普通じゃない艦娘と自称普通な提督 (rainy@執筆開始)
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第一話 旅立ち

初めまして。

稚拙な文章ですが、邁進していきますので宜しくお願いします。

ほぼ処女作です。


 

20XX年

戦争もなく平和な毎日を過ごしていた。

普通に学校を卒業して、普通にサラリーマンになって

幸せな家庭を築いていければと漠然と考えていた。

そう、あの時までは。

 

何の前触れもなく“奴ら”は海から現れた。

突然のことに世界各国は大混乱に陥りながらも迎撃を行った。

だがしかし、奴らには弾丸や砲弾はおろか、ミサイル等の現代科学兵器でも殆どの効果が見受けられなかった。

そのような存在に太刀打ちできるわけもなく、徐々に防衛線を下げざるおえなかった。

大国ですら四苦八苦するような相手に、力の持たない国は一国、また一国と滅んでいった。

我が国、日本も海に囲まれている国故に熾烈な攻撃を受けており、だましだまし凌いでいたが

多勢に無勢、我が国が陥落するのも時間の問題かと思われた。

 

しかし、そんな時に現れたのだ。

救世主が。

 

“その子”達は海を自在に走り、船についているであろう装備で“奴ら”と戦った。

時には主砲で相手を退け、時には魚雷で爆散させる。

飛んでいる艦載機に対しては機銃で撃ち落とす。

おおよそ一世代前に活躍したであろう装備にも関わらず

“奴ら”にダメージを通して轟沈させてゆく。

もうダメか・・・と絶望の淵に立たされていた人類にとって希望の光が灯った瞬間であった。

 

瞬く間に近海の“奴ら”を蹴散らし制海権を取り戻した“あの子”達は一躍ヒーローとなった。

“あの子”達は自分の事を過去に沈んだ軍船の名前で呼ぶことと女の子しかいない事から、“艦娘”と名付けられた。

人間に対して友好的な彼女達がいた為、人間達は滅びずに戦う力を手にした。

 

 

今になって思えばこの日から僕の運命はもう決まっているようなものだったと思う。

この時は何も知らずにただ怯えているだけだった。

救世主が現れた時にも、何処か他人事に感じていたように思う。

けれど、この日から確かに世界は変わっていったのだ。

 

 

 

朝・・・鳥の鳴き声よりも早くに僕は目が覚めた。

もうそろそろ起床の合図と共に点呼がある。

遅れるわけにもいかないので、僕は用意を急いだ。

 

 

カーン カーン

鳴り響く音に僕は急いで廊下へ躍り出た。

「よーし、お前ら全員起きてるな。点呼をとる!」

「はい!1!」

「2!」....

いつもの朝。いつものように点呼に応えた。

もうそろそろ3年間、毎日続いている事で一糸乱れずに点呼が終わる。

「結構だ!食事は“マルナナマルサン”までには摂りおえるように!解散!」

教官の掛け声に皆で一斉に返事を終え、思い思いに移動してゆく。

僕も食事を摂るために食堂へ足早に向かった。

 

 

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“提督”

艦娘と呼ばれる存在が現れた時に、艦娘から告げられたことがあった。

『私達は提督と呼ばれる存在が必要なの。提督に指揮をとってもらわないと、艦娘は半分の力も発揮出来ない。』

人類は急いで提督を選出していった。

しかし、誰にでも提督が務まるわけではなかった。

 

第一に“妖精”と呼ばれる存在が見えないことには、艦娘達に認められないとわかった。

そこで一般人から立候補を募った。

“妖精”が見れる人間は数百人と集まったが、次が問題であった。

 

第二に、艦娘の指揮をとれる人間が殆どいないのだ。

指揮といわれても多種多様とある。

遠方から無線で指示を出すもの。或いはボートで艦娘に付き添い指示を出すもの。

しかし、どの方法をとっても艦娘が一人で戦う際と変わらない動きしかできなかった。

 

人々は焦っていた。このままでは艦娘に失望されてしまうのでは・・・と。

形振り構っていられなくなった軍はある実験を行う。

 

過去の実験から、“妖精”が見えるのは10代~20代前半が多かった。

全国の学生を対象に、艦娘と“妖精”を連れて行きアンケートを行った。

そして提督適正アリとされたものには、有無言わさずに指揮を執らせた。

その中で成績を良かったモノを順次軍へと編入させていったのだ。

 

しかし、軍略も何もわからない人間に大事な艦娘を預けるわけにはいかない。

そこで、提督になる為だけの軍学校を開校した。

 

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食堂についた僕は朝食を頬張る。

いつもと変わらないトーストとチーズに牛乳。

少し物足りないと感じるかもしれないけど、僕にはこれだけで充分だった。

 

「あんたっていつも一人でご飯食べてるよねぇ?」

背後から声がかかる。言い方は少しぶっきらぼうに感じるが、おちゃらけているわけでもなく

こんな僕のことを純粋に心配してくれているのであろうことがわかる優しい声。

この3年間で随分と聞きなれた声だったので、僕は振り向きもせずに答えた。

 

「いいんですよ。僕が輪に入っても相手が気を遣うだけでしょうし。それよりも

このような場所で、その話し方でいいのですか?教官。」

「いいのいいの。あんたの近くにいつも人はいないし。バレやしないって。」

悪戯が成功した後のような楽しげな声色で彼女は応えた。

ニシシと口元に手を当てて笑っているに違いない。

僕は口に含んでいたパンを飲み込み、漸く振り返った。

 

 

「どうなっても知りませんからね。それで?僕に何か用がありましたか?」

やれやれとため息を零しながらも、いつもの事なので諦める。

この教官は、僕が注意したところで一度もきいた試しがないのだ。

自由奔放で飄々とした人。それが僕の中で教官のイメージだった。

 

「いやね、もう卒業でしょ?そろそろ何処の鎮守府に配属されるか決まったかな~って…。」

教官にしては珍しく、少し上目遣いに見上げながら恐る恐る言葉を発した。

以外だな…。と心の中で零す。教官のこのような姿はあまり見ることがなかったので

正直面を食らったが、表には出さずにすぐに答えた。

 

「はい、昨日に辞令が下りました。僕は“舞鶴鎮守府”へ配属されます。」

僕が答えた刹那、息が詰まった。

目の前の教官と“背後”にいる教官から殺気にも似た雰囲気が感じられ、僕は思わず息を飲んだ。

数分か、もしくは数舜だったかもしれない。漸く教官が口を開いた。

 

「ねぇ…。横須賀に配属“だった”んじゃないの?」

大の大人でも裸足で逃げ出すような底冷えする声を出す教官。

わけもわからないが、このままでは拙いと感じ、すぐに返答した。

 

「はい!いいえ!辞令は頂きましたが、私のような若輩者に務まるとは思えず

辞退した次第であります!」

咄嗟のことでパニックになってしまい、軍隊式のような返答をしてしまった。

勿論、大声で返答したので注目の的になってしまい、僕は敬礼姿のまま縮こまった。

「そうなんだ~。わかった。ちょっち用事を思い出したからもう行くね。」

 

教官は僕の返答を待たずに猛スピードで去っていった。

背後からの重圧もなくなったから、もう一人の教官もいなくなったと思う。

何なんだよ…。と小さく呟きながら、僕はいそいそと食堂を後にした。

 

 

 

“卒業”

 

この日の僕たちの胸中は様々だったと思う。

何か決意を秘めるもの。もう逃げられないと青ざめるもの。今まで通り何も変わらないもの。

僕はどうだろうか。胸が熱くなるようなこみ上げる思いもなければ、絶望することもない。

海が凪いでるような静けさだった。

変わらないことはない。そう、僕は見習いから“提督”になるんだ。

 

卒業する提督は僕含めて5人。

それぞれ、横須賀、呉、佐世保、大湊、舞鶴に着任する。

お世辞にも仲が良かったと言えないが、それぞれ日本の海域を取り返す為に戦うと思うと感慨深いものがある。

一人物思いに耽っていると教官から声をかけられた。

 

「卒業、おめでとさん。3年間なんてあっという間だったねぇ。」

確かにそうだ、と思う。

わけもわからないまま連れてこられ、訓練と称したしごきを受けて。

最初の頃は地獄の苦痛でしかなかったけど、人とは段々と慣れるもので。

最後は余裕を持って訓練に臨んだ。

 

「そうですね。色々とありましたが、教官には本当にお世話になりました。」

嫌なことも逃げ出したくなることも多々あった。

教官はその度に見越したかの如く、気にかけてくれた。

初めは怖い教官に優しい言葉をかけてもらい、思わず泣いてしまったのは僕だけの秘密だ。

過去を振り返り、万感の思いを込め精一杯伝える。

 

「教官、この3年間本当にありがとうございました!貴女なくしては今の僕はありません。

辛いときにも厳しくも優しい言葉をかけて頂いた事も一生忘れません!

