俺の名前は。 (kwhr2069)
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プロローグ

メジャー2nd、アニメ化おめでとう!
ということで書きました。

といってもこの話はプロローグなので悪しからず…。

なんかオリストばかりになりそうですので、むしろ原作知識は邪魔かも…?


「牧篠さーん」

 

 病院、待合室。

 医師が、患者の一人を呼ぶ。

 

 

「牧篠、美智琉さーん」

 

 繰り返して名前が呼ばれる。

 

 その時、お手洗いから出てきた中学生が一人。

 その子が”牧篠美智琉”のようで、名を呼ばれている事に気付き、慌てて向かう。

 左手首にガーゼを巻いた彼はその後、病室へと入っていった。

 

* * * * * *

 

「お大事にー」

 

 その言葉を背中に受けて、病院を出る。

 

「ふう、これで一時病院通いも終わりかな」

 そう呟きながら、ガーゼの取れた左手首を見る。

 軽く手を振ってみる。

 

 うん、痛くない。よかったよかった。

 

 

 今度は、右手の腕時計を見る。15:21。

 

「意外と時間経ってるじゃん。

 …もう、今日はやめとこうかな」

 

 そして、足取りを自宅へとむけた。

 

 

 

 俺の名前は、牧篠 美智琉(まきしの みちる)

 私立風林中学校に通う、中学二年生だ。

 ちなみに部活は、軟式野球部である。

 

 

 

 突然だが、俺は自分の名前があまり好きではない。

 それは何故か。

 

 

 ひとえに、”女っぽい”からだ。

 

 

 最近では、男とも女とも言い難いような名前がよく見られる。

 だから、男で”美智琉”というのも、さほど珍しくはないだろう。

 

 しかし、そういう問題ではない。

 

 子供、小さい頃はまだいいのだ。

 カワイイで押し通せるから。

 

 だが、俺は今中学生で、もうカワイイと言われるお年頃ではない。

 

 周りに、確かに似たような境遇の名前のやつはいるが、それとこれとは別だ。

 

 自分が”女っぽい”名前で呼ばれてしまう。

 とにかくこのことが、受け入れられないのだ。

 どうか、分かっていただきたい。

 

 

 ちなみに、誤解がないように付け加えておくと、決して、俺にこの名前を付けた親を恨んでいることはない。

 

 

*  *  *  *

 

 翌日。

 

 昨日入学式があったわが校では、今日から中二になって初めての授業が始まる。

 俺は、久々に部活にしっかり参加できることもあり、授業にはなかなか集中できず、また時間の進みがやけに遅く感じられる。

 

 ゆっくりと時は流れ、漸く昼休みになった。

 

 俺は、一人のクラスメートのもとへ。

 

「よっ」

 

「おう、牧篠じゃん」

 

「今日から、練習OKになったぞ」

 

「そっか、それは良かった」

 

「それで?昨日の新入生たちはどうだったよ?」

 

「聞きたい?」

 

「是非」

 

 

 コイツは、茂野 大吾(しげの だいご)

 俺のことを、名前ではなく名字で呼んでくれる数少ない存在で、俺が所属する野球部のキャプテンでもある。

 

 

 と、その時。

 教室の扉が開いて、二人の女子が姿を見せる。

 

「あれ?弥生に太鳳、なんでうちのクラスに?」

 

 同じ野球部のメンバー、沢 弥生(さわ やよい)相楽 太鳳(さがら たお)だった。

 

「いやね、美智琉、今日から練習出られるんでしょ?先生から聞いたのよ」

「それに、昨日の話もせっかくだしミチルにしてやろーかと思って」

 

 二人とも()()()()()()()、俺のことを名前で呼んでくれる気さくな女子だ。

 

 一般的に、中学生男子は女子に下の名で呼ばれると嬉しいものだろう。

 (※ごめんなさい、これは作者の思い込みなのかもしれません)

 

 しかし俺は、そんなのはまっぴらゴメンだ。

 ただ、これを公言するといろいろ面倒な気がするから口には出せないのだが。

 

 

 とまあ、そんなことはどうでもいい。

 

「昨日の話なら、今丁度大吾に聞こうとしてたぞ」

 

「悪い、牧篠。俺先生に用事あるから、話はこの二人から聞いててくれ」

 

 えぇ...そんな...。

 

 

「さてミチル、どこから聞きたい?」

 

「なあ、そろそろマジでミチル呼び、やめてもらえませんですか?」

 

「今更遅いって、諦めなよ」

「そうよそうよ、もう一年も経っちゃったんだから」

 

「いや、俺は諦めないからな、ずっと言い続けてやるよ」

 

「ねえ、どうしてそこまで、”美智琉”と呼ばれることを嫌うのよ?」

「そーいえば、それ聞いたことなかったね」

 

「…別に、特に話すようなことはねえよ」

 なんか面倒なことになったな。

 

 

 ミチル。

 この名前に、俺はかなりのコンプレックスを抱いている。

 

 そしてそれは、あの頃からのものだ。

 




プロローグてことなんで、この辺で。

お察しの方もいるかは分かりませんが、次話からは一時、原作キャラの登場はほぼ見られません。
個人的に、硬式少年野球→軟式中学野球、の流れがしっくりこなかったためです。
(※追記:作者の勘違いで、大吾たちは小学校では硬式野球をやっていると思っていましたが、正しくは軟式野球でした。すみません。もしかしたら原作キャラの登場、あるかもしれません。)

こんな作品ですが、御自愛頂ければ幸いです。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

※11月10日18:00に若干部分的修正を加えました。
 今更ですけどこの話、文字数めっちゃ少ないですね、まあ今更なんですけど。


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第壱章:小学生編
第一話


メジャー2ndアニメ、無事始まりましたね~!
まずは何と言っても、吾郎や薫などの懐かしい面子の声が久々に聴けて、すごく嬉しい気持ちになりました。
あと、次回予告の後、大吾が「夢の舞台へかけあがれ!」と言ったのも個人的にはアツかったですね。
また途中で、心絵が流れたときは、やはりテンションが上がりました。

とまあ、感想もだいぶ述べさせて頂きましたので、この辺りで終わりにします。

では第一話、よろしくお願いします。


はじまり

 

 幼稚園に通っていた頃、俺には、とても仲の良い女の子がいた。

 その子と俺は家が近くて、いつも幼稚園への行き帰りをともにしていた。

 それに、よく一緒に遊んでいた。

 また驚くことに、下の名前が同じ”ミチル”だった。

 

 幼稚園に通い始めた頃は、特に問題はなかった。

 

 しかし、年を重ねるにつれて、段々と問題が起こり始めた。

 

 まず、いろいろ言葉を覚えるようになってきた同年代の子たちに、いつも一緒にいる自分たちのことを”ふーふ”と言われるようになった。

 

 今思い返すと恥ずかしい話だが、その頃は特に気にしてはいなかった。

 むしろ本当に、好きあっていた気もするが、それはまた別の話だ。

 

 また、その女の子のことを好いている男児によく絡まれるようになった。

 わかりやすくいうなれば、一緒に遊ぼうとしたところに横入りされることが増えたのだ。

 俺は、あまりその女の子と遊べなくなっていった。

 

 ずっと一緒に遊んできた子と、遊べなくなる。

 子供心ながらに、それがすごくイヤだったのを覚えている。

 

 そして、負の連鎖は止まらない。

 なんと、親の都合で引っ越すことになり、その女の子と唯一保てていた行き帰りの接点を失ってしまったのだ。

 

 一応同じ幼稚園に通い続けることはできたが、これをきっかけに、その女の子とは毎日幼稚園で顔をちょっと合わせるだけになった。

 

 

 とにかく、何とかしようとしていた。

 どうにかしてその女の子と遊ぼうとしていた。

 

 そこで思いついた手段。

 

 

 

 それが、”あいのこくはく”だった。

 子供とは極めて恐ろしい存在だと本当に今となっては思う。

 

 

 結果が成功か失敗かについては断定できないが、次の日から再び、その女の子と遊べるようにはなった。

 

 

 

 その後、卒園して小学生になった。

 その女の子とは同じ小学校で、俺はすごく嬉しかった。

 

 だが、小学生となると、幼稚園のころと同じではいられない。

 男の子は男の子と、女の子は女の子と遊ぶのが普通だ。

 

 いっちょ前に羞恥心のかけらみたいなものを持ち始めていた当時の俺は、その女の子を若干避けるようになっていった。

 

 そして。

 最大の問題が起こった。

 

 ある日突然、俺がその女の子のことを好きだということが皆の間で言われ始めたのだ。

 

 後で知ったのだが、このことは幼稚園でその子のことを好いていた男児、そのいとこがその男児からそれを聞いたとのことらしかった。

 

 

 そして、その当時の俺は、半端な羞恥心のために、それを否定した。

 

 それでも尚、俺は同級生からいじられる日々が続いていた。

 ちなみにその女の子は、そのことに対して特に声をあげてはいなかった。

 

 それが、より俺を同級生からのおちょくりの対象にした。

 

 俺は、すごく悩んでいた。

 今さら認めたところで、どうせ皆からはからかわれることになる。

 かといって、このまま否定し続けるのもなんかイヤだった。

 

 

 そんな時だった。

 俺は再び、親の事情で引っ越しをすることになった。

 

 救われたと思った。

 俺は、誰にも何も告げることなく、通っていた小学校を出ていくことに決めた。

 

 小学二年生、六月下旬の出来事である。

 

 

 だが、事態はそれでは止まらなかった。

 転校して一週間くらい経った頃。

 

 自宅に、一本の電話がかかってきた。

 俺に用があるとのことだったので、電話を受け取ると、

 

「美智琉くんのイジワル」

 

 という言葉が聞こえ、電話は切れた。

 

 

 俺が好きだったその子から浴びせられた一言。

 まだ小二の子供である俺の心を傷つけるのには、十分すぎるほどの威力だった。

 

 こうして俺は、初恋に失敗した。

 

 

 とてつもない失敗を犯してしまった俺。

 しかしこの後、俺を大きく変える出来事が起こるのだった。

 




あとでちまちま回想する流れも考えましたが、この時期の話から時系列的に書く方がいいかなとなんとなく思ったので、こういう感じになりました。
のんびりと見守って下さればありがたい限りです。

前書きでアニメの感想を書きましたが、次回からも今回のような流れでいこうと思っているので、そこのご理解をよろしくお願いします。
ちなみに、私は原作の方は今のところ全巻持っているので展開は知っているのですが、アニメ、しっかりと楽しんでいく所存です。
そういえば今更ですが、アニメ第一話は、漫画では詳しく描かれていなかった部分の話でしたね。
アニメオリジナルのキャラクターとか、この先出てくるんでしょうかね?

とまあ、色んなことに期待をしつつ、今回はこの辺りで失礼します。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第二話

えっ!?
毎週土曜の17:30に定期投稿するんじゃなかったっけ?!
後書きで言い訳します…。

アニメ、第三話まで見ました。
普通にマンガ通りの流れできてますね。
なんか変な目線からになりますけど、今のところは良い感じだなと思います。
次話からはあの名コンビの登場で、これからの展開も非常に楽しみです!

ということで、第二話になります。よろしくどうぞ。


出会い

 

『ミチルとミチルで、お前らおにあいだよなー!』

『おにあいカップル!ヒューヒュー!』

 

 

「『ちっ、違う!』…って、夢、か」

 

 転校して、一本の電話を受けて、俺は夢に悩まされることが増えた。

 辛かった、すごく。

 イヤでイヤでしょうがなかった。

 

 一番悩んでいたのは、やはり自分の名前だ。

 女の子と同じ名前であることを恥ずかしく思うようになり始めた頃だった故に。

 

 転校先の学校では無事には過ごせていたが、特別仲の良い友達ができるということもなく、毎日をのんびりと、ただ何かが足りないような気分だった。

 

 

 そんなある日だった。

 俺は、運命の出会いを果たす。

 

 それは、とあるテレビを観ていた時のこと。

 番組では、世界で大きな功績を残した日本人のことが特集されていた。

 

 そこで紹介された一人の野球選手に、俺はとても惹きつけられた。

 

 その人の名は、茂野吾郎。

 大リーグでめざましい活躍をし、日本代表として世界と激闘を繰り広げた。

 また、大リーグの頂点にも立った素晴らしい投手とのことだった。

 

 俺は、その人に憧れた。

 何よりも、とにかくカッコよかった。

 

 この人のようにカッコよくなれば、俺も今の悩みからは解放されるかなと思った。

 もっと男らしくなることで、このミチルという女のような名前を気にしなくてもよくなる気がした。

 

 だから、決めた。

 野球を始めようと。

 

 野球をして、自身を変えて男らしくなることで、自信をつけたかったのかもしれない。

 

 

 しかしその頃、俺に新たな問題が迫ってきていた。

 

 両親の仲が、段々と悪くなっていたのだ。

 

 家では、二人の口論がよく繰り広げられ、俺が野球をしたいと言い出せる余裕はなかった。

 だからほぼ毎日、遠くから小学校の野球部が活動している様子を見ていた。

 残念だったけど、俺は野球を見ているだけですごく幸せだった。

 

 親にはずっと、俺が野球をしたいことは言えないまま月日が去っていった。

 

 

 ところが、俺が小学二年生だった時のクリスマスの日。

 朝起きると、俺の枕元にはなんと軟式野球用のグラブがあった。

 

 喜びで飛び起きて、すぐ両親に野球がしたいことを伝えた。

 そして、野球部に入ることを許してもらった。

 

 だが、しかし。

 俺が通っていた小学校の野球部では、小学三年生からしか野球部には入れないとのことで、結局野球部に入るのはお預けになってしまった。

 

 とにかく野球がしたかった俺は、父親と一緒にキャッチボールを毎日のようにやった。

 

 父は、中学高校と野球をやっていたらしく、とても上手だった。

 コツなんかも丁寧に教えてもらって、バッティングセンターに連れて行ってもらったりもした。

 

 

 そして、小学三年生になった。

 俺はすぐに野球部に入り、毎日を楽しく過ごせるようになった。

 野球部に入ったことで友達も増えた。

 

 でも、ふとした時に思い出す初恋の傷。

 時折、すごく悲しい気分にさせられた。

 

 だから、とにかく野球を楽しむことで記憶から忘れ去ろうとした。

 

 

 でも、無理だった。

 自分のことを”ミチル”と呼ばれるたびに、あの女の子のことが頭のどこかをちらついた。

 大好きで楽しい野球をやっているのに、”ミチル”に邪魔されたような気分になる。

 

 その頃からだろう。

 自分が、下の名前で呼ばれることをすごく気にし始めたのは。

 




…まあ、彼の大まかな過去の話はこんな感じです。
次話からは、野球をさせてあげる予定です。よろしくお願いします。

では、言い訳をさせてもらいます。

端的に言いますと、昼寝です。
予約投稿してればよかったんですが...。
はい。ということで言い訳終わりです笑。

あと、これだけは言っておこうと思います。
一話(プロローグ)の後書きにて、一つ勘違いをしていました。
三船ドルフィンズって、硬式じゃなくなってたんでしたね。
すっかり忘れてました。自分のミスです。ごめんなさい。
あとで加筆修正をしておこうと思っています。

では、長くなってきたのでこのあたりで。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第三話

今日はちゃんと時間通りの投稿です。
また、先週の自分の手違いのため、今回はアニメの感想を述べる余地はないので、早速第三話になります。
では、どうぞ。


全力で

 

 俺が野球部に入ってから一年経ち、俺は小学四年生になった。

 

 父の野球のセンスを受け継いだのか、そもそもチームの人数が少なかったからか。

 俺は、四年生ながら試合に出してもらえるようになっていた。

 もちろん、毎試合出るようなレギュラーではない。

 たまに先発出場する準レギュラーとしてだ。

 

 試合に出るようになった俺は、先輩の部員の人と仲良くすることが増えた。

 

 特に仲の良かった先輩が二人。

 その時六年生だった、茅ヶ谷 綜(ちがや そう)さんと濱内 健竜(はまうち けんりゅう)さんだ。

 

 綜先輩は右投げ左打ちの外野手で、3番センターでレギュラーとして、またチームのキャプテンとして、すごく俺に優しくしてくれた。

 健竜先輩は左投げ左打ちの投手で、制球力が持ち味のチームのエース。また、俺と家が近く、部活がない日も一緒に遊ぶようなお兄ちゃん的存在だった。

 

 

 とある大会にて。

 対戦相手の運にも恵まれて、俺たちのチーム、鹿瀬少年野球クラブは決勝戦まで進んでいた。

 

 決勝戦の相手は、北畠シャーク。

 俺たちの地区で一、二位を争う、強打のチーム。

 特に、4番の磯田と5番の徳地は、市営球場のスタンドに入れるホームランを打ったことがあるほどのバッター。

 

 なんとその試合に、俺は先発出場した。

 

 先攻:鹿瀬少年野球クラブ、後攻:北畠シャーク

  鹿瀬           北畠

 9 左 鈴木  1番 4 右 堀

 5 右 牧篠  2番 6 左 本郷

 8 左 茅ヶ谷 3番 1 右 双葉

 3 左 王城  4番 7 左 磯田

 7 左 町井  5番 2 右 徳地

 2 右 村野  6番 8 右 中山

 1 左 濱内  7番 3 右 佐藤

 6 右 新木  8番 5 右 後藤

 4 右 波多  9番 9 右 来島

 【※ 右・左、という表記は打席】

 

 

 初回、鈴木先輩がサードゴロに倒れて、俺の打順。

 俺は、右打席に入る。

 相手のピッチャーは右投げで、五年生。

 学年は一つだけ上なのに、強いチームにいるだけあってすごく威圧感がある。

 

 初球、二球目は、背がまだ低い俺の、頭くらいの高さのボール球。

 ツーボールから、今度はインコースの際どいところにストライク。

 カウント1-2となって、四球目。

 ベルトの高さのボールに、バットを振りにいく。

 弱弱しくはじき返した打球はファーストフライで、俺は凡退。

 

 その後、綜先輩はセカンドライナーに倒れ、初回の攻撃は三者凡退に終わった。

 

 一方、相手の初回の攻撃。

 健竜先輩が、空振り三振、セカンドゴロ、ピッチャーゴロに抑える。

 

 

 イニングが進み、三回の裏。

 この回先頭の7番佐藤に、健竜先輩がデッドボールを当てる。

 8番後藤は、バントの構え。サードの俺はバント警戒で前めの守備位置に。

 バントを前進して捕球し、一塁へ。ワンアウト二塁になる。

 9番来島は空振り三振で、ツーアウトに。

 打席には、1番堀。その初球だった。

 

 コツン

 

 絶妙なセーフティバントがサード前に転がる。

 意表を突かれながら前進、捕球し、一塁へ送球する。

 

 しかし、俺の投げたボールは逸れて、ファーストの王城先輩のグラブに収まらず。

 ライト方向へと転がるボールを見て、二塁ランナーが一気にホームへ生還。

 俺のエラーで、先制点を与えてしまう。

 

 後続は健竜先輩が抑え、それ以上の広がりは防いだ。

 

 

 四回の表。

 一巡した打線は先頭にかえって、この回は1番鈴木先輩から。

 

 ネクストバッターサークルで、俺はさっきの回のエラーを引きずっていた。

 だから、鈴木先輩がチーム初ヒットを打ったことにも声をかけられてから気付いた。

 打席に入ってサインを見ると、送りバントだった。

 

 俺は、素直にバントを決める。

 

 2番に入っていることからもわかるように、俺は、バントは得意な方だ。

 アウトになってベンチに戻ると、楢崎監督に名前を呼ばれた。

 

「牧篠、交代したいか?」

 

 突然そう言われ、俺の頭は困惑した。

 何も言わないでいると、監督はこう続けた。

 

「エラーを気にするのは当たり前だが、それで試合への集中力が途切れたらダメだろう」

 

 確かに、俺はエラーのことを気にしていた。

 それで若干、集中出来ていなかったことは否定できない。

 

 でも、それでバントをミスしたならともかく、バントは決めた。

 チームの足を引っ張ったのはあの一回だけ…

 

 

「それなら、あのテキトーな走塁は何だ?」

 

「……」

 

 閉口せざるをえなかった。

 

 監督が言いたいのはおそらく、俺がバントをした後のことだろう。

 確かに、気を抜いて一塁まで走った。

 

「自覚は、あるみたいだな」

 

「…はい、すみません」

 

「いいか?野球は、一時たりとも気を抜いちゃいけないんだよ。

 そんなことをしたら神様から見放されて、チャンスももらえなくなっちまう。

 どんな時でも全力でプレーする、それがとにかく大事なんだ、覚えておけ」

 

「はい!次からは、気を付けます」

 

「分かればいい。それと…ナイスバントだったぞ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 そうこうしている間に、四回の表の攻撃が終わった。

 ワンアウト二塁から、綜先輩がセカンドゴロでツーアウト三塁に。

 そして、王城先輩がフォアボールの後、町井先輩がセンターフライに倒れた。

 点は取れなかったけど、チャンスは作れた。

 きっとまだ勝てるチャンスは残ってるはずだ。

 

 次打席が回ってきたら、絶対にエラーを取り返してやるという気持ちで、俺は声を出しながら守備位置についた。

 




今のうちに言っておくと、私は野球の試合描写はまだまだ初心者なので、この作品が皆さんの満足のいくものになるかはわかりませんが、これからもどうぞよろしくお願いします。

話は変わりますが、パワプロ2018やりたい…笑

今回は、後書きもコンパクトにしてこの辺りで。
では、ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第四話

どうもお世話になっております、こんにちは。
早速アニメ第四話の感想を述べさせてもらいますが…
まず、卜部君の声が自分の想定と違っていて、何とも言えませんでした笑。ですが、これはまあ仕方ない事な気がするので、慣れるまで待とうかなと思う次第ですね。
また、今のところ原作12話くらいまでは進んでいて、アニメ一話当たり約三話。ということで、1クール(12話)で考えてみると、だいたい四巻分くらいになりそうなんですけど、流石に中途半端ですよね...。どこかを切るんですかね?それとも3クールくらい続くんでしょうか?

まあいずれにしても、自分はこれからもアニメ、MAJOR2ndを楽しんでいきたいです。

では、前書きが長くなりましたが、ここから小説本編となります。
どうぞ、よろしくお願いします。


直向きに

 

 試合は進んで、最終回の攻防を残すのみとなった。

 

 試合としては、六回の表に相手のエラーも絡んで一点を返して同点にしたものの、その直後の六回裏に4、5番コンビの連続ツーベースで一点勝ち越され、2-1という状況だ。

 俺は、六回にノーアウト一、二塁の場面で打席に立って、きっちりと送りバントを決めた。

 また、守備機会も何度かあり、しっかりとミスなくプレーできた。

 

 そして、七回表。

 鹿瀬の攻撃は、7番の健竜先輩からというところだったが、ここで代打として島永先輩が起用される。

 すると、島永先輩がヒットで出塁し、新木先輩は送りバント。

 波多先輩は粘ってフォアボールを選んで、ワンアウト一、二塁のチャンス。

 ここで打席には、鈴木先輩。今日は二安打と結果を残している。

 俺は、ネクストバッターサークルで、エラーを取り返すチャンスが巡ってくるであろうことに対して、気持ちを高ぶらせる。

 

 鈴木先輩の打席、カウント1-1からの三球目だった。

 高めのストレートを叩きつけた打球が、一、二塁間に転がる。

 セカンドが取って、二塁に送球しかけたが、間に合わないとの判断で一塁へ。

 鈴木先輩はアウトになったけど、ツーアウト二、三塁と、逆転のチャンス。

 

 俺は、高鳴る鼓動を抑えきれないまま、打席へと向かう。

 

 監督の言ったことは、本当だった。

 あれ以降、ずっと気を抜かずにプレーしてきた。

 そしたら、このチャンスに打順が回ってきた。

 これが、野球の神様に味方してもらうということなのだろうか。

 

 

 しかし、大事なのはここからだ。

 俺は、このピッチャーからヒットを打たなければならないのだ。

 

 今日の俺は、ヒットをまだ打てていない。

 

 だけど、二、三打席目はバントを決めた。

 相手のピッチャーのボールには、もう目は慣れているはず。

 あとは、ボールに合わせてバットを思いっきり振りぬくだけだ。

 

 初球、ボールを見て、思いっきりバットを振った。

 

 すごく良い音がして、打球が飛んだ。

 

 ボールの行方は気になったけど、とにかく走った。

 

 ファーストまで来ると、コーチャーが打球を指さしていた。

 

 左中間方向に飛んだボールは、転々と外野を転がっていた。

 

 だから、さらに思いっきり走った。

 

 セカンドを蹴って、サードに向かう。

 

 サードコーチャーが、スライディングをするように指示しているのが見えたので、頭から滑り込んだ。

 

 ベースについた感触の後で、相手のサードの人がボールを取った音がした。

 

 気付いたら、俺はガッツポーズをしながら雄たけびをあげていた。

 

 

 

 試合は、結果的に4-2で勝った。

 俺の三塁打で逆転した後、綜先輩もヒットで続いて俺がホームインして四点目。

 その裏を、いつもはファーストの王城先輩が三者凡退に抑えた。

 

 そして、俺たち鹿瀬少年野球クラブは、この大会での優勝を決めた。

 

 MVPとしてエースの健竜先輩が選ばれ、そして驚くことに、決勝での逆転打を評価されてか、優秀選手として俺も表彰を受けることになった。

 こういうことは初めてだったから、すごく嬉しかった。

 

 表彰を受けている時、監督の嬉しそうな顔が目に入って、俺は決勝戦中の監督からの言葉を思い出していた。

 

 監督の言う通りだった。

 気を抜かず全力プレーをしたからこそ、呼び込めたチャンス、勝利だったんだと確信した。

 

 こうして俺の、野球をする者としての信条が生まれた。

 

 

 この年の先輩たちは本当に強くて、ほかの大会でもベスト4は当たり前のような感じだった。

 そういう先輩たちと一緒にプレーすることで、俺もどんどん力をつけられた。

 

 だから、先輩たちの卒業は本当に悲しくて、信じたくなかった。

 

 来年からはこの人たちと野球ができないなんて、全く考えられなかった。

 

 

 先輩たちと最後に一緒に練習をした日。

 綜先輩と健竜先輩に、俺の想いを話した。

 まだ出ていかないでほしい、もっと一緒に野球がしたい、と。

 

 すると、綜先輩がこう言った。

 

 『俺とケンは、隣の県の私立校の風林中学に行く。

 もし来ても一年間しか無理だけど、少しでも一緒に野球がしたいなら風林に来い』と。

 

 俺は、目にうっすら涙を浮かべながら首を縦に振った。

 

 

 そして、先輩たちは鹿瀬少年野球クラブを去っていった。

 




と、いうことで、小学四年生編はこれにて完結。
次話からは、五年生に進級した美智琉くんの姿を描いていきます。

ちなみに、直近の二つの話で出てきたキャラのうち何人かは、今後も出番が与えられているので、今のうちに覚えておいてやってください笑。

個人的な話になりますけど、プロローグからこの話までは一気に書いていたのですが、それを出し切ってしまい、最近は時間に追われており毎週投稿できるのか、ひやひやし始めています笑。
とにかく頑張って、さぼることがないようにしなければ...!

では、後書きもこのあたりで失礼します。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第五話

どうもこんにちは。
では、アニメ第五話の感想を...
やはりまずは、ようやく野球に本格的に目覚めた大吾君に、原作同様ワクワクさせられました。そして、キャッチャーを始める彼にコーチとして現れた、私にとっては懐かしの、佐藤寿也さん。やっぱり、メジャーで聞いていた声を再び聞けると、それだけでテンションが上がってしまいます。
更に、これまた懐かしい安藤スポーツ店親子組の出演。個人的にかなりツボった薫母さんの四十肩。
いや~本当に、これからも目が離せないアニメですね笑。

では、感想もこの辺りで締めて、小説の方へとまいりましょう。
前回の先輩たちとの別れを経て、今話からは、小五になった美智琉の話になります。
ということで、どうぞ、よろしくお願いします。


新チーム

 

 先輩との別れから時間は流れ、俺は小学五年生に。

 このころ俺は、すっかりレギュラーとなり、ほぼ毎試合に出場していた。

 

 まあ、俺たちの一つ上の先輩が、部に4人しかいなかったことも理由の一つなのだが。

 

 とはいえ、俺はレギュラー。

 安定した成績をしっかりと残さなければならないわけだ。

 

 ちなみに、チームで最も足が速い俺は、一番サードとしての出場が主だ。

 

 チームとしては、去年から8人抜けたことで、公式試合の出場経験があるのは、先輩4人と俺と、同級生のレフトの筒本だけ。

 お世辞にも、去年のような試合成績は残せないだろうと言われていた。

 

 キャプテンは、キャッチャーの戸崎先輩。

 打撃は若干苦手ではあったがパワーはあり、強肩でリードが上手い。

 面白いことを言って皆を笑わせてくれる、すごくいいキャプテンだ。

 

 エースナンバーを付けるのは、風津先輩。

 右投げで、とにかくストレートが力強くて速い。

 バッティングもうまく、打線では5番に入っている。

 

 あとの先輩二人は、新木先輩と波多先輩。

 先輩たちの中でも唯一、去年からレギュラーとしてほぼ毎試合に出場していた。

 去年は基本的に、新木先輩がショート、波多先輩がセカンドをしていたが、今年はそのポジションが逆になった。

 新木先輩が少し送球が悪く、波多先輩の肩がすごく強くなったのが主な理由。

 また打撃面は、新木先輩が2番、波多先輩が3番を打つ。

 この二人の安定したプレイは、見ていてすごく安心できる。

 

 4番を打つのは、俺の同級生の筒本で、レフトを守る。

 無口で少し無愛想だけど、打撃力は先輩を差し置いて4番に座れるほど本物だといえる。

 ただ、守備面はちょっと不安があったりもするんだけど。

 

 ちなみに、先輩が4人と少ないが、俺の同級生はなんと9人もいる。

 俺、筒本、ファーストの内樺、センターの柳沢、ライトの糸魚川は試合によく出るメンバー。

 他に、ピッチャーとショートができる間宮。

 ピッチャー志望で、5年生になって部に入ってきた大屋。

 キャッチャーと外野を守れる森戸。

 そして最後は、女子でポジションはセカンドの菊地原。

 

 五年生以下の大会では、このメンバーで結構勝ったから、来年がすごく楽しみだったりもした。

 

 まあ、それはさておき。

 去年のメンバーがたくさん抜けたことで、色々と言われていた俺たち鹿瀬少年野球クラブだったが、蓋を開けてみるとそんなことはなく、自分で言うのもなんだが結構強かった。

 市の大会では去年同様ベスト4入りもよくあり、県大会でも勝ち進むことは多かった。

 

 でも、去年と違うことが一つ。

 それは、優勝を一回もしていなかったことだ。

 

 去年は、小さい集まりのものも入れると全部で4回優勝していた。

 でも、今年はそれがなかった。

 

 そんな中で迎えた最後の公式大会。

 市大会で、これで上位に行けば来年の県大会のシードが獲得できるという大会。

 

 俺たちはいつものように勝ち上がり、準決勝まで来ていた。

 そして決勝進出をかけて戦うのは、西山チーターズ、というチーム。

 

 戦い方はチーム名の通りで、とにかく足が速い選手が多い。

 去年は一回も負けたことはなかったが、今年は一勝一敗というタイの状況。

 この試合に勝って、チーターズに勝ち越しを決めたいところだ。

 

 注意しないといけないのは、1番の山賀、2番の塚井、3番の桐原、4番の兼橋。

 特に、3番と4番は打撃力もあり走力もありで、ランニングホームランも何本も打っている。

 また、9番の冨士見と、代走で出てくる羽場は、盗塁がものすごく上手いのでそこも警戒だ。

 

 先攻:西山チーターズ、後攻:鹿瀬少年野球クラブ

  西山         鹿瀬

 7 左 山賀  1番 5 右 牧篠

 4 左 塚井  2番 4 右 新木

 6 右 桐原  3番 6 右 波多

 8 左 兼橋  4番 7 左 筒本

 2 右 渡部  5番 1 右 風津

 5 右 佐南  6番 3 右 内樺

 1 右 旭   7番 2 右 戸崎

 9 右 田中  8番 8 左 柳沢

 3 左 富士見 9番 9 左 糸魚川

 【※ 右・左、という表記は打席】

 

 

 試合は、初回から激しく動く。

 

 先攻の西山チーターズ、1番の山賀は空振り三振に倒れるが、2番の塚井がレフト前ヒット。

 3番の桐原の初球、ヒットエンドランでバッターはライトゴロだが、ランナーが走って三塁へ。

 二死三塁となり、4番兼橋が右中間へのタイムリースリーベースヒット。

 さらに、5番渡部のレフト方向への打球を波多先輩と筒本がお見合いして取れず、追加点。

 6番佐南はセカンドゴロに抑えたものの、結果二点を先制される展開。

 

 対する鹿瀬少年野球クラブ、1番の俺がフォアボールで出塁し盗塁を決め、新木先輩がバント。

 一死三塁から波多先輩、筒本の連続ヒットで、一点を返した上に、一、二塁とチャンス継続。

 5番の風津先輩はサードフライに倒れたが、6番内樺のレフト前ヒットで波多先輩が生還。

 二死一、二塁から、7番戸崎先輩がセンター方向に強い打球を飛ばすも、相手のファインプレーでアウト。

 しかし、二点を返して、試合を振り出しに戻せた。

 

 一回を終えて、早くも2-2。乱打戦の予感。

 

 二回は両チームともに無得点だったが、三回は西山が二点、鹿瀬が一点を追加。

 更に四回には、西山が一点を追加したが、鹿瀬は無得点。

 

 ここまで終えて、5-3。

 俺たち鹿瀬少年野球クラブは、二点ビハインドで試合を折り返す。

 




西山チーターズは足が速いチーム、ということで数名、勝手に陸上選手的な要素をぶっこんでいます笑。
そしてお気づきかもしれませんが、鹿瀬少年野球クラブの面々も、勝手に野球選手的な要素をぶっこんだ名前になっています。
こちらについては、美智琉の小学校生活が終わり次第、登場した人たちを、選手紹介という形でお伝えできればと思っています。どうぞ、お楽しみに。

では、今回はこのあたりで。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第六話

どうもこんにちは。
アニメ第六話、見ました~
原作読んでた時から思ってたんですが、大吾が光に、父親とキャッチボールをしてないのおかしいとか言ってますけど、大吾だって父の吾郎にはほとんど会えてすらないから、キャッチボールやってないんですがね...笑。あ、だからこそ、せっかく近くにいるのにやらないのはおかしいぞ、ってなるのかな?
また、最後のシーンで、光の引っ越しが告げられ、これから大吾はどうなっていくのやら...って、原作読んでるから知ってるんですけどね笑。

とまあ、アニメの感想はこの辺で終わりにして、小説の方へ。
先週始まった試合の続きとなっています。
では、よろしくどうぞ。


奮起の理由

 

 五回の表、相手チームの攻撃は三番の桐原から。

 風津先輩はこの打者に対し、今日二回目の死球を与えてしまう。

 俊足のランナーが一塁に出て、打席には今日二安打で絶好調の四番兼橋。

 

 このタイミングで、俺たち内野手はマウンドに集まる。

 

 マウンド上の風津先輩は、現時点で被安打六、与四死球三、失点五。

 相手チームの走力に翻弄され、自らカウントを悪くしてしまっている。

 そこから四球を与えたり、甘い置きにいったボールを打たれたりしている印象だ。

 

「…太輔、大丈夫か」

 

 キャッチャーの戸崎先輩が尋ねる。

 

 風津先輩は、スタミナをかなり消耗しているのか、肩で息をしながら、

「なんとか、してみせるさ...」

 と言った。

 

 俺たちのチームの二番手投手は、五年の間宮。

 だが、前の試合で完投しているため、体力を考えると交代は難しい。

 

 次に投げる機会が多いのは、五年の大屋。

 しかし大屋は、ランナーがいる状況下でのピッチングがあまり良くない。

 

 つまり、出来るだけ風津先輩が投げる方がよいのだが...。

 

 今は、二点ビハインドの状況。

 これ以上点を与えられないわけで。

 

 でも、風津先輩の他に今この状況下で頼れる投手がいないのも事実。

 

 だからこそ、どうするのが正解なのか。

 

 するとベンチから、楢崎監督が出てきた。

 

「太輔、いけるか」

 

「…俺が何とかするしかないでしょ。エース、なんですから」

 

 風津先輩はこの一年間、鹿瀬少年野球クラブのエースとして、投手陣を引っ張ってきた。

 最後の大会となるこの大会にかける思いは、並々ではないはずだろう。

 

「…皆、聞いてくれ」

 

 監督がこう切り出す。

 

「相手のランナーは俊足。リードをさらに広げるためにも、ここは盗塁してくるだろう。

 だが、気にしすぎるな。それよりもっと気にしないといけないのは――、」

 

「兼橋のバッティング、ですよね」

 

「その通りだ、牧篠。

 兼橋はこの試合も、三塁打とヒットを打っている。

 だからこそ、このチャンスで抑えることができれば――、」

 

「逆にこっちに、チャンスが回ってくる...。」

 

「ああ、そういうことだ。だからこそだ、太輔」

 

「…はい」

 

「お前の一年間の頑張り、その集大成を、ここで見せてみろ」

 

 

 

 円陣がとけ、各選手がそれぞれポジションに散っていく。

 ノーアウトランナー一塁。打席には、四番兼橋。

 

 投手風津の初球は、アウトコースに外れる。ボール。

 やはり、スタミナの消耗は大きいか。

 とここで、一塁ランナー桐原の二次リードが若干大きいのを見て、キャッチャー戸崎が一塁けん制。

 タイミングは際どかったものの、セーフ。

 しかし、戸崎が良い送球を見せたことで、ランナーは走りにくくなりうる。

 

 二球目。しっかりと指にかかったボールが、打者の胸元寄りに構えた戸崎のミットに綺麗に吸い込まれる。ストライクだ。

 

 三球目、先程とほぼ同じところに構えたミットより、若干内に入ってきたボールを打者の兼橋は見逃さなかった。

 一塁手の「走った!」という声とともに投じられたそのボールを、兼橋が打つ。

 センター方向に、鋭い打球が飛ぶ。

 投手の風津、打球に反応しグラブを出す。

 

 打球は、風津の正面――むしろ顔面の方へ飛び。

 ボゴッ、という怪しげな音とパシッ、というボールを取った音がした。

 

 ライナーに反応できず帰塁できないランナー桐原を尻目に、打球を捕った風津はボールを一塁へ送る。

 

 ピッチャーライナーによるダブルプレーが成立し、沸く鹿瀬側ベンチ。

 

 

 しかし。

 マウンドに立つ男の異変に気付く。

 

 併殺を成立させた風津の誇らしげな顔を、二筋の血が伝っていたのだ。

 

 

 

 

 幾らか時間が経過し、マウンドには風津ではなく五年生の大屋が上がっていた。

 

 風津は、鼻血を出してベンチに下がっただけだったが。

 その後治療を受けているときに右手中指を突き指していることが発覚。

 

 監督は続投が不可能だと判断し、一応準備はさせておいた大屋をマウンドに送り出した。

 

 

 風津は、泣いていた。

 エースとして迎えた、一年の締めくくりの大会。

 自らがチームを優勝に導くはずだった。

 その結果が、これである。

 

 が、ここで、鹿瀬のメンバーたち。

 最後までマウンドに立とうとしたチームのエースの、熱い涙をきっかけにして、雰囲気が変わる。

 

 まず、代わってマウンドに上がった大屋。

 急遽の当番の為、最初の二人にこそ四死球を与えるが、二死一、二塁から七番打者を空振り三振に抑える。

 

 そして、打線。

 切りよく一番から始まった打線の口火を切ったのは、五年の牧篠。

 しぶとく三遊間に転がして内野安打とする。

 二番新木の打席、二球目に仕掛けたヒットエンドランで、広く空いた一二塁間に転がして、無死一、三塁とする。

 三番波多は着実に犠牲フライを打ち、一点を返す。

 打席には四番筒本。今日はレフト前安打と四球で、連続出塁している。

 しかし、相手投手も意地を見せ、また、兼橋のファインプレーもあり、結果センターライナー。

 二死一塁となり、打席に入るのは先程の回からリリーフしている大屋。

 その初球だった。

 インコース高めのボールを完璧に捉え、ぐんぐん伸びた打球はスタンドへ。

 ゲームをひっくり返すツーランホームラン。

 

 しかし打線は、ここでは止まらない。

 六番内樺がレフトにヒットを放つ。

 そして、風津とバッテリーを一年間組み続けてきた戸崎も、右中間へのツーベースヒット。

 二死二、三塁となって、八番柳沢もセンター前ヒット。

 二塁ランナー戸崎も、懸命の走りで本塁を狙いにいく。

 しかし、そこはセンター兼橋の強肩。

 残念ながらアウトとなり攻守交代だが、この回一気に四点を挙げることに成功。

 

 試合状況は、7-5。

 先程までとはうって変わり、鹿瀬側がリードする展開に。

 

 流れを掴んだ鹿瀬少年野球クラブ。

 大屋は六回を三者凡退で完璧に抑え、七回もツーアウトランナーなしまで持ってくる。

 ここで打席に入るのが、相手の四番、兼橋。

 キャプテンで、四番で、センターで攻守を幾度となく見せてきた、このチームの圧倒的な支柱。

 その意地か、二球で追い込まれた後、七球粘り、カウント2-2となってから、センターへヒットを放つ。

 底力を見せたキャプテンに続こうとするも、次打者はあえなくファーストフライ。

 

 そして、試合は終わった。

 7-6。大熱戦の末に勝ち上がった鹿瀬少年野球クラブは、見事決勝戦へと駒を進めた。

 




準決勝に勝ち、次週は決勝戦、つまり今の世代とも次でお別れになります。
どうぞ、お見逃しなく。

そういえば、前書きでアニメの感想書いてますけど、「ネタバレ食らった、糞野郎!」とか思った方って、いらっしゃるんでしょうか?
まあ、このシステムはあまり変えるつもりないんですけど笑。

では、今回はこのへんで失礼します。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第七話

どうもこんにちは。
アニメ第七話についてお話させてもらうと...
光からの手紙を読み、彼といつかバッテリーを組むために、一時はやめたキャッチャーの練習を再開する大吾。
そしてそんな彼につられて、野球を始める我らがヒロイン佐倉睦子ちゃん。
いや~、いいですね!なんだか、野球漫画らしくなってきたと言いますか。

また、今回アニメで言われていた、”才能”についてですが、やはり少なからず、そういうものはあると思います。しかし、それを理由にして初めから諦めていたり、自身を過小評価しすぎていたりしたら駄目なんですよね、きっと。
だから私も、文才は無いなりに、精一杯これからもこの作品を書き続けていきたいです!

