落第騎士と鬼神ちゃん (カモシカ)
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ふと思いついたので投稿


 《伐刀者》。

 己の魂を武装ーー《固有霊装》として顕現させ、魔力を用いて異能の力を操る千人に一人の特異存在。古い時代には魔法使いや魔女と呼ばれた現代の魔術師だ。

 

 そして、彼ら《伐刀者》と呼ばれる存在は大別して四種類にわけられる。

 主に身体能力を強化する身体強化系能力者。

 炎、雷、氷などを操る自然干渉系能力者。

 特定の物、言葉などに込められた概念を操る概念干渉系能力者。

 因果、確率等を操る因果干渉系能力者。

 

 我らが学園の落ちこぼれ、通称《落第騎士》黒鉄一輝くんなんかは身体強化系だし、学園最強の一角である《雷切》東堂刀華は雷の自然干渉系だ。

 そこに来て、私は分類上概念干渉系の《伐刀者》という事になるのだろう。《伐刀者》としての力に目覚めた日は大変だった。炎とかの自然干渉系では無かったから火事とかにはならなかったのが不幸中の幸いだろう。まあ、十何年か前の事なので詳しい事は覚えていないが。

 

 しかし、目覚めた能力が曲者である。

 私は、『鬼』という概念を操る概念干渉系の能力者だったのだ。普段の私は普通の女の子だ。断じてバーサーカーなどではない。

 だというのに、学園での私は触れてはいけないどころか名前を呼んではならないあの人みたいな扱いを受けている。

 それというのも、全て私の能力が悪い。『鬼』という特性上、どうしても荒々しくて残虐な戦い方になるのだ。ランクAというのもあってまともに対応してくれる人は一人しかいない。それも異性なもんだから友達とお泊まり会なんて女の子らしい事は出来ないし。……なんだかイライラしてきたので、その唯一のお友達である黒鉄一輝くんをジト目で睨む。八つ当たりとも言う。

 

「え、ええっと……どうかした?」

「べっつにー、何でもありませーん」

「ええ……えぇ……?」

 

 戸惑う一輝くん。戦闘中の修羅のごとき面構えとのギャップが可愛い。弟ってこんな感じなのかな。

 そんなことを考えながら、一輝くんと初めて会った時のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 スカートが短い制服に不満を抱きながら一年一組の教室に向かう。《伐刀者》の学校だからといって校舎や教室に一般校との差はそう無い。

 

 担任の教師の自己紹介に続き、生徒の自己紹介に移る。残念な事に私の苗字はあ行なのですぐに順番が回ってきてしまった。

 

「ええっと……私は青鬼勇華と言います。よろしくお願いします」

 

 まあこんな所でいいだろう。ぼっち気質の私に友達など望むべくもないし、《伐刀者》としてもそこそこの実力があるからいじめを受けることもそう無いだろうし。

 

 そう考えた私は、クラスメイトの自己紹介を聞き流す。人間、興味のない事柄には集中できないものだ。

 ああ……昨日緊張してて寝不足だったから眠い。さすがに初日から……居眠り……なんて……

 

 

 

 

 

「あの……もうホームルーム終わったよ」

「んぅ……くあぁあ」

 

 いつの間にか寝てしまっていたらしい。教師も起こしてくれればいいのに。あれか、受験の時の実技試験でやらかした事が広まってるのか。

 ……あの時の名も知らぬ試験官、許すまじ。

 

「ねえ、もしかしなくてもそれって《固有霊装》?」

 

 私を浅い眠りから解き放った件の少年が、私の頭を指さしながらそう訊ねてくる。

 やべっ、霊装出てたか。

 

「そうだよ。なんて言うか、私にとって霊装が出てる方が本来の姿みたいなとこあるからさ。気を抜くと出ちゃうんだよ」

「そ、そうなんだ……でも《固有霊装》の無断使用は校則違反だから気をつけてね」

「うん。気をつけるよ。起こしてくれてありがとう」

「いやいや、席も隣だし気にする事は無いよ」

 

 たしか目の前の少年は黒鉄一輝くんだったか。寝る前の事だから辛うじて憶えている。

 そして、その黒鉄くんは朗らかな笑みを浮かべ手を差し出す。

 

「じゃあ改めて。初めまして、僕は黒鉄一輝。これから一年間よろしくね」

「初めまして。私は青鬼勇華。青色の青に化け物の鬼と書いて青鬼だよ。よろしくね」

 

 そして、私は差し出された手を躊躇いなく握った。勿論、力は加減して。出なきゃ入学早々スプラッターを見ることになってしまうからね。『鬼』のブレイザーというのも大変なのだ。

 

「うん。知ってるよ。ていうか君の事を知らない人なんてこの学校に居ないんじゃないかな」

「……へ?どゆこと?」

「あれ、知らない?ネットに動画が上がってたし、そうでなくとも君の名前は一日に一度は聞くぐらいに噂になってるよ」

 

 ……ほわいじゃぱにーずぴーぽー!

 

 何 が 起 き た !

 

「いやー、まさかこんな温厚な人とは思わなかったよ。動画だと笑いながら《解放軍》の兵士を潰してたし、《固有霊装》をへし折ってたし」

 

 何だそれは。何故《解放軍》のテロ鎮圧(大虐殺)の記録がネットにある?あれか、その時にその場に居た誰かが撮影してたのか。

 周囲を見渡すと全員がサッと顔を背ける。……これは、こやつの言っている事は真実だということか。

 

 い、いや、逆に考えるんだ。これで平穏な学校生活が手に入ったんだ。うん。(震え声)

 ふえぇお友達欲しいよぉ……

 

「……ま、まあ、僕はそういうのは気にしないから、そんな落ち込まないで、青鬼さん」

「うぅ……黒鉄くーん」

 

 苦笑する黒鉄くんが輝いて見える。きっと彼は神様が私にくれたお友達なのだ。初めての。いや、ないか。ないな。

 

「……って、もうこんな時間。ごめん黒鉄くん。理事長に呼ばれてるから行くね」

「分かった。じゃあ、また明日」

「うん。また明日」

 

 やばい。やばいぞこれは。何がやばいってこの友達みたいな会話がやばい。この気持ちはなんだろう……そうか、これが嬉しいってことなんだ。

 なんて感情を初めて知ったロボットごっこをしながら理事長室に向かう。

 

 勿論というかなんと言うか。

 私が廊下を歩くと、屯していた生徒が顔を俯かせながら道を開けた。凹んだ。



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「なんだあのクソ理事長、ぶん殴らなかった私を誉めてやりたい」

 

 理事長が吹っかけてきた用件とは、要するに黒鉄くんをいじめろというものだった。人としても『鬼』としてもとうてい許せるものでは無いので即答で断ってきたが。

 

 しかし理事長は私が断ったらすぐに次善(理事長にとって)の策を取ってきた。即ち、次席の桐原静矢にいじめ役をやらせるのだ。

 

 桐原のいじめは陰湿だった。何度取り巻き諸共蹴散らしてやろうと思った事か。だけどその度に黒鉄くんが視線で止めてくるから未だ解決出来ずにいる。黒鉄くんがいくら精神的にも肉体的にも強いからと言って、ここまでのいじめを受けていたら心配にもなる。

 

 だからせめて私だけは普通に接してやることにした。

 友達のいない私の対応が果たして普通と言えるのかという疑問は撲殺しなさい。出来ないなら私が(疑問を)殴り殺しに行きます。

 

 あ、私も巻き込もうとしてきた時は返り討ちにしました。さすがに正当防衛は黒鉄くんも止めなかったので、これ幸いとストレスをぶつけた。そしたら噂が悪化した。反省も後悔もしていない。ただやっぱり凹んだ。

 

 それからのいじめは直接的なものでは無く間接的で陰湿なものにシフトした。それも、学校規模で。それまでのいじめも学校規模だったが、実戦科目を受ける最低限の能力水準とかいうのを設けて授業からの締め出しを始めたり、学園の近辺に悪評をばらまいたり。

 

 さすがにこれには呆れた。

 

 怒りとか通り越して気が抜けた。

 

 

 なので最低限進級に必要な科目や出席日数を稼ぐ以外、授業には出ないことにした。数少ないAランクで、【狂鬼】とか【鬼神】とか呼ばれている私に過干渉する度胸などこの学校の教師陣にはない。私の評判をこれ程ありがたく思ったのは初めてだ。

 

 

 で、そのサボった授業の時間に何をしているのかと言うと。

 

