが、突撃の勢いを乗せた蹴りを叩きつけると、フィールドに阻まれるもその衝撃で押し出される態勢が崩れるズフィルード。

その隙に、シシオウブレード改に備えられたスラスターも含め、全ての推進器を最大まで吹かしながら加速させた斬撃を叩きつけると、フィールドを破りズフィルードの左腕を斬り落とすことに成功する。

 

『『叩き潰すッ!!』』

 

距離を取ろうとするズフィルードをアリオールが先回りし抑え、そこにレオーネが確実に一撃を加えていく。

ダメージが蓄積され各部が破損してくズフィルード。右腕も切断し、最後の一押しと思われた瞬間。レオーネとアリオールにスパークが走ると動きが鈍っていく。

 

『限界か。特異能力を持たないクラス・ギボルにしては楽しませてもらったぞ』

 

まるで余興を楽しんでいたかのような嘲笑と共に、ズフィルードの破損部が本体から生えた結晶に包まれると再生していき、ダメージなどなかったかのように元通りとなってしまった。

 

『動けッ動いてくれレオーネ!このままじゃラトが皆が!!』

『……』

 

必死に機体を動かそうとするイサムに、沈黙してしまったケン。

ズフィルードは右腕をレオーネへ向けると、砲口にエネルギーがチャージされていく。

 

『さあ、アウレフの後を追うが良い』

 

砲口からビームが放たれる寸前、アリオールが最後の力を振り絞るようにレオーネ目がけ加速し、そのまま蹴り飛ばすと、ズフィルードから放たれたビームに飲み込まれていく。

 

『ケンッ!!!』

 

イサムが慌てて呼びかけるも、ビームが過ぎ去った後にはアリオールの姿は跡形もなく消え去っていた。

 

『無駄なことを…。順序が変わるだけで、結果は変わらぬのに』

『貴様ッアアアアアアアア!!!』

 

哀れむように言い放つズフィルードに、激昂したイサムは、強制冷却させ動けるようになった機体を動かし突進させる。

だが、アリオールに蹴り飛ばされた際にブレードを手放してしまっており、今のレオーネには何も武装がなかった。

 

『無手とは野蛮な。やはり原始的種族だな』

 

蔑むように言いながらブレードを手にしたズフィルードは、向かってくるレオーネにタイミングを合わせ振り下ろす。

それを、レオーネは両手にフィールドを纏わせ、右手の手刀で受け流すと、左拳でズフィルードの頭部を殴りつけるも、フィールドに弾かれてしまう。

 

『そのような状態で足掻くか』

『ウラァァァァアアアアアア!!!』

 

ズフィルードの言葉など意に返さず、ひたすらに殴り続けるレオーネ。しかし、ことごとくフィールドに阻まれ本体には届くことは――

 

『ム?』

 

ないと思われていた拳がフィールドを突き破り、ズフィルードの頭部に突き刺さる。そのことにズフィルードは僅かだが驚嘆しているようである。

 

『オオオオオオオオ!!!』

 

再びジェネレーターをオーバロードさせ、その負荷で自壊しながらも連続で殴り続けるレオーネ。その出力は先程以上のものであった。

 

『このプレッシャー。もしや、こやつ…』

 

鬼気迫る威圧感を放つイサムから、何かを感じ取った様子のズフィルード。その間にも猛攻は止まず、次々とレオーネの拳が突き刺さりダメージを受けていく。

 

『ッ!』

 

しかし、負荷に耐えられなくなったレオーネの左腕が肘から先から千切れ飛んでしまい。その反動で動きが鈍った隙に、ズフィルードに頭部を掴まれてしまう。

そして、流し込まれた電流がイサムに直接襲い掛かった。

 

『ウアアアア!!!』

『この個体がアレ(・・)に連なるものであれば、我が計画は大いに飛躍しようぞ』

 

イサムが気を失い、完全に沈黙したレオーネを見分するように掲げながら、高らかに笑うズフィルード。

そんなズフィルードを、外壁を突き破って来た膨大なエネルギーの奔流が襲い掛かった。

 

『!ヌゥゥゥゥ!!』

 

空いている片手を突き出しフィールドで受け止めるも、その衝撃に押し込まれていくズフィルード。

やがてエネルギーの奔流が収まると、ズフィルードの纏っていたフィールドは剥がされ、焼かれた全身の装甲が溶解し亀裂が走っていく。

忌々し気に風穴の空いた外壁の先に視線を向けると、ハガネの艦首を破損した右腕に無理やり接続させたSRXがいた。

 

