シンフォニアディズ (連蓮漣煉)
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プロローグ
人生終了ジャストタイム


プロローグ


 ――……自分という存在が時としてわからなくなることがある。

 

 なぜ自分がここにいるのか、なぜ自分が生きているのか。そんなことが時として頭によぎるのだ。

 学校でおちこぼれの不良として謙視され、ついに高校を退学。強制的といえど、自分の居場所なのではないと思った俺は学校からの強制退学をしたあの日もそう思った。

 そんなダメダメな人生を送り続けてなにが楽しいのかなんて、自分のほうが聞きたいくらい自分でもわかってなどいないのだ。

 ……なんで、こんなよくもわからない人生が始まってしまったのだろう。

 きっかけ、といえば思い当たるのは、一年前に起きた“あの事件”がきっかけなのだろう――

 

 その頃の俺の家庭は、どちらの意見にもついて行くことの出来なくなった両親によって離婚が決定していた。

 元々一人っ子だった俺は、両親はどちらかが俺を引き取ることでもめあいになった。しかし、自分はどちらにもついて行かなかった。――一人で生きて行くことを選んだのだ。

 その頃の俺は、親というその存在自体が嫌いだった。

 毎日が地獄、人を恨み、そして……“死ねばいい”……そんな、殺人衝動にもかられていた。

 自暴時期とか、そんなレベルはとっくに通り越していた……

 今にも人を殺してしまいそうなほどに精神が安定していなく、暗闇のまっただかな生活していた。

「病んでいる」その言葉は俺にとってかなり適切だ。

 さほどもめることもなく、あっさり一人暮らしの生活を受理され、最低限の家とお金。最低限のぬくもりとして“柊裡音(ひいらぎりおん)”という俺の名前だけを残し、離婚は確定された。

 やっと一人暮らしになれて、少しは落ち着いた。本当に、少しだけ……――

 一人の暮らしの生活というのは、慣れが基本というがそれはまったくの間違いだと、俺は思う。一人暮らしというのは、ある意味、それまで溜め込んでいた負のオーラをどれだけその生活で吐き出すことが出来るかによって変わってくるのだと思う。

 だから、吐き出すのに時間のかかる俺はまったくをもってなにもできていなかったのだ。

 

 ――それが約一年前の俺だ……。なにも出来やしないのに、出来ている気になっていて、強気になっていた馬鹿な自分。そんな時、“あの出来事”が起こったのだ。

 

          ◆

 

 ほぼ、全体的に森や山しかないのに有名な観光スポットして知られるH町が俺の住むとこだった。

 電車通学で学校に通うにも、行きだけで一時間半もかかるというド田舎から学校に通わなくてはならない。

 だから毎日続けるのも俺の意識を損なうために、通うことを途中で放棄することも多々あり、出席日数などとっくに過ぎ、留年決定を高校一年そうそうから果たしたのだ。

 つるむ友人など一人もいず、教師の目は完全に俺を敵視、二学期中間からなど一回も学校に出などしなかった。そのため、学校教師に呼び出されることが多々でる……。

 ――学校にも不利益なんだ、君みたいな子は!

(黙れ……)

 ――親は離婚し、出来そこないの親ともなれば子の方も同じくらい出来そこないか……

(黙れッ! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ……――)

 なんで、俺だけがこんなことにならなきゃいけねぇんだよ……ッ!