とまぁ、うまくまとまったところで、小説の方をそろそろ始めていかないと、ですね。
美智琉が小五として迎える最後の試合と、エトセトラになっております。
では、よろしくどうぞ。


再出発

 

「「ありがとうございましたっ!!」」

 

 グラウンドに、決勝戦を戦い終えた両チームの声がこだまする。

 

 センター後方の大きな大きなスコアボードに記されているのは、6-2という数字。

 

 両チームの力がぶつかり合った結果、勝利したのは鹿瀬少年野球クラブだった。

 この大会では去年準決勝であり、リベンジを誓っていたはず。

 決勝戦の相手は、くしくも去年敗れた南城ラビッツ。

 

 見事雪辱を果たし、また、このチームでは初めてとなる大会での優勝。

 

 一年で最後の大会。

 それを優勝で飾ることのできた彼らは、すごく大きな達成感を得たに違いない。

 

* * * * * *

 

 決勝戦。

 

 前日の準決勝で、エースの風津先輩の怪我があった。

 俺たち鹿瀬少年野球クラブのメンバーは、最後の試合に満足に出場できないエースの為にも、絶対に優勝旗を貰おうと誓った。

 

 相手の南城ラビッツは、その特徴の一つに、女子選手の多さがある。

 チームの三分の一は女子で、これはかなり多い方だと思う。

 去年は、女子のエースを中心とした守備力の高さが大きかった。

 また、女子が多いということによる一種の団結力があり、それが生み出す集中攻撃は、凄く脅威的だ。

 

 ちなみに、レギュラーではセカンド、レフト、ライトが女子である。

 

 今年のエースピッチャーは、深雪。ちなみに、男子。

 特徴は、フォームがサイドスローのような感じであるということ。

 三塁ベース寄りに足を踏み出してくるので、右打者からするとかなり打ちにくい。

 

 去年は幾度となく大会の後半で対戦していたが、今年に入ってからは、今日が初対戦。

 確か、去年は負け越していたはずだから、よけいに今日は負けるわけにはいかない。

 

 

 試合が始まり、こちらの先攻でプレイボール。

 

 初回、1番打者の俺が二遊間方向への高いバウンドの打球で内野安打として、さっそく出塁。

 2番の新木先輩への二球目でヒットエンドラン。打球はショートの定位置付近を転がり、外野まで。俺は三塁に到達する。

 3番の波多先輩はセカンドの頭の上を越える打球を打つ。俺のホームインに続いて、新木先輩も一塁から一気に本塁まで。幸先よく二点を先制する。

 4番の筒本がセンター前ヒットで続いて更に一点を追加。

 が、しかし、5番戸崎先輩は空振り三振。

 6番内樺がデッドボールを受けて、ワンアウトランナー一、二塁。

 続く7番糸魚川が鋭い打球を一塁戦方向に打つも、ファーストの好捕に阻まれ、飛び出したランナーもアウトでダブルプレー。三点を先制してチェンジとなる。

 

 一回の裏、マウンドに上がるのは五年の間宮。

 投げられない先輩の分まで頑張ると言っていた間宮は、初回から全力投球。

 なんと、相手の1、2、3番を三者連続三振に抑える。

 

 二回の表、8番柳沢がフォアボールを選び、盗塁を決める。

 9番間宮がライトゴロに倒れて、ワンアウトランナー三塁に。

 この場面で俺が、カウント1-2からセーフティスクイズ。プッシュ気味に転がした打球はピッチャーの横を抜けて一塁線に上手く決まって、追加点を挙げることに成功する。

 

 その後、投手の間宮は殆どランナーを出さない完璧なピッチングを見せる。

 

 一方で、相手投手も立ち直り、ランナーは背負いつつも三、四、五回は無失点で粘る。

 

 そして、五回表一死満塁のピンチを凌いだ南城ラビッツに、チャンスが訪れる。

 ワンアウトから、6番セカンドの櫻井がチーム初ヒットを打つと、7番サードの佐々木が右中間方向へ大飛球。スリーベースヒット。

 更に、8番ファーストの今村がデッドボールの後、9番ライトの松元がボテボテのセカンド前への打球で内野安打となり、追加点。

 1番センターの仲野はサードゴロに倒れるが、二点を返した南城ラビッツである。

 

 反撃したい鹿瀬少年野球クラブだったが、7、8、9番が三者凡退に。

 

 六回の裏、間宮が先頭打者に死球を当てたところで楢崎監督は投手交代。

 代わってマウンドに上がったのは、前日良いピッチングを見せた大屋。

 ランナーに動じることなく3、4、5番を抑え、試合は最終回へ。

 

 鹿瀬の攻撃は、俺から。セカンドゴロで、出塁できず。

 続く新木先輩が相手のエラーで出塁して、3番波多先輩がヒットエンドラン。

 新木先輩が走塁のうまさと足の速さを見せて、一気に生還。波多先輩は二塁でストップ。

 4番筒本のライトフライで波多先輩は三塁へ進む。

 そして、5番戸崎先輩がセンター前ヒットで追加点となり、6番内樺はショートゴロ。

 

 変わって南城の攻撃。

 各打者が、必死に食らいつく。

 しかし、ピッチャーの大屋が、ワンアウトからフォアボールを出したものの、それ以外はしっかりと締めてゲームセット。

 

 こうして、俺たち鹿瀬少年野球クラブの大会優勝が決まった。

 

 

*  *  *  *

 

 先輩たちとの別れは、去年に続いて寂しかった。

 でも、去年よりも時間を共に過ごせたという実感があるからか、去年ほどの虚無感はなく。

 

 そうして俺は、小学六年生になった。

 とうとう来てしまった最終学年、という感じだ。

 

 新チームとなり、俺はキャプテンとしてチームを引っ張ることになった。

 

 一方、私生活においても、俺の両親が離婚してしまい、俺は母と二人で暮らしていくことになった。

 

 両親が家でよく口喧嘩をしていたことはあったが、まさか離婚されるなんて。

 俺は父が好きだっただけに、すごく寂しくなった。

 

 

 小学六年生になり、ホントに色々と環境が変わった。

 毎日が忙しく、一日一日が過ぎるのがすごく早く感じられるように。

 

 

 そして更に、俺はこの後、驚くべきことを知ることになるのだった。

 




美智琉がとうとう小学六年生になりました。
「驚くべきこと」とは、いったい何なのか、次話の方、楽しみにして頂ければ嬉しいです。まあでも、勘のいい人はある程度分かっているのかもしれませんが...。

そういえば、この作品のお気に入り数が二桁に到達していました。
それだけ読んでくださっている方々が多い、ということで、私自身もっと頑張って、皆様方に”読んでいて良かった”と思わせられるように、これからも精進していきます。
どうぞこれからも、よろしくお願い致します。

では、このあたりで失礼させてもらいます。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

※11月10日18:15、ほんの少しだけ修正を加えました。
 ストーリーの本筋にはあまり関係ないので、お気になさらずという感じではありますが、一応。


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第八話

どうもこんにちは。
アニメ第八話は、原作では軽くしか扱われていなかった練習試合が、かなり丁寧に描写されていましたね。
ふと思ったんですが、大吾君はいろいろ考えるタイプの主人公なので、かの吾郎のような突っ走り感があまりないですよね。それが良いのか悪いのかは言いかねますが。
そして、なにやら暗い雰囲気を醸し出す引っ越し後の光君。少し気になる終わり方となりました。

とまあ、アニメの感想はこのあたりにして。
小説の方は、美智琉くんがとうとう小六になり、少年野球は最後の一年となります。
前話での引きが気になっていた方もいるかもしれません。
では、第八話、よろしくどうぞ。


感動の再会?

 

 俺は、小学六年生になった。

 来年からは中学生になるわけだ。

 

 そして、気付いてしまった。

 

 俺が私立である風林中学校に行くのは、家庭の事情的にダメなのではないか?と。

 

 だから俺は、出来るだけ迷惑をかけなくてすむような方法を探すことに。

 

 結果、野球で好成績を残して推薦を貰うのが一番良いと考えた。

 これで、俺が野球を頑張るモチベーションが増えたことになったのである。

 

 ただ、それだけだと不安だから、もう一つ。

 それが...

 

「おう、牧篠。やってるな」

 

「どうも、ケン先輩。こんばんは」

 

 現在風林中学に通う濱内健竜先輩に、勉強をたまに教えてもらうことにしたのだ。

 

 先輩は、俺の家の近くに住んでおり、今でも自宅から学校まで通っている。

 自転車で、大体40分くらいかかるとのことだった。

 俺がケン先輩と綜先輩に中学のことを相談したところ、週に一回くらい家に来てもらって、勉強を教えてくれることになったのだ。

 風林中学校の部活動は、毎週必ず一回は休みを取らねばならないらしく、野球部の休養日は、この月曜日。

 ケン先輩は、月に一回のミーティングが行われるとき以外は、俺の勉強を教えてくれる。

 

 1~2時間で、さほど負担ではないと言ってくれるが、やはり凄くありがたい。

 

「それにしても牧篠は、別にこんなのしなくても問題はなさそうだがな」

 

「そうですか?」

 

「お前、授業も宿題も、誰に言われるでもなくやるじゃないか」

 

「それはまあ、そうですけど」

 

「お前のその真面目さなら、風林にも特待で入れるだろうから安心しろよ」

 

「ありがとうございます。でも、やっぱりやっといて損はないと思うので...」

 

「まぁ、それもそうだな。んじゃ、勉強の続きやるか」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

*  *  *  *

 

 時は過ぎ去り、GW。

 休みが続くこの期間、少年野球では結構大きな大会が開かれることになっている。

 規模が大きく、県内のチームだけではなく、隣の県や少し離れた県から出場するチームも。

 その数は、実に100を超える。

 

 俺たち鹿瀬少年野球クラブは、もちろんこの大会に出場する。

 これまでのこの大会での最高成績は、二年前の四回戦進出。

 頑張ってこの記録を更新してみせたい。

 

 

 そうして、大会が始まった。

 大会の開会式直後の開幕戦を、俺らはスタンドで観戦することに。

 

 対戦するのは、才京(さいけい)レンジャーズと東斗ボーイズ。

 どちらのチームも他県から来ており、どういう試合になるのか興味がある。

 

 また、俺らが勝ち進んだ場合、四回戦でこの試合の勝者と戦うことにもなっている。

 そういう面でも、見逃せない試合だ。

 

 試合開始時の両チームの礼が終わり、後攻の東斗ボーイズが守備位置に散る。

 マウンドに向かうのは、右手にグラブをはめた女子。

 

 その姿に、どこか見覚えを感じる。

 

 いざ試合が始まると、初回、1、2番打者を連続三振、3番をサードゴロに抑える。

 左のサイドスローという珍しいピッチングフォームから放たれるボールは、相手打者を翻弄。

初回の相手の攻撃を、完璧に抑え込んだ。

 

 女子とは到底思えないような投げっぷりに皆が圧倒される中、俺は別の驚きを感じていた。

 

 マウンドで立派すぎるピッチングを初回からみせた彼女は。

 

 

 驚くことに、なんと。

 俺が初恋で失恋した、あの”ミチル”ちゃんだった。

 




原作キャラがとても久しぶりに登場しました。
プロローグぶり、実に約二か月ぶりです笑。

そして、意外性は...なかったかもしれませんが、美智琉の昔の思い人は、あの道塁ちゃんだったのです。
これから、どういう形で彼女がこの作品に関わることになるのか、道塁好きの方々はどうぞお楽しみに。
また少し先の話ですが、少年野球編が終わったら、正式にタイトルをつけて、タグも何個か付け加えようと思っていますので、そちらもお楽しみに(?)

では、今週はこのあたりで。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

※6月5日12:00に、諸事情により一部分を編集致しました。
 ストーリー的に問題があるわけではないので、特に気にされなくて結構ですが。


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第九話

どうもこんにちは。
アニメ第九話、見ました。
個人的には何と言っても、光君が寿也パパさんとキャッチボールをするシーン。漫画にはなかったので、大変不意を突かれました。
そして漫画とは違い、結構試合に来ることに乗り気な感じを出す光君。
また、大吾は泉姉ちゃんの練習試合を見るとかいうイベントまで起こりました。
なんだか少しずつ、展開が変わってきている感じで、これからどうなっていくかどうか、本当に楽しみになってきました!
とうとう次話からは試合編ということで、盛り上がってきましたね。

そしてこの小説は、GW大会の試合になっています。
少しテンポアップするためにダイジェストっぽくなっていますが、そこはご容赦を。
では、どうぞよろしくお願いします。


これまでとこれから

 

 あの後の、才京VS東斗。

 道塁ちゃんが野球をやっている、更にはエースであるという事実を知り、驚愕する俺をよそに試合は進む。

 両チームエースの素晴らしい投球に、点が入らない流れが続く。

 

 しかし三回の裏、ワンナウトから打者が一番に還り、そこから東斗が力を見せる。

 センター前ヒット、送りバント、レフト前ヒット、センターオーバー二点タイムリーツーベースヒット。

 更に5番打者がレフトフライで凡退後、6番のセンター前ヒットで三点目を挙げる。

 

 この後、試合は再び膠着状態に。

 才京のエースは、ランナーを出しながらも粘り強く得点を許さない。

 そして道塁ちゃんは、相手に二塁すら踏ませない完璧なピッチングを続ける。

 

 だが六回、とうとう才京の反撃が始まる。

 9番に座るエースの打順に代打が出され、その選手がツーベースヒットを放つ。

 その後、ライトゴロでの進塁、そしてスクイズで一点を返す。

 

 ツーアウトとなり、反撃も終わるかと思われたが、ここから3番のセンター前ヒット、4番のセンター前ヒットでチャンスを拡大すると、東斗のバッテリエラーが出て、一点を追加する。

 

 その後のピンチは抑えるが、3-2で最終回の攻防へ。

 

 

 そして。

 ここまでほぼ完璧な投球の道塁ちゃんに、とうとう疲れが見え始める。

 

 先頭は抑えるも、その後フォアボールを二連続で与えてしまう。

 いったんタイムを挟み、次打者を三振に抑えてツーアウト一、二塁に。

 続くバッターは1番打者、今日四回目の打席。

 初球の甘い球を逃さずに捉え、二点タイムリースリーベースヒット、逆転打。

 2番はレフトフライで、最終回の裏の攻撃へ。

 

 だが東斗打線、前の回からマウンドに上がったスローボール主体のピッチング、いわゆるイーファスピッチをする左投手の前に三者凡退。

 

 こうして試合は、才京の4-3での勝利で終わった。

 

 ちなみに、試合後道塁ちゃんに会う、というようなラッキーイベントは起こらなかった。

 

 

 

 そして、一方の俺たちの成績は、というと。

 

 間宮と大屋を中心とした投手陣は一試合平均二失点の安定感。

 切れ目のない打線は、平均六得点と絶好調。

 

 大会前に目標としていた、四回戦進出を達成。

 そして四回戦では、あの才京レンジャーズと対戦。

 

 息まいて臨んだ試合だったが。

 

 

 エースとして登板した間宮が、初回一挙に五点を失う大誤算から、試合の幕が上がり。

 三回に二点、四、六回に一点ずつを返した打線の奮闘も空しく。

 

 結果として、7-4での敗北。

 

 ただ、負けの中、良いこともあった。

 

 それは、二番手として登板した大屋のピッチングだ。

 二回の表。間宮が初回に続けて打たれ、一失点した後。

 更に、ワンナウト二塁とされた場面から代わって登板した大屋。

 このピンチを、二者連続三振で抑えると、次の回からも毎回奪三振の好投。

 五回表ツーアウトまで、一人のランナーも許さない投球を見せる。

 その後、六回に一点を失ったものの、最終的に八奪三振という結果を残した。

 

 この試合後、大屋はチームのエースとなり、間宮はショートのレギュラーになった。

 

 元々九人いたこの学年だが、ショートの枠は、間宮が投手の時は五年の五味が守っていたので、普通に考えても、結果を見ても、こちらの方が良いように思えた。

 

 

 GWの間行われていた大会も終わると、俺たちは再び日常へと戻ることに。

 ちなみに、最終的にこの大会は、才京レンジャーズが優勝した。

 

 道塁ちゃんのいた東斗は4-3で、俺たち鹿瀬は7-4で負けたわけだが。

 ここで気になるのが、東斗と鹿瀬はどちらが強いのか、だ。

 

 得点では勝っているが、失点では向こうが上だ。

 だが、今のこちらのエースは、相手を一失点に抑えた大屋。

 

 正直に言えば、勝てる自信はある。

 

 

 俺たちは県が違うため、なかなか大会で会うことはできないのだが。

 もちろん対戦するチャンスはある。

 

 それは、全国大会。

 各県で予選が行われ、優勝チームは八月中旬に開催される全国大会への出場権を得る。

 

 先の試合を見た限り、東斗ボーイズはかなり強いチーム。

 きっと勝ち上がってくるに違いない。

 

 だから俺たちも絶対に勝ち上がって、彼らと対戦したい。

 

 また、才京レンジャーズへのリベンジもしなければならない。

 そのためにも、負けられないというわけだ。

 

 

 ただ、県大会での優勝は、かなり困難ではある。

 基本的に戦っている市の大会よりも規模の多い県大会では、もちろん強いチームも沢山出場する。

 

 でも、負けたくない。負けるわけにはいかない。

 

 負けた才京レンジャーズへのリベンジ。

 そして、道塁ちゃんのいる東斗ボーイズと戦うために。

 

 そのためにこれからも、練習に励むのみだ。

 




はい、こんな感じで。

ここで、彼が何故トラウマであるはずの道塁と会いたがっているのかについて、蛇足かもしれませんが、とりあえず言及しておきます。
まあ簡単に言うと、克服ですね。道塁ちゃんという壁を越えたいんです。
果たして彼は、トラウマをしっかりと克服することが出来るのか。乞うご期待を。

では、今回はこのあたりで。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!

※11月10日18:20、一部分を修正致しました。
 ストーリー本筋には関わり薄いので、お気になさらず...。


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第十話

どうもこんにちは。アニメ第十話、見ました~!
先週自分が色々言ってましたが、なんだかんだで、光君は試合には来なかったようですね。

ただ、今話での注目はやはり主人公大吾君の頑張りでしょう。
たくさんやらかして、落ち込む大吾君。しかし、睦子ちゃんの励ましを貰ったり、姉ちゃんの試合の時の様子を思い出したりして、自分のやるべきことを見出しましたね。
姉ちゃんの練習試合を見るというアニメオリジナルイベントの発生で、そのあたりの大吾君の発奮がより納得できるような気がしました。

そして、最後のシーン。あの状況から、果たしてどういう展開になるのでしょうか。楽しみですね。

では話は変わりますが。
この小説もしっかりと進んでいこうと思います。よろしくどうぞ。


夏の始まり

 

「…皆。明日からはとうとう大会が始まる」

 

 季節も移り変わり、夏、本番。

 

 明日から始まる大会に向けて、キャプテンとして大会に向けて決意を述べる。

 なったばかりの頃は色々と大変だったが、最近ようやく慣れてきた感じがする。

 

「皆知ってるとは思うけど、一年の中でも一番大きな規模で開催されるのがこの大会だ。

 だからもちろん、強い対戦相手と当たることもいつもより多いし、キツイ試合になることもあると思う」

 

 いったん言葉を止めて、チームメイトを見渡す。

 

 皆、真剣な眼差しだ。

 絶対に勝ってやるという強い決意が、伝わってくる。

 

「でも俺は、自信を持って言える。俺たちは確実に、強くなってるって」

 

 そうだ。

 俺たちはこれまで、日々熱心に練習に励んできた。

 

 努力は、必ず実る。

 

「だから、自信を持って戦おう!俺たちらしく、ひたむきに!」

 

「「おう!!」」

 

 

 

 そして。大会初戦。

 スタメンはこんな感じで、試合が始まる。

 1番 サード    牧篠

 2番 ショート   間宮

 3番 センター   柳沢

 4番 レフト    筒本

 5番 ファースト  内樺

 6番 ライト    糸魚川

 7番 ピッチャー  大屋

 8番 キャッチャー 森戸

 9番 セカンド   菊地原

 

 

 こちらの先攻で始まったこの試合。

 

 初回から二点を取って先行する流れ。

 さらに三回、打者一巡する猛攻で五点を挙げる。

 また、四回に一点、六回に三点を追加。

 

 そして、エースの大屋は6回10奪三振で、無失点。

 

 結果として、11-0で六回コールド勝ちを収めた。

 

 

 その後。

 勢いに乗った俺たちは、順調に勝ち続けた。

 

 何よりも、エース大屋の素晴らしく安定したピッチング。

 特にすごかったのが三回戦。

 初回のエラーとヒットしか相手に出塁を許さず、一安打無四死球完封勝利を挙げた。

 

 打撃の方で、とりわけ目立っていたのは3、4番の柳沢、筒本。

 各試合、どちらかがホームランを必ず打つ、という感じで、大活躍。

 ちなみに二回戦では、5番内樺も含めての、三者連続ホームランもあった。

 

 また、それだけではない。

 鹿瀬のセカンドを守る、唯一の女子、菊地原美涼は、華麗なグラブさばきとその守備位置取りの良さから、好プレーを連発し、なおかつエラーもゼロ。

 ショートの間宮も、投手出身とは思えないようなセンスで、何度もチームの危機を救った。

 

 そして、チームのキャプテン、俺は、というと。

 良い調子を維持し、1番として高い出塁率、またサードの守備でも、ファインプレーといわれるようなものも何度かやった。

 

 ただ、個人的に最も頑張れたのは、チームの発奮だ。

 キャプテンとして、周りに目を配り、常に元気を出すように心がけた。

 綜先輩のような、静かにしっかりと引っぱっていくタイプではなく、自分らしく、明るくチームを力づけていくことができた。

 

 

 そうして俺たちは、大会の決勝戦まで駒を進めることとなった。

 

 決勝戦の相手は、縄森(なわもり)ファルコンズ。

 

 今回、初めて対戦することになるわけだが。

 

 エースが、左投げの池。4番は、ファーストの高山。

 1番でショートの登坂が、キャプテンを務めている。

 また、2番サードの幡川慎一は、鹿瀬少年野球クラブの五年生、幡川雪菜のいとこにあたるらしい。

 

 エースの防御率が非常に低く、失点が少ない。

 更に、打撃力もほとんど穴がなく、すごく高いバランスの取れたチームだと思う。

 

 

 ただ、ここまで来たらもう、負けるわけにはいかない。

 

 皆の力で、きっと勝利をつかみ取る。

 そして絶対に、全国大会へ行ってみせる。

 

 

 両チームスターティングオーダー

  鹿瀬      縄森

 牧篠  5 1番 6 登坂

 間宮  6 2番 5 幡川

 柳沢  8 3番 4 田山

 筒本  7 4番 3 高山

 内樺  3 5番 7 角崎

 糸魚川 9 6番 9 育田

 大屋  1 7番 8 平嶋

 森戸  2 8番 1 池

 菊地原 4 9番 2 若宮

 

 

 試合は、両チームエースがそれぞれ力を見せつけるような展開から始まった。

 

 先攻は、鹿瀬少年野球クラブ。

 池は、内野ゴロ二つと見逃し三振で抑える。

 

 一方の大屋は、縄森ファルコンズを、三振二つと内野フライで抑えた。

 

 

 その後も、両投手の実力が遺憾なく発揮され、試合は膠着状態ですすむ。

 

 先制点を取った方に、確実に試合の流れが傾く。

 誰もが、そう感じていた。

 




縄森ファルコンズのメンバーは、鹿瀬少年野球クラブの面々と同じように、プロ野球選手の名前を冠されており、すごく強いチームです。
はたして、鹿瀬少年野球クラブの運命やいかに。

ということで、短いですが今週はこのあたりで。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第十一話

こんにちは、アニメ第十一話、見ましたよ。
活躍して乗っていたところでのエラー...。
気分が下がっていた大吾君でしたが、最後のシーン、そこにはいないはずの光君が!
果たして、大会初戦、どういう結末を迎えるのでしょうか、楽しみですね。

そしてこの小説は、全国大会出場をかけての大会の決勝戦真っ只中です。
ということで、よろしくどうぞ。


責任感

 

 カキィィン、とグラウンドに快音が響く。

 それは、誰が見てもわかる、完璧な当たりだった。

 

 悠々とダイヤモンドを一周する、縄森の四番高山。

 

 対照的に、マウンドで悔しさをにじませるのは、鹿瀬の投手大屋。

 

* * * * *

 

 失投だった。

 細心の注意を払っていたはずなのに、やられてしまった。

 

 三番打者に、セーフティバントで意表を突かれ、初めて走者を出した。

 それだけで、簡単に動揺して、失投してしまった。

 

 接戦になってくると、先制点を取った方へと流れが傾く。

 それを、相手に与えてしまった。しかも、ツーランホームランという形で。

 エースとして、情けない。

 チームに、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

「…おい、勝一、顔上げろ」

 

 見ると、サードの牧篠が来ていた。

 

「まだ試合は半分しか進んでないんだ。逆転する機会は、あるさ」

 

「……」

 

 僕は、何も言えなかった。

 

『頼んだ』?...なんだか無責任すぎる気がする。

 

 打たれてしまった以上、言い訳はできないし、するつもりもない。

 ただ今は、とにかく失投を放ってしまったことを悔いていた。

 

「勝一、これだけは言っておくぞ。

 …俺たちが勝ち上がってこられたのは、お前のおかげだって」

 

「…いや、それは、皆が援護してくれたからで...」

 

「…はぁ」

 

 僕の言ったことに対してため息をつく牧篠。

 

「まぁ、いいや。お前がそういう性格だっていうのは、分かってたことだしな。

 …じゃあ、これまで勝ってきたのは俺たち皆が頑張ってきたから、ってことだな」

 

 牧篠が、何のために自分のところに来たかがイマイチ分からない。

「それで?結局何が言いたかったの?」

 

「いいか?勝つのが皆のおかげなら、負けるのも皆の責任ってことだ。

 だからよ、勝一。お前ひとりだけで責任を背負い込むことだけは絶対にするな」

 

「……」

 

「それに、負けた時のことは負けてから考えればいい。

 今はとにかく、この試合に勝てるように頑張るしかないんだよ

 

 

 

 …なあ、皆?」

 

 そう言われて振り返ると、内野の皆が集まってきていた。

 

「そうだぞ、皆で勝つから楽しいんだろ?野球は」

「守りは任せてね、勝一くんを盛り立ててみせるから」

「絶対逆転してやる、俺たちに任せとけ」

 

 内樺、菊地原、間宮がこう言ってくれた。

 

「今日の勝一、調子良いんだ。次からも、自信もって投げてくれ」

 

 相棒の森戸が、こう言ってくれる。

 

 

 …僕は、一人じゃない。

 

 

「…よし、じゃあ、この回残りを抑えて、次の回逆転するぞ!」

 

「「オー!!」」

 

 牧篠の掛け声で、それぞれ散っていく内野陣。

 

 

 なんだかさっきので、自分の肩も少し軽くなった気がする。

 …僕、背負い込みすぎてたのかな。

 

 まあ、なんにせよ。

 これからは、誰にも打たせないくらいの気持ちで投げるしかない!

 

* * * * *

 

 四回のウラ、ツーアウトから痛い先制点、それも二点を失った鹿瀬少年野球クラブ。

 後続は断ち、試合は後半戦へと進んでいく。

 

 しかし五回の表、鹿瀬はランナーを出すことはできずに三者凡退。

 未だに、縄森のエース池から、ヒット一本すら打てておらず、死球による一つの出塁のみと、完璧に抑えられている。

 

 だが。

 何故か、鹿瀬の面々に焦ったような様子は見られない。

 

 マウンドに上がった大屋も、先程の回の失点を忘れたかのような投球に。

 センターフライ、セカンドゴロ、見逃し三振。見事な三者凡退。

 

 かわって六回表、先頭打者はキャッチャーの森戸。

 8番に入っているが、パワーは非常にある選手。

 1-1からの三球目、良い当たりを放つも、ライトフライでワンナウト。

 

 9番はセカンドの菊地原。

 初球、インコース低めのボールを捉えるが、ショート正面のライナーとなり凡退。

 

 そして打席には、1番サード、キャプテンの牧篠が入る。

 

* * * * * *

 

「(…ここまで、池からヒット一本すら打ててない。

 このままじゃダメだ。とにかく何とかして、勝たなきゃならないんだ!)」

 

 初球。

 バットを横にして、ボールにコツンと軽く当てる。

 セーフティバント。

 

 相手の意表をついての出塁を狙ったが。

 

「…ファール!」

 

 三塁線を切れてしまった。

 

「(…くそ、惜しい。しかもこれで、意表を突くのはできなくなっちまった)」

 

 二球目は、高めに外れる、ボール。

 

「(やっぱり、打つしかないよな...。

 でも、どうやって?これまでずっと、抑えられてきた相手をどう打つ?)」

 

 三球目、インコースへの際どいボール。

 手が出ない、そして、ストライクに。

 これで、追い込まれてしまった。

 

「(ああ、こんな時、綜先輩ならどうする?俺の憧れ、茅ヶ谷綜先輩なら...。

 

 …って、ダメだダメだ。こんなこと考えてる暇はねえよ!)」

 

 四球目、五球目はうまくカットし、六球目は外に外れるボール球。

 カウント2-2だ。

 

「(…ダメだ、ヒットを打てるイメージが、わかねえ...。

 やっぱ俺は、キャプテン失格だな...。先輩みたく、うまくないし...)」

 

 

 

 

 

『そうだよ、俺は自分の事、ヘタクソだと思ってるよ』

 

 

「……!!」

 

 ふと、とある時に先輩が言った一言を思い出す。

 

「(…そうだ。俺は、まだまだ下手なんだ。だから...)」

 

 ピッチャーの池が振りかぶる。

 

 投じられた七球目。

 

 

 俺は、この打席の初めにやったのと同じ体勢になる。

 

 

 セーフティバント。

 

 通常ありえないカウントからの俺の行動に、反応が遅れる相手内野手。

 

 

 軽く転がして、一塁へと全力で走る。

 そのままの勢いで、俺は一塁ベースを駆け抜けた。

 




試合の最終回の模様は、次話に持ち越しとなりました。
どうぞ、お楽しみに。

では。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

※11月10日18:25、一部分に修正を加えました...が、本筋の部分とは特に関わりもないのでお気になさらず。修正ラッシュについてもお気になさらず。笑


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第十二話

どうもこんにちは。
アニメ第十二話、見ましたよ。
光君の登場で火が点いた大吾君が奮闘し、見事勝ち越し点を挙げますが、アンディがフィールディングで足を怪我するという事態に。
このまま負けかと思いきや、光君の登板、そして受ける捕手は大吾君!
いや~、アツい、アツかったですね。
一回戦を突破し、次話からは二回戦に入るのでしょう、楽しみですね。
ふと思ったんですけど、7月からもメジャー2ndはアニメ放送続くんですかね?調べてないので分からないんですが。
まあでも、恐らく続くでしょうね、今終わるとなんか中途半端な気がしますし。

ではアニメ感想もこのあたりで終わって、小説の方へ。
全国大会予選の決勝戦、続きからです。
よろしくどうぞ。


越えていけ

 

*牧篠美智琉、小学三年、秋頃

 

 この頃、俺はとある一つの悩みを抱えていた。

 

 それは、『なかなか試合で打たせてもらえない』というものだ。

 試合に少し出してもらえても、殆どが犠牲バントのシーン。

 

 バントだけは最初から何故かうまく出来たため、俺が試合に出るときは、代打でバント、ということが大抵だったのである。

 

 やはり、野球をやっている身としては、打ちたい、という欲がどうしても大きくなる。

 小学三年生で、始めたばかりなら、なおさらだと思う。

 

 だからこの頃、俺は代打でバントの場面で、バントをあえて成功させず、最終的には普通に打つ、というクソみたいなことをやっていた。

 

 

 とある日。

 俺は、ある事に気が付いた。

 

 この頃打線で2番に座っていた茅ヶ谷先輩は、1番を打つ六年生の先輩の出塁率が非常に高かったため、ほとんどの打席で犠牲バントをしていたのである。

 

 俺は、気になったので聞いたのだ。

『いつもバントばっかりで、つまらなくないですか?』と。

 

 すると先輩は、こう答えた。

『バントをしてチームのためになるなら、それは嬉しいことだろう』と。

 

 

 俺は、ビックリした。

 野球は、自分が楽しんでなんぼのものではないのか、と思っていたから。

 

 

 そして先輩は、驚いた顔をしている自分にこう続けた。

 

「…まあ、打ちたい気持ちがないか、と言われたら確かに嘘になるかも。

 でも、俺は、先輩たちと比べるとまだまだヘタクソだから。

 自分が出しゃばっちゃいけない、って思うようにしてるんだ」

 

 

 更に、俺は驚いた。

「先輩は、十分うまいでしょ?!」

 

「いやいや、そんなことないよ」

 

「…先輩は、まだまだ自分が下手な方だって、そう思ってるんですか?」

 

 こう聞くと先輩は、少し首をかしげるようにしながら、こう言ったのだ。

「そうだよ。俺は自分の事、ヘタクソだと思ってるよ」

 

 

 先輩は、当時五年生の先輩たちの中でも、特に上手かった。

 そんな人が、ここまで謙虚に自分の事を見つめられるものなのか、と、ただただすごいと感じた。

 

「自分の事下手だって思ってるから、割り切って犠牲バントもできるのかもな」

 

 

 

 先輩は、すごい。

 今でも俺の中で、常にキャプテンとしてあり続けている。

 

 俺は、これからどうしていけばいいのか、どうすれば皆を引っ張っていくことができるのか、分からないときは、いつも先輩に頼りきりだ。

 

 このままじゃダメな気が、しないでもないけど、どうしても頼ってしまう。

 

 

 今回も、そうだ。

 自分の実力を過信することなく、自分が出来ることを精一杯頑張る。

 

 だからこそできた、あの場面でのセーフティバントという行動。

 

 先輩と交わした、あの日の会話。

 それがヒントとなり、今の自分がある。

 

 

 いつか俺が、綜先輩を超えることは、果たしてあるのだろうか。

 

 分からないけど、その日は限りなく遠い未来のことだということだけは、はっきりと言えるだろう。

 

* * * * * *

 

「…セーーフ!!」

 

「よっしゃ!ナイス盗塁、牧篠ー!」

「ヒット一本でホームまで帰ってこい!」

「よ~し、間宮―!打て―!!」

 

 ツーアウトから1番牧篠がバント安打で出塁し、直後に盗塁を決める。

 これにより、湧き上がる鹿瀬側ベンチ。

 その雰囲気だけ見れば、試合で優位を握っているのが鹿瀬だと、勘違いしそうになる。

 

 その押せ押せムードに乗った2番間宮。

 二球目のインコースのボールをうまく打ち、打球は三塁線を...抜ける!

 

「しゃあ!回れ回れ!」

「ナイスバッティン、間宮!」

 

 打った間宮は、二塁へスライディング、そして、ガッツポーズ。

 二塁ランナー牧篠は、悠々と本塁に生還。

 これで一点を返したことになる、だがまだ一点ビハインド。

 

 しかし、彼らにはもうそんなものは関係なかった。

 

 続く柳沢が四球を選び、ツーアウト一、二塁とする。

 

 そして、4番筒本。

 相手が一旦タイムを取り間を空けたが、それも意味はなかった。

 

 初球、一閃。

 打球はぐんぐんと伸び、ライトの頭を越える。

 

 間宮、柳沢と本塁に還り、見事逆転。

 更に、筒本自身も本塁を狙う。

 

 が、流石に走力が足りず、本塁でタッチアウトとなってしまった。

 

 

 しかし。

 ツーアウトからキャプテン牧篠の出塁を皮切りに、一挙三得点。

 

 これで、3-2。

 遂に、逆転することに成功した。

 

 

 六回のウラ。

 逆転された直後の縄森ファルコンズの攻撃。

 先頭は、9番キャッチャーの若宮。

 ショートゴロに倒れ、出塁することはできず。

 

 続く1番ショートの登坂。

 センターライナーで、早くもツーアウトとなってしまう。

 

 しかしここから、2番サードの幡川が、11球粘る意地を見せて、四球で出塁。

 すると、3番のセカンド田山に対し、大屋はストレートのフォアボールを与えてしまう。

 

 ツーアウト一、二塁のピンチで、打席には先程ホームランの高山が入る。

 

 その初球だった。

 

 鋭いスイングとともに飛んだ打球が、センター前へ...

 

 

 

 

 

 抜けなかった。

 華麗に跳んだセカンドの菊地原が、ライナーで打球をキャッチ。

 

 アウト。

 

 ファイプレーに対し、盛り上がる鹿瀬サイドと、驚きを隠せない縄森サイド。

 

 

 セカンド菊地原のプレーに救われ、失点は免れた鹿瀬少年野球クラブ。

 

 一方、逆転の余地はきっとあると、最終回の攻撃に望みを託す縄森ファルコンズ。

 

 

 両者の思惑が揺れ動く中で、試合はとうとう、終焉を迎えようとしていた。

 




もう少し続きます。
長引かせて間延び感出てる気もしないでもないですが、それは気にしない方向で笑。
次話で決着はつきますので、それまでどうかお楽しみに。

では、今回はこの辺で失礼します。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第十三話

どうもこんにちは。
ちょっと、まずいことが起こってしまいました...。
端的に言うと、録画機器の故障により、アニメ、メジャーセカンドが見られなくなってしまいました。
これまで、前書きで感想を書いてきましたが、一旦それは中断することになりそうです。


……と、思っていたのですが、この際少し休みをくださいm(_ _)m
何とかして、見ることができなかったアニメを見るまで、この作品の更新はしないことにさせていただきます。
いきなりごめんなさい。休みはおそらく、1~3週間とかになると思います。


冒頭からの急な報告失礼しました。
では気を取り直して、小説の方へ。

夏の全国大会に、果たして進出することはできるのか...?
では、どうぞ!


プライド

 

 最終回。

 まずは、鹿瀬少年野球クラブの攻撃。

 追加点を挙げ、ダメ押しといきたいところだったが。

 

 5番内樺、6番糸魚川、そして7番大屋。

 空振り三振、ライトフライ、ピッチャーゴロ。

 最後の力を振り絞るようにして投球する池の前に、三者凡退。

 

 かわって、縄森ファルコンズの攻撃。

 先頭の5番角崎、一二塁間へ鋭い打球を飛ばすも、セカンド菊地原が好捕。

 ファインプレーだ。

 

 そしてそのまま、ファーストへと送球...

 

 

 

 

 が、しかし。

 

 

 これが逸れて、ボールはカバーに走っていたキャッチャーのところへ。

 痛い送球ミスで、先頭打者が出てしまった。

 

 ノーアウト一塁で打席には、6番育田。

 相手はバントの構え。

 

 できるだけアウトカウントを貰っておきたいところだったが。

 大屋は何故かストライクが一球も入らず、フォアボールを与える。

 

 たまらずマウンドに集まる鹿瀬内野陣。

 

 どうやら大屋が、先程の打席で手を少ししびれてしまったよう。

 降板させるかどうか迷った監督だったが、誰も登板の準備させていないこと、そして大屋の強い意志から続投を決断。

 

 

 そしてノーアウト一、二塁で、7番の平嶋。

 失敗すると大変な場面だが、きっちりとバントを決める。

 

 ワンナウト二、三塁となり、打席は、8番の池。

 ぽんぽん、とツーストライクを取り、一気に追い込む。

 そして、三球目。高めのストレート。

 池のバットは空を切り、三振。これで、ツーアウト。

 

 鹿瀬少年野球クラブの勝利まで、あとアウト一つ。

 

 

 ここで、9番若宮に代わって打席に入るのは、清月。

 初球は、外角に外れてボール。

 二球目はきれいに決まってストライク。

 三、四球目は、手を出すもファール。

 五球目、際どいボールを見逃してボール。

 六球目。

 

 

 投じた瞬間、大屋の顔が激変する。

 

 

 そのボールは、ホームよりも手前でバウンドすると、キャッチャー森戸の頭を越える。

 

 

 瞬間。

 まるで時間が止まったように感じる両チーム。

 

 

 キャッチャー森戸は、急いでボールを追う。

 サードランナー角崎は、ホームへと走る。

 マウンドの大屋は、ホームベースカバーへ。

 

 

 

 そして――。

 

 

*  *  *  *

 

「よーし着いたぞー!お前ら起きろー!」

 

 監督の声が、バスの中で響く。

 ぞろぞろとバスの中で立ち上がりだす皆。

 

「…来れたな、ここに」

 

 隣にいた内樺が、そう言う。

 

「…ああ」

 

 俺は短く、そう答えるだけ。

 

 この気持ちの高まりは、緊張なのか、何なのか。

 

 

 県大会の決勝戦、大屋の暴投に反応してホーム突入した相手の角崎。

 

 しかし、森戸の素早い反応と大屋の素早いカバー。

 判定はアウトとなり、試合は終わった。

 

 だが。

 少し痛みのあった手を、大屋は完全に痛めてしまった。

 診断の結果、全治約一ヶ月のかなりの怪我。

 全国大会で大屋が投球できるのは、かなり難しいことになった。

 もちろんエースとして大会に参加するが、試合での登板は期待できそうにない。

 

 つまり俺たちは、エース抜きで全国の猛者と戦わなければならなくなったわけである。

 

 

 そして初戦の相手は、まさかまさかの東斗ボーイズ。

 全国で会えるかな、と思ってはいたが、まさか初戦で当たることになるなんて。

 

 

 だが、かえって心は燃え上がった。

 絶対に、あのトラウマを克服するのだと、強く決心した。

 

 そして、今日。

 全国大会の幕が上がる。

 

 俺たちの試合は、明日だ。

 

 

 ここで大事になってくるのが、こちらの先発投手の問題。

 

 今現在、公式試合での登板経験があるのは三人。

 その中で一番経験豊富なのは、もちろん間宮。去年は結構登板していたし。

 

 次に、糸魚川は、二度だけ投げたことがあるのだが、その結果が特殊。

 一度目は六回無四球完封だったのが、二度目は三回五失点でのKO。

 安定性があまりなく、任せることは難しいようにも思える。

 

 そして最後に、5年の茅ヶ谷滉。

 こちらは、6年の大会での登板経験こそほぼないものの、ジュニア大会ではエース。

 力強く、伸びのあるストレートで空振が奪える。

 ちなみにだが、俺の憧れる綜先輩の弟である。

 

 

 監督は、誰にするかはもう決めてあると言っていた。

 

 三人とも、特に聞かされていないから投球練習をやっているわけだが。

 そのおかげなのかは分からないけど、練習にすごく緊張感が漂っている。

 

 エースの不在。

 はっきり言って、かなりキツイ。

 

 

 だけど。

 大屋の分まで、チーム皆で協力して、大会を勝ち進む。

 

 そういう皆の強い気持ちを感じ、キャプテンとして、その先頭にしっかりと立ち、チームを引っ張っていかないといけないな、と思う。

 

 

 

 そうして、勝負の日の朝がやってくる。

 

 鹿瀬少年野球クラブのキャプテンとして。県の代表として。

 自分自身のプライドを、きちんと守るために。

 

 さあ、やるぞ!

 




とりあえずここまでということで。

前書きでも申し上げた通り、アニメを見るまではこの小説、お休みさせていただくことになります。
UA数、お気に入り数ともに、自己最高を更新しつつあるので、読者さんたちに飽きられないうちに、出来るだけ早く戻ってきたいと思います!

読者の皆様、いつもご愛読いただき本当にありがとうございます。
こんな残念な作者ですが、これからもこの作品を応援していって下さると嬉しいです。

では。
今回はこのあたりで失礼させてもらいます。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第十四話

どうも、お久しぶりです!!
予告していたよりも遅くなってしまいましたが、本日をもって連載の方を再開させていこうと思います。

休んでいる間、UA数やお気に入り数が増えたり高い評価を頂いたりするたびに、有難い気持ちと申し訳ない気持ちで複雑に満たされておりました...(笑)
読んで下さる方々、評価をつけて下さる方々にこの場でお礼を。誠にありがとうございます!!
拙い作品ではありますが、これからもどうぞ宜しくお願い致しますm(_ _)m


久々なので忘れている方もいらっしゃるかもしれませんが、物語は全国少年軟式野球大会一回戦、vs東斗ボーイズ戦の模様から再開していきます。
どうぞ、よろしくお願いします。


()()()()

 

 試合が、始まる。

 待ちに待った、全国大会の初戦が。

 

 相手は、神奈川県代表の東斗ボーイズ。

 東斗の先発は、エースの眉村道塁ではなく、背番号11の小松という投手。

 

 対するこちらの先発投手は...背番号11の茅ヶ谷 滉(ちがや こう)

 エースの大屋は、怪我のこともあるので出場できず、ベンチで戦況を見守る。

 

 エースがいないという穴は大きいかもしれない。

 

 

 でも。

 皆でその穴を埋められるようにいつも以上に頑張って、勝利を掴むんだ!

 

 

 審判の合図で声を出しながら駆け出し、ホームベースを挟んで一列に並び向かい合う。

 よろしくお願いします!と礼をし、俺たち鹿瀬少年野球クラブは守備に散っていく。

 

 先攻は、東斗ボーイズ。

 慣れない登板で緊張する滉のために、何よりも大事になるであろうこの回の守備。

 

 1番として打席に入るのは、エースでありながら今日はファーストとして出場している道塁ちゃん。

 投じられた三球目を思いっきり引っ張り打って、打球はライト方向へ...

