僕と戦車乙女の“非”日常です (神崎識)
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人物紹介(随時更新中)

今更ながらの人物紹介です!

随時更新します。

そして話には登場していない登場予定のキャラもいますのでネタバレ注意です!



伊藤巧(いとうたくみ)

 

性別『男』

 

年齢『満29歳』

 

誕生日『8月15日(獅子座)』

 

好きな食べ物『甘い物全般』

 

嫌いな食べ物『特にない』

 

趣味『甘い物を食べる事・スポーツ観戦』

 

日課『体を動かす事』

 

好きな戦車『Ⅲ号戦車』

 

座右の銘『人間は日々進化する。だからこそ僕はそれに対抗するために努力を続ける。努力しない人間は進化はない』

 

好きな花『リンドウ』

 

本作の主人公。

 

当時、小学六年生の巧を西住しほが黒森峰女学園中等部に勧誘。

 

それにより特待生として黒森峰女学園創立史上初の男子生徒となり、戦車道でも異例の男性として大会に参加が認められた史上初の男性。

 

黒森峰女学園を高校三年生の時に常勝集団に変え、全国九連覇の一番最初の一連覇目をした男で黒森峰女学園の英雄。

 

卒業後は島田千代が勧誘し大学に進学。

 

大学選抜に参加する。

 

日本代表選にて異例の若さで日本代表と隊長の座について初出場でベスト4に入るレベルに変化する。

 

その後は選手として期待されてが、しほとの約束で高校戦車道連盟と日本戦車道連盟の役員として就任する。

 

若い人材育成と日本戦車道の未来の為に尽力を尽くしている。

 

巧は気付いてないが学生時代はかなりモテていてファンクラブも作られるレベルだ。

 

女子高だけあってバレンタインのチョコもかなりもらっていたようだ。

 

ちなみに西住家のしほ、まほ、みほからは毎年もらっているようだ。

 

巧本人が甘い物好きなので本人はかなり嬉しがっている。

 

現在の巧は政界や色々な業界に知り合いが居るのでかなりの脅威に感じる人間は少なくない。

 

巧はサンダース大付属高校、聖グロリアーナ女学院、プラウダ高校、黒森峰女学園。知波単学園。継続高校、BC自由学園、大洗女子学園等の高校に指導に行っていて、たまに世話になった大学戦車道理事長の千代からのお願いで大学選抜にも指導に行っている。

 

巧は戦車に乗ると気性が荒くなり口調が変わる。

 

いわゆるパンツァーハイってやつだろう。

 

巧本人は気づいてないようだ。

 

~★~

 

玉木重治(たまきしげはる)

 

性別『男』

 

年齢『満63歳』

 

誕生日『11月24日(いて座)』

 

好きな食べ物『せんべい』

 

嫌いな食べ物『洋菓子』

 

趣味『将棋・花札・かるた・囲碁』

 

日課『俳句を詠むこと』

 

好きな戦車『マウス』

 

座右の銘『人間の影響力はその人間の存在価値を示す』

 

好きな花『睡蓮』

 

日本戦車道連盟の副理事長。

 

本作のオリジナルキャラクター。

 

顔は怖いが根はやさしい人で巧の事を気に入っている。

 

決断力と図太い精神で日本戦車道連盟理事長である児玉七郎を支えている。

 

初見の人はクマのような人間と言う。

 

将棋をたしなんでおり、巧ともたまに対局する。

 

なお勝率は巧が全勝で一度も勝ててない。

 

だけど日々の努力は怠らず巧に勝つ日を夢見ている。

 

年齢の割に活発でしっかりとした体をしている。

 

~★~

 

橘立夏(たちばなりっか)

 

性別『女性』

 

年齢『満29歳』

 

誕生日『6月28日(かに座)』

 

好きな食べ物『ジャーマンポテト』

 

嫌いな食べ物『苦い物』

 

趣味『小説を読む事』

 

日課『映画を見る事』

 

好きな戦車『パンター』

 

座右の銘『仲間や友達はかけがえのない存在で、一生の宝物』

 

好きな花『彼岸花』

 

社会人チームの隊長。

 

役割は装填手兼車長である。

 

巧とは同級生で黒森峰女学園在学中は隊長車の装填手をしていた。

 

努力家で社会人チームでは巧に追いつこうと必死に努力をしている。

 

情に脆く泣きやすい。

 

熱血で何でも一人でやってしまう癖がある。

~★~

 

伊吹彩(いぶきあや)

 

性別『女性』

 

年齢『満27歳』

 

誕生日『5月22日(ふたご座)』

 

好きな食べ物『ソーセージ』

 

嫌いな食べ物『ザワークラウト』

 

趣味『静かな場所での読書』

 

日課『チェス』

 

好きな戦車『ティーガーⅡ』

 

座右の銘『勝利とは、最後まで仲間を信じた者に訪れる』

 

好きな花『エリカ』

 

戦車道の社会人チームの選手会長。

 

社会人チームの副隊長で巧が黒森峰女学園に在学中の戦車道副隊長。

 

冷静で確実な判断を下せる人間。

 

巧にはチーム内で一番頼れる存在と言われている。

 

高飛車だが、実は仲間想いで裏で努力をする努力家。

 

 



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黒森峰に訪れます

時間軸上は大洗に戦車道が復活した直後の話です。

なぜ改訂版にした理由は以下の通りです。

まず前作の話は途中から話がごちゃごちゃになってしまい、小説の内容も脱線してしまっていました。

それに最初のうちは文字数も多くて各話の内容も濃かったですが、途中から文字数も少なくなり、薄くなりました。

悪い言葉ですが、内容が適当になってしまいました。

なので今作から新たに内容を大きく変更して追われる前から話を始めたいと思います。

それにタグのハーレムが意味がなく、ヤンデレとしてもあまりヤンデレっぽくないので日常回も追加したいので改訂したいと思いました。

そして乙女たちが主人公を好きになる理由もはっきりしていなくて、各校と乙女たちの思惑がはっきりしていないのでそれも理由の一つです。




男は黒森峰女学園を訪れていた。

 

男は玄関先に飾られている賞状や楯を眺めていた。

 

そもそも女子校の黒森峰に教員でもない男が居るのは異常であるが、生徒や教員たちは何も言わない。

 

それどころか、気さくに話しかけたり、挨拶をしたりして、どこか親しげだ。

 

そうこの男、黒森峰女学園唯一の男子の卒業生であり、過去に西住流の手ほどきを受け、戦車道の特待生として特別に男子で入学が出来たのだ。

 

そしてかつての黒森峰の戦車道を常勝集団に変え、全国九連覇という偉業の最初の優勝チームの隊長を務めた人間だ。

 

現在では日本戦車道連盟の強化員と審判員を務め、忙しい毎日を送っている。

 

そんな黒森峰OBの男は何故訪れたのか?

 

答えは単純だった。

 

ただの帰郷だった。

 

男は第二の故郷と言ってもいい西住の家に戻る前に熊本に寄港している母校に立ち寄っていたのだ。

 

そしてある人物と待ち合わせしていた。

 

「お待たせしました巧さん」

 

男こと伊藤巧(いとうたくみ)に近づいてくる左右の綺麗な栗色の髪の毛が外側にはねていて、ツリ目と凛々しい顔立ちの少女、現黒森峰女学園戦車道隊長の西住流師範の娘、西住まほだ。

 

待ち合わせしていたのはまほだったのだ。

 

「そんなに待ってないよ」

 

巧ははにかんで優しく答えた。

 

まほは巧の隣で立ち止まり、巧の目線の先を見つめた。

 

「どうかしたんですか?」

 

「少し懐かしいと思って」

 

少し微笑みながら答えた。

 

かつての学園生活の事を少し思い出しながら巧は目線をまほに合わせた。

 

「まほちゃん。練習お疲れ様」

 

「いえ、巧さんに会えると思うと平気でした」

 

「お世辞でもうれしいよ」

 

まほの頭を優しく撫でて微笑んだ。

 

少し恥ずかしそうだが、うれしそうな表情をしていた。

 

ふと巧がまほの誕生日がもう少しな事に気づいた。

 

もう少しと言っても、まだ二ヶ月くらい先の事だが、直接会う事も仕事の事情で中々会えないので少し前から誕生日プレゼントについて聞き始めるのだ。

 

「そういえばまほちゃんは今年の誕生日は、何か欲しい物でもある?」

 

「それじゃあこれにサインとハンコを・・・」

 

まほが手元に持っていた学生鞄から少し大きい紙を取り出した。

 

まほの手から巧に直接手渡された。

 

巧は最初は戦車を購入する同意書かと思ったが、手渡された紙を見て顔色が変わった。

 

手渡されたのは妻の欄がすべて書かれて埋まっている婚姻届だった。

 

それに西住のハンコが押されていて、サインも書かれていた。

 

「ま、まほちゃん何かの冗談かい?それにこのサインは?」

 

「しーっ」

 

まほが口元に指を当てながら微笑んでだ。

 

その顔は小悪魔のような表情だった。

 

「巧さん私は本気です。私はもう結婚できる年齢です。子供もできる体です。いざという時は西住の名を捨てる覚悟もあります」

 

巧の胸にまほが顔を押し当てて手を巧の体の後ろに回して抱き着いていた。

 

巧はまるで石化したように動かなくなったのだ。

 

まほはただ巧の胸の中で鼻をスンスンと動かし、巧の匂いを堪能していた。

 

やっと巧は石化が解除されたように口を動かした。

 

「まほちゃんこんなところ誰かに見られたら・・・」

 

「誰がどう見ても恋人じゃないですか」

 

「で、でも僕にも立場があるから。これじゃあ強化員の僕が戦車道の隊長に手を出してるようだから・・・」

 

まほがむっとした表情に変わり、頬を膨らました。

 

まほは普段はおとなしく言う事をよく聞く少女だが、たまに無邪気な少女になるのだ。

 

さっきより強く巧を抱きしめた。

 

「巧さんは私の事、嫌いですか?」

 

一転まほの表情が変わり、目に涙がうっすらと浮かべていた。

 

巧は慌てた表情で訂正した。

 

「まほちゃん、僕は決してまほちゃんの事が嫌いじゃないよ」

 

「それじゃあ問題ないですね」

 

さっきとは一変して目から涙が消え、小悪魔みたいな表情に戻った。

 

まほはただの泣き真似をして巧を動揺させて、揺さぶりをかけていたのだ。

 

巧は為す術がなく立ち尽くしているところに、ある人間からは救世主、ある人間には邪魔者となる人物が現れる。

 

「隊長!」

 

まほはスッと巧から離れた。

 

少し表情を曇らせたまま、まほが声をかけてきた相手と対面した。

 

「エリカどうした?」

 

逸見エリカ、綺麗な銀髪のセミロングと整った顔立ちできちっと着こなされた黒森峰女学園の制服。

 

彼女は現黒森峰女学園戦車道の副隊長を務めている。

 

「巧さんがいらっしゃっていると聞いたので、指導をご鞭撻のほどを・・・」

 

その言葉を聞いたまほはさっきと打って変わって冷酷な表情をしていた。

 

「エリカ。巧さんは忙しい。それに今回は指導で来てもらっていない。ただの帰郷だ」

 

巧が二人の間に割って入った。

 

「まほちゃん。後輩を指導するのもOBとしての僕の務めだよ?」

 

「巧さんが言うなら・・・」

 

巧の言葉で食い下がるまほ。

 

「エリカ。粗相のないように」

 

「はい隊長」

 

まほがエリカに注意を促してこの場を去って行った。

 

エリカはまほが去って行くの見届けて巧に近づいた。

 

「ありがとうエリカちゃん。久しぶりだね」

 

巧はエリカに助けてもらったお礼を言った。

 

「そうですね。それより私の部屋に行きましょう」

 

エリカは巧の手を繋いでそのまま引き連れてエリカの下宿先の寮に移動するのであった。

 

巧は寮に向かう道中、周りの景色を見ていた。

 

変わらない建物と懐かしい雰囲気を肌で感じながら懐かしんでいた。

 

寮に到着するとエリカの部屋に案内された。

 

基本二人部屋で少し二人で暮らすには広いぐらいの部屋だ。

 

「ルームメイトは?」

 

巧は部屋に入った時からの疑問をエリカにぶつけた。

 

「友達と出かけました」

 

エリカが淡々と答えてドアのカギをかけた。

 

その瞬間、巧の背中に抱き着いた。

 

着ている服がしわになるほど強く抱きしめていた。

 

「い、痛いよ!エリカちゃん」

 

巧が思わず声を上げた。

 

「巧さんは隊長だけを贔屓するのですか?」

 

「僕はみんな平等にしているはずだけど・・・」

 

「私も甘えたいです」

 

巧はエリカの手を解いてエリカと向かい合った

 

エリカと巧の関係は、巧が高校生時代に幼少期のエリカと出会ったのが始まりだ。

 

その後は戦車道の楽しさを知ったエリカが黒森峰女学園中等部に入学した。

 

そして戦車道連盟の強化員として派遣された巧と再会するのであった。

 

巧を通じてみほとまほは幼少期からしっているはずなのだが、みほとまほがエリカの事をすっかり忘れてしまっていたのだ。

 

だが、巧はエリカの事を覚えていた。

 

エリカからみほとまほの事を聞いて二人に伝えようとしたが、エリカが止めた。

 

エリカが二人だけの秘密にしたいという事だ。

 

「え、エリカちゃん指導は?」

 

「いりません。私は巧さんに会えて二人だけになっただけで充分です」

 

エリカが巧の手を自分の頬に持って来て愛おしそうに巧を見つめていた。

 

巧は恥ずかしいから顔を横にそらした。

 

静寂に包まれる部屋。

 

お互いに動かずに固まってしまっている。

 

エリカは巧の手を頬でスリスリさせて満足げだが、巧は動けずにいた。

 

巧は静寂を破るために口をひらいた。

 

「エリカちゃん。用がなければ帰っていいかな?」

 

ぴくッと言葉に反応してスリスリが止まった。

 

表情が変わり、固まってしまった。

 

段々と言われた言葉の意味が理解してきて、目に涙を浮かべ、今にも泣きそうな状態になってしまった。

 

「巧さんは私の事嫌いなの・・・」

 

いつも通りの気強くプライドの高い人物ではなく、甘えん坊な少女になっていた。

 

少しデジャヴのように思いながら巧は答えた。

 

「嫌いじゃないよ!」

 

「それじゃあ好き?」

 

困惑して巧がまた固まった。

 

エリカの無邪気な子供のような顔は普段とのギャップで巧の脳内を混乱させていた。

 

恥を忍んで巧は口を開いて言った。

 

「だ、大好きだよ!」

 

「私も巧さんの事好きよ!」

 

エリカが巧の胸元に飛び込んでがっちりと抱き着いた。

 

巧は少しふらついたが、態勢を整えてしっかりと受け止めた。

 

「え、エリカちゃん。僕そろそろ西住の家に行かないと、しほさんに怒られるから離してくれる」

 

エリカは言う事を素直に聞いて巧を離した。

 

「また来るからね?」

 

「絶対ですよ?」

 

部屋から出て行く巧を見送った。

 

エリカがなぜ巧を素直に離したのか?

 

理由は簡単で単純だ。

 

「巧さんのボイスコレクションこれで完成よ!」

 

エリカは制服のポケットからボイスレコーダーを取り出した。

 

自分の机のパソコンを起動して、USBケーブルで接続して音声をパソコンに取り込んだ。

 

パソコンにはこれまでエリカが集めた巧のボイス集があった。

 

そしてエリカがヘッドホンをつけて、巧の声を組み替えて編集を始めた。

 

「もうちょっと・・・」

 

自然にエリカの顔から笑みがこぼれた。

 

それは不気味でどす黒い笑みだった・・・。

 

~★~

 

巧は寮を出て黒森峰女学園を後にしようとしていた。

 

「っ!?」

 

何か嫌な視線を感じた巧は周りを見渡した。

 

周りには人影もなく気配もない。

 

巧は戦車道で神経が研ぎ澄まされているので、些細な視線でも感じ取ることができるのだ。

 

巧は嫌な汗を掻きながら、その場所から走って立ち去っていた。

 

そして巧の居なくなった場所に現れる少女。

 

「シャイなんですね巧さん」

 

ショートカットのくせ毛の赤みがかった茶髪と黒森峰女学園の制服に身を包んだ少女。

 

赤星小梅だ。

 

去年の全国高校戦車道大会で川に転落したIII号戦車J型に搭乗していた女生徒の一人だ。

 

優勝を逃し、十連覇を達成できずに連覇を止めることになってしまった。

 

他の隊員達に責められ、仲間と友達が消えていき、孤独だった。

 

よく指導に来てくれる巧に申し訳ない気持ちでおしつぶされそうだった。

 

そのせいで心に深い傷を負い一時期は黒森峰を去ろうとしていたが、巧がそれを止めた。

 

巧は連覇が止まった事に関しては一切怒る気などなく、むしろ自分の審判員としての判断が悪かったと謝罪した。

 

そして小梅にこう言った。

 

『君の戦車道はまだ終わってない』

 

負けた事よりも重要視する事があると小梅に伝え、また新たな一歩を後押しをした。

 

それにより小梅は自分を救ってくれた救世主として巧に好意を寄せるようになった。

 

だがその好意の大きさはドンドン大きく膨れて行き、巧の写真を陰ながら撮り、集めるようになった。

 

コレクションとして数々の巧の写真がアルバム数十冊に及ぶものだ。

 

「流石一眼レフ画質が違いますね」

 

最近買ったばかりの一眼レフの撮り心地のチェックを兼ねて訪れた巧を撮っていたのだ。

 

普段は隠しカメラで撮っていたのだが、エリカとまほがこっそりと撮れないように邪魔をしてくるようになったのだ。

 

直接盗撮をするなとは言ってこないが邪魔はする暗黙のルールが謎に存在する。

 

「困惑する巧さん。困ってる巧さん。焦ってる巧さん。これでまた私のコレクションが増えました!」

 

一眼レフの液晶モニターに撮った写真が映し出された。

 

中には先程のエリカとまほと一緒にいる写真も含まれていた。

 

「やっぱり邪魔者(・・・)が一緒に写ってると巧さんがかわいそうに思うなぁ」

 

小梅はエリカやまほが一緒に写っている写真の中で加工したら巧だけにできる写真だけ残して他は削除した。

 

「部屋に戻って早速現像しよ」

 

いつもより気分よく寮に戻る小梅だった。

 

この黒森峰女学園にも存在する病んだ戦車乙女たちはまだ一部だ。

 

各校の戦車道履修者と戦車道連盟、大学選抜に潜む病んだ戦車乙女もまだ居るのだ・・・

 

~★~

 

巧は黒森峰女学園の駐車場に着いていた。

 

さっきの嫌な感じはなく、視線も感じなかった。

 

自分の車を駐車したところに近づいていくと自分の車の近くで居る少女を確認した。

 

「まほちゃん。先に帰ってくれてもよかったのに」

 

少女の正体はまほだった。

 

さっき巧と別れた後からずっとここに居て巧を待って居たのだ。

 

「一緒に帰りたいと思ったので」

 

「それじゃあ車に乗って」

 

巧は車の扉の鍵を解除して開けて、まほを助手席に乗せた。

 

巧の車はキレイに掃除されており、他人をいつ乗せても大丈夫なようになって居た。

 

「まほちゃん。少しこれを持っておいて」

 

巧は運転の邪魔にならないように上着を脱いでまほに渡した。

 

まほはそれを受け取り即座に着用した。

 

まほと巧では体格差があるのでぶかぶかで袖の丈が長く余っている。

 

どこが満足げなまほを不思議そうに巧は見たが、気にせず車のエンジンを起動させた。

 

そして車を発進させるのであった。

 

巧とまほが向かって行っている場所はまほとみほの母親である西住流師範の西住しほが居る西住の家だった。

 

しほも巧を愛し過ぎて心が病んでいる戦車乙女の一人だった。

 

その愛の大きさは最愛であるはずの夫よりも大きいのである・・・

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたか?

今作はこんな感じで行きたいと思いますのでよろしくお願いいたします!


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久々の第二の実家です

今回はしほとまほがメインです!


学園艦から降りて車で街を走っていると巧は街並みに目を向けていた。

 

巧の学生時代はいつも歩いて道も今では車で通る程度になってしまい、少し寂しく思っていた。

 

それから少し走ると景色は一変して田んぼや畑が目立つようになった。

 

いつも三人で遊んでいた駄菓子屋や空き地は今もそのままで残っており、巧の操縦するⅡ号戦車でいつも遊びに行っていた事を思い出した。

 

巧は自分たちは変わってもここは変わらない事に少し安心している。

 

懐かしい景色を見ているとすぐに西住の家に到着した。

 

相変わらず大きな家で始めて来た時は迷ってしまっていた巧だが、今ではしっかりと家の中を把握している。

 

いつも通りに家の中の戦車がある蔵の近くに車を停めた。

 

「まほちゃん着いたよ」

 

「はい」

 

まほは巧の上着を着たまま車から降りた。

 

巧も車から降りると、後部座席に置いてあった仕事鞄と風呂敷包みを持った。

 

片手で鞄と風呂敷包みを一緒に持っていて、空いている片手の方はまほが腕を組んできた。

 

巧はいつも通りの事なので大しては気にしなかったが、最近まほの体の発育のせいか少しドキドキするようになった。

 

少し歩いていくと女中の菊代さんが待っていた。

 

「おかえりなさいませ。まほお嬢様。巧様」

 

「ただいまです」

 

巧は持っていた荷物を菊代に預けた。

 

「まほお嬢様。お着替えはお部屋に用意しています」

 

「いつもありがとうございます。菊代さん」

 

まほは巧の腕から離れて自分の部屋に向かうのであった。

 

菊代はこの光景に慣れているので大して驚いてはいない。

 

それどころか巧に『お疲れ様です』と言う顔をしていた。

 

それに答えるかのように巧は『慣れてます』と言う顔をしていた。

 

巧はふと思い返した。

 

まほはいつからこのようになったのか?

 

小学校に入学した当初は・・・

 

『巧さん!大好きです!』

 

まだこの頃のまほは素直で異性的に好きではなく、家族的みたいだった。

 

だがまほが変わる大きな要因となったのは巧の大学進学だった。

 

大学進学を皮切りに大きくまほは変わってしまった・・・

 

そのせいか小学校を卒業する頃は・・・

 

『あと4年です。4年待ってください』

 

この時の言葉の意味を巧には理解できていなかった。

 

まほは黒森峰女学園の中等部に入学した時から今みたいになっていた。

 

『巧さん!初潮がありました!いつでも巧さんの子供を作れます!』

 

この頃からまほが今みたいになったのは。

 

高等部に上がった時は・・・

 

『入学祝に婚約してください』

 

逆プロポーズされたことを思い出した。

 

小学校の卒業の時に言われた事の意味をやっと理解した巧であった。

 

この高校生になった直後からドンドンとエスカレートしてきた。

 

さっきの婚姻届の件はまだ軽い方だ。

 

「巧様!」

 

巧は考え込みすぎて周りの声が聞こえていなかった。

 

菊代さんの呼ぶ声でやっと意識が戻った。

 

「すいません。少し考え事をしてました」

 

「大丈夫ですか?師範がお待ちしているのですが・・・」

 

菊代さんに変な心配をかけた巧はしっかりとした声で答えた。

 

「大丈夫です。行きましょう」

 

「こちらです」

 

菊代さんに案内されてしほの居る部屋に向かうのであった。

 

屋敷の中の長い廊下を歩いてしほの居る部屋の前に到着した。

 

「師範t「巧さん入って来なさい」し、師範!?」

 

巧を連れてきた事を伝えようとしたが、しほが言うまでもなく巧の存在を当てた。

 

「菊代さん荷物ありがとう」

 

巧は菊代から預けておいた仕事鞄と風呂敷包みを菊代から貰った。

 

「失礼しますしほさん」

 

襖を開けて入室し、机を挟んでしほの対面に座った。

 

仕事鞄を自分の隣に置き、風呂敷包は机の上に置いた。

 

「手土産に日本酒を買ってきました」

 

風呂敷を開けて中の日本酒の瓶を見せた。

 

「ありがとう巧さん」

 

日本酒の瓶を受け取り机の上が空いた。

 

しほは立ち上がり、巧の隣に座った。

 

しほは巧の肩に頭を置いて体を傾けた。

 

巧は戸惑っていたが、動くとしほが倒れてしまうので動けずにいた。

 

「少し疲れました・・・」

 

「お疲れ様です」

 

普段から気を張っていて気を休める暇も無ければ、休ませてくれる人もいないのでたまに巧にこうしているのだ。

 

最初はカチコチに緊張していたが、今では少しは戸惑うが幾分かはましになっている。

 

「常夫さんにはこういう事はしないのですか?」

 

「あの人よりもあなたの方が休まります」

 

今のしほは夫の常夫よりも巧の方が愛しているのだ。

 

上面だけの夫婦と化しており、この事は常夫本人も気づいていない。

 

「近々に家元を襲名する予定なのですが、巧さんには西住流の師範になっていただきませんか?」

 

西住流の師範になるという事は、日本の戦車道を背負うという意味もある。

 

それに男として初めての西住流戦車道の師範となるのだ。

 

そんな凄い事に巧は迷いもせずに言った。

 

「すいませんが今回はお断りします」

 

「なぜですか?」

 

「実は戦車道日本代表チームの総監督に推薦を受けているので」

 

巧の実績を認められ、日本戦車道連盟の理事長を務めている児玉七郎と文部科学省学園艦教育局長の辻廉太の推薦を受けているのだ。

 

そしてもう一人、巧を推薦している人物が居る・・・

 

「大学戦車道連盟の理事長の島田千代さんにも推薦を受けています」

 

島田千代の名前を聞いてしほの顔が変わった。

 

普段の門下生に指導をしている時以上に憤怒にまみれた顔をしていた。

 

それもそうだろう。

 

西住流と対立する流派である島田流の家元が巧を高校戦車道連盟のしほを差し置いて推薦しているからだ。

 

それにかつて黒森峰女学園に在学中の巧を大学選抜に勧誘して当初すぐに連盟の強化員になるはずが、大学に進学することになってしまったのだ。

 

しほはそれかなり恨んでおり、ここぞとばかりに島田流を潰そうとしている。

 

