元気な白は諜報科! (黒三葉サンダー)
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プロローグ

ここに断言しよう。俺は書きたいと思ったものを書くんだ!だからあんまり急かしちゃ駄目だぜ!
特に俺の知り合いに言ってるんだからね!?

……こほん。失礼、取り乱しました。
緋弾のアリアも結構好きな作品なので書かせて頂きます。しかし漫画とアニメは持ってるものの、小説は無いんじゃ……( ;´・ω・`)
ちらほらと違和感があるかも知れませんが、その時は親切に教えて頂けると非常に有り難いです!何分色々と調べながら書いてるので……。
ではプロローグへどうぞ!



皆は神様転生というものを信じるかな?

勿論僕は信じていなかった。でも今は信じてる、というより信じる他ないんだ。だって僕は死んだ筈なのに生きてるんだから。

 

順を追って話そうか。

 

先ずはアルビノというものをご存知かな?

動物学において、メラニンの生合成に係わる遺伝情報の欠損により先天的にメラニンが欠乏する遺伝子疾患の個体の事を示す言葉で、人間のアルビノは先天性白皮症と呼ばれている。

僕はその先天性白皮症の疾患者だった。日光や紫外線に弱いので皮膚の損傷や皮膚がんになりやすく、脈絡膜と網膜色素上皮における色素欠乏のため網膜上での光の受容が不十分になり視力も弱くなってしまうんだ。

 

まぁ簡単に言えば日光や紫外線にめっぽう弱く、強い光なんかも天敵だという事だね。

 

僕は幼い時から両親に言い聞かされてきたから自分の症状についてはしっかりと理解していた。だから外に出るときは日焼け止めクリームや長袖長ズボンの着用は当たり前で、必ず日傘をさして出歩いていた。

 

太陽が照りつけるとある日、僕の事を心配する両親から厳重注意されながらもいつもの厚着をして外を出歩いていた。僕自身は太陽は嫌いじゃない。それどころか大好きだ。叶うことはないと解っているが、いつかは太陽の下を日光を気にせず歩いてみたいという夢はあった。

そんな叶うことの無い夢を想像しながら歩いていると、唐突にクラクションが鳴り響いた。音の方へ振り向くと、道路を爆走する赤い車がいた。その車はスピードを落とさずに歩道へと向かっていき、その先には凄い勢いで迫ってくる車に驚いて動けなくなっていた女の子がいたんだ。

その事に気付いた僕は女の子を助ける為に日傘を捨てて全速力で女の子の元へ走った。それが良くなかったね。ギラギラと照りつける日光に服の上から皮膚を焼かれながらも間一髪で女の子を助ける事は出来たが、結局車は終始スピードを落とすことはなくそのまま歩道を越えてビルに衝突した。運転手は頭を強く打ち即死し、ビル内に居た13人の内1人が死亡、8人が意識不明の重体で残りの4人は軽傷という悲惨な事故だった。

 

僕が助けた女の子に怪我は無かったものの、僕自身は厚着ではあるが直射日光を浴びてしまい皮膚がんに掛かってしまった。まさか厚着しているのに皮膚がんに掛かると思ってなかった僕は心配する両親に大丈夫だと言い張り、結果として発見が遅れてしまったんだ。まぁ油断してしまった代償だろう。あの時の僕はほんとに間抜けだったなぁ。大人しく両親の言葉に従って病院に行っていればあんな事にはならなかった筈なのにね。

 

長々と話したけれど、結果的には死んでしまったよ。

どうやら皮膚がんだけじゃなくて、色々と掛かってたみたい。ほんとに有り得ない事ばっかりだったよ。

でも、個人的には楽しい人生だったと思う。両親には恵まれたし、悲しい事や辛い事も沢山あったけどそれ以上に楽しい事ばっかりだった気がする。ただ心残りがあるとすれば、最後に両親に生んでくれてありがとうって言いたかったな。

 

そして病室で息を引き取った筈の僕は波に揺られる感覚で目を覚ましたんだっけ。

プカプカと浮かぶ感覚を楽しみながら、これからどうなるんだろうってずっと考えてた。可笑しいよね、死んだ筈なのに考える事が出来たんだからさ。

その後は神様を名乗るチンピラ風の男の人に会った……と思う。曖昧でゴメンね。生前の記憶や神様と会った時の記憶が薄れてきてるんだ。

確かその時に転生させてもらえるって聞いたからお願いした筈なんだよね。ありがちな特典付きで。

 

転生先は〔緋弾のアリア〕と呼ばれる世界。

そして神様にお願いした特典は一つだけ。

それは────

 

「ふぅ……今日も暑いなぁ」

 

〔太陽の下を歩ける普通の体〕だ。

 

今日も僕は太陽の光を全身に浴びながら、僕の通っている学校である武偵校へと歩き出した。

 

神様、転生させてくれてありがとう。

 

生前のお父さんにお母さん、悲しませちゃってゴメンね。あの世界で僕を生んでくれて、育ててくれてありがとう。僕は、伊織はこの世界で元気にやっています!

いつかお父さんやお母さんに会った時に褒めて貰える様に、精一杯生きるから!

 

「今日も1日頑張るぞー!!おー!!」

 

雲一つ無い青空に向かって拳を伸ばす!

 

……勿論周りの視線が僕に突き刺さって痛かったが気にしない気にしない!

 

ここじゃ何時もの事だしね!

 

 

 

 




文才が無いのは分かってる。分かってるんだけども…!
うぅ、精進します……( TДT)

こんなお話でも、読んでくだされば嬉しいです!
ご、ご感想はお手柔らかに……(震え)


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ネクラ少年と白兎

「あっ!伊織君だ!おはようー!」

 

「伊織君おはようー!」

 

「花ちゃん和泉ちゃんおはようー!」

 

同じ諜報科のクラスメイト達や強襲科の人達と挨拶を交わしながら通学路を歩く。太陽の下を気兼ねなく歩ける事を楽しみながら鼻歌を歌っていると、目の前に見知った顔を見付けた。僕は足音をなるべく抑えながらその人物に走り寄り、その背中へと飛び付く。その人物は突然の事にビックリして此方に顔を向けて僕を確認すると、「はぁ……」とため息を溢す。人の顔見てため息つくなんて失礼だなぁ。

 

「やぁキンジ!今日も機嫌悪そうな顔してるね!」

 

「またお前か。いつも飛び付いてくるなって言ってるだろ、伊織」

 

僕よりも背が高くて、ネクラそうに見える彼の名前は遠山キンジ。強襲科のSランク武偵だ。あ、武偵についてお話してなかったね。

武偵っていうのは簡単に言ってしまえば武器の携行を許された武装探偵の事で、武偵はお金さえ貰えれば何でもこなす所謂何でも屋みたいなものなんだよ。

それで、この武偵校にはいくつも学科が存在するんだ。

メジャーな所だと、戦闘がメインで犯人の鎮圧や悪い組織の制圧とかドンパチやってる強襲科、狙撃をメインで教えていてたまに見所のある強襲科の人を転属させようとする狙撃科、得た情報を元に猫探しとかの小さい事件からたまに大きな事件とかを解決する探偵科、名前通りの医療科から色々と装備を揃えてくれる装備科とか、まだまだ沢山あるんだけど割愛するね。

後、ランクっていうのはそのままの意味でE・D・C・B・A・Sまでランクの格付けがあるんだ。Sに近いほど凄い武偵って事だね!ほんとはまだ上のランクがあるらしいんだけど、武偵は基本的にSランクまでしか無いから気にしなくても良いみたい。

 

「わかったかな?」

 

「なんのことだ?」

 

「んーん、何でもないよ!此方の話」

 

ぶらーん、とキンジの首に腕を回しながらぶら下がる。

んー、やっぱり背が高いのは羨ましいや。

 

「こら!そろそろ降りろ!邪魔だ!」

 

「えー、いーじゃん!……どしたの?顔赤いよ?」

 

「お前の腕がキマってんだよ!」

 

肩越しにキンジの顔を見ると顔が赤かったから聞いてみたら、どうやら僕の首絞めが入ってしまってたみたい。

僕は「ごめんごめん」と謝りながら身軽にスタッと着地する。因みに、キンジの身長は170位で僕は160ちょっと位だ。

 

「大丈夫だ……伊織は男……俺はホモじゃない……」

 

「ほんとにどしたの?風邪?」

 

キンジは心臓に手を当てながら自分に何かを言い聞かせる様にぶつぶつと呟きながら深呼吸している。

もしほんとに僕の絞め技が入ってたら悪いし、トテテとキンジの前に回り込み様子を伺う。僕よりもキンジの方が背が高いので必然的にキンジを見上げる感じになってしまう。うん、中々に首が辛い。すると、ふとキンジと視線が合うがキンジは僕から目線を外しスタスタと歩き始める。

 

「あ!待ってよー!」

 

「ついてくるな!お前諜報科だろ!なら別クラスじゃねぇか!」

 

「まぁまぁそんなこと言わずにさ。どうせ途中まで道一緒なんだから!」

 

僕は置いていかれない様にキンジの後ろをヒョコヒョコとついていく。なんだかんだ言っても、結局一緒に登校してくれるキンジって結構優しいよね。

 

~キンジ~

 

「はぁ……なんなんだあいつ」

 

結局あの後伊織と一緒に登校した俺は疲れきっていた。

理由は簡単、伊織のせいだ。

あいつの名前は〔稲葉 伊織〕。背丈は大体160位で、プラチナブロンドの髪を伸ばしており中性的な顔立ち。クリッとした瞳はルビーの様に真っ赤だ。体の線は細く、華奢という言葉が似合う。持ち前の危機感知能力と逃げ足の速さ、そして見た目から武偵高校の奴らに〔因幡白兎〕と密かに呼ばれている。

どっからどう見ても女子にしか見えないが正真正銘の男だ。しかしそんな見た目と女子の様な甘ったるい香りのせいで俺の忌まわしい体質が反応しかけてしまうのだ。無論伊織は数少ない友人だと思ってはいるが、そういう対象には絶対にならない。というかなったら俺は死ぬ。

 

パーン!

 

伊織への対抗策を考えながら徐に強襲科の扉を潜ると、俺の右頬すれすれを1発の弾丸が通過する。

冷汗を流しながら発砲元に目を向けると、ギラギラと殺意を込めた目で俺を睨んでいる強襲科の馬鹿共がいた。

 

「来たなキンジ!早速死ね!さっさと死ね!」

 

「伊織ちゃんに近付くとは!ふてぇ野郎だ!死ね!」

 

「畜生!羨ましいぞキンジ!死ね!お前は死ねぇぇ!」

 

「ねぇねぇ遠山君!やっぱり伊織君と付き合ってるの!?」

 

「きゃー!キンジ×伊織よ!やっぱりこのカップリングだわ!」

 

カオスが目の前に広がっていた。激しい嫉妬を燃やす奴から謎のカップリングを成立させようとしている奴まで様々だ。というか羨ましいってなんだ!伊織は男だぞ!?そこの女子共!俺はホモじゃないからな!?男と付き合う趣味はない!!

だがそれを言おうにも、この状態では火に油を注ぐ様なものだ。故に今出来る事は一つ。

 

「逃げるが勝ちだ!!」ダッ!

 

俺は全速力で逃げ出した!

 

「「「待てやぁぁぁぁ!!」」」ダダダダダ!

 

「くそっ!!ふざけんなぁぁぁぁ!!」

 

修羅と化した強襲科の馬鹿共がM16やらMP5やらコルトガバメントやらをぶっ放してくる!

畜生!俺が何したっていうんだ!

 

「伊織ぃぃぃぃ!覚えてろよぉぉぉ!」

 

俺の叫び声は虚しく青空に溶けていった。

 

 

~伊織~

 

「ん?キンジ?」

 

「どうしたの?伊織君」

 

「ん、何でもないよ。気のせいだったみたい」

 

なんかキンジの叫び声が聞こえた様な気がしたけど……まぁ強襲科だし叫び声位上げるよね。あそこの挨拶って「死ね!」だった筈だし。あれ?でも僕は言われた事無いな。記憶違いだっけ?

 

「次、稲葉君!」

 

「あっ、はい!」

 

月読先生に呼ばれた僕は先生の所へ駆け寄ると、先生から1枚のプリントを渡された。そのプリントにはパッと見は適当に文字が散りばめられている。俗にいう暗号文で、これは諜報科同士で使う暗号文の代表格だ。

 

「これを解いてみて。解読出来た時点で計測を終了するからね」

 

「はい!」

 

僕は懐から解読用の紙を取り出し、なるべく速く様々なパターンを模索する。少し詰まってしまったのでよく羅列を見ていると、とある法則性に気付いた。

 

(あ、これ少し前にやったやつの応用だ。だったらこうしてこうすれば!)

 

諜報科の皆が暗号文を解読する僕を見つめながら今か今かとソワソワしているのが気配で分かる。でもそんなことも気にせず、先程とは打って代わってスイスイと解読を進め─────

 

「出来ましたぁ!」

 

何とか解読に成功した!

 

「はい、お疲れ様。記録は……5分49秒。流石稲葉君ね」

 

「ほんとですか!わーい!」

 

この授業での暗号文解読の平均時間は6分弱、つまり平均時間を越える事が出来たのだ!本来なら解読するのは5分以内で収めなきゃいけないんだけど、それが出来るのは一年生後半位になるみたい。僕の前の記録は5分56秒だったけど、今回で7秒程短縮することが出来た。

無邪気に喜ぶ僕に何故か皆が暖かい視線を向けてくる。

月読先生はコホンと咳払いしてから手を叩いて皆の注目を集める。

 

「はいはい。稲葉君の可愛さに見惚れてないで次、大塚君」

 

「う、ういっす!」

 

「大塚君!頑張れ!」

 

「おう!見とけよ稲葉!」

 

この後、大塚君は健闘したけど結局解読に失敗してしまった。ドンマイ!そういう時もあるよ!

 

 

 

 

 




今回の暗号文解読には深い意味はありません。諜報科ってこんなことしてそうだなぁという作者の思いつきで始まりました。だから暗号について詳しい事聞かれても……ね?

ゆるりゆるりとご感想お待ちしております。


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闇夜を駆ける兎

ヒロイン誰にしようかな……


夜、とある工事中ビルにて闇夜に溶け込むように黒い服を来た男達と運送業者の格好をした男達が密会をしていた。黒服の男達は一人を除いて軽く武装しており、逆に業者の男達は結構身軽に見えるが懐が不自然に盛り上がっている。これだけで懐に何かを隠し持っているのが分かる。

 

「例の物は揃えたんだろうな?」

 

「あたりめぇだろ。俺らに揃えられねぇ物なんざねぇよ」

 

サングラスを掛けた黒服の男がやや高圧的に業者の男に詰め寄るが、業者の男は得意げに返す。そして業者の男が後ろにいた仲間に目で合図を送ると、男の仲間が大きな箱を数人係りで運んでくる。サングラスの男も目で部下に合図し、荷物を確認させる。

 

「高城さん、確認しました」

 

「よし、此方も報酬を「誰だ!?」なんだ!?」

 

サングラスの男───高城が報酬を渡そうと部下に指示を出そうとしたとき、業者の男の仲間が突然灯りの点いていない暗がりへ銃を向けた。高城や彼の部下達には何も見えないのだが、業者の男達は誰かがいるのに気付いているようだ。

 

「おい、見てこい」

 

「おう」チャキッ

 

業者の男の一人が銃を構えながらゆっくり気配のした方へ歩いていく。高城の部下達も銃を抜き、周りを警戒している。

 

「動くな!………誰もいねぇぞ」

 

男は気配のした場所を確認してみたが、そこには誰もおらず誰かがいたような痕跡も残ってはいなかった。

男はそれを確認し、仲間に報告すると元の場所へ戻ろうとする。

 

「っ!待て!」

 

「は?」

 

仲間からの唐突な指示に面食らった男はつい一歩だけ踏み出してしまい、その瞬間にパシュッ!という音と共に男が呻き声声を上げてその場に倒れる。仲間はそれを見て舌打ちをすると、音の発生源に銃を構え発砲した!

 

「おい!一体何が起きてやがる!」

 

「俺らを覗き見してる輩がいるんだよ!何処の飼犬か知らねぇが始末しとかねぇと後が面倒くせぇ!」

 

リーダー格二人が会話している間にも業者の男達と部下達が発砲しており、何者かが暗闇の中を動き回っている気配がしている。

 

「何なんだ!何処にいやがる!」

 

「ライトで照らせ!どうせ暗視スコープが何かを使ってやがるんだろ!目を潰してやれ!」

 

男の指示に従いフラッシュライトの光を気配の方へ向けると、暗闇が光によって照らされるが一瞬にしてライトが破壊された。しかし業者の男は一瞬だか敵の姿を垣間見た。

160前後の身長に長いプラチナブロンドの髪、そして此方を見つめる赤い瞳。小柄な〔少女〕が大の大人達を相手に立ち回っているのを男は見たのだ。

 

「……ガキ、しかも女だと?」

 

「何をやっている!相手は一人だけだろう!さっさと殺せ!」

 

業者の男が一人驚いている間、高城が部下に指示をだし部下達はむやみ矢鱈に銃を撃っているせいか当たっている気配はせず、逆に一人ずつ「うっ」と声を上げて倒れていく。

 

「な、何なんだ!速く殺せ!」

 

「ちっ、こりゃもうだめだな」

 

高城が少しずつ怯えを見せていく中、男は悪化していく状況に舌打ちしつつもその表情は楽しげだ。そっと倒れている自分の仲間の脈を確認してみると、どうやら死んでいない事は分かる。だが眠るように気絶している事から、相手が使用しているのは十中八九麻酔銃だろう。

 

「こいつぁまた……捨てるか」

 

男は目をつけていた高城の部下を不意討ちで気絶させ、懐から何かを取り出した。それはメモリースティックだった。

高城は男の行動を見て、男に銃を構える。

 

「てめぇ!裏切るつもりか!」

 

「なにいってやがる?正当な報酬を貰ってるだけじゃねぇか。元々こいつと交換だったんだしな。それに───」

 

激昂する高城を尻目に男は手の上でメモリースティックを弄ぶと、高城と被るように移動する。高城はその行動を理解出来なかったが、パシュッ!と何かを撃ち込まれた音が聞こえたかと思うとどんどん意識が遠退いていく。

 

「…く…そが……」

 

「あばよ。良い壁役だったぜ」

 

高城が気絶したのを確認すると、未だ交戦中の仲間にバレないようにこっそりと男は逃げ出した。

男が逃げ出したのに仲間が気付いたのは最後の一人が意識を失う間際だった。

 

無事に逃げ仰せた男は路地裏に駆け込むと、一人笑い声が漏れ始める。

 

「ひ、ひひ。良い女じゃねぇか……いつか頂くぜ、絶対にな」

 

男の下卑た笑みと笑い声が溢れるが、男は気付くことが出来なかった。その少女が武偵高校の人間だということ、そしてその少女は〔少年〕であるということに。

 

 

一方、結局状況を一人で制圧する事が出来てしまった伊織は突入班だったキンジに叱られていた。

 

「馬鹿かお前は!一人で戦闘始めるなんて死にたいのか!何のために俺達突入班がいると思ってるんだ!」

 

「ご、ごめん」

 

伊織はキンジに叱られてしゅんとしてしまい、小動物のように震えている。庇護欲を誘うその姿に流石のキンジもこれ以上怒れず、しかも周りからキンジを非難する視線が増えてきたのでキンジは説教を一旦止めた。

 

「んで、ここで伸びてる奴らで全員か?」

 

「ん、一人だけ逃がしちゃったみたい……」

 

伊織が指で「ひーふーみー……」と数えていたが、申し訳無さそうな顔で一人捕り逃した事を伝え、キンジの様子を伺うように恐る恐る顔を上げてキンジを見つめている。キンジは溜息を一つ溢すと、伊織の頭をガシガシと撫でる。プラチナブロンドの髪はサラサラで、頭を撫でる度に良い香りが漂ってきてヒスりそうになるが、男としての尊厳を守る為何とか耐えきった。

 

「わわっ!なにするのさ!」

 

「一人捕り逃したのは惜しいが、まぁお前に怪我が無かったから良かったな」

 

キンジは恥ずかしくなってそっぽを向いて歩き去ろうとすると、伊織はキンジの服の裾を掴む。キンジが後ろに振り向くと、伊織と目が合う。

 

「……ありがとう、キンジ」

 

「っ!」

 

フワッと頬笑みながら感謝の言葉を送った伊織の顔に不覚にもドキっとしてしまったキンジは、顔が火照っていくのが分かり何も言わずに伊織から逃げた。

一瞬キョトンとした伊織だったが、キンジの顔が赤くなっているのに気付き「キンジってば仕方無いなぁ」と笑顔を溢しながら突入班と合流しに行くのだった。

 

 

 

 

「俺はホモじゃない……俺はホモじゃない……」

 

「……お前ほんとにどうしたんだよ?」

 

キンジは終始自分に言い聞かせるようにブツブツと呟いており、クラスメイトが話し掛けてきているのにも気付くことはなかった。

 

 



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兎とロボット、時々キンジ

緋弾のアリアでロボットといえば────


「うぅ、やっぱり高いなぁ……」

 

装備科の帰り道、僕は財布の中身を確認しながらとぼとぼ歩いていた。実はこの前のテロリスト制圧の際に使っていた麻酔銃が故障しちゃったから装備科に持っていったんだけど、直すのに結構な諭吉さんが羽を付けて飛んでっちゃったんだ。お陰で僕の懐は現在凄く寒い……。

 

「うー……何か依頼を受けて稼がないと……あ!」

 

依頼が張り出されている掲示板に向かっている最中、クラスメイトの一人を見つけた。

 

「レ~キちゃん!こんにちわ!」

 

「こんにちわ」

 

相変わらずの無表情で挨拶を返してくれた彼女は僕のクラスメイトのレキちゃんだ。専門学科は狙撃科で、狙撃成功率は99%かつ狙撃範囲は2051mもあるんだって!

