もし、特車二課に凄い人がいたら… (シャト6)
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1話

「久々の日本だな」

 

俺は久々に帰ってきた日本の地に降り、日本の空気を感じていた。

 

「さて、確か迎えが来るって言ってたけど…」

 

「おう、少し遅れちまったか」

 

振り返ると、俺と同じようにサングラスをかけてる老人がやって来た。

 

「ハハ…まさか迎えがおやっさん、榊さんだったとは」

 

榊「なに、普通の奴ならウチの若い奴に来させるさ。だが、お前なら俺自身が出張って来たくなるんだよ。何せお前さんは、レイバー乗りにして整備も俺に次ぐ存在だ。シゲよりお前の事をかってるんだぞ」

 

「おやっさんにそう言って貰えると嬉しいですね。ですが、俺はあくまで警察官ですよ。それに、今おやっさんの右腕はシゲさんでしょ」

 

榊「惜しいねぇ」

 

そして俺は、おやっさんの車で久々に特車2課に戻っていった。

 

榊「おっとそうだ。特車2課に配属だが、ついこの前イングラム1号と2号の人選が決まってな。その資料だ」

 

おやっさんから渡された資料を受け取り、中を確認する。

 

「ん?おやっさん、何で俺の名前が何ヵ所も書いてあるんです?」

 

榊「ああ、第2の隊長さん曰く、1号機に配備して、そこでフォワードにバックアップとしてだそうだ。基本は1号機のパイロットを指揮するそうだ」

 

「なるほど。で、その1号機に何でひろみさん以外は女性なんですか。しかも向こうで一緒だった香貫花さんがいるなんて」

 

資料に書かれた班分けを見て俺は嘆く。

 

榊「フフッ、お前さんが一番女の扱い方を熟知してるからだろ」

 

「熟知って…」

 

榊「聞いたぞ。向こうでも何人かに結婚を求められたそうじゃねぇか。アメリカから来たあのお嬢ちゃんもその内の1人だろ」

 

「好きでそうなったわけじゃ…」

 

そう…何故か俺と仕事やプライベートで行動した女性は、俺と付き合ってほしいとか結婚してほしいとか言ってくるのだ。一番タチが悪いのが、一晩だけの関係でもいいって言う人もいる。で、数人そんな関係になったんだよね。酒に酔わされて…

 

榊「そう言えば、南雲の嬢ちゃんも最近機嫌がよかったが、お前が来て理解できたな」

 

「ア、アハハハ…ハァ~…」

 

ヤバイ…特車2課に行くのが恐くなってきた。

 

「…向こうに帰りたい」

 

榊「ま、自分で蒔いた種だ。精々嬢ちゃん達に刺されないようにするんだな。アハハハ!ウチの若い連中は大丈夫だろうがな」

 

笑いながら運転するおやっさんに、俺は自分の蒔いた種を恨むのだった。それから暫くして、特車2課の場所に到着した。

 

榊「さて、着いたぞ」

 

「ハァ…着いちゃったか」

 

俺は諦め、渋々車から降りるのだった。

 

「ん?おいおいおいおい!久し振りだね翼ちゃん!」

 

すると整備をしてた1人がやって来た。シバさんだ

 

「久し振りですねシゲさん。お元気そうで」

 

シバ「あったり前よ!ってか、元気がなきゃ班長にどやされちまう」

 

「確かに。榊さんだったら『んな事で体調崩す奴は、俺の部下に必要ねぇ!!』って言いそうですしね」

 

シバ「相変わらずだね。色んな人の声真似ができるの」

 

俺の特技の1つである声真似。本人そっくりに喋れる。

 

「それじゃあ、後藤隊長に報告があるので」

 

シバ「おう。後、少し前に帰国子女と新人の女性隊員が入ったから。手ぇ出すなよ♪」

 

「あ~香貫花さんね。既に遅いかも…アハハ」

 

シバ「だと思ったよ。ったく、その内後ろから刺されるぞ」

 

「その時は、葬式頼みます…」

 

俺は苦笑いしながら、そう答え隊長室に向かった。ノックすると、中から返事が聞こえる。

 

「はいはい、入ってますよ~」

 

「相変わらずですね」

 

そう言いながら中に入ると、これまた懐かしい2人がいた。

 

後藤「お~久し振りだね直江」

 

南雲「そうね。1年ぶりね」

 

「そうですね。お久し振りです、後藤隊長、南雲隊長」

 

後藤「そだね。それじゃあ書類なんか一応貰っとこうかな」

 

俺は後藤隊長に、手続きに必要な書類を渡した。

 

後藤「…あら~、1年で巡査長になったの」

 

南雲「ホントね」

 

「ま、ま~そうですね」

 

俺は照れくさそうに言う。

 

南雲「けど確か…噂で聞いたけど、直江君が昇進したのは、香貫花・クランシーとその上司が掛け合ったって聞いたけど…どうなのかしら?」

 

笑顔で俺に質問する南雲隊長。ですが南雲…隊長、目が全く笑ってないんですけども。

 

後藤「あ~、俺ちょっと用心思い出しちゃったから、ちょっと出てくね」

 

後藤隊長はそう言い、この場を立ち去ろうとするが、南雲隊長がそれを止める。

 

南雲「後藤隊長、貴方には班分けの事で聞きたいことがあります。よろしいですか?」

 

後藤「…はい」

 

逃げられなかった後藤さんは、諦めて自分の席に座った。

 

南雲「直江君の事は、後で個人的にじっくりと聞くとして」

 

個人的にですか~!

 

南雲「後藤隊長、何故第一班の班分けがあの様な形に?」

 

後藤「あ~それね。香貫花の提案なんだよ」

 

南雲「へ~」

 

後藤「それにさ、直江と香貫花は1年間だけど顔見知りだし。一緒の方が効率がいいかな~って思ってね。後、泉は2課に配属されたばかりだし、男の中ってのもね」

 

気まずそうに質問に答える後藤さん。お気持ちすんごく分かります。南雲さんの機嫌が物凄く悪いもん。

 

後藤「ま、既に決定で上にも書類送っちゃったしさ。ってな訳で、俺はこの辺で。直江、生きて帰ってこいよ」

 

「た、隊長!?」

 

最後の台詞いりません~!



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2話

あの後、お話という名のお仕置きをされた。そして、何でも1回言うことを聞くということで手を打ったのだ。気が重い…

 

「で、話が終わって戻ってきたら、こんな事が起きてるとは…理由を説明してください。シゲさん」

 

シバ「アハハハ!…すいません」

 

俺は今現在、シゲさん達を説教している。何故かというと、整備班の高速艇が座礁したのだ。その理由が、沿岸漁業に行って大漁だったので、欲張って積みすぎて船体が重くなったのが理由だ。そして、座礁した船体を救出するために、2号機を出動させたらしいが、そのまま海に落ちた。で、1号機のバックアップの俺にも声がかかったのだ。その理由を聞いて、責任者のシゲさんに説教していたのであった。

 

シバ「しかし班長が留守でよかったよ。こんな様を見られたら」

 

「でしょうね。でなければ今頃、『貴様ら全員海にたたっ込むぞ!!』って言われますよ」

 

俺の声真似に、全員が驚き正座していた。だが、更に悪いことが続く。1人の整備員がシゲさんに話しかける。

 

シバ「な、なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!班長が此方に来てるだとぉぉぉぉぉ!!!!?」

 

その言葉を聞いて、全員が騒ぎ出す。

 

香貫花「シャラァァァァァァァァァップ!!!!」

 

すると香貫花が叫び、全員を黙らせた。そして香貫花の作戦で、1号機に3号機の番号のシールを貼り、一旦凌ぐ作戦だ。そして準備を済ませ、後はシゲの演技力に期待するしかないな。

 

シバ「ん?あれ、どうしたんすか班長?」

 

榊「いや、明日本庁に提出する書類忘れちまってな。…ん?」

 

すると榊さんは、じっくりと整備内を見る。…バレたか?

 

シバ「あれはその…自分が今夜中に仕上げて、送っておきますから」

 

榊「お前が?」

 

シバ「任せといて下さいって班長!ここんとこ忙しかったし、今夜くらいゆっくりしてくださいって。アハハ…」

 

榊「…そうかシゲ、そこまで言うなら」

 

そして榊さんは帰っていった。

 

シバ「今の内だ!かかれ~!」

 

『おおおおおおおっ!!』

 

そして再び船及び2号機の回収を始めた。

 

野明「でもさ、もしこんな時に出動がかかったら…」

 

遊馬「もしが多すぎる!目の前の状況を直視しろ!!」

 

「いや野明さん、その考えは大切ですよ。篠原さんも、確かに目の前の状況も大切ですけど、野明さんの様な考えも必要ですよ」

 

遊馬「は、はい…」

 

「取り合えず野明さん、まずは座礁した船体と2号機の救出、それに集中しましょう」

 

野明『はい!』

 

そして1号機も海に入っていく。

 

野明『後でちゃんと洗ってくれる?』

 

シバ「洗う!!新品同様にしてやる!」

 

「余程大切にしてるんですね」

 

野明『はい!アルフォンスは大切に使ってあげたいんです』

 

「アルフォンスっていうんですか。いい名前ですね」

 

野明『えへへ///』

 

無線から嬉しそうな声が聞こえた。

 

シバ「作業急げ!オヤジさんが来るぞ!!」

 

遊馬「グズグズするな!早く指揮車をまわせ!!」

 

そして第2小隊の男連中は、太田と俺を除いて指揮車に乗り、此方に向かってるおやっさんの妨害に向かった。

 

香貫花「作業急ぎなさい!乾燥させる時間を考慮すると、猶予は20分!」

 

野明『そんなぁ!』

 

「野明さん、残念ですが香貫花さんの言う通りです。遊馬さん達も頑張ってると思いますが、所詮は付け焼き刃です」

 

野明『ああっ!』

 

すると固定するワイヤーが緩み出す。

 

「これ以上は不味いですね。香貫花さん、お願いします」

 

香貫花「OK♪」

 

香貫花はドックに走っていった。

 

野明『ヤバイ!』

 

するとアルフォンスがバランスを崩し倒れる。すると、3号機が現れ倒れそうだった1号機、アルフォンスを支える。

 

野明『香貫花さん』

 

香貫花『All right。さ、今の内に早く』

 

「何とか間に合いましたか。取り合えず野明さん、香貫花さん、さっさと終わらせちゃいましょう」

 

『『了解!』』

 

そして無事、座礁した船も元通りになり沈んでいた2号機も引き上げた。

 

「お2人とも、お疲れ様でした。結局3号機も出動させちゃいましたけどね」

 

野明『アハハ、そうですね』

 

香貫花『全く』

 

遊馬「来るぞ~!推定10分後にオヤジさん来襲~!」

 

香貫花「OK!3号機はそのままハンガーへ」

 

「1号機はデッキアップを急いでください!」

 

野明「了解!」

 

すると野明は、最初と違いスムーズにデッキアップした。それを見た俺は感心した。そして全てを出来るだけ元通りにし、隠れて俺達は榊さんを待った。そして榊さんが到着し、早速運搬トラックやイングラムを調べ見て回る。すると、1号機の指先から水が垂れた。海水だ。それを舐めると榊さんの顔がしかめっ面になる。

 

「仕方ないか」

 

俺は上に移動し、今さっき来たような感じで榊さんと会う。それと同時に後藤隊長も出てきた。

 

後藤「オヤジさん、こんな時間に何かあったんですか?」

 

「あれ?隊長に榊さん、お2人とも何してるんですか?」

 

榊「おう翼か。お前何してた」

 

「俺ですか?後藤隊長の許可を貰って、コンビニに買い出しに行って夜食作ってますけど?」

 

俺はそんな事を言った。買い出しはしてないが、夜食は実際作ってたしな。

 

榊「夜食…だと?」

 

「ええ、ですよね?隊長」

 

後藤「あ、ああ。ちょっと腹が減ってね。直江に頼んだんですよ。オヤジさんも、直江の料理の腕知ってるでしょ?」

 

榊「……」

 

その言葉に、榊さんは黙る。けど隊長、ナイスフォローです。後で俺が作った日本酒持っていきますね。

 

榊「…そうか」

 

「榊さんも食べます?うどんですけど」

 

榊「ああ、貰うかな」

 

「なら隊長室で食べましょうか。いいですよね?」

 

後藤「そうだね」

 

そして俺達3人は、俺が作った夜食を食べに隊長室に向かった。それを確認した野明達は、俺達が奥に行ったのを確認してからゾロゾロと出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふぅ…』

 

シバ「やれやれ。相変わらず翼ちゃんには頭が上がらないね」

 

進士「ですけど、直江さんと隊長のお陰で、バレそうだったのをうやむやにできましたからね」

 

野明「でもいいな~」

 

遊馬「何が?」

 

野明「翼さんが作った夜食、食べたかった」

 

遊馬「あのな~」

 

野明の言葉に呆れる遊馬だった。

 

遊馬「たかが男が作った飯、しかもうどんだぞ。どうせ冷凍だろうよ」

 

香貫花「それは違うわね」

 

すると香貫花が否定する。

 

山崎「何で分かるんですか?」

 

香貫花「翼がアメリカにいた時、私が体調を崩して倒れた時、食べやすいだろうってうどんを1から作ってくれたのよ」

 

太田「もしかして、打ったってのか?うどんを」

 

進士「凄いですね」

 

香貫花「グランマも食べたそうだけど、とても手際がよかったそうよ。もっとも、向こうだから材料が手に入りにくいって嘆いてたみたいだけど」

 

野明「へ~。ますます食べたいな~」

 

香貫花「その気持ち分かるわ。私も翼のお陰で日本食が好きになったもの」

 

羨ましそうに、翼達が向かった方を見る野明と香貫花。

 

シバ「それに関しては、心配しなくてもいいんじゃない?」

 

シバは台所の方を見る。するとキッチンから山崎が出てきた。

 

山崎「皆さん!皆さんの分のうどんも用意されてましたよ。今から温めますので、並んで待ってて下さい」

 

シバ「流石翼ちゃん♪」

 

『おおおおおおおおお!!』

 

野明「やった~♪」

 

そして山崎が汁を温め、進士うどんを湯がいて皆に配っていった。

 

野明「美味しい♪」

 

香貫花「久し振りに食べたわ」

 

遊馬「…マジで旨い」

 

太田「ズルズル~!ズズ~!」

 

進士「凄いですね。そこら辺のうどん屋で食べるより美味しいですよ」

 

山崎「そうですね。軟らかいのにコシがありますね」

 

シバ「あ~…この飯を食うと、翼ちゃんが帰ってきたな~って実感するよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

榊「ヘッ、随分と下が騒がしいな」

 

後藤「大方、直江が作ったうどんを食って喜んでるんでしょう」

 

榊「かもな。けど翼、また腕上げたな」

 

「ええ、今回は出汁を関西風にして塩分を少なくしました。榊さんには、まだまだ元気で現場で頑張ってもらわないといけませんからね」

 

榊「言いやがる」

 

文句を言うが、その顔は笑っていた。

 

後藤「けど、しのぶさんも残念だったな。もう少し残ってれば、直江が作ったうどん食えたのに」

 

その言葉に俺は箸を止めた。

 

「…ま、今回は大丈夫でしょう。……多分」

 

榊「帰って来て早々、相変わらずだな」

 

後藤「直江、骨は拾ってやるよ。だから、此方に被害向けないでね。しのぶさん、お前が関わると手ぇつけれないから」

 

「……」

 

その言葉に、俺は何も言い返せないのであった。



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3話

今日も特に出動もなく、のんびりとした日々を送ってる俺達第2小隊。と思ってると、隊長に召集された。

 

後藤「というわけで、お出掛けしましょ。なんかご質問は?」

 

野明「は~い隊長!何処へ何しにお出掛けするのか、分かりません」

 

後藤「言わなきゃダメ?」

 

「当たり前です」

 

遊馬「なに訳の分かんない事言ってるんですか!」

 

言わなきゃダメって。当然でしょうが。

 

後藤「大体が訳の分からん事件なんだなぁ、これが。未確認の巨大生物が林の中を彷徨いてるとかいないとか」

 

頭をかきながらそう答える隊長。

 

遊馬「もしかしてそれって、怪獣ですか」

 

香貫花「レイバーを誤認したのよ」

 

進士「いや、着ぐるみを着けたレイバーという線もありますね」

 

太田「あるか!んなもの」

 

野明「その怪獣は空を飛びますか?」

 

香貫花「レイバーよ」

 

遊馬「生物並みの動きをするなんて、まだ開発途上だぜ」

 

香貫花「レイバーサイズの陸上生物なんて、絶滅してるわ」

 

野明「あっ!ねぇ、象は?」

 

それぞれが色々と妄想を口にする。随分と色々出るね。

 

太田「んなもん、行ってふん捕まえてみりゃすぐ分かるこっちゃろうが」

 

後藤「そうね」

 

「それじゃあ出発しましょうか」

 

そして俺達は、その現場へと向かったのだった。現場に到着した俺達は、早速イングラムを起動させる。

 

「ほほぉ、来ましたな。これが本庁自慢のお荷物ですか」

 

後藤「落ちこぼれ、寄せ集め、はみ出し者、金食い虫、ムダ飯食らいの…ま~、色々言われながらも何とか元気だ、自慢のお荷物です。んで、状況は?」

 

「確かに、何かいるんですよ。あれ見て」

 

地方の警察の人の目先を見る。そこには、何かで破壊された車があった。

 

後藤「…いますか?やっぱり」

 

「います」

 

そして早速指示を出そうとした隊長だが、警察の人に止められる。聞けばその生物を生け捕りにしてほしいそうだ。

 

「はぁ…何を考えているんでしょうね。役場の人は」

 

太田『あ、ああ、あ…隊長!指示はまだですか!!』

 

太田は太田で、さっさと出撃したいみたいだな。

 

野明「えっと、目標と対峙した場合の手順は…1、スピーカーで投降を呼び掛ける。2、格闘体制。ほんでもって警棒を間接部にねじ込んで」

 

山崎「泉さん、それは人間の乗ったレイバーを相手にした手順ですよ」

 

野明「あっそうか。でも、怪物を相手にした場合なんて、マニュアルに載ってないよね?」

 

「そうですね。普段は人やAIを相手にしますからね。イングラムが有利なのは、そのスピードで他を上回っているからです」

 

遊馬「が、相手が生き物だとすると…苦戦するかも知れんなぁ。うんうん」

 

何故か嬉しそうな声を出す遊馬。

 

野明「何嬉しそうに言ってんだよ」

 

遊馬「レイバー対巨大生物。血が騒がんか♪」

 

「遊馬さん、程々にしてくださいね」

 

遊馬「けど、作戦を立てても2号機パイロットがあいつだしなぁ」

 

太田『隊長!まだですか!!』

 

香貫花「ま、精々頑張りなさい」

 

ガックリしながら、遊馬は自分が指揮する2号機の指揮車に乗り込んだ。

 

「野明さん、今回は私が指示をします」

 

野明「は、はい!」

 

「そんなに固くならなくていいですよ。私も今回が野明さんと組む初めての任務です。ですので、力を抜いて下さい」

 

俺は頭を撫でながら野明をリラックスさせる。

 

野明「あっ…///」

 

少し顔が赤く見えるけど…気のせいだよな?

 

香貫花「……」バキバキバキッ

 

山崎「ヒ、ヒィィィ!!」

 

後ろを見ると、香貫花が持ってた通信機を握り潰していた。…俺、もしかしてまたやった?

 

「そ、それでは時間までゆっくりしてて下さい」

 

慌てて撫でてた手を頭から離す。

 

野明「あっ…」

 

そんなシュンって顔しないで!心が痛いですから!!俺は逃げるように、ひろみのいる場所に向かった。

 

「…生きた心地がしません」

 

山崎「僕もです」

 

「すみません」

 

山崎「気にしないで下さい」

 

「私、日本に帰って来て気が休まる日がありませんよ。本当に隊長やシゲさん達の言う通り、いつか刺されるかも知れませんね」

 

山崎「あ、あはは…」

 

その言葉に、流石のひろみも苦笑いしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カンカンカンカン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると突然鐘の音が辺りに響き渡る。

 

「出たぞ~!出た~!!」

 

今度は別の場所のにわとり小屋が襲われたそうだ。にわとり…

 

香貫花「にわとりを襲ったって事は」

 

「肉食の可能性が高いですね」

 

後藤「あ~、今から指示を出す。2号機は林の中に入り、謎の生物を見つけてくれ。1号機は、俺と一緒に役員の人達と道路から林に入る道の前で待機だ」

 

『了解!』

 

そして俺達は、指示された場所に行き行動を開始する。

 

「ふん捕まえたらもう、ただじゃおかねぇだ!」

 

「おめぇ達褌絞め直せ!」

 

香貫花「隊長、目標が山を下りてきた場合、やはりここに来ると思われますか?」

 

後藤「来ると思うよ。どうだ山崎?」

 

山崎「そうですねぇ。生き物なら、障害物のないところを来る可能性は高いと思われます」

 

「そうですね。それに本当にレイバー並みの大きさなら、木が繁ってる場所より道沿いに来るでしょう」

 

後藤「暗くなる前に何とかしたいなぁ」

 

そんな話をしている俺達。とにかく、2号機が上手くしてくれることを願うだけだな。すると銃声音が響き渡る。

 

後藤「…鳴ったな」

 

進士「6発全部撃ったって事は、きっと1発も当たってませんね」

 

後藤「うん」

 

すると2号機指揮車から通信が入る。

 

遊馬『此方2号指揮車、目標がそっちに向かってます。後、少しオマケがあったんで、そっちを処理してから下ります』

 

後藤「オマケ?」

 

遊馬『はい。取り合えず通信終わります』

 

2号指揮車からの通信が切れる。

 

後藤「全員定置に着け。来るぞ!」

 

「では野明さん、行きましょうか」

 

野明『了解!』

 

そして俺と香貫花も、1号指揮車に乗り込み山の中に入っていく。

 

香貫花『野明!目標を外に出すんじゃないわよ!』

 

そして奥に進んでいくと、熱源センサーが反応する。

 

「目標接近してます。200、150、100、50…来ますよ!」

 

野明『了解!』

 

そして謎の生物を捕まえようとした瞬間、1号機…アルフォンスの頭を台にして飛び越えていった。

 

香貫花「何やってるの野明!」

 

「大丈夫ですか?」

 

野明『おのれぇ…ちゃんと捕まりなさ~い!!』

 

香貫花「そんな言葉が通じる筈ないでしょ!」

 

「まぁまぁ。とにかく追い掛けましょう」

 

野明の後を俺達も追い掛ける。すると隊長から通信が入る。

 

後藤『目標、元来た道を退散。繰り返す、目標、元来た道を退散』

 

「さぁ野明さん、次こそ捕まえましょう」

 

野明『了解!』

 

謎の生物とかち合った瞬間、林の中に身を潜めた。

 

野明『どっか行っちゃった。何処だ?何処だ』

 

香貫花「落ち着きなさい。追い込まれて相手も殺気立ってるわ」

 

回りを確認しながら警戒する。

 

「…!野明さん、左です!!」

 

野明『!?』

 

俺の言葉で左を向く。するとそこから謎の生物が飛び出てきた。

 

野明『何度も同じ手を…食らうかぁ!!』

 

アルフォンスは謎の生物をともえ投げし、馬乗りになる。

 

香貫花「野明!電磁警棒を使うのよ!」

 

「キャイイイン!!」

 

そして生物は気絶した。

 

「お見事です野明さん。無事任務完了です」

 

野明『許さん…さっきはよくも、私の大事なパトちゃんを足蹴りしたなぁ!!こ~の~!このこのこの!!』

 

野明は、先程の足蹴りに怒っており、未だに生物に攻撃してた。

 

香貫花「やれやれ」

 

太田『うおおおおおおお!!』

 

すると今度は、木を担いで来た2号機がやって来た。

 

太田『泉!俺にもやらせろ~!このヤロ~!』

 

野明『お、太田さん!?ダメ!これ以上やったら死んじゃうよ!』

 

太田『何だと貴様!』

 

そして今度は、何故か太田と野明が取っ組み合いになった。

 

香貫花「いい加減にしなさい!!」

 

「……」

 

流石にこれ以上は不味いな。仕方ない…

 

「…太田功巡査」

 

俺は低い声で太田に話しかける。

 

『!?』

 

太田『な、何でありますか』

 

「謎の生物は、泉野明巡査が捕まえました。ですので、それ以上の攻撃は必要ないと思いますけど?」

 

太田『で、ですが…』

 

「何か…文句でもありますか?太田功巡査」

 

太田『い、いえ!失礼しました!』

 

「でしたら、1号機と一緒にその生物を下まで運んで下さいね」

 

『りょ、了解』

 

そして2機は、生物を持ち上げて下まで運んでいった。

 

「では香貫花さん、私達も行きましょうか」

 

香貫花「オ、All right」

 

何故か香貫花も怯えていた。何でだ?そして下に行き生物を渡して、イングラムをした。

 

後藤「怪物は、山の向こうにある、某製薬会社の研究所にいた実験動物だそうだ。予想以上の成長を遂げてしまって手に余るんで、殺してしまおうとして、逃げ出したと言うんだなぁ」

 

遊馬「で、捕獲の為にレイバーを繰り出した」

 

香貫花「返り討ちにあったレイバーをこっそり回収したのも彼らね」

 

後藤「まぁ…内密に処理しようとしたんだろうがな」

 

太田「迷惑な話だぜ全く」

 

野明「隊長、あの生き物殺されちゃうんですか?」

 

香貫花「貴方ねぇ、自分であれだけ痛め付けておいて、今更何言ってるの」

 

野明の言葉に香貫花は呆れていた。

 

野明「けど…あの子に罪はないじゃない。動物園に寄付するとか、小学校で飼うとか」

 

香貫花「でも…あれは一体何だったのかしら?」

 

太田「熊だ、熊」

 