 

 

 しかし、そこにいるのはセカンドの菊地原。

 慣れた素早い動きで打球を処理し、ファーストへ送球。

 

 アウト。

 幸先よく先頭打者を打ち取る。

 

 その後の滉は、2番打者を空振り三振に抑え、3番打者にはミートされたが今度は間宮が良い動きを見せ、ショートゴロでアウト。

 これでスリーアウトチェンジ。良い流れだ。

 

 攻守交替で、代わってマウンドに上がるのは東斗のピッチャー小松。

 少しぽっちゃりした体格から、重そうなボールが放られている。

 ただ、先程までの投球練習の様子を見ていても思ったが、決して打てない球ではない。

 滉を少しでも楽に投げさせてあげるためにも、早めに先制点を取っておきたい。

 

 そんなことを考えつつ、1番打者の俺は右打席に入る。

 初球はアウトコースに外れるボール球。

 二球目はインコース厳しいところにストライク。

 

「(結構ボールが荒れるタイプの投手なんだろうか、だとしたら少しメンドいな)」

 

 そんな心配をしてみたが、次にきたボールがストライクだったのでミートする。

 センター前に抜け、ヒット。

 一塁をオーバーラン。

 

 ベースに戻ってベンチに向かってガッツポーズをしつつ、サインを確認。

 ”送りバント”だ。

 

 

 ふとそこで、視線を感じる。

 

 気付くと、ファーストの道塁ちゃんがこっちを見ていた。

 

「(え...?もしかして俺のこと覚えてんのか?気付いたのか...?)」

 

 何か言わないと、と思い、つい「何?」と聞いてしまう。

 

 道塁ちゃんは、少し考えているような顔をしてから「…どこかで会ったこと、あります?」と聞いてきた。

 

「えっと...」

 

 質問に困り俺が口ごもっていると、キャッチャーの子から道塁ちゃんに声がかかる。

 その子のちゃんとファーストについておけ、という指示に頷いた後、

 

「…ごめん、さっきの質問は忘れていいから」

 

 と俺の方は向かずに呟いた。

 

 了解の意を込めて、俺は首を縦に振る。

 その後2番の間宮は一球で送りバントを決めて、俺は二塁へ進塁。

 

「(…まさか、俺に気付くなんて)」

 

 考えていなかった...と言えば嘘になるかもしれないが、俺のことなんてすっかり忘れられているだろうと思っていたから、正直ビックリした。

 

 続く3番柳沢のセンター前ヒットで、俺は三塁へ進塁。

 

「(…なんだか難しい試合になりそうだな、これは)」

 

 4番の筒本の打球が一二塁間を抜ける。ライトゴロの間に俺は本塁生還。

 色々あったが、幸先よく先制点を取れた。これはすごく大きい。

 次の5番内樺はサードゴロに倒れ、スリーアウトチェンジに。

 

「滉!初回みたいな感じで、気楽に投げていけよ!守備は任せとけ」

 

「はい!」

 

 活気づく鹿瀬ナインに呼応するかのように、滉は二回の4、5、6番をセンターフライ、サードゴロ、ファーストゴロと三人で抑える。

 

 二回裏の攻撃。

 先頭の糸魚川がライト線にツーベースヒットを打つと、7番の菊地原が送り、8番森戸が犠牲フライ。

 9番の滉は空振り三振に倒れたが、この回も追加点を挙げることに成功し、2-0とする。

 

 変わって三回表。

 滉の好投はなおも続く。

 この回先頭の7番はセカンドフライ、8番はボテボテのショートゴロ、そして9番からは空振り三振を奪ってみせる。

 

 そして三回裏は、打順がはやくも一回りして先頭打者は1番の俺。

 初球、インコースのボールに上手く反応して打ち返し、打球はレフト前へ。

 

 ファーストの道塁ちゃんは、少し前の一塁上でのことはまるでなかったかのような感じだった。

 

「(…まあ、そりゃそうか)」

 

 2番の間宮が、またまた一球で送りバントを決め、俺は進塁。

 ワンナウト二塁と、初回と同じチャンスを作る。

 

 

 ここで、東斗の監督が動いた。

 

 審判に告げられたのは、投手の交代。

 

 小松に代わってマウンドに上がるのは...もちろんエースの眉村道塁。

 

 二塁ベース上で、投球練習をしている道塁ちゃんの後ろ姿を眺めながら俺は、左のサイドスローという、今までに対戦したことのないタイプのピッチャーから、どうやったら点を挙げられるのかを考えるのだった。

 




久々の投稿緊張しました...(笑)

そういえば触れていませんでしたが、アニメの方の感想について。
…といっても、期間が空きすぎていて正直思った事がたくさんあるんですよね...(笑)
ですので次話以降の前書きで、部分的に触れていくことにします。ご理解のほどよろしくです。

では。
今回はこのあたりで失礼させてもらいます。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第十五話

どうもこんにちは。
早速ですがまずは、アニメ最新話や、語れていなかった部分についての感想を。
何よりも、7月のクールの変わり目からOPとEDが変わったことは外せないでしょうね。
私事なのですが、以前かられをるさんのことが好きだったので、ED歌唱のことを知ったときはすごく嬉しかったですね、はい。しかし今回は、OPが良すぎますね(あくまで一個人の意見ですが)
『ドリームキャッチャー』…大吾君がキャッチャーしてますからね、その辺も踏まえられてるんだとしたら200点あげたいです(何様だよ)
そして、卜部アンディバッテリー。15話でも思いましたが、最新話でも依然としてやはり安心感が凄いですよね、本当に。

とまあ、長々しくなってきたので感想はこの辺で終わりにします。まだ話し足りない分は来週の前書きで。

では、本編に参りましょう。
シーンは、道塁ちゃんがマウンドにようやく上がり、一死で二塁に美智琉、という状況から。
どうぞ、よろしくお願いします!


試合の行方

 

 柳沢がバットを振りぬき、打球が飛んだ瞬間。

 

 俺は、走り出した。

 その打球が、外野まで飛んでいくのだと確信して。

 

 

 しかし、だった。

 

 ふと振り返ったときに見えたのは、大きくジャンプして打球を捕ったセカンドの姿だった。

 

 戻ろうとしたときにはもう既に遅く、捕球されたボールはベースカバーに入ったショートに送られた。

 

 セカンドライナーでダブルプレー。

 

 イヤな感じで攻撃を終えてしまった直後、四回表。

 先頭打者の1番道塁ちゃんにセンター前ヒットを打たれ、初ヒットを許す。

 送りバントの後、3番打者はレフトフライに抑えてツーアウト二塁。

 

 打席には、4番の眉村渉が入る。

 道塁ちゃんの双子の弟で、キャッチャーマスクをかぶっている。

 

 ボールが先行してしまい、カウントが悪くなった三球目だった。

 

 甘く入ったボールを見逃さず、完璧に捉えた当たりは。

 ライトの頭を越え、外野の柵も越えていく。

 同点のツーランホームラン。

 

 冷静な表情を崩さずダイヤモンドを一周する眉村。

 

 …なんだかいけすかないやつだ。

 

 このホームランで動揺してしまったのか、滉は続く5番打者に死球を当ててしまう。

 6番打者にはカウントを悪くし、スリーボールワンストライクからの五球目。

 滉の左を抜け、二遊間へ打球が飛ぶ。

 

 センター前ヒットになるかと思われたが、そこには菊地原がいた。

 捕球し、セカンドへトス。

 カバーに入ったショート間宮がボールを受け取り、セカンドベースを踏んでアウト。

 

 これで、スリーアウトチェンジ。

 

 

 ベンチに戻ると、滉が「ごめんなさい」と謝ってきた。

 

「点とられたからってそんな暗い顔するなよ、滉は十分投げてるじゃねえか」

 

「でも...せっかくのリードを守れなくて...」

 

「味方が点を取られたなら、その分取り返せばいいだけじゃねえか。

 絶対に点を取り返してやるから、だからもう、そんな風に考えるんじゃねえぞ」

 

「…はい!」

 

 そう返事をした滉を見ている俺に「あいつもなかなか困ったやつだな」と声がかかる。

 

「何言ってんだ勝一、お前の方がよっぽどだよ。滉はまだ素直だし」

 

「なんだよそれ、僕が素直じゃない、ってこと?」

 

「まあ、そういうことになるな」

 

「…ひどいな(笑)」

 

 そう言いながら浮かべた笑顔には、どこか寂しさが含まれているような気がして。

 

「…絶対、勝つから」

 

 俺はそう言って、その場を離れた。

 

 

 しかし、前の回の途中から登板している相手エース眉村道塁の前に、4番筒本はセンターフライ、5番内樺は見逃し三振、6番糸魚川はファーストライナーと、三者凡退。

 前の回もそうだったが、少し急な登板だからかまだ若干ボールが荒れ気味だしたまに甘い。

 それでもこの投球。敵ながらあっぱれ、という風に思える。

 

 攻守交替して五回表。

 この回の滉は、本来のピッチングを取り戻す。

 7番から始まった相手の攻撃を、空振り三振、セカンドフライ、サードゴロで抑える。

 

 対する五回裏。

 リズムを掴んだのか、この回から道塁ちゃんの投球はこれまでのさらに上をいくものに。

 伸びのある良いストレートがコースにビシバシ決まり始める。

 結果、7番からの攻撃だったこの回、三者連続三振。

 調子がいいのか、全く手が付けられないように感じる。

 

 そしてそれは、否応なく滉のピッチングに影響を与える。

 もうこれ以上の失点はできないと感じ、これまで以上に神経を使って投げ始めた滉は、この回先頭の1番道塁ちゃんに四球を与え、さらに続くバッターにも連続フォアボールを与える。

 東斗はこのチャンスで、安全に送りバントを選択。

 なんとかワンナウトは取れたが、二、三塁というピンチで、打席には先程ホームランの眉村渉。

 ストライクを一球も投げることができず、フォアボール。これで、満塁。

 

 このピンチにマウンドに集まる鹿瀬少年野球クラブの内野陣。

 

 見ると、緊張からか滉の顔には大量の汗が...

 

 

 いや、違う。

 

 

 滉は、スタミナが限界に近付いているのだ。

 

「滉...お前...」

 

 そう言おうとした俺を、手で制す滉。

 

「自分で招いたピンチです。…自分に、投げさせてください」

 

 マウンドのところまで来ていた監督に、そう力強く言い切る。

 

「…いや、まあ滉にはもちろん投げてもらうつもりだぞ?

 誰も特に準備させてなかったからこんな場面で交代するわけにはいかないしな。

 

 

 今のエースはお前だ、滉。カッコいいとこ、見せてくれよ」

 

 そう言い、ベンチに戻っていく監督。

 

「後ろは絶対、守ってやるから。安心して投げろ」

 

「私も。滉君のこれまでの頑張り、無駄にするわけにはいかないもん」

 

「きつくなったら、後ろを見ろ。俺たちがいる」

 

「最後のピンチだ、滉。思い切って投げ込んでこい」

 

 間宮、菊地原、内樺、森戸がそれぞれ声をかけ、守備位置に戻っていく。

 

「滉、お前の後ろは、頼れる先輩ばかりだろう?」

 

「そうですね」

 

「自信もって投げろ!絶対このピンチ、抑えようぜ」

 

「はいっ!」

 

 

 再開後、初球。

 振りかぶって投じられたのは、今日最速で最高のボール。

 

 審判のストライクという声がグラウンドに響き渡る。

 

「………」

 

 サードランナーの道塁ちゃんが何か言った気がしたが、聞き取れなかった。

 

 二球目。インコースの際どいボール。

 バッターが手を出す。

 完全に詰まった当たりが、俺の前に転がってくる。

 

 冷静に前に突っ込み、捕球し、ホームへ送球。

 

 キャッチャーの森戸が捕り、素早く一塁へ送球。

 

 判定は、アウト!

 ホームゲッツーだ。

 

 ため息がこぼれる三塁側ベンチと、歓声に湧く一塁側ベンチ。

 

 

 最高の形で、無失点で切り抜けることができた。

 

 

 次の六回裏の攻撃は、1番の俺から。

 とにかく勝ち越し点を取るために、なんとしても出塁しなくてはならない。

 前の回の三者連続三振という悪いイメージを、しっかりと取り払わなければならない。

 

 思考の末、俺がたどり着いたのは――。

 




そういえば。この場で言うことか分からないんですが、Twitter始めました。
アカウントは『@wakiwaki_2069』です。色々あってカオスな感じの垢になっていますが(笑)フォローしてくださると嬉しいです。
最新話を投稿する時はツイートしますので...って、そういえばこの小説は毎週土曜17:30定期投稿だから、あんまり意味ないですね。
まぁでも、感想とかそっちの方で送られてきてもすごく嬉しいと思うので、よろしくお願いします。フォローバックはさせてもらいますので。

あと、ここで予告です。
現在連載中の小学生編は、今月いっぱいで完結を迎えることになります。
10月からの秋クールでは、ようやく中学生編に入っていきます!
いやぁ...ここまで長かった(笑)…といっても新章は、中一時から描写していくため原作には到底追いつかず、まだまだ長い道のりなんですけど。

では長くなってしまいましたが、今回はこのあたりで失礼させてもらいます。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第十六話

どうもこんにちは。
早速アニメの感想を...と言いたいところですがまず一つ。
9/3に、謎の伸び(笑)を見せた本小説が、そのおかげで少しの間ですが、日間ランキング75位にランクインしておりました。
私自身初めてのことで、大変嬉しかったです!
次は是非、50位以内に入ってみたいなぁ...なんて(笑)
読者の皆さんになるだけ飽きられないような作品にこれからもしていきたいので、これからも応援お願いします!あと、批評とか感想とか、お待ちしておりますので気兼ねなくどうぞ。

とまあ、少し逸れて長くなってしまったので、感想については後書きの方で触れさせてもらいます。

では気を取り直して、本編です。
果たして、美智琉率いる鹿瀬クラブは眉村姉弟率いる東斗ボーイズに勝てるのか?!
お楽しみいただければ幸いに思います。


勝者と敗者

 

 主審のストライクアウト!という声が響く。

 

 俺は二塁ベース付近で、天を仰いだ。

 

 

 出塁するために、俺はセーフティバントを仕掛けた。

 結果は成功。

 そして2番間宮は、三打席連続の送りバントをきっちりと決める。

 

 ワンナウト二塁というチャンスで、3番柳沢、4番筒本に託されたのだったが...。

 

 更に一段階ギアが上がった道塁ちゃんの前に。

 

 結果は、二者連続三振。

 チャンスを生かせず、生かさせてもらえず、試合は最終回へと突入する。

 

 

 七回表、先頭の6番打者に滉が四球を与えてしまう。

 これにスタミナの限界を感じ、投手を代える鹿瀬少年野球クラブ。

 マウンドには間宮が上がり、代わってショートには五味が入る。

 

 次の打者は堅実に送りバントを決め、ワンナウト二塁。

 そして続く8番打者はライトゴロ。しかしランナーは三塁まで進んだ。

 

 バッターは9番というところで、代打が告げられる。

 カウント2-2からの6球目。

 

 カキン、と快音が響く。

 

 間宮の右を抜け、二遊間に飛んだ打球は。

 

 

 飛び込んだ五味の横を抜け、センター前へ。

 

 

 俺はただ、悠々と生還するサードランナーを見ることしかできなかった。

 

 

 

 結果、俺たち鹿瀬少年野球クラブの全国大会は、一回戦で終わった。

 3-2。悔しい敗戦。

 

 七回表に勝ち越しを許した後はなんとか抑えたものの、結局相手エースの道塁ちゃんからヒットを打つことができず。

 最後は、7番の菊地原がピッチャーフライに倒れ、道塁ちゃんがしっかりと捕球。

 それが、全国大会初戦敗退が決まった瞬間だった。

 

 試合中にあんなことを言っておいて、結局負けるなんて。

 頑張って投げた滉にも、怪我で投げられなかった勝一にも、本当に申し訳ない。

 

 

 しかし、だ。

 全国大会はもう無理だが、県内や市内のチームと戦う大会はまだいくつかある。

 

 これからは気持ちを切り替えて、それらの試合に向けて練習していく必要があるわけで。

 

 また、俺が行きたい風林中学校への進学についても本格的に考えていかねばならない。

 

 そう。

 下を向き続けている余裕などないのだ。

 

* * * * * *

 

「「よろしくお願いします!!」」

 

 両チームの大きな声で、試合の幕が上がる。

 

 小学六年生にとっては最後の大会となるこの大会。

 決勝戦に勝ち進んだのは、鹿瀬少年野球クラブと吾妻パワフルズ。

 

 鹿瀬少年野球クラブは、近年非常に強く、どの大会でも安定して好成績を残してきた強豪。

 

 一方の吾妻パワフルズは、今年は小学五年生の活躍が光る、将来性が期待されるチーム。

 なんと、レギュラーのうち8人が五年生。

 …といっても、六年生は二人しかいないというのもあるのだが。

 

 エースが五年生の栄田(さかえだ)、控え投手に六年生の統取(とうとり)が控えている。

 

 キャプテンで2番打者、ライトを守るのがもう一人の六年生、礼地(らいち)

 バントが特に上手く、個性的な他のレギュラーを上手にまとめている。

 

 初回は、パワフルズから攻撃が始まる。

 マウンドに上がるのは、鹿瀬少年野球クラブのエース、大屋。

 長身をいかし、角度のついた非常に速いストレートの前に1、2、3番は三者凡退。

 攻守は変わって一回裏。鹿瀬の1、2、3番も、三者凡退。

 試合の始まりとしては、落ち着いた展開である。

 

 二回表、先頭の4番打者がヒットで出塁し、5番がバントを決め、チャンスが到来。

 しかし、空振り三振、セカンドゴロで、得点はならず。

 二回裏。鹿瀬はワンナウトから5番打者がヒットで出塁。

 相手のミスやライトゴロで三塁まで進むも、7番打者が内野フライに倒れる。

 

 三回表は、8番から始まる打順で上位にも回ったが三者凡退。

 変わって三回裏。

 先頭の8番がヒットで出塁し、9番はバント。ワンナウト二塁というチャンスを作る。

 ここで打席には鹿瀬のキャプテン、1番打者の牧篠。

 三球目にサード前にセーフティバントを決めて一、三塁とチャンスが拡大。

 2番打者の内野ゴロ、ゲッツー崩れの間に鹿瀬は一点を先制。

 

 反撃したい四回表。

 先頭の2番がヒットで出ると、バントと内野ゴロで、ツーアウトながらランナーは三塁まで進塁。

 チャンスだったが、バッターは空振り三振に倒れ得点とはならない。

 四回裏、先頭の4番がフォアボールで出塁。

 5番は送りバントを試みるもキャッチャーフライとなって失敗。

 しかし次打者が、右中間にツーベースヒットを放ちワンナウト二、三塁とする。

 このチャンスで7番でエースの大屋がレフト前ヒット。

 見事一点を追加する。だがその後、後続は内野フライに倒れてさらに得点することはできず。

 

 五回表、パワフルズはあえなく三者凡退。

 その裏の鹿瀬の攻撃。

 1番から始まったこの回、ワンナウト二塁からのスリーベースヒットとライトゴロで更に二点を追加。

 

 六回表。これまでほぼ完ぺきに抑えてきた大屋に少しほころびが見える。

 先頭の9番にデッドボールを当てるとその後、ミスも重なってワンナウト三塁とされる。

 続くバッターにはフォアボールを与え、一、三塁と更にピンチは拡大。

 このチャンスに3番でエースの栄田がレフト前ヒット。

 パワフルズ、これでようやく、重かった一点目を取る。

 

 そしてこのまま流れに乗っていくかと思われたが。

 

 続く4番の強烈な打球を、鹿瀬のセカンドが上手く処理し、4-6-3のダブルプレー。

 

 その裏の鹿瀬の攻撃。

 この回から代わってマウンドに上がった統取が三人で抑え、望みを託す。

 

 が、しかし。

 最後の力を振り絞る鹿瀬のエース大屋の前に、セカンドフライ、サードゴロ、空振り三振。

 一人のランナーも出せず、三者凡退。

 

 

 こうして、鹿瀬少年野球クラブは4-1で吾妻パワフルズを下し、見事、最後の大会で優勝という、有終の美をかざったのだった。

 




道塁ちゃんとの試合に加え、小学校最後の試合も終わりました。
ですが、一応もう少し続きますので、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m

それではここで少し、アニメの感想の方を。
私が思うに、漫画よりも結構描写を丁寧にやってる感じというか、情報の先出し(?)みたいなのが結構多いような気がしますよね。永井の三回戦描写だったり、大吾の電話とか、光の自主練だったり。
すごく分かりやすく見られるようになってて、かなり良いなと個人的には思います。
あと、玉城君との試合の終わりに、漫画ではなかった描写があったのが少し気になり、中学生編で絡んできたりするのかな?と妄想させられました(笑)
まあなんにせよ、これからもしっかり楽しんでいきたいです!

では少々長くなってしまいましたが、今回はこのあたりで失礼させてもらいます。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

※11月10日18:35に一部分の修正を行いました。
 さほど意味のあるものでもないので、気にされなくて結構ではあるのですが一応。


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第十七話

どうもこんにちは。
早速アニメの方に触れていきますが...いやぁ、原作を知らなかった方はまさかの幕切れと思ったことでしょう。展開を知ってる自分も、やはり一瞬固まってしまいました。
選手同士の激突…意外と見かけることが多いような気もしますが、いつ見ても嫌なものは嫌ですね...。
恐らく今月で一旦区切りとなってアニメは終わるでしょうが、今日を含めて残り三話。果たしてどうなるんでしょうね...?
しっかり見守っていこうと思います。

では、この辺で感想も区切りとしまして本編のほうへ。
少年野球最後の大会を終えた美智琉の視点で展開されるストーリーです。よろしくどうぞ。


次の舞台へ…

 

 俺が所属する鹿瀬少年野球クラブは、最後の大会を無事優勝で締めくくり、最高の形で一年を終えた。

 

 来年からは、エースの茅ヶ谷滉を中心に守り勝っていくチームを作るのだと、監督は言った。

 滉は、全国大会でのピッチングでも感じたが確実に力がある。

 だからきっと、来年からも鹿瀬は色んな大会でその活躍を見せてくれることだろう。

 

 

 そして俺は、念願の風林中学校への入学が決まった。

 推薦入試という形で、学力とスポーツでの実績から、見事選ばれることができた。

 

 たったの一年だけど、これでまた先輩たちと野球ができる。

 これ以上嬉しいことはない。

 

 ちなみに一、二度、野球部の練習を見に行った。

 その時グラウンドで活動していたのは約10人。少数精鋭という感じで、皆動きはすごかった。

 

 果たして俺は、風林中学でどこまでやれるのか。

 そして今の俺が、中学の野球のレベルにどこまで追いついているのか、ついていけるのか。

 

 すごく興味があり、今からすでに楽しみな気持ちでいっぱいだ。

 

 

 ちなみに、俺と同じ鹿瀬少年野球クラブに入っていたメンバーたちはそれぞれの道を進む。

 多くは、中学では硬式野球のクラブに所属する予定だと言っていたが、一人だけ、菊地原だけは、中学の軟式野球をやると言っていた。

 

 まあ確かに、女子が硬式野球をやるのはなかなか珍しい事だろうから、そう考えると普通のことかもしれないが。

 なんにせよ、今度はあの守備を相手にしないといけなくなったわけで。

 それはなんだか辛い気もするが、いつかきっと再戦しようと、そう誓った。

 

 

 俺が隣の県にある風林中学校に進み、そこで軟式野球をやると言った時。

 チームメイトたちは、”寂しくなる”と言ってくれた。

 俺が家庭の事情を考えてこのような選択をしたことを、理解してくれた。

 

 高校生になったら絶対に、硬式野球の世界に踏み出して、そこでまた再び会おうと、そう約束した。

 

 きっと皆、何段階も進化していくだろうから、自分も負けないように努力し続けなければと、そう強く心に決めた。

 

 

 そういえば今更かもしれないが、俺が試合で道塁ちゃんと戦ったあの後、なんと東斗ボーイズは全国大会で準優勝に輝いた。

 

 試合をすべて見たわけではないため詳しくは知らないが、道塁ちゃんがとてつもなく調子が良く、三回戦ではノーノーを達成したということもあったらしい。

 

 だが最終的に、投球制限や色々な要因が絡み合った結果。

 決勝で道塁ちゃんに対して、ファールで粘ったりバントで揺さぶったりして徹底的に球数やスタミナを消費させ、五回の途中にマウンドから降ろし、その後控え投手を打ち崩すことで最終的に、5-3で東斗ボーイズを下した才京レンジャーズが、全国大会優勝を果たした。

 

 一度対戦したことのあるカードでの全国大会決勝戦だったわけだが、再び才京レンジャーズに勝ち星がつくという結果に終わった。

 

 俺たち鹿瀬少年野球クラブも一度才京とは戦ったことがあるが、やはり強いのか、と。

 あの東斗ボーイズでも、好調な道塁ちゃんを擁しても、リベンジを果たせないのか、と。

 そんな思いに駆られた。

 

 大会終了後のインタビューで、東斗ボーイズの監督がこう言っていた。

『エースが好調だったからこそ、監督として”欲”が出てしまった』と。

 

 分かるようでわからない言葉だったが、鹿瀬少年野球クラブの楢崎監督はこれを聞いて、分かるというような納得の表情を浮かべていた。

 

 監督の言うところによると、三回戦が分かれ目だったのでは、ということだった。

 つまり、好調で大記録の達成が見えている状況でも、大会全体を見通して思い切って降板させる、というようなことをしなければならなかったと後悔しているのだろうと。

 

 ただ、その三回戦も二点差での勝利と厳しい戦いだったから、実際その監督を責めることなんてできないけどな、と楢崎監督は笑っていた。

 

 そんな監督を見ながら俺はふと、自分を変える大きなきっかけになった、あの北畠シャークとの試合を思い返していた。

 

 その瞬間、なんとなく将来は指導者の側にも立ってみたいな、なんてことを考えたりもしたけど。

 こんなことを言うと監督は、自慢げになり始めるからこれは俺の胸にしまっておいた。

 

 

 

 そんなこんなで、俺の少年野球生活は終わりを迎えた。

 明日からはまたワンステップ上がった舞台、中学野球に飛び込むことになる。

 

 その始まりに期待を馳せながら、俺はいつもより早い時間に眠りにつくのだった。

 

 

*  *  *  *

 

『クソ、遅れちまった!昨日あんなに早く寝たのに!このままだと時間ギリギリじゃん』

 

 タッタッタッ...(道を駆ける音)

 

 

 

 ドンッ!(人がぶつかる音)

 

『『わあ!!??』』

 

 バサッバサッ...(荷物が落ちる音)

 

『すみません、急いでて...!』

 

『いえいえ、私の方こそ...ってその制服...!』

 

『えっ...!?』

 

 

 キュン...(恋に落ちる音)

 

 

 

 

 

 

 

 

 …なんて、こんなふざけたくらいテンプレな入学式イベントなんて起きるわけもなく。

 

 信じられないくらい普通に学校に到着した俺、牧篠美智琉。

 玄関まで進んだところで、大きな紙が一枚貼ってあるのを見かける。

 どうやら、クラス名簿のようで、俺は一年二組に入っていた。

 

 自分用の下駄箱に靴を入れようとしたところで、後ろを歩いてきた男子にぶつかってしまう。

 

「あ、ごめんなさい」

 

「いや、平気平気。俺が見てなかっただけだから」

 

 相手のその顔は、なんだか見覚えがあるような気がしたけどまあ気のせいだろう。

 同じクラスらしく、俺よりも早い番号のところに靴を入れた彼は、教室へ向かっていく。

 

 

 その時だった。

 

 俺の横を追い抜くようにして、小走りで駆ける女子が一人。

 なんとその女子はあろうことか、俺とさっき軽くぶつかった男子の横で止まると、彼と何やら話し始めた。

 

「(…入学式の日だっていうのに仲良い女子がいるとか男子の敵か...?

 大抵の人間は今日という日に半生分の緊張を持ってきてるっていうのに、全く。

 ああ、なんかお腹痛くなってきた...)」

 

 なんて、こんなことを考えた。

 

 

 

 

 …自分以外の大抵の人たちがこの県出身であり、同じ小学校から上がってきている人もいるということなんて、頭からすっかり抜け落ちたままで。

 

 

 自分は数少ない他県からの来訪者なのに、自分と同じような気持ちをしている人は周りにもたくさんいるのだと、そんな錯覚を抱いたまま、俺の中学校生活がとうとう始まろうとしていた。

 

 

 




無事(?)に中学生編に突入していく...というこの場面で、章の区切りとさせてもらいます。
…が、次話はこれまでとは少し変わった感じになっており、一応そこまでは第一章に入ることになりますので、どうぞよろしくです。

では今回は短めに、このあたりで失礼させてもらいます。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第十八話

どうもこんにちは。
何よりも前回のアニメは、あの茂野吾郎が満を持して登場することとなりましたね!
これまでも時々、特に今のEDアニメーションでも思っていたんですが、やはり元祖メジャーの登場人物やそこの話を出されると、ずるいな~ってなっちゃう自分がいるんですよね(笑)

そしてなんと噂によれば、アニメメジャー2ndは今日が最終回らしいです。中学生編もアニメ放映されるといいのですが...まあそれは、気長に待っておこうと思います。

では、ここからは本編へと参りましょう。
今回は...いやまあ、読んでのお楽しみということで。よろしくどうぞ。


番外編:もう一人のミチル

 

 家が近いというそれだけの理由で遊ぶようになった私たちが、たまたま同じ名前だったこと。

 それは”運命”なのだと、そう思っていた―――幼い頃は。

 

 幼稚園に通っていた頃はまだ、色んなことが分かっていなくて、仲良くすることは普通だと思っていたし、周りから言われることも、たいして気にしていなかった。

 

 年を重ね、次第に男女が別になって遊ぶようになり。

 

 周りの子たちは、私とその子が同じ名前であることに違和感を抱き始めた。

 だからなのか、よくその子は周りからイジられるようになった。

 

 

 でも私は、そんな状況に違和感を感じていた。

 どうして、下の名前が同じというだけでその子は周りから色々言われないといけないのか。

 男子と女子が少し話しただけで、どうしてすぐ恋愛的な話にしようとするのか。

 

 私には、理解しがたいことばかりだった。

 その中には、仲のいい友達が周りの子にからかわれていることに関する、モヤモヤのようなものが少なからずあったのかもしれない。

 

 

 そんなこんながあって小学二年生になり。

 ちょうど梅雨の時期が始まった頃だっただろうか。

 

 何も言わず突然、美智琉くんは違う学校に転校していった。

 

 なんでもないことのはずだった。

 意識してることなんて何もないつもりだった。

 

 でもなぜか、何かが無くなってしまったような、そんな気持ちにさせられた。

 私は自分の気持ちを、どこにどうぶつけたらいいのか分からなくなった。

 

 どういう経路で知ったのかは分からないが、美智琉くんの家の電話番号をクラスメイトが話していて、何となく電話をかけた。

 

 もしもし、と最近まで聞いていた声が聞こえてきて。

 どうしていいかわからず、美智琉くんのイジワル、とだけ言って受話器を置いた。

 

 なんでそんなことを言ったのか、私にも分からなかった。

 

 だけどどこかすっきりしたような、でもまだモヤモヤしたような気持ちだった。

 

 

 そんな感じで退屈に日々を過ごしていた私だったが。

 小学三年生の時、運命の出会いをした。

 

 きっかけは、双子の弟である渉がパパの出場したワールドシリーズの試合のDVDを観ていたこと。

 

 その頃の私は、野球なんて特に興味もなかったけれど。

 そこで初めて見た()()()の姿に憧れ、私もこんな風になりたいと思ったのだ。

 

 

 だが、現実はそうは甘くはない。

 

 近くの軟式野球クラブに入ったはいいものの、私は女子。

 周りの男の子たちにまざっている中、ピッチャーがやりたいなんて言えるわけなかった、というか言っても無理だろうと思っていた。

 

 だから私の少年野球は、外野手から始まった。

 渉がチームのエースになり、私は外野手。

 

 私はピッチャーをやりたい思いを抱えたまま、野球を始めて二年になろうとしていた。

 

 

 しかし、野球の神様が私に微笑む時が来た。

 

 渉がヒジに違和感を覚えたため、怪我にうるさいパパが渉に投球禁止を命じたのだ。

 それを受けた監督が、ピッチャーに私を指名してくれた。

 

 

 だけど、甘くない現実が再び私に叩きつけられた。

 

 それは、制球力の問題。

 憧れの人のような豪快なオーバースローで投げていると、どうしてもコントロールが悪かった。

 

 やむをえずチームのために、制球のまとまるサイドスローで投げていくことになった。

 相手に攻略された場合に備えてアンダースローの練習をすることもあった。

 

 

 でも私はそんな中でも、憧れを追い続けていた。

 隠れてオーバースローの練習をし、なんとかコントロールが良くならないかと画策した。

 なんとかして、憧れのあの人のようになりたかったから。

 

 

 そんなある日。少年野球の全国大会に出場した時。

 その頃は、ピッチャーにもすっかり慣れてきていた私。

 

 最初に抱いたのは、違和感。

 ”牧篠”という名字を見て、なんとも言えない感覚があった。

 どこかで見たことがあるような、でもどこで見たのかは分からない、そんな感覚。

 

 その子を一塁上で見たとき、確信に変わった。

 

 ()()美智琉くんだと。

 

 すると目が合い、何?と聞かれた。

 私はその問いを聞き、自分の事は覚えられてないのかと思った。

 正直、ショックだった。いや、なぜショックを受けたのかは分からないけど。

 

 忘れられているはずはないだろうと、どこかで会ったことがないかを聞いた。

 それに対し、えっと...と何か悩んでいる様子を見せる美智琉くん。

 

 しかしこれ以上話すことはできず、私から質問のことは忘れていいと言って、私たちの数年ぶりの会話は終わった。

 

 後になって考えてみれば、美智琉くんは周りから私とのことでからかわれていたわけで。

 そのことを忘れようとしていたに違いないわけで。

 

 私は、嫌な記憶を思い返させてしまったのではないかと後悔した。

 

 だから、一度三塁ベースまで進んだとき、小さくごめんと呟いた。

 おそらく美智琉くんの耳には届かなかっただろう。

 

 

 そしてその後、全国大会準優勝を成し遂げた私たち東斗ボーイズ。

 決勝戦は正直不本意だったけど、私はすっきりしたような気持ちがしていた。

 

 それは、あの日美智琉くんに電話をかけた後の気持ちとは違っていて。

 色んなモヤモヤが心からなくなって、本当にスッキリな感じだった。

 

 

 そうして、色んなことがあった小学校での生活も終わりを迎えた。

 明日からは私も、中学生になる。

 

 私は憧れのあの人に近づくため、中学では軟式野球部ではなく硬式の野球クラブに入るつもりだ。

 

 渉も、パパに禁止されていたピッチングが中学からはまた出来るとあって、すごく張り切っている。

 

 これから私が、どうなっていくのかは分からない。

 

 でも今は、とても希望に満ち溢れていて。

 その希望に私は胸を膨らませて、ゆっくりと眠りにつくのだった。

 




…ということでメインヒロイン回でした~いかがだったでしょうか。
自分なりの道塁ちゃん像、しかも原作とは状況も違いますからね...読者の皆さんの想像とは違うところもあるかもしれませんが、まあその辺は大目に見てもらえればと思います。

そして、次話に関してですが。
来週は言ってしまえば、ストーリー展開ではなく、登場人物紹介...みたいなものになります。
興味のある方は是非どうぞ。

10月からはとうとう中学生編。頑張って書いていきたいです!

それでは、今回はこのあたりで失礼します。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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おまけ①

どうもこんにちは。
アニメメジャー2nd、先週の最終回、皆さんはご覧になったでしょうか。いやぁ...思い出すだけでも涙が流れてしまいそうになるくらい感動させられました。ホントに素晴らしかった!
中学生編もアニメ化してくれることを勝手に期待しつつ...。
4月から約半年間、楽しいアニメをありがとうございました!と、感謝を。

それでは。ここからは本編へと参りましょう。
今回は登場人物紹介となっており、まあ流し読みされて結構です、たぶん(笑)
…ということで、よろしくどうぞ。


<出場登録選手一覧>

◎美智琉/四年生時

背番号1、濱内 健竜 (はまうち けんりゅう)6年・左左・投手

   2、村野 克正 (むらの かつまさ)  6年・右右・捕手

   3、王城 治  (おうじょう おさむ) 6年・左左・内野手

   4、波多 弘  (はた ひろし)    5年・右右・内野手

   5、島永 重恭 (しまなが しげたか) 6年・右右・内野手

   6、新木 雅  (にいき みやび)   5年・右右・内野手

   7、町井 英喜 (まちい ひでのぶ)  6年・右左・外野手

   8、松縄 信三 (なつなわ しんぞう) 6年・左左・外野手

   9、鈴木 元  (すずき はじめ)   6年・右左・外野手

  10、茅ヶ谷 綜 (ちがや そう)    6年・右左・外野手・キャプテン

  11、風津 太輔 (かざつ だいすけ)  5年・右右・投手

  12、戸崎 智  (とざき さとし)   5年・右右・捕手

  13、牧篠 美智琉(まきしの みちる)  4年・右右・内野手

  14、筒本 晴善 (つつもと はるよし) 4年・右左・外野手

  15、内樺 聖吾 (うちかば しょうご) 4年・右右・内野手

  16、柳沢 勇気 (やなざわ ゆうき)  4年・右左・外野手

  17、糸魚川 直 (いといがわ すなお) 4年・右左・外野手

  18、間宮 絢斗 (まみや けんと)   4年・右右・投手

  19、森戸 友太郎(もりと ゆうたろう) 4年・右左・捕手

  20、菊地原 美涼(きくちはら みすず) 4年・右右・内野手

 

◎美智琉/五年生時

背番号1、風津 太輔 (かざつ だいすけ)  6年・右右・投手

   2、森戸 友太郎(もりと ゆうたろう) 5年・右左・捕手

   3、内樺 聖吾 (うちかば しょうご) 5年・右右・内野手

   4、新木 雅  (にいき みやび)   6年・右右・内野手

   5、牧篠 美智琉(まきしの みちる)  5年・右右・内野手

   6、波多 弘  (はた ひろし)    6年・右右・内野手

   7、筒本 晴善 (つつもと はるよし) 5年・右左・外野手

   8、柳沢 勇気 (やなざわ ゆうき)  5年・右左・外野手

   9、糸魚川 直 (いといがわ すなお) 5年・右左・外野手

  10、戸崎 智  (とざき さとし)   6年・右右・捕手・キャプテン

  11、間宮 絢斗 (まみや けんと)   5年・右右・投手

  12、菊地原 美涼(きくちはら みすず) 5年・右右・内野手

  13、大屋 勝一 (おおや しょういち) 5年・右左・投手

  14、海田 駆  (うみだ かける)   4年・右右・捕手

  15、茅ヶ谷 滉 (ちがや こう)    4年・右右・投手

  16、五味 怜樹 (ごみ れいじゅ)   4年・右左・内野手

  17、多方 匡芳 (たかた まさよし)  4年・右左・外野手

  18、幡川 雪菜 (はたかわ ゆきな)  4年・右左・内野手

  19、元岡 和希 (もとおか かずき)  3年・右右・内野手

  20、横谷 慎也 (よこたに しんや)  3年・左左・外野手

 

◎美智琉/六年生時

背番号1、大屋 勝一 (おおや しょういち) 6年・右左・投手

   2、森戸 友太郎(もりと ゆうたろう) 6年・右左・捕手

   3、内樺 聖吾 (うちかば しょうご) 6年・右右・内野手

   4、菊地原 美涼(きくちはら みすず) 6年・右右・内野手

   5、五味 栄佑 (ごみ えいすけ)   5年・右左・内野手

   6、間宮 絢斗 (まみや けんと)   6年・右右・内野手

   7、筒本 晴善 (つつもと はるよし) 6年・右左・外野手

   8、柳沢 勇気 (やなざわ ゆうき)  6年・右左・外野手

   9、糸魚川 直 (いといがわ すなお) 6年・右左・外野手

  10、牧篠 美智琉(まきしの みちる)  6年・右右・内野手・キャプテン

  11、茅ヶ谷 滉 (ちがや こう)    5年・右右・投手

  12、海田 駆  (うみだ かける)   5年・右右・捕手

  13、多方 匡芳 (たかた まさよし)  5年・右左・外野手

  14、幡川 雪菜 (はたかわ ゆきな)  5年・右左・内野手

  15、元岡 和希 (もとおか かずき)  4年・右右・内野手

  16、横谷 慎也 (よこたに しんや)  4年・左左・外野手

  17、奥江 塁  (おくえ るい)    4年・右右・外野手

  18、瓦 進ノ介 (かわら しんのすけ) 4年・左左・投手

  19、東 誠人  (あずま まこと)   4年・右右・投手

  20、小清水 悠 (こしみず ゆう)   4年・右右・捕手

 

 

<登場人物紹介>

 

牧篠 美智琉(まきしの みちる)

 本作の主人公。

 風林中学一年生。野球部でポジションはサード。右投げ右打ち。

 自身の名前が女っぽいことにコンプレックスを持っている。

 同じ”ミチル”という名前の女の子への初恋に失敗したことが、その大きな要因。

 茂野吾郎に憧れて野球を始めた。そのため、投手をしてみたい気持ちも実はある。

 足が速い。また、努力家で真面目な気質から、勉強も結構得意。

 一人っ子。両親は離婚しており、今は母親と二人で暮らしている。

 実は父親は、甲子園大会に出場したこともあるのだが、美智琉はそれを知らない。

 

茅ヶ谷 綜(ちがや そう)

 風林中学三年。野球部キャプテンでポジションはセンター。右投げ左打ち。

 四人兄弟の長男で。その家族柄からか気が利き、非常に周りをまとめるのが上手い。

 ミチルにとても慕われており彼からは欠点がないと思われているが、実は勉強が苦手。

 特に英語。彼曰く、なんだか生理的に受け付けない、らしい。意味不明である。

 野球選手としての実力はなかなかのもの。まさに俊足巧打というやつ。

 

濱内 健竜(はまうち けんりゅう)

 風林中学三年。野球部のエースピッチャー。左投げ左打ち。

 綜とは対照的に一人っ子。冷静でかなりおとなしい感じの性格。

 勉強はかなり得意。綜がなぜ勉強ができないのか疑問に思っているらしい。

 ピッチャーではあるが、どういうタイプなのか、また球種は何を持っているのか。

 そのあたりは未だに明かされていない...次話以降で明らかになってきそうだ。

 

茂野 大吾(しげの だいご)

 原作では主人公

 …なのだがこれまでのところちょっとしか登場していない、残念なキャラクター第一号。

 風林中学一年。野球部でポジションはキャッチャー。右投げ右打ち。

 かの有名な茂野吾郎を父に持っており、それがコンプレックスで一時期は野球をやめていた。

 両親からの譲り受けか、野球脳が高い。

 

佐倉 睦子(さくら むつこ)

 残念なキャラクター第二号。

 眉村道塁という正規ヒロインの登場により、出演の減少を余儀なくされてしまいそう。

 風林中学一年。野球部でポジションは外野手。右投げ右打ち。

 かわいい。けっこう好き(※あくまで個人の意見・感想です)

 

相楽 太鳳(さがら たお)

 残念なキャラクター第三号。

 眉村道塁という...(以下略)

 風林中学一年。野球部でポジションはショート。右投げ左打ち。

 やんちゃでクール(←矛盾)...みたいなイメージ(※あくまで個人の以下略)

 

沢 弥生(さわ やよい)

 残念なキャラクター第四号。

 眉村道塁という...(以下略)

 風林中学一年。野球部でポジションはセカンド。右投げ右打ち。

 …原作でのイケメンっぷりに筆者が惚れかけており、なんとか活躍させようと裏で画策しているのはここだけの秘密である。

 

眉村 道塁(まゆむら みちる)

 本作のメインヒロインとなるキャラクター。

 主人公のチームとは違うチームに所属しているが、メインヒロインという謎の力を行使することにより、登場シーンは強引に増えることになりそう。果たしてどうなるのか。

 大尾中学一年。左投げ左打ち。

 …ヒロインにするくらいだ。筆者がこのキャラを好きだというのは明白だろう。

 

 

筆者

 軟式野球経験あり、硬式はナシ。右投げ両打ち←カッコつけ

 経験ポジションはセカンド、外野全て。

 スコアラーのプロ(自称)でありながら三塁コーチャーをこなすというザ・隠者。

 ※他にも色々話そうかと思ったが、小説規約に触れそうなのでやめておく。

 




前にも言ったことがありますが、オリジナルの選手たちの名前は実在する野球選手の名にあやかって付けたものになってます。
元の選手が誰なのか、暇な人はぜひ考えてみてくださいませ(笑)

あと、来週までにこの作品の正式タイトルを確定させなければいけないということに、今さら気付きました...正直ちょっとやばいですね(笑)まあ、なんとか頑張ります。

それでは今回は、このあたりで失礼します。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第弐章:中学1年生編
第十九話


どうもこんにちは、10月に入りましたね。
今日から中学生編となり、タイトルも変わり、これから本格的に物語が進んでいく...はず!

ではでは、よろしくどうぞ。


俺の名前は

 

 美智琉。

 

 君は、この名前を見たときにどう感じるだろうか。

 ”ミチル”と聞いて、男子と女子のどちらを思い浮かべるだろうか。

 

 

 この名前は、何を隠そう自分の名前であり、そして自分は男だ。

 

 こういう名前を、最近ではキラキラネームとして世間はくくっている。

 

 俺は、自分のこの名前の女っぽさが少し苦手...というか嫌いだ。

 

 

 

 そしてこの物語は、そんなコンプレックスを持った少年が、とあるきっかけで始めたスポーツに没頭していく()()()()()()()()()である。

 

 

*  *  *  *

 

「私は、沢弥生って言います。横浜リトルでセカンドをしてました。よろしくお願いします」

 

「同じく横浜リトル出身、相楽太鳳です。ショートしてました、よろしくお願いします~」

 

「えっと、私は佐倉睦子です。三船ドルフィンズで外野をやってました、よろしくお願いします!」

 

 

 俺の横の位置に立った三人が、それぞれ自己紹介をしていく。

 

 野球部の入部希望、ということでグラウンドに来たら、先輩たちが待っていた。

 今この場にいる新入部員は5人。

 女子がさっきの三人で、それに俺と、もう一人男子がいる。

 

 そして自己紹介は、そいつの番。

 そういえば、佐倉とこの男子は、今日の朝俺が見かけた二人で、クラスメートじゃないか。

 

 確か、名前は...