今後先にも厳しい戦いが待っていることでしょう。しかし貴女の教えがある限り、私は折れません。絶対に負けることはないと誓います!」

一口で全てを伝えた僕はその場で敬礼した。

教官から返礼もなく、何も言葉を発しないことを訝しんだ僕はじっと教官の目を見つめた。

すると教官はニコニコと笑いながら答えてくれた。

 

「あっはっは。いいってことよ~。これからは国のため、ひいては人の為に頑張ってねぇ。」

伝えたい事は沢山あるけれど、先ほどの言葉に全てを込めて送った僕はそのまま踵を返した。

明日からは守ってもらうんじゃない。守る立場になるのだ。

気持ちを新たに引き締めて、僕は眠りについた。

 

 

 

“舞鶴鎮守府”

 

朝、普段より早めに目が覚めてしまった。

普段より少し気分が高揚していたのかも知れない。

周囲を散歩出きればいいかと軽い気持ちで早めに出発した。

 

 

予定時刻より30分早く鎮守府についた。

しかしそこには眼鏡をかけた美少女が立っており、僕に気付くとすぐに敬礼をしつつ声をかけてきた。

「提督、おはようございます。軽巡洋艦大淀型の大淀です。」

まだ誰もいないと思っていた僕は軽く面を食らったが、すぐに返礼した。

 

「大淀・・・さんだね、おはよう。“日本海軍大本営所属”海道少佐です。宜しく。」

大淀さんは敬礼したまま、目を見開いて固まっている。

何か変な自己紹介をしてしまっただろうか。

思い悩んでいると大淀さんは玉を転がすように笑いながら口を開いた。

 

「大淀と呼び捨てにしてくださって結構ですよ。提督。敬語も必要ありません。」

クスクスと少女のように笑う大淀さん・・・大淀が告げる。

僕の人生で女の子を呼び捨てで呼ぶことなんて無かったから、少し緊張しながらも答えた。

「わかったよ、大淀・・・。これでいいかな?」

たどたどしく応える僕に満足したのか、ニッコリと笑いながら大淀は頷いた。

 

 

「それでは鎮守府内へ案内致します。最初は執務室へ向かいますね。」

大淀は踵を返した。僕はそれに続くように後を追いかける。

大きな門を潜り抜け、一際大きな玄関口へたどり着く。

まだ朝も早く、誰もいない玄関を通り抜け執務室へ向かった。

 

「ここが執務室です。」

赤く大きな扉の前で大淀が立ち止まる。

上を見ると執務室と書かれたプレートが貼られていた。

 

「うん、部屋名が書かれているプレートがあるのは助かるね。」

そう告げながら僕は扉を開く。

中は思ったより広く、10畳以上はあるだろうか。

開け放たれている大きな窓から日差しが入り込み、その窓からは綺麗な海が見えていた。

 

「綺麗な海だ…。この景色を見ていると今が戦争中だということを忘れてしまいそうだね。」

大淀もつられて窓際へたつ。

そよ風が優しく包み込み、大淀の綺麗な長い髪を揺らす。

僕はその光景に目を奪われていた。

 

「本当にそうですよね。海はいつの時代も綺麗なものです。」

揺れる髪を抑え、目を細めながら大淀は応えた。

春のうららかな日差しに照らされた大淀は神々しく、まるで天使のように見えた。

本当に綺麗だ・・・。とつぶやく。

するとその言葉に反応するかのように声がかかった。

 

「あれぇ?提督じゃん。何~?着任して早々にナンパ?何が綺麗なのかな~?」

心の中を見透かされたかと思い、咄嗟に言葉が出た。

「ちっ、違うよ!海が綺麗だから!海のことだから!」

慌てて振り返りながら弁明をすると、そこには見知った顔があった。

 

「え・・・ちょ、ちょっと待ってください。何故貴女が・・・何故・・・。」

そう、3年間ずっとお世話になっていた教官。

“北上教官”がそこにいたのだ。

「北上教官がここに!?」

思わず大声が出てしまったことは仕方がないことだと思う。

対して北上教官は悪戯が成功したような顔でニヤニヤしながら手をあげている。

僕は顔がトマトのように真っ赤になってしまった。

 

「ふふん。それがね~?“偶然”舞鶴鎮守府に移動することになってね~。

教官も終わったから、そろそろ前線に復帰しないとね~?」

僕は開いた口が塞がらなかった。

大淀は最初から知っていたのか、特に驚いた様子もなく僕たちのやり取りを見ている。

北上教官は納得したのか、うんうんと頷きながら更に続けた。

 

「というわけで~今度は立場が逆になるよね~。提督の指示で戦っちゃうからさ~。

大丈夫~40門の酸素魚雷は伊達じゃないからね。」

何が大丈夫なのか僕に教えて欲しい。

僕は頭を抱えながら叫んだ。

 

「先に教えててくれよ!昨日の僕の言葉を返してぇ!!」




勢いで書き始めました。

次回は色々な説明会になると思われます。

シリアルちっくな笑いありの作品に出きればと思います。

肩肘張らずに読めるように書いていきたいと思いますので

開き時間などに読んで頂ければ幸いです。

誤字脱字報告や批判や感想等お待ちしております。


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第零話 出会い

過去のお話しです。

別人物視点で進みます。

少しだけ彼のことがわかるかもしれません。

今回の戦闘描写は殆どなしで進みます。


敵、てき、テキ

何処を見渡しても敵だらけの中、私は戦った。

何故戦うのかはわからない。

 

だけど、そうしなくちゃいけないって心が叫ぶ。

奴らが敵だということは、生まれながらわかっていた。

だから私は今日も戦う。

 

 

何処に味方がいるのか定かではない。

そもそも味方がいるのかもわからない状況で私は海上を走る。

砲を打つ。機銃を打つ。

最初から多勢に無勢。こちらが1発撃てば5発はかえってくる。

「ちぃ、痛いじゃないのー。」

避けながら慎重に戦っていても、段々と傷は増えていった。

 

 

何隻沈めたか覚えていない。

自分の状態を見て、小破かな…。と一人ごちる。

小さな相手はすぐ沈める。しかし大きくなってくると装甲が固くなかなか沈まない。

私の砲では殆どダメージが通らず、魚雷で沈めるしかない。

魚雷の射程に無理やり入ろうとすると砲がよけにくくなる。

ジレンマだった。

 

「どうせ沈むくらいなら、少しでも多く道連れにしてやりましょうかね~」

自分自身に活を入れるように呟く。

体はすでにボロボロだ。弾薬も燃料も殆ど残ってやしない。

例え特攻になろうとも、少しでも多くの奴らを道連れにしてやる。

 

 

あれからどれほどの時間が経ったのだろうか。

すでに痛みすら感じなくなっている。

段々と視界もぼやけていき、自分はもう長くない事を悟る

「大井っち・・・だいじょうぶかな。」

私は大好きな相方が無事な事を、切に祈る。

 

「あ・・・。」

私に迫る雷跡が見えた。もう避ける事は叶わない。

みんな・・・。先に沈んでごめん。次に生まれる時は・・・。

 

 

 

「-----っ。」

何かが聞こえる。

死後の世界だろうか。体がふわふわと浮かんでいる感じがする。それに・・・温かい。

温かい何かに包まれるような感覚に陥り、意識が急速に浮上した。

 

「あの!だいじょうぶですか!あのー!」

はっきりと聞こえる。私を心配している声。温かい声。

ゆっくりと目を開き、声がするほうへ目を向ける。

そこには心配そうに此方を覗いている瞳があった。

今にも涙がこぼれ落ちそうなほどたまっており、本気で心配していると感じ取れる。

 

「よかった…。目を覚まして。だいじょうぶですか?」

少年はホッとしたような表情を作り、温和な笑顔を浮かべながら声をかけてきた。

吸い込まれるような真っ黒な瞳に、私は返事をすることも忘れて見惚れていた。

すると少年は訝しながら、再度声をかけてくる。

 

「あの・・・本当にだいじょうぶですか?」

少年の問いに私は慌てて返答した。

 

「えっと・・・ちょっと近いかな~って・・・。」

刹那、少年は飛びのき顔を真っ赤にしていた。

多分、私も顔が赤いだろうな~と思いつつ声をかける。

 

「ごめんね、少し恥ずかしくて・・・。助けてくれたんだよね?ありがとね。」

少年は落ち着けないのか、ぶつぶつと呟いた後に深呼吸をして、此方に向き直った。

落ち着いて見てみると、まだ若い―学生だろうか。

中性的な顔つきで真っ黒な瞳。長くもなく切りそろえられた髪。その上に乗っている小人―。

「えっ!?」

私は再度見直した。うん、小人だ。

目を擦ってみる。うん、小人だ。

「ええええ~!?」

私は叫んでいた。

少年は驚いたのか、体をびくつかせながら言う。

「ど、どうしたの?何かあった?」

私は驚きを隠せなかった。

何度見ても彼の頭の上には“妖精”が乗っているのだ。

指をさし、口をパクパクさせていると少年も驚きながら聞いてきた。

 

「ま、まさか頭の上の・・・。見えてるの?」

私は言葉にすることができず、何度も頷くことで返した。

あり得ない。普通の人間に妖精が見えることなどない・・・はず。

更に“親しそう”にしているなんて・・・-。

頭の中が真っ白になっていた私は、暫く思考を放棄していた。

 

 

「落ち着いた?急に驚かせちゃって、二重でごめんね。」

顔を紅潮させて少年が謝罪してくる。

先ほどの顔が近かったこともあわせてということだろうか。

それに関しては全く嫌だとは思わな・・・。

 

「ああぁ!いいよいいよ!こちらこそほんとごめんね?それと、ありがとね。」

余計な思考は打ち消す。

最初に目が合った時からこの感覚は何だろうか。

生まれて間もないの私にはわからない感覚だった。

 

「それと・・・頭の上の子って、“妖精”だよね?」

ずっと気になっていたことを恐る恐る尋ねる。

少年は少し首を傾げたが答えてくれた。

 

「妖精っていうのかな?わかんない。でも、小さい頃からのお友達だよ。」

私は更に驚愕とした。

これまでに海上で出会った人間は妖精の声が届くどころか、姿さえ見えていなかった。

何度も妖精が「ムシサレタ・・・」と拗ねているのを見てきたのだ。

わけがわからなくなった私は、再度思考を放棄した。

 

 

「そう言えば、どうしてここに倒れてたの?傷だらけだったし、吃驚したよ。」

少年の声に私の意識は再浮上する。

どうして忘れていたのだろう。今は戦いの最中だった。

「そうだ!奴らを倒しにいかないと!」

私は勢いよく立ち上がった。

そこで気付いたのだ。体の傷がなくなっている。

体も軽い。燃料と弾薬もフルにある。

「・・・あれ?」

私は意味がわからなかった。

首を傾げていると、少年が気まずそうに言った。

 

「ご、ごめん。僕は救急車を呼ぼうとしたんだけど、この子が私に任せてって言ってね・・・。」

少年は呟きながら、頭に乗っていた妖精を掌に載せてこちらへ突き出してくる。

掌の上の妖精は、満足そうに頷きながら胸を反らしている。

まるで、エッヘンと言ってるように。

 

「工具を取り出してカンカンと叩いて・・・すると急に光りだして・・・

収まったと思ったら、君の傷は治っていて服装が変わっていたんだ。」

少年は心底わけがわからないと話す。

言われて自分の服装を見てみた。

服の形は変わっていないが、セーラー服も緑色になっている。

そして何より、酸素魚雷が増えていた。

 

「なに、これ?」

私にも何が何だかわからなかった。

すると少年の掌に乗っていた妖精が言う。

「かいそうしました」

かいそう?海藻?改装?

