バレットガールズIF ~もしも岬守学園が共学になったら~ (土居内司令官(陸自ヲタ))
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sortie1 プロローグ

 雨の中、1人の少年が傘をさして歩いていた。

 閑静な住宅地、家々に明かりが灯っているが、道を歩いているのは彼だけだった。

 

 やがて、彼の家に着いた。しかし、その門の前に女性がうずくまっていた。

「もしもし? 家、間違えてません?」

 彼が声を掛けると、その誰かは顔を上げた。整った顔、長い紫髪、同世代を凌駕するバストサイズ――

「麻衣姉?」

「千夏、ごめんね――」

「と、とにかく上がれって。びしょ濡れじゃないか。風邪を引いたら――」

「本当、お節介な所は変わらないのね」

 

 家に上がり、彼はカバンを玄関に置いて脱衣所へ向かった。

「タオルは適当に使って。シャワーの使い方、分かる?」

「怪しいわ」

「ここにある給湯機のコントローラーの、[電源]っていうボタンを押してしばらくすれば、お湯が出る」

「ありがとう♪ それと、乙女を裸で歩かせるの?」

「……着替え取ってくる。服は洗濯機に放り込んで――あぁ、駄目だ。服を痛めちまう」

「気にしないわ。ここまでぐしょぐしょに濡れていたら――」

「あー、ここにハンガーがあるから、これで干して。扇風機を当てれば、多少早く乾くから」

「ねぇ?」

「何だよ?」

「私の身体、そんなに見たい?」

「出るよ! 出るから! 今ここで脱がないで!」

 

 何だかんだで彼は脱衣所を出て、階段を昇る。そして、彼の部屋の押し入れを開け、適当にTシャツと短パンを選んだ。

「麻衣姉、廊下に着替え置いとくよ」

「どうせなら、脱衣所に置いてよ。覗いてもいいから♪」

「覗かないよ!」

 

 

 

 その後、彼がリビングでテレビを見ていたら、彼女がリビングにやってきた。

「ありがとう♪ でも、あなたの服を着せるなんて、私にマーキングしたいの? それとも――私の匂いをオカズにするの?」

「どっちでもないよ!」

 彼女は、ソファに座る彼の隣に座った。

「ねぇ?」

「何だよ?」

「理由、訊かないのね」

「訊いたら悪いでしょ」

「私、そんな態度を取った覚えは無いわ」

「――ココア、淹れようか?」

「優しいのね。訊かないなら、私が話すわ。独り言として聞いてちょうだい」

「…………」

「部活の事で、親とケンカしたのよ。私はレンジャー部を続けたいけど、父は吹奏楽部にさせようとしていたの。幸い、顧問が説得してくれたけど、今度は私に強く当たるようになっちゃって」

「――家を飛び出してきた?」

「ご名答。あなたには迷惑掛からないようにするけど――そういえば、ご両親は?」

「父さんは単身赴任、母さんは夜勤。だから、明日の朝までは帰ってこないよ」

「そう、せっかく挨拶出来ると思ったのに」

「何の挨拶!?」

「ふふっ、冗談よ♪ でも、4年後には冗談じゃないかもね」

 

 

 

 ――2年後、物語は始まる。

 



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sortie2 ガングレイヴ

 私立岬守学園、神奈川県 横浜市にある、創立149年となる由緒正しきお嬢様学校だ。

 「専守防衛」を校訓とし、「守るための攻め」を追求したスタイルで全国に名を馳せる指定防衛校の1つでもある。

 しかし、近年の少子化による入学生の減少が深刻化しつつあった。このままでは学園が経営難に陥ってしまう、そこで共学制度を取り入れるという思い切った決断がなされたのである。

 

 

 

「今年の1年、共学だって?」

 オレンジ色のショートヘアを風に揺らしながら、あんパンを頬張る女子高生が呟く。

「レンジャー部にも男が入んのかなぁ……」

「それはそれで、面白そうじゃない♪」

 オレンジショートヘアの隣にいた、ウェーブがかかった長い紫髪の女子高生が返す。すると、オレンジショートヘアが言い返した。

「くれぐれも下着姿でほっつき歩かないでくれよ? 風評被害になりかねないし、まず第一に振る舞いとしてどうかと思うぜ?」

「その辺は気を付けるわよ。幼稚園児じゃあるまいし」

 

 

 

 

 

 

 入学式から数週間、仮入部期間が終わり、本入部の時期となった。

 私立岬守学園を始めとする指定防衛校では、全ての生徒は部活動もしくは委員会に入る事が義務付けられている。勿論、陸上部やテニス部といった普通の部活動もあるが、変わった部活もある。