『トロニウムを用いた砲撃…。アウレフか!どこまでも我の邪魔をしてくれるッ!!』

 

これまでの尊大さが崩れた様に激昂するズフィルード。

メテオ3に指令を送り、外部にいる者達諸共排除しようとした瞬間、SRXに変わるように赤い機影が内部に突入してくる。

 

『キョウスケ中尉!』

『ああ、この賭け引き継がせてもらうッ!』

 

リュウセイの声に応えるように、キョウスケは愛機(アルトアイゼン)を加速させていく。

欠損した脚部には大型のロケットブースターと一体化したものに換装されており、従来以上の加速力を持ってズフィルード目がけて突撃していくが、それを阻むように再生した結晶が襲い掛かる。

 

『俺もアルトも、これでは止まらん』

 

両手にそれぞれ保持したショットガン、弾倉を無理やり増加させたクレイモアとマシンキャノンで、右腕以外の四肢を引き裂かれながらも強引に押し通っていく。

 

『ただ、撃ち貫くのみッッッ!』

 

想定外の事態に動きを止めているズフィルードの胸部に、ありったけのステークを叩きこんでいくアルトアイゼン。

その衝撃に亀裂が更に広がっていき、レオーネを手放すズフィルード。

 

『この、蛮族がぁ!!』

 

その身を形成する結晶が所々崩壊していくも、未だ健在のズフィルードは、アルトアイゼンのコックピット部を殴りつけ弾き飛ばす。

 

『羽虫どもめ。アウレフの悪足掻き諸共、因果地平の彼方へ消えよッッッ』

 

ズフィルードの全身から禍々しいエネルギーが放たれると、それがメテオ3にも伝播するように広がり周囲の空間が歪んでいく。

 

『己が罪を悔いて逝ねィッ。ジーベン・ゲバウトッ…!』

 

エネルギーを開放しようとしたまさにその時、背後から突き立てられた刃がズフィルードの胸部を――その内部に納められているコアごと刺し貫いた。

何が起きたのか理解できないズフィルードが背後を振り返ると、左腕と脚、翼を失ったアリオールがブレードを突き立てていた。

 

『地球の虫にはな、人間くらい簡単に殺せるのもいるんだよ。もっと勉強してから来な!!』

『貴様ァッ!』

 

ズフィルードから発せられていたエネルギーが減少し、空間の歪みが遅滞する。だが、ズフィルードは未だ活動を続けておりアリオールを排除しようとする。

今の一撃で、突き立てたブレードはいつ折れてもおかしくない程亀裂が走っており、推進器も機能しなくなったアリオールには成す術がなかった。

 

『エールゥ!!』

『どっせいッ!』

 

ケンの呼び声に応えるように内部に突入してきたディバイソンが、アリオールごとズフィルードに突進し押し出していく。

 

『!』

 

ケンの意図が読めずにいたズフィルードだが、進路上に動かないままのレオーネがいることに気がつく。

 

『イサム!!』

 

ディバイソンと共に突入していたビルドラプターが、主の手を離れ漂っていたシシオウブレード改を手にするとレオーネ目がけて投げる。

そして、ラトゥーニの呼び声に応えるように覚醒したイサムは、ブレードを手にすると迫るズフィルードへ構える。

それを見計らったようにディバイソンが自身だけ制動をかけると、残ったアリオールとズフィルードのみが慣性に従い突き進む。

 

『じゃあな、クソ野郎!!』

 

アリオールが蹴り飛ばすと、更に加速されたズフィルードがレオーネ目がけ押し出される。

 

『ガァァァァァアアアアアアア!!!』

 

渾身の力を振り絞りながら横薙ぎに振るわれたブレードを、ズフィルードは両腕を交差して受け止める。

 

『この程度で、このズフィルードがッッッ』

『――――!!!』

 

イサムは機体を操作しようとするも、力が入らず視界が霞んでいく。

 

「(もう何も感じられない…。ここまで来たのに、指一つ動かせない…。俺は――)」

 

朦朧とする意識の中、諦観が心を支配しようとした瞬間――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――イサム、負けないで!!生きて帰って来てッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――!!!』

