ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド (グレン×グレン)
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キャラステータス早見表

そういえばこいつ、弱い弱い言ってるけどステータスにするとどんな感じ?

そんな疑問が出るかもしれないので書いてみました。


F戦力として不安。-ともなれば人間の一般市民レベル

E下僕悪魔として及第点。平均値としてほしいレベル

D悪魔全体としてみればそこそこ。これが平均なら中級を狙える。

Cレーティングゲームなら記事が組まれる。平民悪魔の羨望を浴びれるほど。

Bかなり優秀。魔力なら上級の領域。

A非常に優秀。一つあれば最上級すら狙える

S極みのレベル。魔王クラスや神格ですら一部が保有する程度のレベル。

EX規格外。神話の頂点すら揺るがす超越者。

 

身:肉体面での総合力。いわゆるフィジカルスペック

防:肉体・魔力双方の合計での耐久力あくまで最大値。

敏:肉体・魔力双方での機動力。単純なスピードだけでなくある種の歩法などといったテクニックも含まれる。

異:魔力・光力などといった一般人が持たない特殊なエネルギーを操る能力。一応技術である魔法もこちらに該当する。

特:特異点。神器などといった完膚なきまでのイレギュラーをどれだけ保有するかを指す。最強クラスであろうと欠片もないことも十分ある。なお転生者であるという事実だけはこれには含まれない。

 

19巻時点

 

☆兵夜

 原作一巻時点 身:E 防:D 敏:D 異:B 特:C テクニック・サポートタイプ

 

 原作夏休み終了時点 身:D 防:C 敏:C 異:B 特:B テクニック・サポートタイプ

 

 現時点 身:C 防:A 敏:B 異:A 特:EX テクニック・ウィザード・サポートタイプ

 

 後日譚時点 身:C 防:B 敏:C 異:A 特:EX

 方向性:高水準ではあるが改造手術や神格化の影響によるものであるため、本人そのものの身体能力関係はD~B。

 そもそも本来は後方勤務か情報交錯向け。

 

☆久遠

 夏休み前後 身:F 防:E+ 敏:C+(短距離直線時にのみ一時的EX) 異:C 特:C テクニックタイプ

 

 現時点 身:D 防:C 敏:B(短距離直線のみ一時的EX) 異:C 特:B テクニックタイプ

 

 参考資料 ブロッサ・タイム時 身:B 防:B 敏:A(短距離直線のみ一時的EX) 異:C 特:F-

 

☆ナツミ

 記憶覚醒前 身:B 防:B 敏:A 異:A 特:F テクニックタイプ

 

 現時点:身:S 防:S 敏:A 異:S 特:F 特記事項(それぞれの特殊形態の最高値を表記) パワータイプ

 

☆小雪

 現時点:身:C 防:C 敏:A 異:B 特:B テクニックタイプ

 

☆ベル

 現時点:身:B 防:A 敏:B(条件付きEX) 異:A 特:S 特記事項(禁手発動時)パワータイプ

 

☆ゲン・コーメイ

 現時点:身:C 防:B 敏:C(条件付きS) 異:B 特:C テクニックタイプ

 

☆スパロ・ヴァプアル

 現時点:身:E 防:D 敏:D 異:B 特:A ウィザードタイプ

 

 

☆フィフス

 現時点:身:B 防:A 敏:A 異:A 特:C パワータイプ

 

☆ザムジオ

 現時点:身:A 防:A 敏:B 異:A 特A テクニック・パワータイプ

 

☆グランソード

 現時点:身:A 防:A 敏:A 異:B 特C パワータイプ

 

☆エルトリア

 現時点:身:B 防:S 敏:B 異:A 特S ウィザードタイプ

 

☆レイナーレ

 現時点:身B 防:A 敏:A 異:A 特:B ウィザード・テクニックタイプ

 

☆ウィン・バートリ

 現時点 身:D 防:C 敏:C 異:B 特:C ウィザードタイプ

 

☆木原エデン

 現時点 身:F 防:F 敏:F+ 異:F- 特:F- 典型的技術者なのでタイプ無し

 

☆スクンサ

 現時点 身:E+ 防:D(条件付きS) 敏:C(条件付きS) 異:A 特:C テクニックタイプ

 

☆ふんどし

 現時点:身:S 防:S 敏:S 異:C 特:B パワー・テクニックタイプ

 

 

追加

 エイエヌ

身:S 防:EX 敏:A(神器使用時EX) 異:A 特:EX

 

参考対象

 サイラオーグ

 現時点 身:A 防:A 敏:A 異:F̠-特:A パワータイプ

 

 ヴァスコ・ストラーダ

 現時点 身:B 防:A 敏:A 異:D 特:C パワータイプ

 

 木場祐斗

 現時点 身:B 防:D 敏:S 異C 特:S(禁手の特殊性が高いためこのランク) テクニックタイプ




これはあくまで大体の目安とお考えください。

最初の兵夜が本当に、そこそこできる雑魚レベルだということがわかるでそう?


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簡易資料集(ネタバレ注意)

簡単な登場人物や、神器などの紹介です。

やはり長期連載されているオリジナル要素の強い小説にはこれがないと。



11月2日 追記

2月11日 追記

3月16日 追記

6月9日 追記

11月13日 追記

8月14日 追記

10月29日 追記

2月26日 追記

9月21日 追記

10月6日 追記


主人公

 

宮白兵夜(みやしろ ひょうや) 16(32) 髪の色:赤茶 目の色:黒

イメージカラー:鮮血のような赤

特技:フリーランニング・速読・コネクション形成

好物:酒のつまみ系全般

好きなもの:イッセー 身内

苦手なもの:付け入るスキのない完璧超人・自分に惚れてくれる人

天敵:久遠・サイラオーグ・曹操

 

本作主人公。型月世界観の特殊な思想の魔術師の家系に産まれた次男坊。転生後は大企業の社長(誕生当時は重役)の次男。

 

前世の記憶という非常にややこしい重荷を背負っていたが、イッセーとの出会いによって救われており、彼に対して非常に強い信頼を持つ。悪魔になる前はある程度の自制というかラインを引いていたが、二度目の死を経験して吹っ切れたのか暴走状態に突入寸前。

 

イッセーに出会う前から失敗なく生きて行く為に努力を重ねており、スペシャリスト揃いのグレモリー眷属の中ではかなり貴重なオールラウンダー。魔術使いとしても様々な魔術を勉強しており、特筆した能力はないが極めて手数が多い。のちに聖剣因子すら手に入れており、聖水も多用する為対悪魔戦に置いてはかなり卓越している。

 

世にも珍しい悪魔から神格に変化した特殊存在。制御こそ不完全ながらオプションなしで上級悪魔を屠れるほどの能力を手に入れているが、その特性ゆえに聖槍が天敵以外の何物でもない。なお、後付設定で強くなっていることを自覚しているため成果の割に自己評価は低い。

 

最も特筆するべきは政治能力であり、数多くの不良を支配し、表裏問わずのコネクションを持っていることから、リアスの管轄である駒王町において非常に高い影響力を誇る。おそらく政治分野では同世代眷属悪魔でもトップクラス。また、魔術師の価値観と旧家悪魔の価値観が似ていることからそのあたりの立て方にもたけており、魔王派大王派の双方に顔が効くようになる。

 

前世においては遠坂家の分家とも言える立場であり、趣味で調べて聖杯戦争に当時の当主より詳しい。また本家のうっかりスキルを色濃く継いでおり、なんだかんだでリカバリーしているが一度死んだり両想いの相手を殺しかけたりチームが瓦解寸前の精神的ダメージを負うなどかなりやらかしている。

 

神器 天使の鎧(エンジェル・アームズ)

 手甲の形をした、発現した腕から光力を放つ神器。

 禁手は木場並みのイレギュラーである天使の光力回路(エンジェル・サーキット)。聖魔剣と同じ様に光力に魔力という異なる二つの力が混ざり合った光魔力を発動する。

 

アーティファクト 渡り鳥の籠手

 高速飛行可能かつ大容量の輸送量を持つ高速艇と、それを制御する義手で構成されたアーティファクト。

 高速艇の中の物体を自在に呼び出す事が可能であり、使い手の集めた道具などを自在に使う事が可能。

 

偽・外装の聖剣(フェイク・エクスカリバー・パワードスーツ)

 対コカビエル戦で使った外装の聖剣を参考に、悪魔の駒のベースマテルアルやらエクスカリバーの破片やらを使ってアーチャーやアザゼルが作り出した、兵夜の専用武装。

 聖剣であると同時に魔術礼装でもあり、どちらも使える兵夜だからこそ使える一品。性能もオリジナルに近く、基本テクニックタイプである兵夜との相性はいい。

 ☆神魔の蒼穹剣(イーヴィル・シントー・カレドヴルッフ)

 偽聖剣を利用して神格の力を制御した特殊形態。多用途すぎる神格特性を利用して、解析した相手を裁く神へと変質する事で攻防共に超効果的な特性を発揮するようになる形態。

 その効果は次元違いの相手にすら勝機を見出せるほどだが、解析までの待ち時間狙いの短期決戦や、機動力による時間切れ狙いの長期戦などが通用するなど隙も大きい。

 ★詠唱

 我、引き抜くは理すら両断する剣の頂なり

 夢幻の想いで無限を断ち、邪道を駆ける

 我、万難を排す一振りの刃となりて

 蒼穹の元に進むべき大地を切り開こう

 

 対竜殲滅特化武装 龍滅し滅ぼす蛇の鱗(ドラグイート・スケイルシールド)

 サマエルの毒を使って加工した、対龍装備。

 楯として使用する他に、鱗を分離させての捕縛形態や、偽聖剣に装着する事で戦闘能力を上昇させる鎧形態が存在している。

 が、兵夜はドラゴンの特性を持ってしまっている為鎧形態は非常に負担が大きい。例え血清を使用したとしても、その負担は絶大。

 

 冥府へ誘う死の一撃(ハーイデース・ストライク)

 ハーデスの足から作った義足の最大出力モード。

 蹴りの形で放つ一撃は、兵夜が運用できる最強の一撃。蒼穹剣発動状態ならば、収束している事もあり、ジャガーノート・スマッシャーすら上回る。

 

 

DGTW-01イーヴィルバレト

 魔術を組み込む事を前提で作られた、片手で打てるガトリングガン。

 

トゥムファーアイン

 アーチャーの魔術をバイパスして放出する支援型魔術礼装。同時に高速移動用の飛翔体として運用が可能であり、空戦能力の強化が低い偽聖剣をサポートする。

 

スペツナズ・フェンリル

 フェンリルの爪を加工して作り上げた対神装備。

 あくまで本体は柄の方であり、刀身は射出して攻撃できるなどトリッキーな装備。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライバル

 

 フィフス・エリクシル 髪の色 銀にも見える白髪 目の色 赤

イメージカラー:白銀

特技:格闘技・錬金術

好きなもの:鍛錬・研究・求道

苦手なもの:王道バトル物のお約束展開・気合覚醒

天敵:兵藤一誠

 

 兵夜の宿敵。アインツベルンの家系に生まれた錬金術師で、現世においてはハーフ堕天使。

 

 長大な寿命を手に入れた事と、この世界での神秘のあり方が組み合わさった結果、聖杯戦争を利用した根源到達という野望を胸に燃やし、アザゼルを裏切り禍の団と手を結ぶ。

 

 魔術師でありながら魔術というものを手段と割り切っており、根源到達の為に最も有効な手段を考え、正しく手段を選ばない。ある意味において魔術の正道を歩みながら魔術師の道から大きく外れている。

 

 アインツベルンの魔術師としても聖杯戦争を作り出すほど優秀だが、恐ろしいのはその手段の選ばなさ。戦闘用に堕天使でもトップクラスの格闘技術を習得するだけでなく、本来典型的魔術師であるアインツベルンでは考えられない、科学分野の利用も平然と行う。もの凄いレベルの努力家であり、ある意味で努力の塊であるイッセーやサイラオーグに近い一面を持つ。加えて滅竜魔法などを習得している事から研究者タイプにも関わらず禍の団でも主力クラスの戦闘能力を保有する要注意人物。

 

 禍の団のエージェントとして行動しながら、長い間神の子を見張る者に所属したままで行動できるなど、兵夜に負けず劣らず戦闘以外の分野でも高い才能を持つ。

 

神器 引き寄せる門(アポーツ・ゲート)

 

 事前に設定した物を手元に転送できる神器。これにより、フィフスは様々な工作活動をその身一つで行う事ができる。

 

 禁手は呼び出した物を更に別の座標に転送させる引き寄せ送り出す門(アポーツ・テレポーツ・ゲート)

 

人工神器 黒金の道(スティール・ロード)

 細長い針金を無限に製造するだけの試作型人工神器。

 

 ただし、フィフスは錬金術でそれを簡易的なホムンクルスにでき、それを腕を増やすという形で使用する事で戦闘に応用している。

 

魔槍 ガ・ボルグ

 フィフスが持つ切り札。ケルト神話に伝わる英雄、クーフーリンが持っていた呪いの槍。・・・実はそれを模したキャスター製の概念武装だが、それゆえに大量生産可能という利点を持つ。

 

 完全に使いこなしているわけではないが、それでも全力投擲によってコカビエルと渡り合ったナツミを一撃で戦闘不能にするほどの威力を発揮する。

 

人工神器 幻想の(フルウェポン・ジャバウォック)暗黒鬼(パワードアーマー)

 フィフスが最終決戦に備えて開発した、全身鎧型の人工神器。

 超獣鬼を材料として開発した装備であり、特殊能力など一切なく身体能力を強化する。

 これの最も恐ろしい点は格闘技術を最高峰にまで高めたフィフスに、圧倒的な身体能力を付加するところ。堕天使の中ではそこまで強大な出身ではないフィフスを、間違いなく最強クラスの存在にまで格上げする。これにより戦闘技術という点で劣っていた超獣鬼の欠点もフォローされており、三大勢力及び神話連合にとっては最悪に近い組み合わせとなる。

 ★覇鬼(オーバーロード・デーモン)

 幻想の暗黒鬼の覇。超獣鬼の能力をフィフスだけで常時全力開放する事はできず、奇しくも宿敵である赤龍帝が克服した覇を模している。

 魔術師の思想に則った結果、フィールドを展開する事で他人から生命力を吸収する事で覇を発動させる。加えてフィフスの強靭な根源到達にかける執念で暴走を抑制しており、覇のデメリットは殆ど存在しない。

 敵の弱体化と自身の強化を両立する、間違いなく規格外の能力。ムゲン以外が対抗するには正攻法では不可能である。

 ◎詠唱

 我、覇の理など歯牙にもかけぬ魔導の鬼神なり

 無限の困難を超え夢幻の理想を目指し、求道を行く

 我、漆黒の闇すら踏破する魔導の追及者となり

 何時に我が夢を妨げた罪を知らしめよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒロイン

 

 ナツミ 15(30) 髪の色 グレー 目の色 青

イメージカラー:快晴の時の空色

特技:動物の真似・キャラチェンジ

好物:卵料理全般

好きなもの:兵夜・おいしいもの

苦手なもの:難しいこと・独りぼっち

天敵:ふんどし

 

 FAIRY TAIL世界の魔導士だった少女。現世においては化け猫の娘として生まれ変わっている。

 

 その前世ゆえに親に気味悪がられ放浪していたところを変態集団に襲われるが、たまたま居合わせた兵夜達に救われ、兵夜の使い魔として行動する。始めての理解者であると同時に同類であり、また保護者であり主である事もあってか、何時の間にやら兵夜に惚れている。

 

 他のメンバーと違って前世の記憶は薄い。が、各種接収魔法の使い手であり、サタンソウルにいたっては短時間しかできないが、超上級堕天使であるコカビエルと渡り合えるほど。

 

 転生者の中でも特殊な記憶継承を行っており、子供の無邪気さと大人の計算高さが神合わさっている。その為恋愛においては一番アグレッシヴに攻めており時折兵夜が社会的に深手を負わせるのが玉に瑕。

 

サミーマ・エーテニル

 ナツミの前世。一人称俺様の豪快な性格。覚醒時に人格が混ざり合うのではなくスイッチを切り替えて思考する半二重人格状態となった。

 FAIRY TAIL世界での非常に強力な実力者の称号、聖十大魔導を確実視されるほどの実力者。

 

 基本的に天才肌であり、戦闘関係に物事において熱意もある為伸びが速い。頭の回転も速くナツミは子供の無邪気さを持ちながら時折大人の計算高さも発揮する。

 

サタンソウル マルショキアス

 ナツミの本気モードと言っていい形態。

 コカビエルと渡り合うほどの戦闘能力を持ち、その戦闘能力は不完全な赤龍帝の鎧をしのぐほど。サタンソウルの中では総合バランスが非常に高い。

 

サタンソウル フィネクス

 不死鳥を模した再生能力特化形態。

 喰らったダメージを瞬時に再生させる事で結果的に高い防御力を得ており、上級クラスの火力をもってしても意に介さない。

 

サタンソウル ナフラ

 獅子を模した筋力特化形態。

 同時に重心制御なども行う形態であり、自分よりも遥かに重く大きい物体すら片手で振り回せる。

 

サタンソウルグレゴリー

 宝石まみれのボディスーツのような砲撃特化形態。

 宝石のような結晶体から、高出力の魔力エネルギー砲を叩き込む。

 

 サタンソウル ベールフェゴル

 空間干渉特化形態。

 驚異的な空間転移能力を持ち、視認さえできれば別次元の移送すら可能とする。反面連射が利かない最終手段。

 

 

 

 

 

 

 

 

桜花久遠(おうかくおん) 16(35) 髪の色 黒 目の色 黒

イメージカラー:薄緑

好物:焼くタイプの肉料理

特技:戦術までの戦闘活動・サバイバル・ゲームプレイ

好きなもの:ソーナ・オンラインゲーム・パーティゲーム

苦手なもの:独占

天敵:特になし

 

 魔法先生ネギま! の世界に生きていた少女で、現世においては駒王学園の生徒会庶務としてシトリー眷属の一員。実は味方側転生者で合計年齢が一番高い。

 

 ソーナ・シトリーに出会うまで精神的に追い込まれた状態で生きており、受け入れてくれただけでなく、更に色々と調べてくれている彼女に忠誠を誓っている。それは盲信ではなく、必要と判断すれば命令を無視して独自の行動をとる。

 

 剣道部の助っ人で大活躍するほどの剣の使い手で、京都神鳴流の使い手。また仮契約を行えるレベルの魔法使いとしての素質も持つ。戦闘能力も高いが、コカビエルの目的を直感的に察するなど、口調からは想像できないほどスペックが高い。

 

 若手悪魔眷属でありながら戦闘経験の豊富さが最大の売り。条件反射レベルで染み付いた戦術と多種多様な戦闘経験、そして完成された戦闘スタイルは並大抵の策では隙をつく事ができず兵夜のようなタイプにとっての天敵。経験が元になっている為技術を教える事も可能であり、武術の師範の素質も非常に高い。

 

 実は兵夜ヒロインの中で一番女子力が高い。傭兵生活が長かったので家事関係は分担して行っていた事に由来する。恋愛方面でも一番乙女で、普段は許容範囲内で悪ふざけする事もあるがいざ自分が想定外の攻撃を喰らうと即座に撃沈する。

 

神器 聖吸剣(ホーリー・イーター)

 

 巨大な出刃包丁のような姿をした魔剣型神器。

 聖なるオーラを吸収する効果があり、対聖剣において規格外レベルの性能を発揮する。

 禁手は聖魔の竜喰らい(ビトレイヤー・ドラグ・イーター)

 形状が野太刀型になり久遠の使いやすい形状になったうえ、吸収するオーラに聖属性及び龍属性が追加。吸収範囲の増大など大幅な強化を果たしている。

 

 

アーティファクト 感卦の羽衣

 感卦法を使えるようになるアーティファクト。

 ただし、制御は自力でやる必要がある為、相応の実力者でなければ発動した瞬間に自爆する。

 

アーティファクト シンソクノサンバ マフウジノサンバ

 鳥型のゴーレムであるアーティファクト。対曹操用に兵夜との主従逆転契約で発動した。

 それぞれ瞬動による瞬間高速移動度と、捕まえた相手の能力を封印する能力を持つ。

 

 

 

 

ベル・アームストロング 19(33) 髪の色 金 目の色青

イメージカラー:ピュアすぎる黄色

特技:近接戦闘・都市部サバイバル

好物:抹茶と和菓子のコンボ

好きなもの:大天使ミカエル・兵夜

苦手なもの:自己利益・超能力

天敵:ランサー

 

 絶対可憐チルドレンの世界に住んでいた超能力者。現世においてはミカエルのエージェントとして活動している。

 

 生前及び現世においてもその能力から酷い生活を送っており、始めて救ってくれたミカエルに忠誠を誓っている。ただし、その忠誠心が微妙に空回っているのか、時々思いっきりボケる。

 

 念動力・瞬間移動能力・遠隔感応能力を高レベルで持った複合能力者。ただし、前世でもろくに鍛えてなかった事もあり使いこなせているわけではない。主な戦闘スタイルは神器を組み合わせた徒手空拳。

 

 聖女メンタルを持ち合わせているのだが、それが妙な方向にかみ合った結果情緒面の発達が遅れている節がある。またその為自分の為の欲求が乏しく、実は精神年齢はナツミ並みに低い。

 

 恋愛においては忠犬タイプ。褒められるのが大好きで外見とのギャップが売りだが、その所為で無自覚に兵夜の社会的生命が削られる。

 

神器 天使の鎧(エンジェル・アームズ)

 

 兵夜と同じ神器だが、こちらは亜種。両手に纏わりつく光のオーラとして発現する。

 

 遠距離攻撃はできないが、両手に発現する分使い勝手はよく、ベルの格闘センスと組み合わせる事で彼女を凄腕のエクソシストにまで押し上げた。

 

禁手 大天使の決戦装備(アークエンジェル・フルアームズ)

 天使の鎧の亜種禁手。両手両足に鎧を装備し、全身もボディスーツ上の物体で覆われる。

 身体能力も含めて大幅に強化する能力を持つが、発動時間は極めて短い。短期決戦に特化した強化形態。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青野小雪(あおの こゆき) 17(34) 髪の色 薄い紫 目の色 紫

イメージカラー:日没直後の紫

特技:暗殺・理系知識

好物:菓子パン類

好きなもの:朱乃・アザゼル・バラキエル・平和な日常

苦手なもの:必要な時に動かない臆病な自分・打算のない信頼

天敵:裏切り者

 

 とある魔術の禁書目録世界観の出身で、魔術組織から学園都市の暗部へ堕ちた波乱万丈の人生の持ち主。現世においてはハーフ堕天使で朱乃の幼馴染で今はアザゼルのエージェントと今でも色々と複雑な立場。

 

 前世が酷かったからか、アザゼルの平和主義的方針には賛成しており、口では悪くいうが何気に気に入っている。基本的に口調は悪いが面倒見のいいツンデレ姐御肌。

 

 大能力者の空力使いでかつ暗部なだけあり殺しの仕方に長ける、堕天使としてのスペックの低さを神器でカバーするなど戦闘センスは高い。ヴァーリの足を引っ張らない程度の能力はあり、お目付け役として同行するなど腕は確か。

 

 依存対象が個人ではなく生活そのもので、その依存ゆえに失ったというハードな過去の持ち主。その所為か依存方面ではかなりまとも。

 

 ツッコミ体質の常識人であり、基本的にボケれない苦労人。恋愛においても兵夜の社会的立場をしっかり考慮してくれる常識人度最高値で、他三人及び引っ張られて時折暴走する兵夜の手綱を握る最後の良心。ただし経験値が豊富な為怒らせると一番酷い。

 

神器 解放の契約(リベレーター・ギアス)

 

 条件付けする事により、条件の付いた行動の効果を上昇させる神器。

 

 低い光力を『銃を媒体とする』事によって高めており、エージェントとして恥じない程度の戦闘能力を維持している。

 

神能力者・風神契約(レベルエクストラ・ギアスアネモイ)

 神器の能力を能力者としての能力に限定特化する事で、超能力者クラスに跳ね上げる禁手。同時に応用性も飛躍的に向上する。

 

 それだけで上級堕天使を凌駕する戦闘能力を発揮し、火力が足りないという小雪の欠点をカバーするどころか火力担当にまで跳ね上げる。

 

dens226(我が牙は必ず敵に食らいつく)

 小雪の魔法名。densはラテン語で牙を意味する。

 自分の魔法の命中率に絶対の自信があるが故の魔法名。それゆえにこの名を告げる事は、次の一撃を必ず当てる時のみと心に決めている。

無駄なき音程の琴弓(フェイルノート)

 小雪のもつ魔術。円卓の騎士、トリスタンの持つ弓の伝承を基にした魔術。

 能力は座標攻撃だが、その特性は「科学的でないエネルギーによる攻撃を、必ず命中してダメージを与える場所に転移させる」という必中の攻撃。

 本人の攻撃力が低いので今でこそチートではないが、射程距離は視認距離と同等である為、防御力という点で大きく劣る禁書世界においては非常に有効。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵キャラ

 ムラマサ

 

 刀剣がキーワードの合成能力者の女性。同時に刀匠村正の血筋でもある。

 戦闘大好きバトルジャンキーで、気が合ったのかヴァーリチームの一員として行動する。

 

 神器 魔剣創造(ソード・バース)

 原作でもあった魔剣を作り出す神器。性能そのものは平均だが、ムラマサは能力を使って補強できる為攻撃面でも非常に危険。

 禁手は剣で出来た鎧を作り出す剣鎧創造(ソード・バース・ブレードメイル)

 

 鎧の形状を変化させる事もできる為、汎用性が高い。

 

 

 

 

 

レイヴン

 セイバーのマスターとして行動する、死霊魔術師。禍の団の一員として行動する。

 型月世界観チート能力の一つ、直死の魔眼を一時的に使用する事ができる。その戦闘能力もかなり高い。

 

 

 

 

リット・バートリ

 エリザベート・バートリの血を継ぐ禍の団の構成員。

 FAIRY TAIL世界の魔導士。魔法を打ち消す波動を使いこなす。

神器 変換する炎(チェンジ・フレイム)

 魔力などのエネルギーを炎の魔力に変換する神器。

 その特性上波動との相性が非常に高く、魔力攻撃に対して鉄壁の防御力をリットに与える。

 

 

 

木原エデン

 禁書目録世界のマッドサイエンティスト、木原一族の1人。小雪を所有していた裏の人物。

 何か一つに研究テーマを絞る事の多い木原としては珍しく、学園都市のあらゆる技術に手を出している万能系。その為彼一人で学園都市を劣化再現できる。キャスターに並ぶ禍の団の裏方担当。

 

 

スクンサ・ナインテイル

 絶チル世界のエスパーの1人。

 ギャグをキーワードとする合成能力者で、ギャグ補正を現実に適用させるという規格外の能力を持つ。

 神器 遊戯の仮面(イプキス・スタンリー)

 自身のテンションに合わせて能力が上昇する神器。

 禁手は敵とリンクする事により更に能力を上昇させる悪戯の仮面舞踏会(イプキス・スタンリー・トゥーンワールド)

 業魔人と併用する事により、そのギャグ補正を上昇させて一種のミュージカル空間を発生させる事も可能。

 

 

 

 

 

 

ザムジオ・アスモデウス

 旧アスモデウスの末裔の1人。

 ものすごい真面目な性格なのだが、真面目さがから回った結果禍の団に所属している。

 武器・技量ともにアーサーと張り合える凄腕の剣士。更に魔力運用により数を増やす事ができる。

 

魔の遺志宿す絶世の剣(ルレアベ)

 先代魔王四名の遺骸を内蔵して作られた魔剣。キャスターが作り上げた最高傑作。伝説級の魔剣に匹敵する性能を持つも、ザムジオ以外を主とは認めなかった特殊武装。

 

 その性能は下手な宝具を遥かに凌駕し、対人A++ランクという規格外の数字を叩き出す。聖王剣コールブランドや魔帝剣グラムと張り合える、最新最強の概念武装。

 

 

エルトリア・レヴィアタン

 旧レヴィアタン末裔の1人。

 正直血族とか興味がないが、エロすぎるあまり禍の団に入った女。

 世界を色欲に染め上げるという無駄に大きな野望の為に禍の団に入った。異種姦上等なため種族を問わずカリスマがある。

 魔力量だけなら若手悪魔でもトップクラス。本気を出す時は全裸になる。

 ☆裸王

 配下達の性器から放出されるエネルギーを取り込む事で合一化して発動する最終形態。

 その戦闘能力は全盛期の二天龍にも匹敵し、悪魔の次元すら超越する。 

 

アーティファクト 装具喰らいの猟犬

 犬型小型ゴーレムのアーティファクト。

 同時に複数召喚され、素早く動き回りながら武装解除魔法を連発する。

 エルトリアは非常に気に入っている。

 

 

グランソード・ベルゼブブ

 旧ベルゼブブ末裔の1人。

 家系含めた自分がどこまで行けるかを目的として禍の団に所属。しかしオーフィスの窮地に筋を曲げれないとして離反してまで救援する。

 

 

 

 

 

その他

 

 宮白雪侶 15歳 女 髪の色赤茶 目の色茶

 

 兵夜の妹。家族内で兵夜に対する苦手意識のない唯一の少女。

 実はコルキスの魔女メディアの末裔であり、兵夜がアーチャーを召喚した際はその関係こそが触媒となった。

 曲射魔力砲撃を得意とするギリシャ体系の魔法使い。以前誘拐されてから戦闘特化で鍛えられており、この年で既に組織内では上位ランカー。

 

 

 

スパロ・ヴァプアル

 サイラオーグ・バアル眷属の兵士。サイラオーグと獅子王の戦斧を共同所有する、バアル眷属の奥の手。

 

 間桐家の出の魔術師であり、フィフスに接触された事が原因で、記憶に障害を持っている。

 神器 獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)

 サイラオーグと共有する形で使用する。

 間桐家の来歴ゆえに支配魔術になれているスパロは、それゆえにレグルスの暴走を抑制して運用する事が可能。通常時はサーヴァントで言うならライダー的な立ち位置だが、その凶悪性は禁手にこそある。

 

 禁手 獅子の大王が(レグルス・ネメア・)放つ覇の一閃(ブレイクダウン・デッドエンド)

 獅子王の戦斧に亜種禁手。

 獅子王の戦斧の出力を瞬間的に上昇させる事により、覇獣の出力を一時的に引き出し、加えて自分に放たれた遠距離攻撃を吸収する事で威力を上昇させる。

 龍神にすら届く最強の一撃は、全禁手でも最高峰。その威力は世界の頂点すら狙いうる。

 

 

 

ゲン・コーメイ

 暗部組織モルドレットに所属する悪魔祓い。そして絶チル世界で対超能力者舞台に所属していた。

 低い超能力を技量でカバーするテクニックタイプ。個と対人体戦においては規格外の領域に到達している。

 

 

 

アポロベ・フィネクス

 

 フェニックス家に連なる家系、フィネクス家の悪魔。

 レーティングゲームでも非常に強く、対サーヴァント戦もこなせる実力者。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに、年齢の横にある()の中の数字は前世の年齢も込みの場合です。

メインメンバーは全員じつは中年以上・・・。


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IFルート もし5の系譜がおっぱいで暴走したら

今回はほかのIFルートと違って、ショートショートとなっております。





………え? フォンフはすでにおっぱいで暴走しているようなもの?

いえいえ、方向性が違うとですたい。


1 もしフィフスが目には目を歯には歯を理論を選択していたら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九尾の狐である八坂を誘拐した英雄派とフィフス・エリクシル!!

 

 そして疑似京都でイッセー達を待ち受け、その姿を現したのはフィフスだった!!

 

「フィフス!! てめえ、一体何をするつもりだ!!」

 

 怒りに燃え、赤龍帝の鎧を展開して指を突き付けるイッセーに、フィフスは静かに嗤う。

 

「知れたこと。……お前の力を取り込むことだ」

 

「何だと!?」

 

「駒王会談、悪魔のパーティ、そしてディオドラのレーティングゲームを利用した旧魔王派の作戦。俺は絶望したといってもいい」

 

 目を閉じ、フィフスはそれを回想する。

 

『手前ぇええええええ!!! 部長のおっぱいを半分にするだとぉ!?』

 

 アザゼルのものすごく阿呆な説明を受け取り、史上最強の白龍皇、ヴァーリ・ルシファーの完全な禁手を不完全な禁手で圧倒するイッセー。

 

 それにあっけに取られて、下級悪魔の木っ端魔術師である宮白兵夜に股間まで蹴られたのは散々な思い出だ。

 

『禁手《バランス・ブレイカー》、赤龍帝の鎧《ブーステッド・ギア・スケイルメイル》! 主のおっぱいつついてここに見参!!』

 

 データ収集もかねて様子を観に行けば、いつの間にか禁手に覚醒していた兵藤一誠。

 

 乳首つつく程度で至れるほど安い覚醒だったのかと絶望した。

 

さらには胸に顔をうずめて覇を限定制御する始末。最早悪夢としかいうほかない。

 

 この悪夢の克服は急務だった。

 

 ……故に、フィフスはひらめいた。

 

 それは逆転の発想。それは逆に考えるんだ。それはまさに逆転裁判……何かが違う。

 

 しかし、考えてみれば当然のことだった。

 

 敵が女の胸で奇跡を起こすのなら、逆にこちらが胸の力を借りればいい。

 

「九尾の狐の乳をかり、おれはあまねく乳を吸収し、一つの神的存在となる。それこそ、お前の乳の力を超える真なる方法!!」

 

「な、なんだと!? 乳と一つに!?」

 

「いや、そんな話は聞いてないぞ!?」

 

 イッセーの驚愕と曹操の狼狽が重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2 もしフィフスの最終目的がすでにフォンフに汚染されていたら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トライヘキサをレイヴンの手によって殺し、トリプルシックスを起動させたフィフス・エリクシル。

 

 彼はトリプルシックスの力で艦隊を消滅させ、さらにはその技術力で世界中の主要都市にEMP攻撃を放つ。

 

「さあ、俺達の力は見せつけたはずだ。ここから最大の要求を行いたい」

 

 最大の要求。それは、これまでの要求が前座だと言う事に他ならない。

 

 その映像を見ている者達全員が固唾をのんで見守る中、フィフスは口を開いた。

 

「全ての女性に対する、減乳を目的とした美容整形技術の強制だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっざけんなぁあああああああああああ!!!!」

 

「イッセー! ちょっと気持ちが分かるけど今は抑えて!! あなた死にかけてるのよ!?」

 

「イッセーさん! まだ、まだ回復しきってないので寝ててください!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「物理法則を、地球法則を、宇宙法則を破壊する魔性の力、乳!! そのような存在がこの地球に存在することを、俺は決して認めない!! だからすぐにでも今すぐこっち来て乳を減らせうわ何をするやめろぉおおおおお!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―しばらくお待ちください

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3 もしフォンフが逆転の発想で暴走を開始したら。

 

 フォンフは髪の毛をかきむしりながら戦意を高ぶらせる。

 

 相対するのは平行世界の赤龍帝。

 

 厳密には別人と言う事になるが、そんな事は知った事ではない。

 

 ただ殺すだけでは飽き足らない。可能な限り怨念を晴らす方法で殺さなければならない

 

「貴様を殺すだけでは怨念は清算されない。俺はエイエヌの協力の元新たな聖杯を作り、そして願う! 俺の怨念の清算を!!」

 

 そう、そしてフォンフはその為の宝物を見据える。

 

 戦闘形態をとっているがゆえに成長したヴィヴィオとアインハルトの―

 

「そう、胸を我が力へと変えるのだ!!」

 

 ―おっぱいを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、マジで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔獣達すら硬直した。

 

 古城の呼び出した眷獣が、放った雷光ごと固まった。

 

「…………ちょっと待って?」

 

「待たないぜ乳乳帝!!」

 

 フォンフは心から羨望の表情を浮かべながら、固まったアルサムをかいくぐり真剣に見据える。

 

 その目の色は、明らかに羨望だった。羨望の色だった。

 

「乳!! それこそエントロピーの法則すら凌駕する奇跡の産物!! フィフス・エリクシルを絶望のどん底へと叩き込んだその力を取り込んでこそ、フィフス・エリクシルの怨念は清算される!!」

 

 ぎょろりとその視線が周囲のオパーイへと向けられる。

 

 むろん、全ての乳を持つ女性が一歩引いた。

 

「巨乳、それは奇跡を生み出す宝物庫!! 巨乳、それは究極のエネルギー原!! 俺はこの力の源を手にする滅乳魔法を開発したが、あと一歩足りない!!」

 

 ゆえに、聖杯によってその研究を完成させる。

 

「乳をこの手に掴むのだよ、俺は!!」

 

「いやいやいやいや、ちょっと待って!? 乳乳帝ぃ!?」

 

 赤龍帝は渾身のツッコミを入れた。

 

 それはもう、心からのツッコミだった。

 

 赤龍帝から韻を踏んでいる感じはするが、しかしなんだそれは。

 

 ドラゴンどこ行った。

 

『なんだ、なんだそれは!? 俺は誇り高い赤い龍の帝王だぞ!! 赤も龍もないではないか!!』

 

 ドライグにいたってはもう泣き出しそうなほどにショックを受けている。

 

 そんな様子を見て、フォンフは首を傾げた。

 

「………まさか、お前は乳首をつついていないのか?」

 

「いや、乳首ってつつくものなの?」

 

 頭がいかれてるとしか思えないほど真剣な顔で放たれた問いに、とりあえず真剣に返してみる。

 

 そしてその瞬間―

 

「この勝負、俺の勝ちだぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 勝利を確信してフォンフは雄たけびを上げた。

 

「乳首をつついてもない兵藤一誠など張子の虎!! この戦い、俺たちの勝ちだ!!」

 

「いやちょっと待って!? 俺、神滅具二つ持ちなんだけどぉ!?」

 

 心底真剣に赤龍帝は抗議した。

 

 当然である。自分は神滅具を二つも保有している存在である。

 

 いかに本体である自分の素質が低めとはいえ、それでも両方とも禁手に至っているのだ。下手な最上級悪魔なら瞬殺できる自信がある。魔王クラスとだって真正面から戦えるはずだ。

 

 そんな心を言外に込めたが、フォンフは何を言ってるんだという顔をした?

 

「は? お前にとって神滅具なんておまけだろうに? 何言ってんのお前?」

 

「えぇえええええええええ!?」

 

 きょとんとした顔で言われては信じる他ないが、絶対に信じたくない。

 

 そんな感情を心から込めて、絶叫を上げてしまった。

 

 



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IFルート もしも出会ったのがイッセーではなく久遠だったら

活動報告で募集した、IFネタでも割と求めていたものと合致している内容でした。

………依存対象が変更されるといろいろと大きく変化するのが兵夜という男。

さて、果たして今回はどんな風になるかなぁ?


 それは、奇跡的な事だった。

 

 宮白兵夜は、この際奇跡的にうっかりをせずに行動を行った。 

 

 彼は、この際確実に魔術的干渉を行っていたのだ。

 

 教室に置かれていた瓶を割ってしまうというミスを、修復魔術によって取り戻す。

 

 その際の対処はきちんと行っていた。そう、行っていた。

 

 事前に陣を張って小規模な結界を張る事で、万が一教室に入られても魔術の行使を勘付かれないようにする。

 

 本当に彼はきちんと行っており、それゆえに兵藤一誠に見られるという事はなかった。

 

 ……ゆえに、運命はここで捻じ曲がる。

 

 どたどたどたと足音が聞こえる。

 

 しかし兵夜は一切気にしない。

 

 何故なら魔術的な結界を張っている以上気づかれる事はない。

 

 そう、万が一教室に突入されたとしても、入ってくる子供達は決して自分が壊れた瓶を治しているなど気づくとは出来ないのだ。

 

 その自信を持って、引き戸が開けられた時すら兵夜は意にも介していなかった。

 

 そして、その瞬間その言葉を聞いた。

 

「……ようやく、見つけた」

 

 その言葉になんとなく視線を向け、兵夜は心から驚愕した。

 

 その目は、焦点は自分に確実に合わさっている。

 

 ………あり得ない。何故なら今の自分を認識する事は、常人にはできるはずがない。

 

 しかし、彼女は明確に自分を認識している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日、宮白兵夜の運命は微妙にねじ曲がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから数年後、日本の駒王町にてある噂が流れる。

 

 それは、とある任侠集団に凄腕の若手用心棒が現れたという噂だ。

 

 いや、それは若いという話ではない。二十代どころか十代。それも中学生ぐらいの年齢だという驚愕の話だ。

 

 その任侠集団の跡目争いで、その集団がただの広域指定暴力団になりかけていた時、その勢力を立った一晩で塗り替えた驚愕の凄腕用心棒。

 

 片や、あらゆる警戒網を潜り抜けて相手の弱みを見つけ出し、堅気に手を出す外道の長相手に警察を総動員させる事となった、赤毛の少年。

 

 片や、長めの木刀を振るって、正真正銘の刃物や銃火器を相手に無双を振るったという黒髪の少女。

 

 二人はその任侠集団で英雄視され、事実上の有力幹部として扱われるらしい。

 

 そして、それは事実だとソーナ・シトリーは確信した。

 

 ……問題は、その二人が何らかの異能の持ち主である可能性が大きいという事だ。

 

 ソーナと、幼馴染であるリアスが駒王町を担当する上級悪魔となった事で、駒王町に他の異能勢力の手がないか一度真剣に検査してみようと、まだ数少ない眷属の力を借りて一斉検査をしたら、この事実に行き当たった。

 

 既に裏はとってある。

 

 その二人組の内の一人である少年は、よりにもよって駒王町の警察署長や幹部と話しをつけ、任侠手段と警察署の間に不可侵条約を結ぶ事にまで成功していた。

 

 警察とヤクザの癒着といえばそれだけで大問題だが、しかしこれに関しては深入りしない。

 

 件の任侠集団は昔かたぎのヤクザであり、基本的には法律ギリギリをチキンレースで綱渡りするような所業は行っているが、堅気の人間に無意味に危害を加えたりはしない。

 

 むしろ、お役所というフットワークがどうしても重くなる組織をカバーして裏組織を潰しており、この街の治安を守る重要な組織と言ってもいい。その際彼らの持っていた資産を貰っているが、これはお目こぼししてもいいだろう。

 

 そもそも自分達悪魔にとって人間はあくまで契約相手だ。あまり政治に深入りするわけにもいかないだろう。

 

 しかし、それでも今回は接触を図る他ない。

 

 なにせ、おそらくその二人は高位の神器(セイクリッド・ギア)の保有者の恐れがある。

 

 その少年や少女に倒された悪党の大半は、何らかの記憶操作が行われている事が発覚した。

 

 既に裏とりはある程度済み、その二人が異能を知るにはそれ以外にないという状況である事は判明した。

 

 少年の方は親族が魔法使い組織に関わっていたり悪魔と契約をしていたりするが、しかし当人には一切教えていないと確認もとっている。

 

 ……強力な神器はある程度監視の目をつける必要がある。それも相手が異能関係者でないなら尚更だ。

 

 なにせ、不用意に異能の存在が世界に公表されれば、余計な混乱を人間世界に生みかねないのだから。

 

 更にそれを大義名分に、教会や神の子を見張る者が悪魔を制圧しにきたら目も当てられない。

 

 それどころか、他の神話勢力が動く可能性も十分にある。そんな事になれば異形の世界で大戦が勃発するかもしれないのだ。

 

「まったく、聖書の神も迷惑な真似をしてくれますね」

 

 そうため息をつきながら、ソーナはどうしたものかと考えを巡らせる。

 

 不幸中の幸いか、その二人はこの駒王学園に入学しており、すぐに身元が見つけられたのは幸運だった。

 

 宮白兵夜と桜花久遠。

 

 顔写真だけ見ると百合関係に見えるが、立派な男女の関係である。

 

 片や女装させたら少女としか思えない顔立ちの美少年。片や大人の雰囲気すら見せる女性と言っても過言ではない美少女。

 

 しかし、同時に場合によっては人殺しも辞さないような危険な雰囲気を示していた。

 

「これは、強引な手段もやむ無しかもしれませんね」

 

 あの任侠集団とは本格的に事を構えたくないのだが、しかし異能が関わっているとなれば仕方がない。

 

 素直に申し出ても警戒されると思い、偽の情報を流して陽動する事を選択。

 

 同時に、不測の事態を考慮してリアスからも戦力を提供してもらう事を決断。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、見通しが甘かった事を心の底から後悔する事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだ、この事態は!!

 

 僕、リアス・グレモリーの眷属悪魔である木場祐斗は、この事態をどう説明してもらえばいいのか本気でわからない。

 

 異形の存在を何も知らずに神器に覚醒してしまったらしい二人の学生が、寄りにもよって準犯罪組織の幹部となってしまっている。そう聞かされたのは数日前の話だ。

 

 ゆえに放課後に生徒会室に呼び出して、取り押さえる事も想定して話を聞き出す事にしたので、万が一の為の戦力として待機してもらいたい。

 

 そうソーナ会長に言われて来てみれば、これはもうそんなどころではない。

 

「……数日前から嗅ぎまわっていたのは会長ですかー」

 

「人の家族にまで手を伸ばしてるみたいなので、強引に話聞かせてもらいますよ」

 

 その言葉と共に、戦闘が勃発した。

 

 ……そして、残っているのは僕を含めて僅か五名。

 

「何よコレ、禁手(バランス・ブレイカー)にでも至っているというの!?」

 

 自分達以外を殺さずに無力化した手腕に驚愕するリアス部長。

 

「……いえ、これは魔力の反応を感知しています。……しかし冥界政府は彼等が転生しているなどという話はしなかったはずです」

 

 比較的冷静さを保ちながらも、しかし冷や汗を流しているソーナ会長。

 

「会長、危険ですのでお下がりください」

 

「全くだわリアス。これは接触の方法を誤ったとした言いようがないわよ」

 

 ボロボロになりながらもしかし会長を逃がそうとする真羅副会長と、友人としての顔でリアス部長を庇う朱乃さん。

 

 そして、僕の五人が今残っている戦力だった。

 

 そして、戦闘が勃発してからまだ十分と経ってない。

 

 十人近い戦力で囲んでいたというのに、この短時間で半減するだなんて!!

 

「……やはり魔術でも魔法でもないな。どうやら俺の推測は当たっていたようだ」

 

「本当だねー。これ、流石にまずくないー?」

 

 何故かそんな大暴れをしてのけている二人は、頭痛を堪えるかのように額に手を当てている。

 

 え? なに? どういうこと?

 

「……あらあら、隙を見せてはいけませんわよ?」

 

 それを逃さず雷を放つ朱乃さんだが、しかしその雷は相手に当たらない。

 

「―防げ」

 

 魔力が篭ったその言葉と共に、水流が生まれてその雷撃を防ぎきる。

 

 一見すると矛盾に満ちたその現象に、しかし宮白兵夜は平然としている。

 

「……極限まで純度を高くした水は最高レベルの不導体となる。あんたとは相性が良くていいね、このライトニングドS」

 

「あらあら。そんな事を言われると、本当に感電させてあげたくなりますわ」

 

 Sの側面を見せて興奮する朱乃さんだが、しかし警戒心も強くなっていた。

 

 残っているのはこの場の中でも有数の実力者だが、しかし目の前の2人はそれをしのぎかねない圧倒的な実力を秘めていた。

 

 双方共に上級悪魔クラスはあるかもしれない。それも、桜花さんは本格的な実戦を経験しているとみていい。

 

 断じてヤクザの抗争なんかじゃない。そういう現代的なものでは決してない。

 

 神器による不可思議な現象や、魔力攻撃。ましてや一見して人間と変わらない姿を持つ悪魔が道具もなしに空を飛ぶという事態に、彼女は大して驚愕の表情を浮かべていなかった。

 

 空中から攻撃をしてきたリアス部長に、宮白くんが僅かに驚きを見せたのにも関わらずだ。

 

 彼女は、こちら側の存在としか思えない。

 

 だが、間違いなく彼女は裏との繋がりがなかった。

 

 先祖代々異能と関わりのない存在が、間違いなく異能としか思えない手段を使って、しかもそれを高水準で使いこなしている。

 

 なんだ、何なんだ一体!

 

「……下がりなさい、祐斗」

 

 その時、後ろから声が聞こえた。

 

 この声は、間違いなく頼りになる声だ。

 

「―師匠!!」

 

「総司!? なんでここに!?」

 

 僕とリアス部長が大きな声を上げて振り返る。

 

 そして、その瞬間真後ろに気配を感じた。

 

 そして振り返るより早く師匠は前に出て木刀と刀で打ち合った。

 

 そのあまりの神速の攻防に、僕は呆気にとられる。

 

 師匠の本気に反応できなかったのは仕方がない。だけど、それを木刀で打ち合った桜花さんの方があり得ない。

 

 なんだこの人は! 真剣で切りかかった師匠相手に木刀でしのぐだなんて!!

 

「……闘気に近いですね。しかしそれを武器に付与してここまで使いこなすとは―」

 

「―ダーリンー。流石に、この人はちょっとやばそうなんだけどー」

 

 切り込みが入った木刀を引きつった表情で見つめながら、桜花さんがそう宮白君にいう。

 

 ダーリンって……。

 

「……分かったハニー。ここはいったん退いた方が良さそうだ」

 

 そして同じく凄く甘い呼び名と共に、宮白君はポケットから何かを取り出した。

 

 それは、手榴弾のピンのようなものが付いた、グロテスクな物体だった。

 

 そして、それは一瞬で破裂すると霧を生み出す。

 

 明らかに危険な予感がしたので、風の魔剣でかき消すが、その瞬間には既に二人は数十メートルは離れていた。

 

「悪いがいったん逃げさせてもらう!! それと、ハニーの両親に手を出した報復はきちんとさせてもらうぞ!!」

 

「そういう事だからねー!!」

 

「いえ、逃がしませんよ」

 

 そして、その程度で逃げられるほど僕の師匠は甘くなかった。

 

 一瞬で距離を詰めると、そのまま二人を取り押さえにかかる。

 

 桜花さんは一瞬で更に距離を取るけれど、宮白君は対応しきれずに取り押さえられた。

 

「さて、こちらの対応に問題が多少はありましたし、穏便な話し合いをしたいのですが?」

 

「だ、だだだダーリンー!?」

 

 師匠、確かに僕らの対応にも問題点がないとは言いませんが、今のそれはもはや人質作戦では?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、超弩級の事実を聞かされて、僕達が絶叫するまで約十分掛かった。

 

 師匠が唖然とする顔を見たのは、たぶん初めてだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んなことがあったんだよ」

 

「マジか、リアス部長達と最初は喧嘩した仲だったとは思わなかった」

 

 イッセー、はっきり言っておくがあれは喧嘩なんて生易しいものじゃないぞ? 俺は殺しの経験がないのでちょっと躊躇してたが、ハニーは殺す事も視野に入れて戦闘してたからな?

 

 駒王学園に入学してから、前世か何かの縁なのか目の前の変態(覗きの常習犯)と友人になって四捨五入で一年半。こいつが悪魔になってから四か月ちょい。俺はリアス部長達の眷属になった経緯をざっくりイッセーに説明した。

 

 コイツが堕天使に美人局喰らって殺されてから約四か月。もう既に神器の力なしでもその堕天使を返り討ちにできるんじゃないかってぐらい強くなったのは良いんだが―

 

「お前、もうちょっとまともな物食えよ。……買い出しとか許可貰えなかったのか?」

 

「近くに人里がねえんだから仕方がねえだろ!! っていうか宮白、お前料理そこそこできるんだな」

 

 まあ、ハニーに家事を任せるのは現代の共働き事情としていかがなものかと思いましてな? そこそこ練習してるんだよ。

 

「で? なんでその後桜花さんと宮白は別々の眷属悪魔になったんだよ?」

 

「俺達が言ったんだよ。あの時点で俺は久遠と仮契約(パクティオー)だったから、それを利用して有事の際の連絡とかできるしな」

 

 あと、万が一どっちかが失脚してもフォローが効くというもの凄く黒い理由もあるが、これはハニーにすら説明してないので秘密だ。

 

 だって一万年もあったら人生で失敗するかもしれない選択肢も多そうだろ? 保険は必要だよ保険は。

 

 まあ、そのハニーとレーティングゲームで戦う事になる事も予想してたが、まさか例外的にこんな早く参戦する事になるとはなぁ。

 

「そんで? お前の方は禁手に至れたのか?」

 

「それが全然。……この調子だと特訓終わる頃になっても至れないかもしれなくてさぁ」

 

『逃げ出さないだけ充分見所はあるのだがな。まあ、禁手というのは本来一か月の特訓程度で至れるようなものではない』

 

 龍王タンニーンが落ち込むイッセーにフォローを入れるが、しかしまあ仕方がないだろう。

 

 俺も、それなりに頑張って到達したわけだしなぁ。

 

「まあ、十年近く努力を積み続けて、その上で切っ掛けがあって覚醒した俺から言わせれば、「その程度で慣れるわけねえだろうが馬ぁ鹿」と言いたくなるわけだしな」

 

「ひでえなおい!!」

 

『まあ、事実それぐらいしても到達できないものが多いのだがな』

 

 実際難しい事なんだぞ、禁手ってのは。

 

「っていうか切っ掛けってなんだよ? それがあれば俺も至れるんじゃないか?」

 

 その視線が突き刺さるが、俺はすぐに視線を逸らす。

 

 ………確かに、コイツなら至れる。そんな予感はする。

 

 だが、いざ実行に移そうとすれば大きな問題が頻発する事だろう。

 

 さて、どうしたものか。

 

「……………おい、何か隠してないか?」

 

 いかん、勘付かれた。

 

『なんだ? まさかと思うが後ろめたい事をして覚醒したのではなかろうな?』

 

 いかん、更に変な心配された。

 

 ………これは、言う他ない!!

 

「………………童貞卒業」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今畜生がぁあああああああ!!!」

 

 当然大爆発だ。




A バカップルになる?

さらに久遠は久遠で兵夜に引っ張られて幼少期から努力を積むので、生前より戦闘能力が向上するというミラクル。手を抜かれていたとはいえ、最強の騎士相手に木刀で攻撃をしのいだなど驚愕のニュースになるでしょう。

兵夜は兵夜で禁手に覚醒。もっとも、天界がイレギュラーではないのでおそらくはノーマルな禁手になるはずですが。


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IF ルート  もし、兵夜がゼノヴィアの誘いに応えたら

兵夜はエロいことを平然としまくっているのは書いていましたが、しかしそれをあまり行かせなかったのが残念です。









そんなことを思ってたら手が勝手に即興で書いてしまった。


 

 おっす! 俺イッセー!

 

 今、俺はすごくどうしたらいいのかよくわからないことになってる。

 

 今、俺はある部屋にいる。

 

 真ん中にはダブルベッドが一つ。結構おしゃれな内装だけど、一泊そんなに高くない。

 

 そう、いわゆるラブホテルだ。

 

 今、俺はそこにシャワーを浴びた後でここにいる。

 

 そして隣には―

 

「ふむ、ここがそういうことをするための施設か。意外と新鮮だね」

 

 と、ゼノヴィアがバスローブ姿で立っていた。

 

 お、お、お、お、俺! このままいくとすごいことになりそうな予感がするぞ!!

 

 苦節十七年の人生において、死ぬ前にどうしてもしてみたかった童貞卒業が本気でできそうだ。いや、一度死んでるけど。

 

 なんだけど、俺はなんていうか頭の中が煩悩一直線になってない。

 

 ……はいそこ、唖然としないで。

 

 ああ、そうだろうそうだろう。

 

 常に煩悩一直線。エロスを極めた結果女性の衣服を破壊する技にすら目覚めた俺が、なぜ童貞卒業の日が来たのにもかかわらずこんなにも冷静なのか。

 

 それは―

 

「ほらゼノヴィア。慣れないと体力を使うから、今のうちに少しなんか食べとけ」

 

「ああすまない。やはり宮白はこういうのに手馴れてるな」

 

「なんで宮白までいるんだよ!!」

 

 俺は、心の底からツッコミを入れた。

 

 ちなみになんでここにいるのかというと。

 

『イッセー! たまには男同士で帰りに遊びに行こうぜ!!』

 

『あ、兵夜! イッセーを勝手に連れて行かないでよ』

 

『いいじゃないですかリアス部長。たまには男同士のバカ騒ぎを容認してくれないと、男に嫌われますよ?』

 

『!? ……し、仕方がないわね。夕ご飯までにはちゃんと帰ってきてよ』

 

 と、宮白がリアス部長を説得して、ここまで俺を連れてきたんだ。

 

 ちなみに、リアス部長が見えなくなってからなぜか帽子をかぶせられたうえ、俺や宮白の恰好をした人たちといったん合流してから別々の方向に移動するというまねすらしてる。

 

 あ、これ何かやるな。とは思ったよ。

 

 思ったけど!

 

 そのまま同じく宮白の手か一瞬だとだれかわからない変装をしたゼノヴィアがいた。

 

 何が何だかわからないうちに、そのままラブホテルに連れていかれてこの始末だよ!!

 

「み、みみみ宮白!! これはどういうことだ一体!!」

 

「ん? そりゃお前、ラブホテルでやることなんてヒットつしかないだろ。やるだけに」

 

 うまいこと言おうとしてんじゃねえよ。

 

「その通りだイッセー。しかし、ようやく初体験ができるのか、なかなか緊張するな」

 

 ゼノヴィアはいつもの表情だけど、どことなく顔が赤い。

 

 ヤバイ、色っぽいぞ。

 

 ……でも宮白とガン見されてるってのがなんかすっごくやりづらい!!

 

「宮白、頼むからどういうことか説明してくれ。……本当に何するつもりなんだ?」

 

「お前の童貞卒業式とゼノヴィアの処女卒業式。そのあと3P」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛いぞイッセー」

 

「イッセー。友人を殴るのは感心しないぞ」

 

「やかましい! 何がどうなってそんなことになった」

 

 俺は、ツッコミ入れたい感情で禁手にいたりそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、あれは今から数日前にさかのぼる。

 

 プール掃除と引き換えにプールの使用権を得たのは良いが、一生懸命掃除した俺は結局一回もプールを使えなかった日だ。

 

 しかも、帰りに白龍皇がノンアポでやってくるという心臓に悪い一日でもある。ああ、実に嫌な一日だ。

 

 そしてその日、めっぽうお色気なイベントがいくつかあった。

 

 その一つが、ゼノヴィアによるイッセーに子作りを誘うイベントだ。

 

 なんでも、今まで信仰に生きてきたので、悪魔になってからどう生きていけばいいか全くわからないという。

 

 そして、それをリアス部長に相談した結果、欲望のままに好きに生きてみろと言われたそうだ。

 

 そして、それを数日かけて考えた結果。女特有の喜びである子供を作りたいという願望に目覚めたという。

 

 とはいえ学生のみで子供を作るというのはなかなか大変だ。悪魔は出生率が低いとはいえ、そういうのに油断して何もしていないと大変なことになる。そんなことになればイッセーもいろいろと思うところがあるだろう。

 

 そういうわけで説得したら、ゼノヴィアはなんと俺を練習相手に指名してきた。

 

「マジで言ってるのか?」

 

「ああ。確かにイッセーと子作りするのが一番強い子供が生まれそうだが、初めては痛いと聞くからね。その点経験豊富な君ならばそのあたりはカバーできるだろう。……さらに、経験を積んでおけばイッセーも喜ぶかもしれない」

 

 経験豊富な同年代の女の子に手とり足とりフルコースか。

 

 うん。イッセーならそれはそれで喜びそうな気がする。

 

 とはいえ、オカルト研究部でいきなりそんな仲になったら、ほかの連中との付き合いに問題が発生しそう………だ……。

 

「ふむ」

 

 俺は、ちらりとゼノヴィアを見る。

 

 誰がどう見てもスタイルのいい美少女。しかも性的なことしてもOKと来ている。

 

 この上玉とヤれるチャンス何て、そうないだろう。それは勿体ない。

 

 それに、変に暴走してそこらの男で練習するなんてことになったら大変だろう。このあたりはそういう連中はある程度節制しているが、それでも限度がある。

 

 うかつにはまってエロゲみたいな展開になったらあれだろう。そういう意味では手取り足取り俺が教えるのが理にかなっている。

 

 かなっているが……。

 

「せっかくのイッセーの童貞、そんな商売女一歩手前の奴で捨てさせるわけにはいかんし」

 

「む? だが私とイッセーが子作りするのはダメなのだろう?」

 

「いや、ちゃんと避妊していれば俺としては文句はないわけでな?」

 

 とはいえ、初めて同士がそんなことしたらほぼ確実にグダグダになる。

 

 それはさすがに駄目だろうしなぁ。

 

 とはいえ、こんなこんないい女に手を出せる機会もそうないし、さてどうしたものか………。

 

 真剣に悩み、悩んで、悩み抜き―

 

「―はっ!」

 

 俺の脳裏に天啓がひらめいた。

 

「よし、こうしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の監修のもとイッセーの童貞卒業式とゼノヴィアの処女卒業式を同時に行う。なに、初めてがいたいのはたいていその前の下準備がおかしいからだ。そこから俺が教えるから、お前は落ち着いてついてこい」

 

「色んな意味で落ち着けないよ!!」

 

 イッセーが、キチガイを見るような視線で俺にツッコミを入れた。

 

「おい、何失礼なこと言ってんだこの野郎。お前こんな上玉自分一人だけ味わおうってのかずるい俺にも食べさせてくれ!!」

 

「ま、待て。私はカニバリズムをする気もされる気もないのだが!?」

 

 微妙に目が血走っている宮白の反応に、ゼノヴィアがビビったのかデュランダルを召喚しようとする。

 

「いや、食べるってのはエロいことするっていう暗喩だから気にしなくていいってゼノヴィア」

 

 さすがに日本のたとえとかは慣れてないか。うん。

 

 ってそうじゃなくて!!

 

「童貞卒業を親友に見られながらとか、どんな展開だよ」

 

「だがそれによって失敗することなく処女で童貞を卒業できる。紳士としてこれはかなり最高な展開じゃないか?」

 

 うっ!!

 

 た、確かに宮白はすごくそういうのが上手だと聞く。

 

 そんな宮白がサポートしてくれれば、途中で失敗する可能性はないといてもいい。

 

 少なくとも、ゼノヴィアがいたがることはないはずだ。

 

 うん、どうせエッチなことするなら、確かに相手も痛くない方がいいに決まってる……。

 

「そのあと俺もしっかり混ぜろ。俺は、お前と穴兄弟になってみたかったんだ」

 

「そっちが本命!?」

 

 うぉおおおおおい!! 何考えてんのぉおおおおおおお!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兵夜Side

 

 イッセーが妙に乗り切らねえな。

 

 やはり、レイナーレに殺されたことがトラウマになってるのか?

 

 まあ、初めてできた彼女が美人局だなんて女嫌いになってもおかしくないトラウマ事情なのは間違いないが。しかしだからこそ何らかの形で癒しを当てるべきでもある。

 

 少なくともゼノヴィアはそういうタイプではない。やるなら堂々とぶった切りに行くタイプだ。だから、ある意味安心できる。

 

 恋愛抜きでエロいことするところから始めて、ゆっくり恋愛方向にシフトすればいいと思ったんだが、さて、どうしたものか。

 

「それで、いつ私は子作りの練習をするんだ? 割と待ちきれなくなってきてるんだが」

 

 ふむ、そうか。

 

 ならちょっと説得ではなく陽動するか。

 

「そうだな、じゃあ簡単に実践するか」

 

 俺はそういうと、ゼノヴィアを背中から抱き寄せる。

 

「お?」

 

「え?」

 

 二人がそれぞれ反応している隙に、俺はゼノヴィアの胸を服越しに柔らかくもむ。

 

「ん! ……なんだかくすぐったいな」

 

「慣れないうちはそういうもんさ。大丈夫、少しずつこうしていくとだな……」

 

 最初は痛がらないように丁寧にしながら、しかしやわらかい乳房を丁寧にもんでいくと、ゼノヴィアの口から喘ぎ声が漏れてくる。

 

「……んあ……いいな、これ。これが……子作りなのか?」

 

「その下準備だ。見ろイッセー。ただ強引にもむんじゃない。女の胸は気持ちよくもむための力加減ってもんが必要なんだよ」

 

「……………」

 

 ああ、すでに開いた口がふさがってないな。

 

 さて、それではそのまま俺はゼノヴィアの服を外していく。

 

 幸いブラはフロントホック。この状態なら片手で外せる。

 

 ……うん、薄暗い更衣室で見たときから立派なものを持っているとは思っていたが、これはさすがに来るものがあるな。

 

 と、いうわけで俺はそれをイッセーの視界でゆっくりと手でゆがませる。

 

「ほら、イッセー。これが女の胸の気持ちよくする扱い方だ。よく見てるな」

 

「み、宮白。さすがに恥ずかしいんだが……」

 

 ゼノヴィアが結構戸惑っているが、今更止まるという選択肢はない。

 

「その恥じらいを楽しむのが子作りの楽しみ方の一つだ。大丈夫、すぐに癖になる」

 

 そういいながら、イッセーの前でゼノヴィアの胸をやさしく変形させる。

 

 サラリと確認したが、イッセーもゼノヴィアも準備はだいぶ良くなっているしな。

 

「さて、それではイッセー」

 

 そして、俺は力の抜けたゼノヴィアの向きを変えると、イッセーに差し出した。

 

「やり方は少しずつ教えていく。さあ、やってみろ」

 

「………はい」

 

 鼻血がだらだら流れているが、まあそれはかまわない。

 

 もはやイッセーも本能に支配されて。そのままゼノヴィアの胸に手を伸ばす。

 

 そして、勢いよくわしづかみにしようとしたので即座に止める。

 

「そうじゃない。もっと、すぐに割れるシャボン玉を扱うように触ってみろ」

 

「あ、ああ……」

 

 ああ、言われたことはすぐに飲み込むイッセーだ。すぐに丁寧にもみ始める。

 

 そうそう。最初はまず柔らかくな。強引にもんで気持ちよくなるのは、Mでもなければ素人には無理だからな。

 

「い、イッセー。ちょっと物足りないぞ。もっと強く……」

 

「駄目だゼノヴィア。イッセーは少しずつ慣らしていかないとな」

 

 そして、俺はゼノヴィアの尻に手を伸ばし、そのうなじをペロリと舐める。

 

「大丈夫、数日すればイッセー一人で十分にこなせるさ。俺も手加減してるから、大学を卒業してからゴムなしで子作りをするといい」

 

 さすがにそうなったら、俺は手は出さない。

 

 ああ、不倫はいけないだろうしな。その辺はきっちりしてみるべきだ。

 

 だが、学生の遊びの範囲内なら別の話。そんなときぐらい、イッセーと一緒に女の子を啼かせてみたかったんだ。

 

 それがこんな美少女とできる。しかも俺たち色に染め上げれるとなればそりゃもうたまらん。

 

 こんな形で夢がかなうとは、まさに最高。

 

 すでにイッセーは揉みかたを飲み込み始めている。

 

 さて、なら次は本格的に女の子をよがり狂わせる方法を教えるとするか。

 

「さて、時間もあまりないからな。手早くしかしきっちりと教えてやる。……本格的なのは、また数日後にな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてすべてが終わり、俺たちは仲良く風呂に入っていた。

 

「ふぅ。これが子作りというものか。すごく気持ちがいいものなんだな!」

 

「ど、童貞卒業はやっぱり素晴らしかったぁああああ!!!」

 

 二人そろってなんか感動してるけど、お前らちょっと体を洗え。

 

「つってもこんなに初めてがラッキーなのって珍しいんだからな? 俺の時は結構恥ずかしいことになった」

 

 ああ、あれは黒歴史だ。

 

 所詮は努力でどうにかする秀才タイプ。初見で対応できるわけではないのだよ。

 

「特に処女捨てるのは痛いことが多いんだ。最初から気持ちいなんてめったにないんだからな? そして、そんな経験をするときは高確率で悪い男に利用されることが多いんだからな!」

 

 ああ、そういうことが意外と多いから大変なんだ。

 

 これから猿のようにことをいたすことになるだろうし、こいつらにはそういう関係になっても問題ない相手を見抜く審美眼を鍛えるのは難しそうだ。

 

 ……ああ、俺がしっかり監督しないとだめだな。

 

「なんか、すごく実感籠ってるな」

 

「ああ。そういうゲスを叩きのめしたことも一度や二度じゃない」

 

 相手がよく知らないことをいいことに、事実上の肉〇器扱いしている屑とか見てて腹立つ。

 

「体だけの関係には体だけの関係なりの礼儀ってもんがある。それを忘れるようなら、俺が物理的に叩きのめすからな」

 

「お、おう!! よろしく頼むぜ先輩!!」

 

 イッセーが妙にかしこまって敬礼した。

 

「だが、これが女の喜びというものか。……ああ、主が良くせさせようとするのも分かってしまう。それほどまでに甘美な一時だった」

 

 そういうゼノヴィアの口元には、今までになかったあでやかな笑みを浮かんでいる。

 

 ああ、これは雌の色だ。

 

 どうやら俺はいろいろと開発してしまったらしい。

 

「ふむ、初めての時から3〇と〇ナルにホテルの自販機でおもちゃ買うのはやりすぎたか。一歩間違えたらビッチになりかねないな」

 

「うぉおおおおおい! おまえ、元教会の信徒をなんツーもんに変えそうになってるんだよ!!」

 

 すまんイッセー。俺もちょっと調子に乗りすぎた。

 

 いや、俺がエロいことする相手は基本的にビッチだけなので、その辺の調整が大変で。

 

 さてどうしたものかと思ったが、しかしゼノヴィアは心配すんなと言いたげに胸を張った。

 

「安心しろ! 宮白もいろいろ言っていたからな! 私が子作りするのはイッセーと宮白だけだ!!」

 

「「………」」

 

 お、おう。

 

 なんか、俺もイッセーも何とも言えずに口ごもってしまう。

 

「どうした? 子作りし終えたのに顔が赤いぞ?」

 

「「なんでもない!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後、ゼノヴィアの天然さを考慮して口止めをしたのは良いのだが、服があまりにも乱れていたためリアス部長に勘付かれて三人そろって説教を受けるのはまた別の話。

 

 とはいえ覚えたてのイッセーとゼノヴィアが我慢できるわけもなく、俺が部長の目を盗んでその機会を作るのに奔走する羽目になるのもまた別の話だ。

 




ちなみにこの後、兵夜はゼノヴィアを徹底的に開発することになるでしょう。我慢できずに。

 そのままイッセーに実演込みで教え込みながら、どんどんエロい方向に進化発展。原作を超えるエロコメになるでしょう。

 そしてその流れを連発していって、イッセーと兵夜が彼女をシェアリングする退廃的な関係になる……かもしれませんね。

 そういうifルートとかも需要があるとは思いますが、さすがにそのずれだけではそれ以外は本編とあまり変わらないでしょうし、書くことはないかと思います。


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番外編 IFルート もし、兵夜が次元のはざまに飛ばされなかったら・・・

ちょっとした気分転換に書きましたー









注:この話は、リアス×イッセーが好きな人には微妙な展開になるかもしれません



















警告はしましたよ? それではご覧ください


リアス・グレモリーは部屋の隅でうなだれていた。

 

今、冥界は窮地のただなかにある。

 

旧魔王派最後の幹部。シャルバ・ベルゼブブが英雄派の保有する神滅具を暴走させた。

 

その結果生まれた獣鬼というモンスターにより、冥界は大いなる危機に瀕している。

 

なにせ、最上級悪魔が眷属をフルメンバーにして仕掛けても足止めが限界なのだ。

 

当然動ける戦力は全員が何らかの形で動くことを命じられており、若手眷属でも優秀な者たちで編成されているグレモリー眷属も出陣を要請されていた。

 

 だが、そこに動こうというものはほぼいなかった。

 

 別行動をしているロスヴァイセやギャスパー、ゼノヴィアはわからない。だが、残りの眷属でまともに動けるのは祐斗ぐらいだろう。

 

 その理由は、まさにその獣鬼が生まれたその時にこそある。

 

 獣鬼を生み出したシャルバは、その勢いでオーフィスを捕縛してハーデスに引き渡そうとしていた。

 

 それを阻止するとイッセーが言って聞かず、仕方なく彼を次元のはざまにおいてきたのだ。

 

 むろん、すぐに連れ戻すべく龍門《ドラゴンゲート》を開いたのだが、そこにイッセーが戻ってくることはなかった。

 

 戻ってきたのは兵士の駒八つのみ。そして、そういう事例が起きた場合の生存率はゼロ。

 

 さらに、サマエルの毒が検出されたことでその可能性は非常に大きくなった。

 

 あの白龍皇ヴァーリ・ルシファーがなすすべもなく倒れ、そして無限の龍神オーフィスすら瞬く間に力を奪われた。そんな強力な力にイッセーが耐えられるとは思えない。

 

 その事実に、グレモリー眷属は機能不全に陥った。

 

 人を惹きつけ魅了するドラゴンの特性に、兵藤一誠自身の人柄は、グレモリー眷属の精神的支柱だったといえる。

 

 それが壊れればどうなるか。まさに、今の現状がその答えだった。

 

 もうすでに、リアスにとって冥界の未来はどうでもよく感じられた。

 

 彼はいない。彼がいない。兵藤一誠がいない世界が、これほどまでに色あせて見えるとはさすがに驚いた。

 

 なら、このまま世界が滅んだとして、それがどうしたというのか―

 

「・・・ものの見事に憔悴してますね、部長」

 

 と、辛辣な声が静かに届く。

 

 顔を上げる気力すらないが、リアスはその声の持ち主が誰かぐらいはすぐにわかった。

 

「何の用、兵夜?」

 

「反撃作戦のための参加要請が届いています。グレモリー次期当主として、こういう時こそ率先して参加してくれないと困りますよ」

 

「知らないわ」

 

 どうでもいい。

 

 心底心からそう思い、リアスはそのまま横になろうとした。

 

 その胸倉を、兵夜は遠慮なくつかんだ。

 

「いい加減にしろよ、馬鹿主」

 

 遠慮なく怒気をまき散らして、兵夜は静かに炎を燃え上がらせる。

 

「あれほどグレモリーの誇りだの上級悪魔の意地だの気にしておいて、男一人でこのざまか?」

 

「そうね。自分でもここまでとは思えなかったけど、当主の座はミリキャスに挙げた方がいいかしら?」

 

 いっそこのまま隠居でもしてしまおうか。

 

 そんなことが本気で思えてしまうぐらい、今の彼女はうつろだった。

 

 むしろ、兵夜がこれほどまでに仕事熱心になれていることの方に驚ける。

 

「貴方こそ、あなたにとってのイッセーがその程度だったことに驚きね。寝込んでないことが信じられないわ」

 

「寝込むさ。ただし、それはこの騒ぎが終わった後だ」

 

 突き放してから、兵夜は天を仰ぐ。

 

 その目に映っているのは天井ではない。そのさらに向こう側を見透かしていた。

 

「ここであいつがすることなんてわかりきっている。だったら俺がその分まで引き受けるしかないだろう。・・・そして―」

 

 ―ハーデスはいつか殺す。

 

 薄ら笑いすら浮かべてそう告げるその姿は、リアスが想像する兵夜にとても近い。

 

 ああ、彼はやはりそういうタイプだ。

 

 この男の恩讐に火をつけるとは、ハーデスも愚かなことをしたものだ。

 

 だが、自分には関係ない。

 

 心の大事なところが空っぽだ。もう何の熱も止まらない。

 

「・・・結局、処女を奪ってすらもらえなかった。何もかも馬鹿らしくてやる気になれないわ」

 

 だから見捨てるならお好きにどうぞ。と言外に告げ、リアスはそのまま横になる。

 

 そして少し静かな時間が流れ、ベッドがさらにきしんだ。

 

 何があったのかと思ってみてみれば、そこには兵夜の姿があった。

 

「・・・何のつもり?」

 

「そんなに処女が残ってんのが嫌なら、俺が奪ってやろうか?」

 

 怒気がしっかりと籠っている言葉だが、しかし同時に何かほかの感情があるようにも感じる。

 

 ただ一つ言えるのは、この男のことだからいいと言ったら本気でやることだ。

 

「そんなに欲しい? あなたこそ、イッセーがいなくなった空洞を埋めたくてたまらないんじゃない」

 

「・・・ああそうだな。それであんたが動けるなら、それに越したことはねえよ」

 

 そのころになってようやく気付く。

 

 兵夜の体が少しだけど確実に震えていた。

 

 ああ、この男は本当につらいのだ。

 

 そのくせ、自分の女たちはちゃんと仕事をしているから吐き出すところがない。

 

 素の弱音が、駄目な主に対する怒りという形で吹き出しかけている。

 

 ・・・なるほど。確かに自分は今あまりに情けない。

 

 下僕がこれほどまでに限界を超えて立ち向かっているというのに、情けなく部屋の隅でうずく持ったままなどと愚かなことだろう。これでは朱乃たちも立ち上がりようがないだろう。

 

 ああそうだ、イッセーなら確かにこの事態にすぐにでも動くだろう。

 

 だけど、自分はそんなに強くない。兵夜みたいに強がりもできない。

 

 だから―

 

「・・・存分に貪りなさい。頑張ってる下僕には褒美を与えないといけないもの」

 

「やっぱりあんた正気じゃねえよ。イッセーにどう報告する気だい?」

 

「ええそうね。私は今全く正気じゃないの。可愛いけれど好みじゃない下僕で純潔を汚せばショックで正気に戻るかもね?」

 

 空っぽの心を何かで埋めれば、確かに少しはごまかせるだろう。

 

 このままふさぎ込むより、やけになって散々暴れた方がすっきりする分何かが変わるはずだ。

 

 ああ、それに―

 

「・・・貴方もスッキリしなさい。そんな泣き出しそうな顔で迫られたら、可愛い下僕を断れないじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・結局、処女は奪われなかった。

 

 兵夜は本当にイッセーに対しては義理堅い。それともヘタレというべきなのか。

 

「・・・後ろの方だけ開発するだなんて、あなたそういう趣味があるの?」

 

「いえ、その、前は、イッセーの顔がちらついて・・・」

 

 性的興奮とはまったく違う意味で、兵夜は顔を真っ赤にしていた。

 

 どうやらこの男、今更だが割とヘタレだったらしい。

 

 かなり罪悪感が残る最悪の初夜だったが、おかげでだいぶ冷静になれた。

 

 あえて悪行とか悪いことをするのもいい経験だ。少なくとも、あのままふさぎ込んでいるよりかはよっぽど健康的だろう。

 

 最低でも、とりあえず冥界を守るための動きを取ろうという気分にはなれた。

 

「・・・お礼を言うべきかしらね」

 

 おかげで少しは踏ん切りがついた。

 

 自分が踏ん切りをつけなければ、きっと眷属も動けないだろう。

 

 兵夜には悪役をやってもらった。主といて非常に情けないことだ。

 

「別にいいですよ。アンタらがこういうのに向いてないのはよくわかってる。適材適所ってやつですし、その分利権を頂ければねぇ」

 

 いたずら小僧の笑みを兵夜は浮かべるが、しかしどこかぎこちない。

 

 それがわかるぐらいには余裕ができたから、リアスは兵夜を抱き寄せた。

 

「・・・すいません部長。俺の対物ライフルがカートリッジを装填しそうなんでストップストップ」

 

「あら、今更だし好きにしていいわよ?」

 

 そう茶化す余裕ができたのは、間違いなく彼のおかげだ。

 

 そう、毎回毎回彼には苦労を掛けている。

 

 だから、まあ。

 

「・・・今度はあなたの番。全然吐き出せてないんだから、今からしっかり吐き出しなさい」

 

 その言葉に、

 

「・・・うぅ」

 

 突然の事態の連続に、ずっと対処をし続けてきた。

 

 グレモリー眷属がほぼ機能停止しているなか、たった一人で大量の仕事をこなした。

 

 グレモリー眷属で一番イッセーの死に堪えて、それでもイッセーに胸を張れるように無理をし続けてきた。

 

 弱い子である兵夜は、一気にたまったものを吐き出した。

 

「ぅう・・・ぐ、うぁあああああああああああっ!!!」

 

「ごめんなさい。本当にあなたによりかかってたわ。だから、今だけはしっかり寄りかからせてあげるから」

 

「イッセー・・・イッセー・・・イッセー・・・イッセー・・・っ」

 

「ええ、ホント馬鹿なんだが、イッセーの・・・イッセーの・・・馬鹿っ」

 

 主従は抱きしめ合って涙を流す。

 

 敵の首魁をめぐる仲間割れなんかに首を突っ込んで、挙句の果てに死んでしまった馬鹿男を怒って恨んで悲しんで。

 

 二人は、年相応に泣いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんでもってイッセーは生きてました。

 

「「・・・お、お、お、お、おかえりなさいイッセー」」

 

「ん? リアスも宮白も何か変なんだけど?」

 

 まったく素直に喜べなかった。罪悪感で死にそうだった。

 

 ・・・数日後、素直に二人は土下座付きで白状して、グレモリー眷属が一週間ぐらいぎこちなかったのはこれだけの話だ。




・・・兵夜は何とかことが終わるまでは頑張ると思うんです。

だけどいっぱいいっぱいである意味誰よりもダメージでかいと思うんです。









損な妄想のままに勢いで書いてたらなぜかこんなことに


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Ifルート もし兵夜の令呪が定番の右手の甲にあったら。その一

 

 

「クッククククククククククククク……クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!! ざまあみやがれ!!」

 

 俺は我慢する事ができず、心からの嘲笑をコカビエルにぶつける。

 

 つい先ほどまで、この駒王町は滅亡の危機に瀕していた。

 

 三大勢力が一角、堕天使を統べる組織。神の子を見張る者(グリゴリ)の一人である堕天使コカビエル。

 

 三大勢力でもかなり強い組に属するこの男が、戦争を起こす為にこの駒王町を吹き飛ばそうとしたのだ。それも、エクスカリバーを融合させる術式に余波を使って。

 

 この駒王町は四大魔王の妹が担当を務めている土地で、エクスカリバーは教会の宝物にして最高レベルの兵器の一角。

 

 三大勢力の重要要素が集まりまくっているコカビエルの計画が遂行されれば、間違いなく三大勢力の戦争は再開されていただろう。

 

 しかも俺が来た時には爆発が起きるまで数十分もないという非常事態。流石にこれは想定外だった。

 

 だが、アドリブは成功した。

 

 エクスカリバー融合の余力をもってして駒王町を吹き飛ばすところまでは把握していたので、その対策はきっちり要していた。

 

 なにせ、この世界の異能は魔術師(メイガス)の視点から見るとガバガバなところがある。

 

 如何に大容量のエネルギーといえど、それをかなり簡単に組み上げる事が出来るのだ。

 

 ゆえに、必要なのはそのエネルギーを安全に消耗させる術式。其れさえ発動する事ができれば、後は増援が来るまでの時間稼ぎに集中できる。

 

 そして、俺の知識にはそれだけのエネルギーをもってしてもまだ足りない術式があった。

 

 英霊召喚。

 

 神話や歴史に名を残し、その分身を現実に呼び出す大魔術。

 

 本来は、彼等を贄にする事で願いを叶えたり、アカシックレコード的なものに接触したりする魔術の為の下準備だが、しかしこれがまた莫大なエネルギーを利用するのだ。

 

 なにせ俺達の居た世界でとはいえ、その気になれば全人類絶滅だって叶えられるかもしれない術式だ。町一つを吹き飛ばす程度では欠片も足りない。全く足りない。

 

 ゆえに、この術式を発動させれば間違いなく爆発まではどうにかなると思っていたが、成功だった。

 

 ありがとな、ナツミ。お前がコカビエルを抑え込んでいてくれたから、何とか成功した。

 

「残念だったな、コカビエル。お前の目論見はご破算だ、ざまぁ」

 

 俺は心の奥底から嫌味をぶっ放す。

 

 久遠のおかげで都合よく代用品が手に入ったとはいえ、左腕を吹き飛ばされてるんだから、これぐらいの嫌味は言っても問題ないだろう。

 

「まあ、サーヴァントが本当に召喚されるわけがないんだろうが、しかしこれで後は増援が来るまで持ち堪えるのみ。そして俺達が死力を尽くすのみだ!!」

 

 俺はそう言って指を突き付ける。

 

 雑魚相手に無双したがゆえに傷一つない手の甲が視界に移り―

 

「………あれ?」

 

 その右手の甲に、赤い三角の刻印が刻まれていた。

 

「あれ? 宮白、そんなところにタトゥーなんて入れてたっけ?」

 

「あれー? 仮契約(パクティオー)にそんな影響でないけどなー?」

 

 イッセーと久遠が首を傾げるが、これは断じて入れ墨ではない。

 

 ……これ、令呪だ。

 

「せ、成功しているぅうううううううううううううっ!?」

 

 う、う、嘘だ!! そんな事はあり得ない!!

 

 たかが地方都市を吹き飛ばす程度のエネルギーで、サーヴァントが召喚されるなんてありえない!!

 

 それに、第一英霊っていうのは聖杯に願いがあるから召喚されるものだ。

 

 なのに召喚されたって事は、つまり詐欺!!

 

 ………あ、これはつまり、そういう事だろう。

 

「イッセー、ナツミ、久遠。……俺、これが終わったら切腹するから誰か介錯してくれないか?」

 

「なんでだよ!?」

 

 全く状況が分かってないイッセーが、渾身のツッコミを入れる。

 

 イッセー。確かにツッコミを入れる気持ちはよく分かる。

 

 だが、これは必要経費だ。

 

「だ、だってここには聖杯がないんだぞ!? それなのにサーヴァントが来たら駄目だろ? つまりこれ、詐欺じゃん?」

 

「兵夜君ー!? 詐欺は死刑になるほどの罪じゃないと思うんだけどー!?」

 

 いや、久遠。そういうわけにはいかない。

 

「上位存在相手にこんな不敬ぶちかまして、ただで済むとは思えない。召喚されたのが反英霊だったら、逆にそいつによって駒王町が滅びるかもしれないんだ。誠意を見せないとまずい」

 

 ふっ。どうせ偶然手に入れた命。捨てる時は思い切って捨てようとは思っていたが、まさかこんな形で捨てる事になるとは。

 

 だが、これは間違いなく駄目だ。絶対にアウトだ。

 

 召喚されたサーヴァント次第では、殺される事もありうる。そして文句も言えない。

 

「すいませぇえええええん!! 誰だか知らなけどマジですいませぇええええええん!!! 本当に俺の首で勘弁してくださぁああああああああああい!!」

 

 俺は、どこにいるのかも分からないサーヴァントに向かって声を張り上げる。

 

 いや、本当に俺の命でどうにかできるなら躊躇なく差し出すぞ。本当に。

 

 ふ、一度は亡くなったこの命。使い潰す時が来たようだ。

 

「ちょっと待っていろコカビエル。今から俺は切腹を敢行する」

 

「いや、勝手に減ってくれるなら好都合だが、お前はそれでいいのか?」

 

 もの凄い呆れた表情をコカビエルは浮かべているが、しかし何を言っているのか。

 

 これは正当な謝罪である。死とは生命体の終焉であり、それゆえに大きな意味を持つ。

 

 若くして命をあえて差し出すという献身は、何が何であろうとそれなりの重みがあるのだ。余程の覚悟がなければ死ぬ事は困難だ。

 

 少なくともそれ相応の重みというものは理解してくれるはずだ。

 

 半端に生きて償いますとかいうよりかは、いっそこちらの方が潔いだろう。これからの可能性を全て投げ捨てるんだから。

 

 とはいえ、二度も生き返っているような俺の死では納得しない可能性もある。

 

 ええい、どうすればいい!!

 

―いいから、少し落ち着きなさい

 

 そんな声が、空の上から降りてきたのはその時だった。

 

「……事情はよく分からないけど、流石に殺しはしないわよ。面倒くさいマスターを引き当てたわね、私」

 

 ため息交じりにそう言うのは、紫色のローブを纏った、これぞ魔法使いといった感じの女性だった。

 

 外見イメージは二十代後半。ぶっちゃけ美人だ。

 

「お、おお!! すっげえ美人!!」

 

 その美しさにイッセーが見惚れる中、しかし女性は静かにコカビエルを見据える。

 

「私も、必要となれば手段は選ばない方だから何も言わないけれど、とりあえずあなたは倒させてもらおうかしら」

 

「……ほぅ。口だけではなさそうだな」

 

 コカビエルはそう面白そうに唇を歪めると、物は試しと光の槍を放つ。

 

 ………すいませんでかいんですが。

 

 あんなのが当たったら、俺達まとめて消滅!?

 

「下がってなさい」

 

 そして、その言葉と共に魔方陣が展開されて槍が受け止められた。

 

 それを見て、コカビエルが楽しそうに笑う。

 

「よく分からんが、とりあえず腕が立つ奴が来てくれたようだ。……前哨戦にはもってこいだな」

 

「悪いけど、こちらも状況が分かってないの。……邪魔するなら殺すわよ」

 

 棘のある言葉が投げかけられ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その直後、激戦が勃発した。



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Ifルート もし兵夜の令呪が定番の右手の甲にあったら。その二

 

 

 俺が呼び出しちゃったサーヴァントと、コカビエルの激突。

 

 放たれる魔力弾と光の槍は、一瞬で雨あられとなって周囲を破壊していく。

 

 や、ヤバイ! コカビエルの奴、ナツミと戦ってた時より本気出してないか!?

 

 弾幕の数が明らかにさっきより増えてる。

 

 そして、其れをサーヴァントは障壁で弾き飛ばすなり撃ち落とすなりして迎撃する。

 

 こっちを庇いながらも高速で飛び回って、コカビエルに狙いを付けさせないようにしながらだ。

 

 アイツ、まだ状況も分かってないのにこっちを庇ってる。

 

 様子を見てたのなら、聖杯は確実に手に入らない事だって分かるだろうに……っ!

 

「イッセー! 場合によってはもう一度禁手に目覚めてもらう! 覚悟だけはしてくれ!!」

 

「お、おう! 最初からなる覚悟はしてたけど―」

 

「なら重畳!」

 

 俺は流れ弾に気を付けながら、Targetの場所に走りこむ。

 

 探すのは、あの戦いで取り落とされたであろうエクスカリバー。そして、幸い無事な姿で確認された。

 

 急いで走って駆け寄ると、俺は懐に入れていた宝石を取り出す。

 

 聖剣使いから引き出した何かを込めた宝石。おそらくこれが聖剣使い量産の種だ。呑んで全身に浸せば聖剣を使えるはず。

 

 リスクはでかい。だがやるしかない。一応一つはいけた。

 

 俺は覚悟を決めて飲み込むと、即座にエクスカリバーを掴む。

 

 発動させるのは擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)。そして形状を変化させる。

 

 形状を自由自在に変える事が出来るのなら、態々慣れてない剣の形で運用する必要はない。

 

 そして、俺如き下級悪魔の肉体で最上級の堕天使の攻撃を耐えれるわけがない。

 

 なら、答えは一つだ。

 

 全身に纏う鎧にしてカバーする!!

 

 一瞬でそのイメージにエクスカリバーは答えてくれた。

 

 お前もこんな戦争狂に使われてイラついてたか? なら、一回意趣返しでもしてやろうか!

 

「……サーヴァント! たぶんキャスターだろうが、こっからは俺も手伝わせてもらう!!」

 

「アーチャーよ!」

 

 マジか。魔術師的な見た目してたから、キャスターだとばっかり。

 

 まあそんなことは後でいい!!

 

 俺は鎧を纏って駆け出すと、コカビエルに殴り掛かる。

 

 いや、拳の先にブレードを展開してるので突きかかるでもいいけどな!

 

「エクスカリバーを鎧に変化させるか! 面白い発想をする!!」

 

「そりゃどうも!!」

 

 コカビエルに拳は迎撃されるが、しかし注意は一瞬それた。

 

―今のうちに状況を把握してくれ。後ろの赤い髪の女は俺の主だから味方だ

 

―分かったわ。五分頂戴。

 

 五分か。エクスカリバー様、マジで頼むからな。

 

 俺は全身から刃の触手を展開すると、一斉に攻撃を加える。

 

 コカビエルも面白がったのか翼でそれを迎撃しながら、攻防を開始した。

 

「あれが噂のサーヴァントとやらか! あれだけの猛者、グリゴリにもそうはいない」

 

「そりゃ、俺らの世界の人類の最高到達点だからな!!」

 

 人がなれる最高峰の霊的存在。それは人間の一つ上のステージだ。

 

 堕天使如きとまともに戦えないでどうしたもんだって話だからな。

 

 とはいえ、この攻撃を捌くのは流石にキツイ。

 

 既に鎧に何回か攻撃が掠めている。この調子だとパターンを読まれてもろに喰らうのも時間の問題だな。

 

 せめてもう一手欲しいところなんだが―

 

「実質援護します!!」

 

「サポート入るよー!」

 

 と、ベルと久遠が左右からコカビエルを攻める。

 

「先程の乱入者と輝く腕か! 面白い!!」

 

 コカビエルがさらにテンションを上げて、攻撃速度を速める。

 

 んの野郎、まだ手を抜いてやがったのか!!

 

「気合を入れろお前ら! 後で奢ってやる!!」

 

「ありがとうねー。じゃあ、久々に全力で切り刻むよー!!」

 

「食事にはあまり興味はないのですが。でもお気遣いは実質感謝します!!」

 

 どんどん上がる攻撃の密度を、俺達は一斉に死ぬ気で防ぐ!

 

 あ、後一分ぐらいなら何とかなるか? 本当にそれだけでどうにかなるんだろうな!!

 

 くそ、これが堕天使幹部の本気ってやつか。ライザーとは次元が違う……っ。

 

 だが、それでも―

 

「マスターがサーヴァントのサポートもできなくてどうすんだよぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、おかげで何とかなったわ」

 

 その瞬間、コカビエルの足元に魔方陣が展開された。

 

「下がりなさい、巻き込まれるわよ!!」

 

 その言葉に俺達はバックステップを入れる。

 

 そしてその直後、コカビエルの動きが止まった。

 

「う……動けん!?」

 

 コカビエルが戸惑う中、アーチャーは息を吐くと微笑を浮かべる。

 

「あなたからの魔力供給が意外と低いので手間取ったわ。でも、これでそいつは動けない」

 

 マジか。すっげえな俺のサーヴァント。

 

「動きを封じた程度で勝てるつもりか!? 俺はまだ光力を放てるぞ!!」

 

 え、そっちはできるのか!?

 

 俺が振り返った時には既に何十本もの光の槍が展開されて今にも放たれそう。

 

 が、その瞬間光の槍を魔力の砲撃が貫いた。

 

「でも、攻撃速度は遅くなるでしょう? それなら撃ち落とす余裕はできるわ。そして―」

 

「―俺も思う存分ぶん殴り放題ってな」

 

 アーチャーの言葉を引き継いで、イッセーがコカビエルの前に立つ。

 

 その目は怒りに燃えていた。

 

「覚悟は良いかよコカビエル」

 

 静かに腰を落とし、渾身の力を込めて殴り飛ばせる状態になる。

 

「幼馴染のイリナをボロボロにして、俺の大好きな町を滅ぼそうとして―」

 

 それは渾身のテレフォンパンチ。本来のコカビエルなら確実にかわせる一撃だ。

 

 だが、今のアイツは動けない。

 

 なら、やるのなら攻撃力重視の一撃に徹するのが最適解。それも他のことは全く考えないのが一番だ。

 

 ゆえに、倍加は完全に高めている。

 

「―俺のダチをくだらないもの扱いして、ただで済むと思ってんのかぁ!!!」

 

 ―ゆえに、叩き込まれたボディーブローはろっ骨を五本はへし折った。

 

 これはキツイ。流石のコカビエルもここまでで―

 

「な……めるなよ、餓鬼ぃ!!」

 

 だが、コカビエルは渾身の力で無理やり右手を動かすと、イッセーの喉を掴む。

 

「ぐぅっ!?」

 

「認めよう、俺の負けだ! だが、せめて冥途の土産に赤龍帝の首は貰って―」

 

「あらあら。鴉風情が何を言ってますの?」

 

「その子は私のものよ。汚い手で触れないで頂戴」

 

 そのイッセーの首の左右から、二人分の綺麗な手が伸びた。

 

 その手からは驚異的な質の魔力と雷が漏れ、しかしそれは本当に余波でしかない。

 

 ………うっわぁ。まず譲渡してから更に殴る分の倍加かけてたのか。

 

「……おのれ、バラキエルとルシファーの娘如きが―」

 

「いいから―」

 

「―消し飛びなさい!!」

 

 そのまま、雷と魔力の二重砲撃がコカビエルを包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その戦闘を、終始確認していた勢力がいた。

 

 そのメンバーは三人。

 

 神の子を見張る者(グリゴリ)最強クラスの戦力である、奇跡を体現する存在。魔王の末裔たる白龍皇、ヴァーリ・ルシファー

 

 それを条件次第では一瞬で戦闘不能にする、お目付け役のハーフ堕天使にして転生者。青野小雪。

 

 そして最後の1人。堕天使の研究者にして獅子身中の虫。禍の団(カオス・ブリゲート)の幹部の一人。フィフス・エリクシル。

 

 其の三人は、遥か上空でその戦闘を見物していた。

 

「おい、どうすんだ終わっちまったぞ」

 

 小雪は、素性を朱乃から隠す為につけていたフルフェイスヘルメットを外して、ヴァーリに文句をつける。

 

 本来ならすぐにでも割って入りたかったが、しかしヴァーリが止めに入った所為でこの様だ。

 

 幼馴染である朱乃が無事なのは良かったが、イレギュラーがなければ死者が出ていたかもしれない。

 

 それを阻止する為にもすぐにでも介入しようとしたのだが、コカビエルとグレモリー眷属がどう戦うのか見たがった戦闘狂(ヴァーリ)の所為で介入ができなかった。

 

 即座に戦闘不能にしたいところだが、しかし小雪の本領は暗殺者。

 

 真正面から戦闘という土俵になってしまえば、小雪ではヴァーリは倒せない。

 

 そして、コカビエルを倒せるだけの戦闘能力の持ち主はヴァーリだけだと小雪は認識している。

 

 つまりどうしようもないわけで。

 

 ゆえに、この結果は小雪としては想定外だがラッキーとも言える。

 

 だが、神に子を見張る者としては別だ。

 

 今この状況では介入は困難と言ってもいい。

 

 既に乱入者によってコカビエルは魔法的な何かで拘束され、もうどうしようもない状況に陥っている。

 

 その近くではシスターによって朱乃達が治療されており、かつエクスカリバーを纏った者はリアス・グレモリーに抱きしめられている。

 

 とても介入できる状況ではない。

 

 何より、コカビエルを僅かな時間で無力化した戦力が相手では、ヴァーリですら強引にコカビエルを持って行く事はできないだろう。

 

「さて、フィフスはどうすんだ?」

 

 小雪からの非難の視線を華麗にスルーして、ヴァーリは最後の一人の意見を聞く。

 

「……想定外だな、これが」

 

 フィフスは、そう呟いた。

 

「ああ、確かにファックに想定外だな。あんな実力者がグレモリーの子飼いだなんて聞いてねーぞ」

 

「俺としては一戦交えたいが、そんなことになればアザゼルに怒られる。ここは魔王ルシファーに任せる他ないか」

 

 小雪とヴァーリはやれやれといわんばかりの態度だったが、しかしその言葉はフィフスの耳には入ってこない。

 

(……最悪だ。よりにもよってサーヴァントが召喚されているだと? 奴は御三家の血縁が転生したのか)

 

 フィフスの頭の中では、この状況があまりにも危険であるという事が理解できた。

 

 なにせ、あのサーヴァントが使ったのは彼のよく知る魔術だ。

 

 それも自分の時代の魔術師なら、相当の礼装を用意しなければ放てないような高い質と高い魔力と高い技術を必要とするレベルの代物。断じて速射で放っていいようなものではない。

 

 あれほどの魔術師ならば、何故自分が召喚されたのかという事にも気づく可能性が高い。

 

「………急いで帰るぞ。アザゼルに早く説明した方がいいだろ、これが」

 

 そして、すぐにでも禍の団にも説明しなければならない。

 

 フィフスはそう考え、すぐに踵を返した。




イッセーが疑似禁手に至ることなく難なく撃破。コカビエルざまぁ。

まあ、魔力供給量の問題さえなければ、接近戦に持ち込まれない限りはアーチャーなら勝てたでしょう。それぐらいD×D世界で召喚された彼女は強いです。人間の魔法使いは彼女の戦闘では勝てないぐらいの化け物として設定しております。









そしてフィフス、ガチ焦る。

ざまぁ


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サーヴァント紹介集

サーヴァントの項目もほぼ埋まったので、別のページで分けて書くことにしました!

半年以上という異例の開催期間の間、激戦を潜り抜けたサーヴァントたちに心からの感謝を


 

サーヴァントデータ

 

セイバー 真名剣士 中立・中庸 マスター

筋力B 耐久A 敏捷C 魔力D 幸運D 宝具A++

【クラス別スキル】

対魔力:A

 十節以下の魔術を完全に無効化する。

 事実上、現代の魔術師ではセイバーを傷つけることはできない。

騎乗:B

 騎乗の才能。

 魔獣・聖獣ランク以下のあらゆる乗り物を乗りこなせる。

【固有スキル】

精神防護:B

 自我が薄いことからくる精神干渉への抵抗。

 同ランクまでの精神干渉を無力化可能。これは神秘全てに対応しており、宝具ですら無力化することができる。

【宝具】

『剣の英霊(ザ・セイバー)』ランクA++ 対人・対軍・対剣宝具 レンジ:1以上 最大補足:1人以上

 剣の英霊という概念そのものを結晶化させた、セイバーの持つ剣。

 世界そのものに干渉することにより、戦闘地域にいるすべての剣の頂点に立つ性能を発揮する。

 また、剣の英霊という概念そのものであることを利用することで、セイバーの適性がある者の宝具の触媒にできるものが戦闘地域にある時に限り、真名解放で剣の信仰を具現化し自身の宝具として使用できる。

【詳細】

 剣の英霊という概念そのものが該当する英霊全ての信仰によって英霊となった者。複数の死体の寄せ集めを触媒としたことで、英霊の概念の寄せ集めであるこの存在が呼び出された。

 強いサーヴァントから弱いサーヴァントまで英霊の要素の寄せ集めのため、性能は剣の英霊としては平均的。マスターの能力で持っているようなものではある。

 

 

 

アーチャー 真名メディア 中立・悪 マスター宮白兵夜

 

筋力E 耐久E 敏捷C 魔力B 幸運C 宝具C

【クラス別スキル】

対魔力:B

 魔術発動における詠唱が五節以下のものを無効化する。

 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

 

単独行動:A

 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。

 その伝承ゆえに非常に高く、ただ存在するだけならば依代となるマスターは必要ないレベル

 

【固有スキル】

高速神言:A

 呪文・魔術回路の接続をせずとも魔術を発動させられる。

 大魔術であろうとも一工程で起動させられる。

 

金羊の皮:EX

 とっても高価。

 竜を召喚できるとされるが、アーチャーには幻獣召喚能力はないので使用不能。・・・だったが、アザゼルの努力によってその身体能力などを引き出すことが可能になった。

 

【宝具】

『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』

ランク:C 種別:対魔術宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人

 あらゆる魔術を破戒する短刀。

 魔力で強化された物体、契約によって繋がった関係、魔力によって生み出された生命を “作られる前”の状態に戻す究極の対魔術宝具。裏切りの魔女の神性を具現化させた魔術兵装。

 その外見通り攻撃力は微弱で、ナイフ程度の殺傷力しか持たない。

 原作ではあまり役に立たなかったが、対英雄派においてかなり大活躍している。

 

 

 

 

 

ランサー 真名吸血鬼 混沌・悪 マスター曹操 真名ヴァンパイア

 

筋力D 耐久D 敏捷B+ 魔力C 幸運D 宝具C

 

【クラス別スキル】

対魔力:D

 一工程の魔術を無効化する。魔力よけのアミュレットと同じレベル。

【固有スキル】

無辜の怪物:EX

 ヴァンパイア。吸血鬼という伝承から生まれたイメージそのもの。

 さまざまな吸血鬼に対するマスターのイメージで特殊性が決定される。曹操によって召喚されたことで、彼が吸血鬼の中で最も危険視しているハイデイライトウォーカーのイメージが植えつけられているため、太陽のもとでも大丈夫。

 

魔術:D++

 一部の魔術を習得。

【宝具】

吸血鬼(ヴァンパイア)

 対人宝具 ランクA レンジ:1 最大補足:1000

 血を吸ったものを吸血鬼に変えるというイメージそのものが結晶化した能力。

 ランサーに吸血された者は、自動的にランサーの眷属として肉体が変化してしまう。戦闘能力から肉体特性まで、劣化版のランサーとでもいうべき存在に変貌し、ランサーに吸血されるという行為に重度の中毒状態になり反抗することが出来ない。

 驚異的な精神力を持っていれば対抗する事も出来るだろうが、それでも血の契約による圧倒的な強制力が働くため、令呪クラスの強制力がなければ完全に抵抗することは不可能。

 これを防ぐにはそれ以上の上位存在による上書きが必要不可欠。

 

人間無骨・数打

 対人宝具 ランクE レンジ:2 最大補足:1

 ランサーが装備する槍。実は高位の魔術師が作り上げた魔術礼装で、英霊化したことで相棒といえるこの槍が昇華された。

 魔術礼装としての能力は錬金術の応用による強度の無効化。物理的なつながりを断つことで、耐久力の影響を無効化する。刺突でしか使用することはできないが、十文字槍なので応用が利く。

 

 

【概要】

 吸血鬼の伝承に、吸血鬼としての印象を残した猟奇殺人鬼が核となって具現化した英霊。

 なんか大きなことを起こしていろいろと騒がれたいという願望で動く典型的な中二病の愉快犯でしかも馬鹿。名前の割に小物が結構いる英雄派のサーヴァントにふさわしい人物。

 曹操のサーヴァントの特性を誤認させる作戦に、完全に嵌ったため兵夜は全く気付かなかった。このうっかりさんめ☆

 

 

 

 

 

 

 

ライダー 真名冬将軍 属性:中立・中庸 マスター:ヴァーリ・ルシファー

 

筋力C 耐久C 敏捷B 魔力B 幸運C 宝具C++

 

【クラス別スキル】

現象の担い手:EX

 自然現象が具現化した存在であるため、大気の流れに〝乗る〟ことができる。

 また、自然現象であることから自然からバックアップを受けることができ、Bランク相当の単独行動スキルとしても機能する。

 

対魔力:D

一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。

 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

【固有スキル】

自然操作:A+

 自然現象の内、冷気・氷雪・暴風を発生させ操ることができる。

 自然現象内の魔力ごと操るため英霊にも攻撃として通用し、あくまで自然現象であるため対魔力による無効化は起きない。

 

変化:A

 伝承によって構成されるため明確な実態を持たない。

 他者からのイメージを利用することで、自在に姿形を変化させることが可能。

【宝具】

『吹雪く将軍(ジェネラル・フォレスト)』

ランク:C++ 種別:結界宝具 レンジ:1~99 最大補足:100

 幾多もの侵略者を撃退し続けた冬将軍の本質が結晶化した盾。純白のカイトシールド。

 侵略者を撃退してきた自然現象という形をとった固有結界であり、一つの世界であるため非常に強固。また季節の結晶化なため破壊されても短時間で再生するため、壊れた幻想による近接戦闘にも流用できると攻防一体の優れた武装。

 真名解放によってその世界を展開し、敵を飲み込む。この世界で侵略的行動をとっているものは、全ステータスワンランクダウン、ST判定成功率二分の一、機械などの武装の故障確率数十倍などという妨害現象が起こる。

【詳細】

 ヴァーリに強力な英霊を与えたくはないが、しかしこいつの性格だと強そうな英霊を呼びそうだと考えたフィフスが、強そうだけどテロリストと相性悪そうでかつ興味を引きそうな英霊を考えた結果呼び出させた英霊。

 本来護国の存在としての英霊なのだが、人格を得たことで「何故、ただの現象であるはずの自分が受動的な護国の存在として固定化されなければならないのか」と考え、ヴァーリと気があって能動的に行動することを選ぶ。そのせいか自分を独自色で固定化することをこの身、上半身裸にコートを着込んだ独特なオールバック白髪の男として行動する。

 

 

 

キャスター マスター カテレア・レヴィアタン 真名パラケラスス(偽) 混沌・中庸

筋力D 耐久E 敏捷E 魔力A 幸運D 宝具B+

【クラス別スキル】

陣地作成:B+

 工房を作成することが可能。

 

道具作成:A+

 魔術的な道具を作ることが可能。

 材料があれば宝具クラスの道具を作り出すことも可能であり、サーヴァントとしては最高レベルに到達している。

 

【固有スキル】

錬金術:A+

 神代の領域にまで到達した魔導の極み。

 材料さえあれば正真正銘神の領域に到達した神秘の物体すら作成可能。

 

【WEPON】

エルリック

 錬金術とこの世界の技術の粋をあつめた大型自動人形。内部に乗り込むことでキャスターという存在を封印した人造神器と同等の存在になり、かなり凶悪な戦闘能力を発揮する。

 

錬金魔人アルフォンスン

 キャスターの作り上げた20メートル以上の巨体をもつ自立駆動型殲滅機動兵器。外見はトリコロールカラーのスーパーロボット。

 学園都市の技術を彼の錬金術でプラッシュアップしており、単独で上級悪魔を打倒可能。

 さらにマイナーチェンジが大量にあり、特性を最大限に生かすと極めて危険。

 ロケットパンチ「ブットブゼーアーム」など、武装のネーミングセンスがアレなのが特徴。

 

 

【解説】

 厳密にいえば英霊のパラケラススではなく、同名で実力も同格レベルの別人の錬金術師(本来のパラケラススは英霊になるばあい本名で登録される)。本人も公言している通り、その本当の名はパラケ=ラススである。

 ごくわずかであるが賢者の石の生成にも成功しており、それゆえにパラケラススとして召喚された。

 目立ちたがり屋であり、聖杯にかける願いも「英霊の影ではなく個人として歴史に名を刻むこと」故にこの世界で大暴れすることで歴史に名を刻めればそれで解決するため、フィフスに協力している。

 

 

 

アサシン マスターフィフス・エリクシル 真名ハサン・サッバーハ 秩序・悪

筋力C 耐久C 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具B

【クラス別スキル】

気配遮断:A+

 サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。

 完全に気配を断てば発見する事は不可能に近い。

 ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。

【固有スキル】

蔵知の司書:C

 多重人格による記憶の分散処理。

 LUC判定に成功すると、過去に知覚した知識、情報を、たとえ認識していなかった場合でも明確に記憶に再現できる。

 

専科百般:A+

 多重人格の恣意的な切り替えによる専門スキルの使い分け。

 戦術、学術、隠密術、暗殺術、詐術、話術、騎乗、演奏、速記その他総数32種類に及ぶ専業スキルについて、Bクラス以上の習熟度を発揮できる。

【宝具】

『妄想幻像(ザバーニーヤ)』

ランク:B+ 種別:対人(自身)宝具 レンジ:―

 ――単一の個体でありながら複数に分断された魂を持つことで、

 自らの霊体ポテンシャルを細分化し、複数のサーヴァントとして現界できる。

 最大で80人にまで分裂可能。

 さらに無自覚な自我が出現する可能性もある。

【wepon】

 機獣咆哮エドワードン

 フィフスの戦闘支援用にキャスターが作った機動兵器。外見イメージは メタルギアREX。

 学園都市の技術もかき集め、さらにフィフスが資金を負担することで整備性などを無視しているため超高性能。騎乗スキルもちがメイン操縦を行う。

 武装は頭部粒機波形高速砲、両腕部ミサイルランチャー・ビームブレード・レールガン。背部大型ミサイルなど。さらに両足は非常に頑丈で格闘戦もこなせると極めて万能。

【個人名】

ユーヌス・・・鳩を意味する名を持つ人格。Bランクの騎乗スキルを持ち、エドワードンの操縦を行う戦闘担当。

 

 

 

 

 

 

 

バーサーカー マスター レイナーレ 真名レッドライダー 中立・狂

筋力C 耐久EX(通常時B) 敏捷B 魔力C 幸運D 宝具C

 

クラス別スキル

 狂化:EX

 全ステータスをワンランクアップさせる。

 バーサーカーは戦術的に行動することも可能で、マスターと連携するといった行動をとることが可能。さらには言語能力も一切低下していない。

 しかし思考が「戦闘を行い、血を流す」ことに固定化されているため意思疎通は不可能。やはり狂戦士である。

 

保有スキル

 戦闘続行:EX

 闘争という概念の塊。

 どのような状態でも戦闘続行を可能とする。また、霊核が破損したとしても短時間なら戦闘を可能とする。

 

宝具

『戦争(レッド・ライダー)』

 対人宝具 ランクC レンジ:1~50 最大補足:1~10人

 人が人を殺し殺される、闘争という概念が結晶化したもの。

 最初の状態では剣の形をしており、その状態が最も攻撃力があるのだが、これはレッドライダーのイメージが固定化されたため。

 バーサーカーが武器と認識できるのならどんなものにでも変化する。これによりバーサーカーはきわめて多様性のある戦闘を行うことが可能。

 

『血と殺戮(アラヤ・アポカリプス)』

 対界宝具 ランクEX レンジ:1~9999 最大補足:10000人

 戦争を起こす役目を持つヨハネの四騎士の一人としての概念が結晶化したもの。

 彼を認識するものが、彼との何らかの形による闘争を望むことで効果が発動。彼らとリンクし、彼らからのバックアップを受けて魔力供給と耐久強化を行う。

 たとえ自分が戦闘しなくとも、誰かがバーサーカーと戦ってくれることを望めば発動する。もし万人規模で影響を受けた場合、バーサーカーは全英霊と比較しても最上位に位置するため、戦争でバーサーカーを亡ぼすことは不可能に近い。

 

略歴

 闘争を望み闘争に生きた魂が、ヨハネの四騎士の一人であるレッドライダーの殻をかぶって召喚された存在。

 



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旧校舎のディアボロス
プロローグ 俺の日常


まずはプロローグです。


 私立駒王(くおう)学園。

 

 もともと女子高だったのを、数年前から共学校にした結果、最も男女比が近い1年ですら確か3:7という、疑似的にハーレム気分を味わうにはもってこいの学校だ。

 

 さらに、この学園にはリアス・グレモリーに姫島 朱乃という二大お姉さまという絶世の美貌持ちが存在する。それ以外にもクール系生徒会長支取 蒼那に一年生のマスコット搭城子猫など様々な美人が在籍しているという素晴らしい男の楽園である。

 

 そんなところに通う俺、宮白兵夜(みやしろひょうや)は、なぜこの高校に通っているのかというと、それは色々と事情がある。

 

 ま、おかげで美人の顔を拝めるのは最高だ。眼福眼福。

 

「いやぁ、今日もいい学園生活だった」

 

 授業は真面目にちゃんと受けてたし、体育ではいつものごとく成績優秀だし、学食はマジでうまいし。

 

 駒王学園最高!

 

 生徒は個性豊かで面白いし、学内はおしゃれできれいだしと文句の付けどころが・・・

 

「ここだよここ。ここで女子更衣室がのぞけるんだ」

 

「「まじか!?」」

 

 ・・・あった。

 

 俺の健やかな学園生活を損なう、極めて面倒な連中が。

 

 視線を声のする方に向ければ、そこには学園でも有名なある三人組の姿があった。

 

 俺はもはや恒例になった言葉を放つ。

 

「何してんだエロス三人衆」

 

「「「覗きさ!!」」」

 

「・・・覗くなよ」

 

 額に手を当てて頭痛をこらえる。

 

 ああほんとにもう。このやり取り何回目だろう。

 

「邪魔すんなよ宮白! そして俺にも覗かせろ松田に元浜!!」

 

 俺に食って掛かるかダチに文句をいうかどっちかにまとめてほしい男は兵藤一誠。悔しい事に小学生から続く、俺の数少ない友人である。

 

 見てのとおりのドスケベだ。日夜エロ妄想に余念がない。

 

「イッセー!おまえは宮白を抑えろ! 俺たちは脳内メモリーにこの光景を保存するので忙しい!!」

 

 そしてそのイッセーに除き禁止令をつきつけるのは元浜。眼鏡を取ると弱くなるロリコンである。

 

 だが、その眼鏡は女子の体型を数式化できるという、とんでもないエロスカウターを内蔵している。

 

「元浜もどいてくれ! カメラが、カメラが入らない」

 

 あげく写真まで撮ろうとしているアホは松田。丸刈り頭のスポーツ少年風。

 

 だが、こいつは高い身体能力をエロ写真を撮るためだけに発揮する元写真部である。

 

 ここまで言えばわかるだろうが、俺はこの三人とは腐れ縁だ。

 

 もともとはイッセーとだけ付き合いがあったのだが、イッセーが二人と良くつるんでいるため、必然的に俺も巻き込まれているのだ。

 

 そしておそらく想像がつくだろうが、俺はこいつらに対して毎回同じ行動をしている。

 

「変態三人組に覗かれてるぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」

 

「叫ぶなぁああああああああああああああああああっっっ!!!!」

 

 すなわち被害者に対する通報だ。

 

 こいつらは常習犯なので、いい加減俺の喉も鍛えられた。

 

 そして女性陣の反応も鍛えられたから。

 

「「「「・・・こらぁああああっ!!」」」」

 

 このように、即座に制裁班がやってくる。

 

「「「に、逃げろぉおおおおおおおおおお!!!!」」」

 

 悪いがイッセー、未遂も立派な犯罪行為だ。

 

 追われろ。俺はそのまま見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「うわぁあああああっ!」」」

 

「「「「待てぇええええ!!」」」」

 

 

 イッセー達が女子たちに追いかけれているのを見ると、なんだか最近は今日も一日が続いていると思えてきた。

 

 完璧に病気だな。

 

 一年のマスコット搭城子猫ちゃんがなぜかちょうどいい観戦スポットで焼きそばパン食べてるし。

 

 しかも見事に対比できる位置には、学園のプリンス木場祐斗が女性に囲まれてちやほやされている。

 

 イッセーも顔ならジャンルが違うだけで充分勝負になると思うんだが、完全にエロさが表に出過ぎなんだよな。

 

 本当にあいつらは地味に残念な連中だ。

 

 スポーツ万能の松田はもちろん、元浜やイッセーも友達として普通に付き合う分にはいいやつだというのにホントにもう。

 

 こういう高校で持てるのはスケベじゃない風に見える男なんだよ。

 

 その点俺は問題ない。

 

 適度にスケベな話にも関わってるが、学校の中でエロDVD出すようなアホなまねはしない。

 

 結果、俺は女子には彼氏にはしたくないけど無害な男という認識だ。

 

 むしろ、変態の通報を積極的にしているから人気もある。

 

 そう、おかげで裏の顔(ほんしょう)もばれずに済んでいるしな。

 

 お、そんな事をしている間にイッセー達が捕まった。

 

「ぎゃぁああああっ!!!」

 

 合掌。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ん?

 

 何で見送ったのにあんな見えてる風に状況が見えてるのかって?

 

 ああ、別におかしなことじゃない。

 

 俺は本当に『見えてる』からな。

 

「おい宮白ォ! お前はなんでいつもいつも俺たちの覗きを邪魔するんだ!」

 

 などと考えてた帰り道。イッセーが俺に食って掛かってきた。

 

「覗きは犯罪だからだ。女の敵は始末しないと、俺が学園に居れなくなる」

 

「バカいうな。俺はいっつエロいことしてるがちゃんと学校に来てるぞ」

 

「お前、いつかホントに追い出されるぞ」

 

 冗談抜きで本当にそう思う。

 

 ちなみに、松田と元浜は帰り道が違うので俺達とは別方向だ。

 

 この時間だけはあの二人に優越感を感じるな。

 

「見てろよ宮白! 俺は絶対に彼女作ってやるからな!!」

 

「はいはいイッセー。期待しないで待ってるよ」

 

 俺たちはそんな馬鹿な会話をしながら、通学路を歩く。

 

 小学生のころからずっと続けてきたこの日常。

 

 未だにいっさい飽きないから不思議なもんだ。

 

「そういえばさ」

 

 馬鹿話を続けていると、ふとイッセーが話を変える。

 

「なんだよイッセー」

 

「俺とおまえが知り合ってだいぶ経つけど、見つかったのか『アレ』関係」

 

『アレ』

 

 俺の持つ、イッセーだけが受け入れてくれたとんでもない秘密。

 

 ちゃんと伏字にしてくれているあたり、こいつは誰にも漏らしたりしてないんだろう。

 

 やっぱ、スケベだけどいいやつだ。

 

「残念だけどな。三回イギリス行って調べてみたが完全にハズレだったし、多分俺の妄想だろ」

 

「ウソつけ。目の前で見せられた俺が言うんだから、あれは妄想なんかじゃねぇよ」

 

「わかってる。最後は冗談だよ」

 

 俺だけがかかえる完全なる秘密。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、頑張って見つけろよ『魔術使い』」

 

「おう」

 

 俺が、魔術使いだという存在だということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今にして思えば、全てはこの日の夕方から始まったと俺は思う。

 

 イッセーにありえない奇跡が起こったその日。

 

 俺は悪魔としての人生を踏み出したんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、おっぱい片手に世界にその名をとどろかす英雄兵藤一誠と

 

 その親友である魔術使い宮白兵夜の

 

 数多の世界の因果を束ねた

 

 地球を騒がすおとぎばなし

 




はい、まずは序の口いかがだったでしょうか。


最後までなんとか完走するべく頑張りたいと思います。


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親友、殺されました!?

第一話です。

このあたりで、主人公である兵夜のクロスオーバー先がわかる人にはわかります。


 下校時刻を過ぎた駒王学園。

 

 部活動に励む生徒たちをしり目に、俺、松田、元浜は茫然と芝生に腰をおろしていた。

 

 花の女子高生が健康な汗を散らしているにもかかわらず、松田も元浜もそっちに視線を移さない。

 

 気持ちはわかる。

 

 俺も、いつかは必ず来ると信じてはいたが、それは決して今ではないと確信していた決定事項が跳ね返されてるから同意見だ。

 

 そう、

 

『宮白! 見て! 見てくれ! 俺の彼女!!』

 

 あの、

 

『罰ゲーム? ないない、後ろよく凝視したし』

 

 スケベな、

 

『ドッキリ? ないない。看板見つからなかったし』

 

 イッセーに

 

『イッセーくんのお友達ですか? はじめまして! イッセーくんの彼女の天野夕麻です』

 

 彼女ができたのだから!?

 

 ・・・思わず疑問符が付いてしまったが、それぐらい信じられないのだから仕方がない。

 

 二人に至っては真っ白に燃え尽きてる。

 

「イッセーが・・・イッセーがリア充に・・・」

 

「くそぉ。俺だって・・・俺だって・・・」

 

 同類の一抜けに本気で絶望してる。

 

 さすがの俺も同情しちまうぜ。

 

「安心しろ。女抱きたいなら知り合い紹介してやる。経験豊富のセッ○ス大好きなエロ姉ちゃんだ」

 

「「いるか!? そんな爛れた恋愛!?」」

 

「その割によだれでてるぞ。あと愛はない、体だけ」

 

「「むなしいだろそれじゃあ!!」」

 

 覗き常習犯がわがままを言うなって。

 

「とにかく落ち着け二人とも」

 

 絶望に打ちひしがれる二人を何とか現実に戻さねばならない。

 

「イッセーの恋、もしかしたらヤバいかもしれないぞ?」

 

「なんだと? それはどういうことだ宮白」

 

 俺の言葉に、元浜のメガネが光る。

 

「だってそうだろ? あの制服、このへんじゃ見ない奴だ。・・・そんな奴がイッセーに告る流れが想像つかないだろ?」

 

 その言葉に、二人は無言でうなづき返す。

 

 そう、俺たちはあんな制服知らない。

 

 それはつまり、深くかかわるような接点が存在しないということになる。俺は学校では先生にも信頼されているから、交流するイベントとかがあったらすぐにわかる。

 

 そこから導き出される回答は・・・

 

「1 実は・・・実は一目ぼれ・・・うぅ」

 

 元浜泣くなよ。

 

 お前は子猫ちゃんに代表される幼女体形大好きなロリコンだろう。夕麻ちゃんの体形、どう見てもエロティックでグラマラスだったぞ。

 

 ま、それならイッセーのスケベに幻滅するというオチで終わりそうだがな。

 

「2 実はイッセーを絶望させるためのここの生徒の仕込み。順調にイベントを積み重ねてからばらして絶望させる」

 

 松田、カメラを構えるな。

 

 地味にあり得るのが怖い展開ではあるが、それほとんど犯罪ギリギリだぞ。適度にせっかんしてる連中がそこまでするとは・・・、考えられるってのが怖いな。カメラのせいでサスペンス臭が漂ってきたぞ

 

 下手すると自殺物だ。はずれてくれ。

 

「3 実は電波。その本性は妄想にまみれたキチ○イ」

 

 自分で言っててなんだが、俺はイッセーに彼女ができるって信じてんだろうか。どう考えても信じている男がいう発言とは程遠い。

 

 いや、これはイッセーのことが心配なだけだ。

 

 あいつのことを本気で好きになるのは、スケベの裏側を覗けるほど近くに居続けた人物のはず。

 

 ぽっと出の女の子がほれるなんて展開、ちょっと考えづらい。

 

 いや、ビ○チなら普通にあのスケベもオッケーなんだろうけど、それは何気に純情なイッセーにはショックが強すぎる気がする。

 

「ま、結論がどうだとしても調べた方がいいな。元浜、彼女の制服からどこの高校か調べてくれ」

 

「おう! こういうときは仕事人宮白の出番だ」

 

「何かあったら俺たちも手を貸すぜ!!」

 

 全ては、イッセー彼女事件の解決のために!

 

 俺たちは、ある意味イッセーにとってとてもはた迷惑かつありがた迷惑な理由で、イッセーの彼女について追及することを決定した。

 

 ・・・本当に、俺はイッセーに彼女ができるって思ってるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ここまでの流れでわかっただろう。

 

 俺はいわゆる仮面優等生だ。

 

 学校での顔は側面の一つ。

 

 未成年飲酒をしたことはあるし、喧嘩も結構日常茶飯事。ギャンブルにだって手を出したこともある。

 

 あの変態三人衆なんかではたどり着けないぐらい、エロいことも経験豊富だ。

 

 ぶっちゃけ、俺は実家とは限りなく離縁されている。

 

 生まれ持った能力のせいなのだが、それについてはまた後ほど説明するとして、俺はそのせいで実家とは仲が悪かった。

 

 幸いプライドの高さに比例するほどのカネ持ちだったおかげで、一人暮らしには困らない金はもらっていたが、今でもいろいろと注文をつけてくる。

 

 駒王学園に入学したのも、半分は実家からの要請にこたえたからだ。

 

 このわずらわしい生活から抜け出すには、完全に自立する必要がある。

 

 俺は生まれ持った能力をいかして探偵まがいの尾行調査をすることで金を稼いできた。

 

 あとはストーカーをぼこって近寄らせないようにする、用心棒まがいの仕事とかもやったよ。おかげで、風俗店のお姉さんとかに気に入られちゃってもうあんなことやこんなこと・・・ゴホン。

 

 今じゃあ、この辺りの裏の連中にもコネがあるし、それなりに貯金もたまっている。

 

 将来はこのコネを活かして私立探偵でもやるつもりだ。

 

 ちなみに、イッセー達にはあいつらがエロビデオを集めている関係でへんなのにからまれてたのを助けたからバレた。

 

 それ以来、奴らのエロDVD入手ルートの一つに俺のコネができたのはここだけの秘密だ。

 

 あれだけ通報したのに告げ口してこないのは、割と本気で感謝してる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、言うわけで元浜からの情報をもとに調べてみたのだが・・・

 

「・・・いない」

 

 そう、いない。

 

 彼女の制服からわかる高校には、天野夕麻なんて子は存在しなかった。

 

 退学したとか転校したとかじゃない。

 

 念のため数年前の在校生まで調べてみたが、天野夕麻なんて女の子は、その学校には存在しなかったのだ。

 

「どうなってんだよ!」

 

 ベッドに寝転がりながら俺は吠えた。

 

 俺の能力は、やろうと思えば拷問よりも情報を引き出すことができる。

 

 だから、誰もが知っててかばってるというわけではないはずだ。

 

 まさか本当に2なのか? だとすれば、正体を察知されないようにするために別の学校の制服を用意することぐらいは手の込んだとか言える範囲内だと思うが。

 

 だとするとさすがにむかつくな。

 

 確かにのぞきは犯罪だが、毎回毎回ボコったうえでこんな行動はやりすぎだろ。

 

 腐っても俺の親友だ。奴の心をえぐるのなら容赦はしねぇ。

 

 そんな決意をするころには、もう夜も間近の時間帯だった。

 

 そろそろ晩飯にしないとな。

 

 キッチンに向かいながら釈然としない気持ちを抱えていると、なんか一瞬頭痛がした。

 

「っ! なんだよ一体?」

 

 まだ推測の段階なのに、ストレス溜まりすぎて脳の血管でも切れたか?

 

 一度健康診断でも受けとくかな・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 などと考えて眠ったせいか、よく眠れなかった俺は思いっきり寝坊してしまった。

 

 くそ! ウケがいいから皆勤賞狙ってたのに!

 

 などと考えつつも、ウケがいいので大したダメージにはならずに、遅刻がらみの作業もあっさりとして終了。

 

 そんな直後だ。顔色の悪いイッセーを見つけたのは。

 

「どうしたイッセー? 夕麻ちゃんに振られでもしたか?」

 

 だとすると答えは1か。なら残念だがまあマシなオチだ。

 

 などと考えようとした瞬間に、俺の目の前にイッセーの顔のどアップがあった。

 

「・・・なに?」

 

「宮白? お前、覚えてるのか?」

 

 覚えてるって、夕麻ちゃんか?

 

 むしろあのインパクトでどうやって忘れるんだよ。下手したら一生焼きつくぞアレは

 

「出来たばかりのお前の彼女だろ? それがどうして・・・」

 

「覚えてないんだよ! 松田も元浜も!! まるで『暗示』を受けたみたいに!!」

 

 暗示

 

 その言葉に、俺は本気で戦慄した。

 

 それは、イッセーが決して人前では言わない秘密の言葉。

 

 俺の能力の一つを人前で言うだなんて、こいつがどれだけパニックなのかがわかる。

 

「イッセー。とりあえず屋上行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上で、俺はイッセーと向かい合った。

 

 ぶっちゃけもう授業中なのだが、親友の一大事にそんなこと気にしてらない。

 

「それで? いったい何があったんだ?」

 

「あ、ああ・・・三時間前に変なチラシでメガネっ子100人・・・」

 

 筋道立てて話せ。

 

 ・・・解読に苦労したが、要約すると次の通り。

 

 初めての天野夕麻とのデートが昨日あった。

 

 金のない学生デートの基本パターンを行いながら、夕方の公園へ。

 

 だが、ここからがおかしい。

 

 夕麻ちゃんがいきなり、イッセーに「死んでくれないかな」などと言ってきたのだ。

 

 しかも、その瞬間には背中に黒い翼が生えたとかいう。それも、なんかまがまがしい光の槍を出して、イッセーに投げつけたとかいう。

 

 突然の事態にパニックを起こしていたイッセーは当然避けられず直撃。腹にでかい風穴を残してぶっ倒れる。

 

 その後夕麻ちゃんはセイなんとかいう力を宿した神を恨めとかいって姿を消した。

 

「で? 女の胸のこと考えながら気絶したと思ったら、なぜか怪我もなく家のベッドにいたってか」

 

「改めて思い出すと、俺ってホントどうしようもねぇな」

 

 イッセーらしいといやらしいんだけどな。

 

 だが、問題はそこではない。

 

 一応イッセーの腹をめくってみたが、そんな風穴のあとなんてどこにもない。

 

「ま、風穴なんてあいてたら助かるわけないしな」

 

「だ、だよなぁ」

 

 まあ、これだけなら変な夢とごっちゃになったとか言いたいんだが、夕麻ちゃんのこともある。

 

 あれだけ絶望していた二人が、奇麗さっぱり忘れたふりなんてするわけがない。

 

 なら、あの二人から記憶は本当に消えたということなんだろう。

 

 いったい何がどうなってんだ。

 

 俺は、この事態が想像以上にヤバげなことになっていることを、この時になって初めて実感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話は変わるが、皆は前世の記憶と言うものを知っているだろうか?

 

 自分が生まれる前の、死ぬより前の記憶ってやつ。

 

 俺はある。しかも、一族が持ってる特殊能力もだ。

 

 その家系は、なんでも一族の誰かが宇宙の始まりでありアカシックレコードでもある根源の渦というのを目指して、その特殊能力を研究していたというものだ。

 

 あいにく俺は跡取りではなかったが、親がその特殊能力を素晴らしいものだと考えていたことから、最低限の指導を受けていた。

 

 まあ、それが交通事故で15ぐらいで死んでから、気が付いたら保育園でおもちゃを握っていたんだ。

 

 ま、こんなとんでもないものがついてたら家族との関係にもギクシャクとしたものが出てしまうもので、俺は家族と疎遠になった。

 

 当然友達も出来ずにいたのだが、そんな俺に初めてできたのがイッセーだというわけ。

 

 そんな親友がわけのわからないことに追い込まれていると知って黙ってはいられない。

 

 俺は、力を使うことを決意した。

 

 魔術使い、宮白兵夜。

 

 今のおれのことはそう呼びな!

 

 

 

 

 




楽しんでいただけましたか?

兵夜のクロスオーバーは、ここでも良く出ているFateシリーズでした!!

今後も何作品かクロスオーバーを出す予定ですのでお楽しみください!


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先輩、現れました!

 

 

 あれから数日。

 

 俺は完全に行き詰っていた。

 

 とりあえず、デートコース当たりで聞き込みをしていたのだが、成果が全く出ない。

 

 魔術を使ってより聞き出しやすくしてみたのだが、それでも0。

 

 これは全員が記憶を消されたと考えなければおかしい。

 

 携帯の画像も消されてたことから予想はしていたが、かなり徹底しているな。

 

 唯一成果があったとすれば、たまたま街を歩いていた女の子が「初々しいカップル」として二人をちらりと見かけていたことだ。

 

 本当に通りすがった人以外の記憶を完全に消しているらしい。

 

 魔術で記憶を刺激してもいいのだが、俺の魔術師としてのポテンシャルは低い。

 

 元々本格的に取り込んでいたわけでもないし、こっち来てからは暗中模索の独学なので当然だ。

 

 後遺症が怖くて正直使えない。

 

 と、言うことで早くも手詰まりになってしまった俺は、缶コーヒー片手に夜の町に立ち尽くしていた。

 

 魔術使いづらい。もっとこうステキでワンダフルな感じだったらもっと人生チートモードだって言うのに。

 

 魔術って以外と科学に負けてる部分とか多いからな。空を飛んだり遠くの相手を傷つけたり栄養を補給したり寒い時にあったかい物を懐に入れたり。

 

 本格的なスペシャリストならこうも失敗はしなかったんだろうが、あいにく俺は3流魔術使いでしかないのだ。

 

 これじゃあイッセーに合わせる顔がない。

 

 などと天を仰いでから顔を戻すと―

 

「うわぁあああああああああっ!!!」

 

 なんかイッセーが向こう側の道を全力で走って行った。

 

 なんだ? やけにあわてていたが。

 

 と、言うか、あれ速すぎないか? あいつは別に陸上部とかじゃなかったはずだが。

 

 などと思ったら、今度は黒づくめの怪しい男が、イッセー並みのスピードで追いかけて行った。

 

 あれ? なんか羽生えてないか?

 

「おいおいなんかやベーぞ!?」

 

 俺は使い魔の小鳥を操って後を付けさせると、同時に走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Sideイッセー

 

 畜生! なんなんだよ一体!!

 

 宮白が調べてくれるってことになって、正直俺は安心してた。

 

 アイツ曰く、魔術は使い捨てカイロや栄養ドリンクに劣るとか言ってたけど、そんなことない。

 

 以前松田や元浜とエロビデオを探してた時、間違えて不良にからまれたときだってそうだ。

 

 通りすがったあいつが暗示っていうのを使って簡単に追い払ってくれた。

 

 松田や元浜には適当にごまかしてたけど、あんな簡単に追い払えるってマジすげえよ。

 

 そんな宮白が調べてくれるっていうから安心してエロビデオ鑑賞会を終えて帰ろうとしたらこのありさまだ。

 

 この日本で殺意をぶつけてくる男なんてどう考えてもまともじゃない。

 

 運がいいことに、夕麻ちゃんに殺された夢を見た日から、俺は夜の時だけ体の調子がすごくいい。

 

 フルマラソンすらジョギング感覚でできる足で、全力で逃げ出した。

 

 十五分ぐらい走ってついたのは、デートの最後、夕麻ちゃんに殺された公園だ。

 

 ここまでくれば大丈夫―

 

「逃がすと思うか? 下級な存在はこれだから困る」

 

 黒い羽根と一緒に声が聞こえた。

 

 振り返った俺の目に映ったのは黒い翼。

 

 夕麻ちゃんが俺を殺す直前に出したのと同じ翼を生やした、あの男だった。

 

 一人でブツブツ言っている男を見てると、あの夢のことを思い出す。

 

 そう、あの夢の時俺は光の槍で―

 

「―お前は『はぐれ』か。なら殺しても問題あるまい」

 

 そういうと、男の手に光が集まりだす。

 

―殺される!

 

 思った時には、もう俺の体をあの時と同じやりが貫いて―

 

「イッセー!!」

 

 あ・・・宮、白。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side兵夜

 

 男をスクーターではね飛ばすのと、イッセーがファンタジーみたいな光の槍で貫かれるのはほぼ同時だった。

 

 くそ! もう少し決断が早ければ間にあったのに!

 

「イッセー!! オイ、しっかりしろ!!」

 

 スクーターが倒れるのも構わずにイッセーに駆け寄るが、これは非常にまずい。

 

 どてっ腹に風穴があいてる。どう考えても致命傷、早く救急車を呼ばないと助からないぞこれは。

 

「俺の治癒魔術じゃ血止めがせいいっぱいか。イッセー! すぐに救急車を呼ぶから、しっかりしろ!!」

 

「・・・ろ。う・・・ろ」

 

 うろ? うろってなんだよ・・・後ろ!?

 

 イッセーの言葉に反応して振り返れば、轢かれたにもかかわらず、男はあっさりと立ちあがっていた。

 

「人間。何のつもりかは知らないが、そのはぐれをかばうつもりなら容赦はせんぞ」

 

 うわぁ。相当殺気だってるな

 

 こりゃ逃がしてくれそうにないし、電話をしてる余裕もないか。

 

起動(スタート)

 

 魔術回路を起動させる。

 

 時間はない。ちょっとセコイが一瞬で終わらせる―ッ!

 

「・・・もう一度言う。死にたくなければさっさと消え―」

 

身体強化(ブーストアップ)ッ!!」

 

 身体能力を限界まで強化し、一気に相手のところまで駆け抜ける。

 

 男は虚を突かれてくれた。このチャンスは逃さない。

 

 隠し持ていたスタンガンを引き抜き、もちろん、出力を上昇させることも忘れない。

 

出力上昇(ブーストアップ)ッ!!」

 

「グァッ!?」

 

 電力を強化されたスタンガンは中のバッテリーを一瞬で消費しつくす。

 

 正直命の危険もある出力だが、この際手段は選べない。

 

 だが、全ての電力を使いきった後も男は倒れない。

 

 それどころか、どこか余裕そうに片手を上げる。

 

 おいおい、なんか光が集まって槍っぽくなってるんだけど!?

 

「小賢しいッ!」

 

「あっぶね!?」

 

 遠慮なく振り下ろされたそれを、間一髪避ける。

 

 警戒しながらあわてて下がるが、すぐに足がイッセーに当たってしまい、あまり距離がとれなかった。

 

「貴様魔法使いか? いや、それにしては戦い方が・・・」

 

 魔法使い? あんな化け物連中と一緒にされるレベルじゃないぞ俺は。

 

 いや、まさかと思ったがもしかして・・・

 

「まあいい。ならもろともに始末すれば良いだけだ」

 

 男はなんか勝手に納得すると再び光の槍を生成する。

 

 やばい。後ろにはイッセーがいる。避けられない。

 

 俺の行動がわかってるのか、男はものすごい邪悪な笑顔を浮かべてやがる。絶対わざと時間をかけてぶっぱなす気だ。

 

 どうする? 完全に積んでるぞこの状況。

 

 こうなったら、限界以上に強化して腕を盾にすれば両腕だけで何とかなるかッ!?

 

「・・・硬度最大強化ッ!」

 

「さよならだ」

 

 放たれる光の槍。

 

 なんかゆっくり来るのが見える中、俺は両腕に限界まで魔力を集中させ―

 

 なんか右腕から爆発的な力が流れ出た挙句に急に光った。

 

「はい!?」

 

「な、神器(セイクリッド・ギア)だと!?」

 

 え? 何!? せいくりっどぎあ!?

 

 俺の右腕になにがあった! なんか光の槍も吹っ飛んだぞ!?

 

 光は徐々に凝縮されると、右腕に凝縮されると手首から下を覆う手甲の形をとる。

 

 そして光が収まった後には、天使の羽のような装飾を持つ、金と黒で彩られた手甲がそこにあった。

 

「これは・・・」

 

 おいおいおいおい。まさかとは思うけど、秘められた力が覚醒されたとかいう小説とかにありがちな展開か?

 

 だけど待て。俺はまだコレの使い方なんてさっぱりわからないぞ? コレをどう使って奴を倒せと!?

 

 あ、男も俺がわかってないのに気付いたのか、再び光の槍を作り始めやがった。

 

「まさか神器使いがこんなところに・・・っ。面倒だがここで仕留めて―」

 

「―そこまでにしておきなさい」

 

 後ろから声が聞こえてくるのと、俺の右側から何かが通り過ぎるのはほぼ同時。

 

 次の瞬間には男の腕から爆発が生じ、それによって鮮血が飛び散った。

 

 いきなりの光景になにも言えないうちに、声の主が俺の前に歩み出る。

 

「貴様・・・グレモリー家のものか」

 

「御機嫌よう、堕ちた堕天使さん。リアス・グレモリーよ」

 

 学園の二大お姉さまの一人、リアス・グレモリー。

 

 なんでこんなところに?

 

 と、いうか今の攻撃は何をした?

 

 俺の頭の中を疑問符が支配しているうちに、男は翼を広げると空を飛ぶ。

 

 俺たちを一睨みした後、男は憎々しげに去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず脅威は去ったのか? ふう・・・一安心―

 

「じゃねえ!! きゅ、救急車・・・119だっけ!?」

 

 あわてて携帯を取り出すが、その手をグレモリー先輩が優しく包んで止める。

 

「大丈夫。救急車は必要ないわ」

 

 どう考えてもそんなわけがないのだが、グレモリー先輩は全くあわててない。

 

「まさかうちの学園に神器を持つものがいたとわね。・・・ありがとう、おかげで間にあったわ」

 

 とても魅力的な笑顔でお礼を言われる。

 

 今まで女の相手を何人としてきた俺だが、こんな美人はさすがにいない。

 

 ちょっと顔が赤くなってきそう。ああ、地が昇ったら視界とかも真っ赤になったりするのだろうか?

 

 あれ? それどころか真っ暗に―

 

「ちょっと? 神器(セイクリッド・ギア)の反動かしら?」

 

 そんなのんきなグレモリー先輩の声と共に、俺の意識はドロップアウトしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




初戦闘いかがでしたでしょうか?

兵夜の戦闘能力は常人以上堕天使未満でしたが、この話で神器に目覚めました。

次はどうなることやら・・・?


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神器、出ちゃいました!

 

 目が覚めたら、なぜか知らない天井が見えた。

 

 起き上ってみるが、なんか古い学校の教室みたいな部屋の中で寝かされていたみたいだ。

 

 なぜかベッドは高級そうな感じで、それは周りの調度品にも言える。

 

「・・・あれ? ここ・・・どこだ?」

 

 まだ覚醒しきっていない俺の疑問に答えたのは、後ろからの声だった。

 

「駒王学園の旧校舎ですわ。ふふ、おはようございます」

 

 振り返ってみれば、そこにいるのはとんでもない人物。

 

 今や絶滅危惧種の黒髪ポニーテール。リアス=グレモリーに並ぶ二大お姉さまの一人、姫島朱乃先輩が、お盆に軽食を持ってそこに立っていた。

 

「よっぽど疲れていたのですね。もう放課後ですしお腹も減ったでしょう? 簡単なお食事を用意しました」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 お礼と共に受け取って、まずは一口。

 

 うまい!

 

 コレ手作りか? だとすると俺は、この瞬間に学園の大多数の生徒を敵に回したかもしれない。

 

「・・・って違う!?」

 

 なんでこんなとこに!?

 

 なんで姫島先輩がいんの!?

 

 っていうかイッセーは!?

 

「いろいろと疑問はあるのでしょうが、まずは落ち着いて」

 

 パニック状態の俺に、姫島先輩が優しく微笑む。

 

「もう少ししたら兵藤君もやってきます。そうしたら、今までのことを説明いたしますわ」

 

「は、はあ・・・」

 

 全く状況はわからないが、とりあえずイッセーは無事なようだ。

 

 とはいえ、それがこれからも続くとは限らない。

 

 とにかく、このうまい飯はしっかりと味わっておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、学園のマスコットである塔城小猫ちゃんが隣に座っています。

 

 あまつさえ、羊羹を黙々と食べています。

 

 しかも、目の前でグレモリー先輩がシャワーを浴びています。

 

 何っているのかわからないって? 安心しろ、ただ事実を言っているだけだ。

 

 食事を終えた俺は、姫島先輩に連れられて「オカルト研究部」と書かれたドアをくぐってこの部屋へやってきた。

 

 そしてイッセーが来るのを待たされているのだが、非常に落ちつかない。

 

 考えてもみてほしい。いきなり変な男と変な力の脅威にさらされる。助かったと思ったら知らない部屋に寝かされている。とどめに、美少女三人が、しかも一人がシャワーを浴びている部屋で男一人待たされているなんて状況が普通あるか?

 

 しかも、床、天井、壁など部屋中のいたるところに謎の文字やら魔法陣やら書かれている不思議な部屋。

 

 とっても居心地が悪い。

 

 そんな俺の緊張を救ってくれたのは、ドアを叩くノックと、それに続くさわやかな声だった。

 

「部長、失礼します」

 

「し、失礼しま~す」

 

 ドアを開けてはいってきたのは、学園の貴公子、木場祐斗とイッセーだ。

 

 俺は立ちあがると、イッセーに駆け寄った。

 

「イッセー! 大丈夫か? 怪我ないか?」

 

「お、おう。大丈夫だ」

 

 よかった。

 

 あんな怪我だし死んだかと思ったが、どうやらこの様子だと大したことないみたいだ。

 

 安心したタイミングで、グレモリー先輩と姫島先輩がシャワールームからやってきた。

 

「待たせてしまってごめんなさいね」

 

 湯上りのグレモリー先輩。うん、こんな状況でなければイッセーが暴走したかもしれん。

 

「これで全員そろったわね。私達オカルト研究部はあなた達を歓迎するわ。・・・・・・悪魔として」

 

 ・・・待て。今何て言った?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいません。ちょっと頭で整理していいですか?」

 

 俺は手をあげて、失礼ながらグレモリー先輩を遮った。

 

 グレモリー先輩が語る内容は、正直って現実離れしすぎている。

 

 自分の正体は悪魔だということ。

 

 昨日の翼を生やした男は堕天使だということ。

 

 そしてもちろん天使もいるということ。

 

 それらは長年にわたって三すくみで争っているということ。

 

 そしてオカルト研究部はグレモリー先輩の趣味である仮の姿で、その実体は悪魔の集まりだということ。

 

 どれもにわかには信じられないことだらけだが、魔術をかじっていた俺は比較的理解できる。

 

 だがおかしい。悪魔って確か―

 

 いや、それよりも重要なことがあるな。

 

「質問があります。・・・天野夕麻はそのうちのどれですか?」

 

「ちょ、宮白! なんで今その話―」

 

 イッセーは止めようとするが、それより早くグレモリー先輩が反応を示した。

 

 薄く笑ったのだ。

 

「勘がいいのね。・・・彼女は堕天使よ」

 

 そう言ってグレモリー先輩が指を鳴らすと、姫島先輩が一枚の写真を取り出す。

 

 そこには懐かしい姿が、移っていた。

 

「ゆ、夕麻ちゃん!?」

 

 そう、天野夕麻の姿だ

 

 しかも、昨日の男と同じように黒い翼が生えている。

 

 やっぱりそういうことか。

 

 イッセーの話と男の姿に共通点が多いから、おそらく二人の間には何らかの関連性があるとはあの時から思っていた。

 

「この堕天使はとある目的があって彼と接触した。そして、その目的を達成したから、あなたの周囲から自分の記憶と記録を消させたの」

 

「「目的?」」

 

 俺とイッセーの声がハモる。

 

「そう、イッセー、あなたを殺すため」

 

「な、なんで俺がそんな―」

 

 イッセーを殺す。

 

 確かにそれなら、イッセーが見たという夢の話も説明できる。

 

 だけど、それだとイッセーはなんで生きている?

 

「仕方なかった・・・いえ、運がなかったのでしょうね。そこの宮白君みたいに殺されない所持者もいるのだし」

 

 なるほど、アレか。

 

 それを確信した俺は、口元を隠しつつ小さく声を出す。

 

「起動。解析開始(ブーストオン)

 

 右腕を中心に自分の体を解析。

 

 ―あった。右腕に、これまでにない力の塊を感じる。

 

「神器―セイクリッド・ギアと呼ばれる力のことよ。あなた達には神器があって、彼女はイッセーのそれが危険かどうかの確認のために接触したのよ」

 

 あの堕天使も言ってたやつか。

 

 ろくな攻撃手段も持たない俺が、あんなヤバそうな光の槍をやすやすと防いだ力。

 

 だとすると、イッセーの神器はそれ以上ってことか?

 

「神器とは特定の人間に宿る、規格外の力。例えば、歴史上に残る人物の多くがその神器所有者だと言われているんだ。神器の力で歴史に名を残した。」

 

「現在でも体に神器を宿す人間はいるのよ。世界的に活躍する方々がいらっしゃるでしょう? あの方々の多くも神器を体に宿しているのです」

 

 木場と姫島先輩が説明してくれるが、そりゃすごいな。

 

 いわば才能と言い換えてもいい。

 

「大半は人間社会でしか機能しないものばかりだけど、中には私達悪魔や堕天使の存在を脅かすほどの力を持ったものがあるの」

 

「・・・なるほど、イッセーがそれを持っていたから、奴らは天野夕麻に確認させてから始末したわけですね」

 

 あのスケベイッセーに見知らぬ少女が告白してきたという異常事態。

 

 なんてことはない。ある意味で2を超えるハタ迷惑な理由だったのだ。

 

 ってちょっと待て? っていうことはあの夢はマジなわけで、それだとおかしいことに・・・

 

「これ以上は実際に見てもらった方が早いわね。二人とも、目を閉じて、一番強いと感じる何かを心の中で想像してみて頂戴」

 

 この時、俺は解析に魔力を込めまくった。

 

 なんかとても嫌な予感がしたからだ。

 

「一番強い・・・ドラグ・ソボールの空孫悟かな・・・」

 

 イッセーがバカ正直にしているが、俺はその間も解析を続行。

 

 ―ビンゴ。これなら魔術回路を開く要領で力を注げるぜ。

 

「そして、その人物の一番強く見える姿を真似るの。強くよ? 軽くじゃダメ」

 

 こっちもビンゴ。

 

 新手の拷問以外の何物でもない要求が飛び出した。

 

 あ、イッセーが焦ってる。

 

「み、宮白。お前先に―」

 

「アレ?」

 

 俺はとぼけながら神器に力を込める。

 

 右腕から強い光が放たれたかと思うと、それは昨日も見た手甲になってくれた。

 

「すごいわね。想像しただけで発動させるだなんてやるじゃない」

 

 グレモリー先輩が称賛してくれる。

 

 ふ、危なかった。

 

―テメエ、魔術使いやがったな―

 

―うん。悪いな―

 

 そしてイッセーとのアイコンタクト完了

 

 目と目を合わせて念じるだけで、言葉を交わすことなく言いたいことを伝え合うことができる。アイコンタクトは友情と信頼が生んだ人類の奇跡だ。

 

 がんばれイッセー。俺は視線をそらしてやる。

 

「ドラゴン波!」

 

 自棄になったイッセーがドラゴン波のポーズをすると、イッセーの左腕から、俺が初めて神器を出した時と同じぐらいの光が放たれる。

 

 それはどんどん密度を増すと、俺とは違い左腕全体まで覆って凝縮された。

 

 左腕全体をおおう赤い籠手。手の甲には緑色の大きな宝玉がはめ込まれていて、全体的に豪華な装飾が施されている。

 

「それが神器。一度発現すれば、あとは自分の意思で簡単に発動できるようになるわ」

 

 なるほど。・・・ん? だったら俺は真似る必要なかったんじゃないか?

 

 まあ良いか。それより早く本題に移ろう。

 

「それでグレモリー先輩。殺されたイッセーはなんで平然と次の日登校できたりしたんですか?」

 

「私達は人間と契約するためにこんなチラシを配っているのだけど、それをイッセーがあの時持ってたのよ」

 

 そういうと、何やら胡散臭いチラシを一枚差し出す。

 

 ・・・これで呼び出そうとする奴って、かなりアホじゃないか?

 

 なんでも、契約のためには魔法陣を用意する必要があるらしい。

 

 だが、この現代社会に一から魔法陣を用意してまで悪魔を召喚しようとするモノ好きはごく少数。それに対して悪魔側は妥協して、魔法陣をかいたチラシを自分から用意して、それで召喚されるという方式に変更したそうな。

 

「普段は姫乃が呼ばれるのだけれど、とても強い思いで呼んだのでしょうね。その時呼ばれたのは私だった」

 

「そして先輩は、イッセーが神器のせいで堕天使に殺されたんだってわかったわけですね。それで?」

 

「問題はここから。イッセーは死ぬ寸前だった。宮白君はわかっているみたいだけど、堕天使の光の槍は人間なら一発で即死。だから私は、あなたの命を救うことを選んだ。悪魔としてね」

 

 繋がった。

 

 堕天使によるイッセー殺害。

 

 悪魔を召喚するチラシ。

 

 悪魔にすることを選んだというグレモリー先輩。

 

 そして、その次の日から始まったイッセーの異変。

 

 それらはすべて―

 

「あなたの手で、イッセーは悪魔としてよみがえったわけですか」

 

「そうよ。イッセー、あなたは私、リアス・グレモリーの眷属として生まれ変わったわ。私の下僕としてね」

 

 次の瞬間、グレモリー先輩の背中から、こうもりみたいな羽が生える。

 

 見れば、イッセーを含めたオカルト研究部員全員から同じ翼が生えていた。

 

 うん。とんでもないことになった。

 

 この部屋、俺しか人間がいないってどういうことだよ! パニックにも程があるわ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その昔、悪魔、堕天使、天使の三つ巴の大きな戦があった。その結果、純粋な悪魔の多くが死に、魔族は戦力を集め、悪魔を増やす必要性に駆られてしまった。

 

 とても面倒なことに、悪魔はその長い命に反して、出生率が極端に低いらしい。子供を産んで数を増やすという方法は取りにくい。

 

 結果、人間を含めた様々な種族を悪魔に転生させる技術が確立された。

 

 さらに、力ある悪魔を増やして復興するため、転生した悪魔にも爵位をもつチャンスを与えることにしたらしい。

 

 そうなれば、グレモリー先輩のように眷属を持つことができるようになる。

 

 しかも、自分の眷属ならハーレムを作っても良いとのことだ。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 案の定イッセーが喰らいついた。

 

「ゴメン。イッセーが暴走して」

 

 なんとなく謝ってしまった。

 

「リアス先輩! 俺に悪魔を教えてください!!」

 

「良いわよイッセー。だけど私のことは部長と呼ぶこと」

 

 なるほど。眷属になるということは=でオカルト部員になるということなのか。

 

 イッセーはお姉さまじゃダメですかなどと言うが、お前は馬鹿ですかと言いたくなった。

 

「元気な人だね。もう少し落ち込んだりするかと思ったんだけど」

 

 そんな感想を木場が漏らした。

 

 ま、それが普通だよな。

 

 人間、自分が人間だということを絶対だと思っていることは多い。

 

 そんな絶対が消えた時、たぶん人は恐怖するんだろう。

 

「イッセーはまっすぐだからな。どうせ人間に戻れないならって思ったんだと思うぜ?」

 

「なるほど。それはちょっと羨ましいね」

 

 そんなことを木場が言う。

 

 人に歴史ありとか言うが、このイケメンにもいろいろあるということなのだろう。

 

 俺だってある。イッセーだってある。

 

 なら、きっと皆が一つぐらいはあるんだろうな。

 

「お前も大変だねぇ。ま、悪魔生活頑張ってくれ」

 

「君も転生してみるかい? 部長はまだ、悪魔に転生できる余地がいくつかあるけど?」

 

 スカウトされるかもとは思ったけど、ここで来るか。

 

 確かに、もし本当に爵位持ちになることができれば人生相当勝ち組だろう。

 

 だが、それはそれで面倒なことも多そうだし、積極的にやるほどのことじゃない。

 

「忙しいのは嫌いでね。ま、頭の隅にでもとどめておくよ」

 

 そう返しながら見るのは、姫島先輩に機会の使い方を教わるイッセーの姿だ。

 

 悪魔が契約をするのに使う代物なのだろうが、まさか機械とは思わなかった。文明の進歩は人類だけでなく悪魔の生活も大きく変えているということなのだろう。

 

 しっかし燃え上がってるなイッセーの奴。

 

 下僕でも爵位を取れる可能性があるってだけで、それが狭き門ってやつなのには変わりないだろうに。

 

 まあ、この日本で人間がハーレム作るのは極めて難しいだろうし、それなら作れるらしい悪魔としてってことなんだろうな。

 

 ま、期待しないで見てるとしますか。

 



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悪魔、意外と多いです!

悪魔となったイッセーが生きている間にも、兵夜には兵夜の生活があるのです


 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなイッセー悪魔生活が始まって数日後。

 

「・・・俺、才能ないのかなぁ」

 

「なんだいきなり」

 

 俺はイッセーに相談されていた。

 

 内容は悪魔稼業についてのことだ。

 

 なんでも、最初はあのチラシを配るところから始まるらしい。

 

 悪魔の科学によって召喚しそうな人間の居場所を特定したら、チラシを持って入れておく。

 

 チラシには、そういった人がチラシを使いたくなるように細工されているらしく、本気で叶えたい願いがある人はそれを使う。

 

 そして、それが来たら悪魔は素直に呼び出されて願いを叶える。

 

 そして帰る時に報酬を頂いて終了。この際、報酬は願い及びその人の素質によって大きく変動する。「人は平等ではない」をモットーとしているそうだ。

 

 そして、悪魔を召喚した人はそれが癖になってまた召喚してくれるという流れ。

 

 チラシは一回限りの使い捨てらしいので、その補充をしに行くのもイッセーの仕事になる。

 

 で、それを繰り返して数日経ったときに、初仕事が入る。

 

 塔城あての依頼が二つ来たとのことで、片方にイッセーが行くことになったのだ。

 

 ちなみに、召喚される悪魔は、所属する陣営ごとに違う魔法陣を体のどこかに書いて、さらに魔法陣を経由して召喚に応じるらしい。

 

 当然イッセーもそうした。

 

 そしてできなかったそうだ。

 

 本来なら小さな子供でもできるぐらいの魔力で転送するらしいのだが、残念なことにイッセーにはそれすらもなかったそうな。

 

 その結果イッセーは自転車で現地に行くことになり、当然「んなわけあるか!」と判断されたのが原因で口論になり、ショックで泣いてたのを見かねてお茶付きで入れてもらったらしい。

 

 なお、その時の会話で共通の趣味が発覚したことで意気投合したそうな。

 

 が、ここで問題が発生。

 

 その依頼者は、塔城にアニメキャラのコスプレ衣装を来てもらいたかったため依頼の遂行は不可能。

 

 仕方ないので他の依頼に変えることにしたが、これがとんでもないことに。

 

 大金持ちになりたい→金が降ってきたところで死ぬ。

 

 ハーレムを作りたい→視界に美女が入っただけで死ぬ。

 

 その依頼人は泣いたそうだ。そりゃそうだろうと思う。俺だって、そんな残念な結果だったら泣きたくもなる。

 

 イッセーは泣いている依頼人を慰めながら、共通の趣味を語り合ってその日は終了。

 

 依頼は達成できなかったが、アンケート結果はものすごい良好だったらしい。

 

 ちなみに、これは前代未聞だそうな。

 

 まあ、肝心の依頼ができてないのに感想が「また契約したいです」なんて書かれているのは普通おかしいだろう。

 

 仕方ないので気を取り直した次の召喚。

 

 相手は魔法少女タイプの巨漢だった。

 

 まったく想像のつかない人物なのだが、それはどういうことだろうか。

 

 今回の願いは魔法少女にしてほしいということ。

 

 なんかあり得ないことに、異世界まで行ったのにも関わらず魔法少女になることができなかったので、仕方なく本来は敵である悪魔に頼ったとのことである。

 

 もちろん、そんなことイッセーにはできないのでこれも却下。

 

 この時も、依頼人は号泣したらしい。

 

 結果、依頼人を慰めるのも兼ねて魔法少女物DVDシリーズを朝まで観賞して終了したそうだ。

 

 結果。イッセーがそのアニメにはまり、依頼は一切遂行できなかった。

 

 この時も、アンケート結果はベタボメだったらしい。

 

 前代未聞な結果が二回も続けば、さすがにいろいろとへこむということか。

 

「はあ。せっかくハーレムができると思ったのに。これじゃあいつになったらできるのかわからねえよ」

 

「初手から二回も失敗したらなぁ」

 

 正直苦笑しかできない。

 

 真面目な話、悪魔を召喚してまで叶えたいことを考えた俺には、ダークなことばかり思い浮かんだものだ。

 

 ところがどっこい。広げてみたらコスプレやら魔法少女やら明るい話題でしかない。

 

 どうやら悪魔業界は、俺が思ったものより明るくクリーンなものらしい。

 

 この調子だと、他の連中がやっている契約内容とやらも意外と明るいないようだったりするのかもしれない。

 

 魔術師の暗い側面も教えられた身としては、悪魔の家庭的な感じがどうにもおかしくなってくる。

 

「まあまあ。イッセーだって初心者なんだし、そりゃ簡単にはいかないだろ」

 

「そうか? 俺がへっぽこなだけなんじゃないのか?」

 

「依頼内容が悪かったんだよ。次ぐらいにはもっと普通の依頼が来るんじゃないか?」

 

 いくらなんでも内容がアレだ。うん。きっとまともな依頼がやってくるはずだろ。

 

「ホントか? ホントにやってくるのか?」

 

 イッセーが涙目でこっちを見てくる。

 

 どうやら本気でダメージを受けてるようだ。

 

「安心しろって。変人なんて世界の比率から見れば少ないんだから、次ぐらいにはまともな奴が来るって絶対!」

 

 三度目の正直ということわざもある。うん、きっと大丈夫。

 

 二度あることは三度ある? そんなことわざは知りません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰った俺は着替えると、そのまま夜の街へと繰り出した。

 

 と、言っても別に繁華街に行くわけじゃない。

 

 目指すのは街はずれにある山の中。それも、普通では絶対に人が来ないだろう暗いところの、さらに奥深くだった。

 

 視力と身体能力を強化しているので、夜の山でも問題なく行動できる。

 

 ここに来た目的は簡単だ。

 

 人のいないところで、神器の練習をすることである。

 

 今のところ俺は襲われていないが、イッセーが襲われたことも考えると安心することはできない。

 

 堕天使は神器使いを殺すことがある。それは強力な神器の場合とは言っているが、世の中例外と言うことは普通にある。

 

 特に俺は、グレモリー眷属の一人と親友関係になっている。

 

 危険視して殺しに来ることはあるかもしれない。

 

 魔術師としての戦闘手段は他にもあるが、それはそれでいろいろと用意する必要がある。サイズも、さすがに持ち運んでいるといろいろと言われるレベルだ。

 

 となればどうするか。

 

 答えは簡単。

 

 脅威に認定されている者なら、それを使えばいいだけの話だ。

 

「頼むぜ俺の神器。使い物になってくれよぉ」

 

 とにもかくにもまずは使いこなさなくては話にならない。

 

 と、言うことで練習開始。

 

1 とりあえず右手を掲げて叫んでみる。

 

 結果、やまびこが聞こえてきただけ。

 

2 魔術を使う要領で、魔力を込めてみる。

 

 結果、神器は光り輝いたけどそれで終わり。特に能力が発動した形跡はない。

 

3 神器を適当に叩いてみる。

 

 結果、頑丈なのはいいことだが、衝撃をほぼそのまま通してしまうことが発覚。つい全力で岩に叩きつけたため、ちょっと悶絶。

 

4 魔法のランプみたいにこすってみる。

 

 これも変化なし。

 

「・・・仕方がない。こうなれば奥の手を使うだけだ」

 

 できればしょっぱなで使いたくはなかったが、なんかこのままだと何の発展もなく終わりそうな気がする。

 

 と、ここで取り出したるは一枚のチラシ。

 

 買い物してる時に配られていた、悪魔召喚の例のチラシだ!!

 

 ふっふっふっふ。普通に質問するという手もあったが、それよりもこうやって悪魔の仕事として依頼すれば、報酬をもらえる分向こうにとっても得なはず。

 

 そうすれば、グレモリー眷属の方々からも好印象をもらえること間違いなし!!

 

 よっしゃぁ!! そうときまれば即実行!!

 

「カモンオカルト研究部!! レッツサモン!!」

 

 深夜に山にこもったことでテンションが上がったのか、俺はつい過激なポージング突きでそう叫んだ。

 

 直後、地面に置いたチラシから光が放たれる。

 

 おお! こうやって召喚するのか。

 

 それっぽい感じについつい期待する。

 

 さてさて、誰が来るかな?

 

 木場か? それとも塔城か? もしかしたら姫島先輩の可能性もあるし、まさかとは思うがグレモリー先輩という可能性もある。

 

 あ、イッセーは勘弁してくれ。あいつじゃ来るのに時間かかるし、何より依頼内容的に役に立たない。

 

 輝きはさらに強さを増し、そこから・・・。

 

「・・・あれ? うちの制服?」

 

「・・・・・・誰?」

 

 なんか、見覚えのない男が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・そうか、チラシが違ったのか」

 

「リアス先輩とこのだと思ってたのかよ。ま、逆に俺でよかったんじゃないか?」

 

 どうやら、この街にはグレモリー先輩以外にも爵位持ちの悪魔がいたらしい。

 

 どうやら、俺がもらったのはその別の悪魔の奴だったようだ。

 

 匙とかいう目の前の悪魔は、最近悪魔に転生したばかりの転生悪魔だそうだ。

 

 運がいいことに、匙も神器を持っていた。

 

 おかげで、神器の使い方もすぐにわかった。

 

 今、俺の右手には光の槍が握られている。

 

「想いの力で起動するって、なかなかロマンチックじゃないか。さすがは神様のプレゼント」

 

「喜んでくれたようでよかったぜ。・・・こっち向けんな。さっさと消してくれ」

 

 おっと。

 

 そういえば、悪魔にとって光は天敵だったな。

 

 一度でも発動させると後は簡単なのか、光の槍はあっさりと消えてくれた。

 

 これは実にいい。

 

 サイズからしてあの時の堕天使とほぼ同等。威力もそんなに変わらないだろうし、これはいい戦力になりそうだ。

 

「サンキュー匙。おかげで助かったぜ」

 

「ま、こっちも仕事だからな。それで報酬なんだが・・・」

 

 そういえばそうだ。

 

 こんな山の中だと手持ちのものでどうにかするしかないな。

 

 えっと・・・そうだ!

 

「この警棒とかどうだ? 結構高かったからいけると思うんだが」

 

「・・・なんでそんなもん持ってんだよ」

 

 匙にはあきれられるが、別におかしくはないだろう。

 

 また堕天使に襲われることを考えると、どうしてもそれ相応の得物ってのが必要なんだよ。

 

 匙は微妙に引いた表情でそれを持つが、片手で機会をみるとうなづいた。

 

「・・・よし! これならちょうど良いみたいだし、俺はこのまま帰るとするか」

 

「サンキュー。学校であったらよろしくな」

 

 俺たちはあいさつを交わすと、匙はそのまま主のもとに転移していった。

 

 それを見送ると、俺はもう一度神器に力を込める。

 

 さっきと変らないサイズの光の槍が、すぐに発生した。

 

 俺はそれをつかむと、軽くふるってみる。

 

 ・・・うん。重さはないものと思ってたが、良い感じに手ごたえを感じる。

 

 何度か軽くふるってみてから、今度は適当な木に向かって投げ飛ばしてみる。

 

 おお、見事にあっさり突き刺さった。

 

 槍はしばらくしたら消えるが、その痕跡は大きな風穴と言う形でちゃんと残っていた。

 

 すごい威力だ。魔術師の攻撃魔術なんて、大半はこれの足元にも及ばないだろう。

 

 これが神器。これが、神が授けた人間が手に入れることができる力。

 

 とんでもない出力だな。

 

 こんなもんがイッセーにも宿っているのか。殺されたってことは間違いなく俺の神器よりも、あいつの神器の方が格上だということになる。

 

 まっすぐな所が取り柄の、ただのスケベな親友だと思ってたが、あいつもとんでもないものを宿していたってことか。

 

 俺はイッセーの今後を考える。

 

 あいつは本当に上級悪魔になれるのだろうか。

 

 あの赤い籠手があれば可能性はあるのだと信じたい。

 

 ま、俺が生きている間になるのは無理な気がするが、悪魔の長い寿命があれば不可能じゃないだろ。

 

 あいつはスケベが絡むと時々すごい力を発揮するからな。

 

 そう思いながら空を見上げると、やけに夜空がきれいな気がした。

 

 こんな日は気持ちよく眠れそうだ。イッセーも、今度は元気になるといいな。

 




イッセーよりも先にシトリー眷属と知り合いになった兵夜。

イッセーの平和な生活を願いますが、このころ彼ははぐれ悪魔と戦闘中だったりします。

願いって、かなわないものですよね・・・


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イッセー、ピンチです!

 深夜の駒王学園。悪魔が契約を遂行するための時間帯。

 

 俺は、駒王学園に足を運んでいた。

 

 深夜の学校って、やっぱ雰囲気が違うな。

 

 よく怪談の舞台になるだけあって、どこか奇妙な違和感を感じる。

 

 しかも、本当に悪魔がいるって言うんだから雰囲気抜群。

 

 しっかし、昨日の匙との話は目から鱗だった。

 

 神器の練習がてら話を聞いてみたんだが、どうも転生悪魔といってもいろいろと種類があるらしい。

 

 その昔、悪魔は多くの軍勢を率いて戦うのが一般的だったらしい。

 

 だが、大昔の三つ巴の争いで悪魔はその数の大半を減らしてしまった。軍勢を形成するなど冗談でも無理なぐらいだ。

 

 それによって転生悪魔と言う制度を作ることになったのだが、そこで悪魔は一工夫を加えることにしたらしい。

 

 それが悪魔の駒(イーヴィル・ピース)だ。

 

 王である爵位持ちを中心とする、チェスを模した悪魔の駒。

 

 すなわち、女王、騎士、戦車、僧侶、兵士。

 

 人間からの転生者が多く、当時悪魔の間でチェスが流行っていたこともあって造られたそれは、それぞれの駒に合わせた特性が付加された。

 

 スピードの騎士、魔力の僧侶にパワー&ガードの戦車。

 

 それらすべてを組み合わせた女王。

 

 そして、ポテンシャル次第でそれらに化ける兵士。

 

 それらによって構成される、少数精鋭の悪魔の軍団。

 

 それは、悪魔の間で人気と成り、模擬戦であるレーディングゲームを開催するにも至った。

 

 まだ若いので匙の王は参加したことはないそうだ。おそらくだが、グレモリー先輩もそうなんだろう。

 

 いつかはイッセーも参戦することになるのだろうか。

 

 なぜだろう、女悪魔にスケベな視線を向けているイッセーの姿が目に映るようだ。

 

 そんな風に歩いていると、懐に入れた携帯が鳴り響く。

 

 歩きながら表示を見れば、それは俺が仕事する時に知り合った男の一人だ。

 

 こんな時間に何の用だ?

 

「もしもし? こんな時間に何の用だ?」

 

『ああ、サブのやつに何かあったみたいなんだが、アンタ知らないか?』

 

 たしか、この学園の近くに住んでるとかいう奴だったな。

 

「いや、知らない。何かあったのか?」

 

『それがあいつ、これから悪魔を召喚するからこっち来いとか言ってやがったんだよ』

 

 ・・・何考えてんだアイツ。

 

 それだけ言ったってキチガイ扱いされるだけに決まってるだろうが。

 

 と、いうよりコレどうしたらいいんだ。

 

 本当にいるから行けばどうだとか言うべきだろうか。

 

『そしたらそいつ「あれ? 来ないぞ?」とかなんとか言っててよぉ』

 

 前言撤回。ややこしくなりそうだから行かせたらイッセーに悪い。

 

 自転車でいくんだからそりゃ時間はかかるだろう。十中八九イッセーが呼ばれたに違いない。

 

『そしたら今度は宅配便が来たとかで、十分前から切れてんだけど全然つながんないんだ』

 

「なるほどねぇ。ま、もうちょっと待ってみたらいいんじゃねぇの?」

 

 適当に相手をしてから電話を切る。

 

 悪魔召喚を他人に自慢するとか面倒だな。

 

 と、そんな電話をしていたら旧校舎に到着。

 

 手土産のお菓子はちゃんと手に持つビニール袋にもあるし準備OK。

 

 俺は部室の前まで来ると軽くノックした。

 

「すいませーん。宮白ですけどいいですかー」

 

「ええ、入ってらっしゃい」

 

 許可をもらえたのでドアを開けて入室。

 

 見れば、やはりというかなんというか、イッセーだけがいなかった。

 

「イッセーは仕事中ですか先輩?」

 

「ええ。先ほど契約が来て、そちらに向かって行ったわ」

 

 サブ、お前のもとにちゃんと悪魔はやってくるぞ。だから安心して待っていろ。

 

「イッセーに会いに来たのかしら? ごめんなさいね。タイミングが悪かったみたい」

 

「いえ、気にしないでください。・・・あ、これ手土産ですが良ければどうぞ」

 

 外出してるのは大体予想済みだからな。

 

 ま、帰ってくるのを気長に待つか。

 

「粗茶ですが」

 

「あ、すいません姫島先輩」

 

「うふふ。名前で呼んで構いませんわ」

 

 え、いいの?

 

 思わぬ申し出にちょっと戸惑うが、さらに横の塔城も、

 

「私も名前でいいです」

 

 なんてことだ。

 

 学園の有名な女の子たちが、名前でいいだなんて嬉しいこと言ってくれてるぞ。

 

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますよ。朱乃先輩、小猫ちゃん」

 

 と、くればだ。

 

 流れからいってグレモリー先輩や木場とも名前で呼ぶ流れか?

 

 ふむ。学園の有名人と名前で呼ぶ関係になるというのはなかなか感慨深いものがあるが・・・。

 

 あくまでイッセーの親友で事情を知っているだけでしかない俺が、そこまで好待遇なのもいかがなものか。

 

 と、そんなことを思った時だ。

 

 ドアが乱暴に開いたかと思ったら、木場があわてた顔で入ってきた。

 

「部長! イッセー君が向かった先に『はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)』が!!」

 

「なんですって!?」

 

 悪魔祓い!? 名前からして状況最悪じゃないか。

 

「まずいわね。・・・宮白兵夜君、悪いけど―」

 

「だいたい状況はわかりました。イッセーをお願いします!」

 

 グレモリー先輩はすぐにうなづくと、魔法陣を展開する。

 

 たぶん転移の魔法陣だろう。オカルト研究部全員がそこに集まる。

 

「兵藤くんのことは任せてくれ」

 

「・・・いってきます」

 

「うふふ。大船に乗った気持ちで待っていてください」

 

 すげえぞオカルト研究部。

 

 なんか無駄に頼もしい。

 

「さあ、イッセーを助けに行くわよ!」

 

 そんなグレモリー先輩の掛け声とともに、四人は転移していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正直本気で心配だったが、イッセーはボロボロではあるが無事に帰ってきてくれた。

 

 まさかこの日本で銃創を拝むことになるとは思わなかった。

 

「イッセー! お前大丈夫か」

 

 それでも心配でついそう言ってしまうが、イッセーの表情はつらそうだ。

 

 だが、それは傷によるものではなかった。

 

「俺は大丈夫。でも・・・」

 

 この表情は傷の痛みに耐える奴じゃない。

 

 なんとなくだが、そう思った。

 

 とはいえ、何も説明されていない今の状況じゃどうしようもない。ここはもっと重要なことがある。

 

「グレモリー先輩。悪魔祓いがいるのはわかりましたが、はぐれとはどういうことでしょうか」

 

「悪魔祓いには二通りあるわ」

 

 グレモリー先輩はイッセーの傷を治療しながら答えてくれる。

 

「一つは、神の祝福を受け、神や天使の力を借りて悪魔を滅ぼす正規の悪魔祓いよ」

 

「と、言うことははぐれは違うと?」

 

「ああそうだよ」

 

 俺の疑問に木場が答えてくれる。

 

「悪魔祓いは神の名のもとに行われる聖なる儀式。信徒にとってそれは行為そのものではなく行為によって神のために尽くしているということが生きがいになるんだよ」

 

「ところが、はぐれと呼ばれるような方々はこの行為そのものに生きがいや楽しみを感じるようになった者たちなのです」

 

 朱乃さんが引き継だ説明に、俺はなるほどとうなづいた。

 

 つまりは悪魔限定の快楽殺人鬼。

 

 戦争とかと同じだな。あくまで目的のために殺しをするのであって、それを楽しむようになっちゃただの危険人物だ。

 

「そういうのって向こうで取り締まったりしないんですか?」

 

「基本的に教会側も追放したり裏で始末したりするのですが、それらを逃れるエクソシストも少なからず存在するのですわ」

 

「朱乃の言うとおり。そして、そういう輩は堕天使のもとに走るの」

 

 堕天使。

 

 グレモリー先輩の言葉に、俺は退治した堕天使を思い出した。

 

 そういえば、あいつらも光を使ってたな。

 

「堕天使も、天使と同じように光の力を与えることができる。大昔の争いで悪魔と同じように数を減らした堕天使たちは、私達と同じように下僕を集めることにしたの」

 

 またわかりやすい展開だな。

 

「なるほどね。悪魔を殺したくてたまらない外道エクソシストと―」

 

「悪魔が邪魔な堕天使がは利害が一致したってことですか?」

 

 俺の言葉をイッセーが引き継ぎ、グレモリー先輩はうなづいてくれた。

 

「そういうこと。悪魔狩りにはまり込んだ危険なエクソシストが堕天使の力を借りて、悪魔と悪魔を召喚する人間に牙をむいたの。さっきの少年神父は典型的なはぐれ悪魔祓いね。リミッターが外れている分正規の悪魔祓いも危険だわ。イッセーが言った教会は、天使ではなく堕天使が集まっているところだったようね」

 

 面倒な話だ。悪魔になるとそんな危険な連中の相手をしなくてはいけなくなるだなんて。

 

 ・・・ってちょっと待て。

 

「おま・・・イッセー!? 悪魔が教会って何考えてんだ!」

 

 思わず叫んでしまった。

 

 至近距離だったのでイッセーが顔をしかめるが、そんなことを言っている場合ではない。

 

「悪魔と天使が敵対しているだなんて、俺でも一瞬でわかるぞ。何考えてんだよお前は!? 死ぬの? 死にたいの!?」

 

「み、宮白ストップ! 声が大きい! 傷に響く!!」

 

「・・・自業自得」

 

 もっといってやって小猫ちゃん!

 

 だが、イッセーはハッとすると表情を真剣なものに変える。

 

「そうだアーシア! 部長、俺はあのアーシアって子を・・・」

 

「無理よ」

 

 イッセーの言葉をグレモリー先輩が遮る。

 

「あなたは悪魔。彼女は堕天使の僕。相いれない存在同士よ。あの子を救うってことは堕天使を敵に回すということ。そうなれば、私達も堕天使と戦わなければならないわ」

 

 その言葉に、イッセーは苦い顔で黙りこむ。

 

 きっと、こいつの中でそのアーシアってこと先輩達を天秤にかけているんだろう。

 

 だけど、たぶんそれができるほどこいつは大人じゃない。

 

 俺は、この会話には割って入ろうとはしなかった。いや、なにも事情を知らない俺に、割って入る資格はない。

 

 だけど・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・よし。これでだいぶ楽になるだろ」

 

 次の日、俺はイッセーの傷に治癒魔術をかけていた。

 

 最も、完全に治すつもりは俺にはない。

 

 悪魔の回復力でも一日で完治するということはないだろう。もし気づかれれば怪しまれるし、イッセーに隠し通せるとも思えない。間違いなく俺の正体がばれてしまう。

 

 なので、ある程度治療したらそのあたりで終了だ。

 

「サンキュー宮白。おかげで助かったぜ」

 

「気にすんな」

 

 ちなみに、今日イッセーは学校を休んでいる。

 

 グレモリー先輩が怪我を心配して悪魔家業を休みにしてくれたらしい。

 

 イッセーも思うところがあるだろうし、学校も休むことにしたようだ。

 

 ちなみに俺は学校にはもちろん行く。

 

 と、言うことで

 

「じゃ、俺は学校いくわ」

 

「ああ。ホントありがとな」

 

 俺はイッセーと別れるとそのまま学校に向かおうとして―

 

「ま、そういうわけにもいかないか」

 

 途中で道をそれた。

 

 ちなみに、事情は既にイッセーに聞いている。

 

 なんでも道に迷っていたシスターを教会まで送って行ったらしい。

 

 あいつらしいというかなんというか。

 

 どうせあいつのことだ。放っておいたら一人で勝手に突っ走ったりする可能性がある。

 

 だったらまぁ・・・やるしかないよな?



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教会、乗り込みます!

さあ、一巻部分もクライマックスに近づいてまいりました。


 

 まずは家に戻って準備を整えてから、俺はイッセーの言っていた教会の情報を入手する。

 

 どうやらあの協会はだいぶ前に廃棄されていたものらしい。と、言うことは勝手に使われているということだ。

 

 次に、使い魔を放って様子を確認。

 

 どうやら地下室を造っていたらしく、そこまで様子を見ることはできなかった。

 

 だが、人数は十分に把握できた。

 

 無駄に数がいやがるな。これじゃあ強行突破は不可能か。

 

 数が少ないのなら、暗示を使って連れだすという方法もあったが、この人数だと俺の技量じゃ無理がある。

 

 やはり礼装がいる。となるとアレを持ってくるのが一番妥当か・・・。

 

 と、そんなことを考えていると敵側に動きがあった。

 

 はぐれ悪魔祓いが何人か外出するようだ。

 

 これは本気でチャンスだ。

 

 俺は暗示用の魔術礼装を取り出すと、急いでアパートを出る。

 

「・・・問題は、実行した後どうするかって言うことだよなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分で言うのもなんだが、俺は時々致命的なポカをする癖がある。

 

 前世で死んだのも、うっかり信号を確認するのを忘れた挙句、寝るときに使っていた耳栓をつけたまま遅刻して学校に向かってしまい、信号無視をする車の音がさっぱり聞こえていなかったからだ。

 

 それクラスのうっかりミスは、この人生では一つある。

 

 イッセーと友達になってから一年後ぐらいに、あいつに魔術を使っているところを見られてしまった。

 

 ・・・あれは恥ずかしい。

 

 学校の掃除をしているときに、誤って壺を倒してしまい割ってしまったのだ。

 

 あわてた俺は修復の魔術を使って治したのだが、それをイッセーに見られてしまった。

 

 人は異質なものを嫌う。

 

 それは人間として当然の機能だ。

 

 自分にとってよくわからないものを嫌うのは当然の反応で、それに関して、俺はそれ相応に一家言持っていると言ってもいい。

 

 グレモリー先輩たちを嫌っていない理由は簡単、俺が魔術という異能を持っているからにすぎない。

 

 ましてや、魔術は素質のあるものしか使えない能力。魔術回路という文字通り常人にはない機関を持ってして初めて可能とする。

 

 努力やら何やらで増やすことができないのだ。

 

 人間的な問題なら、精神年齢が高いということだけなので成長に伴い緩和するかもしれない。

 

 だが、こればっかりはどうしようもなかった。

 

 当時イッセーと友情を築いていた俺は、あの時ほど取り乱したことはない。

 

「あ、後で説明するから誰にも言わないでくれ!」

 

 ・・・自分でもどうかしている。

 

 あの時は魔術で記憶を消すという考えが浮かばなかった。

 

 だけど、イッセーはそれを今でもずっと守ってくれている。

 

 小学生ならうっかりしゃべってしまうこともあるかもしれないが、少なくとも、俺が知る限り魔術がらみが漏れたことは一度もない。

 

 それについて、中学に入る前にイッセーに聞いたことがある。

 

 あいつは当たり前のようにこう言い放った。

 

「だって知られたくないんだろ? 友達なんだから当然じゃねえか」

 

 ・・・本気で驚いたよ。

 

 あんな人間離れなことをする俺を、あいつは友達のままぶれることなく思っていてくれた。

 

 それ以来、俺は絶対に守り通すと決めたことがある。

 

 もし、イッセーが命がけで何か行動を起こすとする。一度だけ、どんなことであろうと俺は命がけで協力する。

 

 たとえ、それが覗きなどの犯罪行為だったとしても、俺は魔術を行使してそれを手伝うつもりだ。

 

 正直、イッセーがそのシスターを助けようとするかは分からない。

 

 相当でかい問題だからな。

 

 グレモリー先輩も反対していたし、下手すると国際問題レベルの出来事みたいだしな。

 

 それでも、あいつは助けたいとは思い続けるはずだ。

 

 長年の経験から、あいつの本気はすぐにわかる。

 

 たぶん、数日の内にあいつは強くなるために行動するだろう。

 

 そして本気で決意したら、あいつは一人でも助けにいくはずだ。

 

 ・・・その時は、俺も手を貸してやらなければならない。

 

 たぶん、それは命がけだ。

 

 そして、殺す気でいかなければ何とかすることはできないだろう。

 

 魔術にかかわった時から命のやり取りをする可能性は覚悟していたが、まさか死んでからすることになるとは思わなかった。

 

 手持ちの礼装で使えるものは全部出す。

 

 ほとんど記憶を頼りに作った頼りない品だが、ないよりはましなはずだ。

 

「命がけか。・・・上等だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・まさか、昨日の今日ですることになるとは思わなかった。

 

 念には念のために仕掛けておいた盗聴器から、ほおをはたく音が聞こえてくる。

 

『・・・ダメなものはだめよ。あのシスターの救出は認められないわ』

 

 きっかけは、イッセーの奴がそのシスターと再会したことから始まる。

 

 どうもシスターが逃げ出したらしい。

 

 で、イッセーと出くわしたとか。

 

 イッセーはそのシスター・・・アーシア・アルジェントだっけ? と再会した後どうやらデートしてたらしい。

 

 とっとと事情を聞けよ。そして俺に相談しろよ。

 

 なんでハンバーガーショップでのんきに食べてんだよ!

 

 つかゲーセンで遊ぶな。得意だからって遊ぶな。

 

 と、いうかクレーンゲーム今回不調だな!? 天罰か? あ、神様敵だったな悪魔は。んなもん常時か。

 

 で、その後俺が事情ゆえに残していた傷を、彼女が治したらしい。

 

 ・・・そして、彼女の身の上話を聞いたらしい。

 

 親に捨てられ、孤児院で育てられた少女。

 

 ひょんなことから癒しの力に目覚めた少女は、教会で聖女として育てられる。

 

 教会に来る傷を負った人々に、その力を使って癒しを与える日々。

 

 だが、少女に友達ができることはなかった。

 

 まあ、それはそうだろう。

 

 聖女だなんて大層な存在、普通の人は畏怖してしまうのが当然。そんな偉大なお方との友情なんて、恐れ多くて築けるわけがない。

 

 しかも、そこで面倒なことが発生する。

 

 教会に傷ついた悪魔がやってきたのだ。

 

 普通に考えれば、教会の敵である悪魔なんてすぐに逃げるか誰かを呼ぶかが普通だ。

 

 が、ここでアルジェントは治してしまった。

 

 これだけ聞いて、俺は正直どういうことかわからなかった。

 

 魔術に置いて治癒とは、存在を復元させるか自然治癒力を増大させると言った方法をとることが多い。

 

 当然、そんなもの生きている者ならどんな奴にだって効果がある。

 

 だが、教会の連中はおそれおののいた。

 

 聖なる力である治癒の力が、邪悪な悪魔に対して行えるわけがない。

 

 ・・・俺はある確信をしたが、ここでは置いておく。

 

 悪魔を治してしまうような力を持つ者を、教会は魔女として排斥した。

 

 面倒ではあるが、まあちょっと前の話と同じだ。

 

 人間は異端を恐れて忌避する傾向にある。

 

 人間が違う人種を差別するように。

 

 子供が自分と違う人をいじめるように、

 

 神に愛された者しか癒すことができないのに、神から見放された悪魔をも癒してしまう異端の力を、彼らは恐れたのだ。

 

 人間と言うのは本当に面倒な生き物だ。

 

 癒してしまったことを咎めるのはまあいいが、癒す力を持ってしまったことは彼女の責任ではないだろうに。

 

 結果、彼女はいやでも堕天使のもとに身を寄せることになった。

 

 イッセーは本気で激怒しただろう。

 

 俺の魔術を全く忌避しなかったあいつのことだ。アルジェントを追い出した連中のことが理解できないに決まっている。

 

 案の定、イッセーはアーシアの友達になると言いだした。

 

 が、ここで事態は一変する。

 

 天野夕麻。イッセーを殺すために告白し、そして殺した堕天使の女。

 

 奴がアーシアを回収するために強襲したのだ。

 

 イッセーは神器を出して抵抗するが、戦闘経験のないイッセーにどうこうできるわけもなく返り討ちにあう。

 

 なんでも、イッセーの神器は『龍の手(トウワイス・クリティカル)』とかいう、所有者の力を二倍にするという代物だそうだ。

 

 そんなものをわざわざ殺そうとするなと言いたい。

 

 そして、イッセーの目の前でアルジェントは連れ去られた。

 

 しかも、アルジェントを儀式に利用するという発言をしてまで。

 

 ・・・そして、イッセーがオカルト研究部に急いで来てアーシア救出を発言。今に至る。

 

『イッセー、彼女のことは忘れなさい』

 

『いやです! 俺は友達を見捨てたりなんてしない!』

 

 イッセーとグレモリー先輩の口論はまだ続いている。

 

 グレモリー先輩。残念ですがイッセーはもう引き下がりません。

 

 こうなったイッセーはテコでも動かない。俺も経験があるから、とてもとてもよくわかる。無理やり暗示で返そうとしたけど、それでも抵抗したから本当に恐れ入る。

 

 ここぞという時の精神力が無駄に高いのだ。

 

 そして、少しした後、グレモリー先輩は突然話を変えた。

 

『みんな。大事な用が出来たらから、私と朱乃は少し外に行くわ』

 

 オイオイ、話は切り上げてるのかよ。

 

『待ってください部長! まだ話は―』

 

『イッセー、一つ言っておくわ。あなたは兵士を弱い駒だと思っているわね』

 

 急に話が変わった?

 

『それは大きな間違い、あなたの勘違いよ』

 

 確かチェスの駒の話だったな。

 

 俺、チェスは詳しくないけどたしか将棋の歩と同じ立場・・・ああ、そういうこと。

 

『チェスでは、相手陣地の最奥部へ到達した兵士の駒は、王以外のすべての駒に変化することができる『プロモーション』という特殊な力があるの』

 

 本当に歩と同じだな。いや、いろいろと選べるだけこっちの方がすごいのか?

 

『イッセー、あなたも私が敵と認めた相手の一番重要な場所に行けば、王以外の駒に変化することができるの。教会のようにね』

 

 と、言うことはその兵士以外の駒には、転生した悪魔を強化する力が含まれているということか?

 

 恐るべし転生悪魔。

 

 そして、もう一つ。

 

 わざわざ具体例に教会を上げるということは―

 

『あなたはまだ転生して日が浅いから、最強の駒である女王にはなれないでしょう。でも、強く思いを込めればそれ以外の力を得ることができるわ』

 

 あ、さすがにそこまでうまくいかないか。

 

 だが、それなら今のイッセーでも戦いようはあるかもしれない。

 

 問題は、その力の上昇がどこまであるかということか。

 

『それともう一つあるわ。神器について。神器を使う際、これだけは覚えておいて・・・』

 

 俺は通信を切った。

 

 これ以上は聞かなくても大丈夫だ。

 

 このタイミングで戦闘についての話、どう考えても堕天使戦を視野に入れている。

 

 おそらくだが、グレモリー先輩が出る用事もそれなんだろう。

 

 これ以上は話を聞いている余裕がない。

 

 こんなこともあろうかと用意していた戦闘用礼装、全部引っ張りだす余裕もないし、バレると面倒だから簡単なのだけにしておくか。

 

 後は自己暗示だな。殺すのはさすがに抵抗はあるが、ボコボコにするのは覚悟しておかないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side祐斗

 

 兵藤くんに付いて行く形で、僕と小猫ちゃんは堕天使のアジトである教会へとやってきた。

 

 正直に言うと兵藤君には感謝している。

 

 僕は神父や堕天使を憎悪していると言ってもいい。

 

 そんな相手と出くわして、不利な状況だとしても尻尾を巻いて逃げだすことになったのは我慢ならなかった。

 

 教会に近づくにつれて寒気が走る。

 

 間違いない。この教会に堕天使はいる。

 

 一応見取り図は用意できたが、おそらく聖堂で儀式とやらを行うつもりなのだろう。

 

 堕天使やはぐれ悪魔祓いは神に捨てられたもの。だからこそ、あえて教会で邪悪な儀式を行うことによって、醜い喜びに浸る。

 

 シスターを助けるというのもどうかとは思うが、兵藤くんの話では彼女は放逐されているらしい。

 

 彼女は心中は察することができる。

 

 僕もそうだったからね。

 

 部長が来てくださらなければどうなっていたことか。

 

 神に見捨てられながらも信仰を捨てない彼女には、正直感心している。

 

 兵藤くんが助けたいと思うのもわかる気がするよ。

 

 それに、部長も行動を起こしているみたいだ、なら、部長の剣である僕も動くだけさ。

 

「それじゃあ行こうか」

 

 僕は剣を持ち、聖堂の前で覚悟を決める。

 

「おう!」

 

「・・・了解です」

 

 兵藤くんと小猫ちゃんもうなづいてくれる。

 

 僕たちは聖堂の中に踏み込んだ。

 

 人がいなくなったことはすぐにわかる聖堂。

 

 頭部が破壊された聖人の彫刻。それが電気とろうそくの光に照らされて、不気味は雰囲気を生み出している。

 

 わざわざ一つ残らず破壊しているあたり、悪趣味だね。

 

 そして、聖堂の中には人影があった。

 

 その姿には覚えがある。

 

 兵藤君が依頼で言った家の住人を惨殺し、あとすこしで兵藤君自身を殺すところまで行ったはぐれ悪魔祓い。

 

「ああ、クソ悪魔と激動の再開。感動的でござんすねぇ」

 

「フリード!!」

 

 イッセー君が睨むが、あちらも殺気では負けてない。

 

「いやホント君らレアだよぉ? 俺様チョー強いから再開する悪魔ちゃんなんていないんですよぉ。チミ達にとってすぅんばらしいラッキーなことなんですが、俺様的にはチョー最!悪! ・・・ってことで死んでちょ♪」

 

 先日と同じくふざけた物言いだが、それでいて隙がないから面倒だ。

 

 事実、彼の手には既に拳銃と光を放つ剣が握られている。

 

 天敵ともいえる光の力を持つ以上、油断できるはずがない。

 

 ふざけた態度に見合わず、あの男は相当腕の立つはぐれ悪魔祓いだ。油断をして勝てる相手ではない。

 

「アーシアはどこだ!! とっとと答えやがれ?」

 

「や~っぱり、あんの悪魔も治しちゃうクソシスターが目的でござんすか。彼女はー祭壇のー隠し階段を下りた先におりますです~」

 

 兵藤くんの質問に、あっさりと答えてくれる。

 

 もちろん、ただで通してくれるわけがないか。

 

「セイクリッド・ギア!!」

 

 兵藤くんが神器を発動させ、僕も剣を構える。

 

 そして小猫ちゃんは―

 

「つぶれて」

 

 長椅子をつかむとフリードに放り投げた!

 

「おっほー! 野球かいおチビちゃぁん!! ある意味ピッタリでござんすねぇ!!」

 

 フリードはそれをあっさりと両断すると、今度は指を鳴らす。

 

 ・・・なるほど。そういうことか。

 

「本当ならボクチン孤独でさびしいロンリーウルフなんだけどさぁ、お暇しちゃってる人がけっこーいたりすんのよねぇ」

 

「クククッ! 悪魔が・・・三匹ぃ」

 

「・・・悪・・・魔」

 

 物陰から、さらに二人のはぐれ悪魔祓いが現れる。

 

 どうやら、彼らの儀式は相当大事なものだということか。

 

「げ! 他にもいんのかよ」

 

「・・・面倒」

 

 兵藤くんと小猫ちゃんも警戒するが、ここでのんびりしている時間はない。

 

 なんとしても、フリードたちを片付けないと―

 

―ダダンダンダダン ダダンダンダダン♪

 

 ・・・なんだ? 音楽?

 

 あのふざけた男が用意したものか? いや、フリードも首をかしげてあたりを見回している。

 

「おんやぁ? ターミでネーターちゃんなミュージックではないですかぁ?」

 

 この男ではない。だとすると・・・

 

「・・・ヤバい」

 

 兵藤くんが冷や汗を流している。この音楽に心当たりが? いや、確かに音楽自体は有名だけどね。

 

「・・・人の気配」

 

 小猫ちゃんが、入ってきた聖堂の入り口の方に視線を向ける。

 

 振り返った僕が見たのは、赤茶色の髪をした少年―宮白くんの姿だった。

 

 なんでこんなところに!? 僕達の動きを読まれていたのか!?

 

 不味い!

 

 部長の話では、彼も神器を持った人間だという。

 

 だが、これは悪魔と堕天使の戦いだ。そんなものに巻き込まれてただで済むわけがない!

 

「宮白くん!! すぐに逃げるんだ!!」

 

 このままだと例のシスターを助けに行くどころじゃなくなる。

 

 どうしてこんな時に!?

 

 しかし、宮白くんはなにも答えず、ブツブツと何かを言っている。

 

「・・・スト・・・ップ!」

 

 そして・・・

 

「・・・色んな意味で何やってんだイッセェエエエッ!!」

 

「フゴッ!」

 

 気がついたら、兵藤くんが殴り飛ばされていた。

 

 なんて動きだ! 動揺していたとはいえ、僕が反応できない速さで移動するだなんて!

 

 兵藤くんからケンカ慣れしていることは聞いていたけど、これは並の悪魔祓いを上回っている!

 

「いってーな! 何考えてんだよ宮し・・・ろ!」

 

 兵藤くんが文句を言うよりも早く、宮白くんは兵藤くんの胸ぐらをつかみ上げた。

 

「イッセー? お前なぁ、なんで俺を呼ばなかったんだ? 呼ばなかったんだ? ・・・準備万全にして待ってたのに、なに俺無視して教会ちょっこうしてるんだドアホ!」

 

「へいボクちん? 大事な大事なぶっ殺タイムの邪魔しないでブチッ!」

 

 割って入ろうとしたフリードだが、それは宮白くんによって妨害される。

 

 ―兵藤くんの体で殴り飛ばされた。

 

「・・・準備万端でカッコつけてまってた俺の身にもなれ!? あやうく不審者として警察に捕まるところだったんだぞこの単細胞ならぬエロ細胞が!」

 

「ゴ! まっまってブ! 悪かっダ!?」

 

 青筋を浮かべた宮白くんは、そのまま兵藤くんを振り回す。

 

 振り回された兵藤くんは凶器とかし、あっけにとられたはぐれ悪魔祓いを薙ぎ払った。

 

 戦車の小猫ちゃん程じゃないがとんでもない怪力だ。人間のそれとはとても思えないレベルに到達している。

 

 祭壇は壊れるは椅子は砕け散るは、・・・あ、はぐれ悪魔祓いがまた薙ぎ払われた。

 

 とりあえず兵藤くんを離すんだ! 彼のHPはとっくにゼロだよ!?

 

 ・・・やがて、落ち着いたのか宮白くんは肩で息をしながら兵藤くんを解放した。

 

「ぜえぜえ・・・。と、とにかく俺からありがたい言葉を聞かせてやろう」

 

「は、はい! 何でしょうか宮白さま!」

 

 兵藤くんが直立不動でそれを聞く。既に彼の服はボロボロになっていた。

 

 彼は僕や小猫ちゃんの方にも視線を向けると。腰に手を当てて言い放った。

 

「ここは俺に任せてとっとと行け。・・・アルジェントとかいうシスターの儀式が終わったら、彼女は死ぬぞ」

 

 ・・・なんだって?

 

「締めあげたら白状した。奴らの目的はアルジェントの持つ聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)とかいう神器を、夕麻ちゃんこと堕天使レイナーレに移植することだ」

 

 そういうことか!?

 

 人間はもとより、神の加護を受けない悪魔や堕天使をも癒す力。それを持つということは、悪魔や堕天使にとって重要な存在になるということに他ならない。

 

 それを移植することによって自分の地位を高くすることが堕天使の目的!

 

 だけどそれは不味い。

 

「神器を無理やり引き離されると所有者は死にいたるそうだぜ」

 

「な・・・っ」

 

 宮白くんが放った言葉に、兵藤くんが絶句する。

 

 当然だ。彼女を使ってよくないことをしようとするところまでは想像していただろうが、まさか自分の陣営にいる少女を殺そうとするだなんて、今まで一般人だった兵藤くんに想像できるわけがない。

 

「・・・時間がありませんね」

 

 小猫ちゃんの表情も険しくなる。

 

「そういうことだ。こういうときは途中の障害は適当な誰かに任せて本丸に直行するのが基本だぞ?」

 

 宮白くんはそういうと、懐から伸縮式の棒と・・・引き金のついた弓―クロスボウを取り出した。

 

 よく見れば、彼の動きには隙が見えない。

 

『あいつの力は借りたいけどさ、さすがに悪魔と堕天使の喧嘩に巻き込むわけにはいかねぇよ』

 

 兵藤くんが教会に向かう時に言っていたことはコレか! 

 

 優等生と言うのは仮の姿で、彼は喧嘩や暴力沙汰はもちろんのこと、近隣の不良を締め上げて頂点に立っている存在だと聞いた。

 

 だが、それだけでは説明がつかないほど彼は実力を持っている。これが兵藤くんが信頼する男の実力か。

 

「適当に足止めしたら引き上げる。奴らの人数は二桁を超えてるんだ。ここで消耗してる余裕はないぞ!!」

 

 周囲のはぐれ悪魔祓いを睨みつけながら、宮白くんは僕達を促す。

 

 だけど、さすがに彼一人を置いていくわけには―

 

「安心しろよ。・・・『二人』相手に足止めするぐらい簡単だ」

 

 二人? はぐれ悪魔祓いは三人いるはず・・・

 

 そう思うのと、はぐれ悪魔祓いの一人が倒れるのはほぼ同時だった。

 

「やるじゃねぇか宮白!」

 

「・・・いつのまに」

 

 兵藤くんが称賛し、小猫ちゃんが驚く。

 

 だが、それ以上にフリードは驚愕していた。

 

「ちょぉおおおっと!! 平民あいてにハイドボンって、なにやってんのよ御同輩! 同僚のなっさけない姿に、俺様涙がちょちょぎれちゃいますよぉ!?」

 

 口調こそふざけているが、フリードの動揺は深刻だ。

 

 有利な状況に持ちこんだかと思えば、いきなり乱入してきた一般人に、何をしたのかもわからずに一人減らされた。

 

 これは嬉しい誤算だ。

 

 速攻で終わらせれば、彼の身に危険が及ぶこともないはず!

 

「わかった。ここを任せるよ」

 

「木場こそ、イッセーのことは任せるぜ」

 

「わかった。・・・行くよ、二人とも!!」

 

「・・・お任せしました」

 

「頼んだぜ宮白! ・・・死ぬんじゃねぇぞ!!」

 

 僕たちは頷きあうと、宮白くんを残して隠し階段を駆け下りていく。

 

 僕達がことを終えるまで、持ちこたえくれ!!




原作キャラを書くのは難しい。

違和感なく書けているでしょうか? アドバイスを頂けると幸いです。


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堕天使、ぶち抜きます!

 

 イッセー達が階段を下りるのを確認すると、俺は少し安心した。

 

 正直、何人か締め上げたはぐれ悪魔祓いの吐いた内容はとんでもないことだった。

 

 彼女を利用してのし上がるならともかく、まさか殺してまで神器を奪おうとするとは想定外だ。

 

 魔術師も外道が多いが、奴らも相当外道だな。

 

 こりゃイッセーが黙っていない。俺もさすがに見逃すのは寝覚めが悪い。

 

 てっきりすぐイッセーが来るかと思って準備していたのだが、まさか素通りするとは思わなかった。

 

 おいおいおいおい! 堕天使と一応勝負に持ち込んでいるんですけど!? しかも俺だって神器に目覚めているんですけど!?

 

 あの馬鹿、全部終わったら投げ技の実験台にしてやる。

 

 まあ、念のため暗示をしっかりかけたうえで悪魔祓いの記憶を消して解放して正解だった。

 

 運よく敵に紛れ込んでいたので、説得力をつけるために気絶してもらうことにした。本当は隙を作るための仕込みにする予定だったのだが、こっちに来てしまったのなら仕方がない。

 

「ちょっとちょっとぉ? なに悪魔なんかの味方なんてしちゃってんですかぁ?」

 

 白髪の男がブラブラと光でできた剣を振りながらこっちに文句をつけてきた。

 

 明らかに危ない奴だ。これが元敬虔な信者だったとか信じられない。教会の連中は何を考えてこの男を悪魔祓いとして認定したのか文句を言ってやりたいぐらいだ。

 

 それに、おそらくはこの男が。

 

 俺は、器用に人差し指を突きつけた。

 

「オイ、そこのキチガイ白髪」

 

「あーいあい悪魔に魅入られちゃったくそ人間。俺様ちゃんに何か御用で?」

 

「イッセーに手ぇだしたゴミはお前か?」

 

 あの日のはぐれ悪魔祓いか。

 

 フリードとかいった奴は、嫌な思い出を思い出すかのように眉間にしわを寄せた。

 

「そうなんですよぉ。素敵な殺意()をもって気持ちよーくなろうとしたんだけどさぁ、あのイケメン君やらちびっこが邪魔してくれちゃって―」

 

「そうか」

 

 それを聞いて安心したよ。

 

「・・・ありがとう。おかげで殺す気になれそうだ」

 

 それだけが不安だった。

 

 命がけの殺し合いに置いて、相手を殺す気があるかどうかは本気で生死を分ける。

 

 殺せるというのと殺せないというのでは、間違いなくここぞという時に差が出るからだ。

 

 生前、魔術師だった親もそこをちゃんと伝えていたから、俺はよくわかる。

 

 あいてははぐれ悪魔祓い。悪魔ではなく人間だろうと、それが悪魔と契約しているのならば惨殺する外道だ。

 

 それでも命を奪うことに抵抗はあった。

 

 が、イッセーを殺しかけた相手と言うなら話は別だ。

 

 人の親友殺そうとしやがって・・・っ!

 

「神のみもとで説教されな!!」

 

「俺っちの前でその名を出すんじゃねぇ!!」

 

 俺がクロスボウを構えるのと、奴が拳銃を向けるのはほぼ同時。

 

 引き金が、戦いのゴングとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「速度強化!」

 

 純粋な筋力ではなく、走力を強化して弾丸をかわす。

 

 反動がないなら銃口に気をつければ行ける。

 

 後ろのはぐれ悪魔祓いは無視だ。実力はフリードに大きく劣るし、何より当たらないのはわかりきっている。

 

「ほ~らほらぁ! もっと速く動かないと当たっちゃうよぉ」

 

 フリードの糞野郎もあっさり矢をかわしてくれやがった。

 

 俺はクロスボウを投げ捨てるとそのまま教会の外へ出る。

 

 ポケットに手を入れると、一生懸命作った爆弾を取り出して投げつける。

 

「着火!」

 

 もちろん、魔術で導火線に火をつけるのは忘れない。

 

「うっわ~花火大会! 面白いことになってござんすねぇ!」

 

 フリードは逃げることなく走り出すと、爆弾が爆発するより早く、導火線を剣で切り裂く。

 

 そのまま俺たちは森の中に入った。

 

 襲いかかる光の弾丸を、森の木々を盾にしながら俺は急いでかわす。

 

 何発かはかすめたりあたったりするが、こんなこともあろうかと制服は魔術で強化済みだ。

 

 複数の強化を同時進行するのは意外と難しいが、あいにく俺はこの手の作業がとても得意なのさ。

 

 二つか三つの同時強化なら対して苦労せずにできる。本気を出せば、5,6は行けるかもしれない。

 

「ほらほぉら! 逃げてばっかじゃつまんなぁいよぉッ!」

 

「じゃあ反撃行くぜ」

 

 俺は腕を突きつけると魔術を発動。

 

 すると、袖口からクロスボウの角矢がフリードに向かって放たれる。

 

「わぁお! お兄さん手品師かい! ハト出せハトをよぉ!」

 

「あいにく品切れでな、あの世で待ってろ堕落神父!」

 

 ちなみに仕組みは簡単。

 

 魔力に反応して伸縮する素材を組み込んだ筒を用意し、中にバネと角矢を用意しただけだ。

 

 後は魔力で伸縮させれば引き金代わりになって簡単に飛び道具が完成する。かなりたくさん仕込んでいるから、これで当分は持ちこたえられるはずだ。

 

 遠距離攻撃魔術がないなら、飛び道具を用意すれば良いだけのこと。

 

 魔術で発動するようにすれば、下手なアクションを入れて隙を作ることもない。不意打ちにも使えて非常に便利だ。

 

 この数年間独学で研究してきた戦法は、初の実戦にしてはいい感じだ。

 

 フリードが乱射すれば俺は速射で応戦する。

 

 接近戦の得物は用意しているが、おそらく接近戦では奴には勝てない。

 

 なんとしても長距離で戦う必要がある。

 

 が、後ろ向きで走っていたのが仇になったのか、木の根に躓いてしまった。

 

「・・・っ!」

 

「鬼ごっこも終了タイムに入りましたぁあああっと!!」

 

 これを勝機と見たフリードが、飛び上がって切りかかる。

 

「硬度強化!」

 

 とっさに棒を強化して耐えるが、光の剣は切れ味が鋭いのか棒に食い込む。

 

 コレ鉄製だぞ!?

 

「楽しい楽しい追いかけっこでしたが、さびしけど遊びはいつかは終わるものだねぇ。寂しいねぇ悲しいねぇでも楽しいねぇ。これから連続裁断記録に挑戦するんだけど、協力してちょ?」

 

「やなこった下衆神父! 筋力強化!」

 

 速度に費やしていた魔力を筋力へと流す。

 

 押し込まれていた光の剣を押し返し、俺は起き上るとゴミ野郎を睨みつける。

 

「さっきから下品なことばかり言いやがってからに。社会的にいえないこと(R18Gな展開)してやろうか汚物神父!」

 

「いや、君の口の悪さも大概ではないかと存じ上げます。人のこといえんよ少年・・・っと!」

 

 何とかフリードをはね飛ばす。

 

 力押しになったから良かったものの、技の勝負だったら危なかった。

 

「てやー」

 

 追いついてきた神父が切りかかるが、これはわかっていたので足払いで終了。

 

 やはり手ごわい。だが、勝利の言っては既に叩きこんである。

 

 それは、ちょうどよく訪れてくれた。

 

「ニヒルな俺様の断罪ターイムはもうすぐそこだよチミ。さて、その棒ももう持たな・・・い?」

 

 ガンド、という魔術がある。

 

 人差し指で指してはいけないということのモデルになった魔術で、対象の体調を崩す呪いだ。

 

 物理的攻撃力を手に入れるか、心臓を止めるレベルの症状をおこすようになるとフィンの一撃とまで言われるが、さすがにそこまではできない。

 

 だが、自慢じゃないが俺は呪いの類も得意だったりする。

 

 あまりにも暴走がひどかったイッセーを一週間不能にしたのもいい思い出だ。

 

 何の警戒もせずに喰らっていたフリードは、予想通り大きく体をふらつかせる。

 

 チャンスは一瞬。

 

「・・・・・・筋力最大強化!!」

 

 全身の魔力をこの一撃に集中させる。

 

「え? 最大のチャンスで病気で敗北って、そんなアリですか」

 

「事実は小説より奇なり!!」

 

 衝撃で棒が折れるほどの一撃を叩きこんだ。

 

 フリードの奴は思いっきり吹っ飛び、さらに地面を何回も転がり、最後には木に激突してようやく止まった。

 

「うわぁー」

 

「『もう寝てろ』」

 

 後ろから襲いかかってくる最後のはぐれ悪魔祓いは、俺の言葉に一瞬で意識を落とす。

 

 ・・・危なかった。

 

 念には念を入れて指差した時にガンドを叩きこみ、さらに締め上げたうえで暗示をかけたはぐれ悪魔祓いが『二人とも』あそこにいなければ、さすがに勝てなかったと思う。

 

 油断を誘うためにあえて攻撃させていたが、最悪フリードを攻撃させてもろともに倒すという手段も必要だったかもしれない。

 

「全く、こんな危険人物に危険なものを持たせるなよな」

 

 俺は縛り上げながらフリード達の持ちモノを見聞していく。

 

 ・・・なるほど、この剣は使わないときは柄だけになるのか。便利そうだからもらって行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて」

 

 一通り後始末を終え、俺は一息つきたかった。

 

 だが、そういうわけにもいかない。

 

 はぐれ悪魔祓いの数は、地下の方が圧倒的に多い。加えて堕天使レイナーレは確実にいるし、締め上げた時の話ではさらに何人か堕天使がいるとのことだ。

 

 助けに行った方がいいだろう。

 

 幸い爆弾はまだいくつかある。集団戦なら密集地帯に投げ込めば効果があるはずだ。

 

 とっと片付けるか。

 

 そう思って歩き出し―

 

「・・・あれ?」

 

 急に、激痛と共に足から力が抜けた。

 

 あわてて木に手をついて体を支えるが、これは何か不味い。

 

 見れば、俺の横っ腹に光でできた槍が突き刺さっていた。

 

 ・・・これは覚えがあるぞ。

 

 いや、覚えがあるどころじゃない。

 

 俺が神器を出してようやく防いだあの光の槍だ。

 

「・・・まさか、フリード達を退けるとはな」

 

 黒い羽根が舞い散り、空から黒づくめの男が降りてくる。

 

 あの時の堕天使・・・!

 

 うかつだった。

 

 教会に入るまで襲撃されなかったから、敵は全員中にいると思い込んでいた。

 

 実戦経験がないのがこんなところで仇になるとは、完全にしくじった。

 

「我らが光の槍は人間にとっても脅威だ。・・・貴様は致命傷だ。もう助からん」

 

 悔しいがあいつの言うとおりだ。

 

 人体急所の一つである肝臓をやられている。俺の治癒魔術じゃこれだけの怪我の治療はできなかった。

 

 礼装でも用意しておけばよかった。貯金がスッカラカンになるからとケチって造らなかったのがここで響くとは・・・。

 

「てめぇ・・・。天使が後ろから卑怯な真似をしてんじゃねえよ」

 

「これは失敬。フリードを倒すほどの男なら、とっくに気付いていると思ったのだがな」

 

 くくっと、男は俺を(わら)う。

 

 圧倒的勝者が浮かべるそれに、俺は歯を食いしばった。

 

「貴様も馬鹿な奴だ。あのまま生きてれば死ぬことはなかったものの、わざわざ死地に飛び込むとは」

 

 空を飛ぶ堕天使は俺を嘲笑う。

 

 だが、その表情は憎々しげだ。

 

「とはいえ、二人がやられた以上逃げた方がいいか。あの方をつれて撤退せねばな」

 

 奴は既に俺など眼中にないかのように視線を教会へと向ける。

 

 なるほどな。

 

「させるかよ」

 

 判断は一瞬。

 

 神器を実体化させ、俺は光の槍を放った。

 

「なに! ぐぉおおおおおおっ!!」

 

 光の槍は男の羽を貫き、堕天使はその名のごとく地に堕ちた。

 

「馬鹿な! その槍に貫かれて何故動ける!? 激痛が貴様の体をむしばんでいるはずだぞ!?」

 

 ああ、そういえば確かにいたいな。

 

 だが、貴様は魔術を舐めすぎだ。

 

「自分に暗示をかけて、痛覚の『実感』を麻痺させたのさ。これならダメージを把握したまま過激な行動も出来る」

 

 感覚を遮断したままだとダメージが分からなくて危険だ。かといって、痛覚をそのままにしたりすると大ダメージを受けた時に、激痛で動けなくなる。

 

 この方法ならよほどの大ダメージで一時的に麻痺らない限り、かなり早いタイミングで戦線に復帰できる。

 

 この世界に来てから研究した、戦闘用魔術の集大成だ。

 

 俺の答えがわけのわからないものだったのか、堕天使の男は明らかに狼狽している。

 

「実感だと!? なんだその発想は!? 貴様、一体何者なのだ!!」

 

 堕天使の男は両手を掲げると、光を収束し始める。

 

 ここでやられるわけにはいかない。

 

 このままだと、イッセー達に余計な負担がかかる。

 

 大口を叩いておきながら、こいつをそのままにするつもりはなかった。

 

 とっておきを見せてやる!

 

神器強化最大(ブーストアップバースト)!!」

 

 いろいろと調べている間に神器について研究した。

 

 通常の強化を調べ上げて調整した。

 

 山の中で一人こっそり練習を続けてきた。

 

 全ては、神器を使わなければ逃れられない脅威を、より確実に吹き飛ばすため!

 

 どうせ死ぬなら、ここですべてを出し切る!!

 

「何なんだ・・・何なんだ貴様はぁアアアアッ!!」

 

 堕天使が最大にまで高めた光の槍を放つ。

 

 だが足りない。全魔力を込めた俺の槍、その程度でどうにかできるか。

 

「・・・くたばれ堕天使ッ!!」

 

 俺が放った槍は難なく堕天使の槍をぶち抜き―

 

「き、貴様ァアアアアアアッ!!」

 

 そのまま堕天使を光の中に打ち消した。

 

 ははっ。まさか、跡形もなく消滅させれるとは思わなかった。

 

 イッセーには悪いが、俺にできるのはここまでだ。

 

 アルジェントをどうにかできるかについては、もうあいつらに任せよう。

 

 未成年飲酒には手を出して良かった。二度目の人生でも酒飲めないとか、ちょっといやだなぁと思ってたんだ。

 

 友人救ってくたばるとか、死に方としてはまあマシか。

 

「・・・ははっ。ざまあ・・・ねえ・・・な」

 

 そして、俺の意識も真っ暗に―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーおー。ようやく起きたか?」

 

「こ、ここは!? 私は・・・」

 

「俺がいて良かったな。あいつらもお前が消滅したと思ってるはずだぜ?」

 

「あなたは・・・っ!? それじゃあ、ここは?」

 

「あの街からだいたい10キロは離れてる。さすがにここまで来りはしねぇよ」

 

「ア、アハハハハハ!! 助かった、ざまあみなさい!? これで今度こそ至高の堕天使に・・・っ!?」

 

「ん? どうかした?」

 

「せ、神器がない!? 聖母の微笑は!? あれはどこに行ったのよ!?」

 

「おいおい、俺のアレがどういうもんかは知ってんだろ?」

 

「そんな!? せっかくアザゼル様にとりたててもらえると・・・」

 

「どっちにしても無理に決まってんだろ? 上に黙ってこそこそ活動する奴なんぞ、危なっかしいから逆に始末されるって」

 

「嘘でしょ? それじゃあ、あなたまさか・・・」

 

「ん? ああ安心しろ。これは俺の独断だよ」

 

「な、なんで助けたの? アザゼル様の命じゃないなら、どうして私を―」

 

「ああ、それなんだがな・・・」

 

 

 

「・・・俺と一緒に行かねえか?」

 




ここで敵陣営にもオリジナル要素を入れてみました。

本格的に指導するのは原作四巻文ぐらいになると思いますが、それまで続けてみたいと思います。


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悪魔、始めちゃいました!

ついに一巻ラスト


 

 目が覚めた俺は、だいたいどういうことかを理解した。

 

 とりあえず起き上ってみる。

 

 周りを確認すれば、再びの駒王学園旧校舎だ。

 

 そういえば家の場所を伝えるのを忘れてたな。

 

 とりあえず、携帯を開いて日時の確認。・・・よし、まだ一日も立ってないな。

 

 傷がないのは全身からの感覚ですぐにわかる。

 

 致命傷からの瞬時の回復。

 

 この時点で、俺になにが起こったのかは確定的だ。

 

解析(ブーストアップ)

 

 全身の魔力の流れを解析する。

 

 ・・・思えば、イッセーの体を解析すれば話がややこしくなることもなかったのかもしれない。あの時は本当にうっかりしていたとしか言いようがない。

 

 明らかに、今までとは違う体に作り替わっていた。

 

 朝日も無駄にきついし、とりあえず話を聞くとしよう。

 

 そして、だいたいの状況を理解した俺は立ちあがり―

 

「まさか悪魔になるなんてな」

 

 ―悪魔の翼を広げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます『部長』」

 

「あら、もう事情は分かっているようね。兵夜と呼ぶわよ」

 

 あえて部長と呼んだことで、グレモリー先輩こと部長もだいたい状況を把握したようだ。

 

 早朝の部室は朝日が差し込んでいつもと違う雰囲気だった。

 

 そして、そこには俺以外のオカルト研究部員が勢ぞろいしていた。

 

「宮白!!」

 

 イッセーが半泣きで俺に掴みかかった。

 

「この野郎! 本気で心配したんだからな!!」

 

「悪い悪い。まさかあそこで堕天使まで来るとは思わなくて」

 

「そこについてはごめんなさい。一人取り逃がしたのはこちらの責任だわ」

 

 部長が謝ってくる。

 

 なんでも、堕天使の行動があやしいと判断した部長は、レイナーレ以外の堕天使達をおびき寄せたのだ。

 

 結果、今回の行動は上層部に黙って堕天使が勝手に起こした行動だということが判明した。

 

 そこで部長はその場の堕天使を全滅させ、戦闘中の木場達と合流したらしい。

 

「部長はその消滅の魔力から、『紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』と呼ばれてるんだ」

 

 木場が怖いことを教えてくれた。

 

 なに、その物騒なあだ名は。この人どこまで実戦経験豊富なわけ?

 

 ヤバい、ちょっとなめた口きいてたかも。

 

「・・・ビビらなくても大丈夫です」

 

 小猫ちゃん、きみ俺の心でも読めるの?

 

「あらあら、意外と可愛いところもあるのですね」

 

 朱乃さん。恥ずかしいんでやめてください。

 

 いかん! 話を変えないとダメージがひどくなる!

 

「と、とりあえずありがとうございます部長」

 

「構わないわ。私も貴重な神器を手に入れたし」

 

 そう言うと、部長は俺の右手に手を伸ばす。

 

「天使に匹敵する光の力を放つ神器『天使の鎧(エンジェル・アームズ)』転生悪魔が持っているなんて前代未聞だけど、これが兵士一つで手に入るだなんてもはや奇跡よ」

 

 兵士一つ?

 

 どういう意味かと思ったが、部長が続けて説明してくれる。

 

「悪魔の駒は現実のチェスと同じく駒に価値があるの。女王が兵士9、戦車が5、騎士と僧侶が3って言ったぐらいにね」

 

 なるほど。戦車と僧侶って移動パターンが似てる気がするけど、戦車の方が価値が高いのか。

 

「ちなみに、駒の数も現実と同じで、女王が一つで兵士が8つ、残りが2つずつですわ」

 

 朱乃さんが追加で説明してくれる。

 

 なるほど、適当に名を借りたというわけではなく、本格的に参考にしているのか。

 

「本来ならイッセーは兵士8の価値を持っていたけど、何かあったのかいざ駒を使う時に七つで済んだの。残った一つの兵士が、あなたを転生させるときに使われたのよ」

 

 以外に低いな俺の価値。

 

「アーシアの聖母の微笑やあなたの天使の鎧、さらにはイッセーの赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)。ふふ、ここまで素晴らしい神器がそろうだなんて私はついてるわ」

 

 赤龍帝の籠手?

 

 見れば、イッセーが無駄に偉そうな表情で得意げになっていた。

 

「ふっふっふ。俺の神器はなんと! 10秒ごとに自分の力を倍にし続けるという素敵な力を持っているのだ!!」

 

 そりゃすごい。

 

 それってつまり、一分もたてば64倍だろ?

 

 圧倒的に強くなれるじゃないか!

 

 そりゃ7つ分の価値があるわけだ。なぜ最初は8になってたのか気になるが、おかげで助かったんだ、文句は言わない。

 

「マジかよ! そんなのを弱い神器と勘違いしてたのかあの堕天使! 見る目ないわぁ」

 

「そうだろそうだろ! ・・・あれ? なんでお前がそこまで知ってんの?」

 

 おっと口が滑った。

 

 ばれないうちに盗聴器を回収しておかないとな。

 

 ってちょっと待て?

 

 アーシア? 確かアルジェントの名前の方だと思うが、彼女悪魔になっちゃったのか!?

 

 よくよく周りを見渡せば、そこにはとてもかわいい金髪美少女の姿が。しかも狗王学園の制服を身にまとっている。

 

「は、はじめまして。部長さんの僧侶のアーシア・アルジェントと言います」

 

「あ、これはご丁寧に。兵士になった宮白兵夜だ。日本語上手だな」

 

 やけに日本語が上手な女の子だな。いまどきの外国人ってこんななのか?

 

「あ、悪魔になると言語が自分の知っている言葉に自動的に翻訳されるんだよ」

 

 ・・・木場、そういうことは早く言ってくれ。

 

 むっちゃ恥ずかしい!

 

「・・・あらあら。イッセーくんに続いて可愛い弟ができたみたいですわ」

 

 本当に恥ずかしい!

 

 もうちょっと、この人ドSか何か!? きっついタイミングでそんなこと言わないで。

 

「・・・ターゲットにされた宮白先輩」

 

 ・・・なんかマジでドS!?

 

「その辺にしておきなさい。今日は兵夜とアーシアの歓迎会よ。・・・朝食もまだでしょう? いっぱい食べなさい」

 

 部長がそう言うと、いきなりテーブルの上においしそうなケーキが現れた。魔力か何かか!?

 

 これは美味そう!

 

 しかも高そうだ! こんなケーキそうそう食べれないぞ!

 

「た、たまには皆でこうやって食べるのもいいでしょ? あ、新しい部員も出来たことだし、ケーキを作ってきたから皆で食べましょう」

 

 しかも手作り!? 前世でもそんな経験ないぞ!?

 

「手作り・・・部長の手作り・・・っ」

 

「・・・頂きます」

 

 イッセー泣くな!

 

 あと小猫ちゃん? 目がマジだよ? 怖いよ!?

 

 くそ! これは俺も全力で食べないと取り分がなくなる!?

 

 ただでさえ朝飯食ってないんだ! 俺の分はだれにも渡さん!!

 

 その後、俺達オカルト研究部はみんなで仲良く新入部員歓迎会をした。

 

 イッセーがドラゴン波をかましたのも、面白くいていい思い出だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・それでも、それでも俺は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Sideイッセー

 

 昼休み、俺は宮白に呼び出されて屋上まで来た。

 

「悪いなイッセー」

 

 自棄に深刻な顔だな? どうしたんだ?

 

 あ、やっぱ悪魔になったこと後悔してるのか?

 

「・・・覚えてるか? 俺が魔術の話をしたときのこと」

 

 ああ、今でも覚えてる。

 

 まさか小学生で前世なんて考え方を知るなんて思わなかったが、今ではいい思い出だ。

 

 アレがあるから、俺は宮白と本当の意味で友達になれたんだ。

 

 それに、部長と知り合って悪魔になったのはこいつにとってもいいことのはずだ。

 

 さすがに前世のことまで離すことはできないけど、部長なら魔術についても知ってるはず。

 

 こいつもだいぶ気が楽になると思うんだけど・・・。

 

「最初、悪魔と聞いた時に違和感を覚えたんだ」

 

 宮白は空を見上げながら、絞り出すようにそう言った。

 

「前世の親父から、悪魔とは、人間にとりついたうえで無理やりその体を自分と同じように変化させ、人体を破壊すると聞いた」

 

 ・・・へ?

 

 前世の記憶ってことは魔術関連の記憶だよな?

 

 少なくても、こいつの知識は本物のはずだ。

 

 だけど部長はあくまで、翼を持っている以外は人間と全然変わらない姿をしているし、堕天使だってそうだった。

 

 でも宮白の魔術は本物で、それは間違いないから魔術も間違いなくあるはずだ。

 

 だけど、宮白のとんでもない言葉はさらに続く。

 

「それだけじゃない。魔術にとって治癒とは化け物だろうがなんだろうが治癒できるもので、神の祝福とかは関係ないはずだ。それどころか、治癒の力だろと魔術である以上、教会では本来敵視される」

 

 な、なんだって!?

 

 どういうことなんだよそれ!

 

 現実に使ってる以上、魔術が宮白の妄想なわけがない。

 

 だけど部長の言ってることも今のところ間違ったところはないし、それならどうして―

 

「話は変わるが、イッセーは並行世界って知ってるか?」

 

「並行世界?」

 

 宮白は少し考えた後、顔の向きを俺に戻す。

 

「具体的に言うと、何日か前に覗きに行く時、松田と元浜だけが見れただろ? 逆にイッセーだけが見れた世界も同時に存在するということだ」

 

 スケベな俺にわかりやすい説明!

 

 でもなんでそのチョイスなんだよ。俺はスケベなたとえじゃないと何も分からないバカってわけじゃないぞ。

 

 だが、宮白はどこまでも真剣なんだ。

 

「その概念を突き詰めれば、部長がイッセーに一目ぼれした世界や、アーシアが堕天使ではなく悪魔の側に身を寄せていた世界もあるし、何より―」

 

 その言葉は、やけにはっきりと聞こえたのを覚えている。

 

「・・・異世界じみた、『魔術』が存在せず『悪魔と天使の戦い』が存在した世界も、存在しうる」

 

 ・・・えーっと。

 

 それってつまり・・・

 

「宮白の前世って、異世界?」

 

「たぶんな」

 

 その顔はひどく疲れている風に見えた。

 

 当然だろう。

 

 もし俺が宮白の立場だったら、もっと取り乱してる自身がある。

 

 っていうかなんだよそれ! 珍しいってもんじゃないだろ!?

 

 神様何考えてんだよ! もうちょっと宮白に優しくしてあげよう! あ、俺達悪魔だから神様敵か、無慈悲だ。

 

「イッセー。このことは、まだ部長達には言わないでくれないか?」

 

「え? なんでだよ」

 

「魔術師の概念で言うなら、俺は生きたままホルマリン漬けにされてもおかしくない存在だ。部長がそう言う外道だとは思いたくないが、さすがに、そこまで安心できない」

 

 ・・・宮白。

 

 そういえば前に言ってた。

 

 宮白の世界じゃ、超すごい魔術の使い手とかは、生きたまま封印されたり実験材料にされることがよくあるって。

 

 俺は、部長はそう言ったことを考える人じゃないと思う。

 

 アーシアがすごい神器を持っていたからって、わざわざ堕天使と殺し合うのは危険だからな。

 

 それでも助けようとしてくれたのは、きっと俺のことを考えてくれたからだ。

 

 そんな部長が、珍しいからって宮白を実験材料にするだなんてあり得ない。

 

 あり得ないけど・・・

 

「わかったよ。皆には当分黙っとく。それでいいだろ?」

 

「サンキュー。助かるわ」

 

 ・・・宮白の不安もわかるんだ。

 

 生きた人間を実験材料にする世界なんかに生まれてたら、きっと人を信用するのも大変だろう。

 

 宮白だって、部長のことを信じたいと思ってるはずだ。

 

 それでも信じきれなくて、だからそんなことを言ってきた。

 

 だったら、俺からはなにも言えねぇよ。

 

「俺が言いたかったのはそれだけさ。時間とって悪かったな」

 

 そう言うと、宮白は俺の方を叩いて階段の方に向かう。

 

 ・・・さびしそうな背中だ。

 

 俺は、その背中に大声で呼びかけた。

 

「宮白! 俺以外にも、お前のことわかって一緒にいてくれる奴はきっといるって! 元気出せよな!!」

 

 宮白は手を振ってこたえてくれた。

 

 宮白兵夜。

 

 ガキの頃からの俺の親友で、なんだかんだで面倒見が良くて、本当はけっこうさびしがりやな、リアス部長の兵士。

 

 きっと、本当の意味で部長の兵士になるって、俺は信じてる。

 

 だって、あいつは俺の親友なんだからさ。




ついに一巻分までは終わりました。

これからもケイオススクールD×Dをよろしくお願いいたします。


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キャラコメ、第一弾!

少しスランプ気味なところがあるうちに、一つ番外編的なものを作っていました!


 

兵夜「なんかすいません。作者が微妙にスランプ入ったので、ちょっとした箸休め的にキャラコメ風の作品を書いてお茶を濁すことになりました。・・・あのバカこういうの一度書きたかったそうだよあのバカ」

 

イッセー「宮白ぶっちゃけすぎだって! あ、でもこの作品も長くなったし、一回まとめとかした方がいいかもな」

 

リアス「確かにそのとおりね。こういうのも面白そうでいいじゃない」

 

兵夜「つーわけで、ケイオスワールドキャラクターコメンタリー始まります。旧校舎のディアボロス編です!」

 

 

 

 

 

リアス「イッセー達の覗きを兵夜が密告してるけど、これだけ見てると兵夜にとってのイッセーの重要さがよくわからないわね」

 

イッセー「言ってくれないかなリアス。お前は俺のことが大好きじゃねえのかよって思うんだけど」

 

兵夜「やかましい。確かに俺も恐喝行為などは頻繁に行っているし悪事の証拠を入手するために不法侵入なども行って、警察と極道の癒着にもしっかり絡んでいる。・・・がそれはあくまで外道を叩き潰してお前を筆頭とする大事な者達の生活を守る為の必要悪だ。喜んで全肯定するものでもないが、仕方なく容認されるものではある」

 

イッセー「いやいやいやいや、平和に生きようよお前も、ここ日本だぜ?」

 

兵夜「あいにく裏側からの強襲を知ったんでな。自分でいうのもなんだが心配性かつ臆病な所為で対策を用意しないと生きてけないんだ。・・・話を戻すが覗きはまた別の話だろ」

 

リアス「あら、年頃の男の子らしくて可愛いじゃない?」

 

兵夜「部長・・・改め姫様は一般常識を理解してください。退学処分になってない駒王学園がおおらかすぎるんです。しかもこいつは俺がエロいお姉さんの十人や二十人用意できるからいくらでも乱〇できるのにそれをせずに迷惑をかける行為ばっかり」

 

イッセー「だって、だって愛がないじゃないか! どうせなら愛が欲しいんだよ!」

 

兵夜「覗きに愛があるか!」

 

リアス「それよりも私がいるのにそんなことをさせようだなんてふざけてるの!?」

 

兵夜「いや、この段階であんた関わってすらいないからね!?」

 

リアス「ぐ・・・。そ、それはそれとしてイギリスと魔術師(メイガス)って何の関わりがあるの?」

 

兵夜「ああ、魔術師は秘匿の為の相互監視を最大の目的として魔術協会という組織を作ってるんですが、その代表格である時計塔という組織はイギリスにあるんですよ。俺の場合時計塔に所属するのが筋だし、他二つは秘匿が激しすぎて接触は不可能なんです」

 

イッセー「でもよく海外旅行なんて三回もできたよな? お前この時親父さんの協力もらわなかったんだろ?」

 

兵夜「それはそれ。魔術を駆使して探偵の真似事をしたり極道のサポートをしたり舎弟共を動かしてそこそこの大きさの事業をしたりと金稼いでだな」

 

リアス「この子、私の下僕にならなくても大成功してたんじゃないの?」

 

兵夜「そうでもないですよ。だってそうならあんなことにはならなかったというか、部長の眷属になることもなかったていうか」

 

イッセー「嫌な事思い出した・・・」

 

リアス「それについては凄く気になることがあるんだけど・・・。あなたなんでこの時点でレイナーレと殺し合いになってなかったの?」

 

兵夜「あんた俺を何だと思ってるんですか? サイコパス気味なのは自覚してますけどこの時点で本格的な殺し合いなんてしてませんよ?」

 

リアス「何言ってるのよ? イッセーに告白してきた女の子なんて、知った時点で住所氏名電話番号三親等までの親戚関係から友人達の親の職業まで一日で網羅できるじゃない。使い捨てのカバーストーリーにそこまで作るほど堕天使は暇じゃないわよ」

 

兵夜「あんた俺を何だと思ってるんですか!?」

 

イッセー「あ、それ同感。いくらなんでも戸籍ぐらいはすぐ調べられるだろお前なら」

 

兵夜「うるせえ! お前に彼女ができるなんて前代未聞の天変地異に即応できるほど俺だって完成してたわけじゃなかったんだよ!」

 

イッセー「お前こそ俺のことなんだと思ってるんだよ!」

 

兵夜「基本女の敵」

 

リアス「意外と手厳しいわね・・・」

 

兵夜「客観的に見て女に嫌われる典型例でしょうが。悪魔の常識で語らないでください。・・・あ、因みにレイナーレの記憶消去に対応できたのは魔術師ゆえにその辺の対策はしっかりしてたからだ」

 

イッセー「才能ないわりに万全の対策じゃねえの?」

 

兵夜「才能ないから油断できないんだよ。実際俺には「うっかり」があるからなおさらな」

 

リアス「この辺りで明かされるけど前世からの呪いって凄いわね。そんなに酷いの?」

 

兵夜「そりゃFateシリーズの本家を見ればわかりきってますよ。むしろ毎回ある程度挽回できるだけ俺なんかマシな方です」

 

リアス「そんなあなたでも手詰まりな辺り、レイナーレもこの時点でやればできるのねぇ」

 

兵夜「そりゃ俺だってノウハウゼロじゃあできませんよ。この時点で致命的な勘違いだってしてたんですから」

 

イッセー「にしてもさあ、俺やリアスも巡り合いうんぬんいわれてるけど、宮白も大概じゃね? なんでこのタイミングで追われてる俺を見つけるんだよ」

 

兵夜「トラブルに引き寄せられる天命としか思えんから嬉しくない。ぶっちゃけ平穏な人生約束されてるなら最高なんだが。・・・そんな安心できないからとにかく色々対策たてないと不安で夜も眠れない」

 

リアス「実際この時点で下級堕天使に歯が立ってなかったものねぇ」

 

兵夜「その気になればダイナマイトぐらいは調達できるから事前準備アリならやりようはあるんですがね。流石に対人戦前提の装備じゃ無理がありました。実際中級堕天使なんて装甲車や攻撃ヘリぐらいなら楽に落とせるでしょうし」

 

イッセー「にしたってあれだろ? いくらなんでも主人公の強さじゃねえだろ」

 

兵夜「そりゃこの作品のコンセプトがそうだからな「実際に異世界転生するにしたって、そいつが才能豊かなチートだなんて偶然そうはない」だぜ? その筆頭格がチートだったらダメだろ? ・・・のちに隠し玉が炸裂したが」

 

リアス「どっちにしたって大概チートじゃない。魔術の応用で神器を意図的に覚醒させるとか尋常じゃないわよ?」

 

兵夜「そこにあることが分かってたら解析魔術である程度はできますよ。これも異世界の特性ゆえの特殊性ってやつですね」

 

イッセー「そして! 俺はハーレム王の道をひた走る!」

 

兵夜「いきなり躓いてるがな」

 

イッセー「酷い!」

 

兵夜「いや特殊すぎだろお前の契約相手。人がいいのは良いところだけど癖が強すぎる」

 

リアス「私もこれは驚いたわ。契約そのものは失敗なのに印象は凄い良いんだもの」

 

イッセー「それはそれとしてお前はなんで匙と契約してんだよ」

 

兵夜「そりゃ同じ範囲内に二つも集団がいたらミスることもあるだろ。俺だってそんなチートもらったら使いこなしたくなるわ」

 

リアス「まあ匙くんで良かったんじゃないかしら。この段階じゃあイッセーを引き当てても役に立たなかったでしょうし」

 

兵夜「とりあえず仕事の傾向とその為に必要な技能を設定してから家業始めさせた方がいいんじゃないですか? いきなりやらされても上手くいかないでしょう」

 

リアス「言われてみればそうかもしれなかったわね」

 

イッセー「で、時間は飛んで俺がフリードに襲われてるちょっと前だけど、ここで宮白が妙なところで関わってるんだよな」

 

リアス「舎弟の範囲が広いわね。あなたどこまで手を広げてるのよ」

 

兵夜「できれば駒王町はカバーする気です。まあ上手く話を広げられなかったのが作者としては思うところがあるようですが」

 

リアス「それはそれとしてこの段階だとあまり兵夜が活躍できてないのよね」

 

イッセー「確かに、怪しまれるってのもあるけど完全回復もできなかったし」

 

兵夜「んなこと言われてもこの段階で俺のスペックは限りなく低いからなぁ。全転生者で比較しても最低ランクといっていい・・・っていうか、確定」

 

リアス「正しい意味で最弱主人公ね。ここから巻き返すのが恐ろしいけど」

 

兵夜「俺はともかく俺を改造したやつをなめるなよ! ・・・っていう決め台詞を使用する予定だったそうですがいつの間にやら上手くいかなかったようで」

 

イッセー「カッコ悪!?」

 

リアス「だけどその日のうちに殆ど調べ上げるとか、やっぱりレイナーレの部分に関してはどう考えても兵夜の怠慢ね」

 

兵夜「だから無茶言わないでください。俺だって想定外のことには隙も見せます」

 

イッセー「ほんと酷いなお前!!」

 

リアス「っていうかこの間に破壊工作の為の下準備を終わらせているとか」

 

兵夜「こういうのは得意なんです。魔術師ですから」

 

リアス「そして、兵夜とイッセーの出会いが語られるわけね。やるじゃない、イッセー」

 

イッセー「いや、俺としては特に大したことしてないつもりないんだけど」

 

リアス「何の異能も知らない人間が簡単にできることじゃないわ。やっぱりあなたは大した人よ」

 

兵夜「そこに関しては心底誇れ。お前は自分が思ってるほどくだらない奴じゃない」

 

イッセー「ん、んなこと言ってる宮白だって大暴れじゃねえか。原作じゃ俺達三人がかりでもてこずったフリードを一人で倒してんだぞ!?」

 

兵夜「つっても結局逃げられたし、下級堕天使如きに致命傷負わされてるしなぁ」

 

リアス「そんなこと言って、しっかり道連れにしてるじゃない」

 

イッセー「うんうん。転んでもただでは起きないよなお前」

 

兵夜「そりゃ取り逃がしたらイッセーに被害が出るからな。俺にも意地の一つぐらいはある」

 

リアス「そしてそんな兵夜も私の眷属になるわけね。ええ、いい拾い物をしたと本気で思うわ」

 

兵夜「そりゃどうも。その分ボーナスください姫様」

 

イッセー「で、ここで宮白が大体の事情を把握・・・と」

 

兵夜「その辺は第二魔法様様だな、概念的に理解がたやすいから証拠さえあればすぐわかった」

 

リアス「でも、これが結構長くまで気にさせてしまうわけね。もっと早く言ってもいいと思わせられなかった私の失態だわ」

 

兵夜「俺が臆病なだけですよ。姫様は十分良い人なんだから変に気をやまないでくださいな」

 

イッセー「そうそう。言わなかった俺にも責任あるし、ほんと気にしないでいいって」

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そういうわけで、スランプ脱出の為に始めましたキャラクターコメンタリー第一章。大体どんな感じだったか感想くれると嬉しいな」

 

イッセー「振り返りもかねて何章かやってみるから、待っててくれよみんな!」

 

リアス「まあたまにはこういうのも面白いんじゃないかしら? できればたくさん見てくれると作者も喜ぶわよ」

 

三人「それでは次回もよろしくお願いします!」

 




一度やってみたかった・・・。


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戦闘校舎のフェニックス
悪魔のお仕事、始めました


第二巻に突入しました。

宮白兵夜の悪魔生活、一体どんなものになるのやら・・・


 

 

 深夜、俺は自転車に乗って町中を駆け巡っていた。

 

 悪魔の仕事の最初級、チラシを配っているのだ。

 

 手元には悪魔特性の機械がある。

 

 タッチペン付きのタッチパネル。無駄にハイテクな機械だ。

 

 これによって、悪魔を呼び出すほど欲望のある人間の場所が一目でわかるのだ。

 

 割と本気で便利な能力だな。

 

 悪魔社会もデジタル化が進行しているようでなによりだ。

 

 目的の場所には赤い光点が点滅してるので、一目でわかるから簡単。しかもたくさん出ているので、相手を選ばず配ることができる。

 

 人間って言うのは本当に欲深いな。これでよく悪魔が社会に認知されてないもんだ。

 

 毎日これをするのは面倒だが、仕方ないので手足に重りをつけてトレーニングを兼用することにした。

 

「あー、時間がつぶれるぜー」

 

 しっかし、悪魔家業も忙しいな。

 

 これまでのように、放課後に探偵のまねごとをして金を稼ぐのも一苦労だ。

 

 当分は、悪魔家業を続けていかねばならない。

 

 いまごろアルジェントことアーシアちゃんも、イッセーに連れられてチラシ配りの真っ最中だろう。自転車に乗れないのは驚いたが、それでイッセーがついて行っているというのは、彼女にとって万歳だろう。

 

 アーシアちゃんがイッセーに惚れているのは、もう誰が見ても確実だ。

 

 肝心のイッセーだけが妹みたいな感じで可愛がっている。

 

 ・・・馬鹿な奴だ。ついにハーレムの一歩を踏み出したって言うのにあの男は。

 

 まあ、シスターが相手じゃハーレムは逆に難しいだろうし、一進一退と言ったところか。

 

 ア―シア学園では大人気。俺たちと同じクラスに転入したが、これは部長の差し金だろう。

 

 あのイッセーと仲がいいということで、男女問わずいろいろと騒ぎがあったそうだがそれは余談だ。

 

 イッセーが行けるならと告白した男子が多数いるが、全員見事に撃沈したのも余談。

 

 残念だがお前ら、イッセー『でも』いけるんじゃなくて、イッセー『だから』いけるんだよ。

 

 ま、俺としては彼女みたいないい子がイッセーとくっつくのは万々歳だ。

 

 松田と元浜には泣いてもらおう。

 

 などと考えながら仕事をしていたら、とりあえず今日のノルマは終了した。

 

 意外とチラシって早く配り終えれるもんだ。

 

 ま、そんなわけでありまして、

 

 宮白兵夜、悪魔やっております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな悪魔家業を続けて数日後。ついに、その機会はやってきた。

 

「初依頼!? 俺が?」

 

 なんと、部長自ら俺に依頼をこなして来いと言ってきたのだ。

 

「ええ。祐斗あての予約依頼が重なってしまったから、あなたに行ってもらおうと思って」

 

 部長が俺に魔法陣を描きながら説明してくれる。

 

 ついに初めての悪魔稼業か。

 

 うう、なんか緊張して来たぞ。

 

 あの何でもできそうなイケメンの依頼だなんて、俺にこなせるのかよ。

 

 最初の依頼に失敗して、初っ端からケチがつくとかは勘弁だ。

 

 ガンバレ俺!!

