バディファイト ZERO (無料太郎)
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ゼロワールドとの邂逅編
始まりの日


始めまして、無料太郎と申します。
バディファイトもSS投稿も初心者ではありますが、書きたい思いだけで突っ走ってみました。

駄文・誤字・脱字・ルールミスその他諸々、気をつけてはいますが不安は尽きません……。
ですが、やれるだけのことはやりたいと思います。

宜しくお願いします。


因みに今回は、ファイトしません。あくまで主人公たちの出会いをメインにしたかったからです。


 5月。春の陽気が残る朝に、俺は1人、坂を上っていた。

 

「……はぁ」

 

 桜の花びらが、アスファルトの坂道を埋め尽くしている。正門へ続くそれは正に青春そのもの。

 

 そして、俺にとっては苦痛だ。

 

 

 *

 

 

 超東驚・第7ブロック、学が丘。かの有名な相棒学園と同じ所在地に、俺が通う、学が丘第二高等学校がある。全校生徒1500人の所謂、マンモス校だ。俺は1週間前にこの学校に転入した。

 

「……やっぱ、帰ろうかな……」

 

 校舎に入り、ロッカーに携帯電話を入れて、階段を3階まで上がって、ふと足が止まった。同級生の笑い声が聞こえる。「コール!」と叫ぶ奴もいる。急に逃げ出したくなってしまう。だが、ここで逃げたら後悔することになるかもしれない。

 

 意を決し、教室の前まで進む。行け、もっと。そして引き戸に手をかけて――

 

「お、おはよう……」

 

 そろそろとドアを開けると、たくさんの視線を感じた。

 

「あいつ、来たのかよ」

 

「バディファイトも出来ないのに?」

 

「あんまり言うなって。泣かれたらどうすんだ」

 

「いない方が楽しいのに」

 

「気分サイアクだよ、まったく」

 

 顔を伏せながら席へと向かう。皆の視線が痛い。さっきまでの賑やかさが嘘のように、静かになっている。椅子に着いても状況は変わらない。それも全て、俺が来たからだ。

 

 俺は、バディファイトが出来ない。デッキを持っていないからだ。それ以前に、手元にあるカードは1枚しかない。

 

 初めこそ「バディファイトしよう」だとか「何のワールド使ってるの?」とか言って、皆近づいてきてくれたものだ。しかし俺がロクにカードを持っていないと知ると、徐々に人だかりが無くなり、たった1週間で信頼を失った。今では腫れもの扱いとなっている。

 

「はい、皆!1時間目は歴史の授業ですよ」

 

 担任の岡流斗(おかると)先生が入って来るなり、着席を促す。

 

「えー」

 

「いいトコだったのにー」

 

 思い思いに抗議しつつ、ちゃんと従うのは、彼らがマジメであることを物語っている。

 

 ふぅ、と息を吐く。やっと息苦しい時間から解放された。ここからは授業の時間。ほぼ1日中、俺は注目されない。心も体も無になるだけだ。

 

 

 *

 

 

「じゃあまた明日。さようなら」

 

 岡流斗先生のHRが終わる。俺は皆が教室を出るまで、席を離れなかった。

 

「あ、無我(むが)くん。ちょっとよろしいですか」

 

「……はい」

 

「転入して1週間。僕は君を見ていて思うんです。あなた、いじめられていませんか?」

 

 答えられない。そもそも自分が分かっていないのだから答えようがない。だから。

 

「大丈夫です。そういうのじゃないんで」

 

「本当に?」

 

「はい。もし、そう見えたのなら俺のせいです。俺がバディファイト出来ないから……」

 

「でもそれは無我くんのせいじゃ」

 

「俺のせいなんです、全部。もういいですか?帰りたいんですが」

 

 分かりました、と岡流斗先生が告げる。さっさと席を立つと教室を後にした。弱音を吐きそうだったから、先生の顔は見ないようにした。

 

 足早にロッカーへ向かい、携帯を手に取る。

 

「無我くん!」

 

 後ろから呼ばれたが無視をした。今は誰とも関わりたくなかったからだ。

 

「ちょっと、無我零人(れいと)くん!聞いてるの!?」

 

 知らない、知らない。無視、無視。必死に言い聞かせる。振り返ることなく立ち去った。

 

 坂道を走って下る。いつの間にか空がオレンジに染まっていた。速く帰るため、近道をしようと考えた。

 

 超商店街を右折し、学が丘駅の駐車場を突っ切る。途中に横道があるから、そこを通ると、大都会とは思えないほどレトロな雰囲気の住宅街に出る。そこで1番古めかしいのが自宅となる。 

 

 

 

 

それは駐車場に差し掛かったときだった。2人組が見えた。どちらも男性で、それぞれ20代後半と10代といった所か。

 

「バディ……ポリス?」

 

 2人はバディポリスの制服を着ていた。思わず足を止めて、車の陰に隠れる。

 

「さあ、大人しくこちらに来るんだ」

 

 10代の方――青い髪の少年が喋る。続けて20代の方――短髪イケメンが話し始める。

 

「俺達はお前の話しが事実か、確認しなければならない。頼む、一緒に来てくれ」

 

 2人が向き合う相手が気になる。窓越しに覗いてみた。

 

「――っっ!!」

 

 そこにいたのは、白いモンスターだった。人型をしているが、鎧のようなものを身に着けている。頭には王冠、だろうか?武器は持って無さそうだ。何となくジェネリックのモンスター、≪キング・ザ・ドミネーター≫を思わせる雰囲気がある。

 

『確認も何もない!我らはゼロワールドに開いたゲートに飲まれ、人間界に来てしまったのだ!それが事実なのだ!確認できるようなことではない!』

 

「だがそれが俺達の仕事。従わないなら仕方ない……タスク」

 

「分かりました、滝原さん。頼むぞ、ジャック!」

 

『イリーガルよ、選ぶがいい。このまま私と相まみえるか』

 

「大人しく僕らと来るか」

 

 鼓動が速まる。ゼロワールド。聞いたことがあるような、ないような。それにあのモンスター、見覚えが……。

 

 “いこう、エンペラー”

 

 “ほーら、零人。こいつが俺のバディだ”

 

 “もうやめろ!父さんと母さんを放せ!”

 

 “君達はワールディアスの糧となるか、単に命を失うか”

 

 “誰か、助けて……”

 

 あの時の記憶が思い起こされる。そうだ、俺もあの時、「選べ」と言われた。「助けて」と願った。あのモンスターも、もしかしたら……。

 

『ゲートを開けたのは我らではない!信じてくれ、人間!我らを』

 

モンスターの顔が歪む。

 

『我らを、助けてくれ……!』

 

深い考えは無かった。ただ、重なったんだ、あの時の俺と。最悪の状況をひっくり返して、「助けに来た」と言ってくれる。そんな誰かが来ることを願い続けた自分と。だから、気付いた時にはもう、飛び出していた。

 

「あ、あの!」

 

3人がこちらを向く。

 

「そいつ……バディ、いないんすか」

 

「誰だ?なぜこんな所にいる?」

 

タスクと呼ばれた青い髪の少年が訊ねてくる。もう片方の「滝原」は、苦い顔をしている。

 

「たまたまです。それより、そいつ、イリーガルなんですか?」

 

「ああ。だから連行しようとしたんだが、言うことを聞いてくれないんだ」

 

「じゃあ、誰かがバディになれば、イリーガルじゃなくなるってことですか?」

 

「そう簡単な事じゃない。上層部の許可が出ないといけない」

 

「タスク!」

 

滝原が呼び寄せる。何か耳打ちをしているが、聞き取れない。

 

「本当、ですか?」

 

「ああ。記録も残っているそうだ」

 

そんな会話だけは分かった。タスクがこちらに向かってくる。少し身構える。

 

「滝原さんが上層部と協議してくれたよ。そのモンスターをイリーガルから外すそうだ」

 

「え?」

 

「詳しいことは分からないけどね」

 

『我らの言い分が通った、ということか』

 

「それじゃあ、こいつを連行しなくていいってことですね?」

 

タスクが頷く。

 

「お前はどうしたい」

 

滝原が訊ねた。バディポリスとしては当然、話しを聞きたいだろう。

 

『イリーガルとして見なされなくなったのなら、心配はない。あなた方に付いていこう。先程は取り乱してすまなかった』

 

『やっと話しが進むな、タスク』

 

「そうだね、ジャック」

 

タスク達が安堵の表情を見せる。俺は気になっていたことをモンスターに聞いた。

 

「お前の名前は?」

 

『我が名は《ゼロ・エンペラー》。ゼロワールドの皇帝である』

 

「俺は、無我零人。なあ、俺とバディにならないか?」

 

『よかろう。助けてもらった恩を返したかったからな。あなたを我が主としよう、零人』

 

「よろしく、エンペラー」

 

何も持たない俺と、ゼロワールドの皇帝。この出会いが、後の運命を大きく変えるきっかけだったことを、このときはまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




うーん。やっぱり初回からファイト無しってどうなんだろう?

次回はファイトがあるはず……!


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龍炎寺タスクの力

今回はファイトします!

※ファイト中のゲージとライフの表記は、『ゲージ→G、ライフ→L』としています。

 例(G:2、L:10)

※右矢印の先の数値が、変化後の数値となります。

 例(G:2→3、L:10→9)

※手札の枚数は基本、後攻のターン終了時に表記します。


 俺は未知のワールドであるゼロワールドからやってきたモンスター、《ゼロ・エンペラー》といろいろあってバディを組んだ。今はバディポリスの滝原さんとタスクと一緒に、特殊車両でバディカード管理庁に向かっている。

 

「零人くん。今回のことは一応、親御さんや先生にも伝えなきゃならない。連絡はとれるかな」

 

 滝原さんが運転しながら言った。後部座席で俺の隣りに座るタスクは、じっとこちらを見つめている。

 

「ごめんなさい、親は無理です」

 

「どうしてですか?」

 

 タスクが問う。俺は言葉に詰まってしまう。

 

「何か言えない事情が?」

 

「いや、そういうんじゃないよ。ただ、親がいない、ってだけ」

 

「どこか旅行とか、入院しているとかですか」

 

「違う。昔、いろいろあってさ、この世にもういないんだ、2人とも……」

 

 車内が凍りついた。大抵の場合、この話しをするとこうなる。だから必要以上に過去のことを喋りたくなかった。それから暫くはお互いに、口を閉ざした。多分、気を使われている。

 

「ん?誰だ、あいつ?」

 

 バディカード管理庁まであと僅かという所で、滝原さんが車を止めた。何事かと外を見ると、黒ずくめの人物が路上に立っている。顔はフードを被っているため、認識できない。

 

「そこをどけ!」

 

 車を降りた滝原さんが叫ぶ。黒フードは立ち去る気配すら見せない。

 

「どかなければ、お前を拘束する!」

 

「……やってみろ、飼い犬風情。バディファイトで勝って、拘束してみろ」

 

「なら、僕が相手だ」

 

 気付くと、タスクも車を降りていた。コアデッキケースを取り出し、構える。年下だが凄みを感じる。

 

「ほう、少年バディポリスの龍炎寺タスクか。……面白くなりそうだ」

 

「バディポリス結界!」

 

 合図と共に、周囲が光に包まれていく。そして、お互いのコアデッキケースがロックされる。

 

「いくぞ、ルミナイズ!シャイニングドラグナー!」

 

「……ルミナイズ」

 

「バディファイト!オープン・ザ・フラッグ!」

 

「スタードラゴンワールド!バディは《逆天星竜 ジャックナイフ》!」

 

「ドラゴンワールド。バディはシステミックダガー・ドラゴン」

 

「僕の先攻だ。チャージアンドドロー!ゲージ1とライフ1を払って、《J・スターリング》を装備。いくぞ、アタック!」(G:3→2、L:10→9)

 

 タスクの右手首に付いた武器から、光の剣が生成される。

 

「はあああぁぁっっ!」

 

 相手に真正面から突っ込んでいく。大きく右手を振りかぶるその姿は、俺が見ても格好いいと思えた。

 

「キャスト、青竜の盾。攻撃を無効化し、ゲージ+1」(G:2→3)

 

「くっ……ターン終了だ」

 

「俺の番か……。ドロー。チャージアンドドロー。レフトに《蒼穹騎士団 システミックダガー・ドラゴン》をコール。ライトにバディコール、《システミックダガー・ドラゴン》。バディギフトでライフ回復」(L:10→11)

 

 何か違う。そう思った理由はよく分からない。ただ淡々と作業を進めるだけのようなそのやり口に、少し不安を抱いてしまう。

 

「蒼穹ダガーの能力。他の《システミック》が登場したのでライフ+1、1ドロー。アタックだ」(L:11→12)

 

 その言葉にタスクが身構える。だがなぜか、アタックして来ないと思った。

 

「いや、やめておこう。このままターンを終わる」

 

 タスク

 ライフ9/ゲージ2/手札5

 

 黒フード

 ライフ12/ゲージ3/手札6

 

「な……っ」

 

『なぜ、彼は戦闘を終えたのだ?』

 

 滝原さんとエンペラーは驚きを隠せず、そして黒フードの行動に首を傾げる。……まあ、エンペラーはカードの中だからよく分からないけど。

 

「多分あいつ、本気じゃない」

 

『どういう意味だ、零人』

 

「勝つのが目的なんじゃなくて、何というか、様子を窺うみたいな」

 

『つまり、偵察か』

 

「あくまで多分、だけど」

 

 確信は無いが、そんな気がした。どうにも理由を付けられないから不気味だ。

 

「何が目的だ?……僕のターン、ドロー。チャージアンドドロー」

 

『私も戦うぞ、タスク!』

 

「頼むよ。ゲージ1を払い、ドロップゾーンの《大竜装機 トリプルバスター》をソウルに入れて、《逆天星竜 ジャックナイフ》をライトにバディコール!」(G:3→2、L:9→10)

 

 その声と共に、小さかったジャックが光に包まれ、大きくなる。息を飲んで見ていると、蒼い装甲を纏う竜がいた。

 

「あれが、本当のジャック……」

 

『なんと煌びやかな……』

 

「更にコール、《超虹影 シャドウスキアー》。キャスト、《スタージャック・リペア》!デッキの上から1枚をゲージに置き、ドロップゾーンの《剣星機 J・イグナイター》をジャックのソウルに入れる!」(G:2→3)

 

「さあ、もっと力を見せてみろ、龍炎寺タスク……」

 

「キャスト!《スタービリーバー》!ジャックのソウルからJ・イグナイターを捨てて、ライフ+1、2ドロー!――来た!」(L:10→11)

 

 動く。そして、恐らくこのターンで決まる。そんな予感がした。

 

「J・スターリングでファイターにアタック!能力で手札からJ・イグナイターをジャックのソウルに入れ、ゲージ+1、1ドロー」(G:3→4)

 

「受けてやろう」(L:12→10)

 

「シャドウスキアーも続け!」

 

「そいつも貰おうか」(L:10→8)

 

「ジャック!」

 

『今の私は攻撃力9000、打撃力4、貫通を持っている!行くぞ、シャイニング・ターミネイト!』

 

 黒フードに攻撃が入って、残りライフ4になった。だが黒フードは微動だにしない。

 

「ファイナルフェイズ!」

 

 タスクがファイナルフェイズを宣言した。するとどこからともなく、巨大な剣が現れた。そしてタスクの背に、翼が生み出された。

 

「キャスト!《シャイニング・パニッシャー!!》このカードは無効化されず、ダメージを減らせない。そして、相手はライフ0になったら復活できない!くらえ、5ダメージ!」

 

 一気にシャイニング・パニッシャーが振り下ろされる。そして、黒フードに直撃し――。

 

「ふっ、負けたか。まあ、こんなものだろう」

 

「さあ、投降するんだ」

 

「すまないが、そうもいかないのさ。データも採れたし、収穫もあった。今日は失敬するよ」

 

 一瞬、黒フードと目が合った。薄い笑みを携えたそいつは、懐からカードを取り出すと、空間が歪んだ。

 

「あっ」

 

「しまった!」

 

「くっ……!」

 

 滝原さんが何かを投げた。その直後、空間の歪みが消える。

 

「逃げられた……」

 

「いや、大丈夫。さっき発信機を投げたから」

 

「あんなに分かりやすく怪しい行動とって、バレませんか?」

 

『あの発信機は簡単に取れない、そして壊れない。ではないか、滝原殿』

 

「すごいな、そんなこと知ってるのか。流石、皇帝様だな」

 

 滝原さんの言葉にエンペラーは答えなかった。一方、タスクは誰かと無線で通信を始めた。暫くして、俺たちは再び、バディカード管理庁へ向かうことになった。

 

 

 




表記方法を変えた方がいいでしょうか?宜しければ教えてください。


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過去と現在

今回は零人に関する、少し込み入った話しになります。(またファイトしない……)


「それでは取り調べを始めます。いいですね、零人さん」

 

 タスクの発言に戸惑う。何でこんなことになったんだ?

 

 話しは少し前まで遡る。

 

「着いたよ。ここがバディカード管理庁本部ビル」

 

「分かりやすく言えば、バディポリス本部だ。滝原さん、ちょっと」

 

 本部に着くなり、2人は離れた場所でこそこそと話し始めた。途中でハプニングはあったが、無事にバディポリスに到着した。

 

『さて、零人よ。我らはこれからどうすればよいのだろうか?』

 

「とりあえずエンペラーは取り調べだろうな」

 

『事実を話せばよいのだろう?ならば恐れることなどないな』

 

「そりゃそうだ。そういえば俺、エンペラーに聞きたいことがあるんだけれど」

 

『何だ、改まって?』

 

「俺たちさ、昔どこかで、会ってたりする?」

 

 エンペラーは何も答えなかった。困惑しているのだろう、眉間にシワを寄せている。

 

 あれ、何だろう、この感じ。心がざわついている。自分の中の記憶とエンペラーの態度に、不安がよぎる。

 

 そういえばさっきの記憶は、小さい頃のものだろうか。でもあまり鮮明ではない。本当にあの記憶は、正しいのか?

 

「2人とも、いいかな」

 

 呼んだのはタスクだった。どうやら、滝原さんとの話しが終わったらしい。

 

「話し合った結果、エンペラーの聴取は滝原さんにお任せすることになった」

 

「何があったのか、しっかり聞かせてもらうぞ」

 

『ああ、当然だ』

 

「そして零人さんの聴取は、僕が担当する」

 

「……は?」

 

 その後、俺たちは本部の中に連れて行かれた。暫く歩いて、エンペラーより先に、ある一室に入れられる。

 

『健闘を祈っているぞ、零人』

 

 そう言い残し、エンペラーと滝原さんは歩いていった。タスクは部屋に入ってこない。ぐるっと中を見回す。中央には机があり、向かいあうように椅子が2脚、置かれている。ドアの近くにも1人用の、小さい机と椅子。窓も時計も無い。

 

「お待たせしました」

 

 少ししてタスクが入って来た。その後ろから、バディポリスの制服を纏った金髪の女性が歩いてきた。

 

「ステラ・ワトソンです。記録係として、立ち会わさせてもらいます」

 

「それでは取り調べを始めます。いいですね、零人さん」

 

 ステラさんがドアの近く、タスクが中央の席に着く。手を使い、座るように促され、突っ立ったままの俺も着席する。

 

「ある程度のことは調べさせてもらいました。あなたが5歳の頃、何者かに誘拐・監禁されていたことも」

 

 手元の資料を読みつつ、タスクが言う。いきなり重い一撃が飛んできた。確かに俺は昔、1か月の間、知らない誰かによって捕らえられていた。それも両親ともどもだ。

 

「一家総出で監禁生活だったよ。あまり覚えてないけど」

 

「では、その中でご両親が亡くなられたことは?」

 

「……知ってる。その時の様子も含めて」

 

「《ワールディアス》とは何ですか?」

 

「――っ」

 

 急に脂汗が噴き出す。さっきの記憶の中でも出てきた単語だ。

 

「それは……」

 

「救出直後にあなたが発した言葉です。“ワールディアスが食べた!あいつが食べたんだ!”」

 

「え……?」

 

「覚えていませんか?」

 

 不意に頭が痛くなった。息は荒くなり、鼓動が速くなる。抜け落ちた記憶が蘇るような気がした。

 

 “助けて!”

 

 “大丈夫か!?”

 

 “もう、心配いらないぞ”

 

 “ほら、これ”

 

 “これは……?”

 

 “お守りさ。君が、バディファイトをずーっと”

 

「……好きでいられるように……」

 

 頭痛が治まって来た。タスクは少し困った顔をしたが、記憶に関することだからか、あまり追及はしてこなかった。

 

「……ごめん、変なこと、言っちゃたな……」

 

「そんなことより大丈夫ですか?一度、休憩を挟みましょうか」

 

「……いや、いい」

 

「分かりました。ではこれが、最後の質問になります。なぜあなたはエンペラーを助けようとしたんですか?」

 

 すぐには返せなかった。軽い吐き気と疲労感で、いっぱいいっぱいになっていたからだ。

 

「……似てるって思ったんだ」

 

「似てる?」

 

「どうしようもなく不安で、怖かったあの時の記憶が、ふっと出てきて……重なったんだよ。助けを求めていた、昔の自分と。だから、黙っていられなかった」

 

 タスクはこちらをじっと見つめている。嘘偽りがないか、信じるに値するかを見極めようとしているのかもしれない。

 

「タスクや滝原さんには、悪いことしたな。公務執行妨害かな、俺」

 

「そんなことはありませんよ」

 

「えっ」

 

「見ず知らずのモンスターを助けるような人は、中々いないんですよ。あったとしても見返りを要求することがほとんど。あなたのように心から“助けたい”と思い、実行する人はすごいと思います」

 

「そう、かな」

 

「バディポリスの任務を妨害したのは、今回は不問とします。司令も了承しています」

 

「エンペラーは?どうなるんだ?」

 

「あっちも聴取は済んだみたいですね。エンペラーもまた、アクシデントでこちらに来てしまったようだし、零人さんとバディになったので強制送還も出来ない」

 

「じゃあ、あいつは」

 

「これからもあなたのバディですよ、零人さん」

 

 よかった。これで正式に俺とエンペラーはバディとして認められた。

 

 その後、本部ビルを出た俺は、先に出ていたエンペラーと再会した。本来ならコアデッキケースが貰えるそうだが、学生が出歩くような時間でないことから明日、届けられるらしい。

 

「あ、そうだ」

 

 一応、タスクに訊ねておこうと思った。《ゼロワールド》についてだ。

 

「聞いたことあるか、ゼロワールドなんて」

 

「僕は無いんだ。ジャックは?」

 

『私も聞いたことはない。滝原の言うことには、エンペラーもよく分からないらしい』

 

「どういうこと?」

 

『本人は生まれたときからずっと、ゼロワールドから出ていないそうだ』

 

「エンペラーにもゼロワールドのことは分からない、のか?」

 

 また1つ、疑問が増えた気がする。多分この先、もっと増えて行くんだろう。俺の欠落した記憶が戻るまでは、こんな思いをし続けることになるはずだ。それでも。

 

「分かった、ありがとう」

 

 俺はこいつを信じて、歩いていこう。そう心に誓い、相棒を呼んだ。

 

「帰ろう、エンペラー」

 

『うむ、宜しく頼むぞ、零人』

 

 エンペラーがカードに戻る。他のゼロワールドのカードも一緒に、俺の手のひらに収まった。束となった彼らをズボンのポケットにしまい、俺たちは本部ビルを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




エンペラー自身も分からない、ゼロワールドとは何なのか?零人との関係は?この先、彼らを待ち受ける運命とは一体?


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動き出す未来

今回は零人とゼロワールドが出会った翌日のお話しです。


 エンペラーと出会った次の日。俺はいつものように登校の準備をしていた。

 

『零人、何をしているのだ?』

 

「学校に行く準備だ」

 

『その服は昨日も着用していたが?』

 

「そりゃそうだ、うちの学校は制服着用が義務なんだ」

 

『食事は?済ませたのか』

 

「いつもゼリー飲料だよ。朝からガッツリ食べるの、苦手なんだ」

 

『一日の始まりは美味なる食事から!朝に食わねば士気も上がらん。さあ、食らえ!』

 

「食わねーよ!ああもう!さっきからオカンか、お前は!」

 

 訂正。……俺はいつものように登校の準備をしようとした。そして相棒にジャマされている。

 

「うわっ、もうこんな時間!」

 

『遅刻は厳禁だな。……よし、我がバディの為だ。一肌脱ごうではないか』

 

「どういうこと?」

 

『手を握れ、零人』

 

 言われるまま、エンペラーの手を握る。何をする気だ?

 

『いざ行かん!バディの学校へ!』

 

 すると、エンペラーが震え始めた。地響きのような音も聞こえる。足元から煙が立ち込めて、まるでロケットの打ち上げみたいな……?

 

「ちょ、お前、まさか!」

 

『テイク、オフ!』

 

 掛け声と共に足が浮いた。と思う間もなく、すごい勢いで上に加速し始めた。

 

「ここ家の中だぞ!止まれよ~!」

 

 願いも空しく、天井はぶち破られた。だが加速は止まらない。間違いない、こいつ、このまま学校に行く気だ。……つーか飛べるのかよ、お前。

 

『これなら間に合うぞ、零人!』

 

 眼前に広がる青空の美しさに、笑みがこぼれる。ああ、こんなに綺麗だったんだ。

 

「もう、どうにでもなれ……」

 

 

 *

 

 

『着・陸!』

 

 エンペラーが足から、ゆっくりと下り立つ。本当なら20分弱の道が、僅か数分で校庭に着いてしまった、のはいいが……足の震えが収まらない。

 

『いかがだったかな、空の旅は?』

 

「あ、ありがとう。助かったよ。……暫くは飛ばなくていいかな」

 

 うむ、と満足そうな顔になると、エンペラーはカードに戻った。なぜに喜ぶんだ?

 

「うわぁ……」

 

 当然といえば当然だが、歩いていた生徒も、教員もこちらを見ている。

 

「む、む、無我くーーん!?」

 

 岡流斗先生が走って来る。あからさまに動揺を隠せていない。

 

「おはようございます」

 

「ああ、おはよう。……じゃなくて!今のモンスターは何だったんだですか!?」

 

「あー……俺のバディ、です」

 

「バディ!?あ、じ、じゃあ彼女はその為に?」

 

 すぐに事態を把握した。多分、コアデッキケースの受け渡しだろう。何時に家を出るか分からないなら、目的地に先回りして、そこで渡せばいい。俺の場合はたまたま学校だった、ということになる。

 

「すぐ行きます。応接室ですよね、こういう時は」

 

「あ、ああ」

 

 俺は岡流斗先生と一緒に、応接室に向かった。2回ノックし、ドアを開けると、校長先生が座っていた。その向かいには、ステラさんではない女性がいた。この学校の制服を着ているが、バディポリスではないのだろうか。

 

「誰?」

 

「私は戸村七瀬(とむらななせ)。無我くんとも会ったことあるはずだよ?」

 

 思わず首を傾げる。肩にかかるくらいの茶髪、ぱっちりとした目、ふっくらした唇。可愛らしいその顔は割と俺好みだ。ただ、この子に会ったこと、あったっけ。

 

「覚えて、ないかな……」

 

「ちょっと待って、すぐに思い出すから」

 

 まずいまずい。本当に記憶にない。よく分からないものは、自由ではないが思い出すのに、眼前の美少女のことはよく覚えていない。

 

「はぁ……、もう大丈夫だよ。転入したてだもん、まだ分かんないよね」

 

「ご、ごめん」

 

「はい、これ」

 

 そういうと彼女は四角いものを手渡してきた。

 

「えっ、これってまさか、コアデッキケース?」

 

「うん」

 

「何で君が?こういうのってバディポリスの仕事だろ?」

 

 彼女はこの学校の制服を着ている。タスクたちを知っているからか、バディポリスのような気がしないのだ。

 

「あ、知らない?私もバディポリスなんだよ。といってもまだ見習いだけどね」

 

「そうなのか?」

 

 前言撤回。すごくバディポリス感が出ている。もうそれにしか見えない。

 

「さあどうぞ、零人くんのコアデッキだよ」

 

 コアデッキケースを受け取る。うん?何か急に名前呼び?……俺も名前で呼んでいいのかな。

 

「お、おう。ありがとう、えっと、……七瀬」

 

「――っっ!う、うん、あの、その、ど、どう致しまして……」

 

 七瀬がうつむく。やっぱり、ほぼ初対面で馴れ馴れしくしすぎたかな。

 

「これが、俺の……」

 

 改めてコアデッキケースを見る。全体は黒く、真ん中のコアが一層、青く輝いて見える。

 

「失礼しまーす!」

 

 不意に男子生徒が入って来た。首にヘッドフォンをかけている。制服を着崩し、何かチャラい。

 

「え?無我?バディポリス?何がどうなってるんだ?」

 

 俺、知り合いだったっけ?必死に頭を回転させる。あ、確かこいつは……。

 

「……音峰(おとみね)

 

 そうだ、音峰ソウタだ。まだ皆の顔と名前が合っていないから自信はないが、確か同じクラスだったはず。

 

「僕が呼びました」

 

「校長先生が音峰を?」

 

 すっかり忘れてた。先生たち、居たんだっけ。

 

「おい無我!お前、昨日バディポリスから出てきたろ?俺、心配になっちまって校長に言ったんだ。あいつ大丈夫かな、って」

 

「それで事情を聞いて、彼を呼ばせてもらいました」

 

「それで、呼んだ理由は?」

 

「バディファイトしよーぜ、無我!」

 

「いや、話しを聞けよ、お前」

 

「他に理由なんて無い!やっとバディとデッキを持ったんだ、やることはやらねーと、だろ?」

 

「そういうことです。無我くん、音峰くんとファイトしてみてください」

 

「こいつらも早く、演奏したがってんだ!」

 

 何で急に、そんな話しになっているんだろう。でも、さほど嫌でもない。

 

「音峰、お前、バディファイトが好きなんだな」

 

 一通りカードは確認した。デッキも作った。正直、俺も試してみたいと思っていたのだ、ゼロワールドの力を。だから。

 

「……分かった。やろうぜ、音峰」

 

「そうこなくっちゃ!後、ソウタでいいぜ!」

 

「ファイトだ、ソウタ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、やっとゼロワールドのファイトが始まる!

ちなみに、ソウタくんはオリカと普通のカードを使う予定です。


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初めてのルミナイズ

やっと主人公のファイト!ソウタも頑張ります!

ゼロワールドの動き、是非ご覧ください!


 俺と音峰ソウタは、バディファイトをすることになった。実際の理由はよく分からない。というか、聞く前にソウタが「バディファイトしよう」なんて言うからうやむやになったのだ。……まあ俺も、誘いに乗ったから何とも言えないけど。

 

「さあ、やったるぜ~~!」

 

 俺たちは校舎の裏手にある、ファイティングステージに立っていた。授業は一時中断したらしい。既に観客席は生徒や教員でいっぱいだ。

 

「いよいよだな」

 

 隣に立つエンペラーに語りかける。

 

『楽しみだが、我らの初ファイトがまさか、これほどの観客の前とはな』

 

「緊張するよな」

 

 正面を向くと、ソウタが仁王立ちをしている。傍らには、バディモンスターがSD形態で立っていた。

 

「それではこれより、音峰ソウタと無我零人のファイトを開始します!」

 

 審判は岡流斗先生が務めている。実際の所、音声ナビゲートによって進められるので、特に意味はない。

 

「両者、ルミナイズしてください!」

 

「俺たちの演奏で、敵を、客を、虜にしてやるぜ!ルミナイズ、『ドリーム・ビリーバー』!」

 

「2つのゼロが重なって、新たな未来が今、始まる。ルミナイズ、『ビギニング・ゼロ』」

 

「バディ……ファイッ!!」

 

「「オープン・ザ・フラッグ!!」」

 

「マジックワールド!バディは《指揮者 メンデルース》!」

 

「ゼロワールド。バディは《ゼロ・エンペラー》」

 

「なっ……何だ、そのフラッグ?」

 

「ゼロワールドの能力。俺は属性に[ゼロ]を持つカードだけ使えて、手札6枚、ゲージ0枚、ライフ10でファイトを始める」

 

「はぁ!?特殊フラッグかよ!」

 

 ジェネリックが使えず、他のワールドのカードも使えない。[ゼロ]限定のフラッグだ。

 

「っしゃあーー!!俺の先攻、チャージアンドドロー!まずはキャスト、《ナイスワン!(最高だぜ)》で2ドロー!更に《ソロモンの鍵 上巻》、2枚チャージ!」(G:2→3→2→4)

 

 早速、動いてきやがった。流石マジックワールド、安定の初手だ。

 

「さあ、いくぜ皆!レフトにコール、《音楽機 ベースロイド》。能力で1枚引いて、1枚捨てる。センターにコール、《音楽機 ドラムロイド》。能力でゲージを全て見て、1枚を手札に加え、デッキの上から1枚チャージ」(G:4→3→4)

 

 音楽機 ベースロイド

 サイズ1 攻撃力3000/打撃力1/防御力3000

 

 音楽機 ドラムロイド

 サイズ1 攻撃力1000/打撃力2/防御力4000

 

「ターンが、来ないな……」

 

「こっからが本気だ!いくぜ、【合奏(セッション)】発動!!」

 

「何だ!?」

 

「【合奏】は、俺の場に【合奏】を持つカードが2枚以上あることで使える能力なんだ。ベースロイドはゲージ1を払って、2枚ドロー。ドラムロイドはドロップゾーンの魔法1枚をデッキに戻し、その効果を使うことができる!つーわけで、2つとも発動!2ドローからの、ナイスワンを戻して2ドロー!」(G:4→3)

 

「マジか……」

 

「よっし、アタックだ!ドラムロイド、無我をぶっ飛ばせ~~!!」

 

 打撃力2のスティックが、回転しながら飛んできた。音で攻撃、とかじゃないのかよ!

 

「ぐっ……」(L:10→8)

 

「ターン終了!」

 

「やっと俺のターンか、ドロー。チャージアンドドロー。まずはセンターにコール、《ゼロ・サプライヤー》。登場時に1ドロー」(G:0→1)

 

 ゼロ・サプライヤー

 サイズ0 攻撃力0/打撃力0/防御力0

 

「数字が0ばっか……!?」

 

「ライトにコール、《ゼロ・ブラスター》。登場時に2ドロー。《ゼロ・ベアー》をレフトにコール。登場時、ソウタよりゲージが少ないので3枚チャージ」(G:1→4)

 

 ゼロ・ブラスター

 サイズ1 攻撃力0/打撃力0/防御力4000

 

 ゼロ・ベアー

 サイズ2 攻撃力0/打撃力2/防御力0

 

「また0だらけだな」

 

 いい反応をありがとう、と心の中で伝える。だがまだ、終わりじゃない。

 

「キャスト、《オーバーチャージ》。ライフを5払い、デッキの上から10枚チャージ」(G:4→14、L:8→3)

 

「無茶苦茶やりやがる!」

 

「更に《オーバードロー》をキャスト。こいつはライフ5以下なら、自分のゲージの枚数分、ドローする魔法だ」

 

「14枚引くのかよ!?壊れカードだろ、それ!」

 

 そういう効果なのだから仕方ない。お構いなしにカードを引く。

 

「ゲージ2を払って《ブレイク・ルール》をキャスト。5枚チャージして、5枚ドロー」(G:14→12→17)

 

「デッキが無くなるぞ、お前。大丈夫かよ?」

 

「ああ。とりあえずターン終了」

 

「……はあ!?」

 

 

 ソウタ

 ライフ10/ゲージ3/手札9

 

 零人

 ライフ3/ゲージ17/手札23

 

 

「あいつら皆、攻撃力0……。そのくせアドを取りまくりやがる」

 

「それがゼロワールドの戦い方だ」

 

「なるほどな……おもしれぇ!だったらこっちも超、本気だ!!」

 

 気迫が伝わってくる。その時、不意に感じた。ソウタの切り札が来る、そんな気配を。

 

「ドロー!チャージ、アンド、……ドロオオォォォッッ!!」(G:3→4)

 

「来い!ソウタ!」

 

「センターのドラムロイドをソウルに入れて、ゲージ3を払う!バディコール、《指揮者 メンデルース》!バディギフトだ!」(G:4→1、L:10→11)

 

 指揮者 メンデルース

 サイズ3 攻撃力9000/打撃力2/防御力6000

 

『任せなさい、ソウタ』

 

 現れたモンスターは緑色のハットを被り、緑色のタキシードを身にまとった、人間と変わりない姿をしていた。

 

「サイズ3がいるのに、サイズ1のベースロイドが残ってる?」

 

「メンデルースがいる間、属性に[音楽隊]を含むモンスターはサイズ0として扱うんだ」

 

「なるほどな」

 

「メンデルースの【合奏】!ソウルのカードが持つ能力を使える!ゲージ確認、1枚を手札に、1枚チャージ。更にベースロイドの【合奏】!ゲージを払って2ドローだ!」(G:1→0→1→0)

 

 これで手札11枚。ここからがマジックワールドの本領発揮、って所か。

 

「よっし、アタック入るぜ!まずはベースロイド、センターにいったれぃ!」

 

 アタックかよ!?さっきから思ってたけど、ソウタは脳筋らしい。

 

『ぐうっ』

 

 ゼロ・サプライヤーが破壊される。すまん、犠牲は無駄にしない。

 

「っしゃぁ!今度はお前の番だ!ファイターにアタックしろ、メンデルース!」

 

『覚悟なさい、僕らの勝利のために。グランデ・マエストロ!』

 

「ぐ……っ」(L:3→1)

 

「まだだ、キャスト!《ムジカ・コール》!手札から[音楽隊]のモンスター1体、コールコストを払ってコールする!たのむぜ、《音楽機 キーボードロイド》をライトにコールだ!」

 

 音楽機 キーボードロイド

 サイズ2 攻撃力6000/打撃力1/防御力4000

 

「……[音楽隊]のモンスターが2体以上あれば、ゲージ2を払わずコール可能、か。」

 

「更に【合奏】!場の[音楽隊]の数だけ、デッキの上からチャージだ!」(G:0→3)

 

 一気にゲージ3となる。ちゃっかり得をしてきやがるな、こいつ……。

 

「いっけーー!キーボードロイドは打撃力1、これでトドメだーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 




次回へ続く!