 

脳に直接響くような大切な人の声に、意識を引き戻されたイサム。レバーを握り締めると、両手にそれぞれ2人分の手が添えられた感覚を覚える。

 

「(おばあちゃんと、それに誰だろう?でも、凄く暖かい――)」

 

片方はとても懐かしい感覚であるが、もう片方はそれとは異なるもどこか懐かしさを覚える暖かさを持っていた。

それらの手からまるで力を分けてもらったようにイサムはレバーを動かし、機体を動かす。

それに応えるように、レオーネの停止しかけていたジェネレーターが最大値を超えて稼働していく。

 

『馬鹿な、このようなことが――』

 

受け止めていた腕部に刃が食い込んでいく光景に、驚愕を隠せない声を漏らすズフィルード。

 

『俺は、帰るんだァァァァアアアア!!!』

『!!!』

 

イサムから放たれたプレッシャーにズフィルードが怯むと、刃は更に食い込んでいく。

 

『チェストォォォオオオッッッ!!!』

 

レオーネがブレードを振り抜くと、腕部を、そして腹部を両断されたズフィルードが崩壊を始めていく。

 

『この力…やはり、守護者のモリ…びと、の――』

 

塵となって消滅していくズフィルード。それを見届けると、イサムの意識は再び遠のいていくのであった。




これにてラストバトルは終了です。次回はエピローグとなります。














…どうにか今年中に終わらせられそうです(フラグ


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エピローグ

ホワイトスター宙域

 

ジュデッカを失ったことでホワイトスターは機能を停止し、それに伴いエアロゲイターの起動兵器の全てがその機能を停止。そして、最終兵器であるメテオ3が崩壊したことで地球人類の勝利でオペレーションSRWが幕を閉じた。

現在は残存戦力による生存者の捜索と救助が行われており、ハガネ・ヒリュウ隊も参加していた。

そんな中、ラトゥーニは自機のコックピットを開放すると、外部へ出る。

傍らには四肢を失い辛うじて原型を留めているレオーネがおり、自機を足場にして蹴ると無重力特有の浮遊感を感じながらコックピット目がけて跳ぶ。

レオーネへ辿り着き、手動開放用のコックを回すとハッチが開かれ、内部を覗き込むラトゥーニ。

内部はモニターの殆どが死んでいるも、生き残っているモニターの光源が搭乗者であるイサムを照らし出していた。

眠っているかのように反応のない彼に身を寄せるラトゥーニ。送られてくるバイタルサインから異常は見られないも、一抹の不安は拭えず恐る恐るといった様子で外傷等を確認していく。

 

『んぅ…』

 

すると、イサムの瞼が薄っすらと開き寝惚け眼がラトゥーニを捉える。

 

「んぁラトおはよ~」

 

のへ~という擬音が聞こえそうな顔をしているイサムを見て、普段と変わらぬ彼にラトゥーニは安堵の余り抱きしめるとあぁ…、と感涙の声を漏らす。

 

『イサムッ良かった…!』

 

突然のことにイサムは何事かと困惑するも、脳が覚醒していくと共に目覚める前のことを徐々に思い出していく。

 

『勝ったんだよね俺達?』

『うん。ジャーダにガーネット、皆無事だよ。それに…』

『――ウォォォよくやったケェン!流石あたしが惚れた男やッ!!!』

『暑苦しいんだよボケッ!おい!勝手にヘルメットを取るな、うむぅ…!?』

 

通信機からケンとエールの愛の語らい()が聞こえてきたのでとりあえず切る2人。

 

『ねえ、ラト』

『何イサム?』

『戦いの最後、もう駄目だって諦めそうになった時聞こえたんだ。ラトの応援してくれる声が。だから頑張れたんだ、ありがとう』

 

そういうとイサムは、ラトゥーニの背中に両腕を回すとそっと抱きしめた。

突然のことにラトゥーニは最初は驚き顔を赤くするも、すぐに受け入れて緊張を解く。

 

『それで気づいたんだ。君がいたから頑張ってこれたんだって。君が俺にとって大切な人なんだってことが』

『それって…』

『イサム・トウゴウはラトゥーニ・スゥボータのことを愛しています。だから、その、これからも君の側にいたいんだ。駄目、かな?』

 