千代もそれに対抗して西住流との溝が広がったのだ。

 

それに巧がたまに大学選抜に顔を出して指導している事にも腹を立てているのだ。

 

本当は巧が大学選抜で在中していた頃に指導をしてくれた千代に恩を返すために大学選抜に訪れるのだ。

 

しほはそれを知らずに千代が巧を無理やり大学選抜の指導をさせていると思っているのだ。

 

「千代め!また私の巧さんを騙そうとして!」

 

「っ!?」

 

しほが巧を逃がさないように腕をがっちりと力強く組んだ。

 

巧は痛さで声にならない悲鳴を上げた。

 

「い、痛いです!」

 

「ごめんなさいね巧さん」

 

巧が悲痛の声を上げたため、しほは素直に離した。

 

「今回の師範の件は延期にします。日本代表チームの総監督の件は私も推薦させてもらいます」

 

「あ、ありがとうございます」

 

二人の会話が終わり、静寂に包まれる部屋に廊下から人の走ってくる足音が聞こえてきた。

 

ドンドンと近づいてきて部屋の襖の前で止まった。

 

「失礼します」

 

声の主はまほだった。

 

襖を静かに開けて入室してきた。

 

服装は普段着で白で統一された清楚系の服装で、普段の制服やパンツァージャケットのミニスカートとは違うロングスカートを着用している。

 

しほと反対の巧の隣に座った。

 

母親のしほに対抗するように、巧と腕を組んだ。

 

「まほ。それは母親に対する私への挑戦ですか?」

 

「そう受け取って貰って結構です」

 

巧を挟んでしほとまほの親子同志で火花を散らしていた。

 

普段は母親の言う事を聞くまほでも巧の事になると流石に親子喧嘩になる。

 

「二人とも落ち着いてください。まほちゃん、しほさんは母親なんだからそんなこと言ったらだめだよ?しほさんもまほちゃんの言動を真に受けたらいけませんよ?」

 

「巧さんが言うなら・・・」

 

「ごめんなさいね。巧さん」

 

二人は巧に言われた事を素直に聞き、いつも通りに戻った。

 

「巧さん。食事にしましょう。巧さんから貰ったお土産を飲ませていただくわ。巧さんも飲むでしょう?」

 

「僕は仕事で今日の夜には戻らないといけないので気持ちだけで」

 

 

「残念ね。それなら菊代に夕食をすぐに用意させるわ」

 

しほさんが菊代の事を呼ぶとすぐに菊代が現れた。

 

「夕食の用意してくれるかしら?」

 

「かしこまりました」

 

菊代は用件を聞いて部屋を後にする。

 

その時に巧に向けられた表情は同情に満ちていた。

 

「巧さんは今度いつ黒森峰に来てくれますか?」

 

「戦車道全国高校生大会の準備と運営で忙しいけど、大会期間中に一度指導に行くよ」

 

「そうですか、できるだけ早くに来てくださいね?」

 

まほは巧の服の袖をギュッと掴んだ。

 

巧はまだまだ子供で寂しいのかな?と心の中で安心しながらまほの頭を撫でた。

 

だけどまほのこの行為の本当の意味合いは違った・・・

 

「(巧さんが誰にも盗られないように・・・)」

 

本当の意味は巧がどこにも行かないように軽めの拘束行為なのだ。

 

まほの目から光が消えた事は巧は気づいていない。

 

巧の身近で彼女の心は黒く染まっていっていた。

 

菊代が唐突にも襖を開けた。

 

「皆様。食事の用意が出来ました」

 

菊代に続くように西住家の女中達が食事を部屋に運んできた。

 

豪勢で美味しそうな和食の数々が並べられた。

 

「師範もあまり飲みすぎないようにお願いします」

 

「わかってるわ」

 

菊代もしほに注意を促して食事の準備が整ったので女中全員が部屋から出て行った。

 

「いただきますね」

 

「巧さんは遠慮しなくていいのよ?」

 

「ありがとうございます」

 

三人は黙々と食事を始めた。

 

しほは巧のお土産の日本酒を飲みながら食事を楽しんだ。

 

食事の途中に巧は何かを思い出したかのように箸が止まった。

 

「しほさん少しいいですか?」

 

「なんですか?」

 

巧は仕事鞄から一枚の紙を取り出した。

 

「来週に今年度の戦車道全国高校生大会の会議をする予定なのでお願いします。今回は去年度からの反省で試合中断の審議の基準を下げたいと思いまして、それの審議を取りたいのでお願いします」

 

去年の第62回戦車道全国高校生大会の決勝戦において大雨により地面が滑り黒森峰の戦車は増水する川に転落した。

 

黒森峰女学園の西住みほのおかげで転落した戦車の乗員は幸い命に別状はなかったが、そのせいか黒森峰女学園は敗退した。

 

十連覇を目前に連盟の判断ミスともいえる事で勝てるはずの高校が敗退を余儀なくされた。

 

当時、大会の総合審判長をしていた巧はこの事故を二度と繰り返さないようにするためにもこの会議の開催を大きく推進した。

 

そして転落した戦車の乗員を助けたみほが黒森峰女学園を去らなければいけない事になった事にも後悔した。

 

だから高校戦車道連盟の理事長であるしほにも直接会って参加の表明を取りに来たのだ。

 

「心配しなくても、私は会議に遅刻もしなければ欠席もしたことがないのよ?」

 

「ありがとうございます。児玉理事長に報告したいので少し席を空けますね」

 

巧は心の底から安心して、この案件に力を貸してくれた日本戦車道連盟の理事長の児玉七郎にすぐさま報告をしたいのだ。

 

巧は退室して部屋から少し離れたところで携帯を取り出した。

 

だが携帯を見て巧は驚いた。

 

不在着信とメッセージが大量に届いていた。

 

その全ての送り主は西住みほだった。

 

巧は落ち着いてまずは仕事を終わらせようと児玉に電話を掛けた。

 

数コールした後に電話に出た。

 

「もしもし巧です」

 

『巧君どうしたんだ?』

 

「高校戦車道理事長の西住しほさんが来週の会議の参加してくれるそうです」

 

『そうか!それじゃあ次は大学戦車道理事長の島田千代さんにお願いに行ってくれ』

 

「わかりました。それでは」

 

電話を終えて巧は意を決して緑のアイコンのメッセージアプリを開いた。

 

『巧さん今暇ですか?』

 

『巧さんどうしたんですか?』

 

『巧さんもしかして仕事で忙しいですか?』

 

『返事ください』

 

『まだですか?』

 

『寂しいです』

 

『悲しいです』

 

『もしかして去年私のせいで優勝できなかったこと怒っているんですか?』

 

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』

 

等の無数のメッセージが送られてきていた。

 

盛大に勘違いをしているみほに巧は焦っていた。

 

それとサイレントモードにしていた自分を責めた。

 

巧は去年の事を責めたりはしていない。

 

むしろ大会の総合審判長していた自分の判断ミスだとみほに謝ったくらいだ。

 

巧は誤解を解くためにすぐに電話を掛けた。

 

1コール目にしてすぐに電話に出た。

 

「もしもしみほちゃん!ごめんね少し忙しくて電話とメッセージに気づかなかったんだ!」

 

海の波の音と風の音、そしてみほの泣き声が聞こえた。

 

『・・・本当にですか?』

 

泣き止んだようだが、鼻水をすする音が聞こえる。

 

巧は瞬発的に声が出た。

 

「本当だよ!明日も約束通り大洗に行かせてもらうから!」

 

『わかりました!楽しみにしてますからね!』

 

みほが電話を切って巧は一安心した。

 

巧は廊下を歩いて部屋に戻るのであった。

 

何も声を掛けずに部屋に入室した。

 

その瞬間、まほとしほが慌てた素振りで座っていたところに戻って行った。

 

巧が座って机に目をかけた。

 

「(あれ?箸をこんなに乱雑に置いたかな?それに箸の先端が濡れているような気が・・・気のせいかな)」

 

巧は気づいていないが実はまほとしほが・・・

 

「(危なかったわ。巧さんの箸の片方を使ったのがバレなくて・・・)」

 

「(巧さんが気づかなくてよかった・・・)」

 

巧は気づいていないがまほとしほが巧の箸を堪能していたのだ。

 

何も巧は気にしていないが、まほとしほは内心は間接キスが出来た事に喜んでいた。

 

その後は大して会話をしないで食事を終えた。

 

「それでは僕はここで」

 

「あら。もう少しゆっくりしていればいいのに」

 

すっかり出来上がってきているしほが巧を止めようとしていた。

 

まほもそれに便乗してきた。

 

「巧さん何なら私と一緒にお風呂に入りましょう」

 

「まほちゃんもうそんな歳じゃないでしょ?」

 

まほは絶望に満ちた顔で項垂れていた。

 

「また今度来ますから」

 

「絶対ですよ?」

 

「僕は約束を破った事ないでしょ」

 

まほを説得して巧は帰ろうとした。

 

「それでは巧さん今度は来週ですね」

 

「はい。お願いします」

 

しほは娘であるまほに羨ましいでしょ?と言う大人げない顔をしていた。

 

まほはそれに対してあまり悔しそうな顔をしなかった。

 

巧は部屋を後にして泊めていた車に乗り込んで西住の家を後にした。

 

西住の家を出て少しした時に巧が気づいた。

 

「(そういえばまほちゃんに上着を返してもらってなかったな・・・)」

 

実はこの事がまほが悔しがった顔をしなかった理由の一つだ。

 

~★~

 

まほが巧が帰った後に自分の部屋に戻った。

 

部屋には巧がまほに預けた上着が丁寧にハンガーに掛かっていた。

 

まほはその上着をギュッと抱きしめてスンスンと匂いを嗅ぎ始めた。

 

「巧さんはワタサナイ」

 

まほの瞳には光が消えており欲望に満ちていた・・・

 




いかがでしたか?

次回は大洗での巧の話です!


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巧は大洗を訪れる

巧は連盟のヘリにて少し考え事をしていた。

 

大洗には先日に巧の後輩である蝶野亜美が教官として行っていたのだ。

 

連盟に報告した内容に巧は目を疑っていた。

 

各員戦車を始めて動かしたはずなのにまともに戦えていたと報告していたのだ。

 

流石に校内練習試合は何が何でもやり過ぎだと巧は亜美を叱った。

 

理由は初心者に練習とはいえ試合をさせるなど連盟の名が傷つくことなのだ。

 

これでけがでもしたら更に連盟の名が地に落ちるのだ。

 

だけど巧は報告内容に重視し、次期日本代表候補として直々に手を加えたいと思ったのだ。

 

だが、本当の目的は西住みほの心のケアだ。

 

心身ともに傷ついたみほがどうして戦車道を再開したのか?

 

一番の懸念だ。

 

巧としてはあまり無理をせずにしてほしいところだが、優先すべきは本人の意思だと考えているのだ。

 

だが今後は仕事が忙しくて中々みほに会えないから今回は巧にとってはかなりいい出来事だ。

 

これから高校戦車道大会の準備と会議、更には各校に指導に行かなければならないのだ。

 

大学選抜にも島田流家元の島田千代に会議参加の表明を取らなければいけないのだ。

 

この時期になると巧は忙しくなるので休みの日数が少なくなり、連日勤務で忙しくなるのだ。

 

せめて休める日に休みたいのだが、流石にみほの事が関わると断れなかったのだ。

 

抽選会では運営をしなければならないので抽選会場に行かなければならないのだ。

 

この後も聖グロリアーナ女学院、サンダース大付属高校、アンツィオ高校、プラウダ高校、継続高校、知波単学園、黒森峰女学園、BC自由学園等の数校にも指導に行かなければならない。

 

それに大会で負けた高校と勝った高校のアフターサポートに回り、大会では審判員として全戦で仕事をしなければいけないのだ。

 

巧は案外に忙しく、気も休まらないのだ。

 

「もう少しで大洗女子学園です」

 

「ありがとう。帰りは連絡するよ」

 

一息をついて日本戦車道連盟の指定のジャケットを着て降りる準備をした。

 

海の上を進んでいたヘリから見る景色が学園艦の街並みの風景に変わってきた。

 

街の上を通過するヘリは学園艦のほぼ中心に位置する大洗女子学園のグラウンド上空に到着した。

 

ドンドン降下して行くヘリはグランドに砂煙をまき散らしながら着陸した。

 

スライドドアが自動で開いて、巧は大洗の学園艦に足をついた。

 

巧が少し歩いて行くと、連盟のヘリが飛び立った。

 

巧は自らの目で大洗女子学園の戦車道を履修している人物全員を見た。

 

かなり個性が強いが、これまでにも他の高校で個性が強い生徒を見てきたので巧はそこまで驚いていなかった。

 

「こんにちわ。日本戦車道連盟の強化員の伊藤巧です。今日は皆さんよろしくお願いします」

 

大洗女子学園の生徒は十人十色で色々なリアクションをしていた。

 

ある者は目を輝かせ。

 

ある者は何故か興奮していて。

 

ある者は全然わかってない顔をしていて。

 

そしてある者は・・・瞳の光が消えていた。

 

巧はみほに向かって手を軽く振った。

 

みほは笑顔だったが、どす黒い笑顔だ。

 

みほは全力疾走してる勢いで巧に飛びついた。

 

巧はデジャヴ感を覚えたが、倒れずにみほをしっかりと受け止めた。

 

「巧さん巧さん巧さん巧さん巧さん巧さん巧さん」

 

みほが巧の胸の中で巧の匂いを嗅ぎながら額を服にこすりつけた。

 

大洗女子学園の生徒たちはどよめいていた。

 

それもそうだろう。

 

普段はおとなしいみほでも巧の事となると別だ。

 

みほが黒森峰女学園在学中もこんな感じで初めて見た人間は大抵は驚く。

 

巧は苦笑しながらみほの頭を撫でた。

 

みほの顔は無邪気な子供のような顔に変わった。

 

ある程度したら満足したのかみほは巧から離れた。

 

「すまないけど隊長は誰ですか?」

 

みんなを置いてきぼりにして巧は戦車道の代表者ともいえる隊長を探した。

 

「わ、私だ」

 

片眼鏡の少女が巧の前に出てきた。

 

「保有戦車を教えてくれるかな?」

 

「Ⅳ号戦車D型、38(t)戦車、八九式中戦車、Ⅲ号突撃砲、 M3中戦車リー の計五両です」

 

「ありがとう」

 

巧は顎に手を掛け少し考える素振りを見せた。

 

だがその時一人の少女が声を上げた。

 

「あの!」

 

巧は考えるのをやめてその少女の方を見た。

 

「なにかな?」

 

「伊藤教官はあの黒森峰の伝説の伊藤巧ですか!?」

 

巧は少し苦笑しながら答えた。

 

「若い頃はバカなことをしただけだよ。あの事なんて伝説とは言えないよ」

 

少女は輝いた表情をしており、数人の生徒がその事を聞きたがっていた。

 

「かつて黒森峰戦車道を常勝集団に変えた張本人!そして全国高校戦車道大会でほぼ負けであろう状況から獲物を狩るタイガーの如く敵戦車をなぎ倒した伝説の選手!」

 

「恥ずかしいな。馬鹿みたいに暴れてただけだよ」

 

少し照れながら頭をかいた。

 

「それだけではありません!黒森峰卒業後も大学選抜にて日本代表として世界大会に出場し、上位に入りました!そして日本新記録ともいえる単騎での撃破数はなんと!20両を超えています!その後は現役を引退したとは言え、若い人材育成と去年は総合審判長として活躍なされている方ですよ!」

 

また大洗女子学園の生徒たちがどよめいていた。

 

それもそうだろう目の前に居る人物がそんなに凄い人なんて誰もが思わない事だ。

 

「もう十年以上も前の事だからね。僕もあの頃みたいに暴れる事はできないから」

 

少し巧は寂しそうな顔をした。

 

あの学生時代の楽しい思い出は巧の中に残っているが、一緒に戦ってきた仲間とは今は連絡を取り合ってはおらず、巧は会いたいなと心の中で思った。

 

「一応誤解を解いておくとみほとは僕が黒森峰の中等部時代からの関係で西住の家に居候させてもらってたから仲が良いんだよ」

 

大洗女子学園の生徒のみんなが納得してくれた。

 

流石に誤解を解いておかないと日本戦車道連盟の沽券にかかわる問題になり得る可能性があるからだ。

 

「さてと練習の風景でも見せてもらおうかな?」

 

「ぜ、全員整列!」

 

片眼鏡の少女が号令をかけていた。

 

「これより本日の練習を始める」

 

『よろしくお願いします!』

 

少女たちの声がグランドに響いた。

 

~★~

 

巧はある意味、期待を裏切られていた。

 

変な塗装の戦車たちにだ。

 

ピンクに金色、八九式に関しては戦車道ではなくバレーボールの事が書かれていた。

 

それにⅢ突に関しては手の凝った塗装に四本の幟がたてられていた。

 

それ以外の操縦センスは問題なかったが、戦車は論外だった。

 

Ⅳ号だけが唯一まともでよかったと巧は安心した。

 

巧は各員のプロフィールを読みながらどうするか考えていた。

 

巧は初心者だからキツイ練習とか何か言うよりかは自ら学ぶ方が良いと思った。

 

反省し改善を繰り返したらこの塗装もやめるだろうと思った。

 

そうなると他校との練習試合で学べばいいだろうと思った巧だが、それは弱い相手ではなく、彼女を成長させてくれる強い高校の方が良いだろう。

 

黒森峰はまほとみほの衝突が起きたり、しっかりとまだトラウマが治ってないからみほが黒森峰と戦うのは早いと判断した。

 

プラウダ高校も同様でみほの為に練習試合は避けた方が良いと巧は思った。

 

そうするとサンダース大付属高校か聖グロリアーナ女学院のどっちかだ。

 

「(聖グロリアーナ女学院の期待の一年生の成長力を見る為にもここはサンダース大付属高校ではなく聖グロリアーナ女学院の方が良いかな)」

 

巧の考えで練習試合の相手は聖グロリアーナ女学院に決定した。

 

聖グロリアーナ女学院には巧が期待をかけている生徒が居るのでお互いに刺激しあって急成長を見せてくれるかもしれない。

 

巧は期待と大きな希望に掛けてこの練習試合を成功に収めたいと思った。

 

巧は無線機を持って各戦車に連絡を入れた。

 

「そこまで。一旦戻ってください」

 

各戦車を取集して全車が巧の元に戻ってくる。

 

巧の前に整列する生徒たち。

 

「他校との練習試合をしたいと思います。隊長の河嶋さんどうですか?」

 

河嶋が38(t)の乗員の小山と角谷と話し合いを始めた。

 

この三人は生徒会のメンバーで仲が良いのだ。

 

「それじゃあやろうか。練習試合」

 

角谷が巧に答えを出した。

 

「ちなみに練習試合の相手は聖グロリアーナ女学院。準優勝の実績がある強豪校でいい経験になると思います」

 

驚きの声が上がっていた。

 

「勝つ事を意識せずに経験を積んだらいいからね。聖グロリアーナには僕から直接お願いするから。日程が決まり次第連絡します。あとは質問とかある?」

 

その言葉に元気よく一人の少女は手を挙げた。

 

「えっと君は・・・」

 

巧はもらっている各員のプロフィールを確認して外見が一致する生徒を探した。

 

巧といえど短時間では生徒全員の名前は覚えることが出来てないので確認する必要がある。

 

それに他校の生徒の名前も憶えているので間違うことも多々ある。

 

「武部さん。何か質問?」

 

「教官ってモテますか!?それと彼女とかいますか?」

 

思いもよらない質問で巧は苦笑するしかなかった。

 

「モテるよ。でも彼女はいないよ」

 

確かに巧は各校の生徒たちにモテモテだ。

 

流石に巧は鈍感ではないのでその事は本人も知っている。

 

だが本人は誰とも付き合う気もない。

 

その理由は一部の人間の威圧のせいだ。

 

その一人のみほがその一言で機嫌が最悪になった。

 

笑っているはずなのに笑ってはいない笑顔でどす黒い笑顔だった。

 

瞳から光が消えて吸い込まれそうな色をしていた。

 

巧はそれに気づいてすぐさま声を出した。

 

「今日はここまでにしよう!解散!」

 

大洗女子学園の生徒たちは疑問を浮かべて皆それぞれに離れて行った。

 

みほは巧に歩み寄ってきた。

 

「巧さん。モテるってドウイウコトデスカ?」

 

みほの気迫に動揺を隠せない巧。

 

「ほんの冗談のつもりで言っただけだよ」

 

適当な言い訳で誤魔化そうとした。

 

「ふ~ん・・・私の家に行きましょう」

 

「はいワカリマシタ・・・」

 

巧に拒否権はない。

 

みほに腕を組まれて強制連行されていった。

 

~★~

 

巧と腕を組んでいるからみほは機嫌が良くなっていた。

 

上機嫌で鼻歌を歌っているくらいだ。

 

ちなみにみほが歌っている曲はもちろん『おいらボコだぜ』だ。

 

みほはボコファンでかなりのマニアなのだ。

 

「上機嫌だね」

 

「巧さんと下校できるなんて夢のようです」

 

「そうかい?」

 

みほの気分は最高潮であった。

 

だが巧には時間がないのだ。

 

「みほちゃん。悪いけどそんなに長くは居れないよ?」

 

「どうしてですか?」

 

「仕事でね。会議の資料作りがあるんだ」

 

もう一週間を切ったルール改正会議の為に巧は忙しいのだ。

 

「しょうがないですね・・・ですが最後に良いですか?」

 

「どうしたの?」

 

みほが立ち止まりそれに合わせて巧が立ち止まる。

 

みほは巧の前に移動した。

 

そして巧に抱き着いた。

 

「・・・しばらく大丈夫なように抱きしめてくれますか?」

 

「いいよ」

 

巧はしっかりとみほを抱きしめた。

 

「(巧さんは騙されているんだ・・・お姉ちゃんや他の女は巧さんの優しさに付け込んでいるんだ・・・)」

 

巧はみほの異常に一切気付いてはいなかった。

 

「・・・巧さんありがとう。次はいつ会えるかな?」

 

「次は練習試合の時に審判をさせてもらいに行くよ」

 

「また近々会えますね」

 

「そうだね。もう時間だから」

 

みほが手を振って巧を見送った。

 

「(私がしっかりしないと巧さんが悪い女に騙される・・・)」

 

みほは巧を守る事を強く決心するのであった・・・

 

~★~

 

巧はみほと別れた後に少し歩いて学園艦の海が見える所に行った。

 

一息つくためにベンチに座った。

 

携帯電話を取り出してある人物に電話を掛けた。

 

1コールの途中で電話に出た。

 

「もしもし今いいですか?」

 

『大丈夫です。どうしたのですか?巧さん』

 

「久しぶりですね千代さん」

 

電話の相手は島田流家元であり、大学戦車道連盟の理事長である島田千代だった。

 

「明日の午後に大学選抜に伺いますが、いいですか?」

 

『構いませんよ。それより島田流の師範に興味はありませんか?』

 

「千代さんは僕を戦車道日本代表チームの総監督に押したはずですが・・・」

 

巧はしほ同様に戦車道日本代表チームの総監督を言い訳に断ろうとした。

 

『あら。別にその後でも構わないのよ?』

 

「それでしたら検討させていただきます」

 

『ありがとう。それじゃあ同じく愛里寿ちゃんとの婚約も検討してくれるかしら?」

 

「えっ!?」

 

巧は思わず驚きの声を上げてしまった。

 

「愛里寿ちゃんはまだ13歳ですよ!」

 

『いずれは結婚できる年齢になるわよ?』

 

「そうなると僕はもう30代ですよ!そんな男が少女と婚約なんて戦車道連盟と島田流の名に泥を塗りますよ!」

 

『大丈夫よ。島田流の力を使えば問題ないですよ』

 

「ですけど何で僕なんですか?」

 

巧は根本的な理由を聞いた。

 

『それはあなたと愛里寿ちゃんとお似合いだからよ。それにあなたは西住流より島田流の方が似合ってるわ』

 

「・・・わかりました。あくまで検討ですよ?」

 

巧は折れて千代の要求をのんだ。

 

『ありがとう。それじゃあ私をお義母さんて呼んでくれるかしら?』

 

「まだ気が早いですよ」

 

千代は楽しそうだが、巧は少し疲れていた。

 

「もういいですか?」

 

『私は楽しかったからもう満足よ。あっ言い忘れたけどくれぐれも浮気はしないように・・・ね?』

 

巧は最後の千代の言葉に少しビクついた。

 

言葉だけで覇気を感じるのだ。

 

電話を終えて一息つく暇もなく、聖グロリアーナ女学院に練習試合の申し込みの電話を掛けた。

 

数コールの後に電話に出た。

 

「もしもし。伊藤巧ですけど」

 

『あら?巧さんお久しぶりですわね』

 

電話に出たのは聖グロリアーナ女学院の戦車道隊長のダージリンだった。

 

「急ですまないけどある高校と練習試合をしてくれないか?」

 

『巧さんのお願いは断れませんわ。それよりもそれはどこの学校かしら?』

 

「大洗女子学園と言って戦車道が復活したばかりなんだ」

 

『そうですの。でも私達は受けた勝負は全力で行く主義ですの』

 

「そっちの方が君たちも大洗の子も更に成長するからお願いするよ」

 

『練習試合の申し込みはこちらから連盟の方に送りますので予定が決まり次第に大洗女子学園の方にはこちらからお電話させていただきますわ』

 

「ありがとう。助かるよ」

 

巧は電話の向こう側の騒ぎ声が聞こえる事に気づいた。

 

『ダージリン様!巧様のお声を聴かせてください!』

 

『そうですわ!わたくしも巧様のお声を是非とも!』

 

声の主は巧が目をかけている聖グロリアーナ女学院の期待のルーキーの二人。

 

オレンジペコとローズヒップだ。

 

「声が聞こえるけどみんなは元気かい?」

 

『声の通りですわ』

 

少し安心した巧はベンチにもたれかかった。

 

『それより練習試合には巧さんは来るんですの?』

 

「審判員としていくつもりだけど」

 

『それでは練習試合後に茶会でもいかがですか?』

 

「いいよ」

 

『ありがとうございますわ』

 

「気にしないでいいよ。それよりももう電話切ってもいいかな?」

 

『いいですわ。最後に巧さんに言っておきますわ。イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばない。覚えておいてくださいね?』

 

ダージリンの言葉にも千代と同様の覇気を感じた。

 

巧は電話を終えて空を見上げた。

 

そして巧は一言つぶやいた。

 

「僕もあの海鳥たちみたいに自由に・・・」

 

巧の心は誰も気づかないうちに壊れてきているのだった・・・




どうでしたか?