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笑顔と決着

前回の、メンデルースのアタックから始まります。

いよいよ決着です……が、その前に[音楽隊]のカード情報を載せます。




《指揮者 メンデルース》
属性:音楽隊
マジックワールド/レジェンドワールド
サイズ3 攻撃力9000/打撃力2/防御力6000
■【コールコスト】君の場のモンスター1枚をこのカードのソウルに入れて、ゲージ3を払う。
■このカードが場にあるなら、君の場の元々のサイズが2以下の《音楽隊》のモンスター全てはサイズ0になる。
■『合奏』〔君の場に『合奏』が2枚以上あれば有効〕このカードのソウルにある[音楽隊]のカードを1枚選ぶ。そのターン中、そのカードに書かれている『合奏』ではない効果を、1つ使うことができる。この時、〔このカードが登場した時〕と書かれている効果を使ってもよい。『合奏』は1ターンに1回だけ使える。
『ソウルガード』

《音楽機 ベースロイド》
属性:音楽隊
マジックワールド
サイズ1 攻撃力3000/打撃力1/防御力3000
■このカードが登場した時、君の手札1枚を捨ててよい。捨てたら、カード1枚を引く。
■『合奏』〔君の場に『合奏』が2枚以上あれば有効〕ゲージ1を払う。君はカードを2枚引く。『合奏』は1ターンに1回だけ使える。

《音楽機 ドラムロイド》
属性:音楽隊
マジックワールド
サイズ1 攻撃力1000/打撃力2/防御力4000
■このカードが登場した時、君のゲージ全てを見る。その中のカード1枚を手札に加え、その後、君のデッキの上から1枚をゲージに置く。この能力は1ターンに1回だけ発動する。
■『合奏』〔君の場に『合奏』が2枚以上あれば有効〕君のドロップゾーンの魔法1枚を君のデッキの下に置いてもよい。そうしたら、その魔法の効果を使う。『合奏』は1ターンに1回だけ使える。

《音楽機 キーボードロイド》
属性:音楽隊
マジックワールド
サイズ2 攻撃力6000/打撃力1/防御力4000
■【コールコスト】ゲージ2を払う。君の場に[音楽隊]のモンスターが2枚以上あるなら、【コールコスト】を払わず、コールできる。
■『合奏』〔君の場に『合奏』が2枚以上あれば有効〕君の場の[音楽隊]のカードと同じ枚数、君のデッキの上からゲージに置く。『合奏』は1ターンに1回だけ使える。

《ムジカ・コール》
属性:音楽隊/召喚
マジックワールド
魔法
■君のターンの攻撃中に使える。
■【対抗】君の手札から[音楽隊]のモンスター1枚を【コールコスト】を払ってコールする。



「っしゃぁ!今度はお前の番だ!ファイターにアタックしろ、メンデルース!」

 

『覚悟なさい、僕らの勝利のために。グランデ・マエストロ!』

 

「ぐ……っ」(L:3→1)

 

「まだだ、キャスト!《ムジカ・コール》!手札から[音楽隊]のモンスター1体、コールコストを払ってコールする!たのむぜ、《音楽機 キーボードロイド》をライトにコールだ!」

 

 音楽機 キーボードロイド

 サイズ2 攻撃力6000/打撃力1/防御力4000

 

「……[音楽隊]のモンスターが2体以上あれば、ゲージ2を払わずコール可能、か。」

 

「更に【合奏】!場の[音楽隊]の数だけ、デッキの上からチャージだ!」(G:0→3)

 

 一気にゲージ3となる。ちゃっかり得をしてきやがるな、こいつ……。

 

「いっけーー!キーボードロイドは打撃力1、これでトドメだーー!!」

 

「そうは、いくかよ!ゲージ1を払い、手札3枚を捨てキャスト、《ゼロシールド 無力の盾》!攻撃を無効化!そしてこのカードは無効化されない!」(G:17→16)

 

「こ……のっ!ターンエンドだ!」

 

 

 ソウタ

 ライフ11/ゲージ3/手札9

 

 零人

 ライフ1/ゲージ16/手札19

 

 

 何とか耐えたが、ライフ1……もう後がないな。

 

『何を笑っているのだ、零人よ』

 

「へ?今、笑ってたか、俺?」

 

 自分でも気付いていなかった。俺は今、この状況にワクワクしている、のか。

 

「そっか、そうだったんだ……」

 

 俺は今でも、バディファイトが大好きだったんだ。だからワクワクしている。素直に笑える。

 

「行くぞ、エンペラー。……このターンで、決めきるぞ!」

 

『うむ!ならば力を貸そう。いざ行かん、我らが勝利のために!』

 

「ドロー!」

 

「残り1枚!チャージアンドドローすれば負けちまうぞ!」

 

「チャージアンド、ドロー!」(G:16→17)

 

 ついにデッキが無くなった。本来ならここでゲームエンドとなり、ソウタの勝ちとなる。だが、まだ終わりじゃない。

 

「な、何でお前、負けないんだよ!?デッキが無くなったのに……」

 

「……こいつは、『デッキが0枚になった時、ゲージ3を払う』……。そして、こいつが場にあれば、俺はデッキが無くても、ファイトに負けない!ライトにバディコール!《ゼロ・エンペラー》!」(G:17→14、L:1→2)

 

『我が魂は故郷のために、我が理想は民のために。そして我が力は相棒のために!』

 

 ゼロ・エンペラー

 サイズ3 攻撃力6000/打撃力0/防御力0

 

 エンペラーはサイズ3なので、ゼロ・ブラスターとゼロ・ベアーがドロップゾーンに送られる。その時、ブラスターが光り輝く。もう1つの能力が発動しようとしているのだ。

 

「ブラスターは場を離れる時、デッキの上から1枚チャージする能力がある。だが、エンペラーの能力で、『デッキからカードを引けず、手札に加えられず、ゲージに置けず、ドロップゾーンに置けない』。よってブラスターの能力は不発となる」

 

『お役に立てず、申し訳ありません……』

 

『力を使えないとは、不覚……』

 

 すまない、2人とも。俺が不甲斐ないせいで活躍させられなかった。今度は、必ず……!

 

「次はもっと一緒に、戦おうな!」

 

 2人が、ほんの少しだけ笑った。そんな気がした。

 

「……さあここからだ!ゲージ2を払い、装備!《無我の拳 ゼロナックル》。更にセンターに《ゼロ・ソルジャー》、ゲージ2を払ってレフトに《ゼロ・エクスキューショナー》をコール!」(G:14→12→10)

 

 無我の拳 ゼロナックル

 攻撃力5000/打撃力1

 

 ゼロ・ソルジャー

 サイズ0 攻撃力0/打撃力0/防御力0

 

 ゼロ・エクスキューショナー

 サイズ3 攻撃力5000/打撃力0/防御力0

 

「おい、エクスキューショナーはサイズ3。サイズオーバーだろ?」

 

「エクスキューショナーはデッキが0枚なら、サイズ0になる」

 

「ウソダロ、アリエネェ」

 

 なぜ片言になる。

 

「更に手札1枚を捨て、《無常の城》を設置!これで[ゼロ]のカード全ての攻撃力を+4000、打撃力+2!」

 

「ウソダロ、アリエネェ」

 

 2回も言うな、流行ってんのか。

 

「アタックだ。エクスキューショナーでメンデルースに攻撃!」

 

「攻撃力は9000、メンデルースの防御力は6000。なら、キャスト!《ザッツ・ハウ・アイ・ロール》で無効化ぁ!」

 

「だったらエンペラー!攻撃力10000で、メンデルースに攻撃だ!」

 

「オラァ!《ソロモンの盾》!」

 

「ゲージ3とライフ1を払いキャスト、《無我の境地》!場のカードのソウルを全てドロップゾーンに置き、俺のモンスター1体は置いたソウルの枚数分、再攻撃可能となる!メンデルースのソウル1枚を破棄!そして、エンペラーをスタンド!」(G:10→7、L:2→1)

 

『再び、我は立ち上がる!』

 

 エンペラーからオーラが発生する。両目が輝き、威圧感が増している。

 

『緑の指揮者よ、我の攻撃、ロイヤルスマッシュを食らうがいい!』

 

『くっ……。勝利を祈ります、ソウタ……』

 

「おう!」

 

 エンペラーの拳が入り、メンデルースを倒した。ここまで来たら止まる訳にもいかない。

 

「ソルジャーと俺で、ソウタに連携攻撃!」

 

 ゼロナックルは俺のセンターが埋まっていても、攻撃できる。ソルジャーの拳と俺のゼロナックルが、ソウタに決まった。(L:11→6)

 

「ソロモンの盾が、使えねぇ……!」

 

 ソロモンの盾は連携攻撃は防げない。俺の手札は残り13枚。警戒しておいて良かった……。これでファイナルフェイズが宣言できる!

 

「ファイナルフェイズ!!」

 

「ここまでか……。すまねぇ、相棒」

 

「相手のセンターが空いていて、自分のデッキが0枚なら、ゲージと手札を合計20枚捨てて、キャスト!《無零奥義(むれいおうぎ) ゼロ・オーバー・ストライク!》!!俺の場のカードを全てスタンドし、打撃力+2して、全員で連携攻撃する!」(G:7→0)

 

「設置魔法と合わせて、打撃力が4も上がってんのかよ!」

 

「皆で連携攻撃!打撃力4のモンスターが3体、アイテムが打撃力5!よって合計ダメージは17!」

 

『そしてこの攻撃によるダメージは減らない!』

 

「オーバーキルじゃねーか!!」

 

『その身に受けよ、少年!』

 

「これが俺たちの、ゼロ・オーバー・ストライクだ!」

 

「うわああああ!!」(L:6→0)

 

 

 *

 

 

「ったく、無茶苦茶すぎんぞ、お前ら」

 

「許せよ、そういう能力なんだから」

 

 ファイトを終えた俺たちは、ステージを降りて話していた。

 

「でもすごかったよ、零人くん!あんな劣勢から大逆転しちゃうなんて、かっこいいよ!」

 

「え、そ、そうかな」

 

「そうだよ!」

 

 七瀬が満面の笑みを浮かべる。だめだ、可愛い、抱きしめたい。

 

「どうでしたか、無我くん。久しぶりのファイト、そして初めてのルミナイズは?」

 

「岡流斗先生……もしかして」

 

「君はいつもバディファイトから逃げるようにして、他人と積極的に関わろうとしないで……とても寂しそうに見えたのです。だから変わるきっかけにでもなればと思い、校長先生と話しあって、楽しいファイトが得意な音峰くんにお願いしました」

 

「あ、そういう理由だったのか?」

 

「分かってなかったのかよ……」

 

「無我くん、楽しかったですか?」

 

 校長先生が訊ねる。やっぱりこの人も仕掛け人だったのか。

 

「はい!」

 

 俺は今できる、最高の笑顔で返した。ありがとう、皆。

 

『よかったな、零人』

 

「うん。今回はサンキュー、エンペラー」

 

『うむ!』

 

 エンペラーも笑顔になった。きっと心の底から、楽しかったのだろう。

 

 こうして俺たちの初ファイトは、最高の形で幕を下ろした。沢山の拍手と、皆の笑顔とともに……!

 

 

 

 

 




ゼロワールドのカードは活動報告に載せようと思います。ちょっと種類が多すぎた……。
「こうした方がいい」などの意見があれば、是非お願いします!



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次なる目標

今回は日常回のような、次の展開への繋ぎのような?

少しテンションがおかしいです、主にソウタくんが。


 ソウタとのファイトから一週間。俺は少しずつクラスに馴染もうとしていた。

 

「エンペラーでトドメ……!」

 

「うわっ、マジか!結構、自信あったんだけどな」

 

「これで何勝目なんだよ?」

 

「え……7連勝、かな」

 

「よーし、次は俺とやろうぜ!」

 

 放課後の教室で、ルミナイズをしない通常のファイトをしている。ステージの使用には学校の許可がいる為、基本的にはこうして、実際のカードに触れていることの方が多い。

 

「零人のヤツ、すっかり人気者だな」

 

「だってあんなに格好いいファイトしたんだもん、当然だよ。ところで音峰くん」

 

「ソウタ、な?七瀬ちゃん」

 

「そうだったね。ソウタくん、いつの間に零人くんのこと、名前で呼ぶようになったの?」

 

「あっはっは、知らん!気付いたらそうなってた!」

 

「そ……、そうなんだ」

 

 近くで見ている2人がそんな会話をしている中、俺は8人目を倒した。

 

「やっぱソウタを倒した実力は本物だな~」

 

「それほどでも」

 

「なあ、俺らのチーム入らねぇ?1枠空いててさ」

 

「あ、ズリィ!無我、俺らの方に来てよ!」

 

「いやいや、私らと組もうよ!」

 

 何だこれ?夢、なのか?モテ期でも来たのか、俺?と思った矢先、2人が止めに入った。

 

「はいはーーい!ちゃんと並んで!言うこと聞けなきゃ次から俺らが相手するよ!」

 

「できれば勧誘は無しでお願いします!」

 

 

 *

 

 

「……はぁぁぁぁ……」

 

「お疲れ様、零人くん」

 

「ホントに疲れた……」

 

 一通りファイトが終わった俺たちは、先程まで使っていた机を使い、会議をすることになった。

 

「ほいほーーい、ジュース買ってきたよーー!」

 

「……サンキュー、ソウタ」

 

「ごめんね、ソウタくん」

 

「いいのいいの。俺が言いだしっぺだもん、これくらいやらねーと」

 

 ゼロワールドの力を試そう!と言いだしたのはソウタだった。あのファイトの後、俺たちを取り囲む集団に対し、そんな不用意なことを口走ったのだ。それから毎日、放課後にこんな状態が続いている。ちなみにソウタがジュースを買ってきたのは、単にジャンケンで負けたからだ。

 

「んで、今日は何勝したんだ?ほい、お前オレンジジュース。七瀬ちゃんはカフェオレね」

 

「いや見てろよお前」

 

「確か12戦中、9勝3敗、だったかな?ありがとう」

 

「すごいな、七瀬。よく見てるよ」

 

「ぅえっ!?い、いやいや、零人くんをしっかり見てたとかじゃなくてね、その、あれ、ミスが減ったなーとか思ってただけでその」

 

「はいはい、そうだねーー!確かにミス減ったねーー!ちくしょーー!!」

 

「……お前、何を叫んでんの?」

 

 よく分からんが脱線の予感がある。ソウタにはさっさと話しに戻ってもらおう。

 

「……なあ、何でまたこんなこと始めたんだ。目的でもあるのか?」

 

 急にソウタの目が輝く。すごい勢いでこちらに顔を寄せてくる。

 

「当たり前だ!まさか何も考えてないとか、思ってたのか!?」

 

「おう」

 

「違った?」

 

「ひでぇ!七瀬ちゃんまで!」

 

「そんなことはさて置き、お前の考えって何だよ?」

 

「よくぞ聞いてくれました!」

 

 もう立ち直りやがった。ポジティブなのかアホなのか、よく分からんヤツだ。

 

「じ・つ・は!来月、校内ファイト大会がありまーーす!!はいチラシどーーん!!」

 

「校内ファイト大会……どういうことなんだ?」

 

「いやね、この間のファイト以降、大会開こうって動きが活発化したんだと。んで校長が、じゃあやろう、と許可したそうな」

 

「なるほど……3人以上で、チームの代表1人が戦う。つまり試合は1対1で、各試合ごとに1人を代表として選んでファイトを行なう、ってことだね」

 

「詳しい説明ありがとう!だけど俺の解説用に残しておいてよ?」

 

「まさか……お前」

 

 あ、いやな予感。この場にはちょうど3人。募集要項には3人以上……。

 

「そう!この3人で出場したいと思っております!」

 

「楽しそう!出よう、みんなで!」

 

「いや、七瀬はバディポリスの仕事があるだろ?」

 

「大丈夫!ちゃんと指令が出てるから!」

 

「指令?差し支えなければ……」

 

「零人くんとゼロワールドの護衛、だよ」

 

 なるほど、と思った。七瀬をしっかり学校に通わせつつ、こちらの動向を探るには、その指令は中々正しい判断だろう。まして彼女は見習い。余程の人手不足か大きな事態でない限り、現場に呼ばれない。

 

「零人くんは、出ないの……?」

 

 七瀬が上目遣いでこちらを見る。くっそ可愛い、だが面倒なことこの上ない事態……。

 

「私とじゃいや?」

 

 目がウルウルしてやがる。分かっている。これが、俗に言うおねだりだ。分かって、いる、のに……。

 

「一緒に、出よ?」

 

「はい、喜んで!」

 

 折れる以外に答えなど無い。可愛いのが罪なんだ、可愛いのが……!

 

「そんじゃあチーム名決めようぜ!」

 

「チーム名?」

 

「出場したいならチーム名決めろ、だとさ」

 

 それから暫く、俺たちはチーム名に悩むこととなる。いかんせん、これというものが出ないのだ。

 

「ソウタWithゆかいな仲間たち」

 

「全力投球組」

 

「ザ・フラワーブルーム」

 

 うん、微妙。七瀬の「ザ・フラワーブルーム」がすごくよく見える。ただ問題をあげるとするならば、七瀬はともかく俺たちは全く華々しくない、という所か。後の2つは言わずもがな。

 

「あぁもうしゃーない!一回『キャッスル』に行こう!」

 

「一夜城にでも行くのか」

 

「うん、そうそう。さっさと出来てさっさと潰して……な訳ねぇだろ!」

 

「超商店街の中にあるショップだよ。沢山のファイターがいるんだ」

 

「へぇ……。面白そうだな」

 

「七瀬ちゃん、俺の超絶ツッコミを途中で切らないで~~!!」

 

「もう腹一杯だわ。七瀬、案内してくれないか」

 

「ふぇっ!?ももも、もちろん!えっとまず学校を出て」

 

「いや、それはさすがに分かるぞ?」

 

「零人どきやがれ、なんか腹立つ!」

 

 こうして俺たちは喚きながら『キャッスル』へ向かった。いつの間にかファイトの疲れは無くなっていた。

 

 

 





日常回って書くの、難しいですね……。



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チーム結成

ついに零人たちのチーム名が決定します!

何かやっと、バディファイトの小説らしくなって来た気がします。



※今回は、後半から文体が変わります。


「すげ……」

 

 俺たちはホビーショップ『キャッスル』に来ていた。小さな子どもから大きなお友達まで、幅広い年齢層の客がいる。何て明るい雰囲気だろう。

 

「いろいろ、あるんだな」

 

 ソウタの発言からてっきりカード専門店かと思ったが、ドーム型の遊具などがあったり、ぬいぐるみや置き物など様々なオモチャもある。

 

「お、ソウタくんに七瀬ちゃん。いらっしゃい」

 

「よ、店長。いつ来ても賑わってんな」

 

「お久しぶりです、店長!」

 

 ソウタと七瀬は誰かと話している。ボサボサの頭にキャップを被り、店のエプロンを着用した、半そで短パンのがっしりした体格の男性だ。どうやら大量の段ボールを片づけている最中だったらしい。少し汗をかいている。

 

「あれ、君は?」

 

「ああ、こいつは無我零人。この前、ウチの学校に転入してきたんだ。結構、面白いヤツだぜ?無愛想なトコあるけど」

 

「初めまして、無我零人といいます。……つかお前、余計なこと言うなよ」

 

「これはまたご丁寧に。僕は『キャッスル』の店長。皆からはそのまま役職で呼ばれてるから、店長で構わないよ」

 

「……分かりました。よろしくお願いします、店長」

 

「ちょっと固いけど、まあいいか。よろしく、零人くん!」

 

 少年のような笑顔を見て、優しそうな人だなと思った。そういえばソウタの周りはこういった雰囲気の人が多い。彼の友人も皆、明るく優しいタイプだ。

 

「なあ店長、俺らの名前決めてよ!」

 

「うん?どういうことかな?」

 

「あ、実は私たち」

 

 それから七瀬は俺たちが校内大会に出ること、チーム名で困っていることを話した。……もちろん、微妙な三択のことも。

 

「うーん、確かに微妙なセンスだねぇ」

 

「そうか?結構いいと思うんだよなー、『ソウタWithゆかいな仲間たち』」

 

「それは無い」

 

「僕もあまり……。七瀬ちゃんは?」

 

「無しの方向で」

 

「ヒドイ!寄ってたかって!」

 

 やはり平行線。中々、進展しないな。しっくりくる名前って難しいものだな……。

 

「……あ、あの……店長……」

 

「ん?」

 

 4人が一斉に声のした方を見る。

 

「……えっと……そろそろ……レ、レジの方が……」

 

「あっ!《銀河魔神》にやらせたままだった!ごめん、トウカちゃん、僕と交代ね!」

 

 そういうと店長はさっさと、レジの方に行ってしまった。確かによく見ると、ブリキのロボットのようなモンスターが、レジ打ちをしていた。

 

「……ちょ、えええっ!?て、店長……?」

 

 あからさまに「トウカ」と呼ばれた少女は戸惑っていた。無理もない。彼女はただ、店長を呼びに来ただけなんだから。

 

「あー、トウカ、さん?その制服、ウチの学校のだよね。何年生?」

 

 ソウタが果敢に攻める。手を出すのが速いだろうと思った。案の定、彼女は瞬きばかりして、全く話しに付いていけていないようだ。

 

「もしかして……倉田(くらた)トウカ先輩ですか?生徒会の書記係の」

 

「う……、は、はい……」

 

 さすが七瀬。バディポリスだけあって、記憶力が並みじゃない。

 

「嘘、先輩!?3年生っすか?」

 

「いや、2年ですよね。先輩」

 

「あ、その、……は、い……」

 

 さっきからオドオドしているせいか、先輩という感じではない。赤いフレームの眼鏡の奥は、今にも泣き出しそうになっている。

 

「あの……トウカ先輩」

 

「……ぇあっ!?ご、ごめんなさい!?」

 

 トウカ先輩が90度に腰を曲げる。なぜ謝る……?

 

「先輩。えーと、あんまりビビんないでください……食ったりしないので」

 

「そっすよ、先輩!俺らちょーーっと、ご相談がありましてですね」

 

「急な話しで申し訳ありません。私たち、困っている事があるんです。少し、相談に乗ってくれませんか?」

 

「え……あ、ぅ、……私で、……良ければ」

 

 それから俺たちは店長に話したことを、トウカ先輩にも話した。

 

「何か、他に良い案はないですかね」

 

「私たちにぴったりな名前、か」

 

「何つーか、こうさ、カッケーのがいいよな!」

 

 無茶ぶりにも程があるだろうよ、ソウタ。

 

「……あの」

 

 トウカ先輩が口を開く。この会話の中で初めて、彼女から話し始めた気がする。

 

「そ、その……皆さんは、えっと、……目標は、何か、ありますか……?」

 

「んなもん決まってるっしょ!」

 

「私たちは優勝したいです!」

 

「随分、先の話しだな」

 

「でも目標は高くないと、だよ」

 

「そーだぜ、零人!未来を見据えて、いざファイトってな!」

 

「み、未来を……見る……」

 

 そう呟くとトウカ先輩は、眼鏡の位置を直した。一瞬、レンズが光った気がした。

 

「あの、その、……『フューチャーゲイザー』……なんて、ど、どうでしょう……?」

 

「『フューチャーゲイザー』?どういう意味なんだ、零人?」

 

「未来を見つめる人、ってとこか」

 

「……は、はい……」

 

「優勝という未来を見つめる、か……良い名前です!ありがとうございます、トウカ先輩!」

 

 七瀬が嬉しそうな顔をする。ふとソウタを見ると、なぜか震えていた。

 

「おい、どうした」

 

「だってよ、すっげーカッコいいチーム名じゃねーか!ワクワクしてきたぜ!」

 

 個人的には「長い名前だな」と思ったが、2人の喜び様を見て、「まあ悪くない」とも感じていた。

 

「零人くんは?これでいい?」

 

「……ああ。良い名前だと思うよ。サンキューです、トウカ先輩」

 

「にゅっ!?……あ、あ、あの……か、解決して、良かった……です!」

 

 トウカ先輩が少しだけ笑った。七瀬よりも控えめで、だけど笑ってくれてよかった、と思わせてくれる顔をしていた。

 

「そうだ先輩、俺らのチームに入りませんか?」

 

「にゃっ!?」

 

 いや、いきなり過ぎるだろう。だが帰って来たのは、予想外の言葉だった。

 

「う……そ、その……。わ、私で……よければ……」

 

 未だに泣きそうではあるが、了承はしてもらえた。ノリは悪くないらしい。

 

「じゃあトウカ先輩、よろしくお願いします!私は1年の戸村七瀬です!」

 

「同じく1年、音峰ソウタ!よろしくっす、先輩!」

 

「……無我零人です」

 

「……え、えっと、戸村さんに、音峰さん。……無我くん、ですね……」

 

「よっしゃーー!俺ら4人で『フューチャーゲイザー』!結成だーー!!」

 

「うるせぇわ、お前……」

 

 こうしてトウカ先輩を仲間に加え、俺たち4人は『フューチャーゲイザー』として出場することになった。まずは明日、生徒会室に行って申請しないと……。

 

 

 

 *

 

 

 

「さて、そろそろ連絡入れとくか。な、イデア」

 

 バディポリスの制服を着た男性が、SD化した竜型のモンスターと話しをしていた。

 

『おい、シオウ!何だそれは!』

 

「何って通信機だよ。秘匿通信用の」

 

『何だそのヒトクツーシンヨーとは!美味なのか?我の舌にあうのか!?』

 

「だあああっっっ!うるせぇバカ竜、ちと黙れ!」

 

『バカではない、アホだ!』

 

「知るか低能!《創造神竜》って名前ならもうちょい、利口そうにしてろ!」

 

『我は常に利口!上位種!最強無敵、完全無欠!』

 

「アーハイハイ、ソウデスネー。さて、さっさとタスクに連絡入れてっと」

 

 これ以上は埒があかない。そう考えたシオウは、イデアを無視してバディポリスと通信を始めた。秘匿通信とは、バディポリス同士で行うものの中で最も機密性が高く、他者の妨害を受けづらい特別な通信方法だ。

 

「あーもしもし、聞こえますかー?こちら、竜神(たつがみ)シオウと相棒の《創造神竜 イデアライズ・ドラゴン》です」

 

 〔こちら龍炎寺タスク。お久しぶりです、シオウさん〕

 

 通信機から聞こえる声は、4年前より力強くなっている。後輩の成長は喜ばしい。だが事は急を要する。

 

「『ワールディアス・インシデント』に関するモノ……『カグラレポート』を見つけた。もう少ししたら帰るけど、その前に連絡だけ入れようと思い、秘匿通信を行なった」

 

 〔……なるほど。確かにそれは重大な発見ですね〕

 

「一応、コマンダーIと滝原にも伝えてくれ。それより上の奴には話すな」

 

 〔分かりました。シオウさんがそこまで言うとなると……〕

 

「黒いぞ、上の方は」

 

 通信を終える。シオウとしては本来、後輩のタスクがこのような事件に関わるのは気分がよろしくない。しかし彼もまたバディポリス。いずれは首を突っ込まざるを得なくなる。ならば先に引き入れて、戦力にした方が良い。そう考えてシオウは、旅立つ前にタスクに分かる範囲の全てを伝えた。

 

「おい、イデア。ゲートを開いてくれ」

 

『天上天下唯我独尊!オンリーワン!エンシェント最強!』

 

「……まだ言ってんのか、エセ創造神竜」

 

 悪態をつくシオウだったが、イデアは一向に自画自賛を止めない。頭を抱える彼の後ろには、広大な空と大地が広がり、古の時代よりこの世界を守る竜たちが飛び回っていた。

 




新キャラ続出で、訳が分からなくなりそうですね。

そろそろキャラのまとめでも作ろうかな……。



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不穏

今回は少し、本編について進む……予定です!

何を言っているのか分からない部分もあるかも知れませんが、ご了承ください。




 零人たちがチーム『フューチャーゲイザー』を結成した日の深夜。バディカード管理庁の会議室に、数人の隊員が集まっていた。

 

「ではこれより、緊急会議を開きます」

 

 コマンダーI、龍炎寺タスク、《逆天星竜 ジャックナイフ》、滝原剣、ステラ・ワトソン、《七角地王 ドーン伯爵》、竜神シオウ、《創造神竜 イデアライズ・ドラゴン》の5人と3体が出席した。

 

「ですがその前に、シオウさん。4年間の任務、お疲れさまでした」

 

「お、タスクちゃん、労いの言葉サンキュー!」

 

 シオウはタスクとステラの先輩で、滝原の同期である。昔から同期から下の人物に対して「ちゃん」付けで呼んでおり、その癖は抜けていない。

 

「でもよぉ、帰還を喜んでる場合じゃねぇぞ。な、ツルギちゃん?」

 

「その言い方は止めろ」

 

『シオウよ。吾輩たちに見せるべきものはしっかり見せてくれないか』

 

「伯爵も変わんねぇな。そんじゃ、チャッチャと進めねぇとな」

 

「では諸君、手元の資料を見てほしい」

 

 コマンダーIの言葉で全員が資料に目を通す。そこには【『カグラレポート』について】と書かれていた。

 

『カグラレポート』とは、4年前に見つかった「ある事件についての捜査記録」である。書いたのはカグラオサムという人物らしいが、この名前以外のことが一切分からない。そもそも「カグラオサム」という名前も怪しい。だがこのレポートには、重要な事実が幾つもあった。

 

「なあシオウ、これは信頼できるのか?」

 

「ぶっちゃけ、怪しいと思う。だがコイツは、トップシークレットまで知っているようなんだよ。と、なると」

 

「信じざるを得ない、という訳か」

 

 滝原は苦虫を潰したような顔をする。信頼に値するとは言えない情報を、鵜呑みにするしかないのだ。やはり納得いかないだろう。

『カグラレポート』に書かれていたもの。それは『ワールディアス・インシデント』に関することだった

 。

 

「ではまず、『ワールディアス・インシデント』についておさらいしよう。ステラくん」

 

 はい、と返事をしてステラが小型のパソコンをいじり出す。過去の事件をデータベースから探しているのだ。僅か数秒で作業を終えた彼女が語り出す。

 

「『ワールディアス・インシデント』とは10年前に発生した、モンスターによる初の、人間捕食事件です」

 

「つまり、食害のことですね」

 

 タスクの発言にステラが頷く。過去に起きたモンスター絡みの事件で、人間が命を落とした事例は幾つかある。しかしその中でも、この事件は特に異質だった。

 

 ある親子3人が何者かに誘拐され、1か月間、監禁されていた。その中で両親は激しい拷問を受け、モンスターに捕食された。彼らの子どもである少年は栄養失調で、暴力を受けた痕が見つかったが、それでも辛うじて生きていた。

 

 モンスターの名は《ワールディアス》。所属するワールドは不明。バディが誰かも分からない。ただ一人生存した少年の供述によって、何とか名前だけは判明したのだ。

 

「改めて凄惨な事件だな」

 

 シオウが呟く。その場の誰もがそう思っているであろうことは明白だった。

 

「確かこの少年が、《ワールディアス》について話してくれたんだったな」

 

「そうだな」

 

「なぜ彼は、名前を知ることが出来た?」

 

「あれ、ツルギちゃん、知らない?こいつは生きてたんじゃない、生かされたんだよ。《ワールディアス》の名を伝えて、事件の生き証人にさせるために」

 

 それはあくまでシオウの推理だった。分かる範囲の情報を集めた結果、そこに着地する。

 

「シオウさん、余り想像で語るのはまずいかと」

 

「いやいやタスクちゃん。そんな的外れでも無いっしょ?第一、タスクちゃんもたどり着いてたんじゃないの?」

 

「それは……」

 

 タスクが言葉を濁す。薄々、感じてはいたのだろう。

 

「ま、タスクちゃんの言うとおり、想像だからね。確定じゃない。でも頭の片隅には入れておいたほうがいいと思うぜ?」

 

「……はい」

 

『タスク、シオウ。そろそろ話しを変えよう』

 

「おっ、ジャックは分かってるね~」

 

 話題は『カグラレポート』に移ることになった。全員が置かれていた、もう一つの資料を手に取る。

 

「こいつは先月、俺たちがダークネスドラゴンワールドを捜査する中で見つけたんだ」

 

「あれ、確かシオウさん、先月はヒーローワールドにいたんじゃ」

 

「ああ、定期報告の後に移動したんだ。有力な情報が入ってな」

 

『そこで我がグレートな能力を使い、確かめに行ったのだよ!すごいだろう?すごいだろう、我は!?褒めても構わんぞ?何ならクッキーやら塩結びを備えてもよい!』

 

「あー、はいはい。後でキャットフードやるから黙ってろ」

 

『カリカリしたのを所望する!』

 

 そう言うとイデアは、固まったまま動かなくなった。シオウが資料を一枚めくる。

 

「そんじゃ進めるぞ。資料を見てちょーだい」

 

『カグラレポート』についてシオウが語り始める。

 

「じゃあまず『カグラレポート』の作者様、カグラオサム氏についてだが、素性は不明。多分、ペンネームなんだろうけど、情報がまるで無い」

 

「確かに怪しいが、まだ何とも言えないな」

 

「うん、よくある話しだと思う。ただ問題は、『カグラレポート』が『ワールディアス・インシデント』について書かれたモノっつーことだ」

 

『一体どういうことだ、シオウ?』

 

「つまりさ、『ワールディアス・インシデント』に関わった人間が消えちゃうってことっすよ、伯爵」

 

「だがまだ、その結論を出すには早いんじゃ」

 

 滝原が横から入る。シオウの話しに、不確定な想像が多いことに多少、不安がある様だ。しかしシオウはその懸念をあっさり否定した。

 

「そうでもねーよ?事実、被害者の2人はこの事件を追っていたみたいだし」

 

「危険と分かっているのに?子どももいるのに、何故?」

 

「さあ、そこまでは知らん。だがレポートの中で、カグラオサムに協力者がいたことが分かっている」

 

「それが被害者の2人だったと?」

 

「しかも興味深いのは、被害者の苗字が、『無我』なんだ」

 

「無我……!?まさか」

 

 滝原とタスクが目を見開く。彼らは最近、同じ苗字を持つ少年と出会っているからだ。

 

「まさか、無我零人くんが言っていた『昔、いろいろあって、この世にもういない』って」

 

「そのことだろうな。ま、本人はどこまで覚えてるかな……」

 

『つまり、かつて事件に携わった人間が、何らかの形で失踪あるいは死亡している。そういうことだな』

 

「ジャックは頭いいな~。そしてもう一つ、このレポートには少ーし気になることがあるんだ」

 

 そう言うとシオウは、資料の最後のページを開く。そこにはこう書かれていた。

 

『私は知りすぎた。近く、私も同じ運命を辿るだろう。皆の犠牲の先にあったのは、悲劇だった。それでもまだあの子がいる。私たちの全てをここに記す。全部は分からなかったが、それでも足しになればいい。ワールディアスは化け物だ』

 

「この『皆の犠牲』って部分。何か含みを持たせてるように思わない?」

 

「そうか?俺はおかしくないように思うが」

 

「ツルギちゃんも鈍感だな~。普通なら『2人』とかでいいじゃん、被害者が本当に2人なら」

 

「お前の見立てでは3人じゃないのか」

 

「このレポートが書かれた時点では、カグラ氏は生きてるはずだ。なのに『皆の犠牲』ってさ、まるでまだ被害者がいるみたいだろ?」

 

「まさか、私たちも把握していない被害者が?」

 

「そういうことだよ、ステラちゃん」

 

 その後も議論は続いたが、それ以上の進展は得られなかった。そして一度、情報の整理という名目で、この場は解散となった。そして、コマンダーIは終始、口を開けたままだった。

 




増える登場人物!増える用語!作者は何がしたいのか!

……小難しい話しは後にして、とりあえず大会編に移ればいい気がする!

いや、その前にオリキャラだけでもどこかで紹介せねば……。




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大会に向けて


前回とは打って変わって、零人たちのお話しです!

難しい話しや、暗い話しは無い、はず?




 チーム結成から僅か1日。1時間目が始まる前に、俺たちは生徒会室に来ていた。校内ファイト大会は生徒会の主催になっていて、岡流斗先生が休み時間に受け付けを担当している。

 

「はい、4人チームで『フューチャーゲイザー』。これで登録完了です。大会まで2週間、頑張ってください!」

 

 パソコンを操作した先生が笑顔を向けてくる。こちらも笑顔で返そうとするが、上手く笑えているかは分からない。

 

「ったりめーだ!絶対、優勝してやるぜ!」

 

「……お、音峰くん……あの、あ、朝なので、声を、落として……」

 

「お前はニワトリか?」

 

「すみません、岡流斗先生。騒がしくしてしまって」

 

「いえ大丈夫。謝らなくてもいいですよ、戸村さん」

 

「ほら、行くぞ」

 

 俺たちが生徒会室を出ようとすると、先生が「あ、無我くん」と呼びとめた。皆を先に行かせて、先生の方に戻る。

 

「どうしましたか」

 

「いや。まさか無我くんが大会に、友達と一緒に出るなんて、と思いましてね」

 

「何かまずかったですか?」

 

「とんでもない!むしろ嬉しいんです。君が一歩、前へ踏み出してくれたことが」

 

「そうですか?……そんな感じは無いですけど」

 

「まあ、無我くんらしいですね」

 

 俺らしいってどういうことだろう。あえてそこには触れなかった。考えても分からない気がしたからだ。先生に挨拶をして部屋を出ると、3人が待っていた。

 

「よっし、零人も来たし、大会に向けて活動予定を立てるぞー!」

 

「お前は具体的にどうしたいんだ?」

 

「まずは皆の実力が見たいなー。七瀬ちゃんとトウカ先輩はどんなデッキかなー」

 

「棒読みは無視するが、確かに気になるな」

 

「そうだ、放課後に『キャッスル』に行こうぜ!そこで作戦会議だ!」

 

「ソウタくんにしては悪くない考えだね」

 

「……わ、私はバイト、お休みなので……その、だ、大丈夫、です……」

 

 まあ確かにその方が良い。俺も少し、デッキの調整がしたかったし。

 

「……お前の考えに乗った」

 

 

 *

 

 

 放課後。俺たちは店長に頼んで、『キャッスル』の一部のテーブルを使わせてもらえることになった。

 

「じゃあ最初は、七瀬ちゃんのバディについて!紹介してくれぃ!」

 

「テンションがおかしいな、このバカ」

 

「いつものことでしょ。じゃあ出てきて、《ケットシー》!」

 

 七瀬の合図に合わせて、彼女のカバンが輝きだした。

 

『ニャニャせ!やっとお披露目ニャのだ!』

 

「……猫だ」

 

「猫がバディかよ!?」

 

「……猫さん、かわいい……」

 

 帽子を被り、剣を携え、長靴を履いた、人語を話す猫が現れた。

 

『猫じゃニャいのだ!僕はケットシー。レジェンドワールドで鍛冶仕事を任されていた、立派なモンスターニャのだ!』

 

 突然、背後から異様な雰囲気を感じ、振り返る。そこにはトウカ先輩がいた。なぜか目を輝かせ、頬が緩んでいる。と思ったら、いきなり猫……もといケットシーに向かい、駆け出していた。

 

「……猫さん!その……もふもふして、いい、ですか……?」

 

「えーと、トウカ先輩?落ち着いてください、ね?」

 

『もふもふしていいのはニャニャせだけニャ!後、僕はケットシーだニャ!』

 

「ソウタ。先輩を止めるぞ」

 

「先輩、猫好きなのか?」

 

 2人がかりで何とか、トウカ先輩の進撃を抑え込んだ。まさかここまで積極的になるとは。

 

「じ、じゃあ次は先輩のバディをお披露目ってことで、よろしい?」

 

「猫さん……もふもふ……ハッ!す、すみません……私は、その、バ、バディが、いなくて……」

 

「……ファイトは出来ますか?」

 

「は、はい……」

 

「なら問題ないな」

 

「トウカ先輩!私たちのチューナーになって下さい!」

 

 ファイターがデッキ調整をする時には大抵、実戦形式で行う。その際の相手役がチューナーだ。

 

「……わ、私で……よければ」

 

「トウカ先輩がチューナーか!よろしくっす!」

 

「……は、はい……!」

 

「じゃ、早速なんだけど、七瀬ちゃんとファイトしてもらえないっすか?2人の力が見たいからさ!」

 

「いきなりすぎるだろ……」

 

「……わ、私は、大丈夫……です……。と、戸村さん、は……?」

 

「私も準備オッケーだよ!ファイトしましょう、トウカ先輩!」

 

 お互いにデッキを取り出すと、シャッフルを始める。

 

「さっきのを見ると、七瀬ちゃんはレジェンドワールドの[妖精]軸かな」

 

「……問題はトウカ先輩だな。どんなデッキなのか」

 

「楽しみだな!」

 

「先輩、お互いにシャッフルしましょう!」

 

「あ、……は、はい……」

 

 そうしてお互い、念入りにシャッフルを行なう。その様子を見ながらズボンのポケットからコアデッキケースを取り出す。エンペラーにもこのファイトを見てもらおうと思ったからだ。

 

「ん?何か落ちたぞ」

 

「え?……本当だ、サンキュー」

 

 ソウタが拾ってくれたそれは、お守り袋だった。俺にとってすごく大切な代物だ。

 

「何か、ボロっちいな」

 

「……ああ。昔、入院してた時に、ある人にもらってな」

 

「入院?何かあったのか?」

 

「まあ、いろいろと。正直あまり、覚えてないけどな。これをくれた人のことも、俺が入院してたってことも」

 

「ふーん……。んでさ、その中身、何が入ってんの?」

 

「カードだよ。エンシェントワールドの《竜撓不屈》って魔法だ」

 

 俺は中身を取り出す。俺自身、久しぶりにこのカードを見る。

 

「確か【対抗】で、ライフを+2するんだっけ」

 

「そうだ。そしてこのカードの名前の元は、“不撓不屈”という四字熟語だ」

 

「フトウフクツ……どういう意味?」

 

「強い意志をもって、困難にくじけない……だったかな」

 

 なぜこのカードをもらったか、よく分からない。誰がくれたのかも判然としない。ただ、少なくとも《ワールディアス》が関わっているのだろうとは思う。だからこそ、ソウタにそこまで伝える義務は無い、はずだ。

 

「おい、2人とも、準備できたみたいだぞ」

 

「マジか!よく分からん話し聞いてる間に終わってた!」

 

 ……こいつがバカで良かった。心からそう思った。

 

「トウカ先輩、特殊フラッグじゃなさそうですね」

 

「う……。と、戸村さんも、……普通の、フ、フラッグ、ですね……」

 

 互いに手札6枚、ゲージ2枚、ライフ10からスタートするみたいだ。どちらも通常のフラッグ。内、七瀬はレジェンドワールドだろう。

 

「じゃ、お互いに準備できたみたいだね。先攻と後攻は俺が決めてやんよ」

 

 そう言うとソウタは、ポケットからコインを取り出した。どうやらコイントスで決める気らしい。協議の結果、七瀬が表を、トウカ先輩が裏を選択した。

 

「んじゃ行くぞ、そーーれっ!」

 

 高く上がったコインが回転しながら落ちてくる。ソウタは素早い手捌きで、左手の甲を押さえた。ゆっくりと右手を退けると、コインは裏を向いていた。

 

「裏ってことは、トウカ先輩の先攻っすね」

 

「ひゃっ!……わ、私の、先攻……」

 

「負けませんよ、先輩!」

 

「……わ、私の、方こそ……!」

 

「じゃ、始めるぜぃ!バディ……ファイッ!!」

 

「「オープン・ザ・フラッグ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





次回、七瀬とトウカの卓上ファイト!