勿論ランクはSランク!レキちゃんのファンクラブもあるんだよ!

でも、レキちゃんにはちょっと変な渾名があるんだ。

 

「レキちゃん今暇?」

 

「はい」

 

「じゃあ一緒に依頼行かない?レキちゃんがいると心強いんだよね!」

 

「分かりました」

 

「ほんと?わーい!」

 

レキちゃんと依頼受けれるぞ~!あ、そうだ。その渾名っていうのは、〔ロボット・レキ〕なんだよ!さっきの僕との会話でも、誰と会話しても基本的にレキちゃんは無表情なんだ。それに人前で感情を表したりしないから、そこから〔ロボット・レキ〕って呼ばれてるんだ。

でもね、実は僕その渾名はあんまり好きじゃないんだよね。だってレキちゃんは感情もあるし笑ったりもするんだよ?皆は「そんなの見たことない」って言うんだけど……。

 

「じゃあ一緒に依頼見に行こ!実はまだ何にも選んで無かったんだよね~。レキちゃん良い?」

 

「はい」

 

「それじゃあ依頼探しにしゅっぱーつ!」

 

僕はレキちゃんの手を引っ張って掲示板へと向かう。

レキちゃんとの依頼は久しぶりだし、楽しみだなぁ!

キンジも見つけたら誘おっと!

こうして僕はレキちゃんを連れてルンルン気分で依頼を探しに行った。

 

 

~キンジ~

 

日課の射撃練習を終えて絡んできた強襲科共をなぎ倒して来た帰り道、ふと財布の中身に危険が差し迫っている事を思い出した俺は小遣い稼ぎに依頼を受けようと掲示板に向かっていると、壁にもたれ隠れながら観察しているクラスメイトを発見した。少し気になり話を盗み聞きしてみると……

 

「おい見ろよ、伊織ちゃんとレキちゃんだぜ!」

 

「うお!ほんとだ!こう見るとまだ伊織ちゃんの方が大きいけど、やっぱ二人ともちっちゃくて可愛いなぁ……」

 

「てか伊織ちゃんレキちゃんと手繋いでんじゃん!?」

 

「「ほんとだ!?百合キタコレ!!」」

 

馬鹿が馬鹿な会話をしていた。ほんとにどうしようもねぇなコイツら……。てか伊織は男だから百合ではないぞ。バレてもめんどくさいので、俺も隠れながらそのまま盗み聞きを続ける。

 

「お?二人とも何処かに向かうみたいだぞ。あの方向って確か」

 

「依頼掲示板がある方向だな。多分依頼を受けるんじゃないか?」

 

「って事はこれを期に伊織ちゃんとレキちゃんの二人と仲良くなるチャンスでは?」

 

「「「………」」」

 

おいおい、コイツらまさかそんな下らない理由で一緒に依頼受けるとか言わないよな……?

 

「「「行くしかねぇよな!あの桃源郷に!」」」

 

マジで馬鹿だろコイツら!?しかもあの目は獲物を狙う肉食獣そのままだぞ!このままじゃマジで伊織達が危ないかもしれない。

 

「はぁ……仕方ないか」

 

俺は隠れるのを止めて伊織達に合流しようとしていた馬鹿三人に近付くと、一人の肩をガシッと掴みメキメキと力を入れる。

 

「っ!誰だ!ってイダダダダ!」

 

「どうした河上って遠山!?いつの間に!」

 

「げぇっ!キンジ!?」

 

俺に気付いた三人は顔を青くする。河上と呼ばれた馬鹿一人は俺の手から逃れようとしているが、良い具合に指が肩に食い込んでいるので外そうとしても痛みで上手く力が入っていない。

 

「伊織は良くも悪くも優しい奴だからな。どんな馬鹿でも優しく接しちまうんだ。だからお前らみたいな下心丸出しの馬鹿共にも優しくしてくれるだろうが……」

 

「ま、待て遠山!話せば分かる!」

 

「流石に見て見ぬ振りは出来ないよなぁ?」パキッ!

 

「ぎゃあぁぁぁぁ!」

 

「「うそやん……」」

 

スッと指を肩の隙間に突込み広げることで肩を外してやる。こうでもしないとこういう馬鹿は止まらないからな、経験上。残る二人はその光景を見て絶句しているが、俺が視線をそいつらに向けた瞬間ガタガタと震え出した。

 

「お前らもやるか?加減は出来ないかもしれないけどな」

 

「「え、遠慮しまーす!」」

 

馬鹿二人は河上を回収すると一目散に逃げていった。恐らく救護科に向かったんだろう。

 

「……はぁ。何してんだろ、俺」

 

「あっ!キンジー!」

 

やべっ、さっきの河上の声で気付かれたか!

伊織はレキの手を掴んでいるからか此方に走り寄っては来なかったが、その代わり掴んでいない手でブンブンと此方に向かって手を振っている。

 

「……こんな筈じゃ無かったんだけどな」

 

「おーい!一緒に依頼行こー!楽しいぞ~!」

 

「ったく、分かったから少しは落ち着け!」

 

まぁいいか。どうせ俺も小遣い稼ぎに依頼受けるつもりだったし、さっきみたいな馬鹿共も俺がいれば寄り付かないだろ。

今もなお元気に手を振っている伊織と何時も通りの無表情で此方を見ているレキに苦笑いし、二人に合流しに行った。

 

「えへへ~♪この三人ならどんな依頼も余裕だね!」

 

「……」

 

「どっからそんな根拠が出てくるんだか……」

 

まぁでも、たまにはこんなのも良いかもしれないな。

 

 

 

 

「キンジさん」

 

「ん?どうしたレキ」

 

「伊織さんの事が好きなんですか」

 

「……はっ?」

 

この後、レキにどうして〔俺が伊織を好き〕だと思ったのか聞いたら河上達の名前が出てきた。

帰ったら覚えとけよお前ら。

 

「まぁそんなわけで誤解だ。つか、そもそも伊織は男だし俺はホモじゃない」

 

「そうですか」

 

レキに誤解だと教えると、無表情で納得してくれた。

 

……少しだけホッとしてるように見えたのは俺の気のせいだろうな。

 

 

 

 




まだヒロインは決まってませんからね?

ゆるゆるとご感想お待ちしております(*^-^)ノシ


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二人のハプニング!突撃武装巫女!

喜べ諸君!ラッキースケベの時間だ!


皆様おはようございま~す(小声)

僕は今 キンジのお部屋に忍び込んでま~す(小声)

鍵?鍵ならちゃんと開けられました。これでも僕は諜報科だからね!鍵開けなら朝飯前だよ!

そーっと寝室の扉を開けて中の様子を伺うと、二つの二段ベッドのうち片方の二段ベッドの下でモソモソと動く大きな塊を発見。少しの間モソモソと動いた後、静かに上下に動いてる事から寝返りをうっていたのが分かるね。

 

「フッフッフ、ちょっと憧れてたんだよね。こういう悪戯」

 

足音を殺しながらキンジの寝ているベッドに近付いてみると、キンジは僕に気付く事なくスヤスヤと寝息をたてて眠ってる。普段は鋭い目つきだけど、寝てる時は無防備で可愛いなぁ。あれ?でも男に可愛いは誉め言葉になんないか。

 

「さてさて、そろそろ起こさないと時間もヤバイし。失礼しまーす」モゾモゾ

 

 

 

 

 

~キンジ~

 

「ん……んぅ……」

 

なんだ……なんか暑苦しいな……それになんか背中から柔らかい感触が……

 

「キ~ンジ♪朝だよ、起きて?」

 

「ん……」

 

なんか耳元から聞き慣れた声が……

 

「……起きてくれないと悪戯しちゃうよ?良いの?」

 

それは困るな……ん?悪戯?

 

「ふーん、良いんだ?なら悪戯しちゃうからね♪」

 

待て……待て待て待て……この甘ったるい匂いに男らしからぬ高めの声……まさか!

 

「それじゃ稲葉伊織!悪戯しちゃいま────」

 

「なんでお前が俺の部屋にいるんだよ!?」ガバッ

 

「わっ!ビックリしたぁ」

 

布団を勢いよく捲ると、俺の布団の中に潜り込んでいた伊織がいた!伊織は「えへへ~」と笑いながら悪戯が成功した子供のような笑顔を浮かべているが、俺としてはそれどころではない!

 

「な、何してんだ伊織……」

 

「え?キンジを起こそうとしてたんだよ?」

 

意味が分からん。仮にほんとに俺を起こそうとしていたなら布団に潜り込んでくる意味が分からん。

 

「何で布団に潜り込んでくるんだよ!普通に起こせばいいだろう!?」

 

「フッフッフ、実はこんな起こし方してみたかったんだよね!前はされる側だったし!」

 

伊織は平然とニコニコ笑ってやがるがやっぱこいつも馬鹿だ!明らかに男が男に対してやる行動じゃねぇだろ!?しかも伊織の見た目も相まってより危険だ!俺にとっては爆弾そのものだぞ!?

 

「はぁ……朝から疲れさせるなよ……」

 

「ごめんごめん。でもキンジの寝顔は可愛かったから大丈夫だよ!」

 

何処がだ!じっくり他人の寝顔見てんじゃねぇ!

あぁクソ!顔に熱が籠っていくのが分かるぞちくしょう!落ち着け俺!

 

「とにかくベッドから降り───」ピンポーン

 

「お?誰か来たみたいだね。白雪ちゃんかな?」

 

チャイムが聞こえた瞬間、俺の中に焦りが生まれた。こいつと白雪の仲は良好だ。初めの頃は伊織が男だと気付かず、ベタベタと引っ付いてくる伊織を見て白雪が暴れた事があった。何故か分からないが、今俺の脳内にその時の光景がフラッシュバックした。

これは……不味い!

 

「い、伊織!早く降り「待ってね、今動くから」ちょっ!」ゴンッ!

 

俺が伊織を跨いで動こうとした瞬間、運悪く伊織が起き上がってしまいお互いに頭をぶつけてしまう!

あ、頭がクラクラする……

 

「あ、わわ」フラッ

 

「伊織!待───」

 

ドサッ!ゴンッ!

 

伊織が目を回しながら動こうとしたせいでお互いに不安定な体制になり、伊織が俺に向かって倒れ込んで来た為に体制が維持出来なくなり二人してベッドから落ちてしまった。

 

「キンちゃん!?どうしたの!?何か大きな音がしたよ!」

 

やっぱりチャイムの主は白雪だったみたいだ。今の音を聞き付けてしまったみたいだが、玄関は鍵が掛かっている筈だから入っては来れない筈……!

 

「いつつ……大丈夫か伊織……っ!」

 

「うぅ……頭打ったよぉ……いったぁ……」

 

目を開けると、そこには俺にとっての地獄が広がっていた。

俺が伊織を押し倒すような形でベッドから落ちてしまったのだ!しかも伊織は後頭部を打った痛みで涙目だ。

なにより最悪なのは俺の右手が伊織の服を咄嗟に掴んでしまっていたようで制服が少し乱れており、透き通るように真っ白で綺麗な鎖骨が見えている。左手は伊織の右手を押さえ込んでいる。

伊織の男らしからぬ扇情的な姿と雰囲気に俺は思わず息を飲んだ。

ってかこれじゃあ俺が伊織を襲ってるみたいじゃねぇか!?

 

「うぅ……キンジ?」

 

「っ!わ、悪い!今退くからな!」

 

そんな潤んだ目で此方を見るな!こいつマジで男だよな!?

慌てて伊織の上から退こうとすると、バタバタと走って来る音が聞こえてきた。

はっ!?まさか白雪か!?どうやって中に……!

って伊織がここに居るのが答えじゃねぇか!鍵掛かってないなちくしょう!

 

「待て、白雪!開けるなぁ!?」

 

「キンちゃん大丈夫!?………え」

 

あっ、終わったなこれ。俺は伊織を押し倒すように伊織の上におり、俺の片手は伊織の服をひん剥くように掴んでいる。そして伊織は俺に拘束されながら目に涙を溜めている。どっからどう見ても俺が伊織を襲ってるようにしか見えない。

 

「キンちゃん……?これは、どう言うこと……?伊織君を……襲ってるの……?」

 

「待て!落ち着け白雪!これはお前の勘違いだ!これは事故だ!?決してやましい事はしてないし、やろうともしていない!」

 

「ふ、ふふふ。キンちゃんが伊織君を……キンちゃんが……ふふ……」

 

「し、白雪……?」

 

どんどん白雪の瞳からハイライトが失われていく!しかも何故かどす黒いオーラまで見えるぞ!?

これはあの時の……!

 

「うー……だいぶマシになってきたぁ……って白雪ちゃん?おはよ……う?」

 

あぁ伊織、このタイミングで復活してしまったか。

 

「伊織君の……泥棒猫ぉぉぉ!」

 

「え!?何々!?どゆこと!?」

 

「問答無用おぉ!キンちゃんにまとわりつく女は皆敵なんだからぁぁ!」シャキン!ブン!

 

「僕は男だよ!ってわぁ!?危ないよ!?死んじゃうよぉ!」

 

「天誅ぅぅぅぅ!!」ブン!ブン!

 

「わぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

白雪がハイライトの消えた目で刀を振り回し、伊織はひょこひょこと刀を懸命に避けている。

悪いな伊織……今回ばかりは俺の布団に潜り込んできたお前が悪い。

俺はそっと寝室から出ると、ベランダのカーテンを開けて太陽の光を浴びる。

今日も良い天気だなぁ。

 

「ほんとに心臓に悪いな……」

 

このままではマジで伊織でヒスる事態が起きそうで怖い。しかし未だ対抗策は考えつかないのが現状だ。

 

「男相手にヒスったら俺は死ぬ自信がある……」

 

未だ寝室から聞こえてくる戦闘音と伊織の悲鳴をBGMに、快晴の空を眺める。脳裏に先程の制服が着崩れた涙目の伊織の姿が過り、急いで頭の中からその姿をかき消す。

 

「珈琲でも飲んで落ち着こう。そうしよう」

 

結局この日は三人して遅刻した。

 

 

 

 




残念だが、ラッキースケベの対象になったのは白雪ではなく伊織君だ!

皆様のご感想は毎回楽しみにしています!
これからも無理せずゆるゆるとご感想を頂ければ作者はもうちょっと頑張りますw
なのでドシドシご感想下さい!ゆるりとお待ちしております~(*^-^)ノシ


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白兎の弱点、意外な訪問者

いつも元気に過ごしている伊織君。しかし彼には以外な弱点が……?

評価が4件も頂けていて、作者は感無量です!
( ;∀;)カンシャッ!
皆様に楽しく読んで頂けるだけでも嬉しいのに!作者泣いちゃう!

これからも拙いこの作品の応援をしていただければ幸いです!





~キンジ~

 

ザアァァァァァ

 

「ひどい雨だな……」

 

窓の外を眺めながら何気無くポツリと呟く。今日の天気は大雨で、風も強い。さっきから強風で窓ガラスがガタガタと音を鳴らしている。

 

「ようキンジ!今日は伊織と一緒じゃないんだな」

 

「武藤か……いつも一緒にいるわけじゃない」

 

俺に話し掛けて来たのは武藤剛気。 専門は車輌科で、以前白雪の事で喧嘩を振ってきたから殴り合いに発展したことがあり、その時以来何故かこいつと話すようになった。と言うよりこいつから話し掛けてくる。

 

「そっかぁ?色んな奴がお前と伊織がセットだと思ってるみたいだぞ」

 

「向こうから絡んでくるんだ。俺の意思じゃない」

 

そうだ、伊織が毎回俺の近くにいるのは向こうから絡んできているからだ。俺から側に行った事は未だ無い。

 

「そういや、今日は全然姿見ねぇなぁ。普段ならいつも元気に動き回ってるのによ」

 

「今日は伊織は休みだと思うぞ」

 

「は?何でわかんだよ」

 

伊織が休んでいる理由か。そんなものは簡単だ。

 

「雨、だからな」

 

「は?」

 

武藤は俺の言葉に首を傾げているが、意味はそのままだからな。

 

……帰りにあいつら誘って様子でも見に行くか。

 

 

 

~伊織~

 

ザアァァァァァ

 

雨の音がする……そっかぁ……今日は雨かぁ……。

体はまるで金縛りにあったかのようにピクリとも動かせない。思考も纏まらない……心が冷めていく……布団はしっかり被っている筈なのに肌寒さを感じる……。

誰かに会いたい……一人ボッチは寂しいよぉ……。

 

うー……キンジ……レキちゃん……白雪ちゃん……皆に会いたいなぁ……

 

そんな想いを抱えながら、僕は深い眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

~キンジ~

 

俺は現在講義を全て終え、白雪とレキを連れて伊織の部屋へと向かっている最中だ。白雪に事情を話すと心配してついてくるようだ。レキは伊織の部屋へ向かう道中だったのか、途中で合流した。

白雪はともかくレキが他人を気にするなんて珍しいこともあるもんだな。

コンビニで伊織の好物のプリンを買って部屋の前まで来たものの、問題が一つ発生した。

 

「やべっ……チャイム鳴らしても出てこれないだろうし、鍵どうするか……」

 

「鍵なら持ってます」ガチャッ

 

「え?」

 

レキが何事もなく懐から鍵を取り出し、部屋の鍵を開けて中へと入っていく。俺と白雪はレキの行動に少しポカンとするが、気をとりなしてレキの後に続く。

意外にも伊織には同居人がおらず、俺と同じように四人部屋を一人で使っている。リビングのテーブルには弾薬ボックスと作業道具が置いてある。

 

「なぁレキ。何でお前が伊織の部屋鍵を持ってるんだ?」

 

「伊織さんに渡されました」

 

「伊織が?」

 

俺が聞き返すとレキは静かに頷いた。因みに白雪は伊織の部屋が予想と違って意外と質素である事に驚いている。まぁ気持ちは分からなくない。俺も初めて伊織の部屋に入った時は必要最低限の家具や道具があるだけの部屋を見てビックリしたからな。

 

「ねぇキンちゃん。ここが伊織君の部屋なの?」

 

「あぁ。まぁ驚くのも無理無いよな。普段のあいつからは想像出来ない部屋だろうし」

 

「うん。もうちょっとファンシーな部屋だと思ってたんだけど……なんかシンプルだね。それに……」

 

「?どうした?」

 

白雪は顔を少ししかめていたが、「ううん、何でもないよ。私の気のせいだったみたい!」と首を振って何時もの表情に戻った。なんだったんだ?

俺と白雪の会話を流し目で見ながらレキは伊織の寝室に真っ直ぐ向かっていく。

……なんかこいつ慣れてないか?