正直わけがわからなかった。

自分のことでもわからないことだらけで。

ただ一つ、はっきりとわかることは

私はまだ戦える。それにパワーアップした状態で。

 

「妖精さん。ありがとね。これでまだまだ戦えるよ~。」

私は礼をする。妖精さんは少し照れたのか、頭の後ろ掻いてソッポ向いてしまった。

その様子におかしくなった私は顔を綻ばせる。

 

「えっと・・・戦うって?」

少年は私の瞳を見つめながら聞いてきた。

そうだった。この子は私が人間だと思って助けてくれたのだ。

私の存在を伝えることは簡単だ。

でも、少年に怖がられるのは・・・嫌われるのは嫌だと感じていた。

答えられない私に再度問う。

 

「どういうことなの?もしかして―「私、艦娘なんだよね~。」

少年が言い切る前に遮るようにして私は言った。言ってしまった。

正直、怖い。心臓はばくばくしている。

自分が自分じゃなくなりそうな感覚。

返事を待つのが怖くて、私は更に捲し立てた。

 

「もうわかるよね?私はヤツらと戦うために生まれた、人形みたいなものなんだ~。

気持ち悪いよね?人間と思って折角助けてくれたのに、ごめんね?」

一息に捲し立て、逃げるように背を向けた。

自分で言っておきながら、肯定されるのが怖かった。

お前は人間じゃないと、突き付けられるのが怖かった。

逃げ出したい気持ちでいっぱいになり、私は足を踏み出した。

 

「待って!」

少年に腕を捕まれた。

壊れモノを扱うように優しく―。

 

「お願い!行かないで!僕の話も聞いて?お願い。」

触れられている腕が焼けるように熱い。

少年にお願い(命令)されると何故か断れない。

体ではなく、心が従えと叫んでいた。

私が少年へ振り返り、抵抗をしないことを肯定と捉えたのか、少年は話し出した。

 

「僕はね、友達がいないんだ。正確に言うと人間の・・・ね。

小さい頃からこの子は友達だった。」

少年は話しながら掴んでいない手で妖精さんの頭を撫でる。

妖精さんはくすぐったそうにしながらもニッコリと笑顔を浮かべた。

 

「物心がついたころにはもう一緒だった。僕の中では近くに居て当たり前の存在だった。

だから、皆に紹介しようと思った。僕の友達だよって。でもね、皆には見えていなかった。

嘘つき呼ばわりされたし、頭がおかしいとも言われた。

『友達がいないからって見えない自分だけの友達を作ってんのか?』って。」

 

少年は今にも泣きだしそうな表情をしていた。

その表情を見ているだけで胸が張り裂けそうだった。

私まで心が壊れそうになった。

今にも涙が溢れそうに―。

 

「ご、ごめんね。そんな顔しないで。昔のことだから。確かに言われたときは悲しかった。

僕だけが可笑しいのかなって思った。でもね、この子が見える人に出会ったんだ。」

 

『こんにちは、僕。その子と二人で遊びに行くのかな?』

 

「正直、僕に話しかけているわけじゃないと思って無視しちゃったんだ。そしたら

『待って行かないで!お願い話を聞いて!』ってね。今思い出しても、必死な形相が面白かったよ。」

 

くすくすと小さく笑いながら、幸せそうに笑って話してくれる。

幸せそうな顔を見れて安心した反面、少し胸がチクリと痛んだ。

その痛みが何の痛みかわからないけど、今は気にする必要はないと考えて痛みを無視した。

 

「少し話しをしてみるとこの子の事が見えていて、一緒にいるのが気になって声をかけたって言っていた。」

 

『へ~。その子とお友達なんだね。そっかそっか、いい人なんだね!』

 

『少し難しいお話しをするね。今は意味が分からないかもしれないけど、聞いてくれる?』

 

『近い将来、すごい困難なことが起こるかもしれない。でね、君の助けを必要とする人がたくさん出てくるの。』

 

『その時になったらね、是非その子たちを助けてあげて欲しいの。君にしか出来ないことだから。』

 

「その時はよくわからなかったけど、自分がヒーローになれると勘違いして勢いよく頷いたよ。」

少年は気恥ずかしそうに頬を掻いた。

私は黙ったまま、続きを促した。

 

「正直今がその時かどうかはわからない。でも僕が出きることはしたいと思っている。

正直、艦娘がどのような存在かはわからない。でもね、僕から見た君は・・・女の子にしか見えないよ。

どこからどう見ても人間だよ。」

 

もう限界だった。涙があふれ出す。

自分でも自分がわからないのに、この少年は人間だと言ってくれる。

心が温かいモノで満たされてゆく。

今ならわかる。この少年は・・・この方は・・・

 

 

私の提督だ。

 

 

そう自覚するだけで不思議と力が湧いてくる。

何者にも負ける気がしない。

泣いている私の頭にポンッと掌が乗せられる。

よしよし と撫でながら少年は言う。

 

「ここで会えたことも、君を助けられたことも縁だと思う。だから、これからも

僕が君を助けるよ。君の事を守るよ。」

 

これ以上に幸せなことはあるのだろうか。

涙が止まらなかった。

見ず知らずな私を・・・人間ではない私を守ると言ってくれた。

 

「・・・ひっく。わ、私を守ってくれるの?ほんとうに?」

涙声ながらも、私は必死に伝えた。

すると、あやすように優しく撫でながら、少年は告げる。

 

「うん、君さえ良ければね。」

 

「守らせてくれますか?」「守って・・・くれますか?」

 

これは儀式。

私と・・・提督の。

 

これは契約。

私は貴方のモノ。

 

 

 

海へ駆け出す私の足取りは軽いものだった。

 

今なら少しだけ艦娘というモノを理解できる。

提督を得て初めて艦娘になるのだ。

自分が艦娘であることに疑問なんてない。寧ろ喜びを感じている。

今なら何だってできる!

 

「さ~って。やっちゃいますかね~。」

奴らを目視できる距離まで来て呟く。

今までなら近づかないと当たらなかった魚雷。

今ならわかる。“当たる”と。

 

「20射線の酸素魚雷、2回いきますよ~。」

私の両手両足から酸素魚雷がばら撒かれる。

何発か当たればいい・・・と思われる魚雷だけど

わかる・・・全部当たる。

 

「40門の魚雷は伊達じゃないから!ね!」

響く轟音。

周囲を見渡すとあれだけいた奴らが殆どいなくなっていた。

 

「まっ、今の“アタシ”が外すわけないよね~。この調子でどんどんいきましょ~。」

もう奴らは敵ではない。

アタシの的なのだ―。

 

 

「北上さんっ!!」

遠くからアタシを呼ぶ声が聞こえる。

目を向けると心配そうな形相で向かってくる大井っちが見えた。

小さく手を振ることで応える。

 

「大丈夫ですか!?北上さん!お怪我は!?一番奴らが多いところにいたと聞いたので、心配で心配で・・・!」

がくがくと揺さぶられる。

やーめーてーよー。

落ち着いてもらうために手を掴んでから伝える。

 

「アタシは大丈夫だよっ。大井っちのほうも大丈夫だった~?」

 

「私は大丈夫です!それよりも北上さん・・・!あれ、その服装は・・・?」

 

大井っちが服装に気付いたみたいで、訝しんでる。

どう答えようか迷っていると―

 

「服の!色が!変わってる!!お揃いじゃなくなってる・・・!」

この世の終わりのような表情をしている大井っち。

例えるならば、そう。ムンクの叫びみたい。

アタシは慌ててフォローするように答えた。

 

「形は変わってないから~。お揃い、だよね?」

すると大井っちは、はにかんで答えてくれた。

はい! と―。

 

 

 

 

海軍本部 大本営にて

緊急会議が行われていた。

 

重々しい雰囲気の中、緊急会議が行われている。

 

曰く 奴らはまだまだいる。

曰く 今回は退けられたが、次回はどうなるか分からない。

曰く 艦娘とは、個人で戦うには限界がある。

曰く 提督と呼ばれる存在を見つけ、指揮を執らせることによって無限の可能性がある。

曰く 提督の条件はまだ明らかになっていない。しかし第一条件として妖精が見えることである。

曰く 提督を見つけた艦娘がおり、一人で100体以上を殲滅した艦娘がいるという。

 

彼らの中に妖精と呼ばれる存在が見えるものはいなかった。

大本営は急遽立候補者を募ることとなる―。

 

 

 

彼らはまだ知らない。

提督になれる条件は予想以上に厳しい事を。

 

彼らはまだ知らない。

提督を見つけている艦娘の計らいによって、今後莫大な資金がかかってしまうことを。

 

彼らはまだ―知らない――。

 

 

 

余談ではあるが、名称がなければ判別がつきにくいので

奴らは“深海棲艦”と呼ばれるようになった。

 




過去編ということで、第零話としました。

次回、第一話の裏ルート教官視点でお送りいたします。

誤字脱字報告や感想などお待ちしております。



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第一話 旅立ち 裏

第一話の別視点ルート

彼視点では見えていなかった事が少し見えてきます。


 

アタシは目が覚める。

窓に目を向けると外はまだ真っ暗だ。早朝とも深夜とも呼べる時間帯に目を覚ました。

ゆっくりと体を起こして体を伸ばす。朝に強い方ではないけれど、何年も続けていると流石に慣れる。

軽く頬を叩き気合いをいれる。

「よし、今日も一日頑張れアタシ。」

のろのろと立ち上がって洗面台に向かった。

 

 

外が段々と明るくなっており、鳥たちも鳴き始めた。

時刻はマルロクサンマル、私は点呼の為に廊下へ出た。

小さな銅鑼を二度打ち鳴らす。

すると次々と訓練生達が廊下へ出てきた。

 

「よーし、お前ら全員起きてるな。点呼をとる!」

「はい!1!」

「2!」....