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2人の実力


今回から表記の一部に、手札とデッキの枚数を追加します。


戦術においてドロップゾーンが重要な場合は(墓:○枚)と表記します。


何度も確認はしましたが、もしかしたらファイト描写にミスがあるかも……。その時は教えていただけるとありがたいです。




「「オープン・ザ・フラッグ!」」

 

「ド、ドラゴンワールド!バディは、《ライジングフレア・ドラゴン》……」

 

「レジェンドワールド!バディは《長靴を履いたケットシー》!」

 

 

 トウカ

 ライフ10/ゲージ2/手札6/デッキ42枚

 

 七瀬

 ライフ10/ゲージ2/手札6/デッキ42枚

 

 

「わ、私の、先攻……。チャージアンド、ドロー……。ま、まずは《竜剣 ドラゴフィアレス》を装備……。そして、戸村さんに、攻撃!」

(G:2→3、手:6→5)

 

「打撃力2……受けます」

(L:10→8)

 

「……ターン、終了、です……」

 

「……先輩、まずは様子見か」

 

「ドラゴフィアレスか!なつかしー!」

 

『零人、どう思う』

 

「うわっ!?……突然出てくるなよ、お前」

 

 本当にあせった。いつの間にカードから出ていたんだ?

 

「私のターン、ドロー。チャージアンドドロー。まずは《夢運ぶ彫馬 ダーラヘスト》をライトにコール!能力でデッキの上から3枚をドロップゾーンに置く!」

(G:2→3、墓:3枚/妖精3枚)

 

 落ちたのは順に、《夢運ぶ彫馬 ダーラヘスト》、《忠実なるユニコーン》、《長靴を履いたケットシー》だ。

 

「更にレフトにコール!《忠実なるユニコーン》!能力で、他に[妖精]があるので、手札を1枚捨て、1ドロー!」

(手:6→5、墓:4枚/妖精4枚)

 

『また[妖精]を捨てたか』

 

「まだです!センターにコール、《長靴を履いたケットシー》!そして、ゲージ1とライフ1を払って装備!《星針剣 エストレーラ》!アタックフェイズです!」

(G:3→2、L:8→7、手:5→3、墓:5枚/妖精5枚)

 

「おいおい、センターが埋まってるぞ!」

 

「……あのアイテム、センターが埋まっていても攻撃できるのか」

 

『我らのゼロナックルと同じ能力だな』

 

 つまり、七瀬は4回攻撃が出来る。しかも、ゲージからまた[妖精]が落ちている。

 

「ユニコーンでトウカ先輩にアタック!」

 

「……う、受けます」

(L:10→8)

 

「次はダーラヘスト!」

 

「こ、これも」

(L:8→6)

 

「ケットシーも続きます!」

 

「ひゃ……っ」

(L:6→5)

 

「最後は私!エストレーラでアタック!」

 

「うっ……」

(L:5→4)

 

「ターンエンド。トウカ先輩の番です!」

 

 

 トウカ

 ライフ4/ゲージ3/手札5/デッキ41枚

 

 七瀬

 ライフ7/ゲージ2/手札3/デッキ36枚/ドロップ5枚(妖精5枚)

 

 

「……は、はい……。ドロー、チャージアンドドロー。ゲージ2を払いライトにバディコール、《ライジングフレア・ドラゴン》。バディギフトでライフ回復。更に能力で、サイズ2以下の、猫さ……ケットシーを、破壊します……!」

(G:4→2、L:4→5、手:6→5)

 

「ケットシーの能力。破壊された時、デッキの上から2枚をドロップゾーンへ!」

(墓:8枚/妖精7枚)

 

「《システミックダガー・ドラゴン》をレフト、《ブーメラン・ドラゴン》をセンターにコール……!そして手札1枚を捨て、ゲージ1を払い、《竜剣 ドラゴブレイブ》に変えます……」

(G:2→1、手:5→1)

 

 一気に展開を早めてきた。間違いなくトウカ先輩はライフを削りきるつもりだ。

 

「……キャスト。《ドラゴニック・グリモ 背水の碑文》。デッキの上から2枚をゲージに置いて、2ドロー。更に、《D・R・システム》を設置。そして、《ドラゴニック・グリモ》で3ドローします……!」

(G:1→3、手:1→3)

 

「あっという間に場を整えた……。トウカ先輩、本気ですね」

 

「は、はい……!では、アタックします。ブーメラン・ドラゴンで、と、戸村さんに攻撃」

 

「まずはダメージ1」

(L:7→6)

 

「ブーメランは攻撃後、手札に戻ります……。そして、設置魔法の能力で、ゲージ+1します」

(G:3→4、手:3→4)

 

 D・R・システムは、自分のモンスターがデッキか手札に戻ればゲージを1つ、増やす能力がある。トウカ先輩はゲージを増やしつつ、センターを開けてアイテムで攻撃できるようにしたのだ。

 

「……ドラゴブレイブで、戸村さんに、攻撃!」

 

「キャスト、《オースィラ・ガルド》!ダーラヘストをドロップゾーンに置いて、ゲージ+1して1ドロー!その後、ダメージを受けます」

(G:2→3、L:6→3、墓:10枚/妖精8枚)

 

「システミックダガーで、攻撃……」

 

「キャスト、《エリネドの指輪》!攻撃を無効化します!」

(手:3→2、墓:11枚/妖精8枚)

 

「なら、ライジングフレアで……ユニコーンに攻撃!」

 

「ユニコーン、ごめんね……」(墓:12枚/妖精9枚)

 

 ライフを守りきった、と思う間もなく、トウカ先輩がカードを提出した。

 

「ファイナル、フェイズです……!」

 

「やっぱり持ってましたか」

 

「はい……。ゲージ2を払ってキャスト、《竜撃奥義 ドラゴニック・ダブルブレイク!!》です……!これは、相手の場にモンスターがいなくて、相手のライフが3以下なら使えます」

 

「確かあれって、ダメージ3だったよな!?七瀬ちゃん大ピンチじゃん!」

 

「……いや、そうでもなさそうだ」

 

「キャスト、《アキレウスの盾》!ダメージを2減らします!よって、受けるダメージは1!」

(L:3→2、手:2→1)

 

「耐えられましたね……。ターン、終了です……」

 

 

 トウカ

 ライフ5/ゲージ2/手札3/デッキ31枚

 

 七瀬

 ライフ2/ゲージ3/手札1/デッキ32枚/ドロップ13枚(妖精9枚)

 

 

 今のダメージ軽減魔法は上手い。それに最後の手札。あれはエリネドの指輪で「捨てなかった1枚」。つまり切札だ。

 

「行きますよ、トウカ先輩!ドロー!チャージアンドドローはしません。ゲージ1を払い、キャスト。《スンベル・ガルド》!2枚ドロー……来た!」

(G:3→2、手:1→3、墓:15枚/妖精9枚)

 

「……そ、そう言えばケットシーの能力は、もう1つありました、よね?」

 

「はい!今からお見せします!長靴を履いたケットシーを、ライトにバディコール!そして、ゲージ2を払い、センターにコール!《妖精王 オベロン》!」

(G:2→0、L:2→3、手:3→1、墓:17枚/妖精11枚)

 

「結局、ユニコーンへアタックしなくても、10枚は達成していた……。さ、さすがです、戸村さん」

 

「行きます!オベロンの能力、ドロップゾーンの[妖精]が7枚以上なら、トウカ先輩のモンスターの能力を無効化!更にケットシー!ドロップゾーンの[妖精]が10枚以上なら、アイテムの打撃力を+3!よってエストレーラの打撃力は4!」

 

 これが[妖精]、ドロップゾーンを利用することで強くなるのか……。すごい。七瀬はやはり、強い。

 

「オベロンでトウカ先輩にアタック!」

 

「……食らいます」

(L:5→3)

 

「オベロンの2回攻撃!」

 

「こ、これも受けます……」

(L:3→1)

 

「次はエストレーラ!」

 

「キャ、キャスト……《ドラゴンシールド 青竜の盾》」

(G:2→3、手:3→2)

 

「ケットシー!お願い!」

 

「……防御、出来ない……。なら、D・R・システムの能力!ライフ0になる時、このカードをドロップゾーンに置き、デッキの上から1枚をドロップへ置きます……」

(L:1→0)

 

「それが魔法なら、トウカ先輩はライフ2で復活する。ですよね?」

 

「……は、はい……。では、行きます……!」

 

 トウカ先輩はD・R・システムをドロップゾーンに置き、デッキの上から1枚をドロップゾーンに置いた。そのカードは……。

 

「ライジングフレア・ドラゴン……。ま、魔法ではないので……私の負け、です……」

 

「ゲームエンド!ウィナー、七瀬ちゃん!」

 

 確かに七瀬の勝利となったが、あと一歩の所まで彼女を追い詰めた、トウカ先輩もすごい。

 

『大会が楽しみだな、零人』

 

「……そうだな!」

 

 大会まで残り2週間。必ず優勝するために、俺たちは特訓を開始した……!

 

 





今更だけど、自分のファイト描写って、割と短期決戦な気がする……。
今度はもう少し、ターン数を増やせればいいなぁ。

次回もよろしくお願いします!



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繋がる者たち


今回は懐かしの「あの人」がひょっこり出てきます!

原作ではファイト描写が少なく、途中から空気に。しかし結構、いいポジションのあの人が!



そして、前回から割と期間が空いてしまいました。ごめんなさい。

あまり無理せずに行こうと思います!



 七瀬とトウカ先輩のファイトから1週間。俺たちは相変わらず、『キャッスル』で特訓という名のファイトを行なっていた。

 

「……なあ、ソウタ」

 

「んー?どうしたよ?」

 

「俺の戦略って弱いかな?」

 

 ソウタが驚いた顔をしている。そんなに変なことを言ったつもりは無いが。

 

「どうした?バカみたいな顔して」

 

「バカは余計だろ!?いやまあ、急にどうした?って思っただけだ」

 

「ほら、今のゼロワールドの動きは『デッキを0枚にする』ことが基本。その上で『サイズ3で戦う』こと。大まかに言ってこの2つだろ?ちょっと不安でな」

 

「確かにそうだな。あんまし変わり映えしないっつーか、読まれやすいっつーか」

 

「……そうだよなぁ……」

 

 ここ最近のファイトでも、戦略の幅が狭すぎるからか、敗北が多くなった。つい先ほども……。

 

 

 *

 

 30分前・超商店街ファイティングステージ

 

 

「2つのゼロが重なって、新たな未来が今、始まる!ルミナイズ、『ビギニング・ゼロ』!」

 

「心の先には宵の月。闇に潜むは忍び者。ルミナイズ、『闇者暗躍記(やみものあんやくき)

 

「「オープン・ザ・フラッグ!!」」

 

「ゼロワールド!バディは《ゼロ・エンペラー》!」

 

「カタナワールド。バディは《ナノマシン忍者 白夜》」

 

 

 数ターン後――

 

 

「……零人のヤツ、ヤバくね?」

 

「センターに《月影 剣神もうど》、しかも前のターンに《超・絶命陣》を張られてる。その影響で白夜の防御力は2000。倒せなくはないけど……」

 

「……ラ、ライトの《エージェント忍者 間宮》の能力で、超・絶命陣のソウルは2枚……。1枚は……《秘剣 星影》、で確定、してる……」

 

 くそ……俺のライフは3、ライトに《ゼロ・エンペラー》、レフトに《ゼロ・エクスキューショナー》がいる。設置魔法の《無常の城》で打撃力はそれぞれ2になってるけど、相手のライフ6を削りきるのは難しい……。

 

「さあ、攻撃してきても良いですよ。もっとも、拙者を倒せるのなら、ですが」

 

「くっ……。エンペラー、頼む!白夜に攻撃だ!」

 

『任せろ!ロイヤルスマッシュ!』

 

「仕方ない……。すまない、白夜」

 

 ステージを揺らすほどの強烈な一撃が、月影に決まる。今なら……!

 

「センターが空いた!頼む、エクスキューショナー!ファイターに攻撃!」

 

「――あなたの命は今、絶たれる。ゲージ3を払い、キャスト!超・絶命陣のソウルより《秘剣 彗星》、発動!」

 

 しまった、本当の狙いはこっちだったのか!?

 

「あー、終わったな。零人の負けだ」

 

「……あ、相手の攻撃力5000以上のモンスターが、い、1枚でファイターに攻撃している攻撃中に使える……。無我くんは、その状況を、作らされた……のでしょうか……」

 

「油断禁物……。零人くん、ご愁傷様」

 

『トドメだ。ダメージ3を受けるでござるんるん!』

 

「ちくしょ……。つーか、ござるんるん……?」

(L:3→0)

 

 

 *

 

 

「ありがとうございました、如月さん。まさか誘導されていたとは思いませんでした」

 

「暁で良いですよ。歳はそちらの方が上なのですから」

 

『暁殿はそこまで考えていないでござるよ!』

 

「こら、白夜!余計なことを!」

 

 忍者の様な格好をした少年は、如月暁と名乗った。あの相棒学園に通う6年生で、有名なカタナワールド使いだそうだ。俺はよく知らないがソウタによると、兄の斬夜も中等部2年で、学年1の秀才とのこと。流石に出来が違うものだと感心してしまう。

 

「……また稽古を付けてもらえますか?」

 

「はい。機会があれば、また」

 

 そう言って彼はその場を後にした。小学6年生とは思えないほど、落ち着きのある人物だった。

 

 

 *

 

 

 このファイト中に様々なことが知れた。プレイングミスの多さに始まり、魔法無効化にコール無効化を行なうカードの存在。自分のデッキ構築の悪さ……。他にも様々、至らない部分が多い。

 

「プレミは特訓でどうにかするしかないとして、それ以外の所がな……」

 

「そうだ、エンペラーは?何か意見は無いのか?」

 

 俺はカードを取り出す。光に包まれ、エンペラーが現れた。

 

『済まない。我が仲間が不足しているばかりに、零人に苦労をかけさせてしまっている』

 

「仕方ないだろ、事情が事情なんだから」

 

「確か突然ゲートが開いて……だっけ?そりゃ、どうしようもないよな」

 

 先週のファイトの後、ソウタとトウカ先輩にはゼロワールドとの出会いについて話した。……記憶のことは言わなかった。何故かは分からないが、やたらと話しをしない方が良いと思ったからだ。

 

『今あるカードだけでは、戦略を変えることはできない。一度、ゼロワールドに戻らなければ……』

 

「そんなことができれば、苦労しないもんね」

 

「お、お疲れ様……です……」

 

「七瀬。トウカ先輩。買い物は済んだのか」

 

「うん!スーパーで大安売りだったから、いっぱい買っちゃったよ~」

 

「や、やっぱり、お買い物は……楽しいですね……!」

 

『荷物がたくさんニャ~。持つのも大変ニャ~』

 

 暁とのファイト後に、2人は買い物へ出かけていた。先週以降、彼女たちの距離は一気に縮まったらしい。普段から一緒にいることが多くなり、お泊まり会なるものも開いている。ちなみに今回は2回目で、最初はファイトをした日だったそうだ。

 

「それでちょっと聞こえたんだけど……零人くんのデッキ調整の話し?」

 

「ああ。さすがに負けが多くなってきたからな」

 

「た、確かに……い、今のままじゃ、……大会は勝てない、かも……」

 

 トウカ先輩の言うとおりだ。舞台は校内、見知った者が相手になることも考えられる。その時にいつもと同じ手が通用するのか?

 

「んー。やり口を変えるとかしねーと、きっついな」

 

「ねぇ、本当にどうにもならないの?エンペラー?」

 

『むぅ……』

 

 エンペラーも考え込んでしまった。今、手元にあるカードはデッキを作る際に、枚数調整で余ったものがほとんどだ。試していないカードは僅か。それも、デッキ内のカードと能力はさほど変わらない。

 

「エンペラーだけじゃない、何か起爆剤が欲しいところだね」

 

「んじゃ、俺らが取りに行ってやろっか?」

 

 不意に、男性の声がした。入口から誰かが歩いてくる。

 

「よぉ!七瀬ちゃん!元気してた?」

 

「え!?シ、シオウさん!何でここに!?」

 

 





暁とのファイト、自分の弱さ、シオウとの邂逅。

イベント盛りだくさんになってしまいました……。


次回へ続きます!






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相棒の覚悟


前回、シオウが現れた所から始まります。


事件を動かす為のテコ入れ、始めます!


もしかしたらいつも以上に強引な展開かもしれません。




「エンペラーだけじゃない、何か起爆剤が欲しいところだね」

 

「んじゃ、俺らが取りに行ってやろっか?」

 

 不意に、男性の声がした。入口から誰かが歩いてくる。

 

「よぉ!七瀬ちゃん!元気してた?」

 

「え!?シ、シオウさん!何でここに!?」

 

 バディポリスの制服を着崩している男性は、七瀬と親しげに話しを始めた。

 

「誰だ、あのおっさん?バディポリスみたいだけど」

 

「……せ、先輩さん……でしょうか?」

 

「……彼氏に1票」

 

『我は友としよう』

 

『零人はバカだから間違いニャ!シオウはニャニャせの先輩だニャ!』

 

 ……この猫、一本残らず毛をむしり取ってやろうか。

 

「シオウさん、こんな所に……ってあれ、七瀬さん?」

 

「あ、タスクさん!ご苦労様です!」

 

 龍炎寺タスクがそこにいた。エンペラー達と出会った日以来だからか、久しぶりに会うことになる。

 

「零人さん……お久しぶりです。お元気そうで、何よりです」

 

「お、おう……?」

 

 よそよそしい態度に、少し違和感を感じた。だが、そんなものだろうと納得することにした。

 

「すっげーー!!お前、あの龍炎寺タスクと知り合いなのか!?」

 

「あ、ま、まあな……」

 

「それでお2人とも、今日は何か捜査ですか?」

 

「いや違うんだよ。そこの無我零人とエンペラー殿に用があってね」

 

 俺たちに用事?バディポリスに目を付けられるようなことはしていないが、何なのだろう。

 

「実は最近、あの現場でもう一度、ゲートが開きかけているんです」

 

「あの現場って、まさか……」

 

「そう。エンペラーたちが現れた、あの駐車場です」

 

「んで、もしかしたらゼロワールドに行けるんじゃないか、と思ったんだ」

 

「ということは、エンペラーの仲間も連れてこれるんですか?」

 

「可能性はあるわな。そんで俺らの出番ってわけよ」

 

「出番?どういうことですか?」

 

「俺らもゼロワールドの調査がしたくてね~。ちょうどいいタイミングだったんだよ」

 

 新しいカードが欲しい俺たちと、ゼロワールドに向かいたいこの男性。利害の一致というやつか。

 

「……シオウさん、でしたっけ。俺たちも付いていくことは出来ませんか?」

 

「あ、ズリィ!俺も行きたい!」

 

「……ダ、ダメですよ。お、お仕事、ですから……」

 

「そうだな。その子の言うとおりだ。つっても、エンペラーには来てもらうけど」

 

『我のみか。何故だ?』

 

 シオウさんによるとこのゲートは特殊で、本来、モンスターしか通れない。バディのイデアがいなければ、彼も通ることは出来ないそうだ。

 

「つまり一般人は通れないってことだ。イデアの能力で保護出来るのは1人だけだからな」

 

「……そ、その上で、ゼロワールドに詳しいエンペラーを……あ、案内役に、したい、ということ、ですか……?」

 

「お!頭いいね~、君!タスクと同じかそれ以上の頭脳って所かな?何ならバディポリスに入隊しちゃう?」

 

「シオウさん、僕たちの仕事、忘れてませんか?」

 

「あ……忘れてた。すまんすまん!」

 

「全く……。では僕から説明します。零人さん、少しの間、エンペラーをお借りすることはできませんか?」

 

 突然の発言に、皆、言葉が出なかった。

 

「ゼロワールドの探索にはエンペラーの協力が必要です。零人さん、お願いします」

 

「……俺は構わない。エンペラーは?」

 

「は!?いやいや、ダメだろ!大会が近いんだぞ?それにもし、エンペラーがこっちに戻りたくないとか言ったら」

 

「……エンペラーはどうしたい?」

 

『我は、戻れるなら戻りたいと思う』

 

 当然の答えだろう。元々、地球に来たのは事故だったのだから、帰りたいと思うに決まっている。

 

『だがその選択で、我が相棒とその友が苦しむのは、見たくは無い。我は零人と、そして可能なら仲間と共にこちらで生きたい』

 

「つーことは、エンペラー殿は……」

 

『3日だ。3日だけ付き合おう。その間に、我は仲間を集め、お前は我が世界を調べる。どうだ?』

 

「そんな……。いくらシオウさんでも無理だ!」

 

「へっ……いい度胸してやがる。いいぜ、乗った!お前さんの言うとおり、3日で終わらしてやんよ!」

 

『と、言う訳だ。皆の者、少々外す。零人を頼むぞ』

 

 エンペラーも俺も、覚悟は決まっていた。今より強くなるために、やるべきことをやろう。

 

「頼むって、何言ってんだよお前!大会までもう日が無いんだぞ!もっと腕を磨かないとヤバいだろ!?」

 

 ソウタの言うことは正しい。でも、どうしても譲れない。

 

「俺たち、もっと強くなりたいんだ。でもこのままじゃ、今いる場所で止まっちまう気がしたんだよ」

 

『我らが頂に上がるには、もっと仲間が必要だ。分かってほしい』

 

 ソウタの顔は怒りに満ちていたが、突然、頭を掻きだした。

 

「あぁもう、しゃーねーな!しっかり仲間、連れて来いよ!」

 

「……ソウタ。サンキューな」

 

「……く、くれぐれも、体に気を付けて……」

 

「エンペラー、ちゃんと帰って来てね。後、零人くんなら心配しないで!私たちがいるから!」

 

『うむ!任せたぞ!』

 

 

 *

 

 

 俺たちは超商店街を出た。そしてあの場所――駅の駐車場に向かった。

 

「確かにゲートが開きかけてんな」

 

「じゃ完全に開くぞ~。イデア、宜しく!」

 

『創造神竜の力、ご覧あれ!そいやっさぁぁぁああああ!』

 

「……掛け声が、お、お祭り……?」

 

「先輩、イデアはあんな感じだから、気にしたら負けです」

 

『ほれ、開いたぞ!後で肉をよこせ、シオウ!』

 

 イデアという竜型のモンスターがいとも簡単にゲートを開いた。こんなことが出来るなんて、何者なんだ?

 

「よし、行くか!」

 

『では、行ってくる!我らの勝利のために!』

 

「……おいエンペラー、拳を出せ」

 

『何をする気だ?』

 

 エンペラーが右の拳を突き出す。俺も右手を握り締めると、エンペラーの拳に向かって、思い切り突き出した。強い衝撃と痛みが、腕から伝わる。

 

『っ……!これは……』

 

「バディからの激励ってやつだ。任せたぞ、エンペラー!」

 

『……うむ!任せろ、零人!』

 

 エンペラーがゲートの向こうに消える。続いてシオウさん、最後にイデア。こうして彼らはゼロワールドへ向かったのだった。

 





次回はゼロワールドよりお送りします!

※主にシオウさんとアホ竜が動きます。




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ゼロの始まり編
ゼロの地


今回からゼロワールドに突入!新章開始といったところでしょうか。

大会編までの繋ぎのようなものなので、小難しく考えないで頂けると幸いです。




この俺、竜神シオウとバディのイデア。そんで預かり物のエンペラーは今、ゼロワールドにいるぜ!俺たちはこの世界で行なう調査の為、エンペラーは仲間たちを地球に連れていく為に行動してんだ!

 

「……おい、エンペラー殿。本当にここはゼロワールドなんか?」

 

『うむ。間違いなく、我が故郷である』

 

『シオウよ。これは本当に世界と呼べるのか?』

 

「どうだかな。少なくとも俺は、そうは思わないけど」

 

 見渡す限りの荒野。点在する簡素なテントや、シートの上に置かれた僅かな物品。ボロボロになった建物。紛争地帯のそれに近いこの世界が、ゼロワールドなのか?

 

「……よし。ここで一旦、別れようか」

 

『我は仲間を連れて来よう。今は恐らく、食事の最中だろうからな』

 

「なら少し話して来いよ。久しぶりなんだから、つもる話しもあるだろ?」

 

『我らはその間に調査したいことがある。後々、貴殿らにも話しを聞く予定なので、そのつもりで』

 

『了解した。感謝するぞ、シオウ。そして創造神竜よ』

 

 俺たちは6時間後にこの場所で落ち合うことにした。エンペラーを見送ると、それとは逆の方向へ移動を始めた。

 

 

 *

 

 

「想像と違うな。もっと世界として成り立ってるもんだと思ってたが」

 

『戦でもあったのか?でなければ災害か』

 

「さあな……ん?何だ、あの建物?」

 

『あれだけが、やけに新しいな』

 

 違和感しかなかった。周囲の建造物は程度こそ違うが破壊されているのに、ここは綺麗なままだ。

 

「よし、入ってみるか。イデア、先に行け」

 

『いやシオウ。お前に譲ろう。我は創造神竜だからな!』

 

「だったら先に入った方が神様っぽくないか?威厳あるよな、なあ?」

 

『断る!罠の可能性が高すぎるだろう!貴様は何か?バディを危険に晒すつもりか?』

 

「その言葉、そっくりそのままお返ししてやるよ!」

 

 口論の末、俺が先に入ることになった。……後でこのSDチビ竜は焼いて食ってやろう。そう思いながらゆっくり、扉の前に立つ。少し早く、大きめに手を振った。反応は無い。どうやら動きを感知して作動する類の仕掛けは無さそうだ。

 

『シオウ、あの力は出さなくて良いのか』

 

「んー、あんましやりたくないんだよ。強制発動って色々、問題になるし」

 

『ちなみにその扉、触れるとまずいぞ』

 

 急に真面目な口調になりやがった。イデアがそういうことを言うときは大体、本当に危険な場合が多い。

 

「どっかから撃たれるのか?それとも扉からビーム?」

 

『即死する』

 

「雑な上に怖いわ!誰が触るかこんなもん!」

 

 触らずともまだ、やり方はある。気は進まないが、解放するしかない。持ち合わせのカードから1枚を選び、扉の前にかざす。

 

「フューチャーフォース、解放!!」

 

 宣言に合わせてコアデッキケースが拳銃型になり、更に光が溢れだす。かざしたカードも同じく、光に包まれる。

 

「キャスト!《竜坤一擲りゅうこんいってき》!!」

 

 カードから放たれた光が、右腕を包み込んで、まるで巨大なドラゴンの拳の様に変化していく。右腕を大きく引き、構えを採る。

 

「いっけええええ!!」

 

 全力でパンチを繰り出す。光の拳がぶつかると、いとも簡単に扉は壊れてしまった。轟音と共に土煙が立ち込める。

 

『シオウ、加減をしろ!建物まで吹き飛んでしまうぞ!』

 

「分かってるよ。あくまで扉と、そこに付いてる罠をぶっ飛ばすだけだからな。ほれ、見てみんしゃい」

 

 カードから光が失われると、拳も消滅した。普通の腕に戻った所で足元に落ちていた物を拾い、イデアに見せる。

 

『ぬ!これは、罠か!』

 

「ああ。とは言ってももう、構造も何も分からんがな」

 

 推測では多分、円筒状だったのだろう。心配していた罠とやらは完全につぶれていた。配線が千切れて、飛び出てしまっている。もう作動しないのは明らかだった。

 

『だがシオウよ。扉に罠を仕掛けるということは、中に入れさせないようにする為であろう?』

 

「万が一、入られたら……。俺なら更に罠を仕掛けるね」

 

『我もそう思う。だがこの建物、他にそのような物の気配が無いのだ』

 

「あくまで、俺らならそう考えるってことじゃね?ここのオーナーさんはそんなこと、これっぽっちも考えてないらしいけど」

 

『どういうことだ?』

 

「ここを作り、放棄したヤツは罠を突破されることを見越して、あえて内部に罠を仕掛けなかった。恐らく中を見せて、調査をさせる為にな」

 

 室内を歩きながら説明する。しかしイデアは困惑しているのか、口数が極端に減った。

 

「つまり俺たちは招かれたんだ。そして招いたヤツは、『ワールディアス・インシデント』に絡んでいる可能性が高い」

 

『な……。一体誰なんだ、その者は?』

 

「ヒントその1。“そいつは『ワールディアス・インシデント』に絡んでいる”。ヒントその2。“この場所を捨てなければならない程、そいつは追い詰められていた”」

 

『むう……。全く見当も付かん』

 

「じゃあヒントその3。“ここはゼロワールド。ゆかりのある人物は?”」

 

 そのヒントにイデアの顔が、困惑から驚愕へと変わっていった。

 

『まさかこの場所は……』

 

「俺の推測では、無我夫妻のアジトだろう」

 

『どうしてそんなことが言える?カグラオサムの可能性もある!』

 

「ゼロワールドに繋がるゲートは特殊で、フューチャーフォースを持つ者かモンスターしか往来が出来ないようになってるんだと」

 

 零人とエンペラー殿が出会ったあの日、実はタスクちゃんがステラちゃんに頼んで、ゲートの解析をして貰っていた。曰く、「謎の敵と戦った後だったので、連絡が遅れた」らしい。

 

 解析の結果、このゲートは人工的に作られたものであることが判明した。同時にモンスターと、フューチャーフォースを持つ人間以外は弾かれるように、結界が張ってあることも分かった。そのゲートも結界も、無我夫妻が考案した物と一致したことも……。

 

『つまり、零人の両親は科学者だったと?』

 

「そーなるわな。ほとんど記録は残って無いのは残念だね」

 

『じゃあ、フューチャーフォースを持つ人間に限ったのは何故だ?通れる味方は多い方が良かろう?』

 

「さあ。もしかしたら特定の人間しか通れないようにしたかったのかもな」

 

 イデアが更に首を傾げる。そして、何か思いついたような表情を見せた。

 

『息子を……零人を匿う為か?彼がフューチャーフォースを使えるとか』

 

「確かに俺もそう思ったよ。でも確証が無かったから、今回は確実なメンバーにさせてもらったんだ。まあ、イデアの能力で保護、とか嘘を吐いちまったのは申し訳なく思ってるけどな」

 

『我にそんな能力は無いからな。黙っているのも苦しいものだ』

 

「おしゃべりなお前にしては頑張ったよ。後で焼き肉、奢ってやるから許してちょ?」

 

『許す!ただし高級な物に限る!』

 

 財布の中身が無くなることは想像できるが、仕方ない。イデアの功績は本来なら、この程度で済む訳が無いのだ。

 

「何が起ころうとしてんだ、一体……」

 

『シオウ!これを見てみろ!』

 

 後ろでイデアが叫ぶ。振り向くと、上を見ながら固まっていた。何事かと思い、同じ方向を見る。

 

「おいおい、意外な名前の登場だぜ?イデアよぉ」

 

 そこにあったのは、ゼロワールドのフラッグに描かれた絵と同じ物。そして、ある一文だった。

 

 “有作(ゆうさく)春菜(はるな)、オサム、奈央(なお)、クライス。我らが偉業、ここに刻まん。2025・5・27”




次回、また語り手が変わるかも?



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困難


以前にもやりましたが、今回は途中から場面が変わります。

一体、誰に変わるのでしょうか?




 久しぶりに来た我が世界。何も変わりが無いようで安心した。

 

『ふむ。しかし地球とは違うものなのだな』

 

 地球は空が青い。草木も生い茂り、存在する建物も大きい。食も豊かで娯楽も多い。全てが、この世界と違う。

 

 空は曇っている。草木が生えるような地面は無い。建物は物心付いた時から倒壊している。食べられる物は僅か、娯楽と呼べる物もほぼ無い。それでもここが、我が故郷なのだ。

 

『あーー!!エンペラー様だーー!!』

 

 突然、名前を呼ばれた。声のした方を向くと、3人の子どもたちがいた。

 

『元気にしていたか?ちびっこ共』

 

『うん!』

 

『でもエンペラー様いなくなっちゃったから心配だったー!』

 

『僕、デューク様にお伝えして来るね!』

 

『行こう、エンペラー様!』

 

 相も変わらず子どもは元気なものだ。彼らに引っ張られ、城へと向かう。

 

 

 *

 

 

『何!エンペラー様がお帰りに!?』

 

 ゼロ・デュークが目を丸くする。城に来た子どもによると、突然開いたゲートにより消えたエンペラーが、これまた突然、戻って来たというのだ。

 

『うん!あ、ほら!エンペラー様だよ!』

 

『エンペラー様もっと急いで~~』

 

『皆、心配してるよ~~』

 

『こらこら、あまり引っ張らないでおくれ』

 

 聞き慣れた声がした。窓辺に移り、下の道を覗く。2人の子どもが誰かの手を引いている。それはデュークにとって、この城にとって、そしてこの世界にとっての主の姿だった。

 

『エンペラー様!!』

 

 その声にエンペラーが反応する。

 

『久しいな、デューク!!』

 

 その顔は、これまでに何度もデュークが見て来た、屈託の無い幼子のような笑顔だった。

 

 

 *

 

 

『エンペラー様、ご無事で何よりです』

 

 城に入るなり、デュークが跪く。以前から「堅苦しいのはやめる様に」と言ってきたのだが、ほとんど効果は無い。

 

『デュークよ、そのような態度はやめてはくれないか?』

 

『いえ、そのような訳にはいきません。あなた様はこの城の主、ひいてはこの世界の王なのですから』

 

『……うーむ。頑固者は相変わらずだな』

 

 その時、城内を駆ける音がした。何事かと思い振り返ると、2人の見知った顔がそこにはあった。

 

『うおおお!エンペラー様ぁぁ!お帰りなさいぃぃぃ!!』

 

『うるさいですよ、カウント。失礼しました、エンペラー様』

 

『おお、2人とも。今、帰ったぞ』

 

 ゼロ・カウントにゼロ・バロン。普段は良い争いが絶えないが、いざという時には最高の力を発揮する名コンビだ。

 

『ところでエンペラー様。今までどちらに行かれていたのですか?』

 

『そうだよ~。どこにいたの?』

 

 デュークが訊ねる。待ってましたと言わんばかりに、子どもたちも騒ぎ始める。

 

『うむ。街の方を散策していたら急に、ゲートに飲み込まれてしまったのだ。街の住人もろともな』

 

『ゲート?ということは、まさか地球に?』

 

『うむ。そこでバディが出来た。その者と共に戦う仲間もいる』

 

 それからは地球で体験したことを話した。その1つ1つにデューク達は驚き、子どもたちは目を輝かせながら、聞き逃さないように耳を傾けていた。

 

『……という訳で我は、このゼロワールドに戻ったのだ』

 

『ま、まさかその様なことがあったとは……』

 

『予想もしていなかったですね、カウント』

 

『途中から付いていけなかったからよく分からん!』

 

『そ、そうか……』

 

 地球での出来事を全て話し終えた後、皆に本題を伝えた。

 

『単刀直入に言おう。皆に地球へ来てほしい。そして我と、我がバディと共に戦ってほしい!』

 

『無我零人とやらと結託して戦え、ということでしょうか?』

 

『ああ。皆、会えば分かる。零人は信頼に値する男だ』

 

 しかし彼らの顔は浮かない。

 

『エンペラー様、申し訳ありません。このデューク、そのご命令は聞けません!』

 

『な……何故だ!?』

 

『すまねぇが俺もデュークと同じ意見だぜ』

 

『カウントと意見が合うとは、珍しいこともあるものですね』

 

 デュークのみならず、カウントにバロンまで……。しかしよく考えれば、彼らの意見も分からないでもない。行方知れずの主が戻って来たと思ったら、急に地球へ来いと言っているのだ。彼らだってこの世界での生活がある。反発するのも当然だろう。

 

『皆、申し訳ない。しかし我らには皆の力が必要なのだ。どうか、分かってほしい……!』

 

 しかしそう簡単に彼らは折れない。それだけ大切なのだ、このゼロワールドが。

 

『申し訳ありません。やはりこのデューク、今回ばかりは命令を聞けません!』

 

『俺らもですよ、エンペラー様』

 

『私たちはこの世界で生まれ育ちました。長きにわたり我らを守り、育んでくれたこの世界を捨てることなど、私には出来ません……!』

 

『……そうか。確かにその通りだな』

 

 彼らは何も間違ってはいない。むしろ間違っているのは我の方なのだ。そんなことは端から分かっている。しかしこのままでは、一向に話しが進まない。こうしている間にも時間は過ぎて行く。零人が、待っているのだ。

 

『皆の言うことは正しい。誰だって、急に地球へ来いと言われてすぐに、納得できるものではないからな。だが我らには時間が無い。我は3日後、再び地球へ戻る。もし気が変わったなら教えてほしい』

 

 その言葉に、誰も返すことはなかった。予想していたより皆、意志が強い。ふと外の方を見ると、やはり空は厚い雲に覆われていた。

 

 

 *

 

 

「ほう、竜神シオウがゼロワールドに……」

 

 男がいた。暗く、しかし広い場所で、彼は青年と話している。

 

「それで?《ゼロ・エンペラー》が同行したのか?」

 

「はい。僕の調べでは現在、無我零人とゼロ・エンペラーは別行動。竜神シオウと創造神竜も地球にいません」

 

 男と会話する青年は、黒いパーカーを着用している。見たところまだ10代後半だろうか。口調は大人しく、背丈は平均より低い。初対面の印象では「草食動物」が妥当だろう。

 

「そうか。なら丁度いいじゃないか。なあ、ドラコくん?」

 

「丁度いいって、まさか……!本当にいいのですか!?」

 

「ああ、竜神シオウになら使っていいよ。君の本当のバディ。本当の、君自身を」

 

 男が不敵な笑みを浮かべる。青年はデッキを取り出すと、《システミックダガー・ドラゴン》のバディレアカードを破り捨ててしまった。

 

「悪いな……せっかくのお許しだし、お前みたいな温いヤツ、気に食わなかったんだ」

 

 青年から殺気が漏れ出している。男はその様子を見て、必死に笑いを堪えていた。

 

「さあ、龍炎寺タスクでは楽しめなかった分、存分に楽しませてもらおうか。なあ、《パラダイス・ロスト》?」

 

 懐から取り出したカードに話しかける青年は、血走った眼をしていた。殺意に満ちたその姿は、先程までの「草食動物」とは思えない。いわば「肉食動物」だ。

 

「あいつらは例の駐車場からゲートを開いた。まだ種が残ってるはずだ。押さえている間にこじ開ければいける」

 

「分かってるよ!早く行かせろ、俺の血がたぎっちまうだろ!」

 

「フッ……行って来い」

 

 男の声には耳を貸さず、青年――ドラコ・アルマードはカードを使い、空間を歪める。素早い動きで歪みに入るとそのまま消えてしまった。

 

「全く。荒々しい方は実に面倒な男だ」

 

 男が背後を見る。それに合わせ、発光が始まる。

 

「無我有作、無我春菜。お前たちの息子は、同じ轍を踏もうとしているぞ……フッ、クフッ、フハッハッハッハ!!」

 

 男は笑いを堪え切れずに、吹き出してしまった。顔を押さえ、身もだえしながら笑うその姿は、どこか発狂しているようにも見えた。

 

「はぁ、よく笑った!……さて、始めようか、ワールディアス。全てを統べる為の戦いを」

 

 その言葉に発光するもの――《ワールディアス》は眩い光を1回だけ点滅させた。それは、彼らにとって、「了承」の意味だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





敵も遂に動き出します!