「でえぇぇぇりゃあああああ!!!」

 

 学校の敷地内の山を吹き飛ばしています。

 比喩でもなんでもなく、言葉通りの意味で山を殴り飛ばしています。むしゃくしゃしてやった。今はまだ反省していない。でも多分そろそろ怒られるから戻しておこう。でも山がある学園って凄いよなあ・・・・・。

 

『鬼』の持つ通力のひとつである念動力で散った山を元に戻す。・・・・・吹き飛ばす前の半分くらいの高さになったが気にしてはいけない。まあ山とは言っても標高二十メートル程の、どちらかと言えば丘なのだが。

 

「・・・・・むん。満足まんぞく」

 

 最近は吹き飛ばす山は一つだけで我慢できるようになってきた。『鬼』として気性が荒い上に、こうしてガス抜きしないと破壊衝動が止められなくなるから仕方なく山を殴り飛ばしているのだ。強敵と戦えた日はその限りではないが。そういう訳だから学校で私の事を【破壊神】とか呼んでるやつはいつか締める。

 そんな事を考えながら学園に帰っていった。

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・あの」

「うぇいっ!?」

 

 誰もいないと思っていたので変な声が出た。というか気配を感じさせずに近づくというのは、《伐刀者》にはなかなか居ない武術に精通した人物という事になるのだが。・・・・・はて、授業をサボるような人の中にそんな人は居ただろうか。

 

「青鬼さん・・・・・だよね?こんな時間に何してるの?」

「ああなんだ黒鉄くんか・・・・・」

 

 件の黒鉄くんである。そりゃあ黒鉄くん程の武人が気配消したら気づけるわけないか。私に武術の才は無かったし。

 

「いやあー、その、サボりというかなんと言うか」

「ええ・・・・・」

「いや、強敵が居ないから退屈だとかそういうんじゃ無いんだよ。ただ不快というかなんと言うか・・・・・」

 

 狡猾なやり方や騙し討ちが嫌いな鬼としては、黒鉄くん一人を悪意で締め出そうとするこの学園のやり方は気持ちのいいものでは無い。正々堂々騎士らしく決闘でもすればいいのにとも思ってしまう。

 

「不快?・・・・・ああ、実像形態じゃなきゃ『鬼』としては気持ち悪いとか?」

「うん。まあ・・・・・ってそうじゃなくて。いやそれもあるけど」

「?・・・・・じゃあ、なにが?」

「いや・・・・・その、なんだ、明らかにおかしいじゃないか」

 

 そして、それを歯牙にも掛けない君が、見ていて痛いんだ。

 ・・・・・なんてことは言えない。それは黒鉄くんへの侮辱になってしまうだろうから。

 

「ああ・・・・・ごめんね。僕のせいで」

「そんなことは無い!悪いのは黒鉄くんじゃ無いだろう!」

「あ・・・・・・・・・・」

 

 思わず叫んでしまった。昔からこうだ。思っている事が行動や言動に直結してしまうのだ。どこから仕入れたのか分からない知識を持つ兄にも、これだけは解決出来なかった。

 驚きからか目をまん丸に見開く黒鉄くんに、何だか申し訳なくなってしまう。

 

 うーん。どうしようか。いやほんとに。

 

 沈黙が降りる。私は黒鉄くんを下から覗き込むように見上げ、彼の表情を伺った。

 ・・・・・・・・・・あれ、視線が逸らされた。

 もう一度見上げる。逸らされる。また見上げる。逸らされる。

 なんてバカみたいな事を続けていると、黒鉄くんが先に音をあげた。

 

「・・・・・ぷっ、ふふっ」

「へ?」

「いや、なんだか可笑しくってさ」

 

 互いの身体能力をフル活用して無駄にレベルの高い視線の追いかけっこをしていたら、黒鉄くんが不意に吹き出した。

 

「僕、こんなふうに誰かとバカなことしたこと無かったなって」

「・・・・・そっか」

「うん。だから、なんて言うか・・・・・ありがとね」

「何がかは分かんないけど・・・・・どういたしまして」

 

 なんだか、黒鉄くんと友達になれたような気がした。

 勘違いじゃないといいなぁ・・・・・。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

「それからかなぁ・・・・・僕が勇華と毎日模擬戦するようになったのは」

「へえ・・・・・なんだか色々規格外ね」

「それ、ステラが言う?」

「うっさいわよイッキ」

 

 その部屋には二人の男女が居た。模擬戦にてAランク伐刀者、《紅蓮の皇女》ステラ・ヴァーミリオンを降したFランク騎士黒鉄一輝と、負かされたステラ・ヴァーミリオンその人である。

 ちなみに、ステラが寝ている一輝の筋肉を触って興奮していたなども言う事実をここに記すことは無い。主に彼女の名誉と一輝の社会的地位を保護する為に。

 

(イッキの信頼も厚いようだし・・・・・強敵ね、ユーカ)

 

 模擬戦で幻想形態とは言え斬りつけられたと言うのに、反感を持つでもなく既に八割方()()()いるドM系淫乱皇女が居たとか居なかったとか。




反応良ければ続くかも


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水無瀬白峰

俺が前世で憧れていた人の名前だ。

初めて読んだライトノベルの登場人物で、二巻にしか出てこないし二巻で死んでしまうけれど、何もかもに絶望していた俺には、彼の生き方は、眩しくて────


(ユーカ・・・・・ユーカ・・・・・あたしと同じ、Aランクの伐刀者)

 

 一輝に『規格外』扱いされた紅蓮の皇女は、真剣な顔をしながら食堂にてバカ食いしていた。

 

(むう・・・・・イッキから聞く限り、とんでもない馬鹿力なのは確かだけど・・・・・)

 

 ステラは来るべき勇華との戦いに備え、勇華の異能について考察をしていた。一輝との模擬戦で考察による情報の獲得の重要性を学んだのだ。

 

(イッキによれば、『鬼』というのは日本に於ける妖魔の最強格。その拳は山をも震わせ、英雄クラスでさえ泥酔させて騙し討ちをしなければ倒せない程の存在。

 通力等の異能の力も伝承には語られ、鬼神と同一視される事もある・・・・・能力でどの程度まで伝承通りの事が出来るのかは分からないけれど、油断なんて絶対に出来ないわね)

 

 強者を求めて留学しておきながら、破軍学園最強を知らなかったりするステラだが、一輝から『鬼』というモノについて聞き出していたのだ。

 流石に青鬼勇華本人の異能については教えてくれなかったが。

 

「アオキ・・・・・ユーカ・・・・・!」

「随分と熱烈に呼んでくれるね。ステラちゃんみたいに可愛い娘からのラブコールは嬉しいよ」

「え・・・・・!?」

 

 ステラは驚愕する。自身の文字通り目の前に現れた青鬼勇華の存在に。

 食事中とは言え、ステラは才能に努力を重ねた強者であるのだから、ここまで近づかれて気付かない筈が無いのである。

 それを平然と掻い潜ってきたこの小さな少女は、一体どんな隠行を身につけているのか。ステラには、まだ想像も出来なかった。

 

「どうどう?いきなり現れてびっくりした?」

「え、えぇ・・・・・まあ」

 

 もっとも、近づいてきた犯人には、ステラをどうこうしようという思惑は全く無いのだが。

 

「貴女が・・・・・アオキユーカ、なの?」

「うん。私が勇華。『鬼』の伐刀者、【鬼神】青鬼勇華だよ」

「そう。ならユーカ・・・・・私と、戦いなさい」

 

 有益な情報は無い。一輝程の経験も知識も無いステラには、これだけの情報で勇華の能力を推し量る事は出来なかった。けれどステラは、ただ目の前の鬼と()りあいたいと感じたのだ。

 

 どうあっても敵わない、そんな強者を探して遠く日本にまでやって来たステラの前に立ちはだかった『鬼』は、静かに荒々しく闘志を燃やすステラを前にして、ただ、呵った。

 

 

 

 ****

 

 

 

 

(『鬼』とは『おに』、つまりは『(おぬ)』の訛った言葉だ。本来鬼は目に見えないモノ。勇華が全く認識されず姿を現すのはそういう理屈の筈だ)

 

 一輝はかつて、勇華の隠行をそういう理屈で理解した。そしてそれは正しい。勇華は原初の『鬼』の本分に立ち返ることで、他人に全く認識されなくなる。勇華の異能は、『鬼』という概念が持つ領分の全てを網羅し、体現するものである。

 