その言葉に感極まったラトゥーニは思わず涙を流す。そのことに嫌われたのかとイサムがギョッとするも、ラトゥーニは慌てて首を横に振る。

 

『ごめん違うの。同じなんだってわかって嬉しくて、だから』

『えっと、じゃあ…』

『私もイサムのことが好き、大好き。ずっと一緒にいたい』

 

イサムの背に両腕を回し抱き着くラトゥーニ。

互いの存在を確かめ合う2人を、地球の陰から顔を出した太陽の光が祝福するように照らすのであった。

 

 

 

 

伊豆基地 食堂

 

ホワイトスター攻略戦から暫しの時が流れ。ハガネ・ヒリュウ隊は解散となり、軍属の者は元居た所属に戻るか、新設される部隊への移動。民間人であった者は皆軍に留り所属していた部隊で活動するか、民間組織へ出向する等それぞれが新たな道を歩みだしていた。

そんな中。イサムもまた、己の道を決めようとしていた。

カイに呼び出されて向かうと。ジャーダ、ガーネット、それにラトゥーニもいた。

 

「妊娠!?」

「うん、そうなんだ。だからあたしとジャーダは軍を離れることにしたの」

 

ガーネットからの告白に素っ頓狂な声をあげるイサム。

作戦後病院送りとなり、退院して早々にこのようなことを言われれば無理もないが。

 

「おめでとうございます!式はいつですか!?」

「とりあえず、落ち着いてからってことでな。皆招待するよ」

「はい!絶対行きます!」

 

我がことのように喜んでくれるイサムに、ジャーダとガーネットは揃って笑みを浮かべる。

 

「あれ?お2人が軍を止めるとしてラトは???」

「私は軍に残るの。オウカ姉様やアラド、ゼオラ。スクールで一緒にいた人達を探したいの。多分、私みたいに機動兵器のパイロットになっているだろうから、軍にいる方が見つけられる確率が高いと思うの…」

 

イサムの隣に座るラトゥーニは俯きながら話す。軍を離れても引き取ってくれると言ってくれたジャーダとガーネットに、罪悪感を感じてしまっているようであった。そんな彼女の手に、イサムは自分の手をそっと重ねた。

 

「そんな顔をしないでラトゥーニ。あなたが自分で生き方を選んでくれてあたし達は嬉しいんだから。例え離れ離れになってもあたし達は家族よ。ね、ジャーダ」

「当たり前さ。お前は俺達の…かけがえのない娘さ」

「ジャーダ、ガーネット。…ありがとう」

 

2人からの暖かい言葉に、思わず涙が流れるラトゥーニ。そのやりとりを見ていたイサムは号泣していた。

そんな彼に、カイが話しかける。

 

「そういうこともあり、ラトゥーニは俺が隊長を務めることになった教導隊で預かることになってな」

「教導隊?再編されるんですか?」

「ああ。エアロゲイターを退けたとはいえ、同じようなことが起きんとも限らんし、未だ抵抗を続けるDC残党もいるからな。TC-OSの更新は必須と上は判断したんだ。それでイサム、お前もウチに来ないか?」

「俺が教導隊に?軍属じゃないですよ?」

「そこはリュウセイらと同様の扱いにするよう、レイカー指令も取り計らってくれるそうだ。お前が構築している近接――特に剣戟モーションはPTの発展に大いに貢献できる。是非とも来てもらいたい。それにお前さんらとしてもその方が都合が良かろう?」

 

な、とカイが意味深な目でラトゥーニを見ると、彼女は顔を赤くして恥ずかしそうに俯いた。

 

「そういうことなら喜んで!よろしくお願いしますッ!」

「イサム。ラトゥーニのこと頼むな。俺達の分まで守ってやってくれ」

「はい、ジャーダさん!ラトは俺が絶対に守ります、いつまでもずっと!」

「~~~~」

 

力強さを感じさせられるイサムの言葉に、茹で上がりそうな程に顔が赤く染まるラトゥーニ。

 

「お願いねイサム。もう、あなたも私達の家族だからね。ラトゥーニと一緒に帰って来るのを待ってるわ」

「ありがとうございます、ガーネットさん!必ず2人で帰ってきます!!」

 

家族という言葉に余程嬉しいのか、今にも飛び跳ねんばかりに満面の笑みをイサムは浮かべるのであった。

 

 

 

 

日本九州

 