そして予告!近々、シオウがファイトする……はず!



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休息


前回の調査から、いろいろあった後のお話です!




 俺たちがゼロワールドに来て6時間。最初にエンペラーと別れた地点に戻って来た。

 

「……まだかよ、あいつ」

 

『もしや、腹を空かして倒れているのか!?』

 

「んな訳あるか!お前じゃねーんだよ!」

 

『そうか分かった!道を間違えたな、あの男』

 

「よーし、日が暮れて来たからお前は寝てろ」

 

『良いのか!?ではお言葉に甘えて……』

 

 いやずっと曇ってるだろ、と思った矢先、背後から声がした。

 

『お前たちは騒がしくないと、やってられないのか?』

 

 振り返るとそこにエンペラーがいた。何故か傍には、鎧を纏った子どもの様なモンスターが付いている。

 

「おお、遅かったな、エンペラー殿。んで、そいつらは?」

 

『お主の隠し子か!』

 

『この世界の者だ。まだ子どもだが、実力は十分だぞ』

 

 会ってまだ日が立っていないのに、エンペラーのスルースキルが上がっている……だと?こいつ、なかなかやりやがる……じゃなかった。

 

「んでエンペラー殿。なんでガキんちょが引っ付いてんだ?」

 

『おお。この者たちが付いていくと聞かなくてな』

 

「そいつらだけか?他のヤツはどうしたんだ。家臣とかいるんじゃないのか?」

 

 そこでエンペラーの顔が暗くなった。何かあったのだろうか。

 

『……はは、断られてしまったよ。皆、地球には行かない、とな』

 

「……そっか」

 

『だが話しはつけた。シオウ、イデア。お前たちを城に泊めてやる事はできるぞ』

 

『本当か!流石は王様、話しが早いな!』

 

 それなら確かに都合が良い。俺たちもエンペラーや家臣に聞きたいことがあった。野宿の準備はあるが見知らぬ土地だ、何が起こるか分からない。

 

「サンキューな、エンペラー殿。そんじゃお言葉に甘えるとしますか!」

 

 

 

 *

 

 

 

「……でっけぇ……」

 

『う、うむ……。これは予想外、だな……』

 

 城に着くなり俺たちは、ただ見上げるしか出来なかった。いや、ある程度の予想はしていた。調査した例の建物――いや、施設か――からも眺められたから、相当の大きさだろうとは思っていた。

 

「完っ全に見当違いだったな。マジでけぇ」

 

『いやはや全く。我らももっと精進せねばな』

 

「精進してどうするんだ?こんなご立派な城でも建てるのか」

 

『そうではない。このくらいの建物、大きさも測れないとは、不覚……!』

 

「どこ目指すつもりだよ!?」

 

『痴話喧嘩は終わったか?』

 

「「いや、違うからな!?」」

 

 そうこうしている内に、城内から2体のモンスターが現れた。彼らもまた鎧を纏っている。

 

『イデア様、シオウ様。お待ちしておりました。私、《ゼロ・デューク》と申します。遠路はるばる地球より、我らがゼロワールドへようこそお越し下さいました』

 

『俺の名は《ゼロ・カウント》。異世界のカミサマにニンゲン!わざわざこんなとこまでよく来やがりましたな、コラァ!』

 

 ああ、何故だろう。片方は問題ないが、もう片方はどことなくアホ竜を彷彿とさせる。

 

『我が名は《創造神竜 イデアライズ・ドラゴン》!遠路はるばる、地球から来てやったぞ!褒美をよこせ、家臣ども!』

 

 ああ、メンドくせぇのが2体になりやがった。何だ今日は?ウザさ2倍デーなのか?

 

『シオウ様、イデア様はいつもこの様な態度なのでしょうか?私にはカウントが2人いるようにしか見えません』

 

「あー……いつもよりはまだマシかな。ま、類は友を呼ぶってやつだ。アホが2人に見えても、視覚に問題は無い」

 

『シオウ!この者、妙に気が合うぞ!』

 

『エンペラー様!デューク!コイツ、おもしれーぞ!』

 

『よし、皆の者、城に入れ。面倒くさい』

 

 ナイス、エンペラー!無駄に威厳のある声で、言いたいことを言ってくれた。

 

『ごっはん!ごっはん!』

 

『美味な飯!美味な飯!』

 

 うるさいアホ共が城に入っていく中、エンペラーが子どもたちに近づいていく。そしてゆっくりと屈むと手を差し伸べる。

 

『さあ、お前たちも。一緒に食べよう』

 

『僕たちもいいの?』

 

『うむ。たんと食え、やんちゃ坊主ども!』

 

『わーーい!!』

 

 子どもたちが嬉しそうに笑いながら駆けて行く。その様子をエンペラーも嬉しそうに見つめていた。

 

「優しいんだな」

 

『当然のことをしただけだ。腹を空かせた子どもを放っておくほど、下郎になり下がってはいないからな』

 

 王としての自覚、ってヤツか。流石にエセ創造神のアホ竜とは違うな。さて、俺も飯へ向かおうかな。

 

 

 

 *

 

 

 

 案内された部屋には高級そうなテーブルに、背もたれの高いイスがあった。テーブルには食欲をそそる美味しそうな料理が並んでいる。絵に描いたような豪華そのものだった。

 

「なんだこりゃ、めちゃくちゃ美味そうだな!」

 

『何をやっているのだシオウ!早く席に座らぬか!』

 

 見るとイデアがご丁寧に着席していた。更によく見ると、創造神の力で造ったのか、タキシードを着ている。

 

『わーい!』

 

『ごちそうだーー!』

 

『お子様たちよ、落ち着くがよい。ここは城内、マナー良くしなければな』

 

 おお、アホ竜が珍しくまともなことを言ってやがる。うっすらとだが神々しさも……。

 

『イデア。そう堅苦しくするな。好きなように食し、騒いでくれ。食事は楽しくなければな』

 

『本当か!ならばこんな物はボッシュート!』

 

 掛け声に合わせて、タキシードが消滅した。と思うより早く、イデアは犬食いを始めた。……うん。神々しさなど微塵も無かった。

 

『イデア、ナイフとフォーク使うんだよー』

 

『食べ方汚いよー』

 

『よく噛んで食べないとダメって、デューク様が言ってたよ?』

 

 うわぁ……。子どもたちの方がまともなこと言ってるし。

 

「つーかその食い方止めろ!子どもの手本にもなってねーから!」

 

『フッ、シオウよ。かの皇帝も言っていただろう。食事は楽しくなければ、とな』

 

「おう、そうだな。そんで?」

 

『我は今、猛烈に楽しい!!そして、もっと食う!!』

 

「楽しいのはいいが、犬食いは許さん。子どもたちにマナーを教わってこい」

 

『任せろ!よしお子様よ、教えてくれ!』

 

 結局、よく分かってなかったのか。優秀なのかアホなのか、釈然としないヤツだ。

 

「っと、忘れるとこだった」

 

 俺としたことが、食事に気を取られていた。先程の調査の報告を、エンペラーにしようと思っていたのだ。

 

「エンペラー、あとデューク。ちょっといいか」

 

 上座に座るエンペラーと傍らに立つデュークに近づく。2人も何か察したらしい。緩んでいた顔を引き締めた。俺も息を吐き、真剣さを出す。

 

「とりあえず今日は、ゲート付近を見て回った。そこで少ーし気になる建物があったんだ」

 

『気になる?シオウ様、それは一体?』

 

「施設、いやもっと言うと研究所かな。廃墟の中に一棟だけ、真新しかったんで目立ってたよ」

 

 反応を見る。エンペラーは表情も態度も変わりなし。デュークは……。

 

『あの施設を、調べる事が出来たのですか……?』

 

「ま、ちょっと頑張ったからな」

 

 ビンゴ!何か事情を知ってるな、デュークのヤツ。よし、だったら小細工はいらない。直球ストレートで聞いてみよう。

 

「なあ、アンタは知ってんの?あの建物が何なのか」

 

『……ええ、少しは』

 

「もしかして、《ワールディアス》ってのと、関係あったりする?」

 

『……全く無い、とは言えないかと』

 

「資料や天井の図形、その近くにあった名前……。3人ほど聞いたことはあるけど、教えてくんない?出来れば最初から、全部さ」

 

『ふむ。全部は難しいが、知っていることを話そう』

 

 やはりエンペラーも何か知っているのか。これで、こっちの仕事も終われるかな。……とか思っていたのが間違いだった。ここで手を引いておくべきだったと気付かされるのは、もっと後のことだ。

 

 

 





次回へ続く!

そして予告!皆さまもお馴染みの、あの人が登場します!

ヒントは《アポカドラス》。お楽しみに!



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特訓


今回は久しぶりに零人サイドのお話です!

シオウたちがゼロワールドにいる間の出来事です。

※今回は文字量が多くなってます。




 エンペラー達がゼロワールドに行ってしまった。だが俺にもやれることはある。

 

「トウカ先輩。デッキを貸してくれませんか?」

 

 ゲートのある駐車場からの帰り道、そんなお願いをした。ゼロワールドのデッキはエンペラーがいないので、まともに機能しない。今の俺には戦う術は無いのかも知れない。でも……。

 

「経験の浅い俺は学ぶことが多いはずです。……知識を得るのが、今、やるべきことなんだと思うんです」

 

「……そ、そうですね。エンペラーが、どんな仲間を連れてくるか……まだ分かりません……。い、色んなワールドの戦法に触れておくのは、良い判断かも……」

 

「零人、マジでやる気か?」

 

 ソウタは困ったような顔になった。無理難題を重ねているのだから、そういう表情になるのも分かる。

 

「……ああ」

 

 この返事にどれほどの気合いが入っていたのだろう。どこか埋まりきらない、心の隙間を感じた。しかし誰も気付いていないのだろう。疑問を告げる人はいなかった。

 

「なら『キャッスル』に戻るか!んで、トウカ先輩のデッキ使ってファイト三昧!どう?」

 

「ソウタにしてはいいこと言うね。雨でも降るんじゃない?」

 

「降らねぇよ!寧ろめっちゃ晴れるわ!」

 

「……なぁ、タスク。……さん」

 

 ぎこちなくタスクを呼んだ。年下にさん付けするのは初めてで慣れない。

 

「呼び捨てで構いませんよ?僕の方が年下だし」

 

 半端になった敬語が可笑しかったのか、タスクは笑ってくれた。考えてみればタスクが笑うのを初めて見た気がする。

 

「じゃあ、タスク……。俺の相手をしてくんない?」

 

「それは良いアイディアですね!と言いたい所なんですが……」

 

「何、やることでもあんのかい、タスクきゅ~ん?」

 

「ソウタ、ウザい。引っ込んでて」

 

「七瀬ちゃん怖っ!」

 

 暫く考え込んで、タスクがある提案をして来た。

 

「僕は少し仕事があって……すみません。でも、あの人なら、もしかしたら……」

 

「あの人?もしかして友達か?」

 

「いえ、バディポリスの凄く頼れる仲間です。僕と同じ、スタードラゴンワールドを使う人ですよ」

 

「あ!もしかして『流星の麗しき騎士』ですか?」

 

 七瀬が答える。何だ、その二つ名っぽいのは?しかもスタードラゴンワールドって……。

 

「連絡してみます。といっても五分五分かな……」

 

 そう言うと電話をかけ始める。全く誰か分からないので、七瀬に聞いてみることにした。

 

「なぁ、その『流星の……』何ちゃらかんちゃらって何なんだ?」

 

「『流星の麗しき騎士』のこと?ある人の二つ名だよ。聞いたことは無い?」

 

「んーと、……すまん」

 

 全く聞いたことが無い。だがソウタもトウカ先輩も、さっきから目を輝かせている。どうやら知らないのは俺だけらしい。

 

「“盛谷颯樹(さつき)”さんっていう、ファイトも強くて、優しくて、カッコいい人だよ」

 

「……た、確かこの前も、犯罪ファイターを倒して、ニュースに取り上げられてました、ね……」

 

「俺もあんなイケメンで強かったらな~」

 

 どうやら相当の実力者らしい。そして見た事は無いが、ソウタの意見には賛成しておこう。

 

「零人さん、許可が取れました。近くにいるそうで、奥さんと一緒に、『キャッスル』に向かうとのことです」

 

 マジか……。イケメンでファイトも強くて、バディポリス在籍で結婚してるって……。すげぇ勝ち組だな。

 

「……サ、サンキュー、タスク。……何だろうな、この気分」

 

「彼女無し、ファイトもそこそこ、顔はイケメンの俺でも負けた気がするな」

 

「無いわー。自画自賛とか無いわー。とりあえずお前バカってことでいいか?」

 

「いいと思うよ?ソウタって大概、ナルシストだもん」

 

「今日の七瀬ちゃんスゲー毒吐いてくる……」

 

「……ま、まあまあ。……あまり、責めないであげてください……」

 

 そうこうしている内に、俺たちは『キャッスル』に辿りついた。まだご夫婦は来ていないようだ。

 

「おーーい!タスクくーーん!」

 

 店の前で待っていると、タスクを呼ぶ声がした。

 

「七瀬ちゃーーん!お待たせーー!」

 

 次に七瀬を呼ぶ、女性の声。噂の奥さんだろうか。2人はこちらへ来ると、俺たちに爽やかな笑顔を見せた。

 

「えーと、君が無我零人くんだね。初めまして。僕は盛谷颯樹、どうぞよろしく!」

 

「妻の美奈(みな)です!これでも一応、バディポリスやってます!よろしくね!」

 

 うわぁ……。何て明るい雰囲気の人たちなんだ……。俺たちとはオーラが違うのが、その眩しさからも良く分かる。

 

「タスクくんから話しは聞いてるよ。ファイトの特訓がしたいんだって?」

 

「……あ、はい……そうです」

 

 何か違う。オーラではない別の何かが、この人の身体から溢れている。そんな気がした。

 

「ねぇ、これ何?いっぱい入ってるね」

 

「私たち、今日は一緒にお泊まりなんです!」

 

「……その為の、し、食材です……」

 

「えー!じゃあ女子会ってこと?いいな~」

 

 女性陣は既に盛り上がっているようだ。だが目の前のサツキさんは、それ以上に気分が高揚しているらしい。何となくだが、そう感じた。

 

「……サツキさん、早速なんですが……」

 

「ああ!稽古をつけてあげるよ!僕もファイトしたくてワクワクしてるからね」

 

「……お願いします!」

 

 

 

 *

 

 

 

 店内に入った俺たちは、空いているテーブルに座った。トウカ先輩のデッキを見る為だ。タスクは仕事がある様で、帰ってしまった。

 

「……す、すみません、たくさん、あるので……。す、好きなデッキを、使ってください……」

 

 大きめのケースに入っているデッキは18個。綺麗に小分けにされており、その一つ一つに対して、使用ワールドやデッキの大まかな情報が付箋で貼ってある。成程、トウカ先輩らしい。

 

「カタナワールドにダンジョンワールド、マジックワールド……。あ!このデッキ、私とファイトした時のやつですよね?」

 

「……は、はい。あれから、少し手を加えました……」

 

「あれ、スタードラゴンワールドのデッキは無いんすか?」

 

「……はい。中々、組むのが、その……難しくて……」

 

 ヒーローワールド、ダークネスドラゴンワールド、レジェンドワールド……。うーむ、困った。どれも試してみたいけど、今は昼の1時。皆の予定を考えると、せいぜい6時間が限界だろう。もっと時間が欲しい、と心から思う。

 

「……よし。まずはこのデッキ、お借りします」

 

「エンシェントワールドの[怒羅魂頭]だね!面白そう!」

 

 七瀬の声が弾んでいる。確かにこのデッキは面白い。サイズ3のモンスターの多くは、自身に攻撃対象を変える、“攻撃誘導”を持っている。これを使って防御をこなしつつ、アイテムとサイズ0と共に3~4回の攻撃を行なうのが定石……。あれ、なんで俺、こんな詳しいんだ?

 

「そういやお前、エンシェントのカード持ってたよな」

 

 確かに言われてみれば。ポケットからお守りを取りだすと、中身を引っ張りだす。《竜撓不屈》。【対抗】でライフを+2する魔法だ。

 

「うーむ、思い出せん……。でも、懐かしさはある」

 

「昔、使っていたとか?ちっちゃい頃によく遊んでたとか、ありがちだろ?」

 

 すぐそこまで出掛かっているような、でも上手く思い出せない。ただ、この属性のデッキは問題なく動かせる。

 

「デッキも決まったようだし、始めようか」

 

 ルミナイズはしないようだ。恐らくは込み入った事情も聞いているのだろう。ルミナイズできない俺に配慮してくれたようだ。

 

「お願いします……!」

 

 フラッグとバディを裏向きに置く。よくシャッフルし、デッキを渡して相手にもシャッフルしてもらう。デッキが返されると、手札を6枚引き、ゲージを2枚置いた。

 

「じゃあ行くよ?」

 

「「バディファイト!オープン・ザ・フラッグ!」」

 

「スタードラゴンワールド!バディは《流星帝竜 アポカドラス》!」

 

 初めて見るモンスター!全く効果が分からない以上、慎重に行かないと……。

 

「……エンシェントワールド。バディは《無天竜王 メラバクシン》」

 

 

 零人

 ライフ10/ゲージ2/手札6/デッキ42枚

 

 サツキ

 ライフ10/ゲージ2/手札6/デッキ42枚

 

 

「先攻は僕から。チャージアンドドロー。まずは《竜装機 ストレングス》を捨ててキャスト、《ドラグアームズ・ファクトリー》。2枚ドローだ!そして、デッキの上から1枚をこのカードのソウルに入れ、ゲージ2を払う……」

(G:2→3→1、手:6→4→6、墓:4)

 

 先攻1ターン目でいきなり来るのか!?飛ばしすぎだろ、サツキさん!

 

「センターにバディコール、《流星帝竜 アポカドラス》!ソウルに入った《竜装機 ピスカ・ピスカ》の効果でゲージ+1だ!更に【起動】効果でドロップゾーンの《大竜装機 トリプルバスター》をソウルイン!これでアポカドラスは攻撃力+3000、打撃力+1され、『貫通』を得た!」

(G:1→2、L:10→11、手:6→5、墓:4→3)

 

 流星帝竜 アポカドラス 

 サイズ3/攻8000/防6000/打撃2

 

 アポカドラスの打撃力は2+1で3。ここは受けておくか……。

 

「行くよ、零人くんに攻撃!!ダメージ3だよ!」

 

「くっ……。動きに無駄が無いな」

(L:10→7)

「僕のターンは終わり。君のターンだよ」

 

 場にはソウル2枚・防御力6000のモンスター。攻撃力なら突破できそうだけど、そう上手くいかないだろうな。ドローカードに託すか……!

 

「……ドロー。チャージアンドドロー。ライフ2を払って《天竜開闢》をキャスト、2ドロー。更に《竜王伝》でゲージとライフを+1して、1ドロー!」

(G:2→3→4、L:7→5→6、手:6→8)

 

「さあ、どう来るかな?零人くん!」

 

「ゲージ2を払い、デッキの上から1枚をソウルに入れて、ライトにコール!《義羅義羅竜王 マジガンリキ》!レフトに《ドラゴンキッド ザック》をコール、効果でゲージを+1。そしてゲージ1を払って装備、《青春甲 オトコナキ》!」

(G:4→2→3→2、手:8→5)

 

 3列攻撃態勢が整った。【貫通】が無いのが残念だが、とりあえずはこれでいい。

 

「アタックだ!マジガンリキでアポカドラスに攻撃!」

 

 防御力6000に対し、攻撃力8000。単体で超えられるはず……!

 

「キャスト、《マーズバリア》!無効化させてもらうよ!」

(手:5→4)

 

「なら、ザックとオトコナキで連携攻撃!攻撃力は4000+5000で合計9000!」

 

「マーズバリアじゃ連携攻撃は防げない、なら【ソウルガード】発動!ソウルのピスカ・ピスカをドロップゾーンに置くよ」

 

 アポカドラス:ソウル2枚→1枚

 

「……ターンエンド」

 

 

 零人

 ライフ6/ゲージ2/手札5/デッキ34枚/ドロップ5枚

 

 サツキ

 ライフ11/ゲージ2/手札4/デッキ37枚/ドロップ5枚

 

 

「ここからが本気だ!零人くん、耐えられるかな?ドロー!チャージアンドドロー!」

(G:2→3、手:4→5)

 

 このターンを耐える。簡単なようで難しい行為だが、やらなきゃ勝利は無い。

 

「まずはキャスト、《スタージャック・ブースト》!ゲージを+1して1ドロー!次にゲージ1を払って装備!《スターブレード エンペラー》!」

(G:3→4→3、手:5→4、墓:5→7)

 

 スターブレード エンペラー

 攻6000/打撃2

 

「アイテム装備してきた……!」

 

「アポカドラスの【起動】効果、発動!ドロップゾーンから《流星機 ドラグソラール》をアポカドラスのソウルへ!さあ、攻撃だ!アポカドラスをライトへ移動!」

(墓:7→6)

 

 アポカドラス:ソウル1枚→2枚

 

 来る……結構まずい感じの攻撃が……!

 

「アポカドラスでマジガンリキに攻撃、した時に能力発動!“瞬輝流星撃”!ゲージ1を払って相手の場のカード1枚を破壊する!対象はマジガンリキだ!」

(G:3→2、墓:6→7)

 

 マジガンリキ:ソウル1枚→0枚

 

「……はぁ!?無茶苦茶して来るな、サツキさん!【ソウルガード】だ!」

(墓:5→6)

 

「まだだよ。ドラグソラールの効果で手札を1枚捨て、1枚ドローする!捨てたカードは《流星機 グラヴィダージ》。効果でゲージ1を払い、ドロップゾーンのこのカードをアポカドラスのソウルに入れる!アポカドラスの攻撃力はトリプルバスターとグラヴィダージの効果で+6000された!」

(G:2→1、墓:7→8)

 

 アポカドラス:攻撃力8000+3000+3000=14000/ソウル2枚→3枚

 

 攻撃力14000……。何だ、そのパワープレイは!?

 

「オトコナキの効果!相手の場のカードが攻撃した時、サイズ3の[怒羅魂頭]がいるなら1ドロー。くっ……何も引けなかったか。マジガンリキは破壊されて、【ライフリンク2】によってダメージ2を受ける」

(手:5→6、L:6→4、墓:6→7)

 

「スターブレード エンペラーで攻撃!能力でアポカドラスをスタンド!その後に[竜装機]を2枚まで、ドロップゾーンからアポカドラスのソウルに入れる!《竜装機 フォルフェックス》、《竜装機 エルガーカノン》をソウルイン!」

(墓:8→6)

 アポカドラス:ソウル3枚→5枚

 

 おいおい……。打撃力が+1されて、トリプルバスターでも+1だから、打撃力4!?そんなのが再攻撃するのかよ!?

 

「フォルフェックスの効果でドラゴンキッド ザックを手札に戻す!そしてスターブレード エンペラーの攻撃中だよ!」

 

「……そういやそうだった!」

(L:4→2、手:6→7)

 

「これでトドメだ!アポカドラスで攻撃!」

 

「……キャスト!《怒羅魂頭参上!》手札の《炎魔連合 リーゼントホーン》をレフトにコール!【反撃】を与えて防御力を+2000し、攻撃対象をリーゼントホーンに変更する!……ぐっ!」

(手:7→5、墓:7→9)

 

 リーゼントホーンの防御力は2000、効果で上昇しても4000……。当然、破壊される。でもこれで、ファイトには負けない!

 

「やるね……。だったら、アポカドラスのソウルからグラヴィダージをドロップゾーンに置いてキャスト、《into the future…》。1枚ドローしてスターブレード エンペラーをスタンド!」

(手:4→3→4、墓:6→8)

 

 アポカドラス:攻撃力14000→11000/ソウル5枚→4枚

 

「……は?」

 

「スターブレード エンペラーで攻撃!効果でアポカドラスをスタンドして、ドロップゾーンのピスカ・ピスカとグラヴィダージをアポカドラスのソウルに入れる!ピスカ・ピスカの効果でゲージ+1、グラヴィダージの効果で攻撃力+3000!」

(G:1→2、墓:8→6)

 

 アポカドラス:攻撃力11000→14000/ソウル4枚→6枚

 

「ちょ……戻ったどころかソウル1枚増えたし!キャスト!《怒羅魂シールド 漢気の盾》!攻撃を無効化!」

(手:5→4、墓:9→10)

 

「アポカドラスで攻撃!」

 

「もう一回、《怒羅魂シールド 漢気の盾》!」

(手:4→3、墓:10→11)

 

「僕の場にソウル2枚以上がある[ネオドラゴン]がいるので、ゲージ1を払いキャスト!《ソウル・ジェネレーター》!アポカドラスを再スタンド!」

(G:2→1、手:4→3、墓:6→8)

 

「……ちくしょ、またスタンドかよ!?」

 

 手札を見るが流石にもう、防御札がない……。詰んだな……。

 

「どうやらもう防げないようだね。じゃあ、これでラストだ!アポカドラスで零人くんに攻撃!」

 

「……ライフで受けます」

(L:2→0)

 

 

 ゲームエンド!WINNER 盛谷颯樹!

 

 

 

 

 

 





今回出て来た、颯樹くんとオリカを紹介します!美奈ちゃんの紹介はすみません、次回とさせていただきます。後書きが長くなりすぎた……。

彼らは『穂乃果ちゃん推し』さんの小説からお借りしました!
穂乃果ちゃん推しさん、ありがとうございます!



盛谷颯樹
性別:男/年齢:26
誕生日:10月6日
性格:誰にでも分け隔てず優しくする温厚な性格
設定:高校2年生になった際に東京へと引っ越して来た。そして高校卒業後、バディポリスへと務め始めた。今では『流星の麗しき騎士』の二つ名がある。現在は美奈と共に生活をしている。
容姿:身長は170cmでバランスのとれた頭髪をしており、目が少々ツリ目になっている。基本的にバランスのとれた形を好み、不釣り合いな物は好んでいない。
好きな食べ物:カレーライス
嫌いな食べ物:特に無し
イメージCV:佐倉綾音
使用デッキ《飛翔する流星》
使用バディ〈流星帝竜 アポカドラス〉
使用ワールド〈スタードラゴンワールド〉



流星帝竜 アポカドラス
フラッグ:スタードラゴンワールド
種類:モンスター 属性:ネオドラゴン/星
サイズ3/攻8000/防6000/打撃2
■【コールコスト】君のデッキの上から1枚をこのカードのソウルに入れ、ゲージ2を払う。
■【起動】君のドロップゾーンのカード1枚を選ぶ。選んだら、このカードのソウルに入れる。この効果は1ターンに1回だけ使える。
■ "瞬輝流星撃" このカードが攻撃した時、ゲージ1を払ってよい。払ったら、相手の場のカード1枚を破壊する。この効果は1ターンに1回だけ使える。
【移動】【ソウルガード】

FT『星を極めし帝王は、星の魂を胸に……覚醒する』



スターブレード エンペラー
フラッグ:スタードラゴンワールド
種類:アイテム 属性:星/武器
攻6000/打撃2
■【装備コスト】ゲージ1を払う。
■このカードが攻撃した時、君の場にあるカード1枚を選ぶ。そのカードをスタンドして、ドロップゾーンにある《竜装機》2枚までをそのカードのソウルに入れる。
■このカードが場からドロップゾーンに置かれた時、君のライフを+1してカード1枚を引く。



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女子対決


今回は女子2人のファイトとなります!

主に七瀬の目線ですが、途中からは零人になります。
そういえば七瀬は何気に初ルミナイズですね。前は普通のカードゲームだったし。

では、どうぞ!



 零人くんとサツキさんがファイトをしている間……。

 

「さてと七瀬ちゃん、私たちはどうしよっか」

 

 彼らより少し離れたテーブルに座っていた美奈さんが訊ねてくる。ソウタもトウカ先輩も2人のファイトを見ている間に、無意識に彼らに近づいていってしまったのです。そのあおりを食らって、私たちは元のテーブルを離れました。

 

「うーん……。美奈さんには聞きたいことが色々ありますけど……」

 

「ん~?遠慮なんかいいって。高校生は悩むことが多いから、少しでも話した方が楽になるよ」

 

「じゃ、じゃあ遠慮なく。美奈さん!」

 

 自分でもびっくりするほど、声が通っっちゃった。横目で零人くん達を見ると、特に変わった様子は無い。どうやら集中していて気付いていないみたい。よかった……。

 

「その……。どうしたら美奈さんみたいに可愛くなれますか!?」

 

 我ながら突拍子もない発言だったけど、美奈さんはたじろぐことも無く、答えてくれた。

 

「いやいや、そんなでもないよ。寧ろ、七瀬ちゃんの方が可愛いよ?」

 

「いまいちピンとこないなぁ……」

 

「確かに自分じゃ気付けないかもだけど……。例えばさ、七瀬ちゃんはお化粧してる?」

 

「してませんよ?というかしたことなくて……」

 

 お母さん曰く「化粧に目覚めなかった」子だそうで、確かに記憶の中でそういったものを持った覚えはないんだよなぁ。

 

「なのにそれだけの美貌、末恐ろしいわね。男の子も黙ってないんじゃない?」

 

「うーん……言い寄られることはありますけど……」

 

 自分がさほどモテているとは思っていない。ただ何人かの男子は、「好きです」と伝えてきてくれる。確かに嬉しいことは嬉しいけど……。

 

「じゃあ自分も好きかと言われると、そうでも無くて……」

 

「ふむふむ。つまり七瀬ちゃんには好きな人がいる、と」

 

 にゅっ!?なぜそれを!?思わず身体が反応してしまう。

 

「てことは、七瀬ちゃんの周りの男の子は2人。どっちかな~?あっちの背の高い、ヘッドフォンをかけた子かな~」

 

 ソウタのことかな?確かに顔のレベルは高いし、ムードメーカーだけど……アホだしなぁ。

 

「反応薄いなぁ~。じゃあ今、サツキとファイトしてる方の子?ちょっとボサボサ頭で目つき悪いけど」

 

「そ、それは……。その、零人くんは、仲間ですよ?うん、仲間です」

 

 まずい。頭が真っ白になっちゃう。いや、落ち着け、私!

 

「あはは!七瀬ちゃん、分かりやすいね~」

 

 あ、これ完全にバレたやつだ。美奈さんがいたずらっぽく笑うので、次第に恥ずかしさが込み上げる。

 

「もう、美奈さん!からかわないでください!」

 

「ごめんごめん、あんまり可愛いからつい……」

 

 その時、向こうのテーブルから声がした。

 

「じゃあ、次はどうする?」

 

「今は[冒険者]主体のデッキだよな。よし!俺が選んでやるよ!えーと……これだ!」

 

「……あ、そ、それは、[黒竜]ですね……。“霊撃”が主体ですね」

 

「……よく分かんないけど楽しそうっすね。すんません、サツキさん。もう一回、お願いします……!」

 

「ああ!ダークネスドラゴンワールドの戦い方、しっかり覚えなよ!」

 

 どうやらまたファイトをするようだ。もう10戦以上はノンストップでやってるはず……。

 

「あーもう!俺もファイトしたいよー!!先輩、ファイトしよーぜ!!」

 

「ぅえええ!?い……いいん、ですか……?その、無我くんたちがファイトしてますけど……?」

 

「知らん!ファイトバカはやらせときゃいい!早くファイトしたい!」

 

「えぇ……。わ、分かりました……。すみません、少し相手、します……」

 

 ソウタ、めっちゃ駄々こねてる……。ふとトウカ先輩と目が合う。申し訳なさそうに頭を下げたので、大丈夫の意を込めて手を振りました。そして、心の中で合掌も。

 

「さて、七瀬ちゃん。向こうは楽しんでるみたいだから、久しぶりに私たちもファイトしない?ちょうど、ステージも空いてるみたいだしね」

 

「……もう、からかったりしません?」

 

「もう~、そんなことしないよ!……あの彼は悪くない相手だと思うけどね」

 

「美~奈~さ~ん!」

 

「アハハ!ごめんね、つい可愛くて。じゃ、ステージ行こっか!」

 

「……も~。この恨みは絶対、晴らしますからね!」

 

 

 

 *

 

 

 

「さ、始めよっか!準備はいい、七瀬ちゃん?」

 

 商店街のファイティングステージに立った。ファイトの相手はあの美奈さん。『天星の女神』という二つ名があるバディポリスの先輩……。すごく強いことで有名で、実は私、美奈さんの強さと可愛さにあこがれてバディポリスに入ろうと思ったんだ!まだ見習いだけどね!

 

「もちろんです!頑張ろうね、ケットシー!」

 

『ニャ!全身全霊、本気出すニャーー!!』

 

 美奈さんは強敵……。でも大会で優勝するには、美奈さんレベルの強さが欲しい所……。胸をお借りします!

 

「妖精は舞い踊る。輝く栄光、勝利のために!ルミナイズ!『シャイニング・フェアリィ』!」

 

「未来を掴みし竜よ……全てを超えしその力で、希望をその手に掴み取れ!ルミナイズ『コズミック・メテオール』!!」

 

「「バディファイト!!オープン・ザ・フラッグ!!」」

 

「レジェンドワールド!バディは《長靴を履いたケットシー》!」

 

「スタードラゴンワールド!バディは《天星竜 ヴァインスベルク》!」

 

 

 七瀬

 ライフ10/ゲージ2/手札6/デッキ42枚

 

 美奈

 ライフ10/ゲージ2/手札6/デッキ42枚

 

 

「私が先攻ですね。チャージアンドドロー!まずはセンターに《夢運ぶ彫馬 ダーラヘスト》をコール!効果でデッキの上から3枚をドロップへ置きます!」

(G:2→3、手:6→5、墓:0→3)

 

 ・置いたカード

 エリネドの指輪

 忠実なるユニコーン

 聖杯

 

「早速、ドロップを増やしてきたね。けど……」

 

 美奈さんが言いたいことは分かる。思ったより[妖精]が落ちない……!そればかりか防御魔法が2枚、ドロップゾーンに行ってしまった。あまり良い展開じゃない。

 

「だったら!ダーラヘストで美奈さんに攻撃!」

 

「きゃあっ!……なるほど。上手く落ちないなら、早めに決着を付けようって事だね?」

(L:10→8)

 

 バレてる!でもこんな落ち方なら、気付かれてもおかしくないか……。

 

「ターンエンド。美奈さんの番です」

 

「よーし、行くよ!ドロー!チャージアンドドロー!《超熱誕 マグマオーシャン》をセンターにコール!登場した時、デッキの上から2枚をドロップゾーンに置いて、ライフを1回復する!」

(G:2→3、L:8→9、手:6→7→6)

 

 超熱誕 マグマオーシャン

 サイズ2/攻4000/防4000/打撃3

 

 ・置いたカード

 竜装機 エルガーカノン

 竜装機 ストレングス

 

「マグマオーシャンでダーラヘストに攻撃!」

 

「わっ!ダーラヘスト!」

(墓:3→4)

 

「ふふっ、ターンエンド」

 

 あっぶな……。ヴァインが出たら美奈さんは手が付けられない程、強くなる。何とかその前に倒し切りたいな……!

 

 

 七瀬

 ライフ10/ゲージ3/手札5/デッキ38枚/ドロップ4枚(妖精2枚)

 

 美奈

 ライフ9/ゲージ3/手札6/デッキ38枚/ドロップ2枚

 

 

「ドロー!チャージアンドドロー!もう一回、ダーラヘストをセンターにコール!効果でデッキの上から3枚をドロップゾーンに置きます!」

(G:3→4、手:5→6→5、墓:4→7)

 

 ・置いたカード

 長靴を履いたケットシー

 メデューサの盾

 榛樹の獄卒 エールキング

 

「ライトにコール!《妖精界の靴職人 レプラコーン》!ドロップゾーンに[妖精]4枚以上があるので、このカードは【2回攻撃】を得ます!」

(手:5→4)

 

 妖精界の靴職人 レプラコーン

 サイズ2/攻5000/防4000/打撃2

 

 流石に、このターン中に倒し切れる程のダメージ量は無い。それでもこの布陣で行くしかない!

 

「ダーラヘストでマグマオーシャンに攻撃!」

 

「うっ!……マグマオーシャンは破壊された時にも効果が発動するよ!デッキの上から2枚をドロップゾーンに置いて、ライフ+1!」

(L:9→10、墓:2→5)

 

 ・置いたカード

 ソウル・ジェネレーター

 大竜装機 トリプルバスター

 

「レプラコーンで美奈さんに攻撃!」

 

「うっ!」

(L:10→8)

 

「【2回攻撃】!もう一度、美奈さんに攻撃!」

 

「きゃあっ!」

(L:8→6)

 

「……ターンエンド、です」

 

 削りきれない……!せめて半分と思っていたけど、まさかそれすら出来ないなんて。手札を使っていないのも気になる。一体、なぜ?