大洗女子学園の戦車道履修者の個人的な絡みは後にありますのでご心配なく!

聖グロリアーナ女学院の生徒も練習試合後に絡みを作りますので今回はすくなめにしました。

今回のメインはみほちゃんなので他のキャラはできるだけ抑えました。

次回は大学選抜に行きます!



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訪問!大学選抜です!

巧は車で大学選抜専用の演習場に来ていた。

 

かつて大学選抜に在籍中の時によく来ていたので、顔パスで演習場には入れた。

 

広い草原をメインにした演習場で森と川もあるのであらゆる面での戦闘に対応できる。

 

広大な敷地を誇り、国内でも有数の演習場だ。

 

巧は車では移動せずに徒歩で演習場を歩いて移動していた。

 

巧は広い演習場でも直に歩いてみて回るのが好きなのだ。

 

この場合、後輩たちにあらゆるパターンでの対応力をつけてもらうために歩きながら見て回り考えているのだ。

 

そのうちに見晴らしのいい丘に着いていた。

 

丘の上からは練習をしている大学生の姿が見えていた。

 

島田流家元の千代には事前に伝えていたが、大学選抜のメンバーには伝えていなかったため、巧が今日来るのは誰も知らないはずだ。

 

巧は指導者として今している練習を観察して、欠点を見つけていた。

 

これもかつて在籍していた大学選抜チームの今後の発展と将来の日本代表チームのメンバーの為の仕事なのだ。

 

砲撃の音と着弾の音が入り乱れている。

 

だがその音が段々と止んできた。

 

巧は練習の終了を確認して大学選抜チームの元に歩み寄っていくのだ。

 

パーシングとチャーフィーが数両に隊長車のセンチュリオンが一両だけ停車しているのだ。

 

「各員整列しなさい」

 

巧が停車している戦車の集団に近づいて言った。

 

各々が声を上げていた。

 

「コーチ!?今日来るなんて聞いてないですよ!」

 

「そうです!言ってくれれば迎えに行きましたのに!」

 

「それよりも私達の練習見ていたのですか?」

 

声を上げたのは巧が高校時代から目を掛けていた三人。

 

現在は大学選抜チームの中隊長を務めているバミューダ三姉妹こと、アズミ、メグミ、ルミだ。

 

この三人は高校時代に別々の高校で活躍していたが、巧がその実力なら戦車道で進学できると巧が大学選抜に勧誘したのだ。

 

そして今現在のバミューダ三姉妹としての必殺技のバミューダアタックを提案して指導して実用化させたのが巧なのだ。

 

「みんな久しぶり。愛里寿ちゃんはどこに居るかな?」

 

大学選抜チームの隊長を務めている島田愛里寿。

 

島田流家元の一人娘で飛び級で大学に入学した13歳の天才少女なのだ。

 

変幻自在の忍者戦法で、敵を翻弄して圧倒的火力と一糸乱れぬ統制で敵を殲滅する西住流とはまた違う流派なのだ。

 

その愛里寿も大学選抜に在籍中の若い日の巧とはみほとまほと同様に幼き日を過ごしたのだ。

 

愛里寿はみほと同様にボコられグマのボコのファンで巧はみほのおかげでボコの事を熟知していたので愛里寿とはすぐに仲良くなった。

 

だけど愛里寿は初めて父親とは違う男性と接したことと友達もいなかったので初めて親しくなった人間が巧だったのだ。

 

最初は家族のような感情だった愛里寿の感情は深い愛へと変わってしまった。

 

「隊長は家元に呼ばれて現在は居ないです」

 

「ありがとう。それじゃあ指導を始めるからよく聞いてね」

 

巧は先の大学選抜チームの練習を見ての反省点を言い始めた。

 

それは事細かく丁寧な口調でだ。

 

大学選抜のメンバーは呆気に取られていた。

 

一応、大学選抜は高校時代に戦車道で活躍した名選手が多いはずなのだが、巧から見るとやはりまだまだひよっこのようだ。

 

それに十人十色と言う言葉の通り各員の性格もバラバラで連携をうまく取れていないので、素人から見ると強い欠点がないチームに思えるが、戦車道関係者から見る反省点が多い。

 

このチームをうまくまとめるのは、やはり隊長としての素質が必要になる。

 

愛里寿は飛び級できるほどの天才少女とはいえ、あまり他人とは接したこともなかったので人の感情を読み取るのが下手だ。

 

そうなると大学選抜チームをまとめるとなると難しい話になる。

 

だからこそ各員がしっかりと連携を取れるようになっておくと隊長である愛里寿の負担が少なくなり、大学選抜としての実力が上がるのだ。

 

かつて大学選抜に在籍していた巧もチームをまとめるのに苦労したのだ。

 

「一応はこれくらいかな?」

 

「私達ってまだまだなのね・・・」

 

「コーチからこんなにズバズバ言われるほど私たちってダメなのか・・・」

 

「コーチ私たち才能ないのですか?」

 

バミューダ三姉妹を筆頭に大学選抜の各メンバーが自分の不甲斐なさに落ち込み始めた。

 

落胆としており、状況が悪化していた。

 

「そんなに落ち込まない。君たちが日本代表となって欲しいから厳しく言っているんだよ?」

 

「日本代表チーム・・・」

 

大学選抜チームの一人がそうつぶやいた。

 

「世界のまだ見ぬ敵は強敵だよ。そんな実力では日本の恥になる。そうならない為にも僕は君たちに厳しく接するよ」

 

巧は直に体験していたのだ世界大会で見た景色と世界の実力を・・・

 

そして直に感じた威圧を・・・

 

巧は22歳と言う異例の若さで日本代表チームに選ばれた。

 

だがしかし、その若さと経験不足で上位に入賞するも敗退した。

 

世間は巧のリベンジに期待をかけたが、巧にはその選択はできなかった。

 

しほとの約束で大学卒業後は日本戦車道連盟の強化員として働くことが約束されたのだから。

 

巧は世界大会でもっと戦いたかったが、それは叶わぬ夢となった。

 

その夢を若い世代に託そうと日本代表チームの総監督になるために強化員として、若い人材育成に努めるようになったのだ。

 

だからこそ巧の信念として熱意のある事細かく丁寧で分かりやすい指導になっているのだ。

 

「だけどたまには息抜きも必要だから今日はここまでにしよう。君たちの活躍を期待しているからね」

 

『はい!』

 

さっきとは打って変わって元気と気合を取り戻した返事をした。

 

巧の期待していると言う言葉によほど元気づけられたようだ。

 

各自に解散して行く中、バミューダ三姉妹だけは残った。

 

そして巧に歩み寄っていた。

 

「コーチこの後お暇ですか?」

 

「私達も暇なので」

 

「お茶しませんか?」

 

「すまないけど、この後は千代さんと仕事の話をしなければいけないから、また後の機会にお願いするよ」

 

バミューダ三姉妹は残念そうな顔をした。

 

だがバミューダ三姉妹の一人のアズミが巧に近寄って正面から抱き着いた。

 

アズミ以外この場の全員が驚いた。

 

アズミの大きな二つに実った胸が巧の体に押し付けられていた。

 

「コーチ。普段は高校生の貧相な小娘の体ばかりで辛いと思います。たまには女子大生の魅力ある体に欲情してもいいんですよ?」

 

「アズミ君そういうのは・・・」

 

巧は拒否しようとしているが、ルミとメグミが何か理解した顔をしていた。

 

「行くわよルミ!」

 

「いつも通りのバミューダアタック!」

 

メグミは巧の左腕に抱き着いた。

 

メグミもアズミに負けず劣らない大きく実った果実の谷間に巧の腕を挟んだ。

 

ルミは反対の右腕を掴んで腰とお尻の方に手をまわさせた。

 

ルミはメグミやアズミのような女の武器はないが、スレンダーな体型に引き締まったお尻が女の武器なのだ。

 

「これが私達の!」

 

「いつも通りの!」

 

「バミューダアタック!」

 

これは三人連携の巧を落す為の必殺技のバミューダアタックなのだ。

 

巧は抵抗も出来ずにこの状態から動くことも出来なくなってしまった。

 

「コーチこの後、私たち暇ですから」

 

「近くにホテルもありますから」

 

「行きませんか?」

 

三人からの強烈な誘惑に屈しずに耐えているが巧の理性も三人同時攻撃だと崩壊しそうになっている。

 

だがこの場にいる全員は気づいていなかったが、とてつもない威圧を放っている少女が近くに居ることを・・・

 

「三人とも何をしている・・・」

 

そこにいたのは大学選抜チームの隊長である島田愛里寿だ。

 

普通の人間にはない覇気を放っており、バミューダ三姉妹は後退りしていた。

 

「た、隊長これには・・・」

 

「深い訳と言うか・・・」

 

「理由がありまして・・・」

 

バミューダ三姉妹は巧から離れて巧の後ろの方に隠れながら言った。

 

「久しぶりだね愛里寿ちゃん」

 

「巧さんお久しぶりです。それよりもどいてください。その三人を殺せません」

 

愛里寿の瞳から光が消えてどこから取り出したかわからないハサミを持って構えていた。

 

巧を盾にしているバミューダ三姉妹は怯えて震えていた。

 

「まぁまぁ落ち着いて。僕の癒してくれただけで今回は不問と言う事でいいでしょ?」

 

「巧さんが言うなら・・・三人とも巧さんに免じて今回は許します。早く帰って」

 

『は、はい!』

 

三人は急ぎ足でこの場を去って行った。

 

それを確認した愛里寿は巧に近寄った。

 

「行こ。お母様が待っているから」

 

巧の手を小さな手で力強く手を握っていた。

 

「(巧さんが私以外の女に目移りしないように私がしっかりしないと・・・)」

 

巧が知らなうちに愛里寿は日々愛の大きさ変わっているのだった・・・

 

「わかったよ。行こうか愛里寿ちゃん」

 

愛里寿は巧の手を引いて演習場を歩いていくのだ。

 

「巧さん。お母様から婚約の件は聞きました」

 

「あ、愛里寿ちゃん。検討させてもらうだけで確約ではないんだよ?」

 

「知ってます。だけど私と結婚した方が幸せになりますよ?」

 

「幸せ?」

 

巧は疑問に思ってしまった。

 

「最年少で戦車道日本代表チームの隊長に選ばれた島田愛里寿が伝説名選手の伊藤巧が電撃結婚って戦車道界では無敵の夫婦になります。それで一躍有名人です。仕事も安定しますし、現役復帰だってできますよ?」

 

「現役復帰か・・・」

 

巧の一番困らせると言ってもいい言葉なのが『現役復帰』と言う言葉だ。

 

一番楽しかったあの時代をもう一度蘇らせることが出来るが、それは社会人チームに上がったかつての仲間への侮辱ではないのか?と思っている。

 

見捨てるようにしてチームを去り、連盟の強化員として働いてはいるが、本当にチームメイトに戻れるのか?

 

それなら選手ではなく、仕事の通りの監督として仕事をする方が昔の仲間たちも許してくれだろうか?っと思っている。

 

だけど欲を言うならもう一度あの舞台で戦いとは思っているが現状は答えが出ずにいる。

 

「大丈夫ですか?」

 

「心配してくれてありがとう。僕は大丈夫だから」

 

巧は作り笑いで愛里寿の心配をなくそうとした。

 

巧は今回の事を一度胸の中にしまって置いた。

 

だが愛里寿がこのように婚約や結婚と言う言葉を口にするようになったのか?

 

巧はいつからかと考え始めた。

 

初めて会ったときは4歳で人見知りだから千代の後ろから巧に話していたのだ。

 

『始めまして・・・島田愛里寿です・・・』

 

完全に巧の事を怖がっていたが、ボコの事で話が盛り上がって普通に接するようになった。

 

『お兄ちゃん!一緒にボコのビデオ見よ!』

 

巧と愛里寿は仲のいい兄妹のようだった。

 

だが巧が大学を卒業をするときは・・・

 

『お兄ちゃん!どこに行くの!愛里寿を置いていかないで!』

 

愛里寿は泣き叫び巧を止めようとしていた。

 

それ以降からだろうか愛里寿が変わったのは・・・

 

『お久しぶりです。巧さん。私と結婚して永遠に一緒に居ましょう』

 

巧を独占しようとするようになっていたのだ・・・

 

「巧さん着きましたよ」

 

大学選抜の専用施設に到着した。

 

ここの施設は大学選抜専用で色々な設備が存在しているのだ。

 

この施設内の応接室に島田流家元が居るのだ。

 

「ここにお母様居るの」

 

巧と愛里寿は施設内の客室前にもう既に到着していた。

 

「ありがとう。愛里寿ちゃん」

 

巧は一息ついて心を落ち着かせてドアをノックした。

 

『どうぞ。お入りください』

 

千代の声が部屋の中から聞こえた。

 

「失礼します」

 

巧と愛里寿は応接室に入室した。

 

そこにはソファの二つを挟んで机があり、片方にはもう千代が座っていた。

 

「巧さんも愛里寿ちゃんも座ってちょうだい」

 

千代が座っている正面のソファに巧と愛里寿を誘導した。

 

巧がソファに座って愛里寿が座れる分を空けたが、愛里寿は巧の座っている膝の上に座った。

 

「仲睦まじいのね!お義母さんうれしいわ!」

 

「当たり前ですお母様。私と巧さんは運命の赤い糸で結ばれているんです」

 

巧は色々な事に疑問を持ちながらも口にはしなかった。

 

「早速ですが、今年度よりの試合中断条件の基準を下げる件についての会議に出席をお願いしたいのですが」

 

「もちろん出席はさせてもらうわ。どうせしほも来るのでしょ?」

 

「ええ。高校戦車道連盟の理事長として今年度の全国高校戦車道大会から改正の反映をお願いしたいので」

 

千代が悪巧みを考えている顔になっていた。

 

「それならいいわ。巧さんがどっちの流派にふさわしいかしほと直接戦ってやるわ」

 

「ち、千代さんあまりこの時期に騒ぎを起こされると大会運営に影響が・・・」

 

「お母様!」

 

見かねた愛里寿が声を上げた。

 

普段はおとなしく声を荒げない愛里寿が声を上げたので巧は少しビックリした。

 

「絶対に西住流に勝ってください!」

 

「ええ!愛里寿ちゃんあの忌まわしい西住流を潰してみせるわ!」

 

島田親子で話が盛り上がり過ぎて巧の存在が薄くなっていた。

 

だけど千代が話をやめて腕時計で時刻を確認した。

 

「ごめんなさいね。そろそろ仕事の方に戻らせてもらうわ」

 

「すいません千代さん。貴重な時間をもらって」

 

「いいわよ。愛里寿ちゃんは巧さんをお見送りして」

 

「はいお母様」

 

巧と愛里寿は応接室から出て千代と別れた。

 

また手を繋いで演習場の出口まで一緒に向かった。

 

その間は大した会話もなく少し寂しい感じだった。

 

気付いたら出口に到着していた。

 

「それじゃあ愛里寿ちゃんまたね」

 

「巧さんこれを」

 

愛里寿が来ている大学選抜のパンツァージャケットのポケットから小さめのボコのぬいぐるみが出てきた。

 

「くれるの?」

 

「うん。巧さんに近寄る悪い事の身代わりになってくれるボコなんだ。だから肌身離さず持ってて」

 

巧はお守りと思ってそのボコを受け取った。

 

「ありがとう。大事にするよ」

 

巧は受け取って日本戦車道連盟のジャケットのポケットにしまった。

 

「それじゃあまたね」

 

「巧さん。またね」

 

巧が連盟の車に乗ってその場から離れて行った。

 

愛里寿はその場に立ったままだ。

 

暗い瞳でたった一言つぶやいた。

 

「悪い女は全て・・・」

 

あのボコはただのボコではないのだ。

 

愛里寿が小型の盗聴器を仕込んである特殊ボコなのだ。

 

「巧さん・・・今度は一人にしないでね?」

 

愛里寿は去ろうとしたが、途中で立ち止まった。

 

「違った・・・巧さんが私を一人ぼっちにしてない・・・悪い女に盗られたんだ・・・今度は盗られないようにしないと・・・」

 

愛里寿の心の傷は大きく変化して違った方向に成長していたのだ・・・




どうでしたか?

次回は修羅場と化した会議です!


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修羅場に変わる会議室です!

前回からかなり期間が空きましたが、今後は間隔を狭めて行くように頑張ります!


巧は日本戦車道連盟の会議室に居た。

 

会議まで一時間以上あるが、会議の主催者として資料の用意をしていた。

 

日本戦車道連盟理事長の児玉七郎を筆頭に高校戦車道連盟理事長の西住しほと大学戦車道連盟理事長の島田千代の重役たちが一挙に集うのだ。

 

それだけはない。

 

巧が押している審判員三人を会議に参加させているのだ。

 

優秀な審判員の意見も取り入れつつルール改正に反映させたいのだ。

 

その三人は篠川香音、高島レミ、稲富ひびきの三名だ。

 

バミューダ三姉妹とは同級生で高校時代は優秀な選手だったが、家庭の事情で就職を余儀なくされた時に巧が給料の良い日本戦車道連盟の職員と審判員として就職をさせたのだ。

 

そして巧の部下として審判員としての実力を上げて今では若手の中で一番の審判員だ。

 

判断力の高さと厳しい判定は巧譲りだ。

 

ちなみにこの三人は巧の事を尊敬もしているし好意もあるがいたってノーマルだ。

 

だからよく三人と飲みに行く時は気持ちが楽になるらしい。

 

こうしているうちにも巧は制作していた資料を机に並べたり、パソコンとスクリーンを繋いで映像を流せるようにできる準備をしていた。

 

これも巧の戦車道に対する熱意と安全にプレーして欲しいという優しさから起こった事なのだ。

 

これも巧自身の責任感の強さと戦車道への思いが動力源だろう。

 

だがこの会議が地獄の修羅場に化する事は巧本人もその他の人間にも予期できなかった。

 

「巧さん。昨日ぶりですね」

 

まだ会議には一時間近く時間があるというのに大学戦車道連盟の理事長ならびに島田流家元の島田千代が会議室に一番乗りで来た。

 

「御早いですね千代さん」

 

「仕事の方が思ったより早く終わったので来させてもらいましたわ」

 

千代は会議室の指定されている席に移動して座った。

 

「巧さんもお忙しいのね」

 

「いえ。千代さんの方が忙しいはずです」

 

「気遣いありがとう。そういうところも愛里寿ちゃんのお婿さんとしてのいい点よ」

 

巧は苦笑しながら頬を少し掻いた。

 

「前にも言いましたけど、検討するだけですからね千代さん」

 

「あら残念ね。もうお義母さんって呼んでもいいわよ?」

 

「まだ早いと思いますけど・・・」

 

巧は少し諦め気味の顔で言った。

 

「それよりも西住しほさんは時間にルーズなのかしら?」

 

「それを言うなら島田千代は時間が余るほど暇なのかしら?」

 

会議室の扉が開いてそこから現れたのは高校戦車道連盟の理事長、西住流の師範の西住しほだった。

 

千代の言った事に対して同じ言葉の意味を持つ言葉で返した。

 

しほと千代は目を合わせて火花を散らせていた。

 

「あら?しほの巧さんに対する気持ちはそんなものなの?私は巧さんに対する愛情が大きいから仕事をいつもより早く終わらせてきたのよ。その程度なら島田流に巧さんが来ても問題ないわよね?それに島田流には愛里寿ちゃんみたいな優秀な子もいるわ。あら?西住流の子は優秀じゃないわよね?特に二番目」

 

千代は皮肉のように言ったが、しほはまるで表情を変えてなかった。

 

「西住流にはまほがいます。それにそちらのお子さんはまだ13歳で貧相な体で巧さんの子供が出来るはずないわ。それに比べてまほは引き締まった体で大きな胸を持っているわ。これこそ巧さんにふさわしい体よ。それとみほに関しては近々に勘当します」

 

巧はみほの勘当の話を聞いて周りからはわからないが焦っていた。

 

だが巧はもしもみほが勘当されることがあれば自分の実家に匿う予定でいるのだ。

 

「いいえ、愛里寿ちゃんは大器晩成型よ。将来は私みたいな体型になるわ。それに巧さんは若い子の方が好きなはずよ」

 

巧は心の中で『それでは僕がロリコンみたいじゃ・・・』と思ったがこの争いに口出ししたらそれこそ争いが激化すると思ったのであえて何も言わなかった。

 

「待っていては遅すぎる。まほはもう既に結婚できる年齢だから今すぐにでも結婚できるわ。それにまほは国際強化選手よ。夫婦で二人三脚で世界一を目指すのよ」

 

「それなら愛里寿ちゃんは大学に飛び級できるほどの天才よ」

 

「所詮は親の七光りで飛び級しただけだわ」

 

お互いに引かずに言い争っているが、すっかり巧の存在を忘れかけているのだ。

 

「それでも巧さんは愛里寿ちゃんとの婚約を検討してくれると言ってくれたわ」

 

「あくまで検討。本心は西住流の師範として次期家元のまほを支える事を巧さんは望んでいるわ」

 

巧はいつになったら終わるのかとずっと思っている。

 

だがこの空気を換えてくれそうな人物が現れる。

 

「し、失礼ですが御二人そこまでに・・・」

 

そこに現れたのは日本戦車道連盟理事長の児玉七郎である。

 

二人の間に割って入って仲裁をして止めていた。

 

二人は離れて言い争いを一旦やめた。

 

「三人とも入りなさい」

 

七郎の声で篠川香音、高島レミ、稲富ひびきの三人が入ってきた。

 

三人はしほと千代の言い争いをしている中に入る勇気が出なくて七郎がそこに居合わせたので七郎本人が入って止めたのだ。

 

「それでは全員揃ったので少し早いですが会議を始めたいと思います」

 

こうして波乱な状態で会議が始まった。

 

ちなみに巧と七郎はとても仲が良いのだ。

 

巧の高校時代から注目をしていて入社時には巧と二人で話し込んで意気投合し、一緒に飲みに行ったのが始まりだった。

 

巧は社交性が高くてすぐに人と仲良くできるのも巧の長所なのだ。

 

そのおかげで各学園艦の学園長や理事長とも仲が良く政界にも友達が居るレベルだ。

 

外国にも友達が居るのも巧の自慢の一つだ。

 

ロシアにはノヴォシビルスクにいる軍で中佐やっている人間とも知り合いだ。

 

巧は全世界の戦車道界ではかなりの有名人なのだ。

 

だから巧がその気になれば日本戦車道連盟をやめても普通に生活ができるのだ。

 

だけどその戦車道界には巧に関する一つの噂がある。

 

それは巧の高校時代の噂で対戦校の乗員と彼の乗っていたティーガーの乗員だけしか知らない話なのだが、巧は戦車に乗ると性格が反対になり、鬼神の如く敵戦車を殲滅していたと。

 

当時の対戦校の人間は恐怖を覚えるもので、同じ黒森峰のメンバーでさえなれるのに時間がかかるレベルだ。

 

西住や島田の人間でさえ見たことがない巧の本性は一体どうなのだろうか?

 

あくまで噂なので真実かどうかは知る者は少ない。

 

ちなみに巧のこの噂を各校の隊長はかなり調べているようだが、いまだに真実にたどり着けていないので、各校の隊長は作り話と認識している。

 

これほどまでに巧は愛されているのになぜ巧は誰とも付き合わないのか?

 

これもまた誰もが思う疑問の一つだ。

 

巧は異性に関しては興味はさほどないようで、みほやまほ、愛里寿はあくまで家族的に好きなので異性としてはあまり見ていないようだ。

 

恋と言う感情を埋める為に巧は戦車道やっていたようなものだ。

 

彼の心を満たすのは戦車道のみなのだろう。

 

だけど彼も男だ。

 

戦車道から身を引いてから数年。

 

彼も異性を少しは意識し始めたようで、最近は少しドキドキはするようになった。

 

だけど巧も学生時代は女子に囲まれていたので少しは耐性があるようだ。

 

だから各校の隊長や教え子に欲情しないようだ。

 

だけど巧本人も来年で30歳になるのでそろそろ結婚を考えないと苦しいと思い始めており、だから婚約の話はこれまで断ってきたが検討するようになったのだ。

 

だから最近は少し結婚を意識して生活をしているようだ。

 

だけど巧は異性の好みのタイプが存在しなければ初恋もないので恋の経験も少ないので巧自身もあまりわかってはいないようだ。

 

だからこそ巧は無意識に異性にモテるのだろうか?