 

 ――やり直したい(、、、、、、)原因がある(、、、、、)その根本的な部分から(、、、、、、、、、、)……。

 

          ◆

 

 あの後乱闘を起こした俺は、学校をあえなく退学を果たすことになった……。

 

 外は馬鹿みたいにカップルやら、お祭り、そんなことで賑わっていた。

 生活費に困り始めていために、外には出なくてはいけなかった。

 バイトを探しても、自分の成績やら目つき、言葉遣いなど意味わからないことばかりを並びたてられ落ちる。その繰り返し……――

 やっと見つけたバイトも、よくて二日、最悪一時間でクビにさせられる。なにをやっても長続きをしない……。

(世の中全部クソだッ)……ずっと思っていた思いだった。

“街中で流れる報道ニュース”はいつもうるさくて、俺に時間浪費させることしかしない……。

 だけど、今日はふと目が留まるニュースがやっていた。

 

 ――全身バラバラ殺人……被害者はとある男子高校生。身元が判別できなくなるほどにひどいありさまで見つかり、制服がA高校の男子制服だったために性別が判明。

 右腕が今だこの事件で見つかっていないという……どっちにしろ、俺には関係のない話だな。

 

         ◆

 

 クリスマスの時も同じことをしていた。でも、結果は同じ……――

 町までバイトを探しに出ても、仕事を見つけることはかなわなかった。

 疲れ果て、公園のベンチにもたれ掛け、グチッていたことをよく覚えている。

 そんな時、ふと思った……

 

 ――一から、すべてをやり直したい……。

 

 叶わぬ願いだとしても、誰かが叶えてくれるわけでもないのに願っていた。

 もう、自分がよくわからない。なんでここにいるのか……、なんで生きているのか……。

 そんなどうでもいいことが頭をよぎった瞬間――……自分の目を、目の前のある一点にとどめられたのだ。

 

 色素ない髪、雪のように肌が白い少女……。その少女はどこまでも美しく、どこまでも――白かった。

「美しい」そんな一言でとどめられる言葉なんかじゃない。それを超えるほどの美しさを持つ少女が現れた。白いワンピースのような物を着て、髪を二つに結んでいる。そして、決定的なまでその存在をしらしめるであろう少女の金色の目が印象的だった。

 その少女に言葉を失った俺に、少女の視線がこちらに向けられた。

「ああぁ……?」

 向けられた視線に俺は少女に威嚇する。――さっさとどっかに行ってくれと言わんばかりに……。

 少女の口が開いた。

 

「……“貴方はもう死んでいるのに、なぜそれ以上願う必要があるの?”」

 

「……はぁ?」

死人(しじん)、今のあなたはそれ……。“世界に取り残された”のよ、あなたは――」

「……意味……わかんねぇよ……。勝手に、人を死んだことにしてんじゃねえ!」

 

「否ね、あなたは“確実”に死んだ。死神の、この私が言うわ」

 

「意味わかんねぇこといってんじゃ――」

 しかし、俺はそのとき、確かに聞いた。

 自分は、こんなおかしな世界で一人で生きて行くものなのだとずっと思っていた。つまんなくとも、この現実が永遠に続くと思ってた。

 ……でも――

 いつもうるさく、気を落ち着かせることもできない街中に流れる大音量のニュース速報から突然判明したバラバラ殺人の被害者の名前が――柊裡音と報道され、自分の名前だと気づくまでは……。

 

 そこで自分の「本当」の現実が終わることを、突然とまでに知らされ、自分の中にある何かが「ここで終わりだよ」と告げるかのように――

 目の前の、現実を強制的にのみ込まされている様な感覚だった……



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人生終了ジャストタイム②

死神は「人の魂を救う」それが使命である


 自分にとっての「人生」というのは、一体なんだったのか?

 今となっては、とうといものなのかもしれない――

 信じられないが、これが「現実」なんだと……改めて思い知った瞬間だった。

 

「……ひいらぎ、り……おん……。俺の、名前が……なんで……」

 いや、それよりまず、なんでこの(アマ)に、俺の死を言われなくちゃぁならねえんだよ。

「っ……。第一、今報道された人物が俺とは限らせれねえ。俺は生きてる。ここにいる。何で死んことにならなきゃなんねえんだよ」

 占い師とか、そんな類のこと口に出した瞬間こいつをここでぶちのめす。第一、俺はそういうのを信じちゃいない。

「信じられなくても、事実は事実として『認識』すべき。これはあなたが知らなきゃいけない死命(しめい)であり、“使命”なのだから」

「ふっざけんなっ! じゃあ今ここにいる俺は何だ!? 俺が見ているこれはなんだ!? それらすべてが『嘘』であり、本当の俺は死んだとでも言うのか? それこそ、ありえねぇだろ!」