「ぐぅ・・・・・」

 

 だからこそ、()()()()程度では勝てる筈も無く。例えばその炎が()()()()()()()であったなら兎も角、ステラの炎は竜の物だ。それも本来の姿とは比べるべくも無いチンケなものでは勝ち目など欠けらも無い。

 

「ねえねえ・・・・・Aランクだってのにその程度なの?」

「ぐんぬぅぅぅ、うっさいわね!喰らいなさい!────《天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)》ッッッ!!!」

「おおぉ・・・・・あー、悪くはないんだけど・・・・・まあ、切り替えるかな───霊装変化:伊吹童子・伊吹萃香」

 

 瞬間、莫大な熱量を前に勇華の姿が変化する。

 髪色と同じ夜の様な漆黒の角は、その小さな体躯に似合わず捻じれ長大なものになる。セミロングだった髪型は背中にまで伸び、両手首と腰から鎖に結ばれた三種の分銅が伸びる。

 その姿は勇華の兄が()()()()()鬼の姿に瓜二つであった。

 

「───《密と疎を操る程度の能力》」

「へぇっ!?」

 

 勇華がそう告げると共に、ステラの《妃竜の罪剣》に集まっていた焔が散る。

 己の全力とまでは行かないものの、間違いなく最高の一撃を無力化される所か発動すら出来ない事実に、ステラは暫し呆然とする。

 

「ちょっと、余所見しないでよ!」

「がっ、はっ!」

 

 ステラの頑強さを持ってしても、勇華の怪力は防ぎきれない。それも、一瞬とは言え無防備になっていれば尚更である。

 

「ねえ、もっと本気でやってよ」

「・・・・・分かってるわよ」

 

(舐めてた訳じゃ無いけど、こいつ、明らかに今までの伐刀者とは違う。やっぱり、今の私じゃどうしようも・・・・・)

 

「ねえ・・・・・まさか、勝てる訳ない、とか、考えて無いよね?」

「え・・・・・?」

 

 勇華に心境を言い当てられ、動揺を隠せないステラ。

 そして諦め(それ)は、勇華が世界で一番嫌いな物の一つであった。

 

「私ね、私が認めた人が目の前で何かを諦めるのが、大っ嫌いなんだ。嘘を吐かれる事よりも、ずぅっとね」

「諦め・・・・・」

「その点、一輝くんは最高だよ。どんな逆境にあろうと決して自分の価値を諦めず、私という特大の化け物に何度も何度も傷を付ける・・・・・ステラちゃんは、一輝くんに無いものを持ってる癖に、すぅっっっっっごく!」

 

 

 

 

 ──────弱いね

 

 

 

 

 ぶちん、と、何かがぶっ千切れた音が聞こえた。

 そして同時に溢れる魔力の奔流・・・・・いや、爆発或いは暴発とでも言うべきか。

 

 ステラは、ステラ・ヴァーミリオンは、友人の危機を救う為でも愛する者を守る為でも無く、怒りにより覚醒を果たした。

 不完全であるし、そもそも無意識下の事だ。しかしそれでも、竜の力の一端をステラは体現したのである。

 

「えぇ。ええ。確かに私はイッキに負けたわ。でもねぇ・・・・・ここまで言われて諦められる程、物分りが良くないの、よ!」

 

 無駄の少ない踏み込みにより、地面を砕き撃ち出される。歓びに口角を上げる勇華に、ステラは()()で妃竜の罪剣を打ち下ろし────

 

 次の瞬間、訓練場の天井に突き刺さった。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 ふぉぉぉおおおおお!!!

 ステラちゃん可愛ええぇぇえええええ!!!

 そしてエロいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃイイ!!!

 

 なんやあのボンッキュッボンは!ブルンブルン揺れすぎやろあれは何か!?その乳の揺れるさまはビックバンの如し!はっ、つまりはおっぱいとは宇宙開闢だったんだ・・・・・(錯乱)

 

 

 

 

 ・・・・・ふう。お目汚し失礼しました。

 けどこれに関してはステラちゃんのわがままボディが悪い。肌とかモッチモチだし。赤ちゃんかよマジで。しかも同室とか一輝くんうらやま。

 

 まあそれは置いといて。

 何故かこちらを若干敵視しているステラちゃんに模擬戦を持ち掛けられ、勿論私が勝った訳だが・・・・・

 ありゃあ化けるね。私の拳を二回も受けておきながら、軽くふらつく程度で立ち上がる。しかも最後は私でも喰らったら痛そうだった。もしかしたら、ステラちゃんの異能は『炎』の自然干渉系じゃ無いのかも。

 

 一輝くんとは別の意味で、十年後が待ち遠しいよ。




ちなみに、ステラの覚醒は《覚醒(プルートソウル)》では無いです。分かってるでしょうが。

星10評価を頂いてしまいまして、投稿です。分不相応な評価ですが、評価して頂いたからにはちまちま続けていこうと思う所存です。


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何の因果か、俺は新しい人生を得た。

しかも、この世界には《伐刀者》なんて人達が居るらしい。

そして俺も、その一員で。




俺の《固有霊装》は、当然のように、筆だった。


「貴女が青鬼勇華さんですか・・・・・お兄様から聞いています。本当に、本当に、ありがとうございました!」

「・・・・・・・・・・へ?」

 

 私、何か感謝されるようなことしたっけ?

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

「取り敢えず、お茶どうぞ」

「ああ、ご丁寧にどうも」

 

 銀髪が綺麗な可愛い娘が私部屋を訪ねてきた。

 レズでもロリコンでも無いから興奮はしないけども。

 

「で、貴女は誰なの?」

「初めまして。お兄様からお聞きかもしれませんが、黒鉄一輝の妹、黒鉄珠雫です」

「ああ・・・・・貴女が例の・・・・・」

 

 一輝くんからことある事に──下手をしなくても本人の事以上に──聞いていた。可愛い綺麗成長した姿を見るのが本当に楽しみだ、だって小さい頃でさえあんなに可愛かったんだから成長してどれだけ綺麗になっている事か云々・・・・・目を輝かせながら()()していた。

 うん。兄妹仲が良好なのは良いけどさ、うん。ぶっちゃけドン引きだよね。

 

「改めて、貴女には尽きぬ感謝を」

「いやいや、だから感謝されるようなことした覚えが無いんだけど」

「七星剣武祭こそ出場なされませんでしたが、Aランクの貴女が兄を気にかけている。その事実は、周りのゴミクズ共が最後の一線を超えない為のストッパーになっているのです」

「・・・・・うーん、そうなの?」

 

 ランク至上主義の現代、Aランクの影響力は馬鹿みたいに大きい。私の場合は悪名も全国、下手すれば世界に轟いてるから余計に。

 そう考えれば珠雫ちゃんの考えも間違ってはいないのかも。

 

「ま、私は一輝くんの事気に入ってるからね。それくらいの事はやるよ。一輝くんからしたら要らないかもしれないけど」

 

 一輝くんは強い。贔屓目でも何でもなく客観的な事実だ。後数年もすれば()()()と同じ領域に辿り着くだろう。能力こそ身体能力倍加というものだが、心技体を超高水準で揃えている。心に関してはちょっと不安定な所もあるけどね。

 

「ありがとうございます・・・・・所で、貴女に限ってとは思いますが、お兄様に(性的に)手を出したりなんかしていないでしょうね?」

「ん?毎日(模擬戦を)してるけど?」

「ま、毎日シてる!?」

「そーそー、初めてやった時に前から後ろから《陰鉄》ぶち込まれてさー、それにハマっちゃったんだよね」

「は、初めてで・・・・・前から後ろから・・・・・ぶち込まれる・・・・・」

「あんまり楽しかったもんだから刀華にも紹介して三人で入り乱れて(模擬戦を)やったりもしたんだよね」

「え!?《雷切》と、3P(三人)で!?・・・・・そんな、お兄様、私の居ない間にすっかり・・・・・」

 

 何故だか虚ろな目になりながら、珠雫ちゃんは帰っていった。珠雫ちゃんから感じた威圧も結構良い感じだし、流石はBランクだよね。

 

 ふふ・・・・・今年は二人も逸材を見つけられた。

 

 ステラちゃんの重い一撃も、珠雫ちゃんの繊細な魔術も、今年は毎日感じられるんだ。

 

 嗚呼・・・・・今から、凄くゾクゾクする。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 《雷切》東堂刀華にとって、青鬼勇華という存在は大きなものだ。畏怖、憧憬、羨望、そして少しの恐怖と親愛。尊敬、と言い換えても良いかもしれない。

