ソードアート・レジェンド (にゃはっふー)
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SAO編
プロローグ・テイルスタート


数々のテーマをもとに、進め、妥協、挫折する難しいテーマ。

ソードアート・オンラインは難しい。

けれど、ついに納得がいく物語が進められる。

それではどうぞ、彼の物語にお付き合いを。


 それは白い広がる空間だった。

 

 どこまでも広がる白の中に、光りだけがあると考えればいいのか、それはあると認識できる。

 

『始めまして、唐突で悪いけど、君は死にました』

 

 そんなことを言われても始めは困惑するが、意識があって、身体が無い。そのようなことだけが認識できる自分がいた。

 

 その前の記憶は、確か大学へ向かう途中、憂鬱な中、信号が赤のままであるため、仕方なく信号を待っていたはずだ。

 

『そこによそ見運転の車が激突したんだ、君は不幸にも巻き込まれた』

 

 なら、ここは、

 

『生と死の間だよ、君が死ぬのは、こちらの不手際って奴さ。二次創作物は知ってるだろ?』

 

 それは原作がある世界に、神様が間違えて殺したりしたオリ主を転生させるって奴か。

 

 なら俺は、

 

『まさにそれだ、オリ主になれるかは、これから転生特典と努力によるね』

 

 それに俺は驚きながら、おそらく、いや、神様の言葉を待つ。

 

 向こうは心の中が分かるからか、苦笑していた。

 

『神と言っても、不手際を起こして、後で上位に怒られる存在だけどね。まず君の転生先は』

 

 それは『ソードアート・オンライン』と言う、小説に似ている世界らしい。

 

 聞いたことはあるし、アニメを少し見た。

 

 確かデスゲームとか、ユウキと言う少女が死んで悲しい話だ。

 

 それを知ると、向こうは少し困惑する。

 

『人気作なのにそれだけかい? まあ、似た世界であるため、そのデスゲームが起きるかは分からない』

 

 運命を司る神では無いしねと、そう言われたが、どうするべきだろう。

 

 似た世界なら、起こることを考慮するべきだ。

 

 それに、ユウキと言う少女には生きてて欲しい。

 

『おっと、願いは三つまでだぜ。それ以上は不可だ、君が関わることで物語が変わる可能性もあるしね』

 

 それを聞き、どうするべきか。

 

 少し悩み、相談しながら決めよう。

 

 まずは、『デスゲームの被害者を無くしてほしい』だな。

 

『それは不可能だ、もしも起きるとしたら止められないだろう。できるとしたら』

 

 できるとしたら、まず外から強制的にゲーム機を外し、死ぬことを無くすことと、自殺者を無くすこと。

 

 ただし、それは俺が関わらないといけないので、どうしてもデスゲームには参加しなければできないと言う。

 

『方法はこちらで起こせる、君が切っ掛けとして動いてもらう。きっと分かるはずだ』

 

 となると、もしもデスゲームが起こるのなら、俺はデスゲームに参加することになる。

 

 なら一つはデスゲーム対策にしなければ………

 

 次は、『ユウキと言う少女の家族を救ってほしい』だ。

 

 それを言うと、少し黙り込む。

 

 まるでそれは叶えてやりたいがと印象だ、難しいのだろうか?

 

『………ふう、よし、それも難しいが、君の願いそのままではない。ただし、向こうが選べるようにできる』

 

 どういうことだ? 俺はそう考えたが、それ以上答えてくれない。

 

『さあ次だ』

 

 そう言われ、俺は渋々、最後の一つを考え、決めた。

 

 それは、『ゼルダの伝説、退魔の勇者リンクの能力習得』だ。

 

 それを聞き、少しばかり困惑し、理解する。

 

『確かに、ゲームに魔力とかいらないからね』

 

 彼はタイミングが合えば、敵がスローモーションになり、攻撃を叩き込む。時には弓矢、槍やら武器と盾を巧みに操り、崖も自力で上る。

 

 それが火の山にだって上り、雪山もだ。

 

 それも一人、仲間はいるが、ほぼ一人で戦う。

 

 なにより、特別に剣術で戦う訳では無い。ならうってつけではないか?

 

 俺はこれを、頑張って習得したい。

 

『習得かい? 変わっているね』

 

 突然手に入れても、使えないだろう。

 

 なら鍛えて習得したい、なにかおかしいだろうか?

 

 その疑問に答えが来ないまま、それで願いは叶ったと言わんばかりに、意識が遠のく。

 

『それでは良き来世を』

 

 それが神様の最後の言葉だった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 はっきりと前世の記憶が思い出したのは、五歳であり、夢のような出来事ではあるが、俺ははっきり学生だった記憶があり、前世の教訓を生かすことにした。

 

 勉学と運動をし、好き嫌いを無くす。

 

 親はまあいい人たちで、前世と同じ優しい家族。

 

 そして………

 

 俺は夢の世界に来る。

 

 夢の世界には、一本の剣が地面に刺さり、目の前に骸骨の戦士がいた。

 

 それはまるで俺に剣術を教える、あの勇者のように試練を受ける日々が始まったのだ。

 

 その時の俺は成長していて、何歳か分からないが、それが時折夢の世界で起きては、現実を繰り返す。

 

 そんな日々の中、俺の方針は決まっていた。

 

 まずは主人公の物語には関わらない、そもそも俺はユウキの物語から見始めて、後はまだらで、どこで、なにが、どう起こるか分からない。

 

 なら俺は外側を頑張る。彼がデスゲームクリアをするまで、死者を出さないようプレイする方がいいだろう。

 

 だから俺はこうして、骸骨の戦士から剣術を習う。

 

 時には崖上り、アイテムの料理には驚いた。

 

 そして彼が倒した数々の敵と、彼と同条件で戦う。

 

 熟睡できる時とできない時を繰り返す狭間の中、俺の日々が過ぎていく………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 16歳、世間はVRゲーム。《ソードアート・オンライン》一色である。

 

 まだ分からないが、俺はこのゲームがゲーム空間にプレイヤーを閉じ込めるゲームと同じ名前だと知っている。

 

 だがそれだけでどうすることもできない、できることは購入して、神様の言葉を思い出す。

 

 まず俺が関わらないと、自殺者や、ゲーム機を外して死ぬプレイヤーの運命は変わらない。

 

 だから、

 

「………」

 

 俺はナーヴギアを手に取り、静かに時間を待つ。

 

「リンクスタート」

 

 そう短く呟き、時間と共に剣の世界へとダイブする。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 はじまりを告げる町で、まず俺が確認したのは、ログアウトできるか否か。

 

 結果、できないと言う事実。

 

 とてつもなく早く判明した。

 

「………」

 

 これでこの世界の《ソードアート・オンライン》はデスゲームと決定された。

 

 ならば次は行動、死なないように町の周りをぐるぐるして、HPが0になりそうなプレイヤーを探す。

 

 少なくてもデスゲーム宣告まで出すわけにはいかない。静かに行動する。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 まず言えば、その心配は無く、宣告の時間か、強制転移で広間に集められた。

 

 デスゲームの開始、GМらしきロープの男は言う。

 

『忠告に外側に電流を流した結果、誰も、ナーヴギアは外されていないため、いまだ死者は出ていない。だが君たちのHPゲージが0になったとき―――』

 

 これでまず一つ、外側からナーヴギアを外して死ぬと言う事態は回避された。

 

 内心安堵するが、表情に出して茅場と仲間と思われる訳にはいかないし、まだこの絶望の中で、どうすればいいか分からない。

 

 しばらくして宣告が終わり、広間には泣き声と怒声、どうすればいいか分からないプレイヤーがわめいていた。

 

 そこに一つのパーティーが現れる。

 

「皆さん聞いてくださいっ」

 

 それは攻略を視野に入れたパーティーであり、彼は言うには、自分たち攻略組を支援するギルドが欲しいとのこと。

 

 ポーションや武器、防具の整備。裏方で働くプレイヤーが欲しい。君たちにはそれをしてほしいと言う内容。

 

 それならば危険な戦闘も極力減らし、かつ外に出られる可能性が開けると演説する。

 

 つまりこれかと、俺が全てを聞き終えた後、前に出た。

 

 それに続くように、何人かのプレイヤーが動く中で、

 

「頼みがある」

 

「頼み?」

 

「まだ小さなプレイヤー、子供がいる」

 

 このゲームはレーティングより下の子供や、まだ気持ちが切り替わっていない者たちもいる。

 

「かわりに働く、彼らの面倒を見たい」

 

「それは………」

 

「………」

 

 そのギルドリーダーは静かに頷き、こうして俺がするべきことは決まった。

 

 俺はこうして日夜エネミーを狩る。

 

 アイテムはなるべく売る。こうして俺こと、アバター名『テイル』、物語の名を刻んで、SAOに挑む………




SAOは駆け足で駆け抜けるので、数話で終わります。

彼の物語はALOからですから、それでも物語はしっかりやるのでよろしくお願いします。

では、お読みいただきありがとうございます。


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第1話・もう一人の剣士

勇者らしき者より、技を授かる彼は勇者では無い。

だけど、それでも彼は技を授かり、それを振るう舞台へと足を踏み込んだ………


 あれから数か月が経ち、死者を止められなかった。

 

 戦闘、ボス戦、こういうところになると、俺の手から離れる。

 

 それでも、自殺者は引き止められたのは救いであったはず。

 

 後は彼らは日々アイテムや武器防具作りなどで、生計を立てている。

 

 そして俺は、

 

「………」

 

 日々エネミーを倒し、アイテムや使えない物は売り、ただそれを繰り返す。

 

 武器は相手のドロップ品や、様々な物を使用する。後は穴場の鍛冶屋だ。

 

「………」

 

 はじまりの町にある、とある教会。ここはすでに買い取り、ギルド《縁の下の仲間たち(ブラウニー)》が管理している。

 

「あっ、テイルだ」

 

 低年齢プレイヤーを助けるだけじゃなく、適応できないプレイヤーも、裁縫、料理などの仕事で働けるようにしているギルド。

 

 彼らを支えるのは、俺のやるべきことだ。

 

「テイル」

 

 その時、一人の女性プレイヤーと出会う。

 

 彼女は、

 

「『ルクス』」

 

 ルクス、ある階層の森で所属パーティーがいた(・・)、少女だ。

 

 彼女は現在、このギルドに入り、時折見かける。

 

「君はまだ一人なんだね」

 

「………」

 

 悲しそうに言うが、仕方ない。

 

 俺は正直、人との付き合い方が前世から分からない方であり、次のこの人生も、このゲーム対策ばかり考え、人との付き合い方が、ほんと分からない。

 

 彼女はそれを心配、いや、知るギルドメンバーはみんな心配してくれる。

 

「………じゃ」

 

「あっ………」

 

 正直、ルクスはかわいい。

 

 どう接していいか分からず、こうしてまた避けていた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 彼はテイル、《沈黙の蒼》と呼ばれる。

 

 何事も言葉少なく返答し、黙々とエネミーを狩り、このギルドに貴重な資金を集めるプレイヤー。

 

 当初このギルドは火の車だったが、彼が孤軍奮闘した。

 

 このギルドが現在になって回るのは彼のおかげだと思う。

 

 そんな彼は一人、危険なエリアに出向き、このデスゲームで多くのプレイヤーを支えている。

 

 私が前に所属していたパーティーが全滅し、私も死ぬところ彼が助けてくれた。

 

 だけど彼は一人、いつも思いつめた顔で戦いに出向く。

 

 彼の心中を知ることはできない。

 

 私はただ、彼の無事を祈り、彼の真似事をするしかできなかった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 延々と、黙々と、淡々と、エネミーを狩る。

 

 35層のモンスター、『ドランクエイプ』と言う、猿人型モンスターが三組。

 

 相対するは、背中に槍、片手剣、両手剣を背負い。左腰に刀、右腰に予備の武器を持つコートの青年。

 

 懐には無数の投擲武器が隠されていて、全身武器で固めていた。

 

 相手はソロではきつい、群れで戦い、HPを回復する相手だが、彼は狩り慣れしている。

 

 出会った瞬時槍で喉元を貫き、槍を手放し、腰の片手剣を引き抜くと共に切り払い一匹。

 

 瞬時に戦闘態勢に入る敵の攻撃を盾で防ぎ、何度か対峙する。

 

 相手はスイッチ、攻撃する担当を入れ替わる戦法を使う。

 

 だが共に、流れるように投擲武器が後ろに飛ぶ敵を貫き、二匹。

 

(悪いが回復はさせない)

 

 そして残りは盾と剣でポリゴンに変え、そして、

 

「増援」

 

 そう、彼が一匹を倒した時悲鳴を上げ、他のエネミーを呼んでくれた(・・・・・・)

 

「………」

 

 そして増えた数相手に、彼は攻撃をギリギリで避け、全て叩き斬る。

 

 単純に相手が回復するよりも早く斬れ。

 

 それが彼が彼らに対する評価であった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 そしてこの作業の終わった後、宿で夢を見た。

 

 今日は訓練の日か。

 

「先生、お願いします」

 

 骸骨の戦士、何者かは分からない。ただ俺に剣術を教える、師であることは変わらない。

 

 これのおかげで俺はどれほど救われたか分からない。

 

 チートだ。

 

 俺は他のプレイヤーより、βテスターよりも恵まれている。

 

 戦う。

 

 戦え。

 

 それ以外の方法が分からない。

 

 初めは、デスゲームが起きると知って、二次のオリ主のように戦わなければいけない気がしただけだ。

 

 それだけ。

 

 そして目を覚まし、今日も今日とて、エネミー狩りだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「また君だね、この子はもうだめだよ、新しいのにした方がいいよ」

 

「………」

 

 盾と片手剣、槍に刀、投擲武器と様々なものを持つおかしな戦士。

 

 蒼を基本にした服装の彼。

 

 ボサボサのショートヘアに、黒い瞳。やや背は高い彼は、この店の常連。

 

「同じ長さの物があれば」

 

「はぁ………」

 

 そうため息をついて、静かに奥から剣を持ってくる。

 

 これは彼のために打った、自信作だ。

 

「はい、貴方用のオーダーメイド。特注だよっ」

 

「………」

 

 それに僅かに驚く中、彼はそれを手に取る。

 

 彼は片手剣でやや長めの物を使用するから、両手剣と片手剣の間を探るのに苦労したよ。

 

 その剣を見ながら、静かに頷く。

 

「………ありがとう」

 

「どういたしまして、お代は、いいや」

 

「いや」

 

 そう言ってそれなりのお金を出す。

 

 彼からお金を取るのは、少し気が引ける。

 

 このギルドは、最初火の車だったけど、彼が孤軍奮闘したおかげで形になったとわたしは思う。後から入ったわたしが言うのも変だけど、ほんと助かっていた。

 

 すでに彼はもう財布を取り出し、渋々お金を受け取る。

 

 盾や防具もここから買ってくれる、おかげでわたしの鍛冶屋は秘かに有名だ。

 

「じゃあ………」

 

「うん、またねテイル」

 

 こうして彼はまた一人、ソロでこのゲームに挑む。

 

 彼の支えになれるよう、私はまた片手剣と両手剣の間を模索する。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 名前呼ばれた、長くあそこの鍛冶屋を利用してたが、名前を覚えられるほど利用したのか。

 

 しかもオーダーメイドの剣。ちょうどよく使え、軽く振ったが重心も安定している。

 

 これならまだ頑張れるだろう。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 また時間が経ち、時間が経つと新たな階層に出向けて、新しい狩り場ができる。

 

 だが一般に狩り場と言われる場所は攻略組のものだ。

 

 だから俺はいつも、狩り場じゃない狩り場(・・・・・・・・・・)を探す。

 

 今回はいいところができた、いつものように、≪白竜≫狩りに出かける。

 

 55層のこいつは、素材集めに出るイベントボス。

 

 何度も何度も繰り返し対峙していた。

 

 こいつのおかげでレベルも上がるし、レア素材でギルドは潤うし、いい素材が出回り、プレイヤーは助かる。

 

 いいことづくめで俺も助かっていた。

 

 咆哮を上げて来るが、もう慣れ過ぎだ。

 

「ハアァァァァァァァァァァァァァ―――」

 

 骸骨の戦士の訓練で出る彼らの方が、手ごわい。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「いらっしゃい」

 

「エギルの店はここか……」

 

「お前さんは……」

 

 肌黒のスキンヘッドの男の下に、武器を多数多く装備したプレイヤーが訪ねてきた。

 

 店の男はすぐにそれが《沈黙の蒼》と呼ばれる、一風変わりすぎたプレイヤーと知っている。

 

 種類を統一せず、武器を多数装備する変わり者。

 

 狩り場を持たず、どこの階層でも見かけられ、ソロで支援ギルドを支えているとも噂される男。

 

 レベル帯も問わず、素材集めばかりするへんてこプレイヤーとも言われていたが、

 

「この店で買い取って欲しいものがある」

 

 男が持ってきたのは、レア鉱石《クリスタライト・インゴット》と言う、イベントボスが守るアイテム。

 

 それに男の顔はこわばった。

 

「お前さん、これを一人で集めているのか?」

 

 最近、ここ最近、この素材が出回りやすくなり、大手ギルドがパーティーを組み、何度も素材を回収していると噂される。

 

 だが大手ギルドにそのような動きが無いと、彼が知る情報屋が断言していた。その謎がいま解明した。

 

「いくつか買い取ってくれ、言い値で構わない」

 

「言い値だとっ!? お前さんマジで言って」

 

「中層プレイヤーの生存率が上がればそれでいい」

 

「!」

 

 エギルの背筋が凍り付く。

 

(こいつは金目的で売りに来たんじゃねぇ)

 

 自分が中層プレイヤー育成に、支援していると知ってここに来たのだ。

 

 自身のギルドだけでなく、個人まで支援しようとしている。

 

 バカだ、大馬鹿者なのだろう。

 

 命がけでなにを、

 

「お前、一人でんなこと続けたらいずれ死ぬぞ!」

 

 ついそんなことを言った。

 

 だが、

 

「死ぬつもりなんてない……」

 

 噂通り、物静かに、無表情でそう告げて、渋々言い値で買い取らせてもらった。

 

 それを何も言わず受け取り、彼は去る。

 

 呼び鈴が鳴り響く中、エギルは戦慄していた。

 

「………まるで昔のキリトじゃねえか」

 

 そしていまだに、この鉱石が出回るのが止まなかった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 数か月後………

 

 おかしい、75層以下に行けなくなった。

 

 話によると《血盟騎士団》の団長が茅場晶彦であり、それを《黒の剣士》が倒したらしい。

 

 だがゲームが解放されず、いまだ続く。

 

 多くのプレイヤーが急に階層が上がり、ギルドに助けを求めてきた。

 

 それにより、やることは増える。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ある日のこと、転移装置を利用したら、知らない場所に出ていた。

 

 75層から下に行けなくなって、攻略組が頑張り進めるエリアが広がり、やることも多少安定し出して、変化が無いかなとか思った矢先だ。

 

「………どこだ」

 

 バカなことを考えた結果がこれかと、内心反省しつつ歩いていると、

 

「………!」

 

 戦闘音が鳴り響く、そちらに向かうと、黒い格好の、二つの剣を握る剣士。

 

 俺でも知っている、彼は前世で知った。

 

 それは『キリト』、主人公である彼と、もう一人、少女が戦っている。

 

 少なくともこれを見逃すのはまずい、急ぎ盾を構え、間に入った。

 

「!? 君は?」

 

「いまはいい、協力して倒すぞ」

 

「おう!」

 

「ええ!」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 その後、オレンジプレイヤーらしい『フィリア』の案内で、この未知のエリアから抜け出せた。

 

 オレンジ、プレイヤーを傷付けた証。

 

 だが俺にはフィリアが悪者とは思えない。キリトもそう言うのだから、そうなのだろう。

 

 おかしな二人を見るようにこちらを見るフィリアをしり目に、このエリアから脱出した。

 

「アークソフィア、戻ってこれたのか」

 

 どうにか見覚えがある場所に出られて、俺も内心安堵する。

 

 同じく安堵するキリトは、転移門の様子を見たりしていると、仲間の『アスナ』たちが来るのが見えた。

 

 その隙に俺は彼から離れる。彼のことだから、お前も仲間だ的になことになりかけない。

 

 それはまずい、あまり深く関わると、俺が物語を壊す可能性がある。

 

 そう思った時、

 

「………!?」

 

 その時、『リーファ』とすれ違った。

 

 俺はすぐに彼らから離れ、一人路地に来た時、記憶を整理する。

 

 リーファ、彼女は確かこの事件後に作られた妖精になるゲーム、そのプレイヤーだ。

 

 どんなゲームかは思い出せないが、少なくてもSAOにいないはずの人物。

 

 そもそも日本人キリトの妹のはずなのに、金髪の外人のはずがない。

 

(見た限り、あんな妖精のようなアバターもおかしい)

 

 ここのプレイヤーは茅場の所為でリアル化されている。後から服装を変えられたりしてもああも変わるのか?

 

(俺がいる所為で彼女が加わった? いやそんな変化の仕方も変だ………)

 

 近いようで近く無い世界なのは知っていたが、これではキリトがゲームをクリアするかも分からない。

 

 攻略組に参加するか?

 

 それでも俺はソロでゲームをし過ぎた。いまさらパーティーやレイド戦は、勝手が分からない。

 

 そうなるとやることは変わらないが、キリトのことを調べるべきか。

 

 ともかく考え込みながら、宿へと歩き出す。今日は疲れすぎる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「? 彼はどこだ」

 

「かれ?」

 

 俺がみんなから心配される中、彼、『テイル』と言うプレイヤーがいないのに気づく。

 

「彼? それってキリトくんの側にいた、《沈黙の蒼》のこと?」

 

「アスナは知っているのか」

 

「知ってるよ。だって《血盟騎士団》にスカウトするか、会議に出るほどの腕前のソロプレイヤーだもん」

 

 アスナから、彼が低年齢プレイヤーや、このゲーム攻略に参加することができないプレイヤーの集まり、ギルド《縁の下の仲間たち(ブラウニー)》のソロプレイヤー。

 

 あまり喋らず、会話らしいことをしたプレイヤーが少ない。彼がどこで、なにをしているもかも、謎のまま。

 

 複数の武器を持つソロプレイヤーで、ただただ強いとしか分からないらしい。

 

 アイテムもほとんどギルドの商品として売りに出し、実力が分からないプレイヤーとして情報が少ないと言うことだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 後でアルゴに聞いたが、宿もよく変え、いまの状況に入ってから、かなりのプレイヤーがギルドに助けを求め、彼は動き回っている。

 

 それだけではないらしい。

 

「あのギルド、ぶっちゃけ、支援はちゃんとするんだけど、ボス戦には一回も参加してないゾ」

 

「そうなのか」

 

「ああ、それでもいいんだけどナ……」

 

 難しい顔をするアルゴ。仕方ないと財布を緩めようとしたが、少しだけサービスで、彼の情報で手を打つらしい。

 

「彼奴、情報屋泣かせでナ。オレっちも彼奴がなにしてるのか、まるっきり知らない」

 

「知らない? アルゴでもか」

 

「アア、戦い方も、槍とか刀とか下げてるからナ。何もかも謎ダ」

 

 そして話で、彼が片手剣と盾で戦ったことがアルゴには満足らしい。

 

 静かに辺りを確認してから、彼のことを言う。

 

「始め、あのギルドは攻略組として、低年齢プレイヤーを道具作り、武具作りでサポートさせて、攻略するつもりだったらしいんダ」

 

「ああ、彼らのギルドは、支援ギルドとして有名だよな」

 

「そうだ。最初は攻略にも出る気だった、だけど彼奴ラ、ギルドは最初火の車で、維持すら怪しかったんダ」

 

「なんだって!? ならどうやって維持したんだ」

 

「それが《沈黙の蒼》だヨ、彼奴が一人、ギルドの運営資金を稼いだうえ、低年齢プレイヤーも養った」

 

「………嘘だろ」

 

 それができるとしたら、どういう計算だ?

 

 アイテム、素材、資金。

 

 どれほど手に入れれば可能になる?

 

「そこだヨ、キー坊の思う通り、ソロじゃあり得ない。それを良い事に彼奴ら」

 

「彼の功績を、自分たちの功績に変えたのか!?」

 

 アルゴは静かに頷く。そんなことが許されるのか。

 

 もしも本当なら、彼は凄腕のプレイヤーであり、それ相当の見返りがあるべきだ。

 

「ちなみに、今回下の階層に行けなくなって、彼奴らのもとに逃げたプレイヤーたちも、あのギルドにお世話になったんダ」

 

「まさかそれも」

 

「アア」

 

「………本人は知っているのか」

 

「それも謎ダ。なにしてるのかオレっちも分からないんだからナ」

 

 彼に助けられた身としては、お礼もちゃんと言いたいが、どこにいるか、なにを普段からしているか謎のまま。

 

 謎のプレイヤーとして噂だけが独り歩きしているとのこと。

 

「彼は………」

 

 これが俺、《黒の剣士》と、彼、《沈黙の蒼》が出会ったエピソード。

 

 彼は何を思い、このゲームをプレイしているのだろうか………




スタートから一気にヒーフクリフ戦、インフィニティ・モーメント、ホロウ・フラグメントに飛びました。

勇者に鍛えられたんなら、これくらい行けるだろう。

彼は無我夢中で稼ぎに稼ぎ、いまだに稼ぎます。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第2話・100層

いろんな人から言葉をもらうたび、この世界が広がります。まだまだ改良できるなこの話。

追加シナリオの話は採用するべきか否か、ともかくいまは先に進めよう。

テイルの物語、スタートです。


 おかしなくらい戦った。

 

 大変な事態が降りかかり、資金、アイテムも素材が無くなったらしく、ギルドが火の車。

 

 だから行けるエリアには全て行き、できる限り戦い集め、ギルドに提供。

 

 たき火で食えるキノコを焼き、それを食う。

 

 それくらいで腹を満たして、エネミーを狩る。寝る時間はしっかり宿で取るが、時間ギリギリにしていた。

 

 そんな日々、少しして全プレイヤーが軌道に乗ったらしい。

 

 周りのプレイヤーたちの反応を見るだけで十分、ルクスを初めとした知り合いからも知ることができた。

 

 これも全て、骸骨の戦士のおかげだ。

 

 そして俺は吹き飛ばされかける。

 

「はあ、くっう………」

 

 いまは夢の訓練中、最近は彼と一対一で戦うのばかり、正直化け物だと思う。

 

 彼はおそらく、退魔の勇者だろうな。

 

 正直、始めはリンクと名乗ろうかと思ったが、この人と戦うようになり、その名の重みが全身に掛かる気がした。

 

 いましていることも彼の真似事でも、名乗りたくないのだ。

 

 全身に重りのような闇がまとわりつく。

 

 俺はこのデスゲームを回避できたんじゃないか? もっと多く救えたんじゃないか?

 

 こんなに優遇されてるくせに………

 

 そして朝起きて、不思議と寝た気がしないはずの訓練後とは思えないほど眠れた。

 

 彼の訓練のおかげで、俺は明らかに強い。

 

 そして俺は俺の物語(テイル)の為に、朝日と共に動いた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「いらっ……、お前さんか」

 

「アイテムを売りに来た……」

 

「ああ、いつも通りか」

 

 エギルと言うプレイヤーは、俺のことを心配してか、あまりいい顔はしない。

 

 俺が装備できる物は装備するが、やはり材料などを売る。

 

 向こうはできる限りちゃんと買い取るが、実はギルドの行動で、ここに入る金として戻る形式ができていた。

 

 ギルドマスターは色々と、店や他ギルドに金や素材を回しているからだ。

 

 本人にどういう意思があるか分からないが、この際どうでもいい。

 

 エギルは買い取った金のほとんどをその提供金としてギルドに渡しているのを、おそらく知っている。

 

「毎度あり」

 

 静かに頷き、外に出る時、先にドアが開き、誰かが俺の激突する。

 

「あっ、ごめんなさいですっ」

 

「だいじょうぶか?」

 

 まだ小さな女の子、黒髪の長い子だ。

 

「はい、私は平気です」

 

「そうか……」

 

 そして俺は離れていく。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「? いまのプレイヤー、色々武器を持ちすぎじゃない?」

 

 シノンはそう呟き、シリカも頷く。

 

「はい、一瞬でしたけど、服の内側に、投擲用の武器も見えました」

 

 エギルはそれを、深いため息を吐く。

 

「キリトはやっと前向きになったが、彼奴は変わらず、いや酷くなってるな……」

 

「キリト? どうして彼奴が」

 

「キリトと同じ人間、そういうタイプだ。俺もどーにかしてやりたいんだが」

 

 彼のいるギルドは、彼がこの調子で無ければ運営できないと知っているため、あえてそのまま野放しにしている。例え危険なソロプレイしていると知っていてもだ。

 

「なによそれ」

 

「最初は確かに、支援ギルドとして期待はされてたんだ。だが火の車が続いて、それを彼奴一人でどうにかしててな……」

 

「そんな凄いプレイヤーなんですかっ!?」

 

「だが、彼奴のギルドマスターがしていることは、ギルド管理は、まあ褒めてやるが、彼奴の功績消すのはな」

 

 支援と言っても色々ある。それで話のギルドマスターは、それ以外はしっかりしている。

 

 情報屋が彼の情報を的確に得られないことを良い事に、自分たちの無能さを消していた。

 

 それもここ最近になって目立つのは、最近の目まぐるしい変化。

 

 これもまたそのギルドマスターが悪いかと言われれば黙るしかないが、それでも彼に頼り切っているギルドなのだから、しっかり話せばいいのだろう。

 

「まあ、信用とかあるから……、誰も何も言えねえんだ」

 

「あの人は大丈夫でしょうか……」

 

「俺も、いつもそう思ってるんだがな」

 

 だが彼は変わらない。何一つ、変わることはしなかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 この夢の世界で山登り、風を読み空を飛び、海の中の戦闘や、弓矢等々。

 

 まさに彼のような技を叩き込まれ続けた。

 

 なぜこんなことをするか、主人公になりたいから?

 

 違う、死にたくないからだ。

 

 そして誰かが死ぬのも嫌だから。

 

 だけど勇者(かれ)にはなりたくない。

 

 それは訓練の中で常々思う。

 

 初めは来なければいいと思った。だが俺が関わらなければ、デスゲームの被害者は減らせないと言われた。ならこうするしかないじゃないか。

 

 そして死にたくないから、こうしている。

 

 それが俺の物語(テイル)であり、それ以外を求めたりするほど、英雄願望は無い。

 

 俺はただ戦って、資金確保して、プレイヤーを支える。

 

 そんな物語、主人公なんて、望みたくない。

 

 骸骨の戦士からの一撃を受けて吹き飛ぶ中、俺はそう心に刻まれた………

 

(だけど)

 

 それなら俺は誰だろう?

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 町の中、淡々と攻略組が進み、その後を淡々と過ごす日々。

 

 その中で、確実に階層が上へと続く中で、

 

「いたっ」

 

 一人の剣士に話しかけられた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「テイル!」

 

 少しずつ装備を変える彼は、静かにこちらを見る。

 

 蒼の服装、それは変えていなかった。彼もこだわりがあるのだろう。

 

「俺を覚えているか? 《ホロウ・エリア》じゃ世話になった」

 

 首を振る彼は覚えていないらしい。

 

 転移門で階層では無いエリアのことを言うと、僅かに反応する。どうやら思い出したようだ。

 

「君にずっと礼を言いたかったんだ、あの時、助けてくれてありがとう」

 

「………気にするな」

 

 そう静かに彼は言い、また歩き出そうとしたとき、

 

「っと、待ってくれ! 本題はまだなんだ」

 

「………」

 

「明日、100層へ攻略が始まる」

 

「!」

 

 それには彼も反応を示し、俺はある確証を持っている。

 

 彼は強い、うぬぼれかもしれないが、俺と同格なんじゃないかと思うほどに。

 

「最後の戦い、戦力が多いほどいい。頼む、力を貸して欲しい」

 

「………」

 

 彼は静かに考え込むように目を閉じ、

 

「最後なら、俺も全力を出す………」

 

 そう言い、俺はそれに喜び、彼に場所と時間を教え、彼とフレンド登録をする。

 

 彼は慣れていないのか、そんな印象の中で登録を済ませ、攻略の為の準備に入った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 キリトとフレンド登録する。

 

 少しばかり、彼と関わるのはどうかと思うが、俺は彼に気づかれないように、静かに周りを独自に調べていた。

 

 それで分かっている知識、もう薄く覚えている知識で分かる範囲で、知らない彼の仲間が増えている。

 

 リーファは少なくとも、この剣の世界にいないはずのプレイヤーだ。

 

 もうだいぶ変わっているのなら、多少彼の手助けも問題ないだろう。

 

 だが問題は装備だ。俺は彼女の工房へと急いで行った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「攻略に、参加するっ!!?」

 

 彼は静かに頷き、剣や防具を預けてきた。

 

 まさか彼がと、だけど内心納得する。

 

 彼は当初も、ここに来てから、その前からも。

 

 何度も資金や素材、アイテムなどを持ち帰り、いつか帰れると言う希望をわたしたちに示し続けてきた。

 

 いつかが明日来るかもしれない。彼もそのために、参加するのだろう。

 

 それを聞いてわたしはメッセを飛ばした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「テイルっ」

 

 何人ものプレイヤーが俺を訪ねて、工房に来た。

 

「明日の攻略に参加するんだろっ、こ、これ、レアアイテムなんだけど、持って行ってくれ」

 

「これが俺んとこで一番いい盾だっ、少し様子見てくれよ」

 

 そう言って彼らは、言葉、アイテム、そう言ったものを俺にくれた。

 

 違う。

 

 俺は嫌なだけだ。

 

 死ぬことも、死なれることも。

 

 デスゲームになるかも知れない。

 

 それを俺が知っていただけに、その罪悪感から戦ってきた。

 

 なのに、これは、

 

「テイル」

 

 鍛冶師の彼女が、一本の剣を俺に渡す。

 

「わたしの自信作だよ、持って行って」

 

「………これは」

 

「テイル」

 

 彼女は真っ直ぐこちらを見る。

 

「あたしはその、人と関わるのは、実は苦手でね」

 

 それは俺も同じだ、だから人が少なく、腕のいいここを選んだ。

 

 色々あったことを彼女から言われる中、彼女はそれを渡す。

 

「テイルもその、苦手でしょ。誰かと話するの」

 

 それに静かに頷く。

 

「それでもね。テイルが黙々とエネミー倒して、その素材やアイテムを持って、みんなを支えたんだよ」

 

「そうだぜ」

 

 その時、プレイヤーたちも話す。

 

「お前がいたから、諦めなかった奴が現れたんだ」

 

「テイルさん」

 

 その時、教会で低年齢プレイヤーの面倒を見ていた人たちが、ポーションの、最高の物を渡して来る。

 

「テイルさんが毎日資金を集めて来てくれて、助かっていたのも事実です」

 

「………」

 

「私たちは戦えませんが、テイルさんなら」

 

「ああ、俺たちの分を持って行ってくれ」

 

 そうみんなからの声を始め、俺の装備が一気に跳ね上がる。

 

 そしてそれらを受け取り、俺は宿に出向いた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 骸骨の戦士がいる。

 

 だがいつもと違い、剣も盾も無く、俺を見ていた。

 

「………明日、デスゲームは終わります」

 

 きっと終わるだろう、俺と関係なく。

 

 キリトと言う主人公がいる、それは約束されたものなのかもしれない。

 

「………俺は貴方になんかなりたくない、俺は俺だから」

 

 リンクと名乗るとき、貴方が過った。

 

 君は君だろ?

 

 そう言われた気がする。

 

 それは俺は他人に責任を渡そうと、逃げようとした気がした。

 

 デスゲームが始まらなければ、始まろうと、そこからは俺の責任だ。

 

 勇者リンクの名を借りて逃げる気はできない。

 

 だがそれは、勇者リンクからも逃げている気もした。

 

「気付くのに、時間がかかった……」

 

 だが、いまはと、装備を見る。

 

 彼らから受け取ったものは、明日の為に、俺の為に渡してくれたものだ。

 

 キリトではなく、俺の為。

 

 勇者リンクでは無く、テイルと言う一人のプレイヤー。

 

「明日でデスゲームは終わります、終わらせます」

 

 その言葉を聞くと、静かに去っていく骸骨の戦士。

 

 彼が去り、いつの間にか眠りにつく。

 

 明日、全て終わらせるために。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 アスナさんが仕切る中、攻略会議が始まる。

 

 最後の戦いに、多くのプレイヤーが集まる中、その中にキリトたちもいた。

 

 パーティーを組んでくださいと言われたとき、俺に話しかけるプレイヤーがいる。

 

「ルクス………」

 

「君と一緒に戦える日が来たね、一緒にパーティー組んでほしいんだ」

 

 静かに頷くと、そこに話しかける人がいる。

 

 それは小竜を連れた、《竜使い》『シリカ』と、『エギル』や『リズベット』。

 

 それに『リーファ』に『シノン』たちである。

 

「久しぶり」

 

「フィリア………」

 

「君も戦うんだね」

 

 フィリアも重々しい顔でこちらを見て、俺は頷くと、『ストレア』と言う少女を紹介され、このメンバーがいつの間にか組まれていた。

 

「タンクがいなくてな、俺たちと協力してくれ」

 

 エギルの言葉に頷き、全員が役割を言い合う。

 

 キリト班はキリト、アスナ、シノン、リーファ、ストレア、リズベット。

 

 俺班は俺、ルクス、シリカ、フィリア、エギルらしい。

 

 クラインと言う彼は、《風林火山》とギルドリーダーとして参加して組む。

 

 俺は盾でみんなを守る、何かあればアタッカーに変わり戦えると伝える。

 

 俺からすれば、彼らはまさにスターなどだろうが、そんな実感はわかない。

 

 ここにいる、ただのプレイヤー。

 

 なら、やるべきことは一つ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ねえねえ、あのテイルって人、ずっと難しい顔をしてるね」

 

 ストレアが離れた後、仲間たちとで話し合う。

 

「ああ……。正直、昔のキリトを見ている気がして、ずっと気にかけていたんだが」

 

 エギルの言葉に、全員が仲間を作らず、ソロを貫いていたキリトの話を聞く。

 

 彼もそう言うたぐいなのか?

 

「だけど、いまは仲間よ」

 

 シノンはそう言い、静かに頷く。

 

「ああ、腕前は保証する。彼奴は強い」

 

 そう話をし終え、彼らは歩き出した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ボス部屋の前に、キリトたちのメンバーが僅かに話し合う。その時エギルがこちらに来た。

 

「すまないテイル、お前にも協力してほしいことがある」

 

「?」

 

「実は俺たちの戦いをサポートしてくれる子がいるんだが、その子はレベルが低い。もしかしたら、危険かもしれない」

 

「なら守る」

 

 彼は迷わず、理由も聞かず宣言した。

 

「! お前」

 

「理由は聞かない、ただその子を守ればいいだろう」

 

「………すまねえ」

 

 こうして王座、《浮遊城アインクラッド》と呼ばれた城の奥地へと足を踏み込む。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 戦いが始まる中、その子は相手の攻撃タイミングを宣告してくれるおかげで、俺は盾で仲間たちを守る。

 

「テイルさんHPの割合に気を付けてくださいっ、攻撃3秒前!」

 

 そんな中、キリトたちの猛攻が放たれる中、キリトの一撃が決まり、ポリゴン、データの塵へと変わる。

 

 その瞬間、俺は反射的にポーションを飲む。

 

 もしもこれで終わらないのなら、回復はいまだ。

 

「待てっ、なにかおかしい!」

 

 やはりなにか起きた。

 

 突然、女の子、NPCらしい存在が現れ出す。

 

 戦闘が終わり、これで終わりと一瞬の隙ができた。

 

 だが、守るのが俺の役目。

 

「テイル!」

 

 何体かの攻撃を受けたが、アタッカーへの先制攻撃は防いだ。

 

「スイッチっ」

 

 その言葉にキリトたちがすぐに動き、下がった後、俺はすぐに回復し出す。

 

「助かったっ」

 

 すれ違いざまキリトからそう言われ、彼らが現れた敵と戦いだす。

 

 俺もまだ、戦いが終わらない。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 戦いの中、俺たちは勝った。

 

 ホロウのストレアが最後に現れたが、テイルがタンクを一手に引き受けて、俺たちはそれを撃退する。

 

 彼のおかげで彼女の暴走を止められた。ホロウのストレアは笑っているのを確認できた、助けるって約束を果たすことができたようだ。

 

 だが彼の防御力は………

 

 いまも彼はポーションを飲む。彼は気を抜いていなかった。

 

 ホロウのストレアを救い、ラスボスを倒した。後は現実に帰るだけだ。

 

 なのに、

 

 

 

「おめでとう、実に見事な勝利だったね………」

 

 

 

 なのにどうして、

 

「ヒースクリフ、茅場晶彦っ!?」

 

 あまりのプレイヤーもざわめく。もうすでに《血盟騎士団》団長、ヒースクリフは、このゲームを作り、デスゲームを始めた男、茅場晶彦であることは知れ渡っていた。

 

 すぐに動けたのは、テイルだけ。すぐに盾を構え、前に出ていた。

 

 それでも、奴は動じず、話を続ける。

 

「ラストバトル、見させてもらったよ」

 

「ヒースクリフ………生きていたか」

 

「身構えないでくれたまえ、君たちにお詫びをしに来たんだ」

 

「詫びだと?」

 

「ここまでなんの説明もしないでいたこと………本当に申し訳ないと思っている」

 

 そう言うが、ほとんどのプレイヤーが構えようとするが、ほとんどがボロボロで、ほとんど危険値だ。

 

 たった一人、ラスボスを倒した後、回復したプレイヤーを除いて。

 

「なぜそんなことになったのかそして、なぜ私が生きているのかを。君たちに説明しなければならないだろう」

 

 それは75層で俺と戦った時、発生したシステム障害が事の発端らしい。

 

 あの時、この世界を制御しているカーディナルシステムに予想外の負荷がかかってしまった。

 

 負荷の要因は、プレイヤーの負の感情によって引き起こされたエラーの蓄積。

 

 俺たちがよく知る、メンタルヘルス・カウンセリングプログラム。ストレア。

 

「彼女が蓄積したエラーは、やがて抑えきれなくなり。膨大な量のエラーがカーディナルシステムのコアプログラムに流れ込んでしまった」

 

 そして負荷のもう一つの要因は、須郷による、外部干渉。

 

 これらの要因がカーディナルシステムを暴走させ、今回の事態を引き起こしたと言われる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 はっきり言う、訳が分からないよ。

 

 キリトたちが、この世界に深く関わる問題にかかわり、解決したくらいしか分からない。

 

 そんなキリトたちをほめる茅場。

 

 ラスボスは想定していたものではないものの、俺たちはラスボスを倒した。だから君たちの勝利だと、そう茅場は言う。

 

 だがキリトはキレていた。

 

 100層のボスがイレギュラーだのなんだのは言い訳だ。

 

 お前をぶっ飛ばさせろと、俺以外はログアウトさせてからな。

 

 キリトはそう言っている。

 

 そしてキリトたちはそんな中、同じ気持ちだと、他のプレイヤーたちが言えない言葉を言う。

 

 俺はそれでいいのか。

 

 正直俺はキリトたちが勝つと確信できる。

 

 だが、だが俺は主人公なんてものになりたくないし、なろうとも思えない。

 

「テイル………」

 

 ルクスがボロボロの中、心配そうにしている。

 

 他のプレイヤーは彼ら、キリトたちを見守るようだ。

 

 俺は………

 

 その時、

 

「………」

 

 俺の身体にある、装備を見た。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「その話、俺も加えさせてもらおうか……」

 

「君は、テイル君か」

 

 ヒースクリフは驚きながら、テイルを見る。

 

「テイル、君まで」

 

「キリト、俺は死にたくない、死んでほしくないからこのゲームをしていた」

 

 そう言いながら、剣を、盾を、鎧を、服を見ながら、静かにラスボスを睨む。

 

「だがいまの俺は、ラスボスを倒すために、みんなから装備を受け取った、テイルと言うプレイヤーだ………」

 

「テイル………」

 

「君のことは知っている《沈黙の蒼》。君もまた、このゲームで必要なピースの一人と思っていたからね」

 

「?」

 

「それでは始めよう、正真正銘のラストバトルを!」

 

 その言葉と共に、彼らは武器を構え、駆けだす。

 

 彼の言葉は一つ間違いがある。

 

 それは、彼がすでにピースであるということを知らない………




ただ、がむしゃらにエネミーと戦い続けた男が、その真価を見せます。

お読みいただきありがとうございます。


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第3話・SAO

 キリトたちの猛攻に、ヒースクリフは盾で防ぐ。

 

「こいつは俺たちのスキルの動きを全て知っている! 自分の力だけで突破するしかないッ」

 

 キリトの叫びの中、連携と自身のスキルのみで斬り込む中、ヒースクリフは宣告する。

 

「ラストバトル用に、私自身も強化されている。君に突破できるかなッ!」

 

 振り降ろされた剣風が、身体を吹き飛ばされそうになる。

 

 そしてスピードも速い。すでにシリカたちは戦闘不能、HPを考え、後ろに下がった。

 

 いまはキリト、アスナ、シノン、テイルが前に出る。

 

 クラインとリーファ、フィリアなどがシリカたちを守る配置だ。

 

「………」

 

 盾と盾が激突した時、ヒースクリフは僅かに怪訝な顔をする。

 

「………君はまさか」

 

 その時、剣でヒースクリフの剣を受け止めているテイル。

 

 僅かに思案する彼は、テイルを弾き、剣風を巻き起こし、全員をその場にとどめた。

 

「っ!?」

 

 瞬間、シリカが身体が浮かんだ瞬間詰められたが、

 

「!」

 

 そこに割り込む影がある。

 

「テイルっ」

 

「………」

 

 同じ盾と剣を振るう剣士同士が斬り込む合う中、盾で剣を弾く様子に、キリトが目を見開く。

 

「あれは」

 

 剣と盾が激突し、盾と剣が激突する。

 

「やはりかッ。君は、私と同じ」

 

「ッ!」

 

 剣と剣がぶつかり、睨み合う。

 

「《神聖剣》の使い手だ」

 

 それに全員が目を見開く。

 

「彼奴、キリの字と同じ、ユニークスキルを」

 

 キリトは彼の戦い方を見て、それに気づき、ユイが補足する。

 

「それらのスキルはラスボス攻略のために、GМが用意した専用スキルです! テイルさんはその一つを所持して」

 

 その時、ユイの言葉を区切るように盾と剣が激突し合う中、シノンの矢や、リーファたちの攻撃も連携に加わる。

 

 だが、《神聖剣》の防御力は、

 

「突破できないッ」

 

 キリトが歯を食いしばり、全員を蹴散らす中、

 

「ん………」

 

 テイルの動きがおかしい事に気づく。

 

 スローモーションのように流れる中、テイルは剣を腰の高さに振り構え、ベルトのホルダーに盾をしまい、一歩前に踏み込む。

 

 その様子は、

 

「っ!? バカなっ」

 

「でぇあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 ガキィィィンと言う音が鳴り響く。

 

 それは居合切りのように、ヒースクリフを吹き飛ばした。

 

「ユニークスキル………《抜刀術》」

 

 ユイの言葉に、テイルの連撃が続く。

 

「!!!」

 

 全員が驚くのは、いつの間にか彼は二刀流を持って、片手剣を持っていた。

 

「《双剣》っ!?」

 

「君は」

 

 苦しげに呟くヒースクリフ、連続に叩き込まれる剣撃。

 

 ガッキィンと金属音が鳴り響き、剣が吹き飛ばされるがもう片手剣は仕舞われ、背中の槍をホルダーから取り出して構え出すテイル。

 

 その流れに無駄が無く、それにまさかと思いながら対処し出す。

 

「やはりこれは、《無限槍》ッ!?」

 

 放たれた無数のラッシュに、ヒースクリフは驚きながら防ぐ。

 

 槍が盾に防がれ吹き飛ぶ中、周りがスイッチして切り替わった瞬間、ヒースクリフはすぐに動けない。

 

 すぐにキリトやクラインではなく、切り替わる彼を見る。切り替わりながらも、短剣など小物を構えるテイルを視界で見た。

 

「君はッ」

 

 それは手裏剣のように投げる投擲術、それにユイは、

 

「今度は《手裏剣術》ですっ!」

 

 スイッチしたクラインとキリトは戦いながら驚愕していた。

 

「テイルおめぇっ、どうしてんなもん隠し」

 

「隠してたわけじゃない、テイルはずっと、タンクを担当していただけだ!」

 

 キリトが疑問に答え、無言のままテイルはキリトの攻撃の隙をカバーする。

 

 この最終バトル、彼は、

 

「………悪いが」

 

 いつの間にか両手剣を構えると、それは黒く輝く。

 

 そのスキルを知るGМは驚きながら見ていた。

 

「《暗黒剣》」

 

「俺だってテメェにキレてるんだッ!」

 

 激突する剣と盾の乱舞の中、キリトが割って入る。

 

「くっ」

 

「アァァァァァァァァァァァァァァ」

 

「セイッヤアァァァァァァァァァァァ」

 

 ユイはこの中で、テイルと言う個人情報を覗き見る。

 

 それは、

 

「これは………」

 

 それは、バラバラに武器の熟練度が何もかも、ずば抜けていたこと。

 

「こんなことあり得ない、一日中、別の武器、戦い方を延々と繰り返さない限り、こんなことはあり得ないです」

 

「延々………延々と戦う、無言の剣士」

 

 リズがユイの言葉に、彼の異名を思い出す。

 

 それは延々と、黙々と、淡々と、同じことを繰り返す、剣士の異名。

 

 その異名は気の遠くなるほどエネミーの上にあった。

 

 その時、蒼と黒の双剣が乱舞する。いつの間にか落ちていた剣を拾い上げている。

 

「行けるっ、テイル!」

 

「ウオォォォォォォォォォォォォォ」

 

 次々と変わるユニークスキルの使い手は、彼も想定外過ぎた。

 

 GМヒースクリフの想定は、十人のユニークスキル使いを想定されたもの。

 

 だがたった一人が、複数のユニークスキルを使い、かつ無駄のない、洗練された動きで組み合わせること。

 

 それは彼の予想を超えたものであった。

 

 キリトはその異質による隙を見つけ出し、構える。

 

 テイルの攻撃が、剣と盾を両方弾いた。

 

「スイッチ!」

 

「スターバースト―――」

 

 キリトはその隙を、けして逃しはしなかった。

 

 双剣の乱舞を一身に受け、ヒースクリフのHPゲージは、

 

「ストリィィィィムゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 消え去った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 全てが終わり、ヒースクリフはGМ権限で話しかけて来る。

 

 だがそれだけだ。それ以外のことはけして曲げないと言いながら、キリトに話しかけていた。

 

「そしてテイル君」

 

「………」

 

 俺にも何か話しかけてきた。正直疲れているんだが、

 

「君の噂は常々聞いていた、あり得る可能性は十全にあった」

 

「………」

 

 ただ無言に聞く中、ヒースクリフは呟く。

 

「片手剣を二本使用する駿足の《双剣》を、防御を攻撃に変える《神聖剣》を、防御を捨てて戦う《暗黒剣》を、構えから放たれる《抜刀術》を、槍の極み《無限槍》を、短剣などの投擲の《手裏剣術》を」

 

「それほどまでの条件なのか」

 

「ああ、一人一つが習得することを想定されたもの。《神聖剣》と《暗黒剣》は相対するスキルでもある。並みのプレイヤーですら、習得できる可能性は少ない」

 

「それじゃ、テイルは」

 

「並大抵を超え、日々狂おしいほどエネミーを狩り続けた結果だ」

 

 そしてヒースクリフはこちらを見る。

 

「君はなぜ、そこまで戦えた?」

 

 なぜ?

 

「………俺はただ、死にたくも、死んでほしくも無かった」

 

 そう言って、俺は本心を告げる。

 

「あんたは凄いよ、茅場晶彦。この世界を創造し、俺たちをこの世界に連れてきた」

 

 前世じゃ考えられない世界、それがここだ。

 

 夢を、幻想を、現実に変える世界。

 

 もしもデスゲームにならなければ、きっと………

 

 退魔の勇者リンク、その名は邪を払う者。

 

 テイルは違う、だから俺はこのゲームがデスゲームではないことを、心のどこかで祈っていた。

 

「テイル………」

 

「だがそれだけだ……。あんたはこの世界を穢した、創造主である、あんた自身が」

 

「君は………」

 

 ヒースクリフは驚いた顔でこちらを見つめる。

 

「俺はそれを決して許すことはない。俺はただ、この世界に代わって、ここに来られないプレイヤーに代わって、ここにいるだけだ………」

 

 そう告げると、ヒースクリフは満足したように、俺とキリトを見る。

 

「君たちがこの世界に来てくれて、本当によかったと思っている。私の夢想の中で、君たちは真剣に生きてくれた………」

 

「………確かにここはゲームの中の世界だ……。それでも俺は、俺たちはここを一つの現実だったと思っている」

 

「………」

 

「そう思ってくれるのか……。ありがとう、キリト君。そして世界の代弁者、テイル君………」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 茅場晶彦、彼はテイルのことをそう告げた。

 

 彼はこの世界の代弁者なのかもしれない。

 

 この世界のラスボスを倒すスキルを多くその身に宿して、この世界を穢したと彼に言えた彼は、まさにそうなのだろう。

 

 どれほどか分からないが、この世界に向き合い、挑んだプレイヤー。

 

 茅場もどこか満足そうだった。

 

 そして全てが終わった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 全てが終わり、一人、また一人ログアウトする。

 

「………塔の上か」

 

 いつの間にか一人になり、不思議な場所に立っていた。

 

 広がる地平線。日が沈む夕焼けを背に、天空のステージに立つ。

 

 バカバカしいが、それでもここまで来た。

 

 全て本当になんなんだろうか自分は。

 

 デスゲーム化するんじゃないかと思ったため、このゲームに参加した。そしてなったからそれの被害を食い止めたかっただけ。

 

 正しいとかなんなのか、罪悪感か、この時点ではもう分からなくなっていたんだ。

 

 だから最後のあの言葉、俺の本心なのだろうか分からない………

 

 ただ、

 

「………」

 

 この装備を受け取ったいま、俺は攻略プレイヤーとして最後の、やりたいことをしたんだろう。

 

 仲間、と言えるのだろうか。

 

 分からなかったとはいえ、この事態を予測できた俺は、結局なにができた。

 

 そして一人、骸骨の戦士に鍛えられた俺は何者だろう?

 

 俺は………

 

「………」

 

 いや、もうぐじゅぐじゅ考えるのはやめよう。

 

 転生者だのなんだの、考えるのは疲れた。

 

 そして終わったんだから………

 

「やっと………」

 

 その時、人影を見つける。

 

 おかしい、全てのプレイヤーはログアウトし始めているはずだ。

 

「君は………」

 

「うわっ!?」

 

 困惑しているときに話しかけてしまい、一人の女の子。その姿をはっきり見て、内心驚いた。

 

「あれ~ここは。ねえきみ、ここはどこ?」

 

「きみ、は」

 

「ボク? ボクは『ユウキ』!」

 

 その少女は、後天的な病により、生まれてから闘病生活で苦しみ、VRの世界で生きて、生き抜いた少女。

 

 ユウキがそこにいた。

 

「………俺は」

 

 少しだけ口ごもり、静かに、

 

「テイル、俺はテイル………」

 

「テイルだね。それでテイル、ここはどこ? VRММOの中だよね?」

 

「ああ、いまさっきクリアし終えた、ソードアート・オンラインっていう世界だ」

 

「って、えぇぇぇーーーーッ!! あの出られなくなるってゲームの!?」

 

「もう終わって、もうすぐ消えるけどな」

 

「ええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 そう次々に驚き、はしゃぐその姿は、病魔を抱える少女とは思えない。

 

 ユウキから次々と質問攻めされ、知り合いがボス攻略して、ついにクリアしたことを説明する。

 

 おそらく、もうすぐ全て解放されることも。

 

「そっか~。テイルの友達って、すっごいんだね♪」

 

「とも、だち……。ともかく、きっともうすぐ全部終わるさ」

 

 あまり会話らしいこともしていない彼のことを思いだす。キリト、この世界の主人公。

 

 考え込むと、ユウキがこの広大なステージではしゃいでいた。

 

 きっと、ここでのラスボス戦に胸躍らせているのだろう。

 

「あーーー、なんだかボクも戦いたくなってきたよっ。ねえねえ、テイル」

 

「なんだ?」

 

「ボクと、手合わせてしない?」

 

 そう楽しそうに語る少女。

 

 ………

 

 どうせ最後だ。

 

「わかった」

 

「やっっったーーー!!」

 

「ただし」

 

「えっ?」

 

 取り出す剣、ただの剣ではない。友達がくれた、大切な装備だ。

 

「っ!?」

 

 威圧だけは本物であり、驚くユウキへ、俺は静かに構える。

 

「本気で行く………」

 

「! うんっ♪♪」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

「遅いッ」

 

「くっ」

 

 金属が激突する轟音が響き渡りながら、前へと進む。

 

「!?」

 

「懐が甘い!」

 

 瞬時に懐に入り込み、剣は独自のステップも交えて避けられる。

 

 盾で剣を弾き、うまく死角を取るが、ユウキの剣は届かない。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 どれほど長い間、剣を交えたのだろう。

 

 この装備はラスボスの為に、仲間が用意してくれた最高の装備。

 

 その最後の相手に、ユウキは相応しい。

 

 そう思いながら、時間が続く限り、彼女と戦い続けた。

 

「ぷはーーー、たっのしーーー♪ テイル次っ、次しよ♪♪」

 

「いや………」

 

 周りを見渡すと、ステージも消えかけていた。

 

「もうできそうにない」

 

 もう戦えないと知り、ユウキは残念がりながら、ゲームが終わる。

 

「君のおかげで、テイルは満足に動けた」

 

「テイル?」

 

 こいつで遊ぶことは無かった。

 

 色々矛盾していた気がする、遊ぶためにここに来たわけじゃないから。

 

 だが、それはなんだか、悲しい。

 

 なぜならば、ここはゲームなのだから。

 

「最後にこいつで遊べた、ありがとう」

 

 剣の世界でテイルは終わる。

 

 それを聞いたユウキは、

 

「もうVRゲームをしないの………」

 

「………いや」

 

 静かにユウキに告げる。

 

「これでやっと、遊べるよ………」

 

 そうやっと、この世界、前世から始まったデスゲームが、終わりを告げたんだ………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………ここは」

 

 ベットの上で目が覚めた。

 

 身体が重いが、動こうと思えば動ける。

 

 頭のナーヴギアはすぐに外す、これはもうかぶりたくは無い。

 

 そしたらあれよあれよと看護師が騒いでいるのに気づく。

 

 俺は長い昏睡状態から目を覚まし、生きていた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 こうして生き残ったおよそ7000人のプレイヤーは、デスゲーム。SAOから解放された。

 

 二年少しの時間の眠り、リハビリを頑張る中、だいぶ経ったものだが、もとより勉学は、前世のおかげでかなり努力した、問題ない。

 

 須郷と言う男が、あの事件に関わり合いがあり捕まったのを記事で見ながら、俺は俺の知る知識を照らし合わせていた。

 

 もう俺の知る世界とは違う世界なのは明白だ。

 

 こうして俺のデスゲームは終わり、俺は、

 

「この世界を楽しもう」

 

 そう言い、VRゲームと言う、前世に無いもの、全てを楽しむ。

 

 ここからテイル、俺の、俺だけの物語(テイル)が待っているんだ。

 

 俺はそう決意する。




彼がやっと、遊ぶためにテイルを名乗り、この世界を過ごすことができます。

五歳からここまで狂おしいほどの時間をデスゲーム対策を使った彼は、やっと遊べる。

ここまでが前座(なに言ってるんだ自分)だ。

ロストソング編が始まったら、ゆっくりやろう。

それでは、お読みいただきありがとうございます。

バレット早くしてくれ~。


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ロストソング編
第4話・新たな世界


新たなステージへ、彼は重みから解放されて羽ばたく。


「ねえねえ聞いた? あの噂」

 

「サラマンダーの剣士だろ? 知ってるって」

 

「弓矢じゃないのか?」

 

「最っ高につえぇぇらしいけど、どんなんだろうな」

 

「何者だろうと関係ない、見つけたら戦ってみたいぜっ」

 

「ああ、噂の剣士だロ? そいつは………」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 俺はSAO事件から生還し、前世の記憶を持つ、ただの大学生。

 

 ゲーム内の名前をテイルと言い、退魔の勇者より術技を叩きこまれた日々を送っていた。

 

 現在は夢の世界での特訓は無く、安眠が続いている。

 

「おはよう、ミケ」

 

「にゃ~」

 

 現在大学生である、前世の記憶があるため、その教訓で勉学も何も頑張った。

 

 おかげで両親には、リハビリの間はあまり心配されず、むしろ大学を無理していくのかと心配はされる。かなりギリギリだったしね。

 

 二年と少しの年月、仮想世界に閉じ込められたが、俺の場合正確には五歳からこのゲームの対策ばかり考えていた。それを考えると、やっと肩の荷が下りたところ。

 

 とはいえ、リハビリは終わっても身体の鍛えは変えず、ランニング兼バイトを朝からして、重り入りのリストバンドを付けていた。

 

 この辺りの日常を変える気は無い。前世よりも健康面、勉学などは良くなっている。

 

「さてと」

 

 飼い猫にミルクを与え、自分もミルクを飲み干し、身体を確認した。

 

 SAOが終わり二か月少しして、だいぶ回復したと考える。

 

 そして俺はあの事件が終わり、あるゲームを考える。その名は《アルヴヘイム・オンライン》と言うVRММORPG。

 

 ゲームの方は、親からはまあ心配はされなかった。

 

 SAO事件、ソードアート・オンラインから少しして、アミュスフィアと言う新たなVRシステムを使い、創り出された世界。

 

 スキル重視のゲームであり、プレイヤーは妖精になり、空を駆ける。

 

 俺の前世には無いゲーム。心躍るこの技術を、やっと普通に遊べる機会が来た。

 

(思えば、長い日々だった)

 

 リビングで日向に当たりながら、しみじみ思う。

 

 長年の重みは今は無く、爽快感はいまだ続く。

 

 犠牲者は果たして減ったのか、どうなのかは俺には分からない。だが、それを振り返るのは意味が無い。減っていようが出たには出たんだから。

 

 日々の疑問、自分は何者かと言う疑問だけがあった。

 

 退魔の勇者から目を背けているのは自覚はしていたが、いまは………

 

(どうだろうか)

 

 謎の疑問だけは残る、きっと答えは出ないだろう。

 

 俺はそんな自問自答を繰り返すが、ゲームはゲーム。

 

 これを楽しむ、それだけは変わらない。

 

 そしていま、このゲームは大型アップデートされ、新エリアが拓かれていた。

 

 その名を《スヴァルトエリア》。浮遊大陸を一つずつプレイヤーは攻略していくイベントだ。

 

 それを一人で遊ぶ男。

 

 俺は一人で遊んでいる。

 

 一人で………

 

 ………

 

 人とどう会話すればいいのだろうか………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 パーティーってのはどうすればいいのだろうか?

 

 ギルドってどう入ればいいんだろうか。

 

 NPC以外と話ができない。

 

 いや、まあ店の人とは会話できるけど。

 

 まさか前世含めて友達が少ない人生とは、人付き合いを完全に無視して、消極的にしていたツケが、いまここで来る。

 

 ゲームは一人でも楽しめるだろうが、それはSAOで気が遠くなるほどした。

 

(音楽妖精プーカの装飾を付けてるプレイヤーが多いが、なにかの流行なのだろうか?)

 

 そう言えば、ここ最近色々話を思い出す。

 

 いまの大学。目が覚めた日、それと偶然に親の転勤があり、都市部に転校した俺は、SAO帰還者ケアが目的の施設ではない、普通の大学に通う。

 

 友達は、いないかな? 必要なら話しかけられたり、話したりはする。特別仲がいい人がいないだけ。

 

 だが話題などはさすがに分かる。

 

 それは『セブン』と言うプレイヤーがいる。彼女のことが、いま話題だ。

 

 アイドルであり、12と聞くが、天才科学者と聞く。

 

 アバターも自身に似せて、《シャムロック》と言うギルドのリーダーらしい。

 

 このイベントを攻略する、選りすぐりの精鋭部隊。そう聞いている。

 

(人が多くて、入りたくないな………)

 

 人のうわさ程度を聞き耳で仕入れるのも、前より酷くなる中、カフェで飲み物を飲む。

 

 そんな日々である。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「よっと」

 

 岩壁を上り、先に進む。

 

 装備は片手剣に盾、弓矢と、まあこれは仕方ない。

 

 精神年齢は違うが、五歳の頃から、これを基本に訓練した。

 

 計算する気力も起きないくらい、長い間このスタイル。

 

 もう今度はリンクでいいんでないかい?とは思うが、やはり俺と言う意思表記はしたい。

 

 だけどキリト辺りいそうで怖い。

 

 いやいるか、リーファがいたくらいだし。ALO編は詳しく知らないが、ユウキの話でいたし、いるだろう。

 

 俺は始め、主人公としか考えていなかったが、実際会えば違う、ただの凄腕プレイヤーだ。

 

 他の仲間たち、正直アスナヒロイン、他と仲がいい程度しか知らない。

 

 ああ、さすがにいまではリーファとは兄妹ぐらいは知っている。

 

 前知識、原作知識と言うもの。

 

 いまはこれ、用なしだよな。

 

「………」

 

 無数の敵が現れたが、即座に斬り込む。

 

 攻撃を避け、ダメージを与える。

 

 そして倒し切り、先に進む。いまはこれを繰り返す。

 

(リーファとはALOプレイ時のはず、ってかALO編のヒロインだしな。あの世界にいたはずはない。シノン、彼女はどうだろう? 確かヒロイン扱いとか、聞いてたような気が?)

 

 友人とかの話を振り返る、無論前世。正直もうわけがわからない。

 

 確かALOにはいたが、だめだ、ユウキ編以外、知識は役に立たない。

 

「っと、これくらい」

 

 飛ばなくてもいい、そもそも飛ぶ領域が決められているのか、ある程度の高さしか飛べなくなり、こうして岩壁を上ることにした。

 

 カイトも利用して、うまく岩を掴み、浮遊する島を行き来する。

 

 そして奥へ奥へ進む。

 

(ほんと、これ攻略難しいな、さすがか?)

 

 所々浮遊島なだけに、道が途切れているが、ロープや自家製のカイトで飛び移る。

 

 少し疑問に思うが、これがVRゲームなんだろうなたぶん。

 

(さすがにボスはともかく、フィールド探索は楽しい)

 

 カイトで進むのは、実際どうだろうと思うが、いけるんだから平気なんだろう。

 

 そう思いながら、色々見て回っていると、そこに来た。

 

 扉の前、気配がする。

 

「ネームドエネミーでもいるのか? 楽しみだ………」

 

 そう思い、扉を開くと、突風が吹き荒れる。

 

「なん、だ………」

 

 風に飛ばされ、ダンジョンの外に出る。

 

 そして目の前にエネミーが現れ、自分は、

 

(まさか、ボスエネミーっ!? あれくらいの探索でっ)

 

 その時戦いながら気づく、自分は神様の特典で鍛えられた、謎の身体能力がある。

 

 リハビリに関しても、それにより早く退院できたほどだ。

 

 その感覚で進んだため、現在攻略組よりも先に進んでしまったらしい。

 

 ともかく、ここで倒れて、デスペナルティは嫌だ。

 

「仕方ない………」

 

 そう呟き、飛竜を倒す為、剣と盾を構え、立ち向かう。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 前に接近すると、その前足のかぎ爪で斬りかかる。

 

 それを空中を蹴る応用で横に飛び、すぐに身体をひねり、背中を切り込む。

 

 何度も続けながら、盾で頭部を叩きこみ、ダメージを与える。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 それに叩き込むが、すぐに竜巻が舞い上がり、炎の火球が放たれた。

 

 すぐさま避けつつ、斬り込む。

 

(この連続、《白竜》を思い出す)

 

 飛び上がり、空を蹴り、頭部に盾を叩きこむ。

 

 スタンを取り、瞬時頭部を叩き斬る。

 

 空中戦だが、地上のように扱い戦い、斬撃を食らわす。

 

 突進などそのでかい体格を生かして来るが、飛び上がり避けた。

 

 咆哮を上げるそれは、あの竜を思い出す。

 

 矢を取り出し、即座に叩き込む。

 

 だが、静かに剣を取り出し、ソードスキルを込めて叩きこむ。

 

「セイッヤっ!」

 

 だがその前にHPゲージを消し飛ばし、ポリゴンへと変える。

 

 その様子は、あの竜たちを思い出させた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 そうか、俺は普通のプレイヤーよりおかしいのか。

 

 ボスエネミーを倒し、そう痛感する。

 

 敵の動きは本番で見切るのは、SAOで慣れていたとはいえ、俺はおかしいらしい。

 

 ともかく、倒すことはできた。

 

 そして雲により覆われた島が開くと共に、誰かが来る気配を感じ、気配を殺し、隠れる。

 

 そこに現れたのは、

 

「くそっ、先を越されたか」

 

(キリト)

 

 そればかりは見覚えがある。妖精のキリト、リーファは変わらないため、そこにいるのはみんなであり、ユウキまでいる始末にただ驚く。

 

 改めて余裕ができたおかげか、アニメや小説の世界に、俺がいると自覚する。

 

 まあ、違うとも自覚できるが……

 

「誰が次の島を開放したんだろう」

 

 すまないフィリア、俺が倒して……

 

「私たちのように、風の発生装置を開放したのかしら? それでも早いわよ」

 

(風の発生装置? 山登りの通路じゃないのシノンさん?)

 

 やばい、普通に浮遊する島には、自家製のカイトなど駆使して飛び移った時点でおかしいとは思っていたが………

 

「ここのボスを倒したのはシャムロックか?」

 

「分からない、ともかく、次の島を見てみよう。その人も見に行ってるかもしれないし」

 

 アスナの言葉に、彼らは次の島へ移動する。

 

 ………

 

 それを確認し終え、静かに出ていくと、

 

「………」

 

 そそくさと、俺は町に帰ることにした。

 

 彼らと仲間にならないか。

 

 怖い怖い、フレンド登録怖い。

 

 キリトくんみんな仲間だオーラ怖いよ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 あれからしばらく、今度は砂漠の島らしい、また探索が楽しみだ。

 

 ただ、噂が流れる。

 

「聞いたか、初エリア攻略者。たった一人らしいぜ」

 

「マジかよっ」

 

「ああ、俺見たぜ。蒼い服の剣士が、岩を上っていくのを。手慣れた手つきで先に行って、大ボスを倒したようだぜ」

 

 やはりあれが正規の方法じゃないのか。

 

 カフェでコーヒーのような飲み物を飲み、外で過ごしているだけで噂話程度は耳に入る。

 

 SAOもこういう方法で時間を過ごし、情報を得ていた。

 

 聞く耳程度、静かに立てれば聞こえてくる。

 

「サラマンダーの蒼い剣士………シャムロックのメンバーでもない、上位者でもないプレイヤー。何者なんだ………」

 

 ちなみにいまは赤い服を着てます。

 

 装備は変えられない、やはり剣をメインに弓矢が落ち着く。

 

 ただ槍と両手剣はお預け、片手剣と弓矢を伸ばすか。

 

 次の島は砂漠だし、赤は定番だな。

 

 装備確認をし、水など買い込み、俺は砂漠へ出向く。

 

 寂しいけど、仲間怖いんだよ……




羽ばたけなかった。

彼は仲間を得て、楽しくゲームを楽しめるのだろうか。

ここからゆっくりしよう。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第5話・歌の妖精と紅の妖精

最初の島を独自の方法で突破したプレイヤー。

いまの彼は………


 砂漠の攻略はあまりしていない、ダンジョンは気を付けている。

 

 さすがにまた進みすぎることは無いだろう。たぶん………

 

 そう思っていると、悲鳴が聞こえた。

 

 すぐにそちらに出向くと、一人のプレイヤー。あれは工匠妖精レプラコーン?

 

 ともかく、ギリギリのようだ。助けても問題ないだろう。

 

 その時、反対側から他のパーティーも助けに駆け付けた。

 

 って、あれは、キリトっ!?

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それは突然現れた。

 

 三人と一人のプレイヤー。その中で二人の剣士が活躍する。

 

 盾と剣、二つを巧みに扱い、避け躱し、すれ違いざま切る剣士。

 

 もう一人は両手に持つ剣でエネミーを蹴散らす。

 

「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」

 

 赤と黒の剣士が交差して、最後の一体を各々倒した。

 

「ふう、これで」

 

「………」

 

 襲われたプレイヤーの方へ、彼ら、キリトたちが話しかけている間、すっといつの間にか、彼は逃げ出した。

 

 なぜキリトから逃げるか………

 

 正直、なぜ逃げたか本人にも分からない。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………」

 

 静かに町に戻り、逃げたのはまずかったかなと今頃になって思う。

 

 正直恥ずかしいし、色々なにかこう、ね。

 

 だって俺からすれば、触れられない存在が実体化したようなもんだもん。

 

 やっと色々終わって考えたら、俺ってなにしてるんだ、オリ主かっ!?

 

(こんなんじゃ、また夢で訓練が始まりそう)

 

 SAOが終わり、いつの間にか夢を見なくなる。

 

 もう教えることは無い。ってことは無いだろう。

 

 だが見ない、それを寂しく思う。俺はまだ、彼と戦いたい。

 

 そんなことでいっぱいいっぱいになる中で彼らを思い出す。

 

 もう一回彼らに会うなんて、できない、無理、死んじゃうっ。

 

 どうすればいいんだろう、俺のコミュニティ力。

 

 もう無理だ………

 

「………」

 

 俺はただ、深いため息をつく。

 

 そう言えばルクスたちはなにをしているのだろう。幸せならいいが………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「みんな、聞いてくれ。もしかしたら、最初に島を開放したプレイヤーが分かったかも知れない」

 

「それってホントっ!?」

 

「誰なのそれ?」

 

「それは俺たちなら誰もが知っている男………」

 

 その言葉に、クラインたちは首をかしげる。

 

「俺らが知る、男性プレイヤー?」

 

「お前、《黒の剣士》じゃないのなら………」

 

「! それって《沈黙の蒼》ですねっ」

 

 シリカの言葉に、それに合点が行く。

 

 唯一ユウキだけが分からない顔をしている。

 

「ねえ、その《沈黙の蒼》って」

 

「俺たちが前にしていたゲームで、とても強い、蒼い衣装を着ていた片手剣、盾、色々なことができる剣士。彼がいまでもそのスタイルなら」

 

「それなら噂と合致するな」

 

「実はね」

 

 それはあるプレイヤーを助けたとき、もう一人、助けに入ったプレイヤーがいた。

 

 その動き、赤い服装だったが、彼は、

 

「彼は間違いない、《沈黙の蒼》、テイルだ」

 

「っ!?」

 

 ユウキが驚く中、それに気づかず、クラインが訪ねる。

 

「彼奴もALOをプレイしてるのか?」

 

「まだ分からないが、俺はそう思う。ソロで俺たちやシャムロックよりも先に攻略した。彼奴の実力なら、な………」

 

 エネミーを倒し切ったら姿を消していた。

 

「そう言えば攻略記念パーティーの時も彼奴いなかったな」

 

「彼とは、連絡がな。最後の最後で知り合ったから、どうすればいいかって思っていたんだ」

 

「確かに、最後の方で世話になったしな……」

 

 クラインはそう言うが、いまからでも遅くは無いだろう。

 

 彼とは色々と話がしたい。

 

「それは確かに、最後の戦い、ユイちゃんも何も聞かずに守ってくれたしね」

 

「確かに、最後だけだけど、彼も仲間よ」

 

「そうですね、お話してみたいです」

 

 皆、彼と話がしたいのは満場一致らしい。

 

 攻略を進めれば、きっとまた出会えるだろう。

 

 今度は逃がさないぜって。

 

「そう言えばなんで消えていたんだ?」

 

「なにか用事があった、からじゃないですか?」

 

「きゅう」

 

 シリカにそう言われ、それも含めて聞けばいいか。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 少しだけ彼の話を聞いた。

 

 それはまさに、《沈黙の蒼》らしいやり方であると話し合う中で、ユウキはワクワクして聞いている。

 

 前のゲームのことは詳しくは聞かないけど、彼は凄いプレイヤーなのは知っていたユウキ。

 

 彼とは決着をつけたい。

 

 彼とは、三連敗しているんだからっ。

 

(勝ち逃げは許さないよ、テイル♪)

 

 そう思いながら、彼は現実でくしゃみをして、怯えていた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 絶剣の噂も聞く中、キリトたちの噂を聞く。

 

 もう俺も平気かと、やはり好きな色を着込む。正直サラマンダーなのは、アタッカーとして選んだだけだ。

 

 しかし、

 

(武器がな)

 

 SAO時、俺は人があまり出入りしないあの子の鍛冶屋で、武器を調整した。

 

 いまはドロップ品や、NPCの店で纏めたりしている。あの子の以外、どうもしっくりこない。

 

 弓矢はサブで用意しながら、ここでは片手剣と盾のスタイル。やはりこれが一番なじむ。

 

 砂漠の島は、キリトたちが攻略した。今度は雪、銀世界の島らしい。蒼がいいだろう。

 

(武器の整備、アイテムの備蓄………)

 

 色々考え込んでいると………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「君!」

 

「!」

 

 彼は驚き、静かに振り返る様は、あの時代を思い出す。

 

 変わらない彼は、

 

「テイル、テイルじゃないかっ!」

 

「キリト………」

 

 彼は静かに頷き、それが彼、俺たちが知るテイルだという証だ。

 

「君もALOをしていたのか、俺たちもしているんだ。いまはスヴァルトエリアを攻略している。君もだろ」

 

「………」

 

 彼は何も言わず、ただ黙り込む。

 

 だが、《沈黙の蒼》はまったく変わっていない。

 

「なあ、もしよければ、一緒に攻略しないか」

 

「………一緒にか」

 

「ああ、どうだろうか?」

 

 そう言われ、静かに頷く彼とフレンド登録をする。

 

 彼は、気のせいか少し、慣れていない手つきでフレンド登録をするウインドを操作していた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 いまあったことを話すぜ、キリトからフレンド登録しようって言われた。

 

 さすが主人公、そんなことも簡単に言えるのか。

 

 初めての登録をし、俺は軽く彼と話す。

 

 自分は本来人付き合いが苦手で、いまもソロ活動していたこと。

 

 馴染みの鍛冶屋が忘れられず、ドロップ品などをいまは愛用している。

 

 気が付いて山登りしていたら、実は大ボスの部屋にたどり着いたとき、笑ってしまうキリト。

 

「まさかあの岩壁を上るなんて、凄いなテイルは」

 

「………そうか………」

 

 そんな会話をしていると、俺が使用する、ドロップ品を扱う店を紹介した。キリトは喜んでくれたようだ。こういう穴場が好きな様子だ。

 

 キリトが買い物をし終え、その帰り道、

 

「ん………」

 

「なんだか向こう側が騒がしいな」

 

 そして振り返ると、誰かが走って来て、俺にぶつかり、すぐに倒れそうになるのを支える。

 

「………大丈夫か?」

 

「あの、えっと」

 

 なにか慌ててるように周りを見て、後ろにある樽を見つける。

 

 その姿を見たとき、七色・アルシャービンを思い出す。

 

 いや、

 

(本人!?)

 

「あ、あたしを隠してっ」

 

「はぁ?」

 

「いいからっ、あたしは後ろに隠れるからね!」

 

 そう言い樽に飛び込み、その姿を隠した少女。

 

 その行動力は歳相当の女の子として感じられた。

 

 ニュースなどでは感じない、そんな反応に、俺とキリトは困惑する。

 

 困惑する中、背後から気配を感じ振り返った。

 

「おい、そこの者、この辺りで少女を見なかったか?」

 

 それは強いプレイヤーなのだろう。それくらい威圧を醸し出すプレイヤーである。

 

「えっ、えっと」

 

「さっきそこの道を走りって言った。ぶつかって謝る暇も無かったから………知り合いなら申し訳ない」

 

 さらっと流れるように嘘を言い、キリトは驚いていた。

 

「………そうか」

 

 僅かに考え込むそぶりを見せたが、そう言い、その場を去っていく。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「かばってくれてありがとう、私はシャムロックのギルドマスターセブンよ」

 

 それを言われ、色々思い出す。

 

 確かアバターを自身に似せたりしたり、色々活動していたんだったな。

 

「やっぱり、俺、君に会いたかったんだ」

 

 そうキリトが嬉しそう、俺は面倒なことになったんじゃと内心思う。

 

「あら、あなた、あたしのファンだったの? じゃあ、お礼はサインでもどうかしら?」

 

「いや、ファンとかじゃなくって、俺は七色博士として君の話を聞きたかったんだよ」

 

 二人が会話する中、俺はなにもすることはなく見守っている。

 

 むしろキリトはよく話ができるな。

 

「シャムロックに入隊、とかじゃなくって?」

 

「ああ」

 

 と、そんな話をしていると、回りというより、向こう側が騒がしい。

 

「まだ探してる………しつこいわねえ」

 

「君のギルド奴らって、お付きの人みたいなものだろ?なんで逃げてるんだ?」

 

「このセブンちゃんだって、たまにはひとりになりたいときがあるわ」

 

「………大変だな」

 

 少しキリトと会話した後、嵐のように去っていく。

 

 結局なんなんだろうか………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 彼はいま、勇気を試されている。

 

 紹介されたエギルの店で、新しく開放された島の攻略会議。

 

 待たせてはいけない。そう思い、彼は入る。

 

「テイル、待ってたぜ」

 

「キリト」

 

 まだ人が少ないが、工房の中にある店に、何名か驚く。

 

「テイル、お前さん、やっぱりいたのか」

 

「ああ、サラマンダーのテイルだ………」

 

 そして彼を含め、多くのキリトの仲間たちと会話する中、ユウキが嬉しそうににんまりと笑う。

 

 それを見て、僅かに彼は困った様子な気がしたキリト。

 

 だがそのままで、彼は武器防具の整備もあり、リズに相談しながら、会議に加わった。

 

「あの後、レベル上げついでに探索したけど、高度制限で行けないエリアが多くって、ドロップ品は以下のようだ」

 

「うわっ、これまたレアドロップ多く無い?」

 

「そうなのか………」

 

 分かっている行けるダンジョン候補を絞り込みながら、高度制限を解除または別口で入れる方法を見つめるが、今後の方針になる。

 

 こうして話し合う中、アイテムや装備の準備に一時解散になる。

 

 そしてそんな中、少しだけ彼の装備の話になった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「テイルは行きつけの店が忘れられないのか」

 

「ああ………。キリトには伝えたが、俺は、人付き合いが苦手でな………」

 

「沈黙じゃなくって、ただ口下手なだけだったのかっ」

 

 そうクラインに驚かれながら、少しずつ彼らと会話しながら、リズに武器を調整してもらう。

 

 だがやはり、剣と盾、武器だけがしっくりこない。

 

「どうかしら?」

 

「悪い………」

 

「ううん、謝らなくっていいわよ」

 

「長く愛用してたからだろうな、そういうの分かるぜテイル」

 

「ともかく、これからよろしく」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「テイル!」

 

「ユウキ」

 

 一度別れた後、彼女と話し合う。

 

 ユウキからは無論らしき、再度再戦を挑まれるが、

 

「少し待ってくれ。俺はまだ、本気を出せない」

 

「あっそっか。武器が手になじんでないんだったよね」

 

「あの時のように、お前の動きをさばけない。きっと負ける」

 

「そうか~。なら、手になじんだら勝負だよ!テイル♪」

 

「………」

 

 静かに頷き、ユウキとも別れる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ゲームを進める中、彼らから詳しい内容を聞く。

 

「攻略に、最近はシャムロックに先を越されてるのか」

 

「相手は大手、こっちはギルドってほどでもないから、どうしてもな。だけどレインって言う、俺たちの追っかけのような子が、情報を集めてくれてるんだ」

 

「レイン?」

 

 僅かに聞き覚えが、まああるか。レインなんてアバター名、意外と多そうだ。

 

 こちらの反応にどうかしたか聞かれたが首を振り、静かに話を聞く。

 

 そしてその情報を元に、俺たちはダンジョンへと向かう。

 

 その時、

 

「こんにちは」

 

「………」

 

 レイン、紅い髪のレプラコーンのプレイヤーがそこにいた。

 

「………?」

 

 その顔を見て、僅かに何か引っかかる。

 

「? 新しい人かな?」

 

「ああ、テイル紹介する。レインって言う、新しい仲間だよ。レイン、彼はテイル。凄腕のプレイヤーで、このスヴァルトエリア最初の島、その最初の攻略者だよ」

 

「へえ、すっごいね~」

 

 そう嬉しそうに言われる中、静かに頷く。

 

「? テイルさん、どうかした?」

 

 アスナに話しかけられ、静かに顔を上げる。

 

「どこかで………会わなかったか?」

 

「えっ、そ、それは………」

 

「ああきっとあの時ですよっ」

 

 リーファから、自分らしい人物が、一緒にHPが僅かなプレイヤーを助けたことを言われ、レインも、

 

「そ、そっかっ。君に会ったことあると思ったけど、あの時の」

 

「そうか………。あの時は、その………みんなと再会して、どう話せばよかったか分からず、逃げたんだった………。すまない」

 

「そう言うことだったのか。気にしなくていいぜ」

 

「ほんと、口下手なのね、あなた」

 

「………」

 

 静かにシノンの言葉を聞き、気を付けるよう心がけよう。

 

 そしてパーティーを組み、ダンジョンへ向かう。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「最近、セブンファンしか、フィールドを見かけないな」

 

「セブンファン………ああ」

 

 確かに、フィールドのほとんどのプレイヤー。すれ違った者たちは、セブンファンの証を付けていた。

 

 それ以外の、攻略をしているプレイヤーの方が少ない気がする。

 

 そしてダンジョン奥地で、エリア解放ではないものの、ボスがいる。ほぼ初めてのレイド戦だ。

 

 どうにか仲間たちを守るのだが、攻撃はやはり、手ごたえは微妙。

 

 いまいち乗れないまま、ボスは倒すことには成功する。

 

「すまない、足を引っ張った………」

 

「えっ、なにを言っているんだ?」

 

 俺はボス戦の感想を伝えながら、片手剣を何度も手首で回す。

 

 どうにもこうにも、少し違和感を感じる。

 

「重心が足りないんだよな………」

 

「それ以上大きくしたら、カテゴリーが両手剣になるわよ」

 

「知り合いからもそう言われたんだ………」

 

「テイルは片手剣、それで威力をギリギリまで求めるタイプなんだな」

 

 キリトは感心しつつ、リズは新たな客の注文に頭を悩ませるが、本人は楽しそうだ。

 

 そんな会話の中、後ろから気配を感じた。

 

「誰が来る」

 

「!」

 

 その言葉と共に、ウンディーネの青年。あの時の青年が現れ、キリトが会話する。

 

 彼はスメラギと言い、シャムロックのメンバーで、セブンに頼られている男だ。

 

 さすがの俺もそれくらい分かり、キリトと会話を続けている。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 どうもキリトはセブンと交流があり、クラスタ、ファンであるクラインをなだめている。

 

 キリトはセブンと言うより、七色博士の提唱する考え方に興味があるらしい。

 

 確か他種族との交戦がメインのこのゲームで、共に攻略を謳っている。

 

 その話をしながら、古代文字が書かれたレバーがあり、それを読む。

 

「えっと………閉ざされし入口を開けんとする者、氷の封を解き放つ火の宝玉を渡そう」

 

「分かるのテイル?」

 

「勉強の暇に、古代語の大本を調べたんだ。そうしたら意外と分かる」

 

「へえ、凄いよテイルさん」

 

 手に入れたのは、滅茶苦茶熱い宝玉で、箱の中から取り出せない。

 

 使えそうなところ、氷の封印だろう。

 

「フィールドに、凍り付いた滝がある………。もしかすれば」

 

「ほんとか!?」

 

「ああ。ただなにか奥があるか分からないが、隠しダンジョンの可能性はある」

 

「なら案内を頼むよ」

 

「テイル、意外とダンジョン探索の才能ないかな? わたしと一緒にトレジャーハンターやらない?」

 

「それよりも俺は……、手になじむ武器を探す方が先決だな……」

 

「へえそうなんだ」

 

「彼奴の作ったオーダーメイドなら、いいんだが………」

 

「………」

 

 レインがこちらを見る中、滝がある場所へと歩き出す。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………」

 

 レインは静かにテイルを見ながら、また静かに歩き出す。

 

「まったく、変な注文ばっかりなんだから………」

 

 そう呟き、妖精たちは空へと飛んでいく………




キリトくんとフレンド登録して、彼は友達が増えた。

いまのところ、槍などは時々使い、片手剣と弓のスキルを上げているところです。

それではお読みいただき、ありがとうございます。


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第6話・攻略の中で

ついにオリ主テイルはキリトたちと交流を開始。

長い道のりだったね。


 凍り付いた滝のダンジョン。宝玉を使い先に進むことはせず、一度解散し、準備をしてから先に進む。

 

 色々あるがさすがキリト、SAOのラスボスを倒した男だ。

 

 それでもキリトたちの快進撃は止まらず、静かに俺は進む。

 

「どう?新しい武器」

 

「全体が軽い………。もう少し重みが欲しい、あとは長さ」

 

 ダンジョンの中で調子を聞くが、それにうなるリズ。嬉しそうにするキリト。

 

「いやキリの字、なに嬉しそうにしてるんだよ」

 

「いや、だって分かる。分かるんだぜテイルの言いたいの」

 

「お兄ちゃん、そんな同類を見つけたような顔をして」

 

「あはは………」

 

 周りから呆れられるキリト。だがレインだけはこちらを見る。

 

「安心してくれ」

 

「えっ」

 

「足は引っ張らない」

 

「えっと、そういうんじゃないんだけどな~」

 

 困った顔のレイン。ならなんで俺を見ていたんだろう?

 

 そんなことを話しながら先に進む。

 

 そして、事件は起きる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ん」

 

 かすかに後方から気配を感じ、キリトも気づき険しい顔になる。

 

「大勢の人の気配………おそらくスメラギたちが追いついてきているらしい」

 

 その言葉に、ウンディーネの青年が率いる、強者のプレイヤーたちが姿を見せた。

 

「スプリガンのキリト、どうやら貴様たちもなかなかやるらしい」

 

「ああ、また会ったな、この前約束したデュエルをしようぜ!」

 

 そうどこか嬉しそうに言うキリトだが、周りのメンバーやスメラギも怪訝な顔でそれを見る。

 

「いまはダンジョン攻略中だぞっ。いまはどちらが先にダンジョンを攻略できるか………。それが勝負だっ」

 

「だけどさ、目の前に強いプレイヤーがいるんだぜ。戦いたくなるのは当然だろ?」

 

「キリトは………」

 

「どちらかと言えばゲームバカです………」

 

 アスナたちが呆れる中、それは向こうも、

 

「分からん奴だ、そんなに戦いたいのなら」

 

 そして向こうも抜刀し、デュエルの試合形式がなりたった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 試合は二刀流キリトがやや劣勢、そのまま続けるかと言う事態に差し掛かるが、スメラギが構えを解く。

 

「なかなか腕がたつようだな」

 

「まだ決着は………ついてないぞ!」

 

「その実力と気概は認めてやる。だが、いまはダンジョン攻略が優先だ。我々は組織で動いているのだからな」

 

「だけど」

 

「さっきも言ったが、ダンジョン攻略で我々と勝負すればいいだろう」

 

「キリトくんっ」

 

 その時、キリトを心配して前に出たのは、

 

「レイン」

 

「レイン? お前………嘘つきレインじゃないか」

 

 それは驚きの方の言葉で、それを言われ、レインはばつが悪そうな顔をする。

 

「どういうことだ? レインはシャムロックの奴らと知り合いなのか? それに、嘘つき?」

 

「なるほどな、お前がこいつらを手引きしたのか」

 

 どこか納得した様子で、向こうの話がまとまっている。

 

 どういうことだ?

 

「少し前に、彼女は嘘をついてメンバーを騙し、シャムロックに加入した。しかし嘘が発覚して、ギルドを追い出された」

 

 だがギルド脱退後も、登録解除までタイムログが発生。

 

 レインはそこから情報を入手していた。

 

 それにレインは、何も言わず、ただ黙り込む。

 

「………」

 

 正直よく分からないが、レインは本当にそんなことをしたのか?

 

「いやいや、あはは………バレちゃ、しかたないね………」

 

「レイン………」

 

 どこか無理をしている気がする、俺はその言葉が信じられない。

 

 ともかくここは一度引き上げ、エギルの店に戻る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………はあ」

 

 一応キリトが事の顛末を説明して、メンバーに話した。

 

 キリトが情報の入手方法を確認しなかったこともあり、自分は責めないと説明する。

 

 俺は正直後からだから、何かを言う資格は無いだろう。

 

 そしてシノンがそれに納得できないと言って、いまはレインに席を外してもらい、古株メンバーで話し合い。

 

 果たして俺はいていいか、俺は………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「キリト」

 

「テイル………」

 

「俺はフレンド登録や、ギルドのことは分からない………。だけど、本当に、レインはその方法で情報を得られるのか?」

 

 それに周りは驚く。シノンや他のみんなもだ。

 

 彼は勘が鋭いな。

 

「それは、だけど本人はそう」

 

「いいえ、不可能です」

 

「ユイちゃん」

 

 ユイは説明する。やっぱり、ギルド脱退後、ギルド内部情報を知ることは不可能。

 

 レインが認めた方法では、シャムロックの内部情報は得られない。

 

 シノンを初め、仲間たちはならなぜそれを否定せず、そして何も言わないか。それが分からないと困惑した。

 

「それに関しては俺にも分からない」

 

 レインは何かあるのだろう。ともかく、話はこれで終わった。

 

 これからも彼女と共に行動する。それはいい。

 

 いいんだが………

 

「………」

 

 一人、なにか言いたげの彼がいた。

 

「テイル?」

 

「………この子は?」

 

「あっ………」

 

 ユイをテイルに紹介するの忘れてたッ!!

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それから、攻略が進む。

 

 レインのことは結局、なにか大事なことを隠している。だけど、それを無理に知る必要は無いと決まり、攻略は進めることになる。

 

 そんな中で、ALOのイベント期間に入った。

 

 妖精の世界なのに、日本の縁日とはこれいかに。

 

「………」

 

 せっかくの縁日だが、俺は武器防具を探すことにしようと、フィールドへと向かう。

 

「あっ♪ おーい、テーイルーーー♪♪」

 

 ユウキが嬉しそうに腕に張り付き、すでにお祭りを楽しんでいた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 いつの間にか、ユウキに連れまわされ、リンゴ飴、綿菓子など、コルクの射撃まである。

 

「………」

 

「うわっ、すごっ! テイル射撃もうまいんだねっ」

 

 それからシノンやフィリア、ストレアと、次々と祭りを楽しむ仲間たちと出会う。

 

「なんていうか、いつの間にか仲間の集まりだね」

 

「うんそうだね~楽しいね~」

 

 ストレアも買い食いしながら、先ほどかき氷の洗礼を受けていた。

 

 クラインはどうにかこうにかデートをする相手を探していたが、結局できなかったらしい。

 

「フィリアたちも、浴衣なんだな」

 

「そうだよ~。いま限定のアイテムなんだから、せっかくだし着ないとね」

 

 そう、女性メンバー全員が浴衣である。俺は全員に似合うと言い喜ばれて、クラインのお世辞は綺麗に流された。

 

「なんで俺だけこんな扱いなんだよ!」

 

「いつものことでしょ」

 

 レインもその空気の中、自然と笑顔であり、その様子にほっとする。

 

「もうここまでくればあれだ、他の奴も見つけて、みんなで回ろうぜっ」

 

「おー♪」

 

「と言ってるうちに、おーいっ、リズ」

 

 ユウキが大きな声を出し、少し遠くにいる二人に話しかけようとしたときだった。

 

 二人は敏捷ステータスの限界を超えて近づき、ユウキの口を防いだ。

 

「うぐっ!?」

 

「シッ、全員静かに」

 

「なっ、なんだ? いった………」

 

 そして俺たちの目の前に、キリトとアスナが仲良くデートしている様子が飛び込み、その後女性メンバー全員で、その様子を観察することになる。

 

「テイル、俺ら、なにしてるんだろう」

 

「………」

 

 男性は時折買い出しに行かされる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「あー楽しかったよ」

 

「そうか」

 

 そろそろ終わりそうなときに解散し、ユウキと共に軽くモンスターを倒した帰り道。

 

「ありがと、手伝ってくれて」

 

「なんだいきなり」

 

「ううん、少しね………」

 

 少し下を向き、夜空の星を見る。

 

「あのさ、テイルは楽しい?」

 

「ああ」

 

 それに少し微笑むユウキ。

 

 話を聞くと、実はユウキはギルドに所属している。

 

 それがしばらくしたら解散する話になり、最後の記念に、あるイベントをメンバーの名前が刻まれるイベントがあるから、こなしたかった。

 

 他ギルドと組むと、全員の名前がこの世界に残せないから、ギルドに所属していないプレイヤーしか頼めなかったらしい。

 

 キリトとアスナにはすでに話していて、

 

「できれば、テイルにも手伝って欲しかったんだ」

 

「そうか………」

 

 だが俺は武器防具が、まだ自分の全てを預けられない。

 

 それに気づき、ユウキがすぐに取り次ぐろう。

 

「ああごめんっ、別に無理にってわけじゃないんだ。いつも助けてもらったりしてたから」

 

「そうなのか」

 

「うん………。テイルとの、あのSAOの戦い、ボク忘れられないんだ。だからかな、あの時のテイル物凄く楽しそうだった」

 

「………やっと楽しめる。そう思える瞬間だったからな」

 

 そんな話を楽しげに語りながら、ユウキは笑う。

 

 それを見ながら、今日はお互い別れた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 隠していること、話せないこと、言えないこと。

 

 特典の一つで、ユウキたちの病気をどうにかして欲しいと願った。

 

 考えれば、それはどのような形で叶っているか分からない。

 

 なにより、確かユウキには、姉がいたはずだ。

 

 彼女はどうした?

 

 そんなことを聞けない。

 

 分からないことが怖い、そう思いながら、学園で静かに過ごす。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「はあ」

 

 あくびをしながら、ミルクを飲む。

 

 朝日が昇る休日、果物を食いながら暇をつぶす。

 

「今日もフルダイブするか、色々と物入りとかあるし」

 

 そんなことを呟きながら、飼い猫の面倒見ている時、電話が鳴り響く。

 

 母親が電話に出て行き、ミルクを飲み干すと、

 

「ちょっと、あんたに少し用だって」

 

「はい?」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 現実世界、病院へ出向く。

 

「………」

 

「すいません、お話は済んでますね」

 

「倉橋先生、ですね」

 

 親には連絡済みで、まずは話だけでもと俺だけが来た。

 

 なんでも、俺のドナー登録で、骨髄移植手術をしてほしいとのこと。

 

「今回のケース、患者の方が少し特殊の手術方法をしています。それにより状態を安定させていると言う状況でして」

 

「すぐに話を通したかったと?」

 

 正規のやり方は知らないが、少々重々しい雰囲気で頷かれるところから、重い病気なのだろう。

 

「それに、患者の方は早い段階で移植した方がよろしい為、こうして呼び出させてもらいました」

 

「それじゃ、手術日を決めるんですね」

 

「………そうなのですが」

 

 話を聞くと、このことを、ドナー登録者に自分と合う人がいると知った、その子は、

 

 

 

「受けたくないです………」

 

 

 

 そう、患者の子がそう言うのだ。

 

「そうですか」

 

「申し訳ございません、まだ準備ができていないうちにお呼びだてしまい」

 

「いえ」

 

 血縁関係者以外で、拒絶反応が無いのは奇跡。

 

 そもそも、俺のを移植して平気かと思う。あまりに俺は吹き飛んだ人生だからだ。

 

 親からも、

 

「えっ、あんたので平気?」

 

 我が人生はまあ悲惨と言うか、おかしいというか、うんおかしな人生だからしゃーない。

 

 とりあえず説得を試みるらしいので、連絡先などを交換し終え、こうして病院を後にする。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 こうして患者の子。プライベートなどデリケートな方面なのだから詳しく聞けない。

 

 俺に説明できない部分ではあり、それは医師たちの仕事。

 

 それでも気が晴れないため、色々歩き回ることにした。

 

『~~~じゃあ、聞いてください』

 

 不意に路上ライブの歌が聞こえる。

 

 歌を聴き、大切な者たちを思い出す。

 

(歌だから………じゃないな。いい歌だ)

 

 スピーカーはいい物では無く、観客もまだら。

 

 けど、少し心が晴れる。

 

 どうもメイド喫茶のバイトの子らしく、それの紹介もする。

 

『じゃあみんなまたね~ダスヴィダーニャ!』

 

「?」

 

 ロシア語のさようならの言葉に、

 

「………」

 

 いや待て、俺はどこでそれを聞いた。

 

 いまの歌、どこで聞いたような気がする。

 

「?」

 

 首をかしげながら、その場を去る。

 

(人間、外人の区別はつかないと聞くが)

 

 ロシアハーフだろう。まさかこうも分からないとは。

 

「俺もまだまだだな」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ここ最近、ダイブする機会を逃していると、

 

「………やってしまった」

 

 キリトたちがボス攻略、裏世界と言うエリアを開放したとメールが届いた。

 

 一応おめでとうと返しておくが、攻略に協力しないのはいただけない。

 

「………レアドロップ品くらい、稼ぐか」

 

 そう思い、集合時間にダイブできないのなら、フィールドでドロップ品やアイテムなど集めることにする。

 

 気晴らしになるし、色々しても問題ないだろう。

 

 そう決めて、少し遅い時間にダイブした。




少しずつ彼らの物語に溶け込むテイル。

いまだに彼のリアルネームは明かされない。

彼のことを最初に知るのは………

それではお読みいただき、ありがとうございます。


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第7話・絶剣

 病気が治るかもしれない。そう先生に言われた。

 

 ボクの病気が治るかもしれない手術、骨髄移植というものがあると聞かされる。

 

 そのお兄さんは、ある事件に巻き込まれ、しばらくして登録したらしい人。

 

 事件の時や登録で発覚して、それで手術可能。

 

 その人はボクの話を聞いて、すぐに話を聞きに来るらしい。

 

 その人は前向きに手術を、骨髄移植をしてくれる。

 

 だけど………

 

 ボクは手術を受けたくない………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

『やあ』

 

 それは神様だった。

 

『まず安心してくれ、君は死んでない』

 

 それにホッとしながら、色々なことが走馬灯になる。

 

 時間が合わず、裏世界進出の乾杯にも参加できず、少し落ち込んでいた。

 

 それなのに死んだのなら、もうどうすればいいんだ俺の人生。

 

 だが神様は何のために?

 

『君の願いを、正しく叶えることができないことを伝えに来た』

 

 えっ………

 

 それに愕然となる。

 

『すまないが、君が結果を知れば、悲しむと思い、伝えに来た』

 

 そ、そんな………

 

『ユウキに家族はもういない、彼女は一人だ』

 

 それに愕然となる。それで生きていても、彼女は幸せか。

 

『だから、あなたに託したいの………』

 

 えっ。

 

 別の声を聞き、そして後ろを振り返る………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………」

 

 ピピピピッと言う音と共に、目が覚める。

 

 朝日が差し込む中、俺は涙だけが流れた。

 

「………」

 

 なにができた。

 

 できなかった。意味が無かった………

 

「………ぁ………」

 

 その日俺は、何もする気が起きなかった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

「………」

 

「よ、よぉ~テイル? どしたのお前」

 

 ログインして裏世界攻略の中、エギルの店で、クラインが心配して話しかけてきた。

 

「………リアルがうまくいかなくてな」

 

 素材アイテムやらを渡しに来た。

 

 ここ最近そればかりだ。

 

「キリトたちは」

 

「いやユウキのギルド、《スリーピングナイツ》ってギルドの手伝いよ」

 

「そう………」

 

 それに俺はハッとなる。

 

 スリーピングナイツ、手伝い、ギルドの思い出作り。

 

 何があった。

 

 何かあったッ!!

 

 俺は思い出し、店を飛び出した。

 

「お、おいテイルっ!?」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 空を飛び、ウインドを開き、ここ最近発表されているクエストを確認する。

 

 思い出せ、確か思い出作りで、何か障害があった。

 

「そうだ」

 

 思い出作りは、ギルドによって阻まれたはずだ。

 

 その時、颯爽とアスナを助けに、キリトが仲間と共に駆けつける。

 

 今回もそうだろう。

 

 だが、

 

「だけどッ」

 

 だけど止まれるはずがないじゃないか。

 

 あの子は俺、SAOのテイルが、存分に遊べた相手。

 

 彼女には恩がある。

 

 それだけで終わらす気は無い。

 

 ホームページから情報を得て、俺は飛ぶ。

 

 その途中で、ユイちゃんからメッセージが届く。

 

『パパたちがシャムロックのギルドメンバーにイベントクリアを妨害されてピンチですっ、どうか助けに来てください!』

 

 そしてそのイベントの場所は、ユウキの思い出作りのための場所であると知る。

 

 なぜだろう、こんなに強く思うのは。

 

 俺は………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

「くっ、やるな………だがここまでだっ」

 

「! しまったっ」

 

 その時、奥から大勢のシャムロック、ギルドメンバーがこちらに向かって走っているのが見えたキリト。

 

 他のスリーピングナイツのメンバーも、絶望してしまう。

 

「ふっはははは、弱小ギルドが、大手ギルドに歯向かった事、こう」

 

 

 

 その次の瞬間、何かが切り刻みながら、ギルドメンバーを吹き飛ばした。

 

 

 

「えっ………」

 

「はっ………」

 

「なっ………」

 

 そこにいた全員が驚き、戦闘が一度止まる。

 

 中にはHPが0になり、倒されたプレイヤーが出る中………

 

 翻る蒼いコート。

 

 地面に突き刺さる、大剣。槍を背負い、持てるだけの装備を持って、一人の戦士が現れた。

 

「だ、誰だお前はッ!」

 

「シャムロックに、たった一人でたてついて、ただですむと」

 

 

 

「知るかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――」

 

 

 

 それは沈黙や、物静かな口下手の青年から発した声にしては、大きな声。

 

 空間を震わせる意思と声に、数が多いシャムロックはひるむ。

 

「悪いが、ここから先は通行止めだ! これ以上先に行くのなら、消えてもらうッ」

 

 蒼いコートを翻して、片手剣を構え、サラマンダーの剣士が二つの間に現れる。

 

「おいっ、彼奴の持ってる武器っ」

 

「まさか、レア武器かっ!!?」

 

 驚く中で、それでも彼らは数の優位は消えない。

 

「いくら現れたところで、メイジっ」

 

 メイジ職のプレイヤーが魔法の詠唱に入る、だが、

 

「っ!?」

 

 瞬間、彼らの眉間が射貫かれた。

 

 剣士はいつの間にか弓矢を装備していて、瞬時に放たれたらしい。

 

「テイル、お前」

 

「ここは俺に任せて、先に行け!」

 

「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 

 向かってくる敵プレイヤーに、瞬時に剣を抜き、切り払い、喉元を貫き、切り払う。

 

 その瞬間的にプレイヤーを討つ姿に、全員が戦慄した。

 

「いまの動きなんだよっ」

 

「ただのプレイヤーじゃないぞ! ぜ、全員でかかれッ!!」

 

「………来いッ!」

 

 蒼い炎が舞い上がる。

 

 向かってくるプレイヤーが炎と変わり、様々な武器を巧みに変え、瞬時にHPを0にした。

 

 その中に、瞬間的に防御力が高いプレイヤーに、連撃が叩き込まれる。

 

「な、なんだあのスキルっ、まさか」

 

「OSSっ、オリジナルソードスキルっ!?」

 

 このゲームには、オリジナルのソードスキルを作るシステムがある。

 

 それにより、再現された、授けられた剣技だ。

 

 オリジナルソードスキル。その衝撃に彼のソードスキルの硬直が解ける隙を与えて、そして彼は一歩前へ乗り出す。

 

「おっらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 剣が発光し、交差するように突進して、周りを飲み込みながらプレイヤーを切り刻む。

 

 一気に隊列が壊され、その後も彼は隊列の中で暴れ狂う。

 

「ははっ、なんかすごい援軍を呼んだようだ」

 

「キリトくん、まさか」

 

「いや俺はそこまで知らなかったよ、あとで問いただそうぜ」

 

 そしてキリトたちは、いま対峙するシャムロックを見る。

 

 増援がたった一人に踏み散らされる様子に驚愕している好機を、キリトは見逃さない。

 

「さあ、ここを突破してっ、ボスに挑むぞ!」

 

 そして彼らをボス部屋に入れた後、一人の番人が守り通した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「まったく、一人で片付けたわね………」

 

 シノンがそうぼやく中、レア武器を持つ仲間に愚痴る。

 

「ってかお前さん、物凄すぎだろこれ!」

 

「そうですよ、凄すぎです」

 

 シリカの問いかけに、静かに座り込む。

 

「隠してたわけじゃない、タンクとして活躍が多いから言う必要はなかったからだよ」

 

「OSS、オリジナルソードスキルは?」

 

「それは………やっぱり、そのな………」

 

 剣を振りながら、レア武器だが、もう使えそうにない。

 

 だいぶボロボロになり、ギリギリの戦いだった。

 

 攻撃をギリギリで避け、矢や投げ槍、剣技。

 

 持てるすべてを持って防衛し、クラインが自分の知り合い、ギルドを連れて防衛に来たり、仲間たちが駆けつけたりした。

 

「お前さんが血相変えて出て行って、心配したぞ」

 

「悪い……。そう言えば、どこかのギルドが、クエストにチャレンジするって聞いていて………」

 

「もしかしてって思ったのね、それでこれってあんたは」

 

 シノンが呆れながら、俺は黙り込む。

 

 仲間たちには悪いが、こう言いまわすしかない。ギルドはどこがは知らないが、シャムロックに変わっていて、俺はどうにか間に合ったようだ。

 

 多くのレア武器がダメになったが、後悔は無い。

 

「………」

 

 ともかく、いまはこれで防衛成功した。

 

 そんな話をしながら、やっと一息つく。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………」

 

 あの後、なぜかキリトたちと連絡がつかない。

 

「ボスは倒したんだよな?」

 

「だと思うが、だが連絡が無いのはどういうことだろう」

 

 疑問に思う中、誰かが店に入ってくる。それは、

 

「あれ、あなたは」

 

「すいません、連絡がついていないと思いまして」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 エギルの店で、とあるプレイヤーが訪ねてきた。

 

 彼女は、

 

「私はスリーピングナイツの一人、シウネーと申します」

 

「シウネーさん、ボス戦はどうなったんですか」

 

「それは、皆さんのおかげで勝利を収めることができました」

 

「そうですが、ですけど」

 

「はい………」

 

 そしてしばらく考え込むが、意を決して、シウネーさんはスリーピングナイツのメンバーのことを教えてくれる。

 

 それは重病患者たちの集まりだと言う事。

 

 そして、ここ最近、治療のことなど考えて、解散する。

 

 そのことがあり、自分たちがここにいた証の為、今回のクエストだ。

 

「確かクエストクリアの証で、名前がゲームの石碑に刻まれる。だっけか?」

 

「はい、他のギルドメンバーと組むと、リーダーだけですが、一組で攻略すれば、メンバー全員の名前が残ります」

 

「そして、ユウキ、あの子は」

 

 アスナは解散するギルドと知りながらも、仲間に入りたいと言う意思で、側に近づこうとした。

 

 だがユウキはそれを拒んでしまう。

 

「ここ最近、あの子は少し。なにか思い悩んでいる様子で」

 

「病気が悪くなったりですか」

 

「それは分かりません、ですけど、ここ最近、みんな集中して治療すれば治る話は、最近出始めてます」

 

 それに俺は驚いた。彼らのその後は、ただの記憶の為、思い出せなかったが、そんな偶然あるのか?

 

 神様が、手を貸してくれたのだろうか。そうしなきゃいけなかったのか、いまは分からない。

 

「………ユウキはどうですか」

 

「それは………そう言えば」

 

 話を聞くと、ユウキは最近、自分の病気のことを話していない。

 

「なにかあったのでしょうか」

 

「悪くなる話という訳は」

 

「それはない………」

 

 その時、何か思いついた顔になる。

 

 彼女から詳しい話を聞くと、ユウキには姉がいた。

 

 いた、なのだ。

 

 自分と同じ病気で、双子の姉がいた。

 

 俺の願いは届かなかったのだ。

 

 いまのユウキは一人で闘病生活している。

 

 ユウキが何を抱えているか分からない。現実で会うことできない。

 

「………ユウキとはちゃんと話さないとな」

 

 キリト、アスナが先だろう。

 

 俺に………会う資格は無い。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それから少しして、ユウキと仲直りできた。

 

 私はユウキからマザーズ・ロザリオを受け取り、スリーピングナイツのみんながやってくる。

 

 そして、

 

「みんな、聞いてほしいんだ」

 

 全員が集まる中、ユウキは自分のことを話しだす。

 

 スリーピングナイトと、私たち。

 

 その中に、炎のように荒れ狂った彼もいる。

 

 実は特殊な手術方法で、仮想世界に意識をフルダイブし、身体をその間治すという、簡単な説明をスリーピングナイツのみんなと共に、私たちに説明してくれた。

 

 そして、

 

「実はね、最近になってボクと骨髄移植できる、ドナー登録者さんが現れたんだ」

 

「それって!」

 

「うん、もしかすればボクの病気、治るかもしれないんだ」

 

「それならユウキっ」

 

「受けるべきですよリーダー!」

 

「俺らだって治るために離れたりするんですよ、リーダーも治るために受けるべきです」

 

 そんな話の中、ユウキは僅かに身体を震わす。

 

「ごめん、怖いんだボク」

 

「手術が怖いの」

 

「それもある、けど、その人に迷惑をかけるんじゃないかって」

 

「ユウキ」

 

「その人、病院から連絡を受けたら、説明を聞きに来てくれた人だけど。怖いんだ、自分の病気に巻き込むのが」

 

 そう言うユウキ、いまそのことで、かなり先生と話しているらしい。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 気のせいか、どこかで聞いた話だ。

 

「………」

 

 そう、聞いた話だ。

 

 今朝も親と共に、受ける子が決心したらすぐに受けないとねとか話して、

 

「手術は一応するから、体力作りのために肉食いなさい」

 

 とか母親に、熊肉とか食わされたっけ。

 

 ………ははっ………

 

 だからあんな夢を見たのか………

 

「ユウキ」

 

「? テイル?」

 

「………手術を受けよう、ユウキ」

 

「………ボクは」

 

 沈む顔をするユウキへ、俺は一歩踏む出す。

 

「俺はお前を救いたい」

 

「テイル?」

 

「お前を助けたい」

 

 そう言って、ユウキの手を握る。

 

「………『神様は、私たちに耐えることのできない苦しみをお与えにならない』」

 

 その時、ユウキの目が見開き、俺は静かに抱きしめる。

 

「ドナー登録で、ある患者に手術拒否されたけど、準備だけはお願いしますと言われてから、変な夢を見たんだ」

 

 これで変な奴として見られたっていい。

 

「それ………って」

 

 涙目で聞き返すユウキに、その涙をぬぐいながら、

 

「夢の中で、親子が出てきた。妹を、娘をお願いしますって……」

 

「そ、んな、けど、あの言葉は」

 

 首を振り否定しそうになるが、その手を握りしめながら伝える。

 

「ユウキ、俺とお前が出会ったのは、神様が出会わしてくれたからだ………」

 

「そんな、けど、だけど、テイルが?」

 

 首を振りながら、それでも静かに話しかける。

 

「俺は夢の中で出会った親子の願いを、お前を救いたいと言う願いを叶えたい」

 

「てい、る………」

 

 涙を流す少女と共に、俺は俺の願いを、みんなの願いを叶える。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 翌日、透明なガラスを隔て、一人の少女と青年が向かい合う。

 

 その側に両親もいて、ユウキ、彼女と向かい合う。

 

『テイル、なんだよね?』

 

「ああ、リアルネームと同じだったんだな。ユウキ」

 

 いまユウキは仮想世界にアクセスし、そこからスピーカー越しに話をしている。

 

 母さんと父さんは医師の先生と、詳しい日程などの話をしていた。

 

「お前だと知った以上、無理してでも受けるよ………」

 

『………けど』

 

「俺は手術をいつ受けてもいいようにって、母親に毎度肉類食わされたり、野菜食わされたりしてな。さすがにマグロの目玉は飽きた」

 

『どんな食事情!!?』

 

「ウチは自分より他人のことばかり考えるんだよ」

 

 そんな話をしながら、透明な壁に手をかける。

 

「ユウキ、治ろう」

 

『………テイル』

 

「………俺の、俺の名前は―――」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ボクらの手術は滞りなく進み、成功。

 

 テイルや、テイルのご両親、アスナも駆けつけてくれてました。

 

 そしてボクはその日、夢を見た。

 

「っ!? 姉ちゃん………。それに」

 

 二人と出会い、ボクはテイルが会わせてくれたと聞いてから、いっぱい、いっぱい話し合った。

 

 全てが終わり、時間が来るまで、ボクは夢を見続けた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 こうしてユウキ、紺野木綿季の手術が終わり、俺はぼーとしていた。

 

 これからログインとかどうするかとか、色々考えていると母親が、

 

「木綿季ちゃん引き取るかもしれないからね」

 

「はい?」

 

 そう唐突に言われた………

 

 本気、なのかな。少し不安だ………




彼の願いを変えて、少しでも良くなるようにとかえられた願いです。

後書きもここで、お読みいただきありがとうございます。


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第8話・クラウド・ブレイン

そろそろ話が追加シナリオ以外纏まってきました、タグもそろそろまとめないと。

それでは続きをどうぞ。


 手術は無事成功し、木綿季の体調は良好だ。

 

 家族なぞ、俺より木綿季の方に行く。げせぬ。

 

「みんな~」

 

「………」

 

 二人の出現に、メンバー全員が驚く。

 

「ユウキはともかく、テイルはどうして」

 

「特別に、手術後の患者のケアに、フルダイブ技術は有効か。そういう理由付けして、先生が病室で特別に使用許可をくれたんだ」

 

 先生には本当にお世話になっていた。

 

 こうして裏世界、新エリア最終面を開始する。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「はあ~、テイルと一緒なのに、薄暗いフィールドだな~」

 

「最終面らしい面らしいな………」

 

「ああ、最近はシャムロック、というより、セブンを慕うクラスタ。ファンが協力し出してるらしいけどね」

 

「ライブでも、協力を頼んでるらしいですよ」

 

「そうか………」

 

 そして片手剣と盾を構える。

 

 この前の大乱闘で、俺は大幅に武器を使用してダメにした。

 

 また同じことをすると、より持ち物をダメにするだろう。

 

 その様子に、メンバーは、

 

「頼りにしてるぜ、《蒼炎》」

 

「? それって」

 

「知らないようだが、いまお前はALOで有名なトッププレイヤーだぜ」

 

「そうそう。シャムロックのメンバーを焼き払う、蒼いサラマンダーって話です」

 

 リーファそれなにそれ? 俺がなにしたの?

 

 いや、骸骨の戦士の技を大いに振る舞ったな。それかッ!

 

 弓矢の扱いに、シノンが勝負を挑んできた。いや、俺は的確に射貫くだけで、飛距離は無いよ。

 

 そんなこんなしていたら、団体さんが訪ねてきた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 レイドギリギリ、多くの団体プレイヤーが一斉にキリトたちを取り囲む。

 

「これは」

 

「最近、シャムロックと競い合う、スプリガンキリト、《蒼炎》テイル一行だな」

 

「だとしたら」

 

「君たちには悪いが、このクエストの勝利者は、セブンに譲ってもらおうか!」

 

 そう言い、全員が武器を構え、キリトが静かに構えながら、

 

「お前たちはセブンのファンか?」

 

「俺たちはセブンの信奉者!! 七色博士の理論を信じ、そしてセブンの歌声とメッセージを愛する者だっ」

 

 セブンファンということだが、こういうスタイルもありと言えばありか。

 

 セブンの理論は確か、このゲームは他種族と競い合うスタイルが想定されたメインだが、他種族同士の強力でプレーしようと言う感じだったな。

 

 そう考えながら、キリトが前に出た。

 

「でもスメラギはこういった横取りのようなことを嫌っているはずだ、お前たちは誰の指示で動いている」

 

 そうキリトは確信しているという顔で彼らに尋ねる。

 

 だが彼らは得意げに自らの意思と言い、逆にスヴァルトエリア攻略をセブンに捧げろとまで言い始めた。

 

 ………

 

 この数ならば、

 

「レイドギリギリにまで数をそろえたか………ここは譲るしか」

 

「取り残しを頼む………」

 

「テイル!?」

 

 一人だけ、ここを引き渡すという選択肢を持たない男がいる。

 

 装備は蒼のコート、盾と片手剣。サラマンダーの剣士。

 

「無茶だよ、向こうはレイド、数ギリギリまで人数揃えているのにっ」

 

「問題ない」

 

「! そうか、ОSS」

 

「《蒼炎》かっ、その異名、見せてもらおうか!!」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 無数の敵が一瞬で自分を囲む。

 

 だが瞬時身体をひねり、勢いをソードスキルに乗せて、全体に放つ。

 

 基本技『回転斬り』、まさかOSSで再現できるとは思えなかった。

 

 硬直時間、一斉に周りをメイジ職が囲み、魔法を唱える。これは、

 

「セイッ」

 

 放たれた火球を纏めて盾で弾いて、瞬時相手の真横へと飛び、前転し、飛び上がると共に背後を斬る。

 

「なっ、何だこの動きっ」

 

「ちッ」

 

 何人かが同時に斬りかかるが、盾と剣でさばきながら、一瞬に避けて、彼からすれば、ゆっくり世界が動くと共に、連続で剣撃を叩きこむ。

 

 巨大な斧を持つ大男が迫る中、盾で体当たりを決めて、ひるませた瞬間飛び、兜を割り、背後を斬る。

 

 剣を仕舞い、矢をつがえ同時に放つ。それがクリティカルし、一瞬で終わるプレイヤーがいた。

 

「剣を仕舞ったぞっ」

 

「いま」

 

 だと一瞬間、彼は剣を取り出し、すでに斬り裂く。

 

 その軌跡は抜くと同時にソードスキルを使用した後を描きながら、すぐに硬直が解け、剣を振るい飛び上がり、剣を振り下ろす。

 

「す、すごい……」

 

 キリトは分かる。あれはソードスキルと言うより、自身の、スキル外スキルにて放つ技だ。

 

 その中、弓矢と剣を交差させ、彼は、また一人で、

 

「って、また片手剣砕けたっ」

 

「うそっ、あれってけっこうなレア装備よっ」

 

 どうも一気に耐久力を失い、次々と予備をウインドから取り出し、次々とダメにしていた。

 

 なるほど、

 

「彼奴が剣に重みを求めるのは、耐久力からか」

 

 そう呟きながら、彼らも戦闘に参加して、撃退する。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「バ、バカな………」

 

 全員が俺の戦闘スタイルに驚きながら、全てほぼ一人で撃墜した。

 

「凄いわ………特殊な武器を使ってるわけじゃないのに、キリトのようにソードスキルを使い分けてる」

 

「ああ、武器の質も負けてる気はしないが、さすがだな」

 

「………こういうのは、慣れている」

 

 骸骨の戦士から伝授された動きを再現したものが多いだけで、後々OSSが習得が難しいものと知るが、それで再現した技もある。

 

 そう言うことなので、俺は黙り込むしかできない。

 

 何とか攻略は続行できるが、

 

「とはいえ、セブンの影響力が暴走してるな」

 

「ああ、最近はエギルの店にも来られないようだし……。一度、セブンのライブを見ておこう」

 

 なにげに急に始まるコンサートにはしゃいでいるクラインを見ながら、こうしてライブを見ることになる。

 

 そんな中、手首だけで剣を回す。

 

 いまだ手になじむことはない………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 大勢のアバターが集う中、歌姫セブンを待ち焦がれる。

 

 そして、

 

『みんなーーー、プリヴィエートーーーーー!』

 

 歌姫セブンがステージに現れ、会場は熱気に包まれる。その歌が披露されるが、

 

「………?」

 

 気のせいか、いまの挨拶は聞き覚えがある。

 

 どこだったか………

 

「どうしたの?」

 

「どこか具合悪いんですか」

 

 ユウキやシリカが話しかける中、

 

「少しセブンの挨拶が……。いや、なんでもない」

 

 そしてセブンが、歌が終えた後、自分たちのギルドの協力を、クラスタたちに呼びかけ始めて、クラインが乗り出した。

 

 とりあえず黙らせておく。

 

「ともかく、この前のことはクラスタの暴走なのは分かった。俺たちは俺たちで攻略を進めよう」

 

 こうしてまた一時解散するのだが、

 

「セブンちゃあぁぁんうぅぅぅぅぅぅ」

 

「………キルか?」

 

「いいわよ」

 

「待て待てシノンっ、テイルも待て」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 探索の中、しばらく情報収入やらアイテム、色々やる中、シリカとユウキと共に三パーティーと一匹で見て回る。

 

「この辺りはもう探索済みですね」

 

「シャムロックや、それに協力するプレイヤーばかりだな。自分で攻略するのは、もうほとんどいないんだろう」

 

「とりあえず、このダンジョンに取り逃しのアイテムはなさそう………ん?」

 

 ユウキが耳を立てると共に、周りを見渡す。

 

 どうも誰かが戦っている。そちらへ向かい、物陰から様子を見ている。

 

「ソロプレイヤーみたいですね、HPが減って、このままじゃ危険です」

 

「別にイベント中ってわけでもなさそうだな」

 

 そう言うと、向こうも二刀流の女性プレイヤーで、危険な状態だ。

 

 それを見た瞬間、ユウキがすでに突進している。

 

「ユウキっ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「クッ………このままじゃ、だめ………」

 

「やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

「えっ」

 

 ユウキが一気に敵エネミーをひきつけ、それに続くように斬撃を飛ばす。

 

 困惑するプレイヤーには、シリカが向かって、前に立つ。

 

「あっ、あなた、シリカっ」

 

「えっ、わたしのこと知ってるんですか?」

 

「シリカはその人の側にいてくれ、残りは」

 

「ボクらが倒す!」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ふう、どうにかなったな」

 

「やっぱり、テイルの大勢用のOSS凄いよ、囲まれてる中、一網打尽なんだもん。それで一気に倒して」

 

「そういうのより、魔法の方が早い時があるけどな………」

 

「………」

 

 驚きの表情でこちらを見るプレイヤーを見て、僅かに驚く

 

「君は」

 

 その外見アバターと、喋り方が男性のようにしている子で、シリカはそれに、

 

「その喋り方、もしかしてクロさん!?」

 

「うん、そうだよシリカ」

 

 どうも前は違うアバターで遊び、クロと名乗り、シリカたちと冒険していたらしい子、ルクス。

 

「ルクス、ルクスなのか」

 

「ああ、そうだよテイルっ。君もALOをプレイしてたんだね」

 

「………テイルの知り合い?」

 

「ああ、数少ない、話ができるプレイヤーだ」

 

「それって………。どういうこと?」

 

 ルクスに、人付き合いが苦手なことを伝え驚かれる中、フレンド登録しても問題ないだろうと、皆に連絡した。

 

 リーファ、リズベットは喜んで、スクショを頼まれて、みんな喜んでいた。

 

「君が無口なのは、どう話せばいいか分からないからだったんだね」

 

「………」

 

「テイルさん、そこは頷くだけじゃなくって、返事するところですよ」

 

「ああ……」

 

「まあそれがテイルらしいけどね」

 

 そう仲間たちに言われながら、こうしてメンバーが増えた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 新たな仲間が加わりつつ、攻略を進めると、ボスらしいエネミーを倒し、新たな道を開く。

 

 だが、このボス攻略は、俺たちで二組目らしい。

 

 シャムロックたちが前に進んでいるが、攻略の難易度も上がる。まだ進めるため、全員でさらに奥へ進む。

 

「さすが最終エリア、みんな大丈夫か?」

 

「問題ない」

 

 全員が、多少難易度が上がり、難しい攻略の中、シャムロックにお追いつくため進んでいく。

 

 多くの仲間がいる中、レインはすでに輪の中に入っている。

 

 新しく入ったルクスもまた、楽しそうにみんなの中にいた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ボス部屋らしきフロアに来ると、多くのプレイヤーが倒れていたり、リメインライン化、つまり蘇生待ち状態のプレイヤーが多くいる。

 

「セブンクラスタの奴らだな、HPギリギリの奴もいるが、ゲージが尽きるのも時間の問題だ」

 

「これは、予想より凄いんだね………」

 

 中にはそれでもセブンのためにと鼓舞し、まだ挑もうとするが力尽きるプレイヤーが出る中で、静かに先に進む。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 先の出来事を作り上げたと思われるボスエネミーに対して、キリト、テイルが一気に斬り込み、周りに出るエネミーを仲間たちが倒す。

 

 二刀流使いの連続に、やっとボスエネミーは倒れ、一息つく。

 

「平気かキリト」

 

「あっ、ああ……。さすがテイル、息切れしてないんだな」

 

「いや………」

 

「分かりづらいだけか……」

 

 苦笑され、そしてそんな会話をしていると、

 

「! セブンっ!?」

 

「?」

 

「ようやく来たねキリト君っ、そして《蒼炎》テイル君。それにみんなっ♪」

 

 嬉しそうに言うのは、セブン。その側にスメラギと言うプレイヤーがいる。

 

 だが、

 

「俺の記憶が確かなら、セブンは確か強くないはず。どうしてここにいるんだ?」

 

「うん、プレイヤーとしての腕前は強くないよ。けどね、どうしてもここにあたしが来なきゃいけなかったの」

 

「どういう意味だ」

 

「ホントは怖かったけど、ALOで行いたかった実験も最終段階だからね」

 

「実験? 最終段階?」

 

 そんなの知らないぞ。

 

 ALOの話は、確かリーファの話とユウキの話だけ。

 

 だがリーファの話、すまない知らん。ユウキの話はもう終わっている。

 

「あたしたちは、ここで《クラウド・ブレイン》をここで実現して見せるの」

 

「くらうどふれいん?」

 

「その話をするため、セブンはここで貴様たちを待っていたのだ。せめてもの償いの為にな」

 

 スメラギの言葉に疑問に思う中。あるクラスタが不当なやり方で妨害していたことを、言っているらしい。

 

「だけどあなた、テイル君のOSSで倒したんでしょ♪ どんなOSS!? しかも他にもあるって凄いね~♪」

 

 なんか俺に話しかけてきた、助けてキリト。

 

「それで、そのクラウド・ブレインってのは、こんなとこで話す内容なのか」

 

「別に隠しているわけでも、悪い事しているわけでもないんだけどね。真実を言えば、キリト君たちだってきっと協力してくれるはずだもん。みんなもね」

 

 こうして一度町に帰る必要もあり、いったんエギルの店に移動する。

 

 だが………

 

「………」

 

 たった一人、不穏な気配に、ただ静かに考え込む。

 

「実験………何をする気なんだ………」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 エギルの店に着き、全員が一息つく。

 

「ふう、ここのミルクティーはおいしいわね」

 

 一息つき、まず最初に、クラスタの暴走にいての謝罪から始まった。

 

 セブンとしては、みんなで仲良くしていきたいと、それだけは伝えながら、話は続く。

 

 いま自分たちがしていることは、茅場晶彦とは違うと自信を持って言えると。

 

 スメラギも禁則事項を犯していないし、誰もだましていないと、それは本当なのだろう。

 

 それでも行き過ぎた行動をした者のことに対して、律儀に謝罪する二人。

 

 そして本題だ。

 

「キリト君、そして仲間のみんな。もう少しだけ我慢してくれないかな? そして、できればあたしのこれからやろうとしていることを、協力してほしい」

 

「例のクラウド・ブレインか」

 

 キリトの問いかけに、授業を始めるように、彼女は語りだす。

 

 いままでセブンはプレイヤーたちに呼びかけ、シャムロック、クラスタと言うコミュニティーを確立した。

 

 それは心と魂の繋がり。一つの目的の為にまい進しようと言う、人間が持つ崇高な意思の働き。

 

 社会性を持ち、協力し合うことで生まれる高次元の意思。

 

 ネットワークを介して、新たな力を作り出すことができる。それが、

 

「クラウド・ブレイン………まさか、人の意思をネットで管理、演算させるのか」

 

「さすがだねテイル君っ、もう少し説明するとね」

 

 人が持つ演算処理能力をネットワーク上で一つにまとめ上げ、クラウド化して共有する。

 

 そしてコンピューターのCPUには作り出せないハイスペックかつ情緒的な演算処理システムを構築するらしい。

 

「君はその実験を、スヴァルトエリア攻略中に行おうとしているのか!?」

 

「うん、キリト君も見たでしょ? あたしのライブ中、みんなの心が一つになっていったのを」

 

 そう言われ、ライブの光景を思い出す。

 

 だが、本当に実現は可能なのか?