 

結果は既に出ているが・・・

 

「以上で今回の議論については終わらせてもらいます」

 

巧を中心に会議は終了していた。

 

今回の議論であるルール改正は無事に通り、審判員の審議についても基準を下げることに成功しているので、巧については思い通りになる結果になった。

 

しほと千代は会議の間はおとなしくしており、言い争いはなかった。

 

「巧君は今度の高校戦車道大会の抽選会の時にルール改正の発表をお願いするよ」

 

「わかりました」

 

七郎の言った高校戦車道大会の言葉に巧以外にもう一人反応している人物が居る。

 

「今年の高校戦車道大会は去年の黒森峰みたいな事にならないといいですね」

 

「嫌味のつもり?」

 

さっきまで鎮火していた争いの火がまた再燃焼したのだ。

 

しほと千代はまた火花を散らし始めており、七郎と篠川香音、高島レミ、稲富ひびきは急いで逃げており、巧だけが残された。

 

「別に嫌味のつもりではないのですよ?私は去年の事故が無くなればいいと思って言っただけです」

 

「どうだか」

 

「ふふっ。西住流も大変ですね。去年の事で」

 

「やはり千代!貴女は去年の事を馬鹿にする気なの!」

 

「いいえ、立派な事だとは思いますよ。ですが勝利至上主義の元、いかなる犠牲を払ってても勝利するのが西住流なのではないのですか?それとも貴女は自分の流派でさえ娘に教育が出来ないのかしら?」

 

千代の容赦のない言葉による攻撃にしほは対抗できずにいた。

 

「やはり島田流こそが巧さんにふさわしい流派だと思いますが、どうですか?巧さん」

 

遂に巧も二人の言い争いに巻き込まれる事になってしまった。

 

「僕は去年の事は西住流でも黒森峰の問題でもないと思います。去年の事は我々の日本戦車道連盟の恥とも言える問題です」

 

「巧さん・・・」

 

「お優しいのね」

 

しほは巧に救われたようだ。

 

巧は去年の事をずっと引きずっているようだ。

 

この巧の言葉により、言い争いが鎮火してきた。

 

「ありがとう巧さん。少し付き合ってくれるかしら?」

 

「しほ!抜け駆けは許さないわ!」

 

またしほと千代の言い争いが始まってしまった。

 

「抜け駆け?貴方こそ巧さんを大学に勧誘したでしょ!?」

 

「いいえ!巧さんは自らの意思で大学選抜に来たのよ!」

 

言い争いが激化して来たところで巧は会議室から消えるように出て行った。

 

日本戦車道連盟の廊下を歩いて呼び止められる声が聞こえた気がしたので振り向いた。

 

「ハァーイ!ダーリン!」

 

そこにはサンダース大付属高校の隊長であるケイが居た。

 

「ケイ君その呼び方は・・・」

 

巧はこの呼び方に抵抗があり、周りの人間に変な目で見られるからだ。

 

特に仕事場では特にそうである。

 

「良いでしょ?」

 

「良くはありませんけど・・・ケイ君はどうして連盟に?」

 

巧の隣に立って腕を組み一緒に歩きながら話し始めた。

 

「文科省がカール自走臼砲の申請をあやふやにしているから連盟側から問い合わせをお願いしに来たのよ」

 

「カールはオープントップだからね。でも考え方次第では戦車道でも使えるからね。判断が難しくて審議が長引いているんだよ。でも僕から辻局長に聞いておくよ」

 

「サンキュー!流石。私のダーリンね!」

 

ケイはさっきより強く巧の腕に抱き着いた。

 

ケイの大学生にも負けない胸に巧の腕が挟まれており、巧も少し意識している。

 

だけど巧は一つ気になることがあった。

 

「そういえばケイ君。今日は付き添いは居ないのかい?」

 

「平日だから私だけしか公欠を取れなかったの」

 

「帰りはどうするんだい?」

 

「近くの飛行場に迎えがいるからノープロブレムよ!」

 

「女子高生一人では危ないので車で飛行場まで僕が送ります」

 

「いいの!サンキュー!」

 

巧とケイは連盟の玄関を抜けて車に乗った。

 

「(誰も連れてこなくて正解ね!誰にも邪魔されなくて助かったわ!)」

 

巧はケイを乗せて車を走らせた。

 

車内ではあまり会話が無くて巧はある事に気づいた。

 

「ケイ君。もうお昼だけど何か食べたい物はあるかい?」

 

「そうね~。たまには陸のファーストフードを食べたいわね!」

 

「近くのハンバーガーショップによるから好きな物を頼むといいよ」

 

「サンキュー!」

 

ケイは巧との二人きりの食事を期待したが、その期待は裏切られた。

 

「ドライブスルーだから食べたい物を教えて」

 

ケイは逆に車内で二人きりで食べられるから逆にうれしかったのだ。

 

巧がケイの要望を聞いて自分の食べたい物を注文してそれを定員から受け取り、ケイに渡した。

 

「先に食べていいよ」

 

「それなら私がダーリンに食べさせてあげるわ!」

 

ケイは運転している巧の口にハンバーガーを持っていき食べさせた。

 

巧の食べたハンバーガーを次はケイが食べた。

 

「(間接キス・・・刺激が足りないわね)」

 

ジュースのストローやハンバーガーで間接キスをしているが巧は気にしていない。

 

ケイは間接キスにあまり満足してはいなくてもっと刺激的な事を望んでいた。

 

だけどケイは車内での食事はまるでカップルのようなので機嫌がよかった。

 

「着いたよ」

 

だけどその幸せの時間は長続きしない。

 

ケイを乗せた巧の運転する車が飛行場に着いてしまったのだ。

 

ケイは惜しんだが、最後に刺激的な事をした。

 

それは単純で決定的な事だ。

 

巧の頬にキスをしたのだ。

 

巧の思考は停止して錯乱状態と化した。

 

戦車道の試合でこうなった事は以来の出来事で久しぶりの感覚だった。

 

ケイは少し微笑んで手を振って巧の車を後にした。

 

「・・・年頃の女の子はわからないなぁ」

 

巧は誰も居ない車内で一言そう呟いた。

 




どうでしたか?

ケイはサンダース大付属高校に行くので今回は控えめにしました!

次回!紅茶の園の住人と軍神が激突する!


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激突!練習試合です!

巧は現在、大洗町に来ていた。

 

聖グロリアーナ女学院と大洗女子学園との練習試合が開催される事になっているので連盟側からの審判と運営、進行をするために来ているのだ。

 

大洗町は20年ぶりの地元の戦車道チームの試合と聞いて地元の人はかなり積極的に手伝ってくれている。

 

全国からも戦車道名門の聖グロリアーナの試合と聞いて戦車道ファンが集まって来ているのだ。

 

巧も今回の試合を楽しみしていた。

 

大洗女子の生徒たちがどこまで成長できるのか?

 

聖グロリアーナ女学院の一年生の現在の実力はどうか?

 

この二つが巧の大きな注目点である。

 

巧は大きな期待を膨らませていた。

 

「聖グロリアーナ女学院の生徒たちが到着したようです」

 

「わかりました。僕の方で挨拶をしてきます」

 

連盟側の運営員から報告を受けたので巧自身が聖グロリアーナ女学院の生徒たちに挨拶をしに行く事にした。

 

聖グロリアーナ女学院の英国戦車達がきれいな隊列で停車していた。

 

聖グロリアーナ主力戦車のマチルダⅡ歩兵戦車4両に隊長車のチャーチル歩兵戦車1両の計5両が待ち構えていた。

 

だけど聖グロリアーナ女学院のもう一つの主力戦車のクルセイダーが見当たらなかった。

 

だけど巧はそれに納得していた。

 

クルセイダーは運用が難しく、エンジンの不調や車両のトラブルが多い。

 

高校戦車道大会が近いためクルセイダーが運用不可能になったら大会で運用できないのだ。

 

「お久しぶりね巧さん」

 

その戦車たちの前に立っているのは聖グロリアーナ女学院の戦車道隊長、ダージリンだ。

 

「久しぶりですね。今回は公式戦も近いのに練習試合を引き受けてくれてありがとうございます」

 

巧は社交辞令のようなお辞儀と模範解答のような言葉を並べた。

 

「他人行儀みたいね巧さん。私と巧さんの仲でしょ?」

 

「一応仕事なので」

 

巧とダージリンが二人で話していると長いブロンドのロングヘアと大きな黒いリボンが特徴の少女が近づいてきた。

 

「お久しぶりですね」

 

「アッサム君、久しぶりです」

 

ダージリンと巧が会話している間に割って入った。

 

「公式戦目前にすまないね」

 

「大丈夫ですが、今回の相手の大洗女子学園のデータは私のもありませんので少し苦戦しそうですね」

 

「アッサム君、データだけが重要じゃないんだ。経験と緻密に計算された作戦なんだ。それにはデータも必要だけど、今回はデータのない事を想定して戦ってくれたいいと思って提案したんだ」

 

アッサムは納得した顔をしていた。

 

ダージリンは反対に元からわかっていたような顔をしていた。

 

これも聖グロリアーナ女学院の戦車道強化のための方法の一つなのだ。

 

今回の事を経験してより一層聖グロリアーナ女学院が強くなるのも目的なのだ。

 

「そういえば一年生はどうかな?」

 

「ペコは優秀な装填手ですわ。チャーチルの装填手に任命していますわ」

 

「一年生にしてチャーチルの装填手・・・優秀な人材だね」

 

「そうですわね。それ比べローズヒップは・・・」

 

アッサムは呆れた顔をしていた。

 

「彼女はこれからの人間だから。伝統を大事にするのも大事だけど、聖グロリアーナの戦車道も日々進化しないとね」

 

「本人はその自覚がありませんけど・・・」

 

そんな会話をしている中にある少女が飛び込んできた。

 

「巧様!」

 

その少女は少し身長が低くオレンジ色の綺麗な髪をした少女。

 

一年生にして隊長車であるチャーチルの装填手を務めているオレンジペコだった。

 

オレンジペコは巧に抱き着いてきて、巧はそれをそっと割れ物を扱うように抱き留めた。

 

「久しぶりだね」

 

「お久しぶりです!巧様に会えることを楽しみしてました!」

 

「ありがとう。君にプレゼントをあげよう」

 

巧はスーツの内ポケットから長方形の箱を取り出した。

 

それをそっとオレンジペコの手の上に乗せた。

 

「開けてごらん」

 

オレンジペコは巧に言われた通り箱を開けた。

 

中には装填手用の手袋が入っていた。

 

「ありがとうございます!こんな素敵な物を頂けるなんて・・・」

 

「喜んでくれて幸いだよ」

 

喜んでいるオレンジペコと裏腹にダージリンとアッサムは不機嫌だった。

 

「私たちには何もないのかしら?」

 

「もちろんあるよ」

 

巧は同じく内ポケットから物を取り出した。

 

取り出したのは手帳と長方形の箱だった。

 

「アッサム君には黒色のリボンをあげるね」

 

「ありがとうございますわ」

 

アッサムは大事そうに受け取りパンツァージャケットにしまうのであった。

 

「ダージリン君には手帳を」

 

「ありがとうございますわ。大切にしますわ」

 

ダージリンは受け取った手帳をペラペラめくった。

 

そしてあるページに目が留まった。

 

そこに書かれているのは『リーダーとは「希望を配る人」のこと』と一言、巧の文字で書かれていた。

 

「ナポレオンの言葉・・・」

 

「ダージリン君も『希望を配る人』になってね。だから僕からはもう一つ、この言葉を贈る」

 

『「勝つ意欲」はたいして重要ではない。そんなものは誰もが持ち合わせている。重要なのは、勝つために準備する意欲である』

 

巧は微笑みながら言った。

 

ダージリンはそれに答えるかのように頷いた。

 

そもそもダージリンを格言好きにさせたのは巧なのである。

 

ダージリンが一年生の時に勇気づけようと色々な格言を言ったのが始まりであった。

 

その後、ダージリンは格言を調べるようになり、格言好きになったのだ。

 

「今年の高校戦車道大会を期待しているよ」

 

「勇気を頂いたので絶対に優勝して見せますわ」

 

「その意気だ」

 

巧は聖グロリアーナ女学院をかなり押している。

 

それは過去より黒森峰女学園と聖グロリアーナ女学院は好敵手同士でお互いを高めてきたのだ。

 

「それよりもペコ離れなさい」

 

「ダージリン様と言えどそれはできません」

 

オレンジペコがダージリンを挑発するように巧にさっきより強く抱きついた。

 

「いい加減にしないとペコでも厳罰を処すわよ?」

 

「嫉妬ですか?ダージリン様」

 

オレンジペコがダージリンに煽りをかけており、ダージリンはそれに抵抗できずに居た。

 

「オレンジペコ君、そろそろいいかな?僕も仕事があるから」

 

「惜しいですが、わかりました」

 

オレンジペコは素直に放して離れた。

 

「ダージリン君も頑張ってね?」

 

「巧さん・・・」

 

ダージリンが涙目ながら頷いた。

 

だがその後ろの方にどす黒いオーラをまとった少女が近づいていた。

 

「巧さん浮気は感心しないよ?」

 

「ッ!?」

 

そこにはみほが立っていた。

 

あまりにも強い威圧に巧は身震いをした。

 

みほの瞳から光が消えており、笑ってない笑顔で巧に近づいていた。

 

「泣き真似やめたら?」

 

「あら?バレていたのかしら?」

 

ダージリンは舌を少し出しながら小悪魔のような笑顔で言った。

 

「そうやって巧さんを騙して・・・」

 

アッサムがみほの顔を見て何か引っかかっていた。

 

そしてアッサムが思い出したかのように口をひらいた。

 

「誰かと思えば去年に黒森峰を敗北にした西住みほさんですね」

 

「西住流のね」

 

ダージリンが補足するように言った。

 

前のみほならトラウマで取り乱していたが、巧のおかげで今では大丈夫になっていた。

 

「許せないなぁ巧さんの心に付け込んで・・・」

 

みほは巧に歩み寄って抱き着いた。

 

そして巧の首に手をまわしてそのままみほと巧の顔が近づいた。

 

「見せてあげるね。私と巧さんの関係を・・・」

 

目前だったみほと巧の顔がみほの手に力を入れられ近づき・・・

 

「!?」

 

巧とみほの唇が触れたのだ。

 

巧は驚いてみほの肩を手で持って引きはがした。

 

「み、みほちゃん!?」

 

巧は驚いていた。

 

いや、巧以外にダージリンもオレンジペコもアッサムと聖グロリアーナ女学院の生徒たち全員が驚いていた。

 

「これが私と巧さんの関係だよ?」

 

みほが見せつけるように言った。

 

「ご冗談を!」

 

ダージリンが珍しく声を荒げた。

 

「私のデータでは未だに巧さんと関係を持つ人物なんて・・・」

 

アッサムは放心状態でぶつぶつと何か呟いていた。

 

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ・・・」

 

オレンジペコもアッサム同様に下を向いてぶつぶつと呟いていた。

 

「残念だけどここの誰よりも巧さんとは長い時間を共にしたんだよ?」

 

ダージリンは聖グロリアーナ女学院の誰よりも冷静だった。

 

「イギリスにはこんな格言があるの。『All's fair in love and war.』イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばない。だから貴女との時間が長くとも関係ないわ」

 

ダージリンの一言で聖グロリアーナ女学院の生徒たちは正気に戻りつつあったが、あるお転婆娘のせいで不穏な空気に戻りつつあった・・・

 

「巧様ぁ!」

 

巧を大きな声で呼ぶ少女は濃いピンクのショートカットの少女の名はローズヒップ。

 

ローズヒップは聖グロリアーナ女学院パンツァージャケットではなく、制服で聖グロリアーナに似つかわないはしたない姿で走ってきた。

 

「おわっ!?」

 

ローズヒップはつまづいて巧にぶつかった。

 

ぶつかると同時に巧は転倒してその上に覆いかぶさるようにローズヒップは巧の上に乗りかかった。

 

その時に偶然に巧とローズヒップの唇が重なった。

 

『!?』

 

巧を含めてローズヒップ以外のこの場にいる全員が先程同様に驚いていた。

 

ローズヒップはすぐさま巧の顔から放して巧の上で馬乗り状態になっていた。

 

「あう・・・巧様ぁ」

 

「大丈夫だから・・・」

 

涙目と赤らんだ頬をしているローズヒップを落ち着かせるために巧はローズヒップの頭を優しく撫でた。

 

「こ、これで貴女の関係が無だと証明できたわ!」

 

ダージリンは自慢げな顔をしているが内心は焦っているのだ。

 

「ま、まぁローズヒップなら・・・」

 

「許せると言いますか・・・」

 

さっきよりアッサムとオレンジペコのショックが大きくなかったが、みほは別だった。

 

「巧さんがぁ・・・盗られて・・・私は・・・また・・・1人?」

 

みほは自分の頬に手を当てて下を向いて涙が地面に落ちていた。

 

みほは取り乱しており、自我がもう保てないようになっていた。

 

「ローズヒップ君、少しどいてくれるかな」

 

「は、はいですわ!」

 

みほがこうなってしまうのは度々あるので巧は冷静に判断ができるのだ。

 

巧はみほに近づいてそっと頭を撫でた。

 

「今日は頑張ってね。僕は見ているから」

 

「うん!」

 

みほは褒められた子供のように上機嫌になった。

 

「みほちゃんにもプレゼントがあるんだ」

 

巧はスーツのポケットからいつもより小さいボコのぬいぐるみを取り出して身の手の上に乗せた。

 

「御守り代わりに持ってくれたいいから」

 

「ありがとう・・・大事にするね」

 

みほはさっきの事を忘れたように上機嫌でいた。

 

「私は練習試合の準備に行くね?」

 

「行ってらっしゃい」

 

巧はみほを見送って腕時計に目をやった。

 

「僕も時間だから行かせてもらうよ」

 

巧は聖グロリアーナ女学院の生徒たちを置いて本部の方に戻るのであった。

 

~★~

 

巧は本部に戻ってきた。

 

「問題はないね?」

 

連盟の役員に巧が準備状況を聞いた。

 

「ありません。順調です」

 

「ありがとう。それでは審判の準備をしてくるね」

 

巧は普段着ているスーツの上着を脱いで日本戦車道連盟審判員の男性用審判員のジャケットを着た。

 

そのジャケットの二の腕辺りには日本戦車道連盟のマークが書かれており、首には「JUDGE」と書かれたプレートを下げた。

 

「巧先輩!準備が出来ました!」

 

声が聞こえる方を振り向くと篠川香音、高島レミ、稲富ひびきが立っていた。

 

日本戦車道連盟審判員の服装に身を包んでおり、いつでも審判ができる準備が出来ていた。

 

「行こうか」

 

『はい!』

 

三人は巧の後ろについて行き、審判員として行くのであった。

 

~★~

 

もう既に両校の戦車と隊員達は揃っていた。

 

「各校隊長、副隊長前へ」

 

そう言うと聖グロリアーナ女学院からはダージリンとアッサムが大洗女子学園からは河嶋桃と西住みほが出てきた。

 

「今回、審判長を務めさせてもらう伊藤巧です。どうぞよろしくお願いします」

 

巧は両校の隊長、副隊長に会釈した。

 

それを返すように両校の隊長と副隊長は会釈した。

 

「そちらの戦車は個性的ですわね。大口を叩くからもっとまともな戦車でも持っているかと思いましたわ」

 

「何を!」

 

ダージリンが大洗女子学園に対して煽りをかけた。

 

みほは表情を崩さなかったが、隊長の河嶋桃は怒りをあらわにしていた。

 

「私語は慎みなさい」

 

巧は先程とは違い審判員としての仕事をこなすべく普段とは違う厳しい対応を取った。

 

「あらごめんなさいね」

 

ダージリンは口では謝っていたが、態度は反省していなかった。

 

「両校礼!」

 

巧の号令と共に両校の生徒は礼をした。

 

『よろしくお願いします!』

 

両校の生徒の挨拶と共に試合が開始されるのであった。

 

「両校の武運を祈ります。各校定位置へ」

 

巧はその場を後にして審判ができる高台へ向かうのであった。

 

梯子を上って高台の上に立ち、双眼鏡で各校の状況を確認した。

 

「こちら巧、到着した。各校、定位置に到着している」

 

巧は無線機で他の審判員と連絡を取っていた。

 

『こちら香音。到着しました』

 

『ひびき到着しました』

 

『レミもいけます』

 

「了解。試合開始の花火を上げろ」

 

巧はいつもと違う仕事の顔になっていた。

 

巧が無線で連絡をして数秒後に花火が打ち上げられ破裂した。

 

両校の戦車が動き始めた。

 

隊列の綺麗な聖グロリアーナ女学院の戦車たち。

 

それに比べてまだ初々しい戦車の隊列がほほえましく思えた。

 

「会敵したようだね」

 

Ⅳ号の砲撃で聖グロリアーナのチャーチルとマチルダⅡが追撃を開始していた。

 

「キルゾーンに誘導して一気に叩くか・・・初歩的だが確実な策だね。でもこれが通じるかどうかは・・・」

 

巧は現在の状況を分析して解説していた。

 

巧の思った通りでキルゾーンに揃いこんだが、バラバラの砲撃で聖グロリアーナ女学院の戦車を撃破できずにいた。

 

そして大洗女子学園のM3中戦車リーの乗員たちが戦車を放棄して逃走したのだ。

 

「危ない!こちら巧!M3の乗員の保護に向かう!」

 

巧は無線機で他の審判員に連絡をして梯子を急いで降りた。

 

巧はM3の乗員が試合を放棄したことよりも砲弾が飛び交う戦場に生身で飛び出した事に対して焦っていたのだ。

 

『了解』

 

無線機から他の審判員の声が聞こえてきたが、巧は気にせずに走り、森の中を走り抜けた。

 

巧は森の中を見渡して乗員たちを探した。

 

巧の感と経験が働いて高い木の上で観戦していると推測した。

 

その感は的中して森の高い木の上で試合を観戦している姿を確認した。

 

「危ないから降りてきなさい」

 

巧が注意を促して降りてくるように指示をした。

 

そうすると乗員の6名全員が降りてきた。

 

「あの・・・私たち・・・」

 

車長と思わしき少女が涙目で必死喋ろうとしてスカートの裾をギュッと握っていた。

 

「怖かったろ?僕も最初は怖かったよ。でも一番怖いのは誰かが傷付くことだ。戦車を放棄したことよりも危ない車外に出たのが一番ダメなんだよ?」

 

そう言うとみんな泣き崩れてしまった。

 

巧は無線機で本部に乗員の無事を伝えた。

 

「こちら巧。乗員の無事を確認した」

 

『了解。保護をして本部まで連れてきてください』

 

無線機を切って少し巧は落ち着いた。

 

「ここは危ないから安全な所に行こうか?」

 

6人は泣いており返事はできないが、巧のジャケットを掴んで一緒に本部に連れて行った。

 

『大洗Ⅳ号行動不能!聖グロリアーナ女学院の勝利!』

 

巧の無線機に練習試合の終了を伝える無線が入ったが、巧は気づいていなかった。

 

だが巧の知らない裏では乙女たちは激突していた。

 

~★~

 

聖グロリアーナ女学院との試合を終えたみほたちは港にいた。

 

行動不能になった戦車たちを見送っていた。

 

「ごきげんよう」

 

「貴女は・・・」

 

みほは身構えていた。

 

試合前に激突した相手でもある人物が目の前にいるのだから。

 

「みほさん貴女を二つの意味で好敵手と認めますわ」

 

「二つのって何みぽりん?」

 

「それは・・・」

 

困っているみほを助けるようにダージリンが言った。

 

「知らない方が幸せの事もあるのよ」

 

沙織は頭の上にはてなマークが浮かんでいた。

 

「それではみほさんまた会いましょう。お互いに敵は多いわよ。少なくとも貴女も私も敵同士だけどね」

 

ダージリンは応援をする意味でも恋のライバルとして認めているのだ。

 

「負けませんから」

 

「こちらこそ」

 

ダージリンとみほはお互いに宣戦布告したのだ。

 

だけどこの裏で巧はトラブルが起きていた。

 

~★~

 

M3の乗員を連れてきて解散させた巧は運営本部で居た

 

「児玉理事長から連絡です」

 

運営本部で仕事を終えて休憩している巧に一報が入った。

 

「ありがとう」

 

巧は電話の受話器を受け取った。

 

「もしもし巧です」

 

『巧君。君に三日ほど休暇をあげるよ』

 

「はい?」

 

巧は驚いていた。

 

高校戦車道大会の準備が忙しいはずなのに休暇をもらえることになったからだ。

 

『少し今は落ち着いているからね。これから忙しくなってゆっくりできないから大洗でゆっくりと休んできなさい』

 

「わかりました」

 

巧はこの休暇を受ける事しかなかったのだ。

 

これにて大洗に三日間、巧が居ることになったのだ。

 

 

 

 

 




どうでしたか?

これで巧の大洗延長戦が決定しました!

これより次回数話は大洗女子学園編です!


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巧は大洗女子学園の学園艦に乗船します!