 けれどその二人の出会いは最悪とも言えるだろう。

 

 二人が出会ったのは入学式当日、学園長室でだ。

 

 聞けば、勇華が学園敷地内の小山を吹き飛ばし、寮の一部を破壊したと言うのだ。幸いというか何というか、勇華本人の高い建築技術と損壊した範囲が小さかった事もあり、寮は既に直っているという。

 

(流石に入学式当日は自重するだろうと油断した・・・・・要注意人物なのは分かっていたでしょうに)

 

「初めまして。破軍学園生徒会長の東堂刀華です」

「初めまして。青鬼勇華です・・・・・ねえ、刀華さん。

 

 

 

 

 私と、戦ってよ」

 

 

 嗚呼・・・・・この目だ。

 

 この目が、私に呪いをかけた。

 

 未だ見ぬ強者を求め爛々と輝く狂人の瞳。

 

 覗き込まれ、また覗き返す深淵の如き澄み切った闇。

 

 濡れた鴉の羽のように。月の無い夜の闇のように。純真にして無垢なる始原に最も近い黒に魅入り。

 

 

 

 私は、その日、彼女に恐怖し、愛慕の情を抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして私は、へし折られた刀を鍛え直す。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

「お兄様!珠雫は、珠雫は都合の良い女で構いません!《鬼神》や《雷切》には見劣りするかもしれませんが、私の事も抱いて下さい!」

「珠雫!?再会早々何言ってるの!?」

 

 そんなやり取りがあったとか無かったとか。




感想をくれると喜びます。


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学園に入学した俺は、とある少女に模擬戦を挑まれた。

Bランクの意地と、この異能を持つ責任を賭け、俺は許される範囲で全力を擲った。


その日、俺は少女に敗北し。



生まれて初めての、恋を知った。


「・・・・・今日は一人かぁ」

 

 一輝くん達は今日、近くのショッピングモールに行くらしい。ガンジーがうんたらとか言ってたけど、その映画って面白いんだろうか?

 

 一人で山を吹き飛ばしていても寂しいだけなのだが、今日は何をしたら良いのだろう?人工物が大量にある場所が大っっっっ嫌いだからと言って、一輝くんの誘いを断らなければ良かった。

 

 

 そんな時だった。

 

 

 私の携帯電話が、鳴り響いた。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

『もすもす?どしたの兄さん?』

 

 耳に当てた子機から、愛する妹の声が聞こえる。

 今日はとある報告と宣言をするため、妹──勇華へと電話をかけたのだ。

 

「ああ、いや、その・・・・・少し、伝える事があってな」

『ふーん?』

 

 勇華は、前世の記憶を持っていると伝えた、たった二人の大切な人の一人だ。

 そして、俺の澱み腐りきった内面を曝け出しても受け入れてくれた、自分にとって無二の家族だ。

 

 本当に、一生かかっても返せない程の恩がある。

 

「・・・・・兄さんが高校で出会った、あいつとの話だ」

『・・・・・』

 

 勇華にも、当然あいつの事は伝えてある。俺みたいな奴に初めて出来た、本当の友達としてのあいつを。

 聡い勇華の事だから、もうこの時点で内容を理解したかもしれない。

 

「色々、考えたんだ。この五年間、一体俺の本物は何なのだろうかって」

『うん』

 

 俺にとって家族とは、いきなり消えて、いきなり出来て、いつかは裏切る。そういう曖昧でゴミみたいなものだった。

 前世での狭い世界の記憶と、限定的な経験からくる、消えないシミみたいな価値観だ。

 

「そしたら、まあ・・・・・お前と、あいつなんだなぁって、ありきたりだけど、確信した」

『・・・・・うん』

 

 同じ病室で一週間だけ過ごした、知人以上友人未満なヤツに押し付けられた、一冊の本。『B.A.D.』というライトノベル。

 残酷で醜悪で、その中で足掻く異能者とただの人が、ただただ美しく見えた。

 

「今夜、告白する」

『・・・・・そっかぁー』

 

 だから、なんだろう。

 俺がこの異能を持って生まれ直したのは。

 だから俺のこの異能(ちから)は、愛する人を守る為に、使いたい。

 彼のように神降ろしを望む訳じゃ無いけど、必要に迫られれば、俺はきっとなんの躊躇いもなく実行する。

 

 そしてきっと、あいつと勇華にぶん殴られて止められるのだ。

 

 

 それで良い。それが良い。素晴らしいじゃないか。そんな日々は。

 

 

『頑張って』

「ああ・・・・・良い結果、期待してくれ」

『ふふ。そうだね。私も、あの人ならお姉ちゃんにしても良いかな』

「気が早いな」

 

 けれど、何時かは。

 俺がこの鎖を引きちぎり、あいつと同じ場所に立てたなら────

 

 

「じゃあ、行ってくる」

『うん。いってらっしゃい』

 

 

 まだ待ち合わせまで数時間はあるのに、早くも早鐘を打つ心臓に呆れつつ、受話器を下ろした。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 プツン、と。

 味気ない音を立てて、私の携帯電話は沈黙した。

 

「そっか・・・・・兄さん達、まだ付き合ってすら無かったんだっけ」

 

 傍から見ると、完全に夫婦なものだから勘違いしてしまった。

 

「ま、些細なことでしょ。ちっちゃいことはー気にしなーい」

 

 前世の記憶があるなんて、変な事を言う兄だけど、私を守り、導いてくれた唯一の家族なのだ。

 その幸せの第一歩を祝わずして何が鬼か。

 

「兄さんから逃げないであげてよ?義姉さん」

 

 豪胆な癖して、変な所で初心な姉が告白されるシーンを想像して、ちょっとだけ可笑しくなった。




超短いですが、まあ短編という事で。
筆が乗れば一万字くらい書けるんですけども。

今後も1500くらいから4000くらいまでで投稿すると思います。

感想、評価ありがとうございます。特に感想や高評価をくれると作者は喜びます。


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少女との奇妙な縁は、それから始まった。

男子寮だろうが構わず突撃してくる少女なのだから、縁も何も無いだろうが。

ともあれ、俺が為すべき事は少女に打ち勝つこと。


恋も試合も、全身全霊粉骨砕身、頑張ってやろうじゃあないか。


「・・・・・って事があったのよ。《狩人》だか何だか知らないけど、嫌ーな奴よね」

「ふーん。桐原のお馬鹿さん、まだそんな事言ってるんだ」

 

 桐原静矢。私にちょっかい出して来た時、徹底的に叩き潰してやった男だ。

 たまたま持っていただけのつまらない才能を驕り、自分より強いヤツ(現実)からは目を逸らす。

 

 黒鉄一輝とは違うベクトルで、愚かな男だ。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

『才能』

 人間である以上、これが平等な事など有り得ない。

 生まれつきの物もそうだし、周囲の環境によっても大分変わるものだ。それがいい方向への変化かどうかは兎も角。

 そして桐原は、才能を腐らせる方向に変化した。

 けれど黒鉄一輝は、才能に努力を足し合わせ、人の限界に挑み続けている。

 

 この結果は、その差なのだろう。

 

 片や、己の才能を過信し、ランクで劣る全てを見下す愚者。

 片や、己の価値を愚直に信じ続け、ランクを外れた力を手に入れた狂信者。

 

 桐原と一輝では、土台から違ったのだ。

 

 

 

「僕は、君が嫌いな『努力』でここまで来た。その道中には滅茶苦茶な天才なんて幾らでも居る。今更君程度の才能に絶望なんか出来ないさ」

 

 

 

 桐原の深層心理までも見通し、何度も何度も対話をして────その果てで、狂信者(黒鉄一輝)は、愚者(桐原静矢)を見限った。

 

 

 人と獣が会話出来ないように。宗教家が異教徒を理解しないように。

 

 黒鉄一輝の決別は、余りにも人間くさく。

 

 

「だから、敢えて言おう。桐原静矢、君は天才だ。けど、僕より弱い。────悔しかったら、僕に追いつけ」

 

 

 うん。けれどやっぱり、

 

 

「君が見ようとしない遥か先で、僕は君を待っている」

 

 

 君は、妖には成れないね。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

『し、試合終了ーーーー!!!!

 驚きの結末です!Aランクを下したという噂は、決して誇張では無かったのか!?()()()()()()()使()()()、《狩人》桐原静矢に勝利しました!!!