香貫花「あら?猫科に見えたわ」

 

山崎「えっ、モグラじゃないんですか?」

 

進士「てっきり、巨大なネズミだと思ってましたけど」

 

野明「妖怪ゲウケゲン」

 

遊馬「アホ…ジャイアントブラックパンダという線はどうだ?」

 

太田「んなもんがいるか」

 

遊馬「だから、連中が作ったんだよ!」

 

野明「だったらゲウケゲンでもいいじゃないか」

 

相変わらず色々と出てくるね。

 

後藤「はいはい、皆帰るよ」

 

『は~い!』

 

「な、なんなんだこったら人達は」

 

「すみません。ウチの連中個性が強くて」

 

そして俺達は、特車2課に向けて出発した。

 

『おお牧場は緑♪草の海風が吹く♪おお牧場は緑♪良く茂ったものだ♪』

 

何故か皆で帰りながら《おお牧場はみどり》を全員で合唱していた。特に驚いたのが、隊長と香貫花も一緒に歌ってたのだった。



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4話

ここ暫く平和な日が続いてる。出動もあるけど、殆どが警備だったりする。そして今日も特に出動もなく、ひろみが自家栽培してるトマトハウスに来ている。

 

遊馬「それって、なんか意味あるわけ?」

 

作業をしてるひろみに遊馬が質問する。

 

山崎「トマトを実らすには、わき芽を絶えず摘んでおかないと駄目なんです」

 

遊馬「ふ~ん」

 

「凄いですねひろみさん。自家栽培でも無農薬は中々難しいですよ」

 

山崎「そ、そんな」

 

俺の言葉にひろみは照れる。

 

遊馬「ひろみちゃん、何で警察なんかになったの?レイバー相手にするより、こっちの方がむいてるのになぁ」

 

遊馬の言葉に、俺、野明、ひろみの3人が遊馬を見る。

 

遊馬「あ、いや…その、ひろみちゃんなら素手でレイバーとやり合えそうだけどさ。アハハ…」

 

すると突然警報が鳴る。

 

『第2小隊、緊急出動!繰り返す、第2小隊、緊急出動!!』

 

そして俺達は出動の準備をする。そして隊長の指示を聞く。

 

後藤「今から、東名高速へ入って御殿場IC向かうぞ」

 

遊馬「そ、それだけですか?」

 

後藤「とにかく緊急出動なんだ。行くよ」

 

そして俺達は東名高速に乗り、御殿場ICに向かって出発した。

 

野明『隊長、質問したいことが山程あるんですけど』

 

後藤『だろうな。ただ東名高速へ入って、御殿場ICに向かえとしか言ってないからな。当然だ』

 

遊馬『緊急出動と言いましたよね?』

 

後藤『言った』

 

遊馬『そういう場合は、サイレンを鳴らして現場に急行ってのが普通じゃないんですか』

 

太田『俺もそれが言いたい。派手にやりましょうよ!派手に!』

 

皆隊長の指示に疑問を抱いている。

 

香貫花「極秘行動の必要があるとしても、私達には任務の内容を話しておいてくれた方が、適切且つ迅速な行動が取れると思いますが?」

 

後藤『その通りだ。だが今回ばかりは、俺もお前達と同じ立場に置かれててね』

 

「同じ立場ですか?」

 

後藤『東名御殿場ICから、国道138号線に入った所で待機せよ。次の連絡を待て。聞かされてるのはこれだけなのよ』

 

「ふむ…」

 

隊長自身にも、はっきりとした情報が伝えられていない。

 

「これは何かあるな」

 

香貫花「何かって?」

 

「ま、あくまで私の勘ですけどね」

 

香貫花「勘…ね」

 

俺の言葉に、香貫花は何かを考えていた。

 

「ところで…運転がしにくいんですけど」

 

香貫花「あらいいじゃない。緊急でも特に急ぐわけでもないし」

 

今現在、狭い指示車の中で俺が運転し、香貫花が俺の膝に頭をのせていた。所謂膝枕だ。ってか、こんな狭い車内で器用に横になってるな。

 

「そうですけど、こういうのは普通女性が男性にしてあげるものでは?」

 

香貫花「あら。なら今度私がしてあげるわ♪それならいいでしょ」

 

「いや、そういうわけじゃ…」

 

これ以上何を言っても意味がないな。だが、もし俺の勘が当たってたら、ウチのイングラム2機じゃキツいな。

 

「最悪俺が出るか」ボソッ

 

そして指示された国道138号線に到着した。すると警察が道路を封鎖していた。

 

「ご苦労様です。県警の青木です」

 

後藤「特車2課の後藤です。この道路規制の理由は?」

 

青木「分かりません。ただ、上から国道138号線を閉鎖しろと」

 

遊馬「そちらも上からですか」

 

青木「何があったんですか?」

 

後藤「どうも嫌な予感がしますな~」

 

確かにそうだ。ここまで情報を流さないとなると…いよいよそれっぽくなってきたな。

 

香貫花「でも、私達特車隊に出動命令が出たって事は、レイバーが何か関わっている事だけは確かね」

 

野明「何かって?」

 

香貫花「その内分かるわよ。最も、既にその答えに辿り着いてる人もいるみたいだけどね」

 

香貫花はそう言いながら、俺の方に視線を向けた。すると、ミニパトに連絡が入る。

 

後藤「あ、しのぶさん。何かわかった?…余程情報の管理が行き届いているのか、それとも警察の上の方でさえ事態を把握していないのか。…変?…路面に亀裂ね。イングラムに道路工事でもやらせるつもりなのかねぇ。…ご協力感謝します」

 

青木「路面に亀裂って変だなぁ」

 

後藤の会話を聞いて、県警の青木が疑問に思う。

 

青木「自分は出動命令が出る2時間前に、山中湖方面からこの道路で戻って来たんです。でもそんな様子は…」

 

後藤「籠坂峠付近はどうでした?」

 

青木「別に。スイスイ通れましたよ」

 

「2時間前ですか」

 

遊馬「隊長、その時間の前に既に我々には出動命令が」

 

野明「どういうこと?」

 

県警としのぶの情報を合わせていく。

 

「ですが、これだけは言えますね。表面化してはいけない何らかの事件が起きているんですよ。それも山中湖付近でです。そして…これで私が思ってた予想がが当たっていそうです」

 

後藤「予想ねぇ。ま、取り合えず暫くは待機だ。指示が来るまでな」

 

『了解!』

 

そして、各自自分の担当する指揮車やレイバーキャリアで待機する。

 

香貫花「だけど、本当に何なのかしら」

 

野明『そうだよね~』

 

山崎『全く理解が出来ませんね』

 

俺達は今、1号機の連中とだけ話している。

 

香貫花「それで翼、そろそろ私達には教えてくれてもいいんじゃないかしら?」

 

「いいですけど、まだあくまで予想ですよ」

 

香貫花「いいのよ。貴方の予想は殆ど当たるんだから」

 

「やれやれ」

 

こういうのは、殆ど隊長に任せてるんだけどな。

 

野明『何々?翼さん何か分かったの?』

 

山崎『教えてください』

 

「分かりました。ですがあくまで私の予想、考えですから1号機の方にしか話しませんよ」

 

『『は~い(はい)』』

 

誰にも話すなと約束させ、俺の考えを話し出す。

 

「今回の事ですが、本庁からの指示が曖昧で、先程の県警の人も状況を把握していない。そして、山中湖方面の道路を封鎖。報道は路面に亀裂と言ってるそうですがね」

 

香貫花「そうね」

 

「そして、事件が起きてる山中湖付近あるものといえば…」

 

香貫花「!!なるほどね」

 

どうやら香貫花は分かったようだ。

 

野明『何々?勿体ぶらずに教えてよ~』

 

香貫花「山中湖付近にあるのは、陸上自衛隊の演習場よ」

 

「その通りです。そして、おそらく自衛隊が開発したレイバーに問題が起きた」

 

山崎『で、ですが、それなら普通に警察とかに情報が伝えられててもいいんじゃ』

 

「多分ですが、そのレイバーはまだ試作段階。世間に公表していない為、公にはできない」

 

野明『そっか!だから私達に情報が伝えられてなかったんだ』

 

香貫花「Great!その通りよ」

 

俺の考えを言い、1号機の連中は納得する。

 

山崎『なるほど。確かにそれなら、隊長に情報が伝えられていなかったのも頷けますね』

 

「ですが、これはあくまで私の予想です」

 

香貫花「その予想、殆ど当たってそうな気がするわね」

 

「そうですね。そして、最も厄介なのが…多分今回は人が相手じゃなさそうな気がします」

 

香貫花「そうかもね。陸軍がひた隠しにしてる情報だもの。おそらく、無人機とかの可能性も十分あるわね」

 

山崎『む、無人機ですか!?』

 

野明『そんな事できるの?』

 

無人機という言葉に、ひろみは驚き野明は疑問を抱いている。

 

香貫花「やろうと思えば可能よ。今までにだって、何度もそんな事が実験されているわ」

 

「ですが、今回の様な事も起きています」

 

山崎『ですけど、恐ろしい時代になりましたね』

 

ひろみの言う事は最もだ。これが使用されれば、AIで動かす事が増えるだろうな。

 

「取り合えず、さっきの話は私達だけの秘密ですからね」

 

「『『分かってるわ(はい)(は~い)』』」

 

「それじゃあ、指示があるまでのんびり待ちましょうか」

 

そして俺達は、他愛ない会話をするのだった。因みに香貫花は、さっきと同じ様に俺の膝に頭をのせていた事は省いておこう。



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5話

俺達が国道138号線で待機してから1時間が経過した。そしてようやく隊長からの連絡が入る。

 

後藤『本庁から指示があった。俺達はこれから暴走したレイバーの制圧に向かう』

 

そして暴走レイバーが出現する場所に向かった。

 

野明『暴走レイバー止めるって、レイバーが止まんなくなっちゃったんですか?』

 

後藤『ああ、そういうことだ。だが、これだけは頭に叩き込んでおいてくれ。その暴走レイバーは、センサーでレイバーを探知すると、攻撃してくるって事だ』

 

太田『なんて奴だ!!』

 

進士『ちょっと待って下さい。センサーで探知って、おかしいじゃないですか。ひょっとして、そのレイバーは無人で暴走してるって事ですか?』

 

後藤『のようだ』

 

隊長の言葉に、俺は思っていた事が予想から確信に変わった瞬間でもあった。

 

香貫花「翼の予想が当たったわね」

 

「当たっても全然嬉しくありませんけどね」

 

ホント嫌な予想だけは当たるんだよな。当たるなら宝くじとかもっと別ので当たってほしいわ。

 

遊馬『予想が当たったって、直江さん何か思い当たることでも?』

 

「ええまぁ。隊長の話で確信に変わりましたけれど」

 

後藤『なら丁度いい。直江、皆に話してあげて』

 

隊長からそう言われる。自分が話すのが面倒だからって。

 

「分かりました。既に1号隊の皆さんには話していたんですが、今回の隊長を含め県警の方達にも情報が伝わっていない。次に、山中湖方面の道路を全面通行止め。報道は道路に亀裂があったと言ってますが、今回注目するのは山中湖です」

 

遊馬『山中湖?』

 

「そうです。山中湖周辺にあるものといえば・・・」

 

進士『そうか!陸上自衛隊の演習場がありますね!』

 

「その通りです。そして、隊長達にまともな情報が伝えられていないのは、おそらくですが、公にできない理由があるはずです」

 

野明『でも、自衛隊のレイバーが暴走したのに、どうして自衛隊が処理しないんですか?』

 

後藤『したけど失敗した』

 

太田『自衛隊はそう言ってきたんですか!?』

 

太田が通信越しにでかい声で質問していた。

 

後藤『言ってはこん。だが、我々を何故待機させていたのか。それを考えれば、およその検討はつく。つまり、二段構えの作戦というわけだ』

 

野明『二段構え・・・』

 

後藤『自衛隊内部で処理できた場合は、待機させていた我々にお引き取りを願う』

 

遊馬『自衛隊の尻拭いはごめんだなぁ』

 

真実を聞かされて、遊馬は面倒くさそうな声を出す。

 

野明『なにさ!遊馬なんて指示するだけじゃないか!!実際に拭うのは私と太田さんなんだからね!!』

 

香貫花「下品よ」

 

そんな会話をしながら目的地に進んでいく。

 

『こちら山梨県警本部。暴走レイバーは山中湖の非常線を突破。現在、国道138号線を御殿場方面に暴走中。よろしく阻止されたし』

 

「やっぱり非常線は意味なかったみたいですね」

 

香貫花「そうみたいね」

 

後藤『止まれ。ここで待ち受ける』

 

左にある造整地の場所で止まる。

 

後藤『左側の造整地に誘い込め。いいか、敵は乳母車じゃないって事を忘れるな』

 

『了解!!』

 

そして1号機と2号機を準備する。

 

「野明さん、準備はいいですか?」

 

野明『いつでも準備OKです』

 

香貫花『レイバーキャリア!デッキアップ!!』

 

山崎『了解』

 

イングラムを起き上がらせ、こちらに走ってくる暴走レイバーの備える。

 

太田「向こうから攻撃してくるとは面白い。この俺が仕留めてやる!」

 

「お2人とも、油断しないで下さいね」

 

俺は聞くかわからんが、一応太田を含めて注意しておく。そして奥から暴走レイバーが現れた。

 

野明『目標確認・・・げっ!』

 

太田『何だあの派手な色は!!』

 

暴走レイバーは、派手な黄色の塗料がかかっていた。

 

野明『あれ本当に自衛隊所有なの?』

 

香貫花「野明!なにしてるの!早く行きなさい!!』

 

野明『りょ、了解!』

 

そして2号機と共に、暴走レイバーの所に走っていく。

 

野明『まともにぶつかりたくないよ!』

 

『『2人共今よ(だ)!!』』

 

香貫花と遊馬の指示で、2機とも造整地に入っていく。暴走レイバーもその後を追いかけていく。太田がリボルバーキャノンで攻撃するが、流石は自衛隊のレイバーだな。ウチの攻撃なんか全く効いてない。

 

「ウチの武器じゃ厳しいですね」

 

後藤「みたいだな」

 

双眼鏡で状況を確認してる後藤に話しかける。すると2号機がタックルし相手レイバーを倒す。

 

後藤「・・・はっきりしたな」

 

進士「えっ?」

 

後藤「レイバーの機体を見てみろ。カモフラージュしたかった訳だ」

 

そう言いながら、持っていた双眼鏡を進士に渡す。因みに俺は双眼鏡が無くても、肉眼ではっきりと見える。TYPE-X10と書かれていた。

 

進士「機体にX10の文字が。隊長、Xといえば・・・」

 

「進士さんが思っている通りですよ。自衛隊が試作機として付けるナンバーですよ」

 

後藤「極秘行動で動かされる訳だ。ことが表面化し、マスコミにでも嗅ぎ付けられたら社会問題に発展するからなぁ」

 

進士「物騒な物が暴走していたんですねぇ」

 

「やはりか」

 

後藤「ん?なに、もしかしてこの事も考えてたの?」

 

「・・・どうでしょうか」

 

俺は笑いながら、暴走レイバーと戦ってる2機を見た。

 

進士「隊長、直江さんって一体何者なんですか」

 

後藤「さぁね」

 

そんな話をしてる2人の会話を聞いていると、遊馬から通信が入る。

 

遊馬『隊長!パワーに差がありすぎます!誰かが目標に乗り込んで、中から止める事を考えた方がいいんじゃないですか?』

 

後藤「俺も今それを考えていたところだ。篠原、やってくれる?」

 

遊馬『えっ!?俺が・・・ですか』

 

後藤「他に誰かいる?」

 

山崎『遊馬さんの方が、素手で戦り合う事になりましたね。頑張って下さい!』

 

ひろみ・・・地味に遊馬が言った事気にしてたんだな。

 

遊馬『・・・分かりました』

 

こうして、遊馬がレイバーに乗り込み、中から停止する事になった。遊馬は野明の1号機の肩部分に乗り、太田の2号機が暴走レイバーを止めている。だが2号機も止めるのに限界が来たが、何とか遊馬が中に乗り込み、ディスクを抜いたらしくようやく停止した。

 

後藤「終わったみたいね。なら帰りましょうか」

 

香貫花「隊長、暴走レイバーを跡形もなく排除するように命令を受けていましたが、あのまま放置してもいいのですか?」

 

後藤「しょうがないだろう。頑丈で壊せなかったんだからさ」

 

「そうですね。仕方ありませんよ」

 

(ま、あえて残してるんだけどな。けど、今回はあれを使わなくて良かったみたいだな)

 

俺は指揮車の後ろに置いてある3本の刀を見る。

 

香貫花「ところで、指揮車に積んでるその刀はなんなのかしら?」

 

「これですか?まぁ、いつか分かりますよ」

 

香貫花「ふ~ん」

 

こうして暴走レイバーの事件は無事解決したのだった。



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6話

第1小隊と待機任務を交代してから3日、その間は特に大きな出動命令もなく、いつも通り外の草刈りをしたり、皆で夕食の釣りをしたりとする日が続いてる。そして今、俺は夕食作りの為、野明と香貫花の3人で料理をするところだ。

 

野明「今日もハゼの唐揚げかぁ」

 

香貫花「仕方ないわよ。飽きるのも分かるけどしょうがないじゃないの」

 

ハゼとくれば唐揚げ。これが特車2課の料理だ。だが今回は違う。

 

「いえ野明さん。今回は唐揚げではありませんよ」

 

香貫花「あら?唐揚げ以外にどんな料理をするのかしら?」

 

「はい。今回はひろみさんから貰った卵と…これです」

 

俺は横にあるゴボウを2人に見せる。

 

「ウチのご近所さんから、ごぼうをいただいたんですよ。ですので、今日の夕食は“はぜの柳川風鍋”にしようと思います」

 

香貫花「柳川風鍋?」

 

そっか。香貫花は柳川鍋を知らないのか。

 

「柳川風って事ですが、本来はハゼではなくドジョウを使うんですよ。それが柳川鍋なんです」

 

野明「ドジョウの方も美味しいんだよ」

 

香貫花「へ~」

 

ま、味は変わらないから、気に入ればドジョウの方も食えるだろうよ。さて、じゃあ始めるとするか。

 

「それではまず、ごぼうを皮を剥いてささがきにします。そして水に晒してアクを抜きます」

 

手本を見せる形で、野明と香貫花にやり方を見せる。

 

「まずはここまでをお願いします」

 

「「は~い(了解)」」

 

そして2人は、俺のを見よう見真似で、ごぼうをささがきにしていく。野明はまあまあだが、香貫花は包丁に苦戦してる感じだな。ま、随分と細かい作業だしな。

 

「香貫花さん、あまり肩に力をいれなくても大丈夫ですよ」

 

香貫花「だけど、思ったより硬いのよ」

 

「ですので、こんな感じにすれば…」

 

俺は香貫花の背後に回り、手を持って一緒に動かす。

 

「こんな感じですよ。思ったほど力をいれなくても切れるでしょ?」

 

香貫花「///」

 

「香貫花さん?」

 

香貫花「あ、ああ!ごめんなさい。こんな感じね」

 

すると香貫花は、先程とは違いスムーズにごぼうをささがきにしていった。

 

野明「……」

 

「ん?どうかしましたか野明さん?」

 

手を止めて、俺と香貫花を見てた野明に話しかける。何かあったか?

 

野明「だだ、大丈夫です!」

 

「そうですか?」

 

ま、本人が大丈夫って言うなら大丈夫だろう。

 

「さて、ごぼうが終わったら次はハゼの下処理から始めます。ハゼは砂泥底を好むので、魚体を覆うヌメリに泥が含まれている事があります。ですので、まず多めの粗塩を振ります」

 

ボールの中にあるハゼに、粗塩を振りかける。

 

「そして指先でハゼを揉んで水で洗います。それを2~3回繰返し、キッチンペーパーで拭き取ります。取り合えずこれで第一段階終了です。まずはここまでお願いします」

 

「「はい!(分かったわ)」」

 

そして2人は、先程俺が見せた行程で同じ様に残りのハゼを処理していく。

 

「では次ですが、ここが大変です。これだけの数のハゼを捌きます。ハゼの内蔵を取り出しますが、何分量もそうですが小さいので、気をつけて作業してくださいね」

 

そして俺達は、黙々と整備士と第1、第2小隊の連中分のハゼの内蔵を取り出した。数十分後、ようやく全ての下処理が終わった。

 

野明「疲れた~!」

 

香貫花「そうね。流石に疲れたわね」

 

「お2人ともご苦労様です。捌いたハゼに熱湯をかけて、すぐに冷水で冷やします。その後残ったヌメリを包丁で取って…」

 

俺は大きめの浅い鍋を数個用意し、鰹節でとったダシ、醤油、みりん、酒、ごぼうを入れ次に捌いたハゼを放射線状にいれていく。

 

「そして中火で暫く加熱します」

 

暫く中火で煮立てて、ごぼうに火が通った事を確認する。

 

「ごぼうに火が通れば火を止め、溶き卵を流し入れ、三つ葉を上に乗せて蓋をして完成です」

 

野明「うわ~!いい匂い♪」

 

香貫花「とても美味しそうね」

 

「運んでいる間に、卵もいい感じになると思いますし、そろそろ運びましょうか」

 

俺達は全員分の料理を運び、放送を流した。今回は第1小隊、第2小隊、整備員全員がいるので、結構な時間になった。

 

野明「あ!来た来た」

 

全員がゾロゾロとハンガーに集まってくる。隊長やしのぶも来ている。

 

遊馬「野明、随分と遅かったな?唐揚げそんなに時間かかったのか?」

 

太田「またハゼの唐揚げか」

 

シバ「贅沢言わないの」

 

進士「そうですよ太田さん」

 

山崎「ここでは、食べられるだけ有り難いんですから」

 

各々が、今日の夕食であろう唐揚げの事で話している。だが今日は違うんだよなぁ。

 

香貫花「安心しなさい。今日はハゼの唐揚げじゃないわよ」

 

『えっ?』

 

シバ「じゃあ、一体何を食わせるの?」

 

野明「フッフッフ…今日の夕食は…じゃ~ん!」

 

テーブルに置いてある鍋の蓋を開ける。

 

『おおおおおおおおおおっ!!!!!!』

 

「今日の夕食は、ハゼの柳川風鍋です」

 

野明「私達も、最近唐揚げばかりで飽きてたねって話をしててさ」

 

香貫花「それを見越して、翼は別のメニューを考えてたみたいなの」

 

「ええ。ひろみさんから新鮮な卵と近所の人からお裾分けで貰ったごぼうがありまして、だったら柳川風鍋を作ろうと思ったんです」

 

『うおおおおおお!!!!』

 

俺の言葉に、皆が雄叫びを上げる。やっぱり皆唐揚げ飽きてたんだな…

 

「それでは皆さん、手を合わせて下さい」

 

俺の言葉に全員が手を合わせる。

 

「「「いただきます」」」

 

『いただきます!』

 

それを合図に、全員が凄い勢いで柳川風鍋に箸を伸ばしていく。

 

遊馬「旨い!」

 

シバ「やっぱ翼ちゃんサイコー!!」

 

太田「ガツガツ!バクバク!モグモグ!」

 

進士「ホント直江さんの料理は凄いですね」

 

山崎「ええ。僕、直江さんの料理が楽しみになってますよ」

 

第2小隊の連中は、いつも通りに食べている。

 

後藤「ホント、相変わらず色々出来るねぇ」

 

南雲「だけど、ハゼの柳川風鍋は驚いたわ」

 

榊「普通はドジョウだが、これはこれで旨いな」

 

3人も気に入っていただいたようで。

 

「いかがですか?」

 

俺は3人に話しかける。

 

後藤「ん?旨いよ。ってか、直江が作るモンで不味かった事ないもん」

 

南雲「そうね。だけど…女として負けた気がするわね」

 

後藤「しのぶさん、直江相手だから仕方ないって」

 

「人を変な風に言わないで下さいよ」

 

後藤「だってそうでしょ?料理は旨いわ、生身でレイバーと戦えちゃうわ、そう思っちゃうでしょうに」

 

「生身っていっても、あれは対レイバー用に開発された刀を使ってるからですよ」

 

とまぁ、口ではそう言うが、俺…いや、俺を含めた家族、家系は普通の人間からしたらおかしい集団なんだよな。正直言って、俺達直江家はレイバー相手に生身で戦えるし破壊もできる。けど、一応そこは、政府や軍も協力して開発したので対処できるって事にしてる。因みに1本で、イングラムが2機造れるほどの金額らしい。そして、その刀は日本中で俺しか使用できないのだ。

 

(直江家の連中なら誰でも扱えるがな)

 

しかし、どうしても対レイバー用になると、従来の刀より重くなる。何故か俺は普通の刀くらいにしか重さは感じず、そのお陰であれは俺専用になったのだ。因みに、メンテに必要な金額は、リボルバーキャノン24発分の値段らしい。

 

榊「あれを使わないにこしたことはないからな」

 

南雲「そうですね」

 

後藤「だけど、他の連中が知った時の反応が気になるねぇ」

 

榊「そうか?どうせ、初めて見たときの俺達みたいな反応だろうよ」

 

南雲「そうですね。けど、バレるまではこの秘密を知ってるのは私だけよ」ボソッ

 

しのぶよ、そうまでして他の連中より上にいたいのか?見ろよ、隊長どころか榊さんまで引いてるぞ。けどまぁ、何はともあれ、夕食も無事に作り終わってホッとした。野明と香貫花も、自分達が作ったハゼの柳川風鍋を美味しそうに食べていた。では俺も…うん、旨い♪



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7話

いつも通りにのんびりと待機してる俺達第2小隊。男連中と香貫花は、テレビを見ており、俺は野明がアルフォンスであや取りをしていると聞き、シゲ達とそれを見ている。ついさっきも蝶々を完成させ、今は梯子に挑戦中だ。

 