 戦車や歩兵戦闘車を取り扱う「機甲部」、榴弾砲やロケット砲を専門とする「特科部」、ヘリコプターを操縦する「飛行部」、一般的な歩兵を担う「も部」、そして少数精鋭の特殊部隊、「レンジャー部」等々……。

 

「はぁぁ…………」

 本入部の時期となり、テンションの高い生徒が多い中、1人の女子生徒が肩を落として歩いていた。

「何で入部届を出し間違えたんだろう……」

 そんな事を呟きながら、赤いショートヘアの女子生徒が廊下を歩く。

(何で『ある程度成績を出さないと転部出来ない』なんて、理不尽な校則があるんだろう……)

 がっくしと肩を落として歩くが、ふと彼女の頭にある考えが浮かんだ。

(成績を出さないと転部できないなら、その成績を出せばいいんだ! 我ながら名案だね!)

 すっかりテンションがV字回復したものの、何かにぶつかった。

「あでっ……ご、ごめんなさい!」

「すいません、こんな所で立ち止まってて――」

 その時、彼女は驚いた。おかっぱっぽい髪型だが、穿いているのはスカートではなく長ズボン――

「お、男ぉ!? ――あぁ、そうか。外進(外部進学生、中高一貫等で高等過程等の途中から入学した生徒)の方ですか?」

「ええ、まあ。1年 I組(都合により、GとHは欠番)の鳥尾 千夏です」

「同じ学年だね! 私、1年 D組の火乃本 彩っていうんだ」

「よろしく、火乃本さん。今、レンジャー部の部室を探しているんだけど、配られた地図がよく分からなくて――」

「同じだね! 私も、これからレンジャー部に行くところだったんだよ。だけど、高等部の校舎は初めてで……」

「じゃあ、一緒に探すか、火乃本さん」

「うん! あ、彩って呼んでいいからね、千夏君?」

「分かった、彩さん」

「もう、さん付けは止めてよぉ」

 

 

 

 かれこれ30分以上歩き回り、漸く別棟 2階にあるレンジャー部部室を2人は見つけた。

「訊いた上級生が親切な人で良かったよ〜」

「そうだな」

「あれ、仮入部の時に来たんじゃないの?」

「あの時は射撃場集合だったからさ」

「なるほど、そうだったんだ」

「彩さんは仮入部に来てなかったの?」

「実は、救護部に入りたかったんだけど、入部届を間違ってここに出しちゃって……」

「普通入部届を出し間違える?」

「だよね〜……」

 そして、2人は[レンジャー部]と書かれた引き戸を開けた。

「「お邪魔しま――あれ?」」

 見事にハモる2人。というのも、レンジャー部がもぬけの殻となっていたからだ。

「もしかして、集合に遅れちゃった?」

「入部早々、説教確定だな」

 そう言いながら、2人はレンジャー部部室を見渡す。

「ロッカーが11個ある……見て見て! 私と千夏君の名前があるよ!」

 彩が、壁沿いに並べられたロッカー達を指差す。かなり端に、[火乃本 彩]と[鳥尾 千夏]と書かれたロッカーがある。

「私のロッカーが、ラッキーカラーの赤だ! 千夏君のは……ワインレッド?」

「赤紫と言おうな?」

 そんな千夏のツッコミを尻目に、彩はロッカー達を見比べる。すると、ピンク色のロッカーに目が止まった。

「あ! 『スイーツ☆が〜るず』のシールが貼ってあるよ! 私も毎週見てるんだよね〜。変身シーンがカッコカワイくて――千夏君は好きな番組はあるの?」

「ん〜、あえて言うなら、『ハンチョウ』とかかな? 最近の刑事物としては珍しくドンパチシーンがあって、何より安積班長がベレッタ M9A1を使ってて――」

「千夏君、もう終わった番組だよ?」

「言わないでくれ、死ぬほどへこんだから。まぁ、『相棒』とか『ガンゲイルオンライン』かな?」

「一気に方向性変わったよ!?」

 その時、誰かが部室に入ってきた。

 