 この結末は一体どういう事なのでしょう!解説の西京先生!』

『んー・・・・・なーんか()()()()()気はするけど、まあ、実力差で言ったら当たり前だねえ』

『ですが、黒鉄くんはFランクですよ?』

『んなもん関係ないない。ランクで測れるのなんてせいぜい高校レベルまでだ。【魔導騎士】は、そんな低レベルじゃ無いぜ?まあそれにしたって黒鉄は異常だけどさー』

 

 好き放題言ってくれる解説だ。

 多少の自覚はあるけども、異常は言い過ぎだろう。

 それに異常(その言葉)は、青鬼さんに言うべきことだ。

 

 桐原くんは、僕にとって因縁の相手と言えた。

 だから、だろう。僕はこの試合を極度の緊張状態でこなしていた。まともに剣を振れないのは分かったし、だからこそ《陰鉄》を使わない選択をしたのだ。弓使いを相手に近接武器を持っていたところで、両手は塞がるし取り回しは素手に比べれば悪いしで、この選択は間違っていない。

 

 第一、刀を使わないと戦えないなんて冗談にもならない。

 緊張状態で刀を使えないなら、もっと掌握しやすい手足を使えばいい。

 遠距離武器が無いのなら、小石を投げて応戦すれば良い。

 相手が隠れて見えないなら、心眼で捕捉すれば良い。

 

 その程度の事が出来なきゃ、彼女には絶対に届かない。

 

 

 僕はそれを知っている。

 

 

 誰よりも彼女に敗け続けている僕だから。

 

 

 けれど、何時かは打ち倒してみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 (化け物)を負かすのは、何時だってヒトなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待っててね。青鬼さん。すぐに、追いついてみせるから」

 

 

 

 ****

 

 

 

 

「霊装展開:茨木童子・茨木華扇」

 

 目の前で刀を構える挑戦者の力量を認め、()()()()【名前持ち】、それも【四天王】を展開した。事実、彼にはそれだけの力量と価値がある。

 

「・・・・・まさか、初めから【四天王】で来てくれるとは思わなかった」

「嘘つけ。私が君の力量も測れない愚図な訳ないって、分かってたでしょ?」

「ははは・・・・・」

 

 紳士に、常人に、優しい人に擬態していても、その実戦を潜り抜け洗練された所作は隠せない。黒いだけの、何の変哲もない刀から放たれる威圧感と闘気は、私を()()()()()()奮い立たせる。

 

 心の底から湧き出るは歓喜。

 

 次いで日本という国への失望と感謝。

 

 こんな、人とも修羅ともつかない、けれどだからこそ素晴らしい逸材を放置し、埋もれさせた日本という国への失望。

 そして、黒鉄一輝を迫害し、結果としてここまで育て上げた日本という国への感謝。

 

 相反する感情をあるがままに受け入れ、歓喜のままに期待を乗せた拳を振るう。

 

「オォおぉオラ!」

「第三秘剣───(まどか)

「──へぇ」

 

 人外の膂力で放たれた拳を受け止め、受け流し、拳を振り切った隙を狙い、そのまま返さず。

 

「そして、第六秘剣─毒蛾の太刀」

「っつ!?」

 

 鬼の膂力を全て内部破壊の振動には変換できなかったものの、その約三割の力に私の体内は攻撃された。

 初めてだった。ここまでのダメージを受けたのは。

 初めて、学生騎士との戦いを、楽しむ事が出来た。

 

「は、ハハハハっ!!!すごいっ!すごいよ一輝!!!!!あっはははははははははははは!!!」

「ッッッ!その、霊装は、もしかして」

「えへへっ。君があんまりにも素晴らしいからさぁ

 ────ちょっとだけ、本気だすね」

 

 

 ─────()()()()()()()()・伊吹萃香

 

 

「お願いだから・・・・・死なないでね?」

「ッッッッッ!!!《一刀修羅》ァァァ!!!!!」

 

 

 

「《四天王奥義ィ」

 

 一歩、踏み出す。制御を外れ漏れ出した魔力が赤い弾幕を形作り、私の周りに配置される。

 二歩、踏み出す。漏れ出た魔力を『萃め』、中型の弾幕に形成する。

 

 そして、三歩。

 

「オォォォォォォォォォ!!!」

 

(逃げ道なんて無い!そして既存の剣技じゃまず()()()()!・・・・・なら、作るしかない。幸いスピード自体は目で追えるし、(一刀修羅)なら追いつける。なら足りないのはパワーだ。『円』で打ち返すなんて恐らく今の僕には出来ない。押し負ける。ならどうするか)

 

「避けて、斬る」

「:三歩必殺》ゥ!!!」

「秘剣:鬼斬ッ!!!」

 

 今まさに額を捉えようとした拳がすり抜ける。空ぶる。

 そして気付く。

 

「痛、い?」

 

 痛みの源に目線を向ける。

 そこは腹だ。腹に、黒い刀が、生えていて。

 

 刀の先には、()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()、一輝が居た。

 

「アハッ」

 

 ふと、出来心で、『茨木の百薬枡』を取り出す。

 そこに、『伊吹瓢』から酒を注ぐ。

 酒は百薬の長。いかなる傷をも癒す。それが、鬼の酒器ならば尚更に。

 造られた薬酒を、一輝の口に注ぎ───

 

「・・・・・一輝?」

「それは、なんだか、ダメな気がする」

 

 一輝は、受け入れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やはり彼は、妖には成れないらしい。

 

 

 

 

《落第騎士》と、《小さな百鬼夜行》の、初めての闘いだった。




秘剣:鬼斬・・・・・《一刀修羅》の強化を脚と腕に集中し、蜃気狼で惑わしながら犀撃を放つ。集中された強化は、制御する箇所を絞ったので少しだけ強化倍率が上がっている。名付けは適当。多分もう出ない。設定もガバガバだけど怒らないでください。

茨木の百薬枡を拒んだ一輝・・・・・飲むと体が鬼に近づく魔法の薬酒。大抵の怪我はたちどころに治り、健康な状態で飲めば一時的に怪力を得る。己の騎士道にそぐわないものだと直感的に理解した一輝は勇華が飲ませようとするのを拒んだ。


すまない・・・・・更新遅くてすまない・・・・・その癖短くてすまない・・・・・
感想下さいお願いします。


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魔人(デスペラード)
己が意思のみで神が定めた運命の鎖を引きちぎり、運命に対する優位性を持つ者。

3年間のあいつとの研鑽は、俺をその領域に連れていった。


たまたま中庭に通りかかると、恋仲のステラちゃんの前で他の女の子の太腿を真剣な表情でベタベタ触っている一輝くんを見つけた。

 

「・・・・・・・・・・うわぁ」

 

引いた。

 

 

 

****

 

 

 

「なーんだ。剣術指南かー、新手のプレイかと思った」

「プ、プレイって、勇華は僕を何だと思ってるのさ」

「変態(剣術家)」

「お兄さま・・・・・やっぱり」

「イッキ・・・・・あんた勇華に何したの」

「いや誤解だから!」

「・・・・・もう、初めてを奪ったくせに」

 

初めての(刀に刺された)経験を奪われたのだ。

嘘は言ってない。

 

頬を赤く染めて、けれど少しだけ陰を感じさせる表情がポイント。

こう、遊び人の妻的な。

 

「イッキ・・・・・やっぱり、私より勇華みたいなのが好みなのね」

「いやいや嘘だからあれ!勇華もふざけすぎだよほんとにやめて!!!」

「てへぺろ☆」

 

一輝くんの額に青筋が浮かんだ。しかし私の崩れない笑顔を見て諦めたのか、大きなため息を吐いて疲れた表情をする。

 

(いつか出し抜いてやる)

 

・・・・・なんか諦めてないような気がするんだけど。

まあいいか。

 

「・・・・・あの時は誤魔化されましたが、もしかしなくてもお兄様が《鬼神(あなた)》や《雷切》と乱交パーティをしたなんて嘘ですよね?」

「私は、三人で試合をしたって言ったんだよ。勝手に勘違いしたのは珠雫ちゃんじゃない」

「・・・・・・・・・・ぐぬぬ」

「やーん可愛い」

「やめてくださいアリス」

 

珠雫ちゃんとアリスちゃん(くん?)のゆる・・・・・ゆり?を見てから色々際どいワードで真っ赤になっているセンパイに視線を移す。

 