シバ「そこ違うって。ダメだなもう!だからそこ、くぐらす、くぐらすんだよ。なんちゅうの、中指の第2関節ポリシーがないんだよなぁ。あや取りははっきり言って哲学だよぉ」

 

シゲがあや取りで手こずってる野明にそう言う。

 

「こうでこう…」

 

野明は野明で、まずは自分の手で梯子を完成させ、手順を覚えている。

 

野明「よし!もういっぺんやる」

 

シバ「はいはい、頑張ってね」

 

そして再びアルフォンスであや取りを始める。

 

「というかシゲさん。あまりゴチャゴチャ言わない方がいいですよ。余計混乱しますよ」

 

シバ「甘いね~翼ちゃん。あや取りは哲学!そこは大切にしないと」

 

(哲学ねぇ)

 

野明「できたぁ!」

 

すると、アルフォンスで無事に梯子が完成した。

 

シバ「お上手~!」

 

「凄いですね野明さん」

 

野明「そ、そんな凄いだなんて///」

 

アルフォンスから降りてきた野明にそう言う。

 

シバ「あらら…またなの翼ちゃん」

 

「またってなんですかシゲさん、またって」

 

シバ「いや…だって、ねぇ」

 

すると、特車2課に警報が鳴り響く。現場にすぐに急行する事になった。今回はレイバーではなく、人命救助だそうだ。

 

後藤『現在建設中のタワシティ一番タワーで発生した火災は、液体ガスボンベの爆発を誘引し尚拡大中だ。火災発生箇所は南側、3層目、12階、地上約200m。消防庁のレイバー隊が消化作業に当たっている』

 

香貫花「火災の原因は?」

 

後藤『まだ分かっとらん』

 

進士『初期段階で、自動の消化装置は作動しなかったんですか?』

 

後藤『その点については、よう分かっとらんのよ。ただ、通報があった頃にはもうかなり広がとったようだ。発見が遅れたか、或いは…』

 

「わざと遅らせたか…」

 

俺は香貫花以外に聞こえない声で呟く。

 

香貫花「わざとですって」

 

「そう思いませんか?建設現場程、火災や事故に関しての通報はしっかりしてる筈です」

 

香貫花「確かにそうね…」

 

遊馬『ほんで、警視庁の俺達は何しに?』

 

後藤『火災現場のすぐ近くに、来日中のクラウス外相以下、8名程取り残されている』

 

野明『人命救助』

 

後藤『そゆこと』

 

そしてようやく現場に到着した。

 

後藤『山崎、進士は、南側制御室に行って、データを各指揮車に転送しろ』

 

『『了解』』

 

後藤の指示で、ひろみと進士は南側の制御室に向かった。隊長は消防庁の鈴鹿隊員と話を始める。

 

「それにしても、随分と高いビルを建設していますね」

 

野明「ホントですね」

 

香貫花「何の為にこんなに高いビルを建設したのかしら?」

 

太田「んな事気にしとる場合か!」

 

後藤「仕方ありませんなぁ。通路が使えないとなると、外から直接入り込みますか」

 

遊馬「しかしどうやって?」

 

「隊長、もしかして…あれを使うんですか?」

 

俺は屋上にあるクレーンを指差す。

 

後藤「正解」

 

野明「ええっ!?」

 

香貫花「イングラムなら可能なはずよ?」

 

遊馬「逆に言えば、イングラムでなければ不可能だ。他のレイバーでは、そんな芸当はできない」

 

太田「まっかせなさい♪」

 

嬉しそうに答える太田。

 

後藤「じゃあ早速行動に移ってちょうだいよ」

 

太田「了解!」

 

そして俺達は、屋上に向かうためのエレベーターに移動する。イングラムをデッキアップし、2機は屋上に上っていった。

 

「さてと…香貫花さん、少しだけここを離れますのでお願いします」

 

香貫花「分かったわ」

 

「通信は入れてますので、野明さんの指示は中に入ってからは任せてください」

 

そして俺は隊長がいる場所に向かった。

 

後藤「直江、どしたの?」

 

「いえ、ここからの方が見えやすいので」

 

後藤「あっそ」

 

すると隊長は、煙草を吸い始める。

 

「けど、わざわざ広報課長まで出てきて、評価を上げたいんですね。上の人達は」

 

後藤「ま、仕方ないさ」

 

南雲「呆れて何も言えないわ」

 

「ま、所詮私達は本庁からは嫌われてたり、お荷物扱いですからね」

 

俺達3人は、テントにいる報道陣を入れたであろう上層部の連中を見る。

 

「しのぶさん」

 

俺はしのぶの事を名前で呼ぶ。普段は南雲隊長と呼ぶけどな。

 

南雲「!!」

 

「そんな顔をしてはダメですよ。そういう顔は似合いません。きっちりするのは大切ですが、時には力を抜かないと身が持ちませんよ」

 

俺はそう言いながら、隊長には見えないようにしのぶの手を握る。

 

南雲「…そうね。ありがとう」

 

「いえいえ。最も、ウチの隊長みたいに年がら年中気を抜くのもどうかと思いますけどね」

 

南雲「確かにその通りね」

 

後藤「そこで俺の話はせんでいいでしょうに」

 

そうこうしている内に、野明と太田が屋上にあるクレーンから降下しようとしている。

 

(あれは2号機だな。先に2号機を下ろすのか)

 

そしてゆっくりと降下していき、第3層、11階にある外部デッキから入ろうとしている。だが、入り口は爆発の影響で鉄骨で塞がっており、イングラムでも取り除くのは難しそうだ。

 

太田『このやろ~!ぶっ飛ばしてやる!!』

 

すると2号機は、壁を蹴り後ろに飛んだ。そのまま蹴り飛ばすのかと思ったが…

 

太田『銃は?俺の銃が!ああああああああ!!!!』

 

見事に壁にぶち当たった。ま、そのお陰で塞がってた鉄骨は取れ落ちてきてるけどな。

 

太田『何で銃が入ってないんだ』

 

遊馬『バカか!人命救助に銃なんかいらんだろうが!』

 

太田『なんだと!現場の判断で必要な時があるんだ!ボケぇ!!』

 

遊馬『おっ、言ったな』

 

太田『おうよ!現場に出てないお前に何が分かる!』

 

香貫花『Shut up!!2人とも止めなさい』

 

2人の言い合いを香貫花が止める。

 

後藤「全く、何やってんだ太田は」

 

「けれどそのお陰で、邪魔な報道陣はいなくなりましたけどね」

 

太田が壁にぶつかって、鉄骨等が落ちてきたため、周りにいた報道陣の連中は逃げていなくなっていた。

 

太田『ああああああああああ!!!!』

 

すると再び太田が叫んでいた。見ると、ワイヤーが絡まって動けなくなっていた。

 

「ん~…あれではもう2号機での救出は難しいですね」

 

後藤「そだね。直江、泉の指示、頼んだよ」

 

「了解です」

 

俺はその場を離れ、指揮車に戻り香貫花と交代する。

 

「お待たせしました野明さん。それでは、今から太田さんが開けてくれた外部デッキから中に入ってください」

 

野明『りょ、了解』

 

流石に、地面に足が着いてないから不安がってるな。

 

「野明さん、怖いのは分かります。それが当たり前です。ですがイングラム…アルフォンスと野明さんの絆を信じてください」

 

野明『…はい!』

 

そして野明は、見事にワイヤーをつたって中に入っていった。中の様子は、アルフォンスの外部モニターを指揮車でも見ることができる。奥に進んでいくと、シャッターが閉まってる場所に到着した。

 

野明『シャッターが閉まってる』

 

「野明さん。その奥に逃げ遅れた人達が取り残されています」

 

香貫花「だけどそのシャッターは、対テロ対策でレイバーでも壊せない強度を持っているわ」

 

野明『ええっ!じゃあどうすれば』

 

「シャッターの近くに、手動で開けるレバーみたいなのはありませんか?」

 

普通シャッターの近くには、手動で開けれるレバーが備え付けてあるはずだ。

 

野明『えっと…あった!これを回せばいいんだね』

 

香貫花「待ちなさい野明」

 

イングラムを降りて、シャッターを開けようとする野明を香貫花が止める。

 

野明『どうしたの香貫花』

 

香貫花「おそらくそのレバーは、物凄い高温になっているはずよ。赤外線モニターを使いなさい」

 

香貫花の指示で、野明は赤外線モニターを使う。すると、レバー付近は200℃以上になっていた。

 

野明『ホントだ。200℃を超えてる』

 

「仕方ありませんね。野明さん、アルフォンスで作業を行いましょう」

 

野明『了解』

 

そして野明は、あや取りで使ってた方法で、シャッターのレバーを回すこととなった。

 

野明『うっ…折れちゃいそう』

 

だよなぁ。アルフォンスの力じゃ、油断するとポキッって簡単に折れるだろうな。

 

「大丈夫です野明さん。あのあや取りを思い出して下さい」

 

野明『…フゥ』

 

俺の言葉に、今日の昼休憩の時にしてたあや取りを思い出したみたいだな。

 

『ああっ!』

 

香貫花「なに?何か起きたの?」

 

野明『アルフォンスがまた汚れちゃった』

 

その言葉を聞いて、香貫花は頭を抱えた。

 

香貫花「貴方ね~…今はそんな場合じゃないでしょう!」

 

野明『だって~』

 

「野明さん。この任務が終われば、私達1号機のメンバーで洗うのお手伝いしますので」

 

香貫花「ちょっと!?」

 

野明『ホントですか!』

 

「ええ。ですから、今は集中しましょう」

 

そして野明は、再びレバーを回し始めた。

 

香貫花「翼!」

 

「すみません香貫花さん。ですが、今一番大変なのは野明さんです。私達は安全な場所で指示を出すだけ。でしたら、任務が終わった後の掃除くらい手伝ってあげましょう。それに、1号機の班全員ですれば、親睦も少しは深まると思いますしね」

 

香貫花「…全く。分かったわよ」

 

何とか香貫花も説得できたな。そしてようやくシャッターが開き、中に閉じ込められていた8人全員が無事に救出されたのだった。任務が終わった俺達は、屋上でワイヤーでがんじ絡めになってた2号機を助けだし、特車二課に戻った。掃除は整備や修理があるから、明日することになった。因みにひろみは、皆でアルフォンスを掃除することに、快く参加してくれた。そして翌日、俺は隊長に呼ばれたので、今は隊長室にいる。しのぶも一緒だ。

 

後藤「来たか直江」

 

「はい。それで隊長、呼び出しの内容は?」

 

後藤「ああ。クラウス外相が、勇敢に救助してくれたパトレイバー隊に感謝しててな。そして、こんな物を送ってきてくれたんだよ」

 

取り出し机に置いたのは、タワシティの上にポーズを決めたイングラムがあるトロフィーだ。

 

後藤「もし1号機班の連中が要らないんなら、しのぶさんにあげようと思ったんだよね。しのぶさんは欲しい?」

 

南雲「欲しいわ」

 

いや、何でもかんでも欲しがるなよ。そもそも、あんたんとこの第1小隊と機体が違うだろうが。

 

「後藤さん」

 

俺は隊長の事を名字で呼ぶ。こういうときの俺は、少し怒ってる事を意味する。

 

「何でもかんでもあげないで下さい。聞きましたよ?イングラムも南雲隊長に欲しいか聞いたそうですね?そんな簡単にホイホイあげないで下さい。せっかくクラウス外相が、私達第2小隊の為にくれたんですから、キチンと飾りましょう。只でさえ、ウチの小隊はトロフィーや賞状等は滅多に貰えないんですから。いいですね?」

 

後藤「はい…」

 

「後南雲さんも南雲さんです。後藤さんが欲しいと聞いて、何でもかんでも欲しがらないで下さい。そもそもイングラムは、上の命令で配置されたんですから。そして、このトロフィーも貰ったところで、南雲さんが使ってる第1小隊の機体とは違うんですから。貰ったところで、すぐに第2小隊と分かりますよ」

 

南雲「ごめんなさい」

 

俺に説教された2人は、少し小さくなっていた気がした。

 

「とにかく、これはウチの所に飾っておきますからね。今度場所を作っておきますから。それと、次はこんなことが無いようにしてくださいね」

 

「「はい」」

 

ホント、これじゃどっちが隊長かわかんねぇよ。で、俺は隊長室を後にし、アルフォンスの掃除をするためにハンガーに向かった。

 

「お待たせしました」

 

野明「翼さん」

 

山崎「お疲れ様です」

 

香貫花「やっと来たわね」

 

「すいません。それじゃあ、始めましょうか」

 

『はい!』

 

そして全員で、汚れたアルフォンスを洗うのだった。たまにはこういうのも悪くないな。



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8話

長い待機任務から解放され、俺達第2小隊は第1小隊と入れ替わりで非番になった。今回は、第1小隊が1週間の待機任務。先週は俺達だったから、1週間は非番だ。まぁ、緊急出動要請があれば、非番でも出動するんだけどな。そして、今日も非番なんだが、俺は特車2課に向かっている。

 

「今日の夜だったよな。第1小隊の新しい機体が来るのは」

 

俺はその機体を見に向かっている。要するに野次馬だ。けど、おそらくあいつらも来てるだろうな。こういうのは絶対見逃さない連中だし。そして、絶対に遊馬と太田の奴は来るだろうな。さて、特車2課に到着しハンガーを覗くと、案の定第2小隊の連中が勢揃いしていた。

 

「やはり来ていましたか皆さん」

 

俺は、アルフォンスにワックス掛けをしてる野明の場所に集まる。

 

『……』

 

あれ?反応がないんだけど。

 

「えっと…皆さん」

 

遊馬「えっと、あの!どど、どちら様でしょうか!」

 

皆に押されながら、遊馬が俺にそう聞いてくる。どちら様って…

 

「あっ!」

 

コイツらがビビってた理由。そっか!俺、普段着だから、サングラスかけてたわ。それで気づかないしビビってるのか。

 

「ああ、すみません。私ですよ、私」

 

俺はかけてたサングラスを外して、普段仕事の時にしてる伊達眼鏡をかける。

 

『あああああああ!!!!』

 

ようやく俺と分かり、全員が声を出す。

 

山崎「な、直江さんだったんですか」

 

進士「ボ、ボク…心臓止まるかと思いました」

 

野明「私も」

 

遊馬「皆だらしねぇな」

 

野明「そういう遊馬だって、翼さんが来たとき足震えてたじゃん」

 

遊馬「うっ…」

 

図星を言われ遊馬も怯む。

 

野明「ところで、何で皆いるの?」

 

香貫花「野次馬よ」

 

野明「むっ。私がアルフォンス磨いてるとこ見てて面白いわけ!」

 

遊馬「アホかお前は」

 

「野明さん、私達が来た理由は、今夜新しく第1小隊に試験的に配属される新型レイバーがくるんですよ」

 

野明「ええっ!!あっ」

 

野明は驚き、持ってたワックスを落とす。ま、香貫花が見事キャッチしたがな。

 

香貫花「噂じゃ、イングラムより優秀らしいわよ」

 

野明「し、知らなかった」

 

遊馬「ま、向こうの方が新しい分だけスペックは上だろうな」

 

シバ「来たああああああああ!!」

 

するとシゲが叫びだす。

 

シバ「来た来た来た来た来た!来たよ~!!」

 

どうやら噂の新型レイバーが到着したみたいだな。俺達は邪魔にならない様に上から見学する事にした。

 

榊「満員御礼だな。よ~し!シート外して電源ぶちこめ!すぐに初期設定始めるぞ!!」

 

そして起き上がりシートが剥がされた。

 

遊馬「すげ~!これがあのSRXー70か」

 

野明「外見だけじゃ凄いかどうか分かんないや」

 

香貫花「オプション装備は42mオートカノン」

 

太田「なに!?イングラムが負けとるじゃないか!!」

 

香貫花の説明に、太田は叫ぶ。

 

香貫花「それだけじゃないわ。肩にラインメタル、MK-22を改修した20mバルカン砲一門。軍用レイバーでも相手にできそうね。充分に凄いんじゃないかしら?」

 

遊馬「詳しいな」

 

進士「で、警察用のレイバーに、そんな装備必要なんでしょうかねぇ?」

 

太田「あって邪魔にはならん!!」

 

装備の事について、トリガーハッピーの太田は叫ぶ。

 

「太田さん。私達は警察官です。はっきり言って、私から言わせれば、最早これは軍用装備です。先程太田さんは、あって邪魔にはならないと言いましたが、正直言って警察にそこまでの装備はいりません。そもそも、日本の場合は、余程の事がない限り、発砲する事はありません」

 

太田「だ、だが…」

 

「前から言いたかったのですが、太田は向こうでいうトリガーハッピー、乱射魔ですよ。犯罪者でも、日本では人としての扱いが普通です。犯罪者だからといって、無闇に発砲する必要はありません。その事をよく考えて下さい」

 

そう言い残して、俺はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……』

 

翼が去った後、誰1人喋らなかった。特に話題の中心である太田は、翼の言葉にショックを受けていた。

 

遊馬「ま、まぁ気にするな太田」

 

野明「そ、そうですよ太田さん」

 

進士「これから反省すればいいんですから」

 

山崎「そ、そうですよ」

 

香貫花「……」

 

他の連中は太田を励ますが、香貫花だけは黙っていた。

 

野明「香貫花も何か言ってあげなよ」

 

香貫花「何故?翼の言う通りじゃない。警察官としての誇りとかは見習うわ。だけど、何でもかんでも撃ちたがる癖は、はっきり言ってあげなきゃ本人の為にならないわよ。悪いけど、私も翼の意見に賛成よ」

 

そして香貫花も行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、第1小隊は早速新型レイバーで出撃したらしい。だが、隊長室から出てきた榊さんの様子が変だ。

 

「榊さん、何かありましたか?」

 

榊「直江か。なに、少し後藤さんから頼まれごとでな」

 

「頼まれごと?」

 

榊「ああ。あの新型レイバーだが、後藤さん曰くどうも胡散臭いらしいんだよ。そもそもメーカー側の条件がよすぎるんだ」

 

「条件…ですか?」

 

榊「そうだ。正式導入決定までは無料貸し出し。メンテまでメーカーが受け持つらしい。そして、昨日出動してメーカー側の連中がメンテに来たそうだが、シゲから言わせれば、連中の目的はディスクのコピーらしい」

 

「ディスクのコピー…行動パターンデータですか」

 

その言葉を聞いて、俺はその結論にたどり着く。

 

榊「ああ。後藤さんも同じことを言ってたな」

 

「となると、そのメーカー…トヨハタオートが怪しいですね」

 

榊「……」

 

俺の言葉に、榊さんは何かを考え出す。

 

「榊さん?」

 

榊「直江、トヨハタオートの事は篠原の倅かシゲに聞いてみろ。何かを分かるかも知れねぇぞ?」

 

「分かりました」

 

俺は屋上から、下にいるシゲの所に向かった。

 

「シゲさん」

 

シバ「あれ?翼ちゃん、どったの?」

 

「いや、SRX-70のメーカー、トヨハタオートについて聞きたいんですよ」

 

シバ「トヨハタオート?何でまた」

 

「榊さんから聞きましたが、トヨハタオートの連中がろくに整備もしなかったと聞いて」

 

シバ「あ~そうそう」

 

「そして、連中の狙いはディスクのコピー…行動パターンデータ」

 

シバ「間違いないね。後、トヨハタオートだけど、はっきり言ってトヨハタオートだけじゃ、あんな物作るのは難しいと思うよ」

 

新型レイバーに付いてる、バルカン砲を見る。

 

シバ「あくまで俺の知り合いに聞いた話だけど、トヨハタオートじゃなくて、シャフト・エンタープライズが関わってるらしいんだよ」

 

「シャフト・エンタープライズといえば、爪楊枝からスペースシャトルまでという、多国籍企業ですよね?」

 

シバ「そうそう。で、今回はトヨハタオートとシャフトとの共同開発って事になってるけど、殆どがシャフトが作り、トヨハタはシャフトの隠れ蓑に過ぎないって、業界内では有名な話なんだよ」

 

「なるほど…だったら、行動パターンデータを欲しいと思っているのは」

 

シバ「シャフト・エンタープライズだろうねぇ。上の連中は何を考えているのやら」

 

「……」

 

すると、上からしのぶが降りてきてそのまま外に出ていった。

 

シバ「南雲隊長、どうしたんだろう?」

 

「…シゲさん」

 

シバ「ん?」

 

「第1小隊が前まで使ってた、97式改って使えるんですか?」

 

シバ「97式改?当然毎日メンテしてるから、すぐに使えるけど。それがどうしたの?」

 

「いえ、すぐに使えるならいいんです。情報ありがとうございました」

 

俺はシゲにお礼を言い、外に出て行ったしのぶの所に向かった。しのぶは、握り拳を作り、力一杯握っていた。

 

(やれやれ。しのぶの奴も面倒な性格してるな)

 

俺はゆっくりとしのぶの横に立つ。

 

南雲「直江君」

 

「お疲れ様です。取り合えずこれを」

 

俺は持ってたハンカチを渡す。うっすらとだが、涙を浮かべてたからな。

 

南雲「…ありがとう」

 

「いえ」

 

南雲「……」

 

「……」

 

そして暫く沈黙が続く。

 

南雲「ウチの小隊が、まさかあんな風に使われようとしていたなんて」

 

「シャフト・エンタープライズが、こんな手を使うとは思いませんでしたけど」

 

南雲「ねぇ、翼君…私、どうしたらいいのかしら」

 

そう言いながら、しのぶは俺に寄りかかる。

 

南雲「上は私達の言ったことを憶測としか思ってくれない」

 

「……」

 

南雲「このまま黙って、上の意向に従うしかないのかしら」

 

「…そうですね。でしたら、こういうのはどうですか?」

 

俺はあることを言い、それを課長に話したらと言う。するとしのぶは、少し驚いた顔をした後、笑いだした。

 

南雲「あははは!確かに、それなら頭の固い上の連中も意見を変えそうね」

 

「ええ。いい案でしょう♪」

 

南雲「ホントね。ありがとう。その案使わせてもらうわ」

 

すると警報が鳴り響く。

 

『港区、海南町にて402発声!第1小隊出動せよ!繰り返す!海南町にて402発生!』

 

「出動ですね」

 

南雲「そうね。それじゃあ、行ってくるわ」チュッ

 

しのぶは別れ際に、俺にキスをしてハンガーに走っていった。

 

「ったく、急にするなよな。香貫花とかに見られてねぇからよかったけどよ」

 

キスされた唇を触りながら、走っていくしのぶを眺めていた。その後、俺達第2小隊にも出動命令が出されたが、到着してみると、既に鎮圧されていたのだった。そしてその日の夜、雨が降る中メーカーの連中が新型レイバーを回収しに来た。さて、意味あるか分からんが、一応牽制しておくか。

 

「あ、ちょっと待って下さい」

 

俺は買った缶コーヒーを持って、回収しに来たメーカーの連中に渡す。

 

「雨の中御苦労様です。宜しければ」

 

「これはわざわざ、ありがとうございます」

 

手前の方に座ってる男に渡す。この男は、回収しに来た時に舌打ちしてた奴だな。

 

「あ、それと…」

 

俺は他の連中に見えないように男のネクタイを掴む。

 

「例え上の決定だろうが、今度またこんな事を考えやがったら、テメェら全員生きて帰れると思うなよ?テメェらの上司にそう伝えな」

 

「わ、分かりました」

 

「…なら宜しい♪」

 

俺は笑顔になり、掴んでたネクタイを離す。そして男はビビって、そそくさと走り去った。

 

「ま、あれだけ言っとけば少しはマシになるだろうよ」

 

そして俺は、外で野明達に止められてた太田の様子を見に行く事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後藤「しかし、よく上の決定を覆せたね」

 

南雲「ええ。課長達にあることを提案したのよ」

 

後藤「あること?」

 

南雲「教えてほしい?」

 

後藤「教えないって言わないでね」

 

南雲「秘密は守れる?」

 

後藤「口も固い方だよ」

 

南雲「実はね…」

 

南雲は、翼から言われた事を上司に言い、翼の考え通り新型レイバーをメーカーに返すことに成功した事を後藤に話す。

 

南雲「新型レイバーの操縦者を、太田巡査にするって言ったのよ。直江君の提案でね」

 

後藤「あらら。アイツも思いきった事を考えたもんだねぇ」

 

翼の提案に、後藤は呆れつつ感心していたのだった。



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9話

俺達は今日、各警備部が集まって行われてる柔道大会に出場している。

 

遊馬「あ~あ!折角の非番の日に、こんな大会に出なきゃならんとは」

 

後藤「仕方ないだろう。第1小隊は出動中だから、暇な俺達に回ってきたってことだ。諦めろ」

 

遊馬「あ~あ!じゃん拳で勝ったひろみちゃんが羨ましいよ」

 

出場人数は5人の為、男が6人いる第2小隊はじゃんけんで勝った者が出なくていい事になり、見事ひろみが勝ったのだ。で、先鋒の進士と相手先斎藤との闘い。

 

後藤「もって3秒ってとこだな」

 

「ですね」

 

そして3秒で決着がついた。

 

「次鋒篠原!」

 

「何だよ、また白帯かよ。特車2課にはそんなのしかいないのかよ!」

 

「斎藤、手加減してやれよ。レイバー無しじゃ何にもできない連中なんだからよ」

 

「始め!」

 

そして篠原は、相手にロケット頭突きをする。

 

後藤「甘いな」

 

「ですね」

 

そして注意され、再び試合が始まったが、頭突きをやられた斎藤は、やり返すため篠原を押さえつけ、ギブアップしたと同時に首を捻らせた。

 

篠原「コケコッコ!」

 

「次、中堅太田!」

 

進士「太田さん…」

 

太田「情けない声を出すな!こうなったら俺が5人抜きして、借りを作ってやる!」

 

と息巻いていたが、1本背負いでやられた。

 

「瞬殺じゃん」

 

「副将直江!」

 

「出番ですか」

 