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sortie3 ウォッチドッグス

「今日のおやつは……和菓子か。しかし、サボリか遅刻やな」

 突然レンジャー部部室に入ってきた、陸上自衛隊の女性自衛官用制服(冬)っぽい服を着た女性が、壁に貼ってある紙を見ながら呟いた。

 そして、千夏がその女性に話し掛けた。

「星川先生、今日の部活って――」

「おー、千夏、来てたんか。今日の集合時間については、LINEで知らせたはずやけど?」

「え」

 そう言われ、千夏はブレザーのポケットからスマートフォンを取り出し、[緑の吹き出し]アプリを開いた。[レンジャー部]と記されたコミュニティーをタッチすると、

 

[めいか:今日は4時に点呼な。その後は自由に練習しなはれ]

 

 とあった。

「隣のは、火乃本 彩やったな?」

「は、はい! それで、どちら様で?」

 彩にそう問われ、女性ははっとした。

「自己紹介してへんかったな……星川 冥香、ここの顧問や。一応、3年 A組の担任と英語を教えとるもんや」

 そう女性は名乗った。すると、彩が質問をした。

「あの〜、おやつって一体?」

「ん? 3時に食べる軽食以外に何があるんや?」

「いや、それは分かるんですけど……」

「ま、このレンジャー部では、おやつが義務やからな」

「義務なんですか!?」

 驚く彩に対し、冥香が突然千夏に話を振った。

「千夏なら理由は知ってるやろ?」

「ええ、まぁ。彩さん、アメリカ軍のMREって知ってる?」

 千夏にそう問われ、無い知識を絞る彩。

「MRE? ……健康診断の?」

「それはMRI。しかも定期検診の。……まぁ、『Meal Ready to Eat』、『手間なしで食べられる食事』という、アメリカ軍のレトルト食品さ。『エチオピア難民すら食べない食いもん』とか『食べ物に似た何か別の物体』とか言われていたけど」

「千夏、それは古い話や」

「……まぁ、その中にチョコレートが入っている訳だ」

「えぇ!? アメリカの兵隊さんって、チョコレートを携帯しているの!?」

 すると、冥香が口を開いた。

「だいぶ古い話やが、進駐軍の兵隊に『Give me chocolate!』とおねだりするとチョコくれたって、うちのお袋が話しとったなぁ」

「かなり古いですし、年バレますよ?」

 冥香の思い出話に千夏がつっこむと、冥香が特製ハリセンで千夏の頭を思いっきりひっぱたいた。

「黙らんかい! 今度年の事を口にしたら、容赦せんで!?」

 そう言って、冥香は腰に下げたヒップホルスターを叩いた。そこには、かなり大型のM29回転拳銃が収まっていた。

「すんません……」

 目の前の即行コントにたじろぎながら、彩が話題を戻した。

「それで、アメリカの兵隊さんは占領地の子供達を手懐けるためにチョコレートを持っていたの?」

 その言葉で、千夏ははっとした。

「あぁ、いや、それもあるかもしれないけど、一番の目的は『疲労回復』のためだ。ほら、頭や身体を激しく動かした後、甘い物が欲しくなるだろ?」

「確かに……つらいトレーニングを終えたら、無性にパフェが欲しくなるんだよね〜」

「そういう事。軍人だって甘い物が欲しくなるんだよ」

「だから、おやつが義務なんだ!」

 彩、ようやく納得する。

「せやろ? 成績アップに繋がるんなら、お菓子の携帯も認めとるしな」

 するとそこで、部室の扉が開いた。

「すみません、遅くなりました……」

「どーもー、いきなり遅刻して申し訳ありません!」

「……すまない」

 

 

 

 いきなり入ってきた3人に、彩と千夏が驚く。

 1人は、長くてウェーブがかった栗色の髪の女子。1人はエメラルドグリーンの短髪の男子。1人は白髪ショートボブの女子だった。

「1年 D組の金園 優里奈です……」

「1年 I組、牛飼 文彦です! 弾幕仕事なら任せてください!」

「I組、鷹田 織乃。狙撃させてもらえるなら、それでいい」

 3人それぞれが自己紹介し、彩達も自己紹介した。

「ここの顧問の、星川 冥香や」

「1年 I組の鳥尾 千夏です」

「D組の火乃本 彩です! 金園さん、レンジャー部だったんだ!」

「……優里奈」

「え?」

 優里奈の小さな声に、彩が反応した。

「優里奈、でいいです……」

「そっか、じゃあ優里奈ちゃんって呼ばせてもらうね?」

「はい、彩ちゃん」

 するとそこへ、またもう1人やってきた。

「さぁて、新入部員はと……5人全員いるな?」

 それは、オレンジ色のショートヘアのボーイッシュな女子高生だった。

「お久しぶりです、陽希さん」

「お! 千夏じゃないか! だいぶ背伸びたな〜! 昔みたいに『陽希姉ちゃん』って呼んでもいいんだぞ?」

「あの時から6cmしか伸びてませんよ。それに、その呼び方恥ずかしいですし」

「いいじゃねぇか、あたしとの仲だろ〜?」

 そこで、オレンジショートヘアがはっとした。

「ああそうだ……早乙女 陽希、ここの副部長だ。千夏とは、古くから付き合いがあってな。いわゆる幼馴染って奴だ」

 そう自己紹介し、1年生達も各々自己紹介した。

 