やることが無くなった巧は大洗の町を散策していた。

 

大洗の地理に詳しいわけでもないのでただ散歩しているだけとも言える。

 

巧は周りを見渡していると目の留まる人物が居た。

 

「あの子は確かⅣ号の操縦手の・・・」

 

大洗女子学園のみほの乗っているⅣ号の操縦手の少女が一人で歩いているのを発見した。

 

「えーっと確か、冷泉麻子さんだったかな」

 

巧は名前を思い出して呼び止めた。

 

「どうしまs・・・って誰かと思えばあんたは」

 

「伊藤巧です。みほがお世話になってます」

 

社交的に構える巧にたじろぐ麻子。

 

「君はどうして一人なんだい?みほたちはどうしたの?」

 

「西住さんたちは買い物に私はおばあに会いに行ってたから」

 

巧はそれを聞いてある事をひらめいた。

 

「暇なら甘いものでも食べに行かないかい?僕だけで甘いものを食べていると変だからね」

 

巧は甘いものは人並みに好きだが男一人で食べているのを変な目で見られて以来、巧は誰か女の子としか行かないようにしているのだ。

 

巧の一言で麻子の目が輝いていた。

 

「いいぞ」

 

「何処か良い喫茶店にでも入ろう」

 

そのまま二人は近くの喫茶店に入った。

 

「いらっしゃませ。何名様ですか?」

 

「二人です」

 

巧が定員とやり取りしてテーブルに案内された。

 

「ご注文が決まりましたらお呼びください」

 

店員がそう言って去って行くと巧はメニューを開いた。

 

「好きなものを頼んでいいよ。これでも結構、稼いでるんだ」

 

麻子がそれを聞いてメニューに目を落すと麻子が驚いた表情をした。

 

「お、おい、本当にいいのか?」

 

麻子が聞き返すのも無理もない。

 

ここの喫茶店は一般的な喫茶店より値段も高くてコーヒー一杯でも五百円以上もする店なのだ。

 

「一応、持ち合わせだけでこれくらいあるから大丈夫だよ」

 

巧は自らの財布を開いて見せた。

 

中にはかなりの札が入っていた。

 

「それならいいが・・・」

 

麻子は納得してメニューに目を落とした。

 

スイーツの種類もかなりあり、麻子は迷っていた。

 

どっちにしようかと目で見て比較しながら考えていた。

 

それを見かねた巧があることをひらめいた。

 

「すいません。ブルーマウンテンとこれとこれください」

 

巧は麻子が迷っていたものすべてを注文した。

 

「飲み物何がいい?」

 

巧の毅然とした態度に麻子は驚きを隠せなかったが、聞かれた事はすぐに返した。

 

「これで」

 

「かしこまりました」

 

麻子は店員が去って行くのを確認すると巧を凝視した。

 

それを確認した巧が麻子の言わずとも言いたいことが分かった。

 

「遠慮しないでいいんだよ」

 

「こちらも社交辞令かと」

 

「学生なんだから気にしない」

 

巧はそう言った。

 

麻子は引っかかりつつも気にしない事にした。

 

そして数分沈黙の間を経て注文した品が届けられた。

 

並べられた品々に麻子は興奮を隠せなかった。

 

それを見た巧は一言。

 

「どうぞ好きに食べて」

 

そう言うと麻子が礼儀正しいが、子供のように食べ始めた。

 

それを見て巧はほほえましく思った。

 

知らず知らずのうちに麻子の頬には生クリームがついていた。

 

それを巧がナフキンでそっと拭いてあげた。

 

「!?」

 

麻子がぴくッと驚いた。

 

「ごめん。びっくりさせたかな?」

 

「いや、大丈夫」

 

麻子は口ではそう言っていたが、内心すごく動揺していた。

 

「(今の・・・物凄く懐かしい・・・)」

 

麻子は何か心の中で引っかかっていたのだ。

 

「どうしたんだい?具合でも悪いのかい?」

 

「いや・・・」

 

麻子は大丈夫な素振りを見せているが、周りから見ると凄く顔色が悪かった。

 

「もう店を出ようか」

 

巧に言われるがままに席を立った。

 

巧は会計を済ませようとレジの前に立っていた。

 

「っ!」

 

麻子は驚いた。

 

巧の後ろ姿が死んだはずの父親のように見えていたのだ。

 

巧は会計を済ませて麻子の方を見た。

 

麻子は顔をしたに下げていて見えないようになっていた。

 

「大丈夫かい冷泉さん?」

 

麻子は巧の言葉を聞いて感情が保てなくなってきていた。

 

巧の言った冷泉と言う単語に反応したのだ。

 

「ま、麻子だ。麻子と呼んでくれ」

 

麻子は最後の賭けに出たのだ。

 

奇妙にも自分の名前を言われたら落ち着けるのではないかと思ったのだ。

 

「いいのかい?それじゃあ麻子、行こうか」

 

巧のその一言で麻子の気持ちや感情がすべて変わった。

 

「うん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お父さん

 

「えっ?」

 

麻子は驚いている巧の手を引いて店から出て行った。

 

「ど、どうしたんだい?」

 

巧は心配そうに麻子に聞いた。

 

「お父さんどうした?」

 

「そのお父さんだよ」

 

麻子はわかっていないような顔をした。

 

「お父さんはお父さんでしょ?」

 

巧はこの状態になる要因を知っているような気がした。

 

過去に両親を亡くした人物が似た人間を脳で同一人物と認識することがあると。

 

まさにこの状況を言うのであろう。

 

「そ、そうだったね」

 

そしてもう一つ。

 

それを拒絶すると精神に異常が起きる可能性があるのだ。

 

巧はそれを恐れてあえて麻子の父親になりきるようにした。

 

「そろそろ家に戻ろうか?」

 

「うん。お父さんおんぶして」

 

「いいよ」

 

巧は麻子をおんぶした。

 

麻子は巧におんぶされたら、すぐに寝てしまった。

 

麻子は低血圧で朝が弱く、今日の練習試合も朝が早くて眠かったのだろう。

 

巧は夕焼けが落ち始めている大洗の街を歩いて学園艦のある港に向かって歩くのだった。

 

日はかなり落ちていて、学園艦の出港が迫っていた。

 

巧も学生時代は黒森峰の学園艦で生活していたので、学園艦の出港に急いで駆けつけているのは実に十年以上も前の事で、少し懐かしく思っていた。

 

やはりそういうところは学校は違えど一緒なのだろう。

 

麻子の吐息を感じながら巧は大洗女子学園の学園艦に到着した。

 

そのまま階段を上がり、艦上に上がって行った。

 

そこには大洗女子学園の戦車道履修者が何人か居た。

 

この中にはみほも居た。

 

「巧さんなんでここに・・・って麻子さん?」

 

みほは巧におんぶされている麻子を見ていた。

 

巧は苦笑していた。

 

「少し色々とね・・・」

 

「ふ~ん色々・・・」

 

みほがいつも通りに瞳から光が消えてふらふらと巧の方に近づいてきていた。

 

「ちょっと待ってみほちゃん。これには理由が・・・」

 

巧はこれまでの出来事と起きているすべてを話した。

 

どう対応すべきか、この状態をどうするかを話した。

 

「実は麻子は小さい頃にお母さんとお父さんを交通事故で亡くしてるんだ。多分そのせいだと思うんだけど・・・」

 

沙織は麻子の過去に両親を交通事故で亡くした事を告白してくれた。

 

これにより巧との話が一致することになった。

 

みんな意気消沈としていた。

 

だがみほはなぜか目を輝かせていた。

 

「巧さんがお父さんなら、妻の私はお母さんですね!」

 

場違いのようなテンションで空気を悪くするみほ。

 

巧は苦笑するしかなかった。

 

「んぁ・・・」

 

みほの声で起きてしまう麻子。

 

周りを見渡して状況を読み取り始める麻子。

 

状況を理解した麻子は巧の背中をするすると降りて立ち上がり、巧の右手と手を繋いだ。

 

「麻子さん、お母さんとも手を繋ごう」

 

「西住さんはお母さんじゃない。私の両親はお父さんだけだ」

 

麻子は巧の手を力強く握っていた。

 

麻子は現実から逃避するために自分の記憶まで捻じ曲げて捏造しているのだ。

 

みほの顔は表情は険しくなっていった。

 

「麻子さんおかしいとは思わないの?巧さんと自分の年齢差に気づいてないの?年齢が合わないと思うけど」

 

「みほちゃんそれは!」

 

巧はみほが真実を言おうとしているのを止めようとしたけど、止められずにすべてを言ってしまっていた。

 

巧は恐る恐る麻子の表情を確認した。

 

「西住さんでも冗談を言うんだな」

 

麻子は真に受けていなかった。

 

巧は内心ホッとしていた。

 

「麻子、先に家に戻ってくれるかな?」

 

「うん。先に戻ってるから」

 

巧は麻子を自分の家に帰して自分が喋りやすくした。

 

麻子が家に帰って行くのを確認して巧は口をひらいた。

 

「まず最初に僕がここに居るのは三日間の休暇をもらったから居るんだ。そしてその間の期間は大洗女子学園の学園艦に乗船し、大洗女子学園の戦車道を指導させてもらいます」

 

大洗女子学園の生徒会のメンバーとそこに居合わせている巧が保護した一年生達が喜んでいた。

 

「それじゃあ私の家に泊まってくださいね」

 

みほが巧をそう言うが巧は首を横に振った。

 

「・・・何で、ですか?」

 

みほの瞳はまたどす黒く暗く光のない瞳をし始めた。

 

「麻子の事が心配なんだ。僕の責任なんだ」

 

「でも、私は巧さんと!」

 

「みほちゃんには悪いけど今回は許してくれないか?この埋め合わせは絶対今度するから」

 

みほは少し考えて答えを出した。

 

「・・・うん、わかった。でも巧さんちゃんと埋め合わせを考えてくださいね?」

 

「僕は約束を破らないから心配しなくても大丈夫だよ」

 

巧はそう返したが、みほが素直に引き下がった事に少し違和感を覚えていたが、気にしなかった。

 

「(麻子さんなら巧さんを盗られる心配はない。グロリアーナのダージリンさんの言う通り、私もそろそろ準備をしないと・・・)」

 

みほが今回、巧に事をあきらめたのはダージリンの助言と宣戦布告で焦っていて何かの準備を始めようとしている・・・

 

それは今後に大きく影響する事は巧も誰にも知らない・・・

 

各自は各々に解散を始めた。

 

だけど巧は大きなミスを犯していた。

 

「そういえば家の場所聞くの忘れた・・・」

 

このままではみほの家に行けばカッコ悪いし、泊まる場所もないので野宿コースになってしまう事を巧は察した。

 

とりあえず着替えを買うために服屋で替えのシャツと下着類、私服を少々買って途方に暮れていた。

 

皆が解散して数十分ぐらい時間が経過していて、巧の体力が無くなってきていた。

 

途方に暮れて歩いていると呼び止められる声が聞こえた。

 

「あ、あの伊藤巧さん?」

 

そこにはⅣ号の通信手をしている武部沙織が立っていた。

 

「Ⅳ号の通信手の武部さんだよね?」

 

「え、あっ、はいそうです」

 

巧は少し緊張気味の沙織を和ませようと巧は柔らかい笑顔で話を始めた。

 

「緊張しなくて大丈夫だよ」

 

「あまり男の人と話したことがないから緊張しちゃって」

 

照れた笑顔で答える沙織に巧は少し安心したようだ。

 

沙織が歩こうとした瞬間!

 

「きゃ!」

 

足をつまずいてこけようとしていた。

 

「危ない!」

 

巧は沙織の手を引いて腰に手を掛けて抱き抱えた。

 

「よかった・・・」

 

巧は沙織がこけなくて一安心していた。

 

だけど沙織は・・・

 

「(・・・こんなにドキドキするなんて初めてだよ~!これが恋なのかな?)」

 

顔が真っ赤になってドキドキが止まらなかった。

 

「すまないけど麻子の家まで案内してくれるかな?恥ずかしながら家の場所がわからないんだ」

 

「私でよければお供します!」

 

元気の良い沙織の姿を見て一安心する巧であった。

 

「(巧さんを振り向かせるにはどうしたらいいんだろう?結婚情報誌を参考にした方が良いかな?やっぱり大胆な行動と巧さんを想う気持ちがあれば振り向いてくれるはず!)」

 

巧の近くでヤンデレになりかけの少女が居るという事は本人も知らなかった・・・

 

沙織と巧はそのまま麻子の家まで行き、家の扉を開いた。

 

不用心にカギもかかっておらずに玄関で靴を脱いで部屋の奥に行くと床で寝ている麻子が居た。

 

顔を見ると泣いた跡があった。

 

巧は寂しがらせたと罪悪感があった。

 

「麻子ったらこんなところで寝て!」

 

「疲れてるんだよ。僕も疲れたしこのまま寝かせてあげよう」

 

沙織は巧の言った事に納得して麻子の布団を敷いた。

 

その間も麻子が起きる気配のなく、巧は麻子を布団に移動させた。

 

「沙織ちゃんもありがとう」

 

「気にしないでください。巧さんも横になったらどうですか?」

 

「お言葉に甘えてそうさせてもらうよ」

 

巧は寝っ転がった。

 

休憩につもりで寝っ転がったが、思いのほかの疲労に就寝してしまった。

 

「(可愛い寝顔するだな~・・・キスしてもバレないようね?)」

 

沙織は巧を起こさないようにそーっと唇を触れ合わせた。

 

沙織は更に愛おしく思ってしまい、巧の隣に寝っ転がった。

 

「(なんだが眠たくなって・・・)」

 

沙織も疲れているのかすぐに寝てしまった。

 

「んぁ・・・お父さん・・・」

 

麻子が眩しくて起きてしまい、寝ている巧を確認して沙織の反対方向に寝っ転がって就寝した。

 

麻子と沙織に挟まれて就寝する巧は今日一日でかなりの出来事があった。

 

修羅場もあれば、急に娘が出来たり、全然知らない街を歩き回ったり、仕事をしたりして巧にはかなりの疲労が溜まっているだろう。

 

だが巧本人は気づいていない・・・

 

まだ地獄の三日間が始まっていない事に・・・

 

 




どうでしたか?

まだ一日目に入っていないのに二人も変化しました・・・

ここで読者様に質問ですが、このまま大洗の生徒全員をヤンデレにするか、一部正常者が居るかどっちにしようか迷っているので意見をお願いします!

それではまた次回!

チャオ!


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巧は大洗女子学園に向かいます!

巧は窓から差し込める朝日で目を覚ました。

 

日は少し高く、いつもより寝ていた巧は昨日の疲労が無いように感じていた。

 

寝る時にはかかってなかった布団をどかして上体を起こして台所に目をやると大洗女子学園の制服姿で仲良く朝ご飯を作る麻子と沙織の姿があった。

 

眠たいそうに目をこすっていると、巧が起きた事に気づいた二人は巧に話しかけた。

 

「お父さん、おはよう」

 

「おはよう。朝ご飯もうすぐできるからね」

 

そう言われた巧は寝ていた布団をたたんで机を移動させて朝食を食べれるようにした。

 

朝食にふさわしい、みそ汁の匂いと焼き魚の匂いが巧の鼻を刺激した。

 

麻子は普段は低血圧で朝起きるのが苦手だが、今日は違う。

 

麻子は巧の為に早起きをして沙織と一緒に朝食を作っているのだ。

 

そして麻子と沙織が机に朝食を運んできて並べられた。

 

ごきげんな朝食だ。

 

三人は合掌して一言。

 

『いただきます』

 

と言うと朝食を食し始めた。

 

「お父さんは今日は何をするんだ?」

 

麻子は巧に向かって今日の予定を聞き出そうとした。

 

巧は少し考えて答えを出した。

 

「戦車道の指導まで時間があるから大洗の学園艦を少し回ろうと思うんだ」

 

「それじゃあ放課後、三人で回らない?」

 

沙織が自分と巧と麻子で学園艦を歩き回らないかと提案してきた。

 

「それも悪くないね」

 

巧はその提案に同意しながら朝食をそそくさと済ませた。

 

沙織は食べた食器をかたずけて、麻子は学校に行く準備をしていた。

 

沙織は食器をかたずけが終わり、麻子から学生鞄を受け取って学校に行ける準備をした。

 

「それじゃあ巧さんは出かける時にカギをかけて来てね」

 

「お父さん行ってきます」

 

巧が手を振って二人を見送った。

 

巧は朝からシャワーを浴びて少し伸びた髭をカミソリで剃った。

 

下着とシャツを変えて私服ではなく、シャツを着替えて仕事用のスーツに着なおした。

 

身の整理をしていたら、時間が結構経っていた。

 

そして玄関から出て、鍵を閉めて大洗の学園艦の街を散策し始めた。

 

時刻は午前九時を過ぎていた。

 

ある程度の店は開き始めており、巧もどの店に入ろうか考えていた。

 

商店街を歩いているとふと巧は自分の髪の毛の長さに違和感を覚えた。

 

巧はこの機に散髪しようと思い近くの床屋を探して歩いていた。

 

すると目の留まる理髪店を見つけた。

 

『秋山理髪店』と書かれた看板が目に留まり、巧はここに入ろうと決めた。

 

秋山理髪店はもう既に開店しており、店のドアに手を掛けて入店した。

 

「いらっしゃいませ」

 

中に入ると美人の婦人が迎えてくれた。

 

「こちらへどうぞ」

 

散髪台に案内された巧はスーツの上着を脱いで散髪台に座った。

 

「今日はどうしますか?」

 

「この髪型の状態で髪の毛を短めに切ってください」

 

「はい。わかりました」

 

巧の髪の毛を丁寧に優しく繊細にカットし始めた。

 

みるみるうちに髪の毛は短くなっていき、巧の髪の毛は短めになった。

 

巧はカットしてくれている婦人の顔の表情に違和感を感じた。

 

「あの、どうしたんですか?暗い表情をしてますよ」

 

「えっ?」

 

巧は昔から他人の表情を読み取るのが得意で学生時代に黒森峰の戦車道チームの隊員達の表情を読み取って心のケアをしていた事もあったのだ。

 

巧はだから婦人の暗い表情を一瞬で読み取ったのだ。

 

「ご相談に乗りましょうか?」

 

「いえ、迷惑でしょう?」

 

「構いませんよ。僕は暇なので」

 

巧は優しい笑顔で答えた。

 

「(久しぶりに男の人に笑顔で・・・)」

 

婦人はときめいていた。

 

そもそもこの婦人は大洗女子学園の戦車道メンバーのⅣ号の装填手の秋山優花里の母親の秋山好子であったのだ。

 

「実は・・・」

 

好子は赤裸々に告白を始めた。

 

理髪店の経営がうまくいかず、夫はオドオドしていて解決策を見出せずに困っていて、娘も最近、友達が出来たばかりだから、退学はさせたくないと語った。

 

巧は真剣に好子の話を聞いた。

 

「それで今日も旦那は商店街の人に相談に行ってて・・・」

 

好子は今すぐにでも泣きそうな顔をしていた。

 

巧は好子の手を取ってこう言った。

 

「もし経営に困っているのならここに電話をしてください。そして僕の名前『伊藤巧』を出して頂いたら、問題ないので」

 

巧は名刺ケースから経営コンサルタントをしている人間の名刺だった。

 

巧の顔は広く、日本戦車道連盟がバックについている企業が多く、巧も何十社もの会社の人間と知り合いなのでこの手の会社の人間とは仲が良いのだ。

 

その中でもまだ会社の規模はそこまでだが、腕のいい経営コンサルタントの人間を紹介したのだ。

 

「家にはこんな人を雇うお金は・・・」

 

「心配いりません。僕の名前を出していただいたら、そこまでかからないので大丈夫ですよ」

 

それを聞いて好子は目から涙が出始めた。

 

巧は驚いてすぐにズボンからハンカチを取り出して涙を拭いてあげた。

 

「大丈夫ですよ。それと貴女が旦那さんを引っ張ってあげてくださいね。でないといつまで経っても解決しないですから」

 

そっとハンカチを手渡して笑顔で答えた。

 

「ありがとう・・・ございます・・・」

 

好子が落ち着いてきて涙が止まり始めた。

 

「僕の方こそ綺麗に散髪してもらってありがとうございます。お代はここに置いていきますね」

 

スーツの上着を着なおしてお代をレジの横において店を後にした。

 

好子は落ち着いてレジの横の代金を見て更に驚いた。

 

巧は二万円も置いて行ったのだ。

 

好子は急いで店の外に出て周りを見渡しても巧の姿はなかった。

 

好子は少しがっかりして店に戻って行った。

 

「また会えたら・・・」

 

好子の心には野心ともいえる感情と欲望に渦巻いていた。

 

もう心の中に最愛の夫の姿はなく、いるのは巧の姿だけだった・・・

 

~★~

 

巧は少し鬱陶しい髪の毛を短くして事によって気分が良くなった巧は商店街を抜けて大洗女子学園に向かっていた。

 

普段は感じない心地のいい海風が吹き抜けている。

 

巧は学生時代に戻ったように感じた。

 

まるで学生時代に寮から黒森峰女学園まで登校しているように感じながら大洗女子学園を目指した。

 

そうこうしているうちに大洗女子学園の校門に着いた巧は学園の敷地内に入った。

 

前回に来ていたが、あまり学園内は詳しくないので大きくて目立つ戦車倉庫を目指して歩いて行った。

 

大洗女子学園は黒森峰女学園等の戦車道名門校に比べて学園艦の規模が小さく、思った以上に広くないので校内を車などで移動する必要はなかった。

 

プラウダ高校より少ないが木々も多少はあるので自然がないわけではない。

 

そして大洗女子学園の戦車倉庫に到着した。

 

戦車倉庫の入り口を開けて倉庫内に入った。

 

そこには先日に練習試合で使われた戦車全部が直されて走行可能になっていたのだ。

 

巧にとっては別に驚くことでもなかった。

 

巧は昔から整備士に恵まれており、ゴールデンウイークの全日程を他校との交流戦をして連日戦車を使えるようにするために整備士に無茶をさせた事もあった。

 

巧は馴染み深いⅣ号戦車に背を預けて座り、スーツの上着の内ポケットから手帳を取り出して今後の仕事の日程を確認した。

 

一番日程が近い仕事は全国高校戦車道大会の抽選会の運営でその後にサンダース大付属高校の部隊編成の発表会に呼ばれているのでそれに行き、もちろん高校戦車道大会の審判員としての仕事と各校の指導もある。

 

この時期は毎年忙しいので巧は当たり前のように感じている。

 

だが今年は予定なのだが冬季の戦車道大会の無限軌道杯の開催を検討しているのでプロリーグの発足が急がれている。

 

なので巧もいつも以上に忙しくなっているのだ。

 

だけど巧は忙しくとも日本戦車道が盛り上がってくれるのなら本望だと思っている。

 

自分が果たせなかった世界一位と金メダルを取れるように全力でサポートするのが巧にとって幸せなのだ。

 

予定の確認をしているうちに時間が思いのほか進んでいて授業終了のチャイムが鳴るのが聞こえた。

 

チャイムが鳴って少し時が経つと戦車倉庫の扉が開いた。

 

そこに立っていたのはくせ毛が目立つⅣ号装填手の秋山優花里だった。

 

「あれ?伊藤教官はどうしてここに?」

 

「戦車道の指導に来たんだけど・・・時間を間違えたのかな?」

 

「あっはい。戦車道の授業は今日はないですから放課後の練習のみのはずです」

 

巧は失敗したと思い立ち上がった。

 

「君はどうしてここに?」

 

「いや~戦車たちと昼食を取ろうかと思って」

 

照れながら答える優花里に巧は提案をした。

 

「僕もご一緒にさせてくれないか?少し話したいから」

 

優花里は驚いた顔で凄い速度で頭を縦に振った。

 

巧はⅣ号の上に乗った。

 

「ほらおいで」

 

巧は優花里に手を差し出した。

 

「あ、ありがとうございます」

 

緊張した趣で優花里は巧の手を握り引き上げてもらった。

 

その際に優花里は戦車で躓いてしまい巧に抱き留められた。

 

「大丈夫かい?」

 

巧は繊細に壊れやすいガラス細工を扱うように抱きしめていた。

 

「だ、大丈夫です(これでは冷泉殿がああなってしまうのがわかる気がします・・・)」

 

優花里は少し麻子の気持ちが分かったかもしれない。

 

巧は優花里を放して戦車の上に座った。

 

そして優花里は巧の隣に並ぶように座った。

 

優花里はお弁当箱を開いて食べ始めた。

 

「伊藤教官は昨日の練習試合をどう思いますか?」

 

優花里は素直に昨日の試合の評価を求めた。

 

「一つ言うなら発展途上だね。経験を積んで成長するんだ。だけど戦車道は経験だけじゃない」

 

「だとしたら何が必要ですか?」

 

巧は少し間を開けて一言、言った。

 

「情報とチームメイトの信頼だよ。相手チームの情報は変わるけど、戦車の情報は変化しない。敵戦車の特徴をよく理解して弱点を突くこれも大事なのだ。それと頼れる味方の信頼が勝利に導くんだよ」

 

優花里は納得した顔をした。

 

巧の言っている事はあながち間違ってはいない。

 

「性能がすべてではないよ。学生時代の黒森峰での紅白戦で僕はⅣ号を使用してティーガーⅠに勝ったこともある。戦車の性能が慢心を生んだ事によっての敗北だと僕は感じたよ」

 

「それならこのⅣ号でも全国に通用するプレーができるという事ですか?」

 

「そうだね。戦車の性能は重要だけどそれは慢心を生むんだ」

 

巧は自分の経験と指導員としての情報量で優花里に助言をした。

 

優花里は納得のいく言葉に感銘を受けていた。

 

巧はあることを思い出した。

 

「君は戦車は好きかい?」

 

「はい!もちろんです!」

 

巧の質問に迷いもなく答えた。

 

巧は先程の手帳から一枚の写真を取り出し渡した。

 

「こ、これは!」

 

その写真に写っているのは・・・

 

「T-28重戦車だよ。大学選抜に導入前に記念に撮らせてもらったんだよ」

 

巧は大学選抜にT-28重戦車を導入以来が来ていたので巧の情報網からT-28重戦車を売ってくれるところを大学選抜に紹介したのだ。

 

「全部で2輌しか生産されなかった伝説のレア戦車!大学選抜に導入されたとは聞いていてのですが、実物が誰も見ていないので噂かと思ってました!二列の履帯と高射砲を転用した強力な67口径105mm砲を搭載しているドイツの超重戦車マウスのようなドイツの重戦車に対抗するために作られた最強の重戦車ですね!」

 

興奮する優花里を見ていると巧は嬉しくて手帳から追加の写真を取り出して渡した。

 

「それなら黒森峰の重戦の写真もあげるよ」

 

黒森峰女学園の保有しているドイツ重戦車の写真を同じく手帳から取り出して優花里に手渡した。

 

「これは!ティーガーⅠとティーガーⅡ、ヤークトティーガー、ヤークトパンター、そ、それに黒森峰の秘密兵器、超重戦車マウスまで!」

 

優花里の興奮は最高潮に高まっていた。

 

巧はついついいつもの調子で頭を撫でてしまった。

 

優花里の顔はまんざらじゃなかった。

 

「ご、ごめん。いつもみたいに撫でてしまった」

 

巧はふと我に返り優花里に頭から手を離した。

 

「あぁ・・・」

 

優花里は寂しそうな顔をした。

 

「(もっと撫でてほしかったです・・・それに教官とお話ししているとこれまでに感じた事もない胸の高まりがありました・・・頭を撫でられた時も戦車に初めて乗った時よりも・・・教官ともっと長くお話してたいです)」

 

親と子は似るというがそれは本当だろう。

 

現に親子である優花里と好子は同じく心の中に野心と欲望が渦巻き始めている・・・

 

だけど時間は思いのほか進んでいたようだ。

 

昼休み終了の予鈴のチャイムが鳴った。

 

「さてと昼休みは終了のようだ。君も教室に戻りなさい」

 

そう言う巧の言う事を優花里は無視するように巧に抱き着いて離れないようになった。

 

巧は困惑して困っていた。

 

「秋山さん授業に遅れるよ?」

 

「いいです。それよりも私の事は優花里と呼んでください」

 

離れようとしない優花里に巧は一言、言った

 

「勉学に励まない者に戦車道をする資格はないよ。だから授業はちゃんと受けなさい」

 

「はい・・・」

 

優花里は残念そうに離れた。

 

「ちゃんと頑張って授業を受けてきなさい」

 

巧はまた優花里の頭を撫でてあげると優花里は気分よく戦車倉庫を後にして授業を受けに行った。

 

巧は昼食をとってなかったので大洗女子学園の学食に行く事にした。

 

学食には生徒はもちろんいなかった。

 

だが巧を呼び止める者が居た。

 

「あれ~伊藤教官じゃん」

 

そこには生徒会の三人が居た。




どうでしたか?

今回は秋山親子が堕ちました!