 

いつも通り元気よく答えてくれる。

最初の頃は眠たげな返事によく怒鳴られていた訓練生。

「5!」

最後の一人へ目を向ける。

少し眠たげな眼。頭上では妖精さんがピシッと敬礼をしている。

微笑ましい光景に少しだけ口元を緩めたが、すぐに表情を引き締める。

 

「結構だ!食事は“マルナナマルサン”までには摂りおえるように!解散!」

この口調にも慣れたものだと苦笑を浮かべながら、部屋へ戻った。

 

部屋で準備をしているとき、コンコンとノックの音が響き渡る。

はーい、と返事をしつつ扉を開く。

そこにはいつもの笑顔を浮かべた“大井教官”が立っていた。

 

「北上さん。おはようございます。食事に行きませんか?」

この3年間、欠かさず毎日誘ってくれる大井っち。

アタシも笑顔を浮かべて挨拶を返し、部屋を後にした。

 

 

食堂についたアタシ達は席を確保した。

8人で使用できる長机が並んでおり、4人で使用できる机が少し外れた場所に置かれている。

利用する人数が少ないから、すべてが埋まることはない。

訓練生は思い思いに座っており、大きめのテーブルを4人で使用していた。

少し離れた場所に一人で朝食をとっている訓練生が見える。

 

「ん~。ちょっち行ってくるね。先にご飯とってて~大井っち。」

大井っちに告げ、返事を聞く前に動き出す。

背後から小さなため息を共に返事が聞こえる。

ごめんね、と心の中でお詫びをしつつ、足早に小さなテーブルへ向かった。

 

 

 

「あんたっていつも一人でご飯食べてるよねぇ?」

背後から突然声をかける。

妖精さんはいち早く気づいていたようで、大きく手を振っていた。

彼は特に驚いた様子もなく、そのまま返事がきた。

 

「いいんですよ。僕が輪に入っても相手が気を遣うだけでしょうし。それよりも

このような場所で、その話し方でいいのですか?教官。」

何時ものやり取りであるが、少しの事でも嬉しく感じてしまう。

ぶっきらぼうな言い方だが、アタシを心配してくれているのが伝わる。

 

「いいのいいの。あんたの近くにいつも人はいないし。バレやしないって。」

笑みを隠し切れず、少し声にも表れたかもしれない。

でも、いっか。と、気にしないことにする。

彼は少し呆れたようなため息を零しながら振り返った。

 

「どうなっても知りませんからね。それで?僕に何か用がありましたか?」

頭上の妖精さんも、彼の真似をしてるのか、やれやれと頭を振っていた。

四六時中一緒にいる訓練(?)の賜物か、一糸乱れず同じ動きを披露している。

可笑しくて笑い声をあげそうになったけど、それを抑え込んで質問をした。

 

「いやね、もう卒業でしょ?そろそろ何処の鎮守府に配属されるか決まったかな~って…。」

少し白々しいかな、と思わなくもないけど、彼の口から聞かないと意味がない。

アタシも教官だから、本当は誰が何処に配属されるかは知っている。

 

“横須賀鎮守府”

訓練生の中で成績が一番良かった彼の配属先は決まっていた。

・・・はずだった。

 

「はい、昨日に辞令が下りました。僕は“舞鶴鎮守府”へ配属されます。」

多分、無意識だったと思う。

怒気を隠せなかった。あのおっさん(元帥)・・・。アタシに嘘を教えたの・・・?

アタシの雰囲気に充てられてか、大井っちからも似た雰囲気が感じられる。

“私の北上さんに何をしたの?”と、目がありありと訴えていた。

 

「ねぇ…。横須賀に配属“だった”んじゃないの?」

アタシは努めて冷静に聞く。

彼は少し頬をひくつかせていたが、すぐに立ち上がり答えた。

 

「はい!いいえ!辞令は頂きましたが、私のような若輩者に務まるとは思えず

辞退した次第であります!」

・・・綺麗な敬礼つきで。

アタシは小さくため息をついた。

ここで彼に当たるような態度をとっても仕方がないと思い直し、すぐに席を立った。

 

「そうなんだ~。わかった。ちょっち用事を思い出したからもう行くね。」

ごめんね、少しおっさん(元帥)とお話合いをしなくちゃいけないから―。

 

 

 

「それでは、失礼します。」

大きな扉を開き、退出する。

アタシがあの勢いで部屋に入ってきたことに驚いたのか

おっさん(元帥)は酷く慌てていた。

聞くところによると、おっさん(元帥)も何度か説得はしたそうだ。

しかし、彼の意思は固くて折れなかった為、妥協して舞鶴になった。

彼自身は少しコミュ症で、自身を過小評価しがちだから・・・。

 

仕方なく、アタシ自身出していた異動届を話し合い(?)の結果、無かったことにしてもらい

新たに舞鶴への異動を認めさせることができた。

 

「少し予定と違ったけど、まっいっか~。」

軽く伸びをする。

そろそろ授業の時間だから少し急がなければ。

そこでアタシは思い出した。

 

「朝ごはん・・・食べてないじゃん。おなか減ったぁ・・・。」

朝食を食べ損ねた事を。

 

 

 

「あ~ぁ。昨日は朝食抜きだったし、散々だったな~。」

おっさん(元帥)の長く意味のない話を聞きながら一人ごちる。

今日は卒業式。たった5人だけの。

漸くこの日がきたと、アタシの内情は喜びでいっぱいだった。

 

「北上さん、何やら嬉しそうですね。」

ボーっと眺めていると、横から大井っちが声をかけてきた。

表には出していないつもりだったけど、大井っちにはばれてたみたい。

 

「あ、わかる?教官も楽しかったけどね、やっぱり艦娘としては海で戦いたいというか・・・

提督の元で戦いたいというか・・・。」

ちょっと恥ずかしくなり、段々と小声になってしまった。

特に問い詰められたりしなかったから、最後は聞こえてなかったんだと思う。

 

大井っちには、アタシの提督が見つかったことは伝えていない。

式の後に発表されるであろう、人事異動の件を聞くと卒倒しちゃうかな・・・って思う。

確実に来るであろう未来を思い描きながら、アタシは小さく息をついた。

 

 

「卒業生代表、海道くん。」

「はい。」

 

式も残すところあと僅か。

この3年間を振り返ると色々とあった。

提督の事は、一番に気にかけていた。

ほかの子達を蔑ろにしていたわけではない。

でも、どうしても放っておけなかったのだ。

 

思い出に耽っている間に、式は終わっていた。

慌てて提督を追いかける。

 

 

「卒業、おめでとさん。3年間なんてあっという間だったねぇ。」

何時ものように、軽い感じで声をかけた。

提督は振り返り、しっかりと瞳を見つめながら返した。

 

「そうですね。色々とありましたが、教官には本当にお世話になりました。」

そうだ。色々とあったのだ。

まだ一般人だった彼を、大本営へ推薦したのは“アタシ”だ。

彼はあの約束の際に、提督なんて知らなかっただろう。

守るとは本心で言ってくれていただろうけど・・・こんな事になるとは思ってもいなかったはずだ。

恨まれているかもしれない。本当はしたくなかったかもしれない。

どのような言葉をかけるべきか。迷っている最中に彼はつづけた。

 

「教官、この3年間本当にありがとうございました!貴女なくしては今の僕はありません。

辛いときにも厳しくも優しい言葉をかけて頂いた事も一生忘れません!

今後先にも厳しい戦いが待っていることでしょう。しかし貴女の教えがある限り、私は折れません。絶対に負けることはないと誓います!」

 

アタシは言葉にならなかった。

気にはかけていたが、勿論厳しいこともいっぱい言ってきた。

嫌われていないと信じていたけど・・・感謝されているとは思ってなかった。

零れ落ちそうな涙を必死で堪え、出きるだけいつも通りに返した。

 

「あっはっは。いいってことよ~。これからは国のため、ひいては人の為に頑張ってねぇ。」

ビシッと敬礼を返し、すぐに身を翻した。

その後自室へ戻り、彼の言葉を噛みしめ一人で泣いた。

 

 

「ちょっと!北上さん!どういうことですか!?」

肩を捕まれ、揺さぶられながら早口で大井っちが問い詰めてくる。

やーめーてーよー。

話そうにも話せない状況に、落ち着いてもらおうと腕をつかむ。

 

「大井っち。落ち着いて~。ちゃんと説明するからさ~。」

まだ興奮した様子だけど、揺さぶるのはやめてくれた。

会議室から出てすぐの場所での出来事である。

流石に目立つので、移動して話そうとアタシは提案した。

 

「それで?どういうことなんです?私何も聞いていませんっ。」

アタシの自室へ入り、お茶を出したところで大井っちが切り出した。

もう落ち着いているけど、今度は少し拗ねている。

そんな様子を少し可愛いと思いながら、アタシは話し出した。

 

「えっとね、大井っちにはまだ伝えてなかったんだけど・・・アタシ、提督を見つけたんだ。」

大井っちは酷く驚いた表情をしている。

そりゃそうだよね。“教官は訓練生に指揮をされることはない”のだから。

 

「・・・いつ、ですか?いつ見つけたのですか?」

大井っちは呟くように言葉を絞り出した。

アタシも誤魔化したくなかったので、包み隠さずに伝えることとした。

 

「アタシ達が“生まれて”すぐの戦いの時に。あの時に本当は一度沈んじゃってるんだよね。」

驚愕のあまり目を見開く大井っち。

アタシは構わず続けた。

 