 

 それは俺と言う、異質な存在がいることで、どうしても思ってしまう。

 

 みんなと違う、それをはっきり分かるため、俺は彼女の思いが分からない。

 

「わたしはその開花を、実現して見せる」

 

 その笑顔で語る少女の言葉が、胸に刺さった。

 

 そして彼らはセブンと言う偶像を祭り上げ、ゲーム攻略による、精神の統一によるデータ収集が目的と語る。

 

 だが、そう見えない。俺は知ってしまっている。

 

 俺と言う、異質を。

 

 転生者じゃない、人とどう触れあえばいいか分からない人間。

 

「お願い、あたしたちに協力して」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 結局、キリトたちはみんなとゲームを攻略する。それが答えだ。

 

 俺もまた協力はできないため、断って正解と思う。

 

「………」

 

 難しい顔をしていたからか、キリトが、

 

「考えことか」

 

「………実験がな」

 

「気になるのか」

 

「………大変なことにならなきゃいいが」

 

「それはどういう意味だ」

 

 周りを見ると、こちらを見る仲間たち。それに頭をかきながら、

 

「俺は、こんな性格だ………。一つになることを拒む、異質………」

 

「それは、そんな言い方は無いよテイル」

 

 フィリアにそう言われたが、首を振る。

 

 俺は言う。キリトが話しかけ、フレンド登録を持ちかけていなければ、亡霊のようにフィールドを練り歩く、ただのプレイヤーだったと。

 

「それを考えれば、彼女は………。一つになる勇気が無い個体を、想定してない気がしてな」

 

「テイル」

 

「みんなには感謝している………」

 

 そう言ってしめくくり、俺はログアウトした。

 

 だが、本当に、何事も無ければいいが………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 病室で考え込む。

 

 この世界は俺の知る世界では無い。

 

 だからこそ、この世界の物語があるのではないか。

 

 そんなことを考えながら、アミュスフィアを手に持つ。

 

「………」

 

 俺はとりあえず、レベル上げなどしておこう。

 

 どうしても気になる、セブンの実験。

 

 キリトたちが楽しんでいることもある。

 

 いまはできることをしよう。

 

「リンクスタート」

 

 そして仮想の世界へと飛び込んだ。




先生の好意に甘えて、ゲームをする。動けない患者は、VR世界はいいと思う。

勇者の技を再現し、不安な影を感じてスキル上げをし出す。チートは外せないな。

それでは、お読みいただき、ありがとうございます。


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第9話・ラストソング

タグはこれでまとまったはずだ、これで変更はもうしない。はず。

こんな作者ですが、これからも物語を面白くしながら頑張ります。

ロストソングも早く進んで申し訳ない。

それではどうぞ。


 こうして攻略を進める中、ついに最終面を攻略する戦い。

 

 すでにキリトたち以外だと、シャムロックとセブンファンしかいなくなる。

 

 レインたち、仲間たちと共に過ごす。

 

「予想通り、強い敵がわんさか出て来るね。すごく大変………」

 

「そうだね、この辺りまて来ると、さすがに一筋縄じゃ行かなくなるね」

 

 戦いの中、少し一息つくときだった。

 

 それをきっかけに、キリトがレインに、セブンの実の姉に話しかける。

 

「な、なに言ってるのかな?」

 

 レインは否定しているが、キリトはなにか確信している。

 

 ゲーム内でリアルの話はご法度だが、キリトは独自のルートで調べたらしい。

 

 その人物がレインに七色博士の情報を教えている。その理由はレインと七色博士が生き別れの姉妹だからと。

 

 キリトが聞いたのはここまで、リアルの名前は聞いていない。

 

 実の姉と言うこともあり、運営側から特別に情報を得ていた。

 

 それがレインがシャムロックの動向を知る秘密。

 

 そしてキリトたちのことを良く知るのは、

 

「それは彼女が俺たちと同じサバイバー。帰還者だ」

 

「それじゃ」

 

「ああ、《沈黙の蒼》。その名前も知っているはずだぜ」

 

 それは恥ずかしいんだよキリト、後から聞いて驚いた。

 

 その言葉に、レインは静かに黙り込む。

 

 それだからレインはシャムロックに入団しようとした。セブンのことが気になったから。

 

「………はあぁぁぁぁぁ、バレちゃったか」

 

 もうここまで来ればと諦めるレイン。

 

 そしてこちらを睨む。

 

 まさか、

 

「そのまさかだよ、わたしはあんたの武器防具の我が儘を聞いた、鍛冶師レインだよっ、もう」

 

「って、テイルが贔屓してた鍛冶師なのかっ!?」

 

「全然気づかないんだもん、こっちはひやひやしてたのに」

 

「だが、あっちは………あっ」

 

 そうか、あっちじゃ茅場晶彦でリアルに戻されたんだ。

 

 だから気づかなかった。

 

「全部を言えだなんて言わない。けど、せめて仲間の俺たちを、納得させてほしいんだ」

 

 そして潮時と言い、静かに語る。

 

 レインは『枳殻虹架』と言い、セブンの実の姉。

 

 だがセブンは知らないらしく、それほどまでに小さい頃に別れたらしい。

 

 そして自分は趣味も含めてバイトをしている。メイド喫茶で、歌を歌ったりしている。

 

 その歌には覚えがあった。

 

(そうか、町で出会ったメイド喫茶の子っ。レインだったのか)

 

 町で聞いたメイド喫茶の歌い手、それがレイン。

 

 時折聞きに行ったが、まさかレインと思っていると、

 

 レインはセブンに近づいたのは、ひがみ、と言って………

 

 歌で成功しながら、博士として成功している。

 

 だから失敗を見つけて、スキャンダルを仕立てあげようと、

 

「………」

 

 キリトと目が合うが、いまはいいと首を振る。

 

 そしてレインが言うには、セブンは小さい頃から天才で、父親は七色の才能を伸ばすため、大学に働きかけた。

 

 だが母親は逆で、普通の子として育てようとしたらしい。

 

 それでケンカ別れしたらしく、こうして多くのことを語り終え、そしていまの本心は、

 

「みんなと一緒に、スヴァルトエリアをトップで勝ち抜きたい」

 

 そして七色に、ちゃんと自己紹介したい。

 

 その言葉にみんな頷き合い、静かに攻略へと戻る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「のはずなのに、キリトは」

 

 スメラギが途中で待ちかまえ、キリトとの決着を付けるため戦いを仕掛けられた。

 

 正直、全員でかかれば早く済むのだが、キリトは一対一で挑む。

 

「ああもう、キリトくんったら」

 

 仲間たちが呆れる中で、誰もキリトが負けることは考えていない。

 

 そして決着が付き、セブンは幹部と共に、ラスボス戦に挑んでいるらしいため、急ぐ。

 

「………」

 

 スメラギと言う男が、公平を考え、キリトへの足止めを受け持ったことは理解できる。彼はそういうプレイヤーなのだから。

 

 だが、妙にセブンが勝つ事に、疑いが無さすぎる。

 

 なにかが引っかかる中、奥にたどり着く

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 奥の部屋、一番気配、雰囲気が違う部屋の前に来て、その扉を開く。

 

 そこにいたのは、

 

「プリヴィエート、キリト君。みんな」

 

 セブンが一人、炎が舞う中に一人立っている。

 

「君だけか………。他のシャムロックのメンバーはどうした?」

 

「みんなもうやられちゃったよ。本当に強かった」

 

 妙な違和感を感じる。

 

(いつものセブンではない)

 

 そしてセブンは言う。

 

 ОSSの引継ぎ、このエリア限定のやり方。

 

 元の使い手が使えなくなる代わりに、熟練度まで引き継ぐ方法。

 

 それを使い、自分はいまラスボスを倒したと、セブンは言う。

 

 シャムロックが持つ、このエリア限定アイテムを使い、ОSSを引き継いだと語る。

 

 最初に話した実験、一つに、多くの者たちが揃うことの変形。

 

 本人が言うには《ラグナロク・パストラル》と語る。

 

 本人はネットワーク社会の新たな一歩と語るが、戦慄した。

 

 それは、俺のような奴が淘汰される世界なんじゃないかと思えたから………

 

「システムで許されているとはいえ、プレイヤーたちのゲームの体験を、経験値を摘み取ったんだぞっ」

 

 それはそのスキルを手に入れるために、どれほどプレイヤーは努力し、目指したか、キリトたちは分かる。

 

 その全てを、セブンの実験で提供していた。それはキリトたち、ゲームプレイヤーには許せないことだ。

 

 だがセブンは強要したわけではない。そう言うが、

 

「君は」

 

 実験の成功、それしか見えていないセブン。

 

 その時、レインが前に出て、その頬を叩いた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「!? レイン」

 

「………レイン、あなたは何の権限で、あたしの頬をひっぱたくのかな?」

 

「アンタのそのくそなまいきな笑みを、見ていられなかったからよ」

 

 レインははっきりと言う、それはプレイヤーの、キリトたちの言葉だろう。

 

「アンタ仮にもアイドルでしょっ、アンタの研究が崇高で、新たな技術の一歩かも知れない。それでも誰かの楽しみを奪っていいはずがないっ」

 

「あたしはみんなの期待に応えた………、みんなはその見返りをくれた。これは互いに利益を分け合う純粋な交渉よ! みんな幸せなんだからいいじゃないっ!」

 

「違う………」

 

 レインには悪いが、俺にもこの子に、言わなきゃいけないことがある。

 

 前に出て、俺は言わなきゃいけないことがある。

 

「セブン、君にOSSを渡したクラスタは、そんな理由で渡したんじゃない。分からないのか」

 

「君は………。だけど、わたしはリアルのことを明かしている。こんな潔白はことは」

 

「なら君はなぜ実験のことを伝えていない」

 

「!? それは」

 

「ここはキリトたちが、ゲームを、楽しむために作られた世界だ。どんな理由があれ、実験なんかのためじゃない」

 

「………」

 

 そうだ、ここは彼らが、俺たちが楽しむための場所である。

 

 実験なんかするためなんかじゃない。

 

 その言葉を聞きながら、セブンは静かに構える。

 

「あたしは止める気はないよ、あたしは実験を、成功させる」

 

「………違和感を感じたときに、止めていれば」

 

 やはり、問題が起きかけている。

 

「キリト」

 

 そして仲間たちも構える中、セブンを見る。

 

「キリト君」

 

「俺たちも止まる気はない、ラスボスを倒した君を倒して、そのラグナロクを止めてみせる」

 

 そして構える中、その時、セブンにノイズが走る。

 

「えっ」

 

「あたシは止まらなイっ、あなタ達に勝ってみせる!!」

 

 そんななにかが起きているのか。

 

 物語は終わっていないのか。

 

 笑い声と共にノイズが酷くなり、妖精、全く異なる姿へと姿が変わる。

 

 その変化がフィールドにも影響をおよばし、地形まで変化しだす。

 

「これって」

 

「データ過多の所為で、このVR空間にも影響を!?」

 

 全員が羽根を出して飛ぶ中、セブンは笑いながら、こちらを見る。

 

『アタしは必ず勝ツのっ、そしてミンナに認メラレつヅけるの!!』

 

「ちっ、まずい! セブンしっかりこちらが理解できるか!?」

 

「お、おいっ。セブンちゃんの様子がおかしいが」

 

「まずいと思う。さすがにこれは」

 

「っ!? テイルっ」

 

 その時、レインから剣と盾が投げ渡される。

 

 これは………

 

「あんたのために用意した、あんたの最っ高の相棒よっ!」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 風が放たれるが、それを断ち切る。

 

 すぐに手になじみ、それに剣を振るう。

 

「テイル、オメェ」

 

「……行けるッ。キリト!」

 

「ああっ、俺たちのスヴァルトエリアのラスボスはこいつだ。みんな行くぞッ」

 

『おう!!』

 

 こうして叫び声を上げるセブンへと向かい、最終バトルが始まりだす。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 無数の光弾やら、巨大な剣。明らかにプレイヤーの規模が超えていた。

 

『アッハハははハハはは―――』

 

「キリトっ」

 

「分かっていると思うがHPゲージも、プレイヤーの設定を超えているッ。精神データが仮想データの所為でおかしくなることはないが、いまは正気じゃない!」

 

「なら倒すしかないんだねっ」

 

 ルクスの言葉に頷き、全員が一斉にかかる。

 

 巨大な剣を受け止め、その隙に前衛が飛び込み切り刻む。

 

 風魔法も使用してくるが、どうにかゲージが、

 

『無駄ダよおぉぉぉおオォォっ!!』

 

 その瞬間、ゲージが回復する。

 

 高笑いする様子は、明らかに尋常じゃない。

 

「まずい、回復までするなんて」

 

「キリトくんっ、こっちのリソースの減りが早いよッ」

 

「なら防御を捨てて、前衛全員で一気にゲージを削るッ」

 

「了解!」

 

「シリカ、リズ、アルゴ、シノン、フィリア、ストレア、エギルはサポート!。ユウキ、アスナ、クライン、レイン、テイル、ルクスはソードスキルの連続を叩き込むッ! ありったけぶつけろっ!」

 

 瞬間、全員が動く。

 

 全員の斬撃が決まるが、それでもゲージが一本減る瞬間、キリト、ユウキ、アスナ、俺のソードスキル並び、オリジナルで削る。

 

 だが残り二本で、すぐに回復する。

 

「ど、どうするんだよっ」

 

「くそっ、硬直が!」

 

 向こうが回復する間、こちらはソードスキルの硬直で動けない。動ける頃には回復される。

 

 その時、ふと気づく。

 

「キリトっ、お前のソードスキルっ、二本ともで放ってなかったか!?」

 

「キリの字は特別だよっ!!、スキルコネクトとか言って、片手のスキルが終わる瞬間、もう片手でスキル発動して繋げるんだと!」

 

「………できるのか」

 

 それなら、

 

「キリト二本俺が削るッ、キリトが一本、みんなが残り一本削ってくれッ!」

 

「何を言ってるんだ」

 

「そろそろでかい来るっ、頼む信じてくれ!」

 

 その言葉に僅かに迷うが、キリトがすぐに、

 

「全員聞こえたか!」

 

 その瞬間、硬直が消えた瞬間、全員へ光の攻撃が放たれた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

『アッハハハははハははハハ―――』

 

 笑い声と土煙が立ち上る中、それは飛翔した。

 

『っ!?』

 

「セブンッ」

 

『てイるくンうぅぅウウぅぅぅ』

 

 土煙の中、俺はキリトにスキルコネクト。剣技連携を教えてもらう。

 

 右手の剣のフィニッシュが決まる前、アミュスフィアへの運動命令を一瞬全カットするイメージをし、次の命令を左の剣へうつす。

 

 つまり身体の動きを半分半分交互にカットするイメージ。

 

 なに言ってるか正直分からないがやるしかない。背中のホルダーと腰のホルダーに剣を仕舞い、構える。

 

「でえぇぇぇぇぇぇぇぇあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 右の剣が光り輝き連続が決まる瞬間、瞬時に光が消えると共に左の剣が輝く。

 

 イメージするは現実で動く、あの世界で行う連続の動き。

 

 二刀流はもう流れでやるしかない。

 

 渡された剣を軸に、元々持っていた剣で行う。

 

 その左の剣はそのままの動作でつなげ、全ての動きがすべて決まる。

 

 俺一人、ОSSのスキルコネクトで二本削るしかない。

 

「ウリィィアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ―――」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「スキルコネクトを土壇場で獲得したっ!?」

 

「これは………トドメは決めないとなッ!」

 

 キリトはバフをかけ終え、全員が動く。

 

「アスナっ、三本目はボクらだよっ」

 

「ええっ!」

 

 轟音が響く中、テイルは叫ぶように、

 

「スイッチィィィィィィィィィィィイ」

 

 切り替えの合図が送られ、クライン、エギル、ストレア、フィリア、リズベット、シリカ、シノン、レイン、ルクスが決める。

 

 そして、

 

「マザーズ」

 

「ロザリオッ!」

 

 二人が交互に放つは、11連撃の技。合計22連撃。

 

 その後、

 

『あ………アっ』

 

「セブン、君は失敗したんだ………。これで」

 

 スキルコネクトのタイミングの男が切り込む。

 

『いっヤあアァァァアあぁあァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』

 

「終わりだァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 斬撃がすべて決まり、巨大な翼を持つセブンは、地面に落ちる………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 頭を動かさなきゃいけない瞬間だったが、右脳と左脳を分けて使った気がする。もう連発したくない。

 

「だいじょうぶかっ」

 

「問題ない、それより」

 

 全員が集まる中、セブンを見るレイン。

 

「どうしてなのっ、どうして邪魔するのっ!!」

 

 そこには世間に担がれて、大人ぶって、子供らしいことができなくなった少女。

 

 その波に下りられなくなり、もう泣くしかない少女は、レインの胸を借りて泣きじゃくる。

 

 もう心配はなさそうだ。

 

「さすがだなキリト」

 

「テイル………。今回の一番は、君だよ」

 

「俺は………。俺より、お姉さんだよ」

 

 俺は綺麗な剣と、亀裂のある剣を見せる。それにキリトは苦笑した。

 

「………そうだな」

 

 こうして泣きじゃくるセブンと、それを抱きしめるレイン。

 

 全てが終わり、始まるのだろう。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 あの後の話をしよう。

 

 セブンは歳相当の少女として泣きだし、少し落ち着く。

 

 クラスタやシャムロックはこの光景は良く分からず、セブンの研究、感情を一つに纏めるなどの実験は、こうして幕を閉じる。

 

 セブンの崇高な実験は、やはりと言うか、失敗に終わった。

 

 彼女のアイドル活動も停止しだして、流行り廃りと流れる。

 

 俺は俺で、しばらくアミュスフィアは使用を控える。さすがにもう長時間、特別扱いはな。

 

「セブンとレインの関係も、キリトに任せたい」

 

 レインはセブンがプライベートもなにもかも、祭り上げられている妹が心配になってログインしていたという話。

 

 色々な話が混ざり合い、レインとセブンと、キリトが言うところ、菊岡と言う、帰還者たちに関わる仕事をしていた人が裏で糸を引いていた。

 

 キリトに全てを任せる形ではあるが、セブンとレイン、この姉妹のことを任せている。

 

 妹は、はたから見れば勝手にVR技術と言うものを、業界も遊びも祭り上げられていた。それが心配な、ただのお姉ちゃんなだけだ。

 

「それを人任せにして、あとで痛い目を見そう」

 

「いまさら何言ってるのよっ」

 

 病室にいるのは、俺がよく知る、俺の余計な注文を受けてくれた鍛冶師レイン。

 

 本人は文句がある顔で、こちらを見ていた。

 

「ともかく、キリトくんのおかげで、七色とは、仲直りかな? できたからね」

 

「わざわざ言いに来たのか」

 

「そうよ」

 

 そう言いながら、もうっと怒る。

 

 なぜ怒っているか分からない。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ずっと誰かの為に戦い続けた剣士がいた。

 

 わたしの武器を使い、ずっと守る為に戦い続けた剣士。

 

 そしてまた戦う、今度はわたしの妹の為に。

 

「あんたは変わらないわね」

 

「………俺は」

 

 無口で、ぶっきらぼうで、口下手な剣士は、

 

「今回お前の為に戦えてよかったよ」

 

「!!」

 

 そんなバカなことを平然と言う、バカな男。

 

「も、もう、テイルのバカっ」

 

「???」

 

 何もわからない男。そして、

 

「プリヴィエート、テイル君」

 

「って、七色っ」

 

「セブン………」

 

 なぜか七色が現れ、テイルのことを見る。

 

「少し気になって、会いに来ちゃった」

 

「な、なにが」

 

「えっへへ………」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 こうして俺の中のALO事件は終わりをつげ、騒がしい姉妹は、スメラギらしき男が見守る中、騒がしいまま………

 

 っていうか、そろそろ誰か、俺のリアルネーム覚えてくれ………




彼にリアルネームはあると思いますか?

次回オマケを入れて、ロストソングはこれにて終了。

多くの人に面白いと思われる作品作り頑張るぞ。

それではお読みいただき、ありがとうございます。

次はオリジンか。


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ロストソング終了

病気や法律に関して、知識0です。おかしな点があるかもしれませんが、ご理解ください。

エクストラクエスト、ロストソング。このオリ主は現状では参加しなさそうなので、その後です。


 エクストラクエスト、ロスト・ソング。

 

 それをセブンが一から頑張り、スメラギ、レインとクリア。

 

 キリトたちと共にクリアしたらしい中、一人ベットの上にいる。

 

 はずだった。

 

「テイル~」

 

「レインか」

 

「こっちじゃ虹架だよ、もう」

 

 そう言い、時折こうして虹架が見舞いに来て、ゲーム内のことを教えてくれる。

 

 スヴァルトエリア攻略し終え、いまだ作り出されるクエストを楽しむが、セブンは外国に帰るらしい。

 

「元々研究の為にいたみたいだから、お仕事がたまったらしいの。それとね」

 

 彼女たちの親子関係も修復に向かっているらしい。やはり研究に行き詰まり暴走したことが切っ掛けで、母親の言い分が分かったとのこと。

 

 いずれ父親がいる国に出向くと話しながら、自分も夢のため、歌手として頑張るらしい。

 

「ユウキちゃん、だよね、相手。手術がこのままうまくいって、治るといいね」

 

「それは」

 

 治るだろうな、なんとなく神様が関わってるから。

 

 それを切っ掛けに何か難病が治る方法を見つけたりして。

 

 そして俺自身も問題なく、このままは予定より早く退院できそうだ。

 

 ちなみに親は木綿季の方ばかりで、あまり顔を出さない。

 

「あの子を引き取るの?」

 

「それ云々はともかくとして、できればあの子の家残したくてさ」

 

 正直に言えば、あの子の親戚たちは結構もめてるらしい。

 

 病気のことがあり、避けていたおばさんですら遺書を書けとか馬鹿なことを言うほど。

 

 家を取り壊すことばかり話し合っていたが、木綿季が生き残る可能性が出て、かつ親戚でもないが、ある種とんでもない人たちが出て、家を管理権を奪おうと動き出す。

 

 木綿季の親権などぶん取ろうとしている我が親だが、このまま放置しよう。

 

「まあ、法的なものとかは母さんたちに任せてるよ。俺はどうなろうと、あの子のためになるならいいし」

 

「テイルの親御さん、そういうの詳しいの?」

 

「ああ」

 

 あの子の家は、あの子の父親の遺産で十分管理できる。

 

 だが親戚はもうユウキが助からない方向で話を進めているらしい。

 

 だからこそ、

 

「こうなると我が親は強い」

 

 もうすでに知り合いの弁護士にも相談して、木綿季の思い出最優先で奪う気でいる。

 

 理由、可愛い娘が欲しいから。

 

 すでに預金も下ろして、長いスパンで木綿季の親権奪取を計画し出す。

 

 気のせいかこれもうまくいく気がすると言うか、木綿季が助かる以上、家がそれが確定するまで守られればそれでいい。

 

「そう言えば、レインはもうVRは気分転換くらいにしかしないのか」

 

「うん、悪いけどもうあんたのために剣を打てないね。かわりに頑張って夢を追う」

 

 そうはっきり言う虹架に頷き、リンゴが差し出された。

 

「とりあえず、はい、アーン」

 

「いや、さすが」

 

 その時、視線を感じた。

 

 全身から血の気が引く、入り口付近から、

 

「キリト、アスナ」

 

「えっ、あっ、ええ~」

 

 その時、せき込みながらキリトと、気まずそうなアスナが入ってくる。

 

「よ、よおテイルっ、その」

 

「言いたいことが分かるが、あまり広げないでくれ……」

 

「ああ少し気持ちわかるし」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「もうだいぶ回復したみたいだな、ユウキも元気そうだったぜ」

 

「そうか」

 

 それにホッとしながら、こうなると親の計画がうまく進む事を祈ろうか。

 

「ただテイルがいない、テイルがいないよ~って、いつも言ってますけど」

 

「あの子らしい」

 

「………」

 

 レインが少し困った顔でこちらを睨む。

 

「あんた、さすがに私との会話以外、もう少し砕けられないの?」

 

「?」

 

 何を言うか、普段と変わらないと思うぞ。

 

 そう首をかしげたが、彼女はため息を付き、キリトたちは苦笑する。

 

「ま、まあ確かに、テイルは少し口数が少ないな。正直、リアルじゃテイルは年上なんだから、気にしなくてもいいんだぜ」

 

 キリトや、君はため口では無いか。

 

「そうですね、向こうでもそう思ってたけど、テイルさんが年上なのは確かなんだし」

 

「俺だって、レイン以外にも、話せる人はいる」

 

「なによそれ、それってだれ」

 

「し、失礼しますっ」

 

 そう言い、一人の女性が入ってくる。

 

 その子は、人がいるのに驚きながら、元気そうな俺を見て、微笑んだ。

 

「テイル」

 

「ルクス」

 

 彼女が現れ、また少しこの話が広がる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「君が喋られ過ぎるのは、SAO時代からだね」

 

「キリトたちのことも知っているのか」

 

「少し昔の君の話になってね」

 

 ルクスに、そう言えばここはSAOから帰還した者たちか。

 

 そんな話であり、俺の話だが、

 

「昔からなんだから、もういいだろう」

 

「まったく」

 

 ルクスは呆れながら、アスナたちが持ってきた花を自分の分もまとめて飾り、俺はぼーとする。

 

「そう言えば、二人は知り合いか」

 

「SAOでね、彼経由で知り合ったんだ」

 

「私はこいつが贔屓する鍛冶屋で、ギルドでいろんな人がこいつのこと気にかけてたから」

 

「そんなに心配かけてたのか」

 

「………ソロだから」

 

 そんな会話だった。

 

 帰り際、シノンが弓矢の扱いでどちらが上かと言う話が上がり、競おうとしていると言う怖い話をされる。

 

 やめてほしいぜ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「息子よ、木綿季ちゃんあんたより可愛いわ」

 

 母さんたちが珍しくこちらに顔を出した。

 

 出したはいいが、んなこと言う始末。

 

「母さん、それはいいけど、あまり無茶なことしないでくれよ」

 

「いいのか」

 

 父さんは呆れながら、やはり木綿季をこれを切っ掛けに引き取る話をしている。

 

 もう血を分けたようなもの、自分の子供だ。

 

「本人の意思もあるからね、あの子の家も我が家の経済事情なら何年でも維持しても問題ないし、あんたが手かからない子だから、あの子がかわいくてかわいくて」

 

 それは五歳の頃は二十歳過ぎだからね。子供っぽく無くて悪かったよ。

 

 もうそれくらいから人格ははっきりしたし、そこからはSAOに備えて色々してたし。

 

 もう言えばSAOが終わったあの日、そしてユウキがこれで助かるのか。

 

 そうなると俺の今後の人生は仮想世界を楽しむ事と、前世より長生きすること。

 

「ともかく、あの子のためになれるように頑張りましょう。まずはあんたは早く退院してログインしてあげなさい。寂しがってたからね」

 

「はい」

 

 そう言い、母さんたちは帰るが、考えることはある。

 

 この世界のことだ。

 

 断片的な記憶を思い出す。

 

 主人公キリト、ヒロインアスナ。

 

 ALO編で聖剣を手に入れて、ユウキの物語。

 

(おかしいな)

 

 キリトたちがALOを始めたのはSAOが終了して、リハビリや検査が終わってからしばらくしてだ。

 

 だが彼らはすでにかなりの時間、ALOをしていたのは思いだせる。

 

 どこから物語が違う? それはおそらくリーファだろう。

 

 彼女だけがSAOの世界でもアバターが変わっていないのが気になる。

 

(変わったのはSAOからか、ならもう道から外れた。はずなんだが)

 

 そう言えはキリトの物語って、結構あったな。

 

 もしかすれば形を変えて、彼の物語がまだ続いているんじゃないか。

 

 彼の、というが、実際彼は無関係でもVR関係なら、関わろうとするのではないか?

 

 キリトの仮想世界への思い入れは強く感じる。それならきっと、彼は関わるだろう。

 

 それで俺はどうする? 正直SAOが終わり、ユウキの物語が終わった以上、もう前世の知識は無いと言っていい。

 

「………」

 

 残ったのは健康な身体と、多少の知識と資金か。

 

 知識は五歳児から大学生の知識があって、勉強の大切さを知って、この世界の知識を吸収した。良くも悪くもいい方だ。

 

 身体も鍛えた、無論いまも。

 

 それと彼奴より年上か。

 

「………はあ」

 

 ため息をつきながら、したいことを考える。

 

 VRはもうキリトだけが大切と思っていない。俺にとって、あの世界は大切な世界だ。

 

「ならやることは一つか」

 

 備えようか。そう考えながら、アミュスフィアを見る。

 

「………一応、理系知識集めていてホント良かった」

 

 俺はそれと医術知識、将来何になるか、定めていないが勉強した。

 

「将来はユウキが使用している機具の研究者にでもなればいいか」

 

 そして俺は同じ病院にいる少女の笑顔を思い出す。

 

 願いは違う形で叶えられた。

 

 その後は、俺が努力するのだろうな。

 

「まあ、この身体無駄に頑丈だから、むしろそこが心配だ」

 

 この身体の一部を使用している、治るのは確定。将来元気過ぎる子にならないか不安だ。

 

 だが、今後の方針は決まったことだし、今日はしばしの休みを楽しむことにした。

 

「頑張りますか」

 

 そう方向を決めて、呟く。

 

 まずは連絡先を交換したセブンとやり取りして、彼女とのコネクションを大事にするか。

 

 でも、

 

「なんであの子、嬉しそうに俺と連絡先交換したんだ?」

 

 親にも紹介したいしとか、謎の言葉を言っていた。

 

 どういう意味だろうか?

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………」

 

 七色博士は考える。

 

「お兄ちゃんってどう呼べばいいんだろうか」

 

 そんなことを呟いていた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「そう、ちゃんと伝えたのね」

 

「本人は無表情でも、内心どうなんやら」

 

 シノンはテイルにちゃんと伝えたことを聞き、弓を確かめていた。

 

 確かに、ALOでの彼の弓は正確性は確かだ。ほとんどクリティカルヒットし、倒すのだから、

 

「元気そうなんだねテイル、よかった~。おばさんたちもさっきまでボクと話してたけど、やっぱり心配だったんだ」

 

 ユウキはそう言いながら、アスナは大丈夫だよと言い、頭を撫でる。

 

 それに嬉しそうにするが、

 

「そう言えば、なでなでもテイルの方が落ち着くな。アスナのなでなでは、ユイのものだもん」

 

「えへへ」

 

 嬉しそうにするユイ。ユウキは静かに、

 

「あの日、テイルから骨髄移植受けてから、不思議なことばかりだよ」

 

「彼ってほんと不思議だね、いろんな人に頼られて。少しだけキリトくんに似てるかも」

 

「キリの字よりも口数少ない野郎だが、確かに頼りになるところと、トラブルメーカーなところとかな」

 

 クラインの言葉にリズやシリカたちが納得し出す。

 

「ちょっと待て、俺がトラブルメーカーってなんだよっ」

 

「いつも一人で危険なことしてるからでしょっ」

 

「確かに、テイルさんとパパは、事件や問題を背負い込むところはそっくりです」

 

 ユイにまでそんなことを言われ、ユウキたちは苦笑していた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 あの日見た夢を、ボクは忘れない。

 

 姉ちゃんたちと話ができたのは、テイルのおかげだ。

 

 そう教えられたし、ボクはそう思う。

 

「えへへ♪」

 

 スリーピングナイツのみんなも、病気を治してまたみんなでクエストしようと言うことで、解散はやめた。

 

 みんなの病気も治療法や、たまたま薬が劇的に効いたりしているらしい。

 

 彼がボクに見せてくれた道は、新しい物語を見せてくれた。

 

 テイルの両親は、ボクと話をしている最中だ。

 

 パパのお姉さんが病室に現れて、遺言のことを口に出した時、

 

「ふざけるなよ」

 

 ウチのバカ息子の身体使ってるんだから完治するっ、この子は助かるんだよ。んなこと言う奴らにこんなかわいい子任せられるか。私に寄こせ!!

 

 そしたらもうホント言い争いの中、どんなこと言われても無視して、ボクのために動き出したらしい。弁護士の先生まで連れて、本当にボクを引き取るつもりみたい。

 

 おじさんは苦笑しながら、名刺入れ確認して、なにか連絡先を確認してた。テイルのご両親って、なにしてる人なんだろう?

 

 二人とも優しくて、ボクのために考えてくれるけど、テイルはいいの?って聞いたら、

 

「「彼奴も君を優先するよ」」

 

 なんだか不思議と納得できた。

 

 ここ最近、なんだか心がポカポカする。

 

 テイル。

 

 不器用な口下手なお兄さん。

 

 ボクの、ボクの大切な人だよっ。

 

 ボクは、いま全力で、いまを生きるよ。

 

 そう、いまボクに流れる思いを受け入れて、全力で生きる………

 

 そして骨髄移植以外にも、ボクらの病気を治す薬が発見されたのは、数週間後だった。




ここからユウキたちの病気が治る病気に変わります。

後は失った筋力や他の病気に対する耐性に関することを整えれば、ユウキはあの家に帰れます。

それまでにテイルの両親が戦います。テイルは呆れながら支援する。

正直親戚では無いけど、ご本人の意思があれば引き取れる?と思いながら、この場合は可能にします。ユウキももうすぐ16歳ですし。

それでは、これにてロストソング編終了。お読みいただきありがとうございます。


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ホロウ・リアリゼーション編
第10話・始まるオリジン


始めよう、ベータ版というのは、いいものだ。

GGOより簡単だ、こちらはどうするの、爆弾しかゼルダ要素ないぜ………

ともかく、追加シナリオ編はやらない、あったことにするだけにしよう。

ホロウ・リアリゼーションへ、リンクスタート。


 夢を見た、久しぶりのこの世界に、俺は驚く。

 

「鍛錬か? 先生」

 

 骸骨の戦士は何も言わず、いつものように剣を抜くのを待つ、というわけでもない。

 

 訓練で無いのなら体験か? だがそれでもなさそうだ。

 

「………なにか起きるのですか」

 

 それにも何も答えず、そして俺は夢から覚めた。

 

 朝日が部屋に差し込み、俺の胸に乗る我が家の猫、三毛猫のミケが我が物顔でいる。

 

「おはよう」

 

「にゃ」

 

 今日はバイトも無く、ゆっくりできるのにな………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 病院から退院間際の息子に待っていたのは、本当にユウキを引き取るかと言う、親の考えだ。

 

 本気なのは知っていたが、息子が入院中にほとんど話を纏めているのには驚いた。

 

「………」

 

「相変わらず表情筋が動かないけど、木綿季ちゃんがいれば変わるでしょ」

 

「まあ、手続きとか、ちゃんとしないとな」

 

 母さんも父さんもそんな会話の中、俺はもう一つの問題に直面する。

 

 ソードアート・オリジン。

 

 三千人の犠牲者を出したあのSAOに似た世界観でできた、ゲームだ。

 

 世間は無論、非難の声はあった。

 

 だがそれはすでに分かり切っていたことだろう、すでに手回しが回っているとキリトが言う。

 

「やあ」

 

「………」

 

 俺は軽く頷き、エギルの店で、彼と出会う。

 

 キリトこと、桐ケ谷和人。二つ下の主人公。

 

「テイルは《SA:O》に来るのか」

 

 静かに頷き、そうかと、

 

「みんなが心配だ………」

 

「こっちでもそんな感じなんだな」

 

 テスターとしてすでにセブンに話を付けている。

 

 運営は開発協力として、彼女の名前を借りていた。

 

 このゲームの目的は、フルダイブ技術の開発が目的とされている。本人もその技術の未来を見たいから貸したようだ。

 

 本来なら、この前世に無いこの技術に魅了されて遊びたいのだが。

 

 やはりSAOと同じ世界と言うのは心配する内容だ。

 

 前世の記憶を持ち、神様により転生された俺は、三つの特典を与えられていた。

 

 それを駆使して、デスゲーム、ソードアート・オンラインの被害を、僅かでも抑えたり、ユウキと言う少女の未来を確保したはずだ。

 

 そして自身が生き残る為、『ゼルダの伝説』と言う物語から、勇者リンクの力も渡された。

 

 渡されたと言うより、伝授されたと言うのが正しい。

 

 山登りから始まり、崖上りも、モンスターとの対戦も、何もかもが骸骨の戦士から伝授された。

 

「………」

 

 家に帰り、冷蔵庫からミルクを取り出して飲み干す中、その伝授の記憶を思い出す。

 

 内容は剣が刺さる黄昏の空間で、剣を抜くと彼の体験を、自分もまた体験すると言う内容。

 

 ボス戦を始め、崖上りも含まれていたり、色々体験した。

 

 今日のあれはなんなんだろう、正直彼は口数が少ない。まともに声を聴いたことは無い。

 

「………はあ」

 

 前世の記憶から、この世界は前世では創作物に近い世界であることを知る。

 

「………人気だったからな」

 

 どんな物語が彼に待っているか分からない、そうなると何かあると思った方がいい。

 

 そんなことを思いながら、彼に初日は無理だが次にログインすることを伝えたことを思い出していた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ソフトはセブンからテスターとして招待されて、レイン以外、ほとんどALOと変わらないメンバーらしい。

 

 彼女は元々ALOは、生き別れの妹セブンに会う為だ。そこまでする必要は無いと、リズベットに、俺の癖など、エクストラクエスト時に教えたらしい。

 

「これであんたも大丈夫でしょ」

 

 そう言われていた。ちなみに俺はさすがに自重し、エキストラクエストはしていない。セブンから残念がられた。

 

 ともかく、いまはもう二日目、ユウキたちもログインしている。

 

 彼らの思いを裏切ることは許されないし、何かあるとしたら、キリトの側だろう。

 

 確証はある、彼はこういうことに巻き込まれやすいし、首を突っ込む。

 

 ならば、今度は彼の側で活動すればいい。

 

 そう考えながら、考え込む。

 

 何も無ければいいが………

 

「リンクスタート」

 

 こうして新たなゲームの世界、仮想へと足を踏み込む。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ここははじまりの町に似ている。

 

 だが名称が違い、店の数も違う。

 

 それでもSAOに酷似した世界だと、俺は思いながら歩く。

 

(まずはキリトたちを探すか)

 

 フィールドにでもいるのだろう。彼ら、もとい彼はそういうものだと、僅かに分かる。

 

 よくよく考えれば、俺はアニメの主人公と肩を並べたりしてるんだよな………

 

 あまりにぐいぐい来るユウキや、キリトのリードのおかげで忘れがちだが、ある意味夢のような事態。

 

 ………

 

 なんか緊張してきた、このまま一人、ソロでやるか?

 

 そんなことを考え出していると、

 

「………」

 

 その時、視線を感じ、振り返る。

 

 誰かが人込みの中で、俺を見ている。

 

 その子のカーソルは………

 

 それを確認し終える前に、その子は消え、いつの間にか見失ってしまった。

 

 少し辺りを見渡すが、もういない。

 

 俺が見失った?

 

 骸骨の戦士から鍛える夢を見なくなり、気を抜きすぎたか。

 

 そう思っていると、メッセージが届く。

 

 道の端に行き、メッセージを見るが、

 

(誰が送った?)

 

 俺はまだ誰ともフレンド登録できるか分からないのに、運営か?と思いながら、開くと、

 

(これは)

 

 差出人はCとなり、スペルでこう書かれていた。

 

(私は戻ってきたアインクラッドに)

 

 それを見て、首をかしげた。

 

 これはイタズラ? ピンポイント過ぎる気もするが、これはなんなんだ?

 

 そう首をかしげていたら、

 

「見つけたっ!」

 

 嬉しそうにそう言われ、後ろから抱き着かれた。

 

 驚く中、後ろを見ると、

 

「フレンド登録しよ♪ テイル♪♪」

 

 嬉しそうな少女、ユウキだ。

 

 色々あって、この子とは本当に仲良くなった。

 

 俺が自重している頃、ALOの大会で、《絶剣》はその名を轟かせる。

 

 キリトすら倒し、最強の座についたが、ユウキがインタビューでもう、

 

「後は《蒼炎》にリベンジするだけだーーーっ!」

 

 そう言った所為で、《絶剣》と《蒼炎》と言う二つの名前が、ALOに轟き、もう街を歩けなくなった。

 

 それはともかく、

 

「はい、これでよし♪」

 

「これからよろしく」

 

「また一緒に冒険だねテイル」

 

 シノン、フィリアともフレンド登録し、武器を整え、まずはフィールドに出向く。

 

 そうして新たなゲームが始まった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「テイル、レアアイテム手に入れやす過ぎない?」

 

「さすがに、チートはしてないわよね」

 

「いや………」

 

 全員俺が不正してないと知りながら、それ故に呆れていた。

 

 それは《カーディナルシステム》と言う、VRゲームを統制、制御するそれがある限り、エラーやバグ、アミュスフィアの不正プログラムなどは管理されている。不正はできない。

 

 だがまあ、穴があるんじゃないかと、前世の知識の所為で思い調べ出しているところだが。

 

「あれ、あれってキノコじゃないかな?」

 

「ホントだ、採れるかな?」

 

「あっ、採れた。採取アイテムだったよ」

 

 ユウキがそう言い、名前を確認する。

 

「えっとね、このアイテムは《ガンバリダケ》」

 

 それに俺の思考は停止しかけた。

 

「効果は、料理に使うとがんばりが回復するって」

 

「がんばりって、HPのことかな? どう思う?」

 

「いや……」

 

 ユウキは楽しそうに話している中、そのアイテムに覚えがある。

 

 まさかな………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 町に戻ると、途中でフィリアがお宝の気配がすると言い、すでに町の市場に出て行き、シノンとユウキとで歩いている。

 

「ははっ♪ なんか面白いアイテムいっぱい集まったね♪♪ テイルと一緒だと、アイテムが集まりやすいや」

 

「そうね、あなたリアルラックが高いのね」

 

 そう言われるが、俺はそれより気になることがあるのだが………

 

 しかし、俺の運ね。俺の運は前世で使った………のだろうか? 正直判断に困るな。

 

「けど、こんなに運がいいと、逆も酷そうね。大丈夫かしら?」

 

「………酷いことになりそうだな」

 

「えぇ~。そうかな~」

 

 ユウキはそう言っていると、ユイちゃん一行を見つけた。

 

「テイルさん、ユウキ」

 

「アスナ、リズ、シリカ。リーファにユイちゃん」

 

「こんにちはテイルさん」

 

 ユイちゃんはここでもサポートキャラとして、みんなを援護するらしい。AIと聞くが、そう思えない。

 

 ならそれでいいか。そう思いながら、せっかくだからと、アイテムを鑑定してもらおう。

 

「早速で悪いけど、アイテムを鑑定してくれるかなユイちゃん」

 

「はい、わか」

 

 その時、ユイの顔がこわばる。

 

 あるアイテムを見た途端だ。

 

 ああこれは。レア度は高いんだけど、まさか三つも出るなんて。

 

「え、えっと………」

 

「………」

 

 ユイちゃんは言いにくそうな顔をし、リズが無言でこちらを見る。

 

 他の仲間たちはさっと少し間を作った。

 

「………どう」

 

「あ、あんたっ、あんたはあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

「! !? どうしたリズっ」

 

「どうしたもこうしたもぉぉぉぉぉぉ」

 

 俺が手に入れたアイテム《白鋭の牙》と言うものは、物凄いレアアイテム。

 

 ドロップ率、0.07%。

 

 素材として使えば、特殊効果が付き、長く使えるらしい。

 

 ちなみにリズはこれを手に入れ、後々になればよく見かけると思い、売った。

 

「あんたは、あんたはあぁぁぁぁぁぁ」

 

「お、落ち着いてリズっ」

 

「絞まってるっ、テイルさんの首絞まってる!」

 

「……………」

 

 リズに襟を掴まれ揺さぶられ続ける、これのどこが運がいいか聞きたい。

 

 このまま初落ちするのか………

 

「あっ! パパっ」

 

「ユイ、ってテイルっ!? リズなにしてるんだっ」

 

「だって、テイルが、テ~イ~ル~が~っ」

 

 少し落ち着くと、キリトの側、こちらを興味深そう見ている子がいる。

 

「ちょっと、また女の子ひっかけてきたの!?」

 

 シノンの言葉に、僅かにアスナから殺気が立ち上る。

 

「そう言うのじゃないって! っていうかまたってなんだよまたって」

 

「あれ、その子のカーソルの色、もしかして」

 

 カーソルを見ると、その子はNPC。クエストを担当するキャラクターであることは分かるが、

 

(なんだ?)

 

 それにしてはなにか引っかかる。

 

 どうしてもというか、なにか、ALOのNPCとは違うなにかを感じた。

 

 そしてキリトから話を聞くと、NPCならなにかしらベースとなる話があるはずなんだが、

 

「それが無い?」

 

「ああ。クエスト開始時もクリア時も、それらしいことは一切発生しなくてさ。本当にその場所に連れていくだけのクエストなんだよ」

 

 そう言うのは、確か回数や特殊なことが起きれば変わるイベントかと言う話の中、ユイちゃんが気付く。

 

 どうも役柄や性格の設定、それらが値が設定されていないらしい。

 

 プログラムの不具合か、運営のミスかは知らないが、名前も何も無いクエストNPCキャラクター。

 

 そんな中、リズたちがこの子に名前を考えようと言う話になっていて、そんな話の中でその子の顔を覗き込む。

 

「………」

 

 こちらが見ていても、何も言わず、むしろこちらを観察するように見つめる。

 

 こうして彼女、『プレミア』。

 

 幕開けと言う意味を込められた名前を、この子はつけられた。

 

 本人は本当の名前を思い出せないと言う話で、訳ありNPCとして、こうして面倒を見る形でこの場はフレンド登録し終え、幕を下ろす。

 

「………」

 

 見つかったアイテム、全てがなにも無い少女、謎のメッセージ。

 

(嫌な予感が当たり出してないよな………)

 

 そう思いながら歩き出す。

 

 それらがすでに始まりであるとも知らずに………




主人公の親、木綿季を手に入れる準備はできてます。

そしてあのアイテム登場、どうなるのでしょうね。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第11話・不思議なNPCと環境

謎のアイテム、それは懐かしきもあり、試練を受ける時代使用したもの。

彼の物語が深く関わりだす。

それでは、続きをどうぞ。


 時々プレミアのイベントをするが、指定された場所へ連れて行き、1コルの報酬。

 

 彼女を連れて歩く中、アイテムが落ちているので回収するが、

 

「………」

 

「どうしましたか?」

 

「いや……」

 

 プレミアからも首をかしげる中、俺は《ツルギダケ》と《ヨロイダケ》をアイテムストレージにしまった。

 

 言葉にできない不安が募る中、この世界に合わせ、片手剣、槍、大剣の順に熟練度を上げようと準備する。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「プレミアの本当のイベント」

 

 なぜよく知る物がこの世界にあるか考えて過ごしていると、キリトたちからそんな話を聞く。

 

 どうもダミークエスト。話を聞く限り、クエストのデータ取りのための初期、0番のクエスト。仮で製作したクエストをずっと行っていたらしい。

 

 だがキリトが本来のクエスト場所に連れて行き、脱線したクエストを、本来のクエストへ連れて行った。

 

 それでもなお、本来のクエストが分からないままだが、手がかりが光る石だけらしいが、

 

「それを調べればいいんだな」

 

 クラインやエギルを始め、ここにいるみんながプレミアの本当のイベントを進める。こういう話が進む。

 

 こうして俺たちは、プレミアの本当のクエストを攻略する。それに方針が固まった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 町を巡る中、ユイちゃんと出会う。

 

「……ユイちゃん?」

 

「! パパっ、あっ」

 

 振り返る少女は間違えて、俺をキリトと呼ぶ。

 

 少し恥ずかしそうにしている。

 

「あの、テイルさん、こんにちは」

 

「こんにちは、散歩かい」

 

「はい、町の探索もサポートの一つです」

 

「そうか……」

 

「あの、せっかくなので一緒に探索どうですか?」

 

「ああ」

 

 そして街を歩く中、色々と発展し出す町に、少し驚く。

 

「ここ最近、プレイヤーの皆さんは生産(クラフト)スキルを上げた方が、お店を出してるようですね」

 

「そうか。俺は戦闘系しか伸ばさないからな」

 

 SAOでは当たり前だが、料理などは、訓練でしている程度。

 

 他のゲームでもそうだからな。

 

「テイルさんも、パパみたいにお昼寝以外に趣味を持ったらいかかですか?」

 

(キリト昼寝が趣味と思われてるぞ)

 

 そう悲しくなる中、二人で町を練り歩く。

 

「そうだユイちゃん、少しゲームとは関係ないんだけど」

 

「はい? なんでしょうか」

 

「このアイテム、色々考えているのは、やっぱりプログラマーか気になって」

 

 あの後色々調べたが、やはり俺が知るアイテムが多数あり、それも同じ効果なのだ。

 

 ユイちゃんは首をかしげながら、静かに首を振る。

 

「いえ、このゲームだけは、最終的にはプログラマーの方がチェックしていますが、データだけは違います」

 

「違う、それは」

 

「《カーディナルシステム》。ご存知かと思いますが、VRゲームのプログラムに不正が無いか管理したり、ゲームのバランスを整えるこのシステムを、このゲームは他より多く使用しているようです」

 

「それじゃ、アイテム類は」

 

「カーディナルが考え製作し、最終的に運営が配置した物のはずですよ」

 

「そう……、ありがとうユイちゃん」

 

「いえ、お気になさらずに」

 

 カーディナルがなぜ、そう思いながら、このゲームの探索は続いた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 プレミアを連れて、ユウキと三人でフィールドを歩く。

 

 たまにこうしてプレミアと共に移動するが、何事も………

 

「あれ、あれってなんだろう?」

 

 ユウキがそう言い、そちらを見る。

 

 草原のフィールドに、馬のような白い綺麗なタイプの、モンスターでは無い動物がいる。

 

「あれは騎乗できそうだな」

 

 エネミータイプではないそれを見て、俺はそう確証で来た。

 

「騎乗、乗りこなせると言うことですか?」

 

「ああ」

 

「えっ、できるの!?」

 

 静かにすっと近づき、その背に乗り込む。

 

 暴れるが、大人しくさせ、ユウキとプレミアの下に来る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 二人を乗せて、騎馬を走らせる。

 

 ユウキは楽しそうに、プレミアは新鮮ですと感想を言い、馬を操った。

 

「一人ずつだからな」

 

「はーい」

 

「はい、分かりました」

 

 騎乗しながらよく様子を見る。この状態なら槍の方が操りやすい、サブはやはり槍かな。

 

「………ん、クエスト発生か?」

 

 色々考えて騎乗していると、クエストが突然発生した。

 

 どうもこの非アクティブのモンスターの騎乗成功、またはなつかれた場合だろうか。

 

 それをこなす為に操りながら、いまはプレミアを乗せて、ゆっくり進む。

 

「楽しいです、馬の上は不思議な感覚です」

 

「そうか、っと……。クエスト場所は」

 

「キャラバンみたいだね」

 

 そしてクエストを進めたら、なんと騎馬は聖獣らしく、騎士が乗る馬として登録できる。

 

 すぐに話を付けると、クエストクリア。騎馬として、運用できるようになった。

 

「あっはは、早い早い!」

 

「………」

 

 プレミアは前、ユウキは後ろに乗せて、騎馬を操る。

 

 野生の状態では無く、ちゃんと馬具を付けているため、綺麗な白馬としてフィールドを駆けた。

 

「ハッ」

 

「楽しいです……。風を全身で感じて………」

 

「前も楽しそうっ♪ プレミア、交代しよ交代っ」

 

「はい」

 

「それじゃ、いったん止まるぞ。こいつもそろそろ休ませないと」

 

「はーい」

 

「分かりました」

 

 よくよく考えれば、女の子を愛馬に乗せて連れていく、か……

 

 少し頬をかき、それでも楽しそうな二人に、今後この騎馬を管理することを決めておく。

 

 楽しい散歩だが、後から高難易度の騎馬であると知り、キリトからコツなど聞かせられ始める………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 何事もなく、アイテムストレージがたくさんになる中、ユウキと共に暇をつぶすと、キリトからSAOの世界設定を聞かされた。

 

 なんでも、《聖大樹》と呼ばれる二つの巨木と二人の巫女がいて、エルフ族が争いを起こした際、二人の巫女は大地を切断し、争いを止めたらしい。

 

 それが《大地切断》と呼ばれ、《浮遊城アインクラッド》が誕生したらしいとのこと。

 

「そんな話がな……」

 

 あの世界ではそんなことよりエネミーを如何に多く狩り、資金を手に入れることにしか考えなかった。

 

 増援によね無限ループ、高レベルエネミーを針のように削りながら倒すとかだ。

 

「ボクこういう話が好きなんだ、この世界も、どんな話があるんだろうねっ♪」

 

 楽しそうなユウキには、俺のSAO時代はあまり話したくないな。

 

 いまはそんな感じで、何事も無くゲームは進む。

 

 ただし、俺の知るアイテムの目撃されながらだが………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………」

 

 俺の目の前に《ポカポカアゲハ》などの昆虫類、それと《ゴーゴーカエル》がストレージの中にいる。

 

 その他のアイテム効果は素人からすれば分からないだろう。

 

 だが俺は防寒、耐暑等々の効果が付くアイテム作りができる。

 

 このゲームでどこまでどのように効果が現れるか分からないが、すでに何品か同じ効果のアイテム化には成功していた。

 

「………どういうことだ」

 

 ユイちゃんからは《カーディナルシステム》がアイテムを製作しているらしいし、カーディナルが俺の、前世の知識を持つとは考えられない。

 

 持ったとしてもなぜ持っている?

 

 考えられるのは、製作に俺のような存在、転生者がいることが考えられたが、

 

(それも無いよな)

 

 カーディナルは茅場が作ったブラックボックスと、俺個人で調べても分かることだ。

 

 元々VRの基礎そのものが茅場の手により作られていて、茅場の目的が、これはキリトから仮説として話された。

 

 彼は夢想した世界を現実に作りたかった。そして、システム、世界の法則を超えたなにかを見たかったらしい。

 

 そんなことを言う奴が、前世の記憶を持つと言う夢想を持ちながらこんなことをするか?

 

 別の案で、制作関係者も考えたが、もしも前世持ちが製作に関わるのなら、SAOがデスゲーム化するのも分かり切っていたはずだ。

 

(ここまでシステムに関わるんなら、止めるなりなんなりしてただろうし)

 

 ならなんでカーディナルがこれらのアイテムを作り出した?

 

「………」

 

 その時、背後に気配がした。

 

「あの……」

 

「ユイちゃん……」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 重々しい雰囲気を振り払い、目の前の、心配そうに見つめる少女を見る。

 

「どうしましたか? なにか、難しい顔をしてました」

 

「少し……。君は、一人か?」

 

「はい、先ほどまでプレイヤーさんに、チュートリアルをしてました」

 

 そう言えばここでのこの子の扱いは、チュートリアルキャラだ。

 

「仕事をしてたのか」

 

「はい……、ですが」

 

「どうした?」

 

 少しだけ気になることがあるらしい。

 

 色々なことを説明するのだが、多くは用意されているテキストを読み上げているだけ。

 

 体験をしていないことを伝えることに違和感を覚え、もっと多くのプレイヤーに、このゲームを楽しんでもらいたいらしい。

 

 それを聞きながら、せっかくだから、

 

「なら、クエストをするか?」

 

「え?」

 

 俺が受けたクエストを手伝うことで、クエストの楽しさを覚え、プレイヤーに教える。

 

 ちょうどあるクエストを受けようと思っていたところだ。

 

 その話をしたとき、ユイちゃんは楽しそうにしていた。

 

 クエスト名『ヨロイカボチャの料理レシピ』だ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 このクエストは、素材アイテム《ヨロイカボチャ》を畑から手に入れ、調理するクエストだと聞いていた。

 

 俺の知る《ヨロイカボチャ》はとても硬く、カチコチ成分が効く料理になる。

 

 多く料理に使い、調理した俺であり、あまり深くは考えなかった。

 

「テイルさん見てください!とても大きいです♪」

 

 そう言い、大きなかぼちゃを持ってくる。

 

 そんなユイちゃんだが、心の中でどうするか考えていた。

 

 それは、カボチャが恐ろしいほど硬い。

 

 なんか金属と金属をぶつけたレベル。おいこれどういうことだカーディナル。

 

「………」

 

 物凄く簡単なもので、蒸し焼きが思いつくが、あんな楽しそうにしているユイちゃんを見ると、そんなただ焼くだけで終わらすことは許されるのだろうか。

 

「もっといっぱい作って、パパとママにプレゼントします♪」

 

 ダメだッ、俺は逃げ場が無くなった!

 

 このままただ焼いただけでは、ユイちゃんの思いが伝わらない。

 

 ならばどうする。俺はどうすれば………

 

「………」

 

 思い出せ、夢の世界でこいつを調理した日々を。

 

 やるしかない、効果のない料理作り。

 

 俺は、

 

「やるしかない」

 

 そう決めて、包丁と言う名のナイフを研ぎ澄ました………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ただいま~」

 

「いまもどっ」

 

「うっまぁーいぃー!」

 

 クラインの叫びに、キリトとアスナは驚いて、目をぱちくりしていた。

 

「おっ、クライン。なに食ってるんだ?」

 

「おっ、おおっキリの字にアスナか。いやな、いまユイちゃんの手料理を食ってたんだ」

 

「そうか、ユイの手料理を...ってちょっと待て」

 

 キリトとアスナが聞き流そうとした瞬間瞬時に軌道を変えて、残りを食べようとしたクラインの手を止めた。

 

 その中にはリズやシリカのものもある。

 

「少し待って、えっ、えっ!? ユイちゃんの手料理っ!!?」

 

「はい、正確には、テイルさんが切ったカボチャを、私が言われた通りの手順で調理しました」

 

「なんかこれ食うと、なんか防御が上がるっ、ってくらいにうまいぜ!」

 

「ああ、なかなかうまいぞ、この《肉詰めカボチャ》と、この包み焼きキノコ」

 

「ちょっとこれ、見たらバフが付いてるじゃないの」

 

「あっ、ホントだ。この《カチコチ包み焼きキノコ》。名前の通り、防御のバフがついてる」

 

「最近聞く、食べ物バフアイテムだね」

 

 シノン、リーファ、ストレアも楽し気に食べているが、キリトとアスナがわめく。

 

「待って、ユイちゃんの手料理っ、私まだ食べてない!」

 

「なんで俺たちより先に食べてるんだよ!」

 

「だっておいしそうだったし」

 

「お兄ちゃんたち遅かったんだもん」

 

 シノンがしれっと言い、リーファもそう続く。

 

 だが、

 

「パパたちの分もしっかりありますっ、一番の自信作です」

 

「ゆ、ユイちゃん……」

 

「ユイ……」

 

 二人は感動しながら、それを受け取る。

 

「けどバフが付くのか。いまさっきフィールドから帰って来たばかりだけど。いいか!」

 

「そうだね、バフなんて後日まで続くわよ!」

 

「いやそれはないだろ」

 

 クラインのツッコミも無視して、食べ始めるキリトたち。

 

 しかしまあ、

 

(マジで硬かったが、調理し出すとあんなにスムーズに進んで)

 

 調理前の俺の意気込みはなんだったのだろうか。

 

 そんなことを思っていると、ユイちゃんはクエストのことをキリトたちに伝え、今度からキリトたちも手伝う話になる。

 

 そんな賑やかに話す中、今度の攻略でレイド戦があるらしい。

 

 食べながらする報告ではないが、全員呆れながら話を聞いた。

 

「あっ、そうだ。テイルさん、また自分でも分からない、試してみたいことがあるんです」

 

「それは? 今度はキリトたちもいるよ」

 

「ああ、俺たちも、ユイの初めてを手伝うぜ」

 

 キリト、口元に食べかすがついてるぜ。

 

 そう言われ、ユイちゃんは、

 

「いえ、またパパとママにプレゼントするので、テイルさんにお願いします。それまで二人には秘密です」

 

 それに悲しそうにする二人は、こちらを恨めしそうに見る。

 

 ユイちゃんから、料理について、今度からテイルさんに聞きますねと微笑んでいたが、俺は別に食いしん坊ではないのだが………

 

 そんなことを考えながら、バフ料理が簡単に作れると知った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「斬ッ」

 

「スイッチ!」

 

 レイド戦と言う、大型ボスを倒し終え、俺たちは町へとも戻る。

 

「はっきり言うけど、テイルのリアルラック働くな」

 

 キリトが感心したように言いながら、みんな呆れていた。

 

 ユウキも少しばかりあきれ果てる。

 

「気のせいか、テイルの防具や武器って、少し序盤じゃ性能良すぎるよ」

 

「一緒に戦ったパーティーの人も、凄いアイテム手に入れた人が何人かいたね」

 

「呪われてるのかな………」

 

「呪われる? ボクはそう思わないけど」

 

 ユウキが首をかしげるが、俺は本当になにがどうなのか分からない。

 

 もし運がいいとしたら、みんなと一緒に居ることだろう。

 

 そう思いながら、全員がゲームを楽しんでいた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「全員で新たなフィールド到着」

 

「ここは………」

 

 辺りを見渡すと森が広がり、深い森の中、周りをさらに見渡す。

 

「さてと、SAOじゃ、第二層は森と草原だったけど」

 

「それと程遠いね」

 

 沼や枝などで日差しが閉ざされた空間。SAO時は牛が多い、草原フィールドだった。町で売られているものも、乳製品が多い。

 

 それをよく狩り、よく売る日々を思い出す。

 

「深い森がテーマの沼地地帯か」

 

「みたいだ………」

 

「沼地か~………。足を踏み込んだら、体力が減る、ってのがお約束よね」

 

「それは毒の沼地ですね」

 

 リズとシリカがそんな話をし出して、キリトが底なし沼だのなんだの話をしだす。

 

 VRの底なし沼は、勘弁したい話をしている。周りの木が邪魔して、どこを進めばいいか分かりずらい。

 

 そうしていると、後方から悲鳴が、

 

「って、ユウキ、リーファッ!」

 

 二人が沼地に引っかかり、少しずつ沈んでいく。

 

「うわっ、上ばっかり見てたらはまっちゃったよ!」

 

「どどどどどど、どうしよう!」

 

「落ち着けリーファっ、暴れれば余計に沈むぞ!」

 

「な、なにかロープみたいなアイテム無い!?」

 

「ロープ?」

 

「そうだ、前にクエストで手に入れたふんどしならあるぞ」

 

「あほかクライン!」

 

「んなこと言ってもよ、一度も使ってないぜ」

 

 バカなことを言っている場合では無い。

 

 ため息を付き、静かにロープを取り出した。

 

 先端にフックが付いているが、いまは関係ないか。

 

「掴まれ二人とも」

 

「テイルさんありがとう~~~っ」

 

「ありがとうテイル大好きっ!!」

 

 こんなんで好感度がMAXになるって………

 

「まあ、底なし沼かふんどしじゃあね」

 

「………それより」

 

 シノンがゆっくりと、あることに気づく。

 

「二人とも、腰から下、止まってない?」

 

「「あっ」」

 

 二人とも、腰ほどの高さになると、沈まなくなり、ロープに楽々つかまっている。

 

「………あんたが底なし沼なんていうから」

 

「はい俺もそう思ってました」

 

「いいから、ユウキ、リーファ捕まって、いま引っ張り上げるから」

 

「「はぁ~い」」

 

 キリトが気まずくなる中、こうして探索は進む。

 

 ユウキが俺の側まで来て静かに、

 

「引っ張り上げるぞ」

 

「うんっ」

 

 そう言い、ユウキのために中腰になり、捕まるのを待つ。

 

 ………

 

 ん?

 

「………」

 

 なぜか頬を赤く、恥ずかしそうにしているユウキ。

 

「ユウキ?」

 

 正直俺もはまらないように中腰はきついんだが、

 

「その、なんだか、いま抱き着くの、は、恥ずかしくって」

 

「………」

 

 普段唐突に抱き着く子がなにを言うのだろうか、仕方ないので抱きしめて引っこ抜く。

 

 顔を真っ赤にして恥ずかしがる子だが、次はリーファなので無視した。




自分から抱き着くのはいいけど、改めて抱き着こうとすると恥ずかしい。

そしてカボチャ料理は、切り始めは固く、その後は普通のカボチャのように料理できます。

みんなとの会話も砕け始めてますね。

それではお読みいただきありがとうございます。


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第12話・暗雲の影

基本思いつかない時は、思いつかないアイテムたち。

多いからなホント。

そんな中で続きです。


 アイテム率が怪しくなる今日この頃、少しずつフィールド探索をしだして、宿で話し合いやアイテム交換など、いろいろしていた。

 

 やはりというか、見知った衣類も見かける気がする。

 

 疑問に思う中、町を歩く。

 

「ん」

 

 その時、プレミアを見つけた?

 

 はて? プレミア、のはず?

 

「プレミア」

 

「………?」

 

 僅かに首をかしげた彼女、まさかこの辺りまで足を運ぶのか。

 

 そう言えば、なにもないのなら、彼女を連れていくことにしよう。

 

「俺と一緒に、少し出ないか……」

 

「………」

 

 カーソルが変わった、これで一応連れ出せるようだ。

 

 一緒に歩く中、今日は人込みが多い。

 

「プレミア」

 

「……?」

 

 手を差し出したが、意味が通じないようだ。

 

「手を繋ごう……」

 

「手を………」

 

 そして差し出された手を握りしめ、静かに歩く。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 せっかくだから綺麗なところをなど、適当に歩く。その時、愛馬と共にだ。

 

「………」

 

 なぜか初めてという顔のような気がしたが、前に乗せてフィールドを駆ける。

 

 どうやら馬での散歩は気に入ったらしい。

 

 そんなことをして、だいぶ連れまわした後、町で別れた。

 

「楽しかったか」

 

「楽しかった………」

 

 少し疑問的に聞こえたが、しばらく考え込むプレミア。

 

 その後はまた去っていくが。これは楽しかったのだろう?

 

 やはり人付き合いは苦手だ……

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「この前は大変だったな」

 

「だね、けど楽しめたよ♪」

 

 ユウキと共に、カフェで休んでいる。

 

 ここにカフェがあることも、やはりSAOとは違うようだ。

 

 そうしていると、

 

「テイルさーーんーー」

 

 シリカと相棒のピナが共に現れ、挨拶する。

 

「どうした?」

 

「はい、テイルさんにご相談がありまして」

 

「俺に」

 

「ますはこれを」

 

 そう言ってみせてくれたのは、プレイヤーが所有する、土地と店の権利書だ。

 

「それって、シリカ、お店出すの!? 凄い凄いっ」

 

「えへへ、はい♪ 肉まん屋を開こうと思います」

 

「それで俺に」

 

「テイルさん、食材系の素材をたくさん持っていましたので、この世界ならではの物もいくつか作りました。それ以外にも何品かと」

 

 そう言われ、とりあえず考えられるのはキノコ類に、ハーブ類。

 

 そこは《ヒンヤリハーブ》と《ポカポカハーブ》。

 

 正直本当によく採るので、いくつか融通するだろうが。

 

「ありがとうございます、今度試作品を持ってきますね♪」

 

「きゅう♪」

 

「ボクも食べるよ~」

 

 二人、二人と一匹は楽しそうにしていて、俺はある疑問から集めていただけだが、役に立ってよかった。

 

 そんな中で………

 

「はいっ♪ あっ、キリトさんからメッセージです」

 

「俺もだ」

 

「ボクもだ、なんだろう?」

 

 それはそんな和やかな空気を壊す、物語の始まりだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「プレミアがPCに襲われたっ!!?」

 

 キリトからの話に、ここにいる全員が驚きを隠せない。

 

 どうやらフィールドに連れ出して、戦闘モーションが取れる場所での行為だが、

 

「少し待ってよ、ゲームだからってそんなこと」

 

「ああ、アスナの言う通り許されない。そう言った行為をしたプレイヤーは、衛兵NPCに追われたり、相当のペナルティがかせられる」

 

「それだけじゃなくても許せる話じゃないわよっ」

 

 ここにいる全員が憤りを隠せず、キリトは難しい顔のまま、

 

「その顔じゃ、町で聞いた噂と関係があるんだねキリト」

 

 フィリアが言うには、NPCがレアアイテムをドロップするとか、そんな話だった。

 

 だがキリトが言った通り、そう言った行為、NPCに攻撃はペナルティがある。

 

 町を利用できないペナルティを始め、多くのペナルティでそう言った行為は禁止されている。

 

「それだけじゃないんだ、この世界、オリジンにおいて、NPCはリポップしない」

 

「それって」

 

 つまり蘇生しない、死を意味する。

 

 ユイちゃんの話では、この世界のNPCは全てAIが付けられていて、AIが学習し、ユニーク化するらしい。

 

 このゲームはそのユニークな情報を再コピーを禁止している。

 

 なんでそう言うことになっているかは、

 

「《SA:O》がそういう設定だからか………」

 

「ああ。この話をセブンに話したら、教えてくれた」

 

 この世界、《SA:O》は、AIがどの程度対応できるか、そのデータ取りのためらしい。

 

 だからNPCは全員、AIを持っている。

 

「そうこの世界《SA:O》は、彼らにとっては、デスゲームそのものなんだ………」

 

「それって」

 

 それはSAO帰還者には、いい話では無い。

 

 他人事のように思うが、俺も帰還者だ。思うところがあるゲームになってしまった。

 

 それに………

 

 キリトはこのゲームを初めて少しした後、妙なメッセージが届いた。

 

 内容は、《アインクラッド》という言葉が使われた、謎の言葉。

 

「キリトこれって」

 

 スペルで私は戻ってきた、アインクラッドに。

 

 それは………

 

「お前もか」

 

「お前もって」

 

 アインクラッドはSAOの舞台、その名前。

 

 キリトはかつてデスゲームであったあの世界と、この世界が重なっていると重々しく言う。

 

 だが犯人、茅場はすでに死んでいる。彼がキリトにこのようなメッセージは出せるはずはない。

 

「テイル、君もなのか、なら」

 

「………そう言えば、あの時は誰かいた気がした」

 

 その誰がメッセージを出したか分からないが、このメッセージを受け取った時、近くにプレミアがいたらしい。

 

「なら俺の時も?」

 

「それは分からない、ただ一つ言えるのは」

 

 このまま運営に伝えることは、プレミアのことを知られ、最悪消去される。

 

 ともかく、キリトは黙っていたことをアスナに怒られた。

 

「テイルもだろ」

 

「俺は気にしてなかった」

 

「気にしてなかった、のか」

 

 驚くキリト。だが、

 

「キリト、あのゲーム、ソードアート・オンラインの終わりを俺は見た。茅場晶彦もまた、あの場で終わったんだろう」

 

 夢想の世界であったあの世界は終わった。

 

 だからこそこのメッセージを重く見ず、あまり重要視してなかったのだ。

 

「君は……凄いな」

 

「キリトはまだ、切り替えができないんだな。あの世界のことはお前一人のものじゃない、お互い、忘れてたり、思いつめてたのはまずかったな」

 

「そうですっ、二人とも、反省してください」

 

 アスナの言葉に、みんな同意する。

 

 キリトだけに全て押し付ける気は無いのだ。

 

 ともかく、プレミアのイベントを最優先にクリアするのは変わらない。

 

 そんな話で全員一致した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 仲間たちとプレミアのクエストを探す中、町の探索も忘れずにしていると、

 

「みんな……」

 

「あっ、テイル」

 

「こんにちは~」

 

「ごきげんよう、テイル」

 

 ユウキ、ストレア、プレミアを始め、笛を吹いているシリカ。ユウキも笛を持っていた。

 

 側にNPCの歌姫と楽団がいて、アルゴと言う、情報屋もいる。

 

「君がテイルカ、久しぶりだナ」

 

 アルゴはSAOにもいたが、あまり活用しなかった。できなかったのも間違いだが………

 

「でっはあ~。だめです……全然できません」

 

「笛のクエスト?」

 

「違うゼ」

 

「音楽楽団のクエストで、NPCの歌姫さんが歌う歌に合わせて、好きな楽器を奏でて合わせるとクリアらしいんだ」

 

「らしいってことは、まだクリアした奴がいないってことサ。オレっちたちはいまその検証中」

 

「よしっ、次はボク♪」

 

 ユウキの手に持つ笛は、ゼルダの伝説、大地の汽笛に出て来る笛のようで、苦戦している。

 

 歌声は綺麗で、なかなか合わせるのは難しく、何度か外し、ユウキは失敗した。

 

「あぁ~」

 

 残念がるユウキ。いまの歌を聴き、ギリギリできそうな気がする。

 

「俺がやろう……。笛で挑戦する」

 

「ホント? ならはいっ♪」

 

 そして渡された笛を持ち、クエストを受けるよう、ウインドを操作する。

 

「貴方も大地の歌に、興味がある方ですか?」

 

「はい……」

 

 NPCの歌姫に話しかけられ、頷く。

 

「それでしたら私の歌に合わせて、楽器を鳴らしてください。貴方がもし、歌に選ばれた方なら、キャラバンに伝わる道具を融通しましょう」

 

「はい……」

 

「なんか、はいかいいえしか言わないゲームを思い出すゾ」

 

「ああボクも」

 

 そんな外野の声を聴きながら、笛を構え、歌姫も歌が始まる。

 

 すでに音はユウキのを見て確認済みだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 奏でられる歌声と笛の音が、町に広がる。

 

 笛を奏でていると、チェロ、三味線、フルート、チィンパニ、オーボエが奏でられ、歌声が広がっていった。

 

 それでもテイルは苦にもせず、笛を奏でている。

 

 それに多くのプレイヤーたちが聞き惚れていた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「素晴らしい演奏でした」

 

「ああ……」

 

「貴方は歌の神に愛されている方ですね、それではこれを、まずは貴方の分。他にご利用でしたら、いつでも買いに来てください」

 

 そして渡されたアイテムは、羽根飾りであり、見た目は………

 

「これは、ALOで見た、セブンファンの証に似てるな……」

 

「これ性能もそうらしいナ、通信機能もそっくりダ」

 

「そうみたい、テイルはこれで彼らからこれを買える権利を得たみたいだよ」

 

 楽団から離れ、ストレアから言われた通り、少々お高めだが、二組で買って、用意しておく。

 

「これは攻略に役に立ちそうなアイテムダ、いい情報ありがとヨ」

 

「構わない」

 

「それじゃ、テイルの情報もいつでも買うから、今後ともご贔屓に」

 

 アルゴが去り、ストレアやシリカも去る中、ユウキが少しだけ黙り込む。

 

「どうした」

 

「あっ、えっと、そのね」

 

「?」

 

「笛、直接渡したからね、そのね」

 

「どうした?」

 

「なっ、なんでもないよもうっ。テイルは演奏上手だねっ」

 

 そう言って、ユウキも別れた。

 

 テイルは首をかしげながら、アイテムの情報だけ仲間たちに通達した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 パーティーはシノン、ストレア、フィリアの四人で組み、森の奥などを調べる。

 

 歩いていると、クエストが発生した。

 

「クエストだよ」

 

「内容は、《森妖精のイタズラ》だって」

 

「どういうものかしら?」

 

 首をかしげると、森の入り口らしき場所に差し掛かり、入り口らしき場所に来ると、他のプレイヤーも多数いる。

 

「くっそ~」

 

「攻略法がわかんねぇぇ」

 

 どうも攻略が難航しているらしい。

 

「おもしろそうだね♪ えいっ」

 

 そしてストレアが受けるコマンド選択し、どうも森の奥に行くクエストらしいのは、他のプレイヤーを見て分かる。

 

 こちらも中に入ると、深い霧が当たりを包み、俺が先頭を歩く。

 

 僅かに向こう側が見え、周りを確認する。

 

「向こうに明かりがある、まず明かりを目印に進もう」

 

「うん、それが定石だね」

 

「了解っ」

 

 フィリアたちも問題ない様だ、そうして明かりがある場所を進んでいく。

 

 明かりは焚火の灯りであり、台座に火がついている。

 

 その様子、どこかあるゲームを思い出させた。

 

「あれれ? 明かりがもうないよ」

 

「ホントね……、まだ森の奥だから、なにか意味があるはずだけど」

 

「………ともかく歩いてみよう」

 

 しばらく歩くと、なぜか森の入り口へと戻ってきた。

 

「これは」

 

「ちゃんとしたルートを歩かないと、最初に戻されるみたいね」

 

「え~、けど、どうすればルートが分かるの?」

 

 ストレアの言葉を聞きながら、俺は嫌な予感がしながら、方法を考える。

 

 どうしても、あの方法しか思いつかない。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 また火が付く明かりの最後尾までくる。

 

「ここからどうするか」

 

 そうフィリアが言うが、俺はまさかと思いながらたいまつを取り出す。

 

「? テイル?」

 

 たいまつに火を点け、風の吹く方を見る。

 

「いままで、火は風によって傾いてた」

 

「風? そう言えば、風らしいの感じてないのに、火が傾いてるわね」

 

「凄いよっ、ならたいまつの火を見ながら動けば」

 

「うんっ、行ってみよう♪」

 

「………」

 

 もしもこの方法で正解なら、この場所は………

 

 そう思いながら、俺たちは森の奥へとたどり着いた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 さすがに森の妖精たちは違う姿形だった。

 

 森の妖精たちは結界で、ここのボスエネミーから姿を隠していた設定で、クリア報酬はここのボスの攻略法だ。

 

「やったね♪ 早くキリトたちのもとに出向こうっ、きっと喜ぶぞ~」

 

「うん………。って、テイル?」

 

「どうしたのあんた?」

 

「いや………」

 

 考え込むのは、あの森。あのゲームと結びつく内容。

 

 よく考えれば、笛の辺りも、大地の汽笛に似ていた。

 

(どうしてこれらが絡む、カーディナル……)

 

 このゲームに不安を覚える中、情報を持って、急いで戻る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………こいつは軽い」

 

 夢の世界で使った武器はもう少し重量があり、もう少し柄も刃も長い。

 

 現実的な質感、重みと長さを選ぶのが多い。

 

 大剣などの重量が多いのは場所を選ぶ、短剣などは投擲に使うのが多かった。

 

 このゲームは始めたばかりであり、SAOのようにやり込めない。元々あの世界は閉じ込められた結果、やるしかないから上がったのだ。

 

 熟練度など考え、片手剣の装備、サブで槍を選ぼう。

 

 だが槍は物によって扱いを変えるだけでいい、物の方に合わせて手数かスタン狙い、投げ槍か払うなどだ。

 

 大剣は強力な敵や防御力の高く、動きの遅い奴。

 

 刀は初撃必殺、短剣は投擲専用。

 

 だが片手剣と盾だけは違う、これらのスタイルを支える軸だ。

 

 初戦やバランス、どのような状態でも動けるように徹底的に身体に染みついた技術。

 

 だからこそ、盾と片手剣にはこだわりが強い。

 

(リズに頼むか)

 

 それしかない。レインから俺の要求を聞いているらしいし、アイテムはそこそこある。

 

 素材アイテムを売ったり、色々資金を工面すれば問題なく、高レベルの装備を用意できるはず。

 

「そう言えば、シリカから材料で資金も受け取っていた……」

 

 彼女からも、材料になる素材アイテムで作る料理の相談も受けている。

 

 ともかく、やるべきことは決まった。

 

 あの世界、夢の世界でもないのに、仮想と夢が混ざりだした気分だった………




テイルはシリカの店のスポンサーのようなものになった。

さすがに森は出せても、剣は出せないですよ。

そんでユウキの扱いですが、察してる人はいるでしょうが、このオリ主はもう精神年齢ぶっち切るほど年取ったので、娘が孫のようにしかみんなのこと見ていない。

まあ顔は良い方なので、女の子からすればどうなんだろうね。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第13話・攻略は順調に

誤字報告や感想ありがとうございます。おかげでこの世界はより広がり、面白くなっており、これからもよろしくお願いします。

それでは、現在攻略中の彼らをどうぞ。


「よっ、はっ、揺らすぞ」

 

 俺はいま、仲間と共に森での探索をする。

 

 木に登り、木の実を採る。それ以外にも薬草など多く手に入れた。

 

「相変わらず器用だなテイルは」

 

「ALOでもこれで踏破したからな」

 

「ボクも木登りしようかな?」

 

 そんな中、俺はアイテムの中にあるあるアイテムが気がかりだ。

 

 中には知らないものもある。だが………

 

(………なぜこれがある)

 

 そのアイテムは《姫しずか》だ。

 

 内容もほぼ変わらず、この世界の姫が愛したものと書かれている。

 

 もう《マックストリュフ》や《ツルギバナナ》も驚かなくなった。

 

(どういうことなんだ)

 

 ともかくこれらはシリカにでも持って行こう。最近肉まん屋は繁盛しているらしい。

 

 俺が渡した素材は、料理に使うとプラス効果を得られるもので、それで味良しの店として繁盛していた。

 

 いまのところバフをもたらす素材がなんなのか、他のプレイヤーには分からないため、シリカはいまてんてこ舞いで忙しい。

 

「帰ったらなにしようか」

 

「ボクは勉強だよ」

 

「勉強か、確かSAO帰還者の学校のテスト受けるんだよな。少しは教えられるよ」

 

「あれ~、テイル。頭いいの?」

 

「一応は」

 

 前世で勉強の大切さは嫌って言うほど知ったから、かなりできる方に成長した。

 

 勉学ができることに驚かれる中で、そんな平和の中、時間が過ぎる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 またフィールドで探索し終え、カフェでゆっくりしていると、

 

「最近だが《黒の剣士》って、マナーが悪いプレイヤーがいるらしい」

 

「………」

 

 それを聞いて顔を上げる。

 

 小耳にはさんだが、キリトではないが、そう言う通り名のプレイヤー『ジェネシス』が、モンスターを横取りする。

 

 表も裏も真っ黒だから、そう呼ばれているらしい。

 

「………」

 

 帰還者にとって、《黒の剣士》はキリトのことだ。

 

 まあ呼び名なんて、どうでもいいだろうが、

 

(気になるのは、そのマナーが悪い奴が、この子に攻撃しないかだな)

 

「テイル、次の言葉ですが」

 

「………」

 

 色々知りたがるプレミア、俺にできるのは彼女に正しい言葉を教えることぐらい。

 

「そう言えば……」

 

「? なんでしょうか」

 

「前に乗馬したことを、覚えているか?」

 

「はい」

 

 静かな会話だが、プレミアその会話のテンポは、ちょうどいいと俺は思う。

 

「また乗せる機会があれば、散歩に出ようか?」

 

「散歩、ですか……。はい」

 

 そんな彼女と会話しながら、適当に過ごす………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「六つの石、女神に祀る、か………」

 

 キリトからプレミアのクエストが進んだことを教えられた。

 

 加護を受けると言う謎のクエスト。

 

 プレミアが加護を受けることによって、話が進むらしい。が、

 

「二人とも、プレミアに変な会話してないよな」

 

「してないよっ!」

 

「普通に女の子の話してるだけだよっ、もう」

 

 少しずつ人との会話から、言葉を覚えるが、少しズレたことをいうらしいとキリトから聞き、二人に怒られた。

 

 ………俺じゃないよな?

 

 クエスト発生条件が何なのか不明のまま、あーだこーだ話し合う。

 

 そんな中、《アインクラッド》にまつわる話、《聖大樹》のことが話に出るが、

 

「まあ、あっちは巫女の話だけどな、しかも二人いるし」

 

「二人………少なくても見かけてはいないな」

 

 そんな話をしながら、フィールド探索の話になり、アイテムやエネミーの話をする。

 

(………まさかな)

 

 僅かに引っかかりがあるものの、それを放置し、俺は話を進める。

 

 SAOの世界設定とプレミアが関係するとは、思えなかったから………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………フィールドはやっぱり広いな」

 

「そこはゆっくりするしかないね、っと」

 

 ユウキとで探索していると、よくわからないプレイヤーがいる。

 

「あれって」

 

 高笑いしながらエネミーを狩っているが、唐突にログアウトしたように消えた。

 

「あれは………、まさか《デジタルドラック》」

 

 このゲームを始めてから、嫌な予感ばかりして、色々調べていて知る、VRの影。

 

 聞いていた通り、嫌なものだ。

 

「それって………」

 

「現状、俺たちが使うアミュスフィアは安全面は保証されてるけど、中には改造するプレイヤーがいる」

 

 プレイヤーはあらゆる感覚をアミュスフィアに預けているようなもの。

 

 悪質なプレグラムにより、覚せい状態になるもの。そんなプレイヤーがいるらしい。

 

「不正プログラムか、やっぱり新たな技術は光と闇はあるもんか」

 

「なんかやだな………。どうして楽しいゲームで、そんなことするんだろう」

 

 ユウキは悲しそうにそう言う。健康な身体を持ちながら、そのようなものを使う気持ちなんて、理解できないだろう。

 

 俺はユウキの頭を撫で、ともかく気持ちを切り替える。

 

「テ~イルっ♪ 次はボク、バフしてみたい」

 

「ああ」

 

 そんなことをしながら、フィールドを探索し続けた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「んじゃ、今日も今日とて、必ずレアドロップがあるという」

 

「もう驚かないな……」

 

 あれからだいぶ攻略、クエストが進む中、いまだに驚かれるらしい俺のドロップ率。

 

 そんな会話をしていると、ユウキがなにやら格闘をしている。

 

 格闘と言っても、キッチンでだ。

 

「よっ、とっ、はっ!」

 

「調理スキル上げか」

 

「うんっ♪ おいしいの作るよっ!」

 

 ユウキが元気に返事をし、アスナがシノンたちと共に調理する。

 

 その様子にアスナは微笑みながら、

 

「テイルたちもどう? たまには戦闘スキル以外も上げてみたら」

 

「俺たちは食べるの専門だからな……。テイルはどうだ?」

 

「まあ材料もある……」

 

「そう言えば、前にユイちゃんとしてましたもんね」

 

 アスナがむ~と、少し悔しそうに見ている。娘と料理を想像してからだ。

 

「何事もチャレンジだよキリト♪ テイルもするよ。ボクらの料理、どっちがうまいか勝負だよ♪♪」

 

 ユウキからそう言われながら、

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「うまあぁぁぁいっ♪」

 

 そう言い、喜ぶのは他のメンバーたち。

 

「凄い………ほぼ初期値でこのレベルの料理って」

 

 アスナが驚かれるが、まあ現実でもできるし、夢で鍛えたし………

 

「凄いよ♪ どうやって覚えるの」

 

「感」

 

「えっ」

 

「感覚」

 

 リーファたちが驚くが、悪いがほんと、こういう経験は前世のたまものだ。

 

 正直誇れることなのだろうか分からない、自力では手に入れた物事だが………

 

 だが料理に対しては、骸骨の戦士。彼の試練でまあした。

 

 ホント、防御力上げたり、色々レシピを覚えたりしたよ。

 

 そんな会話や思いの中、さっと次の料理を出す。

 

「おぉ、また新しい料理か!」

 

「テイルこのまま店開いたらどうだ? いい腕してるぜお前」

 

「シリカに任せるよ」

 

 クラインとエギルがそういう中、また高得点らしき料理を作り出す。

 

 アスナは少し悔しそうにうなり、キリトも満足そうに食べる。

 

「これうまいな、この肉なんだ」

 

「熊」

 

「熊か、熊っ!?」

 

「熊の肉は、基本だ」

 

「なんの基本ですかっ!?」

 

 ともかくもう一度料理を作るため、奥に引っ込む。

 

 その際ユイちゃんとアスナが加わり、キリトも少しアイテム整理に部屋に戻る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「はうわ……、テイルさん、料理も勉強もできて、ほんと凄いですね」

 

 シリカが感心しながら食べていて、リズも、

 

「まあこの中じゃ、三番目に年上だっけ?」

 

「エギルさん、クラインさん、それを除けば年上ですね。大学生って話ですし」

 

 リーファがそう言えばと思い出し、ユウキがうんと頷く。

 

「リアルで会ったのは」

 

「俺の店で、キリト。あとはユウキにアスナ、ここにいないレインだろうな」

 

 エギルの言葉に確かにと頷く。

 

 彼はユウキの病気で骨髄移植をして、同じ病院に入院していた。

 

 ユウキのお見舞いに行ったアスナと、エギルの店を知り、顔を出したくらい。

 

 それ以外では自分たちは彼を知らないなと、改めて思う。

 

「テイルで知ってるのは、キリトと少し似てるくらいだよね」

 

「そうですね、頼りになる、お兄さんです」

 

「そうだよね、向こうがお兄ちゃんならよかったー、は、いまいないときは言わなくていいか」

 

 そんなことを話しながら、会話していると、

 

 

 

「オネーサン的には、キー坊から乗り換えるチャンスじゃないカナ」

 

 

 

 突然その言葉が部屋に響いて、全員が食べ物を詰まらせる。

 

「んぐっ………、あ、アルゴさんっ!?」

 

「いきなりなにを言ってるのかなっ!?」

 

「いっや~、またバフ料理の情報が出回ってないカラ、聞きに来たってワケダ」

 

「それよりもっ、さっきの言葉です!! わた、私とキリトくんは兄妹ですよっ!」

 

「いやもういいカラ。正直アーちゃんと言う果てしない大きな壁があるのだから、諦めて近場の花の方がいいゾ」

 

「ななな、なにを言ってっ!?」

 

「第一、テイルモテモテだゾ」

 

『えっ!?』

 

 その話は流して聞いていたクラインも混ざり、ユウキも驚く。

 

 エギルは呆れながらため息を付き、空になった皿を片付けながら言う。

 

「よく考えろお前ら。顔立ちもいい、背丈も高く、頭もいい、性格もいい。そのうえ資金とかの管理から考えて、ありゃ、無駄使いしない男だな」

 

「そんな奴がモテない方がおかしいゾ。もうすでに裏でファンクラブができてるんダ。彼奴のスクショが売れててナ」

 

「売ってるのアルゴさんじゃないですよね?」

 

 アルゴは何も言わず、にこにこしていて、ユウキがそわそわとそちらを見る。

 

「はいはーい、前に肩こり気にしてて聞いたんだけど、スポーツの助っ人して疲れたって言ってたよ。後々で調べたけど、運動神経もいいみたい」

 

 ストレアから新たな情報を聞き、アルゴはメモを取る。

 

「これで恋人がいないのは、確かに女から見れば有力物件だな」

 

「だからって」

 

「私たちは別に」

 

「そう言うのを求めている」

 

「訳ではありませんっ!!」

 

 リズ、シリカ、リーファ、フィリアがそう宣言し、ストレアは楽しそうにしている。

 

「あたしはテイルのことも好きだよ~? 料理おいしいし、キリトみたいに優しいし」

 

「わたしもテイルのことは好きですよ」

 

 よく分からないものの、ストレアとプレミアはそう言い合う。リズたちも別に嫌いではないと言っている。

 

「いや、オネーサン的にはキリトガールズたちには諦めて、近くの有力物件をオススメしたかったんだけどネ」

 

「誰がキリトガールズよ!?」

 

「このままじゃテイルも誰かに取られるゾ?」

 

「それは別に構いませんよ!」

 

 ユウキがそわそわしている中、なにも言わず、ただなにか言いたげな顔をしている。

 

「ところで情報屋として、誰が有力候補なの?」

 

 ストレアがそんなことを聞くと、

 

「一番有力なのはレインとルクスだナ。SAOの頃からの付き合いだし、最近じゃあ、まあ一人とユイちゃんかナ?」

 

 その時一瞬ユウキを見て、ユウキは気づかず料理を食べている。

 

 だがそこでユイが出て来て、アスナが顔を出す。

 

「アルゴさんユイちゃんがどうかしましたか?」

 

「アーちゃんは過保護だナ、こうなると有力候補が断然トップのようダ」

 

「料理ができました~」

 

 第二候補が料理を持って現れ、テーブルに置かれ、アスナはそちらに。

 

 クラインは静かに、

 

「ところで、マジで彼奴にファンクラブあるのかよ」

 

「マジダ。SAOだって、彼奴にホレたプレイヤーが多いゾ。ほとんど低年齢プレイヤーだけど」

 

「それはそれでだめなんじゃ………」

 

 リーファがさすがに呆れ、それよりも沈黙を守っていたシノンが、

 

「そもそも、キリトに似ているだけって言う理由で、彼を選ぶこと自体間違いじゃないのかしら?」

 

「そうよそれそれッ」

 

 リズがその通りと食いつきながら、アルゴはえ~と遠い目をする。

 

「キリトガールズたちがあまりに不憫だから………」

 

「いい加減にキリトガールズと言うのやめてくださいっ」

 

「シリカはどうダ? ピナと仲良くやってるじゃないカ」

 

「テイルさんはそう言うのじゃありませんっ。ま、まあ、頼れるお兄さんなのは認めます」

 

「私も、キリトくんより年上ですし、そういう感覚です」

 

「あたしだって、彼奴はどちらかと言えばレインでしょ! あたしがどれほど難しい注文をレインからされたことか」

 

「まあ、彼ってエギルやクライン並みに年上っ、って感じだからね」

 

 フィリアの言葉に頷くキリトガールズを、涙がホロリとするアルゴ。

 

 そんな中キリトと共にテイルが調理場から出て来る。

 

「アルゴか、なんの話をしてるんだ?」

 

「キー坊、少しナ。現実を見ないのは辛いヨ」

 

「いいからそこまで話終わりよっ」

 

 リズはそう言い、テイルはなにか無表情で手に料理を持ったまま立っている。

 

「? どうしましたか」

 

「………」

 

「ああそうだっ、俺が持ってたのも調理できてなっ。名前も《スタミナ包み焼きキノコ》って名前なんだ♪」

 

 嬉しそうに言い、味はうまいと言いながらテイルから受け取り、テーブルに置く。

 

「キリト、やっぱりこれはお前だけにとどめた方が」

 

「なに言ってるんだテイル、結構うまいし、このまま食べようぜ♪」

 

「いいのか」

 

「?」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 とりあえず料理している間なにかあったか分からないが、みんな楽しそうにしている。

 

 料理も好評であり、いいのだが………

 

 調理中、キリトが妙な食材を渡してきて、それを調理して出す。正直、いいか分からない。

 

 だがキリト、なぜ《ガッツガエル》系を多く持っていたのだろう?

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

(話を進めてプレミアについて分かったのは、名前付けからしばらくして、その名前が登録されていて、キリトにべったりしてるんだよな)

 

 相変わらず、キリトたちから外れると一人。

 

 だがそれでもいろんな会話が耳に入る。

 

 キリトらしき人物が、NPCを守るために翻弄する等々。

 

 やはり彼らしい。

 

 だが、

 

「なにも起きなきゃいいけど………」

 

 いや彼のことだから起きるか。

 

 やはり戦闘スキル上げようと、フィールドに出る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 みんなと協力、他のプレイヤーを交えてボス攻略。そしてついに新たなエリアへと踏み込む。

 

「ここが未知のフィールドか」

 

 滝と湖群がテーマらしきフィールドで、女性メンバーが全員はしゃぐ。

 

「幻想的な景色だね」

 

「水は透明できれいだよな」

 

 キリトがそう呟く中、水に住まう魚がはねた。

 

 俺は少し大きめの石を手に取り、投擲の応用で投げる。

 

「えっ!?」

 

 魚は気絶して浮かび、それを何度かしてから取りに出向く。

 

 全員が驚いていたが、俺は気にしない。

 

「テイルって、ほんと引き出しが多いな」

 

「慣れてるだけだ」

 

「ここのお魚ですね、おいしい料理にできそうだよ」

 

「本当ですねっ、テイルさん、いくつかもらってもいいですか?」

 

 シリカに頷きながら、俺は《マックスサーモン》を渡す。

 

 やはりここも俺の知る物がある。

 

 探索して調べてみないとだめのようだと思い、辺りを見渡す。

 

「あれ、向こうに何かあるよ?」

 

 ユウキの言葉に、全員が滝近くまでくる。

 

 その滝に看板に『打たれ強き者、それを察するとき、幸運が降り注ぐだろう』と書かれていた。

 

「打たれ強きって、やっぱり」

 

「滝行だよね」

 

「幸運が降り注ぐってことは、幸運バフが付くのか」

 

「えっ、テイルがいるのに?」

 

「………幸運アップの装飾品か」

 

 そんな話をしながら、クラインが滝行するため上半身の装備外してひと悶着があったものの、全員がすることに。

 

「かあぁぁ、冷てぇ!!」

 

「これは、かなり来るな………」

 

 シリカが最初に抜け出したあと、フィリアやリズが次々と出ていく。

 

 キリトと俺が残り、滝に打たれていた。

 

 懐かしいな、骸骨の戦士のもとではよくやっていたな。豪雨の中で、モンスターとバトル。

 

「キリト頑張れーー」

 

「テイルも頑張って!」

 

 だが気になる。察するってのはなんのことだ?

 

「うおぉぉぉ、早く振って来い、幸運!」

 

 そうキリトが叫んだとき、瞬時に剣を抜く。

 

 カンっという音と共に、全員が驚き、それを見た。

 

 タライのような盾装備というネタ装備。

 

 そして、それを防いだ俺。

 

 その瞬間、滝が割れ、岩から片手剣らしいものが出現した。

 

「えっ、はっ? な、なに?」

 

「テイルさんがクリアしたってこと? お兄ちゃんはこれ?」

 

「そ、そんな………」

 

 愕然とするキリト。キリトには悪いが、片手剣を抜く。

 

「しかもそこそこ強い、ネタ装備に隠された、クリアアイテム?」

 

「テイルさん凄い、よく気づきましたねっ」

 

「………ああ」

 

 俺はそれに驚く。

 

 それは《氷雪の剣》に似ていた。

 

 そこそこ手になじむ。性能も強化を視野に入れればいい、属性武器は設定上ないからしかない。

 

 だがこれはいいとかじゃないな。

 

 なんなんだこのゲーム。次から次へと、前世の関係する物が出て来る。

 

 と………

 

「………」

 

 どこからか、視線を感じる。

 

「お兄ちゃん、もう一回はやめてね」

 

「いや、だって、片手剣っ」

 

「キリトくん………」

 

 そんな会話をしながら、次のフィールドへと足を踏み込む………

 

「………」

 

 俺は一抹の不安だけ残りながら、それを持ち進む………




この章にゼルダ要素入れすぎて、GGOはどうしようね。

それでは次回、お読みいただきありがとうございます。


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第14話・驚きの出会い

行くぞ、後のことは後で考えろ。楽しく、面白ければいいんだ。

ではどうぞ、ゼルダ強めで行きます。


 新たなフィールド探索中、やはり考え込むことが多くある。

 

 魚もそうだが、やはりアイテムがあの世界の物ばかり。

 

「テイルさん」

 

「きゅう?」

 

 シリカとピナが心配して話しかける。今日もお互い、バフ料理の情報を交換していた。

 

「すまない、考え事していただけだ……」

 

 料理がうまくいくとバフで、逆だとデバフ料理になる。

 

 シリカのはとても好評であり、魚も仕入れ始めた為、レパートリーが広がっていた。

 

 こんな日々の中、彼女はずっとこちらを見つめていた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「テイルって、笑わないんだよね」

 

「そういやあ、そうだよな」

 

 ユウキの何気ない一言に、クラインはうんうんと頷く。

 

「そうかな? 何気ないことには、ちゃんと反応してるよ」

 

 アスナの言葉に、ユウキも頷く。

 

 だが、

 

「いやいや、それでも彼奴は。ああ、とか、うん、とか、そんなんばっかだぜ」

 

「確かに、不愛想と言うか、何と言うか……」

 

「本人が宣言した通り、口下手なのはもう分かってますけど」

 

「あんまり過ぎるってところがね」

 

 クラインの言葉に、アスナもなにも言えなくなり、シリカ、リズも頷く。

 

「それより、ここ最近難しい顔ばかりです。この前も食材の交換で、難しい顔をしてました」

 

「そう言えば、あの人、私たちと仲が良いけれど、まだちゃんと話し合ったりして無かったね」

 

「あっ、ならさっ♪」

 

 ストレアが嬉しそうに、なにか思いついた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………」

 

 ターゲットは物静かにショップを見て回る。

 

 手に《コハクの耳飾り》を手に取っていた

 

「あ、あのっ、テイルさんっ」

 

「シリカ……」

 

「お、おはな、お話がありますっ」

 

 そう顔を真っ赤にして、何か恥ずかしそうに話しかけられ、

 

「どうした」

 

 彼は無表情なのは相変わらずで待っていると、意を決して、

 

「す、すす、好きですっ」

 

 シリカは顔を真っ赤にして告白し、彼はそれを聞き、ぼりぼりと頬をかき、空を見上げ、そして静かにシリカを見る。

 

 真っ赤な顔のシリカに、

 

「ギャラリーはどこだ」

 

 すぐにそう呟いた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「一番手ですぐにバレたね~」

 

「シリカがいきなり告白してきても、分かるぞ」

 

 一応彼らとの交友がある者なら、キリトに好意を寄せるメンバーぐらい、クラインじゃなくても分かる。

 

 それが急にこんなこと言いだすのは、

 

「俺が無表情だからって、無理に表情を変えさせようとしないでくれ」

 

 呆れながら言うと、ユウキとストレアはえぇ~と言い、周りは苦笑する。

 

「友達は少なくても、知り合いはいる。こんなことは一度二度じゃない」

 

「なんでえい、もうされてたのか」

 

「けどテイル、あまり笑わないと楽しそうに見えないんだもん」

 

「分かってくれていれば、俺はそれでいい」

 

「あっはは、まあテイルはその方がかっこいいって言う、女の子プレイヤーがいそうだし、このままでいいんじゃないかな?」

 

 フィリアの言葉に、女性プレイヤーはわーきゃー言い始める。

 

 テイルはぼーとして、ただ無口で通しているだけで騒がれる。それに少しクラインは羨ましそうに見ていた。

 

 そうしてたら、

 

「えーい♪」

 

 そう言ってストレアがぎゅーしてくる。

 

「どうどう? おねーさんにぎゅ~されるの」

 

「嬉しいよ」

 

 だが無表情であるためか、むむむっとうなり、うぎゃーとストレアが構ってくる。

 

 ユウキも楽しそうとか言って参加して、二人の首根っこを持って、キリトとアスナに渡す。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 メンバーはユウキ、リーファ、ストレアで、湖のフィールドを探索する。

 

「いつもここで魚の採取してるんだよねテイル。あたしたちもできるかな?」

 

「やろうと思えばできる」

 

「そう? どうやるの」

 

 ストレアがそう言い、俺は、

 

「まず魚影の集まりを見つけ、ソードスキルの準備……」

 

「テイルそれ違う」

 

 ユウキがすぐにそう言い、これが一番効率がいいんだが………

 

 そんなやり取りの中、広い湖を見つけ、奥が滝であり、滝音が聞こえる。

 

「向こう側いけないかな?」

 

「この辺りの岩壁は垂直過ぎて、登れるかどうかわからないし、一人じゃな」

 

「それじゃ、探索はここまでにして、一度戻りますか?」

 

 リーファの言葉に頷き、全員が一度引き上げた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「結構探索したけど、採取アイテム豊富なフィールドだな。シリカ、テイル。この魚はどんな効果あるんだ?」

 

「それは《シノビマス》ですね、どうもモンスターから狙われにくくなるようです」

 

「へえ」

 

「キリトくん、魚の影にソードスキル使うからびっくりしちゃったよ」

 

「ふむふむ、それが一番なのか。あたしもやってみよ♪」

 

「いや絶対に違うと思います。お兄ちゃんとテイルさん、変なところがほんと似てますね………」

 

 リーファが呆れるが、俺はキリトがまたこっそりと《ゴーゴーガエル》系採取してる。

 

「採取系で、結構採取するプレイヤーは多いみたいだぜ。クエストもそうだけど、バッタ系とか面白いからな」

 

「おおっ、オレが手に入れた《ツルギカブト》ってのも、結構でけえのがいて、面白かったぜっ」

 

 そんな会話の中、一人のプレイヤーが近づいてくる。

 

「景気はよさそうダナ、キー坊」

 

 アルゴがそう言いながら現れ、こちらの戦利品を見る。

 

「おっ、新フィールドのアイテムカ。オレっちも欲しいから情報は高く買うゼ」

 

「それより、なにか用事があったんじゃないのか?」

 

「ああ、それも大事だガ、テイルにナ」

 

「俺か」

 

 静かに側に近づく。アルゴは俺の無口度は知っているので気にせず、

 

「テイルはあるモンスターをテイムしたらしいナ、それなんだが………」

 

「『グラニ』か」

 

 シグルドの愛馬の名前。最初は『エポナ』と名付けようとしたが、元ネタが説明できないといけなかったのでやめた。

 

 プレミアはその名前を聞き、嬉しそうに微笑む。

 

「あの子の話ですか?」

 

「ああ、実はあの馬、高難易度のクエストなんだ」

 

 まず野生のに気付かれないように近づく。

 

 次に騎乗し一定時間乗り続け落ち着かせる。

 

 他の方法でエサで時間をかけて懐かせるらしい。

 

「んで、いまのところはテイル以外にテイムした奴はいないって話ダ」

 

「その情報欲しさに、テイルの所に来たのか?」

 

「いいヤ。あの馬、別フィールドにも連れて行けるだロ? 実は新フィールドでいけない湖の場所があるんダ」

 

「あああそこ」

 

 ストレアの言葉に、俺もあの場所を思い出す。

 

 そして、

 

「どうもあの馬、水の上を歩けて、滝を上ったり、下ったりできるらしいんダ」

 

「えっ、それホントっ」

 

 目を輝かせるユウキたち、ある意味湖を馬で走るのはどんなものか、興味があるらしい。

 

 すでに野生のモンスターが行き来しているのが目撃されていて、プレイヤーも行けるのではと、その検証らしい。

 

「情報さえくれればオネーサンはいいんダ。報酬も出すゼ」

 

「そうか、試してみよう」

 

 そう頷くと、すぐに手を上げる者たちがいる。

 

 ユウキやプレミア、リーファやストレアはもちろん、未開拓地にキリトまで。

 

「待て、彼奴で運べるのは最低二人まで。最低あと一人だぞ」

 

「そうなると」

 

「うん、私も気になるし」

 

 そして静かに立ち上がり、拳を固め、全員がジャンケンを始めた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 装備を槍に変え、シリカとピナ、プレミアを前に乗せて。後ろにはリーファを乗せている。

 

 愛馬に乗り、平然と野を駆け、湖の前に来た。

 

「それじゃ、行くぞ」

 

 全員が頷くのを確認して、手綱を引っ張り、先に進む。

 

「水の上を歩いてます」

 

 目を輝かせて言うプレミア。シリカもピナを抱きしめながら、リーファも頬を緩める。

 

 俺はそのまま走り、滝の前に来た。

 

「行けるか」

 

 そう聞くと、グラニは吠え、平気らしい。

 

「ハッ」

 

 そして一気に駆けだすと、ジェットコースターのように水の上を滑り、一気に進む。

 

 広い大きな滝で、意外と高く、そのまま滑り降りた。

 

「びっくりしたけど凄いよテイルさんっ♪」

 

「はひ………、凄いですねグラニちゃん」

 

「きゅる♪」

 

「凄いです………」

 

 リーファが後ろから抱き着きながら、水を滑るように先に進む。

 

 プレミアが寄りかかり、シリカは馬の首にしがみつく。

 

 そんな中槍を片手に、静かに進んでいくと、

 

「野生の子たちもいますね」

 

「ああ」

 

 水の上にいて、近づくと離れていく。

 

 その様子を見ながら、しばらく進んでいると、

 

「っ!? さすがに来たか」

 

「来たって………」

 

 その時、槍を振り回し、何かを弾く。

 

「いまの」

 

「後方四時の方角」

 

「敵っ!?」

 

 スピードを上げて陸地を探す。

 

 それに平行して馬の足音が聞こえ、同じように来る者達を確認する。

 

「いま視認しました、数は四人っ。二人は弓矢です」

 

「エネミー側だけ弓矢装備なんだよな」

 

 そう冷静に槍を右手、左腕に手綱を巻き付け操った。

 

 槍はまあまあの物であり、静かに前を見ながら、リーファに合わせる。

 

「右側から」

 

 攻撃を弾きながら、陸路まで走る。

 

「もうすぐ陸路ですっ」

 

「そこに入れば飛び降りてくれ、その後は俺が対峙する。リーファ残り二人の武器」

 

「片手剣と槍です」

 

 陸地に乗り上げた瞬間、三人は指示通り飛び降り、そのままUターンし、川の上で激突する。

 

「片手剣はそっちに行く、任せるぞ」

 

「了解!」

 

 返答を聞き、弓矢のカバーを受けつつ、槍使い同士の激突が始まる。

 

「ハッ、でやっ!」

 

「くっ」

 

 相手はNPC、エネミーモンスターじゃない。ならば、

 

「なぜ俺たちを襲うっ」

 

「侵入者を攻撃して何が悪いか」

 

 会話を返した。そのまま、対峙して、

 

「いきなり宣告も無く攻撃か、俺たちは冒険者だ、ここを荒らしに来たわけでは無い」

 

「ふざけるな、悪いがここで捕縛させてもらう!」

 

 だが攻撃は本気であり、自分らはともかく、プレミアは危険だ。

 

 仕方ないので、馬を駆使して、槍を弾き、突進して馬を蹴る。

 

 驚いた瞬間、槍で乗っているNPCを叩き落した。

 

「うまいねっ」

 

 そう軽口をたたくのは、黒っぽい髪の、化粧を施したスカーフを巻く男が弓矢を構え、即座に落とす。

 

「へえ、やるな君。僕ほどじゃないけど」

 

 その口調と、顔のタトゥーみたいな顔。

 

 どこかで覚えがある。

 

「『リーバル』殿ッ、不審者にそんな悠長に」

 

 ………なに?

 

「そうは言うけどさあ、もう僕ら以外倒されたよ?」

 

 そう言い、片手剣の剣士も落とされ、取り押さえられている。

 

 暴れる馬は、シリカが落ち着かせ、その様子を見ながら、

 

「不審者と言えば不審者だけど、いま僕らの抱える問題と、関係ないんじゃないかな? ま、この状況で君らを守りながら戦うの僕無理だよ」

 

「それは……」

 

「それじゃ聞くけど不審者さん、君ら、水の都になにかご利用かな?」

 

「………なにも知らない、この先に何かあるか調べに来ただけだ」

 

「なんだい、まあ不審者なのは間違いないね」

 

 そう言いながら、俺は内心驚く。

 

 確かに口調や顔の模様など、彼を人間にしたような男だ。

 

 ともかく馬を操り、何か考える彼らから離れる。

 

「あの、私たちこの先に行っちゃいけないんでしょうか」

 

「ああ、ああうん少し待って、うん」

 

 何か考え込むリーバルは、何か思いついた顔でこちらを見る。

 

「君ら冒険者って言ったよね? 怪物とか倒せる?」

 

「リーバル殿っ」

 

「落ち着きなって、正直僕らだけじゃ、あの怪物倒せないんだし、彼らなら死んでも痛くないし、いいじゃないか」

 

 そんなことをさらっと言いながら、こちらに話しかけて来る。

 

「怪物退治?」

 

「そ。いま都がピリピリしてるのは、危険な怪物がいて、それを鎮めるために人柱を出さなきゃいけないの。んで、都の領主の娘が選ばれた。ここまで言えば分かるよね?」

 

「………代わりに怪物に向かって、死ぬか倒すかしろってことか」

 

「そう言う事、話が早くて助かるよ。かわりに君ら、他に仲間いる? 良ければ彼らも呼ぼうか?」

 

「………」

 

 少しそのまま歩き出して、リーファたちの下に近づく。

 

「クエスト、でしょうか? まだ発生してませんけど」

 

「仲間を呼ぶってのは、他にいるメンバーを呼べるようにするための処置だろう。メッセ飛ばせばキリトたちならすぐに来られるだろうし」

 

「なら、呼んでみます? 皆さん来たがってましたし、クエストも大掛かりそうですし、アイテムのことも考えて」

 

「だな。何人まで連れて来られる?」

 

 それに五人までらしく、メッセージを飛ばす。

 

 彼らの案内で先に水の都へと進むのだが、正直驚くことが多い。

 

(正直もうどーにでもなれ)

 

 そう思いながら、ピナが頭に止まり、そのまま水の都へと入り込む。

 

 そこでまた新たな驚きがあるが、この時も表情が働かなくってよかったと思った………




ちなみにテイル、リーファに抱き着かれても何とも思わない。この子精神大人だから、気にしない。

エポナにしてあげたかったけど、仲間からどういう意味?とか聞かれたらとか色々思い、結局有名どころを選ぶ。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第15話・水の都のバトル

いろんな人に感謝しながら、できた話です。

どうぞよろしくお願いします。


 馬を歩かせ、集落らしき水の都に来る。

 

 その美しさにプレミア、シリカ、リーファは言葉を無くした。

 

 岩壁を削った造形美、美しい水の集落に驚く一同。

 

 そしてしばらく待つ。

 

「よお、凄いところじゃないかここっ」

 

「ホント、綺麗なところ。キャラバンはあったけど、ここも凄くいいね」

 

 キリトとアスナが興奮が収められずに驚きながら来て、続いてクライン、シノンにリズも連れてこられた。

 

「けど内容はパーティー戦らしいクエストなんでしょ、アイテム補充したわよ~」

 

「ほらよ、テイルたちの分もしっかりとな♪」

 

「ありがとうございます」

 

「きゅる♪」

 

 アイテムを補充し、リーバルがこちらに来る。

 

 するとクエスト承諾メニューが現れた。

 

「内容は」

 

「タイトルは《水の乙女》か。怪物により恐怖に包まれた都、生贄に捧げられそうになる少女を救えか。ベタだけど、難しいか?」

 

「ともかく」

 

 全員で顔を見合わせて、選択を受ける。

 

「君ら、そろそろいいかな? 代表の方が君らをお呼びでね」

 

「ああ」

 

 俺に話しかけてきたので代わりに頷く。

 

「ここのパーティーリーダーは」

 

「テイルでいいだろ、最初に来たのは君だし」

 

「………分かった」

 

 そうなるよな、話しかけてきたのも俺メインだし。

 

 そして案内された先で、

 

「ッ!!?」

 

 クラインに電流が走る様子が見えたが、俺は別の意味で驚く。

 

 そこに一人の美しい少女がいた。

 

 長く深紅の色を持つ髪、瞳の色も独特でほんのり化粧をした綺麗な女性。

 

 腕や服に装飾を付けていて、ティアラのようなものを身にまとう。

 

 あの服を思わせる服を纏い、ふわりとスカートを翻す。

 

「始めまして、この都の領主の娘……。名を『ミファー』と言います」

 

 それに顔色は変えなかったが、驚愕する内容だ。

 

「領主ということは」

 

「話は聞いていますか? 私はこの都を収める『ドレファン』。いまこの都には怪物が大事な湖に住み着いています」

 

「それは」

 

「その湖は神聖なものでね。この都に魔獣が襲われないようにするものだったんだ」

 

 だがその湖事態に怪物が居座り、その効力を無くす。

 

 結果魔獣が都に攻め込むようになり、その怪物も食べ物を求めて襲うようになる。

 

「認めたくは無いけど魔獣くらいはどうにかできる。だけど怪物はお手上げなのさ」

 

 怪物から放たれる爆発する魚を抑え込むため、奴に食わせる食べ物を渡していた。

 

 だけどそれも尽きかけ始め、ついに生贄を出すしか無くなる。

 

「それで私を捧げることになったのです」

 

 弱々しいがはっきりと、彼女はそう言う。

 

「いけねえ……、そんなのいけねえよ!」

 

 クラインは立ち上がり、すぐに領主にはっきり言う。

 

「領主さんよ任せてくれッ、その怪物っていうの、このオレたちが必ず退治するぜっ」

 

「ま、君たちがエサになれば、まだ時間稼ぎくらいできるからね」

 

 リーバルは隠す気も無く、そんなことを呟く。

 

「リーバル、私たちの問題に、関係ない人を」

 

「いいじゃない、彼ら、自分から退治するって言うんだしさ」

 

 ミファーがリーバルに抗議するが、彼は態度を変えず、俺は前に出て、

 

「ともかく、その怪物退治をやらせてくれないか」

 

「………すみません」

 

 領主はそう短く言い、せめて遠方より援護する話をし、戦いの場である情報を話してくれる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「できれば弓矢をくれればいいのだけど」

 

 シノンはそう言い、まあまあとキリトが落ち着かせながら、話を纏める。

 

「つまるところイベント戦で、水辺か水中戦の可能性があるな」

 

「そうなると、少人数が前に出て様子見。攻撃パターンを見てから全力か」

 

「死に戻りなしを前提にするなら、俺と君でパターンを確認した方がいいな」

 

 キリトはそう言い、俺は頷く。

 

 この世界のNPCは蘇生されない。もしかすればここで俺たちが倒れればミファーは変わる可能性がある。

 

 それは嫌だ。彼女が、あの彼女ではないのは理解できるが、それでも抵抗を覚える話。

 

「オレはやるぜっ、ミファーさんのためにもな!」

 

 うるさいのがいるため、シノンとリーファ、リズが呆れ、俺はリズに槍の替えを頼む。

 

「そうか、あんたなら騎乗して戦えるもんね」

 

「そうなると剣より槍がいいから」

 

「そうなると、俺は状況によっては離れていた方がいいな。サポートはするよ」

 

「ああ頼む」

 

 そして戦闘の準備並び、この都で情報を集める為に、一度解散する。

 

「ああクライン、あんたミファーさんに聞きに行くの禁止ね」

 

「なんでだよッ」

 

「あんたじゃちゃんと聞かないからよ」

 

 リズとシノンにそう言われ、クラインは黙り込み、キリトは話をつづけた。

 

「それじゃ、プレミアはどうする」

 

「わたしはミファーと言う人から話を聞きたいです」

 

「俺もリーバル、たぶんそっちは最初に関わったプレイヤーの方がいいだろう」

 

「なら私も付いて行きます。お兄ちゃんはアスナさんとシリカちゃんとで」

 

「その方がよさそうだな」

 

「それじゃ、時間を決めて、合流しましょう。怪物退治も、私たちがアクション起こさなければ発動しない、って保証もないしね」

 

 アスナの言う通り、こういうのに時間をかけ過ぎて、突然怪物が暴れ出したとか言われて呼び出されても困る。

 

 こうしてすぐさま別れ、行動に移った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 彼女の部屋へと案内され、彼女から怪物の話を聞く。

 

 内容は、触手のようなものの中に目玉があり、触手に触れたものは食われてしまう。

 

 配下に爆発する魚がいて、それを大量に放つ。

 

 湖は周りを滝に囲まれた場所で、周りは崩れた遺跡が水没してたりする。足場少なく、聖なる馬の力を借りなければ行き来はできない。

 

「テイル、わたしたちは戦う際どうすれば」

 

「俺はいいが、キリトたちは誰に乗せてもらうしかないだろう」

 

「お話は私から付けておきます」

 

 そしてリーバルに会う為、その書類を書きだすミファー。

 

 見た目人間の少女だが、やはりあの『ミファー』を連想する。

 

「あの、すいませんが、あなたはなぜ、怪物の生贄になったのですか」

 

 リーファは少し悲しそうに聞くと、彼女は凛として胸に手を置き、はっきり告げる。

 

「私には弟がいます、領主の跡を継ぐのはあの子で十分。このようなことを民の方々に押し付けるわけにはいきません」

 

 恐怖はあるのだろう。だがリーファの問いかけに、しっかりと答える。

 

 やはりなにがなんでも攻略しなければいけないな。

 

 そう思っていると、プレミアが絵本を見つけた。

 

「これは」

 

「それは……、私の好きな、勇者と異種族の姫様の、恋の物語です」

 

「それは」

 

「はい。種族が違うこともありますが、勇者様にはすでに大切にする、同じ種族の姫様が居ます。それでも勇者を慕う、異種族の姫様の物語です」

 

 そう言い、本を手に取り抱きしめるミファー。

 

 そんなところまで似ていることに違和感を感じながら、彼女には、

 

「安心してくれ」

 

「えっ」

 

「俺たちが怪物を倒す」

 

「はい、任せてください」

 

 それを聞き、最初驚くが、すぐに頭を下げ微笑んだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「僕らがするのは、怪物への弓矢の攻撃と、馬で君らを怪物にけしかけることだね。問題ないよ、君は……一人で問題ないね」

 

 リーバルの方も、本質が同じなら、彼は仲間を守ることを優先しているだけだ。

 

 ともかく話を聞きながら、怪物は水底に身体半分を沈ませ、触手だけ伸ばしているらしい。

 

 目玉と爆発する魚だけを放出して、ともかくメインアタッカーは俺になるようだ。

 

「ともかく、やるんならきっちり倒してくれよ。僕らも手を貸すんだからね」

 

「ああ」

 

「………」

 

 難しい顔でこちらを見ながら、軽く舌打ちする。

 

「君、友達少ないだろ。何でもかんでもできる奴って、僕嫌いなんだよね」

 

「テイルは良い人です」

 

「はいはい、だからなお悪いんだよ………」

 

 後半プレミアには聞こえていないが、彼は念入りに弓矢を整備する。

 

 弓の発射や、場所などの指示はこちらの要望を聞く。シノンに言って、彼女の指示を聞くように話を通しておく。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 広い開けた空間で、滝に囲まれた湖の真ん中に、透明な触手が浮いている。

 

 キリトたちも騎手がいる馬に相乗りさせてもらう。リーバルを含め、弓兵が五人がシノンの指示。残りは槍を持つ騎馬兵。

 

 プレミアを乗せている方だけ、ある意味気になる。だがいまは気にしていられない。

 

「まずは俺が先陣を切る、キリトたちは慣れないだろうから、しばらく俺が戦う。援護射撃とバフを頼む」

 

「分かった、みんな、用意は良いかっ」

 

 キリトの号令に、アスナたちがバフをかけて、俺は突進する。

 

 俺の予想が高ければと思いながら近づくと、無数の触手が現れ、その中に目玉が一つある。

 

(もう話したが、あれがまずの弱点だろ)

 

 足場を気にしながら、まず俺がタゲを取り、弓兵で目玉を狙う。

 

 キリト、クライン、リーファが分かれ、スイッチの待機。

 

 リズとシリカ、プレミアは、

 

「水面、爆弾三体ですっ」

 

 俺に指示を出して、下から迫る爆弾魚を避ける。

 

 こうして無数の触手が出る中、

 

「いまよっ」

 

 正確に弓矢の指示を出し、着実にダメを与える。

 

 無論可能なら、

 

「でやッ!」

 

 槍で俺も攻撃に参加する。

 

「ゲージが見えないっ、ともかく注意しろ!」

 

 そしてリーバルの矢が目玉を捕らえた瞬間、巨大な悲鳴が響き渡る。

 

「離れろッ!!」

 

 すぐに離れ、体制を整える。

 

 水面が荒れ、突然現れるのは、

 

(こいつは《覚醒多触類オクタイール》っ!!? まさかまさかと思っていたが)

 

 巨大な長い魚であり、こちらに向かって水面から飛び出し、巨大な口を開き迫る。

 

 それを避けながら、タゲはいまだ俺のようだ。

 

「ハッ、スウ」

 

 水面を駆けて、突進する。

 

「今度はゲージが見えているっ、狙いは目玉!!」

 

 さすがキリト、まだ背中に目玉があるのに気づいた。

 

「うまく誘導してっ」

 

「了解ッ」

 

 迫る攻撃を避けつつ、シリカとリズ、プレミアの爆弾の指示を的確に聞く。

 

「アスナそろそろスイッチする、テイルの回復準備」

 

「スイッチ」

 

「待ってましたッ」

 

 三人が変わって動き出し、水面から飛び出す際に斬り込みだす。

 

「大技じゃなく、的確にダメージを与える。弱点狙いはシノンたちに任せ、タゲを取らせないようにするんだっ。シリカたちの指示も忘れるな!」

 

「分かったよっ」

 

「おうとも!」

 

 俺はアスナの下に行き、回復サポートを受けながら、次に備える。

 

 キリトたちは三人で飛び出すオクタイールに苦戦はする。やはり自分の足場では無く、騎馬による戦いになれていない。

 

「バフ掛け終え後、参戦する」

 

「分かったわ、キリトくんっ、テイルさん回復後前線復帰!」

 

 的確に目玉を狙う弓兵たち、その時、

 

「タゲ取られたっ」

 

 シノンの指示を聞き、バフが間に合い、駆けだす。

 

「はっ!」

 

 すぐに真横に着き、槍で目玉を突く。

 

 悲鳴を上げ、タゲが俺に変わり、すぐに応戦するが、爆弾魚の指示が多い。

 

「クライン、プレミアは俺と共に爆弾魚の除去。テイルのサポートをする」

 

「了解!」

 

「分かりました」

 

 攻撃を加え爆発させる音の中、的確にオクタイールのゲージを削る。

 

「ゲージはっ!?」

 

「あと一本半っ」

 

 その時、真正面から突進してくるオクタイール。すぐにグラニを操るが、

 

「! 爆弾来ますっ」

 

「!?」

 

 指示が遅れ、側で爆発する魚。

 

 それに驚き、グラニの操作を誤った。

 

(まずい)

 

 そう感じながら、この場合どうするかすぐに切り替えた。

 

 グラニだけを攻撃から抜け出させ、俺は飛ぶ。

 

「テイルっ!?」

 

 持っていたロープを取り出し、すぐにそれをオクタイールに引っ掛ける。

 

 そのまま目玉の側に来て、短剣を取り出す。

 

「こうなればッ」

 

 水中に入りながら俺を振りほどこうとするオクタイール。

 

 だが水中だろうがなんだろうが、しがみついて斬り続けるのは何度もした。

 

 そのまま攻撃し続け、キリトが、

 

「激突するぞッ」

 

 それにすぐに離れ、水中に落とされ、岩に激突するオクタイール。

 

「射撃隊っ」

 

 すぐにシノンが用意していた射撃が一斉に放たれ、リーバルの矢が穿つ。

 

 その瞬間、悲鳴を響かせ、ゲージが消し飛び、ポリゴンへと変わり消え去った。

 

「助かった」

 

 同時に爆弾魚も消え、水中に浮いていると、グラニに近づいて、俺はほっとした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 こうして領主の下に呼ばれる。都は賑やかな雰囲気で、クエストは成功したようだ。

 

「旅の方。怪物の撃退、見事です。これをどうかお納めくださいな」

 

「これは、聖石っ!? ここはプレミアのイベント場所だったのか」

 

 そう言うキリト、プレミアは祈りを捧げながら、石は光、側に。

 

「やはりあなたは《聖大樹の巫女》様でしたか。ならばこれは貴方の物です」

 

「ありがとうございます」

 

 祝いの席を用意されながら、みんながクエストクリアの表示に喜び、報酬も出た。

 

 だが俺はある意味、一抹の不安だけは残るが………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 他のメンバーもここまで運んでもらえるらしい、クエストクリアしたキャラとパーティーを組んだ者ならば、ここまで運んでもらえるらしい。

 

 アルゴはその情報に喜びながら、イベントボスだがおそらくこの様子では一度だけだろう。

 

 そんな中、俺は町を見て守っていると、

 

「あの」

 

「ミファーさん」

 

 その時、あの可憐な少女が現れ、ゆっくりと近づく。

 

「怪物退治、ありがとうございます。おかげで都は救われました」

 

「俺だけじゃない、貴方たちの力もあったから」

 

「そうですね、リーバルたちには感謝しなければ」

 

「あの場にはあなたもいましたよね?」

 

 それに驚く中、少しだけ目線を泳がせる。

 

「………どうしてお分かりに」

 

「騎馬の人が持つ槍、あなたのだけ特別性ですから」

 

 それにああと納得されるが、実際『彼女』が用いた槍だから。

 

 なにより、

 

「民の為に生贄の道を選んだ者が、大人しく待つとは思えない……」

 

 それに驚きながら、僅かに口を両手で多い驚いていた。

 

「凄いですね、まるで絵本の中の勇者様のようでした……」

 

 それに、その言葉は、嫌になる。

 

 その言葉だけは俺は背負いたくないと願い、懇願し、否定した言葉。

 

 その重みが一気に伸し掛かる。

 

「………俺は勇者になんてなるつもりはない」

 

 鉛のような重み、黒い感情がまとわりつく。

 

 勇者なんて、勇気なんて俺にはない。

 

 やめてくれ、なりたくない、俺はそんなもの背負いたくないんだ。

 

「だが」

 

 だけど、

 

「仲間くらいは守る、それだけできればいい」

 

 それだけは背負う。それくらいは背負ってみせるさ………

 

 聞きながら、ミファーは、

 

「それでも、あなたは………」

 

 だが途中で言葉を飲み込み、静かに微笑む。

 

 その頬が少し赤い気がしたが、気のせいだろう。

 

 いくら人間でも、似ている以上、彼女は勇者に恋していてほしい。

 

「これを」

 

 彼女はそう言い、腕につけていた飾りを渡して来る。

 

「これはこの都に深く関わる者しかつけないもの。なにかあれば我々が貴方たちの力になります」

 

「いいのか」

 

「私は替えの物を付ければいいだけですから」

 

 そう言われ、俺は両手にそれを装備する。一応話はつけるが俺が装備していいか聞かないと。

 

 能力はいいが、アタッカーばっかだからな。他にも付けた方がいい奴いっぱいいるよこれ。性能良すぎる。

 

 そんな会話をして、彼女たちと別れた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 俺は勇者にはならない。

 

(俺はテイル、彼、先生じゃない)

 

 だけど………

 

 だからと言って、仲間を守ることに関しては、負ける気もない。

 

 そう心の中で思いながら、都にやってきた仲間たちの下に出向く………




必死に考えて、こいつしかいなかった。水中戦専用アイテム多い。

ソードアートオンラインは、自分が考えるよりも難しく、凄い場所だった。考え無しにユウキ救う話作ろうってのは甘かった。

そんな弱気ですが、多くの人が読んでくれてると思うと嬉しいです。この調子で頑張ります。

それでは、お読みいただき、ありがとうございます。


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第16話・予期せぬ戦い

テイル、だいぶ身内のおかげで喋れるようになりました。


 フィールドを探索する傍ら、たまにレベリングする。

 

「………あっ、テイルさん」

 

 そこで都はだいぶプレイヤーが行き来する中、彼女と出会い挨拶をする。

 

 そんな中、

 

「ごきげんよう、ミファー」

 

「プレミア様、ごきげんよう」

 

 こうしてたまに彼女を連れて来る。

 

 最初の頃はデータの受け答えしかなかった彼女。いまでは自分の意思を前に出して、しっかりと話したりする。自分よりも話せるだろう。

 

 そんな日々であった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 そんなある日、彼女のイベント関係らしい場所があるので、俺、ユウキ、キリトとアスナ。プレミアと共にフィールドに出ている。

 

「ここから先に進んだ先に、大きな木があるんだって」

 

「それはいいが」

 

「ん~、まだ見えないな~」

 

 ユウキを肩車しながら歩く。ユウキはしっかり俺に捕まって、プレミアはずっとこちらを見る。

 

 その様子を微笑ましく見るアスナ。

 

 そしてプレミアと会話しながら、彼女は少しずつ学習していると肌で感じる。

 

 大樹のところでユウキを降ろし、プレミアを見ると、祈りを捧げるということはしない。

 

「反応は無いか」

 

「この木はプレミアちゃんとは関係無かったね」

 

「けど、楽しい散歩になったねっ」

 

 ユウキが腕に張り付く中、それをよく見て来るプレミア。

 

 なんだろうと思う中で、

 

 

 

「いい加減にしろよッ!」

 

 

 

「?」

 

 遠くの方、プレイヤーの叫び声が聴こえ、全員がそちらを見る。

 

 様子を確認するために見に行くと、一人のプレイヤーと、パーティーを組むプレイヤーがもめていた。

 

「あれ、は」

 

「ジェネシス………」

 

 キリトが呟く言葉、それは《黒の剣士》と呼ばれる、悪名で有名なプレイヤーだ。

 

 ついにはデュエル、いやそれすら手順を踏まず、勝負すら仕掛けようかというほどあおるジェネシス。

 

 だが結局何も起きず、パーティーが去り、ジェネシスも去ろうとしたとき、キリトと目が合う。

 

「あん? モブのヒーロー様じゃねぇか。俺に何か用があるのか?」

 

「いや、通りかかっただけだ」

 

「そうかよ………」

 

「………」

 

 その時、プレミアを見て、僅かに下に見た。

 

「なるほど、今日もモブを連れ歩いて、仲良くヒーローごっこか。ははっ、ウケるな!」

 

 ケンカ腰過ぎるな、彼は。

 

「用がねぇなら行くぜ、じゃあな」

 

 そう言って、ジェネシスは去っていく。

 

 キリトが抑えている以上、抑えるべきか。

 

 言いたいことがあるが、モラルにかけること以外、彼は何もしていない。

 

 俺はいつもと同じ、ただ黙り続けた。

 

「あの人、有名なプレイヤーって話だけど、よく思ってない人が多いみたい」

 

「楽しいゲームのはずなのに、どうしていがみあっちゃうんだろう」

 

「分からないな………」

 

 そう話し終え、今日は解散する。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「テイルって、NPCにモテるのかな?」

 

 ストレアがキリト、テイルがいない時、唐突にそのようなことを言った。

 

「なによ、またその話?」

 

 リズは嫌な顔をし、シリカはうぅっとうなる。

 

 正直いまの恋は諦めて、新しい出会いと言うのもありと言うか、相手に恋人がいるのだからそれがいいというのは分かり切っているからだ。

 

「実はこの前の、ミファーって人、テイルに対して好感度高い気がしてね」

 

「そうなんですか」

 

「尋ねたとき、テイルがいないか少し探したからね~」

 

 そう言いながら、ストレアは面白くなってきたと言う顔で言う。

 

「ミファーさん綺麗だもんね、キリトも少し、あの人に見惚れてたし」

 

「えっ、そうなの?」

 

 その時アスナから僅かな怒気を放ち、シリカたちもむっと言う、オーラが出ていた。

 

「うんだって、キリトも凄い剣士ですねって褒められてたら、顔赤かったよ~」

 

「………へえ………」

 

 いまテイルと台所にいるキリトの方を見るアスナ。

 

 キリトが謎の悪寒を感じ取る中、フィリアが少しだけ呆れながら、

 

「やっぱりテイルとキリトと似てるね~」

 

 人に好かれやすいところ、剣士としての腕前など、そう言う意味で呟いた。

 

「似てる……、似てるとは言えば」

 

 プレミアがシリカの肉まん屋で出されているバフ料理を食べていた。

 

 最近はバフ料理も出している。そして一度フォークを置き、なにか思い出したように、

 

「ここ最近、テイルは一人の時、難しい顔でなにか考えているようです」

 

「あっ、それ分かります。料理の時も、少し目を離すと難しい顔ですよ」

 

「そう言えば、片手剣の強化の時も。彼奴かなり念入りと言うか、その」

 

「SAO時代のようだな」

 

 エギルがそう呟くと、その瞬間、あの世界の彼といまの彼が合わさる。

 

「けどテイルさん、あのメッセージにはなにも反応してませんでしたよ」

 

「リーファの言う通りだが、なにか別のことで考えてるのか?」

 

「………こうして話してると、彼のこと、私たちってなにも知らな過ぎてる気がするね」

 

 アスナがそう呟くと、ユウキもまた、

 

「うん……。ボク、治療のために先生とお話しするとき、テイルのご両親も聞いてくれるようになってくれたんだけど、テイルとはそんなに話してないかも。ゲームの話ばっかし」

 

「彼が何もしゃべらないけど、私たちも聞かないのも悪い。そう言いたいの?」

 

 シノンはそう言う、確かにと頷く。

 

「まあ、話したくないことを話せってのは、マナー違反だけどよ。ここまで仲良くなったんだからよお、少しはリアルのことで知ってもいいよなオレら」

 

「確かに……。SAOの頃も、ALOの頃。そしていまもリアルも。せっかく仲良くなったんだから、彼ともっと話をして、仲良くなりたいよね」

 

 アスナがそう言い、それには全員頷く。

 

 そしてキリトと共に、調理場から彼が現れる。

 

「あっ、テイル♪ 今日も料理?」

 

「………ユウキ」

 

 難しい顔でユウキを見る。その顔に、仲間たちは、

 

「テイルさん、その、一人で抱え込まないでください」

 

「アスナ……」

 

「せっかくこうして仲良くやってるんだから、なんか悩みがあるなら聞くわよ」

 

「そうですよ、私たちも聞いてもらってます。だから、話してくださいテイルさんっ」

 

「オレらだって、オメーの助けになりてえんだよ」

 

「リズ、シリカ、クライン……」

 

「ど、どうしたんだみんな?」

 

 キリトだけが分からず、そして静かに料理を置いて、

 

「分かった……」

 

「テイルさん……」

 

 そしてテイルは意を決して、

 

「きょ、今日の料理は《ゴーゴー包み焼き肉》。材料は《ポカポカ草の実》に《トリ肉》。そして《ゴーゴートカゲ》をふんだんに使った……」

 

「………………………えっ?」

 

「結構うまいんだぜっ♪♪ 少しびりっと辛くて、なかなか。アスナ食べて」

 

「食べませんッ!!」

 

 テイルはだよな~と言う顔をしながら、ユウキたちに普通の食材を使ったものを提供する。

 

 キリトはその後アスナに連れていかれ、なにか助けを求められたが全員がそっぽを向く。

 

 結局テイルから話を聞くことはなかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 今日も暇なため、市場めぐりをしている。

 

 その時、プレミア……を見つけた。

 

 俺はなぜ疑問形なのだろうか。

 

「プレミア」

 

「………」

 

 また静かに、雰囲気がいつものと違う気がするが、

 

「前に言っていた、馬でフィールドを巡るか……」

 

「………」

 

 少し考え込んだが、彼女はついてくる。

 

 やはり気に入ったようで、なによりだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「はっ」

 

「………」

 

 今度は後ろに乗せているため、少し早く駆けられる。

 

 ひがみつくプレミアを、少し心配しつつ、色々と見て回った。

 

「いろいろな場所があるだろ」

 

「………」

 

 静かに周りの景色を見入っていたプレミア。

 

 やはりいろいろな場所を見るのが好きなのだろう。

 

(なるべく、綺麗なものを見せたいな)

 

 そう思いながら、再度馬を走らせ、フィールド探索もついでにする。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「プレミア、せっかくだから、少し周りを見て回ろう」

 

「………」

 

 馬で帰ったおかげで、まだだいぶ時間がある。

 

 たまには町の中を歩くのも悪くないだろう。

 

「なにをしているんですか?」

 

「いろいろなものを見てる……。町の中でも、かわったもの、きれいなものはあるから」

 

「………」

 

 色々見て回っていたら、NPCの雑貨店を見つけた。

 

「ほら、ここなんか」

 

「いらっしゃい、なにかお探しで」

 

「なにか欲しいのはあるか?」

 

「………」

 

 その時、彼女の視線はあるもので止まっていた。

 

 これは『ティアペンダント』と言う、簡単な装飾品らしい。

 

「これを」

 

「はいよ」

 

 どうにか資金が足り、それを購入する。

 

「ほら」

 

「………」

 

 首をかしげるプレミアだが、そのペンダントを静かに付ける。

 

 少し服で隠れるが、彼女は静かに渡されてつけてくれた。

 

 喜んでくれてるのだろうか?

 

 少しドキドキしていると、いつの間にか去っていた。

 

 気に入ってくれたのだろうか?

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「それで聖石が昔争いあって、取り合ったのか」

 

「ああ、そう言う話らしいよ」

 

 攻略会議が前回行われて、リアルのことがあり出なかったが、こうして話を纏める会議の報告を聞く。

 

 祈りの神殿なり、古い地図なりとで、攻略を進める。

 

「………だんだん規模がでかくなってないか?」

 

 それにはキリトたちも感じ取り、リーファもなんだか、クエストがちぐはぐみたいと、そう感じ取る。

 

 いや、いくらなんでも、これ以上変な事にならない。

 

 俺は変なところで、この世界をまだ創作物と思っているらしいな。

 

 もうここが俺の現実であり、仮想もまた現実だ。

 

 だが、逆にそうだからこそ、何か起きる気がしてならない。

 

「ジェネシスって言うプレイヤーも、良い噂を聞かないな」

 

 話を聞くと、《トランスプレイヤー》。簡単に言えば、違法プログラムを使用したプレイヤーのような強さだが、それは、

 

「実質不可能だ、カーディナルがある以上、チートもなにもできないはずだけど」

 

「………そうか」

 

 僅かな時間キリトと話し合いながら、次にみんなを待って、ステージボスの話になる。

 

「最近のステージボスが、すでに倒されてることか」

 

「ああ。噂じゃ、下見無しの初見で倒した、じゃなきゃこんなに早く倒されることはないぜ」

 

 クラインの言葉に、おそらく全員があるプレイヤーを思い出す。

 

「《黒の剣士》か」

 

「変な取り巻きも増えているらしいな………」

 

「新エリアは解放されていないらしい、クローズドβだから、これ以上先は無いのかもしれない」

 

「………調べるか」

 

「任せて、まだ封鎖されてるエリアが行けるのなら、その先にプレミアのクエストもあるはずだからね」

 

 みんながみんな、ここで終わらすつもりはなく、全員がフィールドを改めて調べる話になる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

(とはいえ、一人歩き回ったが………!)

 

 崖、岩壁がある。

 

「………」

 

 登ろう。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 色々な場所で、色々なアイテムを見つける中、ある場所に来る。

 

 その時、持っていたアイテムが光り輝く。

 

「これは、この辺りの敵倒して手に入れた………。まずいっ」

 

 その時はキリトなどの仲間がいたが、今は一人。

 

 そして直感が的中して、モンスターが現れた。

 

「………」

 

 片手剣と盾を構え、静かにそれを睨む。

 

 ギリギリ行けるだろうか、やるしかない。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「セイヤ!」

 

 身体の動きからどうにか倒し、アイテムが尽きて、HPなどを確認していると、

 

「!? 岩が無くなった、幻影として設置されてたのか。聞いたこともない情報だ」

 

 しばし考えた後、メッセージを飛ばし、先に進んでみることにした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 こうして攻略を進める中、町で一休みを取る。

 

 みんなに後を任せ、店で待機する。

 

 アイテム尽きたからな、キリトたちを待つことにした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 そしてメッセージで伝えてもよかったが、キリトが全員を集め、話し合いが始まる。

 

 四つ目の聖石を手に入れ、プレミアが礼を言う。

 

「気にしないでいいよ、みんなやりたくてやっているだけだから」

 

 シリカの言う通り、プレミアはだいぶ成長したようだ。

 

 そしてキリトから、気になる伝承があったらしい。

 

「前は確か、『女神より授かりし力の象徴である六つの聖石。その一つをここに祀る』。だっけ」

 

「確かそれで、石が六つあり、女神の単語が出て来るんだっけか」

 

 そしてその話の中、どうも女神が二人いると、そう話をする。

 

 そうなると彼女が女神であるか、そうでないか分からないが、何者か分からなくなってきた。

 

 だが、

 

「『大地を混沌が覆う』、ね………」

 

 内心、やはり1クエストにしては、大々的な話になっている。

 

 聖石は四つ手に入った、ともかくいまは進んでいるのだろう。

 

「皆さんありがとうございます」

 

 そう静かに呟くプレミアに、みな喜んでいる中で、この疑問は飲み込んでおこう。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 しばらくして、キリトからメッセージが飛ぶ。

 

 どうも、ジェネシスが倒したボスは一体であり、もう一体いた。

 

 自分たちが転送装置などのキーアイテムを手に入れた先に、もう一体のステージボスがいる。

 

 それが来たが、さすがにフィールドを練り歩きすぎたこともあり、ボス戦は参加は遠慮させてもらおう。

 

 それでも様子を見に行ったり、別にフィールドを調べたりするため、その準備に町に出ている。

 

「ん」

 

 その時、人込みの中で視線を感じ振り返る。

 

 そこにプレミアが横切る。

 

 

 

 その姿に、謎のノイズを微かに見た。

 

 

 

「!」

 

 すぐに辺りを見渡したが、すでに姿は無い。

 

「いまのは」

 

 一瞬でノイズらしいものも見えたが、あれは間違いなくプレミア、か?

 

(………だめだ、さすがに確証が持てない。いまはボスか)

 

 頭を振り、静かにもうボス討伐の募集が始まる中だった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ボスが二体いた、そんな情報の下、多くのプレイヤーが動く中、俺はフィールド探索。

 

「………?」

 

 不意に、そう、また不意に気配がして、そちらを見た。

 

「!」

 

 崖の上、そこにいるのは、

 

「プレミア?」

 

 プレミアらしい影、今度は間違えない。

 

 そしてこちらを見たとき、ノイズらしいものが走り、それと共に奥へと進む。

 

「まずい」

 

 プレミアは最近、戦う術を覚えてきた。

 

 だがこの辺りのレベルはどうだ?