「……嘘じゃない」

 ……っこの、クソ尼が……――

「じゃあ、一体なんだって言うんだよっ! テメェは一体、なんなんだよ!」

 色素のない、白色……いや、どちらかというと、銀色に近い髪をなびかせる少女はこう言った。

 

「――死神(、、)ほかの言語で表すと、グリムリッパー、デスなどと呼ばれている」

 

「……はぁあ? なんじゃそりゃ?」

「これをみても、まだそんなことが言える?」

 少女はどこから取り出したかもわからない物を、それを俺に見せたのだ。

「――っ!?」

 しかし、それを見た俺は驚愕した。

 少女が俺に見せた物、それは――かつては本当に人間にあったものなのかと疑うほどに、黄色化した人の人骨だったのだ。しかし……、自分が驚いたのはそれだけじゃない。

「……なんだよそれ、なにかのギャグ用にでも使う道具か……な、なにかか?」

 ギラリと光る刃――円をつくるかのように大きく曲がる刃は、どう考えても“(かま)”そのものなのだった。

「証拠」

「あぁ?」

「あなたが言った『証拠』そのもの提示した。ただ、それだけ」

 

「………………やっぱ……おか、しい……だろ……」

 

 こんな、街中に近い場所なのに、なんの躊躇も見せずに出すとか……もう、殺人者の領域を超えてる。いや、それくらいなら、手馴れた殺人者でもできるだろう。

 問題は、手に持っている人骨……しゃれこうべのほうだ。

 黄色されているだけなら、かなり昔に死んだの人骨を掘り当てただけかと思えるだろう。しかし、そのしゃれこうべは、ケタケタと、まるで生きているかのようにカタカタと顎の骨を動かし笑っているのだ。

「人間超えてんぜ……」

 信じられない――言葉にすれば何とか簡単なものか、しかし、自分にかかる疑問は、もう言葉に表せないほどに重くのしかかっているのだ。

「信じた?」

 彼女がそう言う。

 ――やっぱり、まだ信じられるわけがない。しかし……トリックだけの話は、とっくに終わっている。それを提示するのが“鎌”そのもの……。だから……、信じなきゃいけない……事実だって……言うの、かよ……

 

「どんな意見でも、死神の……ワタシ達は、あなたの意見を尊重する。でも、事実を変えることはいくらあなたが意見を述べたとしても、もう二度と変えられることのできない道を、あなたは通ってしまっているの」

「だから、強制的に事実をわかれって……いうのかよ……。それこそ、めちゃくちゃふざけてるだろ……! でも……――」

 認めなきゃいけない。そう、彼女が――死神であるあぎり、自分の人生が終わったことを知らしめるには十分すぎるのだ。

 

 だから、俺は思ったのだ。

(自分の人生って、こんなものだったのか……。こんな、わけのわからないところで終わったのか……)

 ――終われるわけねえだろッ!

 自分の中にある何かが爆発し、何かかはじけた。

 

 俺は少女に詰め寄る。

「どこでだ、どこで俺は死んだ!? 俺はどうしたらいい!?」

 それは、もう自分の願考(がんこう)に過ぎなかった。

 

 少女が持っていた鎌、しゃれこうべはいつの間にかどこかに消えていた。

 しかし、少女の手は、死というものを震える自分の手をやさしく包んだ。

「……しにがみ、は……人の魂をとるって聞いたことがある……。お前は、俺の魂をとりに着たのか?」

 

「……ワタシは、あなた強く願った最後の願いに従い、あなたの魂を救いきただけ。死神を悪者扱いしている時点で、あなたの知っていること、全部、違う」



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人生終了ジャストタイム③

 死神が、俺の知っている知識とは違う?