俺の出番が回ってきて、斎藤と向かい合う。

 

斎藤「このぉ!」

 

「はぁっ!!」

 

と、気合いを入れて闘いを始める時、隊長が持ってた通信機に連絡が入った。聞くと、出動中の第1小隊から応援の要請があった。大会の途中だが、俺達第二小隊は会場を後にし、現場に向かった。すると、2号機の進士から連絡が入る。

 

進士『隊長!太田さんが』

 

後藤『どした?』

 

進士『えっと、足首を捻挫したみたいで』

 

後藤『足首を捻挫した!?』

 

進士『さっきの試合で投げられた時に。遊馬さんも喉を痛めたらしく声が』

 

後藤『ったくもぉ、こんな時になぁ』

 

進士『2号機搭乗、指揮共に不能。どうしましょう』

 

後藤『はぁ…あ~直江、聞こえるか?』

 

「はい。聞こえます」

 

後藤『悪いけど、今回は泉の指揮は香貫花に任せて、お前は2号機に搭乗してくれ。泉、香貫花、聞こえたな?復唱は?』

 

野明『…了解』

 

香貫花『Yes,sir!』

 

「了解です」

 

そして俺は2号機に乗り込む。

 

直江「野明さん、今回は香貫花さんと組みますけど、いつも通りに行けば大丈夫ですからね」

 

野明『…はい』

 

あまり乗り気じゃないな。まぁ、普段から任務の時香貫花と衝突してるからなぁ。けど、今回はいい機会かも知れないな。

 

「さて…進士さん、基本は私が動きますから、周囲の事を教えてくださいね」

 

進士『わ、分かりました』

 

「初めての指揮ですけど、出来るだけ此方もフォローしますので、緊張せずに行きましょう」

 

進士『は、はい』

 

そして、基本は1号機をメインに、2号機は1号機のフォローする形になる。

 

進士『直江さん、今隊長が犯人に対して話し合っています。そして、泉さんが裏側に回って犯人の隙を伺ってます』

 

「分かりました。ですけど、進士さんしっかりと周囲の事を教えていただいて、ありがとうございます」

 

進士『そんな…』

 

少し嬉しそうな声を出す進士。この人も普段から大変だからなぁ。そして、1号機が犯人に捕まってた老人を湯船に落とし、犯人が乗ってるレイバーを抑える。だが、犯人も抵抗し銭湯から道路に出てきた。

 

香貫花『泉巡査!銃を足に撃って相手の動きを止めなさい!』

 

しかし野明は、銃を取り出さず電磁警棒で相手をする。犯人も銭湯の煙突を引っこ抜き対抗するが、あまりの重さに、そのまま倒れそうになる。

 

「まずい!!」

 

俺は急いで煙突を支える。

 

「野明さん!今の内に犯人をコックピットから出してください。いくらイングラムでも、この重さはいつまでも耐えられません!」

 

野明『りょ、了解!!』

 

そして野明は、犯人をコックピットから出し、俺はそれを確認して急いで煙突から離れた。

 

「ふぅ」

 

進士『大丈夫ですか?直江さん!』

 

「ええ、私は大丈夫です。ですが、2号機の足の動力部が壊れましたね。だいぶ無理させたみたいです」

 

進士『そうですか。直江さんが無事なら良かったです』

 

「心配していただいてありがとうございます」

 

そして、特車2課に戻り榊さんとシゲに整備を頼むのだった。そして帰ろうとした時に、隊長から第二小隊の連中と飲みに行くと言われ、俺には是非とも参加して、野明と香貫花の仲を取り持ってほしいと言われた。やれやれ…イングラムトラブルの次は、ウチの1号機の連中か。そして、1号機のメンツ、俺、香貫花、野明、ひろみと固められ、向こうの屋台には2号機連中、遊馬、太田、進士がいる。因みに席順は、香貫花、俺、隊長、野明、ひろみとなっている。

 

野明「まぁ隊長の奢りだって言うから、過剰な期待はしませんでしたけど」

 

香貫花「隊長、この席の趣旨を説明していただけませんか?」

 

後藤「まぁ、いつもよく働いてくれている部下に対して、俺から細やかな感謝の気持ちを込めてだなぁ」

 

香貫花「職務ですから、取り分け感謝していただく必要はありません」

 

まだ機嫌が悪いな香貫花の奴。

 

後藤「まぁそう言わずに、何でもいいから楽しくやれや。言いたい事を言い、喚きたい事を喚き、食って飲んでパッとやれパッと!んじゃ、俺はちょっと野暮用があるからさ。直江、後は頼んだぞ」

 

隊長はそう言い残して、遊馬の屋台に行ってしまった。あの人、こんな状況を俺に押し付けやがって!!

 

「悪い、少し用を足してくる」

 

山崎「あ、僕も行きます」

 

そして俺とひろみは、少しだけ屋台から離れる。

 

「はぁ…」

 

山崎「大変ですね」

 

「本当にあの人は…」

 

山崎「出来るだけ僕も協力しますよ」

 

「ありがとうございます。取り合えず戻りましょうか」

 

そして俺達は戻り、取り合えず酒を飲んでいく。野明は凄いピッチで飲んでいく。

 

野明「プハッ!あれ?どうしたの?」

 

香貫花「別に。ただ、見事な飲みっぷりだと思って」

 

野明「実家が酒屋だし、何時も父さんの相手してたから。ンフフ~、お酒にはちょっとだけ自信があるんだ♪」

 

香貫花「そう」

 

それを聞いた香貫花も、酒をイッキ飲みする。

 

野明「へ~!香貫花もやるじゃない」

 

山崎「あの、ちょっとピッチが早すぎませんか」

 

野明「まだまだこれからだよぉ。おじさんもう一杯」

 

香貫花「私も」

 

「あいよ!そっちの2人は?」

 

「私も下さい」

 

山崎「僕はお酒飲めないんです」

 

ひろみ以外は酒を注がれる。

 

野明「私はねぇ、がんもとゲソ巻き」

 

香貫花「は、はんぺん!」

 

「大根とちくわとこんにゃくを」

 

山崎「僕は昆布と巾着で」

 

そして野明が酒をイッキすると、負けじと香貫花も対抗する。

 

「「お代わり!」」

 

2人のピッチが更に上がっていく。一応俺も合わせて飲んでいく。

 

山崎「直江さん、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫ですよ。ひろみさんは無理せず、水や別のを飲んで下さい。おでんも美味しいですよ」

 

山崎「は、はぁ…」

 

この事は俺が全部引き受けるとして、関係ないひろみには楽しく飲んで食ったりしてほしいからな。そして、俺達は一升瓶2本空けた。

 

野明「ウップ~」

 

山崎「泉さん、そんな飲んで大丈夫?」

 

野明「らいじょうぶらって♪このくらい」

 

と言いつつ、野明はフラつく。

 

「ほら野明さん」

 

俺は野明を起こす。

 

山崎「ちゃんおでんも食べないと。お酒ばっかりってのは、体に毒ですよ」

 

野明「キャハハハ!ひろみちゃんお母さんみたい♪」

 

香貫花「どうして…そんなに楽しそうなの?」

 

山崎「香貫花さん…」

 

香貫花の奴も酔ってるな。

 

野明「何で?どうして?楽しくないの?それはねぇ、お酒が足りないのよ。おじちゃん、もう一杯!」

 

香貫花「…One more please」

 

「あ、おじさん、私にももう一杯下さい」

 

「あいよ」

 

山崎「直江さん」

 

「大丈夫ですよひろみさん」

 

俺はひろみに安心させる用に言う。

 

山崎「で、ですけど、直江さんも泉さんや香貫花さんくらい飲んでますよね」

 

「安心して下さい。ひろみさんには説明しておきますけど、私が酔った時は、口調が変わりますから。その時は、酔ったと思って下さい」

 

山崎「は、はぁ」

 

「そしてですね」

 

俺は、最も大事な事を言う。

 

「そうなった時は、絶対に私の近くにはいないで下さい。女性は大丈夫ですけれど、男性に対してひどいことをするみたいなので」

 

山崎「ええっ…」

 

「普段は私と言いますけど、私から俺に変わったら離れてくださいね」

 

山崎「わ、分かりました…」

 

俺の真剣な表情に、ひろみは必死に頷くのだった。そこから更に飲み、酒の臭いにやられたひろみ、そして何故か店の店主も寝てしまった。何で?

 

野明「まだ起きてる?」

 

香貫花「起きてるわよ」

 

今現在、2人は俺にもたれながら話している。

 

野明「ねぇ、前から1度聞いてみようと思ってたんだけど」

 

香貫花「なに?」

 

野明「香貫花って、1人で日本に来てさ、寂しいとかアメリカにいる誰かに会いたいとかさぁ、そういうないの?」

 

香貫花「……」

 

野明「えっ?」

 

香貫花「Grand ma」

 

野明「グランマ?お祖母ちゃん!お祖母ちゃんかぁ。今頃どうしてるかなぁ?」

 

「野明さん」

 

俺は泣き出す香貫花をあやしながら、野明に話をする。

 

野明「ん?」

 

「香貫花さん…いや、香貫花は幼い頃からお祖母ちゃんに育てられたんだよ。そして、両親は亡くなってて、お祖母ちゃんが母親変わりなんだ」

 

野明「…そうだったんだ」

 

俺はそのまま眠った香貫花の頭を撫でながら、野明に説明した。

 

「普段はキッチリとしてるけど、異国の地に1人ってのは、寂しいものだ。それに、言いたくねぇがいつか婆ちゃんもいなくなる。そうなれば香貫花は正真正銘天涯孤独になる。だから、少しでも気が紛れればって思ってんだよ」

 

野明「そうだよねぇ」

 

酒を飲みながら香貫花を見る野明。

 

野明「香貫花の事は分かったけど、翼さんそんな風に話せるんだねぇ」

 

「まぁな」

 

野明「エヘヘ~♪私だけの秘密だねぇ♪」

 

そして野明も俺の胸で眠り始めた。

 

「やれやれ。飲み辛いったらありゃしない」

 

と言いつつ、俺の顔は笑っていた。

 

「さて、あの人が来るまで飲んでるか」

 

俺は一升瓶から酒を注ぎ、隊長が来るのを待った。

 

後藤「よく寝ちゃって」

 

「お疲れさん」

 

後藤「おう。悪いね、押し付けちゃってさ」

 

「ホントにそう思ってんだか」

 

後藤「ハハハ…」

 

「どうせ向こうじゃまともに飲めなかったんだろ?どうだ?」

 

後藤「そだね。飲ませてもらうか」

 

後藤も横に座り、酒を注ぐ。

 

後藤「それにしても、モテる男は辛いね」

 

「少し飲み食いがしんどいが、本人達が寝れてるなら構わないさ」

 

後藤「そうか。けど、久々に聞いたな。その喋り方」

 

「ま、酒もこいつら(野明と香貫花)に合わせて飲んでたからな。少し位は酔ったかもな」

 

後藤「俺としては、普段からそんな話し方にしてほしいんだけどね。楽だから」

 

「ングング…そういう訳にはいかないだろ。あんた以外は、俺の口調はあれで通ってるんだからよ」

 

後藤「大変だねぇ」

 

「確かにな。けど、こうやってあんたと2人で話すのも久々だし、たまには元の口調に戻すのもいいだろ?」

 

後藤「しのぶさんを含めた連中が知ったら、さぞや驚くだろうな。特に女性陣は」

 

「どうだかな。逆に呆れるかも知れねぇな」

 

そして再び酒を飲むのだった。因みに、野明と俺と後藤、そして酒を飲んでないひろみ以外全員が二日酔いになり、そんな中出動したのは当然の話だった。



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10話

俺達は、早朝から隊長に呼び出されていた。しかも呼び出されたのは、1号機のメンツだ。

 

後藤「首都、環状20号線の道路工事が、何者かによって妨害されている。直江、香貫花、泉、山崎。以上4名は本日これより現地に向かい、諸君ら自身の目と耳で事件の調査解決に当たってほしい」

 

野明「あの~、どうして私達4人だけなんですか?」

 

後藤「うん?まぁ、深い意味はない。回り回ってここに持ち込まれた事件だが、無視する訳にもいかんし。かといって、ここを留守にする訳にはいかんからなぁ」

 

香貫花「隊長、お言葉ですが地元の警察では対応できないのですか?わざわざ私達が行かなくても」

 

後藤「まぁ香貫花、そう言わんと行ってこいや。事件の詳細については先方に聞いてくれ。以上だ」

 

「香貫花巡査部長、直江巡査長、泉、山崎両巡査、ただ今より出動します!」

 

後藤「は~い、頑張ってね」

 

そして俺達は隊長室を出ていく。

 

後藤「あ~直江、ちょっと」

 

すると隊長が俺を呼び止める。

 

「はい?」

 

後藤「今回は俺は行けないから、もし万が一何か起きた時、()()()使()()も許可するから」

 

「…分かりました」

 

俺は隊長からあれの許可を貰い、事件が起きた鬼降村に向かうのだった。

 

野明『ひろみちゃん、何だか元気ないね?』

 

山崎『あの…ちょっと気になってるんですが』

 

野明『何が?』

 

山崎『僕達がこれから行く所、鬼降村って言ってましたよね?』

 

香貫花「そうよ」

 

山崎『木の里に、いにしえ人と会わんとて、歌読む鬼こそ哀れなりけり…鬼降村に、古くからある伝説に纏わる歌です』

 

野明『伝説?』

 

すると、ひろみが鬼降村の伝説について話しだした。

 

山崎『大昔、ようやくその辺りに人が住み始めたばかりのころ、恐ろしい鬼達が、山から下りてきては散々乱暴を働いたんだそうです。ところがある時、鬼達が村に下りてくると、自分達が傷付けた動物達を一生懸命手当てしてる娘がいました。村長の娘だったそうです。鬼達は、その内に優しいその娘が好きになってしまいました。ところが暫くして、元々体の弱かったその娘は、流行り病で死んでしまったのです。死ぬことを知らない鬼達は、それっきり乱暴を止め、毎年暮れに山から下りて、娘の墓までやって来ては、娘をしのんで歌を読んだそうです。まるで、鬼達の歌に答えるかのように、娘の墓のあった場所には、見事なケヤキの木が茂り、何時しか村の人々は、大晦日には家の外に出ず、木枯らしの音を鬼達の歌と思って、静かに耳を傾けるようになったとの事です』

 

野明『悲しい話だね』

 

香貫花「そうね」

 

「ですがひろみさん、凄く詳しいですね」

 

山崎『民話と伝説が好きですから』

 

なるほど。けど、今から行く村に古くから伝わる歌…か。

 

「何か今の歌と関係ありそうな気がしますね」

 

香貫花「そうかしら?」

 

「皆さん覚えていますか?隊長がこう言ってたじゃないですか。『自分達の目と耳で事件の調査解決に当たってほしい』と」

 

野明『確かに』

 

香貫花「けど翼は、鬼の祟りと思ってるってことかしら?」

 

「いえ、そういうわけではありません。ですが、この世には私達の常識外の事も起こりうるって事もありますし」

 

山崎『ヒイイイイイ!!』

 

俺の言葉に、ひろみがビビっていた。

 

野明『わああああっ!!ひろみちゃん!ハンドル!ハンドル~!!ああっ!』

 

「おっと、これ以上はひろみさんがビックリして、事故を起こされてはいけませんので、この話はここまでにしましょうか♪」

 

香貫花「そうね」

 

野明『ふぅ…』

 

山崎『す、すみません泉さん』

 

流石にハンドルから手を離すとは思わなかったがな。

 

「さて、まだまだ時間もかかりますし、途中のサービスエリアで昼食を取って、食材も買っておきましょうか」

 

香貫花「そうね。向こうで食材とかが、買えるか分からないしね」

 

野明『賛成~!』

 

山崎『そうですね』

 

俺達は、次のサービスエリアに入り、昼食と食材を買ったのだった。昼食を食べ終わり再び鬼降村に向けて走る。そして、ようやく鬼降村に到着した。そのまま事件が起きた現場に直行する。現場に到着した俺達は、その光景を見て驚いた。

 

野明「何よこれ!?」

 

山崎「酷すぎますね」

 

香貫花「確かにこれは酷いわね」

 

「だ~からもう!言わんこっちゃないんだよもう!!もっとよく調査した上で、路線決定すりゃいいものを!実地見聞もろくにせず、机上の問答だけで工事開始にGOサインなど出すからもう!それでなくとも、十分な日程貰えなかったのに!もう溜まりませんもう!!」

 

工事現場の責任者らしき人が、俺達が着いた瞬間大声で泣きながら、指示した連中に文句を言っていた。

 

「ホントにもう参っとるですよ~!ウチにゃあ、妻と3人の子供が腹空かして待っとるんですよぉ。早く期日までに終わらせないと。だけど、使える機械はもう、1台だって残っちゃいません~!ウエエエエエエン!!」

 

「あ~…お気持ちは分かります」

 

香貫花「けど、今回の事件は道路工事に反対する者の仕業ね」

 

野明「これだけの事するには、レイバーが必要よね」

 

山崎「そうですね」

 

すると、先程まで泣いていた工事現場の責任者が、泣き止み話し出す。

 

「実は、どうも妙なんですよね」

 

野明「と言うと?」

 

「最初にこの変な事件が起こった時、ウチの連中大騒ぎしてたんですよ。そん時、近くで野良仕事してた婆さんが、手を休めて我々の騒ぎを畑から見ておったんですわ。そこでウチのモンが、誰か不振な者を見かけたかどうか聞いてみたらあんた!」

 

『……』

 

「『オラな~んも見てねぇ』ちゅ~んですわ!これが!」

 

おいおい、聞いてその答えかよ。

 

「いえいえ、それだけじゃないんです。つまり…その…」

 

男は俺にだけ聞こえるように耳打ちする。

 

「祟りかも知れねぇと、村の連中が」

 

「祟りねぇ」

 

野明「それってまさか、ケヤキの木の鬼の」

 

「あれ?よくご存知ですね」

 

その事を聞くと、ひろみがビビる。

 

「ほれ、あそこ」

 

男は俺達の後ろに生えている木を指さす。

 

野明「すんご~い!」

 

香貫花「立派なケヤキの木ね」

 

鬼降村の歌にもなってる、ケヤキの木の下に行く。

 

「見事なケヤキでしょう?樹齢1000年はくだらないらしいんですよねぇ。つまり、御神木とはいえこいつには神ならぬ山鬼が籠っとるちゅう訳ですわ。何でもこの村じゃ、おもほり様っちゅうて昔から崇めている御神木なんだそうです。何年か前、ここの村長と神主様が取り殺されたっちゅ事で、週刊誌のネタにまでなっちまったそうで」

 

週刊誌のネタにまでなったのか。

 

「最近じゃ、風の強い晩に見回りの駐在さんが鬼を見たとか。結局駐在さんは、国へ帰っちまたって事ですがね。そんな謂れのある木が、この首都環状線の予定地にデーンと立ちはだかってるんですわ。あ~も~!にっちもさっちもいかん!!」

 

野明「あの、まさか今度の事件が起こったのは、この木を取り除こうとした時から?」

 

「そうなんです」

 

山崎「ヒッ!」

 

その言葉に、ひろみは奇妙な声を出す。

 

野明「どうしたのひろみちゃん?」

 

山崎「い、いえ、別に」

 

別にって、完全にビビってるじゃん。

 

「ワタシはどうすりゃいいんだ!作業員は気味悪がって、この木に手をつけようとしないし。新しい機材も追って到着する筈だから、何とか何とか明日までに工事を再開したいんです!このままの状態で冬になだれ込んだら、正月は田舎へ帰れなくなってしまう!」

 

まぁ、男の個人的な理由はどうでもいいが、どうするかなぁ…

 

野明「ここ避けて道造れないの?」

 

香貫花「あのねぇ…」

 

「野明さん、流石にそんな事が出来たら、そもそも私達は呼ばれませんよ」

 

「んな事できればとっくにやってますって!」

 

野明「アハハ…そうだよね」

 

アハハじゃないよ。

 

「ですが、工事が出来るようになったとしても、この御神木はどうなるんですか?」

 

「ま~ね。これだけ大きけりゃ移植も大変だし、なんせレイバー使うにもこの体たらくじゃ。とにかくお願いしますよ!頼みはお宅らだけなんですから」

 

俺にすがり付きながら、男がそう言う。

 

「分かりました」

 

香貫花「とにかく、これから現場検証を行いますから、現場はそのままにしておいて下さい」

 

「誰も動かしゃしませんよ!山鬼さんでもなけりゃね!」

 

山崎「ヒッ!」

 

再びひろみが奇妙な声を出す。

 

野明「ひろみちゃん…」

 

山崎「泉さん、怖くないんですか?」

 

野明「まった~ひろみちゃんったら」

 

香貫花「普通に考えてレイバーの仕業でしょう」

 

そんな話をしてると、1人の老婆が何かを呟きながら歩いてきた。

 

「た~た~り~じゃ~。た~た~り~じゃ~ぞ~。お~も~ほ~り~さ~ま~の~」

 

野明「あの…」

 

野明は老婆に声をかけるが、あまりの迫力に怯んでいた。すると今度は、“天下御免”“豊作”と書かれ、暴走族が鳴らす音を出しながら1台のレイバーが通り過ぎていった。

 

「こんな場所にも、ああいうのはいるんですね」

 

香貫花「まぁ昼間だからいいんじゃないかしら?別にスピードや暴走している訳じゃないしね」

 

「そうですね。では現場検証をしましょうか」

 

『はい』

 

そして俺達は、先程の工事現場に歩いていく。ただ、俺は地面にあるタイヤの後を見る。

 

「ん~…」

 

どうもこのタイヤ痕が気になるなぁ。

 

野明「翼さん!」

 

香貫花「何をしてるの?置いていくわよ」

 

「今行きます」

 

今は現場検証が先だな。後で調べてみるか。



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11話

あれから現場検証を行い、時間は夕方になっていた。

 

「オーライ!オーライ!ひろみさん!そこで止めて下さい!」

 

野明はアルフォンスで、壊されたレイバーやトラックをどけ、香貫花はそれを指示している。俺とひろみは、レイバーキャリアで、トラック等を吊り上げている。すると、吊り上げたトラックの下から、レイバーの足跡が出てきた。

 

香貫花「これって」

 

「足跡ですね。しかも土木作業用とは別の種類ですね」

 

野明『ホントだ』

 

「それに、ボディについてある傷跡も、レイバーの爪痕かも知れませんね」

 

香貫花「おそらくそうね」

 

山崎「だとすると、これって1台だけじゃないですよね」

 

ひろみの言う通りだ。1台だけでは流石に無理がある。

 

野明『工事を妨害するにしては、やり方が直接的だね』

 

香貫花「被害も村の中だけみたいだしね」

 

野明『やっぱり、あの御神木を切らせない為にって事かなぁ?』

 

「となると、誰かが祟りとみせかけてしたことなのか、それとも…」

 

山崎「それとも?」

 

「本当に祟りがあると恐れて言ったのか」

 

山崎「やっぱり、直江さんだって本当は…」

 

すると、此方に向かってレイバー走ってきた。

 

「な、何事です!?」

 

香貫花「あれって、イタリア製ガンボルギーニね」

 

野明『げぇ~、趣味悪~い』

 

野明は、このレイバーは好きではないみたいだな。俺もそう思うけどな。

 

『デヒャヒャヒャ!やっぱりイタリア製は凄い。パワーとスピードにかけちゃピカ1だでよ♪』

 

すると、ガンボルギーニに乗ってた老人が窓を開けて、俺達に話しかけてきた。

 

「いや~ご苦労さんですな。捜査の方は順調ですかな?」

 

「えっと」

 

「ワシは、この道路に土地を譲った者でな。売った以上、工事の進み具合が気になりますわい」

 

野明「じゃあ、あの御神木がある所もお爺ちゃんが?」

 

「いやいや、あの辺は残念ながらワシの物じゃない。よいか?あの木にだけは手をつけてはならん。あれにはのぅ、大昔から山鬼の魂が住んでおるのじゃ。そこでじゃ、ワシが直接でしゃばる訳にもいかんので、お主ら公団にちと掛け合ってくれんか?あの木を避けて、道路の予定地をもうちっと南にずらしてくれりゃ、ワシがいい値で土地を用意してやると。どうじゃ?」

 

香貫花「申し訳ありませんが、我々は妨害事件の捜査に来ただけですので、そういう交渉はできません」

 

「残念じゃのぅ。おもほり様の怒りを買ってからじゃ手遅れなんじゃぞ?邪魔したのぅ」

 

そして老人は、あっという間に去っていった。

 

山崎「なんなんでしょうか?」

 

「なんなんでしょうね?」

 

俺とひろみは、そう言うしかなかった。そして暗くなり、村が用意してくれた公民館に寝泊まりするため、そこに向かった。

 

「さて、今日はお疲れ様です皆さん。この公民館には、お風呂もあるみたいですので、先に野明さんと香貫花さん、お2人はお先にどうぞ。私とひろみさんは、夕食の準備をしておきますので」

 

野明「私は、アルフォンスの整備をしてから入る」

 

香貫花「私は食後でいいわ」

 

山崎「なら、お風呂は夕飯の後にしますね」

 

そして野明はアルフォンスへ。俺とひろみは夕食の準備を。そして香貫花は自分の拳銃を整備していた。夕食の準備ができ、運ぼうとした時、電気が落ちた。

 

「停電ですか?」

 

山崎「ヒイイイイイ!!」

 

んなにビビらんでも、ブレーカーが落ちただけだろうに。

 

「ひろみさん、すみませんがブレーカーを見てきてもらってもいいですか?私は念のために外にいる野明さんの様子を見てきます」

 

山崎「わ、分かりました」

 

そしてひろみは、ビビりながらも外にあるブレーカーの様子を見に行った。俺は野明の元へ向かう。すると…

 

野明『誰だ!』

 

野明が何者かと会ってるみたいだ。急いで向かったが、そこにはアルフォンスしかいなかった。

 

「野明さん!何かあったんですか!」

 

俺は大きな声で言うと、アルフォンスから降りてきた。

 

野明「ついさっき、赤外線センサーが出て、レイバーの熱分布反応ががあったんだけど…」

 

「熱分布ですか?」

 

野明「けどすぐに逃げられちゃって」

 

「……」

 

俺はその言葉を聞いて考える。多分だが、そのレイバーは今回の事件に関係してるな。

 

山崎「わひゃあああああ!」

 

すると今度は、ひろみの叫び声が聞こえた。急いでそこに行くと、ブレーカーに蛇が2匹絡み付いていた。

 

「蛇…ですか」

 

俺はゆっくりと蛇に近づく。そして、2人に分からないように威嚇する。

 

「邪魔だ。とっとと消えな」

 

俺の殺気に怯えて、蛇は森の中に消えていった。そしてブレーカーを上げ電源を入れた。

 

「さて、電源も無事に点きましたし、夕食にしましょうか」

 

そして俺達は中に入り、夕食を食べたのだった。野明や香貫花は普通だったが、ひろみだけは食欲がなかった。

 

「取り合えず、明日辺りに行動を起こしてみるか」

 

山崎「直江さん、お風呂空きましたのでどうぞ」

 

「ありがとうございます。野明さん達はもう入ったんですか?」

 

山崎「泉さんは入ったみたいですが、香貫花さんはまだみたいです。先に入っていいそうですよ」

 

「そうですか。ではお先にいただきますね」

 

そして俺は、着替えと銭湯用具を持って風呂に向かった。ここの風呂は、普通の一軒家にある風呂より少し大きい。2人では少し狭いが、1人ならゆっくりと入れる。ひろみですら余裕だな。浴室に入り頭を洗っていると、浴室の扉が開く音が聞こえた。目を開け見てみる。

 

「…気のせいか」

 

特に扉が開いた形跡らしきものは見当たらなかった。そして頭を流し、体を洗おうとした時…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふにゅん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

背中に何か柔らかい物が当たる。何だ一体?慌てて振り返ると、そこにいた人物に驚いた。そこにいたのは…

 

香貫花「Hello」

 

香貫花だったんだよ。ってか何でお前がここにいるんだよ!ひろみに、今俺が入ってること聞いてる筈だろうが!