 

 俺は急ぎ崖を上り、彼女を追う。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ここは」

 

 崖を上ったり、下りたりして、拓けた場所に来る。

 

 何か気配を感じる。ボスエネミーのような、そんな気配。

 

(いや、ボスはここにもいる……。三体なの………)

 

 俺は静かに驚愕する。

 

 目の前にいたのは、まぎれもないボスだ。

 

 そして………

 

 炎が迫ってきた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「やったぞ、ボスを倒した!」

 

「………けど、何も起きない?」

 

「そんなバカなっ、ボスエネミーなのは確かだぞっ」

 

 レイドを組んだパーティーたちが困惑する中、俺たちもまた困惑する。

 

 いまのは確かに大ボス、ステージボスだ。それは間違いないはずなのに………

 

「まさか、ここのステージボスは三体いるのかっ!?」

 

 その言葉に驚愕し、ざわめくプレイヤーたち。

 

 その時だった。

 

 

 

『ガアァァァァァァァァァァァァ―――』

 

 

 

 フィールドを揺るがすほどの雄たけびが響き渡り、全員が見渡す。

 

 どんなことが起きたんだと、俺はすぐに地図を取り出した。

 

「キリトっ」

 

「クライン、分かってる。まさかと思うが」

 

 地図をよく見ると、空欄がある。

 

 もしかすればそこにいるはず。

 

 だがそこに、

 

「パーティーメンバー、フレンド登録したプレイヤーがいる」

 

「ここにいない、一人で来られるフレンドって」

 

「テイルっ」

 

 俺たちは急ぎ、このフロアに行く方法を探し出すために動く。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 あり得ない、俺はそう思った。

 

「はあ……はあ……」

 

 そこにいたのは巨大な大剣、両手斧かもしれないものを片手で持ち、ケンタウロスのような姿だが、頭部はライオンのようだ。

 

 巨大な角を持ち、盾も持つそいつは槍すら使う。

 

 炎を吐きだしたり、知らない攻撃パターンに苦戦するが、初戦で全てを知り、全てを倒す。

 

 SAOで鍛えられた俺はいま、

 

『ガァァァァァァァァァ―――』

 

 咆哮を上げる金色のライネルと対峙していた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………」

 

 俺たちは絶句した。

 

 とんでもないモンスターがここのステージボスとして、君臨していたんだから。

 

 だが、一番驚いたのは、

 

「ハッ」

 

 後ろへバク転し、振り下ろされた攻撃を避け、瞬時に斬り込むテイル。

 

 蒼のコートが翻り、すぐに剣撃のラッシュを決めた後、盾を構えた。

 

「き、キリの字、急がねぇとテイルがッ」

 

「分かってるッ!」

 

 だが、場所が入り組んでいて、行きづらい。そう言えば崖上りが得意だったな彼奴。

 

 崖を何度も上り下りして、体力が削れる。HPゲージ関係なしにだ。

 

 今の状態であれと戦えない。

 

 そう思った時、盾と槍を捨て、両手で剣を握り始めた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………」

 

 集中する。

 

 突進、火炎弾は避けられる。もう一撃食らわなければ、倒せる相手だ。

 

 豪速に振るわれる剣撃を避け、静かに耐える。

 

 まだだ、まだ。

 

 ここになぜこいつがいるか、いまはいい。

 

 こいつは俺が倒す。

 

 ただそれだけだ。

 

 瞬間、縦に振り下ろされた攻撃を避け、瞬間、

 

「その首もらう」

 

 そしてラッシュを叩き込み、雄たけびが響く。

 

 どれほど戦っただろうか。

 

 斧にも見える大剣が砕け、片手剣になり、盾が転がる。

 

『この地域のボスは討伐されました』

 

 アナウンスが流れる。

 

『新しいフィールドが解放されます。町の転移門から進む事が可能となります』

 

 全身から汗が流れ出る中、静かに剣を掲げる。

 

 それと共に喝さいが聴こえ、名前を呼ばれた気がして振り返る。いつの間にか、岩陰やら崖上にプレイヤーが多くいて、

 

「テイルっ」

 

 仲間たちが駆けつけた。

 

 ギリギリ間に合ったぜ………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 そして世間に響くのは、流れ弾でも被弾したらHPゲージを根こそぎ取る相手に、たった一人で挑み勝った男の名前が、この世界に広がる。

 

 その名はテイル、そして《蒼の剣士》だ。

 

 とりあえず、こいつが次からログインするか、俺たちはそれだけを不安にし、新たなフィールドへ挑める。




皆さんは素ですか? ヨロイソウ、ヨロイダケ。少し忘れた。私はバフ無しでは勝てないと思ってます。

少し作品で悩み中、活動でこの作品について相談があるので、お暇でしたら活動報告を見てください。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第17話・告白

アイテム、キャラクター、ライネル。

どんどん多くの出来事を乗り越えながら、テイルたちの攻略は大詰めに。

ではどうぞ。


 ボスを倒し、新たなエリアが開かれた。

 

「討伐おめでとうーーー」

 

「さすがだなキリト」

 

「いや、今回テイルの活躍がでかいよ」

 

「………」

 

 服装を変えようとしたが、テイルはみんなに止められ、彼が獲得した盾と剣。それは完全に証として、彼が装備していた。

 

 それでバレてしまうのだから、諦めろだ。

 

 アイテムも使い切り、ギリギリの戦いだった。もうログアウトしたい。

 

 プレミアの為に開かれた道、それに軽いお祝いをする。

 

「ボス討伐ご苦労サン」

 

 その時、猫ひげのようなペイントをした女性プレイヤー、アルゴが訪ねて来る。

 

 彼女曰く、新たな新エリアの道は開いたらしい。

 

「しかし、よくあんな道を見つけたナ」

 

「あっ、ああ、その件だけど………」

 

 その時、彼は口ごもる。少しばかり注目を浴び過ぎていた。

 

 ここでプレミアのことを言うのは、彼女にも注目が向くと思い、

 

「崖でアイテムをな」

 

 と言うしか無かった。

 

「へえ、さすが《蒼の剣士》に休みはない。SAO時代と一緒なんだナ」

 

 今回は集めさせてもらうゼと笑顔のアルゴ。

 

 アルゴ以外も、多くのプレイヤーが聞き耳を立てているのに気づきながらも、彼は静かに話すだけにした。

 

「それにしても、キー坊とテイル。いまや真のトップランナーとして、周りから絶賛の嵐だナ」

 

「俺も?」

 

「もう一体を見つけたのはキー坊だロ?」

 

 そんな話の中、キリトは苦笑する。

 

 彼もまた、諦めずに探索したのだから仕方ない。

 

 周りを気にしながら、お互いの顔を見る。

 

「プレミアのクエスト攻略を続けたかっただけなんだがな………」

 

「………」

 

 テイルも頷く中、仕方ないと諦めている二人。

 

「普通なら誰もが見落とすはずサ、あそこで騒いでいるヤツだけじゃなくてネ」

 

 その言葉に、何かを蹴った音が宿に響く。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「冗談言ってるんじゃねぇ!! ボスを倒しても、ヒントすら出なかったんだぞ!?」

 

「そ、そんなこと言われても………、実際、これだけ噂になっているんだしさ………」

 

 そこにいたのは《黒の剣士》、ジェネシス。

 

 彼はボスを倒したことで、かなり噂になっていた。

 

 いつの間にかそれらは、ボスを倒したもう一人のプレイヤーテイルと、隠されたボスを見つけたキリトに変わっている。

 

 そして手下たちに当たり散らした後、こちらへ歩いて来た。

 

「おいテメェ………、もう二匹ボスがいたっていうのは本当か?」

 

「ああ、このエリアには、ステージボスが三体いたんだよ」

 

「何で先があるって気が付いたんだよ」

 

「別に気が付いたわけじゃない、ここで終わらしたくなかっただけだ」

 

「終わらせたくなかっただけだと?」

 

 その時、エギルが前に出る。その後ろで仲間たちもこちらを見ていた。

 

「何のために攻略しているか………。その違いが今回の結果に繋がったんだ。自分の為か、人の為かっていう違いでな」

 

「誰かのために攻略だ? 哲学つもりかよ、吐き気がする」

 

 その時、テイル。彼を見る。

 

「この世はもっと単純だ、強いか……弱いか……。結局は自分一人だ」

 

「………」

 

「テメェだって、一人で倒したんだろ? それともあれか、テメェ、チートでも使ったか?」

 

「! お前っ」

 

 キリトが前に出ようとしたが、手で遮る。

 

「俺は不正もしてないし、一人で戦っていたわけじゃない」

 

「ああ?」

 

「俺が彼奴に勝てたのは、積み重ねたもので挑んで勝った。それだけだ………」

 

「ちっ、まあいい………。お前らにもそのうち、そのことを味わわせてやる……必ずだ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………なんで止めたんだテイル」

 

 立ち去った後、キリトは不満そうにそう言う。

 

「ケンカして欲しくなかった……」

 

 俺がチートかどうか、それは分からない。

 

 俺は骸骨の戦士から、ただ伝授されただけだ。

 

 必ず死が許させない、そんな気迫を感じる試練。

 

 それをこなしてついた技術は、そう言うものではないとはっきり言えない。

 

 だが、それでも選び、勝ち取った自信はある。

 

 それよりも、キリトが彼奴と悶着を起こす方が、俺にはきつい。

 

「………悪い」

 

「気にしないでくれ」

 

 こうして気持ちを切り替え、お祝いは続く。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 新たなフィールドは砂漠地帯。

 

「あ、暑い………」

 

「ほれユウキ、水分含んだ果物だ」

 

「ありがとうテイル………」

 

「お前さん、相変わらず妙に準備はいいよな。俺なんか、もう水が」

 

「ほれ」

 

 クラインたちに果物や水を渡しながら、まさか試練で慣れたとも言えず、こういった未開拓地域に行く際の準備をしていたのは、自分だけ。

 

 とりあえず一通り見た後、すぐに帰還して、備えることにする。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 砂漠のフィールドも探索するが、クエストもある。

 

 今回フィリアが持ってきたクエストの手伝いで、メンバー全員でダンジョンに戻っていた。

 

「大きな分岐点のたびに、みんなと別れ別れに進んで、もうボクたちだけになっちゃったね」

 

 ユウキ、アスナ、キリトと俺の四人。洞窟の奥に進んでいた。

 

 何かジメジメしてて、湿気が増す。

 

「溶岩地帯に繋がってる、ってことはないよね?」

 

「いや、そこまで強い熱気じゃない」

 

 ユウキの言葉に、俺はそう言いながら進む。

 

 そうして煙が見え、そこにあるのは、

 

「温泉?」

 

 ちょうどいい温度で、広々とした温泉。

 

 さすがに入るのはどうかと思ったが、アスナもユウキも入りたがっていて止められず、俺たちは岩陰で待つ。

 

 楽し気な会話が聞こえてくるが、キリトが少しそわそわしてる。気にすることではないのだが………

 

「キリト、他のみんなはどうなんだろうな」

 

「あっ、ああ。ここに来るまでも、アラームトラップや扉の開閉ギミック。色々やたら用意されてたからな」

 

「そんなダンジョンにこんな温泉か……、罠だったりしてな」

 

 そうボソッと言ってみる。

 

 装備を外し、モンスターをけしかける………

 

 俺たち二人して顔を見合わせた。

 

「まずいっ、急いで二人に伝えて……」

 

 その時、モンスターらしきうなり声を聞き、俺は武器を構える。

 

「キリトは二人を、俺はモンスター」

 

「分かった!」

 

 そしてキリトが奥に進み、俺は構え、エネミーを持つと、

 

「っ!?」

 

 岩の形をしたモンスター、それは《イワロック》。弱点の背中の鉱石までしっかりしている。

 

 一体だけだがこれを普通に叩くのは至難だ。

 

 ともかく攻撃を仕掛けながら、背中の鉱石を叩く。やはりダメージの入りが多い。

 

 ともかくアスナたちを呼びに行ったキリト。

 

 ………

 

「あっ」

 

 いまキリトの方が危険なのではないかっ!?

 

「キリトぉぉぉぉぉぉぉぉ、無事かぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 叫び声を上げるがそれより先に突進が放たれ、盾で防ぎ吹き飛ぶ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「アスナ話を聞いてくれっ、これには深い訳が」

 

「どんな訳なのかなあ?」

 

 仁王立ちして睨んでいるアスナ、ユウキは苦笑している。俺の話を聞いてくれない、いまテイルが大変な事態なのにッ。

 

 そう思っていると、

 

「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 付近で来たテイルが、ユウキに激突して押し倒す。

 

「あっ」

 

「ツッ。すまないユウキ! ユウキ?」

 

「………」

 

 タオルがはだけ、少し危険な状態で、テイルがユウキを押し倒して、ユウキがボッと言う音と共に顔を赤くした。

 

「あっ、あっ、て、てぇいりゅ?」

 

「待てユウキ、気持ちは分かるがその手をやめてくれっ」

 

 いまユウキは、メニュー画面を操作して、テイルを監獄送りにしようとしているが待ってあげてくれっ。

 

「て、テイルさん。キリトくんといくら似てるからって、そんな」

 

「じゃなくって、モンスターが出たんだ!」

 

「えっ」

 

 その時、テイルはすぐに気づき、ユウキを抱き上げ、瞬時に動いて避けた。

 

 彼は後ろに目があるようにバク転で避け、すぐにステップで距離を取る。

 

 岩の塊のようなゴーレムで、背中の岩だけ色が違う。

 

 それ以外印象が岩の塊で、テイルにタゲを取っている。

 

「やばいっ、岩石の固まりのくせに早い!」

 

「テイルさん、ユウキ!」

 

「キリト弱点は背中の岩だっ、さっき攻撃したが」

 

 そう言いかけたとき、また岩の腕が迫る。

 

 それをバク転で避けたりと、器用過ぎるだろ彼奴っ。

 

 そう思った時、ひらりとタオルが、

 

「あっ」

 

「えっ」

 

「にゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 その時ユウキが彼の目を覆い隠す。

 

 俺は彼のおかげで見えない。ついでにアスナは装備操作で気づいていない助かった。

 

 そして彼はすぐにバックステップで後ろに下がるが、ガコンという音と共に仕掛けを踏む。

 

「しまっ」

 

 そのまま彼らの後ろ壁が開き、その中に入る。

 

 その瞬間、天井が落ちて来るのと同時に、扉が閉まった。

 

「テイル、ユウキぃぃぃぃぃ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 危なかった。

 

 ともかく、俺は天井が下りてきたので、ユウキを下ろして天井を支え、外の仲間が助けに来るまで耐える。

 

 ユウキも服を着て、仕掛けが解けないか調べていた。

 

 しばらく外では戦闘音が聞こえていたが、しばらくして入口が開き、外に出られる。

 

 キーアイテムもユウキたちが見つけ出し、どうにかクエストは進んだ。

 

 進んだのだが………

 

「………テイル」

 

「キリト、この程度で済んでよかった。だろ」

 

 俺とキリトは女性メンバー全員に菓子をおごると言う謎の罰を課せられ、キリトは泣きそうだ。

 

 どうも少し金銭感覚が、性能が良い武具があるとどうしてもとか言うし。

 

「あっ、二人とも。今回だけって思わないでくださいね」

 

 ………キリトは膝から崩れた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 悲しい事件が起きてしばらく、フィールド探索で資金を集める今日この頃。

 

「ここ最近、なにか身体の感覚がおかしい」

 

 クラインやフィリアたちと、フィールド探索をしている。

 

 ユウキは許してはくれたが恥ずかしそうに、にゃーーと言いながら避ける。心が痛い。

 

 とりあえず、それとは別に。それはライネルを倒してから、ひときわ感じるようになったこと。

 

 それは身体、感覚のズレだ。

 

「おかしい? それはどんな」

 

「身体と頭の動きに、ズレがな」

 

「ズレ? それってまずくないか? どんな感じなんだよ」

 

「………たぶん、普通の人じゃ分からない。処理落ち、かな? 僅かに本気になった時、ごく僅かにズレがある」

 

「本当っ!? 安全面は平気かな」

 

 そう言いながら身体を動かす、それでも本気の時の僅かなズレには、いささか気にはなる。

 

 そんな会話の中、メッセージがキリトから来た。

 

「プレミアのことかな?」

 

「緊急みたいだね」

 

「とりあえず、ズレなんてもんは気のせいかもしれないし、気のせいかもな………」

 

 そして俺たちは知る。

 

 プレミアのクエストは、このゲーム正式サービスで行われるはずの《グランドクエスト》だと言うことを………

 

 さらに俺は忘れている。プレミアらしき影のことを。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 プレミアのクエストは未公開のトップシークレット。

 

 ゲームが正式に起動したときに行われるクエスト、《グラントクエスト》だとセブンから教えられた。

 

 それにより、色々と合点が行く。

 

 虫食いのようなクエスト発動条件や、様々な伝承が絡む物語。

 

 そして所々で違う話のように展開するところ。

 

「公開前のクエスト、セブンもどうして受理されたか分からないのか」

 

「ああ、向こうも相当驚いていたよ。ただ、明らかに異常な状況ではあるらしい」

 

 仲間たちは皆浮かない顔だ。

 

 それもそのはずだ。彼女はいまだ、クエストの為に町をうろついている。

 

 クエストが用意されていないクエストNPC。悪ふざけにしても酷過ぎだ。

 

「パパ、管理者コンソールを探しましょう」

 

 真剣な顔で、ユイちゃんがそう答える。

 

「それは………」

 

「SAOにあった、あの端末のことか?」

 

「はい、開発スタッフがゲームの中から各データを参照し、調整するために用意されたものです」

 

「それを調べれば、このクエストが動き出したか分かる、ってことだね」

 

 その言葉に頷くユイちゃん。

 

「けど、このゲームにも、そのコンソールが存在するのかな」

 

「いや、SAOにあったのなら、それを下地にしたこのゲームにも存在するはず。ただ問題は」

 

「それがどこにあるか………」

 

「セブンちゃんなら知ってるんじゃないかな」

 

「開発スタッフなら知っているだろうから、その時は」

 

 俺を始め、みんなが頷き合う。

 

 場所は攻略中の砂漠地帯、そこを目指し、動き出す。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 そしてここ最近、探索を続ける中、事件は起きた。

 

「シノンさんが、最近、ログインしてないの」

 

「シノンが」

 

「そう言えば最近見かけてないけど、なにかあったのか? キリトたちはなにか」

 

「しばらく待ってほしいって」

 

「なにかあるんだろうな、ったく、こういうとき俺らは蚊帳の外か」

 

 クラインはそう愚痴る。かなりデリケートなのだろうか、キリトは偶然にでも知ったのかもしれない。

 

 キリトから連絡が来るのを、ただただ待つしか無かった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「一つ聞くが、俺たちも聞いていい話なのか」

 

 苦しそうなシノンがそこにいて、静かにこくりと頷く。

 

「ええ、みんな、仲間ですもの。ちゃんと自分の口で伝えたい………」

 

 それはシノンの過去の話。

 

 シノンは11歳の時、当時住んでた町の郵便局に強盗事件が起きたらしい。

 

 ニュースなどでは誤射により、強盗犯は死んだことになった。

 

 実際はシノンが犯人の持つ剣銃を手に持ち、撃ったと………

 

 シノンがSAO帰還者ではあるが、途中、事故のようなことでログインしたらしい。

 

 それはユウキと同じ、システムの治療法で、心の病と闘っていた。

 

 いまでも拳銃の写真で吐き、苦しんでいる。

 

「私は、いままで黙って、ずっとみんなの仲間って言っていたの………」

 

「シノのんっ」

 

「黙っててごめん………だましていて、ごめんね」

 

 そう言うシノンだが、

 

「ふざけるな」

 

「! テイル……」

 

「そんなことで騙したことに入るわけないだろ」

 

「えっ………」

 

 その時、驚くシノンだが、それがどうした。

 

 こっちは前世持ちで、みんなのことを最初、小説やアニメの中の者と見ていたんだ。

 

 それを考えれば、俺が一番酷いのかもしれない。

 

「悲しいこと、言わないでほしい」

 

「テイル………」

 

「そうだよシノのんっ!」

 

 みんな、この事件の話を聞いたところで、それで仲間を見捨てたりはしない。

 

 ユウキもそう言い、クラインもまた頼るように言う。

 

「わたし、いていいの……」

 

「そんなの、もう答えは出てますっ」

 

「そうだよシノンっ」

 

 シノンは涙を流しだす。

 

 シノンの過去を知っても、ここに仲間を見捨てる者はいなかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 色々あったが、シノンの過去をいまさら知って、俺は後悔する。

 

 知っていたところで何もできない。ユウキの件で俺にできることは、たかが知れていることは知った。

 

 なら次は?

 

 シノンを受け入れることだろう。

 

「………結局できることなんて、たかが知れてるんだな」

 

 骸骨の戦士。

 

 彼から戦う術、生き残る術を教わった俺は、チートなのか分からない。

 

 だがこの力は俺が習得したもの、誰が何と言おうと。

 

 俺はなんなんだろうか。

 

「………俺は」

 

 あの日考えるのはやめたのだが、鉛のような重い感覚が消えない。

 

 もう考え込むのはやめておこう、そう思うが止まらない考え。

 

 チート、優遇された存在なのは間違いないSAO時代。

 

 そしてなにより、勇者の偉業、その重みが意味も無く背負っている感覚。

 

 ただ、いくら考え込んでも答えなんて出なかった………




相談も何もできない問題は苦しいですね。

それではここで、お読みいただきありがとうございます。


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第18話・明かされるクエスト

コンソール探索を始めました。


 砂漠フィールドのどこか、その位置をユイちゃんが特定し、キリト、俺、アスナ、シノンで探索している。

 

 砂漠の中、水の減りが多く、果物で水分を取らせながら歩く。

 

「用意してたつもりだったけど」

 

「意外と少なかったわね………」

 

「キリトは」

 

「いや、俺はまだ」

 

「ダメだ、前に飲んでから時間はかなり経っている。VRとはいえ、砂漠の中、水分をこまめに取らないのは危険だ」

 

 そうこうしながら進んでいると、

 

「!? 戦闘音?」

 

「向こうか。確認しよう」

 

 そうして砂漠の砂丘を越えて駆けると………

 

「あれは、NPCがエネミーに襲われているっ!!?」

 

「周りにプレイヤーはいない、クエストかなにかか?」

 

「けど、エネミーは」

 

「砂の中だ」

 

 俺がそう言うと共に砂の中から出てきたのは、

 

(またか)

 

 砂の中から《モルドラジーク》が現れた。

 

「なにあれっ!? 魚なのっ!!?」

 

「キリト、ああいうタイプは砂の中で音に反応する。注意しろ」

 

 予測と言う形であれの特長を言う。

 

 悪いが時間をかける気はない。

 

 即座に突撃して、あれを捌く。それ以外に選択肢は無かった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 モルドラジークはボスや中ボスエネミーに指定されていなかったからか、巨体の割に、早く決着がつく。

 

「すまない、助かった」

 

 NPCは女性が多く、筋肉質で力強い。

 

 なにか嫌な予感がする。

 

 そこに小さな少女もいた。

 

「すまないな旅人よ、わらわは『ルージュ』と申す」

 

(やっぱりか)

 

 女性のキャラバンのようだが、話を聞くとこのエネミーの視察し、様子を見に来たのだが、

 

「此度はわらわたちの考えが浅はかでな。まさか視認した時より襲いかかるとは」

 

「それは大変でしたね」

 

「汝らに礼をしなければな。この近くにわらわたちの集落がある、そこに来てくれまいか」

 

 その時、キリトたちと目が合う。

 

「どうする。コンソールがあるか分からないが」

 

「この近くだ、念のために見に行こう」

 

 そして彼らに案内され、集落へと向かう。

 

 その途中で、あることに気づく。

 

「キリト、この辺りはマップにない」

 

「未開拓? けどこの辺りにはプレイヤーが来ていてもおかしくない……。彼らを助けたことで行けるクエストだったのか?」

 

「それでも、クエスト表示が無いのはおかしいよ」

 

「それって」

 

「コンソールのようなものがある場所。かもしれないな」

 

「着いたぞ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 俺の知る町とは違い、男性もいるが大柄で、ハンマーなど担いでいる。

 

「この辺りは砂と岩しか無いからな。男衆は鉱山に出かけ、女は砂場で水を守るのが町の流れなのだよ」

 

 そう言われながら、奥へとたどり着くと、そこに、

 

「族長、魔物調査の件が終わりました。魔物は彼らの手により討伐され、わらわたちも窮地を救われました」

 

「そうか、姪が世話になったな。私の名は『ウルボザ』」

 

 それに驚き、もう一人、大柄の男性もいる。

 

「俺の名は『ダルケル』だ。男衆に変わって、俺からも礼を言わせてくれ」

 

 そう言われながら、その時、ダルケルたちは俺を見る。

 

「おめえさん、ミファーたちと知り合いか」

 

「知っているのか」

 

「ああ、あの都とこの集落は交易でな。そいつはあの都の王族か、それに親しいもんしか付けないもんよ」

 

 そう言い腕の飾りを指しているのだろう。こんなところで彼女に助けられるとは。

 

「あの子や、リーバルも関係してるだろうね。彼らの知り合いなら、自由にしてくれていいよ」

 

「本当か、それは助かる」

 

 キリトたちと向かい合い、頷き合いながら、すぐにコンソール探しに出かける。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 鉱山のエリアでコンソールを見つけた俺たちは、ユイちゃんとストレアを連れて来る。

 

 ここには俺、キリト、アスナの三人が護衛として側に。ユイちゃんに砂漠越えはきついかと思われたが、彼らと繋がりができ、ラクダを借りたり、ルートも確保できた。

 

(彼らと繋がりが、こうして事態を改善できる、か………)

 

 深く考え込みながら、しばしユイちゃんとストレア、二人がコンソールを操る様子を見る。

 

 そして分かったのは、いくつか改変と、強制起動の跡が発見された。

 

「『神木に祈りを捧げる』、これが強制的に大きく変えられてるのか」

 

 コンソールが開けば手伝えるため、調べている。

 

 この辺りも勉学に励んでよかったよ。

 

「このイベントはどんな感じだった」

 

「えっと、発生も唐突で、良く分かりませんでした」

 

 アスナが敬語を使い、少し戸惑うが、それよりもだ。今はそれを無視して、データを見る。

 

「ねえねえ、プレミアのクエストを書き換えてるモジュールを発見したよ」

 

 ストレアの言葉にそれを見る。

 

「このモジュール………このゲーム用にビルドされていない」

 

「ビルドって」

 

「プログラムを実行可能の状態に変換することだよ」

 

「つまりユイちゃんは、モジュールがこのゲームの為に作られたものではないって言ってるんだ」

 

「………」

 

 いや、まさか、そんなことは………

 

 俺がある可能性にたどり着く。いやでもそんなことは無いはず。

 

「テイル?」

 

「どうかしたの」

 

「いま、まさかそんなことないはず………」

 

 そう言い、俺は少しデータを見る。

 

 そして謎の痕跡を見つけた。

 

「これは、外部へデータを送受信を行われている痕跡がある。送信先は、無数のアミュスフィアっ!?」

 

「ねえそれって」

 

「どうした」

 

 キリトたちが言うには、セブンたちのいまの仕事で、アミュスフィアの謎の処理落ちが起きていると話され、それを調べる。

 

「カーディナル・システム。SAOやALOに使われてるシステムと基幹プログラム」

 

「どうしてデータを送ってるの」

 

 問いかけに首を振る、現状そのことで分からないとしか言えない。

 

 ユイが憶測だが、巨大な計算を分散して行っていると考える。

 

「まさか、やっぱりか……」

 

 嫌な予感が的中し、ユイちゃんが俺の画面を見て驚く。

 

「そんな、これは」

 

「なんだっ!?」

 

 

 

「これは………これは、アインクラッド崩壊シュミレーションモジュールですっ」

 

 

 

「あ、アインクラッド!?」

 

「なんでSAOの舞台がここで出て来るんだよっ」

 

 驚く中、それを調べ出す俺たち。

 

「テイル、どういうことなんだ」

 

「このゲームは元々、SAOが基盤として作られたゲームだ。サーバーデータもコピー品。そしてSAOはクリアされた場合」

 

「その舞台であるアインクラッドを崩壊させる処理が組み込まれています」

 

 ユイちゃんが補足してくれる中、画面操作しながら話をつづけた。

 

「このモジュールは、その崩壊をテストするためのシュミレーションプログラムだ」

 

「いやだって、このゲームはSAOと違うでしょ」

 

「だがコピー品だ、まったく違うとは言えないんだ」

 

「それじゃ」

 

「このモジュールは、このゲームがSAOと誤認して、独自稼働しているんだ」

 

 それにキリトたちが驚き、青ざめる中、どうにかデータを洗い出す。

 

「もしもこのモジュールが最後まで処理を実行すれば、大地は崩壊し、フィールドの多くが消失してしまいます」

 

「フィールドが消失っ!!?」

 

「そんなことになれば、このゲームは続けられなくなるぞっ」

 

 それだけでなく、蘇生しないNPCたちもみんな死ぬ。

 

「どうする、意図しないプログラムが動いているのなら、運営に知らせた方がいい気がするけど………」

 

 アスナの言葉に、キリトが首を振る。

 

「普通ならそれで問題ない………」

 

「このゲームはフルダイブシステムの発展のために作り出されたゲームだ、そこに集められたスタッフが、こんな問題を引き起こすモジュールを見逃すはずがない」

 

「じゃ、モジュールが残ってるのは」

 

「カーディナルシステム。茅場晶彦が作った、VRシステムのブラックボックスに関係があるんだろう」

 

 カーディナルシステムは、茅場晶彦が創り出した、まさに夢の結晶。

 

 悪夢を創り出したが、その技術は高く、信用性は、デスゲームに捕らえられた者たちを助け出すことができないほど、高性能であり、現在のVR世界を支えるセキリュティー。

 

「おそらく、スタッフによる修正は不可能ということだ」

 

 このままではこのゲームは稼働停止する。それしか道は無い。

 

 それだけでは済まないだろう。

 

 こんな致命的なことが起きたと知られれば、最悪他のVRゲームですら活動を停止する。

 

「けど待って、モジュールってアインクラッドを崩壊させるものなんだよね? だけどこの世界にはアインクラッドは存在しない」

 

「いや、存在する」

 

「えっ」

 

 俺の言葉に、アスナ、キリトたちはこちらを見る。

 

「正確には違うが、それは《大地切断》だよ」

 

「っ!?」

 

 その言葉に、キリトが言葉の意味を理解して、青ざめた。

 

「そうか逆、逆なのか。崩壊プログラムは、アインクラッドを創り出そうとしているのか」

 

「ど、どういうことっ」

 

「このゲームのアインクラッドの舞台はこの大地、浮遊城アインクラッドではない」

 

「だからこのモジュールは、まずアインクラッドを作り出すところから始めているんだ」

 

「作り上げた後、崩壊させるためにっ!?」

 

 その言葉に、俺とキリトは頷く。

 

 このモジュールはわざわざ壊す物を創り出して、システム通り動こうとしている。

 

 矛盾しているが、これで説明がつく。

 

「そ、そんな………」

 

「だけど、アインクラッドを作ることとプレミアちゃんのクエストに、なんの関係が」

 

「モジュールは、プレミアのクエストを利用して、再現してるんだ。アインクラッド誕生の物語」

 

「それって」

 

「大地が切断されて、できたって世界設定か」

 

「ああ。さっきユイちゃんたちが言ったとおり、所々改変されているって言ったろ?」

 

「はい」

 

「それはプレミアのクエストを、《大地切断》に似せるために改変しているんだ」

 

 前にクエストがちぐはぐだとリーファが言った。

 

 それはできかけているシナリオだからではなく、寄せ集めの物語であったためだ。

 

 モジュールは無理矢理話を繋ぎ合わせ、アインクラッド創世の物語を創り出した。

 

「そして俺たちは知らず知らずに、捻じ曲げられたシナリオを進めていた」

 

 つまり、プレミアのクエストを進めば、大地切断が起き、浮遊城アインクラッドが誕生、そして崩壊するモジュール。

 

 彼女のクエストは、けして進めてはいけないものになった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 このことを宿、しかも個室で全員に話した、他の誰にも知られることは許されないからだ。

 

 プレミアのクエストが選ばれたのは、アインクラッド100層からなる浮遊城は、二人の巫女が聖大樹に祈りを捧げてできたもの。

 

 あまりに酷似しているためだからだ。

 

 仲間たちは驚きを隠せず、静かに話を聞く。

 

 研究の為に作られたこの世界が、手の付けられないと言う事実はあまりに痛い。

 

 技術の発展どころか、その技術は消される可能性が高い。

 

 今は疲れ切り、キリトはプレミアが連れていってと言われて連れていってる。

 

 そして………

 

「もう一人の女神が、ジェネシスと」

 

「ああ……」

 

 疲れた顔で、戻ってきたキリトが話してくれる。

 

 やはり二人の女神はプレミアのことを指していた。

 

 もう一人、プレミアに似た少女がいて、それがあろうことか、ジェネシスと組み、かつクエストはどうも、同時進行で進んでいるらしい。

 

 この異常なクエストは、他人が進めたクエストを、奪えるようだ。

 

(うかつだった、まさか崖で会った子は、もしかしたら)

 

 そんな心中の中、ジェネシスは世界崩壊を面白がっている。

 

 プレミアにはあいまいに答えたが、キリトはだいぶ察しされているらしい。

 

 今後は遊びでは無い。プレイヤーである以上避けられないクエストになってしまった。

 

 なんとしても止める。

 

 世界の崩壊、それによる、NPCの死を………

 

 俺が………止めなくちゃ………




彼女たち登場。ですが事態は深刻なことに。

それではお読みいただきありがとうございます。


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第19話・暗雲

 クエスト情報を集める中で、今度はクエストを進めていなければ起きないマップが場所になる。

 

 本来そこに双子の女神を連れて行かなければ、聖石を手に入れられないらしく、ジェネシスからプレミアを守る方針になった。

 

 マップ攻略にも顔を出さず、どうももう一人の女神を鍛えている。向こうは世界崩壊クエストを進める気らしい。

 

 キリトは難しい顔で考え込む。

 

 そして、二人の時に………

 

「テイル」

 

「?」

 

「君に……、頼みがある」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「でえぇぇぇぇ」

 

「ハッ!」

 

 剣撃音が鳴り響き、盾で片手剣を弾く。

 

 いつの間にか二刀流になっているキリト。その相手として、いま手合わせをしていた。

 

「スッ」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 

「!」

 

 さすがキリトと言わんばかりに、やればやるほど、洗練されていく。

 

 そんな日々だった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 崖を上り、キノコを採る。

 

 あれからジェネシスから動きは無く、プレミアを守って、別のクエストする日々。

 

 にしても、こういうのはまるでと思う。

 

「とりあえず、材料集めはここまでにするか」

 

 カーディナルシステムと、色々思うことがあるが、やはり問題が起きた。

 

 これから先どうなるか。

 

「それでも」

 

 もうここは俺の知る世界ではない。なら頑張るしかない。

 

 そう思っていると、剣音が聞こえる。

 

「………誰かが戦っている?」

 

 マップを見ると、マーカーでキリト、プレミア、アスナを確認して、走り出した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「そらそらそらそらっ!」

 

 そこには苦戦するキリトがいて、アスナはもう一人の女神と立ち会っていた。

 

 キリトには悪いが、その間に入り込み、ジェネシスを睨む。

 

「へえ、チート野郎が登場か」

 

「ツッ、テイル!」

 

「任せろ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 大剣を振らわれるが、手首を回し、盾でのカバーを駆使して防御する。

 

 分かっているが、テイルは攻撃を捌くことにかけて、俺を遥かに上回っていた。

 

 攻撃も視線から読むことはできず、またこちらの死角から攻撃を、なぜか見切る。

 

 どうすればあの動きができるんだっ!?

 

「チッ、ぐっ、アァ」

 

 そうしているとジェネシスは苦しみだし、すぐにステップで後ろに下がる。

 

 困惑するテイル。俺もテイルが何もしていないのは分かる。どうしたんだ。

 

「おい……一旦引くぞ」

 

「はい、分かりました……」

 

「《祈りの神殿》……続きはそこからだ」

 

 そう言って立ち去るジェネシス。

 

 こうしてテイルは、構えるのをやめた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 プレミアそっくりの子に、NPCを襲わせるジェネシス。

 

 普通ならプレイヤーはそれでブルー、違反者になるが、もう一人の女神は違う。

 

 彼女にNPCを襲わせ、クエストをショートカット。石を手に入れたようだ。

 

 聞いていて胸糞悪くなる。

 

 クエストを進めるつもりか、《ブルーカーソル》になることは恐れても、《オレンジカーソル》は問題ない様子。

 

 ともかく、もう一人、プレミアにとって双子の子を止める為にも、クエストを進めるしかないと話し合う。

 

 だが、

 

「ジェネシスの様子がおかしかった……」

 

「うん……。奇声を上げて襲い掛かってきたと思ったら、急に苦しそうになって」

 

 アスナの言葉に、俺は相手の様子を考える。

 

「………彼奴は、普通の動きをしてなかった」

 

 俺は正直にそれを感じ取った。あれは普通にプレイしている動きでは無い。

 

 キリトも、見る分には《トランスプレイヤー》に共通する部分があるが、

 

「ちょっくら調べたんだけどよ、《デジタルドラック》って、使用者にかなりの負担があるらしいな。常習性もさることながら、過剰に使い過ぎるとかなり危険だって話だぜ」

 

「じゃ、ジェネシスが苦しがってたのは、《デジタルドラック》を使い過ぎたから……」

 

 ユイちゃんの話では、痛覚はアミュスフィアで遮断されているが、精神には反映されるらしい。

 

 でもそう言ったプレイヤーは、アミュスフィアの安全機能で強制ログアウトされる。

 

 まずアミュスフィア以外のフルダイブシステムを使用した案が出たが、ナーヴギアは政府が回収していた。その可能性は低い。

 

 次にアミュスフィアを改造して、ステータスを上げる方法が挙げられた。

 

 だがナーヴギアを元に改造されたアミュスフィアでそれも難しいらしい。

 

 と、

 

「いや、待てよ」

 

「キリト?」

 

「アミュスフィアは確かにナーヴギアの後継機だけど、全ての機能が受け継がれたものじゃない……。むしろ、茅場が絶対に付けなかったものが付いている!」

 

「!?」

 

「パパ、それはまさか………」

 

「ああ、あれだ」

 

「なるほどです! 確かにそこなら改造できる余地があります」

 

 さすがキリト、分からないところに分かるのが凄い。

 

 娘のユイちゃんも分かるのか、説明してくれ。

 

「さっき話に出てきた、アミュスフィアの安全装置の部分さ」

 

「そうか、そこはSAO事件後に付けられた、後付けの部分」

 

「ジェネシスは、アミュスフィアのその部分に、何かしらの改造を加えているってこと?」

 

 フィリアの言葉に、キリトは頷く。

 

 それでデジタルドラックを使用し続けても、安全装置に引っかからないようにしている可能性が出てきた。

 

 そうして覚醒した状態を維持し続けていれば、異常なほど高まった感覚を持ったままゲームをプレイできる。

 

「まるでバーサーカーのように」

 

「そんなことをしてまで強くなりたいなんて、並じゃない執念深さだね」

 

 悲しそうに言うユウキ。確かに、それでもわかる部分がある。

 

 俺も五歳から夢の世界で骸骨の戦士から訓練を受け、現実では勉学と言う繰り返しを生きた。

 

 ともかく、どんな理由があれ、そんな力でこの世界を壊していいはずはないが。

 

 運営に話すことも話に出たが、証拠が無い。

 

「しかし、それならテイルはなんで対処できたんだ?」

 

「俺は普通のやり方で対人していない」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「どういう意味だ?」

 

「キリトやユウキみたいに、視線から相手の動きを読んだりしている」

 

「………それだけじゃないだろ」

 

 俺の問いかけに、テイルは頷く。

 

 それは、

 

「見るべきは別に視線だけじゃない、キリトなら覚えられると思う」

 

「………そうか」

 

 俺はきっと笑っている。

 

 きっとテイルの強さに近づけることに。

 

 なによりいまはその力を手に入れる。

 

 もしもジェネシスが不正をしているのならば、これ以上、この世界を好きにさせるわけにはいかない。

 

 今日の訓練が楽しみだぜ!

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 祈りの神殿で二人の女神に祈りを捧げて、無理矢理クエストを進めるだろう。

 

 だからプレミアを守る為に、キリトが一人で倒すと決意し、そこに向こう話になる。

 

 みんなはキリトの勝利を信じ、彼を向かい討つ話で、そこへと向かう。

 

「いたぞ」

 

「さすがヒーロー……逃げ出さなかったみたいだな」

 

 ジェネシスの側に、プレミアに似た少女がいる。

 

「ジェネシス」

 

 もう一人の子が前に出ようとしたが、それを止め、キリトと、俺を目の敵にしていた。

 

 キリトの予測通り、仲間の誰かを傷つける気でいたジェネシス。

 

 そして始まる、この世界をかけた、バトルが。

 

「でやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

「ヒャッハハハハハハハ―――」

 

 大剣を振るうジェネシス。だが、

 

「ッ!!?」

 

 キリトはジェネシスの攻撃を巧みにさばき、攻撃を当てる。

 

 その動き、もう物にしたのかと嫉妬するぜ。

 

「クソが、しぶてぇ……」

 

「お前の強さについて、分かったことがある……」

 

 距離を取り、お互い探る中、会話が始まる。

 

「お前の強さは、最前線の攻略プレイヤーをも凌駕していると思う。正直、普通にプレイしているだけじゃ、そこまではたどり着けないはずだ」

 

「だったらなんだ? 俺が普通のプレイヤーじゃないって言いたいのか?」

 

「ああ、俺と同じようにな」

 

「……お前が、俺と同じ?」

 

「意外そうな反応をするんだな、お前も俺と同類だろ?」

 

「はあ? バカ言うんじぇねーよ。同じわけがねえ……」

 

「なぜそう思うんだ? 別に俺たちみたいなプレイヤーがいたって、不思議じゃないだろ?」

 

 一呼吸を置き、ニヤリと笑うキリト。

 

「誰だって、どんな手を使ってでも他の奴らより先に行きたいって思うに決まってる。特に『あの味』を知ってしまったら……、彼奴みたいな奴に勝てたなら、退き返せないのも分かるぜ」

 

「……ありえない」

 

 こちらを見るジェネシス。俺は静かに無言を貫く。

 

 この距離なら、会話は普通は聞こえない。

 

 普通なら。

 

「まあ確かに、自ら名乗るような人は少ないと思うけどな」

 

「はあ、お前らみたいな凡人がッ、簡単に手を出せるもんじぇねえんだよ! どんなツールを駆使したって、カーディナルのセキュリティは崩せねえ……。違うか?」

 

「いや違わないな。でもそのカーディナルでさえも目を光らせていないところは存在する」

 

「……じゃあお前もアミュスフィアに手を付けたのか?」

 

 !

 

「………」

 

「答えろ! お前は何をしたんだッ」

 

「………ジェネシス、お前はいったい何の話をしているんだ?」

 

 そう、キリトの作戦は成功した。

 

「なに?」

 

「俺はフルダイブ経験量のことを、技術のことを言っているだけだぞ。VRゲームでの強さはステータスだけじゃない……。経験している時間だって大事な要素の一つだ。そしてVRゲームにハマって、その『味』をしめたら、全力で挑んでやっと強敵に勝てたら引き返せなくなる」

 

 そう、ジェネシスに挑む前にキリトは、俺の技を盗み、俺に勝利したとき、物凄く喜んだ。

 

 ほんと、こっちは五歳児から手に入れるために必死なのにな。

 

「食事を抜いたり、学校をサボったり、どんな手を使ってでもダイブしたくなる。それに何十時間ダイブし続けたとしても、カーディナルから文句を言われることはない」

 

 たぶん、リーファ辺りが、キレるとは思うが………

 

「お前の並じゃない強さは、ダイブ歴が長いからだと思ったんだが……。そうか、アミュスフィアを改造なんてしていたのか」

 

「くっ……、てめえ……」

 

「ようやく違和感の正体を掴めたよ、やっぱり、俺とお前は違うみたいだ」

 

「聞こえていたかセブン!」

 

 大きな声で俺は耳に手を当てた。その様子に、ジェネシスは驚愕する。

 

『ええ、バッチリとね』

 

「通信、お前ら、誰だっ」

 

「彼女はこの《SA:O》開発協力者……、七色博士って言った方が分かりやすいか」

 

「なんだと」

 

「いまの俺たちのやりとりは、通信と共に全て彼や彼女にも聞こえていた。それが意味することは分かるだろ?」

 

『アミュスフィアの改造とは、到底許されることをしているわね、アナタ』

 

「くだらねえ誘導尋問してるんじゃねえよ!!」

 

 その怒声には覇気が無く、俺は通信機兼、プレミアの守り。

 

 仲間たちも外でこの会話を聞いている。

 

「俺をこのゲームから消すつもりか? はっ! ふざけんじぇねえぞ。終わらせてやる、消えるのはてめえの方だ!」

 

 そして何かアイテムを使用するが、使用するアイテムも分かる。

 

 デジタルドラック。

 

「見せてやるよ……俺だけが手に入れた、力をぉぉぉぉぉぉ」

 

 戦いの続きが始まる。

 

 だが、この勝負は、

 

「なぜだぁぁぁぁ、なぜ攻撃が当たらねえんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 

 攻撃のさばき方、それは刀剣の刀身を相手に映して見る。

 

 俺は盾と剣、死角をそれでカバーし、視線からの読み以外からも攻撃を読む。

 

 静かにかわしながら、確実にラッシュを決めるキリト。

 

 雄たけびを上げ、振り回すだけの力では、キリトに当てるのは難しい。

 

 正直周りからできるかと言われたが、

 

(キリトはできた)

 

 それがキリトとジェネシスの違いだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ふざけんな、なんで……」

 

「お前に《黒の剣士》は似合わない」

 

 ポリゴンになり消えるジェネシス。

 

「キリト……」

 

「終わったな……」

 

「心配させたな……」

 

 二人してキリトに駆け寄る。さすがにあれは集中力を使い過ぎる。

 

 汗を流すが、すぐに呼吸を整えるキリト。

 

 そしてふとっ、すぐに気づく。

 

「もう一人の女神は」

 

「奥に………彼が倒されたあと」

 

 プレミアの言葉に俺たちは急ぎ、奥へと進む。

 

 そこにいたのは、あの子だ。

 

「あの人はわたしを必要としてくれた」

 

「君は」

 

「なにも持たないわたし連れ出し、戦う術を……この世界で生きていく術を教えてくれた」

 

「………」

 

「そして、わたしを『ティア』と名付け、存在することの意味を与えてくれた……」

 

 あのNPCをモブと言い、消すジェネシスが名前を授けたことには驚いた。

 

「だけど世界は彼を拒絶した、たったいま、あなたも」

 

「それは……」

 

「はじめての人を失った……また、わたしはひとり。やはり、あの人教えてくれた通り、人は憎むべき存在。人の存在がわたしたちを傷つける、人の存在が、この世界を醜くする」

 

「君は」

 

「わたしたちを拒絶する世界なんて必要ない、わたしたちを拒絶する人々なんて必要ない!」

 

 その時、黒い影がノイズのように見えた。

 

 それを見たとき、頭に何かかすめる。

 

 記憶が、それを知っていると言う。

 

 そして祈りを捧げる。六つの聖石が彼女の周りに飛び、人なんかがいるから汚れていくんだと叫ぶティア。

 

 たった一人で祈りを起こそうとする。

 

 髪が銀色に変わり、光が放たれた。

 

 転移したのか姿は無く、そして、

 

 大地が揺れ、起きる。《大地切断》

 

 だがそれよりも………

 

 あの影がなんなのか、それが分からない………




キリトくん、テイルが血のにじむような努力を短期で習得。さすがだ。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第20話・影の正体

前回、ジェネシスのチートを暴き、彼のプレイヤーとしての決着を終わらす。

だがティアはたった一人で大地を切断し、物語が終わりへと向かう。


 ジェネシスは常連のチート使いとして、すでに警察からもマークされていたらしい。

 

 これでもうゲームへはログインしないことが、キリトから伝えられた。

 

 だが、ジェネシスの、おそらくゲームの中で強くなる、優れている。そう言った形を残すために、あらゆる手を使った形を残そうとしたプレイヤーの思いを受けた少女は、ねじ曲がる。

 

 彼女は崩壊モジュールと深く結びつき、浮遊城アインクラッドを落とそうとしていた。

 

 運営の動きは分からず、知らないプレイヤーたちはサプライズだと思う。事を穏便に済ませるにはいまのうちしかない。

 

 プレミアはシステムの外側へ、生きたい、みんなと一緒に居たいと叫び、そしていま、またあの城へと踏み込む話になる。

 

 あの影がいまだ、俺の中に残る………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 城の中ではモジュールが、キーとなるティアを守るように、城の内部を変化させていた。

 

 まずはモジュールとティアを切り離す、その為に、全メンバーで戦いを仕掛ける。

 

 そこにはプレミアもいて、全員で挑む。

 

 モジュールを破壊する中、モジュールと一体化したティアが現れる。

 

「……間もなくここは地上に落ち、世界は崩壊する。ようやくすべてを消すことができる」

 

「そんなことはさせない」

 

「なんであなたたちはわたしの邪魔をする!? この世界に、人々に、なんの意味があると言うの」

 

「意味はある」

 

 キリトは迷いなく、はっきりと彼女に伝える。

 

「確かに、間違った事を行う人間も中に入る。けど世界の広がりや人との繋がりがこれからの自分を作り上げていくんだ。何も無くなってしまえば、自分すら失ってしまう」

 

「わたしはこの世界を見て、不要だと判断した。こんな世界なんていらない! 人なんて、存在しなくていい!!」

 

 その時、あの影が微かに見えた。

 

「すべてなくなってしまえばいいんだ! 嫌いだ嫌いだ嫌いだあぁぁぁーーーーっ!」

 

「ティア」

 

「拒絶しかないこの世界の醜さすべてを、消し去ってやるんだああぁぁぁぁ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それでもキリトたちは諦めなかった。

 

 いるのは見知った仲間、数えられる程度。

 

 だが、

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――」

 

 キリトが持つ双剣の輝きが、モジュールとティアを分けて、全てが終わる。

 

 ティアは命を絶とうとしたが、プレミアに止められ、説得された。

 

 彼女は細剣をしまい、全員が一息つく。

 

 

 

【人は全て醜い】

 

 

 

 その時、全員が、俺以外の全員が動けなくなる。

 

「な、なんだっ!?」

 

「これは」

 

 その時、黒い影が集まり、人の姿になる。

 

 どういうことだと思いながら、それは形になり、その様子から、

 

(魔王ガノンっ!?)

 

 そのシルエットを持つ黒い影が現れ、ティアを包む。

 

「あっ、くっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

「! させるかッ」

 

 斬撃で振り払う霧。黒い影は形になり、剣を持つそれは、俺と対峙する。

 

「どう、して……」

 

「守る……」

 

 そう一言言うだけで構える。

 

 影が赤い眼光で静かに睨みつけてきた。

 

【………】

 

「………動けるのは俺だけか」

 

 なぜかは知らないが、魔王退治も加わった今回のクエスト。

 

「女神を救い出したいんだ……。行くぞ」

 

【オォォォォォォォォォォォォ】

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 剣がぶつかり合い、剣が向かい、斬られた。

 

【戦え………】

 

「!?!」

 

 いま斬られたとき、声が聞こえた。

 

 正直、精神が持ってかれてもおかしくない。憎悪のような感情が流れ出しながら、それがラッシュを仕掛ける。

 

 全てを防ぎ、後ろのティアを見た。

 

(後ろに引けないっ、だが)

 

 再度斬られる。

 

【他よりも恵まれている、俺は戦わなければいけない。止まるな】

 

「!」

 

 その隙を突かれて、ラッシュが入る。

 

 

 

【痛いッ、痛い痛い痛い痛いッ!!】

 

【なんで俺………こんなことしてるんだっけ】

 

【人が死ぬ、他に手は無かったのか。これしか無かったのか? これが正しいのか? 他になにか無かったのかッ!?】

 

 

 

(こい、つッ、は!)

 

 それには覚えがある。

 

 いや、知っていて当たり前だ。

 

 再度剣が激突し、歯を食いしばり、防いだ。

 

「お前……まさ、かッ」

 

 斬撃が叩きこまれた。

 

 

 

【戦え、戦えッ、戦えよッ!!】

 

【死にたくない死んでほしくない止まりたくないッ】

 

【俺は………何のために、その為だけにあの日々を生きたんだろ(・・・・・・・・)

 

 

 

 それは俺の負だった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ガハっ、アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」

 

 テイルは叫び声をあげ、剣を落とし、その場に両ひざをつく。

 

「テイルっ」

 

「おいどうなってやがる! 口以外身体が動かねえぇぇぇぇ」

 

「ふざけ、ないでよ!」

 

「テイルさん………」

 

 どうして俺たちの身体だけ、いやアバターだけ動かない!

 

「これって……、キリトっ、あれは私たちのエラー、負の感情データだよ!」

 

「ストレア、それって」

 

 動けないのはストレアも同じ、この場で動けるのはなぜかテイルだけだ。

 

「いまテイルは、大量の負のデータを叩きこまれてる! それは《デジタルドラック》、ううん、それ以上の精神負荷」

 

「それは、このまま負のデータを受け続けたら、テイルはどうなるっ!?」

 

「HPゲージの前に、テイルの精神が待たない」

 

「安全装置、強制ログアウトはっ!?」

 

「………嘘」

 

 ストレアの声から、嫌な予感しかしない。

 

「いまこの状況は私たちだけだけど、安全装置が切り放たれてる。いま安全装置が働かない!!?」

 

「なん」

 

 それでいまテイルは、

 

「このままテイルが一万人の負のデータなんて浴び続けたら」

 

「HPゲージ云々じゃないッ、テイル逃げろ!」

 

 だがテイルは両膝を付き、痙攣しているだけだ。

 

「だめ気絶してるっ、テイルさんっ」

 

「おい起きろテイル!」

 

「ダメだ、目の焦点が」

 

 定まっていないのか、口を開き、天井を見ている。

 

「テイルっ」

 

 影は剣を持って、テイルに近づく。

 

「やめろ………」

 

 まだ本気の戦いをしていない。

 

「やめろ」

 

 まだ彼奴と、

 

「テイル!」

 

 やるたいことがまだあるんだッ!

 

 

 

 動いて!!

 

 動けっ。

 

 動けよッ!

 

 

 

『いま動かないでどうするんだっ!!』

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 その時、剣が振り下ろされた。

 

 だが、一人の男の刀がそれを防ぐ。

 

【ッ!?】

 

「よっしゃ!」

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 ユウキたちが斬りかかり、それを防ぎながら、だが、

 

「鈍いッ、この程度ならラッシュで叩きかけるぞ!」

 

「おおッ」

 

 その時、アスナ、シリカがテイルに駆け寄り、プレミアやリズが前にいた。

 

「テイルさん、テイルさんっ」

 

 身体を揺さぶる中、テイルは僅かに反応する。

 

「テイル」

 

 プレミアの声が聴こえる。だがまだ、

 

「テイル」

 

 その時、ティアが呼びかけたとき………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 俺はなんの為に、この世界に来たのだろう?

 

 なんでここまでして、第二の人生を犠牲にしなければいけなかった。

 

 なんで………

 

「!」

 

 俺の目の前に骸骨の戦士が、あの勇者がいる。

 

 彼はこんなものを背負って戦わなければいけなかったのか。

 

 軽く見ていたのだろうか、俺は、どこか気楽に考えていた。

 

 その結果、これか。

 

『………』

 

 その時、剣先を向けられる。

 

 なにを。

 

『………』

 

 怒っている、そう感じた。

 

 なぜ彼が怒る?

 

『貴方は、貴方だよ』

 

 誰だ………

 

『なんだい君? 僕らのリーダーみたいに、全部一人でどうにかできるとでも思ったの? はっ、だからこんな体たらくなんだよ。君自身がよく言ってるじゃない』

 

『おまえさんは勇者じゃない、勇者の体験をさせられた。だから助けられる奴だって、限られてた? そんなわけないだろ』

 

『例え彼奴がいたとしても、結果は変わらないさ。それは分かるだろ?』

 

 そんなこと、そんなことで納得できるかッ。

 

 なら俺の、俺の日々はなんなんだよ!

 

 ユウキは一人じゃないか!?

 

 多くの犠牲者が、多くの人たちの人生が守れなかったじゃないかよッ。

 

 俺は、俺は知ってた。俺は分かっていたのに、なのに………

 

 なのになんで救えないんだよッ。

 

『勇者じゃないから、とでも言いたいのかいあんた』

 

【ああそうだよッ、そうとでも思わなきゃやっていられるかッ】

 

 暗闇から俺が叫ぶ。

 

【なんでだよ……なんでこれだけなんだよ……。ユウキがなにしたって言うんだよ……。もっと、もっと多く救いたかった!】

 

『勇者の力で? あれは彼の記録だ、君はただ、真似ただけだ。ははっ、滑稽だね』

 

【ああそうだよッ、それでも、それでも……】

 

『貴方はそれでも苦しんでる……、助けられたかもしれない。そう苦しんでいる』

 

【………俺はどうすればよかった】

 

『………背負うしかない』

 

 その時、聞いたこと、いや、聞いたことがある声が聞こえた。

 

【先生………】

 

『勇者じゃない君は、勇者を真似ただけだ。それでも、君はがむしゃらに、救おうと足掻いた』

 

【けど、けどッ】

 

『………いい加減にしてくれないかい君?』

 

【なにを】

 

『僕らのリーダーだって、救えなかった者があるのは知ってるだろ?』

 

【!】

 

『………俺はみんなを、国を救えなかった』

 

【そ、れは………】

 

『だけど、私たちは彼を勇者だからとか、そんな気持ちは一つもないよ』

 

『相棒は相棒だからな、きっちり最後は助けに来たしなっ』

 

『ま、100年も遅刻したけどね』

 

『けど、それを待ったのも、勇者だからじゃないよ』

 

 それは………

 

『貴方は、もう知ってるよ』

 

『彼奴から託されたもんがある。勇者だからじゃない、一番大事なもんをなっ』

 

 その時、誰かに呼ばれた気がした。

 

「………そうだ」

 

 始まりは罪悪感と謎の責任感から。

 

 だがいまはどうだ?

 

 彼らと関わり、俺は次があるとしたらどうする?

 

「………俺に勇気は無い」

 

『………』

 

「だからあなたには成らないし、成れない」

 

 そう静かに言いながら、勇者を見る。

 

「だけど、俺にも譲れないものがある。勇者に負けない、それだけは」

 

『………ああ』

 

 それに頷き、俺は、意識を取り戻す。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 その瞬間、全身に感覚が戻り、焦点が定まる。

 

「………俺は………」

 

 そして彼は、戦う仲間たちを見て、気付き剣を握る。

 

「だめっ、もう戦うのは危険だ」

 

 アスナが止めるよりも早く、彼は駆けだした。

 

 誰もが攻撃を避ける中、そして駆け出し、影に激突する。

 

「テイル!?」

 

「でえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――」

 

 激突するテイルは、そのまま仲間たちから引き離す為、そのまま押していく。

 

 影から再度攻撃を受けるが、歯を食いしばる。

 

 何度も剣撃が切り込まれるが、それでも、

 

「ここで」

 

 その時、彼の手の甲が輝く。

 

 影の剣が砕かれ、その瞬間ラッシュが始まる。

 

 これは、彼だけの物語の敵。

 

 だからこそ、彼が倒さなければいけない。

 

「斬り抜く!」

 

 盾で吹き飛ばし、相手が倒れた瞬間、

 

「デエェェェェェェェェェェェェ」

 

 そのまま全体重を乗せ、首元へ剣を突き立て貫き、その瞬間中から光が放たれ、影は雄たけびと共に消え去る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「あっ、ぐっ」

 

 その場に倒れかけたが、キリトがそれを支えた。

 

「テイルっ、おま、どうして一人で戦ったんだッ!?」

 

「………お前たち、は……じゅうぶん、背負ったからだっ」

 

 どうにか吐き出せた言葉に、クラインが叫ぶ。

 

「ふざけんな! SAOのことなら、オレらにだって関係あるんだッ。なにより、テメェだけ背負ってないからとは思うな!」

 

「ああ、お前さんもさんざん背負っている。それは俺が、誰もが知っていることだ」

 

 エギルもそう言い、キリトもまた機嫌が悪い。

 

「ああそうだ、お前も背負ってたんだ、あの世界で」

 

「………」

 

 彼らがそう言う中、やっと立てる頃には、静かに、

 

「………ありがとう」

 

 それが俺が言えた言葉だった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ティアは転移でどこにか消え、俺たちは静かに帰ることになる。

 

 だが、一つだけ気になることがあった。

 

「プレミア」

 

「はい」

 

「君に聞きたいことがある……。君は………ペンダントを持っているか」

 

「? いえ……」

 

「そうか……」

 

 それを聞き、ペンダントは彼女の方だろう。

 

 いまも持っているか分からないが、それだけを確認したかった。

 

 そして転移の為に装置に乗った時だ。

 

 いつもと違う、不思議な光に包まれた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ここは………」

 

「電脳の空間だよ、テイル君」

 

 その時、声が聴こえ振り返る。

 

 そこにいたのは、

 

「茅場晶彦……」

 

「見させてもらったよ、君の戦いも」

 

 そう言われ現れた茅場晶彦に、俺は驚きを隠せない。

 

 彼は死んでいる。彼が隠れて住む場所で、ナーヴギアを装着していた。

 

 ならここにいるのは、

 

「私はデータの残骸だ」

 

「どこまで……、魂をデータに変えたのか」

 

「転生者にとってはそうなのかもしれないな」

 

 その言葉に驚きを隠せない。

 

 だが茅場は気にせず、静かにこちらを見る。

 

「なにもおかしなことは無い。君は転生者、自身と激突しただろ」

 

「そこから知ったのか」

 

「ああ。転生者の存在は、私がこの状態になって初めて知った。私の、私たちの世界がすでに異世界だということを」

 

 茅場は静かに思いをはせながら、静かにこちらを見る。

 

「君は後悔しているのかい? あの世界、ソードアート・オンラインに来たことを」

 

 そう言われ、俺は目を閉じる。

 

 魔王ガノンとして現れた、俺の負。

 

「俺は身の丈を超えた力を求めて、その過程で命を落とし、怪我を負い、それでもあの世界に備え、犠牲者を減らす、阻止することしか考えない、それしかできなかった」

 

 だがそれでも止められない犠牲者。帰還者も多くが、人生がねじ曲がった。

 

 それしかできなかったかもしれない。けれど、考える。

 

 他に方法は無かったのか。

 

 どうしても、それが呪いのように存在する。

 

「この世界は君の想像を超えた負、それに大きく影響を得ている。君は体験したはずだ」

 

「ボスエネミー、それにアイテム類。見知った者たち」

 

「そうだ、カーディナルシステムは君に多大な影響を受けている。モジュールは、そのエラーすら利用した。まるで自我を持つように、君に新たなフィールドを開ける道を導いた」

 

「崖のプレミアか」

 

 そして俺はフィールドを拓き、彼女のクエストを進められるようにした。

 

 モジュールは、アインクラッド創造のため、多くの要素を取り込んだ。

 

 それを聞きながら、静かに見る。

 

「お前はこれから……」

 

「いや、私はいまはデータの一部。それ以上も以下でもない、ただキリト君に託したい物があっただけだよ」

 

「託したい物」

 

「ああ、最後に君に、私たちの世界の代表として言おう」

 

 そう茅場は静かに、

 

 

 

「君はただのゲームプレイヤー、この世界に生きる命だ。ありがとう、この世界に来てくれて」

 

 

 

 それを言われながら、静かに黙り込む。

 

「昔の俺なら、肩の荷が下りたところだ」

 

 だが、

 

「苦しくても、俺はまだ背負わないといけない。思いあがりでも、投げ出したくない。それが選んだ俺の責任だ」

 

「そうか……、君らしい答えだ」

 

「それに、きっともう俺はこの世界の人間なんだ。そう教えられた」

 

「キリト君たちか」

 

「ああ、俺は彼らの世界の住人だ。いまの俺に、揺るぎは無い」

 

「なら行きたまえ、君にはまだ、この世界を楽しんでもらいたいからね」

 

「………言われなくても」

 

 そして俺は歩き出す。

 

 ただ静かに、前へと………

 

「っと、最後に一つ、手の甲の光はなん」

 

 その時、光が辺りに包まれ視界が遮られた。

 

 だが、僅かに一瞬、黄金の三角形が見えた気がした………




彼を勇者かどうか呼ぶかは人次第。

本人はそう否定しても、その道を選ぶ。

そして報告、この物語はオーディナル・スケールとガンゲイルゲーム編まで頑張ります。

次回でオリジン編は終わり、バレット編ですね。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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ホロウリアリゼーション終了

オリジン編が終わり、次はゼルダが爆弾以外関係ない仮想世界。

ここは激戦区だった、けどユウキ好きすぎてできた話にしては良い方かな。

それではホロウリアリゼーション編の最終回です。どうぞ。


 新たな剣の世界で巻き起こる、様々な出来事が過ぎ、ようやく平和になり、気楽にゲームができるようになった。

 

 あの後、VRゲームを、個人サーバーでも運営できるプログラム。名を《ザ・シード》というものが世間に広まる。

 

 俺は聞かないが、茅場からキリトに渡された物だろう。

 

 キリト、和人たちにとってもう一つの現実の未来は、こうして芽吹き、広がるのだろう。

 

 俺もまた、俺の可能性を見出さなければいけない。

 

 もうここが俺の世界であり、前世の知識はこの世界、和人たちに降りかかる火の粉を払う材料程度だ。

 

 昔はチート、優遇されている。そんな罪悪感があったが、もうそれは軽くなった。

 

 俺は俺、この世界の可能性の一つだ。

 

 背負うものは、勝手だろうと背負い、そしい生きる。

 

 こうして俺は、新たな気分の中、この世界の可能性を楽しむことにした。

 

 同じく生きる、仲間たちと共に………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「親権ゲット」

 

「………マジで」

 

 ある日、ついに母親は、多くの問題を跳ね除けて、木綿季を手に入れた。

 

「保護者だけどね、まだ油断できないけど元気になってるし、そう遠くないうちに無菌室から出られるって、先生の方が嬉しそうだったわ」

 

 そして両親からの遺産を持つ少女の保護者を、彼女の意思もあり、我らが両親が、欲望渦巻く中からついに勝ち取った。

 

 親戚の人たちも、病気のことで避けていたのだから、いまさら保護者としてあの子を見ることはできなかったのだろう。

 

 木綿季に遺書を書けとまで言う始末だ、あの子の先生も味方になり、こちらも使えるコネは使いまくった。

 

 こういう時、ウチは本当に強い。ミケを膝に乗せながら、少し驚く。

 

 ここ最近木綿季たちの病気に効く薬も発見されたと大きく取り上げられたりと、まるで世界が味方でいるような気がする。

 

(いや、神様が裏にいたら、あるいは………)

 

 妙な形で俺の願いが叶えられ始めている。

 

 それでもいいか、過去が変えられないのなら未来を変えよう。

 

 あの子の未来を、明るくしたい。そう思う大人がもぎ取った、その道のチケットだ。

 

「いつかここで、あの子を連れてこられたらいいわね」

 

「………」

 

 静かに頷く、その時母親が驚いていた。

 

「どうしたの?」

 

「あんたでも笑う時があるのね」

 

 そう嬉しそうに言い、どうやら、俺は笑って頷いていたらしい………

 

「にゃ」

 

 飼い猫のミケも、それに嬉しそうに同意した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 そんなある日のこと。

 

 目が覚めると猫がいたのはよくリアルである。

 

「………」

 

 ログインしたら、

 

「おはよう、テイル」

 

 女の子がいたのは初めてだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「申し開きはあるかな?」

 

 セブンにせがまれ、この世界、SA:Oへとログインした姉。レインが仁王立ちする。

 

 最近リアルでも知名度が上がりだし、なかなかゲームができないのだが、せっかく来て、鍛冶師として働く中、できた武器をわざわざ届けに来て発見された。

 

 そして彼女、プレミアとそっくりな少女『ゼロ』といたところを目撃される。

 

 彼女はおそらくはグランドクエストのバックアップキャラが用意されていて、一連の出来事で活動し出したようなのだ。

 

 彼女は本当に全てが無く、色々な情報を求めて彷徨っていたところを保護した。

 

「そんな彼女が、どうして君がレンタルしてる部屋にいるのかな?」

 

「待ってくれ、俺も分からない」

 

「分からないはずないよね……」

 

 お怒り気味のレインだが、

 

「そもそも、なんでレインもこの部屋に? 俺の部屋の鍵、IDは教えてないよな」

 

「………えっ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それはキリトも同じだった。

 

 プレミアがキリトの部屋にいて、アスナとひと悶着があったらしい。

 

 そしてみんなと相談の中、二人して正座し、詳しく話を聞くと、

 

「ほら、二人とも本来ある、NPCの家ってものがないじゃない? だからあたしとユイで、誰かの家に居候させた方がいいって話になったの」

 

「本来、NPCは寝泊まりする場所が設定されてるものですが、お二人はそれがないので」

 

「それでその……、あたしとユイの力で、二人の鍵のアイテムIDを調べて……。IDが分かれば複製ぐらい、ねぇ」

 

「それでどうして俺たちの部屋なんだっ」

 

「確かに、パパはともかく、なぜテイルさんの部屋のIDまで?」

 

 ユイちゃんはお怒りだが、パパは少し傷付いている。

 

 ストレアは苦笑しながら、

 

「ゼロちゃんからのお願いで、キリトの部屋はプレミアだからいいかな~って」

 

「そもそもこの行為はやっちゃいけない行為だからなっ」

 

「しかも話を聞く限り、全員に渡されていた……」

 

 ともかくそんなやり取りをしながら、それを静かに見る女性がいる。

 

 大剣を使い、ある出来事で身体が成長してしまったティアだ。

 

 あの後も騒動があったものの、解決し、こうして共にゲームする仲になった。

 

「ゼロ、お前はある意味末っ子だ。わたしの部屋に泊まるといい」

 

「私はテイルの部屋に居たいです」

 

 そう言い、腕に抱き着くゼロ。

 

 ティアは明らかに不機嫌そうな顔になりながら睨む。

 

「待って……、これ、なに……」

 

「さあ、なんだろうね………」

 

 冷たい声でレインも睨む。

 

 ユウキはうぅ~とうなり、プレミアもキリトの部屋で問題ないですと言う。

 

「そろそろ家を買えるほど金が貯まる、そちらにみんな移住はどうだキリト」

 

「賛成だテイルっ、俺も少し融通するよ!」

 

 そんなことを言い、そこがプレミアたちの家になることになる。

 

 ティアもそこに住めばいい、これでみんな、

 

 

 

「つまり、わたしはテイルの『ほんさい』ですね」

 

 

 

 魂が抜け、周りはどよめき、ゼロは微笑む。

 

「待て、それはどういう意味だゼロ」

 

「どうもこうも、『だんな』が貯めたお金で買った家に住む。『ほんさい』とは、そういうもののはずです」

 

 どう言えばいいのだろう、そう悩んでいると、

 

「それならわたしもテイルの『ほんさい』だな」

 

「それは」

 

 と言い合う二人の側で、

 

「テイル………」

 

 元気が売りのユウキがとても冷たい声でそう呼び、

 

「テイルさん……」

 

 悲しそうにこちらを見るユイちゃん。

 

「テーイールー?」

 

 お怒り気味のレイン。

 

「………俺が悪いのか」

 

 そしてキリト側も、

 

「キリトも資金を出す。これでキリトの『あいじん』ですね」

 

「えっ、キリトくん、いまのどういうことかな?」

 

「き、キリトさんっ」

 

「キーリートーっ」

 

「お・に・い・ちゃ・んっ」

 

「………」

 

「お、落ち着けみんな!」

 

 向こうも向こうで助けは出ず。

 

 新たに騒動の中、クラインとエギルは、

 

「平和だな」

 

「だな」

 

「これのどこが平和だよっ」

 

「落ち着いてくれ」

 

 この騒動を落ち着かせ、マイホームを買うところまで時間がかかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 この世界に生まれ変わり、色々あった。

 

 SAOの中に飛び込められて、チートだ優遇だなんだの考えていたが、それはもうないと言えば嘘になる。

 

 だが特別だったのかなんだのか、もはや過ぎ去った考えだろう。

 

「………」

 

 資金を溜めて、三人が住む家を買う俺は、色々あったが家はいるということで、用意した。

 

 これから先も、この仮想世界に問題は起きるだろう。

 

 俺はともかく、キリトが関わり合い、どうにかするのなら、

 

「よし、家購入」

 

 仲間として彼と共に、それに関わろうか。

 

 ここがもう俺の現実世界なのだから。

 

 この仮想世界で新たな可能性、プレミア、ティア、ゼロは喜び、部屋に入るのを見ながら、女性たちは内装の為の買い物に出るなど、色々話している。

 

 俺と彼らは同じですよね、先生。

 

(そう言えば)

 

 最後に来てくれた人たち、そしてあの話からして、あっちの勇者だろう。

 

 そう考えていると、

 

『そっちの私たちもよろしくね………』

 

 不意にそう聞こえ、辺りを見渡すが何も無い。

 

 だが、不思議と頷きたくなった。

 

 いま、イベント後で、町のNPCたちは行き来するようになり、彼女らともよく会う。

 

 それならな………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 現実世界、集まる者だけ集まり、エギルの店でパーティーする。

 

 プレミアたちは新居にいる、さすがに無理だった。

 

 ユウキ、ユイ、ストレアは《視聴覚双方向通信プローブ》を使う。

 

 これは簡単に言えばアミュスフィアを使い、仮想世界を通して現実世界を見る機械。

 

 キリトがユイのために作った物だが、こうして三つも用意できた。

 

『まだ来てないのはテイルだけ?』

 

「うん、なにか用意があるって言ってたよ」

 

 パーティーは軽いものであり、みんな楽しむ。

 

 そんな中、クライン、壺井遼太郎は、

 

「そういや、リアルの彼奴とは、こうして会うのは初めてだな」

 

「だな、大学生になってる。ってのは聞いたけど、それ以外何も聞いてない」

 

『せっかくだからテイルのこといっぱい知ろうよっ♪ おねーさんがいっぱい聞くんだからね』

 

『ストレア、あまりテイルさんを困らしてはいけないですよ』

 

 そんな会話の中、バイク音が聞こえ、エギルは気づく。

 

「話をすればだな」

 

 そして静かに開けて入るのはテイルであり、SAOの頃と変わらない、落ち着いた男性が入る。

 

「すまない遅れた」

 

「いやいいよ」

 

 和人はそう言い、彼が何かを持っているのに気づく。

 

「? それは」

 

「ああこれ……、それは?」

 

 テイルはテイルで、ユイたちが使用する機械を詳しく聞き、少し天を仰ぐ。

 

「? どうしたんですか?」

 

 明日奈は聞く、かなり大きく、それに関して彼は無言で立っている。

 

 この時の彼は、どう説明すればいいか、頭の中で考え込むときの癖だ。

 

「………俺が知る限り、ユウキやユイちゃんたちは、通話装置で参加する。そう聞いてた」

 

「ええ、そう説明しました」

 

「だから………、せっかくだしって、思いつきで作った物があったな」

 

「まさか、テイルも」

 

 それに少し、どうすればいいか分からず困惑するテイル。

 

 彼は正直、引き出しが多い。それが仲間たちの認識であり、今回も知らない引き出しを使ったようだ。

 

「………これを作ったのは」

 

「俺だけど」

 

 少し和人に悪いと言う顔をしながら、まだテスト中で、試作品で、まだ問題点が多いいなど、前置きを多く言いながら、それを出す。

 

 それは、

 

『凄いですっ♪ まるで猫になった気分です』

 

『アスナ~』

 

『凄いよテイルっ』

 

 猫の形をしたロボットが、そう言いながらテーブルの上で動いていて、和人は驚愕していた。

 

「こんな滑らかに動くロボット? 凄いぞテイル」

 

「大学の機材も使ったからな」

 

 だが和人が驚くのは、特定のパスワードを入力し、コードレスで動かせること。

 

 しっかりユウキたちの動きに合わせて動き、いまのところ急な動き以外問題は無い。

 

『はははっ、まるで猫になったみたい』

 

「うちの猫、ミケの動きはよく見てるからな」

 

 それでいてデザインも、

 

「かわいいです、ホント、商品で出てる猫のおもちゃみたい」

 

『にゃーにゃー』

 

 和人は負けたと言うより、テイルの知識力と行動力に驚いていた。

 

 これを三機も用意して………

 

「テイル、ちなみにこれっていくらだ? かなり値はあるはずだぞ」

 

「俺は普段から貯金派だから、バイクやパソコン以外で大きく使った。まあ、ユウキの為に用意するって言ったら、親が少し融通してくれた」

 

「羨ましい」

 

 視界も限定されているが、まだまだ改良できる点があるのは見てわかる。

 

 正直彼は、こんな世界なんだからできるだろと軽いノリで考えて始めた。元々彼はSAOの件もあり、電脳関係の知識だけは人一倍吸収した。

 

 その上ここ最近は、ユウキが使用している病院が使う、例の機具の勉学も初め出し、進路も決まっている。

 

 どこか無表情な彼だが、ユウキが楽しそうなことに、少しほっとしている様子。

 

「貯金して無駄使いしない、顔立ちは良く、勉強も運動もできる年上」

 

「性格も良い、料理もできますから、家事も理解してくれる」

 

「本当に有力物件過ぎるわね………」

 

 少しばかり頭を痛める者が数名いる中、ユウキのロボットを抱き上げ、少し周りを調整する。

 

「まだ少し……、駆動音も静かでスムーズだけど、それだけか」

 

「テイル、今度話をしようぜ。俺もそっちの分野の話を聞きたい」

 

 それに静かに頷き、にゃ~と鳴くユウキ。

 

 そしてこの後は………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 新たなクエストの為に、フィールドを歩く。

 

 今度は料理対決であり、シリカは店のこともあり燃えている。

 

「何か良い食材は」

 

「ともかく色々な食材を手に入れよう。マップは把握している」

 

「味見は任せてください」

 

 プレミアは嬉しそうに言い、担当分けの中、ユウキと組む。

 

「それじゃ行こう、テイル♪♪」

 

 そう言い、ここ最近元気になるユウキを見ながら、静かに、

 

「ああ」

 

 新たな世界、仲間とともに楽しもう。

 

 そうしなければ、また先生が夢で出てきそうだ。

 

 後日談、俺は部屋のIDを変え、キリトは変え忘れ、プレミアが習慣で部屋に入り、えらいことになるとも知らずに………




テイルの親はユウキを手に入れました。

そして彼の表情筋も少しずつ緩くなる。

それでは次は火薬と鉄の世界で。

お読みいただきありがとうございます。


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フェイタル・バレット
第21話・リアルとの交差


おっしゃ新章。

こんな感じで始まります。


 それはここ最近、仮想世界へログインしない日々が続いた。

 

 まあ大学生故に、忙しいのだが、現実ではアスナがユウキのお見舞いで会ったりするし、その程度。

 

 そんな日々で、

 

「え? 連絡が」

 

 それは俺より下の姉妹、妹ちゃんから連絡があったと、母親から電話が来た。

 

 なので、時間帯を気を付け、電話をする。

 

 連絡先を知っていても、親同士くらいしかしてなかったが、彼女たちは俺の幼なじみだ。

 

 そして何度か電話を待つと、あの子の親が出て、あの子が電話先に出る。

 

『もしもし? あのすいません、急に電話してしまって』

 

「いまさら敬語はいいよ……」

 

 それを言われ、電話先から少しほっとした感じと、僅かに苦笑する感じがした。

 

『そう言われても、それじゃ、向こう側ではそうさせていただきます』

 

「向こう側? 仮想世界か……」

 

『はい、その、お兄さんは、仮想世界をプレイしてますか?』

 

 その話は、今度あるVRゲームにて、イベントがあり、そのイベント大会ペアに参加する相手を探しているらしい。

 

 そのイベントでの優勝が目的では無く、そのフィールドのレアアイテムが目的。

 

(そう言えば、こっちでもリアルラックが高い扱いだった)

 

 それを思い出し、ゲーム買う資金を考えるが、とりあえずは、

 

「それじゃ、まずタイトルを教えてくれるか?」

 

『あっはい、ゲームタイトルは《ガンゲイル・オンライン》です』

 

 確か銃ゲームだったな。

 

 リアルマネーも動くから、プロがいるゲーム。

 

 とりあえず頷き、母さんに事情を説明して、資金を得ようとしたら、

 

「なによ、あの子からのせっかくの誘いでしょ。しばらく付き合うんなら全額出すわ」

 

 と言われ、簡単にソフトを購入する。

 

 その時、

 

「と、そう言えば、あんたのゲーム仲間には連絡しないの?」

 

「向こうは剣士とか、そう言うのが得意な奴が多いから、ガンゲーは無いと思う。連絡はしばらくしたらするよ」

 

 キリトなんか、遠距離から攻撃なんか想像できない。

 

 シノンは乗りそうだが、話してゲーム仲間が割れるなんてこと、少し困る。

 

 多少良くなってきて、話しやすくなったとはいえ、コミュニティ不足を自覚しているんだ。これ以上はごめんだ。

 

 というわけで、銃口が火を噴く世界へと、足を踏み込む。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 荒廃した世界がモチーフ、鋼の世界へと足を踏み込む。

 

「アバター名は伝えたが、向こうから話しかけるのを待つか」

 

 そして、初期装備のままぼーと、

 

「お待たせー」

 

 そう声をかけてきたのは、女性アバターのプレイヤー。

 

 そちらに振り返ると、

 

「イベント大会の参加登録が混んでて、参っちゃった」

 

「君は……」

 

「テイル、でいいんだよね。それじゃ、口調は昔通りにさせてもらいます」

 

「いまも、少し丁寧語だ」

 

 それに少し苦笑しながら、VRMMOの大会について、色々話し合う。

 

「そう言えば、テイルは他のVRはプレイしてるんだよね」

 

「ああ……。友人は多少いる」

 

「なんか、あなたのその感じは変わらないな。こっちではわたしの名前は『クレハ』。よろしく」

 

「よろしくクレハ」

 

「はいそれじゃ、雑談はここまで。大会について、説明するわね」

 

 大会は今度大型アップデートを控えるこの世界、GGOの大会で目玉装備らしいそれがある。

 

 今回は優勝では無く、そのアイテムを確保する。

 

 さすがに銃器は、まあ、無いと言えるだろう。

 

 そんな話をしながら初期装備を見て、リロードと撃ちの話なりを聞きながら、大会へと向かう。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 大会本部へと来る。クレハが大会の申し込みしている間、チュートリアルをしておく。

 

 だがどうしても慣れない。

 

 矢では無いからか? まあ銃のような乱射は訓練で一つしかしてない。ガトリングのような狙撃銃ってないかな?

 

 アサルト高速弾くらいか? 少なくても、距離的にスナイパーライフルがいい。

 

「まあいいか」

 

 まあ長くするゲームではない。

 

 納得してチュートリアルを終え、クレハと合流した頃、向こうで人だかりができている。

 

 そこには男性プレイヤーが中心になり、凄腕だろうと予測していると、

 

「うわ『イツキ』さんだ。あの人も大会に出るのかな」

 

「この世界のギルドリーダーか……」

 

「ああうん、こっちじゃスコードロンって言うの。わたしはそこを色々渡り歩いているけどね」

 

「そうか、彼とは戦いたくないな……」

 

 初期ではさすがに、どう足掻いても無理のはず。

 

 そう思っていると、こちらを歩いて来た。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「やあ、キミたちも大会に参加するの?」

 

 どちらかと言えばクレハに話しかけてきたイツキ。

 

 クレハはあちこちのスコードロンを渡り歩く、凄腕として覚えられているらしい。

 

「そこのキミは、見たところ初期装備みたいだけど、もしかしてニュービー?」

 

「はい、彼女とリアルでの知り合いで。今回の大会のために、彼女にこの世界に呼ばれました」

 

「初日から大会に出るなんて冒険好きだね。そういうの、嫌いじゃないよ」

 

 そして彼とも挨拶をし終え、しばらくして大会が、

 

「ん?」

 

「? どうしたの」

 

「いま知り合いに似たアバターがいた気が……。いや」

 

「わたしはむしろ、はきはき喋るあなたに驚きだよ。昔は頷いたりする程度なのに」

 

「……さすがに、少しは改善したよ……」

 

 少しは前に進んでいるんだろう。

 

 そう言えばほんと、いま彼らはなにしてるんだろうか?

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 レアアイテムが狙いとはいえ、大会中は他プレイヤーもいる。

 

 それを撃退しながら進む。

 

「すごい、よく被弾せず、前で戦えるわね」

 

「とはいえ、リロードが少し……」

 

 躱すこと慣れているとはいえ、リロードにはなれない。爆弾があるが、まあいいだろう。

 

 そう長くプレイするつもりは無い、ここじゃ爆弾以外慣れないだろうし………

 

 そんな会話しながら、歩いていると、

 

「! 気づくのが遅かった」

 

「えっ……」

 

 その言葉通り、少しして、プレイヤーが二人現れる。

 

 それは、

 

「うそっ、イツキさん」

 

「おや、キミたちは」

 

 イツキたちは余裕の様子で、クレハに緊張が走る。

 

「テイル、逃げるわよ。イツキさんの仲間なら、相当の手練れのはず……」

 

「無駄だ……。この距離じゃ、後ろから撃たれるだけで釣りが来る」

 

「それは」

 

「だからと言って、勝てる見込みもないな……」

 

 そう言いながら、向こうも向こうで気にしないそぶりで、こちらの会話に参加する。

 

「逃げる相談かい? 言っては悪いけど、クレハくんならともかく、ニュービーのキミは、一撃で終わりだよ」

 

「だからって、前を向いても撃つだろ?」

 

「正解、ん~どうだろう」

 

 向こうは楽しみながら、こう相談を持ち掛けた。

 

 この先に、多少強いエネミーがいて、俺たちがそれを撃破する。

 

 できれば見逃すと、弾を節約するために、こう持ち掛けてきた。パートナーであるプレイヤーは少し呆れていたが、彼はこういうプレイスタイルらしい。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 そして俺たちはそれを撃破して、どうにかこうにか、二つの道が開いた。

 

「これで文句は」

 

「ないよ、キミたちが先に選んでいい。もちろん、後ろから撃ったりしないよ」

 

「テイル、あなたが選んで」

 

「無駄にある俺のリアルラックか、まあ発動しそうだ」

 

 そんな会話をして進むと、後ろの扉がロックされた。引き戻れない状態だが、それはこっちは少し助かる。

 

 少し進み、どうにかなったと一息つくが、回復手段の無い装備の為、そろそろやばい。

 

 ともかくこれ以上戦闘は避け、レアアイテムを手に入れる話をしていると、なにかの部屋にたどり着く。

 

 クレハはすぐにモニターなどに近づき、俺は部屋の真ん中にいた。

 

「だいたいこういう装置を操作すると、なにかしら先に進めるのよね」

 

 そう言って、ボタンを押す。

 

 その瞬間、光が辺りを包んだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………最悪だ」

 

 まさか転送装置のど真ん中にいたとは。

 

 見知らぬ部屋に飛ばされ、HPは僅か、武器は弾だけある銃のみ。

 

(さすがにやばい)

 

 ともかく、部屋は他にも通路がある。

 

 危険だが対処できるよう、見渡せる場所に移動すると、

 

「?」

 

 カプセルのようなものがあり、それが起動する。

 

 ユーザー名テイルがどうとか言いだしている、なんだこれ?

 

 何か起動し出して、カプセルのようなものが開いて、女の子が出てきた。

 

「………なにこれ」

 

 そう思っていると、瞬間背筋が凍り付く。

 

「!?」

 

 瞬間浮遊して出てきた女の子を抱え、その場から離れた瞬間、銃声が聴こえ、すぐにその発生源へ銃弾を放つ。

 

 遅い、ダン、ダン、と言う音が鳴り響き、なにも聞こえない。

 

「まずい」

 

 その瞬間、すぐに別の場所に気配を感じ、銃を構える。

 

 遅い、低いの最悪状態、少女を床に置き、すぐに構えると、物陰から人が出てきた。

 

「なっ………」

 

 その出てきた男に驚く。

 

 キリトそっくりなんだ。

 

 光る剣を構え、斬りかかるキリト。

 

 弾丸を放つがすぐに切り払い、もうだめだと思い、少女の前に盾になる。

 

「マスター………?」

 

 その時、キリトは一瞬剣閃が緩んだ。

 

 いましかない。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 突然そいつは腕を掴み、一本背負いの応用で投げ飛ばす。

 

 その時、はっきりとわかった。

 

「テイルっ!?」

 

「キリトぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 そして吹き飛ばされた後、彼が俺たちの友人、テイルと知った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「わ、悪いキリト、斬りかかられたからいましかないって」

 

「い、いや、ダメージはそんなにないよ」

 

 そう会話していると、

 

「止まりなさいっ」

 

 クレハが現れ、銃口を向けるが。

 

「あなたこそ、止まりなさい」

 

「!? いつの間に背後を」

 

 そんなやりとりの中、こちらはせっぱ詰まっていた。

 

「ま、待てアスナっ、彼だ。よく見ろ、アバターもコンバートでそのままだ」

 

「えっ、えっ!? うそっ、彼なの」

 

「え………。ど、どういうことテイル!?」

 

 ともかく、話を纏めると、

 

「友人だ……」

 

「はっ……はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「驚いたよ、まさかあなたがGGOに来ていたなんて」

 

「しかも間に合わなかった。もうアファシスは、マスターとして認めたようだし」

 

「マスター?」

 

「あの子が、レアアイテムっ」

 

「そうなのか」

 

「知らなかったのか? 正確には、大型アップデートで実装された、プレイヤー用サポートAIの『アファシス』だよ」

 

 これがレアアイテム。サポートAI、NPCだったらしい。

 

 銃かなにかと思ったが、これが………

 

 ん? マスター登録?

 

「キリト? それって、一か月でGGOトップランカーにのし上がったって言う《光剣》使いのキリト………さんっ!?」

 

「……キリト?」

 

「いや、お前が最近ログインしないのが悪いだろっ。なんでログインしなかったんだ」

 

「正確には、この話をする間だね、それにリアルじゃ会ってたよ。ユウキのお見舞いのとき」

 

「そう言えばそうだった」

 

「えっ、えっ!? テイル、キリトさんと知り合いなのっ」

 

「知り合いもなにも、彼は仲間だからな」

 

「もう驚きすぎて、理解が追い付かない………」

 

 ともかく、恐れていることを回避しないと、

 

「アファシス、彼女が君のマスター。クレハだ」

 

「アファシステムタイプX、A290・00。マスター登録はすでに完了しています」

 

 あっ、まずい。

 

「テイル、この人がわたしのマスターです」

 

 視線が一斉に俺に集まる。

 

 クレハは怒り狂い、襟を掴まれ、振り回された。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「マスター、わたしの名前を決めてくださいっ、変更可能ですが、変な名前を付けたら爆発しますっ」

 

 元気いっぱいにそんなことを言われ、俺は困惑する。

 

 まず見た目をよく見る。長い白い髪に、アメジストを思わせる紫の瞳。

 

 小柄でユウキに………

 

 ユウキに似ている………

 

「どうしましたマスターっ」

 

「………」

 

 頭が痛くなってきた。

 

「どうしたの、名前を早く決めないと」

 

「シロは安直だからだめ?」

 

「ダメですっ、かっこいい名前を希望します!」

 

「そうは言っても………」

 

 その時、手の甲を見た。

 

 それを見ながら、あの眩しい光を思い出す。

 

 こうしてアファシスタイプX、彼女を『ヒカリ』と名付け、大会が終了した。

 

 さてと、

 

(キリトたちから、どう逃げよう)

 

 ほげ~と現実から逃げている俺は、間違っていないはずだ………




ゼルダは無理だろ? この子でゼルダキャラに似せるのは、少し抵抗が。頭が固いのかな。

とりあえず、この世界に木材加工とかはあるよな。爆弾うまく使いたい。

お読みいただきありがとうございます。


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第22話・ヒカリ

アファシスをゼルダの誰かにすると言う勇気が俺には無かった。


 タイプXことヒカリから《アルティメットファイバーガン》、略してUFGをもらい、大会終了まで練習する。

 

 実装前のレア中のレアらしい。まだ経験値0の俺にぴったりと、ヒカリがくれた。

 

 移動を短縮するレーザー型のアンカーのようなそれは、フックショットを思い出す。

 

 そして大会はキリトが優勝して、専用フィールドから帰還した。

 

「でも、今回の本当の優勝はきっとあんたね。一番のレアアイテムをゲットしたんだもの」

 

 マジっすか。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「やあ、クレハくんたちも生き残ったんだね。あの後どうなったか、心配してたんだよ」

 

「イツキさんっ」

 

 軽く頭を下げ、軽く話す。どうも向こうはトラップだらけだったらしい。

 

 それが本当かどうかは分からないが、こちらは、

 

「ん、その子は」

 

「はじめましてっ!」

 

「キミは……、プレイヤーじゃない。まさかこれは……アファシス!?」

 

「一部訂正を求めます、アファシスの中でもとてもレアな、タイプXですっ」

 

「……まったく。なんで僕が落としたパンは、いつもバターを塗ったほうが下になるんだろうな」

 

 少し分かりにくい例えだな。

 

 マスターが俺であることも驚かれつつ、こちらを興味深そうに見る。

 

 トッププレイヤーも一目置くアイテム扱いのサポートキャラ。

 

 これは、少し本腰を上げて鍛えないとな。

 

 そう考えていると、

 

「テイル」

 

「ここにいれば会えると思ったよ」

 

 キリト、アスナが話しかけて来た為、俺は手を振る。

 

「あんた、本当にキリトさんたちと知り合いなのっ!?」

 

「知り合いも何も、彼はALOやSA:Oじゃトッププレイヤーだぜ」

 

「………本当なんだ」

 

 驚かれる中、どこか寂し気なクレハ。

 

「俺は俺だよ」

 

「あっ、うん、まあGGOじゃわたしが先輩だものね」

 

「なにより得意な剣が無いんだ、そこがね」

 

「なに、君も光剣を使えばいいじゃないか」

 

「なぜガンゲーで剣……」

 

 さすがにそこはどうだろう。キリトが意外そうな顔をしてこちらを見て、アスナはそれが普通だよねと同意する。

 

「キリトくん、無理して光剣使ってるからね」

 

「いや、君も光剣使うだろっ!? ユウキだってそうだし」

 

「とりあえずいまはいいか? クレハにみんなのこと言わないと……」

 

「うんそうだね、あなたがいない時に話してたことや、みんなのこと、アファシスのことについても話をしないと」

 

 アスナの提案にクレハも納得し、イツキは仲間の下に。

 

 イツキからは君は、世界一幸運なプレイヤーとも言われたが、果たしてどうだろう。

 

 ともかく、キリトのマイルームへと足を運ぶ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「パパ、ママ、優勝おめでとうございます!」

 

 そこにはユイちゃんを初め、みんなほぼいて、説明会がまず行われた。

 

 リーファ、シノン、シリカ、リズ、エギル、クライン。

 

 ユウキもまた嬉しそうにそこにいて、話し合いが始まる。

 

「色々あって、君がいないとき、このGGOにコンバートする話が出て、一か月前からプレイしてるんだ」

 

「まさかテイルもしてただなんて」

 

「俺はその、クレハのレアアイテムを手に入れる約束で、少しだけのつもりだった」

 

 そう言う話をしつつ、今度はクレハとヒカリの紹介だが、

 

「型番では呼びにくいと思います、なので好きにお呼びください。短いのが好ましいのです」

 

「ヒカリは?」

 

「マスターからもらった名前は特別なのです!ですからマスター以外の方に使われるのはお断りします!」

 

 そんなことに、クラインが俺が可愛いサポートキャラがついて羨ましいと叫び、全員が呆れる。

 

 リーファの案で、ナンバー00からレイと名付けられ、それで呼ばれることに。

 

「マスターがお留守の時も、どんどんお使いください!」

 

「ん? 待ってくれヒカリ」

 

「はい、なんでしょうマスター?」

 

「留守と言っても、俺はまだ宿も何も用意していない。その時、ログアウト中は」

 

「マスターはすでに《SBCグロッケン》にマイルームがあります。そこをお使いになってもらいます」

 

「アファシスゲットで俺もマイルームがっ。少し調べる」

 

「あっはは……、ホント君は、リアルラック高い」

 

 おそらく苦労してマイルームを持つキリトがそう呟く中で、俺のマイルームがしっかりあるのに驚く。

 

「さっそく噂になってるぜ、ニュービーがアファシスを手に入れたってよ。GGO最強のリアルラック持ちプレイヤー登場ってな」

 

「ALOから君を知る俺たちからすれば、いずれ本当に最強になれる気もするけどね」

 

「情報屋のアルゴさんも、ニュービーの情報なら買うって言ってたよ。みんな欲しがってるから、いまなら高く値段がつくって」

 

「………」

 

「マスターっ、心拍数が上がりだしました! なにか嬉しいことでもあったのですかっ」

 

「どちらかと言えば、注目を浴び過ぎてるからじゃ……」

 

 心臓に悪い。

 

 アファシスから色々と話を聞きながら、未実装の移動サポート機能の武器や、マイルーム、情報が交差する。

 

 リアルラック高い? 正直悪い方向に働いているよ。

 

 救いなのは、クレハがみんなの輪に加わってることか。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ともかくアファシスは色々できるらしい。クレジット、この世界の資金の管理から、掃除やアイテム管理。

 

 色々なことがあり、新たなイベントにアファシスが関わるなど、情報が出て来る。

 

 そう言えばキリトやユウキが光剣使うか聞いて来たが、まだいいだろう。

 

「マスターがへなちょこな所為でわたしもへなちょこですが、マスターが強くなればわたしも強くなるのです! 共に頑張りましょう!」

 

「ああ」

 

 少しは初期よりいいんだけどな。まあいいや。

 

 まずは精神安定のため、瞑想しようかな?

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 GGOの設定は、遥か昔争いが起きて荒廃した星に、宇宙から帰還した宇宙船を元に、プレイヤーが荒野を駆けるガンゲー。

 

 そう言えば、ヒカリについて、髪が長いだけで、ユウキとは、やはり似てる気がする。

 

 元気なところとか……

 

「マスターっ、わたしが迷子にならないように手を繋いでおきますね」

 

 そう言うのは勝手に動き回る我がアファシス。

 

 しかしまあ、服装は宇宙スーツ、アファシスの初期装備だからか目を引く。

 

「おいあれ、アファシス連れてるぞ。レンタル代高いはずだけど……」

 

「いや、あれタイプXじゃねぇ? キャプチャしていいか話して来るっ」

 

 そんな中、プレイヤーぐらいならいいが、商人などが言い値で買うと言う話も持ち込まれる。現在リアルマネーで三十万円。

 

「売る気は無いです」

 

 まあ、リアルマネーがいくら行こうが、このAIが付いたアファシスは、プレミアやティアを思い出す。金で取引することはない。

 

 そんな中ショップに着き、買い物をする。

 

「アサルトライフルかな、二丁持てるのならハンドガン」

 

「購入に迷ったらわたしに相談してください、マスターに現実を見せてあげます!」

 

「ああ」

 

 ステータスによって装備できない銃もあるし、予算管理も大事だもんな。

 

 しかし、買い物か。

 

 ガトリング並みの速射ができるスナイパーライフルないかな? あったらバグだろうけど。

 

 そう思い、まずはNPCショップで買い物をしていると、

 

「君たち買い物? NPCショップじゃ、たいしたもの買えないよ」

 

 そこに一人のプレイヤーが話しかけてきた。

 

「俺、レアアイテムをいくつか持っててさ。格安で譲るからどう?」

 

 と、それはまずい。商人ギルドの信用も何も無いし、信用問題で買い物はできない。

 

 断ろうとするが、

 

「それは本当ですかおじさんっ?」

 

 すごく食いつくこの子、色々危ないな。

 

「やめときな。半端な知識じゃ騙されるぞ」

 

 何か言う暇は無い、クレハ、キリト、俺はまだダメのようだ。

 

 おじさんその二とか言うし、情報で勝負するのはありだが、ニュービーは所持金巻き上げられても困る。

 

 それが目覚めが悪いと言い、止めに入ってくれた人が正しいらしい、それで話しかけた人は去っていく。

 

 さすがにこれで少しショック受けるが、銃好きに悪い人はいないと、『バザルト・ジョー』と仲良く会話する。俺より人とは話せるらしいのが救いだ。

 

「助かった」

 

「いやいいぜ、お前さんも銃使いとして、頑張ろうぜ」

 

 そう言う話をしながら、アサルトライフル系統を軸に考えて買い物する。

 

「マスターからのプレゼントですっ、さっそく試し撃ちして来ます!」

 

 そう言って、元気に銃を持っていく。

 

 試し撃ちができるエリアにいるのを遠くから見守っていると、

 

「……!」

 

「やあ、久しぶりテイルくん。っていうほどでもないか」

 

「イツキさん」

 

「さんはいいよ、たぶん、それほど歳の差は無いだろうからさ」

 

 そこにイツキが現れ、そんな雑談をする。

 

 軽い雑談を少しできる、昔なら考えられないな。

 

「そう言えばキミに一つ聞きたいことがあるんだ」

 

「それは」

 

「キミ、なぜNPCであるアファシスを守るように戦ったんだい?」

 

「それは」

 

「大会の記録を見て、感覚的な話は嫌いだけど、そこが引っかかってね」

 

 そんなことを言われても、なんだろうな。

 

 ここはプレミアたちがいる世界では無いのだから、NPCは蘇生する。

 

 かは、まだ分からない。

 

「無我夢中、だった……。理由の後付けになるなそれ以外」

 

「キミは、理屈に合わずに動くことができるのか……。失礼、疑問に答えてもらって、まずは礼を言うべきだね」

 

 そんな会話の後、ちゃんとわかれる。

 

 なんなんだろう。

 

「マスターっ、弾薬が無くなりました~」

 

「………」

 

 もう無くなった弾薬を買い、俺はフィールドに早く出なければいけなくなる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 クレハにキリトたちのことを紹介するため、コンバートしたメンバーも知るため、仲間たちと会ったり、話したりする。

 

「正直、リアルのことを詮索するのはマナー違反だけど」

 

「キリトは別におじさんと言われる年じゃない、俺より下だ。アスナがそうだし」

 

 ユイちゃんもいて驚きながら、明日奈の時を思い出す。

 

「はい、そう言えば、リアルでお会いした時がありましたよね」

 

「ああ、ユウキに会いに来た時だったね」

 

 そんな会話をしながら、光剣使いにならないことに、ユウキとキリトが不満そう。

 

 会話をしながらアファシス関係のイベント、クエスト《SBCフリューゲル》と言うイベントが関係する。

 

 今後、このイベントを攻略する気らしいキリトは、アファシスを連れている俺と組みたい。

 

「またよろしく」

 

「ああ、頼むぜテイル」

 

 そんな会話後、

 

「光剣っ、光剣っ」

 

「マスターっ、光剣を買うんですかマスター!」

 

「………」

 

 心が折れるよユウキ。

 

 ユウキは苗字こそ変わっていないが、我が家の娘として預かることになった。

 

 その為、家族は一人娘としてユウキを可愛がり、妹の頼みに、光剣を買うに出かけることに。

 

「ヒカリは先に、マイルームに戻っててくれ」

 

「マスターだけで買い物ですかっ、了解なのですっ。余計な物は買っちゃいけませんよ」

 

 そう言ってヒカリはマイルーム、俺はショップへと足を向けた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………重みが無い」

 

 キリトたちには悪いが、これなら使わない方がいいな。

 

 こういう理由なら納得してくれるだろう。

 

 そう思い、NPCショップを後にする。

 

「さてと」

 

 やることは、今度ある大型アップデートによるイベント、《SBCフリューゲル》と、ショップ開拓。

 

 情報屋などのことも……

 

「マスターーーー!」

 

「!?」

 

 見知らぬ少女と共に、こちらに来るのは、

 

「ヒカリ」

 

「マスターっ、お財布を忘れているのです!」

 

「いや、クレジット番号を知っていれば、引き出せるから」

 

「………」

 

「………」

 

 しばらくなんとも言えない。ともかく頭を撫で、同じくらいの少女を見る。

 

「君は……、君もタイプX」

 

「はい、彼女と同じアファシスタイプX、『デイジー』です」

 

「急に走ったら危ないわよ、デイジーちゃんに迷子ちゃん」

 

 そして現れた女性プレイヤーは、デイジーのマスター。

 

「マスター、運動に関するプログラムは規定値をクリアしています。この程度の走行で転倒や衝突は起こしません。どうかご安心を」

 

「あなたたちのようなかわいい子には、別の危険もあるの。わたしの側から離れちゃだめよ」

 

 そう言われ、返事をするデイジーを見てから、こちらを見る。

 

「あなたが、迷子ちゃんのマスター?」

 

「ああ、すまない。ちゃんと話し合っていればよかった」

 

 買い物の件をちゃんと話していれば、こんなことが無かった。

 

「この迷子ちゃんは、ウチのデイジーちゃんと同じタイプX。レア中のレアなの。GGOでいまでは注目の的ね」

 

「もう噂が流れてるのか」

 

「あなたもこともね、幸運のニュービーさん。けど、その幸運もいつまで続くか分からないわね。目を離したら、盗まれちゃうわよ」

 

 アファシスタイプXの使用は明らかになっていないが、アイテム扱い。

 

 なるほど、やりようはあるのか。余計に気を付けないと………

 

 総督府でこのゲーム初の大型アップデートの目玉扱い。余程の使い手以外、連れ歩かない。

 

 だが俺の場合はすでに知れ渡っているため、意味はないとのこと。

 

 どこまで俺の情報が流れてるんだろう。

 

 色々、ヒカリのことを気にかけてかアドバイスを送られ、彼女こと『ツェリスカ』と別れた。




ボウガンあればためらいなく買いそうだ。

一からとなるとやはり無理がある。ともかく剣をいつか持たせないとな。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第23話・荒野の戦い

ゆっくり成長。

銃戦は難しいです。


 荒野の中、瞬時UFGで近づき、弾丸を連続で放つ。

 

 攻撃を避けるのは楽だ。だが攻撃を当てるのは、

 

「さすがに銃撃戦は大変だ」

 

 ヒカリからは頑張りますと言われるが、正直突撃思考が高く、彼女をタンクのようにステータスを振り分ける。

 

 俺はプレイヤー同士の戦いのこともあり、ヒカリをヒーラーにし、自分はアタッカーになるしかない。いつもとは違う。

 

 速く敵を倒せばいい。

 

 いつの間にか狙撃によるライフルを背負って至り、光剣持ったり、サブウェポンが忙しいことになっていた。

 

 アサルトライフルが安定していて、それの中、弾丸はまあ避けられる。

 

「勝ちました~♪」

 

「ああそうだな」

 

 今回も勝てたが、アファシス狙いのプレイヤーと出くわす確率は高い。これは一人で行動もできない。

 

 ちなみに現在は、タイプX専用か不明だが、彼女のパーツを集めている。

 

 どうも強化クエらしく、これでヒカリは賢くなり、資金運営ができるとのこと。

 

 アファシスは大型イベントの舞台で作られたアンドロイドで、そこの鍵になる。

 

 いまのところはその情報の中、俺はプレイヤーと戦う回数を増やして、探索していた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 GGOを始めてからしばらくし、銃撃の中、スナイパーライフルがサブになる今日この頃、

 

「あっ、テイルさん」

 

「ユイちゃん、町の探索かい?」

 

「はい、少しお散歩です」

 

 そう話しながら、ユイ。キリトとアスナ、二人にとって娘同然のAI。

 

 SAOかららしく、そう言えば最後の戦いで会っている少女。

 

 クレハには、SAO帰還者、サバイバーであることは伝えていない。心配されるからと仲間にはすでに連絡済み。

 

「あれ、二人とも」

 

「フィリア、ストレアにレイン。プレミア」

 

「やっほー」

 

「ごきげんよう二人とも」

 

 彼女たちもGGOにログインし、この世界を楽しんでいた。

 

「レインたちは、これからフィールドか」

 

「ううん、わたしたちは買い物。レインがコンサート用に、色々音楽関係見て回りながら、掘り出し物探しかな」

 

「コンサート開いたら、テイルも聞きに来てね」

 

「ああ」

 

 こうして別れる中、せっかくだからキリトの方に顔を出す。

 

「そう言えば、レイちゃんはどうしたの」

 

「ヒカリはいまクレハとフィールドだよ、俺は散歩しつつ、色々見て回ってる」

 

「こっちじゃあんた、剣使いじゃないもんね。けどいいの?」

 

 レインはかなり長い間、俺の専用鍛治師のように付き合ってくれている。

 

「ああ、重心が安定しない剣なんて、あるだけ邪魔だ」

 

「そうなんだ~、キリトとユウキ、がっかりしてたけど、仕方ないね」

 

 ストレアとの会話後、俺たちは分かれ、キリトの下に出向く。

 

 一応キリトにも、パーツ探しで少し進展があるか聞きに出向く予定だった。

 

「よ、よお、景気はどうだい?」

 

 しばらくして話しかけてきたのは、

 

「バザルト・ジョーさん、ぼちぼちです」

 

「あー、そのな。その………なんていうか……。いや、いいんだ。呼び止めて悪かった。だ、ダメだ! ちょっと待ってくれ」

 

 どちらなんだろう。話を聞くことに、静かにしている。

 

「あー………今日はあいつ、連れてないのか? あの、ノンキで元気なヤツだ」

 

「ヒカリか」

 

「いや、別に連れて来いって言っているわけじゃねえぞ。けどよ、いつもお前さんと一緒に居るから………」

 

「ああ、まあ、アファシスはいつもマスターと一緒。っていつも言うから」

 

「なんだって?! あの子がAIっ、嘘だろ!?」

 

 確かにAIと言うより、人のような感性だ。勝手にインタビューOKのメールを返そうとしたときは心臓が飛び出ると思った。

 

「この間街で見かけたけど、なにもないところで転んでたんだぜっ」

 

 マジか………

 

「愉快な性格をしているし、あれがAIなんてなあ……。いや、それなら話が早い」

 

「……?」

 

「一生に一度の男の頼みと思って聞いてくれ。お前さんの、アファシスを譲ってほしいっ」

 

「!」

 

「金もやアイテムなら、持っているだけ全部払う。他に条件があるなら言ってくれ!」

 

 そんなことを言われても困る。

 

 バザルト・ジョーは本気で、ヒカリのことを物と言う感じでは無く、ヒカリだから譲ってほしいと言う気持ちを話された。

 

 だが、

 

「すまない、あの子はどんなアイテムも金額でも、譲る気は無い」

 

 これだけはけして、譲れない言葉。

 

 それを聞き、それに頷くバザルト・ジョー。

 

「まあそうだよな。おまえさんは仲間を金で売るタイプの人間じゃねえよな。けどよ、オレ様だって、一度言ったことは引っ込めねえ。そんなの男じゃないからな」

 

「なら……」

 

「そしてアファシスはアイテム扱い。戦いで奪い取ることは不可能じゃねえのは分かっているな」

 

 こうして正々堂々過ぎる男から、全力宣言を受けながら、ともかく、

 

「パーティーメンバーと相談案件だな」

 

「アファシスの扱いは、私のようなサポートAIではありませんですから、狙って手に入れることは不可能です」

 

「アイテムはギリギリので持って出歩くか、そんな余裕を捨てて歩くか。なんにしても話しておかないと」

 

 そう言い、キリトのマイルームへ移動する。

 

「キリト、いるか~」

 

「パパはいまママといるはずです」

 

「ああなら」

 

『ゆ、ユイっ』

 

『ユイちゃんいまはダメっ』

 

 向こうからそんな焦った声が響き、扉がユイちゃんによって開かれる。

 

 開く扉の中、その隙間から、

 

「………」

 

 その時、スローモーション世界へと突入する。

 

 隙間から焦るキリト、素肌にリボンを巻いているだけのアスナ。

 

 二人が焦り、目が合った。

 

 俺がしたこと、すぐに扉が開くのを阻止したよ。

 

「? テイルさんどうしたんですか?」

 

 可愛らしく首をかしげるユイちゃん。ギギッと開こうとする扉を無理矢理閉じたために、隙間もない。

 

「ユイちゃんいまから俺とケーキでも食いに行かないかいま見たけどキリトたちは忙しそうだったからね」

 

「えっ、それならなにかお手伝いを」

 

 開こうとする扉を強制的に閉じてから、ユイちゃんに回れ右をさせ、そそくさと立ち去る。

 

 メッセでバザルト・ジョーのやりとりと、これを付けたす。

 

『ゲームだからと羽目を外すな二人とも』

 

 二人から誤解と何度も言われることになるが、ユイちゃんを連れて、その場から去った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「待っていたぜっ、お前がフィールドに出て来ることをよ」

 

「バザルト・ジョー」

 

 装備はアサルトとスナイパーと、メンバーはクレハにヒカリの三人。

 

 正直キリアス事件の所為で消し飛びかけていた記憶が蘇る。

 

「話は聞いているわ、あんたレイちゃんを狙ってるんですってっ! アファシスが欲しいんなら、エネミー狩るなり、レンタルするなりなんなりしなさいよっ」

 

「オレ様が欲しいのは、そこのアファシスちゃんただ一人!」

 

「お断りします」

 

「くっ、そういう率直なところ、嫌いじゃないぜ」

 

「ほらレイちゃん嫌がってるじゃない。無理矢理の勧誘は、マナー違反よ」

 

 だがこれは勧誘じゃない。所有権を得ても、無理維持はせず自由にすると彼は言う。

 

 ただ相棒として、ヒカリを希望している。

 

 どうも悪人ではないのだが、だが、

 

「悪いが、マスター権も相棒も、誰にも譲る気は無い」

 

「マスター……」

 

「そうだろうな、なら、オレ様といまここで勝負だテイルっ」

 

 一応扱いはアイテムを賭けたパーティー戦。

 

 こちらはニュービーであることがあり、クレハが協力してくれる。

 

 三対三の戦い、ともかく、勝負が始まった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「とはいえいきなり乱戦かッ」

 

 銃の弾幕が張られる中、そのままスキルで走ったりして翻弄する。

 

「さすがですマスターっ」

 

「いまのうちにっ」

 

 なるべく俺が周りを引っ掻き回し、敵の標的を防ぐ。

 

 そして、

 

「くっ」

 

「全弾っ」

 

 弾丸を一斉に放ち、一人撃破し、UFGで建物に上る。

 

「くっ、武器の扱いがうめえってっ!?」

 

 立ち去る際、グレネードも忘れずに。

 

 瞬時スナイパーに切り替え、爆発から逃れた一人を即座に見る。

 

 狙撃を放ち、すぐに飛び降りると共にリロードし、バザルト・ジョーを三方面から囲む。

 

 どうにかアイテムを駆使して、初戦はどうにか攻略できた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「いくつか被弾したが、ギリか」

 

「やりました! マスターの勝利ですっ」

 

「ちっ。男に二言はねえ。今回はオレ様の負けだ、引き下がってやる。ほらよ、約束のブツだ」

 

「ああ……」

 

「ねえ、ちょっと待って、『今回は』?」

 

「ふっ、ついニュービーと思って手加減しちまったからな。これがオレ様の本当の実力だと思うなよ?」

 

 確かに、手の動き、彼が銃を構えるのは明らかにおかしかった。

 

 あれは二刀流が片手でしている。そんな違和感を感じる。

 

 ともかく、次はあるらしい。

 

「人気者は辛いのです」

 

 ヒカリは分かってるのか不安だ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「銃の二刀流カ? あるゼ」

 

「本当か……?」

 

 情報屋に尋ねてみる。アルゴはキリト経由で知り合い、だいぶ親しくなり、色々頼み込んだりしていた。

 

 さすがにSAO帰還者だの、リアル情報は話さないが、ALOなどの別ゲームでのテイル情報はためらいなく売るから、情報口外しないように頼んでいた。

 

 キリトには本当に助かっている。

 

「最近あんたも躊躇いが無くなって、お姉さんは感心関心」

 

 そう言いながら、あるクエストかもしくば商品、あるいは伝授などで手に入れるシステムらしく、それで両利きになるらしい。

 

 一応俺にもできるから受けとくか。ヒカリも俺と同じよう、スキルを得たり、ステータスを上げたりできるしな。

 

「それと、その恰好はアーちゃんか?」

 

 蒼いコート、ガンマン風に仕上がった俺の姿に、静かに頷く。

 

「アスナのコーディネイトもよろしく」

 

「おうとも」

 

 そんな会話であった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 二回目の遭遇はしばらくしてから、なんだが……

 

 ヒカリは知らないうちに外に出ては、バザルト・ジョーと出会い、良く話したり、お菓子をくれたり………

 

 頭が痛い話だが、ほとんどログアウト中の活動らしく、それでも俺の責任問題だ。

 

 少し目まいがした。

 

 そして戦いだが、今回もパーティー戦であり、これも道具、ガシェットを駆使してどうにか勝てた………

 

 彼からはアファシスパーツの情報を得て、今日は帰る。

 

 少し問題点が多くあった戦いだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「あんた、少し考え込みすぎてない」

 

「………」

 

 静かに頷き、キリトたちを呼び、パーツ情報と今後のことで色々話す。

 

「パーツもだけど、大型アップデート。《SBCフリューゲル》もいつだ?」

 

「それもまだよ、アファシスが関係してるくらい。きっとなにかしら仕掛けがあると思う、クエストクリアが条件になっているとかね」

 

「それよりも、問題はパーツ、ヒカリの行動力、それと俺自身だ」

 

「今回はスキルとガシェット、それと道具でどうにか勝てたんだろ?」

 

「今回は、だ。正直バザルト・ジョーは強いのは分かる……」

 

「ちょっと、あんたがそんなんでどうするのっ。それじゃレイちゃ……。レイちゃんは?」

 

「………」

 

 天を仰ぎ、俺はすぐに部屋を出ようとしたとき、

 

「わふっ」

 

「っと、すまな、デイジー?」

 

 部屋を飛び出ようとしたとき、デイジーとぶつかり困惑する。

 

「失礼しますわ~」

 

「つぇ、ツェリスカさんっ」

 

「あらクレハちゃん? ここって、あなたのルームだったの?」

 

 ツェリスカとクレハは、知り合いらしいが、それより、

 

「ヒカリ」

 

「あなた、またレイちゃんから目を離したでしょ」

 

「先ほどまで、ショップの窓に張り付いて、店員NPCに不審な目で見られているところを保護しました」

 

 ばつが悪そうな顔のヒカリ。それよりも、

 

「すまない二人とも……」

 

「マスターは悪くないのです。ちょっとだけ散歩のつもりだったのです、マスターになにも言わずに出たのが悪いのです……」

 

「いいえ、保護者責任と言うものがあるの。今回はデイジーちゃんが見つけたからいいんだけど」

 

「すまない」

 

「今度見付けたら、ウチの子にしちゃいますからね」

 

「それはさせない」

 

「マスター……」

 

 嬉しそうにこちらを見るヒカリの頭を撫でながら、ともかく、

 

「そう言えば、ショップを見てたんだろ? なにか欲しいものでもあったのか」

 

「………はい、欲しいものがあったのです」

 

「欲しいもの? 資金運営から使わなかったのか?」

 

「それはマスターのお金ですから」

 

「あなた、レイちゃんにおこづかいあげてないの」

 

 それに、またやってしまったと、そう言えば、

 

「お前に好きな物買えるよう、身構えてはいたけど……。具体的に資金は渡してなかった」

 

 ツェリスカから聞いたが、アファシスにはお小遣い機能があるらしい。

 

 今度から話すように伝えながら、やはりつたないコンビらしく、まだまだ考え込まないといけないようだ。

 

 クレハはツェリスカと知り合いらしく、彼女は強いが、イベントなどに出ない。

 

 ソロプレイヤー同士でクレハとも知り合いのようだ。

 

 そしてキリトたちと話し合い、アファシスパーツを取りに出向く話を付ける。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「……レベル上がった」

 

「だな、おめでとう」

 

 キリトたちと共にクエストを行いながら、今回のパーツクエストは成功した。

 

「しかしバザルト・ジョーか、なかなか面白いプレイヤーだが、厄介だな」

 

「わたしも協力してあげるから、絶対レイちゃんを奪われないようにしないと」

 

「私たちも気を付けましょう。ほんと、相手の気持ちを考えない男って最低ね」

 

「うんうん、男の風上にもおけないやつだな」

 

 シノンの言葉に同意するのは、運営に配置されたアファシスに何度も話しかける男。

 

「……ツッコミはしないから」

 

 こうしてパーツで、自前の武器やアクセサリーをコーディネイトできる機能が付き、アスナが喜んでいた。

 

 そして新たなクエストの情報で、《SBCフリューゲル》は、普段は見えるが、いまは見えないらしい。

 

「どういうことだ」

 

「ステージのどこかに、ステルスしてるのか?」

 

「それ、可能性あるかも。ならもうあるってこと?」

 

 そんな話の中、ともかく、まだまだパーツは探しつつ、俺はスキルと装備を整えないといけないらしい。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 リアルの話をしよう。

 

「あんた最近ログイン回数と時間多いけど、どうしたの? 木綿季ちゃん独り占め?」

 

「母さんはなぜ包丁持って聞く……」

 

 母親に食事後に、スクショのヒカリを見せて、面倒を見ているAIキャラクターがいて、お小遣いあげなきゃいけないこととか、詳しく説明した。

 

 結果、俺より多くお小遣いをリアルマネーでもらうことになるのは、後日談である。

 

 無論ユウキにも渡されるのであった。




ユウキとヒカリに大量にお小遣いが渡される。

これから先バトルシーンはどうなるか、調整しつつ、頑張るか。

それではお読みいただきありがとうございます。


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第24話・色々な事件

頑張るテイルの物語です。オリジナルの話を少し入れます。

それとよろしければ、いまはゼルダクロスオーバー作品以外にもネタを、何度もやり直して没ばかりの状態です。

少しアンケート取りたいと思います。興味があり、お時間がありましたら活動報告にご意見いただけると嬉しいです。参考にしたいと思います。


 クレハと共に、色々話したりして、アサルトを二丁持つことにした。

 

 そんな話をしつつ、だいぶガンマンとして出来上がる。

 

「キリトさんたちから光剣使い進められてるけど、いいの?」

 

「正直、剣がフォトンだから……」

 

「マスターが言いたいこと、よく分かりません……」

 

 ヒカリの方も装備を整える。母親からの融資で、衣装も可愛らしい服を着る。アスナによって作られた、ゴスロリのような、デイジーが着ている物を改良した物。

 

 俺と同じ蒼色であり、満足していた。

 

「……!」

 

 その時、ヒカリが何かに気づき、そちらを見る。

 

「どうした」

 

「いやな感じがします……。あっちです」

 

 そう言われ、そちらに出向くと、明らかないじめ行為をするプレイヤーがいた。

 

 即座に二人の前に立ち、絡まれている様子を撮影、運営に、

 

「わたし、助けに行きます」

 

「待ってレイちゃん、ああいうのは一度相手にするのは面倒よ。運営に連絡を」

 

「クレハくんの言う通りだ、彼のように、証拠を用意して運営に連絡した方がいいよ」

 

 ヒカリをすぐに止めたとき、イツキが現れ、そう告げる。

 

「イツキか」

 

「まあ、ここは僕に任せて、撮影もね」

 

 そう言われ、被害者が自分と知り合いだよと遠回りに警告し、その間、『パイソン』と言う彼が色々手を回して、運営に報告するらしい。

 

 そんなこんなの騒動の後、イツキが率いるスコードロンへお邪魔する流れになる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 話の中でゲームの話、GGOに関する話で、どうしてここに来たかの話になり、イツキは退屈を紛らわせるため。クレハはガンゲーに興味があり、強くなるためと………

 

「キミはどうなんだい」

 

「テイルはわたしの付き合いで、GGOに来たんです。特に理由は無いんじゃない」

 

「ああ」

 

「へえ、キミたちはリアルでも知り合いなのか。それじゃ、GGOを続けるのは、ただの付き合い?」

 

「最初はそうだったけど、いまは。別ゲームの知り合いや、ヒカリがいますから。彼女を奪われないよう、強くなるつもりです」

 

「アファシスの為に、強くなる、か……」

 

 興味深そうにそれを聞きながら、せっかくだから、自分のスコードロンに入らないかと聞かれたが………

 

「良い話だが、それはできない。ただでさえ目を付けられているのに、敵を増やすのは少し」

 

「そうか、まあ、確かにキミを標的にするプレイヤーが多いからね。残念だよ」

 

「イツキさん、あまり我が儘を言わないでください」

 

「だけど、彼は強い。これは僕のカンだけどね……。別ゲームしてたって言うけど、VRかい? そっちのキミはどうなの?」

 

「剣士で少し、キリトたちと遊んでいましたから」

 

「彼とね……」

 

 それを聞きながら、面白そうだからという理由で、フレンド登録しようと言われた。

 

 確かに退屈を紛らわせることはできるだろうが、自分の影響力、は、本人も困っているようだ。

 

 好きなことができないことを少しばかり億劫らしい反応を見せながら、登録し、暇なとき、パーティーに入れて欲しいと言われた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 あれからしばらくし、話題はいまだ尽きないのか、幸運なニュービーとして、まだ話が出回る。

 

 いまのところ強いスコードロンなどには目を付けられていないが、ヒカリを守るために強くなるので必死だ。

 

 そうしているとき、ツェリスカから本当に実力を上げたきゃステージボスを倒して、訪れるフィールドを増やすべきと言われた。

 

 なにげにヒカリを気にかけてくれる。新しい服に、可愛いわねと褒めていたな。

 

 こうしてステージボスを倒して、新しいステージを開放した。

 

 攻略最前線に追いつくには、次のステージも解放しないといけないが、まだまた時間がかかる。

 

 アイテムや武器が欲しい、できれば手になじむ物。

 

 だが俺にとってなじむ武器は、爆弾程度だった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………レアアイテムは手に入るがな」

 

 クレジットをリアルマネーに変えることができるため、どうもしないが、ともかくいまはゲーム内の資金は強化に回そう。

 

 そもそも母親がヒカリを気に入り、リアルマネーを振り込まされた。

 

 いま総統府で手続きするため、電子機器を利用しようとしている。

 

「………」

 

 頭の中で暗証番号など思い出していると、

 

「?」

 

 一瞬視線を感じ、振り返る。

 

 僅かに後ろに誰かいる気がして、虚空を睨む。

 

 しばらくして気配が無くなった気がして、すぐに戻る。

 

 なんだ?

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 総督府で謎の視線を感じた帰り道、シノンを見かけた。

 

 誰かと話しているが、あれは………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「効率の良いクエストを見つけたんだ、これから一緒に行かない?」

 

「ごめん。ちょっと約束があるの……」

 

「そうか、じゃあまた今度! 朝田さん都合良い時に……」

 

「お願いだからシノンと呼んで。リアルの名前を呼ぶのはマナー違反よ」

 

「ごめんつい……」

 

「シノン」

 

 それにシノンはびっくりするが、内心助かったと言うでこちらを見る。

 

「彼は」

 

「友達、約束してたのね。ごめんなさい、少し友達と話し込んでたの」

 

「いや」

 

 約束も何も無いが、すぐに話に合わせることにした。

 

「はじめまして、ボクのアバター名は『シュピーゲル』。シノンとはリアルで長い付き合いの関係なんだ」

 

「テイルだ」

 

 しばらく話し込んだ、彼は離れていって、姿が見えなくなった時に、少し疲れたようなため息をつく。

 

 シノンの話では彼は友達なんだが、自分のことを過剰評価していて、それで少しあったらしい。

 

「前にその、急にいなくなった時があったでしょ? 彼もわたしの、その……過去を知ってるの。それでつい、ね」

 

「そうなのか」

 

「とりあえず、貴方が来てくれて助かったわ。話に合わしてくれてありがと」

 

「別にいい」

 

「それでも。とりあえずその辺、一緒に歩きましょ。掘り出し物があるかもしれないから」

 

 そう言ってシノンと町をふらつく。

 

 それが彼との出会いだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ふむ……」

 

 ここ最近はレア武器などを売りながら、やはり運がおかしい。

 

 プレイヤーを倒した結果、得られるのはレアリティが高いもの。幸運値はやはりどこかバグっている。

 

 そんなことを考えながら、町を歩く。

 

 いまヒカリはクレハたちとフィールド、マスターより強くなるそうだ。

 

(少し高かったけど、いいアクセ買えたし、少しは生存率上がるな……。!)

 

 その時、後ろから気配を感じて振り返る。

 

 すると誰かに抱き着かれた。

 

「たすけてください!」

 

「シリカ」

 

 シリカが切羽詰まった様子でそう言われたとき、後ろのプレイヤーが急に姿を消した。

 

「いまのは」

 

「あっ……」

 

 シリカも落ち着き、周りを見る。

 

 女性プレイヤーだったが、少し話を聞いてみた。

 

「あの人、今日一日ずっとわたしの後をついてきたみたいなんです」

 

「ファン……か?」

 

「それは少し……、どうしよう、今日は色々見て回る気だったんですけど」

 

「なら俺が居ようか?」

 

「いいんですか」

 

 静かに頷き、シリカと共に町を見て回ることに。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 そうしてシリカと町を見て回るのだが、なぜかそのプレイヤーが先回りする。

 

 さすがにいまは、システム的に保護された部屋を借りて、そこに一度避難した。

 

「まさか町中でUFGを使うとは……」

 

「はい……。使えてよかったです」

 

 とりあえず落ち着く中、町中でアイテム使用できたのは驚きだ。

 

 シリカとはその後少し話しながら、追ってくる彼女と話し合うことにする。

 

 結局、GGOを楽しむため、こういったやり方では無く、フィールドで撃ちあいましょうと話し合った結果、なぜか俺と戦うことになった。

 

 まあ、勝てたけど。こうして騒動は終わりを告げる。

 

 しかし………

 

(町中でアイテムの機能が使用できるのか)

 

 戦闘行為はできないが、戦闘では無い道具は使用可能らしい。

 

 変な事を知った一日であった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 クレハとヒカリ、彼女たちと買い物。ヒカリにお小遣いができてから、こういう時間ができた。

 

 そのとき、

 

「この前はどうも、シノンのお友達さん」

 

「君は、シュピーゲルさん」

 

「テイル、彼は」

 

「僕はシノンと友達の、アバター名シュピーゲルだよ」

 

「こんにちはですっ」

 

 僅かに彼からいい印象を持てない。なんだろう、これは………

 

「君って、初心者なのにアファシスを手に入れたんだって? いいなあ、リアルラックが高い人は。しかも、シノンたちといも一緒になんだろ。強いプレイヤーと一緒に狩りができれば効率もいいよね。どうやって、シノンたちに取り入ったんだい?」

 

 なるほど、相手に敬意が無いのだから、いい印象が無いのか。

 

 俺のことを、このゲームでシノンたちと知り合ったニュービー。それくらいしか情報が出回っていない。

 

 調べた、のは早計か。そんな話になっているのは知っていることだ。

 

「僕なんか、ステータスの振り分けに失敗して散々だよ。AGI型最強とかいうデマを信じた僕がばかなんだろうけどさ」

 

「ステータスなら振り分け可能です。方法はですね、えっと」

 

「それくらい知ってるさっ。でもステータス振りなおしたら今までの装備も変えなきゃならない」

 

 それをヒカリに当たらないでほしい。

 

「どんなに狩りに行ってもろくな武器がドロップしないし、そのせいでランキングにすら入れない。最悪だよ……。今度こそ、完璧にやり直すはずだったのに」

 

「それで、なにかようか」

 

 結局、彼はキリトに対して、若干嫉妬と、シノンの過剰評価は治っていない。

 

 これを本人たちに説明しておくべきかと、会った時に話すかと思うが……

 

「完璧にやり直す、ね……」

 

 それがどこか引っかかった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「マスターっ、アイテム整理完了です!」

 

「ああ」

 

 掃除し終え、元気にはしゃぐヒカリの頭を撫でる。幸せそうにしているヒカリを見ながら、ユウキを思い出す。

 

「また新しい場所も開けたし、次も頑張ろうな」

 

「はいです、わたしのパーツもお願いしますねマスター」

 

 そんな会話をしていると、

 

「テイルいる~っ♪」

 

 その話のユウキが、

 

「良い話か」

 

「じ~つ~は~♪ これっ♪♪」

 

 それはビークルを使用したレースであり、優勝賞品に、俺は運が悪い気がした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「光剣の実体がある物か」

 

「うん、ダインスレイブ。光剣のレアリティの高い剣、本当はレアリティの欲しい武器を選べるだろうけど」

 

「ユウキたちはそれを選ぶのか」

 

 キリトは羨ましそうにレース会場の観客席から様子を見る中、クレハはヒカリと共にいるのを見つけた。

 

「あっ、こっちです」

 

「キリトーー、アスナーーー」

 

「おー。って、俺たちが最後か」

 

「そうだね。いまレイちゃんからルール説明を受けるところだよお兄ちゃん」

 

 リーファたちもいて、レインたちですら見に来た。

 

 そんな中、イツキたちも別席でいて、そこに、

 

「こんにちは皆さん」

 

「こんにちは~」

 

 ツェリスカとデイジーもいて、そこの席だけ目立つ中、キリトも様子を見る。

 

「それでレイちゃん、このレースのルールって?」

 

「はい、まずは優勝賞品ですが、そのレースで使ったビークルと、武器のカテゴリーより好きなもの一つです。マスターたちの場合、これは光剣ダインスレイブになります」

 

 まず他のレースと違うのは、ビークル、乗り物を探すところから始まるらしい。

 

 ある程度地形把握できるし、できるのなら徒歩でレースしても問題は無い。

 

 射撃もまた可であり、事前に装備した銃を使用する。

 

 選手は二人一組で、二人一緒にゴールしなければいけないため、片方がHPゲージが無くなるとリタイア。

 

「乗り物の種類も、場所によってランダムに配置されますが、ビークルの種類はある程度絞れます。ビル内のガレージや、森の中などです」

 

「森の中だとなにがあるんだ?」

 

「騎馬タイプの乗り物ですね、建物のガレージならバイク型。車なども探せば存在します」

 

 それによって乗り物の大破しても、レース中に交換可能らしい。

 

「つまり、射撃により相手選手をけん制しつつ、最速でゴールを目指すゲームか」

 

「そうです。スコードロンによっては数名の選手が参加し、誰かを勝たせると言ったプレイもするチームもいるそうです」

 

「テイルさんたちは優勝できるのでしょうか」

 

「そうね~、彼が幸運なニュービーと言うだけじゃ、無理そうね~」

 

 ツェリスカの言う通り、乗り物に命を賭けた者もこのゲームにいるらしく、彼らはいま、作戦会議している。

 

 ここから見えるのは、ユウキとテイルが話し合っている様子だけ。

 

「勝てるかな」

 

「さあ、だけど、俺ならやる以上勝つさ」

 

 そう言いキリトは、テイルたちを見ていた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「イツキさん、今回のレース、見る価値はあるのでしょうか」

 

「さあね、パイソンくんは誰が勝つと思う?」

 

「有力なのは《シルバーファング》の異名の二人組、射撃なら《疾風》選手。スコードロンなら《ガトリングズ》と言ったところでしょう」

 

「僕は、大番狂わせがあると思うけどな~。カン、だけどね……」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ガジェットはグレネード系は外して、回復系。銃弾確認、役割確認終わり」

 

「それじゃ、作戦通りかな?」

 

「それと、念のために色々しておく。後は俺がレースコースを覚えるだけだ、運転は任せろ」

 

「うん♪ がんばろ、テイル♪♪」

 

「ああ」

 

 こうして俺たちは、レーススタートに備える。

 

 色々な選手から注目されるこのレース、勝つ以外考えていなかった。




レースを始めます。レースに出るキャラは独自に考えたが問題ないか?

それでは次回、ユウキとレースです。

お読みいただきありがとうございます。


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第25話・ガンファイトレース

 スタートまで待つは、蒼いコートを翻すガンマン。

 

「なんか色々な人がボクらを見てるね」

 

「幸運のニュービーだからな」

 

 この噂だけは先行して先に進む中、ユウキと共に、

 

「勝つか」

 

「うんっ」

 

 こうしてレースが始まった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 レースが始まる前、転移でランダムにビークル、乗り物の取り合いのステージが決まる。

 

 俺たちは幸運にも街並みの中であり、すぐに事前に話した通りに動く。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「レースが始まったのに、まだ誰もレースコースに入らないな」

 

「その前にまだ銃撃が可能です。ですので、有力なレーサーをビークルを手に入れる前に潰す作戦の方もいるのでしょう」

 

「そうね~、このレースはかなり過激らしいから、レース前は百組ほどいても、レースが始まるときには半分以下にもなってることがあるわ」

 

 そんな中、一番先にマシンに乗り、動き出す選手が続出し、レースコースに入り中、彼らも動き出す。

 

「マスターですっ」

 

「乗り物は、バイクね」

 

「あれは」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「よし、配置に着いたか」

 

「考えることは一緒でしたね」

 

 レース開始時、すでに銃撃戦が始まった。理由は狙撃ポイントの奪取。

 

 自分たちのスコードロンのチームを勝たせるため、あえてマシンに乗らず、狙撃に専念するチームもいた。

 

「ここから狙撃する、いまから来る選手は」

 

 マシンに乗った選手はナビにより映るため、すぐに確認する。

 

「幸運のニュービーです」

 

「新人か、悪いが、奴の幸運も今日までだ」

 

 そう言いスナイパースコープで相手のマシンを見る。

 

「あれは、高速バイクっ!? やはり素人か」

 

 高速バイクは文字通り、バイク型の中でトップレベルの速さを誇るが、耐久力が全くない。

 

 このレースは攻撃も可、そんな貧相なマシンではすぐにクラッシュする。

 

「マシンを狙いますか?」

 

「ああ、いや、せっかくだ。選手を狙うぞ」

 

 数分間、こちらの銃口の前を走るマシン。

 

 真正面から狙撃を避けるのは、

 

「あのスピードだ、気付いたころには終わる」

 

 そう彼らは思っていた(・・・・・・・・)

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「そろそろ狙撃が来る、くっついてろ」

 

「うんっ」

 

 ユウキが後ろで張り付く中、静かにスピードを上げ、バイクがうなる。

 

(車輪があるバイク、高速で運用するテクニック)

 

 現実でもバイクに乗る。そして、

 

(あの世界でもな)

 

 そう思いながら、狙撃の気配を感じた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ハンドルとスピード、ブレーキを操り、身体とマシンをずらして、狙撃を躱す。

 

「……はあ?」

 

「狙撃に気づかれたっ!?」

 

「予測線で見切られたのかっ!?!」

 

「狙撃だぞっ、撃て撃て撃て撃てえぇぇぇぇぇぇ」

 

 狙撃にて今度は赤い狙撃線が無数彼らを捕らえるが、弾丸が放たれる瞬間、全て見切られたかのように避けられる。

 

「あのスピードでどうしてクラッシュしないッ!」

 

 バイクが一瞬後ろ向きに走行するようなテクニックを披露する中、彼らの狙撃ポイントは走り抜けた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ちっ、なにしてるんだか!」

 

「こうなれば後ろからやっちまえっ」

 

 彼らのチームの乗り手が後ろから迫る中、それに彼らは驚く。

 

「はあ?」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「よっと」

 

 ユウキはバイクの上(・・・・・)に立ち、静かに微笑む。

 

 光剣を光らせ、静かに、

 

「いつでもいいよっ」

 

「ああ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「射撃可のレースで光剣だとっ、ふざける」

 

 瞬間、スピードを一気に落とし、急接近するバイク。

 

「なっ……」

 

 回転するようにバイクがうなり、その上で平然としているユウキ。

 

「ハッ!」

 

 ユウキの斬撃を受け、一組がリタイアする。側にいた選手もそれに驚き、すぐに射撃するが、巧みにかわされ、斬られる。

 

「乗り心地は」

 

「問題無し♪ 空飛んでるときと同じだよテイル」

 

「なら次は前だ」

 

「OKっ」

 

 テイルに捕まりながら、バイクと言う足場のみで剣を振るう《絶剣》は、即座に近づく敵選手を切り裂く。

 

「くっそ、なんだあのチームっ!」

 

「まずいっ、スピードの出はあっちが上だぞ!??」

 

 それだけでなく、その高スピードの中、アサルトを取り出し、的確に射撃するテイル。

 

 その様子に選手たちは絶叫した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「そんな、ことって」

 

「あらあら……」

 

 デイジーとツェリスカは驚き、

 

「………」

 

「凄いです、マスターとユウキ」

 

 クレハとヒカリもまた、驚きを隠せない。

 

「《絶剣》と《蒼炎》のコンビか、そりゃ絶叫もんだろうな」

 

「キリトくんっ」

 

「あっ」

 

「そうえん……、それってサラマンダーの剣士で、噂じゃALO最強の剣士の名前っ。えっ、テイルが……」

 

 キリトはあーと、仲間たち、クラインたちは首をかしげた。

 

「クレハちゃんたちは知らなかったのか?」

 

「いやけど、テイルなら」

 

「知り合いでも秘密なことは秘密にしてそうですもんね」

 

「………納得しました」

 

 クレハはそういう中、剣士を乗せ、騎馬を操る剣士を睨む。

 

「………彼奴が………」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「くそこのままじゃっ」

 

「ニュービーにやられてたまるかっ、あれ使えあれっ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「……キリトがミスった気がする」

 

「えっ、キリトはいま関係なくない?」

 

 少し俺をまたぐ形でユウキがバイクの上に立つ。

 

 その時、爆発音が響き、前の方を見ると、爆破で前の建物が倒壊する。

 

「って、まずいよっ」

 

「ユウキ前に来い」

 

「えっ」

 

「早く」

 

 前の方に座り込むユウキ。すぐに抱きしめ、身をかがめてスピードを上げる。

 

「って、いくらなんでも」

 

「すぅ……」

 

 そのまま隙間へと滑り込むように車体を傾け、UFGを前の道路、安全圏へと放つ。

 

 隙間をすり抜ける中、絶叫するユウキ。

 

 身体を起こすのはUFGと片腕でどうにか戻させ、無理矢理突破した。

 

「ふう」

 

「………」

 

「どうした?」

 

「い、いや、にゃんでもない……」

 

 少し頬を赤くするユウキ、すぐに後ろへと戻る。

 

 少し怖かったのかな?