 

「三船ドルフィンズではキャッチャーやってました、茂野大吾です!

 姉ちゃんが去年までこの野球部にいたので、知ってる人もいるかもしれませんがその弟です。

 まあでも俺は、全然ヘタクソなんですけど...。とにかくこれから、よろしくお願いします!」

 

 先輩方が若干ざわつく。

 

 

 …なんか、一人だけ自己紹介長くない?

 ん?原作...主人公...?わけわかんねえこと言ってんな。

 

 

 と、次は俺の番だと思いだした。

 

「鹿瀬少年野球クラブ出身、牧篠美智琉です。できれば名字で呼んでくれると助かります。

 ポジションはサードでした。これから、よろしくお願いします!」

 

 

「OK、皆ありがとう。俺が、キャプテンの茅ヶ谷綜だ」

 

 綜先輩が、先輩方の真ん中に立って話す。

 

「…てことでいきなりなんだけど、まずは俺たちと一緒にウォーミングアップからやろうか」

 

 

「「は、はいっ!!」」

 

 

*  *  *  *

 

 キ、キツイ...。

 なかなか...ハードなアップだな...。

 

 

「おいおい、かなり疲れてんなあ牧篠。」

 

 

 声をかけられ、そっちを見る。

 

「ケン先輩...お久し、ぶりです...」

 

「なんだ?ホントにヘロヘロじゃねえか(笑)」

 

「いや...これはきついですって...。毎日これやってるんですか?」

 

「もちろん。まあ、じきに慣れるさ。」

 

「そうですね...頑張ります!」

 

「その意気その意気。

 …ああ、そうだ。綜がこれから、六対六の試合形式で戦うって言ってたから、よろしくな」

 

「試合形式...なるほど、よろしくお願いしますね」

 

 

 

 そして。

 綜先輩の指示で練習が進む。

 どうやら、六対六の変則的な形で歓迎試合をするとのこと。

 

 

 だが。

 

「すみません先輩、一年生側、五人なので一人足りないんですけど...?」

 

「ああ、だからそっちには、一人入ってもらうよ。

 丁度ピッチャーがいないみたいだし...椿、頼んでいいか?」

 

 そう言われて出てきたのは、先輩たちの中で唯一の女の人。

 

「オッケー、いいよ。

 かわいい後輩ちゃんたち、私は綾部 椿(あやべ つばき)。よろしくね~」

 

 綜先輩に返事をし、こちらに向き直って軽く手を振る。

 気さくな感じだ。

 

 その後綜先輩が、試合は三イニングでやることを告げた。

 打順や守備位置などが決まり次第始めようということで、一旦二手に分かれる。

 

 

 

「それで...」

 

 綾部先輩が切り出す。

 

「ポジションはまあ被ってないからいいとして、打順どうしよっか?」

 

「はいはーい、私、1番打ちたいんですけど」

 

 真っ先に手を挙げるのは相楽。

 

 

 しかしここは...

 

「俺、少年野球の時から1番打ってたんだけど」

 

「えー、早い者勝ちじゃない?こういうのって」

 

「いや、悪いが譲れないね、俺が1番打つから」

 

 二人の意地がぶつかり。少し言い合う流れに。

 止めにきたのは綾部先輩だった。

 

「ちょっと落ち着いて二人とも~、ねえ太鳳ちゃんって左打ちでしょ?」

 

「はい?まあそうですけど...」

 

「今マウンドにいるケン...うちのエースのことね。…左投げなのよ。

 だから1番は、美智琉ちゃんに譲ってあげてくれる?」

 

 …ん?今、なんだかとてつもなく恐ろしい呼び方をされた気が。

 

「先輩がそう言うなら...はい、私2番で。じゃ、1番は任せたよ美智琉()()()

 

「1番譲りありがとう。だが、ちゃん呼びだけはマジでやめてくれよ。…先輩もですよ」

 

「え~可愛い呼び方だと思ったのに。残念」

 

 

 …こっちはおかげで軽く心臓抉られてるんですがそれは。

 

 

 その後、先輩自身はラストバッターを打つよ、と言い。

 それを受けて残りの三人で少し話した結果。

 沢さんが3番、茂野が4番、佐倉さんが5番を打つことに決まった。

 

 

「よ~し!じゃ、張り切っていこうね、後輩諸君!」

 

 先輩のその言葉を合図に、ホームを境に先輩たちと向かい合うようにして並ぶ。

 

「「よろしくお願いします!!」」

 

 そして、試合が始まる...!

 




本編の文字数は短め、これが平常運転。これからもおそらく、大抵はこんな感じです。

自分の中の相楽ちゃんイメージと、彼女の実際の原作内での感じがちょいズレてるのでキャラがブレ気味かも...です。他のキャラについても、多少そうなってしまうところがあるかもしれませんが、そのあたりはご了承いただけると。
また、なるだけスピーディにテンポよく進めたい...ですが、私の力量の問題上少々グダってしまうかもしれません。そこもご了承いただければ。

…と、マイナスなことを書いてしまいましたが、日々UA数やお気に入り数が増えるたび、大変嬉しい気持ちにさせてもらっております。
『皆様の閲覧は私の光』
これからも皆様には、何卒よろしくお願いしてもらいたい所存ですm(_ _)m

では長くなってきましたし、今回はこのあたりで失礼します。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

※11月10日18:40に一部分修正を致しました...が、さして深い意味もないのでお気になさらず。


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第二十話

タイトルはふとした思い付きです。決して、とある映画(もう古い気がする笑)からインスピレーションを受けて...とかではないです、決して。


…では、テンポよくいきましょうということで早速本編です。
新入生歓迎試合...プレイボール!!


歓迎試合

 

 先攻は、一年生チーム。

 そのため俺は、最初に打席に向かう。

 

「ミチル~、打ってよ~!」

 

「下の名前で呼ばないでって言ったじゃんか」

 

「いーじゃん別に、もう定着したんだもん」

 

 …定着すんの早えよ、まったく。

 

 まあでもとにかく、今は試合に集中しないと。

 投球練習を終えたバッテリーの先輩たちにお願いします、と礼をして打席に入る。

 

 マウンドのケン先輩が振りかぶり、一球目を投じる。

 アウトコース低め、見事に決められまずはワンストライク。

 当たり前だが、少年野球の時までと比べまた一段と、格が違う。

 

 二球目は、インコース胸元に外れてボール。

 三球目はそれよりもゾーンに近づいてきたので打ちにいく...が、ファールボール。

 

 これで追い込まれてしまった。

 後ろで相楽が何か野次を飛ばしているのが聞こえる気がするが、聞き取れない。

 

 まあ、気にせずいこう。

 

 

 

 

 

 この時、俺は完全に頭から抜け落ちていたことがあった。

 

 今、俺がやっているのは中学野球であり。

 この舞台は、今までの少年野球とは明らかに一つ異なっている部分があるのだと。

 

 そんな中で投じられた四球目。

 これまで先輩が投げてきたボールと違う...一度軽く上に浮き上がるような軌道のボール。

 

 

 スローカーブである。

 

 俺はただ呆然と、そのボールの軌道をゆっくりと追いかけることしかできずに。

 ストライクゾーンに構えたキャッチャーミットにボールが収まるのをただ見送った。

 

 見逃し三振。

 

 

「だから言ったのに、変化球あるよ~って」

 

 …あ、野次じゃなかったのか、なるほど。

 

「普通にすまん」

 

「…?…変なの」

 

 相楽に小首をかしげられながら、俺はベンチに戻る。

 

「変化球、考えてなかったでしょ~?」

 

 綾部先輩からからかうように言われる。

 

「はい、すっかり頭から抜けてました」

 

「…素直なのね(笑)」

 

 

 俺に続いて打席に立った相楽。

 スローカーブを見せられた後の真ん中高めのストレートに詰まらされ、内野フライ。

 

 そしてその後の沢さんは、カウント2-2から六球目のストレートを捉えるも、外野の先輩の好守備に阻まれ外野フライに倒れる。

 

 

 攻守は変わって、一回の裏。

 マウンドでは綾部先輩と茂野が何やら少し話し込んでいる様子。

 サインとかの確認だろうか。

 

 1番打者として打席に入るのは、さっき外野守備でいいプレイを見せた近江先輩。

 足は確実に速いだろうし、少し前に出ておくか。

 

 とここで、守備位置を少し説明しておこう。

 セカンドの沢さんがちょっとファースト寄りにいて、ショートの相楽がセカンド寄りで深めの位置。

 外野は一人、センター深めの位置に佐倉さん。

 

 ランナー状況とかで臨機応変に変えていけば何とかなるだろ、という結論で今の形に。

 ちなみに言っておくと、先輩たちの守備隊形も同じだったんだけど。

 

 

 左打席に入ったバッターに対し、綾部先輩が投球を始める。

 サイドスロー気味のフォームから、投じた一球目。

 打者の胸元、厳しいところに決まってストライクだ。

 

「(…初球からあそこに投げる先輩もだけど、茂野もなかなか度胸がすげえな)」

 

 その後、アウトコースボール球のストレート、アウトコースに入ってくるスライダー、低めのシンカーで空振り三振に抑える。

 

 次に打席に入るのは綜先輩。

 初球は、アウトコースに外れるストレート。

 その後、インコースへのスライダーを続けて見逃しとファールで追い込む。

 この状況で、フィニッシュに茂野が選択したのは。

 

 インコース胸元へのボール。

 アウトコースでの勝負を考えていたのか、綜先輩も腰を引いてボールを見送る。

 

 …しかし、これが僅かに外れてボール。

 

 カウント2-2からの五球目、投球はアウトコースへのシンカー。

 捕らえた打球が俺の正面に飛んできて、しっかりと捕球後、ファーストに入った沢さんに送球。

 これでツーアウト。

 

 3番打者は、キャッチャーの徳地先輩。右打席に入る。

 初球は低めのシンカー。見送ってストライク。

 二球目は胸元へのストレートで、外れてボール。

 三、四球目は外角のスライダーを続け、空振りとファール。

 

 五球目。

 茂野はアウトコース高めの釣り球気味のボールを要求。

 これを打ち上げ、打球は右中間方向へ高々と上がる。

 外野の佐倉さんが落ち着いて捕球し、スリーアウトチェンジとなる。

 

 

 二回表。

 新入生チームは茂野からの打順。

 スローカーブの後のストレートに振り遅れずスイングしたが、セカンド正面のライナー。

 続く佐倉さんは、スローカーブを打つがピッチャー正面のゴロでツーアウト。

 そして綾部先輩も、スローカーブを捉える。

 レフト方向に飛ぶが、近江先輩が走ってダイビングキャッチ。

 ファインプレーにも阻まれてスリーアウトチェンジとなった。

 

 

 二回裏。

 先頭はショートを守っている市松先輩で、右打席に入る。

 初球、アウトローへのストレートを弾き返すと、打球はライト線へ。

 急いで沢さんと佐倉さんが追いかける。

 なんとかランニングホームランは免れたが、先輩は三塁まで到達。

 

 ノーアウト三塁となって、打席にはケン先輩。

 スクイズも警戒しながら配球したバッテリーは、結果空振り三振に抑える。

 

 続くバッターは6番でセカンドに入っている坂口先輩。

 右バッターで、初球はアウトコースへのスライダーで空振りを奪う。

 二球目は低めへのシンカー。見送ってボール。

 三球目と四球目は外角へのスライダー。空振りと見送りでカウントは2-2に。

 

 五球目。

 

 ランナーが動く。

 投球と同時にスタートを切った。

 

「走った!」

 

 俺の声が、音の少ないグラウンドに響く。

 

 

 そして、バッテリーの選択はインコース高めのストレート。

 

 

 バッターはバントをしにいくが、ボール気味で身体に近いボールに上手く合わせられず、バントしたボールは後ろへ飛ぶ。

 

 スリーバント失敗で、ツーアウト三塁になった。

 失点するかもと思ったが、ぎりぎりなんとかいったようだ。

 

 

 しかし、ここまで無失点で来たものの、未だピンチは続いている。

 打席に入るのは、1番を打っている近江先輩。

 守備での好プレーが続くと、打撃でも良い結果を残すことはよくある。

 

 全く油断できない状況。一段と上がる緊張感。

 それを紛らわすかのように、俺は一つ、深く息を吐いた。

 




あっ、追加した方が良いタグとかありますかね?一応、思いついたのは入れているんですが...よろしければ、コメントの方で教えてくださると。
そしてこの機会に...批評や感想等もお待ちしておりますので、気兼ねなくどうぞ。
Twitterアカウント:@wakiwaki_2069←こちらの方でも全然いいので、どうぞお気軽に。

それでは今回は、このあたりで失礼します。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

※11月10日18:45、一部分の修正をしています。
 さほど重要なものでもないですが、一応報告だけ。


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第二十一話

祝・通算UA数10000突破!!本当に嬉しいです、ありがとうございます!!
次の目標はひとまず、お気に入り数100越えでしょうか(かなり目の前ではありますが笑)
とにかく、これからも頑張っていきます!

ではでは、本編へと参りましょう。
よろしくどうぞ。


奇抜な策略

 

 ツーアウトで、ランナーは三塁。

 左打席には、1番の近江先輩。

 

 打席に入るや否や、先輩は何故か――バントの構えをした。

 

 先程も確認したが、今はツーアウト。

 あり得るのならセーフティバントなのに、最初からバントの構えをする意味はあるのか。

 

 ということで俺は、これをバスターなのだと解釈。

 先輩の一打席目の時と同じ位置に立って打球に備える。

 

 綾部先輩が振りかぶるのに合わせ、近江先輩もバットを引く。

 

 

 

 …が、すぐにバットを戻すと、インコースのボールに合わせて一塁線へバント。

 

 

 一塁線あたりには人数の都合上守ってる人がいない。

 まずい、と思いボールの行方を見守っていると、ラインを切ってファールに。

 

 とりあえず良かった。

 あのままフェアだったら、ほぼ確実にセーフだっただろう。

 それにしても、バントをされたら太刀打ちできないような気がしてきたんだけど...。

 

「お~い、ちょっとミチル来て」

 

 なにやらマウンドに内野陣が集まっている。

 相楽に呼ばれ、手招きされている...って、また下の方で呼ばれてるし。

 

 外野の佐倉さんも呼んでいて、皆で話し合うようだ。

 

「今のままじゃ、バントで点取られちゃうじゃない?」

 

 綾部先輩が話し出す。

 

「てかまあ、こんなルールなのに克彰がバントしてくるのもどうかと思ったんだけど」

 

 近江先輩の下の名前は克彰という。先輩はそっちで呼んでいるみたいだ。

 バントはどうなのか、って...それはまあ同学年だから言えることだろう。

 

「それはそうと、皆守備位置どうする?って思って」

 

「うーん...自分自身は今の位置にいないといけないですかね」

 

「そうね。サードがいないと、今度はそっちにバントするかもしれないし」

 

「…ちょっといいですかね?」

 

 茂野が切り出す、何か考えがあるのか。

 

「沢さんがファースト、相楽さんがセカンドに入って、佐倉にはレフトあたりで守ったらどうかな、と」

 

 …ショートがら空きだけど?

 

「ほう」

 

 変な相槌を打つ綾部先輩。

 

「一応聞くけれど、ショートはどうするの?」

 

 沢さんが尋ねる。

 当然だ、ショートが空いたらそこが狙われちゃうじゃん...って、そうか。

 

「…狙わせるのか」

 

 ぼそっと呟く。

 皆が発言主である俺の方を見た。

 

「狙わせる?それだと三塁ランナー還っちゃうじゃん」

 

 相楽の言うことももっとも。

 確かにそうだけど、俺はなんとなく茂野の考えが分かった。

 

「…相楽、左バッターがショート方向に打ちたいときって、どういう感じで打席に立つ?」

 

「流し打ちってこと?う~ん、外角のボールを逆らわず...って、もしかしてそういうこと?」

 

 あ、分かったのか。

 流石名門リトルにいただけのことはある、って感じだ。

 

「え、何?どういうこと?」

 

 佐倉さんだけはまだ把握しきれてないみたいだ。

 

「佐倉、外角のボールを思いっきり外野に飛ばすことって簡単だと思う?」

 

「え、外角の球?私は外野フライが精いっぱいだけど...」

 

「でしょ?ついでにバッターは1番打者。長打力は、あまりないと考えてもいいと思う」

 

「…克彰かわいそう(笑)」

 

 …いやいや、それを聞いて笑ってる綾部先輩の方が酷い気が。

 

「だから佐倉には、投球と一緒に思いっきりショートの位置あたりまで前進してきてほしいんだ」

 

「ええっ...それはなんか...怖いなぁ。

 しかも外野いなくなっちゃうじゃんそれだと。頭越えられたらどうするの?」

 

「そこはまあ、私が頑張るから」

 

「先輩...。分かりました、レフトあたりから一気に前に来ればいいんだよね?」

 

「うん。ごめんね、走らせちゃうことになって悪いんだけど」

 

「少し思ったけど、私は普通にファーストでいいのかしら?少し前に出るべき?」

 

「うーん、もしバントされた時は打球次第で判断をお願いできるかな?」

 

「守備隊形が結構偏ってるから、打ってくる可能性高いしな」

 

「あっ、そこも考えてたのね」

 

「それはまあ、先輩の考え次第でもあるんだけど」

 

「ま、とにかくこの回抑えて、次に反撃といこうぜ!」

 

「なんでそこでミチルが仕切るのさ」

 

「ああ、つい...って、ミチル呼びやめてって何回言えば」

 

「あ~はいはい、その話はあとね」

 

 俺の抗議は遮られ、相楽のその一言で皆が守備位置に散っていく。

 

 最後は色々あったが、とにかく守りだ。

 この回を凌いで、反撃しないといけない。

 

 守備位置を大胆に変え、少し考えたような顔をする先輩。

 

 カウントはワンストライク。

 再開後の最初のボールは、外角のストレート。ボールの判定。

 

 近江先輩は、佐倉さんの動きを見て、また少し考えるような顔を見せる。

 

 次のボールは、アウトコースのシンカー。

 振りかけたバットが止まり、これでワンストライクツーボール。

 次に投げたのは同じようなボール。

 これを打ちにいった近江先輩。打球は一塁線を切れてファール。

 

「(無理に引っ張りにいってる?確かに、流して外野に飛ばすのは難しいけど...)」

 

 次はアウトローのストレート。

 良いところに投げたように見えたが、コースが分かっているように振る先輩。

 しかし、後ろの方に飛ぶファール。

 

 再び考え始めた近江先輩。

 そろそろ、無理に打ちにいくのをやめるつもりだろうか。

 

 正直、打席に立ってる人の心理なんて全然分からないけど。

 

「(どちらにせよ、踏み込まれて打たれたらきついぞ。

 てか今さら気付いたけど...

 

 

 佐倉さんって内野守備やったことなさそうだし、普通に流し打ちされたらやばいんじゃ?)」

 

 

 

 運命の六球目。

 

 俺は、ミットを構える茂野に違和感を覚えた。

 なぜなら、茂野は――

 

 

 綾部先輩が振りかぶり、投げる。

 

 外角を狙ったのか、踏み込むようにして打とうとする近江先輩。

 

 そして、ボールは。

 

 

 

 インコースに構えた茂野のミットにビシッと決まった。

 

 のけ反り、驚いたようにキャッチャーを見るのは近江先輩。

 そんな先輩に、どうだと言わんばかりの顔をするのは綾部先輩。

 

 見逃し三振。

 これでスリーアウトチェンジ。

 

 無事、無失点でこの回を乗り越えることができた。

 

「おい、茂野。あの配球、最初から決めてたのか?」

 

 戻るや否や俺は、真意を問いただした。

 

「まあ、一応な」

 

「…はあ、なるほど?」

 

「それより、最終回だぞ?牧篠が出てくれないと、勝つの正直きついんだけど」

 

 …おお、なかなか辛辣。

 

「OK。まあ確かにその通りだし、頑張ってくるわ」

 

「頼むよ~リードオフマン」

 

「私を差し置いて1番打ってるんだし、しっかりね」

 

 …皆さんプレッシャーかけすぎじゃありません?

 そして口数の少ない沢さんがなんだか女神に見えてきたぞ...。

 

 ちなみにここで一応言っておくと、佐倉さんは一塁コーチズボックスにいる。

 俺たちは三塁側のベンチにいるため、三塁コーチャーは人数の問題上省き、一塁コーチャーだけは置いたという形になっている。

 

 

 さて。

 とにかく、だ。

 

 最終回となるこの回の攻撃、なんとかして先頭打者の俺が出なければ。

 

 …となるとやはり、アレだろうか。

 

 

 そんなことを考えながら打席に立つ。

 初球を投げようとケン先輩が振りかぶるのに合わせて――

 

 

 

 俺はバントの構えをし、ボールに合わせて膝を動かしつつ、すぐ一塁へ走り出せるよう備えた。

 




なんと...今話で進んだのワンナウト分だけ!?(笑)

大吾が頑張ってるところは、これからもじゃんじゃん出していきたいです。
でもそれに、こっちの主人公が負けないようにせねば...善処します。

それでは短めに、今回はこのあたりで失礼します。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第二十二話

こんにちは。

一昨日はプロ野球ドラフト会議の日でしたね。
今年は個人的に、高校生の入団先が結構気になっていましたが...「ほ~」という結果になりました(意味不明)
来年への期待も高まっておりますが、その前に日本シリーズ。はてさて鯉と鷹、どちらが勝つのか。楽しみです!

ではでは前書きはこの辺で、本編へ。
歓迎試合、三回表1番牧篠のシーンからでございます。
どうぞ、よろしくです。


決着.そして始動

 

 瞬間。

 

 左側から、強い気配を感じる。

 

 慌ててバットを引いた。

 ボールは低めに決まってストライク。

 

 いや、今はちょっとそれは良い。

 

 

 

 …どうして綜先輩は、サードから猛チャージをかけてきたんだ?

 もしかして、先輩は俺がセーフティバントをしてくると読んだのか?

 

 このチャージは、明らかに最初からしてくると分かっていないとできないものだ。

 

 困っていると、ふと綜先輩と目が合う。

 

『お見通しだよ』

 

 そう言われた気がした。

 

 

 俺は...この後どうする?

 

 このままバントで無理矢理押し切るか?

 確かに、相手の守備隊形的には一塁線方向に決めれば問題はないはずだ。

 

 しかし、先程バントの構えを見せてしまったことで、確実に警戒されてしまう。

 

 セーフティバントは、そもそもアウトになる確率もある。

 そんな中、上手いバントを初見でやるからこそ、出塁できる。

 だが、ある程度相手の頭に入ってしまえば、それはただのアウトの献上に成り下がる。

 

 セーフティをやるなら、相手が警戒を解くタイミングが最適で、それが初球。

 綜先輩のあのチャージでやめてしまった時点で、もう一度試みるのはかなりきついのだ。

 

 

 じゃあ、打ちにいくか?

 

 しかしこれも、簡単な話ではない。

 

 ケン先輩のボールは、今までやっていた少年野球とは格が違う。

 そんな簡単には打てるはずがない。

 だからこそ俺は、セーフティをすることを考えたわけだし...。

 

 

 こんな感じで色々悩んでいる間に。

 二球目にアウトローのストレートを投げ込まれ、ツーストライク、追い込まれた。

 

「(…とにかく一旦、バントはやめだ。スローカーブをここまで、投げられてない。

 追い込まれてるし、そのボールが来たらもう一回考えよう。

 見慣れてない軌道のボールをツーストライクでバントするとか、絶対無理だし)」

 

 果たして。

 次に投じられたのは、インハイへのストレート。

 一瞬出しかけたバットを止め、見送る。ボールだ。

 そこから、アウトコースに二球ストレートが続けられ、どちらもカット。

 次は高めの釣り球気味のストレートで、反応はしたが見送ってボール。

 

「(来ないな...)」

 

 更にそこから、アウトコース、インコース、アウトコースとストレートが続く。

 全てファールになったが、最後のボールは結構捉えられた感じがあった。

 

「(…カーブが来ない。意識させておいて、このままずっと投げないのか?

 いや、この調子なら次のストレートは捉えられる...気がする。

 先輩もそれは分かっているだろう。恐らく、俺がスローカーブを意識し続けていることも。)」

 

 そこで初めて、マウンドのケン先輩がサイン交換で首を振った。

 少し時間がかかったのち、サインが決まる。

 

「(何かが、来る...!)」

 

 先輩が振りかぶり、投げる。

 

 一度見たスローカーブのような軌道ではない。

 軌道は、ストレートと同じ...じゃない?!

 

 先輩の投げたそれは、ストレートと同じように見えて、違っていて。

 ベース付近で力強く縦に落ちる。

 

 なんとかバットに当てたが、サード正面ボテボテのゴロ。

 懸命に走るも、サードゴロで凡退という結果に終わってしまった。

 

 

 その後。

 新たな変化球”ドロップカーブ”も見せつけられた新入生チーム。

 2番の相楽はピッチャーゴロ、3番の沢さんは内野フライに倒れてしまった。

 

 

 更に。

 三回の裏、先頭の綜先輩が低めのシンカーを捉えてツーベースヒットを打つと、続く打者の徳地先輩が外角球を上手く打って綜先輩が生還する。

 

 そして、俺たち新入生チームの負けで試合終了となった。

 

 

*  *  *  *

 

「皆、お疲れ様!」

 

 試合後、綜先輩が話す。

 

「いや~俺は、こんなに有望な後輩がたくさん入ってきてくれたことがすごく嬉しいよ」

 

 有望?完封負けしちゃったのに、か?

 

「なあ、ケン?」

 

「…バレてたか。まさか、ドロップカーブまで使うことになるとは思ってなかったよ。

 あそこでスローカーブを投げて、正直抑えられたかどうか...。

 先制点取られたら負けそうだなって感じたから、もう使うしかないって思ってな」

 

 綜先輩に振られ、笑いながら俺たちにそう言うケン先輩。

 

 俺たちはそれでも、負けたという現実に悔しさが止められない。

 

 

「…あれ?もう歓迎試合終わった感じですかね、コレ?」

 

「いや、怜伊。お前が来るのが遅いんだよ」

 

「そっか~、オレも新入生の実力見たかったのに...っておいおい、女の子めっちゃいるやん!」

 

 怜伊、と呼ばれた先輩は、新入生の半分以上が女子である事に気付き、少し目を光らせると、

「オレの名前は、渡 怜伊(わたり れい)ね。これからよろしく~」

 

 …チャラい系、という人だろうか。

 先輩だからそんなこと絶対言えないけど。

 

「渡先輩は、」

 

「レイ、って呼んでくれていいよ~」

 

 茂野が話しかけるとそう言う先輩。軽い。これは確実に軽い。

 

「…レイ先輩は、どこを守ってらっしゃるんですか?」

 

「う~ん、この世の全ての女のkッ!」

 

「…レイ、新入生に引かれたくなかったら真面目に答えなさいよ」

 

「椿!俺途中までしか言えてない」

 

「アンタの言おうとしてることくらい分かるわよ」

 

「えっ、何それ...もしかして告は、って痛ッ!」

 

 綾部先輩...やっぱり一人だけ女子で野球部にいるからか何だか強いな。

 

「ごめんね、めんどくさいやつでさ。ちなみにこんなだけど2番ライトのレギュラーなのよ...」

 

「おい、なんだよその言い方!オレが使えないヤツみたいじゃねえか!」

 

「違うの?じゃあ、春休みの課題を出さずに居残りさせられたのは誰だったかしら?」

 

「新入部員の前でそれ言っちゃう?ねえ、言っちゃっていいの?」

 

 ああ、いなかったのはそういうことなのか。理解。

 

 …いや『理解。』じゃないだろ俺!先輩は敬うのが筋なんだから!

 

 う~ん、でもなんか、無理な気がする...すみません、レイ先輩!

 心の中で先輩に謝った後、俺は気になっていたことを尋ねることにする。

 

「あの、今ここにいる先輩方って皆さん三年生ですよね?」

 

「そうだが?

 …ああ、二年のことか、気になってるのは。」

 

「はい、知っておきたくて」

 

「どう思うかは分からんが...二年は一人だけだ」

 

「一人...」

 

「ああ、丹波 広夢(たんば ひろむ)と言う。

 だが何せ、生徒会に入っているからな...あまり部活動には出てこられない可能性がある」

 

 なるほど、生徒会か...。

 

「まあ何はともあれ、明日からは本格的に部としての練習が始まっていくことになる。

 新入生の皆、これからよろしくな!…では今日は、これで解散!お疲れさま!」

 

「「お疲れ様でした!!」」

 

 綜先輩が締めて、他の皆が声を合わせて答える。

 

 明日からの期待が高まる、すごく有意義な一日だったように思う。

 

 そしてこれで俺は、ようやく念願の風林中学校野球部に入部できた。

 明日からは一部員として、少しでも早く中学野球という舞台に慣れられるように頑張っていくだけだ。

 




ということで歓迎試合、最後はすんなりと片付けることにはなりましたが...これにて終了。ゲームセットです。

次話は、とりあえずオリキャラの先輩たちについて詳しめに紹介していきたいなと。
実は一人、鹿瀬出身者以外で一度以前に名前の出ているキャラがいるのですが、皆様はお気づきになられたでしょうか...?
まあ詳しくは、次回へのお楽しみという事にしておきますが(笑)

では今回は、このあたりで失礼します。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

※11月10日19:00、この話のサブタイトル(?)を変更しました。
 ただただ、修正ラッシュしてる中でちょっと気になった...て感じなので、特に深い意味はないですが、一応報告。
 (旧:この先への()()()→→ 現:決着.そして始動)


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第二十三話

ども、こんにちは。
11月に入り毎日気温も下がってきました...いかがお過ごしでしょうか。
ここで言う事でもないですけど、実は昨日から明日までの三日間、自分の地元でお祭り的なのが開催されてます。常時引きこも人間な自分ですが、何故か外出したくなるような気分になるんですよね...これは果たしてどういう心理なのでしょうか。

まあ、そんなのはどうでもいいですね(笑)
…てことで本編へ。
今話は、先輩についてもう少し知っていこう的な感じになってます。
ではでは、よろしくどうぞ。


風中野球部①

 

「よし、内野守備練習やるぞ。外野陣はランナー役で、ノックは俺が打つ」

 

「「はいっ!!」」

 

 放課後。いつもの時間。

 俺はもちろん、グラウンドに来ていた。

 今日は15人の部員が皆揃っており、綜先輩の指示に、指定された各々の位置に散っていく。

 

 

 

 

 …サード、多くないか?

 

 今ここにいるのはなんと4人。

 俺、綾部先輩、丹波先輩、そして1年の、関鳥 星蘭(かんどり せいら)

 

 関鳥さんは、野球部員の少なさを感じた佐倉さんが、クラスメイトということもあって半ば強引に勧誘した、新入部員。

 

 体型はかなり太っている感じで、運動も苦手。

 だが、左打ちながら左投手用のバッセンのケージで何故か打てるという特性を持っている。

 野球初心者なのでファーストかとも思ったのだが。

 野球の動作(動いて捕って投げて)に慣れてもらうという意味でも違うポジションをさせておくのが良いということ。

 もともと肩がある方だったということ。

 その結果、外国人助っ人のポジションでおなじみ(?)のサードをしてもらうことに。

 

 ちなみにそれから、俺は外野守備の練習もすることになった。

 これが果たして、良いのか悪いのか...まあ、プラスに捉えてはいるけれど。

 

 とはいえ、俺はあくまで三塁手。

 だからこそ今回はここに来たわけだが...。

 

「牧篠、すまんがランナー役やってくれないか?」

 

 …まあ、そうなるよね。

 

「分かりました!今行きます」

 

「あと関鳥、今日は前半ファーストに入ってくれ。後半でまた変わってもらう、よろしく頼む」

 

「あ、はい!」

 

 

 先輩の指示も終わり、内野守備練習開始だ。

 

 ランナー役は、先輩のノックに合わせて一塁に走る。

 出塁したらそのままランナーとして残り、アウトだったら戻ってくる。

 今回のランナー役は5人。俺、近江先輩、レイ先輩、佐倉さん、茂野。

 正直少なくてきつくはなるが、これもまた練習だ、頑張ろう。

 

 1番走者の走り出しに合わせて綜先輩が最初に打つのは、一、二塁間。

 二塁手寄りの打球を見て、関鳥はファーストベースに。

 近江先輩の足も速く、セーフになるかとも思われたが。

 

 セカンドを守っているのは坂口先輩。

 打球を回り込んで捕ると、素早く丁寧な送球を一塁へ放る。一塁アウト。

 

 坂口先輩は、今回も見せたように守備が上手い。

 9番バッターで、打撃力こそ若干弱いものの、それを補えるだけの守備力があり、更に足も速い。

 少年野球は、西山チーターズに入ってやっていたらしい。

 先輩のプレーを見ていると、流石、俊足チームと名高いチーム出身だなと思う。

 

 次に綜先輩が打つのは、サードへの強い当たり。

 今そこを守っているのは、歓迎試合でもお世話になった、綾部先輩。

 強い当たりを、身体正面で華麗に捕ると、流れるような動きで一塁送球。

 

 綾部先輩は、言ってみればなんでも器用にこなすタイプ。

 打撃も上手いし、守備も出来る。チームの二番手ピッチャーとしての実力も高い。

 強いて言うなら走力は、男子と女子の差もあってどちらかと言えばない方だけど...。

 そんな先輩の出身は南城ラビッツ。

 あの、女子が多いチームで最も強かった世代のエースが綾部先輩だったのだと、最近知った。

 

 3番走者は俺。

 どんな打球を飛ばされるかと思っていたが、綜先輩の選択はバント。

 懸命に走っているうちに、左後ろから一塁へ送球されるのが分かった。アウトだ。

 ベースを駆け抜けた後で振り返って見る。

 どうやら、キャッチャーに入っていた徳地先輩が投げたようだ。

 

 徳地先輩は、試合で対戦した記憶がはっきりと残っている。

 あれは俺が四年の時、北畠シャークとの試合だった。

 先輩は、あの頃からの武器だった長打力が一番の持ち味。それに加えて強肩。

 ちなみにこの部のキャプテンは綜先輩だが、副キャプテンが徳地先輩だ。

 

 4番走者は大吾で、綜先輩はピッチャーのケン先輩の右側に強めに打つ。

 打球は先輩のグラブを弾くと、転々とグランドに転がる。

 

 そこに反応するのは、ショートの市松先輩。

 素早い動きで手で捕ると、そのままスロー。大吾は惜しくもアウトに。

 

 続けて5番走者の佐倉さん。打球は三遊間に飛ぶ。

 サード綾部先輩の左を抜けたそこには、またまた市松先輩。

 今度は回り込み、がっちりと捕球。そこから体勢を崩すことなく一塁への正確なスローイング。

 

 二連続で良いプレイを見せた市松先輩。

 言うまでもなく守備の要であり、それでいて打撃力も高い。

 また驚いたことに、あの縄森ファルコンズに所属していたとのこと。

 あの、全国大会へ行った時の最大の壁となったファルコンズ出身とは。

 なんだかとても、心強い気持ちだ。

 

 その後も、ランナー付きのノックは続けられた。

 俺たち一年がきつさにへばる中、先輩二人は変わらぬ表情で走り続けている。

 

 1番走者の近江先輩は、セカンドの坂口先輩と同じく西山チーターズ出身。

 やはりとても足が速く、また走塁が上手い。

 センターを守っていて守備範囲も広く、頼れる先輩だ。

 リードオフマンで、チームの元気柱。先輩がいると雰囲気が明るくなる。

 

 そして、2番走者のレイ先輩。

 積極的な守備、積極的な打撃、積極的な走塁。

 要するに、とてもアグレッシブなプレーを見せる先輩は、なんと肩がチームで一番強い。

 少年野球の出身は、吾妻パワフルズ。ちなみにキャプテンをやっていたそうだ。

 

 ここまで挙げた6人に、エースのケン先輩、キャプテンの綜先輩が三年生。

 個性的だが、とても頼れる先輩たちばかりで、これからのことにも期待と希望が膨らむ。

 

 

 そんなことに思いを馳せながら、ノックに合わせて走ること十数分。

 

「よし、ひとまず前半終わろうか、一旦休憩!」

 

「「はい!」」

 

 先輩がそう言うと、どっと疲労感が押し寄せる。

 やっぱり、5人だとテンポが速くてキッツいな...仕方ないけど。

 

 汗をタオルで拭いて休んでいると、綜先輩が俺のもとに来た。

 

「牧篠、次はサード守備に入ってもらうからよろしくな。

 関鳥と一緒だから、気になったところあったら教えてやってくれ、三塁手の先輩としてな」

 

「了解です」

 

 そっか、とりあえず次はサード、と。

 関鳥と一緒ってことだし、ヘタクソなプレーは見せられないな。

 

 そんなこんなで休憩時間も終わり、ランナー役は俺と茂野が抜けて丹波先輩と徳地先輩に。

 

「(てか佐倉さん、このままだとめっちゃスタミナつきそうだな...)」

 

 外野手ということでずっと、走る組にいる佐倉さん。

 大変だと思うが、足は速いし、スタミナも既に結構ある様子だ。

 

 

 気を切り替えてふと内野陣を見ると、ショートは相楽でセカンドが沢さん。

 ファーストはケン先輩でマウンドには綾部先輩だが、キャッチャーは茂野。

 

「(そういえば一年生チームなのか...よし、いっちょ頑張るか!)」

 

 走りつかれた分を吹き飛ばすように、自分に気合を。

 そして、内野守備練習、後半が始まる。

 




日常練習パート難しい...。
部員人数が少ないだけにどんな練習をさせるのがいいかとか…うむ、頑張ります。

関鳥についてですが、この小説の設定考え始めた時に、一番ベンチに送りやすそうなのが彼女だなんてことは、決して思ってないです。すみません嘘です。
…まさか中途半端に左キラー設定持ってくるなんて思わないじゃないですか。
パワーバランス調整の雑魚キャラとばっかり...(この作者ひどすぎる)

なんか変なこと言い始めてヤバくなってきたので、今回はこのあたりで失礼します。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第二十四話

こんにちは!
現在時刻17:27。急いで前書きを書いております(笑)

前回の続きになってます。
ということで早速、よろしくどうぞ。


風中野球部②

 

 練習が再開する。

 綜先輩がノックを打ち始め、内野手は構え、ランナー役も準備をする。

 

 最初に打球が飛ぶのは、ショート正面。

 ライナー性の当たりだが、手前でバウンドしたそれを、ショートの相楽は難なく処理。

 そのまま慌てることなく一塁へ送球し、アウトとした。

 

 相楽は、なんだかんだ言ってもやっぱり上手い。

 有名なチーム出身だし先輩たちの期待も大きかっただろうが、見事それに応える技術があった。

 パワーこそ物足りないが、バットコントロールは悪くないし足だってある。

 

 ちなみに、お調子者的な雰囲気を醸し出してると初めて会った時には思ったが、意外とクールで落ち着いていることの方が多いのは正直驚きだ。

 

 次の打球は、サード前のゴロ。

 思いっきり前進しながら捕り、なるべく早く送球。アウトになる。

 

 次はセカンド寄りの二遊間への打球。

 これを捕ったのは沢さん。

 逆シングルで捕球後、少し遠い一塁へノーバウンドで的確に送球。アウトだ。

 

 相楽と同チーム出身の沢さん。もちろん同様に、上手い。

 女子ながらパワーのあるバッティングが持ち味で、また守備も十二分に出来る。

 

 なんだかミステリアスな雰囲気を醸し出す沢さんは、口数少なめで相楽よりも飄々としている。

 それでいて淡々と色んなことをこなしていて、俺は侮れない底深さを何となく感じる。

 

 

 その後もノックは続く。

 

 途中、後ろにいた関鳥と交代し、先輩に言われたように様子を見る。

 

 関鳥は、以前にも言ったが野球初心者。

 ただ、肩は元々ある感じで、サードの位置からの送球は難なくこなす。

 

 あとこれは本人には言えないけど、身体がデカいからか、打球を止めることができるのは大きい。

 サードは比較的右打者の引っ張る速い打球がよく飛んでくるポジション。

 それを抜かさずに身体で止め、なかなかにある肩で送球すれば、関鳥だって十分三塁手だ。

 だが、サード前ボテボテのゴロなどは未だ動きがおぼつかないところがあり、練習が必要だろう。

 

 それと関鳥は、何故かファーストだとぎこちないように見える。

 まあ、これは関鳥自身にしか分からない問題だし、俺にもはっきりとは言えないけど。

 

 

 その後。

 内野間での、併殺や挟殺の連係プレーについてももちろん確認する。

 一年生中心の内野陣に、ファーストのケン先輩とピッチャーの綾部先輩が加わっての連携。

 俺たち後輩のふとしたミスも、上手くリカバーしてくれる先輩たち。流石に上手い。

 

 

 そんなこんなでノックの時間も過ぎていく。

 

 内野ノックの後は、また休憩をはさんでから外野ノックへ移る。

 俺ももちろん守備に就いた。

 内野ノックの後に外野ノックを受けるのは正直変な感じだ。

 でもまあ、それは自分が外野守備に慣れてないのもあるのだろう。

 

 俺は、上手な先輩たちの動きを見ながら勉強しつつ。

 

 

 そして、18:30といういつもの時刻。野球部の練習は終わるのだった。

 

 

「皆、お疲れ様。あとは素振りのノルマ各個人で振るだけだから、よろしくな」

 

「「はい!!」」

 

 今日の練習メニューは全部消化したようで、綜先輩が皆を集めてそう言った。

 

 ちなみに素振りノルマは、帰宅後やっても良い事になっているから、実質これで練習は終わりだ。

 家が遠かったり、バスの都合があったりする人は、このタイミングで帰宅する。

 

 最近は、部活動の規制とかで、活動時間もだんだんと減ってきている。

 その対策...とまではいかないかもしれないが、うちの野球部はこんな形をとっている。

 できるだけ夜遅い時間までやらないように、という方針だ。

 

 お先に失礼します、と何人かが帰っていく。

 俺は、お疲れ様ですと言いながら、練習でのことを少し振り返る。

 

 何となく考えるのは、来年からのことについて。

 

 サードとファーストを関鳥と丹波先輩が守るとすれば、俺は必然的に外野へ回ることになる。

 …というか、二人は外野練習をやってないから俺しか今のところ外野は出来ないわけだし。

 でも、まだ全然経験も少ないし感覚分からないんだよなあ...。

 

 

 てか、ピッチャー練習やりたいなあ、なんて。

 

 

 

「何、また考え事してんの、ミチル」

 

「わっ、ビックリした...相楽、まだ残ってたんだな」

 

 突然かけられた声に驚くと、そこには見慣れたチームメイトの姿が。

 

「そりゃあね、家でバット振るのなんかイヤだし」

 

 …ああ、それすげえ相楽っぽい。

 

「それで、何考えてたのよ?真剣な表情してさ」

 

「…別に、何でもねえよ」

 

 直前の『ピッチャー練習やりたいなあ』を思い出し、何となく恥ずかしくなったのでとりあえず誤魔化す。

 

「ふ~ん。ま、どーでもいいけどね」

 

「なんだよそれ。てか相楽、今更だけどまた俺のことミチルって呼んで」

 

「聞こえない聞こえな~い」

 

 ミチル呼びを指摘すると耳をふさぎそんなことを言う相楽。

 中途半端に可愛いから、余計に困る。

 

 そして以前よりも、名前呼びされることにもはや慣れてきているような気もする。

 …恐ろしいものだ、全く。

 

 

「そんじゃ、また。ミチルも早めに帰んなよ~」

 

 そう言い、手を振って背中を向ける相楽。

 お疲れさん、と俺が言うと、歩きながら右手を上げる。

 

 でも言われてみれば確かに、俺もそろそろ帰らないと。

 いつまでも学校にいるわけにはいかないしな。

 

 

*  *  *  *

 

 帰宅後、家でのんびりしていると電話が鳴る。

 俺しかいないので電話を取ると、そこからはとても懐かしい声が。

 

 

 

「…それで?どうしたんだよ、急に電話なんて」

 

 ひとしきり話した後で俺が尋ねると、電話先の相手は何やら意味ありげに溜めた後。

 少し予想外なことを口にした。

 

「…マジなのか!?それで...それはいつ?」

 

 驚きつつ、予定を聞く。

 

「…は?明後日!?おい、それならもう少し早く言ってくれよ...」

 

 予想以上に近い出来事であることに面食らったが、まあ暇だしいいか。

 

「いいぞ、見に行くよ。

 …おう。じゃ、また明後日な」

 

 相手との約束を取り付け、電話を切る。

 

 明後日の土曜、か...。

 ()()()に会うのもかなり久しぶりな気がして、俺は期待に胸を膨らませるのであった。

 