 

「イッセーくんのことがあったから調べてみましたが、兵夜くんは大丈夫ですわ。問題なく魔法陣で転移できます」

 

 俺の体を調べていた朱乃さんが太鼓判を押してくれる。

 

 そういえば、イッセーは転移できなかったんだな

 

「くそっ! 宮白はやっぱ大丈夫か!?」

 

 ・・・イッセー、お前何考えてた?

 

「大丈夫。あの人は今までも無難なお願い事しかしてこなかったからね」

 

「・・・初心者向けです」

 

「み、宮白さんも頑張ってください。私も頑張って契約が取れるようになって見せます」

 

 木場や小猫ちゃん、アーシアちゃんが俺を応援してくれる。

 

 な、なんか恥ずかしいな。

 

 と、とりあえず気を取り直して・・・。

 

「じゃ、宮白兵夜、行ってきます!!」

 

 俺は召喚の光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガッデム! 木場きゅんじゃないなんてなんてついてないの!?」

 

 召喚された俺を待っていたのは、そんないわれのない罵倒だった。

 

 いや、指定して呼び出したのに別人だったら、そりゃあ文句を言いたい気持ちもわかるんですがね。

 

 依頼者はできるお姉さん風なOLだった。

 

 だが、この反応と動きはとても残念そうだ。

 

「残念なことをしてしまい申し訳ありません。ですが、できうる限り尽力させてもらいますので、依頼の内容を聞かせて頂けないでしょうか?」

 

 俺は極めて丁寧に依頼者にそう言う。

 

 どんな事情とはいえ仕事は仕事だ。

 

「うう・・・木場きゅんに女装してもらおうと思ったのに、彼じゃサイズが違うから似合わない・・・」

 

 木場、逃げろ!!

 

 この人危険だ!! 危険な趣味だ!!

 

 今まで無難なお願いしかしてなかったのって、もしかして女装させるための布石!? どんだけ狡猾なやり方で悪魔と契約しているのこのお姉さん!

 

「何度も何度も契約して、これぐらいやっても文句を言われないぐらいの仲になったと思ったのに! 私の3年はなんだったの!?」

 

 そ、それだけのために3年もの歳月をかけたというのか!?

 

 木場、本当に逃げろ!

 

 いや、こんな女と契約をしたらヤバくないか?

 

 しかしイッセーですら契約はできなくても結果として好評なんだ。

 

 ここで逃げれば男がすたる。

 

「よ、よし! 誰にも言わないのなら俺が着ます」

 

「・・・・・・・・・無理」

 

 別に着たくないけど、なんか傷つく!

 

「仕方がないわ。木場きゅん程の実力はないでしょうけど、とりあえず倉庫の片付けを手伝ってくれないかしら」

 

 しかも憐れまれて仕事用意してもらった! 泣きたい!!

 

「わ、わかりました」

 

 俺は何とか動揺を抑えながら、気を落としていることを気づかれないように立ちあがった。

 

 やれやれ。俺はこの調子で大丈夫なのだろうか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 疲れた。

 

 倉庫の片づけは意外と大変だった。

 

 一応報酬をもらえるほどの仕事はしたし、部長も評価してくれたが、何かがおかしい気がする。

 

 もっとこう、誰かを呪うとかそういうダークな物を想像していたのだが、それでいいのか悪魔社会?

 

 冷蔵庫からジュースを取り出して一口飲む。

 

「・・・はあ。疲れた」

 

 つい声が出てしまった。

 

 想像を絶するほどに、この世界の裏は意外と明るのだろうか?

 

 などとのんきなことを考えるが、同時に思い出すのは堕天使のことだ。

 

 あの堕天使は、イッセーの神器が危険だということで、何も知らないというのに殺して放置した。

 

 極めて面倒な性質だ。なにも知らないなら自分の陣営に引き込むぐらいすればいいだろうに、そういう手間を嫌って止めを刺した。

 

 フリードのようなはぐれ悪魔祓いは、悪魔と契約しているという理由で人間をむごたらしい方法で殺したという。

 

 その一方で、部長達悪魔はこんな日常の片手間的なことで契約をとり、なんか世のため人のためになるようなことをしている。

 

 なにが正しくて、何が間違っているのだろうか?

 

 そんな深いことを考えてしまう。

 

 真面目な話、どうやら部長達はいい人だということだけはわかる。

 

 朱乃さんはドSだということは判明しているが、味方相手に発揮することはあまりないそうだ。

 

 小猫ちゃんや木場も、イッセーを助けに行動したところから見て、悪人ではないことが分かる。

 

 アーシアちゃんにいたっては極めて良好。教会から追放されたにも関わらず、信仰を捨てていないできた女の子だ。天使が俺の同僚と成っている。いや、悪魔だけどね。

 

 それでもやっぱり、抵抗があるのは俺の問題か。

 

 我ながら、自分の臆病さにはあきれるほかない。こればっかりは努力でどうにかできる内容ではないとわかっているんだが、自分でも頭が痛くなる。

 

 いかんいかん! こういうときは思考を変えないと。

 

 と、そんなことを考えたら、携帯電話が鳴り響いた。

 

 イッセーからだ。こんな時間に何の用だ?

 

「イッセー? いったい何があった?」

 

『ぶ、ぶ、部長が!? 部長がメイドでキスが抱いてと!?』

 

 ・・・うん、さっぱりわからん。



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焼き鳥、やってきました

 

 昨日聞いたイッセーの話によると、部長がイッセーに逆夜這いをしかけたらしい。

 

 そしてメイドが現れて妨害され、部長はイッセーの頬にキスをしてから帰ったそうな。

 

 ・・・うん、さっぱりわからん。

 

 イッセーにしたのは成功率を考えてなのだろうが、なんでそんなことをしたのかが分からない。

 

「部長のお悩みか。たぶん、グレモリー家に関係することじゃないかな?」

 

 イッセーに質問された木場もわからないようだ。

 

 とはいえ、部長はたしか72柱しかいない上級貴族の悪魔の末裔だという。

 

 しかも跡取り。後継者問題とか他の悪魔との兼ね合いやら、いろいろと面倒なしがらみは多いのだろう。

 

「まあ、由緒正しい貴族さまらしいし、いろいろと面倒な制約とかあるんじゃないか?」

 

 などと、わかった風に言ってみる。

 

 それ相応に優雅な暮らしはできるだろうが、同時にいらんものも付いてくるということか。

 

 魔術師も、素質が高いとよけいな面倒がついてくるからそこはよくわかる。

 

「ん~。朱乃さんだったら何か知ってるかな?」

 

「朱乃さんは部長の懐刀だからね。何か知っているなら彼女ぐらいかな」

 

 イッセーの問いに木場が答える。

 

 なるほど、さすがは女王と言うことか。

 

 戦闘でも日常でも王を補佐する。女王と言うのはだてじゃないってわけね。

 

 そんなことを話しながら部室の前に来る。

 

 すると、木場が一瞬動きを止めた。

 

 なんだ?

 

「ここまで来てようやく僕が気づくなんてね」

 

 なんか緊張している。

 

 察するに、部屋の中に誰か違う人がいるのか?

 

 イッセーは特に気にせず部室への扉を開く。

 

 中には残りのオカ研メンバーのほかに見慣れない姿が一人。

 

 銀色の眩しいメイドさんだ。なんかすごい美人なんですけど。

 

 アレが、部長の坂夜這いを妨害したとかいうメイドさんか? 部長にしろ朱乃さんにしろ小猫ちゃんにしろ、悪魔の女は全員美人でなければならないという決まりでもあるのか?

 

 部長の様子は明らかに不機嫌だ。朱乃さんはいつも通りのニコニコ顔に見えるが、今までの経験が、機嫌が悪いということを告げている。

 

 小猫ちゃんもそれを察しているのか、部屋の隅で静かに座っていた。

 

 隣ではアーシアが不安げな表情を浮かべて、イッセーの袖をつかんでいる。イッセーはそんなアーシアをあやすように頭をなでていた。

 

「木場、あの人は誰?」

 

「彼女はグレモリー家に使えるグレイフィアさん。部長のお兄様の女王でもあるんだ」

 

 何それ!? 色んな意味で超すごいじゃん!

 

「はじめまして。ご紹介に預かりましたグレイフィアと申します。あなたが兵夜さまですね?」

 

「あ、どうも。新参者ですが以後よろしくお願いします」

 

 メイドなだけあって丁寧な方だった。

 

 が、この空気の原因の可能性もあるので油断はできない。

 

「全員そろったところで、今日は部活の前にすこし話があるわ」

 

「お嬢様、私がお話しましょうか?」

 

 部長がそれをせいして、口を開こうとした瞬間だった。

 

 部室の床に描かれていた、転移用の魔法陣が突然光りだした。

 

 オカルト研究部は全員集合している。と、なると誰か別の悪魔がやってくるということか?

 

 とはいえ、仮にも部長は上級悪魔だ。そんな勝手に現れてくる奴だなんて、よほどの無法者か同格以上じゃないと。

 

 俺の予想は当たっていた。

 

 光り輝く魔法陣の模様が、グレモリー家の物から全く違う別の模様へと変わっていく。

 

「オイオイオイオイ! まさか敵襲とかじゃないよな!?」

 

「いや、これはフェニックスの紋章だよ」

 

 俺の警戒は木場が解いてくれる。

 

 魔法陣から人影が姿を現したかと思うと、さらにそこから炎が巻き起こり、室内を熱気が包み込む。

 

 思わず魔術で熱をカットしようとしたら、人影は腕を横にないで、周囲の炎を振り払った。

 

「―人間界か。来るのは久しぶりだな」

 

 現れたのは、どこかホスト風の一人の男。

 

 赤いスーツをワイルドに着崩したその顔は、木場に匹敵するイケメンだが、どこか乱暴そうな印象を与えていた。

 

 なんていうか、女遊びの激しい男とか、売れっ子のホストを思わせる。

 

 いったい何者だ? 部長達の視線が険しくなっているが、やっぱり敵か?

 

 だが、そんな男は部長に視線を向けると、口元をゆがませてとんでもないことを言い放った。

 

「会いに来たぜ。愛しのリアス」

 

 ・・・はい?

 

 恋人か何かか? いや、部長の表情から見てそれはない。

 

 待てよ? 

 

 イッセーに対する逆夜這い。

 

 部長のお悩み。

 

 部長の立場。

 

 ・・・ああ、そう言うことかよ。

 

 俺の推測を裏付けるように、グレイフィアさんが紹介してくれた。

 

「―このお方はライザー・フェニックス様。72柱の一つであるフェニックス家の三男坊にして、リアスお嬢様の婚約者でございます」

 

「え、えええええええええええええっ!!」

 

 うん。イッセーは驚くと思った。

 

 つまりこういうことだったのだ。

 

 リアス部長は、このライザーとかいう悪魔と結婚したくないからイッセーにせまったということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、さすがはリアスの女王。入れてくれたお茶も美味しいものだな」

 

「痛み入りますわ」

 

 緊張感が漂う中、朱乃さんが怖いものをまきちらしながらライザーの相手をする。

 

 このライザーとかいう悪魔、部長になれなれしい態度で接している。

 

 部長と同じソファで部長の横に座り、その肩を軽々しく抱いている。部長はいやがって何度も肩を抱く手を振り払うが、全く気にせず再び手を伸ばしている。

 

 下僕悪魔である俺たちは、少し離れたところで見守っているが、これは面倒だ。

 

 イッセーあたりが暴走しそうで怖い。

 

 アイツ部長にゾッコンだからな。このままだと状況もわからずに暴走するかも。

 

 と、視線を向けるが・・・

 

「ぐへへへへ」

 

「・・・どうしたイッセー?」

 

 いや、言うまでもない。

 

 この馬鹿。思考をスケベな方向に発展させて、妄想を開始しやがった。

 

「・・・卑猥な妄想禁止」

 

 小猫ちゃんが痛烈なツッコミを入れてくれる。

 

 小猫ちゃんには感謝しないといけないかもしれない。おかげで俺のツッコミ負担が大幅に減ってくれそうだ。後でなんかおごった方がいいと思うし、好物が何か聞いておこうか。

 

「い、イッセーさん大丈夫ですか? なにか楽しいことでもありました?」

 

 大丈夫だよ、アーシアちゃん。

 

 そいつは楽しいことを考えているだけだから。本当に気にしないでいいって言うか、むしろ無視しても問題ないよ。

 

「いい加減にして頂戴!!」

 

 などと考えていたら、部長がついに切れた。

 

 どうにもこうにもややこしいことになっているようだ。

 

「以前にも言ったはずよ。私はあなたとは結婚しない。次期当主である私には、自分で婿を選ぶ権利ぐらいあるはずよ!!」

 

「それは以前にも聞いたよ。だがなリアス、そういうわけにもいかないぐらい、キミのところの御家事情は切羽詰まってると思うんだ」

 

 そういえば、悪魔はだいぶ数が減ってしまったんだな。

 

 それで婚姻にもうるさくなったってことね? こりゃ苦労するわ。

 

「先の大戦で純血の悪魔は少なくなった。今でもくだらない小競り合いのせいで跡取りが殺されてお家断絶した家だってある」

 

 先の大戦の被害は、俺が思ったよりもはるかに大きいらしい。

 

 魔術の世界でも代を重ねた歴史のある魔術師にばかり重視される社会だったが、どうやら悪魔も、まだまだ改変の余地があるということか。

 

「いくら悪魔の世界に新しい風を取り入れなければならないとはいえ、人間からの転生悪魔が最近は幅を聞かせすぎだ。純血の悪魔を途絶えされるわけにもいかないだろ?」

 

 ライザーは言い聞かせるようにしているが、部長の答えはそっけなかった。

 

「私は家を潰さないわ。でも、私は私がいいと思ったものと結婚する。それぐらいの権利はあるわ」

 

 その言葉に、ライザーは舌打ちをすると一気に不機嫌になる。

 

 その機嫌の悪さは、俺たちにも向けられた。

 

 ライザーの炎が立ち上り、火の粉が部屋中に舞い上がる。

 

「俺もフェニックスの看板を背負ってきているんだ。わざわざ、こんな汚い炎と風しかない世界にまで来たのは、キミの下僕全てを燃やし尽くしてでも冥界に連れ帰るためだ」

 

 物騒なこと言ってきましたよこの人!

 

 とりあえず魔術で熱をシャットアウトしてから、俺は神器にこっそり魔力を込める。

 

 神器の強化はだいぶ慣れた。最悪一戦交える以上、こりゃいきなり覚悟をきめたほうがいいかもしれない。

 

 だが、その心配は無用だった。

 

 炎の翼を構成するライザーと、消滅の魔力を放ち始める部長との間に、グレイフィアさんが割って入る。

 

「お二人とも、落ち着いてください。これ以上やるのでしたら、サーゼクス様の名誉にかけて、私も黙ってみているわけにはいきません」

 

 ・・・あ、やっぱこの人が一番強いのね。

 

 グレイフィアさんの迫力あふれる言葉に、部長もライザーも気押されていた。

 

「最強の女王と称されるあなたにそんなことを言われたら、俺もさすがに怖いよ」

 

 そこまでの実力者か。そんな人をメイドにしているだなんて、部長の所の実家はどれだけの実力者なんだ?

 

 二人の戦意がなくなったことを確認すると、グレイフィアさんは一つ提案をした

 

「正直この展開は両家の方々の想像するところでした。そのため、最終手段でレーティングゲームで決着をつけるというのはどうでしょうか?」

 

 レーティングゲームと言うと、悪魔同士が下僕悪魔を戦わせ合うとかいう・・・あれか?

 

 部長がそれを聞いて、怒りに顔をゆがめる。

 

「そういうこと。・・・どこまで私の人生をいじれば気がすむのかしら・・・っ!」

 

 これは相当機嫌が悪いな。

 

 察するに、ライザーの奴は相当の実力者なのか?

 

 俺の推測を裏付けるかのように、ライザーの表情は自信に充ち溢れていた。

 

「ならどうする? 断るか?」

 

「まさか。こんな好機はそうないわ。ライザー、あなたを消し飛ばしてあげる」

 

「良いだろう。君が勝てば婚約は白紙だ。ただし、俺が勝てば即結婚してもらうぜ?」

 

 そう言って、にらみ合う部長とライザー。

 

 だが、ライザーの視線が俺達の方に向くとあいつの表情は一変した。

 

「おいリアス。こいつらが君の眷属か?」

 

「ええ。それが何か?」

 

 ライザーの表情は完全にあきれたそれだ。

 

「これじゃあ話にならないな。俺と勝負できそうなのは君の女王の雷の巫女だけだ」

 

 おお、完全に舐められてるな。

 

 悪魔としては未熟だから仕方がないが、こうも馬鹿にされるとさすがに腹立つ。

 

「これぐらいなら、俺の可愛い下僕達の敵じゃあないな」

 

 そう言ったライザーが指を鳴らすと同時に、魔法陣が再び光、炎が舞い上がる。

 

 そんな炎の中から人影が何人も現れた。

 

 ひいふうみい・・・15人? たしか、上級悪魔が眷属にできる最大人数がそれぐらいじゃなかったか!?

 

「これが、俺の可愛い下僕達だ」

 

 可愛いか。

 

 なるほど確かに納得だ。少なくとも、俺がわざわざ文句をつける必要はない。

 

 なぜなら、

 

―全員美少女だったから

 

 外見レベルの高い美少女軍団が目の前にあった。

 

 ・・・部長がいやがってる理由もそこにあるのか?

 

 いや、イッセーのスケベを許容できるほどのリアス部長がそんな理由で断るとは思えない。

 

 だとすると・・・

 

「う・・・うぅ・・・」

 

 うめき声っぽいのが聞こえてきた。

 

 ・・・イッセーが、号泣していた。

 

 ああ、正直予想していたよ。

 

 ハーレムを目指して悪魔として活動しているイッセーが、目の前でハーレム作り上げている男を見て反応しないはずがないしな。

 

「なあリアス。君の兵士、俺を見て号泣してるんだが」

 

 ライザーは明らかに引いていた。

 

 まあ、今の今まで緊張感あふれる状態をしていたはずなのに、いきなり目の前で泣きだされたら普通引く。

 

「この子の夢がハーレムなのよ。あなたの下僕悪魔を見て感動してるんだわ」

 

 部長も嘆息する。

 

 うん、いろいろと台無しだよね。

 

「きもーい」

 

「ライザー様、あの人気持ち悪いでーす」

 

 ライザーの下僕達からも実に受けが悪い。

 

 イッセーのハーレム建設は遠いとしか言いようがないな。

 

 そんな自分の眷属をなだめるように、しかしイッセーに意地の悪い笑みを浮かべながら、ライザーが眷属に近づいてくる。

 

 数々の不良や性格の悪い輩を相手にし、ボコボコにしたり支配下に置いたりした俺だからわかる。

 

 絶対ろくなこと考えてない。

 

「まあまてお前達。上流階級を羨望の目で見つめるのは下賤な奴なら当然のこと。いっそ見せつけてやろうじゃないか」

 

 そんなことを言うと、ライザーの奴はおもむろに眷属悪魔の一人とキスをした。

 

 さすがハーレムを作った男。婚約者の前で別の女性とディープキスしたよ。俺たちも見てるって言うのによくやるぜ。

 

 しかも経験者の俺が断言する。あれは上手い。

 

「どうだ? お前じゃそんなことできないだろう?」

 

 とどめにものすごい圧倒的強者オーラ。

 

 うん、これは不味い。

 

「テメエふざけんな焼き鳥野郎! 赤龍帝の籠―」

 

「イッセーストップ!」

 

 スピーディにしゃがみながら体を回し、イッセーに足払いをかける。

 

 見事に決まってイッセーはぶっ倒れた。

 

「へぶっ!?」

 

「・・・無様」

 

 小猫ちゃん、君は本当に容赦ないね。

 

「な、なにすんだよ兵夜!!」

 

「どこの世の中に超持久戦向けの能力でいきなり殴りかかるバカがいるんだ。さすがに返り討ち確定だろ」

 

 そう、まさにその通りだ。

 

 イッセーの持つ神器、赤龍帝の籠手は、10秒ごとに持ち主の力を倍加していく能力を持つ。

 

 それは『時間をかければ』神すら殺せるというのだ。

 

 ・・・逆にいえば、能力を倍加する時間をかけずに倒せばいいだけである。

 

 腐っても上級悪魔にして戦闘経験もあるライザー。出していきなり殴りかかるだなんて行動で倒せるわけがない。

 

 何より―

 

「どうせやるならもう少し考えて行動しろ。・・・前もって発動させてチャージしておくとかいろいろあるだろ」

 

「う・・・」

 

 俺の正論にイッセーが言葉を無くす。

 

 ・・・まあ、ケンカだってろくにしたことがないイッセーにそれをするのも無理な話か。

 

 そんなイッセーの反応を見て、ライザーの奴が嘲笑う。

 

「赤龍帝の籠手とは驚いたが、肝心の持ち主がこんな感じじゃなあ。『豚に真珠』ってのはこういうことか?」

 

 おうおう言ってくれるじゃねえか。

 

 テーブル蹴りあげて奴の顔面にぶつけてやりたがったが、それとなく木場が足を置いて妨害する。

 

 わかってるよ。ここでこれ以上騒いだら部長の顔に泥がぬられる。

 

「リアス、今やってもいいがそれだと面白くない。十日後でどうだ?」

 

「私にハンデをくれるというの?」

 

 部長が機嫌をさらに悪くするが、ライザーは一切動じない。

 

「嫌か? 屈辱か? 感情だけで勝てるほど、レーティンゲームは甘くないぞ。どれだけ強かろうと、初陣で力を発揮できずに敗れてきた奴は何人も見た」

 

「部長。わざわざ勝てるチャンスをくださっているんです。ここはその隙に付け入るべきだと」

 

 さすがにいきなりやり合うのは不味い。

 

 俺は部長に進言した。

 

 勝算がどれだけあるかわからないのに、いきなり戦闘するなんて危険だ。

 

 わざわざ向こうから強くなる機会をくれるだなんて、好都合以外の何物でもないと考えなければこの勝負は割とマジで負ける。

 

「兵夜の言うとおりね。ライザー、後で後悔なさい」

 

「決まりだな。・・・せいぜい鍛えておけ、リアスの下僕共。お前らの一撃がリアスの一撃なんだからな」

 

 部長の心配をする余裕があるとはな・・・。

 

 ライザーは不敵に笑い、眷属と共に魔法陣の中に消えた。

 

 奴の能力はさっぱりわからないが、これだけは言えることがある。

 

 ・・・これは、実に面倒なことになったということだ。

 



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特訓、続いてます

 

 山はいい。

 

 空気はうまいし景色は奇麗。おいしい野草も豊富で、山菜料理とかよだれが出てくる。

 

 だが、こんな形で来たくはなかった。

 

「ひーひー」

 

 俺の隣でイッセーが汗だくになって山を登る。

 

 その背には三人分ぐらいの大荷物がのっかっていた。

 

 ちなみに、俺も相応の荷物を背負っている。鍛えているが結構こたえるぞコレ。

 

 ・・・そう、俺たちは修行に来ているのだ。

 

 部長の発案で修業をすることになった俺たちは、グレモリー家が保有している別荘までこうやって修行をしながら歩いているのだ。

 

「やっほ~」

 

 遠くで登山者の声が聞こえてくる。

 

 うん、なんかいらついて来るよねこういうの。

 

 俺は強化の魔術を使うべきがどうするか真剣に迷っている。

 

 一応鍛えているから何とかなっているが、まだまだかかりそうだし正直めんどい。

 

 が、それでは修行にならないしどうしたもんか。

 

「部長、山菜を詰んできました」

 

 木場は俺たちと同じぐらいの荷物を持っているが、軽々と歩くどころか山菜を採ってくる余裕まである。

 

 あ~あ。山の薬草とか魔術的にも便利だから集めたいんだけどなぁ。

 

 と、心の中で愚痴を言いながら山を登っていたら、俺たちはとんでもないものを目にしてしまった。

 

「・・・失礼します」

 

 ・・・小猫ちゃん? 君が背負ってるの、どう考えても俺達三人の荷物を足しても足りないぐらいのサイズだよね?

 

 恐るべし戦車。パワータイプだというのは知っていたがここまで怪力だと驚愕するしかないな。

 

「イッセーさ~ん。大丈夫ですか~」

 

「イッセー、兵夜! 早くしなさい」

 

「もう少しですわよ~」

 

 先の方では、荷物を持たない女性陣が俺達を待っている。

 

 小猫ちゃん以外の女性陣はどう考えても殴り合いをするタイプじゃないし、これはまあいい。

 

 俺も魔術師なんだけどね。残念だが、ポテンシャルの都合や正体を隠す必要があるから、中距離やら遠距離やらじゃ戦えそうにない。

 

 ちくしょう! なんか悔しい。

 

「う、うおりゃああああああっ!!」

 

 小猫ちゃんの怪力っぷりに感化されたのか、イッセーがものすごい勢いで山を登り始めた。

 

 ・・・あのバカ、ペース配分考えないと死ぬぞ。

 

 などと考えていると目的地である部長の別荘が見えてきた。

 

 使わないときは魔力で森の中にまぎれてしまうという素敵仕様。下手な結界よりも便利な悪魔パワーに、俺はちょっと嫉妬心を抱いたのは秘密だ。

 

「んじゃ着替えるぞ? ・・・大丈夫か?」

 

「ぜーはー、ぜーはー・・・」

 

 イッセーが死にかけるなか、俺はさっさとジャージに着替える。

 

 これからが大変だというのに、この調子でイッセーは大丈夫なんだろうか。

 

 修行の内容はよくわからないが、これだけは言えることがある。

 

 ・・・たぶん、相当スパルタだということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Sideイッセー

 

 あの焼き鳥野郎を倒すために、俺達の特訓は始まった。

 

 ただ、始まったは良いけど俺は最初から苦労していた。

 

「おりゃー!」

 

 俺は手に持った木刀を、目の前の木場に向かって振るって行くが、全然通用しない。

 

「剣だけを見ない! 戦闘では視野を広げて、相手と周囲を見るんだ」

 

 木場はそう言ってくるが、俺にはさっぱりわからねえぞ。

 

 何度も何度もふるうが、そのたびにあっさりいなされて、今度は剣をはじかれる。

 

「次、宮白くん!」

 

「おうよ!」

 

 木場に促されて、宮白が前に出る。

 

 宮白は木場から距離をとると、体を揺らしながら様子をうかがう。

 

 かと思ったら、一気に走り寄って木刀をふるう!

 

「オラ!」

 

「おっと」

 

 木場はあっさり受け止めるが、なんと宮白は木刀から手を離すと。そのまま体を一回転して蹴りを放つ!

 

 それすら木場はかわすが、さらに宮白は体を倒すと、木刀を逆手で掴んで柄を木場の木刀に叩きつけた。

 

「これは!?」

 

 倒れそうになるのを何とかこらえる木場だが、足をついてバランスを取った宮白は、刀身の部分をもう片方の手でつかむと、そのまま木場の顔面に突きだした!

 

 おお! かろうじて交わしたけど毛先が揺れた! いきなりいい感じじゃないか!?

 

「・・・杖術の心得でもあるのかい?」

 

「喧嘩で鍛えた鉄パイプ術だよ」

 

 距離をとる木場に対して、宮白は木刀の真ん中を持ちながら不敵に笑う。

 

「10日そこらで剣術が身につくわけないし、対刀剣戦闘と割り切らせてもらうぜ?」

 

「できれば、剣の使い方を覚えてほしかったんだけどね。・・・あのはぐれ悪魔祓いと渡り合っただけあるよ」

 

 おお! 二人の間に火花が散っているのが見える。

 

 さすが宮白! そのままイケメンにひと泡吹かせてくれ!

 

 ・・・アレ? 俺の特訓は?

 

 そんな感じでレッスン1は、木場と宮白の3ラウンドで終了。

 

 ちなみに、勝敗は木場が二本先取で勝ち越した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・魔力は体全体を覆うオーラから、流れるように集めるのです。意識を集中させて、魔力の波動を集めるのですよ」

 

 レッスン2は朱乃さんとの魔力修行。

 

 これがなかなか大変で、俺は全然魔力を集められない。

 

 言われたとおりにやってみるけど、米粒ぐらいの魔力の塊が限度だった。

 

 全然できない! なんで? 俺の魔力ってなんでこんなにちっぽけなの!?

 

 うぬぬぬぬ! 集中だ! この程度じゃ皆に笑われちまう! 踏ん張るんだ!

 

「あ、できました~」

 

「うぇ? マジで!?」

 

「な!?」

 

 隣にいるアーシアの嬉しそうな声に、俺と宮白のショックな声が連続ででてくる。

 

 アーシアの魔力は淡い緑色だ。うぅ、ソフトボールぐらいはあるんじゃないか?

 

 俺ってやつはここでもダメダメだ。

 

 だが、そんな俺よりもダメダメなやつがいる。

 

「全体から・・・全体から・・・」

 

 宮白、未だにひとかけらも魔力が出せてない!?

 

 魔術師じゃなかったっけ? と思ったが、昔宮白が言ってたことを思い出す。

 

『魔術ってのは魔術回路って言うのが無いと出せないんだよ。つーわけでイッセー、お前無理な』

 

 そんなことを言っていたな。

 

 ああ、全身から出そうとすると逆に違和感があって出来ないのか。

 

 ぐふふ。木場との特訓では宮白に劣等感を抱いたけど、これはちょっと嬉しいかも。

 

 よっしゃ、この調子で頑張って、宮白を悪魔的魔力運用で追い越して・・・

 

「よっしゃできたぁ! いよっし! 頑張った俺!!」

 

 ―宮白の手の先から、バスケットボールサイズの魔力の塊が生まれていた。

 

 色は水色で、なんか授業で見た恒星の写真を思い出したけど、それにしてもでかい。

 

 そんなバカな!? 今の今まで苦戦しまくってたじゃないか!?

 

「あらあら。アーシアちゃんもそうですが、兵夜くんも魔力の才能があるみたいですね」

 

「いやぁ、コツをつかめたらこれぐらい楽勝ですよ」

 

 今まで苦戦してたやつのセリフじゃない!

 

 くそ、あいつは生まれついての魔法使いか何かか! あ、前世魔術師だったから今の人生じゃそうか!

 

 割と本気で焦ってたのか、魔力を出している宮白はすごい嬉しそうだった。

 

「では二人は、魔力を使って水を操ってみましょう」

 

 そう言うと、朱乃さんはペットボトルの中に入っている水を魔力で操る。

 

 ・・・すげえ! 水が棘になってペットボトルを突き破った!

 

「魔力で水や火を作ることも出来ますが、初心者は実際に動かした方がいいですから」

 

「はい! じゃあまずはペットボトルを輪切りにするところから・・・」

 

 宮白がすごいやる気になってる! そこまで嬉しいのか!?

 

「頑張ってください。魔力の源流はイメージですから、とにかく頭に浮かんだものを具現化するのです」

 

 自分の思い描いた形か・・・。

 

 待てよ? ってことはあんなことやこんなことも・・・いけるか!?

 

「朱乃さん! こんなこと考えたのですが・・・」

 

 俺は朱乃さんにこっそり耳打ち。

 

 それを聞いた朱乃さんは、ちょっとあっけにとられたけどにっこりほほ笑んでくれた。

 

 ―ホントにいけるか? 俺の超必殺技?

 

「あらあら。イッセーくんらしい発想ですわ」

 

 そう言うと、朱乃さんは台所にいって何か持ってきた。

 

 その間にもアーシアと宮白の魔力修行は進み―

 

「輪切り! 千切り! みじん切り!!」

 

「宮白さんすごいです! ペットボトルがどんどん細かくなってます!!」

 

 調子乗ってる!

 

 よっぽど嬉しかったんだ! よっぽど上手くいったのが嬉しかったんだ!

 

 ・・・後でこっそり聞いてみたところ、こんな答えが返ってきた。

 

「全身から魔術回路に集めてからやってみたんだ。意外と簡単だった」

 

 コツって重要だよね!

 

 追加で言うと、俺の方はカレーの材料の皮むきと言う形でスタートした。

 

 どうやら、道は険しいようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続いて小猫ちゃんとの体術訓練。

 

「ぬわぁあああ!!」

 

「おっと!」

 

 吹っ飛ばされた俺を宮白がかわす。

 

 ・・・さりげなく襟を引っ張ってくれたおかげで、俺は木と激突しなくて済んだ。

 

「・・・弱っ」

 

 小猫ちゃんの痛烈な一言が、俺の心に突き刺さる。

 

「まあ、イッセーは喧嘩だってろくにしてないから・・・なっと!!」

 

 宮白がフォローをしてくれながら小猫ちゃんに向かって行く。

 

 思いっきり俺の方を見ながらなのに正確に蹴る宮白もすごいが、その不意打ちをあっさりかわす小猫ちゃんもすごい。

 

 小猫ちゃんは立ち技寝技何でもござれの格闘少女。宮白の攻撃をかわしてはカウンターを叩きこもうとしている。

 

 対して宮白は、百戦錬磨の喧嘩慣れ。さっきから木を蹴って機動力で小猫ちゃんを翻弄しようとしている。

 

「イッセー先輩。打撃は体の中心を狙って的確かつえぐりこむように打つんです」

 

「あとお前全身で突っ込みすぎ。わかり安すぎるからすぐかわせる」

 

 俺にアドバイスする余裕まであるよ!

 

 この二人、実は余裕たっぷりなんじゃないか!?

 

 あ、宮白が飛びかかったかと思うと、木の枝をつかんで飛び上がった。

 

 そのまま飛びかかるかと思ったけど、落ちる最中に木を蹴って小猫ちゃんの真後ろに!!

 

「そいや!」

 

「まだまだです」

 

 これもかわすか小猫ちゃん!! さすがは歴戦の戦車。格闘技を極めるとここまで強くなるだなんて!

 

 その後も俺は頑張ったが、結局小猫ちゃんに一発も当たらなかった。

 

「木場にも小猫ちゃんにも全然かなわねぇ! 魔力にいたっては米粒程度だし、俺いいとこなしじゃん!」

 

 転がったまま俺は叫んだ。

 

 今日一日、俺ってばやられてばかりじゃん!

 

 こんな調子でライザーを倒せるようになるのかよ?

 

「ま、今まで戦闘なんて経験ないんだから仕方ないだろ」

 

「それぞれ特性もありますから」

 

 そう言いながら、二人も手合わせを終了してくる。

 

 特性、か。

 

 転生悪魔としての特性はプロモーションだけど、俺自身の特性って何だ?

 

「俺の場合は?」

 

 よくわからないときは質問するのに限る。

 

「・・・エッチなところ」

 

「エロパワーはすごいな。駒王学園(あそこ)にも一発合格したし」

 

 ガクッ。

 

 それは戦闘に何の関係もないじゃん。いや、いっそセクハラに集中すれば活躍できるのか?

 

「・・・それともう一つ」

 

 だけど、小猫ちゃんの言葉はまだ続いたんだ。

 

「がんばり屋さんなところ」

 

 がんばり屋さん・・・?

 

 首をかしげる俺に、宮白が手を差し出してくれる。

 

「なんだかんだで一日頑張ったし、この調子で頑張りな」

 

 そうか! 俺って頑張り屋さんか!

 

 よっしゃ! どうせ頑張り屋さんなら、とことんまで頑張ってやる!

 

「おりゃああああっ!」

 

「えい」

 

 ・・・小猫さまは本当に容赦ないです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side兵夜

 

 夕方、俺たちは最後のレッスンをしていた。

 

 具体的には、岩を背負って山道を上り下りしていた。

 

「レッスン4。まあ、整理体操みたいなものね」

 

「どこがですか!? これのどこがそんな生ぬるいものですか!?」

 

 どこの世の中に、岩を背中にくくりつけて行う整理体操が存在するんだ!

 

 イッセーにいたっては言葉を放つ余裕もない。

 

 死ぬんじゃないか? コレ。

 

「鬼ですか部長! いや、鬼でしょう部長!」

 

「悪魔よ」

 

 素敵な笑顔で言わないでください!!

 

 ダメだ、これで俺が魔術師だってばれたら何されるかわからん!

 

 黙ってて正解だった! こんな調子じゃしゃべる気にすらならん!

 

 もう何回往復した? 少なくとも二十は超えたぞ!

 

「はいOK。今度は腕立て伏せね」

 

 ・・・さすがは悪魔だ。殺す気としか思えん。

 

 悪魔の基礎体力はすさまじいということだろうか。この調子だと俺たちはボディビルダーも真っ青なムキムキなマッスル野郎になるかもしれない。

 

 戦場を一番駆け巡る兵士の駒になったのが運のつきか。せめて戦車か騎士ならよかった。

 

「ぐわっ!」

 

「・・・マジですか」

 

 イッセーの悲鳴に見てみれば、部長がイッセーの背に岩を乗せていた。

 

 恐るべし魔力の力。俺も強化の魔術を行使していいだろうか?

 

 ああ、俺の背中にも乗ってきましたよ岩が、背骨の心配をするしかないじゃないか!

 

「さて、それじゃあ腕立て伏せ300回よ」

 

「オーッス!」

 

 イッセーが威勢よく声を張り上げる。

 

「だぁもう! やればいいんでしょうやれば!!」

 

 悪魔になったのを後悔するぞ俺は! 

 

 ライザーと戦う時まで、俺は生きていられるのか!?



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特訓、がんばってます!

特訓編その2


 

 美味い!

 

 特訓を終えて夕食を取っている最中だが、本気でうまい!

 

 俺の目の前には、山菜料理、牡丹肉料理、魚料理が並ぶ!

 

 全部この山で採れた自然の代物がふんだんに使われている。

 

 本気でうまいぞこれは!

 

 何でも朱乃さんの手作り料理とのこと。松田と元浜に言ったら血涙を流して恨まれるな。

 

 あまりのうまさに、皆箸を止めずにたくさん食べる。運動すると腹が減るし、これは嬉しいごちそうだ。

 

 イッセーと小猫ちゃんもすごい勢いで食べている、小猫ちゃんはものすごい静かにあの速度で食べるのには、正直引く勢いではある。

 

「サイコーです朱乃さん! 嫁に欲しいです!」

 

 コラコライッセー。そんなこと言ってると―

 

「うう・・・。私も作ったんですよ」

 

 ほら、スープ作ったアーシアちゃんが拗ねた。

 

 ・・・これなら簡単そうだし、レシピ教えてもらうか。

 

「おっと! ・・・うん、アーシアのスープもマジうめえ!!」

 

 イッセーはあわててフォローを入れる。

 

 ・・・よし、アーシアちゃんの機嫌も戻った。

 

 やっぱりメシはいい気分で食わないとな。

 

「それでイッセー。今日一日修行してどうだったかしら」

 

 部長がお茶を一口飲んで、イッセーに問いかけた。

 

「・・・俺が一番弱かったです」

 

 うん、落ち込んでいるところ悪いけどフォローできない。

 

「そうね。それは確実ね」

 

 さすがに部長もフォローできないか。

 

「朱乃、祐斗、小猫はゲーム経験こそないけど、実戦経験があるから対応できるわ。兵夜も戦いなれているし、ゲームに対応する分にはもんだいないわ」

 

 俺は思った以上にベタ褒めだな。

 

 確かに喧嘩慣れはしているが、別に前世でも実戦経験はないぞ?

 

「でも、アーシアとイッセーは実戦経験はほとんどないと言っていいわ。でもアーシアには回復能力、イッセーには赤龍帝の籠手という、相手からしたら無視できない力がある」

 

「最低でも逃げ回る力は必須ですね」

 

 部長に同意する。

 

 俺も最初の方は大変だった。これが意外と難しいんだ。

 

「逃げるのってそんなに難しいんですか」

 

 イッセーが素人らしい疑問を上げる。

 

 ここは俺が言った方がいいだろう。

 

「ただ背中向けて逃げるなんて、狙ってくれって言ってるもんだからな。これが一番大変だぞ?」

 

「マジか! そりゃ頑張らねぇとな」

 

 よし、理解はともかく納得はしてくれたようだ。

 

 特にイッセーは前衛だし、なんとしても回避を覚えてもらわないとな。

 

 しかし疲れた。こういうときは熱いシャワーでも浴びて汗を流したいもんだ。

 

「食事も終えたしお風呂に入りましょうか。ここは温泉だから素敵なのよ」

 

 ・・・温泉付き!? どこまで豪華なんだこの別荘は!

 

 悪魔社会の片鱗を覗き見た。これほどとはグレモリー眷属。

 

 ・・・しかし不味いな。イッセーの奴、視線が完全にエロの方向に向かってるぞ。

 

 ここは釘をさしておくか。

 

「覗きは厳禁だぞイッセー」

 

「僕も覗かないよ」

 

 図らずも、木場との連携攻撃になったな。

 

 視線を交わすとシンパシーを感じるぜ。

 

「あ! バッカお前ら!」

 

「あらイッセー。私達の入浴を覗きたいの?」

 

 ああ、いい気分で食事してたのにカミナリでも落ちたら台無しじゃないか。

 

 まあ、これもイッセーの失態だ。

 

 スケベを堂々とやっていると人生損だと、いい加減気づいてくれれば―

 

「なら、一緒に入る? 私は構わないわよ?」

 

 ・・・・・・・・・。

 

「部長ストップ! 正気ですか!?」

 

 思わず叫んでしまった俺は悪くない。

 

 何を考えているんですかあなたは!

 

「あら、別にイッセーには何度も見られてるし、特に問題はないわ」

 

 何度も!?

 

 あの、グレモリー先輩の胸を!? いや、この流れだと全裸を!?

 

「いやいやいやいや! ちょ、朱乃さんも止めてください!!」

 

「イッセーくんなら別にかまいませんわ。うふふ、背中を流してあげましょうか?」

 

 なんですと!?

 

 いくらなんでも寛容すぎやしませんか皆さん!

 

 こ、これは俺も便乗して記憶した方がいいのか? 天が俺にそうしろと叫んでいるのか!? いや魔王か!

 

 ダメだ、誰か常識的な範疇で止めてくれ!

 

「アーシアも、愛しのイッセーなら大丈夫よね?」

 

「い、イッセーさんなら・・・」

 

 アーシアちゃんまでうなづいちゃってるよ!?

 

 ま、まさか悪魔社会ではこれが常識なのか?

 

 そういえば、ライザーも婚約者の前でキスをするなどと言う暴挙を行っていた。

 

 そうか、そうなのか?

 

「小猫はどう?」

 

 ・・・良し、ここは小猫ちゃんの反応で確かめよう。

 

 さあ教えてくれ塔城小猫! 悪魔の世界の真実を!!

 

「・・・嫌です」

 

 両手で×までしてくださいました。

 

「よく言った小猫ちゃん! 俺の常識を守ってくれてありがとう!!」

 

「・・・よくわかりませんが、どういたしまして」

 

 あまりの展開にパニックになっていたぜ。危ない危ない。

 

「じゃあ、この話はなしね。ごめんなさい、イッセー」

 

「ち、ちくしょう・・・っ」

 

 床に膝をつくなイッセー。

 

「あ、覗こうとしたら不能にするからな」

 

「・・・うぐっ」

 

「・・・釘をさしてくれてありがとうございます」

 

 小猫ちゃんから感謝されたよ。

 

 うん、悪魔の世界も人間と大して変わらない常識だ。覚えておこう。

 

「イッセーくん。僕と裸の付き合いをしよう」

 

「木場、止めをさすな。・・・ま、背中ぐらいは流してやる」

 

「マジで殺すぞお前らぁああああ!!!」

 

 夜の山に、イッセーの嘆きが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜にも特訓があった。

 

 しかも、昼間よりハードだった。

 

 何を言っているのかわかるだろう? つまり本気でスパルタだった。

 

 非常に面倒なことに、部長は修行関連に置いて本当に鬼だということだ。

 

 かろうじて大丈夫だったが、イッセーはひどい筋肉痛にさいなまれていることだろう。

 

 本当にひどいトレーニングだった。

 

 これが後何日も続くのかと言うと正直悪魔やめたい。

 

 ちなみに、今日の午前はトレーニングはお休みして悪魔講座。

 

「・・・アザゼル、シェムハザ、アルマロス、バラキエル、タミエル・・・ベネムエにコカビエル・・・さ、さ、サハリエル!」

 

「正解。全員覚えているみたいでよかったよ」

 

 なんとか木場の質問に答えられた。

 

 さっきから、天使、悪魔、堕天使のトップの名前を答えることになったのだが、これが意外と大変だった。

 

 ちなみに、イッセーは堕天使で躓いている。

 

 何とか悪魔関係の常識を答えることができて良かった。

 

 俺も悪魔になったわけだし、最低限の常識ぐらいは覚えておかないと後が怖い。

 

 だが、悪魔側だけ勉強しても意味がない。

 

 続いて説明されるのはアーシアちゃんによる教会の知識だ。

 

「では、僭越ながら私、アーシア・アルジェントが『悪魔祓い』について説明します」

 

「よ! 待ってました!」

 

 イッセーは拍手をするな。

 

 アーシアちゃんはそれに顔を真っ赤にしている。この子は本当に可愛いな。

 

「コホン。えっと、私が以前所属していた組織には、二種類の悪魔祓いがいました」

 

 二種類もいるのか。

 

 悪魔祓いもいろいろあるって言うわけか。こりゃまた世界は広いもんで。

 

「一つはテレビなどで見る『表』の悪魔祓いです。聖書を読み、聖水を使い人々にとりついた悪魔を祓う悪魔祓いです。そして、もう一つの『裏』の悪魔祓いこそが悪魔にとっての脅威となります」

 

 なるほどアレか。

 

 アーシアちゃんの説明を木場が引き継いだ。

 

「イッセーくんや宮白くんもあったことがあるだろ? 神または堕天使の加護を受けた悪魔祓いさ。人間離れした身体能力と光を使いこなして悪魔を滅ぼすんだ」

 

 ああ、あのフリードみたいなやつのことか。

 

 正直あいつは強敵だった。戦闘能力は非常に高いし、何より性格が非常に疲れる。

 

 できれば二度と会いたくない。

 

 そんなことを考えていると、アーシアちゃんがカバンから水のようなものが入った小瓶を取り出していた。

 

 部長は何やら汚いものみたいに指でつまんでいる。

 

「次に聖水と聖書の特徴をお教えします。まずは聖水ですが、悪魔の方が触ると大変なことになります」

 

 硫酸みたいなもんか? 焼けただれるぐらいで済めばいいんだけど。

 

「そうね。アーシアももう触っちゃだめよ。お肌が大変なことになるわ」

 

「そうでした。もう・・・触れません」

 

 十字架やら光やら聖水やら、悪魔には弱点が多いな。

 

 まあ、それはいろいろと今回には役に立ちそうだ。合宿が終わったら何とかいろいろと試してみた方がいいだろうな。

 

「製法も後でお教えしますね。いくつかありますから」

 

 いくつもあるのか。聖水っていろいろと作り方があるようなもんなんだな。

 

 そしてアーシアちゃんは、今度は本を取り出した。

 

「次に聖書です。小さいころから毎日読んでいたのですが、今は一説でも読むと頭痛がすさまじくて困っています」

 

「悪魔だもの」

 

「悪魔ですもんね」

 

「・・・悪魔」

 

「うふふ。悪魔は大ダメージ」

 

「ま、悪魔だしな」

 

「ううう、もう聖書も読めません!」

 

 連続ツッコミにアーシアちゃん涙目。

 

 イッセーも突っ込めよな。おかげで俺が止め刺しちゃったじゃねぇか。

 

 つーか、この子もなに聖書読んでんだか。

 

 目を離したら勝手に浄化されてそうで正直心配になってきた。この子意外と面倒だな。

 

「ううう。でも、この一説はすごく好きな部分なんです。・・・ああ、主よ。聖書を読めなくなった私をお許しにあう!」

 

 そしてお祈りしてダメージを喰らうアーシアちゃん。

 

 アーシアちゃん。今後も大変だと思うけど、俺は心の中で応援することにするよ。

 

 ちなみに、聖書のページが目に入って、つい読んでしまった俺も地味にダメージを喰らっているのは内緒の方向だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この訓練に置いて、一番気にしなくてはならないのはイッセーだろう。

 

 イッセーは喧嘩をしたことがない。

 

 イッセーは剣を扱ったことがない。

 

 イッセーは魔力を扱ったことがない。

 

 はっきり言って、イッセーは今のところ一番弱い。

 

 ・・・正直、卑屈になってもおかしくないと思う。

 

「・・・はあ」

 

 今も、トレーニング中にため息をついていた。

 

 どうしたもんかな。

 

 俺はまあ、喧嘩慣れしていたこともあってかその辺は落ち着いてる。

 

 魔力に関しても、魔術の影響で最初は大変だったが今はなんてことはない。

 

 水から火、雷にいたるまで魔力で動かせるようになってきている。この調子なら魔力使い兵夜としてレーティングゲームで大暴れする日も近いような気がしてきた。

 

 イッセーもイッセーで何か考えているようだが、俺の目には魔力で野菜の皮をむいているようにしか見えない。

 

 ・・・それで、ライザーの皮でも剥く気なのだろうか? だとすると何があったイッセーと言いたい。つーか怖い。

 

 木場や小猫ちゃん、朱乃さんについては俺がどうこう考える必要は全くない。

 

 三人とも実戦経験を積んだ歴戦の猛者だ。喧嘩ぐらいしか経験のない俺が同行考える必要はない。

 

 アーシアちゃんについては考える必要があるだろうが、彼女はどう考えても完全な後方支援要因だ。

 

 悪魔を治療するなどという、反則じみた能力をもつ彼女は、全悪魔を見回してもほとんどいないであろうチート級存在。その存在は俺たちにとってジョーカーと言っても過言じゃない。

 

 つまり、彼女の護衛を俺たちが勤めれば問題ない。

 

 だからこそイッセーだ。

 

 下手に最高クラスの神器を持っていることが仇になってる。

 

 神器は無駄にすごいのに自分はなんて弱いのだろうかとか考えてるんだ。

 

 こうなると俺ではどうしたもんか本気で困る。

 

 どうやってフォローしたらいいものか。

 

「「・・・はぁ」」

 

 シンクロしてため息をついてしまった。

 

 ええい! なんか気を紛らわす変な出来事でも起きないものか!

 

 具体的にはなんか騒ぎが起きるとか―

 

「キャァアアアッ!!」

 

 ・・・悲鳴?

 

 おかしいな。声の感じから考えると、オカ研メンバーのものではないぞ?

 

「・・・イッセー、聞き覚えあるか?」

 

「わからない。・・・でも部長たちの声じゃないよな?」

 

 だよなぁ。

 

 ・・・これは面倒なことになってきたぞ。

 




クロスオーバーによるバタフライエフェクト発生。

次回、イッセーの特訓の成果がでるか!?


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同類、現れました!?

原作にないイベント発生、さてどうなる兵夜?


 

 森の中を走って駆けつけてみれば、そこには珍妙な光景が広がっていた。

 

 ふんどし一丁の集団が、猫耳の女の子を追い回していた。

 

 自分でも何を言っているのかわからない。

 

 ちなみに、全員さわやかな笑顔でいい汗をかいている。

 

 見ていて非常に気味が悪い存在が目の前に現れていた。

 

 しかもその行動は、猫耳が可愛いプリティガールをデンジャーな恰好で追いかけまわすという非常にアブノーマルな行動だ。

 

 思わず脳内で英語を多用してしまうぐらいには異常な空間だ。

 

「・・・帰るか?」

 

「いやダメだろ! 明らかに女の子が襲われてるだろ!! 助けなきゃ!!」

 

 わかってるがなイッセー?

 

 この集団、とても関わり合いになりたくない感じなんだが。

 

 男たちもいい加減に俺たちに気づいたらしく、全員が俺達を睨みつける。

 

「なんだ。このUMA同好会『ふんどしUMA』にようでもあるのか!?」

 

「とりあえずふんどしはどこから来た?」

 

 思わずそう問いかけた俺は悪くない。

 

「おいお前ら!! その猫耳の女の子になにする気なんだ!!」

 

 イッセーが無駄にカッコイイ!

 

 そのイッセー相手に、ひるむことなく真っ向から対峙するふんどし軍団。

 

「リアル猫耳だぞ! そんな生き物現実に存在しているなんてレアすぎるだろう!」

 

「リアルUMAはぁはぁ。連れ帰ってお持ちかえりするんだな」

 

「そして俺たちは世紀の大発見で歴史に名を残すのでござる!」

 

 口調が地味に個性豊かなそいつらの言葉は、とてもよくわかった。

 

 ・・・完全に欲に目がくらんでいるが、これほとんど人間と変わらないぞ?

 

 追加でいえば、俺達悪魔も似たようなものである。

 

 人間のころなら同じように欲に駆られただろうが、さすがに悪魔になった今の俺たちは彼女たちの仲間と言えるわけで・・・

 

 さらに、どっちに転んでもイッセーがいるってことはだ―

 

「宮白! こいつら止めるぞ!! ブーステッド・ギア!!」

 

「ま、そうなるわな。天使の鎧!」

 

 共に神器を展開してにらみ合う。

 

 目の前に現象に男たちはひるんだが、リーダー格の男は全くひるまなかった。

 

「この世界にもアーティファクトが・・・? ひるむなお前達! 俺達には鍛え上げられた生命力があるだろう」

 

「「「「「「お、おう!」」」」」」

 

 なにやらわけがわからないことを言いながら、男たちは一斉に構えをとる。

 

 何のつもりがわからんが、とりあえずさっさとケリをつける。

 

「気力弾一斉射撃!!」

 

「「「「「「うぉおおおおおおおっ!!」」」」」」

 

 なんか腕から淡く光る玉みたいなのを放ってきた。

 

「は? ・・・うぉわぁっ!?」

 

「宮白伏せろ!!」

 

 イッセーに頭を押さえられて何とか回避できた。

 

 現象が理解できなくて思考が止まった!! なにアレ!? 何なの一体!?

 

「こいつら魔力を使えるのかよ!? 宮白、どうしたらいい!!」

 

 イッセー待て! 俺も何が何だか分からないから!?

 

 なにアレ!? 魔術じゃない! たぶん魔力とも違う! だったらいったいなんだ!?

 

 いや、今はそんなことを考えている場合じゃない!

 

 後ろを見てみたが岩にひびが入ってる。

 

 あんなもの、さっきの子に当たったらひとたまりもないぞ!?

 

 イッセーはよくわからないなりに魔力かんけいだと適当に判断したのか俺よりうまく動けた。

 

 こうなったらそれに頼るしかない!!

 

「ブーステッド・ギアを俺が言うまで倍化を続けてろ! とりあえず俺は時間を稼ぐ!!」

 

「わかった! ・・・って危ないぞ宮白!!」

 

 イッセーが止めるがそんなことを言っている暇はない。

 

 地面をけり上げると同時に、魔力を使って風を起こして砂煙にする。

 

 同時に脚力を中心に強化して、奴らが反応するより早く猫耳少女を拾い上げた。

 

「きゃっ!?」

 

「あ!? 俺達のUMAが!?」

 

「にがすんじゃないでござる!!」

 

 大きく円を描くように移動しながら、魔力で水をつくってそれを叩きつける。

 

 本当ならこの場で片付ける必要があるのだろうが、あいにく相手は人間だ。

 

 悪魔業界でどうしたらいいのかよくわからないし、ここは一人ずつ確実に気絶させていかないといけない。

 

「大丈夫か猫耳少女。名前は?」

 

「な、ナツミ!」

 

「オーライ! 舌噛まないように気をつけな!!」

 

 俺は猫耳少女ナツミを抱えたまま、放たれる気力弾とやらを何とかかわす。

 

 特訓のかいは確かにあった。

 

 今までの俺だったら、ここまで簡単にかわすなんてことはできずに喰らっていただろう。回避できているのは完全に修行のおかげだ。

 

『Boost!』

 

 倍化を告げるブーステッド・ギアの音声が何度目かの倍化を告げる。

 

 これぐらい待てば十分か。

 

「イッセー! そのまま魔力を適当なところに向けてぶっぱなせ!!」

 

 いくら豆粒のような魔力といえど、あれだけ待てば脅しぐらいの威力にはなるはず。

 

 それで牽制してこう着状態に持ちこむと同時に、ついでに発生するであろう轟音で部長達に非常事態を報告して―

 

「いっけぇええええっ!!」

 

 ゴッッッ!!!!!

 

「うわあああああ!」

 

「ひぃいいいいいっ!!」

 

 ・・・何が起こったと思う?

 

 答え:山肌がごっそり削れた。

 

 ・・・これは予想外だった。

 

 どれぐらい待ってたっけ? 二分?

 

「え・・・えっとぉ・・・」

 

「な・・・なんとぉ・・・」

 

「え・・・アレ・・・?」

 

 抱えているナツミも、追いかけていたふんどしも、ついでに言うと放ったイッセーも唖然としている。

 

 うん。やりすぎた。

 

 じゃないッッッ!?

 

 自然破壊にも程があるっていうか野生動物の被害が甚大極まりないだろコレ!?

 

 やばいよやばいよどうするんだよ! ここまで壮大にぶっ壊れると、もう隠匿とか不可能じゃないか!?

 

 終わった。俺の悪魔人生責任追及で終わるぞコレは・・・。

 

「ひ、ひるむな! 今の感じから見て、奴は連射はできないはずだ! 囲んで一斉にボコれば行ける!!」

 

「「「「「「了解」」」」」」

 

 違うぞ! たぶん連射はきくぞ!!

 

 とはいえイッセーも茫然としている。これはヤバいか・・・っ!!

 

「よ! は・・・ほっ!!」

 

 意外と行ける!!

 

 鍛えている分強くなってるとは思っていたが、これは想像以上だ。

 

「時間稼いでろイッセー! その間に本命を・・・っ!!」

 

「むっ!?」

 

 こういう連中は頭を潰せば烏合の衆になると相場が決まっている。

 

 俺は反転して突っ込みながら拳を強化。

 

 気を取られていた野郎を殴りつけるが、相手もなんとか受け止めやがった。

 

 野郎はそのまま空いた手で俺を殴りつけるが、俺はナツミを上に放り投げるとそれをいなす。

 

 そのまま掴まれた手を振り払って反転。ナツミをキャッチすると同時に蹴りを叩きこむ。

 

 これでいけるか!?

 

「効くか・・・」

 

「じゃあこれで」

 

 耐えきった奴の顔面に、容赦ないパンチが叩きこまれた。

 

 小猫ちゃんだ。

 

 来てくれたのか! と、言うことは・・・。

 

「大丈夫かい?」

 

「あらあら、可愛い男の子がいっぱいですわ」

 

「木場! 朱乃さん!!」

 

「「「「「「ギャァーッ!!?」」」」」」

 

 イッセーが歓喜の表情を浮かべる中、木場と朱乃さんが他の連中を木刀と雷で一掃する。

 

 ・・・容赦ないな、朱乃さん。さすがはドS。

 

「私の可愛い下僕に何かようかしら?」

 

 いい感じで現れてくれたよリアス部長! 優雅なたたずまいの裏で、怒りのオーラが見事に漏れてくれてます。

 

 増援の登場に起き上ったリーダー格も蒼い顔をしている。

 

 どうやら、部員の実力をみて不利になったと理解したらしい。

 

「く・・・引き上げだ!」

 

「「「「「「は、はい!!」」」」」」

 

「だが覚えておけ。この世にUMAとふんどしがある限り、我々もまた存在するということを!!」

 

 ・・・捨て台詞もふんどしだよ。

 

 どこまでもふんどしにこだわりながら、ふんどしUMAは森の中に消えていった。

 

「・・・さて、何がどうなってこんなことになったのかしら?」

 

 部長、怖いんでやめてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ずっとずっと、変な力にこまってたの」

 

 別荘に戻った後、俺たちはお茶を飲みながらナツミの話を聞いていた。

 

 どうやら化け猫の一種らしいナツミは、幼少期から他にはない不思議な力に悩まされてきたのだという。

 

「こんな感じ」

 

 そう言って伸ばしたナツミの腕は、猫でも人でもなかった。

 

 あえて言うなら、鳥の翼?

 

「コレのせいで家でも気味悪がられて・・・。それで歩いてたらついこんなところまで」

 

 ・・・とりあえず、この子はこの方向音痴をまずどうにかするべきだと思う。

 

 一体どこに住んでいたのか本気でよくわからないが、だからと言ってあんな山奥まで「つい」の一言で済ませれるような長距離行軍能力は、正直言ってあり得なさすぎる。

 

 あげくのはてにあんな連中に見つかることを考えると、運の方も相当ないな。

 

「そりゃまぁ御気の毒に」

 

 そうとしか言えねぇよ。

 

 だが、この力ってなんだ? 

 

 やっぱり悪魔関係?

 

「神器でもなさそうだし、化け猫の力としてもおかしいわね。・・・」

 

「さすがに聞いたことがないです」

 

 部長は口元に手を当てて考え込んでいるし、小猫ちゃんもなにやら一家言あるのか、そんなことを言っていた。

 

 確かに変化する能力が異常過ぎる。

 

 リアス部長がはっきりとこういった以上、これは悪魔業界でも異常なことなのだろう。

 

「神器の一種が宿っていると考えるのが自然だけど・・・さて、どうしたものかしらね」

 

 部長は少し考え込む。

 

 なんとなくだが、俺にはその理由がわかったような気がした。

 

 だとすれば、彼女は一つ嘘をついていることになる。そうでないとすれば、それはそれで大変なことにもなる。

 

 俺はどうすればいいのだろうか。

 

 そんなことを考えていたら、部長がぽんと手をたたいた。

 

「そうだわ。あなた、この中の誰かの使い魔にならない?」

 

「え? 使い魔?」

 

「そう。ウンディーネとかを使い魔にする悪魔はいるし、それなら私達が世話をしても問題はないわ」

 

 ウンディーネか。

 

 ・・・しってるか? この世界のウンディーネは、みんなボディビルダーみたいな体格をしてるんだぜ?

 

 何を言っているのかわからない? はっはっは。俺もそう言えればよかったんだが、残念だが事実だ。

 

 イッセーが落胆していたのが懐かしい。俺も内心で絶望したぜ。

 

 だが、なんでそんなことを言い出したのだろうか?

 

「このままでも居場所はないみたいだし、私としてもほおっておくのは忍びないわ。今使い魔がいないのはイッセーと兵夜だけど、よければどう?」

 

 ここで俺たちに振ってきたよこの人!

 

 イッセーは猫耳娘にブーストがかかっているのか猛烈なアピールを無言で放っている。

 

 だがイッセーよ。そんなことをしていたら・・・

 

「・・・赤茶の髪の人」

 

「兵夜がいいのね。残念だったわねイッセー」

 

 こうなるよな。

 

「ちっくしょー! 覚えてろよ宮白!」

 

「今のはお前が悪い」

 

 そんなことをやっていれば、引かれたとしても文句は言えないだろうに。

 

 ま、そんなことになってしまったのなら文句は言えない。

 

 最低限、文句が言われない程度に頑張るとしますか。

 

 それに、ナツミもたぶん・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜、俺は戦闘の興奮が続いたのか眠れなくなっていた。

 

 木場はしっかりと眠っているので少し羨ましい。イッセーはイッセーで眠れなかったみたいで、既に部屋を出ている。

 

 俺も部屋を出ると、外の空気を吸いに別荘から出る。

 

 この別荘は山奥に建っているだけあって、空気がおいしいのが利点の一つだろう。その分来るのに大きな負担があったが、それだけの価値はあると思う。

 

 結構な日数を特訓に費やした。これで、あのライザーと戦うことになっても、強化を組み込むぐらいやればなんとかなるかもしれない

 

 問題は、それをやらかして大丈夫かどうかってことだ。

 

 魔術なんて能力、下手に示せば存在を悪魔たちにばらしかねない。

 

 はたして、そんなことをして俺の身が安全になるのだろうか。

 

「あ~。本当に大丈夫かオイ」

 

 俺の悪魔人生、先行きが不透明すぎる。

 

 そんなことを考えていたら、ナツミの姿を発見した。

 

 屋根の上に乗って空を見上げている。その姿は化け猫なだけあってネコ科の動物を思わせていた。

 

 猫なだけあって夜行性らしい。

 

「よう」

 

「あ、兵夜だ」

 

 俺に気付いたナツミが軽々と屋根から飛び降りて着地する。

 

「それともご主人がいい? ボクはどっちでもいいけど」

 

「そう言うのはいいから」

 

 それは本音だ。

 

 こいつはそのカッコから言って町中でも行動できる。猫耳はやろうと思えばしまえることは既に確認済みだ。

 

 と、なれば変な呼び方は俺の名誉にかかわる。

 

「・・・ま、最低限以上のご主人にはなれるように頑張るよ。よろしくな」

 

「OK! ・・・それでどうしたの?」

 

「眠れないのが一つ。・・・あと、気になることもあるかな」

 

 ちょうどよかった。

 

 二人しかないこの空間なら、効いても問題ないだろう。

 

 一応、使い魔を別荘の方にはなって最低限の監視はする。

 

 これから話すのは、下手をすると俺の問題を悪化させかねない事柄だからだ。

 

「・・・お前さ、俺たちに隠してることあるだろ?」

 

「うぇ!? な、なにが!?」

 

 いきなりわかりやすい。

 

「例えばそうだな・・・」

 

 ちょっといたずら心が刺激されてもったいぶるが、そんな必要は本来ない。

 

「例えば、産まれてから死ぬまでの記憶1セット・・・とかだな」

 

「・・・っ」

 

 図星か。

 

 まあ、予想できて当然だと言えば当然か。

 

 異世界が、俺のいた世界以外にもないだなんて保障は一切ないからな。

 

 おそらく、あのふんどし集団もその手の類が関与している疑いがある。

 

「俺も同類だ。安心しろ、誰にも言わない」

 

「・・・よく、わかんないんだ」

 

 そう、ポツポツとナツミは語りだした。

 

 どうにも、ナツミの前世の記憶は俺のようにはっきりしているわけではないらしい。

 

 その世界は完全なファンタジーのそれっぽいそうで、人々は魔法と密接なかかわりを持っていたという。

 

 そこで魔法を使う存在は魔導士ギルドという組合を作って行動を共にしているそうだ。

 

「ボクが使ってたのは、接収(テイクオーバー)っていう魔法」

 

 なるほど、よくはわからんが、動物の特徴を体に宿すってわけか。

 

「人に言うのは初めてかな。・・・言っていいことなさそうだったし」

 

「言わないでくれて助かる。・・・前世異世界ってのもいろいろとあるんだな」

 

 ・・・この世界ワンダーランドすぎだろ。

 

「ま、安心しろ。俺も自分の身が可愛いからばらしたりはしないし、バラすとするなら俺自身が先だ」

 

 仮にもちゃんとした契約を取り交わした奴をだしにするわけにはいかない。

 

 さすがにかわいそうだし、利用するのも後味悪い。

 

 これが正統派の魔術師なら喜んで利用するのだろうが、さすがにそれは心が痛む。

 

 同病、類憐れむってやつか。

 

「・・・いい人だね」

 

 ナツミはなんか笑顔を見せていた。

 

「よっし! いいご主人に出会えたし、ボクこれからも頑張っちゃうよ! まずはビラ配りから頑張る!!」

 

 なんか気合入ってるな。そんなにいいこと俺言ったか?

 

 ま、元気が出てるならそれに越したことはない。

 

 俺は夜空を見上げて苦笑した。

 

 自分のことだけでも手一杯なのに、余計な手間を自分から増やしてしまった。

 

 我ながら面倒な性分だが、相手が同類なら仕方がない。

 

 そんなことを思った時だ。ふと、耳に聞きなれた声が聞こえてきた。

 

「・・・私はグレモリーなのよ」

 

 判断は一瞬。窓の下に駆け寄り、耳をすませた。

 

「そうですね。部長はリアス・グレモリー先輩です」

 

 この声はイッセーか。

 

 どうやら、イッセーは部長と話しているらしい。

 

 どういう流れだ?

 

「自分の名前を言ったわけじゃないわ。ただ、私はグレモリー家のリアスということがついて回るの」

 

 ・・・なるほどね。

 

 親の七光りには七光りなりの苦労がある。それが七光りではない物を持っていても七光りと同等扱いされてしまうということか。

 

「いやなんですか?」

 

 イッセーの問いに、静かに首を振る気配を感じた。

 

「誇りには感じてるわ。でも、同時に私を縛るものでもある」

 

 そりゃそうだ。

 

 有名って言うのはいいことばかりでもないんだろう。有名税って言葉もあることだしな。

 

「冥界では、誰しも私をグレモリー家のリアスとしてみるわ。だからこそ、悪魔グレモリー家のことを知らない人間界での暮らしは私にとってかけがえのないもの。人間界でだけ、私はただのリアス個人としてみられるのだもの」

 

 普通に暮らしていれば、誰かはその誰かという以外の何物でもない。

 

 それだけの資格を持つ家の人間だからこそ持っている重荷ってやつだ。

 

 俺にわかるだなんてことを言う資格はない。

 

 魔術師も本来長い血筋を持つ家系が尊ばれるが、俺は別に家を継いでいたわけではない。そんな人間に部長の気持ちなんてものはひとかけらだって理解できないだろう。

 

「私はね、私とリアス個人として見てくれる人を一緒になりたいの。それが私の小さな夢」

 

 そりゃそうだ。

 

 誰だって、恋愛っていうのは個人を愛するものだと思う。

 

 旧家とかだと政略結婚っていうのはあるのだろうが、それでは手に入ることはそうはないだろう。

 

「残念だけど、ライザーは私をグレモリーのリアスとして愛してくれるでしょうね。グレモリーとしての誇りは大切なものだけど、それはどうしても嫌なのよ」

 

 なるほどね。

 

 それが、部長がライザーとの結婚を反対する最大の理由か。

 

 こんなもの、どういう風にフォローすればいいのかわからない。

 

 盗み聞きにしておいて正解だった。真正面から話をしているときに聞いていれば、反応に困っていろいろと大変なことになっている。

 

 イッセーも大変だな。こんな面倒な悩みを聞かされたら―

 

「俺は、部長のこと部長として好きですよ」

 

「・・・え? え、え!?」

 

 イッセーのそんな言葉に、隣で同じく聞き耳を立てていたナツミが顔を真っ赤にしていた。

 

「難しいことはわかりません。わかりませんけど、俺にとって部長はリアス部長でしかなくて、そんなリアス部長が俺、大好きです!」

 

 なんだ、心配することなかったか。

 

 イッセーは昔からそう言う奴だ。

 

 魔術とか、前世とか、そう言うのを抜きに、個人を個人として見るのがイッセーだったな。

 

「・・・」

 

 部長がいろいろと困っているのがなんとなくわかる。

 

 真正面からそんな風に答えられたら、いろいろと返答に困るというか、てれ臭いというか、顔が真っ赤になりそうだ。

 

「ライザーとの戦いも任せてください! 俺、今朝のナツミのことで自身がつきました!」

 

 イッセーの言葉はどんどん続く。

 

「俺は木場みたいに剣の才能もないし、小猫ちゃんみたいなバカ力もないし、朱乃さんみたいな魔力の才能もありません」

 

 聞いている限りでは自身がついた男のセリフじゃあないが、イッセーの言葉はまだ続く。

 

「アーシアみたいな癒しの力もないし、宮白みたいにいろいろできるわけでもない。でも、俺はブーステッド・ギアが倍増してくれるまで頑張れば、普通の奴らより結果を出しやすいってわかりました」

 

 そうだな。

 

 あの魔力砲撃は正直度肝を抜かれた。まさかあそこまで破壊力があふれるとは思わなかったぞ。

 

「こんないいもの持ってるのに、ふてくされてなんていられません。俺は最強の兵士(ポーン)になって見せます!」

 

 見てなくても、あいつの表情に力があふれているのがわかる。

 

「・・・ええ。倍増が整うまでは仲間たちがフォローしてくれるわ。あなたは仲間を信じればいいの」

 

 こころなしか、部長の言葉も嬉しそうだ。

 

 下僕が自信にあふれているのが嬉しいのだろう。

 

 なんか、本当にいい人だなリアス部長は。

 

「がんばりましょうイッセー。あなたなら、きっとライザーにも負けないって信じてるわ」

 

 そこまで聞いて、俺は静かにその場を離れた。

 

 これは、俺も負けてられないな。

 

 次の戦い、絶対に勝とうな、イッセー。

 

 

 




・・・新たなるクロスオーバー発生。

細かい説明は次回になりますが、今回のナツミのセリフだけでクロスオーバー先は特定できたと思います。


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レーティングゲーム・始まります!

レーティングゲーム。

 

 悪魔同士が自らの下僕を様々なルールで競い合わせる、悪魔の間の交流試合。

 

 このルールに置いて、圧倒的にその地位を高めた上級悪魔が存在する。

 

 その名をフェニックス。

 

 神話における聖なる獣の名を持つその一族は、聖獣のフェニックスと同じ力を手にしている。

 

 すなわち不死。

 

 すなわち癒しの力を秘めた涙。

 

 そこまで復習して、俺は軽くため息をついた。

 

 ・・・攻略法は見えたが、難易度が抜群に高いのは決して変わらないな。

 

「メシが不味くなった」

 

 晩飯の玉子丼をかき込みながらの情報収集は、実に面倒なことになった。

 

 これは実に面倒だ。

 

 そりゃあ自信を持つわけだ。これで負ける方がどうかしている。

 

 朱乃さんに頼んで悪魔の言語を日本語で調べられる和英辞書もどきを入手した俺は、悪魔業界のネット世界に旅立った。

 

 そこで手にした情報は実に大変。

 

 ライザーの戦績は八勝二敗。それも、負けた相手はどうにもわざと負けたっぽい戦いだった。

 

 だが、何も悪いことだけではない。

 

 知っている者は少ないと思うが、人間社会には何でも賭け事にしてお金を賭けるサイトというものが存在する。

 

 それを知っていた俺は調べてみた。

 

 悪魔にも似たようなものがないかと。

 

 結果はビンゴ。その手の類が存在していることが判明した。

 

 それも、人間社会用の人間の金を使える仕様でだ。

 

 そこで調べてみたのは俺達の戦い。

 

 どうやら噂になっていたようで、参加者は少ないが結構な戦いになっていた。

 

 俺達の倍率は20倍。とりあえず、景気づけに一万円ほど使って俺も一口参加させてもらった

 

 ちなみに、俺の貯金は現時点で120万円ほどある。

 

 勝ったら回転寿司でもおごろう。丁度期間限定でサーモンマリネ寿司なるものが出ていたはずだ。

 

 ・・・ヤバい、本気で食べてみたい。

 

 などと考えている場合ではなかった。

 

 今気にするべきはライザー・フェニックスだ。フェニックス家に連なる上級悪魔の対処法こそ、いま一番考えるべきことじゃないか。

 

 くそ面倒なことに、これを正面から打倒するには二つの方法しかないらしい。

 

 一つは圧倒的な力で一気に押しとおすこと。

 

 これは、行うにはそれこそ神や魔王クラスが必要とのこと。リアス部長も上級悪魔クラスだし、これは俺たちではまず不可能。

 

 もう一つは圧倒的なまでの持久戦だ。

 

 何度も何度も再生しているそばから撃破し、精神が先に限界を迎えるのを待つ。

 

 正面から倒すとするならばこれしかない。ただし、時間と体力を非常に消費する。

 

 無理ゲ―にも程があるな。

 

 おそらく、部長の父親もだからこそレーティングゲームを利用したのだろう。

 

 これならいくらわがままを通そうとしても、何とかなると考えたんだろう。

 

 だがそうはいかない。

 

 俺としてもイッセーをあそこまでこけにされて黙っているわけにはいかないし、一応部長は俺の主だ。

 

 勝ちにいくぜ、絶対にな。

 

「兵夜~、しょうゆとって」

 

「塩分取りすぎだアホ」

 

 一緒に玉子丼を食べていたナツミがすごいこと言ったのでツッコミを入れる。

 

 ナツミは現在、旧校舎で世話になっている。

 

 だが、一応とはいえ俺が主になっている手前、俺は何度かナツミを家に招待していた。

 

 ようやく見つかった転生者仲間だ。俺も、それ相応に優遇した状態で仲良くやっている。

 

 ちなみに、今回のレーティングゲームにこいつは関わらせない方向で行っているため、ついでにこいつはお留守番だ。

 

 魔術的なものにうっかり触って大惨事とかならないように、結構しっかりめに言い聞かせたし、封も頑丈にしておいた。

 

 好奇心、猫を殺すということわざもあるし、そのあたりはしっかり目にしておかないと。

 

「兵夜、今夜らいざーっていうのと戦うんだよね」

 

「まあな。・・・何? 心配してくれんのか?」

 

「当たり前じゃん」

 

 予想以上に真剣な顔で怒られた。

 

「レーティングゲームでも死人が出ることあるらしいでしょ? ・・・せっかくアレのこと話してもいい人ができたのに、いなくなったら怖いよ」

 

 ・・・それもそうだな。

 

 前世の記憶なんてもの、あってもろくなことにはならない。

 

 それはイッセーみたいな殊勝な奴にでも会うことができなければ孤独を生む。魔術や接収(テイクオーバー)のような特殊な力があるならともかく、そうでないならデメリットの方が多いかもしれない。

 

 ナツミは初めて出会えたんだ。同類という、話しても問題がない珍しい存在に。

 

「まあ心配すんな。そんなレアケース滅多にないし、そこまでするような激しい戦いにはならねえだろ」

 

「ホントだよね? ・・・絶対だよ!」

 

 心配性め。

 

 ま、俺としても負ける気はない。それ以上に命を賭けてまで部長に尽くす気があるのかというとそうでもない。

 

 俺が悪魔になったのは俺の意思とはかけ離れている。つまり、部長の意思で自然と悪魔になってしまっただけで、悪魔になって部長に使えたいと考えていたわけではない。

 

 アーシアちゃんの時はイッセーがボコボコにされた借りを返すのと、イッセーの想いを組んだだけだ。

 

 まだそこまで深い関係になったわけでもないし、そこまでする気にはどうしてもなれなかった。

 

 まあ、だからと言って手を抜く気もないんだけどな。

 

「まあ、勝機は見えたしそこを考えるだけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、俺はオカルト研究部部室で待機していた。

 

 既に深夜。たしか0時からレーティングゲームはスタートするとか言っていたな。

 

 既にイッセーを含めた部員たちも、戦闘準備を整えて部室に集まっている。

 

 恰好は駒王学園の制服に、せめてもの防具としてコートを用意したもの。

 

 本来なら専用の戦闘服とか用意されててもおかしくないのだが、部長がその辺はこだわりを持っているようだ。

 

「私達オカルト研究部にコスチュームがあるとしたら、駒王学園の学生服ね」

 

 ・・・やぶれたら修繕代出してくれるといいな。

 

 木場は横に剣を立てかけて待機しているし、小猫ちゃんはオープンフィンガーグローブをつけて準備万端だ。

 

 イッセーも、普通の制服姿だがその格好にはなんらかの自信が伴っている。

 

 アーシアちゃんだけはなぜかシスター服だ。悪魔がシスター服を着るのはどうかと思うが、彼女は元シスターだし、そっちの方が気合が入るとか考えたのだろう。俺から止めるような野暮はしない。

 

 部長や朱乃さんも優雅にお茶をたしなんでいる。

 

 全体的に緊張しているグループとゆったりしているグループに分かれている感じだ。

 

 ちなみに俺は緊張している方。初めてのレーティングゲームだし、仕方ないよね。

 

 とはいえ、冷静にならねば始まらない。

 

 俺は今回の仕込みの確認をしながら気付かれないように深呼吸をしつつ気分を落ち着けた。

 

 腹もだいぶこなれたし、トイレも済ませた。

 

 良し。体調は万全だ。

 

 そんなこんなで開始十分前ぐらいになったら、魔法陣が光りだして、グレイフィアさんが現れた。

 

「皆さん、準備はお済みになりましたか? 開始十分前です」

 

 その言葉に俺達は立ちあがる。

 

 ついに戦いの始まりか。やる気は十分みなぎってきたぜ。

 

「開始時間になりましたら、こちらの魔法陣から戦闘用に作られたフィールドに転送いたします」

 

「戦闘用?」

 

 緊張をごまかすのもかねて、俺は率直に質問してみた。

 

「はい。どんな派手なことをしてもかまわないように作られた、使い捨てのフィールドです」

 

 グレイフィアさんはさらりとすごいことを言う。

 

 そりゃあ、イッセーのあのとんでも砲撃とかが上級悪魔の一撃だ。

 

 下手に地球上でやらかしたら、隠匿とかは間違いなくできないレベルだろうな。

 

 だからと言って使い捨ての異空間を作り出すとは。

 

 恐るべし悪魔の技術。

 

「あの、質問してもいいですか?」

 

 俺が感心していると、イッセーが遠慮がちに手を挙げていた。

 

「部長にはもう一人僧侶がいたはずですよね? その人は参加しないんですか?」

 

 なんだと?

 

 まだ部長には眷属がいたのか。それは初耳だな。

 

 だが、イッセーの質問に部長含めた古参のオカ研メンバーの空気が妙なものに変わった。

 

 なんか重いな。聞いちゃいけないことを聞かれた時のそれみたいだが、その僧侶って問題児とかそんな感じなのか?

 

「残念だけど、もう一人の僧侶は参加できないわ。いずれ、そのことについてあなた達に話しておくべきね」

 

 何やら微妙な展開になってきたな。

 

 深くは効かないがうちの陣営って俺のようにいろいろと深い事情がある奴が多いのだろうか。

 

 そんな俺達の微妙なムードを変えるかのように、グレイフィアさんが割って入ってくる。

 

「今回のレーティングゲームは、両家の皆様も他の場所で戦闘をご覧になられます」

 

 なるほど、部長の父親も様子を見ることになっているのか。

 

 なら仕方がない。せいぜい度肝を抜いてもらうことにしてもらおうか。

 

「さらに、魔王ルシファー様も今回の一戦を拝見なされます。そのことをお忘れなきよう」

 

 とんでもないことを続けてくれたよグレイフィアさん。

 

 なに? 部長の婚約ってそんなにグレード高いのかよ?

 

 いまさらだが潰していいのか不安になってきたな。

 

「そう、お兄さまもこの戦いを見ているのね」

 

 ・・・ん?

 

 今、部長はなんて言った?

 

 お兄さま?

 

「お、俺の危機間違いですか? 今、部長が魔王様のことをお兄さまって言ってたような・・・」

 

 イッセーでかした!

 

 しかし、二人も聞いているということはこれは幻聴ではないということだぞ!

 

「間違いないよ。部長のお兄さまは魔王ルシファーさまさ」

 

 木場が、そんな俺の推測を裏付けてくれた。

 

「いやいやいや! 魔王はルシファーなんだろ? 部長はグレモリーじゃねえか! なに? この世界のルシファーとグレモリーって親族か何かなの!?」

 

 思わず俺は叫んでいた。

 

 そりゃあそうだろう。お兄さんが魔王ってどういうことだよ。

 

「そういえば、兵夜くんたちには教えていませんでしたわね」

 

 朱乃さん?

 

 この意味不明な事態について説明してくださるのですか! お願いします!

 

「かつての三つ巴の戦いで、魔王様は全員戦死なされたのです。そこで、生き残った悪魔たちはその中から新たなる魔王を選出なされたのですわ」

 

 なるほど、今やルシファーの名は一種の称号なわけだ。

 

 全く、驚いたじゃないか。

 

「サーゼクス・ルシファー。『紅髪の魔王(べにがみのまおう)』それが最強の魔王にして部長のお兄さまなのです」

 

「だから、部長は家を継がなきゃいけないのか・・・」

 

 朱乃さんの言葉にイッセーが感慨深げに唸る。

 

 まさか魔王の妹が俺らの主とはな。

 

「そろそろ時間です。魔法陣の方へ向ってください」

 

 かなり時間をくったのか、グレイフィアさんがそう促した。

 

 さて、レーティングゲームのスタートだ。

 



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レーティングゲーム、大変です!?

 

 ・・・あれ? 風景が部室のままだ。

 

 目を開けた俺はそう思った。

 

 グレイフィアさんの姿がない以外は、さっきまでの部室と全く変わりがない。

 

 イッセーやアーシアちゃんもきょろきょろと周りを見渡している。

 

 おいおいおいおい。まさかそんなことはないと思うけど、変なトラブルでも発生したか?

 

『皆様、このたびグレモリー家とフェニックス家のレーティングゲームの審判(アービター)役をになうことと成りました、グレモリー家使用人のグレイフィアでございます』

 

 なぜか校内放送でグレイフィアさんの声が聞こえてきた。

 

 なんで、学校の校内放送をグレイフィアさんが使用しているんだ? いや、そもそも旧校舎って校内放送届いたっけ?

 

 まさかと思い、部室の壁に手を置いて解析を開始する。

 

解析開始(ブーストオン)

 

 ・・・おかしい、校舎に置いてあった俺の荷物が一部なくなっている。

 

 そういえば、戦闘フィールドは使い捨てと言ってたな。

 

 使い捨てということは、一回一回別の形のフィールドを用意することができるということ。

 

 ま、まさか・・・

 

『我が主であるサーゼクス・ルシファーの名の下、ご両家の戦いを見守らせていただきますので、どうぞよろしくお願いします』

 

 再び放送が聞こえてくるが、よく聞いてみると校内放送とは聞こえ方がなんか違う。

 

 そっと窓の方に視線を向ければ、何やら外が明るくなってるし間違いない。

 

『つきましては、今回のバトルフィールドは両家代表のご意見を参考にしまして、リアスさまが通う人間界の学び舎、駒王学園のレプリカをご用意いたしました』

 

 学校一つ作りやがった!

 

 本当に恐るべし悪魔の技術。ちょっと人間界に分けたらどうだよ!!

 

 空を見てみれば、それは夜空ではなく幻想的な光景が広がっている。

 

 逆に部屋を見てみれば、校舎の壁には古い傷がある。

 

 完全な再現と幻想的な光景が合わさって、なんだか不気味な感じがしてきた。

 

『両陣営、転移されたところが本陣でございます。リアスさまの本陣は旧校舎のオカルト研究部の部室。対するライザーさまの本陣は新校舎の生徒会室。兵士の方はプロモーションする際、相手の本陣の周囲まで赴いてください』

 

 これは面倒なことになった。

 

 周囲というのがどれくらい離れているのかがよくわからない。最悪、生徒会室の手前まで行かないとプロモーションはできないと考えた方がよさそうだ。

 

 あえて近づかずに遠距離から光の槍を叩きこむというのは不意打ちとしてはどんな感じだろう。

 

 とはいえ、ライザー側の兵士は8人もいる。プロモーション可能範囲を見極めないと、最悪女王9人がかりでの一斉攻撃とかがありそうで怖い。

 

「皆さん、この通信機を耳に付けてください」

 

 朱乃さんが持ってきたのは、イヤホンの形をした通信機器だ。

 

 なるほど、これを使って情報を伝え合うということだな?

 

 まさか全員でひと塊りになって行動するわけでもないだろうし、これは重要だ。

 

『開始のお時間と成りました。このゲームの制限時間は人間界の夜明けまでとなっております。それでは、ゲームスタートです』

 

 グレイフィアさんが占めると同時に、学校のチャイムが鳴り響いた。

 

 どうやらこれが開始の合図のようだ。変なところでこだわっているなレーティングゲーム。

 

 そして、これこそがレーティングゲームの始まりだった。

 

 さて、頑張るとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「部長、やはり最初に倒すのはライザーの兵士でしょうか?」

 

 俺は持ってきた棒やスタンガンを確認しながら、部長に質問した。

 

 試合が始まった以上、すぐにでも動かないと不味い気がする。

 

 が、部長は優雅にソファに腰をおろしながら答えてきた。

 

「ええ。八人全員が女王になったら厄介だもの。・・・朱乃、お茶の用意を」

 

 アンタさっきまで飲んでたでしょうが!

 

 朱乃さんも優雅にお茶の準備を始めてるし! 緊張感ってもんが足りないですよちょっと!

 

「お、落ち着いてますね部長・・・」

 

 イッセーも面喰らってる。

 

「レーティングゲームは長時間かけて行うものだもの。始まったばかりであわててもしょうがないでしょう?」

 

 そんなものなのか。

 

 俺はもっと緊迫した雰囲気で迅速に行動するものだとばっかり思ってたよ。

 

 木場もなれた様子で地図を広げてきた。

 

 学校の見取り図か。確かに、学校で戦う作戦を立てるというのに、学校の見取り図がないんじゃ面倒でしかないな。

 

 うん、この感じで言うと旧校舎から周囲の森までがこっちのスペースだな。ライザーの方は新校舎全体が陣地と考えるべきだろう。

 

 そして新校舎からは校庭が丸見えだ。と、なると校庭から移動するのは基本的に囮でもない限りダメだろう。

 

 と、なると普通に考えれば裏の運動場だが、そんなものは向こうだって考えているだろうし・・・

 

「部長、ある程度の人数を運動場に向けて移動し、相手の注意を引いたところで本命を校庭から向かわせるというのはどうですか?」

 

「発想はいいけど、ライザーの方が人数が多い以上、もうひと手間かけないと防がれる可能性は大きいわね」

 

 なるほどダメか。かといって部隊を符立て以上に分けるのは数の差から言って愚策だしな。

 

「それでは部長、旧校舎よりの体育館を確保するのはどうでしょうか? 新校舎までのルートも確保できますし、相手の牽制にもなります」

 

 なるほど、確かに牽制は大事だな。さすがだ木場。

 

 部長もその意見に賛成なのか、頷きを返した。

 

「となれば、敵がどう出てくるかが重要ね。室内だし、機動力の騎士より攻撃力の戦車を用いてくる方が確実かしら」

 

 作戦会議って感じがどんどんしてきた。

 

 これはこの作戦で決まりか?

 

 ちなみに、イッセーとアーシアちゃんは完全についていけなくなっていた。

 

 まあ、戦術とかそういった知識をこの二人に求めるのは間違っているし、ここは素直に待機してもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とは言ったが、まさかイッセーが膝枕してもらえることになるとは思わなかったぞ。

 

 イッセーの奴号泣しているし、相当嬉しいことになっているのは間違いないな。

 

 松田、元浜。お前が知らない間に、イッセーはどんどん新たなる領域へと前進して行ってるぞ。お前が大丈夫かよ。

 

 色情狂三人衆のパワーバランスが大きく変動して言ってるな。

 

 ちなみに相手はリアス部長だ。

 

 部長、イッセーに対するスキンシップがかなりすごいな。情愛が深いとか言っていたが、それにしてもスケベに対して寛容すぎるんじゃないだろうか?

 

 ちなみに、小猫ちゃんや木場は森にトラップを仕掛けに行っている。

 

 俺も手伝いたいが、悪魔式トラップなんて知らないので仕方がない。

 

 アーシアは泣きそうになっている。してあげたかったんだろうな。

 

「このゲームが終わったらしてやったらどうだ? イッセーはたぶん断らないだろうし、アーシアちゃんなら喜ぶだろ」

 

「そ、そうですね。・・・いえ、こんな嫉妬深い私がそんなことしていいわけが! ああ―」

 

「神様にお祈りはすんな」

 

「あう」

 

 危ないところだった。

 

 アーシアちゃんは昔の癖が一切抜けてないのか、未だに神様にお祈りしてはダメージにもだえるということが多い。

 

 別に悪魔だからって、神信仰してはいけないなんてことはないと思うのだが、その辺神様は厳しいらしい。

 

 まあ、神話やらをひも解いてみていれば、神様ってのは意外と非情というかバッサリ行くところはバッサリ行ってるからな。

 

 現実は非情だ。

 

 ちなみに、これはイッセーの強すぎる潜在能力をそのままにしておくとイッセーのためにならないと判断した部長が施しておいた封印を解くためのものらしい。

 

 それならそれで膝枕の必要はないと思うのだが、部長はイッセーに甘い気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし!」

 

 旧校舎の玄関で、イッセーが気合を入れる。

 

 それを見ている俺の横には小猫ちゃん。今回の戦闘に置いて、俺達のフォロー役だ。

 

「体育館は十中八九戦闘になるんですよね。敵はどれぐらい来るかわかりますか?」

 

「戦車はほぼ確実ね。あとは兵士が数名といったぐらいじゃないかしら」

 

 最終確認のノリで、俺と部長は話しあう。

 

 目的地は作戦会議でも出てきた体育館。そここそが今回の戦いの肝だ。

 

「それでは、僕も動きます」

 

 別動班として行動する木場が動く。

 

 単独での行動は心配だが、ここはアイツを信じるしかない。

 

「例の指示通りにお願いするわね、祐斗」

 

「了解です」

 

「アーシアちゃんは部長と一緒にお留守番な。俺達からの合図があるまで動いちゃだめだぞ。お前の回復能力はライザーの再生能力に次ぐ。間違いなく俺達の切り札だからな」

 

「は、はい!」

 

 俺の言葉にアーシアちゃんがうなづく。

 

 本当に、彼女の回復能力こそが切り札だ。

 

 正攻法でライザーを撃破するためには、ライザーが限界を迎えるまでダメージを与え続ける必要がある。

 

 それをするには、ライザーからのダメージを何とかする必要がある。

 

 となれば、この子の存在が切り札だ。

 

「朱乃、ころ合いを見計らったら・・・お願いね」

 

「はい、部長」

 

 頼もしい笑顔を見せてくれる朱乃さん。

 

 今回の作戦には彼女の力が必要不可欠。この作戦のもう一つの肝だ。

 

 そんな皆の様子をみて、部長は一歩前に出た。

 

「さあ、私の可愛い下僕たち。準備はいいわね? 敵は不死身のフェニックス家の中でも有望視されている才児ライザー・フェニックスよ。さあ、消し飛ばしてあげましょう!」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

 一斉に返事をし、俺たちはかけだした。

 

「イッセーさん! 皆さん! 頑張ってください!!」

 

 アーシアちゃんの声が背中に届く。かわい子ちゃんからの声援なんて元気のもとだ。

 

 みんなそろって後ろ手に腕をあげてそれに応える。

 

 体育館に向かう途中、別動班の木場が俺達から離れる。

 

「じゃあ、先に待ってるよ」

 

「OK! 顔だけじゃないところを見せてやりな!」

 

 別れのあいさつを交わし、俺たちは体育館へと侵入する。

 

 念のための警戒はするが、どうせ侵入はばれてるだろう。

 

 無駄に再現度の高い体育館の演壇に近づくと、予想通り声が響いた。

 

「出てきなさい、グレモリーの下僕さんたち! あなたたちが入ってくるのは、ちゃんと見ていたんだから」

 

「まあ、そりゃあそうだよなぁ」

 

 納得しながら堂々と壇上に立つ。イッセーと小猫ちゃんもそれに続いた。

 

 チャイナドレスを着た戦車と、棍をもったロリ兵士、体操服をきたロリな双子も兵士だったはずだ。

 

 しかしジャンルが豊富な女性陣だ。ライザーのスケベ根性というかコレクター精神には脱帽する。

 

「ブーステッド・ギア、スタンバイ!!」

 

『Boost!』

 

 イッセーが倍化をスタートさせる。俺も棒を取り出すと軽く振り回して構えた。

 

「イッセー先輩と兵夜先輩は兵士をお願いします。私は戦車を。最悪、逃げ回るだけでもかまいません」

 

「連れないこと言うなよ小猫ちゃん。俺はそんなヤワじゃないぜ? あ、俺二人うけもつわイッセー」

 

「俺だって必殺技があるから大丈夫! 倍化が終わるまで頼んだぜ」

 

 小猫ちゃんの言葉に、俺とイッセーは強気の言葉を返す。

 

 特にイッセーの自信がパないな。あの野菜の皮むきのどこにそんな自信を生み出す余裕と、必殺技となる余地があったのか本気で聞きたい。

 

 小猫ちゃんとチャイナドレスの戦車が互いに構えあい、イッセーは棍をもった兵士と向かい合う。

 

 俺の相手はロリ双子。さて、何を使ってくるのやら―

 

「「ふふ~ん」」

 

 ―あれ、あれは―

 

「―ちぇーんそ~?」

 

「正解でーす!」

 

「解体しまーす!」

 

 俺の言葉に無邪気で素敵な笑顔を返し、双子はチェーンソーを振り上げた。

 

 危険な駆動音をなり響かせながら、チェーンソーに火が入った。

 

「なんつーもん得物にしてんだグロフェチコンビ! 心が病みすぎだぞ!!」

 

「ひどーい!」

 

「病気じゃないもん!」

 

 いや、病気以外の何物でもない!

 

 俺は凶悪極まりない凶器をあわててかわすと、そのまま全力で後ろ走りを慣行する!

 

 一方小猫ちゃんと敵戦車の戦いは白熱している! 俺もあんな感じでバトルがしたい。

 

「おっと!」

 

「当たらない!?」

 

 イッセーもイッセーで上手く相手の棍をかわしている。

 

 二人が羨ましい!

 

「ばらばら~!」

 

「バラバラバラ!」

 

 双子ならではのコンビネーションでせまりくるチェーンソーを、俺は全身をひねってかわすが、それだけでは足りない。

 

 だったら・・・っ!

 

「・・・硬度強化(ブーストアップ)(ボソリ」

 

 棒を投げ捨てると同時に、俺は二本の武器を取り出して強化する。

 

 取り出したのは短めの鉄の棒で、L字型の出っ張りがついている。

 

 これは十手というもので、刀をからめ捕ったりする武器だ。

 

 上手く出っ張りにチェーンソーがはまり、派手に火花が散りながらも、何とか止めることに成功する。

 

「残念だったなロリータコンビ!!」

 

「むかつく~!」

 

「なんでバラバラになってくれないの~!」

 

 双子は実に怒り心頭だったが、だからと言ってバラバラになってやるほど俺はバカじゃない。

 

『Boost!』

 

「よし来た! 持ちこたえてくれてありがとよ宮白!!」

 

『Explosion!!』

 

 そしてイッセーがついに動く!

 

 目の前のロリッ子を突き飛ばすと、すごい速さでこっちに突っ込む。

 

 双子はそれに気づくが・・・遅い!

 

「よっ・・・はっ!」

 

「くっ!」

 

 イッセーの軽快な攻撃が入るのと同時、小猫ちゃんのほうも一撃を敵に叩きこむ。

 

 よっしゃ! これなら優勢か!

 

 そしてイッセーはなぜかポーズをとる。

 

 まさか、今から出るのかあいつのいう必殺技が―

 

「喰らえ、俺の新たなる力!『洋服崩壊(ドレス・ブレイク)』!!」

 

 イッセーは指を鳴らし―

 

「「「いやぁぁぁぁあああああああああああっ!!」」」

 

 兵士三人の服が細切れになって飛んで行った。

 

 ああ、下着までの粉々だよ。

 

 あわてて首をひねったから、筋が少し痛い。

 

 今ならそれどころじゃないだろうかこっそり治癒魔術を使って回復するが、これは酷い。

 

「どうだ見たか! 俺の持つ魔力の才能を、野菜の皮むきを気が遠くなるほど繰り返すことで、俺は女性の衣服を問答無用で細切れにすることに費やしたのだ!!」

 

 ものすごい勝ち誇った表情でイッセーは語る。

 

 それは苦難の日々を語るかのように遠い目をしていた。

 

「延々と、延々と脳内で女の子を裸にするイメージをし続けてきた。ありがとうアーシア、俺の練習に付き合ってくれて」

 

 何考えてるのアーシアちゃん!

 

 アーシアちゃん、イッセーに対する奉仕精神がすさまじすぎるぞ!

 

「サイテー!」

 

「けだもの!」

 

「女の敵!」

 

 兵士たちの非難の声をBGMに俺は速やかに行動を開始した。

 

 壇上まで駆け上がると、ナイフを取り出して跳躍。

 

 あの分厚いカーテンをつかむと、翼を出してした方面に力を込めて、無理やり引きはがす。

 

 そのあと分厚いナイフを取り出し、ちょうどいい大きさの布に切り分けて―

 

「ほらよ! そこのヌーディストガールども!!」

 

 被害者たちに投げつけた。

 

「あ! なんてことするんだ宮白! まだ脳内フォルダに保存してないのに!」

 

「お前後で説教だ色情ど阿呆」

 

「・・・見損ないました」

 

 嘆くイッセーに冷徹な言葉を返す俺と小猫ちゃん。

 

 いや、確かに使える技だとは思うぞ?

 

 いきなり素っ裸にされれば、普通混乱するし動きも止まる。

 

 でもない。これはない。

 

 コレ攻撃しなきゃならない俺の身にもなってくれよ。どうするんだよコレ。

 

『三人とも! 朱乃の準備が整ったわ!!』

 

 そこに丁度いいタイミングで部長からの指示が届く。

 

 俺は速やかに武装を回収してしまうと、先にかけだしたイッセーと小猫ちゃんをあわてて追いかける。

 

「逃げる気!? ここは重要拠点なのに!!」

 

 その通り、ここは間違いなく重要拠点だ。

 

 だからこそ、この作戦は効果を発揮するはずなんだよ!

 

 俺たちが体育館の外に出るとほぼ同時に強い閃光がきらめき―

 

撃破(テイク)

 

 朱乃さんの言葉と同時に、強力な雷が体育館を吹き飛ばす!

 

『ライザー・フェニックスさまの兵士三名、戦車一名、戦闘不能!』

 

 期待通りの結果が、グレイフィアさんの言葉で聞こえてくる。

 

 そう、俺たちは重要拠点をあえて囮にすることで、強力な朱乃さんの雷で一網打尽にする作戦をとったのだ!

 

 数の不利を覆すには、地道に減らすか一気に減らすしかない。

 

 俺たちが選んだのは後者だというわけだ。

 

 何でも、朱乃さんは『雷の巫女』とよばれ、知る人ぞ知る存在らしい。

 

 異名の通りの強大な雷、拝見させてもらいました。

 

「やったね、小猫ちゃん!」

 

「・・・触らないでください」

 

「小猫ちゃん、俺の影に」

 

 功労者のイッセーに冷たくしつつ、俺たちは勝利の余韻に浸る。

 

 だが、それだけではいけない。

 

 なにぶん俺はそれで殺された。

 

 勝って兜の緒を締めろ。

 

 不意打ちに気をつけて行かないと―ッ!?

 

 殺気!? どこから・・・!

 

「小猫ちゃんっ!?」

 

 俺が小猫ちゃんに手を伸ばすのとほぼ同時に、爆発が襲いかかった。



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焼き鳥妹、登場です!

お久しぶりです。

ちょっと進行が滞っておりました。


撃破(テイク)・・・と言いたいところでしたが」

 

「宮白! 小猫ちゃん!?」

 

 聞きなれない女の声に続けるように、イッセーの悲鳴まじりの声が響いてくる。

 

 うるさいな、いわれなくても聞こえてるよ。

 

「そりゃどう・・・も!!」

 

 光の槍を放つが、手ごたえはない。

 

 爆発の煙がはれ、ようやく視界が元に戻った。

 

「痛ぇな畜生。・・・小猫ちゃん、無事か?」

 

「・・・何とか」

 

 俺の隣で小猫ちゃんが立ちあがるが、その体は傷だらけで、しかもふらついている。

 

 仕方ないと言えば仕方ない。

 

 対ライザーを視野に入れていた俺は、コネを使ってある物を調達した。

 

 非常に燃えにくい防火素材だ。

 

 これをコートにすると同時に、魔術的な加工を施して簡易的な対火炎用の、魔術礼装というマジックアイテムに仕立て上げた。

 

 そのおかげで、小猫ちゃんを突き飛ばす形になった俺は軽い打撲程度で済んでいる。

 

「ただでさえメンバー不足の敵チーム。多少の駒を犠牲(サクリファイス)しても、そのすきを突けば十分かと思ったのですが、なかなかできるようですね」

 

「当たり前だ爆発女。こちとら悪魔になった理由『勝ったところを油断して後ろからブスリ』だぞ」

 

 さすがに一度死んだすぐ後に、同じ理由でやられたりはしない。

 

「二人とも大丈夫かよ!? ・・・降りてきやがれ! 俺がぶっ飛ばしてやる!!」

 

 イッセーが怒りに燃えた目で敵の女を睨むが、女は下りてきたりはしない。

 

 こりゃ、イッセーが飛べないのを見抜かれたな。

 

 小猫ちゃんは・・・ダメだ。喧嘩慣れしてるからだいたいわかる。これはかなりダメージを受けてる。

 

 となれば、ここは俺の出番ということだな。

 

「小猫ちゃんはいったん回復。イッセーは木場と合流しろ。・・・こいつの相手は俺がする」

 

 素早く翼を出して宙へと浮かぶ。

 

「宮白飛べんの!?」

 

「・・・早いですね」

 

 空を自由に飛びたかったからな。便利すぎるから頑張って習得した。

 

「はいはい感想は後にして早く行動しな。・・・来いよ爆薬女。俺の光は痛いぞ?」

 

「あらあら。私の役目を奪わないでほしいですわ」

 

 上空から、朱乃さんがドSオーラをまきちらしながら舞い降りてきた。

 

 既に電気がバチバチなっていて、完璧に戦闘状態だ。

 

「イッセーくんの新技も完成したようでよかったですわ。さあ、ここは私に任せて祐斗くんのところに向かいなさい」

 

「いや、さらりと流しましたけどアンタ知ってましたね!? なにセクハラ技に協力してんですか!」

 

 予想はしてたがこの人応援してたよ!?

 

 別荘の時から思ってたが、この人スケベの許容値が高すぎる!!

 

「でも朱乃さん!」

 

 イッセーが俺のツッコミを無視して食い下がる。

 

 よっぽど俺と小猫ちゃんがダメージ受けたことに怒ってるな。

 

 ホント、俺は友達思いのいい親友を持ったぜ。

 

「イッセーくんにはイッセーくんの役目があるでしょう? 大丈夫、二人の借りは私がかえしますわ」

 

 女王対女王。ここは任せるのが得策か。

 

「了解しました。・・・行くぞイッセー!」

 

「お、おう! 頼みました朱乃さん!!」

 

「・・・お願いします」

 

 敵女王の相手は朱乃さんにまかせて、俺たちは一斉にかけだした。

 

 とにかく木場と合流しなきゃな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木場との合流は思いのほかあっさりなうえに、嬉しい誤算があった。

 

『ライザーさまの兵士三名、戦闘不能』

 

 想像以上に良好な報告だ。

 

 これで敵兵士の数は残り二名。俺たちと同じ数になった。

 

 そんなことを考えながら走る俺たちに木場が合流、今はその場で待機している状態だ。

 

「木場、運動場の方は片付いたのか?」

 

 流れからいって敵は運動場を見張っていた連中のはず。だが、木場は静かに首を振った。

 

「いや、何とか見回りの兵士だけは倒したんだけどね。ここを任せられている騎士、戦車、僧侶の三人が動きを見せないんだよ。というより、兵士三人を使って僕の攻撃を見ていたみたいだね」

 

「・・・さっきの女王のセリフといい、ライザーの奴は犠牲(サクリファイス)が戦術の基本かよ」

 

 あっちから数を減らしてくれるなら好都合だが、現実に部下を戦わせる戦いでこれは趣味がいいとはいえないな。

 

 こりゃ激戦だな。小猫ちゃんが回復するのを待っている余裕はないか。

 

「な、騎士に戦車に僧侶が一人ずつかよ」

 

 イッセーがのどを鳴らしてそれにおののく。

 

 確かに、数はともかく駒価値からいえばさっきより上だからな。

 

「緊張しているのかい?」

 

 木場、言ってやるな。

 

「あ、当たり前だ! 戦闘経験のあるお前と違って、俺たちはド素人だ。それでいきなり本番なんて、緊張するに決まってるだろ」

 

 まあ、超強力な力を持っているにしても、戦闘なんて最初は緊張するはずだ。

 

「ほら」

 

 そんなイッセーに木場が自分の手を見せる。

 

 ・・・その手は少し震えていた。

 

「イッセーくんの言うとおり、たしかに僕は戦闘経験は豊富だよ。でも、レーティングゲームの経験はない」

 

「そういうもんか」

 

 よくわからないが、これはそういうたぐいなんだろう。

 

 俺はまだまだ悪魔歴が短いからよくわからないが、悪魔歴の長い木場にとって、このレーティングゲームは実戦以上に意味があるのか。

 

「ま、それならそれで気が楽だ。・・・コンビネーションとまでは言わないが、お互いやるだけやらないとな」

 

 いい感じなので俺が締めてみる。

 

 とはいえ、このレベルだと本気でいかないとマジでヤバいな。

 

 などと考えていると、野球部のグラウンドの方からすんだ声が響いた。

 

「こそこそと腹の探り合いをするのはもう飽きた! 私はライザーさまに仕える騎士、カーラマイン! リアス・グレモリーの騎士よ、貴様に騎士としての誇りがあるなら、いざ尋常に剣を交えようではないか!」

 

 ライザーの眷属が剣を抜きはなって堂々と立っている。

 

 ・・・ここで影から狙い撃とうとか考えた俺は、少し正々堂々とした戦いを学んだ方がいいのかもしれない。

 

「どうするよ?」

 

「名乗られてしまったしね。騎士としては隠れているわけにもいかないよ」

 

 そう言い残し、木場は堂々とその姿を見せる。

 

「あのバカ。カッコイイじゃないか」

 

 イッセーもその後に続く。

 

 こりゃ仕方ない。俺も出るとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕は、リアス・グレモリーの騎士、木場祐斗」

 

「俺は兵士の兵藤一誠だ!」

 

「同じく兵士の宮白兵夜だ。まともな判断でもないだろうが、とりあえずよろしく」

 

 女騎士は俺達の名乗りに、満足そうな表情を見せた。

 

「確かにその通りだな。私も、まさか本当に出てくるバカがいるとは思わなかった」

 

 だったらするなよ。まあ、俺達囮だから仕方ないけど

 

「だが、私はお前たちのようなバカが大好きだ。さて、やるか」

 

「騎士同士の戦いか、俺達観戦した方がいいか?」

 

「そうだね。僕も尋常じゃない斬り合いを演じたいものだよ」

 

 俺の言葉に嬉しそうにしながら、木場は剣を抜いて前に出る。

 

「よく言った! グレモリーの騎士よ!!」

 

 相手の騎士の言葉がきっかけとなり、すごい速さで切り合いが始まる。

 

 剣と剣が火花を散らしてぶつかり合う。目で追うのも一苦労だ!

 

 早すぎて一瞬消えているような錯覚すら見える。木場の本気がここまでとはな。

 

「え、エールでも送るべきか?」

 

 イッセー、それはちょっと恥ずかしいと思う。

 

「ヒマなら、私の相手をしてもらおうか?」

 

 後ろから声がかかる。

 

 振り返った先には仮面をつけた女性と、ドレスを着た少女の姿が。

 

 流れからいってこいつらが戦車と僧侶か!

 

「まったく、カーラマインったら兵士をサクリファイスする時も渋い顔をしてましたし、困ったものですわ」

 

 ドレスの子はなんか文句がタラタラらしい。

 

「せっかく可愛い子を見つけたと思ったのにそちらも剣バカ。泥臭くてたまりませんわ」

 

 なかなか余裕だなオイ。

 

「イッセー、やるぞ」

 

「おう! ブーステッド・ギア!!」

 

 素早く神器を展開すると、相手の戦車も拳を構える。

 

 あれ? 僧侶は?

 

「私は相手はいたしませんわよ。イザベラ、あなたに任せましたわ」

 

 あれ? バトルは?

 

「もとよりそのつもり。さあ、リアス・グレモリーの兵士よ。手持無沙汰なら戦おうか」

 

「・・・宮白は休んでろ。ここは俺が行く」

 

 イッセーが相手に呼応するかのように前に出る。その目は俺に魔術を使えと言っているかのようだ。

 

 ・・・コートの下の怪我ぐらいは治しておこう。こっそり魔術回路を起動させる。

 

 だが、なぜ戦わないんだ?

 

「アンタもライザーの下僕じゃないのか?」

 

「失礼な。下僕ではなく妹ですわ」

 

 そうか、妹なのか。

 

 ・・・妹?

 

「ああ、知らなかったのか。彼女はレイヴェル・フェニックス。特殊な方法で眷属悪魔となっているが、ライザーさまの実の妹君だ」

 

 律儀にもイザベラとかいったライザーの戦車が、イッセーと戦いながらも教えてくれた。

 

「「いもうとぉ!?」」

 

 ハモってしまったのは仕方ないと思う。

 

「ライザーさまがいうには『妹をハーレムに加えることには世間的にも意義がある。ほら、近親相姦っての? 憧れたり、羨ましがるやつ多いじゃん? まあ、俺は妹萌えじゃないから形だけ眷属悪魔ってことで』だそうだ」

 

 バカがいるぞ!

 

 誰か止めなかったのかあのバカを!

 

 イッセーはたぶんうらやましがるな、アイツ妹いないし! 

 

 俺はいるけどな! でも、そんなこと考えたことは一度たりともないんだけど!?

 

 なんかやる気出てきた。そんなド級バカを夫に迎えるかもしれない部長が本気でかわいそうな気がしてきた! ここは頑張るしかない!

 

「・・・それでいいのか、お前は」

 

「しかたがありませんわ」

 

 いろいろな意味で大波乱だぞ、このレーティングゲーム!!

 



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イッセー、新技発動です!?

 

「では気を取り直して行くぞ、リアス・グレモリーの兵士よ!」 

 

 ライザーの戦車がイッセーを襲うが、イッセーは何とか攻撃をさばく。

 

 上手い! あいつがここまで腕をあげているとは思わなかった!

 

「きみを侮っていたようだな。二段ほどギアをあげさせてもらう!」

 

 とはいえ向こうも動きが早い! これは不味いか!

 

 と、いうよりあの動きはボクシングのフリッカー!? 悪魔業界でもボクシングは流行ってるのか!

 

『三人とも聞こえる?』

 

 このタイミングで通信かよ!

 

「・・・」

 

「構いませんわよ。どうせこの戦いは私達の勝ちですし」

 

 ちょっとむかつく物言いだが、許可をもらったので通信に応じる。

 

 全力で一応距離を取りながら、俺は部長に返答した。

 

「今、木場とイッセーはちょっと出れません。・・・状況は?」

 

『小猫の回復は終わったわ。ただし、体力の消耗も激しかったから少し休ませているわ』

 

 結構モロだったからな。撃破されてないだけマシと考えるべきだろう。

 

『私達もそろそろ移動を開始するわ。あなたたちはそのまま敵を引きつけて頂戴』

 

「了解部長。イッセー達には?」

 

『頑張っているようだしそのままでいいわ。負けちゃダメよ?』

 

 了解了解。

 

 戻って来た時、イッセーはガードを固めて持ちこたえていた。

 

 ・・・なら、俺もそろそろ行きますか。

 

「そろそろ混ざるぜ仮面女!!」

 

 光の槍を投げつけてけん制してから、俺はイッセーをかばうように割って入る。

 

 同時に仕込んでおいた警棒を振り回して牽制するが、これは即座に回避される。

 

 だが、その程度は予想の範囲内だ。

 

 俺はそのまま警棒を手放すと、その回転の勢いを活かして、もう片方の手で警棒を弾き飛ばす。

 

 勢い良く回転しながら飛ぶ警棒に気を取られている隙に、イッセーを引っ張って距離をとった。

 

「とりあえず仕切り直しってことで」

 

「なかなか侮れない兵士たちだな。特に赤龍帝のほうは体力がすさまじい」

 

 だよな。あれだけ特訓すれば体力も嫌というほどつくだろ。

 

「あー、わかるわかる。本気で喧嘩するとかなり体力使うもんな。何分も続けるのってホントに重労働だよなぁ」

 

「その通りだ。避けるだけでも相当に体力と精神を消耗する。ここまでできるほど体づくりをしているとは思わなかったぞ」

 

 後ろでイッセーが震えるのがわかる。

 

 特訓の成果を実感してたとはいえ、ブーステッド・ギアあってのものだと思ってたみたいだしな。

 

 なんだかんだで、鍛えた成果はちゃんと出てるんだぜ?

 

「ありがとよイザベラっての。イッセーの奴、周りがすごいのばっかりだから自信がついてなくって」

 

「それは余計なことをしたようだ。後ろの彼から来る重圧がましたよ」

 

「戦車イザベラ。俺はグレモリー眷属じゃ一番弱くてド素人だ。それでも俺はあんたを倒す!」

 

 よく言った!

 

「ここまでだな」

 

 よく響く騎士の言葉に視線を向ければ、木場の剣が砕かれていた。

 

 おいおい、剣がない騎士とかヤバくないか!

 

「木場!? ・・・そうだコレを―」

 

 あわてて十手を投げ渡そうとするが、木場はそれを手で制するとつぶやく。

 

「凍えよ」

 

 木場の声に続くように、周囲が寒くなりそれは剣の形をとる。

 

炎凍剣(フレイム・デリート)この剣の前には、いかなる炎も消え失せる」

 

 なかなか強力そうな剣だな。あれがあいつの神器か?

 

 木場はそのまま騎士と切り結ぶが、彼女の剣があっというまに凍りついて砕ける。

 

 よし! このチャンスは逃さん。

 

「もらった隙あり!」

 

 光の槍を敵戦車に向かって投げつけてみる。

 

「油断していい相手でも無かったか。なかなか抜け目のない」

 

 かわしながら言われても嬉しくない。

 

 効けばラッキーとか思ってたが、どうやら無駄だったようだ。

 

 内心で舌打ちしていると、今度は炎が巻き起こった。

 

「熱ぃ!? 今度はなんだ!?」

 

「カーラマインめ。味方が近くにいることを忘れているのか!?」

 

「危ねぇ!? なんだよオイ!?」

 

 俺も戦車もイッセーもあわてる中、木場は冷静に剣をつきだす。

 

「止まれ」

 

 木場の剣の形が変わると同時に、旋風が木場の剣へと吸い込まれていく。

 

風凪剣(リプレッション・カーム)、一度の戦闘でここまで出したのは久しぶりだよ」

 

「お前どれだけ神器持ってんだよ」

 

 思わずそんな感想が漏れるが、木場は静かに首を振った。

 

「いや、僕は複数の神器を持っているわけじゃないし、コレ自体は神器でもないよ」

 

 違うの? ・・・あ、わかった。

 

「剣をつくる神器ってことか!」

 

「正解。魔剣創造(ソード・バース)、任意の剣を作り出す能力を持った神器さ」

 

 また強力な代物を以ってやがる。

 

 バリエーションだけで言うなら俺やイッセーの神器を軽く凌駕している。使い手次第じゃ無類の強さを発揮するんじゃないか?

 

 などと考えている余裕があるわけがなかった。

 

「ここね」

 

 新たに四人の女性が現れる。

 

 残りの敵が全員登場。陽動の意味では大成功だが、状況は明らかにこっちが不利だ。

 

 こっちは三人。それも二人はすでに戦闘中だ。

 

 小猫ちゃんはまだ休んでいるだろうし、朱乃さんは敵の女王と一騎打ちの最中だろう。

 

 部長とアーシアは既に行動を始めているだろうし、さてどうなるか。

 

王手(チェックメイト)ですわね。・・・あれ、ご覧になります」

 

 自信満々な声色で、レイヴェルとかいったフェニックスの女が校舎の方を指さす。

 

 そこに視線を向ければ―

 

「ぶ、部長!?」

 

 部長とアーシア!? それに、向かい合うようにしているのはライザーの奴!?

 

「挑発にのってどうするつもりだよ部長は!?」

 

 小猫ちゃんの姿はない。どうやら、まだ休んでいるようだ。

 

 奴相手には集団でたたみかける必要があるというのに、頭に血が上りすぎだろ!?

 

「お兄さまったら、予想以上にリアスさまが善戦するから高揚なさったのかしら。まあ、このまま行っても対峙する前に殲滅されるのが関の山。せめてもの情けかしら」

 

 ものすごい上から目線で勝利宣言するレイヴェル。

 

 ここまで舐められてもさすがに困る。

 

 とはいえ、このままだと数に押されてこっちがジリ貧。どうする・・・ッ

 

「不死身のフェニックス相手に本気で勝とうとでも思っていたのかしらリアスさまは。だとすればさすがにお笑いだわ」

 

 圧倒的数を持っているからか、非常に余裕を見せた態度をとるレイヴェル・フェニックス。

 

「いってくれるじゃないか。まだこっちは一人もやられてないんだぜ?」

 

「紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)、雷の巫女、魔剣創造(ソード・バース)、さらには赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)効いているだけで尻込みしてしまうようなお名前ばかりですわね」

 

 嘘つけ。余裕の表情浮かべてるくせに。

 

「けれど、私達の王は不死鳥(フェニックス)です。どんなに絶対の力を持っていようと相手が不死ではどうしようもありませんわ」

 

「だが、フェニックスにだって弱点はある!」

 

 たまらずイッセーは叫ぶが、レイヴェルは鼻で笑う。

 

「精神がやられるまで倒し続けるつもりかしら? それとも神クラスの力で一撃必殺? まさか本気でこのゲームを勝とうとしているだなんてお笑いね」

 

「なんでだよ!」

 

「だって、このゲームは最初から私達の勝ちが決まっているもの。不死身って、それぐらいあなた方にとって絶望的なのですわよ?」

 

 イッセーの怒声も、レイヴェルはどこ吹く風だ

 

 俺の周りを残りの下僕悪魔が取り囲んでいく。

 

「まあ、どちらにしてもこの数では勝ち目はありませんが。・・・カーラマインとイザベラには悪いけど、あなたを倒したら皆で仲良く倒すとします」

 

 あ、最低限の譲歩を見せるあたりこの子意外といい子だ。

 

 などと言ってる場合じゃない!?

 

 俺集団リンチ確定かよ!

 

 などと考えていたら爆音が響く。

 

 周囲を警戒しつつ視線を僅かに向ければ、部長とライザーがやり合っていた。

 

 状況は見る限りライザーの方が有利。フェニックスの再生能力は服にも効果があるのか完全に無傷だ。

 

 まずいな。このままだと負けるぞ。

 

 と、いうより俺が一番まずい。

 

 とくに残りの騎士が厄介だ。剣がものすごい巨大な大剣だし、あんなの十手で止めれるとは思えない。

 

 しかも一つ投げてるからな。下手するともろともぶった切られかねない。

 

「ここまでか・・・」

 

 魔術を、それも戦闘用に用意した切り札はあるが、それをここで使うのは致命的だ。

 

 よりにもよって魔王が観戦している。ぱっとみ使っているかがわからない強化ならごまかしようもあるが、それ以上のこととなると勘付かれる。

 

 詰んだ。せめて木場かイッセーが勝っているのなら勝算はあったが、今の俺ではこいつらを裁くのは無理だ。

 

 ―その、はずだった。

 

『Dragonn booster second Liberation!!』

 

 閃光と共に、イッセーの籠手が赤く輝き、さらにはその姿を変化させる。

 

 なんだ!? まさかピンチのタイミングで都合よくパワーアップなんて奇跡が起きたって言うのかよ!?

 

 茫然としていたイッセーの表情に笑みが浮かぶ。

 

 そのままイッセーは全身に力を入れ直すと、木場に向かって声を張り上げた。

 

「木場ぁぁぁぁッ! お前の神器を解放しろぉ!!」

 

 木場は戸惑うが、イッセーにかけることにしたのか神器に力を込める。

 

魔剣創造(ソード・バース)ッ!!」

 

 同時にイッセーが動く。

 

 光り輝くブーステッド・ギアを魔剣にあてる。

 

「ブーステッド・ギア第二の力!」

 

 直感的に、俺は地面に手を当てると解析を発動する。

 

 地下に神器の反応。いや、それが急激に増加・・・倍増している!?

 

 まさか、イッセーの神器は自分だけじゃなく―

 

赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)!!」

 

『Transfer!』

 

 ―他人の力すら倍化するのか!!

 

 一瞬で、運動場が魔剣の剣山と化した。

 

 突然のあり方に対応できず、ライザーの眷属は魔剣にその身を貫かれていく。

 

 貫かれたそばから、光に包まれてリタイアしていった。

 

『ライザーさまの兵士二名、騎士二名、戦車一名、僧侶一名、リタイア』

 

 アナウンスが異例の大量撃破を告げてくれる。

 

 ・・・いや待て、一人足りない。

 

 僧侶一名・・・可能性が高いのはレイヴェル・フェニックスか。

 

 そういえば奴もフェニックスなら不死身だ。

 

 倍化を元から強力な味方に与えれるというのは強みだが、そこにあぐらをかいてる余裕はない。

 

「驚いたよイッセーくん。この力は・・・」

 

 木場は運動場に生えた魔剣の群れを見渡して茫然としている。

 

 イッセーも大量撃破に浮かれているし、ここは俺が一言いった方がいいか。

 

「ああ、木場。この籠手で―」

 

「二人ともストップ! まだ一人残って―」

 

『リアスさまの女王一名、リタイア』

 

 ・・・何?

 

「ッ!?」

 

「なっ!?」

 

「マジかよ!?」

 

 突然の事態に俺たち全員が驚愕する。

 

 不味い! 今までの流れはほとんど体育館と同じだ!

 

 となればあの女王は間違いなく―

 

 その瞬間、俺の意識は刈り取られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『リアスさまの騎士一名、リタイア』



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焼き鳥、シメてみます!

 

 携帯電話がうるさく鳴り響く。

 

 マナーモードにしていたはずだが・・・ああ、あれは裏用だったな。表用は学校行ってから変えるのを忘れてた。

 

 しかし全身が痛い。いったい何があった?

 

 確か今日は朝飯はシリアルですませてから学校行って・・・

 

 などと考えながら携帯に出る。

 

「もしもし?」

 

 最近漸く聞き慣れたばっかりの、覚えのある声が響いてきた。

 

『兵夜? なにボケっとしてるの? ・・・おきろーご主人。ボクだよーナツミだよー』

 

「それやめろって痛い痛い痛いって思い出したレーティングゲーム!?」

 

 ナツミの声で一気に覚醒した。

 

 そうだ、今はレーティングゲームに参加していたんだ。

 

 最初陽動として俺とイッセーと小猫ちゃんで行動し、それは成功したが不意打ちで小猫ちゃんが一時離脱。

 

 その木場と合流してから再び混戦。

 

 最終的にイッセーが新たなる力に覚醒して一斉撃破に成功。その後すぐに朱乃さんが撃破されてー

 

 爆破攻撃を喰らったんだな。全身が無茶苦茶痛い。

 

 よく見るとコートがだいぶダメージを受けている。

 

 どうやらモロに食らったらしい。リタイアにこそならなかったが、脳震盪で意識が朦朧としていたようだ。

 

「あー悪い、ちょっとダメージ喰らって混乱してた」

 

『大丈夫!? ・・・っていうかまだ続いてたの? 総力戦だからもう終わったと思った』

 

 どうやら俺やイッセーと同じ勘違いとしてたらいい。

 

「色々と長丁場でな。おかげでこっちも大変だ」

 

『そうなんだ。それじゃああんまり電話してもダメだね。・・・頑張って』

 

 最後に励ましの声を届けてから電話を切る。

 

 痛覚の実感を遮断して、ダメージを正確に把握する。

 

 結構もらったがコートのおかげで戦えないほどじゃない。この状態なら何とかなるか。

 

 念の為、調合していた魔術薬もとっておこう。

 

 コネを使って用意した糖尿病などで使う棒状の注射器で自分に投与。

 

 これで、あと数十分なら全力で暴れられる。

 

 ・・・自分で言うのもなんだがお人好しだな。

 

 そこまでする義理もないだろうに、俺は態々体に大きな負担をかけてまでまだ戦おうとしている。

 

 とりあえずは生徒会室に寄らないとな。女王にプロモーションすれば少しはマシになるだろ。

 

 足を進めようとした俺の前に、金髪がまぶしい少女の姿が見えた。

 

「・・・俺の相手はお前かよ。レイヴェル・フェニックス」

 

「話し相手にならなってあげてもいいですわ」

 

 ・・・どうやら、とことん戦闘に参加する気はないようだ。

 

「激戦の後にしちゃあのミス・ダイナマイトの行動が早いな。回復手段でも持ってるのか?」

 

「ちゃんとルールは守ってますわ。・・・コレ、赤龍帝はご存じ無かったようですけど、あなたはご存じかしら?」

 

 小さな小瓶を取り出すレイヴェル。

 

 ・・・液体? ああ、そういえばフェニックスにはもう一つ力があったな。

 

「そういや涙は癒しの力があるんだったな。・・・それか?」

 

「ええ。フェニックスの涙と言いまして、如何なる傷をも癒すんですのよ」

 

「・・・アーシアちゃんがいるからずるいとは言わないが、流石に使用回数に制限はあるんだろうな」

 

 とんでもアイテムもあったもんだ。

 

「ええ。フェニックスの涙はゲームに参加する悪魔の内二名しか持ちません。私達の場合は私と女王が持っていましたの。高値で取引されているから、フェニックスの財政はとても潤っていますわ」

 

「不死身に治癒。レーティングゲームが始まってから幸運続きで良かったな」

 

 聞いてないよ部長。そういう大事なことはもっと早く言ってくれ。

 

「じゃ、悪いが俺も下僕なんでな」

 

「ちょっと、あなたも私を無視しますの?」

 

「じゃあ上飛んで観戦してな。・・・俺の考えたフェニックス封じ、運が良ければ見れると思うぜ?」

 

 話をしているおかげで少しはましになった。

 

 俺はそのままレイヴェルに背を向けると、校舎に突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・部長が、泣いていた。

 

 まだ負けたわけではない。現にイッセーはまだ立っているし、アーシアちゃんも健在だ。

 

 だが、二人とも状況は著しく悪い

 

 アーシアちゃんは何やら魔法陣らしきものに囚われている。おそらくは回復を警戒したライザー辺りが行動したんだろう。

 

 イッセーにいたってはボロボロだ。

 

 おそらく、アーシアちゃんの回復能力を使用不可能にしてからイッセーを一人で相手してたって事だろう。

 

 敵女王は傍で見守るだけ、舐めてくれるじゃないかライザー・フェニックス。

 

 そんな中で、部長はイッセーを抱きしめていた。

 

 ボロボロのイッセーをだ。

 

 たかが一下僕にここまでできる。そんな人なんだリアス・グレモリーは。

 

 ・・・俺は、運がいいのかもしれない。

 

 あの人は、下僕の為に涙を流す事ができる人だったんだ。

 

「部長・・・」

 

 あの人は、ここまで下僕のことを思える人だったんだ。

 

「バカね・・・」

 

 だったら俺は―

 

「イッセー、お疲―」

 

 やる事は一つだ!

 

 魔術回路を起動させ、展開させるのは投影魔術。

 

 無から有を生み出す魔術で、魔力で物体を作り出す魔術だ。

 

 これだけ言えば便利そうだが、この魔術非常に使い勝手が悪い。

 

 投影で生み出した物は常時魔力を流していないとすぐに消えるし、外側だけ形作ったものだから、機械とかそういったものは完全に張りぼて。

 

 だが、それでも外側さえできていれば問題ないような物は簡単にできる・・・

 

 そう、

 

「部長ストップ!」

 

「キャッ!?」

 

 ・・・ツッコミを入れる為のハリセンとかだ。

 

 スッパァーン!

 

 うん。投影品とは思えないほどいい音が響いた。

 

 あまりの光景に時が止まったと言ってもいい。これは好都合だ。

 

「な、何をするのよ兵夜!?」

 

 涙を止め、部長が抗議の声を上げる。

 

 と言っても部長、アンタってば投了しようとしてましたよね。

 

「まだ俺がいるんですけど部長。・・・かってに全部諦めたりしないでください」

 

「あなたももう限界でしょう!? これ以上戦えばイッセーだって・・・」

 

 確かにそうかもしれませんがね。

 

 とりあえず、イッセーの方を向いて確認する。

 

 うん、意識は無くしかけてるがこれならリタイアはしないらしい。

 

 とりあえず魔術薬を注入しておこう。少し時間が経てば何とかもう少し動く事はできるはずだろ。

 

「・・・なるほどねぇ」

 

 魔法陣はこっそり解析してみたが、これは意外と隙が多いな。

 

 たぶん、やろうと思えば魔術で利用したり解除したりとかは簡単かもしれない。流石に今やると存在がばれるのでやらないけど。

 

 後は、素早く書いたメモと一緒にとっておきを懐に忍ばせる。

 

 さて、後は俺の頑張り次第だ。

 

「いっくら回復が怖いからって、名高い上級悪魔のフェニックス家の才児が、あれははないんじゃないかオイ」

 

 できる限り、余裕とナメた感じを見せろ。

 

 イッセーに注意を向けさせる事だけは何としても阻止だ。

 

 よし、ライザーの敵意が俺の方を向いたぞ。

 

「ほう。じゃあどうする? 俺を倒すか?」

 

「まあな。それぐらいしないと俺達も格好がつかないし? ・・・ここまでボッコボコにしておいて負けましたなんでダサいからなぁ松明野郎」

 

 勝算はある。少なくとも、無理に倒し続けたりするよりかは確実性のある切り札がある。

 

 保険もさっきセットは終えた。・・・今のイッセーなら可能性はある。

 

 その為にはここでは危険だ。なんとしても状況を変えろ。

 

「かかってこいよフェニックス。・・・アンタは俺一人で十分だ」

 

 言うと同時に神器を起動し、俺は校舎から飛び降りる。

 

「下でケリつけようぜ、たき火男!」

 

「上等だ・・・燃やし尽くしてやるよ!」

 

 ライザーは攻撃を喰らってもすぐ再生してこっちに向かってくる。

 

 ・・・これならいけるが、念の為引きつけておかないとな。

 

 ちゃんと起きろよイッセー。お前が最後の切り札だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不死鳥と称えられた我が一族の業火、その身で受けて燃え尽きろ!」

 

 ライザーが洒落にならない熱さの炎を放つが、俺はそれを全力で移動して躱す。

 

 同時に光の槍を投擲するが、直撃した傍から再生された。

 

 だが、ライザーの表情は苦々しいものが浮かんでいる。

 

「プロモーションしたとはいえ兵士の動きじゃないぞ! いったい何をした!」

 

「知るか燃料バード! ・・・俺のポテンシャルが解放されたんじゃねえの!」

 

 種は簡単だ。

 

 体内にある悪魔の駒を強化した。

 

 悪魔の駒には仕様者の能力を強化する力がある。

 

 そして魔術の強化は、魔力によって概念そのものを強化することで効果を発揮する。

 

 なら、強化する力を魔術で強化すればどうなる?

 

 結果がこれだ。

 

 曖昧なモノを曖昧に強化する事ができない強化の魔術では全体的になんとなくパワーアップする事はできなかったが、全体的にパワーアップする女王の特性を強化すればここまで総合力を上昇できる。

 

 とはいえ、あり得ないほどの身体能力強化は俺の体に相応の負担をかけているし、魔力の消費だって尋常じゃない。

 

 長時間の使用は骨だ。一気に決める。

 

 ライザーも同じ事を思ったのか、両手に炎を込めると今までより広範囲に放とうとする。

 

「小賢しい真似をするようだがここまでだ!! ・・・これは躱せまい!!」

 

 確かに、今の俺の速さでは厳しいだろう。

 

 だが、それは俺単体での話だ。

 

 広範囲に炎を放ってくれるなら好都合。

 

 そちらにギャラリーの視線が行っているうちに、こそこそと魔術を使わせてもらう。

 

 隠し持っていたペットボトルのふたを開け、流体操作の魔術を展開する。

 

 魔術師には得意属性というものがあるが、俺の場合は水だ。だからこういう事が使える。

 

 ライザーが炎を展開するのとほぼ同時に、落とした水を流体操作で足元に収束して一気に動かす。

 

 それをカタパルトにし、俺は一気に跳躍した。

 

 直後に炎が運動場一面に広がる。おかげで魔術に使った水も蒸発した! 証拠隠滅完了だ!

 

 直撃はまずいが、そろそろ俺も動くぜ!!

 

 翼を操作しライザーに肉薄、大きく光の槍を振りかぶる!!

 

「なめるな小僧!!」

 

 ライザーはそれを難なく躱すと、片方の腕で俺の右腕、そしてもう片方で首を掴む。

 

 このまましめ落とす気か!

 

天使の鎧(エンジェル・アームズ)は驚異的だが、よくある神器で弱点が分かり易い。・・・発現している部分からしか光は発生できない!!」

 

 なるほど、それは弱点と言えば弱点か。

 

 今まで他の腕でしようと思わなかったから気付かなかった。

 

 だがな? 

 

 あえて()()()()()で攻撃していた事に気づいてたか? 

光に意識を向けさせる囮だって気づいてたか?

 

 俺は懐からあるものを取り出す。

 

 魔術薬を注入するのに使っていたのと同型の注射器。だが、中身は聖水だ。

 

 俺はそれを素早くライザーの腕に突き刺す。同時に魔術を小声で唱えた。

 

聖水強化(ブーストアップ)

 

 ・・・聖なる力、それも魔術で強化したものを体内に入れればどうなる?

 

 注射器を叩きこんでから数秒。変化はすぐに訪れた。

 

 ライザーの全身から、肉が裂けて血煙が立ち上る!

 

 

「~~~~~~~~~~っ!?!!?!?」

 

 声にならない叫びをあげて、ライザーが落ちる。

 

 だが、それだけでは済まさない。っていうか、この程度ならいずれ回復するだろう。

 

 俺はライザーの上に回ると、コートからロープを取り出す。

 

 先端は輪っかになっており、首をひっかけるのにちょうどいいサイズだ。

 

 普通にやってもライザーは倒せないだろう。

 

 神クラスの一撃なんて俺は持ってないし、時間をかけて潰すにしても、アーシアちゃんがやられれば一環の終わりだ。

 

 だが考えても見ろ。

 

 戦闘不能って言うのは、「気絶」だって含まれるだろ?

 

 なら・・・

 

「このまましめ落とせばどうなるかな!!」

 

 ライザーとは別の方向に全力で移動する。

 

 さあ、これで終わりだ!!

 

 だが―

 

「ライザーさま!!」

 

「あ、ヤベ!?」

 

 しまった!

 

 女王のこと忘れてた!?

 

 爆発の力が俺に向かって直進する。

 

 俺は身を捻って直撃を躱すが、その威力に吹き飛ばされると同時にロープを手放してしまう。

 

「ぐ・・・ガハッ!?」

 

 木に叩きつけられた俺の首を、煙を上げた手が締め上げる。

 

「やって・・・くれ・・・たなぁ!?」

 

 血涙すら流したとんでもなくボロボロな姿だが、ライザーは健在だった。

 

 髪はあれ、表情は憔悴し、服はもだえ苦しんだ事でボロボロだったが、それでも奴は健在だった。

 

 これでも持ち堪えるのか、この男は・・・。

 

「恐ろしい真似をしてくれたがここまでだ!? 俺の全力で貴様を燃やし尽くしてやる・・・」

 

 相当ダメージをもらったのか、ライザーは鬼気迫る表情で言い放つ。

 

 ・・・今度こそここまでか。

 

 後はイッセーが回復するかどうかだが・・・。

 

 まったく、俺もヤキが回ったぜ。

 

「後任せた、イッセー」

 

 さっきの一撃以上の火力が集まり、ライザーはそれを―

 

「・・・ぅぉおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

「な・・・ガッ!?」

 

 ―放つ前に、イッセーに殴り飛ばされた!?

 

「無事か、宮白!!」

 

「イッセー!?」

 

 あの短時間でここまで来たのか!?

 

 イッセーの状態もライザー並みにボロボロだ。

 

 だが、そこにライザーのような鬼気迫るものはない。

 

 それどころか、今までにないほどに何かに充ち溢れていた。

 

「お前大丈夫・・・っ!?」

 

 近づいた俺は、違和感を感じてとっさに解析の魔術をかける。

 

 ・・・イッセーの左腕、悪魔のそれじゃないぞ!?

 

「ちょ・・・お前、何やった!?」

 

「説明は後だ! ・・・悪い、お前の残したメモ無視したけど、この方法の方が効果がありそうだ」

 

 ・・・どうやら、ちょっと見ない間にまたパワーアップをしたらしい。

 

 ・・・左腕はその代償か何かか。無茶しすぎだろこいつ。

 

「・・・無茶してんのはお前もだろ。・・・魔術ばれたらどうすんだよ」

 

 うっせえ、悪かったな。

 

 だが、イッセーのその表情は力強く、そんな会話が元気を出してくれた。

 

「俺はライザーをぶっ倒す。・・・宮白、お願いがあるんだ」

 

 なるほどね。

 

 ・・・まあ、俺には丁度いい事か。

 

「気にせず言えよ。いつものことだろ?」

 

「小猫ちゃんと朱乃さんと木場の借り、俺の代わりに返しといてくれ」

 

 了解。お前がケリ付けるまで、俺はとっととお仕事しておくとしますか。

 

「OK親友。・・・勝ってきな」

 

「ああ、任せろ」

 

 さて、これからが最終決戦だ!




今回のサブタイトルはちょっとシメると絞め落とすの二重の意味を込めてみました。

面白かったら幸いです。


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覚醒、赤龍帝!

長らくお待たせいたしました!

いや、ホントお待たせして申し訳ありません。

これからもゆっくりですが続けていこうと思っていますので、見捨てないでくれるとありがたいです


 

 俺は首を鳴らしながら、宙を舞うその女と対峙する。

 

 確かユーベルーナとか言ったな。

 

 朱乃さんと木場を撃破した、実質ライザー陣営で一人だけ撃墜数を稼いだ女。

 

 ・・・相手にとって不足はない。

 

「かかってきなレディ・ダイナマイト。・・・俺は怖いぜ?」

 

「・・・ライザーさまを苦しめた男。塵も残さず吹き飛ばしてあげましょう!!」

 

 女王が爆発攻撃を連発する。

 

 俺は駒を強化して加速すると、その爆発の中を駆け巡った。

 

 数は多い。威力は大きい。

 

 だが、喰らってやるほどお人好しじゃない!

 

「おおおおおおおおお!!」

 

 飛行はしない。

 

 さっきので分かったが、今の俺ではそこまで上手く飛ぶ事はできない。

 

 急加速、急制動、急激な方向転換など、空中では俺にはできそうにない。

 

 なら平面だけとはいえ地上を走った方が高速で移動できる。

 

 敵は爆発を放ち、俺は光を放つ。

 

 だが、そんな攻防をすぐに終わる。

 

「やはり上手くはいきませね。・・・なら全体を爆発で!!」

 

 やっぱりそう来るか!

 

 だが、その対策はとうにできている。

 

 俺は念の為用意してきたもう一つのペットボトルを取り出すと、さっきと同じように飛び上がる。

 

 さっきと同じように炎が一体を包み込む。

 

 ギリギリ爆発の影響を受けないところで、俺は翼で急制動をかける。

 

 やはり空中だと制動がキツイ。完全には勢いを殺せないか!

 

 そして、それは戦闘では致命的な隙になる。

 

 目の前には爆発女。

 

 そして手には強大な魔力。

 

「これで終わりよ!」

 

「・・・耐火能力最大強化(ブーストアップバースト)

 

 判断は一瞬だった。

 

 コートを脱いで前方に向けると、全魔力をそれに込めて火に対する強さを強化する。

 

 同時に爆発が襲いかかる。

 

 衝撃がキツイ! このままだと吹っ飛ばされる。

 

 だがな、

 

『俺の代わりに返しといてくれ』

 

 ・・・あいつにあそこまで言われちゃ、あっさりやられるわけにはいかないんだよ!!

 

「なめんなコラァ!!」

 

 根性!

 

 俺は無理やり爆発の中を突っ切る。

 

 耐えきれずコートが細切れになるが、爆発の中は突っ切った!

 

 同時に俺は光の槍を展開する。

 

 ああ、爆発を潜り抜けたおかげで、色々大事なものが見えてくるぜ!!

 

 ああ、これなら大丈夫だ。今までの借りを今できる最高の方法で返す事ができる!

 

「バカな!?」

 

「これでも喰らいな!!」

 

 俺は光の槍を展開する。

 

 狙いは奴の頭部!

 

 光の槍の先端を掴み、回転をつけて投げつける。

 

 だが、そんな攻撃を奴は下に落ちる事で完全にかわす。

 

「今度はどうかしら! 流石に二度は耐えれないでしょう!!」

 

 ああ、確かにな。

 

 今の俺ではこの爆発には耐えられない。

 

 それほどの火力があるんだ。間違いなく一発でおしまいだろう。

 

 だが、お前はそれを放てないよ。

 

「さあ、おしまい―」

 

「させません」

 

 真後ろからの容赦ない一撃が敵の女王を襲う。

 

 奴は回転しながらこっちに向かって吹っ飛んできた。

 

「・・・今です兵夜先輩」

 

「サンキュー小猫ちゃん!!」

 

 そう、爆発を突っ切った俺は、回復してこちらに向かう小猫ちゃんを発見した。

 

 小猫ちゃんの力を最も有効に使うとするならそれはなにか。

 

 決まってる。思考の外側に置いている間に攻撃させる事だ。

 

「止めだグレネード女!!」

 

「そんな・・・私が!?」

 

 散々こっちを痛めつけてくれた借り、ここで返す。

 

 こんなこともあろうかと鉛を仕込んでいる靴での踵落としが、眉間に叩きこまれる。

 

 俺が反動を殺す頃には、既に相手は光に包まれて消滅していた。

 

『ライザーさまの女王、戦闘不能!』

 

「よっしゃぁ!」

 

「・・・やりました」

 

 後は任せたぜ、イッセー?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体の調子は本気で悪い。

 

 全身が痛いし、はっきり言って気を抜くと意識を失いそうだ。

 

 なんでリタイアしてないのか自分でも不思議だ。宮白の用意した魔術薬には本気で感謝した方がいいだろう。あれ、受験の時に調合してもらったけど反動きつい代わりにすごい効くんだよな。

 

 効くまでの間もあいつは頑張ってくれた。

 

 たった一人で、ライザーの奴を追い込む所まで言ったんだ。

 

 自慢の親友だよ、ホントにな。

 

 だから、後は俺の出番だ。

 

「正直、散々やってくれた礼を返しておかないと行かないんでな。お前は十秒で倒してやるよ」

 

 殴られたところもあっという間に再生させたライザーが嘯く。

 

 俺が頑張って頑張って頑張っても、あいつに傷一つつける事は出来なかった。

 

 だが、今のあいつの体はボロボロだ。

 

 体内に魔術で聖なる力を強化した聖水を注ぎ込む。

 

 コレを止めとかじゃなく仕掛ける為の流れとして使う辺り、俺の親友は本気でえげつない。

 

 アイツ、死力を尽くす気はないとか言っておきながら、なんだかんだで自分なりに攻略法を考えて、しかも自分もボロボロなのに一人で実行に移しやがった。

 

 あいつがいなけりゃ俺はここに立っていない。

 

 そして、こいつと話す事も出来なかった。

 

『そうだな相棒。奴がいなけりゃ、今のお前じゃ俺と話す事ができたかどうか』

 

 赤龍帝ドライグ。

 

 俺のブーステッド・ギアに封じ込められた、二天龍の片割れ。

 

 魔術薬の影響か、俺はこいつと話す事ができた。

 

『しかし奴もお前も面白い奴だ』

 

 そうか? 宮白は良い奴だけど、俺なんてただのスケベだぜ?

 

『前世の記憶なんてものがある奴と、ガキの頃から平然と話すなんてただものじゃないだろう』

 

 そうかい。別に大したことじゃないけどよ。

 

 それ以外は基本的に良い奴だし、今だって、なんだかんだで体張って頑張ってるんだぜ?

 

『ああ、おかげで俺と取引も出来たし、奴には感謝するんだな』

 

 本当にな。

 

 宮白のおかげで切っ掛けがつかめて、宮白が時間を稼いでくれたから話す事ができた。

 

 おかげで、取引だってできた。

 

『一応言っておくぞ。10カウントとは言ったが、今のお前の体力じゃ5カウントが限界だ。それを過ぎても少しは力を残してやるが、フェニックスを打ち倒すほどは出せないと思え』

 

 いちいち言い直さなくても分かってるよ。

 

 俺は左腕を握りしめる。

 

 俺なんかが代償を支払った程度で勝てるのなら・・・

 

 みんなの頑張りがちゃんと形になるなら・・・

 

 そして、宮白が繋げてくれたものが形になるのなら・・・

 

 なにより、部長が助かるなら・・・!

 

「この程度、どうってことねえ!!」

 

 俺は駆け出す!

 

「部長! 5カウントでカタをつけます!!」

 

 俺は部長に向かって叫ぶ!

 

「俺には木場みたいな剣の才能はありません!」

 

 ああ、分かってるさ。

 

「朱乃さんみたいな魔力の才能もないし、小猫ちゃんみたいなバカ力もない」

 

 あの修行で身に染みてる。

 

「アーシアみたいな癒しの力だってない」

 

 俺はブーステッド・ギアが無ければ弱すぎる雑魚だ。

 

「宮白みたいに何でも器用にこなせるわけでもないです」

 

 だけど、それでも!

 

「それでも! 俺は最強の兵士になってみせます!!」

 

 やってみせる!!

 

「あなたの為なら、神様だって倒して見せる!!俺の唯一の武器、ブーステッド・ギアでッ! 俺はあなたを守ってみせます!」

 

 絶対に守ってみせる! あの、笑顔を!!

 

「輝きやがれ、ブーステッド・ギア!! オーバーブーストォオオッ!!」

 

『Welsh Dragon over buuster!!』

 

 ブーステッド・ギアが赤く輝き、そしてそれだけに止まらない。

 

 光は全身を包み込み、俺は真っ赤なオーラに包まれる!

 

『そう。これが俺達の本当の力だ。まあ、無理やりの前借りだから一部だけだが、それでもお前には十分すぎる』

 

 そうだなドライグ。

 

 俺達は、まだまだ遠くに手を伸ばせるんだ!

 

「俺はお前を殴り飛ばすぜ、ライザァアアアッ!!」

 

 赤いオーラは、俺の全身を包む赤い鎧へと変化する!

 

 そう、これが俺の本当の切り札。

 

 ブーステッド・ギアの真の力だ!

 

「赤龍帝の真の力! 禁手(バランス・ブレイカー)赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイル・メイル)!! 俺を止めたいなら魔王様に頼み込みやがれ!!」

 

 なんたって・・・

 

「神や魔王にも匹敵する、忌まわしい力らしいからな!!」



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俺、決意します!

フェニックス編完結!


 

 

 禁手(バランス・ブレイカー)。神器にはそんな切り札が存在してたとはな。

 

 真っ赤なドラゴンを模した鎧に身を包んだイッセーは、先ほどとは比べ物にならないオーラに身を包んでいた。

 

 その光景にライザーが警戒するように後ろに飛ぶ。

 

「良いだろう。手加減なんざ絶対しねえ。そのまま燃え尽きろクソガキィ!!」

 

 ライザーが両手に巨大な炎を生み出す。その出力はさっきとほぼ同等だ!!

 

「ヤバい!? 飛べ小猫ちゃん!!」

 

「・・・了解です!」

 

 俺と小猫ちゃんは同時に飛び上がる。

 

 ・・・校庭が炎に包まれた。

 

 洒落にならない。よく俺はあれを対処できたと褒めてやりたい。

 

 だが、驚くのはこれからだった。

 

 その凶悪な炎を、イッセーは真正面から突っ込んだ!!

 

 普通に考えれば、どう考えても燃え尽きてしまうのが分かり切ってしまうほどの炎。

 

 だが、イッセーはそのまま突き抜ける。

 

「小猫ちゃんが言っていた。打撃は体の中心線を狙って抉り込むように打つって!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 籠手から倍化を意味するであろう音声が何度も何度も放たれ、その左腕はライザーの顔面を思いっきり捉えた。

 

「ガァッ!? ・・・バカな!?」

 

 ライザーの奴は思いっきり吐血をする。その表情は驚愕とかそういうのが陳腐に思えるぐらいの信じられないものを見たかのような表情になっていた。

 

 当然だろう。ダメージを受けているとはいえ再生能力が売りのフェニックスだ。ただ殴られたぐらいならすぐに再生するはずだ。

 

 だが、俺はそれについて推理材料を持っている。

 

 まず、イッセーに渡したのは瓶に入った聖水の塊だ。

 

 注射器に入れるより大量に入れれたので、眼潰しとかそういった感じで使うように用意したものだ。

 

 これを、俺はイッセーにメモ付きで渡していた。

 

 メモの内容はこうだ。

 

『さっきの力を込めてライザーに叩きつけろ』

 

 アレが俺の予想通りの代物だとしたら、高確率で投げつけたとしても効果がある。

 

 魔力を流す必要がある強化よりも遥かに効果的だ。

 

 最悪の場合、それで何倍にも聖なる力を倍化させた状態でぶつけることで、ダメ押しの一撃とするつもりだった。

 

「バカな!? 聖水は悪魔にとって害となる。・・・そんなものをかけて左腕が無事で済むはず―」

 

「木場が言っていた」

 

 驚愕するライザーを無視して、イッセーが突っ込む。

 

 とっさに腕を振り上げるライザーだが、それは手段として愚策だ。

 

「視野を広げて相手と周囲を見ろって!!」

 

 あっさりとその攻撃をかわすと、再び左腕を驚愕するライザーに叩きこむ。

 

 地面に叩きつけられるライザーに追撃が来る。

 

「朱乃さんが言っていた! 魔力は体全体から流れるように集めるって!!」

 

 膨大な魔力を集めた右腕が突き出され、すぐにそれは砲撃となってライザーに放たれる。

 

 校庭に巨大なクレーターを生み出すほどのそれは、さっきの拳ほどじゃないがライザーを痛めつけ、更にその体を衝撃で空中へと跳ね飛ばす!

 

 その背中に回り込み、イッセーの拳が更に跳ね飛ばす!

 

 今までのイッセーでは考えられないほどの力がライザーを吹き飛ばし、そして耐性を整える間も与えずに追撃が叩き込まれる。

 

 ここまでやるかよイッセー! 実は切り札をもう一つ用意していたんだが、これなら必要ないか?

 

「アーシアが言っていた!」

 

 あ、使うのか。

 

 イッセーが更に懐から布に包まれた物体を取り出す。

 

 厚手の布で包まれたそれは、頑張って入手した本物の十字架だ。

 

「聖水と十字架は悪魔の弱点だって!」

 

 十字架を左手で掴むと、消費した聖水を再び降りかける。

 

「それを倍増した状態で叩きこめば、悪魔の体には大ダメージだよな!!」

 

 そのままライザーの顔面を掴むと、全力で地面へと降下し、そのままライザーを叩きつける。

 

 巨大なクレーターと化していた校庭に、新しいクレーターが誕生する。

 

「・・・どうして、イッセー先輩は十字架を平然と持っているんですか」

 

 その様子を見ていた小猫ちゃんが愕然としている。

 

 そりゃそうだろう。悪魔にとって天敵だというのなら、イッセーにとっても天敵だ。

 

 気合で我慢しているだなんてレベルじゃない。

 

「・・・たぶんだけどな。イッセーの左腕、悪魔のそれじゃなくなってる」

 

 俺は答えを教えてやった。

 

 どうせばれるし問題ないだろう。

 

「・・・どういうことです?」

 

「俺もそこまで分からねえよ。赤龍帝の籠手にはドラゴンと取引する力でもあるんじゃねえか?」

 

 そして、その効果は絶大だ。

 

 俺の強化を遥かに上回る倍増の力を込められた聖水と十字架は、ライザーの体を一気に蝕む。

 

「そして宮白が繋げてくれた時間。・・・無駄になんかできねえよなぁ!!」

 

 全身が赤く輝く中、更にイッセーは拳を振り上げる。

 

 その鎧が光と化して消えるが、既に決着はついているようなものだった。

 

 ライザーはボロボロなうえ、精神を大幅に消耗して立っているのもやっとの状態。

 

 ボロボロなのはイッセーも同じだが、奴は逆に気力が充実している。

 

 これでイッセーに負ける要素は見当たらなかった。

 

 ライザー自身も分かっているのか、見ていて哀れなぐらい取り乱している。

 

「ま、待て! お前、この婚約が冥界でどういう意味を持つか分かっているのか!? 悪魔の将来の為に必要な事なんだぞ!? お前みたいな、た、た、ただの下級悪魔がどうこう言っていいようなことじゃ―」

 

「うるせえよ」

 

『Boost!』

 

 ライザーの言葉を遮ってイッセーは左腕に倍化の力を込める。

 

 迷いない目でまっすぐに、ライザーを見返しながら拳を構えた。

 

「俺はバカだから、冥界の事とか本当にさっぱり分からねえ。だが、気絶しかけたあの時、部長がどういう顔をしてたのかだけは分かる」

 

 一歩、また一歩とまっすぐに、力強い足音を響かせながら近づく。

 

「泣いてたんだよ! 部長は!!」

 

 左腕を握り締め、

 

「それだけあれば十分だ! 今回は左腕だ。それで駄目なら右腕、更に駄目なら今度は目を差し出してやる!」

 

 まっすぐにライザーを睨みつけ―

 

「それで部長の涙が止まるなら、俺がお前をぶん殴る理由には十分だァァアアアッ!!!」

 

 真正面から殴り飛ばした!

 

 ライザーは何とか耐えようとしたが、既にあいつにそんな力はない。

 

「こんなことで・・・俺が・・・っ!!」

 

 そのまま、前のめりに倒れると奴は動かなくなった。

 

「お兄さま!!」

 

 そんなライザーを庇うように、レイヴェル・フェニックスがイッセーの前に立ち塞がる。

 

 その目の前に拳を突きつけながら、イッセーは迷いない目で声を張り上げる。

 

「文句があるなら俺のところに来い! いつでも相手になってやる!!」

 

 男の俺から見てもカッコイイ姿だ。

 

 事実、真正面から見たレイヴェルの頬が真っ赤に染まっている。

 

 こういうところを見せればあいつもモテるだろうに、本当にそんな奴だよ、あいつは。

 

「どうだ小猫ちゃん。こういう時のあいつは結構カッコイイだろ?」

 

「普段がダメダメなのが致命的です」

 

 あらら、手厳しいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・赤龍帝を宿すならやってくれるかもしれないとは思っていたが、やはりやってくれたか」

 

「やはり、お前は反対だったかサーゼクス」

 

「申し訳ありません父上。ですが、その分面白いものが見れたのは間違いない」

 

「フェニックス卿も笑って許して、しかし赤龍帝の存在は気にされていたよ」

 

「でしょうな」

 

「対をなす二天龍。その片割れが悪魔となるとは前代未聞だ」

 

「しかもそれが妹の眷属となるとは、本当に驚きました」

 

「敗北を知って息子は成長すると、フェニックス卿は喜んでおられた」

 

「そうですか。結果的に、双方に理がある決着で良かった」

 

「フェニックスと赤龍帝の戦いは本当に見物だったが、伝説の通りならまだまだあんなものではないだろう」

 

「ええ。敗れた場合に備えてグリフォンなども用意していましたが、今の段階でも必要ないと来ている。ですが・・・」

 

「なんだ。他に気になる事でもあるのか?」

 

「ええ、赤龍帝より先にフェニックスにたった一人で立ち向かった兵士です」

 

「彼か。悪魔なら毛嫌いする聖水を躊躇う事なく戦闘に組み込んだ。・・・観戦していた者全てが息を呑んだよ」

 

爆弾王妃(ボムクイーン)がいなければ、彼の段階で決着がついていたかもしれない。いや、私の妹は本当に眷属を見つける才に溢れている」

 

「お前が言う事でもないだろう。だが、それ以上にあの動きは凄かった。プロモーションの影響を受けすぎたのだろうか」

 

「ええ、もしかしたら、アジュカとセラフォルーが言っていた件が影響しているのかもしれませんね」

 

「・・・なんだと? それはどういうことだ?」

 

「まだ、我々と一部の者しか知らぬ事なのですが、あの大戦の影響はこの世界に異物を呼び込んだかもしれないのです」

 

「異物・・・。聖と魔のバランスの崩れは、そんなところまで影響を与えているというのか」

 

「ええ。可能性が議論されていた異世界からの漂着物。彼はその影響を、受けているのかもしれませんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後。

 

 俺達オカルト研究部の内、三人を除いたメンバー+ナツミは、某回転寿司チェーン店にやって来ていた。

 

 本当ならイッセー達も連れてくる予定だったのだが、残念なことにイッセーは未だに気絶している。

 

 あの後イッセーは部長と少しの間会話していたのだが、目を離した隙にイッセーが鼻血を吹き出しながらぶっ倒れていた。

 

『イッセーッッッ!?!??!? 何があった!?』

 

『き、き、き・・・ふぁ、ふぁ、ふぁ・・・ファーストキ・・・ス』

 

『本当に何があった!?』

 

 どうも部長が落ちたらしい。

 

 まあ、あそこまでカッコイイところを見せられたら惚れてしまっても無理はないだろう。

 

「それもそうですわ。何度も何度も倒れながらも立ち上がり、最後には勝ってしまったのですもの。女の部分が刺激されますわ」

 

 それってあなたもイッセーに気があるって言うことで良いですよね?

 

「流石スケベ技の開発に全面協力しただけはありますね。スケベに抵抗がないどころか相当のエロ担当でしょうあなた」

 

「あらあら。これでも私は処女ですので、そこまで言われると傷つきますわ」

 

「それでそこまで!?」

 

 ワサビをしょうゆ皿に出しながら俺は驚く。

 

 イッセーとの一緒の風呂を了承した事と言い、この人経験豊富なお姉さまだとばっかり思ってた。

 

 まさか未経験だったとは・・・。

 

「・・・宮白先輩。注文が来ました」

 

「お、サーモンマリネ寿司到着。さ、食べよ食べよ」

 

 小猫ちゃんの言葉に俺は我に返る。

 

 そう、これこそが俺が楽しみに待っていた大事な食事。

 

 回転寿司の期間限定、サーモンマリネである。

 

 まさに今日が限定期間の最終日。イッセーの復活を待たずにこんな打ち上げもどきを強行したのはこれが理由だ。

 

 イッセーの看病に残った部長とアーシアちゃんには後で持ち帰りで持っていこう。その頃までにイッセーが起きている事も考えて、3と2で割り切れる数にしておかなくては。

 

 うん、美味い。

 

 俺が味わっていると、その視界に心配そうな木場の姿が映る。

 

「でも良かったのかい? 全部宮白くんが奢ってくれるとかいうけど、財布の中身とか足りるのかい?」

 

 その視線が向くのは小猫ちゃん。

 

 ・・・既に皿が積み重なっている。

 

 流石に想定外の食べっぷりだが、それと金の問題は関係ない。

 

「そういえば、魔界の賭け事サイトで今回の試合を賭けたとか言ってましたわね。それで?」

 

「ええ。なんて言ったって20倍ですからね。それに結果オーライな想定外もありまして」

 

「「「結果オーライ?」」」

 

 三人の首が傾く。

 

 ・・・ちょっと言いたくないが、まあいいだろ。

 

「20倍だなんて額なんで、景気づけも兼ねて一万円ほど賭けたつもりだったんですが・・・」

 

 本当に結果オーライだった。

 

 勝てたからこそ笑い話にできるが、これは一歩間違えれば大惨事。

 

「・・・サイトの金額単位がドルで、貯金全部賭けてました」

 

「・・・本当に結果オーライだね。一万ドルってその時いくらぐらい?」

 

「ジャスト120万円」

 

 木場に返答しつつ視線を逸らして、サーモンマリネを口に運ぶ。

 

「ブフッ! ちょ、ダメ・・・アッハハハハッ」

 

 お茶を噴き出しながらナツミが爆笑した。

 

 ああ、笑うがいいさ!

 

 まさか俺もここまで思いっきりやる事になるとは思わなかったよ!!

 

 おかげで俺の全財産は2400万円だ!!

 

 マンションが一部屋買えるぞこれは。

 

 今後は気をつけよう。

 

「・・・不注意のおかげで遠慮しなくて済みます。ゴチになります」

 

 ・・・まだ手加減してたの小猫ちゃん!?

 

 この子の本気が予想できない!?

 

 100円均一の店で良かった!

 

「・・・しっかし、今回は本気で大変だったな」

 

 部長の気持ちも分からなくもないが、流石にこう言ったのは出来れば勘弁してほしい。

 

 部長のお父さんがこれに懲りて、成人するまでの間黙って見ている事を祈るだけだ。

 

「まあまあ。僕らは皆部長に助けられたものなんだし、そんなこと言わないで」

 

 木場がやんわり嗜める。

 

 ん? なんか変な事を聞いたような。

 

「あれ? てっきり俺みたいに死ぬところを助けられるようなケースってレアだと思うんだが、違うのか?」

 

「普通はスカウトしたりするんだけどね」

 

 木場は苦笑したが、どこかその笑顔には影がある。

 

「少なくとも、僕はイッセーくんやアーシアさんと同じように一度死んでいるよ。・・・今の僕という存在は、その半分以上が部長のおかげで出来ているようなものさ」

 

「・・・私も、名前を与えてもらいました」

 

「私も、危うく命を落とすところをリアスに助けられて以来の関係ですわね」

 

 ・・・部長、どんだけ誰かの命の危険に介入してるんだよ。

 

「皆もいろいろと大変なんだねー」

 

 ナツミの言葉が全てを物語っている。

 

 どいつもこいつも不幸な目に遭ってきたって事か。

 

 間がいいのか悪いのか。

 

 思わず茫然としてしまったが、どうやら部長は想像以上にお人好しらしい。

 

「なるほど、それじゃあ仕方がないか」

 

 ああ、これは仕方がない。

 

 どうやら、俺は今回、上司には恵まれているらしい。

 

 傍から聞けば物好きなだけにも思えるが、それだけじゃないだろう。

 

 そんな機会に巻き込まれること自体そうそうないだろうし、何よりもっと恩に着せることができるはずだ。

 

 そして、イッセーに見せたあの涙。

 

「・・・うん」

 

 誰にも聞こえない声で、だけど俺は声に出して決めた。

 

 何時か話してみよう。

 

 何時になるかは分からない。だけど、死ぬまでに必ず一度話そう。

 

 俺の、あまりにも奇想天外すぎる独特な特徴を。

 

 あ、万が一の時はナツミだけは逃がさないとな。

 

 そう決めてから、俺はサーモンマリネ寿司を一口食べた。

 

 うん。

 

 美味い。

 

 

 




これにてフェニックス編は完結です。

これからもゆっくりと、しかし確実に進めていきたいと思いますので、応援と感想よろしくお願いします。


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キャラコメ 第二弾!

 

兵夜「はい、そういうわけでフェニックス編のキャラクターコメンタリーも始まります!」

 

ナツミ「よっろしくねー! ナツミだよっと!」

 

リアス「ナツミは本当に元気いっぱいね。でも、今回のゲストにこの子ほどふさわしい子もいないわね」

 

ナツミ「もっちろん! なんたってボクの初登場だからねっと!」

 

兵夜「まあ、ナツミが出てくるのだいぶ後だが、その間に俺は俺で雑用中だ」

 

リアス「依頼に関しては悪かったわね。それにしても女装が似合う兵夜でダメとか注文が多い依頼人ね」

 

兵夜「まあそこは設定が固まりきってなかったってことで一つ。それに俺と木場ではタイプが違いますから」

 

ナツミ「おんがくせいのちがいってやつ? 大変だね」

 

兵夜「それはあってるのか?」

 

ナツミ「でもその次の方が大変だよね。なんでいきなり夜這いしてんの? ほかになんかなかったの?」

 

リアス「わ、悪かったわね! あの時はほかに方法が思いつかなかったんだから仕方がないでしょ!?」

 

ナツミ「え~? むしろ兵夜の方がこういう時ノリノリでやってくれそうだと思うけど? それに兵夜すっごく上手ていうか・・・すごすぎて壊れるっていうか・・・」

 

リアス「あなた、本当に手馴れてるのね。・・・イッセーに教えるにしてもほかの女を知らせるのはだめよ?」

 

兵夜「二人ともストップ。人が見てる。まあそれはそれとしてグレイフィアさん登場。やはりすごい人だなほんと」

 

ナツミ「インフレ激しい実力者だもんね。今まで出てきたキャラの中じゃぶっちぎりだもん」

 

兵夜「そして続いてライザー登場。ちなみに今まで登場してきたやつの中じゃ二番目ぐらいだ」

 

ナツミ「小物っぽいけどね!」

 

リアス「ナツミ。気持ちはわかるけどもう少し手加減してあげて? 彼も彼で最近はだいぶ成長したんだから」

 

兵夜「おや、おやさしい。あの時はだいぶ辛辣だったでしょうに」

 

リアス「ちゃかさないで。まああの時のライザーは私が言うのもなんだけどまだまだだったもの。あれでも優秀ではあるんだけど」

 

兵夜「まあ言いたいことも少しはわかりますけどね。俺も魔術師に連なるものとして血統を大事にする感情には理解がある」

 

ナツミ「遺伝系の能力だとその辺大変だよね。その辺魔導士は自由度高いからラッキーだよ」

 

リアス「にしてもあなた何気に戦闘能力高いわよね」

 

兵夜「そりゃあ、逮捕術を習得してる警察や、喧嘩上等のやくざ、んでもって時折PMCで指導受けてますから。銃持ったテロリストとの戦闘も考慮してますよ、俺」

 

ナツミ「何と戦う気なのさ兵夜」

 

リアス「まあ、それでも本格的に事を構えるには不安もあるし、それも踏まえて特訓が始まったわけね」

 

ナツミ「・・・兵夜って何でもできすぎない?」

 

リアス「気持ちはわかるわ。この子が本格的に手を貸してから私の仕事が半分ぐらいになったもの。どれだけ万能なのよ」

 

兵夜「そこまで褒めなくても結構ですよ。雑兵の仕事は汎用性が重要ですから。いざ勝負となったら優れた長所を持ってる姫様たちの方がはるかに活躍できます」

 

リアス・ナツミ「ダウト」

 

兵夜「どういう意味!?」

 

リアス「あれだけやっておいて平凡とか言えると思うのかしら?」

 

ナツミ「大物殺しの天才じゃん。むしろイッセーより活躍してるよ」

 

兵夜「なんか納得いかねえ!」

 

ナツミ「あ、そろそろボクが出てくるところだよね!」

 

リアス「それにしてもイッセーは落ち込んでるわね。まあできた親友が隣にいたら気にもなるけど」

 

兵夜「そこまでできる原動力なんだから落ち込まなくても。そもそも仮にも実戦経験がそこそこある連中に一週間足らずで追い抜かれたらそっちの方がひどい話だっつの」

 

リアス「ひどいといえばふんどしもひどいわね。まさかこの時は後半の強敵になるなんて思いもよらなかったわ」

 

兵夜「この段階では四章がまだそこまで出てなかったんでライオンハートへんで出す予定もあったそうです。・・・どっちにしても強敵なんですが」

 

リアス「何をどうしたらそんな強敵が出てくるのよ」

 

兵夜「いや、ケイオスワールドのコンセプトは前にも言いましたけど、一人ぐらい例外がいてもいいんじゃないかって気もしたんで、原作最強格苦戦必須のスーパーエースを一人出す予定だったんですよ。で、このころはまだ参戦作品も固定してなかったんでその中でも強いイメージのある赤松作品のジャック・ラカンを参考にあれだけど超強いキャラを」

 

ナツミ「そんなのに追われる僕の身にもなって!?」

 

リアス「この段階で勘を取り戻されてたらその時点でケイオスワールド終了だったわけね・・・」

 

兵夜「結果的にはそこそこできるとこの段階でイッセーが自覚し始めてくれてよかったんですが。実際このレベルの相手に対応できるだけイッセーの奴はかなり伸びてる」

 

ナツミ「伸びしろあるよねイッセー。さっすが赤龍帝!」

 

リアス「それでナツミの処遇を決めるけど、この段階で気づいてたの、兵夜?」

 

兵夜「それはまあ。一章のラストで勘づいた展開ならその可能性には真っ先に思い至りますよ」

 

ナツミ「まさに運命の出会いだね♪ 兵夜に会えてよかった」

 

兵夜「俺なんぞに惚れても苦労すると思うが、まあ惚れさせてしまったのなら仕方がない。ここは頑張って報いるとするさ」

 

ナツミ「うん、うん・・・っ」

 

リアス「はいはいごちそうさま。まあ、私も私でいろいろあるわけだけど」

 

ナツミ「貴族も大変だよねぇ。・・・俺様は本気でいやだぜ、っていうかリアスも家出でもしろよ?」

 

リアス「サミーマモードでいうこと? ・・・とはいっても、私もグレモリーの名に誇りはあるし・・・」

 

兵夜「権利ってのは義務や責任とセットなものだからな。そういう意味では赤龍帝なんてチートを用意できたあたり幸運ですよねぇ、ひ・め・さ・ま?」

 

リアス「からかわないで」

 

ナツミ「イッセーはふらぐめーかーってやつだよね。これで覗き魔じゃなければ普通に彼女できてたと思う」

 

兵夜「それは同感だ。・・・あいつなんでもててんだろ」

 

リアス「そこまで言わなくてもいいじゃない。かわいいでしょ、覗きぐらい」

 

ナツミ・兵夜「それはない」

 

リアス「そしていつの間にかレーティングゲーム間近だけれど、準備万端すぎじゃないかしら、あなた」

 

ナツミ「対爆コートとかゆーべるーなってひとにガチだよね? やるきまんまんだね?」

 

兵夜「当然。できることならもっと用意したかったんだが、うかつに法律を完全放棄するわけにもいかないからこれが精一杯だ」

 

リアス「十分すぎるわよ」

 

ナツミ「作戦会議とかにも参加できる高校生ってすごいよね?」

 

兵夜「なめないでほしい。これでも俺は軍事的な戦闘訓練だって受けている」

 

リアス「あなたは世界有数の平和国家日本で一体何と戦うつもりなのよ?」

 

兵夜「少なくても日本に他国が侵攻してきても対応できるぐらいには頑張ってます」

 

ナツミ「あほだよね、兵夜って」

 

リアス「まあそれとして、このあたりの流れはあまり変わってないのよね」

 

兵夜「そりゃそうですよ。この辺りは変えづらいですからね。まあ幸い原作では一回負けてから反撃という流れなんで、これをそのまま勝利にするだけでだいぶオリジナリティが出るんですが」

 

ナツミ「対爆コート役立ちすぎだよね。最後の戦いでも活躍したし」

 

リアス「何より一人でライザーとあそこまで戦えるなんて。魔術がすごいというべきかしら」

 

兵夜「いやいや。悪魔の駒があったおかげですよ。それに結構体痛かったですし」

 

ナツミ「兵夜無理しすぎだよ。なんでそんなに無茶するのさ」

 

兵夜「イッセーが気合入れてたから」

 

リアス・ナツミ「・・・納得」

 

リアス「それにしても肝心なところでうっかりしすぎじゃないかしら。これは位置取りさえ間違えなければ倒せてたわよ?」

 

兵夜「そりゃそうですよ。この作品はイッセー大好きな作者が書いてるんですから。イッセーの大事な見せ場っていうか姫様を惚れさせるとどめを奪うつもりはありませんって」

 

ナツミ「うんうん。イッセーいいところ持ってったよね~」

 

リアス「/////」

 

兵夜「まあ、うっかり属性はこういう時役に立つというか。一人でチートにならないのがまさに爆発的ラッキー」

 

ナツミ「すごいよねぇ。普通こういう時一人で倒すはずなのに、原作だとリタイアしていた小猫と連携するなんて」

 

兵夜「ただ主人公だけで無双したって意味ないだろ。連携とってこそ仲間がいる意味があるからな」

 

リアス「一人で何でもできるようなスペックしてるくせにいうじゃない」

 

兵夜「一人で何でもできるのと、一人じゃ何にもできないってのは≒ですよ。神に愛された超人ならできるかもしれませんが、俺ごときにできることはそうはないです」

 

リアス・ナツミ「ダウト」

 

兵夜「なんで!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナツミ「そういえばさ、締め落としってすごいけどそううまくいくの?」

 

兵夜「一応麻酔とか顎揺らして脳震盪とかいろいろ考えたが、悪魔相手にその程度でどうにかなるとも思えなくてな。呼吸器官があるならこれが確実だと」

 

リアス「手段選ばないわね、あなた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リアス「そ、それはそれとして意味深な展開が出てきてるわよね。・・・まさかこの時点でお兄様が兵夜の正体に気づいてるだなんて」

 

兵夜「まあ、十中八九あいつが原因だとは思いますが・・・。あいつこんなところでも目立ってんだなぁ」

 

ナツミ「もちろん次のゲストなんだよね? で、大立ち回りしたボクも続投だよね?」

 

兵夜「悪いナツミ。ゲスト三人は既に決まってるがお前じゃない」

 

ナツミ「ガーン!? そんな、兵夜に並ぶえむぶいぴーのボクが!?」

 

リアス「よしよし。私もゲストじゃないでしょうし、二人で兵夜の悪口でもいって我慢しましょう?」

 

兵夜「何やら面倒なことになってるけど一応飛ばそう。・・・そういうわけで次のキャラコメはインフレスタートにして『俺ら』が集合するエクスカリバー編!」

 

リアス「思えばこの戦いがいろいろと影響与えてるのよねぇ・・・」

 

ナツミ「うんうん。兵夜の戦い方だったり相棒だったりね」

 

兵夜「そういうわけで改めて注目してくれると新たな発見もあるかもな?」

 

三人「本日はありがとうございました」

 



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なかがき 第一弾

兵夜「はいよー。ケイオススクールD×Dも原作第一章がおわってひと段落。つーわけで」

 

ナツミ「あとがきならぬなかがきのスタート! 進行役はボクと兵夜だよー!」

 

兵夜「あ、それとゲストは―」

 

一誠「おっす! 原作主人公のイッセーだ!」

 

ナツミ「いやー、一時はどうなることかと思ったけど、なんとか二巻までは終わったね」

 

一誠「ああ。しかもライザーはレーティングゲームで撃破したし、こりゃ部長ももっと俺のこと見直して・・・グフフ」

 

兵夜「はいはい落ち着け。ま、俺もなんとか撃墜数を稼げてよかったよかった」

 

ナツミ「敵の女王を撃破って、何気に大活躍じゃない?」

 

一誠「半分以上を撃破した木場もだけど、お前ら活躍しすぎだろ。クッソー! 俺ももっと活躍したかった!!」

 

ナツミ「(ボソボソ)一番強いの倒したのって、イッセーなんだよね?」

 

兵夜「(ボソボソ)自己評価低いからなアイツ。まあ気にすんな」

 

ナツミ「ま、おいといて! 今のとこ、オリジナルキャラはボクと兵夜だけだよね?」

 

兵夜「ま、序盤が終わっただけだしな。それでも十分に俺は動けたと思うが?」

 

ナツミ「え? フェニックス編はともかく、ディアボロスは前座をボコっただけでやられちゃってない?」

 

兵夜「・・・俺だって傷つくんだぞ」

 

一誠「ナツミちゃんちょっとストップ! いや、あれがなかったら本当にヤバかったからなあの状況! いやー、宮白がいて助かったなぁ!!」

 

兵夜「まあ、結局アーシアちゃん一度死んでるからあまり意味はないんだがな」

 

一誠「い、いや、ホント助かったんだぜ? 元気出せよ宮白」

 

ナツミ「そんなことより!」

 

一誠「そんな!? 主人公の活躍がそんなこと!?」

 

ナツミ「ボクぜんぜん活躍してないじゃん! アニマルソウルをちょっと見せただけだよ!? 一応ヒロインキャラなんだよねボク!?」

 

一誠「あ、ああ。子供っぽい無邪気なキャラだし、結構キャラはたってると思うんだけど・・・」

 

ナツミ「仮にも熱いバトルが売りの作品設定が生かされてるんだからさ、もっと活躍したいんだよ? うぅ・・・っ」

 

兵夜「ストーリー構成的にタイミングなかったんだから仕方ないだろ? 大丈夫。作者が言ってたけどエクスカリバー編は活躍する予定だそうだから」

 

ナツミ「・・・ホント?」

 

兵夜「本当だ。な、イッセー?」

 

一誠「・・・ってことは、俺はこの作品でも部長の乳首を吸えないってことかよ? そ、そんな・・・」

 

兵夜「今度はお前か!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「気を取り直して! まあ、とりあえず言うべきことはこの作品が生まれる経緯って奴だな」

 

ナツミ「なんでも、D×Dの二次創作がかきたくって、それもクロスオーバーがかきたくなったのが理由なんだよね?」

 

兵夜「ああ。だが、ここでいろいろ考えて問題が発生したわけだ」

 

一誠「問題?」

 

兵夜「冷静に考えてみろ。作品って言うのは世界観が違うとそのすり合わせが非常にめんどくさい。運よく矛盾が無い状況下で対応できたとしても、D×Dは結構その攻撃力などのパワー面が結構ハイスペックだがドラゴン○ールやら神座シリーズやらほどチートじみているわけでもない。・・・デイウォーカー編で超最強クラスがぶつかり合うと世界崩壊があると出たが、想定段階ではまだ出てなかった」

 

ナツミ「あー、その辺書くのってめんどくさそうだね」

 

兵夜「それだけじゃない。作品の主人公っていうのはそれぞれ一本筋が通っている。不用意に原作キャラを入れるとそのあたりがぶつかってどちらかがもう片方の作品に食われる可能性があるわけだ」

 

一誠「それで設定だけ取り入れたってわけか?」

 

兵夜「そういうことだ。異なる作品の技術をもち、それもただ転生者にその力が・・・とか、技や技術だけがそこに・・・ではなく、各種作品の世界に生きていた人間が来ることで独自性を出してみた」

 

ナツミ「主人公とかじゃなくて、全く無関係なのがポイントなんだね」

 

兵夜「ま、そういうことだな」

 

一誠「そういえば、まだ見ぬ部長のお兄さんが気になること言ってたとか聞いたぞ」

 

ナツミ「そこはケイオススクールD×Dのキモって奴だよ? ここじゃ決して言えません!」

 

兵夜「まあ、その辺はおいおい説明されると思うから、それまで続くことを祈ってな」

 

一誠「わかった。・・・そのころには、俺もハーレムできてるかなぁ」

 

ナツミ「そういうこと!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナツミ「さて! 次回からはついにエクスカリバー編!」

 

兵夜「フェニックスを下したオカ研に降りかかるスケール違いの一大事!」

 

ナツミ「ついに姿を現す生徒会!」

 

兵夜「そして駒王町に訪れるエクスカリバーの影!」

 

ナツミ「しかも新キャラが一気に増える予定!」

 

兵夜「増える参戦作品! 作者は書き切れるのか!?」

 

一誠「なに! 宮白にナツミちゃんって頼れる仲間が増えたんだ。俺たちならそんなもん屁でもないぜ!」

 

三人「「「ケイオススクールD×D 月光校庭のエクスカリバー! 近日掲載予定!!」」」



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月光校庭のエクスカリバー
お得意様、出来るかも!?


エクスカリバー編突入!

更新停止した反動か、執筆が進む進む。


 

 山間部で爆発が起きた。

 

 それだけでも大事件で、一般人ならすぐに警察を呼ぶような出来事だろう。

 

 だが、俺達の場合はそうはいかない。

 

 それは、俺達悪魔たちが関わっている内容だからだ。

 

 ただし、だからと言って悪魔に相談も出来ない。

 

 それはそうだろう。

 

 なんて言っても―

 

「な、ナツミちゃんやりすぎ!! そんな強いんならライザーの相手ナツミちゃんがすればよかったじゃん!! なあ宮白」

 

「無理なのはわかってるけどすっげぇ同感!」

 

「そんなことしたら転生しているのばれるじゃん! 責任とってくれるの!?」

 

 異世界からの転生者などという、とんでもない設定持ちの俺たちが起こしたからだ。

 

「俺が悪かった。お前の本気を知らなかった俺が悪かった」

 

 ことの発端は俺こと宮白兵夜にある。

 

 ナツミの力が知りたかったのと、ライザー戦でボロボロにされたことからの反動で鍛えておこうと思っていたことが重なり、唯一事情を知るイッセーと一緒にトレーニングをしようと思い立ったのだ。

 

 他にも仲間たちはいるが、まだ事情を話していないので今回は呼んでない。

 

 で、その前にナツミの本気をまず見ておこうと俺がこう言った。

 

「出せる全力を見せてくれないか?」

 

 結果がこれである。

 

 木々が生い茂る山の斜面にクレーターができていた。

 

 朝から頑張って遠くまで来ていてよかった。出なければ、すぐに気付かれて人が来ている。

 

「人が気になるからちょっとしか力出してないんだけどなぁ」

 

「「これで!?」」

 

 思いっきり抉れてるんだけど!?

 

 格闘打撃だってことを考えれば、赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)にも引けを取らないんじゃないかってぐらいだぞ。

 

 あのふんどし軍団の時も、助けに入る必要はなかったんじゃないか?

 

「・・・ほんのちょっとしかできないから、普段はこれだけどね」

 

 そういうと、ナツミは両足をカンガルーのそれに変化させると飛び蹴りを放つ。

 

起動(スタート)! 水流よ外敵を弾け!!」

 

 あわてて魔術回路を起動させて水を盾にしてそのけりを防ぐ。

 

 ・・・正直、これは防げないと本気で思ったんだが何とか防げた。

 

 俺、こっちに来てから魔術の腕が上がってるのか?

 

 資料とかも全くないから、記憶と試行錯誤を頼りにした暗中模索の状態なのにか?

 

 実戦じゃ強化ぐらいしか使う機会に恵まれなかったからわからないが、もしかしたらそれ以上の強大なものがあるのかもしれない。

 

 機会が来たら試してみるか。

 

「うおりゃぁ! 下品な視線のお返しだよ!」

 

「いつの話だよ!」

 

 ナツミの連続攻撃に追われているイッセーがかわいそうになってきた。

 

 俺も混ざるか。

 

「そらナツミ! 俺もそろそろ本気でいくぜ!」

 

「うわっ! こっちに来た!?」

 

「み、宮白! 俺の敵を討ってくれ・・・ガク」

 

 既にイッセーがダウンしている!?

 

 オイオイオイオイ! ライザーとの戦いで見せたあの根性はどこ行ったんだ!

 

「いや、あの時は頑張れたけど今回ナツミちゃんって・・・ヤバいじゃん」

 

「ライザーも相当だったと思うんだが」

 

「ボク見てないけど、そいつ倒したのイッセーなんだよね? それがこれって情けなくない?」

 

 俺も大概ダメージ与えたのは認めるが、いいとこもってったのはお前だろ!?

 

 前から思うんだが、こいつはちょっと自己評価が低すぎる気がする。

 

 俺が来るまでライザーにくらいついてたのはイッセー自身だろうに、こいつはその辺大したことがないとか本気で考えてるな。

 

 全く。あんな大技出してあんな大見得切ったんだ。少しは偉そうにしてもバチは当たらないと思うけどな。

 

「このヘタレモードどう思うよナツミ?」

 

「ボクは情けないと思うよ兵夜」

 

「お前らすっかり仲いいな!」

 

 イッセーのツッコミが青い空に響く。

 

 仕方ない。人が来ないか確認するのも兼ねて、ちょっと休憩するか。

 

 持ってきたポーチから水を取り出して飲みながら、俺はふと思う。

 

 そういえば、ナツミや俺みたいに異世界からの転生者は他にもいるはずだ。

 

 それが今まで誰にも気づかれていないって本当にあるのか?

 

 まさか上層部では既に存在が気づかれていて、人体実験とかされていたらどうしよう。

 

 それだけはできれば勘弁してほしいのだが、本当にどうしたものか・・・。

 

「そういえばさ」

 

 ナツミがジト目で俺を軽くにらんでいた。

 

「正体ばらしてみるって本気で言ってる? ・・・やだよ、せっかくできた仲間がいなくなるのって」

 

「部長を信じるんだナツミちゃん。あの人がそんなことするわけがない」

 

 イッセーは断言するが、まあナツミの心配も本気でわかる。

 

「部長がOKでも他がどうなるかわからんからな。・・・できればその辺調べてからばらしたいんだが」

 

 調べるということが知っているということとイコールになりそうだからな。

 

 もしアウトだった場合本気でヤバい。

 

「大丈夫だよ宮白。リアス部長はヤバそうだったら黙っててくれると思うぜ? だからあんまり心配すんな」

 

「そんな簡単に割り切れたらよかったんだがな」

 

「いや、能天気すぎだよイッセー」

 

 ナツミの文句ももっともだ。

 

 だが、大丈夫そうだと思ってしまったんだから仕方がない。

 

 ・・・ま、せいぜい安全かどうか確かめてからにするとしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪魔業界は意外と堅実なものだ。

 

 毎日毎日依頼をこなしていかないとやっていけない。

 

 俺も悪魔だ。

 

 つまり、毎日毎日依頼をこなさないといけないということである。

 

 と、言うわけで、俺は今日も悪魔として仕事をしに来ている。

 

 最初のころは他のメンバーの穴を埋めるということが多かったが、最近では俺専用のお客というのも出来ている。

 

 が、リピーターは非常に少ない。

 

 それというのも、俺の仮面優等生―すなわち裏では不良というポテンシャルが最大限に発揮される出来事しかできないからだ。

 

 わかりやすく言うと―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・さあ、これに懲りたらいじめなんてやめて真面目に生きな。・・・報復を行った場合全裸で女子更衣室の中に放り込むぞ。社会的に抹殺だなオイ?」

 

「「「ハイ! すいませんでした!!」」」

 

 不良にいじめられているので助けてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・さて、それじゃあ暗示通りに行動しろよ」

 

「全裸で校長室でブリッジ・・・全裸で校長室でブリッジ・・・」

 

「ありがとうございます! これで転校前に愉快な思い出ができました!」

 

 不良にいじめられているので報復したい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから恐喝だなんてアホなことやめろって言ってるのに・・・ほら、とっとと奪った金返してやれ」

 

「す、すいませ、んでし・・・た」

 

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

 恐喝されたお金を取り戻したい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・とまあ、リピーターができたらそれはそれで問題のあることだらけだからだ。

 

 正直、もう少し平和な出来事はないのだろうかと割と本気で思う。

 

 まあ、そんなわけで今回も似たようなことが起こっており、俺が代理で懲らしめている真っ最中。

 

 不良どもは全員パンツ一丁で正座させている。

 

「つーわけだ。今後同じような真似をしたらお前らがさっきまで全裸で阿波踊りしていた映像を学校中に流すからな。・・・わかったら返事!」

 

「「「は、ハイ! すいませんでした・・・」」」

 

 正直報復が心配だが、その辺はアフターサービスで調べておこう。

 

 俺も数々の喧嘩で舎弟の一人や二人は持っている。

 

 ちょくちょく様子を見に来させておこう。やることを与えて仕事量に応じて報酬を与えておけばいい感じに忠誠心を植え付けれるだろうしな。

 

 そう考えて下手人を解放してから、こっそり見ていた被害者たちを呼びに行く。

 

「と、言うわけでこれで大丈夫だと思うが、もし同じことしてくるようなら今度はお前が呼べ。・・・社会的に抹殺してそれどころじゃなくさせるから」

 

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 目に涙を浮かべながらうなづく少年。まだ中学生になったばかりだろうに高校生に目をつけられるとは大変だったろうに。

 

 そんな少年の肩に手を置く女が一人。

 

「よかったな。これで、お前に嫌がらせをしてくることはもうねーよ」

 

 ちょっとふわっとした薄い紫で短めの髪に目は逆に濃い紫。

 

 日本ではまず見かけないような特徴的なその美少女は、照れくさそうにするとそっぽを向いた。

 

「こっそりビービー泣いてないで、今度はからはさっさと悪魔をよんで何とかしやがれ。わかったな?」

 

「は、はい! 僕のために悪魔を呼んでくれてありがとうございました!」

 

 そう、たまたま見かけたいじめられっ子のためにわざわざ悪魔を呼ぶという殊勝な真似をした女がこいつだ。

 

「・・・いい奴じゃないか。いまどきいないぜ? お前みたいな奴」

 

「う、うっせーよ。男のくせにビービー泣いてんのが気に入らなかっただけだっつーの」

 

 口調は乱暴だが、こいつも相当お人よしだな。

 

 まあ、わざわざ命がけの戦いに参加した俺が言うのもなんだ。これ以上とやかく言うのも野暮か。

 

 などと考えていたら、目の前に缶ビールが投げつけられたのであわててキャッチする。

 

「なんだよ危ないな」

 

「祝杯って奴だよ。ついでに付き合えや」

 

 こいつも大概不良だな。ま、付き合うが。

 

「一応俺、高校生なんだがな」

 

「平気で飲んでるくせに何言ってやがるんだか。・・・ぷは」

 

 いいことした後は気分がいい。

 

 今日も元気だビールが美味い!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思えば、この出来事から俺は巻き込まれていたのかもしれない。

 

 木場と聖剣の因縁から来る、何万人の命がかかったとんでもない大騒ぎに。




 ハイ、さらにオリジナルキャラクター登場です。

 エクスカリバー編からは、オリキャラが結構ラッシュし始めてきますの、オリジナリティがより大きくなるはずです!


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アルバム、公開です!

 

 俺達グレモリー眷属は、駒王学園の旧校舎をアジトとしている。

 

 旧とはいえど校舎と名がつくだけあり、それ相応のでかさを誇る旧校舎は、当然のごとくオカルト研究部だけで掃除するだなんて無理がある。

 

 と、言うわけで定期的に使い魔に掃除をさせるらしい。

 

 ナツミがやけに張り切っていたから、あとで差し入れでも持って行ってやらないといけない気がする。

 

 まあ、そういうわけでオカルト研究部が今日活動するのは、部長が今住んでいるイッセーの家というわけだ。

 

 最近は独自色が出てきた俺の活動内容について、俺の人間としての側面を利用できないかどうか話している。

 

「・・・つーわけでアフターサービスをしておいた方が便利なんですよ俺にとっても客にとっても」

 

「確かにそうね。兵夜の依頼は報復の可能性がある以上、何らかの監視手段を用意しておいた方が依頼者のためにはなるわ」

 

「あらあら。では、報復をたくらんだ悪い子のお仕置きは私も手伝いましょう。うふふ、依頼人の方たちには悪いですが、今から楽しみですわ」

 

 リピーターを作るのも結構だが、何より依頼を確実に遂行したい。

 

 そして不良にからまれた何とかしてくれが内容である俺の場合、確実に遂行するのはイコールでその後の安全確保だ。

 

 そういう意味では乗り気の部長と別の意味でノリノリになっている朱乃さんは非常に頼りになる。

 

「だけど宮白くんってそういった人種によくかかわってるよね。・・・正直驚いたよ」

 

「木場、この程度で驚いたらやってけねえぞ」

 

「・・・駒王学園近辺の不良の何割かが何者かによって学園関係者に危害をくわえさせないように見張ってるという噂がありました」

 

「そうだ小猫ちゃん。・・・一年かけて宮白が作り上げた監視体制だ」

 

 イッセーが見事に補足してくれている。

 

 まあ、俺の平穏な学園生活を作るためにそれ相応の努力はしてるということだ。

 

 いろいろ大変だったぜ。・・・一日ごとに一人ずつ弱みと情報を握って掌握。探偵のまねごとで稼いだ金を使い、役に立ったやつにはちゃんと褒美を与えて甘い蜜を与え・・・。

 

「ちゃんとやりがいを与えてやれば結構言うこと聞いてくれる奴が多いんだよ。・・・おかげでなかなか貯金がたまらなかったが」

 

「宮白さんはすごいです。きっと主は見ててくださいます」

 

 いやアーシアちゃん?

 

 かなり私利私欲でやってるからそれはないんじゃないかな?

 

 つか、悪魔の行動を神様が見ているって言うのは監視以外の何物でもないからね?

 

「気になって調べてみたらこの辺りの不良業界はおろか、裏の業界でも名の知れた学生だというのだもの。・・・私の悪魔稼業において、ここまで便利な下僕が手に入るとは思わなかったわ」

 

 部長が関心していた。

 

 現在の部長の悪魔家業の縄張りはこの駒王学園を中心とした地方都市だ。

 

 そして、俺の裏の顔としての範囲も、基本的には駒王学園を中心としているが、他にも知り合いというレベルで言うならヤクザや警官、探偵会社のメンバーなど地方都市をカバーすることもできる範囲である。

 

 単独ではなくグループで動く場合、俺のコネはかなり便利なものになるだろう。

 

 うん、俺の人間時代の努力がこんな感じで関わるとは、思ってもみなかった。

 

「ホント、宮白って恐ろしいよな。・・・どうすりゃそんなに大暴れできるんだ?」

 

「企業秘密だ」

 

 イッセーにはこう返すが、そんなもん決まっている。

 

 魔術に決まってるだろう。

 

 認識阻害の魔術でこっそりと行動し、強化の魔術で身体能力を上げ、使い魔の魔術で情報を収集し、呪いの魔術で報復を行う。

 

 常人にはない力を多用することで、俺はこの街の裏で相応の実力を身につけているのだ。

 

 特に呪いによる体調不良は効果的だ。こいつに手を出すと不幸になるとかいう噂は、ハクがつくからな。

 

 無修正DVDを何枚も調達した俺のコネはイッセーが一番よくわかっているだろうに。

 

 ま、調子に乗りすぎないようにそれなりの利益だけ入手して周りに還元すれば、その分人望も増えると言ったもんだ。

 

 悪魔にならなかったとしても、俺はそれなりに裕福な生活を送っていた自信がある。

 

 などと自分の生活に納得していたら、ドアがノックされた。

 

「あらあら。イッセーが部活動にここまで熱心になっているだなんて感激だわ」

 

「これはおばさん。・・・お茶持ってきてくれたんですか! ありがとうございます」

 

 丁度のどが渇いたところだったんだ。

 

 ガキのころからの付き合いなだけあって俺も何度かイッセーの家にはやってきている。

 

 イッセーのご両親とは顔なじみだ。

 

「部活動の邪魔しちゃ悪いとは思うんだけど、今日はみんなに見てもらいたいものがあるの」

 

 そう言ってイッセーのお袋さんが取りだしたのは・・・

 

「アルバム?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが小学生の時、宮白くんと一緒に海に行った時に写真なんだけど―」

 

「あらあら、全裸で兵夜くんをおいかけてますわね」

 

 お袋さんが指さした写真を見て、朱乃さんがくすくすと笑う。

 

 思い出した。あの時は振り返ったらイッセーが全裸で驚いたな。

 

 しかもすっ転んだイッセーが俺の海パンをつかんだせいで危うく俺まで大事な部分が!

 

「見ないで! 俺の恥ずかしい過去を見ないで!?」

 

 イッセーが絶叫する。

 

 うん。過去の恥ずかしい思い出をばらまかれているんだからそりゃ恥ずかしい。

 

「・・・イッセー先輩の恥ずかしい思い出」

 

 小猫ちゃんもしっかりと目に焼き付けてるし、これはイッセーにとって地獄だな。

 

「イッセーの女の子のお友達がたくさん来たら、イッセーのアルバムを見せるのが夢だったのよ」

 

 イッセーはきっとこう思ってるだろう。

 

 叶わなきゃよかったのに!

 

 俺にとっても決して無関係じゃない。

 

 自慢にならないけど俺は子供のころの友人関係がはっきり言ってイッセーぐらいしかいない。

 

 これがどういうことになるかというと、イッセーの思い出に俺が登場する確率は非常に高いということで・・・。

 

「見て、これが運動会の時の二人三脚なんだけど・・・」

 

「・・・宮白先輩と一緒に転びそうになってますね」

 

 被害は俺にも及ぶんだよ!

 

「・・・イッセー。なぜ、何故女友達を家に連れてこなかった・・・ッ」

 

 そうなれば既にアルバムイベントは終了して、このタイミングでおばさんが見せに来ることもなかったのに!

 

「俺に、女友達がいると思ってんのか?」

 

 わかってるよ!

 

 わかってるけど、それでも思うんだよ!!

 

 しかし部長とアーシアちゃんはどうした?

 

 あの二人ならそれなりに過剰に反応するはずだろ。イッセーに惚れてるんだし。

 

 と、思って探してみれば・・・。

 

「幼いころのイッセー幼いころのイッセー幼いころのイッセー幼いころのイッセー幼いころのイッセー・・・」

 

「はぅぅ・・・。小さなイッセーさんが一人、小さなイッセーさんが二人、小さなイッセーさんが三人・・・」

 

 ・・・うん。見なかったことにしよう。

 

 あの二人は変な扉を開いてしまったようだ。

 

 しかし、こうして思うと俺の幼少期はイッセーと共にあるな。

 

 それぐらいしか友達がいないからってこれは自分でもどうかと思う。

 

 イッセーに依存しているとは思うが、いい加減いい年なんだし俺もイッセー離れをした方がいいな。

 

 出ないと部長やアーシアちゃんに悪い。

 

 よし、そうとくれば俺もせいぜい笑ってやろう。

 

「・・・お、これはイッセーが松田や元浜と出会ったころの写真だ。たしかこの袋の中身は当時新作のエロDVD―」

 

「宮白の裏切り者! あ、木場も見てんじゃねぇ」

 

 イッセーがアルバムを奪い取ろうと全力を尽くす。

 

 だが甘い。赤龍帝の籠手を使っていないイッセーに捕まるほど俺も甘くはない。

 

 それも木場を同時に相手取っている状態では不可能に決まっている。

 

 だてに不良と殴り合って鍛えていたわけではないのだよ! フッハハハハハッ!

 

「・・・イッセーくん」

 

 ・・・ん?

 

 木場の表情がなんか変だ。

 

 なんか真剣になってるというか殺気立ってるというか。

 

 俺は木場が見ている写真を覗きこむ。

 

 そこには幼稚園児の頃らしいイッセーの写真があった。

 

 俺と出会う前のころか。このころのイッセーの姿は新鮮だな。

 

 その写真のイッセーは、同い年ぐらいの子供の姿があった。

 

 ついでに言うとその父親らしい姿が、なんか剣らしいものを持っている。

 

 美術品か何かか?

 

「あー、その写真な。小学校に上がるころに外国に越してった男の子と取ったんだよ」

 

 ほう、俺と会う前から仲いい奴が多かったのか。小さい頃だから中性的で可愛い子じゃないか。これが女だったら美人に育ってるだろうな。

 

「えーっと・・・名前はなんだっけかなぁ。・・・だめだ、思い出せない」

 

 幼稚園児の頃となると確かに難しいな。

 

 俺は前世の記憶があるからその辺は結構覚えてるが、前世の幼稚園児の頃となるとさすがに全然思いだせない。

 

「これ、見覚えは?」

 

 木場が指さしたのは、美術品とおぼしき一振りの剣。

 

 ・・・相当有名な品か何かか?

 

 確かに装飾は施されているが、それでもそんな立派な芸術品かと言われると首をひねるぞ。

 

「いや、全然覚えてない」

 

「だよなあ」

 

 下手するとそのころでも意識してない可能性があるぞ。

 

 ・・・そんなに有名なのか? そんなのがこの街にあっただなんて。

 

「まさか、こんなところでこんなものを見るだなんてね。本当に驚きだよ」

 

 俺としては今の木場の姿に驚きだよ。

 

 誰が見てもわかるぐらい様子がおかしいぞ。

 

「これは・・・聖剣だよ」



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生徒会、参上です!

本日二回目


 

 バスン!

 

「ストライク!」

 

 ズバン!

 

「ストライク!」

 

 スッパァン!!

 

「ストライク! バッターアウト!!」

 

 部長の声が俺に敗北を教えてくれる。

 

「・・・完全勝利です」

 

「負けたぁ!!」

 

 小猫ちゃんに見事に三振を取られて、俺は思わず絶叫した。

 

 旧校舎近くの森の中、俺たちは球技大会の練習をしていた。

 

 たいていの高校に球技大会があるが、当然俺達駒王学園にも球技大会は存在する。

 

 クラス対抗や部活対抗があり、オカルト研究部は部活対抗に出るので真面目に練習しているというわけだ。

 

 なにぶん、競技内容は当日発表だ。

 

 そのため、いろいろな内容の練習をする必要に迫られている。

 

 ちなみに、参加人数が足りない部活には救護措置が取られるので団体戦でも大丈夫。

 

 適当でもいいと思うのだが、部長はやけに張り切って、オカルト研究部は最近ずっと各種球技の練習に明け暮れている。

 

 どうも、部長のやる気にすごい勢いで火が付いているみたいだ。

 

 あれか、前回のライザーの一戦で負けかけたのが相当お気に召さなかったのか。

 

 イッセーの特訓のことと言い、どうも部長は勝ち負けにはこだわる性分のようだ。

 

 それが前回の一件でエスカレートしたらしい。

 

 実際、表のオカルト研究部の時間の時に、俺のトレーニングをやることがたまにある。

 

 一応戦闘もあるから自主トレをしておいて正解だったが、このままエスカレートすると追いつかない可能性もあるな。

 

 なんか新しいアプローチを考えないと、自由な時間がどんどん減ってしまう。

 

 最近は球技大会のトレーニングもあって相当重労働だし、さすがに対策を考えるか。

 

「投手は小猫に決定ね。・・・兵夜、あなたはとりあえず素振りを千回!」

 

「うーっす!」

 

 うん、球技大会でもスパルタだよ!

 

 悪魔の身体能力なら好成績叩きだすことぐらい簡単だと思うんだけど!?

 

「ライザーの戦いで思い知ったわ。これ以上私達に負けはいらない。・・・気合を入れていくわよ!!」

 

 野球のマニュアル本片手に、声を張り上げる部長。

 

 部長! 学校行事でどんだけ本気を出してるんですか!

 

「何事にも全力で取り込む人だな部長は。・・・イッセーのこともどんなアプローチをかけていることやら」

 

「・・・最近、恋愛のマニュアル本を読んでいるようです」

 

 俺の独り言に小猫ちゃんが答えてくれる。

 

 ほほう。恋愛でもマニュアル本頼りとは可愛いところがあるな。

 

 スケベに寛大で美人で巨乳。イッセーにとってここまでピッタリな女性はそうはいないだろう。

 

 ま、肝心のイッセーはどうも鈍いんだが。

 

『最近、部長が俺を抱き枕にしてくることが多いんだよ。ホント、下僕に対するスキンシップが大好きな方だよな』

 

 気づけよイッセー!

 

 どう考えてもそれは過剰だから!

 

 わざわざ相手の家に転がり込んでまですることでもないから! 

 

 いや、保健室で抱き枕にしてたとか言ってたからそのせいか? しかも裸でらしいし羨ましいなオイ俺にも分けろよそのエロイベント!

 

 まあ、夕麻ちゃんことレイナーレの一件も原因の一つだろうし気長に待つしかないか。

 

 普通に考えれば一生もののトラウマになったっておかしくない目にあってるわけだしな。

 

 まったく、一度ぶん殴ってやりたかったんだが部長が止めを刺してしまったとは残念だ。

 

 ・・・と、思っていたら、ボールが宙を舞っていた。

 

 どうやらノッキング練習に入ったらしい。

 

 飛んでいく方向にいるのは木場だ。

 

 何でも器用にこなす木場なら、簡単にできるかと思ったが・・・。

 

 コテン

 

 あらら、頭に直撃したよ。

 

「大丈夫か木場? 最近ボケっとしすぎじゃないか?」

 

「あ・・・ああ、ゴメン」

 

 どうも木場の様子がおかしい。

 

 イッセーのアルバムで聖剣とやらを見たときから、木場は考え込むことが多くなった気がする。

 

 そういえば、あいつも命を落としてから部長のおかげで悪魔に転生したと言っていたな。そのあたりに関係があるのか?

 

 聖剣の持ち主に殺されたとかいうのなら、過去のトラウマを刺激されて・・・って感じになるが・・・。

 

 まあ考えててもわからないか。

 

 幸か不幸か、悪魔の仕事にはだいぶ慣れて専門分野も出来始めているからな。当分の間はフォローされていた分俺がフォローし返すぐらいの気持ちで動いた方がいいだろう。

 

「最近ボーっとしすぎよ、祐斗。シャキッとしなさい」

 

「すいません部長」

 

 ・・・まさか、こんな短い時間で俺が先輩のフォローをすることになるとは思わなかった。

 

 ・・・パキ

 

 ん? 人がこっちに近づいてるのか?

 

「・・・誰ですか?」

 

 小猫ちゃんが声をかける。

 

 それにこたえたのは、やけに軽い返事だった。

 

「お! 球技大会の練習~? 気合入ってるねぇ」

 

 出てきたのは、まあ学園の敷地内だけあって俺たちと同じ駒王学園生。

 

 白い肌が目に眩しく、肩のあたりで切りそろえられた黒髪はつやがある。

 

 間違いなく美人・・・というか、思い出した!

 

 イッセーも気づいたのか、目を見開いて凝視している。

 

 当然だ。なんてったって彼女は・・・。

 

「二年の桜花(おうか)久遠(くおん)!? 剣道部の助っ人として全国大会まで引っ張って行った期待のエースにして、最近生徒会庶務に入ったとかいう・・・なんでここに!?」

 

 そう、恐ろしいほどの有名人だ。

 

 さらには明るいムードメーカーでもあり、学園内での人気はかなり高いが、欠点として周りを振り回すことも多いため、総合的な人気では上位ランクイン程度とか言う感じだ。

 

 なんでここに?

 

「いやー頑張ってますねー。生徒会としてはノリノリな部活が多い方が運営する側としてもやりがいがあるし、頑張りがいがあるってもんです!」

 

 まるで人気の試合を観戦している観客のようなテンションではしゃいでいる。

 

 だが、その雰囲気はちょっとヤバい。

 

 一見すると、彼女の雰囲気はこっちの様子を楽しんでみている観客のそれに近い。それはある意味で本当なのだろうが、それ以上にこちらの様子を注意深く観察しているかのようなそんな得体のしれないものが見える。

 

 ・・・間違いなく、物騒なことを考えてやがる。

 

 そんな桜花の様子に、部長が少し考え始めるがすぐに何か納得したようだ。

 

「・・・なるほどね。でも彼女が考えることとは思えないし、貴女の独断・・・いいえ、お願いしたのかしら?」

 

「いやー。太刀を振り回す身としては、どんなもんか試してみたくてー。・・・新入りさん達、試しても?」

 

「・・・アーシアはやめて頂戴。あと、あまりなめてると痛い目を見るわよ?」

 

 部長、ちょっと勘弁してくださいよ。

 

 俺は平和のためにあえて先に暴れるタイプで、こういうのはちょっと勘弁してほしいんですけど・・・。

 

 正直頭を抱えたくなったが仕方がない。

 

 痛覚干渉は行わない。さすがにそれが必要なほどの大暴れはしないはずだ。

 

「え? 部長? ・・・どういうことですか?」

 

「私はやめておくってどういうことでしょうか?」

 

 イッセーとアーシアちゃんがいまいち理解できていないようだが、説明する時間は―

 

「こういうことだよーっ!」

 

 ―無い!

 

 洒落にならない速さでイッセーに突っ込んだ桜花が、そのままの勢いで抜き手をイッセーに繰り出した!

 

 イッセーがかわせたのは、物騒な雰囲気を察知していたからだろう。

 

 赤龍帝の籠手の特性に合わせ、イッセーは普段から攻撃をしのぐことに意識を向けている。時間をかけるほど急激に強くなるイッセーの能力は、いかに相手の攻撃でダメージを受けないかが重要になるからだ。

 

「・・・フェニックス家の関係者か!? そんなに負けたのが文句あるのかよ!?」

 

「やーだなー。話に聞いたぐらいでしかないよーっ!」

 

 イッセーはフェニックス関係者の報復がらみだと思っているようだが、その可能性は低い。

 

 桜花からはこちらに対する敵意のようなものは感じない。むしろ面白いものを見るかのような好感のような感じの方が強い。

 

 と、来るとフェニックスを倒したイッセーの強さを味わいたいとか考えるバトルジャンキーか!?

 

「・・・とりあえず寝てろ!」

 

 考えながらも後ろに回り込んで蹴りを叩きこむが、相手はこっちを見ることなく伏せてかわす。

 

 だが甘い。蹴りの勢いは強化を使って無理やり殺し、反動を利用してそのまま踵を斜め下に叩きこむ!

 

 しかし、桜花の判断力はこっちの判断をさらに上回る。

 

 添えるように俺のかかとに手を当てて防御。

 

 さらに、それを勢いを殺すことだけに注いで自分は側転。一回転して完全に防ぎきった!

 

『Boost!』

 

「とりあえず一回攻撃!」

 

 そのすきを狙ってイッセーが軽く殴りかかるが、これも首をそらしてあっさりかわす。

 

 だが甘い。

 

 イッセーの弱点は倍化中は本来無防備にならざるを得ないということだ。

 

 下手に攻撃を喰らったり意識を攻撃に向け続けたりすると、倍化が解除されてしまい意味がなくなる。肝心の倍化がキャンセルされれば、イッセーの持ち味が完全に殺されてしまう。

 

 なら、イッセーの倍化中の攻撃はなんに使う?

 

 それはもちろん―

 

「・・・囮だ間抜け!」

 

 回避した方向に置いていく感じで、倒れ込んでひじ打ちを叩きこむ。

 

 倒れ込んだ分だけ加速がついて、向こうもガードするが勢いは殺せずかなりよろける。

 

 とはいえ浅い!

 

「容赦ないねー。でも正解! 悪魔業界は魔力がある分、男女関係なく危ない人たちが多いもんねー!」

 

 ガードした手をさすりながら、桜花は楽しそうにほほ笑む。

 

 その全身に電撃が襲いかかり、骨が透けて見えた。

 

「あ、あばばばばー!?」

 

「い、イッセーさんや宮白さんに手を出さないでください!」

 

 見れば、デフォルメされた青いドラゴンを抱えたアーシアちゃんが、涙目で怒りながら大声を出していた。

 

 ラッセー。

 

 使い魔騒ぎでアーシアちゃんが契約した、蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)とかいう子供のドラゴンだ。

 

 メスが大好きで雄が嫌いという、イッセーのようなドラゴンだが、今回は主であるアーシアちゃんの意思を尊重してくれたらしい。

 

「ガー!」

 

 ・・・すごい不満そうだけど。

 

 とはいえダメージはそこまで大きくないようだ。さて、これが俺の予想通りならそろそろ・・・。

 

「・・・その辺にしとけよ桜花。会長がそろそろ怒るぞ」

 

「・・・腕試しはそこまでです。あまりわがままを言わないように」

 

 ・・・ああ、そういうことか。

 

 現れたのは生徒会長と、以前にもあった匙の姿があった。

 

 そういえば会計になってたな。

 

「・・・匙がいるってことは、普通に考えて生徒会長が上級悪魔ってことか。この学校は悪魔の巣窟だな」

 

「知り合いなのかよ宮白!? っていうか、会長も悪魔ってマジですか部長!」

 

 うん、イッセーはリアクションが大きくて見てて落ち着く。

 

 俺も正直半信半疑だが、部長がオカルト研究部という部活を作り、メンバーを下僕悪魔に限定している以上、生徒会に二人も悪魔がいるなら生徒会も同様に動いている可能性が高い。

 

 それを補足してくれるかのように、朱乃さんがこっちにニコニコ笑顔で近づいてきた。

 

「生徒会長の真実のお名前はソーナ・シトリー。72柱の一柱、シトリー家の者です」

 

 やっぱりか。

 

「なんだよ。兵藤は俺たちが悪魔だってこと知らなかったのか? っていうか、お前も悪魔になったんだな、宮白」

 

「あのあとヘマやらかしてなぁ。ついでに言うと、部長からは何も聞かされなかったからな」

 

 あえて教える必要もないと考えたのだろうかね。

 

「それで、はじめましてでは・・・ないですよね、会長?」

 

「一年生の時に皆勤賞で表彰した時にあいましたね。・・・リアスからききましたが、本性がアレだとは思いませんでした」

 

 静かに微笑みを浮かべる会長も相当美人だ。

 

 フェニックス家のレイヴェルも美人だったし、上級悪魔の女性は美人が多いのだろう。

 

「申し訳ありませんでした。・・・新米悪魔同士の顔合わせはいつかするつもりだったのですが、桜花がどうしても今の実力を見てみたいというもので」

 

「だってー。なりたての下級悪魔が真正面から上級悪魔の天才を撃破したなんて気になりますよー」

 

「普段から尽力している貴女だからこそ許したのです。今後はしないように」

 

「了解しましたー」

 

 ビシリと敬礼をして返す桜花。

 

 一件さっきまでのようなちょっとお調子者の感じだが、それ以上に真剣見があった。

 

 どうやら忠誠心は人並みにあるらしい。

 

 できれば止められて素直に聞いて欲しかったとは思うけどな。

 

「にしては兵藤はあんまり役に立って無かったな。・・・本当にこいつがフェニックスを一対一で倒したのか?」

 

 匙が信じられないと言った目つきだが、まあこれは仕方がない。

 

 本人が全然自信ないように行動してるからな。

 

「まあ、あれは宮白がボコボコにしてたから行けたようなもんだしな」

 

 ほら、イッセーがそんなことを言うし。

 

「しかも変態三人組の一人だし、すっげぇ一緒にしてほしくないんだが」

 

 ・・・それもそうだ。

 

 学園で悪目立ちする変態で有名な男がそんな英雄的大活躍をするだなんて、普通に考えて信じたくないのが人情ってもんだろう。

 

 俺も結構こいつに毒されてるな。

 

「男の子はちょっとエロいぐらいがちょうどいいと思うけどねー」

 

「ちょっとじゃないからな」

 

 桜花にツッコミを入れながら、俺はふと思う。

 

 こんだけ悪魔がいることを考えると、この学園には悪魔事情に詳しい人間とかも結構いるんじゃないだろうか?

 

 今度、機会があったら部長に聞いてみるとしよう。

 

 今はそれよりも・・・。

 

「ま、そういうことなら以後よろしくお願いしますよ会長。匙に桜花も、今後ともよろしく」

 

 適度に仲良くすることだな。

 

「OKOK! 会長に迷惑かからない程度に楽しく行こうかー」

 

「はい! これからも宜しくお願いします!」

 

 桜花とアーシアちゃんも俺に続く。

 

 だが・・・。

 

「はっはっは。俺としてはアーシアさんやらリアス先輩やらと仲良くしている兵藤くんはどうかと思うけどねぇ。雷とか落ちちゃえばいいのに」

 

「それはどーも! アーシアに手を出そうとか考えなんなよ? ホント、天罰とか落ちちゃえばいいのにねぇ」

 

 イッセー、それに匙よ落ち着け。

 

 なんか、こいつら似てる気がしてきた。



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球技大会、開幕です!!

 

 球技大会開催日。

 

 俺達二年生は、野球をすることになった。

 

 そして野球大会、俺たちは結構活躍していた。

 

 身体能力をスケベに特化させているとはいえ、スポーツ万能の松田がいる。イッセーと俺は悪魔化したことで身体能力がはるかに向上している。

 

 結果、俺達のクラスは快進撃を続けていた。

 

 だがしかし・・・

 

「きゃー! 宮白くん頑張ってー!!」

 

 ・・・この声援はどうにかならないだろうか。

 

 一応真面目に頑張ってるんだが、はっきりって気が散る。

 

 ミーハーな女に興味はない。そういうのはちょっと変化があるだけでギャーギャーうるさい印象があるからだ。

 

 しかもそうでないときは試合そっちのけでぺちゃくちゃしゃべっている女が言っているわけで、俺もそこまで真面目にやっているわけじゃないけどちょっといらつく。

 

 ついでに言えば―

 

「畜生! 宮白のやつモテやがって!」

 

「俺だって・・・俺だってホームラン打ったのに・・・っ!」

 

「くそっ! 所詮世の中は顔なのか!? 顔なのかよ!?」

 

 ―変態三人組の睨みもめんどい。

 

 いや、マジで勘弁してくれないでしょうか?

 

 頼むから俺の本性をバラすだなんて真似だけはしないでくれよ! いろいろと面倒なことになるから本当にばらしたりしないでくれよ!?

 

「・・・品行方正な上にスポーツ万能だなんてさすがだな宮白!」

 

 クラスメイトの男子がほめてくれるがなんてことはない。

 

 前世というアドバンテージは忍耐力という点で非常に強い。

 

 ただ適当に遊ぶのではなく、何らかのトレーニング方法を一つでも知っていればそれを幼少期から繰り返すことで普通に育つよりもかなり有利だ。

 

 具体的には、誰も見てないところでこっそり腕立て伏せとかをして筋力をつけ、ランニングを幼児のころから繰り返すことで体力をつけた。

 

 その結果、俺の身体能力は運動部の男子を相手にしてもかなりいい線行くレベルにまで育っている。自慢じゃないが運動部の助っ人を頼まれたことも何度かあるものだ。

 

 さらにここで魔術を使う。

 

 そのうえで格闘技の本をこっそり立ち読みして格闘戦の基本をにわか仕込みでも仕込んでおく。

 

 ここまでくればエリートの出来上がりだ。

 

 勉強だって同じようなものだ。

 

 既に一度経験があるからだいぶ忘れていてもの見込みが早い。

 

 子供は勉強を嫌う奴も多い。しかし勉強の大切さをある程度理解している俺は餓鬼の頃から授業は真面目に聞いていた。予習復習も短い時間だがちゃんとやっている。

 

 一度経験している分覚えるのは早い。子供のころならさらに記憶力は最大限に利用することができる。下地がしっかりと出来ていれば、たとえ生前経験がなくても新たな知識を覚えるさい有利に働く。

 

 最終的に俺がこの学校でも知識も身体も上位になるのは、当然と言えるだろう。

 

 実家とは仲があまり良くないとはいえ、裕福な家系に生まれたのも大きい。

 

 そりゃ優秀になれるというものだ。

 

 だから・・・

 

「ホームラン!」

 

 このように大活躍していしまうわけだ。

 

 しかし

 

「宮白!? お前なんでそんなに大活躍してるんだよ!!」

 

 イッセーの絶望が混じった声が響く。

 

 こいつのことだ。

 

 悪魔と化した身体能力がある。

       ↓

 球技大会レベルなら十分活躍可能だ

       ↓

 スポーツができる奴はモテることが多い

       ↓

 イッセーハーレム開発も可能!

 

 という方程式を作っていたに違いない。

 

「あのなイッセー? 俺だってお前と同じだし、お前と同じように練習してるぞ?」

 

「くそっ!? 俺の理知的な計画が全部台無しじゃないか!?」

 

 いや、お前の場合はマイナスが大きいから、その計画の致命的な穴となってるぞ。

 

「イッセーさんも大活躍じゃないですか! 大丈夫、負けてないです」

 

 アーシアちゃんがそんなイッセーを気遣うが、それに続く女子の姿は全くない。

 

「どうせ三人そろってスケベなことを考えてたんでしょ? とらぬ狸の皮算用って諺知ってる?」

 

「桐生、止めを刺すな」

 

 クラスメイトの桐生が地味にイッセーの心をえぐる。

 

 元浜のようなスカウター能力を持つメガネ女子で、イッセーたちと話が合う稀有な女だ。

 

 アーシアちゃんとも仲良くしており、その辺はありがたいのだが、どうにもエロ知識を与えているらしく心配である。

 

 まあ、友達がいるっていうのは便利だよなぁ。

 

 そんなこんなで、この球技大会は大活躍だったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、三年のほうはテニスだったりする。

 

「いくわよソーナ!」

 

「いいでしょう。きなさいリアス!!」

 

 我らが部長の決勝戦の相手は生徒会長だ。

 

 ・・・・・・まった。いま、球が曲がらなかったか!?

 

「くっ! やるわねソーナ。だけど私のグレモリー式魔導球はそんなものじゃないわ!!」

 

「来なさいリアス! 支取ゾーンは全てをうち返します!」

 

 魔力使ってるー!?

 

 そんな驚愕している中、俺の隣に小猫ちゃんの姿が。

 

「魔力、使ってますね」

 

「・・・使っちゃってるよねー」

 

 しかも桜花の姿もあった。

 

「どうすんだオイ。これ、ヤバいだろ?」

 

 俺がそう漏らす間も、魔力あふれる飛んでもテニスは続行され続けていた。

 

 ・・・あの~、もう少し様子を見て行動してもらえないでしょうか?

 

 こんなものを見せられたら、学園中の人間の心に違和感が―

 

「すごい! 魔球だよ魔球!」

 

「さすがリアス先輩! テニスもすごい上手だわ」

 

「すげえよ生徒会長! 俺、一生ついてく!」

 

 ―みんな納得してるぅ!?

 

「なーんか、納得しちゃってるねー」

 

「・・・能天気な人たちですね」

 

「なぁんか、どうにでもなれって感じになってきたなぁ」

 

 俺はなんか本当にそんな感じになってきた。

 

 この学校。魔力的な何かに違和感持たないような魔術でもかかってるんじゃないだろうか。

 

「ふはははは!! 会長、勝ってくださぁい!!」

 

「部長ぉおお!! そこだぁああああっ!!」

 

 匙とイッセーがそれぞれ大声で応援している。

 

 特に、応援旗まで用意してフェンスから乗り出す匙の本気ップリが非常にすごい。

 

 これは本当にすごい戦いだ。

 

 魔力を使っていなければ、俺も妙な不安を覚えることなく純粋に楽しめていただろう。

 

 一年は一年で白熱していたというし、ウチの学校、ホントこういうイベントが熱狂状態になるよなぁ。

 

「ふふふ。忘れていないわねソーナ? 負けた方が、小西屋のうどんをトッピング全部乗せでおごる約束は有効だからね?」

 

「ええ。だけど、私より先に貴女にそれを食べられるのは我慢なりません。先に食べるのは私ですよ?」

 

 待て上流貴族の悪魔。

 

 賭けの内容が庶民的すぎやしませんかね?

 

 いや、この以外と庶民的なところが人気を取る秘訣になるのかもしれない。

 

 俺としては、もうちょっとエレガントな賭けをしてほしかったりするけど

 

 そんなことを思う俺をよそに、ハイテンションでテニスの試合は続いていった。

 

 ちなみに、最終的に二人のラケットが使い物にならなくなったため試合結果は引き分けに終わったという。

 

 まあ、魔力なんて込めて使った魔球を相手にすれば、ラケットの方が持たなくなるのは当然か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部活対抗戦。試合内容はドッジボール。

 

 さて、ドッジボールは基本的に相手にボールを叩きつける競技だ。

 

 ここで、我らがオカルト研究部の陣営を再確認してみよう。

 

 まず、我らが部長のリアス先輩。学園でもトップクラスの人気を誇るお姉さまであり、男女問わずモテモテである。

 

 うん、当てられないね。

 

 次に、我らがドSな副部長である朱乃先輩。こちらも部長に負けず劣らずの人気の持ち主。ドSな本性は知られていないが、これが人気をあげているのか落としているのかは俺には分からないし、できればわかりたくない。

 

 うん、これも当てられない。

 

 今度は、匠桐生の手によりなぜかブルマなアーシアちゃん。最近人気の金髪美少女であり、その性格からこれまた大人気である。

 

 キャラ的に当てたらかわいそうな気がする。

 

 続いて小猫ちゃん。彼女は狙われてもあっさり対処できる身体能力を持っているが、はたから見れば誰が見ても年下のか弱い美少女である。

 

 これを当てるのは精神的にきついだろう。

 

 今度はぼんやりしすぎな木場。女子にとってあこがれのプリンスぶっちぎりトップである。その分逆恨みしている男子は数多いが、こいつに当てた場合女子に恨まれることが確定してしまう。

 

 当てるわけにはいかない。男子にとっては切実な理由で当てるわけにはいかないのだ。

 

 んで、俺の場合は、学業成績優秀かつ身体能力優秀。顔はまあ、下手に不細工より少しぐらいイケメンの方がいろいろ役立つので美容には気を使ってるし平均から少し上かぐらいだろう。品行方正なのは努力している。

 

 ・・・別に当てれんことはないだろうな。

 

 そして最後はイッセー。

 

 なぜ、ハイスペックすぎる美女軍団にこいつが入っているんだろう。変態のくせにハーレム気取りなのか? 許せん。俺を、私をそこに入れるべきだろう常考! 

 

 当ててやる。当てないと気が済まない。こいつだけは全力で当てないと俺達の心が持たないんだよ!

 

 と、言うわけで

 

「兵藤一誠に確実な死を!!」

 

「ブルマ最高! アーシアちゃん最高! そしてイッセーは死ねぇええええっ!」

 

「駆逐する! ただ兵藤を駆逐する!!」

 

「お姉さま達のためにも! イッセーを滅ぼして皆!」

 

「お姉さま最高! 兵藤は最低! 最低はさっさと退場しろおおおお!」

 

「兵藤を狙い撃つ!」

 

「しね! 俺よりもてる奴は皆死ねばいいんだ!」

 

「エロ兵藤がアーシアさんと一緒にいるだなんて、そうよ! 万死に値するわ!!」

 

「このゆがんだ世界を破壊する! ぶっ潰れろ兵藤ぅううううっ!」

 

「死になさい変態! アンタはお姉さまにふさわしくないわ!」

 

 俺、暇だなぁ。

 

 あまりにもイッセーに目標が集中しすぎてるせいで、俺の出番が一切存在しない。

 

「これが犠牲(サクリファイス)戦術ということね! イッセー! がんばりなさい!!」

 

 あと部長は本当に戦闘関連だと鬼です。

 

 とにかくイッセーを狙ってくるボール。これを小猫ちゃんが横取りすることで一人ずつ確実に始末して行っている。

 

 地味に効率がいい殲滅の仕方だ。参考にするべきかしないべきか・・・。

 

 そんな調子で、この戦いはこのイッセーの犠牲によりすんなり進んだのだが・・・。

 

「もうヤケだ! 消え失せろイケメンめぇええええっ!」

 

 女子に嫌われることよりイケメンを憎む気持ちが勝ったのか、一人の男が木場に向かってボールを投げる!

 

 いや、あいつなら簡単に回避するはずだ―

 

「・・・・・・」

 

「「何やってんだよ木場!」」

 

 思わずイッセーとハモる!

 

 木場の奴、最近やけにボーッとしていると思ったが、球技大会の中でもボケっとしてやがる!?

 

 イッセーがそんな木場をかばうように前に出るが・・・

 

「・・・あ・・・れ・・・?」

 

 ・・・・・・

 

「や・・・ヤベ・・・」

 

 投げた男子も固まった。

 

 と、いうか、観客も含めたこの場にいる男子全員が硬直している。

 

 ああ、だろうな。

 

 だって・・・ボールが・・・

 

 イッセーの股間に!

 

「イッセェエエエエエエエ!?!??!」

 

 ・・・ちなみに、試合は小猫ちゃんの活躍もあって決勝戦出場を決めました。

 

 あ、イッセーはアーシアちゃんのおかげで回復したから、全国の男子諸君は安心するように!



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球技大会、決勝です!

さあ、白熱する球技大会後半戦!

この作品の球技大会は一味違う・・・!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それでは部活対抗球技大会決勝戦! 実況は我々放送部が勤めさせていただきます!』

 

 決勝戦。なんか白熱しすぎているということで、それに合わせて実況が追加されている。

 

 ちなみに、なんかハイレベルな戦いになりそうとのことで、なぜか審判として運動部の人間の中でもかなり優秀成績を出した人間が駆り出されている。

 

『赤コーナー! エロ兵藤の陽動を活かした小猫ちゃんの思わぬ大活躍! 想像以上の運動神経を見せた二人に、純粋な拍手を送りたい!! オカルト研究部ー!!』

 

 ワァアアアアアアアッ!!

 

 司会の説明に大歓声が沸き起こる。

 

 まさかここまで白熱するとは・・・。

 

『どうでしょうか解説の体育教諭!』

 

『搭城も兵藤も体育の成績がかなり高いので活躍は予想できましたが、ここまですごいと運動部に参加していないのが悔やまれるな』

 

 解説まで用意してるのかよ!?

 

 まあ悪魔だからな。ライザーとの戦いに比べれば、学校の体育だなんてイージーモードもいいところだろう。

 

 たとえ運動部が相手だとしても、このメンツなら負ける気はしない。

 

 さて、相手はどこのどいつだ―

 

『青コーナー! 想像以上の大活躍!! 明らかに裏取引で入部したっぽいエロ坊主を含めてもいような活躍を見せつける! UMA研究部&松田くん!!』

 

 オォォォォォォッ!?

 

 こちらはどよめきが巻き起こる。

 

 ・・・って、待て。

 

「「何やってんだよ松田!!」」

 

 俺とイッセーの声が重なった。

 

 そう、何やら怪しい雰囲気を纏わせた男女の中に、それとは違った意味で妙なオーラを纏わせた松田の姿がそこにあった。

 

 な、なんか目が据わってるぞ!?

 

「ふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふうフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

 明らかにヤバい!

 

「この日を! この日を待ってたぞイッセー!」

 

 血走った眼でイッセーを睨む松田。その瞳からは正気が消え失せてる。

 

「な、なんだよ! 俺がお前に恨まれるようなことをしたか!?」

 

 イッセーもかなり狼狽している。

 

 そりゃそうだ。

 

 ほとんどの連中が引いている。

 

 そして、松田は血涙すら流しそうな勢いでイッセーを罵倒する!

 

「ふざけんな! 女の子を紹介しろと言ったのになんだよあのミルたんって超生命体は!? なんかUMA扱いした連中が捕獲に動いたぞ!?」

 

「なにやってんのイッセーッッッ!!」

 

 思わずイッセーを蹴り飛ばした。

 

「なにすんだよ宮白!? 痛いじゃないか!?」

 

「どこの世の中に女の子を紹介してほしい相手に魔法少女コスプレをした筋骨隆々の(おとこ)を紹介する奴がいるんだよっっっっ!!」

 

 何を考えているんだこのバカは!?

 

 あれはUMA扱いしてもいい気がするぞ!

 

 だが、そんな俺に対して松田はさげすむかのような視線を向けてくる。

 

「何言ってやがる! その恨みを風評被害に込めようとしたのに邪魔したお前も半分同罪だ宮白!!」

 

「オカルト研究部員をことごとく鬼畜調教しているだなんてデマ、法的に罰せられるだろうがアホッッッ!!」

 

 さすがにアウトだバカ野郎!

 

 初期段階で把握できて本気でよかった。

 

 つーか、下手にエスカレートすると俺にも被害が届きかねない!

 

「木場バージョンとお前バージョンもいろいろなシチュエーションで用意してたってのにどうしてくれる!?」

 

「殺すぞコラァ!?」

 

 止めて正解だった!

 

 正直本気で殺意を叩きつけた。

 

 だが、松田は全く動じない。

 

 なんだ? こいつの雰囲気が何もかも違いすぎる。

 

 と、いうが、UMA研究部の連中も明らかに異様な雰囲気を見せているんだが、どうしたんだ?

 

「くっくっく」

 

「これで優勝すれば、我々UMA研究部の入部希望者も出てくるというもの」

 

「正直私の胸を触らせる程度、何の問題もないわ」

 

 うん。

 

「部長、プロモーションの許可ください。明らかにヤバいです」

 

 具体的には松田を取り入れるために自らを犠牲にする女子部員が一番ヤバい。

 

「ついでに言えば、我が部の女子生徒はワイルドな男性が好みなので、木場にボールをぶつけても問題ないのがラッキーだな」

 

 とりあえずオカ研男子の身がヤバい。

 

「はっはっは! なぞのふんどし集団のおかげで、俺達の体は常識を超えた力を手に入れたのさ。・・・この力でお前らに復讐してやる!」

 

「なんか心当たりがある特徴の集団だなぁっ!!?」

 

 あれか?

 

 アレなのか!?

 

 あのナツミを追いかけまわしていた謎集団なのか!?

 

 だとするといろいろな意味で不味い気がするぞ!

 

「部長! ホントにプロモーションの許可を―」

 

『試合開始!』

 

 その瞬間、俺の横を何かがものすごいスピードで駆け抜けていった。

 

「ガッ!?」

 

 上がる悲鳴と、その直後の倒れ伏すかのような音。

 

 猛烈な嫌な予感と共に、俺は振り返った。

 

「・・・な・・・何・・・が?」

 

 倒れ伏す木場の姿があった。

 

「木場ぁあああ!? し、しっかりしろぉおおおお!!」

 

 思わず抱き上げるイッセーの悲鳴が響く。

 

 ・・・ちょっと待て、これはやりすぎだろう?

 

「・・・部長、さっさと決断してください。シャレにならない」

 

「え、ええ。いささかやりすぎな気もするけど、下僕たちの安全には変えられないわ。・・・プロモーションを許可するわ」

 

 よかった。

 

 これで、とりあえずこんなところで死ぬことはないだろう。

 

 だが、甘かった。

 

 ルークの筋力で投げれば

 

「その程度か宮白!」

 

 片手で受け止められ

 

 一度でもボールが奴にわたれば。

 

「イッセー死ねぇええええっ!!」

 

 視認するのも大変な速度で投げつけられる。

 

 なんだあのバグキャラは!?

 

 まさか、ナツミの時は手加減されていたとでもいうのか!?

 

 想像以上の事態に対し、それでも俺たちはよく頑張った。

 

 洒落にならない松田のボールだけは絶対にかわそうとした結果、残念なことに他の連中には気を抜いてしまい何人か脱落したが、逆に相手にボールをぶつけることにも成功。

 

 結果

 

『オカルト研究部は搭城と宮白、UMA研究部は助っ人の松田が残ったわけだ。・・・正直ここまで白熱するとは思わなかった』

 

 俺も、ここまで苦戦するとは思わなかったよ

 

「・・・あの変態集団がこんなところにまで浸透してるだなんて」

 

「同感だ小猫ちゃん。・・・ナツミ、大丈夫かなぁ」

 

 耳は隠せるみたいだから大丈夫な気もするけど、襲われたりしたらどうしよう。

 

「小猫ちゃんに当てるのは心苦しいが、おっぱいに触るためだ。・・・二人とも覚悟してもらう!」

 

 向かい合うエロ坊主が洒落にならないオーラを放っている。

 

 ただでさえスポーツ万能だったとはいえ、まさかここまで化け物じみた身体能力を発揮するとは・・・。

 

「仕方ない。これだけは使いたくなかったが、最後の切り札を使う」

 

 本当に使いたくなかったが、まあこの状況下なら使ってもいいだろうと思えてしまう状況になってきた。

 

 正直あいつが投げるボールに当たりたくない。あの剛速球派もはや凶器だ。普通に人が死んでもおかしくないと思うぐらいのスピードで飛んできているから、そろそろ回避するのも無理な気がしてきた。

 

 幸い、今ボールは小猫ちゃんの手にある。

 

「小猫ちゃん。今から俺は奴の気を確実に引ける言葉を放つ。そのタイミングでボールを叩きつけるんだ!」

 

「・・・よくわかりませんがわかりました」

 

「やれるもんならやってみろ! まるきこえな状況で誰が引っ掛かるか」

 

 なめるなよ松田。俺だっていろいろと考えてるんだからな。

 

 小猫ちゃんが振りかぶる。俺はそれに合わせる形で口を開こうとし・・・

 

「松田! お前の後ろに裸・・・」

 

 押し黙った。

 

「「「「「「・・・え?」」」」」」

 

 その場にいる全員が突然の沈黙に戸惑う中、俺の瞳孔が大きく開き、口元が誰が見てもわかるぐらいひきつった。

 

「・・・なにあの痴女? ほぼ全裸じゃん!?」

 

 

「「「「「「えぇっ!?」」」」」」

 

 皆が驚いて俺の視線を追いかける。

 

「・・・見事な搦め手です。ソレ」

 

「ギャフン!?」

 

 ハイ撃破ぁ。

 

「いよっしゃぁ! 俺ナイス演技! よくやった俺!!」

 

 はっはっは!

 

 考えたな俺!

 

 気を引く声を上げようといたタイミングで、マジで驚いた演技で相手の気を引く。

 

 我ながら迫真の演技だと褒めてやるぜ! いよっしゃマジで俺天才!!

 

 そして引っ掛からなかった小猫ちゃんナイス! さすがだよ小猫ちゃん!

 

「・・・とてもカッコ悪い勝ち方でした」

 

 仕方ないよ小猫ちゃん。俺はまだ死にたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 球技大会が終了したタイミングで、ついに天気が崩れて雨が降ってきた。

 

 なんかシャワーみたいな勢いで降ってきているから、ちょっと浴びたいとか本気で思ってしまう。

 

 いや、ホント汗流しすぎているから。冷や汗まで流しているから本当にシャワーが浴びたい。

 

 部長、貸してくれないだろうか。

 

 しかし、今回は少し警戒をした方がいいかもしれない。

 

 あのふんどし集団の影がここまで見えているというのは割と本気で危険だ。

 

 奴らがナツミを狙っているということから、出会った場合戦闘になりかねないのが一つ。予想以上にポテンシャルを隠し持っているっぽい力があるし、下手をすると本気を出した奴らに全滅の可能性もある。生徒会との連携も視野に入れた方がいいのかもしてない。

 

 奴らにイッセーの力を見せているというのも一つある。

 

 イッセーの力は下手に一般社会に知られれば非常に危険視されかねないものだ。まあ、悪魔の存在が社会に知られれば混乱は免れないだろうが、それをおいても山を思いっきり削ったあの力はかなり不味い。

 

 さすがにその対策をしているのは想定できるのでそこまでビビっているわけでもないが、それでもなければ無い方がいいに決まっている。

 

 あんな山奥で出会ったのだし、まさかこんな近くに奴らがいるとは思わなかった。

 

 念のため調べ上げ、奴らの記憶を消しておくというのも考えた方がいいのかもしれない。

 

 そう思った時、乾いた音が響いた。

 

「・・・気は済んだかしら?」

 

 部長、かなり怒っているな。

 

 今のは部長が木場の頬を張った音だ。

 

 まあ、今回の木場はいろいろとやりすぎた・・・というより、やらなさすぎた。

 

 最近の木場はぼんやりしすぎている。

 

 今回はドッジボールだったからよかったようなものの、これが実戦だったらどうなっていたか本気でわからない。

 

 思えば、イッセーの家であの写真を見た時だ。

 

 あいつはそのとき聖剣と確かに言っていた。

 

 その名の通りの代物なら、悪魔である俺たちが敵視するのは当然だとは思うが・・・。

 

「そろそろいいでしょうか?」

 

 それだけじゃないのがよくわかるぐらい、木場の様子はおかしかった。

 

「今回はいろいろとすいませんでした。夜の部活にはちゃんと出ますけど、昼の方の部活は遠慮させていただきます」

 

 そういうと、木場はそのまま部室を出ていく。

 

 それが気になったのかイッセーは追いかけていくが、今回はそっとしておいた方がよくないか?

 

 ・・・まったく。気にするべきことが多くなってきた。

 

 これ以上たたみかけるような出来事なんて・・・起きないよなぁ?

 




ふんどしの魔の手が再びナツミに迫るかも・・・?

今後もふんどしは要所要所で登場することを誓います。


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教会、意外とエグイです

 

 本来なら、こういうことを本人に黙って聞くのはマナー違反だろう。

 

 だが、あのふんどし集団の影がちらつく現状、問題は早めに対処したい。

 

 と、いうことで本日の夕食はファミレスでとる。あいては・・・

 

「あれ? ボク一緒に来てていいのかな?」

 

 ナツミと、

 

「・・・ゴチになります」

 

 小猫ちゃんと、

 

「うふふ。素直にごちそうになるといたしますわ」

 

 朱乃さんだ。

 

「・・・つーわけで木場と聖剣についてちょっと聞きたいんですけど、いいですか?」

 

 俺はエビフライを食いちぎりながら本題に入る。

 

 木場の様子は明らかに聖剣を見てからおかしくなった。

 

 そして木場は俺やイッセーのように、一度くたばったことが悪魔に転生する要因らしい。

 

 以上、二つのことから推測して―

 

「木場は聖剣関係の何かで死亡したと考えてるんですけど、ここまでで何か間違っていることはありますか?」

 

「あっています。兵夜くんは探偵に向いているようですね」

 

 ・・・いつもどおりに見えるが、本当にいつも通りならここでうふふとか挟むはずだ。

 

 どうやら、予想以上にシリアスな話になりそうだ。

 

「兵夜くんはもう予想できているようですが、悪魔にとって聖剣は天敵ともいえる武装です」

 

「・・・目にしたくもないです」

 

 小猫ちゃんも不機嫌そうな表情になる。

 

 食事の手を止めてるって相当だぞ。

 

「私達悪魔にとって不幸中の幸いなのは、聖剣を扱うには適性が必要とされていること。扱える者は非常に少ないとされています」

 

 さすがは聖なる剣なだけあるな。所有者を選ぶということか。

 

 そんな俺の思考を断ち切るかのように、ナツミは片手をあげて疑問を投げかけた。

 

「木場さんって人、魔剣を作る神器を持ってるんだよね? そしたらさ、聖剣を作る神器もあると思うんだけど」

 

 なるほど、確かにそれは考えてなかったな。

 

「確かにありますが、祐斗くんの魔剣創造もそうなのですが、ちゃんと作られた者に比べると、特に強度の類で大きく劣るようです」

 

 なるほどね。

 

 一見チートだが、実際はそんなことはないわけか。

 

 まあ、あんな即興で作るわけだし、突貫工事のように不安が残るし様なのは仕方がない。

 

「・・・話を戻しますが、扱える者が少ないという欠点に対し、教会の一勢力が人工的に聖剣を扱える者を生み出そうという実験を行ったのです」

 

 ・・・それか。

 

 しかし聖剣使いの量産か。

 

 考えられるとしたらクローンの製造だが、クローンって宗教的観点から問題視されてるし、これは違うか?

 

「・・・つまり、木場はその実験の被験者か何かで、それが失敗して死亡した・・・とか?」

 

「え? それって供養とかしないでそのへんに捨てなきゃリアスさんも見つけられないよね!? さすがにひどくない!?」

 

 俺の世界の教会も、結構えぐいことをやってたりしてるって言うからな・・・。どこの世界でも宗教だからこその非道もあるってことか。

 

 などと考えていたが、朱乃さんは静かに首を振った。

 

「いいえ。そういうわけではないのですが、実際はそれ以上にひどいのかもしれません」

 

 ・・・どんな展開だ?

 

「・・・私達にとっては幸いですが、その段階での実験は完全に失敗したそうです。問題は、その後の教会の行動でした」

 

 ・・・ああ、なるほど読めた。

 

「・・・証拠隠滅も兼ねて処分ってわけですか」

 

「・・・はい」

 

 まったく、

 

「十字軍遠征とかでも結構えぐいことしたらしいし、宗教ってのは正義を定義しているからこその外道行為が目立つってわけか」

 

 下手に正義を定義しているから、自分達の行動は正義だと勘違いしているっていうことか。

 

「正義を定義しているからこそ、自分達が正義となるよう行動していかなきゃならないだろうに、考え違いがひどいなホント」

 

 だがおかげで大体予想はついた。

 

 木場は何とか逃亡しようとしたが、その際致命傷を負って結局死亡。そこを部長に拾われた結果悪魔としてよみがえって救われたというわけか。

 

「木場以外にも当然被験者はいただろうし、そいつらのことも考えると憎悪してもおかしくないな」

 

「・・・あの頃の祐斗先輩は怖かったです」

 

 小猫ちゃんが嘘をつくわけないし、あの優男となる前に相当物語があったっぽいな。

 

「そこまで機嫌が悪くなるってことは、イッセーの家で見た写真の剣って本物なのかな?」

 

「可能性はありますわ。実際、リアスの前任の悪魔は滅されておりますし、むしろ納得できるというものです」

 

 ナツミの疑問に、朱乃先輩は丁寧に答えてくれる。

 

 だが不味いな。変に火がついてしまった以上、このまま行ってもくすぶったままになっちまう恐れがある。

 

 どうしたもんか、割と本気で心配になってきたぞ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしたものか・・・。

 

 傘もさしていないから、雨が体中に当たって体温を下げる。

 

 だがそれはどうでもいいし丁度いい。この頭に登り続ける血をさますにはこれでも足りないぐらいだ。

 

 目の前に立つのは因縁の男。

 

 たしかフリードといった男だ。

 

 イッセーくんを殺しかけ、さらに宮白くんと激闘を繰り広げたらしい男。

 

 レーティングゲームで見せた宮白くんの高い戦闘能力から考えても、一対一では僕でも苦戦するだろう。

 

 だからと言って、とても憎い神父である彼をただ逃がすだなんてわけにはいかない。

 

 彼は前回の一件で僕らを敵視しているはずだろうから、当然のごとくこのままにしていれば問題を起こすだろう。

 

 そして何より、奴が持っている武器が重要だ。

 

 仮にも実験で何度も聖剣に関わった身だ。そのオーラを間違えるはずがないし、何より強力すぎるその力、そうでなくてもわかるだろう。

 

 聖剣、エクスカリバー。

 

「はっはっはぁ。このエークスカーリバーちゃんの波動にビビっておりますかな? おりますよね? おるのだろう?」

 

 ふざけた口調は健在だが、幸いそれが気にならないくらい僕の感情は荒ぶっている。

 

 まさか、あれだけ苦しい思いをしても扱うことができなかった聖剣を、あんな男が扱えるとは・・・。

 

 ただでさえ憎いというのに、こんな皮肉には耐えられそうにない。

 

 だがしかし、この男の技量は本物だ。

 

 さっきも数回打ち合ったけど、想像以上に隙がない。

 

 どうやって攻撃する・・・。

 

「・・・実際、一足遅かったようですね」

 

 ・・・人が来たのか!?