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 高スピードで走り、トップの位置を確認する。

 

 しばらくすればまた狙撃ポイント、トップとの差を確認して、

 

「スイッチ」

 

「うんっ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「あれは」

 

「ユウキと運転を入れ替えたっ!?」

 

「ゆ、ユウキバイク運転できるのっ」

 

 アスナが青ざめるが、喜々としてハンドルを握る。

 

 キリトはコースを確認すると、

 

「ここからはほぼ直進だ。他の妨害選手は狙撃者だけ」

 

「それにスピードも落として、ユウキでも走行可能状態にしたってわけね」

 

「スナイパーライフルを持ちますっ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「落ち着けっ、相手は初めてから間の無い素人。走行中のバイクの上から正確に狙撃なんて不可能だっ」

 

 そう言って、立ち上がるスナイパーは、

 

「っ!?」

 

 瞬間、クリティカルヒットし、その場でポリゴンになった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「一」

 

 ユウキの運転は良いとは言えない。

 

 かすかに揺れ、安定しない走り。だがそれがどうした?

 

 構わず撃てばいいだけだろう。

 

「二、三、四五六七八」

 

 脈拍も安定してるし、こういうことには慣れている。

 

 連射、速射、瞬殺の繰り返し。

 

 どんな状況下でも的確に敵を射貫く。

 

 それはスナイパーライフルでも同じだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………は?」

 

 シノンは驚愕し、仲間たちも驚いていた。

 

 狙い澄まして撃つのはいい、できるだろう。だがそれを速射による連射に驚く。

 

 キリトはここで彼の悪いところを思い出す。

 

 それは本人は進んで役を買って出ず、頼まれたことしかしないこと。

 

 タンクならタンクしかしない。それ以上のことが可能であろうとしないのだ。

 

「相変わらず、引き出しが多いな」

 

 キリトの言葉に、狙撃者をだいぶ撃ち終える。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「前見えてきたよっ」

 

「このままカーブは曲がれるが? まだ数人スナイパーいる」

 

「だいじょうぶっ」

 

「ならいい」

 

 スピードでカーブを曲がる中、ユウキは一瞬判断ミスした。

 

「ぶつかるッ」

 

 その瞬間、スローモーションに入る。ここでするべきことは、

 

「ふんッ」

 

 そう言われたので彼は激突しかかった壁を蹴り飛ばし、それと同時に狙撃した。

 

「うそっ!!?」

 

「撃破」

 

 バランスも崩さず、狙撃を淡々とこなす男。

 

 時々UFGでカバーしつつ、滅茶苦茶な走行をしていた。

 

「……! 後ろから来る」

 

「って、うえっ!?」

 

 ユウキに覆いかぶさるように、バイクのハンドルをユウキの手ごと握りしめて、バイクを運転し出す。

 

 すぐにバイクが激突しようと接近してきて、車体が浮く。

 

 山なりのコースに、空中の滞空時間、相手のバイクを蹴り飛ばし、手を伸ばす選手を蹴り飛ばして、車体を着地させた。

 

「すごっ、凄すぎないテイルっ!?」

 

「………やれるから」

 

「練習してもやれないよっ」

 

 エンジンを鳴らし、スピードを上げた。

 

「と、そろそろ作戦やらないと」

 

「うんっ」

 

 トップスピードを維持するために、選んだ作戦。

 

 それをしながら先に進む。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「なかなかやるのう若者よ」

 

「ここからはスピード勝負か」

 

 老人のようにアバターの男女が側に、別に車を走らせるプレイヤーが一人。

 

 少なくても彼らの攻撃は避けられる、その隙を付ける自信はある。

 

「アタシら《シルバーファング》に勝てるかね」

 

「ワシには勝利の女神が乗っておるぞ」

 

「それはこちらも同じだ」

 

「にゃっ」

 

 そう言い合い、ただのスピードバトルに入る。

 

「て、てい」

 

「このまま姿勢低く」

 

 耳元で言い、そのまま真っ直ぐ、ただまっすぐ走る。

 

 ゴールに並ぶビークルたち、先にゴールラインを超えたのは………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 バイクを止め、モニターを見る。

 

 高速バイクを選んで正解だった。

 

「勝った」

 

 会場が拍手喝さいが鳴り響き、テイルは気にせず、頬をかく。

 

 そう静かにしていると、老人アバターの二人組が近づいてくる。

 

「負けたか……」

 

「お前さんら、初っ端からハイスピードじゃったろ、燃料はどうしたんだい?」

 

「他のバイクから燃料だけ頂戴して、走行途中で補充した」

 

「ほう」

 

 感心されながら、ユウキはと、

 

「? どうした」

 

「………テイルのバカ」

 

 顔が真っ赤で、そう言われ、よくわからないがご機嫌斜め。《シルバーファング》の二人に苦笑され、ヒカリ、レインから苦情を言い渡された。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「はははっ、彼はやっぱりすごいなっ」

 

「楽しそうですね」

 

「ああっ、ほんと。こんな気持ち久しぶりだよ」

 

 イツキはモニター録画した映像で、テイルの映像を見る。

 

 安定しない位置からの狙撃、ハイスピードによる激突を、蹴りで回避。

 

 走行しながらの燃料補給に、バイクの走行技術に体術。

 

 それを見ながら、久しぶりに面白いとはしゃいでいた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「まさか優勝するなんて」

 

「おめでとうございます」

 

「ツェリスカ、デイジー。ありがと」

 

「それで、本当に光剣でよかったのかしら」

 

「ああ、ステータスも振り分けて、装備する準備もできてる。しばらくしたらちゃんと活用する」

 

「すぐに装備できなくて残念だよ」

 

 ユウキは呟き、キリトがそわそわしていた。

 

「使わせてなんて言わないように」

 

「い、言わないよ。さすがに」

 

 そんな会話の中、光剣を確保して、アイテムボックスに置く。

 

 ともかく後はこのまま、パーツ集めとステージ解放だけになる。




速射、連射、後は力技。

引き出しの多い男であり、なぜかヒカリとレインに怒られるのは、映像で音声も拾われています。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第26話・攻略再開

シノン「テイルはどこかしら、話があるのだけど」

キリト「狙撃銃持ちながらなら彼じゃなくても逃げるよっ」


 ここ最近シノンの視線が痛い中です。

 

 砂に覆われた孤島と言うフィールド攻略中。

 

「そう言えばユイちゃん」

 

「もぐもぐ、はい? なんでしょうか」

 

 ユイちゃんと散歩している最中、俺はある疑問に行きついた。

 

 カフェでケーキを幸せそうに食べているユイちゃんに尋ねるのは、

 

「ここもカーディナルによって、あれこれクエストができたりするのか?」

 

「あっ、はい。そうですね……。確かに、ここはALOなどと違い、カーディナルのシステムは違います。ですがシステムの中身は同じなので、プログラマーさんが確認をしますが、カーディナルが自動的にネットと繋がり、クエストなどを見つけますね」

 

 そう言い、また幸せそうにケーキを食べ始め、俺は考え込む。

 

 機械があると言うことは、奴らがいるのではないか?

 

 そう思っていた。そう、俺の勘が囁く。

 

 奴らがいるのではないかと思い、アルゴの元に出向いた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「キリト、アスナ。こんにちはです」

 

「こんにちは~」

 

「二人とも、いらっしゃい」

 

 クレハとヒカリが現れ、キリトは首をかしげた。

 

「あれ? 彼は?」

 

「なにか思いつめた顔で、呼ばれている気がするから、ソロで狩りに出かけるとわけがわからないことを言っていたのです」

 

「すまない、本当によく分からないんだが………」

 

 ヒカリの言葉に困惑しつつ、クレハも訳が分からないと文句を言って、今頃なにをしているか、首をかしげていた。

 

「少し心配ね、この前の大会でだいぶ目立ってたし、狙うスコードロンも増えると思うし」

 

「ですけど、いまステータスを整理して、剣と銃を装備してます」

 

「彼が剣か。なら心配ないな」

 

「………キリトさんたちは、彼奴のこと信用してるんですね」

 

 クレハが少し思いつめたように呟くと、気付いたのはアスナだけで、キリトはそのまま、

 

「ああ、剣の腕は俺とユウキ。もしかしたらそれ以上かな? それであんな速射や連射できる腕前を持つなんてな」

 

「私もびっくりだよ」

 

「そう……なんですね」

 

 クレハは少し思いつめたように呟きながら、荒野の空を見つめだす。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ひゃっはあああああああああああああああああああッ」

 

 ピンチです。

 

 マシンガンを放つ集団に出くわして、岩壁を背に、騒いでるのを耳にする。

 

「彼奴だぜっ、あのマシンガンアファシスの所有者はッ」

 

 彼奴は確かにアサルトライフル系を持たせているが、ここ最近妙に弾薬の減りが早くて困る。

 

 だが彼らは、

 

「狙いはウチのアファシスか」

 

「悪いがここで討ち取りッ、あのマシンガンアファシスは俺たち《全日本マシンガン」

 

 その瞬間、爆発する音が鳴り響き、悲鳴が響き、なんだと思い顔を出す。

 

 それはいた。

 

「………やあガーディアン」

 

 そこには全日本マシンガンなんたらの人たちを焼き払った、前代未聞のエネミーとして有名な、長年狩り続けた相手がいた。

 

 さあ、

 

「素材置いてけ………」

 

 楽しみだすため、いざ行こう。

 

 スナイパーライフルがレーザーが放たれる前に、速射で目を撃ち抜く。

 

 レーザー攻撃に加え、蜘蛛のような動きで自在に動き周り、大勢いて攻撃力は高い。

 

 ここは危険地帯として有名で、その姿形からあり得ると思ったが、まさにいた。

 

 小型、大型、奴らガーディアンに、俺はフィールドに向かっていく。

 

 その日からしばらく足蹴無く通い、ヒカリが自分も連れて行くように言い始めるまで、楽しんでいた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「マスターは楽しいことをしているに違いないですっ、わたしも連れて行ってください!!」

 

「だから違うって、ソロで狩りだよ。まあ、ヒカリを連れて行かなかったのは悪かったよ」

 

 頭をなでなでされ嬉しそうにしているが、そう言えばと、

 

「マスターはどういったエネミーを狩っていたのです?」

 

「………確認はしてないな」

 

 アイテムストレージから色々確認して、色々あることを確認しながら、次は別のフィールドに出られるように準備か。

 

 しかし確認しつつ、少し羽目を外しすぎたなと思った。

 

 ガーディアン、彼らから《古代のコア》を手に入れる日々の懐かしさにおかしなテンションになったのは反省だな。

 

 後でキリトにスコードロンとかにも目を付けられ始めたことを伝えないといけない。

 

「そう言えばヒカリ」

 

「なんですマスター?」

 

「ステータスを上げるが、なにか持ちたい武器はあるか」

 

「マシンガンを二丁同時持ちして撃ってみたいです」

 

「なんでだ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 新たなフィールドへ行くため、情報集めに翻弄する日々、それでも休まないといけない。

 

「ねえねえテイル~、デュエルしようよデュエル。光剣使えるんだから、実体剣がどうなのか知りたいからさ」

 

「マスターっ、アサルトライフル二丁持てるようになりましたっ。ぜひ弾丸が無くなるまで撃ってみたいです!!」

 

「まずユウキ、デュエルは疲れるからやりたくない。君絶対本気モードでやらない限り納得しないから。ヒカリ、なぜ攻略では無く撃つこと限定なの? 弾代が最近多いんだけど」

 

 二人にそう言うが、えぇ~と言う様子に、アスナたちは苦笑する。

 

「モテモテですね、テイルさん」

 

「そうね、ユウキとテイルの剣技試合か。少し気になるな」

 

「クレハだってそう言うんだからさあ」

 

「キリトが目を輝かせているからやだ」

 

「な、なんで俺が参加しちゃいけないんだっ」

 

「キリトくん………」

 

 そんな時、ダダダッと言う音と共に、クラインが現れた。

 

「テイルいるかっ」

 

「ん、ああいるが」

 

「おおテイル心の友よっ、いま暇か」

 

「暇でいま子供たちから遊びのさいそくされているが」

 

「ならそれを断って、男の一生の頼みを聞いてくれっ」

 

「クライン、なにか緊急なの?」

 

「おお緊急の緊急よっ」

 

 それにヒカリとユウキが腕から離れ、キリトも真剣な顔になり、

 

「なにか緊急クエストか?」

 

「おおキリの字っ、お前ぇさんも手ぇ貸してくれっ。男だけのクエストなんだよ!」

 

「それは限定的なクエストね………」

 

「ともかく早く来てくれっ」

 

 そう言われ、キリトと目を合わせ頷き、クラインについて行って………

 

 後悔した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「それでオアシスエリアに来たが」

 

「テイルはスナイパーライフルで、なにさせたいんだ?」

 

「全く店があるって言うのによお」

 

 三者三様、エギルまでいる中、クラインはへへっと嬉しそうだった。

 

「実はよ、これはある筋からの情報なんだが、男だけのパーティーしか起きないイベントで、砂漠の射撃らしいんだ」

 

「ふむふむ」

 

 キリトが腕を組みながら聞き、俺はスナイパーライフルを確認している。

 

「どうも、かなり強い、ロボットエネミーで、その実、普通に倒すだけじゃだめなんだよ」

 

「条件付きか、それはどんな条件だ」

 

「どうも、目玉、レーザーが発射されるところをピンポイントで攻撃で倒す以外で倒すと、ポリゴン化せず、その場に倒れて、しばらくしたらHPが回復する。ってのを繰り返す」

 

「目玉か、最近狙いまくったから可能だ」

 

「へへっ、どんな理由かは知らねえがさすがだぜ。んで、そのエネミーを倒すと」

 

「倒すと」

 

 

 

「アファシスが手に入るって噂よっ!!」

 

 

 

「「「帰らせてもらう」」」

 

 

 

 俺とキリトたちの声が重なり合って、お互い来た道を戻ろうとしたが、すぐさまクラインが服を掴む。

 

「まっ、ちょ、待ってくれよっ」

 

「クライン、君は彼にアファシス入手クエを手伝わせる気か?」

 

「んなことがバレたらヒカリが泣くどころの騒ぎじゃねえのは俺でも分かる」

 

「ああ、いいかクライン。信用ってのは、金に替えられない大事なもんだぞ」

 

「んなこと言ったって、オレだってオレだけのかわい子ちゃんが欲しいんだッ!!」

 

 悲痛な叫び声に、僅かに沈黙が流れ、またあきれ果てた。

 

 だがリスクが大きい。

 

 狙えるは、クラインとキリト、エギルがタゲを取ってくれれば可能だろう。

 

 だが現実問題成功した場合が、俺が、ヒカリ以外のアファシスを手に入れようとしたことがバレたら、

 

「マスター……わたしを捨てるんですか………」

 

「テイル、最低」

 

「しばらく見ない間にそんな」

 

 ヒカリは泣きそうな顔、ユウキは見たことのないほど無感情、クレハは素になりリアクション。

 

「キリトくん、少し向こうでお話ししようか」

 

「お兄ちゃん、しばらくご飯作らないから」

 

「キリトさん………」

 

「やっていいことと悪いことがあるわよね」

 

「これだから男って」

 

 ってなこと。幻聴のように怒られるビジョンがキリトの頭の中で流れる。

 

「ダメだっ、絶対にダメだテイル」

 

「俺も命は惜しい」

 

「男の友情をッ、オレの春の為にもッ」

 

「男の友情より女の恐怖の勝ちだ」

 

「じゃあなクライン、今回は縁が無かったんだ」

 

「そう言うことだ、あき……、なんだ?」

 

 こうして帰ろうとしたとき、ゴゴゴゴゴっと言う音と共に、全員が身構えた。

 

 砂漠と水の間に、巨大な機械が蜘蛛のように這い出て、その背には、

 

「人が入りそうなポット?」

 

「!? テイルあれはっ」

 

「ああ、ヒカリがいたポットに似てる。だからそんな噂か流れているのか?」

 

 目玉みたいに紅い光が輝き、レーザーのようにラインが向けられる。

 

 それだけでなく、ガトリング銃のようなものもうなり出し、かなり銃撃戦が必須の状況。

 

「おいッ」

 

「なんか明らかに大型パーティー用のが出てきちゃったじゃねえかッ」

 

 エギル、キリトの文句も頷けるほどの、そんなエネミーに、クラインは笑顔だった。

 

「ははっ、クエストは始まったぜ。キリの字、ゲーマーとしてクエスト失敗は嫌だろ」

 

「ぐっ」

 

「テイル、スナイパーとしてサポート頼むぜ」

 

「覚えていろ」

 

 キリトが光剣を構え、すぐにその場から速射しながら離れる。

 

「キリの字っ、なにがあっても攻撃すんなよっ」

 

「分かってるッ。くそっ」

 

 戦闘よりこの後が怖い中、俺たちの戦闘が始まった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 クラインたちは文字通り壁になりながら、どうにか勝てた。

 

 ジュウウゥゥゥ………と言う音と共に、倒れ、巨大なポットがこぼれた。それ以外がポリゴンになる。

 

「やったのか?」

 

「テイルの速射と連射に助けられたな。目玉からレーザーって話だが、命中するとひるむし、ダウンもする。そのおかげで助かったが」

 

「回復アイテムが割に合うか」

 

「合うかよっ、クライン! この借りは大きいからなっ」

 

「へへっ、分かってるって。んじゃま、ポットの中身を見ようぜ」

 

 弾代もかなり減り、クライン以外は念のためにポットから距離を取る。

 

「なあ、もしもだ。もしも狙撃手に、なんらかのポイントが入ってたら」

 

「実質テイルしか攻撃してないから、そりゃ」

 

 もしも条件を満たしたプレイヤーがマスター認定されるのなら、それは、

 

「………俺がなにをしたんだ。違うんだユウキヒカリクレハ。あれ、レインもなんでいるの」

 

「落ち着けっ、希望を持つんだテイル!」

 

「アスナ俺はそんなつもりじゃないんだッ!!」

 

 俺たちが絶望に落ちていると、

 

「うおおぉぉぉぉぉぉぉ」

 

 叫び声を上げるクライン。それに全員が首を捻って、様子を見る。

 

「クライン、どうした」

 

「どうしたもこうしたもっ、絶世の美女ってのはこのことかよッ!?」

 

「? アファシスじゃない?」

 

 そしてポットの中身を見てみると、

 

「ブッ」

 

「おまっ、これって」

 

「水着グラビアの本……しかも大量?」

 

「すげえぜ………、絶世の美女の記録を守るって話だったからアファシスだと思ったが、実際は昔の水着のカタログだ。しかも映像付きのもあるぜッ」

 

 ハイテンションで見ているクライン。その様子に、

 

「………なんだこれ」

 

「なんか、どっと疲れた」

 

「まあなんだ……絶世の美女は合ってるってことなんだろうが………」

 

「うっおおぉぉぉぉ、この子物凄く好みだぜっ。人間か?」

 

「アンドロイドです」

 

 その時、俺とキリトだけ世界が止まった気がした。

 

 ここにいないはずの、俺の大切なアファシスの声が響いた気がしたのだ。

 

「キリト、俺はいま振り返りたくない」

 

「ききき、きぐ、奇遇だな。俺もいま振り返りたくない」

 

「二人とも、現実を見るんだ」

 

 静かに振り返ると、無感情な顔でこちらを見るユウキが目に入る。

 

 土下座した。

 

 クレハとヒカリもしっかり入る中、俺はすぐさま土下座。

 

 する瞬間、シリカが悲しそうな顔をしてキリトを見て、リーファ、リズ、シノンもいる。

 

 もちろん………

 

「キリトくん………、こんなクエストに物凄くお熱だね?」

 

「違うんだアスナこれはクラインに騙されて」

 

「騙されて、アンドロイドの水着カタログなんか取りに出たの? そうなの」

 

「心ッ配して来てみたらっ、まさかしばらく会わないうちに、こんな………」

 

「最低です二人とも」

 

「二人とも………そんな」

 

「これだから男って、テイルもキリトたちに感化され過ぎよっ」

 

「同感ね」

 

「マスター、マスターは女の人の水着写真が欲しいんですか?」

 

 そしてチャカと、安全装置が外れる音が聞こえた。

 

「待て、いま俺たちパーティーだろ?」

 

「いまは違うよキリトくん………」

 

「キリト、潔く散ろう」

 

「君も諦めないでくれっ、エギルっ、なんでお前だけそこに」

 

「いやすまない」

 

 エギルだけ安全な場所にいて、ユウキが光剣を持ってじりじり近づく。

 

 ヒカリはアサルトライフル高速弾を構え、クレハが、

 

「大丈夫、レイちゃんドロップしたらすぐ返すから」

 

「ああ、そのいかがわしいアイテムは全部捨てるから安心して」

 

「ちょっ、待ってくれ!! これは俺たちが汗の涙で手に入れた大事な」

 

「黙れクラインッ」

 

「リーファ、アスナ待ってくれっ。リズ、シノンも、わざわざラインを出して狙わないで。シリカ頼む話を」

 

「それじゃ、先にグロッケンに帰っていてね。すぐに帰るから」

 

「テイル、ボクいっぱい話したいことがあるんだ」

 

「マスターっ、ばりばり撃ちますね!」

 

「覚悟は良い」

 

「「良くないっ」」

 

 だが銃声が鳴り響き、逃げ出すこともできる。だができない。

 

 テイルはここで初めて、GGOのフィールドに倒れた。

 

 ヒカリはドロップしなかった。そのかわりに今回の報酬は全て捨てられたため、実質なにも得られず、男衆だけでこのフィールドを攻略することになったのであった………




クレハ「さてと、テイルはなにドロップしたのかしら?」

ヒカリ「ネジです」

ユウキ「なんでネジなんだろう?」

アスナ「レイちゃん、このゴミを壊したいから手伝って」

エギル「帰ったら酷いことになるなこりゃ………」

お読みいただき、ありがとうございます。


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第27話・蒼の異名

感想誤字報告本当にありがとうございます。

おかげで日々成長しています。

それではどうぞ。


 オールドサウスという場所で、最後のアファシスパーツを集め終えて、次のステージへ進む話になる。

 

 そんな中、だいぶ装備も安定し出して、そろそろステータス振り直しアイテムを手に入れようかと思う中、

 

「こんにちは、幸運なニュービーさん。でももうニュービーなんて言い方良くないかしら」

 

「ツェリスカ、デイジー」

 

「あなた、別のVRじゃ、凄腕のプレイヤーだったのね。まさかここまで凄いだなんて」

 

「………キリトか」

 

 話は聞いていたが、口を滑らして………

 

 その様子に微笑むツェリスカ。

 

「口下手なのも聞いてたけど、そんなに表に出たがらないのも、どうかと思うわよ」

 

「俺は、あまり目立つのが、心臓に悪い」

 

「もうあなたはGGOでの話題の中心、攻略もここまでくれば、もうトッププレイヤーの一人よ」

 

 とりあえず、この調子ならアップデートにも間に合うらしく、先に進むのだが、

 

(彼女はどうしてそれを知ってるのだろう)

 

 そんな疑問があるが、ともかく、ステージを攻略に進む。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「マスター、これを買うのはいかかですか」

 

「ヒカリ、それは俺には必要ないよ」

 

 忘却の森に行けるようになり、身の回りを整えることにした俺たちは、いま買い物中。

 

「なぜです? 射撃予測円(バレット・サークル)が安定して、マスターの射撃力が上がりますよ」

 

「俺はいい、それに今日はヒカリの強化が優先」

 

 俺はHPが回復し出すアイテム類、ヒカリは防御力を上げつつ、武器だけの強さで戦うヒーラー。

 

 そう言ったようななって、ヒカリも渋々下がり、買い物は続く。

 

 そうしていると、

 

「マスターっ、メールです」

 

「ああ」

 

 その内容は、

 

 アップデートの知らせだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「とうとう《SBCフリューゲル》に、お家に帰れます。とってもうれしいですっ、マスター、早く行きましょう」

 

「よかったねレイちゃん、パーツも集まったし、これで準備万端ですね」

 

 キリトたち全員が集まる中、忘却の森に現れた《SBCフリューゲル》に、もう進出するプレイヤーは多数いる。

 

 イツキもいて、彼がヒカリに質問をし、《SBCフリューゲル》にはヒカリ、アファシスのおかあさんがいるらしく、ヒカリがいれば大丈夫らしい。

 

「おかあさんが言ってましたっ、えっと……確か、おやつは一人までです!」

 

「おやつ?」

 

 ヒカリもよく覚えていないらしく、中にはいれば思い出すと言う。

 

 よくわからない言葉の中、新フィールドには、キリト、クレハ、俺とヒカリが行くことになり、船へと向かう。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「解放したあとに、アップデートされてよかった」

 

 そう言いながら、船の前までくる。

 

 大きな橋がかけられ、そこ以外に侵入口はなさそうだ。

 

「ゲートがあるわね」

 

「はいですっ、おかあさん、ただいまです!」

 

 その時、ゲートから妙なノイズが聴こえだし、それに耳を抑える。

 

「これは」

 

「気を付けろっ、なにが起きてるか分からないが、友好的な反応ではなさそうだ!」

 

「えっ……。どうしたのです? この人はわたしのマスターと友達です!」

 

「レイちゃん、あれがなんて言っているか分かるの?」

 

「わたしたちが入って来てはダメ……、排除する、って言ってます!」

 

「!?」

 

 巨大なロボットが現れ、戦闘が始まる。

 

 すぐに動き周り、キリトがひきつけている間、集中してこの手のエネミーの弱点を集中した。

 

 だがゲージの減りがおかしく、これに違和感を感じる。

 

「テイル、分かるか」

 

「ああ。撤退イベントか」

 

 こういうことをし出して分かったのだが、条件をクリアできないと攻略が難しすぎるクエストがあると知った。

 

 いまの戦闘はまさにそれだ。

 

「ああっ」

 

「無茶よっ、ログアウトする時間も稼げない。こんな場所じゃ」

 

「俺だけなら逃げられる。か」

 

 UFGを構えながら、キリトは頷く。

 

「ああ、君とアファシスだけで逃げてくれ、時間は稼ぐ」

 

 そう言われ、クレハをすぐに見るが、

 

「あたしは残るわよっ、このまま逃げるなんてできない。だけどあんたは違う」

 

 プレイヤーはフィールドでHPゲージが無くなると、アイテムを落とすときがある。

 

 もしもここでヒカリを落としたら………

 

 仕方ないか。

 

「……分かった。ヒカリ」

 

「マスター」

 

 俺はすぐにUFGを使い、振り子のように身体を動かし、ヒカリを救い上げ、その場からミサイルが発射されながら避け、崖の方へと飛ぶ。

 

「ギリギリか」

 

 そう冷静にUFGが引っかかる場所を見つけ出し、そこに発射し引っ掛けた。

 

 キリトたちがひきつけている間。どうにか脱出する。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 今回は下調べ不足だと反省をし、キリトたちと話し合いをする。

 

 パーツは全て集まり、すでにアファシスを連れたプレイヤーは中に入っているようだ。

 

 それを考えると条件を見逃したようで、その話し合いをする。

 

 ともかく、一度解散し、情報を集めに入った。

 

「ヒカリ」

 

「マスター……」

 

 しょんぼりするヒカリの頭を撫でる。

 

「マスター、わたし」

 

「いまは情報を集める、な?」

 

「………」

 

 黙り込むヒカリに、ログアウトする時間になるが、少し溜息を吐く。

 

「少し散歩しよう」

 

「です、けど」

 

「散歩だヒカリ」

 

 有無を言わさず、ヒカリを連れて、散歩に出た。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 町の広間から、町を見渡す中、ヒカリはずっとなにか考え込んでいた。

 

「……やっぱり。マスター、決心しました。登録を……解除してください」

 

「………」

 

「たぶんわたしは、ポンコツなのです。どこか故障しているのかもしれません」

 

「本気か」

 

「マスターの役に立たないアンドロイドはいらない子なのです、わたしは、いつも失敗してばかりでした。おかあさんに報告して、なおしてもらいます。その後はどうなるか、分かりませんが……」

 

「ヒカリ」

 

「名前も返します、わたしにはもう呼んでもらう資格はありません」

 

「………」

 

 静かな沈黙が二人の間に流れる。

 

 その時、テイルは背を向けて、静かに、

 

「先に帰ってろ。俺はやることがある」

 

「………はいです」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 翌日、俺はみんなと共にアファシス、彼のホームを訪ねた。

 

「キリトさんっ」

 

「クレハ、それにみんな」

 

「どうしたの?」

 

「それがレイちゃん、テイルのマスター登録を解除して欲しいって言って」

 

「なんだってっ!?」

 

 話を聞くと昨日からだろうか、朝一にクレハが来た時からずっとこの調子。

 

 フィリアたちも心配してくる中で、俺は彼女を見る。

 

「一つ聞くけど、君は本当にそれでいいのか」

 

「キリト……」

 

「本当に、彼が、自分以外のアファシスを連れて行ったりしてもいいのか」

 

「!」

 

 それにハッとなる彼女は、

 

「………いやです……。マスターのアファシスはわたしなのですっ、あの人はわたしの、たった一人のマスターなのです!」

 

 そう言った時、ハッとなるアファシス。

 

「そうです……一人、一つじゃなく一人なのですっ」

 

「? どういうことだい?」

 

「おやつは一つじゃなく、友達は一人だったです」

 

 彼女が言うには、《SBCフリューゲル》に入るには、まず登録が必要。

 

 その条件は最初に登録できるのは、アファシスと同行した一人だけ、ゲートキーパーのテストを受けなければいけない。

 

「なのにわたしは約束を破り三人も連れて来て、おかあさんを怒らせるのは怖い、マジですよ」

 

「なんでい、アホシスの凡ミスじゃねえか。まったくよお」

 

「AIがこんなミスするものなのかい?」

 

「勘違いや忘却と言った行動は、プログラム的に相当高度なことですね」

 

 ユイがそう補足する中、アファシスは申し訳なさそうに下を向く。

 

「思いだせたんならそれでいいさ、そうなると彼と君でまず条件をクリアしよう」

 

「分かりました、必ず汚名挽回します」

 

「それも少し違うよな……」

 

 なぜ彼女をこう設定したのか、プログラマーの趣味だろうが……

 

「ところで彼は」

 

「それが、メッセ飛ばしても来なくて。ログインしてるのは確かなんですけど」

 

「まさかマスター、わたし以外のアファシスを探して」

 

「それは無いよレイちゃん、彼はそういうことを絶対にしない人だよ」

 

 アスナの言う通り、彼はそんなプレイヤーではない。

 

 元々やる気も無いこのGGOを続けているのも、彼女のためでもある。

 

 だが、それならどこに?

 

「あいキー坊、いるカっ」

 

「アルゴ?」

 

 慌てた様子でアルゴが入って来て、全員がそちらを見る。

 

「アルゴさんどうしたんですか?」

 

「どーしたもこーしたもないゼっ、彼奴が」

 

 それは彼は予想を超えたプレイヤーであると、改めて思い知らされる話だった。

 

「テイルが一人で、《SBCフリューゲル》のゲートキーパーに戦いを挑んでるんダ」

 

 全員が驚き、目を見開く。

 

「なにを言ってるんだ、あれは強制撤退イベントだろっ」

 

「待って、彼奴いまパーティー組んでないのなら、もし倒れてレイちゃんドロップしたらどうする気なのよっ」

 

「あのバカはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 レインは話を聞き終えて出て行き、俺たちも後を追う。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………あら、あなたたち」

 

「ツェリスカさんっ、ってなにこれっ!?」

 

 崖の上などから、観客のようなプレイヤーが多くいる。

 

「これ全員、彼が倒されたときドロップする品物狙いのプレイヤーよ」

 

「それって」

 

「わたし……」

 

 ヒカリは青ざめる中、爆発音が鳴り響く。

 

「あれは」

 

「半分はここまでで削り取ったようよ」

 

 人型のロボット相手に、二刀流のアサルトライフルで削る、一人のプレイヤーがいた。

 

「マスター……」

 

「何を考えているか知らないけど無謀よ、あの敵は倒せるには倒せるけど、条件を整えないと絶対に勝てないわ」

 

「被弾を恐れて他のプレイヤーから攻撃は受けませんが、このままでは彼のHPゲージは」

 

 デイジーの言葉に、全員が助けに出向くべきかと考えたとき、

 

 

 

「ここから本番だッ!!」

 

 

 

 彼の咆哮が轟いた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 彼奴が《SBCフリューゲル》に入れないために、思いつめ、登録解除を要求してきた。

 

 ふざけるな。

 

 俺のアファシスは一人だけだ。

 

 この中に入れればいいんだろ?

 

 アサルトでは弾薬が切れた。

 

 なら、

 

「ここから本番だッ!!」

 

 ダインスレイブを取り出し、レーザーが放たれる。

 

 ここからは全て本番だ。

 

 俺の動き、速さは、全てこの一撃に変える。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………なにあれ」

 

「これは」

 

「うそ……」

 

「そんなこと」

 

 ビームが放たれた。

 

 放たれたビームに対して、彼は何かを掴み、そして、

 

「ビームを跳ね返しやがったっ!?!」

 

 誰かが言ったように、放たれたビームを跳ね返し、ダウンを取った彼。

 

 ツェリスカは驚いた顔で硬直し、仲間たちの中には口を開けて驚く者も。

 

「あれって」

 

「光剣の二刀流っ!?」

 

 一つは見たことも無い、青く輝く、普通の光剣よりも刃のように輝くそれと、ユウキと共に手に入れた実体のある光剣。

 

 二つを二刀流で持ちながら、静かに、

 

「ビームが撃てなきゃ跳ね返して撃てばいい」

 

 意味が分からない言葉と共にラッシュを始めた。

 

 GGOのメンバーは彼の動きに驚き、観客のプレイヤーも驚いている。

 

 光剣に変えた瞬間、彼の動きが劇的に変わった。

 

 ミサイルは全て見切り、レーザーは跳ね返す。まるで本人が撃つように。ガトリングなどの弾丸は、全て叩き斬る。

 

「そんなこと、あり得なくは無い、無い、けど」

 

「彼奴ならできる」

 

 攻撃を捌き、躱すことに関して、彼は二年少し、それで多くのプレイヤーを支えた。《沈黙の蒼》と言う名を持つ。

 

 HPゲージを守り通し、ひたすらにダメを与える。

 

「彼奴の連続攻撃、いつも凄いと思う」

 

「うん」

 

 手首をうまく使い、何度も切り刻む様に、俺もユウキも驚いていた。

 

 重心が無いとできないと彼は言う。俺も真似したが、落としてしまうことがまれにある。

 

 極限に研ぎ澄まされた集中力、極まれた躱すことに対しての技術が、ゲージを消し飛ばす。

 

「俺のアファシスはたった一人だッ」

 

 怒りにも似た言葉が彼から放たれた。

 

 グレネードも投げていて、爆発の瞬間も把握し、身体に触れる瞬間、空中で爆発する。

 

 それに追い打ちをかけるように、同じ光を持つナイフを投擲していた。

 

「貴様の所為で先に進めない」

 

 そう言い放ち、彼はレーザーが放たれたが、受け取るように二つの剣で受け止め、発射する。

 

 激突し、ダウンするゲートキーパー。狙うはあの手のエネミーの弱点。

 

「俺のヒカリのためにここで散れッ!」

 

 無数の斬撃とスキル攻撃後、彼は着地して剣をしまう。

 

 ロボットは爆発しながら、ポリゴンになり、何かをドロップした………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「これは、スナイパーライフルか」

 

「マスターッ」

 

 ウインドを操作していたら、ヒカリが泣きそうな顔で走ってくる。

 

 他のみんなも来ているが、時間がかなり経っていた。

 

「みんな」

 

「ナイスファイトテイルっ、まさかあの敵を一人で倒すなんて」

 

「イライラしていたから」

 

「そんな理由で、キミは」

 

 イツキが驚いたり呆れたりしながら、ヒカリの頭を撫でる。

 

 ゲートからなにかノイズが流れた。

 

「!? マスターっ、マスターはいまその腕前を見込まれて、《SBCフリューゲル》に入る権利を得ましたっ。それともう一つ、《SBCフリューゲル》にある《アンチマテリアル・ライフル》を譲渡されました」

 

「《アンチマテリアル・ライフル》ですってっ!?」

 

 シノンが身を乗り出して俺を見る。

 

「本当なのかいそれっ、凄いな」

 

「それは」

 

「このゲーム、GGOですら十丁程度しか存在しない、防弾プレートの上からでも相手を即死させられる威力持ちの銃のことだよ。値段も何もかも破格で、僕ですらそれを持っているスコードロンは一つしか知らない」

 

 それを言われ、先ほどの《ティアマト》を思い出す。

 

「ね、ねえ、少し見せてくれないかしら」

 

 冷静なシノンも、少し慌てている。

 

 かなりの重量なスナイパーライフルだが、ステータス整理すれば持てそうだ。

 

「それよりも、テイルあんたまた無茶したわねっ」

 

「そうでしたっ、どーして一人で戦ったんですか!?」

 

「むしゃくしゃした」

 

「ふざけないッ」

 

 レインから怒られながら、もう一つ、

 

「その剣はなんなのよっ、あんた実体がある剣しかできないって」

 

「ナイフは別だ」

 

「それのどこがナイフだーーーーっ」

 

 レインとそんな話をするが、こいつはガーディアンエネミーを倒していたら手に入れたもので、強化も面白半分で大金つぎ込んでし終えていた。

 

「ヒカリと別れた後、こいつでビームくらいどうにかならないか確認しに、ビーム系のエネミーで試し斬りしてビームを跳ね返して撃てたから、いけると」

 

「これでテイルも光剣使いだねっ、ライフルで凄いの手に入れても」

 

「な、なあ、その光剣どこで手に入れた? 俺も少し」

 

 そんな顔の二人もいて落ち着いてもらい、少しぐったりするが、

 

「ヒカリ」

 

「マスター」

 

「お前の俺の、俺だけのアファシスだ」

 

「マスター……」

 

「これで中に入れるから、あんなことは二度と言うな」

 

「はい……」

 

 抱きしめながら頭を撫でると、ミケ、飼い猫のようになつきだすヒカリ。

 

 ツェリスカがともかくいまは帰るべきと言われるまで、そんな会話が続いた。




ビームは出せない、こればかりプログラマーがきっとボツにしている。

あっ、ビームが撃てなきゃ跳ね返せばいいんだ。

こうして彼はビームを撃てます。

あれはナイフ、ナイフならいける。

なぜ彼は二刀流になりました。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第28話・スコードロン

「まずは皆さん、心配をかけてしまってすいません」

 

「すまない」

 

 ホームで囲まれながら、みんなに謝る。心配はかけたが後悔はしてないが。

 

「気にしなくていいわよ、一番はこいつなんだし」

 

 クレハたちが厳しい視線を向けて来るが、気にしないでおこう。

 

「イベント達成おめでとうございます」

 

 デイジーとツェリスカもいて、イツキももちろんいる。

 

「始めはリアルラックの高いニュービーさんって思ってたけど、まさかALO最強の剣士《蒼炎》だったなんてねえ。びっくりしちゃった」

 

「それは本当かい? あのソロで《スヴァルトエリア》の最初の島を踏破したプレイヤー」

 

「そんな話が……」

 

 それに関してキリトを見ると、すぐに目を背けた。

 

 仕方なくため息を付き、それにツェリスカは微笑みながら、

 

「ねえ、一つ提案なんだけど」

 

「提案」

 

「私のパートナーになってくれないかしら」

 

 それにみんなが驚き、俺も一番驚く。

 

「なぜ?」

 

「《SBCフリューゲル》にはかなり強いエネミーが出るでしょうし、なにが仕掛けられているか分からないもの。攻略系スコードロンに入るのも手だけど、信頼できるパートナーが欲しいの」

 

「マスター、私には戦場でのサポート機能もあります」

 

「ありがとう、もちろん分かっているわ。だけど、私はあまりデイジーちゃんを戦場に出したくないのよね~。もちろん、いざというときは頼りにさせてもらうけど」

 

 デイジーがその返答に不満そうにすねている。そう言われれば、デイジーはヒカリほど戦闘スキルがある様子は無い。

 

 キリトたちから正しい条件を聞いたが、それ以外は連れて行きたくないようだ。

 

「パーティーの一人でなら」

 

 俺はすぐに出せる答えとして、そうしか言えない。

 

 向こうも分かっていたのだろうが、残念そうに苦笑していた。

 

「私は二人きりのチームのほうがいいのだけど~」

 

「俺の答えが分かっていても」

 

 それに微笑むツェリスカ、やはり答えが分かっていたらしい。

 

「僕らの前で、よく言えるね」

 

「あら、なんのことかしら~」

 

 イツキとは、馬が合わない程度だろう。そんな印象を受ける二人の会話。

 

 ともかく、現状確認しないといけない。

 

「ヒカリ、それで俺は」

 

「はい、マスターは《SBCフリューゲル》へ入る資格を得ました。マスターの友達なら一緒に入れます」

 

「パーティーメンバーか、もしくばスコードロンってことか?」

 

「それならあたしはタイプAをレンタルして、資格を取るわ。自由に出入りしたいもの」

 

 確かに、必ず俺がいなきゃいけない、もしくば所有者のスコードロンに入るしかないらしい。

 

 そんな話をしていると、

 

「テイル、君がスコードロンを作ればいいじゃないのか?」

 

「ぐはっ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 別段、HPゲージが減ったわけでもないのに、彼は倒れかけた。

 

 それには仲間たちみんなが呆れながら、キリトは続ける。

 

「そんなに嫌がらなくても……。君の腕前なら、スコードロンリーダーは問題ないだろうし、俺たちは君のスコードロンに入ればいいだけだし」

 

「キリトくん、それって君が楽したいだけなんじゃ」

 

「それは」

 

「俺には、無理だ」

 

「そんな苦しそうに言わなくても。俺はどこかに所属するのは苦手だけど、君のならいいかな」

 

 そんな話の中、イツキも自分のスコードロンがあるものの、入るらしい話をしていた。

 

 無茶苦茶であるため、何度もごねる中、クレハも立候補して来たりして、もう収拾がつかない。

 

 結果、勝負方式で、強さを示して決めることになる。

 

 無論テイルも勝負に出るが、彼の顔から、負ければいいやと言うのが読み取れて、

 

「テイル、負けたらリーダーね」

 

「………」

 

 クレハからの言葉に、彼は逃げ場が無くなった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 嫌がらせをすることにした。

 

 ランチャーを使用して、超遠距離から攻撃する。けして剣士で戦わないぞ。

 

「だからなんでそんなに」

 

「テイルうまっ、どうしてそんなに動けるの。どこから」

 

「くっ、スモークがッ。どうして居場所が」

 

 かさかさと動き、煙をたいて、背を低くして、相手のバックを取りながら撃ったり、撃ち終えたら煙で隠れたり。

 

「くそっ、やりずらいわねっ」

 

「あーーーもう、どこだーーーー」

 

 重点的にキリトを狙いながら、かく乱して勝ち、渋々スコードロンリーダーになる。

 

 ユウキたちは不満の声が出るが勝ちは勝ちだ。

 

「マスター、おめでとうですっ」

 

「ぐはっ」

 

「まっ、マスターが突然膝をついて倒れましたっ。ダメージが残ってるようです!」

 

「いやたぶんリーダーの重責だと思うよ?」

 

 このままリーダーなんてやり続けたら、俺はVRゲーム引退を視野に入れないといけない。

 

「………悪いが《SBCフリューゲル》攻略を目的としたスコードロンだ。すぐに解体はしないが、それまではスコードロンとして活動する。イツキは、攻略目的で一時的にウチに入る。でいいよな?」

 

「それでいいよ」

 

「僕もそれでいいよ」

 

 こうしてトッププレイヤーが集まるスコードロンが結成され、しばらくリアルで胃薬を買うことを決める………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 二人のプレイヤーが話し合う。

 

「負けか……」

 

「やっぱり悔しい?」

 

 ツェリスカとクレハ、彼女たちは仲間たちの輪から離れ、先の戦闘を思い出す。

 

 不本意ではあるが、彼はしっかりとした戦術で勝った。文句はあるが、強くは言う気は無い。

 

「悔しい、ですね……。別のゲームじゃトッププレイヤーでも、GGOはあたしが先にプレイしてましたから」

 

「そうね~、まさか彼もあそこまで器用な人とは、思いもしなかったわね」

 

「昔から変わらないな、あの人はあたしたちのお兄ちゃんで、あたしはその後ろ」

 

「えっ」

 

 ツェリスカが驚く中、クレハは失言に気づきながら、そのまま続けた。

 

「あの人はあたしと、お姉ちゃんより年上なんです。いつもあたしたちのことを見ててくれて、あたしはそれを良い事に、いつもの感じで話してて」

 

 黄昏る少女は、現実世界の彼を思い出す。

 

「表情も良く変わる、あの人は変わったな……あたしは」

 

 そう呟きながら、風が荒野の世界に吹いた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「胃が」

 

「大丈夫ですっ、マスターはやればできる子です!」

 

 ヒカリは生き生きしていて、俺は死にそうになる。

 

 そんな中、町を歩いていると、

 

「イツキ?」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「イツキさんどういうことですかっ、俺たちなにも聞いてませんよ!」

 

「申し訳ありません、どうしても彼らがイツキさんと話がしたいと」

 

「イツキ」

 

 その中にテイルが出て来ると、やはりというか、スコードロンリーダーが別のスコードロンに入ることで、問題を起こしてしまったらしい。

 

「イツキ……」

 

「ごめんごめん」

 

「あんた、イツキさんにいったいなにしたんだっ」

 

 スコードロンのリーダーの引き抜きなんてあまりいいことではない。モラルにかけるなので、彼はちゃんと説明することにした。

 

「イツキは一時的に《SBCフリューゲル》攻略のために入っただけで、それ以上にウチのスコードロンに入った理由はないよ」

 

「えっ、そうなんっすか?」

 

「そうですよ、イツキさんからそう連絡が来てます。申し訳ない、話が途中でして」

 

「いえ、スコードロンリーダーを引き抜くのは、さすがにですから」

 

 パイソンからそう言ってもらえれば幸いですと言われるテイル。

 

 イツキもやれやれと、ほっとする団員達。

 

「なんだイツキさん、いつもの退屈凌ぎですか」

 

「………」

 

 少しだけ黙るイツキだが、すぐに切り替えたように笑う。

 

「まあそう言うことだよ、キミ達に話をしてすぐだったけどね。退屈したらすぐ戻るさ」

 

 それを聞き、安心して去る団員たち、パイソンから後を頼みますと言われて、テイルはイツキを見る。

 

「まさか話してすぐだったとは」

 

「ごめんごめん。彼らは、僕を買いかぶりすぎてる。僕のことを英雄かなにかと勘違いしててね」

 

「そうか、それは大変だな」

 

「まあキミとなら、退屈はしないだろうかなっと思って、すぐに出てちゃったけど」

 

「イツキ」

 

「ははっ、なんてね。冗談だからそんな顔しないでくれ」

 

 そんな会話をしながら、せっかくだから街を歩いた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「テイルがリーダーか、キリトくんもなかなかやりますな~」

 

「レイン、俺は別に嫌がらせのためにさせてるわけじゃないからな」

 

 フィリアやプレミアもいる中、キリトは自分のホームで話をしていた。

 

「けど、あそこまで拒否するとは……」

 

「まあ私の知る彼は、そう言うのほんと苦手って感じかな」

 

「そうか、レインさんはテイルさんがなにしてたのか知ってたっけ」

 

 レインはSAO時代からの彼をよく知る、数少ないプレイヤー。

 

 いや、もしかすれば唯一彼の過去を知る者だろう。

 

「うん、いつも妙な注文受けてね」

 

 SAO、彼の昔を知るのは、このメンバーでレインだけだ。周りのみんなも話を聞くためにレインを見て、レインは昔を思い出す。

 

「ん~なんて言えばいいんだろう? いつもなにか思いつめてて、いつも何かと戦ってるってイメージかな」

 

 彼の当時のことを話すと、狩り場では無い危険なエリアを狩り場にし、ソロで槍や投擲、刀や、数少ない弓矢を使う。

 

「ブーメランも得意で、釣りも得意だった。食べ物は自給自足で集めてて、宿はハウスを宿屋にしたプレイヤーを転々としてたな」

 

「レインは彼のことを良く知ってますね」

 

「まあ、途中からだけど、彼が所属するギルドに入ったからね」

 

「そう言えばギルドリーダーは名前は聞いたことがあるけど、彼の名前は知らないな」

 

 俺ことキリト、クライン、アスナはすぐに彼が所属した後方支援ギルドを思い出す。

 

 彼らはブラウニーと言う名前の通り、縁の下でサポート。常に攻略戦で大量の回復アイテムと多少の結晶アイテムを用意したり、武器防具の整備をしてくれたりしてくれた。

 

 だからこそ名前は知っている。そのリーダーも少ないやり取りの中で信用を勝ち取ったり、このギルドの強みをアピールして人手を集めたりやり手であったと言う印象。

 

 それでも彼ほどのプレイヤーが所属していると言う話は、聞いたことは無かったのが不思議でならない。

 

「まあね、信用を勝ち取る為だろうけど、ギルドは彼の功績を隠してた。彼は気にしてもいないし、私たちも深くは言えない立場だったし、本当かどうかも分からなかった」

 

 ギルドがまさかリーダーでも何でもないプレイヤーが居なければ回らない。商人ギルドとしては致命的な部分であるため、レインはなんとも言えない。

 

 だが、一人だけはっきりと言える男がいた。エギルは腕を組みながら、静かに告げた。

 

「いや、俺は信じるぜ。なんせ彼奴、俺が中層プレイヤーに金をつぎ込んでるって知って、イベントボスが落とす鉱石を流しに来たぜ」

 

 エギルからそれを聞き、彼が《白竜》を退治していたことを知って、俺とリズは驚愕する。

 

「強いんですか?」

 

「ああ厳しいぜ」

 

「それを流してたのって、まさかそのレアアイテムが流れてたのって」

 

 それを全て彼の仕業なら………

 

 SAOのプレイヤーの大半は、彼によって助けられていたことになる。

 

 攻略戦も、生活することも全部含め、彼一人が全てを支えていた。

 

「どうして彼はそこまで」

 

「それは本人に聞かないと分からないよ、あの性格じゃ、喋るか分からないけど」

 

 そんな話をしながら、彼はいまなにをしているのだろうか………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「コアが手に入らないのは、違うからなんだろうな」

 

 そう思いながら、ガーディアンたちを倒す。

 

 手に入れた《アンチマテリアル・ライフル・ティアマト》は速射連射をすれば、敵なしのように強力であり、ガーディアンを好きなだけ狩れた。

 

「あの時、お前が居れば楽だっ………」

 

 首を振り、言葉に詰まる。

 

 あの時の体験は、けして人に言えない、俺の秘密だ。

 

 レーザーに焼き殺された日々がある中、少しだけ腰を下ろし考えた。

 

「もうあの日々はなんなんだろうな」

 

 意味が無い日々、意味がある日々。

 

 人に言えない、理解されない、されたくもない日々だ。

 

 気楽に話せるレインにも、ユウキにも話す気は無い。

 

 腰に下げた二本の剣、そして背負う銃の重みを感じながら、軽いとも思う。

 

 あの日々は、アイテム回収、モンスターとの闘い、フィールドを歩き回り、精神も何もかもダンジョンに奪われたり………

 

「やめよう、これ以上意味が無い」

 

 例え受け入れたとしても、あの日々の、鉛のような重みがそう簡単には消えない。

 

 一人でいると、どうしてもそちらに引っ張られる。

 

「ん?」

 

 そう考えていると、気配を感じ、隠れた。

 

 狙撃体制に入り、狙うが、フィールドマップで味方と分かり、近づく。

 

「シノン」

 

「あなた………」

 

 一人フィールドを歩くシノン。それに気づき、近づく。

 

「まさかこの辺のエネミーあなたが? ここのエネミーかなり強いって聞くけど」

 

「あっ、うん、たぶん。ここのは慣れると楽しいんだ」

 

「そう、なの………」

 

 少し戸惑うようなシノン。一人でフィールドとはいったい?

 

「ねえテイル。あなたはこの先に行ったことは?」

 

「? いや無い」

 

「………」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 彼からあるクエストを聞いた。狙撃銃、そのレアドロップすると言うエネミーがいるフィールドに向かう。

 

 その途中にも、厄介なエネミーがいると言う噂の場所に、彼はいた。

 

 彼はなんてことも無いようにいて、それに少し戸惑う。

 

 最初はそんなに強いプレイヤーとは思わず、変わったプレイヤーと思っていた。

 

 だけど彼は、キリトとは違う強さを持ったプレイヤーで、仲間になってから、時折目が追っているのが自覚している。

 

 それでも気になる。彼の強さ。

 

 昔ほど強さに執着してなくても、彼は何か人とは違う、何かを持っている。

 

 その強さが知りたいのは、いまでに事件を引きずっているのか、好奇心なのは分からない。

 

「ねえテイル、お願い」

 

 それでも、私はいまは仲間のためにも強くありたい。

 

 そして、彼をもっと知りたい。

 

 仲間みんなが思う。

 

 教えて………

 

 あなたはなんで、一人で強くなるの?

 

 こうして彼と共に、狙撃銃が手に入ると言う、イベントボスがいる、場所へと向かう。




シノンイベ突入。

スコードロンのリーダーでなにするんだろう? マシンガンぶっ放す奴らしかあまり知らないな。

お読みいただき、ありがとうございます。


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第29話・シノンと共に

シノンと一緒にクエストするテイル。

ただその場所は、つい習慣のように狩っていたガーディアンエネミーがいる場所の先でした。

それではどうぞ。


「少し無謀だったかしら」

 

「さあ?」

 

 所々に出て来るエネミーを狙撃、または斬り倒して、先に進む。

 

 シノンが一人、クエストを受けに出向こうとしていたため、共に同行する。

 

 そう言えばここではあのガーディアンっぽいエネミーが出るので満足していたが、この先は確認していない。

 

 シノンがクエストを受ける理由は一つ、強力な狙撃銃をドロップするエネミーがこの先に出るらしい。

 

 だが、

 

「どんなクエストなのかしら?」

 

 そう、まだ情報が少ないクエストのため、どんな内容か分からない。それが不安でならない。

 

 ガーディアンが周りに出るエリアのダンジョンかクエスト。

 

 嫌な予感がひしひしする。

 

「………」

 

 そう思っていたが、当たりだった。

 

 まさか貯水湖のように、巨大な水が張られた場所、周りは岩壁に囲まれた場所があった。

 

 そしてその真ん中、大量の水に囲まれたそこに………

 

『パワオオオオ』

 

 うなり声を上げる、巨大な像の機械がそこにいた。

 

 左右から滝のように水を流し、鼻からも水を流し続けるそれは象。

 

 あまりにもでかすぎて、建物のように見える動くダンジョン。

 

 少なくても俺にはそう見えた。

 

「これは、討伐かしら? おそらく受理するタイプじゃないと思うけど、あんなバカでかいエネミーを倒せるとは思えない」

 

「………ともかく周りを確認しよう」

 

 俺は水の神獣『ヴァ・ルッタ』を見下ろしながらそう言った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「まず鼻以外から、計四か所から水が噴き出していて、近づくには泳ぐか」

 

「無理よ。水の中じゃ、浸かり続けるとHPが減る。かなり深いと思うから、その前に持たない。乗り物は」

 

「少し待ってくれ」

 

 彼は狙撃銃のスコープを取り出して、下りられそうな岸を見つけながら、その側に何かないか、見てみると、

 

「モーターボートがある。ただ下りるのには時間がかかるのと速い方、どっちがいい?」

 

 その質問にはすぐに分からないが、速い方がいいためそちらを選ぶ。

 

 少しだけ後で後悔するが………

 

 まず下りられる岸の崖上に移動して、ロープを取り出す。

 

「シノン抱き着け」

 

「………あなた、やっぱりキリトやクラインみたいに」

 

「いやここから下りる。俺一人ならな」

 

 そう言えば、彼はこういうのが得意だった。現実でなにしてるのかしら?

 

 つまり崖を無理矢理下りる彼にしがみつき、私も下りるのね。

 

 少し数名の仲間の顔が過るが、彼はこういうことでイベントをスキップしている。

 

 まだ出回っていない情報だが、時間がかかるほど、他の、それも大手のスコードロンがこのクエスト攻略に乗り出すだろう。

 

 それを考え、彼女らには悪いが彼に抱き着き、ロープで身体を固定する。

 

「下りるぞ」

 

「ええ」

 

 固定する際、向かい合うようにしたのは、

 

「シノン、もしもサーチみたいな光が向けられたら教えてくれ、すぐに安全地帯に移動する」

 

「分かったわ」

 

 象の目が時々、赤いライトのように崖を照らす。あれがもし索敵なら、触れるべきでは無い。

 

 最初抱き合う状態にしてロープで固定して、彼はすぐに下り始めた。

 

 苔らしきものが見えたりにするが、彼は楽々と下りて行き、

 

「そのまま、右からサーチ。少し待って」

 

 指示をしながら、じょじょに下りて行き、下の岸に下りて、ロープを外す。

 

 草陰などを使いながら、水辺付近を確認すると、

 

「同じような乗り物があるな」

 

「水が噴き出しているせいで、象がどんなものか分からないわね。さすがにエネミー? にしては大きすぎるわ」

 

「………水が噴き出しているところに石みたいなものがある」

 

「? そうね」

 

 紫色に光る石。そこから絶えず水は流れ出る。

 

「あそこを射撃で壊せれば、水の噴射が止まれば、少なくても象の全貌が分かるはず」

 

 彼は険しい顔でそう言いながら、それに納得して、静かに、

 

「なら私が狙撃するから、運転お願いできるかしら?」

 

「ああ、ビークルはこの前の大会で一通り操作したからできる。了解」

 

 そして見つからないように進もうとしたら、

 

「なにあれ」

 

「っ!?」

 

 崖の上、そこから数人のプレイヤーが現れた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「居たぞっ」

 

「情報通り物凄いでかいエネミーらしい奴だ!!」

 

「我らマシンガンの餌食にするにはもってこいの相手」

 

「皆の衆、さあ」

 

「撃て撃て撃て撃て撃ってえええええええええっ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 彼らは私たちの努力を無駄にするように一斉にマシンガンを放つ。当たる当たらない考えずに。

 

 妨害も考えたが、彼らの射撃に、場の雰囲気が一気に変わった。

 

 象が怒るように鼻から水を出すのを止め、辺りにアラームのように光が照らされる。

 

「まずい俺たちも見つかった」

 

 それに反応するように、氷のようなものが作り出される。

 

 氷のブロックやトゲ付きの鉄球がマシンガンバカへと降り注ぐ中、

 

「まずい」

 

「急ぐわよっ」

 

 急いでボートに乗り込み、それに湖の上を走り出す。

 

 彼が《アンチマテリアル・ライフル》を取り出し、速射することによりいくつか破壊する中、私はそれを片手でしたのに驚く。

 

 両手持ち必須のそれを取り出した拍子にやり遂げた彼のプレイヤースキルに驚く中、それでもやることは変わらない。

 

「このまま狙撃するわ」

 

「ああ」

 

 ここで時間は掛けられない。一周の間に全て私が狙撃しなければいけない。

 

 氷ブロックの隙間を狙い澄まして、撃つ。

 

「スゥ」

 

 一撃当たると、大ダメージのように象がうなる。

 

 どうやらこれがここの攻略方法らしい。

 

「スゥ………」

 

 鼻はどうやら対象外。なら四か所の水が噴き出す場所を撃てばいい。

 

 冷静に、彼の運転の中安心して、撃つ。

 

 そして全て撃ち抜くと、

 

『ブオオオオオ………』

 

 象が僅かに沈み、侵入口のような場所が見えた。

 

 彼はすぐさまそこへと向かい、私たちは象へと侵入する。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 象はあり得ないほど大きかったけど、まさかダンジョンだった。

 

 とはいえダンジョンだ、なにが起こるか分からない。

 

 私たちの目の前、物陰に隠れながら、奥へと進む。

 

「戦闘が始まったら俺が囮をするから、シノンは狙撃を」

 

「ねえ」

 

 その時、私が話しかけて、彼は少し止まる。

 

「どうした?」

 

「あなたはどうして戦うの」

 

 初めはなんのことだと言う顔、彼は表情から分かりやすい。

 

「それは」

 

「わたしはSAOの頃と、いまの頃の話を聞いてるの」

 

「………」

 

 その瞬間、彼から光が消えた気がした。

 

 彼は強い、キリトのような、謎の強さを持っている。

 

 それはいつもおかしなときに姿を見せていた。

 

「SAOは、俺は誰にも死んでほしくないし、死にたくないから。いまは楽しむため、GGOはヒカリのためだ」

 

 ヒカリ、レイちゃんのためと、誰かのため。

 

 彼が本気で強くなるのは、

 

「誰かのため」

 

 そう呟き、私は彼の強さを少しだけ知った気がする。

 

 いまの彼はきっと誰よりも頼もしい仲間だ。

 

 誰かの為に強くなった………

 

「………貴方の強さは、誰かの為に得た力なの」

 

「それ、っ!?」

 

 その時、なにかが私に飛来する。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 トカゲを大きく、恐竜みたいなエネミーが、口からよだれを流しながら、咆哮を上げた。

 

「シノン」

 

「平気っ、だけど動けない………ねばねばして」

 

「ちっ」

 

 すぐにライフルを連射しながら走り、タゲを引き受けて撃ち続ける。

 

「カースガノンじゃなくてよかったが」

 

 そう思いながらガンガン撃つと、水がせり上がらないかとひやひやしながら戦う。

 

 シノンも糸のような粘膜で拘束された位置から狙撃し出す。

 

 狙撃して、エネミーにダメが入るのを確認していると、

 

「!?」

 

 今度は酸みたいに、溶ける音が聞こえる液体を吐きやがる。これならカースガノンの方が幾分かマシだな。

 

 そう思いながら速射し続けていると、そろそろ弾薬が切れる。

 

「ラスト」

 

 一発を撃ち終えた瞬間、ついに悲鳴を上げて、それは横たわる。

 

「やった……?」

 

 シノンの声が響く中、次の瞬間それが凍り付く。

 

 部屋の入り口が塞がれ、水が部屋の中に入ってくる。

 

「シノンっ」

 

 急いでシノンの下に行くと、シノンも慌てて抜け出ようとすると、簡単に出て来た。

 

 ただ、

 

「!?」

 

「なっ!?」

 

 スーツが溶かされたのか、そのおかげですんなり抜け出たんだろう。

 

 インナー姿で現れたシノンは、顔を真っ赤にし、猫のようにキッと睨む。

 

「待て俺は」

 

「いいからそのコートを寄こしなさいッ」

 

 そう言われ急いで渡す中で水がせり上がり、シノンを抱き上げ、足場へと移動する。

 

「ちょ」

 

 恥ずかしそうなシノンが視界に入るが、いまはそんなこと言っていられない。

 

「あんた、後で覚えてなさいよ………」

 

 ごめんなさい。

 

 そして悲鳴のような雄たけびと共に、それが姿を現す。

 

 モーションどころか形態すら変えて、第二形態は、

 

(カースガノンっ)

 

 水のカースガノンのようなそれが現れ、仕方なくシノンの前に立ち、剣を構える。

 

「これは」

 

「シノンは引き続き狙撃、俺は」

 

 悲鳴が響くと、無数の氷ブロックが現れ、これを破壊する。

 

「くっ」

 

「まだいけるっ、てかやらなきゃいけないッ」

 

 その時、レーザーが放たれたが、

 

「いまなら」

 

 そのレーザー攻撃。キリトたちからどうすれば反射できるか散々聞かれたが、フォトンの刃が受け止め、実体刃が後ろから押して反射できているようだ。

 

 少なくとも俺はそう言う感覚で、キリトが試しにレーザーでやったらしい。

 

 受け止められたが重すぎて、そのまま当たってHPゲージが無くなった。

 

 気が付かなかったが俺はフォトンでレーザーを受け止め、実態と共に反射したようだ。

 

 それでひるむ瞬間、水の飛び込み急いで近づき斬り込む。

 

 狙撃とそれの繰り返しの中、かなり疲労する。

 

 それでも、

 

「シノンッ」

 

 その叫び声と共に、銃声が響き渡った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 シノンの狙撃が確実に弱点を射貫き、ポリゴンに変わる。

 

 すぐに確認し終え、シノンの元に戻った。

 

「シノン」

 

「……勝ったのね……。まだ頭が切り替わらないけど」

 

 ふらふらした様子のシノン。狙撃はかなり集中するからな。

 

 ふらついたとき、身体を支える。普段なら何か言って離れるが、そのまま身体を預けて来る。

 

「ごめんなさい、いまは少しきつい」

 

「別にいい」

 

「………けど後で殺す」

 

 沈黙の間、コートがはだけ、インナーが見えていた。それを直すときにそう言われ、俺はまた殺されるらしい。

 

 着替えないのだろうか、替えが無いのか、かなり疲れた顔でも舌打ちした。

 

「………そうだ、ボスのドロップ。確認しないと」

 

 そのままウインドを開き、メニューから確認し出す。

 

 俺も見える位置の中、シオンは気にせずに確認。それは、

 

「《アンチマテリアルライフル》、ウルティマラティオ・ヘカートⅡ。うそ……」

 

 まさか日本サーバーに十も無い数少ない銃がまた手に入るとは、少しばかり怖いな。

 

 シノンは震える声で名前を呟き、具現化する項目をタッチする。

 

「ちょ」

 

 待てと言う前に実行し、ふらつく身体で重量がある狙撃銃を持とうとするが、できずに倒れかけ支えるため、持ち上げた。

 

「ご、ごめんなさい」

 

「いや……」

 

 狙撃銃とシノンを支えながら、シノンは狙撃銃を見る。

 

「あなたのリアルラックのおかげね」

 

「そうか」

 

 そう言って俺はシノンと狙撃銃を支える。

 

「ごめんなさい、まだ頭が」

 

「気にするな。助けがあれば駆けつける」

 

「そう……ね………。その時はまた頼らせてもらうわ」

 

 シオンにしては素直にそう呟く。よほど疲れているようである。

 

 だが、だからこそ本音なのだろう。

 

「ああ……、!」

 

「足音」

 

 何名かの音と銃声が聞こえる。まさか別にエネミーでも出たのだろうか?

 

「まずい、シノン少しごめん」

 

「わっ」

 

 シノンをお姫様だっこ、狙撃銃は担ぎ、急いでその場から立ち去る。

 

 ここから出るのにどこか別の入り口が無いか見ると、転移装置が出現していてそれで出ることにした。

 

「ちょ、待ってっ」

 

「いまの俺もまずいんだ」

 

 銃弾もだいぶ使ったし、集中もし過ぎた。

 

 剣使いだが、そろそろ休みたいのが本音だ。

 

「だからってこれ、誰かに見られたら、もうっ」

 

 顔を真っ赤にしながら、シノンを連れていく。コートだけだから恥ずかしいのか? まあ見られたらダメだなうん。

 

 こうして俺たちは狙撃銃を手に入れ、水の神獣と言われるようになるダンジョンを後にした。




ちなみに色々奢って、許しを得ました。

その後時たまにここに来るようになったのは別の話。

それではお読みいただきありがとうございます。


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第30話・平和なひと時

色々ありつつ、日常と攻略が交差する日々。勉強もちゃんとしてるよ。

ユウキ「ぶーぶー」

テイル「勉強もちゃんとしなさい、後悔するよ」(経験談

キリト「少し狩りに……、ガーディアンってのを」

シノン「あああれ、コツが分かれば楽よ」

そんな感じです。


 船の中でマザーシステム、ヒカリたちの母親に異変が起き、プレイヤーは彼女の下に出向くのが攻略らしい。

 

 ナビゲートはノイズが走りすぎていて、アファシスがいないと解読不可能。彼女たちが必須なのはこのため。

 

 中を進んだが、途中で大きいゲートに遮られ、中に進めなくなり、情報を求める。

 

 どうやらフィールドのいたるところにカードキーがあり、それを確保しないといけない。

 

 そんな日々の中、メンバーのスケジュール管理など、初めてのことばかりだが、どうにかスコードロンリーダーとして活動している。

 

「はあ」

 

「疲れたか?」

 

「エギル、ああ」

 

 エギルの店で少しだけ休憩している。クラインもいて、彼もため息をつく。

 

「ツェリスカ、いいな……」

 

「………」

 

「テイル、不満なら言え」

 

 呆れていると、エギルがそう言ってくれる。

 

 そんなところに、ツェリスカとデイジーが揃って来店した。

 

「ツェリスカにデイジー」

 

「こんにちは、今日はレイちゃんは」

 

「クレハたちとカードキー探し。俺は捜索個所の纏め」

 

「あらあら、リーダーも大変ね」

 

「そう言うツェリスカは、エギルの店に用か」

 

「ええ」

 

 そんな話の中、ツェリスカは欲しいアイテムがあり、エギルに相談しに来た。

 

 それは衣装アイテムの素材、超レア扱いの物で、デイジーのために買うらしい。

 

「うおお、可愛い服だっ。ツェリスカも一緒に着ればいいじゃないかっ!?」

 

 カタログだけはあり、その衣装を見たクラインがそう言うが、僅かに微笑むだけのツェリスカ。

 

「ふふっ、冗談でしょ? こんなフワフワでキラキラしたのは、私には似合わないわ」

 

「そ、そうか?」

 

 微笑むツェリスカ。クラインは残念がりながら、それでもスコードロンやパーティーで仲良く衣装を揃えるなど、どうしてもこれを着たツェリスカが見たいらしい。

 

「パーティーやスコードロンが同じだと、同じ服を着るのですか?」

 

 それに聞き返したのはデイジーだ。

 

「いや、まあ統一感を出したり、チームだと分かるように……」

 

 首をかしげながら説明する。まあ統一感は大事なところもあるか? 正直ソロで活動ばかりだからな。

 

 ツェリスカとも話しながら、デイジーはずっとメニューを見ていた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「この日はレインとプレミアがログイン不可で、クラインが遅くて、キリトログイン率高くないか?」

 

 分散してパーティー組んだり、自由活動時間作ったり、自分も動いたりしながら動く。

 

 イツキは俺と組んだりするのがいいなど、メンバー構成も要望を聞きながら考え、ツェリスカも俺と組んでイツキとはいやとか、我が儘が多い。キリトとアスナはセットにしないと。

 

 その辺りはなぜか数名の女子から怒られ、シリカ、リズ、リーファ、プレミアとも組むようにしたりする。なぜ? キリトとアスナは恋人関係だから気を利かせているのに。

 

 メンバー全員、ドロップ率が上がっているとか言いだす始末。なんかイツキのスコードロンも上がって、俺に関わるとリアルラックが上がるとか言う変な噂が流れている。

 

「マスター、わたしはいつでもいけますよ」

 

「それでも自由時間は必要だろ、気持ちだけ受け取るよ」

 

 そんな話をしていると、扉が開いた。

 

「すいません、テイルさん、レイちゃん」

 

「デイジー、こんにちはですっ」

 

「こんにちは、どうしたんだ」

 

「はい、少しお願いがありまして」

 

 ツェリスカが珍しくいない中、彼女だけ。

 

 デイジーは何か用があるらしいので、作業を止めて話を聞く。

 

「実はある素材を取りに出かけたいので、どうかパーティーを組んでいただきたいと」

 

「? それはどういうことだ?」

 

 デイジーの話では、最近ツェリスカが本調子では無いとのこと。

 

 確かにリアルは聞いていないが、ツェリスカは忙しいらしいのは分かる。

 

 それでデイジーは気分を紛らわす、元気付ける為、この前の素材を集め、お揃いの衣装をプレゼントしたいらしい。

 

「私たちアファシスは誰かと一緒では無いと、フィールドに出られないので、どうかお願いしますっ」

 

「マスター、わたしからもお願いするのですっ。ツェリスカを元気付けたいです」

 

「それは俺も賛成、だが君をフィールドには連れて行けない」

 

 ツェリスカはデイジーを外、フィールドに連れ出していないため、ステータスは初期値だった。

 

 デイジーの求める素材はレア度が高く、場所も危険な場所。

 

 そう、まさかのデイジーたちが望む素材がある場所が、ガーディアンがうろつく場所であるのならなおのことだ。

 

「さすがに君をそこには連れて行けない」

 

「それでも、私はマスターにプレゼントを。ずっと守ってばかりで、今度は私がプレゼントしたいのです」

 

「………」

 

 デイジーの願いを聞きながら、色々考える。

 

 実はまだあの先があるし、妙な情報もちらちらあるのだ。

 

 それの確認のためにも、俺だけが動いた方がいい。

 

 まずはデイジーの問題だが、

 

「俺に考えがある」

 

 これにはキリト、クラインにも手を貸してもらおう。

 

 俺はエギルの店で働いて、その報酬で手に入れる案を彼女に伝える。

 

 これなら彼女の力だし、あの店ならあの二人でサポートして秘密にもできる。せっかくのプレゼントはサプライズがいいだろう。

 

「これなら君でも素材を集められる、エギルに相談しよう」

 

「ありがとうございますテイルさんっ」

 

 嬉しそうにするデイジーに、俺はスケジュール管理がハードになる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「んでさ、キリト。俺は確かに資金が欲しいとは言ったけど」

 

「いや、けっこうここ当たるんだって。前もここで勝ってな」

 

 クラインと共にカジノゲームの場所に来て、俺は呆れていた。

 

 アスナと現実で付き合っている彼は、俺より二つ下。もうカジノにはまって、リアルマネー動くゲームだぞと呆れるが、

 

「よっっっしゃ!オレここで買って総督府のお姉さんアファシスにプレゼントするぜ!」

 

 アファシスにはタイプが色々あり、戦闘できるタイプ、多少のことは受け答えできる者と、完全にNPCの者がいる。

 

 クラインはそんなアファシスにお熱であり、ともかくここでカジノすることになった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「あーくそ、今日はダメだ」

 

 俺は少なくなったコインにため息をつき、クラインはまだクレジットをコインに替えていた。

 

「オレはまだやるぜっ、まだやれるぞ!」

 

 そう言ってクラインはまだやる様子だが、俺はこれ以上やるとアスナとユイにバレるのは困る。

 

 そうしていると、もう一人、彼はどこだ?

 

「テイルはどこだろうか?」

 

「ああ、あっち。ブラックジャックしてる」

 

 と、テイルはカードは17、ここでストップだな。

 

 だがテイルはまだ一枚コールしたっ!?

 

「テイル!?」

 

 と、その一枚は数字が4っ!?

 

 21になって勝ちやがった。

 

「て、テイル……」

 

「次……」

 

 ルーレットの席に行くテイル。その手には大量のコインが………

 

「………そう言えばテイルって、リアルラック高いよな」

 

 ………

 

 少し、もう少ししてもいいよな?

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 勝負は時の運、ルーレットは玉の流れの読みだろう。

 

 仮想世界でもこういうのはしっかりしていて助かる。おかげで、

 

「………赤の18と黒に」

 

 さすがに勝ち負けを繰り返す中、それでも、

 

「テイル、おま、凄くないか」

 

 どうにかコインを増やし続け、クレジットも増やしている。

 

「気にするな、欲しいものまであと少し」

 

 欲しいものがある、このカジノで手に入る。

 

 それが欲しいから、そろそろでかく勝負したい。

 

 と、

 

「全額はここか」

 

「えっ!?」

 

 キリトが驚く中、俺は0のマスに全て賭けた。

 

「えっ、えっ!? いや待てテイルっ!?」

 

「そこまでくるのかテイルッ!?」

 

 外野はそう驚く中、俺は気にしない。

 

 周りのプレイヤーをざわめく中、俺は平然としていた。

 

「………よし、付き合うぜテイル!」

 

「お、オレも男だ、付き合うぜテイルっ!」

 

「………」

 

 二人はいいセリフを言うが、あまりかっこよくないのは気のせいか。

 

「お、おい、テイルって、あのニュービーの」

 

「GGO最強のリアルラックのっ」

 

「お、俺も賭けようか?」

 

 だが俺たち三人以外賭けずに、ルーレットは、

 

 

 

「ぜ………0マス」

 

 

 

 歓声が響く中、俺の前に多くのコインが来る。

 

「お、おいテイルっ、テイル!」

 

「落ち着けキリト、クラインも」

 

 そう言って席を立つ。

 

「い、いやいやお前、まだ戦えるだろ?」

 

「無理、外す、絶対」

 

 ここ一番で勝負した以上、これ以上はダメだ。

 

 これからは負ける、俺はそう確信している。

 

「もうしばらくはカジノはやめておかないとな」

 

 こうして欲しい物を手に入れた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 準備を整える中、フィールドの帰り道、プレミアを見つけた。

 

「プレミア」

 

「ごきげんようテイル……」

 

 少し物思いにふけるプレミア。その様子に少し首をかしげた。

 

「どうした」

 

「はい……。少し、実は、この世界の」

 

「………」

 

「味がいまひとつなんです」

 

「………料理がいまひとつか」

 

 プレミアはこの世界の他では、よく料理を食べる。

 

 食事の喜びを知ったプレミアは、この世界においても食の探究がしたいようだ。

 

「分かった」

 

「分かったとは」

 

「あまりプレミアのような子を連れて行きたくはないが」

 

「穴場があるんですか!?」

 

 目を輝かせるプレミアに、仕方ないと連れていく。

 

「人が混むから、手を繋いでくれ」

 

「はい! あっ、ですけど……」

 

「いやか、それならいいが」

 

「すいません、ティアたちに申し訳ないですから」

 

「?」

 

 よく分からないが、ともかく穴場へと連れていく。

 

 穴場とは、本当に穴場ばあり、ショートカットにUFGを使用する。

 

 そして街の奥の奥地へとたどり着く。

 

「いらっしゃい」

 

「店長、客二人。とんこつこってりを二つ」

 

「あいよ」

 

「テイル、このお店は」

 

「店長がGGOで再現した、らーめんと言う食べ物が食べられる店だ」

 

「らーめん……」

 

 目を輝かせるプレミア。しばらくしてとんこつらーめんが出て来て、すぐに受け取る。

 

「ここは穴場で、俺以外本当に客いるかと思うくらいだけど、味は再現度高い」

 

「普通はアクロバティック技能が高くないと来れないくらいだからな。たまごオマケしておくよ」

 

「ありがとうございます」

 

 そしていただきますをしたプレミアは一口、らーめんを食べた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「テイル。私は今後、アクロバティックスキルを上げたいと思います。それかまた連れて行ってください」

 

「うん、わかった」

 

 二杯も食べて満足したプレミアを連れて、ゆっくりコースで帰る。

 

 なにげに帰り道も考えないと、危険なんだけどな……

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 全ての準備を終え、俺は砂漠を走る。

 

 あの大会、実体剣をだけでなく、手に入れたビークルを砂漠用などにチェーンして、砂漠を走っていた。

 

 できる限りエネミーは撃ち倒すが、弾薬を確保してだ。

 

 しばらくして広々とした山岳地帯へとたどり着き、この辺りは未開拓だった。

 

 カードキーのこともある中、ビークルを走らせていると、

 

「!?」

 

 地響きが鳴り、すぐに周りを見ると、崖から大岩が転がってくる。

 

 ビークルを動かし、全てを避けながら、周りを見渡すと、

 

「おいおい」

 

 ここはやはり馴染み深いらしい。

 

 山岳、崖上にいるのは間違いなく、

 

「『炎の神獣ヴァ・ルーダニア』」

 

 大トカゲと言わんばかりのそれは尻尾を岩壁に叩き付けて、岩を落として来るが、

 

「なめるな」

 

 即座に機械を動きまわし、ティアマトで穿ちながら、接近して乗り込む。

 

 バイク音を鳴り響かせ、楽々乗り込むことにできた。

 

 その途端、動くことを止め、ステージとなったルーダニア。

 

「神獣シリーズか、となると」

 

 光が集まり、ビークルは壊れやすい為すぐに物陰に隠し、構えた。

 

 大剣のような腕の『炎のカースガノン』。それが悲鳴のような雄たけびと共に現れた。

 

「………」

 

 だが俺は、笑う。

 

「さあやろうかガノン?」

 

 雄たけびと共に、俺との戦いが始まるが、こちらの方が優先である。

 

 ティアマトの弾丸、二刀流のフォトンソード。

 

 そしてなにより、

 

「来たか」

 

 炎を集め出す彼に対して、最低一つだったのになと思いながら、プラズマ・グレネードをいくつも取り出す。

 

 それが炎を集める彼の下に集まり、静かに構える。

 

 全てが爆発すると共に駆け、彼の下に向かう。

 

「お前この世界じゃ分が悪すぎないか?」

 

 そう言いながら彼は一斉の迷いなく、斬り刻み、ティアマトの弾丸を放ち、あっけなく倒し、フィールド探索の続きに戻る。

 

 ちなみにここで手に入ったのはガーディアンナイフをより強化したもの。フォトンソードの上位に食い込みそうなレベル。キリトに自慢しよう。

 

「てか、俺ここには別のエネミー探しに来たのに………」

 

 すぐにグレネードの予備を確認したが無く、敵プレイヤーと出くわすことが無いことを祈りながら、ビークルを走らせてエネミー狩りを開始した。

 

 目的の物は、どうにか確保できた。次の場所に神獣がいないことを祈ろう。

 

 そう思っているんだよな彼奴らって………

 

「少しユイちゃんにカーディナルシステムについて詳しくレクチャーしてもらおうかなほんと………」

 

 どこから仕入れるんだ、この情報………

 

 そう思いながら、荒野を駆け巡るのだった。




爆弾を大量に吸い込むカースガノン。無理ですねこりゃ。

お読みいただきありがとうございます。


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第31話・関係

様々な意見や指摘、感想をへて、より楽しんでもらえていることを願う日々です。


 次の場所に出向こうと、俺は色々準備していた。

 

 準備とは、一人で行動する準備だ。

 

 言っちゃ悪いが、神獣系やガーディアン系は、一人で戦っていた方が効率がいい。

 

 だからヒカリやみんながいると、困る。

 

 それを言うのもきっとヒカリは傷つけるので、他のみんなで行動していて、俺がフリーの時間帯で、ビークルを走らせて動く必要があるのだ。

 

「んで、クラインはどうして倒れてるんだ?」

 

 そう、なぜか燃え尽きて灰になるクライン。何があった?

 

「はいです!クラインは命がけでクエストをしたのです!」

 

 我がアファシスが言うには、クラインはいつもアタックするアファシスからのクエストに、ウチの子を連れて行ったらしい。

 

 謎の発掘作業をしたら、それが急に飛び立とうとしてクラインはしがみつき、ヒカリとヒカリと共にいたエギル、キリトが見守る中、星になって帰ってきた。

 

 なにを言っている?

 

「いや、君の言いたいことは分かるけど。実際そうとしか言えなくて」

 

 ………まあいいか。

 

「エギル、デイジーの方はどうだ」

 

「ん? 別に問題ねえよ。むしろそのままウチで働いてて欲しいくらいだぜ」

 

「それならいいさ」

 

 そして俺は準備を終えて出かける。

 

「マスター。わたしはこれからシリカたちと狩りに出かけます。知らない人について行ってはいけませんよ!」

 

「ああ」

 

 ヒカリの頭を撫でながら、俺はすぐに出かけていく。

 

 次は何が出るか、そう思いながら………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「この辺りのエネミーは狩り尽したか」

 

 ドロップ品を確認しつつ、この山岳地帯もルーダニアを除いてなにもいない。はず。

 

 そう思いながら、集めた素材を確認していると、急にあたりが暗くなった。

 

「なぬ?」

 

 空を見上げると、それはいた。

 

 空高く飛び回り、それはレーザーみたいなものをこちらに向けている。

 

 すぐにビークルを走らせて、ビームを避ける中、それを見た。

 

「今度は『風の神獣ヴァ・メドー』かよッ」

 

 GGOの空を支配していると言わんばかりに飛翔するそれは、鳥の神獣だ。

 

 やはりここは神獣シリーズがいるエリアらしい。

 

 空を飛び、悠々と飛ぶそれに隠れた位置に来て、少しだけ様子を見る。

 

 物陰からそれを見たが、狙撃ポイントは見にくい。

 

「おいおい、これ初見は無理だろう」

 

 空を飛ぶプロペラらしいものが見える中、どうすればいいか悩む。

 

 別にあれを倒す必要は無い。だが血が騒ぐ。

 

 静かに考え、俺流で行くことにした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 山岳、近づいてきたところをUFGで引っ掛け、浮いているところを確認し、撃つ。

 

 弾丸で狙うのはプロペラ。プロペラに弾丸が当たると、急に空高く浮上した。

 

「のわっ」

 

 すぐに放さないようにするが、視界がグルグル回る。体験でこんなことは何度もあるが、空高く、まるでALOの妖精の時みたいに空を飛びながら、静かに銃を構えた。

 

「おそらくは浮上して仕切り直したら次なんだろうが」

 

 狙えるものは狙う。そう思い、弾丸を放ち続けた。

 

 全てのプロペラを射貫く。体験ではバリアだったが、これでどうなるか。

 

 結果、落ちる。

 

「………マジで」

 

 GGOではあり得ない高度に入る俺は驚きながら、急な空中停止に驚く。

 

 すぐに体制を確認して、UFGを連続使用して中に入る。

 

 UFGを天上に放ち、地面が迫るのを確認しながら、落下ダメージをUFGで軽減できるか賭けに出た。

 

 一瞬の浮遊感、そして全身に重力を感じ、地面をこする音が鳴り響く。

 

 どうにかHPゲージは問題ない。空中で振り子のように動きながら、停止した瞬間、やっと地面に下りる。

 

 それと共に外に出ると、目の前に光が集まり出していた。

 

 今度はカースガノンかと思いながら、ビットを大量に出して現れたそれに、俺は、

 

「多いな」

 

 そう思いながら、ティアマトを構えながら、駆けだした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 悲鳴のような雄たけびと共に、無数のビットが高速で動くが、軌跡が重なる瞬間、ティアマトでまとめて吹き飛ばす。

 

 ビットを破壊しつつ、カースガノンを攻撃する中、どんどんビットが出て来る。壊れた瞬間から出て来て、HPゲージに応じて数が増える。

 

「めんどくさくなったなお前」

 

 悲鳴のように抗議が響き渡り、無数のレーザーが一斉に放たれた。

 

 だが、いまの俺には怖くない。

 

 瞬間全ての時間がゆっくりと遅くなり、フォトンソードを取り出す。

 

「セイ」

 

 全てのレーザーを纏めて刃が受け止め、身体全体をひねり、全てを纏う。

 

「ヤアアアアアアアアッ」

 

 実体剣でその背中を押し込め、機動を変えてビーム全てを纏めて跳ね返す。

 

 吹き飛ぶカースガノンに向かって、徹底的に斬る。

 

 あの体験では苦戦したが、ここはゲームでGGO。

 

 悪いが負ける気はしない。

 

 こうしてカースガノンを倒し、手に入れたアイテムを見て、

 

「なあにこれ?」

 

 そう思いながら、どうすっかなと、天を仰いだ………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「さてと、あと少しか」

 

 あの後、手に入れたアイテムの使い道は保留して帰還。

 

 いまのところ誰にも無茶にソロプレイはバレていない。ユウキと共にのほほんとしているヒカリになごみながら、ほっと一息つく。

 

 その後は今日も今日とてフィールドでカードキー探しと共に、素材集めをしている。

 

 一人なのは仕方ないが、気を付けて進む。フル装備だからとは言え気を抜けない。

 

「って、レイン?」

 

 さすがにビークル移動はこの前の限界が来て修理に出していた。トコトコ歩いていたらレインがなぜかいて、フィールドを進んでいた。

 

 目が良い方と、スナイパーや敵プレイヤー警戒していたから気づいたが、向こうは俺に気づいていないようだ。

 

 確かログインできるか不明だったが、ログインできたらしい。

 

 かなり遠くだが、追おうと思えばまだ追える。

 

 ここはまだガーディアンなど、未確認エネミーが出て来ると噂。少し気になり彼女を追うことにした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「これは」

 

 ステージを思わせる岩場で、レインは一人歌を歌う。

 

 ここ最近レインはアイドルとして知名度が上がるが、やはり練習はかかせないようだ。

 

 セブンの話では姉妹でステージに出たい、お姉ちゃんと共演したいなど。

 

 あとは研究ばかりで窮屈、このデータを整理して欲しい、このままウチで働かないか。あれ? ここ最近なんかセブンとの会話がおかしな方向に傾いてないか俺?

 

 ま、まあともかく。このまま聴いていたいが、俺はそっと帰ろうとした………

 

「きゃーーーー」

 

「っ!? レインっ」

 

 悲鳴が聞こえ引き返すと、レインの装備を溶かすエネミーがいて、それを光剣で払う。

 

「大丈夫かレインっ」

 

「あ、ありが、って……」

 

 装備は衣類も含まれていて、素肌がさらされたら、一発殴られた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ご、ごめん。つい」

 

「いや」

 

 いまはコートを貸して、装備を予備の物に変えている。

 

「あんたがまさか聴いてたなんて……」

 

「すまない」

 

「……別にあんたならいいわよ」

 

 そう言われながら、コートを返してもらう。すぐに着ることはせず、後で洗って着よう。

 

「そう言えば、あんたはどうしてここに?」

 

「欲しい素材があったからな」

 

「そうなんだ」

 

 そう話しながら、レインとは、少し思い出しながら話し合う。

 

「SAOじゃ、色々あったけど。あんたとは長い付き合いよね」

 

「世話になったよ」

 

「……そう言えばさ、リアルでも歌聴いてくれてるんだよね」

 

「ああ」

 

 レインは頬を赤くしていた、やはり恥ずかしいのだろうな。そんな感じにしばらく雑談する。

 

 彼女はどこか懐かしく、嬉しそうにしていた。

 

「わたしね、この世界でもコンサート開こうとしてるんだ。もう機材は揃って、次は衣装かな」

 

「ん、衣装?」

 

「うん、どんなのがいいか迷っててね」

 

「………ふーん」

 

 そんなたわいない会話をしながら、グロッケンへ帰る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「メッセが来て、様子を見に来たけど」

 

 キリトが戸惑いながら、俺のホームに来る。

 

 いまの俺のホームは、

 

「いっや~、いいなこれ! うんいいっ」

 

 クラインは舞い上がり、俺はお茶と菓子の準備。エギルも手を貸してくれる。

 

 イツキだけ、どうしても抜け出せないことがあるからと、ここにはいない。かなり残念がっていたな。

 

「………」

 

「シノのん、表情が硬いよ」

 

「だって、私はこんなの」

 

「まあまあ」

 

 リーファたち、そう、いまウチのスコードロン女性メンバー全員。衣装《ヴィクトリアン・センチュリー・コスチューム》と言う、可愛らしい衣装を着ている。

 

 デイジーがマスターであるツェリスカの為に、着てほしい、着たがっていた衣装を全員分用意したのだ。

 

 ツェリスカも、本音を言えばこういう衣装を着たかった。それを似合うデイジーに着せていた。

 

 だがかたくなな彼女のことを考え、ユイちゃんも含め、全員分をそろえ、いまお茶会を開く。

 

「テイルさん、場所提供や、素材アイテムを確保、ありがとうございます」

 

「気にしないでくれ、たまたまレアアイテムドロップ率を上げるアイテムが手に入っただけだ」

 

 カジノで手に入れたそれを使うと、さすがと言うか、簡単に入手した。

 

 たださすがに数が数なため、カードキー探しと平行なため、時間がかかっただけ。

 

 途中で血が騒いで、神獣退治したしな………

 

「あっはは、ボクこういうの初めてだよ」

 

「このケーキおいしいですね、紅茶もおいしい」

 

「きゅう♪」

 

「ほんと、テイルって器用よね」

 

「調理スキル、あんたのことだから、上げてないはずなのに」

 

 ユウキは着ている服が新鮮で楽しみ、シリカとピナはケーキを食べ、フィリアとレインは会話を楽しむ。

 

「キリトくん、どう、かな?」

 

「ああ、似合っているよアスナ」

 

「パパ」

 

「ユイちゃんがもう可愛くて可愛くて♪」

 

「ほんと、可愛いぞユイっ」

 

 向こうは向こうで親子が大騒ぎをして、周りは少し呆れていた。

 

「はいはい、あそこは親ばかね」

 

「あっはは、あたしもこういうのは初めてかな?」

 

「ケーキもおいしく、楽しいです」

 

 リズが親子の様子に呆れ、ストレアとプレミアがケーキを楽しむ。

 

 ツェリスカもデイジーやヒカリの様子に嬉しそうにしていて、クレハは少し恥ずかしそうにしていた。

 

 クラインは、キリトとエギルと同じように手を貸しながら、彼女たちを接待する。

 

「クレハも、端にいないで出てくればいい」

 

「それは……、恥ずかしいのよ、もう」

 

 そんなことで怒られながら、ホームが賑やかになる。

 

「テイルさん」

 

 ユイちゃんが両親からのスクショから解放されて近づいてくる。

 

「あの……、似合ってますか?」

 

「ああ、可愛いよ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 テイルからそう言われたユイは、少しうれしそうに微笑み、恥ずかしそうにしていた。

 

 その様子を、親は見て固まる。

 

「………キリトくん」

 

「そう言えば、前々からユイはテイルと仲がいいけど」

 

「おやおや~、ついに気づかれましたな~」

 

 ストレアがにやにやとそう言い、リズたちが軽くせき込む。

 

 レインだけは本気でせき込み、何度も二人を見る。

 

 そんな周りの反応を、世界は待たない。

 

「テイルさん」

 

「デイジー」

 

「あの、その……私のことも、どう、ですか……」

 

「可愛いよ、それ以外に俺は言葉が出ないな」

 

「そ、そうですか」

 

 嬉しそうにするデイジーに、嬉しそうにしていたツェリスカは固まる。

 

 ヒカリが嬉しそうに突貫して、彼はその頭を撫でる。幸せそうなその様子に、微笑ましいが、

 

「………テイルって、よく考えればモテない方がおかしいわよね」

 

 リズがシリカとこそこそ話す。

 

 頭が良くて、性格も良くて、有力物件と言う話。

 

 前々から浮上する彼は、なぜか彼女ができない方が不思議なくらいである。

 

「いまインタビューの話もあるから、どうなるか分からないよね」

 

「もっとモテモテになったりして」

 

 フィリアの言葉に、ストレアも参加する。

 

 ユウキとレインはただ黙り、アスナとキリトが心配そうにユイを見る。

 

 クレハもまた黙り込み、プレミアはティアたちに報告しなければと呟く。

 

 ツェリスカは静かに微笑み、テイルは静かに寒気が………

 

 そんな中、あっと思い、彼は何を思ったがレインに近づく。

 

「レイン」

 

「な、な、なによ?」

 

 少しユイたちのことで驚いていた彼女は、彼が突然話しかけて来て、少し戸惑う。

 

 彼はアイテムストレージを操作して、何かを取り出す。それは、

 

「!!? それは」

 

 ツェリスカがそれに驚き、食いついて来た。

 

 それは羽根をイメージした紅いドレスであり、レインは少し驚きながら、それを見る。

 

「これって」

 

「物凄く珍しい、コーディネイトのアイテム。レシピをあなたが手に入れたのっ!?」

 

「ああ、ある奴を倒した時、レシピとそれが手に入ってね。レイン、お前にいいかなって」

 

「わた、しに………」

 

 それを見ながら、少し自分に重ねる。なかなか似合う様子に、周りが微笑む。

 

「アスナにレシピを渡すから、いずれGGOに流行るけど。ここでコンサートでもやるとき、着てくれると嬉しい」

 

「テイル……、ありがとう」

 

 微笑むレイン。だが、

 

「むむむむむ~」

 

「ヒカリ」

 

「マスターずるいですっ、ずるっこですっ。わたしも欲しいですっ!」

 

「あっ、ならボクもっ♪」

 

「ユウキまでそんなこと言われても」

 

 困惑する彼はその後、みんなにケーキを渡しながら、彼女は次のコンサートのことを話し合う。

 

 そんなこんなで、楽しいお茶会は続いていく。




セブンとなにげに連絡を取り合う、姉は知らない。

精神年齢的に彼、彼女できるだろうか?

それでは、お読みいただき、ありがとうございます。


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第32話・荒野の闇

攻略の中、不安な影が差す。


 それはカードキーを集め、みんなそろそろボス戦を考え、弾薬補給やアイテム見直しなどで町に戻った時、

 

「ねえ、どこかでお茶にしない? 今日はずっと砂漠で狩りをしていたから疲れちゃって」

 

「そうだな、さすがに冷たい飲み物が欲しい」

 

 イツキとツェリスカ、クレハと組み、デイジーとヒカリがいる中で、クレハはそう言う。全員が満場一致で近くのカフェで休むことに。

 

 中はそこそこ混んでいる席を見つけ、各々が飲み物を頼む。

 

「ずいぶん混んでるな、珍しい」

 

「なにか放送してる? モニター」

 

「MMOストリームじゃない?」

 

 バーのような店で、大型スクリーンに映るテレビ番組。別VR空間の様子など映している。いまは人気のVRゲームの紹介や、攻略情報の特集のネット番組だ。

 

 そこから何度もインタビューのオファーが来ていて、もう嫌になるほど聞いていた。

 

 テレビの中の、ゼクシード? と言うプレイヤーがかなり自信満々にインタビューを受けている様子が流れている。

 

「ははは、気持ちいいくらいに調子に乗っているねえ。AGI型最強論を唱えていたのはゼクシードじゃないか」

 

 イツキの言葉通り、確かそんな話を聞いた。

 

 事前にアバターの成長方針に、色々調べた辺りだろうか? もともとこれはコンバート、引き継ぎだが、ヒカリは違うので参考にしようとしたが、結局あまり参考にならなかったな。

 

 そんな彼だが、いまの彼は手のひらを返したように否定して、雑談する。

 

 こちらはどうなんだろう。そう考え込んでいると、

 

「ん……」

 

 一人のプレイヤーが静かに立ち上がる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

『ゼクシード! 偽りの勝利者よ! 今こそ、真なる力による裁きを受けるがいい!』

 

 そう高らかに宣言し、ゼクシードに拳銃を発砲。

 

 それは画面を通り過ぎて言ったのを見ていた。

 

 すると画面の中のゼクシードが苦しみだし、強制ログアウトした。

 

「えっ、なに、なにが起きてるのっ!」

 

「ゼクシードは緊急ログアウトしたようだけど……。あの苦しそうな表情、おかしいわね」

 

「それにさっきの拳銃使い。確か死銃(デスガン)って名乗ってたっけ? 彼奴は」

 

「イツキが追いかけた」

 

 すぐに周りを確認するが、目で追った記憶を思い出すが、やはり弾丸は画面を貫通している。

 

 ゼクシードが苦しみだしたとき、自分のことを名乗っていたが、アバター名は隠されていた。

 

 すぐに動けず、イツキが動くのを見て、四人を落ち着かせると同時に、先ほどの男の行動を思い返す。

 

「いまのはゼクシードに攻撃を?」

 

「まさか、それはあり得ない。ここはGGO、《ソードアート・オンライン》ではないのよ」

 

「そ、そうだよね。なにかの演出かトラブルよね」

 

「そもそも《MMOストリーム》はGGO内の番組じゃないわ」

 

 ツェリスカはそう言って、断言している中、多少のざわつきだけで、店の中はすぐに落ち着きを取り戻し始めた。

 

 番組の方は彼の強制ログアウトに驚きながらも進行していて、そんな会話の中、なにか違和感を感じる。

 

 結局イツキも彼を見失い、そんな影を残す。一日だった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 しばらくして、現実世界で朝、いつものランニングを終えて帰ると、

 

「お帰り」

 

 俺の父親が珍しく、そして慌ただしく家の中で出かける準備をしていた。

 

「父さん、仕事?」

 

「ああ少し、しばらく帰れそうにないな」

 

 父親が仕事の為、出かけていく様子を見送る。

 

 なんかあったのだろうと、親の仕事に納得しながら、冷蔵庫からミルクを取り出す。

 

「最近物騒なのかな」

 

 そう呟き、飼い猫がすり寄ってくる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 謎の事件からまた少しして、

 

「マスター、メールが来ました! ジョーからですよ!」

 

 バザルト・ジョーから最後の果たし状が来た。

 

 最後らしいので、行くことになるが………

 

「ギャラリーが多いことにはすまないと思っている……」

 

 フィールドのとある一角、たった一人待っていた彼に悪いが、俺たちは大所帯で着てしまった。

 

 ヒカリだけではなく、クレハだけでなく。キリト、アスナ、リーファ、シノン、ユウキだけでもなく。

 

 イツキやツェリスカまでいるという、なんていうかな………

 

「ともかく、最後の試合。でいいんだよな?」

 

「おう、男の二言は無い。この勝負、お前さんはアファシスちゃんを、俺は一番大事にしているものを賭けての勝負よっ」

 

 そうお互いルール確認す。別になにもいらないのだが、ヒカリを渡すわけにはいかない。

 

「勝負方法は」

 

「男の究極勝負と言えば、決まってらあ! 一対一の決闘だっ」

 

「なら俺はガンゲーであろうと、全力を出す為に全力でやろう」

 

 それは光剣も使うと言う意思の表れであり、ヒカリだけは誰にも渡す気は無い。

 

「それならいい、お前さんとアファシスちゃんの絆は知っている。だが、男には引けないときがある! 全力で行くぜ!」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「始まったな」

 

「バザルトくんはああ見えて凄腕だからね。彼は」

 

 スナイパーライフル、それも《アンチマテリアル・ライフル》の連射速射。

 

 そして向かってくる弾丸は二刀流で切り払うテイル。

 

「相変わらず狙っているそぶりの無いのに、的確に撃つな………」

 

 ほぼ取り出すと共に、彼は速射する。

 

 射撃予測円(バレット・サークル)の中ならそんな荒業できるのだろう。キリトたちはそう納得していた。

 

 ただ速射が速過ぎる為かは知らないが、彼は射撃予測線(バレット・ライン)が見えず、より厄介だ。

 

「ええ。狙撃の連射や速射なんて聞いたことないわ~……。それに光剣の二刀流」

 

 それに爆弾も器用に使う中、爆発の中で一気にUFGで近づき、接近戦を仕掛けた。

 

 道具の切り替えと扱い。そして精密射撃。キリトとユウキには無いプレイヤースキルに、シノンには無い精密度。

 

 各々がそれに深く観察する中、彼は全く動揺も何もなく、静かに確実に動く。

 

「これは、経験の差を埋めるな………」

 

 銃の乱射の際、光剣を取り出し全て斬り落とすなどの芸当も見せる。

 

 それにクレハたちは驚くが、キリトは面白そうに笑う。

 

「お兄ちゃんみたい……。前々から思ってたけど、テイルさんって何者なんだろう」

 

「リアルの詮索はマナー違反でも、ここまでくると知りたくなるわね」

 

 リーファもシノンも驚く中、イツキは静かに戦いを見ながら、

 

「みんなも彼のことを知らないのかい」

 

「いえ、あたしは、小さい頃の幼なじみです。ですけど、ここまで凄いなんて」

 

 言葉を無くすクレハ。

 

 明らかなトップレベルの動きに、ただ見つめるしかない。

 

「どうして……」

 

 その様子をただ静かに見守った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「たぁぁぁ〜、負けた」

 

「勝った」

 

 戦いはだいぶ時間が経ち、それでも彼は機械的に呟き、ジョーはその場に座り込む。

 

「一対一の戦いでも負けるとは」

 

「ジョー、マスター。お疲れ様です!」

 

 ヒカリが二人に近づき、ジョーは立ち上がる。

 

「アファシスちゃん?」

 

「わたしはマスターのアファシスです。ジョーのアファシスにはなれません。でも、ジョーは銃が大好きないい人です、わたしの友達になってください」

 

 ヒカリはそう言い、俺は一息つく。

 

「マスターもありがとうございます、とてもかっこよかったです!」

 

「ああ」

 

 頭を優しく撫でながら、その様子にジョーは天を仰ぐ。

 

「くぅぅ、男に涙は不要だって言うのに、なぜか目から水分が出ちまうっ。いや、これは鼻水に違いねえ」

 

 それはそれでどうだろうか。

 

「テイル、約束通り。オレ様の一番大事なものをくれてやるっ」

 

 そう言えばそう言う話だった。

 

 彼からいったい何が? カードキーだろうか?

 

「オレ様だ」

 

 その時、空気が読めない俺でも空気が分かった。

 

「はっ?」

 

「へっ?」

 

「それは」

 

 女性たちもあまりのことに言葉を無くし、全員なにも言葉が出ない。

 

 こうしていぶし銀なプレイヤー、バザルト・ジョーが時々クエストに参加する。

 

 ちなみに彼のスコードロンから、文句も何も無かった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「この前は大変だった」

 

「お疲れ様ですマスター!ステータス振り直しのアイテム確保と武器の整備ですか?」

 

「色々考えないと」

 

 今回みたいな一対一はどちらかと言えば、俺の得意分野。

 

 長い年月一対一、それも巨大な敵に対しての戦いで、俺はそうそう負けないだろう。

 

 だが過信はできない、なにより昔より俺は、幾分か気が抜けているのは分かる。

 

 そんなことを考えていると、キリトからメールが届く。

 

「なんだ」

 

 急にホームに呼ばれ、急ぎらしいのでホームへ向かう。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「キリト、どうしたの? 突然、全員集合なんて、めずらしい」

 

 レインやフィリアなどもいる中、全メンバーいる中で、キリトは重々しい顔でそこにいる。

 

「ああ……実は。突然で悪いけど、みんなにはしばらくGGOにログインしないでほしい」

 

 その言葉に全員が驚き、キリトを見た。

 

 だがすでにアスナなど、彼女らには話は通していた様子が分かる。

 

「そんな、それじゃ《SBCフリューゲル》の攻略はどうするの?」

 

「どういうことかしら~? もちろん、相当の理由はあるわよね?」

 

 キリトが静かに、真剣な顔で話し出す。

 

 それはまさにキリトが厄介ことに首を突っ込んだらしい。

 

 別に自分から首を突っ込んだわけではないらしい。ある人物から、このGGOで不穏な事件が起きている。

 

 訳があって言えないが、ある事件をきっかけに知り合った役人。

 

 その言葉にレインたちの事件を思い出す。

 

(確かSAO事件で、俺たち帰還者のケアを担当した役人か?)

 

 レインやスメラギと繋がり、VR業界を見極めようとした役人。

 

 キリトが言うには、依頼を引き受ける条件として、この極秘情報を俺たちに話すことで引き受けたらしい。

 

(主人公過ぎるだろ彼……)

 

 こんなんだから自分は彼のことを主人公とイメージしてしまう。

 

 彼の話から、ある事件の相談と言う名の協力体制を約束したようだ。

 

 ある日、死亡事故が二件起きた。どちらも一人暮らしで発見が遅れ、死体はだいぶ痛んでいた。

 

 死亡解剖の結果、死因は急性心不全と判断される。

 

 二人とも、VRゲーム中に死んだと思われるらしい。

 

 そして彼らはあるゲームのトッププレイヤー。

 

 それはランキングにも上がるプレイヤーで、その名前の中に、

 

「『ゼクシード』、それに『薄塩たらこ』と言うプレイヤーさ」

 

「ゼクシード? それって《MMOストリーム》で変な人に銃で撃たれた?」

 

 それになにか嫌な汗が流れ出す。

 

「銃で撃たれた? そいつは死銃(デスガン)と名乗らなかったか?」

 

「そう名乗っていたはずだ」

 

 どうも彼が薄塩たらこも撃ったらしく、詳しい話を聞かれてくるが、

 

「アバター名はプライバシー機能で隠されていたよ。顔の方はマスクで全体を覆っていたので分からない」

 

「身長はクラインくらい、細身の鍛えられたアバターだった」

 

 イツキと共に当時を思い出す。それと、

 

「気になるのは、ローブみたいなものを纏っていたところか」

 

「それと、僕の記憶が正しければ。使っていた拳銃は、これかな」

 

 そう言い、カタログからその拳銃を見せてくれた。物はその辺でも手に入る品らしい。

 

「これが死銃(デスガン)が使っていた……。ッ!? この銃、なんで!?」

 

 その時シノンの様子が変わる。

 

 急に呼吸が乱れ、何かに恐怖していた。

 

 シノンが銃によるトラウマがあることを知っている。これに関わりがある?

 

 ともかく、知らないイツキたちはあえて聞かないことにしてくれた。

 

 そのまま話が進むが、GGOで殺人事件が起きている。そんな方針で、役人は事件の裏取りをしているらしい。

 

 だがGGOの使用、アミュスフィアの性能から見て、人を殺すのは不可能だと結論はもう付けていた。

 

 それでも裏取りが必要で、彼も万が一を考えて、みんなにこのことを伝え………

 

 ………?

 

(待て、俺はどこかでこの話を聞いたことないか?)

 

 記憶の糸を探る中、あることを思いだす。

 

 俺は転生者、この世界は俺の知る物語に酷似した世界。

 

 まさかこれもと考えつつ、ともかく、一連の事件は無関係と言い難い。

 

 あくまでも万が一の可能性を考えて、ログインしないで欲しいそうだ。

 

 とりあえず、まだ確定ではないが、トッププレイヤー狙いなら危険なのは、

 

「キリトくん、アスナくん、シノンくん、ツェリスカくんに、ついでに僕。そして」

 

「俺か」

 

 クレハたちが青ざめる中、俺は冷静だ。

 

 幸運のニュービーやら、話題だけなら尽きていない俺。狙いとしては的過ぎる。

 

 ともかく、アスナたち、すぐに話を聞いたメンバーはキリトが残るなら残るとのこと。

 

 イツキたちも、結局は残るを選択するだろうが………

 

(俺は)

 

 まず考えよう、事件のことを。

 

(まずVR内で『殺人』をする場合か……、どうすればできる。まずソードアート・オンラインはどうだ)

 

 そして考えれば、少しずつ答えらしいものが見えるし、可能かと思う。

 

 だがそれでも『条件』が整わ………

 

(………本当に整わないか)

 

 そう思い、調べものをしながら、攻略を考えないといけない。

 

 物凄く頭が痛くなる。

 

(シノンのこともある、考えないといけないことが山積みだ)

 

 事件ばかりが残り、荒野の世界に冷たい風が吹いていた………




キリトくん主人公と思いたくなくても、行動でそう感じてしまいますね。

それでは物語はそろそろ終盤へと進みだします。

お読みいただきありがとうございます。


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第33話・攻略の選択

ついに攻略が終わる。


 カードキーを集める中、町中、クレハが一人でため息を付いているのを見つけた。

 

「クレハ」

 

「あっ……。テイル、さん」

 

 さんと呼ぶとき、クレハはリアルのことを考えていた証拠か。さすがにここまでくれば分かる。

 

「クレハ、どうした。いまはリアルを知るのは俺だけだ」

 

「………」

 

 少しだけ考え、しばらくして話してくれた。

 

「お姉ちゃんが、超難関の国家ナントカ試験を一発合格できるって話が、いま出てて」

 

「ああ、あの子か」

 

 そう言えば、ゲームゲームでだいぶ忘れていた。

 

 もうだいぶ時間が過ぎていて、もうすぐ一年ほどか。

 

「それはみんなでお祝いするのか」

 

「はい。たぶんですけど、お母さんが話してると思います」

 

「母さんたちは連絡し合ってるからな」

 

 そう考え込みながら、クレハはどこか複雑そうだ。

 

 あの家は、そのな………

 

 クレハは別に悪いわけでは無い。

 

 ただ周りはよく、クレハよりも姉の方に目が行く。

 

 手のかからない子ではあるが、それでクレハを比べたりするのはどうかと思う。

 

 一番面倒なのは、家族は別に比べたりはしていない。だが、どうしても意識するのだろうな。

 

「少し思い出します、お姉ちゃんの為に引っ越すときも、お兄さんは残念がってましたね」

 

「それは俺とまともに話をしてくれるのは、君たちしかいなかったからな」

 

「………」

 

 クレハは少し黙り込み、そしていつものように話しかけて来る。

 

「ごめん、少し色々あって。さああとはこれからねっ、一番に攻略しなきゃ、また明日、一番にログインするからっ」

 

 そう言って彼女と別れる中、俺は首をかしげたが、すぐに歩き出す。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 そしてカードキーを持つエネミーを倒し、閉ざされたゲートを開く。

 

 メンバーはヒカリ、キリト、アスナ、イツキ、ツェリスカ、そしてクレハ。

 

 ついにカードキーの先へとたどり着いた。

 

「ここが《SBCフリューゲル》の最深部なのかな?」

 

「誰の姿も見ないな」

 

「それって、もしかして一番っ!? 凄い、あたしたちが最速攻略だなんて!」

 

「やりましたマスター!早くおかあさんに会いに行きましょう!」

 

「まだ油断は禁物だよ、ほら」

 

 静かに奥の方を指さす。奥に巨大なロボットエネミーがいて、その前にコンソールらしいものがある。

 

 コンソールの前に来ると、なにか言葉やメッセージ画面が現れ出した。

 

 エラーによりノイズが走るために、ヒカリにしか分からない言葉。ヒカリがコンソールを操作しつつ、内容を確認。

 

 その言葉を聞き、ヒカリは驚いていた。

 

「どうした」

 

 ヒカリの説明では、ここ《SBCフリューゲル》の基幹システム。マザークラヴィーアに異常が発生。

 

 ただちにオペレーションマニュアルを実行せよと。

 

 その内容はマザークラヴィーアを初期化して、機能を回復。

 

「それは………」

 

 初期化、それはつもり、ヒカリたちアファシスの母親を、一度消すと言うこと。

 

「なるほど、再インストールの方法はどうするんだい?」

 

「イツキっ、あなた自分がなにを言って」

 

 イツキだけが冷静に物事を見て、ツェリスカはすぐに睨むが、

 

「いいんですツェリスカ。わたしはマスターのアファシスです、だから………、ちゃんと説明するのです」

 

 ここのコンソールから再インストールが可能。

 

 そうしたらヒカリたちのお母さんが消えるらしい。

 

 他に方法は、ヒカリがお母さんに会えれば、初期化せずに助けられる。だが………

 

「あのエネミーは、ようするにラスボスだろ? いまの僕たちじゃ、絶対にムリだ。そして全滅してしまったら、戻ってくるのに時間がかかる」

 

 イツキの言葉も頷ける。いまでもここを目指し、多くのプレイヤーが向かっている。

 

「テイル……。正直に言うわ、せっかくここまで来たんですもの。絶対にクエストはクリアしたい………」

 

「クレハ」

 

「でもね、レイちゃんを絶対にお母さんに合わせてあげたい。あたしには決められない」

 

 ちゃんと自分の意思を告げたクレハに安堵すると、ツェリスカも微笑みながら、

 

「私は……、リーダーのあなたの決断に従うわ~。それ以外は個人的信条につきノーコメントで」

 

「ツェリスカ」

 

「なんだそれは……。それで、どうする」

 

 イツキたちの視線が集まる。

 

「………」

 

 しばらく考え込みながら、

 

「俺の答えは」

 

 そんなものは決まっている。

 

「これだ」

 

 コンソールに《アンチマテリアル・ライフル》の弾丸をぶっ放す。

 

「マスターっ!?」

 

 乾いた銃声が乱射され、破壊不能の物で無かったのか、煙を立てて壊れてくれた。

 

「さすが《アンチマテリアル・ライフル》、壊せた壊せた」

 

 これで他のプレイヤーが来ても再インストールはできない。

 

 やられるつもりはないけどな。

 

「キミは……」

 

 全員が驚きながらこちらを見るが、キリトとアスナだけは笑っていた。

 

「相手の情報無しに戦うのは、いつものことだ」

 

 弾丸もあれば、HPゲージも多少あればいい。

 

 剣がある、ダメもどんなことがあろうと与えればいいだけ。

 

「ここにはヒカリに母親に会わせて、一番に攻略しに来たんだ。これ以外に選ばない」

 

「君らしいことだよテイル。勝とう」

 

 その言葉に、ただひたすら集中力を上げて、ラスボスを睨む。

 

「ああッ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 そして戦うバトルの中、彼の動きはいつもと違う。

 

「セイッ」

 

 ただひたすら、ダメージを与えることしか頭になく、攻撃は避ける。

 

 全てがギリギリで、一歩間違えれば終わる戦いだが、彼は躱し続けた。

 

 装備の切り替え、的確な攻撃、道具の使用。

 

 彼はアイテムを使うことに関して右に出る者がいないんじゃないかと思う。

 

 だからこそ思う………

 

 キミは、何者なんだい?

 

 俺だけでなく、アスナも疑問に思うほど、彼はSAO時代から、変わっている。

 

 そして長い時間が過ぎた。

 

「終わった……」

 

 彼がなんとか言葉を出すとそれしか無く、そして気持ちをすぐに切り替えて、すぐに奥へと進みだす。

 

「ヒカリ、急いで接続を。お母さんを助け出すんだ」

 

「はいっ、分かりましたマスター!」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「まさか本当に勝つなんてね」

 

 二人を見ながら、後ろで彼らは話し合った。

 

「ほんと、よく勝てたな………」

 

「普通なら、試しに何度か戦って、戦闘パターンを確認しますもんね」

 

 クレハの言葉に、ある人物は彼の動きを思い出す。

 

「そんな中、彼はまるで、知っていたように動いてた……。どうしてあんな動きができたんだ?」

 

 イツキはその疑問だけがぬぐえず、つい言葉にしてしまう。

 

「きっとそれは、ここで負けるわけにはいかなかったからだ」

 

「そうだね、レイちゃんのお母さんを助けるには、これしかなかった。ベストな選択だったと私は思うわ」

 

「ああ、アファシスにとっても、彼にとっても、この戦いはゲームでは無かったんだろう」

 

 キリトとアスナは分かり切った答えだと、彼の選択がそれしか選ばないことを確信していた。

 

「ゲームではなかった……」

 

 イツキはそう呟く中、彼らは勝利し、エンディングへと向かう。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 正直、やっと気が抜ける。

 

 スコードロンの名前や、俺の名前とヒカリのことが、メインコンソールに刻まれて、オリジナルスキルを得た。

 

 このスキルは自分と合わせれば使えそうだ。としか思えない。

 

 クエストクリアに、キリトのホームでパーティーをする。

 

 スキル《ハイパーセンス》と言うのも確認しつつ、みんなから祝われ………

 

「………胃が痛い」

 

 いま話を合わせて外に逃げた。

 

 だけど外もクエストクリアで話でにぎわっていて、メールボックスを見ると、インタビューが今度こそと言わんばかりに来る。

 

「………ヒカリがいなかったらログアウトし続けられるのに」

 

 セブンに頼み、ヒカリを別ゲームに連れて行けるようにしなければ、俺の精神が終わる。

 

「胃が………」

 

 最速クリアのスコードロンリーダーは、プレッシャーと言うものに押しつぶされようとしているのだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「相変わらず、ここぞって時は凄いことをするな彼は」

 

「そうね、狙撃の腕前じゃ負ける気は無いけど。一対一じゃ勝てるかどうかわからないわね」

 

 テイルホームでのパーティーの中、仲間たちは雑談していた。

 

 シノンがそれはUFGがある無しなく、彼ならば高速で接近しそうだと分かるためだ。

 

「彼奴、皆さんに慕われてるんですね」

 

 クレハは、そんな彼らの話を聞き、そう呟く。

 

「普段はぼーとして、あまり前に出ないけど。ここぞという決断をしたときは、誰にも負けない気がするよ」

 

「そういうところ、キリトそっくりね」

 

「ぼーとしてるところだけじゃないよな」

 

 そんな会話の中、クレハは静かにその光景を見る。

 

「彼奴は認められてる……彼奴は」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「マスター、ここにいたんですね!」

 

「ヒカリ、ああ」

 

「マスターに渡したい物があります。返却はできません」

 

 そう言い渡されたのは、なにかのお守りらしい。

 

「マスターのために用意したものですっ、マスターに持っていてほしいです!」

 

「ああ、ありがとうヒカリ」

 

 嬉しそうに撫でられるヒカリ。

 

 微笑ましい存在だ。胃の痛みが少し和らいでいった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「イツキ」

 

「やあ、キミか」

 

 パーティーが終わりに差し掛かり、イツキと会話する。

 

 彼もまた、パーティーから離れ、一人でいた。

 

「クエストクリア、おめでとう。まさかあっちが正解だったなんて。まああながちだけど、あそこが分岐点だった」

 

「まあ普通はOSの再インストールだろうけど、ヒカリのことがあったから」

 

「そうかい? 僕はやっぱり、再インストールだね……。そして、トゥルーエンドには至らない。やはり、僕には英雄になる素質は無いのか」

 

「英雄なんて、なるほどいいもんじゃないさ」

 

 その言葉に、イツキがこちらを見る。

 

「なぜ、そう思うんだい?」

 

「勇者や英雄は、人が作り上げたものだよ。キリトを見たりして、分かった。能力がある、力がある、そんな理由で色々な物を背負うのは、苦しい」

 

 その言葉を聞きながら、イツキも色々思うことがあるらしい。

 

 長い話の中、なにが言いたいかと言えば、

 

「キミは特別な存在だということさ。そんなキミが……今日、英雄になった。GGOの世界においても、特別な存在になった」

 

 そう言って、ストレージから銃を取り出す。

 

「これをキミに」

 

「これは?」

 

「僕がこの世界に来て、最初に買ったモノさ。キミに持っていてほしい」

 

「そうか」

 

 それを受け取りながら、ストレージに仕舞う。拳銃らしいそれは、あまりテイルが使わないものだが、

 

「この銃、大切にさせてもらうよ」

 

「はは、キミは律儀だね」

 

 そして彼らは、別々の道を歩き出す………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………キミの世界はキラキラしてるんだろうね」

 

 そう彼は言いながら、静かに街並みを見下ろす。

 

「人は簡単に裏切る生き物なんだよ……。始めてくれ」

 

 その瞬間、プレイヤーが次々とログアウトする中、彼は呟く。

 

「僕とキミが見ている景色は、やはり違うらしい」

 

 孤高の荒野に風が吹き、プレイヤーは全員ログアウトした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「あら、どうしたの? 今日はゲームのパーティーでログインしてるんじゃ」

 

「少し」

 

 現実世界、GGOにログインできなくなり、頭をかく。

 

 仕方なくリビングに行き、ミルクを飲みながら、

 

「事件といい、今回の事と良い……。また事件か」

 

 そんなことを呟くと、今日は帰っていた父さんが反応した。

 

「事件? VRゲームでなにかあったのか」

 

 そう言い、新聞から顔を上げた父親。

 

 ここ最近は帰ることが少なくなり、なにやら忙しいようだ。

 

「いや……父さんこそ気になるの」

 

「………仕事のことは言えん」

 

 そう言われ、少し考え込んだが、ともかくいまGGOで強制ログアウトが起き、ログインできないと伝える。

 

「………仕事に出るかもしれないな」

 

 そう重々しく呟く。それには静かな頷く。

 

「分かった、なにかあれば言うよ」

 

「そうしてくれ、あの子や木綿季ちゃんもいるんだろ?」

 

「あら、それは大変」

 

 会話を盗み聞きしていた母親。ユウキ、木綿季のことは息子以上に大事にしている両親。まあ自分も命より大事だが………

 

「息子を心配してくれ」

 

「私の子だ、そう簡単に死ぬことは無い」

 

 信用されているのか、そんなことで終わらされた。

 

 まあいいかと、なにも言う気にはなれず、ミルクをまた飲み干す。

 

「………はあ」

 

 ともかく、攻略が終わったのだから、次は死銃(デスガン)か。

 

「父さん」

 

「どうした」

 

「……話があるんだ」

 

 あまり褒められた手じゃないが、色々考えて動かなければいけない。

 

 すでにセブンに協力と、可能性は相談していた。

 

(悪いなキリト)

 

 この世界は、キリトと言う人物を中心に、全てが回る物語ではない。

 

 彼に全てを任せられるほど、もうできていないのだ。

 

 こちらも色々動かさせてもらうことにし、考え、行動するのみ。

 

 こうして、今日は時間だけが過ぎていく………




テイルもテイルで変わり始め、なにか企んでいる。

この辺りビビりながら作っています。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第34話・不協和音

突然の停電、強制ログアウトからの時間が経ち、彼はログインする。

転生者として、彼はなにをするか………


「お帰りなさいマスター」

 

 ヒカリがホームでそう言い、イツキやクレハ、ツェリスカたちがいる。

 

「昨日は突然真っ暗になってびっくりしました」

 

「ヒカリたちもか」

 

 ヒカリたちアファシスも、しばらくの間活動していなかったようで、色々話を聞いたが問題ないらしい。

 

「もう、昨日のサーバーダウンってなんだったかしら? すぐに復旧しないし」

 

「今頃ザスカーは苦情のメールが殺到しているだろうね」

 

「そうね~、きっと担当の方は大変でしょうね……」

 

 そんな雑談をしつつ、とりあえず、

 

「今日は……。まずはキリトたちを待つか」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「この前はびっくりした、急に切断されるんだもんね~。結局、あの時ログインしてたのは、みんな強制ログアウトされたの?」

 

「だろうな、ユウキは平気だったか」

 

「ボクは平気だよ!」

 

 微笑むユウキに、それはよかったと安堵した。

 

 可愛い妹のために、リアルの方で先生に連絡していたのだが、本人の口から聞いてやっと安心できる。

 

 キリトが言うには自分を含めて、他のプレイヤーもほとんどログアウトされていたらしい。

 

 リーファは先ほど、アナウンスで調査の結果、サーバーの不具合らしいと聞いたようだ。

 

 本当に全員集まる中、仕切り直しにパーティーで狩りに出るかと話が出るが、イツキが、

 

「待ちなよ、リーダーの意見を聞かないと」

 

「リーダー? ああ、キリトさんも参加できますか?」

 

 イツキの言葉に、クレハはキリトたちへと確認を取る。

 

「もちろん、だけど、このスコードロンのリーダーは」

 

「………存在感を消していたのに」

 

 ため息を付き、楽しようとしたのがバレたらしい。

 

「あ……、スコードロンのリーダーに登録されているのは、確かにあんただけど」

 

「勘弁してくれ……。ただでさえ胃が苦しい。人の意見を優先すると言うことで、このままキリトに変わっていたことに」

 

「君はなにリーダーを下りようとしてるんだ」

 

 ずっとみんなの意見が出る中、胃を押さえている男をこれ以上リーダーにしないでほしい。

 

 どうやらこのままなし崩しはダメであるようだ。キリトたちは苦笑しながら、俺は頭をかく。

 

「ともかく、ここはトッププレイヤーである、キリトさんやツェリスカさんの意見を優先すると言うことで」

 

「それはおかしくないかい? テイル、キミはもう名実ともにトッププレイヤーなのだから。それに、みんなキミを気に入ってこのスコードロンに入っている。もっとキミが積極的にリーダーシップをとってほしいな」

 

 正論になにも言えなくなる。かわりに顔色を変えよう。

 

「キリト、テイルの顔色が青ざめています」

 

「あんた、どこまでそういうのいやなの」

 

 プレミアとレインがそういうのだから、だがまあ仕方ないのだろう。

 

 元々他人との会話とか、拒絶反応するレベルであり、もうそろそろやる気も消えた。

 

 果たして俺にリーダーをやる資格はあるか? キリトにあげようってのが本音だ。

 

 例の件もあるし………

 

「まあまあ、リーダーだって色々な形があるだろうしさ。俺はクレハと二人三脚でいいコンビだと思うぜ」

 

「みんながいいなら、それでいいさ。ただね、少しどうかな……と思っただけなんだ」

 

 キリトが終わらせようとしているが、なぜか今日に限り、イツキは話を引き延ばす。

 

 それにはさすがに異を抑えつつ、内心首をかしげる。

 

「イツキさん、それってあたしの力が……、このスコードロンにふさわしくないってことですか………」

 

 ん? 一番相応しくないはこの状況で胃が危険な俺ではないか?

 

「どうしたのクレハ? そんなこと、誰も言ってないわ」

 

「言って無いだけ?……なーんてね」

 

「イツキさんっ」

 

 さすがにこれにはイツキの悪乗りが過ぎる。とはいえ、いま俺があれこれ言うのも、まずい気がした。

 

 アスナたちの方を見ると、少しだけ頷いてくれて助かる。

 

「クレハ、あなたは十分強いわ。だから、そんな自分を否定するようなこと言っちゃダメ」

 

「……でも……」

 

 シノンが静かに、クレハが気にかけていることを言ってくれる。やはり俺がリーダーとか間違ってるね。

 

「シノンくん、力にこだわっているのはクレハくんのほうだよ」

 

「真剣な人をおちょくったのはあなたでしょ」

 

「あー、それは謝るよ。すまなかった。むしろ僕は、リーダーは強さだけで選ぶのか? と聞きたかったんだよ」

 

「え、そんなわけないでしょ。だけど、そうね……。リーダーの基準なんて考えたことなかった」

 

「うーん。自然にそうなったかというか、いつの間にかみんなの中心になってたものね」

 

 なんか旗色が悪い。胃が痛い、少し胃薬飲みたい。セーフティ起動してくれないかな?

 

「テイル」

 

「? どうした」

 

 クレハが真剣な顔つきでこちらを見る。もう少し頑張ろう。

 

「あなた、自分が『特別』だっていうの?」

 

「すまない、リーダーの重責でいっぱいいっぱいなんだけど」

 

 特別な存在だなんてもうたくさんだ。

 

 別の意味で俺はそれがどんなに酷い意味かを魂に刻まれた。特別? そんなものになんか成りたくない。

 

「あたしは、あたしはあんたの後ろは、後ろなんてもういやなの!」

 

「どうしたクレ」

 

「あたしと戦いなさいテイル!」

 

 その後すぐさまホームから出る。アスナたちの静止も聞かず。

 

 こうして、クレハが少し暴走気味に、俺に戦いを挑んできた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「なんでこうなった」

 

 あの後の話をすれば、俺が勝って、クレハが一度俺たちから離れて行った。

 

 手加減はクレハにはバレるし、悪いだろうと思ったが、やはり俺は卑怯なりだろう。

 

 故に本気で戦うしか無かったとはいえ、俺は色々おかしいんだ。

 

 特別、そう、特別なんだ俺は。

 

 そう成ってしまった。なんだがそれは、周りを欺き、騙している気がする………

 

「クレハの奴」

 

 元々思いつめるタイプなのは知っていたが、知らない間に酷くなっていた。

 

 GGOの数あるトッププレイヤーではなく、一番のプレイヤーになる。

 

 一番、何者よりも一番。

 

 記憶や記録に残る自分が欲しかったのは………

 

(前々から知っていたが、酷くなったのは、引っ越し先でもお姉さんばかりか)

 

 仲間からも、いまはそっとしておくべきと話になる。

 

 お姉さんのいないこの世界で、お姉さんを超える。でなければ………

 

(嫌いになる……。か、そう相談されたときがあったな)

 

 小さい頃、お姉ちゃんが居なければいいと言いかけたあの子がいる。相談され、静かに面倒を見ていた。

 

 あの子は俺と一緒に居る時は嬉しそうであり、そんなそぶりは無かったはず。

 

(ああいや、俺があの子と一緒だと、必ずなにかしていても自分も混じろうとして我が儘言ってた。俺の所為か………)

 

 ため息をつく中、ツェリスカもリアルが忙しくなり、イツキは自分のスコードロンに戻る。

 

 急に仲間が去っていき、ヒカリは落ち込むため、頭を撫でるしかない。

 

「マスター、みんな出て行ってしまいました」

 

「出会いがあれば、そういうこともある」

 

「マスターは寂しくないのですか?」

 

「寂しいのは分かるが、イツキはスコードロンの仲間たちがいる。ツェリスカはリアルの仕事も大切にしている」

 

「クレハは」

 

「………」

 

 クレハだけはどうにもできない中、キリトからメッセが来る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 キリトからの用事は、なんとなく察しがついていた。

 

 それは事件を追うため、スコードロンからしばらく離れることだ。

 

 一応、アミュスフィアで人は殺せないとキリトがはっきりと分かっている。

 

 だがGGOで撃たれたプレイヤーが死んでいるのは事実だ。

 

「ただ現状では、死銃(デスガン)の正体も、目的も、その手段も、何もかも分からない」

 

「………」

 

「そして、これは極秘情報だから内密にしてほしいんだけど、ある研究施設から《ナーヴギア》が盗まれたらしいんだ」

 

「なに」

 

 いまなんて言った?

 

「えっ、で、ですけど、ナーヴギアは全部回収されたはずじゃないんですか」

 

 シリカの言う通り、あんなものは二度とかぶりたく無い為、さっさと警察機関に渡した。

 

 話では政府が資料として貸し出していた研究機関も、かなり厳重に管理していたらしい。

 

 まあ、ナーヴギアは事実上、最先端の科学技術だからな。だが、

 

「だが、事件の後だろ」

 

「ああ。ナーヴギアが盗まれたのは、事件が起きた後だ。その事件で起きた被害者と思わしき二人はアミュスフィアを使っていた。だから直接の関連はないかもしれない」

 

 その辺りは警察が必死で調べているらしい。

 

 だからキリトは積極的に死銃(デスガン)を探す為、《BoB》、バレット・オブ・バレッツが開催されるため、それに出るらしい。

 

 GGOの頂点を決める戦いであるため、多くの注目が集まる大会。

 

 さすがにこの大会に参加すれば、アバター名を隠していても直接対峙すれば知ることができる。打って付けと言うわけだが、

 

「キリト、ログイン状態はどうなる」

 

「明日から病院の一室を借りて、モニターされながらログインするさ」

 

「そうか」

 

 他のみんなも苦肉の策で納得したらしい。

 

 相手の手段が分からない以上、危険過ぎるからだ。

 

 問題はクレハやツェリスカが大会に参加しなければいいんだが………

 

 ともかく、これで話は解散し、俺はイツキのスコードロンに顔を出して、忠告しに出向く。

 

 その時、

 

「ねえ、ちょっと」

 

「シノン」

 

 ヒカリはそのままアスナたちとホームに残り、俺はイツキに報告しに出たとき、シノンが俺の腕を掴み、近づいて来た。

 

「悪いけど、私もしばらくパーティーに参加できないから」

 

「………シノ」

 

 大きな声を出そうとしたが、それを手で覆われた。

 

「シっ、悪いけど、あの銃を持った男……死銃(デスガン)は私が倒す」

 

 何をバカなことを言うんだこの子は。

 

「ダメだ狙われる」

 

「それでも、私は」

 

「ダメだ」

 

「………」

 

「………」

 

 頭をかきながら、黙る条件として、リアルの住所と名前を明かすことを条件に黙る。

 

 手口が分からない以上、現実世界に駆け付けられるようにしておきたいと伝えた。

 

「分かったわ、それでいいなら」

 

「………駆けつけられるのは、俺もログインする以上。大会後だぞ」

 

「それでも構わない」

 

 そう言うシノンは、頑固として発言を取りやめない。

 

 話を聞く限り、危険だとギリギリまで説得するが、それでも聞いてはくれなかった。

 

 こればかりは仕方ない。むしろ、何も言わずに出られる方が危険だ。

 

(これ以上引っ張れば、ほんとなにするか分からない)

 

 そう重々しい、久方ぶりの重りが身体に纏わりつく。

 

 ああこの感覚、まったく……、嫌になるよ………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 イツキは忙しいために、大会に出ないようなので、危険だから出ないように伝え終え、ホームに戻る。

 

「マスター、疲れた顔をしているのです」

 

「考えなきゃいけないことが多いからな」

 

 クレハはリアルで連絡はできる。

 

 だが、もししたら大会に出ようとすると思うとなにもできない。

 

「メールが来ましたよマスター」

 

「差出人は」

 

 こんな時にと思いながら、頭を盛大にかく。正直後にしてほしい。

 

「………」

 

 ヒカリが驚きながら、差出人を言わないため覗き込むと、死銃(デスガン)となっていた。

 

 自分を狙う犯行声明文に、仲間に連絡すれば仲間を狙うと言う内容。

 

「マスター」

 

「なんで死銃(デスガン)が俺のアドレスを……。それに」

 

 何かを送るらしい内容に、それに引っかかる。

 

「………まったく」

 

 分からないことだらけだが、やらなきゃいけない。

 

「マスター、マスターはこのまま死銃(デスガン)の指示に従うんですかっ!?」

 

「仕方ない、まあ、いつものことだ」

 

「マスター!」

 

 ヒカリの頭を撫でながら、やはり自分に準備と言うものはできないらしい。

 

「初見で全てを見抜いて、看破して突破する。全ての準備が終わり次第、従って斬るさ」

 

 あの体験でも俺はそう言うものだ。

 

 変わらないやり方に、もう笑いすら出ない。

 

「マスターは守るのですね、大切な人達を」

 

「ああ」

 

 クレハを初め、キリトだって大切な仲間だ。

 

 その仲間を巻き込んだのだから、覚悟してほしい。

 

「お前を巻き込んだんだ、後悔させてやる」

 

「マスター……」

 

「大事なものが関わるときの俺は強い、信じてくれヒカリ」

 

「はいっ、了解なのですマスター!」

 

「なによりも」

 

「はい?」

 

 首をかしげるヒカリに対して、俺は切り札を何枚か切る。

 

 そう、相手は俺のことを知らない。

 

 俺は、もう手段なんてもの知らないのだ。

 

「了解なのですっ」

 

「頼んだぞヒカリ」

 

 できる手は全て打ち、後は自宅に送られるだろう品物を待つためにログアウトする。

 

 こちらのことを舐めているようだ。

 

 悪いが、

 

(俺は普通じゃない、転生者なんだぜ)

 

 その所為で習得しなければいけないものは、全て習得した。

 

 仲間に手を出すと言うのなら、

 

(いいだろう。ぶった斬るだけだ)

 

 そうして、送り主の指示に従う。

 

 相手が何者でも、俺は変わらない………




テイル「別に暗躍しても構わないだろ?」

ついにこの子、自立?しましたっ。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第35話・デスゾーン

去っていく仲間たち、新たな事件に関わる仲間。

そんな中不穏な出来事と関わることになる。

ラストバトルがついに………


 現実世界、我が家に送られてきた物を見て、物凄く疲れた顔をした。

 

 それはナーヴギア。まさかまたこれをかぶるのかと思うと、憂鬱になる。

 

(だけどこれで、この件は死銃(デスガン)と関係ない)

 

 そう、ある確証から関係無いことは分かっている。

 

 なら何が目的で、俺の住所やメールが送れた?