 

「ドロー!チャージアンドドロー!ふふ、七瀬ちゃんって隠し事とか出来ないタイプだよね?」

(G:3→4、手:6→7)

 

「ええっ!?き、急に何ですか?」

 

「ちょっと焦りが見えてるよ?せめてライフを半分にしたかったんじゃない?」

 

「うっ……それは……」

 

 図星だ。確かに私は割と顔に出やすいタイプらしい。前に任務で失敗した時にも、タスクさんに指摘されている。

 

「素直なのは悪くないけど、度が過ぎると心を読まれちゃうから、程々にね♪じゃあ行くよ?ドロップゾーンの《大竜装機 トリプルバスター》をソウルに入れて、ゲージ1を払い、ライトにバディコール!《天星竜 ヴァインスベルク》!」

(G:4→3、L:6→7、手:7→6、墓:5→4→5)

 

 ・ゲージから落ちたカード

 竜装機 レディアント・アルマ

 

『美奈の為に、私は負けません!』

 

 天星竜 ヴァインスベルク

 サイズ2/攻6000/防3000/打撃2

 

「トリプルバスターがソウルにあるのでヴァインは攻撃力+3000、打撃力+1されて【貫通】を得る!更にヴァインの登場時効果で手札1枚を捨て、このターン中、ヴァイン自身の打撃力を+1!」

(手:6→5)

 

 ・捨てたカード

 超源粒 クァンタムルーラー

 

 ・ヴァインスベルク 攻撃力6000→9000/打撃力2→4/【貫通】

 

 ヤバい!私が持っている防御魔法は《聖杯》1枚しかない!ヴァインが出て来た今、防ぎきれるか分からない!

 

「《竜装機 ガーベルアンカー》をセンターにコール!そしてヴァインに【星合体】!《超源粒 クァンタムルーラー》をレフトにコール!効果で私の場にソウルが1枚以上ある《ネオドラゴン》がいるなら、ゲージ+1して1枚ドロー!そしてゲージ1とライフ1を払い装備、《輝光星銃 ドラグナーパルス》!」

(G:3→4→3、L:7→6、手:5→4→3→4→3、墓:5→6)

 

 竜装機 ガーベルアンカー

 サイズ0/攻2000/防2000/打撃1

 

 超源粒 クァンタムルーラー

 サイズ1/攻4000/防1000/打撃1

 

「う……美奈さんとヴァイン、綺麗で強いなぁ……」

 

『ニャーー!!ニャニャせ、弱気になっちゃダメニャ!現実に戻るニャーー!!』

 

「ケットシー……。そうだね。ファイトが終わるまでは、負ける気なんて持たない!」

 

「いい顔だね、七瀬ちゃん!じゃ、行くよ!ヴァインでセンターのダーラヘストに攻撃!」

 

『今の私は打撃力4に【貫通】があります!受けなさい、“シャイン・ホーリーレイ”!』

 

「ダーラヘスト!ううっ!!」

(L:10→6、墓:7→8)

 

 一気にライフを4削られた。私が必死に足掻いてやっと、与えられたダメージと同じ数値。それをたった1回の攻撃で……!

 

「ゲージ1を払ってキャスト、《ソウル・ジェネレーター》!ヴァインをスタンド!もう一度、次は七瀬ちゃんに攻撃!」

(G:3→2、手:3→2)

 

 分かってる。私の使える防御魔法は1枚。ヴァインのソウルにはガーベルアンカーがあるから、キャストしたら即、打ち消される……。つまり、止められない……!!

 

「きゃあっ!!」

(L:6→2)

 

「じゃあ、これで終わり!ドラグナーパルスで七瀬ちゃんに攻撃!」

 

「うわぁぁぁ!!」

(L:2→0)

 

 ゲームエンド!WINNER 盛谷美奈!

 

 

 

 *

 

 

 

「うぉぉぉぉ!!すっげーー!!」

 

「2人とも美人だな~」

 

「ファイトカッコいい!!」

 

「確か2人とも、バディポリスだよね?」

 

 気が付くと沢山の人が、私たちのファイトを見ていたみたい……。熱くなって全く気付いてなかった。逃げるように私はステージを降りる。

 

「あちゃ~、すごいことになってるね」

 

「美奈さん!大丈夫ですか?」

 

 美奈さんも何とか降りてこれたみたい。美奈さんのファンは多いから、揉みくちゃにされないか心配だったけど、良かった……。

 

「いいファイトだったな、七瀬」

 

 その声に振り返ると、零人くん!?え、え、どういうこと?

 

「僕たちがファイト終わった頃、2人ともいなくてさ。ステージの方に人だかりが出来てたから多分、ファイトしてるんじゃないかって思ってね」

 

「サツキさん!すみません、勝手に……」

 

「いやいや、謝らなくてもいいよ。七瀬ちゃんもファイト、楽しかった?」

 

「はい、楽しかったです!……正直、悔しいけど」

 

 やりたいことが出来なかった。ろくに攻撃も防御も出来なかった。ケットシーを出すことも出来なかった。悔しい。私はまだ、弱い。

 

「……だったら、特訓だな」

 

「……え?」

 

「悔しいと思ったなら、まだ強くなることが出来るはずだ。『悔しい』は伸びしろを表す。強く思うほど、能力の余白がある。だから優秀な人に教えてもらって、自分の知識にすれば、今よりもっと成長出来る……。と誰かが言ってた」

 

「それ……誰が言ってたの?」

 

「……影薄い、ゼロワールド使いの地味な男」

 

 それを聞いて私は笑ってしまった。励ますの下手すぎ……この人は不器用なんだなぁ。

 

「……あー、あとさ、ナイスファイトだった。俺も負けてられないな」

 

 そういうと零人くんは、私の頭に手を乗せてきて――。

 

「七瀬は可愛いと思う。自信持てよ」

 

 小声だった。恥ずかしさがあったのかもしれない。伝えた後、早足で駆けて行ってしまった。

 

「よかったね、七瀬ちゃん♪」

 

「……不器用だなぁ、零人くん……」

 

 不思議と心が和らいでいく気がした。そうだ、悔しいだけじゃない。学べることはいっぱいあった。今度はそれを活かして、強くなるんだ。

 

「ありがとうございます、美奈さん!」

 

「こちらこそ!またファイトしようね!」

 

 私たちはしっかりと握手をしました!今度は、負けない!

 

 

 

 *

 

 

 

「……ありがとうございました、サツキさん」

 

「美奈さんもありがとうございました!」

 

「やっぱ凄かったっす!ドカーンて感じで、ズギャズギャズギャーーン!!みたいな!」

 

「……な、何を、伝えたいかは、分からなくは無い、かな……?」

 

「ははは!!ソウタくんは面白いな!」

 

「じゃあ皆、大会頑張ってね!応援してるよ!」

 

 俺たちは店の前で2人と別れた。特訓は早めに切り上げた。さすがにサツキさんたちを何時間も拘束するのは気が引けるし、女子会用の食材も痛ませたらまずい……というのが満場一致で決まったからだ。

 

「さて、俺らも帰りますか!」

 

 時間を見ると午後5時。どうやら4時間くらいはファイトしていたようだ。そこでふと、あることが気になる。

 

「……そういや2人とも、食材の方は大丈夫なのか?」

 

「その辺は大丈夫!ね、《アイスブレイド・ジョーカー》!」

 

『当然!アイスだけに冷やす、ナイスだろう?そういうのは、あ、いいっすか?アイスだけに?どうだ、寒いだろう?』

 

 ……何かまた面倒なのが……。あんまりダジャレも上手くねぇ……。

 

「……そいつは?」

 

「彼はアイスブレイド・ジョーカー。訳あって、とある人から預かってるの」

 

「とある人?」

 

「あんまり詳しくは話せないけど、バディポリスの協力者の1人だよ。すごくキレ者で、タスクさんの友達でもあるんだ~」

 

 タスクの友達で、バディポリスから信頼されている。何故だろうか、またイケメン登場の予感……。

 

「へ~。んじゃ、そいつの能力で食材を冷やし続けてたのか。あったま良いな!」

 

「……あ、あの、……何でその人は、彼を預けたんでしょう……?多分バディ、ですよね?」

 

 そういやそうだ。協力者なら恐らく、裏の世界に長けているだろう。バディがいた方が安心な筈だけど……。わざわざ危険な中へ丸腰で向かうなんて、無謀すぎる。

 

「ああ、それなら大丈夫だと思うよ?【角王】だし……」

 

「……【角王】?何それ?」

 

 七瀬は言ってからあからさまに焦り始めた。察するに、内密にすべき情報なのだろう。

 

「あ、その、き、聞かなかったことにして!お願い!」

 

「……いや別に、興味ないし。他言無用ってやつだろ?安心しろ、な?」

 

 俺が焦ってどうする!?何か泣きそうだし、この子!

 

「ぷっ……不器用すぎだよ……」

 

「はい……?」

 

 何か知らんが、笑った?良かった……泣かなくて。あぁもう、女の子ってよく分からんな!

 

「……じ、じゃあ私たちもここで……。戸村さん、荷物、持ちます」

 

「なら、こっちの軽い方を。力仕事も慣れてますから!」

 

「んじゃ、またなーー!!今度、うまい飯でも作ってくれなーー!!」

 

「……あはは、……今度、作ってきます……」

 

「じゃあ零人くん、またね!」

 

「……お、おう……またな」

 

 七瀬が笑顔で手を振る。その顔が、妙に可愛らしくて……。

 

「オイ、いつまでボーっとしてんだ?俺らも帰るぞ?」

 

 ソウタがニヤニヤしてやがる。何だ、一体?

 

「お前さ、ちゃんと気持ち伝えろよ?七瀬ちゃん、マジで人気スゲーから」

 

「……な!お、お、お前、何言って……」

 

「お前は何かボーっとしてる事が多いからな。早く手を打たんと、他の男に取られかねんぞ?」

 

「……うっせぇ!その時はその時だろ、あいつの好きなようにさせてやれ!」

 

「ムキになるなよ~、れ・い・とくん?」

 

「……明日、海に浮かべてやるよ」

 

「さらっと怖いこと言わないで!」

 

 俺たちはそのまま、店の前で別れた。エンペラーを送り出したり、ファイトしまくったり……。濃い1日だったな。

 

 

 

 

 





今回は美奈さんとヴァインの紹介です!


盛谷美奈(旧姓:星野)
性別:女/年齢:21
誕生日:10月7日
性格:素直で鈍感……たまにツンデレ
設定:以前は東京の女子校に通う高校2年生。今ではバディポリスで颯樹と同じAAAの称号を持っている。彼と共に事件を解決した事もあり、『天星の女神』という二つ名がある。颯樹と2ヶ月前に結婚し、今では2人で暮らしている。彼女がバディポリスに入隊するきっかけになったのは、夫である颯樹に危険なところを助けて貰ったため。彼への想いは誰にも負けておらず、その影響が使用デッキにも現れている。
容姿:栗色のショートカットで、垂れ目になっている。身長は入隊時よりも3cm伸びていて巨乳は変わらず。普段は青系統の落ち着いた色合いの服を好んで着る。
好きな食べ物:フルーツ全般
嫌いな食べ物:特に無し
イメージCV:水樹奈々
使用デッキ:《コズミック・メテオール》
使用バディ:〈天星竜 ヴァインスベルク〉
使用ワールド:《スタードラゴンワールド》



天星竜 ヴァインスベルク
フラッグ:スタードラゴンワールド
種類:モンスター 属性:ネオドラゴン
サイズ2/攻6000/防3000/打撃2
■【コールコスト】君のドロップゾーンのカード1枚をこのカードのソウルに入れ、ゲージ1を払う。
■場のこのカードは相手のカードの効果で破壊されない。
■このカードが登場した時、君の手札1枚を捨ててよい。捨てたら、そのターン中、君の場のカードの打撃力+1。
【移動】【ソウルガード】



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真実の一端


今回は再び、シオウ達の物語です。

少しだけゼロワールドについての謎が明かされます。

では、どうぞ!



 さて、ようやく話しが進むと思ったが……。

 

「さすがにここで、込み入った話はまずいか」

 

『む、確かにそうだな。子どもたちもいる』

 

『ならばあの子たちはカウントに。彼なら適任かと』

 

 そう言うとデュークはカウントと更にもう1体、別のモンスターの名を呼んだ。

 

『バロン、カウントを見ておいて下さい』

 

『お任せ下さい。あの者は何をしでかすか分かりません……。十分に注意致します』

 

「デューク殿、そちらは?出迎えのときには見なかったけど」

 

『これは失礼。私は《ゼロ・バロン》と申します。料理を作っていたので手が離せず……。申し訳ありません』

 

 これはまた真面目そうなのが現れたな。しかもあの豪華な料理を、1人で作ったのか?

 

『では任せましたよ。シオウ様は私たちと共に。話すにはうってつけの場所があります』

 

「城内にそんなトコがあるのか?」

 

 

 

 *

 

 

 

 部屋を出た俺たちは、長い廊下を無言で歩いていた。中庭に目をやると色鮮やかな花が咲いていた。

 

 空は変わらず曇ったまま。それでも先程より少し暗いと感じた。先頭にはエンペラー、その横にデューク。そして少し離れて、俺がいる。

 

「なあ、まだ着かないんかー?」

 

 返答は無い。先程より歩幅が狭く、心なしか動きが固いように思える。無視ではなく精神統一のような、そんな雰囲気だ。そんなことを考えている間に、ある扉の前で2人は止まった。

 

『到着しました。こちらが先代の王の間でございます』

 

「先代……。っつーことは、エンペラーの前のエンペラー?」

 

『具体的に言えば、我が父ということだ』

 

 父親!?エンペラーは直系の王族ってことなのか。でも退いたってことは父親は、もう……。

 

『先代は11年前に亡くられました……』

 

 やはりそうか。でも、だとすると何故、先代の部屋で話しをするんだ?

 

『見せたいものがある。できれば零人にも立ち会ってもらいたかったが』

 

 そう言いながらエンペラーが扉を開ける。2人が部屋に入るのを見計らって、俺も足を踏み入れた。

 

 瞬間、強烈な力が室内から、向かって来るような気配がした。

 

 何らかの力で髪が揺れ動く。これは風じゃない。もっと強い、プレッシャーのような……。

 

『シオウ、どうした。入ってこい』

 

「あ、ああ」

 

 エンペラーの呼びかけで我に帰った。脂汗が顔を覆っている事に気付く。何だったんだ、今の感覚は?飯を食った部屋では何も感じなかった。明らかにここだけが違う。

 

『まさか、感じ取ったのですか?《ゼロフォース》を……』

 

「《ゼロフォース》?ああもう、またよく分かんないのが出てきやがったよ」

 

『まあ落ち着け。とりあえずそこの椅子にかけてくれ。立ち話では疲れるだろう』

 

 想像していた豪華なそれとは違い、大量の本や資料が棚に収納されている。量が多いからか、床にも雑多に置かれていた。

 

 エンペラーに言われた椅子を見ると、高級そうな材質のものが幾つもあった。彼は悠然とその1つに座る。……ブルジョワすぎて何も言えねぇ。まあ容赦なく座るんだけどね!

 

「そんじゃお言葉に甘えて、よっこいしょっと。さて早速お話しと行きましょうか、お2人さん」

 

『そうだな。しかし我らも分かる範囲しか答えられない。そこは勘弁してくれ』

 

「百も承知だよ。そんじゃあ最初は、この世界について教えてくれ」

 

『ああ。では聞くがシオウよ、お前はゼロワールドとは何を指しているのか、分かるか?』

 

 不意に投げかけられた問いに、思考が一時停止してしまった。何だ急に?

 

「え……。何って、ここじゃないのか?今、俺たちがいるこの時空が、ゼロワールドだろ?」

 

『それは違う。お前の言うこの時空には、名前は無い』

 

「名前の無い時空……?つーことは、ゼロワールドってのは一体……」

 

『世界の名前ではなく、コミュニティの名前……と言ったところか』

 

「なっ……。どういう意味だ、それ!?」

 

『我らはそもそも、別のワールドから来たモンスターが集まっただけ。故に出身も種族も違う。だが我らは今、“ゼロワールドのモンスター”で属性“ゼロ”となっている。何故か?』

 

 その質問が意味することは何か。少し考えてふと、あることを思い出す。それは部屋に入った時の感覚。それは驚いた表情のデュークの発言。

 

「まさかさっき言ってた、《ゼロフォース》ってのが関係してるのか?」

 

 その単語にデュークは驚き、エンペラーは目を閉じて微笑む。やがてエンペラーから『正解だ』と告げられた。

 

『やはり感じていましたか。この部屋に残る《ゼロフォース》を……』

 

「軽くだけどな。それでも凄く強いチカラだったよ」

 

『それもそうだろう。我が父の力だからな、我とは比べ物にならん』

 

『《ゼロフォース》には選んだものを無に帰す、つまり消してしまう作用があります』

 

「そうか。その力で他のワールドから来たモンスターの持つ情報を失くして、新たに属性を与えたのか」

 

 そこまで話して、新たな問いを投げかける。

 

「なあ、どうしてモンスター達は他のワールドからこの世界へ来たんだ?何故、ゼロワールドなんて集まりを作った?わざわざ情報を消して、何が目的なんだ?あの施設は誰が建てた?あそこで何をしていた?天井の名前の意味は?」

 

 散々言い終えた後で気付いた。聞きたいことが多すぎだろ、俺。つーか謎すぎだろ、こいつら。

 

『疑問が山積みだな。まあいい、答えられる分は答えよう。まず施設の件は済まない。我らはあれが人間によって建てられた、としか知らない』

 

 え……?今、さらっと重要なこと言わなかったか、こいつ?

 

『確か6年前。父のバディの友人が建てたと記憶しているが……』

 

「おい、それって無我有作(ゆうさく)と無我春菜(はるな)じゃないのか?科学者の!」

 

『……無我とはまさか、零人の亡くなった両親か!?その名は聞いたことは無いが……。デューク!』

 

『いえ、そのような方々はいませんでした。名前は確か……闘導(とうどう)オサム、だったかと』

 

 オサム……。その名前に聞き覚えが2つあった。1つはあの施設の天井にあった名前。そしてもう1つは……。

 

「カグラオサム……!」

 

 ワールディアス・インシデントに関わる資料、カグラレポートを書いた人物。現在は生死不明のその人物と同じ名前が出てくるとは……。しかも、闘導オサムは無我夫妻とも繋がっている可能性がある。カグラオサムも同じく、2人を協力者としていた。

 

「コミュニティ、ゼロフォース、オサム……。まだはっきりとした繋がりは無いが、何かあるな。間違いなく」

 

『そう言えばゼロフォースについて、先代が仰っておられました。“我らは集まるべくして集まった。あの敵と戦う為に”と』

 

「敵……まさかワールディアスか!?」

 

 そうなると11年以上前、ワールディアスと戦う為に各ワールドから集ったモンスターに対し、ゼロフォースを使ったということか?そして11年前、事件が起きた。同じ頃に先代も死亡。そこから5年後にこの地に闘導オサムがやって来て、施設を造った……?

 

『全てはワールディアスとやらに繋がっているようだな』

 

「もうちょい情報が欲しいな。後でもう一度施設に行くつもりだけど、エンペラー殿とデューク殿も付いて来てくれ――」

 

 その時、不意に窓が揺れた。間髪いれず、大きな音が耳を劈く。

 

 俺はこの現象を知っている。爆発だ。外を見ると、件の施設の方が赤く輝いている。

 

『何が起こったのだ!?』

 

『あれは爆発!?あの方向には施設があります!』

 

「確かめに行くぞ!ガキ達は……」

 

『すまんシオウ、カウントとバロンに子どもたちと城の守護をするよう伝えてくれ。我とデュークで現場に向かう!』

 

「分かった。俺はイデアを連れていく。チンタラしてらんねぇ、先に行ってろ!」

 

 扉を乱暴に開け、元来た道を走る。くっそ、何が起きた?あの付近に爆発物なんて無かったぞ?暴れるようなモンスターもいなさそうだし……。

 

 零人たちや応援のバディポリスではないハズだ。ゲートが完全には閉まっていないのを知っているのは、俺とイデアだけ。となると他の誰かががゲートをこじ開けて来たのか!?そうだとすると考えられるのは――。

 

「まさか、敵?」

 

 ワールディアスかその仲間に知られたことになる。ゲートも、この世界も。

 

 最悪の数歩手前ってとこか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





いよいよ事態が動こうとしています。

過去と現在を繋ぐ謎。ワールディアスの、作者の目的は何なのか?そもそも作者にそんなものあるのか!?

次回へ続きます!



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エンカウンター ―脅威―


ゼロワールドを襲ったのは?今回はその部分が明かされます。

後、余談ではありますが、この物語においてコアガジェットは限られた人物しか持っていない事とします。ご了承ください。

では、どうぞ!



「イデアーー!!」

 

 ほぼ同時に、再び爆発音がする。通路から施設の方を見ると、炎が煌々と揺らめいている。

 

「……おい、どういう事だよ?」

 

 そこで気付いた。さっきよりも燃焼範囲が広がっている?くっそ、時間からしてあまりにも早すぎる。……てことは自然発火じゃない、人為的な火災か!

 

『シオウ!!何だ今の音は!?』

 

 中庭に出られる道のある、先程も通った場所でイデアと遭遇した。

 

「イデア!ガキ達はどうした?」

 

『眠っている。我が秘伝・眠りのツボを押したからな、8時間は起きないだろう』

 

「カウントとバロンは?まさか出ていったんじゃあ」

 

『我が頼んでおいた。子どもと城を護れとな』

 

「グッジョブだ、イデア!」

 

 さすがにコイツも緊急事態だと判断したらしい。いざとなれば動きは速い。……普段からこれ位、動いてくれればなぁ。

 

『それであれは!?施設の方から出火しているのか?』

 

「ああ。しかも燃焼速度が尋常じゃない。たった2回の爆発でこの状況だ」

 

『空気はそれ程、乾燥していない。油か何かが撒かれていたのか?』

 

「いや。多分、何者かの襲撃……」

 

 その言葉にイデアが驚愕する。敵の襲撃となれば、地球へ帰る為に僅かに開けておいたゲートを利用されたことになる。しかし開けていなければ唯一、地球と繋がるゲートを失ってしまい、帰れなくなる。重大なミスとは言えないが、ショックを受けるのも当然だろう。

 

『くっ……我としたことが……。このミスは取り返す、その襲撃者を捕らえてやろうではないか!』

 

 切り替え早っ!まあその位じゃなきゃやってられないからな。

 

「よっし行くぞ!イデア、バディスキル頼むぜ!」

 

『任せろ!ポゥッ!!』

 

 コアデッキが拳銃型に変わると、俺の足元に楕円型の光が生成される。その上に乗ると、後は俺の意思で飛行速度・高度を操るだけ。

 

「……Go to work」

 

 俺たちは中庭から出ると、曇天の闇へ向かった。行く先を見つめる。前方、赤い輝きが視界に入った。全速前進、速度は80キロ。多分、数分で着くはずだ。

 

「進めぇぇぇ!!」

 

 体が一瞬、軽くなるような感覚がした。進むたびに空気が強引に割かれていくのが分かる。耳に入るのはその際の音だけ。目が乾かないように薄目にしているのに、それでも涙が眼球を覆っていく。体は少し、冷え始めていた。

 

『速度80キロで安定。約5分で現場に到着予定!』

 

 イデアがテレパシーを使う。これなら耳が使えなくても意思疎通が出来る。

 

「くっそ、もうちょい速度出ねぇか!?」

 

『無茶だ、今ですら限界なのにこれ以上は、身体がもたないぞ!』

 

 

 

 *

 

 

 

『エンペラー様、間もなく例の施設です!』

 

『うむ!見えておる!……ん?』

 

 先に向かっていたエンペラーとデュークだったが、もう100メートル程で現場に着くという所で、2人が動きを止めた。

 

「待っていましたよ。《ゼロ・エンペラー》、《ゼロ・デューク》」

 

『この辺りを焼けば、慌てて来るだろうと思っていたよ』

 

 闇に紛れるように、その少年は宙に立っていた。フードで隠れていて顔は確認できないが、黒ずくめの格好をしている。エンペラーは彼に見覚えがあった。

 

『貴様、あの時の……』

 

 無我零人と出会ったあの日。バディカード管理庁へ向かっていた彼らを襲撃した、黒フードの男だ。

 

「覚えていてくれたんですね?嬉しいです、本当に」

 

『なぜ貴様がここにいる?この炎はお前たちの仕業か?』

 

「だからそう言ったでしょ。僕のバディが」

 

 先程から黒フードの背後にいる竜が目つきを鋭くする。よく見ると上半身は黒く、対して下半身は白い。背中と腰辺りに見られる翼は、体色と同じ色をしている。

 

『僕は《パラダイス・ロスト》。今後ともよろしく』

 

「それで1つ目の質問。なぜ僕らがここにいるか?だっけ?そんなの簡単さ」

 

『命令されたからね、ワールディアス様に』

 

「ほうほう、そんで?その、ワーなんとかっつーのが何を命令したって?アァ!?」

 

 後ろから声がした。振り向くとそこには、光の上に乗る竜神シオウがいた。かと思う間もなく、強い風が吹き荒れた。同時に、先程とは比にならない程の爆発音が耳を(つんざ)く。

 

『シオウ、消火はしたぞ!』

 

「サンキュー、イデア」

 

 シオウが親指を立てる。イデアと呼ばれた巨大な白色の竜も、それに合わせて同じポーズをとる。

 

『な、何だ、今の爆発は?』

 

『聞いたことがあります。確か、爆風消火という方法です!』

 

「デューク殿、正解!イデアに頼んでおいたんだ。現着したら周りを吹き飛ばせ、ってな」

 

『火を吹き飛ばし、周囲を破壊することで延焼を防ぐ。規模の大きい火災に有効な手段の1つだ。ちなみに、かなりパワーを使ったから疲れた!』

 

「帰ったら、たらふく飯を食わせてやるよ」

 

『おう!頼むぞ、我がバディ!』

 

 口調はいつも通りながら、SD化を解いたイデアは大きな翼をはためかせた。闇を照らすような真っ白な身体は、空を覆ってしまうかと思うほど大きく、そして輝いていた。

 

「へぇ……面白いなぁ。せっかく燃やしたのに、苦労が水の泡だ。……本気、出さないとなぁ」

 

 少年がフードを脱いだ。シオウの目に金髪が映る。その時、彼の目がオッドアイであることに気付いた。右目が青で、左目が赤。その鋭い目つきからは、先程の多少は温厚そうな雰囲気からはかけ離れた、殺意が溢れている。

 

「おい、おっさん!アンタが竜神シオウだろ!?俺とファイトしろよ!」

 

「……こいつ、キャラが変わりやがった?」

 

「あぁ!?自己紹介がまだかよ、メンドくせぇな。……俺はアルマードで、さっきのはドラコ。2人合わせてドラコ・アルマードだ」

 

「つーことはお前、人格が2つある、のか……?」

 

「そんなことはいい。俺とファイトするのか!?するよなぁ!?しねぇと、ぶっ殺す!!」

 

 殺意というより最早、狂気といってもいい。アルマードと名乗った少年は所謂、バトルジャンキーというタイプなのだろう。

 

「……分かった。受けて立つぜ、その挑戦」

 

「いい度胸だ。死ぬのが分かってて乗るなんてな!」

 

『シオウ、必ず勝ってこの者たちを捕らえるぞ!』

 

『やってみなよ、見かけ倒しの創造神竜さん』

 

 お互いにコアデッキを構える。シオウは拳銃型、アルマードは手甲型のガジェットに変化した。

 

「古の理が世界を生み、新たな理が希望を創造する!ルミナイズ!『創造の神撃』!」

 

「黒く塗りつぶされた欲望で敵を食らえ!『黒転葬獄』、ルミナイズ!」

 

『このゼロ・エンペラーがファイトを取り仕切ろう。バディ、ファイッ!!』

 

「「オープン・ザ・フラッグ!!」」

 

「エンシェントワールド!バディは《創造神竜 イデアライズ・ドラゴン》!」

 

「灼熱地獄!バディは《変貌を迎えし竜 パラダイス・ロスト》!」

 

 シオウ

 ライフ10/ゲージ2/手札6/デッキ42枚

 

 アルマード

 ライフ8/ゲージ4/手札6/デッキ64枚

 

『先攻はシオウ!』

 

「お前が決めるのかよ!」

 

『ナビゲートもそう言っているだろう?』

 

 確かにコアガジェットから流れる音声ナビゲートは、シオウが先攻であることを伝えている。

 

「本当だ……勘のいい王様だなぁ。ま、いいか」

 

 シオウはコアガジェットを持ち直し、引き金に手をかけた。彼のカード操作は、銃の発射を模している。ドローやコール、キャストの度に1回、引き金を引くのだ。ちなみに、チャージに関しては従来と同じく、手での移動となる。

 

「さてと、始めますか。チャージアンドドロー!」

 

 曇天の闇に乾いた音が一発、響いた。

 





さあ、やっと次回はシオウのファイトになります!

そして相手は地獄。これまた書くのが大変です……主にドロップとデッキ枚数。

次回に続きます!




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エンカウンター ―戦闘―

やっと今回、シオウのファイトとなります!

そして遂に触れてしまった恐怖……灼熱地獄!本当に地獄です。

地獄は、物書きには本当の意味で地獄だと悟りました。


いつも通り、間違いがあれば教えていただけると幸いです。

では、どうぞ!



「チャージアンドドロー!《創造神竜の肉体 ソーマ》をセンターにコール!」

(手:6→5)

 

 創造神竜の肉体 ソーマ

 サイズ1 攻1000/打3/防1000

 

「ソーマでパツキン坊やに攻撃!」

 

「デッキの上から3枚をドロップゾーンに置いて、キャスト!《シャドウ・クルセイダー》!そのダメージを3減らす!……おい、誰がパツキン坊やだ!」

(手:6→5、墓:0→4)

 

 ・置いたカード

 インフェルノ・ルール

 裁きの門 ‐ジャッジメント‐

 地動黒竜 ソールヴァーグ

 

「いいねぇ。ドロップゾーンにもう4枚、良い動きだ。ターン終了!」

 

「無視かよ!?まあいい、ドロー!チャージアンドドロー!キャスト、《ダミアンズ・ディシジョン》!デッキの上から2枚をドロップに!その中に[地獄]があるのでデッキの上から1枚チャージして、1ドロー!」

(G:4→5→6、手:5→6→5→6、墓:4→7)

 

 ・置いたカード

 剣角の獄卒 ザギュラス

 乱獲の獄卒 走狗

 

「うんうん、そんで?」

 

 アルマードが怒りを見せている。もしかしてパツキン坊やが気に入らなかったのか?俺は結構、好きだけど。

 

「さっきから腹立つ野郎だ!センターに《乱獲の獄卒 走狗》をコール!“棘網漁”の効果で、デッキの上から2枚をドロップに置く!その中に[地獄]があるので1ドローだ!更にゲージ1を払い、《剣角の獄卒 ザギュラス》をライトにコール!効果でデッキから《裁きの門 ‐ジャッジメント‐》1枚を手札に加える!」

(G:6→5、手:6→5→6→5→6、墓:7→9→10)

 

 乱獲の獄卒 走狗

 サイズ1 攻2000/打2/防2000

 

 剣角の獄卒 ザギュラス

 サイズ1 攻5000/打2/防1000

 

 ・置いたカード

 剣角の獄卒 ザギュラス

 地獄槍 ゲヘナグレッチ

 

 ・ゲージから置いたカード

 鬼道 地獄絵図

 

「いいね!デッキを減らしつつ、ドロップを肥やす……」

 

「あぁもう、うるせぇ!設置、《裁きの門 ‐ジャッジメント‐》!【起動】効果でデッキの上から2枚をドロップだ![地獄]があるからデッキの上から1枚チャージ!ゲージ1を払い、《鬼道 緋しぐれ》をキャストする!デッキの上から2枚をドロップして、1ドロー!ドロップゾーンに15枚あるので、更に1ドローだ!」

(G:5→6→5、手:6→5→4→6、墓:10→12→15)

 

 ・置いたカード

 変貌を迎えし竜 パラダイス・ロスト

 ヘルズシールド 奈落の盾

 ダミアンズ・ディシジョン

 斬首の獄卒 ブルジェリア

 

 ・ゲージから置いたカード

 榛樹の獄卒 エールキング

 

 ふむ。今の所は順当にドロップゾーンを増やしている。基本の動きだが、しかし普遍的だ。コイツは荒々しい言い方をしているが、恐らく……。

 

「ゲージ1を払って装備!《地獄槍 ゲヘナグレッチ》!ゲージ2を払い、デッキの上から1枚をソウルに入れて、ライトにバディコール!《変貌を迎えし竜 パラダイス・ロスト》!バディギフトでライフ+1させてもらうぜ!走狗とザギュラスは押し出しでドロップゾーンに置かれるぜ!待たせたな、オッサン!アタック入るぜ!」

(G:5→4→2、手:6→5→4、墓:15→16→18→20)

 

 地獄槍 ゲヘナグレッチ

 攻4000

 

 変貌を迎えし竜 パラダイス・ロスト

 サイズ3 攻7000/打2/防6000

 

 ・ゲージから置いたカード

 鬼道 血喰い鳥

 斬首の獄卒 ブルジェリア

 我流 牙滑り

 

「誰がオッサンだ、まだ29だぞ!」

 

「ハッ、やっぱオッサンじゃねぇか!まずは俺から行くぞ!ゲヘナグレッチでソーマに攻撃!」

 

 見た所は普通のアイテムだな……。ここは受けざるを得ないか。何もしないことを選択すると、槍を持ったアルマードがソーマを貫く。

 

「受ける事を選んだな?バーカ!食らえ、【貫通】だ!」

 

「な……マジか!ぐはぁっ!」

(L:10→8、墓:0→1)

 

「ゲヘナグレッチは俺のドロップゾーンに10枚以上あるなら、攻撃力+3000と【貫通】を得るんだよ。更に20枚以上なら【2回攻撃】も持つ!つー訳でスタンド、【2回攻撃】!」

 

 ゲヘナグレッチ:攻4000→7000

 

「ちょっ、うわぁぁぁ!!」

(L:8→6)

 

「パラダイス・ロスト!ファイターに攻撃!ちなみにコイツも、ドロップゾーンに10枚以上あれば【2回攻撃】を得るんだよ!」

 

 待てコラァ!そんなに連続で来るもんなのかよ!

 

「がぁぁぁ!!……くっそ、まだもう一発……」

(L:6→4)

 

「オラ!お待ちかねのもう一発だ!」

 

「……グッ、ハァッ……!!」

(L:4→2)

 

「チッ、しゃーねぇな。ホントはもう一撃、欲しかったんだが……。ターンエンド」

 

 

 シオウ

 ライフ2/ゲージ3/手札5/デッキ42枚

 

 アルマード

 ライフ9/ゲージ2/手札4/デッキ44枚/ドロップ20枚

 

 

 あっぶねぇ……。そう言えばゲヘナグレッチは、ドロップゾーンに30枚以上で【3回攻撃】になるんだっけか。もうあと10枚あったらヤバかったな。

 

「よぉ。さっきは悪かったな、パツキン坊やとか言っちまって。……クソ真面目くんに改名してやんよ」

 

「ああん!?喧嘩売ってんのか、テメェ!」

 

「まあ、そうカッカしなさんなって。いやね、お前を見てると思うんだよね。アルマード、お前が後から生まれた人格じゃないか?ってな」

 

 明らかにアルマードの表情に動揺が見られた。その顔が、この予測の正しさを物語っていた。

 

「本当の人格はファイト前の方。ドラコなんだろう?」

 

「……うるさい」

 

「ドラコの人格から生まれた分、その部分が残って無意識にプレイに出てる。荒々しい言葉遣いをしていても、基本に忠実。真面目だねぇ~」

 

「うるさい……!」

 

「今、ドラコくんは意識が無いのかな?彼の真面目っぷりが見たいんだけど、変わることは出来ない?」

 

「うるさぁぁぁぁい!!」

 

 ありゃ、キレちまったか。アルマードの方は短気な性格なのかな。

 

「絶対、ぶっ殺す……!!次のターンで、必ずな!!」

 

「あー……。悪い、多分それ無理」

 

「ああん!?何、調子こいてんだテメェ!!ハッタリもいい加減にしろ!!」

 

「ハッタリじゃないさ。このターンで君は負ける。見せてやるよ、ドロー!チャージアンドドロー!」

(G:3→4、手:5→6)

 

「耐えてやる……耐えて、次のターンに繋ぐ!」

 

「行くぜ?ゲージ2を払い、ドロップゾーンのカード1枚をソウルに入れて、センターにバディコール!《創造神竜 イデアライズ・ドラゴン》!バディギフトでライフ回復!」

(G:4→2、L:2→3、手:6→5、墓:1→0→2)

 

『やっと出番か!ウォォォォ!!』

 

 創造神竜 イデアライズ・ドラゴン

 サイズ3 攻9000/打2/防8000

【ソウルガード】【ライフリンク5】

 

 さて、まだやることがある。さすがにイデアを出しただけでは勝てない。

 

「キャスト、《竜王伝》。ゲージとライフを+1して1ドロー。さ、行こうか。アルマードに攻撃だ、イデア!」

(G:2→3、L:3→4、墓:2→3)

 

『心得た!悪しき魂よ、その者より消え去れ!』

 

 イデアが雄大な翼をはためかせた。風が吹き荒れ、アルマードへのダメージとなる。

 

「ぐっ……。ハッ!その程度かよ、ザコ野郎が!」

(L:9→7)

 

「ここからだよ。イデアの【対抗】効果、発動!ライフ2を払い、手札かデッキかドロップゾーンからカード名に「イデア」を含むモンスター1枚を【コールコスト】を払わずにこのカードの上に重ねてコールする!デッキから《イデアライズ “モード・ストライク”》を、イデアの【ライフリンク】を無効化して重ねる!」

(L:4→2)

 

 イデアライズ “モード・ストライク”

 サイズ3 攻10000/打3/防7000

【ソウルガード】【2回攻撃】【ライフリンク6】

 

 イデアの右手に巨大な、パイルバンカーが生成される。本来は実用性のない武器だが、風の精霊の力がこもっている為、どんな壁でもぶち破る威力を得ている。

 

「何!?……いや、見た事あるな。確か《ジャックナイフ・ドラゴン》も似た効果を持っていたな……」

 

「あったり~!ジャックナイフ一族に別形態への変化能力を与えたのは、イデアだからな。似ててもおかしくないと思うぜ?」

 

 とは言ったものの、俺も真偽は分からない。あくまでもイデアの発言だけが唯一の証拠だ。

 

「そんじゃイデア、アルマードにアタック!」

 

『今の我はモード ストライク!この右手で貴様を貫こうぞぉぉぉ!』

 

「甘いんだよ!ゲージ1を払いキャスト、《ヘルズシールド 奈落の盾》!攻撃を無効化、ドロップゾーンに10枚以上あるのでゲージ+2!更に15枚以上なら、テメェにダメージ1!」

(G:2→1→3、手:4→3、墓:20→22)

 

 ・ゲージから置いたカード

 鬼道 緋しぐれ

 

「がっ……!!」

(L:2→1)

 

 ヘルズシールドから発された光が、俺を貫いた。これで俺はライフ1。もう後が無い。

 

「面白れぇ!イデア、もう一撃だ。【2回攻撃】!」

 

『一度でダメならもう一度!』

 

「チッ……しゃーねぇ。うわぁぁぁ!!」

(L:9→6)

 

「イデアの効果!ダメージを与えたので、イデアのソウル1枚をドロップゾーンに置く!そんで、パラダイス・ロストを破壊だ!更に破壊したモンスターの打撃力分のダメージを与える。2ダメージを食らえ!」

 

 イデアが口を開く。急激に光が集まって――パラダイス・ロストに向かって発射された。

 

『くぅ……【ソウルガード】!』

 

「くっそぉぉぉ!!ハァ、ハァ……。どうした、もう終わりか!まだ俺のライフは残ってんぞ、オラァ!」

(L:6→4)

 

「言ったろ?このターンで終わりだって……。よく見とけよ、創造神竜さまのガチモードを!ファイナルフェイズ!!」

 

 俺は、上空のイデアにガジェットの銃口を向ける。引き金を引くとカードが1枚、発射された。それがイデアに命中すると、その身体が輝きだした。

 

『これが我が真なる力!とくと思い知れ、小さき器よ!』

 

「ゲージ3を払い、イデアの【ライフリンク6】を無効化してドロップゾーンに置いて、センターに必殺コール!!」

(G:3→0)

 

「ひ、必殺モンスターだとぉ!?」

 

「《イデアライズ “ゴッド・ビルド・インパクト!”》!!こいつは場に出た時、相手の場のカード全てを手札に戻す効果がある!そして戻した分だけ打撃力を上げるんだ!戻す枚数は3枚、よってイデアの打撃力は+3だ!」

 

 イデアライズ “ゴッド・ビルド・インパクト!