「それって、どういうことだ……?」

 彼女の金の目が自分を捕らえ、そして口が開かれる。

「死神の本質は、魂を黄泉(よみ)の国に案内することが、本来の使命。でも、それは、あなたが死んでしまってから(、、、、、、、、、、、、、)の話」

「変わってねえじゃんかよ!」

 怒声を上げる俺の声にひるみもせず、少女は再び口を開く。

「ワタシが、言っているのは、あなたが、死んでからのこと。あなたは、“人生”で死んでしまった。しかし、こっちでは、まだ、死んでいない」

 ――人生……? こっち……?

「意味わかんねえよ、つまりどういうことなんだ?」

 俺がそういうと、少女は少し難しそうな顔になるが、すぐに顔は平常に戻る。

「……こっち、つまり、ワタシがさっき言った『死人』としての第二の、死んだ後の人生のようなもの(、、、、、、、、)で死んだらという話」

 ――……死人、死んだ後の人生……? ……つまり、てっことは! 今の俺って――

「“幽霊”……って、ことかよ……」

「そう。でも、正確には違う――」

 正確には?

 

「――幽霊、物の本質は不の概念によって、その概念のエネルギー体の塊としてできたのが幽霊。憤怒、強欲、憎しみ……時にとってしてみれば、悲しみも、その不のエネルギー体となっている」

「てっことは、そんな、不を抱えて死んでしまったときの強烈な塊が幽霊ってことかよ」

 コクッ、少女は頷く。

「じゃあ、それはまるっきり俺のことじゃ――」

「違う」

 すべてを言い終わる前に、少女が否定した。

「なにがチゲェんだよ……」

 一瞬の口ごもり、しかし、その後少女は確かに言った――

 

「あなたは、不の概念よりも、あなたは、あなた自身のことをちゃんとわかっていた……! 限られたボールの溝に入る水は限られてる。あなたは、あなた自身の耐えられるものの本質を理解してた……! だから、あなたは、あなたの親に言った……そうでしょ……」

 

「――ッ!?」

 最後の方からは、少女の声は消えかかりそうなほど小さくなっていた。でも、必死に伝えるその言葉の意味と重みを俺に伝え……、そして俺はわかってしまった。

 今にも、どこかに消えてしまうのではないかと見ているだけで心配になり、か細く、貧弱なこの少女言葉が、深く俺に突いたのだ。

「違う! 違う違う違う違う違う違う! 俺は、俺はぁ……!」

 しかし、それを認めてしまったら……、少女の言葉理解してしまったら……。

「俺は逃げた……! わかってたからじゃない!! それは俺が、おれ自身が、俺の親を否定したくて、軽蔑したから、その場にいたくなかった、ただ、それだけだ……!」

 夜空に響く罵声。

 とめどない、自分のやりきれない気持ちがあふれんばかり内側から……自分の身体に――

 そして、ワナワナと高ぶる気持ちに追い討ちをかけるかのように少女は言う。

「――あなたは、自分の両親を助けたくてそうした(、、、、、、、、、、、、、、、)。そうでなくとも、あなたは、自分の親以上にあなたは悩み続けた。その結果、病むという、自分の心を暗闇に静めるような形なってしまった」

「……そんな、馬鹿な話になって……たまるかよ……。俺が、親を……?」

「そう」

 

 ……………………自分の心はすでに認めていた。しかし、それを認めようとする意思が俺には足りないのだ。

 

そばで見ていた(、、、、、、、)ワタシだから、ワタシはあなた助けたいって、だから思えた」

「……はぁ? それって……?」

 変わらずの白い肌が、一瞬だけピンク色になった気がした。俺の気のせいかもしれない……

「もう、十分がんばった」

「――ッ……」

 その言葉を聞き、俺はついに屈した――

 