 

 その謎も考え、これでログインするしかない。

 

「リンクスタート」

 

 こうして俺は、死の空間へとログインした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「! マスター……。ここはどこなのです」

 

 そこはGGOではなく、別のフィールド。多少似ている程度の空間。

 

 アイテムなどを即座に確認するが、GGOのアイテムなどが使える。

 

(前もって準備状態でよかった)

 

 そう思いながら、ヒカリの方も確認していると、気配を感じ振り返る。

 

「えっ……どうして」

 

 そこにいたのはクレハであり、戸惑う顔のクレハは、本人だろう。

 

「どうしてあんたがここにいるのっ!?」

 

「それはこっちのセリフだ」

 

 そう会話しながらメニューを操作、ログアウト画面を見るが、それはできない。

 

「ログアウト不可、本当にデスゲームを再現してるのか」

 

「どうやらそのようね~」

 

 その声に振り返ると、ツェリスカがそこにいた。

 

 デイジーは外に連れて行かないように設定していたからいないらしいが、彼女もここにログインしたらしい。

 

 頭が痛くなりながら、周りを見渡す。

 

「それより貴方達二人とも」

 

死銃(デスガン)から脅迫メールが送られてきたのかな」

 

「イツキ」

 

 今度はイツキも現れて、話を纏めると、住所が知られていて、そこにナーヴギアが送られてきたらしい。

 

 仲間を標的にすると言う脅しの中、全員の話を聞き終えて、

 

「ともかく話は分かった、全員はどこかに隠れていてくれ。あとは俺が探索する」

 

「待ってテイルっ、なにを勝手」

 

「死んでほしくないッ、黙っていてくれ」

 

「! なによそれ……」

 

 ショックを受けた顔をされるが、最優先することだってある。

 

 悪いが子供の我が儘なんか聞いていられない。

 

「クレハ、死んだらどうなるか分かっているだろ。君になにかあったら、おばさんたちに顔向けできない」

 

「………」

 

 だがクレハはどこか諦めたように、ただ静かに、

 

「そうね、悲しんてくれる人はいるかもしれない。だけど、あたしが突然死んで、困る人なんて、きっといない」

 

「………」

 

「お父さんやお母さんだって、お姉ちゃんがいれば……。あたしはね、そん」

 

 

 

「ふざけるなッ!!」

 

 

 

 クレハはその言葉に驚きながら、だが俺は収まらない。

 

「おばさんたちがお姉さんがいればいい? そんなわけないだろッ」

 

「テイル、さん」

 

「自分がこの世にいらない子でも思ったか? ふざけたことを言うなッ」

 

 驚かる中、クレハの頭を撫でながら、ただはっきり言う。

 

「バカなことを言うなよ、おばさんたち言ってたんだ。引っ越しの際、クレハを巻き込んで、あの子に負担が無いか、母さんたちに相談しに、家に来てたんだぞ」

 

「えっ……。うそ、だって」

 

 戸惑うだろう。俺自身これは話すべきは、どうすればいいか分からずじまいだが、いま言わなくてどうするか。

 

「引っ越しは、お姉さんが頑張って、それを実らせるからしたんだ。だけどその所為でクレハを知らない土地に連れて行くから、俺の家に置くことも考えたらしい」

 

「………」

 

「だけどしなかった、それはお前と別れるのは嫌だからだ」

 

「そん、そんな話、あた、あたし聞いて」

 

「いま言った」

 

 それに涙がポロポロ流れる中、頭を撫でる。

 

 これならもっと早く言え俺。

 

 過去の俺に対して殺意を抱きつつ、すぐに落ち着いて考える。

 

「ツェリスカ、イツキ、悪いが二人を頼む。俺は奥を調べて来る」

 

「待ちなさい、あなた一人だけにすることはできないわ」

 

「そうだよ、ここでの単独行動は危険だよ」

 

 ツェリスカは静かに前に出て、静かに銃を構える。

 

「貴方たちは私が必ず守る……、私にはその義務がある」

 

「義務?」

 

「私はザスカーの人間として、貴方たちを守る義務。それがある」

 

「ザスカーの人間なのか」

 

「驚いた……、ってきりどこかの女スパイかと思っていたよ」

 

 イツキの驚き、俺も驚く。

 

 ザスカー、つまりGGO運営に関わる人間。

 

 ツェリスカはプログラマーで、イベントなどのことには関わっていない立場らしい。

 

「だけどザスカーの人間として、私はあなたたちを」

 

「ツェリスカ」

 

 その言葉を遮り、静かに先を促す。

 

「それはこの件に、ザスカーの人間がこの事件に関わりがあると思っているのか」

 

「………ええ」

 

「そうか、もし死銃(デスガン)か、その協力者がザスカーの人間なら、僕らの個人情報が知られていてもおかしくない」

 

 だからツェリスカは思いつめているのか。

 

 だが、

 

「興味無い、四人はここにいててくれ。邪魔だ」

 

 悪いがここは冷たく切り捨てる。

 

 時間さえあれば、この先はどうにかなるんだ。

 

「っ!?」

 

「ちょっとっ、邪魔って。テイルさんだって、HPゲージが無くなれば」

 

「死ぬだろう、そんなの二年間の間そうだった。いまさら確認する必要もない」

 

「二年間……、ちょっと待ってくれっ」

 

「それって、貴方まさか」

 

「SAO帰還者(サバイバー)………うそ、あなたが、だって」

 

「母さんたちが君たちに言うはずないだろ。余計な心配かけると分かり切っているのに」

 

「そう、なの……」

 

「驚きです………」

 

 全員に驚かれる中、静かに全員にくぎを刺す。

 

「ともかくソロで死ぬかも知れない日々なんて、もう心が慣れてる。みんなはここにいて、自分の身を守っててくれ、俺は奥でログアウト方法を探す」

 

「だけど、そうと分かっても君だけにする理由は無いよ」

 

「そうね、だからと言って、貴方だけに危険なことをさせるつもりはないわ」

 

 頭が痛くなる。

 

「正直に言う、俺はソロの方が戦いやすい。邪魔だ、ここにいろ」

 

 そう強く言うが、その時、服の袖を二つの手が握る。

 

「マスター……」

 

「テイル……さん」

 

 ヒカリとクレハ、二人がこちらを見る。

 

 頭を盛大にかき、ため息を吐く。

 

「分かった、後ろにいてくれ……」

 

 こうして奥に進む。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 エネミーが配置されていて、どうにか倒す中、おかしいことに気づく。

 

(ここの敵はオリジナルがあるが、GGOで出るエネミーみたいだ。そして)

 

 静かに待つ。

 

 時間を、静かに待つしかない。

 

「正直、きついわね」

 

「だけど、死銃(デスガン)がいない」

 

「ともかく、ログアウト方法を探さないと」

 

 そんな会話をしているその時だ。

 

『―――アファ―――シス――――さ―――』

 

「っ!! 来たか」

 

「!?」

 

『応答―――して――――アファシス――――ーさん』

 

「これって、ユイちゃんの声?」

 

 突然聞こえ出す声にみんな戸惑うが、俺とヒカリだけは逆転の一手にすぐに反応した。

 

「ああ、待ってた。アファシス、急いで通話機能を開いてくれ」

 

 その言葉にヒカリは回線を開く。

 

『アファシスさん、ようやく見つかりました! ご無事で何よりですね』

 

「変なところに転送されてしまったようなのです! マスターたちもログアウトできません!」

 

『それは仕方ありません、アファシスさんたちがいる場所はGGOではありません』

 

 それにツェリスカたちが驚くが、

 

「だろうな、ナーヴギアに仕掛けでもあったんだろう」

 

『ナーヴギア? どうしてそんなものを……えっ、パパ、はい』

 

「パパ? キリトくんがなぜ!? 彼はいま大会に」

 

 イツキと共に、クレハたちも驚くが、そちらは、

 

「大会はいま調整前に緊急があり、延期になっているはずだ。犯人がキリトたちと俺たちを離すだろうから、知り合いに頼んでずらしてもらった」

 

「それって」

 

「七色博士、彼女とも知り合いなんだ。キリトたち関係で」

 

 それに周りが驚く中、キリトがこの空間に現れた。

 

「キリトさんっ」

 

「キリトくん」

 

「テイル、君って奴は……、少しばかり遠回り過ぎるだろ」

 

「仕方ない、キリトたちに直接連絡したらバレる」

 

 そう言われ、二人は驚いていた。

 

「テイル、キリトさんに脅迫メールのこと伝えたの」

 

「遠回りにね。メッセを飛ばすんじゃなく、俺たちに直接、しかも大会が緊急延期になったタイミングでね」

 

「……それはどんな方法だい」

 

 イツキが静かに聞く中で、通話の中、一人の男が喋る。

 

『このオレ様だっ』

 

「バザルト・ジョーっ!? それって」

 

『まったくよお、アファシスちゃんから手紙をもらったと思ったら、厄介ごとの頼み事なんてな』

 

 だが気分を害したより、頼られて喜んでいる様子で安心した。

 

 ヒカリは、もとい頼んでもいないのにバザルト・ジョーはヒカリが外に出ると必ず接触する。

 

 まず七色、セブンに頼み、《BoB》の大会をギリギリで遅れるようにして、キリトたちが自分の異変に気付かないことを避けた。

 

 ヒカリが外に出たとき、向こうから接触したとき、手紙を渡すようにしていた。自分もまた外に出歩いていたことも考え、ヒカリより自分を探ると考えたのだ。

 

 ヒカリも手紙程度ならバザルト・ジョーとよくやっているため、いまさらしたところでおかしくない。

 

「向こうは彼が関係ない人物を巻き込むとは思わなかっただろう」

 

「結果、ヒカリがいなくなったことに気づいたキリトたちは、ユイちゃんや七色博士たちに協力を頼んで、こうして探し当てる」

 

「君はそこまで考えて動いたわけか」

 

「ここまで来れば、後は現実でここの場所が分かるはず。そうすればここがどこか分かるはず」

 

 そう言い終えたとき、

 

「………なら、僕が説明するよ」

 

 そう呟き、いつの間にか自然に、距離を取っていたイツキ。

 

「ここはデス・ゲームエリア、GGOとは似て非なる世界さ。テイルくん、クレハくん、ツェリスカくんたちは、ナーヴギアを装着している。死銃(デスガン)に仲間の命を脅されてね」

 

 その言葉を聞きながら、答えをすぐに導き出す。

 

「そのナーヴギアには仕掛けがあってね、ログインすると自動的にここに転送されるというわけさ。詳しくはパイソンくんに聞いてくれ、僕はプログラムには詳しくないし、実は、長話はあまり好きじゃないんだ」

 

「イツキ……」

 

 あまり考えたくはないが、

 

「まさか君がこんな手を使うなんて、どこでそんな手段を取ると決めたんだい?」

 

「……この事件が死銃(デスガン)とは関係ないと踏んだとき」

 

「それは」

 

「奴は用意なんてしない、したとしてもこちらに要求することではない。条件で指示を脅してでもした時点で、この事件は死銃(デスガン)と関係ないことは分かった」

 

「そう、か……。キミがSAO帰還者(サバイバー)であることも考えて、こっちのミスだね」

 

 そう言いながら、彼は何かメニューを開いていた。

 

「そう、キミがプレイヤーから英雄になったように、僕も、魔王になったというわけさ。クレハとツェリスカが来たのは誤算だったな……、たいていの人間は、自分より大事なものはないから」

 

「イツキ………」

 

「だけど、キミは必ずここに来ると思っていた。僕とキミで命をかけて証明してみせるつもりだった。まさかキミは、先輩だったとは思わなかったよ」

 

「証明?」

 

「僕とキミの絆を。キミには僕しかいないことを」

 

「絆って、俺たちが仲間。ってだけじゃだめだったのか」

 

「………キミは僕を許さないだろう。僕はキミを、仲間を裏切ったのだから。キミとはもう」

 

 そう言い、静かに首を振り、ウインドを操作した。

 

「いいや、やめておこう。魔王は魔王らしき、最後まで役目を全て全うするべきだ」

 

 でかいエネミーが現れる。ここのラスボスと言わんばかりのそれを取り出す。

 

「キミも英雄らしく、その力を持って僕を断罪するがいい。魔王を倒さないと、このゲームは終わらないよ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「キリトはクレハたちと共に下がれっ」

 

「だけど」

 

「クレハたちはもうギリギリだっ、三人を守ってくれ!」

 

 そう言い、テイルはライフルを構えて、走りながらタゲを取る。

 

 キリトはそれを見ながら、イツキはフィールドを区切る壁で守られているのを確認して、前に出ようとしたクレハを止めた。

 

「待ってくださいっ、テイルも、彼奴だってもう」

 

「だからこそ、彼奴の頼みを断れない」

 

「もう少し待ってくださいっ、あと少しで回復スキルが使えます!」

 

「その前にテイルが」

 

 

 

「なら、手数があればいいんだろう?」

 

 

 

 弾丸が無数放たれ、それに振り返る。

 

「ジョーっ」

 

「アファシスちゃんのため、ここでお前さんに倒れちゃ困るんだよ!」

 

「私たちもいるよ~」

 

「あんたって奴は、一人で全部背負って!」

 

 ストレアとレインも銃を乱射する中、アルゴを含め、全員がいて、シリカとアスナが回復スキルを使う。

 

「これならいけるよねテイルっ」

 

「ユウキ、おうっ」

 

「なら俺もいく!」

 

 キリトもすぐに走り出し、シノンが狙撃する中、斬り込む三人。

 

「ともかく、この人数なら一気に肩が付くっ。悪いが戦闘パターンが変わるよりも早く、次のゲージを飛ばす!」

 

 それに弾幕が張られ、エネミーの攻撃で、フィールドにレーザーを放つ道具が配置された瞬間、火力で破壊する。

 

 そんな中、エネミーの口に、エネルギーが集まっていた。

 

「キリトっ、飛ぶ!」

 

「分かったっ」

 

 二人の剣士が走る中、黒の剣士を足場に高く跳び、自分に向けて、レーザーが放たれたが、

 

「スウ」

 

 そのタイミングは知った。

 

 フォトンの刃が受け止め、実体がある刃が後ろから押し、そのまま跳ね返す。

 

 空高く飛び上がり、レーザーを受けダウンするエネミー。

 

「これもオマケよ」

 

 シノンが顔面へと狙撃し、仲間たちも集中する中、

 

 弾丸が尽きると共に剣へと切り替え、その顔に剣を突き刺す。

 

「デッエェェェェェェェェイアァァァァァ」

 

 そのままただ斬り払い、着地する瞬間、彼を足場に黒の剣士が飛ぶ。

 

「アァァァァァァァァァ」

 

 今度は彼の剣撃を受け、ゲージが消し飛ぶ。

 

「集中」

 

「砲火!」

 

 二人の攻撃にリロードし終えた全員が、一斉に弾丸を放ち、ゲージは無くなり、エネミーはポリゴンに変わる。

 

 そのまま落ちて来る剣を拾い、構えなおした………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ははは、まさかあれを倒すとはね。テイル、キミは英雄だ。銃を手に困難を斬り拓き、英雄の名を確固たるものにした」

 

「イツキ……」

 

「絆で結ばれた仲間たちと共に奇跡を起こし、凶悪なドラゴンを倒し、そして魔王すら滅ぼすだろう。ずるいな……、英雄ご一行は。魔王にも仲間がいたっていいと思うんだけどね」

 

 銃を構える中、俺は光剣を見るが、

 

「イツキ、お前もナーヴギアをつけてるんだろっ。このまま戦えば」

 

 HPが0になり、脳破壊シークエンスが発動する。

 

 だが、

 

「それが、僕の望みだよ」

 

 そう言い発砲する中、UFGで避けながら、アイテムストレージから銃を取り出す。光剣などでは威力がありすぎる。

 

 瞬間出てきた銃に、バカバカしいほどお似合いだった。

 

 乾いた銃声が鳴り響く。

 

 向かい合うイツキと俺。イツキは、

 

「くっ……これは」

 

「まさかこいつに助けられるとはな」

 

「っ!?」

 

 イツキの銃を撃ち落としたのは、イツキからもらった銃だ。

 

「はは……、まさかそれに邪魔されるなんて。キミが持つ武器なら、銃だけ撃っても、僕を殺すこともできただろうに」

 

 そう言いながら、けして動きは見逃さない。

 

「お前のHPなら、あと一発は耐えられる。ここで終わりだイツキ」

 

「君は人を殺さないのかい? 僕を、仲間を裏切った僕を」

 

「許さないが、バカバカしい。人を殺す殺さないでしか物事を決めないでほしいな。もう一度若くして死ぬなんてごめんだ」

 

「………君は」

 

「俺はお前を殺さない、俺は殺さない強さを求めたからここにいる。これからも、俺は誰かの命を奪わずに、勇者なんてならない。俺は俺、勇者なんて求めない」

 

 そう言い終えたとき、辺りの空間が警報を鳴らし、この世界が終わりを告げた。

 

「まいったな、時間切れか……」

 

「………」

 

「それじゃ、また会いに行くよ。仮想世界か現実世界か分からないけど」

 

 そう言って、イツキが消えていく。

 

「だって、まだ聞いてないからさ。キミが仮想世界に来た理由を……」

 

 こうしてログアウトし、一つの事件が終わりを告げた………




終わる? まだ終わってません。まだ事件が残っていますから。

では、お読みいただきありがとうございます。


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第36話・バレット・オブ・バレッツ

ゲームしていて思う、なぜゲームで主人公とユウキとの添い寝が無かったんだッ。

そんな思いから、ここに彼を投入します。


 パイソンの正体は、ザスカーの、ツェリスカの上司だった。

 

 彼は自分の立場を利用、打ち上げの際、プレイヤーたちを強制ログアウトし、デスエリアの製作に加担した。

 

 彼はいま、警察署でイツキの凄さを熱弁しているらしい。

 

 イツキのリアルは誰一人知る者はいない。ログイン履歴を調べても自宅からではないため、なにも分からなかった。

 

 ちなみに盗まれたナーヴギアは二つ。イツキと俺の分と思われるが、全てのナーヴギアが回収されたわけではないらしい。

 

「初耳だ」

 

『いま伝えた、本当なら伝えるべき情報じゃないんだぞ』

 

 連絡し合う中、周りを確認する。この会話を聞いている人間はいない。

 

『ともかくやるのか』

 

 最後まで反対されていたが、

 

「やらなきゃ被害者が出る」

 

『………分かった、こちらも覚悟を決める』

 

 向こうもここでやっと骨が折れ、連絡はこれ以上やめておく。

 

 連絡が終わり、静かにログインした世界を見渡す。

 

 ヒカリにはツェリスカの側にいるように伝えている。いまGGOは、バレット・オブ・バレッツが始まるため、賑やかな中だ。

 

「さてと、始めますか」

 

 この俺テイルも、大会へと足を踏み込む。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「皆さん」

 

「こんにちは~」

 

「クレハ、ツェリスカさんたちも」

 

「わたしもいるのですっ」

 

「おおアホシス」

 

「アホシスじゃありませんッ、アファシスです!」

 

 クラインの言葉に憤慨し、デイジーも挨拶する。

 

 キリトホームにて、大会の中継を見守ろうと言う流れであり、集合できる者たち全員が集まる。

 

 とはいえ、完全に全員、集まっていた。

 

「私たちもここで見させてくれないかしら、彼がどうしても外せないことがあって、レイちゃんを借りてるの」

 

「マスターは忙しいらしいので、キリトたちをよろしくとお願いされましたっ」

 

「そうなんだ」

 

「なら一緒に、パパを探しましょう。パパはアバターを変えて、出場しているらしいので」

 

 そう言われ、大会の様子を見る準備をし出す。

 

 お菓子とかもあるが、それよりもやはり大会、キリトの身を心配し過ぎ無いようにと考慮しているだけだ。内心大勢心配している。

 

 何も無ければそれでいい、そう願うしかない。

 

「けど、テイルさんの用事ってなんなんでしょう?」

 

「彼奴は、いえ、テイルさんはたぶん両親と話し合ってるんでしょう。あたしが偽物とは言え、ナーヴギア装着した件は、彼のご両親には話してしまってるので」

 

「そうなの?」

 

 アスナの問いかけにはいと頷くクレハ。それにツェリスカが補足する。

 

「一応改造されたアミュスフィアも厳重に法で定められてるから、保護者に話を通さないといけないのね」

 

「はい、ウチは両親に黙ってて欲しくて、あの人のご両親に変わってもらってます。彼も今回の件に関わるついでって」

 

「テイルさんらしいですね」

 

「マスターは優しいのです」

 

 そう言われる中、クレハは苦笑する。

 

「あの人の場合、こういったことを黙っていられないですから」

 

「えっ、それってどういうこと?」

 

 アスナが疑問に思う中、

 

「あっ、始まったわよ」

 

 リズの言葉にモニタを見る。

 

 番組は始まりだした。それは大切な人たちが命をかけた、戦いの場………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 締め切りには余裕で間に合い、格好も動きやすい蒼の衣装。しばらくして申し込むはずのシノンを探す。

 

 元々歩き回り、人目につくようにもしていた。

 

「あそこか」

 

 更衣室へ向かう。キリトは別のアバターらしい? に変えていて、シノンと共に着替えるために試着室に入る。

 

 ………

 

 共に入る?

 

 ………

 

 フォっ!?

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 選手控室で、何事も無く待機する。

 

(まいったな、こうなると当たる当たらない関わらず、試合で顔を見せるしかない)

 

 キリトのことだから、参加選手は見ているはず。と、噂を耳にするだろう。

 

「おい彼奴……」

 

「幸運ニュービーが、もうここに」

 

「身の程を教えてやろうぜ」

 

 予想通り、情報だけはうまく流れていて、会場は幸運のニュービーが身の程知らずに大会に参加した。

 

 予定通り過ぎて呆れてしまう。

 

(ここからだ)

 

 狙い通り、あとはこのまま勝ち進む。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「俺は勝つ。ツェリスカさんを始めあんなに女性プレイヤーを独り占めする、幸運のニュ」

 

 それを言い終える前に、真横から何かが接近するのを見た。

 

「バカなっ!?」

 

 瞬間、幾度も無く斬撃が叩きこまれ、静かにコートが風に舞う。

 

「距離が、あった、」

 

「UFGと俺の機動力だ」

 

 その二つがある限り、五百メートルくらいすぐに距離を詰められる。

 

 相手の位置も、だいたい予測もできた。

 

「まずは第一条件クリアかな」

 

 カメラに向かって剣を掲げ、より一層アピールした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「予選は最速クリア……、予定通り」

 

 そして次の時間まで待機する。瞑想するのに慣れているため、それで時間を潰していた。

 

 しばらくして、どかっと隣に誰か座る。

 

「こんにちはテイル、どーしてあなたがここにいるの」

 

 少しお怒り気味のシノンさんがそこにいて、俺は、

 

「言ったはずだ、行けるのは大会後だって」

 

「まさか私の話を聞いて、出場するって決めてたのっ!? あなたいまどうなってるか分かってるッ!!?」

 

「狙い通り俺の注目が集まり、ターゲットにされやくすなった」

 

 カメラへのアピール、外だけではなく、大会の内側でも目立つ。

 

 もういま話題の中心へと固まる、これほど狙いやすいターゲットは無い。

 

「だからよっ。いま外も中もあなたの話題一色ッ。あなた死ぬかもしれないのよ!」

 

「シノンたちが死ぬ可能性が低くなるのなら問題ない」

 

「………あなた」

 

 自分は目立ち、かわりにシノンたちのリスクが減る。

 

 頭を押さえ、しばらく考え込み、すぐに切り替えた。

 

「こっち来て、キリトがいる。彼奴アバターを変えて潜りこんでるけど、会えばわかるわ」

 

「ああ」

 

 見てわかったよとは言えないな。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ラフィン・コフィンっ!? どうしてそんな人がGGOにいるのよっ」

 

 キリトに会いに行くと、キリコになったキリトと出会い、青ざめていたところ話を聞く。

 

「………それは」

 

「あなた、私よりSAOにいたのに知らないのっ」

 

「レッドプレイヤーギルド、そう言えばテイルも分かるだろ」

 

「………まさか」

 

 SAOの中に、レッドプレイヤー。プレイヤーを殺す殺人ギルドがあることは知っていた。

 

 極限状態であり、死体が残らないあの世界で、感覚が壊れたのか定かではないが、そういうプレイヤーがいたのは知っている。

 

 俺も相手として出て来る可能性ぐらいしか頭になく、いつの間にか牢獄に、としか記憶にない。

 

 キリトたちは深く関わっていたのか、キリトの顔色は悪かった。

 

 そして彼が言うには討伐隊が組織され、そして、キリトは抵抗され、彼らを。

 

「もういい喋るな」

 

 かなり動揺していて、苦しそうなキリトにそう告げる。

 

「けど俺、自分が殺した相手を……顔や名前をいまだに思い出せない」

 

 心が拒絶しているのだろう。普通の感性で人を殺すのは、かなり来る。

 

 俺も夢の世界で人と対峙したが、あまり思い出したくもない。

 

 キリトから詳しい話を聞くと、話しかけてきたプレイヤーが死銃(デスガン)である可能性が高いな。

 

「そう、か……。君がここにいるのは、少し驚きだ」

 

「気を付ける」

 

「ああ、もうここのほとんどの話題は君一色だ。外もおそらく、君が一番死銃(デスガン)に狙われている」

 

 そう言って、キリトに頷き、シノンにも頷く。

 

 キリトは罪と向き合わなければいけないと、今度こそと言い、次の試合に立つ。

 

「キリト」

 

「テイル」

 

「気を付けて」

 

「ああ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「キリコちゃんもかッ、キリコちゃんも、キリコちゃんもか!」

 

 無駄に射撃する彼は、すぐに倒すことはできた。

 

 叫び声にキリコを叫ぶ男プレイヤーは、別の意味で彼にショックを与えそうだ………

 

 本戦は30人がランダムで千メートル配置されるらしい。

 

 選手は《サテライト・スキャン端末》を渡され、15分に一度上空にスパイ衛星が通り、全プレイヤーの位置が分かる。

 

 特定のプレイヤーの位置すら分かるだろうから、ターゲットの俺もすぐに分かるだろう。

 

 こうして本戦が始まる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「そんな」

 

「まさか」

 

「信じられない」

 

 みんな本戦の話題にテイルがいたこと、シノンがいたことが分かっていた。

 

 なぜかシノンとテイルのツースクショットが出回ったりしてたら、キリコがモニタに映る。

 

 とりあえずスクショする中、本戦が始まり、しばらく様々な試合が映る。

 

「パパたちの試合は、数が多いです」

 

「テイルさんもです。マスター」

 

「そうね、彼の場合ニュービーであること、フリューゲル攻略最速攻略、トッププレイヤーが所属するスコードロンリーダー。彼の肩書を上げればきりがない」

 

「討ち取れば名が上がることは確実ってことだな」

 

 エギルの言葉に、ヒカリとクレハは心配そうにモニタを見つめる。

 

 彼の試合回数が多いが、ほとんどライフルと光剣で切り抜ける中。そして次の試合にモニタが映った。

 

 それは衝撃的な状態のスタート………

 

「シノのんっ!?」

 

 彼女が倒れ込む中、マント男が、拳銃を向けていた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 デバフで麻痺だけではなく、それはトラウマからの衝撃があった。

 

 あの銃が自分の前にある。

 

 それだけでシノンの心が恐怖で塗り潰れた。

 

 動けない、動けない、動けない動けない動けない動けない動け―――

 

(このままじゃ)

 

 横たわるシノンはもう死銃(デスガン)がなに言っているか分からない。

 

 そして走馬灯が頭をよぎっていた。

 

 

 

『気にするな。助けがあれば駆けつける』

 

 

 

 それはあるプレイヤーがなにげなく言った言葉だった。

 

 

 

「たすけ………て」

 

 

 

 その瞬間、

 

 

 

「ああ」

 

 

 

 それが死銃(デスガン)に斬りかかる。

 

「ッ!?」

 

【貴様は】

 

「テイル、彼奴じゃなくて悪い」

 

 蒼のコートを翻し、剣士が二人の間に入り込む。

 

 死銃(デスガン)は突然現れた彼も、その手に持つUFGを見て納得する。

 

 敵の声はマスク越しもあり、ちゃんと聞き取れず、それでもこちらを見る敵に剣を握った。

 

【テイル。幸運だけで勝利者として祭り上げられる、偽りの勝利者】

 

「そう言えば、お前はSAOにいたんだったな」

 

【我が名は死銃(デスガン)。真の力で裁きを下す者】

 

 死銃(デスガン)は気にせず宣告し、彼らの周りにはカメラ撮影機が浮遊する。

 

「………」

 

 彼はいつも無表情………

 

 

 

「はっ、バカかお前?」

 

 

 

 ではなく、にんまりと口元を釣り上げ、笑っていた。

 

「へ……」

 

【!?】

 

 それはモニタを見ている仲間たちも動揺する。

 

 彼に似合わないほど、悪意のこもった笑顔だったから。

 

「真の力、ね……。なら、撃ってみろよ。その銃で」

 

「なっ……」

 

 シノンは絶句した、剣をしまい、無謀な姿で死銃(デスガン)の前にいた。

 

「なにしてるの……だめ、ダメよテイルッ!」

 

 まだ方法が分からない。

 

 殺される可能性は0では無いのに。

 

 その時、シノンの中で彼が殺される光景が生まれていく。

 

「撃ってみろ、その力で、ラフィン・コフィン」

 

【………愚かな】

 

 死銃(デスガン)は十字を切るそぶりを見せた後、死銃(デスガン)を向けた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「お、おいテイル? なに考えてるんだッ!?」

 

 それはモニタ越しに見る関係者全ての全身から血の気を失わせる。

 

 だがテイルは、にまにまと笑いながら、相手を挑発すると言う彼らしくないダンスのようなことをして、挑発していた。

 

「ダメ、ダメだよテイル!」

 

「どうしたのッ、君ならそこから斬り込むこともできるじゃない!?」

 

 アスナの叫びも届かず、その指はトリガーに………

 

「ダメ………」

 

 ユウキは血の気を引き、身体を抱きしめながら、

 

「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

【幸運を己の力を思い、過信した偽りの勝利者よッ、我が名と共に死ね!】

 

 荒野の世界に乾いた弾丸が鳴り響く。

 

 テイルが………

 

「あっ………」

 

 シノンが悲鳴にならない悲鳴を上げた。

 

 そしてしばらくして、

 

「かっ」

 

 彼は苦しみだし、モニタを見ていたアスナたちも悲鳴を上げた。

 

【愚かな勝利者に、裁きは下った】

 

 そう告げた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「いや……です」

 

 話を聞いていたヒカリはその光景を見て、アスナたちもまた悲鳴を上げた。

 

「マスター……マスタあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「テイルくんッ!」

 

「テイ……ル………」

 

「テイルうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 銃声が響き、しばらくして、荒野にシノンの悲鳴が響き渡った………

 

 苦しみだすテイルに、死銃(デスガン)はカメラにアピールするような動作をして、宣告する。

 

【これが死銃(デスガン)の、真の力だっ!!!】

 

 それと共に、彼は前へと倒れ出した………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんてな」

 

 瞬時に蹴り込むテイルの一撃を、死銃(デスガン)は避けられなかった。

 

 蹴り飛ばされた死銃(デスガン)自身、それが分からない。

 

【なっ……】

 

「これがお前の真の力だ、残念だったな。もう若くして死ぬつもりはない」

 

 テイルはいつもと変わらないまま剣撃を放つ瞬間、死銃(デスガン)が姿を消す。

 

 だが、

 

「後ろか」

 

 振り向かず、後ろからの剣撃を受け止める光景に、シノンの理解が追い付かない。

 

【!?】

 

 剣を逆さに持ち、けして振り向かず弾く。

 

「お前対人戦少ないだろ? 殺気で位置が分かる」

 

【………貴様】

 

 その時、シノンが凍り付く。

 

 片手で剣を弾き、同じく剣を握る死銃(デスガン)は構えなおす。

 

 だが………

 

「殺人者なら、これくらい出せ……」

 

「ッ!!?」

 

 直接向けられたわけでもないが分かる。

 

 殺気。

 

 それが分かるほど、彼の刀身から放たれ、死銃(デスガン)も怯み、後ろに飛ぶ。

 

【お前は《沈黙の蒼》。ただの、臆病者、のはずだッ】

 

「だとしたらどうする」

 

【殺すッ】

 

「殺せないだろ、お前じゃな」

 

 今度こそとまた死銃(デスガン)を放つが、それをあえて避けずに受けながら、斬撃が放たれ、それを剣で防ぐ死銃(デスガン)

 

【なぜだ、なぜッ】

 

「これで全ての仕込みが終わった」

 

【くそッ】

 

 今度は別の銃に変えて発砲するが、

 

「ハイパーセンス」

 

 瞬時攻撃を受けた瞬間、高速機動で避け、シノンと愛銃を担ぎ上げてその場から去る。

 

 俊敏度は高く、その場から一気に走り去り、バイクを途中で見つけてそれで走る。他のバイクは銃で破壊して………

 

「ん、キリコ」

 

「テイルっ、シノン」

 

 キリトをすぐに拾い、まずは距離を稼ぐために、その場から離脱した………




ゼルダ要素が少し出たが、分かるだろうか?

それではお読みいただきありがとうございます。


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第37話・転生者

ストーリーとして成り立っていると戦々恐々しています。

もっと分かりやすくしたいな。


 洞窟内で隠れる、ここから上空のサテライトもしのげるだろう。

 

「悪い、プレイヤーに何度も出くわして遅れた。大丈夫だったか」

 

「ああ」

 

「……じゃない」

 

 平然とキリトに答えるテイルはHPを回復させながら、それに近づくシノン。

 

 シノンは震えながら、テイルの両肩を掴み、頭突きした。

 

「大丈夫じゃないわよバカッ!」

 

 泣きながら叫び、何度も何度もテイルを触る。

 

「し、シノン?どうした、なにがあった?」

 

「彼、死銃(デスガン)に、死銃(デスガン)に撃たれたのッ。変に挑発して」

 

「なっ……」

 

 キリトも言葉を失い、何度も触るシノン。

 

「ギラヒムをイメージしたのが悪かったか、少し落ち着けシノン」

 

「平気なの、ねえ平気なのッ。ねえ!」

 

「落ち着いてくれ」

 

「落ち着けるはずないじゃない!わざと銃を受けてッ!!」

 

「じゃなきゃ、彼奴の犯行を止める手段が無かったから」

 

「えっ……」

 

「今頃」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「タイムセール忘れてたっ」

 

 そう叫び、主婦がバイクに慌てて乗り、その家から去っていく。

 

 その様子を見ていた青年は、すぐに玄関へと移動する。

 

「!」

 

 その扉は開いていて、鍵の閉め忘れに、僅かに口元が笑ってしまう。

 

 彼は大きく扉を開き、中に入って、

 

「すいません」

 

「!?」

 

 その時、男性二人が背後から現れ、ある物を見せて、青年を凍り付かせた。

 

「警察の者です、最近この辺りで不審者を見ませんでしたか」

 

「えっ、あっ……いいえ」

 

 青年は驚きながらそう言い、刑事の男は静かに尋ねた。

 

「この家の人ですよね? 親御さんにも話を聞きたいのですが」

 

「い、いや。父も母も出かけてて」

 

「………」

 

 その言葉を聞いて、

 

「それはおかしいですね」

 

「えっ……」

 

 

 

「ここ、私の家なんですよ」

 

 

 

 それに青年は凍り付いた。

 

「もう少しターゲットの情報を調べておくべきだったね。悪いが、君がなぜ妻が鍵を閉め忘れた扉から、我が家に入ろうとした理由を聞こうか。ポケットのそれのこともね」

 

「!!?」

 

 青年は逃げ場が無く、家の中に入っていった次の瞬間、衝撃が走った。

 

「残念、家から出たのも妻では無く、私の同僚」

 

 その言葉を聞きながら、世界が反転して気を失う。

 

 彼が投げ飛ばされたと知ったのは、後のことだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「君の両親が警察関係者? はっ?えっ?」

 

 キリトも訳が分からず、困惑する中、まあ家族の仕事なぞ話していない。

 

 もしかしたらユウキとアスナくらいだろうか? それも怪しいが考えてくれ。

 

 身内でもない少女の親権を手に入れる手助けをする人脈、仕事関係で弁護士などコネクションを大いに使った両親なのだ。そこまで無ければ、ユウキの面倒などを見られるようにするのは無理だろう。

 

 正直、親の部署は知らないが、かなり面倒な部署なのは確かだ。それで得たコネクションをえげつなく使い、木綿季を親権を手に入れた。

 

 いまだってクレハや俺の事件のことを、裏で引き受けている。そんな中俺は静かに言う。

 

「キリト、ソードアート・オンラインでの死因も思い出せ。あれはどうやって死んだ?」

 

「それは、HPが0にな」

 

「違う、それは条件だ」

 

 その言葉にキリトがハッとなり、静かに、

 

「脳をナーヴギアに破壊されたから」

 

「そうだ。条件『SAO内でHPが0』で、死因は『現実世界で脳を破壊』されたから」

 

「それは」

 

「SAOでも、仮想世界で人は死んでいない。切っ掛けになっただけだ」

 

 それに二人はハッとなり、静かに続けた。

 

「俺はキリトから話を聞いて考えた。条件が『死銃(デスガン)に撃たれる』なら、死因はと思って、すぐに気づいた。被害者はゲーム中に殺されたのなら」

 

「第三者が無防備な被害者を殺した。待ってくれっ、ならなんで君はなにも言わなかった!」

 

「言ったら俺のように自分を囮にしただろ。ちなみに住所なりは、シノンが見ただろうけど、姿を消すステルス機能のアイテムだ」

 

「アイテム? 姿は消してたけど、アイテム、ガシェットなの?」

 

「俺は町中でUFGを使用した。調べたけど、リアルマネーでそういったアイテムがあったと、噂程度だが拾えた」

 

 そう、まずは住所などの情報だが、ある時、リアルマネーの引き換えなどの操作するとき感じた〝視線〟から、俺はまさか姿を消しているプレイヤーがいるのでは?と疑問に思った。

 

 そしてセブンと共に、過去の情報を洗いざらい調べてみたら、リアルマネーでの買い物で、そんなアイテムがあるのに気づく。

 

「だから俺は死銃(デスガン)の正体が、総督府でリアルマネーのやり取りなどで、リアルの住所、個人情報を、姿を消して覗き込み知ったプレイヤーであると判断できた」

 

「………それじゃ」

 

 まあここまで来れば、キリトから話を聞いてしばらくして、死銃(デスガン)の犯行が分かっていたのがバレるだろう。

 

 だけど、その後はどうするか。

 

「キリトから大会を聞いて、シノンが出るからな。こうなるともう出るつもりだった。キリトと当たる前に、誰かが死ぬ可能性が高いから」

 

 ここまで言うと彼は静かに口にする。

 

「テイルと言う、死銃(デスガン)が最もターゲットにしたいプレイヤーを前に出して、大会の注目度を上げて、自分の力の証明にしたい彼、いや彼らをおびき寄せた」

 

 彼らの犯行は、確かに人を殺していた。

 

 だが信じられず、誰からもただの偶然と笑われ、相手にもされない。

 

 犯人なら、確実に自分の力を誇示するため、明確な結果が欲しいのだ。

 

 それは、多くの人が注目する、エサがあれば、それを狙う。

 

「俺の住所はギリギリで知ったはずだ。わざと口でも出して今回の大会登録で見せたしな」

 

 複数犯の可能性が高いが、ほぼ自分がターゲットにされると踏んでいた。

 

 複数犯でなんであろうと、必ず自分を殺す為の準備に自分を優先する。これならば、

 

「他のターゲットは見逃して、君を殺すことに集中する………」

 

「今頃父さんや、父さんの部下が取り押さえている。俺が生きているのがその証拠、今頃他の仲間も一気に捕まり出しているはずだ」

 

 連絡の取り合いをしているのなら、そこから調べて動く。もともと何があってもいいように準備もしている。

 

「ちなみに大会が終われば白バイと共に、シノンの家に向かう気だ」

 

「そ、んな、準備を、してたの」

 

 全てはテイルと言う、彼らにとって有名になるためのエサが無ければいけない、囮作戦。

 

 二人は何も言わなくなり、そしてもう一つ、

 

「俺が撃たれて死なないことで、彼らの力は否定された」

 

 デマとして片付けられていたが、死銃(デスガン)の話題は微かにあった。

 

 それを徹底して消し去ることにも繋がったはずだ。

 

「そうか、模倣犯対策もしてたのか……。君は」

 

「今回は勝手にさせてもらった」

 

 元々このトリックに気づいたのは、俺が転生者だからだ。

 

 この世界に不思議な力やそれに近いものなんて何も無い。

 

 あるのは物理方式に従う世界の法則。よくてデータを超えた想いの力。

 

 だから現実的に、とことん考えてトリックにたどり着いた。

 

 後は父親の説得だが、すでに知り合いが警察関係者しか知らない情報を俺が持っていることで巻き込まれていると知り、頭を痛めていたな。

 

 キリトに繋がる人間も、警察関係者の子供がいるとは思っていないだろう。

 

(イレギュラー、転生者って言う異物らしいことだ)

 

 ともかくこれで完全に死銃(デスガン)は終わった。

 

「後はキリト、お前がトドメを。シノンは念のため動くな、捕まっていない仲間もいるだろうが、すでに警察関係者が動いていることは知られていない」

 

 仲間がドジを踏んで自分を殺すタイミングを大きく外した、よくてそう思うし、悪くてもいまシノンなどの、待機中の犯人たちは動けない。

 

「あとはこの大会を速攻で終わらすだけだ」

 

 そうすれば死銃(デスガン)は終わる。それを知り、キリトも頷き立ち上がるが、

 

「なんで……」

 

 シノンが俺の手を弱々しく握りしめてきた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「シノン」

 

「どうしてあなたはそんなに戦えるの、どうして自分の命を軽々と賭けられるの?」

 

 泣きそうなほど、小さな声で彼を離そうとしないシノン。

 

「どうして戦えるのッ!?ねえどうして!」

 

「………シノン」

 

「わたしはだめだった……、あの銃を見たら、麻痺と関係なく動けなかった……。私は弱い……戦えなかった。どうしてあなたは戦えるのッ、見返りも何も無いのに! どうして誰かを守れるのっ!?」

 

 叫び声を上げた後、消えそうなほど細い声で問いかける。

 

「………死んでほしくない、もう誰にも。そして死にたくないからだ」

 

「………どうして」

 

 彼はしばらく考え込む顔をして、静かにその手を握る。

 

「止まれないだけだよ、俺もキリトも。そういう考え方から抜け出せないだけだ」

 

 彼の言う通りだ、俺はもう止まれない。

 

 俺たちは止まれないんだろう。

 

「………キリトも聞きたそうだから、大会が終われば話す。だからいまは彼奴との決着を付けないといけない」

 

 そう言い彼は立ち上がり、こちらを見る。

 

「………分かった、けど私も戦う。いまここで戦わないと、私はきっと弱くなる」

 

 そう言って立ち上がり、彼を睨む。

 

「全部終わったら教えて……。あなたが、ずっと一人で、ただひたすらにアイテムや資金を集めるために戦い続けた理由を」

 

「それは俺も知りたい……。君が戦い続けられた理由を」

 

「………」

 

 彼は俺たちの問いかけに、いつものように短く頷く。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ここにいる者たちは即席のチームだッ」

 

「ただでさえ少ない女性プレイヤーを独り占めするニュービーに鉄槌を!」

 

「この先だ野郎どもっ、俺たちは魂で繋がれたチームだッ!!」

 

 そう言い、狙撃者もいる中、彼らは進む。

 

 狙うはニュービーであり、その頭を狙う。

 

「! 前方に人影在りっ」

 

「奴はUFGで加速するっ、俺たちは囮だ。せめて散るとしても確実にダメを与える」

 

 そう覚悟し、それが蒼いコートを翻し、俊敏に向かってくる。

 

「来たぞっ、撃て撃て撃て撃てえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 

 無数の射撃予測線(バレット・ライン)が彼を射貫くが、弾丸は射貫かれない。

 

 ダインスレイブを振り回し、全て叩き斬る。

 

「バカなっ」

 

 サブマシンガンだろうが何だろうが、弾丸全てが見えているかのように躱し、斬り、突き進む。

 

「ハイパーセンス」

 

 瞬間彼は光速の軌跡を描き、彼らの側に出現した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「魂の兄弟たちよ、お前らの死は無駄にしない………」

 

 スナイパーライフルを構え、スコープで一人の男を狙う。

 

(いくらお前でも、この距離は縮められることは)

 

 カンっと言う音が鳴り響く。

 

 一瞬なんだ?と思い、僅かに視界がそれを追う前を思い出す。

 

 その光景は実在の刀身を持つ光剣に、何かを乗せるるような仕草をして、こちらに向かって全力で剣を振ったターゲット。

 

 そして次の視界には、グレネードが側にあった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ふざけるなッ、あんなの、ニュービーじゃなく化け物かなにかだ!」

 

 気づくのが遅かった。

 

 剣にグレネードを乗せて、遠方の敵に投げつけるなんて馬鹿げたことをしでかす敵。

 

 それは森の中に侵入し、すぐに駆け寄ってきた。

 

「化け物があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 ガトリングが火を噴くが、彼のスキルが発動してすり抜ける。

 

 彼が出現した瞬間、彼は全てを切り裂く。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「最後の敵プレイヤー撃破、後は残りは」

 

 サーチが始まり確認すると、キリトとシノンがいる。

 

「向こうは決着がついたか。さてどうする」

 

 と思った次の瞬間、二人の反応が消えた。

 

「?」

 

 そして残ったのは俺であり、第三回《BoB》の優勝者は、

 

「おれ?」

 

 これが二人からのお仕置きだった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「死ねる………」

 

 そう言いながら自分の部屋から出て来ると、

 

「どうしたのバカ息子」

 

 母親が静からで迎えていた。

 

「いや、選手の仲間に、優勝を押し付けられた……」

 

「あら、あなたゲームの世界で有名人ね。インタビュー受けたら」

 

「………」

 

 母親がそう言いながら、バイクのキーを投げ渡された。

 

 この人は元女性刑事、いまは専業主婦だが、後輩との繋がりはまだある。

 

「あの人の部下が数名待機してるわ、急ぎなさい」

 

「はい」

 

 そして急ぎ、朝田詩乃の住所へと向こう。

 

 大会中、ログアウトした者はなく、誰も強制ログアウトされなかった。

 

 後は彼女の下に急ぐだけだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 そしてバイクで急いだ結果、キリトが急ぎ中に入るを見た俺は瞬時に急いで出向く。

 

 こういう時、身体を鍛えていてよかった。部屋に入り、キリトに向けて、何かしらの機具を持つ男の顔を蹴り飛ばした。

 

「シノン、キリト」

 

「テイル……君か、はは……助かった」

 

 白目をむいて気絶する男を見ながら、父さんの同僚が中に入り、それが注射機具であると知る。

 

 それと共に静かに彼を運ぶと共に、今日は我が家に泊まるように、母さんが説得して、全てが終わりを告げた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 その後の話をしよう。

 

 朝田詩乃は安全の為に我が家に泊まり、さすがに事件が起きた後の部屋に居続けるのもだし、親がそのまま住まわせようとする。

 

 父さん経由でキリトと繋がりのある男は、まあ本人了承しているためなにも言えないらしい。父さんは子供を巻き込んだことに腹を立てているが、犯人は捕まったことでお互い不問になった。

 

 死銃(デスガン)はやはり俺がいなければ数名のトッププレイヤーを殺害する気だが、急きょ俺の住所が発覚して、ターゲットとして絞り込まれたようだ。

 

 被害を最小限に食い止めたからなにも言われないが、父さんからしばらく母さんの手伝いをしろと言われた。

 

 詩乃のことも少し話せば、キリト、和人の提案に乗り、俺は彼女の送り向かいを買って出たら怒られる。

 

 彼女をエギルの店に連れて行き、彼女の事件で、同じ被害者の方である親子と出会う。

 

 詩乃は確かに人を殺した。悪人だからとはなにも言えない事件だが、彼女が引き金を引くことで、まだお腹の中にいた子供を含め、彼女を救った事実も受け入れてほしいと和人は伝えた。

 

 こうして後日、大会優勝兼、心配させた者たちと言う名目でパーティーが開かれて………

 

「それじゃマスター、インタビュー承認メールを送ります」

 

「やめてくれ」

 

 ヒカリがまさにどこかのインタビューを承諾するメールを出すところ。

 

「許す、と思いますか?」

 

 アスナが笑っているが、目が笑っていない。

 

 ここにいる全員がキリト、シノンよりも、俺に怒っていて、許されないようだ。

 

 パーティー材料費も俺持ちらしい。

 

「どんな話題なのかしらね~。フリューゲル最速攻略? 《BoB》優勝? ランキング1位?」

 

「いまGGOはテイルの話題で持ち越しダ、もう情報の差し押さえも無理だナ」

 

「覚悟してねテイル?」

 

 クレハはいい笑顔で笑い、メールは送信された。

 

 もう腹をくくるしかないらしい。

 

「あんまりだ……」

 

 俺はそう言い、みんなが苦笑し、楽しいパーティーの時間が始まった………




テイル、インタビューを受けることで、彼の胃にダメが。

次回、GGO編終了。

それでは、お読みいただき、ありがとうございます。


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フェイタルバレット終了

 それは彼の特集を組む記者によるインタビューだった。

 

「えっ、彼についてですか? そうですね、頼れる人とは思いますけど、あまり前に出たがらない人だよね」

 

「ああ、空気に同化、するって言うか、時々話の中心から離れるのがうまいと言うか。だけどスコードロンの活動に関してはちゃんとしてるんだよな」

 

 光剣使いのキリトと、アスナはそう言いながら、うまく言葉にはできないようだった。

 

「えっと、キリトじゃなくってテイルね。彼は、まあキリトとよく似てるな~とは思うわね、無茶するところとか」

 

「はい、決断したらそれを譲らないところとかですね。助けられることが多いですけど、ひやひやすることが多いです」

 

「そうですね、頼まれたことも意外と断らない人ですね」

 

 リズベットとシリカ、リーファはそう言う。

 

 リーファはよく現在は彼しか持たない《アルティメットファイバーガン》、略してUFGを使い、共に空を飛ぶとのこと。

 

 シリカとはピナと言う幼い竜によくエサをあげたりしている模様、実家で飼い猫がいる為、よくその話をするらしい。

 

「テイル、彼はよく穴場の料理店を紹介してくれて、よく彼に紹介してもらった店に行きます」

 

「ああ私も行ったよ~。テイル、ああいうところよく知ってるよね」

 

「なんていうか、彼、トレジャーハンターの才能があると思うんだ。この前のクエストも、初見であんな隠し通路見つけるし」

 

「ああそれ、ほんと、よく気づいたよね~」

 

 プレミア、ストレア、フィリア、レインがそう話しながら、彼はダンジョン攻略が得意であり、よく隠しトラップなど、隠されたものを見つける才能があるらしい。

 

「彼奴は、いつかでかいことをする奴って、オレ様は思ってた。まさかランキング1位を取るなんて、幸運のニュービーとか言われてた日が懐かしいぜ」

 

 だがいつかまた対決し、彼が持つアファシスを相棒にするとバザルト・ジョーは答えている。

 

「テイル? うん、ボクはいつか彼と剣で戦いたい。銃の世界で言うことじゃないけどね。いまは逃げないよう、どうすればいいか悩んでるんだ」

 

 キリト、キリコと同じ、光剣使いのユウキ。彼女やキリコのこともあり、現在GGOで光剣使いが流行り出す。ただ使いどころが銃よりも難しいと言う声が多数あり。

 

「彼のこと? そうね、狙撃じゃ負ける気はしないわ。まあ、いつかは白黒はっきりさせたいわ」

 

 そう言いながら、相棒の銃を持つ彼女は、少しだけ憎々し気に語る。

 

「そうね~、彼は人たらしね。私もデイジーちゃんもそれで捕まったの」

 

「はい、そうですね。マスターのことが大事ですが、あの人のことも考える時間が増えています」

 

「………デイジーちゃんがそう言うのなら、少し頑張りましょうか?」

 

「な、なんのことですマスター!?」

 

 彼女のアファシスデイジーはそう言い、ツェリスカはそうコメントした。

 

「彼奴? 彼奴はもうあたしより強い、それは認める。だけど絶対、ぜっっったい、いつかあたしが一番を取る。彼はあたしの目標ですっ」

 

 クレハはそう明るく言い、その当人はと言えば、

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「はーい、みんな~。そろそろ時間だよ~」

 

「わ、わたし、自分のことじゃないのに緊張しますっ」

 

「はは、シリカがこれじゃ、本人もう固まってるんじゃない?」

 

 リズの言葉に、容易に想像できるため、全員が苦笑する。

 

「しかし、彼が《MMOストリーム》に出演か」

 

「反省を促すにはうってつけね」

 

「あんたら、自分の罪が軽くなったと思って無い?」

 

「えっ、だっ、ダメなのかっ」

 

「諦めなさい、私は諦めた」

 

 そして番組が始まり、簡単な流れからすぐにゲストが呼ばれる。

 

『《SBCフリューゲル》最速攻略スコードロンリーダーにして、第三回《BoB》優勝者っ。数々の話題騒然のプレイヤーとそのアファシスさんです、どうぞ』

 

『どうも、テイルです』

 

『アファシスタイプXナンバー00こと、マスター登録名ヒカリ、皆さんからレイちゃんと呼ばれてますっ。みんなーーー見てますかーーー!』

 

 カメラに向かって頷くテイルと、元気に反応するヒカリ。

 

「おっ、始まった始まった」

 

「テイルの野郎、普通に出てるじゃねぇか」

 

 攻略の話、大会の話。あまり詳しく話せられないところは避けながらも、ヒカリの暴走を止めていた。

 

「………なにか予想よりもまともな受け答えね~」

 

「テイル、彼奴すでに脳内会議で話しかけられる話と、話題になること全て前もって予習してるッ。きっとそう、そうに決まってる!」

 

 クレハの言葉に、仲間たち全員が少し苦笑する。

 

「ま、まあ、イツキや事件のこともあるから、仕方ないんじゃないか?」

 

「そうですけど~」

 

「あたしたちは、彼奴の普段見せない戸惑う姿見に来てるのよっ。なんかしてよインタビューっ」

 

「リズ、それはそれでどうかな?」

 

 そのようにがやがや言うが、何名かは顔色が悪いことに気づく。十分きついようだ。

 

『それでは次に………スコードロンメンバーに関してですが』

 

「えっ、ああ、この前の」

 

「この前?」

 

「この前ってなんだ?」

 

 エギルとクラインが首をかしげ、全員がえっと言う顔になる。

 

「なにって、インタビューがあったじゃないですか。ほら、いましてます」

 

「俺らされてないぞっ」

 

 その話を聞き、キリトたちは首をかしげた。

 

 トッププレイヤーだからか、アスナの際側にいたキリト含め、インタビューされた。

 

 中には関係なさそうな人もいるが………

 

「なんでバザルト・ジョーはいて、俺らは」

 

「バザルト・ジョーさんは、私たちのあと、インタビューの記者に話しかけてたと記憶してます」

 

「それって押しかけなんじゃ」

 

 プレミアの言葉にそう思いながら、メンバーのインタビューが終わり、

 

『それでそれで聞きますが、ぶっちゃけ、誰と付き合ってるんですか』

 

 

 

 その時、全メンバー並び、テイルも顔が固まる。

 

 

 

『えっ、マスター? 誰かとお付き合いしてるんですか』

 

 ヒカリがキョトンとして、しばし思考した後、ニヤリと笑う。

 

 あの時、死銃(デスガン)を挑発した謎のダンス(本人が言うにはギラヒムをイメージしたと言っていた)をした時の顔だ。

 

『まず一言、アスナはキリトの彼女だ。彼女だけは無いです』

 

 息を吹き返してそう告げた。

 

「な、なななななななっ」

 

「なに言ってるんだテイルゥゥゥゥゥゥ」

 

 被弾したキリトとアスナが絶叫し、テレビの奥では、

 

『光剣使いのキリトさんとアスナさんはそう言ったご関係なんですかっ。そうなんですね!』

 

『はい』

 

 そこだけ生き生きと答える辺り、彼が息を吹き返したと言える。

 

 だがそこで終わらない。

 

『インタビュー以外にも、キリコさんと言う、シノンさんと同じ大会参加者とお知り合いのようですが、彼女たちとはいったいどのような関係です?』

 

『? キリコは』

 

『ヒカリ、少し待って。色々待って』

 

 すぐに側により口を押える。顔色は変わっていないがそれはいけないと焦っていた。

 

「テイルナイスよく止めてくれたっ」

 

 キリトが公開処刑を免れる中、ヒカリの口を押えるテイル。

 

 だが、

 

『ですがマスター、仲間の皆さんはほとんどはキリ』

 

 

 

 その時、ウワアァァァァァァァァァァァァァァとキリトのホームで絶叫が響き渡る。

 

 

 

「えっ、なに、どうし」

 

「どうしたじゃないお兄ちゃんっ、ヒカリちゃんやめてえぇぇぇぇそれ以上はっ」

 

「早くっ、彼らをログアウトさせてえぇぇぇぇぇぇ」

 

「まっ、待ってくださいっ、テイルさんはログアウトしても、レイちゃんは残りますっ」

 

「ナイステイルっ、そのまま止めてええええ」

 

 フィリアの叫びに、ストレアとプレミアは気にしていない。

 

 そしてレイン、クレハだけは血の気が引きながら見ていた。

 

『ともかく、うちのメンバーで色恋話はキリトとアスナしかオープンじゃないです』

 

「そこも違うッ!」

 

「やーーーめーーーてーーー」

 

「? パパたちはなにを顔を真っ赤に叫んでいるんですか?」

 

「ユイちゃん、とりあえず、そっとしておいてあげてくれ」

 

 クラインがそう言う中、テレビの中はいまだその手の話題を聞き出そうとしている。

 

『いえいえ、そう言えばとある情報屋さんのお話では、ツェリスカさんのアファシスさんや、黒髪の小さな少女さんと仲良く歩いていると情報が』

 

「ハッ、待って、その情報待って」

 

 キリトが我に返り、その話を聞き、ユイを見る。彼女は可愛らしく首をかしげた。

 

「なにそれ聞いてない、テイルさんなにしてるの。ユイちゃんっ!?」

 

「えっ、テイルさんと町のお散歩ですけど……。なにかダメなんですか?」

 

「ダメって、だってその」

 

「ダメだ、テイルがもし狼になったらどうするっ」

 

「テイルさんは物語の綴りでテイルで、狼さんじゃありません。英語名もウルフですよパパ♪」

 

「そうじゃなくって」

 

 画面の中も外も騒がしい中、テイルも言葉を選んでいる。

 

『その子はそういうのではなく、えっと』

 

『? ユイはキリトとアスナの』

 

『ヒカリ待って! そこはストップッ』

 

「やめてえぇぇぇぇ、テイルさんっ、レイちゃんを止めてえぇぇぇぇぇ」

 

 結局特ダネと言う顔で聞いてくる彼らの言葉巧みとヒカリの暴走を止めつつ、色恋はノーコメントを貫くのだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 砂漠地帯、スコードロンとしての活動で、とある噂、砂漠の中、雷鳴と砂嵐と共に現れるラクダ型移動ダンジョンへと挑む。

 

 移動ダンジョンかは、俺とシノンで知っていたから、そう判断した。

 

(『雷の神獣ヴァ・ナボリス』、少しばかり過剰戦力過ぎるがこれくらいでいいだろう)

 

 そうあの存在へと挑むことを考えつつ、キリト、シノン、俺と言うパーティーは別のポイントで待つ。

 

「なあ」

 

「? どうした」

 

 それは突然だった。いや、少し兆しはあった。

 

 ただそれはいままでズルズル引きずっただけか。

 

「教えてくれないか、君のこと」

 

 キリトがそう静かに話しかけてきた。

 

「俺のこと」

 

「いや、正直に聞く。『もう一度若くして死ぬなんてごめんだ』、この言葉ってどういう意味だ?」

 

「………」

 

 シノンが僅かにスコープを覗くのをやめてこちらを見る。

 

 静かに黙り込む中、静かに耳を叩く。インカムを確認し、繋がっていない事を確認した。

 

「………大学に行く時、憂鬱な気分だ。正直孤立はしてないが、人付き合いは苦手でな、行くのかいやだなとか考えてた時、車が俺に激突したらしい。あんま覚えてないんだ」

 

「それは」

 

「………気が付くと白い空間で、俺は死んだとか言われた」

 

「………」

 

 キリトは何も言わず、シノンも何も言わず聞く。

 

 そしてそこで俺は、生まれ変わる世界に、デスゲームがあるかもしれない世界であり、仮想世界で一人の病魔に苦しむ少女が頑張って生きた世界だと言われた。

 

「正直いまじゃよく分からないな、その時に特別に三つの願いを叶えてあげると言われた」

 

 だから望んだ。デスゲームの被害者を無くしてほしい、少女の家族を救ってほしいと、

 

「だけど願いは、自殺者や、外側からの行動で死ぬことの回避。そして少女は少女だけしか救ってくれなかったな」

 

「………それは」

 

「しかも、自殺者を止めたければ、自分がデスゲーム世界へ行かなければ叶えられないとも言われた。だから次に望んだのは、勇者の力。あるゲームの主人公の力だ」

 

「勇者、君は」

 

 なぜ勇者を求めたか分からない。確か仮想世界に通じそうな自力な力で思いついたはず?

 

「その勇者の物語は知っているが、ゲームの中の物語。俺は五歳の頃はっきり記憶を取り戻して、その日から夢を見る」

 

「夢?」

 

「勇者がまるで実在したかのような感覚での、追体験。精神世界での鍛錬だ。習得を望んだんだからいいんだけど、まあ何度も自分はなにしてるんだと思ったな」

 

 飛竜など空を飛ぶ敵と対峙して落ちたとき、血を何度も吐いた。

 

 海中の敵で、何度も意識が飛びかける。

 

 倒し方はゲームで知っていた、だが殺されると言う恐怖は無かった。

 

 おかしくなるほど敵を倒した。ここでの死は本当の死と、魂の隅から隅まで叩きこまれる日々。

 

「ソードアート・オンライン、SAOが始まる前から君は」

 

「命のやり取りをしてた、まあ夢だ。死なないさ、死ななかった、死ぬことだけは無かった。ただ死んだ体験が延々と続くだけだ(・・・・・・・・・・・)

 

 そうだ、勇者は死ななかったが、俺は死んだ。

 

 だが再トライを許されていただけである。

 

「SAOが始まる頃には、もう覚悟はできてた。だけどあのゲームがデスゲーム化しないことだけは祈ってたんだが、すぐにログアウトボタンを確認してないのに気づいても冷静だった」

 

 その後は宣告される前に0にならないように見て回り、言われた通り自殺者が出ないようする切っ掛けになるように行動した。

 

「それが縁の下の仲間たち(ブラウニー)なのか」

 

「ああ、彼らの意見が通るようにきっかけになった。正直彼らの主張や思惑なんてどうでもよかった、願い通り死のうとする奴を止めることができるならどうでもいい」

 

 どんな声で俺は言っているか分からない。

 

「あとはゲームクリアだが、それはまあ、知ってた。誰が、どうやって、かは知らないが、クリアされることだけは知ってたから、その日をただ待つだけのつもりだった」

 

「君は」

 

 キリトは青ざめた顔でこちらを見る。

 

 

 

「君にとってのデスゲームは何年間続いてたんだ」

 

 

 

 ………

 

 勘が良いよなキリトは。

 

「さあ、五歳からボス戦をやらされたり、ザコ敵と戦わされたから、もう分からない」

 

「………」

 

 精神的年齢が何歳か分からない。

 

 ただ言えるのは、SAO内での出来事を冷静に受け入れて、冷静に対処できるくらいは鍛えられたとしか言えない。

 

「だからさ、俺はビーターやベータテスターよりも優遇されてる」

 

「違う……、そんなはずない。五歳の頃からデスゲーム体験をさせられて、そんな」

 

違わない(・・・・)。あの世界において、俺は確かに優遇されていた。だからバカげた方法で狩りをし、アイテムや資金集めができたんだ」

 

 乾いた風が俺たちの間に吹いた。

 

 俺は静かに笑う。

 

 笑うしかない。

 

「そう思わなきゃやってらない人生だった」

 

「………」

 

「SAOを始める頃には、漠然としなきゃいけないと言う意味すら無くなっていた。もう生まれる前から俺はデスゲームを始めてたんだよキリト」

 

 その言葉に、なにも言わない。言えないのだろう………

 

「………君は」

 

 そして重々しく、静かに聞く。

 

「どうしていまもゲームを続けられる………」

 

 その答えはある。

 

「遊びたいからさ、仮想世界を」

 

 それにびっくりしたように目を見開いた。

 

「これはな、レインたち、縁の下の仲間たち(ブラウニー)の仲間が装備をくれたから、最後のバトル、ユウキと戦ったから。最後の最後であの世界にいたんだユウキは」

 

「それは」

 

「あのバトルがさあ……、楽しかった。すげえよこの世界、前の世界じゃフィクションでしか無かった技術がふんだんに使われた世界だって、ユウキと戦って分かった」

 

 そしてなにより、

 

「嬉しかった、最後とはいえ、みんながくれた、みんなの力が詰まった装備に身を包んだあの日が、一番楽しいと思えた」

 

「………」

 

「だからなキリト、お前には礼があるんだ。返せないほどの」

 

「えっ……」

 

 

 

「俺をあの時、呼び止めてくれてありがとう。《黒の剣士》」

 

 

 

 その言葉を聞いたとき、キリトの頬を伝う涙が流れた。

 

「泣くなよ」

 

「いや、だって」

 

「もういいだろ、信じる信じないはそっちに任せる。ともかく俺は二度目の人生は楽しむと決めた。元大学生のおかげで、二度目は楽できたし、身体鍛えたりもしたしな」

 

 キリトは静かに黙り込むと、インカムに連絡が入る………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それは悲鳴のような雄たけびと共に斬りかかる。

 

 素早く、弾が当たらない中、ユウキ、キリトが前に出ていた。

 

 盾と剣を巧みに使うそれに、二人は斬りかかる。

 

 それと共に、狙撃使いであるシノンとテイルが撃ち払う。

 

「一気に畳みかけるぜキリトっ」

 

「おうっ」

 

 その瞬間、二人の光剣使いがその速さに対応し出し、一気に斬り込む。

 

 乾いた疾風が吹き抜ける銃の世界。二人の剣士は最後の闇を斬り払った………




勇者で無い勇者は、黒の剣士と邂逅し、やっとこの世界に根を下ろした。

次は最終章、オーディナル・スケール。

現実と仮想の間で、彼はその力でなにを為すか、お楽しみに。

それではお読みいただきありがとうございます。


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オーディナル・スケール
第38話・現実の仮想


誤字報告など毎回申し訳ありません、ありがとうございます。

最終章、オーディナル・スケール。リンクスタート。

ユウキも出るよ。


 俺は転生者、神様によって前世の記憶を持ち、この世界に退魔の勇者が持つ経験などを体験させられた男。

 

 大学生で、もうかれこれだいぶ年月が過ぎて、この世界の技術力に驚く。

 

 この世界には仮想世界、ゲームの世界にフルダイブする技術がある他に、新たな技術が世に出された。

 

 その名は『ウェアラブル・マルチデバイスオーグマー』と言う、覚醒状態で使用するもの。

 

 まるで物語の中であるもので、現実世界で仮想世界のように通話など様々な機能を使用できる。

 

 ここが俺の世界と全然違うと言うのを再確認される中、俺は平和に過ごしていた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「おはよう」

 

「あっ、おはよう」

 

 朝田詩乃、あの事件後、結局そのまま我が家に居候する彼女。俺はランニングと共にバイト帰りで、シャワーを浴びに出向く。

 

 すぐに出でミルクを飲みながら、詩乃の膝から移動したミケがすり寄ってくる。

 

 こいつ、普段は詩乃に懐いていて、寝る場所も詩乃についていくのに、ミルク飲むと寄ってくるんだよな。

 

「あらあなた、オーグマー外してるの?」

 

「ん、ああ……」

 

 詩乃の耳側に装着されている、簡単なもの。母さんもなにかと便利だからと普段から付けているもの。

 

 確かに発売されてから、機能性を考え買っている。というより周りのほとんど、多くの人々がこれを買って使用している。

 

 通話機能を始め、さまざまな機能が付いている。耳に付けただけで使えるんだから、まさに最先端の技術の一つだ。

 

 母さんがキッチンにいるのを見ながら、詩乃の側で、

 

「どうも古い人間だからな、こっちの方が落ち着くんだ」

 

「………そう言えばそうね」

 

 俺が前世を持つ人間だと知るのは、この世界に二人いる。彼女はその一人だ。

 

 正直彼女はしばらくして、死んだのは本当に大学生の時?とか聞かれる。どうもはたから見るとだいぶ若くないらしい。

 

 ともかくそんな会話の中、ここ最近豪華になる我が家の朝食がテーブルに運ばれた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………」

 

 大学の帰り、本屋で買い物する。図書券が使える場所で探していると、

 

「?」

 

 かなり売れている、山積みの本を見る。それはある事件を書籍化したものだ。

 

 かすかに苦笑する。買ってはいないが、登場人物が派手になっていた。

 

「………こちらでも主人公、大変だな」

 

 しみじみ彼の苦労を考えて呟く。主人公、勇者なんてなりたくないだろうに。

 

 その時メールが来た為、オーグマーを操作して開く。

 

「キリトからか」

 

 内容はオーグマーを使用した、ARゲーム『オーディナル・スケール』の誘いだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「木綿季」

 

『あっ、テイル♪』

 

 最近はだいぶ肌に肉がついてきた少女。親権がこちらのものになり、苗字を変えるか本人と相談し決める話で、いまだ紺野の妹だ。

 

 色々しなきゃいけないこともあるが、身体第一に動くため、無菌室で《メディキュボイド》越しに会話する。

 

『え~、それじゃしばらくリアルのゲームするの~。ぶー』

 

「そう言うなって。景品が欲しいだけで、VRはやめないさ。可愛い妹はいないし、ヒカリもいないんだからな」

 

 そう会話しながら、もしも木綿季が元気ならば、きっと元気に遊ぶんだろうなと思いながら、色々話をする。

 

 少しだけ現実の時間を増やしたとか、無菌室から出られるよう、出されたご飯は食べているとか、色々だ。

 

 だけど結局この後、仮想世界で会話するのだから、なにしに来ているか分からないが。

 

 そんな感じで、木綿季と仲良くしている。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 俺は『ザ・シード』を利用して作った、仮想世界にログインしていた。

 

 ここはプレミア、ティアなどがログインできるようにしたもので、セブンの協力もある。

 

 まあ主に俺のVRスケジュール管理や、彼女たちの交流場になっていた。

 

「ストレアだけか」

 

「ああ、うん。プレミアたちはイベントの準備だって」

 

 プレミアはALOなどでセブンの手伝いで、女神として活動したりする。

 

 だから時々イベントNPCなどで活動したりするのだが、

 

「最近、ALOもイベントが人数不足で中止が多いね」

 

「だな」

 

 悲しそうなストレア。お祭り好きな彼女には、寂しい話だ。

 

 レインもVR関係より、現実と言うより、オーグマー関係の仕事ばかりしている。

 

 選べる立場では無いが、VRもしたいと愚痴っていた。

 

 フィリアも現実で、オーグマーでのマップ探索したり、リズたちも楽しんでいるが、

 

「寂しいが、一時的なものだろう。リアルはきつい」

 

「そうだね。それにここでお話しできるし。ねえ知ってる、ユイったらALOのピクシー姿で、アスナたちとリアルの方でお話しできるって。テイルもアタシを連れて行かないかな?」

 

「考えておくよ」

 

 そんな会話をして時間を過ごす。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 イベント会場の情報はギリギリまでユーザーに発表されないイベントであり、俺はバイクを使いやってくる。

 

 正直日々貯めた金を使ったため、かなり高めの、いい物だ。大事にしないとな。

 

 夜遅く、子供は出歩く時間は少し怪しいのだがと思いながら、見知った顔を見つけ、そちらに近づく。

 

「っと、テイルか」

 

「クライン、それに」

 

 クライン以外にも、彼と同年齢の大人たちがいる。彼らはおそらく彼のギルドメンバーだろう。

 

「おうっ、俺たち『風林火山』のメンバーだ。お前さんのことも話してあるぜ」

 

 SAOからの仲間たちで集まる中、キリトも来るらしい話を聞く。

 

「お前さんもこのゲームしてたんだな」

 

「ああ、母親が報酬の割引券とか、上位になると手に入るから」

 

 そう、このゲームは町中で行われることにも驚くが、多くのスポンサーと景品、割引券など多々ある。

 

 人気の理由として、仮想世界のような事件は起きないと、そう付け加えられながらが気にはなるが………

 

「それじゃ、《GGO》はどうしたんだ?」

 

「してるよ、それと《SA:O》。ユウキやティアとヒカリ。彼女たちに会わないと」

 

 そういう中、こちらの準備の為に街並みを見に離れる。

 

「ARか」

 

 前世の世界でよくて専用の施設で、それっぽいのがあった程度だが、それとは比べ物にならないほどのレベル。

 

 空に浮かぶドローンなどを使用した、完全なバーチャル空間での戦闘。

 

 町中を遊戯施設へと一変させる技術力に、驚きつつも、まあ別世界であり異世界かと納得する。

 

 ともかく、そろそろ時間だ。

 

「オーディナル・スケール起動」

 

 その瞬間、現実が塗り替わるように変わりだす。

 

 視覚できるものが変わっただけだがそんな印象だ。いまの街並みはビルではなく、ロンドンのような街並み。

 

 しばらく時間を潰していると、キリトとアスナらしい人物もいる。話しかけられる前に、時間が来てしまう。

 

 そんな中で現れたのは、

 

「武者……、合わないだろ」

 

 そう呟く中、中世の街並みに、刀を持った鎧武者。まあユーザーの中には銃器を装備した者もいるのだからいいのだろう。

 

 これに勝てばお米券が手に入る。勝ってこいと言われている身、勝たなければ。

 

「おいあれ……」

 

 そんなとき、隣のユーザーが驚いていた。

 

「《アインクラッド》の十層ボス!? 彼奴は《カガチ・ザ・サムライロード》」

 

「は………」

 

 SAOの《アインクラッド》のボス? どういうことだ。

 

 キリトのらしき叫び声に振り返りかけたが、またどよめきが起きる。

 

 ともかくそんな話を聞きながら、次に一人の少女が現れた。

 

「あれは」

 

「みんなーーー頑張ってる~?」

 

 それはAIアイドル、ARアイドル『ユナ』が現れ、歌を歌う。

 

 彼女はARの広まる中、イメージガールとして活動する。NPCか人間か噂になりながら、人気急上昇中のアイドル。

 

 彼女の歌があるステージは、ボーナスステージとして扱われ、バフとクリア時のボーナスがあるのだ。

 

 そして始まるゲーム、俺にも攻撃が迫る。

 

 それを瞬時に躱し、斬り込みながら、すれ違う。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「テイルの奴、なんだあの動き」

 

 剣閃を全て最小限に動きで躱しながら、すれ違いざまに斬ると言う。

 

 どんな角度からの攻撃も即座に避けて、それと共に斬ると言う芸当に、

 

「VRじみてるぞっ」

 

 クラインの叫びに、キリトたち、彼らが一番驚く、彼は別にあのエネミーの攻撃パターンは知らないが、まるで先が見えているように躱す。

 

 避けるだけでなく、その中の参加者の立ち位置も把握しているのか、邪魔にならずにソロプレイをこなしている。

 

 その動きもほとんどVRの空間じみていて、驚きの中、他のユーザーも動き出した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「っと」

 

 銃で遠距離する者がいる中で、バックステップで下がる。

 

 ランチャーの男が弾丸を放つと避けられ、それがユナへと迫った。

 

 だがそれを弾き、ボスへと当てたユーザーが現れ、一気に攻略が進む。

 

 アスナと共に交差して、ボスを切り裂く。

 

 戦いの中でキリトはあまり活躍できなかったようで、少し残念そうにしていた。

 

「アスナ、ナイスファイト」

 

「ありがとう、テイルさんも。それよりあの動き……」

 

 動きがどうしたのだろう? そう思っていると、

 

「ボスモンスター討伐おめでとう~~♪ ポイントサービスしておいたよ!」

 

 そんな中加算されるポイントに、アスナがこちらを見て驚く。

 

「テイルさんっ!?」

 

「って、テイルお前っ」

 

「君は」

 

 それは俺の順位、三位と言うものにクラインとキリトは驚いていた。

 

「お米券が手に入った」

 

「三位なんですねテイルさん」

 

 バイクを使えるのが一番の機動力と説明しておこう。

 

 なにより俺は勉強する時間はほとんどない。それはSAOが始まる前にだいたい済ませたし、その後も大量に勉強したり、身体も鍛えたりしている。

 

 やはり転生者ってチート過ぎるな。

 

「次はお肉か……」

 

 そんなことを呟くと、ユナが来る。これにはまだ慣れない。

 

 ユナが近づき、俺の頬にキスする。

 

 それにアスナたちが驚く中、だがこれが証らしい。

 

「今日のМVPはあなた♪ 凄い動きだったわ♪♪」

 

 そう言って去るユナ。これで何度目だろうこの使用。

 

「うらやましいっ」

 

 そんな言葉がクラインから言われ、呆れるしかない。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「キリトは少し運動したらどうだ、俺のパワーリスト貸そうか」

 

「いや、俺はそういうのは」

 

 バイクからパワーリストを取り出し、装着する。

 

 キリトたちもその様子を見ながら、キリトは尋ねた。

 

「普段から付けているのか」

 

「ああ、これくらいないと落ち着かないんだ」

 

 さすがにゲーム中は外すが、日常生活において重りは常につけている。それくらい無いと落ち着かない。

 

 あの体験で、大きな物をよく持ったりして移動するのだから、これくらいはな。

 

 そう思いながら、次はヘルメットを付けて、

 

「アスナのこと、ちゃんと送れよキリト」

 

「じゃーなーお二人さん、テイルも気ーつけてな」

 

「ああ」

 

 クライン組は車か徒歩らしい。キリトと共にお互いバイクを動かし、その場を後にする。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ただいま」

 

「お帰り~」

 

 母さんがリビングで、父さんのお酒をつまみを運ぶ。

 

 お米券を手に入れたことを伝え、客間、詩乃がいる部屋を見る。

 

「詩乃はVRか、俺はもう寝るよ。他のVRやARがやれなくなる」

 

「ヒカリちゃんね、心配かけちゃだめよ」

 

「ああ」

 

 ミケは詩乃の側にいるのだろう、あの子、シノンの部屋に入り浸りすぎる。部屋に戻り寝ることにする。

 

 VR、AR、学園、生活の全ての両立は大変だ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「マスターっ、今日はどこに狩りに出かけますか!」

 

 GGOでプレイヤーをサポートするキャラクター、アファシスこと、ヒカリは嬉しそうにしていて、ここ最近のイベントを確認している。

 

「ここ最近、GGOも人が集まらず、イベントが延期になることが多いです」

 

「ホント、ここ最近はね」

 

「デイジー、クレハ」

 

 ザスカーの人間である、ツェリスカのアファシスデイジー。

 

 彼女のマスターは少し不満そうに、いつも仕事しているらしい。

 

 今日もログインできず、ここに遊びに来た。それを考えると狩りではなく、話したりしてた方がいいだろうか、掘り出し物でも探すか。

 

 そして幼なじみの姉妹、その妹であるクレハはため息つく。

 

「人が少ないです、マスター」

 

「そうだな、みんな現実のゲームを楽しんでるんだろ」

 

「………戻ってきますでしょうか、皆さん」

 

 デイジーが心配そうに呟き、その頭を撫でながら、

 

「戻ってくるさ」

 

「テイルさん……」

 

「………ARは、きつい」

 

 身体が悲鳴を上げるときがあるし、たぶんキリトのようなタイプのプレイヤーがいるから、話題が盛り上がっているいまだけだろう。

 

「あっ、デイジーだけずるいですっ。マスターのなでなではわたしだけのものです!」

 

 そう言ってヒカリも近づき、頭を撫でる。

 

 ちなみに話すタイミングを逃し、ジョーがこちらを見ているが、いまは見て見ぬふりをしよう………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ここ最近、VR、フルダイブシステムの事件はともかく、オーグマーやARゲームの影響でログイン数が伸び悩んでいるらしい。

 

 そんな中、SAO事件のことが書かれた書籍が発売。

 

 名を『SAO事件記録全集』と言う、本人が言って無い決め台詞付きで売られていた。

 

 どうもこの書籍により、このゲームに出て来るアインクラッドのモンスターと戦おうとするユーザーもいる。

 

 正直、どうなんだろうと思うが………

 

「その世界か」

 

 少しだけ寝るためにログアウトし、しばらく目を閉じる。

 

(そう言えば……、彼女の歌のことは、どう書かれているんだろうか………)

 

 もしかすれば自分のように書かれていないだろう、名の無きプレイヤーを思い出し、静かに眠りにつく………




ARとVR、そして現実と、元気の秘訣はミルクである。

常に重りと身体を動かすことを忘れない彼は、やはり現実でも達人レベルの動きをしました。新体操部でも行けば凄いだろうか?

テイル「おじさん身体ボロボロだよ」

それではお読みいただき、ありがとうございます。


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第39話・ゲームの裏

現実世界でアクロバティックな動きをして、かなり身体にがたつきがある彼。

テイル「歳だな」

シノン「精神的な意味よね?」

そんな感じで特典を逃さず手に入れています。


 それはまた夜遅くであり、イベント場所がユーザーに発表された。できれば寝てたいが、今度は肉なのだ。

 

 バイクを走らせ、入り口付近にクラインたちがいる。

 

「クライン、それにギルドメンバーか」

 

「おうテイル、お前さんか」

 

「どうした、イベントはこの先だろ」

 

 いまだ入り口付近にいるクラインたち、指定された場所はその先のはずだ。

 

 それには髪をかき乱しながら、困惑した顔で答える。

 

「いやな、まだメンバーが全員そろって無いんだわ」

 

 そう言われれば、一人足りない。遅れているのだろうか?

 

「そうか、悪いが俺がもらえる特典は肉なんだ。ポイントはもらうぜ」

 

「ちえ、しゃーねー。お前さん、こっちでもおかしなくらい化け物じみた動きするんだもんな。それでも、少しはいいとこ残しておいてくれよ」

 

 それに手を上げ返事をし、先に進む。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………」

 

 携帯端末をいじりながら、時間を潰す。

 

 そんな中、

 

「テイルさん」

 

「アスナか」

 

 少し遅い時間なのだが、彼女も駆けつけられたようで、顔を上げる。

 

「キリトとクラインは?」

 

「今日は彼は来られないようですね。クラインさんの方はまだメンバーが来ないようで」

 

「もうすぐなんだが」

 

 そう言っていたら、時間が差し掛かり、スマホをしまう。

 

 そしてバトルが始まる。今度はヒポグリフのようなもので、それに隣のアスナを見る。

 

「あれも《アインクラッド》の」

 

「はい、戦闘パターンは知ってます」

 

 そういうアスナの指示の下、ユーザーたちも動く中、合わせる。

 

 そんな指示を聞いて動くだけの作業の中、俺は別のことを考えていた。

 

(風林火山のメンバーが来ない)

 

 あの様子では残りのメンバーが来ないのだろうか?

 

 しかしなぜまた《アインクラッド》のボスと言う事態、そのパターンまで同じのようで、アスナの指示が完全に敵を捕らえていた。

 

 さすがにおかしいと思うが、どうなのだろう?

 

(とはいえいまは、肉か)

 

 斬撃を加える中、静かに相手のHPを削る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「終わりましたね」

 

「ああ」

 

 辺りを見渡し、クラインたちを探す。

 

「クラインたち、結局来なかったな」

 

「はい……、来られなかった人を待ってたのかな?」

 

「ともかく遅いし、キリトがいないのなら送るよ。君になにかあれば、あの子が悲しむからな」

 

 それにアスナがありがとうございますと返事をされ、ここ最近のユウキの話をする。

 

「ALOにも顔を出せたら出してくださいね。あの子、ギルドの活動で頑張って、そっちにログインしてるので」

 

 スリーピングナイツは結局解散はせず、会える時会って遊ぶようになる。

 

 全員が快調に治療が進んでいて、俺は頷く。

 

 一応は時間は作っている。それで会えないのなら、現実で会えばいい。

 

「しっかし、歳かな? 疲れが取れない………」

 

「いえ……、あなたの年齢で歳云々はおかしいと思いますよ」

 

 そんな話をしながら、彼女を送り、家に帰る。

 

 結局クラインたちとは最後まで会わなかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ごきげんよう」

 

「テイル~」

 

 プレミア、ストレアを初め、GGOにフィリアとレインもホームにいる。

 

 紅茶を出す中、やはり話はここ最近のVRゲームの状況と、SAO事件の書籍だ。

 

「『俺が二本目の剣を抜けば立っていられるやつはいない』って、こんなセリフ、キリトなら言わないなあ~」

 

「うん、他も少し大げさだよ。そもそも、縁の下の仲間たち(ブラウニー)についても、テイルのことが一切合切、名目のところにもないなんて」

 

 どうやら登場人物として、キャラネームとギルド名が記載されているらしい。規模の多いギルドは、活躍したプレイヤーか幹部くらい。

 

 俺はただ最後に出て、それまでは金を稼いでいただけ。記載される理由は無いのが本音だが、レインはかなり不満そうだ。

 

「俺はただ、エネミーを倒してただけだ。ボス戦も、ラストしかいなかった」

 

 そう言うが、レインはお気に召さないらしく、機嫌が悪い顔で睨んでくる。

 

 縁の下の仲間たち(ブラウニー)は、プレイヤーを支えたギルドとして大きく書かれているらしい。

 

「だけど私たちは貴方に支えられたと思う。本当に支えていたのは」

 

 俺だと言いたいのだろうか?

 

 正直俺だけが資金や資材を集めていたわけでは無い。集められたそれらを公平に、または管理したのは彼らだから、自分は文句の言葉は無い。

 

「彼、ギルマスたちは俺が集めた素材を資金やアイテムに変えて、他のギルドとの繋がりを保ったりしていた。それとギルドを保ってる仕事もしてたんだ。俺はとやかく言う権利は無いよ」

 

「それは、そうだけど……」

 

 レインは沈みながら、書籍なんだから気にするなと言いたい。

 

 ストレアはデータ化されたそれを読み、ヒカリは、

 

「マスターが活躍してないなんておかしいです! メールを出して抗議します」

 

「やめなさい」

 

 そう言い、うがーとか言うヒカリを止める。

 

 止めていると、俺宛ての通話が入った。

 

「セブンからか」

 

「えっ、はっ!?」

 

 姉が驚きながらこちらを見ているとき、通話を開く。

 

『プリヴィエート、久しぶりに時間ができたわ』

 

「七色っ、どうしてあんたがテイルと」

 

『あれ? お姉ちゃんもいるの』

 

 そう言われ、通話を全員にも聞こえるようにしておく。

 

 セブンとは現実でもよく会話する。この前の事件もあり、連絡はよくしていた。

 

『こちらとしても、あなたとは仲良くしておきたかったから』

 

「ど、どういう意味なのかな~」

 

 フィリアたちがにやにやしているが、ヒカリとデイジーだけはこちらを睨む。なにをしたというのだろうか。

 

 プレミアもティアに報告をとか言うし。なにがなんだか分からない。

 

『それより、そちらはどう? 変わったことは無い?』

 

「それは」

 

 一瞬ためらったが、調べればわかることだ。それだけ公になりつつある。

 

 ここ最近の《オーディナル・スケール》にて起きる。SAOのボスを伝えた。

 

 最初はセブンも首をかしげたが、アスナの指示のもとでの戦い。向こうのパターンが分かっていたところで、怪訝な声が響き渡る。

 

『それホント?』

 

「ああ、アスナが言う通りのパターンで攻撃してきた」

 

『どういうこと? ALOやSA:Oならともかく、なんでARの世界でそんなこと』

 

 戸惑うセブンの言葉を聞きながら、ストレアも少し考える。

 

「ユイはなにか言ってた?」

 

「キリトたちからは、まあ連絡はしてるのはシノンだから。彼女から聞くよ」

 

「そっか、シノンはいまテイルの家にお世話になってたね」

 

 フィリアが思い出しながら、シノンのいまのリアル事情を思い出す。

 

 事件のこともあり、両親が刑事であること、警察関係者や大人な問題に対処するのにかなり強いのは知られている。なにより俺が一応、クラインやエギルの次に年上なのだ。

 

 それの話の中、元々の連絡はなんなのか聞く。

 

『ああうん、実はARの歌姫って言われてる、ユナについて』

 

「あれか? ルクスが言っていた」

 

「………はい?」

 

 気のせいか視線が何人かから突き刺さる。

 

 なぜかそれをとやかく言うと、時間が遅れそうなのでそのまま話を続けた。

 

『彼女のコンサートチケット、私も手に入れたの。まあ普通のお客としてね、お姉ちゃんも交えて一緒に行こうと』

 

「ああそれなら、俺は自分の分がある。ゲームの特典で」

 

「あっ、それは私も持ってる。SAO帰還者学校の生徒なら無料で」

 

 フィリアはそう言い、ストレアたちはいいなと言う。

 

「セブン、せっかくだから誰のかオーグマーの中にストレアやヒカリのことを連れて行けないか?」

 

『この前の貴方のプログラムを利用すれば可能よ』

 

「プログラム?」

 

「キリトだけが、VR空間から現実見る方法を考えている訳じゃないさ」

 

 ユイちゃんや、ユウキの為に、そう言った物を作ったキリト。こちらも作った。

 

 ちなみにアファシスも他のゲームに連れて行けないか、色々話したりしている。

 

『まあそれなら向こうで会いましょう。お姉ちゃんも後で話そうとしてたけど』

 

「せっかくだから行くわ。同業者としても、ユナのコンサートは気になるもん」

 

 そんな会話の中、少しばかり思い出す。

 

「マスター? どうしましたか」

 

「いや、少しな」

 

 ルクスにも行くとは言っていたが、ユナ、か………

 

 俺はその言葉と共にあるプレイヤーを思い出す。彼女、あの世界の歌姫を。

 

「………」

 

 また鉛のような黒い闇を思い出しながら、その空気を払う為に、紅茶とケーキを出した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ユナのコンサートなら、私もみんなで行くわよ。クラインも乗り気でね」

 

 翌日の家でそんな話を聞く、ストレアをユイちゃん方法で連れていくことも話して、フィリアが連れていくと話す。

 

 そんな話の中、朝食の準備がされていた。ミケが自分の席と言わんばかりに詩乃の膝に居座る。

 

 いまは現実世界の我が家。母親はキッチンに居て、父さんは新聞を読んでいた。

 

「父さん、少し聞きたいけど、SAOのデータはいま、七色博士たち、よくて政府が厳重管理してるんだよな」

 

「………お前がそんな話をするときは決まって事件だ、交換で話してやる」

 

 難しい顔でそう言う。まさか情報があるのか?

 

 父親から、細かいデータはいまだサーバーと共に政府が管理している。

 

 一般人がそうそう真似はできないが、ある程度研究者などはその存在を知っているらしい。

 

 こちらも交換で《オーディナル・スケール》にSAOのボスエネミーが出ていることを伝えた。

 

「………まったく、そちらは部署が違うが、調べておく」

 

 お互い、また妙な事件が起きる。そんな気がしているようだ。

 

「ありがとう」

 

「また事件に首突っ込むの?」

 

 詩乃からにらまれる中、仕方ないと呟く。

 

「キリトが首を突っ込む前に、ある程度把握しておきたい」

 

「問題児」

 

「………」

 

「いいから突っ立ってないでどきなさいっ、ご飯よご飯っ」

 

「ほら、あんたも自分のご飯食べに行きなさい」

 

「にゃ」

 

 母親からそう言われ、詩乃から下りるよう言われたミケは下りてご飯へと向かう。

 

 ともかく飯を食って、少し様子を見に行くか。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 バイクで、イベント跡地を巡る中、地図で位置を確認する。

 

「………これだけじゃ分からないな」

 

 オーグマーで辺りを確認する中、気配がした。

 

 すぐ振り返ると、そこにフードをかぶる少女がいる。

 

「君は」

 

「………」

 

 その時懇願するようにこちらを見る。

 

 口だけが動き探してと動かし、どこかを指で指す。

 

 そちらを振り返り、すぐに少女に振り返ると、そこには誰もいない。

 

 オーグマーを外しても周りを見るが、これでもいない。

 

 すぐに人が消えたところから、彼女はオーグマーで見せたデータなのだろうか?

 

「………探すか」

 

 まずはその方角を記録し、地図を広げる。一直線だけでは探せないが、覚えておかないと、

 

「ん」

 

 スマホが鳴り、メールが来る。

 

 キリトからクラインと連絡がつかないらしい。

 

 俺もクラインに連絡してみたが繋がらず、ともかくその場から指さされた方へと調べ出した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 色々調べるが、ともかく円形に辺りを見らべたりしている。

 

 時間が夜になり、メールを確認していると、シノンからメールが来た。

 

『ごめんなさい   貴方に連絡するよう言われてたけど、少し忘れてたわ。オーディナル・スケールのイベント会場が分かったの。どうも《アインクラッド》の出現位置近くにある場所と重なるようで、今度の場所は』

 

 そう言われメールを確認し、場所がSAOと重なるとは、ますますおかしな話だ。

 

 言われた場所に行こうとしたとき、電話が入る。

 

「もしもし」

 

『おお悪い、俺だエギル』

 

「エギル、どうした」

 

『お前さんも知ってるだろうが、クラインについてだ』

 

 どうも怪我で入院しているらしい。それに聞き驚く。

 

 骨を折り、イベント中に何かあったらしい。

 

『お前も気を付けろ、もうキリトには連絡しているから』

 

「ああ分かった」

 

 そして電話を切り、バイクに、

 

「!」

 

 その時、フードの少女が目の前にいる。

 

「何を探してほしい」

 

 驚き、すぐに我に返り、彼女の頼みを聞く。

 

 なぜ聞こうとするか、なぜ?

 

(俺はなんでこの子の願いを聞こうとしている?)

 

 そう疑問に思う中、また指さす方角を確認して、地図に記録する。

 

「お願い」

 

 そう彼女から言われた。

 

 それに、俺は、

 

「できる限りはする」

 

 その言葉を聞いて、少し驚き、微笑んだ。

 

「そこだけは変わってないんだね」

 

 そう言って姿を消えた。

 

 いまの言い方、まるで俺を知っているようだった。

 

「ともかく方角を確認して、イベントか」

 

 イベントは予想的中したように、言われた場所であると後で知った………




彼女は彼の前にも現れます。

だけど彼はすぐに思い出せません。それほどまでに代わり映えしない考えで、同じことをし続けたから。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第40話・僅かな繋がり

今回彼は新体操選手になる。


 それはSAO時代、一人の戦士はおかしなほど戦い続けていた頃。

 

 槍、刀、投擲武器、両手、片手剣を装備する。一人の戦士はいつも重々しい顔で歩く。

 

 だが彼も歩みを止める時がある。それはあの少女の歌を聴くときだ。

 

「貴方、いつも歌を聴いてくれる人でしょ」

 

 そう言ってある日、彼女に話しかけられて静かに頷く。

 

「君は……、色々なところで歌うんだな」

 

「ええわたし、歌うことが好きだから」

 

 そんな中、何度かレベリングを頼まれた。これは時々頷いた。

 

「あなたはどうしてそんな顔で戦うの?」

 

「………」

 

 フィールドで休んでいる時、彼女からそう問われた。

 

 彼は静かに両手を見る。

 

「これほどしていても、こぼれるものがある」

 

「………それは、貴方が石碑を見ることと関係あるの」

 

 石碑、それはプレイヤーが死んだ印が刻まれるものを指しているのだろう。

 

 彼は静かに頷く。

 

「全てを救える気は無い、だけどできることをやる」

 

「強いね、あなたは」

 

 その時、彼は首を横に振る。

 

「俺より、君は強い」

 

 そう言われても彼は結局歌を聴く間、笑うことも何もしなかった。

 

 だけど重々しい歩みを止めることはできていた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 急いで開けた場所を目指したが、唯一の入り口は人によって塞がれていた。

 

「テイルさんっ」

 

「ユイちゃん、今回はボス二体か」

 

 ALOのような小さな妖精姿のユイちゃんはこちらに情報を言いに来てくれた。

 

 仮想世界の住人だが、オーグマーを付ければこうして彼女とも話せるのは便利だ。

 

「はいっ、今回は12層と91層のボスですっ」

 

「なにっ!?」

 

 それに言葉を無くす。一気に難易度が跳ね上がっていた。

 

「キリトは」

 

「人込みの中を駆け分けています。ママたちはフィールドで戦って、シリカさんはいま《ドルゼル・ザ・カオスドレイク》に狙われてます!」

 

 それを聞き、辺りを見渡すと確かにシリカが狙われていた。

 

 どうするべきか、キリトのように人込みに飛び込むか。

 

 そう考えているとシリカは別ユーザーとぶつかった。

 

「!?」

 

 そして彼に突き飛ばされたのが見えた。

 

「!」

 

 瞬時後ろへと爆走して構える。

 

 あのままではシリカがドラゴンに攻撃を受ける。なぜかそれは危険と察しした。

 

 ならばやることは一つ。

 

「テイルさんっ!!?」

 

 ユイちゃんが驚くと共に瞬時駆け出し、橋の塀を蹴り飛び上がり一気に下りた。

 

「テイルっ!?」

 

 前に進む為、地面には転がるように足から着地する。

 

 そのままシリカたちに向かって転がっていく。片腕に力を込めて前転した。一秒でも前へと進むためだ。

 

 ほとんど勢いを殺さず、前へと転がりながら進む。

 

「!?」

 

 ヤドカリのようなモンスターがこちらにタゲが取られ狙われたが、ほとんどスピードを殺さずに前に滑るように進み、そのままアスナがシリカをかばう瞬間に割り込む。

 

「セイッ」

 

 爪の斬り込みを盾で弾き、地面に身体を削られた。

 

「アスナっ、シリカ!」

 

「テイルさんっ」

 

「無事か」

 

「は、はい」

 

 その様子を突き飛ばした男が見ている。キリトもすぐに向かってくる中、気配を感じてすぐにエネミーを見る。

 

「キリトタゲ取られた、このままひきつける。後は任せた」

 

「!? 分かったっ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 炎が火球となり放たれるが盾で跳ね返し、撃ち落とす中、ヤドカリを睨む。

 

 すぐ側に誰かが来る。ユイちゃんだ。

 

「あれは《ザ・ストリクトハーミット》ですっ、背後の守りが硬いので、前方の攻撃を捌いてくださいっ」

 

「アシスト了解」

 

 瞬間、あの世界へと入る。

 

 巨大なハサミがスローに入る瞬間、これは、

 

「音速高速最速で倒す!」

 

 剣と盾でハサミを捌きながら突進するように前方のヤドカリを切り刻む。

 

「ドッケエェェェェェェェェェェェェェェェェェ」

 

 元々HPゲージは少なかったかすぐに消える。そのまま走り抜ける。

 

 背後からの気配は消えない。

 

「背後から来ます」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 

 建物の壁へと走り出す。

 

「突進、来ますっ」

 

 その瞬間、壁を駆けあがりその突進を避けた。

 

「うそっ」

 

「マジかッ!?」

 

「人間じゃねぇッ」

 

 身体をひねり背中を取る。

 

「セイッアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア」

 

 何度も背中で斬撃を加えて切り刻む中で、後ろへと着地してすぐに剣を構える。振り向く頭部を睨みながら構える。

 

「トドメ」

 

 そしてそのまま刺し殺し、ドラゴンは悲鳴を上げて消え去る。

 

「時間切………、って、えぇぇ、凄いっ、ギリギリでモンスター退治成功よっ♪♪」

 

 ユナがそう言い、全員に経験値が入る中、剣を振るい背中にしまう仕草をする。

 

「っと、背中に鞘は無いか」

 

 青年はそう呟き、すぐにユナが来る。

 

「今回のМVPはあなたっ、凄いなキミっ♪♪」

 

 そう言われ頬にキスされたが、それよりも気になることがあるためすぐに動く。

 

 その時、

 

「!」

 

 物陰からあの子がいた気がした。

 

 そして何かを指さす。

 

 すぐに視線がそちらを向くと、このゲームを投影させているドローンが目に入った。

 

「………」

 

 視線を戻すが誰もいない。

 

 すぐにアスナのもとへと駆けつけた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「アスナ、シリカ、二人とも無事か」

 

「あっ、はい……」

 

「まったく、あのナンバー2なんなのよっ。テイル、あんたさっさとナンバー1にでもなりなさいよ! いまの動きVR並みじゃない」

 

 リズにそう言われながら、それよりまだ座り込むシリカとアスナ、立ち尽くすキリトを見る。

 

「それよりキリト、彼は」

 

「いや……」

 

 気になる様子で考え込むキリト。アスナの手を取りながら、俺は、

 

「ユイちゃん、君に頼みたいことがある」

 

「はい、なんでしょうか」

 

 ALOのように妖精として飛ぶユイちゃんに、先ほどの話をする。

 

「君もかテイル」

 

「君も……、キリトもあのフードの子に会ったのか」

 

 彼もまた探してと頼まれたらしい。

 

 詳しい話を明日することにして、いまは彼女たちを家に帰す。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「やっぱあんな動きするもんじゃないな」

 

 身体を動かしながら、今日はパワーリスト外すべきかと考えながら家に帰る。

 

「お帰りなさい」

 

「詩乃、父さんも」

 

「少しな、またイベントでなにかなかったか」

 

 二人ともイベントで話があったらしく、待っていたようだ。

 

 それに12層と、一気に話が飛んで91層のボスが現れたことを伝え重々しい顔になる。

 

「そう言えば」

 

「どうしたの?」

 

「いや、彼奴の、91層だけ少し違う気がした」

 

「どう違う」

 

「シリカにだけ、ああ、知り合いの子。にだけターゲット、つまり狙いをずっとつけてた」

 

「他にタゲが回らなかったの?」

 

 詩乃の言葉に頷き、だが自分が出てきたら自分にと、

 

「どういうことだ? それに父さん」

 

 少しだけ父親を見る。

 

 どうしてこんな話を聞きだそうとするのか。

 

「交換だ」

 

「………」

 

 少し黙り込むが、ため息をつきながら話す。

 

「ここ最近、一時的な記憶障害を起こす人間がいる。そのほとんどがある事件の記憶だけ思い出せなくなり、いま検査を受けている」

 

「ある事件……」

 

「SAO事件、その事件の間のことだけを忘れて、一時倒れた者もいる。しかもあるゲームをしてからだ」

 

 その言葉に驚きながらすぐに勘付く。

 

「あるゲームは、ARか」

 

「………どうせ止めても止まる気は無いのだろう。証言を聞く限り例のイベント、SAOのボスキャラが出ると言うのが始まってからだ」

 

「………シリカと俺はSAOからの帰還者。まさか」

 

「貴方たちを狙ったって言うの、そんなまさか」

 

「………キリトにも言わないと、彼奴もかなり勘付いてる。彼奴が話して止まる気が無いだろうからな」

 

 ため息をつくと共に、この異変に深く関わりだす。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「SAOの記憶が無くなるなんてッ」

 

 血の気が引き、青ざめるみんな。

 

 ユウキも話に加わるここは、ALOのキリトたちのホーム。

 

「ああ、父さんの話ではそういう話だ。詳しく調べたがそう言ったことは仮説だが、SAOを思い出される環境下での記憶スキャンらしい」

 

「それって」

 

「まずあのイベント、SAOのボス戦が関係してるとは思う」

 

 アスナが青ざめて、ユイが側に駆け寄る。

 

「私ばかりにタゲが取られてたのって」

 

「もしかすればSAO帰還者(サバイバー)だからと考えられる……。キリトあの男、彼がなにか話してなかったか?」

 

「それは……、君を見て驚いていた。臆病者のはずだと」

 

「それは」

 

 どういうことだと思うが、アスナが彼のことを説明する。

 

 それは《血盟騎士団》の《ノーチラス》と、

 

「ノーチラス、彼が」

 

「待ってくれ、君は彼を知っているのか」

 

 キリトに驚かれる中、静かに頷く。

 

「彼は、知り合ったプレイヤーから紹介された人間だ」

 

 彼は《血盟騎士団》で一年足らずで入った実力者。

 

 だが死の恐怖に勝てず、ボス攻略戦には一度も参加していない。

 

 そうアスナから説明を受けたとき、

 

「違う、正確には打ち勝てていた」

 

「? どういうことだ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「はあはあ……」

 

「………」

 

 一人の騎士と一人の戦士が武器を構え、ぶつかり合った。

 

 そして戦士は彼に、死刑宣告を告げる。

 

「君は戦えない、君は恐怖に勝てない」

 

「そ、んな」

 

「正確には勝てても動けない」

 

「っ!?」

 

「どういうこと」

 

 側にいた吟遊詩人の女性プレイヤーが剣を仕舞う戦士に聞いた。

 

「君は理性よりも先に生存本能の命令が、アバターを動かしている。君の生存本能が戦いを拒絶してしまうんだ」

 

「それは……」

 

「君はボス戦では戦えない、ナーヴギアが君の意思や理性よりも先に、死を拒絶する人間の思いをくみ取り動かさないから」

 

 騎士は必至な思いで騎士になり、友人を現実世界へと帰すためにここまで来た。

 

 だが一人の戦士により、それは不可能と告げられる。

 

「そんな、そん、そんなことはッ」

 

「なら俺の剣を向けられて、お前は動けたか?」

 

「ぁ………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 友人に抱きしめられ、悲鳴を上げる。

 

 剣の世界で戦えないと言われた彼は、心が折れかけた。

 

「ふざけるなッ、あんたになにが、ボス攻略にも一度も出ていないあんたにッ、あんたになにが分かる!」

 

「………俺は臆病者だから」

 

「それは」

 

 女性プレイヤーが何かを言おうととしたが首を振って、悲鳴にも似た叫びから目を背けて、ただいつものように歩き出す。

 

 なにか言う権利も無いし、言ったところでなにもできない。だからこそただ現実を知らしめることしかできない。

 

 それが彼、ノーチラスと《沈黙の蒼》テイルの出会いだった

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「それじゃ、彼は」

 

「恐怖にいくら勝っても、機械がそれをよしとしない。少なくてもあのゲームにおいて致命的な障害を背負ったプレイヤーだ」

 

 それを聞き驚くアスナ。彼女はいままで恐怖に勝てないから攻略戦に出られなかったのではなく、出る覚悟ができても出られなかっただけだった。

 

「その後どうしたのあんた」

 

「………」

 

 なにも言わず、しばらく黙り込んだ後、

 

「………俺が彼と出会う切っ掛け、女性プレイヤーが伸び悩む彼と手合わせしてくれと頼んだから知り合った。彼女がいなきゃ、もう会うことはなかった」

 

「まさか」

 

「彼女は迷宮区で救助に向かった。だが攻略組最精鋭はフロアボス攻略中、攻略志望のプレイヤーで出向き、モンスターに囲まれ彼女がモンスターたちを一手に引き受けて救助を成功させた」

 

「その彼女は」

 

「死んだ、俺が聞いたのは《血盟騎士団》の誰かがそう報告したらしい」

 

「まさか」

 

 安易に尊像したのは、彼がそれを目撃した光景。

 

「あなたはいなかったの」

 

「分からない、俺はSAOは人との関係をあまり持っていない。攻略中なのかどうかも分からず、日々を過ごしていたからな」

 

 その話を聞きながらともかくと、

 

「キリト、俺からはお前もイベントに参加してほしくないが」

 

「こんな話を聞いて来るなと言う気か」

 

「VRはともかく、君は現実では《黒の剣士》じゃないんだ。君になにかあればどうするッ」

 

 俺の言葉にキリトは黙るが、静かにアスナたちの視線を受ける。

 

「それでも、この事件にSAOが関わるなら」

 

「………なら現実で今後活動しよう。パワーリスト、今度はいるな」

 

「ああ。ごめん、アスナ」

 

「キリトくん………」

 

 アスナに謝りながら次に、

 

「ユイちゃん、これをエギルを初めとした仲間たちにメール。それと、ストレアに俺のオーグマーに来てほしいと言ってくれ」

 

「ストレアをですか?」

 

「ドローンが気になる、あのイベント戦においてあれが気になる」

 

「ユイは俺、分散したときか」

 

「その時は片方は頼む」

 

 キリトに頷きながら、リズたちは心配そうに俺たちを見る。

 

 だが止まる気は無い。

 

「テイル」

 

 心配そうに服の裾を掴むユウキ。

 

「悪い、せっかく会ったのに、心配させる話で」

 

「テイルだって記憶のことで問題になるんだから、気を付けて」

 

「………ああ」

 

 その時、シノンとキリトがこちらを見ていた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「それじゃ、キリトと合流してくる」

 

「分かったわ、ねえ」

 

 詩乃に呼び止められ止まる。話の内容は予測着く。

 

「俺にとってSAOの記憶はほとんどない。それより濃い記憶が俺の中に根付いてる」

 

「………だからって、記憶スキャンが起こらないってことはないでしょ」

 

 詩乃がそう言うが俺は詩乃の頭を撫でる。

 

「俺の記録はそうやすやす読み切れないさ、大丈夫だよ」

 

「そう言えば貴方は年上なのよね。どちらにしても」

 

 呆れながら俺は家を出たとき、ふと疑問に思う。

 

「記憶をスキャンしきれない? 何が目的でスキャンしてるにしても、その場合どうする?」

 

 キリトとの相談内容が増えたと思いながら、ストレアを受け取りに彼の下にと走り出した。




すでに出会った過去を持つ。

そして高いところから飛び降りて、前へと転がるように前進するどこぞの超人のようなことをする。

その後彼は身体がボロボロで家に帰った。

お読みいただき、ありがとうございます。


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第41話・ボスラッシュ

オマケの話を製作中、ゼルダ要素たっぷりです。時間軸はスルーしてください。

オマケだからセブンとか、誰かをヒロインにするのもいいな的にしたいと思います。

そんな報告の中、最終章も佳境を迎えます。


 彼奴は臆病者だ。

 

「あの人、悪い人じゃないんだ。ずっと一人で、ギルドの資金集めたりするんだ」

 

 彼奴は臆病者だ。

 

「いっつも無表情で、だけど優しいんだ……。貴方にも嫌いになって欲しくない」

 

 彼奴は臆病者だッ。

 

「貴方に対しても、彼は」

 

 彼奴は戦えない臆病者だ!

 

 だけど………

 

 そして僕は全てを失った………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「クラインから話を聞いたけど、SAOの記憶がおぼろげらしい」

 

「決まりか。キリト」

 

「ああ」

 

 キリトと共に今回のイベント戦の場所に来る。

 

 一応記憶スキャンの事件を表に出すべきか考えたが、どうせ誰も信じないだろう。

 

 警察も証拠が無ければ動けないと父さんから言われた以上、ALOのサポート妖精姿の二人が頼みだ。

 

「今回の戦い、俺たちでタゲを取りつつ戦闘を伸ばし、戦闘中スキャンが行われてるか確認だ」

 

 アップしつつ状況確認。今回のイベントでどうにか情報を手に入れたい。

 

「頼むぞ二人とも」

 

「うん、任せて♪」

 

「私たち二人がお二人をサポートします」

 

「ただ」

 

 アップをし終え、二人で一人のユーザーを見つめた。

 

 そこに一人の友人、シノンがいる。彼女もまたこのイベントに参加する。

 

「あんたたちに任せてられないでしょ。私は途中参加だし、もしかすれば条件に満たさないかもしれない」

 

「これだから」

 

 頭を痛めながら、遠巻きにいる母親にも呆れる。彼女を連れてきたのは母親だ。

 

 事情も多少だが知っていそうなのだが………

 

「これでシノンになにかあれば俺は殺される」

 

「なら守ってね二人とも」

 

「ははっ」

 

 苦笑するキリトと共にゲームが始まるのを待つ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 オーディナル・スケールが発動し、都市部の世界が変わった。

 

 荒廃した世界観であり、爆炎と共に鎖に繋がれた猪の獣人型が現れた。今度の敵は18層のボスとキリトから聞かされる。

 

「今日は13層のはずじゃないのかっ!?」

 

「現在都内各所で10体のボスモンスターが次々と出現しているようですっ」

 

 ユイちゃんが慌てて報告、10体も同時個所で出ているらしい。そんな話は聞いていない。

 

 同時に別の場所で行われるなんて公式でも発表されていない。まさかここでこんなイベントが起きるなんて。

 

「別れるべきだったか」

 

「それにともなわれてボスの出現地がシャッフルされています」

 

「ともかくやるぞッ」

 

 鎖に繋がれているため、最初は行動が限られているが、すぐに鎖を引き抜こうとし出す。そう言うタイプらしい。

 

 ボス攻略戦は出ていないが、シノンは射撃で、俺とキリトは接近して斬りかかる。

 

 ともかくここをどうにかしなければいけない。

 

「サポートはいいからストレアたちはドローンを頼むぞっ」

 

 すぐに他のユーザーが接近するが、キリトが警告した瞬間、鎖が引き抜かれた。

 

 鎖から解き放たれると鎖を振り回すボスの攻撃。

 

 先端が斧であり、それに斬られたユーザーの様子が変わり、悲鳴を上げて彼から光が飛び出た。

 

「くそっ」

 

「切り替えろッ、俺たちもタゲ取られているッ」

 

 二人の妖精がドローンへ向かったのを確認して、キリトと二人で攻めるが、

 

「キリト下がれッ」

 

「クッ」

 

 キリトが攻めに入るが動きがやはりこちらじゃ遅い。

 

 この様子を見ながらキリトには悪いが邪魔でしかなく、攻撃を全て引き受ける。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 振り回される攻撃全てを見切り、剣と盾で弾くテイル。

 

 鎖が蛇のように動き回るがそれすらも見切り、剛腕な一撃を弾く。

 

「………」

 

 冷静。タゲを集中的に引き付けつつ、チャンスを待つ。

 

 放たれる広範囲攻撃を攻撃で無理矢理弾く。

 

「邪魔だ………」

 

 一瞬の隙に何度も斬りながら、即座に体制を整える。キリトにはその動きがVRゲーム内の彼と同等に見えた。

 

 まるで相手の隙を見つけ、斬り込み、即座に死角に消える行為。

 

 身体全体、細胞一つ一つが同じ動きの為に身体に働きかけている。

 

「足を引っ張ってるだけじゃないか………」

 

 吐き捨てるように呟くが、それでも引けないと彼は走り出す。

 

 シノンの銃撃がクリティカルしたのか、鎖が砕かれた瞬間、二人が走る。

 

 片方は片腕を振るい、一刀両断。

 

 片方は回転するように何度も斬り込む。

 

 二人の剣士による攻撃は彼をポリゴンへと変えた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 戦いの中、ほとんど俺とキリトにタゲが向けられていた。キリトは肩で息をしていて、俺も呼吸を整える。

 

 だがこれで分かる、このボスは俺とキリトがメインに狙われていた。

 

「ノーチラス、『エイジ』はここにはいなかった」

 

「ああ」

 

 そしてキリトが何かに驚き、向かっていく。

 

 キリトの視線を追うと、あのフードの子が見えた。

 

 だがすぐに消えてしまい、どこかに行ったようだ。

 

「キリト」

 

「ああ、無関係、なのか?」

 

 そんな会話の中、シノンと、妖精二人が戻ってくる。

 

「ごめん、元々ドローンが怪しいって言われてたからすぐに気づけたけど、途中でブロックされちゃったよ」

 

「ある特定のプレイヤーのみ、なにかしらプログラムが発動しているのは確かのようです」

 

「そうか」

 

 そんな会話の中、考え込むキリトが急に気づく。

 

「そうだユイ、あのフードの少女と指さした場所は覚えているか? テイル、君も」

 

「ああ」

 

「ええ」

 

「ならすぐ地図上にプロットしてみてくれ」

 

 そう言われ、俺のデータと彼女に渡してすぐにデータを見た。

 

 そして交差する場所にある大学があった。そこには覚えがある。

 

「キリトこの大学、レベルが高く、その気があればSAOサーバー閲覧も可能のはずだ」

 

「本当か」

 

「一応大学生だ、近隣の大学は一応目を通した。確かオーグマーの製作者がここにいたはず」

 

「オーグマーの!? ユイ、いますぐこの大学とエイジが関係つくか調べてみてくれ」

 

 そしてそれは一致した。

 

 お互い目を合わせ、すぐに次の行動を決める。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「大学生に大学行くなって、あの野郎」

 

「仕方ないわよ、どうもあなたを、彼と関わる役人の人と会わせたくないんでしょうね」

 

 和人曰く、彼と知り合いに問い合わせるから来ないでほしい。なら次のイベント戦に備えて、ミルクを飲み干す。

 

「これで情報を手に入ればいいんだけど」

 

「よく飲むわね」

 

 ミルクを飲みながら、喉が渇くんだ。

 

 キリトは知り合いの役人にも連絡するため、俺には後で連絡すると言って一人で接触しに出向いた。彼の言う役人と俺はどうあっても会わせたくないようだ。

 

 ともかくなんであろうとやることは変わらない。

 

「今後はキリトと分かれてボス攻略………。詩乃は出るなよ、ユナのコンサートがそろそろあるんだから」

 

「はいはい、勝手なんだから」

 

「にゃ」

 

 膝の上のミケが鳴く中、そう言えばと、

 

「ユナか」

 

「どうしたの?」

 

「………いや」

 

 あの子も『ユナ』と、そう名乗っていたが。気のせいだろうか?

 

 そして俺たちは分かれて、ボスを攻略する。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

『ダメだ、証拠も何も無いから動けないらしい。何が起きてるか分からないと』

 

 イベントが始まる夜の時間、キリトからの連絡を受けていた。

 

 記憶の件も含め、いまだ分からないことが多くある。

 

 だがオーグマー製作者はなにか怪しいのは確からしい。記憶スキャンもどう言った目的か、なにもかも分からないまま。

 

「分かった、そっちも任せた。記憶を取られないように」

 

 そう話を終えて、戦いの場に歩き出す。

 

 その時、彼女が目の前にいた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 気が付けば日が落ちる、あるいは上がるアインクラッドの風景の世界。

 

 そこにいるのは、彼女だ。

 

 電話から聞いている。彼女は俺の知る彼女だと………

 

「キリトから話は聞いた、ユナ」

 

「………始めてね、あなたがはっきり私の名前を呼んだのは」

 

 そう言い、フードを外した少女は、かすかに彼女とかぶる。

 

 こうしてやっと昔の知り合いと認識するとは、俺も薄情な人間だ。

 

「君の父親『重村徹大』はSAO帰還者たちから記憶を奪ってなにを考えてる」

 

「………あなたは考えたことは無い? 仮想と夢は同じようなもの。目が覚めたらまだデスゲームの中と」

 

「無い」

 

 俺ははっきり言える。

 

「あの日キリトたちが切り開いた道、彼らが開けた道だ。デスゲームはもう終わった」

 

「だけどあなたのデスゲームは本当に終わった?」

 

「知らん」

 

 俺の中の戦いは終わったかなんて知らない。知る気も無い。ただ言えるのはそれは俺が背負うものだと言うこと。他人にどうこう言われる筋合いはない。

 

「やっぱりあなたは強いのね」

 

「お前の願いは歌うことだ……。いったいなにが起きてるんだ、君は俺の知るユナなのか」

 

「………そろそろ夢は終わるわ」

 

 そう言い指を鳴らすと共に、この空間が終わる。

 

 彼女はその瞬間まで俺を見つめていたことだけが気になった。

 

 お前は俺に、なにを望んでいるんだ………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 キリトと分かれて戦う相手、現れたエネミーは、

 

「74層のボス《ザ・グリーム・アイズ》っ!? テイルっ!」

 

「問題ない」

 

「瘴気攻撃と両手用大剣に気を付けて!」

 

 俊敏に動き、攻撃を避けながら特殊攻撃を避ける。

 

「凄い、初戦でどうして分かるの?」

 

 ストレアが離れた位置で確認しながら、しかも避けると共にすり抜けるように切っている。

 

 最短ルートで全て狩りつくす。キリトと分かれてやるが、今回は数が多い。

 

「ちっ、いちいちバイクキー使うのが面倒だ!」

 

 最速でボスを倒し、そう言いながら次々とボスの下へと走り向ける。

 

 全てのボスを倒し切って走行、全てのイベントが終わったのを確認する。オーグマーが繋がる中でストレアが、

 

「おかしい、テイルの担当区域だけフロアボスのレベルが跳ね上がってる。途中で出てきたのもいた………」

 

 自販機からミルク関係の物を買い、静かに考える。

 

「俺を警戒してる? キリトは」

 

「ユイと連絡してる。いまは」

 

 その時、ストレアから話された。エイジから招待状をもらったとのこと。

 

 それを聞き、ミルクを飲み干して静かに、

 

「場所は」

 

「明日のユナのコンサート。チケットあったっけ」

 

「ある。こうなるとキリトは行くか」

 

 そんな会話をしながら次のステップに進む。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 日付が変わり会場の中、ほぼ全メンバーがここにいた。

 

「こんにちは、今日はよろしく」

 

「みんな~、こっちで揃うのは結構初めてだね」

 

 ルクスとフィリアがそう言い、帽子や小物を使い顔を隠すレインやセブンもいる。

 

「ごめんね、席の方。七色の分まで用意してもらって」

 

「気にすんなって。元々クライン用だったんだが、彼奴は来られないから」

 

「私のもね、リーファが来られないから。知り合いが固まった方が気楽でいいわよ」

 

 そう言い合う彼女たちに挨拶をそこそこして、静かにエギルを見る。

 

 エギルには後のことを任せつつ、俺とキリトは指定された場所へと向かう。

 

「キリト、エイジは地下で間違いないな」

 

「ああ、そこで待つ、そう指定してきた」

 

「そうか」

 

 そう言いキリトの背後を取り、すぐに首を取る。

 

「なに」

 

「すまない、これはたぶん俺の問題だ」

 

 そう言った瞬時気絶させた。こんなところで体験が役立つとは。

 

 彼のも含めてオーグマーを起動させる。

 

「ユイちゃん悪い、キリトのことを頼む」

 

 ベンチに寝かせ、全てのパワーリストを外す。

 

「ちょ、一人で行くの」

 

「彼との因縁は俺にある」

 

「テイルさん……」

 

 キリトを寝かせてから、もしもを考える。

 

 もしも今回のように、俺がキリトを気絶までさせてでも物語に関わろうとして居たらデスゲームの内容は変わっていたのだろうか。

 

 だがそれはもう、もしもだ。

 

「ここからが俺の物語だ」

 

 そして俺は指定された場所へと歩き出す。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 指定されたに来ると彼は本を読んで待っていた。

 

「おや、僕は《黒の剣士》を指定したのですが」

 

「そんなことを知らない。いまはエイジか、悪いがお前の暴走を止めなきゃ、彼奴に顔向けできないからな」

 

「臆病者が彼女を語るな!」

 

 本を乱暴に閉じ、静かに置いてお互いオーディナル・スケールを構える。

 

「臆病者か、俺に似合う言葉だ。誰かとの繋がりを恐れ、フロアボス攻略にも行かない男にはな。君のように抗おうとしたわけではない。だが」

 

 その瞬間、彼の纏う空気が変わる。

 

「それでも譲れないものくらいはある」

 

「《沈黙の蒼》程度、名前すら何者にも覚えられない貴方じゃ、僕を止められない!」

 

 瞬間、彼らは激突し合う。

 

 蒼と称された彼の剣と、二位と言うエイジの剣が交差して、お互いの動きが人間の限界を超えていた。

 

「その動きどうやって手に入れた? 人間の動きや予測スピードは軽く超えてるぞ」

 

「それについてきている貴方こそッ」

 

 壁に追い詰められても壁を蹴り、攻撃を避け背後を取ったりと、その動きを見切る。

 

「所詮最前線で戦う攻略組にしかみんなの記憶には残らない。貴方や僕らのような臆病者は、誰の記憶にも残らない!」

 

「それがどうした、ユナの記憶はお前の中に残ってる。それじゃダメだと言うのかッ」

 

「ダメに決まっているだろ!」

 

 攻撃の中、だいたい予測できてきた。

 

 本当の地獄を知っている彼の剣が、現実へと追いつき始める。

 

「なるほど。お前の動き、なにかで動きを先読みしてるようだが、俺のような人の技を超えた動きにどこまで予測できる」

 

「そんな技術を持っていながらッ、なんであんたは攻略組に、あの場に居なかったッ」

 

 無数の斬撃の中、防ぎ、壊し、拳がエイジの顔を捕らえかける。

 

「お前はやっぱり」

 

「ああそうだよっ。見ていたよ、ユナが消えるその瞬間。自分の弱さを呪ったよ!」

 

「そんな中でなんで帰還者から記憶を奪うッ。それになにが意味がある!」

 

「SAOなんてクソゲーの記憶、奪ったっていいじゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ふざけるなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ガキンと剣が激突し合い、エイジを睨む。

 

「テメェにとっては思い出したくもない記憶だろうがッ、あれはもう一つの現実だ! その現実を否定されてたまるかよ!!」

 

 その勢いの中、剣で彼が吹き飛ばされ、それに驚愕するエイジ。

 

「なんでお前は、ついてこられるんだよ!」

 

「気合いの入れようが違うッ」

 

 剣を避け、盾を捨て拳を握りしめる。

 

 その瞬間、彼の予測は拳に集まったが、

 

「ハアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 気合いで攻撃を途中でキャンセルし、剣を持つ拳で彼を殴り飛ばす。

 

「バカな………予測を、データを」

 

「それかッ」

 

 背後を取り、スーツらしきものをの襟を掴みそれを引きちぎる。

 

 火花が散る中、斬撃を何度も当てた。

 

 その時キリトが視界に入るが、勝負がついたあとだった………




キリトに任せる選択肢が消えた彼は、無理矢理表舞台に出ました。

彼の中にはもしもがあり、それは永遠に考え続ける物事です。

ボスの連戦、偽物の勇者は自分が関わる物語にどのような答えを出すか。

お読みいただきありがとうございます。


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第42話・現実の仮想

 キリトが見ていたのは人の動きを超えた彼だった。

 

 だが片方は機械の力を借りていて、片方は培われた身体能力。いや体験で得た経験で動いていたのだろう。さすがに肩で息をしている。

 

「勝負が終わったのか」

 

「ああ。悪いな気絶させて」

 

 キリトは一人で突っ込んだ彼に文句はあるが、あまり他人のことを言えないため、気にするなと告げた。

 

 そう言い合い、二人して膝をつくエイジを見る。

 

「さあ、奪った記憶をどうすれば戻る!? 答えろエイジ!」

 

「………ふふっ」

 

「なにがおかしい?」

 

「気付いていないのか? なぜここにSAO帰還者(サバイバー)がいるか」

 

「………まさか」

 

「もう手遅れさ、いまこの会場にはSAO帰還者(サバイバー)たちが集められている。この会場でSAO帰還者(サバイバー)全員をスキャンして、SAOの記憶を奪ってやる」

 

「なっ」

 

 確かに、二人してここにはおかしなくらいSAO関係者が集まったことに気づく。

 

 シリカたち帰還者学校はタダでシノンは応募、エギルも同じ理由。テイルはゲームの特典。

 

「そしてユナを生き返らせてやるんだ」

 

 唐突に彼はおかしなことを口にした。

 

「何をバカなっ、人が生き返るはずないだろ!」

 

「SAO帰還者(サバイバー)たちのSAO時代の記憶を持つに、AIとしてユナを生き返らせる。それが目的なんだよ」

 

「………お前」

 

「さあ始まったぞ、もう誰にも止められない」

 

「バカが………キリト、会場に急ぐぞ」

 

「ああッ」

 

 立ち去る際、彼は一瞬止まる。

 

 まだ笑うエイジを見て彼女を思い出す。

 

 それはきっと悲しいことなのだろう。

 

「バカやろう………」

 

 そして急いで会場へと向かう。すでに会場の方角から、悲鳴が響いていた………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 キリトが例の役人と会話しながら、事の事態を聞かされる。

 

 いま会場内のスキャン機能はブーストされていて、部分的な記憶スキャンだけでは収まらないらしい。

 

 ナーヴギアと同じ脳へとダメージを与えることになる。それを聞かされて急いで走る。

 

「扉が」

 

「どけキリトッ」

 

 蹴り一発でロックされた入口を破壊して中に入り、オーグマーを付けるとほとんどの人間がパニック状態だ。

 

 エネミーに襲われる。彼らはSAO時代の恐怖が蘇りながら対峙していた。

 

「どうにかしてオーグマーを外させないと」

 

「この状況で俺たちの話を聞く人間がいるかッ、くそ」

 

 急ぎ入った入り口へ誘導しようとしたとき、シャッターが下りて道を塞がれた。

 

「そう言えば俺たちも帰還者かッ」

 

 キリトは周りを見渡してアスナたちを見つける。アスナたちもすでに戦っていて、急いで駆けつけた。

 

「アスナ、すまん遅くなった!」

 

「悪いみんな、ルクス、レイン、セブンみんないるかッ」

 

「テイル」

 

 全員無事にいるがこのままでは、

 

「どうする、このまま高質力スキャンが始まれば、みんな」

 

「………くそッ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「来るな、来るな来るなあぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 一人のSAO帰還者(サバイバー)が叫び声を上げるがその瞬間、エネミーを切り捨てる男が駆けている。

 

「ち、《沈黙の蒼》?」

 

 次々のエネミーの下に飛び、次々と斬り殺す剣士。だが、

 

「ダメだよテイルっ、次から次へと出現するし、蘇生されてる!」

 

「だからって、キリト!」

 

 死神のようなものがキリトに鎌を振り上げたとき、彼のスピードが速まる。

 

 もうなんだろうと関係なく接近したが、その前に一人の少女が現れ防ぐ。

 

「ユナっ!?」

 

 それは現代服を来た、自分たちにヒントを託す彼女だ。

 

(まさかすでにユナのAIが創り出されているとしたら)

 

「キリト、テイル助けて! このままじゃここに来てくれたみんなが危ない!」

 

 テイルが彼女の正体に気づくとき、彼女から状況を説明された。

 

 このまま恐怖が高まれば高質力スキャンが始まり、全員が危険と説明される。

 

 全員がゲームのイベントと思いオーグマーは外さない。だから唯一の方法はここのボス全員を倒すしかない。

 

 その為に全ての工程をスキップして、旧アインクラッドのラスボスを倒し、ゲームを終了するしかないとユナが言う。

 

 機能がほぼナーヴギアと同じのオーグマーを使い、フルダイブするしかないと。

 

 フルダイブ機能を解除してもらい、アスナたち全員も話を聞いて全員で向かうことに。

 

「ルクス」

 

「話は分からないけど私も手伝うよ」

 

「このセブンちゃんを忘れてもらっては困るわね」

 

「私も戦うよテイル」

 

「キリト私たちも」

 

「私も戦闘サポートする」

 

 フィリアとストレアもそう言いながら、そして全員でフルダイブする。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 あの日、ラスボスで現れたのはストレアのデータを使った改変されたものとヒースクリフ。

 

 新たに訪れた100層では巨大なモンスターが鎮座する。

 

 槍と剣を持つ魔人かなにか。それが100層のボスとして存在していた。

 

「茅場の野郎っ、なに巨大モンスター用意してやがったッ」

 

「スイッチ」

 

 巨大なそれが振るう武器に翻弄されてスキル、ほとんど魔法のようなものが使われた。

 

 ゲージを削るが回復する大樹が現れ、敵のゲージが回復する。

 

「ふざけるなッ」

 

 戦いの中、それでもゲージを削ろうとするが石のブロックが浮かび、シリカが潰され、大樹がキリト以外全員を捕まえ、キリトは腕に掴まれる。

 

「くそったれがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 そんな中爆発するのは蒼の剣士。

 

 剣を投げ飛ばしシリカを助け出し、蹴りでラスボスを吹き飛ばし、拳で大樹を破壊する。

 

 だが大剣が振るわられ、テイルは壁へと突き刺さられた。

 

「テイル!」

 

 だが、

 

「なめるなくそったれッ」

 

 盾が砕け回復するボスへと吠える。その砲撃がテイルへと迫った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 止まる。

 

 止まるな。

 

 止まっていいはずがない。

 

 だって彼女は、彼女の本当に願ったのは………

 

「くそがッ」

 

 なぜここで止まる?

 

 違うのは認める、結局自分は違うのは分かり切っている。

 

「勇者から技教えてもらったんだからッ、せめて………せめて友達くらい救わせろ!」

 

 その咆哮の中、光が彼を包んだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 俺はいま信じられない光景を見た。

 

 攻撃を防いだ一つのそれが見る。

 

 ビームのようなそれが放たれた次の瞬間、それに助けられた。

 

 空から降って地面に刺さるのは彼が持つもの。

 

 勇者が、彼が持つ勇者の証。

 

 邪を払う、厄災を斬る、退魔の勇者。

 

 俺に技を教え、戦う術を教えてくれた。緑の勇者の剣。

 

「マスターソード………」

 

 目の前のそれを見た瞬間、歯を食いしばり走り出す。

 

 その大地に突き刺さる剣へと手を伸ばして。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 一本の剣がテイルの攻撃を防ぎ、テイルは事なきを得た。

 

「なん、だ………」

 

 その瞬間、空から魔法が飛んできた。

 

「これって」

 

「お兄ちゃん!」

 

 空から現れたのはリーファであり、ユイも現れた。

 

「パパ、皆さんを呼んできました!」

 

 そう言った瞬間、飛んできたのはALOの妖精プレイヤーたち。

 

「スメラギっ、貴方も」

 

「セブンを守るのが我らシャムロックのメンバーの役目だからな」

 

 他にも多くの妖精たちが来る中で弾幕が張られた。

 

 シノンがいる壁際の通路を見ると、銃を持つプレイヤーたちがそこにいる。

 

「GGOっ!?」

 

「マスターのピンチですっ、わたしが来ないでどうするんですか!」

 

「祭り会場はここかッ。バザルト・ジョーが来たぜテイル!」

 

「デイジーちゃんが来るのだもの、私も来なきゃね」

 

「全力でサポートさせてもらいますっ」

 

「行くわよテイルっ」

 

 その時、大樹の根が大地に張られたが斬り、駆け抜ける剣士たちがいる。

 

「プレミア、ティアに、SA:Oのプレイヤー!?」

 

「キリト、テイル、アスナっ」

 

「「「ユウキっ!?」」」

 

「スリーピングナイツも駆けつけたよ!」

 

 元気に返事をして完全な混合戦の中、ユイがSAOのデータを呼び起こし、ストレアも戦闘モードに入る。

 

 だが、

 

「俺だけオーディナル・スケールっ」

 

「テイルのデータ多すぎだよ!」

 

「待っててください、いま」

 

 そう言われながら、巨大な槍が向かってくる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 槍が迫る中、データがロードされる前にマスターソードがある。

 

 それを見て俺は一瞬、それを振るおうとした。

 

 だが、

 

(違う)

 

 俺はいままでなにを手に取り、戦っていた?