 

「なな!何してるんですか香貫花さん!」

 

香貫花「フフッ♪久し振りに、貴方と一緒に入りたくてね」

 

「久し振りって、あの時は仕方なかったからそうしただけですよ!」

 

香貫花「あら?1度入ったなら、2回目だろうが同じでしょ?」

 

「『同じでしょ?』じゃないですよ!あの時と違って素面なんですから!!は、早く出てください!」

 

俺はそっぽを向きながら、さっさと香貫花に浴室から出るように言う。だがこいつは、出ていくどころか更に俺に抱き付いてきやがった。

 

香貫花「流石にそれはないんじゃないかしら?湯冷めして任務に支障が出てしまうわ」

 

任務に支障って…分かってて言ってやがるな。

 

「はぁ…分かりました。私は体を洗ったら出ますので、先に湯船に浸かってて下さい」

 

俺はなるべく香貫花を見ないようにして、体を洗い始めた。すると香貫花が、俺が持ってたハンドタオルを奪う。そしてそれを自分と俺の間に挟み、俺を洗い始めた。あの部分を使って。

 

「か、香貫花さん!?」

 

香貫花「たまには、私からもしてあげたいのよ」

 

そしてそこから、香貫花は更に暴走したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

山崎「ど、どうしたんですか直江さん!?」

 

野明「なんだか少しやつれてる様な…」

 

「だ、大丈夫ですよ…大丈夫」

 

あんなの言えるわけないだろが!

 

山崎「そうですか」

 

野明「逆に香貫花は、なんだか艶々してるね?」

 

香貫花「そう?」

 

俺とは真逆の状態の香貫花。取り合えずもう今日は寝てしまおう。疲れたよ…主に香貫花のせいで。で、今度は寝るのにも気を使う。何故なら、公民館には部屋が1つしかないから、ひろみ、俺、で少し空けて野明、香貫花という感じで寝ることになった。一応、俺と野明の距離は結構空けたから、大丈夫とは思うがな。

 

「それでは、電気消しますよ」

 

電気を消し、各自自分の布団に入る。

 

「では皆さん、おやすみなさい」

 

山崎「おやすみなさい」

 

野明「おやすみ~」

 

香貫花「Good night」

 

そして俺達は眠りについた。香貫花の事もあってか、俺はすぐに眠りにつくことができた。そして翌朝、俺は目を覚ます。すると、俺の布団の中に違和感を感じた。

 

「なんだ?」

 

俺は布団をめくるするとそこにいたのは…

 

野明「Zzz…」

 

野明だった。俺に抱きつきながら寝ている。

 

(まずい!こんなところを香貫花に見られたら!)

 

既に俺の隣で寝てたひろみはおらず、台所から音が聞こえた。おそらく朝食を作ってるんだろう。

 

(って!今はそんなのどうでもいいわ!)

 

俺は取り合えず野明を起こす事にした。

 

「野明さん、起きて下さい」

 

野明「うぅ~ん…」

 

しかし野明は、全く起きる気配がない。頼むからさっさと起きてくれ!!マジで。

 

「起きて下さい野明さん。朝ですよ」

 

野明「もう少し寝かせてよアルフォンス…」

 

俺はアルフォンスじゃねぇ!!今度は体を揺するが、それでも起きない。

 

「まずいですね…こんなところを見られでもしたら」

 

「何がマズイのかしら?」

 

俺の後ろから、やけに威圧感のある声が聞こえた。恐る恐る振り返ると、そこにいたのは香貫花だった。

 

「お、おはようございます。香貫花さん」

 

香貫花「ええ、おはよう。ところで、私に何を見られたらマズイのかしら?」

 

笑顔でそう言う香貫花。顔は笑ってるが、目が完全に笑っていない。それに、後ろに物凄いオーラを感じるんですけど…

 

山崎「皆さん、朝食の準備…」

 

すると、ひろみがいいタイミングでやって来てくれた!!

 

山崎「えっと…用意できてますので、待ってますね」

 

そう言って、扉を閉めて部屋から離れていく。ひろみさ~ん!カムバック~!!

 

香貫花「で、私に、何を、見られたら?」

 

「えっと…」

 

野明「うぅ~ん」

 

するとこのタイミングで、野明が起き俺の布団から出てきた。

 

野明「あれ…私、何で翼さんの布団に?」

 

「それは此方の台詞ですよ野明さん。私が起きたら、野明さんが横で寝ているんですから驚きましたよ」

 

香貫花「理由を聞こうかしら?」

 

香貫花は起きた野明に事情を聞く。

 

野明「あ~…夜中にトイレに起きたんだけど、少し寒くてその上寝ぼけてたから、多分間違えて入っちゃったんだと」

 

「そうですか。確かに昨日は珍しく寒かったですね」

 

香貫花「なるほど」

 

野明「ごめんね翼さん」

 

「いえいえ、気にしないで下さい。理由を説明いてくれたので」

 

ホント、野明の説明がなかったら、俺マジで刺されてたわ。

 

野明「けど翼さん優しかったなぁ。私が寝るまで頭撫でてくれたから」

 

「「えっ!?」」

 

はっ?頭を撫でた?寝てるとき?俺全く記憶にないんですけど。

 

野明「少しびっくりしたけど、気持ちよかったからそのまま寝ちゃたんだと思う///」

 

香貫花「……」

 

ヒィィィィィィ!!香貫花の目が、完全に視線だけで殺せる状態にぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!

 

野明「さて、ご飯の用意手伝いに行くね」

 

「ちょっ!野明さん!待って!!」

 

香貫花「翼」

 

出ていく野明を追いかけるが、香貫花に肩を掴まれる。

 

香貫花「少~し、話を聞かせて頂戴♪」

 

「か、香貫花さん!話せば!話せば分かります!!」

 

香貫花「ええ。だから(尋問)をするのよ」

 

「変なルビ打ってる!?」

 

香貫花「さ、朝食まで少し時間があるわ」

 

「お、おち…あああああああああああ!!!!!!」

 

そして、俺の絶叫が木霊したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山崎「直江さん…御愁傷様です」

 

ひろみは、翼の叫び声が聞こえた方を向いて、合掌していたのだった。

 

野明「なんだろう。翼さんの顔を見ると、顔が熱くなる」

 

野明は野明で、翼の事を思いだし顔を赤くしていたのだった。



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12話

あれから、何とか香貫花の機嫌を直した俺は、昨日考えていた事を話す。

 

「はい。それでは今から私達もそちらに向かいますので」

 

さて、後は相手が乗ってくれるかどうかだな。

 

山崎「上手くいきますかね?」

 

「どうですかね?ですが、おそらく乗ってくるでしょう」

 

香貫花「それじゃあ、ひとまず御神木に向かいましょう」

 

そして俺達は、御神木目指して出発する。因みに香貫花には、今度デートするという約束で手を打ってもらった。進んでいくと、昨日見た暴走族とガンボルギーニのレイバーが道を塞いでいた。

 

「そこのレイバー、道を開けてください」

 

『まだ懲りんのか!これ以上罰当たりな事をすると死人が出るぞ!こっから先に通す訳にはいかん!大人しく村から出ていけ!!』

 

やっぱりそうくるか。なら仕方ない。

 

「野明さん、準備をお願いします。ひろみさん、宜しくお願いします」

 

『『了解』』

 

そして俺の指示で、レイバーをデッキアップさせる。

 

野明「あのねぇ、大人しくするのはそっちでしょうが」

 

『おっとデッケェ!』

 

「チィ!2対1だ!行くぞぉ!!」

 

すると暴走族の男が、田んぼを耕す機械を回転させる。

 

『こ、これ!無茶するな!』

 

「今更後に引けるか!!」

 

野明「こんのぉ!!」

 

野明が攻撃するが、男は素早く動き回避する。

 

「日本の田んぼは狭いからよぉ、このレイバーは小回りが効く様に作ってあんだぜ♪」

 

野明「このぉ…」

 

香貫花「野明!後ろよ!!」

 

後ろにいるもう1台が近づく。

 

『ワシらは無益な争いを好まん!頼むから帰ってくれ、あたたたた』

 

ガンボルギーニはバランスを崩しそうになるが、踏ん張って何とか倒れなかった。

 

香貫花「流石はイタリア製ね。足回りのセッティングはスゴいわ」

 

野明「感心してる場合じゃないって!」

 

そして野明は、2台から距離をとる。だが、田んぼは柔らかく足がめり込む。

 

野明「あっちゃ、ヤバイ。地面が柔らかくて思うように動けないよ」

 

するとその隙をつかれ、ガンボルギーニがアルフォンスを後ろから羽交い締めにする。

 

「まずいですね」

 

俺は、隊長から許可を貰った物を取りに行く事にする。

 

「香貫花さん。少しの間ここをお願いします」

 

香貫花「えっ!?」

 

そして俺はすぐにレイバーキャリアに、例の物を取りに行く。

 

「そうかいそうかい。なら容赦しねぇぞ!」

 

男はゆっくりとアルフォンスに近づく。

 

野明「怒ったぞぉ!!」

 

野明は怒り、リボルバーを抜こうとする。

 

「野明さん、ストップです」

 

俺は刀を持って、野明と男の間に立つ。

 

「な、なんだおめぇ」

 

野明「翼さん!?」

 

「これ以上抵抗するなら、私が相手になりますよ」

 

「おめぇがか?アハハハ!人にレイバーが止めれるか!!」

 

男は俺の言葉を無視し、腕を振り上げる。

 

「聞いてくれませんか。なら…でやぁ!!」

 

俺は素早く刀を抜き、レイバーの背後に回った。

 

「…なんでぇ、結局何もねぇじゃねぇか」

 

男は笑いながら俺の方に向く。俺は刀をゆっくりと鞘におさめる。

 

「鼻唄三丁…矢筈斬り!!」

 

そう言うと、男のレイバーの腕と田んぼを耕す機械部分を切り落とした。

 

『え…ええええええええええええええ!!!!!!』

 

ま、当然そんな反応になるよな。

 

「それで…まだやりますか?」

 

『お願い!お願いだからもう止めて!』

 

すると、ピンク色のガンボルギーニが割り込んできた。

 

『こやつらに、おもほり様を切らせる訳にはいかねぇ!』

 

『もう乱暴な事は止めて!バチが当たるのはお祖父ちゃん達の方よ』

 

「だ、だども…」

 

『どうしてやるなら、私を倒してからにしてちょうだい!』

 

野明「ちょっと待って!特車二課第二小隊の名に懸けて、そんな事はさせない!」

 

『えっ』

 

「と、特車二課第二小隊~!?」

 

『ど、どうしたんじゃ?』

 

俺達の事を聞いた瞬間、男と女は驚きの顔になる。じいさんだけは知らないみたいだな。

 

「オラ、警察のレイバー隊っていくつもあると思ってたから、まさかよりによってなぁ。第二小隊っていやぁ、街の中でもやたら目ったら撃ちまくるって有名なとこだべ!」

 

『そうよ。第二小隊が通った後には、ペンペン草も生えないって言うわ』

 

香貫花「……」

 

野明「そ、そんなぁ…」

 

「まぁ、ほとんどの原因は太田さんですけどね」

 

噂の原因の大半は太田の事だが、世間からしたら第二小隊ってくくりだしな。分けられてるとは思わんだろうに。

 

「駄目だぁ。相手が悪ィ」

 

『あ~、悔しいのぅ』

 

香貫花「……」

 

野明「……」

 

野明と香貫花だけは、自分達も同じ様に思われていた事にショックを受けていた。そして、この騒動を起こした事を聞くため、御神木の横にあるテントで話を聞く。

 

「日本がアメリカと戦争をしとった頃の事じゃ。村中の金銀を徴収する命令が出てのぉ。村中でありったけの物を提供した。ところが、集めた物を引き渡す前に、戦争は終わってしもうた。そこでワシ、それと先代の村長と神主が結託し、どさくさに紛れてあのケヤキの根本に隠してしまったのじゃ」

 

「何故その様な事を?」

 

「気の迷いじゃ。返しそびれてしまっての。その後村長、神主も相次いで病死した。この事を知っておるのはワシ1人なって、ワシは決心したんじゃ。村長と神主の名誉の為にも、この秘密は守り通そうとな」

 

「おい!おらそったら事まできいてねぇぞ!」

 

「今度の道路工事の話が出た時に、ワシはこっそりと掘り返して、別の場所に埋め直そうとしたんじゃが、それを駐在に見られてなぁ。だが、駐在がレイバーを鬼と間違えてくれたんで、全てを祟りのせいににしてしまおうと」

 

「1人じゃ無理だと思って、小遣い銭で俺を買収したんだな!きったねぇ!」

 

香貫花「買収された貴方が、偉そうに言うんじゃないわよ!」

 

「ストーップ!ストップ!」

 

すると、外から声が聞こえた。

 

「お祖父ちゃん…私、その事知ってた」

 

「なんじゃと!?」

 

孫の突然の告白に、じいさんは驚き立ち上がる。

 

「その話は、お祖母ちゃんから聞いてたの。あの木は、大昔から村を見守ってきた大切な木なんだって。お祖父ちゃんがやって来た事は悪い事だけど、ケヤキや村にとっては寧ろその方がいいって言ってたわ。だから私、今まで黙ってたの。あのケヤキの木を、何とか助けてあげることは出来ませんか」

 

山崎「…直江さん」

 

女とひろみは、俺の方を見る。

 

「…分かりました」

 

そして俺は立ち上がり、外に出て神主に話しかける。

 

「すみません」

 

神主「何ですかな?」

 

「神主さんは山をお持ちですか?」

 

神主「山ですか?ええあります。あちらです」

 

すると神社のがある山を指差す。

 

神主「社の裏がそうです」

 

「分かりました。野明さん、聞こえますか?」

 

俺は神主から確認を取り、野明に話しかける。

 

野明『ねぇねぇ、何か見つかったの?』

 

香貫花「後で教えるわよ」

 

「野明さん、その木持ち上げられそうですか?」

 

野明『これ?…多分』

 

「なら、その木を今から神社の裏側にある山に移植します」

 

神主「なんと!?」

 

山崎「泉さん!僕からもお願いします!」

 

香貫花「これだけ立派なケヤキの木を切るのは惜しいわ」

 

「私も手伝います!」

 

すると野明が中から上に出て顔を出す。

 

野明「なんだか分かんないけど、ケヤキを移植するのには賛成だよ」

 

そしてアルフォンスがケヤキの木を持ち上げ、女が乗ってたピンク色のレイバーも手伝う。そして2台は神社目指して歩いていった。

 

香貫花「だけど、貴方のレイバーとお爺さんのレイバーは分かるわ。だけど、彼女のレイバーはなにかしら?」

 

「ああ、体が弱いからなひろみちゃんは」

 

「ひろみ…ちゃん」

 

男に教えられた名前を聞いて、俺と香貫花はひろみを見るのだった。ま、取り合えずこれで事件は解決っと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香貫花「ところで、貴方は一体何者なの」

 

「何者とは?」

 

野明「だって、刀でレイバーの腕とかを斬るなんてさ」

 

山崎「驚きましたよ」

 

「ああ、あれですか?あれくらいなら、ウチの家族なら誰でも出来ますよ」

 

「「「…はい?」」」

 

「ですから、私を含めた祖父、祖母、母、父は素手でレイバーと戦えますよ?」

 

野明「うそ…」

 

香貫花「あり得ないわ」

 

山崎「あわわわ」

 

「私達家族は、力が強すぎるので、警察が開発したこの刀を使って制御してるんですよ」

 

「「「……」」」

 

俺の言葉に、全員が黙っていたのだった。



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13話

本日も平和な日が続いている。だが現在、非番である俺は隊長室に呼び出され、公安の人の話を聞かされている。

 

「公安部外事1課の高畑です」

 

後藤「で、公安がいったいなんの?」

 

高畑「その前に…」

 

男は俺を見る。

 

高畑「私は、隊長に話をとお伝えしましたが」

 

後藤「彼?第一小隊と第二小隊の兼任副隊長」

 

高畑「副隊長…ですか」

 

男は俺をサングラス越しに見る。ってか隊長!?いつ俺が第一小隊と第二小隊の兼任副隊長になったんだよ!しのぶも否定しろ否定!!

 

高畑「…まぁいいでしょう。昨夜の事です。要注意人物として、兼ねて我々がマークしていた男が、尾行中だった捜査員を襲い、拳銃を奪ってその場からタクシーで逃走するという事件が起きまして。これがその男です」

 

高畑は、容疑者の写真を俺達に見せる。

 

高畑「犬走一直、東京都大田区蒲田出身、28歳。平成5年陸上自衛隊入隊、同8年新設された空挺レイバー部隊に転属。この頃より海の家新派として活動。除隊後は同伴の非公然部隊の一員としてテロ活動従事。逮捕歴8回、いずれも証拠不十分として釈放。宇都宮付近で、ガス欠となったタクシーを乗り捨てた奴は、その場に通りかかった単車を強奪。追い縋るパトカーをぶっちぎり、白河、福島、郡山、米沢、寒河江と、あらゆる信号を無視して暴走。2時間後には鶴岡市内で無銭飲食をやらかし、今早朝酒田市に潜入した時点で行方を眩ませた」

 

後藤「派手だねどうも」

 

「そうですね」

 

高畑「性格は杜撰だが、過去に無数の修羅場を潜り抜けた筋金入りのテロリストでしてね。レイバー乗りとしての腕前も超一流」

 

後藤「でもねぇ、それだけじゃあ」

 

高畑「レイバー隊は動けない。しかし、これならどうです?」

 

すると、隣にいた男が別の写真を見せてきた。

 

後藤「何ですこりゃ?」

 

高畑「レニングラード軍事アカデミー設計、クロンシュタット工廠製。ソビエト地上軍次期主力攻撃レイバーL99。コードネーム、ドシュカ。機密のベールに包まれた…赤いレイバー」

 

後藤「ほぉ」

 

高畑「それが酒田に入るんですよ。今夕方」

 

南雲「な、何ですって!?」

 

「……」

 

高畑の言葉に、動揺するしのぶ。

 

高畑「今年の夏、ソビエトと東南アジアの某国との間に、新たな武器援助協定が締結されましてね。その一貫として、それが供与される事になったんですが、えっと…なんせ最高機密だ。大方の裏をかき、ナホトカからソビエト船籍の貨物船に乗せ、日本海経由で運び込もうと」

 

後藤「その船が酒田に?」

 

高畑「偶然にしては出来すぎている」

 

後藤「で、我々にどうしろと?」

 

高畑「小隊を派遣していただきたい」

 

後藤「無理ですな」

 

隊長の言葉に驚き、高畑は持ってた写真を落とす。

 

高畑「何故?」

 

後藤「県警からの要請なりなんなりがあるならともかく、任地を離れての行動となると…それなりの手続きが」

 

高畑「事の性格上、正規の手続が踏めないからこそお願いしている。犯罪を未然に防止するための独断専行。超法規的行動は、特車二課の十八番じゃなかったのかね?」

 

後藤「大変な誤解ですなぁ。それに最新鋭の軍用レイバーが相手じゃどうも。自衛隊にでも持ってってもらわにゃ」

 

高畑「連中の手を借りるくらいだったら、わざわざこんな所に!貴様それでも警察の人間か!!」

 

あらら、声をそんな大きくしてまぁ。

 

後藤「皆で幸せになるってのが、ウチのモットーでしてね。すいませんね♪」

 

すると高畑は立ち上がり、サングラスを取り拳銃を突きつける。だが…

 

「ちょっとオイタが過ぎるんじゃねぇか?おい」

 

俺は高畑の顔寸前に蹴りを突きつける。

 

高畑「なっ!?」

 

「さっきから聞いてりゃ、此方の都合は無視。挙げ句の果てに小隊出さねぇって言ったら拳銃を突きつける。ウチの人に手ぇ出してんじゃねぇよ」

 

『……』

 

後藤「あらら、怒らせちゃった。俺知~らない」

 

「き、貴様!課長から離れろ!!」

 

素早く別の男が拳銃を出す。

 

「だから、物騒な物出してんじゃねぇよ。パーティテーブル・キックコース!!」

 

俺は拳銃を出そうとした男の顔を掴み、その上で回転して他の連中も蹴り飛ばす。

 

「ふぅ…で、何か言うことは?」

 

高畑「で、でしたら非番である隊員を出して頂けませんか?勿論経費は我々持ちにしますから!」

 

「……」

 

後藤「直江、もうその辺でいいだろう。経費も全部そっち持ちだって言うんだしさ」

 

「…分かりました」

 

俺は掴んでた男を離す。

 

後藤「ま、誰を行かせるか後で連絡しますよ」

 

高畑「わ、分かりました!」

 

そして男達はさっさと帰っていった。

 

「……」

 

後藤「やれやれ」

 

隊長は俺の横に立つ。

 

後藤「ムカつくのは分かるけど、流石にやりすぎじゃないの?」

 

「すいません。つい」

 

後藤「いや、俺はいいけどさ。あっちどうすんの?」

 

隊長はしのぶを指差す。

 

「あちゃ~」

 

後藤「ま、頑張ってね」

 

そして隊長は部屋から出ていった。隊長室には、俺としのぶだけが残され、気まずい雰囲気が流れる。

 

「えっと…」

 

南雲「直江…いや、翼君」

 

しのぶが俺の事を名前で呼ぶときは、甘えたい時かプライベートの時だけだ。

 

「は、はい!」

 

南雲「翼君…もしかして、普段はあんな感じなのかしら?」

 

「いや…普段からって訳ではないですが、酔ったり先程みたいに頭に血が上ったりしたらですけど」

 

はいすみません!半分嘘です!ぶっちゃけ後藤以外は、他人で俺の正体知らねぇんだよな。言うわけにもいかねぇし。面倒だから。

 

南雲「そう」

 

俺の言葉に考える素振りを見せるしのぶ。何とか普段からこんな口調って事だけはバレねぇようにしねぇと。ウチの家系、他人相手には俺と同じ口調なんだが、身内や本当に信頼した奴の前では口悪くなるからな~。

 

南雲「…まぁいいわ。この事は私の中だけに留めておくわ」

 

「ありがとうございます」

 

いや~、しのぶが理解ある奴でよかったよかった。

 

南雲「それに、貴方の秘密は独り占めしたいしね」ボソッ

 

いや、俺に聞こえない声で言ってるつもりだが、悪いけどしっかりと聞こえてるからな。自分で言うのもなんだが、ウチの家系俺を含めマジで化け物揃いだからな~。ま、とにかく話は終わりみたいだな。後は、アイツが誰を選抜して、公安の連中と一緒に行かせるかだな。確か今日非番なのは、第一小隊の2号機とウチの小隊の1号機連中だけだよな?