「沈みかけた・・・が正しいのかな?正直、自分でもよくわかってないんだよね。

 自分では沈んだと思っていたら、砂浜の上に寝転がっていて。アタシを見つめる瞳と目が合った。

 そして気を失っている間に・・・“改装”を受けていた。」

 

咄嗟に言葉をかけようとしたのか、出しかけた手を戻して聞く姿勢に戻った。

そんな大井っちに心の中で感謝する。

 

「何言ってるかわかんないよね?アタシもイマイチわかっていないんだよね。

 でも、確かに言われたんだ。妖精さんに“かいそうしました”って。」

アタシ達ですら、殆ど意思疎通のとれない“妖精さん”。

彼女たちは基本的に人の話を聞かない。更に、何かを伝える時は端的である。

しかし、サポートは的確で彼女たち無しには魚雷すら発射出来ない。

 

「ボロボロだった傷は癒え、殆ど空になっていた燃料と弾薬も回復してた。

 酸素魚雷もその時に増えていたんだよね。」

支離滅裂で、説明にすらなっていない言葉。

あれから何度も妖精さんにも聞いてみたが、まともな答えは一度もなかった。

彼と一緒にいる妖精さんが特別なのか、或いは教えたくないだけなのか。

 

「その時に助けてくれた人がアタシの提督ってワケ。隠すまでもないから言うけど

 海道提督だね~。いつも頭上にいる妖精さん。あの子が“かいそう”してくれたの。」

大井っちは俯きながら肩を震わせている。

どんな言葉をかけようか迷っていると、大井っちが口を開いた。

 

「………す。」

小声で呟くだけで、何と言ったのかは聞こえない。

不信に思ったアタシは大井っちの肩に手をかけた。

 

「黙ってて、ごめんね?何度か伝えようとしたんだけど・・・。なかなか言い出せなくて。」

ゆっくりと顔を上げる大井っち。

瞳からは光沢が消え去り、虚ろ目になっている。

やばいかな、こりゃ。

 

「いいえ、北上さんは悪くありません。ええ、北上さんが悪いなんてことがあるはずないじゃないですか。

 お話しの途中すみません。少し用事が出来ましたので、席を外します。大丈夫です。心配ありません。

 北上さんは今まで通りでいてくれれば、結構です。それでは失礼します。」

ぼんやりとした瞳のまま早口で告げ、踵を返す大井っち。

アタシは引き留めることも出来ずに、苦笑いで送り出すことしか出来なかった。

どうか何事も起きませんように―。

 

 

翌朝

 

アタシは舞鶴鎮守府へ到着していた。

提督が到着するまで、あと1時間はある。先に荷物整理と簡単な挨拶は済ませておこう。

玄関先で花壇に水やりをしている大淀を発見したので、声をかけた。

 

「やっほ~。大淀、久しぶりだね~。」

大淀はゆっくりと振り返り、少し驚いた顔をしている。

 

「おはようございます。北上さん。それとお久しぶりです。お早い到着ですね。提督とは別々で来たのですか?」

アタシだけ先に到着したことに驚いているようだった。

笑みを堪えきれず、ニヤついた頬のまま大淀に答える。

 

「それがね~、実は提督に内緒にしてるんだよね~。アタシが着任すること。」

きっとアタシは満面の笑みになってることだろう。

大淀はわかってくれたのか、ポンっと掌を叩いて笑顔になった。

 

「なるほど。わかりました。でしたら、私からも言わないでおきますね。」

流石大淀・・・。理解が早くて助かる。

提督の驚く顔が目に浮かぶようで、凄く楽しみだ。

大淀への挨拶もそこそこに、アタシは部屋へ向かっていった。

 

 

荷物整理もひと段落したところで気付く。足音と共に男女の話し声が聞こえてきた。

少し早いけど、真面目な彼のことだ。遅れるより早く着きたかったのだろう。

足音が遠ざかっていったことを確認して、アタシも部屋を出る。

早く会いたい気持ちと悪戯心が混ざって、ウキウキ気分なアタシの足取りは軽かった。

 

 

執務室の前につく。扉は閉じられていなかったので、中の様子を伺う。

大淀と二人で海を眺めているようだった。

彼のほうは海というより、大淀を眺めているような・・・。

すると小声で彼は呟く。本当に綺麗だ・・・と。

何故かわからないが、アタシの心にどす黒い感情が渦巻いてることがわかった。

なんかイライラするし、チクチクする。

居ても立っても居られないアタシは部屋へ入っていった。

 

「あれぇ?提督じゃん。何~?着任して早々にナンパ?何が綺麗なのかな~?」

彼の肩が飛び上がり、凄く驚いていることがわかる。

その姿を見ることで、少し溜飲が下がる。

 

「ちっ、違うよ!海が綺麗だから!海のことだから!」

酷く慌てながら此方へ振り返った。

アタシはニヤニヤが止まらずにいい笑顔になっていたと思う。

 

「え・・・ちょ、ちょっと待ってください。何故貴女が・・・何故・・・。」

驚け驚け~。ナンパしていた罰だ。

 

「北上教官がここに!?」

アタシは挨拶の為に、軽く手をあげることで応えた。

 

「ふふん。それがね~?“偶然”舞鶴鎮守府に移動することになってね~。

教官も終わったから、そろそろ前線に復帰しないとね~?」

 

“驚く顔が見たかったの”

“貴方の元で戦いたかったの”

本心は伝えずに。

何時も通りのアタシはのらりくらりと躱しながら。

 

「というわけで~今度は立場が逆になるよね~。提督の指示で戦っちゃうからさ~。

大丈夫~40門の酸素魚雷は伊達じゃないからね。」

提督の剣となり盾となる。

アタシは貴方のモノ。

アタシが貴方を守るから。

貴方もアタシを守ってね。

 

 

「先に教えててくれよ!昨日の僕の言葉を返してぇ!!」

彼は頭を抱えながら叫ぶ。頭上の妖精さんも真似をして頭を抱えている。

そうそう、そのリアクションを待ってたんだよね~。

大淀の方を向くと彼女も此方を見ており

お互いに目を見合わせて、いい笑顔で頷き合った。

 

 




文字数5000前後で抑えようとしていましたが、若干足が出て6000程度。

長すぎると読む方も疲れるし、短すぎると物足りない。

難しいですね。この小説では大体5000~くらい目安にしています。

誤字脱字報告や、意見感想などお待ちしております。


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第二話 着任

新たに艦娘が出てきます。

また、初期艦が選べない子になっています。

本来と少しずつ変わっている部分が増えてきます。

それでも大丈夫という方は宜しくお願いします。


「・・・それで?説明してくれるよね?」

漸く落ち着いた僕は、執務室の椅子に座り“北上教官”に尋ねた。

悪戯が成功して満足気な顔をしている教官。

大淀も微笑ましいのか、笑顔を浮かべていた。

 

「いやね~。本当は伝えても良かったんだけどさ~。

 サプライズの方が楽しいじゃん?」

・・・楽しいじゃん、じゃないよ。

こっちの身にもなって欲しい。驚いたどころじゃなかった。

 

「北上教官、以前に僕が誘った時は“断った”よね?まだ教官を辞めれないって。」

そうなのだ。卒業を間近に控え提督着任が殆ど決まった時に、僕は教官をスカウトしていた。

一緒に来てほしいと。その時に教官はこう言ったのだ。

 

『行きたいのは山々なんだけどね~。アタシにはまだ教官としてやることがあるんだ~。』

 

『教官の仕事が終わったら。ね?また誘ってくれる?』

 

正直断られると思っていなかった僕は、凄くショックを受けた。

教官は“あの日”の事を覚えていないのかな?とも考えた。

しかし、そうではなかった。

 

『まだまだ提督の人数は足りてないよね~。今後の人材を育成することで深海棲艦をもっと多く蹴散らせる。』

 

『そうすることで、人類や君の事も・・・守れるよね?アタシは守られてばかりは嫌なんだ。』

 

『君が守ってくれるように、アタシも別の方法で君や人類を守りたいって思ったんだよ。』

 

それならば、と自分の気持ちに蓋をして諦めをつけたのだ。

それなのに教官というい人は・・・。

 

「だってぇ~・・・教官を続ける予定だったんだけどね~?事情が変わってきてさ~。」

三つ編み部分を弄って若干上目遣いなり、恐る恐るといった様子で北上教官は答える。

普段あまり見せないしおらしい姿にときめいてしまうが、表には出さない。

小さくため息を吐きながら続きを促そうとすると、大淀が割って入った。

 

「提督、お話しの途中で申し訳ありません。マルハチマルマル、着任の時間となりましたので

 秘書艦を務めるものが、もうそろそろ執務室へ来られます。如何致しますか?」

大淀の言葉で我にかえる。

気にはなっているけど、今すべきことは他にも沢山ある。

問い詰めることはいつでも出来るので、やるべき事から始めることにした。

 

“こんこん”

扉がノックされる音が響く。

大淀がどうぞ。と答え、ゆっくりと扉が開かれた。

 

「はいはーい!白露型駆逐艦3番艦の“村雨”だよ。提督、よろしくね!」

入ってきた女の子は元気よく挨拶してくれた。

大きなクリッとした瞳。少し明るめの茶色い髪にツインテールがよく似合っている。

そして駆逐艦とは思えない大きな胸部そ・・・“ドン”いてぇ・・・。

足に痛みを感じ、恐る恐る隣を見ると北上教官が笑顔で僕の足を踏んでいた。

 

「ていとくぅ~?女の子は視線に敏感なんだよ~?あまり見過ぎないほうがいいと思うな~。」

・・・なるほど。よぉくわかったので、足を退けてくれないかな?足を。

村雨は一連のやり取りを見て、最初は呆けていた。が、すぐに笑顔を浮かべた。

 

「ははぁーん。さては、村雨に見惚れちゃいました?で・し・た・らー

 村雨の・・・ちょっといいとこ、見てみたいー?・・・うふふっ」

あろうことか、村雨は胸の下で腕を組み、強調するような態勢をとった。

駆逐艦とは思えない胸部装甲。凝視してしまうのも仕方のないことだと思う。

足の痛みが増してきたことで、僕は我に返った。

 