後書きもスピーディに。

次話への微妙な繋ぎ。果たしてどんな展開になるのでしょうか。
楽しみにしていただければな、と思います。

では、今回は短めにこのあたりで。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

※11月10日17:45、色々と粗が目立っていたのでその辺りを修正致しました。
 何でも、ギリギリでやろうとすると駄目だなあ、と。一分間反省。
 …それでは、また。


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第二十五話

約半月ぶりのこんにちは!でございます。

一週間あけたのは事故だったんですが、結果的にはなんか逆に上手い感じになった(後書きで説明します)ので結果オーライと思ってます。笑(自己解決)
毎週楽しみにして下さる有難い読者様方には、予告なしで休んだことをお詫びするとともに、感謝に尽きません。誠にありがとうございます!!
これからも温かい目で見守っていただければありがたい限りです。
(ちなみに...休みます報告は一応、Twitterの方ではしました...@wakiwaki_2069という垢です。よろしければなんなりと)

それではそろそろ本編へ参りましょう。
主人公に、誰かからの何やらのお誘いの電話がかかってきたところからです。よろしくどうぞ。


懐かしの面々

 

 土曜、昼過ぎ。

 約束した場所に、俺は立っていた。

 

 

 そして――。

 

「よう、牧篠。もう来てたか、早いな」

 

 俺の方に歩いてきながら声をかけてくるのが一人。

 

「おう、つうか俺が早いんじゃなくてお前が遅いんだろ...」

 

 そう返しながら目を合わせる。

 目の前には、野球のユニフォームを着た親友が。

 

「勝一」

 

 

*  *  *  *

 

「それじゃ。俺はチームの方にそろそろ行かなきゃだから」

 

 電話では伝えられていなかった分を補足説明する勝一。

 一通り話し終えたということなのか、席から立ちあがる。

 

「おう、頑張れよ試合」

 

「まあ、出られたらな」

 

 俺の呼びかけに、軽く肩を竦め返答しながら去っていった。

 

 勝一のいなくなったその場で、俺は前の方に目をやる。

 そこでは今も、シニアチーム同士の練習試合が繰り広げられていた。

 

 

 

 そもそも今日、なぜ勝一に呼ばれてわざわざ来たのか。

 中学校へ進んだ後、鹿瀬の大半の面々と一緒のシニアに入った勝一。

 

 一昨日、俺に電話をかけてきた張本人であるのだが。

 その初陣となる、練習試合が近くあるから見に来ないか?というのが始まりだった。

 勿論昔のチームメイトに会いたかったというのもあるが、何よりも決め手になったのは、その練習試合の相手が”横浜シニア”だと聞いてのことだ。

 

 横浜シニアと言えば、地方でも屈指の強さを誇るチーム。

 そこと試合をやるというのだ。見ておいて損はないし退屈しないはず。

 

 だが、これはあくまで建前に近い。

 

 横浜シニアには、一つのウワサがあった。

 それは、眉村姉弟が加わった、というもの。

 

 俺は、シニアで戦っている道塁ちゃんの姿が気になった。

 なんだかんだ言って、やっぱりまだ好きなんだな...と、思う。

 

 それはまあいい。

 

 とにかく、その話を勝一から聞き、勝一が俺の真の気持ちに気付いているかどうかは置いといて、俺はその場で了承の返事をし、それで今日、この場に来た...という訳だ。

 

 

 今試合をしているのは、その横浜シニアと、俊足軍団で有名な西山シニア。

 西山シニアは、あの西山チーターズの、言ってみれば上のチーム。

 西山チーターズを卒した選手の多くは西山シニアに進む。

 まあ風中野球部には、例外的に軟式に進んできた先輩が二人もいるわけだけど。

 

 試合展開としては現在、1-0で横浜シニアがリードしている。

 

 …が、四回表。

 この回先頭の2番ファースト富士見が粘って四球を選び、盗塁を決めて進塁打から一死三塁のチャンス。

 打席には、4番センターの兼橋。

 少年野球の頃から規格外なプレイを見せていて、俺にも試合をした記憶が刻まれているその人。

 右中間を破る打球を放ち同点タイムリー。更に自身は快足を飛ばして三塁まで。

 続く打者がスクイズを決め、西山シニアは逆転に成功する。

 

 その後も、どちらが勝つか分からない展開に。

 最後は、横浜シニアのクリーンナップが六回裏に三連打で突き放し、試合は6-3で終わった。

 

 

 

 続いて始まるのが横浜シニアと、勝一のいる嵐海(らんかい)シニアとの試合。

 一回表、嵐海シニア先発のマウンドに上がったのは予想外なことに、勝一だった。

 また他のスタメンの中にも、懐かしい同級生たちが多く入っていた。

 

 そしてそれは、横浜シニアも。

 道塁ちゃんはファーストとして先発出場。

 それだけでなく、その双子の弟である渉は先発投手だったし、その他にも知った顔が少し。

 知った顔...というのは、東斗ボーイズのメンバーが何人か、横浜シニアにそのまま入ったからだろう。

 

 ちなみに後で聞いたのだが、両チームの監督の取り決めによって、一年生メインのメンバーで試合をすることになっていたそうだ。

 

 そうとも知らず興奮冷めやらぬ中、俺は試合を見つめることに。

 

 試合は、勝一と渉、両投手の意地がぶつかり合う投手戦になった。

 先にチャンスを作ったのは横浜シニア。

 三回表ツーアウトから9番打者が四球をもぎ取り、この試合通じて初となる出塁。

 1番の打席で、カウント1-1からエンドランがキレイに決まり、ライト前ヒットで一、三塁。

 ここでバッターは2番の道塁ちゃん。

 …が、ここは勝一が力強いストレートで内野フライに打ち取る。

 

 嵐海シニアの反撃は四回裏。

 この回先頭の1番センター柳沢が、初球インコースのストレートを豪快にライト前ヒット。

 その後2番ショート間宮の送りバント、3番ファースト内樺はファーストゴロでツーアウト三塁。

 このチャンスに、4番レフト筒本が左中間を破るツーベースヒットを放ち、先取点を挙げる。

 更に5番ライト糸魚川がセンター前ヒットで続くと、相手のエラーも絡んで二点目。

 

 しかし、横浜シニアも流石強豪。

 直後の五回表、ワンナウトから死球とヒット、加えてエラーに付け込み一点を返す。

 

 ランナーが出つつも点の入らないイニングがその後は続き、迎えた最終回。横浜シニアの攻撃。

 先頭の9番打者は勝一が三振に抑え、まずワンナウト。

 続いて1番が左打席へ。カウント2-2の七球目、打球は三遊間へ飛ぶ。

 間宮が追いつき強肩を活かして送球...が、足の方が一瞬早く、セーフ。

 ワンナウト一塁で、打席には道塁ちゃん。

 二球目の外のボールを逆らわずに打ち返し、レフト前ヒット。これで一、二塁。

 

 さっきから、勝一も限界が近付いているのか、全体的にボールが高い気がする。

 このままだと、逆転されてしまうことだってあり得る。

 迎えたピンチに対し、マウンドに集まっているかつてのチームメイトたち。

 散っていく直前、なんだか俺の方を見てきたような感じがしたが気のせいだろうか。

 

 試合は再開し、ワンナウト一、二塁で3番が右打席へ入る。

 初球、息を吹き返したようなボールがインローへ決まる。

 これならいけるかも、と思った直後の二球目。変化球が甘めに入るが、間一髪ファールボール。

 続くストレートは外れ、更にストレートはカットされる。

 そんな五球目、バッテリーの選択は、なんとカーブ。

 タイミングを外されボテボテのゴロになる。

 サード前に転がり、バッターランナーはアウトに。

 ただ、進塁打となってツーアウト二、三塁とピンチは続く。

 

 この場面で、4番ピッチャーの眉村渉が打席へ。

 嫌なバッターを嫌な場面で迎えることになってしまった。

 そして、その初球。

 快音を残すバット。打球はセカンドの頭を越えていく。

 サードランナーは勿論のこと、セカンドランナーもホームを狙う。

 

 

 …狙ったが。

 

 センターの柳沢から、矢のような送球。

 道塁ちゃんも足が決して遅いわけではなかったのだろうが、まさかまさかの本塁アウト。

 

 横浜シニアの反撃は一点止まりで、試合は2-2の同点となって最終回の裏、嵐海シニアの攻撃を残して進んでいくのだった。

 

 

*  *  *  *

 

「いや~惜しかった。な?」

 

「そうだな勝一。横浜シニア、一年生相手とは言えあそこまで良い試合になるとは」

 

「どうだったよ?見てて」

 

「正直ヒヤヒヤしてた。特に最終回」

 

「あーマジで勇気の強肩には助けられてんだよ毎回毎回」

 

「だろうな、1番としても良いし、やっぱ柳沢は相変わらずだったわ」

 

「…他の皆も、変わってないさ。ずっとあの頃のまんまだ」

 

「…そっか」

 

 試合後、勝一とまた話す。

 あの後展開としては、嵐海シニアの6番キャッチャー森戸がワンナウトから長打を打ってチャンスを作ったが、後続はしっかりと抑えられ、結果2-2の引き分けで試合は終わる形となった。

 

 ちなみに試合直後、他の鹿瀬時代のチームメイトとも少し話せた。

 懐かしい顔ばかりで、ちょっと昔に戻りたくもなったけど。

 

 

「…それで?そっちの調子はどうなんだよ?」

 

「ん~ぼちぼち...かな?」

 

「同級生とか、どんなのがいるんだ?」

 

「そうだな...まず、女子が多くて、そんで...」

 

「いや、ちょっと待て。女子が多いって...どれくらい?」

 

「一年生6人のうち4人は女子」

 

「マジか」

 

「マジだ」

 

「…やりづらくない?」

 

「そうでもないぞ。

 一人の初心者を除けば実力は俺とも変わんないし、むしろ負けないように頑張ってる」

 

「そういうものなのか」

 

「そういうもんだな」

 

「他には?」

 

「あと、茂野吾郎選手の息子さんが一人」

 

「おお。てことは男子はその二人だけか...上手い?」

 

「キャッチャーだから俺には分かんない」

 

「あ、逃げた」

 

「そもそも、俺が言えた立場ではないと思うんだけど...。

 …まあ、今の実力だけで言ったら横浜リトル出身の女子二人と並んでるくらいかな」

 

()()実力、ってか」

 

「まあな、成長期ですし」

 

「お前は何で一人だけ熟した感じ出してんだ」

 

「それは勝一がそういう流れにしたからだろ」

 

「いや...そんなつもりはなかったが」

 

 久々に会うと、会話が止まらないなんて言うのはよくある話で。

 他の人が聞いたらどうでもいいと思うであろう、そんな会話を俺たちはその後も、楽しく続けたのであった。

 

 

 




本作品で初めて、本文の文字数が3000を超えました。(これまでが少なすぎる定期)

今週水曜(11/21)に発売された単行本16巻を購読したことにより、今回の話を自信をもって送り出すことが出来たということで、ある意味奇跡だと思っています。先週の俺ナイス!(笑)
(…まあ、ある程度予想はしていたので元々こんな感じの話になる予定ではあったんですが)

また、11月も終わりということで、あらすじ文とタイトルについて色々と、少しではありますが変更しております。
今年ももう終わりと考えると時間の流れが早い、早すぎる...。

それでは。
後書きもこのあたりで締めさせていただき、今回はこのあたりで失礼します。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第二十六話

どうもこんにちは。
ストーブリーグの話題など、色々ありますがそれより何より、12月に入って非常に寒さが増したような気がします。
今月は数少ない五話更新の月ですし、しっかりと寒さの和らぐアツい話を書いていきたいところではあるのですが。
どういう感じになるのかは正に、神のみぞ知る、というわけでございまして。
ではでは本編へ参りましょう。
よろしくどうぞ!


初めての障壁

 

 5月上旬某日。

 俺たち風中野球部は、いつにも増して熱心に練習に取り組んでいた。

 その理由は...少し前にさかのぼる。

 

 

 

 

 

「いきなりだが、皆少し聞いてくれ」

 

 綜先輩のこんなセリフから始まった今日の練習。

 ウォーミングアップ前にこうやって先輩が話すのは、割と珍しいかもしれない。

 

「実は再来週の週末に、大会がある」

 

 皆の集合を確認してから、そう発言した先輩。

 …って、え?今なんて?

 

「黙っていたわけではないんだが、すっかり言うのを忘れていてな、すまん」

 

「ん?でも再来週なんじゃん?別に気にすることじゃなくねーか」

 

 頭を下げる先輩に対し、素直に疑問を呈するのはレイ先輩。

 

 確かに、()()()()そこまで気にすることではないかもしれない。

 ただ...。

 

「はぁ、相変わらずアンタの脳はお花畑みたいね」

 

 溜息をつきながらそう割って入ったのは、綾部先輩だ。

 

「なんだよ、頭お花畑って?」

 

「…来週の木曜から何が始まるか、アンタはどうせ覚えてもないんでしょ」

 

 そう。()()なんだよなあ...。

 

「は?来週、木曜から?なんじゃそりゃ」

 

「…ま、分かる人には分かるだろうし、アンタはもういいや。

 あとそこまでの二日間、練習頑張るぞってことでしょ?キャプテン」

 

「ああ、レイには少し、反省も兼ねて黙っておくことにするか。

 …ということで他のメンバー、分かってくれるとありがたい。では、今日も始めようか」

 

「はい!!」

 

「いやちょっと!なんでオレだけハブられてんの、ねえ?」

 

「はいはい、思い出したら言ってくれていいから。

 

 …まあアンタは、()()()()()()()()()()()だろうけどね(笑)」

 

「なんだよ、思い出したくもないこと、って。…ったく、メンドくせえな」

 

 相変わらず、レイ先輩は思い出せないみたいだ。

 …クラスのHRとかで、言われてないのだろうか?

 

「…あいつ、HRですらいつも寝てるからな」

 

「わ...って、近江先輩」

 

 まるで俺の心を読んでいるかのようにそう答えると、横を抜き去ってランニングの先頭へ。

 わざわざ疑問に答えてくれた(口にはしてないのに)先輩には感謝だ。

 …もしかして毎回、この時期になるとレイ先輩に苦しめられているのだろうか、とふと。

 だとしたらそれは、ご愁傷様ですとしか言いようがない。

 

 あと足、やっぱり速いなあ...。

 

 

「ミチルは、勉強できる感じなの?」

 

 突然そう聞いてきたのは相楽。

 

「ミチル言うな。

 ただまあそうだな...少なくとも相楽よりかは出来る自信はある」

 

「わ、何その返し。性格悪」

 

「いやいや、相楽さんの性格の悪さには負けてますって」

 

「そういうとこ直さないと、ミチル一生彼女とか出来なさそう」

 

「…ほっとけ」

 

 少し痛いところを突かれたような気がして、返しが弱くなってしまった。

 追撃があると嫌だな、と思っていたがそれ以上の口撃はなく、一安心?だ。

 

「大吾はどうなんだ?勉強」

 

「ん~、今回範囲になりそうなところは、一応大丈夫かな...。

 牧篠にいつか、頼るタイミングあるかも。その時はよろしく」

 

「別に良いが...お姉さんとかには教わらないのか?」

 

「姉ちゃんは絶対やだ。とりあえずバカにしてくるから」

 

 なるほど、色々あるんだな...。

 

「あと一つ。なんで俺に頼ろうと?他にもいるだろ」

 

「相楽はともかくとして、牧篠には余裕が見えたから、かな」

 

「余裕?」

 

「…姉ちゃんが言ってたんだよ。

 『”アレ”の前に周りの様子を窺うようにしてる奴は、絶対敵だから』って」

 

「プッ!…ミチル、アンタ敵だってさ」

 

 大吾の発言にいち早く反応した相楽。

 笑いながら俺を煽る。

 

「…敵」

 

 一方の俺は、自分を客観的に見つめなおして顔を青くする。

 

「いや、牧篠がそういう奴じゃないってのは分かってるからな?

 だからこそ、困ったときは頼ろうと思った、って話だから」

 

「おう...フォローサンキュな、大吾...。

 

 …敵、敵なのか...」

 

 大吾の姉さんが言ったというそのセリフにショックが止まらない俺。

 その後、一時思考が停止したのであった。

 

 

*  *  *  *

 

「あ。思い出した」

 

 突然そう言ったレイ先輩。

 時刻は、もうすぐ部活動も終わろうかという18時過ぎ。

 

 今は、内野手のバッティング練習...ロングティーの時間。

 外野を守る人たちはそこに散って、打球の飛来を待っているところだった。

 

「…ということで、綜!!助けてくれ!!」

 

 瞬間移動のように駆け寄ると、先輩の前で一礼した。

 

「いつものことだしそれは勿論いいけど...ケンじゃなくていいのか?

 俺より成績はアイツの方が上だぞ」

 

「健竜は...なんか怖いんだよ、ここだけの話」

 

「あ?誰が怖いって?」

 

 綜先輩に尋ねられたレイ先輩。

 正直に答えた彼の背後に立っていたのはケン先輩で、彼の言葉に少し怒り口調になる。

 

「ヒッ、そう、そういうとこだよ!」

 

「いや、考えてみろレイ。毎度毎度、この時期になる度にだぞ?

 自分の勉強ではなく人に教えることに時間を費やさないといけない事がどれだけ大変か。

 そんでもってお前は、真面目にやる気も出さないし、なあ?」

 

「でも...人に教えるのも勉強っていうじゃん?」

 

「それは相手がしっかりと聞いてくれる場合だけ!

 真面目に聴く気がない相手に勉強教えたところで、残るのは寂しさだけだろ?おい」

 

 …ケン先輩のああいう怒ったとこ、初めて見たな。

 少年野球で一緒だった時も、その冷静さを崩さない先輩だっただけに、あのような姿を見るのはとても新鮮な気分だった。

 

 レアすぎて、写真を撮っておきたいまである。

 

 

 

「…いや、何やってるんです綾部先輩」

 

「ん?」

 

 いつの間にか俺の横に立っていた一人の先輩。

 あろうことかケン先輩とレイ先輩に向かってスマホのカメラを向けている。

 何をやっているのかという俺の問いに、何とも言えない満面の笑みを浮かべて首を傾げた。

 

「いつもこんな感じなんですか?この時期は」

 

「ん~そうだね...今回が、今までで一番やばいかも。

 これまで、二週間前には普通は泣きついてきてたのよね。

 それが今回はもう、残り一週間って感じじゃない?

 ちょっと、期待してたのよね。今回ばかりは泣きつきがないんじゃないかって」

 

「その結果がこれだった、と」

 

「そういうこと。

 だからケンは、むしろ期待してた自分に怒ってたりするんじゃないかしら?」

 

 色々いきさつについて教えてくれる綾部先輩。

 期待してた自分に怒る、確かにケン先輩ならそういう感じのところはありそうだ。

 

 それにしても...。

 

「…カメラ、仕舞わないんですか」

 

「だって、面白いじゃん?」

 

「先輩、良い趣味してますね」

 

「そ、ありがと」

 

 俺の皮肉も、軽い相槌で片付けられた。

 ただまあ、今もなお怒っているケン先輩を見るのは新鮮だし、別にいいやと言う気もしてきた。

 

 

 だが、すっかり練習は止まってしまった。

 数少ない部活停止期間前の練習だから、今日はいつも以上にやろうという気持ちはどこへやら。

 

 果たしてこのままで、再来週の大会に仕上げを間に合わせることなどできるのだろうか。

 そんな気持ちを各々が抱えていたことだろう。

 

「クッソー!!!なんだって学校には、テストなんてものがあるんだよーー!?!?」

 

 そして学校のグラウンドに、一人の悲鳴が響いた。

 




「あ、テストのこと書いてんなこれ」
…と読者様方が気付かれたのはどのあたりのタイミングだったのでしょうかね?

と、いうことで。
原作では殆ど出てこなさそうなテストの話題、触れていくことに。
各キャラの頭脳については個人的解釈になりますが、その辺りはどうかご勘弁を。

それでは今回は短めに、このあたりで失礼します。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第二十七話

さてさてどうもです。
本格的な冬という事でもうこの時間帯には辺りも暗くなっているため、こちらでの挨拶を”こんにちは”から”こんばんは”に変更するべきか迷っております。
…と、言ってる間に早速、本編へと入っていきましょうか。

よろしくどうぞ、です!


縮まる距離間

 

 一学期中間テスト。

 それは中学生になって初めて訪れる、一つの大きな壁と言えるような存在。

 ここで、学年、ひいてはクラス内での周りからの評価もある程度定まることになる。

 すなわち、成績が上であれば頭が良い人、下であれば逆、という形で。

 

 そんな障壁を、俺の所属する風中野球部は一週間後の大会のことも頭に入れつつ迎えることになった。

 

 

 

 結論から言うと、風中野球部のメンバーはテストを無事に乗り切ることが出来た。

 残念ながら先輩が一人、詰め込み過多による脳ショート状態になってしまった以外は。

 

 

「10位台か、まあぼちぼちだろ」

 

 テスト日程終了後のある日。

 廊下に張り出されたのは、上位生徒の成績の張り紙。

 

 その14番目、452点の横に俺の名前はあった。

 平均が90点を越えたし一桁順位いけたかなとも思っていたのだが、予想以上に上位の壁は高いらしい。

 なんと1位を取った男子は497点である。逆にどこを間違えたのかを聞いてみたいまであるが、クラスも違うようなので遠慮することにした。

 

「おお、牧篠載ってるのか、すごいな」

 

 後ろから声がかかったので振り返ると、声から推測した通り大吾だった。

 

「ありがとな大吾。

 まあ、おそらく部の中では俺が一番勉強しただろうし、それに――」

 

「うわ、ミチルこんなトコ載ってんじゃん」

「あらホントね、こんなに上なの」

 

 続けて言おうとしたセリフは、割って入ってきた声にかき消された。

 

「…それに?」

 

 話を止めた俺に対し、大吾は続きを尋ねてくる。

 

 さすが、キャッチャーで周りを見る視野のおかげか色々分かってるみたいだ。

 ただ、一人の女子の気持ちには気付いていなさそうだけど。

 

 いやまあ、それは今はいいか。

 

 求められた続きの言葉を、あえて相楽と沢さんにも聞こえるように言ってやる。

 

「そうだな...こいつらを見返してやろう、っていうモチベはデカかったかも」

 

 するとそのセリフを聞いてか、二人は俺らのところへ。

 

「見返してやろう...てさあ、ミチル。そんなことの為にわざわざ勉強を?」

 

「そう。それだよ」

 

「は?」

 

「ミチル呼びの話。こんだけの順位を取ったんだ。もっと敬意を込めてだな...」

 

 少し調子に乗って要求をしてみる。

 さすがに聞き入れてくれないとは思ってるが...。

 

「そうね...じゃあ、私から代わりに一つ交換条件いいかしら?」

 

「ん?」

 

 予想外の沢さんの切り返しに、ちょっと戸惑う。

 どんな提案をされるかあまり想像できないだけに少し不安なのだが。

 

「私の呼び方は名字にさん付けで、太鳳のことは名字だけじゃない?」

 

「確かにそうだけど...?」

 

「統一してくれないかな、って。

 …あ、この際だから大吾君にもお願いしようかしら」

 

「お、俺も!?」

 

「二人とも名字呼びだから、なんか遠巻きにされてる気がしてたのよね。

 ね?聞いてくれないかしら」

 

 …ん?今気付いたが流れが完全に向こうペースじゃないか?

 さっきまでの俺優勢な感じはいずこへ...?

 

 しかし、今更すぎる話だった。

 

「ええと...なんか俺、沢さんのことは沢さんでしか呼べない気がする。

 結構定着しちゃってるし。ついでに言うと相楽の方の呼び方も」

 

「ついでにとはなんだ」

 

「俺も、名字呼びの方がしやすいし...」

 

 大吾も弁明する。

 そうだ、二人で乗り切ろう。

 

 

 だがこの時俺は、気付いていなかった。

 何かを思いついたような沢さんの顔と、緩んだ口元に。

 

「そう...それなら無理強いはしないけれど、出来れば考えておいて欲しいわ」

「ちょっ弥生、あそこまでいってたのにやめるの?」

「まあまあ、いいのよ」

 

 話を切り上げ、何故か足早に立ち去っていく沢さんと、それを追う相楽。

 とりあえず...良かったのか?

 

「災難だったな...」

 

 俺の呟きに、

 

「全くだ。まさか巻き込まれるとは」

 

 少し嫌味っぽく返してきた大吾。

 

「なんかすまないな」

 

「まあ別にいいよ、何とかなりそうだし」

 

「そうだな、何とかなって良かった」

 

 能天気な会話をする俺たち二人だったが。

 

 

 

 この数時間後、部活動にてその想いが覆ることなど考えもしていなかった。

 

 

*  *  *  *

 

「えー今日の練習だが」

 

 ウォーミングアップを終え、メニューを聞くため整列した俺たち風中野球部。

 テスト後のうんぬんかんぬんでレイ先輩がいないが、それ以外はしっかりと揃っている。

 

「その前に少し、沢と相楽からお願いがあるとのことなので、聞いてくれ」

 

 あの二人からお願い...なんだろうか。

 

 …と、一瞬考えた後。

 俺の方へと意味深な笑みを向ける二人を見て、確信した。

 

 やられた、と。

 

「いきなりすみません。

 今日は私たちから一つお願いと言うか提案がありまして」

「その、呼び方のことについてなんですけど...今って、先輩は一年のこと名字呼びですよね?」

 

「まあ、私以外は基本そうじゃない?一人、ここにはいないのも名前で呼んでる気がしたけど」

 

 話を始めた沢さんと相楽の問いに答えたのは、綾部先輩。

 ここにはいないの、とはレイ先輩のことだろう。

 

「正直に言うとですね、もう少し距離感を縮めて欲しいなと思いまして」

「そうなんです。もうすぐ大会もあるじゃないですか?

 いつまでもこんな感じだったら、何だか少し寂しいなって」

 

 名前の呼び方を改めて欲しい、という一年生二人のお願いに、目を見合わせる先輩方。

 

「私は別にこのまま変わらない訳だし構わないけど...男子の方はどうなのよ?」

 

「そうだな...。

 実際椿のことは下の名前で呼んでるし、わざわざお願いされたからその通りでも良いんだが...」

 

 綾部先輩が尋ねるところに答えたのは綜先輩。

 別に構わないという様子だが、途中で俺の方を少しちらりと見て言葉を濁す。

 

 優しい。その一言に尽きる。

 

「もちろん、ミチルのことに関しては大丈夫です。そこはなんか事情もあるみたいだし?」

 

 割と引きの早い相楽。意外すぎて少し声が出てしまった。

 

「私は下の方で呼んでも良いかな?ミチルちゃん」

 

「ちゃん付けだけは断固拒否します。返事しませんからね絶対」

 

「そっかー、じゃ名字でいいや。牧篠...ちゃん?(笑)」

 

 何故”ちゃん”から離れようとしない...本当に、とことんいじめてくるな、この先輩は。

 

 

「折角の後輩たちからの頼みだ。この際、俺からもいいか?」

 

 唐突に口を開いたのは近江先輩。

 

「折角なら俺らのことも名字じゃなく下の名前で呼ばないか?

 一応、”先輩”は付けておいて欲しいけど」

 

「おっ、克彰ナイスアイディア!

 ”椿”っていう名前好きなのに、後輩から呼んでもらえなくてちょっと寂しかったんだよね」

 

 あやb...いや、椿先輩も便乗し、俺ら一年もそう言う事ならと了解する。

 その後何故か一時、慣れるためか唐突に下の名前で呼び合う流れに。

 

 

 そしてそこで、ようやく今回の沢さんと相楽二人の提案の真意(実際は分からないが)を知った。

 

 

「だ、だい、だ...大吾君!」

「む...睦子...ちゃん?」

 

 簡潔に言うと、ほっこりとした気持ちになった。

 

「…ね?名前呼びもいいもんじゃない?」

 

「沢さん」

 

「いやね、弥生って呼んでよ」

 

「えーそれは無理かも」

 

「なんでよ(笑)」

 

「少なくとも今は、沢さんと相楽、っていう感覚が強いんだよ」

 

 その相楽は、大吾と睦子の二人に対して、

「ちょっと二人、”君”と”ちゃん”は外してもいいんじゃない?」と茶々を入れている。

 まったく、何をやってるんだ。だがナイスだ。

 

 

「そう...ちょっと残念ね」

 

「残念って...俺のことを名字で呼ぶなら考えないこともないけど?」

 

「う~ん、それはちょっと違うと思うのよ」

 

 何が違うのか。まったく分からないものだ。

 

 その後の練習は、いつもとはなんだか違った、なんとも言えない感じで進んだ。

 ただ、何か雰囲気が変わった気もする。良かった...のかな?

 

 

 

「…ねぇ、やっぱりミチルちゃんって」

 

「やめてください」

 

「はぁ、ケチね」

 

「いやどこがです!?」

 

 …やっぱり、良くなかったかもしれない。

 




…おかしいな。
今日の話で主人公には、皆のことを下の名前で呼ぶことになってもらうはずだったんですが...なんかまだ無理らしいです。なんて頑固なヤツだ...(笑)
まあ、あとは自分で何とかしてもらいますか(テキトー)
あと、原作キャラの成績について結局言及しなかったのはただ逃げただけです。すみませんm(_ _)m

そして、割と練習描写からも逃げている(?)自分...果たして次話はどうなるのか。
ちょっとで良いので期待とかして下されば有難いなと思います。

では今回は、このあたりで失礼します。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第二十八話

どうも皆様、こんばんは。

えっと...とりわけ書くこともないので早速本編の方、よろしくどうぞです。


膨らむ野望

 

「ケン先輩!狙い球絞って!」

「ケン~!打てるぞ打てるぞ!」

「オッケー、ボール見えてる!」

 

 球場に響くは、少年少女の声援。

 スタンドにまばらに座った人々は、運命の一球を固唾を飲んで見守る。

 

 

 そして。

 

 真ん中高めのボールにバットを上手く合わせた打者。

 外野へと飛翔する打球。

 

 瞬間、沸いた一塁側ベンチであったが。

 打球を追いかけていたレフトの野手の足が止まり、こちら...ホーム側を見る。

 両手を広げた後、しっかりと右手のグラブで捕球した。

 

 直後。

 うなだれるように一塁側から出てくるのは、風林中学校。

 対極的に、嬉しさを顔に浮かべているのは三塁側、英邦学院中学。

 

 3-2と白熱したその試合。

 最終回二死一、三塁のピンチを粘り勝った、エース豊原を中心とした英邦学院に軍配が上がった。

 

 

* * * * * *

 

 負けた、のか...。

 正直、受け入れられないというか信じられない気持ちだ。

 

 また、そんな気持ちなのは俺だけではないという事だろうか。

 熱戦を終えて帰るバスの車内には、寂しげな雰囲気が漂っていた。

 

 そして俺は、ついさっきまでの試合について、頭の中で思い返す。

 

 俺ら一年生が部に入って初めての公式戦。

 その大会で、風中野球部は順調な試合ぶりで一、二回戦を突破。

 出場チームも割と多くはなかったため、次を勝てば決勝に進めるという三回戦(準決勝)。

 対戦相手は英邦学院という、このあたりの中学野球部なら誰しもが知っているレベルの強豪。

 

 強豪校ということは、もちろん織り込み済み。

 それでも俺は勝利を疑っていなかったし、先輩たちも勝つ自信はあったはずだ。

 

 明暗が分かれたのは、投手力の差だったように思う。

 

 相手の英邦学院は、計4人の投手を継投し起用した。

 こちら側が、捉え始めチャンスを作るようになると交代して躱す、という風に。

 右のオーバーハンドから左のスリークオーター、右サイドスローの後は右オーバースロー。

 目まぐるしく変わる相手投手。

 その誰もが他のチームであればエースとして投げられるくらいの実力はあった。

 そんな相手の守りに対して最後まで、あと一歩追いつくことが出来なかった。

 

 一方でこちらの投手陣は、先発のケン先輩がエースとして十分すぎる投球を見せていた。

 

 …そう。

 途中までは、完璧と言うにふさわしいピッチングだった。

 

 流れが変わり始めたのは四回表、相手打線が一回りしたころ。

 ワンナウトから3番打者に初ヒットを打たれると、4番にも連打を浴びて一、三塁のピンチ。

 5番は内野フライに抑えたものの、続く打者には一塁線方向への鋭いライナー。

 …が、これは広夢先輩がジャンプして捕るファインプレーで、なんとか無失点。

 ベンチに戻ったケン先輩には汗が目立ち、更にいつもよりも深く寄り掛かるように座っていた。

 

 疲れがあったという事なのだろう。

 次の回に入ると制球ミスも見え始め、あっさりとピンチを作り、あっさり失点してしまった。

 

 その直後の攻撃で、ケン先輩は自らのバットで、同点に追いつくタイムリーを打つ。

 しかしこの際、二塁へ疾走。

 ベース上に立った先輩は、激しく肩で呼吸をしていた。

 

 その後のイニングで再びピンチを作ったケン先輩。

 さすがに見かねて、ピッチャーは椿先輩へと交代。

 場面が場面であったため一点を失ってしまったものの、後続はしっかりと断った。

 

 試合が終わった今となっては、そこでの一失点が結局勝敗を分けてしまったことになるのだが。

 たださすがに、誰も椿先輩を責めることなんてできない。

 また、そこまでケン先輩は投球でチームを引っ張ってきていたわけであり。

 もちろん文句なんて言えるはずがない。

 

 強いて言うならやっぱり、”投手の駒の不足”だったのだと振り返ってみて改めて感じた。

 

 

 

 そして、俺のその考えと同じ結論に至ったのか。

 試合後の学校に戻ってのミーティングで、綜先輩はこう話し出した。

 

「一年生の中で誰か、ピッチャーをやってみたい者はいるか?」

 

 それは、予想はしていなかったが想定内ではあった問いだった。

 周りを見回すと、真っ先に手を挙げた同級生が一人。

 

「…睦子ちゃん!?」

 

 驚いた様子の椿先輩に対し、照れたような笑みを浮かべる睦子。

 

 椿先輩は気付いていると思っていたが、違ったのか。

 睦子は新入生歓迎試合の時から、椿先輩への憧れを強く抱いているみたいだったし、そこからピッチャーをやりたいと思ったのだろう。

 

 実際、日々の練習で一番走りこんでいるんじゃないかというくらいランメニューをやる睦子。

 俺の中では同級生の中で、ピッチャーの最有力候補だった。

 ただ、まさかこんなに早く手を挙げるとは思わなかった。

 少し意外で、俺も自分のやることを一瞬忘れてしまいそうに。

 

 …と、そんなことを考えつつ、俺も手を上へと伸ばす。

 

「牧篠もか」

 

「はい。もともと、ピッチャーへの憧れもあったので」

 

「そうか。それで...他はいないか?」

 

 綜先輩の問いかけに合わせて他のメンバーを見てみる。

 

 何だかさっきから少し相楽がそわそわしているように見えるけど...なんだろう?

 沢さんの方を少し見ているようだったが、俺の視線に気付いたのかぷいと横を向いた。

 

「了解。それならひとまず、この二人に投手練習もやってもらう方向でいこうと思う」

 

 綜先輩のその言葉に、意識を戻す。

 

「ケンすまない、勝手に決めたが...」

 

「ああ、気にするな。今日の感じじゃ全然ダメだし、俺に色々言う資格はないと思う。

 そもそもキャプテンの決めたことに従うのは当然だしな」

 

「…そうか、分かった」

 

 落ち着いた声で少し自傷的に話すケン先輩に対し、小さく相槌をうった綜先輩。

 ケン先輩の雰囲気にどこか思うところがあったのか、顔が一瞬ながら曇った気がした。

 

「よし!じゃあ私が教えてあげるね!」

 

 そう言って立ち上がったのは、言うまでもなく椿先輩。

 

「控えのピッチャー同士、競い合っていこ!」

「は、はい!こちらこそ...よろしくお願いします!」

 

 笑顔を見せる椿先輩に、元気に答えお辞儀をする睦子。

 

「ほら、マキくんも」

 

 マキくん。

 それが、椿先輩がたどり着いた俺の呼び方の答えらしく、最近では定着してきた感じもある。

 

 俺の方を向いて、睦子に見せたのと同じような笑顔で。

 ――なんだか、逆らうことは許さないというような感情を感じ取れる笑顔だったけれど。

 

「…もちろん、先輩を頼らせてもらうつもりです。よろしくお願いします」

 

「やけに素直じゃない?(笑)」

 

 いや素直にさせてるのはどなたですか、と言いかけたがさすがに止めておいた。

 

 

 

 その後ミーティングは、いくつかの反省と後悔などが語られた。

 もちろん、良かったところについても。

 

 一年生も皆、何かしらの形で試合には出場していたので、それぞれが想いを抱いていた。

 

 俺は、椿先輩がマウンドに上がっている時にサードを守った。

 二回戦では途中まで、そして今日の三回戦が、途中からの出場。

 打席には二回立ったが、四球と、内野ゴロでの凡退という結果だった。

 

 試合に出られたのは実際嬉しいが、そもそもそれは部の人数が少ないということもある。

 満足なんてしていない、というか今後もそんなことはなさそうだけど。

 次はもっと出たいし、もっと活躍したい、貢献したい。

 もういっそのことなら、と、フルイニング出場を夏までの目標に決めた。

 また、俺がもっと繋げられていればもしかしたら、と言う場面もなかったわけじゃない。

 

 そういう点でも悔いはあるし、学ぶべき所、これからに生かしていかねばならないところだ。

 

 

 そんな各個人の振り返りや反省が入り乱れるミーティング。

 終わる様子なんて全くあるはずもなく。

 誰かが発言しては、自分と照らし合わせてそれについて考えるといったサイクルが何度も続く。

 

 最後は椿先輩の、

「またいつもの癖が出てる、そろそろまとめないとキャプテン」

 という言葉に、自分の最大の仕事を思い当たった綜先輩が、大会についての総括と今後の練習についての大まかな流れ、予定についてを話したところでお開きとなった。

 




とうとうピッチャーに一歩踏み出した主人公。
どんな投手になるかは実は未定で...というのはもちろん嘘です(これが嘘です?)

そして睦子ちゃんのピッチャー転向(?)への理由補完。
個人的にはグッドな感じに出来たと思っていますが...どうですかね?

あと、試合描写サボってすみません。次話はやります。
…予告したので、これで来週の俺は書いてくれるはず!
まあ実際、そろそろ試合描写やっとかないと忘れてしまう恐れこそあるので...(笑)

ここで、少し雑談。
この第弐章:中学生編(1年の部)を何月までやるか、今迷走中です...。
出来ればアニメのクールの区切り、すなわち一、四、七、十月で各章分けていきたい願望があるのですが、四月から新章はなんか早すぎる気がしてましてね...ということでその辺り、決まりましたらまたご報告させて頂くことになるかもしれません。

とはいえ今は、連載中のこの章を頑張って書くことに集中していきたい。
今後とも皆さま、応援いただけると大変嬉しい限りです。
…なんかこの台詞、年末最後の投稿で言うべきだった気がするけど...まあいっか(笑)

それでは長くなってしまいましたが、今回はこのあたりで失礼致します。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第二十九話

どうも、こんばんはです。

本日投稿分に当たり、まだ明かせてなかった先輩方のフルネームをここに記しておきます。
詳しい人物紹介等は少し後になりますので、そこのところ、よろしくお願いします。

・1番センター:近江 克彰(おうみ かつあき)・2番セカンド:坂口 海洋(さかぐち みひろ)
・4番キャッチ:徳地 翔助(とくち しょうすけ)・5番ショート:市松 孝央(いちまつ たかお)

ではでは本編の方も、よろしくどうぞ!


(まみ)える球友

 

 今日は日曜日。

 いつもなら練習をしているところだが、今日は違う。

 

 県内の二校と練習試合なのだ。

 しかもいつも練習をしている風中のグラウンドではなく、他校に来ている。

 

 そしてここは、大尾(おおび)中学校。

 風中よりも心なしか狭く感じるそのグラウンドだが、今日はうちの学校ではサッカー部が広く使っているため使うことが出来ない。

 

 やむなくというか、そういう経緯でここに来たわけなのだが。

 

 さっそく、驚いたことが一つ。

 それは、俺がよく知っている顔が大尾中野球部の中にいたからだ。

 

「…よう、久しぶりだな」

 

「牧篠君、今日はようこそ」

 

 ようこそ、と言いながら帽子を取り、丁寧なお辞儀をするのは一人の元チームメイト。

 その、少しよそよそしさを含んだ態度に、何となく面白さを感じながら話し続ける。

 

「まさか菊地原が大尾中に来ていたとはな...知らなかったよ」

 

「まあ言ってなかったし、情報も回ることない気はするしね(笑)」

 

「他のみんなとは、連絡とってたりするのか?」

 

「んー、そうでもないかな。牧篠君は?」

 

「この間、勝一に誘われてシニアリーグの練習試合を見に行って、ついでに会ってきた」

 

「それって鹿瀬の他のみんなともだよね?それはちょっと羨ましいかも」

 

「菊地原も、いつか見に行ってやんなよ」

 

 そうだね、と返され、じゃあまた試合で、とそう言い残し去っていく菊地原。

 以前より少し、背が伸びただろうか。

 

 また菊地原が去ったのとほぼ同時に、俺の方へ近づいてくる影が二つ。

 何となく見なくても分かる。相楽と椿先輩だろうか。

 

「…やっぱり」

 

「誰?」

 

「少年野球時代のチームメイト、菊地原美涼。

 ポジションはセカンドで、打撃力こそ足りないもののそれを補って余りある守備力には定評が」

 

「ふ~ん」

 

 いやいや、そっちから聞いておいてそのリアクションの薄さはなんだ、相楽よ。

 

「ふ~ん」

 

 一方こっちは、少しニヤニヤに近い笑みを浮かべている椿先輩。

 何を考えているかは知らないが、いちいち反論するのも面倒なので放っておくことにした。

 

 

*  *  *  *

 

 その後。

 まずは大尾中ともう一つの今日の俺たちの対戦相手、茂舞(しげまい)中学校との対戦から。

 

 俺たちがグラウンドの隅でアップをし、キャッチボールをし、後に見学したその試合。

 結果は、大尾中が4ー2での勝利を掴んだ。

 

 次に行われたのは、うちと茂舞中との試合。

 こちらの先発ピッチャーは椿先輩で、6回を一失点完投。

 いつものスタメンとは違うオーダーで臨んだ打線も好調で、6回10安打9得点。

 また、相手投手二人が左投げだったこともあり、8番サードで先発出場した関鳥が特に大暴れ。

 コールド勝ちを決めた二点タイムリーヒットに始まり、二回には勝ち越しタイムリーも放った。

 

 昼食休憩をはさんで、次に予定されているのはもちろん、風中と大尾中の試合。

 俺は、2番サードで先発出場することになった。

 

 ちなみに1試合目と合わせて、全員が先発出場できるようにオーダーを組んだ俺たち。

 つまり、この試合は大吾がスタメンマスクを被ることになったし、セカンドを守るのは沢さんで、ライトには睦子が入る。

 

 この前の大会では、ここまで一年と一緒に試合に出ることはなかったから、何だか気分も上がる。

 試合を見た感じだと勝てない相手ではないと思うし、実際勝たないといけない。

 俺たち風中野球部の目標は、もっともっと上にある。

 

 

 

 …と、そんな意気込みで挑んだ試合ではあったのだが。

 

 初回、先攻の俺たちはセカンドゴロ、サードゴロ、センターフライで三者凡退。

 勢いに乗っていきたいところだったが、結果出塁できず仕舞い。

 

 しかし、一方のケン先輩の投球も上々のスタート。

 空振り三振、ファーストフライ、ショートゴロで三者凡退に抑えた。

 

 こうなると、先制点が欲しくなる。

 そして二回の表、ワンナウトから孝央先輩がヒットで出塁。

 ケン先輩の内野ゴロで二塁へ進塁すると、次打者の沢さんがレフト前ヒットを放ち、先輩は本塁生還。

 意外にも、あっさりと先制点を挙げることに成功した。

 

 その後、三回表にも三長短打で二点を挙げる。

 

 だが四回表の攻撃で俺たちが三者凡退に抑えられると、直後の大尾中の攻撃。

 3、4番の二連打に送りバントでワンナウト二、三塁のピンチを迎える。

 次打者はファーストゴロに抑えた。

 

 …が、一塁手は翔助先輩。あまり守らない守備位置という事もあってか、ここで送球ミス。

 一点を与え、続く打者はライトへのフライ。睦子の返球もむなしく、二失点目となってしまった。

 

 

 

「…みんな、すまない」

 

 開口一番、そう発言したのはケン先輩。

 

「なんでそこで先輩が謝るんですか」

 

「なんでって、そりゃ...」

 

「じゃあケンは、手を抜いて投球してたってことか?」

 

 先輩の言葉を遮りそう言ったのは、綜先輩だった。

 

「それは...違うけど」

 

「それなら、ケンの責任じゃないだろ。いつだって失点は、チームみんなの責任だ。

 だから、みんなで点を取り返しにいかないと」

 

「そうだそうだ。それに、第一ミスしたのはおれだぞ、普通そっちからだろ」

 

「いや、翔助は慣れないファーストだろ。仕方ないというか...」

 

「ああ。だから、ミスは取り返すし、それに...」

 

「それに...?」

 

「そういう失敗を積み重ねて、人間って成長していくものだって言うだろ?