次回は生徒会のメンバー、カメさんチームをメインでいけたらと思います。

あと言っておくとまだ休日の初日で昼ですので巧くんにはまだ地獄が待ってます・・・

あと活動報告にてサメさんチームについてのアンケートを取りますのでよろしくお願いいたします!


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与えられた特権です!

そこには大洗女子学園の生徒会メンバーこと角谷杏、小山柚子、河嶋桃の三人が居た。

 

授業中にもかかわらずに三人が学食に居ることに巧は疑問を抱いていた。

 

その疑問を三人にぶつけた。

 

「君たちは何でここにいるんだい?授業中のはずだと僕は思っているけど・・・」

 

巧は聞くと片眼鏡の桃が答えた。

 

「戦車道の練習と練習試合で仕事が立て込んでいるんだ。授業を公欠で仕事をしているんだ」

 

「それは理事長が許してくれるのかい?」

 

巧は黒森峰女学園では絶対にありえない事なので聞き返した。

 

「生徒会には特権が与えられているんです」

 

巧はそういうものなのかと思った。

 

「それで教官はなんでここにいるの?」

 

会長の杏に質問をされたのですぐに答えを返した。

 

「早めに来てしまったんだ。お昼も食べてなかったから生徒の居ない学食で昼食をとっておこうかなと思ってね」

 

納得する生徒会メンバー。

 

会長の杏が何かひらめいた顔をした。

 

「私達も昼食をとろうと思ってさぁ。教官も一緒にどう?」

 

巧は別にデメリットもないので一緒にすることにした。

 

その後は巧は食券を買って昼食を受け取った。

 

「生徒会室で食べるからついてきて」

 

杏と二人の後ろを巧はついて行って大洗女子学園の生徒会室に向かった。

 

大洗女子学園の生徒会室は理事長室のように広く私物が少々ある。

 

黒森峰女学園の戦車道隊長室も同じように広く理事長室のようになっているので少しは納得がいっている巧。

 

四人は真ん中のソファに腰掛けてテーブルに昼食を置いて囲んだ。

 

そして巧は一言だが確実で大きな爆弾発言をした。

 

「君たちは全国高校戦車道大会で優勝しないと廃校なんだよね?」

 

三人は度肝を抜かれた驚いた顔をした。

 

巧は文部科学省学園艦教育局長の辻廉太とは飲み仲間でみほが転校する大洗女子学園の事を調べている時に廉太本人の口から廃校の真実を聞かされたのだ。

 

「その通りだ。大洗女子学園は今年度の全国高校戦車道大会で優勝しないと廃校は免れない」

 

いつもへらへらしている生徒会長の角谷杏が真面目な顔で話を始めた。

 

「色々みほちゃんにした事に言いたい事はあるけれどこの件は別だよ。廃校の件は僕に任せて」

 

三人は顔を見合わせた。

 

巧が今から何かをするのか理解してないのだ。

 

巧は携帯を取り出してあるところに電話をした。

 

「もしもし文部科学大臣ですよね?」

 

その一言で巧以外の三人は凍り付いたように固まった。

 

『な、何かね?』

 

電話の相手である文部科学大臣は格下である巧を相手に緊張していてたじろいでいた。

 

「大洗女子学園の廃校の件を推進しているのは貴方だと聞きました。単刀直入に言います。大洗女子学園の廃校の件を取り消してください。これは警告です」

 

巧の言葉に緊張が走る文部科学大臣。

 

それ以外に三人も石像のように呼吸音すら聞こえなかった。

 

『う、うむ。わかった取り消しておく』

 

「ありがとうございます」

 

巧は電話を切って一息を吐いて一言、言った。

 

「大洗女子学園の廃校の件は一応取り消したよ」

 

その一言に複雑な感情を抱く三人。

 

喜んでいいのか?と思い言葉が出ない状況が続いた。

 

その沈黙を破るように杏が声を出した。

 

「どうして私達が苦労して廃校を阻止するチャンスを与えれたのに、なぜ教官は簡単に廃校を止めれるんですか?」

 

杏は先程のような口調ではなく真面目に真剣に会話をしていた。

 

「今回の廃校の件は文部科学省学園艦教育局のバックにいる文部科学大臣が推進している事なんだ。文部科学省学園艦教育局長である辻廉太さんとは親友でね。この事を聞いたんだ。そして僕が文部科学大臣に電話をして取り消してもらったんだよ。文部科学大臣とは“仲が良く”てね。世間に知られたくない秘密が僕の日記帳に書いてあるくらいにはね」

 

それを聞いた杏は一言を口から漏らした。

 

「ブラックメール・・・」

 

ブラックメール、平たく言うと脅迫状みたいなものだ。

 

巧の独自の情報網で掴んだもので文部科学大臣以外にも巧は他の政界の人間のブラックメールを持っている。

 

「彼にとっては命だよ」

 

巧の毅然とした態度に三人は恐怖すら感じ始めていた。

 

「それとこれは忠告だよ。次もしもみほちゃんを傷付ける事があれば・・・わかってるよな?」

 

巧が普段絶対に口にしない敬語が抜けた言葉。

 

その言葉に込められた覇気は未知数で三人は蛇に睨まれた蛙の如く動けずに居た。

 

「その事に関しては謝罪します」

 

頭を下げようとした杏の頭に巧は手を乗せた。

 

「いいよ。君たちも君たちなりに自分たちにできる母校を救う方法がこれだったんだね。よく頑張ったよ。だからこういう時は大人に頼ってくれていいんだよ?」

 

巧はその苦労を認めるかのように頭を杏の撫でた。

 

その瞬間、杏の目から大粒の涙が出てきた。

 

いや杏だけではない。

 

これまで三人で廃校阻止に理事長よりもこの学校の全校生徒よりも苦労していて、その苦労が報われた気持ちとこれまで誰も頼れなかったのに手を差し伸べてくれた巧への感謝の涙である。

 

初めて三人の気持ちが救われた。

 

泣いている三人を巧は優しく抱き込んだ。

 

「もう安心していいんだよ?廃校はなくなったんだ」

 

巧は三人を泣き止むまで声をかけて続けた。

 

三人は段々気持ちが落ち着いてきて巧は三人を放して元の位置に座った。

 

三人はまだ少し涙が出ているが落ち着てきていた。

 

「廃校阻止の件は大洗女子学園の戦車道継続を条件にします。何も気にせずに学生生活最後の思い出に何かに夢中になった思い出を作ってください」

 

巧は優しくそう言った。

 

巧自身も学生時代に一生懸命取り組んだ戦車道を大洗女子学園の生徒たちに何も気にせずに思う存分やって欲しいから廃校を取り消したのだ。

 

みほのトラウマを呼び起こした事に巧は怒りを覚えたが、それ以上に今現在はみほが戦車道をまた続けてくれた事と勝つ以外の戦車道の楽しみ方を理解したからそのお礼として、みほの新たな居場所の為に廃校を取り消したのだ。

 

そしてもう一つの理由を巧は口にした。

 

「みほちゃんに戦車道を教えたのは僕なんだ。西住流ではない黒森峰女学園在学中に編み出した僕の『みんな』で勝つ戦車道。それは西住流には相反する事だからみほちゃんはしほさんに怒られて戦車道にトラウマを植え付けてしまった。だからこれは僕の責任でもあるんだ。でも君たちはみほちゃんに戦車道を再開する機会をくれただけだよね。だからさっき脅すようなことをして悪かったよ。ごめんなさい」

 

巧は先の事を謝った。

 

深々と頭を下げて謝った。

 

だけど三人は謝罪を望んでいなかった・・・

 

三人は必然的に同じことを思っていた・・・

 

それは・・・

 

 

 

『どうすれば巧が西住みほではなく、私だけを見てくれるだろうか?』

 

 

 

っと心の中で嫉妬の感情が渦巻き始めていた。

 

巧がみほの名前ばかりを言っているので三人の心の中に嫉妬と言う大きな感情が生まれ始めていたのだ。

 

頼れない人間の中からたった一人の手を差し伸べてくれて褒めてくれて、心の安らぎが三人の心を大きく変えたのだろう。

 

「あんがとね。お礼に付き合ってあげようか?」

 

その一言に巧は真剣な顔をしていたはずが糸が切れたように緊張が切れて固まってしまった。

 

その杏の一言に反応するかのように桃と柚子が対抗した。

 

「会長それなら私の体を差し出します。どうぞ私の体に種を・・・」

 

「桃ちゃんは泣き虫だから耐えれないよ?会長は貧相な体ですし、私の体を捧げます」

 

三人の間に火花が散っているように見えた。

 

巧はそれを止めるように言った。

 

「学生の本文は勉強だから授業を受けてきなさい。仕事は僕がやっておくから。言う事を聞かないと僕は帰るからね」

 

その一言で三人は猛スピードで生徒会室から出て行った。

 

巧は生徒会室の奥にある理事長が座るようなイスに腰掛けて机の上にある書類仕事を始めた。

 

高校生には多すぎるほど書類があり、自分にできる物をかたずけ始めた。

 

巧も日本戦車道連盟でデスクワークをしているので早々と仕事を終わらせていった。

 

思った以上に簡単に終わってしまい巧は少し暇になった。

 

一息つこうとした時だった。

 

巧の携帯が鳴った。

 

巧は携帯の画面を見た。

 

そこには非通知で電話が来ていた。

 

少し巧は驚きながら電話に出た。

 

「もしもし、あなたは誰ですか?」

 

巧は一言、率直に聞いた。

 

『私はただの貴方のファンだ』

 

変声機で声を変えられていて巧は電話の主が誰か理解できなかった。

 

「そのファンが僕に何のようだい?」

 

『貴方に聞きたいことがあるんだ。君は戦車道が好きですか?』

 

巧は言うまでもない質問に溜め息を吐いて答えた。

 

「もちろんだ」

 

『そうですか・・・ならまた連絡します。今度は直接会うための場所を言いますので』

 

そう言って一方的に相手が電話を切った。

 

巧は喋り方から電話の相手を割り出そうとしたが、あいにく全然知らない人物だった。

 

巧は考えても仕方ないと思い時間が解決してくれると考えた。

 

そしてやることもないので椅子から立ち上がり体を伸ばしたりして体をほぐして疲れをとろうとした。

 

そうしているとまた携帯が鳴る音が聞こえた。

 

次は誰だろうと思いながら巧は携帯を取ると画面に書かれていた名前は・・・

 

『しほさん』

 

だった。

 

巧はみほの事を悟られないように恐る恐る電話に出た。

 

「もしもし、どうしたんですか?」

 

『巧さんが休暇を頂いたと聞いたので電話をしました。熊本に戻ってこれますよね?』

 

巧にとっては一番困る質問だった。

 

しほに巧が休みを与えた事を言ったのは児玉七郎だろう。

 

だけど巧はしほさん相手に大洗に居ることだけは伝えなかったことだけは心の中で感謝をした。

 

「私情で帰れそうにないです」

 

『そうですか・・・巧さんは今どこにいますか?』

 

しほに一番困る質問をされた。

 

巧はどう言い訳をするか思いつかずにいた。

 

『もしかして千代のところですか?』

 

「い、いえ違います」

 

しほが良からぬ方に勘違いを始めていたので巧は誤解を解くべく否定をした。

 

『そうですか。でも本当にどこに居るのですか?』

 

結局、巧は話を逸らすことに失敗してしまった。

 

ここで巧は最後の奇策に出ることにした。

 

「母の日のプレゼントまだですしたよね?しほさんには黒森峰に在学してた時に自分の第二の母親でしたからそのプレゼントを選んでるのですけど・・・」

 

そう伝えると電話の向こうで携帯を落とす音が聞こえた。

 

そしてしほが電話を拾う音が聞こえた。

 

『巧さんありがとうございます。とても嬉しいです。お義母さんと呼んでくれるという事はまほとの婚約を認めてくれたという事ですね』

 

「えっ!?」

 

しほが盛大に勘違いを始めている事に巧は戸惑いを隠せなかった。

 

『また熊本に戻って来たら正式な書類の元で婚約しましょう』

 

巧が固まっている内にしほが一方的に電話を切ってしまった。

 

巧は大きな地雷を踏んでしまったと後悔をした。

 

急にまほも婚約と言われたら困ってしまうだろうから巧は婚約したことよりもまほの気持ちを無視してしまったことに後悔をした。

 

悔やんでいる巧にまたもや電話が鳴った。

 

次は誰だと思いながら巧は着信の相手を確認した。

 

『千代さん』

 

巧の額から変な汗が止まらなくなってしまった。

 

巧は恐る恐る電話に出た。

 

『巧さんしほに聞きましたよ。西住の娘と婚約・・・ドウイウコトデスカ?』

 

「い、いえ誤解です!」

 

巧は誤解を解くべくしほが勘違いをしている事を言った。

 

「だから婚約は勘違いなのです。誤解を解く前に電話を切られてしまって誤解が解けなかったんです」

 

千代には先程の事を包み隠さずに話した。

 

「なので誤解です。今度しほさんに会った時に誤解を解くので婚約はないに等しいです」

 

巧の必死の弁解で誤解が解けかけていた。

 

だが千代は巧がしほを母親だと思っていたことを気にしていた。

 

『それなら私も巧さんの母親なのではないかしら?』

 

巧は図星を突かれて言い返せなかった。

 

だから巧は千代にしほと同じようにするためにこう答えた。

 

「千代さんもプレゼントします」

 

『それならいいわ』

 

千代の機嫌が元通りになり、いつも通りの調子になった。

 

『それなら西住と同じく愛里寿ちゃんと婚約してもらいますから』

 

「えっ!?千代さんそれは!」

 

巧が抗議する間もなく千代が電話を切った。

 

巧は呆然と立ち尽くしてしまっていた。

 

西住家と島田家の戦車道名門流派同士の間に更に亀裂を与える事になってしまった。

 

その事に大きな後悔の念を持ってしまいどうにもできないようになってしまった。

 

巧はくよくよしても仕方がないと思い、気持ちを切り替えていこうと思った。

 

そして巧は大洗女子学園の戦車道に大きな影響を与えるのであった・・・

 

 




どうでしたか?

作中に搭乗した人物2名はオリジナルキャラです。

ちなみにまだ一日目の放課後が残っています・・・



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みんなでゲーム大会です『前編』!

今回の話は前後半に別れた話です!

大洗女子学園の生徒と大きく交流を深める話を予定してます。


巧は放課後になり、戦車道履修者を一つの場所に集合させていた。

 

それは体育館で普段なら戦車倉庫に集合させるのだが、今回は特別に体育館に集合させたのだ。

 

それはある意味、娯楽ともいえる為に集合させたのだ。

 

それは・・・

 

「今日はみんなでゲーム大会をしようと思って集まってもらいました」

 

全国高校戦車道大会が目前に迫っているはずなのに遊んでる暇がないはずなのに巧はなぜゲーム大会を開いたのか?

 

「やった~!」

 

一年生チームは歓喜の声を上げていたが何人かの疑問の声と反対の声が上がっていた。

 

「だが全国大会は近い。我々に遊んでいる暇はない」

 

「そうです!練習するべきです!」

 

それに巧ではなく別の者が反論の声を上げた。

 

「巧さんの言う事が聞けないのですか!?」

 

「西住さんの言う通りだ。お父さんの言う事に間違いはない」

 

「西住殿と同意見です!」

 

「そうだよ!巧さんの言う通りだよ!」

 

Ⅳ号の乗員の砲手以外の四人が声を荒げて言った。

 

普段温厚なみほが声を荒げている事に対して驚きを隠せない人間が何人かいた。

 

「だよね~巧ちゃんの言う通りだね」

 

「巧さんの言う通りだよ!みんな言う事聞かないと・・・ね?」

 

「そうだ!文句を言うな!」

 

四人に援護するように生徒会メンバーの三人も声を荒げて言った。

 

そこ声に怯える一年生と疑問の声を上げた人間たち。

 

巧は仲裁に入って止めた。

 

「やめなさい。怯えているじゃないか」

 

巧が仲裁に入ると声をあげなくなった。

 

「心配しなくてもこれは一種の練習法なんだ」

 

巧が解説を始めた。

 

「これは色々なゲームで判断力を鍛えることを目的にしているんだ。それに練習ばかりではなく適度な息抜きも必要と思うんだ。それに今回は運動系のゲームも予定しているから体力も付くから一石二鳥だよ」

 

巧の解説で何となくだが納得した。

 

「それでは解散して好きな事をしてね」

 

巧は皆に一言掛けて解散させた。

 

渋々、従う者、嬉しそうに従う者、それぞれだ。

 

巧に近寄る者が居た。

 

いや、それは計り知れぬ闇を心に抱えている少女たちが・・・

 

『巧さん(殿)(ちゃん)!』

 

「お父さん!」

 

それぞれの呼び方で巧を呼んだ。

 

巧は振り向いて少女たちと顔を合わせた。

 

「どうしたの?」

 

巧が振り向くと飢えた獣のような眼をした少女たちが立っていた。

 

「巧さんゲームしませんか?」

 

「いいよ。何するの?」

 

「賭けをしませんか?」

 

「賭け?」

 

巧がみほに聞き返した。

 

「私が勝ったら言う事を一つ言う事をきいてください」

 

「いいよ。僕が勝ったら僕の言う事をきいてもらうよ」

 

お互いの賭けの内容が成立し、戦いが始まる。

 

「それじゃあポーカーで」

 

みほはトランプゲームのポーカーを選択した。

 

「僕がカードをシャッフルさせてもらうよ」

 

新品のトランプの箱のセキュリティシールを切って新品のトランプを取り出す巧。

 

「ジョーカー二枚は抜かせてもらうよ」

 

トランプの束から二枚のジョーカーカードを抜くのをみほに見せてカードをシャッフルした。

 

高速にシャッフルしてショットガンシャッフルを行い、完璧にシャッフルをした。

 

「みほと僕に交互にカードを配るよ」

 

みほから巧へと交互に一枚ずつ計五枚になるまでカードを配った。

 

「(巧さんに不安な動きはない・・・ここで制服に隠したカードにすり替えて・・・)」

 

みほは巧や周りの誰にもバレない様に制服の袖に隠していたカードと配られたカードを一枚ずつゆっくりと入れ替えた。

 

「僕は二枚、入れ替えるよ」

 

「私はいいかな」

 

巧は手札を二枚に入れ替えた。

 

みほの手札はイカサマでフルハウスとなっていた。

 

「(これで合法的に巧さんと・・・)」

 

みほの心の中の闇が膨れ上がっていた。

 

「それではオープンしようか」

 

巧とみほの手札が同時にオープンされる。

 

みほはこの時点で勝利を確信していたが、それは大きく裏切られた。

 

「!?」

 

みほはフルハウスだったが、巧はキングのフォアカードだった。

 

「僕の勝ちだね」

 

巧はイカサマをしたわけではなかった。

 

この手札になったのは巧の単純な運だった。

 

運も実力のうちと言うのだ。

 

「命令は貸しにしておくよ」

 

巧は立ち上がり立ち去ろうとした。

 

「次は私です!」

 

巧の前に立ちはだかる優花里。

 

「どちらかが早く知恵の輪を解けるか勝負です!」

 

優花里は巧に知恵の輪を渡した。

 

「(巧殿には難しい知恵の輪を渡したので断然に解くスピードは私の方が上!)」

 

優花里も勝つためにイカサマ紛いの事をしたのだ。

 

「わかったよ」

 

巧は知恵の輪を持って解く用意をした。

 

「それではいきますよ!スタートです!」

 

優花里の掛け声で一斉に知恵の輪を解き始めた。

 

「(これくらい一分あれば十分です!)」

 

これも優花里が勝利を確信した。

 

だがそう簡単に成功しないのが世の流れだ。

 

「終わったよ」

 

綺麗に解かれた知恵の輪が巧の前に並べられていた。

 

がっくりと項垂れる優花里であった。

 

「次は誰かな?」

 

巧は次の対戦者を催促した。

 

「次は私だ」

 

麻子がチェス盤を持って巧の前に座った。

 

「次は麻子だね」

 

「お父さん、手加減はなしだ」

 

麻子は巧の正面に座り黒い駒を選択した。

 

それはまるで心の色と同じような真っ黒な駒だった。

 

「それでは始めよう」

 

巧の一言で始まる盤面上の戦いだった。

 

だが戦いは数分で終局を迎えた。

 

巧の勝利で。

 

「チェックメイトだ」

 

巧の駒は2つしかとられてないのに対して麻子はほぼ全滅していた。

 

「強いな麻子は」

 

巧は麻子の頭を撫でると巧の膝の上に座りまるで親子のようになっていた。

 

「次は私!」

 

沙織が見るに堪えかねて次の勝負を仕掛けてきた。

 

「オセロで勝負だよ!」

 

沙織がオセロ盤を床に置いて対戦を仕掛けてきた。

 

麻子は巧の膝でお昼寝を始めていた。

 

巧の周りの数人は嫉妬の目線を向けていたが、麻子は気にせず普通に寝ていた。

 

「それでは僕は白で」

 

「私は黒で」

 

二色の色に別れて戦いが始まったが、沙織は呆気なく白の駒に埋め尽くされ置く場所が無くなり、強制的に負けになった。

 

「大人げないですね僕」

 

巧は反省していた。

 

高校生とはいえ、子供相手にゲームで本気を出したことに少し大人げなさを覚えた。

 

「次は私です」

 

Ⅳ号砲手の五十鈴華が巧に勝負を仕掛けた。

 

「競技かるたでどうでしょうか?」

 

競技かるたの小倉百人一首の札百枚を巧の前に差し出した。

 

「一応、ある程度は覚えているから大丈夫だよ」

 

競技かるたにての対戦を引き受けた巧は麻子を抱えて畳の敷いてある場所に移動した。

 

麻子を畳の上に寝かせた。

 

競技かるたに使用する五十枚の札を選出させて混ぜ始めた。

 

そして二十五枚ずつ自分の陣地(自陣)の畳に、上段、中段、下段の3段に分けて並べた。

 

競技かるたは畳の上の格闘技と言われており、とてもアクティブなのだ。

 

華は制服の袖を捲り上げ、髪を後ろに束ねてポニーテールにして動きやすくした。

 

「十五分の暗記時間です」

 

競技かるたは十五分間の暗記時間が設けられ、その間に自陣・敵陣の50枚の位置を暗記する事が出来るのだ。

 

最後の二分間は素振りが許されているのだ。

 

巧と華は互いの陣地の札を暗記をした。

 

そして詠手に礼をして競技が始まる。

 

詠手は小山柚子だった。

 

柚子も多少は競技かるたの事を知っているので今回は詠手に回ったのだ。

 

そしてかるたは礼に始まって礼に終わるというかるた道の精神によって、定式化されている。

 

戦車道とかるた道にも共通点はあるのだ。

 

競技開始時に百人一首に選定されていない序歌を詠むのが競技かるたの始まりだ。

 

そして競技かるたの百人一首を詠んだ。

 

上の句を詠み始めた一瞬で華は札を一枚弾き飛ばした。

 

弾き飛ばしたのは正解の札で、あまりの速度に巧は呆気に取られていた。

 

「(流石、五十鈴殿・・・華道をやっているとは聞きましたが、競技かるたの腕前も一流なのですね!)」

 

関心に浸る優花里を裏目に巧も本気を出すことにしたようだ。

 

上着を脱いで袖を捲り上げて先程とは比べ物にならないような集中力を出した。

 

「本気でいこう。これも礼儀だ」

 

全力で来る相手には全力で答えるのが礼儀なのだ。

 

巧も本気を出して一騎当千に臨むのだ。

 

お互いに一歩引かずの互角の戦いで白熱した戦いをしていた。

 

そしてお互いの自陣に一枚だけが残った。

 

だが、詠み札は百首全てが用意されるのに対して、場にある札は半分の五十枚のため、詠まれた歌の札が自陣・敵陣どちらにも存在しない場合もある。

 

これを空札と言う。

 

空札をも合わせて残り三枚となり、お互いに神経を尖らせていた。

 

そして柚子の口が開いた。

 

瞬間、華の方が一瞬早く巧の自陣に手が出て巧が出遅れた。

 

だが華は大きく手を出したため緊張で固まった体が思いのほか動かず、体勢が崩れて畳に顔から落ちかけていた。

 

巧は札を取るのをやめて華を優しく受け止めた。

 

「危なかったね」

 

巧は華の手を取り、札の上に手を置いてあげた。

 

「君の勝ちだ。僕は完全に出遅れたよ。それよりも君の綺麗な顔に傷が付かなくてよかった」

 

まるで落し文句のような言葉で華はノックアウトした。

 

華は顔が真っ赤になり、気絶してしまった。

 

そもそもここは女子校で華は家の影響で男の人とあまり触れあったことがないのでこういうのには耐性がないのだ。

 

ちなみに巧のこういうのは無意識なので本人に自覚はない。

 

「ど、どうしたんだろ?」

 

巧は戸惑いながら気絶した華を抱きかかえていた。

 

華をそっと優しく畳の上に置いて脱ぎ捨てた上着をかけた。

 

そっと立ち上がる巧に嫉妬の目線が突き刺さる。

 

「(なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでみほの巧さんが盗られなきゃいけないの!一緒に居た時間は誰よりも長いはずなのに!あとはお姉ちゃんだけだと思ってたのに!)」

 

「(巧殿と五十鈴殿を見ているとなんだが胸の中がチクチクします・・・)」

 

みほと優花里の二人は嫉妬に心をかき乱していた。

 

寝ていた麻子もかるたの取る音で起きていて巧の事を見ていた。

 

「(むぅお父さん・・・今回だけだぞ。次やったらユルサナイカラ・・・)」

 

「(巧さんがトラレソウ・・・やっぱり雑誌通りの高アプローチが良いのかな?)」

 

沙織も麻子も嫉妬心をむき出しにしていたのだ。

 

「少し休憩したいから飲み物買いに行ってくるよ」

 

巧はそんなことを微塵も気づいておらず飲み物を買うために体育館を後にした。

 

自販機の前に行った巧は時間を確認しようとスマホを出した。

 

すると先程もあった非通知の不在着信があった。

 

巧は折り返して電話をかけた。

 

数コールもしないうちに電話に出た。

 

「何の用だい?」

 

『私の正体がわかるかな?』

 

さっきと同じの変声機を使用していて、声の主がわからないようになっていた。

 

「僕が黒森峰女学園の三年生の時に一年生として入学してきた黒森峰女学園戦車道の副隊長、伊吹彩だね?」

 

『正解です。流石隊長ですね』

 

変声機を解除していて声が戻っていた。

 

そう電話の主は巧が黒森峰女学園の三年生だった時に一年生だった少女。

 

そして一年生にして巧は彼女に自分の右腕として副隊長に任命したのだ。

 

「少し悩んだけど僕に敬語で話す人間でそんな質問をする人間は君くらいだ」

 

『それよりも巧さんに折り入ってお話があります』

 

電話越しに彩の真面目な態度が巧に伝わってきた。

 

『巧さんに社会人チームに入ってもらいたいと思い電話しました』

 

巧はその言葉を聞いて一息ついて答えた。

 

「そうしたいのはやまやまですが、僕は裏切ってしまったから・・・」

 

巧の声は細く力がなかった。

 

『大丈夫です!みんな隊長を待ってます!それに私は戦車道の社会人チームの副隊長と選手会長しています!手続きは任せてください!』

 

「そうか・・・橘・・・立夏は元気かい?」

 

『・・・橘先輩は巧さんに近づくために毎日努力をしてます』

 

巧は力が抜けたように地面に座り込んだ。

 

『巧さんは知ってると思いますが、実は近々に大学選抜との交流試合があります。見に来てください。それを見て社会人チームに入るかどうか決めてください』

 

「わかったよ。見に行かせてもらうよ」

 

『それではまた会いましょう』

 

巧は彩から電話を切って立ち上がった。

 

自販機でコーラを買って少し口に含んで飲み込んだ。

 

刺激的な炭酸が少し辛く感じた。




どうでしたか?