 サイズ3 攻10000/打2/防4000

【2回攻撃】【ライフリンク7】

 

 パイルバンカーが無くなり、1対2枚だった翼が、3対6枚に増えた。その姿はまるで天使か、神を連想させる。イデアがその翼で羽ばたくと、パラダイス・ロスト、ゲヘナグレッチ、裁きの門 ‐ジャッジメント‐が光となって、アルマードの手札へ戻った。

 

「くっ……場に地獄が無い……。ヘルズシールド 奈落の盾が、使えない……!ちくしょぉぉぉ!!」

(手:3→6)

 

『受けよ、我が創造の力!ゴッド・ビルド・インパクト!!』

 

「これでラスト!言った通りになったろ?」

 

 イデアの口から、先程とは比べ物にならない威力の光線が放たれた。それは一直線にアルマードに向かっていく。

 

「ぐっ、うがぁぁぁぁ!!」

(L:4→0)

 

 ライフが0になると同時に、アルマードは気絶したらしい。バランスを崩し、地面へ落ちて行く……ってやっべぇ!!

 

『……世話の焼ける男だな、アルマード』

 

 パラダイス・ロストはカードから出ると、素早い動きでアルマードを抱きかかえた。

 

『今回はこちらの敗北か。仕方ない、ここは撤退するのが吉だな』

 

「ちょい待ち。その前に洗いざらい吐いてもらおうか」

 

『残念ながら僕たちは、知らないことが多すぎる……。ただ一つ言えるのは、《ワールディアス》のバディは『鍵屋 錠(かぎや じょう)』という名前だ』

 

 鍵屋……錠……。聞いたことのない名前だ。一体、何者なんだ?

 

「……パ、パラダイス、ロスト……」

 

『ラグナ!大丈夫か!?』

 

「ラグナ……?おい白黒、どういうことだ?そいつはアルマードじゃないのか?ああ、いや、ドラコか?」

 

「……ドラコ、は、……ぐっ、偽名だよ……」

 

 どういう意味だ?なぜ彼が偽名なんて使うんだ?

 

『この子……ラグナには元々、名前が無かったんだ。赤ちゃんの頃に孤児院の前に捨てられてたらしい。そこで与えられた名前が、ラグナだった』

 

「じゃ、ドラコってのは?アルマードは何故、生まれた?」

 

「……そんなの、あなたに、関係ありません」

 

 ドラコ……じゃなかった、ラグナ?が竜の手の上で立ちあがった。

 

「僕はドラコ、そしてアルマード。僕らは2人で1人の、ドラコ・アルマードなんだ!あなたには理解させません!」

 

「お、落ち着け。まずは深呼吸だ、ほら、吸ってーー」

 

「僕はアルマードの分まで戦う!ファイトです、竜神シオウさん!」

 

 くっ、2連続のファイトか……。やってやる、と思ったその時、膝からくずおれる。

 

『シオウ!』

 

 イデアが手を差し出し、身体を支えてくれた。倒れこそしなかったが、妙に体力が少ない。これじゃもう一度は……。

 

 その時、下の方から声がした。見るとゲートが開いている。こいつらがこじ開けたのだから当たり前か。……いや、ちょっと待て。

 

「何か、聞き覚えのある声だな……」

 

 よく見るとエンペラーとデュークが、ゲートの正面に立っている。何かを、待ち構えているようにも見えた。

 

「エンペラァァァ!!」

 

 それは、ここには来るはずの無い、少年の声だった。

 

 

 




今回はここまでです。何かまた起きそうな雰囲気ですね。

オリカ情報は下に載せます。もしかしたらエラッタがあるかも?

次回に続きます!




※2018年10月7日
ご指摘があり、《イデアライズ “モード・ストライク”》に「【ライフリンク】を無効化して」の一文を加えました。これが無いとイデアに重ねた時、ライフリンク5によるダメージでシオウが敗北していたからです。申し訳ありませんでした。




《創造神竜 イデアライズ・ドラゴン》

サイズ3
属性:クリエイトドラゴン
■【コールコスト】ゲージ2を払い、君のドロップゾーンのカード1枚をこのカードのソウルに入れる。
■【対抗】【起動】ライフ2を払ってよい。払ったら、君の手札かデッキかドロップゾーンからカード名に「イデア」を含むモンスター1枚を【コールコスト】を払わずにこのカードの上に重ねてコールする。デッキを見ていたら、デッキをシャッフルする。この能力は1ターンに1回だけ使える。
ソウルガード、ライフリンク5
攻撃力9000/打撃力2/防御力8000



《イデアライズ “モード・ストライク”》

サイズ3
属性:クリエイトドラゴン
■【コールコスト】ゲージ2を払い、君の場のカード名に「イデア」を含むモンスター1枚の【ライフリンク】を無効化して、その上に重ねる。
■このカードの攻撃で相手にダメージを与えた時、このカードのソウル1枚をドロップゾーンに置いてよい。そうしたら相手の場のモンスター1枚を破壊し、破壊したモンスターの打撃力分ダメージを与える。この能力は1ターンに1回だけ使える。
ソウルガード、2回攻撃、ライフリンク6
攻撃力10000/打撃力3/防御力5000



《イデアライズ “ゴッド・ビルド・インパクト!”》

必殺モンスター
サイズ3
属性:クリエイトドラゴン
■【コールコスト】ゲージ3を払い、君の場のカード名に「イデア」を含むモンスター1枚の【ライフリンク】を無効化してドロップゾーンに置く。
■このカードが登場した時、相手の場のカード全てを手札に戻す。戻したらその枚数分、このカードの打撃力を増やす。この能力は1ターンに1回だけ使える。
2回攻撃、ライフリンク7
攻撃力10000/打撃力2/防御力4000



《創造神竜の肉体 ソーマ》

サイズ1
属性:クリエイトドラゴン
攻撃力1000/打撃力3/防御力1000



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集結


仕事に追われて、投稿がかなり遅れました。すみませんでした。

正直、今年いっぱいは不定期の更新になってしまうかもしれません。ご了承ください。


では、本編スタートです!



 ――目覚めよ、少年。時は来た。

 

 ……誰だ?いや、この声、どこかで聞いた覚えが……。

 

 ――我は皇帝。無を司り、邪を滅する者。

 

 確か昔……。そうだ、子どもの頃に、父さんの近くで……。

 

 ――今、再び、邪なる者が蠢いている。お前の能力が必要だ。

 

 俺の能力?何だよそれ?

 

 ――《ゼロフォース》。父より受け継いだ能力を、解き放て。

 

 ゼロ、フォース……。そんなものが俺の中に?というか、ちょっと待て。お前は何者だ?

 

 ――いつか思い出す。時が来れば、必ず。

 

 なあ、まさかアンタ……。

 

 ――頼んだぞ。有作の息子……零人よ。不甲斐ない我らの代わりに、世界を救ってくれ……!

 

 待てって!アンタは、父さんのバディだろ!?

 

 ――目覚めの時だ。君の世界へ戻れ。そして始まりの、ゼロの地へ向かえ。

 

 おい!聞きたいことが山積みなんだよ!教えてくれ!何で父さんと母さんは死んだんだ?俺はあの時、何を忘れたんだ?今、何が起きようとしてるんだ?

 

 ――息子に、よろしくな。

 

 無視すんな!勝手に終わらせようとするなよ!頼むから教えてくれ!……分かんないんだよ、何も。もう嫌なんだ。知らないうちに失くすのは……。だから!

 

「だから!」

 

 目を開けると、世界は暗闇で覆われていた。全身が汗で湿っている。呼吸は乱れて、少し苦しく感じる。時計の動く音が聞こえる。ここは俺の家か、とかろうじて思い出す。あの後、疲れて帰って来て、寝室に入って……。

 

「……寝ちまってたのか」

 

 今は頭が回っていないらしい。口の中が渇いている事に気付くのに、割と時間がかかった。

 

「……水」

 

 仰向けから起きようとするが力が入らない。少し意識して上半身に力を加えてやると、起き上がることが出来た。同様に右腕にも指令を出す。今度はすんなり動いてくれた。息を吐きながら立ち上がる。

 

 少しふらつきながら、冷蔵庫に目もくれず、洗面台の方へ向かった。水を飲むついでに顔を洗いたいからだ。扉を開けるとまず、鏡で自分の顔を見る。正に寝起きそのものだ。

 

「……ひでぇな」

 

 蛇口を捻り、水に口を近づける。思っていたより冷たくはないが、渇いた喉を潤すには十分だった。気分が満たされた所で今度は手で受け、それを顔に擦りつける。同じ動作をもう一度繰り返して、近くのタオルに手を伸ばす。

 

「……何だったんだろう、あの夢」

 

 顔を拭きながら考える。間違いない、あれは父さんのバディモンスターだ。“我は皇帝”、“無を司る”か……。何かエンペラーみたいだな。あいつ、今頃どうしてんだろう。シオウさんやイデアとちゃんとやれてるかな。仲間と話しが出来てるといいな。

 

 “――始まりの、ゼロの地へ向かえ”

 

 脳内でふと、その言葉が気にかかる。ゼロの地って何だろう。向かえと言われてもどこへ?聞いたことも無いし、当然ながら地図にも載っていないだろう。

 

「……ただの夢、なわけ無いよな」

 

 まず、ゼロの地は存在すると仮定する。じゃあどこに?考えられるのは2つ。案直だがゼロワールドか、もしくはこの地球だ。向こうの世界はよく分からないから地球だとしよう。

 

「もしかして、エンペラーと行った場所か?」

 

 いや、それは特定できないか。“ゼロ”という言葉でエンペラーやゼロワールドを連想するのは、やはり単純すぎかな?でもあの夢の声や発言……。関連はあるはずなんだ。

 

 ――言葉通りに受け取ってみるか。

 

 “始まりの、ゼロの地”。俺にとってのそれはあの場所しかない。エンペラーと、ゼロワールドと初めて出会った駅裏の駐車場。始まりというのが出会ったことを指すのなら、そこで間違いないだろう。

 

「……行ってみるか」

 

 結論に達した時、玄関の前まで来ていた。右手に相棒のいないデッキを握りしめて。いつの間に出て行く準備をしていたのか分からない。無意識だった。

 

 何だよ。俺は結局、皆の前で格好つけてただけか。寂しいのをやせ我慢して、見栄張って……。そんなことを考えながら靴を履き、ドアノブを回す。そのままゆっくりと押すと、外はすっかり夜になっていた。さあ、確かめに行こうか。ゆっくりと前へ歩きだすと、少しだけ、風が吹いた。

 

 

 

 *

 

 

 

「はっ、はっ、はっ……」

 

 何だか分からないが、強い衝動に駆られていた。急がなければと焦ってしまう。その焦りが俺を走らせていた。

 

「……はぁ、はぁ、……着いた……」

 

 やっと駐車場の入口だ。立ち止まって呼吸を整える。奥の方には日中と同じく、空間の歪み――ゲートが見えた。そしてその傍には……。

 

「……タスク?」

 

 目を凝らして見たが、やはり龍炎寺タスクと《超星竜 ジャックナイフ》だ。ちなみに俺が初めて見たときは《逆天星竜 ジャックナイフ》だった。タスク曰く、「通常は超星竜で、必要に応じて能力が変化する」らしい。

 

「タスクーー!!」

 

「え、零人さん!?何故ここに?」

 

 彼らの元へ走って近づく。タスクはどうやら本当に焦っているようだ。俺がこの時間、この場所に現れる事は予想外だったらしい。

 

「何故って、ねぇ……」

 

 夢で言われた事を確かめに来た、なんて言えない……!伝えた所で信じてくれる保証は無い。そもそも俺が勝手に見た夢の話しだ。現実とリンクするなんて有り得ない。

 

「……んーと、あれだ、散歩してたんだ。そんで2人が見えたから来ちゃった」

 

「ハァ……。零人さん、嘘はつかない方がいいですよ」

 

『エンペラーの事が心配なのだろう?』

 

 うっ……図星だ。だが会いたくて仕方ないとか、そういう感じじゃない。もっと何か、言い表せない不安が心の奥で渦巻いている。

 

「それもあるけど……夢を見たんだ」

 

 話してみようと思った。タスクはきっと、バカにしない気がする。

 

「どんな夢ですか?良ければお話ししていただけますか?」

 

「……聞いた事のある声で、“ゼロの地へ向かえ”とか言ってた。何か気がかりでさ、もしかしたらここかと思って来たんだ」

 

「“ゼロの地”……聞いた事も無いですね。でも、確かに言葉から考えると、この場所は候補の一つにはなりますね」

 

 やはりタスクは優秀なのだろう。少しの会話でここまで推測できるとは正直、思っていなかった。ここまで来ると、俺とは頭の作りが違うとしか思えない。

 

「そういやタスクは何でここにいるんだ?仕事で帰ったんじゃなかったか?それによく考えたら……」

 

『何故、イデアが閉じたはずのゲートが開いているのか。だろう?』

 

 ジャックが口を挟む。確かにあの時、ゲートが閉じるのを確認した。なのに今、それが開いているのはどういう事なんだ?

 

『実は私たちも、それを調べに来たのだ』

 

「確かにあの後、一旦バディポリスに帰りました。ですが40分ほど前に緊急のアラームが鳴ったんです。確認するとこの場所で、何らかの手段によってゲートが開けられた事が分かりました」

 

「開けられた?」

 

 という事は、もう皆が帰って来たのか?いや違う。もしそうなら、エンペラーが家に来ないのはおかしい。つまり“開けられた”とは……。

 

「別の、誰かが……?」

 

 タスクが静かに頷く。肯定。それは漠然とした不安が、現実になった瞬間だった。

 

 エンペラー達に何かが起きている。それは間違いない。

 

「それじゃあ、皆は?」

 

「分かりません。それを確かめる為に、今から向こうへ行こうとしていた所です」

 

「……タスクは行けるのか?」

 

「一応は。何で来たんだ、ってシオウさんに怒られるかもしれませんけどね」

 

「……それ、俺も付いていくのはダメかな?」

 

『どういう意味だ?』

 

 ジャックが俺の発言を訝しんだ。バディポリスの仕事に便乗したいと言っているのだ、無理もない。

 

「ダメだ!!」

 

 タスクの強い口調に気圧される。その表情はどこか強張っているようにも見えた。

 

「零人さん、あなたは事態を甘く見過ぎている!何が起きているのか分からない以上、一般人が深入りするのは危険すぎるんだ!怪我をしてからじゃ遅い。最悪の状況も有り得る。あなたはそれでも……!」

 

「行くよ。あいつの所に。大切なバディだから」

 

 今の俺には力は無い。送り出したのも、本当は独り善がりな『強さへの濁望』が根底にあったからだと、気付いてはいる。それを高いプライドで覆い隠している事も。

 

「だからタスクが何と言おうと、俺も行く」

 

 気付いたからこそ譲れない。醜いプライドを、ただのプライドで終わらせたくない。あいつともう一度ファイトがしたい……。

 

 言い訳ばかりの自分を、少しでも変えてくれたバディの為に、力になりたい。

 

「ここ、くぐれば向こうに行けるんだよな?」

 

「……そんな事で納得がいくと思ってますか?」

 

『お前のそれは勇気でも信頼でもない。プライドが高いだけの、幼稚な考えに虚言を混ぜた男が拗ねて、癇癪を起こしているだけだ!』

 

「……それでもいい。進まなきゃ始まらない」

 

「零人さん!いい加減にしてください!あなたのワガママに付き合っている時間は無いんだ!」

 

「おお!?……気色悪い感触だ。ゾワッとしやがる。タスク、先に行くぞー」

 

『おい!話しを聞け!!』

 

「……仕方ない。ジャック、僕たちも行こう!」

 

 

 

 *

 

 

 

 ゲートの中は意外に広く、全身が浮いた感覚に襲われる。濃い赤色を基調に黄・黒・オレンジが混ざった異空間は、どこまでも続いているようにも思えた。

 

「うわっ!天地が分からねぇ、ぐるぐる回ってるなぁ~」

 

「零人さん!」

 

 タスクが俺の手を掴み、引っ張る。そのおかげで体制を直す事ができた。

 

『全く……気をつけろ!大口を叩いて、癇癪を起こして、結果はその有様か!』

 

「その程度なら、今ならまだ帰す事も出来ますよ?」

 

「悪かったよ、ワガママ言って。……そうじゃねぇとお前ら、絶対ダメって言うだろ?」

 

 そう言ってタスクを見る。出来るだけ、笑顔で。

 

「……まさか僕たちを、ワザと怒らせた……?」

 

「……2人とも必ず正論で立ち塞がる。そう思ったんだ。だから判断を少しでも逸らせる為に、感情を昂らせたんだ」

 

『成程。怒りで正常な判断が出来ない状態で上手く誘導すれば、自分の土俵に持っていける。そういう事か』

 

「……ジャックの言うとおりだよ。まあ、冷静に誘導できた訳じゃないから、42点って所かな?」

 

 そう、実は失敗だった。タスク達の怒りが予想外に本気だった事。そして俺が熱くなって、本心を言いすぎた事。この2つが原因だ。

 

「ハハッ、そうか。僕たちは零人さんにしてやられたんだね」

 

「ゴメン。いくら何でもやりすぎたよ。それに任務の邪魔しちまって、本当に悪かった」

 

『全く、何て男だ……。まさかバディポリスを騙すとはな。本来は公務執行妨害も含めて、即、逮捕だぞ?』

 

「……はい。反省しています。すんませんでした……」

 

 とにかく平謝りしか出来なかった。これは彼らの任務、本来は自分は居てはいけないのだから。

 

「仕方ない。彼の策略に嵌まった、僕らのミスだ。零人さん!情状酌量の余地があるとして、今回は不問とします。代わりに1つだけ約束してください」

 

 約束?一体、何を誓わせられるのだろうか?かなりの無理難題とか?

 

「この先の世界で何があっても、死なないでください」

 

 何も言い返せなかった。自分の事しか考えられなかったのが恥ずかしく思える。タスクは怒りを鎮めて、俺の心配をしてくれているのだ。

 

「……分かった。お前らも、生きろよ」

 

『言われずとも、そのつもりだ!』

 

「当然です!」

 

 その時、正面の空間が輝きを見せた。いよいよゼロワールドだ!

 

「エンペラァァァ!!」

 

 叫んだ瞬間、3人揃って空間から飛び出た。俺は着地に失敗し、不格好に転んだ。タスクは……多分、大丈夫だろう。ジャックに至っては飛べるし。

 

『な、零人!?何故ここに?』

 

「はは、来ちまった」

 

 あからさまにエンペラーは驚いていた。その中に、困惑の感情が混ざっている気がした。

 

『何だ貴様らは!何故この地に来た!』

 

 え、誰?モンスターなのは分かるけど、鎧を着けている?てことはエンペラーの仲間なのか?

 

「シオウさん!大丈夫ですか!?」

 

『助太刀に来たぞ!』

 

「零人!?タスクちゃんにジャックまで……ぐぅっ!」

 

『シオウ、無理をするな!』

 

 上から声がしたので見ると、シオウさんが宙に浮いていた。その横には……イデア?なのか?巨大な白竜が彼を守るかの様に、傍に付いている。

 

 そして彼らが向く先に目を向ける。黒いパーカーの金髪男が、黒と白の体色をした竜に支えられていた。シオウさんも相手も、満身創痍と言った様子だ。何があった?バディファイトならどちらかが勝ったはずだが……。

 

「……何で2人とも、苦しそうなんだ?」

 

「……後で、説明する……。今は退くぞ、イデア!」

 

『分かった!タスク、ジャック!零人たちも手伝え!』

 

 手伝うって何を?と考えていると、タスク達はイデアの元へ飛んで行ってしまった。ジャックがSD化を解いている。まさか手伝うって、イデアを押して、逃げる速度を上げるってことか!?

 

「零人さん!エンペラー!早く来て下さい!」

 

 ああ、それっぽいな……。なら行くしかねぇ!俺はエンペラーにしがみつく。

 

「エンペラー!ジェット噴射だ!」

 

『うむ!久しぶりだな、行くぞ!』

 

 家の屋根を突き破って以降、基本的に禁止してきたジェット噴射がまさか、こんな所で役に立つとは……。どんな物にも使い道はあるという事か。

 

『テイク、オフ!』

 

 エンペラーと俺の身体が急速に浮いた。そのままイデア達の方へ向かう。

 

「……さ、せ……るかぁっ!!」

 

 男が叫ぶと、白黒の竜が口を大きく開けた。何か来る!

 

「キャ……スト!」

 

 シオウさんの声だと思った瞬間、白黒竜から光が発せられた。同時にシオウさん側からエネルギーの塊が現れる。

 

『お前たちは逃がさない!食らえぇぇッ!!』

 

「《正義の鉄槌!》!オラアァァッ!!」

 

「「うわああああっっ!!」」

 

 光とエネルギーがぶつかり合う。一瞬にして消滅したかと思う間もなく、衝撃波が襲う。

 

「ぐ……っ!エンペラー!出力最大でいけるか!?」

 

『当然だ!何としても届かせる!』

 

 言うが早いか、急激に推進力が上昇する。それは衝撃波を物ともしない程の力強さを誇っていた。

 

「「届けぇぇぇっっ!!」」

 

 エンペラーの肩に移動して、背負われている様な状態になる。そこから俺は必死に手を伸ばす。

 

「零人さん!」

 

 タスクが、その手を掴む。強く、そしてしっかりと握り返す。

 

「サンキュー、タスク!さあ、行こうぜ!」

 

『ならば城へ!案内は私が務めます!』

 

『頼むぞ、デューク!さあ、イデアを押すぞ、ジャック!』

 

『おう!進めぇ!!』

 

 俺はジャックに飛び乗った。エンペラーが、自分に掴まったままでは危険だと判断したからだ。乗り心地はかなり良い。しがみ付かない分、腕も休ませる事が出来る。

 

 あいつらから、何とか逃げ切らないとな……。

 

 

 

 

 





ついに零人もゼロワールドへ入りました。これで彼は直接、エンペラーの仲間と対話が可能になりました。

次回へ続きます!


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逃亡と接触


 今回は、逃亡を始めた零人たちとドラコ・アルマード=ラグナの追跡劇から始まります。

 今更だけど主人公が主人公してないなぁ。

 では、どうぞ!


 なんやかんやあって俺は、タスクとジャックと共に、ゼロワールドに来た。と思ったらいきなり逃亡の手助けをすることになった。あの金髪黒パーカー男、あからさまに敵だけど……。一体、何者なんだ?

 

「ぶわぁぁぁ……。風、強ぇよぉぉぉ……」

 

 ただいま絶賛、超高速飛行中。前からイデア、ジャック、エンペラーの順で飛んでいる。イデアに掴まっているデュークというモンスター曰く、『これなら、約2分で城に着く』らしい。時間に換算してもらえて分かりやすい事この上ない。だがしかし風圧が凄い。

 

「敵は!?追って来てますか?」

 

「ばばばばば……」

 

「何て言ってます、それ?」

 

 後ろを振り返ると……うわぁ、追って来てる!でもその像は思いのほか小さい。どうやら距離はとれているようだ。だがしかし風圧が凄くて、口で伝えられない。とにかく身振り手振りで後ろを示す。

 

「そうか、まだ追って来ているのか……。少し待って下さい」

 

 そう言うとタスクの身体が光に包まれる。そして、髪が伸びた!?何それ、超常現象!?

 

「フューチャーフォース解放を申請します!……よし、許可が下りたよ、ジャック!」

 

『久しぶりだな。何を使う気だ?』

 

「とりあえずこれだね。キャスト!《バーレカル・バレット》!ターゲットロック……ファイア!」

 

 タスクの掌に赤い球状のエネルギーが作られる。そして、“ファイア!”の掛け声でそれが相手に向かって発射された。……おい、カードが実際に発動したぞ?

 

『ぐはぁっ!!』

 

 白黒の竜に当たった……!すげぇ、本当に効果があるのか。つーかシオウさんもカード名を言ってから、エネルギーが飛んでいって……。何者なんだよ、こいつら。

 

「……ん?どこに行く気だ?」

 

 白黒の竜が急に降下していく。その手の中で、男がこちらを睨んでいるのを感じた。

 

「どうやら、退く事を選びやがったな……!」

 

「シオウさん!無理しないでください!」

 

『皆様、城に到着します!減速してください!』

 

「ばばばばば……」

 

「どうしたんですか?」

 

『零人、言いたい事は分かるぞ。我らはどうやって止まればいい?』

 

『エンペラー、マズイではないかぁぁぁ!!』

 

 おい、バカしか居ないな、俺ら!もうちょい賢いヤツは……。

 

「ジャックとイデアは直立の体勢に変えて、羽ばたいて!エンペラーはジャックにぶら下がって逆噴射をお願いします!」

 

『『おう!』』

 

「タスク……ちゃん!俺と、シールド、張らない……?」

 

「仕方ない……。無理しないでくださいね?」

 

「「キャスト!《ドラゴンシールド 青竜の盾》!!」」

 

 2人が叫ぶと、青い竜の顔をした盾が2つ、結構大きめなのが出てきた。しかも俺たちの後ろに、反りかえった裏面を見せて、縦向きに並んで。

 

『羽ばたけ、ジャックーー!!』

 

『うおおおっっ!!』

 

『逆……噴射!ハァッ!!』

 

 3体が進行方向と逆向きに力を放出する。すると、それまで出ていた速度が一気に抑えられる。俺はジャックに掴まったまま、悲鳴すらまともにあげられない。急な体勢の変化に急停止、感じた事の無い程の重力が襲いかかる。

 

「ぬ……ぐっ……!」

 

 やがて空中で身体が一瞬、静止する。かと思った矢先、直ぐに逆方向へと動き出す。まずい!羽ばたきと逆噴射の勢いが強すぎる!?少しずつ後ろに戻される……!!

 

「いっけぇぇぇ!!」

 

「とまれぇぇぇ!!」

 

 その時、背中に固い何かが触れた。まさか、これは……。

 

「……青竜の盾……か?」

 

 先に張った2つの盾が、縦向きになった俺たちを包む。衝撃はほとんど無い。もしこれが無かったら、後ろへ吹っ飛ばされていただろう。張る場所が離れていたら、勢いが付きすぎて叩きつけられていたかもしれない。

 

 絶妙な位置に、間違いなく盾を並べたのか。あの一瞬で減速・後退・停止の方法を考えつき、適切に指示して、実行に移した……。しかもちゃんと城の前で止まった。すげぇな、バディポリス。

 

 

 

 *

 

 

 

 超スピードで城内に到着した俺たちを待っていたのは、これまた鎧を装着したモンスター達だった。

 

『エンペラー様、早くこちらへ!皆様も……?』

 

『おいおい、何者だ、テメェら?』

 

 片方がどこからともなく槍の様な武器を出す。明らかに俺とタスク、ジャックを警戒している。

 

『よせ、カウント。この者たちは我がバディと、そしてシオウの仲間だ』

 

『え!?……それは失礼した。んで、どっちがエンペラー様のバディだ?おい、空色の髪のイケメン!お前か?』

 

『当然でしょう。エンペラー様ならば、バディポリスを選ぶはずですよ』

 

『ならばこの男は襲撃者の仲間という事か……。デューク様、戦闘許可を』

 

 ……まあ、そうなるわな。自分の王のバディはイケメンの方がいいに決まっている。つか物騒な事になりかけてる!

 

「……すまん。俺がエンペラーのバディだ」

 

『嘘だ!こんな見るからに薄っぺらいガキが、ありえねぇ!』

 

『貴様を選ぶ様な真似、エンペラー様がするはずが無い!』

 

『バロン、カウント。この者を消せ』

 

「ちょっ、待て待て!信じてくれよ、な?カッコいいお2人さん?」

 

 そんな言葉に惑わされず、彼らは武器を出して向かってくる。槍に、もう片方は短剣みたいなヤツか。いやそんな事を言っている場合じゃない。詰んだな、俺の人生……。

 

『待て』

 

 荘厳な、そして威圧感のある声だった。

 

『まずはシオウを横にさせる。タスク、ジャック、手伝え。皆も武器を納めろ』

 

「……エンペラー?」

 

 怖い。初めてエンペラーに対してそう思った。これがコイツの本当の姿、なのか。

 

『はっ、直ちに。2人とも、武装を解除。シオウ様を運んでくれ。私はこの男と……少し話しをする』

 

『了解。おっさん、大丈夫か?』

 

「……おっ、さん……言うな……っ!」

 

『デューク様、お気を付けください。その男、怪しすぎますから』

 

 そう言うと彼らは行ってしまった。後を追うタスク達と目が合う。頷くと、2人もまた頷き返してくれた。大丈夫、という意味が伝わったらしい。そのまま俺はデュークというモンスターと2人きりになってしまった。

 

「……えーと、デューク……さん?」

 

『まずは自分の身分を名乗るべきじゃないのか?』

 

 ごもっともな意見だ。と言っても紹介するほどの高い地位ではないけど。

 

「……無我零人。16歳で一応、普通の高校生をやってる」

 

『私は《ゼロ・デューク》だ。単刀直入に聞く。貴様は襲撃者とどのような関係だ?事と次第によっては……』

 

 デュークが右腕を変化させる。銃、と気付いた時にはすでに、銃口を突き付けられていた。何もできない。俺は両手を上げて、無抵抗をアピールした。

 

『撃つ。貴様が丸腰だろうと構わず、消す』

 

「……はは、めっちゃ怖ぇ……」

 

『質問に答えろ。貴様と襲撃者の関係は?』

 

「……多分、関係無いと思う。自信は無いけど」

 

 本当によく分からない。少なくとも記憶の中では……あ。

 

「……なあ、あいつ、黒のパーカーだったよな」

 

『そうだが、それが?』

 

 思い当たる節はあった。エンペラー達と出会ったあの日、タスクとファイトをした奴だ。確か黒いパーカーを着て、フードを被っていた。怪しい……。

 

「……もしかしたら出会った事はあるかもしれない。エンペラーと話さないと何とも言えないけど」

 

『エンペラー様を呼び捨てにするな!それに、やはり敵か!?』

 

「……あぁもう!どうして二択しかないかな、あんたは!ただ前に会ったかもって言ってるだけだろ!?仲間ですなんて言って無いからな、勘違いすんなよ!?」

 

『え……ちょ、ちょっと……』

 

「会ったばっかで失礼だが、言わせてもらう。お前は考えが凝り固まってんだよ!お前の周りには味方か敵しか居ないのか?状況からして仕方ないが、少しはエンペラーの言う事も、俺の事も信頼しろ!」

 

『お、おい……キャラが違うぞ?』

 

「誰のせいかな!?人の事、頭から疑ってかかって……」

 

 そこで我に返った。まずい、カッとなって言い過ぎた。とりあえず謝らなきゃ……。

 

『……武装解除』

 

 はい?何か腕が戻った?というか鎧が無くなった?つか、え?

 

「デューク、お前……女の子だったの?」

 

 泣きそうな顔をした少女がそこにいた。ブロンドのポニーテールに碧眼、外見は人間そのもの。俺とそう変わらない位の年齢に思える。

 

『うわぁぁぁん……。そんなに怒らないでよぉ……』

 

 ついに泣き出してしまった……。いかん、女性陣のおぞましい顔が見えてくる気がする。

 

「す、すまん。言い過ぎたよ。お前も仕事だもんな、疑ってかからないとだよな?」

 

『……こっちに来て』

 

 優しくしたのが効いたのか、先程よりは泣きやんだデュークが歩きだす。皆が向かった方じゃない?

 

「何処に行くんだ?」

 

『私の部屋……。そこでしっかり、話しをしよう。もう泣かないから』

 

 そう言うと彼女はさっさと行ってしまった。話しって……何か嫌な予感しかしない。でも……。

 

「……行くしかないか」

 

 彼女を追うように歩きだす。今、俺が動かなければいけない。直感がそう囁いた気がした。

 





 今回も様々な事が起こりました。ついに零人がフューチャーフォースの存在を知ったり、デュークが女の子だったり。

 次回は多分、2人でイチャイチャ……しないな、うん。

 ではまた、お会いしましょう。


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ゼロを継ぐ者


基本、零人はリア充にさせないようにしていましたが、結構エンジョイしてるなぁ。

リア充はサツキさんだけでいいのに。もしかしてハーレムとかってオリ主の宿命なんですかね?



「ここが……」

 

 城内を少し歩き、中庭を抜けて、無骨な感じの扉を前にしている。ここが噂に聞く女子の部屋……!成り行きで付いてきてしまったけど、本当に入っていいのか?

 

『どうぞ、入って』

 

 デュークが扉を開ける。理解はしている、これは覚悟を決めなければならないヤツだ。心の中でソウタに敬礼する。

 

 我が友よ、俺は今から、女子の部屋に入るぞォォォ!!

 

「……失礼しま、す……?」

 

 扉を通った先には本の山……。古そうな、しかし高級そうな椅子が倒れている。あれ、想像より女子らしくは無い?というか何か、来る……?

 

 “来たか、ゼロを継ぐ者……有作の子よ……”

 

「……え?」

 

 夢の中で聞こえた、あの声だ。何故か一瞬で理解した。そしてふと、デュークと目が合う。彼女はこちらを見ていた。まるで観察でもしているかのように。

 

『何か感じた?』

 

 背筋が凍るような気配を、しかし同時に、温かい優しさを感じた気がした。

 

「……何つーか、父親みたいな……感じ?」

 

『そう。やっぱりあなたが、エンペラー様のバディなのね……』

 

 え?え?どういう事?今ので何か納得したの?

 

『薄々、感づいてるとは思うけど……ここは私の部屋じゃない』

 

「……じゃあ、誰の部屋なんだ。エンペラーか?」

 

『そう。ただし、先代のね』

 

 先代……それってエンペラーの前の皇帝って事か……。視線を外すと、机の上に写真立てが見えた。そこに映っていたのは、椅子に座るモンスターと、その横に立つモンスターの姿。そして……。

 

「なぁ……その写真」

 

『あぁ、これ?座っているのがエンペラー様で、立っているのが先代様』

 

「……若いな。いつ撮ったんだ?」

 

『んーと、確か15年前じゃなかったかな』

 

 そうか……。あの事件――父さんと母さんが死んだのは11年前。その4年前に撮られたって事は……。

 

「やっぱり、父さんが先代のバディだったんだ……!!」

 

 写真に写っていた2体のモンスター。その横に、笑顔を向ける人間の男女がいた。女性の方は赤ん坊を抱いている。

 

 この2人を俺は知っている。いつも優しく、時に厳しく、いつも笑っていてくれた人達。父さんと母さんだ。抱かれているのは、幼い俺。

 

「そっか……。だからさっき、声がしたんだ」

 

『声?誰の、どんなか分かる?』

 

「“ゼロを継ぐ者”――そう言ってたよ。……なぁ、さっきから気になってんだけど、机の引き出し、見てもいいか?」

 

『何で?何もないと思うよ?』

 

「……俺もよく分からんが、見ないといけない気がするんだ。頼む!」

 

 手を合わせ、彼女の目を見つめる。次第に彼女の方が目をそらし始めた。

 

『ま、まあ、いいんじゃないかな?……ていうか、あんまり見つめるな~!』

 

「悪い悪い。サンキューな、デューク」

 

 礼を言うと、今度は口をパクパクと動かし始めた。多分、男慣れしていないのだろう。ソウタみたいにからかい甲斐のある、面白い子だな。

 

「さて、と。直感だと……ここだな」

 

 上から2段目の引き出しを開ける。頭の中で、何かが囁いた気がした。

 

 ――それでいい。それが我らの、そして君の道だ――

 

 うん、そうだな。これが俺の新たな道、新たな力だ。目を閉じ、息を吐いてから、瞼を開ける。

 

「……これは……!」

 

 そこにあったのは、カードの束。恐る恐る触れてみると、自分でもわからない程の早さで理解できた。これは父さんの、いや、両親と先代の使っていたデッキだ。手にとって見てみると、知らないカードが沢山ある。

 

『嘘……そんなの今まで無かったのに!?』

 

「多分、何かの力で隠れてたんだろ?そんな気がする」

 

『何かの力って……まさか、《ゼロフォース》?』

 

「ゼロフォース?……あ、あった。それってこのカードか?」

 

 それはデッキの中に入っていた。アイテムの様だが、名前以外の情報が分からない。よく見ると情報はあっても、イラストの無いカードも何枚か混ざっている。

 

「このままじゃ使えないなぁ……。どうしよう?」

 

『私に聞かれても……。そうだ、エンペラー様なら何か分かるかも!』

 

 確かにそうかもしれない。しかし……。

 

「うーん、今はあまり話しかけない方がいいかもなぁ」

 

『あ、そっか。今はシオウ様の治療中だよね……』

 

「……まあ、後で聞いてみるさ。とりあえずエンペラー達の所に行こう。シオウさんが心配だし、何か手伝えることがあるかもしれない」

 

『そうだね。私はあなたにゼロフォースを感じてほしかっただけだから。あ、でもゴメンね、私の部屋とか言って騙しちゃって……』

 

 ああ、そう言えばそんな様な事があったっけ。時間としてはそこまで経っていないのに、何年も前の様にも思える。考えてみればサツキさんや美奈さん、シオウさんと出会ってまだ1日も過ぎていないのだ。ストレスフルにも程があるだろ、俺。

 

「うーん、そんなのいいよ。浮かれて注意しなかったのは事実だし、何かもうそんなのどうでもいい位には疲れてるし」

 

『あはは……。お疲れ様、だね』

 

「……まだ終われなさそうだがな……」

 

 カードを上着のポケットに入れると、俺たちは皆のいる部屋に向かった。先代の部屋を出る時、優しい声で“ありがとう”と聞こえた気がした。デュークに気付かれないように、俺は右手の親指を上げた。

 

 

 

 *

 

 

 

『うむ、これで大分、良くなるだろう。皆も力を貸してくれてありがとう』

 

「……悪ィな、迷惑、かけちまって……」

 

「シオウさん、大人しくしていてください。完治した訳じゃないんですから」

 

『すまなかったな、エンペラー。シオウの治療に当たらせてしまって……ん?』

 

 俺たちが部屋――寧ろ、大広間か――に着いた時には既に、シオウさんの処置は終わっていたらしい。床に寝かせた彼を皆が囲んでいた。イデアは汗まみれで倒れていた。タスクとジャックも流石に疲労した様子だ。そして……。

 

『おお、零人。こちらはもう終わったぞ』

 

『ったく、遅ぇーんだよ!すげーバタバタしてたんだからな!』

 

『カウント!止しなさいって!』

 

『いやぁ、向こうは向こうでやる事があったんだから。仕方ないですよ?』

 

 えーと、誰?それぞれの口調から何となくは分かる。しかし全員が鎧を外しているから、初めてみる顔ばかりだ。しかもその内の3人は、さっき少し会話した程度なのだ。

 

 とりあえずエンペラーだけは判別できた。金髪碧眼、長身で若さ溢れる優男風のイケメンさん。しかし口調や風格は他者と明らかに違う。

 

『あ、もしかして誰が誰だか分かってない?』

 

「……デューク、教えてくれ」

 

『了解!ちょっと待ってて!』

 

 デュークは敬礼すると、エンペラー以外の3人の方へ向かった。どうでもいいが皆、武装を解いているという事は、今までずっと鎧を着ていたのか?