イサムはリシュウ、そしてラトゥーニと共に故郷の地にある霊園を訪れていた。

整然と並ぶ墓石の内、稲郷家と刻まれた墓石の前で手を合わせ黙祷を捧げる3人。

 

「あのね、おばあちゃん。俺ねケンに会ったよ。一発ぶん殴ってやるつもりだったけど、あいつなりに色々考え直しておばあちゃんのこと償おうとしているみたいなんだ。だから、全部って訳じゃないけどできる限りは赦そうって思う。…それでいいんだよねおばあちゃん」

「ああ。シノもそうすべきだと言ってくれるさ」

「そういえば、おじいちゃんはクロガネにいた時ケンと話したの?」

「いや、どうにも避けられていたようでの。まあ、時が来れば自ずとそういう機会もあろうよ」

 

顎を撫でながらカッカッカッと笑うリシュウ。

 

「では、儂は住職殿と話すことがあるでの」

「うん、わかった」

 

離れて行く祖父を見送ると、イサムはラトゥーニと共に再び墓石に向き合いながらしゃがむ。

 

「それとねおばあちゃん。俺人生をかけて護りたい大切な人ができたんだ。紹介するね」

「ラトゥーニ・スゥボータです。イサムのおかげで今の自分が好きになれて、こんな私でも生きていていいんだって思えるようになれました。だから、これからずっと彼を支えていきます」

 

語り終わると、どちらともなく手を繋ぎ合うイサムとラトゥーニ。そこにリシュウが戻って来た。

 

「報告は終わったかの2人とも。そろそろ帰ろうか」

「は~い。じゃあ、また来るねおばあちゃん。行こうラト」

「うん、イサム。それではシノさん」

 

立ち上がると、寄り添うようにして歩いていく2人。その姿を見て、リシュウは満足そうに微笑みながら後に続こうとすると、何かに気づき振り返る。

墓石の前に自分と同じように微笑んでいる妻が何かを語り掛ける。

 

「(ああ、そうじゃのシノ…。『あの子達』がどのような人生を送っていくか、楽しみよな。出来る限りそれを見送ってから、儂もそちらに行くでの)」

 

リシュウは、誰もいない木影に視線を向け感慨に耽っていると、孫が自分を呼ぶ声が聞こえ、それに応えると歩み出すのであった。

 

 

 

 

イサムらが霊園を去ろうとしていた時刻。近くにある歩道を2人の男女が歩いていた。

 

「ねえ、花くらい添えても良かったんじゃない?」

「いらん。目的は十分に果たした」

 

両手を頭の後ろで組みながらぼやくエールに、ケンは素っ気なく答える。

 

「こそこそ隠れて立って、お爺様には気づかれてたわよ、あれ」

「だろうな」

「いい加減頭くらい下げに行ったら?」

「やることをやったら斬られに行く。そう長くもかからん」

 

変わらず意地を張る恋人に、エールはやれやれと言いたそうに溜息をつきながら話題を変える。

 

「てか、顔も見せないのに何しに来た訳よ?」

「お前の顔を見せに来ただけだ。あの婆さんなら気づいてるだろうよ」

「にゃ!?」

 

予想外の告白に目を点にして足を止めるエール。そんな彼女に、ケンは呆れたような表情で横顔だけ向ける。

 

「何ボサッとしてやがる。それくらいでいちいち驚くな」

「いやいや無理言うなって、って置いてくな~!」

 

抗議を無視して歩き続けるケンに、エールは慌てて駆けだし、追いつくと勢いよく腕に抱き着いた。

 

「んで、このままバン大佐と合流すんの?」

「ああ。色々と我儘を聞いてもらったからな。何か土産を見繕っていかんとな」

「ふ〇っしー人形とかどうよ?」

「好きだなお前…」

「ええやん!あのずんぐりむっくりした体形で、キビキビ動いて体張るところなんて最高やん!!」

 

拳を握り締めて熱く語る相方の感性に呆れながら、無視すると面倒なので一応聞いておくケン。

 

「あんたが行くならどこでも行くけど。エルザム少佐やクロガネの人達と別れるのは寂しいよねー。ご飯美味しかったし」

「あの人らがDCでやれることはもうないからな。俺はただくだらんプライドを捨てきれんだけだ」

「弟君――ライバルに負けたままでいたくないんでしょ?いいじゃん、男ならそれくらいハングリーでなきゃ」

 

にしし、とにこやかに笑うエールに、釣られるように口角を僅かに吊り上げるケン。

 

「ありがとうな…」

「お?今何つった、ねー何つったよ!!」

「何も」

 

抱き着いていた腕を振り回しながら騒ぎ出す相方を、好きにさせながら、ケンは人々の喧騒に紛れていくのであった。

 

 

 

 

????