 自己紹介が終わり、陽希はオレンジ色のロッカーから、かなり長めのライフル――H&K HK417――を取り出し、チェストリグを身に着けて予備弾倉を手に取った。

「じゃ、早速技能テストといくか!」

「あの、ちょっと待ってください!」

 彩の声に、陽希が止まった。

「何だ?」

「あの、成績とかって――」

 すると、冥香が口を挟んだ。

「あのな、彩は救護部志望やったんや」

「つまり、転部のための成績という事か。悪いな、夏まで待て」

 陽希の言葉に、彩はショックを受けた。

「そ、そんな〜!」

「そりゃそうだろ? 新兵をいきなり戦場に放り込む時代はベトナムで終わったんだ。今は充分訓練を行ってからだ。まず第一に戦場が少なくなっているけどな」

 すると、優里奈が口を開いた。

「彩ちゃんは……レンジャー部が嫌なんですか?」

 その問い掛けに、彩は慌てた。

「いや、そんなんじゃないんだけど……」

「彩、レンジャー部に入って残念って思ってるだろ?」

「いや、その……」

 陽希の問い掛けに、彩はしどろもどろになる。

「言っとくが、救護部も生易しくないぞ。高校の救護部は、敵地に取り残された味方を救出する、いわゆるパラジャンパーを担うんだ。当然高いスキルが要る。ここでの経験は、決してマイナスにはならない。むしろプラスになると思うぜ?」

「そう……ですか?」

「ああ。ま、頑張ろうぜ?」

「は、はい!」

 



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sortiy4 キルゾーン

 私立岬守学園 北部、複合射撃訓練場――

「GO!!」

  掛け声と共に、銃声と一緒に扉が開き、高校生達が突入、次々と人型的(マンターゲット)を撃ち抜いていく。5.56×45mm SS109弾(訓練弾)の黄金色の薬莢が床を跳ねた。

「撃ち方止め、撃ち方止め! Cease fire!」

 入り口の所に立った陽希が、腰に手をあてながら叫んだ。

「全く、遅い遅い! 一応中学で基礎訓練は受けてんだろ? クリアリングはスピードが命なんだ! よし、最初からおさらいだ!」

 

 6人は建物を出る。そして、陽希は5人を並べさせた。

 扉に近い順に、優里奈、彩、千夏、文彦、織乃が並んだ。

「まず、優里奈がトラップを確認し、ショットガンでドアを開ける。まぁここでは『フリ』だがな。で、ここからだ」

 そう言って、陽希は優里奈にM870MCS手動散弾銃を構えさせる。

「まずブリーチング弾でドアノブを吹き飛ばし、優里奈がドアを蹴り開ける」

 言われた通り、優里奈はドアを蹴り開ける真似をした。そして優里奈は素早く脇にどいた。

「ここだ。ここで、一気に彩が突入するんだ」

「で、でも……いきなり入ったら蜂の巣にされそうで……」

 89式5.56mm小銃を手に嘆く彩に対し、陽希は溜め息をついた。

「あのなぁ、敵は突然の襲撃に硬直してるんだぞ? その硬直が融けるまでは1.5秒、さっさと入らないと逆に蜂の巣にされるぞ」

「は、はい……」

 