 

 マズい。フリードは悪魔と契約をしたとはいえ、ただの人間を猟奇的に殺す男。

 

 既に神父を一人殺している上に、戦闘でテンションが高くなっている。

 

 ここでエクスカリバーを叩きおりたいところだが、罪もない人々を巻き込むわけには―

 

「ああ、私のことは気にしなくて結構ですよ。・・・一応、教会の所属ということになりますので」

 

 隣に並び立つその姿に、一瞬とはいえ見惚れてしまった。

 

 緩やかなウェーブをえがく金の髪は雨にぬれてなお美しく、その瞳は強い意志を秘めている。

 

 服装は法衣を纏っている者の、下はどこにでもありそうな一般的な服装だ。

 

 だが、その動きは一軒自然体に見えて一切の隙がない。

 

 フリードも、その姿に警戒心を浮かべたのか、一歩下がると身構える。

 

「ヤッベ。作戦の目的が目的だからビッグサプライズは覚悟してましたが、まっさかアンタが出張るとは~まさにスペシャルな展開だなオイ」

 

 この男がここまで警戒するとは、いったい何者なんだ?

 

「教会の外部協力者としてはトップクラス、下手したらエックスカッリバー使いよりも強力だと言われるアンタが来ちゃうたー、俺様もいい感じに大物扱いされてるってことですかにゃぁ」

 

「当然でしょう? 貴方が実力者なのは知っていますし、今上にいる存在が存在ですからね。被害を最小限に抑えることを考えれば、実際、私が選ばれるのは不思議でもなんでもありません」

 

 殺気を叩きつけられながらも、その女性は穏やかな表情を崩さない。

 

 だが、静かな怒りがにじみ出て、思わず僕は殺気を沈めてしまっていた。

 

 そんな女性は僕の方を見ると、申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「少々政治的な問題が絡むので、申し訳ありませんが下がっていてください」

 

 そういうのと、女性の体から光が漏れるのは同時だった。

 

「ミスターフリード。・・・すいませんが、ここで終わってもらいます」

 

「そりゃ困っちゃうなぁ? 俺もステキにイカれたボスに選ばれちゃってここにいるんですよぉ? つーわけで」

 

 フリードの後ろから、さらに三人の男が現れる。

 

 その手に握っているのも間違いなく聖剣・・・いや、エクスカリバー!

 

「まさか、合流前に全ての所在が確認できるとは行幸でしたね」

 

 その波動を前に、一切の動揺を見せない姿があった。

 

 静かに構えをとるその女性の体が、うっすらと光って見えるのは幻覚なのだろうか?

 

「では、そろそろまいりましょう」



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交渉、始りました!

 

 最近いつも思うことだが、今年は限りなく厄年なのではないかとマジで思う。

 

 と、いうか、常識的に考えて一度死んだのだから不幸以外の何物でもない。

 

 しかもそれから一月経つか経たないかぐらいのタイミングで圧倒的不利な状況下での試合をする羽目になった。

 

 すでにこれだけで不幸以外の何物でもないという地獄の大打撃コンボでしかない。

 

 と、くれば警戒するべきなのはこれ以上の不幸に対する備えである。

 

 特に気にするべきはレイナーレの一件の後始末。

 

 あの時の堕天使連中はあくまで独自行動をとっていただけだし、そのほとんどは部長達によって始末されている。本部の方は一切関知していないはずだし、報復の可能性は少ないと言ってもいい。

 

 が、例外が一つ。

 

 はぐれ悪魔祓いフリード。

 

 驚くべきことに、俺が死んでから部長が俺を発見するまでにあの男は意識を取り戻して逃げ出したらしい。

 

 これに関しては俺のミスだ。

 

 下準備の際のはぐれ連中との実力差から、もっと警戒しておいてもよかったはずだ。

 

 関節の一つでもはずしておけばこんなことにはならなかった。

 

 しかも面倒なことに、奴との因縁はもう一つある。

 

 知っているとは思うが、イッセーが奴に襲われているという情報が入る前に、携帯に知り合いと連絡が取れないという話が入ってきた。

 

 その取れなくなった男の家というのが、イッセーがフリードに襲われたあの家であるということが、後日判明したのだ。

 

 つまりは、間接的に舎弟に多大な迷惑をかけられたということでもある。

 

 なおさらほっとくわけにはいかない。

 

 二度と会うこともないとは思うが、警戒しておくにこしたことはないし、今度会ったら絶対に片付ける必要がある。

 

 ゆえに、まがいなりにも対策はしっかりと整えておいた。

 

 舎弟連中にフリードの特徴を伝え、発見次第俺の携帯にメールを送るように伝達。

 

 さらに探偵やヤクザの知り合いに話を聞き、潜伏地点にできそうな廃屋などを調べ上げ定期的に使い魔を使って偵察は欠かさない。

 

 万一に備えて下水道もチェックし、逃走を許さないように投げて使える発信機も調達した。

 

 そして、その連絡が今まさに来た。

 

 フリードらしき男の姿を確認。さらに同じような神父の格好をした危なそうな連中の姿も発見したとのことだ。

 

 これは非常に不味い。

 

 どうやら、本格的に報復を考えている恐れがある。

 

 あの特訓で段違いに実力が上がったはずの俺たちだが、向こうも何らかの切り札を持っていると考えておいた方がいいはずだ。

 

 これは、必ず報告しなければならない。

 

 ならないんだが・・・。

 

 面倒なことに今は仕事中。

 

 しかも、朝日がさしているので部長達は帰っているはず。

 

 すなわち報告は間違いなく昼間の学校のある時にしなくてはならないわけで・・・。

 

 とりあえず俺がすることは一つだ。

 

「・・・つーわけで、白髪の男にあったらすぐに背を向けて逃げて俺に連絡しろ。・・・あの野郎悪魔召喚した人間にも手を出すからな」

 

「殺人大好きなはぐれ悪魔祓いねぇ。アンタらも大変だな?」

 

 最近お得意様になった、この女に警告をしておくことである。

 

 ちなみに、常連には既にメールを送っている。

 

 部長達にも送れ? こういう重要なのは直接いうにきまってるだろうが。

 

 ちなみに今日の仕事も不良の撃破。

 

 相手が集団な上にホームグラウンドが広く。ヤバいと判断した連中が入り組んだ地形で散り散りになりながら不意打ちをしかけるゲリラ戦を展開したため時間がかかった。

 

 しかもあのふんどし軍団のパワーをもらった奴が何人か出ており、以外に苦戦したため朝になっている。

 

 仕方ないので24時間営業のファミレスで朝食をとりながらである。

 

「それで? そのはぐれって奴はそんなに危ない奴なのかよ?」

 

「危険以外の何物でもない。腕は立つは性格はイカれてるわ猟奇殺人すら平気でやらかすわと始末に負えん」

 

 できれば二度と会いたくなかったんだが、世の中そんなに甘くない。

 

「ホントに気をつけろよ? お前みたいないい奴なお得意様が早死にするのは夢見が悪い」

 

「わかってるよ。まあ安心しな。これでも危機回避能力は高い方だ」

 

 どっちかというと危機に巻き込まれる能力の方が高いような気がするんだが。

 

「しっかし、アンタも変わった奴だな?」

 

 突然、女がそんなことを言ってきた。

 

「よく言われるが、そんなに知り合ってもいないお前に言われたくないぞ?」

 

 変なことをいう奴だな。

 

 これで既に五回ぐらい契約してるが、こいつはこいつで変わってるぞ。

 

 まず報酬がそれなりにでかい。

 

 金銭で支払う傾向が強いのだが、どうやって稼いでいるのか知らないが最低でも0が四つはつくほど渡してくる。多すぎると言ってもチップといってきかず、結果として俺の評価はちょっと色がついている。

 

 もう一つはこの口調。

 

 年は俺と同じぐらいかちょっと上かといったぐらいなのだが、この女らしさがかけらもない男勝りな口調なせいで、むしろ年下の男の子と会話しているかのような気にもなる。

 

 さらにその精神性。

 

 今までの契約内容はほとんどが被害にあっている奴を見つけたうえでの仲介人としての行動なくせに、代価を払うのは自分なのだ。

 

 ついでに言えば、かなり積極的にこちらに協力している。お人よしにしてもかなりのもんだ。

 

「うるせぇな。あーいう力にかまけて暴れてる小物が嫌いなだけだっつーの」

 

 そっぽを向きながらそういう女の姿は、ちょっと可愛いと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、フリードの報告は終了したが、それ以上にヤバいことが発生した。

 

 と、いうより、むしろそれが関わっている自体が発生しているようだ。

 

 何でも俺が仕事を始めるより早く、会長経由で部長に妙な連絡が入ったらしい。

 

 教会の人間が、部長と取引がしたいというのだ。

 

 ・・・教会の人間とは初めて関わることになると思うが、一体どういうことだ?

 

 まさか怨敵の悪魔側と交渉を行おうとは。それほどの緊急事態が起こっていると考えるべきなのだろうか。

 

 しかも、連絡を一切受けていなかったが、この街で何人もの神父が殺されているとのこと。

 

 ・・・嫌な予感は間違いなく当たっているな。

 

 さらに面倒なことがもう一つ発生している。

 

「・・・つまり、お前は女の子のことをずっと男と勘違いして覚えていたと。・・・よくその場で浄化されなかったな」

 

「こ、子供ころだったんだから仕方ないだろ!」

 

 イッセーの幼馴染とやらが悪魔祓いになったらしい。

 

 しかも、どうやら聖剣所有者の疑いまである。

 

 何でもこの街に久々に来たついでに幼馴染にあいさつに来たそうだが、まさかそいつも、友達が悪魔になってるとは思わなかっただろう。

 

 ややこしいことにならなければいいのだがと割と本気で思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その光景が広がった。

 

 部長と対面するかのようにソファーに座っている女たちは合計で三名。

 

 一人は、イッセーの幼馴染紫藤イリナ。

 

 もう一人は、明らかにヤバそうな包みを持ったゼノヴィアとかいう女。

 

 二人とも服装はマントをはおっていて、そのままこの街に入っているとか考えるとちょっと落ち着こうか君たちと言いたくなる。

 

 そして、二人の間にいるのが異色だった。

 

 服装はシャツにジーンズという、どこにでもいそうな服装。表情は柔和で思わず見惚れそうになるが、一目でわかる。

 

 ・・・こいつヤバいぐらいに強い。下手をするとライザーぐらいするんじゃないか?

 

「はじめまして。私は、フリーランスの悪魔祓いです。名はベル=アームストロングと申します」

 

「聞いたことがあるわ。・・・天使長ミカエルに直接見出されたといわれる、上級クラスの悪魔や堕天使を専門とする異端狩りだったわね」

 

 部長がちょっと警戒している。

 

 ・・・本当に、面倒な展開になってきたな。

 

「・・・輝く腕のベルと言えば業界では有名です」

 

 そりゃ大物だ。

 

 そんな大物が出張ってくるとは、ことはフリードとかいった問題をはるかにしのぐようだ。

 

「それで? あなたほどの人物がこんな地方都市に何の用かしら?」

 

「面倒なことになるので単刀直入に言います」

 

 そう言って少し言葉を切ると、ベルは表情を改めた。

 

「ゼノヴィアとイリナ―つまり私の両隣りにいる二人が持っているのを除いた、教会が確保しているエクスカリバー全てが、堕天使幹部コカビエルの手の者により奪われました」

 

 よりにもよって聖剣、それもエクスカリバーか。

 

 見れば、木場の表情がちょっとファンの子には見せれないものになっている。

 

 ・・・ってちょっと待て。

 

 エクスカリバーが『全部』?

 

「・・・エクスカリバーって聖剣の固有名詞だよな? なんでいくつもあるみたいに?」

 

 イッセーも同じ疑問を持っていたらしく、反応した。

 

「あー、ちょっと俺とイッセー、業界に入りたてでよくわからないんですけど、その辺説明してもらっていいですかね?」

 

 ここはぶしつけにきくとしよう。

 

 あまりイッセーをバカ扱いされても困るしな。

 

 幸い、ベルのほうはあまり不満を見せなかったようだ。

 

「・・・先の大戦についてはさすがに知ってますね? その大戦はそちらにとっても甚大な被害を生みましたが、こちらも相応の被害を被りました。その一つが、砕け散ったエクスカリバーなのです」

 

 そんなベルの説明に合わせるように、ゼノヴィアとか言った女が手に持っていた包みを解く。

 

 現れたのはやけにごつそうな大剣。

 

 見ただけでわかるヤバさだ。本能的に恐怖心を感じてしまう。

 

 これが・・・聖剣ッ

 

「今はこのような姿さ」

 

「ちなみに。私のは擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)って言ってね。こんな風に姿を変えられるのよ♪」

 

 そういうと、イリナとか言った女が二の腕にあったひもをほどく。

 

 ひもはあっという間に姿を変えて日本刀に変化しやがった。こちらもゾクゾク来るほどの寒気を与えてくれてるよ。

 

 とはいえちょっと機密情報をばらしすぎじゃないか? ゼノヴィアとかいうのもいい顔をしてないし。

 

「イリナ。・・・悪魔にわざわざ能力を教えなくていいだろう?」

 

「あら、いくら悪魔でも信頼関係は気付かないといけないでしょう? それに、能力を知られたからと言って、この場の悪魔の皆さんに後れをとることはないわ」

 

 ・・・微妙に喧嘩を言っているかのような発言だが、これは天然なのだろうか?

 

 あ、ベルがイリナの後頭部にペシンとはたいた。

 

「・・・イリナ。微妙に挑発状態になっているのでやめてください。これから無理を通すというのに、余計な波風を立たせないでください」

 

「・・・それで、その奪われたエクスカリバーがこんな極東の地方都市とどういう関係があるのかしら?」

 

 空気が微妙になるわ木場はどんどん殺気を放つわ、部長も大変だ。

 

 ベルもそれに気づいたのか、ちょっと恥ずかしそうにしながら話しを戻す。

 

「簡単にいえば、下手人である神の子を見張るもの(グリゴリ)幹部コカビエルは、部下と共にこの街に逃げ込んだのです」

 

 コカビエルって・・・堕天使の幹部だったな。

 

 そんな大物クラスがこの街に? どういうことだよ。

 

 わざわざ悪魔側に逃げ込まなくても、そんな大物なら自分の領地ぐらい持ってるだろうに・・・。

 

「私の縄張りはもめごとが豊富ね」

 

 部長もため息まじりだ。

 

 だが、それ以上にベルのはなんかすごく言いにくそうだった。

 

「それで・・・なんというか申し訳ないのですが・・・」

 

 いったい何を注文する気だ? 

 

 三つ巴の敵がやらかした大事件に対して、もう片割れに対する要求って言うと・・・。

 

「ああ! そういうことか、そりゃ言いにくいわ!!」

 

「え? どういうことだよ宮白」

 

 イッセーにはさすがに難しいか。

 

「ようはこのベルって奴はともかく、教会側全体としては堕天使と同じぐらい悪魔側も信用してないってことだよ」

 

 冷静に考えればそりゃそうだ。

 

 もし悪魔側の重要アイテムが堕天使に盗まれて、それがなぜか教会側に逃げ込んだとすれば・・・

 

「アンタらは俺たちが堕天使(あちら)と手を組んで妨害をしているんじゃないかと疑心暗鬼になってるわけだろ? 俺も逆の立場なら当然その可能性を考える」

 

「は、はい・・・。そういうわけで牽制球を放っておくよう上に言われてしまいまして・・・」

 

 そりゃ言いにくいわ。

 

 領地のもめごとに対して手を出すななどと、喧嘩を売っているに等しい。

 

「それはずいぶんな言い方ね・・・」

 

「落ち着いてください部長。部長の高潔さをしらん連中なら、当然警戒する状況です」

 

 ここでこいつらにケンカを売っておくのは面倒だ。

 

 もし混戦状態になったら被害が甚大になるのは避けられない。いや、最強戦力はおそらくコカビエルだろうし、間違いなく堕天使の一人勝ちになる。

 

「ほ、本当に申し訳ありません! で、できれば『フ、そういうことならあえて泳がしてやろう。せいぜい我が手のひらの上で勝手に潰し合っているがいい』みたいな感じでワイン片手に嘲笑ってくれるとお互い平和に終わりそうなのですが・・・」

 

「アンタも無自覚に挑発してるからな!?」

 

 オイオイオイオイ。

 

 平和に終わるのかこの会談!?

 



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模擬戦、始ります!

今回、個人的な宗教観があらわれますがご容赦ください。


 

 終わらなかった。

 

 いや、会談自体はベルが終始申し訳なさそうにしていたおかげで部長も折れてくれた。

 

 が、俺達には面倒な爆弾がいることをすっかり忘れていた。

 

 元シスターのアーシアちゃんだ。

 

 そういえば忘れてたけど、この子聖女→魔女→あげくに悪魔という面倒な変化をしていたんだった。

 

 真面目な話、アーシアちゃんはこの流れに対して自発的な行動は一切していない。被害者として訴えられれば間違いなくこっちが負けると断言できるほどだ。

 

 とはいえ、そんなことまったくしらないのがこの聖剣三人衆なわけで―

 

「そうか、なら私に切られると良い。罪深くともきみが正しく信徒ならば、我らが神は救いの手を差し伸べてくれるだろう」

 

「アーシアに触るな!」

 

 このありさまだ。

 

 しかし意外と考えない女だなこのゼノヴィアとかいう奴。

 

 ただでさえ無理な注文を付けていることで部長の心証は最悪。そのうえ眷属を愛することで有名なグレモリーの次期当主の下僕にたいしてこの行動、全面戦争を切りかねない。

 

 一見クールなタイプに見えたが、実際は脳筋のようだ。

 

 さてどうする?

 

 正直向こうが喧嘩を大安売りしているようなもんだ。

 

 たぶんだが、このまま切り捨てたとしても先にケンカを売ったのは教会側だと突っぱねることは十分可能。ついでに堕天使を始末してエクスカリバーを返却すれば貸しを作ることだってできるはず。

 

 とはいえ、堕天使の幹部を倒すために来た連中だ。少なく見積もってもライザー以上の強敵と考えた方がいいはず。

 

 こっちも少なからず犠牲が出かねないし、さてどうしたものか。

 

 などと考えている間にさらに二人の間でヒートアップ。

 

「ふざけるな! 聖女だなんて持ちあげておきながら誰も友達になろうとしなかったくせに、ちょっと自分が思ってたのと違うからって魔女扱いだと!? アーシアの優しさがわからないなんて皆バカ野郎だ!!」

 

「聖女に必要なのはわけ隔てない慈悲と慈愛だ。他者からの愛情と友情を求めるようなものに聖女の資格はない。聖女なら、神からの愛さえあれば生きていけたはずだからね」

 

 そこについてはまあ良いだろう。

 

 他者からの見返りを求めない者だからこそ、そういう聖なる存在と言える立派なものになるのだからそれはいい。

 

 だが、そんな人物だからこそ愛情や友愛をもらうべきだと思うのは、俺の勘違いかねぇ?

 

「求めてた聖女と違うからって、魔女ってことにして捨てるのかよ!? そんなのねぇだろ!! おかしいだろっ!!」

 

「神は愛してくれていた。それが無かったというのなら、その信仰は足りなかったか偽りだったということだろうね」

 

 平行線だな。

 

「ストップだイッセー」

 

 これ以上言っても無駄だろうから、俺はイッセーを止めることにした。

 

「止めんな宮白! こいつらには言ってやらないと・・・」

 

「根本からずれている相手になにを言っても無駄だ。辛いものが嫌いな奴と好きな奴が、辛いものについて語ったってわかりあえるわけがないだろう?」

 

「そこについては同感ですね」

 

 イッセーを諭す俺に同意したのは、意外にもベルだった。

 

「兵藤一誠・・・でしたか? あなたはそもそもの前提が間違っています」

 

「なんだって?」

 

 かなり頭に血が上ってるイッセーは睨みつけるが、それにまったく動じない。

 

「信仰に生きる者というのは、偉大なる聖書にしるされし神のために生き、神に恥じないよう正しい行いをし、その結果死んだ後その魂に救済が訪れる。・・・意味がわかりますか?」

 

 諭すようなその言葉は、イッセーだけでなく俺たち全員に言い聞かせるようだった。

 

「つまりは、今生というものは神に奉げるものであり、その結果としてたまたま天へと召されるのが信徒というもの。実質、その最中に報われようなどという考え方が見当違いなのです」

 

「生きている最中の欲を叶えるために生きる俺ら悪魔とは大違いってわけだ」

 

 茶化すような言い方をしてしまったが、むしろそれには満足げな様子を浮かべ、ベルは続ける。

 

「実質、正しく生きているのならば、その結果における死は何の問題もない。正しく生きている自信がある者にとって、むしろ長生きとは間違える可能性を高めるようなものです。・・・命を落とすことを恐れるようなのは未熟の証ですね」

 

「な・・・っ」

 

 平然と、ためらうことなく言い放つベルを信じられない者を見るかのように絶句するイッセー。

 

 その言い方には、部長達も気押されていた。

 

 そんなベルにたいしてイリナはなんかヤバい感じに目を輝かせているし、ゼノヴィアも自分のことのように得意げだ。

 

「ベルの言うとおりだ。我らにとって死とは所詮いずれ来る通過点に過ぎない。それを常軌を逸しているなど、失礼にも程が―」

 

「とはいえ」

 

 が、ゼノヴィアの言葉をベルは遮った。

 

「聖女にふさわしくない者を聖女として祭り上げたのは教会側の落ち度。実質、持ちあげて落とすような余計な暴行を加えたことについては、ミカエルさまに直属する者として謝罪します」

 

 そういうと、ベルはアーシアに頭を下げた。

 

「な・・・っ!? ベル=アームストロン―」

 

「追加でいえば我々は神に使えるのだから正しいのではなく、神に使えるからこそ正しくあろうとしなければならない者。相手が悪魔だからと言ってぶしつけな行動をするのは明らかに失態です。ゼノヴィア、謝れとは言いませんが今後は気をつけなさい」

 

 鋭い視線で縫い付けられ、ゼノヴィアも言葉を失った。

 

「あくまで外注に過ぎないあなたに、そこまで言われるとわ、少し屈辱だね」

 

「あくまで外注に過ぎない私でもわかることです。この国の言葉で言うならば、灯台もと暗し・・・が近いでしょうか」

 

「ベルさん。それなんか違う気がする」

 

 唯一日本人なイリナが弱弱しくツッコミを入れるが、なんか空気が妙な感じになってきたな。

 

「しかし困りましたね。・・・ここまで険悪な状態になっては、実質、いろいろと問題が起こりそうです」

 

 指を頬に当てながら、ベルは困り顔になる。

 

 まあ、この険悪ムードでそのまま「まかせた」「おK」とはならんだろうなぁ。

 

 そして、俺はさらにうっかりしていたことにいまさらながら気付いた。

 

「ちょうどいい。なら任せれるだけの実力があるかどうか見極めさせてくれ」

 

 どす黒い殺気を放ちながら、今まで黙っていた木場が前に出る。

 

 ・・・しまった。木場はエクスカリバーのことかなり憎悪しているとのこと。それが目の前にあって冷静な判断ができるわけがない。

 

 その殺気を感じ取ったのか、ゼノヴィアが警戒心を強めて向かい合う。

 

「キミはだれだ?」

 

「キミたちの踏み台になった、ただの失敗作さ」

 

 魔剣の群れが足元から一斉に付きあがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーSIDE

 

 どうしてこうなった?

 

 球技大会の練習をしていた旧校舎のうらで、俺と木場と宮白の三人が、教会の三人組と向かい合っていた。

 

 木場の言い分はこうだ。

 

 少なくとも、一対一で自分達を下すことができる実力者じゃなければ、コカビエルを倒すなどできるわけがない。

 

 それに応じたゼノヴィアを止められないと判断したのか、ベル・・・さんって言えばいいのか? 彼女が双方ともに上に報告しないことを条件に同時進行で三試合することになった。

 

 で、

 

「しかたねぇ。幼馴染同士でやり合うこともないし、俺がイリナっていうのと相手しよう」

 

「では、私は兵藤一誠の相手をさせていただきます。ゼノヴィアは、喧嘩を買ったのですからその人を相手してください」

 

 と、宮白とベルさんが応じあった。

 

 木場VSゼノヴィア、俺VSベルさん、宮白VSイリナの構図が出来上がったわけだ。

 

「結界ははりました。これで、外からこの戦いを把握することはできませんわ」

 

 朱乃さんが結界をはったのを確認して、俺たちは互いの相手を見る。

 

 俺の相手はベルさんだけど、この人エクスカリバー使いじゃないんだよな?

 

「ベルさんだっけ? あの、武器なしで大丈夫なんですか? エクスカリバーどころか、光の剣とか銃とかも持ってないみたいですけど」

 

「構いません。私はどちらにしてもそういったのは使いませんし―」

 

 そういながらベルさんは両手を構え―その手が光に包まれた?

 

「神器、天使の鎧(エンジェル・アームズ)。私はこれをつかった徒手空拳が本領ですので」

 

 天使の鎧!?

 

 あれ? でもそれって手甲の形をしてて、右手でしか使えないんじゃなかったっけ!?

 

「俺の同型にしちゃぁ、なんか変なことになってないか?」

 

「あら、知らないの? 神器って、たまに本来とは違う形状の亜種が出るのよ」

 

 宮白の疑問にイリナが答える。

 

 マジか! じゃあ他にも神器もいろいろとおくが深いんだな!

 

 そんなイリナを笑顔で見ながら、ベルさんはむかいあい、しかし光を消し去った。

 

「とはいえ、模擬戦で殺す気になるわけにいきませんし、まずは実力をしっかりと見させていただきます」

 

 あ、この人良い人かも!

 

 木場は木場で、既に魔剣を何本を出しているが、その表情はなんか学校の女の子には見せられないような笑顔だ。

 

「ふふふ。ドラゴンの近くにいると力を持つものに出会えるとはきくけど、会いたくてたまらなかったものにこんなに早く出会えるとは思わなかったよ」

 

「聖剣計画の失敗者で、処分を免れた者がいると聞いたがキミのことだったのか。思い通りの魔剣を生み出す魔剣創造(ソード・バース)といい、因果な出会いだ」

 

 ゼノヴィアは警戒しながらエクスカリバーを構えるが、それを見て木場はさらに笑顔を深めながら魔剣を構える。

 

 一方、宮白と向かい合うイリナはその目に涙を浮かべていた。

 

「再開した幼馴染は悪魔になっていた。正直ショックだったわ」

 

「・・・まあ、俺もイッセーが悪魔になったと知った時はちょっとショックだったな」

 

 同情するように宮白は目を閉じるが、神器を呼び出すと即座に光の槍を生み出す。

 

「まあ、お互いいろいろと喧嘩を売ったようなもんだ。お互いなかったことにするって言うなら―」

 

「・・・ああ! なんて過酷な運命!」

 

 あれ? 宮白を無視してイリナはポーズ取り出したぞ?

 

「聖剣の適正を認められ、イギリスにて主のお役にたてる代行者になれたと思ったのに! いいえ、これも主がおあたえになった試練なのだわ! これを潜り抜け、使命を果たしてこそ、私は真の信仰にいたれるはずなのよ!!」

 

 あれー? なんだかすっごく難易度の高い言葉を言っちゃってるよー?

 

 完全に自分に酔ってる!?

 

 ヤバい! これは深くかかわっちゃいけないタイプの危ない人だ!

 

「俺が言うことでもないが、お前やっぱイッセーの友達らしいよ!!」

 

 宮白!? それどういうこと!?

 

「・・・すいませんがそろそろ良いでしょうか? ゼノヴィアはもう動いているようなのですが」

 

 見ると、なんか向こうでは激しい剣戟が始まっていた。

 

「うぉおおおっ!!」

 

「なるほど、あの計画に選ばれただけあってなかなかできる・・・っ!」

 

 おいおい、こっちを無視して始めちゃってますか!

 

 仕方ない、俺もそろそろ全力で!

 

「なんかついてけないけど、ブーステッド・ギア!」

 

 左腕に現れる赤龍帝の籠手。

 

 それを見て、三人が三人とも警戒心をあらわにする。

 

「・・・神滅具(ロンギヌス)

 

魔剣創造(ソード・バース)聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)ときて、さらには赤龍帝の籠手か」

 

「本来教会か堕天使側にくみするであろう天使の鎧も含めて、実質、リアス=グレモリーのもとにこれほどのイレギュラーが来るとは思いませんでした」

 

 思った以上に警戒されてるな。

 

「イッセーくんに気を取られている場合かい!」

 

 俺の方を向いていたゼノヴィアに向かって、木場が魔剣を両手に持ってありとあらゆる方向から切りかかる。

 

 いつも以上に一撃が重い気がする。木場の奴、本当に模擬戦だってわかってるんだろうな!?

 

「この力は仲間たちの無念の塊。この思いを受けてみろ!!」

 

「言うだけのことはある実力のようだ。だが・・・っ!!」

 

 ゼノヴィアは明らかに重そうなエクスカリバーを軽々と振るうと、木場の魔剣をあっさりと砕く!?

 

「我が剣は破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)。砕けぬものなどない」

 

「七分の一でもこれほどか・・・っ!」

 

 あんな破壊力を目の前にして、しかし木場はいっそう闘志を燃やす。

 

 木場・・・。

 

「あまりよそ見してもらっても困りますね!」

 

 たしなめるような声に振り向けば、そこには思いっきり拳を振り上げたベルさんの姿!

 

 うわっ! 小猫ちゃんよりやばそう!?

 

 あわててかわすが、僅かに当たった服が思いっきり破れる。

 

 クソッ! 反則だろこの身体能力!? ライザー相手でもいい勝負するんじゃないか!?

 

 こうなったら俺も本気だ!

 

 俺の超必殺技、洋服崩壊(ドレスブレイク)をお見舞いしてやる!

 

 はっきり言ってベルさんの体形は部長に匹敵・・・バストの大きさだけなら上回ってる!

 

 これはやるべきだ! やらないと損だ! やらなきゃだめだ!!

 

「・・・回避能力はなかなかですが、なんだか変なこと考えてませんか? 戦闘中に無駄な思考は隙を作りますよ」

 

 俺の純粋な想いを感じ取ったのか、ベルさんが少し警戒する。

 

 ふっふっふ。だがあえて言うまい。そして言わなきゃ理解できまい。

 

「・・・気を付けてください。イッセー先輩は洋服崩壊という触れた女性の衣服を全部破壊する技を持ってます」

 

 小猫ちゃん!? 味方の機密情報をなぜ敵にバラす!?

 

「・・・最低ですよ、女性の敵」

 

 ・・・反論できない!?

 

「最低だわイッセーくん! 悪魔に堕ちただけに飽き足らず、その心まで邪悪に染まって! ああ、主よ! この変態を決してお許しにならないでください!」

 

 うるせえよイリナ! お前は宮白の相手をしてろ!

 

「いやちょっと待て。それだとまるで、お前と一緒の時のイッセーは変態に目覚めてなかったみたいな言い方だぞ!?」

 

 宮白もなにについて驚愕してんの!?

 

「・・・え? 悪魔に堕ちてから変態になったんじゃないの?」

 

「いや、小学生のころからこうだったぞ。少なくても俺と出会ったときはおっぱい星人だった」

 

「あら意外。昔のイッセーくんは別におっぱいに興味とかなさそうだったのに」

 

「マジ? え、アイツお前と一緒にいた時どんな感じだったんだ?」

 

 あれ? なんか戦闘そっちのけで俺談義始めちゃったよあの二人?

 

「・・・さすがは欲望に忠実な悪魔。らしいといえばらしいのかな」

 

 ゼノヴィアもものすっごい軽蔑の視線だし!

 

「なんか・・・ゴメン」

 

 木場まで謝ってるし!

 

 なんだよまるで俺だけ悪者みたいな!

 

 だが、ベルさんはそんな光景を平然と眺めると一つうなづいた。

 

「実質そんなに恐ろしい技でもありませんね。・・・すいませんがちょっと待っててください」

 

 そういうと服のボタンに手をかけ・・・

 

「・・・はい?」

 

 ―正直、頭の中がちょっと真っ白になった。

 

 そんなに時間はかからなかったと思うが、そんな短時間で目の前の光景は一変していた。

 

 具体的には―

 

「・・・お待たせしました。それでは続きを始めましょうか」

 

 ベルさんが、全裸になってた。

 

「えええええええええええええええええええ!? いやいやいやいや! ちょっとまってベルさん!?」

 

「・・・ああ、ここに置いたままでは服が汚れますね。気を使っていただいてありがとうございます」

 

 違うよ! そこじゃないよ!

 

 なんで自分から全裸になってるのこの人!? ここ、俺も含めて男が三人もいるんだよ!?

 

「裸なんですけど!? 裸にしようとした俺が言うのもなんですけど、恥ずかしくないんですか!?」

 

「・・・別に戦闘で服が破れるのは自然なことです。実質、全裸になる程度を気にする人間が戦場に立つなと言いたいですね」

 

 畜生! この人はまともだと信じてたのに!

 

 別の意味で大丈夫なのかよこの人たちは!!

 




あさっての方向にぶっ飛ぶ教会メンバー。

我ながら濃いキャラを作り出したものです。


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内緒の作戦、開始します!

前代未聞な、全裸にする男VS全裸になる女の対決はどうなる!?


イッセーSIDE

 

 全裸での戦闘を平然と行う、今まで俺が裸にしてきたライザーの眷属たちとは一線を画す恐ろしい実力者。

 

 ベル=アームストロングの猛攻は、明らかに俺を上回っていた。

 

 殴りかかろうとしたらその間にカウンターを叩きこむ。

 

 距離を取ろうとしたらそれ以上の速さで体当たりを喰らう。

 

 無理やり倍化して対応しようにも、二倍程度では手も足も出ない。

 

 何とか身をひねったりして直撃は避けてるが、これじゃあどうしようもない!

 

「・・・やりますね。把握できる実力はそれほどでもないですが、何よりガッツがある。実質実力以上の力を発揮する敵ですね」

 

「そりゃどう・・・も!」

 

 ダメだ、このままじゃ勝ち目がない。

 

 木場のほうも魔剣を出したそばから破壊されてるし、このままだと不味い!

 

 こうなったら奥の手だ!

 

 俺だっていろいろとライザーとのレーティングゲームで考えてるんだ!

 

 俺の秘策を察知したのか、ベルさんが警戒して一歩下がる。

 

「何か考えてますね。・・・これは警戒した方がよさそうでしょうか?」

 

「負けるか! これが俺の奥の手だ!」

 

 懐から取り出したのは、宮白に頼んで調達してもらった俺の切り札。

 

 それに倍化を譲渡して、一気に地面に叩きつける。

 

「・・・閃光弾!?」

 

 そう、俺が持ってきたのは閃光弾。

 

 ただでさえ目がくらむそれは、倍化の力によってさらに眩しくなっている。

 

 ・・・宮白の作戦は本当にすごかった。

 

 あのレーティングゲームであいつだけが、能力だけでなく小細工まで使って勝ちに行った。

 

 結果的に失敗したけど、あのライザーをあと一歩のところまで追い詰めたんだ。

 

 だから俺もそれを見習う。

 

 俺の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)は時間をかければかけるほど強くなる。

 

 そのための時間稼ぎをすることが当面の俺の鍛え方だ。

 

「このすきに殴りかかっても、アンタだったら簡単に返り討ちにできるはず。今の間にしっかり倍化をためさせてもらいます!!」

 

「良い考えです。実質、私は目を閉じても近接格闘はこなせますからね」

 

 俺のことをここまで評価してくれるのはちょっと嬉しい。

 

 だが、おかげで時間は整った!

 

「行くぜ、ブーステッド・ギア!」

 

『Explosion!!』

 

 これで一気に勝負を賭ける!

 

「うぉおおおおおおっ!」

 

「くっ!」

 

 全力の拳は後ちょっとのところでかわされるが、拳はすぐ後ろにあった木をへし折った!

 

 この威力ならいけるか!?

 

「実質、強敵以外の何物でもないですね。なら・・・」

 

 だが、ベルさんはそのまま後ろに下がると、地面に落ちていく折れた木に手を添える。

 

 そのまま両手で抱えると持ちあげて・・・持ちあげて!?

 

「え、ちょ、ちょっとストップ―」

 

「少し本気を出します!!」

 

 グハァ!?

 

 フルスイングで俺の脇腹に木の幹が・・・っ

 

 こ、この人・・・小猫ちゃんより怪力だぁああああああっ!?

 

 そのまま吹っ飛んだ俺は、部長達の方へと勢いよく吹っ飛んでいく。

 

 ああ。このまま部長の胸にダイブできるのなら、それはそれでよかったかなぁと思ったけど、そこには割って入る小猫ちゃんの姿が目にうつり―

 

「・・・危ないです、部長」

 

「フゴッ!?」

 

 両手であっさり受け止められた!

 

 だけど勢いが全部止められるわけで、全身がくの字に折れ曲がり、正直な話衝撃がきつすぎて全身が痛い!

 

「す、すいません! 思わぬ強さについ加減を間違えてしまいました! ・・・兵藤一誠? だ、大丈夫ですか・・・?」

 

 正直答える余裕がありません・・・。

 

 地面に倒れ伏す俺の目は、そのまま木場とゼノヴィアの戦いが・・・。

 

「なら、この僕の最大の魔剣で勝負だ!」

 

「・・・残念だよ先輩。選択が間違っている」

 

 木場の身長より長い魔剣を、ゼノヴィアのエクスカリバーがやすやすと砕く!

 

「・・・攻撃力不足という短所をカバーするのは妥当な考えですが、真正面からぶつかりすぎですね。スピードが乗っているタイミングで呼び出し、その勢いを乗せて横になげば衝撃で突き飛ばすことぐらいはできたでしょうに。実質、判断ミスですね」

 

 ベルさんは木場に辛辣な評価を下す。

 

 クソっ! これで二連敗かよ!

 

 こうなったら宮白に頼るしかな―

 

「違うわ! 空孫悟のドラゴン波はもっと腰を深く落とすのよ!」

 

「バカ。あれは両手がドラゴンの頭部を模してるんであってだな・・・」

 

「何してんのキミら!」

 

 全身の激痛を無視してツッコミをいれた!

 

 なんでドラグ・ソボールのポーズなんてしちゃってるのこの二人!?

 

 あれれ? 確か二人は俺がなぜ変態なのかとかいう失礼な話をしてるんじゃないですか?

 

 それが何で仲良くポーズについて語り合ってるんだよ! 話が脱線するにも程があるよ!

 

 それとあれはもっと両手に力を込めるんだよ! アニメ全部見てるから断言できるね!

 

 ほら、ベルさんもゼノヴィアもため息ついちゃってるし!

 

「・・・実質、これで終わりにした方がよさそうですね。これで失礼させていただきますね、リアス・グレモリー」

 

「もう少し部下を鍛えた方がいいよ、リアス・グレモリー。・・・行くぞイリナ」

 

「あ、待っても二人とも。・・・って言うかベルさん! 服を着てください服を!」

 

 ・・・完敗だ。最後はちょっと疑問だけど、完璧に俺達の負けだ。

 

 畜生。俺・・・弱いなぁ。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふう、たまには童心に戻るのもいいもんだ。

 

 あのイリナとかいう奴の長所だな。無邪気な自分を取り戻させてくれる。

 

 たぶん、ドラグ・ソボールについてあそこまで熱く語ったことはないと思うぞ。

 

 ・・・とりあえず、この場は何とかしのげたか。

 

 ぶっちゃけて言えば、俺はこの勝負に勝つつもりなど毛頭ない。

 

 このままだと爆発して戦闘になりそうだったから、良い感じにガス抜きするタイミングを見計らっただけだ。

 

 神器の特性上、冷静な判断力が売りの木場は頭に血が上っている状態で勝てるはずはないし、イッセーはどうなるかわからなかったが、まあ、ライザーより格上の堕天使幹部を相手にする連中のリーダー相手に、禁手無しのイッセーじゃ勝ち目は薄かった。

 

 俺はまあ美味い感じにお流れになったし、結果としてはまあ良い感じか。

 

 しかし、エクスカリバーか。

 

 厄介なのがやってきたな。

 

 流れから考えてフリードがエクスカリバーを持っている可能性がある。

 

 奴は、それがなくてもかなり凄腕の実力者だった。それが超強力な武装を持っているとなると、割と本気でピンチだと言ってもいい。

 

 そしてそれ以上にヤバいのがコカビエル。

 

 確か堕天使幹部の中でも相当トップクラスの、聖書に名前が記された奴だったはずだ。

 

 現状のオカルト研究部で対処できる相手か? いや、生徒会と手を組んで挑めばあるいは・・・。

 

「待ちなさい!」

 

 部長の鋭い声で我に返る。

 

 見れば、木場が部室を出て行こうとしているところだった。

 

「あなたにはぐれになってもらっては困るわ! 落ち着きなさい祐斗!」

 

「僕は、彼らの・・・同志たちの恨みを魔剣に込めなければならないんだ・・・っ」

 

 部長の制止を振り切って、木場が部室を出ていく。

 

 ・・・ヤバいな。

 

 完全に憎しみで我を忘れている。

 

 コカビエルの手元にあるエクスカリバーは四本だ。

 

 もし、それら全部の使い手を見つくろっていたとすれば、木場といえど勝てるわけがない。

 

 まあそれもあるが、それ以上に気をつけねばならないのはただ一つ。

 

「木場・・・」

 

 イッセーが、この状況下で動かないわけがないってことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・やっほー。どうしたの兵藤くん」

 

「それで? 俺達を呼び出した理由はなんだよ」

 

 ・・・まさか桜花と匙を呼び出すとは思わなかった。

 

 イッセーの奴は、どうやら俺に止められると判断したのか単独行動。どうやったのか知らないが桜花と匙を呼び出して、喫茶店で相談しようとしている。

 

 まったく哀れな奴め。確かに普通なら俺は止めに入るだろうが、お互いのことが分かってるのはお互い様だろうに。

 

 こんなこともあろうかと、既にイッセーの制服には発信機を仕込んである。

 

 本気を出した俺を出しぬけると本気思っていたのだろうか。

 

「さすがに舐められてるよな。なあ小猫ちゃん」

 

「・・・そうですね。あ、お代わりお願いします」

 

 小猫ちゃんも店員さんに追加注文をしながら同意する。

 

 ちなみに、イッセーに気付いた小猫ちゃんを俺が止めてこうして付けている感じだ。

 

 どうせなら思いっきり驚かしてやろうと思ってな。

 

 そのため小猫ちゃんには納得してもらうためおごることになった。

 

 ・・・確かに大金は当たってるけど、それを利用してそれなりに礼装に使えそうな材料を買いそろえたからちょっと心配。

 

 今までは材料も金も足りなかったから、できの悪い礼装をバラして材料に変えてまた作っての繰り返しだったんだよなぁ。

 

 本来の魔術的にも金がかかるし、正直あきらめていたぜ。

 

「・・・エクスカリバーの破壊許可を得たい。協力してくれ」

 

 イッセーが切りだした。

 

 しっかしストレートだな。それで断られない方がどうかしてー

 

「いいよー」

 

 桜花さん!? アンタちょっと正気ですか!?

 

「おい桜花! お前何考えてるんだよ!」

 

「いやね元ちゃん。会長はダメっていってたけどさー。ちょっと気になることがあったんだよねー」

 

 思ったより頭の回転は速そうだな。まあ、ウチの学校競争率高い方だしバカではないか。

 

 だが、内容が内容だ。

 

 部長と会長はこの戦闘に対する不介入を決めた。

 

 つまり、これは見事なまでに契約違反だということだ。

 

 それを破ったりしたらいったい何をされることやら。

 

 匙はそれがわかっているようで、思いっきり逃げ腰になっている。

 

「ふ、ふざけんなよ! 俺は帰るぞ! やってられるか―」

 

「・・・ダメです」

 

「ダメだな」

 

 だが逃がさん。

 

 二人で同時に匙をとっ捕まえ、逃走を完全に阻止する。

 

「あれー? 二人ともこんなところでなにしてるのー?」

 

「み、宮白!? 小猫ちゃんまで・・・」

 

 しまった。もっとビビらせるつもりだったのに失敗した。

 

 ま、別にいいか。

 

「面白そうなことしてんじゃねえか? 俺も一枚かませろよ?」

 



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神様、多いです!

 

 

「・・・なるほどねぇ? そういえば、ぶち壊してでも持って帰るってたしかにいってたな」

 

 イッセーの発言はこうだ。

 

 教会側はエクスカリバーを壊してでも回収したい。

 

 木場はエクスカリバーを破壊して仲間の無念を晴らしたい。

 

 だから、俺たちが木場と共にエクスカリバーを破壊したとしても、一本ぐらいなら問題ないだろうということだ。

 

 ・・・意外に考えたな。

 

「イケると思うぞ、その作戦」

 

「マジか! ダメ出しされるかと思ったんけど」

 

 確かに、普通の段階では教会側の言い分とは逆に、天使と悪魔が手を組んだようなイメージを与えるかもしれない。

 

 だが、俺達には大義名分がある。

 

「これは伝えそびれたんだが、フリードの奴が戻ってきたみたいなんだよ」

 

「あの野郎が!?」

 

「・・・あの男ですか」

 

 二人の表情がゆがむ。

 

 そりゃそうだ。あのキャラクターはインパクトがありすぎるし、何よりイッセーは奴に殺されかけてる。

 

 そう、一度殺されかけてるのが肝だ。

 

「流れからいってコカビエル側にいる可能性は非常に高い。以前の因縁を清算するために戦闘したはいいが、『たまたま』エクスカリバーがそれに関わったら、壊しちゃっても言い訳はできるよなぁ?」

 

「すっげぇ悪役ヅラだな、オイ」

 

 無理やり連れられている匙がすごく嫌そうな顔で感想を漏らす。

 

 正直帰してもいいとは思いたいが、こいつが会長にチクったら全てが台無しだ。

 

「まあ安心しろ。・・・これから言い訳が立つようにpi-をpi-して・・・」

 

「喧嘩売ってんのか! ふざけんなよコラ!!」

 

 冗談だよ。

 

「でもさー? どうやってその教会三人娘を見つけるのー」

 

 久遠の言うことは正論だろう。

 

 あちらはこちらに要望を叩きつけただけで、本来敵なのに変わりはない。

 

 だから、当然接触は避けてるはずだが・・・。

 

「ああ、イリナにこっそり発信機付けてたから、今の場所はわかるぞ」

 

「・・・いつの間に」

 

「気にしたら負けだ小猫ちゃん。こいつ、ホントいろいろと抜け目がない」

 

 我らがグレモリーの領地に潜入した敵陣営を、なんの監視もなしにほおっておくわけがないだろう。

 

「何を考えてるのかは分からないが、ちょうどこの近くにいるみたいだから、とっとと話をつけに行くぞ」

 

 しかしどんな目的で、真昼間の繁華街なんかに来てるんだあいつら。

 

 普通に考えれば昼飯だろうが、さすがに町中に溶け込む服装はしているだろうし、この発信機の制度じゃさすがにすぐには・・・

 

「えー、迷える子羊にお恵みをー」

 

「どうか、天に代わって哀れな私達にお慈悲をおおおおお!」

 

「本当にすいません! 住所と郵便番号を教えてくだされば、必ず二倍にして返しますので! 実質、お金が増えると思ってどうか援助お願いします!」

 

 溶け込んでない!?

 

 考えてみればそりゃそうだ。着替えてたら発信機がこんなところに出てくるわけがない。

 

 と、いうか何で物乞いしてるんだあいつら? 普通必要経費ぐらい出されてるだろう。

 

「やっぱり駄目ですね。実質珍しすぎて引かれてます」

 

「これが経済大国日本の実体か! これだから、信仰のかけらもない国に来るのは嫌だったんだ!」

 

「仕方がないわ。所持金がない私達は、こうして異教徒どもの慈悲を受けないといけないのよ! ああ、パンすら買えない私達!!」

 

 そういうことはもう少しオブラートにくるんで話そうか? 金もらう気、ある?

 

「すいません! これは実質、預金通帳や銀行カードを持ってくるのを忘れた私のミスです!」

 

「それは違うぞベル。これは全て、イリナが所持金すべてつぎ込んで詐欺まがいの絵を購入したのが原因だ」

 

 そんなゼノヴィアの視線の先にあるのは、なんつーか適当に書いた感じしかしない油絵だった。

 

 ・・・どんな理由があればアレに金つぎ込む余裕を任務中に捻出できるんだ?

 

 っていうか、あの絵どっかで見たことがあるような・・・ああ、以前詐欺まがいな行為をやっていた奴懲らしめた時に見たな。

 

 ああ、アイツ懲りてなかったのか。

 

「イッセー。ちょっと任せた」

 

「あ、オイ宮白! どこ行くんだよ!」

 

 ちょっと恩を売ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけで金取り戻したついでにサツに下手人引き渡してきた」

 

「本気でありがとうございます! もうどうしたものかと思ってました!!」

 

 ファミレスでそんな大声上げながらお礼言うなベル。すっごく目立つ。

 

 と、いうかすっごい食べてるみたいだけどコレおごりになるのか?

 

「ああ! 悪魔の中にも慈悲深いものはいるということね! 主よ、この慈悲深い悪魔にどうか―」

 

「イリナ。それは二度目だからやめようか。・・・下手をすると返してもらえなくなる」

 

 ああ、来た時にイッセー達がもだえ苦しんでいたのはそういうことか。

 

 とりあえずかなり金はある方だし、ここは半分ぐらいは持っておいてやることにしよう。

 

 全額払え? バカだな、言いだしっぺはイッセーなのに全部尻拭いしたらこいつ反省しないだろうが。

 

「まあ、感謝の言葉とかはいらないな。その代わり、ちょっと頼みたいことがある」

 

「・・・やはりな。とりあえず言ってみるといい」

 

 ゼノヴィアが鋭く反応する。

 

 まあ、昨日の今日でこんな状況だ。これが正しい反応だろう。

 

 俺は視線でイッセーを促す。イッセーもそれにうなづくと、静かに切りだした。

 

「エクスカリバーの破壊に協力したい」

 

「・・・いいだ―」

 

「ダメですね。実質嬉しい申し出ですが、そんなことをすれば三大勢力間で政治的に大きな問題になりかねません」

 

 何か言おうとしていたゼノヴィアを制すかのように、ベルはバッサリと切り捨てた。

 

「三大勢力の内、ほかの二勢力が残り一つを攻めるということが、どんなバランスの変化を生み出すかわかっていませんね」

 

 ため息をついたベルは、視線を窓の外に向ける。

 

 そこにあるのは映画館。確か、北欧神話をテーマにした映画が上映されているな。

 

「・・・悪魔になりたてでは知らなくても実質問題ありませんが、あなた方は聖書の神が実在するなら、他の神話の神がいるかもしれないとは考えなかったのですか?」

 

 ・・・ちょっととんでもないことを言わなかったか?

 

 聖書の教えが正真正銘存在しているのなら、ほかの宗教や神話がフィクションなのはむしろ当然と考えるべきではないだろうか。

 

「・・・北欧神話。ギリシャ神話。そして当然この国日本の神話。数の上での最大勢力こそ聖書の教えではありますが、世界のあらゆるところに存在する神話は、天使や悪魔のように、実質確かに存在するのです」

 

「・・・マジですか?」

 

 イッセーがかなり驚愕するが、これはまあ嘘をついているわけじゃなさそうだ。

 

 そして、それは確かに非常に問題があるな。

 

「確かに不味いな。追い詰められたその一つが、不利な条件をのんで他の神話に助けを求めたら・・・」

 

「各種神話をフィクションだと教え込んだ教会の教えに不満を持つ勢力は多数。不要に三大勢力のバランスを崩せば、他の神話勢力の過激派が動いて自体は余計に悪化しかねません」

 

 そういうと、ベルはコンソメスープにガムシロップを入れたうえ、ティーバックを突っ込んだ。

 

「これがおいしいと思うものはいますか?」

 

「・・・無理」

 

「どう考えても不味いだろ。何考えてんだアンタ」

 

 小猫ちゃんと匙の答えにうなづくと、ベルはそれをかき交ぜた。

 

「不用意なバランスの変化は、人類にとってまさにこのゲテモノ化したコンソメスープに近いでしょう。・・・極端な話、グレモリー眷属の騎士がはぐれになって勝手に暴れるならともかく、グレモリー眷属やシトリー眷属が直接エクスカリバー争奪戦に関われば、そのような事態を引き起こしかねないのです。我々が協力していると思われず、たまたま状況がそういう風になったと思わせる根拠がなくては承服しかねます」

 

 こっちが接触した理由はわかっているようだが、これだとちょっと望み薄か。

 

 そう考えると非常にヤバい問題だな。

 

「下手したら部長や会長の首が飛びかねない・・・と、言いたいが」

 

 だが、それはエクスカリバー争奪戦に限ればの話だ。

 

「話は変わるがそこの教会三人娘。フリード・セルゼン、という白髪の発狂神父に心当たりはあるか?」

 

 その言葉に、三人の表情はそろって不愉快なものになった。

 

「実質、コカビエルにくみしたエクスカリバー使いです。先日一度会いまみえました」

 

「13歳でエクソシストになった天才だが、味方にまで牙をむいた信仰心無き殺人鬼だ」

 

「処罰から逃れて堕天使側にいっちゃったらしいけど、なんでイッセーくんたちがそれを知ってるの?」

 

 ・・・はぐれな時点でわかっちゃいたが、どうやらそっちでも扱いに困っていたようだ。

 

 あのキャラならヤバいとすぐわかりそうなもんだが、なぜエクソシストにしたんだ?

 

 小猫ちゃんもアイツのことを思い出したのか不機嫌になる。イッセーにいたっては親の仇を見るかのようだ。

 

「知ってるも何も宮白の仇みたいなもんさ。あいつのせいで宮白は一度死んだんだ!」

 

「おーい訂正しろ。アイツはしっかりぶっ飛ばしたぞ。その後油断して堕天使に致命傷喰らったんだ」

 

「・・・ライザー・フェニックスと一対一で戦ったりした時点で相当だけど、お前人間のころからどんな目にあってんだよ」

 

 匙が恐ろしいものを見るかのような目つきになるが、桜花はむしろ面白そうなものを見る目つきだった。

 

「へー。人間のころからすごいじゃん。それで? そのはぐれエクソシストがどう関係するのー?」

 

 なに、大したことじゃないさ。

 

「ちょっと個人的に殺し合いになっても問題ない理由で追っているし、特にグレモリー陣営は一度、スカウト前とはいえ僧侶を一人殺されている。ここまではいいか」

 

「・・・なるほど。読めたぞ」

 

 ゼノヴィアがこっちの考えを理解したのかニヤリと笑う。

 

「・・・因縁のあるフリード・セルゼンを倒そうと行動していたら、「たまたま」エクスカリバーを持っていたので、「たまたま」エクスカリバーに恨みを持つそちらの騎士の恨みを果たしても問題がない、というわけか」

 

「そして奴らが「たまたま」仲間を引き連れていたら、身を守るために「たまたま」一緒に遊んでいたシトリー眷属が助太刀して倒しちゃっても、正当防衛が成立するってわけだ」

 

 理解が早くて助かるねぇ?

 

 我ながら、即興で考えたにしてはなかなか美味い考えだと思う。

 

「そっちだって部長に「勝手に潰し合うのを高みで嘲笑って見物すればいい」とか言ってたんだ。こっちがこっちで勝手に消耗しあってくれれば、戦術的には助かるんじゃないか?」

 

「実質いやらしい考えですが、確かにそれならば言い訳はできそうですね」

 

 ため息をつくベルだが、とりあえず反論はないようだ。

 

 今まで流れについていけなかったイリナはちょっと不満げだったが、この流れはもう戻せまい。

 

「ちょ、ちょっといいの? 相手はイッセーくんもいるけど、悪魔なのよ?」

 

「大丈夫ですイリナ。さっきの言い訳があればとりあえずの問題はない。向こうが何か言ってくるのであれば、その後こっちが彼らを攻撃してしまえば消耗した隙を狙って行動しただけということでえげつないやり方をたしなめられるぐらいでどうにかなるでしょう。ねえゼノヴィア」

 

「それに、向こうの戦力を逆算したとしても、こちらの勝率は切り札込みでせいぜい4割。命を落とすことなど恐れてはいないが、どうせなら生きて主のためになることをした方がいいだろうしね」

 

 2対1。それも、反対派だって積極的なわけではない。

 

 ・・・決まりだ。

 

「商談設立だな。」

 

 後は木場を呼ぶだけだ。

 

 ・・・いきなり暴走してここで剣を抜いたりしないだろうな。それだけが少し心配だ。

 



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バルパー、許しません!!

 

 結論からいえば、そのあたりの交渉は木場を交えても無事に終わった。

 

 それだけではない。木場にとって真の敵ともいえる人物を特定することにも成功したのだ。

 

 名を、バルパー・ガリレイ。当時の聖剣計画の責任者で、被験者の殺害命令を下した腐れ神父。

 

 どうやら、被験者の処分は奴の独断であったらしく、教会側にとっても汚点となっているようだ。

 

 当然だが、そんな奴はとっくの昔に追放されて堕天使側に属している。こっちが勝手に首をはねたとしても、少なくとも教会側は関知しないだろう。

 

「実質、そちらにとっては邪魔する敵が変わっただけですが、奪われたエクスカリバー全てに使い手がいましたので、研究者だったバルパーがこの街に来ている可能性はあります」

 

「「たまたま」一緒にいるときに出くわしたとしても、お互い最優先目標を奴に設定したところで問題ないだろうね」

 

 ベルとゼノヴィアから見事にお墨付きをもらっているので、できれば逃げられない状況下で袋にしておきたいところではある。

 

 とにもかくにも、木場も遺憾ながら限定条件下における不戦条約は締結。これで、エクスカリバーをぶった切る算段は整ったわけだ。

 

「・・・さて、それでは作戦を説明する」

 

「はい質問ー」

 

 なんだ桜花。今から真面目な話なのに。

 

「桜花さんじゃないけど同感だよ。ここは彼女たちと別れるところじゃないのかい」

 

 木場、お前もか。

 

 見れば、ベルはだいたい何が言いたいのかわかっているようだが、それ以外のメンバーが全く理解できていない。

 

 やれやれ。これが政治的な問題だらけなのを忘れてるなこいつら。

 

「・・・まさかと思うが、マジで部長達が教会シスターズを完全にフリーにすると思ってるのかお前ら?」

 

「え? だって部長、今回の騒動には関わらないんだろ?」

 

 イッセーの返答にみなうなづく。

 

 全く。これだから上で指揮することがない人間は困るんだよ。

 

「お前らなぁ。自分の縄張りに明らかな敵対勢力の人間がいるってわかってて、完全に無警戒にしているやつは間違いなくバカだ。そして会長はよく知らんのであえてスルーするが、部長は少なくてもバカじゃない。ここまではOK?」

 

「会長ディスるのがむかつく以外はOKー」

 

 桜花、もしかして文句言いたいためだけに今の発言をしたのか?

 

「つまりですね。実質、居場所が把握できた侵入者に監視をつけないわけがないというわけです。普通に考えれば居場所ぐらいは把握している可能性はありますね」

 

 うん。理解している人が一人でもいると説明が楽でいい。ありがとう、ベル・アームストロング。

 

「私達は別に攻撃してくるわけでもないので、実質気にしないことにしましたが、主に隠れて行動している彼らは別。早いうちに決着をつけないとややこしいことになります」

 

「うげっ! このままだと会長のお仕置き確定かよ」

 

「・・・それじゃあ、下手するとこの会話も部長達に筒抜けなのかよ!?」

 

 匙とイッセーが顔色を変えるが、まあ今のところは問題ない。

 

「そこは一応大丈夫だ。少なくとも今の時点ではまだ気づいてない」

 

 ちゃっかり使い魔を使って部長と会長には付けている。

 

 エクスカリバー破壊に協力しているなんて知れれば、もう少しあわてているはずだ。さっき確認した時は二人とも普通に学校の活動をしていたから、ばれている可能性は低いだろう。

 

 まあ、すぐに気付かれるだろうし今日中にケリをつけた方がいいはずだ。

 

「つーわけで、改めて説明するけど作戦はこう!」

 

 俺は懐から地図を取り出すとそれを広げる。

 

 そこには赤いペンとかでいろいろマーキングを施している。

 

「昨日の内に舎弟とかをつかって、普段神父などがいなかったり、教会施設がない地域とかで聖職者らしき格好・・・およびフリードのような目立つ特徴をもった・・・追加でコカビエルという名前から予想される、最近になって見かけた外人らしい奴などの目撃情報があった箇所を調べた」

 

 おぉ・・・と、周囲からどよめきの声が聞こえる。

 

 ふっふっふ。これが街中に関係者やコネがある俺の本領発揮だ!

 

 正直昨日は深夜トレーニングは中止して明け方までこれをまとめていた。

 

 睡眠不足は魔術をつかって、精神面だけだが完全にリフレッシュに成功している。いざというときは魔術薬があるので大丈夫!!

 

「そのうち三つ全ての証言があり、それも一番多かったのがこの山に近い赤でマーキングした地点。おそらく山の中にある廃棄された建物か何かをアジトにしている可能性が高い。念のためナツミに協力してもらったが、確かにその近辺にフリードはいた」

 

 イッセーと視線が合う。

 

 俺達の脳裏に浮かんだのは、あの動物化するナツミのアニマルソウルとかいう魔法とやらだ。

 

 あれは非常に便利にだった。こういう後方支援から直接支援までこなせるのはマジ便利。ことが終わったら回らない寿司をご馳走せねば。

 

「なるほど。では、アジトの探索は実質私達の仕事ですね。本格的にことを構えるのは私達教会の仕事です」

 

「それで、町中で私達が囮になってフリードって人を引き付けるんだねー。神父の格好とか貸してくれない? 餌はつけとかないとねー」

 

 ベルと桜花のおかげでサクサクすすむ。

 

 だが、作戦としてはこれで十分だ。

 

 念には念を入れてそのあたりに白髪を探して俺らしき人物がウロウロしているとの情報も流しておいた。俺にボコられたフリードなら、エクスカリバーを使って自分から打って出ようと考える可能性も十分にある。

 

 あの戦闘狂なら人数差があっても突っ掛かってくるはずだろうし、割と本気でイケるはずだ。

 

 さらに!

 

「念には念を入れて下準備もしておいたし、できうる限り今日中にフリードを倒してエクスカリバーも破壊する」

 

「最低でも核はちゃんとこちらに引き渡してもらう。それでいいなベル」

 

「構いませんよゼノヴィア。イリナ、確か殺された潜入した神父の着替えが残ってましたね。アレを彼らに着せてみましょう」

 

「わかったわ。・・・うーん、イッセーくんたちならともかく、この女の子にはシスター服の方がいいかしら?」

 

「・・・私はどっちでも。桜花先輩はどうしますか?」

 

「シスター服だと動きにくそうだし、私は神父さんかなー。むしろ兵藤くんとかにシスターのカッコさせたらあちらさんも油断するかもー?」

 

「誰が得するんだよその格好! 木場、何とか言ってやってくれ!!」

 

「ははは。いろいろと迷惑もかけたし、全部解決した後の罰ゲームなら僕はいいよ」

 

 うん、良い感じになってきたな。

 

 なんだかんだで全員で結束している中、しかしついていけない人が一人。

 

「・・・あのさー、完全に置いてけぼりになってるんだけど、そもそもなんで木場はエクスカリバーが憎いんだ?」

 

 あ。

 

 そういえばそうだ。こいつその辺の事情一切知らないんだった。

 

「そういえばそうだねー。聖剣計画って言うのが原因らしいけど、何がどうなったの?」

 

 確かにそうだな。

 

 イッセーは部長から聞いてたみたいだし、小猫ちゃんはその辺の事情を知っているみたいだが、俺も含めて、深いところを知っている奴がこの中にどれだけいるのか。

 

「そうだね。・・・いい機会だし、聞いてもらおうかな」

 

 そこから聞かされたのは、あまりにも惨たらしい話だ。

 

 身寄りがなく、頼るものが何一つない幼い子供たち。

 

 彼らは教会にその才能を認められ、聖剣をつかえる選ばれた者へとなるべく実験に参加した。

 

 実験の内容は非人道的でいろいろと精神的にも苦痛だったらしいが、それでも彼らは頑張った。

 

 いずれ主のために役に立てると、神に愛されていると信じて、聖歌を口ずさみながら頑張った。

 

 だが、その結果はあまりにも惨たらしい。

 

 吐き気をこらえるかのような表情で、ベルは顔を伏せた。

 

「毒ガス・・・だったと聞いています」

 

「ああ。そんな中、彼らは・・・名もなき彼らは僕だけでもと体を張って、僕を逃がしてくれた」

 

 だが、そんな木場の体も毒ガスで汚染されていた。

 

 雪が降り積もり森の中を、裸足で走り続け、そして力尽きた。

 

 そこに、本当に偶然近くに来ていた部長が通りがかっていたのだ。

 

「同志たちが助けてくれた僕の命は、決してただ使い潰されていいものじゃない。彼らの無念を、彼らの憎しみを、彼らの悲しみと絶望を、僕は魔剣に込めなきゃならないんだ・・・っ」

 

 正直な話、これを聞いたところで、俺にできることは何一つとしてない。

 

 二度死んだとはいえ、一度目は完全に自己責任の事故死で、二度目はしっかり原因に止めを刺している。

 

 そんな俺に、木場について何かを言うことはできるはずがない。

 

 はずがないが・・・。

 

「バルパー・ガリレイ・・・っ!」

 

 大きな秘密を未だ隠している俺に、何かを言う資格はないのかもしれない。

 

 だが、そいつだけはただでは済まさん・・・!

 

「やってくれるみたいだねー。そのダメ神父さんはー」

 

 口調は結局語尾が延びているが、桜花もちょっと引くぐらい殺気がにじみ出ている。

 

 こいつもいろいろと過去に何かあったらしいな。

 

 まあ、平和な日本とはいえ凶悪犯罪がないわけではないし、イッセーのようなパターンもあるわけだ。

 

 まさか俺みたいに転生者なんてそうそう無いだろうが、かなりの経験があるんだろうな。

 

「・・・・・・愛されるべき信徒、それも小さな子供に対してよくもまあそんなひどいことを! 許せないわバルパー・ガリレイ! 見つけ次第、私がエクスカリバーで裁いてあげる!」

 

「そこはグレモリーの騎士に譲ってやるべきだろう。とはいえ、誇るべき人工聖剣使いにそんな負の側面を作った報い、エクスカリバーによって祓いたくなる気持ちもわかるけどね」

 

 イリナとゼノヴィアも怒りに燃えている。うん、価値観の違いはあるけど、この二人も悪い奴じゃないだろう。

 

「・・・ぅう」

 

 なんかむせび泣くような声が聞こえてきた。

 

 ―匙だ。

 

 ちょっとドン引きするぐらい号泣している。鼻水まで垂れているが、冷静に考えるとまだファミレスです。

 

 ヤバいマジで目立ってる。

 

 ・・・ハッ! そういえば金が手に入ったから作った、認識阻害の使い捨て魔術礼装が完成していたんだ! 急げ! 変なこと口走る前に急げ!!

 

「木場ぁああああ!!! お前って本当に大変だったんだな!! ああ、そりゃ聖剣や教会に恨みを持ったって当然ってもんだ!!」

 

 匙は号泣したまま木場の手をとると、そのままブンブンと振り回す。

 

 よしセェエエエエフ!! ギリギリで間にあった!

 

「良し! 俺も覚悟を決めたぜ!! 会長のお叱りも後でしっかりと受けてやる!! 正直イケメンのお前のことがちょっといけすかなかったが、そういうことなら話は別だ!! 全面的に協力するぜ!! だからお前も救ってくれたリアス先輩を裏切るな!!」

 

 おお、まるでイッセーみたいに熱いところがある奴だ!

 

 しかし、これで変に脅す必要はなくなった。駒三つで転生したポーンが全面協力してくれれば、比較的難易度も楽になるはずだ。

 

「よっしゃ! お前の秘密だけ聞くのもなんだし、俺の秘密も聞いてくれ!!」

 

 ・・・なんだろう、ライザーが部室に来た時に、イッセーが妄想に入った時のような感覚がしてきたぞ!!

 

「・・・俺の夢は、会長とできちゃった結婚することだ!!!」

 

 ・・・沈黙が、降りた。

 

 俺はなんかアホらしくなったので思考を切り替えることにした。

 

「・・・今日の夕食の準備もしないとな。そこのトリオ・ザ・セイント、金とり返してきてやったんだから荷物持ちぐらい手伝ってくれ」

 

「いや、止めなくていいんですか? 実質、空気が台無しになってるんですけど」

 

「気にすんな裸族エクソシスト。なぜなら・・・」

 

 最後まで言うことはできなかった。

 

 なぜなら、イッセーが男泣きしながら匙の手を握っていたからだ。

 

「匙! 俺の夢は、部長の乳首を吸うことだ!!」

 

「・・・このように、さらに状況が悪化するからだ。わかったな物乞い三人娘」

 

「・・・本当に、欲望の強い悪魔らしい行動だが、いくらなんでも無謀の極みじゃないのか?」

 

「安心しろゼノヴィア。はっきり言って既に秒読み段階と言ってもいい。・・・イッセーは」

 

「・・・なんてこと!? 懐かしい幼馴染がしばらく見ない間にとんでもない変態になっちゃってるわ! 主よ、これも試練なのですか!?」

 

 どんな試練だよそれは。

 

 あ~あ~あ~あ~。二人ともすっかり意気投合しちゃってるしホントにもう!

 

「・・・やっぱりダメダメです。変態コンビな先輩たち」

 

「あはは。でも、イッセーくんらしいと思わないかい、小猫ちゃん?」

 

「元ちゃんも兵藤くんも思春期の男の子だねー」

 

 やれやれ。

 

 こんな調子で大丈夫か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファック! 思った以上にはぐれ悪魔祓いの連中が集まってやがる。アザゼルが赤龍帝の始末を命じた時ぐらいじゃねーか? ファック!」

 

「気にしすぎだぜ? まあ、お前はあの時の命令も嫌ってたから仕方がないけどな。・・・つっても、正教会のエクスカリバーを二本とも奪うとはコカビエルも本気だねぇ? どう思うよ、白龍皇さまは?」

 

「別に。あの様子ではコカビエルぐらいしか楽しめるのがいないからな。全く、いくら赤龍帝がいるからと言って、こんなつまらない任務はバラキエルやもう一人の神滅具の男に頼むべきだ」

 

「いいからさっさと仕事しろよファック龍皇。少しぐらいは待っててやるが、あちらに犠牲者が出たら、あとでこっちがいろいろ言われるんだぞ」

 

「少しぐらいはかまわないだろう? 赤龍帝がどれぐらいか知りたいし、輝く腕のベルとコカビエルの戦いは、少し楽しめそうだ」

 

「俺としてはエクスカリバー使いが気になるかねぇ。どうやら他にも奥の手がありそうだし、できれば様子を見てデータをとっておきたいぜ?」

 

「ファック! このバトルジャンキーとマッドサイエンティストはどうしようもねーな」

 

「気にしすぎだろ? それに、俺としてはグレモリー眷属が意外と頑張りそうだぜ? 俺がくすねてきた対フェニックス戦はお前も・・・ああ、あれは白龍皇様しか見てないか」

 

「確かにあの男は面白い戦い方をしていたな。・・・それ以上に、最後の能力上昇は興味深い」

 

「あんなもん大したことはねぇよ。・・・まあ、聖水を体内に注入して攻撃とかは驚いたけどな」

 

「んなこたーどーでもいいんだよ。ファック! 真面目に仕事する気なのはあたしだけかよ」

 

「まあそういうなって、ウチのボスはボスで今回のことを利用していろいろ考えてるみたいだし、その辺は下っ端として汲んでやらないとだめだろう? なあ、そこで携帯ゲームに夢中になってるダメ総督さん?」

 

「なんだ、そんなところにいたのか。・・・どうせなら話に加わればいいのに」

 

「このダメダメファック総督は本当に・・・っ」

 

 

 

 

 

 

 

「お前らなぁ、もう少し総督を尊敬しろよ。・・・まあ、これはこれで面白そうだながな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってお前らに返事してたらゲームオーバーになったじゃねえか! 後ちょっとでノーミスクリアだったんだぞ!!」

 

「うるせえよダメ総督!! ファックファックファァアアック!!!」

 



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コカビエル、やばすぎです!

今回、切りどころが難しかったのでちょっと長いです。


 

 夜、俺たちは神父の格好をして町中を歩いていた。

 

 結局、戦闘になった際いちいち脱ぐのも時間がかかると思ったので、俺の発案で全員が神父の格好になることが決定した。

 

 フリードなら面白がって脱ぐまで待ってくれそうだが、他の連中が一緒にいたとしたら、それだけではなさそうな気がするからだ。

 

 ベルたちが山間部を調べている間に、俺たちがフリードをおびき寄せることができればそれでよし。

 

 念のためわざと発信機を付けさせてもらったので、向こうがアジトを発見するのが先だったら木場がそれに気づいて暴走した風に見せかけて突入する手はずになっている。

 

 俺はその手はずのイメージトレーニングを一応しておきながら、盗まれたエクスカリバーの能力を思い返す。

 

 あの後、戦闘になった際手の内がわかっていないと大変だということで、ベルがエクスカリバーの特徴を教えてくれた。

 

 一つは天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)

 

 ゼノヴィアの破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)が攻撃力を強化するのに対し、こちらはスピードを強化する代物だそうだ。

 

 これを保有しているのがフリードとのことなので、これになった場合木場との一対一になりかねない。

 

 数で囲もうにもスピードで翻弄されかねないからだ。

 

 もう一つは祝福の聖剣《エクスカリバー・ブレッシング》。

 

 これは聖なる力を強化する能力を持っており、対悪魔戦においてはディストラクションに匹敵する威力が予想される。

 

 さらに透明の聖剣《エクスカリバー・トランスペアレンシー》。

 

 刀身を透明にする聖剣であり、特に緒戦に置いては他より効果が高いはずだ。

 

 単独ならともかく、複数ででてきたら俺が相手をすることになっている。

 

 一応対策が無いわけではないからだ。ちょっと魔術を使うことになるが、ライザー戦前の修行のおかげである程度ごまかせそうだ。

 

 そして最後は夢幻の聖剣《エクスカリバー・ナイトメア》

 

 夢を操ったり幻術を使うことができる聖剣だそうだ。

 

 完全なかく乱戦闘仕様。ある意味対集団でこれより強力な聖剣は存在しないだろう。

 

「・・・さすがは七分の一でもエクスカリバー。どいつもこいつも一筋縄じゃいかなすぎる」

 

 これを相手にしなきゃいけないのかと思うと、ちょっと頭が痛くなってきたぞ。

 

「大丈夫だよ宮白くん。エクスカリバーは僕が破壊する」

 

「一対一ならともかく、それ以外だとさすがに俺たちも動かなきゃいけないだろ。・・・絶対に倒さなきゃいけないからこそ、お前みたいなのはクールに行こうぜ」

 

 やはり気をつけた方がいいな。

 

 だいぶ落ち着いたみたいだが、それでも聖剣に対する憎悪が半端ない。

 

 手数が多いタイプの木場は、戦闘に置いてどう立ちまわるかかなり細かく考える必要がある。

 

 世の中考えるより本能に任せた方がうまくいくタイプは多いと思うが、それはどっちかっていうとイッセーのようなタイプだ。

 

 こりゃ本気でサポートを考えた方がいいな。

 

 念のためはなれたところでナツミを待機させているが、これは本当に最後の手段だ。

 

 バラす気になっている俺がバラしたことでダメージを負うのは自業自得だが、ナツミは違う。

 

 何とかエクスカリバーをぶちのめして、木場の気を晴らしておかないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・来たよー。三名様ご案内って感じ」

 

 桜花が声を出し、さらにはどこからともなく剣を出す。

 

 やけに刀身がぶっとい片刃の剣だ。いったいどこから用意してきた?

 

「あ、これは私の神器で聖吸剣(ホーリーイーター)って言うのー。・・・で、あちらさんもやる気だから全員戦闘準備」

 

「どうやら、獲物がかかったみたいだね」

 

 木場が狂暴な笑顔を浮かべる中、前方に悪魔祓いらしき人影が三つ。

 

 そのうち一人が一瞬でこっちに突っ込んできた。

 

「生贄神父御一行ご到ちゃ~くってねぇ!!」

 

「来たか、フリード!!」

 

 真っ先に木場が反応して剣をぶつけ合う!

 

 ・・・わかっちゃいたがヤバいオーラだ。

 

 全く、聖剣なら聖剣らしくもっと聖なる人間に力を貸せよ!

 

「わ~お。誰かと思ったらむかつく糞人間ちゃんのお仲間じゃ~ん。イッセーきゅんも僕のこと忘れないでいてくれたぁ? 遠距離恋愛の恋人みたいに胸をドキドキしてくれてたかなぁ」

 

 相変わらずのいかれ野郎だ。

 

 素早く光の槍を展開。さらに魔力を使って大量に水を生み出し、さらにそれを切りへと変化させる。

 

 剣の種類を確認している暇はない。既に残り二人も接近中だ!

 

「イッセーは倍化を譲渡する準備をしてろ! 小猫ちゃんはイッセーの護衛よろしく!!」

 

 フリードの相手は木場に任せ俺は、残り二人を狙って駆け出す。

 

 そんな俺に追いつく人影が一人。こいつは桜花か。

 

「元ちゃんも守ったげてー。一人はこっちで十分だよーっと!」

 

 むしろ俺を追い抜く勢いで駆け抜けると、そのまま相手の一人と対峙する。

 

「ぐ・・・糞がぁ!! お前ら殺してうっぷん晴らしてやるよ!!」

 

 やけに苦しそうに吠えるはぐれの剣から、オーラがさらに倍増して放たれる。

 

 チッ! 祝福のほうか!

 

「ラッキー! これは相性抜群!!」

 

 なぜか喜んだ桜花が剣をぶつけ合った瞬間、驚くべきことに聖剣のオーラが一気に減少する!?

 

 しかも桜花の剣は輝きをまし、桜花も不敵な笑顔を浮かべて力を込める。

 

「私の聖吸剣の効果は聖なるオーラを吸収すること。聖剣の相手としてここまでふさわしい神器はそうそうないよー」

 

 こいつは頼もしい!

 

 となれば俺はもう片方! さて、夢幻か? 透明化?

 

「グ、ガ。貴様ら・・・コロス!」

 

 こいつも苦しそうだな。

 

 特に人工聖剣使いに後遺症はなさそうだったが、パワーアップでもしようとして変な強化でもしてんのか?

 

 だが、目の前の男は構わず突進。

 

 さらにその刀身は透明になって見えにくくなる。

 

 透明の聖剣か! だが甘い!

 

「悪いな。見えてはいないが感じてはいるぜ?」

 

 自信満々で振るわれた一撃だが、俺も自信満々でそれを交わす。

 

 さらに今度は突きを放つが、俺はさらりとかわすと思いっきり殴りつける。

 

「霧の微細な粒子のずれを確認すれば、物体がどこにあるかは意外と分かる。本当はもっと濃くして肉眼で物体を見えなくした時の戦闘方法だが、お前ら相手ならこれで十分だ!」

 

 もちろん嘘だ。

 

 実際はもっと凝ったものだ。

 

 霧を生み出すときに俺の切った爪などを利用して作り上げた粉末を混ぜあわて周囲に浮遊させる。

 

 それを魔術により反応させ、簡易的なレーダーと化しているのだ。

 

 追加でコンタクトレンズ型の魔力反応礼装を作り(宝石を原材料に使っているのでマジで高かった。しかも使い捨てなので超無駄遣い!)それをつけることでより分かりやすく認識する。

 

 本当はさっきの説明のように霧を深くして使用し、自分だけが正確に位置を把握できるようにする代物だが、連携を考えて霧は少なめにしてある。

 

 それでも、一対一で集中すれば刀身の長さを図るぐらいはちょろいもんだ!

 

 動きは鋭いが木場程じゃないし、これならやられることはまずないか。

 

 一方、桜花の方もかなり優勢。

 

 ところどころ鋭い一撃を叩きこんだりもしているが、文字通り目にもとまらぬスピードで距離をとると、聖吸剣で切り結ぶ!

 

 アイツ騎士やってた方がいいんじゃないか!!

 

「ホラホラホラホラ! 俺様のちょっぱやセイバー、天閃の聖剣の餌食になっちゃえよホントよぉ!!」

 

「くっ! 舐めるなァ!」

 

 って木場が一番ヤバい!?

 

 クソッ! フリードの野郎腕をあげてやがる!!

 

 さすがに背を向けて援護できるほど余裕があるわけじゃないし、桜花の方もいつの間にか一が入れ替わってるから、あれはあれでやりづらい!

 

 どうすれば・・・。

 

「おいおい! 俺達のことを忘れてもらっちゃ困るぜ!!」

 

 匙の声が響くとともに、黒い触手のようなものがフリードの足にへばりつく。

 

 瞬間、フリードの動きが僅かに、しかし確実に落ちる。とっさにフリードは触手を切ろうとするが、エクスカリバーを以ってしても全然切れない!!

 

 見れば匙の腕にはトカゲをデフォルメしたような姿パーツが。

 

 思い出した、あれは匙の神器だ!!

 

「俺の神器はちょっとやそっとじゃ切れないし、相手の力を吸い取ることだってできる!! 兵藤!」

 

「・・・行きますよイッセー先輩。えい」

 

「う、うぉおおおお! 木場ぁあああ!!」

 

 小猫ちゃんがイッセー投げた!

 

 なんて豪快だけど素早くできる譲渡デリバリー!

 

 イッセーが触れると同時に、木場のオーラが格段に上昇する。

 

 これならいけるか!

 

「・・・ほう、まさかこんな所で魔剣創造(ソード・バース)を目にすることができるとはな」

 

 ・・・新手か!

 

 見れば、そこにいるのは通常武装に身を包んだ悪魔祓いに護衛された、一人の神父の姿が。

 

 少し小太りなその目は、この距離からでもわかるぐらいどす黒い!

 

「おお! バルパーの爺さん! このばっちいベロがむっちゃ切れなくて困ってんだけど、どうにかできねぇ?」

 

 フリードの言葉に、木場の殺気が膨れ上がる。

 

「貴様がバルパー・ガリレイかっ!」

 

 この面倒な時に!

 

 バルパーは俺たちの戦いを少し眺めると、失望したかのようにため息をついた。

 

「まったく、フリードですら聖剣が上手く使えないとは困ったものだ。私が与えた因子を聖剣に込めろ。そうすれば自然と切れ味は増す」

 

「「・・・因子?」」

 

 俺と桜花の声が重なる。

 

 『因子』を『与えた』?

 

 やけに気になるワードだが、それはつまり、人工聖剣使いはドーピングのようなもので増やせるのか?

 

 まさか、こいつらの様子がおかしいのはその副作用・・・。

 

「よっしゃ切れたぁ! とりあえずここはいったん帰ろうぜ爺さん! 俺っちはともかく他の木偶どもが使い物にならねぇ!!」

 

「どうやら、計画はプランB変えた方がよさそうだ。全員、一度撤退するぞ!!」

 

 ちぃ! 思った以上に判断が早い!!

 

 フリードは一気に距離をとると同時、聖剣を桜花に振るって隙をつくると、祝福のほうを引っ張ってバルパーの元へと走る。

 

 さらにはぐれ悪魔祓いは一斉に銃を放ち、透明のほうを撤退させるために援護射撃を叩きこんだ!

 

「グッバイコスプレ悪魔チーム! 今度会った時が真のデスマッチだ!!」

 

 フリードが懐から閃光弾を取り出し地面に叩きつける。

 

 クソッ! 何気に撤退戦が上手いじゃねえか!

 

 目が慣れた時にはもう奴らの姿がない。

 

 だが甘い!!

 

 さっき透明の方を殴った時に、どさくさにまぎれて発信機を付けておいたんだよ!

 

 俺が逃げられた時のことを考えてないわけがないだろうがバーカバーカ!!

 

「追うぞお前ら!! ここで逃がすと部長が厄介だ!!」

 

「わかってる! 逃がしてたまるかバルパァアアア!!!」

 

「了解だよー!」

 

「あ、ちょっとまて宮白!」

 

「え、ちょ、桜花!?」

 

 イッセーと匙が呼びとめるが、そんな余裕は全くない。

 

 ここで逃がすのは得策じゃない。できればコカビエルと合流される前にカタをつける!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追いかけている間に連絡を入れてベル太刀とも合流。

 

 俺たちは山間部にポツンと立てられた大きめの建物に到着した。

 

「・・・かなり古い建物だな。大戦前の教会か何かか?」

 

 結局隠れ家に到着されてしまった。

 

 どうするよ、コレ?

 

「あ、携帯電話落としたー。宮白くん、持ってる?」

 

「えーっと・・・ダメだイッセー達の電話番号入れたやつ電池切れだ」

 

 結構どたばたしてたからな。

 

 クソッ! 準備は万端にしてたつもりなんだが・・・。

 

 これじゃあイッセー達と合流ができない。

 

 最悪イッセーに右腕を差し出してもらって、コカビエル戦の切り札にしてもらうつもりだったんだが、このままだとちょっとヤバいか?

 

 建物の規模から考えると、人数は二十人から三十人は入れそうだ。

 

 エクスカリバー四本にコカビエルという洒落にならない戦力から逆算すると、そいつらに一人ずつぶつかってもらい、残り一人で雑魚を相手にするってことになりそうだ。

 

 ・・・どう考えても難易度が高すぎる。

 

 こうなったらナツミと合流して・・・

 

「宮白くんー? 木場くんたちもう行っちゃってるよー」

 

 オイコラちょっと待て!!

 

 本当だ! 木場を先頭にベル達も突貫しちゃってるよ!

 

 ああもう畜生!! こうなったら毒を食らわば皿までだ!!

 

「行くぞ桜花! とっとと行かないと置いてけぼりだ!!」

 

「あいよー」

 

 あわてて追いかけた俺たちが追いつくのと、木場達が扉を破壊するのは同時だった。

 

「バルパァアア!! 一体どこに・・・っ!」

 

 激昂しているはずの木場が言葉を切る。

 

 その視線の先には、さっきまで俺と戦っていた聖剣使いの姿が。

 

 いや、あいつだけじゃない。他に二人ほどはぐれ悪魔祓いが倒れている!

 

 慎重に近づいて脈を測る。

 

 ・・・もう、死んでいる。

 

 念のため、トラップがないかどうか解析の魔術で確認すると、何やら妙なものが見つかった。

 

 なんだ? 妙な力のようなものが渦巻いている。

 

 ・・・回収できるか? ・・・そうだ、奥の手の宝石を使えば宝石魔術の応用で行けるはずだ。

 

 ちなみに、宝石魔術とは宝石に魔力を込めることで宝石自体を魔術の塊とする魔術だ。

 

 ちょっとキーワードを唱えて投げつけるだけで大魔術を発生さえることができるため戦闘向きだが、宝石を使い捨てなきゃいけないため非常にカネがかかる。

 

 金が手に入ったのでいくつか調達しておいたのがこんなところで役に立つとは・・・。泥棒対策で常時持ち歩いていて助かった。

 

 ・・・良し、これならいけそうだ。

 

「・・・宮白くん? いったい何を―」

 

「木場祐斗、それよりも今は前を向いてください」

 

 ベルが皆をかばうかのように前に出る。

 

 俺も宝石に謎の力を込めて前を向くと・・・。

 

「ようこそ、俺達の隠れ家へ。・・・歓迎するぜ」

 

 ・・・ヤバい。

 

 見ているだけで分かる。

 

 明らかにエクスカリバーとか魔剣とかの格をはるかに超える男がいた。

 

 下手をすると、ライザーと禁手状態のイッセーを足しても追いつかないほどのオーラが俺でも分かる。

 

「・・・実質、あなたがコカビエルということですか」

 

 ベルは確認するかのように尋ねるが、そんな答えは聞くまでもないだろう。

 

 間違いなく奴があいつらのボスだ。

 

「聖剣使いが二人に転生悪魔が三人。・・・なんだ、輝く腕のベル以外は雑魚しかいないのか。ミカエルもつまらん連中しかよこさなかったか」

 

 完璧に雑魚扱いされるが、それを怒る気にもなれない。

 

 少なくとも、俺たちをその程度とみ下せるほどの実力を奴は持っている。

 

「舐めてくれるなコカビエル。神の名のもとに断罪してくれる」

 

「主のために戦う私達をなめないでくれる? エクスカリバーを奪った報い、必ず受けてもらうわ」

 

 ゼノヴィアとイリナは強気の姿勢を見せるが、コカビエルはいにも介さない。

 

「貴様ら程度に俺が倒せるわけがないだろう。・・・輝く腕ならできるかも知れんが、他の連中などこの倍いても役には立たん」

 

「・・・覚悟はしてましたが、ここまでとは思いませんでしたよ」

 

 勝算を受けたベルだが、その表情は非常に苦い。

 

「コカビエル! バルパー・ガリレイはどこにいる!! 答えろ!!」

 

 未だ怒りを抑えきれない木場も吠えるが、今はそれどころじゃない。

 

 ・・・なめてかかっていた。

 

 オカルト研究部と生徒会が束でかかったとしても、奴一人と互角に渡り合うことすらできそうにない。

 

 クソ! フリードからライザー、さらにこれって難易度の上昇率が洒落にならないだろうが!!

 

「奴は一応協力者だ。・・・なんだかんだでそれなりに役に立っているしな。貴様ら雑魚にいちいち合わせるわけがないだろう? 俺たちは計画に忙しいんだ。適当に相手をしてやるからとっととくたばれ」

 

「貴っ様ぁああああ」

 

「木場落ち着け!! 本気で状況考えろ!!」

 

 やばいやばいやばいやばい!

 

 考えろ! 何か手があるはずだから何とか考えろ!

 

 この人数じゃ勝ち目がない! ベルの戦闘能力なら勝算だけはあるらしいし、何とか眷属全員がそろえば・・・。

 

 いや、部長に連絡して魔王様の応援を要請した方がいい! それでも間にあうかわからないぞ!!

 

 

「・・・えーっと、コカビエルだっけー」

 

 ・・・静かに

 

 そう、あまりにも静かに前に出て、桜花がその剣をコカビエルに突きつける。

 

「なんだ小娘。やめておけ、お前程度じゃ俺に傷をつけることだってできんよ」

 

「一つ聞きたいことがあってここまで来たんだけどさー。質問いいかなー?」

 

 こんな時になんだ?

 

 その後半伸びる口調が緊張感を緩めたのか、コカビエルは少しおもしろそうな表情を浮かべる。

 

「聞くだけ聞いてやる。言ってみろよ」

 

 その言葉に少しだけ、本当に少しだけ桜花はためらい―

 

「アンタの目的って、三大勢力で戦争を起こすことー?」

 

 ・・・は?

 

「・・・な、何を言っているんですか? 実質、意味不明な質問なんですけど」

 

「桜花さん? それはいったいどういうことだい?」

 

 今、こいつなんて言った?

 

「だってさー。堕天使の幹部が教会の大事なお宝奪って、魔王血族の陣地にやってくるって、どう考えてもややこしいことになりそうじゃん? 下手したら戦争だよー。そんな面倒なリスクふつうは背負わないよー」

 

 だから、

 

「逆転の発想で、戦争が目的だからこんなことをしたのかなーって思うんだけどー」

 

 言葉が、無かった。

 

 確かに、なんでここに逃げ込むんだとは考えていた。

 

 下手をすれば均衡状態が崩れかねないとも考えていた。

 

 ・・・それが、目的だったっていうのか?

 

 答えはすぐにやってきた。

 

 コカビエルはいつの間にかうつむいていたが、その体が少しずつ震えだす。

 

「・・・ふ、フフフ、フハハハハハハハアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!! 正解だ! お前頭がいいなぁ!!」

 

 ・・・マジ、かよ。

 

「ああそうさ! こうでもしないと、アザゼルもミカエルも魔王どもも、戦争を起こしてくれそうになかったんでな!」

 

「貴様・・・。そのためにエクスカリバーをわざわざ盗み出したというのか!!」

 

「そうさ。だがミカエルはこんな雑魚しかよこさない。とくれば、念のためここに逃げ込んで正解だった。エクスカリバーを使って魔王の妹どもをミンチにしてやれば、サーゼクスとセラフォルーは怒り狂ってくれそうだしなぁ!」

 

 ・・・最悪だ!

 

 こっちが戦争を起こさないために慎重に行動していたのが完璧に裏目に出た!

 

 戦争を起こすために準備してきた奴ら相手に戦争を起こさないために戦力を少なくしていた俺たちじゃ勝ち目がない!!

 

「上手い具合にアザゼル達の監視網が緩んでくれたおかげで、手駒もそれなりに集まってくれた。俺はこの地で戦争の火蓋を切る。エクスカリバーを使って、この街そのものを滅ぼせば、いくらなんでも戦争を起こせるだろうしな!」

 

「マジめんどいよー。会長がヤバいかもとおもって勝手に行動して正解だったー」

 

 ものすごい殺気を放ちながら久遠は嘆息するが、コカビエルはむしろ愉快そうに表情をゆがめる。

 

「その判断は褒めてやるが遅かったな! プランが変更されたことで戦争の準備はほとんど整っている。後はそうだな・・・お前らの学校で花火をあげてやるよ」

 

 やけに物騒なことをのたまいやがる。

 

 いったい何をする気だ?

 

「・・・俺の動機を当てた褒美に教えてやる。プランBは分割されたエクスカリバーの統合、及びその時のエネルギーを利用してこの街を吹き飛ばす儀式のことさ」

 

 本当スケールが違いすぎる!

 

 今までの騒ぎの比じゃ無さ過ぎる!

 

 糞が! 戦争を起こしたいって理由だけで、何の罪もない人間を何万人も一度に殺すつもりなのか!!

 

 呆然とする俺たちの中で、真っ先に動けたのはベルだった。

 

「ゼノヴィア! イリナ! 彼らを連れて逃げなさい!!」

 

 叫ぶと同時、ベルの姿が消え―

 

「・・・この町から少し離れた都市に、同僚を何十人か呼んでいます!! 既にシグナルは出しましたから、グレモリーに助けを求めて合流してください!!」

 

 コカビエルの真後ろから殴りかかった。

 

 その両腕は目がくらむほどの光に包まれ、コカビエルの後頭部に・・・。

 

「ほお、万が一に備えて戦力はかき集めていたか」

 

 あっさり、コカビエルが出した翼に阻まれる。

 

 ダメだ、ベルでも奴には勝てそうにない。

 

「・・・何を言っているベル=アームストロング! 私達も主のために―」

 

「実質それだと無駄死ににしかなりません!! 相手が戦争勃発をもくろんでいるのならば、共同で殲滅してもむしろ神の子を見張るものに恩を売れます!! 早くッ!!!!」

 

 ゼノヴィアが反論しようとするのをぶった切り、ベルが叫ぶ!!

 

 間違いない、あいつここで死ぬ気だ!!

 

「・・・引くぞ木場!! この状況なら総力を挙げてエクスカリバーとも戦える! 今は態勢を立て直すんだ!!」

 

 撤退のために霧を生み出す。

 

 下手をすればフリード達は逃がさないために退路を断っている可能性もある。

 

 ここは全力で逃げないと!!

 

「桜花! 比較的冷静な俺達でしんがりだ! 早く部長に増援を要請しないと不味い!!」

 

「わかってるよー! 急がないと本気でまず―」

 

「オイ」

 

 殺気が・・・

 

「逃がすと思っているのか? 貴様ら程度なら、輝く腕を相手にしながらでも十分殺せる」

 

 天使の鎧を持っているからこそわかる。この光力・・・ヤバい!!

 

「俺の計画に気付いた褒美だ。主の死体を見る前に先に行って待っていろ」

 

「桜花!!」

 

 ほとんど条件反射だった。

 

 既に一度人生を終えていたから、いつ死んでもいいように後悔なく生きてたのが理由なんだろう。

 

 翼を出し、両足と同時に加速に費やした俺は突き飛ばすように桜花をその場からどかし―

 

「喰らっておけ」

 

 光力の一撃を叩きつけられ、俺の意識は暗闇に堕ちた。

 



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あらたな仲間、発見です!

 

 ・・・気付いた時には、やけに奇麗な星空が見えていた。

 

 背中の感触は草や土のそれだ。山の中にでも倒れているのだろうか。

 

「・・・あ、起きたー?」

 

 視線を少し横にずらすと、桜花が心底ほっとした顔で俺の様子を見ているのが移る。

 

「大丈夫ー? 致命傷じゃないっぽいけど、光の槍の一撃だから、結構全身ボロボロだよー?」

 

「あ、ああ。・・・まあ、命の危険がないなら十分ついてるほうだろ」

 

 まさかあの状況下でこっちに攻撃する余裕があるとは思わなかった。

 

 完全に判断ミスだな。やっぱり無理を言ってでも部長に協力を要請した方が良かったか。

 まあ、あのとんでもない奴が相手で、生きているだけめっけもんか。

 

 額から流れる血が目に入りそうで正直面倒だ。

 

 俺はそれをぬぐおうと左腕を動かして―

 

「な・・・っ」

 

 空を切った。

 

 首を動かしてみれば、俺の左腕は肘の少し上のあたりから完全に消滅していた。

 

「ゴメン。残ってた先の部分も、回収してる余裕なかったー」

 

 ・・・結構、キッツいなー。

 

「・・・他の、部分は?」

 

「どこもかしこもボロボロだけど、致命傷じゃないよ。大丈夫、なくなってるのは左腕だけー」

 

 そうか、どうやら、本当に致命傷一歩手前の状況だったみたいだな。

 

 ・・・とはいえ、真面目な話ショックを受けてる場合じゃない。

 

 コカビエルの目的は戦争勃発。

 

 堕天使幹部が教会の宝を使って魔王の妹を殺す。

 

 重要なファクターがそろいまくってる大騒ぎは、間違いなく大きな衝撃を与えるだろう。

 

 高確率で戦争が起こるだろう。コカビエルの戦略眼は、確かなものだと言わざるを得ない。

 

 圧倒的格上が相手な上に、完全に出遅れている。

 

 このままだと本気で勝ち目がない。

 

「ほかのみんなはどうなった! 木場は・・・」

 

「ゴメン。思った以上に敵が激しくってー。逃げるのに夢中でそこまではー」

 

「そうか・・・」

 

 無事だといいんだが。

 

 ついでに言うなら、イッセー達は大丈夫なんだろうか?

 

 奴の発言を完全に信じるなら、既に学園に到着している可能性は本気で高い。

 

 下手をすれば部長達を殺してから町を崩壊させる可能性もある。奴の実力ならどっちでも別段大した違いはないだろう。

 

 ・・・確実に決死の戦いになるな。

 

 さぁて、どうしたもんかね本当に・・・。

 

「・・・バカ」

 

「は?」

 

 いきなり、桜花にそんなことを言われた。

 

「私なんかのためにー、そんなことしないでよ」

 

「あー、あんまり気にすんな」

 

 まあ、目の前で自分をかばって命を落とすって言うのは、かばわれた側としてはショックが大きいのかもしれないな。

 

 とはいえ、それでここまで落ち込まれていては意味がない。

 

 助かったものは助かったことをしっかりと喜ぶべきだ。誰かが頑張ったのならそれを恩に思うことこそあれ、重荷にすることはない。

 

「まあ、あれだ。俺は結構後悔なく生きてるから、こういうとき自分の命の価値が低いって言うか、一度死んで悪魔になったから、おまけの人生的な感じになってるというか・・・」

 

「・・・それなら、私の方がはるかに軽いよー」

 

 ・・・さて、ここで説教かますほど俺たちは付き合い長いわけじゃないしな。

 

 かばって死のうとした俺が「そんなこと言うな!」とかはいえそうにない。

 

「一度死んで新たな人生って意味ならー、私の方がはるかに大きいよ」

 

 言いたくなさそうに、だけど言った方がいいような言い方で、桜花は肩を震わせていた。

 

「死んで生き返っただけの人より、私の方がよっぽどラッキーだよ」

 

 ・・・ん?

 

「でも、私の場合は会長に出会うまであまり意味なかったしー、そういう意味じゃあんまり変わらないのかなー?」

 

 ・・・どっか引っ掛かるような。

 

「下手に記憶を残しててー、おかげでずっと一人だったー」

 

 その言葉に、俺はイッセーと出会う前の自分を思い出していた。

 

 家族ともろくに仲良くできず、ずっと一人でいた寂しい半生。

 

 ・・・なんとなくわかった。こいつは俺と同じ、いや、こいつも俺よりひどいんだ。

 

「結局会長の不思議は私と違ったけどー、あの人がいなかったら私は―」

 

「もういいよ」

 

 思わず、

 

 ホント後になって頭を抱えたんだが、俺は思わず桜花を抱き寄せていた。

 

「え・・・っ!? ちょ、ちょっとー!?」

 

「俺は便利でもあったけどきついところはキツイモンな。()()()()()なんてのは」

 

「―ッ!?」

 

 ビンゴか。

 

 ああそうだ。ナツミの時もわかってたじゃないか。

 

 イッセーがいた俺は、間違いなく幸運な部類なんだ。理解者がいるということこそ、転生者にとってとても重要なファクターなんだ。

 

「・・・全部終わったらさ、お互いの世界について少し話さないか?」

 

「・・・え?」

 

「俺以外にも転生した奴がいるんだけどさ、そいつの世界がなんと完璧なファンタジー世界なんだよ。だからたぶん、お前の世界と俺の世界は神秘の種類が違うんだと思う」

 

 ああ、きっと全く違う文化に違和感バリバリなんだろうな。

 

 ああクソ。なんかちょっと楽しみになってきたかも!

 

「だったらー。何とかして、コカビエル止めないとねー」

 

 そうだな。それが重要だ。

 

「つったってどうしたもんか。悪いがベルは生きててもただじゃ済んでなさそうだし、かといってイッセーに禁手化してもらっても5カウント程度じゃとても倒せる相手じゃない」

 

 増援を要請したとしても、来るのに時間がかかるだろうからそれだけの間時間稼ぎをする必要がある。

 

 ベルがいてくれるなら十分稼ぐことは可能だろう。とはいえ、あの戦闘の後じゃ生きていたとしてもただでは済んでないはず。

 

 ライザーを圧倒したイッセーの禁手化なら十分対抗どころか勝ち目はある。・・・長時間発動できるのならの話だが。

 

「というかー、エクスカリバーの融合とかで爆発したら意味がなくない?」

 

「ああ、それは・・・はっきり言うと、魔法陣的な何かだったら可能性は低いが付け入るすきはある」

 

 そう、そこはまだ勝算はある。

 

 可能性が絶望的なコカビエル戦とは違い、何らかのタイムラグがあり、魔法陣のような儀式的形態を使っていれば、付け入るすきはある。

 

 これはライザー戦でのアレから考えても行けるとは思うのだ。

 

「つったって俺は片腕だから戦闘はろくにできそうにないし、俺の世界だったら金さえあればいい義手は手に入るんだが・・・こっちだとどうなんのかねぇ」

 

 マジでその辺が心配だ。

 

 金と技術者次第ではあるが、魔術師の世界なら普段の腕と変わらないレベルで、さらに追加機能を発言できる義手とかは存在する。

 

 まあ今の残金で手に入るとも思えないが、あれば可能性はあるのだ。

 

 まあ、あの方法は絶対に結果そのものは『失敗』するとはいえ、片腕だろうが問題はない。

 

 だが、その発動には間違いなく時間がかかる。

 

 今の段階でそれができるか? そもそも、そんな思い通りの儀式を向こうがやってくれるのか?

 

 やってくれれば、少なくともいきなりの都市崩壊は何とかできる可能性は6割は固い。

 

 あの圧倒的な戦闘力を保有するコカビエル。その目的に対して六割も出せるなら十分すぎる気がするが、さてどうする?

 

 あの隠れ家の規模から判断して敵の人数は数十人。しかも間違いなくこの街にいる中では最強のコカビエルがいる。

 

 時間を稼いでくれないと、とても使えるようなものではない。

 

「んー。今の私だと・・・10秒いけたら奇跡かなー?」

 

 ダメだ! 敵が圧倒的すぎて話にならない!!

 

 量より質を体現した化け物め! せめてアレが成功しても戦闘する必要はあるし、せめて両腕が使えれば・・・。

 

 正直頭を抱えたくなったその時、桜花はポンと手を打った。

 

「そうだー。アレ、試してみよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSIDE

 

 

 

 

 

 

 

「・・・堕天使、コカビエル」

 

 部長の震える声が聞こえる。

 

 それは、深夜のことだった。

 

 結局あの後部長に発見され、俺たちは思いっきり説教された。

 

 ・・・お尻叩き1000回はひどかった。俺も匙も尻が死んだぜ。

 

 だが、そんな痛みもぶっ飛ぶ者が目の前に二人もいる。

 

 一人はフリード。

 

 恐ろしいことに、両手に聖剣を持っていやがる。さっき戦った時の聖剣にあんなのはなかったし、となるとアレは最後の聖剣、夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)か?

 

 そしてもう一人。

 

 そのフリードの上、ローブを着たいかにも大物そうな堕天使が一人。

 

 翼の数は・・・10もあるぞ!? 俺でもわかるぐらい超大物じゃん!?

 

 しかもコカビエルってエクスカリバーを盗んだ張本人!? なんで俺たちのところにわざわざ・・・あ、俺たちがエクスカリバーをぶち壊そうとしたから、怒ってるのか!?

 

「俺のことを知っているのか、リアス・グレモリー。さすがは魔王の妹か」

 

 コカビエルは面白そうに笑うと、ふと気付いたかのように首を振る。

 

「ああ、お前のところに来たのに政治的な意味はないから安心しろ。そんなくだらないことに興味はないんでな」

 

「それはどうも。・・・だったら何の用かしら? 私の領地で好き勝手されるのは非常に不愉快なんだけど」

 

 部長も敵意を無茶苦茶出しながら答えるが、コカビエルは動じない。

 

 そういえば、コカビエルの奴は何か抱えているみたいだけどいったいなんだ? 人みたいだけどこの角度からじゃよくわからないぞ?

 

「なに、お前のかセラフォルーの妹のか知らないが、俺の根城に来て、しかも俺の目的まで見抜いたんでな。誉めてやろうと思ったんだよ」

 

 目的だって?

 

 エクスカリバーを盗むこと以外に何か目的があるってのか?

 

「・・・まあ、ほとんどが雑魚だったがな。輝く腕の奴はそれなりに楽しめたが結局逃がすし、景気づけとしては失敗だ」

 

 コカビエルは嘲笑うが、その後ろからいきなり大きな影が。

 

 あれはベルさん!? それに・・・

 

「・・・コカビエルゥウウウウウウッ!!」

 

 絶叫するベルさんの手には・・・軽トラック!?

 

 どうやって持ってるんだよあんなもの!? しかもあれ、掴んでるというか触れて・・・いや、触れてもいない!

 

 軽トラックはコカビエルに簡単に受け止められるが、その隙にベルさんはコカビエルから人影らしきものを奪い取ってこっちにすぐ近くに着地する!!

 

 人影もはっきりと見える。・・・こいつはイリナ!? しかもボロボロだ!!

 

「・・・大変です!」

 

 あわててアーシアが近寄って、その傷を癒す。

 

 ベルさんはそんなアーシアにイリナを預けると、そのまま部長の方を向いた。

 

 その表情は青ざめているし、彼女自身もボロボロだ。下手するとイリナより重傷じゃないか?

 

「リアス・グレモリー!! 至急サーゼクス・ルシファーに救援を要請してください!!」

 

「な、なにを言ってるのよ」

 

 部長は戸惑うが、ベルは全く意に介さない。

 

「奴は三大勢力の戦争再開を目的として、重要ファクターのそろっているこの街を消滅させる気です!! 実質、事態は我々の手にあまります!!」

 

 なんだって!?

 

 戦争を起こす?

 

 この街を消滅させる?

 

 なんだよ、なんだよそれは!!

 

「ああ、その通りだよ。ミカエルの奴は結局戦争を起こす気はないみたいだし、だったらお前ら魔王の妹を犯して殺すぐらいしないと、戦争にならないだろう?」

 

 とんでもないことを言ってるよこの男!

 

 なんてこった! 

 

 ベルさんはこの状況が三大勢力間のバランスを崩しかねないから慎重に動いていたけど、そんな必要は全然なかったんだ!

 

 コカビエルの目的はバランスを整えるどころか思いっきり崩すこと! 完全に俺たちは失敗したんだ!

 

「それじゃぁ・・・宮白は!? 木場はどうなったんだ!?」

 

 俺の言葉に、コカビエルは嘲笑ってベルさんは目を伏せる。

 

「俺のもくろみを見抜いた奴には一撃叩きこんだが、結局はどうなったかな? まあ、手ごたえはあったから一人は片付けたと思うが」

 

「私がコカビエルから逃げるころには全員見失っています。・・・誰か一人ぐらい合流しているかと思ったのですが」

 

 一人やられた!?

 

 木場か? 桜花さんか? 

 

 いや、目的を見抜いたってことは頭の回転が速い奴ってことだ。冷静じゃない木場や、いっちゃ悪いけど桜花さんは違うだろう。一番危ないのは宮白じゃないか!

 

 自分でも顔が真っ青になっているのがわかる。

 

 部長やアーシアも表情がこわばってる。宮白たちのことが心配なんだ。

 

 そんな俺たちの様子を見て、コカビエルが面白そうに哄笑する。

 

「まったく本当に雑魚ばっかりだ。アザゼルもシェムハザも神器だなんてくだらないものの研究ばかりしやがって。そこのガキの赤龍帝の籠手ぐらいでもなければ役に立たないだろうに。本当に俺はもう限界なんだよ! だから戦争を起こすのさ!」

 

 コカビエルの視線は別の方向に向かう。あれは学校の方向だ。

 

「魔王の妹が二人もいる所なら魔力はたくさん集まっているだろう。エクスカリバーの本来の力を解放するには最適だろう? 少しは楽しめそうだ」

 

 本気で頭がイカれてやがる! マジで戦争を起こすなんだ!

 

「どうどう? イッセーくん! 俺様のボスにふさわしい、ステキにイカれた方だとは思わねえかい? しっかもこんな素敵なプレゼントもくれちゃうし、もう俺様幸せ100パーセント!」

 

 フリードは服をつかむと、その内側を見せる。

 

 オイオイオイオイ! あの時のエクスカリバーじゃねえか!

 

 しかも、腰のベルトにくくりつけられてるのはイリナの聖剣じゃねぇか!!

 

「聖剣を使えるステキ因子に、エクスカリバーが五本もセット! まさにパーフェクトフリード爆・誕・です!」

 

 よりにもよってこいつに全部聖剣をもってやがる。

 

 ちょっとエクスカリバーさん、相手を選ぶんだったらもっとまともな人に使われろよ!

 

 コカビエルは10の翼を広げると、フリードも閃光弾を取り出した。

 

「戦争をしよう、リアス・グレモリー、ベル・アームストロング!!」

 

「学校で待ってるぜイッセーくん! 今度こそ、本当の殺し合いさ!!」

 

 二人は俺の目がくらんでいる隙に姿を消す!

 

 くそ! やらせるかよ!

 

 俺たちの学校を、俺達の住む街を、俺達の大切な日常を!

 

 両手を強く握りしめながら、ベルさんがリアスに頭を下げる。

 

「リアス・グレモリー。力を貸して・・・いえ、力を貸します。だからコカビエルを倒してください!」

 

「わかってるわ。イッセー、アーシア! 学校へ向かうわよ!」

 

 わかってます、部長。

 

 あいつらの隙になんてさせねえ。頼むぜドライグ、コカビエルをぶっ飛ばすんだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の目の前で、桜花が地面に魔法陣らしいものを描いていた。

 

 桜花の奴は俺のパワーアップをするとか言ってた。

 

 確かに腕一本無くなっている以上、コカビエルとやり合うならそれなりの準備が必要になるだろう。

 

 だが、こんな短時間の儀式でパワーアップする方法なんてあるのか?

 

「あの時のオコジョ妖精に教わっておいて正解だったなー」

 

 パワーアップとオコジョと、一体何の関係があるんだ!?

 

「準備完了ー。さ、宮白くんこっち来てー」

 

 なんか心配になってきたが、今はそんなことを考えている余裕はない。

 

 とりあえず、言われるままに魔法陣の中央に進む。

 

「で、次はどうすれば―」

 

「んー」

 

 いきなりだった。

 

 いきなり、真正面から抱きしめられた。

 

「・・・・・はい?」

 

 え?

 

 なに?

 

 どういう状況!?

 

 は! これはまさかエロいことをするサバト的な儀式だったりするのか!?

 

 いくらなんでもこんな状況下でハッスルするほど俺も欲情しているわけじゃないんだけど!?

 

「ちょ、ちょっと待て! さすがに心の準備が―」

 

「ありがとうねー」

 

 静かに、そう、桜花はお礼を言ってきた。

 

「・・・この世界に生まれてこのかた、ずっと怖かったんだ」

 

 ・・・気持ちはわかる。

 

 世界が自分の知っているものと確実に近い何かになっている。

 

 これは、転生者にとって特有の恐怖なんだろう。

 

「怖くて怖くてたまらなくってー、たまたま手に入れたチラシに頼って、そして、来てくれた会長に思っていること全部話して、そしたら会長は優しく受け入れてくれたんだー」

 

 それは、いち早く救いを得た俺に対する恨みごとも含まれているのだろう。

 

「会長は、お姉さんに相談して同じような人がいないか調べてくれた。まだ発見できてないけど、今でもずっと調べてくれてるんだー」

 

「・・・そうか」

 

 ・・・安心した。

 

 俺達のことを考えて動いてくれる人がいる。

 

 それは、言っちゃ悪いがイッセーにはできないことだ。

 

 俺は、いち早く安心を与えてもらった。

 

 桜花は、真剣に考えてもらえた。

 

 俺達の違いなんてそんなもんだ。

 

「だから、その分のお礼は働いて返す。一生かけても、会長の力になって、会長の願いのために全力を尽くすんだー。もちろん、会長の危険はすぐにでも排除するよー」

 

「それが、お前が俺たちに協力した理由か」

 

 自分が感じた嫌な予感を確かめるために、そしてそれをいち早く排除するために。

 

 あえて怒られる危険を冒してでも主のために行動した。それが主のためになると心から信じて。

 

「・・・俺も、部長のことは信用してるよ」

 

「うん。だから、力を貸してー」

 

 魔法陣から魔力があふれだす。

 

 なんとなくだが、この儀式の内容が理解できる。

 

 これは契約の儀式だ。術者と被術者の間で契約を交わし、何らかの力を与える魔術的儀式だ。

 

「・・・ありがとうねー」

 

 なんか、顔を真っ赤にして桜花がこっちの顔をまじまじと見つめてきた。

 

「なんていうかさー。宮白くんって、カッコイイよねー」

 

「そうか? まあ、女子からいろいろ言われるのは自覚してるが」

 

 それをこの場で言うなよ。恥ずかしいだろ。

 

「なんだかんだでいろいろと考えてるし、聖剣使い相手に一歩も引かないぐらい強いし、それに・・・助けてくれて、ありがとうー」

 

 だから

 

「・・・名前で呼んでいいかなー、兵夜くん」

 

 ・・・なんだか、少しおかしくなった。

 

 返事をするついでに、ちょっとからかってやるか。

 

「OK、久遠」

 

 俺が答えると、ただでさえ真っ赤な顔が、さらに真っ赤になった。

 

「そ、その口閉じろー!!」

 

「え、なんで―」

 

 本当に口を閉ざされた。

 

 ・・・久遠の唇で。

 



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誕生、聖魔剣!

ちょっとここから投稿速度を急激に上げていきます。


祐斗SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 僕が来た時には、既に戦闘は激しさを増していた。

 

 アレは地獄の番犬ケルベロス! コカビエルはあんなものまで用意してきたのか!

 

 そしてそれに対峙するリアス部長と朱乃さんのオーラは、いつもの彼女たちのものとは比べ物にならない。

 

 なるほど。イッセーくんの赤龍帝の贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)か。

 

 あれは、イッセーくんのもつ倍化の力を他者に譲渡することで、そのものの力を倍増させる者。部長や朱乃さんのようなもとから強大なものに使えば、その威力ははるかに増大する。

 

 コカビエル相手では苦戦するかもしれないが、ケルベロス程度なら一瞬で倒すことができるだろう。

 

 ケルベロスはそれに気付いたのか逃げだそうとするが、そんなことはさせない。

 

「逃がさないよ!」

 

 魔剣を地面から突き出してケルベロスをその場に足止めする。

 

 そのすきを逃さず朱乃さんの雷が、ケルベロスを跡形もなく吹き飛ばす!!

 

「木場ぁ! 無事だったのか!」

 

「木場さん!」

 

 イッセーくんとアーシアさんが僕を呼んでくれる。

 

 ・・・いろいろと迷惑をかけたのに、本当にありがたい。

 

「遅かったじゃないか先輩。・・・お互い何とか無事なようだな」

 

 見れば、ゼノヴィアもエクスカリバーを持ってこの場に来てくれていた。

 

 彼女も無事だったか。宮白くんや、桜花さんや紫藤イリナがいないのは気になるが、今はコカビエルが先決か。

 

「・・・イリナはソーナ・シトリーの自宅で休ませています。実質、あとは両眷属の二人ですね」

 

 ベル・アームストロングも僕の近くに歩み寄る。

 

 ふとその後ろを見て、僕は絶句した。

 

 ケルベロスの死体が何体も! たった一人であれだけ倒したというのか!?

 

「すげぇだろ? この人ほとんど一人で片付けたんだよ」

 

 イッセーくんもすごいものを見たようだ。

 

 僕たちとは次元が違う戦闘能力だ。

 

 しかも、見れば彼女の動きからは明らかに尋常じゃないほどの疲労の色が見て取れる。

 

 僕らが撤退するまで単独でコカビエルを引きつけておいて、アーシアさんにけがを癒してもらったとしても疲労までは回復できない。エクスカリバー使い二人を引き連れるだけのことはあるということか。

 

「消し飛びなさい!!」

 

 リアス部長が倍増させた滅びの力をコカビエルに叩きつける。

 

 すごい! 僕らなら余波だけで致命傷を負いかねないほどの力が込められている!!

 

 だが、コカビエルは特に構えることもなく、片腕を無造作に振るうだけだった。

 

 あれだけの滅びの力が、コカビエルに傷一つつけることなく弾き飛ばされた!

 

「実質、私たちでは火力不足ということですか」

 

 冷静に、本当に冷静にベル・アームストロングは息を吐く。

 

「増援の悪魔祓いが来るのにあと40分。ルシファーが来るまでには一時間。実質時間稼ぎしかできなさそうですね」

 

 そうか、部長達はサーゼクス様達に助けを求めたのか。

 

 それはそうだろう。

 

 相手は、聖書にしるされし堕天使の幹部。魔王様達でもそう簡単に倒せるかどうかわからない、正真正銘の強者なのだから。

 

 だからと言って、あれを相手にどうやって時間を稼ぐ?

 

 相手が遊んでいるからどうにかなっているが、本気を出されたらはたして勝てるかどうかわからない。

 

 攻めあぐねていると、校庭を包んでいた聖なるオーラが爆発的に増大した。

 

「完成だ」

 

 陶酔しているかのようなバルパーの声。

 

 視線を向ければ、そこには一振りの剣があった。

 

 なんだあれは? どう見ても、今までのエクスカリバーをはるかに凌駕するだけの力があふれているぞ。

 

「五本のエクスカリバーが、今こそ一つに合わさったのだ!」

 

 エクスカリバーの統合! アレがそうか!

 

 まずい。

 

 コカビエル達はエクスカリバー統合の余波でこの町を破壊すると言っていた。このままだと危険だ!

 

「術式も完成したようだな。あとどれぐらいでこの街はけし飛ぶんだ?」

 

「せいぜい20分と言ったところだよ。コカビエル、解除させるにはお前を倒すしかない」

 

 コカビエルの言葉に、満足げにバルパーが答える。

 

 しかし20分とは。

 

 増援が来るのに最低でも40分と言っていた。二分の一の時間でこの街が崩壊するのでは、どう考えても間にあわない!

 

 しかもコカビエルを倒さなきゃいけないだなんて! どうやればそんなことができるんだ。

 

「フリード!」

 

「はいな~ボース!」

 

 コカビエルがフリードを呼びつける。

 

「最後の余興だ。そのエクスカリバーを使ってベル以外を片付けろ。俺は懸念材料のベルを相手しよう」

 

「言ってくれますね! ・・・実質、貴方方にお任せします!」

 

 ベルはフリードを無視すると、地面に降り立ったコカビエルに突貫する。

 

 迎え撃つコカビエルとの戦いをしり目に、フリードは狂暴な笑顔を浮かべてエクスカリバーへと歩み寄る。

 

「ハッハッハー! 人使いが荒いボスですなぁ。ま、いいや。このスープァーエクスカリバーでクソ悪魔ちゃんとクソビッチをズッパリいっちゃいますか!」

 

 フリードがエクスカリバーをその手に取る。

 

 イッセーくんの譲渡を受けた部長達の攻撃もすごかったが、あれもそれに劣らずのオーラを放っている。

 

 どうやって倒す・・・どうやって!

 

「・・・フリード・・・バルパー・・・っ!!」

 

 僕たちを実験の果てに失敗したからと言って殺し尽くし、挙句の果てにあのような外道にエクスカリバーを使わせるとは・・・っ!

 

「・・・あの実験で僕たちを処分し・・・その結果がコレか、バルパー・ガリレイッ!」

 

「ん? そうか、貴様、私の研究の実験体か!」

 

 奴は僕をみて、心底はらわたが煮えくりかえるような嘲笑を浮かべる。

 

「・・・私はな、聖剣が好きなのだよ。幼いころから本を読み、それに興奮したものだ」

 

 昔を懐かしんでいるのか、バルパーの目はここではないどこかを見つめていた。

 

「だが、私には聖剣使いとしての適性がなかった。あの時の絶望はキミたちにはわからないだろう。だからこそ、聖剣を使える者を生み出そうなどと考えたのだ」

 

 バルパーは天を仰ぎ、大きく両手を広げながら前へと進む。

 

「身寄りのない少年少女を使い、どうすれば聖剣が使えるようになるのか調べ上げた。その結果、実験体には聖剣を使えるほどではないが、聖剣を使うために必要な因子が集まっていることに気付いたのだよ」

 

 ・・・因子、だと?

 

「だからこそ、発想を変換したのだ。因子が足りなくて聖剣が使えないのなら、その分だけ因子を補充することができれば・・・とな」

 

「読めたぞ。イリナ達が祝福を受けるとき、入れられたのは・・・」

 

 バルパーの言葉にゼノヴィアが得心する。

 

 人工聖剣使いになるときに、入れられるもの・・・?

 

 ま、まさか!

 

「そうさ。数多くの被験者から抽出した因子を結晶化し、それを適性がある者に移植したのだ! こんな風にな」

 

 バルパーが取りだしたのは、光り輝く結晶だった。

 

 あの中に、あの中に僕たちから奪い取った力が込められているというのか!?

 

 もう耐えられない。僕は思わず叫んでしまうのを止められなかった。

 

「何故だ! だからと言って、何故殺す必要がある!! それが神に使えるものがすることか!!」

 

「利用価値のなくなった者をわざわざ生かしておく必要がどこにある? ・・・まあ、ミカエルの奴なら確かに殺したりはしないだろう。よかったなぁ、もう教会で死人は出てないぞ? 私が集めた分はさっさと死んでもらったがね!」

 

「だけど因子ってダメなやつには毒物でさぁ。おかげで俺以外の被験者は因子に耐えられなくてくたばっちまったがね。そうなると、俺様ちゃんはスペシャルだねー」

 

 フリードが見せびらかすかのようにエクスカリバーを振るう。

 

 こんな奴らのために同志たちが・・・同志たちが!

 

「あ、こんなのに限ってしぶといとか思ったっしょイッセーくん。ハハハッ 俺様はこんなもんじゃないぜー?」

 

「心を読むんじゃねえ! この糞野郎!!」

 

「・・・本当に迷惑です」

 

 イッセーくんと小猫ちゃん相手に、フリードはエクスカリバーで翻弄する。

 

「もう量産できる以上、これにこだわる必要もないな。これは最初の実験で生成した因子の残りだ。実験体のお前にくれてやろうではないか」

 

 バルパーが放り投げた因子は、そのまま転がって僕の足元へとたどり着く。

 

 僕は思わず膝をついてそれを拾っていた。

 

 これが・・・これが同志たちのなれの果てだというのか・・・。

 

「皆・・・」

 

 僕は、もう自分自身で何を考えているのかわからなかった。

 

 ただあふれだす想いに従い、その結晶に指を這わせる。

 

 僕より夢を持った子がいた。僕より才能があった子がいた。僕よりも生きたいと思った子がいた。

 

 いっそ僕がこんな姿になってしまえばよかったのに・・・っ!

 

 思わず目を閉じる。

 

 彼らなら、憎しみに我を忘れず、部長を説得してでもエクスカリバー打倒に行動できたはずだ!

 

 イッセーくんたちに部長に内緒で行動させることも無かったはずだ!

 

 僕は・・・騎士・・・失格だ。

 

『・・・泣かないで』

 

 懐かしい、声が、聞こえた。

 

 この声は、確か実験が辛くて泣いていたときに・・・っ!?

 

 目を開けると、手に持った結晶が輝きを増していた。

 

『キミは頑張ってるよ』

 

『僕たちのために、こんなに頑張ってくれるなんて・・・』

 

 声と共に、光が集まって人の形をとる。

 

 これは、この子たちは!

 

「・・・みん・・・な」

 

 忘れるはずがない。

 

 一緒に頑張った同志たちが、その時の姿のままそこにいた。

 

 これは・・・奇跡なのか?

 

 悪魔が、聖剣が、堕天使が・・・さまざまな因子が集まったことで、彼らの残された遺志を呼び出したというのか・・・?

 

『キミが生きててくれてよかった』

 

 僕を見て、安心してくれている。

 

『キミが幸せに生きてて良かった』

 

 僕を見て、肯定してくれている。

 

『僕たちのことは気にしないで』

 

 今までの僕を、認めてくれている。

 

『あなたは、幸せになっていいの』

 

 晴らして欲しい無念なんて、なかった。

 

『ちゃんと友達ができたのね』

 

 そんなもの、僕に望んでいなかった。

 

『キミだけでも、生きてくれ』

 

 ただ、僕に生きて幸せをつかんでほしいと・・・っ!

 

 涙が止まらない。止められない。

 

 同志たちは・・・ただ、僕の身を案じてくれている。

 

 ずっと不安だった。

 

 皆の命を犠牲にして生き残った僕が、彼らの無念を晴らさずにのうのうと幸せに生きて良かったのか、ずっと不安だった。

 

 復讐を晴らさずに仲間をつくって今を生きていることを、責めているんじゃないかとずっと思っていた。

 

 でも、それは僕の思い違いだった。

 

 同志たちは、僕に復讐を求めていたわけじゃなかったんだ。

 

 気づけば、僕は聖歌を口ずさんでいた。

 

 悪魔がそんなことをすれば、ひどい頭痛に悩まされているはずなのに、むしろぼくの心は晴れやかだった。

 

 ああ、思い出したよ。あの時の頑張っていた日々のことを。

 

 辛かったけど、君たちと一緒に頑張っていたのは楽しかったね。

 

『僕たちは、一人じゃ駄目だった』

 

『聖剣を扱う因子が足りなかったけど―』

 

『皆で力を合わせれば、大丈夫だよ』

 

 ああ、そうだ。

 

 僕たちの頑張りは無駄なんかじゃない。

 

 そして、あんな外道たちに使われるようなものでもない。

 

『聖剣を受け入れて』

 

 ああ、わかってる。

 

『大丈夫、怖くないよ』

 

 うん、恐れることはない。

 

『神がいなくても』

 

 そんなものは関係ない。

 

『神が見てなくても』

 

 そんなものがなくたって―

 

『僕たちの心は―』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・一つだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―バランス・ブレイク―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 力があふれてくるのがわかる。

 

 今までの魔剣とは違った聖なるオーラ。

 

 そう、これは聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)の力だ。

 

 僕たちは、聖剣を扱う力を手に入れた。

 

 だけど、今から生み出すのは聖剣じゃない。

 

 そう、皆で生み出すこの力は、ただ聖なるものでも、魔なるものでもない。

 

 僕の魔剣の力と、彼らの聖なる力が一つに混ざり合うのがわかる。

 

 そうだ、この剣の名は―

 

魔剣創造(ソード・バース)禁手(バランス・ブレイカー)双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)!! 聖と魔の力を有する聖魔剣の力、その身で受けろ、フリード・セルゼン、・・・バルパー・ガリレイ!!」

 

 いこう、皆。

 

 僕は、剣になる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、泣いていた。

 

 あの光景に泣かない奴は、心が冷たいどうしようもない奴だけに決まってる。

 

 そして、同時に戦慄していた。

 

 木場の持つ剣の力は、今までとは比べ物にならないほど高まっていた。

 

 フリードの持つエクスカリバーと比べても劣らないほどだ。それどころか、もしかしたら上回っているかもしれないんじゃないか!?

 

『驚いたか、相棒』

 

 俺の籠手に宿るドラゴン、ドライグが俺に声をかける。

 

『あれが禁手(バランス・ブレイカー)だ。所有者の想いが、この世の理に刃向かうほどのものとなった時に生まれる力。俺たちが必ず通らねばならない通過点だ』

 

 正直できる気が全然しねえよ。

 

 アレが本当の禁手。俺の腕を犠牲にした仮禁手なんかめじゃねえ。

 

 イケる。

 

 あの剣があれば、俺たちはフリードに勝つことができる。

 

 いや、できるんじゃない。

 

「木場ァアアアアアッ! フリードの野郎とエクスカリバーをぶっ潰せェエエエエ!!」

 

 答えるように、木場が聖魔剣を握り直す。

 

「お前の力でエクスカリバーを倒すんだ! 部長の、俺達の騎士の力を見せつけてやれェエエエエ!!」

 

「そうよ祐斗! あなたはこの私の、リアス・グレモリーの騎士よ! あなたはエクスカリバーなどに負けはしないわ!!」

 

 俺に負けじと、部長も木場に声援を送る。

 

「祐斗くん、信じてますわよ!」

 

「・・・祐斗先輩!」

 

「・・・木場さん!」

 

 朱乃さん、小猫ちゃん、アーシア・・・っ!!

 

「こんだけ皆の期待を背負ってるんだ! 一気に決めろ、木場ァアアア!」

 

「・・・ああ、もちろんだとも!」

 

 木場が俺達を通り過ぎ、一気にフリードに切りかかる!

 

「感動的な展開ですなぁ。それが一瞬で砕けちゃうと思うと俺様超興奮しちゃいますよ!!」

 

 フリードの持つエクスカリバーと、木場の持つ聖魔剣がぶつかり合う。

 

 莫大なオーラがぶつかり合い、俺と小猫ちゃんをふっ飛ばしかねないほどの勢いになる。

 

 その中心に立つ木場とフリード。そのつばぜり合いは・・・互角だ!!

 

「ッ! 本家本元の聖剣と互角だと!? そんな駄剣がっ!?」

 

「その剣が真のエクスカリバーなら勝てなかったろうが、たかが寄せ集めのつぎはぎなんかに、僕らの思いは負けはしない・・・っ!」

 

 エクスカリバーと聖魔剣がぶつかり合い、すごい勢いで火花を散らす。

 

「そんじゃまあ、これならどうかなイケメンくぅうううううん!!」

 

 エクスカリバーが何本を枝分かれして襲いかかる。

 

 そのスピードが一気に早くなる。

 

 蜃気楼を纏って、さらに幻影のせいで数が良くわからなくなる。

 

 今度は何本かが透明化する。

 

 聖なるオーラが強くなり、近くにいるだけで俺の肌が痛くなる。

 

 全てのエクスカリバーの力を組み合わせて、ありとあらゆる方向から聖剣が襲いかかる!!

 

「・・・ダメだね。どれだけ小細工を講じても、殺気の飛ばし方がわかりやすい」

 

 それらすべてを、木場は難なく弾き飛ばす!!

 

「おいおいおいおいおいおいおいおいおい!! 大昔から最強伝説作った聖剣がこのざまかよ!? なんで当たらねぇんだよォオオ!?」

 

 フリードの声に焦りが見える。

 

 完全に木場が優勢だ。

 

 そんな焦るフリードに、ゼノヴィアがエクスカリバーも持たずにせまる。

 

「ペトロ、バシレイオス、デオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」

 

 ゼノヴィアの手元がゆがんで見える。

 

 いったい何が起こってるんだ? あ、なんかとってみたいなのが見えてきた。

 

「この刃に宿りしセイント御名において我は開放する。―デュランダル!!」

 

 一気に引き抜かれたそれは、見るからにヤバそうなすっごい聖剣だった。

 

 っていうかデュランダル!? 部長が言っていたエクスカリバー並の超聖剣じゃねぇか!?

 

「デュランダル・・・」

 

「・・・だとぉ!?」

 

 バルパーはもちろん、今まで余裕の表情だったコカビエルすら驚いてやがる。それほどの事態だって言うことか。

 

「実質、これが私達の切り札です。・・・ゼノヴィアは兼任している聖剣使いなんですよ」

 

 コカビエルを驚かせたことがよほど嬉しいのか、組み合っているベルさんの声のトーンが少し高い。

 

 特に驚いているのはバルパーの野郎だ。顔面真っ青だな。

 

「バカな!? 私の研究ではデュランダルを扱える聖剣使いは生み出せないはずだ!?」

 

 よっぽど信じられないのか腰を抜かすバルパーに、ベルさんとゼノヴィアは冷ややかな目を向けた。

 

「バカですか貴方は? 実質、あなたの研究でしか聖剣使いができないわけではありません」

 

「私はイリナと違って天然ものさ。貴様の影響などひとかけらも受けてはいない」

 

 すっげえ! 正真正銘の聖剣使いってことかよ!

 

 あ、バルパーのやつ絶句してる。ざまあみやがれ!

 

「デュランダルは使い手の私の言うことも聞いてくれないような暴君でね、普段は異空間に隔離して、代わりにエクスカリバーを使わないと行けないほど、聖なるオーラをまきちらすんだ」

 

 ゼノヴィアはそのままフリードにせまると、デュランダルを大きく振りかぶる。

 

「礼を言おうフリード・セルゼン。貴様のおかげでエクスカリバーとデュランダルの頂上決戦ができる。私は今、歓喜に震えているぞ!!」

 

「アリかよアリかよそんなのアリかァアアアアア!? こんな超展開お呼びじゃねえんだよ、ふざけんなクソビッチがぁあああああああああああッ!!」

 

 フリードの奴がエクスカリバーを操るが、せまりくる刃をデュランダルは軽々と粉砕する!

 

「・・・所詮は折れた聖剣か。デュランダルの相手にもならないな」

 

 圧倒的なその光景に呆然とするフリード。

 

 そんな隙を見逃すほど、木場は甘くない。

 

「・・・見ていてくれたかい?」

 

 とっさに振り払ったエクスカリバーを弾き飛ばし、木場は一瞬でフリードを切り捨てる。

 

「僕らの力は、エクスカリバーを超えたよ」



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ついに知られる、真実です!!

連続投稿2日目。

おそらくこの作品の最重要重大情報が盛らされるタイミングだというのに、主人公視点じゃないという事実。


イッセーSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 鮮血をまきちらしながら倒れるフリード。

 

「・・・まさかデュランダルまで出るとはな。ミカエルの奴もそれなりに本気だったということか」

 

 コカビエルがなんかうんうんうなづいているが、とりあえずエクスカリバーは何とか出来たってことか。

 

 なんだか全然あわててないコカビエルとは違って、バルパーもう顔が赤くなったり青くなったりと完全にパニクってやがる。

 

「聖魔剣だと!? あり得ない・・・聖と魔は本来混じり合うわけがないのだ。互いに反発し合っているはずだぞ・・・」

 

 バカな俺には何を言っているのかさっぱり分からないが、いまがチャンスなのはわかる。

 

 こいつをこのままにしておいたら、木場の仲間みたいに犠牲者が増えちまう。なんとしてもここで決着をつけないと。

 

「バルパー。・・・これで終わりだ」

 

 木場が聖魔剣を持って迫るが、バルパーは自分の中でブツブツつぶやいているだけだ。

 

「・・・そうか! 聖と魔をつかさどる存在のバランスが崩れているのならば説明がつく!! つまり、あの大戦で死んだのは魔王だけでなクォッ!?」

 

 なんだか勝手に納得してるバルパーに、何かが叩きつけられる。

 

 アレは・・・ベルさん!?

 

「それに気づくとはなかなか優秀だが、別に俺はお前がいなくてもいいんだ。最初から一人でやれる」

 

 ベルさんを叩き飛ばしたコカビエルは、両手を構えると光の槍を作り出す。

 

 でけえ! 最初に体育館を吹き飛ばした時よりはるかにでかい光の槍だ。

 

「ベルのついでだが最大威力で吹き飛ばしてやるよ。せめてもの情けって奴だな!」

 

「ま、まてコカビエル! 私は―」

 

 バルパーがなだめようとするが、構わずコカビエルは光の槍を叩きつけた。

 

 一瞬で光が広がり、木場をふっ飛ばしながら巨大なクレーターができる。

 

 ―跡形もない! そんな、ベルさん!?

 

「・・・所詮は外道。実質、仲間意識などかけらもありませんか」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・うぉっ!? ベルさん!?」

 

 ビックリしたぁ!? いつの間にかベルさんが俺の隣にいるし!

 

「・・・なるほどそういうことか。ミカエルもつくづく面白い連中をよこしたものだ。あのエクスカリバー使いが何故いるのかわからないぐらいだ」

 

 愉快そうに、コカビエルが俺達の方を向くと、余裕たっぷりに両手を広げる。

 

「おい赤龍帝。限界まで倍化の力をあげて、誰かに譲渡しろ」

 

 何だって!?

 

 わざわざ俺達に勝つチャンスを与えてくれるっていうのか?

 

「なめているのかしら、コカビエル」

 

「舐めているのはお前だリアス・グレモリー。まさか、俺に勝てる気でいるのか?」

 

 完全にこちらをバカにしているコカビエル。

 

 いいぜ! だったら本当に限界まで倍化を譲渡してやる!!

 

『そうだ、本気で行け相棒。真面目な話、全力で言っても通用するかわからんレベルなのが奴だからな』

 

 そうかい。だけど、俺たちは絶対に負けられねえよ。

 

 でも誰に譲渡すれば良い?

 

 聖魔剣の木場か?

 

 デュランダルのゼノヴィアか?

 

 それとも朱乃さんか部長?

 

 いや、それよりも適任がいる。

 

 部長もそれがわかっているのか、静かに彼女の隣にたった。

 

「・・・ベル・アームストロング。正直不本意だけど、貴女に託していいかしら?」

 

「実質、それが一番可能性はありますか。・・・わかりました」

 

 アーシアの回復をいつの間にか受けていたベルさんが、俺の手を握ってきた。

 

「お願いします。その神滅具(ロンギヌス)の力を、私に」

 

「・・・はい!」

 

 俺は静かにブーステッド・ギアを起動させる。

 

 今まで、コカビエルを単独で相手にしてきたのはベルさんだ。

 

 たぶん、この中でアイツに対抗できるのはこの人しかいない。

 

 静かに、倍化が続いていく。

 

 その間、コカビエルは全く邪魔してこない。

 

 通用しないと本気で思ってるのか? クソ、どれぐらい倍化すれば良いのか本気でわからない。

 

 ・・・・・・・・・・・・きた。

 

「いけます! ベルさん!!」

 

「ええ、お願いします!!」

 

 俺はベルさんに倍化の力を譲渡する。

 

 これが最後の切り札だ! 一気に決めてくれ!!

 

「コカビエル、覚悟ッ!!」

 

 ベルさんの姿が一瞬で消えて、コカビエルの背後に移動する。

 

 その両手の輝きはもう目がくらむぐらい眩しく、そのままの勢いでコカビエルにせまり―

 

「残念だよ。判断を間違えたな」

 

 ―あっさりと、コカビエルに受け止められた。

 

「・・・な・・・んです―」

 

 渾身の一撃を受け止められたベルさんが我に返るより早く、コカビエルの翼が彼女を地面にたたき落とす。

 

 な、なんでだよ!

 

 倍化の力はあり得ないほど高まっていた。いくらコカビエルが強いからって、今まで一人で相手ができたベルさんの何十倍も強いってわけじゃないはずだ。

 

 それが何で!? なんでだよ!?

 

「・・・さすがに二回も出来るわけがないし、これで終わりか、本当に残念だよ」

 

 コカビエルが心底残念そうにそう呟く。

 

 あいつはこの結果を察していたのか?

 

 いや、そんなことよりどうやって倒せばいいんだよ!?

 

 あのベルさんの一撃でも倒せないって相当だぞ!

 

 いや、そんなこと言ってる場合じゃねえ。

 

 ここでこいつを倒さなかったら、俺たちだけじゃない、この街が終わる!!

 

「雷よ!!」

 

 朱乃さんがコカビエルの隙をついて、今まででも一番大きな雷を放つ。

 

 コカビエルは翼を使ってそれを防ぐ。なんだか愉快そうな顔をして、完璧に余裕だ!

 

「バラキエルの力を継ぐものが、俺の邪魔をするか!」

 

「私を・・・あの者と一緒にするなっ!!」

 

 朱乃さんが心から怒って雷をより強くするが、コカビエルはびくともしない。

 

「まったく愉快な眷属をもっているなぁリアス・グレモリー! お前も兄に劣らずゲテモノ好きのようだ!!」

 

「兄を・・・魔王様を侮辱するな! 何より、私の大切な下僕たちの侮辱は万死に値するわ!!」

 

 部長が激昂するが、コカビエルはむしろそれを面白そうにみてきやがる。

 

「なら滅ぼしてみるがいい!! ここにいるのは貴様ら悪魔の宿敵だぞ! これを好機と見なければ、お前らの程度が知れるというもの!!」

 

 言ってろ! そのにやけた面を全力でぶっ飛ばしてやる!!

 

「手を貸せ! 連続攻撃でいくぞ!!」

 

「イッセーくん! 君は倍化をためるんだ!!」

 

 ゼノヴィアと木場が同時に走り、コカビエルに切りかかる!

 

 振り下ろされるデュランダルと聖魔剣を、コカビエルは光の剣を両手に作って防いだ!!

 

 あの二人と剣技で互角!? いや、下手するとそれ以上だ!!

 

 だが、それで両手がふさがった。

 

 今なら誰かが行けばいける!!

 

「・・・そこ」

 

 いつの間にか小猫ちゃんが奴の後ろに回り込んでいた。

 

 これならいけるか!!

 

「・・・フ、その程度ではな」

 

 コカビエルの翼が縦横無尽に動き回って、小猫ちゃんどころか木場とゼノヴィアまで一気に弾き飛ばした!?

 

 さらに奴は光の槍をつくると、そのまま倒れ伏すベルさんに向けて放つ。

 

 止めを刺す気か! ヤバい!!

 

「甘いわね!」

 

 その光の槍を、部長の魔力が吹き飛ばした!

 

「そんな片手間で作った槍がきくとでも? アーシア、ベルを回復させて!! 彼女の力は今こそ必要だわ!!」

 

「は、はい!!」

 

 アーシアがあわててかけだす中、木場がもう一度コカビエルにせまる!

 

 両手にそれぞれ聖魔剣を持って振り下ろすが、それをコカビエルは指でつまむ!

 

「まだだ!!」

 

 木場はさらに聖魔剣を作り出して口にくわえて勢いよくふるう!

 

 それはコカビエルの頬にほんの少しだけど傷をつけた!

 

 いける! あいつだって頑張ればちゃんとダメージが入るんだ!!

 

 ああ、ベルさんもアーシアが回復している! 俺だって、全身ドラゴン化すれば奴の相手ぐらいはできるはずだ。

 

 そうだ。こんなところで終わるわけがないんだ!!

 

 だが、忌々しそうに吐いたコカビエルの言葉は、そんな俺達を黙らせるには十分だった。

 

「チッ! 仕えるべき主を無くしてまで、お前ら教会も悪魔もよく戦う」

 

 ・・・ん?

 

 今、こいつはなんて言った?

 

 確か先代の魔王様は大戦で死んだんだよな。だから主を無くしたって言うのはわかる。

 

 でも、それがゼノヴィアやベルさんにまで言うことか?

 

「・・・どういうことだ、コカビエル!!」

 

 ゼノヴィアがデュランダルを構えながら問いただす。

 

 それを見て、コカビエルはおかしそうにニヤニヤ笑い始めた。

 

「ああ、そうか、お前ら末端の連中が知るわけがないか」

 

 その様子を見て、ゼノヴィアがさらに詰め寄ろうとする。

 

「答えろ、コカビエル!!」

 

「駄目ですゼノヴィア! 聞いてはいけません!!」

 

 ベルさんが、回復もまだ終えていないのにいきなり叫ぶ。

 

 な、なんだなんだ!? どういうことだよ!?

 

「ク、クハハッハハハ! そうだな、戦争を起こすってのに隠す必要ももうないか!!!」

 

 コカビエルが腹を抱えて大声で笑いながら、俺達をあざ笑うかのように口を開いた。

 

「先の大戦では、四大魔王と一緒に、神も死んだのさ!!」

 

 そうか、神様も死んだのか。

 

 ん? 神様って・・・神様!?

 

「主が・・・亡くなられた・・・だと?」

 

「そ・・・そんな・・・」

 

 ゼノヴィアとアーシアが崩れ落ちる。

 

 おれはよくわからなかったが、神様を信仰している二人にとって、その事実はあまりにも大きかったんだろう。

 

 でもベルさんは、ショックは受けてるようには見えず、視線を気まずそうにそらしているだけだった。

 

 ベルさんはそのことについて知ってたのか?

 

 てかなんでそんなこと隠してたんだよ! 超重要じゃねえか!!

 

「知らされていないのは当然だ。人間とは神がいなければまともにやっていけない弱い種族だ。どこから漏れるかわからない以上、この情報は本当に一部の連中にしか知らされていない。天使どもだって、下級程度には知らされていないだろうよ」

 

 マジか。俺達、そんなすっごい秘密を知っちまったのかよ。

 

「そこの聖魔剣が生まれたのも、それが原因だよ。本来聖と魔は混じり合わない。バルパーが勘づいた通り、神と魔王の死によって根本的なバランスが崩れているからこそできたイレギュラーだ」

 

 コカビエルはそう言って木場を見るが、今度はその視線がベルさんの方を向く。

 

「そして、そのイレギュラーは思わぬ規格外の存在をこの世界に呼び寄せた」

 

 それがベルさんと何の関係があるんだ?

 

 ・・・まて、この世界に、呼び寄せた?

 

「・・・なあ、異世界からの来訪者。それとも、生まれ変わりと言った方がいいかな?」

 

 な・・んだと。

 

 異世界からの生まれ変わりッて、宮白やナツミちゃんと同じ?

 

 っていうか、なんでコカビエルはそんなことを知ってるんだ!?

 

「・・・やはり、神の子を見張る者も把握していましたか」

 

 ベルさんは憎々しそうにコカビエルを睨む。

 

 把握していたってことは、教会でも存在が把握されていたのか?

 

「聖と魔のバランスの変化はこの世界そのものに何らかの渦をつくったとアザゼルは推測していた」

 

 コカビエルは、俺たちが知らない事実を語りだす。

 

 それは、俺にとっても大事なことだった。

 

「それによって一部の魂が引き寄せられて、この世界に生を受けたのさ。とくに特殊能力を持っているやつが引き寄せられるのか、その世界特有の能力を持っているやつがほとんどだがな」

 

 そうだ、宮白やナツミちゃんも特殊な能力を持っていた。

 

 おかしいとは思ったんだ。

 

 なんで二人ともそんな特別な力を持っていたんだろうって。

 

 コカビエルはベルを面白そうに見つめる。

 

 それはなんていうか、動物園で珍しい動物を見るときのそれだった。

 

「さすがのミカエルでも、まさか迎え入れるとは思わなかったぞ。聖書の教えが否定する、輪廻転生を証明する存在だからなぁ」

 

 なんてこった。それじゃあ、この世界で宮白みたいなやつって結構ごろごろいるってことかよ。

 

 そんな中、 ベルさんはアーシアをかばうように立ち上がる。

 

 ダメージが抜けきっていないのにもかかわらず、ショックで動けないアーシアを守ろうとしているようだ。

 

「・・・超能力を持つものが、社会的にも知られている世界。それが私のいた世界でした」

 

 ベルさんは語り始める。

 

 それは、彼女の物語だった。

 

「人種差別も抜けきっていない状態で、そんな異端が差別されないわけがなく、私は死ぬまで異端視されたままでした」

 

 ・・・俺の中で、アーシアとベルさんが重なったような気がした。

 

 もしかして、彼女がゼノヴィアをたしなめたのは、自分とアーシアを重ねたからじゃないのだろうか。

 

「そんな力と記憶を持ったままの私は、当然この世界でも見捨てられる。あの方に何人かと同じように拾われて、実質初めて人のぬくもりを知りましたよ」

 

 アーシアの神器でも体力までは回復できない。

 

 もうふらふらのはずなのに、あの人は決して倒れようとしなかった。

 

「私は私を始めて認めてくださった、あの方の力になる。それが利用であったとしても、それだけの恩義がありますので。神の死ごときで戦意など無くしません!」

 

「安心しろ。奴の性格なら間違いなく下心ゼロでお前を迎え入れたはずだ。その証拠に、危険な仕事に就こうとしたお前を止めたはずだぞ?」

 

 コカビエルは今にも笑い出しそうな顔のまま、両手を広げて宙に浮かぶ。

 

「ちなみにさっきのはお前が異世界の力を使おうとしたからだ。アザゼルが実験したが、倍化や半減といった力は異世界の力とはかみ合わないんだよ。おかげでこいつの正体がわかったがな」

 

 あの攻撃が上手くいかなかったのはそれのせいか! 

 

 っていうか、堕天使の奴らはそんなことまで研究してるのかよ。

 

 いったいどこまで調べてるんだ、あいつら!

 

「だが俺にとってはどうでもいい。そんなことより戦争だ! 俺はいい加減耐えがたいんだよ!! あいつらは二度目の戦争はないと判断し。神器なんてくだらないものの研究にばっかり夢中になった!!」

 

 あいつはそこにいない奴らに鬱憤をぶつけまくる。

 

「あげく、転生者なんて言うくだらない流れものなんか迎え入れる始末だ!! そんなゴミどもその辺に捨てとけばいいのによぉ!! ふざけるな、ふざけるなよ!」

 

 ・・・今、なんて言った?

 

「・・・ふざけんなよクソ堕天使」

 

 頭に血が上った。

 

 ああ、我慢なんてできないさ。

 

「お前の勝手な理屈でこの街を滅ぼして、そのくせ俺のハーレム王の野望を邪魔するだと? 喧嘩売ってんのかこの野郎」

 

「ハーレム? それが貴様の望みなら俺についてくるか? 行く先々で美女を見つくろってやる。好きなだけ抱けばいい」

 

 コカビエルはそんなことを俺に言う。

 

 ああ、いつもだったら思いっきり迷っていたかもな。

 

「欲しいがいらねえ! お前なんかに作らされたハーレムなんか、本気で残念だけど絶対いらねえ!!」

 

「・・・いらないのかいるのかどっちかわからん言い方だな」

 

 うるせえ! ハーレムは俺のロマンなんだよ!

 

 だがなあ、お前は俺に言っちゃいけないことを言いやがった!

 

「お前は言ったな。異世界からの連中はゴミだって」

 

「ああ。少なくとも、現状出力で高位の堕天使を超える奴らは発見されていない。そこの女は例外レベルだが、暇つぶしの相手程度の実力だしな」

 

「よし分かったぶっ殺す」

 

 俺はブーステッド・ギアに力を込める。

 

「お前は俺の大事なもんをゴミと言った! 俺の親友をゴミといった! お前をぶっ飛ばす理由はそれで十分だ!!」

 

 こいつだけは絶対許さねえ!!

 

「たとえ俺の体が全部ドラゴンになったとしても、お前だけは絶対にぶっ飛ばす!! いまさら泣いて謝ったって遅いからな糞野郎!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダダンダンダダン ダダンダンダダン

 

 

 

 

 

 

 

 どこからともなく、某アンドロイド映画のテーマソングが響いた。

 

 ・・・ヤバい。

 

 これはあいつがマジギレしているときに流すテーマソング!!

 

 小学校のガキ大将を一人でボコボコにした時から始まった。中学の番長、高校の暴走族など様々な連中をたった一人で殲滅し、最近だと勝手に動いた俺ではぐれ悪魔祓いを叩きのめしたテーマソング!?

 

 その時、俺の耳には聞こえるはずのない声が聞こえたんだ。

 

 校庭の端から聞こえる、確かな足音が―

 

「・・・イッセー」

 

「は、はい」

 

「・・・自分で言うって、言ったよな?」

 

「そ、そうでございます」

 

「後で、覚えてろよ」

 

 ・・・俺は、死んだ。

 

 ああ、今振り返ったら後悔する。

 

 だけど、振り返らないわけにはいかない。

 

 ゆっくりと、ゆっくりと振り返ると・・・

 

「・・・はあ、改めて、異世界から生まれ変わった魔術使いです。以後よろしく」

 

 ・・・宮白が血まみれで頭下げてるぅうううううううう!!

 

 その隣には桜花さんが、こっちも結構ボロボロで立っていた。

 

 なにが、何があったの!?

 

「・・・おかしいな、手首が落ちてたから最低でも腕一本は吹き飛ばしたはずなんだが」

 

 コカビエルが物騒なことを言ってくる。

 

 腕一本!? あれ、宮白も桜花さんも五体満足だよ!? 木場もベルさんもイリナもゼノヴィアも、特にどこかなくなったりはしてないよ!!

 

「ああ。いいタイミングで代わりができたからちょっとつけてきた」

 

 宮白!? 代わりっていったい何!?

 

「ちょっと兵夜!? 貴方大丈夫なの!?」

 

「大丈夫です部長。あと、だいたいの流れは聴覚強化で遠距離から聞いたから大丈夫です」

 

 部長の問いに答えながら、宮白は平然と魔術の使用を明かしている。

 

 ・・・こいつ、本気でバラしてやがる。

 

 宮白と桜花さんは周りを見渡すと、ベルの方に近づいて少しかがんだ。

 

「・・・酒って飲めるか?」

 

「え? あ・・・私、実質まだ未成年なので」

 

「んじゃジュースだな。・・・これが終わったら異邦人同士話でもしよう。・・・少し休んでろ」

 

「兵夜くんのおごりだってー。高いの頼んでも大丈夫だよー」

 

「お前の分だけ請求するぞ久遠!!」

 

 なんか名前で呼び合ってる! 本当に何があったの!?

 

 宮白は血まみれになったシャツを脱ぎ捨てると、首にある魔術回路を起動させる。

 

 ―おれは、まだあいつが本気で全力の魔術を使うところを見たことがない。

 

 今から見せるのが、それだというのが良くわかった。

 

 コカビエルも、宮白の本気が分かったのか警戒するように空高く飛ぶ。

 

「まあいい。まずは小手調べだ」

 

 指を鳴らすと、ケルベロスが召喚されるは、そこかしこから何人ものはぐれ悪魔祓いが出てくるわであっという間に大軍が集まった!!

 

 まだこんなにいたのか。いったいどこに隠れてたんだ?

 

「こいつらも今まで待ってて退屈してるんだ。どれぐらいできるのか試させてくれよ」

 

「・・・そうしたいところだがちょっと面倒だ。雑魚は減らしてやるよ」

 

 宮白は大軍を前に平然としながら指を鳴らす。

 

 ・・・なんか急に暗くなったぞ? 結界のおかげで少し明るかったのにどうしたんだ。

 

 気になって上を見上げると・・・。

 

「これが俺の新兵器、高速飛行艇レイヴンだ」

 

 なんか巨大な物体ができてる!?

 

 そのまま宮白は左手を下におろし―

 

「必殺質量攻撃」

 

 落下した衝撃ではぐれエクソシスト、全員ふっ飛ばしやがった!!

 

「これー、そんな使い方をする奴じゃないからねー」

 

「道具は使い方次第ってやつさ。去れ(アベアット)

 

 あきれた桜花さんに適当に返事しながら、宮白が何か唱えると、あっという間に巨大な物体は消え去った。

 

 何だったの? 何だったの一体!?

 

 俺は混乱するが、それでもケルベロスは全部残っている。

 

 どうするんだよ宮白!!

 

「ああ、安心しろイッセー」

 

 宮白は、特に警戒せずに俺の方に顔を向けた。

 

「とっと片付けて本番だ。それまで準備してろよ?」

 

 その表情は、悪魔になってから初めて見せるほど明るいものだった。

 

SIDE OUT




ようやくからくりを出せた。

このタイミングが一番ストーリーに設定を絡ませられるタイミングだったんだよなぁ。


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崩壊、防ぎます!

連続投稿第三弾


 迫りくるケルベロスを前にして、俺と久遠は別段特に慌ててなかった。

 

 同類がポンポン増えてくれた上、よりにもよって調べてくれてる会長のお姉さんが魔王だということが発覚。最悪の場合は魔王様のところに逃げれば安全は確保できるだろう。おかげで精神状態は非常にいい。

 

 確かに洒落にならない化け物だろうが、今の俺をビビらせるのにこの程度では役不足だ。

 

「半分任せた」

 

「あいよー」

 

 それだけで十分だ。

 

 生み出すのは聖剣使い戦と同じく大量の水。

 

 だが、今度は霧になんてもったいないことはしない。

 

起動(スタート)。水流よ、我が鎧と化してこの身を包め」

 

 実家が作り出した近接戦闘用魔術。まあ、いうなれば水で出来たパワードアーマーみたいなものだ。

 

 水を確保するのが大変だという致命的な弱点はあるが、その辺は悪魔の力で完全カバーに成功している。

 

 はっはっは。便利だ、便利すぎるぞ悪魔の力!!

 

「吹き飛べやぁ!!」

 

 敵の攻撃はスケートのように滑ってかわし、豪快に強化された筋力で殴り飛ばす。

 

 スピードでは木場には敵わないだろう。パワーでは小猫ちゃんには敵わないだろう。

 

 だが、スピードで勝てないならパワーで木場を押し切る。パワーで勝てないならスピードで小猫ちゃんを押し切る。

 

 両者の中間ポジションに到達したと言ってもいい俺に、この程度は余裕だ!

 

 そして、俺には新たな武器がある。

 

 アーティファクト、渡り鳥の籠手。それが、俺が手に入れた力の存在だ。

 

 能力は、久遠の世界では量産すら可能な、ファンタジーRPGにでも出てきそうな飛行船の遠隔操縦と、義手としての機能。

 

 義手としての性能は、はっきり言って今の俺の腕より高性能。流石に精密動作に関しては慣れてないこともあって劣っているが、頑丈さも考えれば代用品としては十分すぎる。アンカーワイヤーなどの追加機能もある為非常に便利だ。

 

 そして、もう一つ機能があるがここがポイント。

 

 レイヴンは100メートルを超える全長であり、それゆえに輸送船として使えるほどのペイロードを持つ。

 

 それら格納庫に格納された物体を、自在に転送することができる。

 

「・・・エクスカリバー破壊の為に調達していたダイナマイト!! 腹で爆発すればどうなるかな!!」

 

 スピードで翻弄しながら口の中に放り込み、爆発するまでに少し離れる。

 

 ・・・うわぁ! 爆発したケルベロスの死体がグロイ!!

 

 派手すぎるのでアジト発見までは家に置いていたんだが、回収してきてよかった。直接持っていると攻撃の余波で暴発の可能性もあるし、この能力はその危険性を極端に減らしてくれる。

 

 一方、久遠も完全に翻弄していた。

 

 何でも、あちらさんの世界では魔法だけじゃなくドラグ・ソボールみたいに気が存在していたらしい。

 

 彼女はその双方に心得があるそうだが、好んで使っていたのは近接戦闘向けの気の概念。

 

 分かりやすく言うと・・・。

 

「切り刻むよー!!」

 

 瞬間的なスピードなら木場を凌駕し、瞬間的な攻撃力なら小猫ちゃんをしのぐ。

 

 瞬間移動でもしているのかと思うほどのショートダッシュの連発で完全にケルベロスを翻弄して、急所を聖吸剣でズッパリ切り裂く。

 

 瞬く間に、ケルベロスは全滅した。

 

「よっしゃー! 前座撃破ー!!」

 

「よし! 次本命!!」

 

 思った以上に早く片付いたが、油断はしない。

 

 イッセー達全員を相手にして、なお余裕で対処する相手に、この程度の小細工で対処できるわけがない。

 

 死線だってことは、ちゃんと理解できているさ。

 

 俺達の視線の先にいるコカビエルも、特に今の光景に思うところはないようだ。

 

「思ったよりは早かったが、まさかその程度で勝てるとは思ってないよな?」

 

「そりゃ当然ー。でも、この状況下で増援が来ないわけないでしょー?」

 

 久遠は挑発するかのように不敵に笑うが、正直これは賭けだ。

 

 最低でもエクソシストが何人かは来てくれるが、魔王様が来るかどうかは分からない。

 

 来るにしても果たして何時間かかるかどうか・・・。正直、頼りにするには状況が不安すぎる。

 

 だが、コカビエルはそんな俺達をあざ笑うかのように、とんでもないことを口にした。

 

「まあ、あと27分で最初の増援は来るらしいな。・・・とはいえ七分でここは終わるが」

 

 どういうことだ? エクスカリバー融合の余波で街を滅ぼすなら、今吹き飛んでないということはまだ融合は終わってないはず。

 

 視線を向けてみるが、なんかでかいクレーターができているは使い手のフリードは血ぃ流して倒れてるわ・・・エクスカリバーはその場に投げ出されてるわ・・・あれ?

 

 一 本 だ け だ

 

「部長、あのエクスカリバーって、夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)ですよね? まだ融合されてないですよね? 街吹っ飛んでないから!」

 

「・・・残念だけど、融合してから20分に発動するようになってるのよ」

 

 時限式なのかよ!?

 

 とっさにしゃがんで解析開始。

 

 ・・・やばい、魔力が莫大すぎる。

 

 しまった。融合=起爆スイッチだから10分も掛かるような時間はないと勘違いしていた!?

 

 よし! それなら今すぐ実行しないと!!

 

 転送させた輸血パック(使用期限を越えた物を調達。魔術儀式とかに使うかと思いまして)を破って、瞬時に流体操作で陣を描き始める。

 

「皆! 俺の話を聞いてくれ!!」

 

 これは本気で切り札になる。

 

「六割ぐらいの賭けになるが、この陣を何とかできる自信がある!!」

 

「・・・なんだと!? まさかそんなことが!?」

 

 俺のセリフに、コカビエルが動揺する。

 

 ・・・よし。これは想定外だったようだ。

 

「発動まで数分間、俺は戦闘できない。頼む、その間俺を守ってくれ!!」

 

 これはかなり時間の掛かる大儀式だ。

 

 当然、陣を描くところもかなり集中する必要があるから、ろくに動けるはずもない。

 

 もし、そのタイミングで攻撃されたら・・・。

 

「・・・わかった。それはまかせて」

 

 聞こえるはずがない、声が聞こえた。

 

「なんか大変なことになってるけど、そういうことなら大丈夫」

 

 声は、俺の隣に立つ。

 

「その代わり、ちゃんと成功させる! あと、ちゃんと後でボクのことも守ってよね!!」

 

 ナツミ・・・。

 

「お前、家戻った時に戻れって、ヤバくなったらシトリー家のお姉さんを頼れって言っただ―」

 

 俺はどういうことか訪ねようとするが、それはナツミから放たれる魔力の波動に止められる。

 

「言ってる場合じゃないでしょ。・・・ボクだって、守りたいものあるんだから」

 

 ・・・礼は言わない。

 

 それは、これを切りぬけてから言おう。

 

「・・・陣はできた。後頼むぜ」

 

 ナツミは答えない。

 

 ただ、コカビエルを見据えながらこう唱えた。

 

「―サタンソウル。・・・マルショキアス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 その時、ナツミちゃんは圧倒的な波動を出しながらその姿を変えた。

 

 肌は少し白くなり、髪は外に跳ねるように広がる。

 

 一番の変化は服装だ。今まで来ていた服は消え、その体に鳥の羽と獣の皮で出来たような露出度の高いボディスーツみたいな、独特な衣装を身に包む。

 

 何より、その威圧感はコカビエルに匹敵していた。

 

「お前・・・何者だ」

 

 あのコカビエルは即座に光の剣を生み出して警戒する。

 

 僕達の時とは違う。あれはそれほどの力があるのか。

 

「前に一度アレ見たけどさ。・・・多分、ライザー吹っ飛ばした時の俺より上だ」

 

 イッセーくんの言葉に僕達は全員驚愕した。

 

 赤龍帝の籠手の禁手はまさに禁じ手の名に相応しいものだった。

 

 アレをしのぐ力だというのか・・・!

 

「・・・素に銀と鉄。礎に石と契約の大公」

 

 宮白くんの声が聞こえる中、ナツミちゃんは静かに構えると一言だけ言った。

 

「兵夜の、仲間だよ」

 

 彼女は動くそぶりを見せたかと思うと、一瞬でコカビエルの眼前に移動する。

 

 早い! ベルすらしのぐスピードだ!

 

 コカビエルは光の剣でその拳を受け止めていたが、その表情は今までのような嘲るようなものではなかった。

 

「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国にいたる三叉路は循環せよ」

 

 詠唱が続く中、ナツミちゃんとコカビエルは壮絶な近接戦を繰り広げる。

 

閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)

 

 その両腕はもはや僕ですらみ切れないほどのスピードで動き、音が遅れて聞こえてくるかのようだ。

 

「繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

「面白い! 面白いぞ小娘!! 俺はこういうのを待っていたんだ!!」

 

 コカビエルの歓喜する声にも耳を貸さず、宮白くんはただ唱える。

 

「――――告げる」

 

 その魔法陣から魔力が放たれ、宮白くんの声に緊張が走る。

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」

 

 ナツミちゃんが距離をとったかと思うと、胸を逸らす。

 

 それが戻ると同時に、コカビエルを包み込むほどの大量の炎が巻き起こった!

 

 ―動けない。

 

 あまりに次元の違う戦いに、僕達は動くことが一切できなかった。

 

 コカビエルは今まで本気どころか、手加減というレベルすら出していなかったのか。

 

「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 炎に押されるかのようにコカビエルは引き飛ぶが、すぐに態勢を整えると、大量の光の槍を乱れ撃つ。

 

 それを両手両足をすべて使っていなしながら、ナツミちゃんは再び接近する。

 

「誓いを此処に」

 

 全ての光を捌いたナツミちゃんはコカビエルに再度拳を振るうが、コカビエルは今度は翼すら操って迎撃した。

 

「我は常世総ての善と成る者」

 

 その大量の攻撃に、ナツミちゃんは迎撃しきれず何度も攻撃をくらい、地面に叩きつけられる。

 

 コカビエルは、彼女が立ち上がるよりも早く巨大な光の槍を生成した!

 

「なんだか知らんがまとめて吹き飛ばしてやろう。防いで見せろ小娘!!」

 

「・・・兵夜!!」

 

 宮白くんは動じない。

 

 自分は詠唱に全てをかけ、そしてナツミちゃんにかけているのか・・・!

 

 それを理解したのか、ナツミちゃんは一つ頷くと両手を構える。

 

「・・・うん。分かった!!」

 

「我は常世総ての悪を敷く者」

 

 光の槍は恐ろしい速さで飛んでくるが、ナツミちゃんはそれを受け止める。

 

「やるな! だが・・・本当に耐えられるかな?」

 

「耐えて・・・やるよぉおおおおおっ!!!」

 

 光の槍とナツミちゃんは拮抗し・・・。

 

「汝三大の言霊を纏う七天」

 

 宮白くんのその言葉と共に、閃光が僕達の目を眩ませる。

 

 光の槍が爆発したのか!?

 

「・・・ナツミちゃん! 宮白!?」

 

 イッセーくんの叫びが聞こえる中、僕達は結局何も動けずに・・・。

 

「・・・抑止の輪より・・・」

 

 聞こえた。

 

 苦しげながらも、しかし、はっきりとした声で―

 

「来たれ・・・ッ!!」

 

 目が慣れる。

 

 そこには変身が解けたのか、私服姿に戻った、だけど槍を受け止めきったナツミちゃんの姿と、それを抱きかかえる宮白くんの姿が!

 

「天秤の、守り手よ―――ッ!!」

 

 瞬間、圧倒的な力がその場に解放された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・何も、起こらない?

 

 先ほどの強大な波動から見て、どう考えても桁違いの術式だったのは明白だ。

 

 それじゃあ・・・この街は。

 

 動揺する僕達だったが、それを止めるものが二つあった。

 

「・・・どういう・・・ことだ?」

 

 僕ら以上に愕然としているコカビエルと、

 

「クックククククククククク・・・クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!! ざまあみやがれ!!」

 

 コカビエルを嘲笑い、大きな声で笑い出す宮白くんだった。

 

 どういうことだ? 宮白くんの儀式は結局成功しなかったはずだ。

 

 そんな僕の疑問に答えたのは、コカビエルの言葉だった。

 

「どういうことだ!? 何故、エクスカリバー融合時のエネルギーが消滅している!?」

 

 消滅?

 

「消滅って・・・まさか、兵夜が?」

 

 部長も信じられないらしく、茫然と宮白くんに視線を送る。

 

 唯一動揺していないのは、宮白くんからナツミちゃんを受け取ってアーシアさんのところに運んでいる桜花さんだけだった。

 

 事前に聞かされていたのだろうか? それにしても、目の前で確かに起こっているのにこの冷静さは、彼女の器量を感じさせる。

 

「驚いたか? 驚いたよな墜落天使!! いいぜ教えてやるよ気分がいいからぁ!!」

 

 宮白くんはこの窮地を食い止められた喜びからか、普段では考えられないようないい笑顔を浮かべていた。

 

「異世界の技術は出力が低い? なら言わせてもらうが、この世界の儀式は技術がぬるすぎるんだよ」

 

 宮白君はポケットティッシュを取り出すと、一枚出してそれを指で破る。

 

「例えるなら金庫を紙で作るようなもんだ。どんだけ鍵をかけて開けにくくしたつもりでも、肝心の本体が駄目だから簡単に中身を奪える」

 

 得意げに宮白くんは歩き出す。よほど今の状況が嬉しいのか、ステップすら踏んでいた。

 

 肝心の本体が弱い。この場合で言うなら、構成式の解除そのものができなくても、エネルギーを取り出すことが簡単だということか。

 

「まあ、だからって街一つ吹き飛ばすエネルギーをそのままポンと出すわけにもいかないが、その辺の対処は簡単だ」

 

 僕ら全員を視界に納めれるところまではなれると、大きな動作で両手を広げて天を見上げる。

 

「・・・俺がやったのは最終的に人類皆殺しやら人類完全洗脳すら理論上は可能にできる超極大大魔術儀式バージョン7分の1・・・それも最初の初期段階!! そんなもん街一つ吹き飛ばす程度のエネルギーでやれば当然ガス欠で失敗するが、当然そんなもんやられたらエネルギーなんて残らないよなぁ!!」

 

 できないことが前提の魔術で、エネルギーそのものを無駄に消費させたのか!?

 

 発動できなければ何の影響も及ぼさず、安全に莫大なエネルギーだけを消滅することができる。

 

 しかし、それだけのことが可能な魔術とはどうすれば行うことができるんだ? 彼の世界はいったいどういう技術が広まっていたんだ!

 

「・・・反則すぎます」

 

「それだけの大術式。例え魔王様といえど絶対に不可能ですわ。彼の世界はいったいどういう世界だったのですか・・・?」

 

 小猫ちゃんや朱乃さんも驚いている。

 

 当然だ。そんな儀式この世界には存在しないはずだ。

 

 これで出力が高位堕天使に劣る? 今まで出てきていなかっただけとはいえ、そんなことがあり得るのか。

 

「すごいよねー? 私の世界も超広い異空間作った魔法使いとかいたけどー、これはこれであり得ないよねー」

 

 桜花さんの言った内容もとんでもない。まさかこれほどの力を発揮することができるとは。

 

 先ほどのケルベロス戦で見せた魔術と言い、彼らの力量はそこが知れない。

 

 だが、コカビエルの表情は次第に落ち着いていった。

 

「・・・まあいい。所詮貴様らでは俺には勝てんのだ。全員殺してからサーゼクスが来るまでに滅ぼせばいいだけの話だ」

 

 その言葉に、陣の無効化に沸き立ってた僕たちの心が冷える。

 

 そうだ。コカビエルの戦闘能力は単独でこの地方都市一つ滅ぼすことができるほどの大出力を誇っている。

 

 ここで僕たちが抑えきれなければ、どの道―ッ!

 

「・・・それが、どうしたというの?」

 

 戦慄する僕たちを呼び戻したのは、部長の静かな声だった。

 

 部長は、全く臆することなくコカビエルを毅然と見据える。

 

「今言えることはただ一つよ。私の下僕は、私達だけでなくこの街全ての人々を救って見せた。あなたからね、コカビエル」

 

 全身から滅びの魔力を全身からみなぎらせる。

 

 既に消耗しきっているだろうに、その出力は今までで一番強い!

 

「私の自慢の下僕がここまでしてくれたのよ? 私達がそれにこたえなくてどうするというの?」

 

 その言葉に、僕たちは思い出した。

 

 彼は、下僕になる前から僕らの力になってくれていた。

 

 アーシアさんの時は、たった一人でフリード達を引き付け、その命と引き換えに堕天使を一人滅ぼした。

 

 レーティングゲームの時も、イッセーくんと小猫ちゃんが動けるようになるまで、たった一人でライザーを引き付け、あと一歩で倒せるところまで追い込んだ。それも、最後にイッセーくんが勝つための切り札まで用意して。

 

 そしていま、彼は僕たち全員が絶望しかけるほどの危機を、ナツミちゃんの援護があったとはいえ解決してくれた。

 

 ・・・そうだ。そうじゃないか。

 

 彼は、僕の憎しみを晴らすために、僅かな時間で様々な準備も整えてくれた。

 

 今までずっと不安だったろう。

 

 イッセーくんは知っていたとはいえ、人には言えそうにない秘密を抱えたまま僕と一緒にいたのは。

 

 きっと、心を開くことなんてできなかったはずなのに、彼は僕たちの力になってくれた。

 

 そうまでしてくれた彼に、僕らができることなんてただ一つだ。

 

 彼の力に、なることだ!

 

「あなたが倒される理由はいくつもあるわ。我が兄を愚弄したこと。この街を滅ぼそうとしたこと。そして何より、私の大事な下僕たちを、散々侮辱してくれたこと・・・っ!!」

 

 僕たちは立ちあがる。

 

 そうだ、ここまでおぜん立てされて、増援が来るまで戦うことすらできないだなんてあり得ない・・・あり得ないんだ!

 

「さあ、私の可愛い下僕たち! 兵夜に続くのよ! たかがコカビエル程度足止めできないわけがない。この街を守るのは私たちなんだから!!」

 

「もちろんですよ部長!」

 

 部長の言葉に応えるのイッセーくんだ。

 

 宮白くんの親友の彼こそ、あの頑張りを喜んでいるのだから。

 

「コカビエル! お前をたたきつぶすのは魔王様かもしれないが、お前が負けたのは宮白だ! お前がバカにした、俺の大事な親友だ、このクソ堕天使ッ!!」

 

 同志たち、もう少しだけ頑張ってくれ。

 

 そして宮白くんも安心してくれ。

 

 君の仲間はここにいる。そう、僕らは君の友達だ!!

 



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決戦! コカビエル!!

感想がいっぱい! ちょっとテンションが上がりました!!


 

祐斗SIDE

 

 

 敵は聖書にしるされし堕天使、コカビエル。

 

 圧倒的な実力で僕たちを翻弄した、正しく今までで最強の敵。

 

 だけど、僕たちの心に恐れるものは何一つない。

 

 部下すら切り捨てたたった一人の孤独な強者なんかに、仲間たちと戦う僕らが負けるはずがないのだから。

 

「・・・実質、ここで立たなければミカエルさまに申し訳が立ちませんね」

 

 ベル・アームストロングも立ち上がる。

 

 彼女は静かに拳を構えると、ゼノヴィアに視線を向けた。

 

「立ちなさい、ゼノヴィア」

 

「ベル・・・」

 

「あなたは主のために戦うと言った。なら、主が愛する無辜の民のため、その与えられた才能を活かすべきです。・・・才能を活かそうなどと思えず死んだ、バカな私が言うことでもないですがね」

 

 ベルは苦笑すると、その視線をコカビエルに向ける。

 

 そんなベルの姿に感銘を受けたのか、ゼノヴィアをデュランダルを握り直すと静かに立ちあがった。

 

「そうだな。主がおられなくとも、主が私に命ずるだろうことはわかる。行くぞコカビエル! 主の愛を捨て、戦争を起こそうとするその所業、このデュランダルで打ち砕いて見せる!!」

 

 聖剣デュランダル使いも自分を取り戻した! 今この場において、これはとても心強い!

 

 朱乃さんも、小猫ちゃんも、部長も活力をみなぎらせている。

 

「行くぜコカビエル! 俺の野望のため、部長達のため、そして何より宮白の頑張りを無駄にしないため、お前をここでぶちのめす!!」

 

 イッセーくんも、ブーステッド・ギアを光輝かせながら拳を構えた。

 

「会長も頑張ってるしねー。私も当然頑張るよーっと!」

 

 桜花さんもその魔剣を構えて闘志をみなぎらせる。

 

 そして―

 

「んじゃあ、俺も切り札その2を切るとしますか!」

 

 宮白くんはいつの間に拾っていたのか、ゼノヴィアが投げ捨てていた破壊の聖剣を構えていた!

 

 聖剣を使いこなしている!? いったいどうやって!!

 

「貴様! まさかあの時の死体から因子を抜いていたのか!!」

 

 コカビエルは事情を察していたのか動揺する。

 

 そういえば、奴の根城に踏み込んだ時、エクスカリバー使いの死体にかがんで何かしていた。

 

「まさか聖剣因子とは思わなかったがな! 俺の世界、宝石に魔力とか詰め込む不思議魔術が存在すんだよ!! しかもあの後さらに回収済みなので追加!」

 

 宮白くんは懐から宝石を一つ取り出すと、それを飲み干す。

 

「・・・キタキタキタキタ!! 因子に耐えきれないかもしれないし、さっさと決めさせてもらうぜコカビエル!!」

 

 宮白くんは水を纏うと一気に切りかかる。

 

 それに合わせ、僕とゼノヴィアも視線を交わすと一気に詰め寄った。

 

「甘いんだよガキども!!」

 

 コカビエルは両手じゃさばききれないと判断し、最初から翼で迎撃する。

 

 なるほど、これは簡単に迎撃されるだろう・・・だが!

 

聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)!!」

 

 聖剣の因子を取り込んだ今なら、これぐらいは簡単にできる。

 

 出す量は合計で六本。僕はそれを二本ずつ二人に投げ飛ばす。

 

「それを使ってくれ!!」

 

「いいだろう!」

 

「咥えるのはどうかと思うがな!!」

 

 行うのは先ほど僕がコカビエルに行った不意打ちと同じだ。

 

 両手だけでなく口まで使用した三連攻撃!

 

 とっさのことで聖魔剣までは使えなかったが、それでも九本の聖剣がコカビエルの翼とぶつかり合う。

 

 何とか、一時的にとはいえど拮抗した。それでもまだ一つ残っているが、それは―

 

「ハイハイ了解ー! やっちゃいますよーっと!」

 

 僕らを超える速度で移動した桜花さんが食い止める。

 

 これで翼は全て封じた。残るは両手だが―

 

「先ほどの借りは返させていただきます。実質、あなたは終わりですよ!!」

 

 両手に光を纏わせたベルさんを止めるのにふさがった!

 

 そのすきを逃さず駆け抜けるのは、倍化を終了させたイッセーくん。それに続くのは小猫ちゃんだ!

 

「貴様ら―」

 

「喰らいやがれコカビエル!!」

 

「・・・さっきのお返し」

 

 両手と翼を完全にふさがれたコカビエルは、それを回避しきれない。

 

 全力で振りかぶった二人の拳が、見事にコカビエルの顔面を捉え、そして吹き飛ばす。

 

 そして、吹き飛ばされる方向には既に回り込んだ二人の姿が。

 

「さあ、今度こそけし飛びなさい!」

 

「私の機嫌を損ねた罪、とても重いですわよ?」

 

 二大お姉さまの合体攻撃!

 

 消滅の魔力と雷撃が重なり合い、吹き飛ばされたコカビエルの容赦なく直撃する!

 

 だがこの程度で倒せるとは思わない。さらにここから一気にたたみかけるために、桜花さんは一気に駆け抜ける!!

 

「こっちは完全になまってるけどー。やっちゃいますよー斬岩剣!!」

 

 文字通り岩をも切り裂きそうな重い斬撃がコカビエルに叩きこまれる。

 

 コカビエルは光の剣を作り出して防ぐが、その重い一撃をとっさの行動ではガードしきれず、上空に弾き飛ばされる。

 

「木場祐斗! 剣の種類はどうでもいいので、とにかく奴の周囲に出せるだけ出してください!!」

 

 ベルが僕に向かって叫ぶ。

 

 よくわからない要請だが、僕はとっさに大量の聖魔剣を奴の周囲に展開した。

 

 あれだけ展開すると、僕自身でも操作できそうにない。それをいったいどうやって・・・?

 

「別に剣を扱うことはできなくても、実質ぶつけるだけなら問題はありません」

 

 剣の方向が一斉にコカビエルへと向く。

 

 先ほどの高速移動と言い、あれがベルの特殊能力か!

 

「舐めるな小娘ぇ!!」

 

 遅い来る聖魔剣を、コカビエルは翼を振り回すことで迎撃しようとする。

 

 だが、聖魔剣はその範囲外で一度急停止し、翼が止まった後に再度加速して襲いかかった!

 

 コカビエルの全身に、浅いが切り傷がいくつも出来る!

 

「オーケーオーケー。そのまま押さえてろよお前ら」

 

 いつの間にか、宮白くんはコカビエルの足元にまで移動していた。

 

 そして、その手には破壊の聖剣だけでなく、融合したエクスカリバーすら握られている。

 

「フリードの戦闘はみてないのでわからないが、紫藤イリナはもう少しひねるべきだった。剣以外にも変化できるというなら、そもそも剣として使うことが間違っている」

 

 エクスカリバーが変化すると同時に、宮白君はその手を離す。

 

 だが、エクスカリバーの変化は止まらず、彼の全身へとまとわりついた。

 

 数秒後、そこには強大な聖なるオーラを纏う鎧姿が。エクスカリバーは鎧となって、今ここに新たな可能性を見せつけていた。

 

 ・・・その発想は存在しなかった。彼の独創性には舌を巻くしかない。

 

外装の聖剣(エクスカリバー・パワードスーツ)と言ったところか? さぁて・・・」

 

 コカビエルが態勢を立て直すのと、宮白君が悪魔の翼を出すのはほぼ同時。

 

 次の瞬間、彼は動いた。

 

「切り刻もうか!!」

 

 鎧の全身から刃を生やし、コカビエルへと突貫する。

 

「舐めるなよ・・・雑魚共がぁ!!」

 

 コカビエルは両手に剣を持ち、さらに翼すら動かして宮白君を狙う。

 

 それに対して、彼は破壊の聖剣とすべての刃を使って拮抗した。

 

 天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)により攻撃速度を向上させる。

 

 擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)をフルに使って翼の攻撃をしのぐ。

 

 破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)を使って光の剣を押し返す。

 

 さらに夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)で自分の姿をまるでワンテンポ遅らせるかのような幻覚を生み、透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)を使って本体を半透明にすることでコカビエルをかく乱する。

 

 フリードをはるかに凌駕するほどにエクスカリバーの特性を生かし切っている!

 

 一時的にとはいえ二人の攻防は拮抗し、やがてお互いに弾き飛ばされるかのように校庭へと叩きつけられる。

 

 衝撃に宮白君の口から苦悶の響きが聞こえるが、彼はそれを押しとどめる。

 

 そのまま、イッセーくんの方を向いて叫んだ!!

 

「イッセー! 悪いが二の腕くれてやれ!!」

 

 二の腕・・・赤龍帝の鎧を使うのか!?

 

 腕を別物に変えろと言うに等しい宮白くんの言葉に、しかしイッセーくんはためらわなかった。

 

「準備はとっくの昔にやってるよ! 頼むぜドライグ!!」

 

『Welsh Dragon over buuster!!』

 

 イッセーくんが閃光に包まれる中、宮白くんは聖剣を構え、立ち上がるコカビエルを睨みつける。

 

起動(スタート)。・・・さあ、これが俺の最後の一撃だ」

 

 その言葉と共に、聖剣のオーラが増幅したのを感じる。これが宮白くんの使う魔術ということか。

 

 イッセーくんの攻撃に合わせ、一気に勝負を決める気か。

 

 さらに一撃に全てをかけるためか、宮白くんの動きが止まる。

 

 それを通り過ぎ、赤い鎧をまとったイッセーくんが、コカビエルと正面から激突した。

 

「いい度胸だ赤龍帝!! まさかここまで楽しめるとは思わなかったぞ!!」

 

「言ってろ! 後でほえ面かかせてやる!!」

 

 先ほどの超高速の攻防とは打って変わり、今度は全力での一撃がぶつかり合う。

 

 あの赤龍帝の鎧を以ってしても、コカビエルを押し切ることができていない。

 

「・・・イッセー! タイミングを見計らって譲渡しろ!!」

 

 聖剣を構えたままの宮白くんが声を張り上げる。

 

 そうか。宮白くんの狙いは赤龍帝の鎧のパワーをもってコカビエルを倒すことではない。

 

 赤龍帝の鎧によって桁違いに上昇した譲渡の力で、さらに攻撃力を高めることだったのか!

 

 だが、こんな大声でそんなことを叫んだのは痛恨のミスだ。

 

「させると思うか! 赤龍帝の小僧はここから一歩も動かさんよ!!」

 

 そう、あれだけ離れてしまえば、譲渡するまでに嫌でも時間がかかる。

 

 さすがに赤龍帝の鎧状態のイッセーくんの譲渡はコカビエルも危険視する。当然、それを阻止するためにもイッセーくんが移動するのは阻止するはずだ。

 

 だけど、宮白くんの表情は、不敵な笑顔のままだった。

 

 そして、殴り合いを続けながらイッセーくんはぽつりとつぶやく。

 

「俺は宮白の喧嘩や、もめごと解決を何度かみてきたことあるけどさぁ」

 

 会話に気を取られたせいか、左腕が翼で機動をそらされ―

 

「―宮白は、基本的に搦め手がえげつないぜ?」

 

 透明な何かに、触れた。

 

『Transfer!』

 

 それは、イッセーくんの譲渡の力。

 

 次の瞬間、宮白くんの姿が消えたかと思えば、その左手に触れる形で剣を構えた宮白くんが現れた!!

 

 いや、宮白くんがいた位置には、フリードが使った時のようにエクスカリバーのよる触手ができている。

 

 みれば、その触手は宮白くんの足元から生えていた。。

 

 まさか、擬態の聖剣と夢幻の聖剣を掛け合わせて偽の自分を作り出していたのというのか。それも本体は透明の聖剣をフルに使って姿を消し、足音で気付かれないよう擬態の聖剣の上に乗ってい移動したのか。

 

聖剣最大強化(ブーストアップバースト)!!」

 

 宮白くんの言葉が聞こえると同時に、ただでさえ倍化していたエクスカリバーが、さらにオーラを増幅させる。

 

 ・・・まだ異世界の力を使っていなかった!? まさか、祝福の聖剣(エクスカリバー・ブレッシング)の力で聖なるオーラを増幅させるのを、フェイントに利用したというのか!?

 

「なぁ・・・にぃいいいいいっ!?」

 

 驚愕しながらもコカビエルは剣をふるうが、宮白くんはそれをあっさりとかわす。

 

 アレは天閃の聖剣の力! しかも破壊の聖剣には鎧がからみついてさらに力を増幅させている!!

 

 エクスカリバーすべての力を利用し、さらに自身の能力とイッセーくんの力まで借りた一撃は、驚愕するコカビエルには反応しきれない!

 

 その一撃はコカビエルの両腕を切り飛ばし、そしてそれにとどまらない。

 

「イッセー! もう一丁!!」

 

「おうよ!!」

 

 エクスカリバーにイッセーくんの左手が触れ、さらに倍化の力が譲渡される。

 

 莫大な出力にエクスカリバーが耐えきれないのか、鎧の一部がひび割れ、宮白くんの右手があらわになる。

 

 そこには、全力で光り輝く彼の神器の姿もあった。

 

「光力も追加だ! ・・・くらっとけ戦争ジャンキーィイイイイイイイイッ!!!!!」

 

「こ、このクソガキどもがァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!!??!?」

 

 限界をはるかに超えて強化されたエクスカリバーは、その身を砕きながらもコカビエルを吹き飛ばした。

 

 SIDE OUT

 




ついにコカビエル戦、決着です。


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白い龍、遅いんだよ!

――――――――――――――――――――――

 

 聖なるオーラが充満する中、コカビエルは仰向けになって倒れていた。

 

 その全身は血だらけで、傷がないところが見当たらない。吐く息は荒く、もう動けない事がバカでも分かる有様だ。

 

 ・・・勝った、のか?

 

「ば、かな。この、俺が、こんな・・・雑魚どもに・・・?」

 

 コカビエルは茫然と呟く。

 

 正直俺自身信じられない。

 

 増援が来るまで時間が稼げれば御の字だとは思っていたが、だからと言って全力を出さずにいればすぐ滅ぼされる事も分かっていた。

 

 だからこそ、ありとあらゆる手段を考えて全力で暴れまわった。できれば避けたかったイッセーの擬似禁手も使って、コカビエルを殺すつもりで攻撃した。

 

 それでも、俺達は本当にコカビエルを倒せた自信がなかった。

 

「どうするイッセー? 俺、勝ったのか?」

 

「いや、これで勝ってなかったら俺達死ぬだろ」

 

 既に鎧が解除されたイッセーも、正直現状を飲み込み切れていないようだ。

 

 つーか鎧解除早いな! あんだけボロボロでも結構使えてたんだし、もう少し持ち堪えてくれても良かったんじゃないか?

 

 まあ、俺のエクスカリバーも粉々に砕け散ってるわけなんだが。まあかなり無理のある運用をしてたしな。木場には悪いが俺が壊しちゃったよ。

 

 後ろにいる仲間達も、未だに状況を飲み込み切れていないらしい。

 

 まあ、いきなりエクスカリバーは融合する。町は20分で滅びる状況になる。異世界の存在とそこから来た転生者の存在が明るみに出る。滅びる状況が解除される。圧倒的強者を倒しちゃう。

 

 ・・・うん。どう考えても許容量をオーバーしている。

 

「・・・とりあえず、止めを刺すより取り押さえて神の子を見張る者に突き出した方が政治的にはいいでしょうね」

 

 経験豊富なおかげでいち早く冷静になったベルが、そう結論した。

 

 その言葉がきっかけになったのか、俺達は何とか動けそうだ。

 

「そうね。朱乃、ソーナ達をこちらに連れて来て頂戴。全員でコカビエルを封印する結界を作り出すわ」

 

「了解しましたわリアス」

 

「・・・アーシアちゃんー。念の為今のうちに皆の回復お願いするよー」

 

「あ、はい! 分かりました!!」

 

 部長が朱乃さんに指示を出し、久遠はアーシアちゃんに要請する。

 

 また復活されても困るし、とっとと回復してとっとと拘束した方がいいか。

 

 まだ気を抜くには早すぎるが、これで一安心か・・・?

 

「―いや、その必要はないな」

 

 ・・・真上から、声が響いた。

 

 瞬間、結界が崩壊し、上空から三つの影が舞い降りる。

 

「ファック! 結局コカビエルが倒れるまで観戦し続けやがって!! どんだけ他勢力に迷惑掛けてんだよこの馬鹿龍皇が!!」

 

「グハッ!?」

 

 一人はボディスーツにフルフェイスヘルメットで姿を隠した、体格から言って同年代の堕天使。

 

 勢いよく落下したかと思うと、そのままコカビエルの鳩尾に踵を叩き込んで、奴の意識を消し飛ばす。

 

 聞き覚えのある声だな。ていうか、高みの見物してたのかよ!

 

「・・・間に挟まって、お前の攻撃喰らいまくった俺が一番被害者だろ。まあとりあえず、こいつら全員ひっ捕らえるとしますか」

 

 まるで科学者のように白衣を着た、銀の髪の大学生くらいの堕天使。もの凄いボロボロだ。

 

 彼が指を鳴らすと、どこからともなく全身鎧が何人も現れ、フリード達はぐれ悪魔祓いを拘束していく。

 

 なんか大型トラックまで出てきてるんだが、どうやって持ってきた!?

 

「お前がいい勝負になりそうだと言ったからだろう? 自業自得だ」

 

 そして、真っ白い鎧に身を包んだ一人の男の姿。

 

 ・・・どことなく、赤龍帝の鎧に似ているな。いったいなんだ?

 

 鎧の男は俺の方を興味深く見ると、その両腕を大きく広げた。

 

「面白いものを見せてくれた礼だ。俺の能力を見せてやるから、全力で攻撃を叩きこんでみてくれ」

 

 ・・・何を考えているのか知らないが。

 

 丁度いい。奴には聞きたい事があったんだ。

 

「その前に一つ聞くが、お前、どの辺から様子を見ていた?」

 

「最初からだ。・・・まあ、会話が聞こえるような距離にはいなかったが」

 

 そういう事か。

 

 よし、だったら望み通りにしてやろう。

 

「分かってないのは当然だろうが、俺は危うく酷い詐欺行為を働くところだった。・・・本気の全力でいくぞこの野郎!!」

 

 強化魔術は使わないが、今俺に出せる全力を込める。

 

 その鎧ぐらいは砕いてやる!!

 

『Divide!』

 

 いきなり、光の槍が半減した。

 

 更に槍は半分になっていき、鎧に当たる頃には爪楊枝のような大きさになっていた。

 

「これが、白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)の力。相手の力を半減し、その力は俺のものになる」

 

 なんだよそれは。まるで赤龍帝の籠手の正反対の力じゃ・・・。

 

「・・・白龍皇、ですか」

 

 俺達を庇うようにして、ベルがそう呟きながら歩いてきた。

 

「赤龍帝と共に三つ巴の大戦のなか喧嘩を行い、三大勢力が総力を挙げて神器へと封印した存在。堕天使側に組みしているとは聞きましたが、まさか今この場に来るとは・・・」

 

 ・・・赤龍帝と対をなす龍だと?

 

 そんなものがあったのかよ面倒だな!?

 

「ああ、まだ未完成な上しかも仲間の力を借りたとはいえ、コカビエルを倒す事ができるとは。まあ、俺の宿敵なのだからこれぐらいはできるようになってくれないとな」

 

 物騒な事を言ってくる白龍皇。

 

 こいつら、いったい何をしに―

 

「・・・そこの駄目龍皇! 散々迷惑かけた上に変な喧嘩を売ってんじゃねーぞファック!!」

 

 あ、後頭部に光が直撃した。

 

 あのフルフェイスはこのメンツのまとめ役か何かか?

 

「分かった分かった。・・・まあ、今日のところはコカビエルを捕まえる事が仕事だしな。・・・帰らせてもらうとするよ」

 

 白龍皇がコカビエルを抱え、フルフェイスはため息をつきながら宙に浮かぶ。

 

 どうやら退散してくれるようだ。それならそれで助かるんだが・・・。

 

『無視か、白いの』

 

 初めて聞く声が響いた。

 

 その声は、イッセーの左腕から聞こえてくる。見れば、声に反応して宝玉が光っていた。

 

『起きていたか、赤いの』

 

 応じるように、光翼からも声が聞こえる。

 

『せっかく出会ったのにこの状況ではな』

 

『こういう事もあるだろう。たまにはいいさ』

 

『どうした白いの? 以前のような敵意が伝わってこないぞ』

 

『こちらのセリフだ赤いの。お前こそ段違いに低いじゃないか』

 

『お互い、戦い以外の興味対象があるという事か』

 

『そういう事だ。どうせいずれ合いまみえるのだ。戦いはその時まで取っておこう。ドライグ』

 

『ああ。じゃあな、アルビオン』

 

 ・・・なんか、とんでもない会話を聞いた気がする。

 

 つーか、俺達はあのホワイトドラゴンと戦うこと確定かよ!

 

 マジでめんどいな。何が悲しくて、悪魔になったからってそんな激闘を毎度毎度繰り広げなくちゃいけないんだよ。

 

「おい、どういう事だよ!! お前はいったい何者で、何がどうなってるんだ!! つーか、さっきから上から目線で偉そうだな!!」

 

 イッセーが混乱しながらも喰ってかかるが、白龍皇はどこ吹く風だ。

 

「全てを知るには力が必要だ。強くなってくれ、いずれ戦う俺の宿敵くん」

 

 そう言うと、白龍皇はあっという間に空の彼方に消えていく。

 

 そして、いつの間にやらトラックにはぐれを全員詰め込んだ白衣達は、そのままトラックに乗り込んでいく。

 

「俺達も帰るぞぉ。はあ、この数を転送させるのは面倒だし、転送班と合流するまでは陸路だからな」

 

「わーったよ。・・・んじゃまぁ、このお詫びはウチのファック総督が直々に出すそうだから、悪いがアタシらは帰らせてもらうぜ」

 

 白衣に促されたフルフェイスもそう言ってトラックに乗り込むが、その顔が朱乃さんの方を向いた。

 

「・・・元気でやってるみたいで安心したよ。またな、朱乃」

 

「っ!? あなた、もしかして―」

 

 朱乃さんは何かに気づいたようだがフルフェイスは答えない。

 

 そのままドアを閉じると、トラックは校庭から外に出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・終わった、か。

 

 非常に濃い一日だった。

 

 色んな意味でスケールの大きな戦いだった。三大勢力全てが絡むわ、下手したら街一つ吹き飛ぶところだったわ、挙句の果てにボスは堕天使の幹部だわ。・・・全てにおいて今までを遥かに超越するレベルだった。

 

 しかも、俺達のことが皆に知られてしまったし、これから大変だぞマジでどうしよう。

 

「・・・まあ、とりあえず一段落ついたってところか」

 

 気にしても仕方がない。

 

 俺は振り返ると、皆の方を眺める。

 

 大事過ぎた所為か、皆どう反応していいか分かっていなかった。

 

「・・・どうやら、終わったようですね」

 

 結界が消えた上にトラックが学校から出てきた所為か、会長達が俺達のところに駆けつけてきた。

 

 皆結構疲労の色が見える。長時間結界を維持していたのだから、当然と言えば当然か。

 

「桜花! 宮白! 木場! お前ら大丈夫かよ!!」

 

 匙が俺達の姿を見つけて慌てて駆けつける。

 

 ああ、そういえば念の為作っていた抜け道から入ったから、こいつ俺達の存在気づいてなかったな。

 

「まあ、ただでは済んでないが俺は大丈夫。久遠は無事だよ」

 

「そうか。・・・で、何がどうなったんだ?」

 

 匙は頬を引きつらせながら、大惨事と化している校庭を見る。

 

 何故か体育館まで吹き飛んでいるし、これはどうしたものか。

 

 久遠も苦笑している。

 

「正直説明に時間がかかりそうー。・・・でも、なんていうかー」

 

 だけど、なんか頬が赤かった。

 

「・・・お仲間も見つかったし、結果オーライかなー」

 

「そうですか。それは良かった」

 

 会長が、そんな久遠に微笑んでいた。

 

「勝手をした罰はちゃんと受けていただきますが、まずは・・・良かったですね、桜花」

 

「・・・はいー。ただ、ちょっとセラさまは仕事が増えそうな予感がー」

 

「・・・普段がアレですし、たまにはしっかり仕事をしてもらわないと困ります。宮白くんも、すいませんが後で姉と話しをしてもらう事になると思いますね」

 

「ま、そりゃ必要経費と割り切りますよ」

 

 俺達の今後にも関わるんだし、それぐらいなら仕方がないか。

 

 俺は、ふと木場の方に視線を向ける。

 

 木場は何とも言えない表情をしていた。

 

 まあ、色々と因縁を清算できたはいいんだろうが、いわゆる燃え尽き症候群という奴になっているんだろう。

 

 マジで命を失ってまで叶えたかった事に一応の決着がついたしな。さて、どうフォローしたものか。

 

「やったじゃねえか、木場!」

 

 とまあ、こっちが色々考えてんのをふっ飛ばすかのように、イッセーが木場の後頭部を励ますかのように叩いた。

 

「それが聖魔剣かぁ。なんかこう、白と黒が奇麗に混じってるよなぁ」

 

 こいつは本当にこういう時迷わないな!

 

 ま、それがこいつの良いところか。

 

「イッセーくん。僕は・・・」

 

「ま、良いじゃねえか。聖剣も、お前の仲間の事も、今はいったん終了って事でいいだろ?」

 

 ・・・敵わないなぁ。ホントにさ。

 

「ま、そうだな」

 

「宮白くん・・・」

 

「とりあえずバルパー(元凶)はくたばったんだし、お前の同胞も少しは気が晴れただろ。・・・今日のところは、そういう事にしておこうぜ?」

 

 ・・・後ほど聞いた事だが、木場の同胞は特に恨みを晴らしてくれとか言っていたわけではないらしい。なんでも残留思念がどうこう言ったとかなんだとか。

 

 正直ちょっと見当はずれだったというわけだが、まあ、気分は良くなったみたいだし良かった事にしておこう。

 

「それより、君の方は大丈夫かい? その・・・」

 

「ああ、転生云々?」

 

 こいつも色々と大変だろうに、俺の心配している場合か?

 

 まあ、ある意味世界全土を震わすトンデモ設定なわけだから気になっても当然だと思うが。

 

「なんでも魔王様直々に調べているらしいし、前回のレーティングゲームでも結構使ったからもう勘づかれてるだろ。今更慌てても仕方ないな」

 

 基本的に、会長のお姉さんはその辺気を使っており、保護を方針とするらしい。

 

 ちょっとは窮屈な思いをするかもしれないが、まあそれで身の安全が保障されるなら我慢するか。

 

「あの・・・大丈夫、ですよね」

 

 皆の回復を終えたアーシアが、俺達の方に歩み寄る。

 

「木場さんも宮白さんも、また一緒に部活できますよね?」

 

 この一件で一番ショックを受けたのは間違いなく彼女だ。

 

 教会を追放されてもなお、戦闘服にシスターの格好を選ぶほどの信仰心を持つアーシアちゃんにとって、神の死なんてショック死レベルの出来事に違いない。

 

 まったく、ウチはお人好しが多すぎるぜ。

 

「・・・ま、俺は今後の展開次第かな」

 

「なら安心しなさい」

 

 部長が、その大きな胸を張って断言する。

 

「例えそれが冥界の総意であれ、下僕に危害を加えようというのならば私は抗議するわ。・・・おかえりなさい、祐斗、兵夜」

 

 部長は、笑顔で俺を迎え入れてくれた。

 

 いや、部長だけじゃない。

 

 朱乃さんも、小猫ちゃんも、そしてもちろんイッセーも。

 

「聖魔剣と異世界の力。あなた達は私の予想を遥かに超えてくれた。・・・私の自慢の眷属達よ」

 

 ・・・やべ、ちょっと涙腺が緩んできた。

 

「あれぇ? 兵夜泣いてんのぇ?」

 

 復活したナツミがからかうように言ってくるが、部長はそんなナツミを抱き寄せる。

 

「え・・・え、えと、えぇ!?」

 

「あなたもよ。・・・下僕の使い魔は私の使い魔も当然。悪意なんか私が消し飛ばしてあげるから、安心なさい」

 

 やべえ、俺の主のカリスマ性がやべぇ!

 

 そして、部長は右手を上げるとやけに凶悪そうな魔力を発し始めた。

 

 ・・・あれ?

 

 そして視界の端には、同じようなポーズと魔力の会長の姿も。

 

 ・・・あれ?

 

 ポンと、イッセーと小猫ちゃんが肩に手を置いてくる。

 

 これは明らかに同情のそれだ。

 

「じゃあ二人とも。勝手な事をした罰よ。桜花さんと一緒にお尻叩き1000回」

 

「せめて左腕回復させてくれぇええええええええええええっ!!!」

 

 最後にいいオチがついてしまった。

 

 だけど、まぁ、なんていうか・・・。

 

 俺、今、結構幸せだ。



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キャラコメ 第三弾!!

はい、インフレスタートの章の解説

はっじっまっるっよー!


 

 久遠「ベルさんベルさんー! ついに私達がキャラコメだよー!」

 

ベル「ふぁい! ・・・ごくん。 ・・・はい! 兵夜さまと一緒にゲストですね!」

 

久遠「そうだよそうだよー。兵夜君とイチャイチャしながらキャラコメだよー」

 

ベル「ナツミちゃんは小雪ちゃんには悪いですが、実質すごい楽しみです!」

 

久遠「会長見てますかー? 久遠は愛する男や女と一緒に酒池肉林のキャラコメを―」

 

兵夜「ハリセンby魔術強化!」

 

 スパーン!

 

久遠「・・・な、なんで私だけ」

 

兵夜「天然かつ被害の少ないベルと確信犯で大被害のお前のどっちを裁けと? 大体ゲストはもう一人いるっての」

 

祐斗「あ、あはは・・・。ごめん桜花さん。エクスカリバー編は僕のメイン回だから」

 

久遠「ゲストが増えるとは想定外だよー。作者の技量なら兵夜君含めて三人が限界だと思ってたのにー」

 

兵夜「つっても仕方がないだろ。ケイオスワールドエクスカリバー編語るならこの三人は必要不可欠だ」

 

ベル「大丈夫です兵夜様! ベルは頑張りますよ!」

 

久遠「あ、褒めてほしくぶんぶん降ってるしっぽが見える―」

 

祐斗「・・・本当に見えた」

 

兵夜「はい! それではキャラコメ始まります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗「こっそり特訓しているイッセーくん達だけど、ナツミちゃんが凄いことになってるね」

 

兵夜「この段階でふんどしとまともに戦える駒王町在住組はナツミだけだからな。あの時は前世に怯えて使用を避けていたが、それがなければ当時のふんどしなら倒せていたかもしれない。・・・もし眷属悪魔として迎え入れていたらライザーなど敵ではなかっただろう。同じ土俵で戦えるし」

 

久遠「でも地道な特訓って大事だよね。何気にこれが一番大事だからさー」

 

ベル「そしてこれが一番大変でもあります。日々の積み重ねこそ大変であり、だからこそ強い人はその多くが日々特訓しているのです」

 

兵夜「だからこそ、やる気を伸ばすのが重要だってわけだ。ライザー相手に苦戦したのはイッセーにとっていい機会だった」

 

ベル「あ、それはそれとして小雪ちゃんの登場ですよ!」

 

祐斗「だけど彼女がここにいるってことはこの段階でアザゼル先生はコカビエルの動きをある程度把握していたってことなのかな?」

 

ベル「その辺りは原作でも出ていないですしぼかしてますが、実際動きが速かった事といいある程度は読めてどう動くかも想定してたのでしょう」

 

久遠「結果的に兵夜君たちが大活躍しすぎて少し失敗だったけどねー。でもまあ、謝る代わりに戦争完全終了って話に持って行けたから結果オーライじゃないかなー?」

 

兵夜「何気にできる大人だからな。愉快犯じみているところが最悪なんだが」

 

祐斗「イッセーくんのことがある割には、宮白くんってアザゼル先生のこと好意的に見てる節があるよね。ハーデス並みに怒り狂ってもおかしくないけど」

 

兵夜「何時起爆するか分からない不安定な核爆弾なんて危険すぎるしな。危険因子の暗殺なんて冷戦中の勢力ならどこでもやってるだろうし、実際最近のイッセーの化け物具合を考えるとそりゃ殺すのも考えるだろう」

 

久遠「大規模組織を運営するとなると、必然的に清濁併せのまなきゃならないしねー。現時点で冷戦状態連発ものとなれば、そりゃ暗殺だって考慮しないとねー」

 

ベル「じ、実質私は結構引いているところもあるんですが・・・」

 

祐斗「ある意味グレーゾーンの業界出身だからか。その辺りは理解あるんだね・・・」

 

兵夜「むしろ大絶賛ブラックゾーンなんだが」

 

 

 

 

久遠「そして木場君がダークサイド覗かせてるねー」

 

祐斗「お、お恥ずかしい。この時は色々と僕も未熟だったよ」

 

ベル「その件については本当に申し訳ありません。ミカエル様に代わってお詫びします」

 

兵夜「まあ、魔術師の実験に比べれば比較的良識的ではあるんだが、やはり色々とあれだろうな」

 

久遠「これで良識的ってどんな黒い世界の出身なのさー」

 

兵夜「それはそれとして部長とアーシアちゃんが変態の側面を見せつけているのが問題だ。・・・あの二人ショタコンだったのか」

 

久遠「でもちっちゃいイッセーくんもかわいいよー」

 

兵夜「あれは萌えてるんじゃなくて興奮してるんだよ!」

 

ベル「でも意外と堂々と聖剣を飾ってるんですね、イリナちゃん達の家。日本じゃ実質違法ではないでしょうか?」

 

祐斗「その辺は大丈夫だよ。仮にも教会で聖剣を預かるような悪魔払いの家系だよ? そこそこ地位もあるだろうしいざという時の根回しぐらいはしているさ」

 

兵夜「しかし酷いのはイッセーだな。確かにこの時点では中性的だが、割と女の子の要素が強いだろうに」

 

久遠「イッセーくんなら匂いとかで分かりそうだけどねー。この時は性欲強くなかったんだー」

 

兵夜「その辺は俺も意外だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久遠「そして私だよー。いきなり大暴れだよー!!」

 

ベル「何より驚きなのはこの段階でもやしっ子かつ勘を度忘れしていたということですよね」

 

祐斗「地味にこの段階の駒王学園生徒で一番強いだろうしね」

 

兵夜「久遠の本質は上質かつ大量の経験値だからな。何より理屈で理解しているから指導も完璧。下手に才能重視の俺たちよりはるかに兵力を増大させれるハイスペックだ」

 

久遠「いや、照れるねー」

 

ベル「実際この段階においてはルーキーの群れの中に一人だけベテランがいるようなものですから。軍隊でいうと先任軍曹のポジションですね」

 

兵夜「地味に重要なポジションだからなぁ。優秀だが経験値の少ない指揮官である会長にとって超最高の戦力だろ。しかも勘さえ取り戻せば最強格とも同じ土俵で戦闘可能なレベルに強い。いい拾い物したよ会長は」

 

ベル「あの、グレモリー眷属がそれ言います?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「それはそれとして教会組も登場したが、やはり悪魔との折り合いは悪い!」

 

久遠「っていうか今が仲良くしすぎなんだよー。一年足らずでこれって反動が出てきそうで怖いんだけどー」

 

ベル「その節は本当にご迷惑をおかけしました」

 

兵夜「まあ俺個人としては想定の範囲内ギリギリではある」

 

祐斗「本当にこういうの理解あるね」

 

兵夜「つっても宗教関係はホントあれだからな。なにせ善と正義を定義しているから基本的には良識あふれるよう努力する人達が多いだろうけど、定義されてるから異端に関しては悪だと断言できるから容赦がなくなるわけで」

 

久遠「古今東西宗教関係で蹂躙的なものが起きてる最大の要因だよねー。十字軍とかコンキスタドールとかー?」

 

ベル「ミカエル様達も経験を積んでより良い行動を心掛けているのですが、実質こちら側の不手際でもあります」

 

兵夜「厄介なのは、ゼノヴィアとしてみれば悪意すらないわけだ。ほら、聖書の教えって自殺禁じてるから戦争とかで致命傷負った奴を介錯する為の短剣とかあるんだよ。たぶんあれ使うのと同じノリだったと」

 

久遠「あー。それは気持ち分かるなー。一思いに楽にしてやるべきっていうか、現実的に見て苦しむだけってことも多いしねー。そういう時はさっくり楽にしてあげるのも立派な優しさだしー」

 

ベル「とはいえイッセーくんの性格的にそんなものを許容できるわけが実質ありませんし、この時点で殺し合いが勃発してもおかしくありませんでした」

 

祐斗「その割には結構辛辣な発言をしてたような気がするんですが」

 

ベル「それはそうです。こちらにある非は詫びねばならないとはいえ、勘違いによる言いがかりはしっかりと説明しなくては。そのうえで距離を置くのが実質正しい選択では」

 

久遠「まあそれはそれとして、木場くんは暴発寸前だったけどねー」

 

祐斗「う、面目ない」

 

兵夜「まあそういうわけでガス抜きとして模擬戦することになったわけだが・・・。ベル、お前はなんでそうなんだ」

 

ベル「そ、そんなに問題のある選択でしたか? この時の私の衣服は替えがいくらでもきくものでしたし、脱いでも耐久力はあまり変化しないと思うのですが・・・」

 

祐斗「違うそこじゃない」

 

久遠「兵夜くんー。ベルさんには羞恥プレイは無理そうだねー」

 

兵夜「確かにそうだがそうじゃない!! ・・・まあ俺としては流された感じだしガス抜きができればよかったんで本気は全然出さなかったが、そういうわけで二人は敗北。でも木場は冷静ならもっと戦えただろ」

 

久遠「多重属性のバリエーションが売りなんだから、真っ向勝負するにしても破壊力は駄目だと思うけどねー」

 

ベル「頭脳戦が武器の人物が感情のままに動いてはこうなるという典型例ですね。何事にも向き不向きが実質ありますから」

 

久遠「逆に冷静なままの兵夜君はダメージ殆どないからねー。何気に今後の布石まで打ってるし抜け目がないっていうかー」

 

兵夜「はっはっは。もっと褒めるといい」

 

祐斗「そういえば、さらりと原作では奪われなかった祝福の聖剣も奪われてるね」

 

兵夜「後半の展開の為の布石というやつだ。壊れたら使えないしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久遠「そしてイッセーくんが動き出すよー。私と元ちゃんを呼び出して教会組の協力を取り付けようとしてるねー」

 

兵夜「そしてこの段階でコカビエルの目的を推測してるよな、お前」

 

ベル「兵夜様ですらこの段階では想定してなかったのに、よく分かりましたね、久遠ちゃん」

 

久遠「いや、傭兵が食ってく為には戦争の趨勢とか読まないとやってられないし、どこの世の中にもいるんだよ、開戦派っていうのはさー」

 

祐斗「それにしたって宮白くんですら気づかなかったことを推測できる当たり、やっぱり桜花さんは凄いよ」

 

久遠「いやいやー。経験則だよ経験則ー」

 

兵夜「まあそれは置いておくとして、イリナはあほか、あほなのか」

 

久遠「見てて呆れたっていうか、なんで全額突っ込むかなー」

 

ベル「ほ、本当にその節はありがとうございました。少し目を離した隙にあんなことになってしまって・・・」

 

祐斗「あはは・・・。なんていうか、話してみると愉快な人達だよね、彼女達」

 

兵夜「素直に馬鹿といってやれ、馬鹿と」

 

ベル「ですが即座に下手人を捕えてくれてありがとうございました兵夜さま。いや、本当にどうしたものかと」

 

祐斗「それで交渉が始まったけど、本当にこの戦い凄く重要だったよね」

 

兵夜「まったくだ。話のスケールにしても戦闘のスケールにしてもインフレが加速した話だよこれ」

 

久遠「だけどまあ、冷静に考えると本当に色々大惨事一歩手前の状況だったんだよねこれー」

 

兵夜「様々な種類の爆薬が満載された倉庫の中で手榴弾のピンを抜いているようなもんだもんな。本当に、本当に・・・本っ当に危なかった!」

 

久遠「だけどまあ、バルパーって本当にあれだったよねー。聖なる剣を何だと思ってるんだかー」

 

ベル「全くです。当時のゼノヴィアとイリナを、悪魔相手にあそこまで意気投合させるなんてある意味相当の手腕ですね」

 

兵夜「その所為でその後の匙の馬鹿のあほな野望との落差が酷いってのがマジ腹立ってきた」

 

祐斗「まあいいじゃないか。マイナス方向の空気がこれでプラスになったんだからさ」

 

兵夜「おまえ、ちょっとイイヤツ過ぎじゃないか?」

 

久遠「だけど野望まで一気に進んでるよね、今ー。やっぱり意を決して告白するって重要なんだねー」

 

兵夜「お前はもうちょっと手加減してほしいけどね!!」

 

ベル「それはともかく、兵夜様の手腕は恐ろしいですね。よくもまああの短期間にあそこまで」

 

兵夜「組織力ってやつだ。即応性のあるレベルで規模の大きい組織を用意していれば、こういう時即座に対応できるってもんだよ」

 

久遠「規模が大きすぎるとフットワークが重くなるし、規模が小さすぎるとやれることが小規模になる。だから協力者を増やす方向にすることでフットワークを軽くしながらいざという時のできることを増やしてるんだねー。横の繋がりって結構重要だよねー」

 

兵夜「とはいえそれも最初の判断が間違ってたら効果を発揮しない。・・・とっとと魔王様に連絡していた方が楽だったよなこれ」

 

祐斗「まあ、そうするとある意味コカビエルの望み通りになるからそれはそれで問題あるよ。宮白くんは上手い事やったって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗「そしてエクスカリバーとの戦いが始まったわけだけど、フリードの戦闘能力はやはり高かったね」

 

兵夜「これで夏休みが終わると雑魚レベルにまで落ちるんだからインフレ激しいよこの業界」

 

ベル「それはそれとして兵夜さまも久遠ちゃんも一人でエクスカリバーを相手に善戦どころか優勢とは、この段階でやはりハイスペックですね」

 

兵夜「俺の場合は情報入手できてたからな。対処できる輩と戦えたことが大きいさ。単一系の能力バトルなんて利点を殺せればそりゃ有利に立ち回れるさ」

 

久遠「こっちも相性が良かったしねー。他の聖剣だったらてこずってたと思うよー」

 

祐斗「桜花さんの怖いところは、これで過去の経験が殆ど噛み合ってない事だよね。それでここまで戦えるんだから本当に怖いというか」

 

兵夜「それを超えるふんどしの脅威が身に染みるな。・・・なんだあのトンチキは」

 

久遠「そして登場したよねバルパー。今回のややこしさの現況だよねー」

 

兵夜「なんだかんだで機動力の高い木場から逃れられる辺り、こいつ身体能力高いよな」

 

ベル「というより、この戦闘でどさくさに紛れて発信機を仕掛けられる辺り兵夜さま仕事しすぎでは」

 

久遠「仕事ができる彼氏は最高だよねー」

 

祐斗「愛されてるね、宮白くん」

 

兵夜「ほっとけ。それはともかくここで携帯の電源が切れてなければもう少し何とか出来たんだが」

 

祐斗「確かにそうだね。まさかコカビエルが戦争をすることそのものが理由だなんて欠片も思わなかったよ」

 

兵夜「戦争なんて下の下の外交手段だからな。避けられるのなら避けるべきだってのが基本だから、この辺全く想定できなかった」

 

久遠「実際いるんだよー。殺し合いがしたいからって理由だけでその気のない人にまで仕掛ける類がー。私も割と戦闘で高揚できる性分だけど、流石にこれはあれかなー」

 

ベル「あの世界でそんなことになれば世界滅亡すら冗談抜きであり得るというのに・・・。しかも面倒なのは、これに賛同する者たちは相応数存在するということです」

 

兵夜「確かに、次の章とかで出てくる連中とかなぁ。こちとら平和に過ごせればそれでいいのに余計なもめ事を持ってくるは巻き込むは・・・」

 

祐斗「本当だね。それに宮白くんはそれで左腕を失くしたわけだし」

 

兵夜「いやそれは全く構わないが。結果的に便利な代わりも手に入ったしな」

 

久遠「兵夜くんは自分のことになると倫理観が崩壊してるよねー」

 

ベル「そこはできれば直してほしいのですが、実質無理なのでしょうね・・・」

 

祐斗「苦労してるね二人とも・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベル「実質来ましたよ! 今回最大のラブシーン!」

 

祐斗「ベルさんが興奮するのかい?」

 

ベル「もちろんです! 二人のキスシーンとかこれで喜ばないで何で喜ぶんですか?」

 

祐斗「なんかもう、これ宮白くんのハーレムというより四角錐みたいな関係じゃない? ・・・あれ、二人とも?」

 

兵夜・久遠「・・・・・・・・・」

 

祐斗「・・・二人ともとりあえず水を飲もうか? 顔が真っ赤だよ」

 

兵夜「いや、冷静に考えると少し恥ずかしくなってきた。最近は吹っ切れたというかやけになったというか慣れてきたというかそんな感じだったんだが・・・」

 

久遠「こ、こうしてみると少しどころかすごく恥ずかしいよー! ご、拷問だよー!」

 

ベル「なんで久遠ちゃんは時折すごく恥ずかしがるんですか?」

 

兵夜「要はあれだよ、チキンレースでどこでブレーキ踏めばギリギリで止まれるか分かってるんだ。だから想定外の事態で計算が狂うとあっさり限界点を超えて痛い目見る」

 

祐斗「ああ、常に限界スレスレを攻めてるのか」

 

久遠「ううー・・・。だって、だって初めてだったんだもんー。同じ人に会うのー」

 

祐斗「だけどまあ、イッセー君達が決戦を目前に緊張感を高めている中、す、凄い事になってるね」

 

ベル「き、キスシーンですよ! キスシーンです!! あ、久遠ちゃん顔真っ赤!!」

 

久遠「ベルさん言わないでー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そんでもって聖魔剣誕生までの一連の流れは視点を変えるだけで特に変更なし」

 

久遠「この辺りはベルさんがコカビエルの相手をしてるだけで特に変化なかったねー」

 

兵夜「そりゃ完成度高いからな。ここは余計な変化を入れるべきじゃないが、だからといってまんま乗っけるわけにもいかない。D×Dが視点変更をよくするタイプのラノベで良かったぜ」

 

祐斗「ここでこの作品の根幹である転生者の絡繰りが明かされるわけだね。まさか聖書に記されし神の死がこんなところで影響を与えるだなんて」

 

兵夜「これは凄いラッキーだったな。なにせ転生者発生の原因として、これほど自然に絡められる原作の展開なんてそうはない。早い段階で明かされることもあるし良かった良かった」

 

ベル「全世界の信者が卒倒しそうな事実ですけどね。本当に、ゼノヴィアやアーシアちゃんが精神をやまなくて良かったです」

 

祐斗「イリナさんも寝込んだだけで済んだもんね。割と本当に毒すぎる情報だし、これは流石に明かせないよ。信仰を捨てていた僕ですら衝撃だったんだから」

 

兵夜「聖書に記されし神を信仰している宗教はキリスト教だけじゃないからな。イスラム教やユダヤ教も同一の神を信仰しているし、信仰している国家は原油産出国から先進国と、影響力がでかすぎる。大混乱が発生して数億人レベルの犠牲者が出たって何らおかしくない」

 

久遠「宗教って重要だからねー。日本人には馴染みが薄いけど、他国の影響あっての国だからこれまた大被害を受けるだろうしー」

 

祐斗「そしてイッセー君が熱い言葉でコカビエルに啖呵を切ったそのタイミングで宮白君登場だね」

 

久遠「このテーマソングってそういえば何の意味があるの―?」

 

兵夜「大きく分けて二つだな。一つはいわゆるマインドリセットというか精神的なスイッチだ。自分は今ブチギレてますよーと自覚させることで最低限の理性を残しておくのが目的だ」

 

祐斗「確かに、宮白君は策で相手をはめるタイプだからね。当然怒り狂っていたら真価を発揮できないか」

 

兵夜「もう一つは脅しだよ。これが相手に広まれば、「ああ、こいつ今切れてるからやばい」と理解することでそうなった時点で謝る奴が出てくるかもしれないだろ?」

 

ベル「ど、恫喝目的でしたか」

 

久遠「確かにそういう脅しって外交手段の一つだもんねー

。兵夜君は本当に頭が回るよー」

 

祐斗「ここで更にナツミちゃんが登場してコカビエルを足止め。そして宮白くんが都市を崩壊させる術式を無効化するけど、するんだけど・・・」

 

久遠「ほんとすごいよねこれ。何がすごいって発想力がすごい」

 

ベル「消費量が多すぎて絶対に術式が失敗するのを逆手にとって、エネルギーを消耗させることで無力化とか、実質どういう発想ですか」

 

兵夜「まあ、あれだ、どれだけ頑丈な檻を作ろうが、簡単にかぎが開けられるのなら取り出し放題だからな。あとはそれをどう消耗させるかだろう」

 

久遠「結果的に召喚成功したことで転生者がゴロゴロいて強化されてる禍の団にも戦えてるし、冗談抜きでファインプレーだよねー」

 

祐斗「とはいえコカビエルが僕達を全滅させれば自力で出来ることには変わりない。本当にこの時点のコカビエルは間違いなく今までで一番の難関だった」

 

ベル「その為これだけでも勝ち目は薄かったのですが、ここにきて追加で発動した切り札が・・・」

 

兵夜「のちの俺のメイン武装の全身であるエクスカリバーの鎧化だ」

 

久遠「ほんと発想が柔軟というかなんというかー。ポテンシャル的な相性は祝福だけど、使い勝手でいうなら擬態の方が得意なんじゃないのー?」

 

兵夜「まあそこそこ多様な武器の心得はあるから擬態の聖剣は俺個人の技量的な相性がいいのは認めるさ。これがあったから何とか勝てたようなもんだな」

 

祐斗「同時に、イッセー君も追加の代償を払って赤龍帝の鎧を再具現化。これだけやったうえで最後の一押しとして―」

 

久遠「全能力をフルに発動した一発勝負―」

 

ベル「―と見せかけての騙し討ちでしたね。実質汚いにもほどがあるのですが」

 

兵夜「無茶言わないでくれ。当時の俺のスペックであいつと正面勝負は不可能だ。腐っても伝説に名を遺す最上級堕天使だぞ? 今でも偽聖剣なしじゃ勝ち目は薄いし」

 

久遠「ゼロって言わない辺り強くなったよねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗「そして全てが終わってから、小雪さん達が登場したわけだね」

 

兵夜「この出遅れの差はヴァーリの所為だな。面白がってバトルを観戦したがったヴァーリの所為で足止めを喰らってたようなもんだ。・・・さっさと来てくれれば楽だったのに」

 

久遠「まあ、当時のヴァーリじゃそそる戦闘の方を優先するよねー。いやぁ、仲間のおかげでだいぶ丸くなったんじゃないかなー?」

 

ベル「小雪ちゃんは振り回されっぱなしですが、この時点で若手堕天使では有数の実力者と認識されているわけですね。実際ヴァーリ・ルシファーのお目付け役なんて相応の人物でないと不可能です」

 

兵夜「この時点でヴァーリの戦いたい相手の候補だからな。ちなみに小雪は能力を自身の加速に利用してあり得ない方向から急接近しての近接暗殺術も超一級・・・というか前世はそっちがメインだったが、アザゼルが過去のトラウマを刺激させない為に使用を禁止しているという裏設定がある」

 

ベル「そうなんですか?」

 

兵夜「・・・そういうわけで俺がステゴロで喧嘩しても、俺は自分の女の誰にも勝てないといういろんな意味で複雑になる事実がある」

 

祐斗「ま、まあ、宮白君はどちらかというと根回しとか政治交渉の方とか潜入工作とかが本領だし。戦闘までこなしてる今がハードワークなんだよ」

 

久遠「というか心配性でワーカーホリックを併発してるんだよー。いつか過労死しそうなんだけどー」

 

兵夜「自覚はしてるがそうもいかん。・・・休んでる暇がないんだよ。いや、マジで」

 

ベル「一年足らずで二けたに届く神話級の戦闘をこなし、自業自得とはいえ実質暗殺者との戦闘が日課寸前ですからね」

 

久遠「まあそれは自業自得だけどねー」

 

兵夜「ほっとけ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「しかしゼノヴィアは考えなしというかなんというか。あいつ勢いで生きてるよな」

 

祐斗「確かにそうだね。だからこそもっと頭脳戦というかテクニックを磨くべきだと思うけれど」

 

兵夜「いや、だからその辺は必要最小限にとどめてパワーを伸ばすべきだと」

 

ベル「いえ、やはりある程度の技量は重要ではないでしょうか? デュランダルは当たればそれだけで有効なのですから、下手に大振りにするのは実質どうかと」

 

久遠「いやいやー。誰がどう見てもバスターソードだよデュランダル。これは生粋のパワーファイタ―用の装備だし、小手先の技量とかむしろ邪魔になると思うけどなー」

 

兵夜「・・・やめよう。議論が白熱してどんどん話がそれていく」

 

祐斗「まあ、とりあえず事後報告というかまとめになったわけだけど、この段階ではイリナさんがどうなるかが原作的には不安だったね」

 

兵夜「ここだけ聞いたら下手したら戦争再発の可能背もあったからな。特に大天使ミカエル達セラフと、アザゼル達神の子を見張る者の動向というか性格が分からないし。・・・実際はうちのトップと変わらない変人やらお人好しやらだったので肩透かしだったが」

 

ベル「ど、毒舌ですね・・・」

 

兵夜「あの人達リベラルすぎるというか良い人すぎるのが欠点なんだよ。しかも急激すぎるからそこをリゼヴィムに突かれてると言っても過言じゃない。・・・ガス抜き用意するこっちの身にもなってくれ」

 

祐斗「ああ、色々動いてるんだっけ?」

 

兵夜「その辺りの調整を担当することでコネをしっかり作れるから、そういう意味ではラッキーなんだが・・・。革命一歩手前のこの急激な変化、反動もでかくなりそうでぶっちゃけ怖い」

 

久遠「確かにねー。たぶんこれからたくさん揉め事起きそうだよー。当分暇できないねー」

 

ベル「み、ミカエル様にご迷惑だけはかけないよう努力しなければ!!」

 

祐斗「それはともかくヴァーリの強大さを推測して、イッセーくんも苦労しそうだよね。実際のところ、そんなものじゃない圧倒的な差があるわけだけど」

 

兵夜「なに、俺がその時言ったがあいつの美徳はちゃんとあるしな。オカ研とヴァーリチームの総力戦になれば話は分からないぜ?」

 

久遠「その時は私達も協力するしねー。今なら対龍装備も万全だよー」

 

ベル「あ、あの。一応今のヴァーリ・ルシファーは味方ですよ?」

 

兵夜「・・・ちなみに、北欧神話にはオーディンの子供としてヴァーリという神が存在している。スコルとハティなどフェンリルの子供を神話側が把握してなかったことといい、おそらくは最初からそのつもりで作ったキャラなんだろうな」

 

祐斗「この段階でその展開まで用意してたんだね・・・。原作者も準備がいいというか、名前そのものが伏線だったとは」

 

ベル「確かに、魔王の字持ちにしてはガンダ〇ネタじゃないのが実質不思議でしたが、そういうことでしたか」

 

久遠「そして最後の展開は、兵夜君達のカラオケ! 会長が許してくれたら一緒に遊びに行きたかったー!」

 

ベル「こ、今度一緒に行きましょう、兵夜さま!」

 

兵夜「ああ、今度はD×Dで親睦会というのもいいかもな」

 

祐斗「そして最後の最後で小雪さんが登場。この段階だと原作を知らない人はのちの戦闘すら予感させる展開だね」

 

兵夜「まあ、最初から最後まで味方なわけだがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久遠「そういうわけで、エクスカリバー編はこんな感じで終わりましたー!」

 

ベル「次は禍の団が初登場する停止教室のヴァンパイア! 初登場のレギュラーがいっぱい登場する実質的な第二章の始まりと言っても過言ではありません!」

 

祐斗「因みに次のレギュラーの一人は、まあ大体予想できるよね」

 

兵夜「そういうわけで次のキャラコメもよろしくな!」

 




長くてすいません! 次からはもう少し短くまとめる努力をします!!


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日常、新たに始めます!

連続投稿最終章。


 目の前に、聖剣使いがいた。

 

 あと、エクソシストもいた。

 

「・・・やあ、転生者」

 

 とりあえずドアを閉める。

 

 ・・・あれって、ゼノヴィアとベルだよな?

 

 あいつらなんでこの学校に残ってるんだ?

 

 なにか残る理由でもあったのか?

 

 とりあえず、俺は昨夜のことを思い出す。

 

 昨夜は結局、三人そろって尻叩きがかなり続いて地獄だった。

 

 まさか増援が来た後も続けられるとは思わなかった。おかげでいらん恥をかいたよ。

 

 その後、協力して後始末をしてから帰宅。

 

 あと、どさくさにまぎれて回収した戦利品をちゃっかり保管してから寝酒と夜食をとって就寝。

 

 そして、ついうっかり酒を飲み過ぎて疲れが取れなまま学校に登校。

 

 すごい眠かったけど頑張って起きて、昼休みは爆睡。

 

 おかげで昼飯を食い損ねたので、旧校舎までの道のりで購買の残りのおにぎりを食いながらここまで来て・・・。

 

 うん。

 

「なんでいるんだよ!?」

 

 俺はドアをけり開けてツッコミを入れた。

 

 うん。やはりベルとゼノヴィアだ。

 

「私は後始末というか事後報告です。実質、重大情報が複数出てきた以上、ある程度報告しておかないと失礼になりますから」

 

 なるほど、ベルの言い分はもっともだ。

 

 だがゼノヴィアはなんでいる? ・・・と、いうか、今気付いたがウチの制服来てるのはどういうことだ。

 

 ふと見ると、イッセーが軽く頭を抱えていた。

 

 ・・・なんだろう。嫌な予感がする。

 

「神の死を知って正直やけになった」

 

 ・・・どんどん嫌な予感が膨れ上がっていく。

 

 俺の表情に気がついたのか、部長がにっこり笑ってトンデモ発言。

 

「向こうから売り込んできたので眷属にしたの。騎士の駒一個で転生できてお得だったわ」

 

 な ん で す と ?

 

「はぁ」

 

 ベルもため息ついてる!?

 

 そしてゼノヴィアは悪魔の翼をシュバッと出した。

 

 マジで悪魔かよ!!

 

「どうやらデュランダルがすごいだけで私は大したことがなかったらしくてね。ああ、今日からこの学校の二年でオカルト研究部所属だ」

 

「ああ、さいですか」

 

 ウチのメンバー教会関係者が多すぎないか? 仮にも悪魔の下僕としてこのメンバー構成はどうよ?

 

 赤龍帝やら、どうにも元堕天使関係者らしい朱乃さんやら、コカビエルじゃないけどウチのメンバーのイレギュラーさには驚かされる。

 

 いや、俺が言うことでもないのはわかるけどね?

 

 それに気を取り直して考えれば、これは今後にとって非常に便利な力だ。

 

 元々悪魔にとって聖剣は天敵なんだ。それを使いこなせる同胞がいるというのは、レーティングゲームにとって非常に有利に働くはずだ。

 

 しかも、超ド級聖剣デュランダルときたもんだ。どう考えてもチートが誕生しただろこれは。

 

「・・・それで? エクスカリバーとかはどうなったんだよ」

 

「エクスカリバーは核を確保することができたので、イリナが責任をもって本部へと届けています。実質、完全に砕け散ったのでそういう扱いになりましたが」

 

 ・・・無理をしすぎたのは認める。

 

 だが、まさか俺も壊れるとは思わなかったんだ!

 

 持ちこたえるかと割と本気で思ってたんだよ! ホントだよ!!

 

「・・・まあ、核さえ残っていれば修復は簡単ですし、実質運ぶ時の手間を考えれば助かったと考えてもいいでしょう」

 

 気を使ってくれなくても結構です。

 

 擬態の聖剣があることぐらい知ってるよ。イリナみたいに飾り紐にして運べばいいことぐらい知ってるから!

 

「・・・いや、しかしさすがに悪魔になったのは性急すぎだったか? だがもうなってしまった以上、後戻りは決してできない」

 

 なんか、気が付いたらゼノヴィアが悩んでいた。

 

 それはどう考えても後の祭りだぞ、ゼノヴィアよ。

 

「主がおられぬ以上私の人生は破綻したわけで・・・いや、だからと言って悪魔というのはやりすぎ・・・ああ、主よ・・・アウッ!?」

 

 ああ、お祈りまでしてダメージ入ってるし。

 

 そういえば、アーシアちゃんも時々お祈りしてはダメージ入ってるな。

 

「そういや、イリナはどうしたんだよ?」

 

 イッセーが気になることを聞いてきた。

 

 そういえば、この二人がいるのにイリナはいないって言うのは不思議だな。

 

「ああ、彼女はエクスカリバーの核を以って、本部へと帰還したよ」

 

「実質、彼女は主の死亡を知らされていませんしね。私達も教えたりはしてません」

 

 そういえば、あいつは決戦に参加していなかったな。

 

「実質イリナだけが逃げ遅れた形になりましたが、それが不幸中の幸いになりました。・・・彼女は信仰心が非常に深いので、真実を知ればショックで自殺しかねません」

 

 ベルが本気で頭を抱えながらそう言った。

 

 そりゃそうだ。信仰心あふれる人が、その信仰の主とはもういませんよーだなんて言われたらショックもひどい。

 

 むしろ、アーシアちゃんが一日で一見落ち着いているのがすごい方だ。

 

 気を取り直すかのように、ベルは勢いよく立ちあがった。

 

「今回の件について、教会側からの正式な報告があります」

 

 ・・・なんだ? まさかこっちが介入してきたことに対して文句とか言わないだろうな。

 

「ぶっちゃけていえばこんな感じです。・・・むっちゃいやだけど、実質堕天使がなにするかわからないからちょっと連絡取り合わない? ・・・と」

 

 どんなまとめ方だ!

 

 ベルさん!? あんたそんなキャラでしたっけ!?

 

「それと木場祐斗。本部から、バルパーの始末をつけ損ねたことについては、正式な謝罪が送られました。あなたの同胞達も、これで少しは無念が晴れてくれると嬉しいのですが・・・」

 

「そうですか。・・・大丈夫、その気持ちは、届いているはずです」

 

 エクスカリバーの一件はこれで終了・・・か。

 

 まさか、木場の因縁が巡り巡ってこの街そのものの存亡をめぐる事態に発展するとは思わなかった。

 

 まあ、エクスカリバーがなければコカビエルは倒せなかっただろうし、そういう意味では助かったか。

 

「それでは、私はこれで失礼します。お茶、美味しかったですよ」

 

 ベルはティーカップを置くと、そのまま部室から出ていく。

 

 去り際、ベルはアーシアちゃんとゼノヴィアに視線を向けた。

 

「・・・二人に言い忘れていたことがありました」

 

「なんだい、ベル」

 

「な、なんでしょうか」

 

 キョトンとする二人だったが、ベルの言葉にその目が見開かれる。

 

「別に、悪魔が主の教えに従って生きてはいけないなんて決まってないと思います。実質、悪魔を改宗させた信徒だなんて前代未聞の偉業を狙うぐらいいくべきですよ?」

 

 ・・・そりゃすごい発想だ。

 

 主の教えに従い、主と共に歩む悪魔・・・か。

 

 ああ、俺たちみたいな混沌だらけのこの世界、それぐらいあっても驚かないな。

 

「それでは今度こそ失礼します。・・・宮白兵夜。近いうちに一緒にお茶をしようと、桜花久遠にも伝えてください」

 

 それだけ言うと、俺の返事を待たずに扉を閉めていった。

 

 ・・・ああ、また会おう。

 

「それと、堕天使陣営から連絡が来たわ」

 

 部長の言葉に俺は意識を戻す。

 

 そういえば、向こうも対応していたな。

 

「・・・今回の一件はコカビエルの完全な独断であり、コカビエルは地獄の最下層、コキュートスで永久冷凍の刑が執行されたそうですわ」

 

 朱乃さんの説明が本当なら、これで戦争の危機は完全に脱したと考えるべきだろうな。

 

 まったく、割と本当に一大事だったぜ。

 

 二度と出てくるなコカビエル。さすがに二度目は勝てる気がしないから。

 

「兵夜には感謝するわ。あの場で白龍皇たちがコカビエルをおさめたら、身内の問題を身内で片付けたことになるから追及が難しくなっていたもの。後々のことを考えれば、政治的に大きな意味を持つわ」

 

 なるほど、部長の言うとおりだ。

 

 確かにあいつらがいるなら事態の解決は可能性があったかもしれないが、それだと政治的に面倒が起こるわけだ。

 

「・・・大手柄です」

 

「グレモリー眷属全体の手柄になりますが、何よりMVPは兵夜くんですわね」

 

 小猫ちゃん、朱乃さん・・・。

 

「最初のエクスカリバー捜索の時と言い、君は僕たちにとってもう、欠かせない存在だよ。・・・ありがとう、宮白くん」

 

 木場まで俺のことをほめたたえる。

 

 な、なんか照れくさいな。

 

「宮白さん、あの時は本当にカッコよかったです。・・・だ、駄目、私にはイッセーさんが! あぁ、主よ、私を許しアゥ!?」

 

 何やってんのアーシアちゃん。

 

 後大丈夫。君の事情気づいてないの当事者(イッセー)だけだから。

 

「部長。宮白は俺達の大事な仲間ですよね?」

 

「そうよイッセー。ソーナにもレヴィアタンさまにもあげないわよ。・・・そういうことだから、これからも私のために頑張りなさい」

 

 ・・・また涙腺が緩みそうだ。

 

 俺の事情を知ってもなお、俺を仲間と認めてくれる。

 

 ありがたすぎるぜ。ホントにな。

 

「これが、グレモリー眷属か」

 

 ゼノヴィアが関心するように俺達を見ている。

 

 まったく、これはイッセーがなんか言うな。

 

「何言ってんだよ。お前も、グレモリー眷属だろ?」

 

「そうですよ、ゼノヴィアさん。・・・そんな寂しいこと言わないでください」

 

 イッセーとアーシアがそういうと、ゼノヴィアは少し面食らっていた。

 

「いいのかい、アーシア・アルジェント。私は君に・・・」

 

 ああ、そういえば思いっきりキツイことを言ってたなこいつ。

 

 だが、アーシアは静かに首を横に振る。

 

「いいんです。私は、今の生活がとても気に入っています。正直な話、主の教えより大切に思っていて主に申し訳ないぐらいです。・・・あなたの言葉を否定しきれませんから」

 

 アーシアちゃん。そんな風に思っていてくれていたのか。

 

「・・・そうか。だが、非礼なのは事実だ。それはこれから起こるであろうレーティングゲームや、白い龍(アルビオン)との戦いに力となることで濯ぐとしよう」

 

 ・・・白い龍、ね。

 

「赤龍帝に対となる存在がいたってことには驚きだが、どうもあいつの方がイッセーより遥かに強そうだな」

 

「ぐ・・・。お前もバッサリいうよな」

 

 そうは言うがなイッセー。

 

 実戦経験がほとんどないお前と、こういう事態に派遣されるほどの実力者と思われる白龍皇とじゃ差があるのは歴然だぞ?

 

 ゼノヴィアもそれは分かっているのか、静かに頷いた。

 

「ああ、既に堕天使陣営の中でも四番手の力と聞く。神の子を見張る者(グリゴリ)が集めている神器の使い手でもトップクラスだ」

 

 そんな頂上存在といつか戦わないといけないのかイッセーは。

 

 普通に考えれば、勝負にもならないのは明白だ。とはいえ・・・。

 

「・・・まあ、でかい組織にいることが理由になって動きにくいだろうし、それだけの時間があれば充分だろ」

 

「ああ、それは当然だね」

 

「分かっているようで安心だわ」

 

 俺の言葉に木場と部長が続く。

 

「なんでだよ。そりゃぁ俺も強くなるつもりだけどさ、そのころにはあいつもさらに強くなってるだろ?」

 

「ばっかだなお前、根本的なことを忘れてるぞ」

 

 まったく、さっきまでのいい話をなんだと思ってる?

 

「お前だって俺たちの仲間なんだ。俺たち全員が強くなれば、合計であの半減ドラゴンを超えるぐらい可能だろ?」

 

 俺がリアス部長の仲間なら、お前だってそうだろうが。

 

「そういうこと。さぁ、部員も集まったんだから、今はちゃんと部活動をしましょうか!」

 

 部長の言葉に、俺たちは日常を再開する。

 

 ・・・ああ、そうだ。

 

 俺たちは日常を続けていいんだ。

 

 そうだろ、皆?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・よっしゃぁ90点ジャスト! これで三連続90点代!!」

 

 カラオケでここまで高得点を維持できたのは久しぶりじゃないか?

 

 アレから数日後、俺はイッセーたちと共にカラオケに熱中していた。

 

 ・・・一応匙や久遠を誘ったのだが、会長に異性間交友を禁止されているらしく断られた。

 

 会長、厳しい人だ。おれは部長の下僕で本気でよかった。生徒会に所属していたら堅苦しくって今頃はぐれになっていただろう。

 

「よっしゃあ! 次は俺の番だ! 歌うぜ、ドラグ・ソボール!!」

 

「よ! ドラグ・ソボールバカ!」

 

「畜生! おまえはアーシアちゃんとデュエットしてやがれ!!」

 

 やる気満々のイッセーに対して、松田と元浜の野次が飛ぶ。

 

 ・・・これが、俺たちが頑張った報酬か。

 

 良いモン手に入ったもんだ。こんな報酬なら毎日働けるね。

 

 一緒に来た小猫ちゃんや木場も楽しんでる。

 

 アーシアちゃんにいたっては、匠である桐生の手によってゴスロリ衣装にドレスアップ。

 

 イッセーは心の中でどれほど歓喜したことか予想できない。

 

「・・・おまえ、センスいいよなぁ」

 

「あら、今頃気づいたのかしら?」

 

 不敵な笑顔を浮かべるな。なんか嫌な予感がして褒めた自分が嫌になるから。

 

 そして、そんな匠の手にかかった可憐な美少女がもう一人。

 

「あ、イッセー! その曲ボクがリクエストした奴!!」

 

 こっちもゴスロリ衣装にドレスアップしたナツミだ。

 

 耳さえ隠せば人間と変わりないのに、オカルト研究部だけの交流なのはかわいそうと思ったので呼んでみた。

 

 ちなみに偽名は「宮白ナツミ」 俺の遠縁の親戚ということにしてごまかした。

 

 家族と上手くいかなくて別居しているのがこんなところで役に立つとは思わなかった。下手なぼろが出ない。

 

 ゼノヴィアは学校生活になれるために苦戦中なので今回はパス。ただし、今度機会があれば一緒に参加すると言っていたので、今度は俺がセッティングしよう。

 

 部長と朱乃さんは水着選びのショッピング中だそうだ。

 

 なんでも、生徒会からの依頼でプールを清掃する代わりに一時的な占有の許可を得たらしい。

 

 あの少人数でプールを占有できるだなんて、結構マジで楽しめそうだ。

 

 イッセーあたりは二人の水着姿を考えて暴走寸前になっているだろうな。

 

 などと考えていたら、裏稼業用の携帯に連絡が入ってきてしまい、とりあえず一旦退席する。

 

 内容は最近顔を見せていなかったところでちょっと一部の連中が暴走しかけているとのことだ。

 

 とりあえずこれが終わったらシメに行くことを伝えて会話は終了。

 

 さて、戻ろうとした時に・・・。

 

「・・・よう、奇遇だな」

 

 最近の俺の常連が来ていた。

 

「なんでこんなところにいるんだ?」

 

「ちょっと長逗留することになってな。こづかい稼ぎにバイトしてたんだよ」

 

 そりゃ気付かなかった。

 

 どうやら裏方のバイトらしい。しかも今上がりとのことだ。

 

 そういえばもう五時か。だいぶ長く楽しんでたな。

 

「・・・それじゃあもうちょっと注文した方が良かったかな? お得意様にたいするサービスって奴だ」

 

「気にすんじゃねーよ。どんだけ作ったんだってバイト代は変わらねーんだ。むしろ少ない方が楽でいい」

 

 いわれてみればそれもそうか。

 

「んじゃ、俺はそろそろダチのところにもどらねぇとな。今後ともぜひごひいきに・・・っと」

 

「ああ、ようがあったら呼ばせてもらうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あいつのこともあるし、な」




そろそろいったん落ち着きます。


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停止教室のヴァンパイア
総督、襲来です!