取り敢えずレキについていくと、静かに寝息をたてる伊織を発見した。

 

「よく寝てるね……やっぱり具合が悪かったのかな」

 

「いや、これは伊織の体質らしいぞ」

 

「体質?」

 

「本人いわく、〔雨〕が駄目らしい。雨の日は凄まじい眠気に襲われて、自力で起きる事が出来ないって言ってた。後───」

 

「……キンジ……レキちゃん……白雪ちゃん……みんなぁ……」

 

俺が白雪に説明していると、伊織が寂しそうに声を上げる。レキが寝ている伊織に近付いてそっと手を握ると、伊織の表情が少しだけ柔らかくなった。

 

「後、凄く寒くなるらしい」

 

「寒くなる……?どういう意味なんだろう」

 

「俺にもさっぱり分からん」

 

こればっかりは伊織から聞いてもよく分からなかった。

ただ、何となくだが伊織の存在が薄まってるような、そんな有り得ない感覚がする。個人的に不愉快な感覚だ。

 

「……やっぱり、風の音が聞こえにくい」

 

「ん、どうしたレキ?」

 

「いえ、何でもありません」

 

なんだ?白雪といいレキといい、今日の二人はなんか普段と違うな。一体どうしたんだ、本当に。

取り敢えず暫く様子を見ていたものの、伊織は一向に起きる気配がしなかったので俺と白雪は買ってきたプリンを冷蔵庫に入れて帰ることにした。レキは泊まっていく事になった。伊織がレキの手を握って離さなかったからだ。レキも大変だな……。

 

俺は伊織の部屋の前で白雪と別れる際、白雪から信じられない言葉を聞いた。

 

「ねぇキンちゃん……伊織君には気を付けておいた方が良いかも……」

 

「はぁ?唐突に何を言い出すんだ?」

 

白雪の口から出たのは忠告だった。しかも普段から人懐っこい伊織に対して気を付けろと。

俺は思わず白雪に聞き返した。

 

「あっ!えっと、ごめんねキンちゃん!今のは忘れて!それじゃ私行くね!」ダッ!

 

「あっ、おい!……なんなんだ、マジで」

 

しかし白雪は俺の質問に返答することはなく、先程の発言を忘れてくれと言って走り去ってしまった。

あぁ、マジで意味が分からん!

ガシガシと頭をかき、俺はモヤモヤとした何かを感じながら自分の部屋へ戻った。

 

結局伊織は1日中目覚める事はなかった。

 

 

 

 




少しだけシリアス感をプラス。
……あれ?レキがヒロインしてる……?

ゆるりとゆるりとご感想お待ちしております~(*^-^)


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大規模密売組織〔黒狸〕

今回は伊織君達の出番はありません。


豪華な装飾が施された一室で、金髪の男性はチョコレートを食べながらとある映像を見ていた。

 

「ほう……やはり興味深いな」コンコン

 

金髪の男性は興味深げに映像の〔少女〕を見つめていると、ノック音がなり一人のオールバックの男性が部屋へと入ってくる。

 

「セベロさん、この前のベトナムでの跡始末の報告書が出来たので持ってきました」

 

「ん?あぁ、ジェームズか。ご苦労様」

 

ジェームズと呼ばれた男は金髪の男性〔セベロ〕に報告書を手渡すと、セベロが見ていた映像を覗き見る。そこにはハッキリと姿の映った一人の少女が最後の黒服の男、高城を倒した瞬間のシーンが流れていた。

 

「この子供は前に堂本が言っていた人物ですね」

 

「あぁそうだよ。いやはや、パッと見ただけじゃ全然分からない。この子が少女ではなく〔少年〕だということにね」

 

「全くです。自分も調べるまでは信じられませんでした。彼は将来凄い美人になりますよ。それこそ女だったら口説きに掛かりたいくらいには」

 

「くくっ、君は変わらないな。確かに彼は美人になるだろうが、それよりも私には気になる事がある」

 

「気になること、ですか?」

 

セベロはジェームズから渡された報告書に目を通しながら、自分が気になった事を口頭で伝える。

 

「彼は先天性白皮症だよ」

 

「……は?それってアルビノってやつですか?」

 

「その通り」

 

セベロは楽しそうに笑いながら再びチョコレートを口に運ぶと、先程の映像とは別の映像を映し出す。そこには先程の少年がネクラそうな少年と無表情な少女を連れてニコニコと楽しげに移動する姿があった。

 

「君は先天性白皮症についてどれくらい知っているかな?」

 

「あー……詳しくは知りませんが日光や紫外線、それと強い光に弱いってのは聞いたことがあります」

 

ジェームズは頭を掻きながらセベロに自分の知っている内容を話すと、セベロは「ふむ」と頷くと言葉を続ける。

 

「まぁ大雑把に言えばその通りさ。先天性白皮症の疾患者は君の言う通り太陽の光と紫外線が天敵なんだ。直接浴びてしまえば皮膚が焼けたり、皮膚癌に掛かったりする。それと疾患者は視力が弱い事が多い。まぁこれは色素量によるんだがね。疾患者は色素量が少ないから遮光性が不充分になり、光を非常に眩しく感じてしまうんだ。失明することだって有り得る」

 

「成る程……ん?でもそれじゃおかしくないですか?彼がその先天性白皮症っていう病気の疾患者だって言うなら、この映像もさっきの映像も違和感がありますよ」

 

ジェームズは一瞬納得するものの、先程の映像と現在見せられた映像を思い出し疑問が浮かぶ。その疑問に対してセベロは満足そうに頷くと、デスクの引き出しから一枚の書類を取り出しジェームズへと差し出す。ジェームズはそれを受け取り内容を確認する。

書類に書かれている内容は今話題に出ている少年〔稲葉 伊織〕についてのプロフィールだった。書類の持病の所に、ハッキリと〔先天性白皮症〕と書かれている。

 

「私が気になった事はまさしくその事だよ。彼は正真正銘の先天性白皮症の疾患者だ。それなのにフラッシュライトの光を見ても特にこれと言ったアクションは見られず、太陽の光を直接浴びても苦しがっている素振りは無く至って健康的だ」

 

「……そんなことが有り得るんですか」

 

「普通なら有り得ない。でも、それが可能になるかも知れない物はある」

 

「それってまさか、セベロさんが言ってた〔色金〕ってやつですか」

 

「そうだよ。残念ながら緋緋色金は昔〔教授〕に持って行かれてしまったけどね。色金は〔有り得ない〕事を〔有り得る〕事に変えることが出来るんじゃないかと私は考えているんだよ。まぁ試してみない事には何とも言えないのだがね」

 

セベロは口では残念と言いながらも、その様子は全く残念がってはいない。ジェームズはそんなセベロの姿に肩を竦めると、持っていた書類をデスクに置くと腕時計で時間を確認する。

 

「おっと、すいませんセベロさん。時間みたいです」

 

「おや、結構話し込んでしまったみたいだ。次はアフガニスタンだったかな。君には期待してるよ」

 

「任せてください、また上手く捌いて来ますよ。それじゃ自分はこれで失礼します」

 

ジェームズはセベロに一礼すると、次の仕事へと向かっていった。再び一人になったセベロは書類を仕舞うと、部下から渡されていたもう一枚の書類を面白そうに眺める。

 

「さて、教授。君の選んだ人材がどれ程の者なのか、今後を楽しみにしているよ。尤も、私が目をつけた人材の方が素晴らしい逸材だと思うけどね」

 

セベロは一人呟くと、そっと部屋を後にした。

 

 

デスクの上に置かれた書類に書かれていたのは、とあるロンドン武偵のプロフィールだった。

 




不穏な影が動き出す……

小ネタ:組織名の由来

部下「そういえばジェームズさん。うちらの組織名って何で〔黒狸〕なんですか?」

ジェームズ「セベロさんが黒色と狸が好きだからだ。何でも狸の愛らしい姿に心を打たれたと言ってたな」

部下達「え、えぇ……」





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白兎の里帰り

伊織君、里帰りする。

今回は普段より少し長めです。


「里帰り?」

 

「うん!昨日水穂から電話が来てね?GW中に水穂の通う武偵中で強襲科がちょっとした大会を開くみたいなんだ!それで水穂が一緒にその大会を見学しようって!」

 

僕はキンジに昨日の電話の内容を伝えると、キンジは「ふーん」と興味無さげに僕の話を聞いている。

むぅ、強襲科なのに興味無いのかな?

 

「キンジってば強襲科なのに全然興味無さそうだね。キンジの未来の後輩だぞー!」

「まだそうだとは決まってないだろ?強襲科なんて死ね死ね集団だぞ、途中で止める奴だっているだろ」

 

「キンジは夢が無いなぁ。もうちょっと明るく考えようよ!」

 

全くこのネクラ少年はどうしてこんなネクラなのかなぁ。

僕は君の将来が心配だよ!

 

「ほっとけ……まぁ楽しんで来いよ」

 

「言われなくても楽しんで来るよ!キンジも白雪ちゃんの事ちゃんと守ってあげるんだよ?」

 

「はいはい……(何で俺がこんな事を……)」

 

GW中は僕は里帰り、キンジと白雪ちゃんは予定が無いらしいからそれとなく「白雪ちゃんと一緒にショッピングとかどう?」ってキンジに言ったら白雪ちゃんが乗り気になって予定が決まったんだ。

やったね白雪ちゃん!キンジとデートだよ!頑張って朴念仁を堕とすんだよ!

 

僕は白雪ちゃんの恋を全力で応援してる!

 

「それじゃそろそろ行くね!チャン先生や月読先生にお土産何が欲しいか聞いてこなきゃ!」

 

「あーはいはい。早く行ってこい」

 

未だ窓の外をポケーっと見てるキンジを置いて、僕は教務科へと一直線に向かった。

 

 

~里帰り当日~

 

雲一つ無い快晴に、僕の調子は絶好調!

何時も寝起きにやってるストレッチをこなして、昨日の内に纏めた荷物を持っていざ行かん!

あ、生徒手帳忘れてた。危ない危ない……。

 

「忘れ物なーし!ガスの元栓よーし!電気よーし!……全部よーし!それじゃあ出発!」

 

今度こそ忘れ物が無いか確認して、意気揚々と玄関の扉を開ける。ポカポカと暖かい陽射しと穏やかに吹く風がとても気持ちいい。絶好のお出掛け日和だね!

僕はじっくりとポカポカな陽射しを浴びながらのんびりと駅まで歩いていった。

 

 

 

少年移動中……………

 

 

 

はい!僕の地元に帰って来ました!移動中は特にこれと言った事は無かったからカットするね♪

水穂の話だと近くで待ってくれてる筈だけど、何処だろ?

キョロキョロと辺りを見回すと、スケッチブックを掲げながら誰かを探している白髪の女の子を見つけた。そのスケッチブックには大きな文字で『お兄さんを探しています』と書かれている。

うん、どう見ても水穂だね!お兄ちゃんちょっと恥ずかしいかな!

 

「水穂~!」タッタッタ!

 

「あっ、お兄ちゃ───」

 

「それ恥ずかしいから下ろそうね!」

 

僕は水穂の元に走っていって水穂の持っていたスケッチブックを下に下ろす。僕の行動に一瞬キョトンとしながらも、ふんわりと優しく笑って僕を出迎えてくれる。

 

「お兄さん、お帰りなさい」

 

「うん!ただいま水穂!」

 

水穂の笑顔に僕も笑顔で答えると、水穂は持っていたスケッチブックを閉じると僕と水穂は何も言わずとも二人で実家へと歩き始める。

因みに、水穂が僕の事を「お兄さん」と呼んだ時に周りの人達が僕を見てビックリしてた。身長がそんなに変わんないからかな?僕もちょっと気にしてるんだけど……。

 

「ねぇ水穂。どうやったら身長伸びるかな?」

 

「お兄さんはそのままでも良いと思うよ」

 

水穂は笑顔で言ってくれてる。けどほら、僕は水穂のお兄ちゃんなんだしもう少し兄としての威厳が欲しいんだよ?

 

「うーん、まぁ水穂が良いならいっか」

 

「うんうん、お兄さんは今のままの方が可愛いもん」

 

「喜んで良いのかなぁ……」

 

でも水穂が楽しそうだからこのままでも充分かも。

そんなこんなで水穂と談笑しながら実家に到着!

僕の実家は特にこれと言った特徴は無く、何処にでもあるような一軒家なんだ。御近所さんとも仲は良好で、昔はよくあめ玉なんか貰ったりしてたんだ!

 

「お父さん、お母さん、ただいま。お兄ちゃんと一緒に帰って来たよ」

 

「ただいまぁ!」

 

水穂と一緒にリビングに入ると、珈琲を飲みながら読書をしてるお父さんとキッチンで作業中のお母さんがいた。二人とも元気そうで安心したよ!

 

「おぉ!お帰り伊織!水穂もわざわざありがとうな」

 

「ううん、私がお迎えに行きたかったんだから大丈夫だよ」

 

「お帰り伊織。小腹空いてない?丁度パンケーキを作ってた所なのよ」

 

「えっ!ほんと!?食べる!」

 

お母さんの作るパンケーキは僕と水穂の大好物で、昔は水穂と半分こにして食べてたんだよね!

僕は席に着こうとすると、水穂に止められてしまった。

 

「お兄ちゃん、先ずは荷物置いてこないと」

 

「あっ!そうだった!荷物置いてくる!」

 

僕は急いで荷物を持って自分の部屋へと向かう。

僕の頭の中は既に久しぶりのお母さんの手作りパンケーキで一杯だった。

 

~水穂~

 

お兄ちゃんが慌ただしくリビングから出ていくと、私達はお兄ちゃんの慌てっぷりに思わず吹き出してしまう。

 

「はははは!相変わらず元気な奴だな!」

 

「ふふふ、そうね。元気そうで本当に安心したわ」

 

「お兄ちゃんったら、あんなに慌てる必要ないのに。ふふ」

 

お兄ちゃんが帰ってきただけで普段よりもお父さんとお母さんが明るくなってるのが分かる。勿論私もお兄ちゃんが帰って来て嬉しいし、お父さんとお母さんみたいになってると思う。

 

「伊織が武偵になるって言った時は心配で仕方なかったが、流石俺の息子だ!やはり銃弾なんて何のその!」

 

「そうねぇ。伊織は修一さんとは違って慎重派だからきっと気を付けてたんでしょうね。修一さんとは違って」

 

「なぁ観月……何でそんなに俺と違う事を強調するのかな……」

 

「何ででしょうね?自分に聞いてみたら?あ・な・た」

 

「あ、あはは……」

 

お父さんとお母さんがお兄ちゃんを褒めるけど、二人とも褒めてる部分がちょっと違う。お父さんはお兄ちゃんがお父さんに似たって思ってるみたいだけど、お母さんは似てないとほぼ断言している。

私もお兄ちゃんはお父さんと似てないと思うな。

あっ、でも。

 

「本気になった時のお兄ちゃんはお父さんそっくりかも」

 

「あぁ、確かに。水穂の言う通りね。そこだけは修一さんに似てくれて良かったと思うわ」

 

「だろう!やっぱり伊織は自慢の息子だ!勿論水穂もだぞ!」

 

「うん、ありがとう。お父さん」

 

お父さんの言葉は素直に嬉しかった。お父さんやお母さんに褒めてもらうと嬉しいのは普通だと思う。だけど、私にとってお父さんやお母さんに誉めてもらえるのも嬉しいけど、お兄ちゃんに褒められた時が一番嬉しかったのを覚えてる。

だって───

 

「ちょっと時間掛かっちゃった!セーフ!?間に合った!?」ガチャッ!

 

「ふふ、セーフだよ。お兄ちゃん」

 

「ほんと!?良かったぁ……」

 

お兄ちゃんは少し臆病で少し涙脆くて、だけど誰よりも優しくて強い、私の尊敬する大好きな人だから。

 

 

 




次回、伊織君の本気がチラ見えする!

はい、今回は伊織の里帰り編ですね。あえて地元の名前や武偵中の名前を出しておりません。これからも恐らく出ません。

皆様からのご感想も何時もゆるゆるとお待ちしておりますので、お気軽にご感想下さいませ~(*^-^)ノシ



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稲葉流戦闘術

序盤は甘め、中盤は辛め、終盤は戦闘でお送りします。

そして今回はマジで長いです。
ほんとにごめんね(´ノω;`)


「お兄ちゃん、朝だよ?起きて~」ユサユサ

 

「う……んぅ……みずほぉ……?」

 

麗らかな日射しがカーテンを通して伝わってくる中、心地良い微睡みに包まれていると、ユサユサと体を揺らされる感覚がする。

 

「うん、私だよ。朝御飯出来てるよ」

 

「そっかぁ……でもぉ……もう少しだけ……」

 

ゴメンね水穂……お兄ちゃんまだ眠たいや……

 

「駄目だよお兄ちゃん、今日は強襲科の大会一緒に観に行くんでしょ?」

 

「……すぅ……」

 

「……むぅ。なら私にだって考えがあるんだから。お邪魔しまーす」モゾモゾ

 

ん……なんか暖かいなぁ……それにすぐ近くから水穂の匂いがする……

 

「……お兄ちゃん、起きて?」

 

「ひゃわっ!?」

 

耳元で水穂の優しい声と吐息が聞こえて僕が後ろを向くと、僕の隣でクスクスと笑ってる水穂がいた。

もう!この妹様は!

 

「やっと起きた~」

 

「み、水穂!耳元は駄目だよ!僕が耳弱いの知ってるでしょ!」

 

「だってお兄ちゃん、起こしても起きないんだもん」

 

プクーと可愛らしく頬を膨らませる水穂に僕は言い返せず、「あはは……ごめんごめん」と謝りながら水穂の頭を撫でる。

うわぁ、水穂の髪は昔から変わらずサラサラだね。指で髪をすくえば、カーテンの隙間から溢れる光に反射してキラキラしてる。

水穂は気持ち良さそうに目を細めながら大人しく撫でられている。

 

「ふふ、くすぐったいよお兄ちゃん」

 

「水穂の髪は触ってて気持ちいいから、つい撫でちゃうんだよ。よしよーし、今日も僕の妹様は可愛いなぁ」

 

「もう……お兄ちゃん、朝御飯食べに行こ?」

 

「そだね。でもその前に……」

 

僕は水穂の頭を撫でるのを止めると、手をワキワキとし始める。水穂はそれを見て身の危険を感じたのか少しずつベッドの端へ後退している。

 

「お、お兄ちゃん?その手は何かな?」

 

「ふっふっふ、仕返しの時間だよ~?み~ずほ!」ガシッ

 

僕は水穂を捕まえると、刑を執行する!

 

「お兄ちゃんを甘くみるなよ~?それ!」

 

「ひゃっ!お兄ちゃんっ!ちょっとまっ!」

 

昔から水穂は〔くすぐり〕に弱いからね。悪戯好きな水穂にはくすぐりの刑だ!

そーれ、コチョコチョコチョーっと!

 

「あはは!待ってお兄ちゃん!ふふ!あはははははは!降参!降参だよぉ!」

 

「だーめ♪ほらほら♪コチョコチョっと」

 

「あはははははは!ダメー!」

 

この数分後、(笑いすぎて)すっかり頬を赤くした水穂を連れて朝御飯を美味しく頂きました。

お母さんの料理はやっぱりホッとする味だなぁ。

 

 

 

「ヤバい!時間掛けすぎちゃった!早く行こう、水穂!」

 

「もう、だから言ったのに!お兄ちゃんのせいだよ」

 

「ごめんごめん!それじゃ行ってきまーす!」

 

「行ってきます♪」

 

「行ってらっしゃい!楽しんでくるんだぞー!」

 

「行ってらっしゃい。車に気を付けるのよ」

 

僕は急いで武偵高校の制服を着て、装備を整えると既に準備万端な水穂を連れてリビングに顔を出してお父さんとお母さんに挨拶を告げて玄関を飛び出る。

 

「お兄ちゃん、私の自転車があるから使って?」

 

「分かった!じゃあ水穂は後ろに乗って!しっかり捕まってるんだよ?」

 

「うん!」

 

僕は水穂のママチャリに跨がると、水穂を後ろに乗せてペダルを漕ぎ始めた。出だしはゆっくり、途中からスピードアップだ!信号も青の連続だし、これなら間に合いそうだ!