 一回の過ちですぐ下を向く、ケンの悪い癖だぞ」

 

「翔助の言う通り。だからこそ、オレ達は練習するんだろ。

 問題点を見つけて、それを克服していってこそ、上達していくことに繋がるんじゃねえのか?」

 

「みんな...」

 

「ケンが一番大好きで一番得意な、勉強と一緒だろ」

 

「…一番大好きは言い過ぎだよ。まったく...」

 

 

 一気に雰囲気の変わるベンチ。

 一年が入る余地など全くなく、先輩たちだけで解決してしまった。

 さすがの呼吸というか。

 俺たち一年も、いつかこんな風に慣れるのだろうかとふと考え、無理なのではと思った。

 

 

 その後、五回表の攻撃。

 ワンナウト二塁の場面で俺は打席に。

 三球目、外角球に逆らわず打ち返した打球は一、二塁間へ。

 

 しかしそこには、菊地原がいた。

 

 アウトとなり、その次の綜先輩は外野フライで得点とはならず。

 1点差に詰め寄られて点が欲しい場面だっただけに、後悔が残る。

 

 だが、マウンドに向かうケン先輩の背中からは、これまでとは違う何かを感じた。

 しかしこの回先頭の菊地原が、センター前ヒットで出塁。

 バントと内野ゴロで三塁へ進塁し、打席には相手の3番打者。

 

「牧篠君のとこ、良いチームだね」

 

「ん?ああ、それは、菊地原の方もだろ?」

 

「そうだね。楽しんでやれてるから...負けないよ?」

 

「こっちこそだ」

 

 打球が飛んでくる。

 身体の右側。素早く反応し逆シングルのグラブで捕球。

 一塁で構える翔助先輩目掛けて、送球。無事アウト。

 

 ホームベース辺りで振り返ってきた菊地原と目が合い、どちらともなく笑みを零した。

 

 

*  *  *  *

 

 6-2。俺たちの勝利で試合は終わった。

 俺たち一年は帰るため、ベンチに残った道具たちを片付ける。

 

「そういやミチルさ」

 

「ミチルやめろ」

 

「しつこいな。まあいっか。

 五回裏だっけ?とかに、相手の子と何か話してなかった?」

 

 相楽のやつ、ホントそういうとこ目ざといな。

 

「…軽い世間話みたいなもんだよ」

 

 嘘はついてない...というか吐く必要もないんだけど。

 

「世間話、ねぇ...」

 

「何がご不満なんだよ」

 

「んー?別に、」

 

「別に、なんだよ?」

 

 中途半端な言葉が気になり聞き返すと、何やら俺の背後に目をやっている相楽。

 振り返ると、菊地原がいた。

 

「なんだ、まだいたのか」

 

「そりゃね、ここうちの学校だし」

 

 言われてみればそうだった。

 

「それで?何か...」

 

 何か用か、と尋ねようとした俺。

 それを、他の人には聞こえないようにして自分の方へ引き寄せてきた菊地原。

 

「一つ聞き忘れてたなぁ、と思って」

 

「なんだよ?」

 

「あの中に好きな子とかいるの、ってこと」

 

「…正気か?」

 

「一応」

 

 何言ってるんだ菊地原、俺はずっと道塁ちゃん一筋...って、何てこと言おうとしてんだ俺。

 

「…いない」

 

「ふ~ん、微妙な溜めが怪しいね?(笑)」

 

 それは気にするな、ちょっと違うこと考えてた、とは言えなかった。

 

「まあ、いないならいいや」

 

「用ってホントにそれだけか?」

 

「うん。それに...ね?」

 

「ん?」

 

 言葉を濁した菊地原に首をかしげると、背後に強い視線を感じた。

 

「なんだ相楽」

 

「忙しいなら置いてくよ?それとも、今日は帰らない感じ?」

 

「そんなわけないだろ。じゃあな菊地原、また」

 

「うん、気をつけて帰ってね。ばいばい~」

 

 手を振ってくる菊地原。

 それにしても、さっきの質問は何だったのだろうか。真意が掴めん。

 

 部内恋愛、ねえ...。

 なんとなく、ふと前の方に目をやる。

 そこには睦子の分まで荷物を持っている大吾の横で、あたふたしている睦子が。

 

「(割ともう、あの二人は公認みたいなとこあるよな...本人たちがどう思ってるかは知らんが)」

 

 そんなことを考えていた俺の横に、少し近付いてくる者が一人。

 

「何話してたの?さっき」

 

「軽い世間話だな」

 

「またそれ?」

 

「昔のチームメイト同士だと、こういうこともあるだろ。分かんない?」

 

「…さあ?」

 

 全く同意できないと言いたげな反応の相楽。

 言われてみれば、相楽は横浜リトル出身。

 大抵のチームメイトはシニアに入った男子だろうし、会うことはない上、話すことも無さそうだ。

 

「(…実際、相楽はチームメイトの男子とも仲良くしてなさそうだしな)」

 

「ミチル今、失礼なこと考えてるでしょ」

 

「…はは、まさか」

 

「…ま、別にいいけど」

 

 相変わらず要所要所で鋭いなホントに。

 仕方ない、これ以上の詮索はやめておいて、後で思い出した時にでも沢さんに聞いてみるか。

 

 そんなことを思いつつ、長いようで短かった日曜日が終わる。

 そしてまた、時は止まることなく進んでいく。

 




菊地原美涼ちゃんを大尾中に入れるという悪行に出やがりましたよこの作者...()
いや、左投げ内野手の件、自分は頭固くて違和感覚えちゃうので、一人オリキャラ入れたかったんですよね、大尾中にも。

そういうことで、美涼ちゃんは今後も登場機会があります。応援してあげて下さいませ。

さてさて、来週で本年の更新は最後となります。
4月から始めた本小説ですが、ここまで書けているのも日々応援して下さる皆様方のおかげです。本当に、本当にありがとうございます!!

それでは今回は、このあたりで失礼させてもらいます。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第三十話

どうも。
年の瀬、いかがお過ごしでしょうか。

本小説は、今話にて今年は最後の更新となりました!
読者様方に対する、重い思いの丈は後書きで書かさせて頂くことにいたしまして、早速本編に入りたいと思います。

それではどうぞ!よろしくお願いします。


迫る大会、昂る気持ち

 

「じゃあ大吾、あと2球行くぞ」

 

 10数メートル先、座って構えているチームメイトに向かい、声をかける。

 おう、という返事を聞き、振りかぶって投げる。

 指先に力を込め投じたボールは、勢いよく大吾のミットに吸い込まれ、パァン、と心地良い音を響かせた。

 捕球したやつの口が、ナイスボール、と動いた気がして思わず、少しだけ口元が緩む。

 

「ラストもこんな感じで、こい!」

 

 そう言いながら投げ返されたボールを受け取り、今度は俺が、おう、と言う。

 そして続けざまに振りかぶると、今日一番の力を込めて、練習で最後となるボールを投じた。

 

 

*  *  *  *

 

「…ボールだったな」

 

「いやいや、入ってたろ」

 

「残念だけどボール球」

 

「いいから認めてくれって」

 

 ピッチング練習を終えた後。

 最後の球のストライク、ボールについて軽く言い合う。

 …とは言いつつ、何となくボールだったような感覚はあるのだが。

 

「はいはい二人とも、その辺で」

 

 割って入ったのは椿先輩。

 

「先輩見てました?入ってましたよね?」

 

「見てないから分かんないよ」

 

 俺の問いかけを冷たくあしらう先輩。

 口ぶりからなんとなく察するに恐らく見ていたのだろうが、それ以上言い続けるのはとりあえずやめておくことにした。

 

 それはそうと、と話題を変えるように話しだした椿先輩。

 

「マキくんも、今やすっかりピッチャー慣れたんじゃない?」

 

「まあそうですね。…先輩が良いんですかね?」

 

「そういうこと。分かってるじゃない」

 

「そこは謙遜しててほしかったです」

 

「マキくんが私のこと良く言うなんて珍しいから乗ってあげたんだけど?」

 

「そうですかね?」

 

「そういう、すぐとぼけるところよ」

 

 これこそ慣れたもの、という感じで先輩と言葉の応酬。

 ただ今日は、何だか少しいつもと違っているような気がして。

 

 それも、いつの間にか時が経ってきて、来週にはもう、三年生にとっては最後となる大会があるという、時期的な事もあってのことかと思っていた。

 

 それが気のせいじゃないという事が分かったのは、少し後のことだったのだが。

 

「あれ?大吾は?」

 

「ん」

 

 いつの間にかいなくなっていたチームメイトの居所を尋ねると、俺の背後を指差された。

 

 見ると、睦子と一緒にさっきまで俺が投げていた所へ向かっているところだった。

 色々忙しいやつだな。

 

「睦子ちゃん、なんであんなフォームにしたんだろうね?」

 

「…それ、先輩が言います?」

 

「私だからこそでしょ。だって、わざわざ同じフォームなんて、ねぇ?」

 

「……」

 

「ちょっと、何よ?」

 

「何でもないですよ、少し意外だなって思っただけです」

 

 何が!?どこが意外なのよ!?と、異議申し立てする椿先輩は放っておき、少し睦子の様子を見る。

 

 サイドスロー。身体を少し右に傾けつつ横からボールを投げるフォーム。

 その、椿先輩と見た目が全く同じといっても差し支えない形で、睦子はピッチャー練習を続けている。

 

 一度、フォームが同じなんて気味悪がられるかな、と心底不安げな様子で聞かれたことがあった。

 

 先輩はそういうこと気にしなさそうだけど、と一応言っておいたのだが、ついさっきの先輩のセリフは、どういう心理が働いてのものなのか。

 

 気味悪がっているわけではないと思うが、少し掘り下げておこう。

 

「先輩は、同じフォームで投げてる後輩がいるって、どんな気持ちなんです?」

 

「何よいきなり...まあそうね、近くに心強い味方がいる感覚にはなるわね」

 

「なるほど?」

 

「私はそもそも、小学生の頃からピッチャーやってて。

 それで、オーバースローじゃどうしても男子には適わないから、サイドにしたわけなのね。

 …で、今中学も三年、来週には最後の大会が始まるって時期なわけだけど。

 そんな時に睦子ちゃんの練習姿を見てると、ちょっと前の自分を思い出して、頑張ろう!ってなるわ」

 

 …そうだったのか。

 

「…ちょっと!何か反応してくれないと、真面目に話した私が損なんだけど」

 

「その分俺が得してるので、割は取れてますよ」

 

「そういう話じゃないでしょ、全く...」

 

「真面目な話する椿先輩って珍しいのでつい、黙っちゃいました」

 

 そんなことを言うと、つかつかと俺との距離を縮めてくる先輩。

 突然、俺のことを軽くたたき始める。

 

「そういう生意気なことを言うのは...お前だな!今回ばかりは許さん!」

 

 照れ隠ししてる先輩かわいいなあ、とか言おうとしたが、さすがにこれ以上ふざける訳にもいかない。

 

「…なんてね。マキくんにだって私、感謝してるんだから」

 

「!?」

 

 突然耳元に囁かれたその言葉に、一瞬ビクッとする俺。

 しかしそれも束の間、先輩は軽く駆けるように離れていく。

 

「ちょ、先輩?」

 

「ドキッとしたでしょ?」

 

 振り向いてそう言った先輩は、笑っていた。

 

「…かなわないな」

 

 

 なんとなく、空を見上げる。

 

 一か月前くらいにはほぼ毎日曇り空だったのが、今やすっかり晴れ晴れとしている。

 本当に、時の流れと言うのは早いものだ。

 正直、来週から大会があることもまだあまり実感にない。

 

 

 でも。

 だからこそ。

 

 4月からここまで、約3か月間、先輩たちと作ってきた思い出、重ねてきた練習。

 

 その全てを失わないためにも。

 その全てに意味があったと証明するためにも。

 何よりも、最後の大会をいつまでも今のチームで戦い続けるためにも。

 

 とにかく頑張って、精一杯力を発揮して。

 悔いを残さない。先輩たちとの試合の記憶を、強く刻む。

 

 

 そのために、俺は。

 




勝手に、割と時間進めました。
新年最初の更新は、三年生と迎える最後の大会、その一回戦の模様をお届けしたいと思います。

さて。
4月から始まった本小説、まさかここまで多くの方々に読んでいただける作品になるとは。
今年は本当に、大変充実した年になりました。
それもこれも皆様のおかげです。誠に、ありがとうございます。

そしてよろしければ、来年からも。
毎週土曜の17:30を楽しみにしていただければ、と思っています。

私自身もっと精進していかねばと、そんな気持ちを胸に秘め。それでは今回は、このあたりで。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

良いお年を!お過ごし下さいませ!


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おまけ②

まずは。
投稿が一日遅れてしまい、待って下さっていた方には申し訳ございません!!…という気持ちを。


…それにしても、新年早々2度目の更新日に遅刻するというのはアレですね。ヤバいですね。
最悪でも土曜に更新しておくべきだったかなぁ...とふと思いました。

それでは長くなってもあれなので、本編の方へ。
…と言っても、今回は登場人物紹介とエトセトラみたいな感じです。
ゆるゆると目を通して下さると嬉しいです。

では、よろしくどうぞ。


<出場選手登録一覧>

背番号1、濱内 健竜 (はまうち けんりゅう) 3年・左左・投手

   2、徳地 翔助 (とくち しょうすけ)  3年・右右・捕手

   3、丹波 広夢 (たんば ひろむ)    2年・右右・内野手

   4、坂口 海洋 (さかぐち みひろ)   3年・右右・内野手

   5、綾部 椿  (あやべ つばき)    3年・右右・内野手

   6、市松 孝央 (いちまつ たかお)   3年・右右・内野手

   7、近江 克彰 (おうみ かつあき)   3年・左左・外野手

   8、茅ヶ谷 綜 (ちがや そう)     3年・右左・外野手・キャプテン

   9、渡 怜伊  (わたり れい)     3年・右右・外野手

  10、牧篠 美智琉(まきしの みちる)   1年・右右・内野手

  11、茂野 大吾 (しげの だいご)    1年・右右・捕手

  12、相楽 太鳳 (さがら たお)     1年・右両・内野手

  13、沢 弥生  (さわ やよい)     1年・右右・内野手

  14、佐倉 睦子 (さくら むつこ)    1年・右右・外野手

  15、関鳥 星蘭 (かんどり せいら)   1年・右左・内野手

 

<登場人物紹介>

◎風中野球部レギュラーメンバー

近江 克彰(おうみ かつあき) 1番・レフト

 高い走力を武器にダイヤモンドを駆け抜ける、チームの切り込み隊長。

 またその俊足を活かし、外野での守備範囲も広く何度もチームの危機を救ってきた。

 性格は、元気で明るいチームの盛り上げ役であり、渡のツッコミ第二担当も兼ねる。

 小学生の頃の所属チームは、西山チーターズ。

 

坂口 海洋(さかぐち みひろ) 2番・セカンド

 近江に並ぶ高い走力を誇り、俊足コンビでチームに勢いをもたらす。

 セカンドでの守備も非常にレベルが高く、チーム打撃も上手な仕事人気質。

 性格は寡黙で人見知りだが、仲良くなった人には割と毒舌を吐くタイプ。

 小学生の頃の所属チームは、西山チーターズ。

 

茅ヶ谷 綜(ちがや そう) 3番・センター

 走攻守の揃った万能型外野手で、キャプテンシーも高くチームを引っ張る。

 肩はあまり強い方ではないが堅実なスローイング技術とグラブ捌きには定評がある。

 性格は、周囲への目配り気配りに優れたお兄ちゃん肌。(実際3人の弟を持つ)

 小学生の頃の所属チームは、鹿瀬少年野球クラブ。

 

徳地 翔助(とくち しょうすけ) 4番・キャッチャー

 打撃力は間違いなくチーム1で、確実性も兼ね備えている長距離砲。

 またキャッチャーとしても、安定感のある守備と肩で、チームの要となっている。

 性格は落ち着いてると思われがちだが、意外とひょうきんで明るい面を持つ。

 小学生の頃の所属チームは、北畠シャーク。

 

市松 孝央(いちまつ たかお) 5番・ショート

 走攻守の揃った(2回目)万能型の内野手。チャンスでの打率が非常に高い打点製造機。

 守備力も大変高い...が唯一、送球に難があるところがあるとかないとか。

 性格は控えめなところがあり、よく周りに影が薄い、と言われる。

 小学生の頃の所属チームは、縄森ファルコンズ。

 

濱内 健竜(はまうち けんりゅう) 6番・ピッチャー

 打撃力はそこそこだが、たまに見せるパンチ力が光る。

 投手としては、いくつかの種類のカーブを巧く操るのが最大の武器で制球力にも長ける。

 性格は冷静沈着で口数少なく、努力家気質。怒ると怖い(渡・談)

 小学生の頃の所属チームは、鹿瀬少年野球クラブ。

 

綾部 椿(あやべ つばき) 7番・サード

 パワーはないものの確実性のあるバッティングが持ち味。

 サードでは男子顔負けの度胸のある守備、またチームの二番手投手としても奮闘。

 性格はあけすけとしていて天真爛漫、明朗快活。渡へのツッコミ、第一人者。

 小学生の頃の所属チームは、南城ラビッツ。

 

丹波 広夢(たんば ひろむ) 8番・ファースト

 打撃はまだまだ伸びしろの有る将来有望な感じである。

 守備もまだまだ伸びしろの有る将来有望な感じで、ファーストの他に一応サードも出来る。

 性格は、女子に少し弱いところがある(主に一人の先輩のせい)ような普通の少年。

 小学生の頃は野球経験なしで、中学から始めたのはスポーツ経験を積むため。

 

渡 怜伊(わたり れい) 9番・ライト

 積極的な打撃が一番の持ち味だが、悪球打ちという良さも悪さも兼ね備えた特性を持つ。

 積極的な守備と、チーム1の強肩を活かした守備をみせる。

 性格は何事にも進んで取り組もうとし、ポジティブ思考。女子が好き。

 小学生の頃の所属チームは、吾妻パワフルズ。

 

◎以下、控え選手

牧篠 美智琉(まきしの みちる)

 俊足で打撃力はそこそこ、強心臓で積極的な守備をサードで見せる。

 ちなみに最近ピッチャーを始めた、この作品の主人公となっている人物。

 一年前までは、鹿瀬少年野球クラブに所属。

 

茂野 大吾(しげの だいご)

 打撃は確実性重視のミートバッティング中心で、守備位置はキャッチャー。

 野球脳がそこそこ高く、また周りをなんだか引っ張っていく特質を持つ。

 一年前までは、三船ドルフィンズに所属。

 

相楽 太鳳(さがら たお)

 両打ちという器用さはあるが、パワーは足りない。また足は速い。

 ショートを定位置とし、先輩にも劣らない程の非常に高い守備力を誇る。

 一年前までは、横浜リトルに所属。

 

沢 弥生(さわ やよい)

 確実性も兼ね備えつつ、男子顔負けの力のあるバッティングが持ち味。

 セカンドの守備もそつなくこなすことが出来るが、少し送球難な点がある。

 一年前までは、横浜リトルに所属。

 

佐倉 睦子(さくら むつこ)

 確実性の高いシャープなバッティング、練習で鍛えられた高い走力を誇る。

 外野手だが、ある人に憧れてピッチャーもやるようになった。

 一年前までは、三船ドルフィンズに所属。

 

関鳥 星蘭(かんどり せいら)

 左打ちだが左投手に強いという謎能力を持つ。ただ正確性には欠ける。

 今のところはサードとファーストをしている。肩が割と強い方。

 それも、野球経験がなく中学から始めたからなのだが...。

 

風中野球部監督(かぜちゅうやきゅうぶかんとく)

 所在不明。原作において自分が読んでいるとこまでは未登場なため、怖くて触れられない。

 

◎その他、主要人物

眉村 道塁(まゆむら みちる)

 父親譲りの野球センスを持ちながら、茂野吾郎への憧れをその胸に秘め戦う少女。

 現在は横浜シニアで、ファーストを守りながらエースを目指し闘争中。

 一年前までは、東斗ボーイズに所属。

 メインヒロイン(?)になりつつある気がする。頑張ります。

 

菊地原 美涼(きくちはら みすず)

 打撃力はあまりないものの、セカンドで驚異的な守備範囲を誇るジャパニーズくのいち。

 大尾中野球部員であり、1年生ながらレギュラー入りしている。

 一年前までは、鹿瀬少年野球クラブに所属。

 

 

◎更にその他(蛇足)

風林中学校(ふうりんちゅうがっこう)

 本小説、現在進行中である第弐章のメイン舞台。

 中高一貫の私立校。

 

風林中学校野球部(ふうりんちゅうがっこうやきゅうぶ)

 本小説の主人公を始めとし、今現在、計15人(男子:女子=2:1)が所属。

 少数精鋭チームと呼ぶにふさわしく、かなり実力を持った選手が揃っている。

 ちなみに略称は、風中(かぜちゅう)野球部。

 極めて当たり前のことだが、原作にも登場しているチーム。

 

横浜シニア(よこはま しにあ )

 本小説のメインヒロインが現在所属している硬式野球チームである。

 この作品にしては珍しく、原作にも登場しているチーム。

 実力者揃いの強豪で、同地区に留まらず全国的にもある程度名が知られている。

 

嵐海シニア(らんかい しにあ )

 本小説の主人公である牧篠美智琉、その元チームメイトが多く所属している硬式野球チーム。

 割と創設が最近なため知名度はないが、底知れない実力があるとの噂も...。

 ※由来は、主人公所属の”風林”から→「林=山」「山⇔海」→”嵐”と”海”で”嵐海”。

 ちなみに「山=緑=青」のイメージから”青嵐(せいらん)”が第一候補。

 関取ちゃんとの被りに気付いた時は軽く絶望を感じた。結果、泣く泣く断念。

 

大尾中学校野球部(おおびちゅうがっこうやきゅうぶ)

 本小説の主人公の元チームメイトが一人所属している。

 原作にも登場しているという、この作品にしては珍しいチームである。

 …が、その強さは、簡単に言えば1年生女子がレギュラーを獲得するくらいのもの。

 

 

鹿瀬少年野球クラブ(しかぜしょうねんやきゅうくらぶ)

 本小説の第壱章まで舞台となっていた、主人公などが所属していた少年野球チーム。

 選手は駒が揃っていて、幾度も大会で優勝を飾ったり表彰されたり。

 今でももちろん、それは続いている...らしい。

 ※由来は、主人公所属の”風林”から→”風(かぜ)”を入れたい→少年野球チームと言えば動物

 →「鹿+かぜ=鹿瀬」と思い付き、後ろはオーソドックスな”少年野球クラブ”に。

 

北畠シャーク(きたはたしゃぁく)

 本小説の第壱章に登場した少年野球チーム。

 主人公・牧篠美智琉の現在の先輩も一人所属していた。

 強い打撃力が一番の持ち味の、打って勝つ戦術のスタイル。

 ※本編・第三、四話に主に登場した。

 

西山チーターズ(にしやまちぃたぁず)

 本小説の第壱章に登場した少年野球チーム。

 主人公・牧篠美智琉の現在の先輩も二人所属していた。

 俊足選手が揃うことで有名。足を武器にした戦術スタイル。

 ※本編・第五、六話に主に登場した。

 

南城ラビッツ(なんじょうらびっつ )

 本小説の第壱章に登場した少年野球チーム。

 主人公・牧篠美智琉の現在の先輩も一人所属していた。

 女子が多いながらも男子への対抗心などで固められた強い団結力が最大の武器。

 ※本編・第七話に主に登場した。

 

吾妻パワフルズ(あずまぱわふるず )

 本小説の第壱章に登場した少年野球チーム。

 主人公・牧篠美智琉の現在の先輩も一人所属していた。

 特筆したものはないが、全員野球をモットーに掲げるスタイル。

 ※本編・第十六話に主に登場した。

 

※方角系4チームについて。チーム性から動物の名前を考えて(ひとつ例外はありますが)

あとは、名前の響きがハマったのをテキトーに命名。

 

東斗ボーイズ(とうとぼぉいず)

 本小説の第壱章に登場した少年野球チーム。

 メインヒロインである眉村道塁も所属していた。

 この作品では数少ない、原作にも存在するチームであり、有名で強い。

 ※本編・第八、九&十四~十六話に主に登場した。

 

縄森ファルコンズ(なわもりふぁるこんず)

 本小説の第壱章に登場した少年野球チーム。

 主人公・牧篠美智琉の現在の先輩も一人所属していた。

 プロ野球選手の名を借りて命名された選手達が集まっており、言うまでもなく強い。

 ※本編・第十~十三話に主に登場した。

 ちなみに由来は「プロ→ロプ→ロープ」で”縄”、あとはやっぱり名前の響き。

 ”ファルコンズ”は、強そうなイメージを俺が何となく持ってるからというだけ。

 




「もう時間過ぎちゃったし、どうせならいっぱい書いてやれ!」
…とヤケを起こした結果、こんな形(4246文字:本作における最多字数更新)に。
全部をじっくりと読んで下さった方がいれば嬉しいなあ、なんて考えつつ。

ちなみに、書き始めたのは土曜の12:00~とかでした(うろ覚え)
思ってた以上に紹介文句に時間をかけてしまい、他の作業も並行していたらこんな事になったという...。
毎週土曜17:30にあげ続けてた(第二話?忘れて下さい)ことが取り柄だったのに。
このタイミングでやらかしてしまうとは...猛省してます。

…とまあ、こんな感じでグダグダな筆者ではありますが、これからも何卒、応援を頂けると大変嬉しい限りです。

ちなみにTwitterには「投稿遅れそうです.」みたいなのは呟きました(笑)
てことで晒しますと、右のアカウントです。@wakiwaki_2069
良かったらフォローを。一言下さればフォロバはするので。

それでは長くなってしまいましたが、今回はこのあたりで失礼します。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

次回は土曜日に。ちゃんと頑張ります。


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第三十一話

皆様、どうも!
そして、(若干遅くはありますが年明け後初投稿なので)あけましておめでとうございます!

新年も早々に(?)わざわざ本小説を読んで下さること、大変ありがたく嬉しい限りです。
2018年は自分でもなかなかに頑張ることが出来たと思っており、その流れを絶やさないためにも、2019年、しっかりと定期更新の方、手を抜くことなくやっていきたいと思います。

ではでは本編の方、どうぞ宜しくです!


いざ臨む初陣

 

「さて、初戦の対戦相手についてだが」

 

 大会を今週末に控えた俺たち風中野球部。

 

 今日は、部の練習は休みの日。

 大会が近くなっても、週に一度は部活動を休まねばならないという市の定めた制約からは逃れられないわけだが。

 それによって出来たこの空き日を使い、野球部はミーティングを決行しているというワケだ。

 

「トーナメント表をもう既に見てる奴もいると思う」

 

 続けて話すのは綜先輩。

 そう言いながら皆に見えるような位置に、一枚の紙を貼りつける。

 それはもちろん、ついさっき話に挙がった...そう、トーナメント表だ。

 

 その、”風林中学校”のすぐ隣にある学校の名前。それは――。

 

「…なんの因縁か、初戦は大尾中と当たることになった」

 

 本当に、なんの因縁か。

 

 大尾中とは、つい最近練習試合をしたばかり。

 加えて個人的な話になるけど、俺の元チームメイトも所属している。

 

 正直、身内同士の対戦と言ってもいいくらいである。

 

「お互い、もう十分なくらい情報はあるし、そういう意味では平等な試合が展開できると思う」

 

 確かに、その通りだ。

 

「ここまで来たら小細工は無し。全力でぶつかって、全力で初戦、取りに行くぞ!」

 

「「はい!!」」

 

 

*  *  *  *

 

 そして、その日はすぐにやって来る。

 先輩たちとの最後の大会も、待ってはくれないのだと強く感じた。

 

 今日の風中のスタメンは、

 1番レフト克彰先輩、2番セカンド海洋先輩、3番センター綜先輩

 4番キャッチャー翔助先輩、5番ショート孝央先輩、6番ピッチャー健竜先輩

 7番サード椿先輩、8番ファースト広夢先輩、9番ライト怜伊先輩

 …となっている。

 

 一番オーソドックスな布陣。

 俺はベンチスタートだけど、何もやることがないわけでもないし、勝利の為に応援は欠かせない。

 

 一回表から、試合は風中のペースで進む。

 ショートへの内野安打から、送りバントの後、レフト前ヒットでワンナウト一、三塁。

 続いて打席に入った翔助先輩も、このチャンスで初球から良い当たりを放つ。

 

 しかしこれを止めたのが、相手チームのセカンド。

 上への打球にいち早く反応し、ジャンプキャッチ。

 一塁上の綜先輩が帰塁したためゲッツーにはならなかったが、危なかった。

 彼女こそ、俺の元チームメイトでもあり、セカンドと言う位置で大きく立ちはだかっている壁。

 名前は、菊地原美涼。

 

 ただ、これで止まらないのが風中というチーム。

 一瞬相手に傾きかけた流れを、右中間への2点タイムリーと言う形で元に戻したのは、5番の孝央先輩。

 その後は凡退したが、早速2点の先制点を取って良いスタートだ。

 

 その裏の、風中の守り。

 点を取った後の守備は試合展開に繋がるという事もあり、いつも以上に力のこもったプレーも出て、見事三者凡退に抑える。

 

 その後試合は、基本風中ペースで、特に何も問題なく進んでいく。

 点数の動きとしては、三回に1点、四回には2点、六回にも1点を追加した。

 

 そして、最終回を迎える。

 少し前の時点、もっと言えば前日から、最終回は投手交代で自分に出番が回ってくることになっていた俺は、ベンチから少し離れたブルペンで投球前の最終確認。

 

 調子は、まあ良い方だと思う。

 公式戦でピッチャーとして試合に出るのはこれが初めて。

 そういう意味で、自分がどれくらいいけるのか、まだハッキリとは分かっていない。

 

 先輩たちからは思い切って投げろ、とだけ言われた。

 信用してくれているのか、未熟だから余計なことを考えさせたくないのか。

 

 いずれにせよ、とにかく俺はまだまだこのチームで戦っていたい。

 そのために1イニング、全力を出し切って抑える。それだけでいいような気もする。

 

「…緊張してるのか?」

 

 無言で続く投球練習を見かねたのか、そう尋ねてきたのは大吾。

 

「そりゃな、初マウンドだし」

 

 そう返すと、意外なものでも見つけたような表情を浮かべてこっちを見てくる。

 加えて、予想外の返答だったのか、少し表情が曇る。

 

「わり、ちょっとデリカシーない質問だったな、忘れてくれ」

 

「いや」

 

「…?」

 

「助かった、何とかなりそうだ」

 

「そうか?それならいいんだけど...」

 

「おう」

 

 つまりは、そういう事なのだと思う。

 

 確かに考えてみれば、くよくよ考えるなんて俺らしくもない。

 それこそ初マウンドということで、緊張...していたのだろうか。

 

「(ありがとな大吾。

 お前のおかげで、なんか色々取り戻せた...気がする)」

 

 試合の方を確認すると、ツーアウトで一塁にランナーがいるという場面。

 

「相楽が出てる、代走かな」

 

「ああ、弥生が代打で出て、塁に出られたら代走に太鳳が入るって言われてたな」

 

「そうだっけか?」

 

 …それだとなんか可哀そうじゃないですか、相楽さん。

 そういう不平等を生まないためなのかは知らないけど、出塁した沢さんは称賛に値するな。

 

「…ん?」

 

「どうした牧篠」

 

「あ、いや、気にしないでくれ」

 

 さらっと言ったけど、相楽はさておき沢さんのこと下の名、しかも呼び捨てなんすね大吾さん。

 

 …あ、相楽盗塁決めた。相変わらず足早えなあ。

 

「もう投球はいいのか?牧篠」

 

「んー、点が入ってからでいいだろ」

 

「ほう」

 

 ツーアウト二塁。

 傍目から見れば、一打出れば点が入るだろうなという場面。

 

 ただ、俺は感じた気がした。

 絶対タイムリーを打つ、と。

 

 なぜなら、今打席に立っている綜先輩は、そういう人だからだ。

 

 それは、俺がずっと憧れている先輩ならやってくれるという期待感もあるかもしれない。

 ただそれよりも、これまでがそうであったという記憶、感覚が頭に残っているから。

 

 投球練習をやめてまで信じてみることか、と誰かは言うかもしれない。

 だが、少なくともそれは俺にとっては違った。

 綜先輩のこの打席を見届けることにこそ意味がある。

 そして、彼の打席から何かを感じ取らねばならないような気がしたのだ。

 

 

 果たして綜先輩は、本当にタイムリーを打った。

 その打球は、左中間に飛んでいく。

 

 懸命にダイヤモンドを駆ける綜先輩を見て、俺はふと、あの日のことを思い返す。

 

 それは、俺が初めてチームの勝利に大きく関わったあの試合。

 確かあの日も、今の綜先輩のような感じで――。

 

 三塁ベースにヘッドスライディングする綜先輩。

 その姿は、記憶の中の過去の自分と、完全に一致した。

 

 見ていると、先輩はこっちを見てきたようで、

 

「…偶然じゃないなんて、そんなことは...ないよな?」

 

 俺は、そう呟いた。

 

 

*  *  *  *

 

 試合は、7ー0で終わった。

 

 最終回の守り。

 マウンドに上がった俺は、無心で投げた。

 結果、あまり内容は覚えていないのだけど...。

 

 ただ、最後の打者が菊地原であり。

 ファールで粘られた末、8球目でサードゴロに打ち取ってやったという感覚だけが残っている。

 

 とにかく押し切った投球をしたから、何をどこにどのタイミングで投げたかも忘れてしまったくらい。

 

 だからこれは、今日の反省点。

 次マウンドに上がる時は、そういうことも考えながら投球したいと思った。

 

「…ピッチャー、奥が深いな」

 

 帰りの静かなバス内でそっと呟いた俺の声は、誰かの耳に入っただろうか。

 

 分からないけど、願わくは聞こえてないと良いな、となんとなくそう思った。

 




中体連に入っていくのは若干早い気もしますが、新年からはキリよく何かをスタートさせたかったため、こういう形を取らさせて頂きました。
…という事で今年も、どうぞよろしくお願い致します。

ちなみに、来週は登場人物紹介、第二弾を予定しております。各キャラについて第一弾で触れられなかったのについてだけでなく、既に紹介済みのキャラも更に掘り下げたいと思っています!
ハードル上げすぎない程度に、楽しみにして下されば、と。
(追記:2月2日)
投稿順番を入れ替えたため、現在はこの一つ前に登場人物紹介第二弾が投稿されている形になっています。ご了承ください。

それでは今回は、このあたりで失礼します。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第三十二話

今日はちゃんと間に合いました...ホッとしてます。

先週はとんだ醜態を晒してしまい、本当に申し訳ないです。
土曜にしか更新されてるかどうかを確認されていない方は、一話前の、日曜に更新したものも良かったら見てやってください。

…ということで前回のおまけから、今回は再び本編に舞い戻っています。
どうぞよろしく、お願いします!


来たるべき時

 

 今日は、大会の二回戦。

 相手は当山(あたりやま)中学という学校。

 特徴として、その打撃力がとても高いことが知られている。

 中でも用心しないといけないのは、クリーンナップ。

 3番ファーストの水上(みずかみ)、4番サードの伊月(いつき)、5番レフトの猿渡(さるわたり)は、県内でも屈指の強打者。

 ただ投手力はあまり高いわけではなく、エースで6番を打つ東堂(とうどう)の一枚看板。

 基本的にその人が、ほぼ全試合のマウンドに上がる。

 

 そんな相手に対し、我らが風中のスタメンは、いつもとは少し違う形。

 

 先発投手として椿先輩が入り、サードには普段はファーストの広夢先輩が変わって入った。

 そしてそのファーストには、沢さんが就く。

 

 エースのケン先輩は、休んで疲れを取ってもらうという意味でもベンチスタート。

 

 打順的には、いつもケン先輩が入っている6番に、沢さんがそのまま入っているという形だ。

 

 基本的にはセカンドを守っている沢さんだけど、不思議と、緊張しているような素振りもない。

 ちなみに、ファーストは小学生の頃にも、何度かやったことはあるとのことだった。

 

 

 そんなこんなで試合は始まった。

 先攻の風中は初回、ヒットにエラーが絡みツーアウト三塁のチャンスを作ったが、結果無得点。

 

 一方で当山中も、不安定な立ち上がりの椿先輩を攻め立てツーアウト一、二塁のチャンス。

 しかしここを、自慢の制球力で見逃し三振に抑えて切り抜ける。

 

 その後二回の表、ワンナウトから沢さんがヒットで出塁すると、打席には椿先輩。

 1ー1からの3球目、ヒットエンドランのサインで上手く打球を転がして一、三塁となる。

 このチャンスに広夢先輩はショートフライに倒れてしまうが、続く怜伊先輩。

 初球のインコース低めのボールを引っ張り打って、これが2点タイムリーツーベースヒット。

 風中が2点を先制した。

 

 更に三回表。

 先頭打者の海洋先輩がフォアボールを選ぶと、盗塁とバントでワンナウト三塁。

 続く4番の翔助先輩が左中間を破り、5番の孝央先輩も右中間を破って二者連続タイムリー。

 これで試合は4-0となり、かなり優位な状況に。

 

 しかし、そう簡単に事は運ばない。

 三回ウラ、四回ウラは、どちらも相手にチャンスを作られる展開。

 椿先輩の踏ん張りとチームの堅い守備で、なんとか失点は阻止し続ける。

 

 逆に風中は四、五回と、ランナーが一人も出ない。

 

 そして、五回のウラ。

 この回相手の打順は1番からで、不穏な空気が流れ始める。

 

 4点リードはしているこの状況。

 だが打撃力のあるチームに勢いを与えてしまうと最後、流れを持っていかれるかもしれない。

 そういう不安が、風中のメンバーの心を駆り立てる。

 

 

 その時だった。

 

「牧篠、行くぞ」

 

 声の主は...ケン先輩。

 

 その表情は、いつもの落ち着きはらったような、でも奥深くで闘志を燃やしているもの。

 

「でも俺だと、先輩の練習にならないんじゃ...」

 

 先輩がブルペンで準備するつもりなら、俺ではなく大吾に言った方が良いはず。

 そこを俺に言ってきたのはどういうつもりなんだろうかと、疑問を呈する。

 

「二人で一緒に準備するためだよ、ほら、早く早く」

 

 そう言って急かされる。

 とりあえず言われた通りについていくことにする。

 

「あの、二人で一緒に準備って?」

 

「そのままの意味」

 

 俺の質問への返答は、そんな感じのとても淡白なもの。

 自分で考えろ、という事なのか。

 

 

 そこから少し、思考回路を巡らせて。

 先輩とのキャッチボールも、若干本格的に熱が入ってきた頃、少しだけ分かった。

 

 それは要するに、点差だ。

 

 今日は元々、接戦にならない限りはケン先輩の出番はないはずだった。

 椿先輩の完投か、俺がまた途中から代わって入るか、という話になっていた。

 

 しかし、今日の試合。

 現時点で四点差はあるけど、下手をしてしまえば追いつかれかねないのが、相手チームの実力。

 その万が一を考えて、ケン先輩は自分も準備することに決めたのだろうか。

 

 とりあえず俺が考えられるのはこれくらいなので、頭を切り替える。

 

 試合に出るとなったら、どんな場面で、どんな打者と当たるのか。

 そこの心の準備をしておく必要がある。

 

 

「…大丈夫そうだな」

 

 ふと、ケン先輩がそう呟く。

 その目線の先には、守備を終えてベンチに戻ってくる風中のナイン。

 

 見ていると、椿先輩がドヤ顔交じりにピースしている。

 おそらく視線的に、相手は俺ではなくケン先輩みたいだけど。

 

 先輩は、少し笑みを見せながら俺の近くに...と、通り過ぎてベンチへ行く様子。

 

「ちょ、先輩?あの...」

 

「ん、なんだ?」

 

「いや、キャッチボールは...?」

 

「そりゃないぞ。…というか先に言ったの牧篠だろ」

 

 だめだ、先輩の言ってることが分からないぞ。

 

「マウンド上がるはずだし、この後は大吾とやれってことだよ」

 

「ケン先輩はもう、いいんですか?」

 

「…俺は皆を信じてる」

 

 最後はよく分からないセリフを残して去っていった先輩。

 

 その後色々考えていた俺のところに、大吾が走ってやって来た。

 

「…なんかやらかしたか?牧篠」

 

「はい?いや、なんの話だよ」

 

「それなら勘違いか、気にしなくていいや」

 

「気になるじゃんか、教えてくれ」

 

「…まあ簡単に言うと、健竜先輩が少し、不機嫌そうに見えたっていう話」

 

「…なんで?」

 

「だから聞いたんだろ。なんかやらかしたか?...って」

 

「…俺、なんかやっちまったのか?」

 

「いや、俺に聞かれても分かるわけないって。

 …というかほら、投球練習やるんだろ」

 

 なんだか釈然としないまま、大吾にせっつかれてブルペンのマウンドに登る。

 

 そんな心理状態でのピッチング練習。

 まともに出来るなんて、そんなはずもなく。

 

「集中しろ」

 

「…すまん」

 

 こんなやり取りが続く。

 

 しかし俺の頭は、ケン先輩の不機嫌さの原因を探そうとしていた。

 ただ残念なことに、分からないことはいくら考えても分からないのであって。

 

 そんなモヤモヤを抱えたまま、俺の気持ちはよそに試合は進む。

 そして俺がマウンドに上がる瞬間も、刻々と近づいてくるのであった。

 




短めで、更に試合はまだ終わらないという形に...中途半端にはなりましたが、まあ、そこは大目に見て下さると有難いです。

あと来週くらいに、前回投稿しているおまけ②に関しては第三十一話の前に挿入して順番を入れ替えておこうかなと思ってます。
後書きで色々書いてるのでこんがらがりそうという事もあり、その辺の文章も修正しておきます。
…という事で、ささやかな報告でした。

それでは、今回はこのあたりで失礼します。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第三十三話

先週はサボりました…というより自分の用事に追われてました、すみません…

と、いうことで久しぶりの投稿になります。
どうぞ、よろしくお願いします!


それぞれの気持ち

 

 『女の子なのに野球なんて』

 

 ずっと前から、周りに言われ続けてきた言葉。

 言われるたび、返すのは苦笑いの表情。

 

 始めは、どうでもいいと思っていた。気にすることじゃないと。

 実際、野球に打ち込んで男子にも勝つことで、私はそのような言葉を跳ね返してきた。そんな自負が心の底にある。

 

 でも。最近は。

 なんだか、突き刺さる。

 

 少しずつだけど感じ始めて来た、明らかな男女の力の差。成長の差。

 

 それは、どうやっても埋められないものであり、感じずにはいられないもの。

 向き合いたくなかった、考えたくなかった。

 むしろ、考えないようにしていたのかもしれない。

 

 その”感じ”は、一年生の後半頃から何となく抱いていた…けど、認めたくなかったもの。

 

 それが確たる認識になったのは、言うまでもなく、私が進級して後輩が出来てから。

 その一人の少年の愚直な成長に、私は嫉妬した。

 

 同時に、悟ったのだ。

 もう昔のように、軽々しく男子に勝てるなんて、そんな甘くはないのだと。

 

 だから、この中学最後の大会。

 私の持てるすべての力を出して終わってやろう、散ってやろう、と決めた。

 

 そんな決意で迎えた二回戦。

 先発のマウンドを託されたのは…私。

 相手は当山中、打撃の強いチーム。

 

 ピンチは作られたけど、なんとか粘り続けて迎えた五回ウラの守り。

 

 ()()()()が、ベンチを出ていく様子が見えた。

 一人は、同級生で、私の中学での投手生活を半壊させた男子。

 一人は、後輩なのに、私の心を壊す契機になった男子。

 

 このまま、負けていいのか。

 ずるずるといいようにやられて、何もできずに降板していいのか。

 

 …いや、そんなはずがない。

 

 私にだって、プライドがある。

 これまでずっと男子に追い抜かれながらも進んできた、そういうプライドが。

 

 だから、出し切るんだ。

 自分の全てを。今ここで。

 

 五回と、六回の相手の攻撃。

 出し切る力を全て発揮して、無事無失点で切り抜けた。

 

 お疲れさまです、と何も知らない後輩に言われる。

 

 私は、少しの敗北感と試合への満足感を胸に込め――。

 

 

* * * * * *

 

「ありがと、後はよろしくね」

 

 …と。

 そう、椿先輩に言われ送り出された、この試合最終回のマウンド。

 

 その言葉に込められた本当の意味は、分からないけど。

 とにかく今は、先輩が繋げてくれたこの試合を不意にしないために、全力で応えるだけ。それしかない。

 

 相手の打順は、8番から。

 

 自分が投げられるのは、ストレートと、一つの変化球。

 変化球といっても、ケン先輩のカーブだったり、椿先輩のスライダーであったり、そんな出来の良いものでもないんだけど。

 

 俺の一番の憧れ、野球を始めるきっかけになったその人は、実際直球勝負が主だった。

 だから俺も、どちらかと言うとそのスタイルでピッチャーをやっていきたいと思っている。

 

 打席に入った右打者と対峙する。

 その奥で構える翔助先輩とサインを交わし、振りかぶって投げる。

 

 初球、いきなり振り抜かれた打球は俺の頭を越えて外野へ…が、センター定位置へのフライだ。

 綜先輩がしっかりと掴み、これでワンナウト。

 

 次のバッターは左打席に入った。

 先輩のミットはアウトコースに構えた。

 俺は、先輩を信じて腕を振るう。

 

 これまた初球攻撃で、打球は俺の右を抜けてショート方向へ。

 孝央先輩が流れるように処理し、一塁の沢さんへ送球。これで、ツーアウト。

 

 一旦、気持ちを落ち着ける。

 このままあと一人、抑えられれば勝利だ。

 

 でも、どうなるか分からない。何が起こるか分からない。

 相手の打順は1番に還ったし、まだ諦めの表情がない以上何とか食らいついてくるに決まってる。

 

 俺は、覚悟が出来ているか?