 

 俺って信頼されてなかったんだな……。そんな事を考えている間にデューク達が集まって来る。彼女に促されて一列に並ばされている。

 

『さぁ、皆様、自己紹介の時間です。はりきってどうぞ!』

 

『では私から。挨拶が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。私は《ゼロ・バロン》と申します』

 

 エスキモーみたいな髭を生やした壮年の男性。中肉中背で、立っているだけなのにまるで隙が無い。その堂々とした姿は歴戦の勇士を思わせる。

 

『そんじゃ次は俺だな!《ゼロ・カウント》だ!シオウとかいうニンゲンが来たと思ったら、今度はガキかぁ!?頭悪いから覚え切れねーけど……ま、許せ!』

 

 黒髪の筋肉ムキムキお兄さん登場。日焼けした肌に、喋る度に見える白い歯がよく映える。初対面ながら相手にグイグイ迫る性格らしい。

 

『じゃ最後は私……と言ってもさっき話したよね。ま、いいか!改めまして《ゼロ・デューク》です!』

 

「……よし、取りあえずは覚えたつもりだ。サンキューな、デューク」

 

「自己紹介は終わったかい?」

 

 そう言ったタスクの顔に、ほんの少しだけ疲れが見えた。この短時間に色々と起こり過ぎている。無理もない、流石にバタバタしすぎなんだから。

 

 シオウさんは倒れた。謎のファイターがいた。その人物による襲撃から何とか逃げた。ゼロワールドで、エンペラーの仲間と出会った。今、分かっている情報はこの位しかない。

 

「零人さん、大丈夫ですか?」

 

「ウェッ!?……あぁ、何ともない、よ……?」

 

 言うが早いか、視界が急に歪む。脚から力が抜けてまともに立っていられない。

 

「……あ、れ……?」

 

 まずい。これは意識を失うパターンだ。少しずつ世界が、黒色に塗り潰されていく。膝をつき、両手で身体を支えようとするが、力が上手く入らない。そのまま床に伏せてしまう。

 

『零人!ゼロワールドのカードに触れろ!』

 

『そうだ、さっきの!ちょっと失礼!確かポケットに……』

 

 慌ててデュークが上着を弄る。取り出したのは先代の部屋で手に入れた、両親の残したデッキ。彼女に支えられながらそれを受け取った。

 

 瞬間、内側から力が湧きあがる感覚が襲う。これなら立ちあがれる。そんな確信と共に、倒れたままの身体に動けと命じた。

 

 

 

 *

 

 

 

 それは嘗て、僕も経験したことがある。モンスターとファイターが強い絆で結ばれた時に起きる奇跡。ある相棒は「怒りの感情」、別の相棒は「悲しみの感情」。そして僕は「喜びの感情」が引き金となった。

 《ドラゴンフォース》と名付けられたその力は、他者からすればバディモンスターを模したオーラを、ファイターが身に纏っている様だったらしい。

 

 彼――零人さんがデッキに触れた瞬間に起こった現象はドラゴンフォースのそれに近い。ただ、赤や青といったオーラでは無かった。純白で、しかしエンペラーを模していない、全身を覆うだけのオーラ。それを発現した彼は即座に立ちあがれるほどに回復していた。

 

「零人さん、一体何が?」

 

 確信できるほどの物は無いけれど、間違ってはいないだろう。零人さんは何らかの力を覚醒させた。

 

「……分からん。でも」

 

「でも?」

 

「身体の中から力が湧く……ってどういう感じなのかは分かった気がする」

 

 あぁ、成程。それなら僕も知っている。ジャックと共に戦える……そんな当たり前だった感情が、幾度となく僕を立ちあがらせてくれた。忘れかけていた“喜び”が僕たちに力をくれた。思い出すと今でも、自然に笑みが零れる。

 

『そうか。確かに体験しないと分からない感覚ではあるな。そうだろう、タスク?』

 

 ジャックもまた微笑んでいる。きっと嘗ての出来事を思い出しているのだろう。

 

『《ゼロフォース》が覚醒したようだな、零人。カードを見てみろ』

 

「カード?……あぁ、あのよく分からないやつか」

 

 そう言ってデッキからカードを取り出した零人さんの表情に、僅かな喜びが見てとれた。近くに寄って覗いてみると、真っ白なそれ――僕らは“ブランクカード”と呼んでいる――は少しずつ詳細が浮き上がって、やがて正確に情報が読み取れる様になった。

 

「これが、ゼロフォース……。やはり《ドラゴンフォース》と似ているね」

 

『私にも見せてくれ。……ふむ、確かに【解放条件!】となっている辺りはそっくりだ。しかし何か違う』

 

「……話の途中に失礼。ドラゴンフォースって、何?」

 

『そう言えば私も知らないなぁ……。タスク様、教えてはくれませんか?』

 

『俺も知りてェぞ!!教えろ、バディポリス!!』

 

 零人さんだけでなく、ゼロ・デューク、ゼロ・カウントも詰め寄って来る。これは参った。三人とも、好奇心をむき出しにしている。

 

「おいおい、タスクちゃんが困ってんじゃんよ?しゃあねぇから、俺が説明してやんよ!」

 

『……とドヤ顔を決めて、皆の方に指を向けるシオウであった。第三部、完!』

 

「いや、終わらすな!つか三部でもねぇし!」

 

 振り返ると、シオウさんがしっかりと自分の脚で立っていた。しかもかなり元気そうだ。先程までの苦しそうな様子からは想像もできない。

 

「シオウさん!?もう大丈夫なんですか?」

 

「ああ。エンペラー殿に治療してもらったからな、もうバッチリだ!」

 

『シオウは』

 

 静観していたゼロ・エンペラーが口を開く。

 

『シオウは“ゼロフォースに中てられていた”のだ。分かりやすく言えば中毒症状に近い』

 

『中毒症状だと?ならばゼロフォースとやらは、人間に対して有害なのか?』

 

『そうではない』

 

 ジャックの問い掛けに、エンペラーは強く反発した。

 

『人体に有害どころか、寧ろその逆。ゼロフォースには治癒能力が備わっているんだ』

 

「治癒……その話し、もっと詳しくお願いします」

 

『うむ。しかし覚悟しろ。長くなるぞ』

 

「……そのつもりだ」

 

「零人さん……?」

 

 急な横槍に、彼の方を振り向く。その顔はこれまで会って、話して来た中で最も真剣だった。零人さんも全てを知りたいんだ。自分の身に起こった事も、今、周囲で何が起こっているのかも。

 

「頼むぜ?相棒」

 

『……うむ!』

 

 こうして僕たちは情報交換を行う事になった。各々が知ったピースを繋ぎ合わせて、1つのパズルを組み上げる。そして敵の正体や目的をはっきりさせる為に。

 





一応、“オールスターファイト”から2年後という事で、“DDD”からドラゴンフォースについて出してみました。

似たような、でもどこか違う力、ゼロフォース。今後どうなっていくのか、見守って頂けたら幸いです。

では、また次回!



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会議


大分、投稿が遅れました……。見てくださっている方には申し訳ないです。

その代わり、ご安心ください。今回も安定のファイト無し!

では、どうぞ!



「それでは臨時の意見交換会を始めます。皆さん、お疲れでしょうがもう少し、お付き合いください」

 

 タスクが進行役となって、俺達はそれぞれの知る情報をシェアする事になった。情報は主にバディポリス、シオウさん個人、俺、エンペラーを含むゼロワールド組が話せていないものを基本とする。会場は大広間、豪華な装飾が施された長方形のテーブルを囲む。プロジェクター代わりにタスクのモンスター、《竜装機 ウインチスカ》の投影能力を使用する事となった。……何となくだが、ウインチスカよ、申し訳ない……。

 

「そんじゃまずは俺らだな!イデア、ぶちかますぜ!」

 

『おう!やってやろうではないか!』

 

「……ファイトする気なんすか、あんたら……」

 

 そんなツッコミなどお構いなく、2人は映像が投影された壁の前に立つ。

 

「えー、俺たちからはまず、“ワールディアス・インシデント”についておさらいからだ。この場には知らないヤツもいるしな」

 

 確かに初めて聞く。しかし同時に俺は“ワールディアス”を知っている。まさか……。

 

「零人、お前はもう予想はついてるだろ?……お前が巻き込まれた事件だ」

 

 やっぱり……!待てよ、だとすると……。

 

「シオウさん、俺たちだけじゃない。恐らくはエンペラーの父親、先代のエンペラーも犠牲になっているかも……」

 

『そう言えばさっき、零人と私が先代の部屋でデッキを見つけた時、写真立てに写っていました。先代様とエンペラー様、そして彼のご両親が……』

 

『エンペラーよ。お前はどこまで事態を知っている?』

 

『ふむ……。そこまで言われてやっと繋がった。確かに我が父は死んだ、11年前にな。そしてその原因が先から名の出ている“ワールディアス”という事か……。それにまさか、零人の両親とも繋がりがあったとはな』

 

「……ただの繋がりじゃない。俺の記憶が正しければ、父さんと先代は11年前には既にバディだった。しかもあの写真はそこから4年前、つまり15年前に撮られたものらしいんだ」

 

 言い終えると、エンペラーは心底、驚いた顔をしていた。まさか知らなかったのか?

 

『……まさかバディだったとは……。済まない、我は本当に知らなかった。何せ、父からバディの名前を教えられていなかったものでな』

 

「成程。ま、これで皆がこの事件を知っている訳だな」

 

『では多少は省いていいな。シオウ、次に行くぞい!』

 

「ああ。実はさっき、“ワールディアス”の自称仲間とファイトしました!はい拍手!」

 

「……あ、もしかしてさっき、追いかけて来てたアイツか?」

 

 瞬間的に黒白竜とパーカー男を思い出す。言われてみれば確かに、敵として動いている雰囲気はあった。……割と失敗してる様だけど。

 

「零人、ご明察!ヤツの名はラグナ。偽名でドラコ・アルマードと名乗っているみたいだな。んで、偽名の“ドラコ”と“アルマード”はそれぞれ、ヤツの人格と対応している」

 

「人格と対応……つまり、多重人格という事ですね?」

 

「察しがいいねぇ~、タスクちゃん。正にそーいう事!普段……つーか本来は“ラグナ”が本名、そいつが偽名で“ドラコ”を名乗ってる。だが感情が昂ると、“アルマード”が表面に出て来るって所かね」

 

『そのファイトは我らも見ていた。使用したのは[地獄]デッキだったな』

 

『ドロップを増やして強くなっていく戦法です。私にはかなり腕利きに思えました』

 

 俺からしたらデュークもかなりスゴイ気するが……。ファイトを見ていないから分からないが、あの男、相当のファイターなのか。

 

「さて、俺からはこれでラスト。真偽不明だが、ワールディアスのバディと思しき名前は聞けた。“鍵屋 錠”というらしい。この中でこの名前に聞き覚えのある奴はあるか?」

 

 鍵屋……人の名前を覚えるのは得意じゃないんだよな……。記憶の中では確か居なかったはず。周りを見渡すと案の定、誰も声を上げない。

 

「サンキュー。取りあえず帰ったらソッコー検索だな。俺たちの報告は以上!」

 

 

 

 *

 

 

 

 次に立ったのはエンペラーだった。お供3人は座ったまま、恐らくは全員の情報を纏めたのだろう。

 

『我らからは総意として情報を出そう。まずは先に使ったゼロフォースについて』

 

「さっきアンタが毒物だとか何だとか言ってたやつか」

 

『そうだ。そもそもゼロフォースとは、“選択した対象の異常な部分を、平常値に戻す”能力を指す』

 

 平常値に戻す……一体どういう事なんだ?ちらと見ると、タスクとジャックは考え込んでいる様だった。一方のシオウさんとイデアは頭を抱え込んでいた。

 

『異常な部分――つまり怪我や不調などを、そうなる以前に戻す。平たく言えば傷や病気を治すという事だ。モンスターならそれで終わりだが、人間においては話しが変わって来てしまう』

 

『どうなると言うんだ?』

 

 ジャックの問いに対し、エンペラーは目を伏せて答えた。

 

『人間にも治す能力は有効だ。しかし、あくまで傷病を回復させるだけで、体力を回復させる訳ではない。それどころか逆に体力を奪ってしまうのだ』

 

『この空間全域には先代のゼロフォースが発動したままなの。それ自体は死と同時に、少しずつ薄まっては来ているんだけど……』

 

 死後も外界から、ここを守り続けられるだけの強大な力……か。それだけ先代――エンペラーの父親は人間から何かを守りたかったのか?

 

『デュークの言うとおり。ゼロフォースの出力は初期の半分以下、およそ4割程にまで落ち込んでいる。しかしそれでも、シオウが耐えられない位、人間にはこの力は危険という訳だ』

 

「すみません、エンペラー。質問があります」

 

 タスクだった。何となくだが、俺と同じ事を考えている気がした。

 

「人間には毒、というのは分かりました。では何故、僕や零人さんはこの空間に居ても大丈夫なのですか。更に言えば、先程の零人さんの姿……。あの高密度のオーラがゼロフォースなら、彼も無事じゃ済まないのでは?」

 

 やっぱり……。さっきのは《ゼロフォース》のカードを手にした後に起こった。そしてエンペラーの言葉を信じれば、俺はあの時点で倒れていたはず。それにもう1つ、気になる事がある。

 

「……じゃあ、ついでに俺からも。シオウさん、アンタは力に中てられて体力不足で倒れた……。て事は、身体のどっかが回復しているんじゃないのか?」

 

『ふむ……まずは我から答えよう。タスクよ、まず、ゼロフォースの影響には個人差がある。より強大な力を宿す者なら通常よりも長く、耐える事が可能だ。内なる力で外からの力を防げば良いからな』

 

 ふうっ、と息を吐くと、再びエンペラーは話しを進めた。俺にはその一瞬の吐息が、まるでこの続きを話したくなさそうな、そんな風に見えた。

 

『しかし中には、力を自らの糧にしてしまう者もいる。例えば……零人の父親や、零人自身。見つけたのが両親のデッキというなら、少なくともそのどちらかはゼロフォースを扱えたという事。デッキにカードが残っていたのが何よりの証拠だろう。そして零人もまた、その血を受け継ぐ存在……』

 

「ゼロフォースに中てられず、それを使いこなせても変じゃない、ですか……。分かりました、ありがとうございます、エンペラー」

 

「じゃ次は俺な。零人、悪いがよく分からんのよ。どっか怪我したとかさぁ、あったような無かったような」

 

 いや、俺の方が分からんわ。単純に「知らん」で事足りるだろ、オッサン。敢えて言ってやらないけど。

 

「何となーく、胃のムカムカが無くなった気がするけどなぁ」

 

 いやそれ、間違いなく体調不良が治ってんだろ?アホなんですか、バディポリスさん?

 

『そう言えば我も多少なりとも、負傷や不調は無くなっているな。エンペラーよ、治せる範囲はどの程度なのか教えてほしい』

 

『どの程度?大概の傷病は治癒する筈だが……』

 

『例えば、身体の一部を欠損した場合は?失う前まで戻せるのか?或いは死者の蘇生は可能なのか?』

 

 うわぁ、またおっかない話しが始まった。でも、さっきみたいな危ない状況を考えると、確かに重要な問題でもある。

 

 その時、ほんの一瞬だけ、イメージが浮かび上がって来た。

 

 赤黒く染まった床、何かがその上に存在している。直ぐに“両親”だと気付いた。あらぬ方向へ首が回り、顔には眼球が付いていない。うつ伏せに倒れているはずなのにつま先はこちらを向いている。よく見ると腕も片方が、千切れていた。ぐちゃぐちゃとした紐状の物体が薄明かりの中で鈍く輝く。

 

 見てはいけない。見たくない。俺は必死に叫ぶ。しかしどれだけ拒んでも、肉塊となった両親をいつまでも見させられる。ワールディアスの“食事”風景を否応なしに観察させられる――。

 

『……分からない。それ程の重傷病者は今まで知らないからな。だがもしかすると、両方とも不可能かもしれない』

 

『失った部分も命も戻らん、という事か。……ん、零人?』

 

「零人さん、顔が真っ青ですよ?大丈夫ですか?」

 

 目の前が少しずつ黒く染まる。思い出したくない筈の記憶が、俺の世界を覆っていく。息が、苦しい……。倒れてしまいそうだ……。

 

「お前、記憶が戻りつつあるのか?」

 

 シオウさんだった。俺は他人に、自分の過去を忘れている事を明確に話した覚えは無い。何なら彼とは今日、知り合ったばかりだ。何でこの人が、それを?

 

「……記憶、は……少しだ、け……」

 

『どんな?どんな光景だ?我らに教えてくれ、って、あぁでも、無理はするなよ?』

 

 汗が止まらない。顔を上げるのが辛く、テーブルを向いていないと吐き気に襲われる。頭が、痛い……。

 

『ちょっと待ってて!』

 

 デュークは席を外すと、駆け足で部屋を出ていった。少しして再び現れた彼女の手には、円筒状の容器が握られていた。

 

『はい、お水。これで少しは楽になるといいんだけど……』

 

「……サ、ンキュ……」

 

 容器を受け取ると中身を一気に飲み干す。ふうっと息を吐くと、少し落ち着きを取り戻している事に気付いた。

 

『大丈夫か?』

 

 エンペラーが心配そうに訊ねてくる。俺はもう一度、深呼吸をしてから答えた。

 

「……ああ、何とか……。すまん、話しを逸らせちまって」

 

『いや、謝るのは我らの方……。どうやらトラウマを刺激してしまったようだな。悪かった』

 

「そんなに気にすんなよ、エンペラー。それで話しの方なんだが……シオウさん、俺さ……」

 

 言葉を発しようとした瞬間、身体全体が、椅子が、テーブルが、斜め右に浮いた。考える間もなく、その場にいた全員が床に叩きつけられた。

 

 何があった?把握する前に、何処からか泣き声が聞こえた。その大きな叫びはまるで子供のような……。そう思った直後、また強い衝撃に襲われる。何かが崩れるような音がした。

 

『ぬわっ!!何だ、何があった!?』

 

「……やっと追いつきました、バディポリスの皆さん……」

 

 立ち込める煙の向こう、大広間の入口から男が歩いて来る。その声の主を、その姿を俺は知っている。あの日、タスクとファイトをし、シオウさんとも戦い、そして追跡してきた男。

 

「龍炎寺タスク、竜神シオウ……。さっきはやってくれやがりましたねぇ……」

 

「よぉ、ラグナ君!元気してるかい?」

 

「その名で呼びますか。……僕はドラコ、あなたなら分かるんじゃないですか?」

 

 姿を現したラグナ――いや、ドラコか――は、先のタスクの攻撃による物なのだろうか、全身傷だらけになっていた。腕や口からは血が流れて、右足を引きずるように歩く。あまりに痛々しい姿だが、彼は気にも留めない。

 

「バディポリスにゼロワールドのモンスター、そして無我零人……。皆さんが一堂に会するなんて、僕達にとってはありがたいですねぇぇ……!」

 

『何度も負けて、撃ち落とされて……僕は今、イライラが最高潮なんだ!誰でもいいから潰させてくれよ!!』

 

 ラグナの背後には白黒竜が、月明かりに照らされ、身体を輝かせながらこちらを睨みつけている。奴らはどうやら城壁を破壊して侵入したらしい。そして先程聞こえた泣き声の原因がやっと分かった。

 

『うわぁぁぁん!!』

 

『たすけてーー!!』

 

『エンペラーさまーー!!』

 

 白黒竜が3人の子どもたちを掴んでいる。恐らくモンスターなのだろうが、エンペラー達のように鎧を着けていない。全くの無防備であの子達は捕らえられているのか……。

 

「「……その子らを離せ、この外道が!!」」

 

 沸々と怒りが込み上げて来る。抵抗できない相手を蹂躙して尚、身勝手な欲望だけを押し付けるなんて……。セリフが被る辺り、どうやらエンペラーも同じ気持ちだったようだ。

 

『貴様ら!そんなに他者を潰したいのなら、我と零人を相手にファイトしてみろ!』

 

「おや?皇帝さまと“操り人形”が相手ですか?」

 

『お前らみたいなちっぽけな存在、僕らの敵にすらならないんだよぉ!!』

 

「……何だよお前ら。ファイトするのにそんなに煽るかよ、ビビってんのか?」

 

 2人の目つきが変わった。何となくではあるが、人格が変わったとかじゃない。ラグナは今、穏やかな人格のまま、明確に殺意を持った。白黒竜も興奮を押さえきれないといった様子だ。

 

 怯えは無い。激情に飲まれる気も無い。俺達の持つ思いは明確な物が1つだけ。

 

『奴らを倒すぞ、零人!』

 

「……て事で、シオウさん、タスク。俺達がファイトしていいか?」

 

 エンペラーが立ちあがり、2人の方を向く。俺も続けて身体を起こすと、エンペラーと同じ方を見る。

 

「ったく、しゃーねーな……」

 

「いやダメですよ!?零人さんは一般人、無茶な事はさせられな……」

 

「責任は俺が取る!!だからぶちかまして来い!!」

 

『零人、エンペラー。お前たちのファイト、見物させてもらうぞ!』

 

 シオウさんとイデアの言葉に驚き、同時に背中を押された気がして嬉しかった。タスクは大きく息を吐くと、まるで諦めたかのような顔をした。

 

「仕方ないですね、シオウさんも零人さんも。……分かりました。ここは零人さんにお任せします」

 

「サンキューな、タスク」

 

『2人とも。これはあくまでバディポリスの案件、一般人であるお前たちが戦う意義は無いぞ?』

 

『承知している。しかしジャックよ、我らは高尚な意義が無くとも戦う』

 

「あの子らを守る為に勝手に動く。それでどうだい?」

 

 背後から竜の咆哮が轟く。相手はもう僅かな時間すら待ちきれない様だ。

 

「いつまで待たせるつもりですか?こちらはいつでも構いませんが……」

 

『潰させてよ、壊させてよ、早くグチャグチャにさせてよぉぉぉ!!』

 

『待たせたな、下郎共!』

 

「……んじゃ、行ってくるよ」

 

『……私はタスクの家族。ならば、その言葉も覚悟も信じようではないか。行って来い、零人!エンペラー!』

 

 歩きながらコアデッキケースを取り出す。今まで幾度も使ったデッキを、最高のバディを俺は信じる。ケースの中央、クリスタル部分を押すと、たちまち眩い光に包まれた。

 

「始めようか、ラグナ」

 

「僕はドラコだ!!」

 

「2つのゼロが重なって、新たな未来が今、始まる。ルミナイズ、『ビギニング・ゼロ』」

 

「天に満ちるは聖なる煌めき!ルミナイズ!輝け、『天救聖光』!」

 

「「オープン・ザ・フラッグ!!」」

 

 





はい、という訳で次回、零人とラグナのファイトになります!

先に言ってしまうと、この時点でのゼロワールド強化……もとい調整はありません。活動報告でのやり取りを知っている方、すみませんがもう少しだけお待ちください。

これからも投稿の期間が空く事が多くなるとは思いますが、どうか温かい目で見ていただけると幸いです。

余談ですが活動報告の方はたまに更新するかもです。

ではまた次回!


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零人vsラグナ


今回は零人とラグナのファイトです。

例によって、ゼロワールドのカードは壊れ性能ですので、ご了承いただければと思います。

それでは、どうぞ!



「始めようか、ラグナ」

 

「僕はドラコだ!!」

 

「2つのゼロが重なって、新たな未来が今、始まる。ルミナイズ、『ビギニング・ゼロ』」

 

 ルミナイズと同時にコアデッキケースがマイク付きのヘッドセット型に変化した。これはまるで、インカムだな。

 

「天に満ちるは聖なる煌めき!ルミナイズ!輝け、『天救聖光』!」

 

「「オープン・ザ・フラッグ!!」」

 

「……ゼロワールド。バディは《ゼロ・エンペラー》!」

 

「楽園天国!バディは《変貌を迎えし竜 パラダイス・ロスト》」

 

 零人

 ライフ10/ゲージ0/手札6/デッキ44枚

 

 ラグナ(ドラコ)

 ライフ12/ゲージ1/手札6/デッキ43枚

 

「僕の先攻、チャージアンドドロー!《舞い降りる御使い アンジェラス》をセンターにコール。登場時、ドロップが1枚以下なので1枚引くよ」

(G:1→2、手:6→5→6)

 

 舞い降りる御使い アンジェラス

 サイズ1 攻3000/打2/防1000

 

 おいおい、ちょい待て。相手は[地獄]って聞いてたんだけど、あのカード[天国]とか書いてあるよ?どういう事っすか?

 

「アンジェラス、ファイターに攻撃」

 

『貴方に祝福の光を……ハァッ!!』

 

「うわああっっ!!」

(L:10→8)

 

 左腕に細身の剣による刺突が決まった瞬間、身体が後ろに飛ばされた。その時、何かが腕から抜けた気がした。思い切りよく壁に叩きつけられると、直後、背中と左腕に激しい痛みを感じる。腕に触れると生温かい液体の感触があった。

 

「ターンエンド」

 

「ぐ、くっ……う、そ……だろ……」

 

「おい、ラグナ!お前まさか……」

 

『ああ。ドラコはフューチャーフォースを発動できるんだよ』

 

 フューチャーフォース……。もしかしてシオウさんやタスクが使った“カードの能力が使える能力”の事か?

 

「く……っ、ドロー、チャージアンドドロー……」

(G:0→1、手:6→7)

 

 ヘッドセットの右側に付いたコアデッキケースからドローする。意外に痛みに飲まれる事は無かった。過去にいろいろあったからなのか、どうやら俺の痛覚は少し鈍っているらしい。

 

「……《ゼロ・サプライヤー》をセンターにコール。能力で1ドロー。更に《ゼロ・ブラスター》をレフトにコール、能力で2ドロー。ゲージ1とライフ1を払って装備、《無我の刀 ゼロソード》」

(G:1→0、手:7→8→7、L:8→7)

 

 ゼロ・サプライヤー

 サイズ0 攻0/打0/防0

 

 ゼロ・ブラスター

 サイズ1 攻0/打0/防4000

 

 無我の刀 ゼロソード

 攻6000/打2

 

 現れた刀を地面に突き刺し、それを支えに立ちあがる。左手を動かすと少し痛むので使うのは右手だけ。

 

「……行くぞ、アタックフェイズ!ゼロソードは俺のセンターにモンスターがいても攻撃できる。まずはアンジェラスに攻撃!おおおおっ!!」

 

 振り上げた刀を下ろすと、三日月状の白いエネルギーが飛んで行った。瞬く間にエネルギーはアンジェラスを真っ二つに切り裂いた。

 

「くっ、アンジェラス……!」

 

「続け!サプライヤーとブラスターで連携攻撃!ゼロソードの能力で、ゼロワールドのモンスターが連携攻撃した時に、相手にダメージ2!」

 

「ぐあっ!!」

(L:12→10)

 

「……ターンエンド」

 

 

 

 零人

 ライフ7/ゲージ0/手札7/デッキ39枚/墓1枚

 

 ラグナ(ドラコ)

 ライフ10/ゲージ2/手札6/デッキ41枚/墓1枚

 

 

 

「僕のターン。ドロー、チャージアンドドロー。《支天甲 ドレアマーティ》を装備!ドロップのカード1枚をデッキの下に戻して、デッキの上から1枚をゲージに置くよ」

(G:2→3→4、手:6→7→6、墓:1→0)

 

 支天甲 ドレアマーティ

 攻4000/打1

 

 [地獄]はドロップを増やすと聞いていたけど、[天国]はどうやらその逆のようだ。ドロップが少ないほど得をする、らしい。

 

「ゲージ1を払い、《純白の御使い ホワイティア》をライトにコール。更にゲージ1を払って《煌めく御使い キラリアン》をレフトにコールだ。キラリアンの能力でデッキから《許しの門 -フォーギブン-》1枚を手札に加える!」

(G:4→3→2、手:6→5→4→5、墓0→1→2)

 

 純白の御使い ホワイティア

 サイズ2 攻6000/打2/防2000

 

 煌めく御使い キラリアン

 サイズ1 攻3000/打2/防1000

 

「何だ?さっきからワールドに関係なく、カードを使えてるぞ?」

 

『零人。どうやらあのフラッグの能力が関係しているようだ』

 

「マジで?……うわ、本当だ。[天国]属性なら何でも使えるんだな……」

 

「驚いたかな?じゃ、続けるよ。《許しの門 -フォーギブン-》を設置!そして《舞い降りる御使い アンジェラス》をレフトにコール。キラリアンは押し出しでドロップへ行き、アンジェラスの能力で1枚引く。ゲージ1とライフ1を払いキャスト、《天竜神明》。ドロップのカード3枚をデッキの下に戻して2枚引くよ」

(G:2→1、L:10→9、手:5→4→3→4→5、墓:2→3→2)

 

 手札がほとんど減らないし、ドロップは5枚以上にならないし……。サツキさんとの稽古では使わなかったが成程、これが[天国]の戦い方か。

 

「待たせたね、アタックに入るよ。アンジェラス、センターのサプライヤーに攻撃!」

 

「キャスト!《アタック・ナッシング》!連携攻撃ではない攻撃を無効にする!」

(手:7→6)

 

「ホワイティアはドロップが5枚以下なら【貫通】を、3枚以下かフォーギブンが設置されているなら【2回攻撃】を得る!センターへ攻撃だ、ホワイティア!」

 

『主の思いのままに……。はぁっ!』

 

『エンペラー様、零人様、ご武運を!』

 

「ガハッ!!……あぁ、任せろ!この程度の【貫通】、どうってことねぇ!」

(L:7→5)

 

『サプライヤーよ。お前のくれた力、無駄にはせんぞ!』

 

 もう一発来る!何とか防ぎ切りたいが、ゲージが足りないし、デッキもまだ残っている。頼りはサプライヤーの能力で引きこんだ、手札の《アタック・ナッシング》1枚だけ。

 

「【2回攻撃】!ホワイティアでファイターに攻撃だよ!」

 

「キャスト、《アタック・ナッシング》!攻撃を無効化だ!」

(手:6→5)

 

「トドメはさせないか……。ならレフトに攻撃させてもらうよ!」

 

『うわぁぁぁ!!』

 

「くっそぉ、ブラスターの能力!場を離れたのでデッキの上から1枚をゲージに置く……!」

(G:0→1)

 

「まあ仕方ないね。これでターンエンドだ」

 

 何とかターンが帰って来た……!どうにかこのターンで決めきりたい所だが、相手の動きが今一つ読み切れない。とりあえずやるべき事は……。

 

「……ドロー。チャージアンドドロー。ライフ2を払ってキャスト、《ブレイク・ルール》。デッキの上からゲージを5増やし、5枚ドローする!更に《オーバードロー》をキャスト!俺のゲージと同じ枚数、つまり7枚ドローだ!」

(G:1→2→7、L:5→3、手:5→6→10→16、墓:5→6→7、山:残19)

 

「全く、さっきから詐欺めいたカードばかりですね」

 

「褒めてくれてサンキュー。ライトに《ゼロ・ファントム》をコール。登場時に3枚引いて、手札を1枚捨てる。《ゼロ・コング》をレフトにコール。登場時、デッキの上から3枚をドロップに置き、その中の属性[ゼロ]のモンスターの数だけ相手にダメージ1を与える!」

(手:16→17→16、墓:7→8→11、山:残19→13)

 

 ゼロ・ファントム

 サイズ1 攻0/打0/防3000

 

 ゼロ・コング

 サイズ2 攻0/打2/防0

 

 ・置いたカード

 ゼロ・ソルジャー(モンスター)

 オーバーチャージ(魔法)

 ゼロ・エクスキューショナー(モンスター)

 

「モンスターが2枚。よって、ラグナに効果ダメージ2!」

 

「うわぁっ!!小細工とは……中々やりますね」

(L:9→7)

 

「手札1枚を捨てて《無常の城》を設置。俺の場の[ゼロ]のカード全ての攻撃力を+4000、打撃力+2する!行くぞ、アタック!」

(手:16→14、墓:11→12)

 

 無我の刀 ゼロソード

 攻6000→10000/打2→4

 

 ゼロ・ファントム

 攻0→4000/打0→2

 

 ゼロ・コング

 攻0→4000/打2→4

 

「ファントム!ホワイティアに攻撃!」

 

「ゲージ1を払いキャスト!《竜の祝福》!僕の場のモンスター全てを手札に戻すよ」

(G:1→0、手:5→4→6、墓:2→4)

 

 しまった、手札に逃げられた……!次のターンに回られると面倒だな。コングとゼロソードでライフを削り切れればいいんだけど……。

 

「コング!ラグナに4点ぶち込め!」

 

「キャスト!《ヘブンズシールド 聖域の盾》で攻撃を無効化して、ライフを+1する!これでどう足掻いても倒せないですよね?」

(手:6→5、L:7→8、墓:4→5)

 

「くっそ……それでも、ゼロソードで攻撃!うぉらぁぁぁっっ!!」

 

「ぐっ……はっ……!」

(L:8→4)

 

「……ターンエンド」

 

 零人

 ライフ3/ゲージ7/手札14/デッキ13枚/墓12枚

 

 ラグナ(ドラコ)

 ライフ4/ゲージ0/手札5/デッキ38枚/墓5枚

 

 デッキが無くなるまで、あと1ターン……。手札もゲージもあるにはあるがライフ差では負けている。ラグナが次のターンでトドメを刺しに来るのは確実。ここは受けて立つしかない……!

 

「僕のターン。ドロー、チャージアンドドロー。フォーギブンの能力発動。ドロップから3枚をデッキの下に戻してライフ+1。そしてドレアマーティの能力で1枚戻してゲージ+1」

(G:0→1→2、L:4→5、手:5→6、墓:5→2→1)

 

 不意に何かマズイ気がした。このピリピリした感覚……あの白黒竜が出て来るのか?

 

『来るぞ。構えろ、零人』

 

「……あぁ、やっぱりそういう事か」

 

「ゲージ2を払い、デッキの上から1枚をソウルに入れて、ライトにバディコール!!頼むよ、《変貌を迎えし竜 パラダイス・ロスト》!!」

 

『やっと暴れられる!こんな喜び、他にあるかい!?嬉しいからバディギフトあげるよぉ!!』

(G:2→0、L:5→6、手:6→5、墓:1→3)

 

 遂に出やがったな、白黒竜――いや、パラダイス・ロスト。場に登場する姿は、正に狂喜乱舞といった所か。

 

『ぼくたちをはなせーー!!』

 

『ああ?もうこのオモチャ、邪魔だなぁ。お前らまとめて飛んでっちゃえ!あはははは!!』

 

 そう言うとパラダイス・ロストが子どもたちを掴んだまま振りかぶる。まさか、と思った瞬間、城の外へ投げやがった……!

 

『カウント、バロン!行くよ!』

 

『ガキどもーー!!』

 

『間に合ってくださーーい!!』

 

 デューク達が飛び出す……のは見えた。それに気付いた時にはもう、空中で子どもたちを抱きかかえていた。

 

「頼んだよ、ジャック!」

 

『お前達、私の手を掴め!』

 

 SD化を解いたジャックが飛び出し、両手を伸ばす。子どもを抱えた3体は、全く躊躇することなく、その手を掴んだ。

 

「デューク、子どもたちは無事か!?」

 

 泣き声1つ上げなくなった彼らに対し、どうにも両親の最期の記憶がよぎってしまう。まさかあの子達も……?

 

『うん!皆、気を失ってるけど、大きな怪我もないみたい!』

 

『良かった……本当に、良かった……。すまない、皆。我が不甲斐ないばかりに……』

 

「……そう気にするな、エンペラー。あいつの気紛れだが、とりあえず人質は解放。後は俺らが勝てば万事解決」

 

『とは行かないだろう?あの外道共は許さん。小童と狂気の竜に、しっかりと灸を据えてやらねばな』

 

「やっぱりそうだよな。取りあえずやる事はしっかりやってやろうぜ」

 

 ふうっと息を吐く。人質という枷が外れたからか、怒りが薄れ、幾分か頭がすっきりしている。改めて相手と向き合う。

 

 ソウタとファイトした時、感じた喜びや楽しさ。どんなに過酷なファイトでもそれを忘れちゃいけない。

 

「僕のターン中に好き勝手やってくれちゃって」

 

「悪かったな、ラグナ。ファイトを続けようぜ」

 

「だから、ドラコだーー!」





今回の後書きは、ファイトで使用した新たなゼロワールドのカードです!



《無我の刀 ゼロソード》
 
属性:ゼロ/武器
■【装備コスト】ゲージ1を払い、ライフ1を払う。
■このカードは君のセンターにモンスターがいても攻撃できる。
■君の場の、ゼロワールドのモンスターが連携攻撃した時に、相手にダメージ2!この能力は1ターンに1回だけ使える。
攻撃力6000/打撃力2




《アタック・ナッシング》
 
属性:ゼロ/防御
■相手のターンの攻撃中に使える。
■【対抗】その攻撃が連携攻撃でないなら、無効化する。




《ゼロ・ファントム》
 
サイズ1
属性:ゼロ
■このカードが登場した時、君のデッキから3枚引き、1枚捨てる。《ゼロ・ファントム》は1ターンに1枚だけコールできる。
攻撃力0/打撃力0/防御力3000




《ゼロ・コング》
 
サイズ2
属性:ゼロ
■君のターン中、このカードが手札から登場した時、君のデッキの上から3枚をドロップゾーンに置く。置いたカードの中にある[ゼロ]のモンスターの数だけ、相手にダメージ1。
■《ゼロ・コング》は1ターンに1枚だけコールできる。
攻撃力0/打撃力2/防御力0




2人の決着はどうなるのか?次回に続きます!


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とりもどす

今回はかなり時間が経ってしまいました……。という訳で軽くおさらい。

無我零人はバディのゼロ・エンペラーを追って彼の故郷、ゼロワールドに突入。タスクやシオウと共に行動するが、敵であるドラコ・アルマードの襲撃を受けてしまう。

零人はドラコとのファイトを提案。様々な思惑が交差する中、戦いの火ぶたが切って落とされた――。


それでは続きをどうぞ!