今作に登場するオリジナルキャラクターはヤンデレではありませんので。

そしてあんこうチーム全員が堕ちましたね。

あとアンケートの結果でサメさんチームは登場しない事になりましたので。

それではまた次回!

チャオ!


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みんなでゲーム大会です『後編』!

長らくお待たせしました!

私情によりしばらく更新を断ちましたが、これからいつも通りに戻していく予定ですので今後ともよろしくお願いいたします!


水分補給を終えた巧は体育館に戻った。

 

もう一度、自販機に行かないように買っておいたスポーツドリンクを少し飲みながら戻ってきた

 

体育館には戻ってくる前にはなかったバレーボールのネットが張られていた。

 

バレーボールが体育館の床にたたきつけられる鋭い音が鳴り響いていた。

 

明らかな実力の差で繰り広げられているバレーボールの光景があった。

 

八九式の乗員であるバレーボール部員対M3Leeの乗員の一年生たちがバレーボールをしているが、実力はもちろんバレーボール部員である八九式の乗員である4人の方が優勢であった。

 

4対6のハンデをもろともしないバレーボール部員の猛攻に一年生たちは逃げていた。

 

巧はこのままではけが人が出ると思い、スポーツドリンクを体育館の端に置いて急ぎ足でそれに乱入するように巧が一年生の澤梓に飛んできたスパイクを片手で受け止めた。

 

「これはスポーツマンシップにのっとらない行為だよ。澤さんけがはないですか?」

 

ペタッと女の子座りで座り込んでいる梓を心配で声をかけた。

 

「大丈夫です!」

 

バレーボール部員の4人が我に返り梓を含めた一年生6人に謝り始めた。

 

「ごめんなさい!久々のバレーに夢中になってしまって・・・」

 

キャプテンである二年生のバレーボール部員の中では低身長の体操服の少女、磯部典子が代表して謝った。

 

梓は大丈夫そうな素振りをしていたが巧は見抜いていた。

 

「左の足首を軽く捻挫しているね。動かない方が良い。ほら手を貸して」

 

「あ、ありがとうございます」

 

梓は巧の差し出した手を取った。

 

巧はそのまま手を引き寄せて梓を捻挫していない右の片足だけで立たせた。

 

そして梓の背中の方に手をまわして空いた方の腕で梓の足を持ちあげた。

 

「!?」

 

一般的にこれをお姫様抱っこと呼ぶ。

 

『きゃーっ!』

 

一年生の数名が歓喜の悲鳴を上げた。

 

それもそうだろう個性的なメンバーの中でごく一般的な女子高生が多い一年生チームだからこそ女の子のあこがれでもお姫様抱っこを目前にしているのだから。

 

梓はあまりにも突然な事に脳内がフリーズしており、ただ顔が赤くなっていくだけだった。

 

真っ赤な顔になった梓を抱えたまま体育館の端の方に連れて行き、パイプ椅子に梓を座らせた。

 

巧は梓の左足の体育館シューズを脱がして腫れ具合を確認した。

 

「腫れはそこまで酷くないけど悪化する可能性があるから固定して冷やした方が良い」

 

とりあえず、梓の靴下を脱がせた。

 

「誰かテーピングは持ってるかな?」

 

巧は周りに問いかけるとみほが近づいてきた。

 

「巧さんこれ」

 

みほの手にはテーピングがあり、巧はそれを受け取った。

 

「ありがとうみほちゃん」

 

巧はお礼を言っただけでそれを不服と思ったみほが不機嫌な顔で頭を巧に差し出した。

 

巧はそれを察して巧はみほの頭を軽く撫でるとみほは満足気な表情をした。

 

「えへへっ」

 

だが、それ以外のⅣ号の乗員の顔はかなり険しくなっていた。

 

巧はみほから貰ったテーピングで梓の捻挫した左足首を固定した。

 

「誰か保健室に行ってアイシング用の氷を取ってくれないかい?」

 

巧がまたもや周りに聞くと誰よりも早い速度で優花里が声を上げた。

 

「私が取ってきます!」

 

そう言うと優花里が普段よりも早い速度で走り去って行った。

 

それはまるで飼い主が投げたボールを全力で取りに行く犬のようだった。

 

そして数分が経過すると優花里が走って戻ってきた。

 

その速度は氷がまだ溶け始めていないのでかなり早い事が分かる。

 

「ど、どうぞ!」

 

息がかなり上がっていて過呼吸になっている優花里から巧はビニール袋に入った氷を受け取った。

 

「ありがとう優花里。飲みかけで悪いけどこれでも飲んで落ち着いて」

 

巧は先程飲んでいたスポーツドリンクを優花里に渡した。

 

「ありがとうございます!家宝にします!一生の宝にします!いっそのこと祭壇を作って崇めます!」

 

「優花里は面白い冗談を言うんだね」

 

巧は軽く笑った。

 

「・・・冗談じゃないですけどね

 

優花里が口からボソッと呟いた言葉は巧には届いてはいなかった。

 

「澤さん少し冷たいけど我慢してね?」

 

巧は優花里から貰った氷の入ったビニール袋を梓の捻挫した左足首の腫れている所に当てた。

 

「ひゃっ!?」

 

あまりの冷たさに梓は可愛い悲鳴を上げた。

 

「これで良し」

 

一通りの応急処置を終えて巧がスッと立ち上がった。

 

そして一息置いて八九式の乗員の4人に近づいた。

 

4人は怒られる覚悟をしていた。

 

巧も怒るかのような真面目な表情をしていた。

 

そして巧が重い口を開いた。

 

「失敗をする事は悪くないと思うんだ僕は」

 

「えっ・・・」

 

巧の思いもよらない一言に4人は戸惑いを隠せなかった。

 

「どんな人間でも褒められたり怒られたりして成長するんだと思うんだ。現にみほちゃんだって小さい頃はよく悪戯をする子でしほさん、みほちゃんのお母さんによく怒られていたんだよ」

 

「た、巧さん昔の話は・・・」

 

みほは恥ずかしくて顔を赤らめた。

 

「西住隊長の意外な一面だな・・・」

 

「先輩って意外とお茶目だったんですね~」

 

「みぽりんが意外・・・巧さんとは小さい頃から一緒なんだな。なんかずるい・・・

 

と色々な十人十色な反応があった。

 

意外と思う者、面白がる者、そして嫉妬する者。

 

各自それぞれの思いがあるのだ。

 

巧は続けて口をひらいた。

 

「だから今回の事は君たちが成長するいいきっかけになってくれたと僕は思うんだ。確かに僕も学生時代は戦車道に夢中になると周りが見えなくなっていたけど、それに気づかせてくれる大事な仲間が居たんだ。だから僕も成長を繰り返して大人になったんだ」

 

納得のいく言葉に4人は頷き納得していた。

 

戦車道には人生に全てが詰まっている・・・

 

巧がよく言う言葉だ。

 

戦車道は乙女の嗜みとしても礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成するとして戦車道を通して成長を促すのが自分の役目だと巧は認識している。

 

「とりあえず僕が言えることそれくらいだから」

 

自分の言った事にむず痒いのか軽く頬を掻いた。

 

照れた顔を見られたくなくて巧は顔を下に向けていた。

 

「(巧さんの照れた顔、可愛いなぁ。独り占めしたいな)」

 

「(お父さんの照れた顔・・・)

 

「(あんな顔を私に向けてくれたら・・・やだも~!)」

 

「(巧殿のあの顔は・・・飯盒丸々一個のご飯が食べきれてしまいます!)」

 

巧の普段は見せない顔に興奮気味の4人。

 

それに便乗するかのように生徒会の3人も巧の顔に見とれていた。

 

そんな事に気づいてない巧は下げていた顔を上げて4人の顔に再び顔を向けた。

 

巧は4人の顔に目を向けると驚いた光景があった。

 

涙を目に浮かべて今にも泣きそうな表情をしている4人が居たのだ。

 

「えっと・・・僕、何かいけない事でも言ったかな?」

 

素直な巧は直球に4人に聞いた。

 

「ち、違うんです・・・怒られると思ってて・・・私達にこんなに優しく言葉をかけてくれる大人なんていなくて・・・」

 

「(いつの時代でも子供の気持ちになって考える大人は少ないのだろね。僕もそうだったから分かるよ・・・)」

 

巧は深々とそう思いながら理解した。

 

「何かあれば僕に頼ってくれたらいいから」

 

そう言い残して巧は去ろうした。

 

巧は自分自身でキザなセリフ言ったと思い今すぐにでもここから立ち去りたいと思っていたのだ。

 

「み、みんな適当にもう終わっていいから!」

 

 

そう言い残して急ぎ足で一旦、体育館を後にした。

 

~★~

 

~みほsideIn~

 

私は深く考えて出した結論を巧さんが居ないときに実行するべきだと考えていた。

 

それは先日の練習試合の後にグロリアーナの隊長のダージリンさんが言っていた事。

 

この先、私一人では勝てない敵に遭遇するかもしれない。

 

お姉ちゃんやお母さんのような相手には絶対と言ってもいいほど勝てないだろう。

 

でもこの学校のみんなとなら勝てるかもしれない。

 

ホントは嫌なんだけど巧さんを他に盗られるのはもっと嫌!

 

だから1人でも多くの仲間が必要になる。

 

沙織さん、華さん、優花里さん、麻子さんは多分こっち側(ヤンデレ)

 

生徒会の皆さんも同じ。

 

後は澤さんは傾きかけていると思う。

 

それとBチームの磯部さんを含めた4人も可能性はある。

 

すぐにでも仲間に引き込まないと・・・

 

残る一年生は澤さんに任せよう。

 

まずは澤さんからかな?

 

私はそう思いながら座っている澤さんにさりげなく近づいた。

 

「澤さんちょと良いかな?」

 

「どうしました?西住先輩」

 

こちらを振り向く澤さん。

 

「澤さんに聞くけど巧さんの事そう思う?」

 

私のその言葉で少し困惑した表情をした。

 

「・・・いい教官だと思います」

 

「そういうのじゃなくて異性的にどう思います?」

 

私の一言で固まる澤さん。

 

少し考えるような素振りをして間を開けて答えた。

 

「異性としては結婚しても良いくらいの人です」

 

「そうですか」

 

私の考え通り澤さんもこっち側(ヤンデレ)に近い人間だと認識できた。

 

だけどもう一押し確実にこっち側(ヤンデレ)に堕ちるようにしないと。

 

「実は先日戦った聖グロリアーナ女学院には澤さんと同じ学年の優秀な選手が居ます。巧さんはそちらの方に期待しているようです」

 

澤さんの額から冷や汗が出始めている

 

「そ、それが何の関係があるんですか?」

 

「このままでは澤さんに巧さんは見向きもしないようになるんですよ?」

 

私は確信的な一撃に近い言葉で澤さんの心に響く言葉をぶつけた。

 

澤さんは胸を押さえて俯いた。

 

そして幾分かの間があり、澤さんが顔を上げた。

 

「・・・私はあの人の視線独占したい!」

 

澤さんの目には純粋だったは光はなくなって、ただどす黒く底の見えない欲望のような真っ黒な色になっていた。

 

「ライバルは多いです。一人では勝てない敵もいます。だから手を貸してくれませんか?」

 

私は澤さんの前に手を差し出した。

 

「西住先輩・・・一時に共闘ですよ?」

 

「構いません。それよりも共通の敵を倒すために仲間を増やす必要があります」

 

「それなら一年生は私に任せてください」

 

「私もこちらで動きます」

 

これで現大洗女子学園の戦車道履修者の私を含めて約半分ぐらいがこっち側(ヤンデレ)に堕ちました。

 

私も各校にある独自の情報網に似た情報網を作らないと。

 

やっぱり情報網を握るにはその手に強い人間を雇った方がいいよね。

 

私はそう思いながら新たな計画を練ることにした。

 

~みほsideOut~

 

~★~

 

巧は体育館の外に出てやることもなく放浪していた。

 

「お父さん一緒に帰ろう」

 

麻子が制服姿で巧に追いつこうと走ってきたのだ。

 

「いいよ」

 

麻子は巧の右手と繋ぎ帰路につくのであった。

 

そしてこのまま1日目が終わればよかったのだが、まだこの先に地獄が待っているのであった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 




どうでしたか?

今回はブラックみぽりんが登場しました!

予定ですが次回で1日目がやっと終了します!

それではまた次回!

チャオ!


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お泊り会ってなんだがドキドキしますね!

今回で1日目が終了します!


巧と麻子が帰路についていた。

 

巧は全然知らない道なので麻子にただついて行くだけであった。

 

麻子は巧の手を引いて、会話すらないが機嫌がとてもよかった。

 

普段は低血圧で眠そうな麻子だが巧と一緒だと不思議と治っているように感じる。

 

それどころか普段はあまり感情を出さない麻子だが、嬉しそうな顔をしている。

 

普段はあまりこういう顔をしないので不思議に感じる人間も少なくない。

 

そうこうしているうちに家に着いた。

 

麻子が手際よくカギを開けて急ぐかのように巧の腕を引いて家の中に連れ込んだ。

 

そして巧を座らせてその上に麻子が座った。

 

満足気な麻子に巧は心が落ち着いた。

 

ここ最近で色々な出来事があり、巧自身にも負担がかかっていたのでこういう事は心が安らぐのだろう。

 

そんな安心する時間も長くは続かなかった。

 

『ピンポーン』

 

インターホンが鳴り響いた。

 

「麻子、お客さんだよ?」

 

「ん、私が行く」

 

麻子が巧の上から立ち上がり玄関の方に向かった。

 

巧はその間に寝っ転がり体を休めていた。

 

麻子の玄関でのやり取りは全く耳に入らないくらいにゆっくりしていた。

 

「くつろぎ過ぎですよ。巧さん」

 

思いもよらない声に巧は飛び上がった。

 

声の主を確認しようと声のした方に目を向けると先程まで一緒に居たⅣ号の乗員全員が居た。

 

「今日はみんなとお泊り会なんだ。お父さん」

 

麻子から説明を受けてやっと理解した巧であった。

 

「それなら買い物に行かなといけないんじゃないか?」

 

巧は全員分の食事を用意するには食材が少なすぎるので買い出しを提案した。

 

「それでいこう」

 

「いいですね」

 

「私も賛成であります!」

 

「私もいいよ!」

 

「私もいいですよ」

 

全員の同意を得たので買い物に出かけることにした巧であったが・・・

 

「巧さん私たちもついて行きますよ」

 

何故か全員で行く事になった。

 

~★~

 

女子高生5人と来年アラサーの男が並んで歩いている異様な光景がそこにあった。

 

徒歩で数分のところにあるスーパーに着いた。

 

学園艦の上とはいえ、かなりの頻度で商品の搬入をしているので商品が少ない事はないのだ。

 

買い物かごをカートの上にのせて順路通りに商品を物色することにした。

 

「みんな今日は何が食べたい?」

 

巧は買う物を絞るために今夜のメニューをどうするかをみんなに問いかけた。

 

「私は何でもいいです」

 

「西住殿と同意見です」

 

「私も何でもかまいません」

 

「私も何でもいいぞ」

 

沙織以外は何でもいいと答えたがそれが巧としては一番困るのだ。

 

何も答えてない沙織に巧は聞いた。

 

「沙織ちゃんはどうする?」

 

「和食とかどうですか?」

 

「和食か・・・いいね。栄養価も考えるとてんぷらと煮物系、焼き魚もいいね」

 

最もまともな意見で巧は助かったと思った。

 

「(今の会話、夫婦みたいだった!やっぱり巧さんと結婚したら絶対幸せになる!でもみぽりん言った通りで大洗だけじゃなく、ほかにも巧さんを狙うワルイ女が居るから・・・)」

 

巧のそれに気づいていないので買い物を続けていた。

 

「やっぱり彩を考えて野菜を中心にしたてんぷらと煮物、焼き魚とみそ汁があれば和食の一汁三菜が組み立てれる」

 

真剣に考えた巧は今夜のメニューを完璧に組み立てたのだ。

 

巧もひとり暮らしが長いので大抵の家事は普通にそつなくこなせるのだ。

 

それに戦車道も体作りが大切なので食事から改善するのも重要だ。

 

「やっぱりここは大洗の特産品のサツマイモとか使って作るべきだね」

 

巧は色々な事を考慮して買い物を再開した。

 

やはり海産物と一部の野菜は都心部のスーパーに比べるとかなり安いので巧は驚いていた。

 

「お父さん」

 

夢中で買い物している巧に麻子が声をかけた。

 

「どうしたの?」

 

「お菓子買ってもいいか?」

 

「お菓子か・・・」

 

ご飯も近いので巧は少し迷った。

 

自分が親ならどうするだろうか?と考えていた。

 

でも麻子は親を亡くしたショックとこれまで親に甘えた事が少ない事を考慮した。

 

「いいよ。でも今日は食べたらだめだよ。買い溜めするならいっぱいお菓子を買ってもいいよ」

 

巧の甘さと言うよりも優しさが前面に出てしまった。

 

「ありがとうお父さん」

 

軽い小走りでお菓子コーナーに走っていく麻子。

 

「(僕に子供が居たらあんな感じなのかな?)」

 

巧は少し考えた。

 

「(でもそれなら少しは厳しく叱らないといけないよね。でも今はいいかな)」

 

巧は考えたが答えを出さずに考えるのをやめた。

 

一通りの買う物をかごに入れた。

 

買い忘れがない事をしっかり確認してレジで会計を済ませた。

 

そしてスーパーを後にした。

 

買い物の量は少しは多いが持てないほどでも無いので巧は両手に抱えて問題なく帰路に着いた。

 

~★~

 

帰宅した巧は早速、調理を開始した。

 

基本は巧だが、沙織を中心に巧のサポートをする事にした。

 

「下ごしらえは任せて!」

 

「お願いするよ」

 

沙織が野菜を切ったり衣をつけたりと巧を的確にサポートする辺りは女子度が高い。

 

大和撫子の如く、男の一歩後ろをついて歩く感じである。

 

手際のいい作業とそれを的確にサポートする調理で思った以上に調理は早く済んだ。

 

机に並べられる大量の料理。

 

巧は少し作り過ぎたと思った。

 

「それでは頂こう」

 

全員は手を合わせて

 

『いただきます!』

 

と合掌した。

 

「ん~!美味しい!」

 

そう言って絶賛する沙織。

 

それに続くように皆が絶賛の声を出していた。

 

「確かにおいしいですね」

 

「おいしいであります!」

 

巧は少し照れくさそうな顔をする。

 

食事がそのまま続けられて大量にあった料理は主に華が食べて完食された。

 

「巧さん洗い物は任せてください!その間にお風呂に入ってください!」

 

「ありがとう沙織ちゃん。甘えさせてもらうよ」

 

巧がそう言うとなぜかみんなが小さくガッツポーズをしたことを巧は不思議に思った。

 

「それなら先に入らせてもらうよ」

 

巧はそう言って脱衣所に向かったのだ。

 

~★~

 

~みほsideIn~

 

予定通りに巧さんがお風呂に入った。

 

「みんな。分かってるよね?」

 

「もちろんであります!」

 

「準備は万全だよ!」

 

「私もいけます!」

 

「私も大丈夫だ。西住さん」

 

これは私が計画した合法的に巧さんの裸を見る為に考え出された作戦・・・

 

『おっちょこちょい作戦!』

 

これは巧さんのTシャツをうっかり洗濯機に入れて洗ってしまって、着る服がなく出て来て着るまでの数分間でバレない様に激写する作戦。

 

本当は隠しカメラがあればいいけど・・・

 

そこまでまだ用意できてなかった。

 

「それではみなさん。これより『おっちょこちょい作戦』を開始します!」

 

私の掛け声でみんなが動き始めた。

 

これより作戦を開始します!

 

~みほsideOut~

 

~★~

 

巧はゆっくりと湯船に浸かって体の疲れを癒していた。

 

お風呂は心の洗濯と誰か言っていたが、そうなのだろう。

 

巧もお風呂では皆平等に訪れる幸福を味わっていた。

 

「現役復帰か・・・」

 

巧は社会人チームへの現役復帰について考えていた。

 

「日本代表としてもう一度、戦うかこのまま選手ではなく監督になるか」

 

苦渋の決断とはこの事だろうか。

 

巧にとってもっとも難しく重い決断になるだろう。

 

「どうするかな・・・」

 

決断の時までまだしばらくあるので一旦、考えるのをやめた巧であった。

 

『巧さ~ん』

 

みほの声が脱衣所から聞こえた。

 

「どうしたの?みほちゃん」

 

『ごめんなさい。巧さんのTシャツ洗濯しちゃった・・・」

 

「それなら気にしなくていいよ。新しい物を出たら探して着るよ」

 

『ありがとう巧さん(作戦通り!)』

 

みほの策略にはまっている事に気づいてない巧であった。

 

「(それならもうそろそろ出ようかな)」

 

体を伸ばして湯船から出る巧。

 

脱衣所に誰も居ない事を確認して脱衣所に戻る。

 

下着を履いてシャツはないのでズボンだけ履いて部屋に戻ろうとした。

 

首にバスタオルをかけて風呂上りとすぐに分かるような格好であった。

 

部屋に戻ろうと扉を開けて戻った。

 

「お風呂から上がったよ」

 

巧がそう声をかけると崇めるように巧を見る5人。

 

そう巧の体はシックスパックの腹筋とそこまで主張しない胸筋、そして服を着ているとわからない腕の筋肉は、女性の理想図そのものだろう。

 

スタスタ歩いて自分の荷物をまとめてあるところに行って変えのシャツを探し始めた。

 

その間も視線が突き刺さって巧は違和感があふれていた。

 

巧はできる限り気にしないようにして服を着た。

 

「みんなもお風呂に入りなよ」

 

巧がそう言うとみんなは急ぎ足で順番にお風呂に行った。

 

巧は寝っ転がったが疲労の為かそこから意識がなかった。

 

 

 




どうでしたか?

少し急ぎ足になったと思いますが、無事?に1日目が終了しました!

次回から2日目に入ります!

それではまた次回!

チャオ!


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緊急事態です!