 

 

 …言うまでもない。

 この回、この試合の最終回の、このマウンドに立ったときから、その強い気持ちだけはしっかり忘れずに持ってきたつもりだ。

 

 絶対に、抑える。

 

 相手の1番は右バッター。

 翔助先輩とのサインから、初球に投じるのは俺が唯一投げる変化球。

 インコースに構えられたミットに向け、これまで以上に強く腕を振る。

 そのボールは、ホームベース当たりで、打者に近づくように変化し、先輩のミットに収まる。

 ワンストライクだ。

 

 先輩が、ナイスボールだと言いながら返球してくれて、少しホッとする。

 

 さっきの球は、シュートボール。

 自分が投手になると決めたその日、直球勝負中心の俺に合いそうな変化球を探して…見つけた。

 

 もちろん、フォークなどの落ちる球で三振を取るスタイルも憧れはあった。

 でも、何となく違う気がした。

 あの人の真似だけではダメだ、あくまでも自分のスタイルというのを見つけなければ、と思った。

 

 だからこそ見つけた、俺のスタイル。

 

 二球目の要求も、インコースのボール。今度は、ストレートだが。

 それに応えてしっかりと投げきる。

 相手バッターは強い目をしながら、でも少し内への攻めに恐れているように見えた。

 

 三球目は、初球に投げたのと同じボール。

 投げると、相手は打ってきた。ただ、バットに当たっただけのファールボール。

 

 そして四球目、先輩の要求は外角へのストレート。

 さすがに俺でも、意図が分かる配球。

 

 内角攻めから一転、外角球で見逃しを狙う。

 

 俺は、今日一番の力を込め、制球にも配慮して渾身の一球を投げる。

 力なく打たれた打球は、ふらふらと内野に打ち上がった。

 

 飛球を、セカンドの海洋先輩が掴む。

 

 これでゲームセット。俺たちの勝ちだ!

 ホームベースに沿って向かい合い、整列する。

 

 グラウンドに、ありがとうございました、という声が響いた。

 




一週間空いた割に文字数少なくてすみません...期待されていた方には味気ない内容だったかもですね。。

そして、ここで一つ。
急にはなりますが、これまで毎週投稿を基本的に続けてきたところ、今後は不定期にしようと思っています。
未だに原作にすら届いていませんが、ちょっと最近は書く力が弱まってきてまして...(汗)

月に二回は最低でも投稿しようと思っているので、宜しくお願いしたいです!
そして頻度が減る分、文字数であったりクオリティであったりというものを、もっともっと良くしていければと思っています。
ですので良ければ、辛口でもいいので評価や感想等をより貰えると嬉しい限りです。

…という事で、日ごろからご愛読して頂いている皆様には、今後ともご贔屓にして下さればと願うばかりです。

それでは今回はこのあたりで。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


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第三十四話

大変ご無沙汰しておりました。
どうも。kwhr2069です。
色々語るべきことはあるのですが、長くなるので先に本編をお送りし私個人の話は後書きにて少し詳しく書いていきたいと思います。

久々の投稿のため内容を忘れたという方は、少し戻っておまけ②をざっと読んでいただければ。

それでは、どうぞ!


不穏なムード

 

 二回戦を突破したその日、俺たち風中野球部は試合後家へは帰らず、球場のスタンドにいた。

 次の試合の勝者が対戦相手になる予定であり、少しでも情報を集めておくためだ。

 

 その試合、5ー3で勝利を収めたのは宇戸(うど)中学だった。

 

 初回に死球やエラーが絡み先制点こそ許したものの、3回には同点に追いつき、5回、相手のエース降板を皮切りに4連打を放ち試合を決定づける3得点。

 

 投手陣は先発の向島(むくしま)から新田(にった)志野(しの)と3人の投手リレー。

 1人目の向島は背番号9の右投げで直球主体。3人目の志野は背番号11の右投げでカーブやスライダーなどを投げていた。

 そして背番号1をつけた新田は、左投げで力強い直球と小さく変化するカットボールを武器にインコース主体の強気の投球が目立った。

 中でもエースの新田は特に良いピッチャーに見えたが、俺の先輩たちの打力なら打ち崩せないことはないはずだ。

 

 三回戦は明日行われ、これに勝てば準決勝進出が決まる。

 順当にいけば、準決勝では英邦学院と当たる予定だ。

 風中野球部の皆は、あの日負けた悔しさがあってここまで練習してきたと言っても過言ではない。

 

 そのリベンジのためにも。

 明日は絶対に負けられないのだと、皆決意を新たにし球場を後にするのだった。

 

 

*  *  *  *

 

 翌日。

 試合前に出された両チームのオーダーはこれだ。

 

  風林 打順  宇戸

 7近江 一番 8荒牧

 4坂口 二番 9向島

 8茅ヶ谷三番 6岩見

 2徳地 四番 5神凪

 6市松 五番 1新田

 1濱内 六番 3伊佐山

 5綾部 七番 2原

 3丹波 八番 4森下

 9渡  九番 7早川

 

 相手先発は新田、こちらはケン先輩で、両エースの登板となった。

 

 そうして始まった試合の初回、先攻の風中は3番の綜先輩がチーム初ヒットで出塁。が、得点とはならず。

 一方の宇戸中相手に、ケン先輩は3人でぴしゃりと抑える良い立ち上がりを見せる。

 

 その後、両チームともにランナーは出るが得点は奪えず。

 

 試合が大きく動いたのは3回裏、宇戸中の攻撃。

 先頭の8番森下が四球を選び、次打者は犠打を決める。これで、一死二塁。

 二巡目に入り1番の荒牧。バントの構えなどで揺さぶりながら10球以上粘り、また四球を選ぶ。

 一死一、二塁となったところで一旦内野のタイムが取られた。

 

 

「宇戸中、嫌な野球してくるな」

 

 隣で試合を見つめる大吾に話しかける。

 

「ああ、昨日も思ってたけどピッチャーの嫌がる事とことんやってくるって感じだな」

 

「初回からバントの構え続けられてるし、ほんとに徹底してる」

 

「投球練習、やっておくか?」

 

 大吾に問われる。

 

「…いや、今はいい」

 

 そう答える。

 

『試合状況を見て、必要だと思ったらブルペンで肩を作っておいてくれ』

 今朝、綜先輩に言われたことだ。

 

 でも、今はまだその時ではないと思う。

 

 それはケン先輩の目を見れば分かる。

 こんな戦術に屈さない、負けてたまるかという気持ちが俺にも伝わってくる、強い決意の目。

 

 だから俺は、一人の後輩として、先輩を信頼し応援する。

 それが今やるべきことだろう。

 

 

 タイムの輪がとけ、試合は再開。

 打席の2番向島はバントの構え。

 ケン先輩は初球を投じ、三塁側へバントに備えてチャージ。

 対する打者はバットを引き、バスターの要領で打ち返した。

 ケン先輩の近くに打球が飛ぶ。

 素早い反応をした先輩が差し出したグラブに、パシッとボールが収まった音がしてピッチャーライナー。

 打者はアウトで走者も動けず、最高の形でツーアウト。

 

 次の打者は3番岩見。

 その初球、内角の直球に上手く反応した打球がレフトの前へ抜ける。

 

 二死満塁で、4番の神凪を迎えた。

 一打席目にはチーム初ヒットを打っており、今日一のピンチだ。

 

 初球、緩いカーブから入りストライクを取ると、その後三球直球を続けファール、ボール、ファールでカウントは2ー1。

 追い込んでからバッテリーが選択したのは、決め球のドロップカーブ…だったのだと思う。

 

 ホームベース付近でワンバンしたそのボールは、キャッチャーの構えた横をすり抜けるワイルドピッチ。

 満塁で埋まったランナーは、それぞれ進塁。

 その後、スローカーブでレフトフライに打ち取ったが、痛い1点がスコアボードに刻まれた。

 

 

「すまん!ボールが微妙に引っかかった、俺のせいだ!」

 

 ベンチに帰るや否や、手を合わせるケン先輩。

 

「いや、止められなかったのにも責任はある。ケンだけのせいじゃない」

 

「でも…」

 

「罪の被り合いはそこまで」

 

 庇おうとする翔介先輩に対してケン先輩が何か言いかけたところを制したのは綜先輩。

 

「それより、取られた一点をどう返すかが問題だろ?違うか?」

 

「…違わない」

 

 そう答えたケン先輩に対し満足そうに頷く綜先輩は、輪の中心となって相手投手の攻略を練る。

 

 そして始まった4回表の攻撃だったが、先頭の綜先輩が死球を受け、二死三塁から6番のケン先輩も四球を選ぶ。

 しかし作ったチャンスは生かせず、無得点に終わった。

 

 対する宇戸中は、2人にヒットが出て二死一、三塁とするも、9番が倒れて無得点。

 だが、試合の流れはなんだか宇戸中が握っているような感じに思えた。

 

 5回表。

 ツーアウトから1番克彰先輩が死球を受け出塁、即座に盗塁を決めたが2番の海洋先輩は空振り三振。

 これで、5回終わって5残塁。多すぎるわけではないが、なんだかもやもやした雰囲気が漂う。

 

「なあ」

 

 隣にいた大吾にまたも話しかける。

 

「…”多い”よな」

 

 俺の言いたいことを分かっているという風に頷く大吾の目は、少し怒っているように見えた。

 

 この試合、こちらが出したランナーの数は5つで、その内訳はヒット2本、死球3つだ。

 数で見ればそこまで目立たないが、昨日の試合も見ていた俺たちには何か引っかかる点があった。

 

 それが、相手チームの死球の多さだ。

 故意なのか違うのかは分からないが、そんな違和感を抱かせられる投球内容に思える。

 

 もし相手の戦術が『敵を苦しめる』ことであれば、バントの構えを取ってくるスタイルとも辻褄が合うし、そういう風に捉えてしまうような状況になってきていた。

 

 

 マウンドに目を向けると、疲れ気味に汗をぬぐうケン先輩が目に入る。

 初回から繰り返されてきた戦術を思えば、そろそろ体力の限界が来ていてもおかしくはない。

 

 だが、それを繰り返されてもなお、むしろ繰り返されるほど力強くなるピッチングに、小学生の時にも抱いた憧れの気持ちがよみがえるような感じがした。

 打席に入っていた相手の3番打者を直球で押し、最後はドロップカーブで三振に抑える。

 この回三者凡退の投球。

 

「ケン先輩、かっこよすぎだろ…」

 

 思わず漏れる声。そして、

 

「大吾、ブルペン行くぞ」

 

 一つの確信とともに、俺はベンチを出て投球練習へと向かった。

 

 

* * * * * *

 

「剣竜、大丈夫か?」

 

 ベンチで汗を拭っていると、ヘルメットを被った綜が真剣な目つきで問うてきた。

 

「ああ、問題ないよ。それに…」

 

 そう返しながら目を向けた先では、一人の後輩が投球練習をしている。

 

「あれだけ信用してくれてる後輩がいるんだ。弱気な姿は見せられないだろ?」

 

「まあな」

 

「ただ今日の試合、あいつにマウンドを譲るつもりはない。

 …というか、一人で投げ抜くつもりで来てるからな」

 

「それはやっぱり…相手の戦術が?」

 

「もちろんそうだが、それ以上に戦う意志が強すぎるからだな。

 あれでマウンドに立ったら、相手にデッドボール当て始めてもおかしくない」

 

「そういう陰湿なやつか?」

 

「陰湿さじゃなく、強気すぎるからだと言え」

 

「そういうことにしておくよ」

 

「そもそもあいつは、まだ登板経験が浅い。そういうピッチャーを上げるくらいなら、疲れてでも俺が投げる方がマシだとも思う」

 

「それについては一理あるかも」

 

「まあなんにせよ、だ」

 

「…?」

 

「一本頼むぞ、キャプテン」

 

「ああ、言われるまでもない。

 お前の言う通り、これ以上後輩に情けないサマ、見せ続けるわけにもいかないしな」

 

 ブルペンに一度目を向け、打席へ向かって歩き出す親友。

 それはこれまで幾度も見てきた姿で、これ以上ないほどに信頼できる背中だった。

 




本編、お疲れさまでした。
大まかなプロット等は残っていたものの、本当に久々すぎて私自身、これまでの話を振り返りながら書いておりました…笑

さて。
この作品を好きでいてくれる方、毎話読んでくださる方々、お久しぶりです。
まずは、いきなり蒸発したように消えてしまい申し訳ありませんでした。諸事情により一時期ログインできなくなるなど色々あったのですが、一年以上も放置してしまったのは私の責任です。重ねてお詫び致します。
また、休載期の話に関しては本日18時に投稿される活動報告にて、掘り下げた話をしていますのでよければそちらをご確認ください。次話以降の後書きで小出ししていく予定もあるので、面倒な方はそれまで待っていて下さればと思います。

ここからは少しだけ再開の理由を語らせていただきます。
今回、私が久々に筆を動かしたのは、他ならぬアニメ2期の放送がきっかけでした。
放送決定についてはもちろん前から知っていたのですが、実際に動いている大吾たちをアニメで見ると心の中で何か燃えてくるものがあり、加えて昨今のコロナウイルスの事情により自宅で暇な時間を過ごしていたことから、書けると判断して連載再開を決めました。
本日から、少なくともアニメ放送期間中までは、ひとまず以前のように17時30分の毎週投稿を続けていく所存です。都合で追いつかなかったらすみません。

休載中、本編をご覧になった方や感想を書いていただいた方。
私が戻ってこられたのはそのような力もあってこそです。感謝の念に堪えません。

それでは長くなってしまいましたが、今回はこのあたりで失礼したいと思います。
ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました。


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第三十五話

どうも。先週ぶりです。

前置きは短めにしておいて、さっそくどうぞ!



勝負の分かれ目

 

 6回表、この回先頭は3番の綜先輩。

 ブルペンから、先輩の打席を見つめる。

 

 そこで、左打席に入った先輩の立ち位置に対して違和感を覚えた。

 いつもと比べ、ホームベースから離れて立った先輩を見て、相手バッテリーにも少し戸惑いの色が見える。

 

 その初球。アウトコースに投じられたボールに対し、完全に踏み込んで打ち返す。

 打球はレフト線へ飛んでいき、先輩は二塁まで進んだ。

 

「狙ってたな、先輩」

 

 ブルペンで向かい合う大吾が、声をかけながらボールを投げ返す。

 

 あえて離れて立つことでアウトコースを誘い、狙い打った…のだと思う。

 相手にインコース攻めを続けられていたから自然な立ち位置にも見えるし、さすがの発想力だとしか言いようがない。

 何よりも、狙い球を1球で仕留める集中力がすごい。

 

 綜先輩の長打に盛り上がる風中ベンチとは対照的に、宇戸中はタイムで間を取る。

 

 マウンドの輪がとけ打席に4番の翔介先輩が入ると、バッテリーは明らかなボール球を4つ続け敬遠を選択。

 ランナーを埋めた状態で5番の孝央先輩との勝負に出るかと思いきや、そこでも敬遠。

 

 無死一、二塁からまさかの満塁策。

 ここで打席には、6番のケン先輩が入る。

 

 初球はインコース低めに投げ込まれた直球でストライク。

 2球目、3球目は外に外れてボール。

 打者有利のカウント1ー2から、4球目はインコースへのシュートだった。

 手を出した先輩のバットの根元に当たり、ボテボテの打球がピッチャー前へ転がる。

 

 1ー2ー3の本塁ダブルプレー。

 風中は一気に劣勢。

 

 7番は椿先輩。2球で追い込まれ、3球目はインコースへのカットボール。

 詰まった打球は三遊間へ飛ぶ。

 

 やばい、と思ったその瞬間だった。

 

 

「抜けろー!!」

 

 グラウンド中に響き渡る声とともに、転がるボールが突如不規則に跳ねた。

 グラブを差し出していたサードがファンブルし、その間に声の主は一塁を駆け抜けた。

 

 首の皮一枚繋がり、1点を返して二死一、三塁という場面。

 ここで打席に立つのは、8番丹波先輩…の代打、沢さん。

 

 エラーでの失点に、再度宇戸中の内野手はマウンドに集まりタイムがとられる。

 

 一塁を見ると、ついさっきの声が恥ずかしいのか椿先輩はベース上でベンチに背を向けて座っていた。

 ベンチからの声援や野次にも無反応で無視を決め込んでいる。

 

「あんな風に恥じらう先輩は珍しいかもな」

 

「確かに。いつもなんか飄々としてる感じだし」

 

 俺と大吾も口調がどことなく軽くなる。

 確かなことは分からないが、もし野球の試合に”流れ”が存在しているなら、今それはきっと俺たちについているのだろうと強く感じた。

 

 

 そして…。

 

*  *  *  *

 

「ストライッ!バッターアウト!」

 

 7回ウラ、ツーアウト。

 9番の打順で出された代打をケン先輩が三振に抑え、試合は終わった。

 

 

 6回表、代打の沢さんが2点タイムリーツーベースヒットを打って逆転に成功した風林中。

 続く怜伊先輩はサードライナーに倒れチェンジとなったものの、ケン先輩が2イニングを3人ずつで完璧に抑え、結果3ー1での勝利。

 

 準決勝に駒を進め、対する次の相手は英邦学院となる。

 

「先輩」

 

「ん?…ああ、牧篠か」

 

 試合後、ケン先輩に声をかけ肩や肘のアイシングを手伝う。

 

「完投、お疲れさまでした。

 5回から7回までの3人斬り、見ててほんとにしびれました」

 

「まあ今日は、相手が相手なだけに、完投するつもりで来てたからな…達成できてよかったよ」

 

「…?」

 

「バントで揺さぶる戦術のことだ。

 まだ登板歴が浅いお前に、上手く対応できるか考えてたが無理そうだったんでな」

 

「それは…面目ないです」

 

「いやいや、お前はまだ1年なんだ。出来ないことがいくつあってもそれは仕方ないことだよ」

 

 それに、とケン先輩は続けて話す。

「トーナメントは一回勝負。大事な場面で応えてこそエースだと俺は思ってる。

 永遠にマウンドに立ち続けられる訳じゃないが、投げられる限りは投げないとな」

 

 今日の試合、終盤の先輩の投球は最近見た中でも本当に凄みがあり、何か鬼気迫るものを感じた。

 それは、次に進むために今必要なことが自身の完投だと思っていたからであり、だからこそ力を込めて投げ続けていたのだろうと分かった。

 

 でも、とさらに続ける。

「明日の準決勝、俺一人が投げての勝利は無理だ。

 勝つためには椿、そして牧篠と佐倉の投球が必要になると思う。」

 

 文字通り総力戦だ、とケン先輩は言う。

 

 

 思い返せば、5月。

 まだマウンドに立てなかった俺は、英邦学院に負けた後、ケン先輩が立ち続けたその場所をただ悔しく見つめることしかできなかった。

 

 だが、今は違う。

 俺は一人の投手として風林中にいる。

 できることはまだ少ないけれど、投手としての成長をずっと続けてきたつもりだ。

 

「明日は、俺も自分の出せる全てを尽くしますから」

 

「ああ、頼むぞ」

 

 そう応えたケン先輩の顔には、どこか安心したような笑みが浮かんでいた。

 

 

* * * * * *

 

 夜。

 そろそろ寝つこうとした時、自分のスマホから着信が鳴る。

 相手を確認し、電話を取った。

 

「どうした、ケン。こんな時間に」

 

 そこから流れてきた言葉に、俺は耳を疑った。

 

「大丈夫…じゃないよな?」

「明日はどうなるんだ」

 

 なんと言えばいいか分からず、短文で言葉を交わす。

 

「…そうか分かった。でも」

 

 でも…の先は、言葉が出てこなくなった。

 

「いや、やっぱりいい。とりあえず今日は早く寝とけ」

 

 そう言って、電話を切った。

 そこからずっと、俺はベッドに横になり考え事をしていたが、気付けば眠ってしまっていた。

 

 

*  *  *  *

 

 朝。

 球場に向かう途中で発表したスタメンを見て、13人の部員が驚いた目を俺に向けていた。

 

 今日の相手は、県内屈指の強豪英邦学院。

 一度負けた相手で、その雪辱を晴らすために今日は勝たねばならない。

 この思いは皆で共有して一致しているはずだ。

 

 そんな大事な試合、先発のマウンドには椿が上がる。

 代わってサードに牧篠、ファーストの丹波も沢に代わった。

 

 エースの剣竜は先発登板ではなく、スタメンからも名を外れた。

 

 その理由は一つ。

 剣竜が()()()()()()()()()()()だった。

 




本編お疲れさまでした。

さて、今週の後書きでは、先週投稿した活動報告の一部抜粋ということで、休載していた主な理由に関して触れようと思います。
「一時期ストーリーの過程・展開のさせ方に悩み、上手く書けていない・自分が見ても満足できないと感じ、これ以上は書き続けられないと思っていた。その後、不定期投稿にすると公表した(第三十三話あとがき)ことから責任感が薄れて考えることもやめ、完全に放置することになった。」とまあ、このようなだいぶ身勝手な原因で書けていませんでした。

今後、もしかしたら似たようなことが発生するかもしれませんが(起きないのがベストですが)自分の中でしっかりと満足のいくものが書けるように頑張っていくつもりなので、応援を頂けるとすごく力になると思います。

それでは少し長くなりましたが、今回はこのあたりで失礼します。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


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第三十六話

どうも。
前も話題にした気がしますが、この時間帯って“こんにちは”と“こんばんは”だとどっちの方が適してるんですかね…?
『どうも。』だけなのは味気ないので、何か付け加えたいんですが自分の中で決めるのが難しくて一生悩んでしまっています。

…とまあ、雑談もこんなところにしておいて、では本編へどうぞ。


白熱の準決勝

 

 試合が始まる前に伝えられた普段と違うオーダーの中には、俺の名前があった。

 

 そして、エースのケン先輩が事情により今日は投げられないことも伝えられた。

 現に、その先輩は今ここにいなかった。

 綜先輩によると朝から病院へ行って診てもらっているらしい。

 詳しいことは伏せられたが、肩の故障とだけ教えられた。

 

 昨日の試合が原因なのか、これまでの投球の蓄積の結果なのかは分からない。

 よりによってどうしてケン先輩が、という気持ちになる。

 きっと今日の英邦学院との再戦を一番望んでいたのは先輩だし、リベンジを果たしたいと思っていたはずなのに。

 

 ケン先輩のことを思い気持ちの沈む中、綜先輩がその時声を上げた。

「今の俺たちにできることは、勝つことだ」

 

 皆の顔が上がる。

 

「この準決勝、剣竜がマウンドに上がれないのは本人にとっても悔しいこと。

 だから、俺たちは今日勝って決勝に進む。そしてそこで、剣竜の気持ちをぶつけてもらうんだ」

 

 そうだよな、と誰かが言った。

 その声に、皆が決意を固めたのが分かった。

 

 こうして一つになった俺たち風中は、英邦学院との試合に臨む。

 

 

*  *  *  *

 

 試合開始前、センターのバックスクリーンに両チームのスタメンが表示される。

 

  風林 打順 英邦

 7近江 一番 4本田

 4坂口 二番 7宇佐

 8茅ヶ谷三番 5酒井

 2徳地 四番 2堀

 6市松 五番 9豊原

 3沢  六番 1地頭

 5牧篠 七番 8水戸

 1綾部 八番 6川相

 9渡  九番 3菅野

 

 風林中が先攻で行われるこの試合、両チームの先発投手はエースではなかった。

 

 風林の先発は背番号5をつけた綾部椿。右のサイドスローで変化球主体の投球が特徴。

 県下最強と名高い英邦学院にどこまで的を絞らせないピッチングを見せられるかが鍵となる。

 

 一方の英邦学院、先発は次期エースと言われている背番号10の2年生地頭。力強い直球が武器の右投げ投手。

 エースの豊原はライトに就いており、今大会この二人を含む四人の投手を使って未だ無失点。継投をする際の見極めが重要になるだろう。

 

 初回、両チームともに三者凡退の立ち上がりでゆったりと始まった試合だったが、2回の裏先頭の堀がヒットで出塁すると、少し制球を乱した投手から豊原は四球を選び無死一、二塁とする。

 しかし、このピンチをサードライナー、空振り三振、ショートゴロに抑えて切り抜ける。

 

 だが3回裏、ワンナウトから1番本田が内野安打で出塁すると、犠打で進塁の後、センター前ヒットで英邦学院が1点を先制する。

 

 4回表、これまでランナーを出せていない風林中の攻撃は1番の近江から。

 4球目の外角直球に当てただけの打球は三遊間深い所へ。ショートが追いつくも投げることなく一塁はセーフとなり内野安打。続く坂口は初球で送りバントを決め、一死二塁。

 ここで茅ヶ谷がレフト前ヒットを放ちチャンスを拡大すると、徳地が左中間へ犠牲フライとなる飛球を打ち、同点とした。

 

 同点に追いついたここでしっかり抑えたい風林中の綾部。

 しかし4回裏、先頭の豊原が右中間を破るツーベースヒット。

 続く6番のセカンドゴロの間に進塁し、7番水戸は内野フライに倒れるも8番の川相が8球粘ってしぶとくライト前ヒット。これで追加点を挙げ、再度一点差に戻した。

 

 

*  *  *  *

 

「牧篠、次の回から行けるか」

 

 5回表の始まろうとする頃、ネクストバッターズサークルにいる牧篠に声をかける。

 

 エースの剣竜は投げられない状態で、相手は強豪の英邦学院。

 初回から、攻撃中になるとブルペンへ行って投げられる準備をしている様子だった。

 

 そして椿は2イニング続けての失点。4回を終わって1点ビハインド。

 

「…分かりました。準備はできてます」

 

 答える声が震えている。

 

「さすがに、心の準備はできてないみたいだな」

 

 見透かされた、という表情をした牧篠に向かって、俺は切り札を繰り出す。

 

「…一つだけ、剣竜から言付けを預かってる。聞くか?」

 

「ケン先輩から…!?」

 

 首を縦に振る牧篠。顔が聞かせてくれと言っている。

 

「『自信を持って投げろ。俺が保証する』だそうだ」

 

 一瞬、牧篠の時が止まった感じがしたが、その直後俺に向けてきた顔は、どこか既視感を覚えるものだった。

 

「…とりあえず、この回は2人目の打者として自分を援護するつもりで立ってこい」

 

「分かりました」

 

 その返事を聞き、ベンチへ戻る。

 途中で俺の後ろに立っていた翔介と目が合う。

 

「大丈夫か、あいつ?あそこまで言ったら気負いそうだが」

 

「…あいつの目、見たか?」

 

「目?まさか何か変なとこでもあったのか?」

 

「いや、そうじゃない。ただ、同じだったんだよ」

 

 そう。

 牧篠は、まさしく昨日の剣竜と同じ目をしていた。

 

 自分がチームを背負って投げ抜くという決意の目。

 それは、決して気負いなどではない。”覚悟”の目だ。

 

 

*  *  *  *

 

 ついさっき、次の回からの登板を告げられた。

 左胸に手を当てると、心臓がバクバク鳴っているのが分かる。

 

 一旦心を落ち着けるため、すーっと大きく深呼吸してみるとなんだか落ち着けた気がする。

 

 今は、5回の表。風中の攻撃。

 打席に立つのは6番の沢さんで、この後俺に回ってくる。

 

 相手投手の地頭は、速いストレートを投げてくるが一打席目でボールはだいたい見た。

 内角球に詰まらされて内野ゴロに終わったが、次は打ち返せるはず。

 

 そして…それはおそらく、沢さんにも言えるはずなのだ。

 

 

 快音が響いて、打球がセンター前へ飛ぶ。

 先頭の沢さんが出塁。チャンスをつくるときが来た。

 

 ネクストバッターズサークルからベンチを振り返ると、皆が声をあげている。

 

 1点ビハインドの状況。

 でも、負けない。諦めない。絶対に勝つ。

 そういう思いを胸に、俺は打席へと向かう。

 

「(さて、サインは、と…了解です)」

 

 ベンチから出されるサインに対してヘルメットのつばを触って返す。

 

 相手の内野の位置は、二遊間が二塁寄りのゲッツー狙い、サードはやや前でバント警戒。

 俺がバントの構えを見せると、サードはさらに前へ。

 

 初球。内角高めに来てバットを引く。判定はボール。

 サードのピッチャーがチャージをかけてきたが、戻る。

 俺はベンチのサインを確認した後、再度バントの構えを見せ、投球を待つ。

 

 2球目、の前にピッチャーが一塁へけん制。何か仕掛けを警戒しているのか。

 再度ベンチにサインを求め、確認して投手と向き直る。

 

 今度は、バントの構え無しで。

 これに対してサードは少し守備位置を下げた。

 

 そして投じられた2球目。

 投球と同時にバントの構えを見せ始め、即座にバットを引きながらサードの様子をうかがう。

 ボールは外に曲がってカウントツーボール。サードはチャージを掛けていた。

 

 揺さぶりに対し少し硬い表情をしているのはマウンドの地頭。

 キャッチャーがいさめる言葉を聴きながら、俺はベンチを向きサインを確認。

 今度はバントの構えを見せて投球を待つ。サードは前寄りの位置だ。

 

 3球目。

 バットを引かない俺に対して投球と同時にチャージを掛けるサード。

 ボールを極限まで見極めながら、チラッと視線を向けて狙いを定める。

 内角、やや低めに来たボールをバントの体勢で迎えながら、瞬間的に、押す。

 

 勢いを持って転がっていったそれは、チャージするサードの反応を一瞬遅らせた。

 

 グラブを出すが収まらずに弾かれ、ボールはダイヤモンドの外へ転がる。

 

 慌てて拾い上げ一塁へ送球されるが、少し逸れてファーストが離塁。

 その間にベースを駆け抜け、セーフ。

 

 俺は一塁ベースの上で、拳を突き上げた。

 




本編お疲れさまでした。
山場の準決勝が遂に始まりましたね。再開早々に山場を迎え、書き手としても若干緊張していたりします。

さて。
今週の後書きでは、先々週に投稿した活動報告②の内容『原作ネタバレを含むこの作品との乖離点と今後の本小説の展開』について話す予定だったのですが、アニメ第四話(今日17:35~放送回)でその話を取り上げそうな雰囲気が次回予告などから漂っていたため、ネタバレにも配慮してこのお話は来週に持ち越そうと思います。
なお、アニメがこの内容を取り上げなかったとしても来週の後書きでは上記の内容について語るつもりです。

というわけで、今回は長くならないうちにこのあたりで失礼します。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


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第三十七話

どうもこんばんは。
先週触れた挨拶に関して、あの後少し考えてみてこの前書き文を書いている時間帯に沿って言えばいいのではと思いました。ということでこれは金曜の夜に書いていますが、今後はこのスタイルでいってみます。

…とまあ、前置きはこんなところで、それでは本編どうぞ。


高鳴る鼓動

 

 5回表、沢さんと俺で作った無死一、二塁のチャンス。

 

 打席には、8番の椿先輩。

 その初球。自分とは対照的に勢いを殺した絶妙なバントを決め、一死二、三塁となる。

 

 すると、少し慌ただしくなる相手のベンチ。

 直後、監督が出てきて主審へ選手の交代を告げた。

 

 ベンチからグラブを手にした背番号9の選手がライトへ向かい、ライトにいた背番号1のエース豊原は、マウンドへ小走りに向かってくる。

 

 

「…来たわね」

 

 三塁コーチャーの睦子のところに集まった沢さんと俺とで、投球練習を見つめる。

 

「ああ、ここからが本番って感じだ」

 

 春の大会で見た時よりがっちりとした身体、投げられるボールも力強く、変化球も鋭い。県で一番と言われる投手だ。

 

 俺はふと、次の回からマウンドに上がることを思い出し、この人と投げ合うことになるのかと考える。

 

「どしたの美智琉、何かあった?」

 

 黙り込んだ俺を見かねてか、声をかけてくる沢さん。

 別に隠すことでもないと思い、次の回からマウンドに上がることや少し緊張していることを打ち明ける。

 

 緊張していると聞いて少し驚いた表情の沢さんと、自分のことのように緊張して口を閉ざしている睦子を見て、幾分か気がほぐれる。

 

「まあ、全力を尽くすだけなのはいつも通りだし、やれることをやるだけだから」

 

「なにカッコつけてるの美智琉、ちょっと寒いわよ」

 

「なんで!?というか、美智琉禁止」

 

「試合中くらい許しなさい、それとほら、ベースに戻らないと」

 

 そう言われてマウンドを見てみると、あと1球で試合再開となるようだ。

 急いで二塁ベースへ戻る。足取りもどこか軽くなった気がする。

 

「(沢さんには感謝しないとな。…美智琉呼びも、今は気にしないようにしよう)」

 

 少し気を紛らわしていたが、試合再開。

 9番の怜伊先輩の打順で、俺はピッチャー越しに打席を見つめる。

 

 初球はウエスト気味に外した球でボール。

 ランナー状況からスクイズを警戒しているのかもしれない。

 

 こちらのベンチのサインも確認しながらバッテリーでサイン交換し、2球目。

 インローに決まってストライク。

 

 そこから、外に外れたスライダーを挟んで直球が2つ続き、カウント2-2。

 6球目、投じられたのはスライダー。

 ふらふらと上がった打球はファーストがファールゾーンで掴んでツーアウト。

 ランナーも動けない。

 

「(怜伊先輩、バント苦手だしスクイズ難しいのは分かってたけど、抑えられちゃったか…。)」

 

 二死二、三塁となって打席に入るのは1番克彰先輩。

 初球、内のスライダーが外れてボール。

 2、3球目の直球は高めと低めに外れ、4球目こそアウトローに決まったが、5球目低めのスライダーを見極めて四球を選んだ。

 

 エースを相手にチャンスが広がって二死満塁。

 2番の海洋先輩が打席に立つ。

 

「(まだ代わりっぱなで制球もそこまでじゃない…叩くならここですよ!)」

 

 しかし。

 

 アウトローのストレート、見逃し。

 アウトローのスライダー、空振り。

 インハイのストレート、空振り。

 三球三振。三者残塁という結果で、相手はピンチを脱出。

 

 思わず身震いしてしまいたくなるような、これがエースかという圧巻の投球だった。

 

 

 でも、ここからは。

 俺も同じマウンドに立つ者として、これ以上の失点は許されず、相手の前に立ちはだかる壁として投げ抜かなければならない。

 

 エースのケン先輩が欠けた今、俺のやるべきことは明確だ。

 

 ベンチに戻り、ヘルメットを脱ぐ。

 大吾から渡されたスポーツドリンクを飲み、グラブをはめて帽子をかぶり直す。

 

「うし」

 

 少し自分に気合いを入れ、ベンチを飛び出して向かうのはグラウンドの中にある小高いマウンド。

 一、二回戦でも立ったものの、今日は特別な重みがある。

 

 そんなことを思いながら投球練習をし、キャッチャーの翔介先輩と投球の打ち合わせを済ませる。

 

 この回まず相対するのは、相手の1番本田。

 

『ボールは良い感じに来てる。残り3イニングでちょうど一巡。

 点は俺らが取ってやるから、お前は全てをぶつけて投げてこい』

 

 ついさっき言われたばかりの言葉が脳に響く。

 

「(…先輩、ありがとうございます)」

 

 初球を投じる。インコース低めに決まってストライク。

 

「(…皆、俺を信じてマウンドに送り出してくれた)」

 

 二球目は外。高めに外してボール。

 

「(その期待に応えたい。

 …いや違う、()()()んだ!)」

 

 三球目。インコース胸元に食い込むシュート。

 詰まった当たりは、この回からサードに就いた椿先輩のところへ。

 軽快にさばいてワンナウト。

 

 グラウンドの至る所から、ベンチから、マウンドに届く声。

 

 それらを受けとめ、俺は次なる打者と対峙する。

 

 

* * * * * *

 

 5回の裏。

 英邦学院はワンナウトから死球でランナーを出したものの、3番打者がセカンドゴロゲッツーに倒れてスリーアウト。

 

 一方の風林中、6回表の攻撃。

 先頭の茅ヶ谷が痛烈なあたりを放つもファースト正面のライナーでアウト。

 4番の徳地がショートゴロに倒れた後、市松がライト前ヒットを放つ。

 しかし続く沢は空振り三振に仕留められ無得点。

 

 対する英邦学院の6回裏。

 先頭の4番堀がセンター前ヒットで出塁。

 だが後続がサードフライ、空振り三振、ショートゴロでチャンスは広がらず無得点。

 

 スコアは動かぬまま、試合は7回表、最終回の風林中の攻撃を迎えた。

 

 この回先頭は7番の牧篠。

 リリーフで登板してここまで2イニングをおさえる投球。

 自分を楽にするためにも出塁したいところだったが、インコースの直球に押されてセカンドフライ。

 続く8番の綾部はサードゴロに倒れてツーアウト。

 

 後がない風林中、ここで打席に入るのは9番渡。

 その初球、インコース高めややボール気味の球を完璧に捉える。

 打球は、伸びて伸びて伸びていき、レフトポールの外側へ。ファールボール。

 2球目は外のボール球で、ワンストライクワンボール。

 3球目、ストライクからボールになるスライダーを振らされ、これで追い込まれる。

 両チームが固唾を飲んで見守る4球目。

 ピッチャーが投げ、バッターはバットを振りぬく。

 

 グラウンドに、快音が響いた。

 




本編お疲れさまでした。準決勝はもう少し続きます。ぜひお楽しみください。

またここからは、先週のアニメ第四話でも話題になった本作品と原作との乖離点について少しお話しします。アニメを見ておらずネタバレNGという方はここでブラウザバック推奨となります。

さて。
まず私がこの事実を知ったのは単行本17巻を読んだ時で、率直に申し上げて最悪でした。2年生は完全にいないものとしてこの小説を進めてきたため、ここでそんな架空の部員の話をされても困る、と思いました。続きを書く気が起きず、休載していた原因でもあると思います。ただ、ここまで書いてしまったからには引き返せないので、なぜ監督がいないかに関しては後ほど自分で勝手に決めようと思っています。とりあえず今は何らかの原因で入院していることにしています(自分の中の仮設定)すみません。
加えてアニメにも触れたいのですが、第四話、素晴らしい出来だったと思います。そもそも原作の流れから外れて大会前にこの設定を回収し、なおかつ原作より掘り下げる脚本。吾郎たちの聖秀の頃の話も引き合いに出しながら上手に展開されていて、感激しながら見ました。メジャーセカンドのアニメスタッフってメジャー愛があるなあと常々思っていましたが、改めてそれを痛感する回になりました。コロナの影響で今週から一旦再放送となってしまいましたが、いつの日かまた返ってくる日を楽しみにしておこうと思います。

というわけで、今回は少し語りすぎた気もしますが、そろそろ失礼します。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


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第三十八話

こんにちは。
準決勝も最終局面を迎え、7回表1点ビハインドのツーアウトというところ。
果たしてどうなるのか?

ということで、お楽しみください。どうぞ!


つながる希望

 

 最終回の攻撃。

 1点ビハインドの風中の打順は俺から。

 絶対に出塁しないといけない場面。しかし、セカンドフライ。

 続く8番の椿先輩はショートゴロ。これでツーアウトになり、後がなくなった。

 

 その後、怜伊先輩の初球攻撃がファールとなり、追い込まれて4球目。

 インローのボールを引っ張った打球が、レフト線へ飛んだ。

 

 繋がった。

 先輩は二塁へ到達し、二死二塁で打席には克彰先輩。

 3球目、低めのスライダーを叩きつけた打球が内野を高く跳ねて、セカンドの前。

 前進して取ろうとするが、バウンドが上手く合わず、弾く。

 その間に一塁を駆け抜けた先輩が出塁し、これで二死一、三塁。

 

 ここにきての、エラー。

 ここにきての、ビッグチャンス。

 

 打席には、海洋先輩が入った。

 

 

* * * * * *

 

 ベンチは振り返らない。

 背中にいろんな声が届いて、握るバットに力が入る。

 

 打席に立って、視線の先にはマウンドに立つ相手エースの姿。

 5回表の攻撃で、二死満塁から空振り三振を奪われた相手。

 

 今度こそ、という思いは強い。

 

 初球は、この回から多投しだしたカーブ。

 ゆったりとした軌道でキャッチャーミットに収まるがアウトコースのさらに外でボール。

 

「(カーブの後は緩急差を使ってストレートを投げてた。ここも同じパターンで来る?)」

 

 果たして、その2球目は予想通りストレート。

 バットを出したものの、振り遅れてファールとなった。

 

「(くそ、悩むくらいなら思い切って狙うべきだった…もう後がないんだ。打つしかないんだよ)」

 

 自分に言い聞かせる。

 

 3球目もストレート。

 2球目のアウトローに対して今度はインコース胸元近く。

 これもバットを出すが、ボールは後ろに飛んでファール。

 

 カウント、ツーストライクワンボール。追い込まれた。

 4球目のスライダーこそ見極めてボールとなったが、依然として状況は変わらない。

 

「(変化球続ける?ストレートで押してくる?…だめだ、分からない。

 しょせん自分は守備が良いだけ。打撃もそれこそ、これまでだってまともに貢献できたことはないんだ…)」

 

 思考も追い込まれていく。

 

「(綜なら、綜が打席に立っていれば、きっと逆転打を打ってくれたはずなのに)」

 

 ふと同学年の頼れるキャプテンのことを想う。

 

『今の俺たちにできるのは、勝つことだ』

 

 ここで脳裏をよぎったのは、試合前の綜の決意表明。

 

「(そうだ、剣竜…)」

 

 綜に並んでもう一人、頼れるエースに考えが及ぶ。

 

 ここまで積み重ねてきた努力、練習の成果。

 そして何より、このチームのメンバーでもっと戦っていたいという気持ち。

 

「(自分はまだ、あの二人にもチームのみんなにも、何もあげられていない!)」

 

 5球目が投じられる。

 脳内であらゆる思考が混ざりあってぐちゃぐちゃになって。

 

 とにかく、ボールをよく見てバットを振った。

 

 その次の瞬間に見たのは、ジャンプするセカンドの頭を越えた打球が、外野へ転がっていくところ。

 

 ライト前ヒット。試合を振り出しに戻す同点タイムリー。

 俊足の克彰が三塁まで走り、またも二死一、三塁。

 

 打席に入る綜を、一塁ベース上から見つめる。

 

「(頼む、打ってくれ…!)」

 

 2球目外角高めのストレートを完璧に捉えた打球が、センターの頭上を襲う。

 

「(綜…お前はやっぱりすごいやつだよ)」

 

 

 しかし、そう甘くはなかった。

 猛然と後進したセンターが、大ジャンプ。

 伸ばしたグラブにしっかりと白球が掴まれていた。

 

 2ー2、同点。試合はまだまだ続きそうだ。

 

* * * * * *

 

 7回裏。

 なんとか同点に追いつけた風中。

 ここはしっかりと抑え、次に繋げていきたい。

 

 相手、英邦学院の打順は8番から。 

 3球目のシュートを詰まらせ、ピッチャーゴロに打ち取る。

 

 続く9番打者は外角ストレートを打たれたが、完全に詰まったファーストファールフライでツーアウト。

 

 打席には4巡目、1番の本田が入る。

 5回裏から登板して、これでちょうど1巡。

 これまでは通用していた球も打たれるかもしれないと警戒しながら投げる。

 

 結果、本田にはストレートを打ち返され、センター前ヒット。

 これに続いて2番宇佐には8球粘られて四球を与え、3番酒井にはレフト前ヒット。

 外野は前進していてサヨナラタイムリーとはならなかったが、二死満塁となった。

 

 ここで打席に4番の堀、という場面で一旦内野が集まってタイムを取る。

 

「牧篠、疲れは」

 

「それは大丈夫です」

 

「なら良い。言っておくが、ボールは来てる。

 さっきの回にヒット打たれてるが、まだシュートは見てないしそれから入るぞ」

 

「了解です」

 

 主にキャッチャー翔介先輩との会話。

 まだ3イニング目、疲れたなんて言ってられない。

 

「大丈夫だ。ここを抑えて次、点を取る。このピンチ、乗り切るぞ」

「そうだな。打ち返されても俺らが止めてやる。思い切り投げろ」

 

 先輩からの言葉が嬉しい。

 

「はい。ピンチは作ってしまいましたが、ここで相手の4番を抑えてこそ、ですよね」

 

 皆が笑って応え、輪がとける。

 

 そうだ。

 まだ終わらせない。終わらせたくない。

 

 俺が投げて、抑えるんだ。

 

 再開後の初球、予定通りインコースのシュートから。

 振ってきてバットに当たるが、打球はバッターの後ろに飛んでファール。

 

 2球目、アウトローを狙ったストレートが少し外れてボール。

 3球目、近いところからゾーンに入るシュートを投げるがこれもボール。

 

 ワンストライクツーボール。

 今は四球でも負けの状況。逃げてばっかりじゃいられない。

 

 4球目、インコースにストレート。やや高かったが見逃されストライク。

 5球目、今度は真ん中低めのストレート。一塁線から切れてファールボール。

 

 そして、6球目。

 勝負球の胸元をえぐるシュート。

 振り切ったバットの根元に当たった打球は、二遊間方向へ飛ぶ。

 

 後ろを向いたと同時にパシッとボールが収まる音がした。

 ショートの孝央先輩がノーバウンドで捕球。

 

 スリーアウトチェンジ。

 

 

 これで準決勝の戦いは、7回で決着つかず、延長にもつれることとなった。

 




本編読了お疲れさまでした。
決着はつかず、まだ続くことになりましたね。いつ終わるのかという緊張感を味わいながら読んでくれればと思います。

それでは、最近後書きが長くなりがちだったので今回は早めにこのあたりで失礼します。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


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第三十九話

こんばんは。前日夜からお届けする前書きです。

皆さんいかがお過ごしでしょうか?
私は本格的に大学でのオンライン授業が始まり、若干てんやわんやしながら生活しています。慣れるまでには時間がかかりそう…。

さて、今日の本編は、前回の続きで延長戦に突入したところから。
それでは、どうぞ!