「こんにちは、センパイ。お父さんには大変お世話になりました」

「え、あ、こ、こんにちは・・・・・?って!父さんを知ってるの!?」

 

センパイ・・・・・綾辻綾瀬はぐわっと目を見開きずいっと寄ってくる。見た目とは裏腹になかなかアグレッシブな反応をする人だ。

 

「まあねー。初めて私を負かした人だし」

「勇華を!?それはすごいな。流石は《最後の侍(ラストサムライ)》だ・・・・・」

「で、でも、父さんは非伐刀者だ。いくら父さんでも《鬼神》相手じゃ流石に・・・・・」

「どうどう、負けたと言っても六歳の頃の話だし、その頃は《四天王》は無いし、《名前持ち》だって不完全だったんだよ。つまりは多少の超能力と馬鹿力しか無かったんだ」

 

そう。それはまだ、私の()()()()()()()()()()()()()()()。兄の存在さえ知らなかった頃。

 

私が、()()()()姿()()()()()()()

 

 

まあ、そんな事はどうでも良い。

 

 

「その話はいいでしょ。一輝くんも空いてないみたいだし、私は別の場所に行くとするよ」

 

そうして、まだ好奇心が治まらない様子の一輝くん達を置いて、私は中庭を去っていった。

 

 

 

****

 

 

 

「私にとって一番大切なのはお兄様が幸せであること。お兄様が幸せになってくれるのであれば、その相手は別に私で無くとも構いません。その人が、お兄様に幸せを与えてくれるのであれば。お兄様を裏切らず、悲しませないのであれば、私は喜んで祝福するつもりです」

 

──もっとも、私以外にそんな事が出来る人間がいるとは到底思えませんけどね。

 

そう言って、目の前の少女は挑戦的な笑みを浮かべた。

分からなかった。何故、何よりも愛しているであろうイッキを、他人に渡しても良いと思えるのか。

理解できなかった。大抵の相手には我を通せる能力(ちから)を持ちながらも、イッキを手に入れようとしないのか。

力があるのだから、やりたいように───

 

 

そうして、はたと気付く。

 

この思考は、危険だ。とんでもない傲慢だ。独りよがりだ。例えば、本当にただの例えだが──ヴァーミリオンの権力を使って、イッキを手に入れたとして、自分はそれを幸せと思えるのか?

 

そんな筈がない。有り得ない。あってはならない。

 

(勇華に、毒されてるのかしら)

 

「・・・・・その相手が、ユーカであっても?」

 

気になった。あの、清々しいまでにエゴ塗れの、それでいて純粋な少女がイッキと結ばれたとして、目の前の少女はそれを祝福するのかどうか。

 

「あの女性(ひと)は・・・・・よく、分かりません。貴女のように切り伏せたいとは思いませんし、そもそも私程度では傷一つ付けられないでしょう。あの女性(ひと)は単純ですから、仮にお兄様に愛を向けるような事があれば、病的なまでに愛するでしょうね。そしてお兄様は比較的鈍感ですが、それほどの好意を向けられて無視するようなお人ではありません。そして私は、少なくとも今の私は、そのような関係になったお兄様達の間に割り込むなんて不可能です」

「そ、そう・・・・・」

 

話が長い。そしてこいつ、私を切り伏せたいなんて思ってたのか。

・・・・・まあ、今は見逃して上げましょう。

 

 

「そこまで、なの?ユーカは。確かに私も負けたけど・・・・・《天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)》は警戒されたみたいだし」

「有り得ません。確かに貴女は人類最大の魔力量を持っているんでしょうが、貴女如きの技を、彼女が警戒する可能性はゼロです」

「んなっ!」

 

「良い機会ですから、外様のあなたに教えて上げましょう。青木勇華という、《化け物》について」

 

 

****

 

 

まず、前提として彼女を人間だとは思わないでください。彼女は、霊装を展開した状態で産まれてきた、産まれながらの化け物です。・・・・・いえ、彼女に限って言えば、霊装とは態々展開する物ではなく、()()()()()()()。彼女にとって言えば、霊装を隠さなければならない日本は窮屈極まりないでしょう。何故、彼女が日本に留まるのかは知りませんが。

 

ああ、分かりましたから。何故、彼女が貴女如きを警戒する筈が無いと言えるのか、と言いますと・・・・・

彼女と貴女の間には、比べるのも烏滸がましい力量差があるからです。分かりやすく言いますと、彼女の戦闘能力は《比翼》を凌駕します。私自身、詳しい事は知りませんが・・・・・

ええ、勿論、私が黒鉄だから知り得た情報です。ヴァーミリオンである貴女なら、遅かれ早かれ知らされたでしょう。

そして、この情報はそこまで隠されては居ない。一定以上の実力や地位がある者なら知る事が出来る。なぜだと思いますか?

それは、彼女に喧嘩をふっかけて、()()()()()()()()()()()

 

分かりますか?彼女は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




あるべき姿(覚醒超過)


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覚醒(プルートソウル)

足りない。あいつに勝つなら、この程度じゃ足りやしない。

覚醒(プルートソウル)

足りない。足りない。届かない。


覚醒(プルートソウル)
《覚醒》
《覚醒》
《覚醒》


そして、俺は遂に、『異界』へ───


「黒鉄くんがなんと言おうと、ボクは絶対──君に勝つ。勝たなきゃ、いけないんだ」

 

一輝に背を向けた綾瀬は、そのまま暗中に消えていった。

体が重いのは《一刀修羅》の反動か、それとも心を覆う暗雲の重さのせいか。

 

「くっそぉぉぉおぉおおおおお!!」

 

膝をついた一輝は、ただ一人、慟哭した。

 

 

 

 

****

 

 

 

「勝たなきゃいけない・・・・・ね。ダメだなぁセンパイ、それはつまらない。けど、一輝くんの栄養くらいには、なってくれるかな?」

 

───霊装展開:茨木の百薬枡

 

「え、ゆ、勇華くん?」

「セーンパイ。これ、飲んで」

 

 

 

****

 

 

 

少女は優しく、また臆病な女の子でした。家族を知らず、友さえいない。それでも少女は、紛れもなく、輝く『人』でした。

 

そんな少女に、転機が訪れました。

 

少女に、友達が出来たのです。

 

水を綺麗に出来る、素晴らしい能力を持つ少年を中心にしたグループのリーダーでした。

 

水と言えば濁って臭いものでしたから、少女にとって、透明な水というのは衝撃でした。

 

少年達のグループは、その街で暮らす子供たちの、いや、全ての人の希望でした。

 

しかし、そんな生活が長く続くわけもなく、その少年は戦場に行く事になりました。何時でも何処でも清潔な水を提供出来る彼は、貧乏軍隊だったその国には都合が良かったのです。

 

残された子供たちも散り散りに。その街は、また昔のように鬱々とした場所に戻っていきました。

 

そんな日々を過ごしていたある日、唐突に銃声が響きました。

 

ならず者達の侵略です。他に言い方があるのかもしれないけれど、少女はそう表すしか無かったのです。

 

惨劇が始まりました。

 

友達だった少年が肉の塊に変わり、可愛がってくれていたお姉さんは犯され殺されました。

 

怯えて震え、隠れることしか出来なかった少女にも、遂に銃口が突き付けられ、下卑た笑みを貼り付けた男達に囲まれ、それでも動けませんでした。

 

──パァン!