お久しぶりです。

神崎識です。

私情ながら多忙で更新が大幅に遅れましたことを申し訳なく思います。

久しぶりの更新で内容は短くなっておりますが、今後とも戻していきますのでよろしくお願いいたします。


巧は目を覚ました。

 

軽い疲労が残っており、少し体を重く感じたが、そこまでだったので巧は体を起こした。

 

だが、体を起こして周りを見渡すと異常な光景が広がっていた。

 

麻子以外の4人が気絶したように倒れていたのだ。

 

巧はそこに麻子の姿がなかったから巧は少し焦っていた。

 

立ち上がろうとした瞬間に下半身に重みを感じたので目を向けると麻子が引っ付いているのを確認できたので巧は安心した。

 

だが、安心したのもつかの間。

 

巧は自分がパンツ一枚で居る事にまた驚いた。

 

少し脱げかけのパンツを上げて、現在時刻を確認した。

 

午前5時を過ぎたくらいで、引っ付いている麻子を優しく離して、倒れている4人が風邪をひかないようにタオルケットをかけた。

 

短パンとトレーニングウェアを着て巧はロードワークに出かける事にした。

 

~★~

 

太陽は既に昇り始めており、朝日を体に受けながら軽い柔軟体操をして巧は走り始めた。

 

徐々にペースを上げていき、学園艦の外側の道路を一周する事にした。

 

大洗女子学園の学園艦は全長7600mなので一周は約15㎞である。

 

巧は自分のペースを意識し軽いランニング程度で走り続けた。

 

約半分のところまで走った巧は休憩のために一度立ち止まって近くの公園で休憩することにした。

 

疲労が溜まらないように軽くストレッチをして公園の水飲み場で水分補給をした。

 

すると巧に近づく一人の少女がいた。

 

「おはようございます!巧さん!」

 

そこには大洗女子学園一年生の澤梓がいた。

 

「おはよう。足の具合はどう?」

 

巧は昨日の事を気にしていていた。

 

「大丈夫です。そんなに痛くないです」

 

「でも無理は禁物だよ。痛くなくても、また痛くなるかもしないから」

 

心配そうにしている巧はベンチに座って一息ついた。

 

そして梓をベンチの横に座るように手招きした。

 

「隣に座って僕の話に付き合ってくれるかな?」

 

「私でよければ!」

 

梓は巧の隣に座ってありえないほど密着して座った。

 

だけど、巧は少し嫌そうな顔をして離れた。

 

「汗臭いからあまり近寄らない方がいいよ?」

 

「全然平気です」

 

梓はまた同じように密着して巧の隣に座った。

 

「戦車道をやっていて楽しい?」

 

「楽しいですよ」

 

「それならよかった。何事も楽しむ気持ちが大事だから」

 

巧が一息つこうとした瞬間、早朝にもかかわらず巧の携帯が鳴った。

 

「少し席を外すよ」

 

巧はベンチから立ち上がり、着信画面を確認した。

 

画面には『戦車道連盟東北支部』と映っていた。

 

「もしもし、戦車道連盟本部所属の高校戦車道強化員の伊藤巧です」

 

巧の顔は完全に仕事の顔をしていた。

 

『こちら戦車道連盟東北支部の高校戦車道専門部の者です』

 

「朝早くからどうしました?」

 

『実はプラウダ高校と継続高校が衝突する危険性があり、この時期に大事を起こさせてしまうと全国高校戦車道大会の開催に悪影響が生じる可能性があります』

 

「もっともだね。それでどうして僕に電話を?」

 

『玉木副理事長が適任者だと』

 

巧は大きく一息を吐いてこう告げた。

 

「わかった。それでは東北に向かう。迎えを頼むよ」

 

巧は電話を切って携帯を上着のポケットに入れた。

 

巧は梓の方を振り向いたら、梓が目の前に居たのだ。

 

巧は驚いて後ろにたじろいでしまった。

 

「巧さん?私より仕事を優先ですか?」

 

梓の目には光がなく、巧はその目で見られていると動けずに蛇に睨まれた蛙のようになっていた。

 

「ぼ、僕にも立場がある。仕事をしないと立場が危うくなり、君に会えなくなる」

 

苦し紛れの言い訳に梓は真に受けた。

 

「そうですか、それなら仕方ありませんね・・・でも浮気したらわかってますよね?」

 

「も、もちろん」

 

「ならいいです」

 

「それじゃあ僕は行くよ」

 

巧は今すぐにでもここから立ち去りたいと思う一心で走り去って行った。

 

~★~

 

それから巧は麻子を含めたⅣ号乗員5名が寝ている家に走って戻った。

 

巧の本能がそうさせたのかもしれないが、巧は直感的に次の行動に移っていた。

 

それは5人にバレずにここを立ち去る事だった。

 

必然的にまだ5人は夢の世界でいたおかげで巧は難なく用意が出来た。

 

ただ、巧の良心が働いたのかせめて書置きと麻子の幻想の父親でも父親なりの事をするためにお小遣いとして幾らかは置いていくことにした。

 

そして何も告げずにここを立ち去ることにした。

 

一人娘を置いて仕事に行く父親の気持ちが痛く痛感したのだ。

 

巧はそう思いながらも家をでなければならない。

 

それは巧の責任感の強さがあるからこそだ。

 

そして巧は学園艦の連絡船の乗り場で東北支部の迎えを待った。

 

迎えの船はすぐに乗り込んでプラウダ高校の学園艦に向かうのであった・・・。

 

 




どうでしたか?

一旦、大洗編は急遽、切らせてもらいます。

大洗訪問の話が長すぎると言う声もありましたので次回からはプラウダ高校と継続高校との話を予定しています。


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臨戦態勢です!

連絡船に揺られて2時間少々経っただろう。

 

空気も少しひんやりしてきて温度も低下してきた。

 

もう既に東北の近くに来ていると肌で実感出来ているのだ。

 

巧本人には少し急な温度差の変化で少し身震いしていたが、慣れるだろうと思いながら東北支部がある青森県に近づいていた。

 

大洗女子学園の学園から出発してから巧のスマホが鳴りやまない状態で、巧は耐えかねて電話に出る事にした。

 

「もしもし、麻子?」

 

『お父さん!?どこに居るんだ!?』

 

麻子の必死そうな声に巧は罪悪感があった。

 

「麻子、お父さんは仕事でしばらく帰れないんだ」

 

『・・・』

 

「お父さんも寂しいけど、また近々に会えるからその時は家族二人で出かけようか」

 

『・・・わかった。家族二人で出かけよう』

 

「そ、そうだね。お父さんは仕事だから電話切るよ(『家族二人』と言う言葉だけ強調して言ったような気がする・・・)」

 

『ん、わかった』

 

電話を切った巧は一息入れて立ち上がり、海に目をやっていた。

 

海鳥は低空飛行しており、船の周りを飛び回っていた。

 

「もうすぐかな・・・」

 

青森港が見え始めていた。

 

そこには二つの学園艦があった。

 

1つは去年、絶対王者だった黒森峰女学園を破ったプラウダ高校と、もう一つは秘めたる実力を継続高校の二隻の学園艦が停泊していた。

 

普通に学園艦同士の接触ならこんなには騒がないが、プラウダ高校と継続高校は昔から仲が悪く、過去に全国高校戦車道大会前日に騒ぎを起こしてその年の全国高校戦車道大会は二校とも出場停止処分が下ったのだ。

 

それ以降、戦車道連盟は二校の接触を必要以上に警戒しているのだ。

 

東北支部も今回は去年の優勝校であるプラウダ高校が継続高校に争いを起こした場合の被害は計り知れないので、必要以上の警戒をしていたが、いざこういう事になってしまったら阻止しようにも方法がわからないので適任者としての伊藤巧の派遣を求めたのだ。

 

連絡船は港に到着して巧は船から降りた。

 

戦車道連盟東北支部の役員が数人異様な雰囲気を出して待っていた。

 

「お疲れ様です」

 

「状況は?」

 

「継続高校の隊長とプラウダ高校の隊長がプラウダ高校にて接触したという情報が入ってます」

 

「それは急がないとね。でも大勢で行くと騒ぎになるから僕一人で行く。いいね?」

 

『はい!』

 

巧の指示で東北支部の人間が動き始めた。

 

「移動にはこれをと副理事長から」

 

「ありがとう。遠慮なく使わせてもらうよ」

 

東北支部の人間が用意したバイクにまたがり、エンジンを始動させてプラウダ高校に向けて出発した。

 

プラウダ高校の学園艦は広く、徒歩ではプラウダ高校には容易にたどり着かない。

 

プラウダ高校の敷地も広いため普段はヘリかプラウダ高校の生徒の乗り物に乗せてもらい移動する事にしているが、今回は異例な事で東北支部の人間が巧の為に移動手段として小回りの利くバイクを用意したのだ。

 

古き良きロシアに似た街並みを颯爽とバイクで街を抜けて行き、プラウダ高校に近づいていた。

 

バイクの速度も上げて颯爽とプラウダ高校の校門前に着いた。

 

エンジンを停止させてバイクから降りた巧はプラウダ高校の校内に入って行った。

 

会談をするならプラウダ高校の応接室しかないと巧はわかっていたのでプラウダ高校の校舎内に入って行った。

 

プラウダ高校の校舎内は高校とは思えないほど豪華な廊下を通過していき、プラウダ高校の応接室に到着した。

 

これまでプラウダ高校の生徒は誰一人もすれ違わない事を考えると、どれほどの緊張感がこの学校内に漂っているかはよくわかる。

 

巧はどれほどの事態かをよく理解して、応接室のドアを勢いよく開けた。

 

「失礼するよ」

 

継続高校戦車道の隊長のミカと、プラウダ高校の副隊長のブリザードのノンナ。

 

「タクーシャ!」

 

そして、その声と共に真っ先に誰よりも早く巧のところに駆け寄ってくる小さな少女こそ絶対王者だった黒森峰女学園を破り全国優勝したプラウダ高校の隊長、地吹雪のカチューシャだ。

 

「急にごめんね。でも君たちが継続高校と揉めていると聞いてね」

 

「揉めている?違うわ!タクーシャ聞いて、あの盗人共がプラウダのちっちゃいかべーたんを盗んだのよ!」

 

事情が読めてきた巧は話の中に入って行く事にした。

 

「それは本当かい?ミカちゃん」

 

「そんなことは今は重要じゃない。今は君と私の再開を祝いたいと思うんだ」

 

ミカは巧に近づいて必要以上に体を密着して巧の首に手をまわして顔を近づけた。

 

「同志巧から離れてください」

 

ノンナがブリザードの異名如く冷たい目でミカを睨みつけてミカの頭部にマカロフを突き付けた。

 

ノンナは既にマカロフのトリガーに指をかけており、セイフティーロックを既に解除済みでいつでも発砲できるようになっていた。

 

「ノンナ、さっさとこの目障りな女を殺してちょうだい。タクーシャに腐臭が付くわ」

 

「ち、ちょっと待って!」

 

巧が仲裁に入って二人を止めると同時にミカを突き放すように引きはがした。

 

「ノンナ君、マカロフを降ろしなさい。危ないから」

 

「わかりました」

 

「それと僕においしいロシアンティーをいれてくれるかな?」

 

「わかりました。少し待っていてください」

 

ノンナは応接室から退室していき、巧は残った二校の隊長を座るように促した。

 

「2人とも座って」

 

2人は素直に巧の言う事を聞いて対面するように座った。

 

巧はその2人の間の真ん中に座った。

 

「さてと、KV-1についてだけど今回は大会開催間近だから僕からプラウダ高校の方にKV-1をプレゼントしよう」

 

「え!?本当タクーシャ!」

 

カチューシャは巧の提案に嬉しくて子供のようにはしゃぎ始めた。

 

「少し待ってくれないかな?」

 

ミカが話に割って入って止めた。

 

「KV-1を盗んだことを認めるよ。だからプラウダ高校にKV-1を返して、巧のKV-1を私たちがもらうよ」

 

ミカのとんでもない発言に巧は度肝を抜かれた。

 

「やっぱり!ちっちゃいかーべーたんを盗んだのあんた達だったじゃない!」

 

巧はカチューシャを手で制した。

 

「ミカちゃん盗みは犯罪だよ。今回は特別に何事もなかったことにするけど、次はないからね。カチューシャ君も僕がKV-1をプレゼントする事で僕に免じて許してくれるかな?」

 

「別にいいわよ」

 

「ありがとう」

 

騒動を何とか何事もなく終わらせる事に成功して巧はやっと一息ついた。

 

「お待たせしました。同志巧」

 

ノンナが真っ赤なロシアンティーと真っ赤なジャムが巧の前に用意された。

 

「すまない。それでは頂くよ」

 

巧はジャムを舐めてロシアンティーを口に入れた。

 

「(な、なんだ!この鉄さびみたいな味は!)」

 

巧は思わずロシアンティーを吐き出してしまった。

 

いつものロシアンティーの味ではなく、鉄さびのような味に巧は思わず吐き出してしまったのだ。

 

「ごめんノンナ君。いれなおしてくれるかな?」

 

「もちろん。いいですよ」

 

ノンナが巧の使っていたティーカップを取る際に巧はあることに引っかかった。

 

ノンナの指に真っ赤血が滲んだ包帯が巻かれていたのだ。

 

巧はその事に懸念を抱いたが、ノンナに聞かなかった。

 

「・・・その行動に意味はないと思うけどね

 

ミカがボソッと呟いた言葉は巧とカチューシャには聞こえていない。

 

「私はこれで帰らせてもらうよ。巧とはまた風のめぐりあわせで会えると思うからね」

 

ミカは立ち上がり、いつも通りの少し理解しにくい言葉でさよならの言葉を告げた。

 

ミカは巧に近づいて耳元でこう呟いた。

 

今度会う時は邪魔者が居ないときに二人でゆっくりと楽しい事を・・・ね

 

巧はミカのその言葉にビクッと身震いした。

 

「それじゃあね」

 

ミカは何食わぬ顔で応接室から立ち去って行った。

 

「そ、それじゃあ僕もお暇するよ」

 

「もう少しいいじゃない!」

 

「組み合わせ抽選会の用意があるから。ごめんね」

 

巧はホントはない仕事をでっち上げてさっさと帰る事にした。

 

巧は立ち上がり応接室から出ようとした。

 

入り口でノンナとすれ違った。

 

「せっかくロシアンティーをいれなおしてくれたけど仕事があるから帰れせてもらうよ」

 

巧はそう言い残して逃げるようにプラウダ高校を後にした。

 

~★~

 

巧は急ぎ足で校門まで行き、バイクのエンジンを始動させて逃げるかのように急いで走らせた。

 

巧はふとあることを思い出した。

 

そういえば千代に誤解されたままの事を思い出した。

 

巧は新たな予定として、詫びの品として千代が好きなワインを購入するために、美味しいワインを販売しているアンツィオ高校に立ち寄ることにした。

 




どうでしたか?

次回はアンツィオ高校です!


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幼馴染の為にです!

完全に息抜き回です(白目)

短編かつ本編の裏話に近いです。

アンツィオ高校に行く前の前哨戦みたいなものですね


この日、アンツィオ高校の生徒であるカルパッチョことひなは悩んでいた。

 

カルパッチョは恋しているのだ。

 

そう伊藤巧に・・・

 

カルパッチョはどうすれば彼が振り向いてくれるかをかなり思案していた。

 

でも、答えがなかなか出なかった。

 

そして彼女は一人では考えるのは無理だと思い、大洗女子学園に在学している鈴木貴子ことカエサル、たかちゃんに相談する事にした。

 

「もしもし、たかちゃん?少しいいかな?」

 

『どうしたの?ひなちゃん」

 

「実はね。私、恋してるの」

 

『えっ・・・』

 

幼馴染の思いがけない告白にカエサルは言葉を失った。

 

「あの人の事を思うとドキドキして心が鳴りやまないの。でもあの人は遠い存在で私の思いに気づいてくれないの。でも私は彼の事を思い続けているから絶対に気づいてくれるよね?でも私以外にも彼の事、好きな子はいっぱい居るんだ。でも関係ないよね?もし彼が私以外の誰かと付き合ったらその子を殺すから。だけど絶対にそんなことはならないけどね。彼は絶対に私に振り向いてくれるからね。それに・・・」

 

カルパッチョの口から永遠と言葉が流れていた。

 

『ちょっと待って!ひなちゃん!』

 

あまりにも異常なカルパッチョの言動にカエサルは声を荒げて止めた。

 

「どうしたのたかちゃん?そんな大声出して」

 

『その、えっと。ひ、ひなちゃんの好きな人ってどんな人?」

 

「たかちゃんになら教えてもいいかな」

 

カエサルはカルパッチョの話を逸らすことに成功して一安心した。

 

「その人は私より年上でとても仕事に真面目で優しんだ。戦車道連盟の強化員をしていて生徒の悩みに真剣に付き合ってくれる人なんだ」

 

カエサルはその人物像に少し引っかかる者がいた。

 

それはごく最近にあった事のある人物だった。

 

『あのさ。ひなちゃんの好きな人の名前は?』

 

「伊藤巧さんだけど」

 

カエサルは度肝う抜かれていた。

 

最近、同じ戦車道をしているメンバーが伊藤巧といちゃついていた事があったのだ。

 

それにカエサルは伊藤巧の事をあまりよくは思っておらず、女たらしとばかり思っているのだ。

 

それが幼馴染に毒牙を向いた事に少し怒りを覚えていた。

 

『ひなちゃん。絶対そんな男良くないよ』

 

「たかちゃんでもそんなこと言うと怒るよ?」

 

カルパッチョはカエサルの一言で完全に激怒していた。

 

「そうだ!たかちゃんも巧さんの良さに気づかせてあげる」

 

『私は別に!」

 

「それじゃあね。たかちゃん」

 

カルパッチョはカエサルの声も聞かずに電話を切った。

 

「ふふっ別にたかちゃんなら一緒に巧さんと居てもいいかな?」

 

カルパッチョはカエサルに巧に好意を抱かせるため(洗脳)の準備を開始した。

 

彼女(カエサル)が堕ちる日は近いはずだ・・・

 

 

 

 




一応、続きますので・・・


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ワインを求めです!

どうもお久しぶりです。

神崎識です。

言い訳言いますと私情色々ありまして復帰に時間がかかってしまいました。

何も言わずに投稿を停止して申し訳ございません。

また期間を空けずに投稿再開しますのでよろしくお願いいたします!


プラウダ高校と継続高校の騒動を収めたその足でアンツィオ高校に向かい、到着した。

 

相変わらずおしゃれなイタリア風の街並みで巧はこの街並みが好きだ。

 

生徒たちの露店が数多く並んでおり、その味は一級品だ。

 

巧はそんな露店を出している生徒に声をかけた。

 

「少しいいかな?」

 

「どうしました?」

 

「ここら辺で美味いワインを売ってくれるとこ知ってるかな?」

 

「それならアンチョビ先輩が売ってくれるはず」

 

「ありがとう」

 

巧は軽く会釈して、戦車道をやっている生徒たちが露店を出している広場まで向かう事にした。

 

そして戦車道をやっている生徒が出している露店に到着した。

 

そこには顔馴染みのアンツィオ高校戦車道の2人の副隊長の1人のペパロニが居た。

 

「兄さん!」

 

ペパロニは巧を見るなり巧に飛びついた。

 

巧はそれを優しく抱き留めた。

 

「兄さん、どうしたんッスか?」

 

「ワインの贈り物をしようと思ってね。アンツィオに買いに来たんだ」

 

「それならご飯を食べてからでもいいッスよね?」

 

「そうだね。それじゃあ頂こうかな?」

 

ペパロニは露店のキッチンの方に戻り、調理を始めた。

 

巧は空いているテーブルに腰を掛けた。

 

相変わらずの手際の良さで次々と巧のテーブルにイタリア料理が運ばれてきた。

 

そして巧の知らぬ間にもう一人の副隊長のカルパッチョが巧の隣に座っていた。

 

巧は驚いて思わず飲んでいた水を吹き出してしまった。

 

「ゲホッ、ゴホッゴホッ、い、いつの間に!」

 

「ずっと居ましたよ?」

 

平然とした顔で巧の隣に座り続けるカルパッチョ。

 

そしてテーブルに並べられた料理をフォークで取り、巧に食べさせようとした。

 

「巧さん、口を開けてください。食べさせてあげます」

 

「待て!カルパッチョ!」

 

ペパロニが割って入った。

 

そしてカルパッチョの反対側、巧をカルパッチョと挟むように座った。

 

「私が作った料理だぞ!」

 

「早い者勝ちよ。ペパロニ」

 

「なんだと!?」

 

ペパロニは頭に血が上り、カルパッチョは冷静に冷たくあしらっていた。

 

「2人とも落ち着いて、交互に食べさせてもらうから」

 

巧は二人をなだめる為に提案をした。

 

「そんじゃあ私から」

 

ペパロニが鉄板ナポリタンをフォークで巻いて巧の口に運んだ。

 

「次は私です」

 

カルパッチョはフォークでカルパッチョを刺して取り、巧の口に運んだ。

 

そして交互に高速に料理を口に運ばれた巧はうまく飲み込めず窒息しそうになっていた。

 

「待つんだ!お前たち!」

 

2人を止めるように大声で止めるのはアンツィオ高校戦車道隊長の安斎千代美ことアンチョビだ。

 

『ドゥーチェ!?』

 

驚く二人を差し置いて巧の元へ近づくドゥーチェこと安斎千代美ことアンチョビ。

 

「巧さんが困ってるだろぉ!」

 

「ありがとうアンチョビくん。それよりもおいしいワインを売ってくれないか?」

 

「もちろん!こっちに来てくれ!」

 

アンチョビに連れて行かれる巧。

 

「ウチらは?」

 

「ドゥーチェ・・・おいしいところだけ持っていくのは反則ですよ・・・」

 

2人は放置されまま・・・

 

~★~

 

巧はアンチョビに連れられアンツィオ高校内の戦車道隊長室に連れてこられた。

 

隊長室は整理整頓されていた。

 

隊長の教育がいいからだろう。

 

「これでいいか?」

 

アンチョビは一本のボトルを持ってきた。

 

「ありがとう。お代はいくらだい?」

 

巧はワインボトルを受け取り、近くにあった机の上にボトルを置き、財布を取り出した。

 

「お代は・・・体で払ってもらう」

 

不敵な笑みを浮かべたアンチョビがそこには居た。



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『閑話』巧が知らない所で起きた事です!
『閑話』お父さん達の悪『巧』みです!『西住常夫編』


短編の番外編です!

巧が堕とした女の子のお父さんが巧を陥れようとしてヤンデレに阻止されるお話です!

閑話関しては短めで行きますのでよろしくお願いいたします!

たまに長編にしますが基本は短編です!

閑話は巧がメインではなく、他の人をメインにする話です!


これは巧の知らないところで起きた出来事だ。

 

西住みほ、まほの父親で西住しほの夫の西住常夫があることを企てていた。

 

それは巧に大きく影響することだ。

 

「あの男が来てからしほさんは変わってしまった。俺には冷たく接して部屋も別にされて表面上は夫婦だけどまるで仮面夫婦だ。それに俺に内緒で家を空けることが多い。その時は俺も見たことない可愛い服を着て出かけてる・・・」

 

西住常夫は自室で1人で嘆いていた。

 

「まほもみほもあいつが来るまでは俺に甘えていたのに・・・あいつが来て数日で反抗期の娘みたいに俺に冷たく接するようになった!」

 

常夫はバンッと机を怒りで叩いた。

 

「2人が中学に上がるころにはもっと冷たくなって口も聞かなければ無視し続けられた・・・。みほが転校することも一切俺に言わなかった。それどころか相談もされなかった!」

 

最愛の妻と溺愛している2人の娘をある男せいで自分に見向きもしないようになったら誰でも怒るだろう。

 

実はこれには裏があり、過去にみほとまほが巧を監禁した時に常夫が巧を追い出す為に逃がした事を2人は根に持っており、実の父親なのに恨んでいるのだ。

 

ちなみにしほは巧と出会った時すでに常夫への気持ちは冷めており、立場と世間の評判と西住家の名の為にしょうがなく夫婦を続けているのだ。

 

「あの男に復讐してやる!」

 

常夫は復讐に燃えていた。

 

~★~

 

「まずはあいつの評判を落としてやる!」

 

常夫はそう言ってネットの掲示板に書き込みをした。

 

『伊藤巧はロリコン』

 

『八百長で試合に勝った』

 

等々の根の葉もない事を書き込んだのだ。

 

「これでたちまちにあいつの評判はがた落ちだ!」

 

そう確信していた常夫であったが・・・

 

「ん?書き込みが消された・・・」

 

書き込んだ内容が何故か消えていたのだ。

 

「そんな馬鹿な!ならもう一度!」

 

常夫は諦めずにもう一度同じ内容で書き込んだが、すぐに消された。

 

「な、なぜだ・・・」

 

常夫は愕然としていた。

 

「なら直接まほに言って好感度を落としてやる!」

 

巧はスマホを取り出して娘であるまほに電話をかけた。

 

ちなみにみほの電話番号は常夫は知らないので電話をかけれないのだ。

 

みほは実の父親の常夫を毛嫌いしているので伝えていないのだ。

 

数コールしてまほが電話に出た。

 

『もしもし。こんな時間に何ですか?』

 

父親に対して異常なまでに冷たい対応をとるまほ。

 

「少し時間いいか?」

 

『5分まででお願いします』

 

普通の親子なら学園艦で暮らしているので親と長く電話するはずだが、まほは短時間で電話を済ませたがってた。

 

「実は巧君の事なんだが・・・」

 

『はぁ・・・巧さんの悪口ですか?』

 

まほは常夫の言おうとしている事を先読みして言った。

 

「そ、そうだけど・・・」

 

『巧さんの悪口を言う人と話したくはありません。巧さんは私にとって大事な人ですから」

 

「ま、まほそれは!」

 

常夫がまほに追求しようとした瞬間。

 

『もう話したくありません』

 

冷たい一言で電話を一方的に切られる常夫。

 

「それならこの事をしほさんに言ってやる!」

 

常夫は自室を飛び出してしほが仕事部屋にしている書斎に向かった。

 

そして勢いよく扉を開けた。

 

「常夫さん。入室の際はノックを」

 

「すまないしほさん。でもしほさんに聞いて欲しい事があるんだ!」

 

常夫はしほの仕事机に近づいた。

 

仕事机の上には結婚当時にはあったツーショット写真はなく、黒森峰女学園の中等部に入学した時の写真があった。

 

それだけではなく、しほが使っている万年筆も結婚して10年の記念に常夫がしほにあげた万年筆ではなく、巧が日本戦車道連盟に就職してもらった初任給でしほにプレゼントした万年筆を使用していたのだ。

 

「しほさん。僕があげた万年筆は?」

 

しほの前では猫を被る常夫だが、万年筆の事を知らなかったのでまほの事を気にせずに聞いた。

 

「あれなら捨てました」

 

「えっ・・・」

 

思いもよらない一言に常夫はただ立ち尽くすだけだった。

 

「記念の物なのに?」

 

「巧さんからもらった万年筆があるのでもう不要なので捨てました」

 

「う、うそ・・・」

 

がっくりと肩を落とす常夫だったが。

 

「実はその巧君はまほに手を出しているんだ!」

 

と言った。

 

常夫はこれでしほさんの目が覚めると思っていたが、それは思い通りの展開にはならなかった。

 

「そうですか。それなら次期師範は巧さんとします。夫婦2人で西住流の名を背負って欲しいですね。欲を言えば巧さんと私が・・・

 

しほの最後の方は常夫に聞こえなかったが、常夫はそれに反論した。

 

「我が子に手を出した男を許せるんですか!」

 

「構いません。巧さんなら許せます。それよりも常夫さん」

 

常夫に冷たい言葉を投げかけているしほが覇気むき出し始めた。

 

それに常夫は驚いて動けずにいた。

 

「巧さん事を悪く言いましたので今月のお小遣いはなしです。異論は認めません」

 

そう言ってしほは立ち上がり仕事部屋から出ようとしていた。

 

「しほさんどこに行くの!」

 

常夫は我に返りしほを呼び止めた。

 

「常夫さんと話していると気分が悪くなります。癒されるために少し巧さんとお話ししてきます」

 

そう言い残して仕事部屋を後にするしほ。

 

残された常夫は絶望で動けずにいた。

 

そして絶望のあまり涙があふれ出ていた。

 

常夫は自らに問いかけた。

 

なぜこんなことになったのかと。

 

本人は気づいていないが仕事で家族サービスをおろそかにしている事もあったのでそれも影響しているのだろう。

 

だからこそもう家族の中に常夫を愛している者は居ないのだろう・・・




どうでしたか?

こんな感じで進めていきますのでよろしくお願いいたします!

本編の方も更新していきますのでよろしくお願いいたします!

それではまた次回!

チャオ!


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