 

「もうちょっと待っててね!」

 

「うん。お兄ちゃん頑張って」

 

「よーし、頑張っちゃうよ!」

 

この勢いで武偵中へゴールインだ!

 

 

~数分後~

 

「はぁ……ふぅ……間に合ったね……」

 

「お兄さん、大丈夫?重かったでしょ?」

 

「なに言ってるの。水穂はびっくりする位軽いよ。ちゃんとご飯食べてる?」

 

「食べてるよぅ。でも、ありがとうお兄さん。お疲れ様です」

 

大会開始の5分前に何とか武偵中に到着した僕達は駐輪場に自転車を置いて、強襲科の練習場に向かいながら談笑を続ける。

周りの後輩達がチラチラと僕達を見てきてる。水穂はここの生徒だし美少女だから人気者なんだろうなぁ。僕を見てるのは見ない顔だからかな?制服も違うし仕方無いかも。

 

「ねぇ、稲葉さんと一緒にいる人って誰だろ?」

 

「男の人……だよね?男子制服着てるし……それにあの制服って東京武偵高校の制服じゃない?」

 

「嘘っ!じゃあ私達の先輩ってこと!?」

 

「うおっ!稲葉さんの隣に見たこと無い美少女が!?」

 

「ほんとだ、めっちゃ可愛いな!でも何で男子制服着てるんだ?」

 

「ばっか!あれだよ!〔僕っ娘〕てやつ!」

 

僕は受け入れられてると思うんだけど、なんか釈然としないのは何でだろ?

 

「ふふ、お兄さん大人気だね」

 

「嬉しいような、悲しいような……何とも言えない気持ちだよ。僕は男に見えるよね?」

 

「うん、お兄さんは昔からかっこ可愛いお兄さんだよ」

 

あの、妹様。それってどっちなんだろね?

そんなこんなで練習場に着いた僕達は観やすいように上のフロアに移動して、大会が始まるのを待つ。

練習場は闘技場のような形をしており、強襲科の人達は基本的にここで体術の特訓なんかをしてるんだよ。

 

『あーあー、マイクテス、マイクテス』

 

「あ、始まるみたいだよ」

 

「みたいだね。さてさて、後輩達はどんな風に育ってるのかなー?」

 

闘技場の真ん中でマイクを持った男子生徒がマイクにスイッチを起動してるか確認すると、僕達観客に向かって指を差してくる。

 

『いよっし!よく集まったな命知らず共!テンション上がってるかい!?』

 

「「「いえぇぇぇぇぇい!!」」」

 

『硝煙の匂いが恋しいかーい!?』

 

「「「YEARaaaaa!!」」」

 

男子生徒の問い掛けに武偵中の皆(一部の生徒除く)が元気に答える。すごい熱気だ!

 

『俺のことも待ってたかーい!?』

 

「「「BOOOOOO!!」」」

 

『よしテメェら降りてこいやオラァァァ!!』ダンダンダン!

 

「きゃっ!」

 

男子生徒は皆のノリに気分を良くして言葉を続けるけど、皆の対応はブーイング。これにキレた男子生徒が天井に向かってコルトパイソンの引き金を引いた!

水穂は突然の発砲に驚いて僕に抱きついて来たので、安心させる為に背中をポンポンと軽く叩いてあげた。

まぁ水穂は通信科だから強襲科の行動には馴れないよね。

 

「大丈夫大丈夫。水穂は僕が守ってあげるからね」

 

「うん……ありがとう、お兄さん」

 

未だにやんややんやとお祭り騒ぎしてる武偵中の皆を尻目に水穂を落ち着かせると、漸く始まるのか盛り上がりが先程よりも大きくなってきてる。

 

『よっしゃあ!テメェら耳かっぽじってよく聞きやがれぇ!今回の大会はトーナメント形式で行うぜ!トーナメントの組み合わせはテメェらのケータイに既に送られている筈だぁ!』

 

「そうなの?」

 

「ちょっと待って……あ、これかな」

 

水穂のケータイを覗き込むと、確かにトーナメント表が届いていた。組み合わせは6組、総勢12名の参加者がいるみたいだ。結構大規模だね。

 

『よしよしテメェら確認したな!そんじゃまだるっこしい事はこの際全部無視だ!ルールは簡単!相手に〔参った〕って言わせるか気絶させりゃOK!ただし敗者への追撃は無しだぜ!』

 

この少し雑な所は何処でも一緒だ。でも強襲科の人達にはこれくらいが丁度良いらしいよ。キンジがそう言ってた!

 

『んじゃ漸くおっ始めるぜぇ!第一回戦!矢島弘昭!船橋英治!出てこいやオラァ!』

 

こうして男子生徒の声を合図に第一回戦が始まったのだった。

 

 

 

「ふわぁ、強襲科の人達って凄いんだね。私初めてこういうの見たよ」

 

「そうだよー。強襲科の人達は血気盛んって言われるからね。強襲科の後輩達は将来有望だねぇ」

 

大会が始まってから暫くして、今は遂に決勝戦。対戦の組み合わせは布施辰義君と火野ライカちゃんだ。

 

「ライカちゃん!頑張って!」

 

「水穂のお友達?」

 

「うん。ライカちゃんはクラスメイトで、よく一緒にお話してるの」

 

水穂は楽しそうにライカちゃんの事を教えてくる。水穂も仲の良いお友達が出来てたみたいでお兄ちゃん安心したよ!

それにしても、〔火野〕かぁ。何処かで聞いたことある名字だなぁ。んー……思い出せないや。

 

『さてさてさて!この大会も遂に終わりが近いぜ!テメェらお待ちかねの決勝戦!!先ずはこいつだぁ!凄まじい腕力に鍛え抜かれた体!そして何より他者を圧倒しちまう程の巨漢!布施辰義!!』

 

男子生徒の紹介と共に現れた人物は遠目から見ても驚くほど大きい!2m越えてるんじゃないのかな!?しかもすっごくゴツいよ!見るからに力強そう!

 

『相変わらずデケェなこいつ!通り道にいたら邪魔になるぜマジで!まぁそんな事は置いといて、対するは女子でありながら数多の野郎共をなぎ倒してきた強襲科の〔男女〕!火野ライカだぁ!!』

 

次に現れた女の子、ライカちゃんも割りと背は大きいね。僕よりも背が高く、でもスラッとした四肢は健康的に見えるし結構可愛いと思う。なんと言うか、モデルさんみたいだ。でも僕が気になったのは男子生徒が言っていた〔男女〕の方だった。

 

「ねぇ水穂、何でライカちゃんは〔男女〕って呼ばれてるの?」

 

「多分ライカちゃんが男勝りな性格だからかも。喋り方も男の子っぽいけど、ライカちゃんは普通の女の子だよ」

 

「ふーん、なんか嫌だね。そういうアダ名……」

 

「うん……ライカちゃんも気にしてるみたい」

 

やっぱり水穂も気にしてるなぁ……っていつの間にか始まってる!?

 

布施君の攻撃は一撃が重いみたいで、布施君の拳を真正面からギリギリ受け止めたライカちゃんの顔が歪む。

ライカちゃんはその仕返しとばかりにキックを放つけど、直撃した布施君はびくともせずに逆に足を捕まれ投げ飛ばされてしまった!

 

「うっ!ぐっ!」

 

「ふん、諦めろ火野。お前では俺に勝てない」

 

「まだ、まだぁ!」

 

何度吹き飛ばされても立ち上がって、布施君に立ち向かって行くけどやっぱり歯が立たない。それが繰り返されるうちに段々と一部の外野からブーイングが巻き起こるようになってた。

どうして頑張ってる子に対してそんな事をするの?

どうして彼女の頑張りを笑うの?

再び布施君に殴り飛ばされてしまったライカちゃんはまだ立ち上がろうとするけど、そろそろ足腰が限界なのか中々立ち上がれない。

 

「おい!もう引っ込めよ!お前の負けだろ!」

 

「早く参ったって言えよ!男女!」

 

「ざまぁみろ!男女!」

 

外野の暴言に頭が痛くなってくる。いつの間に、いつの間にこんなに悪意溢れる場所になってしまったんだろう。僕が卒業してから随分と変わってしまったんだ。

こんな雰囲気は、大嫌いだ。

 

「おいお前ら!いい加減に───」

 

「五月蠅い!!!!」

 

布施君が何か言う前に僕の大声が響き渡り、会場がしんと静まる。水穂は心配そうに僕の手を掴んでいるけど、僕はその手の甲をそっと撫でて大丈夫だと伝えると頷いて手を放してくれた。

 

「まだ勝負は終わってないでしょ?何でそんなこと言うのさ。火野さんはまだ頑張って戦おうとしてる。なら応援してあげるのが普通じゃないの?」

 

僕の言葉に皆は言葉を放つ事が出来ず、布施君とライカちゃんはただ何も言わず僕を見つめている。

ごめんね二人とも。僕だって今二人の戦いを邪魔してるのは分かってる。けどこれは言わせてほしいんだ。

 

「他人の努力を、頑張ってる姿を笑うな!!」

 

思い出すのは水穂が武偵中に入る為に通信系の勉強をしていた時期の事。あの時、必死に勉強していた水穂を心無い言葉で傷付けた奴等を僕は絶対に忘れない。そして僕が水穂を守れなかった事も。

僕は他人の努力を笑う奴が大嫌いだ。

他人の頑張ってる姿を貶す奴も大嫌いだ。

 

「ライカちゃん!頑張ってー!」

 

水穂が普段では出さない程の大きな声でライカちゃんに声援を送る。目立つのが余り得意じゃない水穂がライカちゃんの為に声を上げて応援してるんだ。

 

「そうだよライカ!男子なんか無視しちゃえー!布施君を倒しちゃえー!」

 

「いっけー!ライカー!」

 

「俺らをあんな奴等と一緒にすんな!いつも俺らぶっ倒してるみたいに布施も倒しちまえ!」

 

「なにいってんだ!布施が勝つに決まってんだろ!強襲科No.1の座を守れよ布施ー!」

 

水穂の声援がスイッチになったのか、徐々に先程の心無い罵倒が引っ込んでいき純粋に二人を応援する言葉が飛び交い始める。布施君とライカちゃんがキョトンと呆けていると、二人ともニヤリと笑い合う。布施君はまるで漸く面白くなってきたと、ライカちゃんはまだ戦う事が出来ると。

 

「……ちっ!つまんねぇの」

 

「ほんとだよな。マジ白けるわ」

 

「もう行こうぜ」

 

罵倒を飛ばしていた主犯であろう男子生徒三人が不機嫌そうに会場を出ていくのが見えた。

……顔と声は覚えたよ。

 

「どうだ火野。ここは一発勝負にしないか」

 

「……一発勝負?」

 

「もうお前も体を動かすのは限界だろう。一発勝負と言っても難しい事はない。ただの速打ち勝負さ」

 

布施君がポケットから一枚のコインを取り出し、ライカちゃんに見せる。速打ちって事は西部劇とかでやってるやつだよね!布施君は体術だけじゃなくて銃も使えるんだね!

 

「このコインを弾き、コインが地面に着いた瞬間に銃を抜き相手を撃つ。簡単だろう?」

 

「手加減のつもりかよ……」

 

「それだけはない。俺は誰であろうと手加減だけはしない。全力でお前を倒しに行く事を約束しよう」

 

「……わかった。それで行こう。ぶっちゃけほんとに体は限界に近いしな」

 

布施君はそう言いながらホルスターから銃を抜き、マガジンから弾を一発残して取り出し装填した。

ライカちゃんも布施君の提案に乗り、同じ様にマガジンに弾を一発だけ残して装填した。

お互いがそれを確認すると、二人とも自分の銃をホルスターに戻した。

 

「よし、ではいくぞ火野!」

 

「こいっ!」

 

布施君がコインを指で高く弾き、コインがクルクルと宙を舞う。

お互いに構えをとり、即座に相手を撃ち倒す為に全神経を集中させる。

今、この場にいる全員に緊張が走る!

 

「……」

 

「……」

 

「「「……」」」

 

クルクルと宙を舞っていたコインが今────

 

 

 

 

 

 

 

チャリーン!

 

 

 

 

 

 

 

 

地面に落ちた!

 

 

「「っ!!」」ダンダン!

 

その瞬間、ほぼ同時に銃声が鳴り響いた。

全員が固唾を飲んで見守る中、地面に倒れ伏したのはライカちゃんだった。

 

『遂にけっちゃーく!!今年の大会優勝者は!布施辰義だぁ!!』

 

「「「うおぉぉぉぉぉ!!」」」

 

司会の男子生徒の宣言に会場の全員が歓声をあげる。

布施君に言葉を送る人、ライカちゃんに労いの言葉を掛ける人、二人の戦いに大歓声をあげる人、沢山の生徒達が二人に言葉を送る。

 

「ナイスファイトー!二人とも凄かったよー!!」

 

僕も二人に言葉を送ると、布施君が此方に向かって一礼してきた。僕はそれに対してニッコリと微笑んで手を振り返してあげた。

……さて、僕もやることをやろうか。

 

「水穂、ライカちゃんに会ってきたら?心配でしょ、ライカちゃんの事」

 

「うん、分かった。お兄さんはどうするの?」

 

「僕も後で合流するよ。今はちょっと別にやることがあるから」

 

水穂の頭をポンポンと撫でて上げ、笑顔で水穂を送り出した僕はとある人物を探すために校内を歩き始めた。

 

 

 

 

~強襲科訓練所控え室~

 

「あぁくそ!何なんだよあのクソガキ!せっかく良いとこだったのによ!」

 

「どうせ糞生意気な後輩だろ?二度とあんな口効けないようにボコッちまうか!」

 

「いいなそれ!ついでに俺らに逆らえないように徹底的に痛め付けて扱き使ってやろうぜ!ギャハハハ!」

 

強襲科の控え室にいるかなぁと思ってフラッと立ち寄ったけど、当たりみたいだね。

凄く不愉快な会話が聞こえてくる。こんな奴等がライカちゃんを傷付けてたんだ。救いようがない。

 

「楽しそうな事話してるね。僕も混ぜてよ」バン!

 

「あん?誰だ、ってあん時のクソガキじゃねぇか!」

 

「おうおうおう!さっきは調子くれちゃってよぉ!ちょっと生意気なんじゃねぇのか?あぁ!?」

 

「今大人しく謝れば半殺しで済ましてやるぜ?ギャハハハ!」

 

扉を蹴破って入ってきた僕を見て、男子生徒達はゲラゲラと笑いながら僕に近付いてくる。

不愉快だ。吐気がする程に不愉快すぎる。

 

「ねぇ、教えてよ。何で君達はそんな酷い事をするの?」

 

「はぁ?んなもん楽しいからに決まってんじゃねぇか!努力とか頑張りとか馬鹿みてぇ!どうせどんだけ頑張ったってよ、才能がなけりゃ意味ねぇんだよ!」

 

この発言でよく分かった。彼等は報われなかったんだ。

どれだけ頑張っても越えられなくて、才能が無いってだけで心が挫けてしまったんだ。

だから他人を蹴落とす楽しみを覚えた。自分が越えられない壁を越えさせない為に。それは一種の自己防衛でもある。

だけど、それなら尚更叱らなきゃ駄目だ。

このままじゃ絶対にダメになる。彼等は本当の笑顔を忘れてしまう。

だからちゃんと叱らなきゃ。彼等をしっかり見てあげるんだ。

 

「そっか。じゃあ僕が叱ってあげる。僕は君達をしっかり見てあげる。だから、かかっておいで」

 

「っ!嘗めてんじゃねぇぞクソガキがぁ!!」

 

「ぶっ殺してやる!!」

 

「泣いて謝っても許さねぇからなぁ!!」

 

「うん、いいよ。僕はそれほどの事を君達にするからね」

 

同時に襲い掛かってきた後輩達に僕は手解きを始めた。

三人の攻撃をしっかり予測回避して、三人の体の動かし方を見る。荒削りだけど、三人とも体術のセンスはある。越えるべき壁が高かったんだ。でも三人の息はとても合っていて、徐々にテンポを掴まれ始める。

やっぱりそうだ。彼等は根本的に間違ってたんだ。

 

「くそっ!当たれ!」

 

「それじゃ当たらないよ」

 

一人が僕に向かってナイフを細かく振るって来るけど、全然僕の動きに追い付けてない。これじゃ攻撃してくださいって言ってるものだよ!

 

「このタイミングなら!」

 

「それもダメ。踏み込みが甘いよ」

 

僕がバックステップで避けたタイミングでもう一人がキックを放ってくるけど、僕はそれをサイドステップで避ける。これは稲葉流戦闘術の一つで〔飛兎〕と呼ばれてる。軸足を起点にあらゆる方向へと連続でステップする技術で、お父さんの得意技の一つだ。本来なら〔飛兎三連〕や〔飛兎四連〕なんかも出来るんだけど、今の僕じゃ普通の〔飛兎〕が限界だ。

 

「こんのぉぉぉ!!」

 

「稲葉流戦闘術────」

 

サイドステップした先に最後の一人が待機していたみたいだけど、それは悪手だったね。

 

「隠兎回襲撃」

 

「はっ?うげぇ!」

 

軸足じゃない方の足が地面に着いた瞬間、その足を軸に急激な回転を体に掛け瞬時に後ろに回り込みながら相手の片膝を蹴って体制を挫き、回転を殺さずそのまま後ろから相手の顎に向かって裏拳を叩き込む!

諸に直撃した後輩君が白目を向きながら倒れ伏す。

 

「またの名を〔回転裏拳〕!」グッ!

 

「まんまじゃねぇか!くそっ!何で捕まえられねぇ!」

 

「〔二兎追うものは一兎も得ず〕っていうでしょ?あれはタイミングが悪かったんだよ」

 

僕は靴先でトントンと床を叩いて、足の調子を確認する。うん、まだ大丈夫かな。

 

「さて、どんどんお仕置きしちゃうからね!」

 

「「くそがぁぁぁ!!」」

 

 

 

 

 

この後大きな音を聞きつけた強襲科の面々が控え室に辿り着くと、そこには強襲科の問題児三人が床に倒れ伏し気絶していたのだった。

その後彼等は救護科へと運ばれていった。

 

 




皆様お疲れ様でした!
ついついノリに乗って書きすぎてしまったf(^^;

ほんとに皆様お疲れ様です。ここまで読んでいただき感謝の念が途絶えません。

戦闘描写は作者の不得意中の不得意なので違和感バリバリだと思いますが、楽しんで頂けたのなら幸いです。

ご感想等を書いていただける方は是非、そうでない方はごゆっくりとお休み下さい。
それでは皆様また次回お会いしましょう~(*^-^)ノシ



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予兆

「それじゃ行くね」

 

「くうぅ!もう行くのか伊織ぃ!お父さんはまだ伊織と遊んであげられてないぞぉ!」

 

「修一さんは馬鹿な事言わないの!頑張りなさい、伊織。でも無理だけはしちゃダメよ」

 

「うん、分かってるよお母さん!お父さん、また今度遊ぼうね!」

 

僕は昨日のうちに纏めた荷物を持ち、家の前で家族と別れの挨拶をしていた。

昨日の大会が終わってからライカちゃんや布施君とお話して、水穂と帰宅した夜に月読先生から電話が来たんだ。

前に僕が制圧しちゃったテロリストの仲間が一人脱走したみたいで、捜索に協力してほしいって内容だった。

何でこのタイミングで?とも思ったけど、放って置ける話じゃないから急遽戻る事になったんだ。

 

「お兄ちゃん、気を付けてね……」

 

「うん、すっごく気を付けるよ。だからそんな顔しないの!水穂は笑ってる方が断然可愛いんだから」

 

昨日よりも心配そうな顔で僕を見つめる水穂に、僕は笑いながら答える。もう、別に死地に行く訳じゃないんだから!

 

「……うん。行ってらっしゃい、お兄ちゃん。頑張って!」

 

「任せといてよ!では稲葉伊織!行って参ります!」

 

最後は天使のような笑顔で送り出してくれた水穂にビシッと敬礼して、僕は駅へと歩き出した。

 

僕は歩きながら今回の脱走について考える。

余りにも不自然なタイミングでの脱走、しかも脱走した一人は他の仲間を助ける事はなく、教務科や尋問科から逃げ切ったと言うことになる。

そんな事有り得るのかな?仮にそれが可能だとしても、そんな実力を持った人が僕に制圧される筈がない。

だから僕がその人より強かったって説は絶対に無い。

それじゃあまさか偽装情報?それにしたって何のために?