 

 俺は誰だ。

 

 待つ。

 

 迫る槍、ただ静かに構える。

 

 聖剣が弾かれ、空へと舞う。

 

 だが俺は、手に取らない。

 

「ロード完了ッ」

 

 そうユイちゃんが叫んだ瞬間、俺はテイルとして戦いだす。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 槍が粉々に斬り裂かれてポリゴンへと変わる。

 

 初撃は刀を抜刀した。

 

 居合い、その初撃だけで多くのエネミーを狩ってきた刀はその一撃で仕事を終え、鞘に戻す。

 

 駆け巡る銃と魔法、そして剣技が舞い上がり、多くゲージを持つボスは一気に減っていく。

 

 大樹の回復を阻止するため、回復する水滴が落ちる、それ以前に出来上がる前にその大樹へと大剣を構える。

 

 彼の大剣は防御が硬い、大勢敵がいるなどでエネミーを狩り取る一撃。それがいま大樹を斬り落とす。

 

 大剣は仕事を終え背に戻り、瞬時コートからいくつも投擲武器が放たれる。

 

 これでいくつも武器切り替えの隙をカバーしていた。大剣が彼に降ろされたが背中に背負う槍がホルダーに納められたまま防ぐ。

 

 すぐに取り出し武器を弾く、主にそう言った用途に使用した。

 

 それと共にアスナとキリト、ALOの飛行能力で飛び駆けた。

 

「決めるぞキリト、アスナッ」

 

「ええっ」

 

「おう!」

 

 テイルとキリト、二人の二刀流が攻撃を防ぎ、切り替わるようにアスナが前に出て剣が光る。

 

 そこにユウキも駆けつけて二人の絆の技。マザーズ・ロザリオが放たれると共にキリトの双剣が輝く。

 

「スイッチッ」

 

 彼がそう叫ぶと共に全ての武器を収めて構える。

 

(これが)

 

 その瞬間、全員が驚く、彼の持つ全てが蒼く輝く。

 

「全開ッ」

 

 抜刀された刀の一撃が放たれると共に投げ捨て、槍を取り出し突き刺す。

 

「あれはスキルコネクトっ!?」

 

「って、まさか」

 

 槍はそのまま離れ、大剣のスキルへと流れて繋がる。

 

「11でも、16連撃でもないっ」

 

「刀、槍、大剣、投擲のスキルコネクトだあっ!?」

 

「違いますッ」

 

 双剣のスキルへと繋がり、そして片手で離し、片手剣スキルへと変化する。

 

「エクストラスキル。抜刀術、無限槍、暗黒剣、手裏剣術、二刀流、神聖剣、そして」

 

 空いた手に剣を投げ渡す、その瞬間色が変わる。より一層蒼い色へと、

 

「オリジナルソードスキルの連結」

 

 それが、テイルと言う者の全力だった。

 

「セイッアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ―――」

 

 回転される斬撃が叩きこまれ、吹き飛ばされるボスに、全員が驚愕した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 会場に戻ると共に、ボスから手に入れた剣を使い、ボスエネミーを倒す。

 

 会場はユナの歌が響き渡り、人々の恐怖が消えて彼女も消えた。

 

 全てが終わる中、俺はエイジの下に来る。

 

「滑稽だろ……」

 

「お前」

 

 彼は通路の入り口でただ笑うしか無かった。

 

「僕も記憶スキャンの対象だったらしい、正直されたかどうかわからない……。なにもかも結局勇者に取られ、僕ら臆病者は蚊帳の外さ」

 

 もうなにもかも、全ての目的が無くなった彼に俺が言うべきことがある。

 

「………お前に言うなと言われたユナの言葉がある」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「俺に見てほしい人がいる?」

 

「ええ、お願いできないかな」

 

 そう言われながら静かに歩くのをやめて静かに聞く。

 

「どうしてそんなことを俺に頼む」

 

「それは、同じギルドで、貴方が一番強いから」

 

 ユナはそう言いながら、テイルはため息をつく。

 

「恐怖に勝てないのなら無理に戦わせないよう、説得するべきだ……」

 

「そうだけど、彼、どうしても現実に帰還したいみたいで……。お願いっ、あなたにしか頼めないとの!」

 

 そう言われ懇願される。

 

「なぜそんなにそいつに加担する」

 

 そう聞いたとき、

 

「………死んでほしくないんだもの、彼には、どうしても」

 

 それを言われて彼は歩みを止めた。

 

「それは」

 

「女の子にそれ以上言わせないで」

 

 そう頬を赤く染め、静かに告げられた。

 

 テイルは頭をかき、静かに頷くしかなくなる。

 

「それより、お前も死んだらどうする……。最近外に出すぎだぞ」

 

「その時は……、彼が私を追わないように見てて欲しいな」

 

 なんてねと微笑みながら、彼女はそう願う。

 

 結局全てはなにもしない選択を、誰かと繋がる選択を選ばなかったから止められなかった。

 

 すぐに彼女の記憶から生まれたAIと気づき、ノーチラスのことを思いだしていたら結末は変わっていたのだろう。

 

 結局、偽物が本物を真似ようとしたから、自分の力で挑まなかったから誰も救えなかった。

 

 テイルはそう思い、彼に彼女の全てを話すことしかできなかった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 その話を聞いてエイジはうなり声をあげる。

 

「もう分かっただろう、彼女は自分よりも大事なものがあったことを」

 

 誰よりも大切なものがあったから、変わり者のプレイヤーに頼み込んだ。

 

 そしてそれが大切だから、自分を追わないように頼み込んだこと。

 

 それほど大切なものが暴走していたら、彼女はなにを思うのかを。

 

 だからこそ止められる人間の前に、彼女は現れた。

 

 気づかず、キリトと行動してやっと気づいた。本当に道化なのは自分だ。

 

「それが俺がしゃしゃり出た理由だ……」

 

「そ、んな、僕は、僕は………アァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」

 

 キリトたちもそれを聞きながら、これ以上彼に何も言わず、なにもできない。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………」

 

 エギルの店でリーファ、シノン、シリカ、リズでクラインの退院祝いをする。

 

 ARアイドルとしてユナは残る中、俺はと言えばぼーとしていた。

 

「どうしましたかテイルさん」

 

「最後の奴、エイジに言うなと言われてたが、言ってよかったかと思ってな」

 

「それは……、言ってよかったと思いますよ」

 

 その後ユナ、ARアイドルとして活動する彼女についてセブンに頼み込み、その権利全てを手に入れた俺は、彼女の夢、歌い手の夢を叶えさせた。

 

 彼にも手を貸してもらいながら、エイジはもう一人のユナのため、いま自分がしてしまったことの償いをしている。

 

 クラインもケガを負わせた奴だが話を聞き、もういいわとのことだ。

 

「それにしても、もう身体動かすのきつい……。しばらくは現実で動かしたくない」

 

「ははっ、現実でのテイルさん凄かったですからね」

 

「まあね」

 

 シノンが何か言いたげにこちらを見ている。最後に出てきた剣について、分からないと一応言っている。

 

 やはり勇者なんてものにはなりたくない。身体がもう悲鳴を上げているのだから。

 

「そう言えばキリトたちは」

 

「あの二人ならデートのはずだぜ」

 

 その瞬間、キリトヒロインズからは?と言う、やべっ。

 

 実は彼からキャンプの仕方を教えてくれと言われていて、泊まりでデートと言う、そんな話を知っていた。

 

 このままではキリトガールズに殺される。

 

「そう言えばさ」

 

「なんですかテイルさん、私たちいますっごく聞きたいことがあるんですけど」

 

「怒らないから答えてほしいです、テイルさん」

 

「俺のリアルネーム知ってる人、手上げて」

 

 その瞬間、えっ、あっ、あれ?と言う声。シノンですらあれ?と首をかしげた。

 

 エギルは『アンドリュー』で知られていて、俺は日本人で普通のはずだ。

 

 クラインですら『壺井遼太郎』という名前。

 

 だが結局誰も答えられず、どうにかうやむやにして俺は難を逃れた。




彼はけして本名を覚えてもらえない。

それではお読みいただきありがとうございます。


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オーディナル・スケール終了

本編はこれにて終了。さすがにアリシゼーションは無理なんだ。アリス、ユージオすまない。

リンクと言う勇者の物語を体験したテイル。彼の剣の世界はここで終わります。

表現力や文章力など、勉強不足で足りないところがたくさんありますが、少しずつ努力していきたいと思います。

オマケの話、オリジナル展開は必ず投稿したいと思います。それではオーディナル・スケールの最終章。どうぞ。


 いろんなことがあった。

 

 様々なことであった。

 

 出会いがあった。

 

 だから俺はここにいる。

 

「………まだ先なのにトップニュースだな」

 

 ALO最強プレイヤーを決めるイベントが開催される。サイトを開き、イベント情報を見る。

 

 そのイベントはまるで、VR世界から遠のく人々を繋ぎ止めようと、必死にメディアにアピールしていた。

 

 このイベントの成果によって、VRゲームの未来が変わるかどうかなんて分からない。それでも全力を出そう。

 

 ARの出現により、多くのプレイヤーが去ったVRだが、イベント参加選手の豪華さに、一部のユーザーたちが盛り上がり出す。

 

 もしかしたら、かもしれない。そう思うからこそ、俺は全てを出し切って盛り上げる。

 

 この世界は、まだ始まったばかりなんだから。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 五代目ALO最強を決めるイベントが開催が決まり、始まる前からこの戦いは多くのメディアに注目されいた。

 

 今回はプレイヤー層があまりに豪華すぎる。

 

 SAOから知っている者ならば《黒の剣士》が、ギルド《シャムロック》からスメラギが。

 

 それだけでなく前回優勝者ユウキに、もう一人のイレギュラーがいる。

 

 同名であるため分かる、GGOではリアルラックが高く、大型アップデートイベント最短攻略や大会優勝者。

 

 テイルがその大会に殴り込んだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 剣撃が鳴り響き、準決勝戦が行われる。

 

 この豪華な選手たちの戦いを、ネット配信《MMOストリーム》がすでに準々決勝から配信して、視聴率を高く獲得していた。

 

「なんかすごいわね」

 

 シノンがその熱気に当てられて驚く。

 

 ALOにログインしているプレイヤーは闘技場のほとんどの席を埋め尽くし、さらにこの映像が映されているカフェなども満員状態。

 

 ALO以外のゲームでも実況されている。その様子はまさにお祭り騒ぎだ。

 

「はい、皆さん凄い熱気です……」

 

「別のゲームにも生配信されてるって話だよ」

 

 ピナを抱きしめるシリカ。アスナもまた驚いていた。

 

 スメラギを破るサラマンダー領主の弟ユージーン。

 

 その相手は《絶剣》ユウキ。

 

 その戦いはユウキが持つオリジナルソードスキル『マザーズ・ロザリオ』が決まり、ユウキが勝利を収めた。

 

 この戦いも熱狂したが、これからする戦いは決勝戦レベル。少なくても仲間たちはそう思う。

 

「彼がこういう大会に出るなんてね」

 

「そうだね」

 

 フィリアの横でぐったりしているレインとリズ。

 

「ど、どうしたの!? いつもなら騒いでそうなリズまで」

 

「二人とも、彼の無茶な注文に応えて疲れてるんだよ」

 

 ルクスがそう説明し、試合会場の舞台に彼とキリトが出て来る。それと共に割れんばかりの喝さいが響く。

 

 そこには全身黒づくめの剣士と蒼の炎が対峙する。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「まさか君とこんな場所で戦うとはな」

 

「やらなきゃいけないからな」

 

「やらなきゃいけない?」

 

「キリト、悪いが双剣じゃないお前じゃ無理だ。悪いが勝たせてもらう」

 

 そう言いながら彼は構える。キリトは首をかしげたが、すぐに切り替えて対峙する。

 

 だが武器が盾無しとはいえ、片手剣一本の扱いは彼に分があり、すぐに決着が付いた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「くそ……」

 

 残念がるキリトが、観客席にいる仲間たちのもとに来る。

 

「残念です、パパが二刀流、テイルさんが盾を持っていたらどんな結果が分かりませんでした」

 

「デュエルだもんね、動きやすく盾の装備はやめて、かわりにギリギリまで片手剣を使いやすくしたらしいよ」

 

「それでもすごかったよ~」

 

 ユイとフィリア、ストレアがそういう中、キリトは疑問に思うことをここで言う。

 

「そう言えば彼、やりたいことがあるって言っていた」

 

「やりたいこと?」

 

「テイルがやりたいことって、なんだ?」

 

 全員が首をかしげ、決勝戦を見つめる。

 

 決勝戦は全員の仲間。絶対最強の剣士【絶剣】ユウキと彼なのだから。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………ユウキ」

 

「テイル♪ やっぱり君が来てくれたんだね」

 

「………」

 

 嬉しそうに微笑むユウキに、彼は静かに構える。

 

 片手剣を前に出す。その顔は普段の彼らしくない、戦う意思を見せつけながら呟く。

 

「あの日の約束を果たそう」

 

「うんっ♪♪」

 

 ユウキがそう満面の笑みを見せ、テイルは静かに目を閉じる。

 

 決勝が始まる間、全ての動きが遅くなるのをユウキは感じた。

 

(もうテイルは本気だ)

 

 ユウキは時々感じていた、おそらくキリトもだろう。

 

 彼だけが速くなり、全てを置いて行く感覚。

 

 それに引っ張られる感覚。自分たちも感じていた。

 

(ボクも……、このデュエルを本気で楽しむ!)

 

 始まった瞬間、二人の剣士から雄たけびのような金属音が鳴り響いた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 その剣舞は人々の視線をくぎ付けにし、多くの者から声を奪う。

 

 どちらも身体をうまく使い、全力に剣をぶつけ合った。

 

 一つの攻撃を防ぐと片方が連続で斬り合う。

 

 ソードスキルをすでにどちらかが使ったと思った時にはそれを防いで、もう片方がカウンターと早い攻防戦。多くの者たちがモニタ越しに見ていた。

 

 ある者は新たな剣の世界から。

 

 ある者は荒廃の銃の世界から。

 

 ある者は現実世界から。

 

 多くの者たちが配信を見ながら言葉を無くし、その光景に目を奪われた。

 

 当たると思われた刀身をギリギリで避け、二人の剣士は全力でぶつかり合う。

 

 ユウキが背後を取るが、彼は背後の攻撃を影や刀身に映る彼女を見て見切る。

 

「くっ」

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 刀身が光り、斬撃のラッシュを叩きこむ。

 

 だがユウキが全ての攻撃を防いだ。

 

「ソードスキルが防がれたっ!?」

 

 そう誰もが思い、ユウキの剣が紫に発光する。スキル使用後の硬直を狙った大技。

 

 自分の必殺を放つユウキは、その動作の中で疑問に思った。

 

(いまのッ、色が、ついてなかった!)

 

 硬直したかに見えたテイルはすぐに構えなおした。

 

(ソードスキルじゃなかったのッ!!?)

 

 あまりにソードスキルに酷似した剣撃にユウキも観客もだまされた。

 

 気づいた頃にはもう手遅れ、自分は『マザーズ・ロザリオ』を使用してしまった。キャンセルはできない。

 

 11連撃のラッシュを片手剣一つで防ぎだすテイル。

 

 その時、もう発動した動きの中でゲージを見るユウキ。

 

(もうこんなに経ってた)

 

 お互いもうHPゲージは僅か。テイルの方が少しイエローで多くあるが、一撃でも加えられれば自分が勝つと確信できた。

 

 長く感じた時間はすでに終わりに差し掛かっている。

 

 一撃、二撃と手首を効かせて防ぐ。

 

(すごい、凄いよテイルっ)

 

 ユウキは嬉しかった。自分の全力を軽々と防ぐ彼との試合が、楽しくて仕方なかった。

 

 攻撃を防ぐ行動の中に、剣の長い柄で防ぐこともするテイル。

 

(だけど一撃は当てるッ!!)

 

 その瞬間、10撃目は強く放ち、彼の剣を弾いた。

 

 彼は一瞬無防備になった。

 

(もらっ、たッ!)

 

 ガキィンッ!!と甲高い音が鳴り響く。

 

「えっ……」

 

 ユウキが思わず驚いた。

 

 当たり判定と言うものがある。

 

 刃に当たればそれはダメージが高い。

 

 だが刀身などはダメージが少ない。刃が無いところはダメが少ないと言う設定だろう。

 

(だからって)

 

 膝と肘を無理矢理使い、刀身をはさみ防いだ。

 

 真剣白刃どり、この土壇場、HPゲージが残りわずかな時に彼は躊躇いもなく選んだ防御。それでもレッドにHPは減るがゼロではないし、時間はまだある。

 

 全員が開いた口が塞がらない中、ユウキは硬直した。

 

 その時、初めて彼の剣が紅く発光した。

 

「デエェェェェェヤアァァァァァァァァァ」

 

 一撃必殺のオリジナルソードスキルと言わんばかりに、回転された斬撃がユウキを吹き飛ばす。

 

 吹き飛んだユウキのゲージは消え、テイルは背中の鞘に剣を収めた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 優勝してインタビューを受けるテイル。

 

 あまりの白熱した戦いに観客はいまだ興奮収まらず、いまの戦いだけでなく、他の選手の戦いでも盛り上がっていた。

 

「結局トップは仲間の中から出たな」

 

 クラインの言葉に全員がモニターを見る。一位テイル、二位ユウキ、三位はキリトと彼らの仲間から出ていた。

 

「トッププレイヤー揃いね今回」

 

 白熱した戦いだが早く終わりすぎた。そんな印象の中、インタビューを受けていたテイルに、ルクスとレインは疑問に思う。

 

「テイルが」

 

「ちゃんと喋ってる」

 

「そういやあ彼奴、ちゃんと話してるな」

 

 クラインも疑問に思う中、最後のインタビューで、

 

『この勝利をどなたに報告しますか?』

 

 そんなことがスピーカーから聞こえたとき、彼はすぐに答える。

 

『報告より、別に話したいことがあります』

 

 そう言い、優勝カップをストレージを仕舞い、優勝台から下りて、

 

『ユウキ』

 

『えっ?』

 

 急に呼ばれ、?マークのユウキ。

 

 いつの間にか彼は剣と盾をしっかりと持っていた。

 

『あんな手がもう一回通じるとは思わない、続きやるか?』

 

 それに観客を初め、多くのプレイヤーが驚いた。

 

 ユウキ本人も驚いていた。実はまだまだやりたかったのだから。

 

『うんっ♪♪』

 

『ならやるか、続き』

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 そこからプレイヤーたちを巻き込む時間が流れた。

 

 それは《絶剣》と《蒼炎》の乱舞だけに収まらないお祭りと化す。

 

「彼奴、だから同じ物何本も頼んだのね~」

 

「リズ頼む、彼奴きっと耐久力無くなったらやめるから」

 

 リズたち鍛冶師もまた悲鳴を上げた。

 

 優勝者の暴走による、優勝者挑戦レースのようなことが起きて、すぐに武器の整備に、鍛冶師の下、特にログインしている者に注文が卒倒する。

 

 テイルはユウキたち選手の挑戦だけでなく、他のプレイヤーからのデュエルも受け付けていた。

 

 キリトもまた双剣でテイルに挑むべく、武器の整備に取り掛かる。

 

 五本目のバトルとしていまユウキと発熱した戦いが起きているが、周りには彼が倒した、疲れ切ったプレイヤーや観客がいる。

 

「ユウキったら、無茶しないかなっ」

 

「それよりテイルさん、まだ疲れてないんですね」

 

 リーファの言葉にこの中で一番疲れているだろうテイルはいまだ健在であり、その戦いは夕焼けまで続いた。

 

 彼の持つ剣が多くがダメになり、レインとリズが怒りを通り越して呆れてしまう。

 

 そしてこの火はいまだVRゲームに残り、これを放送した《MMOストリーム》は最高視聴率を取ったらしい。

 

 VRゲームに新たな凄腕プレイヤー出現。それによりゲーマーやユーザーは仮想世界にログインし出す。メディアも特集を組んだり、業界は忙しくなる。

 

 彼のかもしれないは現実になった。

 

 ただ彼は少し侮っていた。ゲーマーたちの熱気とメディアの行動力。ゲーマーな仲間のこと。

 

 彼は理解できなかったが、少しだけ貢献できたことを喜ぶことにした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「マスターっ、マスター今度はあちらに行きましょう」

 

「待てヒカリ」

 

 サポートキャラとしてコンバート可能になったヒカリを連れて、妖精の世界を散歩する。衣類と髪形を変えてだ。

 

 ちなみにユウキからも逃げている。またやろうと目を輝かせ、その後ろでやりすぎないでくださいねと不敵に微笑むアスナ付きで。

 

 彼はいま逃亡犯のようにALOから隠れていた。

 

『いや、君が悪いんだろ? あんなことすればこうなるし』

 

「分かっている……」

 

 通話でキリトと会話しながらこそこそ隠れていた。

 

 シノンも呆れていて、いまは打倒テイルと言う騒ぎである。スレまであったりして、アルゴなどの情報屋から狙われている。ちなみに誰も助けてくれない。

 

『そう言えば、新しく『SAO事件記録全集』が出るらしいぜ』

 

「なんだそれ」

 

『とある名の無きプレイヤーたちのことだよ』

 

 前者は攻略組がメインの話にされていたが、こちらはその裏でデスゲームを生きた者たちの話らしい。

 

 その中で、

 

『誰が主人公だと思う』

 

「………俺は主人公になんかなりたくない」

 

『もう遅いと思うぜ、君は彼らにとって主人公なんだから』

 

 名の無きプレイヤーたちを支えたプレイヤー。

 

 ギルドマスターも最後に彼の功績を隠さず全て話したらしい。もう逃れられないようだ。

 

「ボクからもだよっ♪♪」

 

 そう言って突然現れたユウキに抱き着かれ、通話先のキリトが、

 

『悪いな』

 

「キリト……」

 

 そして張り付くユウキと共にまたデュエル三昧に入る………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「あーーー身体も心も疲れたんだ………」

 

 と言うのに寝ている俺の胸に乗るミケ。

 

「あ~………」

 

 転生してもう精神的に何年過ぎたか分からないし、SAOから事件が続く。

 

 疲れはするが、だが無視することはできない。

 

「………頑張るか」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それは木綿季の病気が良くなり、やっと気楽にお見舞いできるほど治った。

 

 こうして家族と明日奈と和人、みんなで彼女の下に来る。

 

「テイル、アスナにキリトも」

 

 嬉しそうにする木綿季が嬉しそうに微笑み、母さんと父さんが先生と会話している中、三人で彼女と会話する。

 

「そのうち他のみんなも来るだろうな」

 

「そうなると、テイルの本名もやっとみんなに知られるね♪」

 

 果たしてどうなるか、木綿季は嬉しそうにしている中、その頭を撫でる。

 

「ほら、嬉しいのは分かるが母さんたちもいるんだ。少し元気残しておいててくれ」

 

「はーい」

 

 そうして話しながら、明日奈は嬉しそうに微笑み、和人も微笑む。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 母さんと仲良く話す明日奈を見ながら、和人と共に買い出しに出される。

 

「明日奈たち、結構会話してるんだな」

 

「母さんは俺がいないとき、明日奈と木綿季で会話してるからな。俺もよく明日奈と出会った時は話してる」

 

「そうだったのか」

 

「木綿季と仲良いからな。色々あったが、お前も現実で身体鍛えだして安心できるよ」

 

「おいそれどういうことだよ」

 

 和人は少し焦るが、俺は構わず続けた。

 

「俺は詳しく知らないが、どうもこの世界はまだ事件がある可能性がある」

 

「やめてくれ、君の場合しゃれにならない!」

 

「しゃれならよかったが……、俺もフォローするから」

 

 そう言い、買い出した品を持ち出して静かに和人を見る。

 

「どーせ、VR関係事件は首突っ込むんだろ」

 

「………分かったよ、俺も現実で努力します」

 

「ま、外れることを祈りながら備えておこうぜ」

 

 そう言いながら拳を前に出し、和人は微かに笑い、その拳を軽くぶつける。

 

 こうしてお互い苦笑して、待っている大切な者たちのもとに戻った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 SAO事件の書籍は新たな言葉ができると共に、もう一つ書籍が書かれた。

 

 その名は『物語の世界』と言い、名の無きプレイヤーで一番活躍したプレイヤーを書籍化され、名の無きプレイヤーたちの活躍が書かれる。

 

 一人の戦士が低年齢プレイヤーを守り、多くのプレイヤーを支えた物語。

 

 だがその本人はしばらくログインしても隠れると言う暴挙に出るが、フレンド切ることはせず、ユウキに捕まる日々が続く。




オーディナル・スケールにより減ったVRを、VRゲームイベントを盛り上げて、選手として活動することで活性化を図る。

彼が考えた打開策は無茶苦茶盛り上げてみるですが、目論み通り盛り上がり出しましたが、その後のことは考えていなかった。

このプレイヤーを倒せるのはきっとキリトのような人間だけだろうな。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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ゼルダの伝説
第43話・新たな冒険の舞台


オマケ章、始まります。


 ボクはユウキ、いまは紺野、紺野木綿季。いつか苗字を変えるかもしれないと、大人の事情で話している。

 

 だけどできればこのままがいいな~と思っている。その為に話し合ったり、病気について色々先生とお話ししたりする毎日。身体が奇跡的に回復していて、いまも少し現実で検査しています。

 

 ボクの病気はもしかしたら完治する可能性が高い。少し前だと信じられない話を先生から聞かされる。先生は自分のことのように嬉しそうだった。

 

 いまのボクの保護者であり、ボクにとってのお兄さんであるあの人のお母さんは毎日顔を出しに来ます。時々アスナと一緒に話したりしてる。

 

 アスナも相談できて助かっているようであり、面倒見るのが好きなのかアスナのことにも親身になってくれている。時々自分の息子を忘れるのがたまにきず。

 

 今日も平和な中、ボクにとっての大切な人は、いまなにしてるか聞くと………

 

「親の私たちより老けてるわよ」

 

「えぇ~」

 

 なにしてるのさテイル………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 転生者。前世を記憶を持ち、神様から特典をもらって創作物の世界へと生まれ変わること。

 

 別にそれだけではないと思うが、俺は転生者である。正直ここ最近は身体がボロボロで精神的に老けていた。

 

「………へいわだ………」

 

「にゃ」

 

 我が家の飼い猫はお気に入りの詩乃がいないため俺の膝の上にいる。彼女は彼女で明日奈たちと共に買い物だ。元気でいいな。

 

 俺は日向ごっこしながら、ただ静かにミルクをちびちび飲んでいた。

 

「おじさんはもう無理………」

 

 VR、仮想世界にも顔を出すが、もうクエストもデュエルもスコードロンリーダーも無理。歳には勝てないと言ったが誰も本気にしてくれない。

 

 俺はもう縁側でミルク片手にのんびり時間を過ごしたい。木綿季には悪いがもう俺に若さも元気も無いのだ。

 

 正直レインの現実世界での活動もどうにか追えるレベルであり、キリトのように毎日仮想世界と言う元気もない。

 

 大学は頑張るが正直きつい。なにがって、最近の若者の中におじさんがいる様子を想像してほしいな。ともかく俺は疲れたんだよ………

 

「にゃ」

 

「お前だけだよ、俺のこと理解してくれるの」

 

 そうしながらもうミルク片手に、ただのんびり時間を過ごしている。そんな時携帯端末にメールが入り、静かにそれを見た。

 

「………はい?」

 

 その内容があまりにも俺をピンポイントで働かせる内容で、神様にどうなっているか連絡したくなった。あの神様、いま元気にしてるのだろうか?

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それは彼から珍しい頼まれごとをしてカフェへ呼ばれた。普通のチェーン店で彼は窓際の隅の椅子に座り、カフェオレを飲んでいた。

 

 そこにはシノン、朝田詩乃もそこにいて、すでにショートケーキと紅茶が頼まれていた。

 

「おお、こっちだ和人」

 

 俺こと桐ケ谷和人が彼に呼ばれ、席へと着く。

 

 彼からなぜか明日奈を始め、ユイにも秘密で話があると言うため、みんなの目から隠れながらここまで来た。

 

「君から頼み事があるなんて珍しいな」

 

「少しばかり厄介なことがな………」

 

 そう言いながら、俺も彼のおごりでデザートを頼み、彼は飲み物をちびちび飲んでいる。

 

「頼みっていったい」

 

「まずは俺のこと、だいぶ前に色々話しただろう」

 

「あっ、ああ」

 

 彼のこと。前世の記憶。

 

 それにより与えられた勇者の記憶が彼の中にある。だからだろうか、彼は常人以上に仮想でも現実でも動ける。事件が終わる後は必ずと言って良いほどのんびりになる。

 

 切り替えが早いのだろうが、反動がでかいと言う感じだ。

 

 ここ最近も詩乃が言うには縁側で飼い猫を膝に乗せて時間を過ごすのが幸せだと言っていたと言うほど、彼はその、老けていた。

 

「俺の特典。ユウキの家族の救済。デスゲーム被害を最小限にするほかに、あるゲームの勇者のような能力が欲しいと願った」

 

「ああ、それは聞いた」

 

 だが約3000人の犠牲者、ユウキは天涯孤独になるのを防ぐことはできなかった。

 

 それでも彼がいたから低年齢プレイヤーはあの世界で生きて、いまも学園など社会復帰できていると俺は考える。後から聞いた話ではあるが多くの低年齢プレイヤーは、想定されていたほど精神に傷を負っていないとのこと。

 

 だがこれを聞いた彼は、それでも意味は無いと首を振るだろう。彼はそう言う人間だ。

 

「そのゲームキャラが仮想世界、VRにいるって話はしてないな」

 

「なんだって」

 

 飲み物を飲み、彼は仮想世界の中、ボスより強いモンスターや、クエストでボスモンスターが出たこと。他種族であるが人間として、その世界の住人が出て来た。

 

 あまつさえダンジョンまでもがそこにあって、それを聞いて詩乃も顔を上げる。

 

「それってあなたと一緒に潜ったあの象のこと?」

 

「GGOの例の移動するダンジョンか」

 

「ああ。俺自身分かる範囲ではカーディナルシステム。そいつが俺の情報から抜き取ったのをクエストや参考にした。特にティアたちの世界がそれだ。アイテムまで再現されていたんだよ」

 

 初耳だ。俺はそう思いながらケーキを口に含む。

 

「そんな中、これだ。お前らも知ってるだろ?」

 

 携帯端末を操作して、ある画面を見せる。

 

 それは超大型VRイベントの告知画面。

 

「ああ、知っているって言うか。もうみんなやる気満々だぜ」

 

 それはALO、SA:O、そしてGGO。

 

 VRMMOのこの三つだけでなく、他のVRMMOも含めた一大イベント。

 

 とある転移装置を仮想世界に配置し、そこを通ると、なんと一つの仮想世界へと転移する。

 

 しかも先ほど言った仮想世界のアバターたちと共にだ。

 

 つまるところ、GGOの銃の武器を持ったアバターや妖精のアバターと共に、人間のアバターのプレイヤーが同じ世界で遊べる世界が作り出されるらしい。

 

 ゲームバランスなどは先ほど言った銃や妖精など、各ゲームでかなり違うのだ。

 

 妖精のゲーム。ALOなら妖精として飛べて魔法が使えるが、純粋なSA:Oたちより弱い。

 

 銃のGGOなら射撃ができるが、遮蔽物が無いフィールドが多い場所で戦い続けないといけないところと弾の確保のため、一度GGOに戻れないといけないと言う制約とかがある。

 

 この仮想世界に行くには転移門から五分から六分ほど時間がかかるらしい。

 

 後は多くのプレイヤーを一手に移動できないから移動待ちがある。問題点はそこだろう。

 

「それと確か、SA:Oの町が一部移動して、そこが拠点になるんだろう」

 

「ああ。ミファーの都市な。彼女が町の代表として顔に出たときは、どんな因果か神様に聞きたくなった」

 

「? どういうこと?」

 

「二人とも、そのイベント。仮想世界の名前を言ってくれ」

 

「「『ゼルダの伝説』」」

 

 それがどうやら、彼の一番、頭を痛めている内容らしい。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「まずは〝俺の〟ゼルダの伝説、おおむねの話の流れは、いま言った内容だ」

 

 それを含め、この世界で起きたゼルダ関係のことも彼らに話しておいた。アイテム、人物、敵。全てを話しておく。

 

「………まさか、このゲームは君の知識から出たものなのか?」

 

 キリトが信じられない顔をするが、こちらの方が信じられない。

 

 だが前にユイちゃんが運営がカーディナルが集めたイベント、クエスト、アイテム情報を確認して採用していると聞いた。

 

 つまるところ現実世界の誰かが、俺が知る知識通りの世界を知っていてもおかしくない。それに全く似た世界を作ることもだ。

 

 ただ言えるのは、これをそう簡単にそういうものだと判断するかどうか。

 

 ティアたちの仮想世界では怪しげなもんが現れたし、GGOではカースガノンが出て来たし。無視できない。

 

「それでたぶんだけど、俺はこのイベントの全てを知っている可能性が高い。ボス含めてな」

 

「だけど君の話を聞く限り、専用アイテムをゲットして、ボス攻略戦をするのが大半だろ? 後はHPは回数制だ」

 

「そうなんだが、他人事で終わらせられないだろ」

 

「それは、確かに………」

 

 俺がこれで困っているのは無視できないことと、俺の危惧する通り、俺の知識通りだと言う事。

 

 考えてほしい。こういうのは企業の機密情報、なによりカーディナルシステムと言う、VRのブラックボックスから仕入れたものだ。

 

 それを全て知る人間がいたらどうする? カーディナルシステムを創り出した茅場晶彦がいないいま、そんなことを知る人間がいると思うか。

 

 なら無視すればいいだろうと言いたいが、キリトたちが問題なんだ。

 

「GGOはただのエネミーモンスターだったけど、ティアの時はまるっきり違う。正直ティアの時のが問題なんだ」

 

 俺の負の感情。SAOではプレイヤーたちの負の感情データがエラーを引き起こし、もう一つのSAOことSA:Oでは俺の負がバグとして現れた。

 

「あれはSAOの負の感情データだろ? もう無いはずだ」

 

 和人が言う通り、一つは世界ごと、もう一つは俺たちの手で消滅した。それでも、

 

「断言できるか? カーディナルが俺から異世界のゲーム情報を拾うレベルだぞ」

 

「………」

 

 難しい顔をして紅茶を飲む。なにげにこの二人、人の金でかなり好きにしているな。

 

 ともかくまた俺の知識からデータが形になる、しかもそれでできた世界観。なにかあるのではと考えてしまう。

 

「このゲームでキリトたち、SAO関係者も暴れるのも気になるんだよ」

 

「君が心配していることは分かったよ。俺たちはどうすればいい」

 

「俺のフォローだな。たぶん、敵ボスの特長や、どうすれば倒せるかとか、シナリオの流れも分かっていそうだし………」

 

「ならあなたからその異世界のゲームを教えてもらえばいいんじゃない?」

 

 シノンの言葉にキリトは僅かに頬が緩む。知りたいらしいな。別にかまわないから、俺は話せるだけ話すことにした。

 

 だがその前に、

 

「キリトたちはどのゲームでこの世界にログインする?」

 

「俺たちはALOだよ。ただ」

 

「私はGGOから。クレハもそこから入るらしいわよ」

 

 それを聞いてならと、

 

「俺はALOかSA:Oだな。レインの剣がいいからな」

 

「あなたの場合それだけなの?」

 

「レインが作ってくれた武器が一番手になじむ」

 

 そう言って俺はミルクティーを飲みながら、

 

「けどヒカリはどうするか。クレハに頼めばいいか」

 

「なんかプレミアたちも、ティアたちも来る話が出てるぜ」

 

「………知り合いメンバーで総力戦か? なんか他にあったっけ」

 

 俺は画面を調べてみるとオーディナル・スケール。あのゲームのように特典や、各ゲームのレアドロップアイテムなどがリストアップされている。

 

 中にはクーポン券とか、現実世界にも関わることが多い。

 

「………ここまで運営が関わるなら、俺のは杞憂かな?」

 

「さあな。けど本当に未開拓ダンジョンが分かっていたら、少し問題だな」

 

「最悪だ」

 

 そう呟きながら俺はあの世界、ゲームの話をする。

 

 別に俺の追体験だけは外しておこう。あればかり、話しても意味が無い。

 

 ともかく内容が気になる。詳細は正式サービス日まで分からないのが痛いな。

 

 こうして俺のおごりでケーキを堪能しつつ彼らに事情を話し、俺はまた仮想世界で頑張ることになるのであった。




年寄りにはきつい仮想世界。

ちなみにテイルは趣味は日向ごっこなので、それなりに持っています。セブンからの依頼でバイトしてますので、懐はキリトの仲間内では大人組くらいじゃないだろうか?

では、お読みいただきありがとうございます。


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第44話・仮想世界のあの世界

設定確認していて感想返せられない中、感想や誤字報告ありがとうございます。

この世界の設定説明で長くなるのですぐに彼らにプレイさせられない。すまないキリト。

ではでは、ソードアート・オンラインのゼルダ伝説序章です。どうぞ。


 現実世界リンクスタートする準備に入る。その前の事前準備に時間がかかりまくった。

 

 ヒカリをまずトレードでクレハに譲渡する話だが………

 

「マスター………わたしを捨てるのですか……」

 

 それから物凄く大変だった。

 

 バザルト・ジョーが無駄に現れ、ツェリスカも現れて銃撃戦が始まる。

 

 その後の情報でプライベート・ピクシー並びアファシスはフレンド登録、ギルド並びスコードロンメンバーが連れて行けるらしい。

 

 向こうではPKは推奨されず、誤射などのダメは発生するが、プレイヤーからアイテムがドロップされることは無い。ちなみにアイテムトレード機能も一部を除き不可能とされる。

 

 これによりクレハに頼めばヒカリを連れて行けるので、ツェリスカからデイジーもお願いと頼まれた。向こうならデイジーはドロップされる危険性が無い為、安心できるとのこと。

 

 アイテムトレードが可能なのは、仮想世界ゼルダの伝説内で手に入れたアイテムのみ。回復系とバフが上がるアイテム以外、換金アイテムのみだ。

 

 他は全ゲーム対応の家具系のアイテム。それと一部のレアアイテム。これはドロップ獲得したアバターのゲームによって種類が変わる。

 

 データなどを考えて、かなり手の込んだ内容ではある。このゼルダの伝説にログイン対応するゲームが少ないとはいえ、各ゲームのアイテムデータを管理するのはかなりのものだろう。

 

「古い人間には分からないな」

 

 最後にボス攻略戦。これは撮影されてのちのち放送されるらしい。

 

 ボス攻略もかなり大規模であり、その辺りのルールはALOと同じ七パーティー。攻略戦に参加するプレイヤーが少ない場合、弱体化されるとのこと。キリトとユウキはフルメンバーでボスと戦いと言っていた。

 

 全ての情報を確認し、冷蔵庫からミルクを取り出し一気飲みした。

 

 詩乃の部屋と化した部屋を見る。彼女はGGOかにログインして入るので、すでにログインしている頃だろう。

 

 我が家の猫はログインするときは追い出されるが、隙を見ては中に入り、すぐ側で丸くなる。いまも虎視眈々と部屋の前で入るタイミングを狙っている。

 

 このまま部屋に戻り、俺は仮想世界へと入り込む。リンク先はSA:Oにした。

 

「リンクスタート」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 まずはALOからのログインであり、妖精たちの世界で、俺のログハウスへと向かう。

 

「キリト」

 

「やっほー」

 

 俺ことキリト、アスナ、シリカ、リズ、リーファ、ユウキがそこにいて、俺はクラインたちがいないことに気づく。

 

「フィリア、ストレア、クライン、エギルはプレミアたちを連れて来るらしいぜ」

 

「彼らはテイルのように人間でログインか」

 

「ティアも来られたら来るらしい。レインたちはどうだろう?」

 

 レインは現実での仕事もあり分からず、セブンは今回運営側であり、分からないとのこと。

 

 ルクスも最近できた友達のこともあり、分からないらしい。

 

 ツェリスカは完全に仕事に追われて無理とのこと。かなりさめさめ泣いていた。ゼルダの伝説にて、アバター衣装が大盤振る舞い。デイジーに着せたい洋服が大量にあり、リストアップも澄ませている。

 

「はい、みんなの武器よ。受け取って」

 

 リズから整備された武器類を受け取る。俺は伝説級武器のレジェンダリーウェポンの《エクスキャリバー》と共に武器を始め背負う。

 

「テイルはSA:Oね。弓矢とかあるから、妖精で来ると思ったわ」

 

「俺も気になって連絡したら、剣でいいってさ。レインの武器も向こうが最新って話だし」

 

「………彼、ちゃんと分かってるのかしら」

 

「クレハさんたちのことを見ると、分かっていない気がします」

 

「他人の子とは言えないけど、なんでこう、ね………」

 

 アスナたちが集まって、なにか俺を見てはため息をつく。

 

「武器は一通り上げていたなテイル」

 

 使わないがメイスとかも。ただ扱いなれているのは刀剣類であり、盾は片手に無いと落ち着かない。あと弓らしい。

 

 攻撃魔法も覚えるが、範囲系とかサポート系とか覚えることは多数あるが攻撃一点だったな。

 

「しかしユイ。今回のような別ジャンルゲームを仮想世界で繋げる、これってできることなのか?」

 

 ピクシーで浮いているユイちゃんに、俺は多くのプレイヤーが疑問に思うことを聞いてみた。ユイは少しだけ考え込むと、

 

「できる、と思います。ALOはカーディナルシステムの劣化コピーであり、残りのゲームはザ・シードが元になっています」

 

「大元の基礎が同じってことか」

 

「はい。ですがそれでも大型サーバーがいくつも無い限り、データ処理などの問題が目立ちます。今回のような場合はおそらく、いくつも大型サーバーを使用していると思います」

 

「そんなことをしてこのゲーム、儲かるのか?」

 

「今回のイベントは、ティアさんたちの世界のようなテスト目的である可能性が高いと思われます。運営の方はそう言った分野の方々が名乗り出ていますね」

 

「セブンもだったな」

 

 そんな会話をしてから、この大型イベントの会場とも言える転移門へと向かい、向こうでみんなと会うことにした。

 

 したのだが………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 綺麗な湖が広がり、白亜の城がそびえる城下町。

 

 町の施設がたくさんあり、さまざまなアバターも含めて歩くさまよりも………

 

「な、長かった………」

 

「初日だからかな? かなり並んだね………」

 

「キャッチコピーは異世界の門でしたね。100人のプレイヤーを一斉転送する門がいくつもあったのに、三時間も並びました………」

 

 キリト、アスナ、シリカの順でここに来るまでにへとへとになる。

 

 フィールドはまだ開かれていない。いまは町の探索だが、他ゲームのプレイヤーと知り合いの場合、まずは彼女たちと会わなければいけない。そうしていると、

 

「おーいキリト~」

 

「マスターっ」

 

 クラインとヒカリの声が向こうの、オープンカフェのようなたまり場からして、すぐに見ると、全員がそこにいた。

 

「よお、いまクレハたちと合流したところだ」

 

「もう無茶苦茶並んだし、転移にも時間がかかるって。これは行き来がかなり厳しいわ~」

 

 彼らの会話を聞きながら、すぐに次の人が来ることもあり、急いで移動して合流する。

 

「へえ……、キリトは影妖精族(スプリガン)。うわっ♪ 猫妖精族(ケットシー)はかわいいなぁ」

 

 クレハがマジマジと見る中で、ログインできる全員がこうして揃う。

 

 さすがにティアは今回来られなかったことを話しながら店に入る。ともかく、

 

「確か、パーティー登録だっけ。ここでのフレンド登録って」

 

「うんっ、そうすれば他のゲームアバターでも、そのキャラクターの居場所とか、メッセージを飛ばせるよ」

 

「それにはわたしたちアファシスの居場所や、ピクシーのサポートも受けられるようになります」

 

 フィリアの言葉にストレアは頷き、デイジーも説明の補足をする。

 

 全員がウインドウを開き、操作してカフェの周りを見渡す。

 

「しっかし、ある意味壮観だなあ……」

 

「ああ。いろんなゲームのアバターが一か所ってのは、混沌としてるな」

 

 クラインとエギルの言葉に銃を担ぐ者、妖精。そして純粋な人間がいる。

 

 他のゲームアバターも入れれば確かに混沌とした光景であり、この世界のNPCは、

 

「いらっしゃいませ、ごゆっくりどうぞ~」

 

「ほら、飲み物来たわよ~」

 

 リズの言葉に店員さんを見ると、耳がとがっていて妖精のようであり、綺麗な外人の風貌から、日本人のように黒髪だったりと………

 

「なあ、君の知る世界観と同じなのか?」

 

「ああ。全く同じだ。これでハイリアとかハイラルとかのワード出たら間違いない」

 

「そうなの。あ、ミケを部屋に入れてないわよね? あの子気が付くと足元や顔の真横で丸まってるんだけど」

 

 キリトの問いかけに答えつつ、シノンの苦情は仕方ないのであきらめてほしい。

 

「ともかくまずはイベントが始まる前に情報集めだな。他のプレイヤーもそうみたいだし、この世界の世界観って奴を確かめようぜ」

 

「異議なし」

 

「分かったわ」

 

 こうして各々が好きに、とはいえソロ行動は控えて見て回る。ちなみにテイルはキリトとシノンで見て回ることにしていた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「こんにちは、少しいいですか」

 

 それは近衛兵士の格好をした人。すぐに敬礼のポーズをしながら受け答えした。

 

「はい、異世界の方ですね。私はハイリア兵士の一人です、なにか御用でありますか?」

 

「ハイリアってのが、この国の名前か」

 

「いえ。ハイリアが人種ですね。ハイラル人は国籍を指しますので、この国はハイラル王国、これがこの国の名前です」

 

 なんかよく分からん設定が付いていた。そして分かるのはこの国にはシーカー族を初めとした種族が住んでいる話を聞く。

 

 詳しい話を聞く限り、いまこの国は未曾有の危機にさらされている。これは予言として国王が事前に知り、異世界の来客が来ることは知れ渡っている。

 

 故にこの世界の住人はプレイヤーに驚きつつも、異世界の人間と言うリアクションを取りながら、この事態がなぜ起きたか詳しい発表を待つばかりであるとのこと。

 

 ちなみにミファーの都がくっついていると言う設定。

 

「で、どうなの?」

 

 シノンは大会で着ていた衣装の姿で、町の様子を見ながら尋ねる。

 

「そのままかな? ハイラルとハイリアの違いは分からん。気にしたことは無い」

 

「まあその辺りは………、それ以外はそのままか」

 

「他に言いようがない。ってか、シリーズ物だからな………」

 

 他人に聞かれないようにしながら、俺はゼルダシリーズについてまた詳しい話をする。

 

 まずは始まり、黄金の三角形『トライフォース』と言うものがあって、それぞれ神様が関係していたはず。

 

 知恵はヒロイン、力は魔王、勇気は勇者に授けられていて、魔王が神の領域に踏み込み、知恵と勇気のトライフォースを手に入れて世界を手に入れようとする。

 

 それを勇気と知恵の者が倒すことから始まる話。

 

「始まるのか」

 

「ああ。魔王はその後、時代や舞台。パラレルワールド的なものも含めて蘇っては、勇者とヒロイン、と言うか世界そのものに復讐しようと蘇る。最新作のは確か、もう知能すら無い状態だったはずだぜ」

 

「そんなに続くのか………。少しやってみたいな」

 

「仮想世界じゃないぞ。まあゲーム好きの中じゃ、知らない奴の方が少ないと思うが」

 

 ゲーマーなキリトは俺が元々いた世界のことを言うと、シノンが少しばかり鋭い目つきで睨む。

 

「どうしたシノン」

 

「………あなた、なんとも思わないの」

 

「? なんのことだ」

 

 その様子に呆れ、少しのため息の共になんでもないわと言う。

 

 ともかく情報を集めつつ、この世界の貨幣も仕入れられる。とはいえいまは元々持っているアイテムを換金するくらいか。

 

 いくつか持っているのでその為に店に入ることにした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 テイルが店に換金しに中に入る中、シノンが険しい顔で彼を見ていた。

 

「どうしたんだよいったい」

 

「あなた気づかないの? それともデリカシーが無いのかしら」

 

「それってどういう意味なんだ?」

 

 それにため息を付き、静かに彼を見る。

 

「彼は前世、前の世界の記憶がある。ってことは、前の世界にだって家族がいるってことよね」

 

「あっ………」

 

「彼、前の世界とこの世界で割り切ってるけれど、それって割り切れられること?(・・・・・・・・・・)

 

 シノンの言う通りだ。

 

 彼は確か不手際で死んだとか言われて、そして創作物に限りなく近い世界に転生させるって話を聞かされて転生した。

 

「不手際のお詫びみたいに聞こえるけど、それってお詫びでも何でもないわよね? SAO事件、デスゲームがもしかしたら起こるかも知れない世界になんか送られて、あなた、まともな神経で生きていられる?」

 

 そんなことできるはずがない。

 

 彼は詳しくは知らないが、多くの死者が出ると知る事件が起きる。それが分かっていたら………

 

「………そう言うことか」

 

 まともじゃいられない。ナーヴギアやSAOが発売されると知ればなおのこと。

 

 元の家族から別の家族に入れ替わって、大勢の死者が出るか不確かなこと言われて、そんな人生で平然と生きていられる自信が無い。

 

「けど、だから彼は勇者の力を」

 

「だから、そもそもそこがおかしいわよ。特典持たせてあげる。私にはそれら渡すんだからその事件をどうにかしろと言われてる気がするわよ」

 

「いや、けどそれは解決することも」

 

「そうよ、解決することも分かり切ってる。酷似した世界なんだから、もしも彼があんたで、あんたがなにもしなくてもクリアすることも理解して、よ」

 

 それに俺は言葉を無くす。

 

 彼はなにを思ってあの世界を生きて、戦っていたか。

 

 鉛のような重みを感じる。

 

 義務でもなくでも無く、それでも行動しなければ罪悪感に蝕まれるだろう。そんな人生を彼は生まれた瞬間から決定付けられた。

 

「私だったらその神様に、鉛玉を撃ち込むわよ」

 

 そう言うシノンの言葉にそれでいまの、のんびりした彼はやはり反動なのだろう。

 

 もう自分が知らない、事件が起きるか分からない普通の人生に、彼はようやく解放されたのだから………




細かいルールなど間違い無ければいいな。

キリトくんはきっと知らずにこの世界に来たら、フィールドでアイテム採取コンプリートでも目指すのだろうか。アスナは料理の腕を振るいそうだ。

それではお読みいただきありがとうございます。


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第45話・始まる冒険

一人、アミュスフィアを使用する彼女の部屋にそれは入る。扉を閉まり、彼女がゲームをプレイ中なのか確認する三毛猫。

静かに周りをウロウロして、けして音を立てず、顔の側斜め上辺りで丸くなる。

三毛猫は知っている。顔の上や胸の上に丸くなるのはダメであり、耳元もダメだと言うことを。

だから斜め上で丸くなり、起きるのを待つことにした。


 この世界を見て回り分かったこと。設定としては………

 

 予言でこのような事態、異世界と繋がることを知って国民全てに伝達。これで彼らは異世界の住人がいても普通に接する。今現在、王国が全ての情報を調べている。

 

 国の名前はハイリア人とシーカー族が住むハイラル王国。ソードアート・オリジンの世界が一部この世界の一部になっている。それはミファーの都だ。

 

 プレイヤー情報だとこのゲームはテストプレイ用の仮想世界であり、この大型イベントは一時的なものであると公式発表。

 

 純粋なソードスキルのみのプレイヤーは与えるダメは高く設定されている。ALOとGGOプレイヤーは武器や魔法が使用できるが、かなりの制限が付くらしい。

 

 ALOはダメが低いとのこと。これは元々生まれた世界から離れているから弱体化したと言う設定とのこと。

 

 GGOの弾丸、グレネードに対しては元の世界で無いと補充できない。

 

 蘇生の場合、リスタートは元のゲーム世界。そこから転移門でまたこの世界に来なければいけないようだ。

 

「GGOはかなり制限があるわね」

 

「けど、銃とグレネードは強みがあるだろ。つまるところ火力が高い。ゲームバランスのためにこうするしかなかったんじゃないかな?」

 

「一番はリスタートですね」

 

「どう考えても死に戻りだけは無理よ。こっちに戻るのに時間がかかり過ぎる、また並ぶのはね」

 

 リズの言葉に全員が頷く。そう話し合う中で、

 

「てか女性陣、少し観光しまくりじゃねえか?」

 

「なによクライン、いいじゃないっ。衣装や家具は持ち帰りできるんだから」

 

 結構買い物をしているクレハたち。リアルマネーも使える扱いなので、まさかこれで儲けようとしているのではと思う。

 

 デイジーはツェリスカに買って着て欲しいリストがあるため、買い物は分かる。いまも可愛らしいワンピース姿であり、褒めたところ頬を赤くしていた。

 

「マスター、わたし頑張って撃ちますねっ」

 

「ヒカリ、君はサポート用にステータス伸ばしているのに、なんでマシンガン二刀流なんだい?」

 

 むっふーと言う顔で得意げのうちの子。おかしいなこんな装備買った覚えがない。

 

「この前、ママが買ってくれました」

 

「………だれ」

 

「マスターのママです」

 

「いつ」

 

「………はっ、内緒でしたっ」

 

「母さんは本当にっ。まさかその為だけにアミュスフィア買ったりしてねえだろうなッ」

 

 それにわめいているとユウキも目を泳がせている。なにげにこの子も最近懐事情が良い。

 

「ユウキ?」

 

「えっと………えへ♪」

 

 可愛らしくちょろっと舌を出しウインクしたが俺はそんなんじゃごまかされないぞ。クレハもあっははと目を泳がせている。クレハ。

 

「い、いや、おばさんがその、ね。いろいろお世話しているからって」

 

 おい実の息子は完全蚊帳の外か。まあいいが、さすがにクレハたちで止まっているだろうか?

 

「えっと………」

 

 一人のピクシーが目を泳がす。

 

「………ユイちゃん?」

 

「ごめんなさいママ、パパ。ご飯をおごってもらったりしてもらいました」

 

「うちの母がすまない」

 

 なにげに視界の隅で目線を外しながら飲み物を飲むシノンがいる。

 

「………シノン」

 

「しょ、しょうがないでしょっ。その、欲しかったのがあったんだものっ」

 

 まあ、シノンには飼い猫が世話になってるからいいけど。今頃、現実世界の側で丸くなってるだろう。

 

 そんなバカな話をしていると、イベントが盛大に発生した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それは号外として、書かれた内容をばらまく者が現れたり、兵士たちや住人に聞くと新たに増えた内容。

 

 それと共に閉ざされていた門が開き、彼らから聞こえる情報は、

 

『女神の神託が降りました。この世界と別の世界を繋ぐことができる秘宝が、聖地より飛び出てしまったがために起きた事態です。事態を解決するには、三つの秘宝を手に入れるしかありません』

 

 そうこの国の姫様。女神の生まれ変わりにして、巫女である『ゼルダ』姫がそう言った。

 

 国王の号令により、多くの者たちが聖地から飛び出た鍵が眠る地への通路を解禁したそうだ。

 

 多くのプレイヤーが流れるようにフィールドに出る中、俺らはと言えば、

 

「情報だな」

 

 全員が一致であり、まずは情報を集めることにした。

 

「さすがにこの規模のイベントを長くするとは思えない。かと言って、闇雲にフィールドに出ても意味が無い」

 

「門が開いたんだから、誰かがフィールド情報、聖地から出たって言うアイテム情報を集めるところからか」

 

「それもあるけど、フィールドでこのメンバーの戦闘スタイルを確認しようぜ。ALOキャラがどれくらいダメージ量減ったか気になるからな」

 

「まあね、それじゃ、フィールドも少し見ておく? どんな感じか見ておかないと」

 

「クレハたちGGOは、情報集めだな。まさか確認の為に弾を使うのはな」

 

 そう話し合いながら別れて情報集めに向かう。

 

 俺はキリトとシノンの三人であり、クレハがヒカリとデイジーと共に町を見ていくらしい。他のメンバーはフィールドの確認等々。ともかく動くことにした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「と言う訳で、ミファーさんのとこに着ましたっと」

 

 顔パスで中に入れるというか、中には他のプレイヤーとも交流があるらしい彼女。彼女を頼って、他にもプレイヤーが寄っているそうだ。

 

「始めまして、異世界の妖精さんと別世界の戦士さん。私はミファー、あなたたちのように異世界から来た者です」

 

「久しぶりです」

 

「はい。あなたもこの世界に来ていていたのですね」

 

 彼女から話を聞くと、少しだけこの状況に戸惑いながらも都の者たちの安全を第一に動く。この国の国王は友好的に状況の説明などしてくれた。

 

「お姫様はどうなんですか? どうもキーパーソンのような気がするんだが」

 

「お姫様とはいまだに。どうも今回の件でお身体の具合が悪いようで」

 

「今回の件? 神託のことか」

 

「そう、と聞いております。ごめんなさい、それ以上のことは聞いていません」

 

 肝心の姫様とはいまのところ、国の関係者以外会っていない設定なのだろう。

 

「ともかくありがとう。色々助かるよ」

 

「いえ、お互いいまは混乱の中です。助け合うのは当然です」

 

 そう言い、頬を少し赤らめて微笑んでいる。この表情変化が少し分からない。俺が訪ねるたびにこうなんだが………

 

 シノンが少しだけ呆れ半分で睨んできたため戸惑う。シノンは腕を組みながら、少しだけ、

 

「ほんとあんたって、AI型NPCにモテモテね」

 

「どういうことだよ」

 

「キリト似ってこと」

 

「なんで俺が出て来るんだっ」

 

 そんな話をしていると、ミファーが優しく微笑み。なにかを思い出し、赤い髪をふわりとなびかせ、何かを取りに出向く。

 

「そう言えば……、あった。この本」

 

「本? それは」

 

「ある勇者と異種族の姫様の、恋の物語です」

 

 ああ確かそんなものがあったね。

 

「少しいいかしら?」

 

「はい、問題ありませんよ」

 

 シノンが手に取り読んでみると、要約すると勇気の女神フロルに選ばれた勇者に、水の中に国を持つ種族の姫様が恋をする恋愛話。

 

 それを聞きながら少しばかり気になるワードがあった。

 

 ともかく屋敷から出ていき、他のメンバーに聞く前にキリトとシノンには言っておく。

 

「勇気って単語は、トライフォースの一つなんだ」

 

「それは」

 

「勇気、知恵、力の三つの三角形が合わさったものがトライフォースと言うもの。女神とか、確かに聞いたことがある」

 

「やっぱりこの世界観って、あなたの知識から取り出されたのかしら?」

 

 その可能性は高い。秘宝と言うのはトライフォースのことか?

 

「いや、それは無いな。トライフォースは神々が残した無限のエネルギーだ。規模がでかい」

 

「無限のエネルギーか、確かにそれを集めろってのは。だけど最終的に出てきそうではあるな」

 

「ともかく秘宝の情報は無かったが、どうも調子が狂う」

 

 そう呟きながら、情報を集めに色々動き回る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 パーティーメンバーと合流して分かったことは、

 

「フィールドは最初はどこもだいたい一緒の平原だったぜ。一つは雪山みたいなところ目指して、もう一つは谷みたいなところだ。もう一つはジャングルっぽいところで、その先は分からない」

 

「フィールドじゃ、色々なアバターパーティーが暴れてたね。なんか豚か猪みたいなモンスターが弓とか剣持ってたよ」

 

 クライン、リーファからフィールド情報を聞きながら、ユウキたちが言うにはいろんなアイテムがたくさん採取できるらしい。アイテムはSA:Oに出て来るもの、つまりゼルダアイテムがたくさんあるらしい。次に秘宝の件だが、

 

「秘宝が眠る土地は、元々は立ち入り禁止の危険地区らしい。今回のことで王国が冒険者、つまりプレイヤーが立ち入ることを許可したって話だ」

 

「秘宝に関してはそこにあるくらいか。定番で言えば、ボス倒せば手に入るってところだろう」

 

 他にあるとしたら、姫様との謁見はできず、国王がだいたい情報を聞きに来るプレイヤーの対応をしているくらい。他に確認は、

 

「私的にはスナイパーポイントの確認ね。やっぱり少ないのかしら」

 

「うん、そこそこ距離がある場所は選べるだろうけど、これって探索系でもあるから、シノのんからしたら難しいね」

 

「わたしはずばばばばばっと撃ちますっ」

 

「ヒカリ、弾は無限じゃないからね」

 

「一応弾丸は一通り、クレハ、お互いフォローし合いましょう」

 

「はい、分かりました」

 

 次はアイテムだが、この世界特有の回復アイテムは、

 

「《妖精の力水》と《マックス薬》。味はどっちも甘いらしいぜ」

 

「こっちだといろいろな食材、アイテムが多いですね。SA:Oのお店に使えそうな食べ物がいっぱいでしたよ」

 

 そう言いながら、ピナに《ハチミツアメ》を与えているシリカ。

 

 少しだけ遠い目になり、元の素材を思い出しながら次の話はメンバー上限だ。

 

「パーティー用のメンバー登録と、もうしたパーティー登録は別なんだな」

 

「バランス考えて配置しようぜ」

 

 バランスを考えると。

 

 SA:Oアバター。俺ことテイル、クライン、エギル、フィリア、プレミア、ストレア。

 

 ALOアバター。キリト、アスナ、リーファ、シリカ、リズ、ユウキ。

 

 GGOアバター。クレハ、シノンだ。

 

「アファシスとピクシーはなんと、パーティーメンバーの上限にカウントされないのですマスター」

 

「これはある種の強みね。レイちゃんだけなら、GGOプレイヤーが倒されても、組んでいるパーティーが生きていればそのまま留まれる。最後まで一緒に戦えるわ」

 

「ここに残るメンバーはいるか? 別にこのイベントは攻略するだけのゲームじゃないみたいだ」

 

 実は一通り町を巡ったら、射撃大会やちょっとしたミニゲーム、イベント等々。フィールドにもミニゲームの施設もあり、詳しく見ていないがたくさんある。

 

 アイテムも至る所に採取ポイントがあるため他にも楽しむるようにされていた。

 

「あたしはパスでもいいわよ。情報収集の傍ら観光したり、みんなの武器整備をいつでもできるようにしておくわ」

 

「キリト、わたしは町に滞在します。この世界の料理を、堪能したいです」

 

「あっ、アタシもアタシも♪」

 

 プレミア、ストレアは町の観光。リズもそれでもいいと言う話。

 

「俺も残るぜ。この町のアイテム事情ってのも気にはなるからよお」

 

 エギルの残り。こうしてメンバーは決まった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 前衛、純剣士テイル、ユウキ。ヒーラー兼アタッカーリーファ。後衛射撃クレハ。そこにヒカリが加わる。

 

 キリト、アスナ、クライン、シリカ、フィリア、シノン。このメンバー構成であるが、

 

「正直メイジがいないってのはお約束だな」

 

「ヒーラーもな。アイテム頼みの気がするぜ」

 

「キリト君、あなたには回復魔法はいらないのかしら?」

 

 アスナが睨みを効かせ、静かになる。デイジーたちが見送る中、最初の目的地は、

 

「よし、最初の目的地は雪山だっ。行くぜみんなっ」

 

 全員が頷き、掛け声と共にフィールドを飛び上がる妖精たち。

 

「いや待てっ」

 

「お前らがそれで移動されたらっ、こっちはどうすればいいんだよっ」

 

「あっ、悪い………」

 

「全員徒歩だね~」

 

「マスターにはUFGがあるのです」

 

「いやそれいまはクレハだからな」

 

「歩きで行こうよっ」

 

 フィリアの呼び声にこうして全員で徒歩で進む。

 

 と思った横で、馬に乗り、先に進むパーティーメンバーが………

 

「馬に乗れるのかっ!?」

 

「これは、まずは慣れから始めようか」

 

 キリトの提案のもと、まずはこのパーティーでの連携を確認して、雪山へと目指すと言うことになった。




キリト「アイテムがたくさんある、こっちはキノコか」

クライン「うおおおおっ、ハチの巣採ったらハチが襲いかかってきたぞっ!?」

ヒカリ「マスターっ、お魚がいます。採ってくるのですっ」バッシャンっ

テイル(………龍は出るだろうか)

そんな感じで現在楽しんでいます。

お読みいただき、ありがとうございます。


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第46話・雪山フィールド

言い訳をさせてくれ、出したかったんや。

仕方ないよね、いいよね、そう思いながら組み込んだ。後悔は無い、恐怖はある。なに言ってるんだろう。

と言う訳でゲストキャラクターたちが出てきます。どうぞ。


 乾いた銃声が雪山に響くたび、少し問題ないのかなと思いながら先に進む。

 

「VRの中なのに、どんだけ寒いんだあぁぁぁぁ」

 

 クラインの叫びの中、シノンは自慢のライフル片手に、全員が念のために用意した厚着に着替えながら先へと進む。その中で何人かは《ピリ辛山海焼き》など食べている。

 

 フィールドの探索を初めてしばらく経つが、いまだ誰もボス部屋までたどり着いていない。

 

「ボスはレイド戦なんだから、集合かけたりするのかな?」

 

 ボス攻略は最大七名七パーティ、それでも一つのパーティーでも挑める。弱体化されるが一つのパーティーで攻略できるのだから、このメンバーだけで挑むのもありだ。

 

「それもいいけど、何度も戦えるのならこのメンバーでパターンを見たりしたいな」

 

 キリトやユウキはできれば最大強化されたボスに挑みたいらしい。その場合は募集をかければいい。そんな話をしながら奥へと進むと音が聞こえる。

 

「これは銃声ね」

 

「はい。となると、別のプレイヤーがいるのでしょうか」

 

「………この先か?」

 

 雪山による雪原の中、古びた屋敷が見えだした。

 

「屋敷? 古びた神殿か?」

 

「ともかくここを探索するか。おそらく、他のプレイヤーもここを探索してるんだろう」

 

「なら、調べることにしようか」

 

 こうして古びた屋敷の中に入り、中を探索する。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 中は仕掛けがあるダンジョンであり、屋敷の割に広く、色々見て回るがいろいろなアイテムが手に入る。

 

「宝箱は開けた人によって、そのゲームのアイテムがドロップするみたいだね」

 

「はい、この世界は宝箱、ドロップアイテム、トレードが一部制限されているかわりに、そのプレイヤーが得られる物は元々の世界の物ですね」

 

 フィリアが全て担当するのも問題らしく、ドロップするアイテムも銃があり、それはシノンたち以外手に入れないのは困る。

 

 時々宝箱を開ける者を変えて、偏りが無いように探索していると、

 

「きゅう」

 

「ピナ? どうしたの?」

 

 ピナが何かを見つけて、フィリアが壁を確認する。

 

「あっ、ピナさすが。ここ隠し扉、少し待ってね」

 

「GGOじゃ一緒に冒険できなかったけど、ピナ大活躍ね」

 

 クレハの言葉に喜ぶピナ。フィリアが仕掛けを動かすと、扉が開き、隠し部屋へと中に入る。

 

「これは、鉄球?」

 

 中には立てかけられている物も含め、鎖が付いた鉄の玉がいくつもある。どれも同じで重そうだった。

 

「だな。持てるか?」

 

 クラインが手に取ると専用アイテムで獲得した。

 

「これ、かなり重いぜ。けど使えはするか?」

 

 試しにテイルが持って振り回して使う。

 

 クラインもまた同じようにしてみる。なにかのアイテムではあるのだろう。

 

「他の奴は持てるか?」

 

「俺らは重すぎて、なんか余計に重みがかかってる気がするな」

 

 クラインたちが振り回すさまにキリトは冷静に分析する。

 

 ユウキたちもクラインたちのように鎖を持って振り回してみようとするが、重くて無理と言う声が上がる。

 

 GGOメンバーは、

 

「さすがにね。これ振り回しながら銃が撃てないわよ」

 

「そうね、悪いけどパスさせてもらうわ。クラインが持っているといいわよ」

 

「そうか? テイルもなんか使い慣れてる感があるな」

 

「まあ、色々だな」

 

「お前さんホント、器用だなあ~」

 

 そうクラインが感心する中、鉄球を自在に操り氷を砕いた。

 

「おっ、まさかこれそういうアイテムか。ならオレとテイルで分担するか」

 

「おお」

 

 しばらく探索しに戻る中、キリトとシノンが彼に話しかけて来る。

 

「氷を砕くことがあったの」

 

「ああ。まあいろいろありすぎるが、この程度は思いつくだろう」

 

 それはあると言うことだろう。

 

 やはりと難しい顔になるキリトたちだが、外を少し見ると、

 

「ヒッヤーーーーーッ」

 

「壊すぜ壊すぜ壊し尽くすぜえええええええええ」

 

「俺たち全日本マシンガンラバーズが氷を破壊し尽くすぜええええええ」

 

 外で氷や、氷型のエネミー相手に銃弾をばらまいている男たちがいる。

 

 シノンとクレハはその様子に嫌な顔をして、ヒカリはあれほど撃ちたそうな顔をした。

 

「とりあえずまあ、こいつは氷やらなんやらに役に立つことが分かったし、キリの字たちも他の手段があるようだぜ」

 

「銃の乱射はできないから、よろしく頼むわ」

 

「任せろ」

 

 そう言って彼らは《チェーンハンマー》を持って奥へと進む。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 まさかのアイテムと共に俺たちは奥へと進む。進めば進むほど屋敷は神殿のような場所になり、かなり寒くなる。

 

 そうして奥へと進むと、何人かのパーティーが奥の部屋で固まっていた。

 

「あれは、まさかボス部屋か?」

 

「そうかも。話しかけてみる?」

 

 キリトが代表として話しかけようとするが、

 

「あれシノンさん。お久しぶりです」

 

「あらあなたたち」

 

 シノンがかなりの大柄の黒人アバターの女性たちに気づき、彼らもシノンに気づく。

 

「BoBの選手、シノンか。知り合いなのか」

 

「ええ。数少ない女性アバター仲間ですから」

 

 そう言う彼らにシノンは顔を見て呟く。

 

「GGOキャラクターが多いわね」

 

「ああ。いまのところ氷やそのエネミーには銃弾が効くってのが、このフィールドでの定番だな。だからこそ俺たちGGOチームが先行して、ボス部屋の確認していた」

 

 男はそう説明する中、俺は周りを見た。

 

「女性チーム編成?」

 

 そう言ってピンク色の女の子、グレネードランチャーの金髪の小さい子。ポニテでにやにやしている女性の側で軍服の男性は静かにしていて、側にイケメンな女性と狩人のような女性プレイヤーチーム。

 

 女性で統一されたシノンの友達チームと、先ほどマシンガンを撃ちまくっていたチームがいる。

 

 それと彼らがいて男性は苦笑した。

 

「いや、一応話はついている。この先はボス部屋でだいたいのパターンと攻略方法は確認済みだ。いまからラストアタックを決める人材を募集するか、このままアタックするか決めかねていたところでね」

 

「へえ、攻略戦参加条件は?」

 

「レイド戦はどうやら最大七人のキャラネームを登録することで扉が開く仕掛けらしい。おそらくは秘宝アイテムを獲得するキャラクターの指定と思われるから、そのメンバーを俺たち《メメント・モリ》だけにする。それで俺たちが仕入れたボス情報を渡す」

 

「まあ当然だな」

 

 キリトは少し考える中、メンバーを見てすぐに尋ねた。

 

「ここにいるメンバーを入れて、パーティーは何名だ?」

 

「俺たち《MMTM》と、チーム《SHINC》と、チーム」

 

「《LPFM》よろしく~♪」

 

 そうポニテの人が言い、全員が銃と言う異色パーティー。

 

 だが話を聞く限り、氷のエネミーは先に見つけた《チェーンハンマー》が無ければ、耐久力がある敵ばかり。少ししんどいのは確かだ。

 

「全六パーティーのレイド戦か」

 

「どうする?」

 

 全員の顔を見合わせてキリトは、

 

「問題ないぜ。攻略戦はしたいし、これでダメでも次は勝てばいい」

 

「OK分かった。ならボス情報を話す」

 

 まずボス部屋では、入る前にウインドウが開き、誰がパーティーリーダーなのか、キャラネーム登録が起きる。

 

 それを行った後、ボス部屋の扉が開き、一定数中に入るか、時間が経つと扉が閉まり、戦闘終了まで開かない。

 

 ここのボスは何かの像を中心に分厚い氷でできていて、氷を砕くたびにHPゲージが減る。

 

 攻撃パターンは氷の固まりを降らしたり、振り回したりする。見た目は氷の固まりが浮遊するゴーレムのようなもの。

 

「攻撃方法は氷を砕くと言うあたりだな。その辺りの攻略方法はそちらで考えて欲しい」

 

「それならこっちも情報提供するよ。隠し部屋で鉄球が出てな、ALOキャラクターは使用不可で、GGOは銃の方が良いけど、それで氷を砕けていた」

 

「救済アイテムか。隠し部屋は知らなかったな」

 

 つまるところ、

 

「どゆことなの?」

 

「つまり、GGOのプレイヤーは銃。ALOは魔法か空を飛んで攻撃。他のプレイヤーはそのアイテムで攻略するってことだよフカ」

 

 ピンクの子が金髪の子に詳しい説明して、全員がおおむねそう言う解釈をした。

 

「俺らの場合。クラインと俺がメインで動いて、キリト、リーファ、ユウキは空飛んで浮いてる氷破壊。アスナ、シリカ、フィリアはサポート。シノン、クレハ、ヒカリは銃乱射か」

 

「頑張ります」

 

「おおっ、あのアファシスっ。マシンガン装備だぞっ」

 

「しかも二刀流っ。できれば我がチームに入って欲しいっ」

 

「わたしはマスターのアファシスなのでお断りします」

 

 マシンガンラバーズが騒ぐ中、クレハはGGOで渡していた物を確認する。

 

「あれってUFGじゃないのっ!? まだGGOの全サーバーで一丁しかない奴。ってことは」

 

「別ゲームのアバターがテイル、と言う事だろうな」

 

 ポニテの人がこちらを見て、軍服の男はたしなめている。やはり人に知られているな。

 

「あっ、あんた《絶剣》ちゃんじゃんか。そっちはALOで来たの? 私私っ、私だよ」

 

「ひょっとしてALOしてる人? いっぱいいるから分からないよ~」

 

 急に騒がしくなるパーティーグループ。一応確認として、どう考えても接近するのはこちらのチームだけであるのははっきりしている。

 

「となると、俺たちが前でがんがん攻めて、後ろががんがん撃ちまくりだな」

 

「だな。気合い入れねえとな」

 

 クラインと共に鉄球を構える。あれも面白そうだとか、色々言われる中、武器の確認、持ち場の確認が始まる。

 

「さすがにもうプレイヤーを待つのはいいか」

 

「もともと時間が来たらトライしてたのか」

 

「ああ、あんたらは運がいい。いや。BoBの優勝者のアファシスにそのプレイヤーと、その仲間がいるのか。運がいいのはこっちか」

 

 最後の確認として、像が核になっている氷だけは壊れにくく、他の氷は壊してもしばらくすると元に戻る。

 

 氷が降るパターンは増えていったり、それこそ鉄球のように振り回されるらしい。

 

「一番気を付けなきゃいけないのは滑る床だ。氷の床で、靴に細工したりと、どうやっても滑りやすい」

 

(内容は『覚醒大氷塊フリザーニャ』がベースだな)

 

 そう思いながら、少しばかり目を細める。あれも色々大変だったな。

 

「テイル」

 

「ユウキか。ユウキたちは飛べるから、弾丸のラインに出ないように気を付けろよ」

 

「うんっ。一発クリアしようねっ♪♪」

 

 はにかむユウキの頭を撫でながら、ヒカリもそれに気づき近づいて来たので撫でる。

 

 シノンたちの方もプレイヤーたちと話し合いが終わり、こうして準備は整った。

 

「それじゃ、行こうか」

 

 そう言って扉の前に立ち、彼の前にウインドウが広がり、彼がキャラクターネームを登録した。

 

 一つの空欄を残して、YESボタンを押す。

 

 扉が音を鳴らしながら開きだして、それと共に全員の銃からリロード音が鳴り響く。

 

「クライン、もしかしたらキリトたちよりも、俺らの担当が大変かもしれないぜ」

 

「へっ、大船に乗ったつもりで任せろってんだ」

 

 頼もしい限りだ。

 

 こうして俺たちは氷のボス部屋へと進みだした。




ガンゲイルキャラクター登場。そしてボス攻略戦、相手はあの氷のボスキャラ。

頑張ればユウキたちも振り回すことはできるでしょうが、あの子ら力とかにステータス振って無さそう。

それではお読みいただきありがとうございます。


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第47話・開戦、氷のボス

弾丸の準備はいいか? HPとMPは? そんなものじゃなくハートとテクニックだろう?

テイルたち、ボス攻略戦始まります。


 フィールドは氷でできた床であり、かなり広々としているボス部屋。巨大な塔の内部を思わせて、広さは俺の知る部屋よりもだいぶ広い。七人、七パーティー用でもあるのだからそれなりの広さが必要なのだろう。

 

 だが、

 

「氷の床が滑りそうだ」

 

 床が鏡のような映るほどの氷の床。感覚が滑る床と同じの為、どうしてもあの戦いを思い出す。

 

「正直これがネックだ、妖精プレイヤーはもう飛んでいた方がいい。ガンマンは彼らを撃つなよ」

 

「それってフリかしら?」

 

「ピトさんフリじゃないからねっ、いまは仲間だからねっ。ここはGGOじゃないからね!?」

 

 ピンクの子が騒ぐ中、キリトたち妖精は飛び上がる。

 

「いざとなればヘイトを集めるよ」

 

「そうしてくれると助かる。なんせここは銃で動きながら撃つには難しいからな」

 

 そうして奥へと進むと一つの像がある。

 

 かなり凝った作りであり、大柄の人間ほどの大きさで、近づくとそれは宙に浮く。白い空気が部屋に流れ込む。吹雪のような吹き荒れてそれが氷を創り出す。

 

「純粋な氷は綺麗な透明と聞く」

 

「あれでかき氷はうまいだろうね~」

 

「かき氷、いまは食べたくありません」

 

「あらやだこの子ノリがいいわ。欲しい」

 

 ピトとフカと言うプレイヤーのノリに乗るうちの子。ともかく全員が置いておいて戦闘準備。コアとなる氷を除き、氷塊は大岩のように現れて五つ浮遊する。

 

「来るぞ、全員戦闘準備っ」

 

 こうして俺たちの《覚醒大氷塊フリザーニャ》もどきとの戦いが始まる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それはかなりの重量を感じる戦いだ。

 

「ヒャッハアアアアアアアアアアア」

 

「撃て撃て撃て撃てーーーーーッ」

 

「わっはははははははですっ」

 

 わたしたちはMMTMのメンバーを主催にボス攻略戦に出ることになった。正直ピトさんがこれを承諾したのに驚いた。

 

 曰く、最初のボス攻略戦なんだから派手にやりたいとのこと。確かに最初にいたメンバーはGGO。ピトさんの好きなガンマニアたちの集まりだ。

 

 それ以外のプレイヤーまたはゲームの人は氷のエネミーにかなり苦戦している。ここまでくるのにもそう言う印象だ。

 

 それでも混合チームでまさかの、あのGGO最強プレイヤーの一人と言われているプレイヤー。テイルとその仲間の人たちが加わった。

 

「やっぱいいわあのアファシス。ノリって言うかテンションが好きだわ」

 

「マシンガンズと楽しそうに青いアサルトライフル持って弾丸ばらまいてるね~」

 

 ボスのHPゲージは四つあり、いま一つ消し飛んだ。

 

「パターン変わるぞっ」

 

 フカが言うにはALOで有名のプレイヤーたちらしい。その中で黒服の人が叫ぶと共に氷の数が増えたし、こっちの頭上にも現れたっ!?

 

 この床走りずらいッ、滑るッ、敏捷値が高くてもうまく走れないッ。

 

「あっはははははは、マスター滑りますッ。つるつるなのですっ!!」

 

 あの子全身で滑りながらマシンガン撃ってるっ!?

 

「よし決めた。レンちゃん、GGOでテイル見つけたら狩るわよ」

 

「あのアファシスはマシンガンの申し子、神の子だ………」

 

 なんかマシンガンズの人たちが神託を受けた信者のような顔をしているし、その持ち主の人は呆れながらハンマー振り回して氷を破壊している。

 

「増えた数五つっ、攻撃パターン変化っ!!」

 

「妖精はそのまま指示してくれっ、聞こえたらすぐさま全員行動しろっ」

 

 なにげにこのレイド戦司令官のような人が多くて助かる。Mさんみたいに指揮官っぽい黒い人、キリトさん?も指示してくれるし、Mさんもそう指示した。

 

 すぐに滑りそうな身体で体制を整えてピーちゃんで狙い撃つ。

 

「アファシスちゃんや、こうして滑るのかい?」

 

「はいなのですっ」

 

 フカはなにげにあの子のように滑りながらグレネードランチャー撃ってる。なにげにあの二人、撃つ反動で身体を滑らせて降り注ぐ氷のつぶても避けてるし、なんであんなに仲良いんだろう?

 

「こんのッ」

 

 シノンと言う人が使うスナイパーライフルは一気にHPゲージを削る。あの銃《アンチマテリアル・ライフル》か。

 

「っと、レン上っ」

 

「ひゃああああ」

 

 エヴァの声で気づいたけど、いつの間にか頭上に氷が降ってきた。急いで横に飛んでわたしも全身で滑る。冷たいし濡れるんだけどこれ。

 

「大丈夫かいっ? 向こうも一撃が重いみたいだから気を付けなよ」

 

「う、うんっ。けど火力はまだこっちが上だね」

 

「ああ。まさかあのマシンガンバカに加えて、後から来たテイルチームが強い」

 

 そうです。彼らの火力もバカにできないくらい貢献してます。

 

「見た限り、彼奴らがだいたいの氷を砕いて破壊。落ちてきたのをハンマー組が的確に破壊して、妖精たちは一斉攻撃で撃ち漏らした氷を空中で破壊してる」

 

 そうこのパーティーの意外なところで、ヘイト集めや撃つと滑ってしまうリスクも彼らのパーティーが補ってくれている。

 

「レンちゃんこの戦い楽しんでるぅう?」

 

 滑るように銃、いまはアサルトの良い物で遊んでいるピトさんも、楽しそうに攻略戦していた。

 

「いっや~後から来たテイルチームが慣れてるね」

 

「レイド戦? そうだね、おかげで助かるよ」

 

 ここで銃撃戦は滑って大変だけど、中にはクレハと言う人がUFG。テイルしか持っていない移動サポート銃で攻撃を避けて撃っている。このパーティー間違いないねっ。

 

「行けるっ、行けるよピトさんエヴァっ♪」

 

 そう言った時、

 

「もうすぐパターン変わるっ。一斉攻撃停止っ。地上組が体制整えたら一気に削れっ」

 

「了解」

 

 そう言った途端。ほとんどの人が攻撃を止めた。わたしたちGGO組は体制を整えたり、リロードがあるからね。ほんとたすか

 

「「「「「へっ?」」」」」

 

 その時、マシンガンラバーズは一向に引き金から指を離さず、弾丸が一斉にボスのHPゲージを削った。

 

「あのバカ」

 

 その瞬間、残り二本になったボスは本気になり、吹雪が部屋を包み、氷の固まりは大小合わせて20個以上出て来て、小さいのはムチのように固まりが繋がって振り回された。

 

 ちなみに地上組の体制はかなり崩れている状態。

 

「このマシンガンバカあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 一斉に降り注ぐ攻撃に、全員が必死に回避し出す。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 二本でこれか。オリジナルの攻撃を避けながら、アスナとリーファが空中で回復魔法使用して削れた人たちの回復を始めていた。

 

 アスナとリーファの回復のおかげで隊列は崩れているが、まだ落ちたプレイヤーはいない。ピナもピンクの子の頭の上にいる。

 

 うちの子はリロードしながら全身で滑って攻撃している。あの子アクセサリーでいまある銃でいい物装備させて良かった。蒼い色だからお気に入りみたいだしね。

 

 クレハも前もって渡していたUFGで生き残る中、氷を砕いておこう。こうして戦う中、氷の中の像を確認する。

 

(………?)

 

 像は人型であり、自分を抱きしめるような形であるのが見えた。

 

 それと共にその中央に三つの三角形が一つの三角形になるマークがあるのに気づく。あれは王家の紋章、俺の知る知識のシンボルでもある。

 

 それに違和感を感じながらユウキたちがソードスキルを叩きこむ。ともかく氷を砕く中、全員攻撃を再開した。

 

「マスターっ」

 

 無数の氷が檻のように降り注ぐがパターンは見切った。ギリギリで当たらない位置に氷を引き寄せて、ハンマーを振り回して纏めて破壊する。

 

 転がり滑りながらこの景色は覚えている………

 

(ああくそ、嫌なこと思い出す)

 

 その時ついにゲージが一本になり、ここは、

 

「一斉攻撃して一気に削るっ、出し惜しみは無しだっ」

 

「フカっ」

 

「オッケーイッ」

 

「肩借りるよッ!!」

 

 シンクのパーティーの中で仲間の肩に銃を乗せて安定させたり、なにかリロードする弾を変えたりして全員が構える。

 

 一斉射撃。すぐに銃と関係ないパーティーは離れた。その瞬間、撃ち放たれる爆撃音。部屋に響き渡り、ついでにヒカリが何か取り出す。

 

「あの子は」

 

 プラズマ・グレネード。それを取り出してぶん投げた。

 

 地上では無いから、跳ね返ったりすると誤射するのだが………

 

(あとで説教か)

 

 二重の意味でそう思い、剣を構え投剣の応用で真っ直ぐ投げた。リズすまない。グレネードが核に跳ね返る瞬間、グレネードを貫く剣。

 

 直後別の爆発音も鳴り響き、部屋が揺れた気がした。

 

「ひゃっわあっ」

 

 どうも金髪のちびっ子もプラズマ・グレネードの弾薬を使ったようだ。

 

 一気にゲージが文字通り吹き飛んで、氷と像が地面に落ちると共に床の氷が砕け散り、滑る床はただの床に変わる。象の方は氷が砕けて姿を出す。

 

 その象もまた砕け、その中から何か蒼い涙のような宝石が現れた。それがこのレイド戦で登録したプレイヤーの誰かの元に下りた。

 

「アイテム名はなんて言うんだ?」

 

「あっ、ああ。待て、いま確認する」

 

 ストレージを操作してすぐに分かったのは、

 

「『ネールの慈愛』って名前だな」

 

 それを聞き全員が集まる中、こうして初攻略戦は無事に果たされた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「いっやー戦った戦ったっ」

 

「めちゃくちゃ楽しかったねっ、凄かったね、はちゃめちゃだったねっ♪♪」

 

 フカとピトさんは楽しそうにそう言いながら笑い合っていた。

 

 プラズマ・グレネードを投げたヒカリって言うアファシスちゃんは少し怒られて、それでも頭を撫でられてうれしそう。

 

「ナイトファイト、おかげでボス攻略戦は勝てたぜ」

 

「これはこちらが言うことだ。妖精との連携も悪くなかった」

 

 向こうではリーダー同士が握手している。テイルさんはなにか考えていると言うか、アファシスの面倒を見ていた。

 

「とはいえ、根っこからGGOプレイヤーだからこういうファンタジー系のクエストはどうすればいいか分からない。悪いがこれから城にこいつを献上する。なにかこの先のイベントの為に確認や、見ておくべきところがあったら教えてくれるかい?」

 

「いいぜ、こっちもたぶん知りたいことだからな」

 

 そう言う話でキリトさんから注意するべきところをいくつか聞くMMTMのリーダーさん。まずは王様に渡した時の反応。次にお姫様に関する情報らしい。

 

 そう言えばこのイベントの始まりは、お姫様が神託を受けたかららしいからね。少し分かる。

 

 重要アイテムでも渡すときの様子を気にかけなきゃいけないらしい。

 

「ファンタジーには結構変なのあるからね。大抵魔法で後からんなこと言われても困るって状況が起きる、選択肢は重要だぜ」

 

「うわっ、大変」

 

 それらの話を聞いて少しばかり天を仰ぐ。

 

「どうも、これは謁見の様子を情報で売ってみるか。こんな大規模イベントそうは無いから楽しいが、やはりファンタジーは肌に合わなそうだ」

 

 そう肩をすくめて、後は情報屋経由と言うことで話を終えて解散することになった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 戦いを終えたあと、GGO組は弾丸補充に戻り、俺はと言えば、

 

「あんたって………。ここでも一応鍜治場レンタルできるから作れるけど、ほいほい壊さないでくれないかしら?」

 

「すまない」

 

 リズに剣の補給を頼む中、ストレアやプレミアが見つけた料理を出す店に出向く話になりつつ、一時解散。キリトと共に詳しい話し合いをすることにした。

 

 食材アイテム《魚介串焼き》や《串焼き肉キノコ添え》など手に持ちながら話し合っている。

 

「それじゃ、今回の敵は獣人の奥さんが鏡の魔力で豹変してあんな風に戦うのか?」

 

「ああ。今回はただの像だが、妙なんだ」

 

 俺は王国の紋章が刻まれた像の中から、秘宝が出て来たことに疑問に思い、彼もそれを聞いて頭をかしげる。

 

「あれを守るように石像が作られたのなら、自分を抱きしめるように設計されたのも分かるな。王家の紋章入りなのは、聖地から出たときの入れ物ごとなのかどうか」

 

「そうなんだよな」

 

「ちなみに《ネールの慈愛》って言葉に聞き覚えは?」

 

「ネールはこの世界作った知恵の女神だな。別の話じゃ時の巫女として出て来た」

 

 そう言いながらキリトは少しだけ難しい顔をする。

 

「どうした」

 

「あっ、いや別に」

 

 キリトはそう言い、その後は別れる。しかしまあ、

 

「嘘が下手だな」

 

 おそらく俺の体験のことを薄々勘付いているのだろう。

 

 俺が体験した、実体験がゲームとして体験する。少し思うことがある。

 

 俺自身は折り合いはあるが、気分がいいかと聞かれれば返答に困る………

 

「なんか果物食って、みんなと合流するか」

 

 シノンも勘付きそうだから、色々考えなければいけない。そう感じていると、

 

「ん」

 

 鳴き声が聞こえる。何かが何かにいじめられる。そんな動物の鳴き声。

 

 すぐにそちらに向かうと、お祭り騒ぎのような町から外れ、カラスが猫を突いている。

 

「このやろう」

 

 カラスはトリ肉だ。そんな解釈をして振り払う。

 

「俺がいま剣持ちじゃないことを感謝するんだな」

 

 そう告げてから猫を見る。綺麗な白い猫であり、瞳も綺麗なもの。

 

 ポーションを取り出し、傷付いているから飲ませてみると、

 

「? クエストか」

 

 目の前にウインドウが開く。保護しますか? YES/NOの画面。

 

「YES」

 

 猫は大切だ。こうして猫を懐に仕舞い、俺はその場から去った。

 

 これがこのゲームの重要な選択肢とはまったく気づかずに………




確かカラスも出て来て鳥肉になったはず。あの世界鳥は肉だからな………

それではお読みいただきありがとうございます。


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第48話・様々なミニイベント

フィールド攻略。

アスナ「それじゃ、夜のフィールド探索に行きましょう」

数分後。

アスナ「無理無理無理無理無理っ、わたしは夜はフィールド出ませんっ」

テイル「回復役が抜けたいま、チームが脳筋と言われても仕方ない状態に」

リズベット「前々からよ、前々から」

リーファ「一応、魔法は使えるんですけどね………」

キリト「………」

魔物の肝などのアイテムをストレージに仕舞う剣士がいた。


 最初のアイテムが献上されたことはプレイヤー全員に広まり、そのアイテム名や謁見の様子の情報が出回る。

 

 俺ことキリトはみんなの代表としてアルゴから情報を買っていたところだ。

 

「んじゃま、オレっちが知るのはこんなところだゼ」

 

 謁見の間でアイテムを渡す際、本当に渡しますかとYES/NOウインドウが現れた。

 

 姫自身がそれを受け取りに現れたが、ベールで顔を隠した衣装で素顔がうっすらとしか見えないらしい。

 

 王様では無く姫様が受け取りに前に出たようだ。宝石は姫様の下で光り輝き、静かに光が無くなって宝石として彼女の手元に。

 

 礼金らしいことは起きなかったが、異世界人である自分たちに感謝として施設の設定が変わることを話す。これはすでに値段設定やアイテム、別のフィールドの情報などがあげられるだろう。

 

「まあ、王道なRPGかな?」

 

 ただ本当に渡すかどうかで選択肢が出たのが少し気にはなる。そこも少し考え物だ。実は渡してはいけないなんて設定もありがちだがあり得る。まあまずは秘宝が無いと話にならない。

 

 とりあえず次のフィールドの情報を買いつつ、次の冒険に備える。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「猫拾った」

 

「だめですマスターっ、ほいほい動物を拾ってきて」

 

 そう言いつつ、猫を撫でたそうにするヒカリとユウキ。だが懐の猫は怯えているのか奥に引っ込んだ。

 

 そうこうしていると、キリトが来て情報を照らし合わせる。色々な情報屋での情報で信憑性を確認して考える。

 

「他のフィールドだけど、火山地帯んとこはそろそろ募集するかもしれないぜ。参加するなら慣れるためにフィールドに出た方がよさそうだ」

 

「最後の所は古い遺跡よ。ただかなり入り組んでていまのところ誰も向かってないわ」

 

 クラインとリズの言葉を聞きながら、次はどうするか考える。

 

 シリカは少し恥ずかしそうにピナを抱きかかえていた。

 

「ううっ、次の攻略戦も映像撮られるんでしょうか? 少し恥ずかしいです」

 

「ウチの子が楽しそうにしてたな~」

 

 猫を懐に思い出すのは公開された映像。さすが最初のボス攻略戦、ほとんどのプレイヤーが見ているだろう。話をしながらこの世界の料理をみんなが楽しんだ。

 

「デイジー、この子を頼む」

 

「はい分かりました、お任せください」

 

 デイジーに猫を渡しておき、冒険に出る準備に移る。次はボス攻略戦の募集が始まることを想定して火山地帯のフィールド。

 

 リズから武器を受け取る中、剣を握りしめて、

 

「ん」

 

 その握った剣を何度も振るう。その様子にリズは呆れながら、

 

「気付いた?」

 

「レインが来てたのか?」

 

 それに全員がん?と顔を上げて、リズは面白そうにニヤニヤしながら言う。

 

「参加できないけど時間ができたからって、こっちに来てね~。あんたの剣が無いって知って、急いで打ったのよ」

 

「そうか。なにかお礼しないとな」

 

 フィリアたちもなにか興味津々にこちらを見る。レインがわざわざ時間を割いて作ってくれた剣がどうかしたのだろうか?

 

 ヒカリは急に懐きだすし、ユウキもなにか対抗するようになついてくる。猫が増えた。

 

 キリトも訳が分からず、クラインは自分だけがどうして一人なんだと訳が分からないこと呟いている。

 

 こんなんで攻略戦は大丈夫なのだろうか?

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 剣を大切にしながら情報を集める。今回も攻略戦は難しいだろう。

 

 この前みたいに混合チームになる。そう思いながら火山地帯を探索しつつ、町のクエストもこなして遊ぶプレイヤーたちを見る。

 

 町を探索する中、猫、仮名シロと名付けたこの子は俺以外には懐いていない。

 

 懐に仕舞って顔を少し出すこの子と町を歩き、色々情報集めながらクエストをこなす。そうしていると、

 

「ん」

 

「テイルっ」

 

「ここにいたのか」

 

「ごきげんよう」

 

 ゼロ、ティア、プレミアが買い食いしていてこちらに近づく。

 

 ゼロはプレミア、ティアのバックデータなのだろう。プレミアにそっくり瓜二つだ。

 

 ティアは銀色の髪の、プレミアと瓜二つだがいまは大人になり、大剣を背負っている。

 

 こちらを見るなり、なにか鬼気迫るようすで近づきシロに手を伸ばす。

 

「って、どうした」

 

「どうしたじゃない。なんで猫を懐に仕舞う」

 

「ここが定位置だから」

 

「………」

 

「テイル、ずるいです。猫だけを抱きしめないでください」

 

 ゼロが真顔でそう言う。どうもこの子、なにか色々勘違いしている。

 

 俺の本妻になりたいとか愛人とか。誰が教えたか知ったときはキリトたちと共に八つ裂きにしました。

 

 ヒカリとユウキのように構ってほしいのだろう。猫に嫉妬しないでほしい。

 

 二人が両腕に絡みつきながら町を歩く。プレミアはキリトを探しに出向き、なぜか男性プレイヤーから殺気を感じた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「あーダメそうだな」

 

「そうだな。募集かけられたら行ける気がするが………」

 

 クラインとキリトが話し合う中、アスナたち女性チームがいつの間にか集まりの場になった店に戻ってきた。

 

「あれ? キリト君たちも休憩?」

 

「あっ、ああアスナ」

 

「うんにゃ、次の方針を決めかねているんだ」

 

 どうもいまALOプレイヤーチームがかなり先行していて、もしかしたらそのままボスアタックする可能性がある。

 

 女性たちもそれを聞き、ユウキはう~とうなった。

 

「ここまで来たら、全部の攻略戦に出たいけど無理そうなのか~」

 

「残念だけど、こればかりはね。遺跡の方はどうなんですか?」

 

「まだそっちは探索は進んでない。いまさっきプレミアたちもこの世界に来るようになったから、メンバーも」

 

「レインも参加できそうだって言ってたわよ」

 

「えっと、そうなると………」

 

 アスナがメンバーを頭に浮かべると、フルメンバーで。

 

 キリト、アスナ、クライン、エギル、シリカ、リズベット、リーファ、フィリア、ストレア。

 

 シノン、ユウキ、プレミア、ティア、テイル、レイン、クレハ。

 

「レイちゃんは外すと16人だね」

 

「ああ、セブンも来られるらしい。テイルから連絡が来たんだって。なんでも久々にお姉ちゃんとゲームがしたいって」

 

 それを聞き、女性メンバーが顔を見合わせて考え込む。

 

「ど、どうしたんだよ」

 

「ううん、少し彼。テイル君の女性関係がね」

 

「テイルさんはその、ねえ………」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「まず思うんだけど、シノのん、テイルさんってどうなの?」

 

「いきなりなによ………」

 

 女性メンバーだけの女子会状態であり、ストレアがにまにましながら、最近話題になるテイルの事情を嬉しそうに聞きたそうにしていた。

 

 そこにはアルゴもいて、少しばかりシノンは呆れる。

 

「彼奴の女性関係なら、まあ、居候の身だから分かる範囲だけよ」

 

「うんうんっ」

 

 アスナもノリノリであり、シノンは少しだけ彼に悪い気がしながら、

 

「モテてる。本人が気付いていないだけでね」

 

 それに離れた位置にいるクレハがびくりと反応。フィリアたちはそれを見守りながら話を聞く。

 

 ちなみにヒカリはユウキと共に遊びに出掛け、デイジーは買い物。

 

 本人はプレミアたちと買い食いと連絡が来ていた。

 

「大学からの連絡で友人関係は普通と思うわね。浅くも無く深くも無く、知り合いと言えば知り合いって言う人がいそうだけど、女性からのアプローチがあるみたい」

 

「あんた誰からそんなこと聞いてるの?」

 

 リズの質問にシノンはしれっと、

 

「おばさん。テイルの母親」

 

 クレハががんっとテーブルに頭を叩き付けている。

 

「ちなみに彼、成績優秀将来安泰。お金も計画的に使うし家事ができる。私からVRの女性関係の話を聞く変わりに得た情報よ」

 

「………キリトガールズ。オネーサンからの進言なんだガ」

 

「だからキリトガールズってのやめてくれないかなっ」

 

「あたしたちはそんなんじゃありませんっ」

 

 リズとリーファからのクレームを言い渡し、それを静かに悟りを開きながら、

 

「いや正直どこの世界にこんな有力物件があるんだって話ダ。むしろなんで彼女がいないんダ?」

 

 アルゴの問いかけにシノンはある考えが浮かぶ。

 

 精神年齢がもう飛び越えていて、なによりSAO時代やそれよりも過酷な環境にいた。恋愛感情なぞ枯れ果てているのではないか?と。

 

 それに本人はヒカリやユウキ。二人のことを大切にしている。その時間を大切にしていることが、いまの彼が一番に考えているとは思う。

 

「彼のこと好きなのって」

 

「えっと、ルクスさん。レインさん。ティアさんにゼロさん。後はミファーさんとデイジーさん」

 

「あとはユイだよね♪」

 

「えっ!?」

 

 約一名を横目でちらちら見ながら言うシリカ。ユイの名前に食いつく母親。フィリアは静かに考え込む。

 

「こうしてみると、後半AIだね」

 

「テイルは仮想世界の住人にモテるっト」

 

 アルゴが情報を整理しながら、正直顔も良く成績優秀で彼女無しなのは不思議だが、

 

「趣味とか無いのカ?」

 

「家で猫の面倒見てたりしてる。あとは私の勉強見てくれたりかしら?」

 

 後は料理を手伝ったりできて、セブンからの頼まれごととか言って難しいことしていたりしてる。やはりその程度でありこの先どうなるか。

 

「キリトガールズはいまのうちだゼ?」

 

「だから」

 

「あたしたちは」

 

「そんなんじゃありませんっ」

 

 リズやシリカ、リーファはそう宣言しながらシノンは我関せず。

 

 ただ、少しだけ考える。

 

(彼は幼い頃前世の記憶を取り戻した。その後は鍛錬と言う形で仮想世界のような〝本物〟の世界で経験を積んだ)

 

 マグマが流れるフィールド。肌が凍り付くような雪原地域。

 

 確かに五感で感じ取るのは長く居たくないと思わせるほどリアルではあるが、それはリアルでは無い。それっぽくされているが、我慢できるよう調整された疑似空間。

 

 だけど彼は現実を体験した。

 

 思い出すのはファンタジーの世界でのゲームオーバー。他のプレイヤーの様子も思い出し、ゲームオーバーになる瞬間を思い出す。

 

 あの不愉快な感覚。だがそれはそう言うものとして作り出されているだけであり、現実では無いもの。

 

 だが彼は現実でこの世界を体験した。

 

 肌を凍らせる寒風の中を進み、喉を乾かす火山地帯を上る。

 

 もしかすれば想像を遥かに超える体験をしているのかもしれない。いやしていたのだろう。

 

 そしてなによりも、大勢の人間が死ぬ事件が起きる〝かも〟と言う情報。

 

(………やっぱり転生がお詫びだなんて嘘ね)

 

 少しだけゾッとするシノンは思い出す。猫を膝に乗せてぼーと過ごしたり、ユウキやヒカリを見守る様子の彼。

 

 あれは完全にプレッシャーから解放された反動だろう。あれが自分たちの感覚で誰かを好きになったりするのだろうか。

 

 正直不安になる。彼が一番親しいユウキは妹のようなものだし、彼自身そういう感覚を忘れてるだろう。

 

(ある意味ゼロやティアみたいに積極的にやらなきゃ、彼はずっと気づかずに見守ってそう)

 

 自分を含め、パーティーメンバー全員が庇護対象。それが彼の認識だろう。それに手を出すような男ではない。

 

 シノンが彼の未来を考え複雑な心境になる中でも、メンバーはわいわいと彼に対する評価を話し合っている。

 

 そんな時間を過ごし、フィールドを探索を開始した。




シノンが確実にテイルん家の妹か娘に。ユウキ? 彼女はすでに娘です。

それではお読みいただきありがとうございます。


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第49話・過ごした世界

こんな世界だもの、こんなことがあっても良いよね?


 フィールドや町を探索中、俺たちは火山地帯と遺跡地帯を調べている。だけど火山地帯は先行するパーティーがいるらしいので、もしかしたらダメかもしれない。

 

 そう思いながらこのゲームを楽しんでいた。

 

「アルゴ、その情報本当か」

 

「アア、間違いない情報源サ♪」

 

 その話を聞きながら、俺はこの世界のゲームバランスに戦慄する。

 

 どこかのクエストである会員に成れば魔力が一日無限扱いされるドリンクがあるらしい。会員になる方法がバカ高い値段だが、魔法を連発するALOプレイヤーがいると言う噂が他にもあった。

 

「アスナやリーファにはもってこいだな。後は」

 

 これは一度でもダメージを受けなければ攻撃力が2倍になるばあちゃん特性スープなど、この世界は料理と言うか、アイテム効果が豊富だな。

 

 カエルやヤモリなども効果があるらしい。この世界は様々なアイテムがある。

 

「キー坊、いくつか情報をタダで渡すカラ、アイテムの効果が正しいか実験台に成ってくれないカ?」

 

「カエルやヤモリだろ? いいぜ、面白そうだ」

 

「それを聞けてオネーサンは助かるヨ」

 

 その後にバッタなども含まれるが、それでもチャレンジしてみる。ほんと、この世界はアイテムが多いな。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 なんて言うかゲテモノが増えた世界だ。俺の感想はそんなもの。シロを懐に仕舞い、料理店を眺めていたら阿鼻叫喚が聞こえる。

 

「《ネボケダケ》のキノコシチューに《アチチの実》と《サッサの実》の木の実ジュース………」

 

 さすがにおかしいと思えるくらいに混ざっていて、いくつか食べる気が起きない。先ほどから店内から聞こえる悲鳴もあるし、ここはパスする。

 

「にゃーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

 気のせいかウチの《絶剣》の悲鳴が聞こえた気がしたが無視しておこう。これも経験だ。

 

 町には音楽団もあり、その楽器をよく見ると見覚えがある。もう『かぜのさかな』を起こす気は無い。

 

「怖い顔してるわよ」

 

 その言葉に俺ははっとなり振り返ると、少し不機嫌なシノンがそこにいた。彼女は《魚介串焼き》を手に持っている。

 

 その流れで彼女と共に町を巡る。そんな中で俺も手軽に買える《アップルパイ》を買い、食べ歩いた。

 

「ねえ、さっきどうして怒ってたの?」

 

「………ああいや」

 

 少しばかり話すべきかと考えたが、彼女に『夢をみる島』を説明した。

 

 そこで出会った人たち、その結末を聞いて難しい顔をするが、シノンにまでそんな顔をさせたくない。

 

「シノン、シノンや俺にとってこれは〝記録〟だ。記憶ですら無いもので」

 

「あなたにとってそれは本当に〝他人の記録〟なの?」

 

 それに俺は止まる。

 

 その先が言葉にできない。いやするべきことなんだろう。

 

 彼女たちが俺に対して話しかける言葉、全てが勇者のものであり、俺に投げかけた言葉なんて一つもない。

 

 俺が彼女たちにどれほど好感や信頼感を持っても、彼女たちが俺に向けるもの全て違う。

 

 その事実を飲み込めず、俺はシノンの言葉になにも返せない。

 

「ごめんなさい、その」

 

「いや、俺の方こそごめん………」

 

 シノンは敏感だ。俺が抱えるものが複雑なのも理解して、納得できず怒っている。俺も納得はできていない。それでも納得しなければいけない。

 

「ん?」

 

 そしてアスナからメッセが飛び、シノンもなにかあったのかと思い、メッセージを開く。

 

『キリト君がカエルやバッタを食べ始めてるの。止めるためにストレージを掃除したいので彼を見つけたらいつもの宿屋に連れてきてください』

 

 シノンと共にキリトに呆れる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ログアウトして時間を過ごす。自分の部屋で考えることはいまと昔の彼らの関係。仮想世界のミファーたちに加え、ゼルダ姫まで加わる。

 

「………」

 

 目を閉じると《ムジュラの仮面》すら含めた仮面が売られ、ユイや他のプレイヤーが仮面をかぶる光景。

 

 夜になると現れるゴースト系やスケルトン系に怯え、アスナが夜の探索から外れ、戦力がガンガン行こうぜに(いつものことだが)なるパーティー。

 

 衣装、ただのデザインだけの装備でハイラル兵士や《英傑の服》を着込むプレイヤー。アスナは朝と昼は元気良いんだけど、キリトが肝系の魔物素材を隠し持っていててキレていた。

 

(気分が良いとは言えない。それでも折り合いをつけないといけない)

 

 色々な出来事を体験したが、どれだけ感情移入しても俺は偽物だ。そうでなければいけないと思うときはいくつかある。ミファーのような勇者に恋する者たちがそうであり、体験の中で俺に向けられた感情は勇者のものでなければいけない。

 

 それは良い、それだけは良いんだ。

 

 だけど………

 

 夢を語られ、願いを聞き、叶えたときや感謝の言葉。その言葉を自分の物にしたくなるときがあったのは確かにある。

 

 意味が欲しい。俺が地獄を見る意味が欲しかった。

 

 だけど意味を求める時点で絶対に、俺は勇者の資格なんて存在しない。

 

(俺はある意味、魔王と同じなんだろう)

 

 勇者や姫が、女神が持つものを奪おうとした彼が自分なのではないか? 彼らの全てを手に入れようとする意思だけは共感できるのでは無いかと考える。

 

 ただその為に全てを犠牲や破壊する手段だけは俺は選ばない。それだけは本心から言えること。

 

「だけど延々と考えるのはな………」

 

 それでもきっと、これは俺に付きまとう感情なのだろう。そう思いながら、今日は少し勉強してから眠る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 俺はアスナから妙な食材アイテム禁止令を言い渡され、仕方なくユイや他のメンバーの話を聞く。デイジーは相変わらずツェリスカに送る写真撮りに忙しそうだ。

 

 ユウキは色々なお店の食べ物にチャレンジしたりして、凄い目に遭っているらしい。どんな店か聞いておくか。ユイも不思議なお面をかぶったりして遊んでいたりする。

 

「パパ、この町の音楽は綺麗な曲が多いです。オリジナルなのか、お歌を歌う人もいて聞きに行きたいです」

 

「そうか、ならアスナと一緒に行くか」

 

「はい♪」

 

 微笑むユイ。その時にメンバー全員にテイルからメッセが飛んでくる。なにかあったのだろうか?

 

「なんだテイルの奴?」

 

 その内容は………

 

『護衛クエスト?が発動した。内容はミファーの護衛? 内容を聞く限り二人っきりで行動するらしい? ?が多いのはウインドウが開いたりせず、口約束のように城下町を見てみたいと言った彼女に俺が連れていくと言ったらそうなった。クエスト表記が無い。ともかく二人っきりで見て回りたい、内緒の話らしいので、町中で俺たちを見つけてもスルーしてくれ』

 

 その内容を見て、俺も真剣に検証する。ウインドウが開かないクエスト? 報酬が何かが分からないのはいいとして、内容が詳しく分からないものか。

 

「プレイヤーなら少しは分かるけど、NPCでこれは………。みんなはこのクエストをどう見」

 

 その時、俺はユイが物凄い顔をしているのを見た。

 

「ゆ、ユイ?」

 

 光が無い瞳。真っ暗な瞳でそのメッセージを無表情でじっと見つめ、ユウキも同じように表情が消えてそれを見る。

 

 クラインはあーあとなぜか俺を見て、シリカ、リーファ、リズ、シノンも俺を見る。なんで俺を見るんだ。

 

 アスナは頭を押さえながら、静かに長いため息をつく。

 

「これってデートよね?」

 

「は? デート? それって彼とミファーが?」

 

「この文面からそうとしか書かれてないじゃないっ」

 

 クレハはなぜか叫び、ヒカリは悲しそうにメッセージを送ろうとしていた。

 

「ツェリスカへ。マスターはやはり、わたしを捨てるようです………」

 

「待てっ、それを送ると今度こそ収拾がつかなくなるッ」

 

「ほんっと男って勝手よねッ」

 

「まったくだわ」

 

「………」

 

「リズ、シノン。なんで文句を言いながら俺を見る? シリカ、なんで悲しそうに見るんだ?」

 

「自分の胸に聞いてみてよお兄ちゃん」

 

 リーファまで同じようなことを言うが、ともかく彼はクエストのため、二人っきりの環境を整えるらしい。そう話を纏めていたら、フィリアが待ってと叫ぶ。

 

「このメッセージって誰にまで流したのっ!?」

 

「!? ストレアか」

 

 ストレアなら面白がって後を付けそうだ。だが、

 

「違うッ。もうこれだからキリトはッ!!」

 

 なぜか物凄く睨まれて、フィリアはすぐに、

 

「ティアよティアっ。彼女もここに来てメッセージ飛ばせるようにしてあるじゃない」

 

「あッ」

 

 リズの言葉に、俺たちは物凄い殺気、闘志と言うものを感じて店の入り口を見る。そこには大剣を背負うティアが難しい顔でメッセージを見る。

 

 静かにウインドウを閉じて、プレミアは細剣、ゼロも構える。なににっ?!

 

「どうやら私は倒すべき敵を見つけたようだ」

 

「待て待て待てっ」

 

 俺たちが急いでティアたちを取り押さえる。プレミアまでなにをしようとしているんだっ。

 

「キリト、そんなに抱きしめられると照れてしまいます………」

 

「お兄ちゃんこんなときになにしてるのっ」

 

「あーーーーもうっ、お兄さんが女たらしになったのは」

 

「ごめんなさいクレハ………。キリト君っ」

 

 アスナはなんで俺を睨むっ。みんなしてなんで俺を睨んだり悲しんだりするんだっ。

 

 ともかく彼のクエストは無事に済ませるために、俺がしっかりするしかない。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 彼女は赤い髪を隠すように束ね、布を深々と被り、町娘の衣装で町を巡る。

 

 町では見覚えがある食べ物、音楽が聞こえたり、多くのゲームのプレイヤーとNPCが行き来していた。

 

 彼女と共に出店を見て回ったりする中、このイベントはどんな意味があるのか分からない。シロを懐に仕舞いながら、俺は色々見て回る。

 

 だがやはり複雑だ。この世界の在り方があの世界やこの世界。体験の中の物が多すぎるんだ。

 

「難しい顔をしてますね」

 

「あっ、ああ……。すまない」

 

「いえ、無理を言って連れて来てもらっているのは私の方ですから」

 

 その時、リボンなどアクセサリーが売られている店を見つけた。せっかくだからこの猫に付けるリボンでも買うか。

 

 彼女と話して共に店に入り、リボンにも色々あって、彼女と共にシロに合うリボンを決める。

 

「この子なら………、これが似合うと思います」

 

「そうだな、それと」

 

 買い物を済ませる前に、俺はイヤリングを手に取る。それは彼女に合いそうな物を見つけたからだ。それも買うことにした。

 

「えっ、あっ、あの」

 

「気にしないでくれ、リボンを選んでくれたお礼だよ」

 

 そう言って彼女へとイヤリングを買い、猫が気のせいか俺をジト目で見ている気がしたが気にしない。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 結局このクエストはなんなんなのだろう。屋敷に戻り、彼女はいつもの衣装、それに髪の間から買ったイヤリングがちらりと見えていた。どうやらもう使ってくれているようだ。

 

「今日はありがとうございます。おかげで町の人たちの様子や、他の世界の方と出会えて、楽しかったです」

 

「そうか……。それはよかったよ」

 

 そう言って俺はこのままログアウトしようと考える。今日は少し疲れた。

 

「あの」

 

 そう思い帰ろうとすると、彼女がそっと俺の手を繋ぐ。

 

「少しだけ、おかしな話をしていいですか?」

 

 イベントか? 俺はそう思い、静かに頷いた。

 

 彼女の頬は少し赤く、そのまますでに夜近くの夕焼けのテラスを見つめ、静かに呟く。

 

「あるお姫様と、勇者の、夢のお話です。私はお姫様で、異種族の勇者と恋をする話」

 

「それは」

 

 俺はそれを聞いて心だけが遠い場所に行く感覚に見舞われた。

 

「その中で、勇者ではない人が、勇者としてその世界に生きる記憶があるんです」

 

 その時、世界から音が遠ざかる。町の雑音はもちろん、聞こえないはずの俺の心音が聞こえ、なにもかもが遠く、不思議に感覚になる。

 

 ここにいてここにいない、あの体験の………

 

「その人は勇者と同じ軌跡をなぞるように生きて、世界を救います」

 

「………そうか」

 

「………夢の中の私は、勇者様の後ろに彼がいることを感じていました」

 

「それは、きっと悪夢だろうな」

 

 そうだ悪夢だ。最愛の人では無い人間がそこにいるんだから。

 

 だけど彼女は首を振り、俺の手を握りしめて俺の目を見る。

 

「違います。確かにその人はお姫様の好きな人じゃない。だけど」

 

 それは、きっと聞きたかった言葉だろう。

 

 

 

「私たちはあなたにも感謝している。それは確かです」

 

 

 

 その言葉はなんで彼女の口から出たんだろう。

 

 ここは仮想世界、データで、俺の記録から出て来た世界だ。

 

 だけどその世界の住人である彼女は言う。

 

「その人は感謝の言葉も何もかも、勇者に向けられた言葉であると言います。ですけど、そこにいて、勇者の中で戦い傷付き、そして助けようとしてくれた彼は、紛れもなく私たちにとって勇者と変わらない」

 

「違う、そんなのは偽物だ。それは偽物でしかない」

 

 俺はすぐに否定する。そうだ、俺はただ試練の一つとしか見てない。見ていないんだ。

 

「違います、あなたも私たちにとってかけがえのない仲間です」

 

 なぜ彼女からそう言われなければいけない。

 

 なぜここで、この世界で、この世界の住人から言われないといけないんだ。

 

「ごめんなさい、なぜかあなたに伝えないといけないと、ずっと、あの日出会ってからしばらく経ち、この夢を見てからずっと思ってました。伝えないといけない、きっとあなたは、背負い続けるから」

 

「………君は」

 

「夢の中の私は別の私、ここにいる私は、私です。私があなたに対する想いは、私だけのもの」

 

 そう言って手を放して、静かに微笑む。

 

「忘れないでください。例えあなたが自ら偽物と名乗っても、それでも変わらず、あなたに感謝を。あなたはあなた、あなたに贈る言葉は、勇者であろうとなかろうと変わらないと」

 

 なぜ俺はこの言葉をみんなからの言葉と思う。救われたいからだろう。きっとそうだ。

 

 シロが鳴き、俺にすり寄る。

 

「きっとあなたならこの世界を救える。多くの世界を救ったあなた、私たちの、かけがえのない大切な仲間である、あなたならきっと………」

 

 その後彼女と別れ、俺はログアウトしてしばらくアミュスフィアを見つめた。

 

 ただのデータの言葉だ。きっと俺がそうであって欲しいからそうなっただけだろう。

 

 きっと、そうなんだろう………




救いか妄想か、彼には決められない。

少しうじうじ考え込みますが、それだけ根が深いところに食い込んでます。まあそうなるほどきつい体験でしょう。

それはそうと手出し過ぎですねテイル。キリト共々痛い目を見る日は遠くないでしょう。

それではお読みいただきありがとうございます。


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第50話・力の試練

 火山地帯で七パーティーによるボス攻略戦の話が持ち上がる。

 

 ボス部屋を見つけたパーティーはとりあえず楽しもうと思ったのか、場所の公開と共に募集をした。パターンも話に出ていて、攻略方法も情報として表に出ていた。

 

「今度は『覚醒火炎獣マグドフレイモス』か」

 

 キリト、シノンにそのことを告げる。今度はそいつだ。攻略方法は額の宝石を弓で射て、怯んでいる隙に足の鎖を引っ張り転ばせて顔を斬る。

 

 このボスも同じであり、額の宝石がクリティカル。それ以外だとHPの減りは悪いようだ。大きさはかなりでかく、宝石も巨大なものに変わっていた。

 

 数人で足の鎖を掴み転ばせるか、遠距離攻撃でダメージを負わせるしかない。遠距離攻撃はALO、またはGGOプレイヤーがそれか。

 

 転ばせれば宝石への攻撃はクリティカルになり、大ダメージが狙える。

 

 ちなみに攻略方針は転ばせてからの大ダメージ狙い。募集は妖精とGGO。あと数名の力自慢とのこと。

 

 時間指定されていて、その間ボス部屋前に来たパーティー先着順。クリアアイテムは各パーティーリーダーの名前を登録。誰がドロップするか恨みっこなし。

 

 その話を聞いてキリトとシノンは、

 

「今度の戦闘は都合の付くメンバーで先行だな」

 

「これってメイジ系の妖精とかが募集だが行くのか」

 

「ああ」

 

 精鋭チームで一枠狙う方針でチームはどうするか。このあと話し合うことになる。

 

 チームリーダーキリト。テイル、クライン、エギル、シノン、アスナとユウキ。

 

 ヒーラー一人で接近戦ばかり。このメンバーになるが、

 

「ねえパーティーリーダーはテイルがいいんじゃない?」

 

「なんでだ?」

 

「リアルラック高いですからね、テイルさん」

 

「確かに、キリト君よりは絶対にあるわね」

 

 そんなこと言われても別にいいだろう。

 

「残りのメンバーは」

 

「もう一つ、最後のアイテムが眠るフィールド探索っ♪」

 

「まっかせてね~♪」

 

 残りのメンバーも嬉しそうに話し合う中、可愛らしくなっているデイジーが、

 

「皆さん、実はマスターがこっちに来られそうなんです。その際、攻略に参加させて欲しいとのことです」

 

 デイジーが嬉しそうにしてヒカリも喜ぶが、

 

「ツェリスカさん、忙しいのに平気なのかしら?」

 

「確かに」

 

 ツェリスカはGGO運営日本支部の人間。それを知っているメンバーは首をかしげた。確か上司も変わり、色々大変な時期だが、

 

「はいっ、どうあっても出て銃を撃つ。そう言っておりました」

 

「ああうん、分かった」

 

 ストレスが溜まったんだろう。全員がなんとも言えない顔になりながら納得した。こうして明日の攻略戦に備える。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ほら、大人しくしてくれ」

 

「マスター? どうしたんですか」

 

 この仮想世界の宿屋。部屋でシロをお風呂に入れている。ミファーの領土とくっついている設定、その為多くのプレイヤーを受け入れられるほど部屋数はあるがかなり設定は高い。

 

 ハウスが買えればいいがそれは無く、中には元の仮想世界に戻ってログアウトする者もいる。

 

 俺はミファー領土の宿を借りて、ヒカリを初めとしたNPCメンバーとユウキを泊めていた。

 

 浴室で格闘後、俺はシロを抱き上げて持ってくる。

 

「テイルって動物の扱い上手だよね~」

 

 ピナは時々頭に止まることを思いだしたのかユウキはそう呟く。

 

 しかしこの子はお風呂嫌いだな。俺にしか懐いてない雰囲気なのにその時だけ全速力で逃げ出す。飼い猫ミケは自ら入ってくる。なぜか詩乃が入ってるときは乱入しないと言う紳士だ。

 

 この子はぐったりする中、ベットに腰掛けて膝の上に乗せた。静かにマッサージをしながら、ミケと同じ扱いでユウキに話しかける。

 

「町で変わったことは無いか確認しないと」

 

「はいですっ。町の人たちはクリアアイテムである《ネールの慈愛》を手に入れてその話題で持ちきりなのです」

 

 ゼルダ姫の話として、女神の血筋であり退魔の力を持つとされている。

 

 動物を始めとして自然を愛しむ、心優しいお姫様として有名と言う情報が浮上して町の人たち、国の者たちは病に伏せている姫を心配しているとのこと。

 

 容姿は長い金髪に綺麗な白い肌。湖のような深い蒼の瞳らしい。

 

「この子みたいだな」

 

「そうだねっ、にゃーにゃー♪」

 

 ユウキも近づいて撫でる。俺自身から離れず、撫でられるシロは綺麗な蒼い瞳。

 

 背中に張り付くヒカリも撫でながら俺は考え込む。

 

「テイムしたのだろうか?」

 

「ピナみたいに?」

 

 ユウキもなついてくるため、なでなでしながら考え込む。

 

 条件らしいことはしたのは確かだ。預ける場合はデイジーに面倒を見てもらう。デイジーが言うには大人しく品がある猫らしい。

 

「今度この子を連れて町を歩こうか。どこかでイベント発生するかもしれない」

 

「飼い猫見つけたとかって言うイベント? 面白そう、ボクもボクも」

 

「マスター、自分も忘れないでください」

 

「はいはい」

 

 ともかく遅くなるからログアウトしなければいけない。明日は巨人になったもどきと対決だ。どうなるか不明のまま、明日に備える。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ボス攻略戦は壮絶な戦いだった。

 

 巨大な神殿の奥地。いくつもの巨大な石柱がいくつも並び、天井は真っ暗で見えない。僅かな灯火の中、それが暴れ出す。

 

「うっおおおおおおおっ!?」

 

「力込めろクラインっ」

 

 まるで巨人相手に戦っているのは羽根も銃も無いプレイヤーであり、巨大な燃える石像。まさに覚醒火炎獣マグドフレイモスを巨大化させたものだ。

 

 だが吐き出される炎を含め、攻撃は単純だが被ダメがでかい。

 

 あとは体力ゲージと耐久性が高い。銃の雨を受けながら転ばせた瞬間、宝石に殺到する。

 

 メンバーはキリトをパーティーリーダーに俺、クライン、エギル、アスナ、ユウキ、シノンだ。

 

「「うおおおおおおおおおおっ!」」

 

 キリトと共に連撃を放ち続ける。ユウキも負けずと攻撃するが、

 

「これだけやってゲージ二本かよっ!?」

 

「ああ、攻略方針がクリティカル狙いなのも分かるっ。銃と魔法だけじゃ削るのに時間がかかり過ぎだっ」

 

 地団駄を踏むと天上から落石と言う攻撃パターンまである。

 

「ここって洞窟なのか人工物の天井なのか聞きたいぜ」

 

「んなもんそういう設定ですだろっ。いいから避けてからまた鎖引っ張るぞっ!!」

 

 落石攻撃を避けながら、柱をうまく利用して巨大な鎖を引っ張り転ばせる。羽根も銃も無いプレイヤーは必死になりながら動きまくり、羽根を持つキリトたちはその間タゲを取り、ヘイトを集めていた。

 

 銃攻撃班も宝石に撃ち続けて相手を怯ませていた。これがなければこの流れ作業途中で誰かが力尽きるだろう。

 

「これってテイルたちが一番大変な作業だね………」

 

「とはいえ、俺たちも一撃でも食らえばレッドだ。って」

 

 空中で話していると手に付いている鎖を振り回してキリトたち妖精を狙う石像。

 

 ユウキたちも必死になりながら、アスナが回復、魔法組の指揮官をしている。

 

 GGOのシノンは別のプレイヤーの指示の下、自分の位置取りをしつつこなしていた。

 

「やっと一本」

 

「よし反撃だっ」

 

 そうクラインが叫んだ瞬間、鎖を両腕に巻き付けた石像。そのボスのパターンに驚くと、募集をかけた人間の話を思い出す。

 

「そう言えば、ボス情報はゲージ一本の時は無かったが」

 

「ここで新しいパターン?」

 

「嘘だろおいッ」

 

 何度か踏ん張るボスが燃え盛る。マグマの血液のようなものを吹きだして、キリトたちを含め全員が溶岩の雨が頭上から降り注ぐ。

 

「ふっざけんなッ、思いっきり怪獣映画じゃねえかよおおおおおおおおおおおおお!」

 

 クラインの叫びに全員が同意しつつ、どうにか避け、鎖を見るが、

 

「待て待て、溶岩がしっかり地上に残ってるんだが」

 

「ああ、しかも鎖が熱で赤くなってるな。ここで攻撃アップだと?」

 

 エギルがこの光景にさすがにうんざりになる。

 

 フルパーティーによるレイド戦だが、これはボリュームがありすぎるボス戦だ。

 

「やるしかねええええええええええ!」

 

 鎖にいち早くたどり着き、地面に引きずられる鎖を掴み、まだ一人だけなら引っ張ることはできなくても柱を利用する位置取りはできる。

 

 クラインたち引っ張り隊がすぐに合流して、一気に引っ張る。ユウキたちもすぐに前線に出て、うまく誘う。

 

「全プレイヤーに通達っ、もうこれがラストチャンスだっ。ここで全員の攻撃を宝石に叩き付けるぞっ!!」

 

 募集をしたプレイヤーリーダーが叫び、キリトもそれしか無いかとアスナを見る。アスナはすぐに細剣を取り出した。

 

「来るぞっ」

 

 俺たちが鎖を引っ張り、転ばせた瞬間、地面が揺れて石像の火が消える。

 

 瞬間宝石へまずはGGOプレイヤーが一斉砲撃。すぐに妖精たちが飛来して、俺たちは走る。

 

「走ったり引っ張ったり戦ったり、今回のボス戦過酷過ぎるなッ」

 

 そう言いながらユウキとアスナの《マザーズ・ロザリオ》が決まり、俺たちが殺到する。

 

 宝石に一気に叩きこみ、俺の攻撃が済み、立ち上がろうとした瞬間、

 

「キリトっ」

 

「任せろおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 キリトが宝石に剣を突き刺した瞬間、雄たけびが響き渡り、空間を震わせる。起き上がる石像は一気にヒビが走り、粉々に砕け散った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「だーくっそ。今回重労働過ぎるだろオレら」

 

「確かに、キーマンだろうが疲れたな………」

 

 クラインやエギルを始めとしたほとんどのプレイヤーがその場に座り込み、お互いを称え、ボスを見る。

 

 ボスの宝石だけが残っていたが、それにも亀裂が走り砕けた。中からアイテムのような、炎を象る深紅の宝石が別のプレイヤーリーダーの下に。

 

「………やっぱ、テイルをリーダーにすればよかったんじゃね?」

 

「かもねえ~」

 

 クラインの言葉にユウキがそう言いながら、全員が集まる。キリトだけがばつが悪い顔でいた。

 

「アイテム名はなんだろう? 少し聞いてくるね」

 

 アスナがそう言って話しかけに出向く中、キリトとシノンは俺を見ていた。

 

「どうした?」

 

「ああいや………」

 

 少しだけキリトは戸惑うように首を振る。それだけで察しは付く。

 

「あのな、いくらなんでもここまで凄くねえからな」

 

「それは」

 

「体験はほとんど一人の人間? が一人でできる範囲だ。こんな怪獣決戦は無い」

 

 ラスボス戦以外と付くが、俺はそう言っておく。

 

 それでもシノンを含め、キリトはなにも言わずに見つめて来る。そうしていたらアスナが戻ってくる。

 

「アイテムネーム分かったよ。アイテムは『ディンの灯火』だって」

 

 それは力の女神の名前だと記憶が囁く。やはりここまで同じか。そう言う流れではピッタリかと思いつつ、こうなると次は、

 

(次は勇気の女神フロルか)

 

 そう思いながら町へと帰還する。

 

 心なしか手の甲が熱くなる気がする。それはきっと体験により刻まれたなにかだろう。そう思いながら頭を振って帰る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「はあ」

 

 ログアウトしたキリトは《アミュスフィア》を手に取り見ながら考え込む。

 

(たった一人か)

 

 誰にも理解されずに、デスゲームに備えて気が狂うような体験をしたのだろうか。つい考えてしまう。

 

 自分が考えても仕方のない、もう済んだ話なのに。

 

「くそ、これも今回のイベントが彼の記憶から作られてなければな………」

 

 カーディナルは何を思って彼から知識を得て、それをゲームのイベントに組み込んだのか。

 

 もっと言えば運営か。そう言えば今回の運営は個人運営から大手含め、合作のようなイベントらしい。

 

「セブンに聞けば、少しは分かるかな?」

 

 彼女も今回のイベントに参加したいらしい。だから仮想世界で会うことができるだろう。

 

 そう考え込みながら、静かに《アミュスフィア》を置く。

 

「まあ今回もただのゲームだ、気にすることはないな」

 

 そう呟き、俺は静かにこの後どうするか考え込む。

 

 それが俗に言う、フラグになるとは知らずに………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 戦いの中、秘宝が三つになり、一人の少女が本を閉じる。

 

「退魔の勇者様………」

 

 少女はそう呟きながら、王城を見つめる。

 

「ゼルダ待っててね。わたしが必ず、秘宝と勇者様を見つけるから」

 

 隣で眠る友達と共に、異世界の冒険者が行き来する街並みを見ながら、彼女は固く決意する。

 

 一人の青年を苦しめる現実は、形を変えて動き出す。




火山地帯クリア。ともかくでかくなった奴が相手になって、元になったボスよりも強くなった。

キリトパーティーは前衛職が多いな………

それではお読みいただきありがとうございます。


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第51話・こうして世界は生まれた

またややこしい話をやらなければいけない………

あの子たちも登場します。どうぞ。


 王国へ《ディンの灯火》が送られた際、姫様が受け取ると言うのは変わらず、城下町は多くのプレイヤーが行き来する。

 

 無論前のフィールドへのクエストは無くならず、むしろ増えたりもするため、こちらを楽しむプレイヤーもいる。

 

 卵をひっくり返したような顔の商人から特別なクエストを受けて、特殊アイテムをゲットするプレイヤー。他にも楽器を購入して楽しむ者、チェスのように石像を杖で動かして、他の石像を攻撃するミニゲーム。

 

 他にも妙な動きをする邪悪な者の配下の敵が現れたりするイベントがある中で、彼女たちが時間を作ってやってきた。

 

「プリヴィエート、みんなっ♪」

 

「妹共々、よろしくね」

 

「撃ちまくりますわよ~」

 

 セブン、レイン、ツェリスカがパーティーに参加して、これでほぼ全メンバーが揃う。

 

 セブンとレインはALO、ツェリスカはGGOでログインする。その中で、

 

「よおテイル、まさかGGO以外のアバターで参加かあオメェさん」

 

「バザルト・ジョー、来たのか」

 

「俺様がいなきゃ、話になんねえからな」

 

「なにを言っているのかしらこの人は」

 

 ツェリスカが呆れながら、ここに豪華メンバーが揃う。

 

「アイドルのセブンちゃんっ!? 話には聞いてたけど本当なのね」

 

「話は聞いてるわよクレハさん、これからよろしくね」

 

「レインの妹って話も聞いてるわ、一緒に戦えて光栄です」

 

 これからのことや疑問に思うこと含めての会議。場所はテイルの大部屋で行われる。これにはプレミアなど食べ歩き隊にも話をしておいて、全員が集まることになった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「セブン、スメラギは来られないのか?」

 

 俺はセブンの右腕であり、リアルでも彼女をサポートするスメラギの事を尋ねた。もう一度彼とはデュエルしてみたい。テイルはデュエルはあまりしないが、ユウキ辺りは喜々として賛成するだろうな。

 

「ええ。スメラギ君は今回の仕事で裏方を担当してるから。あたしは看板扱い」

 

「仕事って、このイベントの?」

 

 セブンはええと答え、今回のイベントがどのような目的があるか話してくれた。

 

「このイベントは各VRゲームのプレイヤー、その全ての人たちから『プレイヤースキルデータ』をモニタリングするのが目的なの」

 

「プレイヤーのスキルデータ?」

 

「あら? いいんですかセブンさん」

 

「別にかまわないわよ。正直あたし個人としては、キリト君とテイル君の二人からデータを取りたいんだし」

 

「プレイヤー、個人のプレイヤースキルの取る為のイベントなんですか?」

 

「ええ」

 

 クレハの言葉に頷きながら、セブンは詳しい話をしてくれる。

 

 大きな企業が持ち込んだイベントで、裏には国家企業も関わるだろう話を持ち込んだ彼らは、目的としてVRゲームプレイヤーのスキルデータを測定する目的で企画された。

 

 多くの企業が協力する形で、様々なゲーム要素を混ぜてプレイヤーたちの個人能力を計るのが目的。その為に一時的、もしくばSA:Oなど限定で入口を作り観測する仮想空間。それがここらしい。

 

「このゲームの結果を見れば、その後もこの世界は継続される予定でね。様々なアイテムや仕組みを使って攻略させるのが目的なの」

 

「へえ………」

 

 その話を聞いているとき、俺はどういう目的でデータを取っているのか気になったが、セブンの次の言葉で絶句する。

 

 

 

「あたし自身も、カーディナルが出したデータが気になったし、ちょうどいいかなって思って」

 

 

 

 その時、俺とシノン、彼の表情が変わる。

 

「セブン、いまなんて言った?」

 

「ん? カーディナル、VRゲームの基盤となるシステムが用意したデータが気になったって言ったんだけど?」

 

「それって一体なんなの?」

 

 シノンも身を乗り出し、周りが首をかしげるが俺たちは気になった。

 

 カーディナルが用意したデータ。それはなんなんだ?

 

 セブンも驚きながらも、俺たちの疑問に答えてくれる。

 

「カーディナル、茅場晶彦が創り出したこの未知のシステム、VRのエラーチェックやゲームバランスを自己管理するこのシステムに、不可解なデータがあったの」

 

「不可解なデータ? それはなんなの?」

 

「研究者の間では〝アンノウン〟と呼ばれている。そのデータが確認されたのは、あのデスゲーム。VRの暗黒面であるSAOのデータ」

 

「『ソードアート・オンライン』って奴だな」

 

 バザルト・ジョーはテイルの事件で彼を始め何人かがその事件に関わることを知っている。ツェリスカやクレハもそうだ。

 

「もう一つ存在が確認されたのはALO、SAOサーバーのコピーであるゲーム」

 

「そう言えば、SA:Oも関係してるよね?」

 

「ええ。そこからもそのデータは確認された。これによりカーディナルは〝アンノウン〟を重要データとして扱っていると判断されたわ」

 

 アスナの問いかけに頷いて《ザ・シード》も話に出るが、これは家庭サーバでも使用可能にされているため、把握することができないので外された。

 

 ただ《ザ・シード》も恐らくは目を通していないだけで、そのデータが使用されている可能性があるらしい。

 

「とにかくあの茅場晶彦、あたしが光として扱われて彼は闇として扱われてるけど、実際は彼の方が上であると言えるわ。いまだ〝アンノウン〟はその言葉通り不明のままなの」

 

「そのあり得ないデータってのは」

 

「色々なものかしら? ただ普通はあり得ない、それこそVRで無いとあり得ないもの。んっとどう言えばいいのかな………」

 

 セブン自身思いつかないと言って悩む中、一言呟く。

 

「〝体験〟って言えばいいのかしら、うんそう、そう言うデータ」

 

 それに俺とシノンは黙り込む。体験と言う言葉は彼が言う、特典の言い回しだ。

 

 俺たちが黙っているとクラインが口を開く。

 

「体験って、どゆことなんだ?」

 

「登山データを始め、色々な不可解なデータ。SAOやALO、SA:Oも含めてそんなデータ量が取れないほど、膨大な個人データなの」

 

 それは溶岩に落ちたり、吹雪や白銀の世界に肌を焼かれ、砂漠を走り、雷に打たれたり、あり得ないほど個人のモニタリングデータ。

 

「どのゲームだろうと観測することがあっても、個人としてはあまりに膨大過ぎておかしいの。ただ学者としては無視できないものなんだ」

 

「そのデータとこのイベントは、どんな関係があるんだ」

 

「〝アンノウン〟は一つに纏められていたわ。その纏わりの中に、ここに関するデータがあったの」

 

 やはりここは彼の体験より生まれたデータから作り出された世界らしい。予測はできていたがこうもはっきりするとなんても言えない。

 

「そのデータはすでにSA:Oにも使用されているわ。そしてそのあまりにリアルなデータに、学者たちの間でどう言った経緯でカーディナルが会得したか関心が向いた」

 

「それは、学者たちはそのデータがなんなのか知りたいってことか?」

 

「あたしもその一人ね。正直あのデータは個人データとしては疑うけど、プレイヤースキルとかゲームとして見ると凄いデータだし、なにより公正を貫くカーディナルシステムがどう言った経緯で得たのか気にはなる」

 

 おそらく誰だろうと正解にはたどり着かないだろう。だがそこまで欲しがるものなのか?

 

「セブン、そのデータってそんなに凄いの」

 

「凄いって言うより、精密なデータなんだよね。環境、人が怪物に挑む様、道具の使用方法。プレイヤースキルと言う個人の力のみで道を切り開く、ゲームと言う点で見るとそう言ったデータであり、カーディナルがゲームバランスを確認する際の基盤として扱っているのかもしれない。そんな結論も出ているわ」

 

 それが俺たちの中で決定的になる言葉。

 

 

 

「仮想世界のような現実染みた世界で生きる、たった一人の人間データ。ってところかしら」

 

 

 

 セブンは自信が無い顔でそう言い、他のみんなも首をかしげた。

 

 だが俺とシノンは彼を見る。

 

 彼は座ったまま顔を手で覆い隠す。その下でどんな顔をしているか、俺に確認する勇気はなかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 リアル過ぎるデータ、学者たちはその一点に興味を持った。

 

 怪物たちが住まう世界で、その世界で生きる人とデータに。

 

 まさに異世界の人間の情報だ。学者たちは頭ではあり得ないと否定するが、それでもリアル過ぎるんだ。

 

(当たり前だ、彼はリアル、現実で勇者の道のりを体験した。そのデータがカーディナルの下にあるのは知ってた、何よりそのデータはすでに運営する人間が見ていることも知っていた)

 

 だけど、こんな物珍しく物として扱われているなんて考えていなかった。

 

 彼がどれほど狂うような人生を歩んだか分からない。学者や研究者たちの扱いや反応に、俺は、おそらくシノンも、なんとも言えない感覚を味わう。

 

「そのデータはザスカーでも話題になっているわ。一部のデータ、移動するダンジョンやそのボスエネミーとかがそうね」

 

「そうなんですか?」

 

「それは知ってます、皆さんの記録ですとラクダのようなダンジョンですね」

 

「それはわたしも知ってます。マスターたちがテイルさんのスコードロンで攻略したダンジョンですね」

 

「ええそうねレイちゃん、デイジーちゃん」

 

「それってなんで採用したのか分かりますか?」

 

 俺はついそれを聞いてしまった。ツェリスカは少しばかり悩むが、

 

「まあセブン、七色博士がいるのですし、少しだけね。そのデータがあまりに精巧にできていたからよ」

 

「精巧ですか?」

 

「ええ。古代兵器、ガーディアンの動きね。あの蜘蛛みたいな子」

 

「ああ、あの目ん玉からビーム出す、厄介な奴だな」

 

「バザルト・ジョーが言ったように、あれに関するデータが面白いと言う意見が出たのよ。プレイヤーがどういう風に動くとどう動くか精密に、まるで現実にあったかのようにどう動くか客観的に揃っていたの。プログラムに組み込むのもGGOに合わせる作業だけで、実際テストプレイしてみたら凄かったわね」

 

「テストプレイですか」

 

「ええ。仕組みはどうなのか分からないけど、本当に人を倒すため、的確に動くのよね。オリジナルデータは少し過剰だったから押さえて、ビームに関するデータはそのままの威力ね。変にいじってないわ」

 

 彼はガーディアンは盾でビームを跳ね返して攻略するのが初歩と言っていた。ビームを反射することが可能だったのは、彼のデータが元だからか?