 零人

 ライフ3/ゲージ7/手札14/デッキ13枚/墓12枚

 

 ・センター:なし

 ・ライト:《ゼロ・ファントム》

 ・レフト:《ゼロ・コング》

 ・アイテム:《無我の刀 ゼロソード》

 ・設置:《無常の城》

 

 

 

 ラグナ(ドラコ)

 ライフ6/ゲージ0/手札5/デッキ38枚/墓3枚

 

 ・センター:なし

 ・ライト:《変貌を迎えし竜 パラダイス・ロスト》ソウル1

 ・レフト:なし

 ・アイテム:《支天甲 ドレアマーティ》

 ・設置:《許しの門 -フォーギブン-》

 

 

 

 ラグナがパラダイス・ロストをバディコールした。コアガジェットの機能でカード情報を見ると、“ドロップゾーンが5枚以下なら、このカードの打撃力を+1し、『貫通』を得る”とあった。

 

「成程な……。ドロップの数で能力が変わるのか。面白いな」

 

『しかし、現状なら問題は無い。潤沢な手札とゲージで護りきれるはずだ』

 

「どうかな?《聖浄の門-サンクチュアリ-》を設置!さあ、面白くしてあげましょう!《月夜の御使い ゲッコーマスク》をレフトにコール。登場時にデッキの上から1枚ゲージに置き、僕のドロップが5枚以下ならもう1枚置く!」

(G:0→2、手:5→4→3)

 

 月夜の御使い ゲッコーマスク

 サイズ2 攻5000/打2/防4000

 

 どういう事だ?ゲッコーマスクはサイズ2、パラダイス・ロストはサイズ3。サイズオーバーの筈なのに、何で2体とも場に残ってる?

 

「サンクチュアリがあれば、僕の場の[天国]モンスターはサイズが1つ減るんだ」

 

「……サイズ3は2に、サイズ2は1に……。確かに2と1で事足りてるな」

 

「サンクチュアリにはもう1つ能力があって、ドロップの[天国]3枚をデッキの下に戻すと、ドロップが3枚以下なら、カード2枚を引けるんです」

(手:3→5、墓:3→0)

 

 ……何だ、あの安定志向。回る前に倒される事が多い身としては羨ましい。

 

「ゲージ1を払って《純白の御使い ホワイティア》をレフトにコール、ゲッコーマスクは押し出しでドロップへ。そしてドロップゾーンのカード1枚をデッキの下に置いてキャスト!《白きヴァールの激励》!僕のアイテムの打撃力+1して、【貫通】を与えます」

(G:2→1、手:5→4→3、墓:0→2)

 

「確かホワイティアは【2回攻撃】可能、ドレアマーティは……」

 

 確認すると“ドロップゾーンが0枚なら、このカードの打撃力+1!”……。って事は、今は打撃力2か。

 

「《ヘブンズ・ギフト》をキャスト。2つの能力があるけど、今回は2つ目を使います。僕のドロップのカードを全てデッキの下に戻してシャッフル。その後、[天国]が【設置】されているので1枚引いて、このカードをゲージに置きます!」

(G:1→2、手:3→2→3、墓:2→0)

 

 これでドロップが0枚。ドレアマーティの打撃力は《白きヴァールの激励》も込みで3点となった。俺のライフは3だから……。

 

 ホワイティア:打2、【2回攻撃】

 パラダイス・ロスト:打3、【貫通】

 ドレアマーティ:打3、【貫通】

 

 ホワイティアの攻撃を、一回しか受けられないのか!?手札を見ると防御用のカードは4枚、止められない事は無い。しかし次のターンの為に、ライフをこれ以上失いたくはない。ここは全ての攻撃を全力で止める!

 

「アタックに入ります!まずは僕から、ファイターに攻撃!」

 

 ラグナがジャンプしながらこちらに向かって来る。その時、心臓が一際強く、鼓動する。今なら分かる。これはフューチャーフォースに対しての反応だ。今、ラグナはドレアマーティを実体化させているのだろう。

 

「キャスト!《アタック・ナッシング》!連携攻撃でない攻撃を無効化する!」

(手:14→13、墓:12→13)

 

「パラダイス・ロスト、ファイターに攻撃!」

 

『“操り人形”なら壊せるよね!?グシャグシャのバッキバキにしてやるよぉ!!』

 

「ならねぇよ!キャスト!《ゼロシールド 虚無の盾》!攻撃を無効化して、デッキの上からゲージ+1!」

(G:7→8、手:13→12、墓:13→14、山:13→12)

 

「ホワイティア!ファイターに1回目の攻撃だ!」

 

 まだ鼓動が激しい。まさかずっと、フューチャーフォースを発動し続けているのか!?

 

「キャスト、《ゼロシールド 虚無の盾》!」

(G:8→9、手:12→11、墓:14→15、山:12→11)

 

「くっそぉぉぉ!!ホワイティア、2回目は《ゼロ・コング》に攻撃だぁぁっ!!」

 

「ゲージ1を払い、手札3枚を捨ててキャスト、《ゼロシールド 無力の盾》!攻撃を、無効化だ!」

(G:9→8、手:11→7、墓:15→20)

 

「倒しきれないか……。ターンエンド」

 

 ……どうにか防ぎきったか。ライフを守ろうとしたのがたまたま、上手くいったって感じだ。もしフューチャーフォース発動中の攻撃が当たっていたら、それこそ勝ち負けどころじゃない。

 

「俺のターンだな……ドロー、チャージアンドドロー」

(G:8→9、手:7→8、山:11→9)

 

 必殺技が手札に来た……!エンペラーもいるし、これは勝てるかも……。

 

「良いカードが引けましたか?実に嬉しそうな顔をしていますが、もしかして“勝てる”とか思っちゃってません?」

 

「……顔に出てたか?」

 

『零人。真剣勝負の最中は顔を崩すな。悟られたら最後、命を失うかもしれん……!』

 

 命を失う……。エンペラーの言葉で心臓が一際強く、跳ねた。もしかしたら父さんも母さんも、そんな状況に置かれていたのだろうか。そして2人は……。

 

 “焦って自分のファイトを見失っちゃいけないよ”

 

 ふと、サツキさんとの特訓を思い出す。何回も負けて、少し苛立っていた時に、声をかけてくれたのだ。

 

 

 

 *

 

 

 

「勝ちたいと思うのは構わない。でも強すぎる思いは時に、視野を狭くしてしまうんだ」

 

「……程々にしろ、って事ですか?」

 

「君の場合はそうだね。一か八かの勝負に出る事が多い印象かな?」

 

「……確かにそうかも……」

 

「だからまずは、深呼吸してみようか。そして盤面・手札・ライフなどを見て、最悪の事態を想定してみるんだ」

 

「最悪の……事態……」

 

「それを覆せるだけの盤面や手札を、ゼロワールドなら作りだしやすい。後はキミがどれだけ想定できるか、そして、勝てる状況に持っていく為のプレイが出来るか。そこにかかってると思うよ」

 

「……難しそうだなぁ……」

 

「考え過ぎてもダメだけど、まずは落ち着いて、冷静になる事が大切だよ。さあ、ファイトを続けよう!精神もプレイングも鍛える為にね!」

 

 

 

 *

 

 

 

 今の状況はどうか?ゲージと手札の数は勝っているが、手札の質はラグナが上かもしれない。あれが全て防御カードだったらどうする?

 

 俺の現状では少なくとも、3枚の攻撃がアイツに当たる事が勝利条件。できるなら必殺技は詰めとして使いたいから、あの手札を全て使わせたい……。しかし、俺の必殺技は“ダメージは減らない”が“無効化はされる”ので、攻撃無効化にはとにかく弱い。

 

 考えを変えてみよう。[天国]属性の防御カードにどのような物があるかは分からない。いや待て。確かトウカ先輩のデッキの中に数枚、入っていた気がする。《正義の盾は砕けない!》、《グレシオスの護法壁》、《蜘蛛糸の術》……。そう言えばラグナは《ヘブンズシールド 聖域の盾》も使っていたな。

 

 今、危険なのは《蜘蛛糸の術》と《ヘブンズシールド 聖域の盾》か?破壊やバウンスで攻撃の手が減るのは痛い。かといって無効化とライフ回復もトドメを刺しづらくなる。警戒すべきはこの2枚としよう。

 

 そこで急に気付いた。ゼロソードの能力で連携攻撃をした時に効果ダメージ2が入る。最低でもダメージ6を防がなければならない状況なら、無理やりにでも手札を使わせる事が出来ないか?

 

 そうなるとライフ1を払う《グレシオスの護法壁》や連携攻撃を防げない《正義の盾は砕けない!》を突破できる。《蜘蛛糸の術》はアイテムを戻されるかもだが、これもライフ1を払う以上、あまり使いたくは無いんじゃないか?

 

「……ライフ2を払いキャスト、《ブレイク・ルール》。デッキの上から5枚をゲージに、その後、5枚ドロー!」

(G:9→14、L:3→1、手:8→7→11、墓:20→21、山:9→0)

 

 デッキが無くなった……。これでやっと、相棒が出せる!

 

「俺のデッキが0枚になるなら、ゲージ3を払って、コイツを出せる。コングとファントムを押し出し、ライトにバディコール!《ゼロ・エンペラー》!」

 

『零人、バディギフトを受け取れ!』

(G:14→11、L:1→2、手:11→10、墓:21→26)

 

 ゼロ・エンペラー

 サイズ3 攻6000/打0/防0

 

「サンキュー、エンペラー。更にキャスト!《無我の充填》!俺のドロップにある[ゼロ]属性のカード3枚を選び、ゲージに置く!そして《ゼロ・ソルジャー》2体をセンターとレフトにコール!ソルジャーは登場時、俺のデッキが3枚以下なら、ドロップから[ゼロ]属性の魔法を2枚、ゲージに置けるんだ」

(G:11→14→16→18、手:10→9→7、墓:26→24→22→20)

 

 ゼロ・ソルジャー

 サイズ0 攻0/打0/防0

 

 こちらの攻撃は最大5回。《無常の城》で攻撃力+4000、打撃力+2されているが、ゼロソードは打撃力4、それ以外の3枚は打撃力2……。今、この状況を突破するにはブレイク・ルールで引いた“このカード”しかない。

 

 準備は整った。今の手札でやれる事はやりきった。後は、人事を尽くして天命を待つ、だ。

 

「やるぞ、皆!アタックフェイズ!まずはソルジャー2体でラグナに連携攻撃!ゼロソードの能力で相手にダメージ2!」

 

「がぁぁっ!!……キ、キャスト、《ヘブンズシールド 聖域の盾》!攻撃を無効化してライフ+1だ……!」

(L:6→4→5、手:3→2、墓:0→1)

 

 

 

 *

 

 

 

 僕の手札は残り2枚。1枚は《ヘブンズシールド 聖域の盾》……しかし耐えきれる可能性はまだある。もう1枚が《ゴッド・オブ・ロウ》だからだ。これならパラダイス・ロストに攻撃対象を変えさせて、更にセンターに移せる。

 

 確か彼の必殺技は、場のカード全てで連携攻撃だったか。全てのカードが1回しか攻撃出来ないなら、単体攻撃だろうと連携攻撃だろうと、ソウルを持ったパラダイス・ロストを倒すのが精いっぱい……。仮に必殺技を撃たれても、盾で凌げる。完璧だ……これなら勝て――。

 

「おい、ラグナ。お前、油断とかしてないよな?」

 

「……は?」

 

 急に何を言い出すんだ、この男?僕は間違いなく、完璧なファイトをしている筈だ。

 

「いや、すげぇ余裕そうな顔だったから、つい……。続き、行くぜ……!」

 

 

 

 *

 

 

 

「エンペラー、ラグナに攻撃!」

 

『悪に塗れし者よ、吹き飛ぶがいい!ロイヤルスマッシュ!!』

 

 エンペラーが拳を振り上げると、ラグナは高らかに宣言した。

 

「キャスト!《ゴッド・オブ・ロウ》!パラダイス・ロストをセンターに移動させ、攻撃対象をコイツに変更する!連携攻撃にすれば効果ダメージが入ったのに、プレミですかぁ?」

(手:2→1、墓:1→2)

 

 やはりラグナは気付いていないらしい。今の俺が持つ、唯一最善の策に。

 

「……ゲージ3を払い、ライフ1を払ってキャスト。《無我の境地》!場のカード全てのソウルを、全部ドロップに置く!そしてエンペラーを選択し、ドロップに置いたソウルの枚数分、エンペラーをスタンドさせる!」

(G:18→15、L:2→1、墓:20→24)

 

『そして我が拳は貴様を捕らえたままだ!防御力6000如きで、攻撃力10000は耐えられんだろう!』

 

『フザケルな……グチャグチャにさせろ、バキバキにさせろ!ぶち壊させろぉぉぉ!!』

 

 断末魔の叫びを遮る様に、エンペラーの一撃が決まる。パラダイス・ロストは破壊され、光となって場を離れた。

 

「な……。この土壇場で、そんなカードを使うのか!?……くっ、パラダイス・ロスト!」

(墓:2→4)

 

「エンペラー!ゼロソードと……俺と、ラグナに連携攻撃だ!」

 

『共に行こうぞ、零人!ぬぉぉっ!!』

 

 俺が剣を振るい、三日月状の光刃を発射すると、エンペラーは右手を出し、それを吸収した。強く握った手は輝き、更には光刃と同じ形のエネルギーが、その拳の表面に無数に出現した。

 

『食らうがいい、効果ダメージ2!』

 

 エンペラーが正拳突きの構えをとると、出現したエネルギーの一部がラグナに向かって飛んで行った。

 

「ぐはぁっ……!!」

(L:5→3)

 

「そして我らの連携攻撃!打撃力6の、ロイヤルソードスマッシュ!!ぬぁぁぁっっ!!」

 

 残った光刃全てが拳を包み込む。その形はどことなく、断頭台の刃に似ている気がした。エンペラーは走り出すと、数回ジャンプを交え、空中でラグナを正面に捕らえた。弓を引く時のような体勢から、落下に合わせて拳を突き出す。

 

「キャスト!《ヘブンズシールド 聖域の盾》!攻撃を無効化して、ライフ+1します……!」

(L:3→4、手:1→0)

 

 エンペラーの光刃を纏った拳は、現れた盾によって防がれてしまった。しかしこれで良い。もうラグナに、俺達を止める方法は無い!

 

「「ファイナルフェイズ!!」」

 

「相手のセンターが空いていて、俺のデッキが0枚なら、ゲージと手札を合計20枚をドロップゾーンに置く……」

 

『使えばこちらの全ての[ゼロ]が立ち上がり、全員で減少しない攻撃をする……』

 

「「キャスト!!《無零奥義 ゼロ・オーバー・ストライク!》」」

(G:15→0、手:6→0、墓:24→45)

 

 発動と同時に、身体の奥から力が湧いてくる。今なら剣を片手で振るう事も、そのままラグナに突撃する事も容易に思える。

 

 

 

 *

 

 

 

 彼が必殺技を使うと、本人を含めた4人が光輝くオーラに包まれた。一際強く照っていたのは、彼――無我零人だ。

 

 あれはフューチャーフォースか?いや、もしかしたらゼロワールドの力?いずれにしても僕に分かるのは、僕が敗北するという事。そしてあの力は、未来の力でも、闇の力でもない、全く新たなモノだという事だ。

 

 理由は分からないが、温かな液体が頬をつたった。

 

 ――悔しい?

 

 どちらかが訊ねる。

 

 ――いや、久しぶりに感じるが、これは何だ?

 

 どちらかが訊き返す。

 

 ――さぁ。僕は分からないや。

 

 どちらかは笑って言った。

 

 ――そうか。俺もだ。

 

 どちらかも笑った。

 

 いつ以来だっただろう、2人でしっかりと話したのは。

 

 

 

 *

 

 

 

「いっけぇぇぇぇ!!全員で、ラグナに攻撃!!これは連携攻撃なので、ゼロソードの能力発動!効果ダメージ2を与える!」

 

「…………」

(L:4→2)

 

「ダメージ総数は10点!これで、ラストォォ!!」

 

 全員でラグナに突撃する。2体のソルジャーが何処からともなく小太刀を手に取ると、同時に一閃を繰り出した。次いでエンペラーの拳がクリーンヒットした。そして、俺が最後の一撃を加えようとした時だった。

 

「……え……?」

 

 彼は目を伏せ、涙を流し、しかし薄らと笑みを浮かべていた。今までのような邪悪な物ではなく、もっと人間らしい、優しさに満ちた顔だった。

 

 一瞬、世界が止まった気がした。振り被った剣を下ろすのが怖い……。平気な顔で今の彼を切り伏せ、勝利に酔いしれるのが、怖い……!その時、目を開いた彼と視線が交わる。

 

 彼は口を動かさずに頷いた。

 

 それを見て俺は覚悟を決めると、構えた剣を振り抜いた。彼にダメージが入った時、「ありがとう」と聞こえたような気がした。それで分かった。この僅かな時間に、“ドラコ”は自分を取り戻し、“アルマード”は元の場所へ帰って行ったのだろう。

 

 彼はこの瞬間、ようやく本当の自分――“ラグナ”――に戻ったんだ。

 

 ラグナ:ライフ2→0 WINNER 無我零人。

 




今回のタイトル「とりもどす」とは、ドラコ・アルマードがラグナに戻る事を指しています。平仮名なのは純粋さを表現したかったからですね。


※今回のオリカ(調整前ではラストかな?)




《無我の刀 ゼロソード》
属性:ゼロ
アイテム
■【装備コスト】ゲージ1を払い、ライフ1を払う。
■このカードは君のセンターにモンスターがいても攻撃できる。
■君の場の、ゼロワールドのモンスターが連携攻撃した時に、相手にダメージ2!この能力は1ターンに1回だけ使える。
攻撃力6000/打撃力2



《ゼロ・コング》 
サイズ2
属性:ゼロ
■君のターン中、このカードが手札から登場した時、君のデッキの上から3枚をドロップゾーンに置く。置いたカードの中にある[ゼロ]のモンスターの数だけ、相手にダメージ1。
■《ゼロ・コング》は1ターンに1枚だけコールできる。
攻撃力0/打撃力2/防御力0



《ゼロ・ファントム》 
サイズ1
属性:ゼロ
■このカードが登場した時、君のデッキから3枚引き、1枚捨てる。《ゼロ・ファントム》は1ターンに1枚だけコールできる。
攻撃力0/打撃力0/防御力3000



《ゼロ・ソルジャー》 
サイズ0
属性:ゼロ
■このカードが登場した時、君のデッキが3枚以下なら、君のドロップゾーンから[ゼロ]属性の魔法を2枚、ゲージに置いてもよい。



《アタック・ナッシング》
属性:ゼロ/防御
■相手のターンの攻撃中に使える。
■【対抗】その攻撃が連携攻撃でないなら、無効化する。



《無我の充填》
属性:ゼロ/チャージ
■【対抗】君のドロップゾーンの[ゼロ]3枚を選び、ゲージに置く。《無我の充填》は1ターンに1回だけ使える。



以上かな?これで今回は終わりです。それではまた次回!


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追い詰められる者たち

何だかんだで延ばしてきた「ゼロの地」編もそろそろ終盤となってきました!

具体的には残り2話くらいですかね。今回もまた、自分お得意のファイト無し展開でございます。

それではお願い致します!


 謎の青年、ドラコ・アルマードことラグナによってゼロワールドの城が襲撃された。俺とエンペラーは彼にバディファイトを申し込み、激闘の末に勝利を収めた。だけど、まさかこの後、あんな事になるなんて、想像もしていなかった──。

 

 

 

 *

 

 

 

「勝った……零人さん達が……」

 

「当然だろ? アイツらは常識なんか知らない。それどころか、自分たちの力で新しいモンを創っちまうような連中だからな」

 

『……ラグナはゼロワールドへの対抗策を練らずに戦った。或いは練れなかったか……』

 

『イデア、何が言いたい?』

 

『ジャック、タスク、シオウ、皆の者、警戒しろ。外から何か、来る』

 

「──そうだな。お前がそう言うなら、すこーしガチモードに入るか!」

 

 彼らの言わんとしている事が一体何なのか、私はまだ理解できていなかった。ただ、シオウ様とイデア様の目付きが変わった事だけは分かった。

 

 

 

 *

 

 

 

 気付いた時、俺はラグナに肩を貸していた。相当の衝撃だったのか、彼は目を瞑ったままだ。

 

「ラグナ? おい、ラグナ!? しっかりしろ、目ェ開けろ!」

 

 身体から微かに鼓動が伝わる。一定のリズムで肌に息が触れる。よかった、どうやら気絶しているだけらしい。

 

『零人!!』

 

 エンペラーが叫んだ。直後に背後から殺気を感じる。何となく気配で分かった、パラダイス・ロストが俺の息の根を止めようとしている事に。

 

「く……っ!」

 

 自分でも分からないが、咄嗟に右手を突き出していた。勿論、そんな事で殺意を持った相手を止められる訳がない。覚悟は決めた──つもりだった。

 

「……え……?」

 

 不思議な感覚だ。身体の内側から溢れる力が、全身を駆け巡る。そんなイメージを浮かべると同時に、また頭の中に、あの声がした。

 

 “その力を、今は使わないで。使えば大変な事が起こるかもしれないから”

 

 心なしか優しい口調のそれは、声の高さから察するに、大人の女性だろうか。しかし俺はこの力の止め方を知らない。

 

 それよりもまずはラグナを、そして皆を守る事が優先だ! 声に逆らい、力を込めると、右手が白いオーラに包まれるのを感じた。

 

「零人! お前、その力は!」

 

 分かっている、これが何なのかは、もう既に。先代エンペラーと両親が残してくれた力。

 

「……ゼロ、フォース……解放!!」

 

 前方に、白いオーラが膜のように拡がる。パラダイス・ロストの突進はオーラに阻まれて届かない。

 

『ふざ、ケル、ナぁァァァっッ!! ヌァガァァァ!!』

 

 この白黒竜、かなり荒れてやがる。完全に鎮圧するために、更に力を込めて、膜の強度と柔軟性を上げてみる。オーラが強く発光すると、パラダイス・ロストは気絶してしまった。

 

『グッ……。ブガぁッハっ……』

 

「はぁ……やっと止まったか……」

 

 結構疲れた……。ゼロフォースが解けて、膜が無くなる。パラダイス・ロストの方を見ると、彼に付いていた傷は塞がっていた。ラグナを横にしようと腰を下ろすと、ある事に気付いた。

 

 ラグナの傷も塞がっている。激しいファイトだったからお互い傷だらけだったのに──。

 

『零人。無事か?』

 

「ああ、何とかね。ていうかエンペラー、何か嫌な気を感じるんだけど……」

 

『そっちは終わったみたいだね、零人? お疲れの所にゴメン、もう一踏ん張り、してもらえないかな?』

 

 デュークが城壁に空いた穴の外を見て呟く。いや、彼女だけじゃない。カウントにバロン、シオウさんやイデア達、果ては子どもたちも空の方に注目して……。

 

『ボロボロのお前には悪いが、かなりマズイ気配だ』

 

「……この感じ……」

 

 押しつぶされるようなプレッシャー。ラグナ達とは別次元の、明確な殺意。俺は知っている、過去の絶望と恐怖を。あの地獄の場において、常に発せられていたこの重圧を。

 

 俺も空を見上げると、次の瞬間、空間にヒビが入った。いや、それどころじゃない。

 

「空が割れた……!」

 

 シオウさんが呟く。その顔を見るに、どうやら彼にとっても予想外の事態らしい。空には真っ黒な穴が空いている。その奥から、大きな光る腕が現れた。

 

『おい、ニンゲン……何だよ、アレ……』

 

『カウント、デューク。構えましょう』

 

『ゴメン、零人も動けたら、動いてくれない? 私たちだけだと流石にヤバそう……』

 

 エンペラーの従者とも言える立場であろうデューク達が、ここまで警戒するとは。まぁ、無理もない。相手が相手だからな。

 

「……分かった。エンペラー、ちょっと肩、貸してくんない?」

 

『無理はするなよ、零人。もう分かっているだろうが、あの光る腕──只者じゃないぞ』

 

「……気付いてたか。お互いに……」

 

 肩を借りながら、尚も腕の方を向き続ける。全ての挙動を注視しなければ危険すぎるからだ。掌を見せて来る、軽く100メートルはあるであろうそれが、何をしようとしているのか。全く油断できない。それにあの腕には見覚えがあるような……。記憶の断片、無意識に消そうとした過去の中に、それを見た気がする。

 

「お前ら、退いてな」

 

『ここからはバディポリスの出番だ。タスク、ジャック、用意は出来ているか?』

 

『臨戦態勢なら整っているぞ』

 

「僕も覚悟はしています。しかしあれは一体……?」

 

 タスクの質問にシオウさんもイデアも答えない。その反応の意味は多分、二択。知らないか、知っていて「あえて」喋らないか。俺としてもタスクやジャックには深入りしないでほしかったが、彼らもバディポリスの一員。あの事件についてある程度は知っているのだろう。

 

「……あれは、ワールディアスの腕だろう?」

 

「え……?」

 

 シオウさん達は反応しなかった。いや、反応しないように努めたのだろう。それはつまり、事情を知っているからこそ成せる行動だ。

 

「……バディポリスはどこまで知っているんですか?」

 

「……さぁな。ただ、俺とイデアに関しては、今のお前よりも真実に近い場所にいると思ってた」

 

『今回の事でまた混乱の最中に戻されたがな』

 

 そうなると、タスクとジャックはシオウさん達よりも情報を与えられていない事になる。サツキさんと美奈さんに至っては恐らく、殆ど何も知らないはず……。あくまでも勝手な予想だが、そうあってほしいと願ってしまう。

 

『ゴメン、取り込み中に悪いんだけど……状況が変わっちゃったみたい……』

 

 デュークの不安そうな声でふと気付く。いつの間にか腕から注意を逸らしてしまっていた。再び意識を戻すと、腕は先程よりも高い位置、空の穴の方に戻っている。今は拳のみが見えるだけ──。

 

「──拳、だけ……?」

 

 何故あの位置まで戻した? 開いていた掌を握る意味は何だ? 考え始めた矢先、シオウさんは飛び出していた。イデアも外に出るなりSD化を解いて、彼を乗せて羽ばたいた。

 

 タスクとジャックも後を追うように空へ向かう。彼らが何を察知したのか、未だに理解する事は出来ないでいた。しかし先程から感じる胸のざわめきは、間違いなく俺たちに危険を伝えている。

 

「……まさか!」

 

 人間であの動きを例えると、対象に向かって拳を振り上げている事になる。光る腕が狙う対象、それは、

 つまり──。

 

『──零人!! ゼロフォースを使ってこの場を守れ!!』

 

「……っっ!! ゼロ……フォース!!」

 

 シオウさん達は地上に拳が下ろされるのを防ぐために向かっていったのだ。しかし間に合うかどうか……正直に言って分からない。だからエンペラーは最悪の事態を想定したのだろう。シオウさん達が止められなかった場合、俺達は自分の身を守らなければならない。だからこそ、ゼロフォースで守る事が出来る俺に、発動を促した。

 

 

 

 *

 

 

 

「タスクちゃん、ジャック! これ以上あれに近づくのはまずい、遠距離射撃で一旦、様子見だ!」

 

「了解!」

 

『解った!』

 

 シオウの命令に、後ろに付いていたタスク達が応えた。彼らが見上げる先の空には、漆黒に染められたかのような大穴──別空間と繋がるゲート──が開いている。光る腕は拳を握ってその中へと上昇を続ける。腕だけで100メートル以上もあるそれが、地上に打ち付けられたなら……。タスクやシオウはそんな“最悪の事態”を危惧していた。

 

『シオウ、急ぐぞ。さっきから嫌な予感がする……』

 

「あぁ……。しかし、先走っても事態の悪化は避けられない。まずはやれるだけやってみねーと……」

 

「シオウさん! 準備が終わりました!」

 

『いつでも発射可能だ!』

 

 タスクはフューチャーフォースを発動、その力を持って、ジャックに幾体かの《竜装機》を【星合体】した。頭部のブレードによる攻撃を得意とするジャックが遠距離攻撃を行うには、こうした配慮が不可欠なのだ。現在はトリプルバスター、J・アーセナル、J・ギャラクシオンと合体しているジャック。背中に大量の砲門を積み、かなりの重武装となっているが、変わらず悠々と浮遊を続けている。

 

 既にシオウも準備は整っていた。あわよくばゲートを破壊可能な策も練っている。しかしそれでどうこう出来るほど、状況に余裕は無い事を彼は気付いていた。

 

『どうかしたか、シオウ?』

 

「……なぁイデア。仮に拳が打ち付けられたら、この世界はどうなる?」

 

 その問いにイデアは答えない。口を開き、淡々とエネルギーを収束させていくが、シオウはすぐに察した。答えたくないのだ、と。

 

 拳の一撃で間違いなく地上は壊滅する。地形を大きく変えてしまうであろう事を……。

 

『……チャージ完了! シオウ、発射態勢に移る!』

 

 そのテレパシーを受けてシオウは我に返る。今はまず、拳が下りてこないように、あのゲートを閉じる事が先決なのだ。顔を横に振って気合いを入れ直す。

 

「これより状況を開始する! 各員、目標確認、構え……発射!」

 

 イデアの光線とジャックによる重火器攻撃が、ゲートに向かって放たれる。この破壊力なら、本来であれば一発で破壊できる。早い段階からシオウはそう踏んでいた。しかしその予測はまたしても覆る事となる。

 

「な……に……?」

 

 その場にいた全員が息を飲んだ。2体のモンスターによる全力の攻撃は、見えない何かに着弾した。透明な壁のような物によって阻まれてしまったのだ。当然、腕もゲートも、破壊どころかダメージすら与えられていない。

 

『我らの力でも無傷か……』

 

『どうする!? このままでは対処できないぞ!』

 

「シオウさん、別の案はありますか?」

 

 シオウは答えられなかった。第二のプランとして、フューチャーフォースによる《シャイニング・パニッシャー!!》の実体化があった。パニッシャー系列の威力は凄まじく、また、系列のカード全てが“ゲートを強制的に閉じる力”を有しているからだ。しかし相手が防御策を用意しているとなると話しが変わる。

 

 幾ら強力なカードでも、威力が落ちれば効果もしっかり発動出来ない。パニッシャーは阻害されずに当たらなければ、その力でゲートを閉じる事は出来ないのだ。

 

『どうする、シオウ! このままでは──』

 

 イデアが言いかけた時にはもう遅かった。巨大な腕は強く輝き、遂に地上へ向けて拳を下ろしてきた。そのサイズに見合わないスピードはシオウの予想を遥かに上回る物で、判断に費やす時間はまともに残されていない。

 

「くっそ、退避だ……うわああぁ!!」

 

『シオ……ぐ、ぬぅ……!!』

 

 シオウとイデアは拳を避けたものの、風圧に耐えきれずに吹き飛ばされてしまった。タスクの脳裏にある言葉が蘇る。

 

 “……なぁイデア。仮に拳が打ち付けられたら、この世界はどうなる? ”

 

 その答えはもう決まっているようなものだった。タスクは《シャイニング・パニッシャー!!》のカードを右手に取ると、そのまま頭上に掲げる。

 

『タスク! 私たちがやるしか無さそうだぞ!!』

 

「あぁ、行くよジャック! キャスト! 《シャイニング・パニッシャー!!》」

 

 カードが光り輝くと、タスクの背後に巨大な剣が現れた。未来の機械的な要素と、竜の持つ幻想的な要素が組み合わさったそれは正に“高貴”と言わざるを得ない代物だ。彼が掲げたカードを振り下ろすとその動きに合わせてパニッシャーが動き出す。

 

「いけぇぇぇぇぇ!!」

 

 拳とパニッシャーが空中でぶつかり合う。空に浮かぶ雲は吹き飛び、地上に向かって突風が吹き荒れる。あまりにも強い衝撃に対し、タスクとジャックもその場でバランスを保つのが精一杯だった。彼が倒れたらパニッシャーも連動する。だからこそここで踏ん張らなければならないのだ。

 

『ぐ……頑張れタスク! 私も全力で君を護る!』

 

「ジャック……ありがとう。その期待に、僕は応える……っ!! はあああっっ!!」

 

 タスクの気合いに同調するかのように、《シャイニング・パニッシャー!!》のカードが一層強く輝き、そしてそこから2つの光が放出された。浮遊する光は彼の手元に来ると、パニッシャーに重なる形でカードに変化した。

 

 それはかつて龍炎寺タスクが受け取り、使用して、進化させて来た姿。闘神の力を宿した《ガルガンチュア・パニッシャー!!》、星の力を宿した《レディアント・パニッシャー!!》だった。そしてそれらもまた、フューチャーフォースによって実体化を果たす。

 

「これは……」

 

『タスクの“護りたい”という感情にパニッシャーが応えたのか……!』

 

「うおおおおお! さっすが、タスクちゃんだね~! 最強ファイターの呼び声が高いのも分かるなぁ~、うんうん!」

 

 タスク達の背後から巨大な白い竜と人間が猛スピードで突っ込んでくる。時と場を弁えない、その呑気な物言いを聞いた彼らの顔は、言いしれぬ安堵に包まれた。

 

『ジャック! タスク! 我らも援護する、全力で行け!!』

 

「そーいうこった! お前たちの紡いだ軌跡を、ヤツにぶつけてこい!」

 

 いざという時に頼れる先輩からの圧倒的な信頼。それは2人を更なる高みへ引き上げるのに十分すぎる程の力を持っていた。

 

「行くぞ! トリプレット・パニッシャァァァッッ!!」

 

「そんじゃこっちも……キャスト、《竜の豪雷》! 更に《竜坤一擲》もだ!!」

 

 タスクが叫ぶと、2本のパニッシャーも光る腕に相対する。空中でぶつかり合う3本の剣と拳。シオウの放った魔法も含めて形成は……変わらなかった。この腕は大きさに見合わず、秘めた能力の容量が半端ではないらしい。数秒は両者とも拮抗したが、徐々にパニッシャーが押され始めた。

 

「くっそ、これでもまだ、なのかよ……!!」

 

『シオウ! あまり無茶はするな、私とタスクである程度は止められる……』

 

『バカ者!! “ある程度”ではいかん。結果を出さねば、死ぬぞ!!』

 

 イデアの檄が飛ぶ。普段はマイペースで、食欲に忠実な彼も流石に危険を察知したらしい。いつになく本気の叱咤にタスクも驚きを隠せない。

 

「し、しかし、どうすれば……」

 

 “我が煉獄の力、使うがいい……”

 

 どこからともなく現れた紫色の光球が、タスクの左手に納まる。頭の中に響いた声を、その輝きが持つ寂しさと温かさを、彼は知っていた。

 

「……ありがとう、ディミオス──いや、オルコス。この力を使わせてもらうよ」

 

 紫の光は1枚のカードとなり、実体化した。その姿は闘神の物に近いが、実体は全く非なる物。後悔と願いを司る剣だった。タスクが下方に左腕を伸ばしていたからか、他の3本とは離れた位置に現れた。

 

「《ディストーション・パニッシャー!!》」

 

 伸ばした腕を、物を投げるように動かす。連動して4本目の剣がソニックブームを出しながら、空の穴に向かって射出された。瞬間、剣から紫の輝きが広がり、そして──。

 

「──時は、止まる!」

 

 世界の色が反転する。全ての時間が停止する。それは3本のパニッシャーだろうと、光る腕だろうと関係ない。《ディストーション・パニッシャー!!》以外のあらゆる物が、時間停止──つまり、全く動けない状態になったのだ。これがこの剣の持つ固有の能力だ。

 

 唯一動けるディストーション・パニッシャーが真っ黒な穴に深々と突き刺さる。直後に世界の色が元に戻り、再び時間が動き出した。

 

「シオウさん!」

 

 パニッシャーが刺さった箇所から元の空間が上書きするように、黒い穴が消滅していく。パニッシャー共通の能力によってゲートが強制的に閉じられたのだ。同時に光る腕が空間から切り離される。

 

「やっべ! タスクちゃん、避けろ!」

 

 腕は輝きを失い、そのまま落下してくる。タスクは4本のパニッシャーを操ろうとするが、しかし、突如としてそれらは消えてしまった。

 

『タスク、ジャック──!!』

 

 イデアの叫びに辛うじて反応はしたが、バディスキルで浮遊するのがやっとだった。その様子を見て、シオウは直ぐに気付いた。タスクがフューチャーフォースを使い過ぎているという事、積み重なった負担でまともに動けない事。そしてジャックもその影響を直に受けている……。

 

「タスクちゃん! 掴まれ!」

 

『ジャックも来い! ここは退くぞ!』

 

 うなだれるタスクとSD化したジャックを抱え、シオウ達は零人の元へと戻る。その途中でシオウとイデアは、背後から発される悪意を察知してしまった。そして後悔した。

 

 光を失ってもまだ腕の効力が消えていない……。まさか、あの腕はワザと切られた、のか──? 

 

 しかし、今の彼らではそれを止める事は出来なかった。それを成し遂げる為の力を持つ者は、現状では1人もいない。全員が疲労困憊、あるいは能力が未成熟だからこそ、今は退くべき……とシオウとイデアは考えていた。

 

 

 

 *

 

 

 

 巨大な空の穴が4本の剣で断ち切られた……。俺が知る限り、巨大な剣を振るえるファイターは龍炎寺タスクのみ。さっきのあれは多分、彼が能力──フューチャーフォース──を発動した事による物だろう。これで最悪の事態は避けられる! ガッツポーズをしつつ、心の中で歓喜の声を上げていた。

 

 だが、次の瞬間にはその希望が打ち砕かれた。落ちて来る腕から途方もない量の悪意が溢れ出している……眩い光が消えたにも関わらず。本能か、或いは直感と言うべきかは分からないが、全身が粟立つのを感じた。

 

「ん? あれ……シオウさん!?」

 

 何かがすごい速さでこちらに向かって来ている。それがシオウさん達である事はすぐに理解したが、タスクとSD化したジャックが抱えられているのを見て、一気に不安が押し寄せて来る。

 

「タスク、ジャック!? どうしたんだ、大丈夫か!?」

 

「零人、逃げるぞ!」

 

 城に降り立つなりシオウさんは語気を強める。どうやら相当、事態が悪化しているらしい。彼の傷だらけの姿や意識を失っているタスクとジャック、明らかに疲弊しているイデアがそれを物語っている。

 

『零人よ、シオウの言うとおりにするぞ……!』

 

「……エンペラー?」

 

 予想外の事で驚いてしまった。この世界を愛し、仲間を思いやり、王としての役割を成そうとするエンペラーがこうも早く決断するなんて……。不安を抱えつつ、それでもしっかりと顔を見据えると彼の思いが分かった。

 

 王としての決断と優しすぎるが故の迷い。揺るがない決意も、全てを護りきれない悔しさも、口を結んだ表情からにじみ出ていた。

 

「すまん、エンペラー。こうなったのも俺の見立てが甘すぎたせいだ……」

 

『……誰も予想できなかった事だ、謝るな』

 

 この事態に対して責任を感じているのだろうか、シオウさんも苦い顔をしていた。

 

「……シオウさんがいなかったら」

 

「?」

 

「多分、俺たちはとっくに死んでるさ。こんなもんで済んでるのはシオウさんがいたからだと思うよ」

 

 本心を伝えるのは照れ臭いものだが、それでも感謝の意はしっかりと伝えたかった。この人の的確な判断が無くては今が無い。それをこの一件で実感せざるを得なかったのだ。

 

「もちろんタスクとジャックにも感謝してるけどな。……ありがとうな」

 

 意識が戻らない2人の頭を感謝を込めて撫でてやる。まるで先輩のようにも思えていた彼らは、よく考えれば年下でまだ子どもなのだ。護られたり庇われたりしているだけじゃいけない。俺だってコイツらを護ってやんなきゃな。

 

 




はい!という訳で次回、やっと皆でゼロワールドから脱出します!

光る腕やら何やら言ってますけど、小難しい事はあまり考えずにいきます。

因みに《トリプレット・パニッシャー!!》と『4振りのパニッシャー』について、カード化予定は今の所、一切ございませんのでご了承ください。

次回へ続きます!


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