 小さい頃は毎日が豊かな家計であった柊の家庭。

 母親はどことなく温厚で少し抜けていて、父親は頑固でこれと決めたらぜったいにその意思を曲げない。

 それでも、俺の家庭は、確かに楽しかったのだ……――

 いつ、その安らかな家庭が壊れてしまったのかはわからない。

 そんな親を見ているのがたまらなくいやになり、それでも二人の仲を取り持ちたい思ったのだ。

 しかし、月日が進むことによって自分の心に「諦め」が芽生え、そして、ついには完全に諦めてしまったのだ。

 でも、俺は確かにそのときに……――

 

          ◆

 

「――……ふっ、俺が不の概念がないねぇ~、半分はあってて、半分は違う、でも、結果として今を見たら、やっぱり失敗に終わってるんだ。やっぱり俺には不の概念があるよ……」

「……そう」

 少女の地面――下を向く。

「でも、それに気づかせてくれて助かったのは、あったな……。……しゃらくせーけど、礼を言う。マジでサンキューな……」

 パッと顔を上げる。

「……」

「でも、やっぱり、悔しいもんだな……」

 今の人生は退屈で、それでいてつらいことしか待っていなくて、誰もいないさびしい人生。

 両親の、その両方に否定をして、人生にも否定し、ついには、自分自身もなくなってしまった……。

 

 ふと、最近自分が思ったことを思い出す。

『やり直したい、原因のある、その根本的な部分から――』

「やり直したい。ねぇ~……」

 自分の中にはやはり、そういった、良心的な両親を思う気持ちがあったんだろう。だから、そう思ったに違いない。

 

「それが、あなたの『願い』」

 

「あぁ? どういうことだ?」

「さっきワタシが言ったはず、『ワタシは、あなた強く願った最後の願いに従い、あなたの魂を救いきた』死神の本来の仕事は、死前に強く願った願いを叶えること。だから、ワタシはここに、いる」

「…………」

 自分の心が瞬時にそれを理解する。

 ――確かに言っていた。そして、こうも言った『死神の悪者扱いしている時点で、あなたの知っていること、全部、違う』と……

 全部がつながったのだ。

 はじめにこの少女が来た理由も、俺に伝えた理由も、全部つながったのだ。

「お前、人に物事を伝えるのニガテだろ……。遠まわしすぎて理解ができねぇんよぉぉぉぉ!」

 

 裡音の大声が公園の夜空いっぱいに響き渡ったのだった……――



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人生終了ジャストタイム④

「夜も大分暗くなったな……。まあ、季節が冬だからなんだけどよ」

 すっかりと話しこけて閉まったために、夜は一面黒一色の闇に変わっていた。 ケータイを取りだそうとしたが、手元になく、後から家の充電器にさしたままだということに気づき、仕方なく公園の電灯の近くにある時計から確認する。

「6時半か……」

 

 ――このままここにいても、話しはなかなか進まねえよな……。

 

「お前、家とかは?」

 何気ない、考えなしの言葉だった――

 フルフル。少女は(かぶり)を振る

 少女は目を細め、言葉を出そうとする口からいいにくそう言う。

「ワタシに、家、ない。現地球に、拠点を置くほどの用意は死神界でされない」

「――!? そう、なのか、よ……」

 よーく考えてみればわかることだ。こいつに家なんてあるのか……?