 

「もしかしてビーム兵器全部、そのデータを下に作ってるんじゃないかしら? 仮想で作られた動物エネミーの動きの参照にもなってるもの」

 

「ノーコメントさせていただきます七色博士♪」

 

 プログラマーと学者であるツェリスカとセブンは笑い話として話しているが………

 

「キリト君どうしたの?」

 

「アスナ………」

 

「なんだか顔色悪いよ? 大丈夫」

 

「あ、ああ。俺は、平気だよ………」

 

 おそらく血の気が引いてるんだろう。間違いない、セブンたちは、

 

「まるで本当に異世界ってものがある、そう感じられるデータなのよね」

 

 そう、ツェリスカが言った通り、異世界の剣士、勇者が辿った軌跡を追うデータだ。

 

 分かっていても、こうはっきり言われると、俺たちは戸惑うしかない。

 

「………少し飲み物取ってくる」

 

「俺も行くよ、この人数じゃ大変だ」

 

「なら私も」

 

 そう言って彼の言葉に続いて、俺たちは部屋を出た。

 

 しばらく歩いてから、彼は深くため息をつく。

 

「まさか俺のデータが仮想世界を作る軸にされているのか。まさか」

 

「………君は」

 

「念のため言っておくが、俺の体験を遊びに使われて不愉快ってことは無い。そもそもあれは現実であって現実ではない。ただそれでバカなことが起きないかの方が気になる」

 

「異世界の情報、まあ普通なら信じないけどね」

 

 彼はそう言い、シノンも納得する。俺は………

 

(彼はああ言っているけど、彼にとっての現実世界を面白く扱われている)

 

 分かっているが納得できていない。そんな複雑な心境だ。

 

 ともかくこの世界ができる切っ掛けは知った。後はなぜそうしたか。

 

「俺が気になるのは、なんでそのデータを下にこの世界を作ったかだ。この世界を作る理由がロクでも無いものだと、さすがに嫌だ」

 

「それには俺も賛成だ」

 

「私も。もしも死んで神様にでも会ったら一発殴るわ」

 

「いや、あの神様は悪くないよたぶん」

 

 彼はそう自信なく言って、俺たちは飲み物を取りに店に下りて行った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「キリト君たち、なにか隠してる」

 

 それはアスナだけでなく、レインも同意見だった。

 

「たぶんだけど、彼奴が絡んでると思う。彼奴の雰囲気、少しだけSAO、あの中にいた頃に似てた………」

 

「おいおい、まさかと思うがその正体不明なデータに心当たりがあるって言うのか?」

 

 エギルの言葉にアスナとレインはなにも言わず、ユウキも少しだけ気にはなる。

 

「あの、レインさん。あの雰囲気、あれが昔SAOにいた頃、なんですよね?」

 

「クレハ? うんそうだけど………」

 

「その、テイルお兄さん。あたしの小さい頃は時々あんな感じでした」

 

 クレハの言葉に全員が首をかしげ、話が分からなくなる。

 

「この話もうやめにするか?」

 

「それだと、あの三人だけで解決しようとすると思うんだよね」

 

「はい、キリトやテイルはそう言う人です」

 

 クラインの言葉にフィリアとプレミアが否定し、クラインもそうだよなと納得する。

 

「なんだか、気楽なお話のはずが、重々しいことになっちゃったな………」

 

「ともかくキリト君たちに問い詰めるためにも、詳しい話を聞かせて」

 

 アスナの言葉にセブンとツェリスカは頷き、彼らが飲み物を持ってくるのを待つ。

 

 彼らが、彼が抱える闇がどんなものか。それは誰にもわからないだろう。




キリトたちの反応入れたら文字数が。

申し訳ない、ただここの長話しないといけない。この世界が作られた理由の説明しないとね。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第52話・アンノウン

 セブンから多くの学者、研究者に体験のデータが注目されていることを聞かされたキリトたち。

 飲み物を取りに行き、戻るところから物語は始まる。


 セブンから彼の体験で得た経験がカーディナルによって保続され、多くの研究者たちが目を見張るものであると聞かされた。

 

 飲み物を取りに行き、ともかく彼と話したが、そのデータを下に作り出されたこの世界の目的。プレイヤースキルの観測と言うものがなんなのか知る為、話の続きを聞くことになる。

 

「それじゃ、どこまでだったかしら?」

 

「その〝アンノウン〟ってのは異世界で生きる人間のデータのよう、ってところだな」

 

 彼がそう言い、セブンも頷いて説明を続けた。

 

「簡単に言えば大型モンスターとの戦闘データ、剣と言う武器による攻撃方法。そう言った日常では得られないデータが精密、かつ精巧な物をカーディナルが保続して管理していた。研究者たちはそのデータの出所はどこなのか、そのデータは正しい情報なのかの論争が始まったの」

 

「セブンからすればどう言える?」

 

「あたしとしてはノーコメントって言いたいけど、カーディナルがシュミレートして出した答えではと思ってる」

 

「剣とかでモンスターと戦うデータがか?」

 

「ええ」

 

 クラインの疑問に頷き、それでもセブンはこの答えには自信が無いと言う。

 

 それは落雷に打たれた人間、崖からの転倒等々。仮想世界だからシュミレートできることではあるが、SAO並びALOで収集したにしては量と密度が濃いらしい。

 

 しかも全てのデータはたった一人の人間の身体能力で行われている。

 

「こういうデータは、複数の人間で取るから正確なの。量や質が良くてもたったの一人の物では意味ないわ」

 

「それじゃ、そのデータは役に立たないんじゃないのか?」

 

「正直に言えばね。だけど、ここ近年のVRゲーム業界は世界に浸透し、明確なプレイヤースキルのデータが集まり出したわ」

 

「プレイヤースキル、個人のプレイヤースキルデータが?」

 

「そう。ALOを初めとしたVR、仮想世界の住人であるプレイヤーたちのデータを、一個人でも収集可能な時代になったの」

 

 仮想世界の運営者たちの下に日々、個人のプレイヤーデータが集まり出して、そのデータの信憑性が高まり出す。再度注目され出したようだ。

 

 その話を聞きながら、少しばかり疑問に思うことがある。

 

「運営会社はカーディナルシステムの情報を閲覧できるのか?」

 

 先ほどから〝アンノウン〟は大勢の人に閲覧されているが、実際はどうなのだろうと聞いてみたら、意外なところから返事が来た。

 

「それはできねえぜ」

 

 その問いに答えたのはバザルト・ジョーだ。それにツェリスカも頷きながら説明する。

 

「ええ。カーディナルを含め、カーディナルシステムが存在するSAOサーバのアクセスはできない。個人運営者はもちろん、一般の会社程度ではSAOサーバに保存されているデータ閲覧は不可能、もしもなんらかの理由で流失したら大問題。おそらく見られたとしたら、七色博士ですら国から許可を得なければできないもの」

 

「? ならそのデータも閲覧できないんじゃないの?」

 

 リズの疑問に最もだと俺は思う。

 

「それは最も規制が厳しいSAOプレイヤーのデータでは無いからよ」

 

「そうなの? けど個人データ、なんでしょ? ALOの中にあるのだって、SAOにあったから」

 

「個人データとして扱われいるのなら、SAOプレイヤーの物じゃないの?」

 

 これまでの話を聞く限り、話の大本である〝アンノウン〟は個人データ扱い。だがいまの話を聞くと、個人データの閲覧ができないとされている。

 

 どう考えても〝アンノウン〟があるのはSAOサーバ、カーディナルシステムの内部だ。話が矛盾していて、シノン、アスナの問いかけにセブンも言いにくそうに目を泳がせた。

 

「言いにくいんだけど。当時〝アンノウン〟だけはSAOプレイヤーのデータでは無いって、だから見ても問題ない。そう研究者たちは研究材料として、その………でっちあげたの」

 

「なっ」

 

 それには俺とシノンは驚く。だが確かに。彼のような経験がSAO内で経験できるスペックでは無い。

 

 SAOプレイヤーのデータでは無い。だからどう扱っても問題ないなんて言うのは、

 

「それって詭弁じゃないですかっ!」

 

「ううっ………」

 

 シリカの叫びにセブンとツェリスカはなんとも言えない顔で縮こまる。

 

 セブンもまた当時、どうあってもカーディナルと言うシステムの情報欲しさにそれに賛同したらしい。

 

「な、七色ぉ」

 

「ごめんっ。だけど個人財産であるSAOプレイヤーのデータは、被害者である人たちのものだから閲覧できない。だけど個人と思われない〝アンノウン〟に関してはどうしても見られる機会があるからつい!」

 

「それに関してもザスカーも同罪ね。SAOのデータはVR活性化の為に必要だからって、参考資料として見られないか色々こじつけて閲覧したって話ですもの」

 

 つまるところ、帰還者(サバイバー)のデータを始め、SAOのデータやカーディナル。そのデータをできれば見たいVRを研究する者にとって〝アンノウン〟は保護されないデータ。

 

 どうあっても閲覧して研究材料にしたい彼らは、様々なこじつけをして、カーディナルシステムからそのデータを閲覧しているらしい。

 

 正直そのデータがなんなのか言いたい。それは彼がデスゲームに生き残るために選んだものであろうと、その経験で多くのプレイヤーを支えたものだ。

 

 それを研究資料として簡単に扱われるのは我慢できないが、彼と僅かに目が合い、言うなと言わんばかりに首を振る。

 

 シノンもそれに納得できない様子だが、俺も黙るしか無かった。

 

「話は戻るけど、そうしたデータを巡って論争はいまだ起きてるわ」

 

 曰くSAO帰還者(サバイバー)のデータなら、個人財産を本人からの許可なく扱っていいはずは無い。

 

 曰くこのようなデータは個人のものではなく、カーディナルが設定したシュミレートデータであるだろうと。

 

 曰くこのようなデータは正確では無い。

 

 様々な意見が出て来る中、ならばと言う声があがった。

 

「このデータ通りの環境を作り、数多くのプレイヤーをモニタリングして検証してみればいかかですか?」

 

 それも多くのプレイヤーを集めるため、コラボと言う形にしてより多く集め、SA:Oのようなテスト目的であるのなら、そこで観測したデータは研究に回しても問題ないと言う結論。

 

 これがここ《ハイラル王国》を作った理由であり、かつそのデータを下に反映させた世界であるとセブンが言う。

 

「そんな裏事情があったのか………」

 

「あたし的にも、VRのさらなる発展に繋がるもの。あのデータがシュミレートなのか別にしても、この世界でモニタリングされたものは次の仮想世界に繋がるもの」

 

「ザスカーもそう言う方針ね。プログラマーとしては、あのデータはカーディナルがどう言った経緯で手に入れたか気になるけど」

 

「そうなのか………」

 

「それはSAOプレイヤーの人たち。彼らが望まない世界に囚われて、望まない場所で生きた証なら、いまのような扱いでいいはずがないからね」

 

「まあね、唯一SAO関係で一番閲覧されているものだもの。あたしからすれば個人なのか云々も含めて、もう少し丁重に扱うべきものなのに」

 

 セブンとツェリスカの話を纏めると、彼のSAO内での体験は、個人データであるがSAO帰還者(サバイバー)の物では無い扱いらしい。

 

 しかもサーバ内のデータでは一番人の目に、一企業でも見られるようだな。

 

 そしてこの世界はそのデータを下に創り出され、そのデータが正確かどうかテストしながら、同じようなデータを集め、今後のVR発展の為の糧にするか。

 

(ともかく彼のデータが使われた件や、この世界や他の世界で起きたこと。彼の記憶や情報通りなのもこれで納得がいった)

 

 まさかこんな扱いなのかと思いながら、こうしてセブンから裏事情を聞き終えて、俺たちはしばらくして自由行動に移る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 体験のデータへの扱いに関して、俺が思うことはそれが悪用されないかと言うことだけ。それ以外に思うことはない。

 

 そもそもな話、本来睡眠時間内で夢として訓練を受けていたのだ。それが個人データとして見られないのも納得がいく。

 

 明らかに睡眠時間以上、勇者の物語を体験していた。個人の物としてか知らないがカーディナルが管理していること自体驚きだ。

 

「とはいえ、この世界がそのデータが正確かどうかの為に創り出されたのは複雑だ」

 

「テイル………」

 

 夢の中では彼らは本当にいた、本当に生きた生命なのだ。仮想では無い世界。

 

 ただそれでも疑問に残る。

 

「カーディナルはどういう風に体験データを管理している」

 

「えっ」

 

「それは君が見聞きした情報を、あっそうか」

 

 キリトは気づいたように手を叩き、すぐに答えを言う。

 

「セブンの口ぶりじゃ、人間が剣を持って大型のモンスターと戦う、その際の情報みたいな口ぶりだ」

 

「ああ。特定のアイテム、武器などを利用して、ゲームのような仮想モンスターたちと戦う情報だ。だがこの世界にはゼルダ姫などの、向こうの世界の住人ですら再現されている」

 

「確かミファーさんみたいなNPCは、人間じゃなくその世界特有の種族なのよね? 彼女たちは人間に変換されているのはゲームに合わせたからよね?」

 

「ゾーラ族やゴロン族なんて言う、種族情報もカーディナルが管理して、研究者たちや運営者が見ているんだろ? もっと言えばストーリーだ」

 

 つまるところ俺の知る『ゼルダの伝説』と言う物語を、カーディナルが管理して誰かがSAOサーバにアクセスして閲覧しているのか?

 

 それにキリトは待ったをかける。

 

「それだと〝勇者リンク〟と言う物語事態、セブンたちが知ってるってことだろ? ならデータじゃなくてシナリオ、ゲームの設定って言いそうだ」

 

「訳が分からん。俺らでそのデータ閲覧できないか?」

 

「さすがに俺たちじゃ無理だろうな………」

 

 シノンが考え込みながら、静かに呟く。

 

「分けられてるのかも知れない」

 

「それって」

 

「まずあなたの情報、体験をジャンル分けしてみて」

 

 それを言われて俺はまず物語、冒険、知識に分けてみた。

 

 物語はゼルダとリンク、仲間たちの物語、冒険はその過程。後は物語や冒険で得た知識。この三つだろうか。

 

「もしかしたら研究者たちが見ているのって知識と過程だけなんじゃない?」

 

「そうか。カーディナルが『ゼルダの伝説』として君の体験データを管理していても、全く知らない人間が見れば物語より、冒険の過程や、その中の知識、行動データしか興味が無いのか」

 

「ああ。まあ火山地帯を進んだり、上空でパラシュートだけで滑空やらなんやらしたりしたからな………」

 

「少し気になるなそれ」

 

 シノンがキリトに肘打ちして、まあまあと言っておく。

 

「だから別にいいっての。俺だって本当として見ていないことを、本当として体験させられただけだ。思い入れは確かにある、だけど今回のような扱いされても別に構わない」

 

 言うなれば劇場だろう。死ぬ思いをした勇者の体験であるが、向こうでも本当に起きたそれらの物語を脚色して後世に伝えることはしているだろう。演劇にもなるしな。

 

 だからこそこの世界事態嫌いでは無い。ミファーの領地やアイテム、ガーディアンの扱いにも不満は無いのだ。

 

 データの扱いも、テイルと言うプレイヤーデータであるものの、俺がSAO内で体験したものであると言う証拠は無い。

 

「ともかく氷解した。運営側は単純にカーディナルがどうして俺のデータを管理しているか知りたいと」

 

「まあ、誰も答えは分からないだろうな」

 

「生まれ変わった人間がプレイヤーで、その彼が睡眠時間、元いた世界のゲームの主人公になって経験していたなんて、誰も信じないわよ」

 

「おかげで剣だのなんだの、誰よりも早く仮想世界に適応できたけどな」

 

 だがこれで問題があるとしたら、おそらく俺はこの先のフィールド攻略戦の答えを知っている。これだけは果たしてどうすればいいんだろうか。

 

「別にいいんじゃないか? それを言えばもしかしたらセブンたちだって知ってるかもしれないし」

 

「そうね、そんなに他の人より飛び出てもあなたなら納得できるし」

 

 色々やらかしたのだがな。ともかく話し合いは終わり、次のボス攻略戦は2パーティーで行われるだろう。

 

「そう言えば図書館で、ディンとかの三女神の情報もあったぜ。ただ三人の女神がいただけだ」

 

「フロルの名前は無しか。気を付けないとな」

 

「あっ、女神の名前はあったから問題ないぜ」

 

 そんな会話の中、ともかく残るフィールドは一つのみ。

 

「ともかく攻略してこの世界のゼルダ姫に会ってみようかな」

 

「そうだな、俺も気にはなる」

 

 そんな会話、ともかくおかしなことにはならないだろう。

 

 そう思い、ふと考える。

 

(データをもとにしたか)

 

 なら先日のミファーはなんなのだろうか? そう思うが考えない。

 

 所詮はデータ、記憶の中の世界は偽物。それは揺るがないだろう。

 

 そう考えていると、

 

「ねえそこのあなたたち」

 

 その時、誰かに話しかけられると共にウインドウが開く。クエストらしい。

 

 振り返るとそこにいたのは本を抱える少女とボウガンを腰に下げた少女がいた。

 

「NPCか? イベント?」

 

「これは」

 

「あなたたち異世界の冒険者でしょ。あなたたちにお願いがあるの」

 

「どうかわたしたちを秘宝探索に加えて欲しいの、お願い!」

 

 彼女たちは知っている。そう思っていると、シロが手を前に出してウインドウを押した。YESのボタン。

 

「なっ」

 

 キリトが驚く中、まるでプレイヤーが選択したように、彼女たちは挨拶を続けた。

 

「その猫は? ああ、わたしは『ラナ』。この子は『リンクル』です」

 

「よろしくお願いします♪」

 

 その仮想世界に起きる、不思議な事件。それが起きる可能性と出くわした。




昔のセブンちゃんならSAOサーバごと、データ欲しがるでしょうね。

学者がシナリオ、物語の情報を閲覧できてたら、それをそのままゲームにしてそう。

またややこしい裏設定、けど仮想世界に関わる大人ならやらかしそうなのでどうしても必要でした。

それではお読みいただきありがとうございます。


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第53話・探索再開

タイトルが無くなってきた。


 仲間たちと共に新たに仲間になったNPC、魔法使いラナとその仲間リンクル。彼女たちから詳しい話を聞く。

 

「どうして君たちは秘宝を集めるんだ?」

 

「異世界の人ばかりに、この世界で起きた事件を任せられないわ。実際国の近衛兵は活性化した魔物の対応してるけど、文献を調べて、秘宝に付いて調べてるの」

 

「わたしたちは国から秘宝に付いて調べるように言われているの」

 

 リンクルが明るくそう答え、ラナは静かに、真剣な顔で頷く。

 

「わたしたちは早く秘宝を集めて、ゼルダを安心させたいの」

 

「ゼルダとはどんな関係なんだ?」

 

「友達よ。本当は従者なんだけど、あの人は優しい人なの。動物に優しく、誰よりも国に生きる人々の事を考える人♪」

 

 ラナは嬉しそうにゼルダを語る。この事件が起きてから、ゼルダとは一切会うことができなくなり、彼女たちも心配している。

 

 彼女のためにできることは秘宝に付いて調べる事か秘宝を集めること。秘宝は聖地とされる場所にあることしか分からず、それ以上の文献は無い為、後はもう集めることにした。

 

 全ての話を聞き、キリトたちは話し合う。

 

「どうする? 扱いはアファシスのようだけど」

 

「問題ないぜっ! ラナちゃんもリンクルちゃんも可愛いし!」

 

 クラインはそう言い、戦力アップになるのだから問題ない。

 

「俺も問題ない。シロも彼女たちに懐いているし、攻略に向けて彼女たちを戦力に数えても」

 

「だな。よしそれじゃこのメンバーで攻略を勧めよう」

 

「おーー!」

 

 ユウキの掛け声と共に、リンクルもおーーー!と叫ぶ。

 

 テイルは少しだけ苦笑しながら、シロの反応を見る。

 

(シロがクエストを受ける選択を操作した……彼女たちを仲間にする条件なのだろうか?)

 

 この辺りも考えないといけない。少し聞いたことが無いが、この世界が世界だ。

 

 そう考えながら、今後について詳しく話し合う。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 新たなフィールド探索も大事だが、見逃しや他にもサブクエストがあると言うことで、町を探索する。

 

 シロを懐に仕舞いながら、ヒカリとユウキと共に町を見て回っていた。

 

「テイル、向こうに的当てがあるよ。ボク、チャレンジしてみる」

 

「ああ」

 

「マスター、あそこに鉄球があります」

 

 ヒカリの言葉に出店のような場所を見ると、例の鉄球こと《チェーンハンマー》が置かれた出店があった。

 

 内容は時間内にどれだけ大岩を破壊できるかと言うミニゲームであり、町の外で大岩が無数にある。

 

 それを破壊するプレイヤーを見ながら、まさか専用アイテムがミニゲームとして体験させられているとは知らなかった。

 

 念のため、他にもミニゲームとして専用アイテムがあるか確認していると、

 

「ねえねえ、あれはなんだろう?」

 

 妙な音が聞こえる。歯車がかみ合う音、ユウキが指さす方を見ると、コースのような場所がある。

 

 コースを見るとアスレチックであり、何かに乗って水に触れずにゴールまでのタイムを競うタイムアタック。

 

 そのコースは所々で悲鳴などプレイヤーが難儀している。

 

 妖精さんは空を飛ぶの禁止と言う管板が大きく建てられていて、使用するアイテムは、

 

(《スピナー》だと?)

 

 それはベーゴマのようなアイテムで、壁のレールに沿って回転しながらコースを進む。

 

 所々で途切れているが、タイミングよく飛び出すと隣のレールに乗って進むように設定されているコース場。

 

 足場は水であり、勢いが無ければ飛び出した先のレールに触れず、そのまま落ちたりしているプレイヤー。

 

「なんだか面白そう、ボクチャレンジしてくるね♪」

 

「マスター、わたしもチャレンジします」

 

 それに静かに頷いて、二人は《スピナー》のコースにチャレンジする。

 

 俺も勘を取り戻す為に試す気だが、レールの溝は三つあるのに苦笑した。

 

(体験の中じゃ一本だからな)

 

 一つのレールにうまく乗れなかったプレイヤーが水に落ちる。三つでもどれかのレールから外れるプレイヤーはいるらしい。

 

 本当の体験では全部本番であり、一つのレールしか存在しなかったのだが………

 

(プレイヤースキルを試す世界と聞くが、それだけとしてもプレイヤーに優しいな)

 

 より過酷な体験をした自分にとってこの世界は優しい。そう認識しながらわいわいと楽しむ二人を見守る。

 

 他にも釣りなどのミニゲームを発見してゆっくり過ごす。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ここは外れだろうか?」

 

 俺はアスナたちと別れて町の探索。フィールド探索もしたかったが、町の情報も気にはなる。

 

 ゼルダ姫と言う姫様はいまだ城の奥にいて、重要アイテムを受け取る時しかプレイヤーの前に現れない。

 

 ラナたちはゼルダの友人と言う話だが、彼女たちも事件後、姫様と会うことがないらしい。少し怪しいな………

 

「キー坊」

 

「アルゴか」

 

 俺は図書館らしき施設で本を調べていると情報屋、アルゴと出会う。

 

「情報屋アルゴも図書館を利用するんだな」

 

「アア。キー坊たちはすぐにフィールド探索していたガ、オレっちみたいな情報はまず町から探索するんだヨ」

 

「それじゃ、なにか良い情報はあるかな?」

 

 早速カと呟くアルゴから、情報をいくつかもらう。ミニゲームの中にはフィールドで使う専用アイテムがいくつかあったり、不思議なアイテムを使って遊ぶゲームがあるらしい。中にはフィールドでもミニゲームがあるようだ。

 

「鉄のブーツデ、ゴーレムと相撲したりするミニゲームがあってナ。そのブーツは火山フィールドじゃ、レースアイテムとして使用されているんダ」

 

 話を聞くと磁力を帯びた鉱石がある洞窟で鉄のブーツを装備すると、磁力によって壁や天井を歩けるようになる。

 

 ただ重い為、歩きは遅い。誰がいち早くアイテムの切り替えをして、ゴールへとたどり着くかタイムアタック要素があるらしい。

 

「へえ、気付かなかったな」

 

「他にも色々あって、オネーサンが確認する前ニ、キー坊たちがクリアすることもあるんだゼ? いまさっきテイルがベーゴマアイテムのタイムアタックで、一位になったからナ」

 

 そんなことをしているのか。アルゴとの会話をし終え、本探しを再開していると、

 

「ん、絵本?」

 

 その絵本には文字は無く、絵だけ描かれていた。

 

 三人の女神らしきものが黄金に輝く三角形を囲み、それに手を伸ばす黒い影。

 

 そんな一枚を見つけて、続きを見ると影は三つの光に抑え込まれて消える絵で幕を閉じている。

 

「なにかの情報かな」

 

 この情報がどんなものかも考えながら、俺は彼を誘って探索するかと色々考えた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「フィリア、本当にこっちでいいの?」

 

「うん、わたしに任せなさい♪」

 

 ルクスもALOでログインして意気投合、残念ながら友達が他にいる為、パーティーには入れないがいまは別らしい。そしてレインやセブンを含め女性である場所に向かう。

 

 火山地帯の洞窟を通る。隠し通路の扉を開き、フィリアの案内でデイジーすら含めてその隠しフロアに入る。そこは………

 

「うわぁ、本当に温泉だ♪」

 

 ユウキがそう言い、広々とした温泉だ。そこに全員が周りを見渡す。

 

「えへへ♪ いいでしょう。ここなら誰かが扉開いても音が聞こえるから、服着ることできるし、ここモンスターも出ないからゆっくりできるんだ」

 

「アタシたちがしっかり調べたよ♪」

 

 ストレアの言葉にユイも喜び、ここでプチ女子会が起きる。アルゴもせっかくだからとお誘いしたら来て、本当に女性メンバー全員集まった。

 

 全員バスタオル姿になり、肩まで温泉に浸かり、身体を伸ばす。

 

「ん~~♪ 良い湯加減………。キリトたちは今頃なにしてるんだろう」

 

 エギル、バザルト・ジョーはシロの面倒を見ていて、クラインは町のミニゲームにチャレンジ。キリト、テイルはフィールド探索している。

 

 シノンはそれを思い出しながら、アルゴもしみじみ温泉を満喫していた。

 

「この情報は男性プレイヤーには内緒だナ」

 

「マスターがいないのは残念です。できれば呼びたいんですが」

 

「それはダメですっ!」

 

「そうね~、デイジーちゃんの肌を見せるのは少し早いわね~」

 

「っていうか、ここに来たら鉛玉あげますよ」

 

 そんな話をする中、アスナは少しだけ考え込む。

 

「アスナ、どうしたの?」

 

「うん、少しね。最近、彼とキリト君がよく行動するから気になって」

 

「あらそうかしら?」

 

「それはシノのんも含まれるんだけど」

 

 シノンはそれを言われても反応しない。そもそも彼のことについて整理が付いていないのは自分とキリトだけ。当本人はまったく気にしていない。

 

「そう言えば、シノンって彼奴の家でお世話になってるんだよね………」

 

「羨ましいのお姉ちゃん?」

 

「そ、そんなわけないじゃない。セブンっ!」

 

 セブンはにやにやしながら姉を見て、ルクスは少しだけちらちらシノンを見る。シノンはその話に巻き込まれても困ると言う顔でクレハたちを見る。

 

 クレハは苦笑しながら肩をすくめた。

 

「まあおばさんたちがいるし、あの人が変なことする奴じゃないですから」

 

「そもそも彼より、猫の方が部屋に入ってくるのよね」

 

「あああの子、元気なんですね」

 

「今度ピナと会わせてみたいですね、現実の方の」

 

 シリカたちと会話の花が咲き、アスナはそれを見ながらも考え込む。

 

 キリトのこと、テイルのこと。それを考えて、

 

「本当に私たち、彼のことちゃんと知ってるのかな」

 

 そう小さく呟くと、水滴が水面に落ちて、波紋が広がるように全員静かになる。

 

 彼はあまりにもリアルもVRも本当を話さない。シノンですら本当のことを教えてもらっているのか考え込む。

 

 ユウキも見舞いに来ては自分に外のことや自分の話を聞く彼を思い出す。だがそこまでだ。それ以上のことは聞いていない。

 

 セブンも仕事を手伝える逸材としての面もあり、クレハは優しいお兄ちゃん。レインとルクスからすればあのゲーム内で、多くの仲間を支えたプレイヤー。

 

 本当の彼はなんなんだろう。それが全員がいま思ったこと。

 

「みんなバラバラで、どれが本当の彼って思っちゃう」

 

 その時シノンは少しだけ考える。

 

 家にいるときの彼は何もしない。勉強、家事など手伝うが、やるべきことをし終えるとなにもしない。

 

(誰かの為にしか行動できない、自分の為に行動することができなくなった)

 

 全ての行動が誰かの為でしかない。それは本当に自分の意思と言えるのか分からない。

 

 それでもテイルは自分から選んだことしかしていない。そうでなければ、

 

「救われないわね………」

 

 小さく呟くシノン。その時、お湯の中泳いでいたヒカリがお湯から出て宣言する。

 

「マスターはマスターなのですっ!」

 

 そう自信満々で答えた。

 

「ユウキのお兄ちゃんをしていて、皆さんのお兄ちゃんもして、わたしのマスターで、少し何を考えているか分かりません。ですけど優しい、とっても優しい人です」

 

 その言葉は彼の救いなのだろう。ヒカリの言葉にユウキも、

 

「そうだね、ボクにとっても。大事な、大切な人」

 

 そう嬉しそうに頬を赤くして呟く。

 

 シノンはその光景を見て、それだけの為に全て突き進んだ彼は、間違いなく幸せなのだろう。

 

(もしかしたらとやかく考えること自体、失礼なのかもしれない)

 

 全てがもう終わっている。取り返しが効かないほど。だからこそいまが大切なのではないか?

 

 アスナはその言葉を聞きながら、静かに頷く。

 

「そうだね。いまはまだ隠し事もあると思うけど、だけど」

 

「いつか話し合える仲になりたいですね」

 

「そうね」

 

 シリカとリズはそう頷き合い、リーファもフィリア、ストレアも。

 

「そうね、ここにいるみんながそう思ってることね」

 

 そうツェリスカが頷く頃………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 俺たちは落とし穴を見つけた。明らかに分かりやすいそれに、試しに落とされる話をする。

 

「貴重品はいまは持ってないし、準備はいいか」

 

「おう、それじゃ」

 

 二人一緒に落とし穴の真上に来る。あまりに分かりやすい為に誰も引っかからないトラップ。

 

 だがトラップに見せかけてショートカットなどの可能性がある。俺たちは落ちていった。

 

 ザブーンと言う音と共に、俺は叫ぶ。

 

「あっつ!? お湯かここ!?」

 

「マスター?」

 

 その時顔を上げるとヒカリがバスタオルでいた。ナンデココニイルノ?

 

 そして俺が押し倒すようにしているメンバーを見る。

 

「………テイル」

 

「あ、あ、あ」

 

「きゅう」

 

 ユウキが耳まで真っ赤にして、レインが身体を震わせ、ルクスは気絶した。

 

「待てアスナ誤解だッ! これは実験で」

 

「ふーん……、女の子のお風呂場に入る実験ってこと?」

 

「違う待ってくれ話を聞いてくれ」

 

「………」

 

 シノンが静かに愛銃を構える。

 

 デイジーが真っ赤になり気絶した瞬間、ツェリスカの表情も変わった。

 

「………だめだった」

 

「諦めるなッ! まだだ、まだ方法があるはずだ!」

 

「問答無用ッ!!」

 

 仲間によるのが死に戻りを回避するため、必死に彼女たちに謝りながら、町観光、買い物の手伝い他、何かをおごることで死に戻りは回避する………




テイルがゲームオーバーするの、仲間からま制裁ばかりですね。

それではお読みいただきありがとうございます。


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第54話・ついに揃う

新年おめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

それでは本編どうぞ。


 俺たちは最後のフィールド探索を開始した。お助けNPCであるラナたちと共に俺とアスナ、ユウキにテイルと、ほとんどのメンバーが別れたりしてマップを広げている。

 

 新しいフィールドは《スピナー》と言う専用アイテムが乗り物として隠されていた。

 

 砂場や落差のある場所が多く、妖精で無いキャラクターは苦労しているのが現状だったが、この乗り物を使うルートを発見する。

 

「テイルは凄いな、ボクはまた失敗しちゃった」

 

「もう。ユウキたちはしなくていいのに」

 

 シノンたちGGOプレイヤーも気合いを入れて《スピナー》で移動する中で、彼はなんでもないように使用していた。

 

 砂場のような場所に足を取られたりする他のプレイヤー。彼だけは難なく進む。ユウキたちは彼のように《スピナー》で移動しようとして失敗する。

 

「やっぱりこの道具も?」

 

「ああ。まあ向こうはレールは一本だったけどね」

 

 やはり彼の体験から生まれたらしいフィールド。アイテムもほとんどそうであり、彼は《スピナー》から自重してアイテムによるミニゲームは控えている。

 

 俺も調べてみたら風を纏うブーメランがあったり、馬上しながら矢を使ったり、釣り堀があったりしてユイも楽しめた。

 

 だがこの世界がプレイヤースキルのモニタリング、それが目的だとしたら………

 

(〝アンノウン〟か。そんなに学者が気になるようなデータだとしたら)

 

 あの仮想世界で彼はどんな日々を送っていたのだろうか。俺はユウキとアファシスを乗せて移動する彼の様子を見ていた。

 

「キリト君、どうしたの?」

 

「ああ、いや」

 

 顔に出てたのかアスナに心配されてしまい、俺はみんなの後を追う。気のせいかアスナの視線を感じながら、それでもこのことは話せない。

 

 そして進んでいると俺たちはボス部屋へとたどり着く。

 

「これで次はボス攻略戦だな」

 

「パーティーは」

 

 俺、テイル、アスナ、クライン、リーファ、シリカ、リズ。

 

 シノン、ユウキ、ストレア、フィリア、レイン、セブン、プレミア。

 

 最後にティア、クレハ、ツェリスカ。エギル、バザルト・ジョーも来るらしいから三パーティーになるな。

 

「三パーティー枠で後はボス情報確認して募集だな。それは俺とテイル、ユウキとクライン、シノン君はどうする?」

 

「銃の位置取りが気になるから参加するわ」

 

「ルクスにも声かけるか。友達とパーティー組んでるけど、攻略戦しているわけではないし」

 

「後はセブンちゃんがメインってことにする? あの子も参加するから凄い騒がれそうだし」

 

 そんなことを話しながら、アファシス、そしてラナたちを含めた三パーティー。この状態で募集するため、情報を集める。

 

 パターンを見極めるため蘇生することも視野に入れ、ボス情報を得るためにボスに挑む。

 

「それじゃ、俺は彼女たちを連れて町に戻るよ。ここのマップ確認もまだした方が良いからな」

 

「ああ。ボスのパターンは任せてくれ」

 

 テイルは三人を連れて探索を進める。その後に彼に聞くが、彼が言うには『蘇生古代獣ハーラ・ジガント』らしい。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ルクスパーティーに入るってさ、当日よろしくって」

 

「やった~、ルクスさんと一緒に冒険だ」

 

「やりましたね」

 

「あの子の武器も手入れしなきゃね」

 

 リーファ、シリカ、リズは嬉しそう話し合いながら、そのタイミングで戻ってくる。

 

 死に戻りした後、一通りの情報をアルゴに売りに出向いて、掲示板に募集を張りだしたりし終えたところだ。

 

「ただいま」

 

「お帰りキリト君。アルゴさんのところはどうだった?」

 

「それなりに高く売れたよ。ボス攻略戦の情報はボス部屋前で話すって掲示板にも張ったし、後は待つだけだな」

 

「アイテムとかも確認しないとですね」

 

「ボクは少し《スピナー》の練習したいな~」

 

 ユウキとアファシスは楽しそうに話していて、彼はシロ、拾ってテイムした猫を懐に仕舞っていた。

 

 ユウキとアファシスを見ていると彼は猫に好かれるな。アルゴも彼の情報は高く買うし、シリカはピナが彼を気に入っているからよく話しているしな。

 

「条件は三パーティー固定。時間も指定したし、ボスのパターン、攻略も確認済みだ」

 

 アイテムである《スピナー》を利用した戦闘。とはいえALOプレイヤーとGGOプレイヤーは攻略が簡単で、SA:Oではアイテムを使いクリティカル狙い。

 

 そう言えば、

 

「パーティーリーダーは俺、テイル、ユウキでいいのか?」

 

「テイルがリーダーなのが安心できるね」

 

「そうですね、テイルは運がいいもの」

 

「そうね、安心して銃が撃てるわ~」

 

 シリカとクレハ、ツェリスカはそう言い合い、俺もまた安心できる。レアドロップは必ず彼は手に入れるからな。

 

 白猫を懐に仕舞う彼の方は、

 

「キリト、色々調べたけど、それっぽいのがあるだけで確証は無いな」

 

「確証?」

 

「アイテム渡しでいいえを選択するって言うの」

 

 それを言うとみんなえぇ~と言う顔で俺を見る。そんな顔されてもな。

 

「だって選択が出る内容だぜ? 違うパターンも確認したいじゃないか」

 

「そりゃ少し分かるけどよお。最後の最後だぜキリの字?」

 

「確かに、少しは空気ってものを読んでほしいわ」

 

「まあ様々な反応を見るために、ここはAI搭載型NPCで統一されてるから、データ取りと言う点ではありだけどね」

 

 クラインとリズ、セブンからもそう言われるが、それでも気になるものは気になる。念のためにいいえを選んでも問題ないか調べたが、それらしいことは全く分からない。

 

 ともかくアイテム獲得しなければ話にならないが、彼がいるとなんとなく大丈夫な気がする。

 

「シロのことは頼むよデイジー」

 

「はい、お任せください。皆さんのお帰りを待ってます」

 

「良い子にしてろよシロ」

 

「にゃ~」

 

 準備が終わり、後は最後のボス攻略戦。そう思い、俺たちは自由解散する

 

 だがある意味、この時点で俺たちは気づくべきだったのかもしれない。

 

 なにも問題ないように見えているからこそ、このゲームが暴走し始めていることに気づくことはなかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 レイド戦はまた大規模になり、ボスである蘇生古代獣は最大まで強化されているだろう。

 

 パターンはやはりと言うか円状にレールが敷かれていて、砂場が地形と成っている。最初はアリ地獄のように中心に蘇生古代獣がいる。

 

 巨大に頭部の骨には剣ではなく宝石が突き刺さり、プレイヤーが現れると動き出す。

 

 第一段階は背骨の部分がクリティカルで、宝石の剣にはバリアのようなものが張られている。

 

 これには《スピナー》で接近して斬りかかるか、銃で攻撃するしかない。空を飛ぶ妖精は巨大な腕をかいくぐり攻撃するしかない。

 

 だがこのパーティーの場合少し変わる。

 

「セイッ」

 

 ユウキとヒカリがわざわざ《スピナー》を使い接近して、強力なソードスキルを繰り出し、ヒカリはほぼゼロ距離で銃を使う。

 

 GGOプレイヤーは弾幕で空を飛ぶ妖精の補助をするが、シノンだけが、

 

「スゥ………」

 

 攻撃をかいくぐり、背骨に狙撃する。これでもうすぐ二本ゲージが消えようとしていた。

 

「パターンが変わるぞ、第二形態ッ!」

 

 キリトの言葉に多くのプレイヤーが準備に入る。残りゲージ二本になると第二形態へと変わる。

 

 トドメは俺が刺すのがすで決まっているため、周りを確認して《スピナー》で接近してクリティカルで大きく削った。

 

【ガアアアアアアアアアアッ!!】

 

 雄たけびと共にフィールドが崩れ、妖精たちも風が吹き荒れて別のフィールドへ移動。

 

 今度は円の外側、俺の知る蘇生古代獣の第二形態のフィールドへ移る。浮遊する頭部の骨はバリアが消えて、今度は宝石への攻撃がクリティカルに変わる。

 

 骨の腕が古代の武器を持って空を飛ぶが、壁には《スピナー》のレールが敷かれ、妖精以外が接近して斬り込む際、《スピナー》を使って接近する。ユウキはここで空を飛び、ヒカリは地上から銃で攻撃。

 

「《スピナー》でのアタックはダウンが狙える。SA:Oプレイヤーはダウン狙いだッ!」

 

 俺の言葉に次々と《スピナー》に乗り込むプレイヤー。シノンたちは常に移動する蘇生古代獣を追いかけながら射撃。俺たちを撃たないように気を付けてだ。

 

 妖精たちがメインアタッカーになり、空中での戦闘。

 

「キリト三回目だ、ダウン行くぞッ!」

 

「頼んだぜクラインっ!」

 

 クラインの《スピナー》が激突して地上へと落ちる蘇生古代獣。すぐにGGOプレイヤーはプラズマ・グレネードを投げて爆発。その後プレイヤーが殺到する。

 

 ともかくこのパーティー、特に三グループの連携は完璧だ。

 

「キリト、次のダウン行くぞ。トドメは任せた」

 

「応ッ!」

 

 すでにゲージも残りわずか、シノンが狙撃しつつ、俺のアタックによりダウンした瞬間、妖精たちのソードスキルが叩きこまれる。

 

 たった一人で倒していた頃と比べ、彼はあまりにもあっさりと終わりを迎えた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「よっし、ラストアタックゲット。ナイスファイトだみんな」

 

「お疲れ様テイル」

 

「ああ。助かったよルクス、みんな」

 

 キリトの勝鬨と共に、宝石が割れて中から黄色、黄金色の宝石が俺の元に来る。

 

「これは」

 

 ウインドウには《フロルの祝福》と言うキーアイテム。これで全イベントアイテムがプレイヤーの手に渡った。

 

「やったねテイル」

 

「おめでとうテイル」

 

「やっぱあんたなら取れるのねっ!」

 

 みんなが喜び、この後は城にこれを届ければなにかが起きるのだろう。イベントが終了か、はたまたなにか起きるのか。ともかく時間はある。

 

「それじゃキリト頼んだ」

 

「いやいや、君が手に入れたんだから君が渡してくれよっ!?」

 

 全員が呆れながら、俺がリーダーのように扱われた。

 

 姫、ゼルダとの邂逅か。なにも無ければいいんだが………

 

「テイルさん」

 

「ラナ?」

 

 戦いの中で彼女たちも魔法と矢による援護は活躍していた。さすがと言えば良いのか戦い慣れしていて、おかげでスムーズに倒すことができた。

 

「姫様に謁見するんですよね? わたしたちもゼルダ姫に会いたいんです。一緒に謁見してもいいですか?」

 

「ああ」

 

 それに二人は微笑み合い、後の準備は全て戻ってからだ。

 

「ともかく少し休んだら城に出向いて、次のイベントだ」

 

『おーっ!!』

 

 お祝いムードの中、このイベントも〝終わり〟が差し掛かっていることに、この時俺たちは誰も気づけなかった………




ついに秘宝は揃いました、ゼルダ編も大詰めです。

それではお読みいただき、ありがとうございます。


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第55話・動き出す異変

 俺たちはハイラル城へと向かうことになるが、大人数ではいけない。1パーティー人数のみなので俺、キリト、アスナ、クライン、ユウキ、セブン、ツェリスカ。

 

 俺以外全員ジャンケンで決まり、城の中を歩く。

 

 ちなみにアファシスは相変わらず頭数に入らず、ピクシーもそうなのでユイとストレアもいる。ストレアはずっと俺の肩に乗り、懐にはシロがいる。

 

「ラナ様方もご一緒で、お久しぶりでございます」

 

「大臣さんもお久しぶりです♪」

 

 ラナたちへの対応も慣れている城の人たち。俺は回りを見渡す。

 

 城の作りだけはどの〝ハイラル城〟と当てはまらないが綺麗な作りであり、広々とした玉座にたどり着く。

 

 そこにいるのは、

 

「勇敢な異世界の冒険者よ。私がこの国の王である『ローム・ボスフォレームス・ハイラル』だ」

 

 堂々とした声で話しかけて来るハイラル王はまさに、記憶の中にいるその人本人。ここまで知識を引き出されていることについて、俺は〝アンノウン〟についてなんともいえない感覚になる。

 

 その側にいるのがゼルダ姫と紹介され、隣を見ると流れる金色の髪に白いベールで素顔を隠す。美しいドレスを着こむ少女がいた。

 

 謁見の時だから、いまはなにも反応していないが、どこか嬉しそうなラナとリンクル。だがゼルダ姫は無言のまま、こちらを見ている。

 

「最後の秘宝を持って来ていただいたんですね」

 

 そう話しかけてきたゼルダ姫に、俺は全身から違和感を感じた。

 

(なんだ?)

 

 記憶が揺れる、警告を放つ。なんの?

 

(これはゲームだ。違う、やめろ。関係ない)

 

 フラッシュバックする〝ゼルダ姫〟。やめろそれは俺の記憶じゃない〝記録〟だ。首を振りかけたが肩にストレアが乗っている。

 

「どうしましたか?」

 

「………いえ」

 

 目の前にいるゼルダ姫が〝ゼルダ姫〟と違う。当たり前の感覚に俺は困惑する。ここまで拒絶反応は初めてだ。

 

 ミファーたちとは違う、根本的な拒否。いままで見た仮想世界の再現に対してここまで拒絶反応が出るとは思わなかった。

 

「それでは最後の秘宝《フロルの祝福》を渡してくれますか?」

 

 そう静かに話しかけて来るゼルダ姫に、俺の前にYES/NOのウインドウが現れた。

 

「? テイル?」

 

 キリトの声が聞こえるが、なんだこの違和感。警告が頭の中で鳴り響く。

 

 ともかくどうするか考える中、突然シロが飛び出た。

 

「なっ、シロっ!?」

 

「なんだこの白い獣はっ!?」

 

 そう言って飛び出たシロを振り払おうと手を上げた。

 

 それに全身の警告音と記憶が繋がった。

 

「やめろッ!」

 

 すぐにシロを抱き上げ、NOを選ぶ。

 

「………何を考えているのですか、早く秘宝を渡してください」

 

「渡せないッ! お前」

 

「ゼルダ?」

 

 ラナたちも俺の前に立つ。二人も困惑している。

 

 雑音が頭の中で流れる。目の前のそれが、違うなにかと重なった。

 

「誰だお前はッ!!」

 

 俺の反応にキリトたちが驚く中、ウインドウは再度現れたが、NO以外選択は、

 

「黙れッ! ここまで来ればこちらの物だッ!!」

 

 その時、勝手にYESボタンが押される。それにはプレイヤーであるみんなが顔を上げて驚いた。

 

「なんでっ!? テイル君は触ってないのに」

 

 ストレージから勝手に《フロルの祝福》が飛び出て、ゼルダ姫から影が噴き出す。

 

「これはなにッ!? こんなイベント聞いてない」

 

 セブンの言葉と共に《ネールの慈愛》と《ディンの灯火》。《フロルの祝福》が三つそろって影の手に掴まれる。

 

「にゃーーーーーーーー」

 

 その時、シロから白い光が放たれ、それが衝撃波のように広がり、ピクシーであるストレアが吹き飛び、キリトがキャッチするが、

 

「せ、セブンっ!?これは」

 

「知らないっ!? 秘宝を全て集めても邪悪な者が住まう城が現れるだけなの。こんな仕様じゃないわっ!!」

 

 困惑する中、ゼルダ姫から影が生まれる。宝石が砕け散り、ハイラル城が揺れ出す。

 

「これはいったい」

 

【忌々しき女神の血族めッ! 獣の姿になり果ても我が邪魔をするか!】

 

 影からそう叫び声が響き、だがと続ける。

 

【だがもう遅い、全ての世界を闇に堕とす。全てはもう止められない】

 

 ゼルダ姫が消え、影は天井を貫き空に消える。

 

「お、おいなんかまずいぞっ」

 

「ともかく外に出るぞ。シロ」

 

 シロを回収して全員が外に出る。白亜の城は闇に染まり、空が曇り、闇に染まる。

 

「なんなのこれ、こんなイベントじゃない。こんなことあり得ない」

 

 セブンが呆然とその光景を見る。本来のラスボスの城はハイラル城を奪い取り、この世界に異変を引き起こしだした………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 外ではプレイヤーたちが魔王の城が出現して湧き上がる中、俺たちは宿屋に集まり、外にいるスメラギの話を聞いたセブンから話を聞く。

 

「《カーディナルシステム》が暴走したわ」

 

「それは本当なのか」

 

 この世界は〝アンノウン〟を元に創り出すため、ALOと同じ《カーディナルシステム》を元に創り出されている。

 

 カーディナルにはマップデータを消去する権利があり、ALOなどではカーディナルのクエストにてプレイヤーの行動結果、フィールド全体を変えるクエストが起きた。

 

 それは未然に防がれたが、今回もそれが原因か。

 

「ううん。そのクエストは運営側も把握してるから、今回もそうならないように対策を立てられていた。もとよりあたしもそれを手伝った。なのに」

 

「セキュリティシステム全てを通り抜けて、いまの状態になったのか?」

 

 セブンは苦々しい顔で頷き、ツェリスカもまた困惑していた。

 

「本来運営しか持たないGМ権限、それがイベントに乗っ取られたわ。いまザスカー、上は混乱してる」

 

「ザスカーって、GGO運営にもなにが起きているのか」

 

 セブンと共に頷き合うツェリスカ。テイルもまた困惑していた。

 

「なにが起きてる」

 

「本来のストーリーで秘宝を渡さない選択肢。そもそも選択肢なんて存在しなかったの」

 

「どうしてそんなこと」

 

「あたしだって最初の時に選択肢があるって情報が流れたとき、スメラギたちと一緒にデータを一から見直したけど問題は無かったの」

 

 セブンが最初この世界にログインできなかったのはそれが原因。

 

 さんざんデータとにらめっこしていたがおかしなデータは一切合切見つからず、ともかくそのままにしたらしい。

 

 だが、

 

「魔王の設定は全ての世界を繋げ合わせて、魔物が支配する世界に変えること。それがGМ権限を手に入れて暴走した」

 

「まさか全ゲームに影響与えるとか」

 

「その通り。ゲームをリンクさせているシステムを先に乗っ取られて、いつの間にか全ゲームがカーディナルの管理下に置かれていた。こんなこと信じられない」

 

 セブンが理解できないと頭を振り、ツェリスカも権限を取り戻そうとするが、すでに無意味な状況らしい。

 

 すでにイベントは全ゲームに影響するものになり、このイベントの結果により、リンク先の全てのゲームに影響を与える。

 

「まずはフィールド全ての改変が起きて、出て来るモンスターもレベルが上がる。システム自体全く変わる可能性があるわ」

 

「そんな」

 

 リーファたちが信じられないという顔で窓の外で、いまだプレイヤーたちが挑む改変されたハイラル城を見る。ハイラル城も変わるのではなく、魔王の城へと続く門が現れるはずだった。

 

「ちなみに改変が起きてしまう条件は」

 

「スメラギたちがデータを整理したところ、秘宝を手に入れたプレイヤーのゲームオーバーよ」

 

「たった三人のプレイヤーのゲームオーバーが敗北条件なのっ!?」

 

「そんな、秘宝を手に入れたプレイヤーは」

 

「確認したところ、秘宝入手後、HPゲージが一度でもゼロになった場合、敗北としてカウントされる。他のプレイヤーはすでに一度ゲームオーバーして、あと一人よ」

 

 その時、俺たちは彼を一斉に見る。つまりすでにプレイヤーは敗北間際に立たされている。

 

「な、ならテイルがフィールドに出なければいいんじゃねぇか?」

 

「それもそうなんだけど、敗北条件にある設定があるの」

 

 ゲームオーバー以外に、フィールドへ挑む時間が設定されていて、ログインも一定の時間を過ぎれば勝手にゲームオーバー扱いになる。

 

 つまり彼は一定の時間仮想世界に来て、フィールドにいなければ勝手にゲームオーバーにされてしまう。

 

「んな無茶苦茶な!?」

 

「こっちもそれが急に表示された。調べてみたらあたしたちが見ていたデータの裏に仕掛けられていた。ただのデータのはずなのに、どうしてこんな」

 

「ユイ、今回の事件にもAI搭載型NPCはからんでいるのか?」

 

 今回のことの他に、AI搭載型NPCが関わる事件を俺たちは知っている。

 

 セブンもそれについて教えてくれた。魔王である今回のイベントの最終ボスはAI搭載型NPCらしい。

 

 つまるところ、ラスボスがGМ権限を運営側から奪取、それがバレないよう工作して、いまのいままで隠し通されていた。

 

「全部はプレイヤー側の敗北によって、この世界が作り替えられるという設定をなぞらえられるように仕組みを変えられた」

 

「そんな」

 

 今回のことが公になればVR業界に大きな打撃になる。せっかくまた多くのプレイヤーが仮想世界に来るようになったというのに。

 

 ともかくセブンから詳しい内容を聞くと、いまはラスボスを倒すしか方法が無いらしい。

 

「イベントクリア。それしか穏便にことを片付けられないのなら」

 

「ああ。必ずクリアしてみせる」

 

 ルクスも頷き、ここにいるメンバーは全員が覚悟を決めて城を見る。

 

「だけどいったいいつからこんな暴走が始まったんだ」

 

「初めからよ。一部の設定が改変されていた」

 

 秘宝は設定として門の役割を担うアイテムで、本来プレイヤーは秘宝を全て揃えると元凶である魔王の城へ続くゲートを開く。

 

 だが改変された設定では、魔王はゼルダ姫に化けて秘宝の力を奪い、異世界をまで自分の世界へと変えようとしていると言う設定に。

 

「秘宝は元々この国の偉い人達が魔王から隠すようにしていたものなの。だからみんなが倒したモンスターは、秘宝を守るガーディアン」

 

「だから王家の紋章が刻まれてたのか」

 

「だけどいつの間にかゼルダ姫が魔王にすり替わっていて、秘宝の力を奪う設定に成っていた。それは少しだけ防がれたことになってるけどね」

 

「というと?」

 

「ええ。シロの存在、この子がプレイヤー救済処置として用意されたキーキャラクター。この国のお姫様。ゼルダ姫よ」

 

 静かにシロはこちらを見つめている。この子にそんな設定が隠されていたのか。

 

「ゼルダ姫の本来の役割はどんなものなんだ」

 

「最後の戦い、秘宝の力を使って、プレイヤーたちに退魔の力を宿して、魔王を倒す設定よ。けどいまの設定は魔王によって猫の姿に変えられて、本来の力は僅かにしか使えないって」

 

 それがいまの姫の設定なら、魔王に対して退魔の力などはどうなるのか。

 

「それは心配しないで、改変には改変よ。スメラギたちがアイテムが奪われるとき、ゼルダ姫は残された力を使い、秘宝の力を一部その身に宿したことにした。この子がいれば、魔王を唯一倒せる退魔の力をプレイヤーたちに宿すことはできる」

 

「ならシロは連れて行かないといけないのか。シリカ、途中までは俺が持つが、戦闘の際は君に任せていいか?」

 

「は、はい。分かりました」

 

「やらなきゃいけないことは変わらないが、これでラスボスは攻略できる」

 

「ああ。必ずクリアしてみせる」

 

 全員の意見は揃い、俺たちは『魔城ハイラル』へと攻略が始まった。




全てのゲームが巻き込まれました。運営もNPCが裏工作すると思えず、とんでもない事態に。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第56話・魔城攻略

 探索の結果、ボス部屋らしい扉は開かない。そう言う情報を手に入れて、セブンたち運営側で調べたら、入る条件にゼルダ姫がいないといけないらしい。

 

「しっかし、話の内容聞くとクレームの嵐だろうな」

 

 クラインの言う通り、鍵を握るキャラクターがすり替えられていて、ボス部屋に行くことができないところだ。

 

 それだけでなくプレイヤーの敗北条件も簡単すぎる。初見殺しどころの話では無い。

 

 最後のアイテムを渡すイベントがどのような内容なのか分からないため、様々な憶測が飛び交い、その中でセブンが運営代表としてテイルに色々頼み込んでこんな内容になる。

 

 NOを選ぶと白い猫が現れ、まるで秘宝を姫に渡さないようにする中、姫は猫を強く払いのけると言う内容。ゼルダ姫は動物にも優しい心を持つ姫なのに、突然現れた猫への扱いに疑問を思いNOを再度選択。それでイベントが進み、姫にすり替わった魔王が姿を現したと言う。

 

 テイルはその時に白猫、魔王により姿を変えられた姫を保護した、そう言う内容にして欲しいとのこと。

 

 彼はそれを受け入れ、イベントは表向きには滞りなく進んでいることになっている。実際はゼルダ姫をテイルが偶然助けていたんだが。

 

 ともかくそういう経緯にして、その後彼は懐にゼルダ姫を入れて魔城を進む。

 

 城の中は数々のアイテムによる仕掛けばかりで、高難易度過ぎるため、運営にメッセージを飛ばすプレイヤーがいる中、彼は数々のアイテムを切り替えながら先に進んだ。

 

「とはいえきつい」

 

 クラインですらきつく、空が飛べるALOにコンバートして挑む中、彼だけはそれができないように設定されていた。コンバートすると自動的にテイルはゲームオーバーになり、プレイヤーの敗北になってしまう。

 

 だが彼は《アイアンブーツ》や《スピナー》。さらに《風のブーメラン》と《ダブルクロ―ショット》を使用して進む。ALO以外のプレイヤーはかなり苦戦している。

 

 だが俺たちALOプレイヤーも、

 

「ダメが低いよお兄ちゃんっ!」

 

「俺たちが与えられるダメージが一番低いからって、ここまで低いのは」

 

「七色が言った通り、カーディナルの暴走が原因なんだね」

 

 レインの言葉に、現在セブンたちはこのイベントの主導権を取り戻すために、現実世界で可能な限り支援している。

 

 だがモンスターのレベル操作はもちろん、ステータス操作すら受け付けず、中のマップもどんな風になっているか把握できないらしい。

 

 分かっているのは彼がボス部屋にゼルダ姫ことシロを連れて行かないと、そもそも扉が開かない設定になっている。

 

「少し休憩しますかテイルさん……」

 

「問題ない………」

 

 シリカが彼を心配する。無理もない。ここのモンスターは俺たちがどれだけ前に出ていようと、彼だけ狙ってくる。明らかにプレイヤーにゲームクリアさせないための設定。

 

 彼はずっと俺たちに援護されている。それでもかなり疲労していてもおかしくないが、

 

「少し呼吸を整えればすぐに動ける」

 

 そう言って少しだけ休憩しながら先に進む。唯一の救いは、帰りだけアイテムを使いダンジョンの入口へと戻れることだけだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「キリト君、シノのん、なにか隠してる?」

 

 それは唐突だった。俺たちがどうにかボス部屋前までのルートを進む練習をしていたときだ。

 

 ボス部屋はすでに他のプレイヤーが発見していて、彼らはボス部屋に入る条件を満たしていないために告知されて進むのかと言う声があった。

 

 運営はその声に乗っかり、ボス攻略戦を日程と時間をセブンに依頼して来たらしい。条件に合うプレイヤーがセブン、七色博士の知り合いと知った彼らの行動に、俺たちはあきれ果てるしかない。

 

 ともかくテイルはそれを承諾して、彼はボス部屋に指定された時間に行ける練習をする。

 

 そして明日と言う時、彼は宿で着いて、ユイにログアウトしても問題ないか聞いてから、彼はレインたちに武器と防具を渡し、必要最低限の行動をしてログアウト。

 

 これから俺たちはどうするか悩むとき、アスナが俺たちにそう聞いて来た。

 

「………なんのこと?」

 

 シノンは静かにそう聞き返す。俺はただ黙るしかできない。

 

「キリト君とシノのん、彼についてなにか隠してない?」

 

 シノンは動じないが、アスナたちはどうしてそう思ったんだ?

 

 いや、俺は心のどこかで彼がなにを思っているかと心配していた。それが表に出ていたんだ。

 

「ねえキリト君、わたしたちだって昨日今日の関係じゃないの。彼がなにか考え込んでダンジョンに挑んでいるのくらい分かるよ」

 

 それに黙り込む中、ユウキが心配した顔で見つめていた。

 

「ねえキリト。それは、ボクたちには話せない話なの」

 

 その言葉を聞きながら、俺は言葉を選ぶ。

 

 彼が抱えているのは、きっとSAO被害者とユウキの家族。彼は昔の俺のようにこれらのことに負い目を感じている。

 

 彼はできる範囲のことをしていたが、それでもあの事件が起きる可能性を知っていた。それはきっと彼の中でずっと残り続ける黒い部分だろう。俺も彼と同じ立場ならどうしていたか分からない。

 

 少しでも被害者を減らしたいと願い、そしてユウキの家族が救われる未来を信じていた。

 

 だけど彼にできること、できたことがどうなのか分からないままだ。

 

 被害者は減ったのか増えたのか、ユウキはこれで幸せか不幸なのか。

 

 なによりそれが良くなると信じていたから、彼は体験を乗り切ることができたんじゃないのか?

 

「………キリト」

 

 ユウキ、レインと彼と親しい関係の、いや違う。みんなだ。みんなが彼のことを心配している。

 

「………ごめん」

 

 だけどこれはきっと、他人が勝手に話していい話じゃない。

 

「これは俺の口から話すのは、ダメなことなんだ」

 

「それはわたしたちだけじゃなく、ユウキたちも」

 

「ああ。彼が一番悩んで、苦しんで、辛い思いの中で俺たちに話したのはたまたまなんだ」

 

 いまはまだみんなに話せない。だけどきっといつか、彼がみんなに話してくれる。俺はそう信じている。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 キリトとテイルがいなくなってから、ボクは町を見て回る。ほとんどの人が今度のボス攻略戦に参加するため意気込んでいる。

 

 だけどテイル。あの人だけは少しだけ雰囲気が違う。そりゃ、もしもプレイヤー側が敗北するとALOやGGO、他のゲームにまで影響が出る。またVRゲームから人がいなくなるのは悲しいからボクも頑張るけど、テイルは少し違う。

 

 時々思う。テイルのあの顔はなんなのかボクには分からない。

 

 レインが言うにはSAOの頃みたいって言ってたけど………

 

「テイルはずっとあんな顔でゲームしてたんだね」

 

 ボクの知ってる最初のテイルは物凄く疲れている人だった。

 

 本当に疲れてたんだろう。後から話を聞いてそれも分かる。ずっと誰かの為に戦って、ずっとゲームを楽しむこともせず戦っていたんだもん。

 

 だけど………

 

 目を閉じるとデュエルを挑んだとき、少しだけなにか嬉しそうだったのを思い出す。

 

 本当は遊びたかったんだと思う。ただのんびり自分のベースで楽しんで、みんなと一緒に楽しむのが好きなんだ。だからいまの無茶をしているテイルが気になる。

 

 テイルはどうしてゲームを、この世界に来て戦ってるのか知りたい。

 

「ちゃんと教えてくれるよね」

 

 ボクはいまではテイルの妹なんだし、少しくらい我が儘言いたい。

 

「妹か………」

 

 ボクがテイルの妹って少し分からない。だけどテイルの家族であることは嬉しい。

 

「よし、全部終わったらどんなことしても聞きだしてやる。そして」

 

 それでいっぱいテイルと遊ぶんだ。この世界で、一緒に笑うんだ。

 

 そう思い、少しでもテイルたちと共にボス部屋に行けるよう、ルート確認やレベリングしにフィールドに向かう。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「よし、彼奴の分の武器は整備のための材料はあるっと」

 

「それじゃ頑張りましょうかレイン」

 

「うん。けど彼奴の武器はわたしがやるよ」

 

 そう言って全部の武器を見る。彼奴のアバターはSA:O。弓矢以外全ての武器が使えるため、念のため全ての武器、特に片手剣と盾は念入りに整備しないと。

 

「あんた、時間大丈夫なの?」

 

「大丈夫、ちゃんとスケジュール管理はできないと、アイドルなんてやれないよ。それに」

 

 彼奴のあの顔はなにか一人で思い詰めて、一人でどうにかできないか考えている顔だ。

 

 あの顔を見ていると武器を整備してフィールドに行く昔を思い出す。彼奴は誰に言われるでもなく、ただひたすらアイテムとお金を集めてギルドに渡していた。

 

 そのおかげで色々な人が助かったし、わたし自身も助かっていたのは確かだ。

 

 いつの頃だろうか、わたしが彼奴の専門鍛冶師になったのは。偶然だろうけど、彼奴はずっとわたしの武器に命を預けて、戦い続けていた。

 

 いまのわたしにできることは彼奴が命を預けられる武器を整備して渡すこと。

 

「けどまあ」

 

 全部終わったら彼奴からどんなことしても聞きださないといけない。なにをそんなに思いつめているのかを。

 

(SAO時代からの付き合いなんだからね)

 

 そう静かに決意して、彼奴の武器を整備し出す。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 部屋の真ん中で倒れて天井を見る。

 

「………仮想と現実と体験の区別がつかなくなる」

 

 仮想世界でラストダンジョンであるあそこは、体験で味わったダンジョンのようであった。

 

 磁石床やらアイテム、使っていると少しずつ記憶の中のそれと重なる。

 

 あのダンジョンだけはまるっきり体験の中、おそらく〝アンノウン〟によって作り出されたステージなんだろう。おかげで思い出したくないことばかり思い出す。

 

 火山地帯、極寒地帯、砂漠、山頂、地下から古い神殿。

 

 色々なところを足や馬などで出向き、少しのミスで死んでは繰り返して。クリアするまでやり直していた日々。

 

 それで得たものがあったのか分からない。だって俺は詳しく〝物語〟を知らない。

 

 だけど俺が行動しなければいけなかったときはあった。なにより、

 

「ここは〝物語〟なんかじゃない」

 

 体験の中でもない、仮想もここも関係ない。全て〝現実〟だ。

 

 木綿季が生きているこの世界が俺の世界で、虹架は少しずつメジャーになり、和人は明日奈と仲が良く、珪子、里香、直葉、詩乃、琴音が和人たちの周りで二人を祝う。

 

 エギル、アンドリューの店でクライン、壺井が酒を飲みながらみんなでパーティー。

 

 仮想世界ではユイ、ストレア、プレミアを始め多くの仲間がいる。

 

 クレハ、紅葉ちゃんが少しずつお姉さんや家族と打ち解けて、ツェリスカ、星山翠子である彼女とはメールで会話するようになり、バザルト・ジョーとも話すようになった。

 

 そしてユウキが、紺野木綿季が少しずつだが抱えている病気が治り出している世界。

 

「俺はもうこの世界の住人だ」

 

 今回の件は間違いなく俺が引き起こしたものだろう。

 

 身の丈を考えず、あの勇者のように動ければSAOでどうにかできると考えた愚か者が見た〝記録〟が原因。それが木綿季たちの大切な世界を壊そうとしている。

 

 それだけは許されない、決して許していいはずはない。どうにかしなければいけない。仲間たちと共に。

 

「そうだよな」

 

 今回は仲間がいる。体験の中では一人だった。仲間になる者、慕う者たちは俺ではなく退魔の勇者に対して、けして俺ではない。

 

 だけど、今回は助けてくれる仲間がいる。そして守りたいと思う気持ちは勇者の物でも、自分で勝手に作った義務でもない。本当に俺の気持ちだ。

 

「明日の休み、昼間か」

 

 そう静かに呟き、備えるしか無かった。




下準備は念入りに。そして勘付くアスナたち。

それでは、お読みいただき、ありがとうございます。


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第57話・仮想世界の勇者と魔王

 武器を整え、体調を整え、時間を確認して向かう。

 

 ほとんどのギミックを飛んで進むALOプレイヤーであるキリト、アスナ、ユウキ、クライン、シリカ、リズ、リーファ、ストレア、フィリア、レイン、セブン、エギル。

 

 UFGを使い、同じように進むシノンとヒカリ。ついてくるラナとリンクル。

 

「大丈夫か?」

 

「はいっ!」

 

「ゼルダやあなたたちだけに、任せ続けることはできません。わたしたちだって、この世界を守りたいですから♪」

 

「にゃー」

 

 ラナの言葉にシロは鳴き、そしていくつものこのゲーム専用のアイテムを使い、ギミックを乗り越えるテイル。

 

 そしてうまく時間内にたどり着くと、他にもプレイヤーがいる中で大きな黒い扉の前で集まっていた。

 

「時間内にたどり着いたな」

 

 テイルが扉の側に近づくと開きだす。事情を知らないプレイヤーたちがボス攻略イベントが始まり、歓声を上げた。

 

 だがテイルたち事情を知る者たちは静かにその様子を見る。

 

 この戦いに負ければ他のゲームにも影響を与えるイベントが起きてしまう。それを防ぐには、

 

「勝つぞ」

 

「応」

 

 キリトの言葉に彼は短く返事をして、彼らも王の間へと入り込む。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 王の間は広々とした空間であり、少しばかり嫌な予感がする。黄昏の姫君、トワイライトプリンセスの作りだ。

 

 玉座に座る男がいる。それは暗闇を纏っていたが、マントを翻すように消し、その姿を見せた。

 

「ようこそ異世界の冒険者たち、我が城へ」

 

 巨大な剣を掴みながら静かに立ち上がる魔王。その視線が俺に向けられているのが分かる。まるで俺を倒せば自分の勝ちと知っている様子で、静かに語り出す。

 

「我が名は『終焉の者』。この世界の女神に封じられ、力を失っていた。君たちの働きのおかげで、秘宝により封じられた我が力は解放された。感謝する。秘宝の勇者」

 

 それを言われたが、この場に秘宝の勇者なるキャラクターはいるのだろうか。

 

 残念ながらこの場にいるのは俺だけのようだ。俺が話をするのかとキリトに助けを求めたが、キリトは呆れただけだ。仕方ない。

 

 他のプレイヤーも俺の方を見てたし、俺がこのイベントを進めないといけないようだ。

 

「いろんな世界を繋げたのはお前の仕業か」

 

「如何にも。何も知らぬ愚か者が必要だった………。本当に、何も知らない者がな」

 

 その言葉に目を細め、向こうもただ俺を見る。キリトとシノンも気づいただろう、このAI搭載型NPCは俺しか見ていない。

 

 俺の情報から生まれた魔王。SA:Oの時とは違う、完全な魔王として把握している。

 

(〝アンノウン〟)

 

「貴様たち異界の冒険者と秘宝の勇者を退ければ、異界共々我が力の支配下にはいる。その為に、その命を捧げてもらおうか」

 

 魔王から暗闇が立ち上り、霧となって身体を覆う。これはまずい流れだ。

 

 暗闇から巨大な四肢を持つ猪が現れ、ゲージは六本も現れ出す。

 

「来るぞ」

 

 魔獣となった魔王との戦いが始まるが、俺はあるものに気づく。

 

 このパターンは知っているが、その場合攻略方法はパートナーが突進する魔王を掴み、投げ飛ばして無防備になった腹の傷へ攻撃する。

 

 だがそこは白い傷跡があるはずなのに、現れた魔獣にはそれが無い。

 

「ともかくやるだけやるか」

 

「猪にはいい思い出ねえんだけどな」

 

「んなこと言っている場合じゃないぞクライン」

 

 俺はゼルダ姫をシリカに渡して武器を構える。

 

【さあ、最後の戦いを始めようか】

 

 咆哮が響き渡り、武器を全員構えてこの世界で重要な最後の戦いを始める。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 突進すると共にすれ違いざま斬り込み、GGOプレイヤーは銃撃でゲージを削れた。

 

 クリティカルは無いもののそれでダメージが入る、なら必ず倒せる。

 

 武器は槍を構え、向かってくる魔獣に対して全体を見るが、

 

(タゲは俺にしか向けられない。向こうは俺を倒せば勝利なんだから当然か)

 

 キリトが率先してダメージを与えるが、クリティカルが無いと少しきつい。今回のボス攻略戦は全てのプレイヤーにチャレンジできるため、地味にだが確実に追い詰めている。

 

「パターン変わるぞっ!」

 

 その時、猪から暗闇が噴き出して、腕のようになると共に黒い球体がいくつも現れた。なんだこの新技。

 

「落ち着けば躱せるか」

 

 そう思う中、身体の大きさもひと際か大きくなり、ヒノックスやイワロックほどの大きさだが、ライネルほど厳しくは無いだろう。

 

 ターゲットは変えず向かってくる。ターゲットが俺にのみ集まるのは、秘宝をゲットしたプレイヤーで話が付くだろうか?

 

 突進攻撃を横に飛んで避けるが、すぐに背中から生えた腕が振り下ろされる。片腕をバネにして飛ぶ。

 

「テイル後ろッ!」

 

 ユウキの叫び声に弾丸のように暗闇が放たれ、刀身でそれを映し見て避けるしかない。

 

 ともかく徹底的に俺のみ攻撃が集中するが、

 

「バカでよかった」

 

 それが俺の感想だ。

 

 振り向く魔獣に無数の弾幕が張られ、その巨体がよろめく。

 

「ひゃっはあああああああああああっ!!」

 

「マシンガァンゥ、ラバァァァアズっ!!」

 

「グレネード行くぞおおおおおおおおおおっ!」

 

 爆発に爆発が続き、土煙が立ち上る。セブンの歌が鳴り響き、バフとしてプレイヤーたちを強化する。

 

「レインっ!」

 

「【エック・カッラ・マーグル・メキアー・レクン】ッ!!」

 

 レインの周りに無数の刀剣が現れて、雨のように降り注ぐ【サウザンド・レイン】が一斉に降り注ぐ。

 

「大盤振る舞いにあたしの武器入りよっ!」

 

「畳みかけるぞッ!!」

 

 ソードスキルが一斉に叩きこまれ、ゲージが削れる中で俺は静かに武器を変えながら迫る攻撃をかいくぐり攻める。

 

【ぐっ、ぬっ………】

 

(お前は俺しか見ていないし想定していない。だけど)

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 キリトが猛攻する中、俺はいまはただターゲットとして囮をしていればいい。

 

「お前の敗因は他のプレイヤーなんて眼中にないことだ」

 

【グオオオォォォォォォォォォォォォォォォ―――】

 

 雄たけびと共にまた身体が大きくなる。今度はフィールドを壊しながら地面に落ちていく。

 

 シノンたちはUFG、俺は瓦礫を使い崩れる城の中で草原に出た。

 

 草原に出たら魔獣が巨大化して、記憶の最新版以上に大きくなった魔獣。

 

「まあ驚かない」

 

「ただでかくなっただけだろッ!」

 

 そう言って攻撃するクラインたちだが、甲高い金属音が響くだけでダメージが入らない。

 

「げっ!?」

 

「なんだ急に」

 

【なめるな人間め! 退魔の力が無いお前たちなぞ敵ではない】

 

 向かってくる魔獣に対して俺は擦り抜けるように避けながら、キリトを見る。

 

「まさか、シリカっ!」

 

 キリトが動いたのを見て、俺はシリカから離れるように距離を取る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 やっぱり向こうはゲームバランスを無視してテイルばかり狙ってくる。そんな中で彼奴は退魔の力と言った。

 

 急に俺たちの攻撃が効かなくなり、俺は彼から聞いた話を思い出す。

 

 本来彼の知る〝ゼルダの伝説〟は退魔の勇者が【退魔の剣マスターソード】を持って、女神の血筋である姫様と共に倒す物語。なら、

 

「シリカ、ゼルダ姫を」

 

「えっ、この子?」

 

「にゃーーーーーーーーっ!」

 

 シリカの懐から出て来た彼女は光を放ち、急に魔獣の身体に光が波紋のように広がる。

 

 その時、その波紋へマシンガンが入るとダメが入るのを見た。

 

「キリの字っ!」

 

「ああ、みんなあの光の波紋に攻撃を集中するんだッ!」

 

 全プレイヤーが集中攻撃する中、腕が四つに成り、どうあっても彼にのみ攻撃を止めようとしない。だが、

 

「俺たちを無視するなッ!!」

 

 その叫び声はユウキとアスナも同じであり、彼女たちと共にソードスキルを叩きこむ。

 

 ゲージはあと二つ。彼も自分が攻撃できるタイミングの時は攻撃している。

 

 だがついに魔獣はゲームを無視した。

 

「ッ!?」

 

 彼の周りを囲むように光の壁が現れ、魔獣は闇の粒になり、彼の前に人型に成って現れた。

 

「テイルッ!?」

 

 彼へと斬りかかる魔王。持っていた槍が斬り裂かれ、彼はいつものスタイルに入る。

 

 光の壁は空すら覆い隠し、ドーム状のフィールドが二人を囲む。

 

【退魔の剣すら持てぬ者がッ! これ以上の抗い、できぬと思えエエエエエッ!!】

 

 振り回される剣を防ぎながら、剣で弾くテイル。

 

 だがテイルはこの瞬間、笑っていた。

 

「無駄だ」

 

 俺はそう思いながらその戦闘を見る。何度も斬り込む彼の剣が魔王を捕らえ斬り裂く。

 

 奴は魔王だ。勇者の剣、勇者自身で無ければ倒さない。だけど、ここはゲームの世界だ。どれほど強かろうとダメが入れば俺たちが負けることはない。

 

 そして彼奴は〝アンノウン〟を持つテイル以外、敵視していなかった。だからこその敗北する。手に持つ剣が退魔の剣で無いことに油断している。

 

「彼は負けないさ」

 

 俺は、俺たちはそう断言できる。

 

「いっけええぇぇぇテイルうぅぅぅぅ」

 

「そこだやっちまええええええええ」

 

「マスター、そこですっ!」

 

「決めてくださいテイルさんっ!!」

 

 彼奴には勇者(ほんもの)に負けない、力がある。

 

「いっけええぇぇぇぇぇテイルッ!!」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

【認めん、認めんぞッ! 勇者で無い貴様が、我に勝つなぞ】

 

「そうだろうな」

 

 剣戟の中、俺は魔王を睨みながら同意する。俺は勇者では無い。ただ勇者の記録を体験したただの人だ。

 

 だが、その勇者から認められた人間であると断言できる。

 

「俺が勇者でないように、お前も魔王じゃない」

 

【ヌッ!?】

 

 剣と剣が激突し、魔王の剣を弾く。

 

「悪いがこの剣は俺が全てを預けられる鍛冶師が打った剣だ。けして折れないし、退魔の剣にも負けないッ!!」

 

 剣を弾き、盾を持つ手で突き飛ばす。

 

 吹き飛ぶ魔王に対して、身体をひねり、地面に倒れた魔王へ剣を差し込む。

 

【ガアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア―――】

 

「同じ偽物なら俺は勇者の偽物として、お前に勝ち続ける勇者に成ろう」

 

 ゲージは全てが消え、剣を引き抜き、静かに構えを、

 

【オワ………ラヌウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!】

 

 その時、光の壁が俺の剣と腕の間に現れた。

 

「なッ!?」

 

 無理矢理武器と俺を斬り裂き、ダメージとして腕が斬り落とされ、ゲージが無くなったはずのボスが傷口から闇を拭きだしながら剣を振り上げた。

 

「テメ」

 

【アアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ―――】

 

 横に飛び、斬りおとされた腕を見る。エフェクトで手首より先は無く、空いた手は盾を持つ手。籠手と一体化させているため握るための手はあるが、武器は、

 

「テイルッ!」

 

 その時、目の前に黒曜石の剣が横切る。

 

「ユウキっ!?」

 

 即座にキャッチして構える。ユウキの剣マクアフィテルを。

 

【ガアアァァァァァァァァァァァァァァァ―――】

 

 一閃。向かってくる魔王の首へと振り切る。

 

「―――」

 

 その一瞬だけ剣に光が宿っていた気がする。だがこれはきっと仲間がくれたものだと断言できる。

 

 首を斬られた魔王。それでも向かってくるそれにすぐに構え直し、

 

「ぶっ倒れろ、ここはお前の世界じゃないッ!!」

 

 そう言い魔王を両断、ぶった斬る。

 

 その時、暗闇と共に光が身体から溢れ、ついに魔王の身体は光の中に消えていった。

 

 しばらくの静寂の中、万雷の喝采が響き渡り、俺はユウキの剣を振るい、肩に乗せて向こう側を見る。

 

「………」

 

 ユウキの剣を投げた光の遮蔽だけが砕けていた。ユウキ自身も投げ渡せたことに驚く中、その背後、フィールドの端に誰かがいた。

 

「………まだまだってことか」

 

 目は良い方だ。そこにいたのはSAOの時代、さらに俺が幼い頃から稽古をつけてくれた存在であるのが見えた。

 

 彼に勝ったことを伝えるため、俺は剣を掲げる。

 

 彼もまた、剣を掲げ、光の中へと消えて行った………




偽者とはいえ、彼は勇者として魔王を仲間と共に討つ。そして少しだけ登場する勇者。彼も大切な仲間。

次回は平和になった世界で。お読みいただきありがとうございます。


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第58話・こうして彼は組み込まれる

繋げるがやらないよ。けしてアリスとユージオは出ない。

すまない、番外編を付けるから許してくれ………


「はい、はいでは………」

 

 男はある記録を見ながら上に報告する。

 

 今回のAIボスの暴走にて良いデータが取れた。

 

「アバター名テイル君か。キリト君と同じSAO帰還者(サバイバー)であり、ギルド《縁の下の仲間たち(ブラウニー)》のソロプレイヤーか。なら当たりか」

 

 彼は総務省の人間で、今回のイベントであるデータが正確なものであることを証明する実験を担当していた。

 

 かくして、〝アンノウン〟と呼ばれるデータは、正確無比のデータであることは決定される。

 

 あるプレイヤーの行動、データがそのデータと完全一致して、その他のプレイヤーが基準となるデータも取れたためだ。

 

「彼にもアプローチをかけたいが、彼の周りは固いな」

 

 そう苦笑しながら一部〝アンノウン〟データをコピーしておく。

 

 こうして彼らが知らないところで物語に繋がる話であった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 エンディングと言うものがある。壊れた城ではなく別の大きな屋敷、そこで大々的なパーティーが開かれた。

 

 パーティーは世界全体であり、お祭り騒ぎの中、勇者は魔王を討ち取り、冒険者たちは英雄になり、パーティーの主役となる。

 

「逃がしてくれ」

 

「秘宝を手に入れたプレイヤーはぜひって言ってるのよ。お願い、今回のボス戦でかなり怪しいところがあるから、少しでも盛り上げておきたいの」

 

 セブンからそう言われ、仕方なく秘宝の勇者として運営側からの出席依頼を受けた。

 

 結果、

 

「一人しかいないな」

 

「うんそうだね」

 

「あっははは………」

 

 どこからか聞こえる仲間の声の中、姫の隣にいる俺。これって放送されるらしいんだが、他のプレイヤーはどうしたんだろう。明日は平日だから出席できないのだろうか?

 

 ともかくシロから元に戻ったゼルダ姫が隣にいる中、周りに手を振り城下町を馬車に乗って一周すると言う拷問を受ける。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「テイルのことだから拷問って思ってるんだろうな」

 

 俺がそう呟きながら、彼を知る俺たちは苦笑いか頷くしかない。

 

 運営側はボス戦で起きたテイルとの一騎打ちや、その際に起きた出来事など、バグやエラーであると正式に発表した。ただし一部の情報、AI搭載型のラスボスにGМ権限を奪われたことなどは隠して。

 

 一部のことを素直に認めて、隠したいものから世間の目をそらすことで事なきを得て、いまはそれによるバッシング回避のため、セブンがこのお祝いに彼に頼み込むところからかなり忙しいのだろう。

 

「しっかしまあ、なんって言うか」

 

「ゼルダ姫さん、すっごい美人ですね」

 

 魔王にすり替えられていた頃は一瞬見たが、こちらの方が可愛らしい顔をしている。年齢はテイルくらいだろうか? 綺麗な長い金髪のお姫様。クラインが鼻の下を伸ばしている。

 

 周りのプレイヤーに感謝の言葉を述べながら、いまは彼と共に町を凱旋していた。

 

「………けどさ」

 

「少しだけ、彼、近くない?」

 

「そうか?」

 

 俺はよく二人の方をよく見た。ゼルダ姫は頬をうっすらと赤く染めて、彼の隣で手を振る。よく見ると心ここに非ずと言う顔の彼の手の上に手を置いていた。

 

「むむむっ」

 

「テイルったら………」

 

「む~」

 

「彼奴はもう」

 

 アファシスを始め、ユイやクレハ、レインとティアたちが凄い顔をしていた。彼は本当にNPCにモテるな。

 

 だけどユイの反応はその、な………

 

 ともかく今日はお祝い騒ぎの中、彼は疲れた顔でパーティーに付き合い続けた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「………疲れた」

 

「お疲れ様」

 

 現実世界。彼は桐ケ谷和人と朝田詩乃をカフェに呼び、今回の件について情報をまとめ上げるつもりだ。

 

 セブンもとい、運営側からの依頼で必ず秘宝を手に入れたプレイヤーとしてインタビューなどを受けて欲しいとのこと。メディアからも、凄腕のプレイヤーとしてテイルは話題に尽きないネタらしい。

 

 いまMMOストリームなどからのインタビューや、リアルでのインタビューまで頼まれてメッセージボックスが知らないものばかり。

 

「まだまだ頑張らないといけないってのが辛いな」

 

 ティラミスと紅茶を楽しむ詩乃とミルフィーユを食べる和人。ともかくと区切り、テイルのVR活動はしばらくメディア対応になるらしい。

 

 それとセブンから聞いた話。それは、

 

「〝アンノウン〟についてだけど、これは規制がかかるらしい。今回の件と良い、このデータもブラックボックスとして認識された」

 

 使うには使うが、理解できる範囲でのみ利用する。カーディナルと言う未知のシステムと同じ扱いで、今後の研究材料扱い。カーディナルは今後、このデータをどう扱うかは不明だが、今回のように使用されることはないだろう。

 

「仮想世界であるゼルダの伝説も、SA:Oと繋げたりするらしい。今後はSA:Oからあの世界へログインできるのは嬉しい限りだ」

 

「確かに、あのままあの世界が消えるのは寂しいもんな」

 

「大変だったぜ、ずっとゼルダ姫とエスコートするの」

 

「まあ、あなたの場合、目で見てわかるけどね」

 

 なにか言いたげに詩乃は非難する目でこちらを見る。どういうことだ?

 

「彼女、すり替わっている間の記憶、猫の記憶はあるの?」

 

「あるって設定らしい。だからかな? 俺に対して親しい反応を返してくれる」

 

「………あなたキリトと同じね」

 

 そう睨んできた。それになんのことだと思い、和人も急になんだと言う顔をする。詩乃は女心が分からない二人に対して呆れながら、新たに紅茶を頼む。

 

「ま、まあしばらくは全ゲームでログイン可能なんだし、気にすることではないか」

 

「そうだな。ミニゲームとか色々あるし、まだあの世界で遊びそうだ」

 

 そんな話の中、詩乃は露骨な話の替えにため息をつき、それで彼女は静かに尋ねる。

 

「聞きたいことがあるのだけど」

 

「なんだ?」

 

「あなたはその、このままでいいのかしら?」

 

 それは転生したことを話すかどうか。和人もまた少しだけ真剣になる。明日奈たちが少しだけ察していて、彼は考える。

 

「いまさら死んだことや、転生したことを伝えても関係は変わらないだろう」

 

 それくらいは分かる。おそらく自分の知る仲間たちはそんな話を笑わず、ただ自分が抱える話を信じて、そして受け入れる。そこには彼が幸せになって欲しいと願った少女もいるのも分かる。

 

 それでも話すタイミングは逃しているのは確かであり、少しだけ詩乃たちから視線を外し、思い出すように目を閉じた。

 

「俺があの世界にいた頃から、俺は夢の世界で現実として、異世界を冒険した。勇者の体験、記録をなぞるように。現実と言う形で無限に思える時間、SAO事件に備えていた」

 

「………それは」

 

「火山地帯で足を踏み外して溶岩に落ちることもあった。極寒地帯で肌が焼かれて、凍てつく川に飲まれること、雷に打たれたり、刃物で切られたりすることだって体験した」

 

 それら全ては、SAO事件に生き延びてなお、同じプレイヤーを救うために必要なことだと言い聞かせてながら旅をしていた。

 

「五歳の頃から本格的に始まった備えは、本当に被害者を減らしたのか分からない」

 

「………」

 

「低年齢プレイヤーの保護は成功していたのは事実だが、俺が望んだのは被害者の救済だ。それでも被害者の数は減らなかったし、心に傷を背負ったプレイヤーがいる」

 

「あなたは全てのプレイヤーを救えるとでも思ってたの」

 

「そう思わなきゃ、やっていられなかった」

 

 詩乃が厳しい声で言った言葉に、即座に返す彼は真剣だった。

 

 和人も僅かに考える。もしも実際に痛みとして彼が言った全てを体験しているとしたら、彼は何回死んで、何回魔王に挑み続けたのだろうか。

 

「なにより俺は木綿季を救いたかった。家族を救いたかった」

 

「あの子はいま幸せよ、それを否定するの」

 

「確かにいまは幸せだ。だけど俺が夢見て願った幸せじゃない」

 

「………怒るわよ」

 

 詩乃はそう呟く。それでも彼はそれだけは変えられないのだろう。静かにカフェオレを飲みながら呟いた。

 

「………分かっているんだ。だけどな、俺が気が付いたときには全部がまだ決まってもいない事態なんだ」

 

 SAO事件が起きる前、木綿季の家族が死ぬ前。

 

 もしかしたらなにか変わっていた。そんなことは無いのは理解できる。できるのにできない。

 

「変えられないと分かっていても、できることはしたんだろうけど、俺はいまの結果を受け入れられない。こんな性格なんだよ俺は」

 

「………損な性格だな」

 

「仕方ないさ。それでも過去は変えられない。だからいまも俺がしたいこと、できることをして望みを叶える」

 

「望みって」

 

「木綿季を幸せにする。そして仲間が関わるのならVR事件も解決する」

 

 和人を見ながらそう宣言して、和人は苦笑いする。

 

「まるで俺が関わるようじゃないか」

 

「俺の知る物語の主人公はお前だから、お前を中心に問題は起きる星の下だよ」

 

「ふざけるな、そんなものになった覚えは無い」

 

「キリトガールズ」

 

「不名誉だっ」

 

 詩乃だけはそのやり取りの中、和人と彼を睨みながら見る。

 

「あなたたち二人とも同じでしょ」

 

「ともかく、文句を言うなら和人も変なゲームや事件にほいほい首を突っ込むな」

 

「言われ無くてもそうするよっ。ったく………」

 

「後は彼女いるのに他の女の子と仲良くするな。よくて直葉だけ」

 

「なに言ってるんだよっ!」

 

「あんたたち二人ともに言えることよ。女の敵」

 

 詩乃はそう言いながら和人を睨む。

 

 そんな話の中、

 

「?」

 

 シノンはなにか和人のポケットから、ぶつりと言う音が聞こえた気がした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 彼は和人たちに奢ってからとことこと歩き、木綿季のいる病院へと向かう。

 

 いまはVRにログインしているらしいので先生と詳しい話を聞く。

 

「本当ですか」

 

「ええ。最近木綿季くんは最近身体の調子も良いですし、新しい薬も良好です。もしかしたら無菌室から出られる日も遠くありません」

 

 その話を聞く、いまの病気の容体も回復しつつある。

 

 奇跡的なことであり、木綿季の病気の特効薬と言うわけではないため油断できないが、そこからちゃんとした薬ができるか、それで木綿季が治る可能性がある。それだけが救いだ。

 

 その話が終わり彼は病室の前に来る。まだこの話は話せない。実際まだ容態によって変わることなのだから。

 

 それでも希望がある。彼が望んだ結末とは違う結果だが、それでも望んだ願いを叶えられる。

 

 その願いはもういま、自分の中で確かにある願いなのだから。

 

「木綿季?」

 

 話しかけるが返事が無い。それに首を傾げていると、

 

『テイル。ちゃんと話したい』

 

 そう言われた為、彼は隣の部屋に備えられているアミュスフィアで木綿季だけの部屋にログインした。

 

 仮想世界ではあるがここは木綿季、ユウキが治療するためだけに創り出された部屋。

 

「ユウキ」

 

 そこにいる姿はリアルの姿であり、向こうのユウキもリアルの姿だ。

 

 そっぽを向きながら枕を抱きしめているユウキ。

 

 何も無い空間ではあるがウインドウが開いており、映し出されているのはユウキの病室と、

 

「?」

 

 それはまるでポケットの中のように見えた。それからキリトの声が聞こえる。

 

「………ユイかストレアか」

 

 それで全て察する。ユウキたちはおそらく話そうとしないから、和人の携帯にアクセスして、その映像と音声を拾っていた。

 

 それを聞かれるとごめんと呟くユウキ。彼は頭をかきながら近づく。

 

「………俺にとって初めはこの世界は小説に似た世界だった」

 

 そう言いながらユウキを背後から抱きしめる。一瞬びくっと震わすがユウキは身体を預け、抱きしめられた。

 

「なんで俺がこんなことしているか分からなくなったし、SAO自体ログインしなければいいとさえ思った」

 

 そう言いながら座り込み、ユウキをただ抱きしめる。

 

「それでも、やっていることは正しいと思いたくってしてたし、実際それが最善だったんだろう。まあ、それでも納得できないことばかりだった」

 

「………そうなんだ」

 

「………ユウキ」

 

 ギュと抱きしめながら、静かに言う。

 

「俺は勝手にお前の幸せを願って、失敗した。あの時の俺は覚悟もなにも足りなかった」

 

「………」

 

 ユウキは少しだけ顔を上げ、震える唇で静かに、

 

「いま、は………」

 

 振り向くユウキ。腕の中にいる少女の顔を見ながら、彼は静かに、

 

「俺はお前に幸せになって欲しい。だからいまも変わらない、勝手に俺は願う。お前が元気になったら、まずは母さんたちよりも先に抱きしめるつもりだ」

 

 その言葉に頬を赤くして、ユウキは微笑む。

 

「ほんと? ボクが一番大事?」

 

「ああ」

 

「………レインやクレハよりも?」

 

 その言葉に首をかしげたが、彼は迷いなくああと頷く。そうすると頬を膨らましてしまうユウキ。

 

「ユウキ?」

 

「………なんかもやもやする………」

 

 そんなことを呟きながら、しばらくこのまま、そのままと言われる。

 

 結局彼は仲間たちに抱えているものを知られてもなにもなく、ただストレアがキリトに怒られ、反省している様子だけであった。

 

 いまはそれだけ、それだけが彼の救いであり、守りたいものである。




エンディングを作るか。

みんなに受け入れられて、また少しトラウマが晴れたテイル。彼は本名を呼ばれる日が来るのか?

それでは、お読みいただき、ありがとうございます。


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そーどあーと・れじぇんどおふらいん

アスナ「ニュースヘットラインです。本日の情報は、VRゲーム超コラボイベントである『ゼルダの伝説』が見事プレイヤーたちにより攻略されました」

リーファ「プレイヤーたちはこれに歓声を上げ、いまだ町はお祭り騒ぎ。最後の一撃を決めたのは、秘宝を手に入れた勇者であるプレイヤーさん。見事魔王との一騎打ちに勝利。ゲームをクリアーしました」

アスナ「その後、彼は姫様であるゼルダ姫と共に町を回り、お互い仲睦まじい、プレイヤーの中にはNPCとプレイヤーのカップルと言う話がある模様。詳細は不明です」


アスナ「皆さんこんにちは。そーどあーと・おふらいんの時間です。司会のアスナです」

 

リーファ「同じく司会のリーファです」

 

キリト「解説のキリトです」

 

アスナ「この番組は、今回、超コラボイベントである『ゼルダの伝説』を初め、数多くのVRゲームでその名を轟かせる謎のプレイヤーを、皆さんと共に迫る番組です」

 

リーファ「それでは、今回のゲストであるプレイヤーをご紹介いたします。どうぞ♪」

 

 ……………

 

リーファ「えっ、えっと………どうぞっ!」

 

 ……………

 

キリト「えっ? どうしたクライン?」

 

アスナ「きっ、緊急速報ですっ。現在ゲストである謎のプレイヤーテイルは、番組出演を直前でそのことに気づき逃亡っ! 現在GGO内で、GGOプレイヤーたちに包囲されながら逃亡中。いま現地映像はいります」

 

キリト「なにしてるんだ彼奴っ!?」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

シリカ『こっ、こちら現場のシリカですっ! 現在GGOプレイヤーたちに緊急クエストで、皆さんテイルさんの捕縛に参加中。テイルさんは《アルティメットファイバーガン》、略してUFGを利用し、巧みにステージを縦横無尽に移動。現在はフィールドで発見したビークルに乗り、現在雪原地帯を走っておりますっ!』

 

シノン『逃がすなっ! 現実の肉体はすでに押さえているわ。そのままHPを0にして捕まえなさいっ!』

 

テイル『敵しかいないっ! だが、番組なんか出てたまるかッ!!』

 

シリカ『げっ、現場からは以上ですっ!』

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

キリト「いきなりどうするんだっ!? このままスタートしていいのかよ!?」

 

アスナ「えっ、えっと。とりあえず落ち着こう。まずは、このコーナーです」

 

『謎のプレイヤー、テイルの実体』

 

キリト「本人いないところでこの話か……」

 

アスナ「彼のことはSAOから謎が多いわよね」

 

リーファ「一緒に戦って分かるのは、頼もしい仲間ですね」

 

アスナ「ええ。剣を初め、両手剣、槍に投擲武器。色々な武器を使えるわよね」

 

キリト「ああ。ALOも魔法使ったりしていて、彼の基本ステータスはバランス型らしい」

 

アスナ「ああうん。必要に応じてアクセサリーとかで底上げしているんだよね」

 

キリト「本職じゃないけど、メイジのいない俺たちのパーティーじゃ助かってるな」

 

リーファ「タンク、アタッカーも得意分野。苦手なポジションってヒーラーでしたっけ?」

 

キリト「戦闘はやっぱり前衛が得意分野だよな。高いプレイヤースキルで足りない速さを補う。敏捷をメインで伸ばす俺と互角なんだよな」

 

アスナ「SAOはソロプレイヤーで、他のプレイヤーと一切交流は無かったみたいだね。同じギルドのレインさんを初め、関わる人はごく限られていたみたい」

 

リーファ「GGOじゃメインアームで光剣とスナイパーライフル、アサルト二刀流。プレイヤースキルで隠密スキルの代わりに、プレイヤーに静かに近づいたり、狙い撃ったり簡単にやるんですもんね」

 

キリト「なにげにプレイヤースキルの高さは、俺たちの中で一番だろう………(体験なんていうものがあるんだから当然だろうけど)」

 

リーファ「ああ♪ 後テイルさんがいると、リアルラックが高くなるんですよね♪ この前、一緒に買い物行った時、レアアイテムがショップに並んでたんです♪」

 

キリト「なっ、なんだってっ!? 今度彼奴と掘り出し物巡りするか………」

 

アスナ「っ!? ここで緊急速報ですっ! ついにGGO内でテイル氏が追い詰められたようです。GGO内で話題のスコードロンやチームに囲まれ、プラズマグレネードの雨あられ。スナイパーライフルを使用し、空中でグレネードを爆発させると言う離れ業を使うも、弾切れを起こして逃亡。ついに茂みの中に隠れていたところ、ピナ氏に発見され確保されました」

 

リーファ「ピナナイスっ♪」

 

アスナ「それでは、スペシャルゲスト。テイルさんです。どうぞ♪」

 

テイル「痛いっ、ピナ突かないで。もうログインしたっ! 俺出演依頼、受けてないのに」

 

アスナ「では、ショートコーナーを挟み、次に進みましょう」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

ユイ「『ゼルダの伝説』の舞台はイベント後、ソードアート・オリジンの一部のフィールドに転移門を設置。今後SA:O内で遊ぶことが可能になります。設定としては領主の娘であるミファーさんと、ゼルダ姫が仲が良くなり、国と領地での交流が始まるようです」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

アスナ「というわけで、今現在、VRゲームで話題を掻っ攫うプレイヤー。テイルさんです」

 

テイル「………テイルです」

 

キリト「縄でぐるぐる巻きにされてピナを頭に乗せて………大変だな」

 

テイル「なら解放してくれ……大学でメールボックス確認して、いつもこの手の物で困ってるんだ」

 

キリト「すまない。俺も我が身が可愛いんだ………」

 

アスナ「それでは次のコーナーです」

 

『悩み相談コーナー』

 

キリト「プレイバックシーンは無いからな。このコーナーは長めにやります」

 

テイル「悩み相談って………俺、リアルでも多いんだが」

 

アスナ「そうなんですか?」

 

テイル「セブンからは何かの計算と書類の整理。クラインからは女子大学生の紹介して欲しいとか」

 

キリト「彼奴なにしてるんだよ………」

 

テイル「後、学生みんなの宿題だ。ここ全員を初め、ほんと全員から相談メールが来る。特にキリト」

 

キリト「い、いやだって。テイルからの説明は分かりやすいから、ついやばい時、頼るんだよ」

 

アスナ「あっははは……。では最初の相談者はこの方です」

 

侍大将『ここ最近、自分以外の男子仲間ばかりモテていて悲しいです。一人は彼女がいるのに女の子と仲が良いし、もう一人はふらふらしていてモテモテで。その上現実でそいつ、綺麗な女の人と飲んでてました。自分も彼女欲しいですっ!』

 

テイル「えっ? これってクラインか?」

 

キリト「彼奴なにしてるんだ………。っていうか、綺麗な人と飲んでたって?」

 

アスナ「わたしたちの中で大人って、テイルさんとエギルさんだけだよね?」

 

テイル「ん~………俺かな? 綺麗な女の、はっ!」

 

 カキンッ、シャキンッ、ザンッ!! バッキューン。

 

キリト「縄抜けして向かってくる短剣や狙撃を回避したっ!」

 

テイル「危なかった。っていうか最後っ! 狙撃ってシノンさん、まだ俺を見張ってるっ!?」

 

キリト「全て防いだ、だと………」

 

アスナ「ユウキと言うものがありながらなにしてるんですかテイルさんっ!! 罰も防ぐなんて」

 

テイル「待て待て。まず俺は酒は飲んでいないっ! ジュース、麦茶! 飲み会に行ってもその人はみんなの知っている人のリアルだ」

 

リーファ「リアルの大人の人って?」

 

テイル「ツェリスカだっ! 最近、仕事の所為でGGOにログインできないから、愚痴くらい聞くことはできるから誘ったん………はっ!?」

 

 カンッ、カキキキキキキ………、バッキュンキュンっ!! カッキーン。「ぎゃーっ!」「キリトおおぉぉぉぉぉぉ」。バーーンっ!!

 

テイル「はあはあ……なんで攻撃されたんですかっ!?」

 

アスナ「全部防いで、外から攻撃が降ってきたね」

 

リーファ「まあテイルさんだからね。もう、なんでテイルさん、そうふらふらしてるんですか?」

 

テイル「ふらふらってなんのことだよ? ともかくお酒飲むから、今度エギルの店でって話になってるから、クラインも呼ぶか」

 

アスナ「まあそれで問題ないですね。時間帯によっては、わたしたちも参加できそう」

 

キリト「それでは……次の人、どうぞ………」

 

闇妖精剣士『テイルは普段はなにをしていますか? リアルの事情が知りたいです』

 

テイル「ん? 物凄くまともなものだ」

 

キリト「ああ、物凄くまともだ。俺も気になるんだけど、テイルは普段はなにしてるんだ?」

 

テイル「普段? 平日は大学行って、家に帰る。時間によっては勉強して、日によっては家事の手伝い。シノンが家に居候になったから楽になったな」

 

アスナ「そうですか」

 

テイル「昔からバイトはしてない。ただ物を買ったりはあまりしてないから、子供の頃から金はある。最近はセブンから書類の整頓とか、プログラムの手伝いしてる」

 

リーファ「テイルさん無駄使いはしないですもんね」

 

テイル「GGOじゃヒカリとホームがあるから、椅子とかの家具を買ったりする。現実ではバイクとかに金は回している。それでもあまり使用しないな」

 

キリト「休日はなにしてるんだ?」

 

テイル「ユウキの見舞い、レインのイベント。キリトたちとの付き合いじゃ勉強見たりする。もしくは飼い猫と共に縁側で時間を過ごす」

 

リーファ「時々テイルさん、年寄りみたいですね」

 

テイル(中身はかなり過酷な環境過ごしたからな………)

 

アスナ「趣味はゲームですが健全に過ごして、友人関係も問題無し。バイトなどの収入あり………これは次の質問に繋がりそうです」

 

キリト「次? それでは次の相談です」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

ユイ「テイルさんのテイルは、tailの尻尾を意味するものでなく、tale、物語と言う意味です。それを気付いた方から、物語の剣士など、異名が変わる時が多いです。スペル間違えていないか心配………えっ? そこまで読まなくていい? 分かりました?」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

アスナ「それでは最後の相談です」

 

代弁する者『テイルと言うプレイヤーは多くの女性プレイヤーと仲が良いようですが、誰が好みですか? 母もとい、私どもは心配しています。はっきりして欲しいです』

 

テイル「母さんっ!? なんで本編と全く関係が無い母親が出て来るっ!」

 

キリト「とんでもないな………」

 

リーファ「相談相手についてはいまはいいとして、実際はどうなんですか?」

 

テイル「どうって……俺、まだ大学生だし、別段焦ることでもないんじゃ。相手になる子はいないし」

 

キリト「女性目線からして、テイルはどうなんだ?」

 

アスナ、リーファ「「えっ?」」

 

アスナ「家事ができて、経済面もしっかりしている。友人関係も良好で、勉学もしっかりしている」

 

リーファ「趣味に無駄にお金をつぎ込む人じゃなく、顔も良く、運動神経も良い」

 

アスナ「テイルさん、誰かいないんですか? むしろいないことが不思議です」

 

テイル「はっきり言うな………。少し前まで、こうやって話したりできる人間じゃないし、良好的な関係はVRゲーム関係しかいない」

 

アスナ「あっ、ここで相談者から追加メールです。どうぞ」

 

相談者『1・レインちゃん。2・ユウキちゃん。3・クレハちゃん。誰だ息子よ』

 

テイル「もう隠す気も無いなっ! なんでこの三人なんだ?」

 

キリト「三人ともテイルと仲が良いけど、実際どうなんだ」

 

テイル「んなわけあるか。レインはただの友達、ユウキは俺にとって大切な子。クレハちゃんは妹みたいなものだ。他の子もだいたいそんなものだし、恋人になるなんて絶対に………はっ!」

 

キリト「嫌な予感っ!」

 

「あーーー」「ぎゃーーーー」「なん」「でっ!」「俺だけ」「あああああああ――」

 

テイル「はあはあ………弾丸に剣に手裏剣のようなメールに魔法。キリトが盾になってくれなきゃ危なかったぜ」

 

キリト「た、盾になったつもりは、ない……がくっ」

 

アスナ「キリト君邪魔しないでっ! テイルさんっ! ユウキと言う者がありながら、どうしてそうふらふらしてるんですか!」

 

テイル「なに言ってるんだか分からない」

 

リーファ「テイルさん。女性問題に鈍感なところ除けば、完璧超人なんですけどね」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

アスナ「残念ながらお別れの時間が近づいてきましたっ!」

 

テイル「キリト、大丈夫か?」

 

キリト「なんで俺が………」

 

アスナ「テイルさん、最後に、本当に恋人はいないんですか?」

 

テイル「いないよ。そもそもそんなの、考えたことは無い。いまはユウキが大事だし、あの子が大切だから、時間はVRか見舞い。そっちに割きたい」

 

アスナ「うう~。まあそういうことにしておきます」

 

リーファ「いまはみんなのお兄ちゃんってことですね」

 

キリト「ああ。頼りにしてるぜテイル」

 

テイル「ああ」

 

アスナ「それでは皆さん」

 

全員『お読みいただき、ありがとうございます~』




『………まずい、詩乃ちゃんからの好感度が酷い。これはどうにかしないと………』

 そして手を叩き、あることを思いついた。

『任せてくれ。君が転生してよかったと思うようにするから』

 そして光が当たりを照らし出した………


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第59話・神様の贈り物

 それは突然の事であった。

 

 いつものようにユウキたちと仮想世界を巡り、ログアウトする時間になる。後はそのまま寝るだけだ。

 

 ただそれだけのはずなのに、いつの間にか俺はここにいた。

 

「………森?」

 

 一瞬、仮想世界にログインしたのかと思い、ウインドウを開こうとしたが何も起きず、それでも………

 

「この格好は……SA:Oのアバターテイルの格好だ」

 

 ここはどこだろう? 夢の中にしては意識がはっきりしている。

 

 森の中だろう。日差しが差し込む光景は神秘的であり、気のせいが何かの話し声が聞こえる。それも聞いたことのある話し方をしていた。

 

 しばらく歩いていると、そこにそれは眠るように、それでも異質の存在感を放つ。

 

「マスターソード?」

 

『ほっほっほ』

 

 その時、老人の声が森に響く。顔を上げると大きな大木があり、それはこちらを見ていた。

 

『うたた寝していたようじゃのう。久しい、そう言っておくべきじゃろて』

 

「デクの樹様」

 

『ふむ………』

 

 デクの樹様。勇者リンクと深く関わるその精霊が話し出すと共に、この迷いの森の住人であるコログ族も木々の間から姿を現す。

 

 その光景を見て俺は怪訝な顔で周りを見つめ、頭に付けた《アミュスフィア》を外そうとしたりするが、それが無い。

 

 ならばこれは、体験なのだろうか? だがすぐに首を振る。体験ならば自分は勇者に成り、この場にいるはずだ。けしてテイルと言うアバターであるはずはないのだ。

 

「ここはなんだ? 俺に何か用なのか?」

 

 俺は全ての疑問を後回しにして彼の賢人に聞くことにした。

 

 彼は僅かに微笑み、静かに問う。

 

『何か用があるのはお主では無いのか?』

 

「俺はもうこの世界に関わる理由はありません」

 

『理由が無ければ関わってはいけないのか?』

 

「俺はこの世界にとって偽物です」

 

 それに苦笑しながら、僅かにマスターソードが輝いた気がした。

 

『果たしてお主は偽物かのう? 試しにその剣に触れてみてはどうか?』

 

「まさか、俺に資格は無い」

 

 そうだ資格なんて無い。俺は勇者でありたいとは思わない。

 

『じゃが願いはあるはずじゃ』

 

 心の中を見透かされたようにデクの樹様はそう言い、俺は仕方ないと肩をすくめ、マスターソードの前に立つ。

 

 静かにその剣を見て、柄を握る。

 

 その時、光が辺りを包み込んだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 耳障りな悲鳴を響かせ、それは私へと光の槍を向けた時、辺りが光で包まれた。

 

 私、ここで死ぬんだ。姫様や彼を置いて、ごめんなさいお父様、シド。そう思った時、

 

「はぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 その剣士は光の中から現れ、その槍を弾き、辺りを見渡す。見たことの無い人だ、耳は短くて、普通の人の雰囲気では無い。

 

「ここは、まさか、いや」

 

 彼が持つ剣、それはあの人が持っているはずの物だった。

 

「あなた、どうして退魔の剣をっ!?」

 

「………ミファー?」

 

 驚いた顔で私を見て、その時、ガノンの手先が氷のブロックを創り出した。

 

「危ないッ!」

 

 私が叫ぶとすぐに横に飛び、ガノンの手下を睨みながら、周りを見渡す。

 

「ここはなんだ? 俺に何が、くそッ!!」

 

 剣を構えながら、それでも相手の猛攻を剣で捌く。その様子はまるで彼のようだ。

 

「急いでここから、ルッタから脱出してくれッ!」

 

「それは」

 

「こいつを奪われるかもしれないけど、だけどッ!!」

 

 腰に下げた剣も抜き、二刀流で槍を弾き、それは私の方へと走っていく。

 

「いまここであんたが死ぬところなんて見たくないんだッ!!」

 

 そう言って私を抱き寄せて、ルッタの外に出る。その時に不思議な光の鎖を出す道具を使い、私たちはルッタの外へと脱出した。

 

「ルッタ………」

 

「GGOのアイテムが使えて助かった………」

 

 私はガノンの手下に奪われたルッタを見たとき、身体が濡れているのに気づいた。

 

 それは剣士さんの血だ。お腹を少し切っている。

 

「あなた、傷が」

 

「これくらい、まだ平気だ」

 

「ダメっ! じっとしていて」

 

 私が手をかざして治癒の力を使う。それよりも早く退魔の剣が光り輝いている。

 

「待ってッ!」

 

 私には分かった。この退魔の剣は本物である。そして私の下に彼を連れてきたように、退魔の剣は彼を別の場所に連れていく。

 

 まだ傷は癒えていない。だけど彼は優しく微笑み、

 

「ありがとう、おかげで楽になった」

 

 いまだ流れる血を見ながら彼は光の中に消えていく。

 

 そこにいたのはまるで彼のような剣士。そして彼のように不器用な人。

 

「あの人は一体………」

 

 私は困惑しながらも、いまは姫様たちの下に出向かなければいけない。彼もきっと、無理をしている。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ちッ! ここまでか」

 

 俺の守りを突破して、ガノンの手下は大量の熱を集める。どうやら俺はここまでのようだ。

 

 そう思い、それでも一矢報いようと考えると、

 

「でえやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 雄たけびと共に傷付いた剣士がルーダニアの背に下りて来た。

 

 腹から血を流しているが、それでも剣を振るい、ガノンの手下に一矢報いやがったが、

 

「お前さんっ!?」

 

「いまはここから避難しろッ! 勇者や姫が危険なんだッ!!」

 

「だ、だが」

 

「ここは俺が引き受ける。だから頼む………」

 

 その時、俺はこいつと初対面のはずだ。だがなぜかこいつの言葉は胸に響く。

 

 こいつは必至だ。何か分からないが、俺はこいつの言葉を信じたくなる。

 

「分かった。だがお前さんも一緒だッ!! こればかりは譲れねえぞ」

 

「………分かった」

 

 二本の剣を振るい、ガノンの手下へと構える。その一本は相棒が持っているはずの退魔の剣だが、いまは細かい事を気にしていられねえ。

 

「俺の守りでここから一気に脱出する。それまで守りを使うことはできねえが、攻撃はお前さんが弾いてくれッ!」

 

「ああッ!」

 

 大剣のようなもんを構えるガノンの手下を睨みながら、俺はこいつと共に一気にルーダニアを駆け出した。

 

 炎を斬り裂き、相手の武器を弾いて、俺たちはルーダニアから脱出する。

 

「ここまで来れば………ルーダニア」

 

 彼奴には悪い事をした。必ず助け出さなきゃいけねえな。

 

 そう思っていると、剣士の野郎が退魔の剣の光に包まれ出す。

 

「お、おいっ!?」

 

「俺は別の所に行きます。あなたは勇者と姫様の下に」

 

「待てッ!? お前さんその傷で」

 

「気を付けて」

 

 光の中に消える剣士。

 

 バカ野郎。気を付けるのはテメエの方だろうに。

 

 まるで相棒がもう一人いるような感覚で、俺は急いで姫さんの下に走り出した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 あーあ、もうダメ。羽根が傷付いているし、さすがに無理だな。

 

 弓の弦も切れて、これじゃもう………

 

 その時、ガノンの手下が悲鳴を上げて顔を抑えた。誰かが弓矢で射貫いた。

 

「は?」

 

「せいッ!!」

 

 剣で弾き飛ばして、それがいきなり現れた。彼奴の剣を持っている。

 

「誰だ君は!?」

 

「いまは答えている暇は無いッ」

 

 そう言って彼は僕を担いで、メドーの外へと飛び出した。

 

 なぜか《パラセール》をなぜか持って、傷付きながらしゃしゃり出る。まるで彼奴みたいだ。きっと好きになれないね。

 

 ともかくメドーから脱出して、僕はそいつを見た。

 

「僕よりボロボロじゃない。君、一体何なの?」

 

「知らない。だけど………止まれない」

 

 そう言って退魔の剣が光り輝く。彼が弓矢を渡す。うん、これは良い物ではあるね。

 

「………死ぬ気かい?」

 

「そんな気は無い」

 

 彼は光の中に消えた。ああ嫌だ。きっと彼とは仲良くなれないね。

 

 ともかく、メドーはガノンに奪われてしまったけど、やることは変わらないか。

 

 まずは姫様と彼奴の所にでも行ってやらないとね。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 悲鳴のような雄たけびを上げて、素早く動くそれには私の雷は効かない。

 

「こりゃまずいねえ………」

 

 向こうも雷を自在に操って攻撃してくる。私には雷を防ぐ手は無い。

 

「ここまでか………」

 

 高速が奴が動いた瞬間、振り下ろされる剣が見えたが反応できない。

 

 だけど………

 

「なっ………」

 

 ガノンの手下が持つ武器を、退魔の剣が阻んでいた。だけど退魔の剣を持つ者が違う。

 

「ぐっ……ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 雄たけびを上げて無理矢理剣を弾き、感電しながらも吹き飛ばし、私を見る。

 

「あんたは一体………」

 

「ナボリスを置いて、ここから避難しろ。姫や退魔の勇者が危険だ」

 

「それは………」

 

「こいつは強いッ! 頼む………」

 

 確かにいまの状態でこいつと戦うのは得策じゃないね。

 

「あんたも傷を負っている。分かったよ、きっかけは作るから、彼奴にきついの頼むッ!」

 

「分かった」

 

 雷を降り注ぎ、その隙間を閃光のように飛び立ち、奴を吹き飛ばした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 一人の勇者が姫君を守る為、無数のガーディアンを相手に力尽き、姫は最後の瞬間に力に目覚めたときだった。

 

 いまだ動くガーディアンに雷鳴が降り注ぐ。

 

「この雷は」

 

「御ひい様っ!!」

 

 姫はその言葉が信じられず、雨が降り、泥だらけの中で目に涙は貯まる。

 

「なに? 彼、寝てるの? こっちだって寝たいのにのんきなもんだねえ」

 

「相棒ッ! 姫さん! 無事か!?」

 

「姫様っ! リンク!」

 

 死んだと思われた彼らが現れ、姫様は首を振り、それでもすぐにいまのいままで自分を守っていた勇者を支えます。

 

「彼が、ミファーお願いしますっ!」

 

「はいっ!」

 

 ミファーの癒しが勇者を包み込む時、姫は彼の手にある退魔の剣を見つめた。剣から声が響いたからだ。

 

 その言葉は………

 

「勇者を助けたいんなら任せてくれ」

 

 そう言って彼と同じくらいボロボロの青年が現れた。傷付いた退魔の剣と同じ、退魔の剣を手に持ち、勇者に近づく。

 

「それは退魔の剣……なぜあなたが」

 

「………」

 

 青年は勇者を見ながら、傷付いた剣と自分が持つ剣を入れ替えた。

 

 青年が持つ退魔の剣が光り輝き、その光が勇者を包み込むと共に彼の傷を防ぎ、勇者は目を覚ます。

 

「ここは………」

 

「リンクっ!」

 

 全員が勇者の名前を呟き、彼の傷が癒えたことを喜ぶ中、どさっと言う音が鳴り響く。

 

「!? これは………」

 

 青年はまるで戦い続けたように傷付き、持っていた剣を支えにどうにか気絶することはしなかった。

 

「あなた、まさか!? 彼の傷をあなたは」

 

「………偽物にしてはよくやったな」

 

 そう言いながら、傷付いた退魔の剣を持ち上げて立ち上がり、勇者の傷を引き受けた青年は立ち上がる。

 

「あなたは」

 

「何者でもいい、勇者の偽物ができる範囲のことをしただけだ」

 

「にせもの………あなたは」

 

 その時、彼が持つ傷付いた退魔の剣が淡い光に包まれる。光の中で彼は消え、英傑たちと姫たちは困惑しながら彼がいた場所を見つめた。

 

「あなたは、まさか………」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「マジで痛い………なんなんだこれは」

 

 いつの間にか森の中にいた。傷付いた退魔の剣を持ち、台座に差し込み、やっと倒れることができた。

 

 夢にしては傷は痛いし、疲労が現実的過ぎる。体験なのだろうか? 彼はそう思いながら限界が近づいている。

 

「なんだっていいか……もう役目は終わった」

 

 役目と言ってもなし崩しに行動した、自己満足、勇者への借りを返す感覚。なにが変わると言うわけではないのに。

 

 傷から血が流れ、ここ最近忘れていた痛みを感じながら、意識が遠のく。目が覚めればいつもの家、布団の中だろう。そう思いながら目を閉じた。

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 意識が遠のいてから、身体が動かず、それでも優しい光に照らされている。

 

 目を開くと、そこにはゼルダ姫がいた。

 

「気が付きましたか?」

 

「………なんで」

 

 周りには英傑たちがいて、全員、彼が目を覚ましたことで安堵する。

 

「君のおかげで、神獣は取り戻すこともできた。厄災も倒すことができた」

 

 勇者がそう言いながら彼を見て、彼も勇者を見る。

 

 彼は何が何だかわからず、ミファーの癒しを受けながら、退魔の剣を見た。

 

「君が何者か彼女から聞いた」

 

「………なら分かるだろ? 俺はあんたの偽者だ、これがなんなのか分からないけど、行動したのは単に借りを返したかっただけだ」

 

「それでも、ありがとう。君のおかげで仲間を失わずに済んだ」

 

「………そうか」

 

 勇者は退魔の剣を柄を向けて渡すように差し向けて、彼はそれを見ながら身体を起こす。

 

「君に、代表して伝える」

 

「………なにを」

 

「君も俺の仲間だ、テイル」

 

「………ありがとうございます、勇者リンク」

 

 そう告げられ瞬間、光が辺りを包み込み、目が覚めた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「変な夢見た」

 

 彼は起きると共に休日であり、やることもないのでアミュスフィアに手を上す。

 

「………まさかな」

 

 レインの剣でかなり無茶した。だがそれは夢である、体験でも引きずることは無い。

 

 そのはずだったが………

 

「なにに使ったのよこのバカっ!」

 

「………」

 

 なぜか傷付いている剣に、レインにこっぴどく怒られる。

 

 彼は首を傾げながら、まあいいかと考え込む。

 

 退魔の剣を持つ勇者、その隣に物語の勇者が付け加えられる。

 

 そんなことは知らない彼は、今日も絶対負けない剣士たちと、仮想世界を過ごしていた。

 

「あれは夢なのかなんなのか、まあなんにしても」

 

 悪くない。そう彼は呟き、仮想世界を飛び回った………




この先どうするか、活動報告の方でアンケート取ります。

それではお読みいただき、ありがとうございます。


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夢を見る島編
第60話・ナイトメア・スタート


遅れて申し訳ございませんっ!!

あれだね、馬鹿みたいにこんなん思いついたからやろうとか、ノープランはダメと言うことはよく分かった。

と言う訳で、夢を見る島編、やりたい放題にしまくっています。テイル君は頑張ってくれるでしょう。

それではどうぞ、お楽しみください。


 それはある日の夢である。

 

「?」

 

 少女は首を傾げながら回りを見る。気のせいか、パジャマ姿の知り合いたちがいる。

 

 二つの剣を振るい、【黒の剣士】と呼ばれるキリト。自分にとって姉のような人、アスナ。

 

 それだけではなく、彼らの仲間であるクラインたちもいる。ただ、いまの自分と同じ、意識があるが喋れず、身体も動かない。

 

(なんだろうこれ……?)

 

 なぜと言う思いの中、周りを見る。

 

 青い空、白い雲。砂浜が広がり、一本の剣が海と砂浜の間に突き刺さっていた。

 

 ザク、ザクと砂を踏む音が聞こえる。

 

 一人の青年が訪れる。緑の服装であり、綺麗な金髪。耳が長く、エルフ、またはALOのシルフのような青年だ。

 

【ああ、今度はこれか………】

 

 ノイズが走る。

 

 誰の声か分からない。それは緑の青年の影のように思えた。

 

 顔だけが分からない。それは爪で喉をかきむしり始める。

 

【ああ、アア、嗚呼ッ!! アアアァァァァァ―――ッ!】

 

 喉から血が滲み、爪が赤く染まる。

 

 顔中をかき出し、血が流れるまで続けた。

 

 髪をむしり取り、青年から絶望を感じ取る。

 

【繰り返す、ああ繰り返すッ!? こんな!!なんで!?どうして!?】

 

 指から血が流れ、ノイズが広がる。

 

【なんで殺さなきゃいけないんだッ!!?】

 

 そう叫び声をあげ、世界が一変する。

 

 階段の上、くじらのような生き物の前で、緑の青年がオカリナを奏でていた。

 

 その周りには楽器が浮かび、奏でられる音色は美しく優しい。

 

 だが青年は音色が響く中で苦しみ、気が狂いだす。

 

【アア………ああ………消える。俺が消す、俺が殺す、俺が壊す………】

 

 景色が泡となり消える中、血の涙を流しながら彼はその光景を見る。

 

【俺は………】

 

 全てが泡になり消える世界で、彼は手を伸ばす。

 

 

 

【みんなをころした………】

 

 

 

 その言葉と共に目が覚める。

 

「いまの………なんだったんだろう?」

 

 そう首を傾げながら、窓の外を見る。

 

 紺野木綿季。そんな不思議な夢を見た。

 

 彼女だけがその夢を見た記憶があり、他の者たちは悪夢を見たとしか認識できなかった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「色々忙しい今日この頃、いったいなにを考えているんでしょうか?」

 

『いや、どうしたんだ急に?』

 

 電話片手にかちゃかちゃととある青年が電話をしながら、パソコンの作業の没頭している。

 

 電話相手、桐ケ谷和人は困惑しながら、彼は気にせず説明した。

 

「俺、一応大学生でね。しかもバイトしながらゲーム仲間であり年下ズの宿題教えたりしてるだろ?」

 

『? ああ?』

 

「まあそれはいい。ただな………」

 

 パソコン作業を終えて、しっかり携帯を持ちながら、

 

「だからと言って当たり前のように課題や宿題、果ては調べ物まで全部俺に頼るなっ! 俺は図書館じゃないし、家庭教師の先生でもないんだぞっ。お前がユイちゃんやストレアたちのために機材集めているのも知ってるけどよ、そのパーツ探しを俺に押し付けておいて今度クエスト行かないかだあっ!?」

 

『あっ、あはは………』

 

 和人の乾いた笑いを聞き、彼は作業に戻る。

 

「レポート云々はいいんだ。ただセブン、七色から頼まれごとを承諾してから」

 

『テイルさ~ん~、英語の宿題手伝って~~』

 

『テイル~、珪子と一緒で数学が、数学があ~』

 

『お兄さんごめんなさいっ。GGOしていたら歴史のテストがっ、次赤点取るとクレハのデータがお母さんたちに消される~~~っ!』

 

「詩乃も今度のテスト不安だから見て欲しいって………。クラインの野郎も、合コンのセッティングをミスってどこか良い店が無いか聞いてきたりして、なんでも聞けば答えが返ってくると思うなよな………」

 

『も、申し訳ない………』

 

 彼の場合、頼られるのは別に構わないが、今回は余りに多すぎた。

 

 学校が違う為、全員に必要なテスト範囲を把握して教えて、和人が探しているパーツを探しに動いたり、それで木綿季の見舞いやVRゲーム。大学生である彼の予定はいっぱいいっぱいだ。

 

「というわけで俺は参加できるか不明だ。クレハの方はデータ消すのは冗談だが制限が付きそうだし、全員放っておけない」

 

『それは大変だな………』

 

「和人くんの歴史の課題は外していいか?」

 

『すいません勘弁してくださいっ!』

 

 学生たちの頼みを全て聞き、全て対応している彼を誘うのをやめて、和人はALOのクエストを受ける話をして電話を切った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ALOのとある店。リズベット鍛治店でみんな集まり、苦笑しながらシリカがピナを抱きかかえる。

 

「それは申し訳ないです………」

 

「ま、まあ、彼奴は色々知っているし、どうしてもたよっちまうからな」

 

「けど少し迷惑かけ過ぎよね。わたしもテイルさんに頼り切りだったし」

 

 アスナも頷きながら、ユウキはぶーたれていた。テイルがいないからだ。

 

「まあ今度のクエストは、貴重な素材アイテムが手に入るだけだからな」

 

「ああ。テイルなら普段の行動だけで手に入れそうだね」

 

 苦笑しながら、他になにか目ぼしいことがないか、確認していると、

 

「そう言やあ知ってるか? 例の噂」

 

「例の噂? なにかお宝クエストでもあるのかクライン?」

 

「いんや。最近『出る』、らしいぜ。これがよ」

 

 そう言って両手を前に出しておばけのポーズを取るクライン。それにアスナが固まり、リーファが首を傾げる。

 

「? アンデット系のエネミーですか?」

 

「一応んな話だぜ。何でも黒い影を纏う剣士が、所かまわずPKしてるって話」

 

「? それはプレイヤーがってことか?」

 

 クラインの話を纏めると、ここ最近、様々なVRゲームでそれは目撃されているらしい。

 

 黒い影を纏い、どのジャンルだろうと現れ、攻撃してくるキャラクター。

 

「どのジャンルって、どういうことです?」

 

「いやね、オレも詳しい話は聞いてねえんだけど……。レースゲームや育成ゲームのみならず、個人のサーバで作られたゲーム内にも出没して、プレイヤーキルできねえゲームでも攻撃してくるって話なんだとさ」

 

「それは、ただの噂話じゃないのか?」

 

「パパの言う通りです。このゲームや【ザ・シード】により作られたVRゲームにおいて、そのようなバグは起るはずありませんね」

 

 ユイの言葉を聞きキリトも考え込む。仮にできたとしてもそれはウイルスやたちの悪いハッカー。またはデマと言う線もある。

 

 それでもクラインがその話をしたのは、たちの悪いプレイヤーだった場合。

 

「一応平気だと思うけどよ。変な奴が現れるって可能性があるからよ」

 

「まあ、ここはALO。PKは推奨されてるからな。油断せずに気を付けようぜ」

 

 全員で頷き合いながら、彼らはクエストへと向かう。

 

 気にすることもない、ただの噂話。

 

 そのはずだった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 クエストの帰り、地下ダンジョンを進むキリトたち。

 

「今回は少し苦戦したな」

 

「GGOばかりしてたから、弓を使うのも久しぶりだったからね」

 

「キリト以外、全員遠距離から撃ってるからね~」

 

 リズベットがそう言い、シリカも久しぶりにピナと共に戦えて満足しながら歩いている。

 

 

 

「わああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!」

 

 

 

「って、なんだ?」

 

 誰かの悲鳴がダンジョンの中で響き渡り、全員が武器を構え辺りを見渡す。

 

「次のフロアからか」

 

「確認しに行こう。他にルートは無いんだ」

 

「ええ」

 

 奥の部屋、フロアに入ると怯え、尻餅をつくプレイヤーがいたが、

 

「ぎゃあああああああっ!?」

 

 一人のプレイヤーが斬られた時、ノイズが走り、その場から消えた。

 

「なっ………」

 

「あり得ない。エンドフレイムが残らないなんて………」

 

 蘇生待ちが無く、エンドフレイムができずにそのまま消えた。

 

「パパっ、あれは危険です! ALOのエネミーじゃありません!!」

 

 そう言って、彼らの前に現れたそれは、空間にノイズを走らせる。

 

【………】

 

 黒いモヤのような塊であり、人型のそれは剣を持ち、歩くたびフィールドのオブジェクトが壊れ、崩れていく。

 

 HPゲージ並び、名前すら無い何か。血の涙を流すそれは、口元を釣り上げて向かってきた。

 

「くっ」

 

「パパっ!?」

 

「クラインっ!」

 

「おうっ」

 

 二人がかりでその剣を受け止めると刀身にノイズが走る。

 

「パパ近づいちゃダメですっ! そのエネミーの周りだけゲーム内のデータがおかしいですっ!!」

 

「くっ」

 

 剣戟が鳴り響きながら辺りのフィールドを見る。空間が割れ、ノイズが走り壊れていたりと酷い。

 

「なんなんだお前」

 

【………】

 

 距離を取った瞬間、ピナから魔法攻撃が放たれるが、その魔法は腕を振るうだけで止まり、かき消える。

 

「はああああああああああっ!」

 

 ユウキが剣を振るい、ソードスキルを叩きこむが、それに合わせて剣を放って防ぐ。

 

「えっ………」

 

 驚愕するユウキへと黒い刃が迫る。そこにアスナが割り込み、細剣で刺し貫いた。

 

「っ!?」

 

 だがアスナが持つ細剣にノイズが走り、それが刀身を握ると共に砕け散った。

 

「なっ………」

 

 驚愕するアスナを蹴り飛ばし、ユウキごと後ろへと吹き飛ばす。

 

 その時、アスナの衣類にノイズが走り、防具が一部砕け散る。

 

「パパっ、ママたちのデータが破壊されてます! あれに触れたり、ダメージを受けると壊れるみたいです」

 

「ウイルスかバグ? ともかく倒すことはできないのか?」

 

「HPゲージどころか、アバター名すら存在しない……? ALO、カーディナルシステム下でこんな現象あり得ません」

 

「ともかく、彼奴から逃げないと、オレらのデータが壊されるのか」

 

「キリト君ここは離脱しようっ!」

 

「ああ。とはいえ、簡単に逃がしてくれそうにないけどな………」

 

 全員が身構えて、武器を構える中、それは回りのフィールドをも破壊しながら、キリトたちを睨んでいると、急に空を見た。

 

【………見ツけた………】

 

 そう呟いて、それは盾を持つ腕を振るい、空間を壊す。

 

「空間を壊した!?」

 

 そのままその中へと消え、入口になった割れ目が消えると共に、辺りのフィールドも元に戻る。

 

「………なんだったんだいまの?」

 

「バグかウイルス。にしても妙だ」

 

 カーディナルシステムが働くALO内で、あのようなものがあること自体おかしい。

 

 キリトが首を傾げる中で、ユウキは考え込むようにうつむいている。

 

「どうしたのユウキ?」

 

 アスナに話しかけられて、ユウキは少しだけ黙り込むが、唇を動かす。

 

「最後のさあ、あの剣士がボクのソードスキルを弾いたとき、重なったんだ」

 

 真剣に、真面目にそう言うユウキ。

 

「重なったって、なにに?」

 

「………」

 

 それは、

 

「テイルの剣と似てたんだ」

 

 その言葉に、キリト、アスナ、リーファなど。何名かがあっと気づく。

 

 あの剣士とは少ししか剣を交えていないが、動きや剣筋が彼と重なる。スタイルも似ていた。

 

「テイルと似てたって、どういうこと?」

 

「分からない。けど、少し調べる必要があると、俺は思う」

 

 キリトはそう呟きながら、すぐに相談できる人物を思い浮かべる。

 

 セブン。七色博士へ連絡するため、彼らは行動し出す。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 データを壊し、世界を壊しながら、それはまず一つ、木琴を壊す。

 

【コレデ五ツ目………】

 

 辺りのフィールドも壊れだし、それは静かに動き出す。

 

【後ハ、三つ………ソレを壊せバ】

 

 夢ハ、永遠に続ク………

 

 そう呟きながら、それは全てを壊しながら歩き続ける。

 

 その瞳に何が映っているか、誰にも理解されない………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 町に戻り、色々調べることにしたキリトたち。その際、

 

「そういやキリの字。今回手に入れたアイテム、どういうアイテムなんだ?」

 

「ああ。そう言えば、まだちゃんと確認してなかったな」

 

 ストレージを確認すると、そのアイテムはこうウインドウに書かれていた。

 

 アイテム名【満月のバイオリン】。悪夢を払う、癒しの楽器と………




始まりはどうでしょうか。この先の展開、色々想像できるようにしてみました。

キリト君たちと遭遇したのは一体誰なんでしょうね~

それでは、お読みいただき、ありがとうございます。


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第61話・謎

 ALOのクエスト帰り道、俺たちは謎の黒いエネミーと出会う。

 

 それはHPゲージすら無いバグかウイルスか不明の謎のデータ。その正体を知るため、俺たちはセブンに連絡すると共に、情報を集めることにした。

 

『キリト君たちも会ったのね。亡霊剣士に』

 

「亡霊剣士?」

 

 セブンの話では、ここ最近、VR空間内に現れる謎のデータ。

 

 なぜかウイルス、バグなどに適応されず、他のオブジェクトを初めとしたデータの破壊する。

 

 亡霊剣士は名称すら無いところ、遭遇したプレイヤーたちが付けた名前であり、正式名は不明。

 

 プレイヤーは蘇生無しで倒され、中にはストレージ内のデータが壊されたと苦情が運営に送られる。目下原因捜査中。

 

『しかも噂の尾ひれに、この亡霊剣士に倒されると意識を失って、永遠にゲームからログアウトできないとか言われてるわ』

 

「もうそんな騒ぎになっているのか………」

 

 そんな会話をしながら、セブンにあのことを伝えられなかった。テイルと亡霊剣士が似ていることを………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「結局なんなのか分からないままか………」

 

 和人が現実世界で考え込む。ネットなど見てみるが、レアモンスターやPKプレイヤーの変装などと言う噂。

 

 セブンが言っていたように、亡霊剣士に倒されると二度とログアウトできないと言う噂まである。

 

(カーディナルシステムがある以上、こんなことは長く続くはずはない。なのになんだこの胸騒ぎは……?)

 

 なぜか放っておくことはできない。目撃して対峙したあれは、テイルと戦う時の行動にどうしても重なるからだ。

 

「それに見つけたか……何を見つけたんだ?」

 

 最後にあれが呟いた言葉も気になる。現状分からないことだらけだ。

 

 そう思いながらパソコンを閉じようとした時、メールが届いた。

 

「メール? 誰からだ?」

 

 和人はメールボックスを操作して、それを開いた。

 

【彼の仲間へ 

 

 ALOのこの座標へ向かって。そこで悪夢を、彼の絶望を止めて】

 

 そのメールは誰が送ってきたのか、その全てが分からない。差出人不明のメール。

 

 だがその文章を見ながら、和人は何度も見直す。

 

「彼の仲間? なんなんだ?」

 

 キリトは首を傾げながら、それを見つめていた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 彼はカタカタとキーボードを叩き、レポートの整理していた。

 

 眠い目をこすり、睡眠時間を削る。正直色々断らなすぎたと反省している。

 

 徹夜は慣れている。たかが三日程度、不眠不休で行動はできるので問題ないのだが、この状態で仮想世界には行けない。こういう場合、安全装置の発動基準を緩めて欲しいと思う。ツェリスカなど、運営の人はどうやってるんだろう?