ついに第四巻に突入!

これからも頑張っていきます! 応援よろしく!


 深夜のオカルト研究部は、今日も今日とて悪魔活動が盛んである。

 

 だが、時には多くのメンバーが暇になって、暇を持て余す機会が存在する。

 

 そして、そういった暇を潰す為に色々やるのは当然である。

 

 と、いうわけで。

 

「つーわけで、とりあえず俺のところの魔術についてご説明いたします」

 

 パチパチパチパチ。

 

 ノリのいいナツミと、付き合ってくれた朱乃さんが拍手をしてくれた。

 

 うん、やっぱこういう時はリアクションがあった方がいいな。

 

「・・・異世界の魔術となると、色々と興味深いわね」

 

 部長が勉強モードに入ったからか、メガネをかけて結構真面目に話を聞く気になっていた。

 

 俺がこんな事をするには理由がある。

 

 ドラゴンは強大な存在を呼び寄せると聞いた。

 

 実際、コカビエルがこの街に来たりしたのも少しぐらいは関わっているだろう。悪魔の長い人生から考えても、影響を受ける機会は多いはずだ。

 

 そして、部長はこう言っては何だが色々とイレギュラーな存在に出会う可能性が高いように思う。

 

 どうも堕天使の関係者っぽい朱乃さんや、聖剣計画なんていう普通関わりようがないだろう木場みたいな存在を眷属にしているのだから当然だ。

 

 俺が眷属になったのだって、二人の影響を受けた可能性は非常に高い気がする。

 

 と、くれば、俺以外の魔術師に関わる可能性もあると思う。

 

 それならある程度知識があった方が将来的に良いだろうという事だ。

 

「まず最初に説明しますが、この世界の魔術と俺の世界の魔術は根本部分が違い、使用には魔術回路という先天的才能が基本的に必要と成ります」

 

 そう言うと、俺は首の魔術回路を見えるように起動させる。

 

 位置が位置なので俺には見えないが、まるで機械の配線みたいな模様が見えている事だろう。

 

「これが、魔力を発生させ、そして魔術を構成します。ぶっちゃけ、よほど特殊な事例がないと回路なしじゃ魔術を使えませんし、少なくとも俺はその事例を知りません」

 

「・・・確かに違うわね。この世界の魔術は悪魔の魔力を人が再現できるようにしたものだもの。根本から違っているわ」

 

 部長がメガネをかけ直しながら感心する。

 

 同じ名前がついてても全くの別物。これを知ると、やはりここが異世界だという事を実感できる。

 

「まあ、細かい説明をしても大変ですし、今日のところは簡単な実例を見せます」

 

 そう言って、俺が取り出したのは簡単なペーパーナイフと棒きれ一つ。

 

「一番分かり易いのは強化です。悪魔の強化は魔力を纏わせて固くする事しかできませんが、魔術の強化は魔力を物体の内部に通す事で、概念そのものを強化してそのものの力を強化する」

 

 右手のペーパーナイフは悪魔風に、左手のペーパーナイフは魔術風に強化。

 

「極端な話、魔力による強化だと頑丈にする事しかできませんが、魔術による強化は『切る』という概念を強化する事ができるので・・・」

 

 俺は一気に振り下ろす。

 

 右手のナイフは棒に少し食い込むだけだが、左手のナイフは棒をすっぱり切り飛ばしていた。

 

「このように効果は歴然。ちなみに、特殊な趣味の魔術師曰く、メイドだと萌え度が強化されるそうです」

 

 普通は家事スキルじゃないだろうかとは思う。

 

「見れば見るほど面白い効果ですわね。今度マッサージ器を強化してもらおうかしら」

 

「・・・便利な力」

 

 朱乃さんと小猫ちゃんが感想を漏らす。

 

「ちなみに、ライザー戦では、駒の、能力を強化する概念を強化する事で全身体能力を強化した後、聖水の力を強化する事でダメージをでかくしました」

 

「応用性が広いのは便利だね。僕の魔剣で言うのなら、頑丈性を強化して破壊の聖剣でも壊せないようにしたり、切れ味を強化して単純に攻撃力を上げたり、特性を強化する事で特殊効果をより効率よく使う事ができるわけか」

 

 木場がすぐに俺の魔術の応用方法を考えてくる。

 

 こいつも頭の回転が本当に早いな。

 

「・・・一番違うところで言うと治癒魔術ですかね。自分でちゃんと試しましたが、少なくとも俺の魔術は悪魔でも回復できます」

 

「それは凄いわ!」

 

 俺の言葉に部長は歓喜する。

 

 そりゃそうだろう。

 

 教会が悪魔や堕天使にとって大きなアドバンテージがあるとすれば、それは治癒の力の存在だ。

 

 不幸な事に遥かに凌駕する性能を発揮するアーシアちゃんがいるからあまり役には立ちそうにないが、それでも回復役が二人できるのは戦術の幅を広げてくれる。

 

「それを量産する事ができないのは残念だけど、その力は悪魔にとってとても重要よ」

 

「あー。その辺なんですが良いお知らせと悪いお知らせが一つずつ」

 

 言うべきか言わざるべきか少し迷うが、この際だ、この変の隠し事はなしにしよう。

 

「・・・俺らの世界には魔術礼装という、魔術そのものを強化したり魔力を流す事で魔術を発動したりするマジックアイテムが存在するのですが、これを悪魔の魔力で応用する事は可能だと思われます。これが良い知らせです」

 

 実際、魔術の応用で悪魔流魔力運用を使う事も可能だったしな。

 

 だが、これには問題が一つ存在する。

 

「悪い知らせは、魔術含めた俺らの世界の神秘の類は、信仰によって大本の力が発揮されるという事です」

 

 その言葉に、部長達はよく理解できていないのか首を傾げる。

 

 まあ、これはかなり独特だろうから仕方がない。

 

「・・・俺がコカビエル戦で出したあの大技は、英霊召喚という儀式なのですが、これは信仰によって後押しされた人物が精霊と化した存在を召喚する儀式です」

 

 信仰は力になる。

 

 例えば、エクスカリバーを使ったアーサー王。

 

 彼はエクスカリバーと共に戦場を駆け抜け、ブリテンの王として今でも人々の心に残る。なんでもいざという時は復活するとまで言われているほどだ。

 

 その漠然としたイメージは力になり、彼を死後、人からそれを超える精霊の類へと進化させた。

 

 彼ら英霊は英霊の座という、この世からはずれた場所へと移り、英霊召喚はその分身を召喚する。

 

 そして、自身の伝承を思う人々の想念によって生前の力を再現して、その武勇を再びこの世に轟かせるのだ。

 

「・・・漠然としたイメージがケーキバイキングのケーキだとするなら、魔術師の魔力はそれを取りに行く労力です。で、美味い思いとして魔術があります」

 

 それゆえに、最も世界で信仰を得ている教会の教えは莫大な効果を発揮したはずだが、それは関係ないので置いておく。

 

「で、ここから先が重要になるのですが、もしケーキバイキングのケーキの個数より、ケーキバイキングに来た客の数が多かったら、ケーキは食べられなくなりますよね?」

 

「・・・つまり、魔術の概念は人に知られてはいけないということ?」

 

 部長がまとめてくれるが、つまりはそういう事だ。

 

「神秘は秘匿すべし。・・・これが、魔術の世界の不文律にして根本的な絶対ルールです」

 

 ・・・ゆえに、魔術礼装を量産して回復の魔術を広く展開する事は事実上不可能だと言っていい。

 

「ま、グレモリーの陣地の病院で使用する分なら効果はそこまで下がらないとは思いますが、そういう事なので俺の事情は色んな意味で黙っていてください」

 

 この辺は申し訳ないとは思う。

 

 俺みたいなこの世界のはぐれ者を迎え入れてくれているのにも関わらず、その恩恵を与える事ができないのだから。

 

 加えて言えば、治癒魔術の展開は莫大な金になるだろうに激しく残念だ。

 

「色んな意味で自分でも残念なんですが、いやホントグレモリーの財政的にも俺の財政的にも惜しいんですが・・・っ!!」

 

「そこまで悔しがらなくてもいいわよ」

 

 しかし部長! 悪魔の長い生を生きる以上、金策の工面は超重要ですよ!?

 

 今後の魔術を利用した能力強化にしたって金がかかるのに、その金を稼ぐ事ができないだなんて・・・!

 

「まあ、気を取り直して今度は非常に金がかかる極小手榴弾とでも言うべき宝石魔術について―」

 

 ドタドタドタドタ

 

 なんだ? イッセーでも帰って来たか?

 

「ぶぶぶぶぶ部長!? 大変です! アザゼルが契約で、大量の報酬!!」

 

「だから筋道立てて話せ」

 

 なにがあった、イッセー?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前のお得意さんが堕天使総督だったぁ!?」

 

 なんだそりゃ!?

 

 なんでも、最近できたイッセーの大口契約を行っている男が、堕天使総督のアザゼルだったという事が発覚したらしい。

 

 やけに金払いがいいと思っていたが、とんでもないVIPだったという事か。

 

「それでイッセー。重要情報を黙っていた事を利用して報酬を更に増額にする交渉とかしたのか?」

 

「最初に言うのがそれかよ!?」

 

 何を言っているんだイッセー。

 

 奴の監督不行き届きで危うくこの街は滅びるところだったんだ。

 

 住民全てに莫大な慰謝料を請求したってバチは当たらんだろう。

 

「そうだ。この悪魔の陣地に勝手に入っている事もあるんだし、俺達グレモリー眷属全員に三ツ星レストランフルコースぐらい奢らせるって言うのもマジでありだと思うが」

 

「その辺りにしておきなさい」

 

 ポコンと、俺の後頭部に部長の拳が軽く当たった。

 

「私のイッセーに対して営業妨害をしていたのは腹立たしいけど、三すくみのトップ会談が行われるのだもの。うかつにそんな反撃はできないわ」

 

 部長がそう言って嘆息する。

 

 しかし堕天使の総督自ら接触か。

 

 なんか本気で裏がありそうで怖いな。

 

 それに、奴にはイッセーを殺す指示を出した前科だってある。

 

 ・・・隙あらば、殺す。

 

「それはともかく、私のかわいいイッセーに手を出そうなんて万死に値するわ! トップ会談が決裂で終わるような事があれば・・・」

 

「同感です部長。・・・よし、ちょっと真剣に呪いを研究し直そう。大丈夫大丈夫、精密性において桁違いの開きがある魔術の力なら、例え相手が最上級堕天使だろうと・・・」

 

「部長、宮白、二人ともとりあえずストップ!! めっちゃ怖い!!」

 

 なんだイッセー。これはまさにお前の為でもあるんだぞ?

 

 まったく、敵に対して甘すぎるところがあるよなこいつは。

 

「二人とも落ち着いてください。大丈夫、イッセーくんは僕が守る」

 

 木場はよく理解してくれているようで助かるよ。

 

「いや、部長も宮白も木場も落ち着いて! つーか木場、お前ちょっとキモいぞ!!」

 

 やけにイッセーが青い顔になっている。

 

 ・・・よく見ると、木場の顔がなんだか赤いな。え? こいつもしかしてそっちのケがある?

 

 一応言っておくが俺にはない。イッセーに依存気味なのは認めるが、俺のはあくまで友愛であって恋愛ではないぞ。普通に女が大好きだし堪能してますからね隅々まで!

 

「とにかく、問題はアザゼルの動向ね。いったい何を考えてるのかしら?」

 

「ただ単にイッセーに興味があっただけじゃない?」

 

 部長が首を捻るほどの疑問を、ナツミが凄い単純な答えをあげた。

 

 ・・・いや、仮にも一大勢力のトップがこんな緊張感あふれる大イベント前にそんな事する余裕があるか? 組織を率いる者としてもうちょっとプライベートと仕事は分けて考えてもらいたいんだが。

 

 いや、仕事はちゃんと定時で終わらせて、その分プライベートではっちゃけたのか? クソ、それだと表向きには文句が言えん。だが、そんなことでイッセーに余計な危害を加えるギリギリのラインに立つとは本気で許せん。あの野郎一軒家に住んでたのならダイナマイト満載のトラック使い魔に遠隔操作で突っ込ませてそのまま爆殺してやるものの」

 

「・・・プライベートでから口に出てますよ、宮白先輩」

 

「物騒すぎるぞ宮白。俺は大丈夫だからしっかりしてくれ」

 

 いかん、小猫ちゃんとイッセーにツッコミを入れられちまった。

 

「あらあら。宮白くんはイッセーくんのことと成りますと時折リミッターが外れますのね」

 

 朱乃さんはそう言ってお茶を入れてくれたが、しかしどうしたものか。

 

 試作段階の切り札が、最初期バージョンが一発完成したのでその後の調整中。

 

 アレが直撃すれば、例え最高位クラスの堕天使といえど相当のダメージになるだろう。もちろん、当たってくれるとは限らないから至近距離で密着させる必要はあるが。

 

 今の今まで血みどろの殺し合いを続けてきた三大勢力が、今回の会談でいきなり解決するだなんて、俺は考えていない。

 

 直接関わる事はなかったとはいえ、どす黒い魔術師の側面を知っている俺は、人間同士ですらこういうのは極めて難しいという事を知っている。

 

 種族すら違う上、紛争の解決とは期間が違いすぎる。

 

 間違いなく、コカビエルは氷山の一角でしかない。

 

 会談そのものの決裂はもちろん、会談阻止を目論むテロだって視野に入れるべきだ。

 

 だから変換したエクスカリバーに代わる切り札を用意してはいるが、それでも不安は残る。

 

「・・・奴の思考が正直読めないのが難点だ。いったいどういう意図でこの緊張状態の中行動してんだ?」

 

 俺の疑問に答えたのは、

 

「アザゼルは、昔からそういう男だよ」

 

 後ろから来た、見知らぬ男性の声だった。

 

 判断は一瞬。

 

 アーティファクトの能力で割と本気でイリーガルな方法を使って入手した散弾銃を召喚。

 

 中身は同じくイリーガルな入手方法の麻酔弾。発射した弾丸が対象に当たると、慣性の法則によって中身の麻酔が注入される仕様だ。

 

「・・・誰だアンタ!?」

 

 銃口を向けた先にいるのは、貴族服を着た一人の男。

 

 優しげな笑みを浮かべた赤い髪の男だが、オーラがちょっと洒落にならないレベルなのが俺でも分かる。

 

「中々いい反応だ。リアスは資質の良い眷属を得たようだね」

 

 銃口を向けられても余裕すぎる。

 

 いったい誰だこいつは!?

 

 仮にも上級悪魔が根城にしている旧校舎だぞ!? 当然相応の防御だってしてるだろ!?

 

「・・・お、お兄さま!?」

 

 ・・・はい?

 

 壮絶な嫌な予感と共に後ろを振り返れば、茫然としている部長と、跪いた朱乃さんに木場に小猫ちゃん。そして状況が分かっていないイッセーにアーシアちゃん、そしてゼノヴィア。

 

 ・・・この組み合わせの差と、さっきの部長の言葉から判断すると。

 

「・・・サーゼクス・ルシファー様ですか? 部長のお兄さまの?」

 

「ああ、妹がいつも世話になっているね。確か、君は宮白兵夜くんだったかな?」

 

 よりにもよって、あらゆる意味で上司な人に銃向けてるよ、俺。

 

「すすすすすすすすすすすすいませんでしたぁあああああああ!!!!」

 

 とりあえず一瞬で土下座。

 

 ヤバイヤバイヤバイ!? いくらなんでもムチャヤバい!?

 

「いや、ワザと隠密性を重視して転移して驚かせようと思ったんだが、思った以上に反応が早くて私も驚いてしまった―」

 

 スパン!

 

 なんか、以前部長をハリセンで叩いたかのような音が響き渡った。

 

「サーゼクス様。不用意な悪戯は御止めください」

 

「すまなかった、グレイフィア。私が悪かったからハリセンに魔力を込めるのは止めてくれ」

 

 水を操って鏡のようにして上を見てみれば、そこにいたのはハリセンを構えたグレイフィアさんの姿。

 

 あら? サーゼクス様完全に押されてるよ。

 

「お顔をお上げください兵夜様。我が主が悪ふざけをしてしまい申し訳ありません」

 

 え? 大丈夫? 俺、首をはねられたりしない?

 

「リアス様を守るに相応しい反応でした。・・・大丈夫です。このような悪ふざけで罰を与えたりなど私が許しません」

 

 よ、よかったぁ・・・

 

 心臓が止まるかと思った。ヤベ、ビビりすぎて涙が出てる。

 

 とりあえず引き金を引かなくて本当に助かった。引いてたら流石にアウトだっただろう。

 

「ぶ、部長のお兄さまですか!? はじめまして、俺、兵藤一誠と言いましゅ!!」

 

 イッセーはイッセーで完全に噛んでいる。

 

 まあ、俺らの頂点に位置するお方がいきなり現れたのでは失神ものだろう。

 

「はじめまして一誠くん。兵夜くんと共に、ライザー・フェニックスとの戦いは見させてもらった。・・・二人とも、見事な戦いだったよ」

 

 おお、以外と好感触だ。

 

「はじめましてサーゼクスさま。私、アーシア・アルジェントと申します」

 

「あなたが魔王か。はじめまして、ゼノヴィアというものだ」

 

 アーシアちゃんとゼノヴィアもサーゼクス様にご挨拶する。

 

「ごきげんよう。しかし、元々教会の者が三人も我が妹の眷属となるとはね。私も大概だが、リアスも異色の眷属を集める才があるようだ」

 

 ・・・まあ、朱乃さんも堕天使の関係者みたいだし、俺にいたってはこの世界の人間という区分にするのもあやしいレベルだしな。・・・うん、どう考えてもイレギュラーだ。

 

「それと、兵夜くん。アジュカ―現ベルゼブブから君に伝えてほしい事があるそうだ」

 

「は、はい。何でしょうか?」

 

 正直この手の話は緊張するな。

 

 なにぶん、俺みたいな存在は普通に考えてイレギュラーだ。

 

 それを最初から念頭に置いた話を、こんなビッグな人物とするだなんて想像を絶する。

 

「現ベルゼブブと現レヴィアタンが共同で進めていた転生者捜索において、彼らを早期に発見する為にも、報告にあった魔術回路のデータが欲しいとのことだ。・・・学校の夏季休暇の時にでも、一度検査に来てくれという事だ」

 

 ああ、そんな事か。

 

「検査でいいんですか? ちょっとした実験とかも覚悟してたんですが」

 

「アジュカもセラフォルーもそんな事はしない。・・・安心したまえ。妹の大事な仲間を無下に扱うような真似は、魔王の名に賭けて許しはしない」

 

「ホントですか!?」

 

 俺が反応するより先に、イッセーが喜色満面で喜んだ。

 

「はぁ。ちょっと心配だったから安心しました。良かったな、宮白!」

 

「ああ、・・・まぁ、諸々の理由で直接異能で恩返しできないのが割と本気で申し訳ないが」

 

 マジでややこしいんだよ魔術の理論!

 

 どこまでも個人的な規模でしか活躍できない能力だなぁもう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、サーゼクス様はなんとイッセーの家に泊まる事になった。

 

 ・・・あいつの家、本当に普通の一般人の家なんだが大丈夫か?

 

 どう考えても魔王様が止まるようなレベルの家ではない。桁違いにグレードが下だと考えるべきだ。

 

「・・・イッセー、ショック症状を起こさなきゃいいんだが」

 

 わりと、本気で心配になってきた。

 

 部長とアーシアちゃんがゾッコン状態。準ゾッコン状態の朱乃さんがそこに続いているイッセーハーレム建設計画。

 

 アーシアちゃんが聖書の教えを信仰する女の子がネックではあるが、既にあいつの野望は完成一歩手前という状況下に到達している。

 

 なんか、男の木場がそこに参入しかねない状況なのが些か不安ではあるが、どう考えてもハイスペックハーレム完成間近だ。

 

 すげぇなイッセー。

 

 正直な話、俺はちょっと劣等感を感じ始めてきているぐらいだ。

 

 あいつは、俺のことを凄い奴だと言ってくれる。

 

 だが、本当に凄い奴って言うのはあいつみたいな奴を言うのだろう。

 

 ・・・なんか、考えてきたら嫌な流れになってきてるな。

 

「ちょっと、そこのあなた」

 

 声をかけられて、ふと足をとめた。

 

 今の時間帯だと人通りは殆どない。呼び止められる可能性があるのは俺だろう。

 

 振り返ると、フード付きのパーカーを着た女性がいた。

 

「なんですか? つか、こんな夜更けに女性の一人歩きは危ないですよ」

 

 今は完璧に深夜だぞ。

 

 俺が偉そうに言えた義理じゃないが、この人危機管理能力が低いんじゃないだろうか。

 

「外食のあと涼んでいたのだけど、帰り道が分からなくなってしまったのよ。この辺りに、朝までいても問題のない場所ってないかしら?」

 

 ・・・そう言えば、近くのコンビニに座って食べれる場所があったな。

 

「向こうの道をまっすぐ行ったら、何分かするとコンビニがあります。椅子と席が置いてあるので、適当になんか買って食べながらだったら文句は言われないと思いますよ」

 

「ありがとう、助かったわ」

 

 そういうと、女性はコンビニの方に去って行った。

 

「・・・さて、帰るか」

 

 なんか嫌な気分になったし、今夜は一杯飲んでから寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時、俺は悪魔の力で人に知覚されない状況になっている事をすっかり忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの坊やが私の・・・ね。まあ、悪い子じゃないのだろうけど、私を使うには程遠い実力ね。・・・もう少し様子を見ましょうか」

 




最後に出てきた謎の女性。

はたして彼女は一体だれか!


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新入り、問題児でした!

お久しぶりです! 長らくお待たせしてすいません!

オリジナル要素を入れようとしたらちょっと執筆が停止してしまいました!


 ・・・この数日で気付いたが、どうも魔王様はプライベートではノリが軽いらしい。

 

 出会った初日にドッキリをかましてきたところからうすうす予想はしていたが、来日してから数日間、ゲーセン行くわハンバーガーショップで食べるわ挙句の果てに魔王パワーによる力押しで神社に突貫するわとものすごく観光している。

 

 まあ、ちゃんと仕事をしたうえで行動をするのなら文句はない。魔王様といえど一人の存在なのだから、よほど悪趣味なことでもない限りちゃんと日常を楽しむべきだ。

 

 俺に対する態度と言い、民衆が望む王様としては完成系じゃないだろうか。

 

 まあ、そんなことを思いながらも日曜日。

 

 本来は休みの日であり、俺は真昼間から酒を飲んで優雅に一日を過ごしたいのだが、今日はそうもいかない。

 

 ・・・なんと、プール開きである。

 

 厳密には、プール掃除をする代わりにその日のプールの使用権を得るという素敵にラッキーな被なのである。

 

 オカルト研究部という少人数でのプール独占はかなりイケる。

 

 そして、俺の能力は水を操る流体操作だ。

 

 高速回転させた水の塊で汚れを落とし、そのまま排水溝へと入れて速やかに掃除終了。

 

 そしていざプールへと入ろうとしたところで・・・。

 

「―なんで日曜日に傘下のグループに強襲かけるバカな不良が出るんだよ!! 速攻で終わらせたがマジでタイミングが悪い!!」

 

「大変だね宮白くんも。・・・とはいえ、目にした時は正直血の気が引いたよ」

 

 別件ではなれていた木場が助太刀してくれたことで、そのあたりは瞬時に解決したが、本当にめんどくさい!

 

 あの美女ぞろいのオカルト研究部の水着を見れるかと思って期待していたというのに!

 

 ああ、笑いたければ笑えばいいだろ! 俺だって男なんだよ女体は大好きなんだよ絶対に部長はイッセー誘惑目的で露出度高めの水着にしているはずだからめっちゃガン見するつもりだったんだよぉ!!

 

「しっかし会長も気前がいいよなぁ。いくら掃除するからって、プールそのものの使用権を与えてくれるだなんて」

 

「学校の方も忙しいらしいからね。それぐらいのプレゼントはあってもいいんじゃないかと判断したんじゃないかい?」

 

 なるほどねぇ。

 

 まあ、しっかりプールを堪能していくとしますか。

 

 さすがに学校で真昼間なら、大騒ぎなんて起きないだろう―

 

「――――――ッ!」

 

 なんか、叫び声と共に爆発音が聞こえてきた。

 

 俺と木場は視線を合わせると、さらにスピードを上げてプールが見えてくる位置に。

 

 そこには・・・

 

「あなたそもそも男嫌いだったはずでしょう、朱乃!」

 

「リアスこそ、男なんて全部同じに見えるって言ってたじゃない!!」

 

 魔力全開で二大お姉さまが喧嘩してるぅうううう!?

 

 なにがあった、何があったらそんなことしてられるの!? あ、イッセーか!!

 

 いや、お二人さん? ここ外! 昼間! 一般人の視線とか本気であり得るからね!?

 

「クソッ! とりあえずイッセーの安全を確保しなければ!!」

 

「いや宮白くん!? まずは二人の喧嘩を止める方が先決だよね!?」

 

 何を言っている木場!

 

 余波でイッセーが巻き込まれたらどうするつもりだ!?

 

 喧嘩については俺は一切かかわっていないので自己責任で会長に怒られてくださいよ二人とも!

 

 俺はあわてて中に入ると、とりあえず更衣室から確認して―

 

「―さあイッセー。子作りをしようじゃないか」

 

「え、あれ? ホントに、マジで!?」

 

「・・・何やってんだお前らぁああああっ!!!」

 

 なんか上半身裸のゼノヴィアに迫られているイッセーがいた。

 

 速やかにハリセンを投影してツッコミ開始。

 

 いい感じに軽い音が響き、俺の混乱はすこしおさまった。

 

「とりあえずゼノヴィアは上をつけろ。そしてどういうことか説明しろ」

 

 いったい何を考えているのだね君は。

 

「どういうことかもなにも、イッセーの子種をもらって子を産もうとだな―」

 

「ど・う・い・う・理屈でそうなったのか説明しろつってんだよ! あとイッセーはとりあえず安全圏に避難してなさい。この部分も被害にあいそうだから」

 

「お、おう・・・」

 

 何を恨めしそうな目で見てるんだお前は。

 

 こんなところでいたしてたら、部長達に見つかってお仕置きだぞおバカ。

 

「ふむ。・・・そうだ、もしよければキミが私と子供をつくらないか?」

 

「だから、なんでそういう流れになる?」

 

 仮にも教会の女の子が、そんなエロティックなこといっていいのか?

 

「そうだな、ならば説明させてもらおう」

 

 ・・・まとめると、悪魔になったからには今まで封じてきた女としての喜びを追求しようと考え、こと特有のものである子供を産みたいと考えたそうだ。

 

 どうせなら強い子供を追求しようとした結果、赤龍帝であるイッセーをターゲットに。次点で俺だったということになる。

 

「・・・だいたい分かったが、いわゆるヤンママの知り合いいるからわかるが、高校生で母親になるのは間違いなく大変だぞ。とりあえず社会的に自立できる年齢になった方がいろいろと安全だ」

 

「そうかい? ・・・ふむ、だが悪魔は出生率が低いというし、十年ぐらいはかかると思うんだが」

 

「それ、「始めの一回ぐらいナマでしよう」くらいに危ないからな? ・・・初回で直撃した奴の話を聞いたことがある」

 

 これは本当に危ないところだった。

 

 子供をつくったことがない俺が言うのもなんだが、一人の命をつくるっていうことは結構重いだろう。

 

 ここは是非慎重にやってほしい。いや、マジで。

 

「しかし一家言持っているということは、きみは経験豊富ということでいいのかい、宮白兵夜」

 

「悪い遊びはけっこう経験済みだ」

 

 くっくっく。俺はその辺経験豊富ですよ諸君!

 

 たぶん駒王学園でも上位に入るぐらいじゃないか? だてに不良やヤクザとも付き合いがあるわけじゃないんだなこれが。

 

「じゃあ宮白兵夜。・・・今はまだ経験を積んで練習をするということで、きみが私の相手をしてくれないか?」

 

 ・・・え、そう来るの?

 

「マジで言ってるのか?」

 

「ああ。確かにイッセーと子作りするのが一番強い子供が産まれそうだが、始めては痛いと聞くからね。その点経験豊富なキミならばそのあたりはカバーできるだろう。・・・さらに、経験を積んで置けばイッセーも喜ぶかもしれない」

 

 経験豊富な同年代の女の子に手とり足とりフルコースか。

 

 うん。イッセーならそれはそれで喜びそうな気がする。

 

 とはいえ、オカルト研究部でいきなりそんな中になったら、他の連中との付き合いに問題が発生しそうだ。

 

「・・・やめておく」

 

 ・・・ちょっともったいないなって思ったのは内緒だぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ったく。結局、俺はプールに入れずおしまいかよ。掃除はほとんど俺がしたんだぞ」

 

 結局、騒ぎを聞きつけた会長の雷がおとされて全てはおしまいになってしまった。

 

 掃除のMVPがプール一切楽しめずってどういう了見だ! 理不尽すぎる!

 

「いや、だけどマジ助かった。・・・あの場で部長に見つかったらどうなっていたことか」

 

 イッセーが顔を青くしてブルブルしている。

 

 喧嘩でボルテージ上がってたからな。ただでは済まんだろう。

 

「・・・まあ、よかったじゃねえか宮白。あの後お前のことを考えた会長がプールの無料チケット融通してくれたんだから」

 

「絶対一人で静かに堪能してやる」

 

 オカルト研究部でプールに行ったら、高確率で同様のもめごとが発生しそうで怖い。

 

 ・・・今日は散々な一日だった。家に帰ったらちょっと高い酒飲んでぐっすり眠ろう。日曜は寝不足防止のため夜には呑まないことにしていたが、ちょっと早めに夕食するついでに呑んでやる。

 

 ついでにDVDでも借りて映画鑑賞でもするか。

 

 だが、喧嘩するほど白熱するということは朱乃さんも本格的にイッセー争奪戦に参加するつもりなのだろうか。

 

 確かに魅力的ではあるがこのスケベに対してこの内容。オカルト研究部は小猫ちゃん以外エロに対する許容度が本当に高い。

 

 ・・・正直な話、その恩恵が俺にもちょっとは来てほしいと本気で思う。

 

 ゼノヴィアの場合は特殊だからカウントはできない。下手に失敗した場合、あいつにとっても俺にとっても不幸な結末になりそうだしな。

 

 などと考えながら歩いていたら、目の前に私服姿の男の姿があった。

 

 まだ校内なんだが、転校するよていか何かか?

 

「やあ。いい学校だね」

 

 ・・・おいおいおいおい。

 

「何のつもりでここに来た、白龍皇」

 

 中身美少年だなあの白甲冑は!

 

「へ? ・・・白龍皇!?」

 

 状況が分かっていないイッセーをかばいながら、俺は素早く得物の選択を考え始める。

 

 まさか真昼間から暴れるつもりはないだろうが、場合によっては本気で戦闘も考えないといけない。

 

「名前はヴァーリだ。しかし、よく気付いたな」

 

「相手の特徴はよく覚えておかないと、いきなり逆恨みで襲われたりするんでな。・・・鎧ごしでもその美声は忘れねぇよ」

 

 ・・・さて、どうする?

 

 奥の手を不意打ちでぶちかませば倒せるか?

 

 堕天使たちは神器をもった人間をかき集めていると聞く。

 

 神器を保有している堕天使陣営ということは、高確率でただの人間だ。あれだけの出力が生身に直撃すれば高確率で殺せる。

 

 だが、それをやると会談が台無しになる可能性も捨てきれない。

 

 だからと言って向こうが仕掛けるのを待っていたら俺達で勝てる可能性は極端に下がるし・・・。

 

「とりあえず、何の目的できたのか教えてくれると助かるかな?」

 

 冷静になれ。

 

 幸か不幸かこの街には魔王様がいるわけだし、いくら奴でもここで大暴れはしないはずだ。

 

 わざわざ自分が救いに来たと言ってもいいこの街を更地に変えるようなまねはしないと信じたいな。

 

「別に大した用はないさ。だが、ここで赤龍帝である兵藤一誠に魔術的なものをかけたら・・・」

 

 その言葉が終わるより早く。

 

「何のつもりだい、白龍皇」

 

「こんなところで二天龍の決戦をさせるとでも?」

 

 木場とゼノヴィアが剣を突きつけていた。

 

 来てくれたか。だがしかし・・・。

 

「やめておけ。手が震えているじゃないか」

 

 状況は圧倒的にこちらが不利。

 

「誇っていい。実力差がわかるのは優秀な証拠だ。いくらコカビエルを倒せたとはいえ、あれはそこの転生者がエクスカリバーを使いこなしたから勝てたようなものだ。・・・今の状態では俺には勝てない」

 

 言ってくれる。

 

 そこまでわかってるなら、何のためにここに来た?

 

「この世界で、君たちは自分が上から数えてどれぐらいか考えたことはあるかい?」

 

 ・・・そんなこと、考えたこともねぇよ。

 

 つーか。そんな頂上決戦みたいなバトルする気は毛頭ない。

 

 俺はお山の大将気どれる強さがあれば十分だ。

 

「まあ、あのサーゼクス・ルシファーでも十番手には入らないだろう。そして、一位の座は不動だ」

 

「それがお前だとでもいうのかよ?」

 

 イッセーの問いに、ヴァーリは静かに首を振った。

 

「まさか。・・・だが、いずれはわかることだ」

 

 ・・・わかりたくないというか、そんなのと関わりたくないというか。

 

「・・・なんのつもりかしら白龍皇?」

 

 ついに部長までやってきた。

 

 オカルト研究部がどんどん集まってるな。・・・なんか一網打尽になりそうで怖い。

 

「安心していい。ここに来たのはたんに暇つぶしさ。俺もいろいろと面倒なしがらみが多いんだ。二天龍対決は赤龍帝が完全な禁手にいたってからでも遅くない」

 

 そういうと、ヴァーリは背をむいて去ろうとし・・・。

 

「だから余計な騒ぎを起こすなて言ってるだろうがファックドラゴン!?」

 

 顔面に鋭いドロップキックを叩きこまれた。

 

 完璧に直撃したぞ。あれで倒れないとかどんだけスペックが高いんだあの男は。

 

「ちょっとした冗談だ。そう起こるなよ青野小雪」

 

 ヴァーリは全然こたえてないようだが、そのあたりは向こうもわかっているのか特に気にせず地面に降り立った。

 

 あわててつけたのかフルフェイスヘルメットをかぶっているが、服がワンピースなので似合わない。

 

「そこのファック野郎。和平が結ばれるかどうかの瀬戸際って時に、何面倒な真似してやがるんだ、オイ」

 

 ものすごい機嫌が悪そう。

 

 どうやらヴァーリの行動に驚いているのはこいつも同じだということか。

 

 問題児が多いと苦労するみたいだな。まあ・・・

 

「アンタの名前を知れたのは幸運かな? なあ、お得意様?」

 

 まさか、こんなところで名前を知れるとは思わなかったぜ。

 

 なんか知らんが、俺に向かって視線が収束していた。なぜヴァーリまで驚く。

 

「特徴は覚えるって言っただろ。・・・何度も聞いた声なら覚えてるよ」

 

「・・・気づいてやがったのかよ」

 

 そういうと、俺のお得意様である青野小雪はヘルメットをとる。

 

「まあ、魔王の妹二人もいるところにスパイの一人も送らないわけがないしな。・・・特に実害もないうえに報酬も高いから黙ってた」

 

「兵夜、後で話があるから時間を空けておきなさい」

 

 しまった。部長がいるのを忘れてた!?

 

「ファックなミスだな悪魔さんよ。・・・で? 正体がばれたがそれでどうするんだ?」

 

「別に、俺がどうこうするつもりはないよ。悪魔は欲をかなえて報酬をもらうのが仕事。あ、人間じゃない奴の仕事は駄目か?」

 

 この辺は割とマジで考えてたんだが、もしかして失敗したか?

 

「てめーバカだろ? アンタも大変だなリアス・グレモリー」

 

「ええ。私の下僕は個性的な子が多くて大変だわ」

 

 人のことは言えないけどすっごい同意!

 

 ・・・とはいえ、こいつは本質的にいい奴な気がするからこれで終わりって言うのは残念な気がする。

 

 そのままヴァーリを引っ張って帰ろうとする我がお得意様だが、その足がふと止まった。

 

「・・・ああ、黙ってた詫びに言っておくことがある」

 

 そういうと、不敵な笑顔を浮かべて言い放った。

 

「あたしも同類だよ。・・・これからは名前で呼びな、兵夜」

 

 そういうと、今度こそヴァーリをひっぱって小雪は去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっと行ってくれた。

 

 ヴァーリがいなくなってから、俺はほっと息をついた。

 

 部長が俺の手を握っていてくれるが、その手にもびっしり汗が浮かんでいる。

 

 なんなんだよ一体!

 

 いきなり現れた白龍皇に、俺は正直うんざりしていた。

 

 今の今まで二天龍は必ず激突していたみたいだけど、正直俺はそんなつもりは全くない。

 

 ハーレム王になるっていう俺の夢をかなえるのに、そんな面倒なことはまったく興味がない。

 

『お前は本当に変な奴だ。今までの宿主は積極的に挑もうとするか、そもそもこの力におびえるかで、他の目標のために邪魔だと考えるのはお前ぐらいだな』

 

 そうかよドライグ。だけど、別に今平和にやっていけるなら戦わなくたっていいと思うんだ。

 

 俺は赤龍帝かもしれないけどただの兵藤一誠でしかない。あいつは白龍皇だけど同時にただのヴァーリのはずだ。

 

 正直な話、もっと早く来てくれれば結構助かったのにとは思うけど、戦おうとかそんなことは全く思わない。

 

「宿命とかなんだとか、俺には正直よく分んねぇなぁ」

 

 そう呟いてしまう。

 

 そもそも、なんでみんな俺とヴァーリが戦うことを前提にしているんだ?

 

 上手くいけば三大勢力で和平が結ばれるかもしれないのに、悪魔と堕天使側に分かれた二天龍がわざわざぶつかり合ってもめごとを起こす必要性が分からない。

 

「まあ、ヴァーリも宿命とかは興味ないと思うぜ。単純に赤龍帝と戦えるって言うことに興味があるんだよなぁこれが」

 

 そういうもんか。

 

 ・・・あれ? なんかあまり聞いたことがない声が聞こえた。

 

「最後の一人もご登場かよ。・・・お前は何しに来た?」

 

 宮白が額に青筋を浮かべながら俺の後ろを睨みつける。

 

 ・・・白い髪に紫の瞳。やけに人形みたいな外見を持つ男がそこにいた。

 

 思いだした! ヴァーリや青野小雪と一緒にいた堕天使じゃないか!!

 

 なんでこんなところに?

 

「俺の名前はフィフス・エリクシルって言うんだこれが。・・・あ、これはお土産の菓子折りだ。わざわざ京都まで行ってきたから美味いはずだぜ?」

 

 そういうと、フィフスって人は部長に箱を手渡した。

 

「それと赤龍帝。ヴァーリは強い奴と戦うことが大好きなバトルマニアなんだなぁこれが。そんな奴がたいてい強くてしかも戦う宿命にあるだなんて奴がいると知ったら・・・テンションあがるのも仕方ないだろ?」

 

 なんだそのはた迷惑な奴は!

 

 なんでだ! 俺はただエッチな毎日を過ごしたいだけなのに、奴は強い奴と戦いたいから赤龍帝の俺と宿命の対決をしたいとかいう!

 

 もっとおっぱいに思いを向けようよ! 奴と俺は話が合いそうにない!!

 

「まあそんなことはどうでもいい。俺が来たのは別件だよ」

 

 そういうと、奴の視線は木場の方を向いた。

 

「本来あり得ない聖と魔の融合の実例を、もっと近くで見てみたくてな。ヴァーリが刺激すれば出すかと思ったが正解だった」

 

 こいつはこいつでわけわからないな。

 

 木場の聖魔剣が目的なのか? 特に敵意はないみたいだけど、得体が知れなくて皆警戒している。

 

「おいおいビビんなよ。俺はこれでも、アンタらのことは評価してるんだぜぇ?」

 

 そういうと、フィフスはピエロみたいな派手に動きを見せながら、今度は宮白を興味深く見る。

 

「結果増援こそ呼べなかったものの、あのコカビエルを相手にあそこまでやれたんだ。・・・お前らは十分すごいよ。だからこそ興味がわくんだなぁこれが」

 

 そういうと、フィフスも背を向けて俺達から離れていく。

 

「ああ、ウチの総督が悪かったな。基本的にトラブルメーカーなんだよ」

 

 そういうと、フィフスはそのまま去って行った。

 

 ふと隣を見ると、宮白が一見無表情でフィフスの奴を見据えている。

 

 こいつとの付き合いは長いからだいたいわかる。相当警戒しているぞ。

 

 ・・・なんだか不安になってきた。

 

 今度の会談、無事に終わるのかよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 




ちょっと賛否両論出てきそうな展開ではあるかな?

ただ、この時期のゼノヴィアは強い子供を産みたいという願望の方が強いので、強そうな子供を生みだしそうな父親を求めているといった感情の方が強いと思ったのでこんな風にしてみました。


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参上、魔王少女!

 

「それではみなさん。いま配った紙粘土で何か作ってください。家でも、人でも、動物でもいい。・・・そういう英語もある」

 

 ・・・あるわけあるか!?

 

 今、俺は授業参観という状況でとんでもない驚愕に襲われていた。

 

 悪魔というのは、語学において圧倒的なアドバンテージを持つ。

 

 聞こえてくる言葉はすべて自分が知っている言葉に聞こえ、放つ言葉は相手の言語に聞こえてしまうという素敵仕様。

 

 それはつまり、会話という土俵において無敵と言ってもいい。

 

 外国語関係の授業において心強い味方なのは間違いないだろう。

 

 まあ、書いたりするのはまったく関係ないのだがな。そういう意味では日本における英語の授業では本来あまり役には立たない。

 

 追加でいえば、別居している俺は授業参観で親が来るということはない。

 

 だが、それでも多く人が見てくるのは分かっているわけで、当然カッコつけるのは気分がいいわけで・・・。

 

 何が言いたいのかというと、だ。

 

「・・・なんでこうなった」

 

 普通に英語の授業をしろ!

 

 こういう時だからこそ何の変哲もないいつもの授業を見せつけてやれ! インパクトとか考えたんだろうけどこれは明らかに方向性が致命的に間違ってるぞ!

 

 ああもう! みんな絶対に混乱状態に―

 

「・・・うぅん。結構難しいですね」

 

 アーシアちゃん適応してる!?

 

 見れば、イッセー以外はとりあえず対応しきっていた。

 

 おかしいのか? おかしいのは俺たちなのか!?

 

 ・・・仕方がない。こうなれば本気を見せてやろう。

 

 魔術回路を起動して、ありとあらゆる手段を以って一級品の芸術を作り上げてくれるわ!!

 

 とりあえず、外見は何にした方がいいか・・・。

 

 今住んでいるマンションにするか? それとも、山で修行中に見かけたイノシシにするというのもありかな。

 

 ・・・いかん、考えたら考えるほど泥沼にはまる。

 

 なんとしても時間内で完成させて度肝を抜くような一品を見せつけなければ・・・

 

「おお!!」

 

 イッセーの方で声が上がり、そっちに視線を向けてみた。

 

 ・・・等身大全裸の部長フィギュア(未塗装)が完成していた。

 

「・・・なにをつくってんだイッセー!!」

 

「フガッ!?」

 

 とりあえず飛び蹴りを叩きこんでおく。

 

 お前は衆人環視の中で何をつくってんだなにを!!

 

 そして完成度が半端ないな!? 相変わらずエロが絡んだ時のこいつの潜在能力の発揮具合は恐ろしいレベルだ!

 

「バカな・・・。イッセーがなぜリアス先輩の裸身を!?」

 

「そんな!? まさか、見たというの!?」

 

 ギャラリーの絶望感が半端ないレベルに到達している。・・・お前ら授業はどうした。

 

「はいはいささげられるまで秒読み段階だからお前ら全員着席しろー」

 

「アンタ今爆弾投下したわよ。でもそっかー、秒読み段階なのかー。アーシアも大変ね~」

 

 桐生よ、これはわざとだ。ここで絶望に叩き落としておけばこいつらも静かになるだろう。

 

 俺は形を決めるのに忙しいんだ。時間は一時間もないって言うのに難易度高い真似をしなければならないんだぞ!

 

 良し! 形は決めた! 天使の鎧を作ろう!!

 

 そして俺は自分の席に戻り・・・

 

「5000!!」

 

 すべてが終わる声を聞いた。

 

「させるか! 俺は6000出す!」

 

「松田の好きにはさせねえ! 6000+俺の作品との交換権!」

 

「そんなのいらないわよ、私は7000円出すわ!!」

 

 すごい勢いで値段がつりあがっていく。

 

「始めて知ったよ。授業参観とは、皆で騒ぐためのお題目だったんだね」

 

「ゼノヴィア、マジボケするな」

 

 結果、俺達の授業は部長フィギュアオークション会場になった。

 

 いや、フィギュアはイッセーが死守したけどね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSIDE

 

 全くあいつらはなんて奴らだ!

 

 俺の大切な部長の姿を自分達の欲望のために汚そうとしやがって! 俺の部長をなんだと思ってやがる!!

 

 宮白も宮白だ!

 

 あの後暴動になりかねなかったあいつらをなだめて、「一万円で新作を買い取る方向でいこう」とか修正しやがって!

 

 ・・・まあ、松田がヤバいオーラを放っていたのでそこは正直助かった。

 

 真面目な話、アイツ神器使っても勝てそうにないんだもん。すでにエクスカリバー無しのフリードより上ぐらいになってるんじゃないか?

 

 しかも、アイツを鍛えたのはナツミちゃんを追いかけてたふんどし集団だとかいうし、世の中はとんでもない奴が多すぎるな。

 

「・・・イッセー、そろそろ戻ってこい」

 

 宮白に肩をたたかれて、俺は我に返った。

 

 ・・・そうだ、そんなこと言ってる場合じゃなかった。

 

 俺の目の前には、魔法少女がいた。

 

 いや、魔法少女じゃなくって魔王少女だった。

 

「ソーナちゃんどーしたの? 久しぶりの再会なんだから、もっとこう百合百合な展開でもいいと思うのよお姉ちゃん」

 

 会長に向かって難易度の高い言葉を放つ魔王少女。

 

 魔法少女のコスプレをして写真撮影会を行い、大きなお友達の心をつかんだ可憐な美少女。

 

 あの子の名前は、セラフォルー・レヴィアタン・・・!

 

 なんと、魔王さまなんだって。

 

 ありえねぇええええええええええええっ!?

 

 いや、チョー美人だよ!? 生唾飲み込むよ!?

 

 だけど、なんか違うんだよ!

 

 四大魔王唯一の女性魔王だと聞いて、俺はもっと大人のお姉さん的なアダルティックな魅力あふれる魔王だとばっかり思ってたんですよ!

 

 これはなんか方向がおかしい!!

 

「しかしセラフォルー殿もこちらに来ていたとは驚きですな。貴女も此度の会談に出席されるご予定で?」

 

「そうなのですわおじさま☆ ほら、レヴィアたんってば外交関係担当ですから☆」

 

「頼りにしてるよセラフォルー。それはそれとして、後で妹自慢をし合おうではないか」

 

 部長のお父さまやお兄さまもノリノリで会話してるし!

 

 ってストップ! え? 妹自慢? そんなことするぐらい仲いいの!?

 

「な、なあ、ちょっと魔王様たちのノリが・・・すごくないか?」

 

「いや、別に魔王さまだって人げ・・・じゃなかった。悪魔なんだからプライベートはあるだろ」

 

 宮白はそういうが、それでも少し動揺していた。 

 

 匙も、結構どんびきになりながらうなづいている。

 

「会長が、姉にコカビエルが暴れていることを報告したら即戦争になるから呼びたくても呼べないとか言ってたけど、まさかこれほどとは・・・」

 

 即戦争!?

 

 そんな人が外交担当って本気ですか!?

 

「うふふ。現四大魔王さまには、共通点があるのですわ」

 

 朱乃さんがそういうと、サーゼクス様とセラフォルー様に視線を向ける。

 

「四大魔王様は皆、プライベートではフリーダムなのです。そして、そのご家族は基本的にみんなまじめな方が多いのですわ」

 

「なるほどー。反動というかセーフティと化したんだねー」

 

 うんうんと桜花さんが頷くが、あなたも結構フリーダムですからね。

 

 ああ、そんなフリーダムなセラフォルー様の姿に、どうも会長は耐えられそうにないらしい。

 

 なんだか泣きそうじゃないか?

 

「仕方がない。・・・ここは俺に任せろ」

 

 宮白が動いた!

 

 宮白は堂々と歩きだすと、二人の前に立ち止まる。

 

「お初にお目にかかりますセラフォルーさま。宮白兵夜と申します」

 

「あら。あなたが久遠ちゃんがみつけた転生者ちゃん? 私はセラフォルー・レヴィアタン。レヴィアたんって読んでね?」

 

 難易度が高いけど大丈夫か!?

 

 だが、宮白は沈痛そうな表情を浮かべると、静かに首を振った。

 

「残念ですが、まずはあなたに残念なことを言わねばなりません」

 

「な、なんですって」

 

 表情がこわばる魔王少女に、しかし宮白は動じない。

 

 あくまで、沈痛な表情のままだった。

 

「古今東西の魔法少女。その基本方針として、その多くは一部のもの以外に正体を明かさず、人知れず悪を正して去っていくのが魔法少女のトレンドです。つまり!」

 

 その目をクワっと見開いて、セラフォルー様に指を突きつける!

 

「堂々と衣装発表を行うなど、魔法少女として二流、いや三流、つか通り越して五流ッ!!」

 

「四流が抜けてるの!?」

 

 劇画丁で固まるセラフォルーさま。

 

 おぉい!! 宮白なに言っちゃってるの!?

 

「悪もいないこのような状況下で魔法少女として活動しようなどもはや語るに落ちる。あなたに魔法少女を語る資格はありません!!」

 

「な、なんてことなの・・・。そうよ、あの子もあの子も皆、魔法少女は人知れず世界を救ってきたのに・・・っ! レヴィアたんはそんなことにも気付かなかったなんて」

 

 この世の終わりのような表情で崩れ落ちるレヴィアたん。

 

 すげえ、魔王を言葉だけで撃沈しちゃったよ俺の親友!

 

 そして、宮白は静かに腰を落とすと、そんな魔王少女さまの肩に静かに手をおく。

 

「大丈夫。まずは、日常ではちゃんとした服を着るところからやり直しましょう? 古今東西あらゆる魔法少女だって、日常ではちゃんと服を着て生活してるんですから」

 

「大丈夫・・・? レヴィアたんは、また魔法少女として頑張れるの?」

 

「はい。だって、魔法少女は皆の願いをかなえる、奇跡を起こす女の子なんですから」

 

 悪魔のほほえみだよ。いや、悪魔だった。

 

 それに気づかぬセラフォルー様は、感動の涙を流しながら宮白に抱きつくとわんわん泣きだした。

 

 天国のおじい様。今、俺の目の前で親友が魔王を懐柔いたしました。

 

 最近ハイスペックに磨きがかかっていた親友ですが、末恐ろしくて正直引いています。

 

「ああ、お姉さまがこれからは普通の服を着て町中を歩いてくださるのですね・・・」

 

「会長? 泣いてるんですか、会長!?」

 

「魔法少女コスプレに付き合ったのはおもしろかったけどー、これからはなくなるのかー。兵夜くんってホントにすごいねー」

 

 生徒会組の反応をしり目に、俺はとんでもないものを見た気がした。

 

 その後も見事な会話を繰り広げて方向を修正することに成功した宮白は、額をぬぐいながらいい仕事をした職人みたいな表情でこっちに戻ってきた。

 

「終わった終わった。待たせたな皆」

 

「宮白・・・。俺、お前を敵に回さなくて本当によかった」

 

 こんなすごいのが俺の親友なのか・・・。

 

 俺、本当にこいつの親友でいいのか?

 

SIDE OUT

 



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先輩、後輩でした!?

 

 今まであまり意識を向けたことはなかったが、実は旧校舎には妙なスペースがあった。

 

 テープを張り付けてあるほどの厳重な封印スペース。明らかに危険な何かがあります的な、いやでも注目をしちゃうような場所だった。

 

 どうも、そこに部長の最後の眷属であるもう一人の僧侶がいるとのことだ。

 

 何でも、眷属にしたのはいいが部長でも完全に制御することはできず、封印するように言われていたらしい。

 

 だが、ここにきて状況は一変。

 

 ライザー戦での勝利やコカビエルの撃退が部長の評価を上げたらしい。

 

 これほどまでの活躍を遂げるということはリアス・グレモリーはその実力を大幅に上げたと考えるべき。翻ってその僧侶の制御も今なら可能かもしれない。

 

 などと考えたようだ。

 

「・・・つまり、イッセーが根性見せたので今ならフォローがきくと判断したってわけですか」

 

「そういう意味ではイッセーに感謝ね。でも、それはあなたのおかげでもあるわよ」

 

「そうですわ。レーティングゲームでもコカビエルとの戦いでも、イッセーくんに負けず劣らずの大活躍だったではないですか」

 

 二大お姉さまにそう言われると照れるな。

 

「・・・その年でレーティングゲームに参加し、そしてそれだけの活躍をするとはね。そこまで活躍したのかい?」

 

「はい。イッセーさんも宮白さんもすごく頑張ったんですよ」

 

「・・・二人とも大活躍」

 

 ・・・ゼノヴィアの問いにアーシアちゃんも小猫ちゃんもそう言ってくれるが、本気で照れるな。

 

「いや、ライザーは結局失敗するし、あのザ・ダイナマイトも小猫ちゃんとの連携で仕留めたんだが。なあ?」

 

 そう男連中に向けて問いかけるが、その答えもほぼ同様だった。

 

「いや、下手したら俺いなくても決着付けてたじゃねえか」

 

「まさか単独でライザー氏をあそこまで追い込むとは思わなかったよ」

 

 イッセーや木場にまで言われた。

 

 まあいい。今は僧侶の方だ。

 

 部長達が部屋の封印を解いていくが。素人の俺から見ても厳重に封印しているようだ。

 

 そこまでするほどの眷属をよくもまあ駒一つで悪魔にできたものだと感心してしまう。

 

「ちなみに、あの子は眷属でも一番の稼ぎ頭なんですよ」

 

「いや、封印されてるのにどうやって稼ぐんですか?」

 

 朱乃さんの言葉は正直信じられないが、まさかこんなタイミングで嘘はつくまい。

 

 どういう方法だ?

 

「直接会いたくない人のためにパソコンを使った契約方法もあってね。彼は若手悪魔の中ではその道でもトップクラスなんだよ」

 

「・・・意外な才能」

 

 そんなのあるんだ!? 木場も小猫ちゃんもそんなサイバー的な領域に関わっていたとは・・・。

 

 悪魔業界すげえなオイ。

 

 などと話している間に封印は解け、ゆっくりと扉は開いていく。

 

 薄暗くてよくわからないが、なんか少女趣味な部屋だった。

 

 彼ということは男か。一見すると女の子の部屋だが、まあ趣味は人それぞれだ。

 

 オカマな知り合いすら何人もいる俺には特に違和感ある展開ではないのだが・・・。

 

「いやぁああああああああ!!!!」

 

 急に甲高い悲鳴が響いた。

 

 みれば、部屋の隅で震える人影が一人。

 

 金髪赤目の可憐な美少女の姿がそこにはあった。

 

「おぉ! アーシア並みに可愛い女の子!!」

 

 その可愛らしさにイッセーはよだれを流さんばかりに歓喜するが、俺は僅かな違和感を感じてちょっと過去を思い出す。

 

 そう、確か木場は彼と言っていた。

 

「・・・なるほど、女装趣味か」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 

 イッセーが、ぎこちない動きで俺の方に視線を向ける。

 

 数秒後、その視線が部長の方へと移動。

 

「兵夜の言うとおり。あの子はギャスパー・ウラディ。私の可愛い下僕で、男の子よ」

 

「部長、こういうときはこういうんです。男の娘と」

 

「・・・読みは同じですよ宮白先輩」

 

 小猫ちゃんはそう俺にツッコミを入れるが、それはイッセーの耳には入っていなかった。

 

 数秒後、イッセーは静かに崩れ落ちた。

 

「イッセーさん!? イッセーさんしっかりしてください!?」

 

 アーシアちゃんがあわててその肩をゆするが、その動きはイッセーの心には届かない。

 

 相当ショックを受けてるな。まあちょっと同情する。

 

「そ、そんな・・・。一瞬とはいえ、俺はアーシアとのダブル金髪僧侶を夢見たというのに・・・」

 

「・・・人の夢と書いて、儚い」

 

 小猫ちゃん、それはシャレにならんから。

 

「ひ、人がいっぱい増えてるぅううううう!? だ、だだだ誰なんですか一体!」

 

「君が封印されている間に悪魔になった新入りです。よろしく先輩」

 

 俺はにこやかにあいさつするが、ギャスパーはブルブル震えると、さらに後ろへと下がった。

 

「ひいいいいいいい!!」

 

 対人恐怖症か何かだろうか。

 

「木場、本当に封印されてただけなのか? どう考えても対人恐怖症の人見知りなんだが。外出不可能じゃねえか」

 

「実際、旧校舎内だけなら夜は出てもいいと言われてたんだけどね。彼自身の意志で引きこもってるんだよ」

 

 引きこもりの女装趣味って、ホント部長の眷属って俺が言うのもなんだけど個性的なのが多いよな。

 

 まあ、人に見せずにこっそり楽しむコスプレ趣味とかもいるし、そこまで言うことじゃないか。俺はその辺理解はあるぞ。

 

 そんなことを考えていたら、部長が優しげな笑顔を浮かべてギャスパーに歩み寄った。

 

「さあギャスパー。あなたの封印が解かれたのよ? 一緒に外に出ましょう」

 

「いやですぅうううう!! 僕は一生ここにいるんです!! お外怖いぃいいいいいい!!!」

 

 ・・・重傷だ。

 

 部長の眷属は過去にいろいろあった人が多いみたいだし、この子も例にもれず色々あったようだ。

 

 外に出ること自体がトラウマになっていると考えるべきか?

 

 そんなビビりまくりのギャスパーに業を煮やしたのか、ちょっと乱暴にイッセーが動いた。

 

「ほら! 部長が外に出ろって言ってるだろ―」

 

 ギャスパーを立たせようとイッセーがその肩をつかんだ瞬間―

 

「ヒィイイイイ!」

 

 一瞬、ギャスパーの目が光ったような気がし―

 

「・・・・・ん?」

 

 意識が飛んでいたか?

 

 みればギャスパーは壁にくっついて震えていた。

 

 いつの間にあそこまで移動した? 

 

 いや、今の間隔はちょっと不自然だし、何よりさっきまでの話もある。

 

 無自覚に相手の意識を奪う能力持ちと考えるべきか。いや、もしかしたら人間かもしれないし、そういう能力を持った神器を制御できていない・・・?

 

「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ぶたないで・・・ぶたないでください」

 

 ・・・ふむ。

 

「なんて言ったらいいのかわからねえけど・・・」

 

 俺はそう言って近づくと、ギャスパーの頭に手をおいた。

 

「少なくとも、今俺たちは何かするつもりはないから安心しろ。基本的には眷属なんだから味方のつもりだ」

 

「うぅ・・・。ぶ、ぶたない?」

 

「特に何かしたかったわけじゃなかったんだろ? ゴメンな、イッセー気が立ってたから怖かったろ?」

 

 制御できない力って言うのは大変なもんだ。

 

 魔術の才能も、高いレベルだと手つかずの場合毒にしかならないからその辺はよくわかる。

 

「意識か何かを停止させる能力ってところか? 直前の様子からみて視認するっていうのが条件の一つみたいだな」

 

 俺達の世界で言う魔眼のようなものか。

 

 ・・・今後トラブルに巻き込まれないとも限らないし、俺も作った方がいいかな?

 

「だいたい正解。だけど、停止させるのは意識じゃないわ」

 

 部長がそう言いながら、優しくギャスパーを抱き寄せた。

 

「この子はハーフヴァンパイア。そして神器は停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)。・・・時間を停止させる神器なのよ」

 

 想像の斜め上をいくハイスペック能力だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギャスパー・ウラディ。

 

 高名な吸血鬼と人間の間に生まれたハーフヴァンパイアの少年。

 

 何が原因かは知らないが女装癖ありだが、彼の人生は非常に面倒なものだった。

 

 吸血鬼の最大の特徴は、悪魔をはるかにしのぐ純潔派で血族至上主義。

 

 血が薄い時点で名を上げる機会などゼロにひとしく、その血が混じりものであれば身内すら容赦なく迫害する。

 

 ハーフな時点で、ギャスパーの人生は薄暗いものになることが確定だった。

 

 さらに、その神器が問題だった。

 

 停止世界の邪眼の能力は、視界におさめた者の時間を停止させること。

 

 まあ、普通に考えて時間を停止させられている間に何かされたらと考えるれば怖くなるのは当たり前だ。

 

 ここまでくればだいたいの予想はできる。

 

 つまりは迫害だ。

 

 結果、ギャスパーは住んでいた土地を追い出された。

 

 追い出されて人間の世界に言っても、ヴァンパイアの血が邪魔して結局は迫害される。

 

 最終的に、教会の吸血鬼狩りに襲われて部長の眷属になったらしい。

 

 とはいえ、それでも神器の制御はできなかったため、大公やらサーゼクス様の命で旧校舎の片隅に封じられた。

 

 んで、俺やイッセーが大活躍したことで部長の評価が上がり、これなら解放しても大丈夫だろうと判断されて今にいたる、と。

 

「ギャスパーの神器は非常に強力で、今もパワーアップを続けているわ」

 

 いまだ泣き続けているギャスパーを撫でながら、部長は不安そうにそういった。

 

「この調子でいくと禁手にいたるのも時間の問題と言われているのよ」

 

「制御不能なのに大幅パワーアップが確実って・・・。そりゃ問題だ」

 

 下手をすれば大惨事になりかねない。

 

「魔術のアイテムの中には魔眼封じって言うのがあるんですが、生前の実家に現物があったんでちょっとは詳しいんです。なんとか作れないか試してみます」

 

「そんなものまであるの? ありがとう。必要なものがあるなら何でも言ってちょうだい」

 

 俺に作れるかどうかわからないが、まあ効果を押さえるぐらいなら何とかできるかもしれない。

 

 このまま暴走しちまったら俺のためにも部長のためにもこいつのためにもよくないし、当面はその開発に集中するか。

 

 しかし時間停止か。

 

 一時的にとはいえ完全に停止させ、解除された後のデメリットもなし。倍増や半減よりある意味チートじゃないか?

 

 イッセーのその反則加減に驚いているのか、ギャスパーを見直したかのようにまじまじと見つめている。

 

「しっかし時間停止って反則だよなぁ。宮白、魔術にそういったのってあるの?」

 

「一大ジャンルとしては存在してるが、ある程度準備する必要はあるわ加速や減速はできるけど停止はむずいし、何より解除した後揺り戻しがでかいから使い勝手はわるいぞ」

 

「揺り戻し? どれぐらいだい?」

 

「ゲームみたいに言うなら一定時間待ち時間減少するが、時間終了後HP大ダメージ・・・みたいな?」

 

「・・・使いにくい」

 

 木場の質問に対する答えに、小猫ちゃんが嘆息する。

 

 まあ、知識はあるが専門家ではないのであまり使わない。

 

「俺じゃあせいぜい、カップラーメンの待ち時間を少し減らすことにしか使えないな。ちょっと麺が崩れやすくなるが俺は固めが好きなのでその辺のバランスは丁度いい」

 

「あらあら。何気にすごい魔術も、宮白くんにかかったら日常のちょっとしたスパイスですのね」

 

 朱乃さんの口調もどこかあきれているようだが、俺はとりあえずスルーすることにした。

 

「まあとりあえず、俺たちがしなきゃいけないことは・・・」

 

 そう言いながら視線を向ける先にあるのは、一つの大きな段ボール箱。

 

「うぅ・・・。また僕の話に戻ったぁ」

 

 中から声が聞こえてくるが、これはギャスパーのものだ。

 

 ギャスパーくん、外に出るのが怖いからと、段ボール箱の中に入って落ち着こうとしてきましたよオイ。

 

 これは引きこもりとかそういう次元からまた違う領域ではないだろうか?

 

「強力な神器に加えて、吸血鬼としての能力も高い。さらには人間の魔法使いが扱う術式にも造詣があるし、本来僧侶の駒一つで済むような者じゃないわ。能力的には朱乃に次いで二番手じゃないかしら」

 

 イッセーも大概チートだがこの子も大概チートだなオイ。

 

 問題は引きこもりということだけだが、まさにそれが致命的なわけだ。

 

「ちなみにデイウォーカーという特殊な吸血鬼の血を引くから太陽光も克服している、本当にすごいこなのよ?」

 

 それはすごすぎではないでしょうか? 部長。

 

「お前学校に出てないだろ? そんなにすごいんだから学校ぐらい普通にできなきゃ損だぞ?」

 

 イッセーはそういう感想になるか。

 

 こういう特殊要素に対する抵抗感が一切ないのはこいつの長所だな。俺は制御不能ということで少し躊躇がある。

 

「無理ですぅうう!! お外は僕の天敵なんですううう!! 箱入り息子ってことで勘弁してくださいぃいいい!!!」

 

 箱入り息子ってアンタ・・・。

 

「・・・そういえば吸血鬼って血が主食ですよね? その辺は大丈夫なんですか?」

 

「ハーフなこともあって、定期的に輸血用パックから血を吸うぐらいで十分みたいね。実際、血を吸うことも嫌いなのよこの子」

 

 イッセーの言葉に応える部長の回答は、正直驚きにあふれるものだった。

 

 吸血衝動とかないのかよ。つか吸血鬼なのに血がにがてってオイ・・・。

 

「個性的すぎだろこの後輩・・・」

 

 封印を解放して本当によかったんだろうか?

 

 正直な話、解放する前にいろいろとすることがあるような気がして頭が痛い。

 

「とりあえず、私と朱乃は会談の下準備のために一度出てくるわ。祐斗もお兄さまが聖魔剣について知りたいことがあるということで連れていくから、イッセー達はギャスパーのことを見てて頂戴」

 

「うっす」

 

 部長も忙しいようだし、取り合えず頑張るとするか。

 

「言ってきますわね。ギャスパーくん? ちゃんとお外になれましょうね?」

 

「そ、そんなこと言わないでくだしゃい朱乃お姉さまぁあああああ!!」

 

 いや、きみは少し慣れた方がいいからね?

 

「それじゃあ、頑張ってくださいねイッセーくん」

 

「はい! 部長と朱乃さんの期待にこたえて見せます!!」

 

 イッセーはそう言って胸を張るが、さてどうなることやら。

 

 まあ、俺もできることをやってみるとしますか。



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総督、ドつかれます!

 

「さあ走るんだヴァンパイア! 次はニンニクに十字架に聖水もセットで追いかけるぞ!!」

 

「いやぁああああああ! 浄化されちゃうぅううううう!!」

 

「・・・ギャーくん。とりあえずニンニクは食べて元気になろう」

 

 デュランダル片手に追い回すゼノヴィアと、涙目で逃走するギャスパー。そこにニンニクをもって追撃する小猫ちゃんまで加わって、旧校舎裏はいろいろとカオスな状況になっていた。

 

 なぜかゼノヴィアがヴァンパイアハントもやったことがあるから大丈夫という謎理論を展開してギャスパーの強化を買って出たが、止めた方が良かっただろうか。

 

 なんでも健全な精神は健全な肉体からということだが、スパルタなのはグレモリー眷属特有の思想か何かか?

 

 精神修行のために苦行をするのは珍しくないが、デュランダルは酷いと思う。

 

 しかし楽しそうだな。・・・Sに目覚めてないといいんだが。

 

 あと小猫ちゃんは見たことない一面を見せている。唯一同年代だからからかいたいのだろうか?

 

「はぅう・・・。同じ僧侶なのに目もあわせてくれませんでした」

 

 そしてアーシアちゃんは涙目だ。

 

 どうやらもう一人の僧侶に会いたくて会いたくてたまらなかったらしい。

 

 まあ、特殊な事情で参戦できない先輩の存在なんて気になって当然だ。

 

 それが、なんと引きこもりの女装少年。いろいろな意味でアーシアちゃんはショックだろう。いや、アーシアちゃんは女装とかじゃショックは受けないだろうか?

 

 そして俺たちは何をしているのかというとだ。

 

「そんじゃイッセー、終了な。・・・聖剣の因子の時でもわかってたが、魔力以外でも応用きくみたいだな宝石魔術」

 

「うぅ・・・。部長や朱乃さんとのチューチュータイムがぁ」

 

 イッセーのドラゴンの気を宝石に込めれないかどうか試してみました。

 

 なにぶん範囲拡大は俺の指示みたいなものだからな。当然その分の対策は立てておく必要がある。

 

 問題はこのドラゴンの気をどう活用するかだが、その辺は今後の研究課題ということにしておこう。

 

 それはそれとして出費もひどい。今度イッセーをヤクザな方々が主催する賭博バトルセンターにでも連れて行って大暴れさせた方がいいだろうか? いや、俺が出てファイトマネー稼いだ方が手っ取り早いか?

 

 まあ、将来的に金を稼いでドラゴンの力を宿す魔道具でも作ればいいかと考えなおし、ギャスパーの特訓の方へと視線を向けようとして―。

 

「やっほー!」

 

 後ろから勢いよく抱きつかれ、ドラゴンの気を封じた宝石を飲み込んでしまった。

 

「ングゥ!? ・・・ヤベ呑んだ!?」

 

「あー、ゴメン。もしかして大変なことしちゃったー?」

 

 この緊張感の足りない口調は・・・。

 

「久遠? お前なぁ・・・。ってナツミもいたのか」

 

「そだよ。ってゆーか大丈夫? 何か飲み込んでたけど」

 

 最近ナツミは久遠のところにもよく遊びに行っている。

 

 まあ転生者同士仲良くなりたいとか考えてるんだろうし、俺としても止める理由はない。

 

「ちょっとイッセーのドラゴンの気を吸い取ってたんだが・・・だめだ、完全に吸収された」

 

 部長や朱乃さんも普通に吸ってるし、まあ死ぬことはないとは思うんだが・・・。

 

「つか、お前らこそこんなところでなにしに来てんだ?」

 

「封印された僧侶がトレーニングやってるっていうから見に来たんだー。おーい元ちゃんーこっちだよー」

 

「分かってるよ! よう兵藤に宮白。噂のひきこもり眷属はどこにいるんだ?」

 

 匙までやってきて賑やかなことになってきた。

 

「あそこでゼノヴィアと小猫ちゃんに追いかけれれてるのがそれさ」

 

 イッセーが指し示す方向に集まる視線三対。

 

 とりあえず、ショックはやわらげておいた方がいいだろう。

 

「先に言っておくが女装少年だ。男の娘だからへんな期待はしないように」

 

「男の子なんだー。かわいいねー」

 

「女の子にしか見えないね。あれ本当に男?」

 

 久遠とナツミの感想には俺も同感。どう考えても男には見えないよなぁ、マジで。

 

「本当だよ。普通、女装って人に見せるためにするもんだろ? なんでそれで引きこもりなんだよ?」

 

「まったくもって同感だ。にあうっていうのがまたひどいよな」

 

 匙とイッセーがうんうんと頷きあう。

 

 なんだか平和な時間が流れ始める。ギャスパーが追いかけまわされているのは問題な気もするが、おおむね平和な時間だろう。

 

「なんかさー、もうすぐ三大勢力で会談が開かれるとか思えないぐらい平和だよねー」

 

「そだね。会談も平和に終わるといいよねぇ」

 

 まったりし過ぎなぐらいにまったりしながら、久遠とナツミはそう言いあう。

 

 確かに、ちょっと失敗したら一気に戦争が起こっても全くおかしくないとんでもないビッグが集う会談がもうすぐ起きるような雰囲気ではないな。

 

「まあ、そんな会談が起こせるのも俺たちが頑張ったからだし? 平和なひと時ぐらいの報酬はあってもいいだろ」

 

 俺は本気でそう思う。

 

 悪魔になったからって戦争に参加しなきゃいけないわけじゃないんだし、いくら長すぎるほどの人生が待っているとはいえ、そこまで戦うことを考えなくてもいいだろう。

 

「セラフォルーさまのおかげで転生者(俺ら)の身の安全も保証できそうだし、これからは是非平和に暮らしたいな」

 

 というより、悪魔になってからトラブルが続出しすぎている。

 

 中級堕天使のたくらみに巻き込まれ、上級悪魔とレーティングゲームした揚句一騎打ちする羽目になり、挙句の果てに超上級な堕天使の野望に巻き込まれて街ごと消滅の危機に陥った。

 

 どう考えてもスケールの上昇速度が半端なさすぎる。この調子でいけば、次は魔王と激突するとか割とあり得そうで怖い。

 

 絶対平和に終わってくれ。いや、マジで。

 

「そうだよね。ボクもどうなるか心配だけど、大丈夫だといいな」

 

 そう言いながら、ナツミは俺の袖をつかんだ。

 

 そういえば、あいつはあの最終形態を使って一対一でコカビエルの食い下がってたな。

 

 俺も大概やらかしたが、こいつも大概やらかしている。問題視されたら確かにヤバい。

 

「ま、最悪俺と一緒に魔王様のところに亡命でもすれば何とかなるだろ。ちゃんと頑張るから安心しな」

 

 そう言いながらナツミの頭をなでる。

 

 さわり心地がいいな!

 

「そうだよー。セラさまに限ってひどいことはしないし、いっそナツミちゃんも会長のとこに転生したらー?」

 

 久遠もそう言いながら頭をなでるのに参加してきた。

 

「おいコラ。なでるの邪魔だからちょっとやめろ伸ばしTHEソード」

 

「えー! ずるいよ兵夜くんばっかり! 私もなでるー」

 

「わ! ちょ、ちょっと!? 頭の上がヤバいからぁ!!」

 

「お前ら、仲いいなぁ」

 

「ああ、すっげぇ同感」

 

 なでバトルを勃発させる俺達をあきれて見ているイッセーと匙。

 

 いや、なんだかなで心地がいいんだよなこいつ。

 

「仲がいいのはいいことです。よかったですね、ナツミちゃん」

 

 アーシアちゃんはほっこりしている。うん、こういう反応の方がやっぱいいな。

 

 こういう時間がずっと続けば、平和で何よりなんだけどなぁ。

 

 と、そんなことを考えているとタイミング見計らって邪魔な奴が現れるわけで―

 

「おーおー。悪魔さん方はこんなところでお遊戯かい?」

 

 ・・・ききなれない声に視線を向ければ、そこにはちょい悪系とでもいえばよさそうなおっさんの姿が。

 

 服装は浴衣だが、学校にそんな姿で入れるとはどういうことだ?

 

「・・・アザゼル!!」

 

 イッセーが叫びながら赤龍帝の籠手を展開した。

 

 ・・・アザゼル?

 

「って堕天使総督じゃねえか!? なんでここに!?」

 

 とっさに天使の鎧(エンジェル・アームズ)を展開して迎撃態勢。

 

 宝石は携帯していてよかった。

 

 いざとなれば呪いをかけて方向感覚を狂わせる・・・!

 

 既にゼノヴィアと小猫ちゃんも戦闘の構えを見せており、アーシアちゃんとギャスパーは後ろに下がったり木の裏に隠れたりしていた。

 

「ひょ、兵藤!? アザゼルってホント!?」

 

「堕天使総督の!? え、ホントに・・・?」

 

 未だ状況が把握しきれていない匙とナツミも、とりあえず警戒はしているようだ。

 

 そりゃそうだろ。俺だって信じられない。

 

「ああ。俺はあいつに何度かあってる。間違いない・・・!」

 

 イッセーが後ずさりそうになるほどの状況だが、さてどうすればいい?

 

 さすがに三度生贄を出してイッセーに禁手を使わせるのは避けたいが、俺もエクスカリバーは手元にない。

 

 まともにダメージを与えられそうなのはナツミのサタンソウルぐらいだが、それだって時間制限が厳しい。

 

 くそ! こうなれば駄目もとで英霊召喚を試みて・・・っ!

 

「そうなんだー。よろしくお願いしまーす」

 

 ものすごく緊張感のないあいさつが響いた。

 

 視線を向ければ、むっちゃなれなれしそうに手を振ってる久遠の姿がそこにはあった。

 

 こいつ、構えてすらいねぇ!?

 

「ちょっ!? お前何やってんの!?」

 

「桜花!? おまっ、アザゼルっ、前ぇ!!」

 

 俺と匙が思いっきり動揺しながら非難するが、久遠の奴は一切動じていない。

 

「このタイミングで戦闘したら、魔王様キレるしさすがにないでしょー。どっちにしても勝てないしー」

 

 そういうと、久遠はポケットからお菓子を出してポリポリ食べ始めた。

 

 いや、どっちにしても緊張感持とう!?

 

 そんな久遠を見て、アザゼルはやけに感心した様子を見せていた。

 

「わかってるじゃねぇか。コカビエル程度に苦戦して、しかも切り札がなくなったお前らじゃぁ俺には勝てない。しかもやる気がないことまで気づくとはな。・・・お前、前世じゃ相当修羅場くぐってるだろ」

 

「むっちゃくちゃ鈍ってるけどねー。だてに一ケタ代から戦場を駆け抜けちゃいないよー」

 

 今度はジュースまで取り出して飲みながら、アザゼルに応じる久遠は一切緊張していない。

 

「ちなみに、他のグレモリー眷属は会長と一緒に会談の打ち合わせ中だと思うから、用があるならまたあとでねー」

 

「しかも俺の目的まで見抜いてやがるか。・・・しかし聖魔剣の奴はいねぇのかよ。せっかく見に来たのに残念だな」

 

 狙いは木場の聖魔剣かよ!

 

 なんなんだコイツ。神器の研究者か何かなのか?

 

 圧倒的に状況不利な空気に息苦しさを感じながら、俺はこの空気を何とかできるものがないかいろいろと視線を動かし―

 

「・・・あ」

 

 それに気付いた時にはもう遅い。

 

 アザゼルもそれには気づかず首をかしげるが、それは致命的な隙となった。

 

「なんだ? 俺の顔に何かついてるの―」

 

「・・・アーザーゼールーッ!!」

 

 後頭部にモロに蹴りをくらった。

 

 蹴りを入れたのは、俺の元お得意様の小雪だ。

 

 そのままアザゼルの後頭部を踏みにじり、思いっきり青筋を浮かべて怒鳴り始める!

 

「なーに考えてんだこのファックが! テメーは和平結ぶ気があるのかこのダーホが!」

 

「痛ってぇなぁ。いいじゃねえか気になる神器をちょっと見に行くぐらぃい!?」

 

 アザゼルの屁理屈を文字通り打ち抜いたのはデザートイーグル。

 

 発射されたのは光の弾丸だが、破壊力は文字通りケタが違う代物だった。

 

 少なくとも、悪魔払いの光の弾丸なぞ歯牙にもかけない威力なのはわかる。

 

 ・・・あんな緊急事態に呼ばれる時点で相当の実力者なのは知ってたが、少なくも俺を殺した堕天使の槍より威力はでかそうだな。

 

「こういうときは慎重に動けって言ってんだよファック。大胆にも程があるだろーが火種をほおり込みたいのかテメーは?」

 

 そういいながら足を下ろす小雪だが、アザゼルの頭は上がらない。

 

 いや、上がるどころが突然ジェット噴射でもされたかのようにさらに地面に押させつけられていた。

 

 アレがあいつの能力か何かか?

 

「ちょ・・・オマッ!? エアロハンドはやりすぎじゃねえか!? 俺総督だぞ、総督!!」

 

「副総督とバラキエルの旦那から許可はもらってんだよファックが。何かあったら骨の一本まではOK出てんだ分かったかファック総督?」

 

 信用ない総督だな。

 

 だがこれで分かった。

 

 この男、基本的にトラブルメーカーだ。

 

「お前も苦労してんだなぁ。同情するぜ青野小雪」

 

「ありがとよ宮白。お詫びと言っちゃなんだが、アタシの能力を教えてやる」

 

 そういうと、小雪はなぜかアザゼルの太ももの間に手をおくと―

 

「ぐがががががががががががががががががががががががががっ!? やめ、暴風電気アンマはマジでやめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!?」

 

 ものすごい突風がアザゼルの股に突き刺さった。

 

 ・・・うわぁ。

 

「あたしの世界では天然ものの特殊能力者がまれに出ててな。それに対抗するための反撃手段としての魔術が生まれたり、人為的に能力者を生み出そうと科学的研究都市が生まれたりした」

 

 そう言いながら、小雪は腰を静かに下ろす。

 

 その尻の部分から風の流れが生まれ、まるで椅子の腰掛けみたいに重さを支えて待機の流れが生まれてきた。

 

「コレが、軍事的な戦術レベルの価値を発揮させるレベルに到達した大能力者(レベル4)空力操作(エアロハンド)だ。覚えとけよな」

 

 アザゼルを悶絶させながら放つ言葉に、俺たちすべては戦慄した。

 

 風の流れを全て操っていると言ってもいいそれは、本気を一切出していないとはいえ、アザゼルを確かに翻弄している。

 

 戦術的な価値とはいったが、人間の軍隊のレベルとはいえ、それだけの力を発揮する能力を人為的に生み出すことができるのか・・・!

 

 だけどそれを駄目な人のお仕置きにしか使用しないってどうよ?

 

「まあ、風を操る程度のクソ能力だってバカの仕置きには使えるんだ。お前らも力の有効利用って言うのを考えてみたらどうだ?」

 

 そういうと、小雪は風をようやく止めた。

 

「・・・ってぇな。なんでちょっと挨拶しただけでここまで痛い目見なきゃなんないんだよ?」

 

「一組織のトップのあいさつってーのはそこまで痛い目見せてもいいぐらい重要だろうが、ファック!」

 

 実に苦労しておられるようで同情する。

 

「・・・で? 用事が終わったなら帰ってくれると俺らの精神面には抜群に最高なんだけどな」

 

「いいじゃねえかちょっとぐらいみても。仲良くしようぜ悪魔くん達」

 

 一切懲りてないなこの堕天使!

 

 ためいきをつく小雪を気にせずにこっちをニヤニヤとみているアザゼルだが、その視線が一か所に固定された。

 

 ギャスパーを見ている? 何のつもりだ?

 

停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)か。その様子じゃ制御できてないみたいだな?」

 

 ・・・っ! 一目で見抜くか!

 

 アザゼルは神器に造詣が深いとか言ってたが、そこまで知識が豊富だっていうことかよ?

 

「なんだよ? 迷惑料にアドバイスでもくれるってのか? それとも制御用のマジックアイテムでも用意すんのかよ神器オタク」

 

「悪魔側にはねぇのか? 研究が遅れてんなぁ」

 

 俺の嫌味をあっさりスルーしながら、ギャスパーを物珍しそうに見るアザゼル。

 

 小雪はその様子をみて、額に手を当てながらため息をついていた。

 

「まー気にすんな。とりあえず危害を加えるつもりはねーみたいだからよ」

 

「それならいいよー。あ、でもアドバイスくれると助かるかもー」

 

 久遠さん! すいませんがもうちょっと警戒してくれませんかね!!

 

「さすがに物まで渡すとシェムハザがうるせぇしな・・・。お、いいのがあった」

 

「ぃい!? な、なんだよ一体!?」

 

 アザゼルの視線が匙の方を向き、思いっきり匙は警戒する。

 

 気持ちはわかる。

 

「そいつぁ黒い龍脈(アブソーション・ライン)だろ? それを使えば余分な力を吸い取れるから、暴走せずに練習できるはずだ」

 

「え!? 俺の神器ってそんなことまでできんのかよ!? てっきり相手のパワーを吸い取って弱らせるぐらいなのかと・・・」

 

 応用範囲が意外に広いな!

 

 それなりに強力な神器だと思っていたが、そこまでできるってことは・・・。

 

「・・・コカビエルが発動させていた魔法陣も、エネルギーを吸い取って不発に終わらせることもできたのか?」

 

「理論上はできるぜ、転生者の坊主。普通にやれば仕様者が耐えきれないだろうが、ラインは切り離して他につなげることも出来るから、余分なタンクになるものがあれば不可能じゃぁない」

 

 ・・・すごすぎるだろ匙の神器。

 

「す、すっげぇな匙! お前そんなことまでできたのかよ!?」

 

「うわー! そんなすごかったんだ元ちゃん! マジすごいよチューしたげるー!!」

 

「そ、そうみたいだな兵藤。・・・って桜花やめろ! お前キス魔なのかうわっちょっと!?」

 

 イッセー達の賛辞を受けるより早くパニック状態になっているんだが、大丈夫か匙は?

 

 あーあーあーあーほっぺたがキスマークだらけになってるよ。久遠って意外とキス魔だったんだな。

 

「ちなみに、黒い龍脈はいくつにも分断された黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)、ヴリトラの魂が封印されたそれなりに格の高い封印系神器さ。・・・そんなことも知らないとは、悪魔側の神器研究は遅れてるな」

 

 まるでゆで卵すら作れない人を見る料理人みたいな感じでためいきをつくアザゼル。

 

 どうやら、神器の研究に関して言えば堕天使側は何歩も先に進んでいるらしい。知識量が圧倒的すぎる。

 

「そんなに教えて大丈夫なのか? 副総督あたりがいろいろとうるさいぜ?」

 

「このレベルの神器が暴走状態でほっとかれてる方が大変だろ。別にこの程度機密ってわけでもねぇんだから、問題ねえよ」

 

 小雪の意見も対して取り合わず、アザゼルはそういうと立ちあがった。

 

「完全に制御したいって言うなら赤龍帝の血を呑ませるのが手っ取り早い。ヴァンパイアならそれだけで十分効果があるだろ。・・・帰るぞ小雪」

 

 それだけ言うとアザゼルはイッセーのほうに視線を向ける。小雪も申し訳なさそうな目をしていた。

 

「赤龍帝。ヴァーリの奴が迷惑かけたみたいだな? ま、いくらあいつでもいきなり赤白ライバル対決を始めたいとは考えちゃいねぇよ」

 

「それはマジで悪かった。バカやんねーように見はっとくから勘弁してくれ」

 

 それだけ言うと、二人は背を向けて歩いていく。

 

「・・・正体知らせずにたびたび俺たちに接触してきた、アンタたちのほうは謝らねえのかよ」

 

 そう、イッセーの言葉が二人にかけられた。

 

「そりゃ俺の趣味だ。謝らねえよ」

 

「ちゃんと報酬は払ってるだろ? 客のえり好みしてんじゃねえよ」

 

 それだけ言うと、二人は去って行った。

 

「・・・あ、そうだ」

 

 かと思ったら、小雪の方が立ち止まって俺達の方に向き直った。

 

「朱乃は元気でやってるか? どうしてもその辺が気になっちまってな?」

 

「え? あ、ああ。いつもニコニコとして元気でやってるみたいだけど・・・それが?」

 

 イッセーが思わず自然と答えたが、お前もうちょっと警戒してもいいんじゃねえか?

 

「・・・直接自分で聞けばいいだろ? 知り合いなんじゃねえのかよ?」

 

 そうだ。その辺は直接本人に聞けばいいだけだ。

 

 コカビエルを回収しに来ていたときの発言から考えて、二人は知り合いだということだけはよくわかる。

 

 なら直接聞けばいいだけの話だ。

 

 なんで、自分から聞こうとしない?

 

「・・・あたしは、たぶん嫌われてるからな」

 

 それだけ言うと、小雪も背を向けて歩き出す。

 

「ま、知りたきゃ直接本人に聞けよ。こういうのは自分の口から言わなきゃ腹立つってもんだ」

 

 ・・・なんだか、さびしそうな答えだけが残されていった。

 




最後の作品、とあるシリーズから登場です。

これで、とりあえずクロス作品は終了です。さすがにこれ以上はこっちが混乱して裁き切れない・・・。


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信頼してます、どこまでも

 

 結論から言って、アザゼルのアドバイスは非常に役に立った。

 

 匙の神器をギャスパーにひっつけたところ、莫大すぎる停止範囲がかなり狭まったみたいだ。

 

 とはいえ、それで完全にコントロールできるようになったかと言えばそうではなく、停止させれるかどうかはかなりランダム要素が強かったが。

 

「ほら、ギャスパー!」

 

「は、はいぃいいいいい!!」

 

 今もイッセーが放り投げたボールを停止させようとしているが、なかなか狙って停止できないでいた。

 

 まあ、今まで一切制御できていなかったものが何割かでも制御できるようになったというのは非常に大きな意味があるだろう。

 

「・・・おっと」

 

 と、腕が妙な違和感に襲われる。

 

 どうやら、視界に入った俺の腕が停止してしまったらしい。

 

 空間に固定されたのか一切動けない。

 

「ご、ごめんなさいぃいいいいいいい―」

 

「ほらストップ!!」

 

 逃げ出そうとするギャスパーを呼び出したボーラという狩猟用の武器で捕縛。

 

 ギャスパーは間違えて俺達を停止させるとこうしてすぐに逃げ出そうとする。

 

 よほど、停止させた者たちにいろいろと酷い目にあわされてきたのだろう。もはや深層心理レベルでトラウマになっているとしか思えなかった。

 

 まあ、そんなわけで俺が捕縛役になって止めるのが仕事になっている。

 

 かつて、不良と喧嘩になった時、確実に逃がさずとっ捕まえるためにいろいろと考えていたのがここにきて役に立った。

 

 ちなみに片腕は止まったままだ。

 

 一度停止するとどうも数分間は止まりっぱなしになってしまうらしい。

 

 距離が近いと長時間止められるが範囲は狭く、逆に距離が遠いと範囲が広いが短時間しか止められないらしい。

 

 どうにもギャスパーの逃走癖を直さないと話が進みそうにないな。

 

 せっかく解放されたのだし、再封印とかいう流れはマジで勘弁なんだが・・・。

 

「どう? 進んでいるかしら」

 

 等と考えていたら、部長がバスケット片手に様子を見に来てくれた。

 

 どうやら中身はサンドイッチらしい。わざわざ俺達のために作ってきてくれたのか。

 

 相も変わらず良いご主人だ。こりゃ本気でお仕えしないといけないな。

 

「うめえ! これホントに美味いです部長!!」

 

「ああ、これほどおいしい食事をつくって来てくれるとは、部長には本当に感謝しなければならないな」

 

 イッセーとゼノヴィアが絶賛する通り、これで商売しても十分なぐらいにおいしかった。匙たちも絶賛している。

 

「ごちそうさまですー。これリアス先輩が作ったんですか、おいしいですねー」

 

「そんなに褒めないで。これでも材料が足りなかったからできてない方なのよ」

 

 それでこれほどとは思わなかった。

 

 木場と朱乃さんはまだ帰ってきていないらしい。

 

 とりあえず、俺たちはアザゼルについて報告もしておいた。やはり部長も驚いているようだ。

 

「アザゼルは神器に造詣が深いと聞くけど、私達に教えるほど余裕があるということかしら・・・」

 

「だとすると本気で厄介ですね。・・・まあ、向こうが正しい情報を流してくれているのならせいぜい利用すれば良いですけど」

 

 俺としてはそんな感じで総括するが、これは裏を返せば神器研究で悪魔は堕天使の足元にも及んでいないということだ。

 

 自分の能力ぐらいは把握した方がいいな。いや、神器に頼らず他の方法で力を得るというのも方法論の一つではあると思うが。

 

「それじゃあ、私達もお仕事に戻りますねー。いこ、元ちゃんー」

 

「分かった。それじゃあリアス先輩、俺たちはこのへんで」

 

「ええ、ありがとう二人とも」

 

 二人はそう言ってはなれていく。

 

 しっかし久遠はなんというか、ああいう状況下に対して場慣れしてるな。

 

 匙も神器の新たな可能性に触れることができたみたいだし、こりゃあいつらまだまだすごいところが見れるかもしれない。

 

「それじゃあギャスパーも休めたわね? 匙くんに力を吸われたおかげでいい感じに調整されたでしょうし、私も手伝うから頑張りましょう?」

 

「は、はいぃいいいい! 頑張りますぅうううう!!」

 

 ギャスパーが半ば悲鳴な声をあげて、練習は続行された。

 

 ・・・正直な話、もう少しアドバイスを引き出せていたらよかったのにと思ったりしたのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基本的に、悪魔の仕事が終わったら魔法陣から転移して戻るのが基本ではある。

 

 例外は俺が知る限り二つ。

 

 一つはイッセー。肝心の魔力がないという状況下では、転移したくても出来ないので戻れるわけがない。あいつは自転車で契約相手のところまで行って、そして自転車で俺達のところまで戻っていくのだ。

 

 もう一つは俺のパターンだ。

 

 これはさらに細かく分けて二つある。

 

 一つはアフターサービスだ。

 

 俺の仕事は基本的に不良にからまれた被害者の救済がメインとなっている。

 

 その大半は不良を制裁して謝罪させたりして、なおかつ今後の干渉を禁じさせるというものだ。これは当然だが、報復の可能性に対して注意する必要がある。

 

 そのための保険として、ちゃんと後をつけて念を押す。基本的には住所氏名電話番号などが間違っていないか再確認する。必要なら、追加で後ろからこっそり脅しをかけ直すと言ったこともやっている。

 

 その場合、普通に転移して帰ったりすると手間が増えるので、最初から自分で移動したりするのは当然だろう。

 

 そしてもう一つは・・・。

 

「・・・ふう。やっぱり深夜に食うラーメンはなんというか独特の趣があるよなぁ」

 

 単純により道である。

 

 夜風に当たっていたり、単純に自分の日常活動のために念のための見回りをしたりなど理由は様々だ。中には単純に気分が乗らないから徒歩で帰る場合もある。

 

 とりあえず気を使って30分で帰れる場合にしている。ちなみにより道の理由は全部まとめてついでに日常活動を補強したいということで納得してもらっている。

 

 ちょっとした気分転換も立派な日常生活なので嘘はついてない。

 

 そして今日は、たまたま美味いラーメン屋が近くにあったから夜食の許可をもらってきたのである。

 

 ちなみに、ちゃっかり持ちかえりで夜食にギョーザなどを買ってくるように言われてしまった。部長も抜け目がない。

 

 最近はいろいろと気が張ってたからこういう息抜きは本気で大切だ。

 

 制服でビールを飲むのはさすがにどうかと思ったのでシラフだが、俺は結構機嫌が良かった。

 

 そんなこともあるし、何より買った持ちかえり品が覚めても面倒だ。自然と、俺の脚は賭け足になって走り出す。

 

 ・・・その視界に、妙なものが映った。

 

 異様に目立つかの白龍皇、ヴァーリが、誰かと話している?

 

 やけに胸部の露出度が高いゴシックロリータの女の子だ。年齢は中学生・・・下手すると小学生か?

 

 まさか彼女ってことはないだろうが、もしかすると妹か何かだろうか?

 

「・・・まあいいか」

 

 いくらなんでも家族関係にまで口を出すような関係でもない。

 

 あいつの関係者なら不審者の一人や二人一瞬でせん滅するだろうし、気にするほどでもないか。

 

 そう思い、俺はそのまま駆け抜けた。

 

 ・・・後に彼女の正体を知って、この事実を部長か誰かに相談していたら、のちの面倒は大きく軽減していたかもしれないと思ったのを付け加えておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギャスパーが引きこもった。

 

 引きこもり克服のためにギャスパーをイッセーの悪魔家業に連れて行ったのが原因だ。具体的には契約相手が男の娘萌えで暴走したため、ギャスパーの神器も暴走していろいろと勃発したらしい。

 

 ・・・俺も大概だが、イッセーの契約相手もまた個性的な人が多いからなぁ。

 

 こりゃかなり精神的にダメージが入ってるだろう。

 

「・・・まあ、こういうときにイッセーはむいているっちゃぁ向いているとは思うけどな」

 

「宮白くんは、本当にイッセーくんを信頼してるね」

 

 木場はそう感心した。

 

 とりあえず、今現在俺たちは手が空いている状態なので一緒に行動している。

 

 ちなみに俺は夜食の準備だ。木場にも手伝ってもらっているが、こいつ本当に料理うまいな。俺が手伝いに回った方が良かったんじゃないか?

 

「夜食まで用意するってことは、イッセーくんがそれだけ粘るって確信してるってことじゃないか。それだけ理解してるのは羨ましいよ」

 

「ガキの頃から付き合いあるからな。そうそう負けてもいられねえよ」

 

 とりあえず作るのはおにぎりだが、それなり具もこだわってみる。

 

 わざとでかい具にして中身が握りから飛び出すようにしたり、混ぜご飯にしたりなどだ。

 

 飲み物代わりにみそ汁も用意。具はシンプルにワカメと豆腐にしておこうか。

 

「・・・おいしそう! ね! ね! 味見してもいい?」

 

 我ながら会心の出来栄えなため、様子を見ていたナツミがよだれを垂らしてこっちを見てくる。

 

「もうすぐ持ってくからそれまで待てよ。どうせなら一緒に食べながらダベろうぜ?」

 

「う~! 早く作って作って!!」

 

 うん。ナツミが我慢できずにせかすのがわかるぐらいいいにおいだ。

 

 金にものを言わせて普段より高い代物で作った買いがあった。

 

「・・・木場、味噌汁はOKか?」

 

「ああ、できたよ。それじゃあいこうか」

 

「やたっ! 早く持ってこ!」

 

 三人で手分けして持ってギャスパーのところへと向かう。

 

 もう暗くなっているし、丁度いいタイミングだろう。

 

「でもさ? 兵夜ってホントイッセー好きだよね?」

 

「まあな。自分で言うのもなんだが、依存している節はある」

 

 ナツミのいうことはマジで本当だ。

 

 自分でも引かれるとは思うが、これは事実中の事実にして俺の根幹をなしていると言ってもいい・・・どころか確定だ。

 

 ベルが大天使ミカエルに仕えているように。

 

 久遠が会長に忠誠を誓っているように。

 

 そして青野小雪も、おそらく奴のことをなんだかんだで信じているはずで

 

 俺はイッセーを心から信頼し、信用し、信じている。

 

「だからなんとなく分かるんだよ。あいつはきっとギャスパーの支えになれるってな」

 

 支えられたからこそ断言できる。

 

 兵藤一誠という男は、個人を色眼鏡で見たりすることが極めて難しいと言ってもいいほど、その本質で相手を判断することができる。

 

 時間を止める能力? ハーフヴァンパイア?

 

 常人ならそれを聞いただけでビビる奴も出るだろう。俺も、まあ何一つ警戒してないと言えばうそになる。

 

 だがあいつには関係ない。

 

「ギャスパー・ウラディがどれだけ恐れられて迫害されたのかは知らないが、兵藤一誠はそんなことはしない。それは俺の中で絶対だ」

 

「・・・本当に、イッセーくんを信頼しきってるんだね」

 

 木場が、ものすごいものを見たような眼を向けてきた。

 

 ・・・さすがにドン引いたか?

 

「まあな。せいぜい、時間停止が自分にあったらエロいことし放題だからうらやましい・・・とか考えてるんじゃないか?」

 

 間違いなく考えているな。

 

 そんなことを話していると、ナツミが俺の袖を軽くつかんできた。

 

「・・・わかるなぁ。イッセーを信じる気持ち、ホントにわかるよ」

 

 ・・・なんかほんのり顔が赤いな。

 

 まさか、こいつもイッセーに惚れた口か?

 

「自分を認めてくれる人が、ホントにいい人だったらサイコーに嬉しいよね。それ、ホントわかる」

 

 あいつがほめられるのを聞くのは俺としても本当に嬉しい。

 

 笑顔になるのが止まらない。

 

「そりゃそうだ。スケベが致命的だけど、それさえなけりゃぁ本当に最高な奴だ。俺が女だったら惚れてたね。どう思うよ?」

 

「その気持ちわかる。ま、ボクはイッセーはちょっとアウトかな」

 

 あれ? そうじゃないのか?

 

 てっきりイッセーを認めてグッっときたのかとも思ったんだが・・・。

 

「宮白くんも、本当にいい人だってことかな?」

 

 木場が何やら気になることを言ってきた。

 

 ・・・なんだろう。なんだか、とんでもないことに気がついてないような気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宮白、木場! ギャスパーが止めて俺が脱がす間に、魔術と禁手(バランス・ブレイカー)で俺を守るんだ! これは完璧な陣形だと思わないか! グレモリー男子眷属最強のコンボだよマジで!!」

 

「・・・ナツミ、俺が取り押さえている隙にフルパワーで頼む」

 

「オッケー。マルショキアスだすよー」

 

 ・・・いろいろと台無しにしてんじゃねえよコラ

 

「え・・・ちょ、ま、まって・・・ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」

 



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堕天使、複雑です!

 ・・・使い魔の練習も兼ねていろいろと飛ばしていたら、なぜか神社で小雪の姿を見つけた。

 

 なんだか気になったので様子を見に来たら、さらにイッセーの姿も発見した。

 

「・・・ものすごい気になるから興味本位でみるとすっか」

 

「すっごく同感! さーて、アニマルソウルでウサギの耳出して遠くから聞いちゃうよ~っと!」

 

 俺も魔術で聴覚を強化しながら少しずつ前進を開始する。

 

 神社に悪魔が入れるわけがないから、最悪の場合はナツミにカメラを渡して内部潜入をさせるとして・・・。

 

「・・・なにやってんだーお前ら?」

 

 いきなり見つかってしまいました。

 

「・・・青野小雪か。奇遇だな、イッセーを探してたらこんなところまで来ちまったよ」

 

 俺は速攻で白を切る。

 

 え? なんでだって?

 

 正直に言ったらなんか怪しまれるじゃん!

 

「・・・まあ気になるなら中に入れよ。ここはいろいろと例外って奴だから、悪魔でも中には入れるぜ」

 

 そういうと小雪はそのまま神社へと足を向ける。

 

「「・・・」」

 

 俺とナツミは顔を見合わせたが、とりあえずいうことを聞くことにした。

 

 確かに小雪の言うとおり、神社に入ることはできたが、何やら聖なるオーラが充満している気がするんだが。

 

「聖剣でもやってきたのか? ・・・壮絶に嫌な予感がするんだが」

 

「勘が鋭いな。・・・大天使ミカエルが、兵藤一誠に聖剣アスカロンを移植するんだよ」

 

 ・・・

 

 いま、とんでもないことが聞こえた気がするんですが?

 

 アスカロンっていうとあれだよな? ドラゴンを退治した聖人ゲオルギウスが持ってたとされる剣。

 

「・・・なあ、そんな物をドラゴンがもって大丈夫か?」

 

 明らかに危険な匂いしかしないぞ!?

 

「だいじょーぶだよ。魔王やアザゼルも手ーかしてるし、神器に融合させる形だから影響はないはずだ」

 

 小雪は対して気にもしてないのかそう適当に返すが、俺としてはものすごい心配なんだが・・・。

 

「でもでも、それってなんで? イッセーに聖剣渡して得することあるの?」

 

「同盟締結ってことで、赤龍帝を強化しようってことじゃねーのか? あたしはそこまで詳しく知らねーし興味もねーよ」

 

 だったら何で来た?

 

 そう思ったが、そんな俺の耳に小さな声が届いた。

 

 ほぼ同時に、小雪が一気に詰め寄ると俺とナツミの口をふさぐ。

 

「しっ! 静かにしてろ」

 

 ・・・どうやら、これが本題らしいな。

 

「・・・ええ、そうよ。神の子を見張る者(グリゴリ)幹部、バラキエルは私の父です」

 

 朱乃さんの、そう絞り出すような声が聞こえてきた。

 

 やっぱりか。

 

 ギャスパーは吸血鬼と人間の混血。しかも、超強力な神器を持って生れて家を追い出された。

 

 木場は、聖剣を扱えるようにするための実験の被験者。その後利用されて処分された。

 

 アーシアは、その神器の強力さゆえに教会から捨てられた者。さらに、それを利用しようとした堕天使に殺された。

 

 俺は、よりにも寄って前世の記憶なんてものを持っている。しかも、神の死が遠因となって異世界からやってきたというスペシャル仕様だ。

 

 そして朱乃さんは朱乃さんでものすごいビッグな堕天使の血をひいているときたもんだ。

 

 回転寿司の時からうすうす感づいていたが、わけありが多すぎだろグレモリー陣営。

 

 小猫ちゃんも相当の身の上だろうし、イッセーがノーマルすぎて異彩を放ちまくっている。

 

 俺たちは少しずつ移動して部屋の中を確認しようとする。

 

 その視界に、黒い羽根が舞い踊った。

 

「汚れた翼でしょう? ・・・悪魔の翼だけでなく、私は堕天使の翼も持っています」

 

 ・・・正直な話、そんなことはないと俺は思った。

 

 黒光りするその羽は美しく、巫女装束と相まって幻想的な光景にすら見える。

 

 だが、その羽を見る朱乃さんの表情は憎悪すら見える。

 

「・・・っ」

 

 そして、それを見る小雪の姿はなんだか悲しみが浮かんでいた。

 

「リアスと出会い悪魔になった時、私はこの羽がなくなることを期待したわ。・・・結局、両方を持ったおぞましい生き物になってしまったけど、穢れた血をもった私にはお似合いかしら」

 

 ・・・隣にいる小雪の両手が、爪が食い込むほど握られているのが分かった。

 

 あわてたナツミは手を添えたのに気づいて力は緩むが、それでも少し食い込んでいる。

 

「・・・イッセーくんは堕天使は嫌いよね? あなたとアーシアちゃんをころし、この街を破壊しようとしたんですもの。良い思いをするわけがないでしょう」

 

 よっぽど、自分が堕天使の関係者だというのが嫌なんだろうか。

 

 どういう事情でそこまで嫌いなのかは分からないが、それほど言いたくなるほどに堕天使が嫌なのははっきり分かった。

 

 なにがどうなってこんな展開になったんだろうか?

 

 ・・・まあ、コカビエルあたりが挑発のために朱乃さんの身の上をばらし、イッセーがそれを気にしていい機会だからとつい訪ねたんだろうな。

 

 んでもって、小雪の場合はそれを気にして・・・。

 

「俺、堕天使は嫌いですけど朱乃さんのことは大好きですよ」

 

 ・・・まあ、こうなるのは当然だろう

 

「・・・帰るぞ」

 

 俺は小声でつぶやいた。

 

「これ以上いても、イッセーが男を見せて朱乃さんの好感度を上げるってことで終了だろう。無粋な真似はこのへんにしとこうぜ」

 

「いや、ここまで覗いてカッコつけてもいみなくない?」

 

 ナツミよ、それ以上言うな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・前の人生じゃ、ガキのころから魔術の練習をして、しかし年頃のガキで正体がばれにくいのがアタシしかいないって理由で、能力開発の本場に送り込まれたファックな身の上でな」

 

 階段をゆっくり下りながら、小雪は身の上話を話し始めた。

 

「ま、すぐにばれた挙句、そんな身の上なのを利用して非人道的な実験の被験者になったりしてよ、最終的に裏社会で殺し合いする人生だったな」

 

「一応平和な学園生活を送ってた、死因交通事故の俺とは雲泥の差だな」

 

 いや、割と本気でそう思う。

 

 ベルも相当ひどい身の上だったらしいし、久遠にいたっては小学校ぐらいの時から戦場で暴れれたとかいう壮絶な過去な奴が多い。

 

 前世うろ覚えのナツミはもちろん、俺もかなり平和な人生を歩んでるのでちょっと引いてる。

 

 ・・・あれ? 今度の人生、波瀾万丈すぎやしないか?

 

 一度死んでから生き返って、そのご激闘の毎日って明らかにハードスケジュールな気がするんだけど?

 

 いや、それでも悲惨さでは小雪には逆立ちしたって勝てないだろうな。

 

「・・・そんでもって生まれ変わってみりゃ、アザゼルの奴はアレで戦争反対派でな? ・・・正直、賭けてみてもいいんじゃねーかって思ったわけだ」

 

 そういう小雪の表情は、ちょっと晴れやかだった。

 

 普段から散々こきおろしているが、それでもアザゼルはこいつにとって信頼できる人物なんだろう。

 

 ・・・それほどの人物なら、今回の会談も安心してもいいのかもしれない。

 

「ガキの頃も結構楽しめた。死んだ親父がバラキエルの部下だったんでな。同年代の朱乃んところには何度も遊ばせてもらったよ」

 

 大切なお守りを見るかのような目で、小雪は過去を振り返っている。

 

「そうなんだ。だったらさ、今でも仲良くなれるんじゃない?」

 

「だったら・・・いいんだけどな」

 

 ナツミの言葉に、小雪はものすごい悲しそうな表情になっていた

 

 ナツミのやつ、思わぬところで逆鱗踏んだか?

 

 ついかばうように前に出るが、小雪は決して暴れたりはしなかった。

 

「アンタには言っとくが、今回の会談で、アザゼルは和平を申し出るつもりだ」

 

 小雪がそう言って振り返るが、その時にはさっきの表情は消え去っていた。

 

「あたしらがこの世界に来る前からのくだらねえ争いで、三大勢力はどいつもこいつもボロボロだ。いい加減仲直りして前に進まねえと、あたしらも含めて皆滅びる」

 

 ・・・確かに、悪魔も多くの純潔悪魔を失い、魔王は全員討ち死にと来ている。

 

 さらに神は失われ、神によって生み出される天使ももう増えない。

 

 その天使から堕ちる必要がある堕天使なんてもっと少ないだろう。

 

 しかも問題なことに、聖書の教え以外にも神話が存在するということは、そんな緊急事態に対して行動する奴らが必ず出てくるはずだ。

 

「仲良くできるならそれに越したことはない。いい機会なんだよ、このファックな状況は改善できる、あの世界みたいに、冷戦もどきなファックなままになるわけじゃねーんだ」

 

 その表情は決意に満ちていた。

 

 邪魔をするなら、誰だろうと自分の手で皆殺しにする覚悟があると言ってもいい、かなり冷徹な決意に充ち溢れていた。

 

「・・・ま、お前ら下っ端に何か言ったところで意味はねーけどな」

 

 と、その冷たい感覚をあっさり霧散させた。

 

「いちいちビビらせんなよ青野小雪。ほら、ウチのナツミがビビってるじゃねえか」

 

「ビ、ビビってないもん! 夏なのに涼しすぎてちょっとぶるぶるしてただけだもん!!」

 

 ナツミが顔を真っ赤にしているが、それはあえて気付かないふりをしておく。

 

 かわいいねぇナツミちゃんは。ま、からかわねえけどな。

 

「まあ、俺としては平和に終わってくれればそれが一番だからな。変に騒がしくする気はない」

 

 それは当然だ。

 

 何が悲しくて戦争起こしてまで大暴れしなければならない。

 

 既に一生分のトラブルに巻き込まれていると言っても過言ではないのに、余計な大騒ぎに巻き込まれるのだなんてごめんこうむる。

 

 俺は自分で容易に対処できる以上の手間など勘弁だ。

 

 少なくとも、三大勢力で和平が成立すればあんなもめごとからは当分解放されるだろう。

 

 ・・・あまり、レーティングゲームで活躍するのはやめた方がいいかもしれない。

 

「・・・それで? お前はその前に朱乃さんのことが気になって様子を見に来たってか?」

 

「あれで付き合い長いしな。悪魔になったって聞いてから、ずっと気になってたんだよ」

 

 その表情は本当に安心しているようで、小雪が朱乃さんを気にしているのが嫌でもわかった。

 

「グレモリーは情愛が深いって言うが、本当みたいだな」

 

「・・・ええ。私は私の眷属を大事にするわ」

 

 その声に俺たちが振り向くと、部長が階段を上がっていた。

 

「ごきげんよう。どうやら、アスカロンは無事に移植できたようね」

 

「部長・・・来てたんですか」

 

 まさか部長までここに来るとは・・・。

 

 会談の準備に忙しいはずなのに。これが愛のなせる業か。

 

「あたしは邪魔みたいだな。・・・んじゃ、会談で会おうぜ」

 

 小雪はそういうと、翼を広げて空へ舞い上がった。

 

「あ、待って!」

 

 ナツミがその背中に声をかけて、小雪は少しその場にとどまる。

 

「・・・なんだよ。どうかしたか?」

 

「今度ね、今度・・・一緒にお話ししよう?」

 

 ・・・ナツミ。

 

「・・・機会があったらな」

 

 それだけ言うと、小雪はそのまま飛んで行った。

 

「部長、会談の準備は大丈夫なんですか?」

 

「ええ。もう一通りの準備は終了したわ。イッセーたちは?」

 

 ・・・ふむ。ちょっと面白く言ってみるか。

 

「イッセーが無自覚に朱乃さんを口説・・・い、て・・・」

 

 一瞬で強大な殺気が放たれた。

 

「ヒッ!?」

 

 ナツミがおびえて俺の後ろへと勢いよく隠れてしまった。

 

 待てナツミ! むしろ俺が隠れたいんだけど!?

 

「へぇ・・・。イッセーたら本当に仕方ないんだから」

 

 怖いです部長! オーラだけなら魔王級ですよマジで!?

 

 いかん! 部長、イッセーのことになるといろいろと冗談が通じなくなる!

 

 いや、冗談なんて一つたりとも言ってないんだけどね? どう考えてもアレはクリティカルヒットだから・・・ねえ?

 

「それじゃあ私はイッセーを迎えに行くわ。兵夜たちはどうするのかしら?」

 

「さ、先に帰ってます! なあナツミ」

 

「ぅぅぅぅぅぅ、うん! うんうんうん!!」

 

 涙目でブンブンと首を縦にふるナツミだが、部長は全然みていなかった。

 

「じゃあ行ってくるわ」

 

 そういうと、ズンズンと登っていく部長。

 

 俺たちは、それを黙って見送るしかなかった。

 

「イッセー・・・ゴメン」

 

 いろいろと部長は怒り心頭になってるから気をつけろ!

 

「・・・うぅ、兵夜ぁ」

 

「泣くなナツミ。もう怖いのはいなくなったからなぁ」

 

 泣きかけているナツミをあやしながら、俺は一つだけ心に誓った。

 

 今後、部長にイッセーフラグネタでからかうことだけは決してすまいと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・本気なんだな」

 

「ああ。俺にとってこの世界は退屈極まりない。そんな俺にあの誘いは断りきれない」

 

「まったく、この性分を理解しておきながらあの放任主義には困ったもんだ。・・・コソコソ動いている俺がバカみたいだな」

 

「確かに、お前がそんなことを考えているとは思わなかったよ。人はみかけによらないな」

 

「俺は半分人じゃないだろ? ま、お前もだがな」

 

「ああ、しかし残念だ。俺は神と戦ってみたかったのに、この世界には神がいないんだから」

 

「別にいいだろう。それに、不思議に強い奴とならこれから普通に戦える」

 

「ああ、あいつから異世界の強さを聞いた時には不思議に思ってはいたよ。・・・出力がおかしいとは思っていたさ」

 

「その辺は我らが大将が明日説明するだろうし・・・二重の意味での転生悪魔たちは驚くだろうな。お前はどう思う」

 

「お前の考えたプランは見させてもらったし、それに関しては完璧だよ」

 

「うんうん。やっぱ見たやつの感想があるっていうのは嬉しいねえ。俺、本当は自慢大好きで自己顕示欲強いから、こそこそやるのは本当に大変だった本当に」

 

「よくアイツから隠し通せたものだ。・・・明日の会談、本当に楽しみだ」

 

「できればさっさと決着付けてくれよ。お前も、何かあった時のために待機だけはしといてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かったよ。せいぜい、俺が満足できそうな奴と戦えるのを祈ってるぞ?」

 

「なら無理だ。・・・明日は予定通りにいけばすぐに終わる。伝説級の首は、俺が取る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして深夜。

 

「イッセー先輩ぃいいいい。つ、疲れてきましたぁあああ」

 

「気合を入れるんだギャスパー! 俺達の新たなステージがかかってるんだぞ!」

 

 イッセーは今日も頑張ってギャスパーを鍛えていた。

 

 ちなみにギャスパーのためでもあるんだろうが、それ以上に自分の欲望のために頑張っている。

 

 時間停止能力と洋服崩壊(ドレス・ブレイク)を組み合わせた邪悪な作戦を生み出すために全力を尽くしていた。

 

 ・・・一応言っておくが、ホントに実行しようとしたら止めるからな?

 

 最初に聞いた時は、俺にそれを言う以上冗談の一種かとも思ったが、どうも本気らしい。

 

 アイツ、俺がいつも止める側だというのを忘れてはいないだろうか?

 

 20回に一度ぐらいは成功するようになっているが、これはまあ結構成果が出てきたのではないだろうか。

 

「そろそろ休憩しろぉ。夜食は持ってきてるからな」

 

 そういうと、俺はそのまま持ってきたホットドッグをイッセーたちに渡した。

 

「しっかしお前もすごいことになってきたな。・・・聖剣、使えるんだろ?」

 

「知ってたのかよ。まあ、こんな感じだけどな」

 

 そういうと、イッセーは赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を展開し、さらにその先端から剣を生やした。

 

「それがアスカロンか。・・・確かに聖なるオーラがみなぎってるな。大丈夫か?」

 

「何でも特別に調整したらしいってさ。ドライグも大丈夫だって言ってる」

 

 なら大丈夫か。

 

「すごいですね、お二人とも。それに比べて僕は、人間としても悪魔としても吸血鬼としても中途半端で・・・グス」

 

 あぁあぁ。ギャスパーったらなんか泣き始めたし。

 

「別に泣くことはないだろ。・・・俺たちだってまだまだなんだしさ」

 

「そうだギャスパー! 泣いてる暇があったらぶつかってこい! 俺もその方がわかりやすい!」

 

 俺とイッセーはそう言ってギャスパーを励ます。

 

 確かにコントロールできてないのは困るし、俺も少し怖いと思うところはある。

 

 だが、悪気があるわけではないしそこまでパニックなる必要もない。

 

 悪魔としてはともかく、学生としては先輩なんだ。もう少し頑張って安心できる先輩にならないとな。

 

 とりあえず話をそらした方がいいだろう。

 

「しっかし、聖剣をゲットしたと思ったらその後朱乃さんと色々あったみたいだし? 羨ましいねぇ?」

 

「あ、みてたのかよ!? いやぁ、あの後朱乃さんに膝枕までしてもらっちゃってさぁ」

 

 とたんにデレデレしだすイッセー。

 

 完璧に欲情してやがる。

 

 まったく、既に撃ち落としているような状況下だが、こいつに自覚はあるんだろうか?

 

「朱乃さんも俺みたいなペットが欲しいんだろうなぁ。あの人ドSだし」

 

 はい。やっぱり一切気づいていませんでした。

 

 やれやれ。こいつには困ったもんだ。

 

 小さく、袖を引っ張られる。

 

 みると、ギャスパーがイッセーを見ながら袖をつかんでいた。

 

「み、宮白先輩・・・。イッセー先輩ってもしかして・・・」

 

「うん、みての通り」

 

 鈍感だ。

 

「あの、宮白先輩に少し伺いたいんですけどいいですか?」

 

 ギャスパーは、少し言いにくそうにしながらもそう聞いてきた。

 

「なんだよ? とりあえず言ってみろ」

 

「僕の目、怖くないですか?」

 

 ・・・結構ズバっと聞いてきたな。

 

 適当にごまかすことは簡単だろう。

 

 だが、それはギャスパーのためにも俺自身のためにもならないだろう。だからあえて正直に答えよう。

 

「正直言えば少し怖い。・・・ま、俺もイレギュラーって意味じゃ超ド級だからな。お前も苦労してるみたいだし、排除しようとか考えるほどじゃねえよ」

 

 偽らざる本音だった。

 

 俺はイッセー程、差別感覚とか無しで物を見れるわけじゃあない。

 

 イッセーという影響元と、俺自身のイレギュラーがあるからこそ同じように対処することができるからこそ、冷静な対応ができる。俺自身まあ許容範囲は広い方だと思うが、それでもイッセーに比べればデフォじゃ狭い方だと言わざるを得ないだろう。

 

 だけどまあ、それでもこいつには同情するだろう。

 

 それは、嘘偽りない本音だと断言できる。

 

「いいかギャスパー。魔術でも制御できない才能は自分にとっても害になる。・・・ちゃんと制御できるようになるってことは、絶対にしなきゃいけないことだ」

 

「は、はい!」

 

「俺も手伝ってやるから、頑張ってオンオフぐらいはできるようになれ。それさえ出来れば、お前は大丈夫だ」

 

 緊張して応えるギャスパーの頭をなでる。

 

 最近、ナツミとつるんでいることが多くなったからか、なんというか子供系のキャラの扱いに慣れた気がした。

 

 とはいえ、このままではいけないことも確かだ。

 

 アザゼルが以前ぼやいていたように、悪魔側には神器の知識が足りないのだろう。

 

 明日の会談が平和に終われば、神器の制御方法をより詳しく聞くことができるだろうか。

 

 ・・・イッセーを殺す指示を出した奴に聞くのは業腹だが、それぐらい剛腹な相手だと正直助かる。

 

 そう、明日だ。

 

 明日、この世界の大きな方向の一つが決定される。

 

「・・・明日、何とかなるといいんだがなぁ」

 



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会談、始まります

 

 ついに、三大勢力会談の日がやってきた。

 

 会談場所は駒王学園。

 

 魔王の妹に伝説の聖剣に堕天使の幹部という、三大勢力の各重要ファクターが集まったこの場所で、ついに会談がスタートする。

 

 速読を活かして覚えた悪魔知識でいろいろと調べてみたが、この会談は非常に注目が集まっている。

 

 元魔王はこの会談で和平を結ぶつもりであることは既に悪魔社会全体に表明されている。

 

 それに対する反対意見もあるようだが、その勢いは弱い。

 

 悪魔社会自体が、戦争継続を困難と判断して種の繁栄へと意識をシフトしている。その状況下での戦争継続を意識させる発言を会談でするというのは、今後のことをかんがえればリスクが大きいとの判断があるようだ。

 

 教会側はイッセーにアスカロンを渡した際に、天使長ミカエル自信が和平を結ぶつもりだということをイッセーに言っているらしい。

 

 まあ、神がいなくなったことで増えることがなくなった天使にしてみれば、不用意に数を減らすようなまねはできるわけがないのだろう。

 

 そして堕天使側も、小雪の言うことが本当ならアザゼルは和平を結ぶつもりだというそうだ。

 

 実際、戦争継続派のコカビエルはアザゼルをこきおろしていたそうだし、これは信用できるのかもしれない。

 

 となれば、和平設立そのものは結ばれる可能性はある。

 

 実際、賭け事サイトでは問題なく和平成立が最も確率が高い。俺も願賭けも兼ねて、思いっきり大金を投入している。具体的には200万ほどかけている。

 

 だが、今回の選択肢は非常に広かった。

 

 誰のせいで会談が物別れに終わるかという選択肢はもちろん、和平そのものは成立するが悪魔側に不利な条約になるというのもある。

 

 中には、和平阻止を狙ったテロが勃発し、指導者側に被害が出かけるほどだという内容もあった。まあ、その倍率は非常に高く、半ば冗談みたいな内容だったが。

 

 だが、その可能性は決して否定できない。

 

 前世足した俺の人生をはるかに超越するほど長いあいだ戦ってきた三大勢力。その憎悪や怨恨は非常に根深いだろう。

 

 コカビエルのような実力者の和平反対派だって少なからず存在するだろう。

 

 実際、会談の護衛のために来た三大勢力の兵たちは、非常にピリピリしたムードだという。

 

 悪魔然り天使然り堕天使然り、悪魔側の人間やはぐれ含む悪魔祓いも、相当に緊張感あふれる状態だ。木場も様子を見てきたし、俺も使い魔を使って確認したから間違いない。

 

 会談が決裂すれば当然戦闘が勃発するだろう。その場合、会談そのものに出席する俺達が被害を受ける可能性は非常に高い。

 

 それに、会談が決裂しなければいいというわけでもない。内容が不平等だった場合小競り合いが勃発する可能性はある。さらにひどければ、それが着火剤になって結局戦争勃発もあり得る。

 

 そもそも会談の途中で一部が暴走して暴れだすという可能性だって、決して否定できないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけでお願いします。自腹切って精神安定剤買って来たんですから、絶対に安定剤入りのお茶を悪魔の方々にふるまっておいてくださいお願いします!」

 

「え、えっと・・・」

 

「おやめなさい兵夜。係の方も戸惑っているでしょう」

 

 部長に肩を掴まれて、俺は下げた頭を体ごと持ち上げられた。

 

 後ろを見れば、ほとんどのメンバーがドン引きしている。

 

「しかし部長。一勢力の連中がキレただけなら、運が良ければ他の二大勢力で責任を追及して譲歩を引き出す程度にできるかもしれない。とはいえ、それがこっちで起これば今後が大変です!」

 

「だからって警護の者に薬を盛ってどうするのよ。彼らもちゃんと分別はあるんだから信じなさい」

 

 部長はため息をついて額に手を当てる。

 

 現在、俺達オカルト研究部は部室で待機していた。

 

 なにぶん当事者なため、この会談においてコカビエル襲来の騒ぎについて説明するように言われているのだ。

 

 ちなみに、会議そのものは新校舎の職員会議室で行われるとのこと。

 

 確かに会談だから会議室で行うのは当然だが、まさかそんなところまでいちいち気にしてセッティングするとは思わなかった。

 

「いや宮白。お前、ちょっと本気出して警戒しすぎじゃないか?」

 

 イッセーはそういうが、俺はこの程度では足りないとすら考えている。

 

 はっきりって朝になるまで一睡もせず、新校舎に侵入者がいたりしないか見回りしまくっているぐらいだ。それでも不安は尽きないぞ。

 

「つったって、こんな前代未聞な会談、トラブルが起きる方が自然だろうが。警戒のために使い魔は学園中に放っているから監視はできるが、俺は一人しかいないんだから警戒網だって限度があるぞ」

 

「本気度が恐ろしいよお前!!」

 

 なぜツッコミを入れられなきゃならないんだ。

 

 さすがに文句を言われるわけにはいかないから、会議室には仕掛けこそしていない。それが不安で仕方がない。

 

 この会談が決裂した場合、一番危険なのは魔王級が勢ぞろいしている会議室にいる俺たちなんだぞ?

 

 外側から何かあるなら逆に安全かもしれないが、内側から起こった場合どうなるか分かったもんじゃない。

 

「しかたねえな。・・・とりあえずアーシアちゃん、宝石魔術の粋を集めた防御アイテムを渡しておくから、何かあったら回復よろしく」

 

 攻撃面はともかく、防御面は徹底的に備えておかなくては。

 

 本当なら重装甲で身を包んでおきたいぐらいだが、それやると心象悪くなるし、逃げるとき遅くなるからなくなく断念。

 

 金は非常にかかるが、魔力に反応する仕組みで防御魔術を発動させる宝石魔術を利用した防御アイテムは調達済みだ。

 

 ・・・おかげで貯金が底を尽きかけた。実証実験までしたのはやりすぎだったか。

 

「さすがに人数分はそろえられませんでしたが、部長とイッセーの分は大丈夫。・・・さ、部長もお付けください」

 

「・・・魔術はあまり公開してはいけなかったのでしょう。私は大丈夫だからあなたが付けてなさい」

 

「っていうか、俺が付けるのはちょっとずうずうしいだろ。・・・ナツミちゃんがつけな」

 

「え、ホント? ・・・うわぁ、すっごいキレイ!」

 

 ・・・ぶぅ。

 

 仕方ないので俺とナツミが付けることになった。

 

 これが無駄に終わればいいんだがな。一応倍率は低いとはいえ賭けてるし、そうすれば金銭的な被害は多少は取り戻せる。

 

「ぶ、部長! 頑張ってくださぁあああい!!」

 

 段ボール箱の中から、ギャスパーの声が響いてきた。

 

 もちろん、我らが段ボールヴァンパイア、ギャスパー・ウラディだ。

 

 今回の会談に招かれた俺達オカルト研究部だが、目の制御ができないギャスパーは参加ができない。

 

 万が一にも指導者クラスを停止させた場合、会談決裂の恐れもあるからだ。

 

 残念だが、魔眼封じは完成しなかった。

 

 まず、魔眼に対する効果に干渉するところから大変だ。作ったこと自体ないので完璧に躓いている。

 

 これが終わったら魔眼作ろう。まずはそこからだ。

 

「ギャスパー。俺のゲーム機貸してやるし、お菓子もたくさん置いておくから、それでヒマつぶしとけよ。紙袋も置いておくから、さびしくなったら被ってな」

 

 そういうと、イッセーはギャスパーに紙袋を渡した。

 

 ・・・冗談交じりでイッセーがかぶせてみたところ、ギャスパーが気に入ってしまったのだ。

 

 うん、俺もそうだが変人の割合が多くないか、グレモリー眷属。

 

「待っててねギャスパー。これが終わったら、皆でお茶にしましょう」

 

 そう優しく言うと、部長は立ちあがって俺達を見回した。

 

「・・・さあ、行くわよ!」

 

 さて、役には立たないが正念場だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会議室は、まるで異世界のような雰囲気だった。

 

 家具類はこのためにわざわざ持ちこんだ特別製の高級品に変更されている。それを囲むのも、特別なお偉いさんなのだから緊張感が全然違う。

 

 まず悪魔側。

 

 魔王専用なのか落ち着いているが豪華な衣装に身を包んだサーゼクスさまとセラフォルーさま。そのそばにはグレイフィアさんが給仕係としてそこにたたずんでいる。

 

 堕天使側。

 

 さすがにスーツに変更しているアザゼルが、イッセーをみて愉快そうな表情を浮かべている。

 

 その後ろには、小雪、ヴァーリ、フィフスの三人がそれぞれ壁際に立っていた。

 

 フィフスって奴も来てるのか・・・。なんか嫌な予感がするな。

 

 そして天使側だが、そのメンツを見てちょっと驚いた。

 

 金色の羽をもった天使が椅子に座っている。おそらく、彼が大天使ミカエルなのだろう。

 

 その後ろには、秘書役なのか天使が一人。こちらは白い羽根を持っているところから見て、あくまで通常の天使のようだ。

 

 そして驚いたのはさらに後ろに立っている二人の人物。

 

 ・・・ベルと、イリナだ。

 

 今回の一件、悪魔側だけじゃなく天使側からも証言者を用意したということか。

 

 それとも戦闘のための護衛か? いや、それだけなら天使を呼べば事足りるし、やはりそれ以上の意味があるのだろう。

 

「・・・君達三人は知っているだろうが、私の妹とその眷属だ」

 

「コカビエル襲撃のときは大活躍だったのよ☆」

 

 サーゼクスさまとセラフォルーさまが紹介してくれている。

 

「報告は受けています。その時は、本当にありがとうございました」

 

「俺のところのコカビエルが迷惑かけたな。悪かった悪かった」

 

 大天使ミカエルと総督アザゼルの対象的な対応。

 

 ・・・これが天使と堕天使の基本的な差なのだろうか。あ、部長も口元ひくつかせてる。

 

「そこの席に座りなさい」

 

 サーゼクスさまの指示を受け、壁際の椅子へと座る。

 

 そこには既に会長も座っていた。その隣には、久遠の姿もあり、あいつは俺の方を向くと真面目な顔でうなづいた。

 

 分かってるよ。この会談、下手すると俺たち転生者にとっても重要になる。

 

「全員がそろったところで、会談の前提条件をひとつ。この場にいる者たちは(みな)、我々にとっての最重要禁則事項、神の不在を認知している」

 

 サーゼクスさまの言葉をうけ、俺は視線を会長のほうへと向ける。

 

 特に動揺はしていないし、どうやら本当にご存じのようだ。

 

 ベル達の方にも視線を向けるが、こちらはイリナの顔色が青くなってこそいるものの、やはり態度は一見平然としている。

 

 あの後、この会談のために報告を受けていたということか。ベルたちの気づかいが無駄になった気もするが、会談に呼ばれた以上やむを得ないだろう。

 

 一応グレイフィアさんの方もみてみるが、さすがに魔王直属の女王は最初から知っているようで、こちらも動揺する様子はない。

 

「では、それを知っているものとしてこの会談を始めようか」



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会談、続いてます!

 幸運なことに、会談そのものはアザゼルが茶々を入れる以外はスムーズに進んでいた。

 

 かれこれ一時間ぐらいたったと思うが、俺は会話の内容はあまり耳に入れてない。

 

 目を閉じて使い魔と視界を共有して、周囲の監視に励んでいたからだ。

 

 今のところ、校舎周辺や警備の連中に問題は起きていないようだ。

 

 校内にも不審者の姿はないし、厳重な警備のかいがあって安全は確保できているとみていいだろう。

 

 とはいえ、油断はできない。

 

 特に校舎周辺に直接転移してくる可能性はあるし、徹底的に監視しておかなければ。

 

「ではリアス。先日の事件について、話してもらおうかな」

 

「はい、ルシファーさま」

 

 さすがに公の出来事なので、敬称でサーゼクスさまのことを呼んだ部長が、会長や朱乃さんと共に立ち上がる。

 

 話されるのは、俺も体験したエクスカリバーの一件だ。もちろん、部長の視点での話しなため俺が知らないこともあるが、やっぱり監視はしていたらしい。

 

 ひどく緊張こそしているようだが、淡々と事実だけを話し、感想を交えるようなことはしていない。

 

 とはいえ過敏になっているだろう。ちょっと言い方を間違えただけで、三大勢力のこれからに大きな変化が起きるかもしれないのだから、それは当然というものだ。

 

 単純な人生経験なら、俺の方が倍近くある以上、そのあたりフォローを入れた方がいいのだろうか?

 

 これが終わったら、俺の残ったお金で盛大にご馳走しようか。・・・いや、逆にプライド傷ついたりするかもしれないし、あれだ、手作り料理とかでいこう。

 

 その内容を聞くトップたちは、顔をしかめたりためいきをついたり、笑ったりと反応は様々だった。

 

「―以上が、私、リアス・グレモリーとその眷属悪魔が関与した事件の報告です」

 

「御苦労、座ってくれて構わないよ」

 

「ありがとうね、リアスちゃん☆」

 

 魔王さま二人の言葉に、部長は半ば脱力しながら席に戻る。

 

 その手がイッセーの手に延びる。

 

 俺が言うのもなんだが、イッセーに対して依存し始めてるな。これが悪影響を生まなければいいんだが、まあ、人のことは言えないな。

 

「さてアザゼル。堕天使総督としての、この報告に対する意見を聞きたい」

 

 サーゼクスさまの言葉に、アザゼルは不敵な笑みを浮かべて話し始める。

 

「報告の通りさ。コカビエルの行動は俺や他の幹部に黙って起こした単独犯。そしてそこの悪魔くん達の活躍でぶちのめされたコカビエルは白龍皇達にひっとらえられ、軍法会議にかけられた。・・・いや、ホントご苦労さん」

 

 アザゼルはにやついたままそう言ってくるが、とりあえず我慢しろ俺。

 

「コカビエルの刑は、地獄の最下層(コキュートス)での永久冷凍。この間転送した資料に書いてあった通りだから、もう出てこれねえよ」

 

 ・・・とりあえず、コカビエルがこの会談に何かすることはないのだろう。

 

 それはトップの方々にとっても当然理解している者なのか、特に反応はない。

 

「説明としては最低の部類ですね。・・・それと、あなた個人が我々と大きくことを起こしたくないという話を聞いています。それは本当なのでしょう?」

 

 ミカエルさまの問いかけに、アザゼルは大きくうなづいた。

 

「ああ、コカビエルがこきおろしていた通り、俺は戦争なんかに興味はない。あるんだったら止めるために白龍皇チームを動かしたりしねえよ」

 

 神器の研究に没頭した、戦争に消極的な男。

 

 コカビエルの評価は正しいようだ。このへん、小雪の言っていたとおりみたいだな。

 

「アザゼル、一つ訊いてもいかね?」

 

「なんだ? 言ってみろよ」

 

 アザゼルの了承を聞いてから、サーゼクスさまは鋭い視線を奴に向けた。

 

「ここ数十年間、神器所有者をかき集めている理由はなんだ? 最初は戦争再開のための戦力増強かと思ったが―」

 

「確かに、神滅具(ロンギヌス)を二人も迎え入れたと聞き、我々も強い警戒心を抱きました。・・・だというのに、いつまでたっても戦争を仕掛けてはこなかった」

 

 警戒心の強いサーゼクスさまと大天使ミカエルの言葉に、アザゼルは苦笑した。

 

 っていうか、神滅具使いを二人? ヴァーリの奴以外にもそんなのがいるのかよ? ってか、神滅具っていったいいくつあるんだ?

 

「基本的には研究のためだよ。そのへんもコカビエルがこきおろしていただろう? 俺は今の世界に十分満足してるから、それで戦争なんぞ起こしたりしねえよ。他にも面白いもんはいっぱいあるしな」

 

 そういうと、アザゼルの視線は俺やナツミ、そして久遠の方を向いた。

 

「なあ、異世界の転生者さん? お前ら、力を使った時に死ぬ前よりも威力がでかくなったりしたことはねぇか?」

 

 ・・・流体操作とかのときにやけに効率が上がった記憶はあるが、なんでそれを奴が知ってる?

 

 とはいえ、それを表面に出したらなんかあいつの手のひらで踊らされてるようでちょっと嫌だ―

 

「え、えと、あるけど?」

 

「ナツミ・・・」

 

 この子は素直なんだからホントにもう!!

 

 そのナツミの答えに満足したのか、アザゼルは愉快そうに笑う。

 

「転生者の能力は、この世界の物差しで再設計されるみたいなんだよ。人間が魔法使いになることで天使や悪魔を打倒することも出来る世界なせいか、大概はパワーアップすることが多いのさ」

 

 ・・・とても重要な秘密を、どうもありがとうございます。

 

 それだけ言うと満足したのか、アザゼルはすごくいい笑顔で椅子に座り直す。

 

 と、そこでセラフォルーさまが立ちあがった。

 

「その辺で一つ言っておくことがあるわ☆」

 

 ・・・なんだろう? 他の魔王と一緒に調べてるとかいったし、それ関係か?

 

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)などの一部の道具類に対し、転生者の存在はリミッターをはずす効果があるみたいね。・・・久遠ちゃんを調べたアジュカちゃんが言ってたけど、近くにいる人とかにも影響がでて、通常より駒数が少なく済むらしいわ」

 

「そりゃ面白いな! 悪魔の駒はいろいろと隠し要素があるそうだが、それを勝手に使っちまうわけか! うわ、マジで興味湧いてきたぞ!!」

 

 ・・・アザゼルがすごい目の色変えて食いついてきた。

 

 ああ、そういえばイッセー駒八つのところ七つで済んだとか言ってたな。

 

 俺の駒数が一つで済んだのも部長が意外そうだったし、こりゃ相当効果があるようだ。

 

「・・・まあ、さっきの話も含めて俺の子供心をくすぐりまくる愉快なものがいっぱいあるんでな。俺から戦争を起こすつもりは一切ない。どうだ、信用できるだろ?」

 

「いや、いささかあやしいところだな」

 

「それはそうよね☆」

 

「自分の所業を顧みてください」

 

 首脳陣がバッサリいって、アザゼルはほおを引くつかせた。

 

 信用ないにもほどがあるだろ、堕天使トップ。

 

「お前らも先代魔王や神並みにめんどくさいな。分かったよ、どうせそっちもそのつもりなんだし、技術交流もセットで和平を結ぼうぜ?」

 

 ・・・切り出したか。

 

 アザゼルの後ろでは、小雪が拳を握って内心のガッツポーズを示しているぐらいだ。

 

 どうやら、よほどその言葉を聞きたかったようだな。

 

「ええ、そのつもりでしたよ。天使の長である私が言うのもなんですが、戦争の大本である神と魔王がいなくなったのです。これ以上、三すくみを続けることは神の子にとって害でしかありません」

 

「悪魔にとっても同じことだ。我ら悪魔は種の存続すら危うい。これ以上争うことに意味などありはすまい」

 

 アザゼルに同意する天使長と魔王さま。その言葉に、アザゼルもうなづいた。

 

「そう、神はなくとも世界は回る。俺たちは、戦争起こさず平和にやっていくことができるのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後、俺は再び使い魔の視界共有に集中したが、集中しすぎてイッセーが大天使ミカエルにトンデモ発言をかましたことを聞き逃していた。

 

 なんでも、アーシアを追放した理由を追及したらしい。

 

 三大勢力のトップが会談を行っている状況下で、一下級悪魔が首脳陣を非難するような発言をするとは、下手したらそれだけで緊張状態に移行しかねないだろうに。

 

 大天使ミカエルが天使の名に恥じない温厚な人物で助かった。

 

 なんでも、神の奇跡や信仰に対する加護は、神が作り出したシステムによって行われているらしい。

 

 自分自身が起こすのではなく、悪魔で作られたシステムによって、十字架などがもたらす力も、それによって行われているという。

 

 たとえ自身がいなくなっても奇跡を起こす余地を残すシステムか。

 

 まさか、聖書に記されし神は自分の消滅すら予期していたのか? マジで神なわけだし、それぐらい用意周到でもおかしくないが・・・。

 

 だが、さすがに信仰の大本である神がいなくなった状況では、いろいろと不便があるらしい。

 

 完璧に信徒全員に加護を起こすことはできなくなったし、システムに近い教会などに信仰を揺るがすものがいると、それだけで不具合が発生しかねないほどデリケートだ。

 

 神の祝福であるはずの癒しの力を悪魔にまでつかえるアーシアは、それだけでシステムにとって害悪となる。

 

 想像以上に切羽詰まった理由だったようだ。

 

 このシステムは本当にビーキーで、神の不在を知っている者が不用意に近づくだけでも不調を起こすらしい。

 

 ゼノヴィアはそちらの理由で異端認定を受けたとのことだ。

 

 幸いというかなんというか、二人とも今の生活に満足していることもあってか、それに対して起こったりはしていないようだ。むしろ大天使ミカエルが恐縮しそうになるほどだったみたいだ。

 

 さらにアザゼルが茶々を入れて、イッセーが軽くキレたみたいだが、その辺は軽くスルーされたらしい。

 

 そして、意識を再び会談へと戻すタイミングで、アザゼルが話しを切り替えた。

 

「さて、俺としては、二天龍やら転生者なんて言う、この世界の根本を揺るがしかねないイレギュラーにも、この和平について聞いておきたいところだがな」

 

 ・・・おいおい、俺注目されちゃってるよ。

 

 丁度いいタイミングで意識を切り替えて良かった。下手したら完全無視でいろいろと面倒なことになっていたな。

 

「お前の世界と同じ世界から来たっぽい転生者は、どいつもこいつも研究資料とかがなくなったことに絶望して落ち込んでばかりなんだが、その辺どう思う? 赤龍帝の親友クン?」

 

 ・・・なるほど、俺の事情は大体把握済みか。

 

「魔術師っていうのは、万物の始まりにして終焉と言われる根源の渦というαにしてΩって感じのものを目指し、社会に存在するものすべてよりもその根源に近いとされるからこそ魔術を研究している。生涯かけての研究が、とんでもない方向で躓いたりしてればそりゃ絶望するだろうな」

 

 どうやら、堕天使側が確保している俺の世界の連中は全員魔術師らしい。

 

「たとえるなら、化石とかを研究する考古学者が化石が一切存在しないスペースコロニーとかに永住を命じられたもんだ。魔術師はロマン追求のためだけに魔術(化石)を調べてるようなもんだから、調べる物そのものがなくなったに近い」

 

「なるほどな。それで親友くんはそのあたりは平気みたいだな」

 

「俺は研究のために魔術を学ぶ魔術師じゃなく、己の利益のために魔術を利用する魔術使いだからな。探偵のまねごととかに便利すぎてむしろヒャッハーだよ。ご依頼があればお高く受け付けるぜ、イッセー殺した計画犯さん?」

 

 これまでの会話で、こいつがこの程度の挑発に機嫌を悪くする奴じゃないのはわかってる。

 

 これは俺の鬱憤晴らしだ。

 

 奴自身わかっているのか、その辺にはのっかってこない。

 

「それじゃあ、お前は魔術を使ってこの世界で大活躍とか考えてるか? 生物全てに聞く治癒魔術とか、魔術を使うためのマジックアイテムとかあるらしいが」

 

 まあ、この世界の悪魔社会を考えれば当然の儲け話だろう。

 

 俺としてもぜひやりたいところだが、そうもいかないのが世の中というもんだ。

 

「あいにく秘密を独占しないと力が出ないしくみでな。個人的に闇医者やるぐらいしかできそうにない」

 

 そういうと、俺は肩をすくめた。

 

「ま、気長に親友の出世街道をサポートしながら甘い蜜をちょっぴりすするぐらいしかすることがねぇ。・・・俺の方はそんなもんだ」

 

 激しく残念ではあるがな。

 

 悪魔社会の治療現場を根本から変えた男とか、言われたかった・・・っ!

 

「そういやそんなこといってたなぁあいつらも。・・・他の連中はどうだ?」

 

 アザゼルの観察するような視線に対し、しかし過激な反応をする者はいなかった。

 

「えと、ボクは楽しく過ごせればそれでいいかな? 桜花は?」

 

「会長のために全力を使うことですー。ベルさんはー?」

 

「実質、始めてのぬくもりを教えてくださったミカエルさまに仕えることです!!!」

 

 最後がやけに大声だ。気合入りすぎだろベル。

 

 と、俺は小雪に目が向いた。

 

 あ、目があった。

 

「・・・あたしは平和に過ごせりゃそれでいい」

 

 それだけ言うと、目をつぶって壁に背を預けた。

 

 それを横目で見てから、アザゼルはイッセーに視線を向けた。

 

「それじゃあ今度は二天龍だ。お前はどうなんだ、白龍皇?」

 

「俺は強い奴と戦えればそれでいい」

 

 そっけなく答えるヴァーリ。

 

 戦争停止の会談に対しての答えとしては不穏当な気もするが、まあレーティングゲームへの参戦とかで補える範囲内だろう。

 

「そんじゃ、次は赤龍帝だ」

 

「お、オレ? 正直、世界がどうこう言われてもよくわからないです・・・なあ宮白?」

 

「イッセーは自分がビッグな自覚が一切ないから、もうちょっとスケールが小さなたとえで説明しろ堕天使総督」

 

 ちょっとため息まじりに俺がそういうと、アザゼルはちょっとだけ考えた。

 

「じゃあ恐ろしいほどに噛み砕いて言うぞ。戦争が起きると二天龍は間違いなく表舞台に出る羽目になる。そうなるとリアス・グレモリーを抱けないぞ?」

 

 ・・・

 

「「はあ!?」」

 

 なんかとんでもないたとえが飛び出してきましたよちょっと!?

 

 思わず部長とシンクロして声を出した俺たちだが、それ以上に驚愕していた男がいた。

 

「なん・・・だ・・・と?」

 

 イッセーが、目を見開いて驚愕している・・・。

 

「和平=戦争なしだ。この場合は種の存続と繁栄のため、毎日子作りし放題だ。戦争なら子作りはなし。どうだ、分かりやすいだろ?」

 

「和平! 和平一つでお願いします!! 部長とエッチしたいでシュグォッ!?」

 

魔王さま(おにいさん)目の前にいるだろうが!?」

 

 脇腹にボディブローを入れて黙らせる。

 

 非常にわかりやすいたとえだったなオイ!!

 

 クソが! この堕天使は本当にトラブルメーカーだな! 俺の最初の予想はしっかりとドンピシャで当たってたよこんちくしょうが!!

 

「お前何考えてんだよこのド阿呆が! ああ、こんなことしている間にテロリストとかが潜入してたらどうするんだよ!! ああもう! 使い魔との視界共有間違えて、旧校舎側の奴とつながっちまったし・・・」

 

 本当に片方の目が使い魔と繋がってしまった。

 

 静かな旧校舎に、遠くに小さく見える悪魔の姿。窓からはローブ姿の女の姿が映り―

 

 ・・・あれ?

 

「・・・部長!? 旧校舎に侵入し―」

 

 瞬間、すべてが止まった。



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テロリスト、襲来です!

停止した感覚は、意外とすぐに戻ってきた。

 

「兵夜!? 大丈夫!?」

 

 心配しているナツミの表情がどアップになり、俺は思わずのけぞる。

 

 こんな時になんだが、こいつも本当に美少女だからな。目の前に顔があったら少し照れるぞ。

 

「お、おう。それで状況は・・・」

 

 ・・・明らかに変化が起きていることが一つあった。

 

 何人ものメンバーが停止している。

 

 小猫ちゃんやアーシア。朱乃さんや会長まで停止している。

 

 ・・・つまりこれは。

 

停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)を利用したテロ行為かよ! クソが!! 完全に失念してた!!」

 

 まさか、制御できていないギャスパーを利用してテロを起こすとは思わなかった。暴発が怖くないのかあいつらは!

 

 うかつだった。完璧に俺のミスだ。

 

 せめて監視網をもっとしっかり張っていれば、もう少し早く気づくことも出来ただろうに・・・!!

 

「敵が一枚上手だったってことだねー。ギャスパーくんを使うとは思わなかったよー」

 

「グレモリー関係者に停止能力者がいたとは・・・。実質、それをテロリストがどうやって知ったのかが気になりますね」

 

 こっちの様子を気にしながら、久遠とベルは外をうかがっている。

 

 ・・・何やら巨大な魔法陣が現れている。

 

 まさかと思うが、アレで学校ごと吹き飛ばすつもりじゃないだろうな!?

 

 だが、その心配を取り除くかのように、小雪の吐き気をこらえるような声が響く。

 

「ファック! 転送用か!!」

 

 あ、いきなり吹き飛ばされるとかはないのか。安心したよ危なかったぁ。

 

 ・・・じゃねえよ! どっちにしてもピンチだろうが!!。

 

 だが、そんな俺の心の絶叫は、魔法陣から現れた物体を見て吹き飛んだ。

 

 ・・・ドラム缶が、いっぱい降りてきた。

 

 ドラム缶のようなボディの一番上には、なんか砲台みたいなものが接続されている。

 

 なにアレ?

 

「アレなんですか? ドラム缶タイプのゴーレムか何かで? つか、円筒型ボ○ル?」

 

 俺の疑問の声にも、首脳陣も首をかしげていた。

 

 そんな疑問に応えてくれたのは、心配を取り除いてくれた小雪の言葉だった。

 

「・・・アタシがいた世界の化学分野で、あんな感じの警備ロボットがいたな。・・・頭にあんなもんはつけてなかったけど」

 

 ・・・なるほど。つまり―

 

「科学技術を利用して似たようなロボットを生産し、それを使ってテロを起こしたということか。よほど構成人員が少ないのか、それとも損失を恐れたのか」

 

 俺はそう結論づける。

 

 まさか単純な科学技術を応用するとは思わなかった。

 

 なにせ、超能力やら気やら魔術やらばっかりだったからな。まさかメカアクションが入ってくるとは思わなかった。

 

「・・・元いた世界のアレの戦闘能力はどれぐらいかね?」

 

「元々警備用だから大したこたーねえよ。・・・設計図もないんだし、さらに脆くなっててもおかしくねーな」

 

 サーゼクスさまの質問に対する答えは一見安心しそうだが、世の中そんなに甘くない。

 

「魔術とかで強化されてたらそれでも厄介だよねー」

 

「同感だね。どう見ても遠距離からちくちく攻撃する仕様だし、切りに行くのも一苦労だ」

 

 久遠の感想にゼノヴィアが同意した。

 

 実際、召喚されたドラム缶はこちらに向かって魔力らしきものをぶっ放すが、防護結界が張ってあるのかびくともしない。

 

「やれやれ。めんどくさいこった」

 

 そう言ってアザゼルが腕をふるうと同時に、ものすごい威力なのがすぐ分かるほどの光が放たれる。

 

 ・・・適当に撃ったにしてはコカビエルの本気クラスにも匹敵しそうなんだが。こいつどんだけだよ。

 

 だが、それはドラム缶の群れの前に展開された壁によって防がれた。

 

「アザゼルの一撃を防ぐとは・・・。どうやら、敵の中に防御に優れた者がいるようですね」

 

「外の軍勢を停止させたことと言い、相当の実力者が手引きしている可能性があります」

 

 大天使ミカエルとグレイフィアさんの言うとおりだ。

 

 最低でもコカビエルクラスはあると考えた方がいいな。

 

 ・・・俺、出番なさそう。

 

「・・・私の可愛いギャスパーを利用してテロだなんて、許せないわね・・・っ」

 

 部長が怒りに震えながら、さらに増えるドラム缶の群れを睨みつける。

 

 その言葉がきっかけになったのか、イッセーが急に動きだした。

 

「え!? ちょ、これっていったい何なんですか!? どういう状況!?」

 

「起きたみたいだな赤龍帝。・・・ま、みての通り絶賛テロ勃発中ってわけだ」

 

 アザゼルがそう言いながら視線を鋭くさせる。

 

 既にドラム缶の数はちょっと数えきれないレベルになってきており、さらにローブ姿の老若男女がより強大な攻撃を放ちまくっている。

 

「ちなみに、ローブの連中は魔法使いだ。悪魔の力を人間が再現できるようにした連中だよ」

 

 解説しながらアザゼルは追加で光をぶっ放すが、防壁が邪魔をしてなかなか数を減らせない。

 

 さらに、転移魔法陣はさらに大量に発動し続けているため非常に厄介だ。

 

 どうやって倒せばいいんだよこいつらは!!

 

「どうするつもりだアザゼル。強化系の神器で強化したのかそれとも魔術によるものなのかは分からないが、今でも出力は増大を続けてるぜこれが。この調子じゃ俺たちだっていつまで持つかわからないな」

 

 フィフスが何やらモニターのようなものを見ながら、そう言ってくる。

 

 ・・・さらに俺たちも停止される可能性があるっていうことは、本気でヤバいな。

 

「ついでに言うと、外側にいる連中も完璧に停止している。・・・警護の意味が全くないなこれが」

 

 そういうとフィフスは肩をすくめた。

 

 このままだとヤバいということか。とにもかくにも・・・。

 

「・・・ギャスパーを救出しないといけないんだよね? どうする? マルショキアスで突っ込もうか?」

 

 ナツミが結論付け、頼もしくも恐ろしいことを言ってくれた。

 

「そんな単純な力押しはやめとけ。外に出てそんなことすりゃ、高確率で集中砲火だし、向こうも対策立ててくるだろ」

 

 アザゼルがそんなナツミを止める。

 

 しかし、このままだと俺達まで停止されるかもしれないという危機的状況なのには変わらない。

 

 どうする?

 

「とりあえずトップ陣の方々は撤退したらどうですかー? 完全停止状態じゃ増援も呼べないし、何かあってから遅いですよー」

 

 久遠の意見は打倒だと思うが、しかしアザゼルは首を横に振った。

 

「それこそ却下だよ転生者の剣豪クン。今の状況でそんなことをすれば、結界の外の人間社会に大きな被害が出ちまうからな。それに、しばらくここで待ってりゃあ、敵の大将が痺れを切らして出てくる可能性もある」

 

「下手に外に出て暴れたら思うつぼだろうしな。ファック! とにかくあのハーフヴァンパイアを何とかしなきゃ話しにならねー」

 

 どこから出したのか拳銃を取り出しつつ、小雪は外を睨みつける。

 

 しかし正体がわかるまであえて待つとは。

 

 さすがは、三つ巴の戦争を生き抜いてきた猛者ぞろいということか。どいつもこいつも度胸がありすぎるだろう。

 

「実質、今は下調べ中で動けないということですね。とはいえ、できる限り早くハーフヴァンパイアの少年を助け出す必要があるということですか・・・」

 

 そう結論づけると、ベルはすこし考えた後大天使ミカエルの方に体を向ける。

 

「・・・ミカエルさま。私が救出活動を行いま―」

 

「却下よベル・アームストロング。ギャスパーは私の下僕。ならば私が助け出すのが筋というものよ」

 

 ベルの言葉を遮って、部長が毅然とした口調で言い切った。

 

 その目はどう考えても説得できそうにないぐらいまっすぐだ。

 

「確かに正論ですが、どうするつもりですか? 外から出れば集中砲火ですし、転移対策ぐらいしてあるのが当たり前でしょう?」

 

 ベルはたしなめるようにそういう。

 

 確かにそうだよなぁ。俺だったら空間転移で直接救出に行くことを想定して相応の対抗策を考えてからテロに移る。

 

「私は瞬間移動能力(テレポーテーション)も持っている複合能力者なので対抗術式の法則外ですが、あなたはどうやって移動するつもりですか?」

 

「旧校舎には未使用の戦車(ルーク)の駒があるわ。キャスリングを使用すれば私だけなら転移は可能よ」

 

 ・・・たしか、チェスのルールの一つで、ルークとキングを入れ替える奴だったな。

 

 そんなことまでできるのか。恐ろしいな悪魔の駒は。

 

 移動手段が確かにあることで、ベルは納得したようだ。態度が軟化するのが見てわかる。

 

「・・・わかりました。では、私が護衛に付きましょう。それで文句はありませんね」

 

「いや、俺が行きます」

 

 イッセーが、一歩前に出た。

 

「ギャスパーは俺の大切な後輩です。なら、俺が、俺たちが助け出す!」

 

 気合十分なイッセーに、ベルは少しの間静かに見つめると頷いた。

 

「良いでしょう。ですが、実質それが可能かどうかが問題ですね。・・・そのあたり、悪魔側の技術で何とかなるのでしょうか?」

 

「グレイフィア。・・・大丈夫かね?」

 

「簡易術式でしか干渉はできませんが、サーゼクスさまの魔力方式を利用すれば一人までなら可能です」

 

 それなら大丈夫か。

 

 まあ、イッセーならここぞというときは何とかするし安心できるだろう。

 

「任せたぜイッセー」

 

「分かってるよ宮白」

 

 俺たちは腕をぶつけ合う。

 

 これで、ギャスパー救出は可能なはずだ。

 

 あとは、救出した後のギャスパーの能力をどうするかだ。こちらの技術で何とか出来ればいいんだが。

 

「決まりだな。・・・赤龍帝、これを持って行け」

 

 アザゼルが、腕輪みたいなものを二つほどイッセーに渡そうとする。

 

 堕天使総督からの贈り物に、イッセーはちょっと怪訝な顔をしている。

 

「・・・これは?」

 

「俺特性の神器制御用のアイテムさ。それをハーフヴァンパイアにつければ、停止世界の邪眼を制御することはできる」

 

 おお! 神器を研究しているだけあってそんな便利アイテムを用意できるのか!

 

 だがなんでこんなところに持ってきてるんだ? 自慢したかったのか? 子供か。

 

「もう一つはヤバくなったらお前がつけろ。一時的にだが擬似禁手の代償になってくれる」

 

「マジで! すっげえ!!」

 

 ホントにすごいな。

 

 むしろ代償を取り戻すぐらいできれば万歳なんだが、さすがにそこまではできないみたいだな。

 

 しかし禁手化させるマジックアイテムまで持っているとは、本当に研究が進んでいるみたいだな。

 

「・・・そんな面倒なことをしなくても、俺が旧校舎ごと吹き飛ばしてしまえば早く済むんじゃないか」

 

 やけに物騒なことを、ヴァーリの奴がほざいてきた。

 

 思いっきり自然な口調で言ってくれるな。こいつこの状況下で喧嘩売ってるのか?

 

 あ、小雪が回し蹴りを叩きこんだ。

 

「何考えてんだこのファック野郎が。和平結ぶんだぞ? この場で戦争起こしたいのか!?」

 

「いい加減退屈なんでな。そろそろ暴れたくて仕方がない」

 

 いや、退屈しのぎにウチの同僚殺そうとしないでくれない?

 

 こいつ和平向きじゃない性格してるな。アザゼルもなんでこいつ連れて来たんだ?

 

「だったら外のドラム缶吹っ飛ばしてろよ。いいデータ収集になるんじゃないか?」

 

 ためいきをつきながらのフィフスの言葉に、ヴァーリは好戦的な笑みを浮かべるとそのまま外に出る。

 

「あ、魔法使い連中は極力避けろ。生かしておいた方がいろいろな意味で有効だ」

 

「了解」

 

 フィフスの要望に答えると、ヴァーリの全身が光に包まれる。

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

 白い輝きをもつ全身を覆う鎧。

 

 白龍皇の禁手か。

 

 ヴァーリは光の軌跡を生みだしながら敵陣真っ只中に突入し、波動弾を放って敵を蹂躙する。

 

 防護障壁は個人の突入まで防ぐような便利な代物ではなかったらしく、相手は完全に圧倒されていた。

 

 円柱が砲撃を放つが、奴の鎧には傷一つつかない。

 

 あれが、イッセーの宿敵となる男の本気か・・・。

 

 俺たちも頑張らないと、あっさりイッセーが倒されることになりかねないな。和平結ぶことが決まって良かった。

 

 そんな超強力な男の大活躍をしり目に、小雪はためいきをついた。

 

「・・・アザゼル。やっぱり、このテロは奴らがやらかしたのか?」

 

 ・・・奴ら?

 

「待って。あなた達、いったい何を知っているの?」

 

「実質隠し事はなしにしましょう。・・・心当たりがあるなら言ってください」

 

 イリナとベルの視線を受けて、小雪は肩をすくめた。

 

「『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィスを頭とした現政権の不満分子が集まったテロ組織の存在を、ウチの副総督が確認してたのさ」

 

「名前を禍の団と書いてカオス・ブリゲートと読む。神滅具(ロンギヌス)持ちも複数確認される、正真正銘の危険分子の集まりさこれが」

 

 アザゼルの言葉をフィフスが引き継ぐ。

 

 そして、その言葉にサーゼクスさま達が戦慄していた。

 

「・・・この世界でも頂点に立つ存在、あのオーフィスがテロリストになるというのか・・・っ!」

 

 以前ヴァーリが言っていたトップの存在か?

 

 サーゼクスさまが戦慄するほどとはちょっと洒落にならないな。いったいどういう連中なんだ?

 

『その通り。オーフィスが禍の団(カオス・ブリゲート)のトップです』

 

 突然、聞きなれない声が会議室に響き渡る。同時に見たことのない魔法陣が展開されるが、これは転移か?

 

「この魔法陣・・・! そうか、今回の黒幕は―!」

 

 舌打ちするサーゼクスさま。知り合いか誰かか?

 

 とはいえ分かることはただ一つ。

 

 今回の下手人、予想通り相当の実力者だ!!

 

「グレイフィア! リアスとイッセーくんを早く飛ばすんだ!!」

 

「分かりました! お嬢様、ご武運を!!」

 

 サーゼクスさまの指示に、グレイフィアさんは即座に反応し二人をすぐに飛ばす。

 

 いやいや待て待て。俺たちはどうなるんだ!?

 

 魔法陣から現れたのは、トップ陣にこそ劣るが強大なオーラを纏った一人の女性。

 

「先代レヴィアタンの末裔、カテレア・レヴィアタン。君が今回の首謀者か」

 

 サーゼクスさまが正面から見据え、カテレアと呼ばれた女悪魔は悠然と微笑む。

 

「ええ。我々は今回の会談とは逆の結論に至りました。・・・魔王と神がいないのなら、この世界を変革するべきだとね」

 

 ・・・いったいどういうことだかさっぱり分からないんだが。

 

『簡単な説明をしますので聞いてください』

 

 脳内に、ベルの声が響いた。

 

 なんだなんだ? 幻聴か!?

 

精神感応能力(テレパス)で、新米の悪魔さんの中に言葉を飛ばしています。・・・途中で割って入るのも何なので、実質私が説明します』

 

 こいつどんだけ超能力使えるんだ!?

 

 だが非常に便利だ。このタイミングで詳しい説明を求めても、空気が読めなさ過ぎて俺が殺される。

 

『先代魔王が死亡した後、悪魔は種の存続に重点をおく側が実力順で新魔王を担ぎあげました。しかし、先代魔王の血をひく者たちを中心として、戦争継続を願う側の悪魔たちと内戦状態に陥ったのです』

 

 やけに和平の流れが速くないかと思ってはいたが、悪魔の間ではとっくの昔に内戦状態になってまでもめていた話題だったってわけか。

 

『その後、旧魔王派は現勢力に追われ、冥界の片隅へと追いやられました。旧魔王の血をひく者たちは、自分達後継者を差し置いて魔王となり、さらには戦争を否定した新世代を憎んでいると聞いています』

 

 それでキレてテロリストに変化したってわけか。

 

 やれやれ。その後悪魔になった側にしてみればいい迷惑以外の何でもないな。

 

 カテレア・レヴィアタンは相当今の自分の立場が我慢ならないのか、セラフォルーさまにまで憎悪の視線を向けている。

 

「オーフィスはあくまで我らが新世界の象徴です。そのシステムは私達が構築する。あなた方はもはや不要なのですよ」

 

 とんでもなくスケールのでかい話になってきた。

 

 世界全土を巻き込んだクーデターってことかよ! 洒落にならないだろ。

 

 サーゼクスさまたちも表情を陰らせている。

 

 最悪なタイミングで悪魔になっちまったなぁ俺も。いったいどうすれば・・・。

 

「言いてーことはそれだけか? このファック年増が!!」

 

 俺の頬を掠めるぐらいの距離で、光の弾丸が通り過ぎてカテレア・レヴィアタンに叩きこまれた。

 

「・・・混血の下級堕天使風情が、何のつもりですか?」

 

 やすやすと防ぎきったカテレアの殺意だらけの視線を受けても、一切ひるまず、こちらも殺意を叩きつけている。

 

 まず間違いなく、この中で一番ブチ切れてやがるぞ・・・!

 

「下級の混血堕天使でもわかるような腐ったことしてるバカが、偉そうにしてんじゃねーよ」

 

 青野小雪が、拳銃片手に目を血走らせていた。

 

 ・・・相当本気だな、オイ。

 

 いろいろと心配な堕天使は以下連中だったが、まさか平和主義的発言をしていたこいつがここまで暴走するとは。

 

 いや、だからこそか。平和そのものともいえる和平を台無しにしようというのだから、怒りに燃えるのも当然だ。

 

「くっくっくっく・・・。おいおい、やると思ったがホントにやってんじゃねえよ小雪」

 

 心底面白そうに、アザゼルが笑い声を洩らし始める。

 

 だが、その視線はまるで父親のような慈愛に充ち溢れた物だった。

 

「真っ先に和平の申し込みを頼みに来た時から面白すぎて部下にしたが、お前も本当にぶれないなぁ」

 

 そういうと、小雪の頭に手をおいて、そのまま力を込めて撫で始める。

 

「ちょ、このファック総督!? アタシは本気でキレてんだぞ!」

 

「そんな薄汚い小娘を直属にするとは。・・・あなたもそれだけの力を持っていながら、今の世界に満足するだけではなくそのザマですか」

 

 怒りを通り越してあきれたのか、殺意が僅かに薄れたカテレアが嘆息する。

 

 そのカテレアに対して、アザゼルは一転して鋭い視線を向ける。

 

「俺の秘蔵っ子をバカにしてんじゃねえよ。少なくともお前よりかははるかにマシだね」

 

 その言葉にカテレアの額に青筋が浮かびかけるが、むしろ面白そうにアザゼルは両手を広げた。

 

「テレビ番組で一番最初に死ぬ連中のセリフをかましたはた迷惑な旧魔王の血族が。そういうのに限ってやたらと強い奴が多くてマジで困るなあ? ま、将来性込なら間違いなく小雪の方が大物になるぜ。・・・命をかけてもいい」

 

「そこまで愚弄するか! いいでしょう・・・ならばその賭け金をどぶに捨ててもらいましょうか!」

 

 一気に激昂したカテレアが、強大な魔力を全身に纏う。

 

 思わず戦闘態勢をとった全員を、アザゼルは手を広げて制した。

 

「手を出すなよお前ら。雑魚は任せたぜ小雪。・・・カテレアは俺が片付ける」

 

 まるで黒真珠のような奇麗な黒翼を広げ、アザゼルも強大なオーラを放ち始める。

 

「・・・・・・・・・降るつもりはないのか、カテレア」

 

 サーゼクスさまが、確認する。

 

 正真正銘の最後通告だろう。カテレアもそれが分かっているのか首を横に振る。

 

「あなたは良い魔王でしたが、最高ではない。・・・私達は新たな魔王と成ります」

 

「そうか。・・・残念だ」

 

 その確認を合図として、二人は窓際の壁を吹き飛ばすと空高く舞い上がる。

 

「終末の怪物の一匹、四大魔王レヴィアタンの末裔。相手にとっちゃぁ及第点だ! さあ、いっちょハルマゲドンとシャレこもうか!!」

 

「望むところです! 死になさい、堕ちた天使の総督よ!!」

 

 次元が違うオーラを纏いながら、頂上存在の戦いが切って落とされた。



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アインツベルンの亡霊

本作重要ポイントがやってきました。いつもより長めなので注意してください。


 

祐斗SIDE

 

 明らかに、次元が違う戦いが目の前で繰り広げられていた。

 

 僕たちは、よくコカビエルを倒すことができたと思う。

 

 これほどの次元違いの実力者の一人が奴のはずなのだ。

 

 ・・・僕たちはどうすればいい?

 

 攻撃を受けるのを覚悟の上で、部長達を援護するために旧校舎に突入するべきか?

 

 それとも、この場で魔王様の護衛に徹するべきなのか?

 

 そう思っていたが、ベル・アームストロングが咳払いをして注目を集めた。

 

「実質、このままだと余波で結界が破壊されかねませんね。外に魔術師たちが漏れても問題ですし、私達は敵の数を減らした方がよさそうです」

 

 戦闘経験豊富な彼女の意見は参考になる。

 

 サーゼクスさま達も同意見なのか、静かに頷いていた。

 

「お願いしますベル。私はサーゼクスやセラフォルーたちと結界を強化しますが、それでもあの戦いでは被害が大きくなるかもしれません」

 

「承知いたしましたミカエルさま。・・・イリナ、行きますよ」

 

「はい! ミカエルさまのため、全力で働かせていただきます!!」

 

 紫藤イリナも、合一化したエクスカリバーを以って頷いた。

 

 ベルの戦闘能力は既に分かり切っているし、紫藤イリナも心強い味方だ。合一化したエクスカリバーの力はこの身をもって知っているし、彼女たちがいてくれるのなら恐れるものはない。

 

「サーゼクスさま。僕たちも行かせていただきます」

 

「ああ、私もリアス・グレモリーの騎士だ。二振りの部長の剣としての実力、魔王様にもみて頂こう」

 

「じゃあ、前衛はダブルナイトに任せて、俺は援護に徹するとするか。・・・警戒はしておかないといけないしな」

 

 僕の言葉にゼノヴィアと宮白くんも頷く。

 

 宮白くんの言葉は少しだけ気になった。・・・内通者の存在について警戒をしているのだろうか?

 

「アザゼルに頼まれたしな。・・・フィフス、お前は解析に協力してろ」

 

「ま、俺はどちらかと言えば後方支援担当だしなこれが。・・・今のところ3割ってところだから、最低でも今までの倍の時間は覚悟しておけ」

 

 青野小雪に返答するフィフス・エリクシルの言葉に気分が引き締まる。

 

 今までの約倍の時間か。

 

 いや、恐れるほどではない。この仲間たちと一緒に戦うというのに、その程度で臆していいわけがない。

 

「そんじゃ、私達も頑張るよー」

 

「うん! 悪い連中かたっぱしから殴っちゃえばいいんだよね? ボク頑張る!!」

 

 桜花さんやナツミちゃんも心強い。

 

 コカビエルとの戦いで二人の力は本当に役に立ってくれた。この戦いでも力になってくれるだろう。

 

「ありがとう。だが、決して戦死してはいけないよ。心してくれたまえ」

 

「ソーナちゃんたちはしっかり守るから安心してね☆」

 

 魔王様二人の言葉を背に、僕たちは駆けだしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 移動砲台と思しき謎の円筒状物体から砲撃が放たれる。魔術師たちは白龍皇の迎撃に意識を傾けていた。

 

 やはり、今の僕たちより禁手状態の白龍皇のほうが脅威と思われているようだ。

 

 今はそれでも構わない。

 

 僕たちがすることに変わりはないのだから!!

 

「とっとと消え失せろファックロボットどもが!!」

 

 青野小雪が二丁拳銃を乱れ撃ち、瞬く間に移動砲台を吹き飛ばしていく。

 

 正直連射速度も考えればかなりのものだ。アザゼル直属というのもうなづける。

 

 しかも、前線で砲台を破壊し続ける僕たちにはかすりもしない。最初は乱れ撃っているのかとも思ったが、あれで正確に狙いをつけているということか。

 

「やれやれ、キリがないな」

 

「そだねー。数ばかり多くて嫌になるよー」

 

 ゼノヴィアが莫大なオーラを放ちながら一撃で多くの砲台を切り捨て、漏らした残りを高速移動で桜花さんが切り捨てていく。

 

 デュランダルのオーラはゼノヴィアでも制御しきれていないのか非常に絶大だ。正直、連携になれていない今の僕じゃ近くにいると巻き込まれるかもしれない。

 

 そんなゼノヴィアに合わせるように残敵掃討を行うとは、桜花さんのポテンシャルはそこが知れない。

 

「イリナ! 後ろはまかせましたよ!」

 

「ええ! 任せて頂戴! たとえ主がおられなくとも、私はミカエルさまの期待にこたえて見せるのよ!!」

 

 上手く合わせるという意味ではベル・アームストロングもなかなかのものだ。

 

 動揺が抜けきっていないのかところどころ隙が見える紫藤イリナを上手く活かしながら戦闘を繰り広げている。

 

 単独でコカビエルを押させることもできるその実力。彼女があの一戦で共に戦ってくれたのは本当にありがたかった。

 

 そして、宮白くんも非常に動きが早かった。

 

 水流を操りすべるように高速移動し、光の槍を確実に一体ずつ叩きつけている。

 

 時々死角からねらってくる砲台もあるのだが、彼は見えているかのように余裕で回避してカウンターの槍を叩きこんでいる。

 

 明らかに一体多数の戦いになれている。前世を含めても命がけの実戦経験はそんなにないそうだが、とてもそうは思えないほどだ。

 

 そんな僕たちの上では、アザゼルとカテレアの激戦が激しさを増していた。

 

 一見してアザゼル有利に進んでいるが、カテレアなかなり食い下がっている。

 

 僕らでは触れただけで吹き飛んでしまいそうな出力の攻撃に、結界が吹き飛んでしまわないかどうか心配になってしまう。

 

 とはいえ、この調子ならば勝算は十分にあるだろう。

 

 護衛の下僕悪魔がいれば話は違っただろうが、彼女たち旧魔王派は悪魔の駒を否定したと聞いている。

 

 そして、白龍皇は僕たちをはるかに上回る勢いで敵をせん滅し続けている。

 

 フィフス・エリクシルの言うことをちゃんと守っているのか、魔術師たちに危害を加える様子はない。できれば僕らが移動砲台、彼が魔術師という構図で殲滅していればより効率よく敵を撃破できただろうが、さすがにそこまで願うのは都合がよすぎか。

 

 今はただ、部長達がギャスパーくんを救出するまで粘ることだけを―

 

「うっわぁ。ホンマ強いな自分ら。ウチは面倒な仕事請け負っちまったかもなぁ」

 

 唐突に、声が響いた。

 

 判断は一瞬。背中に聖魔剣を生みだし、そのままの勢いで投射した。

 

 直後、金属音が鳴り響く。

 

「反応もなかなかやんけ。・・・いいで、いいでアンタら! 面白すぎや!!」

 

 振り返った先にいるのは、ポニーテールの女性が一人。

 

 だが、その手に持っている禍々しいオーラを持った刀が、彼女が敵であることを示している。

 

「・・・テロリストの用心棒か何かかい?」

 

「そやで? ウチはムラマサっちゅう似非関西人や。出身は東京で好物はジャンクフード全般で、趣味は・・・っ!」

 

 そういうと、ムラマサと名乗った女性は僕に向かって切りかかる!

 

 早い! 潜在的な戦闘能力はベルと同等か!

 

「強そうな連中と切り結ぶことや! 禍の団、ルシファーチーム所属でな、そこんとこおぼえといてぇな!!」

 

 武器の質ならこちらが上だが、実力は明らかに向こうが上か!

 

 このままだと押し切られる―っ!!

 

「木場! さがれ!!」

 

 間一髪、横からゼノヴィアがデュランダルを叩きこんでくれたおかげで助かった。

 

 ムラマサは刀でそれを受け止め、しかし勢いに負けて後ろに飛び退った。

 

「きっついなぁオタクら! ただの魔剣創造(ソード・バース)使い相手に、これはやりすぎやろ」

 

 魔剣創造? いや、それはおかしい。

 

 少なくとも僕の場合は、デュランダルの足元にも及ばなかった七分の一のエクスカリバーでやすやす剣を砕かれていた。

 

 それが、デュランダルの直撃を以ってしてもひび一つはいっていないだなんてあり得るのか?

 

「・・・冗談が下手だね。たかがただの魔剣創造でそこまで上質なものが作れるとは思えないね」

 

「ま、まだ禁手はつかっとらんしな。・・・やけど、こんなまねかてできるねんで?」

 

 ゼノヴィアの挑発をさらりと流し、彼女は足元から大量の魔剣を生みだした。

 

 しかし、そこからが違う。

 

 生み出された魔剣はひとりでに宙に浮かぶと、何本かでひと塊りになるように集まっていく。

 

 そして、次の瞬間に()()になった。

 

「「!?」」

 

「ウチの可愛い子供たちや。舐めとると怪我するでほんま!!」

 

 人型の剣はひとりでに動くと、僕らを素早く包囲する。

 

 早い! 油断しているとはいえ僕らが後れをとるとは!

 

 人型の剣その状態から飛び上がり、一斉に僕らに切りかかろうとし―

 

「―させると思っているのですか?」

 

 ―降りる前に不可視の一撃で薙ぎ払われた。

 

 それでも、何体かがその一撃を潜り抜けて襲いかかるが、そこに割って入る一本の紐。

 

 聖なるオーラに充ち溢れているのが僕でもわかる。エクスカリバーの擬態の力か!

 

「ゼノヴィアッ!」

 

 紫藤イリナが、人型の剣を一気に弾き飛ばした。

 

 そのまま、二人は僕たちを援護するように並び立つ。

 

 ・・・たしか、ゼノヴィアと紫藤イリナはけんか別れに近い状態になったと聞く。

 

 さすがに気まずいのか、視線はあわさなかったようだが、それでも仲が良かったのだろう。空気が緩んだ気がした。

 

「・・・なんで、本当のことを言わなかったのよ」

 

「キミがそれを知ったら、きっと立ち直れなくなると思ったんだ」

 

「二人とも、落ち着いてください。その辺はもう少し後にしないと、あちらが退屈してしまいますよ」

 

 ベルは静かにムラマサを睨みつける。

 

「・・・まさか、こんなところで御同輩に会えるとは思いませんでした。実質、合成能力者ですね?」

 

「そういうオタクは複合能力者やね? まさか同郷に会えるとは思わんかったわ」

 

 専門用語か? いや、まさか!

 

「・・・わかりやすく言うと、合成能力者というのは様々な能力を特定のキーワードに合わせた形でのみ発現させる特殊な超能力者のことです。実質、彼女のキーワードは剣と言ったところでしょうか」

 

 静かに構えながら、ベルは正面のムラマサを警戒し続ける。

 

 ムラマサは、それを子供のような笑顔を浮かべながら受け止めていた。

 

「別々に能力を使える複合能力者ほど万能じゃあらへんけどな。・・・やけど、面白いことになってきたわ」

 

 わくわくしている表情で、ムラマサは人型の剣を何体も生み出していく・・・。

 

「超能力をどう使えば、剣を人形に変えることができるんですか?」

 

「あれは剣が変化しているわけではなくて、催眠能力(ヒュプノ)で脳の認識をいじっているだけです」

 

 特に動じることもなく、ベルはムラマサと対峙したままだった。

 

 そして、ムラマサも動揺せずに僕らとにらみ合うが、少し考えた後頭をかきむしって天を仰ぐ。

 

「・・・あ~あかん! やっぱ黙ってるの性にあわんわ! もうバラさんと気がすまへん!!」

 

 なんだ?

 

 今この状況下でテロを起こしておきながら、これ以上何か言うことがあるのか?

 

「どうせそろそろタイミングやし言わせてもらうわ。自分らの中にいる裏切り者やけどな?」

 

 次の瞬間、

 

「・・・一人はヴァーリで、も一人はその相方やった男やねん」

 

 二か所で爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆風と同時に発生したガスに対して、俺は即座にガスマスクを呼び出してそれを防ぐ。

 

 奴が単独で何かするというのなら、高確率で搦め手なのは予想できていた。まさか科学的な手段で仕掛けるとは思わなかったが、催涙ガスとその対策ぐらいは俺も用意していたので正直ラッキーだった。

 

 ガスマスクのゴーグル部分には魔術的な加工を施すことで、ある程度の視界を確保している。

 

 ああ、嫌な予感はしていたんだよ。

 

 奴がああいっていたのにも関わらずのあの発言。それだけで気に留めておくには十分だった。

 

 そして、そのバカが今ポールウェポンらしき得物を振り上げ、素早く振り下ろそうとしている。

 

「やらせるとでも・・・」

 

 素早く鉄製の棒を転送した。

 

 武器を迎撃するだなんてぬるい真似はしない。

 

 狙うは奴の後頭部。一撃で殺すつもりでいく!

 

「・・・思っているのか! フィフス・エリクシル!!」

 

 躊躇することなく振り下ろす!

 

 後ちょっとのところで回避されてしまうが、奴の狙いは何とか避けれた。

 

「・・・無事ですか! セラフォルーさま!!」

 

「ひょ、兵夜ちゃん・・・」

 

 ・・・俺たちとは実力に開きがありすぎるトップ陣が漏れなく戦闘不能になってやがる!!

 

 毒ガス攻撃が通用するのは、悪魔や天使でも変わりないってことか。勉強になったよ。

 

「・・・ちっ! もうちょっとで魔王の首も取れて、組織内での俺の地位も盤石だと思ったんだけどな」

 

 態勢を立て直したフィフスはマスクを着けていない。

 

 術式な何かで無効化しているのか、それとも体質的な理由か? まさかとは思うが既に免疫抗体を摂取しているとかいう可能性もあり得るな。

 

 あの白龍皇と一緒に出てきやがったんだ。実力はそれなりにあるだろうし、油断できる相手じゃない。

 

「一応聞いておくぜ。どうして分かったんだ?」

 

「気になっていたのは、プール帰りのあの時からだ」

 

 ああ、あれは気にするには十分すぎる内容だ。

 

「そもそもコカビエルを回収した時の時点で、お前らは俺達の会話は聞いていなかった。それはつまり、あの詠唱も聞いてなかったことになる」

 

 アレを聞いているといないとでは、この判断にも大きな違いがあるだろう。

 

 なぜなら・・・。

 

「詠唱を聞いているならともかく、なんで聞いてもいなかったお前がアレが増援を呼び出す儀式だなんて分かったんだ?」

 

 そうだ。詠唱そのものは何かを呼び出すかのような響きがあるから聞いているなら誤認もあり得ただろう。

 

 だが、俺が詠唱している内容をこいつは知らない。それじゃあ判断のしようはない。

 

 その状況下でそれを知っているとなれば理由は一つ。魔法陣そのものを知っていることだけだ。

 

 そして、それを知っているのは俺の同郷でかつ魔術師、さらにもう一段階前提条件が必須。

 

「お前の正体は俺と同じ世界の転生者、それも聖杯戦争に関わっていた魔術師としか考えられないんだよ」

 

 ・・・もっと早く、それについて聞いていればまた結果は違ったかもしれない。

 

「聖杯・・・」

 

「・・・戦争?」

 

 サーゼクスさまとグレイフィアさんが、動けない状況下でも聞きなれない言葉に疑念を浮かべる。

 

 だが、それに応える余裕は俺にはなく、フィフスはうっかりしていたのか額に手を当ててためいきをついていた。

 

「いっけねぇなこれが! 懐かしい魔法陣だったからつい漏らしちまった。・・・だが、それだけで警戒する理由にはならねえんじゃねえか?」

 

「魔術師は人の倫理からずれた存在だ。・・・ましてや、聖杯戦争を知っている人間ならなおさらだろう?」

 

 ぬけぬけと言ってくれる。

 

「平和な日本で他人に迷惑をかけること前提で殺し合いをするような連中が、まっとうなわけがないだろうが! 追加でいえば、魔術師なんてもん神秘が秘匿されりゃあなにしても構わないバカが結構いるからな。・・・警戒する分にはおかしくもねえだろ」

 

 その結果がこのテロ行為の協力と、今行っている不意打ちだ。

 

 あと一歩遅れていたら、何人犠牲が出ているか想像もつかないレベルで被害が出ていた。

 

 陣営のトップクラスが殺されるなど、あってはならない事態だからな。

 

 その答えに満足したのか。奴は得物をわきに挟むと拍手しだした。

 

「正解だよ宮白兵夜。・・・俺の前世での名字は、アインツベルンさ」

 

 その言葉に、俺は心底納得がいった。

 

「聖杯戦争を始めた御三家か。そりゃあしってなきゃおかしいわなぁ。・・・目的はなんだ」

 

「魔術師の目的なんて、本来ただ一つだろうが。自分て言ってたろこれが」

 

 ・・・根源への、到達か。

 

 魔術師には、目的のためには手段を選ばないマッドサイエンティストの一面がある。

 

 俺が死ぬころには丸い連中も何人か現れてきたとはいえ、やはり伝統あふれる一族や古い老害連中にはその傾向が強い奴も多いだろう。

 

 ましてや、アインツベルンと言えば歴史ある錬金術の大家。そのために手段を選ばないのはおかしくもなんともない。

 

 だが、それでも・・・!

 

「堕天使の長い寿命があればもっと平和的な方法もあったはずだ! なんでわざわざテロリストに入ってまでリスクを高めた!!」

 

 神秘は秘匿すべしという原則がある以上、アザゼルにも黙って行動する必要があったのかもしれない。

 

 だが、テロリストとしてこんな派手な行動を起こせばそれが台無しになる可能性は当然あっただろう。

 

 そうまでして奴を駆り立てるのはいったいなんだ?

 

「・・・お前は、アザゼルの言っていた言葉の意味を理解できてないな、これが」

 

 どういう意味だ?

 

「俺達の異能が、この世界の法則で再構成されることを見抜いたのは俺だ。そして、その本当の意味はあくまでこの世界の異能として処理されることにこそある。魔術師にとっては、死活問題だ」

 

 この世界の異能として?

 

 魔術がこの世界の異能に変わったところで、それがいったいどんな悪影響を生むというんだ?

 

「まずいいことを教えてやる。この世界の異能として構成された魔術では、神秘を秘匿する必要はない。どれだけ広めようと、出力は個人の資質にのみ左右される」

 

 フィフスはそういうと、得物を異空間へと収納し、大きくその手を広げた。

 

「そして残念なことに、それは魔術と根源を繋ぐラインが切り離されたことを意味するんだよこれがッ!!」

 

 絶望すら混じったその言葉に、ようやく『魔術師』にとってそれが重要なことを理解した。

 

「どれだけ魔術を究めようと、そもそも道がない以上俺たち魔術師は根源へとたどり着くことはできない!! お前ら魔術使いには一生理解できない悩みだろうなこれが!!」

 

 そういうフィフスの目は血走っており、既に常軌を逸している。

 

「ハーフ堕天使という極大の寿命に、家系(アインツベルン)ではなく俺個人での根源到達の希望を見た俺が、その事実に気づいてどれだけ絶望したと思っている!!」

 

 口角から泡が出るほどの勢いでまくしたてるフィフスの姿に、俺は自分でも驚くぐらいなにも感じていなかった。

 

 それほどまでに、俺は根源などに一切の興味がない魔術使いなのだということを自覚する。

 

 だが、次の言葉はそんな感慨すら吹き飛ばすものだった。

 

「俺の頭で思いついた方法は一つだけだ。・・・聖杯戦争だよ」

 

 聖杯戦争。

 

 俺が呼び出そうとした英霊を使った、七組の主従による殺し合い。

 

 かの聖杯の名を冠す願望機を奪い合う、欲望にあふれた殺し合いだ。

 

 だが、その本性は・・・。

 

「そのために、餌に釣られた七人の英霊を生贄にしようってのか、この根源フェチが!!」

 

 ああそうだ。なにを言っているんだ俺は。

 

 そういう連中なのが魔術師だろう・・・魔術師(メイガス)だろう!

 

「・・・生贄とは、どういうことですか」

 

「文字通りの意味ですよ、大天使ミカエル」

 

 そう、聖杯戦争というお題目に隠された、致命的なまでに魔術師の血ぬられた側面を表すあの儀式。

 

 利用した俺が言うことでもないが、心底吐き気がする!

 

「呼び出された英霊は消え去る際、無色の魔力の塊となって世界の外側にある英霊の座という場所へと帰る。・・・この無色の魔力を六人分集めると、世界の内側においてに限り、方向性を与えることで過程無視して結果だけ叶える願望機としての特性を作り出せるのところから、聖杯の名が付けられました」

 

「・・・そして、その本質は七人分集めてチャージショットすることにより、世界に人が一人だけ通れる分だけの穴をあけることで、世界の外にある根源の渦へとたどり着くためのトンネル掘削機なんだなこれが」

 

 俺の言葉をフィフスが引き継ぐ。

 

 それはまるで、親の自慢をする子供の表情だった。

 

「それがどうした? 確かに人格も再現されているが、所詮は本体から切り離された分身にすぎないのが聖杯戦争で呼び出される英霊だ。たかが本人の形をした人形風情を、燃料にすることに罪悪感を抱いてどうするんだこれが?」

 

 冷血で酷薄な魔術師(メイガス)らしい発想だろう。古き良き魔術師だなんて、その多くはそれ以外をしゃべる家畜程度にしか考えていない。

 

 あまりの事実に絶句しているのが、見なくてもわかる。

 

 フィフスも、それが絶句されることなのは分かっているのかそれを不思議がったりはしなかった。

 

「まあ、アザゼルは絶対に否定するだろう。おそらくは、大半の大勢側もそれを実行に移しはしない。それは成功した魔術師にしか恩恵を与えないからな。あいつらはそんなことのために殺し合いを起こしたりはしないだろう」

 

 奴の独白は当然のことだ。

 

 少なくとも、アザゼルがそれを認めないのは俺でもわかった。

 

「・・・だが、テロリストならそれをするということか?」

 

 サーゼクスさまの言葉に、奴は堂々とうなづいた。

 

「最初はアンタ達に対抗する戦力として使い、それが落ち着いたら願望機として使うために殺し合う。あいつらは根源に興味ないからサーヴァントも願いがかなうので無問題だこれが。・・・まあ、この世界の圧倒的な質を前にすれば全人類絶滅とか全人類洗脳とかは出力が足りなくてできないだろうがなこれが」

 

 その言葉に少し安心した。

 

 最悪、それを奪い合って殺し合いをした後、勝者が勝手に世界の行く末を決定する可能性もあったからだ。

 

 だが、そうだとしても危険すぎる代物が奴の手にあることに変わりはない。

 

「しっかし、御三家にしか伝わっていない情報をお前が知っているとは驚きだなぁこれが。関係者か何か?」

 

「ご先祖様に遠坂家がからんでいて、その縁で第二次聖杯戦争に参加してたからな。おかげで情報が残ってたよザ・根源追及者」

 

 古いうえにボロボロの書物だから、興味本位で見た俺ぐらいした知っているやつはいないだろう。

 

 そのせいで、こいつの悪辣さが嫌というほどわかったのが残念だがな!

 

「・・・まあ、このタイミングで切らなきゃこのガスも使えなかったしいろいろな意味で結果オーライだな、これが」

 

 そう言いながら奴は構える。

 

 どうやら会話はおしまいのようだ。

 

 白龍皇とチームを組む男に勝てるとも思っちゃいないが、まさかここまで大打撃を与えるとも思ってなかったので仕方がない。

 

 なんとしても、サーゼクスさまたちが復帰するまでは持ちこたえる。

 

「来いよザ・メイガス。お前の相手はこの俺だ」

 

「やってやるよこれが。俺のデビューには丁度いい相手―」

 

「・・・あーなるほど。そーいうことかよ」

 

 風が、吹き荒れた。

 

 それは毒ガスを一瞬で吹き流し、会議室に戦場の空気を流しこんだ。

 

 そして、それを生みだした女はフィフスに銃を突きつけていた。

 

「これでも付き合い長かったから、結構信頼してたんだぜ、ファック!」

 

「悪いな小雪。俺は目的のためなら手段は選ばない。興味がない奴とだって一見仲良くやってのけるんだな、これが」

 

 銃を突きつけられても、フィフスは動じることはない。

 

 泣き出しそうな顔で銃を構える小雪に対し、フィフスはどこまでも平然としてた。

 

「そう、だからこの程度の搦め手は躊躇なくできる!」

 

 瞬間、空中に丸い物体が現れた。

 

 おい、これ映画で見たことあるような・・・。

 

「・・・手榴弾!?」

 

「ファック!?」

 

 俺と小雪が動揺した次の瞬間―

 

 それは、爆発した。

 




ついに本格的な敵キャラが二人参入。

転生者祭りはここからが本番です!


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後輩、助けます!

感想はフィフスの正体に注目が集まっているようでなによりです。

・・・・・・単独で首脳陣軒並み戦闘不能にした手腕も見てほしかった・・・(涙


 

イッセーSIDE

 

 ・・・なんかどたばたしていたが、転移には成功した。

 

 目がなれた瞬間には、俺達の前にはローブ姿の見るからに魔女っぽい姿と、やけにあやしい雰囲気の男が一人。

 

 そして、ギャスパーはその真ん中あたりで椅子にくくりつけられていた。

 

 おおおおおい! なんで敵のまん前なの!? 

 

 できればもうちょっと心の準備的な余裕がある場所に移動してほしかったです!

 

「バカな!? 悪魔だと!!」

 

「どうやって転移した!?」

 

 動揺する魔女たちをしり目に、よくわからない男は俺たちを観察するみたいないやな視線を向けてくる。

 

「転移は封じたつもりだったが、やはり何らかの対抗手段はあるということか」

 

 辞書ぐらいの分厚い本を読んでいたその男は、本を閉じると、静かに立ちあがった。

 

「まあ、ここはありきたりなセリフを言わせてもらうよ。・・・人質の命が惜しければ動かないように」

 

 そういうと、男はナイフを取り出して、ギャスパーに突きつけた。

 

 あの野郎! 俺の後輩になにしやがる。

 

 だけど、ギャスパーが人質にとられていては俺たちもうかつに動けないし、どうすりゃいいんだ!

 

「まあ、僕らとしてもこの子の命を奪うと後がややこしいので避けたいが、それでも腕一本ぐらいは平気に切り落とせるよ? わかったら動かないように―」

 

「・・・殺してください」

 

 男の言葉を遮って、ギャスパーの涙まじりの声が届いた。

 

「もういやです。このままじゃ皆大変なことになっちゃう・・・。僕は、死んだ方がいいんです」

 

「バカなことは言わないで。私はあなたを見捨てたりなんてしないわ」

 

 涙をぽろぽろ流すギャスパーに部長はほほ笑むが、それを見た男がゆっくりと頭を横に振った。

 

「感動的な場面と言えばいいのだろうが、僕が言う言葉じゃないけどこの子の言うとおりだよ。・・・この状況下、この子を殺すだけであらゆる問題が解決すると思うけどね?」

 

 なんて奴だ!

 

 部長がせっかくギャスパーを励ましてるって言うのに! このクソ野郎が!

 

「うっせえ! 俺たちはギャスパーを助けてお前らをぶっ飛ばすって決まってんだよ! とっととギャスパーを離しやがれ!!」

 

 俺は部長の前にでて睨みつける。

 

 それを、男は真正面から受け止めた。

 

「まっすぐないい表情だ。君みたいな少年は好感が持てるが・・・状況はこっちが有利だよ?」

 

 全く動揺していない男は、平然ととんでもないことを告げた。

 

「今頃、フィフスが秘密兵器を使って魔王や大天使を無力化しているころだろう。・・・はたして、この場を切り抜けたとしても勝ち目があるのかね」

 

 ・・・とんでもないことを言わなかったか?

 

「フィフス・・・。フィフス・エリクシルのこと!? あの男が内通者だったということなのね!」

 

「彼の本質を見抜けなかったアザゼルの落ち度だ。・・・確か、この会談終了後に対抗策ごと渡す予定だった対悪魔・天使用鎮圧ガスを改良して使用するそうだよ?」

 

 なんだって!?

 

 そんな物騒なもん持ちこんでやがるのかよあいつら!?

 

 あの野郎! 裏切り者の上にとんでもないことたくらんでやがったのか!!

 

 驚く俺達の姿に、魔女たちは嘲笑っているが男は無表情だ。

 

「情愛が深いのも考えものだな。それがわかっても人質がいる以上うかつに動けず、かといって見捨てるという選択肢がないのは問題だよ」

 

 冷静に、俺たちが負けると言わんばかりのその言葉。

 

 ああ、確かにヤバい事態なのは俺でもわかる。

 

 だが、俺はつい笑い声を洩らしそうになった。

 

 それに気付いたのか、男の表情が少しだけ変化した。

 

「・・・どうかしたのかね? いくらなんでも、気がふれるにしては早すぎると思うが?」

 

「いや、こんな時になんだけど、俺ってやつは本当にあいつのことを信じてると思ってな」

 

 ああ、俺は本当に簡単なことに思いいたっていた。

 

「俺の親友はこういうとき本当に活躍するからよ! もしかしたらなんとかしてそうだと思うとあんまし慌てられないんだよ」

 

「それはまあ構わないよ。・・・ただし、この状況をどうにかできない時点で詰んでるんだけどね」

 

 男はためらうことなくナイフを突き付けたままだ。

 

 ・・・さぁて、どうしたもんかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・無傷?

 

 確かに手榴弾が爆発し、俺は対応できなかったはずなんだが・・・。

 

「大丈夫かね?」

 

 サーゼクスさまの声が聞こえ、俺は首をそちらに向けた。

 

 サーゼクスさまは手を突き出しており、そこから俺では出せないほどの魔力があふれている。

 

「かろうじて結界が間にあった。大丈夫なようで何よりだ」

 

「いや、自分の身を心配してください。顔色真っ青ですよ」

 

 ガスがなくなったおかげでよくわかるが、ものすごい顔色だ。

 

 まさか白龍皇の同僚だったとはいえ、単独でこれだけの首脳陣をここまで追い込むとは・・・。

 

 奴は危険だ。ここで倒せるならなんとしても倒す。

 

「あの少女は既に外で戦闘を行っている。・・・私達はまだ戦闘を行える状況ではない。済まないが、頼んでいいかね」

 

「もちろんです! とにかくサーゼクスさまたちは休んでいてください」

 

 俺は会議室を飛び出しながら、ガスマスクを引っぺがす。

 

 外で大暴れする分なら水流を使った高速移動でガスの範囲から逃れればいい。

 

 なら、視界を狭めるガスマスクは余計なひと手間になる。

 

 今は小雪の援護とフィフスの始末だ!

 

「フィフス・エリクシルッ!」

 

 叫びながら光の槍を生みだし、奴の姿を探す。

 

 ・・・いた。

 

 既にフィフスは小雪の銃撃にさらされながらも、拳で器用に迎撃していた。

 

 その拳には籠手が装着されており、多少削れながらも光の弾丸を防いでいた。

 

 錬金術で強化しているようだな。・・・さすがに戦闘準備ぐらいはしてから来てるか。

 

「このファック野郎が! さっさとぶちのめして軍法会議にかけてやる!!」

 

 既に手に持っているのは拳銃じゃなくてサブマシンガン。威力は低下しているようだがその分数がすごいことになっている。

 

 だが、それでもしのいでいる。

 

「あまりなめないでもらいたいなこれが!」

 

 一見すると不利なように見えるが、それでもしのいでいることは確かだ。

 

 ・・・そろそろ俺も参加するか。

 

「援護するぜ青野小雪!」

 

 射線上に小雪が入らないように援護射撃。

 

 フィフスはそれに気付いたのか後退するが、さすがにそこまでしている状況下でこれ以上の戦闘はきついはずだ。

 

「アインツベルンは戦下手で有名。・・・それがここまでやれるのは驚きだな。警戒はしておく必要があるか」

 

 ・・・とりあえず、同志討ちを避けるためにも接近戦は避けるとしようか。

 

「ファック! 別に来てくれなんてたのんでねーよ」

 

「あいにくそうもいかなくてな。とりあえず落ち着けファック中毒」

 

 これで状況は二対一。後はどうやって片付けるかだな。

 

 だが、フィフスは決して動じなかった。

 

「なかなか面白いことを考えてくれるようだが、お前らちょっとなめすぎだなこれが」

 

 奴はそういうと、両手を鳴らしながら腰を深く落とす。

 

「アインツベルンは戦下手。聖杯戦争において、そのセンスのなさはもはや致命的と言ってもいい」

 

 それについては聞いている。

 

「最強戦力をかき集めることにこだわって、それが成功するかとか、そもそもどう運用するかという視点が致命的に欠けているから、いい線行くことはあっても最終的な勝利からは遠かったんだこれが」

 

 それは自嘲かそれとも自虐か。

 

 だが、少なくとも隙はなかった。

 

「そんな状況下で単独で聖杯戦争を起こし、自分が勝ち上がるにはどうすればいいと思うよ?」

 

 奴は拳を構え直すと―

 

「・・・手段を選ばず、強さを求めることさ」

 

 ―一瞬で俺の懐に潜り込んだ!?

 

 早い! 水流で防壁・・・間にあわない―ッ!?

 

「こんな風になぁ!!」

 

 魔術礼装による防御が発動したが、それでも効果はあまりなかった。

 

 気付いた時には、俺は思いっきり吹き飛ばされていた。

 

「ガ―ッ!?」

 

 なんだこの威力!? 礼装がなければ一撃で戦闘不能もあり得るぞ!!

 

「とりあえず、体術は一通り習得した。体力が付くと無理もしやすいし、何よりリフレッシュできるからむしろ研究も進んだなこれが」

 

 首を鳴らしながら、面白そうに自分を評価している。

 

 ちょっと待て、俺も体術は相当に鍛えてきたぞ・・・? 悪魔化した状態でろくに動きが見えないって、どういう速さだ!?

 

「宮白兵夜!? ファック! てめえ、そこまで強いなんて聞いてねえぞ!?」

 

「そりゃぁ見せてねえからな。そしてもう一つは強化武装だ!!」

 

 小雪が構えようとしていた銃に、ワイヤーらしきものがからみつく。

 

「・・・アザゼルが作った失敗作の人工神器!? そんなファックな代物でなにする気だ?」

 

「ああ、この人工神器黒金の道(スティール・ロード)は針金を無尽蔵に生み出し続けるだけの、三流通り越して五流の失敗作だ」

 

 人工神器なんてもんをつくっていたことには驚いたが、そんなもん作ってどうするつもりだ?

 

 ・・・まて、針金?

 

「・・・銃を捨てて逃げろ小雪!! 奴は針金を簡易的なホムンクルスに変えるつもりだ!!」

 

「遅いなこれが」

 

 俺が叫ぶよりも僅かに早く、針金が変形して腕の形をとったかと思うと、そのまま銃を奪い取った。

 

 そこに突きだされるフィフスの手には何もないが、明らかに隙ができた小雪は強張る。

 

「・・・お前の神器、引き寄せる門(アポーツ・ゲート)は―」

 

「そう、前もって指定した物体を手元に召喚する」

 

 次の瞬間、握られていたライフルが火を噴いた。

 

 が、それは遅い。

 

「・・・っぶねえ!? 何やらかしてんだ四次元ポケット男!!」

 

 ギリギリセーフ。何とか接近して蹴りで射線をそらすことができた。

 

 とはいえ今の一撃は結構効いた。痛覚を切っているとかばう場所が分からないので出遅れただろうし、かといって痛覚ありではまだ悶絶してる自身がある。

 

 実感を麻痺させる俺だからこそ、ギリギリで間にあった。

 

「打たれ強いな。まあいい、それから忘れていたが、俺は既に禁手状態だ。能力名は引き寄せ送り出す門(アポーツ・テレポーツ・ゲート)。能力はもちろん」

 

 瞬間、フィフスの手元にいくつもの手榴弾が呼び出され―。

 

「呼び出した物体を自在に転移できるってか!?」

 

 とっさに小雪を抱えて高速移動。

 

 まさにそのタイミングで、ありとあらゆる場所に手榴弾が転送された。

 

「お、お前! 離せファック!!」

 

「言ってる場合か! 舌かむぞ!!」

 

 乱れ撃つかのように転移される手榴弾から、全力でジグザグ移動をすることで何とかはなれる。

 

 連続で爆発して炎や破片が襲いかかるが、何とか水流でガードして防ぎきる。

 

 さらに、その煙を貫通して光の槍が襲いかかる。

 

 ちょっと多すぎるぞ!?

 

「頭下げろ!!」

 

 小雪の声に反射的に従うのとほぼ同時に、小雪の手から光の槍が放たれる。

 

 それは明らかに威力の小さなものだったが、軌道をそらすことには成功して何とか回避できた。

 

「いっそふっ飛ばしてくれてもよかったんだけどな、いやマジで」

 

「あー、それは・・・」

 

「残念だがそれは無理だこれが」

 

 煙の中からフィフスが現れる。

 

 針金の腕は四本に増えており、さらにそれらすべてにショットガンが構えられていた。

 

 どんだけ重武装だよ、オイ。

 

「そいつの光力そのものは下級堕天使レベル。腐っても中級レベルの俺相手じゃ勝ち目がない」

 

 下級堕天使?

 

 いや、白龍皇のチームメイトがそれは弱すぎじゃないか? あ、それは中級レベルのフィフスもそうか。

 

「いわゆるスウィッチングバックの強化版ともいえる、人間社会レベルでしか通用しないはずの神器、解放の契約(リベレーター・ギアス)。小雪はそれを利用して威力の底上げしてるのさ」

 

 余裕があるのか、一歩一歩歩いて近づいてくるフィフスは、何がそんなに楽しいのか説明口調のまま俺たちを嘲笑う。

 

「条件を付けることで光力を強化し、銃の種類まで細かく設定することで、用途に応じた光力攻撃を実現。・・・上手く考えたもんだと思うぜ?」

 

 そう言いながら、しかし隙だけは見せずに構えてくる。

 

「舐めてくれるな。そんなに説明するのが楽しいか、解説堕天使」

 

「ああ楽しい! 自分が知ってる情報自慢げに話すのはホント楽しいこれが!!」

 

 ものすごいキラキラした目で答えられたよ。

 

「・・・しかたねえ、イッセーが来るまで何とか頑張るとするか」

 

 何とかイッセーが来てくれれば、こちらとしても逆転の目はある。

 

 なにせギャスパーを救出てきたということなんだ、時間停止の被害は停止されるし、その上戦力は上昇する。

 

 だが、そんな俺を嘲笑うように首を横に振る。

 

「あいにくだが、向こう側には俺のコネで余剰戦力を送っておいた。・・・奴ならちゃんと人質作戦をとるだろうし、不意打ちの一つでやられるほど雑魚じゃねえよ」

 

「ファック! キャスリングも想定範囲内かよ!!」

 

 小雪が舌打ちするのも当然の情報だろう。

 

 だが、おかげで少しわかったことがある。

 

「なるほど分かった。・・・結局、お前ら俺らを舐めてるな?」

 

「・・・あん?」

 

 その言葉に、フィフスは始めて動揺の色を見せた。

 

 ああ、その顔は実に気分がいい。

 

「・・・俺が、その辺の対策を準備してなかったと思ってたのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ギャスパーは返してもらうわ」

 

 謎の男に臆すことなく、部長は毅然と言いきった。

 

「貴様、私たちを無視するな!」

 

「悪魔の分際で・・・!」

 

 魔女たちが睨みつけるが、部長はいにも介さなかった。

 

「その子にはね、これからいっぱい迷惑をかけてもらわなきゃならないのよ」

 

「・・・すまないが、それはいいのかね?」

 

 ツッコミ入れてんじゃねえよ!

 

 今はなぁ、部長がいいこと言っているタイミングなんだよ!!

 

「そうよ。そしてわたしは何度もその子を叱ってあげる。慰めてあげる。・・・決してその子を離しはしないわ!!」

 

「部長・・・部長・・・っ!」

 

 優しさあふれる部長のお言葉に、ギャスパーは感極まって涙を流し始める。

 

 ああ、気持ちはすっげえよくわかる。俺だってこんな状況じゃなければ号泣してたね。

 

「なるほど立派だ。だが、こちらも油断しているわけではないのでね。・・・下手な動きはしないでもらおう」

 

 男は油断せずに、静かにギャスパーにナイフを突き付けたままだ。

 

 ・・・ヤバい。俺でもわかるぐらい隙がない。

 

 ちょっと思いついたことがあるけど、これじゃあどうしようもないし・・・。

 

「・・・じゃあ、これなら?」

 

 突如、下から声が聞こえた。

 

 え? ここ一階だよな!? この下に地下室ってあったっけ?

 

 ・・・その瞬間だった。

 

 ましたから突きあげら得た拳が、男を殴り飛ばした。

 

 あれは、ナツミちゃん!!

 

「兵夜に言われて地下から参上! 使い魔ナツミただいま見参!」

 

 腕をモグラの形にしたナツミちゃんが、地面から飛び上がって俺達を助けてくれた!

 

 宮白の奴が指示したのか! アイツ本当に抜け目がねえ!! 俺たちだけじゃなく保険までしっかりかけてやがったのか!!

 

「・・・なめないでもらおう!!」

 

 男もとっさに対応した。

 

 背中が膨らんだかと思うと、やけに不気味な色の肌をした腕が生えて、ナツミちゃんを殴り飛ばす。

 

 ナツミちゃんもカウンターも叩きこんだが、それでお互いが一気に弾き飛ばされる。

 

「クソ! 動くな貴様ら!!」

 

「私達を忘れてもらっては困る!」

 

 あわてた魔女たちがギャスパーに刃物を突きつけるが、隙だらけだ、怖くない!

 

「アスカロン!」

 

『Blade!』

 

 ブーステッド・ギアからアスカロンの刃を呼び出す。

 

 ほら、一瞬だけどあわてて隙ができる!

 

 俺はアスカロンで腕を切ると、そのまま血を刃につける。

 

 そしてそのままギャスパーの顔ギリギリにまで一気に伸ばした。

 

「ギャスパーァアアアッ! 逃げるな、恐れるな! 怖がるな!! お前も男なら根性見せやがれ!!」

 

 勢いにのっかって、俺の血がギャスパーの口に飛ぶ。

 

 そうさ、アザゼルは言っていた。

 

 ギャスパーの神器を強化するなら、俺の血を飲ませるのが手っ取り早いって!

 

「赤龍帝からのプレゼントだ。ほら、やってみなギャスパー」

 

「・・・ハイ! イッセー先輩!!」

 

 一瞬だった。

 

 気付いた時には、ギャスパーの姿がかき消えていた。

 

 え、これってどういうことだ!?

 

 その瞬間には、俺たちの目の前で蝙蝠が待っていた。

 

 変化したのか、蝙蝠に!

 

『もうあなた達の好きにはさせません! 僕もグレモリー眷属の男です!!』

 

 さらに黒い触手がどこからともなく現れ、魔女たちを一斉に拘束する。

 

 すげえ! これがギャスパーの本気なのか!?

 

 魔女たちは反撃のために魔術の球を放つが、それらはすべて空中で止まっていく。

 

 蝙蝠の視界全てで停止の力が発動してるのか? ギャスパーの能力と停止世界の邪眼の相性が抜群すぎる!!

 

『無駄ですよ。あなた方の動きはすべてみています。それらすべてを僕が止める!!』

 

 蝙蝠の目が一斉に輝き、魔女たちはあっという間に停止していった。

 

『イッセー先輩、トドメです!!』

 

「おうよ! うなれ俺の夢パワー!!」

 

 膨れ上がる俺のポテンシャルが身体能力をあげてくれるのか、あっという間に全ての魔女にタッチする。

 

 魂の赴くままにカッコよくポーズを決めて、最後の仕掛けを発動する。

 

洋服崩壊(ドレス・ブレイク)!」

 

 合図とともに、広がる俺の夢世界!

 

 全裸の女性の見本市だ!!

 

「ひゃっほう!」

 

「やりましたねイッセー先輩!」

 

 いつの間にか人型に戻っていたギャスパーが俺の隣に立っていた。

 

 ・・・やったんだな俺達。まさに無敵の光景が広がっているんだ。

 

 ギャスパーがとめ、俺が脱がす! 宮白と木場の護衛がなかったとはいえ、そこはナツミちゃんがカバーしてくれた!!

 

「ギャスパー、イエーイ!!」

 

「い、イエーイ!」

 

 二人でハイタッチする。

 

 ああ、今俺たちは夢の世界を生みだしたんだ!

 

「そうじゃないでしょ?」

 

 ポカリ。

 

 あう、部長に小突かれちゃいました。世の中上手くいかないものです!

 

「堪能している暇はないわ。早くナツミの援護をしないと!」

 

 ・・・・・・あ、忘れてた。

 

 そうだよ! ナツミちゃんだ!

 

 真下から登場して、一番厄介そうな奴を一人で相手してくれてるんだ!

 

「早く来てぇええええ! マルショキアスはできれば避けたいのぉおおお!!」

 

 悪趣味な色の腕をさばきながら、ナツミちゃんが絶叫を上げる。

 

 おっしゃあ! 今助けに行くぜ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE OUT



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さあ、宣戦布告しよう

 ナツミはそろそろ到着しているだろうか。

 

 そしてそれまで、イッセー達は持ちこたえているだろうか?

 

 そんな風に現実逃避しつつ、俺たちは全力で逃走していた。

 

「ふはははははははは!! 錬金術で一から作り直したこの対悪魔用スラッグ弾。当たれば悪魔は当然、堕天使でもただじゃぁ済まないぜぇ!!!」

 

 高笑いしながらせまってくるフィフスと銃弾から、俺たちは本気で逃げ回っていた。

 

 どれぐらい本気かというと、翼を出して宙に逃れて三次元的なジグザグ軌道をとるぐらいには本気だった。

 

「ファックファックファックファックファックッ!! あの野郎、どんだけ下準備万全にやってんだよ!!」

 

「ちょっと待てマッドメイガス!! お前魔術師だろう!? なに科学技術愛用しすぎてんだ!!」

 

 言い忘れていたが魔術師は基本、科学を毛嫌いしている。

 

 原初の過去へ駆ける魔術の研究と、はるか未来へと走る科学の追及は魔逆の代物だし、そもそも魔術とは科学に追いつかれてしまった神秘のことを指すからだ。

 

「バカめ! 俺は根源到達のためなら手段は選ばん! 科学技術で聖杯戦争勝ち抜けるなら、俺は核爆弾を購入する覚悟すら持ってんだよこれが!!」

 

 俺の挑発をあっさり流して、フィフスは光の槍すら生み出して攻撃を繰り返す。

 

 正直、奴の光の槍も対して強くないのか連射はしてこない。

 

 だが、奴には四丁のショットガンがあり、その乱射がそれをカバーしていた。

 

 しかも、針金の腕はさらに二本増えている。それにより弾切れになったショットガンに弾倉を補給することで、弾切れのすきを突くことも出来なかった。

 

「クソが! あの野郎あそこまで強いだなんて聞いてねえぞ!!」

 

 俺はそう毒づくが、そんなことを言っている場合でもなかった。

 

 カッコつけて介入してこのざまか、俺も大概情けないな!!

 

 決めた! この戦い生き残ったらちょっとトレーニングハードにする!

 

「だーもう! このままだと完全にジリ貧だ! なんかいい手はねーか兵夜!!」

 

「いきなり言われても困るって小雪! そっちこそなんか手はねえのか!?」

 

 畜生! これじゃあ面倒事をなすり合ってるだけだ! 何とかして状況を変えないと!!

 

 銃弾が頬を掠める。

 

 チッ! こうなったら・・・。

 

「駄目もとで接近戦で翻弄するのはどうだ?」

 

「絶対だめだ。あの一撃から見て、体術限定なら神の子を見張る者(グリゴリ)でもトップクラスだぞ! 体術メインの連中でも勝てるかわからないレベルだったぞあれ!!」

 

 つったって遠距離戦じゃヤバいぞアレは!

 

 あ、いつの間にか銃の種類が変わって・・・。

 

「喰らえ! 対戦車ライフル!!」

 

「「ヤバい!?」」

 

 とっさに伏せた直後、前方にあった木が真っ二つにへし折れた。

 

 ちょっと本気でヤバいんだけど!?

 

「さぁて、そろそろこっちもけりをつけようか?」

 

 ・・・想像以上にヤバすぎる。

 

 接近戦では太刀打ち不可能で、遠距離戦でも圧倒的優位。

 

 どうやって倒す? どうやって?

 

「・・・これで、終わり―」

 

「・・・・・ドラゴンショットォオオオオオオオッ!!」

 

 構えたライフルが、横合いから放たれた魔力の塊に吹き飛ばされた。

 

 この声、イッセーか!!

 

「イッセー!」

 

「宮白! 逃げろそっち行った!!」

 

 俺の歓喜を邪魔するかのようなイッセーの言葉の内容に、俺は初めてそれがフィフスを狙ったものじゃないことに気づく。

 

 明らかに不健康そうな男が一人、背中から腕を生やしてイッセー達から先行する形で走ってきていた。

 

「済まないフィフスくん! ハーフヴァンパイアは奪われたよ!!」

 

「マジかよ!? クソッ! これじゃあ計画の半分以上が頓挫してるぞ!!」

 

 フィフスは舌打ちするが、状況はまだあっちの方が有利だ。

 

 首脳陣はアザゼルを除いて軒並み戦闘不能。おかげで転送魔法陣は停止しそうにないからこのままいけば数で押される。

 

 白龍皇がいるから何とか形になっているが、このままだと本気でヤバい。

 

「フィフス・エリクシル。私の下僕を散々可愛がってくれたようね」

 

「いや、こいつがいなければあなたのお兄さんの首が取れたんで、どっちかって言うと俺が可愛がられた感じかなぁこれが」

 

 フィフスは肩をすくめるが、それだけで部長のオーラが急激に高まるのがわかる。

 

「まさか魔王さまにすら手を出すとはね。万死に値するわ」

 

「たかが魔王風情でそこまで言われてもねえ? 俺は一応、全世界に手を出す男なもんで」

 

 部長の睨みを軽く受け流すフィフス。

 

 実際、それだけの実力があるのは既に分かっている。奴の能力はいろいろな意味で危険すぎるのだ。

 

「・・・まあいいか。今のお前らじゃあ、逆立ちしたって勝ち目はないしな」

 

 ・・・なめられているな。

 

「なめんじゃねえよこの野郎! アザゼルのおかげで少しの間なら俺も禁手になれるんだ! そうすりゃぁお前だって・・・!!」

 

「だから言ってるんだよ。不完全な禁手じゃぁ、同格の完全な禁手に勝てる道理がないだろう?」

 

 ・・・オイ待てお前。

 

 今、こいつなんて言った?

 

 次の瞬間、起きた出来事は大きく分けて二つ。

 

 なんか剣でできた人形と切り結びながら、ベルたちが森を切りわけながらこっちに来たこと。

 

 そしてもう一つは、高速で俺達の目の前に何かが落ちてきたことだ。

 

 土煙が晴れるとそこにできたのはクレーター。そしてそこにいたのは―

 

「やれやれ。小雪以外はそろいもそろって反旗翻しやがったのかよ。ヴァーリにフィフス」

 

 堕天使総督のアザゼルだった。

 

 体そのものには大きなけがはないみたいだが、服はボロボロで激戦なのが見て取れる。

 

「悪いなアザゼル、こっちの方が面白そうなんでな」

 

「そういうことさ。アンタの下じゃあ、俺の悲願は達成できない。テロリストじゃなきゃできないんだよ、これが」

 

 アザゼルを見下ろすのはヴァーリとフィフス。

 

 フィフスだけじゃなく、ヴァーリまで裏切りやがったのか!

 

 さらに、そこにカテレア・レヴィアタンまで降り立った。

 

 ・・・オーラが急激に上昇している? いったい何があった?

 

「和平が決まった瞬間にハーフヴァンパイアの神器を暴走させ、私が直接対峙する。フィフス・エリクシルのアドバイスであなたが動くことは読めてましたから、そこでフィフスがそちらの開発した鎮圧ガスを改良してサーゼクスやミカエルたちを無力化する作戦でした」

 

「・・・で、フィフスが奥の手を使ってあいつらを始末するのが本命だった、と。まあ、その様子じゃそれは失敗したみたいだろうな」

 

 カテレアの言葉に得心が言ったかのようにアザゼルは頷いていた。

 

 ・・・この状況下で余裕だなこいつ。

 

「残念な赤龍帝は最初から度外視だったが、まさかそこの転生者がフィフスを警戒しているのは予想外だったよ。つくづく残念な赤龍帝の友人にするには惜しい」

 

 ヴァーリは俺を称賛しているようだが、イッセーをとことんまでバカにしてくれる。

 

 落ち着け落ち着け。今頭に血を登らせたら本気で俺の命がヤバい。

 

「俺だって一生懸命なんだよ! 人のこと残念残念言ってんじゃねえ! ・・・つーかその姉ちゃん誰だよ。俺に状況を説明してくれ!!」

 

「とりあえず白龍皇とフィフスとその女は敵だ。・・・で、魔王さま達は現在戦闘不能」

 

 イッセーに説明する俺だが、どう考えてもこの状況下はヤバい。

 

 敵陣営が強力すぎる癖に、こっちの戦力で対処できる気がしない。

 

「ヴァーリ! このクソファックドラゴンがいつから裏切った!!」

 

 目を血走らせて小雪が激昂するが、ヴァーリは冷静な様子を崩さない。

 

「コカビエルを連れ帰る途中にオーフィスから直々にオファーを受けてね。まさかフィフスがずっと前からつるんでいたとは思わなかったよ。・・・積極的に調べるのを手伝っていたからな」

 

「この国のことわざで灯台もと暗しってやつだ。・・・調べてる側に入っていれば、どう気をつければいいか手に取るように分かるからな」

 

 フィフスは平然と胸を張る。

 

 こいつ、本気で裏切ることに躊躇がねえ。

 

「・・・俺はお前らに、世界を滅ぼす要因にだけはなるなって言ったはずだがな」

 

「関係ないね。俺は強い奴と戦えればそれでいい」

 

「知ったことか。それで根源に辿り着けるなら安い代償だこれが」

 

 アザゼルの言葉も二人には届かない。

 

 ・・・状況は最悪、か。

 

「彼らの危険性を理解していなかったあなたの落ち度です。・・・正直、あなたらしくもない」

 

 と、カテレアはアザゼルを嘲笑う。

 

 ・・・余裕だな、こいつら。

 

「そうだな。追放された旧魔王の末裔たちが元魔王に牙をむくなんて、別段おかしくもないことだったか」

 

 アザゼルはそう言って肩をすくめる。

 

 まて、今、なんて言った?

 

「実質、達とはどういうことですか!? フィフス・エリクシルはハーフ堕天使ですし・・・まさか!?」

 

 疑念を浮かべたベルが、しかし自分でたどり着いたのか顔を真っ青にさせる。

 

 なんだなんだ? どういうことだ?

 

 ついていけなくなってきた俺に、ヴァーリが自分の胸に手を当てて宣言した。

 

「言ってなかったな。俺の本名は、ヴァーリ・ルシファーというんだ」

 

 ルシファー? ルシファーって・・・あのルシファーか!?

 

「死んだ先代ルシファーのひ孫がこいつなんだよこれが。・・・しかも母親が人間だったおかげで神滅具(ロンギヌス)まで手に入れた頂上存在。チートって言葉を体現してるとは思わねえか?」

 

 フィフスが俺達にそう説明してくるが、ちょっと待て!

 

 それってマジか!?

 

「なあ小雪? それって・・・」

 

「今となっちゃーファックな話だがマジだ。正真正銘、奴は魔王の血を引く神滅具持ちだ!」

 

 あり得ないだろ・・・それ。

 

「バカな・・・神滅具の持ち主が悪魔になったイッセーだってあり得ない存在だぞ。それが・・・旧魔王の子孫だと?」

 

「嘘でしょ・・・。しかもそんなのが堕天使側にいただなんて」

 

 ゼノヴィアとイリナが愕然としている。

 

 神が残した伝説クラスの神器が、二つも堕天使の下にあってはそりゃあショックだろう。

 

「ほんま驚くやろ? うちも始めて知った時は奇跡って言葉はヴァーリにあるもんやと思ったぐらいやしなぁ?」

 

 剣の人形を引き連れてきた女が、そんなことを言いながら姿を現す。

 

 ここにきて増援かよ!

 

「うわー。ちょっとあり得なくないー?」

 

「え、えと・・・すごすぎ?」

 

 あまりの事態にキャパシティをオーバーしたのか、久遠とナツミも茫然としている。

 

 ・・・最近、驚きの事実が多すぎるだろ。

 

「さて、覚悟きめてもらおか? ・・・その首、もらうで?」

 

 日本刀を揺らしながら、女が一歩前に出る。

 

 ・・・話し合いの時間は終わりってわけか。

 

「詰みですね。サーゼクスたちはまだ動けず、残ったものはほとんどが薄汚い転生悪魔。・・・これでは負ける方が難しいというものです」

 

 勝ちを確信したカテレアが、高笑いをしそうな勢いで魔力を放出し始める。

 

「出力の急激な増大・・・。カテレア。お前、オーフィスになにをもらった?」

 

 ・・・アザゼルの読みは鋭いな。

 

 俺でもわかるような急激な出力の増大。何か裏があると考えるほうが自然だろう。

 

「彼には力を授かりました。無限をつかさどるドラゴンの力の一端がある限り、私に負けはありません」

 

「これが終わったら俺も使う予定だぜこれが。ドーピングだろうと何だろうと、強化する必要は必須だしなぁ」

 

 フィフスが懐から黒い蛇のようなものをちらつかせる。

 

 アレが、パワーアップの原因ってわけか。

 

 ヴァーリも勝ちを確信しているのか、少し退屈そうに息を吐いた。

 

「やれやれ。白龍皇が俺のような尋常じゃない生まれにも関わらず、対となる赤龍帝がこれじゃあ涙が出そうだ。早く終わらせよう」

 

「まあ、先祖代々魔と何の関係のない家系の出で、制御できないと判断され殺されるような男だ。仕方がないだろうな」

 

 今まで黙っていた、イッセーに追いかけられた男もそういう。

 

 ・・・こいつら。

 

 フィフスもそれには同感なのか、両手を広げると肩をすくめる。

 

「ま、肩すかしはくらったなこれが。・・・おかげでこのテロは成功しそうだし、相方の方も勘はいいが魔術師としては二流、これなら武装の強力さから見て赤龍帝の方がまだましだ」

 

 そう言ってため息をついてくるが、俺は正直それどころじゃなくなった。

 

 ・・・こいつら、ちょっとふざけんなよ。

 

「まてフィフス。俺としてはその相方の方はなかなか見どころがあると思うんだ。ろくな殺し合いもない世界に生きていて、ここまで戦えるようになったのは評価できるし、気転もきいているだろう?」

 

「ヴァーリ? この程度の二流魔術師を評価するなよ。素質だけなら赤龍帝の籠手の足元にも及ばない。独創的な技の開発と言い、油断ならないのは赤龍帝の方だ」

 

「・・・いや、ヴァーリもフィフスはんもなに言い争いしとるん? まだアザゼル残っとるんやしちょっとそれ舐めすぎとちゃうか?」

 

「気にすることはないムラマサどの。いざとなれば切り札はまだあるし、この程度では危機とは言わんよ。・・・どっちも見るべきところはあると考えるべきではないかね?」

 

「薄汚い転生悪魔になにを期待しているのですか? どちらも所詮は雑魚。それでいいではありませんか」

 

 ・・・さっきから、

 

「「さっきから好き勝手言ってんじゃねえぞこの野郎ども!!」」

 

 本気で俺を怒らせたな!?

 

「「人の親友馬鹿にすんのもいい加減にしやがれ!!」」

 

 堪忍袋の緒が切れた!!

 

「「あいつはな、俺なんかが親友でいいか不安になるぐらいすごい奴なんだよ!!」」

 

 頭に血が上って血管が破れそうだ!

 

「「あんまりふざけたこと言ってるとぶっ飛ばすぞ!!」」

 

 ・・・ん?

 

 さっきからステレオになってるような気がするぞ?

 

 声がする方に視線を向けていると、そこには同じように振り向いたイッセーの姿が。

 

 ・・・・・・・・・・・・。

 

 これって、つまり?

 

「なに同じこと同時に言ってるの!? いまピンチだよ!?」

 

 ナツミのおかげで状況が理解できた。

 

 ・・・こいつ、そんな風に思ってやがったのか。

 

 正直、ずっと不安だった。

 

 一度転生いているというチートを以ってしても、時折劣等感を感じるほどにこいつの人間個人としての資質は好感を持つ。

 

 文字通り一度死んでようやく追いつける自分が、本当にこいつの親友を名乗っていいのか不安になったこともある。

 

 ・・・同じこと、考えてたのか。

 

「「・・・ぷっ」」

 

 やべ、こんな時なのにおかしくなってきた。

 

 ああ、なんか肩の力がいい感じに抜けてきた。

 

「・・・しゃあねえ。ま、いつものことか」

 

「ああ、そうだな」

 

 俺とイッセーは拳をぶつけ合う。

 

 冷静に考えれば、圧倒的実力差のある相手との戦いなんてここ最近連発してるじゃないか。

 

 若手のエースであるライザーとの、圧倒的人数差のレーティングゲーム。

 

 圧倒的実力差のある、コカビエルとの都市防衛戦。

 

 むしろ、回復するまで持ちこたえれば魔王さまたちの援護が見込めるいまは、状況としてはましな方かもしれない。

 

「フィフス。俺は確かに魔術師としても魔術使いとしても二流だ。それは認める」

 

「へえ、自分でもわかってんだなこれが」

 

 ああ、それ認める。

 

 だが・・・。

 

「一流って言うのが人間性の喪失と密接なかかわりがある以上、俺は二流でよかったよ」

 

「・・・へえ」

 

 気配が、変わる。

 

 二流を恥じるのではなく、二流を誇る俺に、フィフスの反応が変化する。

 

「俺は昔から、根源のために家族すら道具としてしか見ない魔術師らしい魔術師って言うのが本当に嫌いだった」

 

 ・・・全身のダメージを再確認。

 

 大丈夫、これなら全力で戦闘しても問題はない。

 

「それでも、それが俺の生活を邪魔しないなら見逃してるような、くだらない男が俺だった」

 

 魔力の量は十分に残っている。

 

 宝石もちゃんと確保している。十分戦闘は可能だ。

 

「だが、それはもう終わりだ」

 

 ・・・俺は、親友に胸を張れるだろうか?

 

 いや、胸を張る俺になるんだ。

 

「お前らが、異世界にまで来てまで根源のために無関係な連中巻き込もうっていうなら、おれは同郷としてそれを止める!!」

 

 実力は向こうの方が上。

 

 重ねて来た年月も、才能も、努力の質も今まで全部上だろう。

 

 それら全部をひっくるめても、俺は戦うことをここに誓う。

 

 それが、兵藤一誠の親友としてあるべき姿だと信じている!!

 

「いま目標ができた! 俺は、バカな同郷がやらかす真似を今後防ぐために全力を尽くす!! 最低でも目の前でやらかしたお前は絶対に、絶対に、絶対に叩きのめすから覚悟しろ!!」

 

 真正面から宣戦布告。

 

 ああ、無謀なのは先刻承知だ。

 

 それでも、それでも、

 

 それでもひざをついてあきらめたりはしない!

 

「たとえ自爆してでもお前は倒す!! 俺の親友をバカにしたお前に、屈することだけはあり得ない!!」

 

 たまには、それぐらいバカやってもいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面白いわね、坊や。・・・決めたわ。あなたの行く末、見届けてあげる」




ついに、ついに、ついに! Fateの肝が登場します!!


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反撃、開始します!

 それは、唐突に響いた。

 

 そして、とても心強くなる声だった。

 

 俺はその声の持ち主を知らないと言っていい。

 

 表情を知らない。

 

 人物を知らない。

 

 力を知らない。

 

 それでも、知っている。

 

 彼女は、俺の味方だと。

 

「・・・アンタ、誰だ?」

 

 振り返ることができず、しかし俺は問いかけた。

 

 後ろで女性の呆れた声が響く。

 

「本当に気付いていなかったの? まあ、あんなダメージを受けていたら背中のそれに気づかなくても仕方がないわね」

 

 ・・・背中のそれ?

 

 俺が背中に手をおくより早く、服がめくれ上がるのが分かった。

 

「あれ? 兵夜刺青してたっけ?」

 

「珍しいですね。赤一色のタトゥーなんて実質見ない気がしますが」

 

 ナツミとベルの声が聞こえ、そして、俺はそれが何なのかを理解した。

 

 それは、英霊を統べる者の証。

 

 それは、上位者である英霊を縛る絶対の条件。

 

 それは、英霊に不可能の言葉を捨てさせる奇跡の文様。

 

 それは、サーヴァントとの契約の印・・・!

 

「令呪・・・だとぉ!?」

 

 フィフスが明らかに狼狽する。

 

 ああ、他の連中はまだよくわかっていないだろう。

 

 だが、俺はそれがどういうものなのかだけは理解できる。

 

「・・・俺は、お前のマスターでいいのか?」

 

 震える声で、後ろにいるであろう存在に訪ねた。

 

「それは違うわ。・・・あなたは、私のマスターなのかと聞くところよ?」

 

 後ろから、そうたしなめる声が聞こえた。

 

「俺は・・・お前を無賃労働させようとしたんだぞ?」

 

「できないと思ってたんでしょう? それに、多くの人のためだなんて英雄らしいじゃない。英霊を呼ぶ男にはふさわしいと思うわよ?」

 

 その言葉は、力強く俺の胸に染みた。

 

「俺は、お前にとって力不足に決まってるぞ」

 

「確かにそうだけど、少なくとも見てるぶんにはあなたみたいなバカは面白いわね。・・・真名を聞きたければ、これからふさわしくなりなさい」

 

 それは、俺に叱咤激励し、同時に優しく背中を押した。

 

 ・・・応えよう。

 

 彼女の力に、応えられる存在になろう。

 

 だから、俺はこの二つの言葉を彼女に贈る。

 

「令呪に命ず。・・・必ず勝利し、その手に聖杯をつかみ、(おの)が大望を果たせ」

 

 無意味なことで使い潰すのではない。これは、信頼から来る俺の激励だ。

 

「重ねて令呪を以って命ずる。・・・決してどのような呪詛を以ってしても、他者からの強制を自分の意思以外で受け入れることを禁ずる」

 

 これは俺からできる彼女への補償。

 

 これで、令呪を以ってしても彼女を無理やり動かすことはできない。正真正銘の俺からできるせめてもの安全保障だ。

 

「・・・最後は、保険として残させてくれ」

 

「そのちょっと情けないところも含めて、なかなかみていて面白そうね」

 

 そんな感想を受けてから、俺は静かに振り返った。

 

 ・・・紫の髪をロングでまとめた、一人の美女。

 

 まるで妙齢の女王のような印象を与える不思議な女性。

 

「・・・最後に言おう。宮白兵夜だ。以後よろしくな、俺の英霊(サーヴァント)

 

「アーチャーよ。これから私を楽しませなさい。その代償としてあなたの杖と成り弓と成りましょう」

 

 ここに、契約は完了した。

 

「召喚に、成功、していただと・・・!?」

 

 その姿に、フィフスは完璧に顔色を失っていた。

 

 おそらく、彼だけが本当の意味でこの存在の脅威を理解しているのだろう。

 

 神秘は、この世界の法則へと変化し、身の丈を変えられる。

 

 二流の魔術使い風情が上級悪魔のエリートを打倒寸前まで追い込めるこの世界。そこに一流の魔術師でも戦闘と呼べる行為ができる可能性が限りなく低い英霊が呼ばれればどうなるか。

 

 正真正銘、正しい意味で理解できるのは一人しかいない。

 

「・・・・ヴァーリィイイイイイ!!! 今、すぐ、そいつ・・・そいつを、吹き飛ばせ!!」

 

「なるほど、面白そうだな。・・・さあ、俺を楽しませてくれるかな?」

 

 泡食ったフィフスに促される形で、興味津々のヴァーリが魔力の塊を放つ。

 

 それはまっすぐアーチャーに飛来し―

 

「―」

 

 聞き取れない、言語が響いた。

 

 そして、魔力弾は霧散した。

 

 魔王の血を引く白龍皇の一撃を一瞬で消し飛ばしたアーチャーにその場にいるものすべてが息をのみ、そしてヴァーリは歓喜に震える。

 

「手加減したつもりはなかったんだがな。これは楽しめそうだ―」

 

「消し飛びなさい」

 

 瞬間、ものすごい太いビームがヴァーリを飲み込んだ。

 

 同時、光翼が全力で光り輝く。

 

『DivideDivideDivideDivideDivideDivid―』

 

 半減の力が立て続けに放たれるが、ビームは僅かに減衰するだけでそのままヴァーリを弾き飛ばす!

 

「俺の半減が通用しない!? 異世界由来の力は効きが悪いが、ここまでとは!」

 

「バカねぇ。あれだけ派手に登場しておいて、私が対策を立ててないと思ったの?」

 

 あからさまに呆れながら、アーチャーは懐から小さなブレスレットを取り出した。

 

「既に対策の礼装は作り出しているわ。・・・製作費と材料を用意するのは大変だったけど、もうあなたの半減は誰でも対処できる代物になり下がったわね」

 

 ・・・いつ、こいつの半減を解析する時間があった!?

 

 あるとすれば、俺が光の槍を叩きこんだあの時だけだ。

 

 たったあれだけの情報で、まがいなりにも対策を取れるとは、これが英霊の本領か!

 

「・・・さて、私のマスターに危害を加えよとした報いは受けてもらうわよ」

 

 アーチャーは態勢を立て直したヴァーリに微笑みすら浮かべ、魔力を全身から込めて・・・。

 

「・・・待ってください」

 

 イッセーが、その肩に手をおいた。

 

「何かしら? 悪いけど、さすがに手加減して勝てる相手じゃないから邪魔しないでくれるかしら」

 

「アーチャーさん。ヴァーリは俺にやらせてください」

 

 イッセー!? なんでこのタイミングに。

 

「俺は赤龍帝ですから。ここで白龍皇に舐められたままじゃ駄目なんです。それじゃあ、俺は宮白に胸を張れない」

 

 その目は決意に充ち溢れていた。

 

「俺は、宮白兵夜の親友として、あの野郎をぶっ飛ばす!!」

 

 莫大な力が湧きあがる。

 

 アザゼルが渡したアイテムが、赤龍帝の力を引き出そうとしているのが良くわかった。

 

「驚いたな。赤龍帝の力が跳ね上がったぞ」

 

 ヴァーリも驚いたのか、戦闘態勢に乱れが生じる。

 

 それに応えたのは、輝き続ける光翼だった。

 

『神器は単純で強い思いを力の糧とする。親友を思う心が引き金になったのだろう。覇をつかさどる龍の持ち主としては意外だが、あれだけまっすぐな思いはドラゴンを扱う資質と言える』

 

「なるほど。そういう意味では俺より奴の方が優れているというわけか」

 

 ヴァーリが静かに戦意を高揚させる。

 

 ・・・できれば、油断してくれた方が良かったんだがな。

 

「うぅ・・・僕は・・・」

 

 その光景をみて、ギャスパーが震えていた。

 

「僕も・・・力になりたい・・・」

 

「だったら、まずは立ちあがりなさい、坊や」

 

 涙を流すギャスパーの肩に、アーチャーが手をおいた。

 

「あなたには力があるわ。大丈夫、その力はあなたのもの。私が手を貸してあげるから、制御するところから始めなさい」

 

 その手がアザゼルが作った制御装置に伸び、そこに魔力が込められる。

 

 それに引っ張られるように、ギャスパーの目に決意が浮かんだ。

 

「僕は・・・僕も・・・男なんだぁああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗SIDE。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その変化は、すぐに分かった。

 

 今まで体を覆っていた感覚が、一斉に取り払われたかのように消え失せる。

 

 覆っていたときは感じていなかったのに、とられた瞬間には爽快感すら感じていた。

 

 この空間に満ちていた力が消えたのか? それはつまり・・・。

 

「ギャスパーくんの時間停止が、解除されたんだねー」

 

「なるほど、確かに男を見せたな、ギャスパー」

 

 桜花さんとゼノヴィアの言うとおりだ。

 

 この学園全体を覆っていた停止の力が完全に消滅した。

 

 アザゼルの作ったアイテムと、アーチャーという女性の力があったとはいえ、暴走状態を自分で抑えることに成功するとは・・・。

 

 ああ、僕も負けてはいられない。

 

「イッセー。・・・止めはしない。俺もこれからムチャやるしな」

 

 宮白くんが、そう言ってイッセーくんの肩をたたいた。

 

「一応、切り札はあるから持ってっとけ。・・・死ぬなよ」

 

「ああ、わかってるよ」

 

 言葉少なく、だけど信頼しているのが良くわかる。

 

 そのまま、イッセーくんは赤い輝きに包まれると、竜をを模した鎧の姿になって飛び上がった。

 

 ・・・ああ、ならば僕たちも動こうか。

 

「・・・僕は剣だ。なら、剣の相手をするのが筋だろうね」

 

「お、割と本気で相手になってくれるんか? そらまたうれしいこっちゃ」

 

 ムラマサが妖刀を片手に切りかかる。

 

 単純な剣の腕前なら、今の僕ではかなわないだろう。

 

 だが、それは屈していい理由にはならない!

 

 そして、そう思っているのは僕だけでもない!!

 

「ゼノヴィア!!」

 

「ああ!!」

 

 聖魔剣で打ち合ったところ、さらにその聖魔剣を後ろから叩くようにデュランダルが叩きつけられる。

 

 互角の力を持っていた合一化したエクスカリバーの擬態の力をあっさりと砕いたデュランダルだ。当然、聖魔剣もすぐに砕けてしまう。

 

 だが、それは今まで以上の衝撃を生みだしていた。

 

 ・・・村正の妖刀が、弾き飛ばされる。

 

 破壊力が上乗せされて、彼女の力をわずかながら上回ったのだ。

 

「ホンマ・・・すごいやんけ!」

 

 その光景に、ムラマサは歓喜していた。

 

 戦いを楽しむ戦闘狂か・・・。

 

 強者との戦いに高揚を感じるのは、戦士としては当然のものだろう。

 

 だが、それも行き過ぎれば害悪となる。僕たちは彼女を反面教師にしなければならない。

 

 彼女はここで止める・・・!

 

「おもろいで・・・おもろいでホンマ! やったらこっちも本気見せたる!!」

 

 ムラマサの全身から強力な力を感じる。

 

 この波動・・・禁手か!

 

「行くで、禁手化(バランス・ブレイク)を―」

 

「だから、させると思ったのかなー?」

 

「実質舐めすぎです。・・・そんな暇は与えませんよ?」

 

 真上から切りかかられ、さらに横合いから蹴り飛ばされた。

 

 桜花さんとベルが連続で攻撃を叩きこんで無理やり禁手を中断させる。

 

「ちょ、おたくらなにするん!? ここは禁手みて驚愕するところやろ!?」

 

「実質、それやられたら苦戦必須なのでさせませんよ。・・・強敵の対処法は先制集中攻撃で叩き潰すことです」

 

「大技出すんだったらあの人形を盾にするべきだよー」

 

 苦情をいうベルをバッサリと切り捨てる二人。

 

 確かに、大技を出す隙を突くのは当然だ。これは反論できない。

 

「ベルさん容赦ないでしょ? この人本当実戦じゃすごい人なんだから」

 

 並び立った紫藤イリナがそう言いながらエクスカリバーを構える。

 

 ああ、これならいける。

 

 対抗策はできた。なら、これだけいるなら戦い用もあるだろう。

 

 僕たちは、決して負けはしない!

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSIDE

 

 ヴァーリに向かって俺は突撃する。

 

 散々人のことを残念残念言ってきやがったこの男、これ以上好き勝手にさせやしない!

 

「アスカロン!」

 

『Blade!!』

 

 アスカロンを呼び出して切りかかる。

 

 もちろん、だからってそれだけに頼りはしない。

 

 蹴りは入れるし右手で殴りもする。頭突きだって踏まえて乱れ撃つ。

 

 いくらドラゴンスレイヤーだって、当たらなけりゃ意味がない。

 

 だったら運よく当たればいいぐらいに考えた方が、攻撃手段が多い分当たる可能性も高いはずだ!!

 

「剣を持つと大概それを中心にするものだが、なるほど、少しは面白い!!」

 

 ヴァーリはそう言いながら全部簡単に裁いてくる。

 

 ・・・やっぱり強いか。だけど!!

 

「ドライグ! アスカロンに力を譲渡だ!」

 

 普通に振るって当たらないなら・・・

 

『Transfer!!』

 

 聖剣のオーラが一気に増大する。

 

「なるほど、これはさすがに強力だな。だが、当たらなければ意味がない!」

 

 ヴァーリは後退して魔力の塊を放とうとする。

 

 だけど、俺の方が早い!!

 

「伸びやがれぇええええええっ!!!」

 

 俺はアスカロンを目いっぱいまで伸ばして、そのまま正面につきだした!

 

 そうさ、普通に振るって当たらないなら、普通じゃない方法で振るえばいい!!

 

 刀身を伸ばせるのはギャスパーに血を与えるときで証明済みだ! ちょっとした遠距離攻撃だぜ!!

 

 そのままアスカロンは魔力弾とすれ違って、切っ先が少しだけどヴァーリを掠める!!

 

 俺も魔力弾をもろにくらっちまったけど、何とか一発目は当たったぞ!!

 

 おお、ヴァーリの奴が少しぐらついた!

 

 そうだ、あいつは悪魔でドラゴンなんだ。龍殺しの聖剣なら効果は二倍じゃないか! 俺と同じだ!

 

「さすがにアスカロンは効くな・・・! だが、伸ばしたままなのは頂けない!!」

 

 ヴァーリはそういうとアスカロンの刀身をつかんだ。

 

 ・・・ヤバい! あいつの神器は触れた相手の力を半減するんだった。

 

 既に掴まれた以上はなれようがない。このままじゃ半減されるのは避けられない。

 

 避けられないなら・・・。

 

『DivideDivideDivide・・・』

 

『BoostBoostBoost・・・』

 

 鳴り響く半減と倍増の発動音。

 

 半減された分だけ俺は無理やり倍増させる。

 

 とりあえず、これで弱体化することだけは何とか避けれたはずだ!

 

『だが相棒、奴は半減で奪った力を己のものとできる、こちらは倍化を続ければ制限時間が減る。このままだとジリ貧だぞ』

 

 ドライグが俺に忠告する。

 

 ヴァーリの背中からは、まるで半減をし続けているからか光の粒子のようなものがまきちらされていた。

 

『いや、あれはキャパシティを超える力を放出しているだけだ。つまり、奴は暴発することなく力を奪い続けられる。このまま奪われた分だけ力を倍加させても意味はないな』

 

 分かってる。このままじゃ俺はあっさり負ける。

 

 あらゆる面でスペックが違うから、無理やり振り払うのも難しいだろう。

 

 だけど、だったら離してもらうようにするだけだ!

 

 この状態でアスカロンを収束!! 引っ張られる勢いで体当たりを叩きこむ!!