「いく当て――……って考えてみりゃお前に知り合いがいるわけねえのか……。」

 考えなしの自分の発言にイラだつ。

 じゃあこいつはどうなる? 俺が見捨てるのか? それもある意味ひとつの選択肢の一つなのかもしれない。だけど、現実で……今それをやったら、俺は本当に「最低な野郎」になる。バカな、町にいるごろつきと同じ、クソッタレで、ヘドが出るくらい悪徳非道のあいつらみたいに……。

 

「そんな、タマにはなりたくねぇわな……」

「……?」

 少女が首をかしげる。

「なんでもねえよ。それより、え~と……」

 そういえば、俺こいつの名前をしらねぇな。今までが今までの衝撃的な話だった分肝心な部分が抜けてるじゃねえか。

 

「――リーゼ……」

 

「……あ?」

「ワタシの名前。名前を探しているようだったから言った。ただそれだけ」

「あ、ああ。リーゼな……。俺は――」

「柊裡音……。それでいいんでしょ?」

「ちょいまて。何で俺の名前を知ってんだよ……」

 リーゼはたいして面白くなさそうに「知っているから」とだけ言うと。すぐに自分から視線が外れた。

 知っているからだけで理屈が通ると思ってんのか……こいつは……?

 

「まあいいや……。とりあえず、俺の家に案内する。だから、この際言っとく。男女とか性別関係を抜きにして、お前にいく当てがないなら、このまま案内する俺のうちに好きなように使ってくれてかまわない」

 再び視線が自分を捕らえ、驚いたように少しだけ目が大きくなった。

「……ありがとう」

「――その代わりだ」

 俺は彼女の前に手を置く。

「さっきの話を詳しく聞かせろ。死んだこと、これからのこと……そして、今自分に起きている現状をあらいざらいすべてな」

 リーゼの目が鋭くなった――気がした。

「わかった。――というより、はじめから、そうするつもりだった。これは、あなた自身(、、、、、)にかかわる事だから」



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Aパート
願光クリアオブリージュ


Aパート


 H町のG地区――そこに俺の家はある。

 あたりはとっくに暗く、まさに夜と呼ぶにふさわしいくらいに暗闇の世界に変わっていた。

 家の居間で、テーブルを向かい合いで座る。

 他人から見ると見合いか何かなのかと思われそうな光景だが、実際問題は違う。

 

 家に帰り、すぐに万能地デジ化テレビを使って、ばらばら殺人の情報を聞いたが、リーゼの言ったとおり、被害者は俺〈柊裡音〉だった。

 ばらばら殺人として、大胆にも道端でその死体は発見されたらしい。頭部、腹部、足部はすべてそろっているが、なぜか右手だけが見つかっていないという。寒気が走り、自分の体が見つかっていないの聞くと不気味になってくる。

 死体から発見された学生手帳で身元を発見。

 幸いにも、その学生手帳に書かれていたのは俺が住んでいたまえの家のために、現在俺が住んでいるこの場所はまだ発見されていない。

(でも、いずれここも離れたほうがいいか……何かと面倒なことになる前に……)

 

「死んだことについては……このニュース速報見て、わかった。死んだのは、今から大体二日ほど前ってとこか。自分が何で死んだのかは、このニュースの情報聞けば一発でわかる……」

「そう……」

「でも、わからないことが一つだけある。なんで犯人は俺を狙ったのかだ。俺は他人との接点はおろか、家族との接点もいまいちだった。そんな俺を狙う理由がその犯人にはあったのか?」

「……ないとまでは言い切れない。そこまでワタシに詳しい情報は知らされてないから。でも、それ以上知ってあなたにとって何になるの?」

「――何にもなんないだろうな」

「じゃあ、何で?」

「知らねえよ。でも、感覚として言うなら、自分のことだから……なのかもな。他人のことに関しちゃ、俺は知ったことじゃない。でも、自分が関係しているなら、それはもう自分の問題。だから知りたい。……ま、そんな感じだな」

「……真っ当な意見。普通の人ならそこは『なにがなんでも』というところなのに」

「俺もそんなつまらないことをいう人間だと思ったか? それは、俺をなめてる感想として受け取っていいのか?」

「違う」

「じゃあなんだ」

「……わからない」

「なんだ、そりゃ……」

 感覚のズレってやつなのか? ま、興味ないから別にいいんだけどな。

 