駄目だ、混乱してきたよ……

 

「そこの君、少しいいかな?」

 

「え?」

 

いろんな情報が頭の中を駆け巡って混乱し始めた時、赤茶色のスーツを着た外国人に話し掛けられた。ふわぁ、流石外国人!背が高いなぁ!180くらいかな?

でも僕に何の用かな?

 

「あぁ、そう警戒しなくても大丈夫さ。私の名前は古谷 仁。こう見えても日本生まれなんだ」

 

「え!そうなんですか!」

 

と言うことは古谷さんはハーフって事だよね!成る程、だから外人ぽいのに日本語がスラスラなんだね。

古谷さんは僕に目線を合わせながら懐から手帳を取り出すと、その中身を僕に見せてきた。そこには東京武偵高校教務科って書かれていた。え!?じゃあ先生なの、この人!?

 

「古谷さんってうちの武偵高校の先生だったんですね……全く知りませんでした!すいません!」

 

「ははっ!いいんだよ。私も滅多に姿は見せていないからね。知らないのも無理はないよ。さて、今時間大丈夫かな?月読先生から話を聞いてると思うのだけど」

 

「あ、はい。昨日電話が来ました。もしかしてそのお話ですか?」

 

「話が早くて助かるよ。それで、どうだい?何ならご馳走しよう」

 

古谷先生はカフェに目線を向け、再び僕に目線を戻すとニッコリと微笑んだ。

…何故か脳が危険信号を出してる。この人は危険だって。でも、何かしらの情報は得られるかも知れない。

 

「わかりました。じゃあお言葉に甘えてご馳走になります!」

 

「はは!正直な子だ!よし、何でも頼むといい!」

 

こうして僕は古谷先生と一緒にカフェに入って遠慮無く注文することにした。

 

この人は敵か味方か、どっちかな……

 

 

 

 



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脅迫

もう少しで原作突入なり……

と言うわけで、待たせたな!


~カフェ・カナミ~

 

僕は今古谷さんの奢りでココアをちびちびと頂いていた。古谷さんはコーヒーのカップをテーブルに置くと、「さて」と話題を切り出してきた。

 

「伊織君は今どれくらい状況を理解しているのかな?」

 

「えっと、前に捕まえたテロリストが一人脱走してまだ捕まっていないって事ですね」

 

「あー、私の聞き方が悪かったかな。なら聞き方を変えようか。君はどこまで勘づいている?」

 

「っ…!何の事ですか?」

 

古谷さんの質問に一瞬動きが止まってしまった。何とか聞き返す事は出来たけど、古谷さんは僕の動揺を見逃さなかった。

 

「やっぱり気付いているようだね。ふふ、君は諜報科のAランクにしては少々素直過ぎるな」

 

「……なら素直ついでに聞きます。古谷さん、貴方は敵なんですか?」

 

いっそ清々しく質問した僕に古谷さんは一瞬きょとんとすると、面白いものを見たように笑い始める。

 

「はははは!君は本当に面白いな!敵か味方か分からない相手に直接聞くのは愚行とは思わなかったのかい?」

 

「僕も馬鹿な行動だって分かってます。でもそれは相手によると思いませんか?それに古谷さんには直接聞いた方が良いと何となく思っちゃったのでつい」

 

「ふふふ、そう思えるのは君くらい図太い神経を持ってる人間だけさ。そうだな、君のその素直さに免じて答えてあげようか。………私は君の敵だ」

 

「っ!」ガタッ!

 

僕は古谷さんの言葉を聞いて咄嗟に銃を抜こうとするけど、それよりも早く僕の喉元にボールペンが突きつけられる。

……全く見えなかった。レベルが違いすぎる……。

 

「こんな所で銃を出そうだなんて物騒じゃないか。取り敢えず落ち着いて話し合いをするべきだと思わないか?」

 

「そう……ですね」

 

「理解が早くて助かるよ」

 

ここは大人しく従うしかない、か。僕はホルスターから手を離し再びココアを飲む。古谷さんも僕の対応に満足したのかボールペンを胸ポケットにしまい話を進めていく。

 

「取り敢えず何故君の敵である私が直接君に接触したのかを説明しよう。まぁ端的に言ってしまえば私は君が欲しいんだ」

 

「んぐっ!?ゴホっ!ゴホっ!」

 

「おや、大丈夫かい?」

 

「誰のせいだと思ってるんですか!?それに僕は普通に女の子が好きです!」

 

僕の脳裏に数人の女の子の友達が浮かび上がって来たが、首を振って思考を戻す。古谷さんはそんな僕の様子を見てニヤニヤと笑っていた。

 

「いやぁ、中々に青春してるみたいだね」

 

「ん、んん!話を戻しましょう」

 

「おっと失敬。欲しいと言っても別に君の体が目当て……でもあるからややこしくなるな。まぁ要するに私の協力者になって欲しいんだ」

 

「お断りします」

 

「おいおい、もう少し話を聞いてくれても良いんじゃないのかな」

 

古谷さんはそう言うけど、武偵が敵の協力者になる訳にはいかないと思うんだよ。それは古谷さんも知ってる筈だ。

 

「まぁ武偵がそんな簡単に頷く訳はないか。でもこれならどうかな?」

 

古谷さんは懐からPDAを取りだし僕の方へと差し出してきた。僕はそれを見て言葉を失った。

 

「な……んで……」

 

そこに映っていたのは四肢を拘束されて気を失っている僕の友達───レキの姿があった。部屋はほの暗く、場所は特定出来そうにない。

僕の中に沸々と怒りの感情が沸き立つ。

 

「……今すぐ彼女を解放してください」

 

「君が私の協力者になってくれるなら解放しよう」

 

「ぐっ……」

 

ギリギリと歯軋りしながら思考する。このまま協力者にならなければ最悪レキは交渉の価値無しと判断されて殺される可能性が高い。かといって武偵として敵に協力してしまえば最後、僕は武偵としてやっていけないだろう。

 

 

 

 

僕は────────

 

 

 

 

 

 

 

「分かりました。協力します」

 

古谷さんの協力者になることを選んだ。例え武偵を止めることになったとしても、友達を見捨てる事なんて僕には出来なかった。

 

「快い返事をありがとう。何も君を戦場に送り込もうなんて事はない。ただ、彼女達といつも通りの日常を送ってくれれば良いだけさ。そして何か体に異常を感じたら教えて欲しいんだ。必要な事が増えたらその都度連絡させてもらうよ」

 

「……分かりました」

 

「よし、では彼女のいる所まで案内しよう。この時の為にわざわざ連れてきたんだよ」

 

僕は古谷さんに連れられて、レキが囚われている場所へと向かった。

 

 

 

 

「ん……ここは……」

 

「あっ、目が覚めた?」

 

僕はレキが目覚めた事を確認して、コップに水を注いで持っていく。レキはキョロキョロと辺りを見回すと寮の僕の部屋だと気付いたのか僕を凝視してる。

 

「はい、喉乾いてるでしょ?」

 

「……ありがとうございます」

 

レキは少しずつ水を飲みながら考え事をしているみたいだ。これは僕から切り出した方が良いかな?

 

「帰って来たら部屋の前でレキが倒れてたんだよ?ほんとにビックリしたよ」

 

「そう……でしょうか。私は確か……うっ」

 

「大丈夫!?無理しないでね?ほら、横になって」

 

「すみません」

 

レキからコップを受け取ってベッドに寝かせる。レキは何か言いたそうにしていたけど、わざと気付かない振りをする。

 

「ゆっくり休んで良いからね。レキは普段から頑張ってるんだから」

 

「いえ、私は別に」

 

「はいはい、今はゆっくり休んで早く元気になってね」

 

未だに何か言いたそうなレキを寝かしつける為に頭を撫でる。瑞穂にもよくやっていたし、これには自信がある。その証拠にレキはウトウトとし始めている。

 

「すみません……少し休ませてもらいます……」

 

「うん。お休み、レキ」

 

レキの頭をゆっくり優しく撫で続けていると、やがて静かに寝息が聞こえてきた。レキが眠った事を確認して、最後にそっと一撫でする。

 

「巻き込んでごめんね……僕が何とかするから……」

 

僕はリビングに戻って古谷さんから渡されたケータイを弄りながら今後の事を考える。これから先は僕が頑張らなきゃ……。

 

 

こうして僕の孤独な戦いが始まった……。

 

 

 

 




伊織君の選択肢は殆ど無いに等しかった。


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兎追いしかの山

伊織君によるちょこっと裏話!

伊「実は古谷さんには参考にしたモデルがいるんだよ!詳しくは〔ヒース・オスロ〕で検索っ☆」

キ「そりゃ近接戦じゃ勝てねぇよなぁ……」

伊「僕は遠距離戦でも勝てる気はしないね!」

キ「いや胸張ることじゃねぇからな?」

伊「それじゃあ本編始めよー♪」

キ「流された!?」



GWが明け、白雪との外出というイベントを乗り越えた俺は現在全力疾走していた。

その理由とは…………

「待てやぁぁぁぁ!」

 

「ひー!キンジが本気で追いかけてくるー!」

 

目の前で俺から逃げまくっている兎──もとい伊織を捕まえる為だ。

どうしてこうなってるかと言うと、それは理子が発案した〔武偵鬼ごっこ〕という遊びのせいだ。因みにこれは一般的な〔鬼ごっこ〕に武偵ならでは特殊ルールを用いた、正に〔武偵な遊び〕なのだ。じゃあどうして年甲斐もなく鬼ごっこに興じているのか。それは近々行われる〔カルテット〕の為だ。

 

カルテットとは四人一組で相手チームと戦う武偵校のメインイベントの1つだ。両チームはそれぞれ毒蜘蛛チームと毒蜂チームに別れて戦う事になり、それぞれのチームにはフラッグが用意されている。相手チームのフラッグに自分のチームの攻撃用フラッグを当てるか、相手チームを全員戦闘不能にすれば勝利となるのだ。

 

今回のカルテットのメンバーは俺・理子・伊織・レキの四人だ。初めは武藤や不知火達と組む予定だったが、いきなり横から理子に(俺が)かっ拐われたのだ。それでせっかくだから伊織も(理子が)誘ったら何故かレキも一緒についてきたという訳だ。因みに今は理子とレキ、俺と伊織の組み合わせでそれぞれ特訓中だ。

伊織は敵を掻い潜りフラッグを攻撃する役目で、俺は敵の足止めが主な役割になる。それですばしっこい相手に対する訓練をしようということでこの〔武偵鬼ごっこ〕が始まったのだ。尤も、今は攻めあぐねた伊織を捕まえようと必死に奔走しているだけだが。

 

「ぜぇ……いつまで……逃げ回る気だ……はぁ……」

 

「そりゃキンジが諦めてくれるまでだよ?」

 

俺と違って息1つ切らしていない伊織は、手に持った蜂の絵が書かれたフラッグ擬きを弄って遊んでいる。

 

野郎……余裕そうにしやがって……見てろよ……!

 

俺は息を整えながら飛び掛かるチャンスを伺う。

狙い目は伊織の意識がフラッグ擬きに向いた瞬間だ。

 

「はぁ……はぁ……そんな簡単に諦める訳にはいけないだろ……」

 

「えー、いいじゃんいいじゃん!キンジも疲れてるでしょ?素直に負けを認めて楽になっちゃおうよ♪」

 

くっ!確かに伊織の言う通り俺の体は疲労を訴えて来ているが、こんな情けない負け方は御免だ!

伊織が悪魔の言葉を俺に囁き、フラッグ擬きをポーンと上に上げて遊び始める。

 

きた!ここしかない!決めろ、遠山キンジ!この狂ったゲーム(鬼ごっこ)を自分の手で終わらせるんだ!

 

「そんなんじゃ……訓練に……ならないだろ!」ダッ!

 

伊織がフラッグ擬きを高く放り投げた瞬間、俺は駆け出しながらホルスターからベレッタの〔エアガン〕を取り出して伊織の足元に二、三発撃ち込む!

 

「うわっ!?」ヒョイッ

 

伊織は驚きながらも軽々とBB弾を避けるが、それすらも俺の想定内だ!

そのままの勢いで次は伊織の右半身に向かって上に跳ねるように三発撃ち込むと、伊織はそれを左側に跳ぶことで回避する。

しかしそれこそが俺の狙いだ!

 

「もらったぞ!」

 

伊織が左側に避けることを予測していた俺はバレないように初めから少しずつ伊織が着地するであろう地点へと駆け出していたのだ。

つまり俺は伊織が左側に避けざるを得ない状況にしたのだ。

伊織も俺の作戦に気付いたのか、慌てた様子で対応しようとするが時既に遅し。俺はもう伊織の目の前にいた。

 

捕った!────────

 

「おっ、とと!」タンッ!

 

伊織は着地した瞬間、有り得ない速度とタイミングで後方へとバックステップされ俺の手は空を切った。

 

っていやいや!?何だよ今の動き!?

 

「もう!いきなり飛び掛かって来るなんてズルいよ!」

 

「お前のその動きの方がズルいだろ!?何だよ今の!?」

 

伊織がプクーと頬を膨らませて抗議してくるが、お前の今の動きの方が断然ズルいからな!?あんな動きお前くらいしか出来ねぇからな!?

 

「あれ?キンジに言ってなかったっけ?僕の家系は皆出来るんだよ!名付けて稲葉流戦闘術!」

 

「そんなこと何も聞いてねぇよ!初耳だわ!」

 

「……てへぺろ☆」

 

「……」ブチッ

 

伊織は誤魔化すように可愛く舌をちょびっと出しながら己の頭をコツンと軽く叩く。その仕草に俺の何かが切れた。

我ながら理不尽なキレ方だとは理解している。理解はしているんだが……如何せん最後の伊織の「てへぺろ☆」が俺に効いた。

俺はゆらりと身体を揺らしながら銃口を伊織に向ける。

 

「き、キンジ?目が恐いよ?」プルプル

 

「……OK。今からは殺す気でやるからな」チャキッ

 

「ひっ!?お、落ち着いてキンジ!目が本気!目が本気だから!?」

 

「さぁ……狩りの時間だ」

 

「い……いやぁぁぁぁぁ!助けてー!りこりーん!レキー!」

 

俺が追いかけると同時に、伊織の悲鳴が大空に響き渡ったのだった。

 

結局この後、伊織を壁際に追い詰める事には成功したがレキに狙撃されて俺は気を失ったのだった。

 

 

 




~楽屋裏~

理「私の名前出てきたから、出番きた!って思って気合い入れて待機してたのに出番なかった……しくしく……」

レ「……ドンマイです」ポンッ

伊「お仕事終わったし皆で遊びに行こう!りこりんも行くでしょ?」

理「え!?行く行く!いっくん大好きー!」

レ「……」

キ「相変わらず現金な奴だな……」


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白兎達の四重奏 前編

作「今更気付いたが……UA5000突破だぞぉ!?」

伊「おー!皆読んでくれてありがとね!感想や評価コメントも全部拝見してるんだよ!評価やお気に入り登録してくれてありがとう♪」

キ「これからも伊織の奴が迷惑掛けるかも知れないが、どうか広い心で許してやって欲しい……」

伊「僕はそんなことしないよ!僕が迷惑掛けるのはキンジだけだし!」エッヘン

キ「俺には掛けんのかよ!?」

作「と言うわけで!これからも〔元気な白は諜報科!〕をどうぞ───」

伊・キ「よろしく(頼む)お願いしまーす!!」

作「それじゃあ本編始めるぞ!」



カルテット当日、僕達は円陣を組んで今回の作戦の最終確認をしていた。

 

「なぁ……ほんとにこの作戦で大丈夫なのか?」

 

「キーくん!弱気はダメダメだよ!こんな時こそ大胆な作戦が輝くんだから!」

 

「うんうん。キンジはネクラで臆病だから心配なのも分かるけど、先生からの許可も降りてるんだし派手にやっちゃおー♪」

 

弱気な発言をするキンジに僕とりこりんが軽いノリで返事を返すと、キンジは頭を抱えてしまった。

レキちゃんはいつも通り無表情で僕達の会話をボーッと眺めている。

 

「お前ら……少しは心配とかしないのか……」

 

「キーくんが心配しすぎなんだよー」

 

「キンジはもうちょっと胸を張って生きようよ!」

 

「「ねー♪」」

 

「なんだこの組み合わせ……滅茶苦茶腹立つな……」

 

僕とりこりんがキンジで遊んでいると、キンジはウンザリしながら僕達を睨んでくる。

 

ふっふっふ、僕とりこりんは何故か波長が合う仲良しさんだからね!キンジ弄りには持ってこいな編成なんだよ!

 

「……もうそろそろで時間です」

 

「おっけーおっけー!それじゃあ皆でサクッと勝っちゃおー!」

 

「いぇーい!」

 

「なんでこんなテンション高いんだよ……」

 

カルテットが始まる前からキンジはぐったりしてるけど、やるときはきちんとやってくれるから何も問題はないね!

キンジよりも心配なのはレキちゃんだ。レキちゃんのキリングレンジは飛び抜けて広いけど、レキちゃんは近接戦闘が苦手だから接近されたらやられちゃうかも知れない。

僕と一緒にやった特訓が活きればいいんだけど………

 

「レキちゃん。いけそう?」

 

「はい。あれからも自分で訓練しました」

 

「そっか!それじゃあ後ろはお願いね?」

 

「任せて下さい」

 

レキちゃんはいつも通り小さくコクンと頷いて、愛銃であるドラグノフを抱えて狙撃ポイントへと歩いていった。

僕はそれを見送って、ずっと側で待っていてくれたキンジに向き直る。

 

「それじゃあ準備はいいか?今回の作戦の要はお前だからな。しっかり頼むぞ」

 

「任せてよ!敵はキンジが止めてくれる。僕の後ろはレキちゃんが守ってくれる。そしてりこりんが僕達に指示をくれる。これで負けるはずなんて無いよね!」

 

僕はニコッとキンジに微笑むと、キンジは少し顔を赤くしながら「……おう」と言ってそっぽを向いてしまった。

キンジは相変わらず照れ屋さんだね。

そして開始まで残り5秒。

 

「じゃあ行くよキンジ!」

 

「おう!」

 

こうしてカルテット開始と同時に僕とキンジは走り出した。

 

 

~三人称視点~

 

街の中を四人の武偵が駆ける。両チーム共軽装備で身軽に対応出来るようにしており、三人の手にはそれぞれハンドガンが握られている。人混みの中を掻き分けながら互いに目標地点へと走っていくと、必然的に四人は遭遇した。

 

「はん!やっぱお前ら二人が前衛か!」

 

「伊織ちゃん!会いたかったよぉぉ!」

 

「ひっ!?なんか恐いよ!?」

 

「なんでうちは変態が多いんだ!?」

 

蜘蛛チームの一人が興奮した様子で伊織に接近するが、伊織は反射的に後ろに下がり男子生徒と距離を離した。

しかし男子生徒は鼻息を荒くしながら伊織にジリジリとにじり寄り、伊織も本能的に危険を感じ取っているのか徐々に後ろに下がっていく。

 

「伊織!」

 

「おっと!お前の相手は俺だぜ!」

 

キンジが伊織を助けようと間に割って入ろうとすると、髪を逆立てた男子生徒がキンジを妨害するように拳を放ったことでキンジは回避を余儀なくされた。

 

「上田!稲葉の相手は任せたぞ!」

 

「へへ、へへへ……任せとけよ黒河」ワキワキ

 

「ど、どうしようキンジ!このままじゃ僕上田君に捕まって滅茶苦茶にされちゃう!」

 

「よし、まだ余裕そうだな。そっちは任せるぞ」

 

「ブーブー!分かったよぉ!」

 

にじり寄ってくる変態──もとい上田に対して伊織はニッコリ微笑んで、変態にとっての禁断の言葉を呟く。

 

「それじゃあ上田君、鬼ごっこしよっか?もし僕に触れられたら……僕の事好きにしていいよ?」

 

「……」ブチッ

 

伊織の禁断の言葉に、変態の中にあった理性が弾けとんだ。明らかに先程とは違う(邪な)雰囲気を身に纏う変態にキンジはおろか仲間の黒河までドン引きしている。

 

「……もしかして本当の敵は味方なんじゃねぇかな」

 

「今更気付いたか……」

 

「伊織ちゃぁぁぁん!!今すぐ捕まえてあげるからねー!!」ダッ!