 

辺り一面に美しき花が咲き誇る平原を、晴れ渡る空から暖かな日差しが降り注ぎ、様々な動物がのどかに暮らしており。まるで桃源郷を思わせる異世界のような空間、その中心に天高くそびえる山の頂に、数人の男女の姿が見えた。

 

「彼女が目覚めたとな?」

「はい、ほんの僅かな瞬間ではありましたが…」

 

禿頭と蓄えた白い髭が印象的な、いかにもな仙人の格好といった老人の言葉に、狐の尾のような髪と、蓄えた髭の壮年の男が跪きながら答える。

 

「それと同時に、『彼の者』に近しい反応も確認できました」

「…そうか。あの者の血を引く者が生きておったか。それは善哉、善哉」

 

どこか感慨深そうに髭の撫でる老人。すると、中性的な容姿の青年が不快そうに鼻を鳴らす。

 

「禁忌を破り『守り人』の使命を捨て裏切った男の子など、今すぐ処分すべきではないのか?」

「まあ、そう急くこともないんじゃないかい?『アレ』を扱えるのは守り人の血筋だけだからね。上手くこちら側に引き込めればこれ以上ない力になる。禁忌を破って生まれたからこそ、今までにない強力な守り人になってくれそうじゃないか」

 

青年の言葉に、白いスーツを身に纏った紳士然とした青年が、岩場に足を組んで腰かけており、頭にかぶっている白色のシルクハットのつばをいじりながら軽い口調で話す。

仙人を思わせる服装をしており、厳格さを感じさせる威厳を放つ一団の中でも、身に纏う雰囲気も合わせ一際異彩を放っていた。

 

「何を馬鹿な!穢れきった存在を我らの内に入れようと言うのか!?」

「しかし、かつての『大戦』で我らの力が弱まっているのも事実。新たな『巫女』もおらぬ現状、それも一つの手ではあろう」

「しかし…!」

「我らも目覚めたばかり。下界の情勢を見極めながら、暫し様子を見ても良かろう。彼の者が我らが同志に加えるに足るかそれとも断罪すべき者か、な」

「僕達が力を蓄えるまで、この星の守りは暫し下界の者達に委ねないといけないからね。今すぐ処分するより『百邪』なんかと戦わせていた方が有意義だろうさ。その方が我らが『神』への償いになると思うけど?」

 

憤慨する中性的容姿の青年に、老人とシルクハットの青年が諭すように語り掛ける。

 

「…いいだろう、刻が来るまでは待とう。だが、断罪が必要であるならば――」

「無論、その刻は彼の者同様裁きを与えよう」

 

老人の言葉に、中性的容姿の青年は一応は納得した様子であった。

 

「(『友』よ。そなたが命をかけて遺したのは、果たして『希望』か『災厄』か。願わくば――)」

 

老人は瞑想するように目を伏せながら、1人心中で思いを馳せるのであった。

 

 

 

 

????

 

仙人を思わせる集団がいる山の内部。その中心部にある空間に、クリスタル上の六角形の物体が宙に浮いていた。

その内部には1人の女性が眠るように納められ、クリスタルの真下の地面には五芒星が描かれており、壁には同じ模様が描かれた札が無数に張り巡らされていた。その様相はまるで、クリスタルをひいてはその中身を封じ込めているかのようであった。

クリスタルから発せられる、僅かな光だけが照らす薄暗い空間。そこにただ1人存在している女性の容姿は、イサムと瓜二つのものであった――




これにて、OG1は完結となります。
ここまで来れたのは、ひとえに応援して下さった皆様のおかげでございます。誠にありがとうございました。

続編についてはいつになるか不明ですが。ケンがイサムらの元を去り、どのようにビアンと出会いDCに入るかも書きたく。どちらが先になるかも含め気分次第なので、気長にお待ちいただけると幸いです。

それでは、あらためましてここまで目を通して頂き誠にありがとうございました!続編でまたお会いしましょう!!


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