近づくクライマックス

 

「牧篠、次の回から行けるか」

 

 5回表の始まろうとする頃、ネクストバッターズサークルにいた俺は綜先輩に声をかけられた。

 

 エースのケン先輩は投げられない状態で、相手は強豪の英邦学院。

 椿先輩を信用していないということではないが、初回から攻撃中になるとブルペンへ行き、いつでも投げられる準備をしてきた。

 

 そして先輩は2イニング続けての失点。4回を終わって1点ビハインド。

 

「…分かりました。準備はできてます」

 

 少し、声が震えている。

 

「さすがに、心の準備はできてないみたいだな」

 

 見透かされていた。

 

「…一つだけ、剣竜から言付けを預かってる。聞くか?」

 

「ケン先輩から…!?」

 

 聞きたいという意志を込め、首を縦に振る。

 

「『自信を持って投げろ。俺が保証する』だそうだ」

 

 

*  *  *  *

 

 そして、今。

 俺は、マウンドに立っていた。

 

 7回を終わって2ー2で、試合は延長戦に突入。

 8回表の風中の攻撃では、翔介先輩がレフト線へのツーベースヒットで出塁。

 しかし孝央先輩がバントを失敗し一死一塁となり、沢さんがレフトフライ、俺が空振り三振。

 

 8回裏、対する英邦学院の打順は5番の豊原から。

 さっきの俺の打席、カーブ・スライダー・チェンジアップの持ち球をすべて使われ三振に抑えられた。

 お前にはまだ負けない、と訴えられたような気持ちを抱いた。

 

 だが、俺にも意地はある。

 こうも抑えられてばかりではいけない。だから、自分が抑えることでやり返す。

 

 そんな気持ちを抱えた初球。

 インコースのシュートは見逃され、ボール。

 

 2球目は外いっぱいにストレートが決まってストライク。

 3球目もほぼ同じコース。やや高くバットを出されたがバックネットに飛んで行ってファール。

 

 これでツーストライクワンボール。追い込んだ。

 4球目は外にストレートを見せ、勝負の5球目はインコースのストレート。

 

 弾き返された打球は三塁線を切れてファール。

 

 この試合に勝ちたいという気持ちは、相手も同じ。

 そう簡単にはいかない。

 

 6球目、同じコースにシュートを投げるが見逃され、判定は惜しくもボール。

 7球目は外低め、8球目は真ん中高めにストレート。いずれもファール。

 9球目。三度目のインコースへのシュート。

 

 良いところに投げた感触が残り、バットが出されるのが見える。

 詰まらせた…と、思ったのだが。

 

 ふらふらっと上がった打球はサードのほぼ真後ろ、レフトの前に落ちるポテンヒット。

 

 押し切ったと思ったが、力で運ばれた。

 

 次のバッターは送りバントの構え。

 させるかという思いでインハイにストレートを投げるが上手く転がされ、一死二塁となる。

 

 相手の打席には代打の曽根。

 その初球、外を狙ったストレートが逆球になり、振り抜かれる。

 打球は三遊間を抜け、レフト前ヒット。

 

 これで一死一、三塁。相手の打順は8番の川相。

 スクイズを警戒しているうちにカウントが悪くなり、最後は歩かせてフォアボール。

 

 ここで、内野のタイムがとられる。

 

「翔介先輩、わざわざ歩かせる必要はなかったんじゃ…」

 

「いや、というか牧篠、疲れてるだろ」

 

「…っ、そんなことはないです!」

 

 嘘だ。図星だった。

 

「強がらなくてもいい。ここまでよく頑張って投げてくれた。

 

 

 あとのことは大丈夫。あいつに任せればいい」

 

 そう言われて先輩の視線の先、ベンチを見るとそこには

「ケン先輩…!?」

 

 いないはずの先輩がいた。

 

 

*  *  *  *

 

 その直後、風林中は選手の交代を告げ、俺はマウンドから降りてベンチへ。

 そのマウンドには、エースのケン先輩が上がった。

 

 投球練習の間、軽くクールダウンのキャッチボールを大吾と行う。

 

「3回と1/3を投げて無失点、か。お疲れさま。良いピッチングだったと思うぞ」

 

「…正直もう投げられん」

 

「はは、そんな風には見えない気もするけど」

 

「もちろん体力は一応まだあるさ。

 ただ、いくら良いと言われるボールを持ってても、球種の幅が少ないと配球パターンも狭まる。それを実感したよ」

 

「でも、一巡目はほぼ完璧だっただろ」

 

「それでも主軸には打たれてた。

 二巡目からは打順関係なく打たれてたし、まだまだ全然だ」

 

「そうか。じゃあ、決勝戦でリベンジだな」

 

「おう」

 

 決勝戦でリベンジ。

 

 俺がマウンドを降りケン先輩がマウンドに来るとき、俺に一言だけ、ありがとうと言った。

 その声を聞いて、言いたいことは色々あったのに、伝えられなかった。言葉が出てこなかった。

 

 でも、そうだ。

 今は余計な言葉なんていらない。

 

 とにかくこの試合を勝って、次の決勝戦に進む。

 これが、今俺たちが目指すところ。

 

 ピンチは作ってしまったけれど、まだ試合は終わらせない。

 

「ケン先輩…!」

 

 祈り、見つめる先には投球練習を終え真剣な顔つきの一人の先輩の姿があった。

 

 

* * * * * *

 

「投げて大丈夫なのか?」

 

「ああ、というか、投げるしかないだろ」

 

「それはそうだが…」

 

「せっかく椿と牧篠がここまで繋いでくれたんだ。あとは俺が何とかする」

 

「まあ、お前はそういうやつだったな。

 平気なんだったら、遠慮なくサイン出すからしっかり投げてこいよ」

 

 そんな会話をして投球練習を行い、状況とサインの再確認をして相手の打者と対峙する。

 

 満塁?サヨナラのピンチ?

 関係ない。抑えるだけだ。

 

 初球、アウトコースにストレート。わずかに外れてボールの判定。

 

「(…まだ細かいところは難しいか)」

 

 2球目はスローカーブ。タイミングを完全に外して見逃しのストライク。

 3球目はインコースのストレートでファール。

 そして4球目は、ドロップカーブ。バットは空を切って三振。

 

 これで、ツーアウト。

 

 次のバッターは1番の本田。

 今度は初球スローカーブから入り、2球目胸元のストレート、3球目外低めのストレートでカウント2ー1と追い込む。

 

「(これで…チェンジだ!)」

 

 4球目、決め球に選んだのは同じくドロップカーブ。

 

 

 …しかし、投じたボールが、指からすっぽ抜けた感覚が残った。

 




本編お疲れさまでした。すっぽ抜け…のその先は、来週に持ち越しです。
そろそろ準決勝も終わらないといけないなあと思いながら、さんざん引き延ばしてしまっています。申し訳ない。

それでは今回も後書きは短めに、このあたりで失礼します。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


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第四十話

こんにちは。

前書きしたいことも特にないので、今日はさっそく本編へ。
それではどうぞ!


突然の幕切れ

 

 そのとき、目の前の景色がスローモーションに見えた。

 

 ケン先輩の指を離れたボールは無制御に投げられ、左打席に入っている相手打者の方へ向かっていく。

 

 ボールが打者の背中に当たる瞬間は、時が止まったように誰一人として身じろぎすらできなかった。

 

 延長8回裏、サヨナラ押し出しデッドボール。

 長かった準決勝の戦いは、誰にも予想できない形で幕を閉じた。

 

 

 そして試合終了後は、ただ無意識にベンチを片付け、球場を後にして学校へと向かった。

 

 いつも行う試合後のミーティングも、誰も一言も発せないまま時間だけが過ぎる。

 

 ふと、静かな部屋の中で一人、泣く声がした。

 それが誰かを考える間もなく、涙は伝染し、気づけば俺もうつむいた先の机に一粒の雫が垂れた。

 

 

 その後、今日の状態で話をするのは無理だと判断した綜先輩が解散を告げ、また明日学校に集合するということでまとまって今日のところは帰宅することになった。

 

 

* * * * * *

 

「…ケン先輩」

 

 名前を呼ばれて、顔を上げる。

 

「どうした、牧篠」

 

 声で分かっていたが、呼んだのは案の定牧篠だった。

 

「…すみません。これだけは聞いておきたかったんですけど、肩の故障って…」

 

 神妙な面持ちで切り出された話題に、ああそれか、と相槌を打つ。

 綜に少し確認した限りでは、後輩にはまだ教えられていないはずの話。

 

「…ちょっと長くなる。座れよ」

 

 自分の隣をポンポンと叩き、促す。

 座ったのを確認して、俺は少し前の話を始めた。

 

 

 最初の違和感は、ちょうど1年前。

 

 チームは強い先輩の活躍もあって、地区大会の決勝まで進んでいた。

 大吾の姉さんをエースに据え、俺は2番手ピッチャーとしてマウンドに上がっていた。

 

 そしてその頃、俺は変化球の開発に力を入れていて、特に投げていたのがフォークボール。

 必死に練習していた俺は、ある日目覚めた時、肩にとてつもない痛みを感じてはじめて気付いた。

 

 フォークは、変化球の中でも子供が投げるには危険で肩や肘に負担がかかると言われている。

 実際、俺はそのとき肩を痛め、それ以降フォークは投げなくなった。

 

 投球練習が再開できるようになってからは違う変化球の練習をし、今の2つのカーブを使ったピッチングを磨いた。

 

 

 しかし、翌年の春。

 初めは小さな違和感でなんともなかったが、念のために病院へ行ったところケガが再発していた。

 

 その時は少し安静にするだけで済んだが、いつ再発してもおかしくないと先生に言われあまり投げすぎないように念を押された。

 

 それ以降は小学生時代に少し投手経験のあった椿と交代でマウンドに上がることでなんとか耐えていた。

 

 

 そして昨日。

 帰宅後夜になって、アイシングをしたのにどこか熱みを感じたため綜に連絡を入れた。

 

 翌日開いた直後の病院に駆け込んだところ、再発を告げられた。

 

 それでも、中学最後の試合になるかもしれない日。

 なんとか痛み止めの薬を貰ってマウンドに立ったが、最後は押し出しのデッドボール。

 

 

「最後のあれは、別にケガと関係なく普通にカーブがすっぽ抜けた結果なんだ。

 だから、結局最後は実力不足が出たってこと。

 わざわざマウンドに立たせてもらったのに、最終的に自分のせいで負けて、俺はどうしたらいいか…」

 

 歯を食いしばる。

 俺を信じてマウンドに立たせてくれたチームメイトを思うと、俺は泣けない。

 それでも、気持ちを裏腹にこぼれる涙を止めることはできなかった。

 

「…ケン先輩のせいじゃないです!」

 

 その声にハッとする。

 

「俺が、満塁のピンチなんか作ったから…。

 せっかくケン先輩が信じて送り出してくれたのに、応えられなかったから…」

 

「違う!俺はエースだ!あそこは俺が抑えなくちゃいけなかった!」

 

「そうやって責任をしょい込んで…ケガのことも抱え込んで…」

 

 違う、とは言えなかった。

 

 以前、綜にも同じことを言われていたから。 

 

「…ごめんなさい。先輩に、こんなこと言ってしまって」

 

「いや、いいよ。俺の方こそ年上なのに意地になってた」

 

 互いに謝ると、なんだか少し晴れやかな気持ちになっていた。

 

「…先輩」

 

「どうした?」

 

「俺、がんばります」

 

「……」

 

「ケン先輩みたいに皆にエースと呼ばれる存在になって、チームの柱になって…、

 必ず、今回果たせなかった地区優勝を成し遂げます」

 

「俺が言えた義理ではないが…一人で抱え込むなよ」

 

「…はい」

 

「エースがチームを支え、チームがエースを支える。

 こうやって強いチームができていくんだ」

 

「はい」

 

「そういう存在になってくれ。大丈夫だ、牧篠にならやれる」

 

「がんばります」

 

「ああ、応援してるよ」

 

 こうして、俺の中学野球人生は終わった。

 

 でも、まだまだこれからだ。

 風林中学校野球部は、これからも続いていく。

 

「ここから、新たなスタートだな」

 

 そうつぶやくと、牧篠は強くうなずいた。

 

 きっと良いチームになってくれる。そんな確信が、俺の心をさらっていった。

 




本編お疲れさまでした。
…ということで突然にはなりましたが、ここで先輩たちとの代は終わりになってしまいました。
彼らはこの後も少し登場しますが、ひとまず一区切りになります。

来週から新たな章へ進むつもりですが、気が変わったらまた違う形になるかもしれないので明言は避けておこうと思います。

それでは、今回はこのあたりで失礼します。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


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幕間章:中学1年期
第四十一話


こんにちは。
先週は予告なく休んでしまい申し訳ありませんでした。
詳しくは後書きで話しますが、書きたくなかったとかそういう感じではないのでご容赦ください。

また本編ですが、今週から新章の幕開けとなっています。
それではどうぞ!


新チーム

 

 3年生の最後の大会が終わった翌日。

 昨日の暗い空気とは対照的な雰囲気に包まれた部屋。

 先輩たち一人一人が、部活を離れる別れの挨拶をしていく。

 

 ただ別れと言っても、風林学園は中高一貫校ということもあり多くの人がそのまま高校へ進学する。

 それもあって、大半の先輩たちは高校野球へ気持ちも切り替わっている様子だった。

 

 その中で二人、事情の違う人がいた。

 

 一人は、椿先輩。

 風林高校には女子野球部はない。

 話を聞いた限りでは違う高校に進むことはなく、ここで野球はやめるとのことだった。

 それでも後悔している感じはなく、むしろ晴れやかにも見えた。

 話しているとき度々俺と視線が合ったのは何だったのか分からないけれど。

 

 もう一人は、綜先輩。

 先輩たちの中で唯一、違う高校への進学を決めた。

 県内でも名の知られた強豪校へ行き、自分を高めると言っていた。

 実に先輩らしい決断だし、きっとレギュラーとして活躍するだろうと思った。

 また、綜先輩は俺たちに対し、地区優勝の目標を引き継いでほしいと最後に言った。

 

 

 それらたくさんの想いを受け取って、俺たちは決意を新たにする。

 今日から、新チームが始動するのだ。

 

 まず、先輩からの指名でキャプテンを大吾が務めることになった。

 はじめは困惑していたが、監督の推薦もあったということを聞いてひとまず受け入れたようだった。

 

 ちなみにその監督は、まだ現場復帰できないことが伝えられた。

 元々、去年の秋頃から慢性的な腰痛があり通院を繰り返して様子を見ていたそうなのだが、その生活の中で一つの事件が起こった。

 

 それが、非行少年のグループを注意した結果、逆ギレされて負傷し左腕を骨折したというもの。

 現在は未だ入院中で、リハビリもした後で様子を見て退院できるらしいが、数か月間は療養も必要になるはずだから戻ってきてくれるのはまだ先になりそうだ。

 

 まあ、3年生が抜けたあとのチームは1年生6人2年生1人の7人だから試合はできないし、大会にも出られない。

 

 そのため、基本的には練習しながら新入生を待つことがメインになる。

 ありがたいことに受験のない先輩たちが交代で練習に出てくれることにもなっているから、その面では問題ないと思う。

 

 その後、練習メニューの内容確認などをして今日は解散になった。

 そして俺は、帰宅する前に一人の先輩のもとへ行った。

 

* * * * * *

 

「椿先輩!」

 

 名前を呼ばれる。

 誰かは簡単に分かったため、振り返りながら声をかける。

 

「どうしたの、マキくん」

 

 とは言え、なんとなく要件も察しているが。

 

「…野球、辞めるんですね」

 

 切り出しにくそうにしながら、そう言った。

 言いにくいなら言わなきゃいいのに、と思いながら、この子なら聞いてくると想像していたのも事実。

 

「まあね。中学で限界が見えたし、高校に野球部もないし…やめ時かなって思ったから」

 

 思いのままに話す。

 

「限界なんて、本当にそう思ってるんですか?」

 

 ああ、君はやっぱり何も分かっていない。

 口にしかけて、やめる。

 

「…本当よ」

 

 そう言うと、考え込んで黙ってしまった。

 気まずい空気の中、何か言おうとした時。

 

「俺は」

 

 目が合う。

 強く、強かな目。

 

「俺は、椿先輩にピッチャーとして、サードとして、いろんなことを学びました。

 全然追いつけてないし、先輩はすごい選手でした。

 先輩は、まだまだ限界なんかじゃないと思います」

 

 褒められているんだろう。

 私はすごいプレイヤーだったのだと。

 これからも頑張れば、更にうまくなれるはずだと。

 

「マキくん」

 

 目を合わせる。

 強く、語りかけるように言う。

 

「…そういうこと、あんまり他の子には言っちゃダメだよ?」

 

 きっとこの子は繰り返す。

 同級生の可能性を信じて、ひたむきにただ上だけを見て。

 限界はまだ先だと。まだ頑張れるはずだと。

 

 想いがちゃんと伝わるように、私は自分の話をする。

 

「…私も少し前までは『自分ならまだやれる』『まだまだ限界じゃない』って思ってた。

 でも、無理だった。限界がきた」

 

 正直に、すべてをさらけ出すように。

 

「私は、自分が思ってたより強くなくて、何もできなくて、無力だと分かった。

 だから一度、離れてみることにしたの。

 

 …それでもやりたくなったら、戻ってくるから」

 

 私には、分かっている。

 離れてもたぶん、離れきれない。どうせすぐに戻ってくる。

 

「それまでは野球も、お休み」

 

 最後まで話した後、マキくんは今にも泣きだしそうな表情をしていた。

 

「…すみません、俺、先輩のことなんにも分かってなかった」

 

 首を垂れながら、声の沈んだ返答だった。

 

「ほんとにその通り。

 いい?もう一回言うけど、他の子には言っちゃダメだからね?」

 

「…はい」

 

「よろしい。

 それじゃあ最後に、私から一つだけ。

 

 …ありがとう」

 

 何を言われると思っていたのか、言葉を聞いた瞬間驚いた顔で私を見てきた。

 

「…マキくんの言葉、嬉しかったよ。これも、本当の気持ち。

 だから、ありがとう」

 

 私の可能性を信じてくれて。

 私の限界を決めないでいてくれて。

 私をここまで慕ってくれて。

 

 いっぱいいっぱい、ありがとう。

 

 

「…これから頑張ってね、美智琉」

 

 感情の溢れ出す後輩に最後の一言をかけると、彼は小さな声で美智琉呼びはやめて下さい、と言った。

 




本編お疲れさまでした。

ということで、今週から新たに「幕間章」に入りました。
ここでは学年が一つ上がるまでの秋~春の物語を書いていこうかなと思っています。(とは言え本編時空はまだ夏ですが)
また、先週休んだ件については、今日が6月初週にあたるため新章開幕においてキリが良いかなと思ったので、1週間待ってから出しました。
アニメも先週から再開して最高の気分ですし、来週からまた毎週投稿がんばります!

それでは今週は、このあたりで失礼します。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


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第四十二話

こんにちは。
今日は幕間章二つ目のお話です。

特に前置きすることもないので、さっそく本編へどうぞ!


新キャプテン

 

 俺がそのことを知ったのは、新チームでの練習が始まって四日後、同じクラスの翔助から聞いた話がきっかけだった。

 それは『大吾がキャプテンを辞退し、部をやめようとしていること』だ。

 

 はじめは、大吾がそう簡単に与えられた責任を放棄するような性格ではないし、何かの間違いだろうと思った。

 しかし話を聞く限り、大吾は風林中をやめシニアチームに入ろうとしているらしい。

 

 大会後も他の同級生は部の練習に出ていて自分より状況に詳しいはずだから、何か自分の知らないところで問題が起きたのだろうと考えた。

 

 最近は自分が高校受験することを配慮してか、学校でも最低限の会話で俺を邪魔しないようにしようとしてくれていた。

 ただ今回のケースで、我慢できず翔介が話してしまったらしい。

 自分から言ったことは内緒にしてくれとも言われた。別に気にしなくてもいいと思うのだが。

 

 俺は一応前キャプテンとして、大吾に役を任せた身として、話しておくべきことがあると思い放課後帰路につく大吾を追う。

 

 

「大吾!」

 

 歩く背中に呼びかけてみると、ビクッとして振り返った後俺の顔を見て微妙な表情を浮かべた。

 

「綜キャプテン…どうされたんですか?」

 

「おいおいキャプテンはやめてくれよ、もう引退した身だぞ?」

 

「あっ、確かにそうでしたね…すみません」

 

「いやまあ、別に謝らなくてもいいさ。

 …それで?現キャプテンの大吾はどうして練習せずに帰ってるんだ?」

 

 本題を尋ねると、バツの悪そうな顔をする大吾。

 

「…長くなるなら、そこの公園のベンチにでも座るか」

 

 そう聞くと首を振り、意を決したような顔をして口を開いた。

 

「俺、中学校でもっと野球が上手くならなくちゃいけないんです。

 先輩たちのいた世代はホントに強くて、毎日勉強させてもらってました」

 

 黙って聴き続ける。

 

「でも先輩たちが抜けて、俺らは8人になった。

 確かに自分より上手い同級生はいます。でも8人じゃ、何もできないんですよ」

 

 強く、自分に語りかけているかのように話す大吾。

 

「試合はもちろんできないし、練習だって今は先輩たちがいるから何とかやれてますけど、このままずっと頼るわけにもいかないじゃないですか。

 だから俺は、自分のレベルアップのためにシニアに行くんです」

 

 そして顔を上げ、俺の方をじっと見てきた。

 

「風林を出て強豪校に行く綜先輩なら、この気持ち分かってくれるんじゃないですか?」

 

「……」

 

 黙ってしまった俺を、返答を求めるように見つめてくる。

 

 俺は悩んだ挙句、一言だけ口にした。

 

「…嘘だな」

 

 

* * * * * *

 

 嘘だな、と曇りのない目で言われた。

 まるで自分の全てが見透かされているようで怖くなった。

 

 黙ってしまった俺に、綜先輩は重ねて問う。

 

「本当は何か、違う理由があるんじゃないのか?」

 

 図星だった。

 もちろんさっき言ったことがまるっきり嘘というわけではない。

 あれは、自分を納得させるための二つ目の理由。

 

 本当はもう一つの理由があった。

 

「悩みがあるなら聴くぞ。こう見えても俺は元キャプテンだからな」

 

「…先輩にはかないません」

 

 気づいたらそう答えていた。

 

 

 大会後初めての練習、俺はいつも通り参加していた。

 ただ今日からはキャプテンとしてであり、これまでと違う心情を抱えていた。

 

「大吾、今日からの練習だけど…」

 

 練習前、牧篠に提案されたのは練習メニューの変更。

 これまでより基礎練習を多くして、経験の浅い睦子や関鳥にある程度の基本を固めてもらうのが良いのではないかと言っていた。

 

 俺はそれを、そのまま受け入れるしかなかった。

 

 また練習では、自分がキャプテンということでノックを打ったが打球が思ったところに飛ばない。

 それを、広い守備範囲で悠々カバーする太鳳や弥生に圧倒された。

 

 初日の練習が終わった後、俺は漠然とした不安を抱いていた。

 『俺は、キャプテンとして本当にチームのみんなをまとめていけるのか』という不安だ。

 

 そして決定的だったのが翌朝、目が覚めたとき。

 昨日から取れていない疲労感に気づき、俺にキャプテンは無理だと悟った。

 そこで、シニアに行くという都合のいい理由を盾にして逃げるつもりだった。

 

 だったのだが…。

 

 

「なるほど。大体の事情は分かった」

 

 話を聞き終えた綜先輩は、頷きながら言った。

 

「すみません。せっかくキャプテンに指名してもらったのに、こんな意気地なしで…。

 でも、ほんとに俺がキャプテンで良いんでしょうか?

 牧篠の方が適任だと思っていたんですけど」

 

「…あいつはダメだ。たまにリミッターが外れると止められなくなる。

 そのためにお前を指名したんだからな」

 

 それと、と先輩は続けてこう言った。

 

「大吾、お前は自分のことが分かってないみたいだな」

 

 

* * * * * *

 

 その後少し日が経ってから、大吾は部活に戻り正式なキャプテンとして部活を引っ張っていく決意をしたらしい。

 

 その話をした翔介は、俺にどんな魔法を使ったんだ?と聞いた。

 

「別に魔法なんかは使ってない。

 ただ単純に、背中を押してあげただけだ」

 

 訳が分からないという顔をした翔介を無視し、俺はつぶやいた。

 

「がんばれよ、新キャプテン」

 

 決して、自分と同じようなキャプテンにはならなくていい。

 自分らしく、ありのままの姿でチームを引っ張る。

 その姿勢が一番大事なのだと、大吾に伝わっていることを信じて俺は参考書を開いた。

 




本編お疲れさまでした。
原作と違う設定なのだから展開も違っていいじゃない!ということで、思い切って今回は元キャプテンに動いてもらいました。楽しんでいただけましたでしょうか?
幕間章はまだ続きますので、ぜひ次週もお楽しみに。

それでは、今回はこのあたりで失礼します。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


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第四十三話

皆さま、こんにちは。
先週は予告なく投稿を休止してしまい申し訳ありませんでした。
現在プロフィールにあるTwitterアカウントが消失しているため、緊急な連絡をできる手段がないので今後は何かしら策を講じていこうと思っています。

では、前書きでダラダラ書いてもアレなので残りは後書きで語ります。
ということで本編です。どうぞ!


新エース

 

「なあ牧篠、今日の練習なんだけどさ…」

 

 放課後、部活を始める前の着替えている時間。

 こうやって大吾の方から相談されるということが、部に戻ってきてから続いている。

 もちろん俺だけじゃなく沢さんや太鳳にも積極的に色々聞いたり話したりするようになったし、睦子や関鳥にはアドバイスや助言といった類いもやっている。

 

 一度、キャプテンを変わらないかなんてことも言われたが、今の大吾はしっかりできていると思う。

 改めて、大吾をキャプテンに指名した先輩たちの観察眼に敬服する。

 

 その後メニューを話して決めながら、着替えを終えて部室を出る。

 

「ちょっとー、もう少し早く着替えてよね男子なんだから」

 

「なんだその言いがかり。ちょっと話してたんだから仕方ないだろ」

 

 太鳳に若干冷ややかな顔で言われ、つい言い返してしまう。

 

「まあまあ、二人とも落ち着いて。言い合っても何もうまれないから、ね?」

 

「…すまん」

 

 ちょっと言われると気になってしまう俺の悪い癖だ。

 

「ほら牧篠行くよ、先に準備しなくちゃ」

 

「そうだな、行こう」

 

 こういうことができるのも大吾ならでは。

 

 

 今日の俺は投手練習が多い。

 シートバッティングの投手役や投げ込みなど。

 

 新チームになり、一応俺がエースという肩書を背負うことにはなったが、なんの実績もないし睦子も投手なのでそこで驕るつもりはない。

 

 大吾もこれからの伸び次第で決めたいと言っている。

 それまでは俺も、投手と野手の二足の草鞋を履く。

 また、これまではサードを守ってきた俺だが、関鳥のことを考えると外野に回ることも想定されるため、今は三ポジションの練習を順番にやっている状態だ。

 

 色んなポジションをするのは大変だけど、先輩も練習を見てくれるしこれも経験と思えば楽しい。

 ただ…。

 

 

*  *  *  *

 

 パン、と気持ちのいい音が夜の街に響く。

 

「ナイスボールだ、牧篠」

 

「ありがとうございます!」

 

「どうする?暗いしそろそろやめておくか?」

 

「いえ、まだ大丈夫ですしもうちょっとだけ、いいですかね?」

 

「無理はするなよ」

 

 練習終わり、暗い中のキャッチボール。

 相手はケン先輩。

 

「それにしてもいいのか?

 大吾からはあんまり投げ込まないように言われてただろ」

 

「…キャッチボールって、投げ込みに入りますかね?」

 

「それは分からんが、大吾が聞いたら屁理屈言うなって返されそうだな」

 

「それは確かにそうですね笑」

 

「投げたくなる気持ちは俺にも分かるけど、ケガだけはホントに気をつけて欲しいから頼むぞ」

 

「それこそケン先輩にはわざわざ付き合ってもらって申し訳ないです」

 

「いやいや、一人で投げ込むより相手がいた方が良いだろ?」

 

「…怪我はもういいんですか?」

 

「激しい投げ込みじゃなければいいと言われてるよ。

 そうじゃないと練習にも出られてないはずだからな」

 

「言われてみればその通りでした」

 

 実は最近、練習後に一人で投げ込みの練習をしていたのだが、大吾にオーバーワークは厳禁と叱られ、投げるなと言われた。

 それで自主練習は無理だと思っていたが、今日はケン先輩の思わぬ誘いを受けて今に至る。

 

 他のポジションをやっているとはいえ、今自分が一番やりたいのはピッチャー。

 エースとしてチームの柱になるため、普段の量では足りない投げ込みを自分で補いたい気持ちが強い。

 

 そうしてしばらくキャッチボールをした後、

「ケン先輩、そろそろOKです」

 

「お、そうか。明日からもやるか?」

 

「すごく助かるんですけど、先輩は大丈夫なんですか?」

 

「今日の感じなら特に問題ないよ」

 

「そうですか、それならまたお願いします!

 …と言っても、一応投げる日と走る日交互に取りたいので明後日でもいいですか?」

 

「走りの自主練もしてるのか」

 

「ですね、スタミナつけるために。まあこの辺少しだけですけど」

 

「…何度も言うが、無理はするなよ。怪我したら元も子もないからな」

 

「ありがとうございます。ちゃんと気をつけておきます」

 

「それじゃあ、またな」

 

「はい。ありがとうございました」

 

 別れの挨拶をし、俺は家へと走って帰った。

 

 

* * * * * *

 

「ねー、ミチルはさ」

 

「ミチル禁止って何回言えばいいんだ」

 

「さあ、言わなければいいんじゃない?」

 

「そんなわけにいくか。それで、なんだよ?」

 

 昼休み。クラスメートの牧篠といつも通り昼食をとっていると突然の訪問者。

 いつも通りの軽いやり取りをしている二人を横に、食事をとる。

 

「いやね、さっき弥生と話してたんだけど、あんた勉強できるじゃん」

 

「まあ、お前よりはな」

 

「うわウザ、まあいいや。

 そろそろテストだし、ちょっと分かんないとこ教えてもらおうかな、みたいな話」

 

「へえ意外だな、それで俺に頼るなんて」

 

「まあ…テストで赤点とる方がだるいから」

 

「そんなに分からないとこあるのか?」

 

「質問攻めしつこいわね、女の子が困ってるんだから手を貸すことなんて普通二つ返事でしょ」

 

「…どう思う、大吾」

 

 いきなり俺に話が振られ少しびっくりする。

 

「どう思う、とは?」

 

「太鳳がこんなので俺を頼るなんて珍しいし、絶対裏があると思うんだが」

 

「うーん…」

 

「ほんとミチルめんどくさい、勉強教えてくれるだけでいいのに」

 

「仮にも教えられる側の人間がそんな偉そうな口きいても良いんですかね?」

 

「はあ?私だって好きであんたなんかに頼まないわよ」

 

「おっ、ようやく本性出てきたな」

 

 相も変わらず、牧篠と太鳳のやり取りが小気味よく続く。

 ここまできて一度も互いに爆発したことがないのは不思議なくらいであるが。

 

 とはいえ、教室にいるクラスメイト達の視線も気になってきたしそろそろ止める頃合いでもある。

 

「はい両者そこまで」

 

 そう言うと、二人とも周囲の視線に気付いたようで口をつぐんだ。

 

「牧篠。テスト週間はどうせ練習できないんだし、ちょっと教えるくらいいいんじゃないか?

 実際俺とは一緒に勉強してくれる約束もあったしその時に合わせてさ」

 

「さっすがキャプテン、話が分かる」

 

「…まあ、大吾に言われちゃしょうがないか。

 その代わり覚悟しておけよ。徹底的に教えてやるからな」

 

 牧篠の目が若干怖い。俺にまで被害が及ばなければ良いんだけど。

 

「それじゃ、勉強会の日時は後で決めるから。当日はよろしくねー」

 

 そう言い教室を立ち去る太鳳。

 出て行く時に一度こちらを振り返ったが、少し口元が緩んでいたように見えた。

 

「…変なことにならないといいけど」

 

 そのつぶやきは、再び弁当を食べ始めた牧篠の耳にはどうやら届いていないようだった。

 




本編お疲れさまでした。
ちなみに『新エース』の話は以降②、③…と少し続く予定です。タイトル考えるのが面倒というわけではないです。

さて。まず先週の休載に関しては、自分がリアルで忙しく大学の課題に追われ、小説を書きあげられなかったことが原因です。すみませんでした。
またそれに伴ってということではないですが、来月以降は隔週での投稿を考えています。正式に決めた際には活動報告などでお伝えするかもしれません。ご了承のほどよろしくお願いします。

ところで話は変わりますが、本作品の総合UA数が3万を超えていました。6/17にはなぜかUA数・お気に入り登録数がともに急上昇していて少し目を疑ったのですが、どんな背景があったのでしょうか…?
なんにせよここまで多くの方に私の作品を読んでいただいてることは本当に嬉しく、励みになります。今後もできる範囲でしっかり頑張っていきますので、どうか応援よろしくお願いします!

それでは長くなりましたが、今週の後書きはこのあたりで失礼します。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


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第四十四話

どうもこんばんは。
またまたお久しぶりの投稿になりました。よろしくお願いします。
事情説明という名の言い訳はあとがきに書きます。

では、前置きは長くならないうちにこんなところにして、本編へどうぞ。


新エース②

 

 一昨日からテスト前の部活動停止期間に入り、野球のできない日が続いている。

 前回そこそこの順位を取った身としては一応頑張りたいと思っている。

 

 そんな中、明日の土曜日は野球部での勉強会が開かれることになった。

 元は太鳳に頼まれて沢さんと大吾も含む4人での予定だったはずが、どういうわけか話が広がり睦子と関鳥も一緒にやることになってしまった。

 みんなに勉強する気がどれだけあるかは知らないけれど、やるからには真剣に教えるつもりだ。

 教えることで学べるとも言うし、せっかくの機会を活かさない手はない。

 

 ちなみに、集まるのは大吾の家である。

 大吾と二人でやるつもりの時は図書館にでも行こうかと話していたが、人数が増えたため変更した。

 俺としては、野球というスポーツを始めたそもそものきっかけである茂野吾郎さんの家に行けることに若干緊張している。

 今は仕事の都合で家にいないらしいが、それはむしろありがたい。

 会ったら勉強どころではなさそうだし。

 

 などと思考を巡らせている間に、テスト前に提示された課題が終わった。

 このあと何をするか少し考え、俺は家を出て少し走り込みに行くのだった。

 

 

* * * * * *

 

「ねえ大吾、ここなんだけどさ」

 

「ああ、それならこの公式を使って…」

 

 翌日。

 少し離れた机では、大吾と睦子が向かい合って勉強をしている風景。

 

「これは額縁に飾って家に置いておきたい光景だ、とか考えてるでしょ」

 

「うーん…って沢さん、俺の思考を読み取らないで」

 

「え、そんなこと考えてたらさすがに引くわ」

 

「いや太鳳、流石にそこまでは考えてないから…」

 

 俺に任せられたのは沢さんとの太鳳のお守りであった。

 ちなみに関鳥は大吾の方にいる。睦子がいるのもあってほぼ背景と同化しているが。

 

「ミチル、これやって」

 

「アホ、自分でやりなさい」

 

「えーん、弥生、ミチルがいじめるよ~」

 

「よしよし」

 

 この有り様である。俺には教える役など務まらないらしい。

 しかし、悪いのは太鳳も同じだ。

 ついさっき教えたことを忘れるのは当然のこと、たまに将来が不安になるようなことを言う。

 時事問題対策で、現内閣総理大臣の名前が出てこなかった時は返答に困った。

 

「太鳳の方から提案してきた割にやる気出さないのはちょっとどうかと思うぞ」

 

「だってー、ミチルは苦手な教科無いんでしょ?」

 

「まあ、今のところは」

 

「それなら計画破たんなんだよね、せめて一つくらいは希望がないと」

 

「なんの話をしてるんだ?」

 

 俺の問いを受け、しばし太鳳と沢さんが目を合わせる。

 太鳳が首をかしげ、沢さんは肩をすくめる。見た目が良い二人にしか許されない言動だ。

 

「ほんとはさ、ミチルの苦手教科で勝って色々お願いしてやろうとか考えてたんだよね」

 

 太鳳が観念したという風に口を開いた。

 

「ああ、なるほどな」

 

 驚きと同時に、なんとなく冷静に受け止めている自分がいた。

 そりゃ、太鳳が自ら勉強なんてタイプじゃない。

 

「でも、俺が完璧超人だったから勉強が苦手な太鳳さんは諦めることにしたんですね?」

 

「はあ?何そのムカつく言い方」

 

「別に」

 

 別に、太鳳をバカにしたり煽ったりする気はない。

 これは勉強会を開くことに何の疑いも持たなかった自分に対する戒め。

 今後は太鳳の言うことを信じないようにすると誓いたい。

 

 それは置いといて。

「沢さんはずっとスマホ触ってるけど、何してるの?」

 

「やーね、私も勉強してないから怒られちゃう?」

 

「いや…沢さんは成績悪くないし勉強しなくてもいいとは思うけど」

 

「ミチル、それは不平等って言うんだよ知らないの?」

 

「そういうことは沢さんと同じくらいの点数取ってから言ってね、太鳳さん」

 

「ちょっと気持ち悪いからその"さん"付けやめてくれない?」

 

 俺が太鳳にミチルと呼ばれている時はそれに似た感情なのだが、これで理解してもらえるだろうか。

 

「とりあえず、せっかく来てるんだし勉強するしかないだろ。

 それに家にいてもどうせやらないんだろ?」

 

 そう言うと、観念したという風に勉強道具を開く太鳳。

 不服そうな顔を浮かべているが、少し前よりは指が進むようになった。

 

「…というか、俺が教えるより沢さんが教えた方が良いんじゃないか?」

 

 その問いに対し、沢さんは不思議な笑みをこちらに向けて返すだけだった。

 

 

*  *  *  *

 

「弥生!どうだった?」

 

 テスト後、期待した目を向けてくるのは目の前の席に座っている太鳳。

 名前準拠の出席番号のため、相楽、沢と続いて同じクラスの連番になることがこれまでも多く、今年で5回目だ。

 

「うーん、まあまあかな」

 

「そっかー、でもミチルの出来によるかもね」

 

「そうね、結果を見ないと分からなさそう」

 

 土曜日の勉強会。

 課題に奮闘する太鳳の横でこっそり副教科の過去問を見ていた私は、それを武器に美智琉の成績を上回ることを期待されているが、そこまで完ぺきな感触は得られていない。

 そもそも過去問がかすってすらいない教科もあって若干困っているのだが。

 

「ミチルと言えばさ、一つ前の社会のテスト、あいつの言ってたことが出たんだよね

 あの憎らしい顔のおかげで思い出せたよ」

 

「そう?勉強会も役に立ってるのね」

 

「言ってもそれだけだよ、ほかは全然」

 

 そうは言いながら、今回のテストは前回ほど感触も悪くないんだろうと顔を見れば分かる。

 こういう時、少しだけ美智琉に嫉妬している自分がいることに最近気づいた。

 

「ん?どしたの弥生」

 

 沈黙を見かねた太鳳が私の顔を覗き込むようにして聞く。

 

「別に、ただ少し美智琉のことを考えてただけよ」

 

 

*  *  *  *

 

 テストの休み時間、突然教室内で大きなくしゃみが響く。

 

「…牧篠、どうした?勉強して風邪でも引いたか?」

 

「いや、さすがにそんなことないと思うけど…おかしいな」

 

 くしゃみの主は疑問そうに首をひねっている。

 

「それで?今のところは?」

 

「まあぼちぼちかな。前回から大幅転落、みたいなことはなさそう。

 大吾は?」

 

「一応そんなに悪くないぞ。牧篠に教えてもらったところも出たからな」

 

「あーあれな、書けたなら良かった」

 

 テスト中に俺の心配をする余裕があるとは、つくづくできるやつだ。

 

「そういえば次は数学だろ?

 睦子と勉強してたところも出てくるんじゃないのか?」

 

「確かにそうかもしれないけど、それがどうかしたのか?」

 

 睦子が数学が苦手とのことだったため、勉強会では比較的今の範囲が分かっている俺が教えていた。そして、全般的に苦手な太鳳が牧篠に預けられ、ほかの二人はそれぞれについていく形となったのだ。

 

 そのことを改めて考えてみると、少し不安だ。

 俺はしっかりと教えられただろうか。睦子はこの後のテストで、教えた問題をしっかり解けるだろうか。

 

「意味が分かったかな?」

 

「ああなんとなく」

 

「まあ、不安に思ったところで結果は変わらないし、自分は自分で頑張るしかないんだけどな」

 

 …と、なんだか決めゼリフのようなことを牧篠が言ったところで予鈴が鳴る。

 俺は自分の席に戻り、今日最後のテストを受ける準備をし始めた。

 

 

 このテストで自分の教えた範囲が出題され、冷や汗をかきながらもその日の放課後、睦子から『大吾のおかげで助かったよ。ありがとう』と言われた嬉しさは今後忘れることはないだろう。

 




本編お疲れさまでした。

さて、久しぶりの更新となってしまいましたが軽く説明(言い訳)します。
七月以降、大学の授業と課題に終われ、書く時間が取れず書く気になれませんでした。八月下旬になりようやく余裕は出てきたのですが、今度は何を書こうとしていたかを忘れ復帰に時間がかかってしまった…という流れになっています。
日常パートを書くのはとても難しい。野球成分ゼロのお話は今後当分の間書きたくないです(笑)
ちなみに、来月からはまた授業が再開するため大変そうなのですが、理想としては月一投稿を考えています。不定期更新は読者の皆さんのことを考えるとあまりやりたくないので…。
しかし、これまでの私の信用度からして実現は難しいことも否めません。まず今月の残りの期間や書けるタイミングでちゃんと書く精神を持って、今後は進めていきたいと思っています。ご理解のほどよろしくお願い致します。

それでは長くなりましたが、今回の後書きはこのあたりで失礼します。
ここまで読んでくださりありがとうございました。


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