 

「わわっ!予想だにしない食い付きっぷり!にーげるんだよー♪」タタタッ

 

兎と変態が慌ただしく走り去っていき、後に残された常識人二人は戦う前から疲れきっていた。すると黒河は構えを解いてキンジに勢いよく頭を下げた。

 

「すまん!あの変態には後でキツく言っておく!」

 

「あぁ……そうしてくれ……」

 

こうしてカルテットはなんとも締まらない空気でスタートしてしまったのだった。

 

 




伊「作者さん!僕そろそろ立ち絵が欲しい!」

作「無理言わんといてや……」

伊「えー!作者さんなら書けるでしょ!」

作「……どんどん感想待ってるぞ!」

伊「誤魔化した!」

キ「あー……また後編で会おう。それじゃあな」


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白兎達の四重奏 後編

~理子・レキ組~

理「あっ!いっくんがケダモノに襲われてるよ!レッきゅん!」

レ「……指定ポイントへの誘導をお願いします。すぐに仕留めます」チャキッ

理(レッきゅんの目が本気だ……!)



はーい!皆こんにちは!僕は今全力で路地裏を駆け回っていまーす!

何故かと言うと!

 

「ふふ、ふへへ。待ってよ伊織ちゃん!!」ダッダッダ!

 

「いーやー!おーそーわーれーるー!」タタタッ!

 

絶賛変態さんと鬼ごっこ中なんです!しかも捕まったらナニをされるか分かりませーん!

僕は男の人と〔そういうこと〕する趣味は無いよぅ!

ひーん!助けてレキちゃん!りこりーん!

 

『メーデーメーデー!いっくん聞こえるー?』

 

「あっ!りこりん!僕の思いが伝わったんだね!」

『もっちろんだよ!指定ポイントまで誘導するからそこまで何とかケダモノから付かず離れず逃げ切ってね!指定ポイントに到達出来ればレッきゅんが狙撃してくれるから!』

 

「りょーかい!」

 

『よっし!それじゃあ次の曲がり角を右に曲がって!』

 

耳に付けたインカムから救いの声が僕に道を示してくれた。僕はそれに従って曲がり角をクネクネと曲がって逃げるけど、やっぱり変態さんは諦める様子を見せずに血走った目で僕の後を追ってくる!

 

うー……凄く恐いよ……

 

りこりんに言われた通りに付かず離れずの距離を保ちながら指定ポイントに辿り着くと、そこは少しこじんまりした場所になっていた。変態さんは追い詰めたとばかりに息を荒げながら眼光を光らせる。

 

「ふっふっふ、まさか自分からこんな狭い場所に来てくれるなんて……もしかして伊織ちゃんも期待してたり──」

 

「ごめんね?僕は普通に女の子が好きだから君の気持ちには答えられないよ……」ウルウル

 

「ぐはぁ!」ガクッ

 

僕の名演技で上田君が謎のダメージをくらい膝をつく。

それでも上田君は「いや!まだだ!」と立ち上り、ゆらりと体を揺らしながら僕に近寄ってきた!

 

「女の子が好きだというだけで、まだ伊織ちゃんに好きな子が出来たと言われた訳じゃない!なら俺にもチャンスはある!!」

 

『「え、えー……」』

 

『私は一発の銃弾───』

 

上田君の支離滅裂な言葉に僕とりこりんは同時に引く。

いや、だって女の子が好きって言ってるのにチャンスはあるなんて言うんだよ?勿論上田君は男の子だからお付き合いは出来ません!

って静かにレキちゃんが準備してる!

 

「……ごめんなさい!」ペコッ

 

「うぐっ!な、ならば誰も見ていない今ここで───」

 

僕が頭を下げた瞬間にタァン!と発射音が聞こえて、上田君の体がぐらりと揺れたかと思ったらドサッと倒れた。間違いなくレキちゃんの狙撃だ!

 

『いっくん大丈夫?まだ純潔保ててる?』

 

「うん!ありがとね、りこりん!レキちゃん!」

 

『……こっちに敵が来ています』

 

『うわっ!?ほんとだ!ごめんねいっくん、後は頑張って!』

 

「任せて!」

 

インカムから銃撃戦の音が聞こえてきた。これから先は僕が一人で頑張らなきゃ!

 

「上田君、ごめんね?」

 

「……」ピクピク

 

物言わぬ上田君に謝罪してから上田君を跨いで先を急ぐ。皆の為にも絶対に勝つぞ!

 

 

~キンジ~

 

「しっ!」ビュン!

 

「くっ!」ヒョイ!

 

伊織が変態を引き連れていなくなった後、俺はずっと道の真ん中で黒河と殴り合いをしていた。

一般人達は俺達の周りを囲むように見物しており、何故か盛り上がってきている。

 

「おいおい……俺は見世物になったつもりはないぞ……」

 

「良いじゃねぇか。いい感じに盛り上がってきたしよ!」

 

「さてはお前……戦闘狂だな?」

 

「否定はしねぇ、よ!」ブン!

 

「あぶね!?」

 

明らかに首を狙って放たれた蹴りを後ろに下がる事で回避する。黒河は「ちっ!」と舌打ちし、続けて攻撃してくるが何とかそれを全て避けてカウンター気味に一発叩き込む!

 

「ぐはっ!」

 

「っし!どうだ!」

 

「ゴホッ!ゴホッ!やるじゃねぇか……」

 

俺達の殴り合いにどんどんギャラリーのボルテージが上がっていく。もうちょっとしたお祭り騒ぎだ。

 

……武藤とのケンカを思い出すな。

 

黒河は息を整えると、再びファイティングポーズの構えをとり始めた。黒河も周りに感化されたのか楽しそうに笑ってやがる。

 

「おら、もっとこいよ!Sランク武偵の実力はこんなもんじゃねぇだろ!」

 

「俺だって好きでSランクになった訳じゃ無いんだけどな……」

 

本当だったら下手に目立たずそこそこな学生生活を満喫するつもりだったのにな……。

あぁ、なんか思い出したらムカついてきたな。

 

「あー、ちょうど目の前に相手がいるし腹いせに思いっきりぶん殴らせてもらうぞ!」

 

「へへ!こいよ遠山!」

 

「それじゃ遠慮なく!」ダッ!

 

まだまだこいつとの殴り合いは続きそうだな……

俺はそう思いながら黒河を倒す、もとい足止めするために殴りかかった。

 

(伊織……さっさと終わらせてくれよ!)

 

 

 

~理子・レキ~

 

レッきゅんの狙撃で無事にいっくんを助け出した後、私とレッきゅんはすぐ側まで接近していた敵と交戦していた。

 

この私の情報では確かこの女の子はいっくんと同じ諜報科だったなぁ。諜報科は相手にするとめんどくさいんだよねー。

 

「狙撃手はやらせてもらうよ!」ヒュン!

 

「私は一発の銃弾────」ダン!

 

ショートヘアーの女の子がレッきゅんに向かってナイフを投げつけるけど、レッきゅんは飛んでくるナイフを正確に撃ち落とした!

 

わー!流石レッきゅん!理子に出来ないことを平然とやってのけるー!というかもう人間離れな技に痺れる!憧れるー!

 

「なっ!?これがSランクの狙撃手!」

 

「……」ダン!ダン!

 

「きゃっ!」

 

レッきゅんの容赦のない狙撃が女の子の肩と太ももに直撃し、女の子はその場で膝を着いてしまった。

女の子は涙目になりながら片方の手を上げて降参した。

 

「……あれ?これ理子いらなかった?」

 

「……」

 

レッきゅんは何も言わずに、ただボーッと何処かを眺めていた。

 

……はぁ。拍子抜けだなー。

 

「後はいっくんだけだねー。キーくんは良い感じに一人足止めしてくれてるし、厄介だと思ってた諜報科の子も降参してくれたし」

 

「うー……伊織君ごめんなさーい!」

 

「え?なんでいっくん?」

 

「ナイフの投擲の仕方を教えてくれたのは伊織君なんです……」

 

「あーなるほどー!だからレッきゅんが対応出来たんだね!」

 

「……」

 

レッきゅんが何でナイフの撃ち落としが出来たのか理由はわかったけど、気になった事が1つ。

 

いっくんのナイフスキルってどれくらいなんだろう?

 

結局レッきゅんはボーッと何処かを眺めて黙ったままだった。

 

 

 

~伊織~

 

りこりんに教えられた敵の拠点に行くと、ガラクタが沢山置かれている場所に一人の男子生徒が仁王立ちしながら僕を待ち構えていた。

その後ろには少し登らないと届かない位の場所にフラッグが刺さっていた。

 

「よくぞ来たキン……伊織さん!?」

 

「こんにちは!若林君!フラッグ取りにきたよ!」

 

「ぬぅ……だが好都合だ!伊織さん自らフラッグを持ってきてくれたのだからな!」

 

若林君はビシッ!と僕に指を指し、まるでバーン!と効果音が付きそうな程のどや顔をしていた。

相変わらず僕に負けず劣らずの元気さを持つ若林君だ!

 

僕も負けてられない!

 

「ふっふっふ、元気さで僕に勝とうなんて10年早いよ!……って何で僕がフラッグを持ってること知ってるの!?」

 

「ふ!やはり朝比奈が言った通りだったな!伊織さんは嘘が苦手だとな!」

 

「……はっ!?もしやブラフ!?」

 

「その通り!」ドヤッ!

 

やられた!まさかこんな方法に引っ掛かるなんて!

朝比奈ちゃん恐るべし……!

こうなったらやることは1つ!

 

「じゃあ真っ正面から倒しちゃうよ!」

 

「望むところ!いざ行かん!」

 

若林君はホルスターからハンドガン〔シグザウエルP220〕を抜き、数発僕に撃ってきた!

僕はそれを避けながら専用のナイフホルスターから三本のスローイングナイフを取り出し、若林君の足を狙って投擲する!

 

「うぉ!?機動力を奪うつもりか!」

 

「戦いは機動力を失った方が大概負けるからね!」

 

若林君はナイフを避けながらも僕に照準を合わせようとするけど、僕はジグザグに移動しながら若林君に接近する!

 

「っ速い!」

 

「ふふ」

 

右腰に付けたナイフホルスターから僕の相棒である〔トレンチナイフ〕を抜きながら、若林君のシグザウエルを的確に弾き飛ばす!

 

「くっ!手が……!」

 

「うんうん、分かるよ。金属同士がぶつかるとすっごく手がビリビリするよね!」

 

と言いつつトレンチナイフの刃を下から若林君の首元に当てる。これでチェックメイトだ。

若林君もそれは分かってるのか、大人しく両手を上げてくれた。

 

「まさかここまでとはな。お前本当に諜報科か?」

 

「うん。昔からお父さんに鍛えられてたからね」

 

あの頃は日の光を気にせずに外を出歩ける事に感動してたなぁ……

 

僕が昔の思い出に想いを馳せていると、突然それは起こった。

 

「今だ!撃ち込め!」

 

「おう!」パァン!

 

「え?うぐっ!」カラン!

 

若林君の声に答えるように銃声が鳴り、僕の右肩に激痛が走る。しかも最悪な事に右手に持っていたナイフを離してしまった!

若林君もそれを見逃さず瞬時に僕の左腕を掴み関節を決められてしまった。

 

「あう!」

 

「戦いの最中に油断するのは武偵としてどうなんだ?」

 

「正論だね……」

 

「ぬふふ、これで俺達の勝ちだね。約束は守ってもらうからね~」

 

上田君が手をワキワキさせながら僕に近付いてくる。

それに対して若林君は「うわぁ……今すぐ手を離してぇ」とドン引きしている。

 

……二人とも勝利を目前に油断しちゃ駄目だよ。

 

「ふっ!」パキ!

 

「は?」

 

「え?」

 

僕は自分の左肩の関節を自分で外し、若林君の拘束が緩くなった瞬間その場でジャンプして頭突きを食らわせる!

 

「がふ!!」ガツン!

 

「痛ったぁ!でもまず一人!」

 

「自分から関節を!?ええいままよ!伊織ちゃんを我が手中に───」

 

「変態さんには、これ!」ドス!

 

「ふぐぅ!!?」

 

驚きながらも僕を押さえようとしてきた上田君の〔男の急所〕を僕は思い切り蹴り上げた!

上田君は顔を真っ青にしながら急所を押さえてプルプルしたかと思ったら、そのままその場に倒れてしまった。

 

うん。自分でもあれは無いかなって思っちゃった。

 

「あー、ごめんね?」

 

「ありがとう……ございます……」ピクピク

 

何故か感謝の言葉を送られてしまった。しかも何でか嬉しそうな顔してる気が……いや、気付かなかった事にしよう!

それよりもフラッグ取らなきゃ!

 

「それじゃ、フラッグは貰うね♪」ポロッ

 

敵は二人とも倒れたし、後は相手フラッグに攻撃用毒蜂フラッグを当てるだけだ。

僕は外れた肩の関節を痛みに耐えて嵌め込んで、鼻歌を歌いがらフラッグの元へと歩いて行った。

 

「フラッグが……落ちてるぜ……!」

 

「ん?……あっ!」

 

若林君は最後の力を振り絞って、いつの間にかポケットから滑り落ちてしまったフラッグに向かって毒蜘蛛のフラッグを当ててしまった!

 

「勝った……!勝ったぞ……!」

 

「……」

 

「ふふ、逆転に負けに言葉もでないか……はは……」ガクッ

 

若林君は勝ち誇った顔で意識を失ってしまった。本来ならここでカルテットは僕達の負けだ。

だけど〔一向に試合終了の合図〕は流れない。

 

つまり────────

 

 

 

「あはは……それ偽物なんだよね♪」

 

 

試合はまだ終わってないって事だ。

 

「ほい!僕達の勝ちだね!」チョン

 

敵のフラッグに攻撃用フラッグを当てて、カルテットは僕達の勝利で終わった。

 

因みに、皆の所に戻ったらりこりん達と朝比奈ちゃんが和気あいあいと談笑してるし、キンジと黒河君は二人して地面に大の字に転がってるしで何だが皆楽しそうだった!

 

……上田君はチームメイトの筈の若林君達にボコボコにされてたよ。

 




伊「皆ここまで読んでくれてありがとね!」

キ「戦闘になると文字数が増えるのが作者のネックだな。しかもクオリt────」

伊「キンジ!それ以上はほんとの事でも駄目だよ!……あっ」

キ「お前の方が抉ってるぞ……」

作「すまねぇ……すまねぇ……」

伊「あー!あー!それよりも作者さんから皆にアンケートがありまーす!」

理「みっちゃんが新しくオリキャラを出す予定らしいんだけど、そのオリキャラを皆に考えて欲しいんだって!」

伊「りこりんいつの間に!?こほん、という訳で皆が考えたオリキャラを作者さんの活動報告にある〔オリキャラアンケート〕に送って欲しいな♪」

キ「書いて欲しいのは〔名前〕〔性別〕〔学科〕〔ランク〕〔性格〕とかだな。そのオリキャラの詳細な情報があれば尚助かると思うぞ」

理「でも無いとは思うけど、あんまり酷いものはぷんぷんがおー!だよ!」

作「どんどん台詞取られていく……あ、採用枠は二人で締切は今月中の20日までです。是非送ってくれると嬉しいです!」

伊「引き続き感想もどんどん送ってくれて大丈夫だからね♪」

レ「……よろしくお願いします」

作「それでは長々と失礼しました!また次回お会いしましょう!」

「「「「また(な)ねー!」」」」

レ「……バイバイ」


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お買い物デート?

作者はね……度重なる仕事に疲れてるんだ……

と言うわけで投稿じゃい!




燦々と強く日が照りつける下で、僕はレキちゃんとお買い物に出ていた。実はレキちゃんが使ってる弾丸は僕が作っていたりするんだよ!まぁ流石に本職さんには勝てないけど、〔その手〕の作り方はお母さんに教えてもらったから自信はあるんだ!

 

それで、その弾丸を作る為の材料が昨日切れちゃったから買い物に行こうとしたらレキちゃんもついてきた。

 

「付き合わせちゃってごめんね」

 

「いえ、私がついて行きたかっただけなので」

 

今更ながら、僕とレキちゃんはよく一緒に行動してる気がする。それとGWに地元で知り合ったライカちゃんからもよくメールが来る。瑞穂とはずっとメールのやり取りはしてるからノーカンで、白雪ちゃんからはキンジの事で相談されたりするし、りこりんからは遊びのお誘いが来たりする。

 

……あれ?ふと思ったけど僕の仲の良い友達って殆ど女の子ばっかりだ!

 

僕は隣で歩くレキちゃんをチラッと見る。顔はお人形さんの様に整っていて、髪は見ただけでサラサラだと分かる。いつも無表情で滅多に感情を表さない女の子だけど、しっかり感情もあるし笑った顔は凄く可愛い。いまのところ僕が一番心を開いてる友達だと思う。

 

「?どうしました?」

 

「あっ、な、なんでもないよ!」

 

見つめ過ぎちゃったのか、レキちゃんと目があってしまった。慌てて誤魔化したけどレキちゃんは僕を少しの間ジーッと見つめると、「そうですか」と言って前に向き直った。その後は二人で特に会話も無く目的地へと向かう。

 

うー、レキちゃんに変に思われちゃったかも………。

 

火照る顔を気にしながら歩いていると、僕の行きつけのお店〔ガンショップ梶田〕に到着した。気兼ね無く扉を開けるとカランカランと鈴の音が鳴り、店の奥からサングラスを掛けた厳ついおじさんが現れた。

 

「お、稲葉の坊主じゃねぇか。なんだぁ?今日は彼女連れかい」

 

「か、彼女!?違うよ!レキちゃんは友達だよ!梶田さん分かって言ってるでしょ!」カァァァ

 

「はっはっは!稲葉の坊主は相変わらずウブだな!まるで昔の修一を見てる気分だぜ!」バシッ!バシッ!

 

梶田さんが豪快に笑いながら僕の背中を強めに叩いてくる。僕にとっては慣れたものだけど、レキちゃんは無表情ながらも少し怒ってる様に感じる。

 

「いて、いてて。紹介するね。この人は梶田 秋吉さんで、僕が小さい頃からお世話になってる人なんだ」

 

「宜しくな、嬢ちゃん!銃でなんか困った事があったらうちに来な。稲葉の坊主のダチなら何時でも歓迎だ!ついでに安くしとくぜ?」

 

「……レキです。宜しくお願いします」ペコッ

 

僕の紹介にレキちゃんはペコッと控えめにお辞儀をする。梶田さんは満足げに笑って店の奧に消えると、二挺の銃を持って戻ってきた。

 

「ほれ、お得意様とそのガールフレンドへのプレゼントだ!」

 

「え、そんな!タダで貰うわけにはいかないよ!」

 

「………」ジーッ

 

梶田さんが持ってきたのは〔ベレッタ 93R〕。確か対テロ用のマシンピストルだった気がする。一般には売られてない銃の筈だけど……。まぁ梶田さんのネットワークは物凄く広いから〔その道〕の人から買い取った物なんだろうなぁ。なんにせよ、タダで頂くような品ではないのは確かだ。

 

「まぁそんな遠慮せずに受け取ってくれ。普段からうちで商品買ってくれる礼だと思ってよ!……それに坊主は今古谷のせいで面倒くせぇことになってんだろ?」ヒソッ

 

「え……」

 

梶田さんの言葉に心臓が大きく跳ねる。僕しか知らない事をどうして梶田さんが知ってるんだろうか?もしかして梶田さんも古谷さんと─────

 

「そんな脅えんな。俺ぁ昔からお前ら稲葉家の味方だからよ、安心しろ」

 

「梶田さん………」

 

「ほれ!稲葉の坊主にはこっちで、嬢ちゃんにはこっちだ」

 

梶田さんは半ば強引に僕とレキちゃんにベレッタ93Rを渡してきた。どちらもカラーリングが違い、僕に渡されたベレッタ93Rは全体的にシルバーがメインカラーになっていて、グリップ部分は鮮やかな赤色だ。少し派手な気がする。

レキちゃんが受け取ったベレッタ93Rは全体的に蒼みがかっていてグリップ部分は黒色だ。僕のとは違って落ち着いた感じだ。

 

「そいつは元々坊主に渡そうと俺が弄くってた銃なんだぜ?嬢ちゃんに渡したのは俺が現役の頃に使ってたやつだ!整備は欠かしてなかったからな、今でも全然使えるぜ」

 

「……ほんとに貰っていいの?」

 

「ったりめぇよ!俺は坊主を気に入ってんだよ!ただし、これからも〔ガンショップ梶田〕を宜しく頼むぜ」

 

清清しいくらいの笑顔でサムズアップする梶田さんに僕達はお礼を言って、素材を買い足す。相変わらずここは品揃えがいいから、つい足を運んじゃうんだよね。

 

「それじゃあ僕達は行きますね!」

 

「おう、毎度あり!また何時でも来いよ!」

 

「……ありがとうございました」ペコッ

 

梶田さんに別れを告げて僕達は寮へと向かって歩いていく。心なしかレキちゃんが嬉しそうだ。表情は何時も通り無表情だけど、なんとなく分かる。

 

「今日はありがとう、レキちゃん。また今度二人で遊びに行こっか♪」

 

「………はい」

 

僕は気分よく鼻歌を歌いながらレキちゃんと並んで帰宅したのだった。

 

 

 

レキちゃんも一緒に鼻歌を歌ってくれたけど、凄く上手で二人で仲良く歌いながら帰った。

 

 

 

 

 

 




……ふぁ!?めっちゃ読まれてる!!(゜ロ゜ノ)ノ

沢山のお気に入り登録及び評価をありがとうございます!沢山の人に読んでいただき誠に感謝感激です!