 すると、そこへ2人組がやってきた。

「陽希さん、それが新入部員ですか?」

「5人も入るなんて、驚いたぞい」

 1人は、青色の髪を後ろで1つに束ねた、赤縁メガネの女子高生で、腰に日本刀、右手に89式5.56mm小銃を携えている。

 もう一方は、緑色の髪をサイドアップに纏めた女子高生で、84mm無反動砲(B)のキャリングハンドルを持ち、首から負い紐で9mm機関拳銃を提げていた。

「2年の神代 海凪だ。こっちは同じく2年の――」

「木住野 玲美、よろしくなのだ!」

「もしかして、あの『剣豪海凪』さんですか!? 色紙持ってくればよかった……」

 文彦が、しまったという顔をしながら言った。すると、海凪が反応した。

「私を知っているのか?」

「前に、雑誌で指定防衛校特集を見かけて、そこに『神奈川注目、弾丸飛び交う戦場を駆けるサムライ』って載ってたんですよ」

「確かに、取材を受けた覚えはあるが……」

「羨ましかったなー、麻衣と一緒にTDA(Tactical Defense and Attack)誌に載っちまうんだもん」

 陽希がそう言うと、海凪は申し訳なさそうな顔をした。

「申し訳ありません。上級生よりもでしゃばってしまい――」

「いいって。選ばれたのも実力の内だし、あたしのようなミリオタなんてゴロゴロいるし」

「そう言えば、新入生の名前を聞いてなかったな」

 海凪がそう言い、1年生達は自己紹介をした。

 

「それで、火乃本以外は私物を使っているのか?」

 自己紹介を終え、海凪は優理奈、千夏、文彦、織乃が手にしていたり、背負っていたりする銃――M870MCS手動散弾銃、M933自動小銃、QBZ-97A自動小銃、M16LSW重小銃、SG550自動小銃――を見て呟いた。唯一彩だけが、学園支給の89式5.56mm小銃と9mm拳銃を使っている。

「彩、何かしら武器を買わないのか?」

 陽希がそう尋ねると、彩は後頭部を掻きながら答えた。

「その〜、あんまり銃に詳しくなくて……でも、89式は使い慣れてるし、海凪さんのだって――」

 彩の言葉にショックを受ける陽希の隣で、海凪は言葉を返した。

「これは私のだ。レートブースターを組み込み、バットプレートもより吸収性に優れる物に交換している。支給品の89式なんかとは違うのだよ、支給品とは」

 するとここで、陽希が手を叩いた。

「よし、特訓再開だ! 海凪、玲美、悪いが――」

「分かりました」



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sortiy5 状況開始っ!

 約2ヶ月後――

「世間では夏休みで浮かれとるが、ここに『休み』なんてもんはない! 今年も『夏期合宿』の始まりやで!」

 冥香の高らかな宣言に応えたのは、陽希、海凪、玲美、千夏、優里奈、文彦、織乃だけだった。

「すいませーん、遅くなりましたぁ」

 そこへ、彩が走ってやってきた。集合場所にやってきた彼女は、大きく肩で息をする。

「全く、初日から遅刻か?」

 陽希の言葉に、彩は謝った。

「ごめんなさい」

「まぁ、場所が場所だからな。初めての奴は戸惑うだろうし」

 ここは、神奈川県 横浜市 港北区にある日産スタジアム、最近横浜市立小学校の合同運動会が開かれているのだが――今でもやってるの?

「遅刻ならまだいい方で……咲姫の奴、またサボりか。月代は多分どっかにいるだろうし、麻衣はいつも通り校外業務」

 陽希がそう言うと、彩が質問した。

「あのー、校外業務って?」

「あぁ、簡単に言えば挨拶回りさ。いつもお世話になってる豊和工業、ミネベアミツミ、ダイキン工業、三菱重工、川崎重工、スバルにトヨタに……挙げてったらキリがねぇ。本来は、顧問の仕事なんだけどな」

 そう言いながら、陽希は冥香を見た。

「しゃーないやろ、一身上の都合なんやから。でもな――」

 冥香は、1年生達を見回す。

「校外業務ばかりやからって、弱くは無い。むしろ県内最強や、現役の中ではな」

 その言葉と迫力に、1年生達は身震いした。

「確かに、1度たりとも勝たせてもらった事は無かったな」

「ふにゃー、カラダつきもそうだが、戦闘能力もチートだぞい」

 海凪と玲美が順々に言い、1年生達は新入部員歓迎会に来ていた麻衣の事を思い出した。

(あのカラダつきは、確かに卑怯だよ……)

(165cmの88-59-88、典型的なボンキュボンね)

(麻衣姉ぇ、ますます美人になっちまって……)

(あんなの落ちない男はいないよな)

(伏せ撃ちが出来なさそうな体型だった……)

 思い思いの感想を抱いていると、陽希が手を叩いた。

「細かい事は置いといて、まずは簡易任務からだ」

 それを聞き、1年生達は気を引き締める。

「ここから新横浜駅へ向かい、駅ビルの中にある岬守の校章5個を集めるんだ。それをゲット出来れば、あたしと戦ってやっていい」

「つまり、陽希さんを撃破出来れば、成績を取れるという事ですね!?」

 早合点し、喜ぶ彩。しかし、陽希は彩をたしなめるように言った。

「おいおい、そんな簡単な話じゃないぜ? あたし以外にもいる上級生全員を倒す事が転部の条件だ」

「えぇ~っ!?」

 