 

「うぉおおおおおおおおおお!!」

 

「なるほど! そう来る―」

 

 ヴァーリの奴が言い終わる前に激突する。

 

 激突の衝撃で、俺と奴の兜が砕け散る。

 

 兜の内側のヴァーリの顔は笑っていた。

 

 この野郎、心底この状況を楽しんでやがる!!

 

 いいぜ、だったらそのにやけ面、止めてやるよ!!

 

「なあ、半減と強化の力、お前はどれだけ制御できる?」

 

「なにを・・・」

 

 奴が応えきるより早く、俺は組みついて譲渡を奴に行う。

 

 あいつだって扱える力には限度がある。だったら、その能力を奴が使えれるより強くすれば・・・!

 

『Transfer!!』

 

 |白龍皇の鎧《ディバイン・ディバイディング・スケイルメイル》の宝玉がめちゃくちゃに点灯し、奴の動きが一瞬鈍る。

 

 チャンスは今しかない。

 

 宮白から渡された虎の子を出す。

 

 それは、小さな指みたいな塊が中に入った透明な何かだった。

 

 俺はそれを左腕に持つと、アスカロンの力も込めて叩きつけた。

 

「喰らいやがれぇええええええええ!!!!」

 

 そして、俺の視界は真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 状況が二転三転していて本気で面白いな。

 

 とくに、あのサーヴァントとかいうのは本気で面白い。

 

 フィフスが狼狽するのもわかる。アレはマジで化け物だ。

 

 出力だけなら俺や今のカテレアに次ぐレベルだろう。低く見積もっても最上級悪魔クラスと言ったところか。

 

 赤龍帝や聖魔剣もなんだかんだで頑張っているし、この会談に参加することを決めて本当に良かった。

 

 見どころのある若い連中や、面白いものを見るのは本当にいいもんだ。

 

 こんなことを考えるとは俺も歳かねぇ? ま、いい加減長生きしてるのは事実だけどな。

 

 まあ、それなら俺は年寄りらしいことをするだけだ。つまりは・・・。

 

「若い連中の邪魔になるもんぐらいは片付けとくか」

 

 古い考え方に取りつかれて、そっから先が考えられない旧魔王の血族。オーフィスに借りた力で偉そうにしているあたり、老害って言葉が似合いすぎて笑えるぐらいだ。

 

 丁度いい。いい感じに皮肉がきいた倒し方にもなるし、アレつかって倒してやるかね。

 

「いい加減決着付けようか。若い連中の頑張りをじっくり見たくてたまらねえんだよ」

 

「ご心配なく。あなたを倒したら私自らすぐに倒して差し上げましょう」

 

 カテレアの奴は俺は倒せると踏んでるのか、まだそこまであわててはいないようだ。

 

 まあ、フィフスの奴がアレ使っちまったからなぁ。ほかの奴らはまだ動けねえだろうし、余裕見せるのもまあ分かるか。

 

 和平が結ばれたら意味もなくなるし、抗体セットであいつらに渡すつもりだったんだが、あの野郎覚えてろよ。

 

「丁度いい。お前にいいものを見せてやるよ」

 

 取り出すのは俺のとっておき。

 

「・・・なんですかそれは」

 

「俺の研究の集大成。戦争なんぞよりよっぽど面白い、人造神器だよ」

 

 そして追加で見せてやるよ。せいぜい目玉ひん剥いてて驚きやがれ!

 

禁手化(バランス・ブレイク)!」

 

 そう、これが俺の開発した正真正銘の傑作。

 

 伝説のドラゴン、黄金龍君(ギガンティス・ドラゴン)ファーブニルを封印した、現状作れるなかでは最高クラスの出力を発揮する、正真正銘の俺の奥の手!

 

堕天龍の閃光槍(ダウンフォール・ドラゴン・スピア)の禁手、|堕天龍の鎧《ダウンフォール・ドラゴン・アナザー・アーマー》だ。・・・どうだ、すげえだろ?」

 

 俺の全身を包む黄金の鎧。

 

 ヴァーリのおかげで洒落にならないレベルで研究が進んだからこそできたわけで、封印している者がモノだから爆発的な力を発揮する。

 

 おお、やっぱり驚いてやがるな。

 

「バカな!? フィフスの話ではまだそこまで研究はすすでいなかったはずです!」

 

「あいつも結構研究には関わってたがな。ヴァーリの相方で研究畑じゃない奴が、奥の奥まで知ってるわけがないだろうが」

 

 まあ、それでも相当深いところまで調べてたと思うけどな。

 

 下手をすりゃあ、今回の戦闘データで模造品ぐらいは作れるかもしれねえし、要警戒か。

 

「さぁて、それじゃあ来いよ。相手してやる」

 

「この・・・舐めるなぁあああああ!!!」

 

 カテレアは全力でこっちに突進する。

 

 オーフィスの力を受けているのはだてじゃ無い出力だが・・・今の俺の敵じゃあない。

 

 真正面から弾き飛ばし、逆に一撃を叩きこんでやった。

 

「フ。・・・楽勝」

 

「こ、の舐めるなと、言ったはずです!!」

 

 振り返ると同時に、左腕に触手がまきついた。

 

 触手はカテレアの腕が変化するように現れたもので、いつの間にやらなんか文様が浮かんでいる。

 

 この文様、自爆用か?

 

「この身を以って三大勢力の一角を崩せるなら意味もありましょう! わが命を込めたこの呪術、私が死ねばあなたも死ぬ!!」

 

 なるほどな。

 

 確かに、言うだけの効果を発揮できるほどの術式は込められているだろうな。

 

 俺の力でもこれを解くのは無理だろうが・・・。

 

「いまどきそんな流行らねえもんに付き合う気はねえよ」

 

 槍を出してスパッと一閃。

 

 よし、切れた。

 

「な・・・・自分の腕を切ったですって!?」

 

「お前程度なら腕一本がちょうどいいぐらいさ」

 

 むしろ高いぐらいだ。その分お題はもらってもらうぜ?

 

「そんじゃぁ、あばよ!」

 

 堕天龍の鎧の力を込めた光の一撃、お前さんじゃあ耐えられないだろう?

 

 実際、自分でもやりすぎた出力の光は一瞬で奴を飲み込んでいった。

 

 じゃあな、カテレア。思ったよりてこずったぜ。

 

SIDE OUT



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つかめ、奥の手を

 周りも想像以上の激戦になってきている。

 

 既に停止から解除された三大勢力の護衛部隊が、召喚されていた自動兵器と戦闘を開始している。

 

 ヴァーリはイッセーが食い下がっている。カテレアはアザゼルが吹っ飛ばした。謎の女も木場達が何とか抑え込んでいる。

 

 なら、俺も俺の役目を果たそう。

 

「・・・面倒な真似をしてくれんじゃねえよ。どこまでいけるか試さなけりゃいけないじゃねえか」

 

 フィフスは自身の能力を使い、無人兵器を大量に転送し始める。

 

 どうやら、まだ戦闘を続行する意思はあるようだ。

 

「・・・アーチャー。まずは雑魚を殲滅してくれ。俺は何とか奴を食い止める」

 

「分かったわ。せいぜい頑張って見せなさい、坊や」

 

 アーチャーは魔力弾を全方位にぶっぱなし、瞬く間に無人兵器を殲滅していく。

 

 俺はそれを横目で見てから、静かにフィフスに対して構えをとる。

 

 その隣に、ナツミと小雪が並び立った。

 

「手伝うよ、ご主人」

 

「それやめろって言ってるだろ。後で説教だ」

 

「じゃ、ちゃんと生きてないとね」

 

 ああ、分かってるよ、ナツミ。

 

 いい加減時間もたってるし、さっさと終わらせてゆっくり休もう。

 

「ファックな騒ぎに巻き込んで悪かったな。ファックな元同僚が迷惑かけた」

 

「身内が不祥事起こして大変だったな。・・・ま、組織的にはこっちも同じなんだが」

 

「あーそうだな。とっとと片づけるぞ」

 

 ああ、そうだな小雪。

 

 お互い平和に過ごしたいんだ。こんなバカ騒ぎとっとと終わらせて、和平をさっさと成立させよう。

 

「・・・まあいいさ。とっとと片づけるだけだこれが!」

 

 フィフスはそういうと、ショットガンを投げ捨てて突撃する。

 

 遠距離戦を捨て、接近戦で片付けるつもりか!!

 

「させるかよ!!」

 

 小雪が両手に対戦車ライフルを構えてカウンターを叩きこむ。

 

 上手く引き付けたいいタイミングだ。これなら避けられない!!

 

「なめんじゃねえ! 俺にも切り札の一つぐらいはある!!」

 

 フィフスは槍を呼び出し、カウンターの光力攻撃を真正面から受け止める。

 

 間違いなく最高の一撃だったはずなのに、奴はそれを力技で弾き飛ばした。

 

 何だあの槍は!? 魔王退治に使用した奴と同じ奴か? ・・・ってことは奴の切り札か!

 

「魔槍ガ・ボルグ! まだ連続使用はできないが・・・」

 

 そのまま減速すると、奴は勢いよく槍を振りかぶる。

 

 その呪いが奴自身の腕を傷つけながらも、莫大な破壊力が発生していることを俺に教えてくれた。

 

 あれ、マズくないか?

 

「単発使用なら十分いけるんだよこれがぁ!!!」

 

 ヤバい!

 

 あれ、今まで見た中で一番破壊力がある一撃だぞ!!

 

「任せて!」

 

 ナツミが、その瞬間に前に出た。

 

「サタンソウル・・・マルショキアス!!」

 

 その姿が一瞬で魔人のそれへと変わり、同時にフィフスが槍を投げつける。

 

 ナツミとガ・ボルグは一瞬でぶつかり合い、その直後大爆発と共にお互い弾き飛ばされた!!

 

「ナツミ!?」

 

「行ってよ・・・兵夜!!」

 

 ・・・この、バカ・・・・・・っ!

 

「う・・・ぉおおおおおおおおおお!!!」

 

 強化を全開にし、俺はフィフスへと突進する。

 

 奴は全力投擲と呪いの余波、さらに衝撃によって完全に態勢が崩れている。

 

 近接戦闘能力が非常に高いと言われている以上、このチャンスを突かなければ俺が負ける!!

 

光力最大強化(ブーストアップバースト)!! これで決める!!」

 

 全身から光力をみなぎらせ、一気に接近して光の槍を振りかぶる。

 

 届くか・・・この一撃?

 

「な・・・めるなぁああああ!!!」

 

 体制が崩れたままのフィフスの判断は一瞬だった。

 

 体中から針金が伸びると、そのまま槍の射線上でひと塊りになる。

 

 あっという間に増殖する針金の塊に、光の槍が激突する。

 

 光の槍は針金をぶち抜くが、しかし時間を稼がれ威力を減衰される。

 

「これならいけるんだよ、これがぁ!!」

 

 態勢を立て直したフィフスが、光の槍を生みだして俺の槍を相殺する。

 

「く・・・まだまだぁ!!」

 

 ここであきらめてたまるかよ!

 

 右手に光の槍を生みだし、正面から切りかかる。

 

 奴はそれを籠手を活かして一瞬でいなし、さらに俺に拳を連続で浴びせてくる。

 

 通じない・・・のか!?

 

「フィフスゥウウウウ!!」

 

 横に回り込んだ小雪の一斉射撃で動きが止まるが、フィフスにダメージは入らない。

 

「舐めるなよこれが! 俺はともかく、俺の100年かけた根源への願望を・・・なめるな!!」

 

 全部裁き切ったフィフスは吠える。

 

 ターゲットは完璧に俺だ。

 

 まずは三流魔術使いの俺をしとめようって腹か!

 

 ・・・負けられるか。

 

 イッセーは言ってくれたんだ。

 

 俺のことを親友だと、むしろ自分が親友でいいのか不安だと、言ってくれたんだ。

 

 むしろ俺が言いたくなるほどのことを、同じように考えてくれたんだ。それだけ、俺のことを立派な親友だと思っていてくれたんだ。

 

 それが、そこまで言わさせるようなこの俺が・・・!

 

「ここで・・・終われるかぁ!!」

 

 こんなところで、無様を晒せるか・・・っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祐斗SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮白くん。きみは一体、何を作り上げたんだ?

 

 ムラマサとの戦いはいったん中断されていた。

 

 目の前で、驚愕する事態は起こっているからだ。

 

 イッセーくんの宿敵であり、裏切り者であるヴァーリ・ルシファー。

 

 いま、彼は血を吐いてうずくまっていた。

 

「ヴぁ、ヴァーリ? 無事なんか・・・無事なんか!?」

 

 顔面蒼白のムラマサの声に、ヴァーリは後押しされたのか何とか立ちあがる。

 

「は、はは・・・。やはり俺の予想は当たっていた。あの転生者、本当に恐ろしい・・・!」

 

 血を出し過ぎたのか顔を青くしているヴァーリは、ふるえながらも笑みを浮かべている。

 

「ああ、謝罪しよう兵藤一誠。きみは確かに弱い赤龍帝だが、友人と組めば十分に面白い! 力を譲渡する赤龍帝なら、仲間と共に行動するぐらいでちょうどいい!!」

 

 そういうと、ヴァーリは鎧を修復させて完全に立ちなおった。

 

 あれだけ喰らってまだ戦えるのか! 史上最強の白龍皇の名はだてではないということなのか!

 

「ちっくしょう! もうそのまま倒れてろ・・・よ?」

 

 毒づくイッセーくんの視線が、地面に転がっている白龍皇の鎧の破片に注がれる。

 

 宝玉すら堕ちるほどの損傷だったが、それでも白龍皇は鎧を修復させてしまった。

 

 全身鎧型の禁手は再生能力も恐ろしいということだ。完全に戦闘不能にしなくては、ほとんど砕け散ったとしてもすぐに再生してしまう。

 

 だが、イッセーくんはそれとは別のことを考えているのか、小さな声でブツブツとつぶやいている。

 

「・・・、いけ・・・よし!」

 

 イッセーくんは頷くと、宝玉の一つを手に持った。

 

「何のつもりだ?」

 

 ヴァーリが怪訝そうにする中、イッセーくんはその宝玉を握りつぶす。

 

 同時に、赤龍帝の鎧が無茶苦茶に発光した。

 

「う・・・ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 激痛に襲われているのか、イッセーくんは絶叫を上げて天を仰ぐ。

 

 なんだ? なにが起こっているんだ!?

 

「ヴァーリぃいいいいい! てめえの力、俺がもらったぁあああああああああああ!!!」

 

 そう言い放つイッセーくんの右腕が、赤から白へと変化していく。

 

 そして絶叫を終えたころには、その腕はまるで白龍皇の鎧のように変化していた。

 

「まさか、俺の半減の力を奪ったというのか!?」

 

『正気か!? 我々の力は相反する存在、死んでもおかしくない・・・死ぬのが普通だぞ!?』

 

「マジか・・・? マジでヴァーリの力奪い取ったんか?」

 

 ヴァーリたちはその事実に信じられないものを見るかのように戦慄する。

 

 それについては同感だ。僕も本気で驚いている。

 

 赤龍帝と白龍皇は長い年月を対立し続けていた磁石の対極のような存在だ。

 

 その力を・・・取り込んだというのか!

 

「あーなるほどー。前例があるもんねー」

 

「聖魔剣のようなイレギュラーが自分にも起こせると思ったのですか。実質無謀ですが可能性は確かにありましたね」

 

 桜花さんとベルが僕の方を向いてそう言ってくるが、発想はあったとしても実行に移すようなまねは僕にはできないだろう。

 

 さすがはイッセーくんだ。彼といると、まるで僕まで不可能なことがないかのように思えてしまう。

 

 いるだけでこうも心強くなる存在がいるとは、僕たちは本当に助かっている!

 

「ホンマありえへんわ。・・・フィフスはんの方は優勢にやりおうとるっちゅうに、ホンマこっちはとんでもないことばっかおこっとるなぁ」

 

 その言葉に、僕たちは引き締まる。

 

 宮白くんの方は劣勢なのか・・・!

 

「まあ、ウチらはウチらでそろそろ仕切りなおそか。・・・ウチも楽しみたいし、減らさへんで?」

 

 救援には行けそうにもないな・・・。

 

 宮白くん、無事でいてくれ・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に迫った一撃を受け止めたのは、魔力障壁だった。

 

 何だ一体・・・? まさか・・・!

 

「手がかかる坊やね、ホント」

 

 無人兵器と魔術師たち相手に無双しながら、アーチャーが俺を守ってくれていた。

 

 しかもその手の中には、ガ・ボルグの一撃を相殺して吹っ飛ばされたナツミが抱えられている。

 

 この乱戦状態でそこまでやってのける余裕があるとは、俺のサーヴァントはすさまじい。

 

「・・・そんな奴の味方をするぐらいなら、俺の味方をした方が得だと思うぜ、これが」

 

 フィフスは障壁の様子を確かめるように軽く小突きながら、アーチャーに向かってそう言い放つ。

 

「確かに根源到達のためにサーヴァントは皆犠牲になってもらう必要はあるが、それなりに優雅な生活は保障してやる。・・・三流魔術師に使われて、みじめに負けるよりかはいい生活だと思うがねぇこれが」

 

「くだらないわね」

 

 フィフスの口説き文句を、アーチャーは一蹴した。

 

 さすがに絶句はしてないフィフスだったが、その真横から光の弾丸が再び襲いかかり、フィフスはそれの迎撃に意識をとられる。

 

 それを横目にしながら、アーチャーは言い放った。

 

「私は魔術の心得がある英霊だけれども、だからこそわかるわ。・・・この坊やは、少なくともマスターとして及第点よ」

 

 既に自分の近くの無人兵器をほぼ壊滅させ、戦闘中の護衛部隊の支援にすらはいっているアーチャーは、その自分の砲撃を見ながら微笑すら浮かべる。

 

「ここまで乱射しても戦闘続行可能な魔力量。たかが分身であるサーヴァントに遠慮することができる人間性。・・・しかも、周りには面白い人たちが多くて飽きさせない」

 

 放たれた攻撃をどこからともなく取り出した剣ではじき、さらに続ける。

 

「それだけの人達に期待されるだけのことはあるわ。少なくとも、人のことを使い潰す気しかないあなたなんかよりはよっぽど信頼できる」

 

 光の弾丸をさばき続けるフィフスに指を突きつけ、アーチャーは断言した。

 

「この私の援護まで受けているマスターが、あなた風情に負けるわけがないでしょう!! 行きなさいマスター! あなたは、あなたを信頼する全ての期待にこたえる義務があります!!」

 

 ・・・!!

 

 ハッ。やる気にさせることを言ってくれるじゃねぇか。

 

 そうだ。そうだな。そうだよな。

 

 ここで、こいつごときに躓いている余裕はない。

 

 俺はこれから、根源到達のために手段を選ばぬ魔術師全てを戦わなければならないんだ。

 

 たかが錬金術師一人に、てこずっている場合じゃない・・・!!

 

 右腕の手甲が光り輝く。

 

 ああ、そうだ。

 

 お前もそう思うか。負けたくないと、そう思ってくれるか。

 

 なら大丈夫だ。俺たちは―

 

「決めるぜ、ここで・・・っ!」

 

 どこまでも高みを目指せる―

 

禁手化(バランス・ブレイク)・・・!!」

 

「な、ん、だとぉ!?」

 

 度肝抜かれてんじゃねえよ、フィフス・エリクシル。

 

 それはここからだぜ!!

 

 爆発的に光が強くなり、それが消えるころには手甲は消えていた。

 

 不安はない。それは、より俺の力となったことの証明なんだから。

 

天使の鎧(エンジェル・アームズ)禁手(バランス・ブレイカー)天使の光力回路(エンジェル・サーキット)!! フィフス! 俺はお前をぶちのめす!!!」

 

 さあ、第三ラウンドだ!!

 




ついに兵夜に禁手をゲットさせました!

効果については次回


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グレモリー眷属、逆転です!

 

 全身に力がみなぎっているのが分かる。

 

 ああ、分かるとも。

 

 俺は今、ワンランク上の領域にシフトした。

 

禁手(バランス・ブレイカー)・・・か」

 

 フィフスは鋭くにらみながら、静かに針金の腕を展開した。

 

「何だ、そりゃ。お前、大丈夫なのか?」

 

 小雪は、目の前で禁手にいたった俺が信じられないのか、攻撃の手を止めて茫然としていた。

 

「評価を上げた方がいいわね。よくは分からないけどやるじゃない」

 

 アーチャーが評価してくれるのがこそばゆい。

 

 そして・・・。

 

「ああ、これが禁手か」

 

 俺自身が強くなったのが嬉しくて仕方がない。

 

 ああ、分かってる。分かってるさ。

 

 これはあまりにもイレギュラーだ。今の俺では使い方は一つに絞らなければならないし、当然そんなことをすれば自殺行為も同じだろう。

 

 短期決戦でたたみかける!!

 

「ケリをつけるぞ、フィフス!!」

 

「ああそうだな。・・・お前の死でなこれが!!!」

 

 フィフスは針金の腕と自分の腕全てにショットガンを呼び出して構える。

 

 正面から火力で押し通す気か。

 

 確かに、俺の体ではあの弾丸の直撃は、本来一撃で勝敗を分けてしまうレベルだろう。

 

 それはあいつの弾丸が特別製なだけではなく、俺自身の能力が未だ下級悪魔の領域を出ないからだ。

 

 単純に俺が弱いからであり、屈辱的だがそれは我慢しなければならない。

 

 例え強化の魔術で肉体を強化したとしても、片手で持てるような銃の威力をはるかに超えるあの弾丸をしのぐことなど無理だろう。

 

 そう、普通ならば。

 

「分かってるのか―」

 

 正面から放たれる弾丸に対し、俺が行ったことはたった一つ。

 

 全身からあふれるこの力を、肉体中に流して己を強化し、そのまま突進することのみ!!

 

「俺は禁手化(バランス・ブレイク)してんだよ!!」

 

 本来なら、さっきも言った通り耐えることはできない。

 

 だが、弾丸は俺に直撃するより早く何かに直撃したかのように威力を殺され、そして俺に当たっても傷を負わせるようなことにはならなかった。

 

 防御力を強化したとはいえふつうは無理だ。そう、普通なら。

 

「強化の効率が上がっている!? ・・・いや、これは!?」

 

 どうやらフィフスも気付いたようだ。

 

 俺の体が、淡く発光していることに。

 

「光力を使って強化魔術をかけているのか!? いや、光力が魔力と一体化してるのかよ!?」

 

 正解だ、裏切り者。

 

 俺の禁手、天使の光力回路の仕組みは単純明快。

 

 光力を魔力と一体化させて、双方の仕様で利用できるということだ。

 

 単純に計算しても両方足した分のエネルギー総量になる。密度も濃くなっているので効果も上昇ということだ。挙句の果てに聖魔剣と同じように相乗効果あるため、禁手の名にふさわしい次元違いの力と言える。

 

 今の俺は魔力で強化されているだけでなく、光力が満たされることで攻撃力、頑丈さ共に跳ね上がっている。

 

 いわば全身に攻性の防御結界が張られているようなものだ。

 

 そこで質問だ。

 

 そんな状態でぶん殴れば、どうなる思う?

 

「舐めるな! どんな威力だろうと当たらなきゃ大丈夫なんだよこれが!!」

 

 フィフスは俺の拳を素早くかわす。

 

 いくら出力が高くなっても、それが当たらなければ意味がない。

 

 そして、この禁手には一つの致命的な弱点が存在している。

 

「悪魔の体は光に弱い! 光力そのものを体に浸すその禁手は、禁手そのものじゃなく肉体的な限界があるだろうなこれが!! それがわかってるなら恐れることはないんだよ!!」

 

「分かってんならさっさと喰らえ! 反逆堕天使!!」

 

 ああくそ! 俺も街じゃあそれなりに名の知れた男なんだが、全然かすらねえ!!

 

 籠手だけじゃなく針金の腕をフルに使って裁いてくるから、両手両足使っても一発も直撃しない。

 

 それに、全身が激痛で悲鳴を上げている。

 

 フィフスの言うとおり、体中に悪魔の弱点である光を流し込むこの禁手の強化方法は、必然的に俺自身に大ダメージを与えてくる。

 

 経験を積めば分離させて使用することも、肉体強化以外の方法で光力を使用することも出来るのだろうが、あいにく今の俺にはできそうにない。

 

 今の間隔なら、禁手そのものは1時間だが、肉体の限界は10分も持たない。

 

 それ以前に痛覚の実感を消せる俺じゃなければ、痛みで動けないかダメージで体が付いていけなくなるかの二択しかない。

 

 どうする? ここまで来て負けるのか・・・?

 

 そんなことを考えていたせいか、フィフスが俺の拳を上にかちあげた。

 

 意識はしていたはずなのに・・・!? 武術の一環か!

 

 さらに奴の右手にガ・ボルグが転送され、莫大な魔力をほとばしらせながら、それが降りぬかれる!

 

「終わりだな、これ・・・が!?」

 

 ・・・攻撃が、それた。

 

 顔のすぐ横を通り過ぎた魔槍よりも、その事実に俺は驚いた。

 

 そして気づく。俺の体が、まるで狂風にあおられたかのように傾いていることに。

 

「小・・・雪ィ!!」

 

 大技を外されたフィフスの表情がゆがむ。渾身の力を込めたせいで、態勢を立て直すのに致命的なまでの隙ができるからだ。

 

 ああ、その顔が見たかった!

 

「行け・・・兵夜ぁ!!」

 

 小雪の声にはじかれるように、俺は動いていた。

 

 風に抵抗するように翼を広げ、さらに腕の強化をあらゆる意味で限界以上に跳ねあげる。

 

 光力の影響で肉を焼きながらも、それをフィフスに叩きつけた!

 

「お・・・らぁ!!」

 

 アッパーもどきはフィフスの顔面に突き刺さり、奴を思い切り弾き飛ばす!!

 

 フィフスは受け身も取れずに地面にたたきつけられた。

 

「やったか!?」

 

「いや、まだだ小雪!」

 

 残念だが浅い。

 

 威力そのものが格段に底上げされているとはいえ、肝心のアッパーに腰が入ってない。

 

 まあ、流れはこっちに向いてきたから問題はないが、今度空中戦闘用の格闘術とか研究してみようか。

 

「効いたなこれが。・・・だが、甘いぜ」

 

 やや鈍い動きだが、フィフスはしっかりと立ちあがった。

 

「サーヴァント使わずにここまでできるとは思わなかった。ああ、ちょっと見直したぜ二流野郎!」

 

 ダメージを確認するように頬を撫で、フィフスはファイティングポーズをとる。

 

「ファック! まだやれんのかよ・・・!」

 

 小雪が銃を構えて俺をかばうように前に出る。

 

 まあ確かにまずいな。

 

 ナツミはガ・ボルグが予想以上に効いたのか未だに戦闘不能だし、俺は俺で一撃入れて気が抜けたのか、ダメージで体から力が抜け始めている。

 

 アーチャーがいるから負けることはないとはいえ、試合にゃ勝てるが勝負は負ける感じだろう。

 

 だが、甘い。

 

「マッド・ザ・堕天使、後ろだ」

 

「バカかお前? いくらなんでもその手は食わないぜこれが」

 

 バカな奴だ。本当なのに。

 

「あらあら。よくわかりませんが可愛い後輩と幼馴染をいじめるのは許しませんわよ?」

 

 雷鳴一閃。

 

 驚いた。人って、感電すると本当に骨が透けて見えるんだなぁ。いや、堕天使だけど。

 

「あばばばばばばばばばばばばばばばばば!? ・・・ちょ、なにガハァ!?」

 

「・・・とりあえず殴りましたが、どういう状況ですか宮白先輩」

 

 朱乃さんの雷撃に合わせる形で、小猫ちゃんがフィフスを殴り飛ばしながら俺に質問する。

 

「朱乃! よかった! お前、大丈夫かよ!?」

 

「ちょ、ちょっと!? 小雪、離して!!」

 

 感極まった小雪が朱乃さんに抱きついてしまうが、とりあえずまだ戦闘中だからな?

 

 しかしバカな奴だ。

 

 既に時間停止が解けている以上、グレモリー眷属の援護が来ることぐらい少し考えればわかるだろうに。

 

 既に会長が護衛した状態でアーシアちゃんがナツミの回復も行っている。

 

 うん、勝ったな。

 

「・・・で、フィフスさん? お前この状況下でどうやって勝つ気だ?」

 

 俺は勝者の余裕すら出してそう言ってみた。

 

 ああ、ものすごいいい気分!!

 

「く、クソが。ここまでボコボコにされたのは久しぶりだこれが」

 

 頬をピクピクさせながら、フィフスはそれでも立ちあがった。

 

 そして俺達を見回してためいきをつくと、左手にスイッチのようなものを呼び出した。

 

 すごい嫌な予感がする。

 

「コレ、会議室の真下に設置した高性能爆薬の起爆スイッチな」

 

 ・・・嫌な予感が的中しやがった!!

 

「ブラフですね。・・・それだけの代物を設置させているなら、我々が気づかないはずがありません」

 

「残念だが俺の能力なら一分もあれば余裕だなこれが。・・・はたして、グロッキー状態の今のあいつらが耐えられるかな?」

 

 会長の言葉を叩き切って、フィフスは勝者の表情を浮かべる。

 

 サーヴァントが呼び出されているにもかかわらず戦闘態勢をとっていた理由がコレか!

 

 確かに奴の能力なら、文字通り裸一貫で侵入してでも爆破テロの一つや二つ簡単にできるだろう。ブラフの可能性は低いと言わざるを得ない。

 

「とりあえずそのサーヴァントは始末してもらおうか。・・・一騎でも英霊がそちらにいるっていうのは、こっちとしては非常に面倒なんだ―」

 

「・・・部長の、部長の乳を半分にするだと!? ふざけるなよヴァーリィイイイイイイイイイ!!!」

 

 ものすごい叫びが聞こえてきた。

 

 全く状況が分からない、あさっての方向にぶっ飛んだ怒りの叫びは、俺たち全員の思考を一瞬とはいえ完全に停止させた。

 

「ぶっ倒してやる! ぶっ壊してやる!! ぶっ潰してやるぞこの野郎がぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!!!!」

 

 ・・・続いての叫びで我に返ったのは、俺だけだった。

 

 よくは分からないが、イッセーが乳ネタでブチギレている。

 

 ああ、つまりは―

 

「俺達の勝ちだ、フィフス!!」

 

 幸運なことに、俺がスイッチを奪いとるまで、フィフスは完全にぽかんとしていた。

 

「あ、テメ―」

 

「これは美しい部長のおっぱいのぶん!!」

 

 イッセーがヴァーリを地面にたたきつけると同時に、俺はアッパーをフィフスに叩きこむ。

 

「これは輝かしい朱乃さんのおっぱいのぶん!!」

 

 イッセーがヴァーリの兜を破壊するのと同時に、宙を舞ったフィフスの腹に蹴りを一発。

 

「これは小ぶりだけど神々しいアーシアのおっぱいの分!!」

 

 背中の翼が破壊されるのと同じく、股にひざ蹴り。

 

「これは力強いゼノヴィアのおっぱいの分!!」

 

 ヴァーリが空中に蹴り飛ばされるのに合わせて、頭をつかんで地面にたたきつける。

 

「最後だ! これは、半分にされたら完璧に無くなっちまう、小猫ちゃんのロリおっぱいの分だあああああ!!!!」

 

 ヴァーリとほぼ同じ場所に、フィフスの野郎を蹴り飛ばす!!

 

 その全てが光力によって強化された桁違いの一撃。ああ、俺の出せる全力中の全力だ。

 

「イッセーとの付き合いの長さが勝負を分けたな! 俺のイッセーの突拍子の無さを甘く見るなフィフス・エリクシル!!」

 

「お前いきなり何言ってんだ! そんなことよりおっぱいだ! あんなすばらしいものを全部台無しにしくさるような半分マニア、もう一発殴らないと気が済まない!!」

 

 イッセーが未だに暴走しているが、いったい何があったんだろう。

 

 すっげえ聞きたいが、今はそれどころじゃないから我慢我慢。

 

「お、おっぱいでブチギレてヴァーリをフルボッコだと? なんだそりゃ・・・なんだ、そりゃぁ?」

 

「ゴハァ! は、はは・・・、面白い、面白すぎるぞ赤龍、帝・・・」

 

 俺自身信じられない展開に、驚愕しすぎて前後不覚状態のフィフスに、さすがにダメージが入りすぎたのかろくに動けなくなっているヴァーリ。

 

 ・・・ついでだ。ここでこいつらは始末しておく。

 

「アーチャー! 全力全開で吹き飛ばせ!! 塵も残すな、消滅の二文字を確実に示せ!!!」

 

「え、ちょ、おま!?」

 

 無慈悲すぎる俺の言葉にイッセーが引くが、そんなことを気にしている暇はない。

 

 奴がいなくなれば最強の白龍皇との二天龍対決は阻止できるし、整備ができなくなって聖杯戦争を台無しにすることも出来る。

 

 魔王の血を引く白龍皇と、聖杯戦争を新たに生み出す錬金術師。

 

 どっちも危険すぎて手に負えない。ここで仕留める・・・!

 

「いいでしょう。雑魚ばっかりで退屈だったもの。跡形もなく消滅させるわ」

 

 アーチャーの手元に何重もの魔法陣が集まり、それらすべてが莫大な魔力を放ち始める。

 

 あまりの魔力消費に俺の全身が悲鳴を上げるが、今はそんなことどうでもいい。

 

―――(消し飛びなさい)

 

 一瞬で、莫大な魔力が放たれた。

 

 俺達の視界を真っ白に塗りつぶしたその魔力の奔流は、一直線にフィフス達を飲み込もうとし―

 

「危ない危ない。対魔力を広域展開させるから、がん☆ばれセイバー」

 

「そういうことだ。ちゃんと仕事をしろセイバー」

 

 なんか人生をなめきってるような声と共に、割り込んだ影達が魔力を消滅させた。

 

 何だ一体!?

 

 割り込んだ影は三つ。

 

 一つは不健康そうな男。イッセーがドラゴンショットで吹っ飛ばそうとしていた男だ。

 

 もう一人は全身を年季の入った鎧で包み込んだ剣士が一人。武骨なその剣は、なんというかものすごい強そうなオーラが見える。

 

 そして、もう一人・・・人?

 

「はは☆はは☆はっ! マスターを救出に来たかと思えばこんなド派手な魔術を見ることになるとはおもわなかったよ! 私☆びっくり!」

 

 なんというか、巨大ロボットがいた。

 

 六メートルぐらいはしそうな、巨大ロボットが立っていた。

 

 しかもその脇にはなんか見たことある女性が抱えられている。

 

 あれ、カテレア・レヴィアタンじゃねえか!?

 

「おいおい、カテレアの奴生きてんのかよ? あのタイミングでかっさらうとはやるじゃねえか」

 

 片腕がなくなっているアザゼルが、俺達の後ろからおっとりかたなでやってきた。

 

 おいおい、ここにきてさらに強敵登場かよ?

 

「ヴァーリ! ヴァーリ大丈夫か? 腹痛ないか? 体大丈夫かいな?」

 

『安心しろムラマサ。確かに大ダメージだが、ヴァーリは命に別条はない』

 

 ムラマサがヴァーリを支える中、謎の巨大ロボットはポーズを取り始める。

 

「私は! 超☆天☆才サーヴァントキャスター! 気楽にパラケ☆ラススって呼んでね♪」

 

 巨大ロボットが正体言ったぁああああああああああああああああ!?

 

「そしてこれは私がフィフスくんの技術供給をもとにつくりだした私専用大型自動☆人形型魔術礼装エルリックくんだ? どうだ? カッコイイだろう?」

 

「おお! ロボットだなんてロマンあふれる奴がいるじゃねえか? お前今すぐ投降しろよ! それ解析するからよ!!」

 

 男のロマンあふれるロボット兵器にアザゼルがなんか目を輝かせるが、今はそれどころじゃないんですがね総督さん?

 

「ノン☆ノン! ロボットではなくて自動人形だ! 私は魔術師だからね♪ そこのところよろしく頼むよ?」

 

「いやどうでもいいよ!!」

 

 何だこいつら! 本気でなんだこいつら!! おもわずツッコミいれたけどマジでなにこいつら!?

 

「私の邪魔をしたと思ったらそのふざけた口調・・・。この私をキャスターの座から引きずり落とした報いもまとめて受けてもらおうかしら?」

 

 アーチャーマジギレてるし! どうすんだこれ!?

 

「はっはっは☆っはっは! それは失☆礼! ちなみにカテレア・レヴィアタンが私のマスターさ! そこのセイバーのマスターは、ほら、後ろにいるレイ☆ヴンくんだよ♪」

 

「とんでもないばらし方をしないでくれないかい?」

 

 ロボットの内側から声を張り上げるキャスターによって、下手人の名前が判明した。

 

 セイバーのマスターの名前はレイヴンというのか。

 

 そしてこいつは・・・。

 

「てめえその得物、死霊魔術師(ネクロマンサー)だな?」

 

「ほう? 気づいてくれるとはさすがは同じことができるだけあるね」

 

 レイヴンが片目を開いて俺に視線を送る。

 

 なるほど。イッセーはアレを使ったのか。

 

「ね、ねくろまんさー? なんか物騒な名前だな」

 

「そう驚くことはない。君がヴァーリに使ったあのアイテム、あれは僕ら死霊魔術師の領域だ」

 

 レイヴンがイッセーを指さしてそう答える。

 

 え、言っちゃうの?

 

「状況から推測して、堕天使コカビエルの指を使用して作り出した魔弾ならぬ光力弾というところだろう。材料がすごいとはいえあれだけの代物をつくれるとは道具作りの才能を持った友人を持ったね。コネクションというのは頼れる力だから愛用すると良い」

 

「・・・宮白!? お前何やらかしてるの!?」

 

「ちっ。ばらすんじゃねえよこの野郎」

 

 絶対後で何か言われると思ったから内容は黙ってたのに!

 

 アレでも作るの大変だったんだぞ! マジでいい材料だけど道具がないから宝の持ち腐れだったんだぞ!!

 

「まあ☆いい! 他の連中も壊滅的打撃を受けてるし、今日のところは撤退するよ♪」

 

 ロボットの頭部が開いたかと思うと、何やら鍵のような物体が浮かび上がり、魔法陣が展開される。

 

 現れたのは中国風の衣装に身を包んだ男だった。

 

「おいおいヴァーリ。赤龍帝はまだまだなんじゃなかったのかい? まるで返り討ちにあった男みたいだぜい?」

 

「美侯か。いや、想像以上に面白すぎた。・・・彼の親友君の小細工がなければ、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を使って見せたんだけどね」

 

「アカンってあれは!? んなことしたらヴァーリ大変なことになるやん!? もうちょっと自分、健康に気ぃつかわんかい!!」

 

 何やら和気あいあいとし始める謎の男とヴァーリにムラマサ。

 

 ・・・知り合いか?

 

「アザゼル、アレ誰?」

 

「ああ、闘戦勝仏の末裔だ」

 

 俺の言葉にアザゼルはあっさり答える。

 

 えっと・・・だれ?

 

「ソッコーでわかりやすい名前で言ってやる。孫悟空だよ孫悟空。西遊記有名なクソ猿の子孫だ」

 

 ・・・ちょっと待て。

 

 アレ、仏!?

 

「俺っちは仏になったジジイとは違って、自由気ままに生きるんだぜい? よろしくな赤龍帝とその相方。特に相方くんとは、ドラゴンの相方どうし仲良くしようや」

 

 やけにフレンドリーに言いながら、美侯は手に持った棒を振り回して地面に突き立てる。

 

 その瞬間、黒い闇のようなものが足元に広がり、フィフスたちはそれに呑みこまれていく。

 

「ヴァーリ! この、待ちやが・・・れ?」

 

 イッセーは追おうとしたが、その鎧が解除されてバランスを崩す。

 

 俺はそれを支えようとしたが、力が抜けて地面にへたり込んでしまった。

 

 クソ。発動しすぎたか・・・?

 

「それじゃあ皆! 愉快なテロリストは退☆散するから、戦後処理よろしくね♪ また☆会おうね?」

 

 そうキャスターが締めくくり、フィフス達は消えていった。

 

「覚えとけよこの野郎。お前らは危険すぎるからな、これが」

 

 そう、危険なフィフスの捨て台詞を残して・・・。

 




兵夜の禁手は木場のそれと似通ったスペックにしました。

イメージとしては超サイ○人。もっとも長時間の使用は理論上できない欠陥品ですが。今後の安全運用に期待してください。ガンバレアザえもん!


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親友、カッコイイです!

お久しぶりです。

ちょっと難産で遅れてしまいました。


 激しい戦闘は終わり、今は事後処理に動きまわっている人たちがいまくっていた。

 

 前魔王の血筋がテロを行い、しかも時間停止で警護は全員ろくに動けなかった。

 

 しかも、異世界からの技術を利用した無人兵器が量産されて利用されたというびっくり情報もちだ。これはどう考えても重大な問題になるだろうな。

 

 俺はいろいろとやってられなくなり、酒を転送して飲みながらそれを見つめていた。

 

 今は増援部隊などが校舎を修復したり、残骸や死体を片付けたりと動いていたが、かなり初期から戦闘をしていた俺たちは休息を与えられていた。

 

 ちなみに、無人兵器は戦闘終了と共に急速に錆びつき粉々に崩れてしまい、データの回収は不可能だろうということだ。

 

 情報が渡らないように念を入れられている。これは将来的に見ても苦戦しそうだ。

 

 全く、忙しい会談だった。

 

 同じ世界の転生者がテロを引き起こし、さらにはサーヴァントすら呼び出したんだから驚きだ。

 

「―お前も大変だったな。ま、これが終わったらゆっくり休め」

 

 俺は隣に立って学校を眺めているアーチャーにそう声をかける。

 

 おかげでいろいろと助かった。彼女がいなければ被害者が出たかもしれないと思うと、本当に助かったと言わざるを得ない。

 

「そうね。これが終わったらゆっくりと休ませてもらおうかしら。それぐらいはしてくれるのでしょう?」

 

「ああ。まだ金は残ってるし、上手い飯と美味い酒を用意してやる。この際だ、温泉の素買ってきてやるから風呂にでも浸かって優雅なひと時を味わいな」

 

「英霊には食事なんて必要ないのにね。・・・本当に面白いわ。あなたといると飽きなさそう」

 

 アーチャーはそう言って笑うが、そこまで変なことを言っただろうか。

 

 味わう舌も飲み干すのどもあるのが英霊だ。なら、それを堪能してもらうのは当然だろう。

 

 しかしそれだと金がかかる。この騒ぎで賭けは失敗しただろうし、出費が大変だな。

 

 部長に頼んでバイトの時間をもらえないか本気で相談しよう。うん、それぐらいしないと大変だ。

 

 と、その視線が片隅に移った。

 

 ・・・小雪が駆けつけた神の子を見張る者の増援を指揮している。

 

 よし、行くか。

 

「お疲れさん。・・・ホレ」

 

 俺は声をかけてから、ビールを呼び出してほおり投げる。

 

 小雪は振り返りながらそれを受け取るが、ビールであることを分かってから顔をしかめた。

 

「オイコラ。てめーは休憩中だからいいけどな、こっちは仕事してんだぞファック」

 

「ビール一缶ぐらいで固いこというなよ。あんだけ大仕事したんだし、それぐらいしてもバチは当たらねえだろ」

 

 ある意味こいつが一番の被害者だ。

 

 仕事のチームメイトが二人揃ってテロリストに鞍替えし、その後始末のために全力を出したわけだからな。

 

 もう休んでも罰は当たらないだろう。実際、自分から言い出して今の戦後処理をしてるらしいしな。

 

「こっちはもういいからお前もう休んでろ」

 

「そうですよ小雪さん。ここは俺たちに任せてください」

 

「アンタ仕事しすぎですって。俺らハーフとはいえ堕天使なんだから、肩の力ぬいたほうがいいっスよ」

 

 連続で放たれる同僚達の言葉に、小雪は少しむっつりしたが、やがてためいきをつくとビールを一気に飲み干した。

 

「・・・っつぁー! ぬりーけど美味い!」

 

「大仕事の後の一杯だからな。そりゃ美味いだろ?」

 

 そういうと、俺は小雪の肩に手をおいた。

 

「いろいろ大変だとは思うが、ま、俺も奴とは因縁ができたからな」

 

 俺なんかが言えることはほとんどないだろうが、これは言える。

 

「俺も頑張る。だから、あんまり気ぃ張りすぎんな」

 

 なんか、自然に笑顔になれた。

 

 そんな俺を見て、小雪はなぜか顔を赤く染めてきた。

 

「う、うっせーよバカ! こ・・・の・・・ファックファックファック!!」

 

「うおっ!? 危なぁ!?」

 

 こ、こいつ銃で撃ってきやがった!!

 

 悪魔の天敵である光の弾丸とかひどくね!? マジでひどくね!?

 

「はっはっは。今回の功労者たちは元気になってくれたようだ」

 

 と、最近になって聞きなれた声が聞こえ、俺たちは振り向いた。

 

 そこにはグレイフィアさんを伴ったサーゼクスさまが歩いて来ていた。

 

 いまだ、ガスの影響か顔色は悪い。だが、動く分には問題がないように見える。

 

「ご無事でしたかサーゼクスさま! ・・・あ、こ、これは!?」

 

 ヤバい! 俺たち酒持ったままだ!?

 

 今気付いたが堂々と未成年飲酒はさすがにまずいか!?

 

「気にしなくていい。グレイフィアはうるさく言うかもしれないが、きみたちが来てくれなければ我々の中に犠牲者が出ていたことは明確だ。・・・礼を言わせてくれ」

 

 そういうと、サーゼクスさまは俺たちに頭を下げる。

 

 ・・・うん。この人、やっぱり部長のお兄さんだ。

 

「頭をあげてください。一悪魔として当然のことをしただけです。な、なあ小雪?」

 

「まあ、身内の不祥事を身内で阻止しただけだ。気にすんじゃねーよ」

 

 そういう小雪だが顔が再び真っ赤になっている。

 

 こいつ、褒められるのに慣れてないのか? 意外と可愛いところとかがあるな。

 

「我々全員がああもやられるなど本当に一大事ですからね。・・・私からも感謝します」

 

「レヴィアたんなんて真っ先に狙われたもの。ありがとう、兵夜ちゃん☆」

 

 大天使ミカエルにセラフォルーさままで来ちゃったよ! 

 

 な、なんか俺ってものすごいことになってきたかもしれん・・・。

 

「ま、マジで俺のツレが迷惑かけたな。そこはマジで悪かった」

 

 片腕を失ったアザゼルが、そう言って俺達の方にやってきた。

 

 そばにはアーシアちゃんが付き添って腕に回復をかけている。

 

 さすがに堕天使総督が片腕を無くす事態は驚きなのだろう。サーゼクスさま達の目が丸くなる。

 

「・・・その腕はどうした? まさか、カテレアが―」

 

「ちょっと自爆されそうになってな。ま、フィフスが提出予定のガス使っておおごと起こしかけたわけでもあるし、気にすんな」

 

「・・・彼も、転生者だったそうだな」

 

「まさか俺に隠し通すとはねぇ。それでいてあそこまで研究を進め、さらには聖杯戦争だなんておおごと引き起こすんだ。・・・ヴァーリの件も含めて、ちょっと身内の引き締めを真剣にやらねえとな」

 

 確かに、ちょっと洒落にならない事態だな。

 

 魔王の血を引く者たちが指揮を取り、堕天使内部の裏切り者の手によってここまで事態は深刻になった。

 

 奴がうかつな一言を漏らしていなければ、誰か一人は犠牲になっていたかもしれない・・・。

 

 そんなことを考えているうちに、大天使ミカエルがサーゼクスさまとアザゼルの間に入る。

 

「私はこれから天界に戻ります。和平の件はもちろんですが、禍の団(カオス・ブリゲート)についても対策を練らねばなりませんからね」

 

「申し訳なかった。会談の場をセッティングしたものとして、今回の件は責任を感じている」

 

「レヴィアたんからも謝るわ。本当にごめんなさい」

 

「サーゼクスもセラフォルーも気になさらないでください。結果的に会談は成功したのですから。少なくとも、禍の団に対しては一致団結して対処することができます」

 

 そうだな。それは不幸中の幸いだ。

 

 各種勢力の危険分子が集まってできたテロ組織。

 

 そんなヤバい連中と相手にするにもかかわらず、連携が取れないのは致命的だ。

 

 最大勢力を誇る三大勢力の神話体系が協調してことに当たる。それだけで難易度は大きく変わっていくだろう。

 

「ま、確かに俺達の間で和平は成立できたってことだ。よかったな、小雪」

 

 アザゼルが再び小雪の頭を撫で始める。

 

 小雪も顔を真っ赤にしながら、しかし抵抗はしなかった。

 

「ま、アザゼルも頑張ったんじゃねえの? ほめてやるよこのファック野郎」

 

「おう! 腕一本なくしたかいはあったかもな!」

 

 ・・・なんか、ほほえましいな。

 

「ミカエルさぁああああん!!」

 

 校庭の端から、イッセーがあわててこっちに駆け寄ってきた。

 

 おいおい。この戦闘で体力消耗しすぎて休んでたんじゃなかったのか?

 

「て、天界に戻る前に・・・お願いが、あるんですけど・・・いいですか?」

 

「私に可能なことであれば」

 

 おお、太っ腹だ!

 

「神に祈りをささげた悪魔がダメージを受けるのって、ちょっと前に言ってたシステムって奴のせいですよね?」

 

 そういえばそんなことを言ってたな。

 

 敬虔な信者だったアーシアちゃんとゼノヴィアは、未だに祈りをささげて頭痛にさいなまれている。

 

 こういうのって長年続いているからその分抜けないんだよな。見ていてなんだが大変だとは思うぞ俺も。

 

「はい。アレは神が残したシステムの基本部分ですので、主がおられなくても当然機能します。それがどうしましたか?」

 

「アーシアとゼノヴィアが祈る分だけでも、ダメージ無しにできませんか?」

 

 ―っ

 

 イッセー・・・。こいつ、本当に・・・っ!

 

 まさかそんなことを言い出すとは思わなかったのだろう、ゼノヴィアとアーシアちゃんも目を丸くして驚いていた。

 

 大天使ミカエルも予想外だったのか、少しの間言葉を失っていた。

 

 まったく、イッセーってば本当に意外性あふれる奴だよ。

 

「・・・私からもお願いします」

 

 俺の後ろから、懇願する声が聞こえてきた。

 

「い、イリナ!?」

 

 ゼノヴィアの声が同時に、振り返った俺に紫藤イリナの姿が映る。

 

「・・・ごめんなさいゼノヴィア、アーシアさん。事情も知らずにいろいろと酷いこと言っちゃって・・・悪いことをしたわ」

 

 両手を合わせて謝る紫藤イリナ。

 

 ・・・いい奴が多いな、この会談。

 

 その光景を見ていた大天使ミカエルが、小さく笑うとうんうんと頷いた。

 

「・・・いいでしょう。二人ぐらいなら、教会に近づくこともなければシステムをごまかせるかもしれません。アーシア、ゼノヴィア、問います。神は不在ですが、それでも祈りを捧げますか?」

 

「「はい」」

 

 二人は即答した。

 

「分かりました。・・・ふふふ、神に祈りをささげる悪魔が、二人ぐらいいても問題はないでしょう」

 

 おお! 前代未聞の悪魔が二人も誕生したぞ!

 

 いろいろとすごいことになってきたなグレモリー眷属! ま、これぐらいなら可愛い方か!!

 

「「「ああ、主よ!!」」」

 

 感極まったのか、三人は両手を組むと即座にお祈りをした。

 

「「・・・あう!?」」

 

 ・・・うん、アーシアちゃんにゼノヴィア。

 

 まだ、システムはいじられてないよ?

 

「ふふふ。すぐに戻ってシステムを調整しないといけませんね」

 

 本当にいろいろとあったが、最後はいい感じにまとまったかな?

 

 ・・・ふと上を見れば、満点の星空に悪魔と天使と堕天使が飛びまわっていた。

 

 うん。・・・いい光景だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、とんでもないことをしでかしてしまった」

 

 オカ研に行くために旧校舎へ向かいながら、俺は頭を抱えていた。

 

 ああ、なんというミラクルをやらかしたんだ俺は! いや、いろいろとツッコミどころが多すぎるぞ!!

 

「いったい何やらかしたんだよ、宮白」

 

「そうだぞ宮白。どうしたんだ?」

 

 イッセーとゼノヴィアにそう言われて、俺は我に返った。

 

 ああ、オカ研行く前にちょっとノートパソコン開いたら驚愕に震えて我を忘れてしまった。

 

「・・・イッセーは知ってるよな? 俺が、賭け事サイトで今回の会談の結果を200万ほどかけたこと」

 

「ああ。確か会談が平和に和平がむすばれるだったよな? ・・・酷い結果だな、200万もはずすなんて」

 

 ああ。それはそれで本当にひどいことなんだが、問題はそこじゃない。

 

「・・・ちがえてた」

 

「・・・へ?」

 

 イッセーが首をかしげるが、俺は視線を横にそらさずにはできなかった

 

「睡眠不足だったのがたたって、全く別の奴選択してたんだよ!!」

 

 恥ずかしい!

 

 まさか二度にわたってギャンブルでアホな失敗するとは思わなかった!!

 

 いや、尋常じゃない大儲けだったんだけどね!! むしろそれが怖い!

 

「そ、それでどんな選択肢を選んでたんですか?」

 

「・・・テロが勃発するが会談そのものは成功。倍率は200倍だ。ちなみにドンピシャ」

 

「大当たりじゃねえか!?」

 

 アーシアちゃんの質問に答える俺の言葉に、イッセーが度肝を抜かれた。

 

 ああ、ものすごいミラクルを引き当ててしまったよ、マジで。

 

「いや、ちょっと待て! 宮白お前、200万賭けたって―」

 

「おかげで4億円だ。・・・まあ、一万年近い悪魔の寿命だと年4万円だけどな」

 

 そう考えるとちっぽけな気もするが、さすがに大金持ちになりすぎてる気がするんだが。

 

「そんな大金持ったら、俺だと調子乗って一気に使い切りそうだな・・・。大丈夫かよお前」

 

「ああ、これもきっと主のお導きです。主よ、宮白さんにこのようなご加護を下さって感謝します」

 

 心配するイッセーと祈り始めるアーシアちゃん。

 

 ・・・もう頭痛にさいなまれることはないってわけか。よかったな、アーシアちゃん。

 

 そんなこんなで会話は大金をどう使うかにシフトし始めた。

 

 とりあえず、研究費用が大量に手に入ったのは幸運だろう。

 

 悪魔の魔力も宝石に込めれることが判明したし、これからは宝石魔術を研究し尽くして戦力増強を図らないとな。

 

 フィフスは魔術を利用するつもりだ。しかも、パラケラススと言えば錬金術師で有名。間違いなく、様々な方面で禍の団は強化されるだろう。

 

 俺も頑張って貢献しなければ大打撃を受けるはずだ。

 

 とりあえずは、アーチャーに協力してもらって治癒魔術の礼装を悪魔で使用可能にするところから始めるとするか。アーチャーは確かオカ研に向かっているはずだし、力になってもらわないとな。

 

「・・・宮白、済まないが話がある」

 

 俺の思考をゼノヴィアの言葉が中断させる。

 

 やけに神妙とした顔つきだな。何があった?

 

「何だよ。ま、まさか子作りうんぬんの話をここでするつもりか?」

 

「いや、その件なんだが・・・。プールの時での話、なかったことにしてほしい」

 

 ・・・意外なことを言ってきたな。

 

 ん? そういえば昨夜イッセーが男見せたし、もしかしてそういうことか?

 

「ああ、イッセーに本格的に惚れたか」

 

「あ、ああ。実はそうなんだ。・・・始めてをあげるのも子供の親と成るのも、イッセーに絞りたいと思う」

 

 おお、こいつが顔を真っ赤にするなんて珍しいな。

 

 ま、気持ちはわかるけどな。

 

 イッセーは昨日、いろいろな意味で男を上げた。アレは俺にはまねできそうにない。

 

「あいつはアレで上物だ。・・・親友の俺が保障するから、全力で惚れておけ」

 

「ああ、言われずともそうするよ」

 

 ・・・いい笑顔、するじゃねえか。




たぐいまれなる主人公補正。

兵夜、億万長者!!


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キャラコメ、第四弾

子のキャラコメも、もう第四回か・・・


 

兵夜「はい、そういうわけで停止教室のヴァンパイアもキャラコメします。本日のゲストは!」

 

ゼノヴィア「待たせたな。当時は新人だったゼノヴィアだ!」

 

小雪「おうよろしく。青野小雪だ」

 

兵夜「まあそんなわけでヴァンパイア編は俺による魔術口座から始まるわけだが、しょっぱなから勘違いしてるんだよな、致命的なミスをしたと今は後悔している。・・・これがわかっていれば莫大な儲けを当時から得ることができたのに!!」

 

小雪「まあ、そのあたりはいろいろ試さないとわからないからな。あたしもダメもとで試してみてアザゼルが大慌てしたぜ」

 

ゼノヴィア「恐ろしいな。そしてその直後にイッセーが大慌てで逃げ込んできたわけだが」

 

小雪「その節はあのバカが本当に迷惑かけた! まじファックで悪ぃ!!」

 

ゼノヴィア「どちらかというと、その直後の宮白の暴走っぷりの方が恐ろしいといえば恐ろしいな」

 

小雪「そりゃまったくだ。この段階だと割とアザゼルのこと敵視してるな」

 

兵夜「そりゃぁ、この段階だとレイナーレの一件にどこまで深くかかわってるのかわかってなかったからな。・・・まあ、最近は別の意味で頭が痛くなることも多いのだが」

 

小雪「ファックでマジごめん。今度あいつに酒おごらせようぜ。高い酒一緒にがぶ飲みしてやる」

 

兵夜「おお、いいなそれ! ロマネコンティ一気飲みとかちょっとやってみたかったんだ!」

 

小雪「つまみも高いの食ってやろうぜ。鮭児で一杯やってみっか! アザゼルのファック顔が目に浮かぶぜ!!」

 

ゼノヴィア「よいこの読者は未成年飲酒はしてはいけないぞ! このアウトローたちは参考にしてはいけないからな!!」

 

小雪「っていうかお前はすごいことしてんな。王様に銃向けるとか首跳ね飛ばされてもおかしくねーぞ」

 

兵夜「まったくもって危ないところだった。こっちだとレーティングゲームでライザー倒してるからまだ顔合わせしてなかったんだよ。・・・それさえなければこんなミスなど!」

 

ゼノヴィア「隙が無いようでいて隙だらけだな君は」

 

兵夜「まあ、それはそれとして運命的な出会いをすることになったわけだが」

 

ゼノヴィア「この時点で召喚が成功したことに気づかないとか、宮白はもしかしてバカなのか?」

 

兵夜「うるせえ! 聖杯もなしにサーヴァント召喚なんてありえないんだよ! 俺らの世界は格の差が隔絶してんの!!」

 

ゼノヴィア「この段階でアーチャーが深く接触しなかったのはそれが原因か?」

 

兵夜「まあな。聖杯からの情報も聖杯戦争の詳細は伝えられてなかったから、いろいろ警戒してたんだろ。実際この召喚はイレギュラーだし」

 

小雪「具体的には?」

 

兵夜「単純にフィフスの采配。裏切りを警戒してサーヴァントも性能よりもそのあたりを重視してたが、単独行動スキルゆえに勝手をしやすいアーチャーは最後まで残してたわけだ。そこを俺がたまたま英霊召喚をぶちかましたので枠をとられたと」

 

ゼノヴィア「そのあたりの対策はしてなかったのか?」

 

兵夜「してはいたがそれ以上に再現度が高すぎた。そのせいで御三家特権まで復活してたせいで御三家につらなる俺に対する優先権が優先されたわけだ」

 

小雪「にしてもどうしたらこんな強力なサーヴァント召喚できたんだよ」

 

兵夜「ほぼ相性召喚だ。ほら、愛が重くて魔術方面でトンチキじみてて、加えて一人の問題児で人生大きく変動してるだろ? そこに雪侶の関係で・・・」

 

ゼノヴィア「知っているぞ! そういうのを箇条書きマジックというのだろう? 実際は方向性が全然違うではないか」

 

小雪「つーかな、エクスカリバーとかデュランダルとかで引き寄せられるだろ」

 

兵夜「セイバーはすでに埋まってたからな。それもあると踏んでいいぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして俺はプールに入れなかった・・・」

 

小雪「ドンマイ。あとこの段階で水着になってたら気づいてたんだよなほかの連中が」

 

ゼノヴィア「あとは宮白によるサーゼクス様の評価か。あんなことを言っていた割には高評価ではないか?」

 

兵夜「欠点があれってだけだよ。それに、民衆が望んでいるかどうかと実際に適しているかどうかは全く別の問題だろ? 平和な時代を安定させるには及第点どころか90点以上つけれる人物だけど、冷戦状態やら対テロ戦争状態の今だとかなり下がる」

 

小雪「確かにな。組織を運営する場合、きれいごとだけじゃやってられないことも多い。ファックだが冷徹さが欠片もない奴は大組織の運営には向いてないしな。そういうのが頻発しやすい状況かにはむいてねーか」

 

兵夜「そういう意味では欠点ともいえる。できないことはないがかなりギリギリにならないと決断できないってことは、チキンレースでブレーキのふみが遅れることだからな。止まればいいがぶつかる危険性も大きいわけだ」

 

ゼノヴィア「なかなか問題は多いということか」

 

小雪「問題なのはお前もだろうが。何いきなり迫ってんだ。グレモリー眷属は恋愛方面であほばかりなのか」

 

ゼノヴィア「失敬な。この段階では私は子作りのことしか考えてないぞ?」

 

兵夜「ぶっちゃけ味わってもいいかなーって思ってましたごめんなさい」

 

小雪「いや、お前ならうっかりはともかく気を付けることはするだろうし? できてもちゃんと責任取るだろうからそれはファックじゃねーが」

 

ゼノヴィア「いや、私が言うのもあれだがそれこそ問題がないか?」

 

小雪「ハーレムOKなあたしらがそこまで深く気にするか。お前はあほだが悪い奴じゃねーしな。・・・第一」

 

ゼノヴィア「第一?」

 

小雪「血統主義の大王派とつるむ場合、政略結婚ゼロとか難易度高いだろ?」

 

兵夜「・・・こんどゼクラム・バアルに真剣に相談しよう。あの人の後ろ盾があればその可能性はだいぶ減るはず」

 

小雪「あたしらの総意としては、イッセーの人気はでかいからその方面でつまはじきになってる連中の面倒をみりゃいーんじゃねーかって感じなんだが」

 

ゼノヴィア「理解がありすぎないか!?」

 

小雪「肉体年齢が十代後半の男なんて多かれ少なかれ性欲の権化だよ。別にあたしらは愛してくれと言っているのであって、女遊びをするなんて言ってるわけじゃねーしな。第一この段階じゃ誰も付き合ってねーだろ」

 

ゼノヴィア「ふむ。つまりは流れとして私が宮白と付き合うという可能性もあったわけか」

 

小雪「あり得るだろうな。兵夜はそのあたりも高水準だし、そのままはまって恋に恋するならぬエロに恋する展開もあっただろう」

 

兵夜「それがあったから断ったんだよ。エロ友達から「初物食いは気をつけろ。お前は絶対いい思い出にするからそのあたりで勘違いされるぞ」と警告されていてな」

 

小雪「まったくだ。じっさい流されての初体験がすごくよかったせいでずるずると引っ張られる連中なんてエロ漫画じみてるがあり得ないわけじゃねーし。まあ、その辺手加減するって発想もあったわけだが?」

 

兵夜「馬鹿お前。せっかく相手するんだから相手に上質な経験させるのは当然の義務だろ。しかも相手が初めてならなおさらだ。・・・第一、相手が感じまくってるのを見るのが醍醐味ってもんじゃねえか」

 

小雪「この快楽攻め系奉仕型ドSが、ファック」

 

ゼノヴィア「・・・話を戻そう。それと青野、今後のことを考えて、イッセーを喜ばせるために技術を習得したいのだが教えてくれ」

 

小雪「やだよ。するなら朱乃が先だ」

 

兵夜「っていうかだれが実験台になるんだよ。イッセー泣くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして問題児どもの連続登場だな」

 

小雪「マジで悪かった! 止めれなくて悪かった!」

 

ゼノヴィア「この段階のヴァーリはここで戦闘するかもしれないという危険性があるからね。あの時は本当に肝を冷やした」

 

兵夜「マジで迷惑なやつだ。最近だいぶ丸くなってくれたからいいものの」

 

小雪「お前もかなり上位に食い込んでたっぽいからなぁ」

 

ゼノヴィア「そしてフィフスも登場したが、この時点で宮白は警戒していたんだな」

 

兵夜「魔術師なんて生き物はかなり危険だからな。ましてや聖杯戦争を把握してるような連中なんて危険視するべきだろう。術式を把握しているなら劣化コピーとはいえ聖杯を作りかねないし、ばれなきゃ何してもいいのノリは警戒すべきだ」

 

小雪「実際そんなレベルじゃなかったからな。見抜けなかったこっちのファックさがひどい」

 

兵夜「あいつ一人取り逃がしているだけでこっちの被害が甚大だしな、なんとしても倒さないとイッセーがやばい」

 

ゼノヴィア「禍の団で最もイッセーを危険視している可能性もあるからね。私もその時は協力するぞ」

 

小雪「ああ、その時は頼んだぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして授業参観が出たわけだが、・・・このお姉さんトンチキすぎるだろうに」

 

小雪「TPOをわきまえろよホント。お前よく止めれたな」

 

兵夜「交渉の基本は相手の価値観を把握すること。魔法少女にこだわりがあるのなら、そのお約束を利用すれば誘導は可能だ」

 

ゼノヴィア「それを利用することでセラフォルーさまを制御できる逸材か。これは生徒会長や大王派にとって朗報ではないか?」

 

兵夜「・・・それでもなかなか大変なんだがな」

 

小雪「これは没になった話だが、原作で魔法少女もののオーディションに妹たちを巻き込む短編があるが、そのお仕置きのためにこいつが女装して参加するという話があった」

 

ゼノヴィア「確かに似合うがそれでいいのか?」

 

兵夜「女装は俺の立派なスキルだ。そしてコミュ力でこのオーディションを審査するのがあほだというのも分かる。勝ち目は十分にあった」

 

小雪「こいつがファックな暴走するのはいつものことだからもうする―するが、それはともかくとしてイッセーがここで劣等感にさいなまれてんのがまたファックだな」

 

ゼノヴィア「だがまあ、これだけできる友人がいれば劣等感の一つも抱くのでは?」

 

小雪「そんだけトンチキブースト入ってる最大の理由が自分だって気づいてないのがファックなんだよ。ぶっちゃけスケベさえどうにかできりゃあ大成するだろ、こいつはよ」

 

兵夜「その辺については心底同意。そもそも駒王学園って偏差値高いんだぞ。スケベ根性をうまく生かせば間違いなくモテるだろうに。この仮面優等生の俺を参考にしろよってのあいつらは」

 

ゼノヴィア「いや、それはどうなんだ?」

 

小雪「まあ、優等生の仮面かぶるには演技力も含めた優秀さが必要だから確かにその努力は参考にすべきなんだが・・・」

 

兵夜「とにかくこの自己評価の低さが危うく人死にすら出しかねなかったからな。そのあたりは本当に危なかったとしか言いようがない」

 

ゼノヴィア「いや、宮白もたいがい自己評価が低いと思うのだが。現時点において正真正銘の神様だろう」

 

兵夜「あくまで後天的な移植や改造によるものだからな。そのあたりはしっかりと割り切っておかないといつかしっぺ返しがきかねない。・・・まあ、禍の団に警戒視されるのが普通なぐらい成果を上げているのは認めるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「んでもってギャスパーが遂に登場。いやぁ。最近は本当に見違えたよ」

 

小雪「まあ、対人恐怖症になってもおかしくないといえばおかしくねーしな」

 

ゼノヴィア「まったく吸血鬼どもというものは。やはり少しぐらい滅しておくべきだったろうか」

 

小雪「やめとけ馬鹿」

 

兵夜「とはいえ割とチートなんだよなこの能力。あんな特殊な事例がなかったとしても、普通に禁手になっただけで停止から操作に範囲が変わればかなり凶悪になる」

 

小雪「確かにな。味方を加速することができればそれだけで強力な支援になるし、サポート役としてみれば十分チートだ」

 

兵夜「しかしでるわでるわヘタレエピソードの数々だ。というか、普通生態的に血はうまく感じるように舌ができるもんじゃないか?」

 

小雪「そのあたりも聖杯のファックな影響なんじゃねーか?」

 

ゼノヴィア「まあ、何はともあれこれだけ弱かった奴が今やグレモリー眷属らしい根性枠の一人だからな。変われば変わるものだ」

 

兵夜「しかしどう考えてもこのトレーニングはやりすぎだろう。下手したら死ぬぞ」

 

ゼノヴィア「何を言う、健全な精神は健全な肉体に宿るというではないか。ガタイがいい奴はそうそうヘタレにはならないだろう」

 

小雪「その分傲慢なやつも多いがな。大体あれは誤用で、実際の意味は逆だぞ?」

 

ゼノヴィア「なんだと!? で、では逆効果!?」

 

兵夜「どっちにしてもトラウマが増えるだけの気もするが」

 

小雪「だったら止めろよ。なんでお前はイッセーからスケベな機会を奪ってんだ」

 

兵夜「いや、ちょっとした実験のつもりだったんだ。まさか飲み込むことになるとは思わなかったが」

 

小雪「まあそれはそれとして、本当にアザゼルが馬鹿で済まんかった!」

 

ゼノヴィア「あの時は本当に驚いたぞ。まさか堂々と乗り込んでくるとは」

 

兵夜「この時点である意味喧嘩売ってるだろ。このへんヴァーリにもしっかり受け継がれてるよなぁ」

 

小雪「仕事するときはきちんとこなすんだが、どうしても悪戯好きでからかうのが好きなところがあって・・・ファック」

 

兵夜「というより平然としすぎの久遠の心臓が怖いんだが。あいつどんだけ修羅場くぐってるんだ?」

 

小雪「修羅場になれると場の空気とか感じられるからなぁ。だからわかったんだろうよ」

 

ゼノヴィア「このあたりで格の違いを感じさせるな。これが年季の差というやつか」

 

小雪「安心しろ。そこまでファックに判断できる奴はベテランでもそうはいねーよ。質も量も高水準だからこそ分かる流れだ」

 

兵夜「実のこのあたりでさらりと話してるところがあるからな。さらさらしすぎてうっかりする―してたが」

 

ゼノヴィア「そういえば本当だね。・・・一けたってさすがの信徒でも戦闘経験など積んでいないのだが」

 

小雪「魔法先生ネギま! は七歳児が主役のバトル作品だからな。さすがのこの世界でもファック入りそうだが、意外と多いよなその手の類」

 

兵夜「そしてお目付け役遂に登場。本当にご苦労様です。はい一杯」

 

小雪「ああ、もっとくれもっと。思い出したら飲まなきゃやってらんねーよ」

 

ゼノヴィア「とはいえ、まだ和平の和の字も出てきてないのにアドバイスをするとは、この人も人がいいな」

 

小雪「ほかに勢力に比べりゃ割り切り早いけど、なんだかんだで面倒見はいいからな。・・・まあ、一時期は神器集めとかもしてるし、それだけだと思ってるといつか痛い目見るぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼノヴィア「しかし一話丸ごと使って、宮白がイッセーのことがどれだけ好きかをかいたようなものだな、この話は」

 

兵夜「なんとでもいうがいい。自分でも末期なのは自覚してるが狂信も妄信をしていないと自負している」

 

小雪「そのおかげでナツミがフラグ立ててるわけだから、何がフラグになるわかったもんじゃねーなぁ?」

 

兵夜「うっさい」

 

ゼノヴィア「顔が真っ赤だぞ? だが、宮白や桜花に比べると、青野の依存ぶりはあまり目立たないな。ナツミはどちらかというか子供が甘えているようなものだが」

 

兵夜「そりゃ俺たちは同類だけど、方向性の違いはあるさ」

 

ゼノヴィア「それもそうだな。ベルもミカエル様が対象ではあるが、主ではなく天使の1人を信仰の根幹にする変な人物だと思われていたし」

 

小雪「実際ベルの方向性としては正真正銘の信仰対象が近いだろーな。あいつの場合は対象と接触する時間がどうしても多くとれねーし、そういう方向にならざるを得ない」

 

兵夜「逆に俺の場合は親友って見方が強いし、久遠は従者と主人の認識が近い。・・・ナツミはできたとたんに周りも増えたからな。依存度合は低いから、・・・きっと、ほかに彼氏が、で、で、ででできるかももももも」

 

小雪「心配なら男見せて繋ぎ止めろや」

 

ゼノヴィア「それで、そういう小雪はどうなんだ?」

 

小雪「・・・・・・・・・家族、かな」

 

兵夜「・・・そうか。今度は大事にしろよ」

 

小雪「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小雪「んでもって、朱乃のパターンになるわけだな」

 

兵夜「ここで一気にイッセーがとどめを刺すわけだ。あいつの明確な欠点なんて度の過ぎたスケベだけだからな。そこさえ許容できるのなら、あいつは間違いなく超優良物件だ」

 

ゼノヴィア「それについては同意だが、はっきり言いきったな」

 

兵夜「当然。駄目なところもいいところ、しっかりきっちり正しく見てきたつもりだからな。少なくとも現時点で、俺よりあいつを理解している男なんて一人として存在しない。あいつの親父さんにだって負ける気はしない」

 

ゼノヴィア「す、すごい自信だな・・・」

 

小雪「まあ、そこがいいところでもあるんだがなぁ」

 

ゼノヴィア「・・・常識人だとばかり思っていたが、実はお前もあれなところがあるな」

 

小雪「うるせーよ。ま、能力者なんてもとから狂人。狂っているって言われても何の反論もできないけどな」

 

ゼノヴィア「意外と同類扱いにツッコミを入れてこないと思ったが、まさかそういう発想だとは」

 

小雪「自分が狂人だって自覚はあるよ。ファックな話だが、能力者になるってことは人には認識できない価値観を持つことだから、それはつまり狂人になることだからな。ベクトルがずれてようが事実その通りだ」

 

兵夜「それがお前の自己嫌悪の根幹か?」

 

小雪「まーな。こんな理論を普通に表の世界で運用しているあたり、ある意味イカれてるよ、あの世界は」

 

ゼノヴィア「しかしそれはそれとして、リアス部長はいろいろと不機嫌になってしまったな」

 

小雪「まーな。ハーレムに抵抗が歩かないかと、自分以外の女といちゃつかれて腹立たないかは全く別の話なわけだ。女の複雑でファックな感情だ」

 

兵夜「そしてそれはそれとして不穏な会話が。ちなみにこれはフィフスとヴァーリの会話だ」

 

小雪「しかしまあ、これはつまり、フィフスは直接ヴァーリをスカウトしなかったってことか?」

 

兵夜「そりゃまあそうだろ。そんなことして断られても滅龍魔法を習得してない当時のフィフスでヴァーリは殺せないし、そうなれば計画が水の泡だ」

 

ゼノヴィア「もしあの段階でヴァーリが禍の団に所属していたら・・・」

 

兵夜「コカビエルの手伝いをしていた可能性もあるな。フィフスの判断ミスに感謝だ」

 

ゼノヴィア「そんな時、イッセーたちはギャスパーの特訓をしていたが、しかし重いセリフだな」

 

兵夜「大いなる力には大いなる責任が伴う、とはどこの言葉だったか。実際に制御できないと垂れ流しの力なんてどうにかするしかないからな。そういう意味では俺はしょぼくてよかった」

 

小雪「ダウト」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小雪「兵夜。気持ちはわかるが何やってんだ?」

 

兵夜「えー? だっていつ爆発するかわからない爆弾の大群を至近距離で放置なんてあほのすることだろ? 自陣営ならそこまで怒られないし他が勝手に暴走しても言い訳聞くし?」

 

ゼノヴィア「時折暴走するね、宮白」

 

小雪「まあ実際は。ファックなことに外から問題がやってきたわけだが」

 

兵夜「想定は可能だがさすがにあの戦法は無理があり・・・そうでフィフスがいたから可能性はあったんだ。もっと護衛をつけておけばよかった」

 

ゼノヴィア「しかし、この段階ですでにイリナが出るとはな」

 

兵夜「まあ、アニメ二期では参加してたしこれぐらいはいいかと思ってな。実際バトルが白熱化するし味方も多くしておかないと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして会談が進む進む。ついでにこの段階でいろいろとややこしい部分に対するすり合わせというかご都合主義の説明が出るわけだ」

 

小雪「パワーバランスのずれに、世界の法則を適用したのは明暗だったな。・・・インフレのずれがあるからやばいだろ」

 

兵夜「わかりやすく言うと世界の異能に対する抵抗値だ。この世界ならたとえ魔人がチームで挑もうと銀河系完全消滅なんてまねはできん。一対一(サシ)ならオーフィスで勝てる」

 

ゼノヴィア「確かに様々な作品を見ていると、それぞれパワーバランスというか弱者と強者の幅が大きいな。この辺りは言い訳を入れておかないとツッコミが入ってくるか」

 

兵夜「そういうわけだ。存在の格で戦闘能力が隔絶しているとクロスしにくいからな。言い訳は必須だった」

 

小雪「悪魔の駒での転生時の影響はあれか、グレモリー眷属と絡めるためか」

 

兵夜「フェニックス編とかライオンハート編とか、レーティングゲームがメインの章は絡ませずらいからな。どうやって参戦させるか考えた結果、この設定は必要不可欠だった」

 

ゼノヴィア「確かに、何の理由もつけずイッセーの駒価値を減らすのもいい加減だしな」

 

小雪「そこから大分進んで魔術師の説明が始まるが、割とファックだな」

 

兵夜「魔術師とはすなわち探究者。真理のために命を懸ける連中だからな。そういう意味では人に理解されずらい価値観で生きているといってもいい。だからこそマッドサイエンティスト的気質を持っているわけだが」

 

ゼノヴィア「警戒ししていたのもそれが理由か?」

 

兵夜「マジギレして暴走されても困るしな。この段階で刑事的な仕事をする覚悟はできてたさ。・・・報酬はもらうが」

 

小雪「ちゃっかりしてんな」

 

ゼノヴィア「それはともかく、小雪たちも特に大きな野望とかはもって無いようで安心したな」

 

小雪「そりゃそうだ。あたしらは自分たちの輝きに胸を張れればそれでいい。それに照らされた毎日で満たされてる」

 

兵夜「ぶっちゃけ出世は必要だからしてるだけで。俺としては余計な責任や義務がセットなこの人生設計はできれば避けたかった」

 

小雪「義務や責任はちゃんと背負うあたり、ほんとお前人がいいよな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小雪「そして出てきたぞ禍の団が」

 

ゼノヴィア「さらりとナツミの顔をみて赤くしているあたり、この時点で脈はあったわけだ」

 

兵夜「憎い! 惚れっぽすぎる自分が憎い!」

 

小雪「大丈夫だ。お前はファックなぐらい人数が増えてもちゃんと背負いきれるしあたしらは支えるから」

 

ゼノヴィア「本当に愛されてるな、君は」

 

小雪「それはそれとして学園都市の技術がさらりと出てるわけだ。・・・無人兵器とは悪役の定番を」

 

ゼノヴィア「普通に魔法使いを投入してもよかったのではないかと思うのだが、このあたり裏設定はあるのか?」

 

兵夜「きわめて単純な理由だ。・・・兵器は金と資材があれば一定水準まで簡単に用意できるが、人材はそうはいかない。不用意に人的被害を出すのは避けるという発想をフィフスたちがしていただけだ。あといわゆる戦闘証明(コンバット・プルーフ)ってやつだな」

 

小雪「なるほど、本格的に事を構える前に、雑兵ぐらいはどれぐらいできるか試したかったってわけか」

 

兵夜「そして状況を打破するためにイッセーと姫様が転移するわけだが、この段階で布石を打たせてもらったぜ」

 

小雪「だからお前は伝えておけと」

 

兵夜「だってうちの連中基本素直なんだもーん。言ったらギャスパーが人質に取られたとき対策なのに態度で怪しまれて警戒されるモーン」

 

小雪「うわファック」

 

兵夜「第一フィフスに気取られたくなかったしな。俺はこの時点で内通者を奴と推定してたぞ。・・・実際はもう一人いたわけだが」

 

小雪「それはそれとしてヴァーリ側にも転生者とはバランスとることに気を付けてるな」

 

兵夜「味方が強すぎるとしらけるだろ? バトルものならそれに見合う敵手ってのが必要なんだよ」

 

ゼノヴィア「合成能力者か。絶チル世界で一番特徴的だが、このあたりを中心として投入するのか?」

 

兵夜「この段階だと深く考えてなくて、学園都市と絶チルの超能力かぶりの対策に苦労してな。合成能力者はそういう意味でとても救いの光だった」

 

小雪「実際禁書世界はエデン出したしな。能力者じゃなくて能力者を作れる奴を出すとは逆転の発想だ」

 

ゼノヴィア「そして一気にフィフスが動き出したわけだが・・・。こいつあと一歩で三大勢力をひっくり返すところだったな」

 

兵夜「マジ警戒してなかったら何人やられてたことか。発生するだろう隙は致命的だったから危なかった」

 

小雪「そんでもってフィフスの目的が語られるわけだが・・・。あの野郎手段選べよ」

 

兵夜「秘匿の必要性がなくなったからな。開き直って堂々とできるやり方を選んだんだろう。実際この世界の補正ならサーヴァントのスペック次第で木っ端な神なら撃破可能だ。しかも倒されたとしてもそいつらを生贄にすることで願望をかなえることも可能。どっちに転んでも奴らに得だ」

 

ゼノヴィア「しかも今まで実力を隠し通してきたわけだからな。実際に一対一では負け知らずだろう? 本当に強敵だ」

 

兵夜「そりゃあお前、この作品の宿敵ポジションだぞ。すでに奴の最終手段も設定済みだから覚悟しておけ。原作から設定を拾った最終兵器だ。驚くぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そんなわけで戦闘は本気で白熱。各方面で派手になってるというほかない」

 

ゼノヴィア「イッセーのところに対してもレイヴンが血を飲ませる隙を作らせるとも思えんしな。さてどうしたと思ったらここでナツミがモグラ化して強襲と」

 

小雪「完璧にはまってるから怒るに怒れねーんだよ、ファック」

 

兵夜「そして俺は魔王様のおかげで無傷。さすが最強の魔王、格が違った。」

 

ゼノヴィア「そんな魔王を一時とはいえ王手をかけるとは、ここで仕留められなかったのが本当に悔やまれるな」

 

小雪「しっかし頭おかしい発想だよな。魔術が戦闘向きじゃないし指揮官としても微妙だから、前線で暴れるタイプの技量を習得して殴りかかるとか」

 

兵夜「サーヴァントもそのあたりを考慮してサポートタイプ召喚してるし、こいつ俺なんかよりよっぽどセオリー崩してるぞ。ある意味この世界だからこそできる反則技だな」

 

ゼノヴィア「しかし青野が下級堕天使のハーフだったとは。てっきり中級から上級だと思ってたぞ」

 

兵夜「確かに。ヴァーリのお目付け役ならそれぐらいから呼ばれててもおかしくないしな」

 

小雪「・・・いや、暴走しかけたときに首を折るのが仕事だから」

 

兵夜「ああ、完璧にアサッシン運用なのね」

 

ゼノヴィア「もしかして、正面戦闘ばかりのグレモリー眷属との戦闘はかみ合ってないのか?」

 

小雪「裏社会同士の殺し合いも経験してたから、そこまで言うほどじゃねーよ。実際レベル5の連中は上級悪魔ぐらいなら補正抜きでも返り討ちにできそうな猛者だらけだし・・・。」

 

兵夜「そしてフィフスはフィフスでものすごいことをしてるわけだ。俺が言うのもなんだが目を疑ったぞ」

 

ゼノヴィア「そんなに魔術師が銃火器類を使うのは意外なのか?」

 

兵夜「魔術なんてもんはすなわち「もともと神々や魔術師の領域だったのに科学で代用可能になった」という、ある意味で廃れた技術だからな。必然的にアインツベルンクラスの高位の魔術師ともなれば、科学を忌避する傾向が強く、コストパフォーマンスを無視してでも魔術で行使しようとしたがる。そういう意味ではあいつは魔術師らしくなく、そしてどこまでも魔術師らしいといえる」

 

ゼノヴィア「矛盾していないか? 嫌っているものを運用するというのはらしくないだろう」

 

兵夜「そうでもない。魔術師は根源を目指す探究者で、魔術を研究するのはそれが最も効率的だと判断したからだ。本来の魔術師とは非人間的なまでに合理的ならば、目的のために最も有効な手段を選ぶのに個人的忌避は不必要と割り切らないとな。そういう意味では腐敗の巣窟だよ」

 

小雪「なんてゆーか、木原と似た概念だな。あいつらも研究や化学の発展のためなら手段を選ばない。人によっては真理を知るために喜んで死ねるだろう」

 

兵夜「実際作者は気が合うんじゃないかと踏んでるからな。それはともかくヴァーリの野郎は・・・。思い出したら一発殴り飛ばしてやりたくなった」

 

小雪「確かに落とし前はつけてもいーよな。ましてやお前、蒼穹剣の仮想敵として覇龍状態のこいつ設定してるぐらいだし」

 

ゼノヴィア「実際に十分すぎるほど勝ち目があるのがあれだな。ヴァーリの性格なら発動前に叩き潰すことはなく真正面から生きそうだからなお勝てる」

 

兵夜「何より腹立つのはイッセーをなめ腐りやがっていることだ。実戦経験をろくに積んでない新米に何を求めている」

 

小雪「今でも年期だけならルーキーなんだが、なんでこんなファックな強さ持ってんだ?」

 

兵夜「しかも原作じゃあもっとひどいらしいな。・・・実際にこんなこと発言してたら、俺はそれだけで禁手に目覚めている自信がある」

 

小雪「ファックなことに喜びそうだけどな、あいつ」

 

ゼノヴィア「フィフスもフィフスで相応に宮白のことを馬鹿にしていたがな。それにあの男、わざと情報を流すとは味方に殺されてもおかしくないな」

 

小雪「まー情報そのものは選んでただろうがな。どうせばれるならばれても構わねー情報だけつかませればいいって発想だったんだろ」

 

兵夜「まあともかく、ヴァーリは設定盛りすぎだろう。神が遺した最強の装備とか伝説に名を遺すドラゴンとか魔王の末裔とか、ぶっちゃけどんだけだよ」

 

小雪「そりゃ確かに過去現代未来ひっくるめて最強の白龍皇とか言われるよ。チートだチート」

 

ゼノヴィア「イッセーもイッセーで違う方向で極みに至っているところがあるからな。今代の二天龍はどちらも規格外だ」

 

小雪「そしてそんなことしてる間に、ヴァーリとフィフスがdisり合戦。お互いに認識がずれてるが、実際にそれでお互いに痛い目を見てるのがあとで見ると笑えるな。ファックな目にあってやがる」

 

兵夜「俺はこの段階では二流どころか三流だから高評価に礼を言うが、しかしイッセーを危険視するとは見る目がある奴だ」

 

ゼノヴィア「まあ腐っても二天龍だからな。ヴァーリのように軽視できる方が少数だろう。神滅具の使い手だと聞けばその時点で警戒してもおかしくない。・・・だから最初の手合わせの時は肩透かしを食らったが」

 

兵夜「まあ、この段階では張れてるかどうか自身がなかった胸を、絶対に張れるようになると決意させた時点であいつらには一応感謝しておくか。一応な、一応!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして俺が宣戦布告するとともに、ついに、アーチャー登場! Fateシリーズの華達の戦場が遂に勃発したぜぇえええ!!!」

 

ゼノヴィア「相棒の初登場にテンションが恐ろしいことになっているな」

 

小雪「フィフスの奴がファックな狼狽してて、マジで酒が上手い。ついでに調子ぶっこいたヴァーリにも一発叩き込んですっげー痛快www」

 

ゼノヴィア「青野。君はいったいどれだけ二人に苦労かけられてたんだい?」

 

兵夜「それはともかく、ここから本格的にバトルパート勃発。まずはゼノヴィア達がムラマサを抑え込むが、ここはまだ前座」

 

小雪「同時進行で兵夜とイッセーによる戦闘が継続。先手はイッセーだが、学園都市もそうだが、お前何やってんだよ」

 

兵夜「正当な迷惑料だ」

 

ゼノヴィア「はっきり断言したな・・・」

 

小雪「だがまあこの時点でヴァーリもそうだがフィフスもシャレにならねーな。っていうか、こいつサシで負けたこと一度もないんじゃねーか?」

 

兵夜「そりゃケイオスワールドのボス格だからな。しかも半端な連中と違ってきちんと修練も積んでいるし準備期間も百年と長い。突然巻き込まれて一年もたってない俺がそう簡単に勝てるか」

 

ゼノヴィア「正論といえば正論だが、なんというか釈然としないな」

 

小雪「だがフィフスはファックなことに、神器使いの精神を刺激しすぎた。ついに出たな、禁手が」

 

ゼノヴィア「木場の聖魔剣に匹敵するイレギュラーだが、意外と活躍が少ないんだな」

 

兵夜「いや、描写されてないだけで戦闘中は結構使ってるんだ。ただ肉体強化は反動がでかすぎてなかなか使えん」

 

小雪「まーあたしも協力して何とか追い込んだが、そこでフィフスは仕込みを発動。正面からでも強い上に卑劣な手段も辞さないとか隙がねーから厄介だ」

 

ゼノヴィア「まったくだ。一時はどうなることかと思ったが・・・」

 

兵夜「ここから始まるわけだ。ドライグとフィフスのトラウマの連鎖が」

 

ゼノヴィア「ああ! イッセーの代名詞であるおっぱいだな!!」

 

小雪「ファックだ・・・改めて思うとマジでファックだ・・・」

 

兵夜「まあかろうじて俺は対応できたが、しかし中盤はついていけなかった。・・・乳力って本当にあるのかなぁ?」

 

小雪「考えたくねーよ」

 

兵夜「そしてここで厄介な連中を二人まとめて滅ぼすチャンスだったんだが、サーヴァント二人に妨害されて思いっきり逃してしまった。マジで腹立つ」

 

ゼノヴィア「セイバーか。セイバーか。・・・勝てるのだろうか?」

 

小雪「おいゼノヴィアしっかりしろ!」

 

兵夜「っていうか巨大ロボットとか何やってんのあいつら? しかもちゃっかりカテレア回収してるし」

 

小雪「つーかよ? カテレアってあの後影も形も出てこないんだけどよ? 出番あるの?」

 

兵夜「末路はちゃんと設定してあるから安心しろ。最終決戦には顔見せるから」

 

ゼノヴィア「さらりと末路と言い切ったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして後始末の最中、俺はいつの間にやら小雪とフラグを立ててしまっていた」

 

小雪「いや、なんかいつの間にかフラグ立ってて」

 

ゼノヴィア「まあ、戦闘中も割とフォローを入れているし、仲良くなる要素が多いからな。しかも格好いいところも多いし気に入る要素は多いだろう」

 

兵夜「ゼノヴィアに恋愛方面で解説する能力があったなんて!?」

 

ゼノヴィア「宮白、君は私のことを脳筋か何かと勘違いしてないか?」

 

兵夜「それはともかく、このあたり小雪のツンデレ具合が見えるというか」

 

ゼノヴィア「微妙に反抗期になり切れてない娘にしか見えないな」

 

小雪「辞世の句がそれになりたくなけりゃ話戻せ」

 

兵夜「・・・命が惜しいので話を逸らすが、そしてゼノヴィアもフラグ立てられたな。まあ、こんなことされたらぐっときてもおかしくも何ともないが」

 

ゼノヴィア「まったくだ。宮白で処女を捨てずにいてよかったと心から思う」

 

兵夜「その言い方はなんかむかつく。ど素人のイッセー相手じゃ高確率で激痛ものだからな? あとで後悔しても知らないからな!」

 

ゼノヴィア「そんなことはない。世の中には痛いのがいいという価値観もあるらしいし、イッセーのためならばその領域に到達してやろうではないか」

 

小雪「そこ、その辺にしろ。さもないとイッセーの性技量上昇も兼ねたお仕置きとしてイッセーの筆卸しするぞ」

 

兵夜「すいませんでした! マジすいませんでした!!」

 

ゼノヴィア「そんなことを言って、将来的に朱乃副部長と〇姉妹とやらになるのが目的だな! 私の目はごまかされないぞ!!」

 

小雪「あ、その手があった」

 

兵夜「ゼノヴィアああああああああああああ!! お前何にきづかせてるんだあああああああああ!!!」

 

ゼノヴィア「す、すまない! まさか気づいてないとは思わなかったんだ!!」

 

兵夜「糞が! こうなったら俺も覚醒せねば!! 目覚めろぉおおおおお!! 俺の中のNTR属性いいいいいいいいいい!!」

 

小雪「おい冷静に考えろよ。お前とあたしはすでにやることやってんだから、そうなればお前らは〇兄弟だぞ?」

 

兵夜「遊びはともかく本命はきついんだよ!!」

 

ゼノヴィア「・・・話を戻すが、ついにアザゼル先生も参加し、オカルトと研究部のメンバーが次々とそろっていくな。青野も駒王学園に転入すればよかったのに」

 

小雪「ほかにも仕事があるからそれはきついんだよ。第一、高校程度の学力ならもう覚えてるから必要ねーだろ」

 

兵夜「え? 裏社会のエージェントしながら学業してたのかお前?」

 

小雪「当然。学園都市は文字通り学校がメインだ。当然学生としての顔はあるし、就学生は勉強が基本だろうが」

 

ゼノヴィア「本当にまじめだな。実際成績もよさそうだ」

 

小雪「学園都市出身だから理系はいける。文系は・・・まあそこそこ程度か?」

 

ゼノヴィア「とはいえ、ベルもやってきたが実際この後の悪魔払いには尾を引いているようなものだ。ままならないものだ」

 

兵夜「いっそのこと対禍の団用軍事組織を作り上げてそこに取り込むというのもありだったかもしれん。やはり俺もまだ未熟か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そういうわけで今回はこのあたりで終了。次回は事実上のオリジナル編である保護者訪問のサーヴァント!」

 

ゼノヴィア「ついに宮白の主武装である偽聖剣のお披露目か」

 

小雪「事実上の兵夜編だからな。結構面白かったよな」

 

兵夜「そういうわけで、つぎのキャラコメもぜひ期待するように!!」

 




どうしても長くなってしまう・・・!


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先生、やってきました!?

と、いうわけで停止教室編エピローグ。


「と、言うわけで、これから俺のアザゼル先生と呼べ」

 

 目の前に、堕天使総督がやって来ていた。

 

 着崩したスーツ姿のそれは、なるほど確かに先生と呼ばれてもおかしくはない格好だろう。いい感じに生徒と友達感覚で付き合いそうな感じの教師といったイメージだった。

 

「・・・帰れマッドサイエンティスト。いや、神器についてのアドバイスだけして帰れに変更だな」

 

 俺は開口一番そういった。

 

 堕天使の総督がなにふざけたことを言ってんだオイ。仕事しろ、仕事。

 

「おいおい、いくらなんでもひどくねえか? なあ、どう思うよ小雪」

 

「いや正論だろ。総督の仕事してろファック野郎」

 

 ためいきをつく小雪の姿もあるが、何だこの展開は。

 

 くそ! アーチャーはどこだアーチャーは!

 

 追い返すにしてもあいつの力がいる。確か今日は来るように言っていたはずだが・・・。

 

「騒がしい人たちが来たようね。お茶がまずくなるじゃない。・・・あ、このクッキーおいしい」

 

「わざわざ東京に行ってまで買ったかいがありました。実質、この紅茶に合わせるにはこれぐらいないと」

 

「紅茶なんて色のついたお湯ぐらいに思ってたけど、案外おいしいのね」

 

「さすがに高級品で淹れる人の腕もいいですからね。実質これで不味いとか言ったらそれは味音痴です」

 

 なんでベルと一緒に紅茶飲んでんだよ!?

 

「・・・どうしてあなたがここで教師をするのかしら? あと、なぜベル達までここにいるのかしら?」

 

 部長もあまりの光景に頭を抱えている。

 

「いや、セラフォルーの妹に頼んだら教師の仕事を与えられてな。ま、俺は天才だから先生ぐらい簡単にこなしてやるよ。安心しろ」

 

 そんなことをほざいたアザゼルの視線の先に、会長が久遠を伴っていた。

 

 会長ぅううううう!?

 

「何とかしないと、姉が代わりに学校に来るとおどさ・・・懇願されまして」

 

 視線をそらしながら会長がそんなことを言ってきた。

 

 ま、まあ、あのキャラが学校に来るのはそれはそれでとんでもない事態になりそうだから大変だが。

 

「要するに、オカ研を売ったのね?」

 

「では、私はこれで。行きますよ、桜花」

 

「了解ですー。じゃあね、兵夜ー」

 

 部長の視線から逃れるためか、あっさりと会長は退散した。

 

 というか、桜花はいったい何しに来た!?

 

 まさか顔を見に来たとかいう理由ではないだろうし、会長の護衛か?

 

 と、帰ろうとしていた久遠がアザゼルの腕に視線を向けた。

 

「そういえば、腕切り落としてましたよねー? なんであるんですかー?」

 

 あ、そういえばそうだ。

 

 アザゼルの奴は腕を切り落としていたはずだ。

 

 ・・・回収してくっつけたというわけではなかった。それは確信を持って言える。

 

「ん? これは神器研究の副産物で作った義手だ。片腕失ったんでどうせだからつけてみた」

 

 堕天使の技術力も大概だな!

 

 俺も義手だがこいつと嫌な共通点ができちまった! どうしよう!!

 

「・・・で? ベルと小雪はどういう理屈だ、そこの駄目総督」

 

 俺はそう聞いてみた。

 

「小雪は俺のサポート役だよ。周りの連中が護衛だの秘書だのお付きだのうるさかったしな」

 

「ファックな話だがこいつのサポートが仕事だしな。駒王学園前のコンビニでバイトしてるから、同情するならそこで買え」

 

 カラオケBOXからバイト変えたのか。

 

 しかしこのトンデモ総督のサポートが仕事とは、こいつも意外と大変だな。

 

「まあ、朱乃やお前の顔を見れるのは好都合だ。テメーいろいろと心配させるからな、手元にいた方が都合がいいんだよ」

 

 そういうと、小雪の奴はそっぽを向いた。

 

 ・・・俺、そこまでこいつを心配させることしたっけか? あ、フィフス戦では無謀な真似した揚句何度か助けられたし、それが理由か。

 

 まさかたった一回の戦闘でそこまで心配されるとは、前から思ってたが、こいつ面倒事を抱え込むタイプだな。

 

「・・・いろいろと大変な性分だな。ま、心配されないよう頑張るから気ぃ抜いとけ」

 

「う、うっせえよファック! お前はちょ、ちょっと黙ってろっ」

 

 なんか顔を真っ赤にした状態で怒鳴られてしまった。

 

 あれ? 俺怒らせること言ったっけ?

 

「そんな心配させるよわっちい奴にかばわれちまって、大変だなぁお前も・・・待て待て待て待て! 対物ライフルで発動させるな!! お前の光力攻撃、銃の種類で威力変更されるんだぞ!?」

 

「うっせえ!! てめーホント少し黙れファックジジイ!!」

 

 ・・・アザゼル、どういう理屈かわからんが刺激するな。

 

 レイヴン戦で旧校舎もいくつか破壊されて、修復したばっかなのに壊すなよな。

 

「それで、ベルさんはどうしてこちらに来たんですか?」

 

「天界側からの暫定的なサポート担当と言ったところですよ、アーシアさん。実質、いずれ本格的に教会から使者が来るとは思いますが、それまであなた方の護衛をするといった方が近いですね」

 

 アーシアちゃんの質問に、丁寧に答えるベルだが、護衛ってどういうことだよ。

 

「今回の一件ではぐれも含めた悪魔祓いは仕事を無くすようなもんだから・・・な!」

 

「悪魔殺しができなくなったファックな連中が、鬱憤晴らしに襲いかかる可能性を考えてるんだ・・・ろ!」

 

 銃を奪い合うアザゼルと小雪の説明が、それを補足する。

 

 ああ、確かに三大勢力で和平が結ばれれば悪魔祓いはお役御免か。

 

 今まで滅ぼすべき存在として教えられた者をいきなり滅ぼすなと言われても困るだろうし、その辺は警戒しないとけないだろうな。

 

「とりあえずは駒王学園の用務員として働かせてもらいます。ゼノヴィア、後で学園内を案内してください」

 

「ああ。あなたが来てくれるとなれば百人力だ。これからもよろしく頼むよ、ベル」

 

 これで紫藤イリナもくれば、教会からの使者が三人ともそろったんだがな。

 

 ま、そううまくはいかないか。

 

「しかし、よく三大勢力のトップが地方都市への長期滞在の許可を取れましたね。・・・実質、教師としての赴任は前代未聞だと思われますが」

 

 確かにベルの言うとおりだな。

 

 こいつどうやってもぎ取った?

 

「ああ、条件としてはグレモリー眷属の神器を成長させることが課せられた」

 

 ・・・待て。今アザゼルなんて言った?

 

「神器研究の第一人者なアザゼルの実力が見込まれたんだよ。禁手間近の停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)に未だ禁手にいたっていない赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)があるだけでも厄介なうえに、ファックなイレギュラーだらけの魔剣創造(ソード・バース)天使の鎧(エンジェル・アームズ)まであふれてるからな」

 

 小雪がため息とともにそう言ってくるが、言われてみればその通りだな。

 

 超強力なうえ二つはもちろんのこと、神の死がきっかけで起きたといってもいい木場と俺の場合、よほど詳しい人物じゃないと指導の余地がない・・・か。

 

「ま、俺に任せりゃ大船に乗った気でいろ! 特に赤龍帝、対になる白龍皇を鍛えた俺がいりゃ、嫌でも強くなれるぜ?」

 

「お、俺はハーレム王になれればいいだけなんだけどなぁ。あ、でも最強の兵士にもなりたいしそれは嬉しいかも」

 

 イッセーも僅かに引き気味だったが、しかしこれは好都合かもしれない。

 

 確かに奴の神器研究は素晴らしい代物だ。

 

 実際ギャスパーの時は効果覿面だったらしく、魔女どもを片っ端から停止したそうだ。こいつがいれば神器方面で俺たちが強くなることは確実だろう。

 

 サーヴァントのマスターとなった以上、フィフスは間違いなく俺たちと戦いに挑むはずだ。赤龍帝がいる以上、白龍皇ヴァーリも戦いに来るはずだろう。

 

 俺たちは、強くなる必要がある。

 

「結局、白龍皇から奪った半減の力も使えないし、そこんところも何とかなりませんかね?」

 

「ま、かなり無茶苦茶な方法で奪ったからな。使えるようになっても当分は確実に命削るだろ。基本的には他の方法考えとけ」

 

 既にイッセーに指導し始めてるよこの総督!

 

 ・・・どっちにとっても虫がいい話だとは思うが、まあお互い様だしその辺は受け入れよう。

 

 今は何より、俺たちが強くなることだ!

 

「朱乃もまー、これからよろしくな」

 

「ええ。・・・和平も結ばれたしね」

 

 朱乃さん、小雪とはまだなんか固いな。

 

 よっぽど堕天使が嫌いらしいな。和平が結ばれたって言い訳があって、それでもアレか。

 

「・・・とりあえずは、木場と宮白は禁手時間を延ばすことだな。ヴァーリは最低でも一カ月は持たせられるから、最終的にはそれぐらい目指せ」

 

 ・・・おい、ちょっと待て。

 

 長くね!? そんなに発動できても俺達のメンタルが持たねえよ!?

 

 いかん、強くなろうとは思ったが想像をはるかに凌駕するレベルで上限が高すぎる気がしてきた。

 

 これからマジで思いやられる! 助けてアーチャー!!

 

「せいぜい頑張りなさい」

 

 見捨てられた!?

 

「おいおい面白いなアンタ。なあ、今度ウチの連中と何日かぶっ続きで模擬戦しねえか?」

 

「サーヴァントの全力戦闘を一日も続けたら、並みの魔術師はそれまでにミイラね。二流のマスターにムチャを言わないで頂戴。私は現世を堪能したいのよ。・・・あ、このチョコおいしい!」

 

 アザゼルがどんどん無茶ぶりをしてくるんだが、アーチャーも積極的に守ってくれない。

 

 俺、死ぬかも?

 

「・・・はあ、この世界の戦闘は無茶ぶりが多すぎるぜ」

 

 そんな中強くならなきゃいけないんだから、本当に大変だな俺は。

 

 ・・・ま、せいぜい頑張りますか。

 




頼りになる指導者と頼りになるサーヴァントがやってきて、オカルト研究部もここからが本格的になりました。

そしてついにヘルキャット編!

・・・・・・の、はずでしたが、

ちょっとオリジナルの話を挟むことにしました。

今後のことを考えると、どうしても挟んでおきたかった話ですので、どうかご了承してくださると幸いです。









親と子。

それは、生命を語る上で絶対にしなくてはならない物語。




「さあ、聖杯戦争を始めよう」




ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド オリジナルストーリー




保護者訪問のサーヴァント

次回より連載開始!!


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保護者訪問のサーヴァント
英霊のいる、毎日です


オリジナル編スタート!!

短編などの話を組み合わせて、ちょっと兵夜について掘り下げていく話になります。


 

 悪魔の生活は割と本気で忙しい。

 

 特に、トレーニングが厳しいと俺は思ったりする。

 

 禍の団によるテロを警戒するのはもちろんのこと、レーティングゲームも視野に入れなければいけないからだ。

 

 前回の一件で痛感したが、俺はまだまだ弱い。

 

 今後フィフスと戦うことは、聖杯戦争に参戦した以上避けられないだろう。翻って、マスター同士の戦いぐらいは互角にこなせるようにならなければ、アーチャーに悪すぎる。

 

 と、言うことでトレーニングは今までよりもハードにしている。

 

 ランニングはペースアップすると同時に重りを追加して全体的にハードルを大きく上げる。

 

 ウェイトトレーニングもちょっと無理して重さを上昇させる。

 

 極めつけに食生活もちょっと見直す。

 

 日々の栄養バランスを考慮して、毎食必ず動物性蛋白質と野菜を追加するようにしたのだ。

 

 もちろん、強化はそれだけではない。

 

 俺のサーヴァントはアーチャーのクラスで召喚されたが、本質的にはキャスターのサーヴァントだ。

 

 それすなわち、優れた魔術の師匠ができたということである。

 

 当然、魔術の勉強も再開できるということだ。

 

 ただし、そうなると生活は必然的に時間が圧迫されるわけであり・・・。

 

「兵夜! 今日の朝ごはんまだー?」

 

「マスター? やっぱり私の分の朝ごはんまで用意するのは無理があるのではなくて?」

 

「うっせえちょっと黙ってろ! あ、目玉焼きが焦げる!?」

 

 朝は最近忙しくなってきている。

 

 面倒だからトースト一枚ですましたこともあるがもう無理だ。

 

 今の俺には日常の栄養バランスが必要不可欠。強くなるには食事も気をつけなければいけないからだ。

 

 栄養をたくさん取るのは当然。各種栄養を必要な分は最低でもとらなければならないのだから、必然的に考えるのは面倒になる。

 

 今日は朝からご飯に味噌汁に漬物に目玉焼きとバランス抜群の食事を用意するので本当に疲れた。

 

 早朝トレーニングの前にチーズと野菜ジュースを取っていなければとても体力が持たなかっただろう。

 

 朝飯をつくるために先にメシ食っていけないといけないとはコレどうよ?

 

「ほらできたぞ居候ども! 今日の朝飯だ!!」

 

「やたー! 言っただききまァッす!!」

 

「・・・おいしい! ちょっとマスター、お代わりしていい!?」

 

 テンションが上昇する居候二人。

 

 使い魔のナツミは毎回おいしく残さず食べてくれるので食わせるこっちとしても気分がいい。

 

 アーチャーも普段の様子とはまた違う。やはり太古の人間なためか現代の食事は刺激的なようだ。無邪気な子供のような反応をしてくれるからこれはこれで見てて楽しい。

 

 これが数か月前なら、トレーニングもろくにせずに一人でもそもそと食べていたわけだから、雲泥の差という奴だ。

 

 ちなみに、これが終わったら朝のシャワーを浴びて汗を流し、制服に着替えて学校へと登校することになる。

 

 おかげで最近は早寝早起きの習慣ができて、健康的な生活をおくれている。

 

 これが、転生悪魔宮白兵夜の、日常の生活だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんな朝を過ごし、学校の授業をまあ真面目に聞き終えれば、続いて始まるのは悪魔家業だ。

 

「・・・さすがに最近呼び出しが少なくなってきたな」

 

「確かにね。まあ、宮白くんの場合だとリピーターが出てくるわけにはいかないからね」

 

 少し悩む俺に、木場が同情の声をかける。

 

 俺の悪魔家業の基本パターンはいわば対不良戦と言っても過言ではない。

 

 そんなもんでリピーターができるってどう考えてもおかしいのは普通である。

 

 さてどうしたもんかね?

 

「そういう木場は今でも人気に衰えがないし羨ましいよ」

 

「そうかい? まあ、確かに物騒な依頼は少ないけどね」

 

「それって結構重大だからな? あぁ、俺にももっと平和な依頼がいっぱい来てほしいよ」

 

 それに関してはマジでそう思う。

 

 確かに俺は対不良に置いてスペシャリストと言っても過言ではない実力を持っているから、そういう依頼が向いているのは基本的に当然だといってもいい。

 

「宮白はそういった依頼が多いのか。私もやはり実力行使できる方が手っ取り早いし、そういった依頼もいいかもしれないな」

 

「今度依頼があった時はぜひ協力してくれ。・・・ああいう連中は女に負けたという事実が非常に心に残るから」

 

 ゼノヴィアも今回は暇なのか、俺に付き合ってくれている。

 

 で、仕事が来ないからって俺が何をしているのかというと・・・。

 

「そういうことだからもっと刃を相手に当てることを意識して! 刀剣類はそれができるかどうかが大きいんだから」

 

「あともう少し深く切り込むようにしろ。棒を叩きつけるのと違って、刃物の場合は深く入れた時の威力の差が大きいぞ」

 

「うぅっす!! ちっくしょお大変だなオイ!!」

 

 剣の修行の真っ最中だ。

 

 せっかく聖剣が使えるようになったというのに、剣が使えないのでは意味がない。

 

 これまでは棒を叩きつけるなどといった鈍器による戦闘になれていたので、剣の基本を一から鍛えようと頑張っているのである。

 

 棒だと遠心力を最大に生かして先端部分を当てるやり方でも十分だったが、刃物の場合少し深く入れた方が深くキレるので威力も大きい。

 

 剣は刀身で切るわけだから、ある程度長く切っ先が入らなければ傷が浅くなってしまう。

 

 かといって深く入れ過ぎると逆に切りにくい。両断できればそれが一番だが、それは剣と技量の二つが良くて初めてできることだ。

 

 この辺が重要だな。リーチ重視であまり深く当ててなかったのがここにきて裏目に出てしまった。

 

 一方、アーチャーはアーチャーで動いていた。

 

 サーヴァントは死亡し、そして完成された存在。追加でいえばクラスという枠にはめ、そのクラスという側面を呼び出すことで人が呼び出せるレベルに落としこんだ存在だ。

 

 それゆえに、サーヴァントは自身の修行で成長はせず、マスターがよりその力を再現できるようになって強くなる。

 

 裏技として、魂喰らいをして魔力をためることで最大出力を維持しつつづけることができるようになるが、それはさすがに外道行為なのでできないだろう。

 

 つまりどういうことかというと。

 

「ほら、しっかりなさい。まだ一つ目の結界すら壊せてないわよ?」

 

「情けないわね。あの子たちの主である私がこの体たらくとは・・・」

 

「あらあら。やはり同姓相手では責められても嬉しくありませんわ」

 

 大絶賛部長と朱乃さんの修行中だった!

 

 アーチャーが生み出した魔術による障壁に、部長達が魔力を全力で叩きこんで壊そうというものだ。

 

 いわば魔力によるサンドバッグ。ただし、頑丈さはちょっと洒落にならないもので全然壊れない!

 

 ちなみに、旧校舎そのものがアーチャーの手で魔術師のアジト兼研究所兼侵入者の処刑場と言うべき工房というものに化しており、対魔術防壁を張っているのでかなり頑丈になっている。

 

 そこにさらに魔術で防御網を張っており、今部長達がぶつけている障壁を凌駕するほど頑丈なので、余波の心配はゼロだ。

 

 逆にそれを負担する俺の魔力が大変だけどね!

 

 まあ、サーヴァントの魔力消費というのは坂道に樽を転がして落とすようなものであり、その落とすまでの労力が魔術師の負担なのでまだましな方だ。

 

 分かりやすく言うとエンジンのスターターを動かすのがマスターの魔力と言ってもいい。

 

 もしくは機関車に石炭を入れる人間の労力か? あ、これが一番近いかも!!

 

 マジで全部負担していたら確実に死ぬ! ああ、マジで冗談抜きな話だとも!!

 

 正直このトレーニングは過酷だが、戦闘なんて絶好調な時ばっかりじゃないからこれも修行の一環だ。

 

 地力だけで鍛えるというのもいいものだし、俺は結構乗り気でこの修行をしている。

 

 まさか木場やゼノヴィアクラスの腕前になるとは思えないしそのつもりもないが、剣技を身につければできることは増える。

 

 フィフスと戦うためにも、やれることはやっておかないとな!

 

「頑張ってますね。実質、見ていて気持ちがいいトレーニングですよ。あ、これ差し入れです」

 

「おーおー頑張ってるじゃねーか。朱乃、ジュース持ってきたから少し休めよ」

 

「兵夜ぁ! おにぎり作ってみたんだけど食べて食べて!!」

 

 ベル達もお土産片手によくこっちに来てくれる。

 

 これが、最近の俺達の夜の日常だったりする。

 

 

 毎回毎回ベルは美味い差し入れを持ってきてくれる。美味いもの巡りが趣味なのかと思うぐらいあたりが多い。

 

 小雪は飲み物が中心だ。以前大量に酒を持ってきたことがあったが会長に発見されて説教喰らって以来ノンアルコールを徹底している。

 

 ナツミは最近料理に目覚めていた。まだまだできは甘いがなかなか食べられるので美味い。

 

 自分で言うのもなんだが、いい日常を送れている気がしてくるものだ。

 

 美味い飯に美味い酒、そしてつるんで楽しい仲間達。

 

 これだけあれば十分すぎるほどの生活ができているわけで・・・。

 

「・・・あら? 兵夜に呼び出しね」

 

 ・・・タイミングが悪い。

 

「しゃぁない。ちょっくら行ってくるとしますわ」

 

 俺は差し入れを少しつまんでから、すっくと立ち上がる。

 

 内容次第ではすぐに帰れることもあるし、何よりこれは悪魔の仕事だ。悪魔として呼ばれた以上行かないわけにはいかない。

 

 しかも俺の仕事は基本的に切羽詰まっているやつが非常に多い。遅れたらそれだけで大変なことになる可能性もあり得るかもしれないからな。

 

「んじゃ、行ってきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 目の前で、とんでもない光景があった。

 

 具体的には、死屍累々の状態だった。

 

 より詳しく説明するならば、廃工場らしき場所でボコボコにされたと思しき不良たちの姿があった。

 

 なんだ、これ?

 

 とりあえずいろいろとあたりと見回してみれば、チラシを持った不良が一人、ものすごい震えながらこっちを見ていた。

 

「えっと、アンタが依頼主でいいか?」

 

「は、はひ! た、たしゅけ、助けてくれ!!」

 

 ものすごいガクブル状態でろれつも回ってない。

 

 なにがあったらここまで心をボコボコにできる?

 

「とりあえず落ち着け。・・・何があった? 依頼は何だ?」

 

「俺を助けてくれ!! ま、まだあの女がいたらと思うと、怖くて動けねえ!!」

 

 ・・・本当にどういうことだかわからんが、とりあえずこの状況下を整理しよう。

 

 ここはおそらく不良のたまり場。こいつらはそこで騒いでいた不良ども。

 

 そして、何者かによってフルボッコにされている。

 

 で、その下手人は女だろう。

 

 そして、不良・女・死屍累々。

 

 これだけのキーワードで思い浮かぶ流れというと・・・。

 

「女無理やり連れこんで返り討ちにあったのか。・・・帰っていいか? ウチ、基本的に善玉なんで死人が出ない範囲なら自業自得にまで関わるのはちょっと」

 

「してない! 少なくとも俺が入ってからは一切してない!! 濡れ衣だ!!」

 

 ・・・この状況下で嘘をつく可能性は普通にあるな。

 

 とりあえず暗示の魔術で嘘をつけないようにして・・・。

 

「本当に何もしてないか?」

 

「ああ! 本当だ! いきなりあいつがやってきて、そしてフルボッコにしてきやがったんだ!!」

 

 嘘はついていないようだ。

 

 とはいえ相手は不良だしな。さてどうしたものか・・・。

 

 とりあえず倒れている連中を軽く診察。

 

 喧嘩慣れしているのはだてじゃあない。それなりの怪我ならだいたいの感じは把握できる程度に怪我については詳しいつもりだ。

 

 ・・・的確に病院送りにならない範囲でボコボコにしてやがる。

 

 これは明らかにスペシャリストの犯行だ。俺でもここまでギリギリのラインでボコボコにすることはできない。

 

「とりあえず経緯を話せ。まずはそこからだ」

 

「俺もわからねえんだよ!! 酒飲んだりヤニ吸ったりして騒いでたら、いきなりこぉ髪の毛三つぐらいにこのへんで束ねてた女が現れて!」

 

 いわゆるトリプルテールか。珍しい髪がたしてる奴もいたな。

 

 ・・・いや、これはまさか。

 

「そいつの特徴は他にわかるか?」

 

「い、いや、なんかそこばっか目立ってから・・・」

 

 なかなか考えたな。

 

 人は特徴で相手を判断する。逆に言うと派手な特徴があるとそこに集中してしまう。

 

 俺も相手に恨みを買いそうな行動をするときよく使う手だ。鼻に絆創膏とかどっかの詐欺師がやってたのをドラマで見て参考にしてみました。

 

 ・・・いやそんなことを考えている場合ではない。

 

 とりあえずこのまま怪我人を放置するのも何なので、治癒魔術をかけながらさらに周りを見る。

 

 ・・・なんか紙包みを発見。

 

 近づいて解析の魔術をかけてみるが特に危険そうな感じはしない。

 

 手に持って慎重に包みをほどくと・・・。

 

―治療費です。お釣りはとっといてください。

 

 などと書かれた札束があった。

 

 ・・・なんだか珍妙な出来事が起きたな。

 

 これが余計な出来事にならなければいいのだがと、俺はたぶん起きると思いながらも願わずにはいられらなかった。

 




現在に置いて、アーチャーの戦力はオカルト研究部員が束になってもかないません。

イッセーが禁手にいたれば話は別ですが、そこまで規格外の化け物なのがサーヴァントということで設定しています


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そっくりさん、現れました!?

ちなみに、この章は合計的にちょっと短めになる予定です。


 

「・・・と、いうことがあったんだがどう思うよ?」

 

 学校で、俺は先日起こった謎の事件について、たまたま出くわした匙に相談していた。

 

「つーかさ、なんで宮白が指名されたんだよ? 桜花から聞いたことあるけど、お前懲らしめるの専門じゃなかったか?」

 

「いや、不良間でのトラブルの仲裁もたまにやってて」

 

 顔が広いのがこういうとき役に立った。

 

 基本的に公正に判断しているので感想はさまざまだが、これがまた意外と多い。

 

 何でももめごとが起きたらチラシを使えとかいう噂まで出てきた様子だ。

 

 俺は本当にそういったのが多い。

 

 少なくともグレモリー眷属はいい加減方向性というものが定まってきているが、俺は不良関係が専門になってしまったようだ。

 

 今までの経験を生かせる内容だとは思うが、物騒な専門家になったなあとためいきをついてしまう。

 

「しっかしトリプルテールってあまり見ない髪型だよな? 他に特徴はなかったのか?」

 

「あいにく暗がりでなにもわからなかった。・・・が、一つだけ分かったことがある」

 

 そう、これは珍しいことだが、珍しくないことだった。

 

「同様の事件がここ最近頻発している。・・・怪我のレベルがレベルだったので警察とか病院とかには報告が行かないが、既に何件が起こってる」

 

 今回ので五回目ぐらいだったろうか?

 

 トリプルテールの女の子が不良のたまり場に現れ、喧嘩をして圧勝する。

 

 内容が沽券にかかわるためあまり広まってはいないが、確実に数回にわたって起こっていた。

 

 情報が少ないがあの惨状から見て、ほとんど状況に変化はないだろう。

 

 ・・・何者だ?

 

 禍の団の関係者だとは思えない。

 

 挑発にしては遠回りすぎるからだ。

 

「不良ばっか狙うって大変だな。・・・お前そっち方面に顔がきくんだろ? 動くことになるんじゃないか?」

 

「それはあり得るんだよなぁ。最近動いてないとはいえ、下の奴が襲われたらさすがに黙っているわけにはいかねえし」

 

 そこが心配だ。

 

 そういえば悪魔家業が忙しすぎるうえにパワーアップ等も考えなきゃいけなかったので、最近そっち方面を考えていなかった気がする。

 

 ・・・どうしたもんかねぇ?

 

「あ、兵夜くんだー。元ちゃんもいっしょだねー」

 

 と、廊下の向こう側から久遠がやってきていた。

 

「よぅ桜花。お前も授業終わりか?」

 

 そう言って匙が手を上げるが、それよりも早く一人の影が俺たちを通り越した。

 

 あれは・・・イッセー?

 

 いや、違う!!

 

「肩の力の入り方から視線の入れ方まで微妙に違う! 何者だテメエ!!」

 

「お前キモいぞ!?」

 

 匙の奴が何やら失礼なことを行ってくるが、自分でもわかってるからあえてなにも言わない。

 

 そのイッセーもどきは後ろからでもわかるぐらい常軌を逸した勢いで久遠にせまり―

 

「そりゃー!?」

 

「グフォ!? お、おっぱ・・・い」

 

 股を蹴り飛ばされてこっち吹っ飛んできた。

 

 ・・・おい、ちょっと待て。

 

「「オイ大丈夫か!? お前何やってんだよ!?」」

 

「え、いや、いきなりだったからとっさに迎撃をー」

 

 つぶれたんじゃ、ないか?

 

 もどきとはいえイッセーそっくりの奴がそんな目にあうのはさすがにまずい!!

 

「オイイッセーもどき! しっかりし―」

 

「おっぱい、み、見た・・・い」

 

 イッセーもどきは痙攣を続け―

 

「おっぱ・・・い」

 

 消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「部長!? イッセーのそっくりさんが現れては消えるという怪現象が勃発してるんですが!?」

 

 俺は速攻で部室に突貫すると、いの一番に叫んだ。

 

 この珍妙な現象がどういう理由で起きたのかはわからんが、どうもヤバい気がする。

 

 普段のイッセーも基本的に欲望に忠実すぎる面はたっぷりとあるにはあるが、それを踏まえてもアレは暴走気味な気がした。

 

 もしあれが一般生徒の前に現れれば大変だ。

 

 普段よりもスケベで自制心がないから間違いなく危害を加えるだろう。しかも、そっくりだから女子たちは高確率でそれをイッセーを誤認してしまうだろう。

 

 イッセーの社会的な生命が非常に危険だ!!

 

「・・・どういうことかしら?」

 

「いや、俺も正直ちんぷんかんぷんなんですけどマジなんですって!!」

 

 駄目だ!

 

 現象が現象だから理解してもらえない!

 

 このままだともう一人でもいたら被害が続出してどうしようもないことになりかねないぞ!!

 

 最悪俺が暗示をかければ何の問題もないだろうが、そうじゃなければマジでヤバいことに―

 

―あ、聞こえるー?―

 

 突然、頭の中にテレパシーが響いた。

 

―あ、これパクティオーの機能の一つで、カードを利用した通信能力みたいな奴なんだよー―

 

 久遠か? えっと、カードカードって俺の場合常時義手にしてるから義手を当てればいいのか?

 

―緊急事態ー。かるく100人は超える数のイッセーくんもどきが学校中で女子を裸に剥きまくってるよ―ー

 

 ・・・・・・はい?

 

 いま、なんつった?

 

「うわぁあああああああん!!!!!」

 

 叫び声と共に、ナツミが部室に乱入してきた。

 

 そのカッコは・・・全裸!?

 

「どうしたナツミ!? は、まさかイッセーもどき!?」

 

 まさか、洋服崩壊を使えるのかあのもどきは!!

 

「イッセーが分身しながら出てきていきなり洋服崩壊つかって来たんだよぉ!!」

 

 とてつもないことを言いながら泣き叫ぶナツミい、俺はどうしたものか考えてしまった。

 

 どういう状況でそんな意味不明の事態が乱発したんだ!?

 

 意味不明というか全てが不明な状況な気がしてきた。あり得ないだろどう考えても!!

 

「っていうか見るなぁあああああ!!!」

 

「フブゴ!?」

 

 い、痛い・・・。

 

 しまった! 状況が混沌すぎて混乱して、ナツミに服を着せるのを忘れていた!!

 

「ご、ゴメン。悪かったから追撃、やめろ。・・・はいコート」

 

「変態見たいだから他のにしなさい」

 

 部長が俺を押しとどめて、部室からシーツを取り出してナツミに渡した。

 

 ・・・しかし待てよ?

 

 洋服崩壊を使えるイッセーもどきが、少なくとも百人以上いるわけだろ?

 

 学校、ヤバすぎないか?

 

「いやぁまいったまいった! ちょっと不味いことになっちまったなぁ」

 

 そんなことを言いながら、アザゼルが部室に入ってきた。

 

 なんかすすけてるんだが、何があった?

 

「悪ぃ、ちょっとミスって大惨事起こしちまった」

 

 いい笑顔でそんなことを行ってくるアザゼル。

 

 ・・・ま、まさか!

 

「お前の仕業かぁあああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 オカルト研究部による緊急会議。俺たちはこの非常時に全員集まっていた。

 

 イッセーはなんかアザゼルなみにすすけた姿で立っており、アーシアちゃんやゼノヴィア、あと朱乃さんに例の偽物を連れて参上した。

 

 つぅかアーシアちゃんとゼノヴィアは既に被害にあっていたらしく、予想以上にヤバい展開になっているのが嫌でも理解できてしまう。

 

「イッセーのドッペルゲンガーが300人!?」

 

 部室に集まったオカ研メンバーは、アザゼルのそんなとんでもない発言に度肝を抜かれた。

 

 使い魔を放って視界を共有している俺の目には、イッセーの集団による連続強制脱衣事件が連発されていた。

 

 ・・・眼福眼福とか言ってる場合じゃねえ!?

 

 悪魔化したことによる高い身体能力を全力で駆使して、イッセーの偽物が女子たちを裸にしていく。

 

 男子はその光景に目を奪われるばかりで一切役に立たず、抵抗する女子もイッセーの前には肩なしだった。

 

 ・・・悪魔の身体能力マジすげえ。武道経験者も片手であしらわれてるよ。

 

 悪魔化した恩恵は俺もちゃんと受けてはいたが、まさかここまでブーストがかかるとは思わなかった。こんな形で実感するとは思わなかったがな!

 

 皆も旧校舎の窓から双眼鏡でその様子をうかがっている。

 

 そして小猫ちゃんからは間違いなく強大な殺気があふれ出ていてマジで怖いんだけど!!

 

「ここに向かう途中で私も襲われました。・・・とりあえず殴って倒しておきましたが」

 

 戦車の握力で双眼鏡が粉砕される。

 

 それ、ちょっとしたブラックジャックの代わりになるようにかなり重くて頑丈な素材で作られてるんだけど!? あと高かったから壊さないでくれない!?

 

「お、おっぱい! おっぱいが見たい!! おっぱいぃいいいい!!」

 

 一応織の中に閉じ込めておいた偽イッセーが暴走している。

 

 ・・・ヤバい。色んな意味でヤバい。

 

 こんなのが300人もいるって、お前。もし一人でも町中に出るようなことがあれば・・・。

 

「アーチャー!! アーチャーさん!! とりあえず学校に障壁はって!!」

 

「はいはい。私は外側から見張ってるわね」

 

 アーチャーも状況は理解しているのか、外に出て行ってくれた。

 

 よし! これで被害は何とか学校内にとどめることができるはずだ!!。

 

「イッセーのコピーは普段より欲望が強くなってるからな。女子はうかつに近づくんじゃねえぞ」

 

 アザゼルがもう分りきっていることを行ってくる。

 

 いわれなくてもわかってるよ。これ、どう考えても一大事じゃねえか。

 

「オイ、アザゼル! お前イッセーでなにしでかしたんだよ!! 大惨事じゃねえか!!」

 

「あなたはなんということをしたんですか!! イッセーくんはただの変態じゃないんですよ! それが300人もいるだなんて、この学校を絶望の海へと沈める気ですか!」

 

「・・・どスケベが増殖するなんて悪夢。なにをしでかしてるんですかこの堕総督」

 

 俺、木場、小猫ちゃんの集中砲火が放たれるが、アザゼルの奴はどこ吹く風だった。

 

「いや、まさかうっかりミスるとは思えなくってなぁ。おかげで性欲が増大したイッセーがまるまるコピーで増殖しちまった」

 

「なにがまるまるコピーだ。劣化品以外の何物でもないだろうが」

 

 俺はツッコミを入れざるを得なかった。

 

「首の傾け方や女性に対する視線の向け方、挙句走るときのフォームもコピーごとにまちまちだし、何より胸に対するガっつき方が勢いだけで繊細さが足りん。これでイッセーのコピーだと? 寝言は永眠してから言えマッド総督」

 

 失礼極まりない奴だ。

 

 どうせコピーするならもうちょっとコピーぐらいを整えてもらいたい。

 

 俺は同意の視線を仲間たちへと求め・・・。

 

「・・・ホモ臭いですよ宮白先輩」

 

「僕のこと悪く言えないんじゃないかい?」

 

「キモいぞ。際限なくキモいぞ宮白」

 

「ひぃいいいい! もしかして、宮白先輩も偽物ですかぁああああ!!」

 

「キモいよご主人」

 

 小猫ちゃん、木場、イッセー、ギャスパー、ナツミからは総出でドン引きされた。

 

「・・・思わぬところにライバルがいたわね」

 

「私も負けてられません! 主よ、どうかお力添えを!!」

 

 部長とアーシアちゃんはなんか気合が入っていた。

 

 俺が、何をした?

 

「なるほど、あれがイッセーの親友か。私も偽物にだまされるようではまだまだだということなのか」

 

「あらあら。兵夜くんは本当にイッセーくんのことが大好きですのね」

 

 ゼノヴィアと朱乃さんだけ変なことを言ってこないが、俺はそれだけ変なことを言ったか?

 

 親友に対してこれぐらいは当然だと思いたいんだが、あれ?

 

「まあ、このままだと被害甚大だしな。よ・・・っと」

 

 アザゼルがなんか魔法陣を展開して操作する。

 

 とたんに、生徒たちが倒れたかと思ったら、女子の周りに光るドームのようなものが展開される。

 

「とりあえず生徒たちは眠らせて、イッセーどもが近付けないように結界も張った。これでこれ以上の被害は出てこねえよ」

 

 さすが堕天使総督! できればもっと早くやってほしかったけどな!

 

「偽イッセーはダメージを与えれば消えるから、後は全滅させればいいだけだ」

 

 良し! それなら簡単だ!

 

 コピーなだけあって再生かい人のごとき弱さを発揮している以上、倒すことはたやすいはずだ。

 

 ただ、微妙に害虫みたいな言い方なのは気になるがな。

 

「300人のイッセーなんぞ害虫も同じだ。とっと駆除せんと後が大変だぞ」

 

「思ってたこと本当に言われたよ! 酷いよこの人!!」

 

 アザゼルのあんまりなものいいにイッセーが泣いた。

 

 ・・・うん。これは後で考えた方がいいな。

 

「私のイッセーは一人いれば十分だわ。全部倒しましょう」

 

「そうですわね。私のイッセーくんは一人いれば十分ですわ」

 

 二大お姉さまがそう言って、静かに同時ににらみ合いを始める。

 

 お姉さま方落ち着いてください。今はそれどころじゃありません。つか、それならあそこのイッセー一人ずつ確保すれば良いだけでは?

 

「300人もいれば害になるね。全部葬り去らないと」

 

「・・・最低すぎる現象です。女性の敵ですので潰しましょう」

 

 やる気出しすぎだよ木場に小猫ちゃん。

 

 確かに洋服崩壊で手当たり次第に女子を丸裸にしていく存在なんで、害以外の何でもないとは思うけどさ? オリジナルが目の前にいるんだからもう少しオブラートに包んであげない?

 

「裸にされたもん・・・! 絶対許さない!!」

 

 ナツミにいたってはマルショキアスを発動させかねない勢いで殺意のオーラがダダ漏れになっている。

 

 俺は静かに頭をなでながら、それがイッセーに向けられないことを切に願うしかなかった。真正面からぶつかったら勝てないもん。

 

 どいつもこいつも元凶がアザゼルなことを忘れてはいないだろうか?

 

 いや、今はアザゼルの処分よりコピーの処理の方が急務なのはわかるんだが、イッセーの扱いが悪い気がする。

 

「よっしゃ! 堕天使の科学力を見せてやる!! 行くぞ、お前ら!!」

 

 こうして、イッセーダミー殲滅大作戦の火ぶたが切って落とされた。

 



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ドッペルゲンガー 退治します

 

 

 欲望に忠実なイッセーコピーをせん滅することになり、アザゼルと俺はそれぞれ独自に準備を進めていた。

 

 幸か不幸か、コピーは欲望が強化されている代わりに知能は低下しているようだ。そこに付け入る隙があると俺は思う。

 

 そして、作戦の火ぶたが切って落とされた。

 

「てってってー!」

 

 アザゼルが、どこかで聞いたような効果音を口で出しながら、釣竿を取りだした。

 

 ・・・緊張感ないなこの男。

 

「まずはこの釣竿を用意する」

 

 そして糸を長く伸ばすと、先端にのりを付けて本をくっつける。

 

「んでもって先っちょにエロ本を用意する」

 

 そして窓から身を乗り出すと、釣竿を窓から垂らした。

 

「後はイッセーが引っ掛かるのを待って釣り上げる。こうすれば簡単に一匹ずつ片付けれるって寸法だ」

 

 そう言いながら、エロ本の付いた釣竿を俺たちに渡していく。

 

 なるほど。確かに引っ掛かりそうだが・・・。

 

「もうちょっと考えてやれよ! これで引っ掛かかったら本人泣くぞ!!」

 

「目的のために手段を選ぶ必要はない!!」

 

 いや選べ! それ悪役のセリフ!!。

 

「全く。前もって俺が仕掛けたトラップの方がよっぽど効果的だな」

 

 仕掛けておいて正解だった。

 

 こんなアホな方法で全滅したらイッセーの心に深い傷が残りそうだ。

 

 親友として、そんなひどい事態になることは決して見逃せない。

 

「何だよ? サーヴァントでも使う気か?」

 

 アザゼルが深く考えずにそんなことを言うが、舐めてるのか?

 

「バカかアザゼル? 仮にも格上の存在をこんなバカがアホやったせいで発生したクソくだらない茶番に付き合わせるわけがないだろうが。俺にだって良識のりの字ぐらいある」

 

「・・・・・・お前は俺に対して遠慮がねえな」

 

 諸悪の根源が何言ってんだ?

 

「おっぱい!」

 

「俺んだ!!」

 

「よませろ!!」

 

 下の方ではなんだか騒がしくなってきた。

 

 エロほんに目の色変えて群がり、釣り上げられるイッセーを気にすることなくエロ本を読もうとする偽イッセー達。

 

 片っぱしから釣りあげられては小猫ちゃんやゼノヴィアに始末されているのに、それには目もくれない。

 

 ・・・なんか、涙出てきた。

 

「吹っ飛べイッセー!! お気に入りだったのに!!」

 

 ナツミはマルショキアスで文字通り消し飛ばす。

 

 吹っ飛ばされたことで消滅するのではなく、消滅するよりも早く粉みじんに吹き飛ばすあたり怒り具合が分かるというものだ。

 

 ・・・間違えてイッセーが殴られないように本物と書いたタグでもつけた方がいいだろうか?

 

「二人とも早く釣りあげなさい!! 大漁よ!!」

 

 部長があまりの連れっぷりになんだかテンションを上げているが、俺は優雅に髪をかきあげるとポーズすら付けた。

 

「これだけ簡単に反応するなら、俺の作戦は完璧に決まる―」

 

―ちゅどどどどどどぉおおん!

 

 発動したな。

 

「・・・宮白? あれ、何の音だ?」

 

「決まってるだろイッセー。・・・爆弾だよ」

 

 俺は平然と言った。

 

「それも聖水を利用した対悪魔用聖水爆弾だ。火薬の量が少なくて済むうえに悪魔以外には誤作動しても害が少ないという便利アイテム」

 

 対悪魔戦を視野に入れて開発していたが、こんなことで使うことになるとは思わなかった。

 

「それをエロ本の下にセットして、エロ本がどかされると自動で爆発するようにしたのをかるく100個ほど用意しておいた。・・・この釣りに引っ掛かるぐらいなら簡単に引っ掛かるだろう」

 

 ふっふっふ。これが俺の実力だ。

 

「だてに長年親友はやってない。・・・イッセーの好みのエロ本は大概把握している。欲望に忠実なら絶対に引っ掛かる!!」

 

 視線を下に向ければ、イッセーがつり放題でとんでもないことになっていた。

 

 ・・・いくらなんでも知能が低下しすぎてないか?

 

 学習されないように同じ場所や近くにはセットしないよう気を付けたのだが、その必要もないような気がしてきた。

 

 アザゼル、もうちょっと上手く作れなかったのかよ。

 

「先生! 物陰に隠れて様子見しているイッセー先輩もいっぱいいます!!」

 

 ・・・と思ったが、ギャスパーがそう言ったように様子見程度の知能を持ったイッセーもいたようだ。

 

 ちょっとほっとする俺だが、そこにアザゼルが無情なアドバイスを送る。

 

「そういうのはマニアックな本で対応しろ。イッセー程度それで十分だ」

 

 アザゼルがエロ本を取り換えながらそういう。

 

 んなばかな。エロ本で釣られることに気をつけているのにエロ本変わったぐらいで反応するはずが・・・。

 

「ほ、本当ですぅううううう!!!」

 

 ・・・マジで泣いていいか?

 

「すごいです! すごい勢いでイッセーさんが連れて行きます!!」

 

 アーシアちゃんがなんだか楽しそうになって来たのが怖い。

 

 ・・・これ楽しんじゃいけないと思うんだ。どう考えても頭抱える展開な気がするんだ。

 

 どぉおん!

 

 ちゅどん!

 

 どどどん!!

 

 ちゅどどぉおん!!

 

 離れたところから爆発音も連続して響き渡る。

 

 ああ、こっちが引くぐらいに引っ掛かってるな偽イッセー。

 

「・・・変態撲滅」

 

「ごふ!!」

 

 爆発に気を取られている隙に、イッセーが小猫ちゃんに殴り飛ばされる。

 

 いかん! 恐れていたことが現実に!!

 

「やめろ小猫ちゃん! そいつは本物だ!!」

 

「そんな馬鹿な。本物はもっと卑猥な顔つきです」

 

 なんてことだ! 信じてくれないだなんて!

 

「よく見ろ小猫ちゃん! ダメージが入る時の腰の曲がり方が偽物より5度急だろう!!」

 

 そうだ! こんな簡単に見分けられるじゃないか!!

 

「エロ本を見たときの目の見開きぐらいも、目当てなエロ本を見つけるときの反応速度もエロ本を読んでいるときに口のにやけ具合も全てが違う!! もっと冷静になればすぐにわかるはずだ!!」

 

「・・・それはむしろ分かりたくないです」

 

 ・・・あれ? なんかドン引きされてる?

 

「強敵はすぐ近くにいるようね。・・・負けてられないわ」

 

「部長さんの言うとおりです。・・・ああ、主よ、どうかお導きください」

 

「あらあら。宮白くんには負けてられませんわね」

 

 一部対抗意識を燃やされている!?

 

「み、宮白。・・・マジでキモいぞ」

 

 イッセーにまでツッコまれた!?

 

 なんか釈然としないまま、釣り上げと爆発のコラボレーションは続けられていった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆発と釣り上げた途絶えて数分。俺たちは新たな作戦を発動する必要があったが、そこに援軍が現れた。

 

「実質何人か殴り倒しましたが、なにを考えてるんですかこの総督は」

 

 事情を聞いたベルが頭を抱えてためいきをつく。

 

 そりゃそうだろう。この展開は非常に面倒なことになっている。

 

「やるならアーシアさんをドッペルゲンガーにするべきです。そうすれば擦り傷などが絶えないであろう運動部員達を一瞬で治療で来て、ミカエルさまも喜ぶでしょうに・・・」

 

「そこじゃねえよ!?」

 

 俺は思わずツッコミを入れてしまった。

 

 誰がコピーさせる対象についてツッコミを入れろと言った! 

 

 コピーそのものに対してツッコミを入れろよ! しかも強制だぞこのバカ!!

 

 なんでこの女は時々ねじりこむようにボケる! 漫才師でも目指してんのか!

 

「そうでもないぞ。さすがに知恵が付いたのかエロ本に引っ掛からなくなったしな。これだけでいけるかと思ったが予想外だ」

 

 てめえ本当に当事者とは思えない意見を言ってくるな!

 

 本人が、本・人・が! ここにいるんだろうが!!

 

 ええいいっそ殴り飛ばしてしまおうか!

 

 つか、この状況下終わったは終わったで収集つくのか? 記憶処理とかその辺どうするつもりだ!!

 

「仕方がない。朱乃! お前の出番だ!!」

 

「なんですか?」

 

 朱乃さんのニコニコフェイスが微妙にゆがむ。

 

 ・・・やはり堕天使に対する悪感情は消えないか。

 

 むしろイッセーがアザゼルに対して敵意が小さいのが奇跡的なぐらいだ。こいつはもうちょっと敵意を持つべきだと思うのは俺だけだろうか?

 

 そんなことを考えている間にアザゼルが朱乃さんへと耳打ちし、された朱乃さんの表情に戸惑いの色が浮かんだ。

 

 なんだろう。すっごい頭が痛くなりそうな展開になりそうだ。

 

「た、確かに有効そうですわね・・・」

 

「リアスでやるのもいいがまずはお前だ。さあ、レッツゴー!」

 

 数分後。

 

 俺の目の前には、バニーガール姿の朱乃さんの姿があった。

 

 ・・・二次元で駄目なら三次元、か。

 

 隣に立つイッセーがガン見していた。

 

 俺もとりあえず脳内に保存しておこう。こんな光景そうそう見れないぞ。

 

「本体の反応が既にガっついてるな。これは効果抜群だぞ!!」

 

 ちゃっかり自分もガン見しながらアザゼルが断言する。

 

 確かに、エロ本であの反応ならこれは効果てきめんだろう。

 

「イッセーくーん! おっぱいですわよー!」

 

 旧校舎を出てきた朱乃さんの声が響き渡る。

 

 一瞬の沈黙が起き、その後変化は訪れた。

 

「「「「「「「「「「おっぱい!!」」」」」」」」」」

 

 一体どこに隠れていたのかわからないが、イッセーにドッペルゲンガーが現れた!

 

 まだこんなにいやがったのか! やはりアレか、ペラペラな紙より肉感あふれる本物か! 気持ちはわかる!!

 

「なるほど。肉欲を刺激することでドッペルゲンガーを集めるわけですね。実質私も手伝った方がいいでしょう」

 

 この光景を見ていたベルが立ちあがり、服に手をかけながら旧校舎を出る。

 

 ドッペルゲンガーの視線がベルに集まり、次の瞬間。

 

「私のスタイルを利用する必要があるかもと思い用意していたハニートラップ用武装、実質しっかりご覧なさい!!」

 

 服を豪快に投げ飛ばす!!

 

 その身を僅かに包むのは下着。

 

 それも、ただの下着ではない。

 

 重要部分がスリットが入っているおかげでしっかりと見ることができる、いわゆるエロ下着の類だった!!

 

「えええええええええええええええええええ!? なにやってんのぉおおおおおおおおお!?」

 

 イッセー(オリジナル)のツッコミが響き渡る。

 

「「「「「「「「「「おっしゃぁ!!」」」」」」」」」」

 

 イッセー(ドッペルゲンガー)の歓声も響き渡る!!

 

 所詮は偽物、本体のツッコミ属性までは再現できないということだな!!

 

 ・・・なんだか、泣いていいだろうか?

 

「お前何やってんの!? なんでお前、時々ねじりこむようにボケを叩きこむの!?」

 

 俺はそうツッコミを入れざるをえなかった。

 

 イッセーとの模擬戦の時と言い、事後報告の時と言い、この女、隙あらばトンデモないボケを叩きこんできやがる!!

 

「ミカエルさまのためならば、この身を穢す覚悟などとうにできています!! すべてはアザゼルの尻拭いをして恩に着せるため!! さあ近づいて見に来なさいドッペルゲンガー!!」

 

「「「「「「「「「「はい! おっぱい!!」」」」」」」」」」

 

 堂々とし過ぎてもはや神々しさすら感じさせる勢いのベルの宣言に、ドッペルゲンガーはさらに大挙して押し寄せてきていた。

 

 おっぱいに飢えすぎだろドッペルゲンガー! ここはツッコミを入れるところだろ!!

 

 そしてそんなドッペルゲンガーは朱乃さんの雷に呑みこまれていく。

 

 雷など気にも留めずにドッペルゲンガーはおっぱいに突進し、そして塵と化していく。

 

 何だろう、この火に飛び込む虫のような哀れな光景は。

 

 俺は無情すら感じていた。それでいいのか、ドッペルゲンガーよ。

 

「あらあら。これが本物なら嬉しいのだけれども・・・。バニーでご奉仕してあげるのは本物だけですわ」

 

 ドSな朱乃さんの宣言など気にも止めず、ドッペルゲンガー達は雷に飲み込まれていく。

 

 そして、それを見ながらアザゼルは悲哀の表情でイッセーの肩をたたいた。

 

 ただし、その手にはハンディカムが握られている。

 

「この光景、撮影して同僚におくっていいか? マジで面白すぎんだよこれ」

 

「俺、アンタを殴っても怒られないと思うんだ」

 

 イッセーとアザゼルの壮絶な殴り合いが勃発した。

 

 一句できた。

 

 雷に、飛んで消え去る、イッセーくん

 

 ・・・俺の心の中に封印しておこう。

 



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諸悪の根源、お仕置きします!

 

 エロ本アタックとバニー&エロ下着によってドッペルゲンガーの数もかなり減っていった。

 

 爆弾も完全に使いきり、残る偽物は二桁程度。

 

 作戦も最終段階だ。

 

 さすがに、ここまでやって残っている相手は一筋縄ではいかないだろう。

 

 元々エロがからむととんでもないスペックを発揮するイッセーのドッペルゲンガーはさらにエロに忠実になっている。

 

 下手に追い込んだ以上どんな爆発的なパワーアップを果たすか想像もつかない。

 

 そこでアザゼルはこれまでとは違った変化球な作戦を立てた。

 

 それは・・・

 

「フハハハハハハハハハハハハハハハハ!! さあ見るがいい愚かなイッセーども!!」

 

 見るからに悪役な衣装を着たアザゼルが、旧校舎の屋上で高笑いを上げている。

 

 その背には12の黒翼が展開されており、なんというかある意味本気モードだった。

 

 これまでとは趣向が違ったこの状況に、イッセーのドッペルゲンガーも様子をうかがっていることだろう。

 

「さあ、これを見ろ!!」

 

 アザゼルの横にドレス姿の部長の姿が現れる。

 

 さすがはお姫様。ドレス姿が本気で似合っている。

 

「・・・すげえ酷い作戦だな」

 

 そう、最後の作戦は人質作戦である。

 

 アザゼルと部長が芝居をうって、イッセーの偽物をおびき寄せるのだ。

 

 イッセーの性格なら思いっきり引っ掛かって助けに来るとは思うが、これまでの作戦とは違う意味でひどい。

 

 もうちょっと人道的な作戦を立てた方がいいんじゃないだろうかと思う俺は間違っているのか?

 

「実質、性質の悪い作戦ですね。もう少しまっとうな案はなかったのですか」

 

 ベルも頭を抱えているが、そういうセリフは服を着てから言ってくれ。

 

 なんで下着のままなんだよ。

 

「さあドッペルゲンガー! このまま助けに来ないようなら・・・」

 

 アザゼルはそこで言葉を切ると、両手を開いてわしわしを動かす。

 

 なんだその何かをもむような動きは―

 

「リアスの胸を鷲掴みで揉むぞ!! どうだ、うらやましいだろう!!」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「帰りたい」

 

 俺はそう呟く。

 

 なんだこの展開、なんだこの展開!

 

 なんでこうなった! なんでこんな悲しい展開になってしまったんだ。

 

 俺の目の前では、あまりの事態に突撃してきたイッセーダミーが吹き飛ばされていく。

 

「うわぁああああ!?」

 

「ふはははははは! 見ろ! イッセーがゴミのようだ!!」

 

 なんか悪役に酔っているアザゼルの高笑いが響き渡る。

 

 そんな圧倒的な状況にも負けず、偽イッセーは立ちあがってアザゼルへと向かって行った。

 

「部長を・・・部長を助けるんだ!!」

 

 ボロボロになりながらも立ち上がる偽イッセー。

 

 だがアザゼルは、それを見てまさに悪役な表情を浮かべるのみだ。

 

「バカめ! 堕天使総督に勝てるとでも思ったか! さあ消し飛べ!!」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・完璧に悪役だな。

 

 待てよ? そういえば・・・。

 

「あ、ヤベ」

 

 俺は大事なことに気が付いた。

 

 今すぐ動く必要があるかもしれない。俺は身をひるがえしてその場から駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんでだろう。

 

 僕たちは、目の前の光景から目を話すことができなかった。

 

 この学園を暗黒の闇へと落としかねなかった僕らの天敵。イッセーくんのドッペルゲンガー。

 

 だが、今では彼らの姿に憐憫の情すら浮かんでくる。

 

 アザゼルの光線によって一人一人吹き飛ばされ、そうでなくても余波によって地面へと叩きつけられていくドッペルゲンガー達。

 

 だが、彼らは今まで見せていたスケベな表情を捨て去り、まるで戦場へと向かう英雄のような真剣な表情を浮かべていた。

 

 なんでだろう。彼らの見ていると何か大事なことを忘れている気がしてくる。

 

「なんででしょう。あのドッペルゲンガーさん、すごい必死です」

 

 アーシアさんもそう思っていたのか、そう呟いている。

 

 僕らは、何かとんでもないことをしているんじゃないのか?

 

「ふっふっふ。雑魚にしてはまあ頑張った方だがここまでだ。消し飛ばしてやろう」

 

 心の奥底から楽しんでいるのか、アザゼル先生は余裕の表情すら浮かべてそんなドッペルゲンガーを嘲笑う。

 

 そう、この戦いは誰が見ても勝ちが決まっているほどのワンサイドゲームだ。

 

 なのに、なんでだろう。

 

 彼が負けるところを、僕は見たくない・・・!

 

「立てよ、俺のドッペルゲンガー!」

 

 気づけば、イッセーくんが自分のドッペルゲンガーに手を貸していた。

 

 まさか助けられるとは思っていなかったのか、ドッペルゲンガーも怪訝な表情を浮かべている。

 

 そんなドッペルゲンガーを正面から見返して、イッセーくんはアザゼル先生を指差した。

 

「すっかり忘れてたけどもとはと言えばアザゼル先生が一番悪いんじゃねえか! 行こう、俺達で部長を助けるんだ!!」

 

 ・・・っ!

 

 そうだ、何をやっていたんだ僕たちは!

 

 そもそもこの事態が起きたのはアザゼル先生がイッセーくんを無理やり実験の材料にしたから起きたことじゃないか!

 

 それなのに、僕たちはアザゼル先生の言うがままに被害者の1人ともいえるドッペルゲンガーたちをただ暴行するばかりだった。

 

 なんてことだ、なんてことなんだ!

 

 僕たちは目先の緊急事態にとらわれて、忘れてはいけない大事なことを完全に忘却していた。

 

「そういえばそうだな。そのせいでアーシアは裸に剥かれ、私は裸にされただけで手もだされないという屈辱を受けてしまっていたのだ」

 

 隣に立つゼノヴィアも茫然とそう呟く。

 

「そうだよ、裸にされたのってアザゼルのせいじゃん! ひどい!」

 

 ナツミちゃんにいたっては被害を受けた時のことを思い出したのか半泣きだった。

 

 そうだね。普通裸にされれば泣きたくもなるぐらいショックにも成るよね!

 

 そんな僕たちの目の前で、イッセーくん達が握手を交わして同時に走り出した。

 

 ああ、イッセーくん!

 

 君は僕たちの心にいつも大事な何かをともしてくれるんだ!

 

「「うぉおおおおおおお!!」」

 

「なに手を組んでやがるんだよ! まあいい、だったらまとめてぶっ飛ばすか!」

 

 戸惑いながらもアザゼル先生が光を放ってイッセーくん達を倒そうとする。

 

 そうはさせない。

 

 僕たちは元凶を倒すことを思い出したんだ。このままにさせるわけがない!

 

「ゼノヴィア」

 

「ああ!!」

 

 僕は聖魔剣を生みだしながら、ゼノヴィアを促して走り出す。

 

 光がイッセーくん達に直撃するより早く間に割って入り、デュランダルと共に光を迎撃する!!

 

「大事なことを思い出させてくれてありがとう。僕も一緒に戦わせてくれ!!」

 

「木場! お前ってやつは!!」

 

 ああ、分かっているよイッセーくん!

 

 今なら分かる、僕たちが最初にするべきだった大事なことが!!

 

 それは、アザゼル先生を懲らしめることだ!

 

「ああ。私もいるぞイッセー。デュランダルの力はこういうことをするためにあるはずだったな」

 

 ゼノヴィアもデュランダルを構え直してそう言ってくれる。

 

「お二人を見ていたら、なんだか熱いものがこみ上げてきました」

 

 アーシアさんがボロボロのイッセーくん達を癒す。

 

 そして、その後ろから朱乃さんに小猫ちゃん、ギャスパーくんが歩み寄ってきた。

 

「そうですわね。冷静によーく考えればアザゼル先生が元凶でしたわね」

 

「・・・変態を生みだした諸悪の根源は懲らしめないと」

 

「び、微力ながらあたって砕けろの精神で頑張りますうううううう!!」

 

 そんな僕たちを見回して、二人のイッセーくんは泣きだす寸前の表情で腕を天に突きだした!

 

「「行こう! 先生を倒すために!!」」

 

『おう!』

 

 もう僕たちは迷わない。

 

 諸悪の根源、アザゼル先生! 覚悟!!

 

「な、なんでお前ら手を組んでんだよ! 俺か? 俺が悪いのか!?」

 

「それは当然でしょう。誰が300人もイッセーを生みだしたのかしら? 少し懲りるべきだわ」

 

 目をむいて驚くアザゼル先生に、辛辣な口調で部長がツッコミを入れる。

 

 ですよね! もっと早く気づくべきでした!!

 

「チッ! 仕方ねえからとりあえずとんずら―」

 

「あーざーぜーるー?」

 

 飛び上がろうとするアザゼルの手を、羽毛と毛皮に包まれた手がつかむ。

 

「よ・く・も! 裸にしちゃったよねぇ? 本気でショックだったんだからね!!」

 

 マルショキアス状態のナツミちゃんが、オーラを纏ってアザゼル先生を睨んでいた!!

 

 その後ろではベルさんがためいきをついていた。

 

「べ、ベル! ちょっとこいつ何とかしろ!!」

 

「実質あなたが元凶ですし、しっかり懲らしめられてください」

 

 あなたはやっぱり分かってくれている! その通りです!!

 

「アザゼル先生、覚悟ぉおおおおお!!!!!」

 

「ば、バカな! この俺が・・・ぎゃあああああああああああああああ!!!!!」

 

 イッセーくんを筆頭に突撃する僕たちの手によって、元凶の断末魔が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が戻ってきたときには、何やら不思議な展開が起こっていた。

 

 ・・・具体的には、オカ研メンバーによってアザゼルがフルボッコにされていた。

 

「いったい何があった? いや、アザゼルがぼこられるのは当然ではあるけど」

 

「なんでだぁあああああ!? と、とりあえずお前だけでもいいから助けてくれ!!」

 

 集中攻撃を受けながらもアザゼルが助けを求めている。

 

 なんか割とマジで助けを求めているようだ。相手は下級悪魔がほとんどのはずだぞ? どうやればそこまでダメージを受ける?

 

 と、思った瞬間にアザゼルの頭が踏みつけられて地面に押さえつけられた。

 

 ・・・もしかして、溜めに溜めた一撃をくらわされているのか?

 

「あーとー十回! あ、兵夜! どしたの?」

 

「とりあえずお前だけは止めた方がいいと思うんだけどなぁ俺!!」

 

 ナツミがマルショキアス状態でいい笑顔を浮かべてたよ。

 

 うん、それは助けを求める。

 

 あのコカビエルとすら渡り合った超絶反則能力はさすがにきつい。

 

 たぶんだが、こいつがコカビエルと戦ってた時にイッセーの赤龍帝の鎧と俺の外装の聖剣をまとめて発動していたら、聖剣壊さずに勝てたんじゃなかろうか?

 

 とりあえず、俺は両手を鳴らして注目を集めることにした。

 

 うん、これ以上はさすがにまずいだろう。

 

「はいはい全員終了ー! 仮にも顧問を集団フルボッコとかニュースになるってマジで」

 

「えぇ? いや、この人もうちょっと反省させた方がいいって」

 

「っていうかもうヤっちゃわない?」

 

 特に被害が大きかったイッセーとナツミが不満たらたらだったが、とりあえず集団攻撃は終了した。

 

 っていうか、今気付いたらなぜかドッペルゲンガーも一緒になっていた。ドレス姿の部長がいるにもかかわらず暴走していないドッペルゲンガー。何があったんだろう。

 

 まあ、もう暴走する様子もないし大丈夫だろうか?

 

 見ればドッペルゲンガーはいい表情をしていた。どうやら部長の胸をアザゼルから守ることができて満足なようだ。

 

「頑張ったみたいじゃねえか。・・・やるじゃねえか」

 

 あえて、イッセーのドッペルゲンガーとは言わなかった。

 

 それをいうと、なんか台無しになる気がしたからだ。

 

「お前らなぁ。人のこと大勢でイジめておきながらいうことがそれか?」

 

「無理やり教え子を実験台にした揚句失敗して女子を大量に裸にした元凶がそれを言うな」

 

 涙目のアザゼルの反論は切って捨てる。

 

 こいつは一度反省するべきだろう。・・・今後同じことがあるようなら、物理的に殲滅することも視野に入れるべきだ。

 

 ・・・赤龍帝の鎧とマルショキアスとアーチャーのトリオならいけるか? いや、あの黄金の槍を視野に入れるとしのがれる可能性も十分にある。もう一つ切り札を用意しておきたいところだが・・・。

 

「あ、イッセー先輩のドッペルゲンガーが!」

 

 ギャスパーの声に我を取り戻して見てみれば、イッセーのドッペルゲンガーが光に包まれて消えていくところだった。

 

 時間制限があったのか。・・・だったら安全確保だけしてほおっておくのも手だったような気がする。

 

 イッセーとドッペルゲンガーは向かい合うと敬礼をしあった。

 

 ・・・何やら通じ合うものがあったらしい。ゼノヴィアたちも敬礼を送っている。

 

 なんか良い光景に思えてきた。

 

「散々な一日だった気もするが、なんか最終的には良い一日だった気がするから不思議だな」

 

「そうだね。・・・すがすがしい気分になったよ」

 

 俺のつぶやきに木場が同意してくる。

 

 なんというか、最終的にハッピーエンドになったのだろうか。

 

 だが部長は何やら考え込むと、少しため息をついた。

 

「そう言いたいところだけど、問題が一つ残ってるわ」

 

「そうですわね。ドッペルゲンガーに裸にされた生徒たちが起きたら、どんな混乱が起こるかわかりませんわ」

 

 ああ、それか。

 

「そこは問題ねえよ。ちゃんとやっといたから安心しろ」

 

 アザゼルが絆創膏を貼りながらそう言い切る。

 

 ああ。確かに、お前はちゃんと記憶を操作していたな。

 

 そのあっさりとした言い方はむしろ安心させるだろう。実際イッセーは涙すら浮かべて安心している。

 

「そうなんすか! よかった! 俺が変態扱いされて酷いことになりそうでホント危なかった―」

 

「いや、記憶を完全に操作すると悪影響がたっぷりだからドッペルゲンガーの部分だけ消した」

 

 沈黙。

 

 イッセーがぎこちなく首を動かして、アザゼルを見た。

 

「・・・ドウイウコト?」

 

「ああ、つまりイッセーに服をバラバラにされて、全裸にされたってことになってるわけだ」

 

「・・・・・・見つけたぁ!!」

 

 アザゼルの言葉を裏付けるように、鬼気迫る表情で女子生徒たちが屋上へと参上してきた。

 

 イッセーの表情がひどいことになる。

 

 まあ、どう考えても集中攻撃を受けるような状況下になれば成るだろう。

 

「し、し、死んだぁあああああああ!?」

 

「ああ、まああいつらの間では死んだようなもんだな」

 

 俺は正直ためいきをついた。

 

 うん、危なかった。

 

「やっぱりひどいことになってる!! ってことは・・・」

 

 だが、女子の視線は一瞥しただけで終了して、アザゼルへと非難の視線が向けられる。

 

「アザゼル先生!! よくもやってくれたわね!!」

 

「エロ兵藤はどうでもいいけど、なんてことしてくれるのよ!!」

 

「女の敵!! 許さない!!」

 

 続々と集められる狂暴な視線。

 

 ・・・まあ、こうなるよなぁ。

 

「お、おいおいおいおいどういうことだ!? なんでイッセーじゃなくて俺が狙われてるんだ!?」

 

「そりゃお前のせいだからだろ。二重の意味で」

 

 動揺するアザゼルに俺は種ばらしをすることにした。

 

「いや、記憶処理のことに気付いたからちょっとアーチャーと一緒に出張ったんだがな、お前のせいでマジ大変だったんだぞアザゼル。・・・あ、このへんの会話のシャットアウト可能かアーチャー」

 

「ええ、まったくね」

 

 ためいきをつきながら、アーチャーもこっちに来てくれた。

 

「なにもしないでいてくれれば制服の修復したうえで特に後遺症もなくすっかり忘れて気絶していたことにも違和感を覚えさせずになかったことにできたのに、誰かがひどいことをしてくれたせいで微調整しかできなかったわ」

 

 ああ、まさかなにもしなければそこまで完全に記憶を誤魔化せるとは俺も思わなかった。

 

「その辺はマジお疲れさん。ま、そういうわけでもっと事実に忠実に記憶を書き換えるしかなかったわけだ」

 

「な、ど、どういう風に書き換えた!?」

 

 既に思い当ったのか、アザゼルが狼狽して後ろに下がり始めている。

 

 まあ、言ってやるのが情けか。

 

「アザゼルが作った新薬を飲んだイッセーが暴走して凶行に及んだ感じだ。・・・ああ、念のため数時間の間彼女たちはイッセーがキカイ○ー見たいな半分で赤青しっかり分けられた酷い顔色で目が紫色に濁った状態で泡吹いて痙攣しているように見えるようにしたからさすがに死体に鞭打つ真似はしないだろ」

 

 うん、用意周到。

 

 それにしたってイッセーはどうでもいいとかちょっと酷い気がする。

 

 現実にいれば即救急車を呼ぶぐらいのレベルだから、後で気づいて別の意味で警戒していたんだがなぁ。ちょっと君たち冷血すぎやしない?

 

「追加でいえば私達の会話は当分の間意識できないように調整済みよ。兵夜がボロをださずにネタばらしできるように頼んできたからそれぐらいわねぇ」

 

「サーヴァントパネェ!? ど、どこが弓兵(アーチャー)だ!!」

 

 アザゼルが目をむいて大声を張り上げるが、俺は遠い目をしているだろうな。

 

「本当に同感だよ。アーチャーとして召喚された以上、魔術師としてではなく遠距離攻撃者としての能力がメインとなって再現されるはずだからな」

 

 それでここまでの暗示魔術の行使とか、チートにも程がある。

 

「く、クソが!! 宮白! お前俺に何の恨みがある!!」

 

「恨み? なにを言ってんだお前」

 

 そんなことをいまさら言われても困る。

 

「イッセーを無理やり実験台にしたうえにこの仕打ち。イッセーの守護神である俺が見逃すと思ってるのか?」

 

「さっき俺を助けてくれたのはなんだったんだ! 裏切ったな!!」

 

 いや、あれはそういう意図があったんじゃなくて。

 

「ちゃんと被害者(女子たち)の分も残しとかないとかわいそうだと思ったんだよ。ほら、殴るに殴れないってかわいそうじゃん?」

 

「俺に! お・れ・に! 俺に気を使えよ!!」

 

「だが断る」

 

 諸悪の根源にはしっかり被害を受けてもらわないとな。

 

「まったくだなぁ? ファックな総督はちゃんとファックな目にあってもらわなくっちゃなぁ?」

 

 ・・・なんだ、この殺意は!?

 

 俺としたことが鳥肌が立ちやがった! 後ろを見ればイッセーも蒼い顔をしている。ギャスパーにいたっては目が虚ろになっているし、コレもう気絶してるんじゃないか?

 

 

 カツ・・・カツ・・・カツ

 

 そんな擬音を響かせながら、人影が新たに屋上へとやってくる。

 

「人が目を離している隙になーにやらかしてんだぁ? ア・ザ・ゼ・ル?」

 

 額に青筋を浮かべた小雪が、ものすごいオーラを放ちながら俺達の目の前に現れる。

 

 ・・・これ、ヤバくないか?

 

「ほらお前ら。アザゼルをボコるならこれ使え」

 

 そう言って放り投げるのはメイスにモーニングスターに錘に狼牙棒と凶悪な鈍器の数々!?

 

 分からない武器の名前はネットで調べてくれ! とりあえず凶悪な鈍器の数々だと思えばそれで十分だぞ!

 

「ちょ、ちょっと待て!? お前それ明らかに凶器!?」

 

「ああ、安心しろ。これは特別製で百回ぐらい叩きつけてもアザゼルは死なないから」

 

 ビビりまくるアザゼルをあっさり無視して、女子たちを鼓舞するかのように宣言する小雪。

 

 まあ、最上級堕天使ならたかが一般人の女子が凶器使ってぼこった程度で死ぬわけがない。そういう意味では嘘は一つたりともついていないな。

 

 しかも暗示の影響で判断能力が少し低下しているはずだし、女子たちは躊躇うことなくそれを使うだろう。

 

「少しだけゴメン。頑張って生きろアザゼル」

 

「全力で謝れ! これ俺どうなるんだよ!? クソッ! こうなったら全力で逃げてやる!!」

 

 さすがにヤバいと判断したアザゼルが身をひるがえして逃げだそうとするが、その襟をナツミがしっかりとつかんだ。

 

「ダメ、ボク、キサマ、ニガス、ナイ」

 

「な、なんで片言に・・・ぎゃぁあああああああああああああああああああ!?」

 

 夕暮れの校舎に、諸悪の根源の悲鳴が響き渡った。

 



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珍妙な、才能

アザゼルside

 

 酷い目にあった。

 

 なんでちょっと実験しただけでこんな目に会わなきゃいけねぇんだよ! 人間だったら死んでたぞ!?

 

 科学の発展の為には犠牲が付きもので、別に死人も後遺症も一切出てないというのにマジで酷い奴らだ。酷い目にあっても知らねぇからな?

 

「いや、あれはどう考えてもあなたが悪いでしょう?」

 

 ブツブツ言っていたのか、隣にいたアーチャーがそんなことを言ってきやがった。

 

 今いるのは兵夜が紹介してくれた奴が馴染みにしているバーだ。

 

 様々な種類の酒を色々と取り揃えているのが特徴で、安めの酒が中心だが下手な酒屋より酒の種類が多い。バーなのに日本酒の種類も豊富で、泡盛やら焼酎やらまでおいてやがる。

 

 ちなみに俺は色々な酒を楽しんでいるが、アーチャーの奴はエールを楽しんでいる。

 

「あそこの制服は可愛いのにびりびりに破ったりして。女の子達が制裁に来なかったら私が相手をしていたわ」

 

「・・・俺は運が良いのか悪いのかわからねぇな」

 

 こいつとタイマンとかできれば本気で避けたいところだ。

 

 相当レベルの高い魔術師らしく、兵夜が言うには神代の魔術師じゃないかとか言われている。

 

 俺が戯れに見せた人造神器のデータを少し見ただけで、それを参考に対ヴァーリに使ったようなマジックアイテムの案を出して作っているとかいう話だ。

 

 下手したら堕天龍の閃光槍程度の対策は整えているかもしれん。俺もそうだがこいつも相応の下準備を整えてから戦闘を挑むタイプだろうし、一度戦っただけで次はいきなり戦況が裏が得ることもあるだろう。お互いやり合いたくないタイプだ。

 

 ・・・そんな強大な連中を使役するとか、あいつのいた世界の魔術ってのはどんな滅茶苦茶なんだ? 一度行ってみたいな、マジで。

 

「・・・それで? 会談が終わってから色々とやってるみたいだが調子はどうだよ?」

 

「正直言って苦戦は必須ね。あなたがいてくれているのは正直言って兵夜も感謝しているのよ? いろいろな意味で抑止力になっているもの」

 

 ほう・・・。そこまで警戒しなきゃいけないほどのことだというわけか。

 

 まあ、六対一という状況下じゃビビっても仕方がねぇか。

 

「・・・一応言っておくけど、聖杯戦争という観点に置いて私達の状況は最悪だわ。追加で言うと、私達というのは三大勢力も含めた大勢側を含めてるわよ」

 

「そこまでいうほどかよ。まあ、何でも願いを叶えるアイテムがあるっていうことは、戦況をひっくり返すことも可能だろうな」

 

 専門家のフィフスがあまりに無茶苦茶なことはできないと言っている以上世界滅亡とかはないだろうが、それでも確かに危険ではあるな。

 

 俺達が勝てなけりゃ首脳陣を抹殺するぐらいのことは不可能じゃない。そんな核弾頭が存在しているって言うだけで大きな問題だ。

 

「やっぱり勘違いしているわね。今の状況がどれだけ危険か考えたことはないの?」

 

「六体の英霊が倒されると相当の願いが叶っちまうんだろ? お前が勝ち残ればいいだけだろう」

 

 確かに不利な戦いではあるんだろうが、こっちは大勢側のバックアップもついているんだ。そこまでビビることでもないだろう。

 

「厳密に言えば英霊という燃料を利用して願いを叶えるのがあの聖杯のシステムよ。それはつまり―」

 

「やろうと思えば一体でも使えるってことか?」

 

 アーチャーが目を開いて俺の方を向いてくる。

 

 おいおい、俺だって聖杯戦争の情報はちゃんと聞いてるぜ?

 

 そして、本来の目的と首謀者であるフィフスの願いももちろん聞いている。

 

「再現したフィフスの目的が七体全て使わなきゃ叶わない以上、横取りする可能性が出てくるそんな情報をバラすわけがないだろう? 考えすぎだと思うぜ?」

 

 そう、フィフスの目的は世界に穴を開けるとか言うことだ。

 

 その為には自分以外の全てのチームが敗北し、英霊の魂が聖杯に込められている必要がある。当然その後自分の英霊も殺す必要があるわけだ。

 

 あいつの性格から言って余計な情報をばらすわけがないし、そこは警戒することはあっても過剰な心配はする必要がないだろう。

 

 だが、アーチャーは俺の話を聞き終わるとエールを飲み干してからまたため息をつきやがった。

 

「危険視するところがもう一つあるわよ。・・・聖杯戦争の成り立ちは聞いているでしょう?」

 

「ああ、三つの魔術師の家系が協力し合って作ったんだろ?」

 

 俺から見ても聖杯戦争のシステムは非常にできた物なのがよくわかる。

 

 話を聞くだけでもアレを構成する聖杯のシステムは非常に高レベルな代物だろう。フィフスが封印系神器の研究に参加していたら堕天龍の閃光槍はもっと強力なものになっていたかもしれない。

 

「言っておくけど、ここで気にするべきは聖杯本体じゃないわよ」

 

 そういうと、アーチャーはカクテルを注文する。

 

 言い忘れていたが、この会話は他の人物には認識できないように俺とアーチャーが協力して対策済みだ。

 

「非常に大まかにかつ重要部分だけをいえば、聖杯戦争を行うだけのエネルギーを内包した土地を兵夜がその血を継ぐ遠坂が担当。英霊を封じ込める聖杯というアイテムをフィフスの家系であるアインツベルンが対応しているのは分かっているでしょうけど、ある意味で一番重要なのは最後の一つよ」

 

 カクテルで例えるなら材料が遠坂、それを入れる器がアインツベルンと言ったところか。

 

「カクテルを作るバーテンダーとも言える、魔術師と英霊を繋ぐ契約を担当したのがマキリ。そこが重要なのよ」

 

「確かに地味に根っこの部分を担当してるが、それがどうし・・・た・・・」

 

 ・・・やべぇ。ようやく分かった。

 

 土地はいい。この世界の技術を使えば、世界全土の魔力の流れなどを利用して代用することはできる。やろうと思えば神の子を見張るものだけで再現は可能だ。

 

 聖杯はもっと簡単だ。フィフスが自分で作れるんだから気にする必要はない。

 

 他のこまごまとした部分は百年かけて様々な技術を利用して代用したんだろう。

 

 だとしたら・・・。

 

「一番繊細な契約を担当とするマキリ。・・・聖杯戦争の最重要根幹部分を担当とする家系の力を借りないで、どうやってフィフスは聖杯戦争を再現したのかしらね?」

 

「・・・兵夜やフィフス以外に、マキリの家系に関係する奴らもこの世界に転生しているって考えてるのか?」

 

 ・・・一流の魔術師が更にもう一人。それは考えてなかった。

 

「二度あることは三度あるとかこの国ではいうのでしょう? 問題は、そのマキリの奴も根源到達を目的としている保証はないということよ」

 

 それは確かに危険だな。

 

 裏を知っているから騙されずに行動するし、もし根源に興味がなければある程度減ったタイミングで願いを叶えるかもしれん。

 

「欲を言えば敵サーヴァントを二騎奪い取っておきたいところね。・・・この世界の影響力から逆算すれば、少なくとも五騎の英霊を贄にしないと不安で使えないでしょうし」

 

 出されたカクテルを口に運びながらだが、そう考えると確かにアーチャーの懸念も納得だ。

 

 フィフスの奴があまりにも有能だったから、そこまで考えてなかったな。

 

「・・・あいつのことだから不完全な状態での使用はできないようにシステムに細工してる可能性もあるが、それを過信するのもやべぇか」

 

「どれだけ優秀なのよあの男。・・・とりあえず、私の方はせめて魔力供給を何とかしないと」

 

 ・・・どうやら例の剣を真剣に考え解く必要があるみたいだな。

 

「魔力供給ねぇ? ・・・兵夜の奴じゃ足りないのか?」

 

「セイバーの存在がネックね。いくら私といえど、対魔力が高いセイバーを相手にするとなると相当の魔力を消費する必要があるわ」

 

 そういえば、あの騎士の英霊はアーチャーの相当本気ぽかった魔術攻撃を防いでやがったな。

 

「対魔力が高かろうと私なら抜けることもできるけれど、流石に発動に時間もかかるし、兵夜の魔力量でもそうそう無駄撃ちはできないわ。・・・流石にあなたレベルがマスターになれば話は別でしょうけど、私も燃費が悪いのよ」

 

「・・・どうにかなんねえのか? あいつは別に自分がマスターになることに拘らねぇとは思うが?」

 

 そういうと、アーチャーは今度は両手で頭を抱えてしまった。

 

 俺なんか不味いこと言ったか?

 

「実は二人でそれも考えたのよ? 考えたんだけどそこで問題が発生したわ」

 

「なんだよ?」

 

「召喚の経緯は知ってるでしょう? アレが問題だらけだったのよ?」

 

 ・・・確かに、元々召喚する儀式を発動させることが目的で、失敗を前提とした召喚で呼び出されてやがったなこいつ。

 

「バグが発生したのか、わかりやすく言うと糸が絡まった挙句に接着剤が大量について、更にケースに鍵と一緒に入れられてロックされた挙句海溝に沈んだような状態になってるのよ」

 

 ・・・契約解除は不可能になってるようだ。

 

 どう考えても解除できないだろ、それ。

 

「奥の手を使えば解除はできるかもしれないけど、反動で大ダメージが入りそうで怖いわ。・・・極力使うのは控えたいわね」

 

 前途が多難すぎるな。

 

 俺も本腰を入れて手伝ってやった方がいいみたいだ。忙しそうで面倒だなオイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気を取り直して酒を飲んでいるが、しかし色々と今後の話が出てくる出てくる。

 

 ものすごい面白いことも考えてやがるし、こいつの提案は呑んだ方があいつらの為にもなるか。

 

 とはいえ、そんなものを維持するのは別の意味で大変だし、結局はまだ先の話になりそうだな。

 

「そうだ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどよ?」

 

「何かしら? 魔術のことはどうせ教えても出来ないんだし、ペラペラしゃべるつもりはないわよ」

 

「別に込み入った話を聞きたいわけじゃねぇよ。兵夜の魔術師としてのスペック、アンタからみてどんな感じなんだ?」

 

 あいつは結構興味深いからな。今後指導の手伝いもすることだし、参考程度には聞いてみたかった。

 

 本来魔術師の英霊として召喚されるはずだったらしいし、専門家の分野で話してくれるだろう。ちょっと気になってきたぜ。

 

 だが、アーチャーは俺の言葉を聞いたとたんにまた頭を抱え出した。

 

「・・・なに? そんな話し難いことか?」

 

「いえ、話し難いというわけではないのだけど・・・」

 

 その割にはものすごく言い難そうだな。目も泳いでるし。

 

「アザゼル、あなたは接近戦闘用の人造神器を作ったとして、それが高い遠距離攻撃能力とか探知機能とか持ってたらどうしてそうなったか気になったりしない?」

 

「首はかしげたくなるがそれがどうした?」

 

「いや、まさに兵夜の魔術回路がそんな感じなのよ」

 

 ・・・なんか気になることが出てきたなオイ。

 

「魔力量はそれなりにあるし、宝石魔術や強化等もそれなりに高いのだけど、暗示とかの素質は明らかに低いのに実際にやってみると魔力のロスが多いけど相当の結果を出せたりするの。・・・正直どう説明していいのかわからないわ」

 

 イッセーの奴も意外性があるが、親友なだけあってあいつも相当意外性があるなオイ。

 

「指導そのものは普通に教えればちゃんと飲み込んでくれるから問題ないのだけど、あの特殊性は正直ちゃんと理解しないと今後の指導に影響が出るわ。・・・今度そちらの技術での解析データを用意してくれないかしら。もちろん、そちらで囲っている魔術師の転生者と照らし合わせてもらいたいわね」

 

「そいつはいいが、そのことあいつに言ったのか?」

 

「まさか。どう正せばいいのかわからないのに下手なことを言っても逆効果よ。・・・今後どうやって戦っていくかも不透明なのに、下手な不安要素は増やせないわ」

 

 イッセーの奴も意外性があるが、その親友も意外性にあふれてるようで。

 

 さて、この特殊性が今後の状況に置いて吉と出るか凶と出るか。

 

 ・・・本当に面白いことになってきたようだ。今後の研究にも役立ちそうだし、ここに残ることにしてよかったな。

 

「そういうあなたの視点はどうなのよ? 兵夜のグレモリー陣営での戦闘面では、どれぐらい役に立つと考えてるのかしら?」

 

「一言で言えるな。よく言えばオールマイティ、悪く言えば器用貧乏」

 

 ある意味あいつがグレモリー陣営なのは不幸なことだといってもいいかもしれん。

 

 正直言ってあいつは非常に優秀だ。

 

 光魔力による遠距離攻撃は優秀でウィザードタイプとしても並みの転生悪魔を寄せ付けないレベルだ。水も使うことができるのでやれることが豊富なのはいける。

 

 近接戦闘能力も優秀。武器戦闘に始まり、体術も半ば我流だが鍛えられており、実際人間のままで優秀なはぐれ悪魔祓いを返り討ちにできるレベルなのは非常にすごい。アイツ本当に前世も含めて殺し合いの経験がないのか?

 

 更に魔術の存在は優れている。使い魔と視覚を共有することによって索敵は優秀。強化魔術を利用すれば味方のブーストもできる。治癒魔術の存在は悪魔にとってチート一歩手前の優れた能力だ。サポートタイプとしての万能だろう。

 

 そこに多種多様な武装を、集める手間がかかるとはいえ展開できるアーティファクトとかいうのが加われば更に対応能力が増える。あらゆる状況に対応できるテクニックタイプというのが一番近いだろう。正直パワーに偏っている傾向が強いグレモリー眷属にとては、木場に並ぶテクニックタイプなのは最高ともいえる。

 

 だが・・・。

 

「あいつにとって不幸なことに、グレモリー眷属はどいつもこいつもあいつができることを上位互換で対応できる」

 

 聖母の微笑という桁違いの回復能力を持つアーシアに比べればあいつの治癒魔術はスズメの涙。

 

 自分自身が直接目で見て確認できるギャスパーの方がよりリアルタイムで偵察できるし、更に停止というコンボが使える。

 

 赤龍帝の贈り物が倍化である以上、強化魔術は出力で大幅に劣る。

 

 光魔力の攻撃力も、リアスや朱乃の力に比べれば単純な出力では一歩劣るだろう。

 

 体術の技量はあらゆる格闘技を習得している小猫には敵わない。

 

 スピードも木場の方が上だ。

 

 しいて言えば弱点攻撃による攻撃力ブーストがあるが、その辺も伝説クラスの聖剣であるデュランダルを使うゼノヴィアがいる。

 

「平均的な眷属悪魔としては間違いなく破格の活躍ができるというのにこれってのはマジ酷い。というか他の連中がルーキーの眷属として破格すぎるから目立ち難いな」

 

「頼りになる味方が多いって意味では私としては助かるのだけれどもね。私が本来対応できないアーチャーで呼ばれたことといい。今回の触媒は変な意味で不幸なことかしら」

 

 流石に同情したのか、額に手を当てるアーチャー。

 

 ああ、俺もグレモリー眷属のスペックを見た時思わず同情したね。

 

 実際フェニックスとの一線では、大金星をあげたイッセーや最多撃墜数の木場に並ぶ隠れた好評価を受けているのは想像にたやすいだろう。

 

 それだけのスペックを発揮しているのにも関わらず、その肝となった弱点攻撃で上位互換が出たのが非常に痛い。

 

 別にだからってあいつが役に立たないわけじゃない。

 

 一番になれないとはいえ同時に発動させればかなりの範囲をフォローできるというのは大きいし、強力な武装をかき集めることができればあいつはそれを瞬時に呼び出して使うことも出来る。

 

 悪魔家業においても色々やれるから対処の幅が広いし、言ってはなんだが後ろぐらいことに関してはあいつは他の連中を遥かにしのぐ。

 

 色々と調べてみればこの街の範囲内なら相当の権力を発揮することも出来るようだし、悪魔家業に置いては逆に飛びぬけたエースになることだって不可能じゃないだろう。

 

 何よりこいつは木場をしのぐイレギュラーだ。

 

「正直結構期待してるんだ。いい感じに伸ばしてやってくれやアーチャーさんよ」

 

「魔術に関してはまあ頑張ってみるわ。・・・他はあなたにお任せするわね」

 

 ああ、色々な意味で面白い奴が多すぎる。

 

 これからのあいつらには期待してるぜ?

 




ツッコミが入ったので補足。


アザゼルの視点での万能は、あくまでレーティングゲームの選手として、各タイプとして行動することが可能という意味です。学校でいうのならば、運動も勉強もクラスでのかかりもこなせるというわけです。

アーチャーの視点による特性のばらつきというのは、勉強でいう、理科や社会や英語などの各成績における得意分野などの話です。兵夜は理科が得意で社会はそこそこなはずなのに、体力を消費するとなぜか理科と同じぐらいの成績を出せる・・・といった感じです

ネタばらしはいささか長くあきますが、この特性は兵夜の魔術師としての才能に関わってきますので、是非首を長くしてお待ちください。


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意外と、近代的です

箸休め的な短編です。


 悪魔の仕事というのは想像をはるかに凌駕するほどバリエーションが豊富な気がする。

 

 同じ願いを持っていても叶え方の類は悪魔によって異なる場合があるし、何より悪魔によってなぜか呼んでくる人間には偏りがある。

 

 例えば木場の場合はお姉さんに呼び出されることが多いし、小猫ちゃんの場合は大人の男が多い。イッセーの場合は漢の娘やら全身鎧などの変人の群れだ。俺も不良被害者友の会が基本パターンなので本当に個性的である。

 

 これは、そんな不可思議な依頼の一つで起こった大騒ぎの一つである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪魔の皆さん! お願いがあるんだがいいかな!!」

 

「ブグッホォ!?」

 

 突然大声を上げて突入してきた男子生徒の声に、俺は飲んでいた紅茶を思いっきりむせていた。

 

 いきなり真昼間から悪魔であることを暴露してくる奴がいるとは思わなかった。部室だったから良かったものの、こんなところで大騒ぎになるとかマジ迷惑。

 

 つか、いったい誰だよ? こんな時間帯に悪魔業務とか驚き何だがな。

 

「・・・美乃符さんだったかしら? 一体どうしたの?」

 

 優雅にお茶を飲んでいた部長が優雅に男に向き直る。

 

 美乃符って誰だっけ? ・・・そういえばどこかで聞いたような気がするが。

 

「ああ、ちょっと悪魔の皆に頼みたいことがあってな。今時間ある・・・か」

 

 美乃符といわれた男はそこで始めて俺達の存在に気付いたのか、少しの間きょとんとしていた。

 

「ああ、そういえば新入りがいるとか言ってたな。始めまして、宇宙研究同好会の美乃符だ」

 

 ・・・ああ、思い出した。

 

 そういえば学内の部長クラスは一応顔写真とか集めてたな。その中に確かにこの人いたよ。

 

「あ、どうも。・・・って部長、この人なんで悪魔に詳しいんですか?」

 

 さすがに学内に悪魔の存在を知っている人がいるのは不味いんじゃないだろうか?

 

「ああ、彼は魔法使いの家系の出身なの。私の父が彼の父親と一時期契約していたことがあるからよく知ってたのよ」

 

 あぁなるほど。この人こっち側。

 

「ってそれが何で宇宙研究同好会に? ベクトル真逆ですよ」

 

「俺達の力を宇宙開発に生かしたらどうなるのか気になってな。ちなみに会員全員に俺の素性は教えてある」

 

「いや、それある意味むちゃくちゃ危険だと思うんですけど」

 

 一歩間違えたら世界大混乱だぞ?

 

 だが、美乃符さんはカラカラと笑うだけだ。

 

「不特定多数に正体をばらしながら仕事をするよりかはマシだろ?」

 

 ・・・返す言葉もない。

 

 いわれてみれば悪魔業務って非常に面倒だな。

 

「ま、そんなわけだからこそ頼めることがあるわけなんだが、とりあえず話を聞いてくれよ」

 

 今になって思うが、今回の事態は本当に面倒だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強風注意報。

 

 分かりやすく言えば、風が強いので気をつけましょうという注意報である。

 

 実はいま、駒王町ではこの強風注意報が長続きしているのだ。

 

 それはいろいろな意味で迷惑な事態だろう。

 

 例えば、洗濯物が風で飛んだ。財布から出したお札が風で飛んで行った。風で起こった砂埃で目が痛い。枚挙にいとまがない。

 

 そして、問題の一つとしては・・・。

 

「風が強すぎて部活動ができない?」

 

「厳密には、モデルロケットの類ができないんだよ。風が強すぎて回収装置が上手く機能しなくて打ち上げるたびに壊れてしまう」

 

 そんなもん作ってるのか、本格的だな。

 

 まあ既に一週間近く強風注意報が発令している。こんな状況下ではそもそも打ち上げるのも大変だろう。

 

 風に流されて民家にでも落ちれば学園に抗議が来るかもしれない。そうなれば活動停止処分を受けることもあり得る。

 

「ただでさえ日本じゃ打ち上げ場所に困るのに、ここ最近の強風のせいで活動ができなくてな。今度この辺りの地域でモデルロケットの大会があるんだが、おかげで調整とかができないんだよ。・・・悪魔の力で何とかできないか?」

 

 確かにそれは大変だ。

 

 大会とかでの実績は評価につながる。実績があれば人が増える。人が増えれば部への昇格も行ける。そうなれば部費ももらえて活動がよりしやすくなる。

 

 そういう意味では同好会にとって大会というのは極めて重要だ。それができないというのは問題がある。

 

「今のところ費用は会員が持ち寄ることになってるんだが、それで二の足踏んでいる奴が多くてな。この大会を足がかりに、部費をもらえるようにすれば結構発展できると思うんだが、この状況下じゃなぁ」

 

 美乃符先輩は頭を抱える。

 

「なにせウチは宇宙関係全部に手を出してるから、宇宙食の収集や天体観測も含めてるんだ。やること多いから金かかるんだよ」

 

「それは確かに問題ですね。お金って言うのは重要です」

 

 宝石魔術という金のかかる魔術が本来のメインである俺にはわかる。

 

 お金って言うのは大事だ。

 

「とはいっても困ったわね。さすがに気象そのものに干渉するのはおおごとだし、下手にやれた日本の地を管理する異能者達から苦情が来るのはあなただってわかるでしょう? 私達は事情があってあまり退魔の組織ともめごとを起こすわけにはいかないのよ」

 

「・・・色々あって険悪な仲のもいます」

 

「え、マジで? 結構部長達も大変なんだなぁ」

 

 会話中に入ってきた小猫ちゃんとイッセーの会話が聞こえてくるが、さてどうしたものか。

 

「ただでさえ金がないから遠くに移動するのも大変だし、何とか出来たら俺が持ってる貴重な魔法道具を出すのもやぶさかじゃなかったんだが、無理かぁ・・・」

 

「アンタもうちょっと実家の文化を大事にしたらどうですか?」

 

 いくらなんでも部活動で裏の力を放出するのは不味いと思う。

 

 しかし天侯操作だなんて大魔術クラスだ。少なくとも俺にはできないし、アーチャーだって専門分野じゃなければさすがに手が出せるレベルじゃないだろう。

 

 もしできたとしてもそれが理由で部長達に迷惑をかけるわけにはいかないし、さてどうしたものか・・・。

 

「ふふふふふ。お困りのようだなお前ら」

 

 ドアからアザゼルがカッコよくポーズを付けながら現れた。その姿を見た美乃符部長が硬直する。

 

「だ、だ、だ、だ、だ・・・堕天使総督!?」

 

「あぁビビんなビビんな。別にとって食べるつもりはねぇよ」

 

 変なオーラを出しながら登場するからそんなことになるんでしょうが。

 

 アザゼルは俺達の方を見るとものすごい自慢げな表情を浮かべた。

 

「冥界で俺が保有している土地まで転移させてやろう! それならどれだけぶっ放そうが問題はねえだろ!!」

 

「いや、そんなことしたら俺ん家がややこしいことになるんで」

 

 バッサリ断られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アザゼル先生、かわいそうだなぁ。

 

 一瞬で断られて地味に落ち込んでいるアザゼル先生をよそに、宮白が電話をかけていた。

 

 少しの間考え込んでからかけたということはそれなりに勝算はあるんだろうが、しかしどうするつもりだ?

 

「・・・おや、客でも来ているのか?」

 

 あ、ゼノヴィアたちもやってきた。にぎやかになってきたな。

 

 やってきたゼノヴィアたちに事情を説明しながら、電話を続ける宮白を見る。

 

 あいつ何を考えてるんだろう。どうやってこの問題を解決するつもりだ?

 

「・・・じゃ、お願いしました。さて、あとは報酬だけどどうしたもんか」

 

 電話を終えた宮白が額に指を当てて少しの間考え込む。

 

 ・・・なんでだろう、こいつとんでもないことをしでかしたような気がしてきた。

 

 考え込む宮白は俺達の方にも視線を向けるが、その視線がゼノヴィアのあたりで止まった。

 

「・・・ゼノヴィア、物は相談なんだが」

 

 そういうと、宮白がゼノヴィアに耳打ちした。

 

 なんだなんだ? いったい何考えてるんだ?

 

「その程度なら別にかまわないが、どうするつもりだ?」

 

「ちょっとした報酬だよ。これならいけるか・・・と、いうことで」

 

 すぐさま宮白は再び携帯電話をかけると、今度はすぐに終わらせた。

 

「・・・よし、何とかいけるぞお前ら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とんでもないことになってきた。

 

 美乃符先輩ら同好会のメンバーが、ものすごい緊張した顔で立ちつくしている。

 

 ゼノヴィアはあまり緊張していないが、こいつはたぶんよくわかってないだけだろう。

 

 俺も本気で緊張している。ああ、この状況下で緊張しない学生がいるわけがない。いてたまるものかこの野郎!!

 

 なんで、

 

 な ん で

 

 なんでヤクザの事務所どころか御屋敷みたいな場所に俺たちはたってなきゃいけないんだよ!!

 

「どうしてこうなったぁああああああああ!!!」

 

 俺は頭を抱えて叫んでしまった。

 

 そりゃあそうだろう。

 

 ああ、俺は確かに悪魔ですよ? 一対一なら負けないし、部長は街でも有力な立場に立っているから、うかつに手を出されることはないとは思うよ?

 

 だからってこれはあり得ないだろ!! 心臓に悪すぎるわ!!

 

「な、なあ、本当に宮白くんはここで待つように言っていたのか?」

 

 震える声で美乃符先輩が俺に訪ねてくる。

 

 ああ、宮白は確かにそう言っていた。

 

「なかなか大きな家だね。日本は土地が狭いと聞いていたが、広いところは広いということか」

 

 ゼノヴィアがピントのずれた感想をいうが、俺たちはツッコミを入れることも出来ない。

 

 こんなところでボケっと突っ立ってたら怖いお兄さんたちがやってきたりしないだろうか?

 

 いやだ! なんで悪魔になったってのにこんなことで命の危険を感じなきゃいけないんだ!!

 

 部長のおっぱいを吸うまで死にたくない! 朱乃さんにえろえろなことをしてもらいたい! アーシアを見て癒されたい!! ゼノヴィアとの子作りも正直期待してるんだよ俺は!!

 

 誰かマジで助けてくれぇええええ!!

 

 等と心の中で絶叫していたら、屋敷のドアが開いて黒服の男の人が姿を現してきた。

 

 やばい! ついに怒りにに来たのか!?

 

「お待たせしてすいません。よければ中でお待ちください」

 

 ・・・あれ?

 

 なんでだろう。ものすごい歓迎する態度ですよ?

 

「え、えと・・・」

 

「・・・? 兵藤さまであっていますよね? 宮白さんから伺っておりますが」

 

 ものすごい丁寧な態度だ。

 

 正直イメージと全く違うんだけど、どういうこと?

 

 っていうか、なんでここで宮白の名前が出てくるの? あいついったい何したの?

 

「あ、あの。宮白ってあなた達の何なんですか?」

 

 あいつがただものじゃないのは知っていたが、これはどう考えてもおかしいだろう!?

 

「ああ、宮白さんは我々の恩人です」

 

 誇らしげに語り始める黒服の人。

 

「跡目争いで内部分裂が起こりかけているときに現会長を刺客から匿ってくださり、大規模麻薬ビジネスに乗り出そうとした敵対勢力のボスの居場所を探りだしておびき出し警察に叩きこんでくださったのです」

 

 おかげでこの街も平和なのですと、男の人は締めくくった。

 

「そのため最大幹部クラスの特権を得るほどになったのですが、それにおぼれることなく必ず力を借りた人にはお礼をし、こまごまとした探偵の力を借りたい業務等に関してもそれとなく手伝ってくださり、さらにいろいろな意味で有望な人物を紹介してくださる素晴らしい方です」

 

 すごい大活躍している。

 

 なるほど、そういえばアンダーグラウンドにかなり大きなコネがあるとか言っていたな。

 

 となれば俺が手に入れた裏モノDVDも彼らを経由して入手したのかもしれない。これは素晴らしいことだ。

 

 素晴らしいことだけど・・・。

 

「すごすぎだろ宮白ぉおおおおおおおおお!?」

 

 俺は絶叫するしかできなかった。

 

Side Out

 




ちなみに、事情というのは朱乃さんのアレです。一応気は使っております。

しっかしスピンオフのほうはすごい設定が出てきてますね。まさかそこまででかい家だったとは・・・。


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神様、あっちゃいました!

切るタイミングがなかなかつかめず、かなり長編になってしまいました。


 

「いや、あれは俺が人間のころから培ったコネだぞ? 悪魔商売とは全く別の付き合いじゃ無けりゃダメだろ」

 

 俺はイッセーにそう答えた。

 

 イッセーが、「あの人たちを悪魔としての契約対象にしたらお前出世できるんじゃね?」とか言ってきたがなにを言ってるんだか。

 

 そんな失礼なことはしません。彼らはあくまで俺が培った人脈です。

 

 アレの存在が俺の身の安全にどれだけ助かっていると思っている。

 

 一応言っておくと、彼らはかなり善良な部類の極道組織だ。

 

 賭博経営などは確かにしているが、麻薬ビジネスなどは一切手を出していないし、堅気の方に不要に危害を加えることは一切ない。

 

 金融業は法定金利内に納めているのでまっとうな企業。風俗業界も社員の福利厚生に入れている力具合は下手なクリーンな企業をしのぐレベルだ。

 

 そのせいか警察も積極的に手を出さず、むしろ裏の業界でヤバい連中が来ることを押させる抑止力として利用しているぐらい。

 

 ちなみに、俺は警察関係者のコネを使ってそのあたりの情報交換をそれとなく手伝っている。法の力を借りた方が効果てきめんの場合はそっちのコネを使います。

 

 ちなみに、俺たちは今ミニバスで移動している。

 

 あいさつで根回しに時間がかかってイッセー達に余計な緊張を与えたみたいだが、とりあえずそのあたりの問題は終了した。

 

 丁度、ある程度離れたところの土地開発計画に関わっているのを思い出したのだ。

 

 確かあそこはまだ完全に土地を確保できたわけでもないから今は広い空き地と化しているし、あそこなら多少風が強かったとしても大丈夫だろう。

 

 広さも十分すぎるほどに広いし、問題は一つとして存在しない。

 

「つーわけで付いたら相当に時間がかかるから呼ぶまでそこらのゲーセンか映画館で時間つぶしてくれ」

 

「了解っす宮白さん。いや~こんな好みピッタリな女の子と握手できるなんて俺は幸せだなぁ。宮白さんについて来てホントに良かった」

 

 運転手も上機嫌で何よりだ。

 

 ある程度の人数も移動できる足の確保も仕事の一環だしどうしたものかと最初は思ったが、丁度いいのが一人いて良かった。

 

 活動的な美少女と握手したくてたまらないという変人だから、ゼノヴィアはある意味でピッタリだ。うん、実に好都合。

 

 やはりコネは素晴らしい。個人があらゆる方向に高いスペックを発揮するのは、非常に困難。はんめん、コネというスペックを鍛えれば後は巡り合わせ次第であらゆる方向のジャンルにおいて、有望な知り合いをつくることで擬似的に万能になることができる。

 

 コネは力だ!!

 

「とりあえず土地の広さはこれぐらいだから、真ん中に行けばいい感じにやれると思うんですけど、大丈夫ですか?」

 

「いけるよこれは! ああ、これだけ広けりゃ公式規格以上のものだって飛ばせる!! くっそぅ・・・金があれば大型のだって飛ばせたのによぉ」

 

「マジすっげぇ! こんな広いところで飛ばしていいの! マジありがとう宮白先輩!!」

 

「先輩のコネすごい!! ホントありがとうございます!!」

 

「宮白くんってホントエロ兵藤と一緒にいるのが不思議なぐらい優秀よねぇ。・・・ほんともったいない」

 

 同好会の人たちも緊張から解放されたのか饒舌だ。うん、これならしっかり楽しんでい頂けそうだな。

 

 さぁて、どうなるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほほぉ。アンタがアザゼルの奴が言っておった奴じゃな?」

 

「いや、アンタ誰?」

 

 目の前にいる老人に、イッセーがもっともな疑問をぶつけた。

 

 現地に到着した俺たちはその足で土地へと移動。

 

 風が吹いても大丈夫なように、土地のど真ん中まで移動して行動することになった。

 

 結構機材が重いので人を集めておいて正解だった。せっかくならということで結構な量を持ってきていたのだ。

 

 で、来てみれば先回りしていたかのようにこのちっさい老人が立っていたのだ?

 

 いったい誰だ? アザゼルについて知ってるということはこっちの関係者だとは思うが・・・。

 

「ワシはアザゼルの茶飲み友達じゃよ。今日はアザゼルの奴が用事で来れないからわしがリベンジの手伝いを頼まれたんじゃ」

 

 茶飲み友達になにを頼んでるんだあいつは。

 

 どうやらよっぽど活躍できなかったことを気にしていたらしい。まあ、自信満々で土地を貸すといった直後に冥界だからダメといわれてはリベンジもしたくなるだろう。

 

「つったって、既に宮白のおかげで必要なことは完璧にできましたよ? 風の影響の無いめちゃくちゃ広い土地だし、これ以上なにを求めろと?」

 

 美乃符先輩はそういうが、謎の爺さんはニヤリと笑うと、風呂敷包みを地面に置いた。

 

「わしもキットロケットには手を出したことがあるからわかるが、こんな広い土地ならもっとやれることがあるじゃろう? 心配せずともわしは資格ももっとるから・・・っ!」

 

 風呂敷包みが広げられるが、どう考えても内容量を超えているほどたくさんのものが出てきた。

 

 よく見るとそれは同好会の連中が持っているのと似たような形状をした物体だ。

 

 そう、でかいロケット!?

 

 でか!? 同好会の連中が持ってきたのより二回りは大きいぞ!?

 

「マジか!? こ、ここここここんなでかい奴作ったことねえよ!?」

 

「すげぇ・・・このサイズ下手したら成層圏まで飛ぶぞ!? ほ、本物か!?」

 

「こんなのアメリカとかじゃねえと飛ばせねえかと思ってたのに・・・きょ、許可取ってないけど大丈夫なのか!?」

 

 驚愕に震える同好会の方々。

 

 うん、ちょっと尋常じゃないレベルの驚愕具合だ。

 

 爺さんもその顔が見たかったのか、写真に移しながらニヤリと笑う。

 

「上の方にはわしが申請しておいたから、テストが終わったら思う存分飛ばしなさい。なに、老いぼれもたまにはガキンチョどもが楽しむ姿を見たいと考えるもんじゃ」

 

 これは嬉しいサプライズだ。

 

 俺はよくわからないが、こういうのをやっている人間にとってこのサイズのロケットを打ち上げるとかいうのは結構な楽しみなんだろう。

 

 ・・・たまにはいいことするじゃねえか。小雪が気に入ってるのもわかる気がするぜ。

 

「ほれ悪魔の坊主ども。お前らもついでに一緒に手伝わんか」

 

 ちょっと感心していたら、爺さんが俺達を促した。

 

 いや、俺たちの仕事はこれで終わりだろ? ロケット打ち上げなんてさすがにかじったことすらないぞ?

 

「赤龍帝の坊主は無理なのは解っとるが、魔術師の坊主ができるのはわかっとるぞ? お主だからこそできることがあるんじゃ。とっととデータ収集の手伝いをせんかい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロケット発射三回目。

 

 俺の目の前を高速で飛びあがっていくキットロケット。

 

 俺はビデオカメラに移しながら、全力で上昇して少しでも近くで移すために飛び上がった。

 

「おぉおおおおおおおおおおおお!! ありえねえ!? 土地の都合上こんな近距離で飛んでいるロケットを撮影機材で確認だなんてあり得ねえ!?」

 

「これは今までにない記録データだ! 使えば間違いなく開発研究は一気に進むぞ!」

 

「こんな別次元のデータがあれば私達の入賞も夢じゃないわ!! ああ、これだけしかロケットを持ってこなかった私達のバカ!!」

 

 テンションがウナギ登りで上昇していく同好会の方々には悪いが、これ結構きついんでそろそろ勘弁してもらえないでしょうか?

 

 ゼノヴィアは新米すぎだし、イッセーはそのあたりが全然できないから俺しかできないし交代要員がいねえ!!

 

 クソ! 気を取り直すんだ! 常識で考えろ、こんな奇跡を起こせるのは俺ぐらいしかいないだろうし、この辺りの開発は年単位でのスケジュールだからあと半年は同じことができるはずだ。

 

 つまりお得意様にできる。ぼろもうけできるぞ頑張るんだ!

 

 ・・・いやダメだ! いくらなんでもそう何度も迷惑をかけるわけにはいかん。それはさすがに極道の方々に悪すぎる!!

 

 くそ! やっぱりなんか不満を感じてくるぞ! どうすりゃいいんだよマジで!!

 

「しっかしもうちょっと風があるかと思ったけど、この辺全然風ないなぁ」

 

「ああ、なんでも駒王町を中心として狭い範囲で強風が吹いているらしいんだ。なんでだろうな?」

 

 のんきに会話してんじゃねえよあいつら!!

 

 イッセーと会員の会話を聞きながら、俺は額に汗を流してロケット追撃という難行を繰り返していく。

 

 これも仕事だガンバレ俺!!

 

「まあ少しすればそのあたりも何とかなると思うぞ? 安心せい」

 

 ・・・?

 

「爺さん気象関係をつかさどる妖怪とか何かか? なんでんなことがわかんだよ」

 

 アザゼルの友達というからただものではないのは分かっていたが、まさか気象操作の能力とか持ってるやつなんじゃないだろうか?

 

 爺さんはお茶を飲みながら一息つくと、やれやれといわんばかりにためいきをついた。

 

「やれやれ。優秀だと聞いてはいたがどうやら気づいてなかったか。むしろ逆じゃよ逆」

 

 逆ぅ?

 

「今回の強風が続いているのが鬼道の類による気象干渉によるものじゃ。アザゼルはその元凶どもを探し取るんじゃよ。さすがにそこまでできるとなると小童どもでは荷が重いのでな」

 

 あぁ~。なるほど異常気象だとは思ったけど人為的なものだったのか。

 

 なるほどなるほど。それなら範囲が極小なのも説明がつくな。まったくはた迷惑な連中だ。

 

「そういえばそういった技能を持つ異端の徒を教会時代に討伐に行ったことがあるな。日本にもいたとは」

 

「極東呪術体系の一環でそういうものがるのは親父に聞いてたが、こんなことで体験するとは思わなかったぜ」

 

 ゼノヴィアと美乃符先輩が関心するが、しかしなんでそんな奴が出てきたんだ?

 

「たかが注意報クラスの強風を長続きさせるとか何考えてんだそいつ。どういうメリットがあるってんだよ」

 

 おかげで報酬がもらえるのはラッキーだが、労働がきついことを考えるとどっこいどっこいだな。

 

 何を考えてるのか・・・。

 

「・・・知りたいか? なら教えてやろう!!」

 

 突如、空間に裂け目が走った。

 

 空間の裂け目から、何人もの人影が俺たちに向かって降下してくる。

 

 この感覚、魔力か? だとするとこいつらは悪魔の類・・・!

 

「イッセー、ゼノヴィア! 美乃符先輩たちをカバーしろ!!」

 

 半ば墜落する勢いで地面に効果しながら、俺はイッセー達に指示を出しつつ得物を召喚。

 

 追加でこっそり回収していた廃棄車両を召喚して美乃符先輩達の周りに壁になるようにする。

 

 金がなくても大きめの障害物を集める程度簡単んにできる。この程度はちゃんとやってのける。

 

 とはいえ、この感覚からするとそれなりに強大なレベルの悪魔が来たようだ。すぐに部長達に連絡して増援を出してもらわなければ危険すぎる。

 

 念のためにイッセーにはアザゼルが作った例の装置を持たせているので短期決戦なら勝算はあるが、さてどうしたものか。

 

 悪魔たちはこっちを睨みつけると忌々しげに舌打ちする。

 

 俺たちが何をした? なぜそこまで敵視する。

 

 つぅか、視線が美乃符先輩達に向けられているのが理解できない。いったい何を考えている?

 

「まさかこんなところまで来て行動をするとはな」

 

「よりにもよって神の力を使うとは、おかげでこちらも風を起こせないではないか」

 

「こちらも相当の報酬をもらってやっているのだ、多少強引だが、貴様たちは活動ができない体になってもらうぞ」

 

 マジで目的は美乃符先輩達らしい。と、いうよりかは同好会の連中全員のようだ。

 

「な、なんでだ! 俺たちはただロケットを打ち上げてるだけだぞ! 許可だってもらってるはずじゃないのかよ!!」

 

 美乃符先輩はそうどなるが、男たちはいらだつ視線を向けるだけで動かない。

 

 ・・・いったい何を考えている。禍の団なのか?

 

「かっかっか。まさかと思ったがそういうことか。酔狂な連中もいたもんじゃて」

 

 今まで黙っていた爺さんが、何か気付いたのかそう言って笑いだした。

 

 その笑い声を聞いて、悪魔たちの視線が鋭くなる。

 

「忌々しい八百万の神め。天侯に干渉しているのは貴様か。おかげでロケット発射を妨害できんではないか」

 

「そう言ってくれるな、Sランク級はぐれ悪魔ジーン・コンスコンとその一派。お主らこそ、モデルロケットの打ち上げ阻止のためだけに何日も気象操作などご苦労なことじゃ」

 

 ・・・いま、驚愕の事実が連発して発生したんですけど。

 

「え、えぇえええええええ!? 爺さん、神様なのか!?」

 

 イッセーもそのことに気付いたのか、眼を見開いて爺さんを指差した。

 

 ・・・おいおい、マジでかよ。

 

 確かに神道っていうのは多神教の中でも神の数と種類が桁違いに多いことで有名だが、まさかモノホンをお目に賭ける羽目になるとは思わなかったぞ。

 

「そういえば名乗ってなかったの。わしはフリーで神様をやっとるアスノミコトというもの。アザゼルとは奴が日本で神滅具と関わることになった事件の調査とかの一環でしりあっての。たまに茶を飲んだりしとるんじゃ」

 

 アザゼルの人脈が恐ろしい。

 

 アイツ一神教の存在だがそんなんでいいのだろうか? いや、まあ別にいいのか?

 

 いやいやいやいや。今はそっちじゃない!

 

「ジーン・コンスコンといえば日本の魔術体系に詳しいことで有名なS級のはぐれ悪魔だな。犯罪組織を作ってアジア一帯で活動していると聞いてたが、まさかこんなところで対峙するとは」

 

 ゼノヴィアが警戒するほどの大物か。

 

 そんな奴らがなんでたかが地方都市の部活動に手を出すんだ? 何を考えているんだよ。

 

 ・・・・・・まてよ、そういえば先輩前に言ってたな。

 

 モデルロケットの大会だか発表会に出るって。

 

「・・・・・・大会出場者による妨害工作とかいうんじゃないだろうな?」

 

「よくわかったな」

 

 マジですか。

 

「え? ロケットの大会でなんで妨害? 大会潰して何か得することあんのかよ?」

 

「そっちじゃないイッセー。・・・美乃符会長。参加する奴らの中に成績が伸び悩んでいる金持ちとかいませんかね?」 

 

 こういう連中は金で動く。

 

 と、なれば問題は動かせるだけの金を持っているやつがいるかどうかだ。

 

「あ、ああ・・・。参加校の一つに正姫工業の専務の娘とか自慢してるのがいたはずだが」

 

 よりにも寄ってあそこかよ!

 

「つまり敵の妨害ですよ。気象操作で付近一帯のライバルがロケットをテストするのを妨害している隙に、金の力で開けた土地まで移動して実験を行い、アドバンテージを得ようとか考えたようです」

 

「その通りだ。こっちも一億も詰まれてるんでな。はなれたところで行動する連中にも突然の強風というトラブルで活動停止に追い込んだりしていたのだが・・・まさか気象をつかさどる神がいたとは思わなかった。おかげで力づくでやらざるを得なくなったよ」

 

 金持ってるやつはこれだから困る。

 

 後でどうとでもなるとはいえ、どうやってこの危機を脱するか。

 

「いくら神の一柱とはいえ、所詮は八百万の一つでしかない弱小の神。怒れる神を抑える対神の術式すら存在する極東呪術を研鑽した私なら十分勝算があるぞ?」

 

「ほっほっほ。言ってくれるところ悪いが、わしはこれでも他の神様の手伝いをし続けた結果。気象はもちろんのこと芸能の神やら学問の神やら料理の神やら恋愛の神やら、ついでに神格化した武将の連中の手伝いもしたりで戦闘だって心得はある。暇つぶしに極東の術式も研究したし、そう簡単にはやられんぞ?」

 

 ジーンとアスノミコトがにらみ合うが、ちょっと待ってくれませんか御二人さん?

 

 対抗策をもった上級悪魔クラスと、腐っても神が勝負したらこの辺一帯酷いことになるぞ。

 

「ふ、二人とも! とりあえず美乃符先輩達を安全なところまで非難させるぞ! 全員全力疾走!! とにかく逃げろぉおおおおお!!」

 

「させん! 最低でもロケットはすべてブチ壊させてもらう! こっちはアザゼルのせいで組織が壊滅的打撃を受けたんだからな! ついでにお前らも殺して憂さ晴らしをさせてもらう!!」

 

 いかん! 俺たちもしっかりターゲットに入ってる!?

 

 このままじゃ・・・。

 

「ちょっとうるさいわよそこの雑魚連中!!」

 

 直後、悪魔たちが光の中に消えた。

 

 そして数秒後、ボロクソになって倒れ伏した。

 

 ついでにアスノミコトとかいう爺さんが巻き添えを食って宙を舞った。

 

「「「「「「「ぇええええええええええええええええええ!?」」」」」」」

 

 バトルが始まるかと思ったら即終了したぁああああああああ!?

 

「・・・アーチャーじゃないか。あなたも来ていたのか」

 

 砲撃の来た方向に視線を向けていたゼノヴィアがそんなことを言って、俺たちは我に返った。

 

 その声に振り返ってみれば、杖を構えていたアーチャーがこっちに来ていた。

 

 え、今のアーチャー? 全然本気出してる風に見えなかったんだけど、もしかして戦闘これで終了?

 

 あいてSランクのはぐれ悪魔だよ? 間違いなく強敵のはずなのに、鎧袖一触しちゃいましたよこの人。

 

「モデルロケットに興味がわいたから少し見てこようと思ったのよ。・・・それで、とりあえず学生服来てない連中は全員敵かと思って吹き飛ばしたけど大丈夫だった?」

 

 お、俺たちは大丈夫だけど・・・。

 

「わ、わしの活躍が・・・」

 

 あ、意外と大丈夫そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あ~そういうわけでちょっと脅しかけといてくれない・・・かな?」

 

 宮白が電話をかけて事後報告の真っ最中だった。

 

 結局、なんか名前付きで出てきた強そうな悪魔たちは一瞬で拘束されてあっさり引き渡された。

 

 あいつらの勢力も本気を出したアザゼルの前には情報をばらまきすぎだったみたいで、ほぼ全員が捕まったらしい。こっちに来たのは残党勢力といったレベルだったらしい。

 

 それでもSランクはぐれ悪魔となると相当の強敵で、本来なら苦戦は必須とか言う連中だったらしいんだけど・・・。

 

「悪魔も大したことないのね。アレでSランクだというなら最強クラスも十分倒せそうだわ」

 

 恐ろしいことを平然と言ってくれるアーチャーさん。ロケットを興味深げに見ながらのセリフですが、この人超強いよ!

 

 確かイレギュラーで弱く召喚されたとか言ってなかったっけ!? これで!?

 

 あまりの圧倒的な強さに、あの後同好会の人たちも何人か失神したぐらいだ。

 

 これが英霊(サーヴァント)・・・。

 

 俺たちは、すっごい人に助けられてるんだなぁ・・・。

 

「なにはともあれ助かったよ」

 

 美乃符先輩が俺たちに笑顔を見せる。

 

「これでもう妨害されることもないだろうし、思う存分ロケットを上げられそうだ」

 

「よかったのぅ坊主。その調子で頑張るといいぞ。爺さん応援してるからの」

 

 そう言ってアスノミコトの爺さんがお守りを手渡してくれる。

 

 マジモンの神様が作ったお守りか。効果過ごそうだなぁ。

 

「しかし大丈夫なのかい? こんな方法では妨害をしてきたその何とか工業の専務とやらを捕まえるのは大変だろう。また妨害をしてくるかもしれないぞ」

 

 ゼノヴィアがそう言ってくるが、正直そこは心配してない。

 

 相手が正姫工業なら宮白ならどうとでもなる。

 

「そっちは社長経由で警告が入るから大丈夫だろう。悪魔業界はアザゼル達に睨まれるだろうし、現実的な方法も上から睨まれていては意味がないからな」

 

 電話を終えた宮白がちょっと言いにくそうに、しかし断言した。

 

「全く金があるなら正攻法でやればいいもの、頭のいいバカって言うのは必然的に持ってるものもすごいことになるからたまにバカやるだけでいい迷惑だ」

 

「お疲れさん。それで、宮白、どうするんだ?」

 

「決まってるだろ。・・・後片付けだ」

 

 そう言いながら半目で宮白が見るのは戦闘の痕。

 

 奇麗なクレーターができてしまいました。

 

 うん、さすがは超強いはぐれ悪魔を一撃で戦闘不能にする攻撃だね。すごい範囲がクレーターになっていてちょっときれいだ。

 

 っじゃねえよぉおおおおおお!! こんなのどうやって後かたづけするんだよぉおおおお!!

 

「人里から離れているから音が聞こえなかったのは不幸中の幸いだった。会長さんに悪いから、部長の力借りて整地してから帰ろう」

 

「ちょ、アーチャーさぁあああああん!?」

 

「仕方がないわね。手伝えばいいのでしょう? ゼノヴィア、ちょっと力貸しなさい」

 

「いいだろう。しかしすさまじい強さだ。禍の団があてにするというのも理解できるというものだな」

 

 ・・・結果、次の日の朝日を見るころになってようやく整地が終わりました。

 

 もう疲れた! クソ、こんなことなら俺は参加しなけりゃよかったぜ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくやってくれたわね兵夜。おかげで我が校の宇宙研究同好会は大会で優勝。入部希望者が続出したことで宇宙研究部へと昇格したそうよ」

 

 何日か経った後にその連絡が届き、俺たちはちょっとガッツポーズした。

 

 なんだかんだ言っても苦労したもんな。

 

 ちなみに、正姫工業の専務の娘とかいう人がいるところはビリだったそうだ。

 

 美乃符さんいわく、「妨害するしない以前の問題。一から勉強し直した方がいい」だそうです。ダメなお金持ちっているんだなぁ。

 

「しかし面倒なこともありました。まさか正姫工業が関わっているとは」

 

 宮白は頭痛を感じているのか頭を抱えていた。

 

 まあ、気持ちはわかる。

 

「確かにあそこはクリーンな企業で有名だものね」

 

「あらあら。困った人もどこからか出てきたりするのですわね」

 

「宮白さんも大変でしたね」

 

「・・・どこにでも腐った輩はいるものです」

 

「確かに大変そうだね。大きくなると制御ができなくなるということかな?」

 

「よくは分からないがどこも大変だということか」

 

 仲間たちが口々に感想をいうが、宮白の懸念はそういうことじゃない。

 

「いや、確かにこいつ実家とはぎこちないけど、親の会社で問題児が出たらそりゃ頭も抱えますよ」

 

 その辺は大変だよな。うん、同情する。

 

「「「「「「・・・・・・え?」」」」」」

 

 ・・・・・・あれ?

 

「イッセー。俺、それは言ってないぞ」

 

 あれ? 言ってなかったっけ?

 

「ひょ、兵夜? あなた、あの正姫工業の御曹司なの?」

 

 部長が震える唇で宮白を指差す。

 

 宮白は視線をそらしながらだが、無言でうなづいた。

 

「い、いや、宮白くんは名字宮白でしょ? 普通こういう会社って社長の名字を使うんじゃないの?」

 

 木場もそういってくるが、宮白はためいきを一つついた。

 

「・・・あの会社は世襲制じゃないんだよ。実際、親父が社長になった時は警察沙汰にはならなかったがいろいろと大騒ぎがあったりしたんで、人事面はかなり引き締められたんだけどなぁ」

 

 疲れたように宮白はさらにためいきをついた。

 

「すいませんがその話はできれば避けてもらいませんか? ほら、俺前世の記憶なんて面倒なもんがあるでしょう?」

 

 ソファーに座る宮白の目は、ここじゃないどこかを映しているように遠い。

 

「今はともかく最初のころは結構失敗していて、親兄弟とは1人を除いて距離を置かれてるんですよ。正直、あまり家の話はしたくない」

 

 実際、宮白の家族関係はいろいろと複雑だ。

 

 俺と仲良くなるまでは友達も一人もいなかったし、家に招待されたこともあるけどやっぱりなんかぎこちなかった。

 

 今1人暮らししてるのもその証拠だ。親としての情はあるみたいだけど、お互いに距離を取っている。

 

「・・・そう。ごめんなさい、ちょっと意外だったから踏み込み過ぎたわ」

 

 部長がそう言って頭を下げる。

 

 まあ、相当意外だから仕方がないよな。

 

 実際松田と元浜も始めて知った時は度肝抜かれてたし。

 

「・・・ま、慣れてるからいいんですけどね。で、親の話で思い出したんですが」

 

 そういうと、宮白は資料を転送するとそれを広げた。

 

 それは、最近宮白が関わっている不良狩り事件の資料だった。

 

「ちょっと身内が関わってるぽいんで手伝ってもらえないでしょうか? ・・・犯人があいつだとすると一筋縄ではいかないんで」

 

Side Out



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妹、大迷惑です!

暗闇の中、一人の少女が全力で走っていた。

 

 それを追撃するイッセーだが、近づいたと思ったら勢いよくすっ転ぶ。

 

 それに気付いた俺は素早く跳躍すると壁となっているビルから出たパイプをつかんで飛距離を伸ばす。

 

 視界に移る足元には鈍い輝きがところどころ見える。転ばせるためにばらまかれたパチンコ玉だろう。

 

 そしてそれに一瞬気を取られた次の瞬間には、少女の姿は消えて金網と向こう側の川だけが見える。

 

 だがだまされない。俺は冷静に周りを見あ渡すと、さりげなく置かれていた大きめの段ボール箱を蹴り飛ばす。

 

 段ボールが隠していた金網には大きな穴が開いていた。古典的だがいい手だ。

 

 だが、種さえ分かれば恐れるほどのことではない。素早くくぐると人影を探し、すぐに発見すると追いかける。

 

 イッセーの心配はしない。あの程度でけがをするような鍛え方はしていないし、全員にGPSを持たせているので、位置はすぐにわかる。

 

 俺は素早く追いかけるが、相手もなかなかに逃げ脚が早い。

 

 小柄な体格を利用して障害物をすいすいくぐりながらでは追いかけるのも一苦労だ。

 

 俺は不良から距離を取ったり翻弄したりするためにフリーランニングを習得しているから追いかけられているが、そうでなければ悪魔の身体能力を以ってしても逃げられているだろう。

 

 だが、それもここまでだ。

 

 既に奴は俺達の術中にはまっている。逃亡ルートをある程度コントロールすることに成功しているのだ。

 

 もちろん隠された逃げ道もちゃんと把握済み、このルートを通ることもわかった上でわざと進ませている。

 

 優秀な逃げ方だがまだまだ甘い。何度も不良の大軍を撒いたりしてきた俺の前では素人に毛が生えた程度だ。

 

 案の定、回り込んでいた木場と小猫ちゃんがその進行方向をふさぐ。

 

 その状況に対して少女も素早く対応した。

 

 近くの障害物を足場にすると跳躍、そのまま鉄パイプをつかむと壁を登ってエアコンの室外機などを足場にする。

 

 だが、すでに対策は終わっている。

 

「捕まえましたわ。ごめんなさいね?」

 

 回り込んでいた朱乃さんにとっ捕まった。

 

「BAD!? なんでこんなことろで・・・っ!!」

 

 とっ捕まった少女が悔しげに唸るが、おかげで完璧に判明できた。

 

 特徴的な髪形に破格の戦闘能力。加えて豪快な金遣い。無茶苦茶心当たりがあったが的中したよ。

 

「おまえ、やっぱり雪侶(せつりょ)か」

 

「せ、雪侶ちゃん!?」

 

「・・・YES。確かにその通りですの兄上にイッセーにぃ」

 

 ものすごい視線をそらしながら、トリプルテールの異色の美少女・・・。

 

 俺の腹違いの妹、宮白雪侶はついに降参した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮白雪侶(せつりょ)。15歳で現在は都内の公立中学に就学中。

 

 俺の母親が不倫したことで離婚してから、一目ぼれが原因で電撃結婚した後妻との間に産まれた少女。

 

 自信家で偉そうなところがあるがそれだけの活躍を示しているし、身内には情があるので人気が高い美少女だ。真面目な話、俺は自慢できる。

 

 エリート意識が強いというか、社長令嬢クラスならば相当の外見じゃなければと考え、特徴的な髪形を研究していたが、まさかトリプルテールに落ち着くとは。と、いうか変なところでエリート意識があるな。

 

 英才教育とたゆまぬ努力ゆえに一般人としてのスペックなら間違いなく俺より有望。将来はスポーツ選手か芸術家か、それとも親父の会社で重役を務めることになるのかわからないが、高確率で成功するだろう。

 

 欠点を上げるとするならば金遣いの荒さ。丁度金使いまくれる状況で育ったせいか、使うと決めた時は手加減なく使う悪癖がある。買い物は基本大人買いだ。

 

 いろいろあったせいで親父がその辺ゆるくなったことで、さらに拍車がかかっている。

 

 なぜか俺のことを気に入っており、たぶん家族の中でも段違いで仲がいい。

 

 そのせいか結構似ているところがある。まあ、それは褒められたものではない。

 

 具体的に言うと、かなりダーク的な方法で行動することがたまにあるというわけで・・・。

 

「で? 俺の行動が最近おかしかったから支配してるはずの不良集団を撃破しまくって反応を見ようと行動したと?」

 

「YES。普通に聞いても兄上が答えないのはだいたい想像がついていましたの」

 

 さすが俺の妹。俺のことがよくわかってるな。

 

 だからってその作戦はどうだよ。他になんかなかったのか?

 

「宮白はあくどいけど雪侶ちゃんは過激だよなぁ。俺、本気でビビってるよ」

 

「そこまで言うことないじゃありませんのイッセーにぃ。この程度でビビっているようでは現代社会の闇に狙われたら生きていけませんのよ。この私を見習うとよいですの」

 

 胸を張って断言する雪侶の後頭部をハリセンではりたおす。

 

 このおバカは。そういうことを言っている場合じゃないんだぞこのおバカは。

 

「NO! 心の中でバカを二回も言わないでほしいですのよ!」

 

「お前は心の中を読むな!」

 

 反省の色がないなホント!

 

 頭痛くなってきたが、その隙を狙ったのか部長が一歩前に出た。

 

「ごきげんよう宮白雪侶さん。オカルト研究部部長のリアス・グレモリーよ」

 

「ごきげんようリアス・グレモリーさん。いつも兄がお世話になってますの」

 

 気品あふれる者同士の会話は絵になるが、絵心はないので意味はない。

 

「兵夜の妹ということはイッセーのことも知っているのね? イッセーが何度も迷惑をかけたかもしれないわね」

 

 いや、今はそういうことを言っている場合じゃないんですけどね部長。

 

「いえいえ。愉快な方で一緒にいると楽しませていただきましたの」

 

「そう、この子は確かにいい子だもの。私も助けてもらったこともあるわ」

 

「助けてもらって始めてよさに気付きましたの? お言葉ですけど見る目があまりありませんのね」

 

 ・・・緊張感が漂ってきたぞ。

 

「あら、前から結構すごい子だとは思ったわよ。特に意思の強さと優しさはすごいわ。いまどきここまですごい子はいないもの」

 

「それに関しては同感ですの。英雄色を好むといいますし、好む度合いにふさわしい(おとこ)ですのよ」

 

 しまった、勘づいていたか。

 

 やはり部長をこの作戦に巻き込んだのは失敗だったか?

 

 様子が変わったことに気付いたのか、アーシアちゃんが俺の服を少し引っ張ってきた。

 

 その表情は強張っている。こりゃ裏まで完全に呼んでいるな。

 

「み、宮白さん。もしかして妹さんって・・・」

 

「うん、イッセーのことが気に入っている」

 

『嫁公認の愛人という概念は成立すると思いますの?』

 

 唐突にあんなこと言われた時は俺も少しパニクったものだ。あいつがスケベだからって妥協が早いぞ妹よ。

 

 アイツ突拍子もないことを言ってきたりするわけだ。男を見る目があるのは認めるが、まさかそこまで割り切るとは思わなかった。

 

 しかしそれが成功すると俺とイッセーが義兄弟か・・・。いかんいかん、妄想にトリップしている状況ではない。しかし何人かには悪いが成功するとお得だ。・・・だから妄想は禁止だ俺。

 

「イッセーったら私の婚約を止めるために相手と殴り合ってまで頑張ってくれたもの。あの男を相手に一歩も引かなかった姿はカッコよかったわ。あなたに見せたいぐらい」

 

ordinary(当たり前のこと)。兄も半分冗談でしたが「いっそエロ関係の会社立ち上げてアイツ社長にしたらいい感じに回るんじゃないか」と言ってましたもの。半ば冗談というのは半分は本気ということですのよ?」

 

「い、イッセーさんなら当然です! イッセーさんは私を助けるために何人も集まっている中に乗り込んでくるほどすごいんですから!!」

 

「人を受け入れる器の大きさも忘れてはいけませんわ。私の家系の問題をあっさり乗り越えるのは本当に嬉しかったですよ?」

 

 アーシアちゃんに朱乃さんまで入ってきたぞ!! 頼む、ゼノヴィアまで入ってくるなよ!!

 

 ちなみにエロ会社関係は割と本気だ。

 

 新規参入でヤクザの方々が巨乳ジャンルに特化したエロビデオ作成の会社をつくる動きがあったので一枚かめないか本気で考えた。

 

 イッセーはスケベがでかすぎて隠れているが、人間的魅力にあふれた人間だ。加えて、エロがからんだ時の努力と爆発力は目を見張るものがある。

 

 細かい雑務は俺が何とかすれば良いし、コネを利用すれば相応の活動はできる。俺が副社長でイッセーを社長にすればスケベに耐性がある人物が集まるはず。それならイッセーのいい面を見て心酔する連中も増えるだろう。

 

 ・・・我ながら、この作戦は非常に有効だと思う。いまさらながらに思うが、最初からその方針でイッセーを教育していけばよかったんじゃないか?

 

「イッセーは確かにすごい。度胸も本当にある男だしな。目の前で対峙したことがあるから断言できるぞ?」

 

marvelous(すばらしい)! それは同感ですの! どうですあなた、私のボディーガードになりませんの? そうすれば最高のご主人さまもついて一石二鳥に―」

 

 ゼノヴィアをスカウトしながらイッセーハーレムを建設しようとするな。

 

 ・・・もう説教するどころじゃないな。どうやって軌道修正しよう。

 

「大変だね宮白くん。なんというかアグレッシブな妹さんだね」

 

「・・・・・・イッセー先輩なみに変わった人です」

 

 木場と小猫ちゃんの感想が聞こえてくる。

 

 うん、変人でごめんなさい。俺も大概だけどこいつも相当なんだ。

 

「But、私もこれ以上長話をするわけにはいきませんの。今までの作戦が上手くいかなかった以上、今度は別の方法で最近の不思議行動について調べますのよ」

 

 などと考えていたら雪侶が立ちあがった。何をする気だ?

 

 と、ふと視線がずれた先には細いワイヤーのようなものがあった。しかもそれは雪侶の服の裾に繋がっていて。

 

「それではごきげんよう、オカルト研究部の皆様。兄上の行動にも関わっているかもしれませんし、いろいろと調べさせてもらいますの」

 

 そう言って雪侶がお辞儀をした瞬間、ワイヤーがすごい勢いですその中に引き込まれる。

 

 その勢いに乗って走り出した雪侶は、そのままビルの外壁を垂直に駆け上がって屋上まで上りやがった!

 

 アンカーガン!? いつの間にそんなもの入手しやがった!? っていうか現実にあったけ!?

 

「サバイバル部隊用にお父さまの会社が試作したアンカーユニット。小型軽量版を調達しておいて正解でしたの!」

 

「親父なにロマンアイテム作っちゃってるの!?」

 

 いくら稼いでるからって何考えてんだあいつは!! ツッコミどころをつくってんじゃないよ!!

 

「さようならですのよ! 今度はアルバム込みでイッセーにぃのいいところを自慢させてもらいますのぉおおおおお!!!」

 

 そう言い捨てて姿を消す我が妹。

 

 ・・・あの状況下では追撃は無理か。翼を出せばすぐにでも追いつくが、それだと目立つ。

 

 もうどうしたらいいんだろうかこの状況。ああ、ややこしいことにならなければいいんだけど・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日の夜はマジで大変だった。

 

 まさか雪侶ちゃんがあんな危ないことしてるとは思わなかった。

 

 昔っから宮白異常にアグレッシブというかなんというか、結構いろいろと行動してたからなぁ。

 

『兵藤さん? 今度からイッセーにぃと呼んでもいいですの?』

 

『イッセーにぃ。私豊胸手術に興味があるのですけれど、おっぱい好きなイッセーにぃは詳しくありませんの?』

 

『巨乳の妻と巨乳の愛人、貧乳の妻と貧乳の愛人、ランキングを付けるとしたらどんな感じですの?』

 

『不倫は男の甲斐性だといいますけど、イッセーにぃは甲斐性ありますの?』

 

『アダルト方面の会社社長の妻はどういう感じがいいと思いますの?』

 

 答えずらい質問をいっぱいされたもんだ。マジ大変だった。

 

 一緒に遊ぶ分では貴重な女友達だし、とってもいい子だから大切に思ってる。宮白の家族ってこともあるし、これからも長い付き合いでいたいもんだ。

 

 でもアレは本当に困る。人間誰にでも欠点はあるものだけど、あれはかなりひどいよなぁ。

 

 昨日とっ捕まったし不良狩りなんて挑発行為はしないと思うけど、今度はなにをしてくるか非常に気になる。

 

 どうも悪魔になったことで変化した宮白の様子を気にしているみたいだけど、さてどうしたもんか。

 

 俺もそうだけど、宮白も家族に悪魔になったことは話してない。

 

 もともと雪侶ちゃん以外の家族とは距離を取ってるから、ばらす意味も少ないとは考えているんだろうけど、さてどうしたもんか。

 

 バレたらバレたで面倒なことになるだろうし、とにかく上手くごまかした方がいいんだろうなぁ。

 

 そんなことを思いながらとりあえず部室に付いた。

 

 ちなみに今日は宮白はお休みだ。

 

 前回の一件で自分の傘下の不良集団に頭を下げに言っているらしい。あと、自分の参加じゃない不良集団のフォローというか怒りの矛先を自分にそらすとかいう工作もやってるらしい。

 

 自分が原因であんな襲撃があった以上、今後のフォローは重大だということなのかな。

 

 アイツ学生にしては収入ありまくる方だけど、その分配下に報酬として金払いよく行動してるからそんなに金持ってたわけじゃないからな。本当に面倒見がいい男だと思う。最近すっごくお金持ちになったけど。

 

 今度のことが原因で行動に支障をきたさなけりゃいいんだけど。雪侶ちゃんには俺からもバシっといった方がいいんだろうか。

 

 ・・・いかんいかん! 今は部活に集中しないと!

 

 気を取り直して、俺は元気よく部室に入る。

 

「お待たせしました部長! 兵藤一誠ただいま到着しまし・・・た・・・」

 

「あらイッセー。ごめんなさい、今丁度お客様が来ているのよ」

 

 部長はスーツを着た男性と向かい合って座っていた。

 

 そのすぐそばでは朱乃さんが紅茶の用意をしているが、俺はそこは気にならなかった。

 

 だってそうだ。その男の人は・・・。

 

「宮白のお父さん!?」

 

「やあ一誠くん。久しぶりだね」

 

 宮白の親父さんが、なんとオカルト研究部にお邪魔していたのだ。

 




本作初の、転生者じゃないオリジナルキャラクターです。

インパクトの強いキャラしてみましたがどうでしょうか?


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裏話、相続騒動

「すまないが、リアスさんと二人きりで話がしたいんだ」

 

 そう親父さんに言われて素直に部屋の外に出た俺だったが、隣の部屋に入った瞬間に度肝を抜かれた。

 

「やあ、遅かったねイッセーくん」

 

「イッセー先輩。ど、どうしましょう」

 

 苦笑している木場とおどおどしているギャスパー。

 

「待っていたぞイッセー。丁度いいタイミングだな」

 

「イッセーさん。あの人が宮白さんのお父さんなんですか?」

 

 平然としているゼノヴィアとピントのずれたアーシア。

 

「やっほー。兵夜はまだ来てないんだ」

 

 お茶菓子を食べているナツミちゃん。

 

「遊びに来たら凄い事になってるねー」

 

「ファックな展開になっちまって悪いな」

 

「実質興味に負けました。すいません」

 

 桜花さんに青野さんにベルさんも来ていた。

 

 そして・・・。

 

「よし全員揃ったな? そろそろ盗聴器のスイッチを入れるぞ」

 

 アザゼル先生が機械を弄っていた。

 

 って盗聴器?

 

「悪魔になった事を知らない親が何を相談しに来た気になるしな。ちょっと盗み聞きをってわけだ」

 

 何を考えてるんですかこの人は!

 

『美味しいお茶ですな。アイツ、舌が肥えてるのでいい環境でしょう』

 

『ぜひ朱乃にも言ってやってください。喜びますわ宮白さん』

 

 ああ、もう始まっちゃったし!!

 

 しかし俺もちょっと気になる。

 

 親父さんは宮白のあくどい事を知らないはずだし、いったい何をしに来たんだろう。

 

 あの人も悪い人じゃないけど、宮白とは距離を取っているはずだったんだけど・・・。

 

『流石は72柱の一人。現魔王の血筋なだけありますな』

 

 ・・・え?

 

 その言葉に全員の時間が一瞬止まった。

 

 そりゃあそうだろう。部長の正体がばれてるんだから。

 

 な、ななななななんで!?

 

『・・・何のことでしょうか? 確かにオカルト研究部として悪魔については詳しいですが・・・』

 

『隠さなくても結構。我が社は管理職以上は悪魔と契約する事が創立時からの習わしです。頼む事も少なくないので悪魔について尋ねていたら詳しくなりました』

 

 え? 親父さんって悪魔と契約しているの? マジで?

 

『そう・・・ですか。そこまでお詳しいとは驚きですわ』

 

『正直、あなたがここにいるという事もアイツにここを選ぶように言った理由でもありますよ。いざとなれば契約した悪魔経由で守っていただけるかとも思ったので』

 

 も、もしかして宮白って親父さんの手の内だったりする?

 

 悪魔について詳しすぎだろ親父さん!? やばい、想像以上に凄い人だった。

 

『まあ、一番は一誠くんがここを選んだ事ですけどね。彼はいい子ですがなにぶんスケベすぎる。出来れば将来我が社の人事部辺りにスカウトしたかったので、あいつをお目付け役にして余計な汚点を作らせない様にと思いましてね』

 

『確かにあの子は凄いスケベですからね。その判断は正しいですわ』

 

 俺も手の内だった!?

 

 え? っていうかなんで俺スカウト予定なの!? しかも人事部ってマジ!?

 

「・・・意外といい判断かも」

 

「確かに引き抜きとかに向いてるかもしれないね。スケベさえ除けばついていきたくなるところがあるし」

 

「度胸もある。上手くすれば女子社員を食い放題でイッセー自身にも得だということか」

 

 小猫ちゃんやら木場やらゼノヴィアやらが後ろでこそこそ何か言ってるけどどういうことだろう。

 

『まああいつもそれなりに動いているようですが、こちらに被害が出ないように気を使っている辺り優秀だ。こういう事業をやっていると黒に近いグレーな事も必要ですし、何かあったら頼ってみると良いですよ?』

 

 ・・・手の内だよ宮白。

 

 大体把握されてるっぽいぞアイツ。優秀な息子の親はやっぱり優秀だった。

 

『・・・意外と、高評価なんですね?』

 

『聞いていましたか。・・・ええ、私とあいつはかなり距離があります』

 

 ・・・そうだよな。

 

 真面目な話、俺は二人が笑い合ってるところとか見たことない。

 

 別に宮白も悪く言ったりしてる事はないんだけど、やっぱり壁があるんだよな。

 

『あいつは優秀ですし、何というか不良漫画の主人公みたいなタイプの善良さです。少なくとも根っからの悪人にはなれないダークヒーロータイプといったところでしょうね。その辺りは信用しています』

 

『そういえばそんな感じですね。その辺りはイッセーとは対照的ですわ』

 

「正統派とダークヒーロー。なんか最後辺りで合体攻撃とか生み出しそうだよな」

 

「何気に色々出来る完璧人間。実質ヒーローというよりライバルキャラっぽい感じですね」

 

 アザゼル先生とベルさんが二人の会話を聞いてそんな感想を漏らす。

 

 いや、俺ってそんなヒーローみたいな奴か? どう考えてもそれこそ宮白が言われる方だと思うが。

 

「ファックな話だがアイツどう考えても正統派じゃねえよな。策で活躍してたからな」

 

「拾った聖剣と産まれ持ったドラゴンかー。確かにダークヒーローと正統派ヒーローって感じかもー」

 

 青野さんと桜花さんまでそんなこと言ってきた。え? マジで俺そんな感じ?

 

『正直、頼ってくれば力を貸す気はあるんですが、アイツ自力でその辺作り上げてるみたいで。少し前にわが社の重役が親バカをこじらせたのを報告した時ぐらいですね』

 

『あの時は部員達にも被害が出かけました。お力を貸してくださって助かりました』

 

 そういえば、あいつが親の権力頼りにしたの超レアだ。

 

 少なくとも、駒王学園に入ってからは初めてだ。

 

『今更ながらに思いますが、もしあの時、あいつがその判断を下していればここまで距離は空かなかったのかもしれません』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 最初に感じたのは僅かながらの恐怖心ですね。

 

 幼児の頃からあいつは、まるで高校生ぐらいの判断能力を持っていたような気がしました。

 

 少ししたらその判断能力も低下しましたが、あれはどう考えても意図的に落としたのでしょうね。違和感はこびりついたままでした。

 

 実際、あいつは昔から異常なぐらい努力家でした。幼稚園児の頃からランニングを日課にして、中学に入る前からフルマラソンを走りきれるほどに体を鍛えていたんですよ? 勉学に置いても駒王学園に入るまではまるで大昔に予習してきたかの如く吸収率が早かった。教師も関心より違和感を感じていたのかあまり関わろうとしませんでした。

 

 正直にいえば、私の前の妻が離婚した原因は何割かはあいつにあるでしょう。

 

 その後であった今の妻はまあ、深く関わる事はなかったですが大丈夫だったんですがね。

 

 実は、今の妻は魔法使いの家系なのですよ。実際雪侶も勉強しています。二人とも他の家族には内緒で幻想的な光景を見せてくれたりする事があるのですが、それに照らされた二人の方が美しくてもうたまりません。

 

 ・・・失礼、脱線しました。

 

 まあ、前の妻が耐えられないわけですから、子供が耐えられるわけがありません。

 

 あいつの兄の天騎(てんき)も姉である陽城(ひしろ)もあまり関わろうとはしませんでした。

 

 他の子供達との折り合いも上手くつく事が出来ず、喧嘩したり気味悪がられたりする事が多かった。報復はきちんと行ううえに陰湿ないじめとかをされた時はわざと誘い出して正面から叩き潰してたりしたので、喧嘩の強い子供以外から絡まれる事はありませんでしたが、それでも荒れた小学時代でしたね。

 

 まあ、それも一誠くんと出会ってからは大きく変わりました。

 

 あんな感じで友人に恵まれなかった事もありましたからでしょうね。始めて友人が出来た事ではしゃいだのか、精神年齢が下がったように見えて周りの子達も違和感をあまり感じなくなったようです。

 

 一誠くん自体も友達を大事にする少年でしたので、兵夜を排除しようとする子達に真正面から喧嘩を売っていましたよ。

 

 中学に入ってからは兵夜も薄い繋がり程度の友人は作れるようになりましたし、一誠くんの友人ともつるむようになりました。

 

 年齢が上がるごとに違和感も少なくなりますから、あの頃には距離も多少縮んでいたように思います。

 

 ・・・あんな事件が起こらなければ、今でも家族一緒に暮らしていたでしょう。

 

 一誠くんに聞いた事はありませんか? 中学の頃、下の娘が急に自分に会わなくなったとか。

 

 下の娘は雪侶というのですが、あれは兵夜がいる事が当たり前で育ったので違和感も感じませんでした。それゆえに違和感を気にしない一誠くんとも仲良く、その本質をよく知っているからか好意を持っております。

 

 あの当時は兄と一緒にいるという名目でべったりでしたからね。一誠くんの色欲を強制するのではなく出しても問題ない状況にしようと、政治家になって一夫多妻を認めさせようと勉強した事もあります。あ、もちろん流石に止めましたよ?