これからもどんどんご感想及び評価をお送りして頂ければ嬉しいです!拙い作品ではありますがこれからもよろしくお願いしまーす!!




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その男、鬼人と呼ばれる親バカ

皆、待たせたな!
今回は学生メンバーではなく、ある男性のお話です!

……え?タイトルで誰か分かった?気にするな!


カツン、カツンと靴の音を鳴らしながら一人の男性が赤く着色された床を歩く。紺色のタクティカルスーツを着た彼の手に握られているのは赤黒く濡れた一本のナイフと拳銃だ。彼は歩きながらマガジンを確認すると、何の戸惑いもなく拳銃を投げ捨てる。するとタイミング良く彼の耳元のインカムに通信が入った。

 

『S、あんまり悠長にしてる暇はないわよ。遅くなったらあの子に寂しい思いさせちゃうし』

 

「分かってるさ。目標はまだ動いてないのか?」

 

『……そうね。何か言い争ってるみたいだけど、部屋を出ようとする素振りはないわ。敵が入り込んでるってのにお粗末な対応ね』

 

「こっちとしては殺りやすくていいんだけどね。さて、じゃあ一回通信を落とすよ。団体客が雪崩れ込んで来るみたいだしな」

 

彼の耳に多数の足音が聞こえてくる。ざっと15人くらいかと彼は予測した。

 

「ふぅ……殺るか」

 

まるで自分に言い聞かせる様に呟いて、顔に着けた般若の面を軽く着け直すと同時に通路の向こう側から扉を蹴破る音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

「一体どうなってやがる!敵はたった一人なんじゃねぇのか!」

 

「落ち着いてください。確かに敵は一人ですが、どうやら相手は〔鬼人〕のようです」

 

とある一室で落ち着き無くうろうろする膨よかな男性がサングラスを掛けた男性に怒鳴り散らすが、サングラスの男性が告げた内容に顔が真っ青になった。

 

「ば、馬鹿な!鬼人だと!何故そんな化け物がここにいる!?」

 

膨よかな男性が恐れている〔鬼人〕と呼ばれる人物はテロリストや犯罪者達から危険視されている。その理由として、驚異的なまでの戦闘力と容赦の無さが上げられる。そして必ず般若の面を着けている事から〔鬼人〕と呼ばれる様になったのだ。鬼人がこのままこの部屋にたどり着いたなら、彼らの命がどうなるのかは明白だ。

 

「何処からか情報が漏れたのでしょう。なんにせよ、このままでは殺されます」

 

「んなことは分かってんだよ!てめぇらグズの仕事は俺を無事に脱出させることだろうが!」

 

サングラスの男性の言葉と落ち着き様に膨よかな男性はバン!と机を思いっきり叩く。鬼人が迫ってきている恐怖心故か、脂汗をかいて息も上がりかけている。

 

「そうですね。幸いにも鬼人は足止めされているので、逃げるにはうってつけでしょう。むしろこのタイミングを逃せば脱出の機会は訪れない……」

 

「だったらさっさとしろ!!」

 

「えぇ、えぇ。ちゃんと逃がしてみせますよ」カチャッ

 

「……は?」ダンダンダン!

 

膨よかな男性が怒鳴りながら部屋を出ようとするとサングラスの男性は冷たい笑みを浮かべながら拳銃を取り出し銃口を向け、迷い無くトリガーを引いた。

銃口を向けられた男性は唖然としながらも対応することが出来ず、何が起こったのかを理解する前に頭と心臓に弾丸を撃ち込まれて死亡した。サングラスの男性は足で死体を蹴って確認すると、足早にその場を立ち去っていった。ジッとその様子を伺っていた監視カメラに気付く事無く。

 

 

 

 

 

「……これで全部か」

 

血の匂いが辺り一面に広がり、文字通り血の海と化した通路をSと呼ばれた男性が歩いていく。道中でまだ息のある敵に奪った銃で頭を撃ち抜き、マガジンが空になったのを確認して投げ捨てる。最早ナイフも刃が欠けており、返り血を浴びたSは面のしたで顔をしかめる。

 

『S、聞こえてるわね?』

 

「あぁ、動きでもあったか?」

 

『えぇ、さっき目標が殺されたわ。殺したのは目標と一緒にいたボディーガードよ。今エレベーターに向かってるわ。そこからの最短ルートを送ったから直ぐに向かって』

 

「分かった」

 

オペレーターからの指示に従い、先程送られてきた最短ルートをPDAで確認して走り出す。

彼らはこの施設にいる人物を誰一人逃がす気は毛頭なかった。

 

 

 

 

エレベーターまでの道程を急ぎ足で歩く。まさかこんな目立たない弱小組織をピンポイントで狙ってくるとは思っていなかったサングラスの男性は嫌な汗をかいていた。

 

「あのデブの死体が調べられても俺達の情報は漏れる事はねぇ……焦るな。ドジ踏んじまったら終わりだ」

 

サングラスの男性は携帯を取り出しとある人物に電話を掛けようとした瞬間、突如通路の明かりが消えた。

男性は驚きながらもサングラスを捨て、すぐさま拳銃を抜き辺りに神経を集中する。物静かな中で男性の心音がドクンドクンとうるさいほど脈打ち、緊張のあまり唇が乾燥していく。

 

「………」

 

暗闇の中で尚も警戒し続けるが、特にこれと言った襲撃は無く男性の杞憂で終わる──────

 

 

 

 

 

「………へ?」カラン

 

 

 

 

訳も無く、突如手の感覚が無くなりドサッという音と拳銃が鉄板にぶつかる音が響く。漸く非常灯がついた時、男性は何故手の感覚が無くなったのかを嫌でも理解した。

 

「あ……あぁ……お、俺の……俺の手がっ!!」

 

何故手の感覚が無くなったのか、それは銃を持っていた筈の右手と添えていた左手が無くなっていたからだ。

手首からはドクドクと大量の血が流れているが、痛覚は感じられない。

男性が近くにいるであろう敵を、鬼人を探すが一向に姿は見えない。最早男性の頭は恐怖心によって正常な思考をすることが出来なくなっていた。

 

「あ……あ……」バタッ

 

大量出血により体を支えられなくなった男性は自分の血で出来た血溜りに倒れ付した。カツンという音に反応してぼんやりとモヤが掛かってきた目で音の主を見ると、その男はエレベーターへと向かっていった。

 

「………き………じ……………」

 

最後に男性の視界に入ったのは、男が持っていた赤黒く着色された般若のお面だった。

 

 

 

 

「こちらS、施設内の掃討を完了した」

 

『ご苦労様、そのままエレベーターで上がってきて。さっさと血と硝煙の匂いを落として帰りましょ』

 

「そうだね。意外と時間掛かったし、瑞穂もお腹空かしてるだろうしな!」

 

『あの子の事だし、もう自分で作って食べてそうだけどね』

 

「ははっ、違いない」

 

 

こうして鬼人と呼ばれた男は、愛する娘が待つ自宅へと妻と一緒に帰っていった。

 

 

施設内で生き残った者は誰一人存在しなかった

 




今回はSさんの裏仕事のお話でした!
因みに、この仕事の事は子供達は知りません。

それでは、ご感想お待ちしております!


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風の音

今回は彼女の視点でお送りします。






いつからだっただろうか、風の音がたまに聞こえなくなる時があった。私は何時も風の声に従ってきた。それが最善であり、風の意思だったから。私は風の声に疑問を持った事はなかった。私は弾丸。何も考えず、ただ真っ直ぐに標的を殺す一発の弾丸。だから風も私の感情を殺し、私もそれで良いと思っていた。

 

けれど、彼と出会ってから私の日常に、私自身に少しずつ変化が訪れた。彼は誰にでも優しくて、何時もニコニコしていて、何時も元気いっぱいで、武偵校の皆から人気者だった。彼に初めて声をかけられた時、私は必要最低限の会話だけで済ましていた。私に話しかけてきた人は沢山いる。けれど大抵はそれっきりで、社交辞令のような挨拶はあっても本当の意味で私と話そうとする人はいない。別に私も自分から話そうとは思わなかった。

でも彼は違った。何時もニコニコしながら私に話しかけてきて、他愛の無い会話をしてくる。お昼ご飯にも何度も誘われた。

一度だけ彼に、「私と話すのはそんなに楽しいですか」と聞いたことがある。人によっては嫌味として聞こえなくもない言葉に、彼は満面の笑みで「もちろん!」と言ってくれた。その言葉が例え社交辞令であったとしても、何故か彼の言葉なら嬉しかった。私の感情は風によって殺された筈なのに、とっくに失ったと思っていたのに、私の心はほんのりと暖かかった。

 

そうだ。それから風の声が聞こえにくくなったんだ。

風は「彼を利用しろ」と言ってくるけど、私は初めて風の声に「彼を利用する事だけは絶対にしない」と逆らった。それほどまでに私の中で彼の存在は大きくなっていた。少しずつ感情を取り戻して行くなかで、私は初めて男子生徒から〔ロボット・レキ〕と呼ばれた事があった。私は特に何も思わなかったけど、その言葉を聞いた彼はその男子生徒に銃を向けた。何時も笑顔だった彼が初めて怒っていた。その姿に私は驚きと嬉しさが半々だった。

私にはまだこの感情がよく分からない。でも悪い感情ではないのは分かる。だって、彼の側にいるとこんなにも暖かいのだから。

 

 

 

「レーキちゃん!こんな所で寝てたら風邪引いちゃうよ?」

 

「ん………」

 

体を揺すられる感覚に目を覚ますと、彼が少し心配そうに私を見つめていた。どうやら屋上で故郷の風の音を聴いているうちに眠ってしまったみたいだ。

風の声はまた聞こえない………。

 

「……すみません。いつの間にか眠ってしまいました」

 

「駄目だよ、そんな無防備にしてたら狼さんに襲われちゃうよ?」

 

「……あなたも私を襲うんですか?」

 

「へ!?ち、ちちちが!僕はそんなことしないよっ!」カァァ

 

私の質問に彼は顔を真っ赤にしてブンブンと手を横に振っている。少し残念な気持ちもあったが、何より今の彼の反応が面白くてついクスッと笑ってしまう。

 

「ふふ、冗談です」

 

「あっ……もう!からかわないでよ!」

 

彼は未だ顔を赤くしているが、はにかみながら私に手を差し伸べてくる。

 

「ほら、もう授業始まっちゃうよ。早く行こ?」

 

「……はい」

 

彼が差し伸べてくれた手を取り立ち上がると、そのまま彼に引っ張られる様に教室へと向かった。

その手の温もりは過去に凍らせてしまった感情を、ほんの少しずつだが溶かしてくれる暖かさだった。

 

願わくは彼とこのままずっと──────────

 

『色金の騎士』

 

「え……」

 

今の風の声は……その言葉の意味は………?

 

「どうしたの?」

 

「……いえ、何でもありません」

 

また風の声が聞こえなくなった。最後に風の声が残した〔色金の騎士〕ってなんだろうか………。

 

晴れやかだった私の心に一抹の不安が残るのだった。

 

 

 




はい、と言うわけでレキ視点でお送りしました。
ぶっちゃけレキの言葉使いがまだよく分からん作者には中々難しいパートだった……

この作品でのレキは感情表現が中々豊かになりそう。まぁ良いよね!

そして一番悩むヒロイン問題。レキをヒロインに希望する人が割りといて、このままレキヒロインでもいいかなって思う反面もしやハーレムルートを望んでいる人もいるのでは……?と思うこともあったり。と言うわけで今回も例に埋もれずアンケートを実施したいと思います。詳しい内容は活動報告に乗せるので、皆様のお声をお聞かせ下さい。



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二人の夢

今回は伊織君とキンジがメインのお話です。



諜報科の自主練をこなし、強襲科に遊びに来てた僕は手すりに座って足をぷらぷら揺らしながらキンジと黒河君の模擬戦を眺めていた。体術はキンジよりも黒河君の方が上みたいで、基本的に黒河君がどんどんラッシュをかけていきキンジは受身のままだった。

 

「オラオラオラァ!カルテットの時の強さはどうしたよぉ!」

 

「こっちは好きでお前と戦ってんじゃねぇ!この戦闘狂が!」

 

黒河君の攻撃をなんとか受け流しながらカウンターを狙っているキンジだけど、黒河君はフェイントとかも混ぜて攻撃してくるからタイミングが掴めないみたいだ。

 

「よっしゃあ!そこやぁ!殺す気でぶん殴れやぁ!」

 

強襲科Sランクのキンジはどうしても目立つみたいで、キンジが誰かと模擬戦になると大概ギャラリーが沢山いる。元気に騒ぎながらお酒を飲んでる蘭豹先生なんかは常連だ。因みに僕も常連だったりする。

 

「死ね!」

 

「……そこだ!」

 

物凄い速度で顔面に迫る拳をキンジは手の甲で外側に反らして黒河君の伸びきった腕を捕まえた。黒河君は放ったストレートの勢いが殺しきれず、キンジはそのまま勢いを利用して一本背負いを綺麗に決めた!

 

「かはっ!」

 

「ついでだ!」

 

背中から思い切り地面に叩きつけられた衝撃で黒河君の肺から酸素が吐き出され、痛みと衝撃で動けない黒河君に追い討ちをかけるように腕の関節を極める!

 

「いでで!ぎ、ギブ!ギブ!」

 

「俺の勝ちでいいな?」ギリギリ

 

「わかったわかった!俺の負けだ!だから離せででで!?」

 

黒河君は必死に地面を叩き降参の意を示し、漸くキンジは極めていた関節技を止め出口へ歩いていく。僕は手すりから降りてキンジの元へと走る。キンジってば隙あらば一人で帰ろうとするんだから水臭いよね!

 

「あっ!待ってよキンジー!僕も一緒に帰るー!」

 

「くっそー!またリベンジするからな!覚えてろキンジぃ!」

 

「もうお前とはやりたくねぇよ……」

 

黒河君のリベンジ宣言にキンジはボソッと疲労の籠った声を溢しただけだった。

 

 

 

 

 

寮への帰り道、僕とキンジは並んで今日あった出来事を話し合っていた。大塚君が潜入訓練でサーモセンサーに引っ掛かって罠に掛かった事や、上田君が僕を嘗め回すような視線で見てくる事(その後に男子生徒複数人に連れてかれたり女子生徒に拘束されてたりしてた)とか、色々な事をキンジに話す。キンジはそれを適当に相槌を打ちながらもしっかり聞いてくれてたりする。

 

「それでねそれでね────」

 

「なぁ、1つ聞いていいか?」

 

「お、キンジからなんて珍しいね!いいよ、なんでも聞いて!」

 

「じゃあ聞くけど、伊織は何で武偵になろうと思ったんだ?」

 

キンジの質問に僕はうーんと考え込む。理由なんてものは沢山ある。お父さんやお母さんに憧れて、二人みたいな格好いい武偵になりたくて成ろうと思った事もあるし、瑞穂を守る為でもあった。でも何よりも………

 

「夢の為……かな」

 

「夢の為?あぁ、伊織の両親に憧れてるのか」

 

「ん、それもあるよ。でもちょっと違うんだ」

 

キンジより先を歩いて、キンジに振り返る。

 

「僕は褒めて欲しいんだ。僕の大切だった人達に、胸を張って精一杯楽しんで生きたって伝えて、頑張ったねって褒めて欲しいんだ」

 

今はもうぼんやりとしか思い出せない、けれど確かに大好きで大切だった人達に伝えたい。

 

「……彼女とかか?」

 

「ううん、違うと思う。実は顔も名前も思い出せないんだ。変だよね、顔も名前も思い出せないのに僕にとって大切な人達だったって事は覚えてるんだから」

 

手を胸に当てて目を瞑る。確かにそこにあった筈の幸せの日々、沢山の人達に囲まれていた筈の僕。そこには笑いが溢れていて、とても暖かくて、何時までもこんな風に続くと思っていた筈の日々。

ぼんやりとモザイクが掛かっているけど、瞼の裏に映るこの光景は確かに僕の経験の筈なんだ。

 

「もしかしたら幻かも知れない、眠ってる時に見た夢の延長線でしか無いのかも知れない。でもね、例えそれが夢でも幻でも僕の気持ちは変わらない。だって、大好きだったんだもん。この気持ちだけは無くしたくないし、嘘にしたくないんだよ」

 

ツーっと涙が頬を伝うのが分かる。これが寂しさから来るのか悲しさから来てるのか僕には分からない。それでも僕は満面の笑みを浮かべる。

 

「だから僕は元気に精一杯楽しんで生きる!誰にでも胸を張って誇れるくらいに生きるんだ!これが僕の夢!武偵に成らなくても叶えられるかもしれないけど、それでも僕は武偵になることにしたんだ。だって普通の生き方じゃ物足りなかったから!」

 

これは本心だ。確かに普通の生き方もあった。普通に小中高を卒業して、社会に出て働く。そんな未来も思い描いた事もあった。けど何かが物足りなかった。それが見つかるかもしれないから武偵になることにしたのもあるのだ。

 

「お前……そんな事も考えてたんだな」

 

「もう!ちゃんと話したのにそれは失礼だよ!」

 

「悪い、冗談だ。ほんとはスゲーなって思ってるよ」

 

キンジはバツが悪そうに言葉を吐き出すと、歩きながらポツポツとキンジの事を話始めた。

 

「俺が武偵に成ろうと思ったのは兄貴に憧れてたからだ。遠山金一って知ってるか?」

 

「うん、有名人だし知ってるよ。何となくキンジのお兄さんなのかなぁって気になってたけど、本当にキンジのお兄さんだったんだね」

 

「あぁ。兄貴が色んな事件や依頼を解決していく姿が格好いいと思って、兄貴みたいな正義の味方に成りたくて武偵に成ったんだ。でも、中学の頃に一悶着合ってな……」

 

中学の話を始めた瞬間、キンジの顔が苦痛に歪んだ。それほど迄にキンジにとって辛い記憶なんだ。

 

「この際だ、お前には話しておこうと思う。俺の、俺達遠山家の能力の事を───」

 

それからキンジが話した事は衝撃的だった。遠山家に代々伝わる能力、HSS(ヒステリア・サヴァン・シンドローム)についての事、HSSになれば身体能力が飛躍的に向上したり頭の回転が速くなったりする事、そのトリガーは性的興奮だと言うこと。そしてそのHSSは何がなんでも女性を助ける様になってしまうということ。

元々は種を繁栄させるための本能的行動らしいけど、このHSSの弱点はとことん女性に対して優しくキザったらしくなることらしい。それが中学の時に質の悪い女子グループにバレてしまって、酷い目に合い続けて来たらしい。

 

「何さそれ!キンジは都合の良い道具なんかじゃないのに!流石の僕もそんな人達は大っ嫌いだよ!」

 

「はは、ありがとな。そうやって怒ってくれるだけでも多少なりとも救われる。でも、その時に思っちまったんだ。正義の味方なんて良いように使われるだけなんじゃないかって。そこに自分の意思は無くて、ただ周りの声に従って生きるだけになるんじゃないのかってな。そんなわけ無いのにな……それでも今までズルズルと引っ張ってきちまった……」

 

立ち止まって力なく笑うキンジが嫌で、見ていたく無くて。だから僕はキンジに近づいて爪先立ちをして両手をキンジの頬に添える。そして思いっきり横に引っ張る!