 すっかり項垂れた彩を尻目に、陽希は1/2tトラック(パジェロ)で何処かへと出掛け、残りの1年生達は装備を身に着ける。巨大なバッグからチェストリグと予備弾倉、ショルダーウェポン(長物)を取り出し、レンジャー部の96式装輪装甲車に積まれた弾薬を弾倉に込め、それをマグホルダーに突っ込む。

「ほら、彩さん」

 千夏に促され、彩も渋々装備を整える。89式5.56mm小銃に30連弾倉を装着、槓杆を引く。

「そーいや、リーダーはどうする?」

 文彦の一言に、1年生達は互いの顔を見合わせる。すると、織乃が口を開いた。

「……適切なのは、1人しかいない」

「そうですね、私もそう思います」

「私も、1人しか思い浮かばなかったよ」

 優里奈と彩も続けて言う。そして、文彦はとある人物を指差し、こう言った。

「僕達の命運、お前に預けるぜ、千夏」

そう言って、皆千夏を見た。千夏は一瞬「えっ?」となるが、すぐに頷いた。

「分かった、負けないように頑張ろう」



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sortiy6 ヴィジュアルバンディッツ

 5人は周囲を警戒しながら、浜鳥橋交差点へと向かい、横浜市総合リハビリテーションセンターの駐車場に止まっていたバスの陰に隠れた。

「2人ずつ、あの橋を渡ろう」

 千夏の提案に、彩以外の全員が頷く。

「どうして2人ずつ? 一気に渡った方が――」

「スナイパーや機関銃を警戒して、だろ?」

 彩の疑問に、M16A2LSW重小銃を手にした文彦が解説すると、千夏は頷いた。

「その通りだ」

「でも、いきなり襲われたりなんて――」

「あくまでも陽希さんは『新横浜まで行けば』としか言っていなかった。つまり、途中で戦闘があるかについて言及していない。なら、注意しておいて損は無いでしょ?」

「……確かに」

 ようやく彩は納得した。そして千夏は、ポーチから単眼鏡を取り出し、バスの陰から顔を覗かせて窺う。そのすぐ側で、織乃がSG550重小銃の二脚を開き、伏せて構えてスコープを覗いた。

「スナイパーはいそうか?」

「……訊かないで。第一、簡単に見つかったらスナイパー失格」

「だよなぁ……」

 そして、千夏は指示を出した。

「彩さん、優理奈さんが先に渡って。その後に俺と織乃、文彦は殿だ」

『了解』

 

 89式5.56mm小銃を手にした彩と、M870MCS手動散弾銃を背負ってM933自動小銃を持った優理奈が、橋を走って渡る。

(もし、スナイパーが狙っていたら……機関銃がこっちを向いていたら……)

 彩は不安になりながらも2人は橋を渡り切った。すぐに川沿いの植え込みに隠れ、無線で連絡した。

〔了解、そちらへ向かう〕

 

 そして5人は橋を渡り、市街地に突入した。

 

 

 

〔市街地に突入しました〕

「了解。手筈通りだ、気付かれんなよ?」

〔了解〕

「さて、アップしとくか」

 HK417自動小銃の槓杆が引かれた。

 

 

 

 市街地を、上や周囲を警戒しながら進む。すると、彩が何かに気付いた。

「ねえ、何か聞こえない?」

 その言葉で、全員が耳を澄ます。すると、キュラキュラキュラという音と地響き――

「戦車だこれ!」

 文彦が叫んだ。そして、交差点から「それ」が出てきた。丸みを帯びた砲塔、クローラを隠すサイドスカート、突き出た105mm L7A1ライフル戦車砲、正面防楯上に付けられた12.7mm M2重機関銃、車長用キューポラの全周囲シールド、砲塔前面の巨大な投光器――三菱 74式戦車であった。

 市街戦用カスタムが施されたそれは、砲塔が旋回、4丁の機関銃が5人を狙う。

「戦車いるなんて聞いてない!」

「こっちには対戦車兵器はねぇんだぞ!?」

「逃げるぞ!」

 真っ青な顔の彩と文彦が叫び、千夏が撤退を促す。しかし――

「いたぞー!」

「喰らえー!」

 74式戦車に乗っているもぶっちが、機関銃の押金を押した。



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sortie7 タリ=イハンタラ

 4丁の機関銃が火を吹いた。コンクリートの壁や装甲車を破壊する12.7×99mm NATO弾、そして人体をミンチにする(模擬弾のためそうはならないが)7.62×51mm NATO弾が毎秒40発を超えるレートで撒かれた。