「こ、こら。村雨。はしたないから辞めなさい。婦女子が簡単に見せるものではありません。」

少しおどおどしながらも窘める。村雨はあきらめたようで、姿勢を戻した。

ついでに、足の痛みも漸く無くなった。

 

「はぁーい。気を取り直して・・・駆逐艦と小さいからって侮らないでよー。

 やるときはやっちゃうからねー?村雨のちょっといいとこ見せてあげる。」

そう言って彼女は手を伸ばしてきた。

最初からそうしててくればいいのに・・・と小さく零しながら。

綺麗な笑顔を浮かべている村雨の手を、僕は優しく握った。

 

 

自己紹介も済み、落ち着いたところで僕は皆に向けて聞く。

「そういえば、秘書艦ってなに?何するの?」

僕が言葉を発した後、静寂が訪れる。

北上教官や村雨はおろか、大淀まで冷めた瞳でこちらを見ていた。

 

「提督は何も習ってないのでしょうか・・・?」

大淀は少し呆れながら口を開いた。

 

「村雨も、ちょっとあり得ないって思うなー。」

村雨は苦笑しながらもやはり呆れている。

 

「あのねぇ~。提督は3年間何を学んだのかな?アタシの授業とか聞いてなかったの~?」

北上教官はジト目でこちらを睨んでいる。

授業を全く聞いていなかったわけではないが、覚えてないものは仕方ない。

 

「面目ないです・・・。関係なさそうな授業はあまり聞いていませんでした・・・。」

僕は素直に謝りながら、縮こまることしかできなかった。

どれくらいの時間そうしていたのか、数秒だったかもしれないし、数分たったかもしれない。

小さなため息を零しながら、大淀が説明を始めた。

 

「秘書艦とは、日々の業務のサポートを行う役目を担っています。慣れない間は特にお世話になるでしょう。

 慣れていくと外しても構いませんが・・・お勧めはしません。」

本当に“秘書官”みたいな感じなんだね。と、小さく呟く。

出撃で命を懸けて戦ってもらっている艦娘に、そのような事を頼んでいいのか疑問が湧いた。

 

「勿論、秘書艦も出撃をします。しかし、出撃回数は最低限に留めて頂きます。

 提督が業務に慣れるまでは、つきっきりでサポートをして頂く予定です。」

疑問を感じたまま、押し付けることができそうにない僕は、聞いてみることにした。

 

「あのさ・・・。それって大変なんじゃないの?出撃をして貰うのにサポートまで頼むなんて僕には・・・「あの!」」

僕が言い終える前に村雨が言葉を遮った。

村雨へ目を向けると、少し怒っているような悲しんでいるような。言い難い表情をしていた。 

 

「えっと・・・。村雨が、希望したんです。強制でもありませんでした。

 上手く言えないけど・・・村雨がしたいから、じゃダメですか・・・?」

右手と左手の人差し指をくっつけながら、上目遣いで此方を見上げる村雨。

その姿にやられてしまった僕は、嫌とは言えずにお願いするしかなかった。

 

 

「さて、話が纏まったところで聞きたいんだけど、現状この鎮守府には何人くらい艦娘はいるの?」

僕の空気を読まない発言などで少し時間がかかってしまったが、当初の予定通り進める。

現状の戦力の確認や挨拶など、しないといけない事はたくさんだ。

僕の質問に応えるように、大淀が一冊のファイルを手渡してきた。

 

「此方のファイルに、舞鶴鎮守府の所属艦娘や資材などのデータが載っています。」

僕はお礼を言いながら受け取る。

ペラペラと数ページ捲っていくうちに、気になるページを発見した。

 

「ねぇ、大淀。この艦娘一覧に書かれている“秘書艦”のページなんだけど・・・。」

そのページを開きながら疑問を投げかける。

大淀は困惑した目をしており、慌てて僕の手からファイルを掠め取った。

僕はわけもわからず、ただ茫然とした。

 

「あ、あはは・・・。間違えた情報が書いちゃってましたね。すぐに訂正致します。申し訳ございません。」

どうゆうことだろうか。

大淀の言葉と行動の意味は。

村雨は僕と目を合わせようとせずに、少し俯いている。

北上教官はいつも通りのすまし顔でこちらを見ており、目があった瞬間に笑顔を浮かべた。

 

「ん・・・。わかった。じゃあ、口頭で説明してくれる?」

気にしても仕方がないので、今は気にしないことにした。

“秘書艦 春雨”

確かにそう書かれていたのだ―。

 

 

「舞鶴鎮守府の現状は、駆逐艦 2名、重雷装巡洋艦 1名の合計3名です。

 私、大淀は基本的に出撃致しません。ですので、戦力としては3名ですね。」

ふむ、と相槌を打つ。そして、少ないな・・・と小さく零した。

鎮守府とは守りの要。そこでこんなに少人数なんてあり得るのだろうか。

 

「提督の疑問はごもっともだと思います。以前は大勢の艦娘がおられましたが、提督が着任するにあたって

 別に鎮守府へ移動されました。現状、最も多く襲撃されている横須賀鎮守府へと。」

確かに合理的だと思う。

たくさんの艦娘を指揮できるかどうか、自分でもわからない。

最初は少人数で、徐々に慣れていくのが一番だと思った。

 

「それなら仕方ないね。わかった。そしたら、もう一人の艦娘も連れてきてくれる?」

村雨にお願いをして、呼んできてもらう。

“秘書艦として、最初の仕事ね”と、ウインクを飛ばして出て行った。

開いた時間に僕は考えていた。“空母がいないのは痛いな”と。

僕の基本戦術は、空母がいることが前提となってしまうのだ。

どうにかならないものか、考えていると北上教官から声がかかった。

 

「提督~?空母いないのが不安なんだよね~?アタシがどうにかしてあげよっか?」

3年間僕の教官を務めていただけあって、既に悩みを見抜かれていたらしい。

しかし、どうにかするといっても無茶があるだろうと思っていると、北上教官が僕の頭上を指さした。

 

「“妖精さん”を連れて行っていいなら、どうにかするよ~?ねぇ、どうする~?」

“妖精さん”を?益々僕は混乱した。

大淀へ目を向けてみると、彼女もわかっていないのか、おろおろしている。

妖精さんを掌にのせて、見つめてみると敬礼で返してくれた。

「まかせて」と言っているようだ。

 

「北上教官には何か考えがあるんですよね?なら、お願いします。」

僕は掌の上にいる小さな彼女を、教官の頭に載せた。

任せて、と言いながら手をヒラヒラと振る教官。

“北上号、はっしーん”と気が抜けるようなセリフと共に彼女は執務室を後にした―。

 

暫くすると、扉をノックする音が響く。彼女と入れ替わりで村雨が戻ってきたようだ。

“どうぞ”と、大淀の言葉の後に扉が開く。

入ってきたのは村雨と、村雨に似た雰囲気を持つ艦娘だった。

 

「村雨、帰還しましたー。任務達成、駆逐艦を連れて参りましたっ。」

綺麗な敬礼と共に、元気よく話す村雨。

微笑ましく、僕もつられて笑顔になった。

 

「おかえり、村雨。ありがとう。ところで後ろの子は・・・?」

僕が目を向けると、彼女は狼狽えてしまった。

様子を見守っていると、村雨が助け船を出した。

 

「ほら、ピシッとする!あれだけ練習したんだから大丈夫。ね?自己紹介して。」

 

少女は一歩前へ出た。

村雨とはまた少し違う色の髪の毛で、明るめの色をしている。

大きなエメラルドグリーンの瞳が特徴的で、見ていると構いたくなるような・・・

悪い言い方をしてしまうと、犬っぽい雰囲気だ。

 

「ぽいぃ・・・。白露型駆逐艦4番艦の夕立です。宜しくお願いしますっぽ・・・しますっ。」

特徴的なしゃべり方だった。“ぽい”とは・・・。

何となく無理して話してるのは伝わった。リラックスしてもらうために笑顔で声をかける。

 

「夕立だね。僕は海道と言います。よろしく。それと、無理しなくていいから、話しやすいように話してね。」

そういえば、村雨にも名前は告げていなかったな・・・と思い出して、名前を付けたして自己紹介をする。

夕立は少し困った顔をしながら村雨を見つめていた。

そんな夕立の様子に、“やれやれ”と苦笑を浮かべながら、村雨は頷いた。

 

「そういうことなら・・・夕立頑張るから、宜しくお願いするっぽい!」

満面の笑みを浮かべながら手を差し伸べてくる夕立。

先ほどとは180度ほど違う元気のよさに戸惑いを隠せなかったが、僕も笑顔を浮かべて手を握った。

 

 

「さて、あとは北上教官を待つだけなんだけど・・・。」

その言葉と共に扉が開かれた。

一番近くにいた夕立はよほど驚いたのか、飛び上がり村雨の陰に隠れた。

 

「お待たせぇ~。・・・ん?どったの?そこのちっこいの何してんの~?」

状況がわかっていない北上教官は夕立に向けて指をさしている。

夕立はまだ落ち着かないのか、肩で息をしながら“ふーふー”と威嚇している。

“まるで猫みたいだな”と、先ほどの評価を考え直す僕だった。

 

「まぁ、とりあえずいいや。提督、空母を連れてきたよ~?」

軽く伝える北上教官。驚愕のあまり声が出ない僕たち。

執務室内は静寂に包まれた。

いち早く復帰した大淀が北上教官に告げる。

 

「えっと、連れてきたとは・・・何方から連れてこられたのでしょうか。」

大淀の言葉に対して、しきりに頷く僕と村雨。

そんな中、北上教官は悪びれた様子もなく、しれっと答えた。

 

「え~?工廠からに決まってんじゃん。そこ以外どこがあるのさ~。」

更に意味がわからなくなる僕たち3人。

顔を見合わせるが、一様に首を傾げた。

 