 

「なんでしょう。嫌な予感がしますね」

 

俺の勘、こういう時は絶対に当たるからな~。…で、案の定俺の勘は当たったのであった。今現在、俺は公安の連中と、目的地の酒田に向かう新幹線の中だ。そして、一緒に来たのが…

 

野明「私日本海初めて行くんだ~。お土産物なんにしようかな♪」

 

香貫花「貴方、完全に旅行気分ね」

 

野明「だって、隊長がそれくらいの気持ちで行ってこいって言ってたじゃん」

 

そう、1号機のメンバーで、山崎を除いた俺、野明、香貫花の3人が行くことになったのだ。で、左右に挟まれた俺は、溜め息を吐くのであった。



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14話

酒田に到着した俺達は、野明がお土産を買いたいと言い、土産売り場に来ている。そして野明は自分及び皆へのお土産を買い、俺も適当にぶらつく。香貫花は高畑と一緒に、食堂で飯を食ってる。ま、俺だと警戒されるから香貫花に任せたんだがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香貫花side

 

 

香貫花「すみません」

 

高畑「なにかね?」

 

香貫花「新幹線で一緒だった人達は?」

 

高畑「部下達は新潟で列車を降り、別途に酒田入りして、既に配置についている。我々の仕事は、隠密を持ってヨシとするからな」

 

別途で酒田入りね。翼に頼まれて、この高畑って人の話を聞いているけど。

 

『香貫花さん、すみませんが私の代わりにあの男の話を聞いてもらっていいですか?私だと警戒して話をしなさそうなので』

 

香貫花『分かったわ』

 

って感じで引き受けたけど…何かご褒美を貰えばよかったわ。

 

香貫花「ですが、私達かなり目立っている感じがするんですが」

 

今現在、私達は私服ではなく出動時に着ている制服姿だ。

 

高畑「目立たせているのだ。意図的に」

 

香貫花「意図的に…ですか」

 

高畑「そうだ。君達にわざわざ来てもらったのは他でもない。その姿で、その制服で、その行動で、レイバー隊がこの酒田に来ている事を満天化に知らしめる為だ。ドシュカを奪取せんとする彼等の陰謀に対して、我々が行動を起こしたことを宣言するためだ」

 

香貫花「彼等?」

 

ドシュカを狙っているのは、海の家だけではないのね。

 

高畑「そう。ドシュカを狙っているのは海の家だけではない。海の家がその事を知っていた事自体、情報が広範囲にわたって漏洩していた事の証だ!各国の情報部がこれを黙って見てる筈はない!君達は既に、完璧にマークされているよ」

 

近くまで顔を近づけた高畑が離れる。ウザいわね。

 

高畑「見たまえ。店内にいるソビエト船員、

そのほとんどがKGB(カーゲーベー)だ」

 

高畑は、目線でKGBの連中を教えてくれる。

 

高畑「それだけではない。向こうのテーブルで味噌ラーメンを啜っているイギリス人。あれはSASだ。今正面に到着したアメリカ人観光客の一団、全員がCIAの工作員だ。あのアベックは、那東の現地連絡員。道路を横切ったのはモザドのスパイ犬。そして今、泉巡査にハタハタの干物を渡した婆さんは、中国人民武装警察弁務隊の暗殺者だ」

 

香貫花「……」

 

これはまた、随分と凄い人達に囲まれてるわね。けど、鋭い情報ね。

 

高畑「疲れたろう。今日はもう休みたまえ。宿は手配した」

 

そう言うと高畑は、予約した宿の場所を書いたメモを置き、その場を去っていった。

 

香貫花「…後で翼に教えないと」

 

私は密かに録音してた録音機を停止させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は香貫花と野明と合流し、高畑が用意した宿に向かった。

 

「いらっしゃいませ」

 

「すみません。高畑が予約した者ですが」

 

「はいはい。お聞きしております。三名様1部屋でご予約を承っております」

 

野明「ええっ!?」

 

「相部屋…ですか?」

 

野明「なんかの間違いじゃありません?お婆さん」

 

「東京の高畑様から予約を頂いておりますが?一泊二日朝食付き三名様。直江 翼様に泉野 明様に香貫花・クランシー様」

 

野明「あ、ちょ…」

 

泉じゃなく、泉野と呼ばれ転けそうになる野明。

 

野明「あの、今からもう1部屋お願いできません?」

 

「さっきまで空いてたんだけど、丁度飛び込みのお客さんがあってねぇ。いいじゃないですか。一晩くらい泊まっちゃいなさいよ♪」

 

ニヤニヤしながら話す婆さん。絶対なんか勘違いしてるわ。このババア

 

「…満室なら仕方ありませんね」

 

香貫花「そうね。それに、私は別にいいわよ。前も似たような事あったじゃないの」

 

野明「それは…そうだけど」

 

香貫花は鍵を貰い、先に宿泊する部屋に向かった。

 

「大丈夫ですか野明さん」

 

野明「は、はい///」

 

「どうしても嫌でしたら、私は何処かで時間を潰しますけど?」

 

野明「だ、大丈夫でしゅ!」

 

でしゅって…ホントに大丈夫かよ。

 

野明「だ、大丈夫…香貫花もいるんだ。それに、翼さんなら…」ボソボソ

 

何やらブツブツ言ってるが、気にしないでおこう。そして部屋に行き、各自風呂に入る。俺を含めた全員浴衣に着替えてのんびりする。

 

香貫花「フフッ♪」

 

で、香貫花は横になってる俺の頭を自分の膝に置いていている。

 

「香貫花さん、そろそろ休みましょうか」

 

香貫花「もう少しいいじゃない」

 

「それでもです。もうすぐ野明さんも戻ってきますし」

 

香貫花「あら?別に大丈夫よ。どうせあの子も同じことしたいと思ってる筈よ」

 

「そんなわけないじゃないですか」

 

いきなりなに言い出すかよ思えば。野明はそんなこと思ってねぇだろうよ。

 

野明「た、ただいま~///」

 

ほんのり顔を赤くした野明が戻ってきた。流石に風呂上がりだから色っぽく見えるな。

 

「お帰りなさい、野明さん」

 

香貫花「もう戻ってきたのね」

 

野明「えっ?」

 

香貫花「何でもないわ」

 

「そろそろ休みましょうか」

 

そして俺達は布団に入る。並び順は、香貫花、俺、野明だ。何故真ん中なの?暫く寝てると、俺の布団の中に違和感を感じる。捲ると、香貫花と何故か野明までいた。

 

(いや、香貫花は何となく分かるが、何で野明まで俺の布団にいんだよ)

 

すると、野明はゆっくりと目を開けた。

 

「野明さん」

 

野明「あ、あはは…」

 

「何故私の布団に?」

 

野明「えっと…それは…」

 

モジモジしながら、野明は何かを伝えようとしてる。なんだ?

 

野明「その…」

 

香貫花「焦れったいわね」

 

「「!?」」

 

すると、横で寝てたはずの香貫花が声をかけてきた。

 

野明「か、香貫花!?」

 

「起きてたんですか」

 

香貫花「まぁね。誰かさんがさっさと言わないから、我慢できなくなってね」

 

野明「///」

 

香貫花の言葉に、野明は更に顔を赤くする。

 

香貫花「ハァ…翼、此方で一緒に寝ましょう」

 

香貫花はそう言うと、俺の手を引っ張る。

 

野明「だ、駄目!」

 

すると反対側を野明が引っ張る。

 

「の、野明さん!?」

 

野明「翼さん!私…翼さんの事が好きです!!」

 

覚悟を決めたかのように、俺に告白してきた野明。すると、それを聞いた香貫花はニヤリと笑った。

 

「えっと…」

 

野明「最初は、ただ優しくてアルフォンスの事を話しても笑わないところが気になってたんです。でも、香貫花や南雲隊長といるとき、胸が苦しくなったり、悔しかったりしたんです」

 

「「……」」

 

野明の言葉を、俺と香貫花は黙って聞いてる。

 

野明「だから、香貫花や南雲隊長に負けたくないって思って」

 

「…野明さん、私は」

 

野明「分かってるの。翼さんが香貫花や南雲隊長、そして他の人の告白を受けてないの。でも、どうしても私の気持ちを伝えたかったんだ」

 

「……」

 

俺は野明に近づき、頭を撫でてやる。

 

野明「翼さん」

 

「野明さん、貴方の告白はとても嬉しく思います。ですが知っての通り、私は正直言いまして、隣にいる香貫花さんを始めとして、色々な方からその様な事を素敵なお言葉を頂いています」

 

野明「別にいいです!これから、私の気持ちを翼さんにぶつけていきますから♪」

 

香貫花「フフッ♪ライバルが出現かしら?」

 

「香貫花さん」

 

コイツ…野明をけしかけやがったな。

 

野明「香貫花、もう私は我慢しないよ!」

 

香貫花「望むところよ!」

 

互いに握手をする。やれやれ。

 

野明「それじゃあ」

 

香貫花「そうね」

 

すると2人は、そのまま俺の布団に入ってくる。

 

「…何故私の布団に入ってくるんですか?」

 

香貫花「一緒に寝たいからよ」

 

野明「そうそう♪」

 

「いや、ですから」

 

香貫花「問答」

 

野明「無用」

 

そして俺は、2人の間に引きずり込まれるのであった。



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15話

布団の中に引きずり込まれかけた俺だが、丁度いいタイミングでウチの隊長から電話が来た。俺はさっさと部屋を出て、受け付けにある電話の所に向かった。

 

「もしもし?」

 

後藤『直江か?どうだそっちは』

 

「ま、まぁなんとかって感じですね」

 

言えるわけねぇだろうがよ。野明と香貫花に襲われかけたなんてよ。

 

後藤『何とかってなによ何とかって』

 

この野郎…俺は回りに野明達がいないことを確認した。

 

「何でもいいだろうがよ。で、こんな時間にあんたから電話が来たって事は、連中について何か分かったんだろ?わざわざひろみとかを使って調べてよ」

 

後藤『電話だからって、急に話し方変えないでよ。ビックリするでしょうに』

 

「テメェがびっくりするたまかよ。で、結果は?」

 

後藤『俺一応隊長なのよ?君のさ。ま、いいけど。結果なんだが、やっぱりあちらさん何か裏があるわ。わざわざ公安1課が出張ってきたから、念のために調べさせたら、あの高畑っておっさんな、ありゃそうとうな食わせモンだぞ。公安部外事1課って言えば、ソ連関係の情報関係が専門だろ?それが何で海の家の件で出張ってきのか、妙だと思ってる調べさせたんだがな』

 

「なるほど。観光気分にさせて、その間に何かしてても俺達の責任になるって事か」

 

後藤『そういうことだ』

 

「…あのおっさん、1度本気で絞めるか」

 

後藤『止しなさいって。後処理とか大変だから。で、山崎をそっちに向かわせたから、到着したら合流してくれ』

 

「了解。直ぐに出れるよう準備しておく」

 

そして電話を切り、先程の内容を野明達に伝える。

 

「皆さん、直ぐに出撃準備をしてください」

 

野明「何かあったんですか?」

 

「先程後藤隊長からの連絡で、私達にこの仕事を持ってきた公安部ですが、どうやら私達をだしに使ったみたいなんですよ」

 

野明「えええええええ!!!!」

 

香貫花「うるさいわね。それで?」

 

「今ひろみさんがイングラムを持って此方に向かっています。それと合流し次第、あの人達が向かった港に向かいます」

 

「「了解!」」

 

んで、3時間後ひろみと合流した俺達は、あのおっさん達がいる港に向かった。

 

「上手く行きましたね課長」

 

「過激派によるレイバー強奪と見せかけて、その実態は幻のレイバーを手土産とした、KGB高級将校の亡命撃」

 

高畑「将校が分厚い装甲に閉じ籠ってああして待ってりゃ、地元の警察やマスコミがおっとり刀で駆け付けてくる。いくら最強を誇る各国の諜報員と言えども、その目の前で派手な真似はできんさ。我々は後で将校の身柄を引き取り、レイバーを回収して持ち帰る。諜報部の目を引き付けるダシに使われたとも知らず、せいぜい特車2課と海の家に感謝するさ」

 

「まさに完璧な計画」

 

「頭いい~」

 

『アハハハハハ!!』

 

んな間抜けな話してるな。だが、その余裕もそこまでだ。

 

「今です!」

 

香貫花『レイバー強奪並びに不正起動中の犯人に告ぐ。直ちに機体を放棄し投降せよ!此方警視庁警備部…』

 

野明『特車2課!』

 

高畑「なっ!?」

 

「人をダシに使うとは…あの時完璧に叩きのめしておくべきでしたね」

 

横から俺も刀を抜き、おっさん達に詰め寄る。

 

高畑「き、貴様!」

 

野明『本当に大丈夫なの?まさか、撃ってきたりしないよね?』

 

香貫花『軍用とはいえ、輸送中の機体よ。実弾なんか積んじゃいないわよ』

 

そんな話をしてると、赤いレイバーが此方を攻撃してきた。マジかよ!実弾積んでんのかよ!?流石に俺も予想外だ。

 

野明『いいっ!?』

 

高畑「や、止めろ!ストップ!ストップ!!撃ち方止めぃ!!」

 

香貫花『野明!遮蔽物の陰に隠れなさい!ドシュカの砲撃をまともに食らえば、98式のFRT装甲なんて紙同然よ!!』

 

野明『香貫花の嘘つき!!』

 

「野明さん!とにかく今はコンテナの陰に隠れて下さい!」

 

山崎『泉さん!直江さんの言う通りです!』

 

そして俺達は全員コンテナの陰に隠れた。

 

「ん~まずいですね」

 

高畑「当たり前だ!軍用レイバー相手に、98式が何の役に立つ!大人しく見物してればいいものを!貴様等がしゃしゃり出てきたせいで全部台無しだ!」

 

香貫花「知らないわよ!」

 

「香貫花さん、野明さんの指示は任せます。お願いできますか?」

 

香貫花「分かったわ」

 

俺に言われた香貫花は、急いで野明のサポートに向かった。

 

「さて……テメェ、いい加減にしろよ」

 

高畑「なっ…ぐあっ!!」

 

いい加減堪忍袋の尾が切れた。さっきから聞いてりゃ好き勝手言いやがって。

 

「さっきから全部俺達が悪いみたいな言い方だが、元々テメェ等がやったことだろうが。それを俺達が来たから台無しだ?ふざけんのも大概にしろよコラァ!!」

 

俺は刀を投げ捨て、おっさんを殴り出す。

 

 

ドカッ!

 

バキッ!

 

ドスッ!

 

ボコッ!

 

 

 

 

 

高畑「ガッ!グハッ!!グエッ!!」

 

「おいこら、誰が気絶していいって言った?あん?まだ寝るには早すぎるぞコラァ!!

 

高畑「も…もう…やめ…」

 

「何がもう止めてだ。俺はいいがな、香貫花達は折角の非番なのに、テメェの身勝手な行動で、こんな場所まで来てるんだよ。その上こいつらを騙しやがって。香貫花達が許しても俺はテメェを許さねぇ!!」

 

顔面ボコボコになったおっさんの胸ぐらを掴み持ち上げる。

 

山崎「直江さん!」

 

するとひろみが俺を羽交い締めにする。

 

「…離せひろみ。口で言って分からねぇ奴には、こうするのが一番だ」

 

山崎「ダメです!確かにこの人達が、僕達を騙したことはいけません。ですが!これ以上傷付ければ、直江さんが悪者になってしまいます!!」

 

「……」

 

山崎「そうなったら、泉さんや香貫花さん、それに南雲隊長が悲しみます!!」

 

「…分かったよ」

 

俺はおっさんの胸ぐらを離す。

 

高畑「あ…あぁ…」

 

「ひろみに感謝するんだな。こいつが止めなきゃ、俺は本気でテメェを殺すつもりだっからよ」

 

睨みつけると、おっさんは泡を吹いて気絶した。ったく、んなになるなら最初からすんなよな。

 

「悪かったなひろみ。面倒をかけて」

 

山崎「い、いえ。それより…」

 

「あっ?」

 

山崎「直江さん…口調が」

 

「ああ。この口調が素だよ。ウチの連中…俺を含めて普段があんな感じで話すんだが、身内かもっとも信頼できる相手にだけは…スゥ…フーッ。この口調で話すんだよ」

 

俺はタバコを吸いながらひろみに説明する。

 

「ま、俺の場合は酔った時とキレたときにも出るがな。酔った時の確率は低いがな。そして、この口調を全て把握しているのは後藤…ウチの隊長だけだ。ま、しのぶの奴はキレたときにしか出ねぇって半分嘘言ってるがな」

 

山崎「そう…ですか」

 

「ああ」

 

野明『……逮捕する!』

 

「おっと、向こうも終わったみたいだな」

 

山崎「そう…みたいですね」

 

そして俺は、外してた眼鏡をかける。

 

「それでは、私達も行きましょうか。ひろみさん」

 

かけた俺は、普段使っている口調でひろみに話し掛けたのだった。こうして、地元の警察も現れ、公安部の連中とドシュカに乗ってた将校と犬走を捕まえ、特車2課に戻ったのであった。

 

後藤「お疲れさん」

 

「ホントですよ」

 

後藤「ま、今回の件であの男は左遷、地方に飛ばされたらしいよ」

 

香貫花「当然ですね」

 

後藤「けどねぇ、少し気になったんだけど」

 

野明「何がです?」

 

後藤「あの高畑っておっさん…何であんなに顔腫らしてたの?」

 

おっさんの顔面が腫れ上がってた事に、後藤は俺を見ながら言う。

 

野明「そういえばそうだね」

 

香貫花「何でかしら?」

 

野明「翼さん何か知ってます?」

 

「さぁ?」

 

野明「ひろみちゃんは?」

 

山崎「えっ!?ぼぼ、僕も知りませんね」

 

野明「そっか」

 

香貫花「……」

 

その言葉を聞いた野明は、残念そうな表情をする。香貫花の奴は、何となく気づいてる感じがするがな。

 

後藤「ま、別にいいけどさ。とにかくお疲れさん。ゆっくり休んでくれ」

 

そう言われ、俺達は隊長室を出ていく。

 

 

後藤「あ、そうだ。頼んだハタハタは?」

 

…あ、そう言えば後藤に頼まれてたハタハタ、間違っておやっさん達の土産と一緒に渡しちまった。今頃鍋でグツグツ煮えてるだろうな。

 

「…スミマセン。買ってきてたんですが、お土産はまとめてシゲさん達に渡したので、今頃下の鍋の中かと…」

 

後藤「ハ、ハタハタ~…」



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16話

冬の寒さが厳しくなる日々が続き、今日はクリスマスだから、世間もクリスマス一色だ。俺も今日はのんびり過ごそうとしてたんだが、香貫花から連絡が来て、何でも香貫花の婆ちゃんが日本に来てるそうだ。そこで、一緒にクリスマスを過ごさないかと言われたんだよ。ま、別に予定があるわけじゃないからOKした。

 

「さて、そろそろ香貫花達がいるホテルに行くか」

 

車で香貫花達が泊まってるホテルに向かう。ロビーに行き、部屋番号を聞きその場所に向かった。ノックをして中に入ると、香貫花以外に野明と篠原がいた。

 

香貫花「翼…」

 

「こんばんは香貫花さん。それに遊馬さんに野明さんも」

 

野明「翼さん」

 

3人とも神妙な顔をしている。何かあったなこりゃ。

 

「何かあったんですか?」

 

遊馬「実は…」

 

話を聞くと、香貫花の婆ちゃんがいなくなり、亡くなった爺ちゃんの写真を持っていなくなったらしい。

 

「なるほど…そして香貫花さんもお婆ちゃんが何処に行ったか検討も付かず、手懸かりが一切ないと」

 

遊馬「そうなんだ」

 

すると、俺と遊馬のポケベルが鳴る。これは…

 

遊馬「隊長から?」

 

篠原は、部屋の電話を使って電話する。

 

遊馬「いえ…はい…大丈夫です。分かりました」

 

そして電話を切った。どうやら準待機から待機に警戒が引き上げになったらしい。

 

香貫花「待機命令が出たのね」

 

遊馬「あ、ああ…」

 

香貫花「なら行きましょう」

 

野明「香貫花、お婆ちゃんは…」

 

香貫花「私は警察官である事を誇りに思っています」

 

そして部屋を出ていった。

 

「「……」」

 

「お2人とも、取り合えず私達も行きましょう」

 

野明「は、はい」

 

そして俺の車で埋め立て地に向かった。そして到着し各々着替えに向かい、俺は先に隊長室に向かった。

 

「失礼します」

 

後藤「おう直江、早かったな」

 

「…あんただけみたいだな。丁度いい。少し話があるんだよ」

 

後藤「話?」

 

「ああ。香貫花の事だが、今の香貫花に1号機の指揮は無理だ」

 

後藤「どういうことだ」

 

そして俺は、香貫花の婆ちゃんがいなくなった事を説明する。

 

「どうにかしてやれねぇか?香貫花の婆ちゃんは、アイツにとって唯一の肉親だ。できれば俺自身でどうにかしてやりたいんだが」

 

後藤「いや~、流石に直江に抜けられるとね。…分かったよ。どうにかしてみるよ」

 

「助かる」

 

そして後藤は、刑事の松井に香貫花の婆ちゃんの捜索を頼んだ。ウチからは進士が一緒に探すそうだ。となると、2号機を運搬する運転手がいなくなる。なので、俺と後藤は榊さんに話に行く。

 

榊「シゲを?」

 

後藤「はい。輸送だけで構いませんので」

 

榊「後藤さんよぉ、それは筋違いってもんだぜ」

 

後藤「承知の上で、お願いしております」

 

榊「……」

 

後藤の言葉を聞いて、榊さんは野明達を見る。

 

榊「直江、連中の様子が妙だが、それと関係あるんだな?」

 

「ええ。その事で進士さんには別行動してもらっているんです」

 

榊「なるほど…分かった。事が済んだらとっくり訳聞かしてもらおう」

 

「ありがとうございます」

 

何とか榊さんの許可を貰った。

 

後藤「…そうだ榊さん。“50年のクリスマス”と言ったら、何を連想しますか」

 

榊「今度は判事物かい。さぁな」

 

「やはりそれだけじゃ…」

 

榊「いや、待てよ…」

 

何か思い出したみたいだな。

 

榊「50年…それが西暦なら、1950ってのは、朝鮮戦争が始まった年じゃなかったかな」

 

後藤「朝鮮戦争?」

 

榊「その年の12月っと言やぁ、日本は特需景気様様。アメリカじゃ全土に国家非常事態宣言が出たって…そんな時だと思ったがな」

 

「……」

 

朝鮮戦争…そう言えば、前に香貫花から香貫花の爺ちゃんは、昔兵隊だったって聞いたな。

 

後藤「取り合えず、俺達も準備するか」

 

「そうですね」

 

そして俺も自分の指揮車に乗り込んだ。

 

後藤『ほんじゃあまぁ、ボチボチお出掛けしましょう』

 

そして俺達は出発した。俺が運転してる間も、香貫花はずっと黙っていた。

 

「香貫花さん、大丈夫ですよ」

 

俺は香貫花を抱き寄せ、頭を撫でてやる。

 

香貫花「あっ…」

 

「ここだけの話ですが、進士さんと刑事の松井さんが捜してくれてますから」

 

香貫花「そう…」

 

「ええ。だから心配しないで下さい。絶対に見つかりますから」

 

香貫花「…ありがとう」

 

取り合えず、少しでも不安を除ければいいんだがな。そして俺達は、事件が起きた橋に到着した。取り合えず、22時にしのぶから定時連絡が来るまで待機となる。だが…

 

(おかしい…しのぶが定時連絡を忘れるはずがない。向こうで何かが起きてるな)

 

遊馬『隊長、定時連絡が来ません』

 

後藤『分かってる!』

 

流石の後藤も、しのぶから連絡が来ない事に焦ってるな。

 

後藤「以後、通信妨害に供え、拡張機で話すこと。指揮車はスピーカーを使うこと2号機はその場で起動。1号機は橋を渡りきった場所で起動。返事は」

 

シゲ「了解」

 

遊馬「了解」

 

「了解です」

 

そして2号機はここで別れ、俺達は橋を進んでいく。さて、しのぶ達がいた場所で何が起こったんだか…



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17話

俺達は、先に先行してる第一小隊がいる場所に向かっている。すると、ビルに吊るされた第一小隊の1号機を見つけた。

 

野明「…酷い」

 

「第一小隊の1号機ですね」

 

確か、1号機には五味丘巡査部長が乗ってた筈だが。

 

「野明さん、五味丘さんは乗ってますか?」

 

スピーカーで野明にそう言うと、ゆっくりと1号機に近づく。

 

野明「いないよ」

 

「そうですか」

 

パイロットは乗っていないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキューン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると銃声音が聞こえた。

 

香貫花「今のは…」

 

「太田さんですね。野明さん!急いで向かいますよ!」

 

野明「了解!」

 

俺達は急いで太田達がいる場所に向かう。すると、途中でレイバーが待ち構えていた。

 

「あれは!?」

 

香貫花「ブロッケン!?何故ここに西ドイツの軍用レイバーが」

 

野明「逮捕する!!」

 

野明は先手必勝で、ブロッケンに向かっていく。

 

香貫花「ダメよ野明!まともに組み合って勝てる相手じゃないわ!」

 

野明「!?あああああっ!!」

 

やはり軍用レイバーだけあって、イングラムとはスペックから違う。

 

「!!チッ!挟まれたか」

 

いつの間にか全ての道を塞がれていた。すると、2号機が左腕で落ちてたリボルバーを拾い撃とうとする。

 

遊馬「待て太田!そいつの後ろにもう1機いるぞ!」

 

太田「な、なに!?」

 

遊馬にそう言われ止まる太田。そしてブロッケンの後ろから足音が聞こえてくる。それと同時に、センサー等が映らなくなる。

 

香貫花「あぁ…」

 

野明「……」

 

「……」

 

俺達全員は、新たに出てきたレイバーを見て黙ってしまった。

 

「あれは…」

 

するとそのレイバーは、2号機の右腕目掛けてビームを放った。

 

香貫花「そんな…空気を電離して光らせる程のビーム兵器だなんて」

 

2号機の右腕は、綺麗に切断された。

 

太田「うおおおおおおおっ!!」

 

2号機は、新たに出てきたレイバーに突進する。だが、パワーが違うから簡単に投げられる。

 

野明「太田さん!」

 

野明は太田を助けようとする。だが、ブロッケンが羽交い締めにして1号機を押さえつける。

 

野明「クソッ!コイツ!!」

 

香貫花「離れなさい野明!それは今まで相手にして来た作業レイバーとは違うのよ!腕一本犠牲にしてでも離れるのよ!!」

 

野明「そんな事出来ないよ」

 

まぁ、野明からしたらアルフォンスが傷つくのは嫌だろうがな。

 

野明「アルフォンスを…舐めんなよぉ!!