 5人は機関銃の弾幕の中、逃げる。曲がり角を曲がり、弾幕をかわした。しかし、その先には、96式装輪装甲車。そして、その銃座が旋回し――

 

「あーあ、正面から突っ込んでいくから。ま、いずれにしても包囲するつもりだったが。――にしても、いきなり戦車とかち合うとは、運の無い連中だ」

 岸根公園で、陽希がタブレット端末を見ながら呟いた。

 

 

 

 5人は急ぎ、近くの建物へと逃れる。が、突然彩が倒れた。

「彩ちゃん!」

 12.7mm M2重機関銃の弾幕の中、倒れた彩に優理奈が近付き、両脇を抱えて引きずった。素早く千夏と文彦が支援射撃、96式装輪装甲車の銃座を撃つ。しかし、銃座を囲んだ防楯によって、5.56×45mm SS109弾(模擬弾)は容易く弾かれた。

 2人は柱に隠れ、弾倉を交換する。

「クソっ、何かしらの対戦車兵器持ってくりゃよかった!」

 M16A2LSW重小銃のボルトストップを押しながら、文彦は愚痴る。すると、QBZ-97A自動小銃のコッキングハンドルを引いた千夏が応えた。

「そういえば、部室のロッカーにミネベアの66mmグレネードランチャーがあったな」

「なんつー骨董品だよ……」

 そんな中、建物――新横浜ラーメン博物館――の中を物色していた織乃が、何かを見つけた。

「こんなのあった」

 木の棒の先っちょに、菱形の炸薬が付いたそれ――パンツァーファウスト30対戦車擲弾筒――を、織乃は文彦に渡した。

「ナイスだぜ!」

 早速文彦はパンツァーファウスト30対戦車擲弾筒の発射筒を脇に挟み、ランチャーサイトを起こした。そして、96式装輪装甲車を狙い、押し金を押した。

 

 発射された擲弾は、見事96式装輪装甲車に命中、一撃で吹き飛ぶ。そして、降りようとしていたもぶっち達も一緒に吹き飛んだ。

「見事なもんだ! 連中、月まで飛んでったぜ!」

 ガッツポーズをする文彦の隣で、千夏はポーチからM26A1J破片手榴弾を取り出し、手頃なコップと紐を見つけ出した。

「織乃さん、トラップを仕掛けるから手伝ってくれ。文彦は優理奈さんと一緒に降りて、非常口を探してくれ」

「分かった」「了解」

 千夏と織乃は小銃を背負い、簡易的なトラップを仕掛ける。

 

 その間に、彩を背負った優理奈と文彦は階段を降り、地下へと向かう。

 そして優理奈は、適当なベンチで彩を下ろし、彼女に応急医療キットを打った。



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sortie8 インセプション

 新横浜ラーメン博物館、その地下にある昭和風の街並みへと、もぶっち達が突入した。広場を見下ろす階段を、MINIMI軽機関銃を持ったもぶっちが陣取る。そして、左右へと分かれた通路を

、89式5.56mm小銃を手にしたもぶっち達が進む。

 右へと進んだ数人のもぶっち達は、突き当たりの角で一旦停止、角の向こうを確認しようとし――

「動くな」

 M93R機関拳銃を突き付けられた。そしてそのまま腕を掴まれ、引っ張られた。

 素早く千夏はもぶっちの左腕を後ろ手に拘束、首筋にM93R機関拳銃の銃口を当てた。すぐに3人のもぶっちが角から飛び出し、千夏に89式5.56mm小銃を向けた。

「動くな! 動いたら、こいつの頭を――」

「撃てぇー!」

「話聞けよ!」

 即座に3丁の89式5.56mm小銃がフルオートで5.56×45mm普通弾(模擬弾)をばらまいた。千夏は拘束したもぶっちを盾にして、M93R機関拳銃で撃ち返しながら後退する。

「千夏君!」

 通路のクランクの陰から、優理奈がM870MCS手動散弾銃で援護射撃、千夏は盾のもぶっちを突き放し、クランクの陰へと飛び込んだ。

「ナイス援護だよ。しかし、実戦では許されざる行為だよ全く」

「無茶な事しないでくださいよ!」

「次からはしないよ。足に数発喰らったし」

 そう言う千夏の長ズボンは、所々穴が開いていた。

 