 

少女に鉛玉が放たれました。けれど、少女にそんなものは効きません。

少女は、《伐刀者》でした。

 

しかしそれでも、限界はあります。

未だ人でしか無かった少女は、三つの弾丸を防いだだけで力尽きました。

 

少女の名前は、『雨香』と、いいました。

 

いずれ、勇ましく華開く少女でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───なんだか、とっても悲しい夢を見た気がするなぁ。ボクなんかよりも、ずっと寂しい夢を。

 

 

 

****

 

 

 

『さあ、始まりました!七星剣武祭予選第六訓練場・第一試合!実況はワタクシ、放送部三年の磯貝が、解説は折木先生でお送りします!』

 

女子放送部のアナウンスが入り、選手の入場が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

(・・・・・怖い顔だ)

 

綾瀬は、一輝の表情を見てそんな感想を抱く。今までに見た事がないほどに硬く、険しい表情であった。

 

(でも、これ程冷静さを失ってくれてるなら、あっさり引っかかってくれるかな・・・・・それに、勇華くんに何かをされてから、力が溢れる。負ける気が、しない)

 

『さあそれではご唱和ください! LET'S GO AHEAD(試合開始)!!』

 

 

 

 

短距離走選手のような反応速度で駆け出した一輝は、とある疑問を感じていた。

 

(・・・・・なんだ?この違和感は。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

一輝は、毎日毎日勇華と戦い鍛えられた知覚で、()()()()だけのトラップなど即座に看破していた。

微かな魔力の動きでさえも感じ取れなければ、『散らし、萃める』力の前にねじ伏せられるだけなのだ。

 

(確かに普段は感じない魔力の残滓は違和感だけど、それじゃ無い。強いて言うなら綾辻さん自身だ。確かに反則行為をした事を深層意識で気に病んでいるんだろうけど・・・・・)

 

「かかったッ!」

 

その声によって思考の海から帰還した一輝は、傷を開かれた空間から齎されたカマイタチを、《陰鉄》で斬り裂いた。

 

「は・・・・・?」

 

綾瀬は混乱している。なにせ、自身が反則までして用意した秘策を、()()()()()()()()()のだから。

綾瀬の能力に予備動作はほとんど無い。何せ、傷を付けてしまえば、後は発動させるだけなのだから。だから、その攻撃を回避するには、()()()()()()()()()()()()()

 

(はは・・・・・そっか、黒鉄くんには、小細工なんて通用しないのか・・・・・滅茶苦茶だな。昨日のアレで、ペースは完全に崩せたと思ったんだけど、ね)

 

「・・・・・綾辻さん、貴女は本来誇り高い武人だ。こんな事をせずとも、僕と戦うことは出来る筈だ」

「・・・・・・・・・・

 

一輝の言葉に微かな反応を示したが、次の瞬間に綾瀬は無言で斬りかかった。

不意打ち気味の攻撃ではあるが、この程度の攻撃にやられる一輝では無い。危なげなく受け止め、カウンターの一撃を放つ。

 

「・・・・・重い、な」

 

(やはり、そういう事か。こんな事も出来るとは思わなかったけど・・・・・)

 

「綾辻さん、ソレは貴女から頼んだのかい?」

「・・・・・はは、何でもかんでもお見通しだね・・・・・けど、違うよ。ボクは半ば押し付けられたようなものだ。まあ、今は、感謝してるけどね。だって君に、僕の剣を『重い』と言わしめたんだから」

 

そう言葉を交わしながらも、彼等の剣は止まらない。斬りあげ斬り下げ突いてはいなす。綾瀬は、一輝と()()()打ち合っていた。

 

『おいおい、あの綾辻ってやつ凄くないか?黒鉄と互角だぞ』

『綾辻って・・・・・まさか、《最後の侍(ラストサムライ)》の縁者?』

『まあ、ここまで来れても所詮はFランクって事か』

 

「・・・・・フフッ、本当にすごいや、この力は。ボクみたいな雑魚でも、君と互角に打ち合えるんだから」

「・・・・・・・・・・」

 

そう興奮気味に語る綾瀬の目には、隠しきれない暴性が宿っていた。

 

 

 

****

 

 

 

(一見、力任せの太刀筋に見えるけど・・・・・確かに綾辻一刀流の特徴が残ってる。勇華に剣術なんて扱える訳が無いから、身体の支配を奪った訳では無いだろうな。なら、これは綾辻さん自身の身体能力を底上げしているのか)

 

互角の斬り合いを()()()()()、一輝は綾瀬の正体不明の力を考察していた。

 

(まず間違いなく勇華が何かをしたんだ。勇華は『鬼』だから、反則なんてしないと思ってたけど・・・・・いや、勇華の事はこの試合が終わってからで良い。今は綾辻さんを止めないと)

 

「シッッッ!」

「ぐうっ!?」

 

一見力任せにも見える一撃を綾瀬に放ち、一度距離を開ける。

 

「ぐっ、《風の爪痕》!」

「同じ手は通じないよ!」

 

後退した所に綾瀬の《伐刀絶技》が発動するが、一輝に二度目の、それも一度攻略されている技が通じるはずもない。即座に回避し、さらに距離を取る。

 

「……ボクらは剣士だろう?なんで逃げるんだい?」

「逃げた訳じゃあ……ない、さっ!」

 

一輝が振るった《陰鉄》は、綾瀬の伐刀絶技から解放たれた魔力を()()()()()()()()()()()()()

 

「はあ!?」

「まだまだ勇華には届かないけど、あれだけ見せられればこれくらいは出来るさ」

「意味わかんないね!」

「勇華ほどじゃないよ」

 

強化された身体能力任せに、綾瀬は一輝の弾幕を回避した。逆に言えば、回避出来る程度には、一輝の弾幕は小さく遅いのだ。……とはいえ、以前の綾瀬が避けられるスピードでは無かったのだが。

 

『おい、黒鉄の能力って身体能力倍加だろ?』

『隠してたのか?』

 

観客席がザワついた。勇華は公式戦に出ないため、勇華が独自開発した魔力操作技術だと知られていないのだ。

ただ、《雷切》を始めとした一部の強者(勇華にボコされたやつら)は、()()が勇華の使う魔力運用技術だと気付いていた。

 

『お、おぉ?ここに来て黒鉄選手の新能力が発覚か!?解説の折木先生、これは一体どういうことなのでしょうか!』

『まず、勘違いしてるみたいだけど、あれは能力じゃない。魔力操作の応用である、歴とした技術なんだ。この学園だと青鬼さんがよく使ってる、というか彼女の開発した技術なんだけど……まあ、みんなは知らないよね。実際、あんまり有名な技術じゃないから』

 

勇華は未だに触らぬ神に祟りなしと避けられているので、一輝のように模擬戦を挑む生徒など皆無であり、故に誰も知らない幻の技術なのだ。

ちなみに、本人はいい加減慣れたため数少ない知り合いにちょっかいを出して日々を過ごしている。

 

『なるほどー。では具体的にどういった理論でなりたつ技術なんですか?あれ』

『えっと、確か……魔力を一箇所に集めて、圧縮し、魔力放出の要領で発射する、だった筈だよ。これの凄いところは、魔力操作が一定以上なら、()()()()()()()()()()使()()()って事なんだ』

『んん!?他人の魔力を使える!?どういうことですかそれ!?』

『みんなも分かると思うけど、魔力って基本的に出したら戻せないし、ましてや他人の魔力を取り込んだりなんかできないよね。けどこの技術、通称《弾幕》は、放出した自分の魔力を薄く薄く膜のように広げて、漂う他人の魔力を包み、好きな形に成形するんだ。そしてそれを魔力放出で飛ばすなり黒鉄くんのように《霊装》を使うなりして攻撃する。開発者が基本的に遠距離攻撃として使ってたから、《弾幕》と名付けられたんだね』

 

そしてその声は当然、綾瀬にも聞こえていた。

 

「へえ、そんな技術があるんだ。勇華くんに教えて貰ったの?」

「いいや。勇華は誰かにものを教えられるほど器用じゃない。見て、盗んだだけだよ」

「そっか。いつも通りだね…………まあ、どうでもいいけどー」

 

綾瀬は、もはや並の学生騎士が出せるものでは無いスピードで一輝に迫る。鬼の薬酒は、綾瀬の体を確実に蝕んでいた。

 

「オラァっ!!」

「──第三秘剣:円」

「……グあっ!」

 

一輝は鬼の膂力を打ち返した。それも、微小弾幕のオマケ付きだ。

 

「ぐゥぅ……」

「綾辻さん、聞こえてないかもしれないけど、僕は貴女を尊敬している」

「ラァっ!」

 

躱すまでも無かった。綾瀬の剣術の根幹までをも読み取り、不完全ながら模倣した奥義で、受け流す。

 

「貴女はこれまで、たった一人で、蔵人に勝つため己を鍛えてきた。僕も一人だったから、その辛さは、苦しさは、分かるつもりだ」

「セォァ!」

「だから、君の戦いに敬意を表する」

 

そう言うと、一輝は《陰鉄》を大きく振り、綾瀬と距離を取る。今の綾瀬なら一足で飛び込めるが、僅かに残った剣士としての本能がそれを諌めた。

 

「僕は、君がいずれ至る『最強』で、君の誇りを、剣を取り戻す」

 

薄く、僅かな青い燐光が放たれた。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「《身体能力倍加》そして──綾辻一刀流奥義《天衣無縫》!!!」

「…………あ、あぁぁぁぁああ!!」

 

我武者羅に、綾瀬は走り出した。

 