 

野明は見事にブロッケンを一本背負いして、電磁棒でブロッケン1機を停止させた。しかし、見事だな野明。そしてすぐに別のブロッケンが来るが、素早く殴り顔の部分を殴り飛ばす。

 

野明「香貫花、翼さん、今の一撃は少しくらい褒めてくれてもいいんじゃない」

 

香貫花「少しはね」

 

「お見事ですよ野明さん」

 

野明「香貫花のケチ。少しは翼さんみたいに褒めてくれてもいいじゃん」

 

ま、香貫花だしな。

 

「ですが、状況は最悪ですね」

 

香貫花「そうね」

 

これは、撤退するしかなさそうだな。

 

「野明さん!貴方は急いでここを離脱して、この事を隊長に報告してください」

 

野明「で、でも…」

 

「はっきり言って、今の状況では不利です!私は太田さん達と離脱しますので、先に行って下さい!!」

 

そして俺の命令を野明は聞き、この場から離れて行った。

 

「さてと…ああは言ったものの、この状況をどうするかな」

 

俺は香貫花に聞こえないように呟く。すると、ブロッケンが二号機のコックピットから太田を引きずり出した。

 

太田「は、離せ!!」

 

遊馬「太田!!」

 

太田「こ、これを!!」

 

すると太田は、遊馬目掛けて起動用ディスクを投げる。

 

香貫花「起動用ディスク…」

 

太田「仇を!仇を頼んだぞぉ!!」

 

ブロッケンは太田を何処かに連れて行った。もう一体のレイバーが俺達の前に立ちはだかる。

 

遊馬「香貫花、直江さん、出直すぞ」

 

香貫花「ええ」

 

「……」

 

香貫花「ツバサ?」

 

「2人とも先に行って下さい。俺が道を開けます」

 

「「!!?」」

 

俺の言葉に2人は驚く。

 

遊馬「な、何言ってんです!!」

 

香貫花「そうよ!」

 

「いや、誰かがあいつを引き付けておかないと」

 

香貫花「だからって!」

 

「篠原さん、香貫花さんをお願いします!」

 

遊馬「…分かりました。香貫花」

 

篠原は香貫花を指揮車に乗り込ませる。

 

香貫花「待って!ツバサが!!ツバサが残っているのよ!!」

 

しかし篠原は問答無用で指揮車を発進させた。

 

「行ったか…さて」

 

俺はレーザーを打ち出したレイバーの方を向く。

 

「生身でレイバーと戦うのは久々だな。悪いが感覚を取り戻すために付き合ってもらうぞ!!」

 

『!!?』

 

俺は素早く動くと、レイバーの顔面を蹴り飛ばす。

 

『!!!』

 

不明のレイバーは吹き飛ぶ。

 

「やれやれ…やっぱり体が鈍ってるな」

 

腕を回しながら俺はそう言う。ま、ここ最近体を動かすことなかったからな。レイバーは起き上がり俺から距離を取る。

 

「ふん…やはり鈍ってるな。あの蹴りで立ち上がれるとは、意外と頑丈みたいだな」

 

すると向こうから見知らぬレイバーが近づいてくる。

 

「あれは…99式ヘルダイバー、自衛隊か」

 

すると不明のレイバーは急いで何処かに行き、代わりにもう一機残ってたブロッケンが立ちはだかる。

 

「実戦データを得るまたとないチャンス…なに!?」

 

「ひ、人が!?小隊長!!」

 

「なんだと!?」

 

やれやれ、少し面倒だが仕方ないな。

 

「そこの人!もう大丈夫ですので、急いで離れて下さい!」

 

「分かりました!すみませんが、もし第二小隊の人が来たらこれを渡してもらえませんか?」

 

俺は発信機を渡す。

 

「分かった。確かに渡しておこう。早く逃げなさい!」

 

そして俺はこの場から立ち去る。

 

「さて…」

 

俺は離れたのを確認すると、先程渡した発信機とは別の発信機の電源を入れる。

 

「あの時、咄嗟に発信機を取り付けれてよかった」

 

発信機を確認しながら俺は太田が連れ去られた場所に向かう。そしてとあるビルの前にたどり着いた。

 

「ここか。って事は、しのぶ達もここにいる可能性が高いな」

 

中に入り歩いていると、上からマスクを着け銃を持った連中が三人下りてきた。

 

「な、何者だ!!」

 

「何者って、それはこっちの台詞なんだがなぁ」

 

「放っておけ!今は急いで撤収する事が先決だ!」

 

「撤収って、簡単に逃がすと思ってんのか?」

 

俺はゆっくりと歩み寄る。

 

「ま、待て!人質が捕らえられてる場所を教える!」

 

「だから見逃せと?」

 

「あ、ああ」

 

「……」

 

俺は少し考える。ま、今回は仕方ないか。

 

「…分かった。見逃そう。ただし、嘘を言えば…分かってるよな?」

 

俺は少しだけ殺気を出す。

 

「も、もちろんだ」

 

そしてしのぶ達が捕らえられてる階まで行くと、一つの扉があった。

 

「ここか」

 

俺はドアを蹴破ると、中にはしのぶの他に捕まってる連中がいた。

 

しのぶ「つば…直江巡査長」

 

「南雲隊長、それに他の皆さんも無事だったみたいですね」

 

五味丘「直江さん、この場所がよく分かりましたね」

 

「ええ、このビルから変な連中が三人ほど出て行ったのを見ましたので」

 

しのぶ「なるほど。だから見張りが誰もいなかったのね」

 

「はい」

 

そしてしのぶを含めた捕らえられた人達を連れて、隊長と合流した。その時に聞いたが香貫花のおばあちゃんの無事も確認した。流石の俺も少しホッとした。んで香貫花のおばあちゃんが帰る日、俺達の所に寄って挨拶に来てくれた。

 

レイ「皆さん、この度は色々とご迷惑をおかけしました」

 

香貫花「ホントよ」

 

レイ「進士さんでしたよね。ありがとうございます」

 

進士「いえ、僕は何にも」

 

お礼を言われ進士は照れていた。

 

レイ「ツバサさん、香貫花の事よろしくお願いしますね」

 

「いえ、こちらこそ香貫花に色々と助けてもらってますよ」

 

レイ「あら、ウフフフ。いずれ貴方を婿に向かえることを楽しみにしてますから」

 

「はい?」

 

香貫花「ぐ、Grand ma!!」

 

レイ「では皆さん、これからも香貫花をよろしくお願いしますね」

 

そして香貫花のおばあちゃんは、特大な爆弾を落として帰って行ったのだった。

 

『……』

 

香貫花「全くもう…Grand maったら///」

 

いや香貫花さん、そんな顔を赤くして言っても説得力無いですよ。

 

「「……」」

 

そして後ろから、もの凄~くキツイ視線を貰ってるんですけど…もちろん視線の先には野明としのぶがいたりする。

 

後藤「さ~て、俺は書類の整理をしなくっちゃ~な」

 

遊馬「あ、隊長、俺も手伝います」

 

山崎「ぼ、ぼく、鶏小屋の整備をしなきゃいけないので」

 

進士「ぼ、僕も手伝います!」

 

太田「ま、待て!俺も行くぞ!!」

 

榊「シゲ、俺達はイングラムの整備に行くぞ…」

 

シバ「了解です班長!!頑張ってね翼ちゃん

 

そして俺の周りには俺、香貫花、野明、しのぶの四人だけとなった。ってかお前ら!俺を置いていくな!!

 

野明「…翼さん」

 

「は、はい!!」

 

しのぶ「随分と香貫花さんのおばあさんと仲がいいみたいね?」

 

「ま、まぁそうですね」

 

野明「けど、婿はどうなんですかぁ?」

 

「い、いや、俺はそんなつもりは…」

 

香貫花「酷いわツバサ。私との事は遊びだったのね!」

 

この女はこんな時に更に爆弾落とすな!!

 

野明「あ、遊びって香貫花!あんたまさか…」

 

しのぶ「どうなのかしら?翼くん??」

 

怖い!しのぶの顔が物凄く怖い!!

 

「い、いえ…その」

 

しのぶ「ど・う・な・の・か・し・ら??

 

あぁ…なんで俺はこうなるんだ…

 

野明「翼さん!」

 

しのぶ「翼くん!!」

 

香貫花「ツバサ!!」

 

「た、助けてくれ~!!」

 

俺は遂に逃げ出したのだった。

 

「「「待ちなさい!!」」」

 

逃げた俺を追いかける三人である。

 

後藤「あ~あ。大変だね~」

 

シバ「翼ちゃん、頑張れ」

 

シバ達からの温かい声援が送られるのであった…



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18話

今日もいつものように出勤する。ここ最近は大きな事件もなく特車二課は平和が続いている。今俺は小隊が待機する部屋にいる。部屋の中は誰もいず俺が一番乗りだ。ま、いつも俺が一番なんだがな。

 

香貫花「おはようツバサ。いつも早いわね」

 

「香貫花か、おはようさん」

 

香貫花「フフッ、やっぱりその話し方を聞くと少し笑ってしまうわね」

 

「そらそうだろな。ウチの家計は基本は敬語で話すが、身内や信頼してる連中にはこんな話し方だからな」

 

香貫花「それは光栄ね♪」

 

山崎「おはようございます」

 

「おはようございます」

 

香貫花「おはよう」

 

山崎「翼さんも香貫花さんもいつも早いですね」

 

進士「おはようございます」

 

太田「おはよう」

 

「「おはようございます」」

 

香貫花「おはよう」

 

次々と出勤してくる。まだ篠原と野明はまだだがな。

 

野明「おはようございま~す」

 

「「「おはようございます」」」

 

香貫花「おはよう」

 

野明「あ~よかった、遊馬より早いや。深夜映画でゴンダムやっててさ、懐かしくてつい観ちゃった。あれってあたしが小学生の時…」

 

太田「たるんどる!!警察官というものは、9時~5時まで働けばいいってもんじゃないんだぞ

 

野明「は~いはいはい」

 

野明はそう言いながらひろみの所に行く。

 

野明「あ、ひろみちゃん手紙?」

 

山崎「ええ、田舎から」

 

そう言いながらひろみは届いた手紙を野明に見せる。

 

野明「へ~クジラ。ひろみちゃんの田舎ってクジラが来るんだ」

 

山崎「最近は余り見かけなくなったけど、子供の頃にはよく。冬は繁殖で岸に近寄ってくるんです」

 

するとひろみは、机の引き出しから1枚の写真を見せる。俺も気になり写真を見る。

 

野明「あ~!これひろみちゃん?」

 

山崎「ええ、小学生の時の。後ろの海の、黒い線みたいなのがクジラです」

 

「ザトウクジラですか」

 

山崎「そうです」

 

香貫花「一次絶滅が心配されていた種類のクジラよ」

 

野明「へ~、あたしも一回見てみたいなぁ」

 

山崎「感動すると思います。きっと…」

 

遊馬「おはよございあ~す!」

 

そんな話をしてると篠原が出勤してきた。

 

遊馬「やぁやぁやぁ皆お揃いで」

 

太田「なんだ篠原その態度は!!だいたいな!警察官っちゅう者はなぁ…」

 

遊馬「9時~5時まで働きゃいいってもんじゃないんだぞ。それよりテレビテレビ」

 

太田の話を聞き流しながら、篠原は部屋にあるテレビをつける。するとクジラが映っていた。

 

野明「あ~!これ沖縄?」

 

遊馬「何言ってんだよ。東京湾だよ」

 

山崎「東京湾!?」

 

遊馬「今大堤防の中、泳いでんだぜこれ」

 

『本日早朝、ここ東京湾に姿を現したこのクジラ、ザトウクジラという種類ですが、何故こんな所に迷い込んできたのか、その理由はまだ分かっていません』

 

香貫花「おかしいわね。こんな沿岸部にこれほど近づくなんて話、聞いた事がないわ」

 

「確かクジラは、元々用心深い性質のはずですが…」

 

野明「ねぇねぇ、この子迷っちゃったのかな?」

 

遊馬「この子ってクジラの事か?」

 

野明「うん」

 

遊馬「あのね…」

 

その言葉を聞いて、篠原は顔を手で覆った。まぁ、その純粋さが野明のいいところでもあるんだがな。俺も苦笑いしているのはご愛敬だ。

 

山崎「なんとか助けてあげられないもんでしょうか?」

 

香貫花「動物愛護協会等がきっと動き出すわ。政府にだって救援の義務があるはずよ」

 

太田「くだらん。その程度の事で、いちいち国家が動いてられるかぁ!」

 

香貫花「太田、その程度の事と言うけれど、絶滅に瀕している動物がどれくらいいるとお思い?なかでもクジラは…」

 

野明「まぁあの、とにかくお茶でも淹れましょうか」

 

進士「最近派手な事件がないでしょ?それで溜まってるんですよ太田さん

 

遊馬「ふん」

 

「あらら…」

 

まぁ、太田だったらそうだわな。ホントここ最近第二小隊どころか第一小隊の連中も出動は少なかったしな。おかげでシゲは暇になったって言ってたがな。

 

太田「くだらんからくだらんと言ったまでだ!」

 

香貫花「shut up!!

 

『既にここ竹芝桟橋には、ニュースを聞いた人々がこの意外な訪問者を一目見ようと続々と集まってきています…』

 

そしてこの事は、あっという間に日本全国にに広がっていった。そして翌日、俺達第二小隊は海上保安庁に設置された【クジラ救出対策本部】に来ていた。

 

高尾「東京湾のクジラ救出については、環境問題とも合わせ世界から注目されています。関係省庁の皆さんのご尽力を是非ともお願いする次第であります」

 

海上保安庁の高尾が集まった関係者の説明している。

 

野明「ひろみちゃん。良かったね、クジラを助けられて」

 

山崎「はい」

 

野明「頑張ろう」

 

ま、これはこれでいいかもな。野明もひろみもクジラの事心配してたし。

 

高尾「…以上が作戦遂行上不可欠な体制です。え〜実際の作戦の説明に移りますが「あの〜」ん?」

 

後藤「ウチはいったい、何をやればいいんでしょうか?」

 

ウチの隊長が、海上保安庁の孝雄に質問する。

 

高尾「…第二小隊さんには」

 

そして更に翌日、俺達第二小隊は東京湾の堤防に集まった野次馬達の対応に追われている。ま、想像はできたがな…

 

遊馬『ヘリ情報の邪魔になりますので、乗客でない人は至急車両を移動させて下さい。禁止区域に駐車している車両は、レイバーによって強制的に撤去します。繰り返します。禁止区域に駐車している車両は、レイバーによって強制的に撤去します』

 

今は第2班の篠原達が野次馬の対応をしてる。んで、俺達第1班は交代まで自由にしてる。とはいえ、俺とひろみはトレーラーの上から海を眺めている。

 

野明「ただいま〜」

 

すると野明がたい焼きを持って香貫花と帰ってきた。

 

高尾『現在東京湾は、巡業目的以外の航行は禁止されています。危険でありますので、速やかに帰港して下さい。繰り返します…』

 

野明「カッコいい♪」

 

香貫花「そうかしら?」

 

遊馬『練馬ナンバーの車両、違法駐車の為車を移動します』

 

太田『そこどいて下さい!危ないですから!』

 

『……』

 

山崎「こ、交通整理も救出活動の一環ですから」

 

「まぁ…そうですね」

 

そんな話をして暫く過ごして、俺達の時間なったので、太田達と交代する事にしたのだった。



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19話

太田達と交代する為、1号機をデッキアップする。

 

野明『は〜あ〜。私のパトちゃん、誰も見てくれないんだ』

 

ま、今連中は湾内にいるクジラの事に集中してるからな。アルフォンスを移動する。

 

「バカ野郎!そんなとこに突っ立ってると見えないだろうが‼」

 

野明『はいはい。太田さん、交代の時間ですよ…太田さん?』

 

大田からの反応がない。弐号機を見ると、怒りを抑えており機体ごと震えていた。

 

「何やってんだ!早く退けよ!」

 

「そこどけ!見えないぞ!」

 

太田『…納税者…相手は納税者…相手は納税者…』

 

あ〜、我慢でいっぱいいっぱいだな。

 

『この税金ドロボー!』

 

太田『なんだと‼』

 

海の方を見ると、ボートに乗った男二人が、拡声器を持って話していた。

 

『表裏主義の環境破壊者共目!自然を蹂躙するだけしといて、今更クジラの救出なんて片腹痛いぞ〜!お前達の存在は悪であ〜る!己に恥り、バビロンプロジェクトに鉄槌をぶ狼藉であ〜る‼‼』

 

あ〜あ〜。今の太田には火に火薬を打ち込む行動だな…

 

太田『こ…この思想犯が〜‼‼』

 

すると太田は拳銃を取り出す。それを見た野次馬達は逃げて行く。

 

山崎「いけない!」

 

遊馬『太田!落ち着け!』

 

ひろみは太田の前に立ち塞がる。

 

山崎「太田さん!」

 

太田「山崎!そこをどけ!峰打ちじゃああ‼‼‼」

 

銃に峰打ちもないだろあのバカ!

 

『撃てるもんなら撃ってみろ〜!』

 

太田「撃ったろうじゃないかあああ‼‼‼」

 

遊馬「太田!止めろ‼」

 

しかし、遊馬の言葉も虚しく、大田は発泡した。幸い、相手に当たらず誰にの怪我人は出なかった。

 

「「う、撃ちやがったな!覚えてろ〜!」」

 

…こりゃ大田達、帰ったら始末書もんだな。

 

香貫花「…ホント貴方達と組んで良かったって思うわ」

 

野明『アハハ…』

 

そして夕方、ひろみのアイデアで、ザトウクジラの歌を水中レイバーから流し、見事に東京湾から出て行ったのだった。翌日、俺達は普段通りの勤務に戻った。

 

野明「おはようございま〜す」

 

「「「おはようございます」」」

 

香貫花「おはよう」

 

「おはようございます。野明さん」

 

野明「おはよう翼さん。遊馬早いじゃん」

 

遊馬「これこれ」

 

野明「な〜る」

 

太田「ウチの扱いが殆ど無いではないか!」

 

野明「ひろみちゃんの事載ってないの?一番の功労者なのに」

 

確かにその通りだな。

 

山崎「いいんです、別に」

 

遊馬「そんな事ないよ。テレビつけようよ。きっとどこかでやってるんじゃないか?」

 

香貫花「そうね」

 

遊馬の提案でテレビをつける。すると丁度テレビにクジラが映っている。

 

野明「やってるやってる〜♪」

 

ん?何だか様子が…

 

キャスター『見えますでしょうか?昨日救出対策本部により、湾岸に連れ出された筈のクジラですが、本日早朝、再び戻って来た所を発見されました』

 

その言葉を聞いて、全員がひっくり返った。太田に限っては何故か飛んでいた…そして、またクジラ救出に駆り出されると思ったが、3日が経ち政府決定等もあり、クジラ救出は終了した。

 

後藤「っと言う事で、本日から通常勤務に戻る」

 

『ええっ!?』

 

後藤「ま、久し振りに暇になった事だし、溜まっていた報告書、早く提出してもらいたいなぁ」

 

そう言い残し、後藤は隊長室に戻っていった。それから1週間が過ぎた。俺達第二小隊は、クジラがいる湾岸来ている。

 

野明「あ〜いるいる!ちっちゃくてカワイイ〜」

 

遊馬「おい野明、俺にも見せろよ!」

 

野明「ん〜やだよ〜」

 

遊馬「ちょっとだよちょっと!」

 

遊馬はそう言い、野明から双眼鏡を奪う。

 

遊馬「おお!見える見える!」

 

後藤「俺にも見せてちょうだい」

 

『えっ?』

 

後藤は遊馬から双眼鏡を受け取りクジラを見る。

 

後藤「お〜。なるほどね〜」

 

香貫花「隊長。子鯨が発見されて以来、急に中止を批判する声が高まっているそうじゃありませんか」

 

後藤「その事だけどね、明日から、ウチがクジラの救出活動にあたる」

 

野明「え〜!ホントですか隊長!ひろみちゃん良かった」

 

遊馬「ちょっと待って下さい。海上の事は、ウチの管轄じゃないですよ?」

 

後藤「…なあ、ウチが外から、どういう見方をされてるか、今更言うまでもないだろう?」

 

「あ〜、そういう事ですか」

 

野明「えっと、落ちこぼれ、寄せ集め、はみ出し者、金食い虫、無駄飯喰らい」

 

「野明さん、そこまで言ってて悲しくありませんか?」

 

野明「…言っててそう思いました」

 

後藤「ま〜、そんなもんだ」

 

遊馬「だったら尚更…」

 

後藤「まぁ聞け。つまりね、ウチは端から期待されていない訳。他の組織がやってまた失敗するよりは、期待されていない我々の方がさぁ」

 

そうなるわな。

 

遊馬「それじゃあ、言い訳の為だけにウチに任せるって事ですか?」

 

後藤「そういう事になるかなぁ」

 

太田「人を馬鹿にするにも程があるよ!目にもの見せてくれようじゃありませんか‼」

 

「ええ。太田さんの言う通りですね」

 

後藤「うん。目にもの見せちゃおうか!」

 

そして、何処から引っ張ってきたか分からないくらい、ボロボロのレイバーが登場する。

 

野明「うっわ〜!ボッロ〜‼」

 

進士「そう言わないで下さいよ。海上保安庁が廃棄処分したのをシゲさん達が徹夜で直してくれたんですから」

 

遊馬「こんなんで本当に大丈夫なの?」

 

さあな。いつの間にか周りにはテレビ局や野次馬が集まっていた。

 

野明「ひろみちゃん‼頑張ってえ‼‼」

 

今回レイバーに乗り込んでいるのはひろみだ。シゲさん達のおかげで、ギリギリだが乗り込めるようになっている。俺達に手を降ると、そのまま海の中に入っていった。俺達もヘリと高速艇に乗り込み、ひろみの後を追い掛ける。俺はヘリを操縦するので隊長と進士と一緒だ。

 

香貫花『こちら高速艇。準備OK!』

 

後藤「よ〜し、いいぞ。そのまま待機」

 

香貫花『前方500m!目標確認!』

 

山崎『こちらも確認しました。音を出します!』

 

そして作戦が始まった。

 

後藤「こちらヘリ。まだクジラに動きなし」

 

山崎『もう少し、クジラに接近してみます』

 

遊馬『無理するなひろみちゃん!子供を産んで気が立ってる筈だ‼』

 

山崎『分かってます……だああああああ‼‼‼

 

すると突然、ひろみから呻き声が上がる。

 

後藤「どうした!山崎‼」

 

野明『ひろみちゃん!大丈夫??』

 

山崎『だ、大丈夫です!』

 

後藤「機体は動くか?」

 

山崎『はい!…ああ!?』

 

後藤「どうした!?」

 

山崎『スピーカーが…外部スピーカーが激突のショックで!』

 

「それはまずいですね…」

 

山崎『駄目です!音が出ません‼』

 

香貫花『仕方ないわ。今日はもう中止するしかないわ』

 

「こればかりは…」

 

すると、再びクジラの鳴き声が聞こえた。

 

野明『あれ?ひろみちゃん直ったの??』

 

「あれは…もう一頭ザトウクジラが」

 

沖の方を見ると、ザトウクジラが親子のクジラに近づいて行く。

 

進士「あ、クジラが…」

 

3頭のクジラは、無事に沖へと帰っていった。やれやれ。ホント人騒がせなクジラだぜ…



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20話

「今日もいい天気ですね…寒いですけど」

 

遊馬「へ…へ…ヘックシュン‼」

 

俺達は今、北海道札幌に来ている。何故かというと、札幌雪祭りの接合設営協力の為借り出されている。

 

野明「つまり宣伝?」

 

遊馬「サービス。ボランティア。なんと読んでも同じだけどな。この札幌雪祭りにおける、特車二課の接合設営協力をマスコミのレイバー隊へのイメージ。ひいては警察のイメージの好転に繋げたいんじゃないか?ま、点数稼ぎだな…早い話が」

 

香貫花「でも…」

 

遊馬「なんだよ?」

 

香貫花「本当にそれだけかしら?それだけで、首都圏を第一小隊のみに任せたりしないはずよ?」

 

山崎「他に何かあるんでしょうか?」

 

「どうでしょう。香貫花さんの言う通り、何かあるかも知れませんし、遊馬さんの言う通りただの点数稼ぎ…イメージアップだけかも知れません。どちらも有り得そうなので、なんとも言えませんが」

 

すると、雪祭りの作業をしてる1人が、レイバーに乗りながらこっちに来た。

 

『あんたらレイバー隊さんだろ?暇だったら手伝ってくれんねぇかね?あっちの人は、快く引き受けてくれたんだけっども』

 

指差してる方を見ると、太田機が設営の準備を手伝っていた。

 

進士「変なところで物好きなんだからもう…」

 

こうして、俺達は設営の準備を手伝う事になったのだった。

 

太田「ぬおおおおおおお‼‼?」

 

すると突然太田機がバランスを崩しそうになっていた。

 

野明「太田さん!」

 

助けに行く野明だが、そのまま巻き込まれ滑って行き、作られた雪の建物を壊した。

 

「あちゃ〜…」

 

こりゃ謝らなきゃいけないな。

 

「はぁ…太田さん、野明さん、後ひろみさん。すみませんが一緒に来て下さい。香貫花さん、少しここお願いしますね」

 

香貫花「OK」

 

俺は取り敢えず元に戻ってきたレイバー2機から2人を降ろし、責任者の所に向かった。

 

「失礼します。特車二課第二小隊の直江翼と申します!この度は、ウチの隊員が、大切な雪原物を壊して申し訳ございません!」

 

俺は責任者の前で土下座をする。それを見た太田や野明、ひろみは驚いたが、同じ様に土下座をする。

 

「いや…その…あ、頭を上げてください!」

 

そう言われ俺達は土下座を止め立ち上がる。

 

翼「この度は、私の監督不行届のせいで、皆様に大変なご迷惑を…」

 

「ま、まあ確かにそうだけんども、あんたらがしっかりと謝罪してくれたらもう十分だ。逆にこっちが申し訳ねぇきがするだよ」

 

「いえ、こちらが全て悪いのでして…」

 

「もう気にしちゃいねぇよ。けど、流石にもう手伝いはいい」

 

翼「はい。本当に申し訳ありませんでした」

 

『申し訳ありませんでした!』

 

翼「もうこの様な事が起きないよう、注意させていただきます。失礼しました!」

 

『失礼しました!』

 

そして俺達は、香貫花達の所に戻る。

 

翼「……」

 

「「「……」」」

 

帰り道の道中、誰も話さない。いや、話せないんだろうな。

 

進士「あ、お帰りなさい。どうでした?」

 

翼「ええ。なんとか許してもらえました」

 

進士「そうですか」

 

野明「あの!」

 

翼「……」

 

野明「翼さん…私達のせいで、翼さんに土下座までさせちゃって…本当にすみませんでした‼」

 

太田「自分も!自分も…本当に申し訳ないと思ってます‼」

 

大田は俺の前で土下座をする。それを見た遊馬や進士は驚いていた。

 

翼「…頭を上げてください。反省したなら次に活かしてください。失敗しても、次にしっかり活かせればいいんです。ミスは取り戻せます。今回の事、キチンと考えて今後行動してください。いいですね?」

 

「「は、はい!」」

 

太田と野明は、俺に敬礼した。

 

太田「しかし、どこのどいつだ!レイバーの足元にシートなど投げ込む不届き者は!公務執行妨害だ!犯罪者だぞ‼それを何故誰も捕らえんかった‼‼

 

遊馬「アンタが倒れた騒ぎで、それどころじゃないと言っとろうが‼」

 

太田「ぐっ…だ、大体何が悲しゅうてこんな地の果てでガキみたいに、雪や氷と弄れねばならんのだ」

 

その言葉に、作業してる作業員が全員太田を見る。アイツ…ほんとに反省してんのか?