「とりあえず、自分の最後はわかった。次に教えてもらいたいのは――」

「死人に、ついて」

「そうだな」

 はっきりいって、それが一番よくわからない。幽霊やゾンビなら、なんとなくどんな風になっているのかが想像できる。でも、これは別だ。聞いたこともなければ、自分の状態がどうなっているのかさえいまいちだ。

『何も変わっていない』それが素直な感想。どこも異常になっている部分が見られない。

「見た目じゃ、どこも変わってねえよな……」

「実際そう」

 リーゼがそういう。

「はっ? じゃあ、どこが変わったんだよ。幽霊みたいに壁をすり抜けるとか、ゾンビみてぇに打っても切ってもしなねえのか?」

「違う。見た目も外見的にもなにもかわってない。変わったのは、もっと根本的な部分」

 根本的……?

「今のあなたには……自分という存在、今生きる意味を知る力がある」

「今生きる意味? それってどういうことだよ?」

 

「……死人は人間と違って、寿命が存在しない。しかし、死人が死なないわけでじゃない。自分の生きれる『時間』というものが存在するの」

 

「時間……? それって、今もこくこくと減っているのか?」

 こくっ。リーゼが頷く。

「でも、あなたは死人として転生したばかり。少なくとも、後半年は生きられる」

 それでも、短いんだな……。

「でも、それと力とは何一つ関係がないじゃねえか」

「死人はあなた一人ではないの、何百……何千人も死人は存在する。あなた一人が死人というわけじゃないの」

「――!?」

「その中には、時間が残り少ない死人だっている。時間は死人同士でしか奪えない。だから戦うの。自分の運命をかけて」

「……マジ、かよ」

 いまどきそんなリアル体感バトルをやってはやるのか?

「少なくとも、この町にはあなたを抜いて六人の死人がいる。少なくとも、その中の一人か二人と接触して、戦う可能性もある」

「そのための力ってわけなのか? でも、それってよ……」

 ――いくらなんでも、出来すぎている(、、、、、、、)んじゃないか。まるで、そうなることを望んでいる(、、、、、、、、、、、、)かのように。

 

 その言葉を俺はのみこんだ。なにか、嫌な予感がしたからだ。

 

「いや、なんでもねえ……」

「……そう?」

「力の話に戻ってくれ」

 こくっ。リーゼが頷く。

「力は、あなたの願いを媒体に、構成されているの。願いの本質がその力の特性を生み出している」

「はあ? 意味がわからない。つまり、どういうことなんだよ?」

 リーゼはしばし言葉を選ぶ。

「……つまり、願いによって、その死人が使う力は違う」

「あ、ああ! なるほどようやく理解できたぞ」

 つまり、使う人によって能力は異なるってことか。

「じゃあ、俺の願いは――」

「あなたの願いは『根本的な部分に戻る』こと」

「その願いを糧にして出来た俺の力ってのは……いったい――」

「ここから、ワタシにもわからない」

「ワタシにもわからないって……死神もいい加減だなぁ~」

「実際に見てみるしかないと思う」

「……それも、そうか。……じゃあ、俺はなにをすればいいんだ?」

「力は個々によって違う。それはあなたが見つけるしかない。なにか手がかりになるものはないの?」

「……あのな、俺がそんなもんしるわけねえだろ! 第一、自分がばらばら殺人巻き込まれていたこと事態しらな、かっ……た――」

 リーゼが首をかしげる。

「……? どうしたの?」

 

 そういえば、俺の右手だけはこのばらばら殺人の中で見つかっていない。なのに、今の俺にはちゃんと右手が存在する……――

 

「手がかり……発見した」

 俺は自分の右手を正面へ持ってくる。

「そう……。じゃあ、頭の中で思い浮かべて。自分が思った願いを――」

 俺は意識を右手に向けながら、頭の中で思う。

 

 ……すると。

 

「っ!?」

 なんの予兆も、タイミングもなしに自分の腕が白く燃える炎に包まれた(、、、、、、、、、、)のだった。



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