「その・・・ですね。“建造”されたことはわかりました。ですが、時間は・・・?」

“建造”とは。

妖精さんに資材を渡すと、気まぐれで艦娘であったり、艦娘用の艤装を作成するシステムだ。

どのような物を作成する際も、数十分から数時間“待たないといけない”。

10分程度で帰ってくるなど“あり得ない”のだ。

更に、どの艦娘が出るのか艤装が出るのかも完全にわからないので狙い撃ちなど不可能なはず。

深まる謎に答えるように北上教官が口を開いた。

 

「ん~とねぇ、妖精さんに“空母が欲しいなぁ”ってお願いをして・・・。

 賄賂(?)を渡したら、機嫌よくやってくれたよ~。」

開いた口が塞がらないとはこの事か。

“妖精さんにお願いする”なんて聞いた事もなければ、試したものもいないはず。

しかも賄賂・・・僕は頭が痛くなってきて、考えることを放棄した。

 

「資材を入れた後はねぇ、火炎放射?で炙ってたよ~。そしたらすぐに出てきたねぇ。」

驚きすぎると逆に落ち着くとはこの事だろうか。

いや、単に思考を放棄しただけに過ぎない。

聞いたこともない状況に、誰しもがついていけないことは確かだった。

 

「北上教官、一ついいでしょうか。」

“しん”と静まりかえった執務室に僕の声が響く。

僕は努めて冷静に言葉を発した。

 

「ん~?なぁに?」

北上教官は少し首を掲げながら聞いてくる。

このような状況で不謹慎だが、可愛いと思ってしまったのは仕方がないことだ。

教官の頭上にいる妖精さんも真似をして同じポーズをとっていた。

 

「その、連れてきた空母は何処に・・・?見たところ、教官しかいないようですが・・・。」

言葉を受けて振り返る北上教官。

何度も左右を見渡しているが、何処にいない。

此方へ顔を向けた教官は、頬を引きつらせながら言った。

 

「あ~・・・。空母が出来たことに嬉しくて・・・、早く伝えようと急いで出てきたから

 工廠に置いてきちゃったみたい・・・てへ。」

舌を出しながら、後頭部をげんこつで叩くような仕草をする教官。

“ええ、可愛いですよ。可愛いですけど・・・。てへ じゃないでしょう!?”

あふれ出しそうな言葉を飲み込んで、僕は告げた。

 

「一人で心細い思いしてるんじゃないの!?早く連れてこーい!!!」

北上教官は敬礼しつつ、急いで駆け出した。

その後ろ姿を眺めながら、僕たちはため息で送り出した。

 

 




読み返してみる会話部分の多い事。

自己紹介など挟むので仕方ないといえば仕方ないかもしれませんが
もう少しやりようがあったかな・・・と思ったり。

このような稚拙な文章ですが、少しでも多くの方に“面白い”
と思っていただければ幸いです。

ここ3、4日で予想以上のUAとお気に入り登録数。
また、しおりや評価まで頂き心の底から感謝いたします。
続きが気になると思って頂けていることが、励みになっています。
これかも精進してまいりますので、宜しくお願いします。

感想部分 どなたからでも受け付けるように変更致しました。

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第二話 着任 裏

彼視点ではわからなかったことが明らかに。

少しずつですが、段々と明るみになっていく彼のこと。

今回も少しだけわかるかもしれません。


 

「・・・それで?説明してくれるよね?」

彼は椅子に座りなおしてアタシに告げた。

もう少し掻きまわし・・・困らせてからでも良かったのだけど

怒られるのも嫌なので、素直に答えることにした。

 

「いやね~。本当は伝えても良かったんだけどさ~。

 サプライズの方が楽しいじゃん?」

本当は驚く顔が見たかっただけ。

“君の色んな表情が見たいんだよ”とは素直に言えない。

 

「北上教官、以前に僕が誘った時は“断った”よね?まだ教官を辞めれないって。」

・・・そうなのだ。本当にアタシもこんなことになると思っていなかった。

たまたま“新しい教官”が増えて、たまたま“前線に戻された”だけなのだ。

それならば、と彼のいる鎮守府に異動を希望した。

 

 

「だってぇ~・・・教官を続ける予定だったんだけどね~?事情が変わってきてさ~。」

詳しくは伝えない。

アタシにも意地やプライドが少しはあるのだ。

一度断っておきながら、調子がいいと感じるかもしれないが

前線に出るなら彼の元以外で戦う気なんて、さらさら無かった。

どのように言葉を続けるか考えていると、大淀が遮った。

 

「提督、お話しの途中で申し訳ありません。マルハチマルマル、着任の時間となりましたので

 秘書艦を務めるものが、もうそろそろ執務室へ来られます。如何致しますか?」

これはチャンスだと思う。

真面目な彼は断らないはず。

いつか追及されるかもしれないが、何度でも躱してやると一人誓った。

 

 

すぐに扉がノックされる。

相変わらず人見知りな彼は少し緊張しているようだった。

“そういうところは変わらないな”と思い、アタシの頬は緩んだ。

 

 

「はいはーい!白露型駆逐艦3番艦の“村雨”だよ。提督、よろしくね!」

駆逐艦 村雨。

駆逐艦はあまり好きではないけれど、その中でもマシな分類に入ると思う。

纏わりついてくるような子でもないし、姉妹の中でもお姉さんをしていそうな性格。

ただし、駆逐艦とは思えない胸部装甲。密かに“負けた・・・”と思っていた。

彼へ目を向けると、その胸部装甲を見ていた。

瞬間的に頭へ血が上ったアタシは、彼の足を勢いよく踏み抜いた。

 

「ていとくぅ~?女の子は視線に敏感なんだよ~?あまり見過ぎないほうがいいと思うな~。」

アタシは凄くいい笑顔をしていたと思う。

村雨へ目を向けると、彼女は小悪魔のような微笑みを浮かべていた。

 

「ははぁーん。さては、村雨に見惚れちゃいました?で・し・た・らー

 村雨の・・・ちょっといいとこ、見てみたいー?・・・うふふっ」

ある部分を強調するような姿勢になる村雨。

女のアタシでも見てしまうから、気持ちはわからなくはない。

でも、やっぱり面白くないアタシは踏んでいる足に力を込めた。

 

「こ、こら。村雨。はしたないから辞めなさい。婦女子が簡単に見せるものではありません。」

アタシの思いが通じたのが、彼が村雨を窘める。

少し時間がかかったことを、問い詰めたいという気持ちは少なからずあるけど

ぶり返す話でもないか、と思い直し、漸くアタシは足を退けることにした。

 

彼と村雨は自己紹介を進めているようだったが、アタシの耳には入っていなかった。

 

“貴方も大きいほうが好きですか?”

“小さいアタシはダメですか?”

 

頭の中で、浮かんではすぐに消えていく言葉。

弱虫なアタシは、口に出すなんてことは絶対に出来ない。

どうしようもない思いに苛まされながら、アタシは大きくため息を吐いた。

 

 

「そういえば、秘書艦ってなに?何するの?」

・・・聞こえてきた彼の言葉にアタシは絶句する。

どういうことだろう、アタシに喧嘩を売ってるのだろうか。

大淀は呆れながらも、彼へ突っ込む。

 

「提督は何も習ってないのでしょうか・・・?」

そう思われても仕方ないかもしれないが、そこは間違いだ。

アタシは責任をもって叩き込んでいるはずだ。

 

「村雨も、ちょっとあり得ないって思うなー。」

駆逐艦に呆れられる提督。

いい気味だと思う反面、アタシの風評被害にもつながることに気付いた。

 

「あのねぇ~。提督は3年間何を学んだのかな?アタシの授業とか聞いてなかったの~?」

教えたはずだ。と強く念を込める。

何も知らない二人に、アタシ達教官が何も教えていないと思われることは心外だった。

・・・それよりも提督自身が“無能”だと思われることが嫌だと気付く。

 

 

「面目ないです・・・。関係なさそうな授業はあまり聞いていませんでした・・・。」

彼は素直に謝っていた。

悪いことは悪いとすぐに認めれることは、彼の美点だと思う。

真面目な人柄だけど、授業中でも稀に話を聞いていない時があった。

窓から空を眺めるようにボーっとしていたのだ。

 

当時は特に気にも留めていなかったが、真面目な彼が“話すら聞いていなかった”事実がおかしいと気付く。

上の空になっていても、話は聞いてくれていると思っていた。

ただ、忘れているだけかもしれないけど、全く頭に入っていなかったのか。

一度気にすると、頭の中でぐるぐると回っているようだった。

アタシが一人考え事に耽っていると、何時の間にか話が終えていた。

 

 

「舞鶴鎮守府の現状は、駆逐艦 2名、重雷装巡洋艦 1名の合計3名です。

 私、大淀は基本的に出撃致しません。ですので、戦力としては3名ですね。」

彼が現戦力について尋ねたのだろうか。

現在の舞鶴鎮守府では、鎮守府近海にてはぐれ艦隊が数度潜り込む程度で

大型艦種が出現することも、殆どない。

駆逐艦が2隻で哨戒するだけでも事足りるだろう。

そこにアタシ“重雷装巡洋艦”が加わると戦力過多だ。

彼からすると少なく感じていると思うが、アタシに不安はなかった。

 

「それなら仕方ないね。わかった。そしたら、もう一人の艦娘も連れてきてくれる?」

彼が村雨にお願いをする。

命令で良かった気もするけど、彼らしいかな。と微笑ましい気持ちになった。

そこで彼を見ていると、少し難しい顔をしている。

悩みがある事はわかっていたので、アタシは声をかけた。

 

「提督~?空母いないのが不安なんだよね~?アタシがどうにかしてあげよっか?」

3年間、彼の指揮を見続けたアタシは彼の戦法をわかっている、と自負している。

全てを曝け出していたかはわからないが、大半は知っているだろう。

彼の基本戦術にて、一番大切にしていたことは“空母の眼”だった。

駆逐艦と重雷装巡洋艦では、艦載機はおろか偵察機すら積めない。

それがわかったので、彼の不安を少しでも軽減出来ればと思い、更に声をかける。

 