 

香貫花「日本人って変な物が好きなのね」

 

香貫花の言葉に、今度は野明達も向く。いい加減にしろよ…

 

翼「香貫花・クランシー巡査部長。太田功巡査。俺の前に正座して下さい」

 

太田「なっ!」

 

香貫花「どうして?」

 

翼「いいから…正座しろと言ってんだろうが‼‼‼

 

『!?』

 

俺の言葉に全員が驚き、太田と香貫花は俺の前で雪の上だが正座する。冷たい?そんなの関係あるか。

 

翼「太田功!」

 

太田「は、はい!」

 

翼「テメェさっきの話聞いてねぇのか!ああ!!」

 

俺は太田の耳を引っ張りそう言う。

 

太田「い、痛い!痛い‼」

 

「痛くしてんだよ!テメェさっきの話聞いてねぇのか!周りに迷惑かけてかなその上『ガキみたいに雪や氷と弄れねばならんのだ』?失礼にも程があんだろうが!札幌雪祭りはな、北海道に住む人達にとっては伝統行事なんだよ!それを失礼な事を言いやがって…香貫花・クランシー!」

 

香貫花「!!」

 

翼「日本人は変な物が好きって言ったな?だったらそっちはどうなんだ?そっちの国では当たり前と思う事も、俺達からしたら変な物だ。それをこの作業現場を見て良き言えたな?ええ?」

 

香貫花「…悪かったわ」

 

翼「『悪かったわ』じゃねぇんだよ‼そんな事を言うとは俺も呆れたわ。お前の婆ちゃんは、絶対にそんな事言わないぞ!

 

香貫花「…sorry」

 

翼「sorry じゃないんだよ!謝るなら最初から言うな!分かったな!」

 

「「…はい」」

 

翼「暫くそのまま正座してろ!!

 

俺はそう言い残し、作業員達に頭を下げる。

 

翼「度々ウチの隊員がご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」

 

「い、いや…俺達が言いたい事、アンタが言ってくれたから」

 

翼「いえ」

 

「アンタがああ言ってくれたおかげで、俺達も改めてこの祭りを誇れる気持ちができた。なあお前等!」

 

「ああそうだ!」

 

「その通りだ!」

 

「雪祭りは、俺達道民の誇りだ!」

 

「おし!作業再開だ!!」

 

『おおっ!』

 

そして作業員達は、再び作業に戻った。

 

後藤「いったい何事?」

 

翼「あ、隊長」

 

いつの間にか後藤が戻ってきていた。

 

後藤「ところで、太田と香貫花、なんで正座してんの?しかも雪の上で」

 

進士「じ、実は…」

 

進士が事情を説明する。

 

後藤「あ〜、そういう事。怒らせちゃったのね…直江を」

 

そう言うと後藤は、俺を除いた全員を集め話をする。もちろん、太田と香貫花は正座したままだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後藤「正直に聞くけど…怖かった?」

 

俺の言葉に、泉達は全員が頷いた。太田と香貫花に限っては、涙目で頷いている。

 

後藤「でしょうね。昔俺や南雲さん、シゲさんもアイツに怒られた事あるが、流石の俺も肝が冷えたね。南雲さんやシゲさんなんて、泣きながら謝ってたからねぇ」

 

遊馬「あの南雲隊長が…」

 

野明「だよね。だって、香貫花だって泣いちゃってるし。私も面と向かって言われたら泣いてるかも…」

 

後藤「ま、南雲さんや香貫花の場合は、それ以外の理由もあるけどね」

 

進士「理由…ですか?」

 

後藤「そっ」

 

野明(あ〜分かるかも。少し前の私じゃ分からなかったけど、今ならはっきりと分かる。好きな人に、あんな風に怒られたらショックだもんね)

 

泉だけは、その理由が分かったみたいだな。ったく、罪づくりな奴だねぇ。お前さんもさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翼「…話終わったのか?」

 

隊長だけ俺の所に来たので素で話す。

 

後藤「うん。まあ、今回は彼奴等にとってもいい薬になったんじゃないの?」

 

翼「…まあ、流石に俺も頭に血が登りすぎた。まだまだ冷静にならないとな」

 

後藤「それ以上冷静になられちゃ、こっちが困るっての。吸う?」

 

隊長は自分の煙草を一本俺に渡す。

 

翼「ありがたく…スゥ…ハァ〜」

 

後藤「けど、相変わらず罪づくりな男だね〜。お前さんは」

 

翼「あん?」

 

後藤「しのぶさんや香貫花だけじゃなく、泉までねぇ」

 

翼「好きでそうなったんじゃねぇよ」

 

後藤「まぁいいけどね。けど、俺はお前だからしのぶさんを任せたんだからな」

 

翼「それについては、渡米する前から耳にタコができるくらい聞いたよ」

 

後藤「ならいいけどね」

 

そんな話をしてると、遠くの方で爆発音が聞こえ黒煙があがった。俺達は急いで現場に急行した。



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21話

爆破現場に到着した俺達は、野次馬整理に取り掛かる。

 

遊馬「発火したのは、南雲隊長の情報通り、伏見の盗難レイバーの1体。時限装置が仕掛けられたまま放置されていたみたいです」

 

進士「同系のテントハウスに、また犯行声明が届いたそうです」

 

後藤「また…」

 

香貫花「はい。『我々はバビロンプロジェクトに鉄槌を』云々と、いつものパターンの様でしたが?」

 

遊馬「きっとマニュアルがあるんだぜ!【正しい革命の基礎知識】とか、【テロリストの一般用語集】とか、【君にも書ける犯行声明】ってやつ」

 

太田「く〜!不埒な奴ら目!」

 

進士「その不埒さからすれば、テロリスト達はもう一度、レイバーテロを雪祭り会場で起こすんじゃないでしょうか?」

 

翼「恐らくは」

 

後藤「レイバーはもう1体残っとる。使える物を余して、よしとする連中じゃない」

 

太田「クソ〜ッ!さっきのシートもテロリストの仕業じゃないだろうな?俺が雪像を潰して、ほくそ笑んでるんだ!」

 

翼「それはないと思いますよ。爆弾を仕掛けるくらいですし、シート如きでレイバーにあまりダメージが追わないやり方はしないと思いますよ」

 

太田「そ、そうですか…」

 

あらら。お灸が効きすぎたかな?ま、すぐにもとに戻るでしょうよ。

 

後藤「ま、これ以上ここにいても邪魔になるだけだし、交代しながら周囲の警戒してちょうだい」

 

『了解!』

 

そして俺達は再び、周囲の警戒にあたるのだった。野明はイングラムに登場して待機。ひろみはアルフォンスに上り周りを拭いていた。

 

山崎「ほら泉さん、あれ。バビロンの城ですね」

 

野明「バビロンプロジェクトやってる、新東京開発公団が出品協力したってやつ。今回の雪まつりの目玉だね」

 

こういう事はマメだよな〜。

 

「まて〜!この〜!」

 

後ろでは子供たちが楽しく雪遊びか。爆破以外は平和だね〜。

 

野明「だ〜れ〜!私のアルフォンスに何かぶつけたの‼」

 

そう言いながら突然振り返る。バカ!ひろみが肩に乗ってんだぞ‼

 

山崎「あああああああああ〜‼‼」

 

翼「何してんだ!」

 

香貫花「何してるの野明!」

 

野明「あ〜!ひろみちゃん‼‼」

 

翼(受け止める!)

 

そう思っていたが、ギリギリのところで野明がひろみの足を掴んで大事に至らなかった。心臓に悪いっての…

 

野明「ご、ごめんねひろみちゃん」

 

山崎「い、いえ…どうも…」

 

「野明?野明じゃないの?」

 

すると女性が野明に話し掛けた。

 

野明「…え〜!木山先輩‼」

 

どうやら野明の知り合いみたいだな。俺達は近くにある焼きトウモロコシを買って、ベンチに座りながら話す事にした。

 

翼「野明さんの高校時代のバスケ部の先輩なんですね」

 

野明「そう。でも驚いたよ。先輩が教育実習で札幌に来てたなんて」

 

木山「驚くのはこっちだよ。野明が東京で婦警さんになって、特車二課に配属されたってのは聞いたけど、よもや悪名高い第二小隊のレイバー隊員なったなんて。恐ろしい事って身近にあんのね〜」

 

「「恐ろしい…」」

 

悪名高いね。ま、俺達もないとは言わないが、8割近くは太田が原因なんだよな。けど、世間では俺達も含め第二小隊って括りだからな。マジで太田をどうにかせんとな〜…

 

木山「こっちでも有名だもの。関東一円に轟く第二小隊の猛威!高層ビル宙吊り事件とかホント?」

 

野明「う、うん…」

 

木山「あたしが実習中のクラスの子だけど、レイバー隊の出動に巻き込まれて、家を壊されて仕方なく北海道に移ってきたって子もいるし」

 

野明「もしかして先輩さっきの子?」

 

木山「うん。さとる君って言うんだけど、こっち来る前はかなりのレイバー好きだったんだけどね。その一件以来滅茶嫌いになっちゃって」

 

あ〜…これは完全に俺達が悪いな。

 

香貫花「まあ、憎さはあるでしょうね」

 

野明「でも…でも不可抗力だって…その場の状況だって…同仕様もない事だってあるんだよ!」

 

香貫花「本当にそう言い切れるかしらね?」

 

香貫花が振り向く方向を見る。そこには雪だるまを作った太田が、顔面部分にパンチをして破壊していた。まあそう思われるわな。トウモロコシを食べ終わった俺達は一旦解散する。だが、すぐに野明は先輩を追いかけて行った。

 

翼「何かあるな」

 

俺は後を追いかけて行く。

 

木山「ええ!?さとる君が!レイバーの足元にビニールシートを」

 

翼「何かあると思いましたが、そういう事でしたか」

 

野明「翼さん!それに香貫花!」

 

香貫花「フォワードとバックは一心同体よ?聞かせてもらう権利はあるはずよ?」

 

野明「でもさ、あの子そんなにあたし達の事嫌いなのかな?やっぱりあたし、信じたくないよ」

 

香貫花「以前のレイバー好きが今はレイバー嫌い。好きな物に裏切られて180度曲がってしまう。大人にもよくある話ね」

 

野明「……」

 

木山「野明。私さとる君を見つけて直接話を聞いてみたいの。それまで黙っててくれる?」

 

野明「えっ?…うん、誰にも言わないよ」

 

翼「この話はひろみさんを除いたこのメンバーだけに留めておきます。ですが、もし万が一同じ様な事があれば…分かりますよね?」

 

木山「…はい」

 

俺は真剣な表情で、野明の先輩の木山にそう言う。

 

翼「分かりました。後は、必ず私達に謝りにこさせて下さい。駄目なことは駄目と、きちんと教えなければいけないので」

 

木山「分かりました」

 

そして~木山は帰っていった。そして夜になり、俺達は雪まつり会場の近くにある民宿山本館に泊まる事となった。なったんだが…

 

翼「…後藤隊長」

 

後藤「どしたの直江。そんな怖い顔をしちゃって」

 

翼「そんな顔にもなりますよ。なんで自分が野明さんと香貫花さんと同じ部屋なんですか!」

 

そう。後藤から渡された部屋割りを見ると、部屋は2部屋しか取ってなく、男子部屋は後藤、遊馬、ひろみ、太田、進士となっている。そして女子部屋に何故か俺が割り振られている。

 

後藤「しょ〜がないでしょ〜に。予算的に二部屋しか取れなかったんだからさ」

 

翼「だからって…」

 

後藤「部屋もそこまで広くないんだよ。直江を除いた連中でいっぱいいっぱいなの。だからね、香貫花と泉に誰可そっちで寝かしてやれって言ったら、真っ先にお前さんの名前が出たって訳」

 

翼「……」

 

後藤「別に大丈夫でしょうに。前にお前等3人同じ部屋で寝たんでしょうに」

 

翼「いや…寝ましたけど…」

 

後藤「だったら大丈夫でしょう。んじゃ、明日も早いんだからさっさと寝る寝る」

 

そう言って後藤は部屋に入っていった。

 

翼「…マジかよ」

 

俺は諦めて、香貫花と野明がいる部屋に向かうのだった。



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22話

俺は野明と香貫花がいる部屋に来た。

 

「はあ…諦めるしかないか」

 

俺はドアをノックする。

 

野明『は〜い』

 

翼「野明さん、直江です」

 

野明『ああ翼さん!開いてるから入って下さい』

 

翼「失礼します」

 

俺は中に入る。既に野明や香貫花は浴衣に着替えていた。

 

香貫花「遅いわよ」

 

翼「いえ、ついさっき隊長から部屋の事を聞いたもので」

 

野明「あ〜」

 

翼「しかし本当に宜しいんですか?お二人と同じで」

 

香貫花「何を今更。以前だってこの3人で寝たじゃないの」

 

そう言われればそうでした。

 

香貫花「ほら、明日もあるんだからさっさと寝るわよ」

 

野明「そうだね」

 

見ると布団は綺麗に3つ並べて敷かれており、真ん中だけが空いている。ああ、前の時と同じパターンですね。そのまま俺も浴衣に着替えて眠りについた。しかし夜が更けた時に、右側に寝ていた野明が起きて部屋を出ていった。俺はバレない様に後をつけた。すると野明はアルフォンスの所に来ていた。俺は入り口前で中の様子を覗く。

 

野明「…アルフォンスが悪いんじゃない。そんな事誰にも言わせたくないよ」

 

翼「……」

 

やっぱり昼間の事で悩んでたか。

 

翼(少し考える時間もいるだろ。缶コーヒーでも買って置いて帰るか)

 

俺は自販機で缶コーヒーを買い、入口前に置いて部屋に戻る。その途中、雪まつり会場の方からレイバーの動作音が聞こえていた。

 

翼「こんな時間に…取り敢えず他の連中を起こして野明と合流するか」

 

俺は香貫花を起こして事情を説明した後に、アルフォンスのディスクを持って野明と合流する。

 

翼「野明さん!至急アルフォンスを起動して下さい!」

 

野明「翼さん!?」

 

翼「たった今、不明のレイバー1機が公園の西の方で作動しているのが見えました。そちらに向かって下さい」

 

野明「分かりました!」

 

野明はアルフォンスを起動させて、公園に向かった。

 

野明『そこの挙動不審のレイバー。搭乗員は速やかにレイバーから降りなさい!』

 

野明がそう言うと、不審レイバーは回りの雪像を使って抵抗する。

 

翼「マズイ…これじゃ自由に動けない」

 

あんまり被害を出す訳にもいかない。ここは俺が動いた方が無難か?

 

野明『こんの〜!!!』

 

野明も反撃するが、やはり雪像が気になってるのか何時もより動きが鈍い。

 

香貫花「何してるの!性能じゃこっちが上よ!」

 

野明『だって!雪像が壊れるのが嫌なんだもん!!』

 

翼「クソッ!」

 

どうする…

 

野明『あああっ!』

 

ヤバい!どうする…どうする…

 

 

 

 

 

 

 

バキューン!!

 

 

 

 

 

 

すると2号機が助太刀してくれた。だが逃げるレイバーに向かって発砲しており、当たる訳もなく回りの雪像を壊している。

 

野明『駄目太田さん!雪像壊れるよ!!』

 

太田『邪魔するな泉!』

 

すると野明達目掛けてフラッシュを撃ってきた。逃げた犯人は無事に後藤達が捕まえた。翌日、俺達は後援前に集まっていた。

 

後藤「それで、そのテロリスト集団が自白するにはだな、この辺の雪像に12時になったら起爆する時限爆弾を仕掛けたそうだ。」

 

『ええっ!』

 

後藤「泉、太田は雪像片っ端からチェックしろ。爆弾は像の何処かに埋めてあるはずだ。進士は警備テントへ行き、捜査部の情報をしゅくじ指揮車に転送。他の者は、泉達がチェックした像の周辺を徹底的に探せ。いいな?」

 

『了解!』

 

とにかく探さないとな。けど…

 

野明『っつったって…こんなにある』

 

篠原『雪の上のレイバーの足跡から割り出したらどうだ?』

 

香貫花「現場は昨夜のあなた達の捕物のドタバタで判別不可能よ」

 

山崎『11時を過ぎると、前夜祭のお客さんが集まり出すそうです』

 

太田『後2時間もないぞ!』

 

香貫花「やるだけやるのよ」

 

野明『それでも見つからなかったら…』

 

篠原『ドッカーン!』

 

篠原…何呑気にそんな事言ってんだ。しかし、太田の言う通り後2時間もない…殆どの雪像はデカいから、レイバーの手でもイジれる。しかし、時間だけが刻々と過ぎていく。

 

野明『本当に見つかるかな?』

 

篠原『喋ってないで探せってば!』

 

野明『だって、闇雲に探したって見つからない気がする』

 

翼「野明さんの言う事は最もです。しかし、時間がないのも事実…」

 

どうするか…

 

篠原『野明、お前だったらレイバーを使ってどうやって隠す?犯人の気持ちになって考えてみろ』

 

野明『えっと…雪像は大っきいから持ち上げる事はできない。崩れちゃうしそれでも埋め込むなら…ブロックを1つ外すんじゃないかな?』

 

翼「それです!レイバーを使ったなら、そのブロックにレイバーの爪痕が残ってる筈です!」

 

ブロックで作られてると分かっても、数は絞れても何個かある。

 

太田『いっその事、雪像を全部壊しちまうんじゃ駄目なのか?埒が明かん!』

 

篠原『バカ。雪像が散らばったら余計探しにくいだろうが』

 

野明『もう絶対壊しちゃダメ。探すんだよ!何としても!』

 

篠原『隊長!駄目です!見つかりません!』

 

後藤『何としても見つけてくれ。とは言ってもね〜…いや、待てよ…バビロンの城…バビロンプロジェクト…バビロン…』

 

バビロン……もしかして…

 

翼「直江より全レイバー!爆弾はおそらく雪像で作られたバビロンタワーです!泉、太田両巡査は至急向かって下さい!」

 

『『了解!』』

 

すると、悟がレイバーの爪痕を残したブロックを見つけた。野明が急いでそのブロックを取り外す。

 

野明『あった…』

 

見つかった。けど、12時まで後2分を切ってる…解除してる時間はない…

 

翼「野明さん!そのままでは動かせません。モーショントレーサーを使って下さい」

 

野明『了解』

 

そして野明はゆっくりと爆弾を取り出した。後20秒…

 

野明『取った!』

 

翼「思いっきり上に放り投げて!」

 

野明『ええい!』

 

篠原『太田!』

 

太田『任せろ!』

 

そして爆弾を見事に撃ち抜き、何とか事なきを得たのだった。そして悟はキチンと俺や野明に謝ってきた。どうやらレイバー嫌いは治ったみたいだな。

 

翼「ま、終わりよければ全てよし」



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番外編
番外編 クリスマス2018


今日はクリスマス。特車二課もあまり派手には出来ないが、クリスマスっぽい飾り付けもしている。まぁ、最初はおやっさんとかに言われたが、出動とかに支障がない範囲なら許しが貰えた。で、俺は今熊耳と一緒にケーキを作っている。一応昨日の内にスポンジは作っておいたから、後はクリームを塗って飾り付けをすれば完成だ。

 

熊耳「だけど直江君って本当に器用ね」

 

「そうですか?まぁ、料理が趣味というのもありますけど」

 

そう言いながら俺はテキパキとケーキを作っていく。

 

熊耳「それだけでも凄いわよ。男性で料理が出来るなんて」

 

「そう言って頂けると嬉ですね」

 

香貫花「ちょっと!話してないで此方も手伝ってよ」

 

野明「わ~!南雲さん!焦げてますよ!!」

 

南雲「きゃああ!大変!!」

 

あっちは別の意味で忙しいな。

 

「……」

 

熊耳「直江君、此方は後は私だけでも大丈夫だから、向こうを手伝ってあげて」

 

「分かりました」

 

俺は香貫花達の所に行く。行くと、ローストビーフが炭と化していた。

 

「あ~…大丈夫ですか?」

 

南雲「直江君」

 

涙目で俺を見るしのぶ。

 

「怪我とかはないみたいですね」

 

南雲「ごめんなさい。何分料理は久し振りで」

 

「大丈夫ですよ。次は一緒に作りましょう」

 

そして俺は、しのぶを指導しながら一緒にローストビーフを作る。その間しのぶに付きっきりだから香貫花と野明が俺の方を見ていたがな。んで、なんとかローストビーフも完成し、ケーキや他の料理も出来上がった。

 

「それでは運びましょうか」

 

俺達は料理を運んでいく。途中でひろみや遊馬達も運ぶのを手伝ってくれた。そして特車二課のパーティが始まった。

 

遊馬「いや~!まさかここでこんな料理が食えるとは思わなかったな」

 

山崎「そうですね」

 

進士「去年は色々あって、パーティ処ではなかったですしね」

 

太田「ガツガツガツ!バクバクバク!!」

 

シバ「そうだったね。けど、今年はのんびりできて、翼ちゃんの料理も食べれて幸せだな~」

 

榊「ま、たまにはこういうのも悪くねぇな」

 

後藤「そうですね。まぁ、待機中なんで酒が飲めないのが残念ですが」

 

南雲「当たり前でしょ」

 

そしてパーティは終わり、特に緊急出動もなく第二小隊は仕事上がりとなった。

 

「それじゃあお疲れ様でした」

 

熊耳「お疲れ様」

 

俺と野明、香貫花、熊耳は帰る方向が同じなので、全員一緒に帰る事が多い。男連中は、これから飲みに行くそうだ。生憎俺や野明は運転があるからパスした。香貫花と熊耳も明日用事があるからパス。

 

野明「う~…さむ!」

 

熊耳「ホント、冷えるわね」

 

すると雪が降り始めた。

 

「雪ですか」

 

香貫花「道理で何時もより冷えるはずだわ」

 

チラチラと降る雪を見ながら歩く。

 

「そうでした。忘れるとこでした」

 

熊耳「どうしたの?」

 

俺は用意してたクリスマスプレゼントを3人に渡す。

 

「野明さん、香貫花さん、熊耳さん、メリークリスマス」

 

野明「わ~!ありがとう翼さん!」

 

香貫花「フフッ、毎年マメね」

 

熊耳「私にも?ありがとう」

 

「気に入ればいいんですが」

 

3人は中身を開ける。

 

野明「これって…もしかして」

 

「それは、以前野明さんが欲しがってた、アルフォンスのワックスですよ」

 

野明「ありがとう。それにこのブレスレットも」

 

野明には、アルフォンスの高級ワックスとブレスレット。

 

香貫花「私は…素敵なネックレスね」

 

熊耳「こっちはイヤリングね。結構高かったんじゃないかしら?」

 

「そこは気にしないで下さい。私の気持ちなので」

 

すると3人はブレスレット、イヤリング、ネックレスを着ける。

 

香貫花「どうかしら?」

 

「皆さんお似合いですよ」

 

俺がそう言うと、3人の顔がほんのり紅くなる。

 

野明「けど、私何も用意してなかった」

 

香貫花「私もだわ」

 

熊耳「私も」

 

「気にしないで下さい」

 

俺は別に気にしてない。野明、香貫花、熊耳、南雲の4人にクリスマスプレゼントは、俺が勝手に用意したんだからよ。

 

「「「……」」」

 

すると3人は俺を他所に何かを話始めた。なんだ?そして話し合いが終わったのか、俺の方を見る。

 

香貫花「翼には、私達からまとめて渡すわ」

 

「まとめて?」

 

香貫花「行くわよ」

 

すると香貫花は俺の腕を引っ張る。その後を野明と熊耳が続く。そして到着した場所は…

 

「えっと…ここって」

 

香貫花「ラ○ホよ」

 

いやいやいや!なに平然と言ってんだよ!何でここに来んだよ!そして俺はそのまま中に連れていかれ、まさかの3人の相手をすることとなったのであった。…因みに、後日しのぶにもバレ、しのぶにも香貫花達といったラ○ホに引きずられて連れていかれたのであった。



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