 

 話は多少変わりますが、正姫工業というのは世襲制ではなく、管理職から社員達が選挙で選ぶという方針を取っております。

 

 当時部長の一人でしかなかった私が社長に選ばれ、しかも管理職も含めた投票率が高かった所為か、社内では一応揉め事は起きませんでした。自分でも驚くのですが、当時の社長と専務も私を選んでくださりました。

 

 ですが、世の中は上手くいかないものですね。

 

 当時の社長の息子や、専務や副社長の関係者がそれに不満を感じていたのです。

 

 その結果、彼らは雪侶を誘拐するという暴挙に出た。

 

 ・・・社内会議の時に会社に直接誘拐したと電話をかけた為、電話を受けた者が慌てて会議室に飛び込んで伝えた為大騒ぎになりました。

 

 その時に内通者がいたのです。警察に連絡しようとしたタイミングで、電子メールが送られてきました。

 

 その内容については語りません。ただし、その時の経験があって、妻は護身も兼ねて雪侶の指導方針を戦闘特化にしたといえば、何をされたのかは想像がつくでしょう。

 

 その為、我々は警察の力を借りる事もできませんでした。

 

 後日知ったのですが、誘拐した者達は最初から雪侶を殺すつもりだったそうです。それを私が身代金を出し渋った事にして、社長の座から引きずり落とすつもりだった。

 

 事態は切迫しました。電子メールの後、半日も連絡がなかったのです。家に帰る事も忘れ、私は震えて待っていましたよ。

 

 正直心臓が止まるかと思った。今でも夢に見て飛び起きることがたまにあります。

 

 事態が動いたのは夜になってからです。

 

 なんと、雪侶自身が私に電話を送ってきたのです。

 

 あの子が警察には連絡せず、医者を連れてくるように言ってきました。兵夜の携帯から電話をかけているから、そのGPSを頼りにしろとも。

 

 私は一部の警備員などに事情を話して移動しましたが、何故兵夜の携帯が関わっているのか疑問に思っていました。

 

 ・・・着いた瞬間に理解しました。

 

 最初に目にしたのはボロボロになっている上に幻覚にさいなまれている男の姿。そしてそれは道筋を教えるかのように次々と見つかりました。

 

 最後に見つけたのは、完全に怯え切ってズタボロで拘束済みの前社長の息子達と、関わった者達の名前を記録したICレコーダー。そして命に別条がない程度の雪侶。

 

 そして、精根尽き果てたのかほぼ無傷で気絶していた兵夜の姿でした。

 

 ・・・なんでそれがニュースにならなかったのだって? それはね、雪侶も兵夜ほどではないが人より遥かに聡い子だったからです。

 

 あの後聞いたのですが、兵夜が拷問レベルの行動を行って犯人達から情報を聞き出しているのが聞こえていたそうで、それでだいたいの事情を把握したようです。マスコミに知られれば会社に大打撃が走ると理解したそうです。

 

 その為に内密に対処できるように私に直接電話をして助けを求めました。

 

 ああ、犯人達なら大丈夫です。どんな方法で拷問したのか分かりませんが、そこまで酷い怪我を負っていないのにも関わらず酷いトラウマを背負ったみたいで、我が社に関するものを見るだけで呼吸困難になるほど恐怖を刻み込まれているそうです。今は我が社の影響がない海外に永住し、日本には近づこうともしてないそうです。

 

 ・・・・・・リアスさん。私は、アイツのことを恐ろしいとも感じてもいます。

 

 あいつは、必要となれば非常に冷酷になれる。社の運営の為にはそれが必要な素質とも思ってますが、それでもあいつはあまりにも危険すぎる。

 

 実際裏の人脈を作っているのもその一環でしょう。世の中には何度警察に捕まろうと反省しない者がいる。そういった者を何とかする為には裏の力で闇の中に葬るのが必要なのかもしれません。

 

 あいつはそういう事をするのを選べる人間だ。人間としては実際善良なのだが、敵に対しては基本的に冷酷。一歩間違えれば鬼にもなれるのがどうしても恐ろしいと思う。

 

 ・・・・・・それでも、あいつは私の息子です。

 

 妹を守る為に全力を尽くせる、大切な友人の為に努力できる、立派な息子でもあるのです。

 

 お願いしますリアスさん。機会があれば、彼を眷属悪魔にしてください。

 

 あいつの人脈はこの街で行動するにおいて確実に力になるし、その人脈で築いてきた力も役に立つでしょう。

 

 あいつに必要なのは、闇を使わずに済むだけの存在と力です。そしてそれは、きっと怯えが見せる私ではできない事だ。

 

 あなたを魔王の血を引く事を誇っていいだけの人物だと期待して頭を下げる。

 

 どうか、アイツを見捨てないでください。

 

 どうか、力になってやってください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 



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研究施設、襲われました!?

・・・なんだ? ものすごく視線が突き刺さっている気がする。

 

 思ったより早く後始末が終わって帰って来てみれば、何でも親父が部長に会いに来たらしい。

 

 あのオヤジなにを言った? いや、距離があるといっても敵対しているわけでもないし、そこまでひどいことは言ってないとは思う。

 

 むしろ今の部長達の方が俺のことをよく知っている部分もあるだろう。実際重要な情報は部長達の方が知っているわけだし。

 

 ・・・・・・頂上的金持ちであろう部長が、いまさら俺が社長子息であるなんて理由で色目を使うわけがないし、そんな人格じゃないのは理解している。

 

 なんだ? なにがあった?

 

「オイイッセー。親父はいったい何を言った?」

 

「え、いや、その・・・」

 

 目を泳がせるイッセーをみて、とりあえず確信した。

 

 とんでもないことをいったな、親父。

 

 と、くればだいたい何があったのかは想像つく。

 

「・・・・・・できれば、お前には知られたくなかったよ」

 

 雪侶の誘拐事件か。

 

 ぼかして言ったとは思うが、あれは本当にひどかった。

 

 電子メールの内容は知らないが、何をされたのかはだいたい想像がつく。目的が目的である以上、むしろ生きているだけめっけものだといってもいいだろう。

 

 だけど、それでも、ぼかしていても、

 

 雪侶は、イッセーにだけは知られたくはなかっただろう。

 

「悪い、宮白。・・・盗み聞きした」

 

「おおかたアザゼル辺りがこっそり聞いたな? ・・・まあ、俺の状況を考えれば聞きたくなるのは仕方がないがな」

 

 それはそれで親父が悪い。

 

「宮白くん。その、雪侶ちゃんはその後大丈夫だったのかい?」

 

「どこまで聞いたのかは知らないが、とりあえず復活したのかといえばその通りだ。・・・こっそり魔術を使って治療を促進しなけりゃ、傷跡が付いてイッセーの前には出れなかったろうがな」

 

 木場の質問に答えながら、あの時のことを思い出す。

 

 今思い出してもはらわたが煮えくりかえる。

 

 動機としてもくだらない嫉妬だ。そんなことをしても社に入ってすらいない奴らが社長になれるわけがないのに、社の方針も理解できていないクソどもがバカをやった結果があの騒ぎ。

 

 正直少年院に入る程度問題ないから殺そうかとも思った。・・・自分でもよくぞ抑えられた。

 

 死を経験しているからこそ、それを誰かに与えることを恐れてしまった。自分でも関心するべきかどうかがわからない。

 

 まあ、テロ組織と命がけの戦いをする羽目になる以上現在では問題があるがな。

 

 その辺は何とか割り切るしかない。

 

「ファックな話はどこにでも転がってるな。・・・どうすんだ? このまま許すつもりもないんじゃねーか?」

 

「心配すんな小雪。奴らが逃げた国には知り合いのつてがあるんで監視してもらっている。復活しそうになったら直接会いに行ってさらに恐怖を刻み込んでやる。・・・一生恐怖を忘れさせたりなんてしねえからそれで充分だろ」

 

 もと裏社会出身なだけあって小雪は恐ろしい。

 

 その辺に関しては問題ない。そもそも、奴らがあの国行ったのだって俺が暗示で誘導したからだ。極道の方の負担を少なくするために場所まで細かく指定したからな。

 

 まあ力を貸してくれるというのはありがたいがな。

 

 ま、いまさらな話であるのは事実だし、これが原因でイッセーに距離を取られるのはもっと嫌だ。

 

「謝りたいなら雪侶には勘付かれないように努力してくれ。あいつ、イッセーにだけは知られたくないみたいだからな」

 

「あ、ああ。・・・・・・・・・・・・頑張る」

 

 うん、気持ちはわかるがもうちょっと元気よく言ってほしかった。

 

 実際あまり隠し事できそうにないタイプだからな。そこが美徳でもあるんだが・・・。

 

 しっかしあんな過去知られたらさすがに居心地が悪いな。さてどうするか。

 

 と、思ったら魔法陣が光り輝く。どうやら悪魔召喚のようだ。

 

「どうやら兵夜のようね。雪侶さんがまた不良狩りでもしたのかしら」

 

「部長、そういう冗談はやめてください」

 

 俺の努力が水の泡じゃねえか!

 

 クソ、心配になってきた。

 

「ちょっと急いで行ってきます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が止んだ時には、やけに広い部屋があった。

 

 ・・・しかもなんだか人が多いな。どいつもこいつもスーツ姿だ。

 

 調度品の数々もなんだか高価なものが多いな。どっかの会社の会議室か何かか?

 

 しかも、どうも俺以外にも悪魔が何人も召喚されているようだ。今も次々に悪魔が現れている。

 

 明らかに嫌な予感がするんだがどうしよう。まさかキャンセルして帰るわけにもいかないし、アーチャーでも読んだ方がいいだろうか。

 

「・・・兵夜」

 

 ふと、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 振り返って来てみれば、見覚えがあるというか忘れるわけがない顔があった。

 

「・・・姉貴?」

 

 宮白陽城。俺の現世での姉である。

 

 今は正姫工業の社員として、日夜頑張って仕事をしているエリート社員のはずだ。

 

 と、いうことは・・・。

 

 ここ、正姫工業!?

 

「お、おい、あの男、宮白兵夜じゃないか・・・?」

 

「非公式レーティングゲームであのライザー・フェニックスを撃破寸前まで追い込んだという・・・?」

 

「俺は魔王二人を戦闘不能にした堕天使と渡り合ったって聞いたぞ?」

 

「コカビエルを細切れにしたって噂もあるぜ?」

 

「リアス・グレモリーの影のエースといわれているあの男、あの女とどんな関係なんだ・・・?」

 

「いや、どんだけ噂に尾ひれついてんですか!?」

 

 聞き捨てならないとんでもないデマまで流れてやがる!!

 

 フィフスの時はガスマスク付けてたから何とかたすかっただけだっつーの! 魔王さまがつけてたら一瞬で決着付けてました!

 

 あとコカビエルは生きてます! 集団でタコ殴りにしたのであって俺一人では押し切られてました!! しかも反則手段(エクスカリバー)使ってやっとだからね!!

 

 ええい! なんで俺はこんなに有名になってんだ! 

 

 自分で言うのも情けないが、グレモリー眷属でのオフェンスランキングつけるならサポート専門のアーシアちゃんとギャスパーを除けば一番下の可能性あるぞ!!

 

「・・・・・・あなた転生悪魔になってたの!?」

 

「ま、まあな。・・・つーか姉貴は悪魔について知ってたのかよ」

 

 そっちの方が驚きだぞ。

 

 みれば、周りの連中も悪魔の存在については特に驚いてないというか、むしろ心待ちにしているようだ。

 

「た、助かったか?」

 

「頼みます悪魔さん! 助けてください!!」

 

 やけに怯えてるな。何があったんだ?

 

 しかし混乱しているようで皆落ち着いていない。悪魔もこんなたくさん呼び出されたことで混乱しているようだ。

 

 さてどうしたもんか?

 

 と、思っていたら、パンパンと手を鳴らす音が聞こえてきた。

 

「皆さん落ち着いてくれ! 私は72柱のフェニックス家に連なる者、アポロベ・フィネクス! 陽城殿、一週間ぶりですね」

 

「その節はありがとうございましたフィネクスさま。・・・すいませんが非常事態なのです、お力を貸していただきたい」

 

 どういう状況だ一体?

 

 それについてアポロベとかいう方がきこうとした瞬間、俺たちに事態について簡単に説明する連中が現れてくれた。

 

「ようやく開いたぞ!」

 

「貴様ら、おとなしくしろ!!」

 

 ・・・アサルトライフルやらサブマシンガンやらショットガンやらを構えた物騒な男たちが。

 

 さらにもう一人、

 

「まさか悪魔がいるとはな。丁度いい、俺が浄化してやる!!」

 

 光の剣を構えたどっかで見たような男もいた。

 

 ・・・あ

 

「俺が殴り倒したレイナーレの部下?」

 

「ひ!? なんでお前がここにいるんだぁああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一分もたたずに無力化いたしました。

 

「・・・ああ、そういえば山間部に実験施設をつくってたな、思い出した」

 

「ええ、今回は新機軸の作業機械などのお披露目をやっていたのだけれども、遅くなったので成功記念も兼ねて簡単なパーティを開いていたのよ」

 

 姉貴がいうにはそれが終わって簡易的な宿泊施設に向かおうとした時にテロリストどもが現れたらしい。

 

 何とかほとんどのメンツがこのロック機能付きの部屋に逃げ込むことができたが、通信設備がなぜか使用不可能になって警察などに助けを呼ぶことが不可能になった。

 

 まあこの世界の魔法使い辺りが協力した可能性が高いな。はぐれ悪魔祓いがいたし。

 

 とりあえず、そこで苦肉の策として悪魔を大量召喚することで戦力を呼び寄せることを幹部の一人が提案。実行に移された。

 

 まさか正姫工業の管理職クラスが全員悪魔との契約を義務付けられているとは思わなかったが、そのうちの一人が俺の契約相手の父親だったとはなお驚きだ。

 

 チラシ取り違えて俺が呼び出されるとかなんてミラクル。

 

「挙句のはてに雪侶が付いてきてた上はぐれて、その上よりにもよって親父も行方不明だと?」

 

 社長が万が一にも死ぬなんてことがあれば、今の正姫工業は大打撃を受けるぞ。

 

 ただでさえテロリストに襲われたなんて一大スキャンダルだというのに、そんなことが起これば大変なことになる。

 

「正姫工業管理職は我々悪魔にとって大口のお客様だ。・・・なんとしても助け出さねば」

 

 アポロベ・フィネクスが表情を険しくさせて言うが、そんなことは当たり前だ。

 

「フィネクス卿。この位置なら我が主であるリアス・グレモリー様が近くにいます。増援の要請を許可していただきたい」

 

 素早い対応のためにも連携を視野に入れた行動のためにも必要だと思った提案だった。

 

 それに触発されたのか、他の悪魔たちも一斉に動いた。

 

「わ、私めの眷属も呼ばせて頂きたい。今こそ我が血族の力を見せつけるときです!!」

 

「ここは我が仲間を頼らせていただきたい。もと傭兵なので銃火器相手ならば力になれます」

 

「護衛をするとなれば広域結界を張れる方がよろしいかと。ここは我が同胞を!」

 

 ものすごい頼りになりそうな言葉のオンパレード。

 

 いくらはぐれ悪魔祓いやら魔法使いやらが参加していようと、基本的に人間社会レベルのテロリストなら十分返り討ちにできるはずだ。

 

 と、思ったがフィネクスは静かに首を振った。

 

「残念だが不可能だ。既に召喚魔法陣を展開しようとは試みた。・・・見よ」

 

 そういうと、フィネクス卿は魔力を込めて魔法陣を展開しようとした。

 

 だが、形成されかかった魔法陣は途中で急に形を崩すと消滅していく。

 

「・・・どうやら何者かが妨害しているようだ。今回の敵、一筋縄ではいかぬようだ。通信も防がれているようだし、どうやって増援を読んだものか」

 

「ちょっと失礼」

 

 仕方ないので念話用の礼装を呼び出して試してみる。

 

 ・・・少しの間ノイズが発生したが、何とか画像は荒いが繋がった。

 

 どうやら魔術は完全には無効化できないらしい。久遠の世界の魔法なども借りて作ったのが効果があったのだろう。

 

『・・・兵夜? 一体どうしたのかしら?』

 

『何の用かしら? こう何日も続いて悪魔の仕事を手伝うのはサーヴァントの仕事とは違う気がするのだけど』

 

 すぐに気付いたのか部長とアーチャーが声をかけてくる。

 

 よっしゃ! これで増援はいける!!

 

「これはリアスさま。まさか通信がつながるとは思いませんでした」

 

『アポロベ・フィネクス? レーティングゲームランキング二ケタ代の方が何故そこに?』

 

 とりあえずかいつまんで事情は説明した。

 

「と、いうわけなんですが、とりあえず面談を盗聴したアザゼルのバカも連れて救援に来ていただけないでしょうか? なにぶん護衛対象が多いので万が一が恐ろしいのです。他の参加者の眷属にも連絡をしていただけると助かります」

 

『あなたこの状況でもアザゼルに対して辛辣ねぇ』

 

「妹の隠しておきたい秘密をイッセーにバラシたバカに敬意など持ちません。俺は身内に手を出した連中は徹底的に敵視するタイプです」

 

 ようやくイッセーの件では落ち着いたかと思ったのにいらんことしくさってからにあの男・・・。何があっても知らんぞ。

 

 と、言いたいところだが今はそれどころじゃない。

 

 武装したテロリストなどという日本ではそうそうお目にかからないような連中がいる以上、急いで行動する必要がある。

 

 あの身体能力なら雪侶は逃げ切れる可能性もあるし、親父も体は鍛えている。普通に通り魔ぐらいならどっちも返り討ちにできるだろう。

 

 だが、戦闘訓練を受けているテロリスト相手では話が別だ。

 

 できる限り急いで合流する必要がある。

 

「とりあえずテロリストの鎮圧と今いる人たちの安全確保を優先するべきだが、かといってはぐれた二人を見つけることをおろそかにするわけにはいかないな」

 

「だがどうする? 敵の勢力もわからぬうちに行動してはなにが起こるかわからんぞ。もしロケット砲の類を持っていれば我らとはいえ一人では庇いきれん」

 

 さすがにあちらも警戒しているのか、議論が交わされている。

 

 が、待っている余裕はないし、何よりここにいる人たちを死なすことがあってはならない。

 

 少しだけ考えて、結論した。

 

「アポロベ・フィネクス様。・・・我が父と妹は私の手で助け出します。・・・姉達をお任せしてよろしいでしょうか?」

 

「ふむ」

 

 少しの間、フィネクス卿は俺のことを見ていたが、やがてうなづいた。

 

「良いだろう。まずは彼らを安全なところに連れていくことが最優先か。彼らを移動させる班とテロリストを陽動する班に分けよう。・・・ご家族を救ってみたまえ、少年」

 



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親父の会社、すごすぎです。

サーヴァント編、本格的戦闘スタート。


 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮白王座は施設内を走り回っていた。

 

 自分の行動をここまで後悔したことはそうないだろう。しいて言えば雪侶が誘拐された時ぐらいだ。

 

 まさか、雪侶があんなことをしていたとは思わなかった。我が娘ながら行動力がありすぎる。兵夜のことが家族で一番気に入っているから納得といえば納得だが。

 

 だが、それを止めるための交換条件で今回の実験を見学させたのは失敗だった。

 

 このタイミングでのテロリストの襲撃。狙いとなる可能性がある物はいくつかあるが、問題はそこではない。

 

 今、雪侶が巻き込まれているということだけだ。

 

 確かに彼女は今の自分よりはるかに強いだろう。だがそんなことは問題ではない。

 

 始めての実戦など単独で行動させるだなんて危険すぎる。どう考えても1人で巻き込ませていいわけがない。

 

 何としても助け出さなければならない。

 

 そう考えて走りながらも、しかし次第に追い詰められていく。

 

 テロリストがターゲットとなっている会社の社長を見逃すわけがない。当然のことに気づくのが遅れた。

 

 幸い場所が場所なので地の利はこちらにあるし、万一のトラブルなどを警戒してシャッターを遠隔操作する電子機器は持っている。

 

 しかし、それを以ってしても限界はあった。

 

 どんどん近付かれてしまい、そしてついに袋小路に追い詰められてしまう。

 

「手間をかけさせてくれるな」

 

「ああ、こいつを片付ければ特別ボーナスまでくれるんだろ? これを見逃す手はねぇよな?」

 

 神父服を着た二人の男。手に持っているのは拳銃だが、それが鉄の弾丸を放つものでないのはよく知っている。

 

「何故だ? 正式なものかはぐれなのかは知らないが、なぜ悪魔祓いがテロリストに身をやつす!!」

 

 悪魔祓いのターゲットとは悪魔であり、人間ではない。それぐらいはさすがに知っている。

 

 まれにはぐれ悪魔祓いは悪魔と契約している人間もターゲットにすることはあるが、だからといて表社会に大きな影響を与えるような行動は自粛していたはずだ。

 

 自分で言うのもなんだが正姫工業は同ジャンルに置いては国内でもトップの売り上げを持つ大会社で、海外にも支社を持っている程の規模を持つ。

 

 そんなものを潰せば人間社会にどれだけの被害が出てくるかなの考えるまでもない。

 

 教会の側が動くとは思えない。アレは神に仕える者たちであり、人間に対する危害は極力避けるはずだ。

 

 堕天使はもっとあり得ない。現トップのアザゼルは人間社会に影響を与えることを好まない男だというのに、このような騒ぎが起こるのはどういうことか?

 

「てめぇが知る必要はねぇなあ。ちゃっちゃと死ねよ」

 

 考える余裕すら与えずに、悪魔祓いは拳銃を向け―

 

「・・・我ながらタイミングがいいことだなオイ」

 

 彼らの後ろから声が聞こえた。

 

 そこにいるのは、自分がついさっき言った駒王学園の制服を来た1人のよく知っている少年。

 

 はぐれ悪魔祓いが振り向いて攻撃するよりも早く、彼は―宮白兵夜はその懐に潜り込んでいた。

 

「・・・・・・とりあえず、二人とも寝てろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギリギリセーフだった。

 

 悪魔祓いを一撃で倒し、俺は一息をつく。

 

 ・・・自分で言うのもなんだが俺もそれなりに強くなったな。並みの悪魔祓いなら一対一なら確実に勝てる実力はあったが、まさか二対一をこうも簡単に終わらせることができるとは思わなかった。

 

「無事か? 親父」

 

「ひょ、兵夜? 一体どうして・・・ッ! まさかもう転生悪魔に!?」

 

「なんで知ってんだ親父!」

 

 なんか情報の齟齬がある気がするが、とりあえず今はそれどころじゃない。

 

 とりあえず親父の確保には成功した。そして確保に成功すればあとはどうとでもなる。

 

「・・・とりあえず姉貴たちの移動経路を把握するためのGPSを持て親父。あとこれは攻撃防御用のアミュレットだ、高いから絶対無くすな。そして気配遮断用のコートだ。ちゃんと着込んで移動しろよな」

 

「お、おまえなんでそんなにいろいろと持ってるんだ?」

 

 A:アーチャーが作った(協力:俺の宝石魔術と冥界の技術力全般)

 

 まさか道具作成スキルがないにも関わらず、技術提供があったとはいえここまでの代物をあっという間に作るとは。

 

 などと言っている場合でもない。このあと雪侶を追いかけるという仕事がまだ残っているのだから。

 

「アンタが死んだら迷惑被る奴が多すぎるんだよバカ。・・・俺だってさすがにやだぜ」

 

 別に嫌いなわけじゃねえんだ。

 

 一応ここまで育ててくれた実の親だぞ。こんなことで死んでほしいと思うわけがない。

 

「・・・・・・雪侶は俺が助け出す。アンタは社員のことも考えてやれ」

 

 返答は聞かない。

 

 俺は素早く走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走り出して屋外に出ると、既に陽動の悪魔たちとテロリストの戦闘が勃発していた。

 

 ・・・思った以上に混乱が少ないな。どうやら、マジでこいつらは悪魔の存在について把握してたらしい。

 

 危険すぎる展開になってきたな。いったい何がどうなってそんな組織が表の世界の会社を襲撃するようなまねをしたんだ?

 

 状況は全く把握できないが、だからと言って無視して行くわけにはいかない。

 

 とにかく雪侶を発見しなくてはいけないが、さてどこに行った?

 

 あいつの性格なら逃げるよりもテロリストにケンカを売っている可能性もあるし、とりあえず暴れているところに使い魔を出して把握した方がいいのだろうか?

 

「Die! 人の親の会社に手を出して、ただで済むと思いますの!!」

 

 ・・・探すまでもなかった。

 

 アイツ全力で喧嘩売ってやがる! 売っているとは思ったがまさかあそこまで全力だとは思わなかったぞ!!

 

 水流を足に展開して高速移動。

 

 視界がごっそり移動し、すぐに戦闘の光景を見ることができる。

 

 ・・・なんかビームめっさ撃ってるんですけどマイシスター。

 

 とはいえそんなことを気にしている場合でもないので、割って入ってそのまま抱え込んで勢いよく移動しつつ通信を繋げる。

 

「回収しました! 避難組と合流するので援護の準備をお願いします!!」

 

「あ、兄上!? なんでこんなところにいるんですの!? あ、っていうかまだ下郎を倒していませんのよ!?」

 

「うっさい黙れ! ・・・ああこっちの話です。プリーズ援護!!」

 

『了解した。こちらもてこずっているが手早く片付けて助けに向かおう』

 

 フィネクス卿が力強く答えてくれるが、それを無視するように敵の影がせまる。

 

 なるほど、強そうな連中だ。

 

 黒光りする鉄の装甲。

 

 力強いモーター音。

 

 両腕に取り付けられた銃火器類。

 

 そう、そのものの名はロボット兵器・・・って。

 

「なんじゃありゃぁあああああああ!?」

 

 なんでロボットがこんなところに来てるんですかぁああああ!?

 

 サイズも人間を一回り大きくした感じだし、もうびっくりだよ俺!!

 

「知りませんでしたの? アレが正姫工業が自衛隊と共同で極秘開発した工兵部隊と歩兵部隊の強化のために開発した新型強化外骨格ですのよ?」

 

「極秘ってついてる時点で直接関わってない俺が知ってるわけないだろうが!! おい、まさかテロリストの目的って・・・あれか!?」

 

 なんかすっごい便利になりそうな気がする!

 

 たしか強化外骨格は軍でも研究されているはずだったな。アニメでは直接戦闘だったが、現実では後方支援が目的だったはずだが。

 

 それ以前に民間企業でのテストで銃火器まで取り付けられているはずがないんだが・・・。

 

「専用のアタッチメントを付けることで重火器を使用できる戦闘兵器ですの。・・・どうやってさばきますの?」

 

 雪侶が俺を心配する声をかけるが、そこは問題はない。

 

 あの程度なら撃破は可能。問題は、ただ一つ。

 

 さすがにあれだけの数の戦闘訓練を受けた相手、手を抜いて倒すのは不可能だ。

 

 少なくとも光力を使う必要はある。そしてその状況下で致命の一撃を与えずにいられるなどおそらく不可能だ。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・俺に、人が殺せるか?

 

「・・・いや、違うな」

 

 それは違う。

 

 魔術師同士の戦いとはそれすなわち殺し合いのはずだ。ましてや聖杯戦争はどう考えてもサーヴァントは殺す必要がある。

 

 できるできないじゃない、やるかやらないかとかいう言葉はあるが、あえて言おう。

 

 やるしか、無い。

 

「丁度いい。ああ、ちょうど良いな」

 

 物陰に隠れると雪侶を降ろす。

 

「兄上?」

 

「ちょっと待ってろ雪侶。すぐに終わらせてやる」

 

 立ち上がり、神器を展開しながら奴らの前に踊りです。

 

「いたぞ! 逃がすな!!」

 

「奴は正姫工業の関係者だ、とっ捕まえろ!」

 

 向かってくる強化外骨格の群れ。

 

 深呼吸をし、気持ちを落ち着ける。

 

 天使の鎧を呼び出し、光力を込める。

 

 宝石を取り出し、魔術回路を起動させる。

 

 さあ・・・。

 

「死んでもらう!!」

 



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聖杯戦争を始めよう

 

 何とか、全員片付けたか。

 

 正直途中の流れは覚えていないが、痛覚を調べてみるが特に大けがはしてないようだ。

 

 戦闘に合わせてアミュレットによる防護を施していて正解だった。単純な防御力なら軽装甲車ぐらいはできてるはずだからまあ何とかなったか。

 

 周りを見てみれば、周辺には原形をとどめていない死体もいくつかあった。まあ原形をとどめている死体の方が数は多いんだけどな。

 

 どうやら増援はまだ来ないらしい。

 

 来たらきたで今の状態では戦えそうにない。マジでくんな敵。

 

 呼吸が荒くなっているのはさすがにどうしようもない。

 

「クソ・・・キツイな・・・」

 

 緊張が解けると同時に酷く汗が出てくる。

 

 堕天使に止めを刺した時は道連れにする覚悟だったからもうわけがわからなかった。

 

 レーティングゲームは基本殺し合いにならないようになっているので、思い切りよく行動できた。

 

 コカビエルは殺す気で行ったが、こっちも緊急事態だったので正直覚えてないところが多い。腕吹っ飛んでハイになってたかもしれないしな。

 

 そう、正真正銘最初から覚悟したうえで殺したのはこれが始めただ。

 

 さすがに、精神的にクるとこがあるな。

 

「兄上」

 

 後ろから、雪侶の声がかかる。

 

 どう反応すればいいのかわからなくて、なにも言えなかった。

 

「兄上。おかげで助かりましたの」

 

 そっと、暖かい何かが背に当たる。

 

「兄上は、私の自慢の兄ですのよ。・・・だから、気を取り直して欲しいですの」

 

「ああ。・・・・・・ありがとう」

 

 全く、こんな非常時に妹に気を使われるとはな。

 

「どうやら、助けに来るまでもなかったようだ」

 

 視界の隅に、フィネクス卿が映った。

 

「いえ、正直精神的に結構キてるんで、とりあえず妹を安全圏にまで連れて行ってくれると助かります」

 

「誰にだって初めてはあるし、それはショックを受けとめて成長してくれればそれに越したことはない。少し休みたまえ」

 

 その言葉に気が抜けたのか、情けなくもへたりこんでしまう。

 

「いたぞ! グレモリーの眷属とフィネクス卿だ!」

 

「ご無事でしたか!」

 

 さらに悪魔が何人もかけつけてくる。

 

 ・・・助かった、か。

 

「いやはや。こちらの計画が台無しになってしまうとは思わなかったよ。さすがは英霊に選ばれる魔術使い、そこらの連中とは格が違うか」

 

 頭上から、声が響いた。

 

 仰ぎ見る俺達の視界に映ったのは不健康そうな男。

 

 ・・・たしかレイヴンとかいった、セイバーのマスター!?

 

「今回の一件は禍の団の仕業か。・・・一民間企業を襲って何の得がある?」

 

 突然のことにも冷静に対応するフィネクス卿の視線に真正面からさらされながらも、レイヴンも冷静な様子を崩さない。

 

「目的は大きく分けて三つ。一つは今回の和平が原因で仕事を失った悪魔祓いの類を味方に引き入れられないかのテスト」

 

 指を立て、さらにもう一つ立てる。

 

「二つ目はうちの技術顧問の一人がこの企業の技術を警戒したため。現在のパワードスーツの性能を確認し、可能であれば致命的なスキャンダルを起こして開発にストップをかけること」

 

「銃火器の類を持ち込んだのはそのためですの!?」

 

 雪侶の勘は正しいだろう。

 

 試作開発中の軍事兵器が暴走して一般人に危害を加えればそれだけで致命的なスキャンダルになる。

 

 まさか表社会にすら干渉するとは思わなかった。

 

 だが、レイヴンはそれには反応を示さず、その表情を変えた。

 

 ・・・まるで、黄金の山を見つけたトレジャーハンターのようなそれだった。

 

「三つ目は私の個人的用事。・・・ここで大騒ぎを起こせばフェニックスの血を持つアポロベ・フィネクスが来てくれるということさ!」

 

 高所から飛び降りたレイヴンは背中から腕を生やして降下する。

 

 奴の能力は把握している。

 

 死霊魔術師(ネクロマンサー)。死体を加工して魔術に利用する魔術師。それゆえに最も新鮮な死体を大量に調達できる戦場を居場所にする存在で、ゆえに奴の実戦経験は豊富だろう。

 

 降下地点は駆けつけてきた悪魔がいる地点。

 

 悪魔たちは完璧に迎え撃つ態勢を整えている。どうやら戦車か騎士の駒を持った近接戦闘タイプらしい。

 

 そのまま接触寸前まで近づき・・・。

 

「バロールの(まなこ)よ、今こそ目覚めよ」

 

 その目が紫色に輝いた。

 

 それに嫌な予感を覚えるのと、悪魔たちがレイヴンの攻撃を腕と剣で受け止めたのはほぼ同時。

 

 その死体でできたであろう腕はなんとやすやすとその腕と剣に食い込み―。

 

「とりあえず、まずは一人」

 

 着地すると同時に、腕で防いだ方が倒れ伏した。

 

 いや、あれは倒れたなんてもんじゃない。

 

 ・・・死んでいる。

 

「いかん! さがれ!!」

 

 フィネクス卿が残った一人に叫ぶが、その男はひるまずに剣を構え直す。

 

「舐めるな! 俺の剣は自己再生能力をもった魔剣の一つ。この剣を損傷させた程度で意味などないと知れ!!」

 

 男は魔剣に魔力を込めるとそのまま切りかかり―

 

「いや、その剣はもう死んでるからね?」

 

 間合いを読み違えて完全に空振りしたまま、その胸部を貫かれて死亡した。

 

「悪魔といえどピンキリがあるということかね? ・・・少し待っていればもう治らないのに気づいてもおかしくないんだけどねぇ」

 

 ためいきをついたレイヴンが指を鳴らすと、かつてフィフスが指揮した鎧姿の連中が現れて仕留めた悪魔を運び始める。

 

「貴様、何のつもりだ?」

 

「そこの魔術使いから聞いてないのかい? 僕の魔術は死体を調達しないと使えないんだよ」

 

 フィネクス卿とレイヴンが静かににらみ合う。

 

 ・・・ヤバい、まさかあそこまでできるとは思わなかった。

 

 しかも問題は奴がまだサーヴァントを出していないということだ。

 

 奴単体でも得体が知れないというのに、ここでセイバーまで出てこられたら詰むぞ。

 

「・・・・・・時間を稼ぐから妹さんを連れて逃げたまえ」

 

「え?」

 

 フィネクス卿が小さな声で呟きながら前に出る。

 

 いや、ちょっと待った。

 

 腕にさしただけで一瞬で絶命させるようなチート能力、うかつに突っ込んでいいもんじゃねえぞ!?

 

 まさか、俺達を逃がすために囮になる気か!?

 

「・・・その再生阻害は恐ろしいが、私はフェニックスの血を濃く受け継ぐもの。・・・再生と転生をつかさどるこの身、果たして防ぎきれるかね?」

 

「その辺は僕も興味があってね。フェニックス家に連なる者の死体ならいい材料になりそうだし、実験体にはもってこいだ」

 

 まずいまずいまずいまずい。

 

 どうする? マジでこのまま逃げるというのも考えるべきか?

 

 ・・・いや、それはだめだ。

 

 奴はセイバーのマスターで、俺はアーチャーのマスター。これは、もうすでに聖杯戦争だ。

 

 それをあったばかりの人を犠牲にして逃げ出すなど、あってはならない。

 

 なによりイッセーに胸を張れん。これは俺にとって絶対だ。

 

 とはいえどうする? アーチャーを令呪で呼び出すという手もあるが、十中八九セイバーを呼ばれて対応されるし、だとすると最後の令呪を無駄撃ちするのは避けたい。

 

 だがどうする? 再生するはずの剣を再生させないようにし、挙句の果てに腕をついただけで相手を一撃で殺す攻撃なんてどうやって防ぐ。

 

 ・・・まてよ? そういえばアイツ気になることを言っていたよな?

 

―その剣は、もう死んでるからね

 

 ・・・そういえば、以前とんでもないうわさを聞いたことがあるような。

 

・・・・・・・・・あ、

 

「そう・・・いうこと・・・か!?」

 

 等と考えている時間が既に状況を一変させる。

 

 レイヴンの腕の一つが既にフィネクス卿の左腕を切り落とす。

 

 腕は再生のための炎すら発生させない。・・・これ以上は不味い!!

 

「ではとどめと行こうか。・・・ああ、フェニックスの血肉が私の研究材料に・・・」

 

「さ・せ・る・かぁああああ!!」

 

 奴の後ろに回り込んでから、その腕を抱え込むようにして動きを封じる。

 

 ああ気づくのが遅れたよ。それさえ読んでいればここまで被害は大きくならなかった。

 

「いかん離れろ! 奴の攻撃は得体が知れない!!」

 

「得体は知れましたし、そもそも攻撃はどうでもいいんですよ!!」

 

 まさか、俺もうわさでしか聞いことがないとんでもない物を持っているやつがいるとは思わなかったよ!

 

「・・・・・・気付いたか。君はよほど情報収集が得意なようだ」

 

「ああ、俺も本気でビビってる。かの伝説の直死の魔眼を目の前で見ることができるだなんてな!」

 

 レイヴンとにらみ合い、その目の色が紫でなくなったことから俺はそれを確信した。

 

 直死の魔眼。

 

 生物はおろか、この世に生まれた万物全てが持っている死という概念を見ることができる魔眼の一種。

 

 その真価は認識することができることで干渉することまでできるようになったことにある。それらは点と線の二つで構成されており、それらに干渉することで効果を発揮する。

 

 線を切ればその部分の死が具現化されることにより、どのような手段を以ってして癒えることがない切断攻撃を発することができるようになる。まあ、物に使用しても溶接とか再構成すれば問題ないのでこれは生物限定だ。

 

 恐ろしいのは点を突くこと。これは点をもつ存在そのものの死を具現化することができるようになるため、一撃で相手を死滅させることができる。

 

 生や誕生という概念としての死であるため、生物はもちろん建造物などの無機物にも効果を発揮。ゾンビなどの死体もゾンビとして「生きている」扱いになるため殺すことが可能という、破格の能力を持った魔眼の類だ。

 

「噂では殺しても転生する吸血鬼を存在そのものを殺すことで完全に消滅させたとか・・・。まさか、お前がその持ち主か?」

 

「まさか。その目を利用して研究を進めようと奪いに行ったは良いけど、あり得ないほど凶悪なオールスターに集中砲火を受けて塵も残らなかったよ」

 

 アレは本当に怖かったと、と言いながらレイヴンの体がものすごくふるえた。

 

 なにがあったのかは分からないが、それが死因なのは間違いない。

 

 いったいどんなオールスターだったんだろうか? 死徒二十七祖クラスでも出たのか?

 

「まあいい。・・・お前、その魔眼を自在に操れるわけじゃないだろ? 時間制限が厳しい欠陥品だな?」

 

 そう、既に目の色は紫ではなくなっている。

 

 どう考えても魔眼の効果は切れている。

 

 そもそもあんな規格外の魔眼を持っていることの方が異常なのだ、何らかのデメリットは持っていて当然だろう。

 

「元々持っていた魔眼が、霊魂が世界を移動したことで一時的にこの世界の根源に触れれるようになったみたいでね。活性化させることで数分間だけ発動できるんだ」

 

 自慢げに、あいた手で自分の目元に触れる。

 

「だけど最低限の目的は達成した。・・・あとは全力で叩き潰すだけだね」

 

 後ろから足音が聞こえてきて、俺はとっさに腕を離すと距離を取った。

 

 ・・・莫大なオーラを放つ鎧騎士。

 

 セイバーのサーヴァントか。

 

「悪いがこれで勝ちは決まったようなものだ。さて、おとなしく負けを認めるなら、妹さんの命は見逃してもいいよ?」

 

 確かに、状況は圧倒的に不利だ。

 

 最大戦力は戦闘能力が圧倒的に不足してるし、向こうはサーヴァントを投入している。

 

 ああ、普通なら圧倒的に不利な状況下なのだろう。

 

 だが・・・。

 

「・・・あいにく、まだ勝負はついてないわよ」

 

 期待していた、声が届く。

 

「レーティングゲームでの人気プレイヤーであるフィネクス卿を狙い、その上私の可愛い下僕の家族に危害を加えるだなんて、万死に値するわね」

 

 凛として、誇り高い上級悪魔、我が主リアス・グレモリーがそこにいた。

 

「宮白さん、大丈夫ですか!?」

 

「助けに来たよ、宮白くん」

 

「・・・おまたせしました」

 

「あらあら。もしかしていいタイミングでしたわね」

 

「なかなか大変なことになっているね」

 

「み、宮白先輩大丈夫でしたか!?」

 

 頼りになる部員達もそこにいる。

 

 そして何より・・・。

 

「待たせたな、宮白」

 

 最高の親友が隣に立つ。

 

 ああ、これだけいればもはや恐れるものなど何もない。

 

「さて、レイヴンとか言ったか?」

 

 魔眼を使いきった死霊魔術師に、俺は真正面から向かい合う。

 

「・・・さあ、聖杯戦争を始めよう」

 



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お披露目、偽聖剣!!

 

 サーヴァントを前方に立たせて後退するレイヴン。

 

 聖杯戦争という戦いにおいては間違いなく定石と言える行動だ。基本中の基本といっても過言ではない。

 

―兵夜、聞こえるかしら?

 

 念話でアーチャーが俺に声をかけてくる。

 

 そういえば近くにいないが、どうしたんだ?

 

―今は、私とアザゼルが大量にいる連中を相手にしているわ。

 

 なるほど、外側にも何人もいるということか。

 

 今回の和平で悪魔祓いの類はお役目ゴメンになったといってもいいし、相当の人数が協力している可能性は大きいな。

 

―だけどイッセーにアレを持たせたから使いなさい。どちらにしてもそれが戦闘の基礎になるし、それぐらいはやってもらわないと私が困るわ。

 

 ああ、分かってる。

 

「イッセー。アーチャーから渡された奴をくれ」

 

「お、おう。でもこれどうすんだ」

 

 戸惑いながらイッセーが渡してきたものを以って、俺は苦笑する。

 

 それは、明らかに鈍らだとわかる片手剣だった。

 

 装飾は豪華だがその程度で、どう考えても実戦での使用を前提とした武装ではない。

 

「・・・悪いが、アーチャーを呼び出す隙は与えないよ? セイバー、切れ」

 

 レイヴンがセイバーに指示をだし、剣の英霊はそれに応える。

 

 文字通り目にもとまらぬ速さで切りかかる。

 

 だが遅い。切りかかろうとするより僅かに早く、機動は完了している。

 

 振り下ろされる剣を、青い鎧が迎え撃つ。

 

「・・・まさか、こんなに早くお披露目するとはな」

 

 受け止めるのは神聖さすら感じさせるほどの聖なるオーラを纏った鎧。

 

 その姿は剣をほうふつとさせ、必然的に防御よりも攻撃に重きをおいた性能を思わせる。

 

 そして何よりもその姿は、グレモリー眷属にとっては見覚えのあるものだろう。実際皆目を丸くしている。

 

「み、宮白? お前、返却したんじゃなかったのか?」

 

 中でも関係があったゼノヴィアが度肝を抜かれているが、別にこれは本物じゃない。

 

「安心しな。これは贋作だよ」

 

 正直受け止めながら話すのはおっくうだが、どうせならネタばらしは盛大にいきたいものだ。

 

 そう、かの伝説の聖剣は確かに返却した。だが、それはあくまで核である破片の話であり、崩壊した残りの部分はそのまま遺棄されている。

 

 それを回収して何かに利用できないかと思ってはいたが、アーチャーのおかげで光明が見えた。

 

 破片そのものを統合して再生成することで形を整え、その際にもう一本の破片も混ぜることである意味で元の状態より完成度を整える。

 

 さらに、聖杯戦争というイレギュラーを利用して核の代用として『能力を強化する』悪魔の駒のベースマテリアルを用意してもらって利用。

 

 そして魔術礼装化により強化魔術によるそれぞれの特性再現度を強化できるように調整。

 

 本来キャスターであり、遠距離攻撃に特化した状態で召喚されたアーチャー。その前衛という今後に置いて必須の役割を果たすための魔術礼装・・・!

 

「対英霊前衛戦闘用魔術礼装、偽・外装の聖剣(フェイク・エクスカリバー・パワードスーツ)! 最優の英霊なら相手にとって不足はない!!」

 

 フルパワーでセイバーを弾き飛ばし、そのまま両腕からブレードを展開して突進する。

 

「いっくぜぇえええええええ!!」

 

 両腕のブレードとセイバーの剣が真正面からぶつかり合う。

 

 そのまま一時的につばぜり合いを行った後、恐ろしい速度での切り合いを続行する。

 

 天閃の速さで何とか切り結ぶほどの近接戦闘を行っているが、それは時間稼ぎにしかならない。

 

 仮にも相手は剣の腕によって英霊へと昇華された存在。ましてや、セイバーのサーヴァントは他の能力もある程度の高さを必要とされる。

 

 そんな存在を相手に戦って長時間も持つとは最初から考えていない。あくまでこの鎧の主目的は敵をアーチャーに近づけさせないことだ。

 

 そう、これ単体で英霊に勝てるなんて最初から思いあがらない。

 

 頼むぜ皆・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮白くんとセイバーの戦いは見ない。

 

 彼は最も危険な戦いを引き受けてくれたのだ。ならもっとやらねばならないことがある。

 

「・・・やれやれ、まさかあんな奥の手を用意しているとは思わなかった。アーチャーに道具作成のスキルは無いんだけどね」

 

 背中から死体でできた腕を伸ばしつつ、レイヴンが向かい合う。

 

 死体を材料にして魔術に使う品を開発するという死霊魔術師、聞いただけで不愉快になる存在だ。

 

「悪魔に堕ちた身とはいえ、死を冒涜する所業は神に仕えた物として見過ごせないな。・・・ここで討ち滅ぼしておこうか」

 

 デュランダルのオーラを抑えることなく放出しながら、ゼノヴィアが一歩前に出る。

 

 死体を扱うという時点で、元教会の人間であるゼノヴィアには耐えがたい所業なのだろう。怒りに燃えているのがよくわかる。

 

「キミらの仲間も心得はあるんだけどねぇ。・・・まあいい。君たちはみな金の卵。・・・いい材料になりそうだ!!」

 

 二対の腕から魔力弾が一斉に放たれる。

 

 僕らは飛び退くようにして回避するが、なんとレイヴンは自分から接近してきた。

 

 予想以上に早い。どうやら肉体も鍛えているようだ。だが・・・!

 

「これぐらいなら・・・っ!」

 

 腕の一つを聖魔剣で迎撃する。

 

 刃は食い込みこそするが、腕を切断するほどにはいかない。相当改造を施しているようだ。

 

 連続で攻撃を叩きこむが、それらすべてを彼はたった一本の腕で防ぎきる。

 

 禁手にいたってからも剣の修練は欠かさず行ってきた。少なくとも、パワーアップに調子に乗って腕を落とすようなまねはしなかった。

 

 それでこの状況・・・。本気のひとかけらも出せないのか・・・!

 

「禍の団で聖杯戦争のマスターになるのは一つの条件がある」

 

 すべての攻撃をしのぎながら、レイヴンができの悪い生徒に物を教えるかのような口調で伝える。

 

「最低でも上級悪魔を打倒できるだけの戦闘を可能とすることだ。下級悪魔に後れをとるわけにはいかないよ、君?」

 

 講釈と共に遊びは終わりだとでもいうのか、さらに一本の腕に力が込められる。

 

 なるほど、確かにそう言われればそうだろう。

 

 ある意味で切り札の一つを馬の骨に与えるわけにはいかないだろう。

 

 だが、甘く見ないでもらおう。

 

「・・・リアス・グレモリーの騎士は二人いるぞ!!」

 

 僕らは一人じゃない!!

 

 頭上から切りかかるゼノヴィアの攻撃に、レイヴンは攻撃に使用しようとした腕を防御に回す。

 

 圧倒的な破壊力を発揮するデュランダルを、しかしその腕は僅かに切りこまれるだけで防ぎきる。

 

「今回持ってきているのは、聖剣使いの肉体をベースに開発した、聖剣制御能力を持った腕だよ。・・・グレモリー眷属を相手にする可能性がある以上、当然相応の武装は用意するさ」

 

 得意げに語るレイヴンはさらに残りの二つの腕を広げる。

 

 しかしそれは、挟み撃ちするように放たれた消滅の魔力と雷を防ぐのに使われた。

 

「人のことを忘れてもらっては困るわね?」

 

「あらあら、放置プレイとはひどいですわ?」

 

 これで四本全て封じた。

 

 残るは本体のみ!

 

「・・・終わり」

 

 間を縫うように飛び込んだ小猫ちゃんの蹴りが、レイヴンに叩きこまれる。

 

 レイヴンも自分の腕を使って防ごうとするが、防ぎきれずに壁に叩きつけられる。

 

 そして、それだけの隙ができれば後は止めだ。

 

 今までのすべての時間を攻撃のためのチャージに使っていた、僕らのエースの出番がやってくる。

 

「喰らいやがれ、ドラゴンショットォオオオ!!」

 

 しっかりチャージされた竜の一撃。下手な上級悪魔をはるかに上回るそれがレイヴンに叩きこまれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セイバーの攻撃はあまりにも恐ろしかった。

 

 確かにこの鎧によって俺の身体能力ははるかに向上している。構成されている聖剣の中には攻撃力上昇と機動力上昇がある。瞬間的になら、攻撃力と機動力なら最上位の英霊にだって届くだろう。

 

 だが、相手は正真正銘の英霊だった。

 

 その剣術は卓越しており、常に警戒しているはずの俺の、それでも存在する隙を見事についてくる。

 

 既に鎧は何回も破損し修復しているが、このままではとても追いつかない。

 

 ああ、さすがになめてかかっていたか。

 

 両手から別々に繰り出されるこちらの攻撃を剣一つで防いでいるにもかかわらず、さらに反撃するだけの余裕が存在しているのだから。

 

 それも、おそらくは宝具の効果をまだ出していない。

 

 完璧に舐められている。

 

 それだけの超高速剣技を相手にして、しかし俺はあきらめない。

 

 あきらめれば後ろにいるフィネクス卿はもちろん、イッセー達や雪侶にすら危害が及ぶ。

 

 今の俺だけが、奴を抑え込むことができる唯一の切り札だ。

 

 擬態の聖剣を応用して、普通では想定できないだろう背後からも剣戟を走らせてみる。

 

 あっさり見もされずにかわされるが、しかし攻撃の密度は確実に減った。

 

 さて、これでとりあえずもう少し時間はかけられるがどうしたものか・・・。

 

 その瞬間、壁を突き破ってレイヴンが飛び出してきた。

 

 なんかビームっぽいものを浴びていたが、あれか、ドラゴンショットか。

 

「悪い宮白、そっち言った!!」

 

 イッセーの声が聞こえてくるが、それはいとしてシャットアウトする。

 

 今はセイバー以外にこれ以上意識を差し込むことなどできはしない。

 

「ふむ、僕も相応の戦闘経験は積んできたが、よもやここまでやれるとわね。・・・これ以上は危険か」

 

 剣戟を繰り返す中、レイヴンの声が聞こえてくる。

 

「・・・破壊しすぎて材料がなくなると困るから手を抜いていたが、さすがにそういうわけにもいかないね。・・・死んでしまえば研究ができなくなる」

 

 とたん、セイバーの魔力が増大した。

 

「手加減無用だセイバー。・・・本気でいきたまえ」

 

 セイバーの能力が全て増加し、そのまま一気に俺を押し切り―。

 

「人のことをあまり忘れないでくれないかね?」

 

 その腕がいきなりつかまれた。

 

「まさか、片腕を失った程度でレーティングゲーム上位ランカーが黙っていると思ったのか。・・・悪魔を、舐めるな」

 

 アポロベ・フィネクス卿が、その腕をしっかりと止めていた。

 

 そして、それはあまりにも致命的な隙だった。

 

禁手化(バランス・ブレイク)! &光魔力最大強化(ブーストアップバースト)!!」

 

 最短記録更新で禁手を発動した状態で神器を強化。

 

 痛覚制御があるので激痛は無視し、全力の一撃を叩きこむ。

 

 拮抗は一瞬。相性次第なら上級悪魔すら一撃で倒せる光の槍が、セイバーの脇腹を大きくえぐりなら後ろの建物にドでかい穴をあける。

 

 そして攻撃はそれでは終わらない。

 

 鎧の形状を強制変化、腕に収束させてさらにその力をすべて破壊の聖剣(エクスカリバー・ディトラクション)に注ぎ込む。

 

「ぶっ飛べこの野郎!!」

 

 不良相手に鍛えた全力の一撃を叩きこまれ、セイバーは思いっきり吹っ飛んだ。

 

 これでセイバーとレイヴンの距離は大きく離れた。そして聖杯戦争に置いて上手くいけば最も簡単な方法は・・・。

 

「もう一発!!」

 

 ・・・サーヴァントよりはるかに弱いマスターを狙うこと!!

 

 サーヴァントが吹っ飛ばされたことに呆然とするレイヴンを、ためらうことなく殺すために全力で放つ・・・っ!!

 

 セイバーはまだ吹き飛ばされている。レイヴンも気が付いたようだがこれなら間に合わない。

 

 奴が防御しようとするころには、槍は直撃し大きな爆発を起こしていた。

 




やけにあっさりセイバーをぶった押せたとお思いでしょうが、その理由は大きく分けて二つ。


1 舐め腐っていたレイヴンが、手加減させていた。

2 アーチャーの魔術とアザゼルの技術が融合されて突然変異を起こした。

アーチャーの魔術とアザゼルの技術の奇跡のコラボレーションは、グレモリー陣営に奇跡を起こしてくれる魔法の合言葉です。


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アーチャー、すごすぎました。

長らくお待たせいたしました。

それでは、技術チートの協力を受けた魔術チートの驚異的技量をご覧ください。


 勢い余って威力を高めすぎたか。

 

 ・・・死体の確認ができないのは問題だ。

 

 防御を固めたら逆に良いようにぶっ殺せるあの魔眼は危険すぎる。やりようによっては広域展開された結界をつまようじ一つで完膚なきまでに崩壊させかねないし、戦略的価値が洒落にならない。

 

 仮にもそれなりに強者がいるであろう禍の団で聖杯戦争のマスターに選ばれるのだから、ただものではないとは思っていたが、規格外すぎる。

 

 死霊魔術師というのも危険だ。

 

 死体で魔術礼装をつくるということは死体が多ければ多いほど力を発揮するということ。翻って大量の死体が出てくる戦場でこそ真価を発揮する魔術師だ。

 

 禍の団との戦いが撃破して双方ともに死者が出れば、その死体を利用して奴がどんどん強くなってしまうかもしれない。最上級悪魔クラスの死体でも入手すれば宝具クラスの超絶一級品もできるかもしれない。

 

 それらを避けるためにも、できればここで仕留めておきたいんだが・・・。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 俺もフィネクス卿も一言もしゃべれない。

 

 ちなみにセイバーは消えてないが、これは判断の役には立たない。

 

 確かにエネルギー供給源にして依代であるマスターが死ねばサーヴァントも消えるが、だからと言って死んだ直後に消滅するわけでもない。

 

 さて、どうしたものか・・・。

 

「・・・やったのか、宮白」

 

 イッセーがそんなことを言ってきた。

 

 そして、俺はそれで確信した。

 

 うん、やってない。

 

「フラグがたった。全員戦闘態勢とってください」

 

「フラグってなんだよ!?」

 

 俺の要請にイッセーからツッコミが入るが、そんなことを気にしている余裕はない。

 

 実際、煙の中から人影が見える。

 

 だが、それには問題があった。

 

 一人・・・二人・・・三人・・・四人?

 

 分裂能力でも持っているのかあいつは?

 

 やがて土煙が晴れるころには、その姿が鮮明に映っていた。

 

 黒い蝙蝠のような翼をもった三人の悪魔が、レイヴンをかばうように立っていた。

 

 三人とも年は俺たちと同じぐらいだが、悪魔は見た目も変えられると聞くし、信用はできない。

 

「カカッ! 手ぇ抜いてぼこられてんじゃねえよレイヴン! だらしねぇなぁ!!」

 

 狂暴な雰囲気を纏った筋肉質の少年。

 

「あらぁん? 映像は見てたけどいい男も女もいっぱいねぇん?」

 

 妖艶な雰囲気を纏った色っぽい少女。

 

「・・・これが最後のサーヴァントを抱えるリアス・グレモリーの者達か」

 

 冷静な雰囲気を纏った、鋭い眼をした少年。

 

 ここにきて増援とは困ったもんだ。そろそろアーチャーを令呪で呼んだ方がいいか?

 

 俺達の緊張がこくなる中、鋭い眼をした少年が一歩前に出る。

 

「お初にお目にかかる、虚像の魔王の血をひくものよ。わが名はザムジオ・アスモデウス。旧魔王の血を継ぐものだ」

 

 こちらを観察するように見据えながら、ザムジオと名乗った悪魔が一礼する。

 

 一見隙だらけに見えるが、しかしそれは明らかにまやかしだろう。

 

 ・・・オーラが強い。間違いなく強者の一人だ。

 

 ザムジオに続くためか、残りの二人も一歩前に歩み出る。

 

「俺様はグランソード・ベルゼブブっつーんだ。カカッ! よろしくな」

 

「エルトリア・レヴィアタンよぉん。よろしくねぇん」

 

 この状況下でさらに増援とは・・・。マジで迷惑だ。

 

「旧魔王派が人間を支援するとはね。・・・少し意外だわ」

 

「そうでもない。なにぶんカテレア達の世代とは折り合いが悪くてね・・・」

 

 部長の言葉にザムジオは苦笑した。

 

「カテレアのキャスターに相当する人材を確保するためにも、レイヴン殿には食客として行動してもらっているのだよ。なにぶん派閥争いが意外と激しくてね」

 

「つうわけで、ここでやられんのはさけてぇんだよ。カカッ! 悪ぃな」

 

「やられちゃった人たちも、自分の体で無念を晴らせたら弔いになるでしょぉん? そういう意味でも助かってるのよねぇん」

 

 思い思いにそう言ってくるが、しかしレイヴンをかばうように立っているのだけは共通している。

 

 どうする? 腐っても相手は旧魔王の血族。部長たちと同世代ならまだまだ発展途上だろうが、だからと言って今の状況でそうそう抜ける相手でもない。

 

 しかも最悪なことに、視線を向ければセイバーまで立ちあがってきていた。

 

 ・・・仕方がない、か。

 

「令呪に命ず・・・来い、ア―」

 

「もう来てるわよ」

 

「待たせたなお前ら。もう大丈夫だ」

 

 俺の言葉を遮り、ザムジオ達からかばうようにアーチャーとアザゼルが舞い降りた。

 

 ・・・ものすごいいタイミングで来てくれちゃってまあ。

 

「アザゼル先生! アーチャーさん!!」

 

 イッセーが歓喜の声を上げる中、アザゼルが軽く手を上げて応じる。

 

「思った以上に悪魔払いの連中が多くてな。時間はかかったが全員片付けたぜ」

 

「全員に魔力避けのアミュレットを持たせるとはやるじゃない。・・・キャスターの差し金かしら?」

 

 圧倒的強者が圧倒的余裕を見せつつプレッシャーを放つが、しかしザムジオ達は怯まなかった。

 

「一応同盟関係だったこともあって、その程度の支援は受けれるのだよ。まああまり役に立たなかったようだが」

 

 肩をすくめるザムジオの後ろで、レイヴンがやっと完全に持ち直したのか俺達を睨む。

 

「やってくれたじゃないか。・・・セイバー、今度は彼らと腕試しだ」

 

 レイヴンの命に従い、セイバーが無言で剣を構え直す。

 

 さすがにきついな。いくらアザゼルが来てくれたとはいえ、敵にも増援が追加で来ているわけだ。

 

 挙句の果てに敵はセイバー。本来キャスター枠で召喚されるアーチャーにとって、高い対魔力を持つセイバーは相性が悪いなんてもんじゃない。へたすりゃ完封負けもあり得る。

 

 その懸念を与えるかのように、セイバーが一気にこちらに迫る。

 

「させるか! アーチャーさがれ!!!」

 

 俺は鎧を全体に展開し直して駆けだそうとするが、しかし向こうの方が一歩早い。

 

 不味い、やられる―

 

「心配しないで兵夜」

 

 振り下ろされる剣を前に―

 

「格と後ろ盾が違いすぎるわ」

 

 両腕を交差して防ぎきった!?

 

 見れば、その服装は一変していた。

 

 いかにも魔法使いのローブっぽい恰好から、ところどころに竜を彷彿とさせる意匠を施したコートへと姿が変わっていた。

 

 その両腕は巨大な竜の爪を模した装甲に覆われ、セイバーの攻撃をギリギリで防いでいた。

 

「・・・私のスキルには金羊の皮という役に立たない死にスキルがあったわ」

 

 そういえばあったな。

 

 非常に高価であると同時に、竜を召喚する触媒にもできるという代物。ただし、肝心のアーチャーに竜召喚能力がないから役に立たないという死にスキル。

 

 さすがに並行世界にまで干渉することはできないと思ったんだが・・・。

 

「どうだすげえだろ? グリゴリの技術でそれをベースに信仰を受けて精霊化したそのドラゴンの力を召喚、それをエネルギー源とする魔術礼装と人工神器のハイブリットだ」

 

 ものすごく自慢げにアザゼルが語るなか、アーチャーはセイバーを力任せに振りほどき、さらに伸ばしたしっぽで弾き飛ばした。

 

「|金羊竜の皮鎧《アルゴンコイン・ドラゴン・レザー・アーマー》よ。いざという時の備えは当然用意しておいてるわ」

 

 ・・・今気付いたが、とんでもない組み合わせだよこの二人。

 

 超絶魔術師であるアーチャーなら、キャスターのクラス別スキルである道具作成が無くても相応の礼装は作れるだろう。材料さえあれば宝具一歩手前の代物だって目じゃない。

 

 そこに人造神器をつくり、さらに様々な方面につてがあるであろうアザゼルが技術と材料を提供すれば・・・。

 

「キャスターも大概だが、君たちの組み合わせも大概だということか」

 

 レイヴンがものすごい嫌そうな顔でそうまとめた。

 

 ああ、これは想定外だった。

 

 まさかこの二人の組み合わせがここまで高い性能を発揮してくれるとはな。

 

「とはいえ、それではセイバーは倒せんよ」

 

 再びセイバーが突進する。

 

 だが今度は力任せに突っ込むようなまねはしない。フェイントを織り交ぜながら回り込むように接近する。

 

 やばいな、今度こそ前衛として行動しなければ!

 

「アーチャー! こうなれば天閃を―」

 

「だから必要ないわ。・・・アザゼルは下がりなさい」

 

「ちょ、おま―」

 

 次の瞬間、

 

 セイバーとついでにアザゼルが、アーチャーから放たれた波動っぽいもので弾き飛ばされた。

 

 ・・・・・・・・・・・・。

 

 イマノ、マジュツデシタカ?

 

「・・・・・・・・・・・・は?」

 

 レイヴンも度肝を抜かれていた。

 

 ああ、気持ちはわかる。

 

「いや、セイバーの対魔力はAランクなんだけど。十小節でも無力化するのにどうやってぶち抜いたの?」

 

 うん、気持ちは本当にわかるぞ、レイヴン。

 

 ってちょっと待て、対魔力A?

 

 魔術きかねえだろ!!

 

「イッセーゴメン。俺幻覚見えてるからちょっと役立たないな、コレ」

 

「宮白落ち着け! 現実、コレ現実!!」

 

 あれおっかしーな? イッセーが肩を揺さぶる幻覚が見えてるぞ? 感覚まであるとかリアルな幻覚だなぁ。

 

 いやいやおかしいって。アーチャーはアーチャーだけど魔術師だよ? セイバーは対魔力Aだよ? 理論上魔術師じゃダメージ与えられないよ?

 

「アーチャーさぁああああん!? どどどどどっどどどどどどどどどどどどどどういうこと!?」

 

 こういうときは本人に聞いてみよう!!

 

「簡単なことよ。・・・対魔力がAもあるのなら、十小節以上の魔術で攻撃すれば良い」

 

 日本には言うは易いがから始まる諺がありましてね? っていうか、

 

「「そんなものをどうやって無詠唱で!?」」

 

 思わずレイヴンとシンクロしてツッコミを入れてしまった。

 

 いやだって常識外れにも程があるだろ!?

 

 どう考えてもおかしいだろうが!! そんなもん宝具を以ってしてもやすやすとはできないって!?

 

 そんな俺達の視線を浴びながら、アーチャーは懐から何やら高価そうな装飾品やら杖やらハンドガンやらとりだした。

 

「アザゼルの所有する一品は非常に有益な材料だったわ。・・・おかげで対魔力貫通に特化した魔術礼装やEXランクの魔術行使を可能とする魔術礼装が結構作れたもの。・・・一応兵夜にも使えるように調整しているから、こんど試してみなさい」

 

「俺のサーヴァント超すげぇえええええええええええええええええええ!!」

 

 規格外すぎる!!

 

 これアーチャーで呼び出されたの必然じゃねえの!? 本命のキャスター枠で呼び出されたらもはやチートだろ!! 並みの聖杯戦争なら余裕で勝ちぬけるよコレ!!

 

 真名聞いてないけど聞く必要がないほどにまで優秀すぎる英霊だ。・・・どうしよう、頼もしすぎて気が遠くなりそう。

 

 そしてそんな頼もしい存在を敵に回すと当然恐ろしいことになるわけで、レイヴンは真っ青になっていた。

 

 さて、攻撃しようにも悪魔三人が邪魔になって攻撃できないしどうしようか。

 

「ば、ばばばばばばばばばバカな。最弱のキャスターで呼ばれるべき英霊がこんな規格外だと? セイバーを以ってしても打倒が難しすぎグワァッ!?」

 

 ビビっていたレイヴンがいきなり横から吹っ飛ばされる。

 

 三回転ぐらいしながら吹っ飛びやがった。

 

「バカな、どこから攻撃した!?」

 

 ザムジオとかいった悪魔が動揺するが、それは極めて同感だ。

 

 視界を横に逸らしてみても攻撃をしたような奴はどこにもいない。これはどういうことだ?

 

「・・・人のことを忘れてもらっては困りますのよ?」

 

 なんか今度はオーラまきちらしながら雪侶が立ち上がった。

 

 そういえば、テロリスト相手に一歩も引かなかったな。もしかして強いのか?

 

「angry。人の親の会社で好き勝手に暴れておきながら、何を偉そうなことを言ってますの?」

 

 雪侶の周囲から魔法陣がいくつも現れる。

 

 うん、魔力が結構豊富な感じだ。直撃は俺達でもまずいぞ。

 

「消し飛ぶがいいですの!!」

 

 魔法によるフルバーストが全方位に向けて放たれる。

 

 それらはほとんどがあさっての方向に向かったかと思ったが、途中で思いっきりねじ曲がってレイヴンを狙って降り注ぐ。

 

「カッカッカ! 面白い技を使うじゃねぇか!」

 

「面白いわねぇん! 見た目も可愛いし私好みよぉん!!」

 

 グランソードとエルトリアがレイヴンをかばってその攻撃を迎撃するが、その余波で壁が崩壊するあたり破壊力は結構なものだ。

 

「その年でこれだけの魔法攻撃を使うとは。それもギリシャ系の魔術体系をこの国で見ることになるとは珍しい」

 

 冷静に把握するザムジオの視線を浴びながら、雪侶は胸を張って奴らを見返した。

 

「Of course! これでもコルキスの魔女メディアの血筋を受け継ぐ由緒正しい魔女の家系。末裔を舐めてもらっては困りますのよ!」

 

 ・・・魔女メディアってアレだろ? ギリシャの女神の恋に巻き込まれて人生血なまぐさくなった大変な人。やることえげつないのは本人の資質とはいえ、無理やりやらされたようなもんだし正直訴えてもいいんじゃないだろうか。

 

 この世界でも当然存在しているということか。主にゼウスを含めて迷惑な神様が多い印象があるんだが、今後俺も関わる可能性があるんだよなぁ・・・。

 

 そんなことを考えていたら、うちのアーチャーが度肝を抜かれることをほざいた。

 

「ああ、だから私が召喚されたのね。血縁者に子孫がいれば召喚もされるわね」

 

 ああ、触媒なしでなんでこんなすごいの召喚できたんだろうとは思ったけど、雪侶という妹の存在そのものが触媒になってたのか。

 

 ある意味的確な召喚だったというわけか。

 

「ってことはアーチャーの真名はメディアか。・・・やっぱり神に復讐とかそういうのが・・・目的か?」

 

「まさか。下手な同情はやめて頂戴。せいぜい現世でいい暮らしができれば文句はないわ」

 

 微妙に殺気を叩きつけられたが、しかしそれだけだった。

 

 ・・・下手な同情は確かによそう。

 

 彼女の生前は俺なんかより長くて深い。それに俺風情が理解を示そうなどばかばかしすぎる。

 

 それに、今はそれよりももっと気にするべきことがある。

 

「・・・・・潮時か」

 

 ザムジオが、軽くため息をついてそういった。

 

 とたん、四人の足元に魔法陣が浮かび上がり、セイバーがそれをかばうように移動しながら魔法陣の中に入る。

 

「逃げる気?」

 

「ああ。こんなところで双方ともに無用な犠牲を出すことはあるまい。聖杯戦争も魔王の座を賭けた闘争もここからが本番だ」

 

 リアス部長の挑発にも耳を介さない。

 

 どうやら極めて冷静な性格をしているらしい。それに本番がここじゃないというのも同感だ。

 

「貴様の兄が己を魔王ルシファーと偽る以上いずれ会いまみえる。本番はそれまでとっておけ」

 

「カカカッ! 先代魔王の末裔と現魔王の弟妹、どっちが強いか俺様は楽しみにしてるぜ?」

 

「素敵な子たちが多くて、倒すのが本当に残念なのよぉん? また会いましょうねぇん」

 

 思い思いに魔王の子孫とやらが別れのあいさつをし、そして消え去る直前にレイヴンが俺に視線を向ける。

 

「いずれ、聖杯戦争で会おうじゃないか」

 

 そして光に包まれて消えていく中、俺は静かに言葉を返す。

 

「・・・当たり前だ、馬鹿野郎」

 




 だいたい初登場の時にばれてましたが、アーチャーの正体はメディアでした。Fateシリーズ魔術師ランキングを付けるなら間違いなくトップ候補のチート存在。

 このへん、Fateシリーズの常である『弱いマスターと強力なサーヴァント』をある程度徴収しています。相対的に見て魔術師としては弱い部類のマスターと、超強力だけど弱体化しているサーヴァント。


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親子の付き合い 兵夜編

 

 魔女メディア。

 

 コルキスという国に産まれた正真正銘の王族。

 

 叔母から様々な魔術を学んでそれに長けていた実力者。神代の存在であると同時に、神の血をついでいるとか諸説あり、それゆえに現代の人類では発音不可能な神言を語ることができる。これによる従来の魔術詠唱とは格が違う魔術詠唱こそ本命。それゆえに現代の魔術詠唱の縛りにとらわれないため、下手な対魔力など一言で発生した魔術に吹っ飛ばされる。

 

 彼女は幸せな生活を送っていたが、しかし問題が二つあったために人生を大きく狂わされる。

 

 一つは自身の性格。サーヴァントのステータスでいうなら中立・悪なこの思考は、必要じゃないなら安全で無害と言ってもいいが、必要になった場合手段を選ばないという危険を持った性格である。

 

 俺もイッセーに理不尽な危害を加える相手には容赦しないので、その辺意外と相性が良かったのかもしれない。少なくとも、情愛が深いゆえに足元をすくわれる余地があるグレモリー眷属には必要な人材かもしれない。

 

 で、もう一つは最悪なまでのめぐり合いの悪さだ。

 

 英雄イアソンと女神ヴィーナス。この二つが関わったが故に人生がねじ曲がる。

 

 跡目争いによって悪龍が守る宝を奪い取るという無理難題をふっかけられたイアソンが、コルキスの国に辿り着いた。しかも、それを助力するためにヴィーナスが手を貸そうと行動。まあ、これだけならファンタジーでもありそうな展開なのだが、やり方が最悪だった。

 

 ヴィーナスは、魔女メディアの恋心を操作し、イアソンに惚れさせたのだ。

 

 その恋心自体が凶悪なものだったこともあり、王女メディアはヤンデレの魔女へと変貌。ここから彼女の人生は大きくねじ曲がる。

 

 持てるすべての力を使いイアソンの目的を達成させることに成功したメディアは、そのままイアソンについて行って国を離れる。

 

 その追撃に対して、メディアは実の弟を殺して八つ裂きにし、それを利用して逃げおおせるという策に出たのだ。

 

 その後、跡目争いに手を貸したメディアによってイアソンは王になることができるが、そのヤンデレっぷりが仇になりイアソンはメディアから離れて別の女性を結ばれる。

 

 それを恨んだメディアの手により、その花嫁は父親とともに焼け死に、メディアは自分の子供も殺してそのまま国を去る。

 

 その後、彼女は不死の存在になったとも、他の男と結婚したとも言われているが、これはまあ関係ない。

 

 とにもかくにも、放っておけば問題なかったのに余計なことをされたがために、自分の人生を血なまぐさいものとしてしまった女性。

 

 それが、俺のサーヴァントなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくら世界が違うとはいえ、メディアの後継の兄の下に、メディアが来るとはどんな運命かしらね」

 

 部長があきれたように言ってくるが、俺だってまさか自分の家族に英雄の子孫がいるだなんて考えません。

 

 いや、相性召喚でよくもまあここまでハイスペックな英霊が呼べたとは思っていたが、まさか肉親が触媒になっていたとは。

 

「奇跡みたいな確率なのは認めるわ。・・・この世界の私は私で波瀾万丈な人生を送ったようね」

 

 既にローブを召喚時のものへと戻しながら、アーチャーはまじまじと雪侶を見詰めていた。

 

 並行世界とはいえ、自分の子孫の姿に思うところがあるのだろう。

 

「Yes。まさか並行世界のご先祖様を呼び出していたとは、兄上も奇想天外な悪魔になったものですの」

 

 髪をなでられながら、雪侶も心地よさそうにされるがままになっている。

 

 並行世界とはいえ自分の大元と会うことができてテンションが上がっているのだろうか。

 

「神代の存在を呼び出すこともできるだなんて、聖杯戦争というのは恐ろしいね」

 

「ああ、だがそれならあらゆる聖人と出会うこともできるということだ。・・・私としてはジャンヌ・ダルクにあってみたいな」

 

 木場やゼノヴィアも、改めて聖杯戦争のシステムのすごさを知って驚愕している。

 

 俺もさすがに驚きだよ。いろいろな意味で当たりサーヴァントを引いた気がする。

 

「にしてもここはまでハイスペックなキャスター相当の魔術師をアーチャーで召喚って・・・。なんか申し訳なさ過ぎて涙出てきそう」

 

 正直落ち込むしかない。申し訳がなさ過ぎてどうしたもんか。

 

「・・・すごいのかすごくないのかわかりませんね、宮白先輩」

 

「いや明らかにすごくないだろ。ピンポイントの触媒があればピンポイントで召喚できるのは当然だ。それをよりにもよってずれた枠で召喚するとか俺がアホすぎる」

 

 小猫ちゃんの言葉にそう返せるほど、自分が正直情けない。

 

 これがキャスター枠ならクラス別スキルの補正もあって規格外の戦闘能力を発揮できていたであろうに。

 

 それこそ駒王町全域を工房化とかもできたかもしれん。いや、アザゼル達の全面的な協力があれば可能性は十分にある。超正確な探知能力に侵入した敵に襲いかかる殺人クラスの呪術攻撃の数々に、さらには発生した亡霊は無条件で使い魔として攻撃用に調整可能とか普通にいけそう!

 

 そうなれば防衛戦に置いては無敵クラスの圧倒的防御が可能になったというのに! 俺はなんというミスをしでかした!

 

「正直ここに呼ばれただけでも十分すぎる価値はあるわね。他の連中は強力な武装扱いをしてきそうだから問題外だわ。・・・可愛い子もいっぱいいるから着せ替えし放題」

 

「あわわ。お、お手やわらかにお願いしますぅ」

 

「は、はい! 私でよければお手伝いします!!」

 

 ギャスパーとアーシアちゃんをターゲットにひび楽しむ気な姿を見ると、そこまで壮絶にすごい存在にはなかなか思えないな。

 

 実際ただ生活する分には全く問題のない女性だ。・・・こと食に関しては時代が時代なのでいい反応してくれるし。

 

「・・・アーチャー」

 

「何かしら?」

 

 雪侶の頭をなで続けているアーチャーだが、一応マスターなので俺にもちゃんと反応してくれている。

 

「・・・直接関係してない以上、こっちのギリシャ神話には手を出すなよ。・・・俺が言うのはそれだけだ」

 

「・・・・・・意外ね。もっと踏み込んでくるかとも思ってたけど」

 

 本気で意外そうな顔をされた。

 

 そんな会話に、その場にいる全員の表情が変わる。主に俺に対して意外そうだ。

 

 まあ、グレモリー眷属は総じて情愛が深いし、アーチャーは過去が過去だ。

 

 復讐はだめだとか、もしくは神に対する怒りを見せるとか普通にあり得るだろう。実際俺もこの話に関しては、何考えてんだ神とか言ってやりたいとは思う。

 

 だけどまあ・・・。

 

「合計で30年以上生きてるとはいえ、大して深い人生を送っているわけでもない俺が、お前の完遂した人生にとやかく言う資格はないしな」

 

 そう、そういうわけだ。

 

 人によっては同情したり一緒に怒りを感じてくれる人間に喜ぶ人もいるだろう。

 

 とはいえ、たぶんアーチャーの人生は俺達なんかじゃ知りようもないような複雑な展開で、なにより彼女は誇り高い女王だ。

 

 たぶん、それは望んでいない。

 

「多分だけど、お前は人に同情されたりとかされるのは嫌なタイプだろ? そういう意味ではこの陣営とはある意味相性が悪いか」

 

「・・・まあそうね。下手な同情なんて侮辱も同じ。ここで神がどうとか言ってくるようなら、ちょっとお仕置きでもするところだったわ」

 

 ・・・危なかった。

 

 イッセーあたりは一緒になって怒るだろうし、そうなればどんなことになっていたことやら。

 

「正直に言って復讐する気なんてないわ。・・・触媒が強かったから来ただけで、聖杯を使ってまでわざわざかなえようとか思うほど強い願いもない」

 

 やはり悪いことをしたと思う。

 

 あの場合はそれしか方法が思いつかなかったし、実際彼女が来てくれなければ負けていたかもしれないとはいえ、無理やりに呼び出して戦わせるのは今でも失礼だとは思う。

 

 だけど、こうなった以上彼女にはいてもらわないと困る。

 

 英霊に対する対抗戦力以上に、敵が聖杯を完成させる阻止するためにも、なんとしても最後まで生き残ってもらう必要がある。

 

 まったく、魔術師なんていきものは本当に迷惑極まりない存在だよ。

 

「せいぜい美味しい食事と美味しいお酒を用意してもてなしなさい。報酬分の仕事はちゃんとしてあげるわよ」

 

「・・・ああ。分かってる」

 

 俺にできることなんてそれぐらいだ。

 

 しっかり金稼いで王女様にふさわしい贅沢をさせてやらないとな。

 

「・・・・・・お前ら、大丈夫だったか!!」

 

 視界の隅から、正直ビビるぐらい血相を変えて親父が走ってきた。姉さんも後ろからついてきている。

 

「雪侶!! 心配をかけさせて!!」

 

「お父さま!!」

 

 親父が雪侶を抱きしめる。

 

 ・・・潮時、か。

 

「じゃ、俺たちはそろそろ帰るとしますか」

 

「いいのかね? 今回の功労者は間違いなく君たちだ。もう少し勝利の余韻に浸っても・・・」

 

 傷の治療をしていたフィネクス卿が呼びとめるが、そんな気分にはなれなかった。

 

「正直今日は疲れました。もう帰って寝ますよ」

 

 手を振りながら俺は歩き出す。

 

 しかしまあ、何とかなって良かった。

 

 ここまで異能がらみの事態になれば、さすがにマスコミに情報が漏れることはないだろう。

 

 何とかテロなんて大騒ぎになる前に集結させることができた。これで正姫工業は大したダメージを受けなくて済む。

 

 そんなことになったら、さすがに寝覚めも悪い。

 

 確かな達成感に身を包みながら、俺はそのまま歩いて行って―

 

「・・・兵夜」

 

 後ろから、声が聞こえてきた。

 

「何かあったらいつでも頼れ。お前は、私の息子だからな。・・・今日は、ありがとう」

 

 ・・・・・・。

 

「・・・・・・今後のオプション武装に、戦車(ルーク)対策になんかないか探していたんだった。・・・今度強化外骨格を参考にさせてくれ」

 

「分かった。・・・今度資料を送ろう」

 

 その言葉を聞いて、俺は今度こそ帰ることにする。

 

 後ろから笑顔が咲き誇ってるような気がするがそこは無視だ。

 

 無視ったら無視だ。

 

 どうせ、明日からかわれるにきまってるんだからな。

 

 せいぜいそれまで、帰ってから1人ベッドでにやけるとしますか。

 



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キャラコメ! 第五弾!!

 

兵夜「はいそういうわけで、保護者訪問のサーヴァント編始まります。今回のゲストは!」

 

アーチャー「いつも私のマスターがお世話になっているようね。アーチャーよ」

 

アザゼル「ついに俺の出番だな! アザゼル先生だ」

 

アーチャー「しかし意外と堅実にトレーニングを積んでるわね。あなたみたいな事実上の不良って、地道なトレーニングとか嫌いそうなタイプらしいけど」

 

兵夜「あまりなめないでくれ。どれだけ豪奢に見えようと、基盤もろくにできていない突貫工事なんて強風一つであっさり倒れる。重要なのはしっかりとした基礎を持ったうえで時間をかけて組み立てることだ。付け焼刃でどうにかなるほどフィフスは甘くないしな」

 

アザゼル「そりゃそうだ。奴は百年しっかり時間をかけて鍛え上げて準備して、協力者を見つけてきた傑物だ。安易にドーピングしていい気になってる旧魔王派なんかとは全く違う」

 

アーチャー「まあそうね。それにしても食事が必要ないサーヴァントの分まで用意するなんて、まねねぇ」

 

兵夜「何言ってんだ。せっかくこの飯が美味い国家に来たってのに、食うもん食わずに生活なんてばからしい。サーヴァントの衣食住ぐらい確保できずに聖杯戦争に挑もうなんて馬鹿げているだろう」

 

アーチャー「・・・何かしら。ものすごく幸運を感じるというかなんというか。これはほかの聖杯戦争の記録?」

 

アザゼル「それはともかく宮白が呼び出されたと思ったら、何やら大立ち回りの後があったわけだが―」

 

兵夜「関係者の皆様には深くお詫び申し上げますとしか言えない」

 

アーチャー「・・・また独創的な妹を持ったわね。私としては服の着せ甲斐がある娘なのでいいんだけれど」

 

兵夜「昔からなんというかあほなんだ。小学校の時にイッセーみたいなスケベが発生しないことをストレスに感じて、女子更衣室にノゾキ穴を作るという暴挙をぶちかましたことがある」

 

アザゼル「また愉快なやつだなおい。今度腰を据えて話したいぜ」

 

兵夜「やめろふざけんな収集つかねえよ。そんなことしたら蒼穹剣発動すら辞さんぞこの野郎」

 

アザゼル「いいじゃねえか。俺はあいつみたいなやつ好きだぜ?」

 

兵夜「だからいやだって言ってんだろうが!!」

 

アーチャー「まったくよ。あなたのせいでどれだけの被害が出ているかわかってるの? この事件にしたってそうでしょう?」

 

兵夜「酷かった。何がひどかったって、被害もそうだが対応もそうだった」

 

アザゼル「お前のイッセーに対する観察眼もひどかっただろうが」

 

アーチャー「それは同感」

 

兵夜「酷いなお前ら!!」

 

アザゼル「いや、普通に考えてお前のレベルは異常だからな。同類の小雪やナツミは引いたからな?」

 

兵夜「ベルと久遠はジェラシー感じてたぞ。俺に」

 

アザゼル「それぞれの症状の深刻度が今のでよくわかった。お前ら自覚が足りねえな」

 

兵夜「おいおい。サイコパス気味で愛が重いのは重々承知してるぞ? 自覚のない狂人なんて迷惑以外の何物でもないだろう?」

 

アザゼル「自覚がまだ足りてねえって言ってんだよ!!」

 

アーチャー「それはともかく本当にとんでもない事態ね。これ下手したら全国ネットでニュースになってたわよ? もう少し非常事態の秘匿とか考えなさいな」

 

兵夜「まったくだ。しかも全責任イッセーにかぶせようとするしな。勘付かなかったらどんなことになってたか」

 

アーチャー「まあ、アザゼル本人には小雪がお仕置きしてたでしょうけど。それはともかくとしてイッセーはひどい目にあってたでしょうね」

 

兵夜「本当にありがとう! 本当にありがとう! まあ普段からあれだけど冤罪はひどいから本当にありがとう! あとアザゼルはイッセーに伏して詫びろ」

 

アザゼル「お前、俺の扱い本当に悪いな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザゼル「で、使って兵夜のスペック説明が出たわけだ」

 

兵夜「オカ研の保護者ポジションにして大人ポジションの二人が出てきてくれたおかげで、何とかこの機会が作れたな。ぶっちゃけ俺の視点からだけだと説得力がないとか言われるし」

 

アザゼル「あの手この手で結果はもぎ取るからなお前。第三者の視点じゃないとどうしようもないだろう」

 

アーチャー「実際この時点だと、成果と実力が釣り合ってないもの。魔術師としての才能はこの時点では木っ端もいいところ。時計塔でも理論はともかく実力は評価されないんじゃないかしら?」

 

兵夜「まあ、よくて上から四番目の祭位だな。因みにこれ、魔術師としての実力外の功績に対する名誉階級だから。魔術師としての能力だけなら最低ランクの末子は越えれるだろうけど、まあその次の長子で終了、さらに上の開位なんて不可能に近いな」

 

アーチャー「まあ、真の力に目覚めたら飛び越して封印指定なのですけれど」

 

兵夜「そういう意味じゃこっちこれてよかった。余計なトラブルのネタが多すぎる」

 

アザゼル「まあ、実際のところ説明が難しいところだからな。・・・よりわかりやすく例えるなら、どんな職業を選んでも食ってく分には困らないし路頭に迷う可能性も低いが、かといって社長候補とか大出世ができるかというとそれは難しいという微妙なレベルだ」

 

兵夜「まさに器用貧乏。格下にはやられにくいが格上にはかなわないという情けないスペック・・・を選んで実際その通りのはずなんだが」

 

アザゼル「メンタルというか精神性の問題だろ。実際お前のような奴が大物殺しをする例なんてよくあるし、そこは知恵と勇気で補うタイプだな」

 

兵夜「そりゃどうも。俺としてはそんな必要に迫られてるってのがまず不幸なんだが」

 

アザゼル「それはそれとして本当に状況は最悪だな。敵のサーヴァントはどいつもこいつも油断したらのど元食い破られるような化け物ぞろい。しかも倒したら倒したで敵に切り札を発動される。・・・詰んでねえか?」

 

アーチャー「我慢しなさい。これでもサーヴァントの中では二流三流が多い方よ?」

 

兵夜「まったくだ。」

 

アザゼル「マジかよ」

 

兵夜「そもそも厳密な意味での英霊に該当するのはアーチャーだけだ。ほかはいろいろ特殊すぎるが本来ならば英霊未満といっても過言ではない」

 

アザゼル「」

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「それはそれとしてオリジナル短編。できればもっといろいろ作りたいんだが、文才がないせいでこの程度」

 

アザゼル「なかなか面白い場所があるじゃねえか。俺こっちにいってもよかったぜ?」

 

兵夜「まあいろいろな部活を出して面白くしようと思ったんだが・・・。作者の文才的に限界があったのが残念だ」

 

アーチャー「そんな調子で大丈夫かしら? 最終章はオリジナルで行くと聞いたけど?」

 

兵夜「いや、トーナメント形式とかオリジナリティ出しずらいし・・・」

 

アザゼル「まあそれにしても、俺とお前のコネはそれぞれ別ベクトルにすごいって話だ。っていうかお前やくざとこねあるのに警察とつながってんのかよ」

 

兵夜「正しい意味での手段を選ばないってのは、正道も邪道も織り交ぜて運用することを言うんだよ。正攻法の方が有効なのに裏ルート使ってどうするんだ」

 

アーチャー「同感ね。殺す必要が欠片もないのにむやみに人殺しをしても、余計な恨みを買うだけだわ」

 

アザゼル「属性悪のくせにいうこと違うねぇ」

 

兵夜「ぶっちゃけここで登場するアスノミコトは、俺の神格化という固有結界と同様のパワーアップのための前振りだったりする」

 

アザゼル「この段階でロンギヌス編まではある程度のプロットができてたってわけか」

 

アーチャー「まあ、ある程度の予定はできているわよ。まったく感覚だけで適当にやってもあれでしょう?」

 

兵夜「状況次第では土壇場の変更もあるけどな。まあ、常にアドリブオンリーでやるほど作者は無謀じゃねえよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザゼル「・・・お前の妹、すっげえ気が合いそうだな!!」

 

兵夜「お前と一対一で合わせることだけは絶対しないからな!! 意地でも阻止するからな!!」

 

アーチャー「でも、なんていうか明後日の方向にラブコールしているとはいえこれに気が付かなかったイッセーはやっぱり罪作りねえ」

 

兵夜「これは雪侶も悪い。この日本でいきなり愛人愛人連呼されれば、イッセーでもどんびくというか現実逃避するというか」

 

アザゼル「確かにがっついてるタイプだな。俺は嫌いじゃねえけどな」

 

兵夜「好みのタイプは肉食系。男はエロスに忠実でなんぼ。一回ぐらい覗き行為をするぐらいで男はちょうどいい。という持論を持つ生粋の肉食系だ。加えて俺を矯正したこともありもうベタ惚れ」

 

アーチャー「しかもかわいい子だもの。イッセーすでに勝ち組じゃない? 逆玉というやつじゃなくて?」

 

兵夜「ぶっちゃけ、この段階だとイッセーヒロインのうち一人ぐらいは俺がもらってもいいと考えていて、その穴埋めのために一人キャラを作る予定があったから作られたキャラだ。その分俺のバックボーンができてなかなかよかったとよ」

 

アザゼル「・・・ロスヴァイセといいところまで行ったのはそれが理由だ」

 

兵夜「作者はイッセーのキャラが大好きだからな。フラグをしっかりと立てて相手を惚れさせる過程がはっきりしているイッセーからもぎ取る場合、そこらへんがあいまいな数少ない例外であるイリナかロスヴァイセさんしかいないわけで・・・」

 

アザゼル「そこまで考えているわけかよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザゼル「・・・おまえ、本当に苦労人だな」

 

アーチャー「人のことは言えないけど、あなたもたいがいいろいろ不幸ね」

 

兵夜「情けが目に染みるぜ・・・」

 

アザゼル「そりゃ清濁併せのんで手段選ばず後ろ盾求めるわな。こんなことが起きた後じゃあ、安全策はしっかりしないと夜も眠れないぜ」

 

アーチャー「しかもうっかり癖があるもの。それぐらいしないと不安ね」

 

兵夜「本当にね。俺個人としてはイッセーが親友で普通の生活しているだけで満足なんだけど、何が起こるかわからないから準備せずにはいられない」

 

アザゼル「ワーカーホリックで心配性で人がいいとか、もう苦労する以外ないだろ。なんで性格邪悪なのにこんな不安な毎日送ってんだ」

 

アーチャー「そして父親がいい人すぎるわね。このできた人物からなんでこんな癖の強い子が生まれるのかしら」

 

アザゼル「しかも裏設定だが、残りの二人もエロ方面にすごいあれな素質を持っているそうだ。・・・出せるかどうかはわからんが」

 

アーチャー「出せなくてよくない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして本作の戦闘状況本格突入。はっはっは。なんだこの意外な関係は」

 

アザゼル「実際それぐらいは普通にあり得るだろ。このレベルの企業なら悪魔の方が目をつけるって」

 

アーチャー「それはともかく学園都市の技術力を考慮して、まさかここまで目をつけられるほどすごいとか、あなたの父親の会社は驚愕ね」

 

兵夜「この段階で学園都市の技術力が大暴れするところまでは確定してたからなぁ。工業系の技術者は当然警戒するわけで」

 

アザゼル「っていうかお前、この段階で人殺してなかったんだな」

 

アザゼル「実際そこそこ模倣できてたからな。うまくすれば希望の星になるか」

 

 

アーチャー「ああ、確かに意外ね」

 

兵夜「そこ。人のことなんだと思ってんだ。大体人殺しなんてイッセーが引くだろう」

 

二人「ああ、納得」

 

アザゼル「意外にもダメージ入ってるなお前。あっさりしそうだったんだが」

 

兵夜「まあ、しいて言うならハードル飛びみたいなもんだ。なれればあとは自然にできるんだが、最初が割と大変というかなんというか」

 

アザゼル「やっぱお前サイコパス気味だよ。普通はそこまであっさりと乗り越えられないだろ」

 

アーチャー「あら、意外と簡単なものは簡単よ? 自分が絶対に正しくていい目的のためにしていると思えば、たいていの悪行は苦にならないもの」

 

アザゼル「・・・いわれてみりゃその通りだな。だからこそ宗教系の荒事が歴史上にいくつもあるわけだ」

 

アーチャー「そしてアポロベ・・・だったかしら? 何気に何度か登場してるわね」

 

兵夜「ぶっちゃけ、直死の魔眼の脅威を示すために用意したキャラだ。だからこそフェニックスという不死身が売りの種族で、実はカマセとして殺される予定だったんだが・・・さすがにかわいそうだと作者が判断して」

 

アザゼル「結果的に時々お助けキャラになってて好都合だな」

 

アーチャー「そしてその直死の魔眼を保有したレイヴンが登場したわね。今回のボスキャラだけど・・・後半サポートキャラになってない?」

 

兵夜「いうな。サーヴァントと魔術師(メイガス)ではどうしても差が出てくる。互角の方がどうかしてるだろう」

 

アザゼル「鎧前提とはいえ真正面からぶつかってて何言ってるんだ?」

 

アーチャー「正直アサシンなら生身で倒せる領域になってるわよ貴方」

 

兵夜「やかましい! まあ、それはともかくとして「さあ、聖杯戦争を始めよう」は俺の決め台詞の予定だったんだが、意外と定着しないというかやりずらいというか」

 

アーチャー「サーヴァントの数がもっと多ければ、すべてのシーンでボス格としてのサーヴァントが出たのだけれどね。まあそううまくはいかないわね」

 

アザゼル「どっちにしたって原作でも決め台詞・・・あったな」

 

兵夜「やめろ。あれを決め台詞にするのはやめろ」

 

アザゼル「それはまあいいとして、ここでついに偽聖剣が登場するわけか。お前のメインウェポン」

 

兵夜「エクスカリバーを鎧にした時から思いついてな。・・・ぶっちゃけ神格化のタイミングがかなり後になるから、それまでのつなぎ的にもメイン武装がほしかった」

 

アーチャー「インフレが激しいものね。作った私とアザゼルに感謝しなさい」

 

兵夜「ここに最高級のエールを用意しております。つまみはギリシャ料理を用意しました!」

 

アーチャー「ご苦労様」

 

アザゼル「お、うまそうだな。キャラコメが終わったらゆっくり食べるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザゼル「そして最後の最後で登場したのは、魔王末裔の三人組。どいつもこいつも濃いキャラだなんて、この時点じゃ想像できなかったな」

 

アーチャー「まじめさが一周して馬鹿の領域。色欲の頂点。真人間なのが逆に異質。確かに癖の強い魔王末裔ね。ヴァーリが地味に思えるわ」

 

兵夜「いや、魔王の名を冠してる連中ってどいつもこいつも癖が強いし。キャラ付けはしっかりしないと・・・さ?」

 

アザゼル「まあ、どいつもこいつもリゼヴィムたちに比べたらはるかにましだってのが酷ぇな」

 

兵夜「そりゃそうだ。この三人組の設計コンセプトは「馬鹿でもいいから小物じゃない」だ。・・・D×Dは敵が基本小物なのが欠点だと本気で思う」

 

アーチャー「そういえばそうね。男にしろ女にしろろくな手合いがいないわ」

 

アザゼル「旧魔王派は基本小物。英雄派は文字通りの英雄症候群。リゼヴィムに至っては言わずもがな。・・・こんなのに苦しめられてんのか、俺たちは」

 

アーチャー「だからといってあの二人に苦しめられてましかっていうと・・・ねえ?」

 

兵夜「まあ、テロ組織に正論言わせてもあれだし・・・ねえ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザゼル「まあそれはそれとして、親父との関係が改善してよかったな。そして次回は」

 

アーチャー「なかなかに難産だったヘルキャット編ね。話数だけならかなり多いわね」

 

兵夜「少年漫画的なD×Dで修行メインは大変だった」

 

アーチャー「修行に手伝った私に感謝しなさい」

 

アザゼル「アドバイスした俺にも感謝しろよ!!」

 

兵夜「そういうわけで、ケイオスワールドのキャラコメを次回もお楽しみに!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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冥界合宿のヘルキャット
兵藤邸、転がり込みます!


お久しぶりにこちらも更新します!


 

 

 以前から、聖杯戦争について考えていたことがある。

 

 グレモリー眷属は一か所に集まっていた方がいいんじゃないかということだ。

 

 これは別にさびしいとかそういうわけじゃない。ものすごい実利的な理由だ。

 

 魔術師は工房というアジトを形成する。そしてその制度はたいてい魔術師の能力に比例する。神代の魔術師なら間違いなく先進国の基地にも匹敵するレベルだろう。

 

 そんな要塞にこもって策を練るのがキャスターのサーヴァントの基本戦略。そして俺のアーチャーは神代の魔術師なので当然キャスター戦略でいくのが必須だ。

 

 一応アザゼルの技術提供と部長の根回しにより、この駒王町そのものを一種の結界化させて、不完全ながら迎撃態勢は整えている。

 

 一時はキャスター枠でもないのにできるわけがないとあきらめていたが、そこは神の子を見張るものの技術力と冥界全土を上げた様々な材料でフォロー可能だった。大勢側唯一の聖杯戦争参戦者というのがきいたようだ。

 

 敵が潜入してきたらすぐにわかるようになるし、その精度はただの悪魔の力をはるかに凌駕するほどだ。しかも侵入者には竜牙兵というモンスターの迎撃付きというスペシャル仕様。

 

 さらに魔術礼装をベースに強化改造した端末を利用することで、町内なら自在に転移することが将来的に可能になるはずだ。アーチャーなら数秒で位置設定ができるし、俺だって特定ポイントを設定済みなので逃げるだけなら一秒もかからない。

 

 完成まではまだ少しかかるだろうが、完成さえすればアザゼルの存在もあるしサーヴァントが三騎がかりで来ない限りピンチにはなるまい。

 

 それだけでも十分すぎるほどの防衛設備の完成だ。

 

 だが、それをピンポイントに設定した狭いアジトならその能力ははるかに上昇する。

 

 こちらで指定しなければ転移すら防ぐ障壁をはり、さらに外部からの攻撃に対してはハード&ソフトキルの魔術的迎撃も可能。

 

 入った瞬間に強烈に逃げたくなる衝動を与えるといった精神攻撃も可能だし、間違いなく圧倒的優位に立った戦闘が可能になるだろう。

 

 それを最大限に発揮するならば、グレモリー眷属自体がひとまとめになっていた方が効果的だ。

 

 幸い、サーゼクスさまはイッセーのハーレム建設を支援する気のようであり、既にイッセーの家にオカ研女子を集める計画を立てていた。

 

 さらに、部長が手狭になることを考えてイッセーの家を改築することを決定。既に周りの家などに対して交渉して土地まで確保している。明らかに改築どころの騒ぎではない。

 

 もちろんそれには便乗させてもらう。

 

 建物の設計段階から魔術的な加護などを加えることで、健康面などにも完全配慮。

 

 もはや外部からの攻撃対する防御力も堅牢で、一見オープンに見えるがその実超侵入しにくい警戒厳重な防衛網。

 

 さらに建物そのものが暗示用の魔術礼装と化すことでイッセーの両親や招待した一般人の目の前で万が一禍の団と戦闘しても違和感を感じさせない素敵仕様!

 

 本気で聖杯戦争を勝ち抜くための重装備の要塞に、万が一のことを考えてオカルト研究部メンバーが集結することになった。

 

 と、言うわけでいままでイッセーんちにいなかったメンバーでイッセーの家まで移動中だったりする。

 

「さすがに夏本番でこの大荷物だと、いい加減汗が止まらねぇな」

 

「だらしがないわよ。あなたはマスターなのだからしっかりしなさい」

 

 俺のぼやきにアーチャーが辛らつな意見を投げつける。アーチャー、お前なにも持ってないだろうが。

 

 英霊のスペックなら並みの人間よりはるかに大荷物を持てるわけだし、少しぐらい持たせるべきだったろうか。

 

「いや、すごい大荷物だね。後ろから押すよ」

 

「微力ながら手伝います。・・・いや多すぎですよ宮白先輩」

 

 途中で合流した木場とギャスパーが後ろから押してくれてはいるが、やはり重い。

 

 ・・・引っ越し業者を呼ぶべきだった。下手に筋力トレーニングとか考えた結果がこのありさまだよ。

 

 そんなことを考えながら、ひーこらひーこらと汗を流しながら向かっていたら、ついにでかい家が見えてきた。

 

「・・・ようやく、付いたか」

 

 もはや原型など一ミリもとどめていないイッセー邸に、ついに到着した。

 

 さて、これで夏休みを楽しむとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・宮白、お前どんだけ要望を出してんだよ」

 

 一切聞かされていなかったイッセーがジト目でこっちを見てくる。

 

 どうやら本当に何一つ聞かされていなかったらしい。哀れな。

 

「いや、今後を考えたら必要だろ。非常時に備えた対策って言うのは必要だ必要。聖杯戦争なめるな」

 

 いやどう考えてもマジで必要だって。

 

 主にアサシンとかアサシンとかアサシンとか。

 

 暗殺ダメゼッタイ。家の中でぐらい完全に気を抜きたいじゃねえか。

 

「だからってどんだけ手を出してんだよ。・・・家自体が六階建てになってる上に離れまでできてんじゃねえか!!」

 

 そう、イッセーの家はもはやビルと言っても過言ではないスケールになった上にはなれまでできているのだ。

 

 この辺はイッセーに気を使った結果でもある。

 

 いや、この調子でいけばハーレム御殿は確定になるって言うのに、俺達まで同じ屋根の下ばっかにいたら空気が気まずいだろ?

 

 だからは離れをつくってそこで暮らすことにすることで、最低限の心理的抵抗を減らすことにしたのだ。

 

 ちなみには離れも四階建てだ。・・・そこ、やりすぎとか言わない。

 

 一階は車とかを格納できるガレージに、男用の風呂を用意。二階はイッセーのご両親のために趣味として活用できるスペースになっており、さらにサンルームを追加している。

 

 三階から上が居住区になっており、三階は木場とギャスパーと俺の部屋。四階はアーチャーの部屋になっており増員を視野に入れて空き部屋もある。

 

 さらに地下室には俺とアーチャーの工房を設置している。

 

 また、離れを形成するに当たって土地の拡張も大きくなっており、庭には池まであるスペシャルな設計だ。既に魚を何匹か放流してあるので、ペット代わりに可愛がるつもりだ。

 

「・・・なんで俺んちの改装計画に俺が一切かかわってないわけ? なんか理不尽な気がする」

 

「そこはマジで悪かった。・・・まさか改装する以外の情報を一切知らなかったとは思わなかった」

 

 俺としてはあっさり受け入れたイッセーの両親に驚きなんだが。

 

 あれ、悪魔の力とか使ってないよな?

 

「どうせならイッセーを驚かそうと思ったのよ。 どう? 素敵な家になったと思わない?」

 

 部長が魅力的な笑顔でそう訪ねてくる。

 

 いや、確かにものすっごい豪邸にはなったと思いますがね?

 

 せめて要望を聞きませんか、普通。

 

 まあ、もうすぐ夏休みという状況下でこの改築はいい気分転換になっただろう。

 

 ここ最近、街の命運をかけた戦いを終えたすぐ後に冥界の命運をかけた会談の成否をかけた対テロリストとかやったからなぁ。どう考えてもハードな展開だ。

 

 夏休みぐらいは平和に過ごしたい。いや、無理だろうけど。

 

 フィフスなら夏休みという気が抜ける時期を利用して攻撃を仕掛けるぐらいはしかねない。いや、俺だったら必ずする。

 

 そして気が抜ける夏休みという時期は俺も当然忙しい。

 

 主に配下にしている不良連中がが暴走しないように適宜見張る必要がある。うっかり目を離して大騒ぎを起こされてはこっちの面目が丸つぶれだ。

 

 そして羽目を外すイッセーたち変態三人衆の監視もしなくてはいけない。海に行くときとか暴発しないようにしっかり目を光らせておかないと、何をしでかすかわかったもんじゃない。

 

「今度の夏休みはどこの海行くよ。とりあえず、そういうの目的の女子が行きやすいところはピックアップ済みだが」

 

「お前準備いいな!?」

 

 イッセーに驚かれたが、その辺は俺も予想済みだ。

 

 だてに十年前後イッセーとダチやっているわけじゃないのだ。これぐらいは当然やって見せるとも。

 

 だが、そんな会話をしている俺たちに、部長がキョトンとした顔を見せた。

 

「・・・あら、そういえば言ってなかったわね」

 

 なんだ一体? まさか夏休みもなんかあるんじゃないだろうな・・・。

 

「私、冥界に帰るのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガッデム!!」

 

 なんてこったい!!

 

 部長が一度実家に帰省することになった。

 

 まあ、部長は家族から離れて一人で人間界にいるわけなんだから、当然長期休暇に実家に行くことになるだろう。それはまあいい。

 

 それに俺たちも同行することになった。下僕悪魔が主の行動に付き合うのはまあ予想の範囲内だ。これもまあいい。

 

 ついでにその夏休みで合宿などをして、パワーアップを図ることになった。これはむしろ好都合。聖杯戦争に巻き込まれた以上、仲間達のパワーアップはむしろ必須だ。ない方がダメだとすら断言できる。

 

 そう、問題は・・・。

 

「明日から、八月の終わりまで、冥界にいっぱなしかよ! ・・・今日中にあいつらの引き締めとあいさつ回りとか全部終わらせねえと!?」

 

「ごめんなさい。・・・兵夜がいろいろと人間関係が複雑なのを忘れていたわ」

 

 素直に謝られては怒るに怒れない。

 

 もっと早く予定を提出しておけばよかった。ついいつものノリで行動していたのが裏目に出るとは・・・っ!

 

「ついでに言うと魔王血族や次期大王や大公を集めた若手悪魔の集まりもあるのよ。・・・時間、大丈夫かしら?」

 

「とりあえず最低限のことは今日中にやっておくので、できれば一度こっち戻らせてください」

 

 素早く予定表を確認してスケジュールを詰め直しながら、俺は今後の状況を考える。

 

 そういえば俺たちは一度も冥界に行ったことはなかった。

 

 ・・・今後の行動を考えると例のプランを整えた方がいいかもしれないな。

 

「・・・部長、そういえば例の件をサーゼクスさまは了承してくださいましたか? どうせ長期間冥界に行くなら、ついでに終わらせておきたいのですが」

 

「ええ、条件は提示したとおりでいいそうよ。もう一つの件も大丈夫でしょうね?」

 

「もちろん。既に試作品は完成して、神の子を見張る者にテストした結果良好な結果を出しています。・・・量産体制も万全です」

 

 俺と部長は向かい合うとニヤリと笑う。

 

 ああ、これで冥界はかろうじて今後の対策をとれたことにもなる。

 

「・・・宮白、いったい何を考えてんだ? ちょっと怖いんだけど」

 

「いや、大したことはねえよ」

 

 ああ、この程度アーチャーと冥界の技術力を持ってすれば何のことはない。

 

「冥界の監獄に捕縛されている囚人たちに、三時のおやつやらの贅沢を与える代わりに、その生命力や魔力をバイパスしてアーチャーのエネルギー元にさせる程度だ」

 

 これで、俺は自分の魔力消費を気にせずに戦闘をすることができる。

 

 マスターとしての最低限の魔力供給は必須だが、これで負担は大幅に減るうえにアーチャーは魔術を使いたい放題だ。

 

「なかなか考えた案だと思うわ。・・・これで私も気にすることなく全力を出し続けられる。EXランクの魔術も打ち放題」

 

 昼からエールをたしなみながら、アーチャーも頼りがいのある笑顔を浮かべてくれる。

 

 ああ、これで問題の一つが解決したも同然だ。

 

 監獄では囚人たちの魔力が消費されるから反乱の可能性が減ってラッキー。囚人は生活に潤いができてラッキー。そして俺たちは継戦能力が大幅に強化され、戦闘が楽になり超ラッキー。

 

 誰も不幸にならない方法だ。聖杯戦争どんとこい!

 

「だけど宮白くん。いくらお金が手に入ったからって、それだけ出費して大丈夫なのかい?」

 

 木場が心配してくれるが、安心しろ。その辺も大丈夫!!

 

「・・・フィフスはいいことを言ってくれた。具体的にいえば神秘の秘匿を気にしなくていいということを言ってくれた」

 

 そう、魔術布教の最大の難点が、ここにきて完全に解決してくれた。

 

 それはすなわち!

 

「魔術礼装をベースにした、治癒魔術行使タイプの回復ユニットの製造に成功してな! 量産体制も整っているから当分の間、俺は超金儲けれるんだよ!!」

 

「なかなかいい出来だとは思うわ。まあ回路なしで使うには相応のバックアップが必要だから治療施設に置かないと無理でしょうけど、それでも十分でしょう?」

 

 アーチャーからの太鼓判も付けられており、人に勧める分には無問題!

 

 既に特許申請も終了しているので、金儲けまくりでウハウハだなおい!!

 

「これで悪魔の方たちも怪我が簡単に治せるようになるんですね! あぁ、宮白さんはすごいです!」

 

「すさまじい成果だと思うよ。ここまでの成果を上げるなんてそうはないだろうね」

 

 アーシアちゃんとゼノヴィアからも絶賛の言葉が投げかけられる。

 

 そうだろう、そうだろう!

 

「あらあら。兵夜くんは頑張ってますわね」

 

「はぅう。宮白先輩はとんでもないですねぇ。イッセー先輩とは違った意味ですごいです」

 

「マジやってくれたじゃねえか。これで俺らも対テロ態勢が整いそうだ」

 

 朱乃さんやギャスパーも大絶賛。うん、もっと褒めてくれ・・・よ?

 

「それでアザゼル? 一応言っておくけど悪魔が先なのはわかってるわね?」

 

「分かってるよそんなこたぁ。ま、テストで手に入った試作品は手元にあるからな。いざとなっちゃあライセンス生産すりゃいいか」

 

 アーチャーが平然と言葉を交わすが、俺たちは言葉もなかった。

 

 だって・・・。

 

「あ、アザゼル? あなたどこからやってきたの?」

 

 堕天使総督がいらっしゃってますよ!?

 

 いや、ちょっと待て! いつから入ってきた!?

 

 部長も驚いてるんだけど、あんた味方なんだから驚かせるなよ!!

 

「なんだ気づいてなかったのか? 普通に玄関から入ってきただけなんだがなぁ。修行不足だぞお前ら」

 

「どこが普通に入ってきただけよ。アレが普通ならこの世に暗殺者は必要ないわね」

 

 バッサリツッコミを入れてくるアーチャーだが、発言から考えると結界で感知したようだ。

 

 ・・・俺も結界の感知システム制御対象に入れてもらおう。心臓に悪い。

 

 まあこいつがすごいのは分かり切っていたから、そういう意味では驚かない。

 

 アーチャーと撃ち合いで勝負になるほどの戦闘能力をもち、さらに神器の研究者としても一流だ。

 

 実際アザゼルの指導でおれの天使の光力回路の光魔力分化がだいぶできるようになった。この調子でいけば一カ月程度で完全に制御できるはずだ。

 

 木場の聖魔剣もかなり制御が可能になっていると聞く。どちらもイレギュラーであるにも関わらずのこの成果だから驚きだ。

 

 反面、イッセーの赤龍帝の籠手とギャスパーの停止世界の邪眼はあまり進んでいない。これはアザゼルが問題というより所有者の問題もあるから仕方がない。

 

「冥界での行事はグレモリー当主に眷属悪魔の紹介をすることを含めてさっき言った通りだな。俺はその間サーゼクスと会談したりとか面倒だが、ま、指導する時間ぐらいは用意してやるよ」

 

 正直心強い。

 

 何千年も続いたような戦争を生き抜き、堕天使はおろか神器所有者を含めた人間、はてはヴァーリのような悪魔まで指導した堕天使だ。

 

 当然、その指導能力は本物だろう。どう少なく見積もっても一見の価値はある。

 

 ・・・サーヴァントマスターに総出で睨まれているこの状況。イッセーたちも強くなってもらう必要があるからな。マジ頼んだぜ、アザゼル。

 

 それだけの大人物なだけあって相当数の堕天使がこの街に押し掛けてきてるからな。秘書やらメイド代わりやら身辺警護やら。中には堕天使側の人間が側女にしてくれとかあった。全部追い返されてたけどな。

 

 ちなみに、俺が金を稼げるバイトとかを生活費稼ぎ用に紹介して近くの町に匿ってたりしている。人では多い方が便利だからね!

 

「どっかの誰かがこっそり人でを残らせたりしてるから困ったもんだ。追い返すのも手間なんだぞ?」

 

 ・・・・・・バレてた。

 

 さ、さすがは堕天使総督! ゴメンすこし舐めてた!!

 

 ま、まあ気を取り直して・・・。

 

 夏休み、冥界旅行に臨むとするか!

 



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冥界、やってきました!

 

 

 ・・・・・・いかん、記憶が飛んでる。

 

 今、俺は電車の中でゆられていた。

 

 隣の席ではナツミが眠っている。

 

「えっとちょっと待て。たしか俺は明け方までかけて舎弟達に釘を刺してだなぁ」

 

 思いだした。その後駅に集合して冥界まで移動することになったんだ。

 

 まさか駅に冥界移動用の仕掛けまでしているとは思わなかった。どこまで街に食い込んでんだ冥界は。俺、一つたりとも聞いてないぞ?

 

 まあ、眠すぎて全然聞いてなかった俺にも問題はあるが、その後の記憶が完全に飛んでいる。マジで疲れてるな。

 

「おはよう宮白くん。よく眠れたかい?」

 

「疲れているようだしもう少し寝てもいいだろう。どうせ冥界はいくらでも見れるんだから、今見なくても問題はない」

 

 木場とゼノヴィアが起きた俺に声をかける。

 

「いや、気を使わなくてもいいさ。もうだいぶ目が覚めたしな」

 

 そういいながら外を見るが、窓の外は真っ暗だ。

 

 どうやらまだトンネルを進んでいるらしいな。

 

「つか、あと何時間ぐらいだ? その辺全然聞いてなかったからな」

 

「あと一時間もねーよ」

 

 後ろから小雪の声が聞こえてきた。どうやら一緒に乗っているらしい。

 

「実質レアな経験ができてラッキーですね。・・・あとでリアス・グレモリーに礼をいておくべきでしょうか?」

 

 ベルまで乗ってるよ。部長、手当たり次第に連れてきてないか?

 

「今後の特訓の練習相手を兼ねて連れてこられたのですわ。・・・小雪も、悪魔側の冥界は始めただし、ゆっくりして行ったら?」

 

「・・・おーよ。そうする」

 

 いささか固いな。

 

 まだ朱乃さんと小雪の間は堅いな。

 

 まあ長年患ってきた問題だから仕方がないか。数年ぐらいはじっくりかけないと治せそうにないな。

 

「しかしこれはある意味でいいタイミングなのかしらね。・・・冥界から帰るころには堕天使側に要請していた駒王町の調整も終わるでしょう」

 

 エールを飲みながら、アーチャーが手元の資料を読みながら少し微笑む。

 

 ああ、それは確かにそうだろう。

 

 それが終わればキャスターのクラスでも単独ではできないような超防衛設備が駒王町を守るようになる。

 

 潜入してきた敵は精神的ダメージが大きすぎてろくに動けないことになりかねないし、むしろ呼吸困難を起こす可能性も十分にあり得る。

 

 そんな素敵な防御設備が完成すれば、聖杯戦争もある程度の余裕ができるわけだ。

 

「冥界にいる間はボディガードの一人ぐらい付けてほしいもんだ。実際忙しいだろうからな」

 

「他の転生者の魔術師と掛け合って、その技術を見返りに冥界での立場を約束させるとか行っていたわね」

 

 その通りだ。

 

 既に部長を通じてグレモリー当主には相談して許可を得ている。

 

 レイヴンの存在は非常に役に立った。

 

 いくら奴が根源と部分的に繋がることができるにしても、違う世界の死を見ることはできないはずだ。

 

 つまり、この世界にも根源に相当する存在があり、奴はそれに繋がっていることになる。

 

 さらに魔術そのものの本質がずれたことは好都合。上手くいけば社会に認知された一つの敬称として魔術師の名を刻むこともできる。

 

 それを利用すれば魔術師の暴走を押させることも不可能じゃない。俺としてはそれは好都合だ。

 

 現世に存在する魔術師たちによる共同組織に開発。それも独占することでいの一番に到達するのではなく、共同することで全員の到達可能性を向上させる。神秘は秘匿するという大原則が無効化された以上、その方向でいくことも決して不可能ではない。

 

 もちろん、フィフスが絶望するほどの事態を一代で到達することなどできるわけがない。

 

 だがそこは転生悪魔の制度がある。治癒魔術という利点を皆が習得し、それを売りとして悪魔業界に殴り込みをかければそれだけで一万年近いチャンスが手に入る。

 

 ・・・全員が全員のっかってくれるわけでもないだろうが。そうなってくれれば研究も進みやすくなって万々歳なんだがなぁ。

 

 そんなことを思っていると、いつの間にかイッセーのいたところに朱乃さんがいるように見えた。

 

 え? これどういうこと?

 

「み、宮白さん助けてください! イッセーさんが朱乃さんのせいで変態さんになってしまいますぅ!」

 

「いや既に変態だろ!? なに言ってるのアーシアちゃん!!」

 

「あらあら。イッセーくんは変態なほうがかっこいいですわよ?」

 

 どういう状況だよ! は! 朱乃さんが何かやらかしたのか!?

 

「いや宮白! 俺が変態で確定なのはどうよ!!」

 

 ゴメンイッセー!

 

 そこはフォローできない。お前はまごうことなき変態だ。

 

 なんでもヴァーリを圧倒した理由が、ヴァーリの本気攻撃の説明をアザゼルが「乳が半分になる」と言ったことによってブチギレて圧倒ってどうよ?

 

 フォローの余地がない。

 

 しかしこのトラブルも意外と面倒だな。朱乃さんのエロエロ攻撃はエロに寛容な俺でも顔を赤くしそうなレベルだ。

 

 人前ですよ朱乃さん。自重してください。

 

 それに小猫ちゃんはどうしたんだよ。いつもならこの辺りで痛烈な突っ込みを入れてるだろう?

 

 視線をさまよわせて確認すれば、小猫ちゃんは自分の席で窓から外を見ているだけだった。

 

 どうしたんだ一体? ギャスパーもどう扱ったらいいのかわからずに困ってるし、あそこだけ微妙な空気になってるぞ?

 

 などと思っていたら朱乃さんのエロエロ攻勢はさらに激しさを増して言っているしどうしたもんかね。

 

「・・・止めなくていーのか? なんか朱乃がはっちゃけてんだけどよ」

 

「お前が止めろ小雪。幼馴染が暴走してんぞ?」

 

「実質押しつけ合わないでください。それにもうストッパーが来ました」

 

「ベルの言うとおりにするのも癪だけどその通りよ。下僕のスキンシップが主の仕事。朱乃の出る幕はないわよ」

 

 オーラを纏わせながら部長が搭乗してくれました。

 

「主が下僕とスキンシップするのに何の問題もない。・・・ええ、下僕同士で乳繰り合うよりはないと思わないかしら?」

 

 すごい怒ってらっしゃる。

 

 しかしあえて主発言するのはどうか。

 

 イッセーの性格だとマジで主だからあんなことするとか考える可能性は非常にでかい。そうなると惚れているという事実を認識する可能性は余計に減る。下手をすると重度の女性恐怖症を発生しかねないほどのトラウマができているにもかかわらずだ。

 

 いろいろな意味で部長の恋路は遠いなこりゃ。

 

 ちなみに俺は積極的にアドバイスする気はない。

 

 本当にトラウマになっているなら荒療治は極力避けるべきだろう。悪魔になったことで長大な時間だって手に入ってるんだ。可能ならば数年ぐらい時間をかけてじんわりと治してやりたいぐらいだ。

 

 なんでも一万年近い寿命を持っているとかいうんだし、ゆっくり行こうぜ諸君。

 

「ほっほっほ。姫のこんな姿を見ることができるとは、長生きはするものですな」

 

 などとトラブルを見ていたら、新たな登場人物が現れた。

 

 見るからに車掌さんって感じだな。・・・この列車の担当者か?

 

「あ、ごめんなさい。・・・彼はレイナルドといって、このグレモリー専用列車の車掌をしているのよ」

 

 やはり車掌だったか。

 

 専用列車の車掌とか金持ちすぎだろグレモリー。悪魔業界恐るべしだな。

 

「以後よろしくお願いします。わざわざ挨拶に来てくださるとは思いませんでした」

 

 俺は立ち上がって握手をする。

 

「いえいえ。こちらも眷属悪魔の確認などもありますので。そこまで言われると恐縮ですな」

 

 ほほう。意外と警備も厳重なようだ。

 

 うっかり誤作動とかで偽物扱いされないだろうか心配だ。

 

「あなたたちはちゃんと転生した時に登録されているから大丈夫。本物だもの、安心しなさい」

 

 部長がにっこり笑って太鼓判をおすなか、機械が測定を開始する。

 

 ・・・よし、大丈夫そうだ。

 

「これで終了です。この列車にはお食事を取れるところもありますので、目的地までご利用くださいませ」

 

 そりゃすばらしい。

 

 こんな機会はそうそうこないだろうし、たっぷり楽しむとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイナルドさんが照会に来られてから数十分後。寝台列車について聞いてから仮眠しにいっていた宮白くんが、大量の食事を持ってきて戻ってきた。

 

「お待たせ。ついでに軽食を用意してもらったから皆食べな」

 

「わぁい! お腹減ってたんだぁ。いっただきまぁっす!!」

 

「お、待ってました! あ、ナツミちゃんずるい! ちょっと待てって!!」

 

 目の色を変えてナツミちゃんとイッセーくんが飛び付き、僕たちも思い思いに手を伸ばす。

 

 宮白くんは気がきく人だ。僕も王を補佐する騎士として参考にしなくては。

 

「悪魔の食事も人間の食事とあまり変わらないんですね。実質おいしいです」

 

「そう言われると嬉しいわね。いくらでも食べなさい、ベル・アームストロング」

 

「んじゃ、爆睡しているファックの分まで食いつくすとすっか」

 

 称賛するベルに誇らしげな部長、悪戯っ子のような笑顔を浮かべる青野さんたちも手を伸ばし、しばし美食に舌鼓をうつ時間がやってくる。

 

 しかし冥界に行くのは久しぶりだ。

 

 もしライザー・フェニックスとの戦いに敗れていたとしたら、眷属悪魔として部長の結婚式に出席する形で言っていただろうが、そこは辛勝したことで何とか逃れることができた。

 

 あの時は本当にイッセーくんと宮白くんに感謝しないといけない。

 

 彼らがいなければ久しぶりの冥界来訪をこんないい気分迎えることはできなかっただろうからね。

 

 そう、この冥界旅行はいい気分だ。

 

 なにせ、久しぶりに師匠にあうことができる。

 

 ここ最近、僕は本当に実力不足を痛感したよ。

 

 堕天使との小競り合いでは、宮白くんを犠牲にする形になったにも関わらず、結局アーシアさんは一度死んでしまった。

 

 レーティングゲームではイッセーくんとの協力して多くの敵を撃破したが、不意打ちを受けて主の危機に駆けつけることができなかった。あの二人の活躍がなければ負けは確実だっただろう。

 

 エクスカリバーのときは禁手にいたったとはいえ、一番重要なコカビエルとの戦いで活躍したのはやはり二人だった。

 

 三大勢力の協定のときだってそうだ。ギャスパーくんを助け出し、圧倒的に上の立場にいた白龍皇を一時は圧倒したイッセーくん。宮白くんが警戒していなければ、魔王さまのどちらかの、下手したら両方の首が切り落とされていただろう。

 

 なにがリアス・グレモリーの騎士だ。あまりに情けない。

 

 彼らより長く悪魔として活動してきた身として、気を引き締めなければならない。

 

 彼らより先に禁手にいたったものとして、彼らが胸を張れる立場にいなければならない。

 

 アザゼル総督のおかげで禁手の制御もめどがついた。後は剣の腕の方だ。

 

 師匠に頼んで一から鍛え直そう。徹底的に基礎から作り直さなければ、あのムラマサを相手にすることはできない。

 

 彼女は結局禁手を使わずに僕らを抑え込んだ。・・・二度も無様を晒すつもりはない。

 

『もうすぐ次元の壁を突破します。もうすぐ次元の壁を突破します』

 

 レイナルドさんの声が聞こえる。

 

 もうそんな時間か。

 

「外を見ていて御覧なさい。きっと驚くわよ」

 

 部長がイッセーくん達を促す。

 

 たしかに、僕も始めて来た時は驚いたものだ。

 

 窓の外が光に包まれ、冥界の世界がイッセーくんたちを出迎える。

 

「すっげぇえええ!! 空が紫だ! あ、家も木もある!!」

 

「うっわぁあああああ!! なにこれ! コレが冥界!? すっごい!!」

 

「さっすが転生悪魔が初冥界入りする時につかう列車! 冥界の様子がよくわかるぜ!!」

 

 イッセーくんやナツミちゃんはもちろん、宮白くんのテンションも上がっている。

 

 この光景は人間界じゃお目にかかれないからね。

 

 真昼でありながら紫の空なんて、地球上には多分存在しない。

 

「すごいすごいです!」

 

「ああ、これが冥界か! こんな機会が巡ってくるとは、主に感謝しよう、アーシア!!」

 

「はい!」

 

 アーシアさんとゼノヴィアさんもはしゃぎ、両手を組んでお祈りを始める。

 

「「ああ、主よ!!」」

 

「さ、さすがに、実質それは祈らなくてもいいのでは・・・? いや、すごいですけど」

 

「気にするだけファックってもんだろ。つーかアンタも落ち着けよ」

 

 戸惑っているベル・アームストロングも若干興奮しているようで、唯一冥界慣れしている青野さんがなだめている

 

 ・・・ああ、いい感じだ。

 

 冥界合宿はいい滑り出しだね。

 

 この調子で、僕たちはもっと強くなる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out



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つい、やっちゃいました。

本来ならもうちょっと時間をかける予定でしたが、ある事情により活動報告を更新したのでちょっと客寄せも兼ねてアップ。

ぜひ見ていただけると幸いです。この作品を見ていただける方なら、きっとおそらく気に入るはずの情報ですので。


 目の前に、壮大な光景が広がっていた。

 

「おかえりなさいませ、リアスお嬢様!!」

 

 まるで国賓を迎える空港も真っ青になるレベルで、壮大な歓迎がなされていた。

 

 なにやら空には騎士が舞うし、楽隊が一斉に音楽を鳴らし始めるし、空には花火まで上がっている。

 

 ・・・恐るべし72柱。想像をはるか凌駕するものすごいスケールだ。

 

 国家の首脳陣だってここまでの待遇は受けないんじゃないか? どんだけだよ。

 

 ギャスパーにいたっては顔を真っ青にさせてるしな。・・・死ななきゃいいんだが。

 

「ただいま、皆。ありがとう」

 

 部長も動じることなく優雅に応じている。やはり慣れか。

 

 さっき聞いたが領地は日本の本州ほどもあるとのことだし、スケールが違いすぎる。

 

 そんななか、グレイフィアさんが一歩前に出てきた。

 

「おかえりなさいませお嬢様。道中、ご無事で何よりでした」

 

 そう言って一礼するグレイフィアさん。・・・うん、美人だ。

 

 この人結婚とかしてないのだろうか。どう考えても引く手あまただと思うのだが。

 

「さあ、本邸までは馬車をご用意しています。眷属の皆様もお乗りください」

 

 ものすごい豪華な馬車が目に映る。

 

 うっわすげえ豪華! 馬もなんか特別製っぽいし、どんだけだよ!

 

「なかなかいい趣向じゃない。これならついてからも期待できそうね」

 

 アーチャーは動じていない。さすがは神代の王族。ケタが違うのはこちらも同じか。

 

 荷物のほうを意識して後ろに視線を向ければ、既に数多くのメイドさんが運び出ししている。さすが貴族だ。行き届いている。

 

 ここまで豪華な迎えられ方をされたのは初めてだが、これを何度も体験することになるんだろうな。

 

 うん、調子乗りそう。

 

 イッセーたちはグレイフィアさんと一緒に部長と同じ馬車に乗ることになった。俺も一緒に乗りたかったが、定員があるしナツミが不安げに裾をつかむので他の馬車に乗ることにする。

 

「さすがは72しかない上級悪魔の名門なだけあるわね。馬車一つにしても手入れが行き届いているわ」

 

「ま、グレモリーの姫様と眷属をのせるってーならこんなもんだろ。驚くほどでもねーよ」

 

 正真正銘の王女様(アーチャー)総督の直属(小雪)は平然としているが、俺はさすがに緊張してしまう。

 

 まさかこんな豪勢な馬車に乗る機会が人生にやってくるとは思わなかった。

 

「う、うぅ・・・。だ、大丈夫だよね? うっかり物壊して弁償させられたりとか、ないよね?」

 

「ないない。その辺のものよりよっぽど頑丈にできてるだろうから安心しろ」

 

 俺はナツミの頭をなでてなだめながら、馬車の外に視線を向ける。

 

 ・・・道一つとってもセンスがいいな。どんだけだよ上級悪魔。

 

 おっと、そんなことをしている場合でもなかった。

 

 俺は地図を取り出すと片手で広げてざっと目を通す。

 

 部長の眷属となったことでグレモリー領の土地をもらえることになったが、これは非常に重要だ。

 

 魔術を利用すれば土地運用に置いて破格の効果が得られるだろう。

 

 さまざまな不運や災厄などかシャットアウトされた安全な環境。それは必然的に成功を舞いこむ土地となる。

 

 俺単体でそこまでのハイスペックはできないだろうが、アーチャーがいれば可能になる。

 

 だが、それを可能とするためには土地そのものの属性や龍脈など、注意するべき点も数多い。

 

 それらを踏まえたうえで有効な土地を見つけ出さねばならない。

 

 将来的にはその時のノウハウをもとにグレモリー領をはじめとする土地を魔術的に開発するというビジネスをつくりたいところだ。

 

 魔術師たちの本領が発揮されるし、それによって魔術師の地位向上ができれば奴らも落ち込んだり暴走したりすることもあるまい。

 

「・・・やはり地図の上からじゃ分からんな。アーチャー。広域探査用の礼装をつくれないか?」

 

「作れるでしょうけどここまで広大な土地だとさすがに時間がかかるわね。本格的に土地をもらうのは騒ぎが収まってからの方がいいんじゃないかしら」

 

 やはりそういうことになるか・・・。

 

 禍の団との戦闘は早めに終わらせたいところだな。

 

 そうすれば、待っているのは俺の黄金時代・・・!

 

「あの、実質怖いですよ、その笑顔」

 

 ベルのツッコミが辛辣だったが、ああ、気にしない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレモリー本邸での出来事は本当に衝撃的だった。

 

「おかえりなさい、リアスお姉さま!!」

 

 サーゼクス・ルシファーのご子息、ミリキャス・グレモリー。

 

 魔王が称号と化しているが故にグレモリー姓だが、正真正銘魔王の血を引く少年だ。

 

 ちなみに、魔王さまについての情報は既に把握しているので母親についても情報は入手済みだ。

 

 意外というか納得というか・・・。

 

 部長の次の当主候補だそうだが。見る限りでは利発そうでかつ礼儀正しいと人格面においては現状問題はないだろう。

 

 こんな優秀な孫がいながら娘の結婚を焦るとか、グレモリー家元当主はちょっと跡目問題にビビりすぎではないだろうか?

 

 そしてグレモリーの親で驚かされたのは彼女。

 

「うちのリアスがお世話になっているわ。・・・よろしくね、新しい眷属悪魔さんたち」

 

 ・・・部長と外見年齢が変わらない人が、部長の母親だった。

 

 悪魔は外見をある程度自由にできると聞いてはいたが、まさか女子高生レベルの外見にしているとは思わなかった。

 

 ヴェネラナ・グレモリー。亜麻色の髪が美しい、正真正銘リアス部長の実の母親。

 

 外見は髪の色と目の形以外は部長そっくり。親子なだけあるというべきかどういうべきか。

 

 ちなみに、彼女達と出会った城は非常にでかいが、あくまで本邸であり他にも城はあるとのこと。

 

 スケールが、でかすぎる。

 

 しかもイッセーの両親の土産に城を用意しようというレベルだ。

 

 ・・・しかし、今はそれどころじゃない。

 

「それではイッセーくん。これから私のことはお義父さんと呼んでくれて構わないよ」

 

 おいちょっと待て主の親。

 

 なぜいきなり婿入り確定の話になっている。

 

 部長がイッセーのことを大好きなのが知られているのはまあいいだろうが、告白のこの字も出てないはずだぞ?

 

 なぜ付き合っているような状態になってるんだ?

 

 さすがに性急すぎと奥さんにたしなめられているが、性急ってレベルでもない気がするんだが・・・。

 

「ではイッセーさん。あなたには少しの間、紳士的な振る舞いというものをお勉強してもらいます」

 

 はいアウト。

 

 奥さんも奥さんで性急ですよ。

 

 だめだこいつら。イッセーと部長をくっつける方向で既に方針が固まっている。

 

 ライザーとの婚約もそれがからんでいたのだろう。早いうちに婚約させて家を盤石にしようとかそんな感じがあったりするんだな。

 

 孫いるだろうがアンタら!!

 

 仕方がない。ここは俺が動くしかないか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザゼルSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかしまー、会談に予想以上の時間がかかったな」

 

「まぁ、あんなもんは時間かかるって相場が決まってんだろ」

 

 小雪といっしょにぼやきながら、俺たちはグレモリー邸の廊下を歩いている。

 

 既にあいつらはメシ食ってる時間だろうが、わざわざ待っててくれたこいつには感謝しないとな。

 

「それで? 会談の方は大丈夫だったのかよ? ファックな展開にはなってねーだろうな」

 

「それなら安心しろ。どいつもこいつも平和主義者ばっかりでちょっと拍子抜けしたぐらいだ」

 

 良くも悪くも悪魔側は内戦を経験しているのがいい感じになったな。

 

 徹底抗戦を主張していた旧魔王派は政府から排除されている。その歴史があるから表だって戦争再開を支持する連中は数少ない。

 

 魔王側はどいつもこいつも戦争に消極的どころか興味すらない連中だらけだからな。何の問題もない。

 

 そういう意味ではコカビエルが神の子を見張るものの一員だった俺達の方がよっぽど問題があるぐらいだ。内輪もめなんてない方がいいに決まっているが、ちと羨ましくなる。

 

 しかしそれはそれとして面倒なことをしてたのも事実だ。冷めてると思うが晩飯を堪能するとしよう。

 

 かのグレモリー家の晩餐だしな。さぁて食うぞ食うぞ・・・。

 

「・・・・・・それで、火急の要件とは一体何かね? リアスとの話も終わっていなかったのだが」

 

「それについては誠に申し訳ありません。ですがリアス様に万が一にでも聞かれる可能性は除外せねばなりません故」

 

 廊下の奥からグレモリー夫妻を連れて、宮白の奴があるいてきた。

 

 ・・・なんだなんだ? なにがあった?

 

 正直な話、あいつのことは結構評価している。

 

 神器とか禁手とかの話じゃない。政治的な内容の話だ。

 

 落胆しきっていた自分と同じ世界の転生者を説き伏せ、前向きにさせようと動くと同時、世界に悪影響を及ぼさないように誘導するなど、こいつの政治方面の才能は群を抜いている。若手悪魔の眷属内ならトップだろう。

 

 だから、アホな用事ではないと思うがいったい何があった?

 

 俺は嫌な予感がして足を速める。運よく宮白も俺に気付いたので急いで声をかけた。

 

「おい宮白。いったい何が―」

 

「・・・・・・だらっしゃぁああああああああっ!!!!!」

 

 顔面に光力満載の拳が突き刺さった。

 

 いいパンチするじゃねえか宮白。タイミングが良すぎるせいでよけれなかったぜ。

 

「あ、あああああああああアザゼルーッッッ!?!??!!」

 

 小雪の絶叫が耳に響くが、俺としてはそれどころじゃなかった。

 

 あれ? 俺、なんかしたか?

 




我慢できなかった兵夜君。

ちなみにこの暴挙には当然わけがあります。原作読んでる方ならわかるとは思いますが、ある意味でアザゼルが元凶なわけなのでつい暴発してしまったわけです。







































PS

ハーメルンにPixiv製Fate作品の中でも最高クラスと自分が評価している作品、Fate/sn×銀英伝クロスを考えてみた が改訂版で投稿されました。

自分の作品を読んでいる方々ならFateに対する知識もあると思いますが、この作品非常に完成度が高いです。まだ一話しかありませんが、これだけでもPixiv版よりも話を丁寧に作られているので、ぜひお気に入り登録をお勧めします。

詳しい解説や評価ポイントは活動報告にありますので、よろしければ読んでくださると幸いです。


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恋愛恐怖症、面倒です!

 

 顔面に拳が突き刺さったことで、俺ことアザゼルは思いっきり吹っ飛ばされた。

 

 体感的に五メートルぐらいは吹っ飛ばされただろう。この俺をここまで殴り飛ばすとは、宮白の奴は将来有望だ。

 

 っていうかアイツ禁手で全身強化しやがったな? あれはリターンは高すぎるがリスクも高すぎるから使用禁止だって言ったのに、説教するべきか。

 

 だが、それよりまずは―

 

「ファファファファファファックファックファック!! 何考えてんだてめーは!! 酸欠で死ぬか? アァ!」

 

「~~~~~~~(声にならない悲鳴)っ」

 

 ブチギレて能力使って宮白の呼吸を止めてる小雪を止めるべきだ。

 

 口と鼻に当てる感じで腕を当てれば、呼吸の妨害ができるのはかなり怖い。

 

 人間の暗殺とか考えたらかなり効果覿面じゃないか? どうやって殺したのかわからねえから、完璧に迷宮入りだ。

 

 つーか小雪も落ち着けよ、まったく。

 

 お前宮白に惚れてるのは分かってるんだからな。さっそうとピンチを助けた挙句、付き合いの長い同僚の裏切りというショックな出来事に対してさっそうと立ち向かったりで漢を見せたからなアイツ。

 

 自分で殺してどうするんだか。

 

「あー、大丈夫だから気にすんな小雪。つかそれじゃあ弁明もできん」

 

「はーはーはーはー・・・。とりあえず理由をいえ、さもなきゃ撃つ」

 

「こ、この・・・ややこしい・・・状況の・・・遠因が・・・アザゼルにあるかと思うと、つい我慢できなくなった。反省はするが後悔はしない」

 

 妙なところで男らしい弁明をかましたな。

 

 いやいやいやいや。俺がいつどこで何をした?

 

「まさかと思うがイッセーを殺す指示を出したことじゃねえだろうな? アレは組織の長として当然の判断だから、それこそ反省も後悔もしねぇぞ?」

 

「俺はそこまで子供じゃねえよ。・・・・・・感情的には生涯認めんが、組織運営的な視点では一億歩ぐらい譲って譲歩せんでもない」

 

 全然譲歩してねえだろうが。どんだけイッセー好きだよ。

 

「と・は・い・え! 人選ミスについては土下座と生涯にわたる生活の保障を要求しても問題ねえような気がするんだながな。いや、マジで」

 

 ・・・殺気!?

 

 思わずその場にいた全員が身構えるほどのオーラをだした宮白だが、数秒後に深呼吸とともにひっこめる。

 

 数秒間なにか考えてから、宮白は再び深呼吸して切りだした。

 

「とりあえず質問だ。お前がモテたくてモテたくて仕方がないが、全然モテなくて悪夢を見るほど恋人が欲しかったとしよう」

 

 ・・・それは部下や仲間がポンポン結婚している俺に対する嫌味か。

 

 小雪の奴の同情する視線が突き刺さるのが腹立つ。お前も彼氏いない歴=人生だろう。頑張って宮白落とせ。

 

「そんな恋人いない歴に枕を濡らす日々の中、誰がどう見ても美系な見知らぬ人が、「好きです。付き合ってください!」だなんて言ったとしよう。まさに人生バラ色だろう。そうは思わないな?」

 

 定番だな。うん、俺もそんな女が欲しくなってきた。

 

「そして勢いよく人生初デートだ。当然頭を抱えて悩んでデートコースを考えるわけだ。当然だな。そしてデートも楽しむわけだ。最高だな」

 

 あー、俺も過去ハーレム作りすぎたなぁ。そんな純な恋愛ができそうにない。

 

 で、それをなんでこんなところで―

 

「ところがデートも終わって夕方の公園というよりにも寄ってロマンチックなシチュエーションで。「実はあなたを殺すのが目的だったの♪ ごっめんね~?」だなんてなったらもう異性恐怖症どころか異性嫌いになってもおかしくないトラウマになるよな? つーかそんな人選した奴殺したいと考えるのは当人じゃなくても普通だとは思わないか? えぇ?」

 

 そりゃひどい。ああ、俺関係者だったら真剣にカウンセラーを紹介するレベルだ。

 

 ・・・・・・・・・ん?

 

「・・・・・・・・・えっと・・・それ、実話?」

 

「ノンフィクション♪」

 

 にっこり笑って宮白が断言する。

 

 それってもしかして・・・。

 

「い、イッセー?」

 

「ザッツライト♪」

 

 もはや地獄の悪鬼の例えすら生ぬるいと思うほどの、つーか本当に生ぬるいかもしれんレベルで怒りのオーラがまきちらされた。

 

 ちょっと待てェエエエエ!! 何やらかしてんだそいつ!!

 

「アザゼル。すまねーが、反論できねーよ」

 

「待て小雪!! 確かに一番上から指示出したのは俺だが、最終的に末端動かしたのは別の奴!!」

 

 いや、そんなの見過ごしてたのは謝るけど!! マジ悪かったイッセー!!

 

 うわやべぇ! グレモリー夫妻の視線もなんか冷たいぞオイ! 俺は晩飯にあり付けるのか!?

 

「・・・まあ、過ぎたことは仕方がないとして、だ。当然そんな目になればトラウマになるのは当然で、すなわちできうる限り当面の間そっとしておく必要があるわけだ」

 

 宮白が僅かに話の方向をずらしていく。

 

 この野郎、こっからが本題だな?

 

「ちょっとまて兵夜。ファックな展開だが朱乃とかほっといていいのか?」

 

「安心しろ小雪。朱乃さんは不倫狙いだ。・・・本命ができなければ決定打にはならん。故に放置だ」

 

「それはそれでファックだが、じゃあアーシアってのはどうすんだよ」

 

「イッセーの中でアーシアちゃんはバカ桐生のせいでものすごい天然行為を繰り返す妹ポジだ。・・・いや、イッセーマジで馬鹿だよな? 異文化だといえ敬虔なクリスチャンが裸見せるなんて相当だろ?」

 

 小雪と宮白が話を進めていくが、確かにイッセーはバカだな。

 

「それじゃあリアス・グレモリーはどーすんだよ? あれ、アプローチが強烈じゃねーか?」

 

 確かにその通りだ。

 

 おもっきしベタ惚れしてるだろ、もう少し警戒した方がいい気がするんだが。

 

 だが、宮白は視線を横にずらすと、微妙な空気を見せ始めた。

 

「・・・・・・ぶっちゃけ部長が一番安全牌だ」

 

「「「「・・・え?」」」」

 

 その場にいた四人の声が一つになった。

 

 ものすごいアレなタイミングで初キスまで奉げ、その後勢いよく押しかけ女房したリアスが、なぜ安全牌?

 

「最初のタイミングで裸で添い寝するなんて真似をしでかした揚句、その後も裸で抱き枕にしたり混浴をOKしたせいか、イッセーの中で部長は「下僕に対するスキンシップでエロなことしてくれる人」ということで固定されている。ファーストキスの件すら本気で下僕に対する褒美と信じて疑わない」

 

 ・・・・・・トラウマがひどいことになっているから、ということにしておいてやろう。

 

「ゆえに部長はキャラ的にそういうイメージが固定されているのでアーシアちゃん以上に安全牌だ。それはもう間違いない」

 

 自分でいって納得したのか、深くうなづく宮白になにも言えなかった。

 

 とりあえず、イッセーのトラウマは重傷だということにした方がいいだろう。色んな意味で。

 

「まあ、そういうわけで俺としてはマジで当分そっとしておきたい。せっかく寿命が百倍近く増えたのに、今焦って付き合いが数カ月の相手とラブロマンスを始める必要はないと思うんだよアザゼル」

 

「まぁ、カウンセラーぐらい呼んでも罰は当たらんよなぁ」

 

 悪魔の寿命は確かに長いわけだし、生き急ぐ必要はない。

 

 あいつはしっかり相手と関係を深めてから恋仲になっていくタイプだろうし、少しぐらい時間がかかっても問題はないだろう。

 

 そんな風に思った瞬間、宮白の姿がかき消えた。

 

 と、思ったら一瞬で振り向いて土下座をしていただけだった。

 

「つぅわけで、何を焦っているのか知りませんが出あって数カ月の部長とイッセーをくっつけること前提で派手に動くのやめてくださいご両人!!」

 

 あ、あーあーあーあー。なるほどなるほど。

 

 こいつ、鬱憤晴らしに俺を利用しやがったな!?

 

 主の両親に怒鳴るのはどう考えても問題がある。が、正直腹立たしくてたまらなかった。

 

 そこで原因の一端である俺がいたので、容赦なくスケープゴートにしやがったなこいつ!!

 

 まあ原因の一端は俺にあるし、今回は多めに見てやるとするか。

 

「どうか! どうかお願いします!!!!!」

 

 ものすごい見事な土下座っぷりだ。交渉能力は洒落にならないとは思っていたが、まさかこんな方法もとれたとは。

 

「・・・色んな意味で将来が恐ろしい奴」

 

「ファックな話だが同感だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨夜は本気で大変だった。

 

 まさかああも急いでくっつける下準備を進めていたとは思わなかった。

 

 まったく。婚約関係を破棄して男にベタ惚れしているのは確かに貴族社会的には問題だろうが、もとはといえば自分達が約束破ったのが原因だろうに。

 

 おおかた、赤龍帝を入れちゃったら白龍皇がやってきて部長が大変だと思ったのだろう。それでライザーとさっさと籍入れて一緒にいさせれば切り抜けられるとか考えたのだろう。ライザー期待のルーキーだからヴァーリの規格外っぷり知らなかったら安心できそうだし。

 

 仮にも貴族が自分から言った約束を反故するほどの心配ぶりだ。親バカとバカにするほどのことでもないだろう。

 

 三大勢力の戦争を中断させるほどの大騒ぎを起こした二天龍。警戒するのは当然といってもいいだろう。というか、俺だってしてる。

 

 そう、それは本気で警戒しなくてはいけない。

 

 前回はイッセーを馬鹿にされ過ぎてついキレたが、本当ならそっちの方が好都合なはずだ。

 

 ヴァーリ・ルシファーの思想はシンプル。強い奴と戦いたい。宿命のライバルの赤龍帝に強くなってほしい。

 

 とてもわかりやすいバトルジャンキーであるが故に、何らかの形で放出口をつくってやれば操縦は結構容易だっただろう。出自が魔王の血族であることを考えれば、悪魔の駒を渡してレーティングゲームに参戦させるという荒業も可能性はあったはずだ。逆にそこを突かれたことで禍の団にとられているわけだが。

 

 和平を申し込む前にヴァーリの制御のためのプランを用意してなかった、していたとしてもヴァーリ当人に伝えてなかったのはアザゼルのミスだな。

 

 伝えてさえいればレーティングゲームというスポーツで発散させることができたのにもったいない。史上初となる安全かつ死人の出ない二天龍の決戦も狙えたはずだ。

 

 ・・・ドラゴンスレイヤーの開発は急務だな。何とかして作り出したいがどうしたものか。

 

 聖杯戦争だけでも大変だが、そう考えるとそれ以外にも危険な出来事が多すぎるのは難点だ。

 

 と、なれば嫌でもグレモリー眷属全員の強化は必須になるな。

 

 ・・・アザゼルはどういう方針で強化するつもりだろうか?

 

 一応俺のトレーニングについては既に要望を入れているので問題ないとは思うが、他の方向性が非常に気になる。

 

 短期間で一気に伸びるか、それが無理なら確実なパワーアップを要望したいところだ。

 

 聖杯戦争のメインは俺とアーチャーがやるから良いとして、それでもある程度の戦闘能力が必須というからマジで面倒くさい。

 

「・・・ちょっと兵夜? 話を聞いていたのかしら?」

 

 真剣に頭を悩ませていると、部長の声で思考が中断された。

 

「あ、すいません。今後のことを考えていたらつい」

 

「まったくもう。確かに聖杯戦争というのが規格外なのは分かっているけれど、だからこそ、楽しむ時は楽しまなきゃだめよ?」

 

 部長が苦笑しながら俺をたしなめる。

 

 確かにそうだった。

 

 今は部長の案内でグレモリー家の城の幾つかを見て回る観光ツアーの真っ最中だ。

 

 考えることは必要だ。だけど楽しむ所を楽しまないと人生やってられないだろうに。

 

 いくらなんでも考え事が過ぎたな。こういうのはもっと、別の時間帯にやっておかないと気が滅入ってしまう。

 

 すこしすっきりしてから考えればいいな。

 

 と、そこまで考えてはたと気付いた。

 

 部長、なぜかゴスロリ系の服を着ている。

 

「・・・・・・とてもいまさらなツッコミなのですが、その服装、部長の趣味とは違いますよね?」

 

「あら気づいてなかったの? これはアーチャーが・・・」

 

 そう言って視線を向ける部長をおって、俺は横を向くと。

 

「アーシア。そう、その窓のあたりで腰掛けてくれないかしら?」

 

「こ、こうですか?」

 

 同じくゴスロリ衣装のアーシアちゃんにポージングさせて、悦に浸っているアーチャーの姿があった。

 

「僅か数日でここまでの物を用意するとは驚いたわ。その熱意に負けたしイッセーも喜ぶと思って着てみたのよ、全員」

 

「お前はもうちょっと緊張感持てぇえええええ!!」

 

 すいません俺の英霊(サーヴァント)! ちょっとは相方(マスター)の気持ちも考えて!!

 



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大王子息、大物です!

 

 若手悪魔の中でも、今年は相応に有望な悪魔が育っているらしい。

 

 例えば、我らがリアス・グレモリーは魔王ルシファーの妹だ。そしてそれは魔王レヴィアタンの妹である生徒会長にも該当する。

 

 加えて、同世代に残る魔王であるベルゼブブとアスモデウスの家族にも同世代がいるとかなんとか。

 

 さらに、魔王以外の有力者である大王バアルと大公アガレスの後継者も同世代だとか。

 

 つまり、元悪魔有力者の親族がそろいもそろって同世代なわけである。

 

 非常に長命なはずの悪魔の業界でありながら、これはどう突っ込めばいいのかわからない。

 

 で、そういうわけで何でも集まりがあるらしい。

 

 当然、眷属もお供として馳せ参じることになる。

 

 で、エレベーターを登った先に出てきたのです、が。

 

「久しぶりだなリアス。そこにいるのがお前の眷属か。・・・良い目をしている」

 

 ガタイのいい青年が、こっちに向かってやってきていた。

 

 後ろに何人もの悪魔が付いてきているところから考えて、彼は若手悪魔の一人ということだろう。

 

「久しぶりね、サイラオーグ」

 

 部長も笑顔で握手を交わす。

 

 さすがの俺でも見てわかるほどの実力者だろう。親父を含めて権力者を見てきた目だからこそわかるが、相当器をもった大人物だ。

 

「紹介するわ。彼はサイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主で、私の母方の従兄弟でもあるの」

 

 部長の親族ってわけか。

 

 言われてみれば、どこかサーゼクスさまに似た雰囲気を見せているな。

 

 しかしつまりサーゼクスさまはパイプだけでいうなら大王ともつながりがあるということか。

 

 親族のつながりによる政治的なパイプは計り知れない。彼が魔王陣営のリーダー格になっているのも当然のことと言える。

 

 まあ、それは大王側にも言えるわけだからややこしいことになりそうだが。

 

 いくら変化しなければいけないとはいえ、変化する動きって言うのは当然保守派の出現が出てくるからな。

 

 徹底抗戦そのものは旧魔王派が泥をひっかぶってくれた形になっただろう。だが、適度に見切りをつけてある程度の妥協をする類は存在する。そういう手合いは間違いなく元政権にとっての反対派閥として動いているはずだ。

 

 悪魔業界は絶対に政治方面でややこしいだろう。今後のことを考えると間違いなく俺は関わることになるだろうし、既に憂鬱だ。

 

「始めてみる顔も何人かいるな。・・・特に兵藤一誠と宮白兵夜にはあってみたかった」

 

 サイラオーグ・バアルはやけに好意的な表情を俺とイッセーに向けてくる。

 

 あら? やけに好印象だな。

 

「ど、どうも。俺達ってそんなに気になりますか?」

 

「次期大王に興味を持っていただけるとは恐縮です」

 

 イッセーはどもりながらだったが、俺は何とか冷静な対応をとれた。

 

 ・・・うん、イッセーは今後の会話とかでしゃべらせないようにしよう。ただの一般人が貴族社会に関わればもめごとが起こる可能性は非常にでかい。

 

「リアスとライザー・フェニックスのレーティングゲームを見る機会があってな。二人とも見事な戦いぶりだった」

 

 感慨深そうにそう言ってくれるサイラオーグ・バアル。

 

 なるほど。俺は結局失敗したからちょっとびっくりだが、イッセーの逆転劇はそりゃあ興味も引くだろう。

 

 転生したてな上、ろくに戦ったこともない下級悪魔が若手のエリートを打倒したんだ。当然目立つ。

 

「さらに堕天使コカビエルの迎撃に、和平会談における活躍といい、お前たち二人の活躍は一部では伝説レベルだ。意識するのも当然だろう」

 

 サイラオーグ・バアルの言葉に、言われてみれば納得してしまった。

 

 俺の活躍は魔術関連の知識(ポジションの違い)によるものだから偉そうなことは言えないが、しかし結果だけ見れば大活躍ではある。

 

 結果的に撃破は失敗したが、上級悪魔の期待のルーキーを追い込んだ。とどめはイッセーの力を借りたが、最上級堕天使の仕掛けた儀式を無効化した。会話している間に小雪が来たおかげで何とかなったとはいえ、テロリストによる首脳陣暗殺を食い止めた。

 

 自分でいうのもなんだが、決定打は他に譲っているが、俺って意外と大活躍?

 

「アーシアの時もフリードを一人で倒してるし、宮白って実はグレモリー眷属のエースじゃないか?」

 

「イッセーくんがそれ言う? 一番いいところを持っていってるのはイッセーくんじゃないか」

 

 イッセーと木場が後ろでこそこそ離しているが、そういう木場も聖剣使い(フリード)倒したりライザーの眷属を半分以上倒してるからな? 人のこといえないぞお前。

 

 まあ、悪魔になってから愉快で平和な毎日と、尋常じゃない危険な日々が交互にやってきているからなぁ。色んな意味で注目を集めても全くおかしくない。

 

 ―どぉおおおおおん

 

「・・・・・・しっかしすごい体ですね? 俺も体術の心得はあるからある程度わかりますが、生半可な鍛え方ではここまでのものにはできないでしょう」

 

「・・・・・・ん? まあな。あいにく俺にはそれしかなかったが、今では胸を張って言えるほどには思っている」

 

 俺の賛辞に、サイラオーグさんはちょっと言い淀んだ。

 

 ふむ。部長の親族となれば強大な魔力もあるだろうからな。あえて体術を選んだことでいろいろといわれたこともあるのかもしれん。

 

 間違いなく人に自慢できるそれだろうからお返しも兼ねて褒めてみたが、うかつにつついちゃいけないところを刺激したか?

 

「あー! 兵夜くんだー!!」

 

 考えていた瞬間に、後ろから思いっきり抱きしめられる。

 

 この口調は考えるまでもない、久遠だ。

 

「ちょっと待て! 上流階級の会合になに暴走してんだ久遠!!」

 

「いや、会話からその辺マイルドに対応してくれそうだと判断しましたー」

 

 確かにそんな感じはするけれども!!

 

「・・・あなたのその判断力はエクスカリバーの一件で理解していますが、心臓に悪いので控えなさい」

 

 さらに後方から、ためいき混じりに会長が生徒会をひきつれてやってきた。

 

 シトリー眷属が一番最後か。性格的に真っ先に来そうだと思ったんだが以外だな。

 

―どっかぁあああああああん!

 

「しっかし会合に呼ばれたのに、うち半分が廊下で合流だなんて面白いですねー。あ、私はソーナ様の兵士な桜花久遠といいます―。どなたか知りませんが以後お見知りおきをー」

 

「・・・ほう、不思議なものだな」

 

 丁寧に頭を下げる久遠を見て、サイラオーグ・バアルは不思議そうに目を細めた。

 

 確かに口調的に不思議な感じはするが、そこまではっきりいうほどだろうか。

 

 と、思ったが、サイラオーグ・バアルの気になった点は全く違ったものだった。

 

「動きに隙がないように見えて、どこかぎこちない。・・・武術の修練を長い間開けていたのか? 本来の実力を発揮できてないように思えるが」

 

『・・・え?』

 

 その発言に、オカルト研究部の声がシンクロした。

 

 驚いたことに、生徒会はあまり驚いていなかった。ソーナ会長にいたってはむしろ当然とばかりに平然としている。

 

「お、お言葉ですが、冗談ですよね? 彼女、単純な剣技なら僕やゼノヴィアを上回ってますよ?」

 

「ああ、模擬戦をしたが本気を出されたら終始優勢に立ちまわられてしまった。・・・間違いなく同年代の剣士で一番強い」

 

 木場とゼノヴィアはいつの間にやら本格的に手合わせをしていたみたいで、特に驚いていた。

 

 確かに、コカビエルの時も単独で奴を空に打ち上げるようなまねもやっていた。そもそも前世で戦闘経験があるみたいだし、今の段階では経験年数に圧倒的な開きがある。今の段階で上回ってなければ明らかにおかしい。

 

 ましてや、彼女は剣道部を大躍進させるほどの活躍を行ってきた超実力者だ。そんな彼女が『実力を発揮できていない』?

 

 正直サイラオーグ・バアルの正気を疑うレベルでびっくりしたが、久遠はちょっと悲しげに笑いながら頷いた。

 

「・・・会長にであってから少しずつリハビリしてたんですけどねー。ぶっちゃけまだまだ要特訓ですー」

 

 マジかよ。

 

 こいつ前世じゃどんだけ強かったんだ?

 

 正直気になったが、さすがにそれは深入りしすぎだろう。

 

 俺とこいつは同類(転生者)だ。そして俺はこいつの魔法使いの従者とかいう感じらしい。ついでにいればキスまでした仲である。

 

 だが、そこまでだ。

 

 俺の絶対はイッセーで、久遠の絶対は会長だろう。

 

 踏み込んではいけない。

 

―どっごぉおおおおおおおおおおおおおおおおん!

 

 そう考えたので、さっきからあえて無視していた事実を刺激することで話をそらそう。

 

「そういえば、さっきからドッカンバッカン爆音轟いてますけど、いったい何があったんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか大変なことになった。

 

 あの後、サイラオーグさんがグラシャラボラス家の次期当主を一撃で沈めたりした。

 

 その後の会合もひと悶着あったが、問題は最後だ。

 

 なぜかソーナ会長たちとレーティングゲームをすることになったんだよなぁ。

 

 いや、別に嫌だってわけじゃない。

 

 将来的にレーティングゲームで対戦することは分かってたし、ちょっと驚いたけど桜花さんと戦うのは望む所だ。

 

 あの人には、球技大会の練習の時にいきなり仕掛けられたこともある。

 

 あの時は二対一で結構遊ばれてた感じがする。戦ってた時はわからないけど、コカビエルとの戦いを見てたらそう感じたんだ。

 

 それに、サイラオーグさんのいっていたことも気になる。

 

 あの人は、前世の実力を全然発揮できてない。

 

 宮白が昔からすぐ近くにいて、しかもその努力を見てきたから、てっきり桜花さんとかもガキの頃から鍛えてたんだとばっかり思ってた。

 

 あいつ、俺と会う前から徹底的に自分を鍛えてたからなぁ。そのおかげでアーシアを助けに行くときも一人でフリードにさらに敵がいた状態で倒しちゃったからなぁ。たぶん、戦い方じゃあオカルト研究部でも一二を争うんじゃないか?

 

 そんな宮白より上手にケルベロスを片付けていった桜花さんが、全然実力を発揮できていないとか、正直本当に驚く。

 

 あの人の本当の実力っていったいどれぐらいなんだろう?

 

 もしかしてヴァーリより強かったりするんだろうか? 割と本気で気になる。

 

「実際どんぐらい強いんだろうなぁ。どう思う、宮白?」

 

「正直実感したくないな。レーティングゲーム勝てなくなったら大変だろ」

 

 宮白は本を片手にそういいきった。

 

 ちなみに他のメンバーはほかのメンバーで時間を過ごしている。俺と宮白はなんか付き合いが長かったのでこうやってつるんでいるわけだ。

 

 ぶっちゃけパラパラめくっている風にしか見えないが、宮白は速読を習得している。頭に叩き込むだけなら、これで十分把握できるのだ。

 

 こいつ本当にスペック高い。つくづく思うが俺の親友は破格だ。

 

「お前何読んでんの?」

 

「悪魔文字についてのハウトゥー本に決まってるだろ。・・・今後の政治的活動を考えると必須だ必須」

 

「え、マジで? どれぐらい把握してるの?」

 

「とりあえず最低限な部分は何とか。・・・何とか基礎的なところまではこの休暇中に習得しないと」

 

 素早く他の本をさらに取り出しながら、宮白は真剣に内容を頭に叩き込んでいる。

 

 俺も頑張って文字の練習したけど、こいつも何気に頑張ってるよなぁ。

 

 悪魔の業界は変革の真っ最中。その波に乗って先に進もうと、宮白は本当に頑張っている。

 

 だけど・・・。

 

「・・・・・・上手く、いくのか?」

 

「今日の会合のことか?」

 

 宮白は本当に鋭い。

 

 あの会合はなんだかんだでうまくいったと思うが、どうも俺は首をかしげたくなることがあった。

 

 最終的に部長達が夢を語ることになったのだが、ソーナ会長の夢だけがいい顔されなかったんだ。

 

 下級悪魔や中級悪魔でも通える、レーティングゲームの学校をつくること。

 

 俺は素晴らしい夢だと思うし、変化しなきゃいけない悪魔の業界にとってもいい夢だと思う。

 

 だけど、セラフォルーさま達一部を除いて、会合で俺たちを見に来た悪魔の方々は冷たい反応だった。

 

「なあ、悪魔って変わらなきゃならないんだよな?」

 

「・・・・・・まあ、俺は聞いたとたんにそういう可能性を想定してたけどな。会長だって予想済みだと思うぞ? ほら、あの人頭いいじゃん」

 

 宮白は一回本を閉じて、酒を転送するとそのまま立ちあがった。

 

「なにごとも、変化が起きるときはそれに反する動きがあるもんだ。率先して潰そうとする動きだってあるが、その辺は旧魔王派として行動して追放されてるからこそのあの程度だろう」

 

 今日の勉強は終わらせる気になったのか、酒をあおりながら宮白は窓まで歩く。

 

「現状に満足している者は、変化に対して抵抗があるのは当然だ。当然、反対意見は出てくるだろう」

 

 なるほど。俺もハーレム状態になったとして「それやめろ」だなんて言われてうんとはいわない。

 

 相変わらず宮白は分かりやすい。

 

「幸い、悪魔側は旧魔王派という都合のいい敵がいたからそれを追放したことで一通りはおさまった」

 

 あのカテレアとかいう奴だっけ。アザゼル先生にぼこられたけど、キャスターのせいで助かった女か。

 

「だが、それは徹底抗戦以外の案を考えない過激派だ。あいにく世の中はそう簡単に二分されない」

 

 宮白は酒の瓶をさらに転送していくと、まるでそれがパターンの一つといわんばかりに置いて行く。

 

「戦争時における徴兵のように、あくまでこの行動を「悪魔が態勢を整えるためのその場しのぎ」として認識するものだっている」

 

 さらにいろいろな種類の酒を置いていく。

 

「仕方ないから変化は認めるが、最小限で抑えたい。間を取って変化そのものは認めるが、ある程度落ち着いたら制限を設けるというのもある」

 

 いくつか酒をおいて、宮白はためいきをついた。

 

「そういう連中にとって、貴族社会の持続は当然必須だから、『貴族のやり方』じゃない方法はできる限り避けたいと考えるのは当然なことだ」

 

 なるほど。悪魔の駒自体をよく思っていないから、そのための制度を整えるのは避けたいってことか。

 

 変わるのはいいけど後で戻したいかぁ。俺、そんなこと考えもつかなかった。

 

 やっぱ宮白は頭いいな。

 

「お前が上級悪魔になってハーレムを目指すなら、政治分野に長けたやつを紹介してもらえ。・・・方針を決めるのはともかく、細かい設定はサポート必須だろ」

 

「う・・・その通りです」

 

 反論できない!

 

 バカな俺にはそんな細かいところまで頭回りそうにない!! 

 

 俺の弱点は色んな意味でバカなところか! メガネをかけた秘書風お姉さんとか探さなきゃいけないのね! 前途多難!!

 

 つーか宮白を眷属に入れるってのどうだ? こんだけ頭良けりゃ何とかなりそう!

 

「・・・いっそ宮白が俺の眷属になってくれない?」

 

「ゴメン無理」

 

 バッサリ断られた!

 

 畜生! 親友なんだからもうちょっと考えてくれよ! マジな話お前いれば済む話じゃん! 良い思いさせて見せるからさぁ!?

 

 マジ泣きしそうな俺の顔を見ながら、宮白は何かに気付いたのかポンと手を打った。

 

「・・・ああ、お前勘違いしてるぞ?」

 

「へ? なんだよ? 一生部長の下僕でいたいとかそういう理由―」

 

「いや、そうじゃなくてだな・・・」

 

 宮白は俺の方に向き直ると、胸を張って不敵な笑顔を浮かべた。

 

「俺も独立目指す気なんだよ。・・・つぅか絶対条件」

 



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俺、必ず出世します

イッセーSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮白の言葉に、俺はその場で納得してしまった。

 

 そりゃそうだ。宮白は自力で駒王町じゃ万能といってもいいレベルの力を手にしている。

 

 それが悪魔になったなら、上級悪魔を目指そうとしてもおかしくない。

 

 だけど、俺の顔をみた宮白は苦笑した。

 

「さらに勘違いしてるな」

 

 宮白は酒を軽く揺らすと、窓の方を向いた。

 

 窓に映る宮白の顔は真剣そのもの。本人は隠してるつもりなんだろうけど、あいにくばれてるあたりたまに抜けてるよなホント。

 

 だけど、なんかかなり真面目だ。

 

「知っているだろうが、俺は大勢側が確保している魔術師達を先導して一種のグループをつくっている」

 

「ああ」

 

「ただ、既に俺が開発した回復ユニットなど、彼らの技術は冥界に革新をもたらすほどのものになる可能性が非常に高いわけだ」

 

 確かにそうだよな。

 

 アーシアの神器はもちろん、フェニックスの涙と比べても回復量は少ないけど、その分安定した数を用意できるのが強みだって言ってた。

 

 悪魔も回復できるのはレアだって話だし、これだけでも歴史に名を残しそうな大活躍だ。

 

「まあはっきりいえば。そんな組織のリーダーの座に、お飾りじゃない実際の存在としてい続けるにはそれ相応の立場ってものが必要なわけだ」

 

 宮白はためいきと共にそう言いきった。

 

規格外のバックアップ(総督やら魔王やら現当主)があるとはいえ、そのまま何十年もい続ければ十中八九、虎の威を借る狐として叩かれる。それで変な連中に支配されるのは避けたいし、言いだしっぺとして下の連中をかばえる立場に立つ義務がある」

 

 酒瓶を握る手に力がこもっていた。

 

 宮白は、心底当然な風に言いきった。

 

「そして何より、馬鹿な魔術師を探して止めるためには相応の組織が必要。止めると決めた以上、止めれる態勢は絶対に整える。・・・自分の眷属悪魔ぐらい、自分で用意するさ」

 

 ・・・もう、そんなとこまで考えてたのか。

 

 ただハーレムを目指している自分が情けなくなりそうだ。

 

 宮白は、将来を視野に入れて、そのためにどうすればいいのかも考えている。今の問題点もしっかりと把握している。

 

 本当に、俺の親友はすごい奴だ。

 

「主から独立も出来ない悪魔じゃネームバリューが足りないんだよ。・・・だから、俺は独立して自分の眷属を確保する。事態に対処できるような、優秀な眷属をかき集める」

 

 そういうと、俺の方を笑顔を浮かべて振り返った。

 

 俺を見るその目は、心底俺を信頼しているのが、むしろドン引くぐらいにわかる。

 

「・・・それに何より、俺としては(親友)に並び立つには(実力者)にならなきゃいけないって思うからよ」

 

 ・・・宮白。

 

「・・・俺、上級悪魔になれるかな?」

 

「神滅具持ちの悪魔だろ? むしろ意地でもなって見せろよ」

 

 その目は一切疑ってない。

 

 本気で、俺が上級悪魔になるって確信してやがる。

 

「ま、今回の一大イベントで俺の評価は間違いなく上がった。これまでの戦闘でも活躍はしてるし、悪いが一歩先行だ」

 

 宮白は瓶の中の酒を一息で飲み干すと、俺をゆるぎない目でみてほほ笑んだ。

 

「・・・先に行ってる。お前も追いつけ」

 

「・・・ああ、すぐに追いついてやるよ!」

 

 ホントに、かなわねぇなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西洋風のグレモリー城に置いて、実は意外と和の要素が強いものもある。

 

 実際、部長はちょっと勘違いしている系とはいえど日本大好きで、それは明らかに西洋系の木場に純日本風の名前を与えるところからも明らか。その両親であるグレモリー夫妻も、日本好きの側面があったとして全くおかしくない。担当の領地も日本だし。

 

 そのため、西洋の城にもかかわらず、純和風の露天風呂なんてものが存在している。

 

 しかも天然の温泉! これはまた豪勢な展開になってきた!

 

 そのため、俺は温泉で手酌しながらのんびり休んでいるのである。

 

 当然次の日から過酷なトレーニングをすることになるので、このタイミングを大事にするのは当然だ。

 

「いや~、さすがは天下のグレモリー家が保有する温泉。いい湯だなぁ。そう思わねえか、宮白?」

 

「それに関しては同感だ。気が合うじゃねえか」

 

 学生として真面目なイッセー達では酒に付き合うなんて真似はできないので、アザゼルと一緒に酒を飲みながら湯船につかる。

 

 つまみはあえて塩のみ。ただし、こういうときのために用意していた最高級品だから十分だ。

 

「地獄でここまでバカンスできるだなんて想像もしなかったな。堕天使側にも観光地とかあるのか? 今度お前のコネで連れてってくれよ」

 

「まあ学校が冬休みにでもなったら考えてやるよ。しっかしあれだな。堕天使総督の俺が、悪魔の城で温泉に浸かれるとはいい時代になったもんだぜ」

 

 酒のせいか会話も弾む。

 

 年に数樽しか作られない高級酒。

 

 日本でも有数の場所で作られた塩。

 

 そして豪邸グレモリー城の私有温泉。

 

 夏休みらしいバカンスになってるじゃねえか。

 

「お前は少しは男らしくしやがれ! どっせぇええええいい!!」

 

「きゃぁあああ!? イッセー先輩のエッチィイイイ!!」

 

 イッセーが、なぜか女性風のタオルの巻き方をしているギャスパーを湯船に放り込んだりするのもほほえましい。

 

 過酷なトレーニング前の最後の楽園だ。しっかり楽しむとするか。

 

「おーおー。イッセーはテンション高ぇな。ちょっと指導してくるか」

 

 ものすごいいやらしい笑みを浮かべて、アザゼルがイッセーの方に向かって行く。

 

 あの様子じゃエロネタで盛り上がるつもりだな?

 

 さすがは堕ちた天使の総督。何気に何度もハーレムをつくった男みたいだし、そっち方面は俺なんかとは年期が違うだろうな。

 

「満喫しているみたいだね」

 

 入れ替わりに、木場がこっちに向かってやってくる。

 

 さっきイッセー相手に、顔を赤らめて背中を流そうとしたとは思えないぐらいさわやかな顔だ。

 

 こいつホモに目覚めてないだろうか? それはいろいろな意味で大変なことになりそうなのだが。

 

「ま、明日から大変だからな。俺としてもアーチャーからしっかり教わるつもりだからな」

 

「僕も、師匠にしっかり鍛え直してもらう予定だよ。お互い極めて優秀な師に恵まれたし、最大限に生かさないとね」

 

 肩までつかりながら、木場がそう答える。

 

 ソーナ会長とのレーティングゲームもあり、明日からは特訓が始まる。

 

 アザゼルが既にメニューを組み立ててるし、魔術の鍛錬も視野に入れて注文も入れている。

 

 一組織のトップが優秀なインストラクターとは限らないが、それでも幾度も激戦を繰り広げてきたスペシャルな存在だ。

 

 効果はそれなりに見込めるだろう。せいぜいこの機に鍛えまくらねば。

 

「でも驚いたよ。宮白くんは、イッセーくんが独立したらそのままついていきそうだと持ってたからね」

 

「知ってたのか?」

 

「さっきイッセーくんに聞いた」

 

 別に隠してないけど、口の軽い奴だな。

 

 木場は俺の方を向くと、不思議そうな顔をしていた。

 

「どうしてだい?」

 

「・・・ま、ちょっと考え方が変わったってところだな」

 

 以前、イッセーを社長にエロ会社を立ち上げようと考えたことがある。

 

 半分不真面目だが半分本気で、スカウトする人材も考えたりしていた。

 

「ぶっちゃけた話、俺はイッセーを心底上に見ていた」

 

 自分が親友とか言える立場かどうか、考えたことなどそれこそ無数にある。ぶっちゃけ今でも考えることがある。

 

 だけど、それじゃあ駄目だ。

 

 イッセーあの時、むしろ自分の方が劣等感を感じるとまで言ってくれた。そこまですごいと思ってくれた。俺のことを評価してくれた。

 

 なら、その評価にふさわしい自分でいなければならない。

 

「別に朱乃さんを否定しているわけじゃない。親友の眷属として支える生き方もあるとは思う」

 

 たかが三十数年で、人生がこれだと断言できるわけがない。

 

 むしろ、その生き方には尊敬を抱くところもあるし、少なくとも立派に親友やっているとすら思っている。

 

 これは、つまらない男の意地だ。

 

「だけど俺は、兵藤一誠と張り合える。それを外側の連中にも認めさせ続けたい」

 

 誰かが言った。

 

 自分のことをちゃんと見てくれる人がいるなら、それでいいじゃないかと。

 

 ああいいだろう、否定はしない。

 

 どれだけ周囲から評価されようと、自分で納得できなけりゃ意味がない。その考え方は決して間違ってはいないだろうし、一つの審理ではある。その理屈でいうなら、納得できるのならそれで十分だ。自分を認める存在が確かにいることで納得できるなら、それでいいだろう。

 

 だけど、それは「ちゃんと見てくれる人以外」には適用されないだろう?

 

 つまらないのは承知の上だが、それでも俺は、イッセーの親友だと文句なしに全てに認めさせれるだけの自分でいたい。

 

 赤龍帝の誇りになれるよう、自分自身が赤龍帝を誇りに思えるよう。それらをちゃんと、証明したい。

 

「そのためには明確な実績って奴が必要なわけだ。・・・来月のレーティングゲームは好都合だな。初っ端から並び立ってやる」

 

「すごい決意だけど、僕も負けないよ。・・・彼に並び立ちたいのは、きみだけじゃない」

 

 俺たちは視線を合わせると、ふと口元に笑みが浮かぶ。

 

 そのまま拳を軽くぶつけ合った。

 

「うわぁあああああああああああ!!」

 

 悲鳴が聞こえたのは次の瞬間。

 

 悲鳴の主は我らがイッセー。

 

 視線を向けたら宙を舞う赤龍帝。

 

 下手人はいい笑顔の堕天使総督。

 

 そこまで認識した瞬間には、既にイッセーは仕切りの向こう側へと消えており。

 

「ファアアアアアアアアアアアアアアック!!」

 

「に゛ぁああああああああああああああ!?」

 

 向こう側から、小雪とナツミの悲鳴が響き渡った。

 

「何やってんのお前ェエエエエエエエええええ!?」

 

 アザゼルの暴挙に俺は叫ぶ!!

 

 だが、アザゼルはかなり平然としていた。と、いうより何かを達成したかのような表情だった。

 

「いや、イッセーが女湯を覗こうなんて二流な真似をしようとしてがったからな。俺が一流を教えてやろうとしたまでよ」

 

「ナツミと小雪がいるんだぞぉおおおおお!? あと、小猫ちゃんもいるし!!」

 

 |部長とか朱乃さんとかアーシアちゃんとかゼノヴィア《フラグ構築済み》だけじゃないんだぞこのボケ!!

 

 あ、ベルは抜くことにしている。

 

 いや、あいつはみられても動じそうにないもん。

 

「実質ハプニングですね。・・・とりあえず目を閉じなさい兵藤一誠」

 

 ほら、冷静に対応してるし!!

 

「いーじゃねぇか、減るもんじゃないし。どうだ、お前もいくか?」

 

「行かねえよこの駄天使!!」

 

 バックステップで後退しながら、俺は警戒する。

 

 おのれこの堕天使ならぬ駄(目)天使め!!

 

 さすがは女の乳をつついて堕ちた総督だ。スケベにも程があるぞこの野郎。

 

 ・・・まあいい。

 

「先上がってるぞ木場、ギャスパー。・・・お前らも早めに出とけ」

 

「おいおいそんなにビビんなよ。アレはイッセーだからやっただけで、さっきのは軽い冗談だぜ?」

 

 アザゼルはヘラヘラ笑いながらそういう。

 

 この馬鹿は本当に駄(目)天使だな。そういう意味じゃないんだよ。

 

「早く出なきゃいけないのはそういうことじゃない。・・・女湯に投げ入れられる危険性のことじゃない」

 

 パス経由でヤバいオーラが伝わってくる。

 

 アザゼルは、あまりにも危険な存在をすっかり忘れている。

 

「・・・女湯から危険な存在がやってくるから逃げろって意味だ」

 

 膨大な魔力と共に、それは女湯からやってきた。

 

「やってくれるわねアザゼル。・・・これだから盛りのついた雄は本当にもう」

 

 サーヴァントとしての服に身を包みながら、アーチャーが乗り越えてやってきていた。

 

 うん。戦闘態勢。

 

「・・・・・・・・・・・・げ」

 

 ようやくヤバいことに気付いたアザゼルがうめくが、アーチャーは結構平静だ。

 

「別にイッセーの性格は知っていたし、男と女のあれこれぐらい知ってるんだから、いまさら慌てるつもりはないけれど」

 

 風呂に入ってからそのままやってきていたからか、しずくがしたたる髪を手櫛で整え、アーチャーは静かに魔力を解放する。

 

「可愛いは正義。・・・あんな可愛いナツミを半泣きにさせた罪は重いわよ」

 

 引き戸を占めると同時に音を遮断する術式をしっかりとかける。

 

 とたん、それでも防ぎきれない爆発音が連続で鳴り響いた。

 

 まだ外部供給システムが不完全なこともあって、俺の体から魔力がごっそりと奪われていくが、俺はあえて無視してさっさと着替え始めた。

 

 ・・・グレモリー卿に、なんて言って謝ろうか。

 

 




別にアザゼルアンチなわけではありません。

立場的にアザゼルに厳しくしなければいけないだけなのです


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特訓、頑張ります!

 

 朝日が昇る中、俺はかなり早いペースでランニングを続けていた。

 

 特訓を開始して数週間、俺はこのハイペースランニングを一日たりとも欠かしたことはない。

 

 生命体の走りとは思えない速度で景色が流れる。空気の抵抗もスクーターで走っているときのようだ。足の高速移動はまるで自分の体じゃ無いかのよう。

 

 これは、体に強化魔術をかけているわけじゃない。魔術の修練を行う身である以上、そのための魔力は維持しなければならないので無駄なことはしない。

 

 加えていれば、この体を動かすのは非常に抵抗がある。

 

 正姫工業が試作中の軍用パワードスーツ。

 

 これらには戦闘用としての重装甲のタイプもあるが、それと同じぐらい単純な歩兵の活動を補佐するための、体格の変化も起こさないようなタイプが存在している。

 

 それをもとに調整を行い、逆に肉体の動きを阻害する特殊ギプスが俺の体には組み込まれている。

 

 アザゼルはこちらの肉体に大きすぎる負担が出ないようにトレーニングメニューを調整しているが、俺の場合は研究時間などを考慮に入れ、若干リスクは上がっているが、時間は短く密度の濃いトレーニングメニューに変更されている。

 

 朝の涼しい段階でこの激しいトレーニングを終わらせ、午後からは魔術のトレーニングを開始するのが俺のパターン。

 

 指導力はともかく驚異的な能力を持つ魔女の教えは俺にとって非常に有効で、必然的にその能力は確実に上昇している。

 

 加えて、その魔女の力によって俺の肉体は魔術的に改造を施している。

 

 呪術に対する耐性はもちろん宝石の粉末を利用した宝石魔術の組み合わせにより、頸動脈といった「スケールは小さいが損傷が致命的」な部位に集中特化した超高速自然治癒能力を発揮。再生のために周囲の細胞にすら影響を与えるため消耗と痛みが激しいが、ピンポイントで攻撃されて即死する事態だけは解除。アサシンのサーヴァントによるマスター殺害に対する備えは万全だ。

 

 肉体を変質させるイーヴィルピースの技術を組み込んだおかげでこの程度の体制は容易だ。治癒に魔術回路を組み込んだため今は俺だけの能力だが、将来的には味方側の魔術師全てにこれを使うことを目標としたい。

 

 まあ、レーティングゲーム等の試合に使うと反則じみているので、特殊術式によってレーティングゲームに置いての封印システムを構築済みだ。万が一の事態に備えて強制解除はできるが、その時はルールに抵触していることを知らせるようにできている。

 

 敵は最低でも6の英霊とその主。反則手段の一つや二つを使っても反論は無視すれば構わない。

 

 聖杯戦争という荒波を潜り抜け、俺は魔術師の立場安定という将来をかならず作り出す。

 

 等と考えている間に急カーブ。

 

 ただ走っているだけにもかかわらず、Gが結構かかるが無理やり押し切ってそのまま走る。

 

 何度も何度もやっていただけあり、だいぶ慣れた。まだ走りきったあとの疲労感は大きいが、特に嫌に思うほどのことではない。

 

 これで半分。後は呼吸を整えながら走ればいいだけで―

 

―その前に目の前の巨岩を横っ跳びでかわす。

 

 岩は道路に落ちることなく急停止するが、しかし直撃すればひびぐらい入りそうなほどの質量だ。

 

 そして俺は横っとびした勢いで湖の上に飛んでしまう。

 

 反対側から襲いかかって来たので仕方がないが、とりあえず翼を広げて宙に浮かぶ。

 

―その真上から、暴風が叩きつけられた。

 

 あまりの勢いに勢いよく水面へと加速する。

 

 風圧がすごすぎて抵抗できない。

 

 このまま水の中に叩き込まれたら、間違いなく動きが一瞬止まる。つか、あのギプスに防水機能はない。

 

 だが―

 

「甘い!!」

 

 俺は水面に『着地』する。

 

 水属性魔術の特訓を積んだ俺は、水に干渉することはスペシャリストだ。

 

 水の熱伝導率や水の中の熱そのものに干渉することで、水をしいて敷いてマグマの上を移動するということすら理論上は可能だろうし、液体窒素を水で包んで運ぶという難行もこなせるだろう。

 

 時間はかかるが接触した生命体の中の水分を操作してダメージを与えることもできるかもしれない。こんど組み技の類を練習してみよう。長時間密着できれば確実に勝てる決め技の完成だ。

 

 そんなこんなで両足を踏ん張って暴風の中を立ち上がり、俺は前方を睨む。

 

「やってくれるなお前ら。ここ数週間毎日襲撃されてたが、この辺りで仕掛けられたのは初めてだ」

 

 この辺りは良いターニングポイントなので、意識を切り替えられるから避けられていたはずだ。

 

 今回は、あえてそこを狙ったのだろう。狙われないという意識をついた不意打ちだった。

 

 鍛えられたことで精神面を強化されたから何とかなったが、修行する前の俺だったら喰らっていただろう。

 

 そして俺は睨みながら、軽く足の裏で水面をたたく。

 

「・・・防壁形成」

 

 瞬間、俺の背後で伸びあがった水の壁が、真後ろから潜行して仕掛けてきた拳を防いだ。

 

「甘かったな。今の俺ならそれぐらいわかる。・・・着地した瞬間にある程度の解析はしてたんだ」

 

 何度も何度も練習したかいがあった。

 

 これである程度意識した状況下での不意打ち対策は万全。完全に気を抜いた状態での不意打ちはどうしようもないが、こればっかりは練習できないので仕方がない。

 

 そういうわけで俺は息を吐くと。

 

「・・・つぅわけで練習終了。ご苦労さん、ナツミ」

 

「・・・息止めるの疲れたからもうしないからね! 今日のお昼はカレーにして! 鳥のがいい!!」

 

 ・・・不意打ちに対するトレーニング相手になってくれたナツミとハイタッチした。

 

「ベルと小雪も悪かったな。なんども付き合ってもらって・・・悪かった」

 

「まあ暇ですから。あなたのことは実質嫌いではありませんしね」

 

「ファックな難易度の手伝いだしな。まーこんなもんでいいならまたやってやるよ」

 

 岩が飛んできた方向から二人ものんびりとやってくる。

 

 ここ数日、なぜか毎度毎度俺のところ来てくれているのでついでに特訓に付き合ってもらっていた。

 

 いや正直マジで助かってる。魔術の強化そのものはアーチャーがいれば十分すぎるが、それ以外はあいつの専門外だ。体術と光力の扱いに置いて、それに長けている二人の存在はマジ力になった。

 

 そして魔術面でもちゃんと鍛錬は積んでいる。

 

 実戦を意識した特殊武装も多数開発済み。なんとか戦闘準備は整った。

 

「今夜はひと段落ついたしごちそうだ。思いっきり楽しんでくれ」

 

 冥界独自の食糧事情もある程度知識としては叩きこんである。それなりに美味い物を用意できる自信はある。

 

「せいぜい美味いメシを用意しろよ。・・・ま、まあ、ファックな出来だとしてもせっかく作ってくれたもんだからたんと喰うけどな」

 

「ミカエルさまに使えるものとして豪遊は避けてきた身の上ですが、今日は楽しみにさせてもらいますね」

 

 なんか顔を赤くする小雪と、誰が見ても見取れそうな笑顔で返すベルに頷いてから、俺はとりあえず道路の方に進もうとした。

 

 そんな俺の視界に、妙なものが映る。

 

 ・・・駒王学園のジャージに見えるんだが、なんでこんなところに?

 

「一応ここもグレモリー領だし、イッセーあたりが逃げ出して力尽きたとか言うんじゃないだろうな!?」

 

 正直な話可能性はありそうで怖い。

 

 真面目な話、イッセーのトレーニングはアーチャーをけしかけようかマジで迷うほどのレベルだった。

 

 伝説級のドラゴンに追いかけまわされるってどういうことだよ!? 殺す気か!?

 

 などとは思いながら近づくが、そこにいたのは全く予想外の人物。

 

「・・・あー。兵夜・・・くん、だー」

 

「ちょ、おま!? 久遠!?」

 

 なんで久遠がこんなところにいるんだよ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、敵と名前が被っているから自分で命名した飛行艇、ラージホーク(旧名レイヴン)の部屋に、アザゼルが来訪した。

 

 ・・・いや、敵と同じ名前というのも微妙な気分だったんだ。ちゃんと船体にもペンキで名前も書いた。

 

「・・・で? シトリーのところの転生者がなんでそんなところにぶっ倒れてたんだ?」

 

「長距離連続瞬動の特訓してたら、ペース配分間違えてぶっ倒れてたんだと」

 

 てんぷら盛り合わせをテーブルに置きながら、アザゼルに答えてためいきをついた。

 

 俺も大概ハードトレーニングしてるが、何をやってるんだあいつは。

 

 俺が見つけてなかったらそのまま藻屑となってたかもしれんなアイツ。

 

「まったく何考えてんだあの女は。・・・今、馬鹿をやってへし折れそうにならなくても、ちゃんと頑張れば十分伸びるだろうに」

 

「アザゼルにしたらファックな話だな。お前、基本的に特訓内容はローリスクだもんな」

 

 小雪がアザゼルのぼやきに納得しながら、酒をもってこっちにやってきた。

 

 さて、酒もつまみもできたし、特訓の半ばを過ぎた記念に宴会をするとしますか。

 

「よし。準備もできたし食っていいぞー」

 

「やたっ! いっただっきま~っす!!」

 

 俺が許可を出すと同時に、ナツミが勢いよくがっつき始めた。

 

「お・い・し~!! 兵夜やっぱり料理美味しいね! ボク幸せ!!」

 

「実質ここまでとは思いませんでした。それもこんなにたくさん用意してくださるだなんて、ありがとうございます」

 

 ナツミとベルが絶賛してくれるのがこそばゆい。

 

 必要な行動を上手にできればストレス解消にもなって金もかからないと考えて料理は勉強してきたが、やはり褒められるのは嬉しいもんだ。

 

「しっかしお前らもファックなまでに大変だな。せっかくの夏休みだってのに特訓三昧でろくに遊べねーなんてよ」

 

 てんぷらを酒で流し込みながら、小雪が俺に同情してくれる。

 

 いや、まあ確かにほとんど遊べてないのは事実だが、それは仕方がない。

 

「テロリストの大儀式に参加しちまったからには無理なのはわかってたからな。・・・嫌でも本格的にかかわらざるを得ない以上、多少の自由時間はあきらめるさ」

 

 実際そうだろう。

 

 ・・・俺が敵マスターなら真っ先にターゲットに狙う

 

 なんでこの特訓中に仕掛けられなかったのか不思議なぐらいだ。グレモリー領に匿われているような状況にでもなっているのだろうか。だとしたらこのまま領内にいた方が安全なのかもしれない。

 

「正直もう少しのんびりしてほしいぐらいだがな。なにが悲しくて戦力が多い時からガキ共を戦闘に投入しなきゃならねぇんだよ」

 

 勢いよく酒を飲み干しながら、アザゼルはそうぼやくが、サーヴァントを呼び出した手前そういうわけにもいかない。

 

 ・・・御三家の血を引く者として、フィフスの企みは断固阻止する。

 

 第一、それならそれでちょっと・・・なぁ

 

「そんなにのんびりしていいなら、朱乃さんと小猫ちゃんの指導は他になんかなかったのかよ。いや、方針としては理解できるけど」

 

「いや、こういうのは持ってる才能を伸ばすのが一番の近道だよ。大体、持って産まれたものを否定してもなんだろ」

 

 多少どうかと思ったが、さすがは年の功。あっさり切り返されてしまった。

 

「そーいや聞いてなかったが、アザゼルはどんな特訓方法したんだよ。てめーのことだからファックな指導はしてねーとはおもうけどよ」

 

「実質気になりますね。兵夜の特訓も特に目新しい指導はしてないみたいですし、どうなのでしょうか?」

 

 実戦経験豊富な小雪とベルが、興味津々でアザゼルに視線を向ける。

 

「え? え? ・・・アザゼルって先生やれるの? どんな教え方?」

 

 ナツミもよくわかってないみたいだが、興味がわいてきたのか食事の手を止めてアザゼルの方に視線を向けた。

 

「いや、大したことは指導してねぇよ?」

 

「いや、別の意味で大したことを1人に対してしたと思う」

 

 主にイッセーに対して。

 

 実際、はたから見たとしても結構すごいとは思う。

 

 部長は下手に過激なトレーニングなどはさせず、今の実力をまともなトレーニングで伸ばす方向。個人の力以上に「王」としての資質を強化するため、レーティングゲームの勉強の方を中心としている。

 

 木場と俺は禁手の延長。実際かなり強力な能力なので、持続時間が長ければ長いほど効果は発揮するだろう。俺もこのトレーニング中はしっかり鍛え上げ、とりあえず数日ぶっ続けで使えるレベルにはできている。

 

 ゼノヴィアはデュランダルの制御を中心に特訓。さらに、この休暇中ではできないと踏んだうえで、次善策も施している。

 

 アーシアちゃんは聖母の微笑の効果範囲の拡大。無差別一斉回復としての回復フィールドの形成と、個人を狙った長距離からの回復としての、回復オーラの射出の二つを訓練している。実際遠距離からの回復なんて悪質な嫌がらせといっても過言ではない。これはきわめて有効な戦術だろう。

 

 ギャスパーはとりあえず精神面から鍛える方針に決定された。・・・まあ、あの対人恐怖症は鍛える鍛えない以前の問題なので実に納得できる。

 

 イッセーは少しでも禁手にいたるべくハードトレーニング。伝説のドラゴンで現最上級悪魔のタンニーンとかいうドラゴンと、ワンツーマンで山一つ使って修行中だ。あいつ、死ぬんじゃなかろうか。

 

 で、朱乃さんと小猫ちゃんだ。

 

 この二人は方針が他と異なり、何でも使わないようにしている能力を素直に使うようにすることといわれてしまっている。

 

 朱乃さんの事情は知っているが、やはり小猫ちゃんもいろいろあったようだ。グレモリー眷属初期メンバーのバックボーンの厄介さに例外はなしということだな。

 

「なにを封印しているかは、気を使って言わないといてやるが、封印したままにするのはどう考えても問題だ。お前らだって、持ってるもん使ってるだろうが」

 

 アザゼルの言うとおり、確かに俺たちは持ってる能力を最大限に使っている。

 

 ベルや小雪はそれがあったからこそ腕利きのエージェントとして行動している。俺だって、魔術を運用して活動したからこそ、駒王町で相応の権力を振るえる立場になっているんだ。ナツミにもコカビエルと立ち向かえるだけの力があったわけだし、久遠だってその実力をシトリー眷属として最大限に生かしている。

 

 持っている物を活かしたからこそ、俺たちは戦いを切りぬいてこられたのは確かに事実だ。否定はしない。

 

「・・・だけどなアザゼル。少なくとも俺は、それ(持っている物)がきっかけで人生歪んだところだってあるんだぜ?」

 

 ・・・たぶんだけど、イッセーがいなければ俺はかなり人生間違えてただろう。

 

 イッセーがいるからこそ善性を持ったまま力を振るえる。いなければ、間違いなく俺は個人の利益のみを追求して、極悪な類になっていただろう。

 

 ナツミだって、前世の記憶と能力なんてものがあったから、自分の故郷を追い出されたんだ。それは決して否定できない。

 

「俺は嫌だぜ。・・・大事な先輩と後輩が、強くなる代わりに人格歪むだなんて、さすがにゴメンだ」

 

 人生を一歩間違えれば、俺たちはきっとフィフスみたいになっていたかもしれない。

 

 ・・・そこだけは、ちゃんと意識しなきゃいけないはずだ。

 

 二人が持っている力を使わないのは、それを使うのを心底嫌悪しているからだろう。使った結果たまったストレスで、人格が歪む可能性は間違いなくある。

 

 もしそれが突き抜けて、あの二人がはぐれになってしまったら・・・。

 

「・・・・・・心配するのはわかるがな、あんまり気にしなくても大丈夫だろ」

 

 考え込んでいた俺の頭に、アザゼルの手が乗せられた。

 

「オイそこのコレクター総督。俺はかなり真面目に話してんだぞ?」

 

「俺だって真面目だよ。大体お前がいい証拠だろうが。イッセーのおかげでとりあえず釣り合い取れてんだろ?」

 

 そのままグシグシと頭をなでられる。

 

 あのちょっとそこのオッサン? 俺中身30代! いい年こいてるんでそれやめてくれない!?

 

「リアスたちのとこにはイッセーがいる。・・・あいつはいい男だろ?」

 

「なんで疑問形だ当たり前だろう馬鹿じゃねえのお前いや確かにドスケベだけど」

 

「過剰に反応してんなオイ」

 

 当然のツッコミを入れたつもりなのだが、なぜかできの悪い息子をいたわる親のような顔でみられた。解せぬ。

 

「あいつはちゃんと信頼を築き上げてから本当の関係をつくるタイプだ。下手したら血を見るようなただのタラシとは一味違う。・・・アイツなら、朱乃を任せても大丈夫だろ」

 

「ちーとばかしスケベすぎるのがファックだがな。ま、ファックなだけの馬鹿よかマシだろ」

 

 うんうんと、アザゼルと小雪が頷きあう。

 

 ふむ、なかなかイッセーのことを評価しているじゃねえか

 

「まぁそりゃ当然だ。アイツが本来スペック高いのは当たり前だろう。俺の親友だぞ」

 

 最近は自分を磨く努力も忘れてないし、あれなら本当にハーレム王の一つや二つなれるだろう。ああ、半ば確信している。

 

「もちろん俺もスペック高いってことを証明して見せなきゃならないがな。・・・そういう意味じゃ本当に手伝ってくれて助かった。改めてありがとうな」

 

 なんかもう一度言った方がいいと思ったので、一度立ち上がると頭を下げる。

 

 本当に世話になった。おかげでだいぶ強くなったのが自分でもわかる。

 

 一人でも欠けていたら、ここまでの強さは手に入らなかっただろう。

 

 ベルは俺の格闘戦のトレーニング相手になって、動きで隙があるところなどを一から指導し直してくれた。

 

 小雪は先達として光力の扱いを丁寧に教えてくれた。光力に関しては悪魔側だと手がつけにくいので、これは本当に助かった。

 

 ナツミも、家事を手伝ったりしていろいろと支えてくれた。おかげで生活がだいぶ楽になっただろう。

 

「この手伝いの結果は必ず出す。生徒会とのレーティングゲームで、絶対に情けない姿は見せないと誓う」

 

 魔術の基本は等価交換。俺は魔術に携わったものとして、彼女たちの労力に見合った結果を必ず出して見せる。

 

「「「・・・・・・」」」

 

 頭を上げると、なぜか三人の顔が真っ赤になっていた。

 

「じ、実質・・・改めて言われるとアレですね。ちょっとカッコイイですね・・・はい」

 

 いや、自分のルックスはそれなりに正確に把握しているつもりだが、そこまで顔真っ赤にしなくても良いんじゃねえか、ベル?

 

「え、えへへへへ。・・・うん、どういたしましてぇ」

 

 おーい、ナツミ? てんぷら口からこぼれてるぞ。汚いからよくわからないけどにやけるのは後にしなさい。

 

「へっ。前から思ってたが、お前に手ー貸して正解だったな。その調子で行ってみな」

 

 激励ありがとうな小雪。・・・でも一番真っ赤なんだが?

 

「なるほどねぇ? 確かにイッセーの親友だなぁオイ」

 

 ・・・ものすごい妙な顔でこっちを見るなアザゼル。思わず光力を叩きつけたくなるだろ。

 

 なんだなんだ? なにがあった?

 

 思わぬ展開にちょっと戸惑う俺の背中に、ふと柔らかい感触が発生する。

 

「やっぱりいい男だねー。うんうん、キスしてあげよー」

 

 ついさっき聞いたばかりの声とともに、頬に唇の感触が。

 

「く、久遠!? お前起きてたのか!? いつから!?」

 

「んとねー。アザゼル先生が「持ってるもん使ってるだろうが」のあたりかなー」

 

 よし! 特に特訓内容は漏れてないな!?

 

「まー、会長の予想通り姫島先輩と塔城ちゃんは種族特性を使わせる方針みたいだけどねー」

 

 読まれてらっしゃる!?

 

「ま、助けてくれたし余計なことは聞かないよー。あ、お腹空いたからそれ食べていいー?」

 

 いうが早いか、久遠は答えも聞かずにてんぷらをつかみ・・・。

 

「・・・食べていいよねー?」

 

 ・・・誰もが見取れるような可愛い笑顔を浮かべやがった。

 

 まったく・・・。

 

 ま、いいか。

 

 



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仲間のフォローも、ちゃんとします!

 

 数日後、俺はグレモリー城に戻っていた。

 

 イッセーが社交ダンスを含めたそう言った上流階級的技術を習得するために指導を受けることになったからだ。

 

 全員忘れているとは思うが、俺は元会社重役(現社長)の息子だ。

 

 当然、そういった技術は身につけている。

 

 とはいえ身につけただけで一切使っていないこの技術、今の段階でどこまでできるか分かったものではない。将来的にも上級悪魔になれば必要になるだろうし、コネの一つであるヤクザ業界にも今後顔を出すこともあるかもしれないから、相応の礼儀作法は習得しておく必要がある。

 

 と、いうわけで俺もついでにおさらいすることにしたわけだ。

 

 とはいえ、野郎二人を同時にダンスの練習をするわけにもいかない。俺たち二人でダンスするという案もあったが、野郎二人がダンスするのも絵面的にアレだ。

 

 と、いうわけで。

 

「はい、ワンツーワンツー。そこでターンだイッセー」

 

「宮白さん、思った以上に完成されてますわね。・・・指導する余裕もあるなら問題はないでしょう」

 

「そ、それはともかく・・・なんで女装してるんだ宮白?」

 

 実に冷静に対応している俺とグレモリー夫人に対し、イッセーが猛烈なツッコミを入れた。

 

 ガワだけでも何とかしようと、ドレスアップしてみた。

 

 ・・・いや、グレモリー夫人とイッセーをダンスさせて、変なフラグ立ったらややこしいことになるとかそんなことを考えていたわけじゃないぞ?

 

 ちなみに俺は女装も似合う。顔と髪型のイメージが女性キャラからとられているのは内緒だ。・・・なんか電波が来た。

 

 これはとても必要な能力だ。性別が変更されるというのは、逃走する際相手の思考を大きくずれるから有効だ。性別の違いで入りにくいところにも潜入できるから、情報収集は格段に便利になるしな。

 

 それに、イッセーに彼女ができないまま見栄を張るという可能性もあったからな。ボイストレーニングもしっかりやっているから隙はない。

 

「しっかし飲み込み早いなイッセー。俺、ここまで習得するのに2・3日かかったんだが」

 

「え、マジで? 宮白よりすごいってなんか照れるな」

 

 まさかこっち方面の才能でイッセーに後れをとるとは。ちょっと意外。

 

 まあ、トレーニングの方は前途多難のようだが。

 

 今の段階に置いて禁手の兆候は表れていないとのこと。これではヴァーリが来たらヤバいかもしれん。

 

 朱乃さんもふっきれていないようだし、そのあたりはどうも微妙なようだ。

 

 極めつけは小猫ちゃんだ。ふっきれていなのはもちろんだが、何とか使わずに済まそうと努力しすぎたのかオーバーワークで倒れたらしい。

 

 そう簡単には上手くいかないということか・・・。

 

「・・・あの、一つ聞きたいことがあるんですけど、良いですか?」

 

 イッセーも気になっていたのか、トレーニングがひと段落ついた時にきりだした。

 

「小猫ちゃんのことか。・・・こちらからも伺ってよろしいでしょうか、グレモリー夫人」

 

「・・・そうですね。あなた方はリアスの眷属になってからも間もないですし、知らなくても無理はありません」

 

 そういうと、グレモリー夫人は小猫ちゃんのことについて語りだした。

 

 ここら辺は原作と同じなのでざっくばらんにまとめる。・・・また電波が。

 

 猫の妖怪だった、幼少期の小猫ちゃん。姉と一緒に路頭に迷う

 ↓

 とある悪魔に姉がスカウトされる。姉、小猫ちゃんと一緒ならと承諾。

 ↓

 姉、才能をグングン発揮。妖術や仙術にも手を出す。

 ↓

 姉、仙術の影響で悪堕ち。

 ↓

 姉、主を殺して逃走。追手をことごとく撃退し現在も逃亡中。

 ↓

 小猫ちゃん、その影響で殺されかけるも、サーゼクスさまが庇って難を逃れる。そのご部長の眷属になり、今の名前に。

 

「・・・あの、奥様。我が主のめぐり合わせっていうか、窮地に駆けつける天運がものすごいことになっているのですが。なんですかこの主人公補正もどき」

 

「正直私達も驚いています。・・・まさか赤龍帝や転生者まで引き当てるとか、我が娘はサーゼクスよりめぐり合わせが良いような気が・・・本当に」

 

 ちょっとどんだけだよマイマスター!

 

 イッセーも大概だが、部長も大概だな!!

 

 しかも忠誠心一番低い俺だって、命かけることも考えられるレベルだということを考えれば、そのカリスマ性は間違いなく破格だ。

 

 アザゼルが、王としての側面を中心に伸ばそうというのも頷ける。部長はそっち方面の才能を強化することに徹底した方が良いだろう。俺らが独立した後も余裕で後釜を見つけられそうだ。

 

 しかし、それはそれとして小猫ちゃん・・・か。

 

 本当に、俺の同僚は過去にいろいろある連中が多すぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お見舞いに来たぞ小猫ちゃん!! これはお見舞いのケーキだ!!」

 

 夕方、いろいろと動いた俺は小猫ちゃんのお見舞いにやってきた。

 

 イッセーは既にお見舞い終了済みなので、一緒には行動していない。

 

 部屋の中には、看病している朱乃さんと、ネコミミを出した小猫ちゃんの姿があった。うん、可愛いな!!

 

「宮白先輩・・・」

 

「とりあえず、ある程度の事情は夫人から聞いたよ。・・・お互い大変だな」

 

 精神的にも参っているぽい小猫ちゃんの言葉を遮りながら、俺は近くの椅子に座る。

 

「まあ二人にとって、今回の特訓は非常に面倒なものなわけで、正直現在同情中」

 

 マジでその辺は同情する。

 

 トラウマになっているレベルなのでできれば避けたいのは当然だろう。

 

 今まで、使わずに封印し、これからも使う予定がなかったものをこの短期間で使おうだなんて、色んな意味で酷い話ではある。

 

 アザゼルも最初から長期的な視野を見ての話である以上、なにもこの休暇中にさっさと済ませろとは言わないだろう。なにも今回の夏季休暇だけで済ませようとは考えてないようだ。

 

 ・・・まあ、生まれ持っている物を使いまくっている俺が偉そうなことを言えた義理でもない。

 

 と、いうわけで。

 

「これ、見舞いのついでに用意してみたもんだけど、ちょっと見てくれ小猫ちゃん」

 

 俺は、これまでの特訓と研究のついでに作っていたものを持って来てみた。

 

「・・・これは?」

 

「試験的に魔術的措置を施しまくった個人携行用の杭打ち機の試作型だ。・・・強化しまくった結果、重量軽減魔術を使ってもなおものすごく重い」

 

 正直ここまで持ってくるのに苦労しまくった。

 

「戦車として筋力が強化されている小猫ちゃんならまだそれなりに持って使うこともできるだろう? ちょっと男のロマン的なものに偏ってるが、威力はお墨付きだ」

 

「・・・確かに、宮白先輩よりかはこれを使えるとは思いますが、それが何か?」

 

「そういう方向性もあるって言いたいんだよ」

 

 アザゼルの指導方針が間違っているだなんていうつもりはない。

 

 その人が持つ一番の才能を鍛え上げて、その才能を行かせる職業に就くのが、人生で最も成功しやすい方法であることは言うまでもない。

 

 ただ、俺は選択の自由をもつ一般人的思考を持っているのだ。

 

「小猫ちゃんが過剰に特訓してでも、持っている才能を使いたくないのは分かった。だけど、個人の肉体的な限界は確かに存在する」

 

 ガキの頃から鍛え続けてきたからこそわかる。

 

 残念なことに、ハードトレーニングに耐えられる限界というものは個人差がある。

 

 そして、その回復のための時間を取ってしまえば、時間は余計に消費してしまう。

 

 さらに最悪なことに、時間というものは一人に付き一日二十四時間という制約まである。

 

 そういう意味では、小猫ちゃんの行動は悪手だ。

 

 もし本当に今の力を使わずに強くなりたいというのであれば、フィジカルの強化以上に、戦い方としての強化を立てるべきなのである。

 

「聖杯戦争に参戦する以上、俺は皆を巻き込んでしまうから、小猫ちゃん達にはどうしても強くなってほしいと俺は思っている。・・・だけど、本当に心底嫌なものをちゃっちゃと受け入れろだなんて無理を言うつもりはない」

 

 それで小猫ちゃんや朱乃さんがゆがんでしまうのは俺だって嫌だ。

 

 もし過剰に負担を背負うのなら、それはまきこんだ俺が負うべき責務だ。

 

 だから、俺が頑張る。

 

「・・・魔術修練の一環で、それなりのオプション武装の製作準備は整ってる。・・・さすがに本腰入れる前に自分の強化を終了しておきたいけど、どうしても嫌だって言うならフォローできる武装の作成は考えてある」

 

 幸い、アーチャーは可愛いが大好きな人種だったので協力は取り付けてある。

 

『もう少し上から目線で言ってもいいのよ。・・・サーヴァントに対する扱いがある意味でなってないわね』

 

 などと微妙にたしなめられたが、まあOKが自発的にもらえたならそれに越したことはない。

 

「才能を使いたくないっていうなら、それ相応のやり方ってものがある。・・・ただやみくもに体をいじめるのは、やめような」

 

 そっと小猫ちゃんの手を取って、俺はなるべく優しく告げた。

 

 自分で自分の首を絞めているといわれたら、それまでかもしれない。

 

 だけど、前世の記憶なんて持っている(正真正銘の異端者な)俺を受け入れてくれる仲間の苦痛を、黙って見ている真似も俺にはできない。

 

「朱乃さんの方もプランは考えてあります。・・・まぁ、気長にとはいえませんけど、あせらずじっくりいきましょう?」

 

「兵夜くん・・・」

 

「宮白先輩・・・」

 

 なんかものすごい感動されているのが照れくさい。

 

 まあ、まだ特訓期間もあるわけだし、それなりに考えるとするか。

 

 ・・・さて、正式レーティングゲームまでに、何とかし上げるとしますかね?

 




本作品においては、味方キャラクターの強化も当然視野に入れております。

とりあえず朱乃と木場の強化プランは完了済みです。どちらもVS生徒会でお披露目する予定。


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オカ研 合流です!

 

「・・・しっかし、この夏休みは観光とは無縁の生活だった」

 

「どこがかしらね。・・・湖のほとりで特訓していた上、こんな城に何度も泊まれるのなら一般人にとって豪遊でしょう」

 

 アーチャーにバッサリ切られて、俺はちょっと落ち込んだ。

 

 とはいえ、今までの夏休みに比べればおおむね忙しい夏休みであることは言うまでもない。

 

 そして、信頼できる仲間と共に異文化を堪能できたところからも、楽しめた夏休みでもあるわけだ。

 

 特訓そのものもまあいい感じにできたと思う。光魔力の制御もだいぶ楽になったし、十分戦闘に使用できるレベルだろう。

 

 武装についても相応のものを製造できた。未だ出来てないものも多くあるが、それは製造時間の問題であり、急ごしらえにしては十分なものが用意できただろう。

 

 近接戦闘についても鍛え直せたし、まあ十分な実力を付けれたのではないかと思う。

 

「・・・で、アーチャー。俺は今のところどんな評価だ?」

 

「まあ十分見る目があるレベルと言ったところかしら? 敵の格が分からない以上分からないけれど、魔術師相手なら相当の実力者でも勝ち目はあるわね」

 

 神代の魔術師からそこまで言われるとは、自信がつくってものだ。

 

 この評価を裏切ることが無いように頑張ろう。それだけの義務が俺にはある。

 

「おぉ! 宮白じゃん!!」

 

 みれば、イッセーも向こう側から手を振っていた。

 

 ボロボロにも程があるだろう。ジャージがもはや見る影もない。どんだけ酷い修行をしたんだろうか・・・。

 

 不要に様子を見に行って酷い目にあっていたら暴走すると思い、自粛していたのが仇になってなければいいんだが。余計なトラウマを背負っていないかすごい心配になってきた。後でそれとなくしっかり聞きだそう。

 

「よっ、イッセー。・・・マジで大丈夫だったかお前」

 

「言うな。ようやく解放されたっていうのにいきなり思い出すのはマジで勘弁だ」

 

 顔を真っ青にさせてイッセーはブルブル震えている。

 

 ・・・助けに行った方が良かっただろうか。

 

「と、とりあえず、頑張ったな、イッセー」

 

「お、おう。お前も頑張ってるみたいだな」

 

 話をそらすために、会話の内容を微妙にずらしていく。

 

「そういや明日はパーティだったな。よかったじゃねえか。逞しくなったし意外とちやほやされるかもよ」

 

「そ、そうか? マジで持てるかな?」

 

 イッセーの目の色が僅かに変わる。

 

 よし! ずらせた!!

 

「ほらお前、非公式とはいえあのライザーをぶっ倒したんだろ? コカビエルとかヴァーリとかとも引けを取らなかったし、間違いなく評価されてるだろ」

 

「お、おぉ・・・。そうなのか?」

 

 イッセーが少しずつスケベな顔になっていく。

 

 今こいつの頭の中には、ドレス姿の美女のおっぱいの感触がリアルタイムで入力されているのだろう。

 

「大丈夫! 伝説の赤龍帝が悪魔になったって時点でネームバリューは抜群なんだ!! お前は間違いなくリアス・グレモリー眷属のエースとして認識されてる!! モテるぞ、間違いなく!!」

 

「・・・いよっしゃぁああああ!!! 兵藤一誠のハーレムライフは目前だぁあああっ!!」

 

 完璧に立ち直ったイッセーを見て、俺はほっと息をついた。

 

 まあ実際、イッセーはそろそろモテ始めてもいいかもしれん。

 

 元々スケベさえ除けばこいつはそれなりにスペックは高い。駒王学園に入学し、平均点を取れるっていうのはどっちかといえば勉強できる方だし、ライザー戦について特訓したこともあって身体能力だってメキメキ上昇している。人間性については本当に唯一の欠点(スケベすぎる)が酷過ぎるからモテてないだけだ。

 

 真面目な話、もう少しエロ方面に理解のある人が多い環境だったら彼女の一人ぐらい普通にできてるとは思う。実際部長も朱乃さんもエロに対して許容値が高いし。

 

 悪魔業界はハーレムが認められるぐらいだし、こいつは間違いなくモテ期に突入すると思うんだが・・・。

 

「やあ。二人とも顔つきが少し変わったね」

 

「イッセーは逞しくなったな。ああ、さすがは私の認めた男だ」

 

 同じくジャージがボロボロになっている木場とゼノヴィアが少し離れたところから近づいてくる。

 

 木場がイッセーを見て頬を染めていたり、ゼノヴィアがもはや妖怪包帯女と化していたりするなどツッコミどころは多かったが、しかし続々集結していっているな。

 

「帰って来たようね、皆」

 

 城の入り口から、部長が悠然と姿を現す。その後ろから朱乃さんたちもついてきていた。

 

 なんかテレビで決戦前に主人公たちが結集するシーンみたいだな。・・・レーティングゲームまでまだ少し日が空いてるんだが・・・。

 

「眷属が集結するのも二週間ぶりね。・・・とはいえ、皆強くなったと思うわ。誇らしいことね」

 

 俺たち全員を見渡して、部長が強気な笑顔を浮かべる。

 

「さあ、シャワーでも浴びなさい。・・・おかえりなさい、私の可愛い下僕たち」

 

 数週間の特訓を経て、ついにグレモリー眷属は結集したのだ。

 

 さあて、どれだけ頑張れるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・もう初エッチでもした方が手っ取り早いんじゃないか?」

 

「お前はそれでいいのかよ」

 

 アザゼルからツッコミが入った。イッセーを女湯に叩きこむようなエロ親父とは思えないツッコミだな。

 

 ちなみにこれは、イッセーが禁手に至れなかったことに対するアザゼルの発言が原因だ。

 

 イッセーの部屋に集まって修行の内容について話している。

 

 イッセーは特に山にこもり切ることに成功したことで全員に驚かれている。アザゼル自身、終了まで過ごしきったことには驚いていた。

 

 木場もゼノヴィアもちゃんとした寝床を確保していたわけだし、俺に至ってはラージホークの居住性能を堪能していたわけだ。城で特訓していたメンバーは、当然豪華な生活を過ごしながらトレーニングしている。

 

 昔から思っていたが、こいつ適応力の高さは非常に高いな。俺を筆頭としたイレギュラーな立場を受け入れる能力から理解していたが、状況の変化に対応しすぎだろう。この世界に起源があるのなら、間違いなく「適応」がこいつの起源だ。

 

 挙句、最上級悪魔のドラゴンに追い回されるという地獄以外の何物でもないハードトレーニングも完了している。

 

 俺だったら逃げてる。間違いなく逃げてる。

 

 だが、それだけの過酷な特訓をしていたのにもかかわらず、イッセーは禁手に至れなかった。

 

 しかしアザゼルは特に動じていたわけではなかった。

 

 と、いうか予想の範囲内だったようだ。この反応から考えて、この夏休みの特訓で禁手に至る可能性は最初から低かったらしい。実際当然だと思っているような感じで、イッセーをフォローしていた。

 

 曰く、禁手に至るには相応の劇的な変化が必要だということだ。

 

 言われてみれば非常に納得がいく。

 

 過去の苦しみを乗り越え、死に別れたはずの仲間たちとの邂逅を経て覚醒した木場の聖魔剣。自分と同じ世界の、決定的に違う転生者と相対し、己の生き方を決めたことで発現した俺の光魔力。

 

 正真正銘、精神的に劇的な変化だ。それが均衡を砕く者である禁手(バランス・ブレイカー)の条件。意思の力で動くとされる、神器の扱いの究極系なのだろう。

 

 ならばイッセーの精神に劇的な変化がなければ禁手には至れない。

 

 そう考えれば、イッセーが童貞卒業することが覚醒の近道ではないかと考えるのは、別におかしなことでも何でもないだろう。

 

 こいつの並みはずれたスケベ根性と、エロに対する渇望から考えて、始めて女を堪能するというのは、自分で行っても頭痛くなるし木場にも悪いが納得できることではある。

 

 アザゼルもその意見には賛成だからこそ、あり得ないではなくそれでいいのかと言ったわけだ。

 

 実際、こいつのスケベ根性を理解しているオカ研メンバー全員が、程度はともかく思わず納得した表情を浮かべている。

 

「・・・アザゼル、今からでも女を調達するとかできないか? いや、マジで」

 

 思わず小声でアザゼルに相談してしまうぐらいには、俺は本気だった。

 

 さすがにそこまで考えるのは想定外だったのか、微妙にアザゼルは引いていた。

 

「お前マジすぎだろ。っていうか、それだったらわざわざ調達する必要無くないか?」

 

「いや、そこまで行くと一気に進展しそうじゃん? ・・・今のイッセーには刺激が強すぎる気がするんだよなぁ」

 

 あえて様子を見ると決めている手前、俺自身の意思で発展させるのはさすがにまずい。

 

 ベタ惚れ状態の部長達で初体験させると、間違いなくそのままゴールインしそうなんだよなぁ。

 

 そんな俺の後頭部に、静かに不吉なオーラを放ちながら、手が置かれた。

 

「兵夜? ・・・あなたは何を不吉な相談をしようとしているのかしら?」

 

 いかん!? 部長が静かに怒り狂っておられる!?

 

「イッセーの貞操は私が管理しているのよ? ・・・私の許可なく貞操を奪わせようだなんて、忠誠心の低い下僕をもって私は不幸だわ・・・」

 

「すいませんごめんなさい! 痛い痛い痛い痛い痛いっ!?」

 

 ちょ、あなた筋力トレーニングでも追加でしてたんですか!? 本気で頭がい骨が悲鳴を上げてるんだけど!?

 

 こ、これがアザゼルのトレーニングメニューの成果なのか!? 魔法使いタイプであるはずの部長をここまで肉弾戦向けの戦闘スタイルまで作り上げるとは、お、恐ろしすぎる!! さすがは堕天使の総督だ!!

 

「・・・部長に貞操を管理されていては、イッセーと子作りするのは夢のまた夢だな。先は長く険しい」

 

 ゼノヴィア、アホなことを言ってないで助けてくれ!!

 

「ごごごゴメンなさぁああああああああいっ!!」

 

 マジで死ぬぅうううううううう!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、マジで死ぬかと思った」

 

 部屋でつまみをつくりながら、俺はそうぼやいた。

 

 部長ってば意外と嫉妬深いというか独占欲が強いというか・・・。いや、お嬢様ならそれぐらいわがままなぐらいが当然か?

 

「兵夜が悪いよ。あれリアスも怒るって」

 

 オレンジジュースを飲みながら、ナツミがツッコミを入れてくるがとりあえずスルーだ。

 

 ちなみに、今日のつまみはできたてポテトチップス。グレモリー城にあった新鮮かつ高級な油と、とれたてかつ高品質なジャガイモを使っています。間違いなく人生最高級のポテチ。

 

 とりあえず味付けはシンプルに塩でいこう。

 

「・・・がんばってね、兵夜」

 

 ぽつりと、ナツミがそう言った。

 

「ん? なにを?」

 

「レーティングゲーム」

 

 困ったように微笑みながら、ナツミはそういう。

 

「事故とかあるみたいだから心配だけど、兵夜が勝ったら嬉しいもん」

 

「そう言われると照れるな。そんなに嬉しいか?」

 

「嬉しいよ。ボクを助けてくれた人が、こんなにカッコよくて強いって言えるんだもん」

 

 ものすごいニコニコ笑顔でいわれると、返答にマジで困る。

 

「ま、まあ・・・頑張る」

 

「うん、ガンバレ」

 

 ・・・ヤベ、ちょっと可愛い。

 

 てれ隠しに勢いよく油を切ってポテチを完成させる。

 

「ねえ、兵夜」

 

「なんだ?」

 

「もし、ボクがまたピンチになってたら・・・助けてくれる?」

 

 ・・・あの時は、その場の成り行きも多分にあっただろう。

 

 だけど、今のナツミは俺の使い魔だ。

 

 転生者なのに子供っぽくて、だからか割り切りができなさ過ぎて追い出されるぐらいついてなくて、だけどそれゆえに今を精いっぱい楽しめる、そんな少女だ。

 

 ・・・俺の、大事な転生者(同士)だと胸を張って言える。

 

 だけど・・・。

 

「イッセーが同じぐらい以上にピンチじゃなかったら・・・としか言えないな」

 

 こんなタイミングでいうことではないだろうが、しかし言っておくべきことではある。

 

 そう、そこは譲れない。

 

 宮白兵夜にとって、兵藤一誠は絶対だ。彼のピンチは、間違いなく宮白兵夜にとって最優先に考えるべきことだ。

 

 もし、イッセーとナツミのどちらかを天秤にかけるしかなかったら・・・。

 

「うん、その時はイッセーだよね」

 

 意外にも、ナツミは怒らなかった。

 

 けっこう驚いて振り返ると、ナツミは笑っていた。

 

「それでいいよ。ボクにとって兵夜は兵夜だもん。・・・兵夜にとってイッセーがイッセーなぐらい、兵夜だもん」

 

 思わず見とれるぐらい、笑顔だった。

 

「だから、そうじゃないときは・・・あの時みたいに、カッコよく助けてね?」

 

 とても悪いと思うのと同じぐらい、とても感謝してしまう、笑顔だった。

 

 



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お姉さん、襲来です!

 上級悪魔がごろごろいるパーティに出席するとなると、さすがに少し緊張するな。

 

 駒王学園の夏の制服でいいということで普通に来ているが、念のために前日にクリーニングに出しておいて正解だった気がする。本気出さないと。

 

 しっかし、パーティだってのに制服でOKとか意外とルーズというかゆるいというか。腕章は付けているが貴族のパーティがそれでいいのか?

 

 部長達はドレスアップするらしいし、ちょっと男の扱いが酷いような気がしてきた。

 

 まあ、上流階級の方々が多数出席するというのは非常に都合がいい。

 

 かつて、こういった社交界というのはコネクションの形成などにも一役買ったといわれている。つまり、ここで上手く立ち回ることは今後の関係に一役買う。すなわち俺たち魔術師(メイガス)が立場を確固たるものとするにあたり、この機会は最大限に利用しなければならない。

 

 とりあえず、四大魔王それぞれの派閥に一つずつ、あと敵対派閥である大王派にも一つ必要だ。堕天使や天使側も来るとか言われているし、ついでに確保できれば言うことはない。他の神話体系も来るらしいからついでに作れないか試してみるのもいいかもしれない。

 

 アザゼルやサーゼクスさまのコネクションができているとはいえ、それだけに頼るわけにもいかないからな。今後の部長やイッセーの政治的な関与もあるだろうし、俺個人が持っているパイプというものは必要不可欠だろう。

 

 ふっふっふ。敵対勢力からすれば、相手の情報を入手できるかもしれないパイプというのは必要不可欠だし、魔術理論による治癒業界とのパイプは間違いなく価値がある。

 

 その代表者の一人と化した俺は、間違いなくよだれを垂らすほどの餌になるはずだ。

 

 せいぜい喰らいつくがいい。俺もしっかりその肉を糧にさせてもらうからなぁ。

 

「くっくっくっく。ああマジで楽しみだ、楽しみだとも・・・」

 

 俺のコネクション能力を最大限に生かすチャンスがやってきた。万が一利用されていたとしても、アザゼルに相談すれば軌道修正は不可能じゃないから作りすぎなければリカバリー可能。

 

 いや、あまりアザゼルに頼るわけにはいかないだろう。アレはアレで組織の長として冷徹な判断もできるみたいだし、あまり手間をかけ過ぎれば怖いお仕置きぐらいは待っているかもしれん。

 

 イッセー殺害命令を出したから、普段からあいつにはハードな対応をし続けているからな。その辺は無理しないようにしなければ。

 

「おやー? なんか悪人みたいな顔になってるねー?」

 

 よく聞いた声に振り返れば、そこには久遠の姿があった。

 

 あったのはいいのだが・・・。

 

「・・・なんでタキシードなんだ、お前?」

 

「いや、パーティだからドレスアップしようかと思ったけどねー? 何かあったらドレスだと動きにくいし、趣向を変えてみましたー」

 

 そういいながらクルリと回転する久遠の姿は、意外とにあっていたりする。

 

「普段の女子制服とかもにあうけど、そう言った格好も意外とにあうな。ああ、マジ似合う」

 

「これでも生前()はこんな格好の方が多かったんだよねー。同僚がパンツ見えるのはどうかってよく言ってたからー」

 

 ・・・へえ。

 

 ちょっと意外だったな。

 

 転生者(俺達)にとって、生前の話はなんというかあまり積極的に話すようなことじゃないと思っていた。

 

 かつての能力(恩恵)を使っているとはいえ、既に終わった別の人生だ。あまりあまり話すようなことじゃないと俺は思っている。

 

「・・・俺が十代でくたばったんで前世持ちは以前は短命だとばかり思ったんだが、お前は結構長生きだったみたいだな」

 

 ベルや小雪も長生きしてないっぽかったんでそうだとばっかり思ってたが、同僚とかいうなら就職経験ぐらいはあるのか。

 

 そう思ったんだが、久遠はきょとんと小首を傾げてから首を振った。

 

「え? 死んだの十代だよー?」

 

「マジ? お前同僚って・・・」

 

「私のいた業界は魔法世界って言うんだけどねー。実力があれば小学生ぐらいでも活躍できたからー」

 

 なんだその実力至上主義。

 

「私も小学生の時から戦場で大暴れしてたんだー。15ぐらいには一部隊の隊長とかやらされてたよー。作戦はガンガンいこうぜばっかりだけどー」

 

「そ、そうか」

 

 ちょっと引くぐらいびっくりだが、こいつすごいな。そんな若いころから戦場で部隊長とか、周りもすごい。

 

「で、19の時に集中攻撃喰らっちゃってー・・・気付いたらおっぱい吸ってたー」

 

「・・・え? ってことはお前、合計で35か36!?」

 

 俺より3・4年長生きじゃねえか!?

 

「あれ? 兵夜くん年下ー? じゃ、今度から久遠お姉ちゃんって呼んでもらおうかなー?」

 

「いや、呼ばないけどな!」

 

 年上って感じしないからな! 語尾伸ばしまくりだからむしろ子供っぽく見えるし!

 

「・・・お、宮白に桜花さんじゃん! 桜花さんはスーツ着てるのか!」

 

 話している最中についつい歩いてたのか、イッセーの姿が見えてきた。

 

 隣には匙もいるし、どうやらシトリー眷属の一緒にパーティ会場入りするようだ。

 

 と、思ったが・・・。

 

「・・・なんで、匙の奴へこんでんだ?」

 

 なんか誰が見てもわかるぐらいブルーな状態に陥ってるんだが、どうしたんだ?

 

「いや、匙がいつも俺がおっぱいもめてるみたいに言うから、別に普段はお風呂入ったり寝てるぐらいだーっていったら・・・」

 

「お前一度死んだらどうだ?」

 

 それ同レベルだ馬鹿者。

 

 会長にマジ惚れしている匙からすれば、あまりの格差にショック死してもおかしくないレベルだろうに。自分がどれだけ恵まれているか一切理解していないなこいつは。

 

「うわー。完全に落ち込んじゃってるよー。おーい、元ちゃんー」

 

 久遠がつんつんとつついているが、匙は全く反応を返さなかった。

 

「・・・そういえばさ、桜花さんも教師目指しているのか?」

 

 イッセーがそんなことを言ってきた。

 

 何でも、匙が本気で教師を目指しているといったので、その辺が気になったらしい。

 

「そうだねー。神鳴流を人に教えるのとかは興味があるけど、退魔の剣術だし陰陽師の方たちに教えるのが筋だから、今はあんまり興味がないかなー」

 

 久遠はそう返すが、続けて妙にまじめな顔をして見せた。

 

「でも、今回の特訓とかでいろいろと皆に教えてみて、楽しかったかなー」

 

「そっか、じゃあ―」

 

「でも、それよりやりたいこともあるしねー」

 

 イッセーの言葉を遮って、久遠ははっきり言った。

 

「・・・会長の夢が学校をつくることならー、私の夢は会長を守ることだよー。そっちの方が、やっぱり大事かなー」

 

 その目は、とてもまっすぐだった。

 

「会長がいるから、私は『生きて』いるからねー。なにより会長を『生かす』ことが大事だよー。これは、絶対ー」

 

 だろうな。

 

 ああ、それはとても理解ができるとも。

 

 俺たちにとってそれは絶対だ。

 

 己の絶対的な芯を、俺たちはきっと自分に持たない。情けない話だが、生まれ変わったという精神的な鎖をはずしたのは、自分ではない誰かだ。

 

 ゆえに、己の芯は別にあり、それこそが絶対の律なのだろう。

 

 俺はイッセーの親友であり、久遠は会長の刃である。

 

「ああ、分かる。自分のことのように分かるぜ、久遠」

 

「だよねー。とっても、よくわかるよー」

 

 二人でうんうん頷いてみる。

 

 ああ、ここまで徹底ているのはあとはベルぐらいだろうか。

 

「・・・なんか、二人とも仲いいよな」

 

 ポツリと、イッセーが呟いて、俺たちは顔を見合わせる。

 

 ・・・ああ、確かに。

 

「・・・プッ」

 

 なんかちょっとおかしくなって、俺は少し噴き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パーティ会場はにぎやかで、思いっきり主賓のはずの部長達をスルーしていた。

 

 まあ、それはそれとして俺もかなりの人数にあいさつされて大変だった。

 

 どうやら俺の行動は相当有名になっていたらしい。おかげでコネクション形成に置いては大助かりかと思うが、そうでもない。

 

 自分が制御できないレベルのコネクションを形成しても無駄なだけだ。むしろ変な問題が起こった場合リカバリーに苦労する羽目になる。

 

 俺みたいなタイプは自分の力を制御しきってこそ真価を発揮できるタイプだし、この辺は気をつけなければならない。

 

 とはいえ想像以上にコネをつくろうとすり寄ってくる連中が多すぎて大変だった。それを切り抜けられたのも・・・。

 

「・・・ありがとうございますタンニーンさん。おかげで何とか切り抜けられました」

 

「いや、リアス嬢のお気に入りの一人だしな。これぐらいは気にしなくてもいい」

 

 このとても人のいいドラゴンのおかげである。

 

 最上級悪魔、元龍王のタンニーンさん。

 

 イッセーのワンツーマンコーチであり、ものすごい鬼のシゴキだったといわれているので警戒していたが、良いドラゴンだ。

 

 何でも悪魔になったのも他のドラゴンの生存のためだというし、かなりまともなドラゴンではないだろうか。

 

 ・・・少なくとも、スケベ超特急のイッセーやバトルジャンキーヴァーリよりかはましだろう。

 

 ちなみに、今はサイズがものすごい小さなチビドラゴン状態になっている。芸が非常に細かいな

 

「噂には聞いていたが、魔術師(メイガス)に興味を持っている物は多いようだな。・・・まあ、俺も興味がないといえばうそになるが」

 

「部長も信頼しているようですし、内容次第ですがご協力しましょう。あなたのような人物とのコネクションは貴重ですしね」

 

 優秀でまともな者とのコネクションは必要不可欠だ。と、いうかまともなコネクションじゃないと苦労が絶えないのは明確すぎる。

 

 そういう意味では非常に好都合なわけで、否定する要素は一切なかった。

 

「しかしイッセーはどうなるんでしょうね。・・・禁手に至らなかったのはともかくとして」

 

 最悪あのアザゼル製アイテムを使えばいいわけなので心配することはあっても心底あわてることはない。

 

 だが、それを聞いたタンニーンさんは頭を振った。

 

「そうもいかん。既に覇龍(ジャガーノート・ドライブ)に白龍皇が至っている以上危険なのは兵藤一誠の方だ。古来より先にあれに至った方が二天龍の戦いで勝利を収めてきている」

 

 ・・・マジか。よくわからんがイッセーは本当に大変だな。

 

「あ、兵夜くんだー」

 

 と、頭を抱えそうになったところにのんきな声が。

 

 みればタキシード姿の久遠が・・・久遠が・・・。

 

「むぐむぐ・・・ここのご飯美味しいねーはぐはぐ」

 

 すごい勢いで食いもん飲み込みながらこっちにのんきにやってきていた。

 

「お前な・・・。会長の護衛とかしたらどうだよ」

 

「いや、会長には副会長が常についてるしねー。・・・それにちょっと気になったから色々みてたんだよー」

 

 おいおいおい! まさかまたややこしいことになるんじゃないだろうな!! 嫌だぞ俺はこんな時でも騒動だなんて!!

 

「あ、心配しなくても今何かあるってわけじゃないよー。・・・私だったらこのタイミングで嫌がらせを考えるかなって思っただけー」

 

 ・・・意外とえぐいこと考えるねお前。

 

 まったく。いくらなんでもそこまでヤバいことにはならないだろう。

 

 これだけの規模のパーティともなれば警備体制だって整っているはずだ。少なくとも俺が警備主任なら整える。

 

 そんな状況で襲撃すれば一番最初に警備もうに発見されるだろうし、いくらなんでも俺たちがいきなり戦闘だなんてことにはならないはずだ。

 

 聖杯戦争の連中だって、単独行動で暴れるわけないだろうし大丈夫だろ。

 

 そう思っている俺の視界に、イッセーの姿が映る。

 

 ・・・表情が鋭くなっていた。

 

 この瞬間、俺は優雅なパーティを楽しむことをあきらめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後に気が付いたが、アサシンのサーヴァントがいるということが確信できる状況下で事前対策もなしにのんきにできるわけもないということに気づいたのは少し後のことである。

 

 いささかうっかりが過ぎたと反省している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 畜生!

 

 状況が明らかに最悪だ。

 

 今俺達の目の前には、ヤバい連中が三人もそろっている。

 

「やれやれ。尻馬に乗る形でやってきたらややこしいことになってきたなこれが」

 

 1人はフィフス。

 

 なんでここにいるのかまったくわから無いけど、こいつが厄介なのは皆から聞いて知っている。

 

「いやいや。俺達総出で相手になったらあっという間に何とかなるだろ? 赤龍帝もあきらめとけって」

 

 1人は美侯。

 

 面白半分にこの会場にやってきたヴァーリの仲間。

 

 真面目な話、俺じゃあこいつ一人だって相手にできない。

 

 そして最後の相手がある意味一番驚きだった。

 

「だめだめな仲間を持つと白音も苦労するにゃん。ちょっと同情しちゃうわ」

 

 ・・・小猫ちゃんの姉、黒歌。

 

 こっちの様子を見に来たとかいうふざけた理由でこんなところにいる。

 

 こいつら、遊び半分でパーティ会場を様子見してたばかりか、よりにも寄って小猫ちゃんを誘拐しようだなんて考えてやがる。

 

 そんなこと部長が許すわけもないし、俺だって認めるわけがない。

 

 だから抵抗しようとしてるんだけど・・・。

 

「・・・部長達になにをした!!」

 

「悪魔や妖怪にだけ効く、特性の毒霧にゃん♪ なんであんたに聞かないのかわからないけど、赤龍帝はすごいってことかにゃ?」

 

 辺りに漂っている霧を自慢げに見渡しながら、黒歌が俺を変なものでも見るかのような目を向ける。

 

 この霧のせいで部長達が動けない。

 

 くそっ! 俺一人でやるしかねえのかよ!!。

 

「・・・これは好都合ってことだなこれが。・・・どうやらまだ禁手には至ってないみたいだし、ここで殺すとするか」

 

 フィフスが俺を値踏みしながら前に出る。

 

 ここでこいつが出るのかよ!

 

 やるしかないのか。そう俺が思った瞬間。

 

 ―鳩尾にフィフスの拳がめり込んでいた。

 

「~~~~~~~っ!?」

 

 呼吸ができなくなって膝をつく。

 

 やばい、動けない・・・!?

 

「おいおい。もうちょっと様子見てもいいんじゃねえかい? 少しは楽しもうぜい?」

 

「勘弁してくれ。その結果俺達の首が閉まるだなんて俺は嫌だぜ? お前らは遊びが過ぎるんだよ」

 

 美侯の意見をバッサリ切り捨て、フィフスが槍を呼び出した。

 

 ヤバい。アレって確かマルショキアスのナツミちゃんを一発で倒したヤバいやつじゃないか!

 

「乳が減ると聞いて格上圧倒するような意味不明に強大な奴、ほおっておく趣味は無いんだよ。・・・死ね」

 

 誰が見てもビビるぐらいに魔力を集め、フィフスが槍を振り上げて―。

 

「イッセー伏せろ!!」

 

 ・・・その声に何とか頭を下げた瞬間、ものすごい勢いで何かが通り過ぎた。

 

「・・・増援だと!? 空間ごと切り離したんじゃなかったのか!!」

 

 槍でそれをはじきながら、フィフスが後ろに飛び退って黒歌に怒鳴る。

 

 それに答えたのは、ものすごい期待感をあおる俺の親友の声だった。

 

「いや、ギリギリで間にあったんだがこの毒霧だろ? 手持ちの宝石使って簡易防御礼装作るのに手間取ってな」

 

 俺をかばうように宮白が歩き出すと、なんか宝石がついた布を呼び出すと部長達の周りに置いていく。

 

「そこから出ないでください部長。・・・とりあえず解毒は無理でも持ちこたえられるはずです」

 

 それだけ言うと、その視線を鋭くさせてフィフスを睨みつける。

 

「俺の見ないところで親友と部長と後輩に手を出すとはやってくれるじゃねえか。・・・殺すぞ?」

 

「いやいや、殺すのは俺の仕事なんだがこれが。・・・とりあえずこんな風に」

 

 フィフスが不敵な笑顔で指を鳴らすと、その瞬間にあのドラム缶もどきがあっという間に何十体も現れて俺達を囲む。

 

 それを見て、宮白は両手を左右に付きだすと、二つのものを呼び出した。

 

 細長い筒が筒状に並んだ、テレビで見ると壮快な乱射シーンを作ってくれる例のアレ。

 

 ・・・ガトリングガン!?

 

「・・・ファイヤ」

 

 にっこりとしながら宮白が呟いた瞬間。二丁のガトリングガンが火を吹いた。

 

 目にもとまらぬ速さで連射される弾丸が、ドラム缶を鉄くずへと変えていく。

 

 そのままフィフス達にも向けられるが、フィフスは分厚い鉄板を呼び出してそれをやすやすと防いで見せた。

 

「・・・何を調達してるんだこれが。お前ファンタジーの住人だろうが」

 

「銃弾を丁寧に作る魔術師に言われたくないなバレットアルケミスト。DGTW-01、イーヴィルバレト。・・・雑魚敵用に作って置いて正解だった」

 

 見るからに重そうなものを軽々と持って、フィフスの嫌味をあっさりと宮白は流す。

 

 あっさりとドラム缶を圧倒した宮白だが、その姿は全然余裕が見えない。

 

 実際、そんなドラム缶なんか話にならない奴らが三人も残っている。

 

「あらあら。白音には優秀なボディガードがついてるみたいだにゃん? お姉ちゃん羨ましいかも」

 

「いやいや、赤龍帝の俺ポジションは頑張ってるねぃ。その調子で俺たちともやってみるかい?」

 

 あっちもこの程度じゃ全然脅威と見てくれないのか余裕の表情を向けている。

 

 一人ひとりがヴァーリの仲間を名乗っても問題ない実力者ぞろい。

 

 いくら宮白が超強いからって、この数相手じゃ・・・。

 

「終わりだなこれが。アーチャーを呼ぶ前に潰すぜ?」

 

 一瞬で踏み込もうとするフィフスに、宮白は逆に嘲笑すら浮かべた。

 

「あいにくだったなフィフス。・・・俺一人だなんて誰が言った?」

 

 瞬間、毒霧がものすごい勢いで吹っ飛んだ。

 

 勝ち誇ったような笑顔すら浮かべる宮白を追いかけるように、後ろから足音が聞こえてきた。

 

「術式設置完了したよー。霧もふっ飛ばせたねー」

 

「なにやら様子がおかしかったのでついて来てみれば、こんなところで冥界に仇なす者たちと会いまみえるとはな」

 

「つーかあたしまで呼んでんじゃねえよ、ファック」

 

 俺達をかばうように立ちはだかる三つの影。

 

 タキシード姿の桜花さん。

 

 貴族服ごしでも体格のすごさが分かるサイラオーグさん。

 

 そしてドレス姿の小雪さん。

 

「・・・こんなそうそうたるメンツ連れて歩いたら問題が起きそうだったが、それ以上の問題で助かったというべきか?」

 

 ガトリングガンをフィフスたちに向けながら、宮白は不敵な笑みを浮かべる。

 

「数ではこっちが上だ。・・・お縄についてもらうぜ?」

 

 




出くわした人間をことごとく連れてきた兵夜ですが、超大物はあえて後詰に残した兵夜。

この判断が吉と出るか凶とでるか?


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激戦、やってます!

 正直な話、圧倒的という言葉が脳裏をよぎった。

 

 確かに敵は強大だが、あいにくこちらのほうが戦力では上だ。

 

 とはいえ油断はしない。

 

『アーチャー、悪いんだけど戦闘中』

 

『警備の連中に連絡したらすぐに行くわ。それまで持ちこたえなさい』

 

 理解が速くて助かる。

 

 いくら空間こと断絶して察知を遮断しようが、サーヴァントとマスターのつながりまでは立てなかったようだ。

 

 それが可能ならこちらも連絡することができる。そして連絡できれば対処は十分可能だ。

 

「・・・形勢逆転だなこれが。少なくとも、これで悪魔の連中には気づかれたということか」

 

 それに気づいているフィフスが溜息をついた。

 

 ―正直に言えば、ここでの戦闘は良策ではない。

 

 陽動の可能性を考えてアーチャーとタンニーンさんを置いておいたのだが、連れてきてたら速攻でこいつら逃げてくれただろうし失敗しただろうか。

 

 まあアーチャーは何とかなるから心配してないが、だからと言って避けれる戦いなら避けておきたい。

 

 数の差を理解して逃げてくれると助かるんだが・・・。

 

「・・・大王の息子が一番危険か。ほかは任せたぜ、これが」

 

 どうやら逃げる気はないようだ。

 

 フィフスが首をコキコキと鳴らしながら、鋭い視線をこちらに向ける。

 

「歴代一の無能でありながら、体術においてすでに冥界でも有数の領域へと到達しつつある時期大王。・・・相手にとって―」

 

 その瞬間の動きを、俺は認識することができなかった。

 

 フィフスの姿が揺らめいたかと思った瞬間、すでに奴はサイラオーグ・バアルの眼前にいた。

 

「―不足はない、これが!!」

 

 ―次の瞬間、同時に二人の姿が掻き消えた。

 

「・・・へ!? ちょ、どこ!?」

 

「あっちだよー」

 

 久遠が指さす方向に視線を向けた瞬間、視界に入った木が砕け散っていた。

 

「・・・久遠、解説」

 

「回し蹴りを叩き込んだフィフスが、サイラオーグさんにその足をつかまれて投げ飛ばされたんだけど、その勢いを利用して投げ飛ばされるより先に膝蹴り叩き込んでもろともに吹っ飛ばしたあと、そのまま高機動打撃戦に突入したんだよー? 見えないー?」

 

「見えるか!?」

 

 あれ!? あいつあんなに早かったっけ!?