「“妖精さん”を連れて行っていいなら、どうにかするよ~?ねぇ、どうする~?」

彼は驚きのあまり固まってしまった。

唐突過ぎたかな?と思うが、アタシの感が正しければこの子は何かの鍵を握っている。

未だに解明されていない“妖精”と呼ばれる存在。その中でも一番謎に包まれているのだ。

アタシの急な問いかけに困ることもなく、妖精さんは笑顔で手を挙げていた。

そんな妖精さんを見ていると、アタシはイケると確信する。

 

 

「北上教官には何か考えがあるんですよね?なら、お願いします。」

彼はそう告げてアタシの頭へ妖精さんをのせる。

わざわざ頭にのせなくても・・・と思ったが、楽しそうな雰囲気を感じたから何も言わずにおいた。

 

「北上号、はっしーん。」

妖精さんのテンションにあわせて茶化しながら、アタシは執務室を後にした。

 

 

工廠へ向かう途中で、もう一人の駆逐艦を連れた村雨と遭遇した。

夕立だったかな・・・?癖のあるしゃべり方で、駆逐艦の中でも特に纏わりついてくる子だ。

アタシに気付いた村雨が声をかけてきた。

 

「北上さん。どこかへ行かれるのですか?」

アタシは足を止めて村雨へ向き直った。

 

「ちょっち工廠までね~。北上、空母を建造するであります~。」

固いのがあまり好きでないアタシは、空気を和らげるために茶化すように言葉を発した。

空気を読んだ村雨は、笑顔のまま軽く敬礼をした。

 

「貴艦の任務、無事に成功をすることを祈っているでありますー!」

無邪気に笑う村雨に見送られながらアタシは踵を返す。

「夕立も、またあとでね~。」

二人に見送られてアタシは足早に工廠へ向かった。

 

 

“工廠”

艦娘の建造ドックがあり、その他にも装備品の開発や改修を行える場所。

妖精さんへ資材と資源と呼ばれる物を渡すと、気まぐれに作成してくれる。

もちろん、こちらから指定することもできず、出来上がるまで何が出きるかすらわからない。

殆どの場合が、失敗や艤装のみの作成となる。

 

 

アタシは建造ドックへ迷わず足を向けた。

そこには何人かの妖精さんがいる。

暇そうに寝転がっているものや、慌ただしく飛び回っているもの。

アタシは頭上の妖精さんを一度降ろして、お願いをする。

 

「あのね、彼の為に空母を建造して欲しいんだ~。建造のシステムは理解しているつもりだよ。

 でもね、アタシは彼が苦しむところを見たくないの。

 空母なしでも充分に戦える力を彼は持っている。だけどね、万が一ってこともあり得るの。

 万が一の時、きっと彼は自分を責めちゃう。“空母がいれば”“僕の指揮が無ければ”って。

 彼が空母を手にしたら、きっと“どんな敵にも負けない”。その力を持ってる。

 難しいお願いとはわかってる。でも、協力してほしいの。」

 

アタシは妖精さんへ向けてお願いをした。

人間では駄目でも、艦娘のアタシなら或いは・・・と考えはあった。

しかし、誰も見向きすらしてくれない。

だめだったかな・・・と、うっすらと瞳に涙が浮かぶ。

するとその時に、アタシの掌から連れてきた妖精さんが降り立った。

何を伝えているのかはわからない。

しかし一生懸命に身振り手振りで必死に伝えている。

徐々に妖精さん達が集まり、今では整列して敬礼している。

 

連れてきた妖精さんは此方へ振り返り、敬礼をしながら命令を待っている。

「おしごとします」

 

アタシは瞳から零れたモノには気を留めず、精一杯の笑顔を作って言った。

「報酬は甘いものだよ~。皆!空母を一隻お願いね~!」

ポケットにたまたま入っていたチョコレート。一人一人に配っていく。

妖精さん達は、一斉にいい笑顔で頷いて思い思いに作業を開始した―。

 

 

 

“妖精さん”

忙しなく飛び回る妖精さんへ目を向けて思考する。

彼女たちはどのような存在なのだろうか。

現場に指揮をとっている“彼のお友達の妖精さん”。

彼女は他の妖精さんとは違うように感じる。

ある程度の意思疎通は出きるし、何より“彼の事を想っている”。

アタシの“かいそう”をしてくれたのも彼女だ。

妖精さんを眺めていると、アタシの目に“火炎放射器”が映る。

 

「え!ちょ待って!それで何するの!?」

慌てふためくアタシ。

ジェスチャーで落ち着くように伝える妖精さん。

「だいじょうぶです」

そう告げて、一気に炎を放出した―。

 

 

すると建造ドッグの扉が開き、艦娘が出てきた。

茫然とするアタシと辺りを見渡す艦娘、それにどや顔の妖精さん。

「せいこうしました」

喜色一面なアタシは妖精さんを連れ、艦娘の名前も聞かずに駆け出した。

 

 

“彼は喜んでくれるかな?褒めてくれるかな?”

一秒でも早く報告をしたい一心で走る。

執務室の扉が見えてきたアタシは、ノックもせずに扉を開け放った。

 

「お待たせぇ~。・・・ん?どったの?そこのちっこいの何してんの~?」

執務室に入ったアタシを出迎えたのは、村雨の陰へと隠れる夕立だった。

何かあったのかな?と思ったけど、今はそれより提督に報告が先だ。

 

 

「まぁ、とりあえずいいや。提督、空母を連れてきたよ~?」

アタシが言葉を発した後に静まりかえる執務室。

あれ・・・?反応が薄い・・・?と、焦るアタシ。

そんな中、大淀が恐る恐るといった様子で口を開いた。

 

 

「えっと、連れてきたとは・・・何方から連れてこられたのでしょうか。」

アタシは大淀の言ってる事が理解できなかった。

工廠へ行くと言ってから部屋を出たのに、何を言ってるのか。

 

 

「え~?工廠からに決まってんじゃん。そこ以外どこがあるのさ~。」

当然でしょ?と答える。

3人の表情は更に強張った気がする。

 

「その・・・ですね。“建造”されたことはわかりました。ですが、時間は・・・?」

あ~、なるほど。アタシは気付く。

説明を端折ってしまっていたのだ。

逆の立場なら驚いてしまうとわかったアタシは、説明を行った。

 

「ん~とねぇ、妖精さんに“空母が欲しいなぁ”ってお願いをして・・・。

 賄賂(?)を渡したら、機嫌よくやってくれたよ~。」

わかりやすく説明したつもりだけど、アタシもよくわかんなくなってきた。

どうしようもないので、ありのまま起こったことを説明することにした。

 

「資材を入れた後はねぇ、火炎放射?で炙ってたよ~。そしたらすぐに出てきたねぇ。」

誰もが言葉を失っていた。

アタシだって見ていなければ信じれなかったと思う。

しかし事実は事実なので、信じてもらうしかないのだ。

暫くして、彼が口を開いた。

 

「北上教官、一ついいでしょうか。」

静まりかえった部屋の中に彼の声が響く。

アタシもゆっくりと答えた。

 

「ん~?なぁに?」

頭上で妖精さんが動く気配がする。

しかしアタシから見えないので、気にしないことにした。

 

「その、連れてきた空母は何処に・・・?見たところ、教官しかいないようですが・・・。」

彼の言葉にアタシは後ろを振り返る。何処にもいない。

左右を見渡す。何処にもいない。

アタシは血の気が引いた。

 

「あ~・・・。空母が出来たことに嬉しくて・・・、工廠に置いてきちゃったみたい・・・てへ。」

誤魔化すように言ってみる。

・・・彼の肩が震えている。こりゃぁ、大目玉かな。と、ごちる。

 

「一人で心細い思いしてるんじゃないの!?早く連れてこーい!!!」

噴火した彼から逃げるように、アタシは一目散に駆け出した―。

 

 

工廠へ戻ったアタシは艦娘を探す。

すると彼女は待っていてくれたのか、先ほどと同じ場所に座っていた。

 

 

大和撫子を体現したような子だ、と思う。

遠目から見てもわかる、長く艶のある黒髪に白いリボンが映えている。

大きな茶色の瞳からは何か強い意志を感じた。

スタイルもよく、女のアタシから見ても綺麗な子だと思う。

そこでアタシは見惚れている場合じゃないと思い直して、急いで声をかけた。

 

「ごめーん!焦って置いて行っちゃったみたいでさ~・・・。ほんとごめんね?」

彼女は此方へ気付くと視線を向けてきた。

少し、ジト目でアタシを責めていることがわかる。

小さくため息をつきながら、彼女は口を開いた。

 

「生まれた瞬間に、誰かが走り去っていって本当に吃驚したわよ・・・。提督も居なかったし。

 言ってもしょうがないから、もういいけど心細かったんだからっ」

そりゃそうだよね、とアタシは反省した。

アタシが逆の立場でも、凄く心細いと思うし・・・。

 

「本当にごめんなさい。次からは気をつけます!」

アタシは敬礼しながら返事をした。

彼女は許してくれたのか、微笑みを浮かべてくれた。

 

「じゃあ、気を取り直して自己紹介ね。

 名前は出雲ま・・・じゃなかった。飛鷹です。航空母艦よ。よろしくね。」

何故、名前を言い直したのか気になったけど、聞かなかったことにする。

アタシも飛鷹へ手を差し出しながら自己紹介をした。

 

「アタシは重雷装巡洋艦の北上だよ~。よろしくね。」

告げると飛鷹が手を差し出してきたので、握手をする。

飛鷹の視線が少し上を向いたので、妖精さんを気にしていることはわかったけど

今は時間がないので、説明せずにそのまま手を引く。

 

「じゃあ、皆に紹介するから執務室へいこっか~。」

アタシはそのまま飛鷹の手を引いて執務室へ向かった。

 

 

 




戦闘シーン全くなし。

チートとはなんだったのか・・・。

次回は少し戦闘シーンをいれる予定です。



誤字脱字報告や感想などお待ちしております。


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