 

「ん? 詩乃?」

 

 それでも気配など、少しの音にも反応する。人の気配ならなおの事。

 

 扉を少し開き、中の様子を見ているのは、飼い猫を抱き上げている居候。朝田詩乃。

 

「ごめんなさい、ノックはしたのだけど」

 

「にゃ」

 

 そうだぞと言わんばかりに鳴く猫にそうかと頷き、彼女と向かい合う。

 

「どうした? 仮想世界で何かあったのか?」

 

「ううん。そっちは平気」

 

 そう言いながらただの世間話をする。

 

 ALOでユウキの様子など、心配ないと言う話をしながら、少しだけ彼の様子を見た。

 

 彼はずっと自分の宿題やアルバイトのデータ整理などしていたと言いながら、詩乃はそうとホッとする。

 

「どうした? なにかあったのか?」

 

 彼はそう聞くと、そっけなく彼女は猫の手を持ちながら、

 

「なんでもないわよ」

 

「にゃ」

 

 そう言ってその肉球を彼の頬に押し付けておく。猫の方もぺしぺしと本来の飼い主を叩きながら、なんとなく気になりながらも納得する。

 

「そうか。ならいいよ」

 

 そう言って部屋を後にして、自分が借りている部屋へと入る。わざわざ鍵を付けてくれた部屋ではあるが、この猫はドアを引っかいたりして中に入る為、いまではもう中に入れておく。

 

「………彼の方に変化はない」

 

 そう詩乃は考え込む。

 

 あの謎のエネミー。その動きが指摘されてから彼、テイルと重なる。

 

 念のために彼の様子を確認したが、何事もないようだ。こちらでなにかあったのかと心配されたが、関わって欲しくない。

 

 彼は背負い過ぎる。自己責任と言うより、目をそらすことすらできない。簡単に言葉にできないような何かを背負っている。

 

「にゃ~」

 

「………関係ないと良いんだけど………」

 

 そう言い猫を撫でながら、彼女たちは明日に備える。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ――壊れていく――

 

 地下らしき場所で息を引き取る男性。彼から剣と盾を受け取り、先へと進む。

 

 ――知っていて変えられない――

 

 誰かが死ぬ。助けられたり、身代わりに成ったり、彼らは目の前で眠りにつく。

 

 ――何が勇者だ――

 

 ――何もできないのなら知りたくない。何もしたくない。そんなもの(英雄)になんか成りたくない――

 

 ――だから救わせろッ!! 守らせろッ! 知ってるんだその先をッ!!――

 

 一つの大きな卵を中心にした島が現れる。

 

 ――嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ――

 

 そして彼は………

 

 絶望の中で己を睨む。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 その日のユウキは驚きと共に目を覚めた。夢の内容なんて覚えていない、いないはずなのに………

 

(なんでこんなに、悲しいんだろう………)

 

 その後は仮想世界、キリトのホームで情報交換。その中でキリトは例のメッセージをみんなに話す。

 

「それでそれが例のメッセージ?」

 

「ああ」

 

 アスナたちがメッセージ、ウインドウを覗き込み、ユイは難しい顔でそれを見る。

 

「差出人不明のメッセージ。文字化けしていて特定はできません」

 

「デマってことは無いの?」

 

「ああ、それも考えた」

 

 マップ座標は何も無い海の上。そこに行ったところでクエスト発生も何も無いのは調済み。

 

 正直どうするかキリトは悩んでいたが………

 

「そこに行く気なのキリト君?」

 

 それを聞かれ、静かに頷く。

 

「この問題は、どちらかと言えば運営が解決する問題なのは分かっている。だけど、このまま放っておくことはできないんだ」

 

「………テイルが関わってるから?」

 

 ユウキの言葉に、キリトはしばらく考え込んだ後、静かに頷く。

 

「あの時に出て来たあの亡霊剣士。あの動きは間違いなくテイルの物だ」

 

「それじゃ、誰かがテイルのデータを使ってる。ってこと?」

 

 リズの言葉にユイは首を振る。

 

「いえ。個人データであるアバターデータのコピーはできません。バックアップなどはあると思いますが、ウイルスのように使用することは考えられません」

 

「ともかく、ここで考えていても仕方ない。みんなには」

 

「ここで待ってて欲しい。なんて言わないわよねキリト君?」

 

 その言葉に言葉を積ませらせて、クラインは呆れてしまう。

 

「お前な。テイルの野郎が一人で抱え込むのは知ってるけどよ。オレらまで抜け者にするなよな」

 

「そうですっ。テイルさんにはいつもお世話になってるんですから」

 

「きゅう」

 

 シリカとピナがそう言い。周りのみんなの準備は終わっている。

 

「分かったよ。それじゃみんな、行こう」

 

『おうっ』

 

 こうして謎のメッセージに誘われて、彼らはその座標まで移動する。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 海の上、マップの端まで飛ぶ一向。しばらくするとユイがキリトの側を飛ぶ。

 

「パパ。もうすぐ指定された座標です」

 

「どうなるか………」

 

 見渡す限り海しかなく、白い雲と空が広がる。ただ妙だとキリトは思う。

 

「エネミーがいない……?」

 

「お兄ちゃん、海中にもエネミーがいないよ」

 

「生き物もいないよ。これっていったい………」

 

 ここに来たのはキリト、アスナ、シリカ、リズ、リーファ、シノン、ユウキ、クライン。

 

 そしてピクシーであるユイとピナ。その時、キリトのメッセージボックスにメッセージが送られてきた。

 

「パパ、例の差出人不明の方です」

 

「?」

 

 キリトがウインドウを操作して、そのメールを確認する。

 

【来てくれたんだね

 

 いまからあなたたちを島へ飛ばす。そこで島の秘密を追って】

 

「目覚めの使者?」

 

 キリトがそう呟いたとき、辺りの空間にノイズが走る。

 

「キリト君っ!?」

 

「みんな固まれっ!」

 

 0と1、様々な景色に誰かの悲鳴。

 

 それが聞こえ出すと共に当たりの景色が落ち着きを取り戻すと………

 

「これは……?」

 

「すなはま?」

 

 ユウキの言葉に、全員が空を飛ぶのを止め、砂浜に降り立つ。

 

 そこに見知らぬ島ができていて、そこに降り立った後、すぐにマップを確認しようとウインドウを操作したが………

 

「現在、パパたちの位置が特定出来ません。ここはALO、アルブヘイム・オンライン内ではありませんっ!」

 

「なんだって!?」

 

 ユイの悲痛な叫びに驚き、辺りの様子を見る。

 

「アバターはALOのまま。装備とかも大丈夫そうよ」

 

「だけどログアウトボタンが………機能してない?」

 

 シリカから血の気が引く。ここにいるのは元SAOに捉えられていたプレイヤー。その事実が全身を恐怖で振るわすには十分だ。

 

「だけどわたしたちの付けているのは〝ナーヴギア〟じゃなく〝アミュスフィア〟よ。それなら安全装置が発動しそうだけど………」

 

「アスナの言う通りだ。ログアウトボタンの他は………通信もできないか」

 

 ともかく色々試してみたが、まるで外と連絡が付かなくなった。

 

 そう考え込んでいると、森の方が騒がしくなる。

 

「なんだっ!?」

 

「行ってみよう。ここで考え込んでいても先には進めない」

 

「そうだね」

 

 全員が頷き合い、島の奥へと進む。

 

 その様子をどこからか覗き込む者がいた。

 

「………お願い、彼奴を止めて………」

 

 そう小さく呟き、それは姿を消した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ん?」

 

 懐かしい声が聞こえた気がした。俺はなんとなく振り返り、誰もいない部屋の中、パソコンを閉じ、背筋を伸ばす。

 

 詩乃か誰かが来たのだろうかと思ったが、この時間帯ならまだ仮想世界か。

 

「少し仮眠するか。はあ」

 

 そう言い横になり、目を閉じる前に我が家の飼い猫が見下ろしているのを見つけた。

 

 珍しい。詩乃の側から離れて自分の側にいるなど。

 

 そう考えながら両目を閉じて眠りにつく。もう特技になった。ただそれだけで眠りについた………




テイル「徹夜なんか何日でも平気平気………」(ミルクを一気飲みして眠気を吹き飛ばす

詩乃「………」(申し訳ないと思うが、頼らないとVRできないので何も言えない

和人たち「………」(以下同文

木綿季「病気治ったら夜食出してあげよう」

そんな日常です。

お読みいただき、ありがとうございます。


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第62話・出会い

 森の中で武装した化け物たちが木々を倒し、前進していた。

 

 黒い影のように真っ黒であり、影はイノシシ、トカゲ、豚の形をした二足歩行する化け物たち。それらが鎧など身に纏い、武器を取る。

 

 鎧は暗闇の中、はっきりと浮かび上がり、赤い眼光が当たりを見渡す。

 

 松明を振るい、森に火を点け、茂みの中から動物たちを追い払う。

 

【殺せ、全てを】

 

【蹂躙しろ】

 

【この世界は我らの世界なり】

 

 そう言いながら草陰から一つの影が飛び出した。

 

 それは白い動物、ウサギが現れ、影の化け物たちはそれに殺到、武器を振り下ろす。

 

「そう言う弱い者いじめは」

 

「感心しないよっ!!」

 

 黒い衣装で統一された剣士と、黒い剣を振るう少女がその剣を止めて弾く。

 

 続いて侍と金色の髪の妖精が流れ込み、武装した化け物たちは距離を取る。

 

【抵抗する者? 〝目覚めの使者〟か?】

 

【否、この者らにその資格は無い者。外からの者、飲まれた者………】

 

【我らに逆らうな。この悪夢は永劫に続く………】

 

「なに訳分からねえこと言ってんだっ!」

 

「ともかく片付けるぞっ!」

 

 武装した化け物たちは斬られ、蹴散らされる。

 

 ピナとシリカは動物の保護と火を消したりとしながら、化け物の数は減らしていく。

 

【運命に抗うか】

 

【運命はすでに決まっている】

 

【我らこそが、神だ………】

 

 影と成り消えるその様子に、キリトたちは不気味そうにその様子を見続けた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 黒い影のようなエネミーを倒し切り、全員が落ち着く。

 

「もう大丈夫だよ」

 

 そう言いながら優しくウサギを抱きかかえ撫でる。

 

「ありがとうおねえちゃんたちっ!」

 

 そうウサギが耳をピンと伸ばして話しかけてきた。

 

「え?」

 

 シリカは困惑しながら、ウサギの子はピョンと地面に下りた。

 

 周りのみんなも驚きながら近づき、ウサギの子に話しかける。

 

「すまない、俺たちは外から来たんだが、ここはどこなんだい?」

 

「外? 島の外の人たちなんだっ!? 島の外になにかあるなんて、噂で聞いた通りだっ♪」

 

 びっくりするウサギ。色々話を聞きたいが、森が騒がしくなってきた。

 

「キリト君、ここより安全な場所で話を聞いた方がいいと思うよ」

 

「ああ。すまないが、落ち着ける場所を知らないか?」

 

「うん。いま島の人たちが集まってる集落があるんだ。案内するよっ!」

 

 そう言ってウサギを駆け出し、キリトたち全員が頷くが………

 

「いまさらだけどよお。クエストにしてもウインドウもなにも開かないんだな………」

 

「ああ。敵エネミーの消え方も、ポリゴンが砕けたと言うより、暗闇に溶けたようだ」

 

 クラインたちが困惑する中、ここが仮想世界なのかすら疑いたくなる。気のせいか肌で感じる感覚がリアル過ぎる。

 

 キリトたちは困惑しながらも、ウサギの案内で集落へと向かうのであった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ボロボロな場所は木の柵が建てられているだけで、防衛機能は全くない。

 

 洞穴のような場所で動物や人間が驚きながらウサギを出迎え、キリトたちに感謝していた。

 

「すまない、俺たちは外から来たんだが、この島はどうなってるんだ?」

 

 彼らに単刀直入にそれを尋ねると、島は昔から魔物が住み着き、ここ最近は村々を壊し、ついにこんなところまで追い込まれた。

 

 喋る動物と人間の彼らから話を聞きながら、避難地帯にいる人達は今後についての話も聞く。このまま閉じこもっている話や島の外に出る話もあった。だがそれは無理だろう。

 

 ここの防衛は紙くず並みである。外に出る方法も………

 

「私たちは島の外なんて何も無いと思っていた。いまさら島の外に出ることは考えられない」

 

「まあ、この人数で海を渡るのは無謀だなあ」

 

「そうね。せめて船があればいいんだけど」

 

 クラインとシノンの話に、船?と首を傾げる島の住人。キリトは島の住人の様子を見ていた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「話を整理しよう」

 

 キリトたちはパーティーで集まり、島の現状など、話を整理する。

 

「この島の名前は〝コホリント島〟。島の周りには何も無く、島の住人たちは外と交流は無し」

 

「島には魔物たちがいて、ここ最近になって村まで襲うようになって、ついに村が壊されてここまで避難したんだよね」

 

 アスナが困惑しながら考え込む。何かがおかしい。

 

「おかしいよね? だって」

 

 島の人間は〝人間〟なのだ。ALOに人間はいない。妖精がそれに近い者なのだ。

 

「動物の人たちは分かりますけど、人間の人たちは分かりませんよね」

 

「後はあれだ、この島には守り神さまがいるって話だぜ」

 

「〝かぜのさかな〟。この守り神が眠りについているから、島に魔物が現れて、暴れ回っているって話だな」

 

 キリトがそう締めくくると、少しだけ引っかかることがある。

 

 まずウインドウが開いて、クエスト発生が起きない。誰に話しかけてもそう言う〝ゲーム〟的なことが起きないのだ。

 

 それとここまで情報を集めても、攻略の糸口が見当たらない。目覚めの使者と言う言葉を使っても、誰もなんのことか分からないらしい。

 

「まるでゲームクリアするための何かが欠けているようだ」

 

 そう呟いたとき、彼らに近づく者たちがいた。

 

「すまない、君たち……? も、気が付いたらここにいた者かい?」

 

 彼らは服装はまだらであるが、一人兵士と呼べる格好であり、彼らは不思議そうにこちらを見ていた。

 

「あなたたちは?」

 

「まずは私から……。私は『ハイラル王国』の兵士です」

 

「『ハイラル王国』?」

 

 その言葉に反応したのはキリトとシノン。残りは少しだけ首を傾げる。

 

「確かそれってあの大型コラボの舞台だったよね? これって大型コラボのイベントなのかな?」

 

「そう言われてみれば、あの兵士さんたち、あの舞台の人たちにそっくりですね」

 

 リーファとシリカの言葉に、みんなその話で進む中、二人のプレイヤーだけ内心汗を流しながら考え込む。

 

 彼らの話では王国の兵士から不思議な影により、多くの人間が攫われたらしい。大抵気が付けばここにいたと………

 

「コホリント島……? ともかく、救助が来ればいいのだが………」

 

 そう言って兵士たちは此処を守るために動いているらしい。詳しい話を聞きながら、様々な人間はこの島に連れられているらしいが、プレイヤーはいないようだ。

 

「キリト」

 

 話を聞きこむ中、シノンが話しかけて来る。

 

「キリト、気付いてる?」

 

「………この世界はVRゲーム、仮想世界じゃないことか?」

 

 キリトの言葉に、シノンは重々しい表情で頷く。

 

「この世界は、どちらかと言うと彼の話で出て来る世界に近い。けど………」

 

 キリトも考え込む。この世界の雰囲気は彼の話で出て来るどの世界かと言われれば、闇の世界と言うものに近い。

 

 魔王によって変貌した聖域。そちらの方が話だけを聞いた彼らは納得ができるが………

 

「彼からコホリント島って名前の島は聞いてないわよね?」

 

「ああ。島となると」

 

 キリトは思いつく物語を指を折りながら数える。『夢をみる島』、『風のタクト』などだろう。

 

「そういえば、夢をみる島だけざっくりだったな………」

 

 そこで眠っている神様を起こす話。他の話はしっかりと登場人物や舞台など話してくれたが、その物語だけざっくりだった。違和感を感じたが、彼からしたら話したくないことなのだろうと納得していた。

 

「あの兵士も、この島の事を聞いたら首を傾げてたし、何かあるのかしら?」

 

「これならちゃんと聞いていればよかったな。シノンはなにか知っているか?」

 

「えっと………楽器がどうとか、目覚めの歌だったかしら? ごめんなさい、どうも話したくない話だったから、詳しくは聞いてないわ」

 

 そう考え込んでいると仲間たちが近づいてくる。

 

 いまはまだ彼らに話すつもりはない。キリトたちはそう考えを切り替えようとした時、ユイがキリトの懐から出て来た。

 

「パパ、またメールです。相手の方は例の差出人不明の人です」

 

「っ!? 開いてくれ」

 

 ウインドウを操作して、メールを開く。

 

【気付いたね

 

 その世界はただの世界じゃない。なにより、あるはずのものが欠けた世界。欠けたものが何なのか、それを知るにはこの座標にある神殿で、島の秘密を知って】

 

 そのメッセージを見ながら、しばらく考え込むキリトたち。

 

「どうする?」

 

「ここまで来れば、どこまでも付き合うさ」

 

「アンタらしいわね」

 

 リズたちも呆れながら、キリトは真剣な顔になり、その座標にある神殿へと向かう。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 森を抜けて、島の周りを確認すると、夕焼け空のように真っ赤な空が広がっていた。

 

 枯れた木々ばかりであり、荒れた地面しかない。ここに誰かが住んでいる、そう思えないほど酷い島である。

 

「あの人たちは、この島で暮らしてるんですよね?」

 

「そうね。快適に過ごせるとは到底思えないわ」

 

 シリカとシノンがそう言い、キリトたちも同意する。あまりに酷い島だ。

 

 座標にある神殿にたどり着くと、なんとも不気味な神殿であり、薄暗い雰囲気の建物。

 

「ここか。気を付けていくぞ」

 

 キリトが戦闘に中に入り、奥へと進む。扉は開いていて、敵も何も出てこない。

 

 だが………

 

「ひぃっ!?」

 

 アスナがあまりの光景にキリトに抱き着く。クラインも顔が引きつり、ユウキも嫌な顔をする。

 

「な、なんだこの部屋?」

 

 壁と言う壁、床と言う床に引っかいたような跡がある。

 

 指先から血が流れ出ていようと関係なく、指で引っかき続けた跡。そして石板が奥にあり、それには血の付いた指で触れたのか、血の跡がこびりついていた。

 

「これは………」

 

「解読してみます」

 

 そう言いユイが近づき、その石板を見る。

 

 フクロウとクジラ、そして文字が書かれていて、ユイは神妙な顔で文字を読む。

 

「【コレニ フレシ モノニツグ コホリントハ シマニ アラズ】」

 

「コホリントって、この島の事だよね? ここが島で無いって………」

 

「【ソラ ウミ ヤマ ヒト マモノ ミナ、スベテ ツクリモノナリ】」

 

「作り物……?」

 

「【カゼノサカナノ ミテイル ユメ ノ セカイ ナリ】」

 

「かぜのさかなってこの島の守り神だったな、どういうことだ?」

 

「【カゼノサカナ メザメル トキ コホリントハ アワ ト ナル】」

 

「この世界が消えるってことなのかな?」

 

「【ワレ ナガレツキシ モノニ シンジツ ヲ ツタエル】」

 

 各々が石碑に掛かれた言葉に反応し、そうユイが喋り終わると今度はメールが届く。

 

「パパっ」

 

「例の差出人か」

 

「読み上げます」

 

【真実にたどり着いたね

 

 この島は夢から覚める為に、外から人を招き入れる。その人間は〝目覚めの使者〟と言う使命を背負う。彼は最初は外に出る為に使命を果たそうとした。だけどその先に起きるその真実に打ちのめされ、一度は使命を放棄した。

 

 だけど彼は魔物の脅威から島を守る為、島の守り神、この世界を見続けるかぜのさかなを目覚めさせると決意したの。

 

 ………だけど彼はできなかった。

 

 彼は初めから全て知っていたから。

 

 誰が勇者を庇って命を落としたり、誰が傷付き、大切な人がいなくなると知っていた。

 

 だけど彼は勇者の軌跡を追わなければいけなかった。彼にとって勇者の軌跡は〝夢〟そのもの。

 

 彼は全て無視することもできた。だけど彼は優しすぎた。

 

 それが〝夢〟であろうと、〝ゲーム〟のように物語を途中で止めておくことができなかった。物語を終わらして、その〝夢〟を平和にする選択肢を選んだ。

 

 でも、それでも、この物語は彼にとってその世界の住人全てを滅ぼすだけ。

 

 彼は優しすぎた。彼の〝悪夢〟だけがこの部屋に置き去りにされて、彼らが去った後もここに在り続けた。

 

 真実、現実、何もかも受け入れられず、終わりの日までここにいたの。

 

 そして全てが終わり、消えたはずだった………】

 

「これは」

 

 キリトが驚く中、僅かに気配を感じて入口の方を見る。

 

 それは羽ばたきながらそこにいた。

 

「君は………」

 

 それはユイのように小さな妖精、ナビゲートピクシーのような妖精。

 

 金色の髪をなびかせ、静かにそこに飛んでいた。

 

「私は『フェリサ』。目覚めの使者と共にかぜのさかなを目覚めさせる手伝いをした妖精よ」

 

 そう悲しそうに部屋の様子を見て微笑んだ………




記憶に頼れ、つい最近読んだはずだろ? 買い揃えようと思ったら高過ぎだろ………。新しくリメイクされて出ないかな漫画版。

出したかったんや、出したかったんや。アリスたちが出せないんだから彼女くらい出したかった。

それでは、お読みいただき、ありがとうございます。


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第63話・相棒妖精

キリトたちは不思議なメールの指示に従い、閉ざされた島へと足を踏み込み、そこにある遺跡で島の秘密を知る。

そこに現れるのは、悲しそうに微笑む一人の妖精だった………


 フェリサと言う妖精は、周りを見ながら静かに呟く。

 

「ほんっと馬鹿だよね。彼奴にとってこの世界はゲームで作り物。勇者のように〝体験〟しているだけの偽者なのに、彼は真摯に受け入れた」

 

 体験と言う言葉に、キリトとシノンは目を見開く。

 

 それはある青年が口にする。生まれ変わった時に得た特典の内容。

 

「全て現実に近い物語として見ていればよかった。もう一つの現実の時みたいに、遊びとして接していればよかったのよ」

 

「………君はメールの差出人か?」

 

「そうだよ黒の剣士キリト。あれを手に入れたのがあなたたちでよかった………」

 

 そう微笑みながら、壁などに着いた血の跡に触れ、悲しそうに呟く。

 

「勇者の視点、勇者と言う役割を体験することで、私たちとの関係も本物に感じて。馬鹿だよホント………全てが終わるまで、そんな馬鹿な人が、優しい馬鹿がいたことに、私たちは気付かなかったのに」

 

 話しかけられてもそれは勇者であり自分ではない。

 

 それでもその青年は真摯に受け入れ、現実としてその世界で行動した。

 

「ここは、この島はそんな人が創り出した、ううん………あなたたちの世界の人間が作った悪夢の世界よ」

 

「なんだってっ!?」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 キリトが驚き、声を上げる。みんな心配しながら彼女を見る。

 

「この世界は彼の悪夢を元にして、あなたたちの世界の誰かが作り出した悪夢の世界。勇者もかぜのさかなを目覚めさせる楽器も無い、悪夢だけの世界」

 

「かぜのさかなを目覚めさせる?」

 

「【セイレーンの楽器】。それと共に〝めざめの歌〟が必要なの」

 

「それが無いってことは、悪夢ってのは終わらないのか?」

 

「だからこそ私は、彼らと同じことをした」

 

 そう言ってキリトのストレージが勝手に動き、あるアイテムが実体化する。

 

「これって」

 

「仮想世界で生み出されたセイレーンの楽器。その一つ【満月のバイオリン】」

 

 それをアスナが持ち、その楽器に触れるフェリサ。

 

「本来ならこんなこと、しちゃいけないんだけど………」

 

 その様子を見ているユイが、彼女が行っている作業に気づく。

 

「あのアイテムから関連するデータを読み込んで、そこから別アイテムの作成をしているのですかっ!?」

 

「彼らの所為でこの世界、あの剣士は生まれてしまった。これくらいのズルは見逃してもらいたいわね」

 

 そうフェリサが言うと、バイオリンのデータを元に、関連するアイテムも呼び起こしたのか、七つの楽器が現れる。

 

「仮想世界からセイレーンの楽器を作り出して、一つでもいいから持ち込まれればそれでよかった。後はこの世界の悪夢を終わらすために、彼を倒す必要がある」

 

「………そのために俺たちを呼んだのか?」

 

「あなたたち、あなたにしかできない。SAO、夢の世界と同じ、もう一つの現実の剣士。仮想世界の【黒の剣士】キリト」

 

 それを聞き、キリトは目を閉じて考え込む。

 

 その後は周りの光景を見る。床も壁も爪でひっかき続けた跡。それは彼が、彼の悪夢がここで絶望し、苦しみ続けた跡でもある。

 

「分かった。彼の下に連れて行ってくれ」

 

 そう彼は決意して歩き出す。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 キリトの仲間たちは何も聞かず、キリトと共にフェリサの案内で一つの山。その頂上へとたどり着く。

 

 底が見えない穴が広がり、まるで闇と言うものを全て飲み込んだ暗さ。

 

「この先が彼が創り出した悪夢の世界。仮想、夢、幻と言った形の無いはずのものが、形になった空間」

 

「そこに行けば彼がいるんだな」

 

「正確には、あなたたちの世界で仮想として作られた、悪夢そのもの。それがそこにいる」

 

「分かった。それじゃみんな」

 

「ああ」

 

「ええ」

 

「付いてきて、まずは奥に楽器を持って行かなきゃ、話にならない」

 

 全員が頷き、その穴へ羽を広げて下りていく。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 なぜこうなったのだろうか? それはそう思いながらそこにいた。

 

 髪をかきむしり、そのまま髪を引きちぎる。

 

 両手をだらんと下げ、静かに上を見た。妖精たちが降りて来る。

 

【………なんで来た?】

 

 彼らが見たのは、暗闇の中、一人立ち尽くす青年だけしか見えなかった。

 

 彼らからすれば、それはどこの誰か分からない。

 

 大学生くらいの青年であり、頭から血を流し、首筋や至る所に引っかき傷を作り、両手も爪痕から血が滲み、指先は真っ赤に染まる。

 

「あなたは………」

 

【俺? 俺は君たちにとっては何でも無い。何者でも何だってどうでもいい〝過去〟ですらない〝ナニカ〟だろうな】

 

 傷付いた首筋をかき出しながら、充血した目で首を回す。

 

【願ったのは救いだけのはずだった。なのになんでこうなったんだろうな………】

 

 血が流れ出ようと気にも留めず、それはずっとキリトたちを見続ける。

 

【どこが間違いか。いや、初めから決まっている。〝始まりから終わりまで全てが間違いなんだよ〟】

 

 そう言いながらそれは頭をかきむしり始める。

 

【勇者の力があれば救えると信じた。神に願えば誰もが救われると思った。何者でも無いのに、主人公気取りで次の人生を現実として見ていなかったッ!!!】

 

 途端、暗闇の空間から悲鳴が響き渡る。多くの人々の声、それに苦しむ石像が無数に壁に埋められている。

 

【勇者として俺は彼らの物語すら利用して、今の人生すら物語として見て、俺は何様なんだろうな?】

 

「お前が何者かは分かる」

 

 キリトが前に出て、周りを見る。

 

「これはなんだ」

 

【この世界を継続させるには、悪夢で無ければいけない。悪夢を見るのは人で無ければいけない。俺が仮想世界で殺し、悪夢の世界に閉じ込めた人間たちだ】

 

 それに青ざめる妖精たちに、キリトが前に出て睨む。

 

「なんでそんなことをしている」

 

【俺は悪夢。知っていて見捨てたことに絶望した馬鹿な男の絶望そのもの。救われたいんだよ俺は】

 

 そう言い、影から剣と盾を取り出す。勇者の影より作った、影の武器。

 

【俺は救われるには見捨てたものを取り戻すしかない。それ以外に考えることはできない】

 

「彼はそんなことを願っていないッ!!」

 

【俺は願っている。救われること、意味を、自分と言う存在理由をッ!!】

 

 全員が武器を構え、俺は静かに構える。

 

【コホリントは、この悪夢は永遠に消えない。消すためのピースは全て俺が破壊するッ!! だからこそ、仮想世界ッ! それにより作られたセイレーンの楽器は、ここで破壊するッ!!】

 

「止めてやるッ!! それが彼奴の、彼の仲間である俺たちの役目だッ!!」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 閃光のように走るそれは暗闇でできていた。キリトと剣が激突した瞬間、それは目を見開き、キリトを見る。

 

【俺はお前のように主人公でも何でもない異物。この世界に囚われた者は永遠に悪夢を見るだけで現実には帰れる。デスゲームのように永劫の時を過ごすわけじゃない】

 

「だからって見過ごしていいはずはないッ。お前が関わってるのならなおの事、俺はお前を止めるッ!!」

 

【俺はコホリントを永続させるッ!!】

 

 吹き飛ばされたキリト。その後ろからリーファ、アスナからサポートを受けたユウキとクラインが前に出るが、

 

【遅い】

 

 簡単に盾と剣で刀と剣を弾き、キリトへと迫るが、矢が眼前に迫る。

 

「ッ!?」

 

 だが刺さってもそれは気にせず、血を流しながら片目は潰した。それでもキリトを初めとした前衛三人と斬り合いながら、それはキリトへと剣を振り下ろす。

 

【どうやって俺を止める? ここは幻であってゲームじゃない。HPゲージなんて絶対なものは存在しないッ!】

 

 蹴り飛ばされたキリトは踏ん張り、倒れることは免れたが、背後にリーファたちがいるのに気づく。

 

 ユウキがすぐに横から斬り込むが、それを易々片腕の盾だけで防ぎ、盾をぶつけて吹き飛ばす。

 

【ここはお前の世界じゃない。俺が作った〝悪夢〟の世界。誰であろうとこの世界を目覚めさせることはできない】

 

 その言葉にキリトははっとなり、小声で何かを呟く。

 

 それにそれは怪訝な顔をしたとき、キリトは意を決して猛攻し出す。

 

【………】

 

 それは考え込む。猛攻の攻撃を片手の剣で防ぎながらバックステップを取り、うまく捌く中で、クラインとユウキに警戒しながら考える。

 

【(こいつは何かを呟いた。ゲームの魔法? いや、キリトは純粋な剣士アタッカー。スピード重視で魔法なんてもの、なにより純粋なメイジだろうと、俺を攻略することはできない)】

 

 ならどうする? まさか……?

 

【(まさか)】

 

 その時、盾の手で目に刺さる矢を引き抜き、その目を開き、周りを見た。

 

 いつの間にか僅かに回り込み、自分の背後へと進もうとする四人組を見つける。

 

【セイレーンの楽器を奥に】

 

「ちいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

 

 舌打ちしながらキリトは身体をひねり、剣をぶつける。

 

 それを防ぎながらそれが羽ばたくのを見た。

 

【させるか】

 

 自ら剣を持つ腕を掴み、引きちぎる。

 

 ユウキたちがゾッとする中でそれは黒い液体と繋がっていて、それを妖精たちへと投げる。

 

 暗闇が巨大な手になり、アスナたちに迫る。

 

「ママっ!」

 

 ユイがいつの間にかキリトの側からアスナの懐にいた。

 

【(あのナビゲートピクシーに指示を出したかッ!)】

 

 シノンが矢で撃墜し、無防備になった本体をユウキたちはソードスキルを叩きこむ。

 

 それでも手は止まらず、リーファを掴み、そのまま地面に引きずり下ろす。

 

「リーファちゃんっ!?」

 

「行ってくださいアスナさんっ!!」

 

 リズとシリカが暗闇の腕を叩き、リーファを助ける中、アスナは苦虫を噛むように先へと飛ぶ。

 

【とことん邪魔をする】

 

 赤い血と共に流れる暗い液体。それから目のような瞳が開き、鎧や腕になり、それを広げる。

 

「原型が無くなってるぞおい………」

 

【俺は悪夢だ。元の形なぞ忘れた】

 

 キリトの皮肉に、それはそう返す。

 

【ああそうだ、俺の悪夢は、まだ、終わらないィィィィィィィィィッ!!】

 

 暗闇が迫り、キリトたちは戦慄する。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 暗闇の中、階段だけであり、その上を飛ぶアスナとユイ、そしてフェリサ。

 

「ここが頂上? 何も無い」

 

「ここで風のさかなを起こすために歌を奏でるの。大丈夫、歌は私が歌う」

 

 そう言い、彼女の周りに楽器が現れ、歌を歌うために息を吸う。

 

 その瞬間、

 

 

 

 ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ―――

 

 

 

 悲鳴が響き渡る。

 

 誰かの悲鳴、嘆き、怒り、憎しみ、全ての負が声として鳴り響く。

 

「な、なにこれ………」

 

「凄い声。何人も、ううん、何千人って言う人の声?」

 

 そうアスナが呟いた瞬間、それが現れる。

 

 妖精、ガンマンを初め、多くのプレイヤーアバター、HPがゼロになった瞬間を切り抜いたような石像の壁が周りに現れ出す。

 

「こ、れは」

 

「彼が倒したプレイヤー?」

 

 

 

 ――そうだ――

 

 

 

 その時、奥の闇が瞳を開き、その両腕でセイレーンの楽器を掴み、握りしめた。

 

「な、んで………」

 

 フェリサを抱きしめ、ユイと共に守り、細剣を構えるアスナ。

 

「だれっ!?」

 

 ――我らは悪夢の中より生まれ出でしもの――

 

 ――夢と言う閉ざされた世界に秩序を築くモノ――

 

 ――忌々しき目覚めの使者により、世界を壊された――

 

 ――だが、人が夢を見る限り、我らは滅びぬ――

 

 ――この悪夢が生まれたとき、我らは蘇った――

 

 ――全てを救えると驕り、現実に飲まれた愚かな偽物のおかげで――

 

「黙れッ!! 彼奴は馬鹿だけど、偽物なんかじゃないッ!!」

 

 驚きながらも暗闇の言葉に憤慨するフェリサ。悲鳴と共に複数の笑い声が響き渡る。

 

 ――歌は響かない――

 

 ――悪夢は永劫に続く。これこそが正しき夢の世界――

 

 ――貴様らも、この世界の一部と成れッ!!――

 

 その時、誰かが後ろから吹き飛んできた。

 

「クラインさん、みんなっ!?」

 

 全員がボロボロで、キリトの首を掴み上げ、締め上げている影。

 

【この悪夢は終わらせない。コホリントはもう泡になんてさせないッ!!】

 

「ち、がうッ! そんなこと、誰も望んでいないッ!!」

 

【俺が、俺が望んでいる。そう、それが俺の、絶望の中で生まれた俺の叫び声だッ!】

 

 そう言い黒い影の剣が巨大になり、キリトへと振り下ろされる。

 

 小さな妖精は叫び声を上げた。その叫び声は多くの悲鳴にかき消された。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 拝啓、いかがお過ごしでしょうか。

 

「広がる海、青い空、白い砂浜。俺はどこにいる?」

 

 そう言って俺は人間アバターテイルとして、首を傾げて周りを見た。何があったんだよ?




一方その頃的に、テイルが一番訳が分からない状態でログインしました。

テイル「区切り悪くない?」

申し訳ない。

それでは、お読みいただきありがとうございます。

キリト「俺はこのままか……?」


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第64話・その頃の彼は……

限界と言うものはある。自分にだってそんなものがあると思いながらミルクを一気飲みする。少しこぼれた。

彼はここしばらく眠りもせず、まずは友人たちの学校からの課題や宿題、分からない範囲を全て把握して教える準備。ちなみに何名か学校が違う。

次にVRゲームにて、可愛い妹やサポートキャラたちと共にクエスト攻略。無理矢理心拍数など抑えてログイン。三日くらいから困難になり、断るようにした。安全装置の正確さが憎い。

セブン、七色博士からの頼まれごとの整理整頓。あれ? なんで俺がここまでしているんだろうと思われる仕事もあるが、気にしなかった。

自身の大学での課題とレポート。

知り合いのアイドルのCDを購入して聴く。

家事。

「………寝よう」

死んでしまう。さすがになぜ自分はここまで仮眠すると言う当たり前なことをしなかったか分からない。ふと、居候の部屋を意識した。彼女はいまは仮想世界で楽しんでいるのだろう。

少し寝ればまたユウキに会えるだろうか? 病院だけでなく、仮想世界のあの子にも会わなければいけない。どちらも大切な妹なのだから。

こうして少し仮眠したら………

「次の瞬間、気が付くと砂浜にいました」

そう言って立ったまま気絶して、しばらくして行動する………


 ほんの少しの休憩で、少し仮眠する程度のはずだった。

 

 昔は仕方ない。少し眠り出すと時間が来た言わんばかりに〝体験〟しなければいけなかったのだが、現状もう意味は無いはず。だから少しの仮眠でしっかり眠れて休められる。

 

 そう言えばSAO事件が終わってから、一度寝たら起こされるまで眠っていた気がする。まあいまでは好きな時間まで寝て、時間が来ると自動的に起きると言う特技になったし、何日寝なくてもテンションはともかくちゃんと活動できる辺り助かるが………

 

 だが問題はそこではない。

 

「なのになんで俺、気が付けば見知らぬ場所で黄昏てるんだ?」

 

 武器にレインが打った片手剣に盾。海水は透き通るほど綺麗であり、刀身に映る自分の顔は、GGOかSA:Oのテイル。

 

 鎧もこれまたレア装備の鎧、片手剣盾の自分に合わせた物。荷物袋を背負い、腰にも荷物袋を下げていた。

 

 元々テイルと言うゲームキャラは一歩間違えれば器用貧乏になるステータスだ。ほとんどが装備など、その時その時の役割に必要なパラメータを底上げしている。魔法防御用のマントを着込み、装備一式はALOらしいことを確認する。

 

 ウインドウは開かないところを見ると仮想世界ではない。感覚的には体験だが退魔の勇者でないことが疑問だ。

 

「黄昏ていても仕方ない。探索でもするか」

 

 そう呟き、剣を背中に背負い、適当に歩き出した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 歩いていると人の声が響き、港町が見える。

 

 耳は長い人から普通の大きさの人。外国人とその町と言う印象であるが、どの仮想世界、どの世界とも一致しない。

 

「???」

 

 眠い頭で適当にぶらつくと、ルピーで買い物している様を見て、ここは〝あの世界〟である可能性に気づく。だがどの世界、時代であろうと見たことが無い。

 

 ますます訳が分からないし、自分は無一文だろうと腰回りを確認すると、ルピーが入った袋があるので、そこで買い物しながら町の事を調べることにした。この辺りは仮想世界で鍛えていた。

 

「旅しててあまり気にせず船に乗ったりしてたけど、この島ってどんな島かな?」

 

 そんなことを言いながら調べると、ここはハイラル王国と別の国と海路を繋ぐ中間地点であり、多くの人が行き来するらしい。

 

 勇者のリンゴ園で作られたリンゴ、それを使ったアップルパイがあり食べる。材料のリンゴも食べさしてもらう。うん、記憶通りだな。パイを売るおばちゃんと楽しく会話しながら、久々の味を楽しむ。

 

「あんた運が良いね。もうすぐ祭りの季節で、ハイラル王国から『ゼルダ姫』がお見えになるらしいぜ」

 

「ふーん」

 

 その他にも魚介の串焼きを食べながら、島の由来について色々聞く。元々無人島だった島が開拓されたのは確かであり、何年かして祭りごとをするようになった。

 

「祭りがどんな切っ掛けでやるようになったか不明ねえ………」

 

 最近、島での話題は『ゼルダ姫』が来るらしい。

 

 ゼルダと言う名前は設定上、女神の生まれ変わりがゼルダと言う名前であったり、各伝説の姫がゼルダであることから付けられるケースがある。

 

(だから俺の知る『ゼルダ』に当てはまるかどうか不明。勇者もリンクの名前は聞くが、現代の『勇者リンク』がいると言う話は無し、か………)

 

 串を加えながら海を見て考え込む。その場合でもこの世界はどの世界軸なのかにも考えなければいけないし………

 

(なぜ俺がここにいる?)

 

 それが理解できず、大型船が港に来るのを見て、多くの人が歓迎している。王家関係だろうか? あの紋章があるからその可能性がある。

 

 そう思いながら、島の探索に移った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 歩いていると港町はそこそこ広く、適当に歩く。

 

「ん~」

 

 水の都、海外に来た感覚だが、正直旅行などしたとしても日本のどこかなので、あまり実感が湧かない。

 

 彼は正直に言えば家でのんびりするか、日差しの下、草原の上で寝転んで寝るのが好きなのだ。

 

(それでよく強制ログアウトされたっけ)

 

 そう思いながら歩いていると、妙な気配に気づき、足を止めた。

 

(?)

 

 串を加えながら気配がする方を見る。木箱の山があり、一つだけ蓋がズレている。

 

「すまない」

 

 それに気づいたとき、背後から衛兵が話しかけてきた。

 

「はい? なんでしょうか?」

 

 衛兵なら仕事か何かだろうか? そう考えながら二人の衛兵と向き合う。

 

「この辺りに誰か来なかったかな? 年頃の娘さんなんだが………」

 

「娘さん?」

 

 その時、一部の場所の空気が変わる。

 

 それに内心気付きながら、考え込むそぶりを見せて、串を空になった袋に詰めた。

 

「その娘さんがどうしたんですか?」

 

「あっいや、もうすぐ行われる祭りに関することでね。準備が終わってないんだけど」

 

「『あたしもお祭りを楽しみたいっ!!』って言って、抜けだしててね。村長に探してくれと頼まれてるんだ」

 

 嘘は感じ取れない。それでも………

 

「少なくてもすれ違ってませんね。向こうかもしれませんよ?」

 

「そうか。ご協力感謝します」

 

 そう言って二人の衛兵が歩き出して、その後ろ姿が見えなくなり、鎧の音が聞こえなくなったところ、木箱、ズレた蓋をどかす。

 

「もう行きましたよお嬢さん」

 

 そう言いながら、我が目を疑った。

 

「えへへ………庇ってくれてありがとう」

 

 そう言い微笑むのは、あの『夢』で出会った彼女と瓜二つ………

 

「あたしは『マリン』。この島の子なんだ、あなたはどこから来たの?」

 

 そう微笑む姿に、内心何が起きてるんだと困惑した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 マントを貸してあげて、彼女の案内で町を見て回る。

 

 色々見て回る中、マリンから島の歴史を教わった。

 

「この島はね、長い海路の中、たまたま見つかった島なんだ。開拓された航路でだんだんと発展していって、いまじゃ大事な町に成ったんだよ」

 

「祭りも開拓されているうちにできたのか?」

 

「うん♪ いつしか守り神様の話や、歌が生まれて、伝え始めたんだ」

 

 それを聞いたとき、俺は一体どんな顔をしただろうか?

 

 そう思いながら彼女と話をしながら、彼女はそろそろ戻らないといけなくなる。

 

「今日はごめんね、途中からルピーも出してもらって」

 

「いや、町のことを知れたし、この島のことも知れたからいいよ」

 

「そう言ってくれれば嬉しいな。お祭り、楽しみにしててね。守り神様へ捧げる歌、あたしの好きな歌、あなたにも聞いてほしいから」

 

「………ああ」

 

 マントを返してもらい、彼女は笑顔で町に帰る。

 

 夕闇の中、マントを着込み、町の外へと視線を移す。

 

「………行くか」

 

 そう呟き、俺は俺にとって悪夢でしかない遺跡があった場所へと進む。

 

 ここが〝あの島〟だとしたら、もしかすればと思う。

 

 そこに行き、何がどうなっているか、どうでもいい。

 

 理由も無くただ向かう。あの石碑がある遺跡へと………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 別段エネミー、モンスターと出会うことも無く、島を探索する。

 

 かなり広いと思いながら、なぜか彼はそこに行きついた。

 

 古い遺跡であり、無人島云々はどうしたんだろうと思いながら、明らかな人工物を見ながら奥へと進む。

 

「………」

 

 その時、彼はなんで自分は奥に進むでいるのだろうと思いながら、足が自然と奥へと進む。

 

 着いた先は何かの石碑がある部屋なのだろう。壁や天井が崩れていて、石碑も何なのか分からないほど風化している。

 

 だがその光景を見ながら、彼は一向に動かない。

 

「………」

 

 石碑を見て僅かに分かる、クジラらしきそれを見て黙り込む。

 

 ただそれを見つめながら、時間だけが無駄に過ぎていく。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 なにしてるんだろう。彼はそう思いながら月明かりを見る。

 

 ここから動く気が起きず、だからと言って何かしたいわけでは無い。

 

 その場に座り込み、ただずっと、目の前の石碑を見続けた。

 

「………」

 

 そして………

 

「!?」

 

 敵意を感じて、盾を振るい払う。

 

 金属音が響き、月明かりの下に人影を見て、瞬時組み伏せた。

 

「誰だ」

 

 組み伏せた時、盾を相手の首に当て、片腕で心臓がある胸を抑えた。

 

 盾の周りに刃でも付けてもらおうかなと思いながら、馬乗りになり襲撃者を睨むと………

 

(!?)

 

 赤い目に金髪、小柄な体躯であり、顔のほとんどを布で隠す耳が長い人間。

 

「………いきなり刃物で攻撃して、お前は何者だ」

 

「………」

 

 立てないように押さえつける中、胸を押さえる手の感触がおかしい。

 

「………盗賊だと思った。すまない。だから手をどけてくれないか?」

 

 そう襲撃者は静かに、冷静に言う中で俺は………

 

「………女の子?」

 

 そう指を動かしながら呟いたら、何かが迫るのを感じた。急に痛みが走り、乾いた音が夜の遺跡に鳴り響いた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 頬を押さえる彼は盾と片手剣を持つ剣士。本人が言うには旅人らしい。ここにはたまたま来て、時間を過ごしていたらしい。正直信じられない。ここに人がいる時点で不自然だ。

 

「………」

 

 だけど、彼は叩かれる時、避けることもせず諦めた顔で叩かれた後、こちらを開放した。

 

「俺はテイル。君は?」

 

「………『シーク』」

 

 こちらはそう名乗り、頬を押さえながらこちらを見る。

 

 こちらは顔を布で隠している、口元を隠しながら横目でテイルを見た。正直勝てる気はしない。

 

 いまだって叩いただけで許す気は無い。だが隙が無い。短剣で斬り込む時も、自然体で隙だらけだったはずなのに………

 

(斬り込んだ瞬間、変わった)

 

 一瞬で全てを理解して何が起きたか分からないうちに地面に倒されていた。

 

 さ、触られたことだって、しばらくして気づいた。正直まだ叩き足りない。

 

「君はどうしてここにいる?」

 

「………あー………」

 

 目が泳いで、周りを見渡す。

 

 彼は嘘を付く気は無いのか、明らかに怪しい様子の彼は、遠い目をしながら………

 

「なんとなく」

 

「なんとなく?」

 

「………嫌な記憶がある。ここは、そこに酷似し過ぎている」

 

 ………嘘は言っていないのだろう。納得はできない。

 

 月を見ながら彼はそう呟く。ただの嘘を言うにはあまりに現実味は無さすぎる。あまりにも不審過ぎて、警戒はするが行動に移るほどではない気がする。

 

「君はどうしてここに?」

 

「………探し物がある」

 

 もしかしたら彼は持っているのかもしれない。

 

「探し物?」

 

「………楽器だよ」

 

 彼はそれを聞き、一瞬戸惑うが、それは言葉になる。

 

「『セイレーンの楽器』か?」

 

 それにこちらの方が驚く。その言葉は誰も知らないはずだ。

 

「あなた、どうしてそれを知ってるの?」

 

「………」

 

 こちらはどうあっても彼を逃がすわけにはいかなくなった。

 

 彼はこちらを見ながら、しばらく考え込む。

 

「この島の守り神の名前は」

 

「黙れ」

 

 勝てなくてもこの男を野放しにはできない。

 

「どこまで知っている」

 

 こちらが殺気を出しながら聞いているのに、彼は変わらず月を見ている。

 

「………何が起きている?」

 

 そう聞く彼はこちらを見ていないが、その目は真剣なものである。

 

「………」

 

 何者か分からない。ただこの島の歴史を記していたはずの遺跡にいた旅人、テイル。知られているはずの無いことを知っていて、かなりの腕前を持つ男。

 

「………知っていることを教えてくれ、シーク」

 

 その怪しい男は覚悟を決めたようにこちらに振り向き、彼の真っ直ぐな目が自分を見る。

 

 それが彼と自分と出会いの夜であった………




ここのシークは女の子っぽいです。

テイル(正体はきっと知っている人だろうな………)(遠い目

次回もテイルサイトの話。この世界は何なのかな?

それではお読みいただき、ありがとうございます。


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第65話・ここにいる理由を探しに

どこかの姫の乳母「姫様、役目も分かりますが護衛役である私にも内密に動かないでください。不埒者が現れたらどうするおつもりですか?」

何ルダ姫(もう不埒者が現れたなんて言えない………)

その頃の、胸を触った不埒者「宿が埋まってたぜ………木の上で寝よう」


「ん~………よく寝たが、時間はまだあるな」

 

 あの後、シークと別れ、木の上で夜を過ごした。宿が祭りの為、全部屋埋まってた。

 

 日が上がると共に目を覚まし、野宿する中、シークとの待ち合わせまで時間はまだある。いまは朝飯を食って、その後にシークと落ち合うことになっている。

 

(しかし、睡眠ができたってことはどういうことだ?)

 

 あの〝体験〟であろうと、眠ると一時終わる。寝ることは現実世界に帰る行動であり、セーブである。

 

 いまの現状が〝体験〟であるとしたら、木の上で眠り出したら現実の自分が活動し出すはず。

 

(なのに普通に寝て起きた。意識だけが仮想世界のテイルにログインして、その身体のまま異世界に来たような状態)

 

 な訳がない。それならばALOを初めとしたゲームのテイル装備になる。だがGGOを初めとした容姿、装備が混ざっている。

 

 まるでこの世界の旅人テイルと言うテーマで、仮想世界の装備や容姿を選んで合わせたようだ。できればALOの弓か、GGOのUFGがあれば助かるのに、それが無い。

 

(ルピーはあるのもなんでだろう?)

 

 そう思いながら朝飯を食う為に、空いている店を探す中で………

 

「………」

 

 顔を上げた、空を見た、そして歩き出した。それを目指した。

 

 早朝の朝に響く歌は優しく、透き通る中で、町から少し離れた海岸から奏でられる歌。

 

 そして………

 

「―――あれ? テイル?」

 

 俺は歌姫、彼女と再会した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 あたしは彼を家に上げて、朝ごはんの残りを食べさせてあげた。

 

「パンとシチューしかないけどいいかな?」

 

「別にかまわないけど、いいのか?」

 

「いいのいいの、この前のお礼だよ。おじさんもいま祭りの打ち合わせでいないし」

 

 そう言いながら彼に朝食を出し、彼はそれを食べ始める。

 

「いただきます」

 

「?」

 

 そう呟いてから彼はパンとシチューを食べ始める。あたしはその様子を眺めながら見ていた。

 

「ごちそうさま。おいしかったよ」

 

「うん。けどいまのがあなたの国のお祈りなの?」

 

「ん? ああ、食材に感謝するって意味だよ」

 

 そんな話を聞きながら、神様へのお祈りなのか色々聞く。いただきますは彼からすれば食事のあいさつで、食材への感謝らしい。

 

 洗い物をしながら彼はすぐに出て行こうとするが、まだ時間があるらしく、少し外について色々な話を聞く。

 

「やっぱり島の外はすごいな~」

 

 彼から聞く話は珍しく、なかなか聞かない文化で、聞いていて楽しい。

 

 この島は多くの人が行き来する。だから様々な文化や歴史、様々な国があるのは知っている。知っているだけで、あたしは何も知らない。

 

「………気になるのか、外が?」

 

「うん♪ けど少し怖いな………」

 

 危険なことだってあるのは知っている。素敵なことばかりではないのを知っている。

 

 だけど夢見てしまう。海の向こうの世界、その先が見てみたい。

 

 けど………

 

「それにあたしは〝歌姫〟なんだ」

 

「〝歌姫〟?」

 

「この島で守り神様を起こす歌を歌う、その歌を伝える一族なの」

 

 そう言いながら凄いでしょと胸を張る。彼はそれに苦笑しながら話を聞く。

 

「開拓された島なんだろ? なんでそんな伝統があるんだ?」

 

「ん~詳しいことは知らないけど。大昔にそう神託があったらしいとかなんとか、あたしはそう聞いてるの」

 

「誰かに任せられないのか?」

 

「あたしのお父さんと先代であるお母さんはもういないし、おじさん一人だけ、この島に残せられないもの」

 

 それもあるし、もう一つだけ理由はある。

 

「それに守り神様を寝かせ続けてはダメなんだ」

 

 神託の話、この島の守り神の話。

 

 守り神様は夢を見る。その夢は世界になり、悪夢へと変わる。

 

 悪夢になった世界を覚ます為、世界の外から〝目覚めの使者〟が現れ、夢の世界を壊す。

 

 それを繰り返してはいけない。目覚めの使者は世界を壊す。その世界に生きる全てを壊す為に。

 

 目覚めの歌を絶やしてはいけない。その歌がある限り、守り神は眠りについてもすぐに目覚め、世界は生まれない。悪夢は生まれず、使命を背負う者も現れない。

 

「だからあたしたち〝歌姫〟たちが、歌を歌い続けないといけない。誰かに世界を壊す使命なんて、誰にも背負わしちゃいけないの」

 

 そう微笑むと、彼は悲しそうな顔になる。

 

 なんでこの話を彼に話すんだろう? あまり外の人に話しちゃいけないのに……?

 

「………それじゃ、俺は行くよ」

 

「うん。お祭り見に来てね、あたしの歌、綺麗だって評判なんだよ♪」

 

「ああ」

 

 そう言い彼は出て行く。その後姿を見ながら、少しだけ懐かしくなる。

 

 だけど………

 

(………これってなんだろう………)

 

 緑の服を着こむ人、その後ろで彼が苦しみながら歩いている。そんな後ろ姿を幻視しながら、あたしは彼を見送った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 森の中、待ち合わせの場所に来ると、シークは木々の中、木の上から飛び降り現れた。

 

「待たせたか?」

 

「いや。それより君はどこまで知っている」

 

 すぐにその話をする中で、俺がすることは決まっている。

 

「楽器があるダンジョンを見に行きたい。まずはそこからだ」

 

「………分かった」

 

 こうしてすぐに俺たちは動き出す。

 

 テールのほらあなは崩れていて、すぐに中に入ることはできた。

 

 だが中は壊されていて、奥へと進むと楽器の残骸がある。

 

「これは」

 

「『まんげつのバイオリン』。なぜここに………」

 

「次はつぼのどうくつ。『まちがいのホルン』に行くぞ」

 

 そこに出向くとこれもまた壊れていて、カギのあなぐらの『うみゆりのベル』。アングラーのたきつぼの『しおさいのハープ』。

 

 ナマズのおおぐちで『あらしのマリンバ』。かおのしんでんで『さんごのトライアングル』の残骸を見つけてから、昼食を取る。しっかりと町で買い物していた。

 

 干し肉を噛みながら、パンを取り出す。シークももぐもぐと食べている中、

 

「んなぶっきらぼうに食うなよ。うまいぞこれ」

 

「別に。食事に興味は無い」

 

 そう言い、黒パンを食べ始める。俺もまた食べたがあまりおいしくない。

 

「少し手抜き過ぎるだろ。なんかないかな?」

 

 そう思いながら手持ちを漁ると、良いのを見つけた。やはり所持品が混ざっていた。

 

 キリトからのおすすめの調味料があり、それをパンにクリームを乗せる。容器からスプーンでかけるタイプなのだが、直接かけて大量にクリームを乗せるのが好みである。

 

 おかげで黒パンがクリームパンに変わり、一気に口の中に仕舞う。

 

(………?)

 

 そうしていると視線を感じて、シークがこちらに意識を向けているのに気づく。

 

「使うか?」

 

「………」

 

 静かに受け取り、スプーンも使いパンに乗せる。

 

「………」

 

 急にパンを食べるベースが早まり、それを見ながら食事を終える。

 

 クリームはすべて使い切られた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 結局、オオワシのとうにある『ゆうなぎのオルガン』は壊れていて、最後を見つけに出向くまでに、シークが口を開く。

 

「君はどこまで知っている」

 

「答える気は無い」

 

 そう言いながら進んでいる。シークはその姿を見ながら考え込む。

 

「………この島は開拓途中で偶然発見された島で、特別な伝統ができたのは、ハイラル王国の姫に神託が下ったからだ」

 

「やっぱりか」

 

 そんなところだろうと思っていた。そのままシークは話を続ける。

 

「当時の姫がこの島に眠る存在について知り、守り神を悪夢から目覚めさせる楽器と共に歌が伝わった。歌は島に住みだした住人、その子供の一人がいつの間にか歌い出した」

 

「子供が?」

 

「ああ。歌姫の一族の伝承では、夢の中、空を泳ぐクジラと共に歌ったのが、歌姫たちが紡ぐ目覚め歌の正体だ」

 

 それを聞きながら、楽器についてはこれもまた不思議な事に、島のどこかで見つかるらしい。

 

 いつからあるか分からない遺跡、天熱のダンジョンからだったこともあれば、どこからか流れついたり、ふとしたきっかけから見つかったりする。

 

「壊れてもいつの間にかどこからともなくそれは見つかり、祭りの時、八つの楽器は歌姫と共に島中にその音色を響かせる。そのはずだ」

 

「はず?」

 

「………いまの、今世の巫女姫が予知夢を見た」

 

 そう言いながら、楽器の残骸を回収したのだろうか、手の中のそれを見ながら呟く。

 

「悪夢から生まれた剣士が、楽器を壊し、悪夢の世界を創り出すと言う夢」

 

「………悪夢の世界をか?」

 

 それにシークは頷きながら、こちらを不審者、疑わしい者として見る。

 

 面倒だからシークが何者かなんかどうでもいいが、シークからすれば俺は一番怪しいのだろう。現に楽器は壊されているし、その場所を知るのだから。

 

(まあ理由が分からない、行動が不明だから、監視程度で済んでるんだろうが………)

 

 そう考えながら、カメイワの前へたどり着いた。

 

 そこはあの時のような状態であり、自然物にしてはあまりにも不自然な岩がある。

 

「ここは無事っぽいが………」

 

「この先はどうするんだ?」

 

「特殊な音色でゴーレム、岩を動かしてバトル。あのカメの頭っぽい岩を壊してダンジョンの中に入る。だがオカリナが無いから、音色を奏でることができない。爆弾無い?」

 

「岩を壊すほどの物騒な物は無い」

 

 そう言って少し考え込んでから懐に手を入れて、何かを取り出す。

 

「これを貸すからその音色を奏でろ」

 

 そう言ってオカリナを渡して来る。そのオカリナにはある紋章が刻まれ、あの日々の中、物語の中で大変お世話になった物。

 

 なんていうかあえて考えないようにしているが、シークは………

 

(まあいいか)

 

 思考を放棄してオカリナを吹く為に口を付ける。このオカリナ、他人に貸していいのだろうか? シークが少し目線を反らす中で、音色を吹いた。

 

 奏でるのはあの世界で知った魂すら起こす歌だ。それが鳴り響き、演奏が終わると地響きが起き始める。

 

「戦闘の準備してくれ」

 

「ああ」

 

 カメの岩が剥がれ、首を伸ばす。

 

「カメ?」

 

「俺に聞かないでくれ」

 

 首は長いし俺もカメかと思ったよ。

 

 そう思いながら二人して駆けだして、カメイワの首を叩き斬る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 カメのような岩が口を開き、炎を吐き出しながら迫る。待て、混ざってないかテメェッ!?

 

「シークは下がってろッ!!」

 

 攻撃を何度か当てたが変化がない為、頭部を連続で斬り込みながらそのまま首まで進む。

 

 岩のはずが金属がぶつかり合う音が鳴り響く中で、一部の首の岩へと斬りかかると苦しむように変化した。

 

(トライフォースの『デグロック』が混ざってるのか? ん? なら………)

 

 すぐに何かか来ると思い、膝を折り、無理矢理上半身を下げたら、冷凍ビームのようなものが通り過ぎた。

 

 ブリッジの要領で後ろの、ビームが当たった場所を見ると凍り付いている。

 

(マジで混ざっているな。火も冷気も無いから斬り続けるか)

 

 何度も何度も剣を振り回す。首が一つだけでよかった。

 

 そんな中、決定打は無いものの、SAOで鍛えられた方法で戦う。

 

 1でもダメージが通れば、後は時間が解決する。

 

 永遠に思えるほど攻撃を繰り返し続け、倒れるまで敵を切り刻み続けた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 自分が見る光景に目を疑った。

 

「入口が現れたぞ」

 

 汗もかかず、息も乱すことも無く、長時間怪物と斬り合い続けたテイル。

 

 彼の周りには岩の化け物の破片と共に、それが口から出した熱線などの跡がある。凍り付いた大地に、溶岩のように湯気を放つ黒焦げた岩。

 

 その中でどんどん足場が限られる中でも気にも留めず、攻撃を繰り返すことができる剣士。

 

(こんな腕前を持つ者が国にいるか?)

 

 答えは否。少なくても攻撃を避けつつ、その攻撃で変わった地形を把握し続けながら攻撃をかわし、攻撃を常に続ける剣士など聞いた事が無い。

 

 彼は何者なんだろう。そう思いながら、彼と共にダンジョンの奥へと進む。

 

 歌を途絶えさせては、あの夢を現実に変えてはいけない。

 

 だからこそ気づかなかった。いつの間にか、彼を信用している自分がいたことに。それに疑問を持たないことに。

 

 自分は気づかなかった。彼が何かに憎むようにダンジョンに入る瞬間を………




テイル「はいオカリナ。貸してくれてありがとう」

シーク「別に。必要ならば仕方ない」

テイル「ん? 待て、なにか吹くとこに汚れが………赤い? 唇でも切ってたか?」

そう言いながら口を触るが何もついていない中、シークは少しだけ考え込み、急に真っ赤になる。

シーク「はっ、早く奥に進むぞっ!!」

テイル「あっ? ああ?」

シーク(朝の稽古の時に吹いたけど、吹いたけどッ!? ちゃんと拭いたりして渡せばよかった………)

テイル「???」

お読みいただき、ありがとうございます。


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第66話・そして時は重なる

 本来ならばカメイワはかなり広いダンジョンだが、ただ一本の道、洞窟が広がるだけだった。

 

 そのまま奥へと進むと、たどり着いたのは階段だった。そのまま下へと続く道を歩くと、一つの台座と共に楽器がある。

 

「『えんらいのドラム』?」

 

「無事な楽器があったっ!?」

 

 そう言い、シークと共に近づき、シークがドラムを持ち上げる。

 

「………間違いない、これは『セイレーンの楽器』の一つだ」

 

「これだけは無事だったのか………」

 

 ほっとしたようにドラムを持つシーク。ここだけはまだ無事であり、残っていたのだろうか?

 

「シーク、楽器は全て知っているのか?」

 

「一度だけ、幼い頃に全て。だが………」

 

 昨年の祭りで発見されている楽器は古いがちゃんと管理され、厳重に保管されていた。

 

 だが全ての楽器は粉々に破壊され、一度島中を探し回ったらしい。

 

「今年は新しい楽器を使う事になっている。古くから『セイレーンの楽器』を使う人達は苦い顔をしていたが、新しい楽器は見つからなかった。壊れた三日くらい経ってから、どこからともなく見つかるはずの楽器がな」

 

「壊れたら、新たな楽器が生まれるのか? なら他の楽器も生まれる?」

 

「だと思うが時間が無い。もう祭りの時期が迫っている」

 

 残りの楽器はどうするか? そう考え込むと悲鳴が響き渡る。多くの人、若い人間の声。男女問わず響き渡った。

 

 シークと共に武器を構え、背中合わせで周りを見ると、唯一の入り口が暗闇に染まる。

 

【………何故だ?】

 

 影のような暗闇が現れ、形を取る。それにテイルは目を見開いて、苦笑する。

 

「懐かしい顔だなおい」

 

「知っているのか?」

 

「あれは俺の影かなんかだろう」

 

 彼はその姿を良く知っている。なぜならば、この世界に来る前はよく鏡で見ていたから………

 

【そこまで分かるのならそこをどけ。最後の楽器はここで壊すッ!!】

 

 牙が生え、充血した目から赤い涙が流れる。それに対して剣を向ける。

 

「そう言われてもな。俺なら分かるはずだろ?」

 

 対するテイルは目を見開き、剣を握る手を強める。

 

【もう一度世界を壊す気か? 目覚めの使者ッ!! 偽物で紛い物の、勇者が!!】

 

「………そうだよ偽物」

 

 そう言った瞬間、光と闇が激突した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 金属音が鳴り響き、シークは絶句しながら見守っている。

 

 早すぎて目で追うのでやっとの速さの中、悲鳴が響き渡っていた。

 

「この悲鳴はなんだ? テメェは一体何してる?」

 

【俺はお前が、勇者の紛い物が生んだ〝モノ〟。だがお前と違い、俺は俺の選択を選ぶ】

 

「だからどういうことかって聞いてるんだッ!!」

 

【コホリントを守るッ!!】

 

 それに驚く中、一歩前に踏み込んだ足が床を砕き、白刃が光を纏い闇を斬る。

 

「………ふざけるな」

 

 気配が変わった。シークはそう思う中、それは叫ぶ。

 

「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなざけんなざけんな………フザケルナッ!! 悲鳴も何もかもふざけてるんじゃねぇぞおいッ!!」

 

 鬼気迫る怒りを感じながら、それらは激突し合う。

 

【お前は勇者なんかじゃないッ! 救えたはずなのに何もせず、助けられたはずなのに何もしなかった。見ていただけの紛い物】

 

「あの島はもうねえんだよッ!! もう無いもん守るってどういうことだ説明してもらおうかッ!?」

 

【答える必要は無い。何もしないお前に、負けられるかアァァァァァァァッ!!】

 

 激突し合う剣がつばぜり合い、憎み合う二人。

 

【消えると知っていて何もしない。死ぬと分かっていて何もしない。後悔から、絶望から、罪悪感から逃げているお前が、しゃしゃり出て来るなッ!!】

 

「ああ俺は何もしない。何かをする資格なんて無いはずだッ!!」

 

【俺はあの場にいた】

 

「違う。俺はあの場にいなかったッ!!」

 

【そう言って何もしなかった事を正当化する気か?】

 

「ならいたとして何ができたッ!? 彼らの物語に、勇者の物語にできた染みがッ!!」

 

【そう言って逃げている貴様に、俺は、俺は負けるわけにはいかないッ!!】

 

 流れる血が刃になり、迫る中でそれを全て剣で叩き落す。

 

 だが………

 

「なんでお前は、俺はそこまで後悔していたのか……?」

 

【………分かっているはずだ。俺はお前、お前は俺だ】

 

 流れ出る血の中で、それはたたずむ。

 

【後悔しているだろ? 夢の世界を壊した事。なら、いいだろ? 抗っても】

 

「………あの世界をあのままにしていいはずがない。夢は覚めるものだ」

 

【だから壊すのか? 殺すのか? あの島を、また】

 

「またも何も無い。あの島はもう無い。なにより、俺に向けられた全ての感情は、勇者へ向けられたものだ」

 

【ならなんでこんなに心が痛いッ!? そう思うのならなぜ俺が生まれたんだッ!?】

 

 それを言われた時、僅かに剣が揺らいだ瞬間、鮮血が針に成り、テイルの身体を貫いた。

 

「テイルっ!?」

 

「ぐっ………痛みまでしっかりとあるのかよ………」

 

 そう言いながら、目の前の影を見る。影はその様子を見て口元を釣り上げた。

 

【俺はお前とは違う。意味を、理由を、価値を手に入れる。あの島の日々も】

 

「なにを言ってる?」

 

 両腕から血が流れ、悲鳴が響き渡る。

 

【あの世界を創り出す。多くの者で悪夢を創り出し、俺はもう一度、あの島】

 

 その瞬間、それは………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「クラインさん、みんなっ!?」

 

 全員がボロボロで、キリトの首を掴み上げ、締め上げている影。

 

【この悪夢は終わらせない。コホリントはもう泡になんてさせないッ!!】

 

「ち、がうッ! そんなこと、誰も望んでいないッ!!」

 

【俺が、俺が望んでいる。そう、それが俺の、絶望の中で生まれた俺の叫び声だッ!】

 

 そう言い黒い影の剣が巨大になり、キリトへと振り下ろされる。

 

 小さな妖精は叫び声を上げた。その叫び声は多くの悲鳴にかき消された。

 

 

 

 ザンッ!!と言う音と共に………

 

 

 

「えっ……?」

 

 影は半分斬られ、血と共に流れ落ちる。

 

【………なん】

 

【で………】

 

 空間が砕ける。

 

 ひび割れた空間から、片足が飛び出て影を蹴り壊す。二体いた影が一つ、粉々に砕け散った。

 

「………いまなんて言った?」

 

 砕けた空間から一人の剣士が現れる。

 

「多くの者で悪夢を創り出し、ってなんだ?」

 

「テイル………」

 

 紫の妖精剣士。ユウキはその顔を見て驚いていた。

 

 彼を知る者からすれば驚く。彼が怒りと憎しみを表に出しているのだから。

 

「テメェは俺だ。過去の、前世の、絶望に押しつぶされた俺の姿をした俺だと思っていた」

 

 そう言いながら、暗闇と鮮血が集まり、赤と黒で彩られた化け物が姿を会わらす。

 

「だが違う。テメェは俺の絶望から生まれた別のもんだッ!! 他人を犠牲に『マリン』たちの島を作る? ふざけた事言ってるんじゃねぇぞカスッ!! テメェを認めないッ!! 俺はどれほど絶望したとしても、これは俺だけのもんだッ! 人の絶望で悪さするな、返してもらうぞ化け物がァァァァァァァァァァ」

 

【理解できない………理解できないッ!! 愚か者がァァァァァァァァァッ!?】

 

 紅と黒の剣を構え、二つの色を纏う男とテイルが激突し出す。

 

 どちらも激高しながら、ぶつかり合いが始まった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 すぐに分からなかったが、ユウキは現れた剣士を見てテイルと呟く。なら彼はテイル本人だろう。

 

 そして彼は激怒している。自分の姿をした悪夢に。

 

「空間が壊れている。君は」

 

「これは……? あなたたちは? ここはどこ?」

 

 ヒビ割れた空間から顔を隠している人が現れ、俺たちに話しかける。

 

「俺たちは〝コホリント島〟で戦っていた者だ。君は?」

 

「コホリント? 我々も『コホリント島』からここに来た」

 

「!?」

 

 二つのコホリント島の話を聞いて、何かがおかしい事に気づく。

 

「ともかくここで目覚めの歌を響かせないといけない。だけど【セイレーンの楽器】が」

 

「『セイレーンの楽器』? それならここに一つ」

 

「!?」

 

 ドラムらしい楽器を見せてくれるが、確か楽器は八つ。数が足りない。

 

「フェリサッ!! 力を貸してくれ、フェリ」

 

 その瞬間、全身から冷や汗が噴き出した。

 

【それの名前を気安く使うなッ!!】

 

 一瞬で俺の側に来た影。紅と黒の剣が交差する中で俺はすぐに防いだ。

 

「キリト君ッ!?」

 

「そっちは任せたアスナ。行くぞテイルッ!!」

 

「ああ、手を貸せキリトッ!!」

 

 二人の剣士が走り出し、クライン、リーファ、ユウキたちは各々の顔を見て頷いて走り出す。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 コホリント島。あたしが住む島はそう呼ばれ、あたしはこの島の歌姫。自分の家でシチューを煮込みながら、あたしは考え込む。

 

 別にそれに不満は無い。歌を歌う事に抵抗は無いし、この島が大好きだ。

 

 何より、この伝統が始まる切っ掛けを母から聞いたとき、あたしはとても悲しくなった。

 

『この島の守り神は眠りにつくと夢を見る。最初は小さなたまごが産まれ、それを中心に世界が生まれるの』

 

 守り神は眠り過ぎると島が生まれ、悪夢が生まれる。悪夢は夢の世界を維持する為に、守り神様を目覚めさせないように、悪夢の世界を創り出す。

 

 そして守り神様は目を覚ます為に、外の世界から人を招き入れて起こしてもらう。

 

『目覚めの使者は夢の世界を壊す為に現れるの』

 

 夢の世界にはその世界に〝生きる〟人はいる。目覚めの使者は彼らの住む世界を壊さないといけない。

 

『私が聞いた時、それは悲しい物語だと思ったわ』

 

 あたしもそう思う。その話、物語を知って考えた。

 

 目覚めの使者はきっと辛いと思う。あたしもこの島に生きている。外の世界を知らないあたしの世界。

 

 この島が夢で、覚めて泡にならなきゃいけないと知ったら、それはとても悲しい。

 

 だけどもっと悲しいのは、それをしなきゃいけない目覚めの使者なんだと思う。

 

 歌は絶やしてはいけない。たまごの時に守り神様を起こしてあげないといけない。

 

 そうしなければ、誰かが苦しむんだから………

 

「………なんで思い出すんだろう………」

 

 テイルと出会ってから、あの日の記憶が蘇る。彼になんとなくお世話を焼く。

 

 なんでだろうと思いながら、あたしは歌を歌おうと口を開こうとした時………

 

「………誰……?」

 

 誰かがいる気がして振り返る。

 

 火を止め、あたしは暗闇へと歩き出す。

 

「部屋の灯り、消したっけ……?」

 

 そう思いながら、誰かの叫び声が聞こえる。

 

 それを聞き悲しい気持ちに成りながら歩く。いまあたしはどこを歩いているんだろう……?

 

『お願い、彼を止めて………もう一人の目覚めの使者。あたしの歌は彼の為に成らない。あなたの歌で、彼を救って………』

 

 そう聞こえた時、テイルたちと黒い影は剣を交える場所へとたどり着いた。




テイル君だってキレる時はキレるのです。しかもいま彼、徹夜からやっと寝て起きての出来事。キリトたちのおかげでコミ力も上がりました。

それでは、お読みいただき、ありがとうございます。


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第67話・悪夢が見る島

その人は見た記憶の無い人だと思った。

血だらけで、爪で引っ掻いたような傷口を持って、目が充血するほど見開く、知らない男性。

だけど、けど、どうしても、ボクはその人を知らない人とは思えない。

そしてその人と〝彼〟が似ている気がした。どう見ても似ていない、別人のはずなのに。

ボクは彼を……血だらけの剣士を【テイル】だと思ってしまった。

誰にも言えず、いまテイルは【テイル】に戦いを挑んでいる………


 気が付くとそこは暗闇と悲鳴が響き渡る空間だった。

 

 そんな中で金属音、誰かの叫び声が聞こえ、あたしはそこへと向かう。

 

 目にした光景はテイルと誰かが戦っている。

 

 禍々しく、見たことの無い衣服を着込み、二十歳ほどの男性らしいそれは、魔物のような姿に変わり果てていた。

 

 周りには傷付いた人?たちがいる中で………

 

【俺は取り戻す………取り戻すんだ。彼女たちをッ! あの世界をッ!! 必ず………必ずッ!!】

 

 その人はどこか悲しそうに泣いている気がした………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 なぜだ? なぜこんな事になっているんだろう?

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 俺はただ世界を、あの島を消したくないだけなのに。なぜこんな事になっているんだろう?

 

 何がいけなかった?

 

 きっとあの時、勇者と〝体験〟であの島を消す選択を選んだのがいけないんだ。きっとそうだ。

 

 だから間違っていない。俺は間違っていない。

 

 マリンを、フェリサを、フクロウおやじたちを………

 

 取り戻す事の何が悪いッ!?

 

「もう彼女たちはいない」

 

 違う。だから世界を取り戻す。

 

 お前は諦めた。助ける事も救う事も何もかも諦めた。

 

 あの場にいないからと言い訳して、いないいないと言いながら選択して絶望と後悔をし続けるお前がいけない。

 

 俺は選ぶ、助け出す救い出すッ!!

 

 それが本当の〝俺〟が選びたかった選択肢なのだからッ!!!

 

「………お前は根本的に間違えているんだよ」

 

 キリトと共に斬り込む〝彼奴〟は、そう言いながら睨んでくる。

 

「テイル。こいつは」

 

「ああ、前世の俺の姿だ。我ながらここまで後悔していたと思うと」

 

「いや、こいつは君じゃない」

 

 そう言いながらキリトは斬りかかり、俺はそれを防いでいる。

 

「気づいていないのか? お前とテイルの違いが?」

 

 剣戟の中でキリトがそう話しかけてきた。

 

【何を? 違いなんて一つだ。彼奴はあの場にいないと言って諦めて、俺は取り戻そうと】

 

「そうじゃないッ!」

 

 ガキンッ!!と甲高い音が鳴り響いてつばぜり合いながら、キリトは俺を見る。

 

「夢の世界はもう無い。君の求める世界はもう存在しないんだ」

 

【違う。だからこそ俺は、俺は取り戻すために】

 

「また新しく夢の世界、悪夢の世界を作る? ふざけるなッ! お前は彼と違って〝体験〟を、俺たちの世界を見ていないッ!!」

 

 ………

 

 なんだいまのは?

 

 キリトの言葉を聞いた瞬間、視界にノイズが走り、黒い刃と紅い刃にヒビが走った。

 

「また作る? 取り戻すって一体君は何を取り戻すんだッ!? 君は本当に彼らに何を求めてるんだ? 守りたいからか、救いたいからか? 違う、君がしたいのは自己満足だッ!!」

 

 ノイズが視界に走り、何かが削れ、ひび割れる音が聞こえる。

 

【違うッ!!】

 

「ならなんで〝また作る〟なんて言葉を使うッ!!」

 

 剣にヒビが走る。亀裂が、俺の中の中かが壊れていく。

 

 なんだ? 感覚が薄れていき、何かが狂いだしている感覚だ。

 

「彼がキレるはずだ。お前は、お前の取り戻そうとしているのは………」

 

 やめろ。

 

 その先を聞いてはいけない、知ってはいけない。

 

 俺が全ての攻撃をキリトへと向ける。身体の鎧が腕と成り、爪を広げてキリトへと迫る。

 

 腕の数は剣と同化したものを含めて六本。爪と刃がキリトへと迫るが、キリトはそれを睨み、全てをソードスキルで叩き、弾き切った。

 

【な……ッ!?】

 

 その時のキリトは金色の瞳をしていて、データ処理のスピードを越えた速さと力で弾いた。

 

 ダメだ。その先は、ダメなんだ。

 

 なのに、手が足りない。身体が拒むと同時に、それを受け入れている。

 

 その言葉を、キリトの言葉を………

 

 ただ高速演算で周りの様子を見る俺からすればスローモーションの中で、その声は俺の中に溶け込んだ。

 

 

 

「『全部勇者が持っているものじゃないかッ!!』」

 

 

 

 その時、俺の中にある彼らの微笑みが、記憶が、俺自身が砕け散る。

 

【アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ―――】

 

 俺が消える。そうだ、俺は悪夢は偽物だ。彼奴が偽物のように、俺の元、彼奴が抱いた絶望は偽物だ。

 

 それを乗り越えた勇者(本物)と違い、(偽物)は乗り越える事が出来なかっただけ。

 

 彼らを消したくないと言う感情。砕ける俺は拳を振り上げて、キリトへと向けた。

 

 だけど、それをかいくぐり、キリトの双剣が煌めく。

 

「彼は〝体験〟であっても心を痛め、それでも無理矢理進んだ」

 

 俺しか聞こえない声で俺を射貫く目。

 

「だけどお前は他人の物を自分の物にしたいだけだ。例え勇者と同じように苦しみ、絶望し、耐えられなくても、それは君の物じゃない。物語を聞いて、話を聞いて苦しんでいるのと同じに過ぎない」

 

 その時のキリトからは、先ほどの覇気は無い。まるで俺のように苦しみ、キリトは俺を見る。

 

 切り裂かれる中、それでも抗う。

 

 それでも、彼らは………

 

「彼らは君を、テイルを仲間と認めても。他人を犠牲にするお前の行動は許されない」

 

 砕け散る身体。何か別の物も砕け散る音が響く。

 

「彼らの仲間と胸を張って名乗りたいのなら、悪夢の世界を、選んだ道を否定するな」

 

 ………

 

 分かっている。

 

 俺が抱く感情は本来勇者が持つもの。俺事態はただ勇者の話を聞いて抱くような嘘っぱちだ。

 

 なのに勇者や〝俺〟が選ばなかった道を選んで、自分の物のように見ていた。

 

 なぜそんなことを考えた? 俺はいつから〝勇者リンク〟だと勘違いしたんだ?

 

 なんで、俺はそんなことを………

 

『君の願いはなんだい?』

 

 その時、何者かの声が頭に響く。それは俺の思考に何かしている感覚。

 

 それでも俺のしたことは間違いでは無い。切っ掛けはどうあれ、俺はやはり、あの島を忘れられない。

 

 それでも俺は、ここで彼に討たれよう。きっとキリトが正しいのだから………

 

 そう考えながら、俺は〝俺〟に見られながら、砕け散った。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「終わったの……?」

 

 アスナが首を傾げながら近づく。散りと成り消えるそれを見ながら、ユウキは悲しそうに見つめる。

 

「ねえあの人、どうしてあんなに苦しそうだったの……?」

 

「………どうにかしたかった」

 

 テイルは虚空を見ながら、手を伸ばして呟く。

 

「手が届きそうで届かず、その先を知っているのに変えられず、向けられた想いが別の人に対しても、彼らを大切に思ってしまった。彼らを助けたい、救いたい、そう願い、叫びたいほど願い望んだ」

 

 苦し気に言う彼の眼は、気が狂ったように喉や顔をかきむしるのを我慢するようだった。

 

「進まないと意味がないから進んだ。あれは俺だ、そんな理由で進んだ行ったから置いて行った感情だ」

 

 物語のページを勧めないといけない。先の展開を知り、それを食い止める事ができたのではと何度も何度も思った。

 

 それでも彼の知る物語通り、人が犠牲に成り、消え去り、救えない。

 

 自分がそこに居なくても、その場所にいたように〝体験〟する物語。それが耐えられない。それでも進まないといけなかった。止める事はできなかった。

 

 無理矢理進んでいった結果、あれが生まれた。勇者とは別の選択を選びたかった自分。

 

 それでも………

 

「それでも俺はこんな事を望まない」

 

 巻き戻そうとする様子はまさに、ゲームか何かを巻き戻そうとするようだった。

 

 彼らはそこに生きて、そこで彼らの物語を生き抜いたのだ。あの時自分が居れば変える事ができた結果を夢想することはある。

 

「だけど、巻き戻すなんて考えない。もう戻れない、巻き戻れない。もう終わった。勇者が選んで、彼らが選んで、もう物語は終わったんだ。だってそうだろ………」

 

 キリトはテイルの顔を見て、悲し気に反らす。

 

 彼にとって体験の中の世界は全て現実であるように、仮想世界での日々を、もう一つの現実として考える。

 

(だからこそおかしい。彼がここまで戻れるのなら戻りたいほどの後悔なのは分かる。だけど、巻き戻したり、また一から作り出すなんて決して考えない)

 

 キリトは思う。彼がそんな〝ゲームか何かのように、巻き戻そうと思うはずがない〟。

 

 キリトは確信している。彼がここまで体験の日々や自分の選択を後悔するのは、それを現実として、もう一つの世界として真摯に受け止めているからだ。

 

 なら彼はこんなことをするわけがない。

 

 その時、ノイズが走る。

 

 ――愚かな人間――

 

 ――埋め込まれた言葉に踊らされ、世界を作ろうとした愚かな散り――

 

 それは彼の塵を集め、身体を創り出し、彼らの前に現れる。

 

「なんだ………」

 

 ――異界の人間に取り出され、偽りの感情を与えられたただの偽物――

 

 ――所詮は悪夢、神足る我らの代わりに過ぎない。仮想の幻想――

 

 ――だが、我らは違うッ!!――

 

「きゃあああああああああああっ!?」

 

 女性の悲鳴が響き、暗闇を見る。

 

「マリンっ!?」

 

「テイルっ!!」

 

 暗闇の腕に捕まり、悪夢が目を覚ます。

 

【愚かなニンゲン。貴様のおかげでこの世界は永続される】

 

 閃光のように走り出すテイル。獣のようにすでに本能で目的を理解して、マリン救出に全神経を回した。

 

 砕け散る闇が集まり出し、それに巻き込まれたマリン。テイルは闇を薙ぎ払いながら、マリンへと手を伸ばす。

 

 無数の影の欠片が刃のように鋭くなり、テイルへと降り注ぐが………

 

「銃弾より、遅いッ!!」

 

 盾と剣で全て蹴散らす中でマリンへと手を伸ばす。

 

「オレらも」

 

「忘れないでよねっ!!」

 

「でっやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 クライン、ユウキにリーファが闇を斬り、マリンを救出してそれを見る。

 

「よお、何時ぶりだ? 『シャドー』ッ!!」

 

 人の姿に無数の腕、武器を持ち、紅い血のような鎧を纏うそれは、胸の鎧から巨大な瞳を開く。

 

【我らはユメの世界の、安定を築く者。この世界を滅ぼさせはせぬ】

 

「ふざけるなッ。その夢の住人たちを苦しめ、絶望する世なんて誰も望んでいないッ!!」

 

【決めるのは貴様らでは無い。我らだッ!!】

 

 片手で持てる禍々しい斧、黒い片手剣、紅の刀身の刀、片腕で持てるはずの無いほどの大きさの両手剣、黒い弓と矢、鋭いトゲのような槍、竜の頭部のような盾を持つそれは構え、キリトたちも武器を構える。

 

「ともかく、もうラスボス戦ってことでいいんだなテイル」

 

「ああ、その後で話し合いだ。ともかく」

 

「勝ってハッピーエンドだよね?」

 

「そう言うことよ」

 

「いくぜみんなッ!!」

 

『応ッ!!』

 

 こうして悪夢との最終決戦は、始まりを告げた。




シャドーはダークテイルを飲み込み、その力を使って姿を現した。

ダークテイルは前世の彼が血まみれになるほど気が狂った姿がベースです。ちゃんと人物像が無いのは、ほとんど傷と身体が壊れていたため、キリトたちはテイルと、見ただけでは気づきません。

キリトも覚醒しながら、シャドー戦、SAO版、夢をみる島は終わりへと向かいます。

それでは、お読みいただき、ありがとうございます。


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第68話・悪夢の終わり

画面越しなのだろう。彼らは俺を見る。

『なかなか面白いデータだね。これは誰かの……感情データ? それにしても興味深い』

そう言いながらその男は俺に話しかけて来る。

『君の願いはなんだい?』

願い?

………

なんで俺はあの時動かなかった………

知っていた、分かっていた、理解していた。

なのに、なぜ動かなかった? 動けなかった?

『ふむ……後悔? 君は何に後悔しているのかな?』

彼らを救えなかった、なにも守れなかった。見捨てた。

『なるほど、興味深い……もしも叶うのなら、何がしたい?』

叶える? そんなことはあるはずはない。俺は偽物………

『反応が薄い。少しデータを動かそうか』

『どのように?』

『そうだね。それが〝叶う〟と想定してだね。彼が〝叶う〟としたらどんな感情を生み出すのか興味ある』

『分かりました』

………

叶う………俺の、願い、叶う………

ああそうだ、叶えなければいけない。守られなければ、いけなかったッ!!

『感情に動きがありました。これは……ただのデータ、思考ルーチンなのか?』

『このままこのデータの観測を続けてくれ』

俺は、俺は取り戻すッ!! 彼女を、彼らを、あの島を取り戻すッ!!

俺は……俺は取り戻したいッ!!

だけどそれは間違いなのだ。

だから倒せ、決めろ。

力の勇者、黒の剣士………


 シャドーはある悪夢を取り込んだ。それは勇者の記録を持つ自分と同じ影の力。

 

 その力を振るう為に姿を変え、彼らを倒す。

 

 はずだった。

 

「でぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 キリトが両手剣を弾き、テイルがユウキとラッシュを放つ。

 

 シャドーは困惑していた。性能は確実に目の前にいる剣士の力を手に入れているはず。

 

【なぜだ?】

 

 攻撃は読まれている。全ての行動が先読みされて、うまく躱され、攻撃が突き刺さる事に疑問に思う。

 

「そんなの、決まってるだろ………」

 

 力を込めて片手剣を弾き、テイルは睨む。

 

「俺はそれを置いて前だけ突き進んだ。それよりも前にいる」

 

「なによりさあ、君ってテイルのコピーなんでしょ?」

 

 槍をかいくぐり、そう呟くユウキ。リズとシリカも微笑む。

 

「全部の攻撃はテイルさんみたいです」

 

「ええ。だけど」

 

 弓矢を放つシノンも不敵に笑う。

 

「纏めて使えば、いいってもんじゃないわよ」

 

 テイルは自分の技術を無理に纏めて使わない。使うとしても二刀流で戦う時だけ。

 

 槍を構えた足さばき、剣と盾の攻撃と防御の切り替え等々。身体一つで十全に使うとしたらそれのみで戦う方が一番強い。

 

 キリトたちからすれば、欲張って全ての能力を使うコピーに、怯える理由は無かった。

 

 正直下手なボスよりも強いが、テイルの強みを知る彼らは、こんなコピーに怯むことは無い。

 

「テイルの強いところって、これと言うポジションやスタイルをきっちりするところだからな~………」

 

 そうキリトはしみじみ思う。このボスは正直に言えば器用貧乏だ。

 

 魔法ダメなら魔法装備で整えたり、遠距離なら遠距離装備に整えたりする彼。そうしないと火力が足りない。

 

 無理矢理全能力を前に出しても、テイルの強さを発揮することはできず、こうして押す事はできる。

 

 刀を居合切りのように踏み込んで振るうが、ユウキとアスナは同時に踏み込んでかいくぐる。

 

「閃光!!」

 

 アスナの細剣が光り輝き、ユウキの剣も輝く。

 

「絶剣!!」

 

「「『マザーズ・ロザリオ』ッ!!」」

 

 剣舞が放たれ、片手剣も両手剣も砕け散り、キリトが懐に入る。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 切り裂かれる身体から暗闇が噴き出す。リズとシリカ、リーファとクラインが刀と槍を押さえ、弓を構えたシノンが相手の矢を持つ手首を貫く。

 

「これでッ!!」

 

「終われッ!!」

 

 クラインたちと共に腕を破壊して、テイルとキリトが畳みかけた。

 

【マダオワラヌッ!!】

 

 欠片になる肉体を気にも留めず、シャドーは形を維持せず、口を開く。

 

 人型だったそれが巨大な咢を開きながら迫るが、二人の剣士が剣で抑え込む。

 

【勇者でも無い貴様らにッ!! 悪夢は晴らす事はできぬうぅぅぅぅぅ!!】

 

 それに歯を食いしばり、ギリィと音を立てたテイル。

 

「俺はなあ………」

 

 その時、その手の甲が光る。

 

「例え勇者じゃなくても………」

 

 キリトの目の色が変わり、その手の甲が光る。

 

「仲間の為なら」

 

「俺の仲間を傷つけるのなら」

 

 その光にシークの手の甲も鼓動するように光る。

 

「これは」

 

 シークははっとなり彼らの手の甲を見ると、それは三角の黄金に近い輝きを放つ。

 

「偽物の勇者ぐらい何度でもなってやりぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

「何者にも、負けるものかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 シャドーは見た。勇気、知恵、力の黄金の三角形の集まり。

 

【バカな………お前は、偽物のはず………】

 

 その目が見るのは、勇者の偽物であるはずの男の甲。

 

 三つある三角形の真上に輝くそれを見ながら、それは消し飛んだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「終わったのか?」

 

 俺がそう言うと光が消えている。手に輝いたのはなんだったのだろうか?

 

「なにがどうなってるんだ? キリトたちはALOか」

 

「君はどうしてここに?」

 

「寝てたら体験みたいに異世界にいた」

 

 そんな事を言いながらユウキが彼に抱き着き、顔を隠すテイルの連れのシークと、マリンと言う少女が仲間たちと共に近づく。

 

「テイル。この人? たちは………」

 

「俺の仲間。それより、ここは?」

 

「ああ………」

 

 俺と彼らの話を纏め、二つのコホリント島の話を聞き、しばらくしてテイルは口を開く。

 

「考えられるのは、まだたまごすら生まれていない夢の世界。俺たちの世界で誰かか何かして、悪夢がかなり早い段階で生まれて行動したんだろうな」

 

「それじゃ、ここは守り神様の夢の世界なの?」

 

 マリンと言う少女が不安そうにつぶやくと、テイルは静かに頷く。

 

「ともかく楽器は一つここにある。おそらく〝現実にある〟セイレーンの楽器だろう」

 

「俺たちをここに導いた彼女は、現実の楽器が壊されているから、仮想世界の楽器を生み出して解決しようとしたんだろうな………」

 

 アスナたちは困惑する。まあ確かに、彼から色々聞いていないと分からないところがある。シノンも苦虫を噛むような顔だ。

 

「だが君らが言う、君たちの世界の楽器も壊されている。現実の楽器は一つ」

 

「歌はあたしが歌っても良いけど、楽器は八つ必要だよ」

 

 シークとマリンがそう言い、全員が考え込む中………

 

「問題ないよ」

 

 そう言いフェリサが姿を現した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 彼女を見た時、俺の視界が歪んだ。

 

「………フェリサ」

 

「こんにちは、馬鹿な人間さん」

 

 そう彼女は悲しそうに呟く。

 

「………そうか。君がキリトたちを導いたのか」

 

「ええそうよ、私の役目は目覚めの使者のサポートよ。いまも昔も変わらない」

 

 そう言いながら俺に近づいて、その小さな体を使って頬を蹴る。

 

「ばっかじゃないッ!? あんたにとってあんなの夢物語みたいなもんなのに、あの馬鹿勇者みたいに苦しんで、しまいにはぐちぐち、女々しいったらありゃしないわよッ!」

 

「………そうだな」

 

 そう苦笑したら、彼女は悲しそうに俺の頬に手を当てる。

 

「………あんたには選択肢なんて無かった。物語を進める以外に無いんだから、気にしなくてもいいのに。どうしてあんなに苦しんでるのよ………」

 

「………」

 

「私たちはあんたがいたことすら知らなかった。あんたが心を痛め、苦しみ、それでも………彼奴みたいに頑張ってくれたあんたに、気付かなかった」

 

「フェリサ………」

 

 そう言い、フェリサは悲しそうな顔から微笑み、俺の胸に手を当て、光を取り出す。

 

 それは七つあり、それぞれ楽器へと変わる。

 

「これは貴方の中にあった、夢見る島の楽器。貴方の中で育まれた、あの島の記憶から生まれた楽器たち………」

 

「………なんだよ。最初から俺を呼べば解決したんじゃないか」

 

「………私は貴方なんて呼びたくなかった」

 

 初めから俺を呼べばよかった。その言葉を否定せず、悲しそうに苦笑する。

 

 なぜ俺を呼ばなかったのか、それはここに来れば俺が苦しむから。

 

「フェリサ、君は〝どの〟世界で生きている」

 

「………」

 

 それにみんなの様子を見る。

 

 仮想世界のキリトたち。

 

 もう一つの異世界にある、コホリント島から来たシークとマリン。

 

 なら彼女は?

 

「俺はもう一度、君を泡に変えなきゃいけないのか」

 

「………そうよ」

 

 その言葉に動揺する仲間たち。俺は………

 

「………シーク。オカリナを貸してくれないか」

 

「テイルっ!?」

 

「目覚めの歌は俺が奏でる。この世界を終わらして、彼奴を起こす」

 

 そう静かに覚悟した。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 暗闇が囁くように響く。

 

【フェリサを殺すのか?】

 

「これって」

 

 もう声しか無いそれは、虚しく辺りに響く。

 

【なんでだ? お前はその選択肢を選びたくない。だから俺は生まれ落ちた】

 

「ああ」

 

 彼は迷いなく呟く。それに悲鳴の代わりに形を創り出す。

 

 傷付き、血を流し、血の涙を流す影。それはもう一人の、自分が選んだこととはいえ深く考えもせずに、力を求めた愚か者だった。

 

【お前は自分が助かりたいからまた勇者の真似事をするのか?】

 

 ユウキが何か言いたそうに前に出ようとしたが、その前にテイルはその前に出る。

 

「言ったはずだ。仲間の為なら、俺は偽物でも勇者に成る」

 

【そう言って彼女を殺す事を正当化する気か?】

 

「彼女たちは勇者の中で生き続ける」

 

【だから消すと言うのか?】

 

「それが、彼女たちの願いだ。よそ者の、偽物がしゃしゃり出でどうする?」

 

 それがはっきりとした姿に成り、何か口を開こうとして黙り込み、その場に座り込む。

 

【………俺はお前が置いて行った感情だ】

 

「………」

 

【現実世界でコピーされ、思考ルーチンを刺激され、行動するデータが元】

 

「なんだって!?」

 

 キリトが驚く中、それは血の涙を流しながら、静かにその手を見る。

 

【助けたいと望み、救いたいと望んでいながら、俺は勇者の体験をなぞるだけで、勇者ですら防げなかった悲劇を止める事はしなかった。起きると知っていて、そうなると分かっていながら】

 

「そして後悔がここで一気に噴き出した」

 

【そうだ。勇者ですら目を背きたくなる現実と真実に、偽物が耐えられなかった。だが、お前は置いていくことで先に進んだ】

 

 そしてその身体が崩れていく。

 

【お前がまた絶望を置いて進むのなら進めばいいさ。俺はもう疲れた………】

 

「………ふざけるな」

 

 そう言ってその手を掴み、無理矢理立ち上げらせる。

 

「俺は確かに偽物だ。だがいまは違う」

 

【偽物がいまさら本物になるとでも言うのか?】

 

「なんだっていい。なら聞くが、お前はフェリサをこのままにしたいのか?」

 

 それに初めてそれは動揺した。

 

「この島を悪夢のまま永遠に縛るのか? このまま苦しみ続く世界に閉ざすのか? 勇者の偽物の癖に、勇者がどんな思いで島を解き放ったのか分からないのかっ!?」

 

【お前は】

 

「今度は勇者だからじゃない、テイルと言う人間として選ぶ。あの野郎は起きてもらわないと困るんだよッ!!」

 

 そう言って影の胸を叩き、睨みながら訪ねる。

 

「このまま悪夢を、閉ざされた世界をまた生み出す気か? 誰かにフェリサたちの世界を壊させるのか?」

 

【………俺は】

 

「俺は他人の手にゆだねる気は無い。言ったはずだ、偽物になってでも、目覚めの使者の使命は俺がする。他人に渡さない」

 

【………こんなに苦しんで、選びたくないと叫んだのに、それを選ぶのか?】

 

「それはもうとっくの昔に選んだ道だ」

 

 それに影から血が消え、僅かに影は笑う。

 

【ああそうだな。俺はもう、選んでいたな………】

 

 その時、ユウキを見つめ、キリトたちを見つめる。優しい穏やかな顔で………

 

【最後に、消える前に願いがある】

 

「なんだよ」

 

【あの野郎が二度と世界を作らずに済むようにクレーム付けろ】

 

「………ああ」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 奏でられる歌は目覚めの歌。絶望に光が差し込み、悪夢が終わる。

 

 彼はシークからオカリナを受け取り奏で、その周りで八つの楽器が音を鳴らす。

 

 消えていく世界の中、影は最後まで世界を見続けた。

 

【………】

 

 間違っていたのだろうか? もう答えが分からない。

 

 所詮は偽物、考えることも間違えなのかもしれない。そう思いながら歌を聞いていた。

 

 その時、その手を掴む少女がいる。

 

【………ユウキ………】

 

「………間違ってないよ」

 

 ユウキはそう言いながら強く握りしめた。テイルでは無く、影の手を………

 

「優しすぎるから、どうしても頑張って生きる人たちの為に頑張りたがるのは、ずっと変わってないんだね」

 

【………俺は】

 

「偽物なんか言わないで。ボクにとって、みんなにとって」

 

 そう言いながら満面の笑顔を見せて、影の両手を握る。

 

「君は大切な仲間だよ」

 

 そう言った時、肩に乗る妖精がいた。テイルでは無く、自分の肩に………

 

【………そうか】

 

 そして影は優しい涙を流して泡へと変わる。

 

 こうして悪夢の物語は終わりを告げた………




絶剣と閃光の必殺技、キリトも何気に覚醒しています。さすがキリト。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第69話・覚めた世界で

 それはとある喫茶店での会話であった。

 

 一人は学生で一人はスーツ姿の男性。二人は向かい合いながらケーキと紅茶を飲む。

 

「急に呼び出して一体何の用だ?」

 

 桐ケ谷和人は不機嫌そうに尋ねる。彼の前にいるのは菊岡清次郎。VR関係の事件などに深く関わり、SAO事件から和人と縁がある総務省の人間だ。

 

「いやね。プログラム関係で君に相談したいことがあるんだよ」

 

 そうにこやかに微笑み、ケーキなどをご馳走する菊岡。それに不信感を持ちながら内容を聞くことにした。

 

「実は不思議な事が起きていてね。あるデータの観測に、理解できない出来事が起きた」

 

「理解できない事?」

 

 菊岡が言うにはとあるデータを思考する、AIデータに変えて、思考ルーチンに一定の刺激を与える。

 

 そのAIデータがどのような反応を返すか、そんな研究テーマで動く部署があったのだが、先日データが丸々無くなった。

 

 外部からの不正アクセスを初め、様々な方向から捜査されるが、事件は迷宮入りしそうらしい。

 

 和人は頼んだ飲み物を含みながら、それが何なのかを尋ねた。

 

「詳しくは言えないけど、AIみたいに考え、思考できるほどの膨大なデータだね。最初の頃は、研究者からすれば面白い反応が返ってきて、大盛り上がりだったらしいよ?」

 

 そう言いながら和人は感情を表に出さないように努めた。あるデータは何なのか考える。菊岡はその話の中で、腕を組み首を傾げた。

 

「その感情データが何を求めて、何をしようとするか。そのデータがどんな反応を示すか、色々行ったようだね」

 

「色々?」

 

「別の情報。データなどを組み込むことで、その反応や考え方を変える。その後AIプログラムは、どのように考え、働くかってね」

 

 だがと菊岡は言葉を区切る。

 

「いつしか反応を表に出さず、謎の沈黙を続け、データは観測されたデータを含め、全て消えていた。どう思うキリト君?」

 

「あんたが俺に何を聞きたいか、むしろそこから聞きたいね」

 

「嫌々、簡単な話だよ。そのデータを消すには外部も中からもアクセス不可能。でだキリト君。〝AIデータが自ら自分のデータを消す〟。なんて言われたら、君はどう思う?」

 

 菊岡はそんな事をおどけて聞くが、和人は沈黙したまま適当にはぐらかした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 全てが終わり、森の草原で寝っ転がり、目を瞑り昼寝していると、人の気配に気づき、半身起こして目を覚ます。

 

「何の用だシーク?」

 

「起きたのか。器用だな」

 

 そう言い隣に座るシーク。丁度この位置から、町の祭り風景が見える位置だ。

 

 いま祭りは戻ってきた楽器と共に、歌姫が祭りを盛り上げている。

 

「君はいなくていいのか?」

 

「彼奴を祭る祭りなんかに興味ない」

 

 そう言ってまた寝っ転がり。シークはしばらく黙り込む。

 

「君は何者だい?」

 

「勇者の記録を体験した、偽物さ」

 

 その後、シークに全てを明かした。自分が死に、神に何を願い、何を体験したか全てを話す。

 

 それを聞いたシークの顔を見ず、流れ行く空を見続けた。

 

「あれは俺が勇者の中で感じた後悔みたいなもんさ。まさか人様に迷惑かけるほど深いなんてね」

 

「………君にとって、夢の〝コホリント島〟は本物だったんだろ?」

 

「ああ」

 

 勇者を通して見た彼らの世界は確かにあった。それを幻、夢だからと言って、消えていいはずが無い。あの世界はちゃんとそこにあり、そこでいくつもの命が生きていた。

 

 勇者も絶望し、一度は使命を放棄した。だけどそれでも誰も救われない。だから………

 

「勇者は歯を食いしばって夢からあの野郎を起こした。だが俺は納得できなかった」

 

「………」

 

「あれが俺にとって、勇者なんてもんに絶対に成りたくないと思うきっかけだよ」

 

 あんなものは望んでいない。あんな責任なんて背負いたくない。

 

 だけど結局背負うのだろう。なぜなら俺は、偽物でも勇者なのだから。

 

「あの野郎と言うのは、かぜの」

 

「やめろ」

 

 その名前はいま聞きたくない。シークは俺の言葉を驚きながら、真剣な目で見つめる。

 

「………君はこれからどうするんだい?」

 

「………気になるのなら、着いて来い。そこに隠れている歌姫もだっ!!」

 

 それに森の影からびくんと身体を震わせ、歌姫の衣装を翻すマリンがいる。

 

 祭りの重役二人がいないいま、町はどうなっているか考えずに、俺はあそこに出向く。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 あるはずのものが無い、そこは山すら無くなっていた。

 

「ここが島の中心だ」

 

 踏みしめれば分かる、どこがどこなのか。島中を探索したのだから当たり前だ。勇者の姿ではあるが………

 

「ここにたまごがあったんだね……?」

 

 何も無い草原だけが広がる場所で、静かに空を睨む。

 

「目覚めていないなんて言うなよ。『かぜのさかな』ッ!!」

 

 憎しみを込めた怒気と共に叫ぶと、くじらの鳴き声が響き渡る。

 

 それは現れた。空を泳ぎ、静かにテイルを見つめるそれは………

 

「かぜのさかな」

 

「島の守り神様………」

 

 二人が驚く中、それは優雅に空を泳ぎ、テイルを見つめ、声が響く。

 

『こうして君と顔を会わせる日が来るとはね』

 

「………」

 

『君の望みはなんだい? 力の勇者よ』

 

「俺の望みは………」

 

 目を閉じ、静かに考え込む。湧き上がるものがある。

 

 今すぐ目の前にいるものを、この剣で永遠に滅ぼしたい。

 

 だがそれは違う。少なくても、自分の中にいる勇気の勇者たちは自分を止めている。そう胸を押さえながら感じ取る。

 

 だから言う言葉はただ一つ。

 

「テメェはもう寝るんじゃねぇよッ!!」

 

 そう言って怒鳴る事だった。

 

「テメェの所為でフェリサは二度死んだッ!! この島の歌で誰かが縛られるッ!! 起きても寝てても使命使命って他人に押し付けてるんじゃねぇぞクソクジラッ!!!」

 

 その叫び声は島中に響きそうなほど轟き、二人は驚き、目を白黒させる。

 

 対してかぜのさかなは、静かにテイルを見る。

 

『君の望みは、使命の解放だね』

 

「テメェの所為で自由が無い。どうすればマリンは島の外に出られる?」

 

「テイル………」

 

 しばらく黙り込む中、優しい風が吹き、声は響く。

 

『わたしはどこにでもいる。世界のどこかで眠り、優しい夢を見る』

 

「ここが寝床じゃないのか?」

 

『ここは歌が響く場所。ただそれだけ………世界に歌を響かせてくれ、わたしが眠っても起きるよう、多くの人たちに伝えてくれ。優しい優しい子守歌、優しい優しいめざめの歌』

 

「それじゃ………」

 

『君の歌が世界に響く事を楽しみにしているよ』

 

 そう言って空に溶け込むように消えるかぜのさかな。それに頭をかきながら、ため息を吐くテイル。

 

「確認は済んだ。俺は帰る」

 

 そう言って彼はどこかへと歩き出す。

 

「待ってテイルっ!」

 

 そう言ってマリンは引き止める。その手を掴み、満面の笑みを浮かべながら

 

「祭りを見てってよ。あたしはまだ、この町を紹介してない」

 

「………マリン」

 

「ね♪ テイル。あたしに時間を分けて」

 

 それに静かに苦笑して、彼は頷き、シークは静かに立ち去っていく。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 祭りは賑やかであり、歌姫であるマリンは人気者だ。

 

 出店を巡り、旅芸人の見世物。クリーム乗せパンをシークと共に食べるマリン。

 

 そんな祭りの最後は、歌姫によるコンサート。

 

 特別席に座るゼルダ姫。俺は離れた位置から歌姫のコンサートを聞いていた。

 

 夕闇の中、響き渡る歌を聞きながら、静かに町を後にする。

 

「………」

 

「マリンに会わないでいいのか?」

 

 そう言って背後からシークが現れる。神出鬼没なのはどこも同じらしい。

 

「歌姫の旅立ちは問題ないかな? 〝ゼルダ姫〟?」

 

 それを言われたシークは、顔を隠す布を外して、長い金色の髪を風に乗せる。

 

「知っていたのですか?」

 

 口調と瞳の色が変わり、ほんの少し女性らしさが出る。その様子を見ながら肩をすくめた。

 

「まあ、よく見れば同じだな~って」

 

「そうですか。それはそれで腹が立ちます」

 

 頬を膨らましてすぐに隣に来る。海の岬で夕陽を見ながら、静かにしている。

 

「歌姫の事は問題ないでしょう。かぜのさかなの件は安心してください」

 

「これも夢で見たのか?」

 

「ええ。かぜのさかなの世界が生まれ、悪夢の悲鳴が響き渡る世界。このような形で解決するとは、思ってもいませんでしたが」

 

 さざ波の音を聞きながら、俺はこの景色が〝あの島〟と変わらない事に疑問に思う。

 

「この島は似ているな。夢の世界に」

 

「ですが、私たちは此処に生きている」

 

「目を覚ますまで夢かどうか分からない。まあ、異世界の俺からすれば、夢も現実も変わらない。本当の世界なんだが」

 

 沈む日を見ながら、時間が終わる。

 

「んじゃ。俺は俺の世界が気になるからもう行くよ」

 

「そうですか………」

 

「マリンに言ってくれ。君の歌を世界に響かせて、あの野郎を寝かせないでくれ。後は………綺麗だったってね。楽しかったよ、ありがとうゼルダ姫」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 変わった勇者だ。異世界から来た勇者とその仲間たち。そう思いながら、幻のように消えた勇者と、彼と共に悪夢に挑んだ者たちを思い出す。

 

 色々言いたい事があるが、いまはなにも言わない。彼はそれだけ言うと姿を決していた。まるで彼もまた夢か幻か、そうであるように姿を消す。

 

 それでも、あのクリーム乗せのパンを食べた記憶はあるし、不埒な真似をされたことも覚えている。

 

「全く、女性の褒め言葉は本人に言えば良いものを」

 

 そう思いながら、彼の最後の言葉を思い出す。

 

「………ホント、勇者と言うのは、ああいう人なのでしょうか……?」

 

 いまでは確かめる事ができない事。ともかく、こうして一つの事件は終わりを告げた。

 

 彼の横顔を思い出しながら、そろそろ護衛役に見つかりそうなので、私は急いで町へと戻る。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 こうして一つの伝説が終わりを告げた。

 

 歌姫マリンはハイラル王国の庇護の下、世界中にその歌を広め、歌を歌い、人々の心に安らぎを与え続ける。

 

 当時の巫女姫、ゼルダ姫と同世代から、彼女とも親睦が深く、ゼルダ姫は事あるごとに彼女と行動を共にして、共に世界を見て回った。

 

 世界中にめざめの歌を広める歌姫マリン。彼女の歌は多くの港町で奏でられ、その歌は途絶える事は無いだろう。時折嵐の海の中、この歌を歌うと嵐が止む事から、航海の安全を祝う、祝い歌として使われる。

 

 余談ではあるが、ゼルダ姫とマリンのお茶会はなぜか、パンにクリームを乗せたものであり、護衛の人間を撒いて二人だけでピクニックに行くため、当時の護衛隊長は頭を痛めていたようだ。

 

 この歌の伝説を初め、ハイラルの歴史に、勇気の勇者リンクとは違う勇者が現れる。彼の勇者は力のトライフォースに選ばれた、善なる若者。

 

 魔なる者の前に現れ、善なる力のトライフォースに選ばれた異国の剣士。

 

 力の勇者テイルの伝説。彼の勇者の口癖は………

 

「人使いの荒いな、まったく………」

 

 そう言って勇者と共に魔王を討つ。そんな歴史があったとされる。真実は誰にもわからない………




力と勇気の勇者。そして知恵の姫君。

シノンさん辺りは心配して、なに他所の問題に首突っ込んでるの?と怒る。

それではお読みいただき、ありがとうございます。


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第70話・夢からの祝福

ソードアートオンラインとしてレジェンドは次で最終回にしたいと思います。次の話はもうアリスたちの話しか無い。

ゼルダメインになりますから、タグの変更して投稿します。

それでは、SAOでのテイルの物語。夢をみる島の後日談です。どうぞ。


 それは情報整理の為、いつものように俺たちは集まった。テイル、彼の前世云々の話を知る俺こと桐ケ谷和人。朝田詩乃と彼の三人が喫茶店に集まるのだが………

 

「君、少し老けてないか?」

 

「また精神年齢が増えてな………」

 

 そう言いながらカフェオレを両手で持って静かに飲む。なんていうか老けた。

 

 詩乃もなんだかなにも言わず、その様子を見守る。

 

「ともかく情報整理だ」

 

 俺たちはフェリサからの案内と仮想世界の【セイレーンの楽器】を使い、テイルに知られる前に解決しようとしたのだろう。

 

 彼からセイレーンの楽器を回収できるのなら、歌も知る彼ほど適任者はいない。なのに、彼女は仮想世界の楽器を手に入れた俺たちに助けを求めた。それが答えなのだろう。

 

 だが別の何かが彼を現実のコホリント島へ招いた。彼からすれば少しの仮眠時間の間の事、俺たちは少しの間のVRゲームのプレイ時間。

 

 悪夢に苛まれたプレイヤーは、調べたところ、あの悪夢の剣士に倒されるとその日から、謎の悪夢を見続けると言う噂が流れていた。それも今日で終わるのだろう。

 

「木綿季たちには、まあ深く聞かれていないからこのままでいいか………」

 

「私はあなたを現実に連れて行った第三者が気になるわ」

 

「もういいじゃないか詩乃さんや、ただ俺が精神的に老けただけだよ………」

 

 なんか取り返しのつかないレベルで彼が老けた気がする。詩乃も不満があるのか、睨むように彼を見る。彼はそれを気にせずカフェオレを飲んでいる。

 

「悪夢の原因も、結局は〝アンノウンデータ〟が関係しているってことだけか………その辺は、七色博士に頼むしかないな………」

 

「あっ、ああ。セブンには俺から伝えておいたから問題ない。少し納得してなかったけど、うまくごまかしておいた」

 

 セブンには彼のデータの扱い、研究について色々調べて欲しいと頼んでいる。これ以上、彼のデータで事件を起こさせるわけにはいかない。なんでいまだ研究が続いている事を俺が知っているのか、かなり疑問を持っていたが………

 

 って言うか、ホント彼は大丈夫なのだろうか?

 

「大丈夫だよ………」

 

「それは大丈夫じゃないからな」

 

 そう言って話し合いは終わり、解散するのだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「詩乃さんや、もういい加減に機嫌を直してくれないかい?」

 

「ならじじくさい喋り方するな」

 

 そう辛辣に言う詩乃に、俺はやれやれと思いながら共に帰る。いまだ詩乃は我が母に捕まり、飼い猫が荷物や鞄の中にいることもしばしばだ。

 

 不機嫌なのは理解できる。何者かは知らないが、俺にまた負担を掛けたのだから。俺的には問題ないのだがな………

 

「詩乃さん。俺のこと気にかけるのは嬉しいけど、神様でもトライフォースでも、俺は文句は無いんだよ?」

 

「ミスして殺しておいて、何度も何度も良いように利用されるなんて、私はごめんだわ」

 

 そう言いながら、また神様はやってしまったとおろおろしてそうだ。あの神様には文句は無い。俺の選択ミスが目立つだけだし………

 

 あるとしたら紺野家などだろうが、それも仕方ない、納得するしかないと言い聞かせている。正直こればかりはな………

 

「そもそも、あなたが怒る事じゃないのかしら?」

 

「詩乃が代わりに怒っているから、俺はいいよ」

 

「キリトが移った。これだから男って………」

 

 急に距離を取り始める詩乃は、ゴミを見る目で見る。キリトが移ったって、何が移ったのだろうか?

 

 正直あのフラグ生産機のような主人公、キリト君と俺とは全く似ていない。俺は彼女らしい人の影も形も無い。正直告白らしいものすら無い。出会いそのものがないのだから当たり前だが………

 

(こいついまルクスたちにケンカ売っている気がするわ………)

 

 妙に睨む詩乃の様子を見たウチの飼い猫は、高い運動神経を使い、飼い主の一人である俺に蹴りをかました。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ボクのお兄ちゃん。でいいのかな? は、とても変わっています。

 

「テイル~今日はクエスト行かないの~~?」

 

「俺はのんびりやるさ。ユウキが行きたいところに行こうか」

 

 そう言って気が抜きすぎてふにゃふにゃになっているテイル。これでも凄い時は凄いんだけど、いまみたいな状態だと、大抵手を抜く。

 

 本気の時は物凄く速く、凄い剣士。キリトも本気な時は凄いけど、キリトの本気は、本当に手を抜けない時にしか相手にできないから、むしろ機会が無い方が良い。

 

 だけどテイルは違う。オンオフの差が激しいけど、自由に切り替えできる。本気の彼には全然勝てないんだよね。

 

 そんなテイルは仮想世界に来ても、みんなに合わせているだけで、自分で動こうとしない。どうしてか聞くと………

 

「俺はみんなが楽しそうなのが好きだし、楽しそうに笑っているユウキが好きだからだよ」

 

 そうボクの顔を見ながら言う。こんなんだからアスナとかからキリトが移ったって言われるんだよね~………

 

 テイルは自分の楽しみを持たない。全部他人の為に使う。

 

 色々な秘密を抱えて、それを面と向かって話してはもらっていない。何時か話してもらうつもりだ。

 

 さて、今日はみんなとアスナにお願いして、テイルと二人っきりにしてもらっている。テイルには内緒。

 

 頃合いを見てテイルに話す。ボクの口から、ボクが直接話すんだ。

 

 とりあえず、なんでもいいからテイルとボクはクエストを受ける。いつものように目新しいクエストや新フィールドを巡ろうと思う。いつもそう、そうでない時もあるけどね。

 

 探索の中、ボクらはいつものようにALOで楽しむ。テイルの相棒であるアファシスは、同じアファシスであるデイジーと買い物だ。

 

 アスナはもう話していて、せっかくだからキリトとデートだし、ボクもデートしたいなと思ったら、相手がいない。今の状態は二人っきりでレインたちに申し訳ないけど、別にいいよね?

 

「なんか島があるぞ」

 

「ホントだっ♪ こんなところで新フィールドっと」

 

 そう言って、ボクらは『名の無き島』へと足を踏み込んだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 丁度いいや、ここで何かクエストを受けて〝あの事〟を話そう。そう思い、島を探索する中で、一人の剣士がいた。

 

 アンデッドなのだろう。彼は鎧姿で椅子に座り、マフラーを首に巻き、兜の奥から赤い瞳がちらついている。まるで待っていたように剣を抜いたまま、こちらを見つめる。

 

「………おいおい」

 

 その時、テイルの雰囲気が切り替わった。

 

 いつの間にボクの前に立ち、鋭い目で剣士を見る。

 

「っ!?」

 

 その時、なぜかテイルの前でウインドウが開く。クエスト名、『古の勇者』と言うクエストだ。

 

 YES/NOボタンを見ながら、テイルはため息を長く吐いてボクを見る。

 

「ユウキ、悪いが一対一でやりたい。いいか?」

 

 その雰囲気にボクは理解はできなかったけど頷いてしまい。それに微笑みながら

 

「ありがとうユウキ」

 

 そう言って前を歩く。それに鼓動するように剣を抜き、盾を構えて立ち上がる剣士。まるでデュエルをするように待機する。

 

(まだクエストを受託してないのに………)

 

 まるで彼と戦う為に待っていたように、彼と戦う為だけにここにいるように、彼らは剣を構え、クエストを受託するテイル。

 

 デュエルのようにカウントダウンが始まる。それに伴い、二人は剣を振るい甲高い音を鳴らす。

 

「行くぜ、古の勇者様」

 

『来い、力の勇者ッ!!』

 

 カウントダウンが終わった瞬間、閃光のように駆けだした。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 それは凄い速さでフィールドを駆け巡り、ぶつかり合う。

 

 全身と言う全身をバネのように動かして食らいつくテイル。巧みに動き、それを捌く剣士。

 

 どちらも楽しそうな気がする。

 

「凄い………」

 

 テイルの本気も凄いけど、あの剣士の動きも凄い。凄いったら凄いっ♪

 

 ボクはそれを見守る中で、火花を散らして、テイルが吠える。

 

「Aアぁあァァぁぁaaaァaaぁぁaaa―――」

 

 限界の速度を超えたテイルの剣は、残像を残して三つに見えた。

 

 三つの斬撃を受けて、剣士は吹き飛び、地面に叩き付けられる。

 

 その瞬間、戦闘はデュエル扱いだったのか、テイルが勝者として戦いに勝った。

 

「はあはあ………やばい、レインに殺される」

 

 そう言ってテイルが持つ剣がポリゴンに変わる。刀身が折れたみたい。盾も消えていた。

 

 剣士が起き上がり、静かにテイルを見る。

 

『見事だ。もう教える事は何も無い』

 

「もう目的が達成してるんだからいいと思うが……まあいいか」

 

 煙のように消えようとする剣士。うっすらと消えていく中で、彼は言う。

 

『勝った褒美に、あの樹の花が咲くまでここにいろ。それが賞品だ……さらばだ、力の勇者よ』

 

 そう言って霧が出て来てそれと共に姿を消す。テイルはそれと共に辺りを見渡して、樹らしいそれを見た。

 

 つぼみのようなものがあるその樹を見ながら、なんだったんだろうと首を傾げる。

 

「ともかく疲れた~」

 

 その場に座り込み、ボクは近づいていく。

 

「お疲れテイル」

 

「ああ、なんとか勝てたよ」

 

 そう言いながら、花が咲くまで待つ話になった。ボクは丁度いいかと思いながら、地面に座り込んで待っている、テイルの後ろから抱き着く。

 

「テイル。ボクね、テイルに話があるんだ」

 

「どうした?」

 

 それは………

 

「ボク、もう無菌室から出て、普通の個室で治療しようって言われた」

 

 それはボクの病気が治り、後は体力を回復させるだけと言う話。それを聞いたテイルは驚いてボクの顔を見る。

 

「………最近忙しかったからな………」

 

「うん。テイル以外だと、アスナとおばさんたちかな? 内緒にしてほしいってお願いしたからね♪♪」

 

 そう言いながらギュとテイルに抱き着く。

 

「ボクの病気は治るし、スリーピングナイツのみんなもね、回復に向かってるって話なんだ」

 

 それは全てテイルが望んだ願いのおかげ。きっとそうだとボクは思う。

 

 テイルの、この人の願いは自分が知る事件で、誰かを救い、救われる事。

 

 だからボクの病気が治ったのは、テイルのおかげでもある。きっとそうだ。

 

「ボクはテイルに元気付けられた。なにより、姉ちゃんたちに会うこともできた」

 

 夢の中ではあるけど、確かにあったのだ。

 

 だからボクは幸せになる。みんなの分まで、彼がくれた時間を生きる。

 

「みんなと一緒に、ボクは生きるよテイル」

 

「………そうか」

 

 そう言いながら彼は微笑むと、樹のつぼみが開き、花びらが舞い上がる。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 まるで祝福するように花が舞い、綺麗な光り輝く花弁の中、光からそれは俺の前に下りて来る。

 

 光の集まり。それが徐々に弱まり、一人の妖精へと変わる。小さな小さな妖精に………

 

「君は………」

 

「ナビゲーションピクシーよ。始めましてでいいわよね?」

 

 そう言いながら胸を張りながら、それは強気に微笑み、俺を見る。

 

「これからよろしくねテイル。もう一人の目覚めの使者にして、力の勇者さん」

 

「………ああ、改めてよろしく。フェリサ」

 

 後日、隠しイベントの中にナビゲーションピクシーが手に入るクエストがいくつかあるとネットの片隅で見つけ、そして………

 

「マスターにはもう相棒は必要ありませんっ! そうですよねマスター!!」

 

「はあ? なに言ってるのよダメピクシーっ!? こいつの面倒を見るの私よっ!!」

 

「テイルッ!! 久しぶりにメール出したと思ったらなにしてるのよこのバカッ!!」

 

「お兄さん、どうしてこんなことに………」

 

「………どうしてこうなったんだろう」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 彼はレインに怒られ、クレハに呆れられ、彼の相棒だと叫ぶ二人に彼は疲れた顔をしていた。

 

「ごめんなさい、キリト君が移っちゃったみたい………」

 

「仕方ないよアスナ。テイルとキリトって、仲良いもん」

 

「まあそうよね~……」

 

「キリトさん、テイルさん………」

 

「お兄ちゃんったらもう………」

 

 仲間たちからクレームを付けられながら、なぜか俺とテイルでユウキ回復のお祝いをすることになる。俺たちのおごりで………

 

「なんでこうなるんだろうな」

 

「俺が聞きたいよ………」

 

 二人の剣士はため息を付き、それでも楽しそうにみんなで騒ぐのであった………




謎の苦情により、エギルの店(リアル)で金を出し合うテイルとキリト(テイルが多めに払う。バイトしていて年上だから)

アスナ「キリト君、テイルさん。次はALOでパーティーだからね」

キリト、テイル「「えぇ………」」

お読みいただき、ありがとうございます。


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最終回・勇者の力を得た者は

SAOを舞台にしたお話は今回の話で終わりです。

クレハ、レイン、ユウキの三人をピックアップした最終回です。どうぞ。


 それは少しだけ勇気を出して、メールを出した。

 

 バイトのお休み、少し買い物を手伝ってもらう約束だ。

 

 店のガラスに映る自分を見ながら、少しだけ不安になる。

 

(あたし変じゃないかな?)

 

「紅葉」

 

 そう言ってお兄さんが現れた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 色々買い物した後はGGO。お兄さんことテイルには大切な相棒が二人いて、いまでは賑やかにこのゲームを楽しむ。

 

「クレハ、うちの子たちがツェリスカに連れ去られた。予定が無くなって暇になったよ」

 

「あはは………」

 

 苦笑しながらテイルの話を聞き、一緒にクエストを受ける。

 

 正直テイル、彼がこの世界。仮想世界で遊んでいるのは、キリトさんやユウキたちのためだろうけど、テイル自身も強化などは良くしている。だって………

 

「ピンクの悪魔って言うけど、本当の悪魔ってのはレインやシノンのように怒りの矛先を受ける人の事を言うんと思うんだ」

 

「この危機的状況で言う事はそれっ!? 二人に話すわよッ!」

 

 いま現在、あたしたちはGGOで有名なプレイヤーたちに狙われている。スナイパー使いの人がいるが、それは彼がガラスの破片を使い、ポジションを確認したところ。

 

「屋上からスナイパーで狙って、グレネードでけん制しつつ、光剣とサブマシンガンで高速移動か。少しピンチだな」

 

「テイル少し暢気過ぎない? このままじゃゲームオーバーよっ!!」

 

「ドロップしてもただのレア銃だけで済むからね。いまヒカリとフェリサはツェリスカの物にされたから」

 

「まずその辺りもどうなったのか詳しく聞きたいわねあたしは………」

 

 いま光剣使いとサブマシンガンのピンクの悪魔に狙われている。正直彼女たちの狙いはテイルが持つ銃、いまだサーバ内で実装されていないUFG狙いだ。

 

 ともかくどうするべきか………

 

「クレハ、少しいいか?」

 

「なによ」

 

「俺に手はある」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 幼少期ではお兄ちゃん的な人だ。だけど引っ越してからは電話を少しする程度でどれほど仲が良いか分からない。

 

 だけどGGOを通じてお兄さんは色々あったのが分かる。そして普通じゃないのも分かる。

 

「まさかあの後、グレネードのプレイヤーの居場所を予測してグレネードを遠くに投げ飛ばすなんて」

 

「スリング、投石紐って言うんだ。ぽんぽん撃つから狙いやすかった」

 

 そう言って紐で作った即席スリングを見せる。こんなもの作れたんだ………

 

 それでグレネードを遠く、グレネードを放つ相手に向けて投げた。

 

「その後まさかの抱きしめてからのUFGで逃げるなんて………」

 

「あれで地面に触れずにフィールド動き回れないか、よく試したから」

 

「それで」

 

 あたしは睨むようにテイルを見ながら、そのホームでお菓子を食べる。

 

「あたしの胸を触った感想は?」

 

「すいませんごめんなさい、どうかみんなには内緒にしてください」

 

 セクハラハラスメントを押してやろうかと思った。

 

 まさかこんな突拍子の無い事を平然として、いつの間にかクールな物静かなお兄さんから、可愛い女の人にほいほい手を出す人になるなんて………

 

 アスナさんたち曰く、キリトさんが移ったと言うが………

 

「はあ~まあいいわよもう」

 

「ありがとうクレハ」

 

 お菓子を食べながらテレビを見る。色々な事、仮想世界の事や現実世界の事など。

 

「旅行か。その内、みんなで行きたいな」

 

「みんなって、ユウキたちはどうするの?」

 

「色々方法はあるし、仮想ばかりじゃなく、現実だって楽しいじゃないか?」

 

 ………あたしはどうだろうか?

 

 あたしの現実は苦しい。あたしの姉は、あたしよりも完璧な人であり、そんな姉を嫌いになりたくないから、あたしは姉の居ないこの世界に来た。

 

 今ではもう苦手意識は無いが、かと言ってあたしと姉を比べる人間が居なくなったわけでは無い。いや、もしかしたらあたしがそう思っているだけで、そんなにいないのかもしれない。

 

 少なくてもあたしの大切な人たちはそんなことしない。彼らだってきっとしないのだろう。

 

「けど、現実のあたし、あまり可愛くないし………」

 

 そうあたしが呟くと………

 

「そうか? しばらく見ないうちに、可愛かったよ紅葉」

 

「っ!?」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

『拝啓、アスナへ。

 

 マスターがキリトに感染したらしいです。クレハがそう言ってました。

 

 マスターはとりあえずズタボロになっているのです。クレハはタコよりも真っ赤になっていました。キリトが移るってどういう意味ですか? 教えてください』

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 とあるライブ会場、そこのとある席で学生たちは席に座る。

 

「ほら、そろそろ始まるぞ」

 

「ん………」

 

 一人だけ時間ぎりぎりまで寝ているため、青年、桐ケ谷和人はゆすって起こす。

 

 結城明日奈たちも少しだけ緊張する。友人、枳殻虹架ことレインのコンサートだ。

 

「眠ったりしたらまた怒られるわよ?」

 

「さすがに現実でも怒られたくないな」

 

「あはは……しっかりしないとな」

 

 そう和人が言う中、時間が来てコンサートが始まる。

 

 何人も友人が来る中、そんな中で仮想世界でテイルと名乗る青年は苦笑した。

 

(まったく………)

 

 舞台の上で満面の笑みを浮かべる彼女を見ながら、その前日を思い出す………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「全く、気分転換にしては凝ったクエストだったな」

 

「文句言わない。あんたの剣の材料なんだからねっ!!」

 

 そう言いながらレインは手に入れたインゴットを用意して、剣を打つ為の準備をする。

 

 それを壁にもたれかかり、様子を見るテイルを横目でちらっと見るレイン。

 

「もうここからはわたしだけでいいよ?」

 

「別にいいだろう? 休ませてくれ」

 

 そう言ってテイルは椅子に座り、壁にもたれる。

 

 レインはそれに呆れながらも火の様子を見ながら考え込む。

 

(なんかSAO時代みたい………)

 

 そう思いながら、少しだけ思い出しながら鉄を打ち始める。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ライブが終わり、みんなと共に楽屋で話している。竹宮琴音を初めとしたみんなと嬉しそうに話し合う。そこには虹架の実の妹である七色もいる。

 

 彼女らの話では、両親もお互い話し合うくらいには関係が回復しているらしい。こうして姉妹揃って話し合える日々が続けばいいな。そう彼は思う。

 

「テイル、ちゃんとわたしの歌、聴いてたの?」

 

「ん? 聞いてたよレイン」

 

 そう彼は何でもないように答える。里香たちは現実のコンサートでテンションが上がっているが、彼だけはいつもの変わらずの反応。

 

「なによもう、せっかく頑張ったのに………。なんか別の反応無いのかな~?」

 

 そうレインが言うと、彼は静かに………

 

「レインの歌は子守歌の、鍛治している時の方が好きだからな……なにより、いつも寝ながら聞いてるし………」

 

 その時、控え室の空気が変わったことに気づき、またなにかしたのかと言葉の途中で気づく。

 

 レインは顔を真っ赤にして、明日奈たちは和人を冷ややかな目で見る。七色だけはイタズラっぽく微笑み、どういう状況か事細かく聞きだそうとする。

 

 和人だけはよく分からず、一発虹架に殴られるテイル。なにげに彼だけリアルネームで呼ばれる。ちゃんと名前を呼ばれる日が来るのだろうかと、テイルは遠い目になった………

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 そんな日々の中、ALO。新生アインクラッド第22層、キリトのマイホームでお祝いだ。内容はユウキの回復に向かい、ついに無菌室から出られた。

 

 いまだ《メディキュボイド》は必要だが、後は体力の回復など。もう彼女は病気に犯されていない。そう先生がはっきりと言ったのだ。

 

 それを聞いた結城明日奈が涙して、和人では無くテイルの胸を借りた事を、本人はかなり気にしている。どうしてもユウキの病気の詳しい話を聞く時は、彼か彼の家族しかいないのだから仕方ない。

 

 病気の治りは骨髄移植によるケースか新薬によるものか、いまだ色々検査はあるものの、紺野木綿季は病気を乗り越えたのは確定された。

 

「元気になったら、いっぱい、いっぱい遊ぼうね♪」

 

「うん♪」

 

 アスナは嬉しそうにユウキを抱きしめ、テイルもそれを微笑ましく見つめる。

 

 仲間たちも大いに騒ぎ、エギルの店から散々買いまくった飲み物や、たくさん作った料理を食べ始めた。

 

 テイルは嬉しそうにユウキに抱き着かれたり、みんなの嬉しさがおかしいのか、やはりみんなゲーマーだからか知らないが………

 

「それじゃ、みんなで新生アインクラッドの新階層、ボス攻略戦成功させようぜっ!!」

 

 キリトの号令で全員が返事する。アスナの返事、闘志だけはケタ違いであり、バーサクヒーラーの名前がより広まった一戦となる。

 

 精一杯楽しみ、精一杯遊び、喜びを分かち合う。

 

 勝利してみんなが喜ぶ中、ユウキはふと、彼を見る。

 

 彼はけして変わらずいつも通り、それでも………

 

 とても穏やかな顔で微笑み、ユウキたちを見守っている。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「むにゃ………あれ……?」

 

 眠っていたのだろうか? ボクは身体を半分起こして目をこする。

 

「そうか、あの後次の階層に行って、その後はどうしたっけ?」

 

 そう思いながら頭がボーとする。寝落ちしたのかなと首を傾げたけど、そうでは無い。

 

 なぜならば彼がいる。側にいるのは、いつも見守るようにいる、大切な人だ。

 

「テイル………」

 

 テイルが隣で寝ているのだから、寝落ちはしてないだろう。何か忘れている気がするがボクはそう思い、その顔を覗き込む。

 

 最初に出会った時は疲れ切った顔。

 

 二回目は人との会話の苦手なお兄さん。

 

 そしてボクの病気の治すドナーとして現れた。

 

 それから色々な事があり、この人が必死にこの世界に生きて、運命、未来に抗おうとしたのをボクは知っている。

 

 面と向かって話した事は無い。それでも、未来に起きるかも知れない事を知り、それに抗い、誰かを救いたいと願った優しい人。

 

 その為に必死になり、ボロボロになった人だ。

 

(この人はどうすれば幸せになれるんだろう………)

 

 時々考えてしまう。この人は自分の幸せを考えていない。この人にとって幸せは、他人が笑顔でいられることだ。少なくても、今の彼はそう言う人間だ。

 

 そんな人間を幸せにできるのだろうか?

 

「………テイル」

 

 疲れ切っているのか、すっかり寝ている。ボクがどれだけ抱き着いたりしても、この顔は変わらない。

 

「………ボクは幸せだよ。みんなに出会えて、テイルに出会えて、幸せだから………」

 

 あなたも幸せになってください。

 

 そう思いながら、なんとなく、本当になんとなく、理由なんて分からない。

 

 そう、だってボクはテイルの顔を見ていると、なんとなく〝それ〟をしたくなった。理由なんて存在しないのだ。

 

 微かにちゅと言う音がなり、すぐに顔を引っ込めた。

 

 なんとなく気恥ずかしいけど、どこか心がぽかぽかする。そんな気持ち………

 

「って、あれ?」

 

 その時、ボクはあることに気づく。

 

 テイルは素顔だ。テイルの現実の顔(・・・・)なのだ。

 

「へっ?」

 

 ボクは困惑して、頭を抱えようとした時、何かに触れた。

 

 恐る恐るそれを外すと、それは《アミュスフィア(・・・・・・・)》だ。

 

「………えっ……?」

 

 よく周りを見る。ここはボクの病室だ。

 

 テイルは良く見れば隣に入るものの、一緒にベットを使っているわけでは無い。ただ倒れて横顔を向いているだけ。

 

 ボクは現実のボクで、ユウキのボクではない。

 

「あっ………あれ………」

 

 身体はぽかぽかから熱くなり、頭を抱えて顔から火が出そうになる。

 

 ボクはいまなにをした? ボクってそんな子?

 

 どんなに考えてもまとまらず、ボクは寝たふりをすることでテイルと会話せず、今日を過ごした。




「人使いの荒いなったく………」

 そう言い、どの時代、どの世界、どこのなんなのか調べるために歩き出す。

 森の中を歩く。昔は無機質に何も感じず、ただ思考する事も何もかも放棄して歩いていた。

 SAOも何もかもそんなものだ。だが、いまは何もかも違う。

 自分が選び、自分で進むと選んだ。

 正直勘弁願いたいがどうでもいい。もうどんと来い。

「さてと、とっとと終わらして、ユウキと話して帰ろうか………」

 そう言い一気に走り出す。

 異世界だろうと現実世界だろうと、仮想世界だろうと………

「止まっていられないからなっ!!」

 そう叫び、俺はこの世界の物語に殴り込む。

 さすがに早く終わらせないと、神様は本気でシノンに嫌われてしまうからね。

 そう思い、俺こと物語の勇者テイルは、世界を駆け巡った。


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