 

 驚愕に震える俺の耳に、フィフスの毒づく声が聞こえてくる。

 

「くそが!? この短い期間ながらも地獄のごとき戦闘経験を積んで覚醒した俺の格闘センスをもってして互角だと!? どれだけ強いんだオイ!?」

 

 ・・・そりゃそうだよな。鍛えてるのは俺たちだけじゃないよな、うん。

 

 敵だって当然勝つために努力するに決まっている。少なくともフィフスは聖杯戦争を繰り返し、さらにはその勝者となるために死に物狂いの努力を積んできているのだ。

 

 いささか見通しが甘かった。やはり聖杯戦争は甘くはない。

 

「すまんが、俺はこいつを抑えるので手いっぱいだ。そちらは任せるぞ!!」

 

 そのフィフスの攻撃をすべてさばき切りながら、サイラオーグ・バアルの声が飛び、俺は我に返った。

 

 そうだった、敵はまだほかにもいるわけで・・・。

 

「かっかっか! そんじゃぁまあ、こっちも始めようかい?」

 

「待ちくたびれちゃったにゃん。ちゃっちゃと終わらせちゃおうかしら?」

 

 ・・・うわぁ、明らかに相手したくないオーラを出しながら敵が本気を出してくれちゃってるよ。

 

「とりあえず、初手から偽聖剣発動!!」

 

 素早く偽聖剣を取り出すと全身に展開する。

 

 敵の能力がどれぐらいあるかは不明だが、しかし警戒するに越したことはない。

 

 と、いうよりあのぼくがかんがえたさいきょうのはくりゅうこうの同僚が弱いわけがない。

 

「ヴァーリの野郎はいねーみてーだな。ファックな話だが、お前ら片づけたら出てくるのか?」

 

「会長に迷惑がかかる前に片づけたいねー。早めに終わってくれるー?」

 

 二人の敵を囲むように、小雪と久遠が俺の左右から歩き出す。

 

 小雪からは風が吹き荒れ、久遠からは気の流れが俺でもわかるぐらい活性化している。

 

 その本気モードを見ても、美候と黒歌は余裕の表情を崩さなかった。

 

「いいねぃ。正直暇つぶしのつもりだったけどよ、こりゃもう少し楽しめそうじゃねえか」

 

 好戦的な笑みを浮かべながら、美侯が手に持っている棒を軽く回しながらこっちをにらむ。

 

「正直赤龍帝がへぼくでがっかりだったんだ。アンタらはもうちょっと楽しませてくれよな?」

 

「そうか、悪いが」

 

 俺は両手の指に結晶を展開する。

 

 宝石魔術で宝石が使われるのは、歴史を経た鉱石類は魔力をためるのに非常に都合がいいからだ。

 

 それを利用して、石炭や古い地層に合った異物をこの世界の錬金術で結晶化したこの結晶体は、宝石魔術の運用においてコストパフォーマンスを含めればはるかに凌駕する。

 

 大量に供給できる魔力を利用して大量生産したこの結晶体があれば、俺は大型グレネードをはるかの凌駕する攻撃力を連発できる。

 

 俺はそれを振りかぶり―

 

「こっちは速攻で片を付ける!!」

 

 ―美候の真上から投擲した。

 

 別段そんなに難しいことはしていない。

 

 擬態の聖剣の力を使ってダミーを作り、さらに透明の聖剣を使って姿を消した(本体)が翼を使って上空に移動していただけだ。

 

 敵の感知能力をごまかすために二人には派手な演出をしてもらったが、さてどうなる。

 

「あいにくだったねぃ! 気でわかるんだよこの程度は!! 筋斗雲!!」

 

 魔力の波動を突破して、美候が雲みたいなものに乗りながらこっちに突っ込んできた。

 

「いくぜ如意棒!!」

 

「うぉっと!!」

 

 とっさに装甲版を呼び出してそれを足場に飛び跳ねる。

 

 次の瞬間には装甲版は一瞬でひしゃげ、同時に大爆発を起こした。

 

 ・・・リアクティブアーマーにしておいて正解だった。目くらましといやがらせぐらいにはなる。

 

 とはいえ敵の戦闘能力は予想以上に強大だな。

 

 フィフスがサイラオーグ・バアルを一人で相手にできるというだけで計算外だが、こりゃもう少し敵の能力を上方修正したほうがいいか。

 

破壊(ディトラクション)ッ!!」

 

「ちょいさぁ!!」

 

 こちらから跳び蹴りで打って出れば、美候は予想していたようで素早くそれを受け止める。

 

「セイバー相手に遣り合っただけあるじゃねえかい。こりゃ結構楽してそうだ!!」

 

 基本的にはパワータイプ。ただし和平会談の時に転移して離脱したことから考えて、戦術を運用したウィザードタイプとしても運用可能といったところか。

 

「そうかい、ただし―」

 

「言っておくけど二対一だよー」

 

 その真後ろから久遠が一瞬で現れて切りかかった。

 

「おっと!」

 

 身をひねって交わした美候はそのまま一回距離をとる。

 

 だが、とったはずの距離を久遠は一瞬で詰めていた。

 

「斬岩剣ー!」

 

 見かけ以上の破壊力をもった攻撃が如意棒とぶつかり合い、激しい音を立てる。

 

 連続して攻撃が響き渡り、あたりに激しい騒音が響き渡った。

 

「やるじゃねえかい! 嬢ちゃん本当に駒価値1かぃ!?」

 

「それほどでもー! そっちも将来が楽しみだねー!!」

 

 なんか攻撃で分かり合ってる二人を見ながら俺は上空に回り込む。

 

 もしもの時はイッセーたちの援護もする必要がある。こちらに意識を振り切るわけにはいかなかった。

 

 さて、小雪は大丈夫だろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で、信じられないような光景が繰り広げられていた。

 

「にゃにゃにゃ!? なんでこっちの位置がまるわかりなのよ!?」

 

「誰が敵に理由を教えるか、ファック」

 

 小雪さんが黒歌に向けて正確な狙いで銃を撃っている。

 

 ただし、その状況が一味違った。

 

 黒歌は霧の中に隠れながら、さらに分身して攻撃してきているのだ。

 

 どれが本物か俺には全く分からないし、なんでも気を使ってごまかしてもいるらしい。

 

 しかし小雪さんは撃つのに戸惑ったりしない。

 

 しかもすべての攻撃が本体を狙っているようで、黒歌はさっきから混乱状態だ。

 

 もちろん黒歌も攻撃してくるが、小雪さんはすべて見切って紙一重で交わしている。

 

 時々こっちにも飛んできてはいるが―

 

「危ねーぞ」

 

 暴風で体ごとずらされて安全な場所まで移動されている。

 

 完璧に小雪さんのペースだった。

 

「相性がファックなまでに最高だな。あたしはそういうステルスには強いんだ」

 

 ものすごい肩すかしをくらった感じの口調で、小雪さんは断言する。

 

「とっとと逃げるなり降参するなりするんだな。上のファック猿は、あたしの仲間が片づけるぞ」

 

 分身の一人に素早く狙いをつけながら、小雪さんはそうはっきり言った。

 

「なるほどねぇ。確かに、このやり方じゃぁ勝ち目がないわね」

 

 黒歌は肩を落とすと分身を一斉に消した。

 

 残る姿は小雪さんがにらみつけていた1人のみ。

 

 てっきりあきらめたのかと思ったら―

 

「・・・じゃあ、やり方を変えちゃうにゃん♪」

 

 両手からものすごい力が集まってくるのがわかった。

 

「ヴァーリから聞いてるわよ。あなた、攻撃力が足りないんでしょ?」

 

「それがどうした。てめーのスペックはたいがい知れた。あたしの火力なら十分殺せる」

 

 静かににらみつけながら、小雪さんは動じない。

 

「相手を殺すのに必要なのはファックな火力じゃない。必要最低限の火力とそれを当てる技術だ」

 

「じゃあ聞くけど、あなたこのミックスされた一撃を相殺できるのかにゃ?」

 

 黒歌の言葉に、小雪さんが固まった。

 

「このアマ・・・っ! もろとも吹き飛ばす気か!!」

 

 素早く銃を構えると、小雪さんは黒歌に向かって一斉に打ちまくる。

 

 だがその弾幕は、突然盛り上がった土が壁になって受け止めてしまった。

 

 しかもドーム状になった土の塊は、つまり全方位からの攻撃を防げるということだ。これじゃあ通用しない。

 

「残念だけど効かないにゃん。直接耐えられなくても、防ぐ手段はおおいのよ?」

 

「この駄猫が・・・っ!」

 

 え、ちょ、ちょっとどういうこと?

 

 もしかして・・・。

 

「黒歌の奴、俺たちごと吹っ飛ばす気かよ!?」

 

「そういってるだろーがファックドラゴン!! いいから二人を連れて下がってろ!!」

 

 ライフル銃まで取り出しながら、小雪さんが怒鳴る。

 

 さっきまで余裕すら見せていた小雪さんの様子から、これがやばいのは確かに分かった。

 

「イッセー逃げろ! ちょっとやばいぐらい力がたまってるぞ!!」

 

 土のドームに宮白も攻撃を叩き込むが、しかしびくともしない。

 

「・・・くっそぉ!!」

 

 俺は地面を勢いよく叩いた。

 

 正直離れたいのはやまやまだが、フィフスに殴られたのがまだ聞いていて、両足はがくがくふるえている。

 

 とてもじゃないが、間に合わない。

 

 そうだ、結局いつもこうなるんだ。

 

 アーシアを助けに行った時がそうだ。宮白がフリードの奴を引き受けてくれたのにも関わらず、結局アーシアは一度死んだ。

 

 ライザーとの時だって、宮白が気付けを用意してなかったら結局負けてただろう。ライザーのブチギレっぷりから考えると、宮白もただじゃすまなかったかもしれない。

 

 コカビエルの時だってそうだ。確かに俺も頑張ったけど、あれはほとんど宮白が解決したようなものだ。

 

 宮白はこんな俺のことを確かに認めてくれているけど、しかし俺は結局ダメなままだ。こんな肝心な時に一回殴られただけで役に立たない。

 

 畜生・・・! 俺は結局この程度なのかよ!!

 

「イッセー先輩」

 

「イッセー・・・」

 

 毒で弱り切っている子猫ちゃんと部長の声が聞こえてくる。

 

 ホント情けないよなぁ、俺って・・・。

 

「足手まといの赤龍帝を持つと大変だにゃん。ちょっとはヴァーリを見習ったらどうかしら?」

 

 反論できない。

 

 一か月も地獄の特訓をしてきたにもかかわらず、結局なんの力にもなってねえじゃねえか・・・っ!!

 

 せめて立ち上がれば、足が動けば、弾除けぐらいにはなれるのに!!

 

「姉様には・・・わかりません」

 

 小さな声が、俺の耳に届いた。

 

「歴代赤龍帝のほとんどは、力にのまれて暴れるだけ暴れたそうです。ヴァーリ・ルシファーを含めた白龍皇も同様でしょう」

 

 まだ青い顔で、震えながら、小猫ちゃんはしっかりと土のドームの中に隠れているはずの黒歌を見据えた。

 

「イッセー先輩は違います。すごい力も持っていても、それに飲まれたりしないで、仲間たちのことを大事に思って、そして前を見て頑張ってます」

 

 子猫ちゃんが、いっつも俺のツッコミ担当というポジションを宮白と共有している小猫ちゃんが、俺をかばってくれている。

 

 違う。これはかばっているとかそういうのじゃない。

 

「姉様みたいに力にのまれて、それを振り回して周りを不幸にするような人には、一生わからないような存在が、イッセー先輩です」

 

 俺のことを、宮白のように評価してくれている・・・?

 

「ええ、小猫の言うとおりだわ」

 

 部長も、微笑みながらそれにこたえる。

 

「この子は確かにまだまだで、それにスケベすぎて困るときもあるけど、少なくともその力を使って悪いことをするような子じゃないわ。いつもまっすぐに走り出して、そしてみんなを引っ張っていく子よ」

 

 部長、小猫ちゃん・・・。

 

「この子をヴァーリ・ルシファーと一緒にしないでちょうだい。とてもひどい侮辱だわ。万死に値するわね」

 

 二人の言葉が身に染みる。

 

 だけど、今のままだとやばいのだけはわかる。

 

 想像以上に美候と黒歌はやばいやつらだ。

 

 今のままだと間違いなく俺たちはやられる。

 

 だけどどうする? 今の状況からいきなりひっくりかえせるような方法があるのか?

 

 そんな、一瞬で禁手に至るような衝撃的な出来事だなんて・・・。

 

 いや、あった。

 

「部長。お願いがあります」

 

「・・・何かしら」

 

 部長が首を傾げながらこちらに向く。

 

 ああ、一つだけ方法を思いついた。

 

 禁手に至るにはとんでもない衝撃が必要だと聞く。

 

 宮白は俺の童貞喪失を想定していた。

 

 しかし、それと同じぐらい衝撃がありそうなことを、俺はあの時温泉で聞いていた。

 

 ・・・女性の乳首は、ある意味でブザーらしい。

 

「・・・部長、乳首をつつかせてください!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out




ちなみに、小雪が敵の位置を把握したのは能力とは違います。また別の話で空間把握能力がシャレにならないのです。


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赤龍帝、見参です!

「・・・よくわからないけどわかったわ」

 

 部長がとんでもない了承をした。

 

「・・・いやさすがにそれはないだろ!!」

 

 俺は思わずツッコミを入れてしまった。

 

 いやいやいや当然だろう。

 

 確かにエロ方面で効果があるといったのは俺だよ?

 

 だけど乳首つつく程度でそこまで効果あるか? やるとしても今このタイミングでやるか?

 

 お前何考えてんの!? さすがの俺でもフォローできないからやめて!!

 

「イッセー先輩、やっぱり最低です」

 

「美候! 赤龍帝が頭おかしいんだけどどういうこと!?」

 

「俺にもわかんねえよ! 赤龍帝は俺たちとはなんか違うんだ、なんか!!」

 

「・・・あーもうやればいいんじゃねーの? ファックだけどやれよもー」

 

 小猫ちゃんが落胆し、黒歌が混乱し、美候が戸惑い、小雪に至ってはなんというか完璧にあきらめている。

 

 一気に空気がやばいことになった。

 

「・・・いけるねー。世の中にはキスするとビックリドッキリメカが手に入る場合もあるから、乳首つついて禁手に至ってもおかしくないねー」

 

「あれはそういう術式だったんだろうが!!」

 

 何やらのほほんと感心している久遠にツッコミを入れるが、さてどうなる?

 

 最悪の場合は令呪の使用も考えてたから、それなしで切り抜けられるならそれに越したことはない。

 

 だが本当に乳首をつついただけで禁手に至るとは―

 

「宮白!? 参考にしたいんだけどお前の初ブザーってどっちだった!?」

 

「覚えてねえよ!? っていうかそれ気にすることか!!」

 

「馬鹿野郎! 俺のファーストブザーだぞなめてんのか!!」

 

「戦場でんなこと気にするほうがなめてんだろうが!!」

 

 もうどこからツッコミを入れたらいいかわかんねえよ!!

 

「こうなったらやけだ! 部長、どっちがいいですか!?」

 

「どんなセクハラだ馬鹿ぁああああああああ!!」

 

 マジでひどすぎるなオイ!?

 

「もう! だったら両方ともすればいいじゃない!!」

 

 部長も顔を真っ赤にして大声で怒鳴り返した。

 

 ・・・それは盲点だった。イッセーもなんというか目が覚めたかのような表情をしている。

 

 もういいよ! だったら乳首ガン見するよ! ほら急げよハリーハリーハリー! それぐらいのボーナスは請求しても問題ないだろクソッタレ!!

 

 そしてなんというか、場の流れで全員がガン見する中―

 

「・・・いやん」

 

 ・・・駄目だ。空気がアレなせいで全然気分が乗らない。

 

「・・・これが、真理か」

 

 そしてイッセー。俺でもフォローできないことを連発するのやめろ。お前どんだけつつきたいんだ。

 

 しかも莫大なオーラが一斉に放たれている。あれ、これマジで成功?

 

『ハハハハハハハ! 本当に至りやがった!! ・・・クソッ!!』

 

 ドライグもなんだかやけになっている。うん、奴が実体化できたらうまい飯でもおごってやりたい気分だ。あと酒。

 

 爆発的に放出されたオーラが形になり、そしてかつて三度見た鎧と化す。

 

「これが真の禁手(バランス・ブレイカー)赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)!! 主のおっぱいつついてここに参上!!」

 

 うん、ひどい。

 

 圧倒的な反撃ムードだというのにもかかわらず、全然その気にならない。

 

「・・・ファック」

 

「・・・はあ」

 

 小雪と小猫ちゃんに至ってはため息すらついてるしね。

 

 とはいえまあ、これでバランスを大きく変えることはできたはず。このままなんとかすれば・・・。

 

「・・・ほう、これは面白いことになっているようであるな」

 

 聞き覚えのない声、新手か!

 

 っていうか、この明らかな質の違う感覚は、もしかしなくても!?

 

「よりにもよってここで英霊(サーヴァント)かよ!!」

 

 振り仰いだ先、空に浮かぶ一人の男。

 

 なんかものすっごくひげを蓄えた大男が、俺たちを見下ろしていた。

 

「お初にお目にかかる! ワシは騎乗兵のクラスで召喚された英霊、ライダーだ!!」

 

 ライダーのサーヴァントか。

 

 流れからしてヴァーリ一派の英霊だろうが、しかし面倒なのが出てきやがったな。

 

 ライダーのサーヴァントは宝具による派手な戦闘が持ち味。

 

 本来の聖杯戦争なら場所が場所だからうかつな行動はできないはずれサーヴァントだろうが、秘匿を気にしないでいい現状においてはかなり有望なサーヴァントだ。

 

「それでは開幕早々派手にゆくであるぞ! どっせいである!!」

 

 ライダーの掛け声とともに、さらに上空から小さな形がみえ、そして一瞬で巨大になっていく。

 

 あっという間に、氷山ぐらいはありそうな氷の塊が顕現した。

 

 いや、スケールでかすぎだろ。これが神秘の強大化による影響か、やばいな。

 

「いや、ちょっとまてよライダー!?」

 

「それ私たちも巻き添えにゃん!?」

 

「大丈夫である。貴様らなら余裕で対処できるであろう?」

 

 しかも敵味方巻き添えかよ!?

 

「オイちょっと待てさすがにやばいぞ!!」

 

 イッセーが禁手に至ったと思ったらこれかよ!?

 

 二転三転するにもほどがある。こうなったらやはり令呪でアーチャーを・・・。

 

『どいつもこいつもあわてるな。ほら相棒、右手をあの氷山に突き出して魔力を放て』

 

「え、あ、ああ」

 

 落ち着いたドライグの声が聞こえ、それにイッセーが従った。

 

 右手から強大なオーラが集まり、そしてはなたれ―

 

―ちゅどぉおおおおおおおおおん

 

「ウソだろ、オイ」

 

 一発で氷山を吹き飛ばした。

 

 今までの比じゃない出力だ。これが、正真正銘の神滅具(ロンギヌス)による禁手(バランス・ブレイカー)の底力か!!

 

 だが、それを見てもなおライダーは揺るがない。

 

「やるであるな! ではこれならどうであるか」

 

 両手を大きく広げるライダーの動きに合わさるかのように、先ほどのサイズではないものの、代わりに複数の氷山が発生する。

 

 ライダーというよりキャスターな気がするんだが、なんだこのチートっぷりは。

 

「さすがに全方位からの攻撃は防ぎきれまい! どうするであるか?」

 

「ちょ、さすがにずるいってそれ!!」

 

 さすがにイッセーも驚くが、とはいえどうする?

 

 こうなれば本体狙いで行こうと思った瞬間、俺にだけ聞こえる声が聞こえた。

 

―問題ないわ。

 

 次の瞬間、極太のビームが一斉に放たれ氷山を一斉に吹き飛ばす。

 

「アーチャーか!!」

 

「ええ、待たせて悪かったわね」

 

 いつの間にやら、ローブを翼のように広げたアーチャーが宙に浮いていた。

 

 よし! これで令呪を使わなくて済んだ!

 

「嘘でしょ? 空間ごと遮断したのになんでこんなあっさり・・・っ」

 

「残念ね。魔術で私の進行を止めることはできないわ。私がサーヴァントである限りそれは決定事項よ」

 

 ものすごい格上のオーラを出しながら、絶句している黒歌をアーチャーが見下ろした。

 

 うわあ、あーちゃーすごい。

 

 その悠然とした王族のたたずまいを前に、しかしライダーも負けてはいなかった。

 

「さすがは神代の魔女であるな、黒歌の空間遮断を意にも解さないとは、これは英霊(同朋)として黙っているわけにもいかんのである」

 

「それはどうも。だけど、私も人を魔女呼ばわりする愚か者には相応のお仕置きをすると決めているのよ」

 

 人でありながら人の身を超越した存在、英霊同士が真剣ににらみ合う。

 

 どこかなめてかかっていたレイヴン・セイバー組とは違う、正真正銘の英霊同士の対峙がここにあった。

 

 あわや激突というタイミングで、しかしそれを止める声が響いた。

 

「ノリノリのところ悪いが、そろそろ引くぜお前ら」

 

 体のいたるところに青あざを作りながら、フィフスが森の中から姿を現す。

 

 追ってサイラオーグ・バアルも姿を現すが、こちらは少し赤くはれている程度で青あざは一つもない。

 

 非常に派手な激戦を繰り広げていたようだが、どうやら形勢はフィフスが不利なようだ。

 

「おいおいマジかよ。ここからが面白いところだろぅ?」

 

「いやな、美候? 俺だってもうちょっとデータ取りしたいんだが、そうも言えない状況なんだよこれが」

 

 そう美候に返しながら、フィフスは視線を周りに向ける。

 

 森の中に、複数の悪魔の姿があった。

 

 まあ、大量に味方が待機している状況下で、戦力を引き連れないほど一対一にこだわる性分でもないしな。

 

 戦争は基本数をそろえたほうが有利。ましてや魔王すらくるパーティ会場の警備だ。戦力だって精鋭がそろっているだろう。

 

 少なくともその程度の知恵が回る程度には、フィフスは馬鹿ではないということか。

 

 美候もライダーもそれがわかったのか、戦意を収めるとその場に集った。

 

 とはいえ逃がすほど甘くはない。一瞬でも隙を見せればその瞬間にアーチャーの砲撃が飛んでくるだろう。

 

 さて、この状況下でフィフスはどう動く?

 

 そんなピンチな状態でありながら、フィフスは余裕をもってまわりを見渡すと、後ろを振り返った。

 

「・・・アサシン、仕込みはどうだ?」

 

「万事うまくいきましてございます」

 

 声とともに、黒の影が何もないところから姿を現した。

 

 色が黒いどころではなく正真正銘の漆黒の肌。そしてその顔を隠す髑髏を模した仮面。そしてアサシンという名前。

 

 ・・・間違いない。あれはアサシンのサーヴァント!

 

 さらにフィフスたちの後ろの空間が避けたかと思うと、その裂け目から一人の男が姿を現す。

 

「・・・遅いと思ってきてみれば、どういう状況です、これは?」

 

「おぉ! アーサーじゃねえか! タイミングぴったりだな!」

 

 いぶかしげな声を出す男に、美候が顔を輝かせて振り返る。

 

 状況から考えてヴァーリの仲間か? おいおいまさか総力戦とかいうオチじゃないだろうな。

 

 と、いうより奴が身に着けている二本の剣がやばそうなんだが。明らかに伝説クラスの聖剣のオーラを出してるし。

 

「・・・アーサーで聖剣って、まさかエクスカリバー最後の一本とかそういうオチじゃないだろうな」

 

「これはお目が高い。確かにこれは最後にして最強のエクスカリバー、支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)ですよ」

 

 ポツリとつぶやいた俺の言葉に、アーサーとかいう男が最悪の答えを返しやがった。

 

 寄りにもよってテロリストに伝説クラスの武器がセットかよ。奴が英霊を召喚してたら、高確率でアーサー王が出てきそうだ。

 

 アーサーは俺の姿を見ると、何やら興味深そうに眉を動かす。

 

「貴方がエクスカリバーの破片を武器につくりかえた方ですか。私はエクスカリバーの使い手の末裔でアーサーといいます。そして―」

 

 緊張感を一切消さない笑顔を浮かべながら、アーサーは手に持つ剣を見せつける。

 

「これが最強の聖剣、カリバーンこと聖王剣コールブランド。私ともども以後お見知りおきを」

 

 これだけの状況を前によくもまあこんな手の込んだ挑発をしてくれる。

 

 とはいえそんなトンデモアイテムが出てきたタイミングで、前に出るほど馬鹿ではない。

 

 最低限の情報が手に入るまでうかつな攻撃はできないな。今日のところはここで終わりか。

 

 フィフスのサーヴァントはアサシンで決まりだろうし、とりあえずのデータが見えた時点で納得するべきだろう。

 

 ぞろぞろと空間の裂け目に消えていく敵の中で、最後に残ったのはフィフスだった。

 

「じゃあそろそろお暇するぜ? ・・・それでは皆さんさようなら」

 

 ・・・やつめ、一体何を―

 

 

 

 

 

 

 

 

 アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 

「考えてやがるのか、だな」

 

「そういうことだ」

 

 警備の不手際を説教しているシェムハザをよそに、俺は宮白と一緒に酒を飲んでいた。

 

 まさか下のカジノで遊んでいたなんで口が裂けても言えないのだが、幸いそれには気づかれていない。

 

「で? お前はフィフスが何もしてこなかったことを警戒してるわけだ」

 

「当たり前だ。アサシンのサーヴァントは文字通り暗殺が主任務。酒飲んでヒャッハーはいってる連中の暗殺なんてもうチャンスタイムだろうが」

 

 ヤケ酒気味に勢いよく飲む宮白だが、つまりそれだけ頭を悩ませてるってわけだ。

 

「アサシンのサーヴァントは確かに戦闘能力は低いが、それぞれが暗殺に特化した奥の手を保有している。それを使えばトイレに行った要人の一人や二人は暗殺できただろうに、あの馬鹿何を考えている?」

 

「確かに実力と社会階級がある程度比例しているこの業界じゃその性能だと難しいだろうが、有能な中堅どころを数人やるだけでも十分な戦果が見込めるだろうに。何もしてこなかったのは怪しいな」

 

 あいつはその辺の戦略とかしっかり勉強してるはずだが、何考えてんだ?

 

 しかも堂々と手の内をさらしたってのもおかしい。

 

 あいつはどっちかっていうと手の内を隠して温存するタイプだ。あのタイミングで自分のサーヴァントが何かだなんて宮白にわざわざ教えるわけがない。

 

 むしろ教えることによって何らかのメリットがあるのかと考えるのが普通だが、さてどうなる・・・?

 

「やれやれ。若造どもは老骨の出迎えもできんのか」

 

 後ろからドアが開き、そして老人の姿が見えた。

 

 おお、誰かと思えば―

 

「オーディンの爺さんじゃねえか。元気してたか?」

 

「誰かと思えばアザゼルの若造か。三大勢力で仲直りしようとして、一体何をたくらんでおるのかのう?」

 

 相変わらず口の減らない爺だな。

 

「オーディン・・・と、いうことは、かの北欧神話の主神殿ですか。これは光栄です」

 

 一瞬で営業スマイルを浮かべた宮白が素早く俺の隣に並んだ。

 

 変わり身早いな、オイ。

 

「お初にお目にかかります、オーディン様。アザゼル総督の指導を受けている、宮白兵夜というものです。・・・こちら、わたくしたち魔術師(メイガス)が開発した治癒用のマジックアイテムのサンプルです。どうぞお納めください」

 

 そして流れるように営業トークしやがった。この男恐るべし。

 

「ほっほっほ。この男が例の転生者か? なかなか面白い坊主を教え子にしとるようじゃのう」

 

「これが意外とクソガキでなぁ。アンタも油断してると骨までしゃぶりつくされるぜ?」

 

「ハハハ。アザゼル総督、そんなお冗談はおやめください」

 

 俺と宮白は視線の外側で蹴りの応酬を繰り広げながら、表面上はにこやかにオーディンと話し合う。

 

「おぬしが維持しておるサーヴァントのアーチャーとかいうのはどこにおるのじゃ? えらい別嬪さんだと聞いて楽しみにしておったんだかのう?」

 

「現在はちょっと所用で外しておりまして。ただ彼女は神というものを苦手にしておりますのでいささか御不快に思わせてしまうかもしれません。会談がご希望でしたらもう少しお待ちを」

 

 微妙なセクハラ発言にも流れるように対処する宮白をかばうように、オーディンの後ろから別嬪さんが割って入る。

 

「オーディンさま! そんな下世話なことをしてはいけません! ヴァルハラの名が泣きます!!」

 

「本当に硬いのう。そんなんじゃから彼氏いない歴=人生なんじゃ」

 

「うわぁああああん! もう嫌だこのセクハラ爺! 私だって好きで彼氏いないわけじゃないのにぃいいいいい!!」

 

 そして即撃沈された!? なんだなんだ!?

 

「すまんのう。こやつはわしのお付きのロスヴァイセというんじゃが、どうも容量が悪くての」

 

「そんなことはありませんよ。たたずまいにも隙がありませんし、仕事にも真面目に対応しているじゃないですか。・・・元気出してください、きっとあなたほどの美人なら彼氏だって作れますよ」

 

 速攻で宮白はフォローに入るが、お前も美形だが彼女いなかったよな? フォローになんのか?

 

 その時だった、話し合っていた悪魔の一人が、急に膝を曲げた。

 

「ぐ・・・が・・・っ!?」

 

「お、おいどうした!? 大丈夫か?」

 

 しかも連鎖するように腹を押させる連中が続出する。

 

 ・・・しまった! まさかフィフスの奴、こっちを油断させてアサシンを戻らせたのか!?

 

 突然の発見を陽動にして暗殺を成功させようってハラか―

 

「は、腹が痛い・・・」

 

―ぴー・・・きゅるるるるる

 

 あれ? なんか違うぞ?

 

「ま、まずい、三日ぶりのお通じがこんなところで!」

 

「と、とい・・・れ」

 

「ぐぉおおおおおおおお! 酒を飲みすぎて腹を下した時のトラウマが!?」

 

 悶絶し始める一同の声を聴きながら、俺は宮白と顔を見合わせた。

 

「おい、これって・・・」

 

「・・・あの野郎、一服盛りやがったな」

 

 ああ、そうだろう。

 

 あのアサシン、なんであのタイミングで姿を現したのかと思ったら、下剤盛ってやがったな!?

 

 直接攻撃では暗殺できないと判断して嫌がらせに走るとか、なんだこの悪辣な精神攻撃!?

 

 と、そこに悪魔の一人が血相をかえて飛び込んできた。

 

「・・・た、大変ですサーゼクスさま!? トイレの大便器の八割が詰まって使えないとか報告が!?」

 

 俺は宮白とうなづきあうと、我慢できずに叫ぶことにする。

 

「「嫌がらせに走りすぎだろうが!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「反応から見て薬物の効果範囲はD3以上が必須ということか。・・・毒物による攻撃はコストパフォーマンスが悪そうだな」

 

「申し訳ありません。薬物による工作を得意とするこのハサンをもってしてもこの程度が限界とは、山の翁の名折れ」

 

「いや、これであいつらはお前()が毒物による暗殺を得意とするアサシンだと勘違いするはずだ。・・・おかげでこっちも動きやすくなる」

 

「承知いたしましたフィフスさま。では、我々が収集した裏取引の情報はいつ使いますか?」

 

「ああ、その辺のタイミングはお前に任せる。・・・お~い騎乗担当、キャスターの作ったあれは何とかなるか?」

 

「大丈夫です。慣らしは終わりました。ご命令あればいつでも行けます」

 

「ならよし。期待してるぜ、お前たち?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「御意。この百の貌のハサンにお任せあれ」」」」」」」」」」

 




 赤龍帝回と思わせてサーヴァント回でした。

 ヴァーリとフィフスのサーヴァントがついに判明。近いうちにばらしてもいいステータスは紹介します。


 ヴァーリのサーヴァントの設計コンセプトは「設定だけ聞いたらヴァーリとは合わない」をフィフスが狙ったサーヴァントです。逸話からはヴァーリが興味を持ちそうでしかも強そうなものをチョイスしました。

 能力そのものは真名を聞けば納得する、しかし現段階ではおそらく想定できないであろう代物です。結構試行錯誤でした。最初は「原作に対するリスペクトとしてアヴェンジャーっぽい設定の奴を1人出そう」などと考えていたのと、「神霊とかヴァーリが興味もちそうだけど召喚できないから間違いなく外れ引く」とフィフスがもくろんだ設定にして、「魔術を使う組織が神を再現しようとして生み出した改造人間」として、彼の名前と原作の展開を基に「オーディンとして祭り上げられた魔術使い」を呼ぼうかとも思いましたが、さすがい盛りすぎだと思い没に。


 一応ケイオスワールドのサーヴァントコンセプトは「Fateの作品展開が進んでも問題がない」「相対的に第五次のサーヴァントと遣り合ったらまず負ける」を前提条件としております。そのため正体を知るのも非常に難しいサーヴァントになっております。ご了承ください。・・・もし感想で正体あてた人がいたら、その人のリクエストを一つ聞いてもいいレベルです。


 一方フィフスのサーヴァントは、公式で反則ギリギリ扱いを受けたあのアサシンです。

 知らない方にもわかる説明をすると「マスターを殺す分にはまあ問題がないレベルで、数十ものサーヴァントに分裂する」というものです。・・・マスター殺し専門の英霊という条件を考えると、本当にチートだ。公式でも「マスターが勝ちを狙えばマジで優勝狙えた」といわれてたはずですし、そういう意味ではハサンリベンジとなる予定です。

 ちなみに直接戦闘に対する対策もキャスターがやらかしているのでお楽しみください。ぶっちゃけサーヴァント戦を可能とするマスターと組めば最有力優勝候補ではある。・・・この聖杯戦争、ほとんどのマスターが対サーヴァントできるけどな!!


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VS生徒会 第一ラウンド!

ついに勃発、レーティングゲーム!!

ん? ただでさえオカ研スペック高いんだし、策士(兵夜)までいるし生徒会は勝ち目なくね?

さぁ、それはどうでしょう?


アザゼルSide

 

「おーおー集まってんなぁ 各勢力がこんなに集まってるのを見るのも初めてじゃねえか?」

 

「てめーが寝坊しなけりゃ集まり始めるところまで見れたろうが、ファック」

 

 小雪にぼやかれながら、俺はVIPルームに遅れながらも到着する。

 

レーティングゲームを観戦するVIPルームに到着した時、すでにかなりの連中が集まっていた。

 

 まあ、宮白の武装開発に明け方まで付き合わされたので寝坊しただけだが。

 

 今日はリアスとソーナのレーティングゲーム当日。

 

 一応報告は受けたが、場所は駒王学園近くのショッピングモール。戦闘スタイルは短期決戦。陣地はリアスが二階のフードコートで、ソーナが一回の食品売り場。

 

 ルールで場所の大規模破壊が防がれているのが痛いな。禁手状態のイッセーを含めた、大火力が売りのメンツが戦闘不能になっている。ギャスパーの停止の魔眼も使用禁止だし、こりゃ謝ったほうがいいぐらい指導方針が裏目に出たな。

 

 小雪の奴も情報を見ながら、このゲームがどんな展開になるのか首をひねっていた。

 

「なーアザゼル。朱乃達が勝つとしたらカギはなんだ?」

 

「十中八九宮白だな」

 

 俺はそのあたりは断言できる。

 

 間違いなくソーナはイッセーを狙う。最強戦力でありチームの精神的主柱であるイッセーはチームの要だ。

 

 禁手こそ脅威だが、それだって二分間の使用不能時間がある。戦術としては色々言われるかもしれないが、大量の戦力で飽和攻撃すれば時間制限中に撃破することは確実にできる。超高速移動を行う桜花なら、単騎強襲で仕留めれる可能性は十分にある。

 

 加えて言えばつい先日禁手に至った赤龍帝っていうのがもう注目を集めきっている。これを叩き潰すことができればそれだけで試合に負けても勝負に勝てる。加えてハメ手で実力を発揮させずに倒すことができれば、ソーナの目的においては二歩も三歩も進むことができる。

 

 空腹状態で目の前にぶら下がった最高級の料理といってもいいだろう。それもメガ盛りだ。

 

 そして、それに気づかない宮白じゃぁない。

 

 あいつのことだ。ハメ手用の防護作は二重三重に用意しているはずだろう。

 

 宮白の対抗策がソーナの作戦を防ぎきるか、それともソーナが宮白の策を上回るか。

 

 勝負は極端に言って、その二つに絞られるといってもいいだろう。

 

 おそらく、そのあたりを理解している連中もこのVIPルームの中に何人かいるはずだろう。

 

 しかし魔王はもちろん俺やミカエル、さらにオーディンの爺といったそうそうたる面子だな。

 

「ここを襲われたらファックな事態になりそうだな、おい」

 

「まあ生半可な連中じゃ返り討ちだろうがな」

 

 そんなことを小雪と言い合いながら、俺たちは指定された席に座る。

 

「遅かったですね。実質欠席かと思いました」

 

「遅いよアザゼル! こないかと思ったんだからねぇ!」

 

 ミカエルの警護のため来ていたベルと、その膝の上に座って観戦していたナツミがそろって声をかける。

 

 なんていうか姉妹みたいで微笑ましいなオイ。

 

「悪かったな。ほれ、お土産のポップコーンだ」

 

「わーい! おいしそう!!」

 

 わき目も振らずにポップコーンに飛びつくナツミを見てから、俺は戦闘中の映像に視線を移す。

 

 すでに戦闘は派手になっており、複数の地点で戦闘が始まっていた・・・ってちょっと待て。

 

「ソーナの本陣は食料品売り場だよな? なんですでに木場が暴れてんだよ!?」

 

 俺の視界には、聖魔剣を生み出して戦闘を行う木場の姿が、確かに食料品売り場に存在していた。

 

「・・・兵夜が先制でリバーブローを叩き込んだのですが、実質、ソーナ・シトリーがクロスカウンターをぶつけてきた形になりますね」

 

 解説するベルをよく見ると、少し頬が引きつっていた。

 

 おいおい、一体何があったんだ?

 

「開幕からどんな駆け引きが始まってたんだよ? ちょっと教えてくれや」

 

「仕方がありませんね。・・・まあ、どうせわかることですしちょうどいいですか」

 

 そして、その説明は俺がくる十数分前の出来事を教えてくれた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことがVIPルームで起こる少し前、俺とゼノヴィアは駐車場まで到着していた。

 

「・・・よし、遮断障壁十枚目設置完了。全部解除すれば派手なエフェクトが発生するようにしたから、これで解除される頃には部長たちは撤退できるだろう。」

 

 いろいろな方法の遮断障壁発生装置のテストを率先して引き受けておいて正解だった。金をかけずに高性能の障壁を連発できるから非常にローコスト。

 

「しかし後ろ向きな考えだな。いくら私たちが()()()()()とはいえ、もう少し攻めて言ってもいいのではないか?」

 

「それは間違いだゼノヴィア。この勝負、イッセーが禁手に目覚めたことで勝って当然とすら言われている。そんな戦いでもし負けた場合俺たちの評価は地に落ちる」

 

 そう、そこが非常にやばいのだ。

 

 ソーナ会長の目的は、誰もが通えるレーティングゲームの学校を設立することにある。

 

 そして、学校とは入学したものがその教育方法において通用するようになる手段を教えるところだ。

 

 つまり、レベルを上げて物理で殴るのではなく、そういう手合いをカタにハメる方法を教えるところだ。

 

 禁手に目覚めた赤龍帝をこの試合でカタにハメることができればその時点で彼女たちの主目的は達成できるだろう。そのうえで王ととられて撃破されれば、ジャイアントキリングをしょっぱなからした王として、会長は一躍有名人になる。

 

 で、逆に俺たちはライザー撃破による高評価が一気に反転するというわけだ。

 

 ・・・何があっても敗北だけは避けねばならない。

 

 俺の推測が正しければ、会長はおそらくイッセーを本命とはとらないはずだ。

 

 この試合のルールで最も効果を発揮するのはテクニックタイプ。すなわちイッセーではなく木場だ。

 

 とはいえ赤龍帝を活動させなければ上から何を言われるかわかったものではない。しかし会長が正しい意味で勝ちを拾うためにはイッセーは最優先目標でもある。とても面倒なポジションであったりする。

 

 そのためハメ手対策に、ガスマスク代わりの礼装やら何やら装備させたからまあ直接攻撃で打破されない限りやられることはないだろうが、さてどうなることか。

 

 とりあえず、これだけフルに足止め準備を行っていれば、騎士と女王の高機動メンバーによるこっちを無視した特攻戦術だけは防げるはずだ。

 

「勝つことはもちろん大事だ。だが、戦闘っていうのは何より負けないことが一番大事なんだよ」

 

 そういいながら開けた場所に出たときに、俺は予想通りの人影を見つけてしまった。

 

「どうも、副会長。貴女がここに来ましたか」

 

「ええ、お久しぶりです宮白さんにゼノヴィアさん。木場くんがくるかと思いましたが、当てが外れたようですね」

 

 薙刀を構えた副会長にして会長の女王、真羅椿姫先輩が俺の目の前にいた。

 

 その隣にいるのは、会長の騎士である巡巴柄。

 

 確かこの二人は退魔の家系の出身だったはず。なるほど、連携を考慮に入れてこの組み合わせにしたということか。

 

 そして木場が本命だということも想定内。まあ、その辺は当然だろう。

 

 強化されすぎてこのルールだと本領を発揮できないイッセー。発動させることはできるが、本領を発揮すると負担が大きすぎる俺。

 

 切り札として転用するならば、禁手であり、かつテクニカルに動くことができる木場が本命なのは想定できる内容だ。

 

「まあいいでしょう。屋上には桜花が待機していますし、彼女なら一対一で撃破できるはずです」

 

「ならいいでしょう。今の木場なら久遠と戦うことはないでしょうし、とっとと本命をスパッと行かせていただきます」

 

 どうやら作戦は読まれていないようだ。

 

「・・・御託はいいだろう。私たちは戦う立場でこうして会いまみえたのだ。あとは剣で語るのみだ」

 

 ゼノヴィアは剣を抜き放って鋭い視線を向ける。

 

 その剣をみた生徒会の二人は、目を見開いて驚いた。

 

「・・・アスカロン!?」

 

 やはり驚くか。

 

 まさかアザゼルの発案でアスカロンが抜けることが発覚するとは思わなかった。おかげで今回のルールにおいてもゼノヴィアの高い聖剣使いの特性を殺さずに済む。

 

「じゃあゼノヴィアは剣士どうし仲良くやっていてくれ。副会長は俺が足止めする」

 

「了解した!」

 

 俺とゼノヴィアは視線を合わせることもなく、目の前のターゲットへと速やかに攻撃を開始する。

 

 ・・・会長たちは一つの致命的ミスを犯した。

 

 車が乱立するこの密集地帯において、薙刀は基本的に取り回しにすぐれない。

 

 素早くナイフを転送すると、俺は水流操作で懐まで加速して切りかかる。

 

 ・・・初手から大物を撃墜する!!

 

「まあ、あなたなら間違いなくこの状況下では私を狙うとは思っていました」

 

 副会長も薙刀を構えるとこちらをにらみ一歩を踏み出し―

 

「・・・とはいえ舐められたものですね」

 

 そのまま文字通り地面に沈み込んだ。

 

「・・・な!?」

 

 思わずナイフが空を切るが、しかしそんなことを気にしている暇はない。

 

 空間転移!? いやいやいやいや、この状況下で騎士だけ残すだなんていくらなんでも不可抗力すぎる。

 

 まさか同時に離脱したのかと思って視線をゼノヴィアのほうに向けて、そしてもう一つの驚愕に震えた。

 

 真正面から振り下ろされたゼノヴィアの剛剣を、巡巴柄が真正面から受け止めていた。

 

 ゼノヴィアの剣は威力重視で一撃が重い。そしてただでさえ伝説クラスの聖剣であるアスカロンは、イッセーのドラゴンの力を受けてさらに威力が増している。とどめにアザゼルの指導によってデュランダルのオーラだけを呼び出して剣の威力を高めるというダメ押しまで使用している。

 

 普通なら受け止められるわけがない。

 

 その原因は、彼女が持っている剣に合った。

 

「・・・聖吸剣、だと?」

 

 あれは久遠の神器だろう!? まさか貸出可能なのか?

 

 どうすれば可能なのかと思考が回転しかけた瞬間、俺はさっきを感じて前転する。

 

 その背中を刃がかすめた。

 

「・・・まあ、大体のところはあなたの想像通りです」

 

 いきなり俺の真後ろに現れた副会長が、薙刀を構えなおしながら警戒していた。

 

「複数の契約術式を使用することによる一時的な聖吸剣の貸与。桜花の発案でしたが有効だったようです」

 

「さすがにそこは想定してませんでしたよ。・・・ゼノヴィアにさっさと敵騎士を撃破させて、二対一でつぶす作戦でしたが仕方がない」

 

 さっきの空間転移の種はわからないが、しかしだからと言ってそれで戸惑うわけにはいかない。

 

 俺の駒価値は1、そして副会長の駒価値は9。

 

 試合終了まで足止めできればそれで十分。ここで釘付けにする!

 

 会長の撃破は任せたぜ、木場!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮白くんの策は完璧だった。

 

「構造把握の魔術で地図作ったから、木場は通気口から敵陣に侵入してくれ。さすがにそこまでは想定できないだろ」

 

 本当に一切妨害を受けることなく敵本陣に入れるとは思わなかった。相変わらず宮白くんは恐ろしい。

 

 なんでも建築物潜入で使い魔とかで使用したことがあるとか言っていた。人類社会の現代建築物がステージだと聞いた時点でこの強襲方法を構築したのだから恐ろしい。

 

 いまごろイッセーくんたちは正攻法で進行していることだろう。

 

 そちらに気を取られているすきに僕が潜伏し、戦力が出たすきに後ろから強襲をしかけて会長を撃破する、というのが宮白くんの立てた作戦だ。

 

 部長が立てた作戦をさらに発展させた強襲プラン。はっきり言ってかなりハメ手な気もするけど、宮白くんは割と本気で会長たちを警戒していた。

 

「この戦い、何も会長はゲームで勝つ必要はないんです。・・・相手にハメ手を使われることなく、瞬時に殲滅する必要だってある」

 

 そこまで言われてしまえば確かに文句も言えない。

 

 ライザー・フェニックスに辛勝したことで、僕たちの評価は非常に高く、今回の若手悪魔においてはランキングで二番手に属している。会長は五番手であり、普通に考えれば僕たちの勝ちは確実だ。

 

 つまり、一矢報いられるだけでその栄光に泥を塗られてしまうということでもある。

 

 それを宮白くんは警戒しているのだ。

 

 彼にとってイッセーくんの禁手化は最初からゲームの有利ではなかった。むしろハメ手による撃破のターゲットとして固定されるという弱点とすら見ている。

 

 ゆえに僕が本命なのだ。

 

 だからとにかく会長を発見しなくては。

 

 会長たちがこの場から動いたタイミングこそが僕らにとってのチャンスで・・・。

 

「・・・悪いが、会長はここにはいない」

 

 後ろからの声に、僕の思考は切り替わった。

 

 振り向いた先にいるのはソーナ会長の戦車である由良翼紗さんの姿がそこにあった。

 

「宮白の魔術がどこまでできるかわからない以上、空間転移による本陣の強襲を警戒する必要があったからね。会長は別のところに避難しているよ」

 

「それは的外れな警戒だったね。魔術による空間転移はほぼ不可能だそうだよ?」

 

 少なくとも宮白くんではできないそうだ。アーチャーさんでも複数の仕掛けをした特定のフィールドを構成しなければできないとのこと。実際駒王町での転移はアザゼル先生の技術提供が大きくかかわっている。

 

 まあ、それとは別の方法で移動した以上警戒そのものは間違っていないわけではあるけどね。

 

「なら仕方がない。・・・降りかかる火の粉を撃破することにしよう」

 

 戦車である由良さんは、駒数という観点においてもちろん警戒に値する相手だ。ここで倒すことでせめて戦局に貢献することにしよう。

 

 ゆえに聖魔剣を生み出して瞬時に距離を詰め―

 

「甘い」

 

 それよりはるかに速い速度で、僕の懐に相手がもぐりこんでいた。

 

「なっ!?」

 

 放たれた拳を聖魔剣で防ぎながら、素早く跳躍して距離をとる。

 

 なんだ、今の速度は!?

 

 騎士である僕を、戦車である彼女が速さで超越するなどあり得ない。

 

 少なくとも動体視力とスピードなら、グレモリー眷属で僕が最速である自負がある。そんな僕をもってしても、認識すらできない速度で移動するだなんて想定外だ。

 

 幸い、由良さんは肩で息をしている。どうやら負担が大きいのかさっきの加速は連発できないようだ。

 

 とはいえあの加速をまたつかわれて距離を詰められたら間違いなく撃破される。ここは投剣で遠距離から攻めるほうが得策か。

 

 だが、そんな僕の浅はかな考えは彼女が懐からカードを取り出した瞬間に霧散する。

 

 ・・・あのカードを僕は一度だけ見たことがある。

 

 宮白くんが義手の能力を改めて確認するために、僕を相手に練習した時のことだ。

 

 確かに彼はあれと同種のカードを持っていた。

 

 それはつまり―

 

来たれ(アデアット)!!」

 

 最悪だ、僕らはそもそも―

 

「神珍鉄自在棍!!」

 

 ―敵の戦力分析を根本から見誤っていた!!

 

 再び楯にした聖魔剣が、伸びた棒によって粉砕された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は思いっきり吹っ飛ばされながら、しかし何とか体制をとる。

 

 二分間、赤龍帝の籠手の能力を封印しなければならない俺を、アザゼル先生は戦闘では役に立たないとまで評したが、宮白はむしろ高評価だった。

 

「歩兵しかいない状況下で、たった一人を二分間守り切れば三十分間対人武装満載の戦車を使用できるようになるもんだ。・・・戦略ならともかく戦術なら十分使いこなせるカードだ」

 

 んでもって、さらに代用となる奥の手まで開発していた。

 

 ・・・宝石魔術を利用した、コート型の身体強化魔術礼装。ちなみに一億円しています。

 

 なんでも装甲車並みの頑丈さと、対物兵器並の攻撃力を追加してくれる優れものとか言っていた。値段も装甲車並みとかやばすぎる。やりすぎな気もするが、記念すべき初公式レーティングゲームで、非公式とはいえライザー倒した俺たちが負けるだなんてあってはならないとゴリ押しで装着させられた。

 

 土壇場で使用したけど確かにこれはすごい。これならライザーが相手でも結構行けると思う。

 

 ・・・それが、全く通用してない。

 

「こんなもんかよ兵藤。手加減してるならやめたほうがいいぜ」

 

 目の前の匙が、油断なく構えながら俺に一歩一歩近づいてくる。

 

 その隣では小猫ちゃんが匙と同じ兵士の仁村ってこと戦闘していたが、想像以上に苦戦していてこっちにこれなかった。

 

「どういう、ことだよ、それは」

 

 正直言って匙はかなりパワーアップしているだろう。神器はなんていうかコミカルな外見から多数のへびが巻き付いたかのように進化しているし、不意打ちでつながったラインは全然外れる気配がない。

 

 だが、それ以上にやばいのはその全身から放たれるオーラだ。

 

 一か月近く特訓した今ならわかる。あの時助けに来た桜花さんと同じオーラを、匙はまとっていた。

 

「会長は、このレーティングゲームで一番宮白を警戒していた」

 

 後ろの戦闘を気にせず、匙はラインを伸ばさないでこぶしを握る。

 

「だが、桜花の話を聞いて宮白はミスすると思ったんだ」

 

 まあ、確かにミスしたよな。

 

 宮白は桜花さんと色々話して、仮契約とかいうあの強化手段を、桜花さんは連発できないと辺りをつけていた。

 

 実際本人に確認とって確かにそうだと聞いていたらしいし、だったらまあ、あまり警戒しすぎることはないと判断していた。

 

 どうもあれ、桜花さんの世界の魔法使いの素質が重要になるらしくて桜花さんの資質だとせいぜい二人が限界らしい。

 

「会長曰く、宮白の魔術師(メイガス)としての魔術は能力(アビリティ)だが、桜花の魔法使い(マギステル・マギ)としての魔法はあくまで技術(スキル)だから、そこが付け入るスキになるってよ」

 

 ・・・難しすぎて俺にはわけがわからん。

 

「つまり、魔術回路なんてものがなければどれだけ知識があっても使えない魔術師とは違い、久遠の能力は修行すれば程度はともかく誰でも使えるってことだ!!」

 

 すごい速度で距離を詰め、匙が俺に殴りかかる。

 

 思わず籠手で受けるがそれでもはじかれ、しかもラインがくっつけられていた。

 

「当然、気の概念は俺も習得済みだ!!」

 

 そのまま匙は俺を振り回し、地面にたたきつける。

 

 礼装越しでもすごい衝撃が走り、しかも目の前にはもう匙がいやがった。

 

「俺や仁村は気による身体強化重視。由良は仮契約を利用することによる魔力強化とアーティファクト重視。巡は桜花に指導を受けることによる剣術の研鑽のしなおし。花戒と草下は技術流用のために簡単に魔法技術を取り込むだけだったが、会長と副会長は桜花の前世の名前で人を集めて、魔法技術の本格的な取り込みを行った。最後に桜花は、昔の勘を取り戻すためにありとあらゆる方法でハードトレーニングだ」

 

 やばいやばいやばいやばい!

 

 もう確信できた。

 

 今俺の目の前にいるのは、今までの匙じゃない。

 

 桜花さんと並び立つにふさわしい、猛者の一人だ。

 

「行くぜ兵藤!! お前は、俺が、ぶっ倒す!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 




生徒会超強化の回。

ぶっちゃけ兵夜がまたうっかりかましたせいでもろにカウンターをもらってしまいました。

真面目な話、あの世界の能力概念をフルに使用すれば相応の強化が可能ですからね。

さて、オカルト研究部はこの事態にどう対処する?


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VS生徒会 第二ラウンド!!

予想外の展開で速攻盛り上がってまいりました対生徒会。

さあ、ここからは反撃タイムです!!


 真後ろから襲い掛かる薙刀を、側転して避ける。

 

 すでにこの攻撃がくるのも何度目だろう。

 

 恐ろしいのはこの空間転移、どういう理屈か魔力感知が非常に難しいということだ。

 

 空間をゆがめているのだから、普通は転移した瞬間に位置が把握できなければおかしい。その手の対策を万全にとってきたはずだ。

 

 なのに感知が難しい。

 

 不幸中の幸いは、この攻撃が至近距離からくるということだ。

 

 リーチの長い薙刀でそんなことをすれば使いづらくなるので逆に対処はしやすくなる。おかげで何とかもろにダメージをくらうことだけはなかった。

 

「しぶといですね」

 

「個人的には勝つより負けないを重視しているもので!!」

 

 とっさに距離をとって、聖水入りの弾丸を装填したショットガンおよびガンド撃ちによる弾幕攻撃を叩き込む。

 

 強敵と戦闘することを視野に入れて、神器の運用はどちらかというと制御はともかく手加減は視野に入れていない。

 

 可能な限り損傷を少なくしなければいけない。宝石魔術も防御中心で行かせてもらっている。

 

 とはいえそれにこだわりすぎて負けたらそれこそ意味がない。必要と判断したならば躊躇なくいかせてもらう。

 

 正直ゼノヴィアの援護もしたいところだが、それをしようと視線を逸らせば、その瞬間に後ろから攻撃がやってくる。

 

 おかげで戦闘状態の想定もできないという迷惑なありさまだ。

 

 とはいえこのままやられるつもりは毛頭ない。

 

 そもそも、この戦闘で本命は木場で会長を強襲することだ。

 

 将来を見越して持ち味のパワーを生かす方向で強化しているイッセーやゼノヴィアはもちろん、俺も対英霊戦を視野に入れているので強化武装の大半はパワー重視だ。

 

 ゆえに、聖なるオーラによる追加攻撃が可能であり、小技に長ける木場が本命。

 

 まさか会長も第四のルートまでは想定していないだろうし、この混戦状態なら不意打ちの可能性は十分に―

 

「ああ、会長はすでに本陣から移動していますのであなたの作戦は通用しません」

 

「マジで!?」

 

 やばい!? 作戦が台無し!?

 

「そしてあなたはここで終わりです。・・・ソーナはあなたを最も警戒していた。こちらの策に感づかれる前に撃破させていただきます」

 

 弾幕を避けた副会長が車の陰に隠れる。

 

 正直この展開も想定外だ。

 

 ポールウェポンを使う副会長は、車が乱立している中に入ると一気に戦闘が難しくなるから、積極的に侵入しないと踏んでいた。

 

 だが、空間転移の仕組みを見破られないように、むしろ目くらましに多用してくる。

 

 そして再び後ろからの攻撃だが、いい加減ワンパターンなのでとっさに飛びのいて対応。

 

 そして振り返った瞬間にはすでに副会長の姿は消え―

 

「ああ、そういうことでしたか」

 

 正面から飛び上がった副会長の一撃を、ショットガンを楯にかろうじて防いだ。

 

「・・・!?」

 

「いやすいませんね副会長。周囲警戒のために使い魔と視覚を共有させてもらいました」

 

 背中に蜘蛛の使い魔を出したおかげで、何とか空間転移のタネが把握できた。

 

 ・・・影を利用した空間移動。つまり影に潜って影から飛び出ることで移動するのがこの戦闘の種だ。

 

 一気に全身が姿を現すわけじゃないから、それを想定していた感知魔術でも感知が難しかった。

 

 だが、種さえわかればある程度の警戒はできる。用は足元に常に注意を放っていればいいだけだ。

 

「・・・じゃあまあ、そろそろ反撃させていただきますよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 高速で振るわれる如意棒もどきを、僕は身をひねって回避する。

 

 本来、食品を置く棚が乱立している状況下において棒術は真価を発揮しない。

 

 そこをついて、短めの聖魔剣による接近戦に活路を見出そうとしたが、しかし相手のほうが一枚上手だった。

 

 この如意棒のようなアーティファクトの能力は非常に単純だった。

 

 長さと太さを自由自在に変更できる。とても分かりやすく、しかし厄介な能力だ。

 

「はぁああ!!」

 

 長めの警棒ぐらいの長さにした由良さんと、近距離での攻撃をぶつけ合う。

 

 二刀流にすることで手数で上回ったかと思ったが、どういう理屈か今の由良さんの身体能力は下手をすれば禁手状態のイッセーくんとも並びかねず、パワーで押し返される状態だ。

 

 間違いなく強敵だ。しかも聖魔剣を切り替えて不意打ちしようにも、その身体能力は激しく強化されておりギリギリのところで対処される。

 

 ならば機動性で翻弄しようにも、アーティファクトの伸ばせる限界はどうやら非常に長いらしくそれもむり。二十メートル近く離れたところから攻撃を受けたときは危なかった。

 

 しかも時折あの高速移動で距離をとったりつめたりして攻撃を入れてくる。

 

 今まさに、完璧に翻弄されていた。

 

 だが、それでも勝算は十分にある。

 

 確かに宮白くんは戦力計算で致命的なミスを犯していたのかもしれない。

 

 だが、戦場の把握においてはこちらのほうが優勢だ。

 

 それを今から見せつける!

 

 戦闘しながらようやくたどり着いたのは小麦粉売場。

 

 万が一戦闘状態になった時のために、宮白くんがプランを立てた戦闘用の攻略場所だ。

 

「・・・さすがに、ここまで来られるとは思わなかった」

 

 すぐに僕に追いついた由良さんが、油断なく獲物を構えながら僕を鋭くにらむ。

 

「だがここまでだ。この直線的な場所では、こちらのほうが有利だろう」

 

 確かに、一見すれば彼女のほうが有利だろう。

 

 あの神速の移動法がある以上、直線的な機動では僕のほうが劣る。

 

 そして横への移動が難しいこの状況下では、僕の機動性能は逆に封じられているようなものだ。

 

「・・・決着をつけよう、魔剣創造(ソード・バース)!!」

 

 通路一帯に風の魔剣を生み出して一気に面制圧を行う。

 

 だが、それを斜め上に飛び上がるように高速移動することで一気に交わした由良さんは、天井を蹴ってこちらに急降下する。

 

「これで終わりだ!!」

 

「ああ、・・・君がね」

 

 僕は二種類の聖魔剣を呼び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 通路の向こう側から、爆発音が響き渡った。

 

『ソーナ・シトリー眷属の戦車一名、リタイア』

 

「んなっ!? な、何があった!?」

 

「え、由良先輩!?」

 

 まさかいきなり本陣で大爆発するとは思ってなかったのか、匙と後輩の兵士が驚いてその方向を振り返る。

 

 だがそれは隙だらけのうっかりミスだ。

 

 その瞬間は逃しはしない!!

 

『リアス・グレモリー眷属の僧侶一名、リタイア』

 

「ってぇえ!?」

 

 いきなり耳に入ってきた言葉に、俺もつい度肝を抜かれてしまった。

 

 んでもって慌てて振り返ったら、こっちもあわてて振り返った匙と目が合った。

 

「・・・おい、なんだよアレは」

 

「いや、そっちこそなんだよ」

 

「いや、俺たちは食料品売り場だしニンニクつかってギャスパーくんをやっつけようぜって話になって。会長がさすがにニンニク対策は特訓の内容に入ってないだろうから可能性は十分にあるっていってたから、ついでに調理器具使ってペースト状にしたりガーリックバターも使ったりでちょっと桜花が徹底的に装備をしてて」

 

「いや、宮白は本陣強襲が失敗したら、小麦粉売場で粉塵爆発起こしてとりあえず1人片付けろって。前から考えてたのか木場に対爆発の加護を与える聖魔剣と、一定範囲の粉を排除することに特化した聖魔剣作らせてたみたいで」

 

 何とも言えず沈黙してしまった。

 

 なんていうか、反応に困ってつい動きが止まってしまう。

 

 そんな俺たちを叱責するように、後輩たちからの怒声が響いた。

 

「せ、先輩! 漫才やってる場合じゃないです!!」

 

「イッセー先輩! すでに二分経ってます! 早く禁手化を!!」

 

「「・・・あ!?」」

 

 あっぶねぇええええ! かろうじて耐えきったの忘れてたよ!

 

 すでに強化武装もボロボロだし、いい加減禁手化しないと身が持たねえ!!

 

「と、とりあえず禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

 俺はあわてながらも急いで鎧を身にまとう。

 

 全身から強烈なオーラがはなたれ、それが鎧と化して俺の体を包む。

 

 間違いなく今の匙は強敵だ。この時間で一気に叩き潰す!

 

「反撃タイムと行かせてもらうぜ、匙!!」

 

「来やがれ兵藤! 返り討ちにしてやらぁああああ!!」

 

 真正面から殴りかかるが、匙は伏せてそれをかわすと、ラインの一つを俺の体にくっつける。そのまま飛び上がると、さらにラインを天井へとくっつけた。

 

 そのまま匙がラインを縮めれば、その勢いで俺の体は引っ張られて、その勢いで天井の照明にたたきつけられる。

 

「なめんじゃねええええ!!」

 

 だが俺だって負けちゃいない。

 

 引っ張られながらも匙の体をつかむと、たたきつけられた勢いで天井にたたきつけ返した。

 

 そのまま重力に従って落下をはじめながらも、俺と匙はこぶしをたたきつけあう。

 

「部長の乳首に触れて覚醒したこの赤龍帝の鎧、発動した状態で負けてたまるか! 部長の乳首にかけて!!」

 

「ふっざけんな乳首って頭おかしいのか!! っていうか裸見るとか添い寝するとか風呂入るとか乳首ふれるとかうらやましいなオイ!! 俺にもちょっとぐらい分けろ!!」

 

「うるせえこの野郎! 別にエッチなことしてるわけじゃねえんだからそこまで言うことねえだろうが!!」

 

「死ねよお前マジで!! そんだけしてもらえば十分だろうがこの野郎!!」

 

 いつの間にか地面に墜落していたが、そんなのが気にならない勢いで殴り合う。

 

 禁手化して圧倒的なスペックさを発揮しているはずなのに、匙の奴は一歩も引かなかった。

 

「出来ちゃった結婚どころか手を触れることすらできない俺の身にもなれ!! しかも会長のファーストキスは・・・ファーストキスはぁあああああああ!!」

 

「・・・あ、ごめん。俺のファーストキスは部長のファーストキスだったから」

 

「本当にマジで死ねっていうか殺してやるよぉおおおおお!!?」

 

 あれ!? なんかむしろ押されてるよ!?

 

「お、落ち込んじゃダメです先輩! 私のファーストキスは残ってますから!!」

 

 なんか外野が何か言ってるけど、俺も匙もそんなことを気にしている場合ではない。

 

「裸どころか下着姿も、そもそも夏休みに生徒会全員で来たっていうのに水着だって拝んでないんだぞ!? お前はいいよなぁプールで美女二人がオイル塗る塗らないで喧嘩するぐらいでよぉ!!」

 

「お前はあの壮絶な戦いを見てないからそんなことが言えるんだ!! 俺だって一度殺されたりボコボコにされたりひどい目にあってんだ、役得ぐらいあってもいいだろうがぁあああ!!」

 

 殴られたら負けじと殴り返す。

 

 もうこの流れは意地だ。

 

 男としての意地と根性で殴り合う。

 

 だけど、それでも今の俺の性能は基礎からして違いすぎる。

 

 少しずつ、少しずつだけど押し返し始めていた。

 

「そもそもハーレム王になる俺の夢には程遠いんだよ! こんなところで躓いていられるかこの野郎!!」

 

 それで、匙は倒れない。

 

「・・・ああそうかよ。だがなあ、俺だって夢のために頑張ってんだよ!!」

 

 ラインの一つが証明があったところにつながり、そして匙の拳が俺にぶつかる。

 

 それと同時に、鈍い痛みが全身を走った。

 

「ぐ、ぐああああああ!?」

 

『まずいぞ相棒! あの男、電流をラインでお前に流している!!』

 

 なんでそれで感電してないんだよ!?

 

『思った以上にあの神器の能力を使いこなしているようだ。多少は感電しているだろうがダメージと言えるほどではない』

 

「いっただろう? 俺だって特訓してるってよぉ!!」

 

 電流を流しながら、匙はさらに拳を叩き込む。

 

 タンニーンのおっさんが言っていた。こもった一撃は強力だって。

 

 それが今なら痛いほどよくわかる。

 

 これが、思いのこもった一撃ってやつか。

 

「誰だって、真面目に勉強して学べば程度はともかく普通は成果を出せる。そんな日本じゃ当たり前のことが冥界じゃできない。それを何とかしたい会長の想いを、俺も絶対に叶えたい!!」

 

 痺れて動きが乱れた瞬間を、さらに連続して拳が叩き込まれる。

 

「俺だって叶えたい。教師になりたい! 人に何かを教えたい!!」

 

『ソーナ・シトリー眷属の兵士一名、リタイア』

 

 いつの間にか小猫ちゃんが会長の兵士を倒していたけど、だけど手出しはしてこない。

 

「なんで俺たちの夢が笑われる必要がある!? 何かおかしいことを言ったかよ!?」

 

 違う。手を出さないんじゃなくて出せないんだ。

 

 畏怖すら感じる匙の気迫に、完全に飲まれている。

 

「だったら結果を出して黙らせる! そのためにもお前は叩き潰す!!」

 

 俺はその姿に、恐怖すら感じた。

 

 だけど・・・。

 

「ああ、そうかよ。だけどなぁ!!」

 

 右腕で匙の腕をつかむと同時に、奥の手を発動させる。

 

『Divid!』

 

 白龍皇の籠手。

 

 ヴァーリから奪った白龍皇の力を発動する俺の奥の手。

 

 発動しても成功するかどうかが微妙な挙句、成功しようが何しようが生命力を削るから、アザゼル先生にも仕様は控えるように言われていた。

 

 だけど、それじゃあこいつには勝てない。

 

 ここまで根性入れてきた相手に、そんな気構えで勝てるものかよ!!

 

「俺だって気合い入れてここまで来てんだ!! 来いよ匙!! この程度で俺はやられないぜ!!」

 

 さあ、決着をつけようか、匙!!

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 




・・・ちょっと色々あって活動報告に新ネタを出してみました。

思いついた方がいたらぜひどうぞ。お待ちしています。


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VS生徒会 第三ラウンド!!

 転移のタネがわかったおかげで、何とか戦闘は持ち直せた。

 

 要は姿を消したら足元を警戒すればいいのだ。影があるところ以外からは転移できない以上、警戒の難易度は大幅に下がる。

 

 素早く行動しながら的確に対処することで、だいぶ余裕が生まれてきた。

 

 余裕ができれば戦闘を観戦することもできる。すでにゼノヴィアの戦闘もある程度見ることができていた。

 

 戦闘はほぼ互角。大容量の聖剣のオーラゆえに、対聖剣用神器ともいえる聖吸剣に渡り合っている。

 

 とはいえ、この調子だとさすがにまずいか。

 

「ゼノヴィア! 一瞬隙を作るからデュランダルで一気に仕留めろ!!」

 

「いいのか!?」

 

「どうせ本陣強襲が失敗した時点で混戦は確実だ! これ以上時間をかけて評価を下げるより、あえて破損を受け入れて確実に倒すほうがマシだ!!」

 

 さっきの爆発音は、間違いなく粉じん爆発のそれだろう。

 

 つまり俺の作戦は失敗している。策では完全に会長に負けたと考えるべきだ。

 

 都市内部での戦闘も視野に入れて木場には爆発防御用の聖魔剣の製造をさせておいたが、木場もさすがにただではすんでないだろう。

 

 だとすれば、破損を極力避ける戦闘はこちらにとって不利になるだけだ。これ以上のダメージは避けた方が良い。

 

 となれば比較的広い空間で破損しにくいこの現状、大火力とはいえ接近戦用武装であるがゆえに被害が少ないデュランダルを生かさない手はない。

 

「じゃあゼノヴィア、渡した礼装を起動しろ!!」

 

「ああ、了解だ!!」

 

 ゼノヴィアが前もって俺が渡しておいた礼装を起動するタイミングで、俺も試作礼装を呼び出して起動する。

 

 むろんそんなことを言えば警戒されるだろう。

 

 だがしかし、これはそれどころの騒ぎではない。なぜなら―

 

「「・・・臭っ!?」」

 

 嗅覚を刺激するちょっと変化球の精神干渉魔術だからだ。

 

 ふはははは! まさかここで嗅覚刺激攻撃をするとは思うまい! これぞ相手の発想の裏側をついた陽動の基本戦術!

 

 そしてゼノヴィアの手にデュランダルが握られる。これでいけるか! 嗅覚干渉系の礼装を渡していて正解だったぜ!!

 

「ではこちらもいろいろと面倒なことになったのでな。ここで決めさせてもらう!」

 

 莫大なオーラを放つデュランダルをもって、ゼノヴィアが巡に切りかかる。

 

 その瞬間、その間に副会長が割って入った。

 

 なるほど、あれは味方の影からも移動できるのか。

 

 などと感心している間に、副会長は腕を突き出す。

 

 その空間が少しゆがんだかと思うと、なにか薄いものが姿を現そうとする。

 

 その瞬間に、俺は袖に仕込んでいた仕込みを発動させた。

 

追憶の鏡(ミラー・アリス)!」

 

一番起動(ナンバーワン・スタート)暴風展開(ストーム・バースト)!!」

 

 鏡がデュランダルで割れるのと魔術が発動するのはほぼ同時。

 

 瞬間、ゼノヴィアが思いっきり吹っ飛んだ!

 

 距離を取らせるのが目的だったが、しかしこの吹っ飛び具合はいくらなんでも吹っ飛びすぎだ。

 

「カウンター系の神器か!?」

 

「ええ、この鏡を砕いた攻撃は、その衝撃が相手に跳ね返ります」

 

 ちょっと自慢げな副会長の説明は面倒だった。

 

 正直アザゼルがカウンターを警戒していたが、俺はちょっと舐めてかかっていた。

 

 カウンターと言うのはいわばボクシングで有名だが、あれだって使う人物に相応の実力があることが前提条件だ。

 

 本当にスペックが違う相手に戦闘技術によるカウンターをたたき込んだところでそうやばいことにはなりづらいし、そこまで警戒する事はないと思っていたがこういう事かよ!?

 

 鏡壊した衝撃をそのまま返すってそれカウンターというより反射攻撃じゃねえか!! これ攻撃そのものだったらどうなってるんだ!?

 

 禁手になったらマジで攻撃そのものを反射するようになるんだろうか? ・・・だとしたらいやだ。

 

 とはいえ事前情報とはまた違った能力を出されたのは非常にまずい。ただでさえ戦力見誤ってるのにこの流れはちょっとマジやばいぞ!

 

「完全に決まれば撃破もできましたが仕方ありません。どちらにしろ当分は立てないでしょうし、ここで終わらせていただきます」

 

「会長から真っ先に狙うように言われてるから、悪いけど覚悟してね?」

 

 退魔家系コンビがこちらに獲物をむけ、慎重に近づいてくる。

 

 わーいマジ警戒にもほどがあるよ畜生。

 

 そりゃあ俺策士だから脳筋傾向強いうちのメンツに一人いるだけで一気にバランス整うよなぁ。俺でも狙う、当然狙う。

 

 前線に出たのは失敗だったか?

 

 さすがに空間転移使える相手とおそらく最速のメンバー同時に相手したら翻弄されるのは確実なんだけど!?

 

「み・・・やし・・・ろぉ!!」

 

 撤退を考えていたほどの俺の耳に、ゼノヴィアの声が届く。

 

「投げるぞ・・・つかえ!!」

 

 その声が聞こえると同時に、俺は全力で後方に飛びながら振り返る。

 

 相手が攻撃する可能性はあるが、今はこれしか逆転の手がない!!

 

 膝をついて振るえるゼノヴィアが、残された力を振り絞って放った最後の切り札。

 

 それを見た副会長の叫びと、俺の声は重なった。

 

「「デュランダル!!」」

 

 俺の体には聖剣の因子が存在している。

 

 だからこそ偽聖剣が使えるわけだが、それでも単体ではデュランダルを使うことはできない。つかえたところでゼノヴィアほどうまく使えるわけがない。もし使うとするならば普通は木場だ。

 

 だからこそ、限定特化型の鍛え方でデュランダルの運用方法を考える必要があった。

 

 パワー重視のゼノヴィアと破壊に特化したデュランダルの組み合わせは一番性能を引き出せる。安定した剣技をもつバランス思考の木場なら、真価は発揮できないがこのルールでも安定して使えるだろう。

 

 なら俺はその二人とは違う運用で行えるようにするのが一番だ。

 

「行くぜデュランダル! 全力・・・全開!!」

 

 デュランダルのオーラが爆発的に増幅し、剣どころか周囲にまで漏れ出そうとする。

 

 それでいい。それこそが、俺の求めたデュランダルの運用方法。

 

 剣としての運用は生粋の剣士に任せればいい。俺はこれを聖なるオーラを放出する機構として扱おう。

 

 喰らうがいい、聖なるオーラの無差別広範囲攻撃・・・!!

 

「デュランダル・・・バースト!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ソーナ・シトリー眷属の騎士一名、リタイア』

 

『リアス・グレモリーの兵士一名、リタイア』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 想像以上の大混戦になってきたな。

 

「敵も味方も食料品売り場を有効活用してんなオイ。ファックな食品の使い方だ」

 

 あきれていいのか感心していいのかわからん表情で小雪がつぶやく。

 

 まあ、対吸血鬼ニンニクフルコースに粉末製品全力投入の粉じん爆発だからな。どっちも容赦なく食品を武器に使いやがった。

 

 俺としては兵夜の割り切りを評価したいところだ。

 

 でかい破損をするなと言われても、それを気にしたら負けると思ったらある程度は即座に許容する状況判断能力。何をしでかしてくるかわからない不良相手に喧嘩に明け暮れたことで培った状況判断力はなかなかだ。リアスたちだけだと気にしすぎて誰かがうっかりぶっ壊さない限りやれなかっただろう。

 

 それゆえにあいつが前線に出てきたのはミスだったな。使い魔を使って視界をのぞけるのなら、後方で待機して作戦指揮に徹するべきだったか。

 

 いや、それだと王であるリアスの作戦指揮能力が足りな過ぎると上の連中から突っつかれるかもしれん。実践ならともかくレーティングゲームの時はリアスを立てて舵取りを完全にしないほうがいいと判断したか?

 

 しかし、場を利用するというやり方ではソーナよりあいつのほうが上だな。不良相手にはトラップエリアに誘導したりとかしていたみたいだし、その辺の経験を生かしたか?

 

 通気口を利用しての本陣潜入とか俺も唸ったし、今の方法もなかなか考えたやり方だ。これはソーナも足元救われるかもしれねえな。

 

「とはいえ実質、兵夜の判断ミスで生徒会優勢といったところですね。・・・相手の異世界の能力をどれだけ把握できていたかが明らかに分かれてますね」

 

「だな。先入観で桜花の世界の魔法体系を自分たちに当てはめた兵夜のミスだ」

 

 俺たち側の魔法も、数式さえ理解できれば誰でも使えるものだったが、どうやら桜花側もそういう方面のようだな。

 

 小雪の世界は異能力者が使うと命の危険があるし、簡単に魔術・魔法といってもいろいろ違いがあるわけだ。

 

 異文化コミュニケーションをなめてかかった兵夜が悪い。

 

 そして、俺たちの目の前で戦局がさらに大きく動く。

 

『ソーナ・シトリー眷属の兵士一名、リタイア』

 

 アナウンスとともに消えていく匙元士郎。

 

 赤龍帝相手によく善戦したとほめてやりたいが、しかし正面から殴り合うのはさすがに悪手だったか。

 

 だが、それだけの成果はちゃんと出している。

 

『貴女の負けです、兵藤くん。匙は確かに、あなたののどに刃を突き立てました』

 

 膝をついて崩れ落ちるイッセーを静かに見据え、ソーナがはっきりと勝利宣言をする。

 

 ああ、まさか黒い龍脈(アブソーション・ライン)をこう使うとは思わなかった。

 

 ・・・イッセーの血を吸い取って失血多量で強制的にリタイアさせるとは、こっちも奇策をぶつけてきたな。

 

 禁手前に倒すのではなく、禁手になろうと残れない方法で相手を倒すとかよく考えたもんだ。

 

 電流をダメージを受けることなくバイパスして流したり、匙の奴は間違いなく黒い龍脈を使いこなしている。ここまで使いこなした奴もそうはいなかったはずだ。

 

 神器の性能を引き出すという点においては、ただ禁手に至っただけのイッセーより上だな。こいつぁ見事だ

 

『前だけを見て下を見なかったのがあなたの敗因です。匙元士郎に敗北したという事実をもって、あなたはここで倒れなさい!!』

 

 こりゃ完全に勝負はソーナの勝利だな。

 

 よりにもよって直前に禁手かしたことで、イッセーの注目度は飛躍的に高まっている。

 

 それがたった一人と相打ちで倒されたとなっちゃ、王であるリアスは何をしていたのかといわれても文句は言えない。

 

 兵夜の奴もガス対策や呪い対策とかはフルに用意していたみたいだが、失血は想定してなかったようだ。

 

 まあ止血剤は用意していたんだろうが、直接奪い取るとは思うまい。

 

 だが、イッセーは震える足を無理やり動かして立ち上がった。

 

『まだ・・・だ。まだ、新兵器を見せて・・・ない』

 

 ・・・イッセーの奴、まさか禁手に匹敵する新たな技をあの地獄の中で編み出してたのか?

 

 洋服崩壊の遠距離版か? それとも服が透ける技でも開発したか?

 

「・・・なあアザゼル。すっげーファックな予感がするんだけどよ?」

 

 横でぼやいた小雪の言葉が、ぶっちゃけ真理をついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「ド変態です!!」」」」」」」

 

 僕がダメージを何とか乗り越えてたどり着いた先に、イッセー君がそう総出でいわれていた。

 

 いったい何があったんだ? あとイッセー君が非常に弱っているんだが、桜花さんと正面衝突でもしたのだろうか?

 

「ち、畜生! とりあえず会長のおっぱいよ!! 今の作戦を教えてくれ!!」

 

 ・・・よくわからないけど、どうやらイッセーくんは洋服崩壊に並ぶであろうスケベ技を開発したみたいだ。

 

 だけど胸に質問してどうするのだろうか? どうもそれまでの流れがわからないからどういう技なのかが全く分からない。

 

「・・・部長、この会長は僧侶二人がかりで精神を転送させたおとりです。本物の会長は・・・屋上、に。あ・・・血が足りない」

 

 そこまで言って、イッセーくんが崩れ落ちる。

 

 よく見ればイッセーくんの体には黒い管がつながっていて、その先は会長の僧侶の花戒さんの持っている輸血パックにつながっていた。

 

 かなり大容量の輸血パックが、満タンいっぱいになっている。

 

 まさか、匙くんの黒い龍脈でイッセーくんの血を抜き取っていたのか!?

 

 宮白くんはイッセーくんに色々持たせていたけど、さすがに輸血パックは用意してなかった! これでは回復の使用がない。

 

 アスカロンさえあれば切り裂くこともできたかもしれない。完全に作戦が裏目に出た。

 

 本陣強襲も読まれていたし、作戦においては完璧に会長に深くをとってしまったようだ。・・・これは上の評価がひどいことになりそうだ。

 

「イッセーさん!」

 

 転送の光に包まれるイッセーくんに、アーシアさんが近づこうとする。

 

 だが、イッセーくんの足元から浮き上がるように副会長が現れると、行く手を遮るように薙刀を向ける。

 

 影を媒介とした空間転移? 桜花さんの世界の魔法かなにかか!

 

 すでにイッセーくんはリタイアが確定しているといってもいい。しかも失血である以上、アーシアさんの神器でも効果は見込めないだろう。

 

 それでもアーシアさんはほおっておけないのか、オーラの拡大かを試みる。

 

 その懐に、花戒さんがもぐりこんだ。

 

 特にダメージは受けていないのにあえてオーラに飛び込んだ。・・・何かあるのか!?

 

「アーシアさんダメ―」

 

反転(リバース)

 

 回復の緑のオーラが、一瞬で禍々しいオーラに変わる。

 

 とたん、アーシアさんの体が大きく震え、そしてリタイアの光に包まれる。

 

「回復の反対は・・・攻撃。会長、回復役は・・・倒しまし、た・・・」

 

 口から血を流しながら、花戒さんもまた光に包まれる。

 

『リアス・グレモリー眷属の兵士一名、僧侶一名。ソーナ・シトリー眷属の僧侶一名、リタイア』

 

 一度に三人もの人数が転送され、その場がやけに広く感じてしまう。

 

 今の能力は聞いたことがない。順当に考えれば桜花さんがらみの能力かとは思うが、しかし恐ろしい方法を使う!

 

 こちらの能力そのものを利用したカウンター攻撃。これが真のレーティングか・・・!

 

「・・・どうやら、一歩遅かったようだな」

 

 僕の隣に、ボロボロになった戦闘服を着たゼノヴィアが並び立つ。

 

 ・・・やはり宮白くんはやられたか。正直、どんな手を隠し持っているかわからない今の状況で策士でかつ対応能力が高い彼が抜けるのは非常に危険だ。

 

「さて、気を取り直して戦闘を続けましょう」

 

 副会長が薙刀を振るい、僕らに視線を合わせる。

 

 状況的には数に勝るこちらが有利ではあるが、しかし油断はできない。

 

 彼女たちがアーティファクトを持っているとすれば、むしろここからさらに畳みかける可能性が非常に大きい。

 

 宮白くんの戦闘能力は、あのアーティファクトがあるからと言える点が非常に大きい。

 

 大容量の武器庫をもち、そこから必要なものを適宜取り寄せることができる。戦術によって手札を変える宮白くんにここまで合致した能力もない。そのうえでアーチャーさんやアザゼル先生の協力で武装を集めているのだ。かなり恐ろしい組み合わせになる。

 

 由良さんの場合は、接近戦主体の戦車というスタイルに合わせた通常攻撃用の武装と見せかけて、その伸縮自在という特性により遠距離戦もこなせる万能武装だった。

 

 いわば禁手がない神器といったところだろう。とはいえアーティファクトが契約によって行われるという都合上、所有者に合った武装になるのはほぼ確実と考えるべきだ。

 

 そのあたりを考えると、爆発力では劣るが使いやすさでは上回るはず。警戒を怠るわけにはいかない。

 

 ・・・と、そこに静かな足音が響く。

 

「イッセー君に、この力を使うところを見守ってほしかったのに・・・」

 

 ・・・朱乃さんが、マジギレしていた。

 

「・・・消えなさい」

 

 経験的によくわかる。これはマズイ。

 

「ゼノヴィア走って!!」

 

「うぉおおっ!?」

 

 強大な破壊力の雷光がはなたれ、僕とゼノヴィアは全力で距離をとる。

 

『ソーナ・シトリー眷属の僧侶一名、リタイア』

 

 あまりの破壊力に正直度肝を抜かれた。

 

 と、いうより周囲を破壊しすぎないようにという事前の通達を完全に忘れている!!

 

 まさかいつも落ち着いている朱乃さんがここまでキレるとは!? 想像以上にイッセーくんの存在が大きくなっていたようだ!!

 

「く・・・っ これは想定外ですね・・・!」

 

 一方雷光を辛くも逃れた副会長が逃走を開始するが、しかし逃がしはしない。

 

 神滅具のイッセーくんと邪眼のギャスパーくん、さらに参謀格の宮白くんを撃破されたのは非常に痛い。

 

 ここで逃がすわけにはいかない!

 

「逃がしはしません!!」

 

 だが副会長は不敵にほほ笑むと、そのまま陰に沈み込もうとする。

 

 今からでは間に合わない―

 

「ああ、そこまでです」

 

 その背中に、何かが突き刺さった。

 

 それが飛んできた方向に視線を向けて、僕は度肝を抜かれた。

 

「・・・いやぁゼノヴィアを先に行かせてよかった。おかげで後ろの警戒ががら空きになったようで隙を突き放題でしたよ」

 

 勝ち誇った笑顔の宮白くんが、ショットガンを片手に不敵にほほ笑んでいた。

 

 ・・・さっき撃破のアナウンスが流れていたよね!?

 

 呆然とする僕の前で、同じく茫然とした副会長が、全身から血煙を上げながら唖然として視線を向ける。

 

「そん・・・な、馬鹿な?!」

 

「ああ、アナウンスのことですか?」

 

 宮白くんは懐から携帯のようなものを取り出すと、そのスイッチを押した。

 

『リアス・グレモリーの兵士一名、リタイア』

 

 ・・・アナウンス!?

 

「放送設備があるところで、アナウンスを無条件に信頼してはだめですよ? 念のために声帯模写が得意な知り合いに頼んで一通り作ってもらって正解でした」

 

 ・・・確かにアナウンスの偽装をしてはいけないだなんてルールはないけど、まさかそんなものを用意していただなんて想定外だった。

 

 そういえばわずかにアナウンスの内容が違う。そこで気づくべきだったか。

 

「く・・・っ! 桜花、後は・・・頼み―」

 

『ソーナ・シトリー眷属の女王、リタイア』

 

 倒れ伏した副会長が消え、そしてアナウンスが鳴り響く。

 

 これで生徒会のメンバーはあと二人。

 

 1人はもちろんソーナ会長。

 

 そしてもう一人は―

 

「了解しましたー」

 

 カツン、カツンと、足音が響く。

 

 そちらに視線を向けた僕たちは、その最後の障害を見据えた。

 

 ・・・聖吸剣ではなく鞘に納めた野太刀を手に持った桜花さんが、ゆったりとした足取りで僕たちに近づいてきていた。

 

「ごめんねみんなー。本当なら私が暴れて終わらせたかったけど、会長の目的のためにはイッセーくんは元ちゃんで倒すのが一番よかったからー」

 

 両手を合わせて謝りながら、桜花さんはしかし鋭い視線を向けていた。

 

 ・・・彼女から、今までにない重圧を感じる。

 

 間違いなく、今の彼女は今までの彼女よりはるかに強い存在なのだろう。それだけは間違いない。

 

「・・・みんな、後は任せてねー。ちょっくら一狩り、やってくるからねー」

 

 野太刀を鞘から引き抜きながら、桜花さんがゆっくりと構えをとる。

 

「・・・最後の障害はやっぱりお前か。何となくそんな気はしていたよ」

 

「そうだねー。私も、兵夜くんはなんだかんだで私と当たるまで生き残るって思ってたよー」

 

 宮白くんの言葉にわずかに笑みを浮かべる桜花さんだが、その表情はあくまで真剣だった。

 

「・・・一人でも多く倒して、ソーナの評価を上げようという覚悟。敵ながら見事としか言いようがないわ」

 

 覚悟を見せる表情を前に、部長も戦慄を感じたのか息をのんで彼女を見る。

 

 ふと、桜花さんが苦笑した。

 

「なーんか、勘違いしてないかなー」

 

「・・・なに?」

 

 僕らが怪訝な表情を浮かべる中、桜花さんはポケットに手を伸ばす。

 

「・・・一人でも多く? いやいや違うよー」

 

 そこから取りだしたものを見て、僕たちはさらに戦慄した。

 

 あれは・・・パクティオーカード!?

 

「一人残らずうち滅ぼすにきまってるじゃんかー」

 

 ・・・仮契約というのは魔法使いが従者とする者に対して行う能力のはずじゃなかったのか!?

 

「・・・じゃあ、ソーナ・シトリー眷属兵士にして駒王学園生徒会庶務、んでもって―」

 

 彼女はカードを見せつけるように突出し、堂々と名乗りを上げる。

 

「称号、忠義持つ流転の魂! 桜花久遠、参る!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 




ヘルキャット編ボス、桜花久遠ついに登場。

ここからグレモリー眷属相手に大暴れしますので、自戒をお楽しみに!!


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VS生徒会 第四ラウンド! ~桜花抜刀

ついに満を持して登場した桜花久遠。

さあて、グレモリー眷属はどこまで持つか?


 

アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・その姿を見て、俺が感じた感想は一つだ。

 

「おいおいあの女マジかよ? ・・・今までとは別人じゃねえか?」

 

 フィフスたちと遣り合った時のあいつらの姿は全然見てなかったが、もし見てたら真っ先に倒すように忠告してただろう。

 

 動きに合った隙やぎこちなさが大幅になくなっている。もうあれば別人の戦士と考えたほうがいいぐらいだ。

 

 確かにソーナはあえて匙を使って倒したかったようだな。

 

 今の桜花なら一対一で赤龍帝の鎧を相手にすることができる。勝算だって十分のあっただろう。

 

『・・・ゼノヴィア、子猫ちゃん! 一分でいいから時間稼ぎよろしく!!』

 

 そのやばさを肌で感じ取ったのか宮白が叫ぶ。

 

 続いて木場を引っ張りながら後退して、朱乃の隣まで並びやがった。

 

『木場、朱乃さん!! 例の奴の緊急調整終わりましたからフィッティングするんで急いで!! 部長は下がって・・・いや、俺たちの隣にいてください!! 1人で行動してたら一瞬で開きにされる!!』

 

「あいつほんとに殺し合い経験少ねーのか? やばさを一瞬で把握しすぎだろ?」

 

「まあほかの面々も言われずともうすうす感じているとは思いますが。・・・というか、実質新兵器の緊急調整のための時間稼ぎでしたか、あの偽アナウンス」

 

「あ、あぅうう・・・。兵夜ぁ」

 

 宮白の判断にそれぞれの感想を漏らす小雪とベルだが、ナツミはハラハラしながら見守っていた。

 

 確かにあの状態の桜花が相手になっているのを見たら、判断も間違いないな。

 

 ・・・そこまで予測したわけじゃないだろうが、想定外の事態に新兵器で対抗というのは悪い話じゃない。相手が知らないものを使ってくるならこちらもまたしかりだ。

 

 特に木場のは発想の転換だ。あいつの能力があってこそ真価を発揮するいい武装だろう。

 

 んでもって朱乃のは目からうろこだ。俺に苦言を呈すだけあって、方向性の違ういいプランを組み立てたもんだ。確かにあの方向性は使い方次第じゃ化けるし、雷光だとつかえねえしな。

 

「く、久遠ちゃんが出た以上、これ以上はやらせないんだからね!! 覚悟しなさいサーゼクスちゃん! リアスちゃんの負けは決まったわよ!!」

 

「いや、宮白くんを甘く見ないほうがいい。彼の作り上げた回復用のマジックアイテムを見れば、魔術の力はなめていいものではないよ」

 

 保護者のほうまで火花が散ってきやがったなオイ。

 

 そんな保護者バトルが始まると同時に、桜花がリアスたちに突っ込んでいく。

 

『全員まとめて切り刻むよー!』

 

『なめてもらっては困る!!』

 

『行かせません!』

 

 ゼノヴィアと小猫が立ちふさがり戦闘になるが、見ればわかるぐらいに桜花が優勢だ。

 

 すべての攻撃をさばいて、隙あらば瞬動で抜けようとしてくる。

 

 それができないのは小猫が仙術で即座に位置を把握して迎撃に移るからだ。その直後からデュランダルが迫ってくれば、聖吸剣をレンタルしてしまった今の桜花ではまともに打ち合えない。

 

 とはいえそれをもってしてもじわりじわりと距離を詰めてるところもあり、この辺は地力の違いってやつか。

 

 と、俺の隣で観戦していたオーディンがこっちを見るとにやりと笑う。

 

「なかなか面白いことになっているのぅ、アザゼル」

 

「俺も正直手に汗握ってるぜ。まさか開幕直後からここまで乱戦になるとは思わなかった」

 

 宮白の判断があってのものとはいえ、どこもかしこも激戦でワンサイドゲームがない。

 

 いくらイッセーを筆頭としたパワー戦ができないとはいえ、ここまでやるとは思わなかった。

 

「特に面白かったのはあのドラゴンの小僧じゃのう? ・・・ああ、赤龍帝のほうではないぞ? ヴリトラのほうじゃ」

 

「ああ、確かに面白かったな」

 

 イッセーの奇想天外な新能力もあれだったが、匙のほうもなかなか面白かった。

 

 最初見たときは自分の神器を一つも理解できてない奴だったが、ちょっと見ない間に一気に化けやがった。

 

 さらに身体能力もすごい。平均的な身体能力なら、あいつを筆頭にソーナんところの連中のほうが高いんじゃねえか?

 

「ああいうのが伸びるんじゃ、ああいうのが。どうせおぬしが面倒見る一人じゃろう? ちゃんと面倒を見ることをお勧めするぞ」

 

 そしてそれだけのものを提供したものが、今最後の砦として立ちふさがった。

 

 ソーナの戦略にミスがあるとするならば、この女を終盤まで温存したことだろう。

 

 レーティングゲームに通用する人材を育成するという観点から見て、元から圧倒的な才能を持っている逸材を単独投入してのワンサイドゲームなど取れなかったのだろうが、何人かをゲリラ戦で殲滅する程度していれば、今頃ソーナは勝っていただろう。

 

 これだけの化け物とはいえ単騎で挑めば、集団戦術で倒しきれるだけのメンツがそろっている。

 

 さて、どこまで粘れるかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木場Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・準備は整った。

 

「ここからは僕も参戦するよ、桜花さん!!」

 

 宮白くんとアーチャーさんが開発した新兵器をもって、僕は一気に駆け出す。

 

 その僕の姿を見た桜花さんが、目を大きく見開いた。

 

「ロボットのバックパックー!? それむしろ邪魔じゃない!?」

 

 確かに、これは非常に使いづらい強化武装だ。

 

 僕が背中に背負っているのは巨大なバックパック。

 

 八つのパーツで構成されており、それぞれが生み出した剣をつかむことが可能だ。

 

 彼の世界の義手の技術が構成されており、重量増加による機動性能の低下を風の魔術の応用によるブーストで補うため、確かにロボット兵器のバックパックに近い。

 

 反面、僕が魔術師でないこともあって腕としての使用は非常に難しい。しかも慣れていない今では、戦闘で運用するなど夢のまた夢だ。

 

 だが、これの発想は全く違うところにある。

 

「強化外装、リョウメンスクナ・・・起動!!」

 

 バックパックを起動すると同時、そのユニットの先端部に聖魔剣を生み出して装備させる。

 

 ・・・エクスカリバーの中にもあるように、所有者の身体能力を強化する武装はいくつもある。もちろん僕だって生み出すことができる。

 

 とはいえそれは剣である都合上いくつも同時に持つことができないので、強化できる戦闘能力には限りがある。

 

 だが、そのつかむ腕は複数あったらどうなるか?

 

 その答えが、ここにある。

 

 自分でも制御できるかわからない速度で一気に桜花さんとの距離を詰める。感覚強化の聖魔剣も用意しなければ転んでいただろう。

 

 それにかろうじて反応した桜花さんは瞬動で下がるが、しかしすぐに反応して一気に距離を詰めた。

 

「ちょ・・・早ー!」

 

 振り上げた剣をかろうじて受け止める桜花さんだが、表情はちょっと苦しげだ。

 

 当然だろう。筋力強化の聖魔剣も用意しているし、彼女の瞬動を見切るために動体視力強化の聖魔剣も用意した。

 

 確かに見違える戦闘能力を持っているが、この身体能力の強化は想定外だろう。

 

 ・・・そしてそれだけでは済まさない。

 

「朱乃さん! 全力でお願いします!!」

 

「ええ、うっぷんを晴らさせてもらいますわ!!」

 

「いやいやいやいや、逃がさないからねー!!」

 

 朱乃さんのノリノリの声を聞いて、あわてた桜花さんが攻撃の密度を上げる。

 

 大威力の雷光を警戒して僕を逃がさないようにするつもりなのだろう。

 

 確かに大出力の雷光を完全に防ぐことは僕の聖魔剣でも不可能だ。それは認めるから判断そのものは間違ってない。

 

 雷に変更したところで同じことだ。桜花さんの体捌きでは僕を楯にすることは容易だろう。包み込むほどの大規模でなければ意味がない。

 

 だが、それは今までの話だ。

 

「ちゃんと見たほうがいいと思うよ? ・・・度肝抜かれるから」

 

「いやいやー。度肝抜かれるよな敵味方無視の攻撃とかきみ達じゃ性格的に無理・・・」

 

 ちらりとみた桜花さんがあわてて二度見する。

 

 まあそうだろう。

 

 ドSの笑顔を浮かべる朱乃さん? それは想定の範囲内だろう。

 

 ドヤ顔の宮白くん? それだって、これだけの新兵器の活躍を見れば、発案と開発補助をした身としてそうなるだろう。

 

 ちょっと引いている部長と小猫ちゃん? なんで引いているのかが問題だ。

 

 では何を見て二度見したのか。

 

 それは簡単だ。

 

「これだけ用意すれば効果は抜群ですわね。・・・イッセーくんに私の勇士を見させなかった報い、特と味わいなさい」

 

「ふはははは! 雷光を使いたくないなら、電力じゃないとできないことをすればいいじゃない! 我ながら発想の勝利!!」

 

 ・・・数十ものロケットランチャーのようなものが宙に浮かんでいる光景を見れば度肝も抜かれる。

 

 朱乃さん用に宮白くんが開発した強化武装、磁力女帝(マグネティック・エンプレス)

 

 用途はきわめて簡単。朱乃さんが生み出す雷を磁力に変換し、その微細な流れの変化でいくつものパターンに分けて運用するというものだ。

 

 今は複雑な操作の場合、宮白くんの協力のもと数十丁の銃火器を運用することしかできない。だがこのパターンを基に改良を施して、脳波操作式にすることでより複雑な運用を可能にするつもりらしい。

 

 なんでも砂鉄を操作して自在に操る武装にするとか、もっとシンプルにサイコキネシスのように重量物を操ったり、それを利用して宙を高速移動したりとか言っていた。

 

 そうなればどちらかといえば僧侶タイプの朱乃さんだが、これによって戦車や騎士よりの運用も可能になるかもしれない。

 

 ちなみに今浮かべている武装はインパルスといって、暴徒鎮圧や消火作業に使う、霧状にした水を発射する装置らしい。

 

 そして宮白くんでレーティングゲームといえば、ライザー・フェニックス戦で見せた聖水による対内注入。

 

 当然それを連想したのか、桜花さんの表情が露骨にひきつった。

 

「まさか対聖水用の聖魔剣とかー・・・」

 

「今持ってるのがそうだよ?」

 

 僕が応えると同時に発射された。

 

「ふ、風花、風障壁!!」

 

 あわてて桜花さんが叫ぶと同時に、僕らをカバーするかのように風が発生する。

 

 聖水の霧はそれに防がれてこちらに来ないが、しかしそこまでは想定内だ。

 

「いやー危なかったー。でもこれで痛いのは―」

 

「あいにくそこまでは想定内だ!!」

 

 桜花さんの後ろに回り込んでいたゼノヴィアがデュランダルを振り下ろす。

 

 僕はその瞬間に対聖水を対聖剣用の聖魔剣にかえ、デュランダルの余波を防ぎながら同時に切りかかる。

 

 そもそもまともな剣術で彼女に劣るのは当然だ。ならば卑怯ではあるが数で責めるのが当然。

 

 二刀流で数を有する僕と、圧倒的な力を体現するゼノヴィア。

 

 前後から同時に相手をするのは、いくら桜花さんでも苦戦するはず!!

 

 出し惜しみをして単騎運用した隙を逃すつもりはない!!

 

「ちょ、ま、まって―」

 

「「待たない!!」」

 

 あわてる桜花さんをその隙に倒すべく、僕たちは全力で攻め立てる。

 

 瞬動をさせる隙は与えない。この短時間で叩き潰す!!

 

 実際今の桜花さんは明らかに苦戦している。それに―

 

「OKOK。そのまま抑えてろよ二人とも」

 

 絶妙な場所に移動した宮白くんが、大口径の猟銃を構えていた。

 

 当然、その弾丸は聖水を注入する特注仕様。さらにワイヤーでつなげることで強化の魔術を込められると念を入れられている。

 

 桜花さんは防御方面ではライザー・フェニックスに劣るだろう。少なくとも体内に強化された聖水を注入されてただで済むとは思えない。

 

 そこまで時間を稼げればこちらの勝ちだ。・・・これで決める!

 

 射撃とタイミングを合わせて同時に切り込む。これで―

 

『契約執行300秒間! ソーナの従者、桜花久遠!』

 

 どこからか、ソーナ会長の声が響いた。

 

「・・・ナイスタイミングです、会長ー」

 

 目の前で、刃が瞬いた。

 

「神鳴流奥義、百裂桜華斬!!」

 

 円を描く刃が、僕とゼノヴィアを一気に弾き飛ばす。

 

 デュランダルをもったゼノヴィアを弾き飛ばすだけでも驚きなのに、さらに桜花さんはそのまま蹴りを放つと発射された銃弾を蹴り飛ばした。

 

「・・・は!?」

 

 ありえないものを見て宮白くんが大きく口を開ける。

 

 当然だろう。あの状況下で一気に逆転するだなんて、普通はありえない。

 

「言ってなかったねー。仮契約は主人が従者に魔力供給することで身体能力を大幅に強化できるんだよー」

 

 ・・・今まで結構な戦闘を繰り広げていたはずだが、もしかしてその手段を忘れてたりしていたのだろうか?

 

「使ったことないから会長にどんなことができるのか聞かれるまで思い出せなかったよー。ごめんねー」

 

 本当に忘れていた!

 

「油断大敵ですわね!」

 

「私も忘れてもらっては困るわ!!」

 

 両手を合わせて誤る桜花さんに、我に返った朱乃さんと部長が一斉攻撃を放つ。

 

 インパルスは一回きりのタイプだったのでそれを磁力で投射し、さらに消滅の魔力がピンポイントで放たれた。

 

 だが、それがくるよりも早く桜花さんはさっき見せたカードを突き出した。

 

「―来たれ(アデアット)! 感卦の羽衣!!」

 

 カードと引き換えに現れたのは、半透明な美しい羽衣だった。

 

 その直後、桜花さんにすべての攻撃が激突して爆発すら起きる。

 

 ・・・タイミングから言って防御系の武装か何かだろうか? とはいえあれだけの直撃を無傷で防げるとも思えないが・・・。

 

「・・・さすがに卑怯だから教えておくよー」

 

 煙の中、桜花さんの声が響く。

 

「私の世界では気と魔力は反発する概念でねー。まあ、この世界の聖と魔みたいなものなんだよー」

 

 一歩一歩歩いているのか、少しずつだが桜花さんの姿が見えてくる。

 

 待て、なんで今その情報を言う必要がある?

 

 聖と魔が反発するのはよく知っている。だから僕の聖魔剣はイレギュラーといわれているのだし、出力も高い―

 

 ・・・・・・待て。

 

 まさか、組み合わせるものがあるというのか?

 

「・・・このアーティファクトは気と魔力が大量に必要でさー。会長がノウハウ無いから魔力供給なかなか苦労してて、まさかこの試合の最中につかむとは思わなかったよー」

 

 この怖気はなんだ?

 

 まるでコカビエルと相対した時のようなプレッシャーが、今の僕たちを襲っていた。

 

 煙から、桜花さんがゆっくりと出てくる。

 

「感卦法っていうんだけどねー、これはそれを発動させてくれるアーティファクト、感卦の羽衣っていうんだー」

 

 無傷で、桜花さんは立っていた。

 

「・・・さあ、ここからが本番だよー?」

 

Side Out

 

 




何気に考えるのが大変なのがオリジナルアーティファクト。

なんてったって前回書いた通り、ケイオスワールドでは普通に考えても「禁手のない神器」にしかならないから、オリジナリティを考慮しなければならないわけです。

そのため考えられるプランは

1 複数のアイテムのセット

2 開発当時では作られてないであろう近代技術系(銃とか)中心

3 ネギま! 世界観独自の技術が関与するもの。

ちなみに兵夜の場合は三つすべての複合タイプになります。

で、久遠の場合は3で行きました。 何気に生前の久遠は感卦法を使えないので、ある意味で生前を超えたことになります。


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VS生徒会 第五ラウンド!  桜花乱舞

 俺は一気に後退すると、部長の隣まで走る。

 

 ・・・やばいな、これは。

 

 明らかに桜花から放たれるプレッシャーが増した。

 

 ゆえに俺は素早く判断する。

 

 転送したユニットを、全力で桜花に投擲する。

 

 当然桜花はそれを簡単にかわすが、これはそれがも目的なので問題ない。

 

「かかったな!! あと失礼します!!」

 

「きゃあっ!?」

 

 足で投げるかのように部長を飛ばすと、再びユニットを射出して今度は手に持ったまま展開する。

 

 四分割されたユニットはそれぞれ隅っこにまで飛んで壁に突き刺さると、強力な障壁を展開する。

 

 十数分間だが桁違いの頑丈な障壁を展開し続ける障壁展開用ユニット。本来は通路などを移動して撤退するときに相手の足止めに使うものだが、今回は部長と遮断することを目的として発動した。

 

 当然、桜花が避けた先でユニットは展開して障壁を張る。

 

「・・・部長。安全圏に避難しろとは言いません。別ルートで屋上に移動してそっち経由で会長を探してください」

 

「何を言っているのかしら? この状況下で眷属を置いていくほど―」

 

 部長が文句を言いかけるが、そんなことを言っている場合ではない。

 

「このままだとこっちが全滅するって言ってるんですよ!! 時間稼ぎするからとっとと大将討ち取ってください!!」

 

 素早くイーヴィルバレトを呼び出して構える。

 

 もはや会場の破損禁止などとという生ぬるいことを言っている場合ではない。

 

 全弾叩き込んで黙らせる!!

 

「甘いねー」

 

 その目の前に、久遠の顔が大きく映った。

 

「な―」

 

 そして気づいた瞬間には、コートをつかまれて投げ飛ばされていた。

 

 一瞬で接近された後、切られる前に投げ飛ばされた?

 

 ふと気づけば、すぐ近くにいた朱乃さんまで隣にいた。

 

 俺と朱乃さんが安全圏に一時的に強制避難させられたのはわかる。

 

 だが、誰がやった?

 

 考えるまでもない。俺は無理だし朱乃さんも投げられた側。木場とゼノヴィアは距離が離れていたのであの不意打ちでは間に合わない。

 

 つまり・・・。

 

「狙いはずれたけど、まずは1人かなー」

 

「小猫!?」

 

 桜花のつぶやきで我に返ったのか、ゼノヴィアの絶叫が響く。

 

 回転する視界のなかで、鮮血をまき散らしながら小猫ちゃんがゆっくりと倒れていくのが見えた。しかも転送の光に包まれ始めている。

 

 馬鹿な!? 仙術を解禁した小猫ちゃんの頑丈さは禁手になったイッセーに次ぐぞ!?

 

 それが一撃だと!?

 

「「小猫ちゃん!?」」

 

「・・・っ」

 

 木場と朱乃さんも叫ぶが、俺は何とかそれをこらえる。

 

 落ち着け俺! レーティングゲームである以上安全圏に転送されるだけだ!

 

 俺たちが相手をしているのは、下手をしなくても禁手状態のイッセーを超えかねない化け物だぞ! 茫然としている場合じゃない!

 

「やってくれたな・・・っ!?」

 

 素早くイーヴィルバレトを向け、そして引き金に指をかける。

 

 久遠はそれをみて足に力を込める。

 

 引き金を引くのが速いか、それとも久遠が動くのが速いか―

 

「・・・隙を、見せましたね」

 

 その久遠の足を、子猫ちゃんがつかんだ。

 

「なっ!?」

 

 すでに倒したと踏んでいたのだろう、桜花の表情に驚愕の色が映る。

 

 そして、すぐにその表情が苦悶にゆがんだ。

 

「小猫ちゃん・・・最初から足狙い―」

 

「おそらく瞬動というのは踏み込みが関係しているのでしょう? なら、足に気を流せば封じれる・・・はず・・・」

 

 してやったりの笑みを浮かべながら、今度こそ小猫ちゃんが消えうせる。

 

 あの状況下で最善手を打ち、最も驚異的な機動力を殺したというのか・・・っ!!

 

「・・・喰らっとけ!!」

 

 このチャンスを逃すわけにはいかない。

 

 今度こそイーヴィルバレトの引き金を引き、弾丸の嵐を久遠に浴びせる。

 

「なんのー! 足はだめでも翼があるよー!!」

 

 悪魔の翼を広げて後ろに下がる久遠。

 

 だが甘い。後ろに気を付けなかったのは失敗だな。

 

「やれゼノヴィア!!」

 

「無論だ。小猫の敵は討たせてもらう!」

 

 久遠の真後ろからデュランダルとアスカロンの二刀流で武装したゼノヴィアが一気に迫る。

 

 気づいた久遠がとっさに野太刀を振るうが、いくらなんでも伝説クラスの聖剣二つを抑えきることはできない。

 

 甲高い金属音とともに、野太刀は耐え切れず砕け散った。

 

 これで―

 

「甘いよー」

 

 ・・・久遠が、ゼノヴィアの懐に潜り込んだ。

 

 その手には野太刀はもはやないが、その動きには迷いがない。

 

「紅蓮拳!」

 

 振りぬかれた拳がゼノヴィアの鳩尾に突き立つ。

 

「烈蹴斬!」

 

 蹴りがその側頭部にたたきつけれる。

 

 この間わずか一秒足らず。俺たちがあっけにとられた一瞬のすきにこれだけの攻撃が叩き込まれ、さらにゼノヴィアの頭を久遠は両足で挟み込む。

 

「浮雲、桜散華!!」

 

 フランケンシュタイナーみたいな投げ技が、ゼノヴィアを弾丸にして床にクレーターを作り出した。

 

「まさか、剣さえ奪えば勝てるだなんて思ってたのかなー? 実戦用古流剣術にそんな甘い話があるわけないじゃんかー」

 

 足を酷使したせいか、地面に着地できずそのまましりもちをつきながら、久遠はそう嘆息した。

 

『リアス・グレモリー眷属の騎士一名、リタイア』

 

 光に包まれて消えるゼノヴィアを横目に、久遠は宙を舞っていたアスカロンをつかみ取る。

 

「まあ聖剣としての力は使えないだろうけど、剣はふるって切れれば十分意味があるからね・・・っとー」

 

 軽くふるって調子を確認しながら、久遠は翼の力を使って立ち上がる。

 

「あ、今ので足は本気でヤバイから気にしないでいいよー。蹴りは来ないから安心してねー」

 

 ・・・これでこちらは残り三人。そして久遠は足と得物を失った。

 

 一見すると剣は確保されたから意味がないかもしれないが、しかしそういうわけでもない。

 

 あいつが聖吸剣を使わず、あえて野太刀を使ったということは、思いつく理由はただ一つ。

 

 おそらく、京都神鳴流は野太刀を使うのが一般的。・・・西洋の剣では真価を発揮できないはずだ。少なくとも久遠はそこまでうまく使えないのだろう。

 

 付け入るスキは十分ある。

 

「まさかここまで手こずるとは思わなかったなー。みんな本当に腕を上げたけど、兵夜くん特製の武装の数々も苦戦するよー」

 

「そりゃどうも。俺はお前の化け物っぷりに驚いてるよ」

 

 どう攻めたらいいかよくわからない状況下で、久遠がそんなことを言ってきた。

 

 ・・・正直正面からぶつかって勝てるとも思えないし、ここは部長が会長を打倒してくれることを祈って時間を稼ごう。

 

 携帯電話を利用してメール送信。「合わせて」

 

「最初にあった時からできるタイプだとは思ってたけどさー、コカビエルの一件とか和平会談の時とか、本当、兵夜くんってやれるよねー」

 

「確かにそうですわね。兵夜くんが悪魔になる一件からずっと、毎回必ず成果を出してますわ」

 

「いつも思うけど本当重要な戦力だね。いつも助かってるよ」

 

 ・・・確かに合わせてとは言ったが、これは恥ずかしいな。

 

 そしてなぜか、久遠が俺よりも恥ずかしそうにしていた。

 

「・・・うん、いつも思うけど本当に格好いいよねー。だからさ・・・」

 

 視線を泳がせながらものすごい言いにくそうにしている。

 

 好機! これは好機だ!!

 

 露骨に隙を見せたその判断を迷うがいい! このチャンス逃さ―

 

「・・・このゲームで私たちが勝ったら、生徒会に入ってついでに付き合ってください!!」

 

 思わず構えたショットガンが、すっぽ抜けた。

 

「「・・・え?」」

 

 まさかここで告白がくるとは思わなかったのだろう。木場と朱乃さんも唖然としていた。

 

 いや、告白だよな? これってどう考えても告白だよな?

 

 L・O・V・E・・・LOVEですか? あれですか? あなたは私にフォーリンラブですか!?

 

 ドォンッ!

 

「おわショットガンが暴発した!?」

 

 頬をスラッグ弾がかすめて正気に戻った。

 

 いやいやいやいやちょっと待て!?

 

「お前正気か!?」

 

 俺を選ぶとか趣味悪いな!!

 

「いや宮白くん!? 宮白くん明らかにスペック高いよ!?」

 

「料理ができて成績優秀でスポーツもそれなりにこなせて性格も悪くない。・・・どう考えてもモテますわね。今まで告白されたことないのですか?」

 

 木場と朱乃さんがそんなことを言ってくるが、しかし冷静に考えてみてほしい。

 

「・・・どこの世の中に自分よりイッセー(女の敵なドスケベ覗き魔)優先する奴と恋愛したい年頃の恋する乙女がいるんだよ? 告白してきたやつみなこれで正気に戻るんだけど?」

 

「・・・ああ、なるほど」

 

 木場はあっさり納得してくれた。というか真理だ。

 

「男なんて一皮むけばスケベは共通点ですわよ? 木場くんだってエッチなことに対する興味自体はありますのに、そんなことを言っては何もできませんわ」

 

 朱乃さん。これ全国ネットで放送予定なんだからやめたげて。

 

 木場がものすごい反応に困った表情してるし本当にやめてあげて。

 

「・・・いや、私だって会長が最優先だからむしろそこは当然だよー。自分と似た存在理由を定義してるのってむしろ重要ポイントだねー」

 

 あっけらかんと久遠がそう断言した。

 

 ・・・ああ、確かに俺はそこには理解あるぞ? むしろお前が会長より俺優先したらそれはそれで複雑な気分になりそうではある。

 

 そういえば生徒会に入るのが重要で付き合うのはついでと確かに言っていたな。その辺確かにこいつはブレてない。

 

「仕掛けたときの対応の仕方とか綺麗でグっときたし、コカビエルの一件での対処の仕方とかもカッコいいから、機会があったらもっと仲良くなりたいなーって思ってたんだー」

 

 照れくさそうにノロけてくれてるのはいいのだが、これ最終的に放送される予定だって事実は知ってて行ってるのだろうか?

 

 後で恥ずかしさのあまり暴れられても俺が困るんだが?

 

 っていうかすっごい恥ずかしい! なんだよこのべたぼれっぷりは!?

 

 あれ!? 確かに俺の本領発揮した一件だったとは思うけど、いくらなんでもフォーリンラブが速すぎませんかちょっと!!

 

「・・・それにねー? ・・・女の子は、寂しい時に抱きしめて甘い言葉をささやかれたら一発で参るんだよー? 同じ境遇の人にされたらもうとどめです!」

 

 ・・・うっかりやらかしてた!?

 

「・・・あの緊急事態にそんなことしてましたの?」

 

「・・・宮白くん? 腕吹き飛んだ直後にそんなことできる君ってなんていうか・・・大物だよね?」

 

 感心するのかあきれるのかわからん口調で朱乃さんがつぶやき、木場は木場でフォローしようとして失敗してる。

 

「な、ななななんていうかすいません!!」

 

 どう反応すればいいのかわからんがなんかゴメン!

 

 っていうかどう答えればいいんだよ!?

 

 イッセー優先を理解したうえで告白してくるような開いて初めてだからどう反応していいのかわからねえ!?

 

 でもどうすればいいん? 断るべきか受け入れるべきか・・・。いや、嫌いなわけじゃないんだぞ? むしろかわいいし生き方にも共感できるところがあるから好きか嫌いでいえば好きって部類に入るし、そこまで踏まえてきたうえで告白してくれる相手に対してそんな冷たい返事を返すわけにもいかないし、むしろ応えてあげたくなるし、でもイッセーを優先する以上少なくとも現状は部長たちから離れるわけにはいかないし、離れるのは最終的に独立すると決めているからまあいいんだけど、後任を育成してからにしておくべきだからさすがにまずいし、っていうか後任育成するんだったら会長の夢をかなえるのは好都合だからある意味で予約するのはあり・・・いやいや独立前提なんだから主ポンポン変えるのはそれはそれでマズイって! っていうか笑顔かわいいうえに返事まってるその恥ずかしそうな表情ツボにはまるなオイ!! なんかエロいぞ興奮するぞ! 俺だってスケベなんだぞこのタイミングで欲情させるなよ! あぁもう! とりあえず落ち着いて考えろ俺・・・」

 

「宮白くん!? 受け入れるべきか・・・から全部口に出てる!?」

 

 なおさら断りづらくなってきた!?

 

「わかったよー。だったら妥協しよー!」

 

 なんか気合いを入れなおした久遠が、顔を真っ赤にして指を突きつける。

 

「兵夜君が私に勝てなかったら、私を愛人にしてー!!」

 

「お前はそれでいいのか!?」

 

 思わず全力ツッコミを入れてしまった。

 

「いや、会長とともにいることができないっていうなら、私が会長から離れるわけないから仕方ないよー。素直に現地妻になるって普通ー」

 

 さすがは俺の同類。すがすがしいまでの会長優先主義だ。

 

「それに私の愛に向き合ってくれるのが一番重要だからねー。会長の眷属でい続けない人と生涯ついていくのはそれこそ無理だし、両方ともwinwinなこの関係がベストだよー」

 

 な、なるほど。

 

「確かに真理だな」

 

「「なんで!?」」

 

 二人がなんかツッコミを入れてくるが、しかしこれは真理だろう。

 

 会長の剣がいずれ離れる男の伴侶になるというのもそれはそれでマズイ。あくまで現地妻というポジションはある意味でベストだ。

 

「仕方がない。そこまで腹をくくっている相手に応えないのも男じゃない! よし! 勝てるもんなら勝ってみろ!!」

 

「よっしゃー気合いさらに入ったー!」

 

 とりあえず空気はバトルモードに戻しきれた!

 

 さあて、それじゃあ気を取り直して・・・。

 

「勝負しようか、久遠!!」

 

 




桜花、告白タイム。

ぶっちゃけ桜花は制作当初から兵夜とくっつけることを目的としたキャラでした。

初期段階から作っていたため、そのキャラとしての方向性として「近い人種であるがゆえの好意」を前提とし、それゆえの同類としての設定を行っております。

ゆえに評価対象として戦術面でもデキる人物であり、何より絶対の優先対象があるというわけです。


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VS生徒会ラストラウンド! ~桜花無双

ついに決着生徒会戦! はたして久遠の恋の行方は!!


 

 アスカロンを片手に構える久遠に対して、俺たちは二方向から攻めに入る。

 

 木場は後ろに回り込み、俺と朱乃さんは正面から突貫する。

 

 広範囲攻撃を叩き込むべきだろうが、しかしあの状態だと何回かは耐えられそうだから、隙が出る攻撃は危険だ。

 

 と、いうか結構周りを壊しまくっているから派手な攻撃ができそうにない。さすがにこれ以上はマズイ。

 

 しかしその辺は安心するといい。朱乃さん用の磁力女帝は、むしろこういう場面でこそ真価を発揮する武装だ。

 

「朱乃さん、パス!」

 

「わかりましたわ!!」

 

 俺は転送して大型の鉄製ブレードを複数呼び出す。

 

 それを磁力でキャッチした朱乃さんが、多方向から一斉に久遠に刃をたたきつける。

 

「ふっはははー! 遅い遅い遅いよー! 同時のつもりだろうけどタイミングが激甘だよー!!」

 

 難なく弾き飛ばす久遠だが、その間に俺は懐に潜り込む。ブレードの間合いで勝負する必要もないので、両手に持つのはナックルダスターだ。

 

 そして後ろに回り込んだ木場は得物を一つ確保していた。

 

 それを確認した久遠が、思わず二度見する。

 

「・・・デュランダルー!?」

 

「言ってなかったね。いざというときは僕に所有権が移るようになっているんだ」

 

 駐車場での戦いを見ていなかったからか、久遠はこの情報にもろに隙を見せた。

 

 よっしこのチャンス逃さん!!

 

「それは悪手だよー!」

 

 アスカロンとデュランダルが交錯する。

 

 ぶつかり合ったその応酬を制したのは・・・。

 

「木場くんがそれ使っても意味ないよー」

 

 ・・・久遠のアスカロン!?

 

 聖剣としては使えないはずとか言ってなかったかオイ!?

 

「見た目からして典型的なバスターソードなデュランダルは、どう考えても力を重視した剛剣が本領。技を多用する木場くんとは相性が悪いねー」

 

 やすやす迎撃した久遠がそうあきれる。

 

「普通に聖魔剣使ったほうがまだ効果あると思うよー? むしろ剣技が得意じゃない兵夜くんがたたきつけるぐらいにしたほうがよかったと思うけどなー」

 

 ありとあらゆる方向からくる刃の群れを、しかし久遠はすべてさばく。

 

 これが感卦法とかいうやつの本領かよ!? どこまで伸びる!!

 

 しかし見れば、久遠の頬には傷があった。

 

 ここまでこいつは有効だを足にしかもらっていない。少なくとも顔には一撃ももらっていなかったはずだ。

 

 まさか感卦法にはデメリットがあるのか?

 

「勘違いしないでほしいなー」

 

 真上から一斉に襲い掛かる刃をすべて一閃で弾き飛ばしてから、久遠がそう言い放つ。

 

「感卦の羽衣はあくまで感卦法の発動を可能にするアイテム。その後の制御は楽になるけど、あくまで楽になるだけで反発する力を制御する必要があることに変わりはないから戦闘中だとまだ反動が出るけどねー・・・」

 

 後ろからくるデュランダルをやすやすといなし、正面からくる俺の攻撃を手堅くさばく。

 

 これだけの攻撃を前にして、久遠はしかし圧倒的に優勢だった。

 

「その程度のデメリットがそっちの勝因になると思ったら大間違いだよー!」

 

 全方位からくる攻撃を、久遠は気合いを入れて弾き飛ばす!!

 

「教師がリスクを前提とした危険なやり方を教えるわけにはいかないから、会長たちには安全重視でやらせたけどねー。私は剣士だから容赦なくリスクを呑んで戦うだけだねー!!」

 

 弾き飛ばされてフォーメーションが乱される中、真っ先にターゲットに狙われたのは・・・俺!!

 

「・・・ああ、そうかい」

 

 本当に、本当に久遠は強敵だ。

 

 色々ハメ手をもらったとはいえ、結局優勢か否かでいえばこっちが優勢だった。

 

 それがたった一人にひっくり返されそうになっている。それは受け入れるべきだ。

 

 リスクを覚悟して迫るその姿は、確かにきれいで、魅了されてしまいそうだ。

 

 戦乱でこそ輝く戦乙女。野太刀という和の武装を愛用するそのあり方は、甲斐姫か、それとも誾千代か。

 

 だが、俺もただで負けるわけにはいかない!

 

禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

 神器の封印を解除する。

 

 とはいえこの出力でうかつな攻撃はできないだろう。

 

 だから追加で注射器を取り出しそれを打ち込む。

 

肉体最大強化(ブーストアップバースト)!! 同時反射速度最大強化(アンドブーストアップバーストセカンド!!)

 

 光魔力で一気に上昇した肉体能力と反射神経で、一時的にとはいえど言った位置になった状態で何とか攻撃をさばき切る。

 

「正気ー!? 兵夜くんリスクを試合で背負うタイプじゃないでしょー!?」

 

「気にするな! お前の覚悟に敬意を表しただけだし、何より安全策は立ててある!!」

 

 悪魔になった肉体のせいで全身を禁手で強化するとダメージを受けるのなら、肉体の影響を除けばいい。

 

 抑制関係や封印術式をフルに使って開発したさっきの薬品は、一時的に悪魔化の肉体影響をある程度抑えることができる。

 

 もちろんその分身体能力は低下するが、禁手状態で全身強化するのなら、それ以上のブーストが見込めるのだ。

 

 それでもダメージは確かに入るが、しかしそれは覚悟の上だ!!

 

 寄りにもよって女の敵を最優先するような男に、それでも好きだといってくれた女がいる。

 

 それが自分が勝ったら付き合ってくれと言ってきたんだぞ? 真正面から相対してやるのがせめてもの礼儀ってもんだろうが!!

 

「ああああああああああああっ!!」

 

 全身が結構悲鳴を上げているが痛覚干渉で無理やりごまかして突貫する。

 

 高速で振るわれる攻撃を、しかし全力で何とか捌き続ける。

 

 本来なら一瞬で切り刻まれるだろうに、ソレを対処するとか我ながら無理しすぎにもほどがあるだろう。

 

 だが、それでも気合いで食い下がる。

 

 何も俺が直接かつ必要はない。

 

 直接戦闘なら部長は十分会長に勝算がある。少なくとも、俺たちが久遠を倒しきるよりかははるかに高い。

 

 それに魔力供給を会長が負担しているのなら、単独での戦闘能力は下がっている可能性だってある。

 

 俺たちは久遠を生かせないように食い下がって、魔力を供給させ続ければそれでいいんだ。

 

 その程度やってのけないで、イッセーの親友名乗るわけにはいかないんだよ!!

 

「こりゃまた手ごわいねー! でも負けるわけには―」

 

 攻撃の密度がさらに上昇する。まだ上があるのか!?

 

 さすがにこれをさばくのは―

 

「僕たちを・・・」

 

「・・・忘れてもらっては困りますわ!!」

 

 久遠の後ろからくる攻撃の嵐に、一気に密度が下がった。

 

「わ、忘れてたー!? 百裂桜華斬!!」

 

条件反射レベルで大技を発動するな!?

 

 防御礼装を満タンにしてたから防御できたが、そうじゃなかったら胴体両断されてたぞ!?

 

 ってマズイ。そんな攻撃もらったら―

 

「か・・・っは」

 

「あ・・・っ!?」

 

 二人が完全にカウンターをもらっていた。

 

 あれは確実にリタイア確定の大ダメージだ。・・・長くはもたない。

 

「よっしメイン剣撃破ー! 後は―」

 

「いや・・・まだだ!!」

 

 勝ちを確信した久遠に、木場が吠えた。

 

 その足元を聖魔剣が埋め尽くし、さらに一斉に共鳴したのか、不気味な輝きに包まれる。

 

「朱乃さん! 雷を!!」

 

「・・・わかりましたわ!!」

 

 血を吐きながらの木場の声に、朱乃さんが雷を放つ。それが聖魔剣に触れた瞬間に現象は起きた。

 

 聖魔剣が雷を取り込んで共有するかのように雷のドームを形成し、久遠を包み込む。

 

 聖魔剣を媒介にして雷を範囲攻撃に昇華しやがった! あれなら破壊される範囲も聖魔剣の制御次第で抑えられるし、いい判断だ!?

 

「な・・・っ!?」

 

『リアス・グレモリー眷属の騎士一名、女王一名、リタイア』

 

 二人が消え去ったことで聖魔剣と雷も消え去り、雷のドームも消えるが、今明確に久遠はダメージを負っていた。

 

 相応のダメージをもらったのか、その動きは明らかにぎこちない。

 

 このチャンスを逃しはしない!!

 

「もぉらったぁああああああああ!!」

 

 結晶体をフルに投入して全力で魔力を込める。

 

 当たればデカいが外すとでかい! これでケリを―

 

『ソーナ・シトリー様の投了を確認しました』

 

 ・・・・・・・・・へ?

 

『リアス・グレモリーさまの勝利となります』

 

 戦闘、終了?

 

「魔力無駄遣いじゃねえか!?」

 

 素直に喜べない!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・おーい、本日のMVPはここかー?」

 

 病室をのぞき込むこと数回、俺はようやく目当ての人物たちを発見した。

 

 病室にいたのはジュースを片手に持った久遠と椅子に座る会長。

 

 んでもって病室の主はベッドでこっちを見て唖然としていた。

 

「宮白じゃねえか? なんでここに来てんだよ?」

 

「そう言うなよ匙。このレーティングゲームのMVPはお前と久遠の二人だろうが。ちょっとぐらいほめてやっても罰は当たらんだろ?」

 

 素直に賞賛しに来てやったのにそれはないんじゃないかねえ?

 

「今回は完全にしてやられたよ。作戦立てたのは会長だろうが、それをちゃんと遂行しきったのは間違いなくお前だ。失血対策は想定外だったよ。マジお見事」

 

 持ってきたジュースを投げて渡すと、俺も適当な椅子を見つけてそれに座る。

 

 結局このレーティングゲームは事実上のこちらの負けといってもいい。

 

 ライザー戦からの大幅パワーアップポイントである、ギャスパーの使用許可とデュランダル使いの参戦と赤龍帝の禁手到達といった目玉をすべてつぶされた。挙句の果てに生存者も部長と俺の二名の身であり、圧倒的優勢とまで言われていたことを考えるともはや惨敗といっても過言ではない。

 

 久遠があまりにも大暴れしてくれたおかげで、異世界技術はマジすごいといった結論に至ったらしいが、それも久遠の異世界がマジすごいということになるから俺には得がない。

 

 回復に関してはこっちが先手を取ったからまあ被害は少ないのが不幸中の幸い。とはいえ戦闘面ではこれで注目度が下がったから、そういう意味ではいろいろと苦労しそうだなこれは。

 

「うんうん。結局会長の策を完璧に遂行しきったのは元ちゃんだけだもんねー。本当大活躍だよー」

 

 うんうんと、久遠が自慢げにうなづいてくるが、してやられた身としてはなんか微妙に腹立ってくるなオイ。

 

「その通りですよ、サジ」

 

 それでもうつむいていた匙の手を、会長がやさしく包み込む。

 

「貴方は私の自慢の眷属です。もっと胸を張りなさい」

 

「・・・その通りだとも」

 

 後ろからの声に振り返ってみて、俺は心臓が止まりそうになった。

 

 寄りにもよってサーゼクス様じゃねえか!?

 

「君は臆することなく戦い、イッセーくんを、赤龍帝を一対一で倒したのだ。私たちは観戦室で、君の雄姿を興奮しながら見ていたよ。あの北欧の主神オーディンも君をとても評価していた」

 

 度肝を抜かれている俺を通り過ぎ、サーゼクスさまは匙に勲章のようなものを握らせる。

 

「これはレーティングゲームで印象的な戦いをしたものに贈られるものだ。・・・桜花くんにも表彰されるだろうが、何よりまず君がもらうべき代物だよ」

 

 目に見える形で自分の勝利の証をもらい、匙は何が何だかわからない顔をしていた。

 

 だが、続けて放たれたサーゼクス様の言葉に硬直する。

 

「君も十分上を目指せる立派な悪魔だ。・・・レーティングゲームの先生になるといい。きっとなれるさ」

 

 その言葉に、匙は我慢できずに思いっきり涙を流し始める。

 

 俺はちらりと後ろを振り返ると、小さな声でつぶやいた。

 

「・・・だそうだぜ? 気合い入れないと追いつけなくなるかもな、イッセー?」

 

 視界の隅でものすごいあわてるイッセーの姿が見える。

 

 馬鹿め。俺がこの近距離でイッセーの気配を見逃すとでも思ったか?

 

 まあ恥ずかしいだろうし、俺は黙っててやるけどな。

 

 ヴァーリばかり見てると足元救われるということだ。今回の敗北はイッセーにもいい経験になっただろう。

 

 もちろん俺もいい経験だった。敗北を糧にしっかり成長するとするか。

 

「本当に、元ちゃんも私も会長もがんばったんだからねー? そう思わないー?」

 

 などと、いたずらっ子の笑みで久遠が俺の顔を覗き込んでくる。

 

「そりゃそうだろう? やられた俺がご褒美もってきてやるぐらいなんだから、もっと自信持ってもらわないとこっちが困るしなぁ」

 

「じゃあさじゃあさ? 私もご褒美もらっていいんだよねー?」

 

「そりゃそうだな」

 

 では缶ジュースを買いにもう一度自販機に行こうか。

 

 などと言おうとした俺の唇が、いきなりふさがれた。

 

 ・・・久遠の唇で。

 

「~~~~~~~~っ!?」

 

「なっ!? 桜花!?」

 

「・・・なにをやっているのですか、桜花」

 

「おやおや。これはこれは」

 

「み、宮白てめえ!?」

 

 声にならない悲鳴を漏らしてしまった。そのせいでほかの方々に気づかれてしまった。

 

 驚愕する匙にあきれる会長になにやら妙に感心するサーゼクスさま。あとイッセーが反応していたが、あまりにアレな展開にみんな気付いていなかった。

 

「ご褒美いただきましたー。ご馳走さま~」

 

「ちょ・・・おま・・・なんで!?」

 

「あれ? 私言ったよねー? 兵夜くんが私に勝てなかったらってー?」

 

 た、確かに言ったが勝敗自体は俺たちの・・・

 

 そこまで考えて俺は気づいた。

 

 俺、直接久遠を打倒してない!?

 

「は、謀ったな久遠!!」

 

「正真正銘生まれて初めての恋だもんねー。そりゃあ本気で勝ちをねらうよー?」

 

 してやったりの表情を浮かべながら、久遠がくるりと横に一回転する。

 

 その瞬間に、満面の笑顔を浮かべやがった。

 

「これからよろしくね、マイダーリン♪」

 

 ・・・まったく。

 

 俺って意外に恋愛じゃヘタレかねえ。

 

 




これでヘルキャット編は終了です。

いや、こっから先はちょっと料理のしようがないので、書いても蛇足になると判断いたしました。

そして次からはホーリー編になります。


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キャラコメ! 第6弾!!

 

兵夜「はい、どんどん出てくるキャラコメケイオスワールド。続いては冥界合宿のヘルキャット編」

 

小猫「どうも。表題のヘルキャットこと塔城小猫です」

 

久遠「はいはいー! 本章メインヒロイン兼ボス格の桜花久遠ですー!」

 

兵夜「オカルト研究部がインフレする話といっても過言ではないが、いきなりその一歩目で冷水ぶっかけられるという調子乗ったらいかんぜよという話でもある。なかなか面白い流れだな」

 

小猫「そして実力をもってしても桜花先輩に上回れてしまうわけで、今回グレモリー眷属ぼろぼろですね」

 

久遠「いやー。もうちょっと手加減するべきだったかもしれないけどねー? それだと目的達成できないしねー?」

 

小猫「イッセー先輩に次ぐレベルでモテモテですね、宮白先輩」

 

兵夜「はっはっは。あいつのレベルは無理がある」

 

小猫「それはそれとして兵藤邸がとんでもないことに。原作でもそうでしたが、兵藤邸をペンタゴンにでもするつもりですか?」

 

兵夜「んなこと言っても敵が敵だからな。どうせならまとまって住んでる方が安全だし、何より親御さんの安全も確保できるし。・・・何よりアサシンが怖かったし」

 

小猫「そんなに危険なんですか?」

 

兵夜「戦闘能力という意味なら、異世界補正があろうとイッセーが禁手になれば十分対応可能だ。だからこそ戦闘能力とは別の意味で脅威であるキャスターとアサシンは警戒しないといけない。親御さんを人質に取られたりしたらイッセーたちだと一気に瓦解するだろう?」

 

久遠「男用の別館作ってるところが気が利いてるよねー」

 

兵夜「まあそれぐらいの気は利かすさ。そしてこっちはこっちで聖杯戦争対策はできる限り行っている」

 

小猫「犯罪者であることから躊躇なく魔力を絞るあたり性格悪いですが、報酬は用意しているあたり人はいいですね」

 

久遠「つかまってるのに三食おやつ付きって、脱獄どころか出所する気もなさそうだよねー」

 

小猫「ついでに自分の魔力量の少なさも解決しているあたり抜け目がない」

 

久遠「そしてちゃっかりぼろもうけー。これ、ほかの魔術師に怒られたりしないの?」

 

兵夜「特許権なんてもんは先手必勝だ。ちゃんと組合にはいるみかえりは与えてるから、そこは納得してもらわないと。・・・冥界政府や各種神話体系から資材集めるのも楽じゃないんだぞ?」

 

小猫「・・・つくづくそのあたりの才能ありますね」

 

久遠「でもアザゼル先生には気づかなかったりー」

 

兵夜「いうな」

 

小猫「あの人はこの時点では別格ですから。気づくのは桜花さんやベルさんぐらいでは?」

 

久遠「小雪さんでも気づけるよー? まあ小雪さんは元本職だから逆説的に気配察知も長けるけどねー」

 

兵夜「つくづく俺の女は俺よりハイスペックだ。小猫ちゃん、泣いていいかな?」

 

小猫「よしよし。これから頑張っていきましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小猫「そして冥界へと向かっていますが、レイヴンの存在が幸運へつながってますね」

 

兵夜「災い転じて福となす。とはこの国の言葉だったな」

 

小猫「そのあたりでフィフスも納得してくれればよかったのですが」

 

兵夜「そこは認識の差だろう。似たようなものだから必ずしもOKというわけじゃないだろうからな。いや、それで納得してほしいんですが。・・・あ、でも根源到達なんてそれぐらいしないと無理かもしれないしやっぱ無理か」

 

久遠「そういえば兵夜君は、領土経営とかどうするつもりなのかなー」

 

兵夜「グレモリー領でも生粋の霊地を確保した。あとはそこを餌に魔術師たちの工房を作り上げ第二の時計塔に。んでもって魔術による鉱石探知などで新たな鉱脈を発見して、その利益からマージンをもらい研究費用に。同時に研究資材や資料などは時計塔よりもはるかに楽に閲覧できるようにして、その分研究成果などの利益を俺の手元に来るようにして・・・」

 

小猫「ストップ。暴走してます宮白先輩」

 

久遠「が、頑張ってるねー」

 

兵夜「まあ、アーチャーの研究成果などがあるから間違いなく当面は問題ないんだが。神代なめんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「それはともかくとして、グレモリー夫妻はがっつきすぎだ」

 

小猫「この時点ではイッセー先輩トラウマまみれですもんね。気づかなかったのは悪かったです」

 

兵夜「まあ、恋愛経験ど素人の群れで気づくのも難しいといえば難しいか。俺だって様々な人材あっせんの経験があってこそ理解できたようなもんだ。気にしない気にしない」

 

小猫「それはそれとしてアザゼル先生にすべて擦り付けましたね」

 

兵夜「まあ、一発ぐらいは殴ってやりたいとは思ってたから都合がよかった。小雪に殺されかけたが」

 

久遠「そりゃぁお父さん代わりがいきなり殴られたら頭に血が上るってー。せめて根回ししようよー」

 

兵夜「アドリブに無理言うな」

 

小猫「でも、これは深刻です。冷静に考えてなんでスケベなままなんですか、あのドスケベ先輩」

 

兵夜「ホント、女性恐怖症通り越して女性蔑視になってもおかしくないよな。変な方向に行って猟奇殺人犯にならなくてよかった」

 

久遠「確かにねー。じっさいライオンハート編では最悪な形で暴発したわけだしー」

 

兵夜「扱い方を間違えたと本気で後悔してる。・・・俺のうっかりでもトップクラスの失態だぁ」

 

小猫「それこそど素人じゃ無理ですよ。気にしない方がいいと思います」

 

久遠「まあ、それはそれとして・・・。グレモリー眷属ってアプローチあれだよねー」

 

兵夜「感想であったな。イッセーハーレムはあれだから「本気恋愛じゃない。からかわれてるだけだ」ってなるって。反面こっちは本気なのがまるわかりだから確信されて社会的信用が・・・」

 

小猫「よしよし」

 

久遠「あんなこと言っといて今更だよー。覚悟決めてもらわないとねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久遠「そしてサイラオーグさん登場だねー。まさか見抜かれるとは思わなかったよー」

 

兵夜「まあ、この時点で生粋の武芸者だからな。わかったとしてもおかしくない」

 

小猫「確かに。転生悪魔じゃない若手悪魔で、あの人以上の実力者はいませんし」

 

兵夜「まあ魔王末裔四人衆は互角に渡り合えるわけだが」

 

小猫「エルトリアもですか?」

 

兵夜「もちろん。まあ獅子王の鎧という奥の手がサイラオーグ・バアルにはあるわけだが、それにしたって異世界能力というアドバンテージがあるからな。ザムジオの魔王剣がいい例だろう」

 

小猫「それはそれとして宮白先輩、政治方面に優れてますね」

 

久遠「まあ実際、和平はしたけどアドバンテージはとるからなって人たち多そうだよねー」

 

兵夜「それはそうだろう。どこの国だって正真正銘一枚岩な国家があると思うか? 日本だって政党いくつもあるだろうが」

 

小猫「どこも黒い」

 

久遠「そういった内乱とかも書くつもりだったのかなー?」

 

兵夜「まさか。そこまで黒いとD×Dの作風がけがれるだろう。一度作者は試して書いたが失敗したしな。やるなら別のアプローチだ」

 

久遠「そうなんだー。でもこっから兵夜くんの神の本気だねー」

 

小猫「神だけに」

 

兵夜「上手いこと言ってるつもりだろうけどまだ違うからな。まあ、胸を張って生きていくとこのころからそうだったが、だからといって本当に胸を張れるのかはまた違う話だったからな。そのあたりで「胸張れます!!」と断言できるほどまだあの時はトンチキじゃなかっただけで」

 

小猫「自分でトンチキ言わないでください」

 

久遠「でも、そうやるって決めた男はかっこいいよねー。うん、好きになってよかったー」

 

小猫「・・・宮白先輩、顔真っ赤ですね」

 

兵夜「そういう小猫ちゃんはにやにやしてるね!! 珍しくて興奮しそうだよチクショー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小猫「そしてラブコメしながらトレーニングですが、宮白先輩体いじくりすぎでしょう」

 

兵夜「はっはっは。仕方がないだろう。君ら自分の設定考えろよ」

 

久遠「伝説級の妖怪の末裔。当代の赤龍帝。教会暗部の実験最後の生き残りにして、イレギュラーで生まれた新ジャンルの剣士。伝説級の聖剣の担い手。堕天使最高幹部と日本異能業界最高峰の家系の愛の子。魔王の妹。邪神を宿したハイデイライトウォーカー。主神のお付きのヴァルキリー。・・・何このチート軍団ー、設定一つはこっちに分けてよー」

 

兵夜「こんなもんに追撃するためにはこっちもそれ相応の方法が必要だ。久遠だって特訓しすぎて死にかけてるしな」

 

小猫「あの時の私が人のこと言えませんが、ハードトレーニングすぎでは?」

 

久遠「あ、あははー。ちょっと頑張りすぎたかなー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

久遠「そして兵夜くんの女装スキルを挟んでから、小猫ちゃんの話だねー」

 

兵夜「グレモリー眷属は設定盛りすぎだが、同時に不幸も多すぎだろう。この時点で解決できてた雪侶の誘拐事件が軽く見えるぞ」

 

久遠「誘拐されて死にかけたとか、普通なら悲惨なんだけどねー。どこにハイスペックなのかって感じかなー」

 

小猫「まあ、何の自慢にもなりませんが」

 

久遠「この後裏事情をしっかり把握したあたり、兵夜くんいろいろしすぎだよー」

 

兵夜「はっはっは。もっと褒めろ」

 

久遠「でも、強化武装の出番があまりなかったのは残念かなー」

 

兵夜「そこについては反省している。二次創作は設定を練る難易度が下がるのが利点だが、オリジナリティを入れるという重要部分があるからなかなか難しいもんだ」

 

小猫「でも、あの時ほかの選択肢があるといってくれたことは感謝してます。・・・正直イッセー先輩ではなく宮白先輩になびきそうになりました」

 

兵夜「ロリ猫担当はナツミがいるから結構ですグファ!?」

 

小猫「・・・私は成長します」

 

久遠「これは兵夜君が悪いけど、ナツミちゃんがロリ担当公言してるから慣れすぎてたのもあるねー・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして修行が終了するわけだ。何とか俺は聖杯戦争のマスターとして技量は及第点に」

 

久遠「これで及第点とかどんだけ難易度高いのー?」

 

兵夜「そりゃお前、サーヴァントなんて上位存在相手にするのがどれだけの難易度だと思ってんだ。この世界でも上級悪魔クラスじゃないと一対一じゃ戦えないぞ?」

 

小猫「それでも今のグレモリー眷属ならほとんどが大丈夫なあたり、インフレ極まりましたね」

 

久遠「それはそれとしてナツミちゃんといちゃついてるねー。やっぱり白馬の王子さまって女の子としてはあこがれちゃうなー」

 

兵夜「自分でも黒の方が似合う気がするんだが・・・」

 

小猫「それでもイッセー先輩が優先だというあたり、確かに癖が強いですよね、宮白先輩」

 

久遠「そこが大事なんだけどなー」

 

小猫「まあ、それはそれとして匙先輩たちとも合流しましたが、結果的に桜花先輩はドレスじゃなくてよかったですね」

 

兵夜「今にして思えばドレス姿も見たかったがな」

 

久遠「さらりと言ってくれるねぇ兵夜くんはー」

 

小猫「しかしイッセー先輩はいろいろと酷い。何がひどいってトラウマがあるからとはいえ気づいていないのがひどい」

 

兵夜「まあ、あれ過ぎるとはいえ雪侶のアプローチによくわかってなかったからな。鈍感なのは確かに事実なんだ。・・・自分がモテるだなんて思ってなかったから」

 

久遠「目頭熱くなるねー。悲しさでー」

 

小猫「ほぼ自業自得です」

 

久遠「い、言われちゃったねー」

 

小猫「ここで桜花先輩の過去が少し明かされましたが、傭兵部隊というのはわかりませんでしたね」

 

久遠「まあ、あまり絶賛されるような職業じゃないからねー」

 

兵夜「俺は嫌いじゃないぜ? 金が大事なのは確かなんだし、金で動いてくれるからこそ公平なところもあるしな」

 

小猫「それにしても宮白先輩にしても桜花先輩にしても早死にしすぎです。いつの時代ですか」

 

久遠「いや、これでも主要味方転生者じゃ、私一番上なんだけどー?」

 

小猫「底辺争いしないでください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久遠「そして少し飛ばすけど禍の団の暗躍だねー。兵夜君が余計な気をまわしてタンニーンさん呼ばないから苦戦必須だよー」

 

兵夜「代わりにサイラオーグ・バアルを連れてきただろうが!!」

 

小猫「しかし強いですねフィフス・エリクシル。この時点でとはいえイッセー先輩を一蹴してます」

 

兵夜「ぶっちゃけフィフスの戦闘方面でのコンセプトは「イッセーメタ」だ。イッセーを活躍させて、かつ主人公である俺が活躍するようにするためには、俺の宿敵ポジションであるフィフスがイッセーに倒されるわけにはいかなかった」

 

久遠「即席のイッセー君に対して堅実に積み重ねたフィフス。しかものちに対龍特化魔法の使い手になるしねー」

 

兵夜「正攻法でイッセーは勝てん。こいつ脳筋思考だから」

 

小猫「彼は頭脳派ではないんですか? あれだけの儀式を完成させるなら頭脳は必須では?」

 

久遠「頭がいいにしたって、それが戦術とかに使えるかは別だからねー。たぶん頭の良さは学者タイプだと思うよー?」

 

兵夜「実際アインツベルンは戦下手だからな。いや、強力な触媒を用意するという正攻法はしてるんだが、余計なことをして毎回台無しにしてる」

 

久遠「えっと、第三次は神様召喚なんて無理をして逆に最弱を引いたんだよねー」

 

小猫「そして第四次では傭兵を雇ったにもかかわらず、仲が良くなるはずのない英霊をあてがったと」

 

兵夜「そして第五次ではステータスを重視し過ぎて戦下手なのに戦術を完全放棄したクラス設定。・・・第四次は完全にマスターのイエスマンになっていれば勝てただろうに。どっちにしても裏切られたが」

 

久遠「アインツベルンが勝ったら人理崩壊とか言われてるもんねー。ちょっとかわいそうになってきた」

 

小猫「もともと不老不死による人類救済が目的だったのに、なんであんなことに」

 

兵夜「長い年月は問題もあるということだ。俺たちも気を付けないとな」

 

久遠「・・・で、話し戻すけどイッセーくんの―」

 

兵夜「それは無しで。無しでお願いします胃が痛いから!!」

 

小猫「感動と恋心が台無しです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そしてフィフスとヴァーリのサーヴァントが初登場だが、割と面白い設定だろ?」

 

久遠「ここでは明らかになってないけど、冬将軍ってありなのー?」

 

兵夜「原作シリーズでも、絵本のジャンルがOKなら大丈夫だよ。擬人化はギリOKなんだろう」

 

小猫「〇これが自衛隊でも大流行の日本だと、第二次大戦の艦艇とかも召喚されそうですね」

 

久遠「日本刀とかお城とかも召喚されそうだねー。さっすが日本だよー」

 

小猫「別の意味で終わってませんか?」

 

兵夜「それはともかく!! フィフスの奴はアインツベルンではありえないほど堅実に戦略を狙った結果、そこの方面をサーヴァントに任せるという逆転の発想! 実際サーヴァントは経験豊富だから、マスターであるフィフスが強いならこれもありの発想だ」

 

久遠「実際無理ありすぎだけど、この世界だからこそできるよねー」

 

小猫「しかもあえて姿を現して能力を誤認。この時点で先手を取られてますね」

 

兵夜「味方もパワーアップするなら敵も上げとかないとな。つまらないだろ、下手な蹂躙ものなんて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして一気に行くぜ! クライマックスのVS生徒会!!」

 

小猫「生徒会が桜花先輩一人の手でパワーアップしてますね。おかげで低評価しなくてよかったですが、このあたりで桜花先輩の指導者適正の片鱗が」

 

兵夜「いやぁ、ここは俺のうっかりが見事に光る。勘違いでパワーアップを想定できてないからぼろ負け寸前!」

 

小猫「むしろこの短期間で自分の強化と味方の強化を同時に行った桜花先輩が褒められるべきかと。いい加減宮白先輩のうっかりにもなれましたし、それをどうにかできないグレモリー眷属の脳筋指向にも問題が」

 

兵夜「まあ、下手に小細工するより力技で粉砕した方が有効だしな、グレモリー眷属」

 

小猫「確かに必要性が薄いですからね。宮白先輩一人で策の不意打ちとか防げますから。実際事前準備のおかげでむしろ被害は減ってますし」

 

兵夜「まあ、原作と同じ展開はほっとくとして、ここで本領を発揮するのが久遠なわけだ。・・・勘を取り戻せてないのはナツミも同じとはいえ、いったん抜いたからな、これで」

 

小猫「隙がありませんからね、桜花先輩。近接戦闘技術では若手ぞろいのD×Dでは最上級で、加えて魔法戦闘も及第点」

 

兵夜「離れたところからちくちく削ろうにも、遠距離瞬動でカバーできる。とどめに圧倒的に豊富な経験値ゆえに、こちらが不意を打とうにも即座に対応してくる。経験値の少なさが欠点の会長のフォローを行い、指示を完ぺきにこなせる理想的な部下だ」

 

小猫「実際宮白先輩出し抜かれてますからね。公共放送で結ばれるとか、恥ずかしすぎです」

 

兵夜「俺の公開ラブシーンシリーズの幕開けだ。・・・で? 第三者視点で見て実際どうよ?」

 

久遠「は、恥ずかしくなってきたー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「はい、そういうわけでヘルキャットへんはこれにて終了。俺の優等生生活の終了も近い・・・」

 

小猫「ご終了さまです」

 

久遠「そして次回は体育館裏のホーリー編! 次回のゲストは当然わかるよね!!」

 

兵夜「あ、いっとくがアーシアちゃんは出ないぞ?」

 

小猫「・・・アーシア先輩のメイン回ですよね?」

 

兵夜「出せるわけないだろう常識的に考えて。あの外道についてあの子が思い出す必要なんて欠片もない。呼ぶのはMVPだ」

 

久遠「ああ、なるほどねー」

 

小猫「たしかに納得です」

 

兵夜「そういうわけで次回のゲストはだれか? それは次回のお楽しみだ」



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体育館裏のホーリー
日常、満喫中です!


ホーリー編突入!

別名、優男撲滅編なこの話、さて我らが兵夜はどう動く?


 

「み、宮白! お前知ってたか!?」

 

「ん? ああ紫藤イリナのことなら今朝しったぞ? 教会は治癒魔術礼装があまり必要じゃないから情報が入手しずらくてな」

 

 昼休みに飯を食いながらのイッセーの質問に、俺はけだるげにそう答えた。

 

 とはいえちょっとはカッコつけたかったので、眼鏡をキランと輝かせて知的なイメージを出してみたが。

 

 ちなみにこれは実験段階の魔術礼装。眼鏡が魔力の残滓を感知することで、魔術師が使うと残留魔力を感知することができる特製品だ。

 

 いやあ、最高クラスの魔術師がいるから思っていた礼装が作り放題。おかげで最近は研究が進む進む。

 

 とはいえそのせいで最近あまり寝てないから、昼飯作りそびれたんだよなぁ。一応パンを買ったからまあ大丈夫なのだが、量が足りん。部活の時になんか作るか。

 

 ちなみに俺のコネクション形成は結構役に立っている。魔法使いどもはこのデータを基に新たなる魔法体系を作れないかと興味を持っているし、魔術師連中もそれを利用することで新たな発展ができないかと野心丸出し。お互いがお互いを利用する形だが、積極的な交流が行われている。

 

 悪魔と堕天使は治癒魔術礼装で十分効果は絶大。各種神話体系もそれなりに興味を示しており、特にアーチャーによる神代の魔術に意識が向いている。

 

 とはいえ教会側は元が敵対組織だったこともあってかまだまだ微妙な展開だ。俺の世界でも教会とは仲が悪かったしまあ仕方がないといえば仕方がない。最悪の場合は洗礼詠唱の心得があるのを利用するが、これはいざというときの奥の手だ。

 

 まあそういうわけで、イリナの事情を知ったのは本当に今朝のことだ。

 

 しかもアザゼルを心配している堕天使連中とのコネを利用してのものだ。まさかいろいろと世話をしたのがこんな形で役に立つとは思わなかった。

 

「まあ当然といえば当然だがな。普通に考えて遅いぐらいだろ、コレ」

 

「そうなの?」

 

 そういうものだ。

 

「仮にも魔王の娘二人と堕天使の総督が一緒になっている和平会談の場所だぞ? 信仰心があるわけではなく、大天使ミカエル個人に忠義を向けているなんて微妙な人物だけを置くわけないだろう。もっと信仰心に篤い人物を送り込んでくることは予想してた」

 

 ちなみに会話は魔術でごまかしているので問題はない。

 

 秘匿をモットーとするだけあり、そのための魔術は非常にそろっているのだ。

 

 とはいえこれ以上はさすがにまずいと解除したとたんに、松田と元浜が詰め寄った。

 

「おい二人とも! あの転校生となんかあったぽいがどういうことだ!!」

 

「まさかまたお前らの関係者か!? お前ら最近女っ気がありすぎだろう!?」

 

 まあ想定の範囲内だがやはりそうなるか。

 

「イッセーが俺らと知り合う前の幼馴染だよ。敬虔なクリスチャンだったんで引っ越したんだが、最近になって戻ってきたんだと」

 

 下手なボロが出ないようにとりあえず取り繕うか。

 

「球技大会の直後に教会がらみの揉め事で土地勘があることからこっち来てな? その時に部長の親族も微妙にかかわってたからその件で知り合ったんだよ。ま、イッセーのやつイリナのこと男だと思ってたからアレなんだが」

 

「「お前死ねよ!!」」

 

 二人がシンクロして突っ込んだ。

 

 まあ話をそらすためにあえてそういう方向に持ってったから当然ではある。イッセーよ人身御供になれ。

 

「そ、そんなこと言われてもよ! あのころはなんていうか男の子みたいにヤンチャだったし、何より胸なかったからわからなかったんだよ!!」

 

「何が胸がないからわからなかっただ! 俺たちと同じぐらいのスケベなお前が気づかないわけないだろうが!!」

 

「あんな上玉の卵を見逃すとか馬鹿かお前!! なんてもったいない!!」

 

「それに関しては非常に同感。お前性別間違えるとかそれでもスケベか」

 

 おっぱいに魂賭けた男だとはとても思えん。

 

 まあ、味気ないコンビニのパンでも馬鹿やりながら食べれば少しはうまく感じるかな・・・っと。

 

「兵夜くんー。今日のごはんは教室でかなー?」

 

 唐突に、教室の扉からそんな声が飛び込んできた。

 

 この特徴的な語尾伸ばしは・・・。

 

「あ、桜花さんだ!?」

 

「生徒会の桜花さんだって!?」

 

「剣道部のスーパー助っ人のあの人がなんでこんなところに!?」

 

 地味に有名人なのでインパクトがすごいが、これはもしかしなくても―

 

「お弁当作ったんだけど一緒に食べよー」

 

 ・・・ですよね。

 

「「「「「「「「「「ええぇぇぇぇえええええええ!?」」」」」」」」」」

 

 クラス内で大絶叫が勃発した。

 

「おい宮白!! これは一体どういうことだ!!」

 

 松田が速攻で胸倉をつかみあげてくる。

 

 いや、お前が相手だと生身じゃ禁手にでもならなきゃ対処できる自信がないんで勘弁してくれ!?

 

「まさか夏休みの間にお前までひと夏のアバンチュールをしたとかいうんじゃないだろうな?」

 

 眼鏡が! 眼鏡がひかって怖いんだけど元浜!?

 

「宮白てめえ!? 俺たちが夏休み何もなかったのを嘲笑いに来たんだな!? そうなんだな!?」

 

 そしてイッセーにまで言われるのはなんか釈然としない!?

 

 割と本気でピンチだったが、それを救ったのはほかでもないピンチを作った久遠だった。

 

「はいはいそんなに慌てないー。ほら、おすそ分けしてあげるから焼き鳥食べるー?」

 

「「「食べます!!」」」

 

 美少女からのプレゼントに一瞬で方針を展開するのはまあ当然なので問題ないが、なぜに焼き鳥?

 

「ほかの人たちも食べるー? 今日はいっぱい作ってきたよー?」

 

「「「「「「「「「「食べます!!」」」」」」」」」」

 

 学内でも有名な美少女からのおすそ分けとなればだれも断らないだろう。

 

 あっという間に人だかりができた。

 

「おやおや宮白ってばぁ? いつの間にそんなにモテちゃったのかなぁ? 兵藤一筋のアンタがよくもまぁねぇ?」

 

 ちゃっかり焼き鳥にありつきながら、桐生が俺の脇を肘でつつくがとりあえず無視する。

 

 こいつに下手な話のタネを渡したら、何をされるかわかったものではない!!

 

 とりあえず場を離れようとして立ち上がったその眼前に、串が一つ差し出された。

 

「はいどーぞー♪ これでも切るのと焼くのは得意なんだよー」

 

 ものすごい笑顔で渡されて、とりあえずとって一口。

 

 ・・・ふむ。

 

「たれはまだまだだが焼き加減がいいな。美味い」

 

「・・・・・・よっしゃーっ! ほめられたー!!」

 

 非常に顔を真っ赤にしながら喜ぶその姿を見ると、なんというかほんわかとした気持ちになる。

 

 と、思いっきり喜んでいた久遠が覗き込むようにこちらを見た。

 

「これからも時々差し入れしていいかなー?」

 

 ちょっと不安げに言われたその言葉に、俺はふと苦笑した。

 

「当たり前だろ? 弁当の日は教えてやるから、今度は一緒に食べような?」

 

 恋人との甘い毎日ねぇ?

 

 ま、これはこれで悪くないかな?

 

 




短めでしたが、区切りがいいので今日はこの辺で。








とりあえずホーリー編での目標は、ラブコメ要素の増大を目指しております。

ハーレム作品D×Dの二次創作なのに、肝心のラブコメをおろそかにしたのは恥ずべきところ。これからも精進して頑張ります。


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運動会、練習します!

 

 

 結論から言えば、イリナの加入はいろいろと面白そうなことになりそうだ。

 

 なんでも転生悪魔の技術を流用して生まれた転生天使になったらしく、それも大天使ミカエルのAという破格の待遇である。

 

 まあ、彼女は後天的とはいえエクスカリバー使いに選ばれるほどの実力者だ。さらに和平会談の時にも事態解決のために尽力した人物でもある。そのうえ信仰心も非常に篤い。

 

 ならば天使になってもおかしくないのだろうが・・・。いかんせんあの性格なので余計なトラブルを発生させる可能性があるので注意が必要ではある。

 

 まあそれはそれとして運動会もあるので結構これが忙しい。

 

 俺はとりあえず借り物競争に出ることになった。その人あたりからすぐにものを貸してくれるだろうというすごい理由で推薦されたのだが、まあいいだろう。

 

 個人的には障害物競走に出たかったのだが、昨年フリーランニングの技術を流用してパフォーマンスする余裕をもって圧倒的トップに出てしまったことから、「勝負にならない」といわれてしまっては断念するほかない。

 

 とはいえ借り物競争ではとりあえずのスタートダッシュの練習ぐらいしかすることがないのが残念ではある。

 

 しかし、それゆえにいろいろと考えることもできる。

 

 ・・・ディオドラ・アスタロトというビッグな問題を何とかできないか考える必要がある。

 

 奴のことを思い出したのでアーシアちゃんのほうを見てみるが、イッセーと一緒に二人三脚の練習をしながらも、時々表情が暗くなるところを見てしまった。

 

 ディオドラ・アスタロト。魔王ベルゼブブを輩出したアスタロト家の次期当主候補。そしてアーシアちゃんが教会を追放にされることになった原因。

 

 なんでも負傷した時にアーシアちゃんがつい治療しちゃったとかいう話だった。

 

 ・・・正直、疑問に思う点が多すぎる。

 

 本部にもある程度内密な計画であっただろう聖剣計画での木場ならともかく、聖女オブ聖女な性格と能力をもつアーシアちゃんがいるような場所、それこそ教会側にとっては勢力図の中でもそれなりに後方の場所におかれているだろう。少なくとも、悪魔がすぐにでも入って攻撃できるような場所にはおかない。俺なら置かない。

 

 そんなところになぜ、魔王血族であるディオドラが入る?

 

 可能性としてはアスタロト家と内通している人間がそこにいて亡命を欲していたとかだが、それにしても次期当主自ら護衛もつけずに行くとは思えん。

 

 そもそもそんな事態になれば相応の激戦になるからそんなあっさり発見できるような場所にも置かないだろう。

 

 ・・・なんか教会とアスタロト家の間で裏がありそうな雰囲気があるな。あいつの眷属の情報はもう少しで確保できるが、教会関係者がいないかどうかは念入りに調べよう。もしかしたら教会側との独自パイプぐらいは持っているのかもしれん。

 

 しかしアーシアちゃんの治癒能力をもってしてもあれだけの傷跡が残るような怪我でよく逃げ切れたな奴も。

 

 治療時間が足りなければあんなにひどい跡は残らないだろう。そこから推測されるダメージで逃げ切るとは、思ったより戦闘能力も高いのかもしれん。

 

 ・・・できる限り穏便に解決するためにも、いろいろと下手に出たほうがいいな。たとえば使用人とかの好みを聞き出して、ありとあらゆる方面から贈り物返しして牽制するとか。

 

 いい加減荷物の置き場所にも困ってきたことだし、そのあたりも考えたほうがいいのかもしれん。

 

「・・・実質考え事のようですね」

 

 と、その隣に掃除道具を持ったベルが近づいてきていた。

 

「やはり、ディオドラ・アスタロトのことですか? イッセーもそのことでいろいろと気にしているようでしたが」

 

 最近こいつもイッセーのことイッセー呼びになってきている。

 

 殴り合いにおいても体格的に近いから小猫ちゃんより相手になることが多いそうだし、なんだかんだで意気投合し始めているのだろう。

 

 イッセーにしてみれば部長を超えるプロポーションの女性だから眼福だろうしな。

 

「まぁな。同僚のメンタル問題に気を使うのは当然ってことだ」

 

「イッセーから相談されましたが、あまりしつこいようならグレモリー卿経由で警告を入れてもらうというのはいかがでしょうか?」

 

「そりゃまあわかるけど、それで向こうの親まで出られたらさらにややこしいことになるからなぁ。せめてアスタロト卿の大体の性格を把握してからじゃないとさらにややこしいことになるのがオチだしなぁ」

 

 ベルのいうことももっともだが、それで騒ぎが大きくなるとそれはそれで面倒なことになりそうだ。

 

 問題はディオドラが告白してるってことにある。下手なゴシップ記事で「アスタロト子息とグレモリー眷属の禁断の愛!」とかやられたら目も当てられん。

 

「とはいえ、実質アーシア・アルジェントはイッセーに懸想しているのですからどうしようもないでしょう? リアス・グレモリーが相手の片思いを理由に手放すような人物ではないことはわかりますし」

 

 それはベルに言われなくてもわかっている。

 

 まさか部長に限ってそんな非道なまねはしないだろう。

 

 とはいえディオドラがそういうたぐいかどうかはまた別の問題だ。もし強引な手段を取ろうとしたらまたそれはそれでややこしいことになるわけだからなぁ。

 

「・・・まあ仕方がない。その辺はおいおい何とかするしかないか」

 

「あまり無理しないほうがいいと思いますが? 兵夜は最近いろいろと動きすぎな気がしますが・・・」

 

「大丈夫だよ。こっちで記憶を取り戻してから、勉強とトレーニングを欠かさず続けることには慣れてんだ。一週間や二週間の徹夜ぐらいで今更根は上げないって」

 

 俺としては安心させるために何気なく言ったつもりだったが、ベルはなんというかこっちをマジマジと見つめていた。

 

「・・・・・・イッセーと会う前から・・・ですか?」

 

「ん? 言ってなかったか? 学校で習う程度の勉強や、フリーランニングとかいった運動は保育園に入る前から練習してたぞ?」

 

 ただでさえ、余計なもののせいでメンタル面じゃあマイナスだらけだったからな。せめてスペックぐらいはプラスにもっていきたかったんだが、そんなに意外だったか?

 

「驚きましたね。彼と出会う前からそんなに努力ができてたんですか」

 

 なんか唖然とされてしまった。

 

 むしろこっちが唖然としてしまうが、そんな様子をみて、ベルはふと苦笑した。

 

「・・・私が努力しようと思ったのは、ミカエルさまに拾われて、力になりたいと思ってからでしたから。・・・あなたは実質すごい方です。コカビエル相手に立ち向かったあの時からすごい方だとは思ってましたが、目を見張りますね」

 

 なんかすごいものを見る目で見られると照れるな・・・。

 

「ま、まあ探せば努力する方法がいくつもあるところにいたからでもあるからな! そんなに気にすんな!」

 

 なんかものすごい照れくさくなってきた。

 

 さ、さて! 練習練習!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて面倒なことになりました。

 

「・・・部長、ディオドラはレーティングゲームの勝敗でアーシアちゃんを賭けてくる可能性がありますかね?」

 

「正直、ないとは言い切れないわね」

 

 俺の期待薄な質問に、部長は額に手を当てて答えてくれた。

 

 俺たちがこんな会話をしている理由は簡単だ。

 

 ・・・次のレーティングゲームの相手が、ディオドラに決まったからだ。

 

 まさか、若手悪魔のレーティングゲームが一回だけで終わるとは思わなかったがコイツかよ。

 

 さらに最悪なことに、ディオドラの眷属関連の情報がいくつか回ってきた。

 

 いろいろといいたいことはある。あるがとりあえず一言だけ言おう。

 

 こいつライザーと同類だ! 自分のところに女かき集めてハーレム作ってやがる!

 

 眷属は実力重視なのか男の悪魔もいるみたいだが、ライザーとは違い眷属以外にも何人もの女を囲ってやがる。しかも人間の女とかもいっぱいいるみたいだ。

 

 ・・・まあアーシアちゃんが惚れてるのはイッセーだから偉そうなことは言えないのだが、なんというかものすごく差し出したくない気分がさらに上昇してしまうな、オイ。

 

「ひょ、兵夜ぁああああ」

 

 ものすごい涙目でナツミが俺にすがってくる。

 

 ちなみにイッセーたちは仕事中だ。この会話をあいつに参加させるとキレて暴走しかねん。

 

「アーシアどっかいっちゃわないよね? ずっといるよね!?」

 

「大丈夫だから心配するなナツミ。・・・少なくとも、アーシアちゃんはイッセーから離れる気はないよ」

 

 敬虔なクリスチャンであるにも関わらず、一夫多妻確定コースのイッセーについていくぐらいだ。もう心底あいつに惚れているんだろうな。

 

 だからアーシアちゃんのほうの心配はいらない。本当にディオドラが景品としてアーシアを要求したとしても、こっちがそれを蹴れば何の問題もないだろう。

 

 まあ、あまりほめられた趣味ではないがサーゼクス様に頼るという方法もなくはない。向こうも現ベルゼブブを輩出しているのだから油断はできないが、幸いこっちにはアザゼル(堕天使の総督)がついている。

 

 油断はできんが突っぱねることはできるだろうな。

 

「とはいえディオドラの器量がどこまであるのかが心配ですね。・・・奴が典型的な貴族主義だとすれば、下級悪魔であるイッセーがアーシアに惚れられているというのはプライド傷つくでしょう?」

 

「あり得るわ。ディオドラは典型的な古くからの上級悪魔の思想を持っているもの。例え赤龍帝とはいえ、自分の好きな女に下級悪魔が寄り添っているのをいい思いで見るとは思えないわね」

 

 同時に溜息をついてしまった。

 

「あらあら、我らが主と参謀は苦労してますわね。お茶が入りましたから一息つきません?」

 

「あ、いただきます」

 

 ・・・紅茶が、沁みるなぁ。

 

「とにかく、下手な難癖をつけられても困るし、何があってもディオドラは完膚なきまでに叩き潰さないといけないわね」

 

「全くですわね。かわいいアーシアちゃんを、本人が望んでもいないのに手放すなんてもってのほか。まだ少し抵抗はありますが、雷光を使うことも厭いませんわ」

 

 二大お姉さまの戦意も漲っていらっしゃる。

 

 とはいえあいつも若手悪魔の中じゃ腕利きの部類だろうし、手を抜いて勝てるわけでもないな。

 

 さて、どう料理したものか・・・。

 

「・・・安心しなさい。私も手を貸すわ」

 

 と、さっきまで沈黙していたアーチャーが静かにそう言い切る。

 

 ・・・なんというか、やばそうな怒りオーラが見えているのだが!?

 

「そ、そんなに嫌か?」

 

「ええ、あの男は本気で嫌ね。可能なら殺してしまいたいぐらい」

 

 ものすごい勢いで敵視されてるなあいつ。何をしたらそうなる。

 

「私は女を食い物にする男は心の底から嫌いよ。あの男からはその手の類のにおいがプンプンする。・・・別に全員に対して誠実に対応するというのならまあとやかく言うつもりはないけれど、あれは間違いなく自分のおもちゃ感覚で扱ってるわね」

 

「やけに自信あるな。・・・とはいえ、そんなタイプだというならアーシアちゃんに近づけるのも避けたいな。・・・戦闘データ見て余裕で勝てそうなら、むしろこの提案を利用してこっちが勝ったら二度と近づくなというのもありか」

 

 とはいえ逆転の可能性もあるし可能なら避けたいところだ。・・・ディオドラと現ベルゼブブとの関係がどれぐらいかも調べて、可能なようなら彼を味方につけれないか考えるか。

 

「わかった。とりあえず奴の女性関係についてもう一度調べなおそう。・・・幸い現ベルゼブブ側とのコネクションはできてるし、そのあたり本気で調べるべきだな」

 

 念には念を入れたほうがいいとはいえ、何があるかわからない以上警戒は必須だろうな。

 

「不倫に報復をした英霊は言うことが違うわね」

 

「あらあら。これは浮気重視の私は意外と危険ですわね」

 

 その恐ろしい第六感にビビる部長と、浮気志願なので思いっきり引っかかりそうなことにビビる朱乃さんはあえてスルーし、頭の中でプランを組み立て始める。

 

 それなら探せば埃も出てきそうだ。とはいえその辺の防御も意識しているだろうし、この辺はグレモリー卿に頼んだほうがいいかもしれないな。

 

 そんなことを考え始める俺の視界に、のぞき込むようなナツミの顔が映る。

 

「ね、ね、兵夜? ボクにできることある?」

 

 期待半分心配半分なその顔に、俺はつい苦笑してしまった。

 

 アーシアが心配だったり使い魔として手伝いたかったり、いろいろと複雑な感情が渦巻いているんだろうな。

 

 だから、俺はその頭をやさしくなでることでそれに答える。

 

「必要になったらいうよ。だからそれまで力を溜めといてくれ」

 

「・・・うん!」

 

 満面の笑顔で喜ばれるとちょっと照れくさいない。

 

「あら、兵夜はモテ期なのかしら?」

 

「アーチャーさん? マスターがボーダーラインを超えそうですわよ?」

 

「本当に超えるようなら令呪を受けてでもお仕置きするけど、まあこの子なら誠実に対応するでしょう」

 

 何やら外野がうるさいんですけど!!

 

 いやいやいやいや。これはアレだろ? 主人として懐かれてるだけだろ? 大丈夫だって。

 

 だって俺問題児だぞ? だから大丈夫だろ!?

 

 ・・・イッセーのこと笑える立場な、恋愛方面におけるダメ人間だよな、俺?

 



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俺、相談します!

「木場、俺はモテ期なのだろうか?」

 

「いや、僕に相談事ってどういうこと?」

 

 俺はつい木場を呼び出してして相談してしまった。

 

 やはりこういうことはモテる男に聞くのが一番だろうとの判断だが、こいつが付き合っている女がいるという話は聞かないし、そういう意味ではもしかして失敗だった・・・とも思わなくはない。

 

 だが、誰かに相談せずにはいられなかったのだ。

 

「久遠は特殊だから仕方がないとして、ナツミはあれだろ? こういういい方はあれだが、ペットと主人の関係的なあれであってると思うよな?」

 

 レーティングゲームの報道によって、俺は間違いなくスキャンダルとなっている。

 

 転生者の情報は、上層部以外には基本的には秘密となっている。

 

 まあ、その根本的な要因が最重要機密である以上、細かい詳細を話すわけにもいかないだろう。

 

 転生者の存在は、これまで奇跡的な偶然によって発見されてなかった、まったく別種の能力を持つものという認識で語られている。

 

 で、俺はある意味で超有名なわけだ。

 

 なんてったって、件の治癒アイテムの開発者はほぼ俺だ。そういう意味では冥界の歴史を変えているわけで、一応表だって紹介するのは避けてもらっているが、もはや公然の秘密といってもいい。

 

 そこに久遠の策がかかわる。

 

 あの女。公共の電波で告白を流すことで、返答の証拠として逃げられないようにするつもりだったようだ。

 

 おかげで俺は堂々と愛人持ちということが判明しているわけで、レーティングゲームの紹介雑誌を見たら「公共愛人契約! 新米眷属悪魔の恋愛模様は複雑すぎ!?」などと書かれてしまっている。

 

 しかもどこから漏れたのか、久遠がサーゼクス様の前でキスしたことまで公表されている。おかげで俺と久遠の中は魔王公認とまで言われているのだ。

 

 恋人ができる前に愛人ができるというのはいささかどうかと思う!

 

 そんな経験があったからか、ナツミの俺への接し方に何やら主と使い魔以上の何かがありそうな気がするのは疑心暗鬼だと思いたい。

 

 思いたいので女性からの好意を向けられなれている木場に相談してみたのだ。

 

「でも宮白くんはナツミちゃんを助け出した王子様なんだろ? そういういいでは好意を向けられてもおかしくないと思うけど・・・」

 

 ・・・木場の答えは俺にとってあまりに残念なあれだった。

 

「マジか!? とはいえ助けないなんて選択肢はあの場じゃなかったし・・・ガッデム!!」

 

「そういうところも高ポイントだと思うけどね」

 

 木場が苦笑しながら肩をたたいてくるが、正直全然慰めにならない。

 

 ・・・真面目な話、俺が本気で恋愛していいのかという言う部分においても疑問が残る。

 

「恋愛ってのは相応に神聖なものだろ? 同性との友情を優先する選択しかとらない俺が、果たして本気の恋愛をしていいのかっていうことには疑問があるんだが」

 

 ・・・しかも関係が現地妻というのもアレだ。

 

 悪魔の業界ではハーレムが普通に認められているから緩いのかもしれないが、だからといって俺がそれをやるのはまずくないか?

 

 恋愛っていうのはコレクション感覚でやっていいものではないだろう。少なくとも誠実に対応するべきだ。

 

 はたして俺の今の状態が恋愛として認めていいのかどうかについては本気で疑問なんだが・・・。

 

「宮白くん、一ついいかな?」

 

「おう」

 

 木場は俺を正面から見つめると、肩に手を置いて一言いい切った。

 

「そういう風に考えられるっていうのが、まず誠実な対応の一つではあると僕は思う」

 

 ・・・え?

 

「マジ? そうなのか?」

 

「そうじゃないか。少なくとも、ハーレムが認められている社会においてならばそれは十分誠実な対応だと思う」

 

 そ、そうなのか。俺のこの対応は誠実なのか?

 

「それに何を一番大事に考えるかというのは、人によってさまざまだ。君がイッセーくんを一番大事に考えているということを知ってなお、それでもいいと本気で思っている人に対して、イッセーくんが一番大事だから断るというのは、若干ずれている考えだよ」

 

 ・・・なるほど確かに。

 

 本人がそれでもいいといっているのに、それを理由として断るというのは確かに論点がズレているな。

 

「さらに言えば、桜花さんはソーナ会長に対する忠義が一番なんだろう? 彼女に関していえば共通の価値観を持っていることから考えてもお似合いだと僕は思うよ?」

 

 なるほど。確かにそういわれると納得してしまうな。

 

 ふむ、不誠実だ不誠実だと考えるより、そのうえで付き合いたいといっている彼女たちに対してどうすれば誠実なのか考えるほうが大事か。

 

 なんか開き直っているようにも思えるが、確かに文化体系がずれていることなども考えるとそれぐらいのほうがいい気もしてきた。

 

「なんか助かった。例と言っちゃあなんだがなんでも食べてくれ。おごるぜ」

 

「そうかい? じゃあちょっと早いけど、軽めの夕食でもいただこうかな?」

 

「よっしゃ! だったら悪魔稼業の最中に俺が夜食も作ってやるよ! よし、ちょっと材料を買い込むとするか!」

 

 気がだいぶ晴れたし、その分の礼をするのは当然だな。

 

 それに仲間たちとの交流にもなる。これからも相談事をすることもあるかもしれないし、仲をよくするのは当然だ。

 

 よっしゃ! だとすると気合入ってきたぞ! ここは本気を出してちょっと凝った料理を作るとするか!

 

「そうと決まれば善は急げだ! 野菜と肉をかき集めて―」

 

「いい加減にしろファック野郎!」

 

 顔面に靴底がめり込んだ。

 

 悲鳴も上げれず思わず崩れ落ちる。つーかマジ痛い。

 

「お客様? 店内で大声を出して行動するのはファックなまでに勘弁してもらえませんか? ほかのお客様の迷惑ですよファック兵夜?」

 

 額に青筋を浮かべた小雪ににらまれ、俺はふと、ここがどこかを思い出した。

 

 小雪がバイトしているコンビニである(飲食コーナーあり)

 

「てめーは人の目の前でやれ恋愛だどーたらこーたらと! いくら人が少ない時間帯だからって、あたしがいること考えてしゃべろ!」

 

「ま、まあまあ小雪さん。宮白くんも悩みすぎて周りが見えてなかったところがあるしその辺で」

 

 追い打ちで攻撃をしかねない勢いだった小雪を、木場が何とかなだめてくれる。

 

 た、助かった・・・。

 

「まあ僕も悪かったよ。小雪さんの前で宮白くんの恋愛事情をとやかく話すのもまずかったよ」

 

「ふぁ、ファファファファック!! てめーそれをいうな!!」

 

 あれ? なんか話の方向性がおかしいような気が・・・。

 

「いやいや待て待て。それじゃ小雪まで俺に惚れているということに―」

 

 言いかけた俺の口の中に、何やら冷たいものが突っ込まれた。

 

 視線をゆっくりとおろして確認した。

 

 ・・・ショットガンだ、コレ。

 

「わ、わ、忘れろ! さっきの会話はすべて忘れろ!! ファックな思い出し方したら、わかってんだろーな!?」

 

「~~~~~~~~~っ!?」

 

 なんでだー!?

 

 お前なんだその露骨に危ない反応は!?

 

 え? な、ななななんで!? 何が原因で惚れられたの!?

 

 い、いやいやいやいや違うよな!? いくらなんでも違うよな!?

 

「べ、べ、べつにてめーのことなんかどーとも思ってねーんだからな!? なんだかんだで気が合うやつだとか、昔っから引っ張っていくタイプだからお姫様みたいに扱われたのが新鮮だとか、フィフス相手に啖呵切ったところが正直裏切りでビビったところにグッと来たとか思ってねーんだからな!?」

 

 やっぱり可能性高いっぽい!?

 

 というか語るに堕ちてるんだけどお前ちょっと落ち着け!!

 

「と、と、とりあえずちょっと待ってくれないか!? 今俺けっこういっぱいいっぱいで正面から対処するのは難しいというか、真剣に考える時間をくれ!!」

 

「だからどーとも思ってねーって言ってんだろーが!? 本当に撃つぞコラ!」

 

 ・・・なんで俺はこんなにモテ期に突入してんだ!?

 

 イッセーの心配してる余裕がなくなって来たぞおい!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーSide

 

 なんていうかとんでもない事態になって来たぞオイ。

 

 事の起こりは、悪魔としての活動で、俺たち以外のレーティングゲームを確認したことが始まりだ。

 

 圧倒的な実力を発揮するサイラオーグさんたちの戦いを見てから、続いてディオドラとアガレスの戦いを見ようとしたときに、よりにもよってディオドラが現れやがった。

 

 なんていうか、アーシアを自分の所の僧侶とトレードしたいとか言ってきやがった。

 

 惚れた女と一緒になるために眷属とトレードとかなに考えてんだ? 部長もかなり本気で怒っており、もちろん俺もマジでむかついた。

 

 そんなマネをしておきながら、さらに空気を読まずにアーシアの手を取ろうとしたディオドラの手を、掴み取る男がいた。

 

「・・・申し訳ありませんがそこまでにしていただきたい。少々お戯れがすぎますぞアスタロト様」

 

 宮白が、アーシアをかばえる位置に立っていた。

 

「・・・離してくれないかな? 薄汚い下級悪魔に触られるのはちょっとね」

 

 にこやかな笑顔のままとんでもない毒を吐きやがったよこの野郎!

 これがこいつの本性かよ! なんだコイツ!

 

 だが、宮白は笑顔を浮かべながら手を放すと、ピエロみたいなおどけた調子で一礼した。

 

「これは失礼。ですが下賤なものでもわかる非常識なマネを高貴たる魔王血族がなされようというのです。不敬と知っていてもいさめるのがその下に就くものの務めというもの」

 

 ・・・ものすごい馬鹿にしてるよ、コイツ。

 

 ヤバイ、宮白のやつなんかキレてる?

 

「愛し合う者たちがその手を取ることの何が問題なのかな? この国には、人の恋路を邪魔するものは馬に蹴られるものだとアガレスから聞いたことがあるんだけどね」

 

「残念ながら、それが該当するのはアスタロト様ですよ? 高貴な血筋を誇るのであれば、そのあたりの把握はしていただきたいところですな」

 

 にこやかな笑顔でものすごい毒を吐きあっている辺り、わりと本気で怖いんだが。

 

 レーティングゲーム始まるより先に、ここで戦闘始まったりするんじゃないだろうな!?

 

「なるほど・・・。ならその愛する者より僕が強く素晴らしい存在だと示すことが出来れば、アーシアの目も覚めるのかな?」

 

「彼女の心をそれでいとめることが出来るのであればどうぞご自由に。互いが想い合っているのにそれを邪魔するほど無粋ではありませんよ」

 

 ものすごい色々と含みを持たせた感じの宮白の言葉だったが、どうもディオドラは真っ正直に受け取ったっぽい。

 

 表情を一切変えることなく、その視線をアーシアに向ける。

 

「大丈夫だよアーシア。つらい経験で曇ってしまったその目を、僕が彼を倒すことで覚まさせてあげる。・・・だからそれまで待ってておくれ」

 

 そこまでいうと、部長の方を向いて一礼する。

 

「今日のところはここまでにしておくよ。トレードに付いてはレーティングゲームが終わってからまたやろう」

 

「何度言われても私の意見は変わらないわよ。とはいえ叩き潰されなければわからないならそうしてあげるわ」

 

 殺意満々の部長の言葉も爽やかに受け流し、ディオドラは魔法陣を発動させる。

 

「それじゃあ今日はこのあたりで。またレーティングゲームで会おう」

 

 光が強く輝き、ディオドラの姿が消える。

 

 そこまで確認してから、宮白は肩をすくめた。

 

「・・・馬鹿で良かった。アザゼル、今の会話聞いてたな? 証言が必要な時はよろしく頼む」

 

「あいよ。しっかしお前も悪党だなぁ、オイ」

 

 なにやら2人して分かり合ったかのような感じに、俺たちはちょっとドン引きした。

 

「い、いや先生? 俺はなにがなにやら全くよく分からないんですけど?」

 

「簡単にいや、ディオドラの奴を二つほど勘違いさせたんだよ、この悪党は」

 

 勘違い?

 

「一つはアーシアの惚れた男が自分だと思わせたことだ。これで例え宮白がディオドラに負けたとしても「そもそも俺じゃないから」と惚けられる」

 

 な、なるほど。

 

 ・・・って待て! ってことはアーシアに、惚れた男がいるのはほぼ確定!?

 

 な、ななななんてこった! ディオドラだけでも厄介なのにふざけるな!!

 

「で、二つ目はそもそもディオドラの言い分に直接的な名言を避けて勘違いさせたこと。・・・これでそもそも賭けは不成立だ」

 

 ああ、確かにYESなんて一言も言ってないから負けても惚けられるな。

 

「さっすが宮白! いつもながら汚い!」

 

「はっはっは! もっと褒めろイッセー」

 

 ポーズつけてカッコつける宮白だが、少しして表情を鋭くすると、素早くパソコンを取り出した。

 

「ここまで喧嘩を売ってくるならこっちも容赦しない。アザゼル! お前の側から要望で、とにかく戦闘において攻撃力が生かせないようなルールだけは何としても封じてくれ! 出来れば超短期決戦タイプの戦闘スタイルだとなおいい!!」

 

「お前、俺を便利屋か何かと勘違いしてないか?」

 

 アザゼルがあきれるが、宮白は結構どこ吹く風だ。

 

「安心しろよアザゼル。これからサーゼクス様に土下座しに行くから」

 

 サムズアップでとんでもないことをのたまいやがった!?

 

 宮白!? まさかお前、本気でアーシア狙いなのか!?

 

 だ、駄目だ駄目だ! そりゃ宮白はいいやつだからディオドラと違って安心だけど、それでもアーシアちゃんはあげませんよ!?

 

「仲間の貞操がかかってるんだ。俺の土下座で敵の一方的な展開にならずに済むなら安いもんだ。・・・安心しろ、俺の独断ってことにするからデメリットは起きん」

 

 そういうと、宮白は素早く魔法陣を展開するといきなり転移の準備まではじめて来やがった。

 

 と、あっけにとられている間に、ナツミちゃんもその魔法陣の中に飛び込んだ。

 

「ボクもいく! ご主人様が土下座するなら、使い魔も一緒のほうがいいもんね?」

 

「え、いや、俺一人で十分だと思うんだが―」

 

「いいのー! 行くのー!!」

 

 戸惑う宮白をゴリ押しするように説き伏せると、そのまま話されないようにしっかりと抱き付いてしまう。

 

 ・・・前から思ってたけど、ナツミちゃんって宮白のこと好きだよな?

 

 そんな状況下で桜花さんと愛人契約成立って、宮白のやつ罪作りだな。

 

 親友にこんなこと言うのもあれだけど、こいつマジうらやましい! なんで俺の親友はモテ期なんだ! 俺もモテたい! モテたいんだよぉおおおお!!

 

 と、俺が心の中で絶叫しているときに、宮白は振り返るとサムズアップした。

 

「ま、そういうことでアーシアちゃんのことは心配するな! あとはお前が男を見せるだけだぜ?」

 

 と、そこまで言うと宮白とナツミちゃんは転移していく。

 

「・・・兵夜には世話になりっぱなしね」

 

 光の残滓を見ながら、部長が苦笑しながらそうつぶやいた。

 

 いや、さすが中身三十台なだけあるよなぁ。こういう時の手際じゃ俺たち一生勝てそうにない。

 

「あのあたりの手際は真似できそうにないな。さすがは宮白だ」

 

「宮白先輩はこの手の行動に非常に長けてますからね。とても助かります」

 

「あの根回しの速さは見習いたいよ。僕らにとって足りない部分を見事に補ってる」

 

 聖剣騒ぎでそのすごさを見ているゼノヴィアや小猫ちゃんは木場もなんというかあっけにとられている。

 

 ヤクザとすら繋がりあったもんなあいつ。それなのに警察にも知り合いとかいるし、ちょっとシャレにならない。

 

「それでは私たちも負けてはいられませんわね」

 

 いつものようにニコニコ笑顔を浮かべながら、朱乃さんが皆を激励する。

 

 確かにそうだ。わざわざこっち向きのルールにするために宮白が動いているなら、俺たちがそれに答えなくちゃ話にならない。

 

 パワー重視のグレモリー眷属の本領を、ディオドラの野郎に見せてやらなきゃな!

 

「ぼ、僕も当たっても砕けないぐらい頑張りますー!」

 

「わ、私のせいでご迷惑かけてすいません! せめてお手伝いします!」

 

 緊張しまくりのギャスパーや、当事者なんでいろいろと大変なアーシアも気合いを入れてやる気満々だ。

 

「仲間のために全力で助け合うその姿、感動したわ! うん、模擬戦の相手は任せて頂戴!!」

 

 イリナに至っては感動しまくりで号泣している! この子アレなところあるけど本当にいい子だ!

 

「・・・公式ルールでは偽聖剣が使えない兵夜は本来本領を発揮しようがない。戦闘は本来私たちの役目だもの、出し惜しみなしで行くべきね」

 

 部長が皆を見渡しながら、凛とした声を張り上げる。

 

「皆! 兵夜を残して全滅しかけたソーナとの戦いでの汚名も返上すわよ! 目標はだれ一人欠けることなくディオドラの眷属を全員撃破!巫山戯たことをいったディオドラを叩きのめしてあげなさい!!」

 

「「「「「「「はい!!」」」」」」」

 

 俺たちは気合いを入れて勝利を宣言する。

 

 待っていやがれディオドラ! てめえのそのむかつく笑顔、思う存分叩きのめしてやる!!

 

SideOut

 




ディオドラは喧嘩を売ってはいけない人に喧嘩を売ってしまいました!

オカルト研究部はもともと喧嘩を売ったらただじゃすまない組織ではありますが、兵夜はむしろどう報復してくるかわからないところが恐ろしい


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取材、受けました!!

 俺の目の前でものすごい眼福な光景が広がっていた。

 

 シスター、女戦士、猫娘二人。

 

 よくあるコスプレだが、しかし一味違う。

 

 それぞれ露出度が低いのにもかかわらず、的確な部分を露出していることでエロさをだし、しかし露骨にエロスを出し切らない。

 

 俗にいうエロかわいいを実証した少女たちが、俺とイッセーの目の前でゲームに勤しんでいた。

 

「いいな、イッセー」

 

「いいな、宮白」

 

 俺とイッセーは今、親友だとしてもなかなか到達できないレベルで通じ合っていた。

 

 ・・・ちなみにコーディネートはアーチャーである。匠だ。

 

 ちなみに部長と朱乃さんはイッセーを巡ってケンカ中だ。イッセーも罪な男だ。

 

「・・・コーディネートした私に感謝しなさい。それと上がりよ」

 

 匠がちゃっかり勝利をもぎ取っていた。

 

 ちなみにこれでアーチャーは四勝目でトップである。さすがは上流階級。人生ゲームで出世するのも早い。

 

 二勝で俺が次点ではあるが、しかしこれは苦戦するな。さすがは策謀に長けるキャスターのサーヴァントで呼ばれるのが定石の英霊なだけあるな。俺程度では勝ち目がない。

 

「むっきー! まだ一回も勝ってないのにー! 次、次いこっ!」

 

 一勝すらしていないナツミがムキになる中、しかし俺は少し考え込んでいた。

 

 とはいえ相談できる相手がいるのに一人で考え込んでもどうかという話だ。素早くパス経由でアーチャーと相談する。

 

(・・・で、アーチャー。イッセーが言ってた話、どう思う?)

 

(あのスカした坊やが忠告した内容のこと? 正直よくわからないわね)

 

 まだほとんどのメンバーには知られていないが、イッセーはヴァーリと接触していたらしい。

 

 ディオドラには気を付けろと言っていたそうだが、一体どういう意味だ?

 

 ・・・たしかに、ディオドラはアザゼルや部長が眉をひそめるほどの急激なパワーアップを果たしていたそうだ。

 

 大公アガレスとのレーティングゲームでは孤軍奮闘。一騎当千の活躍をして勝利をつかんだわけで、確かに桁違いの戦闘能力を発揮していることは認める。

 

 だが、それでイッセーがピンチに陥るか?

 

 なんどか偽聖剣のテストも兼ねて模擬戦を繰り返してきた俺だからこそ断言できる。

 

 ・・・十中八九イッセーが勝つぞ、この戦い。

 

 偽聖剣を使えば俺だって勝てる。久遠なら一分もかからず倒せるだろうし、リョウメンスクナを使えば木場も十分勝算がある。

 

 ヴァーリの奴、まだ俺らを舐めてるんじゃないだろうか?

 

 まあディオドラにまだ隠し玉があるとしたら厄介だが、イッセーには聖剣アスカロンもあるわけだし、そこまでビビる相手でもないだろう。

 

 なんかウチのメンバー全員ディオドラを警戒してるんだが、警戒するのはわかるし油断はするべきではないが、今の情報でそこまでビビるほどでもないだろう。

 

(・・・と、いうよりもう私が裏で謀殺していいかしら? 正直生かしておきたくないタイプなのだけれど)

 

(気持ちわかるとは言わないが抑えてくれ。今後の展開を考えると、あまりきついハメ手は使いたくない。その辺は今後アザゼルと話し合って考えような?)

 

 いろいろ調べた情報からある程度の確信があるので、アーチャーは割と本気で殺すモードなのが心配だ。

 

 まあ、来歴を知っていれば当然の反応ではある。

 

(何はともあれ今後の展開次第だ。・・・場合によって、OKな)

 

(それはありがたいわ。・・・できればそうであってほしいわね)

 

 まあ、イッセーたちに迂闊にいうわけにもいかないから、できれば平和的に解決できるといいんだけどな。

 

 とはいえ、向こうにそのつもりがないのなら・・・。

 

「・・・もしも~し? 宮白くん大丈夫~?」

 

「うぉっと!?」

 

 隣にイリナがいてびっくりしてしまった。

 

 いかんいかん。ちょっと考えすぎたか。

 

「一緒にゲームしようって話になったのに、何も言ってこないからびっくりしたじゃない。ダメよ、みんなで遊ぶ時にボーっとしちゃ」

 

「わ、悪い悪い。ちょっと考え事してた」

 

 あわててごまかしながらしかし思考は決して止めない。

 

 ・・・ディオドラ、まさか貴様・・・。

 

 しかしその直後、部長からもたらされたある情報によって、俺はそれどころじゃなくなったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、僕たちは結構意外なものを見ている。

 

 僕らがいるのは冥界のテレビ局。まあ簡単に言えば、テレビに出ることになったわけだ。

 

 まあ、冷静に考えればそれも当然だろう。

 

 期待のルーキーであるライザー・フェニックスを倒し、コカビエルの襲撃を切り抜け、三大勢力の会談に参加し、敵の襲撃を撃退した僕たちは、大きな争いがなくなった冥界に当然のこと、さらに政府の方針で本来大がかりな戦闘には巻き込まれにくい若手として破格の存在だ。

 

 さらにそこに赤龍帝であるイッセーくんの存在と、魔王血族の部長がいるわけだから注目度は桁違いだろう。

 

 桜花さん相手にボコボコにされたからある程度のガス抜きはされているかと思ったけど、どうやら甘かったようだ。

 

 正直インタビューが激しくて大変だった。朱乃さんも男性人気が高いこともあって結構質問されていたし苦労しただろう。

 

 イッセーくんも乳龍帝とか色々あってかなり質問が飛んできたが、しかしそれ以上にすごいのが一人いた。

 

「画期的な発明であるあの治癒アイテムですが、今後の開発の予定はありますか?」

 

「そ、そうですね。技術を応用すれば破損した心臓を再生させることで治療するということも理論上可能な技術ですので、それらを応用した臓器治療技術を作り出すことができれば、癌治療などに効果が見込めるのではないかと考えております」

 

「レーティングゲームでは参謀として様々な策をもってソーナ様と渡り合いましたが、どこから発想が出たのでしょうか?」

 

「人間のころは不良やヤクザなどを相手にゲリラ戦のような方法で渡り合ったことがあったので、そこから発想してみました。あれは・・・まあ、戦場がこちらにとってやりやすかったからできたような偶然ですよ」

 

「そのソーナ様の眷属である桜花久遠さんとの恋愛ですが、その後の展開はどうでしょうか!?」

 

「え、えとあのそのんと・・・ど、同類意識というものがあることもありますので仲良くやっていきたいとはおもってんおり―」

 

 ・・・さすがにしどろもどろになってきているようだ。

 

 まあ仕方がない。

 

 宮白くんたち魔術師が、その立場を確立するために生産した魔術礼装は冥界の歴史を一変させるものだ。さらにその技術の応用発展の準備も彼とアーチャーさんが中心となって行っており、これにより冥界の技術は大きく発展するのではないかといわれている。

 

 レーティングゲームにおいても、会長相手にむしろ反撃したりするなど参謀として仕事をしっかりと果たしていた。レーティングゲームの批評家の間では、グレモリー眷属で一番評価されている。とくに作戦を重視するタイプからは、策がいささか悪辣なことを除けば、会長に次ぐ参謀家として高評価だ。

 

 そして桜花さんとの恋愛事情は非常に大きい。

 

 まさかレーティングゲームで告白され、さらにその結果により交際が堂々と決定したのだ。娯楽が比較的少ない冥界にとって、ここまでのインパクトはそうはないだろう。

 

 おかげでその方面からの質問攻めが集中している。その質問量は僕たちのなかで一番多いだろう。

 

「魔王様が見守る中で誓いの口づけをしたとのことですが、その時の心境は!!」

 

「ぶっちゃけなかったことにしたいです! っていうかリアスさまヘルプ! だれか話そらして!?」

 

「あきらめなさい。勝利条件を誤解したあなたが悪いわ」

 

 この状況下で部長の呼び方に気を付けれる彼はやはりすごいが、しかしこればかりはどうしようもない。

 

 インパクトだけでいうなら乳語翻訳に匹敵する上に、いろいろツッコミづらい乳語翻訳より話のタネにしやすいからね。ここまで来るとは思わなかった。

 

 そしてインタビューが終わるころには、死に物狂いで何とかした宮白くんはへばっていた。

 

「・・・部長、今日の悪魔稼業休みます。もう風呂入って酒飲んで寝る」

 

「仕方がないわね。ご苦労様」

 

 さすがの部長も苦笑するほかないぐらい憔悴している。

 

 何事もそつなくこなせる宮白くんだけど、一度も経験してないことにはさすがに無理があるらしい。

 

 なんでもそれなりにこなせそうな彼にも限界があるということか。なんていうか、さらりと流して終わらせそうな印象があったので、ちょっと意外だった。

 

「・・・宮白先輩って何事もそつなくこなせるイメージがあったんですが、意外ですね」

 

「それは同感だな。手際よくこなしそうだったのだが想像を絶するほどに戸惑っていたな」

 

「お前ら俺を何だと思ってんだ? テレビ出演するつもりないやつが、ゴシップ記事的な内容のインタビューに対する備えをしているわけないだろうが」

 

 同じような感想を漏らした小猫ちゃんやゼノヴィアに対して、宮白くんはジト目で見ながらそう漏らす。

 

 ただしその表情は力ない。どうやら僕らが思っているよりもさらに大きく憔悴しているようだ。

 

 本当に心の底から疲れきっている宮白くんはため息をつきながら、ソファーに沈み込んだ。

 

「イッセーはイッセーでアホなことになってるし、なんていうかディオドラに意識向けなきゃいけない状況下でなんでここまで面倒事を引き受けなきゃいけないんだよ」

 

「あれ? 宮白くんってイッセーくんがどうして別撮りなのか知ってるのかい?」

 

 イッセーくんはいま何やら別の理由で撮影に参加するということになっている。

 

 詳細は僕たちも知らないんだけど、どうやら宮白くんは知っているようだ。

 

 だが、宮白くんはニヤリと笑うと人差し指を立てた。

 

「イッセーがらみの情報は最優先でかき集めてるからな。・・・驚く顔が見たいんで、情報は伏せさせてもらうぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マジで疲れた。

 

 まさか下級悪魔の恋愛事情にここまでがっついてくるとは想定外だ。

 

 酒を飲みながら、俺は当分冥界の取材はお断りすることを心に決めた。

 

 ただでさえそれなりに長い人生で初の事態に混乱状態だというのに、テレビの取材までこなす余裕はない。場合によってはサーゼクス様に土下座して何とかしてもらおう。

 

 しかしまあ、イッセーのことはなんというか爆笑ものだったりする。

 

 乳龍帝として子供の人気をかき集めているのは知っていたが、まさかこういう展開にするとは笑わせてもらった。

 

 なんていうかハーレム王とは方向性は違うが、しかしある意味で人気出まくりだな。上級悪魔昇格の助けにはなるだろう。

 

 さすがは俺の親友、やるじゃねえか。

 

 アレが公開される前に変なケチがついてもあれだし、こりゃなおさらディオドラに負けるわけにはいかないな。

 

 今日は早めに寝て、インタビューでの疲れをとってからしっかりディオドラ対策を練るとするか。ヴァーリが警告したということはもうひとひ練りあるだろうし、相応に警戒する必要がある。

 

 と、その時ドアをたたく音がした。

 

「・・・まだ起きてるけど、誰だ?」

 

「私だよー」

 

 ドアを開けてやってきたのは久遠だった。

 

 その手に持っている包みからは、やけにうまそうな匂いが漂っている。

 

「おつまみに焼き鳥作ってきたけど食べるー?」

 

 ・・・なんか腹減ってきた!

 

「じゃあ食うとするか。・・・ウーロン茶出すからお前もちょっとだべってけよ」

 

「ありがとー。そういえば今日生徒会でねー」

 

 俺と久遠はその日にあったことなどをだべりながら焼き鳥をつまむ。

 

 うん、味が少し良くなってるな。酒のつまみにちょうどいい。

 

 ・・・彼女と話す雰囲気とはちょっと違う気もするが、これはこれで楽しい。

 

 だが、ふと見ると久遠の表情がちょっと沈んでいた。

 

「なんかあったか? ・・・相談事があるなら聞くぞ?」

 

「いや、そういうわけじゃなくてー・・・」

 

 久遠は苦笑いでごまかそうとしたが、少しすると勢いよく頭を下げた。

 

「なんかごめんなさいー!」

 

 ・・・な、なんだなんだ?

 

「きょ、今日のテレビ出演で兵夜くんが思いっきり疲れちゃったって聞いてー。それでなんていうか原因は私にあるわけでー」

 

 ああ、確かに。

 

 もとはといえばこいつがテレビ放送で告白したうえに、魔王様の目の前でキスしたなんて実話が漏れたことが原因だからな。

 

 それで罪悪感感じてるのか。

 

 ・・・はあ。

 

「久遠」

 

「う、うんなに―」

 

 顔を上げた久遠の唇を、俺の唇でふさぐ。

 

 ・・・なんかすごく恥ずかしいが、とりあえず数秒間そのままで待機。

 

 そして距離を少しとった時には、久遠は思いっきり顔を真っ赤にしていた。

 

「ちょ、ちょちょちょちょっとー!?」

 

「とりあえずお仕置きはこれで終了な」

 

 ちょっと冗談みたいにそう言って、俺は久遠を抱き寄せる。

 

 ・・・おお、カチンコチンに固まってる。

 

「・・・自分の女がいい女だっていうのは、これで結構自信がつくもんでな」

 

 正直謝られても今更ではあるし、それはまあ別にいい。

 

 なっちまったもんは仕方がないし、約束は約束だ。

 

 むしろそれぐらい強かなほうが俺にとってはちょうどいいとも思うしな。

 

 だからまあ、謝られるぐらいならもっとこうプラスになることをしてもらいたいわけで。

 

「まだまだ結構戸惑ってるところもあるけど、俺もまあ、桜花久遠(いい女)を愛人にして当然の男になるって最近決めた」

 

 こうしていると、最初にこいつを抱きしめたときを思い出す。

 

 数少ない同朋に、自分と同じような決意を秘めた同朋と出会ったことに、俺は正直歓喜してたと思う。

 

 そんな彼女を自分の女にできるっていうのは、なんていうかまあ、かなりうれしい。

 

 確かにイッセーが一番大事なのは一生変わらないだろうが、桜花久遠といういい女を大事に思っていることも変わらない。

 

 どうせ異形業界全体にばらまかれたようなもんなんだ。堂々と侍らせてると自慢できるようになるほうがいいに決まってる。

 

「・・・だからまあ、これはいわゆる有名税ってことで気にするな? できれば話のタネを提供するためにイチャイチャしてくれるとうれしいかな?」

 

「あ・・・あう・・・わかりましたー」

 

 ゆでだこのように真っ赤になる久遠を見てると、なんかすごく愛しく感じてしまう。

 

 我ながら意外とちょろいというかなんというか。これじゃあ女が言い寄ってきたら断れないんじゃないか?

 

 まあ、超イケメンの木場にモテ期のイッセーがいる以上そうそう寄ってこないとは思うが、ちょっと気合い入れたほうがいいな。

 

「そろそろ離れるか?」

 

「え? い、いやいやいや、もうちょっとー」

 

 俺の胸に顔を押し付けながら、久遠が俺の背中に手をまわしてくる。

 

 やばい、なんかムラっと来た。

 

「・・・久遠」

 

「・・・い、いいよー」

 

 ・・・よし。

 

 いただきま―

 

「兵夜ぁあああああ!!」

 

 顔面に衝撃が走った。

 

 あ、頭が重い! 目の前も真っ暗だ!!

 

 悪魔となった俺たちは、非常に夜目が利くはずなのになぜ見えない!? いったい何があった!?

 

「あ、ナツミちゃんだー。こんばんわー」

 

「久遠!? ちょっとやりすぎだからね!? 禁止禁止!!」

 

 ああ、ナツミがだいぶして抱き付いてるのか。

 

 っていうか頭蓋骨がミシミシ言ってるんだけど!? ちょ、タンマタンマ!!

 

「久遠は兵夜の愛人かもしれないけど、ボクだって兵夜の使い魔なんだからね! ご主人独占禁止!!」

 

「あ、ごめんねー。・・・うん、頑張れナツミちゃん。未来の同士になってくれると嬉しいなー」

 

 な、なんか二人の間で共通認識!?

 

 や、やっぱりあれか!? ナツミもなのか!?

 

「ご主人! ご主人は今日一緒に寝て! ねーるーのー!!」

 

「わ、わかった! わかったから離れろぉおおおお!!」

 

 疲れてるのは本当なんだよ!

 

 ああもう! せっかくいい雰囲気だったのにぃいいいいいい!!

 

 

 




次回、レーティングゲーム開始します。


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初手カウンター、直撃

ついにレーティングゲームスタートです。


 

 

 レーティングゲーム当日。

 

 俺たちは控室でいろいろと準備していた。

 

 一応俺もそれなりに準備しているから負けることはまずないだろうが、しかし警戒しておくに越したことはない。

 

 なんてったってヴァーリがわざわざ警告するような相手だ。さらに凶悪な隠し玉の一つぐらいは持っていると考えたほうがいいだろうな。

 

「・・・なあ宮白。カウンターって習得したほうがいいかな」

 

「お前には当分いらんだろ」

 

 戦闘について話しながらも、イッセーの表情もけっこう鋭い。

 

「でもさ、ゼノヴィアそれでやられかけたんだろ? やっぱりカウンターってのは必要だと思うんだけど」

 

「あのなイッセー? 副会長の場合は特殊能力としてカウンターできるものだから行けたんだ。純粋な武技としてカウンターを持っていたとしたら、あのタイミングでもよくて相打ちがせいぜいだったぞ」

 

 だからこそ警戒が緩かったのは認めるが、少なくともイッセーがカウンターを勉強する必要は当分ないだろう。

 

 赤龍帝の能力にカウンター用の能力はない。魔法関係ならあるかもしれないが、しかしイッセーにそのあたりの才能は期待しないほうがいいだろう。そこから考えると、イッセーが使えるカウンターは格闘技系になるわけだ

 

 たとえばボクシングが有名だが、あれは相手の攻撃するタイミングを見てから、それを回避すると同時に殴るか、もしくはそれが届くより早く攻撃を叩き込む技。それにより、攻撃に意識を向いているがゆえに防御反応が緩くなった、しかもこっちに勢いよく来ている相手に攻撃を当てることでダメージを増大させる技だ。

 

 つまり、二つの行動を高レベルで複合させるか、相手よりもスピードのあるパンチを入れるかに分けられる。しかも相手が攻撃してくるタイミングを合わせる必要のあるきわめてシビアなタイミングの技だ。

 

 本来受け手にまわるという、戦闘において不利になる立場に身を置く必要だってある。はっきり言ってハイリスクハイリターンの高等テクニックだ。

 

 不良相手の喧嘩なら俺だって普通にできるが、レーティングゲームでは使う気はないぞ。あれはタフネス重視の奴相手に使うべき方法だ。

 

 ゼノヴィアがカウンター使いを力で押し切るといったが、それは確かに真理の一つである。

 

「攻撃反射系の特殊能力を使わない返し技は、敵の攻撃タイミングを瞬時に見切って機先を制することができる、つまり強いほうが弱いやつに使う技。・・・格闘技経験もろくにないお前は普通に先手を取って流れを持っていくことだけ考えてろ。弱者が強者に勝つ方法は先制攻撃による畳みかけだ」

 

 とまあ苦言を言っておくが、まあちょっとは嬉しい気分にはなる。

 

 戦闘について本格的に考えてるからこそのこの意見。成長してるじゃないか。

 

 できの悪い弟がテストで90点取ってきたような気分だ。なんというか、しんみりくるな。

 

「な、なんていうかすいません。私のせいでいろいろとご迷惑を」

 

 俺が渡した保険のネックレスを揺らしながら、アーシアちゃんが申し訳なさそうにしている。

 

 あいてがディオドラなこともあってか、アーシアちゃんがなんていうか恐縮している。

 

 なんていうかこの子も大変だな

 

 そんな感じで肩をすくめているアーシアちゃんを、後ろから部長が抱きしめた。

 

「構うことはないわ、アーシア。私のかわいい妹分に言い寄ってくるのだもの、お仕置きをするのは当然のことよ」

 

「全くだ。人の恋路を邪魔するものは、馬に蹴られるより先に私がデュランダルの錆にしてくれる」

 

「・・・正直ストーカー一歩手前ですね。ちょうどいいですし叩きのめしましょう」

 

「あらあら。久しぶりにじっくりしびれさせることができますのね? 楽しみですわ」

 

 同類意識が共鳴したのか、イッセーラヴァーズが割と本気になっている。

 

 これ確実に勝てる気がしてきたぞ?

 

「僕たちも頑張らないとね。当然力を貸すよ」

 

「ぼ、僕も微力ですがお力になりますぅ」

 

 俺たちの隣に、木場とギャスパーも集まった。

 

 打倒ディオドラを旗印に、オカルト研究部は一つになっている。

 

 ・・・いいだろう。生徒会相手にボコボコにされたことで発生した汚名、アガレス撃破で一気に名を挙げたディオドラをぶちのめすことで返上する!!

 

 そんな俺の意思を感じ取ったのか、部長が不敵な笑みを浮かべて声を挙げた。

 

「さあ、前回のような情けない戦いはもうゴメンだわ。完膚なきまでに叩きのめしてあげなさい!!」

 

「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」

 

 俺たちは転送の輝きに包まれて、レーティングゲーム会場へと転送されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

「どうやら予想通りの展開になったようね。よほど自信があるのか、ただの馬鹿なだけなのか」

 

「あいつらが馬鹿なのは当然だが、それにしても勝算がないわけじゃないだろ。両方だと考えたほうがいいな」

 

『ならば私たちも動くことになりそうですね。・・・そちらのほうは?』

 

『問題ない。第2ポイントから第14ポイントまで万全の体制だ』

 

「んじゃぁそっちはお前らに任せるぜ。イッセーたちは第1ポイントのすぐ近くだから、とにかく真っ先に合流しておけ」

 

『了解しました。・・・それでディオドラのほうは大丈夫なのですか?』

 

「十中八九問題ないと思うがな? あれの性能は今の赤龍帝の鎧とほぼ同等の戦闘能力だぞ? 使い手のスタイルもあって総合力じゃ間違いなく上回る。さらに奥の手の準備も万全だもんな?」

 

「・・・不味いわね」

 

『『「・・・え?」』』

 

「フィールドに細工をされたみたい。接続不良で再起動に時間がかかるわ」

 

『もしよろしければ、私自ら助けに行くが』

 

「あー・・・。一応準備頼むわ。俺も念のため後詰を送る。ちょうど適任が暇しててな」

 

『とりあえず急ぐことにします。全員総出で力押しするのが一番確実に無力化できますから』

 

「んじゃまあそのあたりは任せるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かかってきやがれ禍の団。返り討ちにしてやるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 た、たたた大変だぁあああああああああ!!

 

 寄りにもよってアーシアが攫われてディオドラが裏切りで旧魔王派がいっぱいで・・・」

 

「ちょっと落ち着けイッセー!」

 

 後頭部に宮白の手刀が叩き込まれて、俺は我に返った。

 

 にしても普段より威力が弱いし、なんていうか当たり所がおかしいような気がするな。まだ混乱してんのか、俺?

 

「焦ってるのは俺も同じだが、とりあえず冷静になれ。なにが起きたか一から言ってみろ」

 

「あ、ああ、まずはアナウンスが全然ならないと思ったら、いきなり旧魔王派の連中や、例のごとくのドラム缶が群れで登場したんだよな」

 

 真面目な話、両方合わせたら数千ぐらいいそうなものすごい大軍だ。・・・俺たち殺すためにどれだけかき集めてんだよオイ。

 

「で、その次に何が起きた?」

 

「あ、ああ。ディオドラがアーシアちゃんを誘拐したんだよな! しかもあの野郎、禍の団に裏切ってやがった」

 

 あの野郎! もしかして急激なパワーアップっていうのも禍の団が一枚かんでんのか?

 

 卑怯な手段で力を身につけやがって! 絶対にぶっとばしてやる!!

 

「・・・状況を把握したばかりで悪いけど、イッセーくんは早く禁手の準備を! このままだと間違いなく数に呑まれる!!」

 

 聖魔剣を呼び出しながら、木場が大声を張り上げる。

 

 た、確かにこの数を何とかするには俺が禁手になる必要がある。

 

 もちろん宮白の偽聖剣も重要だ。レーティングゲームじゃないんだし、出し惜しみする必要はない!!

 

「やってやろうぜ、宮白!!」

 

「・・・・・・・・・あ、えっと、その」

 

 なぜか宮代がものすごい汗をかいていた。

 

「何をしているの兵夜! 早くこいつらを片付けでアーシアを助けに行かないと!!」

 

 部長に怒鳴られるが、宮白はものすごい言いにくそうにしていた。

 

「と、とりあえずに先に二ついうことがあります」

 

「・・・なんですの? 正直余裕がないので早くいってくださいません?」

 

 怪訝な表情の朱乃さんに促され、宮白はすごい微妙な表情でしゃべりだす。

 

「とりあえずいいお知らせから。・・・アーシアちゃんの体は大丈夫です。少なくとも今からディオドラにどうこうされることはないです。それだけは断言できます」

 

「またなにか作っていたのか。いつものことだが頼りになるね」

 

「さすが宮白先輩です! それなら大丈夫ですね!!」

 

 驚きの発言だったが宮白のことだから信頼できる。ゼノヴィアもギャスパーも疑っていなかった。

 

 そっか、なら焦る必要はない! 俺と宮白でこいつらまとめて―

 

「で、悪いお知らせなんですが。・・・今の俺戦力になりません」

 

 ・・・空気が、凍った。

 

「追加でいうと武器も出せません。いや、アーシアちゃんの誘拐は想定してたんですが同時進行でこんな力押しによる襲撃がくるとは想定してませんでした。・・・マジで申し訳ありません!!」

 

 冷や汗だらだら流しながら、宮白が勢いよく土下座した。

 

「ちょ、ちょちょちょどうするんだよ宮白!? 朱乃さんはともかく、それじゃ木場もブースト出せないだろうが!?」

 

 それってマジでやばいだろうがぁあああああ!!

 

 あれかさばるから宮白が持ってるんだぞ!? 朱乃さんはむしろパワー重視で暴れるタイミングだから必要ないにしても、これはさすがにマズイだろ!?

 

「よくはわからんが好都合だな。・・・偽りの魔王の血族とその眷属よ。真なる魔王をないがしろにした報い、今こそ受けるがいい」

 

 ああ、旧魔王派の方々が魔力ためてきてるよ!?

 

 やっべえまだ禁手の発動まで時間が―

 

「―グングニル」

 

 莫大なエネルギーを、俺たちの視界を覆い尽くした。

 

 そのエネルギーに巻き込まれた悪魔たちは、一瞬で消滅していく。

 

「・・・セラフォルーの妹はまだ来ておらんようじゃの。やれやれ、老骨に仕事を振るとは罰当たりな連中じゃのぅ」

 

 その一撃を放ったのは、以前一度だけみた神様。

 

「・・・オーディンの爺さん!? なんでこんなところに!?」

 

 北欧の神様だとかいうオーディンの爺さんじゃねえか!?

 

「アザゼルの奴に駆り出されての。このレーティングゲームに禍の団が乱入してくることは想定内だったのじゃが、まさかお主らにここまで敵が集中するとは想定外じゃった上、特殊な結界のせいで入れるものが限られとる用での。入れる儂が駆り出されたということじゃ」

 

 この数の悪魔を前にしても平然としながら、爺さんは部長や朱乃さんの体をしげしげと眺める。

 

「とはいえこんな別嬪を生で眺めれるというのなら、まあ面倒なだけではないわい。・・・ほれ、ここは儂が引き受けるからおぬしら外に出ろ。セラフォルーの妹たちが合流のために近づいているはずじゃ」

 

 会長たちが!?

 

 ってことは桜花さんも来てるのか! よっしゃあ助かった!!

 

「ソーナが!? なんでソーナがこんなところに―」

 

「ああ、それは俺の仕込みです。念のために頼んでました」

 

 驚く部長を遮って、宮白が一歩前に出た。

 

 その宮白の姿をみて、オーディンの爺さんはなんというかあきれた表情を浮かべる。

 

「なんじゃお主いたのか? 失敗したわけではないの・・・ああ、礼装とやらが作動不良を起こしたのか」

 

「申し訳ありませんオーディン様。・・・すいませんが術式のほうが誤作動を起こしたので何とかしていただけると非常に助かるのですが」

 

 な、なんだなんだ?

 

 宮白のやつ、一体何したんだ?

 

「まあこれぐらいなら簡単じゃ。すぐ終わるから裏切り者とやらは任せたぞ」

 

「了解しました。・・・よし、これでアーシアちゃんは何とかなる」

 

 おお、何とかなるのか! でもどうやって?

 

 よくわかってない俺たちのほうを見て、宮白は光に包まれながら親指を立てた

 

「んじゃ、アーシアちゃんはよろしくな」

 

 そのまま光は一瞬で強くなり、そして消えたときには―

 

「・・・あれ? イッセーさん?」

 

「アーシアぁあああああああああ!?」

 

 なぜかアーシアがこっちにいる!?

 

 っていうか、宮白どこ行ったぁあああああああああああ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 ふう、一時はどうなることかと思った。

 

「え? ・・・へぶっ!?」

 

 かなりきわどい距離にまで近づいて固まったディオドラの顔面を殴り飛ばしながら、俺はほっと息をついた。

 

 今回アーシアちゃんに渡したのは保険としての身代わり用礼装。

 

 感覚共有の魔術と、悪魔の肉体変性と、さらに認識阻害を兼ね合わせた試作品。一対のネックレスを持っている者同士で肉体の主導権を交換し、姿を惑わすことで完全な身代わりを可能とする施策型だ。

 

 ディオドラが誘拐に来るとするならば、開幕直後の混乱状態だと思ったので用意していたが、テストが間に合わなかったのでバグった時は心臓止まるかと思った。

 

 主神オーディンには感謝しなければならないな。こんど生八つ橋でも送ろう。

 

「ど・・・ど・・・どういうことだ!? アーシアはどこに行った!!」

 

 ようやく立ち直ったディオドラを見下ろしながら、俺は周りを確認する。

 

 ・・・数は眷属フルメンバー。ディオドラを含めると十五人だ。

 

「悪いがアーシアちゃんはまだイッセーのところだ。まさかお前が裏切ってる可能性に気づいてないと思ってたのか? これだからぼんぼんのお坊ちゃまはだめなんだよ。俺を見習ったらどうだオイ?」

 

 俺もたいがい坊ちゃんではあるが、少なくともこいつとは違う。もちろん俺の兄も姉も妹もこいつとは違う。

 

 仲の微妙な連中も多いが、みな己を高めることは忘れない努力形だ。そのうえ俺とは違って天才ぞろいだから始末に負えない。

 

 だがこいつは違う。

 

 歴史ある上級悪魔というのは特訓をあまりしない主義だ。眷属の戦力を強化するならトレードを選択するし、己の才能が自然に高まることを選ぶ。そもそも努力という行為を下等なものたちがするものだと見下しているふしがある。

 

 だが、努力というものはちゃんとかみ合えば必ず成果を出す。

 

 もちろん一位をとる、戦場で生き残るなどといった競争理念が働く方向においては必ずしも成功するとは限らない。だが、その努力と研究によって、人類は空を飛び深海を潜り、月にすら手が届いた。

 

 唯川の流れで丸まるのを待つ石より、磨いた宝石のほうが基本的には美しいのだ。

 

 ・・・ゆえに恐れる必要などどこにもない。

 

「薄汚い下級悪魔の分際で僕の腕をつかんだだけでなく、アーシアのふりをして僕の手に触れるとはね。・・・殺してやるよ! それも全員でじわじわとね!!」

 

 割と本気でマジギレしているところ悪いが、こっちも本気でマジギレしてるんだがな。

 

 ・・・何のためにイッセーたちと合流せずにこんな方法で来てると思ってるんだこの野郎。

 

「18禁調教ゲーム主人公の分際でよく吠える」

 

「・・・なに?」

 

 最初から怪しいとは思っていた。

 

 上級悪魔がアーシアちゃんをもってしても傷跡が残るほどの重傷を負ってアーシアちゃんと出くわすなんてありえない。

 

 そんな事態が起きれば間違いなく護衛がつくはずだ。いくらアーシアちゃんが善良な性格だからって、護衛が止めるに決まっている。

 

 ・・・状況証拠と経験者の証言でほぼ固まった。

 

 だからわざわざ俺一人で出張ってやってるんだろう? こんなのアーシアちゃんに知らせる必要はひとかけらたりとも存在しない。

 

「お前には一矢報いるという心の慰めすら与えん。しゃべる口と記憶を残す脳以外、無事で済むところは何もないと思え!!」

 

 




初手から見事カウンターをぶちかましました。

今回の作戦はアザゼルとソーナも一枚かんでいるので、うっかりの介入はありません。

さて、兵夜によるディオドラフルボッコタイムをお楽しみください!!


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次手ラッキーパンチ、クリーンヒット

 

イッセーSide

 

「・・・ディオドラが裏切ってることに気づいてて泳がせてたぁ!?」

 

 敵の群れをオーディンの爺さんに任せ、会長と合流することに成功した俺たちが利いた衝撃の事実に、俺は思いっきり絶叫した。

 

 確かにドーピングで一番新しい情報は、禍の団が使っているオーフィスの蛇とかいうやつだけど、あいつまさか感づいてたのかよ!?

 

 っていうか先生もわかっていて泳がせてたのか! 俺たち囮かよ!?

 

「なんでも最悪自分の首が飛んだとしても、確実に旧魔王派をどうにかすることのほうが大事と判断したそうです。宮白くんもそこは理解していたようで、とにかく協力してくれそうな上級悪魔に土下座して頼み込んでフィールド中に戦力を潜伏させてました」

 

「一番最初に頼んできたのは私たちだけどねー! あ、あとアポロベ・フィネクスって人が協力してくれたおかげで14チームきてるよー」

 

 周囲を素早く警戒しながら、会長を補足する桜花さん。

 

 まさかアポロベさんが協力してくれているとは思わなかった。そういえば、宮白ってあの人の腕の代わりに、相当高性能な義腕を優先供給することにしたとか言ってたっけ。

 

 っていうか、レーティングゲームでのパワーアップはドーピングかよ! あの野郎ふざけた真似しやがって!!

 

「・・・っていうかお前らよく無事だったな。アレで生きてるってマジすげえよ」

 

 匙は俺たちがいた方向をみてなんていうかドン引きしている。

 

 まあ、俺も正直ドン引きしている。

 

 ものすっごいぶっといビームみたいなのがポンポン出てるんだもん。

 

 たった一人で相手するとか言ってるだけあるよあの爺さん。この調子だと、あっという間に敵全滅させるんじゃないのか?

 

「だけど宮白くんが危なくないかい? そんなディオドラをたった一人で倒すのは無謀だよ。彼には眷属だってついているんだよ!?」

 

 木場が焦って声を荒げる。

 

 ・・・だよな。

 

 たった一人でレーティングゲームをひっくり返すような今のディオドラが相手じゃ、いくら偽聖剣が使えるからって宮白でも危なすぎる。

 

 とにかく急いで助けに行かないと!

 

「部長! 俺たちも宮白の援護に行きましょう! 早くいかないと宮白が危ない!!」

 

「当然よ。兵夜一人に重荷を背負わせるほど、私は落ちぶれてはいないわ」

 

 俺の提案に部長も乗った。

 

 よっしゃ待ってろ宮白!! 今すぐ助けに来てやるから―

 

「―駄目です」

 

 会長が、きっぱりと言い切った。

 

「すでに宮白くんにはアザゼル先生が別働隊として向かっています。もともとディオドラ確保用だったチームも行動を開始していますし、私たちは早くシェルタールームに避難しますよ」

 

 ちょ、いくらなんでもそれは冷たすぎるだろ!?

 

「ソーナ? あなたね、私が自分の眷属一人に重荷を背負わせ、安全圏でのうのうとのんびりしていると思っているのかしら?」

 

「心外だね。私たちはそこまでふざけた生き方をするつもりはない」

 

 部長とゼノヴィアが速攻でブチギレかけてにらみつけるが、その視線からかばうように桜花さんが立ちはだかる。

 

「ちょっと落ち着いてよー。これは兵夜くんから頼まれたことでもあるんだからさー」

 

「・・・どういうことですか? 宮白先輩は切羽詰まってもいない限り、単独で無謀なまねをするようなことはしない人物だと思いますが」

 

 何かに気づいたのか小猫ちゃんが鋭く目を光らせる。

 

 その視線に降参したのか、会長が一つため息をついた。

 

「・・・アーチャーからの要望に応える形で、宮白くんは持ちうる外道の知識をすべて使ってディオドラに制裁するそうです。すでに魔王ベルゼブブ様の了承も得ています」

 

 ・・・おいちょっと待て。

 

「そんな光景を兵藤くんたちが見て余計なトラウマを与えるわけにはいかないということです。・・・実際、ディオドラの眼球や内蔵を使った魔術礼装の開発を提案してさすがに止められたとか」

 

「それ別の意味で駆け付けたほうがよくないかしら?」

 

「ひ、ひぃいいいいいいいいい!! 宮白先輩を怒らせるのは本当に怖いですぅううううう!!」

 

 部長がドン引きし、ギャスパーが恐れおののいて悲鳴を上げた。

 

 ・・・やばい、宮白なら本当にやるかも!

 

 アーチャーさんも怒らせなければ結構いい人だけど、属性が悪名だけあってやると決めたら容赦しないし、俺後日ディオドラの肺でできた酸素ボンベとか渡されそうで怖いぞ!!

 

「・・・あらあら、これは別の意味で駆け付けたほうがいいような気がしますわ」

 

「で、ディオドラさんは確かに悪い人ですけど、それはさすがに―」

 

 さすがにドン引きの朱乃さんや、明らかにあわてるアーシアを見ながら、さて俺はどうしたものかと考えた。

 

 や、やっぱり止めに行ったほうがいいよな? これはさすがにまずいんじゃ―

 

「そうは問屋が卸さないぜ? これが」

 

 ・・・最近聞いたばかりの嫌な奴の声が響いた。

 

「まあ初手で詰めれるとは思っちゃいなかったが、さすがにオーディンは想定外だな。・・・一応出張ってきて正解だったぜ」

 

 フィフス!? なんでこんなところに!!

 

「貴方まで出てくるとは思わなかったわ。どうやらこの作戦、旧魔王派だけでなく、他の派閥も協力しているようね」

 

「禍の団同士の連携がここまでとは思いませんでした。・・・急ぎすぎているこの行動に協力するとは、現在の主流は旧魔王派のようですね」

 

 部長と会長が鋭くにらみつけるが、フィフスは全く動じない。

 

「・・・将来危険になりそうな連中を真っ先に片づけるのは戦略としてあってるだろ? 乳首つついて禁手に至るような奴、不確定要素すぎるから即倒すっつの、これが」

 

 俺のせいかよ!?

 

 乳首つついて禁手に至って何が悪い。あの衝撃が理解できないとは哀れなやつめ! 不健康そうな顔してるからモテないだけだろ!!

 

「状況わかってんのか? お前がどれぐらい強いかしらねえけどよ、禁手状態のイッセーと感卦法状態の桜花を同時に相手にし、勝てると思ってるのか?」

 

「さすがに舐められたものだね。いくらあのサイラオーグ・バアルを相手に渡り合ったとはいえ、君ひとりでこの数を相手に倒せるとでも?」

 

 匙と木場が前に出て神器と剣を構える。

 

 確かにパーティの時は一瞬で倒されたけど、俺だってすでに禁手になってるんだ!

 

 あの時のような情けない真似は絶対しない! さっさと片付けて宮白のところに向かわないと!!

 

 だが、フィフスは不敵な笑みを浮かべると両手を大きく広げる!

 

「俺を馬鹿にするのもたいがいにしてほしいな! これでも戦略ってものの基本中の基本はわかってるつもりだぜ!?」

 

 ・・・何が言いたい?

 

 と、俺たちの耳に妙な音が聞こえてくる。

 

 まるで何かが落ちてくるような―

 

「敵と戦うときは敵より多くの数をそろえる! これは基本中の基本だろ、これが!!」

 

 フィフスがそういうと同時、それは落ちた。

 

 全身頑丈そうな鋼で包まれた巨体。

 

 その重量を支える、見るからに力がありそうな太い脚。

 

 俺たちをにらみつける単眼は、不気味に輝いている。

 

「キャスター特製の俺専用の護身用兵器、まあ名前は適当につけてくれ―」

 

『機★獣! 咆☆哮! エドワァアアアアアアアアドォオオンッ!!』

 

 合成音声でなんかものすごく響き渡った。

 

 ・・・・・・・・・いやな沈黙だ。

 

 なんていうか、ぽつぽつとあのドラム缶が出てきている中、本当に微妙な感じになってきている。

 

「・・・あ、カテレア? ちょっと悪いんだけどキャスターに一週間ほど青汁毎食飲むように言ってくれる? ・・・ああ、令呪を楯にとればなんとかなるだろ」

 

 どうやら想定外だったらしく、フィフスもものすっごくおこりながら通信してた。

 

 と、さらに例のごとくドラム缶が大量に降下してくる。

 

 さらに、なんていうかSFに出てきそうなフルアーマーの装備をした奴らまで、なんとでっかい斧をもって現れてきた!

 

「・・・気を取り直して! 先生! お願いします!!」

 

「マジ気が抜けた感じ。まあやるしかないって感じ」

 

 さらに後ろから一人の女性が歩いてくる。

 

 ドレスっぽい恰好をした女性が一人、同じくドラム缶を引き連れてこっちに近づいてきた。

 

「英雄派所属の、エリザベート・バートリィの末裔、ウィン・バートリって感じ。・・・面白そうだからちょっと殺されてって感じ」

 

 なんていうかふざけた女が現れやがった!!

 

 とはいえ、こんなところにやってくるからにはこいつもただ者じゃないんだろう。油断していい相手じゃない!!

 

「・・・ディオドラの眷属にも一応蛇は渡してある。想定外の事態が起きたら速攻で飲むように言ってるからな。・・・どっちが先かは知らないが、仲良くあの世に行ってくるといいぜ、これが」

 

 フィフスが嘲笑うようにそういうと、槍を呼び出して俺たちにつきつける。

 

「やっちまいな、ユーヌス!!」

 

『承知!!』

 

 エドーワードンとかいうロボットの口が開いて、そこから白い光が漏れだした。

 

『粒機波形高速砲、発射!!』

 

 ってビームかよぉおおおおおお!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっとこれは想定外の展開その二だな。

 

「な・・・なんだって?」

 

 ディオドラも目を見開いて驚愕している。

 

 今、俺たちの目の前で起きている展開は一つ。

 

「あ、あ、ああああああああ」

 

「ひ、ひぃいいいいい!?」

 

「ひゃっは、ひゃは、ひゃはは」

 

 発狂状態といっていいほどに錯乱している、ディオドラの眷属の姿だった。

 

「お、お前、何をした!?」

 

 眷属全員で襲撃させようとした途端に急にこんな事態になり、ディオドラは明らかに混乱していた。

 

「っていうかお前は何ともないんだな? ・・・昨日送られてきたベルゼブブ様からの差し入れはどうした?」

 

「ああ、僕はすでに夕食を終えていたから女の一人にくれてやった・・・まさか!?」

 

 その言葉に、ディオドラは理解したようだ。

 

 まあつまりこういうことだ。

 

 試合開始前に仕込んでいた。

 

 周囲に魔力を流すことで活性化し、精神干渉を引き起こす宝石粉末をベースにした限定礼装を仕込んだケーキを、ベルゼブブ様経由でディオドラと眷属に差し入れさせておいたのだ。

 

 こいつらが裏切らなければ意図的に発動させず、さらにフィールドに用意した細工が防御するので発動することなく体外に排出される。そうでなければ裏切りが確定した瞬間に発動することで、戦闘に集中できない程度の精神攻撃でこちらに有利に事を進める。どっちに転んでも根回しもあって損はしない程度の行動だったのだが、どうしてこうなった?

 

「くそ! こいつらは全員、フィフス・エリクシルに渡された蛇を飲んでいたはずだぞ!? たかが下級悪魔の細工程度にやられるわけがない!!」

 

 泡を食ったような状態のディオドラだが、そのおかげで俺はどういうことか大体わかった。

 

「・・・蛇を飲んだのがケーキ食った後だとすれば、蛇は仕込みも強化しちまったんだろうな。ついてないよお前」

 

 蛇がどういった形に強化するのかはわからんが、どうやら精神力までは強化しないのだろう。

 

 だからブーストされた精神干渉によってフルボッコにされているというわけだ。

 

 ・・・アインツベルンはやれ悪神召喚しようとしてただの被害者呼ぶとかいう作戦自体が裏目に出る連中らしいが、まさかこの世界でもやらかすとは。

 

 まあおかげで面倒事が減ってくれた。

 

 とっとと終わらせてイッセーたちと合流しようか。

 

「さて、そろそろボコられる覚悟はできたか?」

 

 偽聖剣のオーラを放出しながらの俺の脅しに、ディオドラはようやく我に返る。

 

 それでもまだ動揺していたが、ふと何かに気づくと自信満々の表情になった。

 

「・・・まあいいよ。僕はすでに蛇で強化されているんだ。魔王の血筋がオーフィスの蛇を受け入れるんだ。彼らよりのはるかに強化されているのは想像できるだろう?」

 

 なるほど、確かに目の前で見ればわかるぐらいに本気のオーラが漂っている。

 

 確かに下手な連中なら返り討ちだろう。アガレス眷属を単騎奮闘で撃破したのもうなづける。

 

 だが―

 

「君もなかなか面白いおもちゃを持ってるようだけど、そんなおもちゃで僕を倒せるはずが―」

 

「グダグダうるさいな、お前」

 

 御託を並べるその顔面を殴り飛ばした。

 

 ・・・夢幻の聖剣で幻影作り出してから、透明の聖剣で姿を隠してただ歩いて殴っただけだ。こいつの性能なら普通にできる。

 

 ちなみに殴る瞬間に破壊の聖剣と祝福の聖剣を活性化させたので、悪魔は非常に大ダメージだろうな。

 

「な、い、痛い? 痛い痛い痛い!?」

 

「アーシアちゃんの分・・・だなんてことを言うつもりはない」

 

 予想はしていたがやはりこの程度か。

 

 赤龍帝の籠手と偽聖剣のデータを比べて、わかったことが一つある。

 

 総合性能なら、この二つは同レベルだ。

 

 イッセーがまだまだ未熟なのと、アーチャーやアザゼルの能力が非常に優れていることがあり、身体能力強化の性能だってそこまで大きく離れているわけじゃない。

 

 倍化の譲渡などがあるので不利と思われるかもしれないが、こちらも祝福があるからサポートとしてもそこそこできる。

 

 性能差も破壊と天閃があるから十分対処可能な範囲内だ。

 

 もちろんそんな高性能な武装をフルに使うのは大変だが、これでもだいぶ慣れた。

 

 出力制御は聖剣因子で、機能制御は魔術回路で対処すればいいだけの話。最初は並列作業に苦労したが、なれればそこまで苦労するほどのことでもない。

 

 まだまだ性能にも伸びしろがあるし、これは俺の主力として長い間使っていけるだろう。

 

 まさか本当に隠し玉がないのか? この程度の性能で、赤龍帝を倒せるわけがないだろうが。

 

「ただ個人的に、お前みたいなくそ野郎を無視できる性分でも無いだけだ。・・・立てよクソ野郎。俺の親友は正義の味方やることになってんだ。その俺が、鬼畜調教野郎見逃すわけにはいかないんだよ!」

 

 ・・・地獄はすでに始まったぜ。

 

 さあ、泣きわめけクソ野郎!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いまごろ兵夜はディオドラをフルボッコしているだろうな

 

 素の状態でも十分勝負になるだろうあいつが偽聖剣を使えば、眷属全員を相手にするなんて無謀な真似をしない限り負けることはまずない。

 

 その眷属相手にもすでに仕込みを済ませている以上、本当に一人でワンサイドゲームを起こす可能性だって十分にあった。

 

 ・・・そしてこっちのほうもなんというかあっさり片が付いたな。

 

「おのれ、偽物が、偽物のくせに、本物を、本物をよくもぉおおおおおおおお!!」

 

 消滅の魔力の嵐に、クルゼレイがなすすべもなく消滅する。

 

 サーゼクスの全力の前に、圧倒的に叩き潰されたんだよなぁ。・・・俺、堕天龍の鎧まで出したのに意味がねえじゃねえか。

 

「・・・まあ、これで幹部の一人は撃退ってわけか。どうするオーフィス、これで三対一だが?」

 

 おれはぼんやりとそれを眺めるドレスを着た少女の姿をした龍に視線を向ける。

 

 無限の龍神、オーフィス。

 

 禍の団の首領、静寂を求めるもの。グレートレッドを滅ぼすために、多くの連中の力を借りようとするもの。

 

 ・・・まあちょっとぐらいは気持ちはわかるんだが、こいつの目的は間違いなく俺たちにとって害となる。

 

 今のオーフィスは変質している。そんな状態のこいつをあの場所にとどめるようになったら、一体どんな影響が世界に出るかわかったもんじゃない。

 

 ・・・正直この状態でも苦戦は必須だろうが、しかしとっ捕まえることができるなら、やるべき相手だ。

 

「サーゼクスが真の姿見せたら、我、さすがに手こずる」

 

 どうやら少しだけ本気モードになったらしいオーフィスが、サーゼクスに視線を向ける。

 

「その力、グレートレッドを倒すために振るってほしい。そうすれば、この場は下がらせる」

 

「あいにくそういうわけには行かない。今の我々にとって、グレートレッドがあの世界にいることは必要なのだ」

 

 全力で警戒しながらも、サーゼクスははっきりと言い切った。

 

 悪いなオーフィス。今のお前をあの世界においておくなんて判断は、各勢力のトップじゃ考えるわけにはいかないんだよ。

 

「逆に聞くぞ。禍の団を解散させて静かにすることはできんのか? そうしないのであれば、こちらも全力をもってお前を滅するしかないぞ」

 

 タンニーンがそう警告するが、しかしオーフィスは首を横に振った。

 

「それはない。我の居場所はあそこ。諦めるのは無理」

 

 やはり説得は難しいか。

 

 仕方がねえ。ちょっとハードモードだが、ここでこいつをとっつまえて―

 

『ピンポン♪パンポン♪ピンパンポーン! パラケ☆ラススの時間だよー』

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 なんか上から降ってきた。

 

『素敵なー♪ マジカルー♪ 錬金術師だー♪ マジカルリリカルキルゼムオール☆ パラケ☆ラススの参上なん―』

 

「うっせえよ!!」

 

 あ、つい砲撃しちまった。

 

 なんか巨大な人型みたいだったが、なんだいったいマジうぜえ!

 

『あ、こら、パラケ☆ラススの歌はまだ途中だよ!? 最後まで聞いてくれないと怒るよ!?』

 

「怒ってんのはこっちだよ!! 今シリアスなんだから邪魔するなコラ!!」

 

 どうもピンピンしてるらしい。ええい、サーヴァントは化け物か!!

 

「キャスター、無事か?」

 

『はっはっは! このパラケ☆ラススを甘く見ないでくれたまえ! これは遠隔操縦だから僕本体に傷は一つたりとも存在しないよ!(^^)!』

 

 そうか、ここにはいないのか。

 

 ・・・いたら吹っ飛ばしてやったものの・・・っ!

 

「落ち着けアザゼル。明らかに敵の思うツボだぞ」

 

 タンニーンになだめられるが、しかしむかつくことに変わりはない。

 

 ああ、ほんと吹っ飛ばしてぇなオイ!!

 

『まあそれはともかく、首領がぽんぽん戦場に出てくるのはお勧めしないよ? ここはこのパラケ☆ラススの新作兵器に任せて、さっさと用事を果たして来ちゃいなさい♪』

 

「わかった」

 

 キャスターにそう促され、オーフィスは踵を返してそのまま飛び去っていく。

 

 逃がすわけにも行かないので追いかけようとするが、そこを巨大な人型が遮った。

 

 全長二十メートルは超える巨体。赤青黄で塗られた派手な機体・・・って

 

「スーパーロボット!?」

 

『YES☆なのさ♪ これぞ、僕が異世界の技術まで合わせて開発した特製品、錬金魔人☆アルフォンスン!!』

 

 明らかに子供向けテレビ番組のノリでポーズをする巨体は、その両腕をこっちに向ける。

 

『さあ足止めさ☆ 飛翔鉄拳☆ブットブゼーアームッ!!』

 

 肘のあたりから煙が噴き出て・・・って

 

「ロケットパンチだとぉおおおおおお!?」

 

『ファイヤ☆』

 

 オイちょっと待てふざけんな!

 

 なんだそのロマン兵器! 俺が先に実用化したかったぞオイ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 




キャスター大暴れルート。

禍の団の魔法の言葉は、「キャスターが作った」です。実に便利なキャラクターを作ったもだと自分でも思っております。


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三手敵カウンター、命中

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉわあああああああああ!?」

 

 俺は禁手の発動時間がくるまでの間、ものすごい勢いで逃げ回っていた。

 

 何からって?

 

 ・・・ミサイルだよ!?

 

「ちょちょちょちょちょっと待てぇえええええ!!」

 

「待たんなこれが! 死ねやぁああああ!!」

 

 高笑いするフィフスの声を聞くように、エドワードンとかいうのからミサイルが発射されてこっちに向かってやってくる。

 

 っていうか、さっきからこいつ、俺しか狙ってねえ!?

 

「イッセーくん!? 下がってください!!」

 

 朱乃さんの雷光が放たれ、ミサイルがすべて空中で撃破される。

 

 だがその爆風が俺を吹っ飛ばした。

 

 宙に舞うこの感触はあれだ。夏休みにタンニーンのおっさんとの訓練で吹っ飛ばされたのと同じ感覚だ。

 

 うわぁ、この状態って体勢整えられないんだよなぁ。この状態を襲われたら本当に。

 

「もらったくたばれ!!」

 

 ってフィフスがこっち来たぁ!?

 

 その手には槍が握られており、完璧に刺し貫く気満々だよ!?

 

 死ぬかと思ったそんな俺の目の前に、黒いものが横ぎった。

 

「兵藤つかまれ!!」

 

「助かったぜ匙!!」

 

 匙が出した蛇をつかむ、そのまま匙は由良さんと一緒に引っ張って俺を手繰り寄せる。

 

「っとぉ逃がすかこれが!!」

 

 槍の射程から逃れたと思ったらフィフスは針金の腕に握られたショットガンを一斉に放つ。

 

 それを由良さんの瞬動で一気に交わすと、俺たちはそのまま仲間たちに合流するため走り出した。

 

「さすがにこれはきつい! 会長、増援の到着はあとどれぐらいですか!」

 

「どうやら向こうも足止めを食らっているようです。この調子だと短くても30分ほどかと思われますね」

 

 由良さんの声にこたえる会長の答えは正直やばい。

 

 あいつどれだけ用意してんだよ。

 

「ふはははははは!! 実験のために用意した耐用年数の短い戦力を処分も兼ねて投入したからな。総勢一万の敵を相手にそうやすやすとは合流させないぜこれが!!」

 

 嘲笑うフィフスの隣から、パワードスーツが飛び出して襲い掛かる。

 

 その斧が振り下ろされたが、割って入ったゼノヴィアがデュランダルで弾き飛ばす。

 

 即座にパワードスーツは復帰して切りかかり、すごい速度で切り合いが発生した。

 

「ええいできる! イッセー、早く禁手に!!」

 

「お、おう!! そろそろ行くぜ!!」 

 

 ようやくチャージ時間も終了だ! さあ反撃行くぜ!!

 

「赤龍帝の鎧参上!! さあ反撃だこの野郎!!」

 

 俺は全力を込めてドラゴンショットをぶっ放す。

 

 これで一直線の敵はまとめて吹っ飛ばせるぜ!!

 

 だが、その射線上にウィン・バートリが割って入る

 

「甘いって感じ! 波動!!」

 

 ウィン・バートリが両腕を振るうと、なんというか透明なものがはなたれ、一瞬でドラゴンショットを掻き消した!?

 

 そんなモン喰らうわけにはいかねえ! 慌てて回避しながら、俺は叫ぶ!!

 

「ぶ、部長!? 何やら妙な連中が!?」

 

「面倒ね! 朱乃、まとめて畳みかけるわよ!!」

 

「わかったわ、リアス!!」

 

 部長の消滅の魔力と、朱乃さんの雷光がまとめてバートリに襲い掛かる。

 

 だがバートリはつまらなさそうに笑うと、その手に持っている指輪を光らせた。

 

神器(セイクリッド・ギア)! 変換する炎(チェンジ・フレイム)って感じ!!」

 

 指輪から光が放たれると、その光を浴びた消滅と雷光が一斉に炎へと変換される。

 

 それをまたさっきの攻撃で掻き消しながら、バートリが吠える。

 

「私の波動はありとあらゆる魔法を掻き消すって感じ! 魔法も魔力も効かないって!!」

 

 なんだそのチート能力!?

 

「なら物理的に攻めるのみです。・・・桜花、切り裂きなさい!!」

 

「かしこまりましたー!!」

 

 感卦法状態の桜花さんが、目にもとまらぬ速度で切りかかる。

 

 百メートルぐらい離れていたはずなのに、もうバートリの目の前に!?

 

「斬岩剣!!」

 

「おぉっと甘いぜ!!」

 

 だが、その眼前に装甲版が何枚も現れるとその斬撃に相対する。

 

 装甲版そのものは切り裂けたが、それでかかった一瞬の時間が、バートリが下がるための時間稼ぎになって攻撃を逸らしてしまった。

 

 さらに高速で突撃したフィフスが、その槍を桜花さんに振り下ろす。迎撃のために振られた野太刀とぶつかり合う。

 

「なかなかやるが、勘が取り戻せていない今のお前に俺が倒せるかな?」

 

「ちょっと苦労しそうだけど舐めないでほしいねー。この程度じゃ負けないよー?」

 

 二人の両腕と獲物が見えなくなり、豪雨でも振ってるかのような激突音の群れが連続した!

 

 そして俺も手伝うぜ、ちょっと卑怯だけど後ろから殴りかかろうとする。

 

 が、真上から飛び上がって降下してきたエドワードンがそのでかい脚で蹴りかかってきたせいで思いっきり邪魔された。

 

「くっそ! 邪魔だこの野郎!!」

 

 全力で殴り飛ばすが、この化け物の蹴りも強力で敗れない。

 

 むしろ筋力では向こうが上なのか、力押しで弾き飛ばされる。

 

 さらに両腕みたいなユニットから、砲撃が連続して放たれる。

 

 一発一発がどでかいクレーターを作る攻撃をかわしながら、俺は慌てて距離をとった。

 

 くっそう! 想像以上にこいつできる!

 

 さっきからドラゴンショットもぶつけているけど、全然効いてねえ!!