羨ましかった。自分よりも伐刀者としては劣っているのに、圧倒的とすら言えるその実力を持つ事が。

 

恐怖した。能力に頼らず、純粋な剣の才能で上り詰めたことを。

 

見たくなかった。もっと自分が努力すれば、あの領域に辿り着けると証明されてしまうから。

 

そして、怒った。

己が知りすらしない奥義を知り、あまつさえ、自分を倒す為だけに使った事が。

 

怪力にものを言わせ、魔力放出すら併用した、この日……いや、人生で最高の威力の剣を振り上げる。

悠々と近づく一輝を粛清するために。

 

かくして、剣は振り下ろされる───

 

「あなたにも薄々分かっている筈だ……無駄、だよ」

 

────第一秘剣:犀撃

 

 

『…………し、試合終了ー!!黒鉄選手、またも無傷で勝利!この最強のFランクに勝つ生徒は一体だれだ!?快進撃はまだまだ続く!今年の七星剣武祭はどうなるのか!私まったく分かりません!ただ一つ、これだけは確実に言えるでしょう。黒鉄一輝は、強い!!』

 

会場が歓声に沸く。

 

それに応えるように、一輝は、拳を突き上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、やっぱり一輝くんは期待に応えてくれるねぇ。……大好きだよ。いつか、()を殺してね」




最後はちょっと駆け足。なんかダレてきたんじゃい。
状況を説明すると、綾瀬さんのフルパワー脳筋太刀を《天衣無縫》で受け流して、犀撃で撃破。《天衣無縫》はまだ何かしらの身体能力強化を併用しないと実戦では使えません。


茨木の百薬枡・・・・・酒を注げば、飲めばたちどころに傷を癒す薬酒になる魔法の枡。
また、健康な状態でこの薬酒を飲んだ場合、一時的に怪力が備わるようになる。
ただし、服用後しばらく(一晩程度)時間が経つと鬼のように凶暴な性格になる副作用がある。怪力はこの時も残っているため、周囲に死傷者すら出るほどの大迷惑をかけてしまう。

pixiv百科事典より抜粋


独自設定の技術、《弾幕》
勇華が使うスペカの弾幕をどう再現するか悩んだ結果の謎技術。基本は本編でも言ってる通り。ちなみに魔力の少ない一輝くんは、霊装で直接滞空魔力を絡めて集めてるって設定です。というか一輝くんは魔力少な過ぎてこうするしか無いです。魔力操作こそ勇華との戦闘で底上げされてますが、魔力量は《覚醒》するまでどうしようもなく……。ちなみに、一輝くんの《覚醒》のタイミングは原作より早くなる予定です。

原作では今のところ放出された魔力がどうなるのか記述されてなかったと思うので、独自設定を捩じ込みました。


B.A.D.については知らない人も多いと思うので簡単に説明致します。

残酷に切なく、醜悪に美しいミステリーファンタジー。
死者と言葉を交わし、『異界』と最も深い繋がりを持つ少女、繭墨あざか。鬼を孕まされ、死にかけたその時にあざかに救われた青年、小田桐勤。
『空から降る臓器』の事件を切っ掛けに、彼らは『狐』の暗躍を知る。果たして小田桐は、自身の因縁を前に何を思うのか。大切なものを守れるのか。

概ねこんな感じの話です。全13巻で外伝4冊。グロいです。そして人が死にまくります。準レギュラーくらいなら容赦なく殺されます。そういうのがダメな人はお気をつけを。

以下、B.A.D.本編について多少のネタバレあり。












『異界』
『紅い女』が住む、文字通り異なった世界。異能の産物が現世に増え過ぎると、世界が『異界』に傾いて大変な事になったりする。『狐』が起こす事件の大元は大体ここに繋がる。

『鬼』
勇華が体現している鬼は今のところ東方の鬼達のみ。けれどB.A.D.で鬼と言えば・・・・・

『鬼を孕まされた小田桐さん』
アッーされた訳では無いです。子宮を埋め込まれただけです。






興味の沸いた人はぜひ読んでね!(ダイマ)


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なあ、青鬼勇華。お前は黒鉄のどこが気に入ったんだ?

なあ、青鬼勇華。お前はどうして独りなんだ?


なあ、青鬼勇華。お前は────




どうして、泣かないんだ?


 なんだか知らないが、一輝くんがまたやらかしたそうだ。

 相手はソードイーターだかなんだかの伐刀者。何が楽しいのか知らないけど道場破りをして夜な夜な徘徊する基地外らしい。まあ要するにバカだね。

 今ブーメランとか言った奴ぶん殴りに行くから震えて待ってろ。

 

 で、まあ、なんか色々あって合宿所に巨人退治に行くらしい。

 暇だし、私も行こうかな。

 

 

 

 ……ん?どしたの一輝くん。へ?私がセンパイになにかしたのかって?

 

 

「んーーーー…………ああ、そう言えばやったかも」

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 青鬼勇華は、決して善では無い。どちらかと言えば悪に分類されるだろう。もちろん殺人やらを楽しんでいる訳では無いし、年齢相応の喜怒哀楽も持っている。

 それでも、その精神性は普通とは言えない。

 

 犯罪者とは言え人間を、大量に、なんの感慨もなく殺戮して、それを気に病むことも無く日常生活を送る。

 一般的な感覚で言えば、間違いなく狂っている。何人もの『善人』がそれを正そうとしては、彼女の更なる成長の糧にされた。文字通り、余す所など無く。

 

 

 彼女は人間では無い。人の心に似た何かを持った、紛うことなき『化け物』である。

 

 

 

 確かに、彼女は僕を助けて──向こうにその気が無いとはいえ──くれた。それでも、僕には彼女が理解出来ない。初めて会ったその時から、僕らは余りにもズレていた。

 

 

 

 

 

 未来の僕は、彼女と共に歩めるのだろうか。

 

 彼女の隣に立つ人は、現れるのだろうか。

 

 

 もし、彼女が『人間』にならないまま生きていくとして。

 もし、僕が『人間』のまま歩み続けるとして。

 

 何時か、僕らの道は、決定的に分かたれるのではないか。

 そんな予感を、覚えた。

 

 

 

 ****

 

 

 

「やま!!」

「うるさい黙れ」

 

 私は帰ってきたぞ!山に!別に山生まれでは無いけどな!

 そんな気持ちを込めて叫ぶと、なんか銀髪のショタに怒られた。解せぬ。

 

 なにやらカレーライスを作るらしい。山に来たならキャンプの定番カレーでしょって言ってる。私は知らないけどね。

 

 けども一輝くん。君がエプロン萌えだとは知らなかったよ。

 

「いや、そういう事じゃないからね!?」

「知らないよ、楽しそうなこと(道場破り破り)に誘ってくれなかった一輝くんなんてさ。でも、まあ、それで正解だったよ。誘われたら、私はきっと、殺さずにはいられなかった」

「…………」

 

 でもね、一輝くん。

 

 自分の価値を信じ続けるくせに、母性一つで不安がる、『人間』の一輝くん。

 私みたいな狂人と渡り合える、狂った一輝くん。

 

 私は、君の剣をより重い(もの)を、知らないな。

 

「だって君は──」

 

(狂っているから)

 

 

 

 ****

 

 

 

 狂人の剣の重さは、狂人にしか量れない。

 東堂刀華が家族の想いを剣に乗せるなら、狂人は狂気を乗せる。それが、狂人が持つ唯一のものだから。

 

 純粋に練り上げられた渇望は、剣気となって()に宿る。途方もない研鑽と、己の価値を信じ続ける狂信は、重い軽いでは量れない。

 

 それを、世界で最も狂っている鬼だけが、理解していた。

 

「ああ、まただ。またこれだ。鼻がねじ曲がるようなドブの腐った臭いだ。臭う。臭うぞ糞共───今度こそ死にたいか。汚物人形」

 

 ──そして、お前の魂を喰ってやろう。




珠雫が刀華に負けたことにも触れない勇華。それなりに気に入っていても、心配なんてするはずも無く、まして励ますなんてありえない。青鬼勇華とは、そういう存在なのだから。




原作15巻読み切ったので初投稿です。短くてごめんなさい。
15巻にしてようやく第五秘剣が出たので嬉しかったです。

そして勇華が誰かをロックオンしたようです。
……ドナドナ?

それはそれとして大往生した一輝くんがヒロアカの出久くんに第二人格みたいな感じで取り憑いて技量チートする夢を見たんだが疲れてるんだろうか。


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