「うぉらぁぁ!」

 文彦が、M16A2LSW重小銃を腰だめで撃ちまくる。5.56×45mm普通弾(模擬弾)がばら撒かれ、クランクの陰に隠れたもぶっち達は身動きが取れない。

「おい千夏よ! これじゃ弾が幾らあっても足りねぇぜ!?」

 一旦陰に隠れ、M16A2LSW重小銃に新たな100連弾倉を装着した文彦が無線越しに叫んだ。近くでは、彩と織乃がM4A1MWS自動小銃とSG550重小銃で戦っていた。

〔裏口から逃げよう。そっちに行くから、持ちこたえててよ!?〕

「了解だぜ!」

 

 やがて、千夏と優理奈は、文彦、彩、織乃達と合流、非常口へと後退する。

 扉を確認、優理奈がM870MCS手動散弾銃の先台をスライドし、ドアブリーチ弾を装填、蝶番を撃った。そして千夏が扉を開け、89式5.56mm小銃を構えた彩とSG550重小銃を構えた織乃が向こう側を確認し、突入した。

 

 

 

「なるほど、ラーメン博物館に逃げたか」

〔今、機械科歩兵分隊を2つ向かわせています。直に向こうも――〕

「非常口は?」

〔はい?〕

「きっと、非常口からの脱出を目論んでいるはずだ」

〔了解しました! もう1個分隊を裏手に回します!〕

「……転んでも、タダで起きないのは、千夏らしいな」

 



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sortie9 ボーン・コンスピラシー

 千夏達5人は新横浜ラーメン博物館の非常口を抜け、Fマリノス通りへと向かった。

 しかし、そこには3両の軽装甲機動車(LAV)。そして、12人のもぶっち達が展開した。

 素早く千夏と優理奈は銃を構え、発砲した。M870MCS手動散弾銃の12ゲージシェル弾(ダブルオーバックショット模擬弾)がもぶっちを撃ち倒し、QBZ-97A自動小銃の5.56×45mm普通弾(フルメタルジャケット模擬弾)がもぶっちを撃ち抜く。

 全長45mmの真鍮製薬莢と70mmのプラスチック製撃ち殻がアスファルトの地面を跳ねる中、QBZ-97A自動小銃とM870MCS手動散弾銃がほぼ同時に弾切れになった。2人はヒップホルスターへと右手を伸ばし、予備武器――千夏はM93R機関拳銃、優理奈はM5906自動拳銃――を抜いて発砲した。

「クリア」

「クリアです」

 2人は周囲を確認、拳銃の弾倉を交換してからヒップホルスターに仕舞い、長物を手に取った。千夏は空になった30連STANAG弾倉をQBZ-97A自動小銃から外し、左腰のダンプポーチへと突っ込む。そして、チェストリグから新たな30連STANAG弾倉を取り出し、銃に装着、槓桿を引いた。優理奈も、M870MCS手動散弾銃の被筒を引き、薬室に直接12ゲージシェル弾(ダブルオーバックショット模擬弾)を装填、被筒を前進させてから円筒型弾倉に1発ずつ押し込めていった。

 そして千夏は、軽装甲機動車(LAV)を指差し、口を開いた。

「この、なまらイカすスーパーカーで行かねぇか?」

 

 

 

 5人を乗せた軽装甲機動車(LAV)は、特に妨害を受ける事無く、新横浜駅前のバスロータリーに入り、一段下にあるタクシー乗り場で停車した。

「敵影無しだ。いつでも降りられるぜ」

 軽装甲機動車(LAV)の銃座でMINIMI軽機関銃を構えていた文彦がそう言った。そして、彩と優理奈が先に降りて警戒、織乃と文彦が降りてから、運転席の千夏が降りた。

「ここにある紀章を5個か。まず上に行こう」

『了解!』

 

 5人は階段を登り、JRの改札の前に出た。そして、文彦が口を開いた。

「しかしよぉ、千夏」

「何だ?」

「これは骨が折れるぞ」

 新横浜駅ビルは、高かった(小並感)。

 

 

 

「ほぉ、新横まで到達したと」

〔申し訳ありません! もう1個分隊を向かわせていれば――〕

「いいんだよ。これは、レンジャー部を続けられるかどうかの試験だからな。それに、新横にも部隊を配置してるんだろ?」

〔も、勿論です!〕

 そして、陽希はスマートフォンを腰のポーチに仕舞った。

「アップ、無駄にならなかったな」



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