 

「いってぇ!はひひやはる!」

 

「そんな顔しない!何時だって笑顔が大切なんだよ?はい笑って笑ってー。良いねぇ!」

 

キンジの顔で一通り遊んでから両手を離すと、キンジは恨みがましく僕を見ながら頬を擦っている。少なくともさっきみたいな辛気くさい顔はしていない。

 

「それで?キンジはもう正義の味方には成りたくないの?金一先輩みたいな格好いい武偵になるのを諦めるの?」

 

「俺は………」

 

キンジの目をジッと見据える。キンジの目は少し揺れているけど、僕の目から視線は外さない。分かってるよ、キンジは諦めてなんかいないよね。だってキンジは強いから。

 

「俺は……諦めるなんて出来ない!あんな奴らのせいで俺の夢を諦めるなんて出来るかよ!」

 

「うん。それでいいんだよ。キンジの夢はキンジだけのモノなんだよ。誰もそれを否定する権利なんてないし、まして誰かのせいで諦めるなんてそれこそカッコ悪いよ。なろうよ、正義の味方!どれだけ転んだって、どれだけ惨めに足掻いたって、それで諦めずに夢に向かって行けるなら充分格好いいよ!必死に頑張って、正義の味方になって!そんで金一先輩も追い抜いちゃおう!」

 

「兄貴を追い抜くか……そうだな。それくらいが丁度良いのかも知れない。よし、憧れるのはもう止める!これからは憧れるんじゃなくて兄貴を追い抜いてやる!最高に格好いい正義の味方になるために!」

 

「僕だって沢山手伝っちゃうよ!そうだ!いっそ僕も正義の味方を目指しちゃおっかな?」

 

「それも良いかもな。でも手加減しないぜ?」

 

「もちろんだよ!むしろキンジより先になっちゃうかも?」

 

「言うじゃねぇか……」

 

「「ぷっ……あははははは!」」

 

ついキンジと張り合っちゃって、それが何だか可笑しくてつい吹き出してしまうとキンジも同じだったみたいで、二人で声を上げて笑い合う。幸い近くに人はいなかったから無問題だ。

 

「ありがとな、伊織。お前に話して良かったよ。おかげで色々吹っ切れた」

 

「此方こそ、話しにくい事を話してくれてありがとう。漸くキンジと本当の友達になれた気がする」

 

今までずっと感じてきた少しの距離感も、今では全然感じない。それが嬉しかった。

 

「これからもよろしく頼むぜ、親友」

 

「うん!よろしくね、親友!」

 

キンジとガッシリと握手する。まだまだキンジの心の闇が晴れた訳じゃないと思う。けどきっと大丈夫。僕はキンジを助けるし、僕だけじゃなく皆もキンジに力を貸してくれる筈だから。

 

 

 

だから、もしもの事があっても大丈夫だ。

 

 

 

 




はい、然り気無くキンジ強化フラグです。

伊織君、遂にキンジの心を開くことに成功!得難い親友を得ることが出来ました!きっと彼も力になってくれる事でしょう!

……こほん。それではまた次回お会いしましょう!


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人命救助

皆様、お久しぶりです。黒三葉サンダーがこの小説に帰ってきたぞぉ!!

え?お呼びでない?そんなぁ……(´;ω;`)






いきなりだけど、僕には苦手なものは二つあるんだ。一つは〔雨〕。雨の日はまるで金縛りに合ってるかのように体が動かせなくなっちゃって、凄く眠たくなっちゃうんだ。何でそうなるのかは全然分かってないんだ。しかも雨の日は急激に心細くなって、まるで世界に僕だけが取り残されてしまったんじゃないかって思ってしまうくらいに心が弱ってしまう。武偵高に来る前はよく瑞穂が添い寝してくれたから多少平気だったけど、寮生活じゃそんなことも言ってられない。でも結局どうにもならなくて雨の日は欠席しちゃうんだ。月読先生は僕の体質に理解を示してくれて、今は僕の体質を調べてくれてるんだ。信じられないよね、こんなに良い人が実は古谷さんの仲間だなんてさ。でも何となくは気付いてたんだよ?

 

月読先生からの電話を受けてから古谷さんが接触してくるタイミングがバッチリ過ぎたし、古谷さんから「僕に月読先生から連絡が来た」という事を明かされれば嫌でも勘繰ってしまう。そしてキンジと話をしてから後日、誰にも気付かれないように月読先生と接触して本人にダメ元で確認したら呆気ない位に古谷さんの仲間だと答えてくれた。でも同時に「私は貴方の味方でもあるのよ?」と言われた。どういう事か聞き返してもこれ以上の返答は貰えなくて、ただ何時もの優しい笑顔で返されちゃった。……何となくだけど、月読先生なら信じても大丈夫だと思う。根拠も何も無いけどね?

 

話がだいぶ逸れちゃった!話を戻すね。だから僕の体質的に雨が苦手。そしてもうひとつの、最早どうにもならない程の致命的な弱点は────────

 

「う、動かないでね……!だ、だだ大丈夫だからね……!」カタカタ

 

「う、うん……」

 

何とか壁の小さな出っ張りやベランダに手や足を掛けながらマンションを登る。登り始めてから現在、既に三階建て位の高さになっておりうっかり下を見ようものなら完全にその場から動けなくなってしまう。

 

そう、僕のもうひとつの致命的な弱点は〔高所恐怖症〕なんだ……。じゃあ何で高所恐怖症の癖に壁登りなんかしているのか。それは僕の頭上にいる、壊れかけの柵に何とか捕まりながら体を震わせて動けなくなっちゃった女の子を助ける為だ。

 

そもそもこの状況に出会す前はガンショップ梶田に向かっていたんだけど、マンションの上の方からガシャン!という何かが壊れる音と女の子の悲鳴が聞こえて、慌てて声の方を見てみたら女の子が今にも外れてしまいそうな壊れかけの柵に必死に捕まっているのを見付けたんだ。だから僕は女の子を助ける為に〔無我夢中で〕壁を登り始めた、んだけど……

 

「うー……何で壁登りなんて始めちゃったんだろう……高いよぉ……怖いよぉ……」カタカタ

 

絶賛僕が大ピンチです!もう頭が勝手に現在の高さをイメージしちゃって体が滅茶苦茶震えてます!でも女の子もそろそろ限界が近いのか少しずつだけど下に体が引っ張られ始めている。

 

「ひぐっ……怖いよぉ……痛いよぉ……ママぁ……パパぁ……助けてぇ……」プルプル

 

どんどん体重と引力で引っ張られていく恐怖感と落ちたら死んでしまうという絶望感に女の子がポロポロと泣き出してしまった。この状況は非常に宜しくない。

ええい!覚悟を決めろ僕!僕よりも小さな女の子が怖がってるんだ!僕が怖がってちゃ駄目だ!何とかなる!何とかする!

 

「大丈夫!今助けるからね!もうちょっとだから!!」

 

さっきよりも素早く壁をよじ登り、なるべく早く女の子を救助することだけに専念する。

怖くない!怖くない!怖くない!怖じ気付く暇があったら早く上へ!僕なんかよりも頑張ってる女の子の元へ!

 

「おい!救助隊はまだなのか!?」

 

「くっそ!何処でモタモタしてんだよ!!このままじゃ女の子や彼女が危ないぞ!?」

 

「あの部屋には行けないのか!!」

 

「駄目だ!鍵が掛かってるらしい!大家も今出掛けていて鍵も借りられない!」

 

「はぁ!?今はそんな事言ってる場合じゃねぇだろうが!!」

 

「どうすんだよ!警察もまだ───って嬢ちゃん!?何処に行くんだ!?」

 

下の方が騒がしくなってきてるみたいだ。辛うじて聞き取れたけど、救助隊や警察はまだ来てないみたいだね……。

何とか五階位まで登ってこれた。女の子がぶら下がっているのは六階位だがらもう少しで手が届く。早く!早く!早く!

 

「待っててね!もう届くから──!!」

 

女の子に懸命にエールを送りながらよじ登る。階段の方から足音が聞こえたような気がしたけど、正直気にしている余裕がない。下の方もなんか怒声が飛び交ってるし、気になる事この上ないけど気にしてられない!

一気に壁を〔駆け上がって〕比較的無事な柵に捕まりしっかりと女の子を抱き止める。

 

「よ、し!届いた!もう大丈夫だからね!」

 

「ひっぐ……ぐす……ありがと……お姉ちゃん……!」

 

お、お姉ちゃんか……やっぱり勘違いされるんだね。にしても比較的無事な柵に捕まったとは言え状況は未だにピンチ。何故ならうっかり、ついうっかりと下を見てしまったのだ。つまりどういう事かというと。

 

「ひぇ………怖いよぉ……」

 

完全にイメージしちゃった……というかイメージが完成しちゃった……もし落ちてしまったらひとたまりもない。な、何とかこの子だけでも助けたいけど……

 

「お、お姉ちゃん……?」

 

「あっ……ひっ……な、何でもないよー……大丈夫だからね……」カタカタ

 

もう体が悲鳴を上げてます!無理無理!!誰か助けてぇ!キンジー!レキちゃーん!りこりーん!白雪ちゃーん!うわぁーん!!

 

女の子を抱えながら恐怖で震えていると、部屋の奥からタタタン!と三点バーストの音が響き乱暴に扉が開けられる音がした。その足音は徐々に此方に近づいて来ており、救助隊が来た!と思い顔を上げた。するとそこにいたのは救助隊でも警察でもなかった。

 

「伊織さん!今助けます!」

 

そこにいたのは恐らく僕が最も付き合いが多い、僕が気になってる女の子だった。ここまで走って登って来たせいだろうか、額に汗が浮かんでいる。

 

「レキちゃん!?どうしてここに!?」

 

「後で説明します!」

 

普段は絶対に見せない位に必死に僕達を助けようと手を伸ばしてくれるレキちゃんにビックリしながらも、最優先事項を改めて確認し直す。今現在優先すべきはこの子の身の安全の確保だ。二人分の体重を支えていたせいか手摺もギシギシと不穏な音を立て始めている。

 

「レキちゃん!先ずはこの子をお願い!」

 

「っ!分かりました!」

 

何とか震えを抑えながらゆっくり柵に余計な負担を掛けないように慎重に女の子をレキちゃんの元へと送り出す。

 

「ほら!あのお姉ちゃんの手に捕まって?僕の肩とか踏んでも大丈夫だから」

 

「ぅ、うん」

 

女の子はレキちゃんの手を掴みながら僕の肩を台にして部屋へと戻す事が出来た。後は僕が登りきれば無事に解決だ。

 

僕はこの時油断していた。女の子を無事に助ける事が出来た事実に安心した。安心してしまった。だから気付けなかったのだ。

 

一気に登りきろうと体を持ち上げたその時。バキャン!と嫌な音を立てて柵が折れたのだ。勿論僕はその柵に捕まっていた為に柵と共に落下してしまう。

 

「っ!!伊織さん!!」

 

「レキちゃん!!」

 

すぐに柵から手を離し、レキちゃんが伸ばしてくれた手を掴もうとした。が、僕の手は後数㎝程届かずに空を切ってしまった。

 

「あっ……」

 

「だめ!!」

 

レキちゃんは尚も必死に身を乗り出しながら手を伸ばしてくれたけど、やはりその手に届くことはなく。

 

「ごめんね……」

 

「いや……いやぁぁぁぁ!!」

 

今まで見たことがないレキちゃんの泣き顔をぼんやりと見つめながら、レキちゃんを泣かせてしまった事に自己嫌悪しながらも抗うことは出来ず。そっと目をつむる。

 

確か、前世の頃も人助けした結果運悪く死んじゃったんだっけ。また、痛いのかな……でも何よりも……

 

「ここで終わりなんだ……」

 

何もかも諦めて、迫り来る死に身を委ねる───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早く張れぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

聞き覚えのある親友の声が聞こえたかと思った次の瞬間、体を襲ったのはアスファルトの強い衝撃ではなく、布の感触だった。恐る恐る目を開くと、冷や汗をかきながらもイタズラが成功したような笑みを浮かべるキンジがそこにいた。どうやら周りの大人達が即席で布のマットを作って受け止めてくれたみたいだ。上ではレキちゃんが腰が抜けたのか、ぺたんと座り込んで此方を見ていた。

 

「よう親友。気分はどうだ?」

 

「は、はは……最高だよ、親友」

 

こうして僕は何とか事なきを得たのだった。

 

……はぁぁぁ!!今回はもう本当に駄目かと思ったぁぁぁぁ!!

 

 




高所恐怖症。それは逃れられない恐怖症。高いところが大好きな人の気持ちは共感できぬい……すまない!本当にすまない!

そして自分が高所恐怖症であるのにも関わらず人助けの為に直ぐ壁登りを始めてしまう伊織君マジ伊織君!

はぁ……伊織君のイラスト描きたいけどどないしよ……うち絵心ないねん……

以上!久しぶりの更新でした!また次回お会いしましょう!


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女装な先輩と白兎

何故かこの小説を読んだ人達の語彙力が低下する事案が発生している……!

このままでは人類の知能指数が大変な事になるぞ!だ、誰か!語彙力の衰えたお客様をジャパリパークへご案内して差し上げろ!!


今現在、強襲科の生徒達は目の前の光景に絶句していた。彼等の目の前にいる人物は二人。一人は腰まで届くプラチナブロンドの髪にルビーのような真っ赤な瞳をした、白兎のような印象を与える少女(少年)。そしてもう一人は少女(少年)よりも長い茶髪を後ろで編んだ翡翠色の瞳をした美人さん(女装)だ。二人ともニコニコしながら会話を続けており、彼等はそれを遠巻きに見守っていた。誰かがそこに混ざり行こうとした瞬間、その人物は周りの手によって瞬時に始末され東京湾に沈められる事になるだろう。無論そんな事は彼等全員分かりきっているために行動を起こすものは勿論いない。尤も、その本人達はその事を全く理解してはいないのだが。

 

「えへへー、まさか噂の凄い先輩と話せるなんて思いませんでした♪」

 

「ふふ、そうでもないわよ。でも君から言われると満更でもないって思えるわ。不思議な子ね」

 

美人さん──カナは白兎こと伊織に微笑むと、ずっと気になっていたプラチナブロンドの髪へと手を伸ばして撫でてしまう。しかし伊織はそれを嫌がることはなく、むしろ気持ち良さそうに目を細めて為すがままにされている。その姿はどうみても高校生には見えず、白兎のような印象の筈が心なしか千切れんばかりに尻尾をブンブンと振る犬のようにも見えた。そしてその光景は彼等にとって何にも代えがたい尊いものであり、一部の者に至っては拝み始めている。しかしそんな有り難い神回に無情にも横槍を入れる人物がいた。何時も気だるげ且つ根暗な雰囲気を醸し出し、尚且つ目付きが悪いことで定評のある強襲科きっての目の敵。

 

「おい伊織、何しに──ってカナ!?いつこっちに戻ってきてたんだよ!?」

 

「あっ!キンジだ!」

 

「ただいまキンジ。ついさっきよ?」

 

そう、遠山キンジである。彼は強襲科の生徒だけではなく他の科の生徒からも目の敵にされる強者であり、どう足掻いても許されることの無い罪人である。その理由は………。

 

「あいつ……我等の神回を妨害しやがった!」

 

「しかも先輩を呼び捨てしたぞ!うらやm──けしからん!」

 

「伊織ちゃんや星伽さんだけに止まらずカナ先輩にも毒牙を立てるつもりか!」

 

「変な言い掛かりをするな!?」

 

彼の人脈にあった。実はこの武偵高には密かに様々なファンクラブが設立されていたりする。星伽ファンクラブは勿論のこと白兎見守り隊や不思議ちゃん教、りこりん追っかけ隊などが現在の大規模なファンクラブである。因みに、最近は伊織とレキがよく一緒にいることから白兎見守り隊と不思議ちゃん教の両クラブが互いに手を取り始めていたりする。無論こちらも本人達は気付いていない。そして彼等にとっての高嶺の花である彼女達(彼含む)の人脈を持っているという事が彼、遠山キンジの消えない罪なのである。

 

しかし、ここで一人がとうとう自爆することになる。

 

「この野郎!伊織ちゃんは俺の伊織ちゃんだぞ!?」

 

「「「あ?」」」

 

「……取り敢えずそいつも処すぞ!囲め!取り押さえろ!東京湾に沈めてやれ!」

 

「「「おう!!」」」

 

「うわなにをするやめr───」

 

こうして一人はあっという間に簀巻きにされ二、三人の生徒に連れていかれた。その間にもひっそりと逃亡を図ろうとしている人物がいたが、彼等の敵意からは完全には逃れられてはいなかった。むしろ火に油を注ぐ行為である。

「っ!やべ!」ダッ!

 

「テメェも逃がすか!追え!引っ捕らえろ!殺しても構わん!むしろ殺れ!!我等が天使達を穢す悪しき者を滅ぼすのだ!!」

 

「「「おう!!」」」

 

「ふっざけんなぁぁぁぁぁ!!?」

 

「「「正義は我等に在り!!」」」

 

まるで嵐のようにドタドタと居なくなっていくキンジと強襲科の生徒達の姿に伊織はクスクスと楽しそうに笑い、カナは苦笑していた。

 

「やれやれ、ここは何時でも騒がしいわね」

 

「でも皆良い人ばかりですよ。僕は好きですよ、ここ。勿論一番は諜報科ですけど」

 

「そう、それは良かったわ。それにあの子と、キンジと仲良くしてくれてありがとう。キンジから電話で聞いたわ。あの子が前向きになってくれたのは伊織君のお陰よ」

 

「そんな、僕はただ親友と楽しくお喋りしただけですよ?」

 

「それでもよ。少なからずキンジは私に遠慮してるところがあったの。でもこの前電話で、「絶対にカナを越える武偵になってやる」って言われた時は嬉しくて柄にもなくはしゃいじゃった。あの子からそんなこと言われるなんて思ってなかったから」

 

カナはじっと伊織を真っ直ぐ見つめると、意を決して頭を下げた。

 

「あぇ!?えっと!?」

 

「お願い!これからもあの子を、キンジを助けて上げて!きっと──いえ、必ず伊織君の力が必要になるときが来るわ。その時にキンジの背中を押して上げてほしいの。あの子が後悔しないように……」

 

「それは、どういう──いえ、分かりました!任せてください!僕はキンジの親友ですから!親友を助けるのは当然です!」

 

カナの唐突なお願いに伊織は一瞬動揺するも、すぐにカナのお願いに胸を張って笑顔で答える。その姿は大人ぶろうと背伸びをしている子供のようにも見えて、カナは思わず微笑みを溢してしまう。それに対して伊織は「どうして笑うんですかー!」と両腕をパタパタと振って抗議するが、それがカナにとって余計にツボに入ってしまう。カナが耐えられなくなってひとしきり伊織を撫で回すと、伊織のサラサラヘアーに指を通しながらとある提案をすることにした。

 

「ねぇ伊織君。お礼に良いものお裾分けしてあげよっか?」

 

「良いもの?」

 

「ふふ、そうよ。君ならきっと使いこなせるわ」

 

カナは自分の髪に触れながら、意味ありげに伊織に微笑みかけるのだった。

 

ただ、何も分からずキョトンと首を傾げる伊織の姿にカナは心中で萌え殺されそうになっていた。

 

 

 

 




ついに伊織君とカナが接触しましたね!男の娘と女装美人の組み合わせはなんと言うか……業が深いですね(戦慄)

そして然り気無い伊織君強化フラグ。勘の良い読者の皆さんなら「あっ(察し)」になること間違いない!
だ、だからって感想欄でネタバラシは駄目だぜ?駄目だぜ?(大切)

……にしてもあれってどんな構造になってるんだろうか。

それではまた次回お会いしましょう!


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