 

「イッセーくん! くそ、こいつら手ごわい・・・っ!!」

 

「鎧が邪魔で気が通せません・・・っ!」

 

 木場と小猫ちゃんがこっちに来ようとするが、パワードスーツの連中が邪魔をして接近を阻む。

 

 やっべえ、フィフスのやつ本気で俺たちを倒す気だ。

 

 ドラム缶の攻撃も地味にうざいし、この調子だと本当にやばいぞ!?

 

 そのフィフスも、桜花さんとの切り合いをいったん中断して距離をとると、こっちのほうも見て溜息をついた。

 

「やれやれ、情愛の深いグレモリー連中なら、アーシア・アルジェントにディオドラが仕出かしたことを考えればブチギレるのは当然だが、こりゃ確かに面倒くさいな」

 

 ・・・待て、今何を言った?

 

「・・・待ちなさい、フィフス・エリクシル。ディオドラがアーシアに何をしたですって?」

 

 その言い回しが気になったのか、ドラム缶を吹き飛ばしまくっていた部長がフィフスに問いただす。

 

 その様子をみて、フィフスは不思議そうな表情になった・

 

「・・・なんだ? もしかして気づいてなかったのか?」

 

「・・・桜花! 今すぐフィフス・エリクシルを倒しなさい!!」

 

 急に会長が慌て始める。

 

 お、おいおい。いったい何なんだよ。

 

 不思議に思った俺たちだが、それを見てフィフスが突然笑い始める。

 

「・・・あっはははははははははは!! そうか! お前ら知らなかったのか!? それで宮白兵夜は1人気づいて黙って終わらせようってわけかよ! 仲間想いな奴だなぁオイ!」

 

 腹を抱えてフィフスは笑い転げる。

 

 とっさに桜花さんが切りかかるが、フィフスはそれを器用にかわすと、笑いをこらえながらエドワードンに飛び移る。

 

「知らないのも可哀想だし、だったら教えてやるのも情けかもなぁ!? ああ、教えてやるよ!!」

 

 さも憐みの表情を浮かべながら、フィフスは俺たちを見下ろした。

 

「アーシア・アルジェントが教会から追放された件だがな? あれ、ディオドラの仕込みだ」

 

 ・・・なん、だって?

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 これは、レーティングゲームが始まる数日前の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 駒王町にあるパブの一つに、宮白兵夜はアザゼルとソーナを呼び出していた。

 

 呼び出したときにはすでにウイスキーを飲んでいた兵夜は、アザゼルたちを席に座らせて注文を取らせると。一口飲んで喉を濡らしてからこう話を切り出した。

 

「アザゼル。ディオドラの件、裏は取れたか?」

 

「いきなり何を言い出してるんだお前は」

 

 唐突にそんなことを言われたアザゼルはそう返すが、兵夜は軽くため息をつくと呆れた風に首を振った。

 

「禍の団の蛇について知っている奴なら、勘がよければすぐ気づくだろうが」

 

「なるほど確かに。禍の団が使っているオーフィスの蛇の能力と、ディオドラの能力の上昇は類似してますね」

 

 紅茶とアップルパイをたしなみながら、ソーナもそれに同意した。

 

 現実問題、ディオドラ・アスタロトの戦闘能力上昇は明らかに違和感が付きまとう。

 

 とくに禍の団の蛇による強化をある程度確認している兵夜にしてみれば、むしろ繋げて考えるのが当然であった。

 

 それはアザゼルもわかっていたので、降参したように両手を挙げると息を吐いた。

 

「・・・参った参った。ああ、大体想像通りだよ。ディオドラは十中八九黒。グラシャラボラス次期頭首の死にも関わっているとみて間違いない」

 

「タイミングが良すぎるとは思いましたが、やはり彼らが関わってましたか」

 

 その可能性は考慮していたのか、ソーナはむしろ納得している。

 

 ・・・禍の団の現主流派は旧魔王派。ゆえに彼らの目的を最優先に遂行しようとするのが道理であり、そのため最優先のターゲットは現魔王たち悪魔業界なのは自明の理である。

 

 そしてディオドラ・アスタロトとリアス・グレモリーが行う予定のレーティングゲームには、各種業界の重要人物が観戦に訪れる予定となっている。

 

 自分たちの目的を遂行するだけでなく、さらに他の勢力の目的となるターゲットにも強襲を仕掛けるタイミングを、やすやす見逃すだろうか?

 

 答えは否だ。

 

 となればディオドラもある程度関与するだろう。

 

 ゆえに兵夜は動く。それだけの理由がある。

 

「・・・アザゼル。ディオドラの始末は任せてほしい」

 

「却下だ馬鹿が」

 

 そしてアザゼルは素早くそれを切り捨てる

 

「なんで将来あるガキどもをこんなところで余計な危機に巻き込まなきゃならない? ディオドラが動いたら避難できる場所は用意してやるから、お前はリアスたちを連れてそこに避難してろ」

 

「それもありだとは思うがしかしするわけにはいかん。あの腐れ外道にはウチのサーヴァントがお冠なんだ」

 

 そういいながら、兵夜は鞄から紙の束を取り出すと、アザゼルとソーナの二人に差し出す。

 

「ディオドラの眷属と、奴が家に囲っている女たちの詳細データだ」

 

「それがどうしたっていうんだよ・・・ん?」

 

「これは・・・っ」

 

 資料を読み進めていた二人の表情が変わる。

 

 そこに書かれているのはディオドラの女性眷属および、家にかこっている女たちの数々。

 

 別に女性を囲っていることに関しては問題ない。

 

 一夫多妻は冥界では常識の範疇である。自分の眷属を自分の女で固め、ハーレムとしているのもライザーのように普通にいるだろう。さらに人間を誑かして家に囲っている悪魔だって、別に普通にいる。

 

 だが、その構成が問題だった。

 

「どいつもこいつもやれシスターだやれ聖女? ・・・いくらなんでも徹底的じゃねえか?」

 

「信仰心深い少女たちを誑かしすことが趣味ということですか。・・・悪趣味ですね」

 

 信心深いものたちを悪魔の道へと誑かし、己の欲望のはけ口にする。実に悪魔というイメージに相応しい悪辣な在り方である。

 

 悪趣味なその嗜好に二人は眉を顰め、そして兵夜の言いたいことが何かということに行き当たった。

 

 ディオドラ・アスタロトは重症を負って、それをアーシア・アルジェントに治療された。

 

 だが、そもそも癒しの力を持つという規格外の聖女が住む教会となれば相応に重要な地点である。

 

 そんなところに傷が残るほどの重症を負った悪魔が入り込むなど、普通に考えてあり得るのだろうか?

 

 しかも、ディオドラは聖女を誑かすことを趣向としている悪魔である。

 

 治療が必要なほどの重傷を負った悪魔が入り込んだ教会に、悪魔をも治療できる少女がたまたまいる。

 

 いくらなんでも、話がうますぎる。

 

 全ての辻褄が合ったのか、ソーナの額に一筋の汗が流れる。

 

「・・・まさか、意図的に?」

 

「問題はアーシアちゃんが治療したというだけで追放されるのかということですが、ディオドラが何らかの方法でアーシアちゃんの神器に当たりをつけていたとすれば辻褄は合うでしょう、会長?」

 

「確かに、しかしだとすればなぜ堕天使に・・・」

 

 タイミング的に微妙に不自然な展開が一つだけ残されるが、状況証拠はあまりにも揃いすぎている。

 

 そしてその不自然なタイミングも、人生経験豊富な堕天使総督は完璧に読んでいた。

 

「・・・同じく目をつけていて先に取られたか、もしくアーシアがあいつらに神器を抜かれてから助けると決めていたかだな。人助けが原因で不幸のどん底に落とされた聖女が、助けた人の手で救われて・・・だなんて、少女漫画とかでよくありそうな展開じゃねえか?」

 

「「ああ、なるほど」」

 

 アザゼルの推測に、二人は同時に納得していた。

 

 ありきたりだが分かりやすい展開ではある。

 

「まあそういうことだアザゼル。・・・アホな理由でアーチャーを呼び出した身としては、アーチャーの鬱憤は可能な限り晴らす義務がある。・・・勝算はあるから協力してくれや」

 

 そういったさらに出した紙に書かれた内容を見て、二人は思わず表情をこわばらせた。

 

 自分の確保したメリットを最大限に生かしてかき集めた、上級悪魔数名の名簿が書かれていた。

 

 さらにディオドラ眷属に対する仕込みのトラップと、偽・外装の聖剣の強化武装もえげつない。

 

「・・・普通、サーヴァントのほうがリスク背負うもんじゃねえのか? おまえどれだけサーヴァントの安全策考えてんだよ」

 

「それ以前にコレ、了承が下りるんですか?」

 

「だからその辺の協力を二人にはお願いしようかなって。アザゼルはどうせ作戦立案に関わってかるだろうし、会長はほら、セラフォルーさまに頼み事できる立場だから。・・・あと作戦に抜けがないかどうか確認してほしくて」

 

 最後に視線を逸らしながら兵夜の本音に、2人は納得した。

 

 確かに兵夜は何事もそつなくこなしているし、グレモリー眷属では作戦参謀として最も優秀である。

 

 が、いかんせんなぜかどこか抜けていることが多い。実際レーティングゲームも戦力判断に致命的なミスがあったせいであそこまで苦戦したと考えるべきだ。

 

 だとすれば、指揮官として優秀なソーナの判断を仰ぐのは妥当だろう。

 

「・・・はあ、で、アーチャーは今何してんだよ?」

 

「え? この呪詛礼装の開発に全力注いでるぞ? 決定打にならなくてもいいけど確実に効果は発揮してほしいから、とにかく勘づかれずに飲ませれるように隠匿性重視で強化してもらってる」

 

 サーヴァントも非常に本気なようだ。

 

 アザゼルは少しの間思考する。

 

 若手であるリアスたちを、この禍の団の戦闘に巻き込むのは本意ではない。避けられるのなら避ける手段を取るべきだ。

 

 だが、この作戦を成功させるためにはギリギリまでディオドラを泳がせておく必要がある。少なくともレーティングゲームをスタートさせなければ旧魔王派は動かない。その前にディオドラをとっ掴まえれば、間違いなく奴らは逃げ出すだろう。

 

 それに裏切りを知ったリアスたちが黙ってディオドラを見逃すかと言われるとそれも怪しい。正義感の強く誇り高い上級悪魔であるから、己の手で愚か者に制裁を加えたがる可能性は十分にある。

 

 そんな状況下で兵夜を一緒にいる状況下で兵夜が普通に動いたら、果たしてどうなることか。

 

「・・・一応言っておくが、このことリアスたちには?」

 

「言ってる訳ないだろう。アーシアちゃんにこんなことを知られる訳にはいかないし、イッセーやゼノヴィアが知れば、ブチギレたあまり勢い余ってディオドラを殺しかねん。・・・あいつには知っている情報をすべて吐いてもらわないとな」

 

「お前、敵には本当に容赦ないよな」

 

 あくまで実利を基においており、情けで一切動いてない兵夜の姿に、ディオドラに僅かながらに同情してしまう。

 

 とはいえ完全に自業自得なのでフォローするつもりも毛頭ないが。

 

「第一・・・」

 

 そして兵夜は、さらにその表情に酷薄な冷たさを浮かべる。

 

 それは、歴戦のアザゼルですら背筋に冷たいものが走るほどの冷たさだった。

 

「戦闘データ的に、俺が一番、心身ともに完膚なきまで叩きのめせる。勢い余って殺すこともないし、奴に地獄を見せるのは俺が適任だ」

 

 ・・・結局、この後作戦をさらに詰め合わせて、兵夜の作戦そのモノは実行することになった。

 

 帰り際に、ディオドラに対して二人が僅かながらに憐憫の情を抱いたのは、2人が心優しい善人だからということにしておいたほうがいいのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・なん、だって?

 

「そ・・・んな」

 

 アーシアが、力なく崩れ落ちる。

 

 だってそうだろう・・・だってそうだろう!

 

 なんだよそれ!? アーシアは心からあいつのこと心配して助けようとしたんだぞ!?

 

 それが狙いだった!?

 

「ディオドラ・・・っ」

 

 部長も心の底からディオドラに怒りを向け、歯を食いしばる。

 

「聖女やらシスターやら堕としまくったディオドラにとっても、かなり手の込んだ作戦だったようだぜ? レイナーレの奴も物語に必要な愚かな悪役として利用してたみたいだし、まあ本当に哀れだなこれが」

 

 全然全くこれっぽっちも同情してない表情で、フィフスが俺たちを見下ろす。

 

「まあ恨むならシャルバ・ベルゼブブも恨むんだな。ディオドラにアーシア・アルジェントの能力を教えたのはあの男だ。いやぁ、新旧魔王ベルゼブブ血族なだけあって繋がりがあったみたいだな」

 

 旧魔王派幹部か。テロまで起こしただけでも許せないってのに、さらにアーシアになんてことを!

 

「ってわけでタイミングいいし出てきたらどうだ? シャルバ?」

 

 フィフスが唐突に後ろに呼びかけ、そして一人の男が姿を現す。

 

 見るからに偉そうな男が、見るからに傲慢そうな表情でこちらを見下ろしていた。

 

「一応名乗っておこう、薄汚い偽りの魔王の血族よ。我が名は真なる魔王の後継者、シャルバ・ベルゼブブだ」

 

 敵の幹部のご登場ってわけか! やってくれるじゃねえか!

 

「偽りの魔王の血族はみなすべからく滅ぶべし。まずは貴様たち二人からだ。死んでくれ、速やかに死んでくれ」

 

 そして殺す気満々か!

 

「卑怯ね、直接魔王さまに手を出さず、先に私たちから狙うだなんて」

 

「正攻法から勝ち目がない以上、先に関係者を殺して精神的に攻めるのは合理的でしょう。あまり馬鹿にしてはいけませんよ、リアス」

 

 マジギレ状態でにらむ部長と、冷静に嫌味を返す会長だったが、その顔には冷や汗が流れている。

 

 た、たしかレヴィアタンのほうはアザゼル先生が奥の手使う必要になるほど苦戦したんだよな?

 

 それがこの状況で参戦って・・・やばい!?

 

「一応言っとくが増援はまだ足止め中だこれが。・・・終わりだな、オイ」

 

 勝ちを確信したのか、フィフスが嘲笑いながら槍を突きつける。

 

 くっそ・・・こんなところで!!

 

 しかも見れば、シャルバの後ろの空間からどんどん魔方陣が展開されている。

 

 なんかちっこいのが集まってるみたいだけどアレなんだ?

 

「では、これで終わり―ッ!?」

 

 突然、シャルバが魔法陣をすべて別の方向に向けて砲撃を放つ。

 

 あまりにもぶっといビームが大量に発射され、しかしそれは同じぐらいの数と威力のビームとぶつかって大爆発を起こした。

 

「・・・増援だと!? いったいどこから!?」

 

 シャルバが吠える中、そいつは現れた。

 

 ・・・青い装甲に身を包んだ、ブレードで出来たような全身鎧。

 

 それはロボットアニメの主人公機みたいなカッコよさの、俺の親友の専用武装。

 

 しかもそいつは、今までにない武装に乗っかっていた。

 

 鎧とワイヤーのようなものでつながっているその武装は、まるで機械仕掛けのエイのような、空を飛ぶ武装だった。

 

偽・外装の聖剣(フェイク・エクスカリバー・パワードスーツ)!?」

 

「兵夜くんー!!」

 

 フィフスが驚き、桜花さんが歓喜する。

 

 俺だって嬉しいよほんと!

 

 この野郎! どこまでもおいしいタイミングで出てきやがって!!

 

「・・・人が知られないように一生懸命隠していたことをあっさりバラし、俺の仲間と女と親友に手を出すとはいい度胸だなお前ら」

 

 本気で怒りを表しながら、宮白がシャルバとフィフスを見下ろしている。

 

 鎧越しでもわかる鋭い視線が、2人を射抜いていた。

 

「・・・アサシンを呼べ。さあ、聖杯戦争を始めよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 



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四手 敵JOLTブロー、直撃

ディオドラ処刑タイム。スタート。


 

 連続で高出力の魔力のビームが放出されるが、しかし警戒心を生み出すほどではない。

 

 殺気が見え見えな上に、発射タイミングがすぐにわかるので回避するのが非常に容易だ。これなら警戒するまでもない。

 

 素早くかわしておとりの幻影を生むなりしてから、透明で接近してボディブロー

 

「ぐえ!?」

 

 先に幻影を突進させて、とっさの行動をしている最中に横から光魔力を砲撃。

 

「ぐは!?」

 

 天閃の速度を最大限に発揮してから、祝福を発動させてサブミッションを叩き込んで聖なるオーラで焼き尽くしつつ間接を極める。

 

「があああああああ!?」

 

 苦し紛れに魔力を込めた腕が振るわれるが、それをかわして、

 

 右ジャブ三回

 

「ば! ぶ!? べ!?」

 

 左正拳突き。

 

「ぐほっ!」

 

 右張り手。

 

「ふばっ!」

 

 ローキックを脛に。

 

「ぎゃぁ!?」

 

 ネリチャギ。

 

 シャイニングウィザード。

 

 さらにカウロイを連続で。

 

「グゲ!? んが!? がぼぼぼぼっ!!」

 

 さらに頭部を足でつかんで、フランケンシュタイナーで壁にたたきつける。

 

「あっばっはぁああああああ!?」

 

 ・・・弱い。単純な力技に持ち込まれなければこの程度か。

 

 古来より武術が戦場で生まれたのも納得できる。

 

 圧倒的な力は確かに技を寄せ付けないが、しかし力の差が大きくなければ技に長けたもののほうが勝利をつかむ。

 

 筋力の強化は時間をかければいいというものではない。それゆえに強化できるスピードにはある程度の限界が存在する。

 

 ならば技を習得することでその限界に別アプローチを試みるのは当然だな。アザゼルがパワータイプにとってカウンター主体のテクニックタイプが天敵だというのもわかるというものだ。

 

「ば、馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁあああああ!?」

 

 あまりにも信じられないようで、ディオドラは全身から血を流しながら地面を何度も悔しそうに叩く。

 

「情愛の深いグレモリーの連中がこんなに強いなんてありえない! 僕は高貴にして高位のアスタロトだぞ!? 魔王ベルゼブブの血族だぞ!?」

 

「血縁的なものが才能にかかわるというのはわからなくもないが、それを磨かなければ意味がないだろう。十で神童十五で才子二十過ぎれば只の人って言葉を知らんのか」

 

 これだから、才能を伸ばす努力を一切しない馬鹿なボンボンはだめなんだ。

 

 もし上級悪魔が皆努力と修練を積むことをいとわなければ、転生悪魔による上級悪魔社会の参入はもっと遅れていただろう。

 

 自業自得で身から出た錆。そんなやつが蛇を使ったところで、できることにはたかが知れてるということだ。

 

 だがその意味を理解しようとも思ってないようで、ディオドラは目を血走らせながらこっちをにらみ、魔力で円錐上の物体を作り出す。

 

「下賤で下劣な転生悪魔の分際で、ほざくなぁああああああ!!」

 

 円錐が高速で飛来する。

 

 それらは回避行動をとらなかった俺の鎧にピンポイントで当たる。

 

 狙いは装甲の継ぎ目や薄い個所。そこに収束させて貫通することで、一発逆転を狙う腹か。

 

「赤龍帝の鎧なら、効果はあっただろうな」

 

 だが効かない。

 

 それに向こうも気づいたのだろう。その表情が絶望一色に染まる。

 

「な・・・な・・・なんで!?」

 

「こいつに擬態と祝福の力があるのを忘れたか? 直撃する瞬間にオーラと装甲厚を変化させれば、この程度の対策は簡単に取れる」

 

 ディオドラの戦闘をみて、こいつは魔力の精密コントロールに長けるということは気づいていた。

 

 ならばイッセーに対する最終手段として、この戦法は当然予測できる。

 

 だからこそ俺が出張ったんだ。

 

 少しでも確実に絶望を与えるためには、こいつに一矢報いるという奇跡すら与えてはならない。

 

 すべての手段を封殺して、絶対に勝てないという絶望で心をへし折る。

 

 そしてしかし生かしてとらえ、しかし生涯後遺症が残るような重症を負わせなければならない。

 

 だから俺が適任なんだ。イッセーやゼノヴィアじゃあ勢い余って殺しちまうか、微妙なダメージで終わらせかねない。

 

「・・・安心しろ。アーシアちゃんが眷属なおかげで助かってるのはこっちだ。そういう意味では恩義があるから殺しはしない」

 

 ただし―

 

「・・・死ぬほど地獄を見てもらうし、五体不満足になってもらうがな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だというのに、アーチャーからの連絡でそれどころではなくなってしまったではないか。

 

「お前らが想像以上に戦力投入するから、こっちも急いで救援に行かなきゃいけなかったんだぞ? ・・・まだ歯ぁ全部引っこ抜いて、目につくものすべてがクリーチャーにしか見えないように洗脳して、リアルタイムでホモ系エロビデオの映像が目に映るようにしただけだってのに。この後礼装の応用による感覚共有で知り合いの重度のホモマゾ(pi-)マニアの感覚と視界も加えようとしていたところで邪魔しやがってからに」

 

「・・・お前敵に対して悪逆非道すぎやしねえか? 確か日本は犯罪者にも人権与えてるはずだが」

 

 フィフスがドンびいているが、しかしそれぐらいはしておく必要があるだろう。

 

 それと、俺は犯罪者の人権が被害者の人権より上回っていいとは思ってはいない。それに食生活に関してはそれなりに譲歩するつもりだぞ? その分魔力も搾り取るが。

 

 二度と反抗しようなんて考えるどころか、ただ恐怖に震えることしかできないようにするぐらいじゃないとだめだろう。それぐらいはしても罰は当たるまい。少なくとも全部許可は取っている。

 

「イッセー、久遠、無事だな? 間に合ったようでよかった」

 

「宮白遅ぇよ! っつーか怖いなお前!?」

 

「よっしゃー! 兵夜くんから名指しで心配されたー!」

 

 とりあえずこの二人は無事か。

 

 それに、見る限りほかのメンバーも無事なようだ。

 

 ・・・さて、なら俺のやることは決まっている。

 

「・・・部長、指示を」

 

「ええ、わかり切っているわ、兵夜」

 

 あえて部長の前に降り立ち、そして主の命を待つ。

 

 一応彼女の下僕なんだし、こういう時こそいうこと聞かないとな。

 

「・・・レーティングゲームを汚した愚か者たちを、叩き潰してあげなさい!!」

 

「イエスマイロード!!」

 

 俺は突進してシャルバへと殴りかかる。

 

 聖なるオーラを充填させ、さらに光魔力も込めた全力の一撃を、しかしシャルバは片手でとめる。

 

「舐めるな下民!! ディオドラごときと一緒にするな!!」

 

 さすがに旧魔王血族がドーピングすると格が違うか! コカビエルより少し上ってところか?

 

 さらに、真後ろからフィフスが槍をもって回り込む。

 

「サーヴァントを呼び出すのはお前が先だろうこれが! お前程度がサーヴァントの力抜きで何ができる!!」

 

 ほう、言ってくれるな。

 

 だが甘い。

 

「呼び出すまでもない。・・・アーチャー!!」

 

『ええ、躱しなさい、マスター』

 

 天閃を全力で発動させて横に飛ぶと同時、シャルバとフィフスに極太の魔力砲撃が襲い掛かる。

 

 二人は素早く防御したが、しかしダメージをゼロにできるわけもなくダメージが入っている。

 

 っていうか、フィフスの奴は何気にシャルバを楯にしてやがるな。ちゃっかりしてるというかなんというか。

 

「なんだと!?」

 

「おいおい最上級悪魔クラスの砲撃だぞ!? どこからぶっ放した!?」

 

 あわててあたりを見渡す二人の視界に、その要因が映っただろう。

 

 ・・・空を舞う飛行物体が、砲撃をぶっ放していることに。

 

「ま、ま、まさか―」

 

「そう、そのまさかさ!!」

 

 俺はそれに飛び乗り、素早く偽聖剣を変化させて接続させながら感づいたフィフスに勝ち誇る。

 

「詐欺同然の呼び出しをしたアーチャーに余計なリスクを背負わせるわけないだろう? こいつは俺とアーチャーのつながりを利用して、遠隔地からアーチャーの魔術を行使する戦闘支援装置、トゥムファーアイン!!」

 

 近接戦闘に持ち込まれた時の備えも当然用意していたが、そもそもそんな危険な状況下に持ち込まれないようにすることが一番なのは当然だ。つーか王女を戦場に引っぱり出すとか明らかに悪趣味だろう。

 

 だから当然考えたさ。アーチャーを安全地帯に置いたまま、アーチャーの戦闘能力を発揮させる装備の一つぐらいは!!

 

「発想がすさまじいというかなんというか。サーヴァントの力を借りながらサーヴァントを安全圏に置くという発想がまた恐ろしいなこれが」

 

「下らん。己の使い魔風情の安全に気を使ってリスクを負うなど、これだから下賤な者は駄目なのだ」

 

 呆れるフィフスと、蔑むシャルバだが、しかしこいつら状況わかってるのかね?

 

「後方注意だ馬鹿ども」

 

「ドラゴンショットー!!」

 

「京都神鳴流、斬空閃乱れ切りー!!」

 

 俺が指摘すると同時に、イッセーと久遠が後ろから集中攻撃を叩き込む。

 

 しかしそれは、なんか機械で出来た鳥みたいな恐竜みたいな化け物が楯に入り受け止めた。

 

「・・・甘く見てもらっちゃぁ困るなぁこれが。俺たちだって勝ちに来てるんだぜっとぉ!!」

 

 そしてフィフスは両足に力を込めて飛び上がる。

 

 ―イッセーたちより後方、部長たちの方向に!?

 

「グレモリーは片づけとくぜ!? お前も魔王名乗るならこの程度一人で何とかして見せな!!」

 

「言われるまでもない。ハーフ堕天使の力など借りずとも、この程度片づけて見せよう」

 

 あの野郎! 先に数を減らしてから畳みかける腹か!

 

 確かに数を減らすのは集団戦の基本戦術。理に適ってやがる!

 

「チィッ! 久遠! 追いかけろ!!」

 

「会長ーっ!」

 

 瞬時に駈け出す久遠だが、その眼前に魔力で出来た壁が立ちふさがって俺たちの進行を食止める。

 

 見ればハエのようなものが数えきれないほど飛んでいて、魔力の壁を生み出していた。

 

「行かせるわけがなかろう? 真なる魔王の機嫌を損ねたのだ。大人しく首を刎ねられるがいい」

 

 シャルバが嘲笑いながら両腕に魔力を込める。

 

 チッ! こりゃ先に片づけないとだめか。

 

「イッセー! あと何分持つ!?」

 

「あ、あと20分ぐらいだ!」

 

 ・・・十分! それで終わらせる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 面倒な敵が突撃してきたか。

 

 フィフス・エリクシルがこちらに向かって先行してくる。

 

 偽聖剣をまとった宮白くん、禁手状態のイッセーくん、そして感卦法状態の桜花さん。

 

 寄りにもよって僕らの中でも一騎当千の実力者を、シャルバによって足止めさせている状況下だ。

 

 これは、まずいか!

 

 僕らが戦慄する中、しかし生徒会に動揺の色は見られなかった。

 

「皆さんは雑兵とリット・バートリの相手に集中してください。フィフスはどうにでもなります」

 

 会長が一歩前に出て、フィフスと相対する。

 

 いや、いくらなんでもそんな・・・。

 

「おいおい。アンタ、自分がサイラオーグ・バアルと同等のつもりかよ?」

 

「いいえ? 彼と同等の戦闘能力があるなどとおごり高ぶるつもりはありませんし、私であなたの相手をするのは無理があるということもわかっています」

 

 会長はパクティオーカードを取り出しながら、不敵に笑う。

 

「・・・なら、戦える相手を呼んで相手をしてもらうのが合理的です」

 

 ・・・え?

 

「召喚!!! 桜花久遠!!」

 

「よっしゃ復習してて正解だったー」

 

 虚空からいきなり桜花さんが現れた!?

 

「な、なにぃいいいいい!? 召喚魔法だと!?」

 

「いやぁ、実は仮契約は契約相手を呼び出すという機能がついてましてー」

 

「反則だぁああああああああっ!!!」

 

 まさかこのタイミングで割って入るとは思っていなかったのか、フィフスはあわてながら桜花さんの攻撃を捌く。

 

 と、とりあえずこれでフィフスの方は注意を向けなくても何とかなりそうだ。

 

 だかそれでも・・・っ

 

「くっ!」

 

 パワードスーツの兵士たちが、巨大な斧を軽々と振り回して連続して切りかかる。

 

 単純に筋力が増強されているというだけでない、これはこの状態での高速戦闘に慣れていなければ不可能だ。

 

 パワードスーツ自体にスラスターが内蔵されているのか、三次元的な高速移動を行って攪乱してくる。

 

 リョウメンスクナで機動力を高めているにもかかわらず、同時に三人相手するのが精いっぱいだ。

 

 幸い、近接戦闘に限定しているせいで向こうも四人も五人も投入することができないせいで何とかなっているが、しかし敵は彼らだけではない。

 

 油断していれば例のドラム缶もどきの砲撃が叩き込まれるし、さらにエドワードンとかいう大型兵器が大火力で敵味方問わず薙ぎ払おうとする。

 

 廃棄予定の兵器を使用するのであるならば、どうせ捨てる以上残しておく必要はない。合理的な判断ゆえに苦戦を強いられていた。

 

 戦場も戦場だ。隠れるところがない開けた地形で戦闘しているがゆえに、数を最大限に生かされている。

 

 さらに―

 

「あっはははははって感じ! ほらほらどうしたって感じ?」

 

 巫山戯た物言いのリット・バートリが放つ攻撃が部長や朱乃さんたちウィザードタイプの攻撃を掻き消し、援護攻撃が一切発動できない!

 

 この場にイッセーくんがいれば、乳語翻訳で相手の行動を読むことである程度対処できただろうが、今のイッセーくんはシャルバの相手で精一杯だ。

 

 このままだと・・・不味い!!

 

「ゲリラ戦的に一人ずつ片づけるつもりだったが、これなら俺が来なくても何とか出来たかもなこれが!!」

 

「その時は真っ先に三人がかりで倒すだけだったけどねー!」

 

 桜花さんと切り合いながらのフィフスの嘲笑が響く。

 

 実際桜花さんと今の段階でも互角に切り結んでいるフィフスの戦闘能力は驚異的だ。むしろ僅かながらに押しているといってもいい。

 

 桜花さんの場合は、単純な戦闘技術が僕ら全員の中でも最上位に位置し、そこに感卦法という能力強化を重ねがけることで圧倒的な戦闘能力を発揮している。それゆえに技量とスペックの二つで圧倒的であり、総合的に見ても味方側で最も強いといっていいだろう。

 

 だが、レーティングゲームで本人が認めたように感卦法は制御が難しいはずだ。

 

 長時間の戦闘には向いていない。この調子ではフィフスのほうが有利か!

 

 最強戦力を釘づけにするフィフスと、魔力攻撃を片っ端から無効化するバートリ。

 

 あの二人のせいでこちらの戦闘が大きく不利になっている。

 

「・・・抑え込みました! 今です!!」

 

 そしてその戦闘の中、子猫ちゃんが機械兵器の脚に食いついて動きを止める。

 

 たとえ仙術が使えなかろうと、子猫ちゃんの戦車としての怪力は驚異的だ。一時的に動きを止めるぐらいなら問題ない。

 

「今よ! 集中砲火!!」

 

 部長の声で、全方位から魔力攻撃が叩き込まれる。

 

 だが、バートリの指輪が輝くと同時に炎へと変化し、そして波動で掻き消される。

 

 だが、そこにソーナ会長の指示が響く。

 

「そこは読んでいます! 由良、匙!!」

 

「「了解!」」

 

 飛び上がった由良さんが、神珍鉄自在棍でその頭部をたたきつけ、その衝撃で開いた口の、ビーム砲の発射口に匙くんのラインがたたきつけられる。

 

 そしてラインはもう一つのび、敵の体へとくっついた。

 

「この状態で砲撃すれば、ラインを流れて敵自身にもダメージが入ります。これでビーム攻撃は封じました!」

 

 敵の最大火力を封じるのが目的か!

 

 機動兵器はその怪力で全員を弾き飛ばすが、しかしラインは消えずそのまま残る。

 

 これで砲撃は迂闊に使えない! 少しは楽になるか!

 

「ちっ! やはり戦闘の基本は頭を抑えることか!!」

 

 その様子をみたフィフスが、素早く距離をとると桜花さんを無視して会長に迫る。

 

 桜花さんはそれを追いかけようとするが、しかしパワードスーツ部隊が組み付いてそれを止める。

 

「あ、ちょっ!? 会長ー!?」

 

 桜花さんが焦り、そして僕も走るが間に合いそうにない。

 

「大将首もらったぁ!!」

 

 高速で突き出されるガ・ボルグ。

 

 確実に会長を貫くであろうそれはしかし、割って入った剣に受け止められる。

 

「・・・会長に手出しはさせない!!」

 

 幅広の日本刀を構えた巡さんが、かろうじて割って入っていた。

 

 あの距離では間に合わないはずだが、彼女も瞬動を会得していたのか!

 

 絶好の機会を逃し、しかしフィフスは面倒そうにはしていても悔しがってはいなかった。

 

「ちっ! だがお前の技量で俺には勝てな―」

 

「なら私が力で凌駕しよう」

 

 素早く切り返そうとしたフィフスは、その攻撃をとっさに防ぐも勢いを殺せず弾き飛ばされる。

 

 続けて駆け付けたゼノヴィアが、フィフスをデュランダルで弾き飛ばしていた。

 

「最近になって理解した。私は力を振るうことは得意でも、力を制御することには向いていない」

 

 フィフスと対峙しながら、ゼノヴィアはデュランダルの力を解放させる。

 

「だからこう考え直すことにしたんだ。・・・とにかく高めることに全力を尽くし、リアス・グレモリー最良の剣ではなく最大の剣となろう、とな」

 

 放たれたオーラは刀身となり、すでにその高さは敵の兵器の全長すら凌駕するほどになっている。

 

 それを見たフィフスは、目を大きく見開いて驚いていた。

 

「え・・・ちょ・・・ま、待て―」

 

「―叩き切る!!」

 

 全力を込めて振り下ろされたデュランダルは、強烈なオーラの奔流となって一気に周囲を薙ぎ払った!

 

 ・・・切り裂いた先が見えなくなっている。まさかこれほどまでの破壊力を発揮するとは思わなかった。

 

 だが、フィフスはそれをかろうじて回避していた。

 

「危ないなこれが!? グレモリー眷属はどいつもこいつも放っておけない危険人物の群れだから困る!!」

 

 オーラに少し焼かれながらも、しかし無事な姿を見せるフィフスはそう毒づく。

 

 だが、これなら勝算は十分にある。この調子でいけば増援がくるまで何とか持ちこたえることができるはずだ。

 

 だが、フィフスは舌打ちすると、懐から通信機らしきものを取り出した。

 

「だったら叩き潰すだけだ・・・パンツァーフォー、フォイヤ!!」

 

 そういうと同時に、素早く後方に下がる。

 

 何をする気だ? そう思った瞬間、それに桜花さんが真っ先に気づいた。

 

「・・・会長ー!? 3時の方こ―」

 

 明らかに焦っている桜花さんの声にとっさに飛びのいて、しかしそれは完全には間に合わなかった。

 

 閃光が、僕たちを包む―

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




とりあえずディオドラは徹底的にぼこりました。

ぶっちゃけ偽聖剣の性能は基本スペックでは赤龍帝の鎧に劣りますが、要所要所ではまだ追い抜けるレベルなうえ、特殊能力が上なのでテクニックタイプが使うならこちらのほうが高性能というチート武装。基本聖剣なので対悪魔戦ではアスカロンが左腕限定のイッセーより使い勝手がいいです。

ぶっちゃけ呪詛をかけて悪魔爆弾にするという案もありましたが、さすがに体制側でそれはマズイと没にしました。・・・体制側じゃなければ兵夜はやっていたとか言わない。マジそうだけど言わない。


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五手 観客乱入

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 観戦室の一つ、冥界の若手が観戦するフィールドでは、戦闘はすでに終局に向かっていた。

 

 もともと最重要ターゲットではないこともあってか戦力はそこまで多くなく、しかしその戦力はありえないほどに強大だった。

 

 若手眷属の中でも優秀なものたちが多いだけでなく、ピンポイントでの襲撃を避けるためにアザゼルは自分が個人的に使える戦力を周囲に配備していたことで数は大きく減少。さらにアーチャー自身もこちらに待機していたことから、観戦していたものに敵意を持つものだけに効果を発揮する呪詛を展開することで有利に展開する。そのうえで、中にいた戦力にも破格の化け物がそろっていた。

 

 その猛攻の前に襲撃者たちは軒並み返り討ちにされる。

 

 最後に残った鋼の巨人が、莫大な出力をもつエネルギーフィールドを展開して突進していた。

 

 キャスターのサーヴァントが、自身の錬金術と学園都市の技術力を組み合わせて開発した自立戦闘兵器、アルフォンスン。

 

 魔王たちすら足止めできる兵器の一機が放つ特攻攻撃、粉砕激突ブチコワスーアタックなどと名付けられたこのふざけた兵器は、ふざけた名前に反して上級悪魔ですら突破困難な頑丈さをもってしての体当たりであり、それゆえに高い攻撃力を発揮する。

 

 しかし、それだけの攻撃も化け物じみた二人の拳の前には見劣りするものだった。

 

「実質合わせてください!!」

 

「承知した!!」

 

 かたや異世界の超能力、それも計測限界にまで達するほどの念動力をもち、さらに光力すら身にまとうことで最上級堕天使コカビエルと勝負することもできるフリーランスのエージェント。ベル・アームストロング。

 

 かたや、生まれついてもたなかった魔力の代わりを(おの)が肉体に求め、その努力のみで若手悪魔でも最強とまで言わしめるほどの戦闘能力を手に入れた次期大王。サイラオーグ・バアル。

 

 その剛腕から放たれる破壊力の前には、たかが上級悪魔程度で突破困難な程度の障壁など、もろいと言わざるを得ない。

 

 その戦闘経験により初共闘でありながらタイミングのあった同時攻撃に、障壁は難なく崩れ去り、その装甲を砕く。

 

 そこにアザゼル直属エージェントの一人として護衛を担当していた青野小雪の銃撃が叩き込まれ、巨人は活動を停止する。

 

 データ解析防止のためか、機能を停止した巨人は塵へと変わる。その最後は憐みすらさそうが、しかし彼らは同情しなかった。

 

「・・・実質打ち止めのようですね。お手を煩わせて申し訳ありません、サイラオーグ・バアル」

 

「いや、おかげでだいぶ助かった。礼を言う」

 

 拳で戦うもの同士感じ合う何かによって通じ合う二人を尻目に、青野小雪は素早く観戦モニターに飛びつく。

 

 彼女はこの程度の戦いで混乱するほど未熟な戦力ではない。しかしどうしても気になることがあった。

 

「それより兵夜と朱乃は大丈夫か!? オイ、画面操作してすぐにあいつらの居場所を探し出せ!!」

 

「は、はい! 少々お待ちを!!」

 

 あわてた映像担当がすぐに操作し、画面が連続して移り変わる。

 

 各所で戦闘している風景が映し出される中、そして目当ての映像はすぐに出てきた。

 

 だが、その光景は非常に危険だった

 

「・・・朱乃!?」

 

 悲鳴じみた声を挙げてしまうのを、小雪は抑えられなかった。

 

 画面に映し出される光景で、最も大きな色は赤とオレンジ。

 

 それは血の色でこそないが、しかし凶悪な光景であることに変わりはない。

 

 何らかの攻撃によって溶解された地面。それが暖色で彩られた光景の正体だった。

 

 幸い飛行能力をもつ悪魔たちは皆飛ぶことでそれを避けてはいるが、しかしこれだけの破壊力を発揮するものがいるということは非常に危険である。

 

 単純な破壊力だけならば、現時点での赤龍帝すら超えかねない。

 

 それだけの大出力の攻撃が、散発的にとはいえ複数回放たれているというのも重要な危機を現している。

 

 それを成し遂げているのは、彼らから遠く離れた存在であった。

 

 その姿は、まるで砲台を抱え込んだ二足歩行の化け物。

 

 胴体下部に搭載された巨大な臼砲を思わせる球場の物体からは、白い輝きが漏れ出し、そして放出されている。

 

 そして、それを指揮するフィフスが大きく高笑いをしていた。

 

『あーっははははははっ!! うちの技術開発担当が開発した新兵器の味はどうだい!? 上級悪魔もビックリな火力だろ!? 赤龍帝とだって打ち合える化け物が、量産も可能だなんて絶望もんだよなこれが!!』

 

 圧倒的な火力という優位点を手に入れたことにより、フィフスは勝利を確信しているのか勝者の余裕を見せつけていた。

 

 そして、それだけの破壊力を示している化け物の姿を、小雪はよく知っていた。

 

「ファイブ・・・オーバー・・・だと?」

 

 それは、彼女が彼女でないときの世界の異物。

 

 万を超える特殊能力者の頂点、それも破壊力においてはトップクラスの化け物の力を、純粋な工学技術でしのぐために作られた究極の兵器の一つ。

 

 最大火力という一点を追究し、その破壊力は一点収束という意味なら核をこえ、放射能汚染もないクリーンな兵器。

 

 超能力を超える物(ファイブオーバー)。その固有名はマウンテンイレイザー。

 

 その名の通り山をも消しかねない一撃を放つ、破壊力に特化した砲撃兵器が、寄りにもよって量産されて待機されていた。

 

「サイズがでかすぎて整備方面から生産停止されたファックな化け物が、なんでこの世界で量産されてんだよ!?」

 

 思わず叫ぶ小雪だが、しかしその答えは大体わかっていた。

 

 いるのだ、この世界に。

 

 あの人を人とも思わない、人間性を失った科学の申し子たちが。

 

 詳細なデータの記録媒体もない状況下で、己の記憶と知識を頼りに、それを再現できるだけの、科学という現象における究極を現す絶対悪が。

 

「いるのか、・・・木原が!?」

 

 それは非常にマズイ。

 

 なぜなら彼らは学園都市の技術の申し子である。

 

 特別な才を持たざる者に与えるもの。天井に住まう神々の領域へと人を押し上げるための力。

 

 自分たち能力を使うものではなく、能力を生み出すもの。

 

 ファイブオーバーに連なる驚異的な技術力の結晶は、技術であるがゆえに数をそろえやすく、そして人道を無視する特性ゆえに、どのような人間にもある程度の力を与えてしまう。

 

 個人の資質に頼るところが多い現状の異形業界において、間違いなく天敵となりうる。

 

 もし、もしもだ、この世界で彼らが己の研究のためにその技術力を研究しようとしていたらどうなる?

 

 あの人道を無視する連中のために、協力してくれる組織が果たしてどれだけいるだろうか?

 

 神々の領域に届く可能性があると知れば、目的のために二万のクローンを殺させるためだけに作る連中。研究データのためならば、自分ごと数百万の人間を吹き飛ばさせかねない狂人。そもそも意図的に脳障害を発生させるといって過言でない、冷静に考えれば狂気以外の何物でもない方法を、ろくに内容も知らない子供に仕込む異常者。

 

 決まっている。そんなものを最も重宝してくれる組織など、狂人の群れだ。

 

 そして禍の団は、ある意味でその条件に見事に適合するだろう。

 

「・・・ファックッ」

 

 だがそれは上に後で報告するべきことだ。

 

 今はとにかく増援を呼ばなければならない。このまま放っておくわけにはいかない。

 

 だが、どうすればいい?

 

 レーティングゲームの空間は、特殊な結界によって侵入阻害されている。

 

 桁違いの実力者ですら侵入困難な代物を、果たして突破できる人材が今から間に合うか。

 

「朱乃・・・兵夜・・・っ」

 

 この状況下で見ているしかできない自分がもどかしい。

 

 こんなことなら、わがままを言ってでも自分があの場にいればよかった。それならまだ救援することはできたのだ。

 

「あれは電子操作能力だから、雷をフルに使える朱乃ならある程度の干渉ができるはずなのに!? ファック! あたしがあそこにいればこんなことには!?」

 

 完全に判断を間違えた。

 

 想定してしかるべきだったのだ。

 

 転生するのが異能力者だけとは限らない。何事にだって例外がある以上、天文学的な確立だとしてもその可能性を考慮しないのは間違っていた。

 

 その油断のツケを、自分ではなく大事な人たちに背負わせるなど、愚かとしか言いようがない。

 

「ひょ、兵夜!?」

 

 その戦闘の光景を見たナツミも悲鳴を上げる。

 

 兵夜はイッセーとともにシャルバと戦っていたが、しかしそれでも苦戦していた。

 

 アーチャーの戦闘能力は、その気になれば魔王とも勝負になれるほどの能力を持つ。シャルバと正面から戦闘しても、十分渡り合えるだろう。

 

 だが、作った直後の武装を、システムに異常が発生した状態から無理やり持ち直して運用しているため、そこにアラが出始めていた。

 

「実質、地力の差が出ていますね。人為的に強化しているといっても一応は魔王の血族。油断できませんか」

 

 こちらに視線を向けたベルも表情をゆがませる。

 

「私の空間転移能力では完璧に断絶している異空間への転移はできそうにありません。・・・実質、こちらからは手が出せない。兵夜・・・っ」

 

 爪が手に食い込むほど握りしめながら、しかし手を出すことが物理的にできない。

 

 どうしようもなかった。

 

「兵夜!? みんな・・・っ!? ね、ねえ、どうにかなんないの!?」

 

 ナツミが涙ぐみながら縋り付くが、こればかりはどうしようもない。

 

 今から探しても間に合わない。敵の想像以上の数に、動員されたメンバーもまだ追いつかない。アザゼルに至っては連絡が取れない。

 

 どうしようも、なかった。

 

「ファックな話だが、あたしが思いつく方法は何もない。・・・むしろお前はどうにかなんねーのかよ」

 

 八つ当たりじみたことではあるが、しかしつい聞いてしまう。

 

 自分では想像できない。ベルは不可能だと自分で言った。サイラオーグ・バアル眷属に対処できる能力の持ち主はいないはずだ。

 

 可能性があるとすれば能力を詳しく聞いていないナツミしかいない。

 

「・・・ゴメン、まだ・・・全部・・・思い出せない」

 

 肩を落としながらのナツミの絞り出すその答えに、小雪は天を仰いだ。

 

 少なくとも現状とれる手の中に対処できるものはないということだ。たとえあったとしても、記憶があいまいなナツミがそれをした場合、反動で何が起こるかわからない。

 

 世の中は不条理で出来ているということぐらい身をもって知っていたが、しかし心に来るこの展開は何度味わおうと苦痛でしかなかった。

 

「・・・ふむ」

 

 ベルもそうなのか視線をそらし。

 

「ななめ45度」

 

「グベッ!?」

 

 唐突にナツミの後頭部にチョップを叩き込んだ。

 

「お前なにしてんだファァアアアアアアアック!? おい次期魔王、救護班呼んで来い!?」

 

「なんだ!? いったいどうした!?」

 

 なんというか後頭部から流血していて非常にやばい。

 

 助け起こそうにも頭部を強打している状況下でうかつに動かすわけにもいかず、小雪は拳銃をベルに突きつけた。

 

「いや、昔から調子が悪い時はななめ45からたたけば」

 

「どこのおばーちゃんの豆知識だ!? そもそもそれはテレビだろーがぁあああ!?」

 

 時々アグレッシブにボケるとは聞いていたが、まさかこのタイミングでこんな行動を起こすとは思わなかった。

 

 これはマズイ非常にマズイ画面の危機もそうだが今は目の前の非常時だ。

 

 フェニックスの涙を持っていなかったかとポケットを探った時、小雪の耳に妙な声が聞こえた。

 

「・・・カッハハハ」

 

 

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

 さすがにこれはマズイ!?

 

 あんな超強力なビーム攻撃を放てる軍事兵器まで開発しているとは思わなかった。

 

「久遠!? クソが・・・っ」

 

 ふざけんななんだあの量産型ビ●○ム! イッセーの初禁手時のビームよりやばいだろうが!!

 

「部長!? みんな!?」

 

 イッセーも度肝を抜かれて絶叫するが、しかし今はそれどころではなかった。

 

「下劣な下級悪魔風情が魔王を無視するなよ!!」

 

 莫大な魔力を感じて振り返ったがもう遅い。

 

 とっさにトゥムファーアインを蹴り飛ばして距離をとったが、しかし回避しきれず弾き飛ばされる。

 

 イッセーに至ってはもろに喰らって禁手が溶けてる始末。

 

 やばい、これは詰むぞ!?

 

 このまま行けば高確率で全滅する。・・・悔しいが俺たちの負けだ。

 

―アーチャー!? こうなれば最後の手段だ、令呪でマスター権をアザゼルに送る。俺は可能な限り味方を逃がすから後任せた!!

 

―そこは私を呼んで助けてもらおうとしなさい!?

 

 アーチャーが何か言っているが、しかし8割ぐらい能力を呼び出せるあの武装で対処不可能なのに、圧倒的不利な状況下でそんなことする度胸はない。

 

 ここで令呪を使って勝算低い戦いをするより、より勝機のあるマスターに送って何とかしてもらうほうがまだ確立はある。

 

 ・・・とはいえ誰を優先するかは精神的に来るな。俺が一番最後なのは当然だがまずはイッセーと久遠と部長と会長。続いて―

 

 と、そこまで考えて、俺は目の前に見慣れた姿を見た。

 

「・・・ナツミ?」

 

 やばい、精神的に動揺しすぎて幻覚が見えてきたぞ。

 

 この状況下でそれは非常にマズイ。

 

 こんな時だからこそ冷静に対応しなければならないのに、動揺しすぎて幻覚を見るなどあってはならないはずだ。完璧にマズイ。

 

 っていうかなんだあの熊娘バージョンは。もうちょっと緊張感ある格好にしろよ俺の脳!

 

「・・・カッハハハ」

 

 しかもなんかひどい幻聴なんだが。再現度ひっく!?

 

「よし速攻で動いたほうがいいな。令呪に―」

 

「いいからこっち向け馬鹿が!!」

 

 鎧越しに顔面に衝撃!?

 

 馬鹿な!? 幻覚だけでなく幻衝撃だと!?

 

「いいからちょっとこっち顔向けろ馬鹿が!!」

 

 そのままナツミ?に顔を固定されて、ドアップのその顔を見ることになる。

 

 なんというか、本来のナツミが無邪気な子供なら、こっちのナツミはなんというか野性的だな。

 

「説明はめんどいから手っ取り早くいうぞ? ・・・あのデカブツつぶしてくるから、それまで持ちこたえてろ」

 

 ニヤリと笑うと、そのままナツミは姿を変える。

 

「サタンソウル・・・フィネクス!!」

 

 炎に包まれた鳥を思わせる姿に変えると、そのままあのデカブツに向かって突進した・・・ってオイ!?

 

「あ、流れ弾は俺様でもどうにも出来ねえから躱せよ?」

 

「いやそうじゃなくて前ぇえええええ!?」

 

 すでにビーム撃たれてるんだけど!?

 

 しかしナツミ? は全く前を見ずに前進し続ける。

 

 そしてそのままビームの中に突っ込んだ。

 

「・・・・・・」

 

 とりあえず、黙祷するべきだろうか?

 

「なんだったんだこれが」

 

「気でも狂ったか?」

 

 フィフスとシャルバが酷評するが、しかしこれは反論できん。

 

 だが、その中で一人だけ震えてるのがいた。

 

「や、やややややや、やばいって感じ!?」

 

 そういえば名前を聞いていなかった謎の女が、顔を真っ青にして震えていた。

 

「どうしたリット? なんか1人吹き飛んだがそれがどうし―」

 

「まだ吹き飛んでない!! 急いでとっつ構えないと手遅れになるって感じ!!」

 

 いやどういうことだと首をひねった瞬間、それは飛び出した。

 

「カッハハハ!! んなもんが効くかぁああああ!!」

 

 ナツミ?がビームをくらったはずなのに、なんか全身から火を噴いているだけでそのまま突貫して跳び蹴りを叩き込んだ。

 

 ぐらりと揺れるデカブツはしかし壊れないが、そこでナツミ?は再び輝く。

 

「サタンソウル・・・ナフラ!!」

 

 今度は獅子のような姿になったナツミ?は、そのまま揺らいだデカブツをつかむと―

 

「どぉおおおおりゃぁあああああああ!!」

 

 ・・・投げ飛ばして隣のデカブツごと叩き潰したよオイ。

 

 あまりにアレな光景に、俺は開いた口がふさがらなかった。

 

 ほかの連中も思わず動きが止まってしまうが、その中でガクガク震えだす女が一人。

 

「マルショキアス・・・ベールフェゴル・・・フィネクス・・・ナフラ・・・。ま、まままままままままま間違いない!! フィフスやばい、やばいって感じ!!」

 

「何がやばいんだこれが!? おれにもわかるように説明しろ!?」

 

 状況についていけてないフィフスが叫ぶが、女は泡を食って逃げ出す寸前だった。

 

「病死しなければ聖十大魔道すら確実といわれた化け物、魔人姫の異名をもつ超人!? サミーマ・エーテニルがこの世界にいるなんて聞いてないって感じ!?」

 

 ・・・はい?

 

 なんか明らかにすごそうな称号が聞こえてきたんだがどういうことだ?

 

「カッハハハ!! 馬鹿なことに全然思い出せなくてやばかったぜ!! ベルにはあとで礼いっときたいが、死ぬかと思ったからやめとくか!! とりあえず無事だなご主人! 晩飯はオムライスにしてくれや!!」

 

 あいつ記憶あいまいだって言ってたけど、性格違いすぎだろ。

 

「それともこっちのキャラのほうがいいかな? 記憶戻ったばかりであいまいだけど、兵夜の好みどっち?」

 

 今そんなことを聞いている暇があるかぁあああああ!!

 

「どっちでもいいからとりあえず切り抜けるぞ!! あとお前昨日卵丼食ったばかりだろうが、明日にしなさい!!」

 

「ちぇっ。わかったよーだ。・・・じゃあめんどいんで当分サミーマで行くぜ?」

 

 ものすごい偉そうな風格を漂わせるが、ナツミって実はあいまいどころの騒ぎじゃないレベルで記憶を思い出せてなかったんじゃなかろうか?

 

「朱乃! この砲撃は電流操作の応用で逸らせるってよ! だから手を貸しな! それだけあればデカブツはこっちで潰すぜ!!」

 

「なんでマウンテンイレイザーの弱点が!?」

 

 フィフスが愕然とするあたりどうやらマジらしいな。

 

 とはいえ今の砲撃で全員満身創痍。こりゃどうしたものか。

 

「・・・ならば有象無象はこちらが引き受けよう」

 

 聞き覚えのある頼もしい声が聞こえた。

 

 瞬間、離れたところにいた砲台が、まとめて灼熱に呑まれて燃え尽きる。

 

 おいおいこの声とこの魔力の放出は!

 

「アポロベ卿!」

 

「有象無象は部下に任せ、再生力頼りで無理やりここまできて正解だったようだ。・・・周りの雑魚はこちらに任せろ。全滅させたらすぐに加勢する!!」

 

 よっしゃ流れは変わった。

 

 とはいえまだ窮地に変わりはない。もうちょっとピースがそろえば・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだかよくわからないけど、とんでもないことになってきた。

 

 ナツミちゃんのキャラが変わったと思ったら、なんか無双が始まってる。

 

 以前宮白の家の時の騒ぎでお世話になったアポロベさんもきて、これなら盛り返せるかもしれない。

 

 だけど、まだ足りない。

 

 持ち直せただけでひっくり返したわけじゃない。敵だって数が増えるかもしれない以上、これだけじゃだめだ。

 

 立てよ赤龍帝、立てよ兵藤一誠!

 

 ハーレム王になる男が、こんなところでへばってるんじゃねえ!!

 

「う・・・おぉおおおおおおおおお!!」

 

 気合いを入れて無理やり立ちあがる。

 

 赤龍帝の力だけではどうしようもない。残念だが今の大ダメージで限界を超えてしまった。

 

 だけど、勝算が一つだけある。

 

「部長ぉおおおおおおお!! お力を貸してください!!」

 

 俺は部長を大声で呼ぶ。

 

 そう、この手段には部長が不可欠だ。部長の力がなくては勝ち目がない。

 

 以前、ヴァーリは生命力を極度に消費するとかいう覇龍を、自分の魔力で補っていると聞いた。それでも暴走の危険が隣り合わせだとも。

 

 それはつまり、暴走の抑制と消耗の増大はまた別の話ってことなのではないだろうか。

 

「イッセー、無事だったのね! それで私に頼みたいことって」

 

 部長が歓喜の表情を浮かべてこちらに駆け寄ってくる。

 

 そう、魔力の消耗と精神の暴走が別の問題なら、暴走さえ抑制すれば俺だって覇龍が使えるかもしれない。

 

 そして暴走を抑えるような精神の動きとは何か。

 

 それは、悟りだ。

 

 煩悩を捨てていきついた心のありようを、俺が到達することはありえない。

 

 だが、煩悩の身にしていきついた乳語翻訳の境地を刺激すれば、俺にも行けるんじゃないか。

 

 ならば選択肢は一つしかない。

 

「部長! 乳を再びつつかせてください! 今勝つにはそれしかない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 



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フィニッシュブロー KO

活動報告でネタをいくつか出してみました。

・・・見てみて描いてみたいという方がいたらメッセージか返信でご連絡ください。設定協力は惜しみません。




そして本編はダブル主人公による処刑用BGMスタート。乱舞Escalationあたりを脳内再生しながらお楽しみください。


 

 戦局はいまだ微妙だが、しかしここは俺がやるしかない!!

 

 そう思いシャルバに向き合った瞬間、シャルバが吹っ飛んだ。

 

「ぐぉおおおおおおおお!?」

 

 な、何が起こった!?

 

「宮白! ここは任せろ!!」

 

 見れば鎧を再びまとうどころか、明らかに形状が変化しているイッセーの姿があった。

 

 え、どういう状況だ!?

 

 いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。

 

 イッセーもそれはわかっているのか、いうことは短く簡潔だった。

 

「宮白、任せろ!!」

 

「・・・任せた!!」

 

 今のイッセーは明らかに勝算がある。

 

 なら今はそれに賭ける。

 

「フィィイイイイイイイフゥウウウウウウウスゥウウウウウウウっ!!」

 

 突撃をかけてぶつかるのはフィフス。

 

 現状の戦力として俺が一番こいつの相手をするべきだし、何より相手をしたいとも考えている。

 

 だがそれ以上に。

 

「俺の女と仲間をボコってくれた礼はしっかり払わないとなぁ? この科学フェチアルケミストが!!」

 

「返り討ちにしてやるぜこれが!!」

 

 伸ばしたブレードをフィフスの奴はなんと掴む。

 

 見れば、奴の皮膚は微妙に色が変わっていた。

 

「錬金術の組成変換による皮膚硬化! 魔術も道具も馬鹿も使いようってなぁ!!」

 

 そのまま動きを止めて回し蹴りを放ってくるも、擬態の力でブレードを伸ばしてそれを躱す。

 

 その後も高速で攻防を繰り広げるが、しかし向こうのほうが一枚上手か!

 

 やはり一筋縄ではいかないか。

 

 ならばこちらも小細工を使おう。

 

 鉄球を呼び出すと擬態を使ってそれをホールドし、鉄球のように振り回す。

 

 フィフスはやすやすとそれを受け止めるが―

 

「ボン♪」

 

 魔力を流すと一瞬で爆発した

 

「魔力感応式の爆薬の味はどうだい? 中身は最新型の爆薬だから効くだろう?」

 

「てめえやってくれるなオイ!!」

 

 思ったより効いてないな。

 

 まあ上級悪魔で山肌思いっきり削り取るような業界だし、この程度では無理があるか。

 

 化学兵器を直接攻撃に使うにはひと手間必要・・・と。

 

 実験している場合ではないが、しかしだからこそデータは必要だ。

 

 データがあれば罠にかけやすくなる。さすがにサーヴァントを温存している状況下では倒せるとも思えないし、とにかくボコる程度に弁えた方がいいはずだ。

 

 ただし徹底的にボコる。

 

 イーヴィルバレトで牽制しながら、俺は絶対にこいつをボコると決めている。

 

 これが国家間の戦争ならもう少し我慢できただろう。

 

 だが相手はただのテロリストだ。情けも遠慮もかける必要はない。

 

 やれ人の親友を追い込むは、やれ人の女をボコるは、やれ人の主を殺しに来るは、やれ人の仲間に苦難を与えるは。

 

「・・・いい加減腹に据えかねてるんだよ!! 叩き潰す!!」

 

「やってみなこれが!!」

 

 全力で蹴りと蹴りがぶつかり合う。

 

 しかし奴の蹴りは俺を押し返した。

 

 伝説クラスの武装を模倣した強化武装をもってして互角が無理か!

 

 そして弾き飛ばされた一瞬の隙をついて、針金の腕が一斉にショットガンの砲口を向ける。

 

 やばい・・・躱せない!

 

 だが、その瞬間奴が閃光に呑まれた。

 

 しかも連発で来た。

 

「くたばれ馬鹿が! ・・・無事かご主人!!」

 

 見ればなんというか宝石だらけの成金ボディースーツみたいな姿になったナツミが、デカブツを全滅させてこちらに砲撃を叩き込んでいた。

 

「こっち気にしてる暇があるならとっとと行け、馬鹿ご主人!!」

 

「・・・おう!!」

 

 砲撃をさばくので手いっぱいになっているフィフスに突進する。

 

「クソが!? ヤーヌス!!」

 

『承知!』

 

「魔法の矢、風の101矢!!」

 

 フィフスの声に反応して、例の二本足が飛びかかるが、しかし俺にぶつかりより先に横からの雨あられのような魔力の弾丸がたたきつけられ、魔力の帯になるとその動きを一瞬止める。

 

「行って! 兵夜くんー!!」

 

「フィフス・エリクシルッ!!」

 

 久遠の声に背中を押され、奴の背中に掌底を叩きつける。

 

 そしてすかさずゼロ距離からの光魔力の一斉砲撃を叩きつけた。

 

「がっは・・・っ!?」

 

 背中から血を流し倒れかけるフィフス。

 

 このチャンスを逃さず追撃しようとしたが、拘束を振り切った二本足が、腹部から細い手のようなものを展開すると、フィフスを掻っ攫う。

 

『撤退します! これ以上は持ちません!!』

 

「・・・くそ、覚えてやがれよ、これが」

 

 ブースターを全力で稼働させ、フィフスたちが高速で遠ざかる。

 

 こっちも損傷が激しい。追撃は、無謀か。

 

 まあいい、これで当面の危機は逃れた。

 

 あとは、イッセーが無事ならいいんだが・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 ガリガリと大事な物が削れてくのが馬鹿な俺でもわかる。

 

 だけど、その分ものすごい力が湧き上がっているのもわかる。

 

『相棒! 今の出力は不完全すぎる。覇龍に比べればナマクラみたいなもんだ』

 

 これでそれかよ! 本当の覇龍ってどんだけ凄いんだ?

 

 でも、それでも今の禁手よりかははるかに上の出力だ。

 

 これならいけるか、ドライグ?

 

『安心しろ。あの程度の小物を倒す分には問題ない』

 

 だったらいいさ! これ以上減る前に終わらせる!!

 

「舐めるなよ下等な下民が!!」

 

 シャルバが蠅を使役し、そこから莫大な魔力の砲撃を叩き込む。

 

 正直暴走一歩手前の俺じゃあ細かく移動して回避するなんて不可能だ。

 

 正面から突っ込む!

 

 こっちに迫ってくるフルバーストを、両手両足全部使って弾き飛ばす。

 

 正直衝撃で手がしびれそうだけど構うものか!

 

 この野郎がディオドラにアーシアの神器について教えたっていうなら、つまりこいつがアーシアを追放したようなもんだ。

 

 ・・・聖女に相応しい優しいアーシアをよくも魔女だなんて呼ばせてくれたな。

 

 ディオドラもぶっとばしてやりたかったけど、あいつは宮白が徹底的にぶちのめしたから今はいい。

 

 今は・・・。

 

「部長を殺そうとしたてめえを、それも含めて叩き潰すだけだぁあああああ!!」

 

 全部の攻撃をぶっとばして、俺はシャルバの目の前までたどり着く!

 

「馬鹿な!? 今の私は前魔王クラスまでパワーアップしているというのに―」

 

「それがどうしたぁ!!」

 

 顔面に拳をたたきつける!!

 

 その鼻っ柱を頭突きで砕く!

 

 蹴り落として地面に叩きつける!

 

 前魔王だか何だか知らないが、ドーピングでえた能力なんてこの程度か!!

 

「・・・思い上がるなよ下級な転生悪魔風情が!!!!」

 

 シャルバが左腕を突き出す。

 

 なんか妙な機械がついてるぞ?

 

 などと思ったら、その機械から馬鹿でかい光線が発射されて俺を飲み込もうとする。

 

 ・・・・・・痛ぇええええええええ!? 全身が焼ける!?

 

「オーフィスの蛇によって高められた私と、禍の団の技術が、貴様程度の薄汚いドラゴンにどうにかなるなど有り得んのだ!!」

 

 シャルバが俺を嘲笑うが、舐めんじゃねえ!!

 

「アスカロン!!」

 

 ドラゴンになった左腕と、ある意味で同種の力であるアスカロンを使って光線を受け止める。

 

 よし! これならもろに喰らうより遥かにましだ!!

 

「真なる魔王の末裔だかなんだか知らないが・・・」

 

 背中の翼を全開にして、無理やり光線を押しのける!!

 

 そのままシャルバの目の前にまで突進して、全力で左腕を振りかぶる!!

 

「うちのアーシアちゃんをひどい目に合わせて―」

 

 伝説の聖剣を伝説のドラゴンで強化すれば―

 

「―ただで済むと思ってんじゃねえええええええええ!!」

 

 てめえ1人ぶっとばすのに苦労しねえんだよ!!

 

「がぁあああああ!?」

 

 吹っ飛ばしたシャルバはそれでも立て直そうとする。

 

 しぶとい! 

 

 こっちも消耗が激しくて、そろそろやばい気がしてきた。このままだとあいつを倒す前にこっちがガス欠になる!

 

 ドライグ! なんかいい手無いか?

 

『ならちょうどいいものがある。これならいくらなんでも倒せるだろう』

 

 ドライグが送ってくる情報をみて、俺もこれならいけると確信した。

 

 よし! これで文字通り吹き飛ばす!!

 

 鎧の腹部が展開すると、見るからに凶悪そうな砲身が突き出る。

 

 ああ、自分でも怖くなるぐらい凶悪なパワーが溢れ出てくる。これなら確実に勝てる!!

 

「こ、この化け物め! この私がこんなところで―」

 

 と、シャルバが魔法陣を展開しようとする。

 

 あの野郎逃げる気か!? やっべえ、こっちはチャージ中で止める余裕がない!?

 

 正直慌てる俺だったが、そのシャルバの腕が急にピタリと止まる。

 

 何事かと思ったが、焦りまくっているシャルバの顔を見るとシャルバが狙ってやったわけじゃないようだ。

 

「こ、この力は・・・っ!」

 

 まさかと思って顔を動かすと、そこには両目を輝かせているギャスパーの姿が!

 

 ギャー助ぇえええええええ! でかしたぞぉおおおおおおお!!

 

「イッセー先輩、トドめです!!」

 

「おっしゃあ!!」

 

 思わぬナイスアシストに歓喜しながら、俺は全力を込めて奴をにらむ。

 

「喰らいやがれ、ロンギヌス・スマッシャーァアアアアアアアア!!」

 

 目の前が放出されたエネルギーで真っ赤に染まる。

 

 それは誰も耐えられそうにないような出力を出し、そのままシャルバを飲み込んだ!

 

「馬鹿な!? まだ偽りの魔王どもに一泡も吹かせていないというのイ!? ヴァーリの小僧に目にもの見せてないのに!? おのれ、おのれ赤い竜め、赤龍帝ぃいいいいいいいいいいいいいいいっ!?!??!」

 

 みっともない絶叫を挙げながら、シャルバはそのまま包まれていった。

 

 なんだかフィールドもものすごい破壊されたけど、これなら行けたか。

 

 ・・・やったぜ、宮・・・白、部ちょ、う。アーシ・・・あ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out




色欲によって暴走を抑えたイッセー。原作とは違った形で乳龍帝の本領を発揮しました。


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小猫と主人の逃避行

ホーリー編最終話。

決着ついたそのあとは・・・。


「・・・どうやら君たちの勝ちのようだ。本当に君たちは面白い」

 

 粗方の敵を片付けたところに、聞き覚えのある声が響いた。

 

 振り返った先にはヴァーリに美候にアーサーの姿が。その後ろに例の赤女が隠れていた。

 

 一難去ってまた一難だな。そろそろアザゼルでも来てくれないだろうか?

 

「ああ、別に俺たちに戦う意思はない。他の連中がうるさいからリット・バートリは回収させてもらうが、そちらから手を出さないならこっちも仕掛けるつもりはないよ」

 

 戦意ゼロでそういわれれば、こちらとしても戦うつもりはない。

 

 というか、これ以上戦うとこっちがヤバい。

 

 フィフスの新兵器のせいでこっちは全員満身創痍。イッセーに至ってはいつの間にかぶっ倒れてる始末だ。

 

 みれば美候は例の女の首根っこを掴まえて動きを止めているし、戦わせるつもりもないなら様子見をするべきか。

 

「いやぁ、面白いものを見せてくれたじゃねえかぃ。つーか赤龍帝の坊主はグレモリーの嬢ちゃんがスイッチにでもなってんのかい?」

 

 その美候は腹を抱えて笑いをこらえている様子だが、イッセーの奴今度は何をした?

 

 とはいえ戦闘はこれ以上内容だし、全員少しだけ警戒を緩めた。

 

 見れば待機してもらっていた人たちも急いで駆け付けてきている。コレならヴァーリが戦意を見せても迎撃は間に合うだろう。

 

「イッセーさん!」

 

「イッセー先輩!」

 

 アーシアちゃんと小猫ちゃんが、あわててイッセーに駆け寄っていった。

 

 癒しの力と仙術による気の供給があれば、よほどのことがない限り死なないだろう。今は二人に任せよう。

 

 と、俺もなんというか気が抜けて、ついその場にへたり込んでしまう。

 

「兵夜!?」

 

「兵夜くんー? 大丈夫ー?」

 

 ナツミがあわてて俺に肩をかし、久遠は会長のそばでヴァーリたちを警戒しながら声をかけてくる。

 

「デュランダルの全力解放にしろ、残骸から形成したエクスカリバーの紛い物にしろ・・・まさかここまでの性能を出すとは。これからが非常に楽しみですね」

 

「俺としては兵藤一誠の今後に期待したいな。まさか不完全とはいえ、この短期間に覇龍の制御にまで手を伸ばすとは」

 

 アーサーとヴァーリが何やら感心し合っているが、正直聞くのも面倒い。

 

「・・・それで、戦闘が目的でないなら何の用かな? そこの彼女の救出もついでのようだが?」

 

 へたり込んだおれをかばいながら、アポロベ卿がヴァーリたちに問いただす。

 

 確かに、まさか駆けつけてきそうなアザゼルとかの首が狙いとか言い出さないだろうな。

 

「まあちょっとした所要だよ。いくら俺でも、絶対に負ける状況下で手を出すつもりはないさ。・・・ほら、さらに敗因が増えた」

 

 そうヴァーリが言った瞬間、なんかデカい物が奴の隣に墜落してきた。

 

 そしてそれを追いかけるように、見覚えのある人影が何人もやってくる。

 

「よ・う・や・く! ぶち壊されやがったか! マジで執拗かった!!」

 

「おお、兵藤一誠たちも無事か! 何やら余計なものもいるようだが、まずは一安心だな」

 

「リアス! 無事でよかった・・・」

 

 アザゼルにタンニーンにサーゼクス様!? そうそうたる面子がなんで結構、煤けた姿でこんなところに?

 

 っていうかなんて言うかスーパーロボットの頭部っぽい残骸だな。誰が作った?

 

 まさかこれに苦戦したなんてオチはないだろうか? ・・・ないよな?

 

 とても不安な気分を何とか盛り返そうとした俺の耳に、ヴァーリの声が届く。

 

「・・・対光力・対消滅のシステムをふんだんにつぎ込んだ、キャスターの最高傑作をもってしても足止めがせいぜいか。さすがはアザゼルにルシファーを継ぐもの。俺としてもなんというか誇らしいな」

 

 苦戦してた! マジかキャスターすごいなオイ!!

 

 いろいろな意味で微妙な気分になった。やはりディオドラはもっと徹底的に叩き潰しておくべきだったか。

 

「・・・しかし、この様子ではクルゼレイもやられたようだな」

 

「おう。カテレアもボコボコにされて求心力が落ちてるだろうし、禍の団の旧魔王派はこれで瓦解だな」

 

「そううまくはいかない。もともと年長者を敬って指揮権を譲っていただけで、求心力という意味ではザムジオが最も信奉されている。この作戦も最初から期待薄で撤退時の後詰を務めていたし、当面他の派閥に指揮権を譲る程度で終わるだろうな」

 

「マジかよ? あの坊主そこまでやるとはな。シャルバぶちのめしたイッセーにしろ、才能なしに時期大王になったサイラオーグにしろ、悪魔業界はどこもかしこも若手が台頭しすぎだな」

 

 ヴァーリとアザゼルは意味深な会話をしているが、しかし頭に入ってこない。

 

 どうやら敵幹部はアザゼルたちが一人片づけている程度という事か。・・・やべぇ、ぼーっとしてきた。

 

「しっかし遠くで観戦してたけど、グレモリーの嬢ちゃんは赤龍帝の起動スイッチか何かかよ? 御姫様だしスイッチ姫ってか?」

 

「・・・でかした美候! それ頂き!」

 

「ちょっとアザゼル? 何やら嫌な予感がするのだけれど?」

 

 なんかなごやかなムードにまでなっている気がするが、しかし何だか視界が暗くなってよく分からない。

 

 ああ、そういえば最近は忙しくて睡眠時間は魔術で無理やり誤魔化してたな。

 

 精神的にはともかく、肉体的には限界超えてたって訳か。

 

 なんかバランスを崩して倒れてしまうが、その体を柔らかなものが包み込んだ。

 

「馬鹿な奴だなぁ。前から色々とやってたとは思ってたけど、大仕事の前はちゃんと休んどけよ」

 

 呆れたナツミの声が聞こえるが、支えるその力はなんていうか絶妙な力加減で心地いい。

 

「・・・お休み兵夜。出来るご主人様でボク嬉しいよ」

 

 ・・・ああ、俺も出来る使い魔がいて嬉しいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・死ぬかと思った」

 

 マジで死ぬかと思った。

 

 この体育祭になるまでの数日間、俺はマジで大変だった。

 

 何分単独行動がすぎたことで罰ゲームが連発。おかげで数日間イッセー宅の家事を俺一人でやることになった。

 

 ・・・あのサイズの家で、家事を一人でとか拷問だろ!? こっちはイッセーのリカバリーの研究もしなくちゃいけなくて、忙しさがどんどん増してるのに!

 

 ・・・そろそろ組織運営も落ち着くし、助手でも雇った方が良いだろうか? 過労死するぞ、マジで。

 

「まあ、こっそり動きすぎたお前にも責任があるからなぁ? しっかりお灸をすえられた方が良いだろ?」

 

「てめえはちゃっかり安全圏にいておきながら何言ってんだコラ」

 

 隣でゆったり観戦ムードに入っているアザゼルに俺は鋭い視線を向ける。

 

 冷静に考えれば眷属に余計な手間をかけさせないように努力した俺より、俺ら全員巻き込んだアザゼルのほうが重罪な気がするんだがなんでこうなる?

 

 これが権力持っている奴の力ってやつか。よし、俺も必ず上級悪魔まで出世してやる。

 

 むしろ最上級悪魔でも目指すとするか。そんでもって堕天使交渉担当になってこいつに嫌味をいう毎日を・・・。

 

「まあ、イッセーの方は小猫もいるし気負うなよ? お前ただでさえ仕事しすぎなんだからな」

 

 ・・・時々大人の立場で指導が入るからなおムカつく。

 

 シャルバを叩きのめしたイッセーだが、その代償は相当にデカかった。

 

 何でも覇龍の暴走をスケベ根性で抑え込んで叩きのめしたらしいが、生命力の消費までは抑えられなかったそうだ。

 

 この調子で行けばせいぜい100年が寿命の限界だとの事だ。

 

 人間で言えば間違いなく長い部類に入るが、一万年近く生きる悪魔の視点で言えば相当に少ないだろう。正直寿命は実感が沸いていたら卒倒していたかもしれない。

 

 と、いうかその消費量でよく今までの二天龍は覇龍つかえてたなオイ。

 

 とはいえそこまで慌てる必要はない。

 

 魔術はもともとそこらへんが非常に優秀だ。

 

 ここ百年足らずで急速に医学が進歩するまで、子供はたくさん作らなければ後継者を残すのは難しいぐらい、人は簡単に死んだ。

 

 そんな状況で一子相伝をむねとし、スペアを一人作れば多い方の一人っ子政策至上主義の魔術師の、そういった方面は非常に優れいてる。

 

 そもそも死徒化の研究に始まり、外見は若くて中身は百歳以上な魔術師など高位の連中には普通にいる。フィフスのアインツベルンとか、千年以上続いてるはずだが当主は(アハト)とか呼ばれてたはずだ。間桐も500年ぐらい生き続けているだろう。

 

 ただの人間をそこまで生かす技術があるのだ、もともと一万年生きる悪魔の寿命を元の段階まで引き延ばすぐらい可能不可能で言えば可能だろう。

 

 実際魔術師組織もその方面の研究は進めている。例えすぐに転生悪魔に慣れなくても、数百年人の身で生きる存在など優れていることぐらい馬鹿でもわかる。それならその時に転生してくれる可能性は十分にある。

 

 秘匿の必要性がなくなり共同研究が盛んになり始めている今の状況なら、十分打開の可能性はある。

 

 そもそも小猫ちゃんの仙術ならある程度回復させることが出来ると言うし、ある程度気長にやっても問題ない。少なくとも禍の団の騒動がひと段落してから本気になっても十分間に合うだろう。

 

 ・・・すでに主要派閥に甚大な被害が出ているし、下手したら数年も掛からずに決着がつくんじゃないだろうか?

 

「・・・それで? ディオドラのほうはどうなったんだ?」

 

「お前が徹底的にやってくれたおかげでもうしゃべるしゃべる。この調子で行けば支部の一つや二つぐらいは潰せるだろうな。でかした」

 

 ディオドラはちゃんと取っ捕まえることに成功した。

 

 幸い向こうも余裕がないようで、回収されずに済んだのは行幸だった。

 

 後で知ってビビったのは、敵が用意したある特殊装置。

 

 最初に見た時はどういうものかよく分からなかったが、なんでも神滅具の担い手の禁手によって生み出されたものだそうだ。

 

 効果はアーシアちゃんの神器の増幅反転。それによって俺らを一網打尽にするのが計画だったらしい。

 

 つくづく入れ替わって良かった。俺だったら接続した瞬間に発動して一気に片づけている。奴らもそこまで馬鹿ではないだろうし、切り札の切り方は間違えないだろう。

 

 とはいえ無傷で確保できたことから研究は進んでいるそうだ。これで対策の一つでも出来ると言いが。

 

「あ、ディオドラの歯は貰っていくぞ。・・・攻撃型手榴弾の材料に組み込めばなかなかすごいのが出来そうだ」

 

「お前って本当にえげつねえよな。ディオドラが心折れるわけだ」

 

 何やらドンビキだったが、そこまで言われるのは心外だな。

 

 女の魔術師にとって髪が貴重であるように、また宝石魔術が基本的に血液を媒介とするように、人体の素材というのは魔術には非常に有効だ。実際レイヴンは死んだ人体を材料にして魔術を行使する死霊魔術師だしな。

 

 上級悪魔の肉体など材料としては破格だろう。実際、今回の一件で死亡した旧魔王派の遺体を欲しがった魔術師は非常に多い。

 

 コカビエルの指を材料に作った光力弾も、俺の全力より破壊力は上だし間違いなく力になる。今度魔獣狩りでもして材料を掻き集めようか。

 

「それよか聞いたぞ宮白。お前、ディオドラの女どもに例の魔力供給の話したんだってな」

 

「どうせなら、吸い取って苦しめても問題ないやつにしたほうがいいのは当然だろう? 罪もないやつから搾り取るより、罪のあるやつから搾り取ったほうがよっぽど気分が楽だ」

 

 全く失礼な奴だな。犯罪者の権利は被害者より下であるべきだろう。罪人部隊は合法化していいと俺は心底思うぞマジで。

 

 え? ブーメラン? いやいや基本的に悪人同士の食い合いにしか使ってないからグレーにしろよ。

 

 当然のことをしているだけなのにとやかく言われても困るというものだよ、うん。

 

 だが、アザゼルはすごいにやにやしながら一枚の紙を見せつける。

 

「・・・収容所近くの冥界のデリバリー使用権、日本円換算5万円分を月支給。ネット回線付でパソコン提供。労働拒否可能。・・・月に酒一本まで追加はやりすぎじゃねえかぁ? 他の連中に比べてサービスしすぎだろ」

 

「うっせぇよ! いいだろ別に俺の依怙贔屓ぐらい!! ちゃんと自分の金でサービスしてんだから文句言われる筋合いはない!!」

 

「素直に「アレはディオドラが悪いだから勘弁してやってくれないでしょうか?」とか言ってもバチはあたらねえだろうに。お前、敵と認めると徹底的にキツいが、そうじゃねえと意外と甘いよな。案外サーゼクスと気が合うんじゃねえか?」

 

 いやいやそれはどうよ。

 

 実際サーゼクスさまもクルゼレイとかいう奴には結構譲歩したらしいしな。

 

 王としては冷徹な判断を必要とし、実際にそれができるだけの強さを持つ。しかし同時に優しさをもち、可能な限りいい方法を探そうとする。

 

 考えうる限りトップクラスにいい王様じゃねえか。俺みたいなアウトローなんかと比べちゃいかんだろうに。

 

「指導者クラスならグレーゾーン踏み込む覚悟は必要だと思うが、俺は明らかにブラック踏み込んでんだから組ませちゃあかんだろうに」

 

「なに言ってやがる。お前がサーゼクスクラスの権力持ってたら、絶対ブラックな真似はしねえだろ。どう考えてもリスクのほうが高くなるからな」

 

 ・・・反論できん。

 

 確かにあの立場なら裏に手を出して余計なリスクを背負うより、表の立場から動くほうがいいだろう。

 

 どう考えても必要な手段が取れる状況下ではやる意味がない。

 

「アーチャーも理があるなら下種な手段は使わないしな。意外と似た者同士だねぇ、お前ら主従は」

 

「まあ触媒が緩いしな。性質が近いのは当然だろう」

 

 その分行動がうまくかみ合ってるのは好都合だし、反論する意味もないか。

 

『それでは借り物競争を始めます。選手の方は所定の位置にお集まりください』

 

 お、時間だ。

 

「んじゃ、行ってくるわ」

 

「おう、行って来い」

 

 アザゼルに見送られながら俺は所定の位置に向かう。

 

 いろいろお仕置きされてストレス溜まってるし、ちょっと全力出して圧勝してスッキリしたいところだ。

 

 それもこれも借りるもの次第。さてどうなる・・・?

 

『スタート!』

 

 走りだし、そしてダントツで紙に到着。

 

 そして開いて見て―

 

「猫耳属性・・・ってなんじゃこりゃぁ!?」

 

 思わず叫んでしまった。

 

「トリプルテールって現実にいるのかよ!?」

 

「胸開きタートルネックって時事ネタにもほどがあるだろ!?」

 

「誰かぁあああ!? 紐ビキニ着たことある人はおりませんか!?」

 

「魔法少女のコスプレをしたことがある男ってなんだそりゃぁ!!」

 

 借り物がイロモノに走りすぎた!?

 

 どういうことかと生徒会のテントに向けて聴覚を強化してみれば、向こうも慌てているようだがヤバい内容が入ってきた。

 

「会長! ワルノリしたときの内容と本命が入れ替わってます!?」

 

「・・・これは、どうしたものか」

 

 本当にどうしたものか。

 

 オイオイオイオイこれどうすんだ!?

 

 こんなところに猫耳つけた奴なんているわけが―

 

「兵夜ぁあああああ!!」

 

 俺に呼びかける子供っぽい声が聞こえる。

 

 振り返ってみれば、久遠に肩車されて目立ったナツミが、大きく手を振って俺をよんでいた。

 

 その状態は本来の猫娘モードで、必然的に猫耳が!!

 

「でかしたナツミぃいいいいいいいいい!!」

 

 よっしゃ勝った!!

 

「ほら、筋骨隆々の漢の娘の電話番号だ、つかえ」

 

「え? あ、どうも・・・」

 

 勝者の余裕で苦戦しているものに施しを与えてから、俺はナツミのもとへと駆けつける。

 

「よっしゃいくぞナツミ!!」

 

「うん! 運んで運んで!!」

 

 テンションが高くなったおれは、そのままナツミを抱え上げるとゴールへと向き直る。

 

「・・・頑張ってねー、ナツミちゃんー」

 

「っ! ・・・うん!」

 

 なにやら久遠に背中を押されているようだが、・・・つまりそういうことか。

 

 走るスピードを少しゆっくりにして、俺はナツミの言葉を待つ。

 

「・・・兵夜。あのね?」

 

「ああ」

 

「ボク、兵夜のこと、大好き」

 

「そっか」

 

()()()でも、()()()()でも大好き。ずっと一緒にいたい」

 

「そうか」

 

「・・・い、い、一緒に・・・」

 

 ものすごく顔を真っ赤にするが、それでも俺はナツミの言葉を待つ。

 

「・・・一緒に、いてもいい?」

 

 小さな声だったが確かに聞こえた。

 

 ナツミを抱えなおす。

 

 俵みたいな持ち方じゃなく、いわゆるお姫様抱っこだ。

 

「あ」

 

「思えばお前が一番最初にあった転生者(同類)だったよな」

 

 イッセーにあって俺は救われたけど、ある意味でこいつにも救われたんだよな。

 

 正しい意味で一人じゃないって確信できたのは、確かにこいつのおかげなんだから。

 

「俺も大好きだ。一緒だぞ、ナツミ」

 

「・・・うんっ」

 

 ・・・まさか泣かれるとは思わなかった。

 

 なんか照れくさくなったので全速力でゴールを突破する。

 

 さてどうやってこれをごまかすかと思った瞬間、首にナツミの手が回り―

 

「ん」

 

 ・・・え? あの? ちょっと?

 

『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『えぇええええええええええええええええっっっ!?!?!?!?』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』

 

 絶叫が響き渡るのも仕方があるまい。俺もすごく気持ちはわかる。

 

 なんでこんなところでキスしてんだお前ぇええええええええ!?

 

 顔を真っ赤にしながらもナツミはサミーマの表情でにやりと笑った。

 

「・・・俺様は自分の想いは馬鹿みたいに堂々と出す主義でな。都合がいいんでやらせてもらったぜ?」

 

 あのすいません俺の社会的信用を考えてください!!

 

「・・・宮白?」

 

 後ろから殺気。

 

 振り返ると、そこには阿修羅がいた。

 

 阿修羅、個体名松田は、静かに気をまき散らしながらこちらを静かに見つめる。

 

「お前が年下趣味だとは知らなかったぞ? エロいお姉さんとエロいことしまくってるし、桜花さんはお姉さんムードがあるからてっきり年上好みかと思ったのに」

 

「え、えっと」

 

「っていうか桜花さんどうするんだ? てめえイッセーに続いてハーレム状態とはいいご身分だな、オイ」

 

 やばい、静かのが非常に恐ろしい。

 

 これはあれだ、大津波の前の静けさ的なあれだ。

 

 に、に、逃げないと―

 

「えー? 私は現地妻志望だから何の問題もないよー?」

 

 久遠が爆弾投下したぁああああああ!?

 

「・・・・・・・・・・・・コロス」

 

 よし、逃げよう。

 

「捕まってろナツミ!!」

 

「え!? あ、うん!? なんかちょっと面白いかも!? カッハハハ!」

 

 微妙にサミーマ混じってるぞお前!?

 

 などといってる場合じゃない!? なんか他にも後ろから突撃してくる連中が増えてるぞ、オイ!?

 

『え、えっと・・・。と、とりあえずそろそろ二人三脚を始めたいと思うのですが―』

 

「アーシアどこだ!? ・・・あれ? どういう状況?」

 

 どうやらイッセーは復活したようだ。よかったよかった。これでアーシアちゃんも大丈夫。

 

 余計なトラウマ作ったんだし、運動会は挽回して楽しんでもらわないとな。

 

「イッセー頑張れよ! 俺はちょっと逃避行してくる!!」

 

「え? 宮白? ナツミちゃんと一緒にどこ行くんだ!?」

 

 全く状況がつかめていないイッセーだが、この状況下で説明している暇はない!!

 

「手前待てコラァアアアアア!?」

 

「そんなかわいい子にキスされた挙句、桜花さんを愛人とはどういうことだ!?」

 

「変態どもの友人は変態ってわけ!? 私たちの信頼を返して!!」

 

「血祭りにあげろぉおおおおおおおお!!」

 

 やっべえ本当に殺気立ってる!?

 

「しっかりつかまってろよナツミ!!」

 

「うん! 離さないからね!!」

 

 ぎゅっと抱き付いてくるナツミの柔らかさを感じながら、俺は全力で逃走を開始する。

 

 ああもう、モテるって大変だなオイ!!

 

 ・・・ま、ちょっと幸せだから納得してる自分もいるけどな。

 

 




ホーリー編終了。

ナツミは新たに人格スイッチというキャラを確立しました。・・・我ながらアクの濃い設定を追加したな。


































次からはラグナロク編に突入します。

ちなみに小雪編です。


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キャラコメ 第七弾!!

兵夜「はいはいホーリー編もキャラコメいくぜ? そして今回のゲストはMVP!」

 

ギャスパー「は、はい! よくわかりませんけどギャスパー・ウラディです! あの、本当に僕でいいんですか?」

 

ナツミ「もっちろん! ボクと同じでMVPじゃん? もっと自信もとう?」

 

兵夜「最近だいぶ長くなってるから、今回はできる限り巻いていくぜ? まあ今回短めだし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナツミ「ここでついに天使イリナが登場だけど、想定できたんだ、兵夜」

 

兵夜「まあそりゃな。ベルは教会内でも微妙な立ち位置だし、重要人物が多すぎだからな。三大勢力の地球での要所の一つとなっている以上、天界側のそこそこの人物を派遣するべきだ。指導者直属の天使とかな」

 

ナツミ「イリナも立派になったよねー。あれなのは変わらないけど」

 

兵夜「あれは一生ものだ、絶対治らん」

 

ギャスパー「ふ、二人とも辛辣ですね・・・。あとさらりと宮白先輩がカバーストーリーを説得力あるかたちで作ってます」

 

ナツミ「んでもって久遠がいきなりがっつり攻めるね。攻められると弱いけどがっつり行くよ」

 

ギャスパー「見てるこっちが恥ずかしくなってきました・・・。あとフォローが上手過ぎです桜花先輩」

 

兵夜「いろいろ苦労するが本当にいい女だよ。料理の腕もいいし」

 

ナツミ「ボクも練習するからね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ナツミ「でも兵夜も大変だよね、ディオドラなんかのことも気にしないといけなくて」

 

ギャスパー「最初から怪しんでたんですね」

 

兵夜「そりゃあ、魔王直系の血族が教会で大けがとか大騒ぎだろ。なんで部長が察してなかったかっていうと隠されてるからで、隠されてることは裏があるわけで。そうなれば俺の出番だ」

 

ナツミ「フィフスのせいで台無しだったけどね」

 

兵夜「いうな。泣きたくなってきた」

 

ギャスパー「でも、そんなときにベルさんとのフラグ立ててますね」

 

兵夜「ベルが俺に惚れた最大の要素がここで明かされたわけだ。すなわち自分より格上の存在に対する憧憬だな」

 

ギャスパー「でもすごいです。イッセー先輩に励まされる前から、つらい思いしてるのに頑張れるだなんて!」

 

兵夜「だからこそ、でもあるがな。まあ、暗闇の閉ざされてる中前に進むのは大変だから気にするな。俺の場合は暗さの質が違っただけさ」

 

ナツミ「十分すごいよ。ベルがあこがれるのも分かっちゃうなぁ」

 

ギャスパー「話を戻しますけど、アーチャーさんも勘付いてたんですね」

 

ナツミ「これはじょうきょーしょうこじゃなくて女の勘だけどね」

 

兵夜「まあ、FGOで証明されたが、一緒にするなというぐらいひどかったがな。・・・下はディオドラだぞ? 最終章見ろよ?」

 

ナツミ「みんなー。スマホ持ってないからようつべで見てるくせして、作者が兵夜にフォロー入れさせたよー」

 

ギャスパー「あ! 宮白先輩とディオドラのにらみ合いが勃発しましたよ!!」

 

ナツミ「完璧にディオドラが手玉に取られてるけどね!」

 

兵夜「なめないでもらおう。俺はこれでもこういう交渉は得意なんだ」

 

ナツミ「兵夜大活躍、だね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「そして桜花先輩の件でスキャンダルですぅ」

 

ナツミ「いよっ! モテてるね兵夜」

 

兵夜「勘弁してくれ。マジで勘弁してくれ。本当に疲れるから勘弁してくれ」

 

ギャスパー「さらりとおっぱいドラゴンのことを把握してる当たりすごいですけど、それを通り越して大変なことになってますね」

 

ナツミ「兵夜も苦手なことあったんだね」

 

ギャスパー「同感ですぅ。宮白先輩何でもできるものだとばっかり」

 

兵夜「冷静に考えろ諸君。裏社会で活躍する気満々だった男が、テレビに出演するなんて考えると思うか?」

 

ギャスパー「桜花先輩もさすがに反省してますね。でも、宮白先輩が背中押しちゃいましたけど」

 

兵夜「まさかあんな方向に吹っ切れるとは・・・」

 

ギャスパー「あとナツミちゃんはすっごくストレートですね。もうこの時点でハーレム受け入れてますぅ」

 

兵夜「イッセーに対してあたりがきつい割には、そこらへん寛容だな」

 

ナツミ「だって久遠も小雪もベルも大好きだもん! 好きな人が一緒になるのが一番だよね!」

 

ギャスパー「うわぁ、見てるだけで恥ずかしいです」

 

兵夜「・・・今日はオムレツだぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「で、レーティングゲームがいきなり台無しですが、ここまで読んでたんですか?」

 

兵夜「いや、アーシアちゃんの回復能力貴重だし、ディオドラはアーシアに固執してるからな。誘拐までは想定の範囲内だったんだが、まさかアーシアちゃん使って一網打尽の計画だったとは」

 

ナツミ「しかも発動できなくて大ピンチだね。え、これディオドラこれで倒せてたんじゃないの?」

 

兵夜「なんでこんな小物と相打ちしなければならないんだ」

 

ギャスパー「でもオーディン様のおかげでギリギリセーフでしたね。この人いい人です」

 

兵夜「甘く見たらいかんぞギャスパー。北欧神話もギリシャ神話も調べてみるといろいろやらかしてるからな。まったく、考えなしのアンチは少し考えた方がいい。・・・あくまで厳罰もしくは試練の聖書の方がましだっつの」

 

ナツミ「そんなにやってんの?」

 

兵夜「調べてみろ。ドンビキエピソードがいくつかあるぞ」

 

ギャスパー「それにしても完全に圧倒してますね。ディオドラってドーピングしてたんですよね?」

 

ナツミ「っていうか試合開始前に毒盛る普通? よくとおったねこんな作戦」

 

兵夜「俺の手腕を甘く見ないでもらいたい。といっておこうか。第一偽聖剣の性能からしてこの程度の敵に苦戦してたら笑い話にもならない」

 

ナツミ「でもイッセーたちはフィフスのせいで苦戦だね。しかもばらしてるし」

 

兵夜「俺の努力が! 俺の努力が無駄に!!」

 

ギャスパー「一杯仕事したのに大変ですね、頑張ってください」

 

ナツミ「んでもってお仕置き中断して兵夜が助けに来たけど、十分すぎない?」

 

兵夜「はっはっは。ナツミちゃんや? 魔術師(メイガス)の非人間性をなめたらだめだよ?」

 

ナツミ「怖いよ兵夜」

 

兵夜「まあそれはそれとして、観客席の方の戦闘はたやすく終了。サイラオーグ・バアルまでいる状況下では敵の分が悪かったか」

 

ナツミ「でもさ、ホントあそこでピンチ見たときは怖かったよ。がくえんとしのぎじゅつってすごいんだね」

 

兵夜「加えてフィフスたちも技術協力してるからな。アサシンの方も強化してるしいやあマジピンチ」

 

ギャスパー「すごい発想ですね。すごい乗り物でサーヴァントを強化だなんて」

 

兵夜「騎乗スキルの特性、「乗り物という概念に対応するから乗ったことなくても対応可能」を生かした妙案だろ? んでもってナツミの覚醒なんだが・・・」

 

ギャスパー「べ、ベルさん怖すぎですぅ。天然って恐怖を生むんですね」

 

ナツミ「いやぁ、あれはマジで死ぬかと思ったぜ」

 

ギャスパー「うわぁ!? ナツミちゃんがサミーマモードに!?」

 

兵夜「お前いきなりだな」

 

ナツミ「いいじゃねえかよ。ここが見せ場の一つなんだぜ?」

 

兵夜「まあ、これのおかげで逆転スタート。こっからナツミの本領発揮なわけだが」

 

ギャスパー「イッセー先輩も覇龍を覚醒させてシャルバ・ベルゼブブに対抗しましたけど・・・」

 

ナツミ「本当にあのバカおっぱいで動くよな」

 

兵夜「まあ、乳首つついて覚醒したならこれぐらいやってもおかしくないが。原作では覇龍の暴走を乳首つついて解除したし十分あり得る。そしてそれよりも」

 

ナツミ「やったじゃねえかギャスパー! さっすがMVP!」

 

ギャスパー「え、えええええ!? で、でも結局生きてましたし・・・」

 

兵夜「今回の下手人叩きのめす功労者だ。ある意味イッセーより活躍してるぜ?」

 

ナツミ「ったくだ。少しは自信持てよ、ギャスパー」

 

ギャスパー「は、はずかしいですぅううううう!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナツミ「それで、ディオドラの眷属って結局どうしたのさ?」

 

兵夜「まあ一応面倒は見てるぞ? 外伝作品とか出す時が来れば一人ぐらい出てくるかもな?」

 

ギャスパー「ディオドラは徹底的に痛めつけたのに、なんで眷属の皆さんはそんな扱いなんですか?」

 

兵夜「あれはディオドラに操られているようなもんだからな。あの手の子たちは判断能力がおかしくなってるし、少しぐらいは手心入れるさ」

 

ナツミ「あれで?」

 

ギャスパー「少し?」

 

兵夜「はいそこ反論は受け付けません。そして何より最悪なのが・・・」

 

ギャスパー「ああ、キスシーンはいりましたね。・・・運動会の一位のゴールで」

 

ナツミ「注目度抜群! いえーい! みんな見てるー?」

 

兵夜「みられすぎなんですけど!? おかげで俺、今でも時々夜襲受けてるんですけど!?」

 

ギャスパー「最近開き直ってませんでしたっけ?」

 

兵夜「思い返すと思うところあるの!!」

 

ナツミ「ぶぅぅ。一緒って言ったじゃんかぁ」

 

兵夜「だからってこれはないだろうに・・・」

 

ギャスパー「イッセー先輩も似たようなところがあるのに、なんでこんな違いが出てきてるんでしょうね・・・」

 

兵夜「アプローチの方法の問題だ。つまり姫様たちは馬鹿なのだ」

 

ナツミ「うわばっさり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「まあそういうわけで、俺の社会的信用がズタボロになったところでホーリー編終了」

 

ナツミ「次は小雪の番だね! うっわぁ楽しみ!」

 

ギャスパー「か、かかか神の相手だなんて怖いですぅ」

 

兵夜「安心しろ。相手するのは俺とイッセーだから」

 

ナツミ「そういうわけで次回もよろしくね♪」

 



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放課後のラグナロク
親友、ヒーローです!


ラグナロク編突入。


英雄派はこの作品でも絶賛暗躍中ですが・・・。


 乳龍帝おっぱいドラゴン。

 

 読んでわかると思うが、イッセーがモデルになったヒーロー番組だ。

 

 主題歌で堂々と書き記されているようにおっぱい大好きなヒーローが悪の軍団を相手に戦うという、エロがヒューチャーされている以外は結構王道なヒーロー番組だったりする。

 

 ちなみに主題歌はアザゼルにサーゼクスさまにレヴィアたんという豪華の方向がおかしいメンバーだったりする。

 

 アンタら何やってんの!? 政治のトップが子供向け番組の歌作るなよ!? そういうのは後でマニアにたたかれるって相場が決まってるんだよ!

 

 とはいえ冥界では大ヒットしており、すでに莫大な金が動いているレベルだ。グレモリーの将来は明るい。

 

 そして公式ファンクラブもとっくの昔に誕生。子供向けなので入会費もないのであっという間にもう三桁。ちなみに俺は把握した瞬間にスライディング土下座で会員ナンバー0番を確保している。抜かりはない。

 

 まあそんな大人気番組が放送されているわけだが、ある一点において非常に突っ込みを入れたいところがある。

 

 ・・・子供向け作品のくせしてお色気描写がひどい。

 

 まあ『おっぱい』ドラゴンなんてまんまな名前なのだから仕方がないといえば仕方がないのだが、なんというかいろいろとひどい。

 

 特にひどいのが部長ベースのキャラクターだ。美候がイランこといったのをアザゼルが聞きつけた結果、ついた名前がスイッチ姫。

 

 文字通り、おっぱいドラゴンの起動スイッチと化している。胸が。

 

「・・・うん、これが冥界でチートクラスの人気番組になるんだから、冥界はいろいろと諦めたほうがいいよな」

 

 胸触って処刑用BGM流すおっぱいドラゴンの雄姿を見ながら、俺はポツリとつぶやいた。

 

「きわめて同意です」

 

 煎餅食べながら小猫ちゃんも同意してくれる。まあこの子はエロには厳しいので納得してくれて助かる。

 

 いつの時代のアニメのノリなんだよオイ。もう少しこうマイルドにしろというか、せめてこうファンタジー映像みたいに胸の奥から輝く光が飛び出してパワーアップモードとかなかったのだろうか。

 

 一言、ひどい。

 

「・・・最近、冥界の文化はある程度諦めて考えたほうがいい気がしてきたわ」

 

 アーチャーも優雅に落雁を食べながらそう漏らす。

 

 俺も正直諦めてるところはある。たとえ最上級悪魔になったとしても、基本的には人間界で暮らすことにしよう。居続けるとなんていうか致命的な事態に陥りそうだ。

 

「でもイッセーの鎧にそっくりだねコレ。ボクも着てみたいけど作ってくれないかな?」

 

 ナツミが俺の膝の上に頭を乗せながら、ポリポリとかりんとうを口に運びつつそう漏らす。

 

 確かに変身セットとか作って売ったらものすごい売れそうだな。・・・たぶんもう製作していると思うが提案してみるか。もしかしたらアイデア料が手に入って研究資金が増えるかもしれん。

 

 と、いうか最近ナツミは俺の膝上にもたれかかるのがポジションになってきた気がする。

 

 小猫ちゃんもイッセーの膝の上に乗ることが多いし、何というか家の猫属性は膝が好きなのだろうか?

 

「しっかし昔は一緒にヒーローごっこしてたイリナが、今は神に仕える美少女天使なんだから、世の中は分からねえよなぁ」

 

「ちょ!? い、イッセーくんってばナチュラルに口説かないでよ! ああ、堕ちちゃう!?」

 

 そしてイッセーのフラグ構築能力がやけに悪化している気がするんだがどうしたものか。

 

 イリナもちょっと褒められたぐらいで堕天するなよ。

 

「・・・冥界を、歩けないわ」

 

「あらあら。リアスったら子供たちに大人気ですのにそんな反応なの? 私も出演したかったのに」

 

 顔を真っ赤にさせている部長に、朱乃さんがそう茶化す。

 

 実際モデルになってるのはオカルト研究部でもそこまで多いわけじゃないからな。

 

 ヒーローイッセー、ヒロイン部長。イケメン敵役に木場。そしてマスコットに小猫ちゃん。

 

 俺はやり口が汚いので出演は断っている。なんでも二号ライダーポジションを進められたのだがさすがに不味い。

 

 子供向け番組で、汚い外道戦術を見せるわけにもいかないだろう。俺だってその辺の分別はある。イメージ戦略は重要だが実際やるのに下手に取り繕うのはさすがに不味いだろう。

 

 とはいえこんな風に頑張れるのも、世の中が平和なおかげだろう。

 

 まあ世の中は一歩裏を行くと大変なことばかりで、最近は俺も死にかけたんだがな。

 

 おかげで罰ゲームを受けて大変な目に合った。

 

 そしてそれはイッセーも同じだろう。

 

 とんでもない手段かまして心配させたのはイッセーも同じ。と、言うわけで。

 

「あ、イッセーの罰ゲームそろそろ決まったぞ~」

 

「マジで!?」

 

 おいおい何を驚く親友。

 

 お前どれだけ人を心配させたと思ってるんだ?

 

「とりあえず罰ゲームの内容と執行者を書いた紙を用意させてもらった。今から引くからお前内容守れよ?」

 

「ちょ、ちょっと待て! それ大丈夫だよな!? ヤバいやつ書いてないよな!?」

 

「ハイ、一枚目~。・・・朱乃さんが担当かぁ。こりゃ期待できるだろうなぁ」

 

「宮白ぉおおおおおおおお!?」

 

 イッセーが絶叫を挙げるが、構わず二枚目を引く。

 

 しかしドSな朱乃さんが引くことになるとは、こりゃ内容によってはさすがに悲惨な・・・ことにはならんな。

 

 そして俺は二枚目を開き・・・。

 

「え? デート?」

 

 思わぬ想定外の一枚を引いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人気のない廃工場で、ボロボロの人間が何人かぶっ倒れていた。

 

 意外と服装に統一感がないのだが、しかし一つだけ言えるのは、こいつらが悪魔でも天使でも堕天使でもほかの神話体系の存在でもなく、あくまで人間だということである。

 

 わかりやすく言えば英雄派という禍の団の派閥の構成員だ。

 

 どうも英雄派は神器所有者を誘拐しては洗脳して、こちら側の施設や重要地点に送り込んで戦闘を行っているらしい。

 

 洗脳した使い捨ての駒を使って情報収集とかやることがえげつない。・・・と言いたいところだがそれだけでもないだろう。

 

 どうも毎回投入される戦力はそこまで多くない。どうせ仕掛けるならある程度の勝算も必要だろうし、何度もやるならもう少しやり方だってある。どう考えても非効率的だ。

 

 おかげでアーチャーは捜索のために出ずっぱりだ。今度何かあったら美味い飯でも作ってやらないとな。

 

 まあここに来たのはこれが二回目だが。

 

 なにせ駒王町はアーチャーの協力によって超凶悪な防衛設備へと作り替えられている。

 

 敵対する側の存在が許可もとらずに侵入すれば即座に呪詛がかかって、頭痛腹痛筋肉痛がフルコースでプレゼント。加えて幻覚と幻聴がかかってそれどころじゃない。挙句竜牙兵のフルコースで拘束されるので、戦闘など相応の実力者じゃない限り不可能だ。少なくとも俺だったら五分で潰れる。

 

 なら機械で来ればいいじゃないと言いたいところだがそうでもない。

 

 うちのメンバーは対科学を視野に入れた魔術も研究しており、カメラの画像やセンサーの干渉程度なら、ある程度できるようになっている。アーチャーに至ってはハッキングぐらいならできるようになってきたし、呪いの媒体としてコンピュータの使用なども可能とし始めている。

 

 とどめにアーチャーがいた場合はこれに遠隔魔力攻撃が追加される。まともに対抗するには呪詛の対策を万全にした対抗力の非常に強いメンバーを大量に導入する必要がある。

 

 まあ、そんなことを初回でヤられれば敵も手をこまねくと言うもの。

 

 今回は、どうやら呪詛封じの能力やら満載の連中で構成された神器所有者で突撃したらしいが、ベクトルの違う魔術に対抗するには力が足りなかったらしい。

 

 まあ、この世界の魔法使いの技術などに対する迎撃ベクトルはすでにアーチャーが構築しているので結構楽に対処できるのだが。俺でも下層クラスの連中が相手なら数十人がかりの集中砲火なら無力化できる自信がある。

 

 ・・・魔術回路という独自の能力を利用し、ほかの魔法体系に対して優位に立つシステムを作り上げるとか、うちのアーチャーさんは本当に超人です。おかげで組織の注目率はうなぎのぼりに上昇しておりますですはい。

 

 ほかの連中よりも魔術師(メイガス)が有利なのは、魔術を使うために魔術回路が必要だということだ。

 

 この特性を解釈発展することで、ほかの魔術体系を使うために有利な魔術回路を作成できないかという研究もおこなわれている。

 

 これができるようになれば、魔術師(メイガス)は他の魔術体系に対してより強力に運用することができる存在となれるだろう。

 

 ・・・おっと話が逸れた。

 

「・・・どうやら一人も動けないようね」

 

 俺の後ろからアーチャーがやってきて、倒れている連中を観察する。

 

 その眼には眼鏡がかけられているが、これは別に視力が悪くなったわけじゃない。

 

「それで? そいつらにも付いてるのか?」

 

「ええ、しっかりと巻き付いてるわね。早く解かないと死ぬんじゃないかしら」

 

 割と平然に言ってくれるが、しかしこれは重大な話だ。

 

 どうも襲撃してくる連中は、オーフィスの蛇を神器に巻き付けられているらしい。

 

 神器が壊れると所有者は死亡するというのにもかかわらず、暴走レベルにまで引き上げているとか正気の沙汰じゃない。さすがテロリストと言いたいが、お前ら英雄の誇りとか無いの? 反英霊の間違いじゃねえか?

 

「スマンが処置を頼む。・・・今日の夜食のリクエストは?」

 

「昨日テレビで見たピカタとかいうのを食べてみたいわ。それと久しぶりにエールが飲みたいから用意しなさい」

 

「アイアイマム」

 

 ・・・苦労を掛けさせまくるアーチャーに報いるためために料理のレシピを練りながら、俺は思考を加速させる。

 

 さて、英雄派はどう動くのか?

 

 




駒王町はアーチャーのおかげで平和です。

そして英雄派の外道行為もある程度ですが抑えられてます。Fateを知っている方ならピンとくると思いますが、アーチャー大活躍の回です。例のアレがちゃっかり大活躍しております。



















それと、結構進んだので欲望を抑えきれず外伝を作ることにいたしました。

本編では出せないような特殊なギミックなども出すのでお楽しみください。まあ、テンション任せなので更新は不定期になると思いますが(笑)

D×Dはイッセーたちが基本何とかしているので大抵完全なハッピーエンドで終わりますが、こちらは基本的にほぼバッドエンドのzeroなので、ウロブッチーの呪いに兵夜たちがイッセーのパワーを借りずに立ち向かうことになります。

そのためちょっとシリアス度が増すかもしれませんが、しかしオリジナルキャラクターも出して大きく揺れ動かすつもりです。

Fateを知ってる読者の方々は、ぜひ見てきてください!! 感想待ってます!!


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セカンドデート、大騒ぎです!?

活動報告もポンポン出てきて、作品の筆の進むもいいと最近は調子がいいです♪




今回は感想も大量でちょっとテンションアップ!


 イッセーと朱乃さんがデートする。

 

 その辺は別に何の問題もないだろう。

 

 イッセーはこれを罰ゲームだと真剣に認識している。ゆえにこれが朱乃さんにとって待ちに待った展開などとまでは考えないはずだ。

 

 ならばデートの一つぐらいで変な化学反応を起こすことはないだろうし、俺としては少しぐらい役得があってもいいとは思うからぜひ楽しんでほしい。

 

 とはいえ、デートでボルテージが上がった朱乃さんがイッセーに過剰にアプローチするのはマズイ。

 

 最近のイッセーラヴァーズ接触行動は正直言って目に余る。

 

 アーシアちゃんがついに本気キスをして本格的にスイッチが入り、小猫ちゃんもなんというか、二大お姉さまとかの影響を受けてエロエロ方面にスイッチが入っている。

 

 ・・・正直二三年様子を見ればいいと思っていたが、カウンセラーを紹介したほうがいいんじゃないだろうか? 今度アザゼルに相談してこの手の専門家を紹介してもらおう。もとはといえばあいつのせいだし、基本的に面倒見がいいから断るまい。

 

 さて、問題は―

 

「朱乃のデートの邪魔しやがって! ファックどもがこうなったら撃って―」

 

「やめろ小雪」

 

 この暴走しかけている小雪を止めることだ。

 

 正直、このデートは陰ながら支援しようと思って舎弟どもを呼び出してサポート準備は行っていたのだが、早朝に小雪に叩き起こされてサポートする羽目になった。

 

 悪魔の依頼ということで、報酬として缶ビール4ダースにつまみのビーフジャーキーをつけ、さらに諸経費はすべて負担すると言い切っているので人はいいのだが。

 

 そして同時に行動する連中が数名。

 

 ・・・部長にアーシアちゃん? 変装って言葉の意味理解してる? 目立つんだよ金髪はもちろん紅髪は。そもそも君ら美人すぎるから注目集めるから。せめて髪型を変えろ。というかオーラ出しすぎて隠せてないよもう直接出てきて邪魔しろよ!

 

 さらに覆面レスラーやら紙袋やら出てきてもう大変。こいつ等マジでボケ倒してる。と、いうか木場に至ってはところどころイッセーに謝るジェスチャーをしてるあたり最初から諦めめてる。

 

 ・・・こいつ等、せっかくのイッセーのセカンドデートをどうするつもりだオイ。

 

 あと30分待ってこの調子なら、ちょっと待機している連中を動かして足止めするか。

 

 幸いデートプランの組み立てにはかかわっているから、先手をとってすでに人員を配置している。百人ぐらい動かしてるから、必要経費の補填は正直助かる。

 

 ・・・まあ回転寿司食い放題と日給五千円で動かしてるからそこまでかからんだろう。百均だし。

 

 とはいえこれ以上騒がしいとさすがにセカンドデートも微妙になるな。一回目がアレすぎるし二回目はもっと楽しんでほしかったんだがどうしたもんか。

 

 かといってエスカレートしすぎるのも余計なトラウマの起爆剤になりそうで怖い。この辺ラブホテル街も多いみたいだし。

 

 朱乃さんって意外と乙女というかテンション高くなるところもあるからなぁ。勢い余ってついベッドインとかありえそうで怖い。

 

 なまじ黒髪ロングの美人堕天使とレイナーレと被るところがあるからな。それゆえに一番治療法としては効果覿面なのだが、反面刺激も強いという諸刃の剣だ。療法は的確に運用しなければ危険すぎる。

 

「・・・ある程度刺激があるとイッセーのためにもなるが刺激がありすぎると逆に悪化しかねないし。朱乃さんには悪いがイッセーのことを考えるとその辺うまく制御しないといけないんだが」

 

「ファックファックファック・・・。最近出遅れてるし、ここらでイッパツしけこんで順位上昇を狙ってたのに!」

 

 オイマテ。

 

 お前今なんて言った。

 

「こらこら小雪さん? あんた女子高生に何を無茶なこと言ってんのかなぁ? まだ高校生なんだから無茶をいうなって」

 

「てめーがいうな経験豊富野郎が。どうせ前世でも経験豊富だったんだろうが」

 

「あいにく童貞の反動でブーストかかったんだよ」

 

 ・・・童貞のまま死んだというのはアレな感情だった。

 

 ああ、だから鍛えに鍛えに鍛えまくって努力しましたとも! ありとあらゆる手段をもってして鍛えまくってヤリましたとも!!

 

 おかげで最近では初体験するなら安全でお得という評価までいただいております。いや、初物食ったことはまだないけどね? そういうのはさすがに断るし。

 

 まあそういうので捨ててもいいというやつにそれを言うのもなんだが、やっぱり初めてってのは重要だと思うんだよ。俺だって万が一の恐怖がなければ恋愛で捨てたかったさ!!

 

 ・・・え? ナツミと久遠はって? いや、こういうのはやはり順序とか必要だと思うんだよ。エロゲーじゃあるまいし出会って数か月でエロスとか駄目だと思うんだよ俺は。もっとこう、それなりに経験を積んでからにするべきだと思うわけでしてね?

 

「あーそうかい。生憎あたしはむしろ前世(そっち)のほうが経験豊富でな。そりゃあもう数えてねえけど軽く50ぐらいは・・・」

 

「よし勝った。おれ現時点でもっといってる」

 

 努力とコネクション形勢に一貫をもって行動した俺のエロ経験舐めるな!

 

 多少のアブノーマルも経験済みだぜ!

 

「別に羨ましかねーけどな。なんていうかあれだ、裏社会的な鬼畜エロゲ―みたいなあれだし? 他の連中は乗り気だったけどよ?」

 

「・・・・・・・・・ゴメンナサイ」

 

 重かったぁあああああああ!?

 

 少なくとも、勝ったとか言っちゃいけないたぐいの話だった!!

 

 だが、小雪はとても冷静だった。

 

「別にいいんだよ。そういうくだらねー世界で生きたいと思ってるなら、使えるモン使わなきゃやってらんねーからな。・・・薬品的なもんも使ってっからまあ、気持ちよくなかったかと言われたらそりゃもうスゲーし。学園都市の技術力半端ねーから」

 

「そんな方面でも大活躍かよ。あの歩行砲台も流用品だとかいうし、シャレにならねえな」

 

 どんだけ様々なジャンルに手を出してんだ学園都市。

 

「・・・そんな化け物技術の塊の研究者のトップクラスが、寄りにもよって禍の団に手を貸してんだ。あいつらの技術は上級悪魔だってタダじゃすまねーぞ。人間性も欠片もねーしな」

 

 相応にすごいのか、小雪は目を瞑ると額に手を置いた。

 

「Gに人間の肉体が耐えられないなら冷凍すればいい。五感に干渉することができないなら、音だけで五感に影響を与える音楽を作ればいい。挙句の果てにゃー機体そのものが搭乗者に動かし方を叩き込むといった真似までできる。表に使える技術だけでもそんぐれーはあるんだよ」

 

 ・・・想像以上にシャレにならない化け物兵器の群れだってことはよくわかった。

 

「そんな化け物どもが本気を出せば、これまで以上に激しい戦いになる。・・・幼馴染に息抜きぐらいさしてやりてーんだよ」

 

 ・・・確かに、そりゃ非常にやばい内容だな、おい。

 

 こりゃ本腰を入れてデートの支援をしたほうがよさそうだ。

 

「よっしゃ! ちょっと部長に連絡入れて邪魔だから帰るように言うとするか! 携帯携帯―」

 

「やべー走り出した!?」

 

 なんだとぉ!?

 

 あわてて視力を強化すれば、確かにイッセーたちが走り出している。しかも部長たちまで慌てて走り出した。

 

 完全に撒くつもりじゃねえか! まあ気づいて当然だけどね!?

 

「お、俺たちも追いかけるぞ!!」

 

「どうすんだよ!? 撒くつもりだったら出遅れたあたしらがどうやって追いかけるんだよ!?」

 

「オカルト研究部の携帯は全部GPSついてるから位置補足は可能だ!」

 

 万が一を警戒して相応の準備はしている!

 

 多分、部長は忘れてるだろうけどね!?

 

 ふはははは!! 魔術研究の強化発展によって、俺たちは新たなる力を手に入れた。

 

 それは、魔術による電脳関連への干渉能力!!

 

 まだ実験段階の代物でしかないが。一部を皮膚に接触さえしていればスイッチを押すことなく操作できるし、使い魔の視覚共有の応用でモニターの映像を見る程度のことは普通にできる!!

 

 これらを応用発展させていけば、いずれコンピュータとの接続による機械兵器のリアルタイムコントロールはおろか、常人をはるかに超えるハッキング能力の確保だってできるはずだ!!

 

 それによって俺の左目には端末の映像が一目でわかる。イッセーと朱乃さんの位置は把握済みだ!!

 

 ってやばい!

 

「ラブホテル街に突入してるぞ! ムードが高まってベッドインとか有り得そうで怖い!!」

 

「よっしゃ! 赤飯用意すりゃーいいんだな!?」

 

 お前ちょっと黙ってろ小雪!!

 

 いかん! それはトラウマブレイカーになる可能性もあるがトラウマブースターになる可能性もある諸刃の剣!!

 

 今の段階でそこまでする必要はないから落ち着けイッセー!!

 

 あわてて全力でラブホテルの屋上をパルクールする俺の目に、ある光景が映った。

 

 ・・・明らかにがたいのいい大男に腕をつかまれてる朱乃さんの姿。しかも眼鏡で確認する限りちょっとシャレにならないぐらい高い異形側の存在。オーラがヤバい。

 

 俺はビルの屋上からジャンプしながら、袖口に仕込んだ魔術礼装を起動させる。

 

 簡単に言えばワイヤーガン。投影魔術の応用でワイヤーを無限生成し、さらに接着能力を高めた逸品だ。

 

 偽聖剣があれば必要ないアイテムではあるが、街中などの使いづらい場所においては保険として重要だろう。

 

 それでスパイ●ーマンバリのアクションをしながら、俺は落下の勢いをうまく利用して跳び蹴りを叩き込んだ。

 

「む? できるな」

 

 男はあっさりと受け止めるが、さすがに衝撃を全部殺しきれず飛び退る。

 

「宮白!? なんでここに!!」

 

「イッセーは朱乃さんを連れて下がれ! ここは俺が引き受ける!!」

 

 本領が赤龍帝の鎧なイッセーじゃ目立ちすぎる!! ここは俺が足止めを引き受けるのが最適か!

 

 ええい! 街中で朱乃さんを狙うとは下種な男め! オカルト研究部員を代表して俺が叩きのめして―

 

「何やってんだファァアアック!!」

 

 後頭部に蹴りらしき衝撃!?

 

「ホガァッ!? な、何をするんだ小雪!?」

 

「こっちのセリフだファック野郎!! そいつ朱乃の親父だぞ!?」

 

 ものすごい慌てていた小雪の言葉を頭の中で整理する。

 

 朱乃さんの、親父。

 

「似てな!?」

 

「そっちじゃねええええええええっ!!」

 

 今度は首に回し蹴りが入った。

 

 ・・・完璧に人殺す蹴り方なんだけど。こいつ実は暗殺専門のスペシャリストなんじゃねえか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ大体どういうことかというと、なんでも北欧の主神オーディンの護衛だったらしい。

 

 ついでに前にもあったロスヴァイセさんもお付きで来ていた。こんな美人のお付きがくるとは、ヴァルハラは人材が豊富なようだ。

 

 で、目的は日本の神話体系と接触する前の観光。そのための護衛として俺らが選ばれたらしい。

 

 まだガキな連中を護衛につけるとは、冥界は人材不足のようだ。

 

 とはいえこれに成功すれば相応の成果になる以上、こちらとして本気で取り組むしかない。

 

「・・・と、いうわけで持て成しのつまみの試作品なジャーマンポテトだが、うまいか?」

 

「うん! 美味しい!! さっすがご主人!!」

 

 ナツミが喜んでいるようで何より。

 

 ちなみにアーチャーの分は全く別に用意してある。神嫌いなだけあってアーチャーは研究に本筋を入れるようだ。あとで差し入れを持っていってやらなければ。

 

 と、ジャーマンポテトをがっついていたナツミだが、その表情が荒々しいものに変わる。

 

「・・・で? どうすんだよご主人? なんか対策はあんのか?」

 

「まあそれは大変なんだよなぁ? 明らかに問題だらけというかなぁ」

 

 最近サミーマとナツミの人格のスイッチを、半ば遊び感覚で習得してしまっていろいろと驚くことがある。

 

 どちらかに固定するのではなく気分で使い分けることで、アイデンティティの一種としたようだ。まあ、あまり見ないレアリティではある。

 

 実際どっちもかわいいので俺としては好都合ではある。

 

 しかも記憶が蘇がえったことでいろいろとキレるようになり、微妙に多重人格になっているのか情報処理能力が向上して最近秘書的な役割までこなせるようになるなどもう最高! 俺の使い魔は最強なんだ!!

 

 で、ナツミが言った内容は大変だ。

 

 禍の団英雄派が、禁手の使い手を増やしている。

 

 最近の英雄派による襲撃はそれが狙いだ。

 

 なんていうか、初心者に難易度高いステージを無理やりぶつけることで発展を促そうとか言う、とんでもなく乱暴な方法でやっている。

 

 禁手の発動に精神的な転機が必要であることを考えれば確かに効果的な手段ではあるのだろうが。洗脳して強制的にやるなんて手段、テロリストじゃなければ他の勢力の一斉に叩かれる。まさにテロリストだからこそできるような反則じみた方法である。

 

 とはいえ洗脳で操っている奴を動かしているという法則上、洗脳を解くことができれば逆に味方にできるという利点が存在するからそこは何とかなるだろう。

 

 洗脳した連中を強化するなんて諸刃の剣だ。それやり方次第ではむしろ敵を増やしてしまいかねないということだ。

 

 まあそもそも、戦闘しながらそれをするのが非常に難しいからこそ奴らもやっているわけだが。

 

 とはいえ、とっ捕まえさえすれば何とかすることはアーチャーが可能だったから、おかげで最近は引っ張りだこではある。

 

 敵もまさかアーチャーの能力は想定外だっただろう。宝具は明確な物品だけではなく、伝承が結晶化することによる追加機能などもあるから非常に厄介だ。味方でよかった!

 

「馬鹿英雄派どもはその辺わかってやってのかねぇ? 気にならねえか、ご主人」

 

「案外うっかりしてるかもな。蛇は禁手に至らなければ死ぬような危険な設定だったし、一切気にしていない可能性だって十分にあるぞ」

 

「カッハハハ! だったら案外やり返せるかもな? アーチャーなら何とかなるんだろ? 英雄派と遣り合うときは普通に出張ってもらったらどうだよ?」

 

「戦局次第じゃそうするかね」

 

 ・・・戦闘について真面目に話せるのはすごい助かるな。俺の使い魔は一気にグレードアップしてくれて非常に嬉しい。

 

 と、ちょっと物思いにふけってたらナツミが普段のモードに戻って俺をじっと見つめていた。

 

「なんだよ一体? なんかついてるか?」

 

「んーん? 真面目に考え事してる兵夜はやっぱりかっこいいなーって」

 

 ものすっごいニコニコされるとなんか照れる。

 

「これからもカッコいいとうれしいな~。あ、ボクもかわいくなるからもっと見てね?」

 

「え・・・あ・・・はい」

 

 なんか反応しずらくて視線を逸らしてしまう。

 

 ・・・よし、ちょっと頑張るか!

 

 



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お父さん、傷心です!

今回も感想がいっぱいだったぜ☆



外伝作品もよろしくね! 感想待ってます!!


 

 と、思った瞬間に忙しくなってきた。

 

「ほ、ほらバラキエル! どうせ今のオーディンにはアザゼルがついてんだから、明日に残らない程度に呑んで忘れようぜ!!」

 

 肩を落とす大男と、それを慰める男勝りな少女。傍から見れば父親を慰める娘の構図だが、残念なことに親子ではない。

 

「・・・まあ我らがお姉さまのお父さんとなれば歓迎させていただきます。ほら、これ一本20万円!」

 

 かなり本気で落ち込んでるようなのでこちらも本気で持て成そう。つまみは何がいいかな?

 

「あの兵藤一誠という男、朱乃の乳を食ったりせんだろうか?」

 

「食わねー食わねー。そんな度胸ねーから安心しろ」

 

「そうです! 人肉食に興味はない男ですから安心して!」

 

 と、いうかどんな誤解してるんだこの人? おおかたアザゼルあたりがいらんこと吹き込んだんだろうが実に迷惑だ。

 

 堕天使バラキエルは酒を口にしながらつまみも運ぶが、その表情はやはり暗い。

 

 ・・・どうも朱乃さんと口論になってしまったそうだが、その原因がイッセーを危険視してのことだ。

 

 欲望に負けて堕ちた堕天使ならイッセーを意気投合してもおかしくないのだが、この人なんで堕ちたんだろう?

 

「小雪から朱乃の身の回りのことは聞いているが、しかしやはり心配だ。・・・言ってはなんだがラブホテル街で鼻血を出しているなどスケベすぎるとしか思えん!」

 

 ・・・イッセー。だからなんでお前は俺をもってしてもフォローできないことをするんだいったい。

 

 そんなのが愛娘と一緒にいるところを見れば確かに不安になっても全くおかしくない。一言言おう、馬鹿すぎる。

 

 とはいえ朱乃さんはそんなイッセーにベタ惚れだから、危険視されれば逆に敵視してしまうというもの。

 

 ただでさえ嫌悪していることもあって、相当やばい展開になっているようだ。

 

「・・・ねえねえ、そもそもなんで朱乃って堕天使嫌いなの?」

 

 ナツミがすごい聞きづらいことを聞きやがった。

 

 思わず視線をそっちに向けるが、ナツミは俺にしか見えない位置でウインクする。そしてその手にはメモが。

 

『俺様が情報聞き出してやるから、フォローは任せた』

 

 なんていい子! これならいけるか!?

 

「いや、見えてるぞ?」

 

 後ろから小雪のツッコミが入った!

 

 台無しだった。

 

「・・・まあいいだろう。君たちには知る権利がある」

 

 酒を呑みながら、堕天使バラキエルはそう呟いた。

 

 それを聞いて、小雪はため息をつくと酒を片手にソファーに座り込む。

 

「じゃーせめてあたしが話すよ。あんな話、自分から話すこたーねーだろ」

 

「いや、お前だって―」

 

「いいから。アンタより客観的に話せる自信はある」

 

 つまみのから揚げを一口で食べると、小雪は天井を見ながら過去を語りだす。

 

「まあ、出会いはよくあるラブロマンスなもんだ。ある日、退魔の一族の名家であった姫島朱里という女性は、負傷した堕天使であるバラキエルを匿った」

 

 そして、2人は恋に落ちた。

 

「姫島の家からは反対されながらも、しかし二人は共にいることを選び、本家からは離れて暮らし始めた。愛し合う二人には子供ができ、その子は2人のできた親のおかげでとてもいい少女に育った」

 

 それはわかる。ドSだけど朱乃さんいい人だからな。

 

 育ちの良さも感じるし、いい親に育てられたんだとは思っていた。

 

「あたしが朱乃とあったのもその頃だ。・・・エロに忠実だがお人好しな親父が、サポートのために家族ぐるみでそっち来てな」

 

 そのころを思い出を思い出しているのか、小雪の表情は柔らかい。

 

 だが、その表情は一瞬で暗くなる。

 

「最悪なことに、本家はそれを黙ってみているつもりはなかったってわけだ」

 

 異教の存在でしかも悪徳側である堕天使が、自分たちの血筋と関わるなど我慢できなかったらしい。

 

 とはいえ堕天使の中でも最上級のバラキエルを敵に回してただで済むわけがない。刺客はあっさり返り討ちになったそうだ。

 

「だが、コテンパンに伸された連中はファックな手段で報復しやがった」

 

 堕天使と敵対する組織に情報を提供する。・・・まあよくある手段だ。俺もたまに使う。

 

 とはいえ使われた側はたまったもんじゃない。

 

「運の悪いことに、バラキエルはたまたま自分じゃなきゃできない仕事があって出張っていた。・・・そして親父じゃ荷が重い相手だった」

 

 強く目を閉じる小雪の手からは、爪が皮膚を突き破ったのか血が流れる。

 

「あいつらは・・・」

 

「もういい」

 

 俺はその手を握って止める。

 

 治癒魔術をかけながら、静かに首を振った。

 

「そこまでわかれば十分だ。・・・すまなかった」

 

「・・・ああ。ならいいよ」

 

 一気に酒をあおりながら、小雪は遠い目で天井を見る。

 

 その眼に映し出されているのは、仲のいい友達との色鮮やかな日々か。それと赤いも血なまぐさい悲劇を彩る光景か。

 

「私が、私が甘かったんだ」

 

 堕天使バラキエルも、暗い顔でコップの中身を見つめている。

 

「五大宗家の一つ、朱雀を冠する姫島にとって、異国の悪徳など嫌悪の対象でしかないだろう。私の権力なら相応の護衛をつけることもできた。それを怠ったせいで、私は朱離だけでなく小雪から両親を―」

 

「気にすんなつったろ。・・・過ぎたことだ。あれはアンタの責任じゃない」

 

 バラキエルの言葉を遮りながら、小雪は俺の手を握った。

 

「本当に、どうしてこうなっちまったんだろーな。・・・もし、各勢力が今みたいな状況下なら、少なくともあんなファックなことになならなかった」

 

 確かに、今の状況下ならそんな行動をとれば各勢力から叩かれるだろう。

 

 たった十年前後。たったそれだけの違いで、一つの悲劇が発生した。

 

 そのおかげで助かっているとはいえ、やるせないな。

 

「・・・ファック」

 

 歯ぎしりとともに、小雪のその口癖がやけに重く聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことがあっても日々は過ぎていくものである。

 

 俺は今、ゼノヴィアと共にデュランダルを睨んでいた。

 

「・・・で? どれぐらい制御できてるよ? 俺はよくわからないんだが」

 

「あいにく五割といったところか。まだまだ木場のようにはいかないな」

 

 汗を拭いながらゼノヴィアは苦笑する。

 

 今やっているのはデュランダルの制御実験。

 

 ただ垂れ流すより指向性を加えて放出したほうが威力は大きくなると思い、時折偽聖剣を使ってのフォローができないかやっていたりしている。

 

「まあ木場のように行くのは別にいいと思うぞ? あいつはテクニックタイプでお前はパワータイプ。目指すべき方向性が違う」

 

 テクニックは俺と木場の仕事だ。ゼノヴィアは手加減ができるようになるぐらいでいいだろう。

 

 まあカウンター系神器のこともあるから警戒はするべきだろうが、それとテクニックタイプ転向はまた違った発想だろう。

 

 威力重視のゼノヴィアと技術重視の木場では剣の振るい方すら違う。その辺はしっかり分けて考えないとな。

 

「やはり方向に指向性を加えたいところだな。それだけで威力が桁違いに変わると思うんだが」

 

「今の私ではそこまでできないということか。・・・宮白、制御システムは作れるか?」

 

「偽聖剣で培ったノウハウを利用すれば補助システムぐらいは作れるとは思うが、しかしデュランダルクラスを使うとなるとこちらも相応の中枢が必要になるな」

 

 世の中は非常に上手くいかないものだ。さてどうしたものか。

 

 ちょっくら冥界までいってドラゴンでも退治するべきだろうか? いや、並のドラゴン程度で対処できるとは思えないしなぁ。

 

「あらあら、ゼノヴィアちゃんと宮白くんはデュランダル相手に大変ですわね」

 

 と、部屋を覗き込んでいた朱乃さんが声をかけてくる。

 

「ああ、自分の未熟を痛感するよ。宮白にも手間をかけさせる」

 

「いやいや。こんなじゃじゃ馬使いこなせというほうが無理な話だ。木場だって性能を引き出してるわけじゃないからな」

 

 木場は自分が制御できる程度の威力で抑え込んでいる。ゼノヴィアは逆に引き出せるだけの威力を引き出している。方向性が違う。

 

 加えて言えば久遠の言う通りデュランダルはパワー重視のグレートソード。小技で挑む木場とは基本的に相性が悪い。

 

 その辺を考えると下手に抑え込むより放つ方向を制御するほうに持ってったほうがプランとしては正しい。とはいえ生徒会戦の時を考慮するとリミッターも必要不可欠。難易度の高い要求仕様となっている。

 

「頑張り屋さんにはご褒美がいりますわ。ちょっとお茶でも―」

 

「ファックな難題ご苦労さん。差し入れ持ってきた―」

 

 別のドアから小雪が顔を出して、2人は思いっきり固まった。

 

「え、あ、えっと・・・」

 

「・・・ちょっと用事を思い出しましたわ。じゃあ、これで」

 

 小雪があたふたしている間に、朱乃さんが慌てて踵を返してしまう。

 

 見る見るうちに表情が暗くなってしまった。

 

「・・・ここ、置いとく」

 

 ポツリとつぶやくと、そのまま部屋を出て行ってしまう。

 

「・・・いろいろと大変なようだな。私も経験があるからよくわかる」

 

 イリナとのごたごたを思い出したのか、ゼノヴィアはうんうんと頷きながら唸る。

 

 そういえば揉めたらしいな。こっちはすぐに解決したが。

 

「宮白はどれぐらい知っているんだ?」

 

「ああ、朱乃さんがなんで堕天使嫌いになったのかの理由ぐらいは聞いたが・・・」

 

「あまり深入りしていい内容でもないからな。そのあたりは任せるしかないが、必要になればいつでも呼んでくれ。荒事程度でしか役立たんだろうが手を貸そう」

 

 自分も大変だったからか、その辺にはやる気モードになっているゼノヴィアだ。

 

 とはいえ俺からできることなんて何もないだろうしな。

 

 それに―

 

「ここはイッセーの出番だと思うぜ? そういうことはイッセーに言っておきな」

 

「だがイッセーが動けばお前も手を貸すだろう? なにも変わらん」

 

 おお、言われてみれば。

 

 どうせ俺がフォローするなら確かに同じことか。これは一本取られたな。

 

「もっちろん! ボクも手伝うよぉー!!」

 

 と、ドアをけり開けてナツミまで乱入!?

 

 後ろには小猫ちゃんとアーシアちゃんまで!

 

「・・・様子を見に来たら目撃してしまいました」

 

「あのお二人はいつもギクシャクしてるところがありましたけど、最近は特に酷いです」

 

 確かに酷い。

 

 これまではお互いに距離を置く程度だったが、最近その辺が激しくなってきている。

 

 どうも堕天使バラキエルが来たことで朱乃さんの堕天使嫌いにブーストがかかったようだ。

 

「・・・まあ、俺たちが迂闊に動けば逆効果になりかねないしな。その辺は上手く気を使うべきだろう」

 

 いろいろと根が深い問題っぽいからなぁ。

 

 うかつに刺激してこっちの連携にまでヒビを入れるわけにはいかないし、非常にデリケートな問題だ。

 

 とはいえ―

 

「ま、動き方がわかれば動くことは決まってるんだけどな」

 

「もちろん!」 

 

 こらこらナツミ。お前が胸張ってどうする。

 

「兵夜が動くならボクも動くからねっ。・・・俺様が馬鹿な鬱フラグなぞクラッシャーしてやる」

 

「お前ニ●動見すぎだ」

 

 頭に手を当てながら、俺はつい苦笑してしまう。

 

「とはいえ当然だろう。私たちは仲間なのだから」

 

「イッセー先輩にも期待したいところですね。スケベですけどこういう時はすごいですから」

 

「はい! 朱乃さんのあんな顔は見たくないですから!」

 

 ・・・みんな本当にお人よしなんだから。

 

 まあこっちは準備完了ってことだ。

 

 例のごとくお前がキーになるんだろうし、いざというときは任せたぜ、親友?

 

 



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神、襲来しました!

活動報告に今後の展開においての重要な報告を出しました。

ぜひ拝見してください。


 

「とはいえ実質大変ですね。いろいろと出かけすぎな気がするのですが」

 

 空飛ぶ馬車を護衛しながら、ベルはそう溜息をついた。

 

 まあ、気持ちはわからなくもない。

 

 やれキャバクラやれナンパやれ寿司屋など、はたから見ればやりたい放題やってるからなあの爺さん。

 

 イッセーに至っては高校生という理由でキャバクラで遊べなかったので嫉妬で狂い掛けてる。

 

 覇龍になってオーディンと激戦繰り広げたりしないだろうか? 頼むから押さえろ頼むから今度海外の裏モノDVD買ってやるから。

 

「色欲にかられた神は苦手だわ。早く会談が始まってくれないかしら」

 

 アーチャーも結構キレ気味だ。

 

 まあ、恋心をこじらせた神のせいで、いらん人生の黒歴史を作られたからな。その手の類は色々とあれだろう。

 

 ギリシャ神話って不倫とか多かったらしいからなぁ。振り回された側としては色ボケ爺は嫌な部類か。はやく酒屋に頼んだ高級エールが出るといいんだが。

 

「まあそこまで言わなくてもいいと思うけどな。あれでなかなか抜け目がないし」

 

「あら、そうなの?」

 

 意外そうな顔を向けるアーチャーに、俺は資料を転送するとそれを見せる。

 

「全部調べたわけじゃないが、調べたオーディンが言った場所は、近隣若しくは施設そのものが日本異形関係とそれなりに関わりを持っている。この調子じゃあ偶然と考えるのは出来過ぎだろう」

 

「なるほど。ふざけたふりをしているけど、神話体系の頂点としてやるべきことはしているようね」

 

「と、いうかそれに気づいたんですか!? やはりすごいですね・・・」

 

 なんかベルが俺を見る目にすごいものが混じってる気がするが、それはまあいい。

 

 とはいえ、まあ趣味も兼ねてるとは思うけどな!

 

 だってあれイッセーと同じにおいするもん! あれ絶対スケベなのは素だって!

 

 とはいえ警戒は厳重にしなければ、何分オーディンが言っていたことが気になる。

 

 どうやら今の政策に反対する連中がいるようだ。その連中が仕掛けてくることを警戒しているからこそ、こっちに来た可能性は十分にある。

 

 ・・・もうちょっとサービスしてくれてもいいんじゃないだろうか? あの爺、冥界のメディアにぱっとみふざけすぎの今の状況チクるぞこの野郎。

 

 まあいい。後でこっそり血でももらえないか聞いてみよう。・・・主神の血液とかすごいことになるかもしれん。あれ? 報酬それで十分すぎね?

 

 と、妄想しすぎていると視線が変なところに行きそうだ。前を向かないと―

 

「まて、そこで止まってもらおう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で、とんでもないことになってきている。

 

 北欧神話に連なるトリックスター。日本での知名度でいうならオーディンさまをも上回りかねない悪神。悪戯の神、ロキ。

 

 オーディンさまの懸念はこの男だった。ヴァルハラにおける現方針反対派の筆頭だが、彼が襲撃してきたのだ。

 

 まさか主神の命を狙うところまで行くとは、どうやらよほど腹に据えかねているようだ。

 

「まあ、聖書の教えの多神話体系に対する侵略は本当にひどかったからなぁ。唯一神を奉ずる一神教だからほかの神話より排他性が強かったし」

 

 宮白くんはそんなふうに同情票を出していたが、しかしその気配はすでに消え去っている。

 

 理由は明確だ。僕も彼ほどではないが怒りに燃えている。

 

 フェンリルに部長が狙われ、イッセーくんがかばって傷を負った。

 

 神喰狼、フェンリル。

 

 神すら確実に殺せる牙を持つ、天龍に匹敵する能力を持つロキの最高傑作。

 

 ロキは確実に会談を阻止するため切り札を切っていた。

 

 そして、それによってイッセーくんが負傷した。

 

 ・・・間違いなくブチギレている。

 

「・・・アーチャー、ナツミ・・・ああ、・・・たのむ」

 

 念話の内容が口から出ているが、宮白くんはそれに気づかずにその手に結晶体を呼び出して構える。

 

「消し飛べ駄犬!!」

 

 火、氷、風、雷などの色とりどりの魔術の群れがフェンリルに襲い掛かる。

 

 次の瞬間、フェンリルはそれらを意にも解さず突破すると宮白くんを狙う!

 

 宮白くんらしくもない! いつもの彼ならもっと策を練るはずなのに!!

 

 完全に頭に血が上っている宮白くんは、制止する間もなく正面から突撃する。

 

 正面戦闘じゃ偽聖剣は赤龍帝の鎧に劣る。このままじゃ―

 

「・・・なんてな」

 

 ニヤリと、兜越しで見えないが、しかし宮白くんは確かに嗤った。

 

 次の瞬間、宮白くんの真後ろにフェンリルが転移した。

 

「カッハハハ! この馬鹿狼が!!」

 

 ナツミちゃんの嘲笑まで聞こえてくる。

 

 宮白君自らおとりになって、ベールフェゴルの転移能力を利用した!?

 

 特殊な結界で覆われたフィールドに侵入できるほどの転移能力を持っていたのは知っていたが、まさか他者を転移させることもできるのか!!

 

 そして、転移したフェンリルの脚先にはアーチャーさんが、杖を構えて悠然とたたずんでいた。

 

 その後ろには、巨大な魔方陣が形成され―

 

「まずは一本」

 

 ピンポイントでフェンリルのつめを一本へし折った!!

 

「なんと!? まさか我が子に牙を突き立てるか!!」

 

 見事に一矢報いられ、ロキがわずかに感嘆する。

 

 だがその表情には余裕が見える。

 

「だが、一本へし折ったぐらいでフェンリルが止まると思うな!!」

 

 フェンリルはもう片方の足でアーチャーさんに襲い掛かる。

 

 アーチャーさんは龍の外套を展開するとそれを受け止めるが、パワーの差があるのか弾き飛ばされる。

 

「さすがに神獣となると強大ね。兵夜、まだ行けるかしら?」

 

「当然。どてっぱらに一発いいのを叩き込んでおきたいところだな」

 

 偽聖剣のオーラを増大させながら、宮白くんはフェンリルをにらみつける。

 

 とはいえこの戦力は強大。もうひと押し欲しいところだが―

 

「ほう? 思ったより戦えてるじゃないか」

 

 ・・・こんな時に!?

 

「ヴァーリ・ルシファー!!」

 

 聞こえてきた力強い声に、思わず振り仰ぐ。

 

 そこには仲間たちを連れ立って、ヴァーリ・ルシファーが宙に浮かんでいた。

 

「うっわ~。なんか面白いことになっとるなぁ」

 

 ムラマサが物珍しげにフェンリルやロキを見るが、その隣では美候が暴れだしたいのかうずうずと体をゆすっている。

 

 この状況下で三つ巴はマズイ!

 

 だが、ヴァーリたちの視線は僕たちには来ず、フェンリルとロキに向けられた。

 

「初めまして、悪神ロキ。今日はお前を滅しに来た」

 

 ・・・ヴァーリは僕たちを狙う気がないのか?

 

 戦闘狂なのは知っていたが、まさかこの状況下でロキを狙うとは。

 

 強大な敵意をたたきつけられ、ロキはしかし不敵に笑う。

 

「二天龍を見れたことだし、今日は引いたほうが得策か」

 

 片手を上げると、フェンリルが反応して後ろに下がる。

 

 そのまま転移用の魔法陣を展開しながら、ロキはオーディンさまを見据えて堂々と宣言する。

 

「だが、会談は必ず阻止させてもらう! それまで震えながら過ごすがいい!!」

 

 その言葉を最後にロキとフェンリルは転移する。

 

 ・・・旧魔王血族の次は正真正銘の神が相手か。

 

 正直、荷が重いと言わざるを得ない。

 

 僕らは生き残ることができるのだろうか・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




今回は区切りがよかったので短め。

今後の展開のためにベルとのフラグ立てを努力してみました。








兵夜のヒロイン四名は、それぞれ惚れた根幹の理由が微妙に違っているのも努力してます。

ナツミ・・・自分を救ってくれた王子様(この辺、イッセーのフラグ立て基本パターンも近い)

久遠・・・自分に近い道を歩く同類としての共感(兵夜ヒロインの基本パターンでもある)

小雪・・・ある意味で同じ「裏の存在」としての潜在的な共感意識(他ヒロインとはまた少し違った微妙なアナザーパターン。基本ライトタイプのD×Dでは基本出来ない方向性)

この三人に対して、ベルは自分の上を行く先達としての尊敬を根幹におこうと思っております。

兵夜含めた四人と比較して、ベルは生前において自分の特殊能力で利益どころか損しかせずに死亡しているのが特徴的です。ギリギリで近いのが小雪ですが、彼女は魔術師として普通に生活していたので、しょっぱなからどん底状態のベルとは方向性が違います。

 そういう意味では裏社会にどっぷりつかっている小雪とは別の意味でアブノーマルでもあります。久遠とナツミは闇ではなく表の側面で、ある意味でグループ分けされているわけです。

 そういう意味なので小雪編であるラグナロク編での小雪フラグは、ちょっとダーク方面が中心になると思います。ベル編もダーク要素が強くなるかもしれないので、その辺はご了承ください。


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対神戦線、構築中です!!

 

 

 ヴァーリたちの提案は正直驚いた。

 

 対ロキ&フェンリル戦において、共闘を提案してきたのだ。

 

 曰く、さすがに自分たちだけじゃあのコンビを相手することはできないが、それはそっちも同じだろうということ。

 

 まあ、何を考えてるのかは大体予想がつくが。

 

 ・・・どう考えてもフェンリル狙いだろ。

 

 牙だけもらえばいいのか、それとも死体を持ち帰ってレイヴンに加工してもらうのか、それとも飼いならす当てがあるのかは知らないが、神を確実に殺せる牙と爪は、むしろ禍の団にこそ必要なアイテムだろう。

 

 なにせ神は基本的に体制(こちら)側だからな。そりゃあ対神武装は必要不可欠だって。

 

 はっはっは。考えることは皆同じということか。畜生!!

 

 ヴァーリがバトルジャンキーなのはすでに周知の事実だし、対神プランを組み立てるのはむしろ当然だろうしな。

 

 ・・・とはいえ、現状では打つ手がないのも事実だ。

 

 英雄派のテロのせいで、こちらはこれ以上の戦力を送るのは難しいらしい。

 

 つまり、ほぼこの戦力だけでロキとフェンリルをどうにかしろとか言ってきた。

 

 しかも奴が攻めるとすればほぼ確実に会談のタイミング。アザゼルは仲介役として行動しなければならない。

 

 ・・・一言言おう、無茶である。

 

 そこまで考えて交渉したというのなら見事といわざるを得ない。さすがはかつての魔王の血筋。交渉の能力もそれなりにあるようだ。

 

 つまり、こっちは戦力を確保する必要が必須なのだ。

 

 ヴァーリの力を借りて、しかしフェンリルは奪われないようにする必要がある。とはいえそれは非常に難しい。

 

 肉を切らせて骨を断つというより、骨が砕ける可能性を受け入れて肉を切らせない感じになってきた。

 

 ええい、迷惑なタイミングで襲撃をかけやがって!!

 

 とにかくこっちもそれなりに戦力を用意しなければならない。

 

 ヴァーリたちはできる限りロキ戦に戦力を集中させるためにも、対フェンリルを可能とする戦力を用意しなければならない。

 

「・・・と、いうわけで堕天龍の鎧を早く堕天使バラキエルかウチの真エース木場祐斗用に調整しろ。戦力の出し惜しみしてる場合じゃないからマジ急げ!!」

 

「無茶いうな。設計段階から俺用に調整してるもんをそんな短期間で出来るわけないだろうが!!」

 

 そんなわけで絶賛口論中だった。

 

「木場に使うなら防御力だけ引き出せればいいんだから何とかなるだろ!! 当たれば終わる木場が当たっても終わらなくなればそれだけですごく変わるぐらいわかるだろ!?」

 

「俺だって素で禁手のイッセーと渡り合う木場を強化するのは妥当なのはわかるがな!? 雷光や聖魔剣を前提とすれば、そのための調整まで必要になるんだよ!! どう考えても間に合わん」

 

 ええい! 使い勝手の悪い武装を!!

 

 俺の偽聖剣だっていざというときのために聖なる鎧としてなら人造聖剣使いクラスならだれでも使えるように調整しているのに!!

 

 さらにシステムを調整して、イリナなら擬態の力は使えるぐらいにまでチューンしたんだぞ!!

 

 お前は「こんなこともあろうかと!」とかいうタイプだろうが!! こういう時のための備え位ちゃんとしとけよ!!

 

 現実の軍事兵器では明確な乗る奴が完全に限定されている専用機とか存在しない理由がよくわかる! すごく不便!!

 

「なんか面倒なことになっとるなぁ。ホレ、宿賃代わりに信州蒸し作ったから食べぇや」

 

「「いただきます!!」」

 

 ムラマサが持ってきた信州蒸しを食いながら、何とかできないかあわてて調整する。

 

 毒の心配は一切してない。この状況下で俺らに毒盛ったらフェンリル確保の難易度が上がるだけだからな!!

 

 っていうかうまいなオイ!!

 

 こっちの様子を見ながら、ヴァーリがカップ麺を食いつつうんうんとうなづく。

 

「ムラマサは料理が得意だからな。まあ、俺たちはカップ麺で十分だから気分転換位にしか作らないんだが」

 

「ルフェイでことたりるさかいなぁ。何分ジャンクフード大好きやから作らなくても平気やし」

 

 もったいない才能なことで!

 

 しかしどうしたものか。

 

 あんな化け物を相手にするのならそれ相応の戦力を投入しなければならないのに。

 

 アーチャーはアーチャーで奥の手の開発に時間がかかってるからこっちには送れないし!

 

 と、頭を悩ませていたら、カップ麺を食い終わったヴァーリがこっちに近づいてきた。

 

「だったら小雪に使えないか? たしか、初手からアザゼルが使うのはリスクが高いとか言って、試作品のテスターになるとか言っていたが、それじゃないのか?」

 

 なに!? あいつそんなことしてたの!?

 

「ああ! そういやそうだった!! 相性悪かったんで結局すぐ終わったが、その時のデータは残ってるしそれならすぐ使えるな」

 

「よっしそれでいこう!! なんか微妙な内容だが、つかえないよりかははるかにましだ!!」

 

 よし、これで俺が取れる最低限の準備はできた。

 

「・・・そういえばヴァーリ。ライダーはどうした?」

 

「ああ、あいつはキャスターのほうに行っている。会談までには間に合わせるから安心しろ」

 

 まあ、なれ合う必要はないしそれはいいだろう。

 

 とはいえデータを取っておければ真名を知ることができるかもしれないし、そういう意味ではちょっと残念だったな。

 

 だが、ヴァーリはふと考え込むと、微笑を浮かべた。

 

「・・・そうだな。共闘のための手土産にもなるし、ヒントぐらいは教えておこう」

 

 ほう? なかなか余裕なことだな。

 

「以前からフィフスはサーヴァント召喚の実験を行っており、ごくわずかな時間だけ英霊を呼び出すなどを行っていたのだが、外気に面白いものを召喚したらしい」

 

 あいつそんなことやってたのか。

 

 なんか厄介な武装を開発しそうだな。キャスターと組み合わせたらいろいろと最悪な事態になりそうで怖い。

 

「なんでも病という概念そのものが、ヨハネの黙示録に伝わるペイルライダーという概念の影響を受けてサーヴァントとして呼び出されたそうだ。他にも絵本のジャンルであるナーサリーライムという概念が、その子供たちの夢という信仰を受けた結果、マスターの夢見た形になって現界するという特殊な宝具をもって英霊となったこともあるそうだ」

 

 ・・・サーヴァントのジャンルというのは意外と広いな。

 

 まあ、人々の信仰によって押し上げられるのなら、必ずしも人がなるわけではないのだろう。

 

 もしかしたらドラキュラ伝承や人狼伝説という概念も英霊になるのかもしれないな。まあ反英霊なのは間違いないだ。

 

「ライダーとセイバーはその類だ。どちらもその真名にふさわしい宝具を持っているが、下手に真名を探るのは徒労に終わるだろうな」

 

 ・・・待て待て待て待て。

 

「セイバーのサーヴァントについてまで言及していいのか? レイヴンが怒るんじゃないか?」

 

「別にそれだけで正体がわかる者ではないから問題ない。とはいえそちらにとってはある意味で厄介な敵ではあるからな。レイヴンには悪いが、それで兵藤一誠が倒されるとこちらが困る」

 

 ああなるほど。なんだそのライバルキャラの伝統的ツンデレパターン。

 

「セイバーについて付け加えておくと、セイバーというクラスで無ければ呼び出せない英霊でもある。わかりやすいかもしれないな」

 

 セイバーのクラスでなければ呼び出せない、概念系の英霊・・・ねえ?

 

 それがわかれば手の内も見えるか。まあ、頭脳労働班の本領発揮と行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄上! 大丈夫ですの!?」

 

 作戦会議中に、なんかいきなり雪侶がやってきた。

 

「・・・お前、なんでこんなところに!?」

 

 おいおいどういう事だ? 今それどころじゃないんだけどな。

 

 だが、その姿に全く慌ててないやつが一人いた。

 

「お、ようやく来たか」

 

 アザゼルは片手をあげて応じると、雪侶の隣に立つ。

 

「知らないやつに紹介しておく。兵夜の妹の雪侶ってやつだ。こんななりだがこっちの世界のメディアの末裔の血を引いていて、アーチャー召喚の触媒となったすごい奴だぜ? 魔法使い組織の一つ、女王の嗜み(コルキス・ホビー)の一員でもある」

 

 へえ、雪侶のいるところってそんな名前なのか。

 

「今回、英雄派にちょっかいをかけられてない事もあってから、本来一部組織に限定される魔法使いとの契約の仲介をする事と引き換えに協力してくれることになった」

 

 マジか! それは助かるな!

 

 とにかく人手が足りないのが現状の問題点なんだ。それが少しでも解決できるなら願ったりかなったりだ。

 

 つーか魔法使いとの契約だったら俺は雪侶一択だろう。仮にも妹なんだしそれぐらいのサービスはするぞ。

 

「YES! そういうわけですので、空間転移はこちらに任せてほしいですの」

 

 えっへんと胸をはる雪侶が頼もしい!!

 

 そして、雪侶を特に凝視する視線が二つあった。

 

「ほー」

 

「ふぅん」

 

 ・・・久遠? ナツミ?

 

 なんか嫌な予感がしたが、それより先に二人は雪侶に一気に近づく。

 

「What? どうしましたの?」

 

「雪侶ちゃんって言うのかー。私は桜花久遠っていうんだよー」

 

「ナツミっていうんだ。サミーマでもいいぜ?」

 

 あの、お二人さん?

 

 ちょっとよくわからない俺だったが、静かに木場が俺の方に手を置いた。

 

「愛されてるね、宮白くんは」

 

「え? どういう事だ」

 

 なんでみんなわかってる風にいう? っていうかヴぁ―リたちまでこっち見てるんだけど!?

 

「お話は伺っておりますの。久遠姉様とナツミ姉様と呼ばせてもらいますのよ」

 

「「・・・っしゃ!!」」

 

 ガッツポーズまでしやがった!!

 

 え、あ、そういう事か!!

 

「っていうかちょっと待て!? 俺はお前にキスとかしたなんて伝えてないし、第一久遠は確認不可能じゃねえか!?」

 

 待て待て待て待てどういう情報収集手段使ってんだ!?

 

 駒王学園に親父たちは来てなかったはずだし、久遠の場合はそもそも情報なんてどうやって―

 

「・・・お父様は学園に繋がりありますわよ? 系列社員のお子様にお小遣いを払って聞き出してますの」

 

 ・・・なん、だと?

 

「っていうか冥界の情報は当然こちらにも入ってきますの。最近有名なグレモリー眷属のラブコメ情報なんて当然世間話の種ですのよ?」

 

 マジなんだとぉおおおおおおおおお!!

 

 は、ははははは恥ずかしい!!

 

 え、ええい! とにかく話を変えたいところだがなどと思っていたら、雪侶の視線がベルと小雪にロックオンされた。

 

 い、いやな予感。

 

「・・・ほぉ?」

 

「な、なんだよ」

 

「?」

 

 意味深すぎる視線に、小雪が戸惑いベルは首をかしげる。

 

 雪侶はそっと視線を俺に戻すと、ゆっくり親指を挙げた。

 

 いや、だからなに!!

 

「それはそれとして、個人的にはサービスが欲しいですの」

 

「あ、それぐらいは良いよ。俺が手伝えることなら何でもするけど」

 

 イッセー、安請け合いは事故の元だぞ?

 

 雪侶はイッセーのその言葉に、満開の花畑のようなきれいな笑顔を浮かべる。

 

「そうですの? だったら―」

 

雪侶は背伸びをすると、その勢いで軽くイッセーにとびかかり。

 

 ・・・わお。舌入れたよ。

 

「せ、雪侶ちゃん!?」

 

「将来の輿入れの誓約ですの♪ それでは皆様ごきげんようですの」

 

 ・・・お前はどんだけ引っ掻き回してんだよオイ。

 

 と、思いっきり引っ掻き回しながら、わが妹はそのまま帰宅して行った。

 

 ちなみにイッセーが正座で会議となったのは、言うまでもない。

 

 



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深夜の、邂逅

やはり感想はモチベーションにかかわるぜ!!


こちらでも一言感想でもOKです! バシバシ送ってください!!


 夜、俺は一人でベッドの上に横になり、静かにしていた。

 

 ・・・アーチャーは例の礼装にかかりきりになっている。手伝ってやりたいが、今の段階ではアーチャーの職人芸になるので手が出しようもないと断られた。

 

 まあ仕方がない。今作っているのは、完成すればアーチャー自身の宝具にも匹敵する神秘になるだろう、極めて強大な代物だ。

 

 そんなものに手を出せる魔術師など、この世界にはキャスターぐらいしかいないだろう。

 

 イッセーたちも内容を聞いて期待を寄せ、そしてアーチャーに任せることに負い目を抱いていた。

 

 あれが完成するかしないかで、次の戦いの難易度が大幅に変わる。本当に重要なポジションを任されていた。

 

 ・・・それに報いようと、戦闘終了後を想定したパーティーの準備とかに動いている連中もいるのが嬉しいことだ。

 

 どうせこんな進んだ文化の世界に来れたんだ。是非楽しんでもらいたいものだ。

 

 さて、そろそろ会談も近いし俺もある程度体を休ませないとな。軽く一杯飲んで寝るか。

 

 いや、その前に差し入れでも作った方がいいか?

 

 と、レシピを考えた次の瞬間に、ノックが響く。

 

「開いてるぞ」

 

 こんな時間に誰だろうか?

 

 と、入ってきた人物を見て、俺はちょっと驚いた。

 

「小雪か? どうしたこんな時間に」

 

 最近は準備のために動きまくっていて、こっちに顔を出してすらいなかったのだが、どうしたんだろうか。

 

 なんか微妙に顔も赤い。

 

「おい、どうし―」

 

 声をかけようとした次の瞬間、俺は足を払われていた。

 

 慌てて受け身を取るが、さらに小雪が倒れてきて、衝撃が走る。

 

 ・・・なにコレ?

 

「オイ、どうしたんだ?」

 

「・・・抱け」

 

 え? 抱け?

 

 とりあえずギュッと抱きしめてみるが、なんか殺気が出た。

 

 いや、わかってる。わかってるけど。

 

「お前、正気か?」

 

「正気だよ。つーか、一回しないと正気を保てる自信がない」

 

 小雪の肩は震えていた。

 

「朱乃が暗い顔するのが怖い。学園都市の闇にもう一度触れるのが怖い。そして何より、怖いからって手を出さないでまた悲劇が起きるかもしれないと考えるのが一番怖い」

 

 ・・・また?

 

「朱乃のお袋とあたしの両親が死んだのは、同じ事件だ」

 

 そう、ぽつりと小雪は漏らした。

 

「そしてあたしは、学園都市で殺しの技術は一通り磨いた。ナイフ、銃火器、毒薬はもちろん、竹串で人ひとり殺すことができる方法だっていくつも学んだ」

 

 蹴りが殺す類だったのはそのせいか。

 

「初めて人殺しをしたのは中学生ぐらいの時。・・・戦術的価値を持つ大能力者であることも考えれば、並の術者ならあの時簡単に殺せたんだ。実際殺した」

 

 なるほど。確かにそれは行けるだろう。

 

 異世界の能力を使いこなす殺しの経験者。それが幼女だなんて想定できないし、おそらくそいつらは混乱したまま死んでいっただろう。

 

「だけどよ? あたしはそうするまで部屋の中で震えてたんだ」

 

 そうつぶやく小雪の声も、震えていた。

 

「あのファックな世界でファックに死んで、どんな偶然か今度こそ平和な生活が送れると思ったところに術者の襲撃。あたしは、そんな現実受け入れたくなくて親の言う通り隠れてたよ」

 

 そして、その結果大人たちは皆死んだ。

 

「あたしがあの時自分の力を使うことを恐れてなければ、あたしは両親を失うこともなかったし、朱乃はお袋さんを失うこともなかったんだ」

 

「小雪・・・」

 

 それは反論できない。

 

 実際術者は殺せている以上、そうしていればできたというのは確実だ。反論したくてもすることはできない。

 

 だから、強く抱きしめてその震えを止める。

 

「・・・イッセーなら、ただ抱きしめるだけで終わらせるんだろうけどな」

 

 あいつはそういうやつだ。

 

 どれだけエロいから出して大好きな人であったとしても、いやだからこそこんな理由で女を抱いたりなんてしないだろう。

 

 ・・・だけど、今はだめだ。

 

 今はたとえかりそめだろうと、依存だろうと、この恐怖を抑えることだけが重要だ。

 

 少なくとも、俺はそういうタイプじゃない。

 

「・・・だから頼んでんだよ。今必要なのはやさしい慰めじゃない、ファックでも確実なつっかえ棒だ」

 

 そりゃ計算高いことで。

 

「第一、あたしはそういうやつのほうが性に合ってる。そういうやつって、お前ぐらいしかいねーしな」

 

「へいへい。そりゃお眼鏡にかなってうれしいことで」

 

 軽口をたたき合いながら、俺はこいつと気が合う理由が本当の意味で分かった。

 

 魔術を知り、非道を行え、科学を利用し、転生した。そしてこの世界でもアウトロー。

 

 細かいところはいろいろ違うが、しかし俺たちは共通点が多いんだ。

 

 似ている奴は、反発するか仲良くなるかの二択になりやすい。

 

 だとするなら、俺とこいつがこうなるのもある意味で必然か。

 

「・・・できる限り愉しませてやる。腰ぬけるのは我慢しな」

 

「あいにくあたしは経験豊富だ。やれるもんならやってみな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・とりあえず、プランはしっかり立ててきました!!」

 

 学園祭の会議で、俺は速攻でプランを立てた。

 

 ちなみにオカルト全く関係ないオッパイ喫茶とか言った馬鹿はとりあえず叩き潰している。

 

 欲望に忠実なのはいいがもう少し考えような、イッセー。

 

 学園祭ともなれば、こちらもそれ相応のものを考えるのは当然だろう。

 

 そして、文科系の部活であるオカルト研究部ならば、オカルトに関係する何かであるべきだ。

 

 とはいえオカルト方面においては客が少ないのは事実。これでは人は集まらん。

 

 しかしオカルトと関係ないものにするのもあれだろう。ゆえにイッセーのプランは却下。それ以前の問題が多すぎるし。

 

 そしてお化け屋敷は部長の方針でこれも却下。同じことはしたくないとのことだ。まあ、本物連れてくるとかいろいろと問題rのでそれは避けたかった。

 

 そしてウチで目玉というならば、ルックスの高さだ。

 

 自分でいうのもなんだが俺だってポイントは低くないし、イッセーだって行動の生でマイナス入っているがルックスはいいほうだ。木場は言うまでもないし、ギャスパーだってすごいレベルだろう。

 

 そして女性陣は言うまでもない。三年生二大お姉さまと二年生教会トリオ。さらに一年のマスコットと恐るべしラインナップだろう。

 

 そしてオカルト研究部の能力を組み合わせた場合、一つの答えが導き出される。

 

「・・・シチュエーションコスプレ写真展はどうでしょうか!」

 

「へえ? それで、それはどういったものなのかしら」

 

 部長が興味を示したのか、こっちに食いついてくる。

 

「やろうと思えば世界中に移動できる俺たちの立場を利用して、吸血鬼ならルーマニアの古城で、ドラキュラ伯爵、もしくはウラド三世をほうふつとさせる格好で写真を撮影するのです」

 

 そう、これぞオカルト研究部でなければできない写真撮影。

 

 オカルトに対する詳しい知識があるからこそ、そのシチュエーションに忠実なコスプレを作ることができる。

 

 それを最もぴったりの環境で撮影すれば、それはとてもいい出来なるだろう。

 

「以前写真撮影関係での依頼人がおりますので、彼に報酬込みで動いてもらえるかどうかについては許可を取っております。・・・衣装はまあ時間はかかりますが、服飾関係者のこれまでの依頼人に連絡を取れば、報酬次第で受けてくれる人はいるでしょう」

 

 そしてそれをさらにシチュエーションに沿った形で一つ一つの部屋にまとめることで、旧校舎をフルに使った展開を行うのだ。

 

 旧校舎自体には俺が魔術をかけることで変な悪さをしないようにし、これで全体をカバーしやすくする。

 

 さらにそれらの写真をまとめた写真集も作成すれば、相応の収入を見込めるはずだ。ちなみにのちに冥界でもグレモリー眷属特集とかで売り込めれば財源がゲット!!

 

「さらに! 写真購入者には投票権をプレゼントすることでオカルト研究部内で人気コンテストを開催!! これで優勝した人に投票した人物は、好きな写真をポスターサイズでプレゼント!!」

 

 行ける! これはいけるぞ!!

 

「・・・宮白! 俺も投票していいか!? いや、これは全員分買って全員に投票すれば誰か一人のポスターは手に入るのか!?」

 

「魔術的に多重評は無効化できるようにしてるから無理だぞ」

 

 いや、そんな反則はさせませんからね?

 

「あらあら。これは下剋上の時が来たのかしら?」

 

「何を言ってるのかしら? 私が勝つに決まってるでしょう?」

 

 二大お姉さまが火花を散らしている!!

 

「・・・おい馬鹿ご主人!! 俺様も参加させろよ?」

 

 ナツミがクッキー食べながら提案してくるが、お前オカルト研究部どころか駒王学園生ですらないだろうが。

 

「宮白くん! 私はなんていうか大天使様のコスプレとかしてみたいわ!! そういった方面で作ってもらえるように言ってくれない?」

 

「あ、あの! 僕この格好がいいかなーって」

 

 イリナやギャスパーが自分の格好を要求するが、しかしギャスパー、お前はやはり女物なんだな。

 

 だがまあ、コレならたぶん結構行けるんじゃないだろうか?

 

 くっくっく。学園祭での大人気は間違いなく俺らだな。今のうちに無所属の連中に協力を要請せねば。

 

「・・・そのためにも、この戦いは終わらせないといけないわね」

 

 部長が、窓の外を見てそうつぶやく。

 

 外は黄昏。逢魔が時。

 

 そういえば、ラグナロクとは神々の黄昏と呼ばれているらしいな。

 

「まだ、ヴァルハラに黄昏がくるのは早いってわけか」

 

 俺の言葉にこたえるように、アザゼルが立ち上がると俺たちを見渡す。

 

「そういうこった。お前ら! ロキは任せたぞ!!」

 

「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」

 

 俺たちは気持ちを切り替えると、全員で声をそろえた。

 

 さて、神殺しと行きますか。

 

 ・・・間に合わせてくれよ、アーチャー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビルの屋上で、俺たちはロキを待ち構えていた。

 

 すでに和平会談はスタートする直前。タイミングから言ってもこれが仕掛ける最大のチャンスだ。

 

 ・・・さすがに結構緊張するな。全員少し硬くなってるか?

 

「兵夜くんー」

 

 と、久遠がこっちに飛び移ってきた。

 

 ・・・今回、久遠はロキ戦に参加しない。

 

 俺たちとロキを転移させるのがシトリー眷属の役目。

 

 匙は何やら改造手術を受けてパワーアップする予定だが、久遠は万が一の保険として残ることになった。

 

 ロキとフェンリルは何があっても転移させるが、それ以外に戦力がいないという保証はない。

 

 さすがにあれクラスの化け物はいないと信じたいが、それでも万が一の時がある。

 

 さすがにシトリー眷属の主戦力は残しておくべきだと全員が判断した。

 

 ある意味特に重要な役割だし、何よりその想定では会長が窮地だ。

 

 むしろ久遠が提案してきた内容で、しかしそれは当然の保険だろう。

 

「会長の安全は真っ先に確保しないといけないからねー。悪いけど、兵夜くんは二番手だからー」

 

「わかってるって。気にするな」

 

 俺たちはそういうところで惹かれあったんだ。むしろそうじゃなければそれこそ立腹ものだ。

 

「・・・神相手に、勝算ある?」

 

「アーチャーからは報告があった。例のアレはシステムが固着するまであと少し。今は待機して準備万端だ」

 

 切り札は速攻では使えない。

 

 使うまで持たせるか使うことすらなく倒しきるかが勝利条件だろうな。

 

 とはいえあの化け物どもを相手にそれが大変なんだが。

 

「悪魔じゃなければ気休めに神社にでもお参りするところだな」

 

「そっか。じゃ、お守りだよー」

 

 と、久遠の顔がゆっくり近づいてくる。

 

 なるほど、だったらこっちからも―

 

「「・・・ん」」

 

 時間にして数秒。少しの間時を止めた俺たちは、微笑を浮かべながら顔を離す。

 

「・・・じゃ、続きは帰ってからねー?」

 

「妙な死亡フラグだが、勝利の女神の加護があるなら大丈夫か」

 

 微笑が苦笑に変わっちまうが、まあ、少し気は晴れたかな。

 

「イッセーくんが見たら嫉妬でおこっちゃうよ?」

 

 木場が隣に来ておれの肩をたたく。

 

 見ればイリナなんて顔を真っ赤にしていた。

 

「うっわぁ、うっわぁ! 宮白くんのハーレム街道は本当にびっくりね!! ナツミちゃんにもなつかれてるし、な、なんていうか桜花さんとは大人な感じ!?」

 

 ・・・言われてみると素っごく恥ずかしくなってきた!!

 

「宮白くんがやられたら桜花さんに恨まれそうだ。・・・1人で無茶しちゃだめだよ」

 

 それは前回単独行動しまくった俺に対する嫌味か。

 

「・・・無理をするならみんな一緒だ。僕らは部長の眷属なんだから」

 

 ・・・・・・。

 

「・・・・・・おう」

 

「ならいいよ。・・・ほら、来たみたいだ」

 

 見れば空間がゆがんでいく。

 

 ああ、いいぜロキ。相手してやろうじゃないか。

 

 お前とフェンリル。俺たちが倒させてもらう!!

 




この話は、意図的に本編でのイッセーと朱乃の流れの反対を取らせていただきました。


イッセーならしないとわかっていても、そうせずにはいられない兵夜の、イッセーとの対称性を想像してくれるとうれしいですね。


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決戦、開幕です!!

ちょっと最近スランプ気味。



そしてキャスターがようやくキャスターらしいことをしてくれました。


 ロキとフェンリルが現れると同時に、空間転移で戦場を変更する。

 

 都市部で神クラスの連中と戦闘すれば被害が甚大であるための措置だったが、どうやら向こうもむやみやたらに民間人に被害を出すつもりはないようだ。

 

 まずは邪魔者を殺す。そしてそのあとゆっくりオーディンを倒せばいい。つまりはそういうことだ。

 

 とはいえわざわざ相手をしてくれるなら好都合。そう判断した時、ヴァーリが舌打ちした。

 

「・・・すまない。どうやらライダーは失敗したようだ」

 

 なんだと?

 

 俺たちがそれを問い返すより早く、そいつらは姿を現した。

 

 一つはカマキリのような機械の人型。それを見た瞬間に、堕天龍の鎧を着た小雪が頭を抱えて叫んだ。

 

「寄りにもよってガトリングレールガンとかふざけんな!! ファイブオーバー祭りか!?」

 

 そしてその上に立つのは一人の男。

 

 真面目そうな悪魔だ。そしてどこかで見たような・・・。

 

 ヴァーリがものすごく嫌そうな顔をしながら、その男のほうを向いた。

 

 なんだ、このすごい嫌そうな顔は。

 

「・・・やはり来たか、ザムジオ」

 

「来たともヴァーリ。その醜態、あまりにも見過ごせん」

 

 思い出した。たしか親父の施設に現れた悪魔の一人だ!

 

 たしか今はこいつが旧魔王派の指揮官やってるんだよな。

 

 ザムジオはヴァーリをにらんでいたかと思うと、こちらに対して土下座した。

 

 ・・・え?

 

「誠に・・・誠に申し訳ない!!」

 

 いや、なにが?

 

 思わず全員が顔を見合わせる。いや、なにが?

 

「敵対するために恩ある者を裏切ってまで禍の団に入ったヴァーリを、寄りにもよって想定していないとはいえ増援として送るなど、敵対する者に対する行動としてあまりにも非礼! あまりにも無礼! あまりにも愚行!! 禍の団と体制との戦いに対する死にも等しい侮辱!! 君たちの在り方をけがらわしいものにしたこと、誠に申し訳なく思う!!」

 

 すいません。何を言っているのかわかりません。

 

「・・・おいヴァーリ。奴は一体どういうやつなんだ?」

 

 第一印象は真面目なボスクラスだと思ったんだが、何やら様子がおかしい。

 

「・・・あの男は、旧魔王血族としての誇りはあるが、その方針を否定し排除した連中が新たに魔王を立ち上げることについては一切気にしていない。・・・・・・ただ一つ我慢できないことがあってそれを行うことこそが悪魔という存在に対する最大の裏切りだという理由で禍の団に参戦していてだな」

 

 ヴァーリが珍しくすごい微妙な顔をしている。

 

 どんな理由だ?

 

「・・・・・・旧魔王を追放して魔王についてながら、自分たちの姓でなく旧魔王の姓を名乗って魔王の座に就くなど、追放した魔王はおろか新たな道を選んだ悪魔たちすべてに対する裏切りだという考えで、それをただすために禍の団の参戦したんだ」

 

 ・・・・・・・・・・・・。

 

「・・・ヴァーリ。それでなんでそいつここに来たんだよ?」

 

「さっき奴が言ったとおりだ。アザゼルを裏切って禍の団についておきながら、目的達成のために禍の団でなく君たちと共闘するなど誇り高きものがするべきことではないとして私兵を差し向けてきてな。・・・ライダーが足止めを担当してくれたのだが、どうやらこいつだけ突破したらしい」

 

 ・・・真面目というか融通が利かないというか。

 

 と、気づけばザムジオはロキにまで土下座していた。

 

「誇り高き神の戦いに対してこのような無礼な行いをさせてしまい申し訳ありません!! 魔王の血筋として謝罪とし、助太刀させていただきます!! ええ、どうぞ後ろから撃ってくださってかまいません!! むしろそれぐらいしていただけなければ謝罪になりませんので、どうか・・・どうか!!」

 

「まったくよくわからんが、まあこちらを攻撃してこないのなら勝手にするがいい。こちらもこちらで勝手にやらせてもらおう!」

 

 ロキの奴は相手したくないようだ。

 

 と、そんなことをしている場合ではない!

 

「と、とりあえずフェンリル片づけるぞ!!」

 

 俺が合図すると同時、上空からアーチャーが急降下。

 

 それに気を取られた瞬間に、グレイプニルを展開する。

 

 対フェンリル対策に調整を加えた特別製のグレイプニルが、フェンリルを絡め取る!

 

 よっしゃ! とりあえず第一関門突破!

 

 そしてそのままたたきこむ!!

 

「アーチャー! 全砲門収束!!」

 

「当然準備はできているわ」

 

 アーチャーが指を鳴らすと同時、この採石場を魔法陣が取り囲む。

 

 戦闘場所として決定した時から、この空間はアーチャーによる簡易的な工房として作用する。

 

 ドーム状に取り囲む結界からの連続放出型魔力砲数百門。

 

 事前準備は必要だが、この空間内ならアーチャーは神にも届く!!

 

「目標フェンリル! ・・・ぶっ放せ!!」

 

 回線の号砲は、しょっぱなからハメ手でフェンリルに襲い掛かった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 正直オーバーキルかもしれない砲撃を横目に、僕たちはザムジオへと向かう。

 

 想定外のイレギュラーは早めに叩き潰したほうがいいだろう。彼も旧魔王血族であるからには油断は禁物だが、しかし年齢は僕たちと同年代のはず。

 

 若手でも異例とまで言われた僕たちが、そうそう後れを取っていい相手じゃない!!

 

「では出遅れたが一撃放たせてもらおう」

 

 ゼノヴィアがデュランダルのオーラを増幅させて一気に放つ。

 

 同時に僕は聖剣を呼び出して大量に展開。さらにイッセー君がゼノヴィアの足元にアスカロンを放つ。

 

 質と量の双方でブーストされたデュランダルのオーラが、巨大な柱となって放出される。。

 

 その出力は圧倒的。直撃すれば鎧を来たイッセー君ですら戦闘は難しいだろう。

 

 それだけの出力のオーラを前に、しかしザムジオは動じない。

 

「ルシファー、レヴィアタン、アスモデウス、ベルゼブブ・・・」

 

 かつての魔王の称号を唱えながら、ザムジオは両手を前に突き出す。

 

 そしてオーラが放たれると同時、その先の空間が微妙にゆがんだ。

 

「・・・その声を我がもとに届けよ」

 

 そしてオーラが直撃する直前、目の前に一つの剣が出現した。

 

「魔王の威光の元に、我は汝を召喚する! ・・・魔剣、ルレアベ!!」

 

 剣を握ると同時に振り上げたザムジオは、そのオーラを正面から受け止める!!

 

「権能解放! 魔の遺志宿す絶世の剣(ルレアベ)!!」

 

 再び件の名を叫び、ザムジオはそのオーラを両断した!?

 

 なんだ、あの出力は!!

 

 あまりの光景に僕らが動きを止める中、ザムジオは剣を構えなおしながら静かに告げる。

 

「・・・デュランダルとは、四人の聖人の聖遺物が詰められた剣と聞く。それゆえに聖剣として非常に強大な力を秘めているとも聞いた」

 

 莫大なオーラを放つその剣を、ザムジオは調子を確かめるように軽く振る。

 

「・・・その伝承に倣い。我らがかつての魔王の遺体を圧縮結晶化し、材料としてキャスターが作り上げたこれこそが、我らの宝物、ルレアベ」

 

 ・・・兵夜くんたち魔術師は、これまでにも肉体を使って強力な武装を作り出していた。

 

 血を媒介として宝石に魔力を込め、コカビエルの指で作られた弾丸はヴァーリに大打撃を与えるほど。

 

 もし、旧魔王の遺体を凝縮して強大な武装を作ればどうなるか・・・。

 

 その答えが僕らの目にあった。

 

 キャスターのサーヴァントが作り上げた魔剣・・・。デュランダルの力すら超えるというのか!

 

「まあこの程度で驚いてもらっても困るというもの・・・だ!」

 

 静かにこちらを見据えながら、あらぬ方向に剣が振るわれる。

 

 次の瞬間には虚空から空間を割いてあらわれた剣を、あっさりとはじき返していた。

 

「最強の聖剣を不意打ちに使うとは愚かしい。お前の最強の剣の頂へと進む道は、そのような裏道なのか?」

 

「これは手厳しいですね。まあ、この程度対処できなければ片手落ちですが」

 

 うずうずしているのが見て取れる微笑を浮かべながら、アーサーが僕らの前に出る。

 

「貴方の相手は私が致しましょう。・・・魔王から生まれたその魔剣、我が聖王剣とどこまで渡り合えるか楽しみです」

 

 聖王剣コールブランドから聖なるオーラが静かに漏れる。

 

 応じるように魔剣ルレアブからも邪悪なオーラが漏れ、戦場を二色のオーラが包み込む。

 

「・・・ならば、こうしよう」

 

 ザムジオ自身が魔力を放出する。

 

 大気中に放出された魔力は、そのまま形をとると異形の人型へと姿を変える。

 

 それはまるで山羊の獣人。そして、彼らの元へ、剣が送られる。

 

「・・・ルレアベには四つの機能がある。一つは先ほどの高出力魔力斬撃。そして一つは―」

 

 明確な形をとって形成される魔剣。

 

「うそ!? それってルレアベじゃない!?」

 

 寸分たがわぬ形をした、魔剣ルレアベ!?

 

「・・・能力のみ存在しない、ルレアベのコピーの無限生成だ」

 

 あれだけの性能の武装を無限に生成できるだと!?

 

「さて、魔王の血族として動く以上、それだけの実力は示して見せないといけないのでな」

 

 たった一人でこれだけの数を逆に数で圧倒しつつ、ザムジオは静かに告げる。

 

「・・・相応に動かせてもらう。覚悟してもらおう」

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out




ロボットばっかり作っていたキャスターが、ついに魔術礼装っぽいものを作ってくれました。

キャスターは魔術師としてはなんというか製作者寄りの存在でしたので、強大な魔術礼装はいつか作らせるつもりでしたが、ようやくできたと思うとなんというか達成感があります。

かなり規格外の能力をもったチート武装ですので、今後の活躍もお楽しみください。


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ロキ戦! 大混戦!!

久しぶりに更新します!!


俺たちは今、ものすごい弾幕から逃れるのに必死だった。

 

威力は中級悪魔の上といったところだが、数が圧倒的に多い。

 

数十人がかりで一斉砲撃されているかのようなこの攻撃は、明らかに危険だ。

 

「ファック! やはり、木原の奴らが来てるよーだな!!」

 

 全弾回避しながら、鎧に身を包んだ小雪が吠える。

 

 その声は非常に苦々しく、相当の事態だということがよくわかった。

 

 まあ、こんな化け物が量産されたらそれこそ禍の団は大暴れできるから当然といえば当然か。

 

 幾度となく暴風にさらされながら、しかし特に揺れることなくそのままとどまって砲撃を繰り返すファイブオーバーとやら。

 

 何度か無言で迎撃していたそれから、声が漏れたのはその時だった。

 

『・・・なるほどぉん。その能力とAIM拡散力場の反応ぉん・・・。お前マリンスノーかぁん?』

 

「!?」

 

 聞きなれない人命に、小雪の動きが一瞬止まる。

 

 その瞬間を狙いすましたかのように放たれる攻撃を、俺は小雪をひっつかんであわてて回避した。

 

「・・・てめえ、木原・・・木原エデン!!」

 

『ああぁん。今でもその名を名乗っているぞぉん。・・・まさかこの世界で自分の下働きに会うことになるとはなぁん』

 

 ・・・ものすごくシリアスになれない口調なんだが。

 

 つぅか下働きってことは、小雪の前世の上司か何かか!?

 

「てめーなに考えてやがる!! この戦闘にお前らが参戦して何の利益がある、答えろ!!」

 

『それを応えてやる義理なないなぁん。第一、お前は人のこといえるのかぁん?』

 

 お互いに砲撃を叩き込みながら、しかしエデンとかいうのはあざ笑うかのように小雪に言い放つ。

 

『自分が生きるためならば様子を見に来た自分の同僚すら殺した女が、いまさら社会正義の側とか、笑わせるなぁん』

 

「・・・まあ、自分でもそう思うよ」

 

 鎧越しではわからないが、それは確かに自嘲の笑みだった。

 

「自分が死にたくないという理由だけで罪のない人間を殺すことに一切の躊躇もない人間が、世界平和と共存を唄う堕天使の長直属の兵士として行動だなんて、自分でもファックなのはわかってる」

 

 放たれる砲撃は、数こそ多いが狙いは甘い。

 

 それがわかっていたのか、小雪はすべての攻撃を冷静に対処して的確に反撃する。

 

 敵の存在に動揺しながらも、その言葉には一切動揺していなかった。

 

「あたしがファックなのは重々承知の上だ。これがファックな偽善の自己満足なのもわかってる」

 

 その攻撃は、すこしずつだが確実に当たるようになってきていた。

 

 それを理解しているのか、小雪が使う銃器は威力重視の単発タイプに変わっていく。

 

 そして、それを使う小雪の動きも冷静沈着で、動揺がなくなってきていた。

 

「それでも、そんなクズみたいなあたしが・・・あたしが自分のためじゃなく誰かのために動くことができる。・・・偽善を通す理由には十分だな」

 

 そして、敵の砲門の一つが粉砕された。

 

 ・・・銃撃が敵の中の銃口の中に入って銃を暴発させるって、どこのSFだ!?

 

「・・・今更その程度で動揺するとでも思ったか? そんなファックな悩み、何年も前に割り切ってる!!」

 

 ・・・堕天龍の鎧で出力も増大してるから、もう圧倒的だな。

 

 とりあえず、こいつらは無視しても問題ないだろう。

 

『・・・なるほどなるほどぉん。守る者があれば強くなれるぅん。それは確かに正論だなぁん』

 

 吹き飛んだ腕を見ながら、その兵器の乗り手は感心していた。

 

『目的意識は重要だぁん。モチベーションがあるとないのとではあるほうが確かに優れているからぁん、それができるのは重要だなぁん』

 

 ・・・なんだ? 妙にいやな予感が―

 

『・・・だがぁん。それは守る者を守り切れるものだけが言えるセリフだなぁん』

 

 ・・・まずい!?

 

「・・・全員、朱乃さんをカバーしろ!!」

 

 声を張り上げると同時に、俺の視界に何やらやばいものが映る。

 

 ・・・音もなく接近する航空機。このタイミングでの登場ということは、超音速の航空機か何かか!

 

 っていうかちょっと待て!! そんなもんがなんでこのタイミングで!?

 

「ファック! やはり超音速ステルス爆撃機の十や二十は開発済みか!!」

 

 小雪が舌打ちしながら朱乃さんに向かって飛び出していく。

 

「伏せろ朱乃!!」

 

 その声が届くか届かないかの瞬間に、その爆撃は一斉に行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祐斗SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 朱乃さん!?

 

 爆撃機まで投入とは、学園都市の技術というのは相当広範囲に向っているのか!!

 

 ただの爆撃機程度の攻撃ならイッセーくんや偽聖剣状態の宮白くんがどうなるとも思えない。

 

 だが、朱乃さんは防御方面は弱いほうだ。

 

 女王として全方面を強化しているとはいえ、個人には相性というものが存在する。

 

 宮白くんは全方位大抵そつなくこなすが、アレはどちらかといえば少数派だ。

 

 イッセーくんの場合、プロモーションでも戦車などといった力押しのほうが得意で、僧侶などといった魔力方面においては能力が低い。

 

 朱乃さんの場合は戦車が弱い。典型的な魔力攻撃タイプで、それゆえに防御方面においてはいささか弱いところがある。

 

 青野さんたちがあわてて助けに入ったが、あの集中砲火は大丈夫なのか!?

 

「ははははは! 禍の団もなかなか面白いものを用意する。ふむ、興味深い」

 

 ロキが哄笑を挙げながら感心しているが、しかしその表情は面白くなさそうに見える。

 

「とはいえ愚者どもに助けられたとなっては神として沽券に係わる。そろそろ見せたほうがいいか」

 

 イッセーくんとヴァーリを同時に相手をしながら、ロキはマントを翻る。

 

 そして空間がゆがみ、そこから巨大な影が姿を見せた。

 

 馬鹿な、アレは・・・フェンリル!?

 

 さらに非常に巨大なドラゴンもいくつも姿を見せる。

 

「フェンリルとミドガルズオルムの量産型といったところだ。・・・単独で主神と護衛を相手にするのだ、これぐらいの戦力は用意しているとも!!」

 

 ただでさえ戦力において苦戦が必須の状況下で、こちらが上回っているであろう数においてまで対策が取られている!?

 

 しかもザムジオ・アスモデウスの存在がさらに状況を混乱させ、こちらの優位点はほとんど封じられていた。

 

 このままだとまずい!

 

 量産型フェンリルの一体が、こちらに向かって襲い掛かる。

 

 食らいつこうとする牙をかわし、聖魔剣で切り付けるが・・・浅い!

 

「ゼノヴィア! ここはデュランダルだ!」

 

「いいね。状況は不利だがわかりやすいのは大好きだ!!」

 

 アスカロンとともに聖なるオーラを放ちながら、デュランダルの一閃がより深い傷を作る。

 

 間一髪飛びのいたためそのダメージはやはり少ないが、しかし飛びのかなければ決定打を与えうるほどのダメージだ。

 

 さすがにフェンリルほどの戦闘能力はないらしい。これは不幸中の幸いだろう。

 

 だが、ミドガルズオルムの量産型も炎を吐きながらこちらに攻撃を加えてくる。

 

 それらをかわしながら、しかしザムジオの攻撃にも警戒しなければならない。

 

「量産型風情がなめてくれるなよ!!」

 

 タンニーン様がその炎によって量産型ミドガルズオルムをたたき飛ばす。

 

「おらおら! 面白くなってきたじゃねぃかい!!」

 

 美候も如意棒でミドガルズオルムを吹き飛ばし、さらにヴァーリチームも量産型を相手に大暴れしている。

 

 何とか今は食い下がっているか。

 

 警戒するべきはザムジオと量産型のフェンリル。・・・今はどこに―

 

「ほう? どうやらこの程度ではやられないようだな」

 

 後ろから声が聞こえてきた瞬間に、聖魔剣を振りぬく。

 

 能力は聖なるオーラに特化し、さらに悪魔の力を抑制することを重視した対悪魔特化型。

 

 あれが先代魔王の遺骸によって生み出されたのであれば、これは効果があるはず!

 

 そして、その目論見は当たったのか、ルレアベは確かにその出力を若干落としていた。

 

 だが、聖魔剣は半ばまで割られている。

 

「・・・着眼点は悪くないが、ルレアベを甘く見てもらっては困るな」

 

 やはり油断できる相手ではないか!

 

 おごり高ぶっていないだけあってシャルバよりはるかに脅威に感じる。

 

 これが真に己を鍛え上げた魔王血族の本領か! ヴァーリにも引けを取らないその気迫は、確かに彼らが魔王の血を引くことを感じさせる!!

 

「だが甘い。この戦い、すでに数ではこちらが上だ!!」

 

 ザムジオの言葉の通り、コピールレアベを持った異形が回り込むようにこちらに迫る。

 

 とっさに両肘と両足に聖魔剣を展開して打ち合うが、そのすべてが先ほどと同様のものであるにもかかわらず破損する。

 

 本当に特殊能力以外はコピーできているのか! それだけの性能の武装をよくも作り上げる!!

 

 だが、甘い!!

 

「リョウメン・・・スクナ!!」

 

 リョウメンスクナを展開して、すべての聖魔剣を一つに固定。

 

 作り出す聖魔剣は、このリョウメンスクナの特性を生かせる特殊武装。

 

 ジャンルは同種の聖魔剣と共鳴することによる強度強化一点集中!

 

 より上級の武装と戦闘するときのため、宮白くんが発案したとにかく壊されないための特化武装!!

 

「ほう・・・。どうやら頭が回るようだ!!」

 

 感心しながらも集中砲火で襲い掛かる攻撃を何とかさばく。

 

 とはいえこれ以上の戦闘は非常にマズイ。

 

 何とか状況を一変させなくては・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 もうこれ怪獣映画じゃねえか!!

 

 そこらかしこでドラゴンが暴れるわでかい狼が暴れるわ。

 

 挙句の果てに爆撃機まで来るとかありえねぇえええええ!!

 

 しかもその攻撃で朱乃さんが行方不明だし!!

 

 小雪さんとバラキエルさんが飛び出したのは見えたけど、朱乃さん大丈夫か!?

 

「まったく! 現代兵器などしょせんは使い勝手の悪いおもちゃだと思っていたが、中々侮れないということか!!」

 

 そしてこっちはこっちでロキの攻撃が激しくて助けに行けない!!

 

 くそ! 今は朱乃さんのほうが大事だっていうのに!!

 

「まずは赤龍帝のほうが倒しやすいし、その力を譲渡されてはさすがに困るのでね! そちらからぶっ殺しだ!!」

 

 譲渡の力を警戒されまくってる!!

 

 確かにヴァーリの能力は個人的だけど俺は味方にも使えるからね! そりゃ警戒されるよ畜生!!

 

 ぶっ放される魔法攻撃を受け止めながら、俺もドラゴンショットで迎撃する。

 

 ああもう! 何発かは当たってるけど効いてる気がしねえ! 神様ってマジすごいな畜生!!

 

「こちらを忘れてもらっては困るな」

 

 いつの間にかロキの後ろにヴァーリが回り込んでいた!

 

 よっしゃでかした!!

 

 これで何とか―

 

「我が子を忘れてもらっても困るぞ?」

 

 そのヴァーリの後ろから、フェンリルがいきなり襲い掛かる!

 

 その姿は結構ボロボロだったけど、何気にピンピンしていた。

 

 へ? なんでフェンリルがこんなところに!?

 

 あわててとっ捕まっていたはずのところを振り返ってみれば、そこにはボロボロになって倒れているフェンリルの子供の姿があった。

 

 ・・・ダメージ覚悟で鎖を食いちぎったってのか!?

 

「ちっ・・・。 さすがに天龍に匹敵する猛者を無視するのは問題だったか」

 

 血まみれになりながらも、フェニックスの涙で傷をいやしながらヴァーリは立ち上がる。

 

 だが、そのヴァーリにフェンリルが襲い掛かった。

 

 木場よりも早い速度でヴァーリを翻弄しながら、ありとあらゆる方向に回り込みながらその爪でヴァーリを切り刻む!

 

 んな馬鹿な!? あのヴァーリが手も足も出ないとかそんなのありかよ!!

 

「白龍皇は我が子に任せ、今は赤龍帝の始末をつけるほうが先ということか」

 

 しかもロキは完璧にこっちを狙ってやがる!!

 

 ぶっ放される攻撃を耐えながら、俺は反撃の糸口を探す。

 

 木場たちはザムジオとフェンリルの子供の相手で精一杯。

 

 タンニーンのおっさんは量産型のミドガルズオルムを何とかするので忙しい。

 

 ヴァーリはむしろ助けに行ったほうがいいし、宮白もさっきからあのロボット兵器を相手に苦戦中。

 

 やべえ。助けが来ない!?

 

「さて、それではそろそろ終わってもらおうか!!」

 

 その声にあわててロキのほうに視線を戻せば。あたり一面が魔法攻撃用の魔法陣だらけだった。

 

 やべえ!? さすがにこれは耐えられないしかわせない!!

 

「今代の赤龍帝はなかなか面白かった。我が最後の相手だったことを誇りに思って散るがいい!!」

 

 ちょ、ちょっとま―

 

 なんてことを思うより早く、魔法攻撃の嵐が俺を飲み込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 



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無駄なき音程の琴弓

なんというか、一話当たりの感想の数が、最近外伝の方が多い気がするのはなぜだろうか?


まさかケイオスワールドありきの外伝が本編より読者が多いわけないだろうし、どういうこった?


「ナツミ!!」

 

 俺は砲撃を避けながら、あわててナツミに激を飛ばす!

 

「任せな馬鹿ご主人!!」

 

 それを一瞬で理解したナツミは、ベールフェゴルに変身した。

 

 そしてそれとほぼ同時に転送を実行。

 

 かろうじてイッセーをかっさらった!!

 

「でかしたナツミ!! 今夜はお前だけ、だし巻き卵だ!!」

 

「カッハハハ!! よっしゃあ!!」

 

「・・・い、生きてる!! ナツミちゃんありがとう!!」

 

 ・・・とはいえ、この状況下は非常にマズイ。

 

 想像以上に敵の量が増えて危険すぎる。

 

 この相手をするのはさすがに不利だろう。

 

 数ならこっちが上だと思っていたら、いつの間にか数ですら圧倒されていたとかどんなチートだ。

 

「宮白! 宮白のことだからなんかないか?」

 

「スマン! 俺もさすがにこっち方面の対策はしてない!!」

 

 数で圧倒されるとかは想定外だった!!

 

 イッセーには悪いが今の状況ではなすすべがない!!

 

 と、そこに砲撃が叩き込まれたのであわてて回避する。

 

 クソが! とにかくあれを何とかしないことには、小雪と朱乃さんの無事も確かめられない!!

 

「イッセー! とりあえずあのデカブツを片付けるぞ!!」

 

「おう!!」

 

『威勢がいいのは認めるがぁん、果たしてこいつを倒せるのかなぁん?』

 

 砲撃が一斉に叩き込まれるより早く、俺はある物を転送する。

 

 敵の弾丸は徹甲弾。その貫通力を利用してダメージを与える物理攻撃タイプの弾丸だろう。

 

 その超高速を最大限に生かした武装なのは認めるが、しかしその程度の対策は当の昔に用意している。

 

 錬金術の粋を集めて開発した、衝撃を拡散させる特殊魔術式装甲版。ピンポイントでダメージが収束するタイプであれば収束するほど、その防御力を発揮する特別性だ。

 

 もちろんそれで防げる威力には限界があり、この嵐を防ぐには薄いぐらいだが、そこはちゃんと考えてある。

 

「イッセー譲渡!!」

 

「おうよ!!」

 

 イッセーの譲渡で装甲の強化度合をさらに一気に急上昇。そのままさらにロケット推進式のブースターまで出して一気に突進する。

 

 威力が馬鹿でかいのでさすがに抵抗はあるが、しかしこの出力なら何とか押し返せる。

 

 あまりの乱射にあっという間に装甲はボロボロになるが、しかし貫通には成功した。

 

『な、なんとぉん!?』

 

「それじゃあ―」

 

 俺がブレードを展開した右足に光魔力を施し、

 

「さっさと―」

 

 イッセーがその左腕に全力を込め、

 

「「吹っ飛べこの野郎!!」」

 

 その胴体を吹っ飛ばす!!

 

 至近距離からの強大なパワーによる蹂躙と切断には耐え切れず、そのまま上半身と下半身は分断しながらぶっ飛んだ。

 

 よし、面倒な奴は1人片付いた!!

 

「なかなか面白いな! だが我を忘れてもらっては困るぞ!!」

 

 そしてそこで出てくるか悪神ロキ!!

 

「おぉっとさせないよ!!」

 

 と、魔法攻撃をフィネクスの再生力で突っ切ったナツミが一気に組み付く。

 

「カッハハハ!! 今のうちにとりあえず小雪や朱乃の無事を確認して来い!!」

 

「でかしたナツミ!! 明々後日はスパニッシュオムレツだ!!」

 

 とにかくまずは安全確認!

 

 そのあとすぐに助けに戻るから少しの間だけ我慢してろ!!

 

「逃がすと思うか! 我が子に牙を突き立てる逸材と赤龍帝、どちらもこの場で―」

 

 魔法攻撃を放とうとしたロキの腕が固まる。

 

「・・・これ以上余計な騒ぎはよしてもらいましょう」

 

 ベル!! ナイスタイミングで来てくれた!!

 

「実質任せてください!! さあ、早く!!」

 

「サンキューベル! 大好きだ!!」

 

 急いで俺たちは二人の元へと向かう。

 

 ・・・大丈夫か、2人とも!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・誰かにかばわれた。

 

 そう小雪が思ったのは、自分の体の感覚からだった。

 

 今まで幾度となく戦いにさらされてきたからわかる。これは痛覚がマヒしているわけではない。

 

 それなのに、あれだけの攻撃をくらっていたくないのなら、自分は誰かにかばわれたのだろう。

 

 だからそれを確認して、小雪は驚くより先に納得してしまった。

 

「・・・バラキエル」

 

 ・・・ボロボロのバラキエルがそこにいた。

 

「な・・・なんで」

 

 愕然とする朱乃が、倒れるバラキエルをあわてて支える。

 

「・・・お前まで、失うわけにはいかない」

 

 本心からのその言葉に、朱乃は言葉をなくしてうつむいてしまう。

 

 それを見て、小雪はこの状況下にもかかわらず苦笑してしまう。

 

 ああ、やっぱり朱乃はバラキエルのことが好きなままだ。

 

 母親を失った悲しみに耐えきれなくて、殺しに来たものたちが殺す動機として黒い翼を持つものたちに責任を押し付けることしかできなかった。

 

 どうせなら殺した退魔のものたちを恨めばいいというのは、賢しいだけの馬鹿者たちの発想だろう。

 

 齢10にも満たぬ子供に何を求めるというのだ。そこまで冷静に考えられるのなら、そもそも我を失うほどショックを受けたりしない。

 

 そのまま思い続けてきた朱乃は、普段のお姉さまじみたところよりもずっと子供なんだろう。そんなことは最初っからわかっていた。

 

 ・・・そんな彼女にここまで凝り固まったものを押し付けたのは間違いなく自分だ。

 

 対処できるだけの能力を持っておきながら、しかしそれを行使しなかったがために、自分だけでなく彼女の大切なものを奪い、ここまで長い間しこりを残した。

 

 子供でいたかった。ただ、守られる子供という立場に甘えていたかった。

 

 魔術師として行動し、その過程で学園都市に入るという、子供が経験しないような腹黒い取引で生まれ故郷から永遠に離れた。そのままつかまって実験台として扱われた。そして挙句の果てには、それでも死ぬことが怖くて殺す側に回ってまでどん底を這いずり回った。

 

 そこから解放されたことがうれしくて、そこに甘えて依存した結果がこの惨状だ。

 

 と、その耳に音が聞こえる。

 

 振り返れば、そこにはボロボロのフェンリルがいた。

 

 どうやらこちらを狙っているようだ。

 

 まあ、バラキエルは間違いなく最強レベルの敵の一人だ。片づけれるタイミングで片づけるのは当然のことだろう。

 

「・・・させねーよ」

 

 対戦車ライフルを呼び出し、静かに構える。

 

 今、この親子は分かり合えるのかもしれない。

 

 自分はこの時を長い間待っていた。

 

 自分の罪ですれ違った親子が、今その関係を修復しようとしている。

 

 それは贖罪ではないが救いではある。

 

 その逢瀬を邪魔することは許さない。

 

 ゆえに、この命をそのために燃やそう。

 

我が牙は必ず敵に食らいつく(dens226)

 

 敵が動くと同時に静かに告げる。

 

 その姿は消え去るが、しかしそれはもう意味がない。

 

 彼女が口にしたのは魔法名。

 

 彼女の世界の魔術師が己につける絶対の誓い。

 

 彼女が誓ったのは必中。

 

 ゆえに、その牙は必ず相手に突き立つ。

 

「―――――――ッ!?」

 

 自分の後ろで、フェンリルが光の弾丸を受けて怯む。

 

無駄なき音程の琴弓(フェイルノート)。・・・味はどうだい?」

 

 その動きが止まった次の瞬間には、その口の中に銃身を突っ込んでいた。

 

 フェイルノート。かの円卓の騎士が持っていたとされる、無駄な矢を放ったことがないとされる伝説の弓。

 

 その伝承を基に作り出したこの魔術は、単体では何の意味も持たない。

 

 放った神秘的な攻撃を、必ず相手に命中する場所に転移させる。

 

 ゆえに別途で攻撃手段を調達する必要はあるが、しかしそれゆえに莫大な効果を発揮する。

 

 あの世界で人のみで人を超えた耐久力を生み出すものはごくわずかだった。

 

 ゆえに、弓矢程度の威力の一撃でも放つことができれば、対人戦において彼女の力は文字通り必中にして必殺。

 

 それゆえの魔法名。文字通り、彼女の牙は必ず相手に喰らいつく。

 

 もう数十年といってもいい年月使ってこなかった弾丸の手ごたえを感じ、小雪は引き金を引き絞った。

 

 口腔内に全力の光力を叩き込まれ、フェンリルは絶叫を挙げて暴れだす。

 

 その勢いで弾き飛ばされた小雪は、しかし決して動揺しない。

 

 自分の火力が足りないのは重々承知している。まさか一撃で殺せるだなんて思ってもいない。

 

 ゆえに今度も繰り返そう。

 

 連射が利かないのが欠点ではあるが、しかし確実に当てれるというのは十分すぎる。

 

 一発でだめならば二発あてる。二発でだめなら三発当てればいいし、それでだめなら四発あてればいい。

 

 水滴でも何度も当たればいつか岩を穿つように、繰り返し続けるというのは間違いなく力だ。

 

 ならこの一撃を当て続けよう。

 

 それで贖罪となるのならば、この命など惜しくはない。

 

「お代わりはまだあるぜ、ファック狼―」

 

「―もういい」

 

 ―その引き金が、動かなくなった。

 

 視線をずらせば、引き金の周りには水が集まり、それが動きを止めることでストッパーとなっていた。

 

 そして、自分の体も羽交い締めにあっている。

 

「落ち着け小雪。・・・俺たちが来た」

 

 蒼い鎧が、金色の鎧を封じている。

 

「兵夜? お前、邪魔するな!! 何を考えてんだ!?」

 

「こっちのセリフだ!! お前ボロボロだろうが!!」

 

 鎧の隙間から流れ落ちる血を見ながら兵夜が叫ぶが、小雪は意に介さない。

 

 そんなものは最初っからわかっている。

 

 自分たちの魔術は異能に対抗するために凡人が生み出した力だ。

 

 ゆえに後天的に異能をもった能力者が使えば、即死すらありうる拒絶反応を受けることになる。

 

 転生して生まれ持った能力になったとはいえ、能力は能力だ。そんなものを使えば拒絶反応が体を襲うのは当然だろう。

 

 ハーフ堕天使となったことで頑丈さで無理やりある程度防ぐことはできる。その生命力の多さを使えば何度も使うことだってできる。

 

 そしてその結果は体に現れて自分が死ぬことだって十分あり得る。

 

「んなこたー解かってんだよ!! 邪魔するな、今ここで動かなくってあたしはどうやって罪を償えば―」

 

「余計にトラウマ背負うんだろうが、馬鹿!!」

 

 張り上げた声をさらに上回る声が響き渡った。

 

「・・・俺だって二度死んだ身だ。命の天秤を傾けるとき、俺たち(転生者)は自然と自分の重さを軽くするのはわかる」

 

 ・・・ふと気づくと、その手が震えているのがわかった。

 

「・・・だけど、そんな俺たちを大事に思ってるやつだっているんだ。それは、わかるだろ?」

 

 ああわかる。

 

 アザゼルは問題も多々起こすが、両親を失った自分の面倒を見てくれるだけでなく、ややこしい設定を背負っている自分を色眼鏡で見たりせずに接してくれた。

 

 バラキエルは妻を失う理由の一つである自分を許し、強くなるための特訓にも付き合ってくれた。

 

 朱乃だって、今はまだ距離を取っているが、それでも自分を敵視することはなかった。

 

「・・・最終的に切り捨てるのはいい。だが、それでもリスクをできる限り少なくしなくては、失った後のそいつらに余計な傷を作るだけだ」

 

 振り返ってみれば、兵夜は苦笑していた。

 

「お互いいろいろと面倒な価値観持ってるしな。・・・俺がやりかけたときは止めてくれ」

 

「だけど、だけどあたしは・・・」

 

 心底心配しているその顔を見ても、小雪はどうしても納得がいかない。

 

 ほかの連中がどうだか知らないが、少なくとも小雪は自分を罪人だと思っている。

 

 明確に、自分の力を使って解決できる時に行動を起こさなかった。

 

 そのせいで長い間余計なしこりを残してしまった。

 

 今、それを払しょくする機会があるのに、ここで自分が動かないなんてありえない。

 

 普段強がっていても自分は弱い。弱いから殺し殺される世界で生きていくことを選んだ。そして弱いからそこから逃げてなくしちゃいけないものをなくしてしまった。

 

「これは・・・あたしの罪の清算なんだ」

 

「別にここで死ななくてもできるだろう」

 

「正直、もう耐えられない」

 

「肩を貸すぐらいしてやる。休憩したいなら言ってくれ」

 

「・・・なんで、そこまでしてくれんだよ」

 

 お前には、2人も愛してくれる人がいるだろう?

 

 そんな意味を込めた疑問に、兵夜は少しそっぽを向く。

 

「・・・あいつら基本まっすぐだろ? 性質の近い同類に感情移入して何が悪い」

 

 顔が赤くなっているのが鎧越しでもわかる声だった。

 

 正直馬鹿かといいたくなった。

 

 確かにこいつは裏で非道に手を染めることも厭わないが、方向性が違う。

 

 こいつは確かに非道も行うが、それでいて自分の中ではやりすぎない。

 

 自分は生きるためにどこまでも非道に手を染めた。間違いなく兵夜よりはるかに深いところまで踏み込んでいる。

 

 だから本当の意味で一緒にすることなんてできないし、近い人種であることは認めても自分のほうがはるかに悪質で悪辣なはずだ。

 

「一緒に・・・すんなよ」

 

「いいからしとけよ。そっちのほうが、気が楽だろ?」

 

「う・・・」

 

 確かに気は楽になりそうなので反論しずらい。

 

「・・・支えがほしいなら手伝ってやるよ。どうせ一人いるんだから、もう一人ぐらいなってやる」

 

 その言葉はとても甘美だった。

 

 ・・・正直に言えば、小雪は兵夜たちほど支柱がない。

 

 アザゼルは確かにそれに近いが、それだってある意味で一線引いているところがある。むしろ自分が面倒見る側にたつ意識を、意図的に持っている気がする。

 

 朱乃は立場的にぴったりだが、罪悪感があってどうしてものしかかれない。何より、小さな子供にそう強いれるほど、自分は寄りかかれる性分じゃなかった。

 

 外道を行き過ぎたがゆえに、表の光によりかかることが怖かった。

 

「ほら、俺は結構外道だから、休みたいのならそういってくれ。・・・大好きな同類がいなくなるよりかは、ずっといい」

 

 ・・・つい、その言葉にグッと来てしまった。

 

「てめー、狙ってるだろ?」

 

「ああ。俺は大好きな奴が無事でいるなら、泥に被るぐらい平気なんだ」

 

「・・・あいにく、あたしもだよ」

 

 なんか馬鹿らしくなって苦笑してしまう。

 

 でも、もっと頼っていいのかもしれない。

 

 あんな一夜限りの関係じゃなく、もっと普段から人に頼ってもいいのかもしれない。

 

「・・・じゃあ、証明してくれよ」

 

 頭部の鎧をとき、視線で答えを促してみる。

 

 もっとはっきり言ってもいいのかもしれない。と、いうかもっとすごいことをしているのだからわざわざあいまいにする意味もない。

 

 とはいえ今はこれが精いっぱいだ。あいにく素直になるにはひねくれた時間が長すぎる。

 

「はいはい。欲しけりゃ自分でしろ」

 

 視線を逸らしたまま鎧を解く兵夜の顔は、地味に真っ赤だった。

 

 ・・・なんだかそれがカッコいいというかかわいくて、ちょっとおかしくなった。

 

「んじゃまあ、弱った時は支えてくれよ、・・・旦那様」

 

 ・・・初めての口づけは血の味しかしなかった。

 

 それが自分らしいと思うと、なんだかむしろホッとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




小雪の魔術は条件次第ではかなりチートです。


なにせ必ず当たるので、防御力が低い相手には一発で戦局をひっくり返しかねないチート中のチート。

木場とかにとっては本来天敵といっても過言ではないスペックです。・・・堕天使の肉体強度を踏まえることで、相打ちには持っていける奥の手にふさわしい攻撃方法。


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VSフェンリル 風神の鉄槌

だいぶ時間がかかりました。


小雪覚醒編、お好みの処刑用BGMを流しながらお聞きください。


 ・・・なんで俺に惚れる女ってのはどいつもこいつも人前でキスしたがるのだろうか?

 

 魔王の眼前、超衆人環視、そして今度は戦場のど真ん中。バリエーションが豊富すぎる。

 

「お前マジで後で覚えてろよ? 休憩料はしっかり徴収するからな」

 

「そりゃどうも。たっぷり払うから一流ホテル並みの待遇を要求するぜ?」

 

 血まみれでボロボロのままとはいえ、今の小雪はなんというか見ててかわいい。

 

 なんていうか、今まで背負っていたものが一気に抜けたみたいな、そういったすがすがしさがある。

 

 ・・・我ながらなんというか節操がないことだ。

 

 せめて甲斐性は見せてそれだけのことができることだけは証明しないとな。

 

「み、み、み、宮白ぉおおおおおおおおお!!」

 

 なんかイッセーがすごい落ち込んでいる!?

 

「ど、どうした! 何があった!?」

 

 ハッ! そういえば戦闘が一時停止している!?

 

 あわててザムジオに視線を向ければ、なぜか奴だけウォーミングアップをしていた。

 

「・・・何してんの?」

 

「ふむ。よくわからんがどうも休憩時間のようなのでな。ならばこちらから仕掛けるのも無粋だと判断したまでだ」

 

「違うわ!! 俺はわけがわからなかったから詳しそうなおっさんに聞いただけだもん!! 本当に聞こえたんだよ!!」

 

「いや、だからなにが?」

 

 イッセーの絶叫も、正直全くよくわからない。

 

「・・・青野小雪、すいませんが乳を司る神って世界にどれぐらいいるのでしょうか? マイナーな神話にはあまり詳しくないので実質よくわからないのですが」

 

「・・・はー? てめーらなにファックなこと言ってやがんだ?」

 

 大真面目に首をかしげるベルに小雪がツッコミを入れる横で、アーシアちゃんは忙しそうにイッセーの頭に回復のオーラをかけている。

 

 っていうか乳神とかストレートな神聞いたことないぞ?

 

「・・・まさか異世界との交信チャンネル開いたとかいうんじゃないだろうな?」

 

『わかってくれたか!! そうなんだ!! 信じられないが本当に見たことのない神格のオーラが相棒とコンタクトを取っているんだ!!』

 

 なぜか涙声でドライグが喜んでいるが、お前が言ったならふつう信じるんじゃないだろうか?

 

 異世界から魂がやってくるんだから、異世界の神がそういった方面の能力に長けていれば異世界からのコンタクトがあってもおかしくないだろうに。

 

 ・・・あ、平行世界の移動を理論上可能と実証されている俺たちだから納得できるのか。

 

 ほかの連中ではその辺の価値観がないから想定できないということか。なるほど、これは想定外だ。

 

「えっと、とりあえずほかの連中にわかるようにしないとイッセーの名誉が低下するから、その辺考慮してやれ」

 

 イッセーがオッパイ好きすぎるあまり接触するとかいろいろすごいが、これではイッセーはただの狂人だ。

 

 仮にも神ならその辺考慮したインパクトを与えてほしいものだ。神殺しくらわすぞコラ。

 

 と、思ったら赤龍帝の鎧の宝玉が光り、宙に文字を描いた。

 

―あまねく乳をつかさどる乳神様に選ばれたものを狂人とは失礼な。伏して詫びなさい

 

 ・・・さすが神の使い。認めぬものには冷淡だ。

 

「・・・ハハハハハハハハハ!! さすがだ兵藤一誠!! それでこそ俺の宿敵!! これだから君は見ていて楽しいんだ!!」

 

 唖然としているほかの連中とは違ってヴァーリは爆笑しながらイッセーを絶賛する。

 

 まあ、さすがに俺も驚いたがな?

 

 異世界から来た俺たちがいる以上、異世界の神が来たってなにも驚くことはないだろうに。

 

「・・・で? 異世界からの乳の神がこの非常時に一体なんだよ? 用があるなら手早く頼む」

 

 ラブシーンやってた俺が言うのもなんだが、空気が台無しなんですけど。

 

「・・・え? あ、うん。わかった・・・じゃあ・・・」

 

 どうやらもう乳を愛する者以外にかかわるつもりはないようだ。

 

「と、とりあえず乳語翻訳(パイリンガル)!!」

 

 なんだか普段とは違ってすごい光が放たれたな。

 

 ・・・とりあえず状況についていけてないロキを警戒しながら、俺はふと小雪に視線を向ける。

 

 そこに、一人の女性の姿が映った。

 

 小雪を抱きしめるようにしているその女性は、どことなく朱乃さんに似ている。

 

 ・・・彼女が二三言葉を放ってから消えると、小雪は涙をボロボロとこぼし始めた。

 

「お、おい!? どうした!?」

 

 あわてて抱き寄せると、そのまま小雪は俺にしがみつく。

 

「・・・朱離さん、あたしのこと・・・恨んでないって・・・っ」

 

 鎧越しでは痛いだろうに、それでも額を押し付けながら、小雪は大泣きしていた。

 

「朱乃を守ってくれてありがとうって・・・! ウグ・・・これからも・・・グスッ・・・朱、乃を・・・お願いって・・・っ!!」

 

 よくわからないけど、よかったな。

 

 子供をあやすようにぽんぽんと頭をなでながら、俺は小雪の本当の顔を見た気がした。

 

 ・・・普段から面倒見の良い姐さん的な行動をしている小雪。

 

 だけどまあ、それだけでもないんだよな。

 

 ・・・うん。誰だってそうだよな。

 

 許されて、うれしかったよな。恨まれて当然だと思ったことが、そうでないってわかるのはホッとするよな。

 

 ああ、わかってる。

 

 しばらくそうしていたが、しかし小雪は涙をぬぐうといつもの不敵な表情に戻った。

 

「・・・あんがとな。おかげで何とかやれそうだ」

 

「そうか。いけるな?」

 

 その表情はなんというかすがすがしい。

 

 ああ、コレならきっと行けるだろう。

 

 と、そこに転送の光が現れると、黒い炎とと白い吹雪があたり一面を包み込んだ。

 

「フハハハハハハ!! 我、参上であるぞ!!」

 

surprised(びっくりした)!? 何やらすごいことになってますの!?」

 

 なんで雪侶とライダーがドラゴンと一緒になって出てくるんだよ!? そっちのほうがびっくりだ!!

 

「お前、なんでライダーと?」

 

「ああ、ちょうど転送するときにタイミングが同じでかち合いましたの。だからどうせなら一緒に登場して驚かそうと思いましたの」

 

 状況考えろ!!

 

 っていうかなんだあのドラゴン、登場と同時に黒い炎であたり一面覆って、敵の半分ぐらい巻き込んでるぞ!!

 

「ああ、あれは匙さんとかいう人だそうですの」

 

「あれ匙!? 何魔改造されてんのあいつ!!」

 

 どういう展開だ!!

 

「やるであるな龍王!! これはサーヴァントとして負けられんのである!! ヴァーリ、宝具を見させるのである!!」

 

 何やらテンションが上がったライダーがヴァーリに要望を出すと、ヴァーリも面白そうに匙を見てからうなづいた。

 

「いいだろう。ここは派手に行こうか!! ライダー、やれ!!」

 

 ヴァーリの声とともに、ライダーは明らかに魔力を放出する。

 

 その瞬間、黒い炎で熱くなっていた周囲があっという間に寒くなった。

 

「ふははははは!! ロキ! 貴様は己の神話の存在として、この国にいるものたちに牙をむいたな!!」

 

「なるほど確かに、我の行動はこの国の神話体系などにとってはそうなるだろう。それがどうした!?」

 

 数が多いゆえに密度が薄かったのか、ロキやフェンリルなど一部の連中は黒い炎を振り切っている。

 

 それゆえにまだ余裕があるのか、ロキは動じることなくそう断じた。

 

 そして、それを聞いたライダーは勝利の笑みを浮かべる。

 

「なら、ワシの勝ちであるな!!」

 

 勝ち誇ったライダーは、楯を呼び出した。

 

 まるで雪の結晶のような、芸術的な楯が、一瞬で空気と一体化したかのような錯覚に陥る。

 

 次の瞬間、風景が一変した。

 

 それは、極寒の豪雪地方の強力な吹雪。

 

 たちどころに、炎に包まれている連中を含めて、敵の周りに氷が付き始める。

 

「ワシの真名は冬将軍(ジェネラル・フォレスト)!! 豪雪をつかさどり侵略者を迎え撃つ雪の帝王!! 吾輩の前には侵略者は皆その猛威にさらされると知るがいい!!」

 

 なんだとぉおおおお!?

 

 冬将軍って、確かに概念系じゃねえか!!

 

「・・・ってなんでそんなやつがテロリスト(ヴァーリ)のサーヴァントやってんだよ!!」

 

 思わずツッコミを入れてしまった。

 

 そりゃそうだろう!! 明らかに相性悪いだろうが!!

 

 護国の存在ともいえる冬将軍と、世界の転覆が狙いといってもいいテロリストのエース。

 

 明らかに正反対の存在だ。

 

 だが、俺のツッコミをライダーはあきれた風に見返してスルーする。

 

「・・・別に勝手にそうなっただけである。なぜ人格を得たのにわざわざ同じことを繰り返さねばならないのであるか? せっかく一個人となったのだからもっとわいわいがやがや楽しくやるのである。そういう意味ではぴったりのマスターであるな」

 

 ・・・フリーダムだぁああああああああ!!

 

「ええい! そのような適当な発想で適当に使う能力で我やフェンリルと捕縛できると思うな!!」

 

 ロキもそんな攻撃でやられたいとは思わないのか、全力で炎と凍結を振り払う。

 

 フェンリル共も結構持ちこたえているし、ザムジオも平然としていた。

 

「確かに強力な能力だが、一流を相手にするにはまだ足りんな」

 

 チッ! これで決まればいいかと思ったがまだ甘いか!!

 

 と、そこに雪侶が布にくるまれたものを差し出した。

 

 ってこれは!!

 

「システムが固着したとかで持ってきましたの。・・・さあ、妹にカッコツケてほしいですのよ?」

 

 ・・・ああ、ようやくか。

 

「アーチャァアアアアアア!!! そろそろ俺たちも気合い入れるぞ!!」

 

 俺はそのアイテムを持ち、剣を引き抜いて声を挙げる。

 

「イッセー!! ロキは任せろ!!」

 

「おう! 任せた!!」

 

 見ればイッセーもミョルニルを片手に気合いを入れている。

 

 どうやら乳神とやらの加護は本領を発揮しているようだな。これは面白いことになってきた!!

 

 俺はロキに不敵な表情を浮かべると、そのまま全力で突貫する。

 

「さあ、悪神!! そろそろ決着つけようか!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 小雪は、静かにフェンリルに視線を向けた。

 

 天龍クラスは伊達ではないのか、これだけの悪環境の中で、しかしフェンリルはいまだに戦意をなくさない。

 

 それどころか、油断すればこの状況下でも逆転しかねないような恐ろしいオーラを身にまとっている。

 

「・・・おいヴァーリ。やれるか?」

 

「サーヴァントがいいところを見せているのに、マスターが情けない姿を見せると思っているのか?」

 

 確かにヴァーリの言うとおりだ。

 

 戦場の広範囲を包むヴリトラの炎に負けず劣らず、戦場をすべて包み込むライダーの宝具は敵のほとんどを叩き潰している。

 

 ロキは手持ちの駒をすべて投入して展開している。ザムジオも全力を出したのかさらに大量の異形が呼び出されている。

 

 そのほとんどを、この二つの猛威が包み込んで抑え込んでいる。

 

 戦局をひっくり返す二つの猛威を前に、ヴァーリの戦意は最高にみなぎっていた。

 

 それを見て、小雪は苦笑を漏らしてしまう。

 

 テロリストに堕ちたとしても、ヴァーリはヴァーリらしさを失っていない。

 

 堕ちて血みどろの存在になった自分とは大違いだ。

 

 だが、そんな自分を温かく迎えてくれる人はいる。

 

 いや、前からいっぱいいてはいるのだ。

 

 ただ、それを素直に受け取れなくって大人ぶっていただけだ。

 

 とりあえず、それを少し和らげるところから始めてみよう。

 

 付き合いの長いこいつから始めてみるのもいいだろう。

 

「手ーかせよ。どうせ狙いはアイツだろ?」

 

「ああ、それは心強いな」

 

 そのヴァーリの言葉に、小雪は目を見開いた。

 

「アタシが? 心強い?」

 

「何を驚く? お前の射撃のセンスは非常に優れている。火力は足りないが牽制としては十分だろう」

 

 なにをいってるんだこいつは的なノリで返すヴァーリはさらに肩まですくめる。

 

「何より、至ったお前が頼りにならないわけがないだろう?」

 

「―――ッ!? てめ、気づいて・・・!?」

 

 もと同僚の洞察力に驚くが、それより早くフェンリルが突っ込んでいく。

 

 スピードが速すぎて追いつかない。このままいけば間違いなく食いつかれる。

 

 小雪は素早く後退するが、しかしそれでも距離は稼げずフェンリルは一気に迫り―

 

「・・・モード、大気減速」

 

 急激にブレーキがかかったフェンリルの牙から、小雪は逃れた。

 

 フェンリルは減速したつもりなどない。

 

 自分に一撃をたたきつけた小雪を最大限に警戒し、この一撃で殺すつもりだった。

 

 その不可思議な現象に隙ができたところを、ヴァーリが上から殴りつけて物理的にも衝撃が走る。

 

 そして、その瞬間には小雪はその牙をつかんでいた。

 

 愚かな。とフェンリルは思考する。

 

 自分の重量を持ち上げられるとは到底思えない。この女は射撃は正確だが火力は低く、間違いなくけん制中心のサポートタイプだ。

 

 肉弾戦での余力もたかが知れている。このまま逆に振り回してやろう。

 

「・・・モード、大気装甲」

 

 ゆえに持ち上げられたときには、フェンリルは更なる驚愕に身を震わせた。

 

 そのまま強引に振り回され投げ飛ばされる。

 

 そして投げ飛ばされる先にはヴァーリが回り込んでおり、容赦なくその拳をたたきつけられた。

 

 高速で動く物体が逆方向で高速に動く物体とぶつかればどうなるか、それをフェンリルは身を持って体験する。

 

 その事態にフェンリルは警戒をさらに深めるが、しかし宙に舞っている状態ではどうしようもない。

 

 その瞬間には、小雪はフェンリルをにらんでいた。

 

「・・・モード、大気爆槍!!」

 

 その全身に明確な痛痒に値する一撃が突き刺さり、さらに無色の爆発がその身を蹂躙する。

 

「ほら、こっちだ!!」

 

 さらにヴァーリが突撃して地面にたたきつけられ、その身に小雪は躊躇なく触れた。

 

「・・・モード、空力使い!!」

 

 その触れたところから謎の推進力がはなたれ、フェンリルは地面に貼り付けとなる。

 

「わからねえか? わからねえよなぁ?」

 

 混乱するフェンリルに教えるかのごとく、小雪は静かに告げる。

 

「これがあたしの禁手だ。・・・あたしの空力使いの力を契約で縛り、一点集中で高めた出力で、しかも全く違う大気操作系能力として制御しなおす。・・・モード、大気拡散」

 

 急激に呼吸が苦しくなるなか、フェンリルはその視界に移す小雪の姿を目に焼き付ける。

 

 ああ、愚かな判断をしていた。

 

 異世界の能力を使う契約の神器を持つ者。

 

 ただでさえ油断してはならない禁手に至る者が、さらに異能をもって迫りくる以上、最初から全力をもって食い殺すべきだった・・・!!

 

「これが、神能力者(レベルエクストラ) 風神契約(ギアスアネモイ)だ!!」

 

 その声と同時に、ヴァーリは半減の力で全力をもってフェンリルの動きを封じる。

 

 何とか動きを取ろうとするも、その瞬間に足元がぬかるみにはまり動けなくなる。

 

「にゃんにゃん♪ さっすがヴァーリの元チームメイト。私を追い込んだだけあるじゃにゃい」

 

 黒歌がにやりと笑い、その術をもってさらにフェンリルの抵抗を封じる。

 

 それを見て、小雪は少し肩をすくめた。

 

 どうやらヴァーリの同僚どもは、一癖も二癖もある割にこのへっぽこを認めているらしい。

 

 さらにフェンリルは無理やり動こうとするが、その頭部に勢いのある一撃が叩き込まれる。

 

「俺っちよりも付き合い長いだけあるじゃねぇかぃ!! まだ見せてくれんだろ?」

 

 期待した目で小雪をみる美候に、フェンリルが反撃を叩き込もうと爪を振るう。

 

 だがそれは、空間を破って現れた聖剣によって受け止められる。

 

「ヴァーリがよく評価していたので気になってましたが、ここまでできるとは思いませんでしたよ」

 

 涼しそうな表情を崩さないアーサーも小雪に高評価を出した。

 

 事実、今の彼女は正真正銘主戦力としてフェンリルを追い込んでいた。

 

「・・・覇龍を使うまでもないな。さあ、最後に一つ隠し玉があるんだろう?」

 

 ヴァーリが期待に満ちた視線を小雪に向ける。

 

 それを見て、小雪はなんというか疲れてしまい溜息をついた。

 

「これでお前の戦いたいリスト追加かよ。・・・あーめんどい」

 

「何を言っている。お前は昔からリスト内さ」

 

 その言葉に、小雪は目を丸くした。

 

「・・・驚くことはないだろう。出力はともかくセンスはずば抜けているんだ。単純な体術ならお前のほうが上だろう?」

 

 ありのままを語るようなその言葉に、なんだか小雪は照れくさくなった。

 

 ・・・この男は強さにかかわる方面では嘘はつかない。

 

 そこまで評価されているとは思わなかった。

 

「だからその強さに箔をつけるといい。ここは譲るさ」

 

 その言葉に背を押され、小雪は手を上に突き出す。

 

 そして、雲を突き破ってそれは姿を現した。

 

 それは白く輝く太陽。

 

 大気圧縮によって生成される高電離気体(プラズマ)

 

 小雪はそれを見ながら、ふと溜息をついた。

 

「・・・ちょっと肩の荷が下りるだけで、超能力者(レベル5)もビックリな能力を手に入れられるんだからこえーよなー」

 

 その言葉と、期待に満ちるヴァーリチームの視線をきっかけに、小雪はフェンリルにその暴力をたたきつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




小雪の禁手は結構凶悪です。

小雪の能力限定にした結果出力上昇率がかなり凶悪な状態になったのがこの禁手。その出力は正真正銘超能力者(レベル5)級にまで高まっております。

小雪の欠点は火力不足でしたが、これにより改善された結果、正真正銘ヴァーリチームに並ぶ戦闘能力を発揮するようになりました。




ちなみにヴァーリの小雪に対する評価はかなり良好。

出力こそ低いですが戦闘面に関するスペックはそれ以外は暗部なだけありかなり上位に位置するため、ヴァーリは結構認めていたりしてます。


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神と魔王、ボコります!!

戦闘クライマックス!!


乳神の加護はさて、今回どれだけ発動する!?


 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はミョルニルを片手に突進する。

 

 狙う相手はロキじゃない。

 

 ロキは宮白に任せて大丈夫だ。

 

 あれができたなら、ロキの相手は宮白だろう。

 

 なんたって、宮白は一人じゃない。

 

 相方のアーチャーさんは必ず手伝うだろうし、ナツミちゃんだって動くはずだ。

 

 そして皆だって必ず動く。

 

 だからロキはもう心配いらない。

 

 俺が相手をするのはただ一人・・・!

 

「さっきは仲間が世話になったな、ザムジオぉおおおおおお!!」

 

 ミョルニルを振りかぶってザムジオに向かって突進する。

 

 ただでさえ厄介な状況に割って入って混乱生みやがったこいつには、一発デカいのを叩き込んでおきたかった。

 

『乳龍帝よ。乳神様の加護は一回のみです。二度目はありませんよ』

 

 わかってる!!

 

 俺はミョルニルの力をセーブすると、そのセーブした力でルレアベとぶつかり合う。

 

 思った以上に威力がデカい!! だけど・・・

 

「この程度で赤龍帝を止めれると思ってんのかぁあああああああ!!!」

 

 無理やり押しとばす!!

 

 弾き飛ばされたザムジオは冷静にはじかれたルレアベを見つめる。

 

「赤龍帝は侮れんな。しかも雑兵ではこの攻撃を耐えることはできない」

 

 周りにいた異形共は、全員まとめて黒い炎と吹雪にやられて倒れ伏している。

 

 何とか盛り返そうと大量に呼び出し続けているが、この威力の前にはほかのみんなの足止めぐらいにしかならない。

 

「いいだろう。ならこれだ!!」

 

 ザムジオの魔力が一か所に集まり、ザムジオから延びる長いものが出来上がる。

 

 なんだあれ? サソリの尻尾!?

 

「仮にも魔王の血族をなめてもらっては困る!!」

 

 その尾が俺をたたきつけ、動きが止まった瞬間に勢いよく切りかかってきやがった!!

 

 早い!? これは避けきれない―

 

「・・・私の下僕に何をしようというのかしら?」

 

「やめてもらおうか。その男は私たちが予約している」

 

 その真上から、消滅の魔力と聖なるオーラがたたきつけられる。

 

「部長! ゼノヴィア!!」

 

 こっちにも来てくれたのか!!

 

 ザムジオもこの襲撃は虚を突かれたのか、一瞬動きが止まる。

 

 それでも反撃を叩き込もうと尻尾が迫るが、それを小猫ちゃんが全身を使って抑え込んだ。

 

「・・・先輩! 油断してはいけませんよ、そんなんだからおっぱいドラゴンなんです」

 

 これは手厳しい!!

 

 と、俺の体に癒しのオーラがかけられ、さっきの不意打ちのダメージが回復される。

 

「イッセーさん! あと少しです、頑張ってください!!」

 

 ありがとうアーシア!! いつもご苦労様!!

 

「いいだろう。ならば全力をもって粉砕する!!」

 

 振り返った先には、ザムジオがルレアベのオーラを全力にして構えていた。

 

 全力をもって叩き潰すつもりか!

 

 いいぜ! そういうのはわかりやすくて大好きだ!!

 

「たのむぜ乳神さん!!」

 

 ミョルニルのオーラを全力で増大化させ、俺もフルパワーで構える。間違いなく、直撃すれば一発でこっちがやられる。

 

 ・・・行くぜ、ザムジオ!!

 

「喰らいやがれぇえええええええええっ!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 倍加の力もセットしてミョルニルを全力で振り下ろす。

 

 同時に、ザムジオも全力をたたきつけていた。

 

魔の遺志宿す絶世の剣(ルレアベ)!!」

 

 爆発的な出力がぶつかり合う。

 

 ってやばい!? こんなのぶつかり合ったらあっという間にこの辺吹き飛びかねない!?

 

「どうした? この程度ではないだろう!!」

 

 いやちょっと待てザムジオ!? こんなのぶっとばしたら結構ダメージ受けてるみんながヤバイ―

 

 あ、こいつ敵だから気にしないか。

 

 ・・・やばい!?

 

 あ、しかも出力挙げようとしてきたよ!? え、ちょっと待ってちょっと待って!!

 

「出さないならこちらが本気で行こう!! 全力で叩き潰―」

 

 その力がこもったザムジオの前身に、雷光がたたきつけられた。

 

 それを放ったのは、朱乃さんと、彼女に支えられたバラキエルさん。

 

「しまった・・・っ」

 

 雷光をくらったザムジオの出力が大きく下がる。

 

「いっけぇえええええええええええっ!!!」

 

 乳神の加護を与えられたミョルニルが雷を放つ。

 

 雷光とともに発生したその力が、ザムジオを飲み込んで真っ白に染め上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放たれる魔法の群れを、躊躇することなく俺は切り裂いた。

 

 その威力は膨大。その力は絶大。それは間違いなく神によって行使される偉大なまでの能力。

 

 俺らの世界では神と人のさは圧倒的ではあるが、この世界はそれほどじゃないのだろう。

 

 でなければ、コレをもってしてもこうも簡単にさばけるわけではない。

 

「なんと!? その武装は・・・まさか!?」

 

 俺が使った武装の正体を感づいたのか、ロキが目を見開いて驚愕する。

 

 すぐにその表情は屈辱の色に変わるが、正直いろいろと迷惑をこうむったのですっげースカッとする。

 

「あの戦闘・・・っ! フェンリルの爪をへし折ったのは、すべてそのための布石か!!」

 

「その通り。神を相手にするのに、神を殺す爪を利用しないわけがないだろう?」

 

 ぶっちゃけブチギレたわけだが、しかし勢いに任せて挑んで勝てる相手でもないだろうことはすぐわかった。

 

 仮にも神を名乗るのならその戦闘能力は下手な上級悪魔を超えるだろう。八百万の神ならまあそこまではいかないだろうが。絶対の存在である西洋の神話体系の存在が油断できるわけがない。

 

 となればそれ相応の手段を用意する必要はあるだろう。

 

 目の前にその材料があるのに手を出さないわけがない。

 

 まあ、武装として流用できる代物を作るのには時間がかかったが、おかげで何とか間に合った。

 

「対神格武装、スぺツナズ・フェンリル!! さあ、本格的に反撃させてもらうぜ!!」

 

 放たれる攻撃をすべて両断しながら、俺は最短距離でロキに突撃する。

 

 ロキは空間をゆがめて剣を取り出すとそれを振るう。

 

 おそらく神殺しが相手なら神でないものを使うべきなのだと思ったのだろう。

 

 だが、その剣を俺は素早く両断した。

 

 この一撃は神の力に作用する概念武装。神が放つ力すべてに対して作用する。

 

「馬鹿な!? 神を相手にここまでの力を作れるはずが・・・」

 

「あら、私たちを忘れてもらっては困るわね」

 

 俺の後ろからアーチャーが大魔術を遠慮なく行使するする。

 

 正直連携のフォーメーションの都合上むちゃくちゃな機動は取れないが、しかしこのコンボはロキ相手でも通用していた。

 

 ふと視線を向けると、そこにはへたり込んでいるベルと、疲れ果てて倒れているナツミの姿が映った。

 

 ガス欠状態になるまでロキを引き受けてくれた二人がいたからこそ、この武装が間に合った。

 

 ・・・この戦い、必ず勝つ!!

 

 アーチャーの支援砲撃を受けて懐に潜り込み、素早く切り付ける。

 

 ロキは回避しながら距離を取ろうとするが、しかしアーチャーの砲撃をさばきながらではできることには限度がある。

 

「よかろう!! ならばこれでどうだ!!」

 

 ロキがマントを翻すと、その陰から揺らめきが見える。

 

 ・・・やばい!? まだ量産型ミドガルズオルムを残してやがったか!!

 

 さすがに別個の生命体となると効果は落ちるか! しかも位置的にアーチャーの砲撃もさばききれない!!

 

 何体かは撃墜されるが、しかし残った一匹が俺に向かって突進する。

 

 かわせるか・・・っ!!

 

 だが、それは横合いから来た魔法攻撃で叩き落された。

 

「兄上!! いまですの!!」

 

 雪侶か!!

 

「でかしたマイシスター!!」

 

 俺は全力で突進し、スペツナヅ・フェンリルを真正面から突き出す。

 

 だが、あと一歩の所でその全身が止まる。

 

 足元に違和感! 時間差でトラップしかけやがったか。

 

「悪戯の神を小細工でほんろうしようとしても無駄だ」

 

 明確なチャンスに気付いたのか、ロキはアーチャーの攻撃を耐えつつ、複数の魔法陣を形成する。

 

 なるほど、今から切っていたのでは確かに間に合わないな。

 

「これで終わり―」

 

 だが、

 

「甘い」

 

 俺の宣言と同時に、スペツナズ・フェンリルがロキに突き立った。

 

 もちろん手を伸ばして届くような距離じゃない。

 

 ・・・まあ、名前を聞けば分かる人は分かるだろう。

 

 このスペツナズ・フェンリル。刀身を飛ばせるようにできている。

 

 いや、俺の用意できる武装じゃあ、性能と刀身の長時間の維持ができなかったので、ならいっそのこと刀身をすぐ交換できるようにしようと逆転の発想をしたのが始まりだ。

 

 そこで、かの特殊部隊のナイフみたいに刀身を発射できるようにすれば効果覿面だろうと思い、実行させてもらった。

 

「仕込み・・・だと!?」

 

 血を吐きながらロキが狼狽する。

 

 そして、このチャンスを逃すつもりはない。

 

 スペツナズ・フェンリルの予備の刀身を呼び出して接続するのと、この明確な隙をついてアーチャーが特大の魔方陣を形成するのはほぼ同時。

 

「これで―」

 

「―終わりね」

 

 ぶった切ったロキの体を笠代わりにして、俺はアーチャーの魔術をしのぎ切った。

 

 




ロキ撃墜!


感想ですでに感づかれた方もいましたが、フェンリルの爪をへし折ったのはこのためです。

ブチギレてもなお、勝利のための布石をちゃっかりと構築できた策士っぷりを作れていたらうれしいのですが・・・。


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眷属、全員集合!!

ついにラグナロク編も最終章。


 

 

 レキだったかフレキだったか知らないが、残ったフェンリルの子供にイリナの光の槍が直撃して、ついにぶっ倒れた。

 

「やったわ!! 見事フェンリルの子供を倒しました!! 見ていてくださいましたかミカエルさまぁあああああああ!!!」

 

 最後のシメを飾って、イリナが感動の涙を流しながら祈りをささげた。

 

 とはいえ、ようやく終わりか。

 

 なんか匙は匙でぶっ倒れてるし、割と本気で大変な戦いだった。

 

 なんか俺たちこんな戦いばっかしてる気がするな。・・・ハードモードすぎじゃね?

 

 とはいえ、フェンリルも何とか出来たしこれでひと段落か。

 

「・・・これで打ち止めのようですね」

 

 と、額に浮かんでいた汗をぬぐいながら、ヴァルキリーのお姉さんが息を吐いていた。

 

 たしかロスヴァイセさんとかいう人だったな。

 

「お疲れ様です。おかげでだいぶ助かりました」

 

「いえ、もとをただせばこちらの内乱ですから、むしろご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 

 ロスヴァイセさんは真面目な方なのか、申し訳なさそうな表情すら浮かべている。

 

 とはいえこれは彼女の責任でない。そこまで重く考えられてもこっちも困るな。

 

「・・・これだけの大きな動きがあればトラブルの一つも発生するでしょう。けが人は出ましたが犠牲者は出なかったのですし、お気になさらないでください」

 

 あまり気張らせないように笑みを浮かべながら、俺は務めて軽く言う。

 

 量産型ミドガルズオルムをポンポン撃墜してくれなかったら、こっちは数に呑まれていたかもしれない。

 

 何気に撃墜数ならトップクラスかもしれない。

 

 おかげでだいぶ楽ができたし、それにフェンリルも何とか確保することもできたしな。

 

 一応奴が倒れたあたりには転移封じを大量に用意したし、これでフェンリルを奪われるなんてことは―

 

「あれ? 兵夜、フェンリルのとこドロドロだよ?」

 

 ナツミがそんなことを言ってきた。

 

 ・・・なんだとぉ?

 

 あわてて振り返れば、フェンリルがぶっ倒れている当たりが泥だらけになっている。

 

 な、なんだいったい―

 

「隙ありぃ!!」

 

 なっ!? 美候が如意棒でフェンリルをシュート!

 

 そのまま泥だらけなので勢いよく転がるフェンリルは、なぜか凍結した泥だらけの地面を、泥でぬれているので滑って勢いよく移動!!

 

 そのまま滑った先には空間がぶった切られてゴールイン!!

 

 ・・・視線を逸らせば、ヴァーリチームがなんというかやり遂げた顔をしながら空間の裂け目に入っていた。

 

 最後のライダーが、なんかすっごい笑顔を浮かべていた。

 

「うむ! それでは諸君、さらばである!!」

 

「せっけええええっ!?」

 

 逃げやがったぁあああああああ!!!

 

 黒歌が作った泥で滑りやすくなった状況下で、美候が勢いよく全力でシュートして、ライダーが凍らせてさらに滑りやすくして、アーサーが作ったゴールに入れやがった!!

 

 おのれぇえええええ!! ぬかったぁあああああ!!

 

 はっ!! 気づけばフェンリルの子供もいない!!

 

 おのれいつの間に!!

 

 爪が! 牙が!! フェンリルという素材がぁ!!

 

「覚えてろ畜生がぁああああああああ!!!」

 

 この恨みはらさでおくべきかぁああああああ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

「本命はヴァーリにとられたがぁん、神殺しを手にすることはできたのでよかったのだぁん」

 

「それがザムジオに手を貸した理由か? 確かにヴァーリだけに渡しておいても面倒そうだけどな」

 

「そうだろぉん? いろいろといじくることもできるだろうしぃん、これはこれで使えると思うぞぉん」

 

「なら期待させてもらおうか。・・・そういえば、グレモリー眷属はどうだった?」

 

「テストの相手には素晴らしいなぁん。お前はどうなんだぁん?」

 

「正直楽しみだよ。彼らの相手をするのはいい経験になりそうだ」

 

「・・・まあ、こちらは研究成果を見ることができればそれでいいからなぁん、曹操」

 

「ああ、本当に楽しみだ。・・・戦える時を待っているよ、赤龍帝」

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず揉め事は何とか解決できた。

 

 ロキはしっかり捕縛したし、フェンリルの子供の爪や牙もしっかり切り取った。

 

 会談も無事終了。これで日本神話と北欧神話の提携というあら穴発展ができたということだ。

 

 その仲介をしたこともあるし、三大勢力もその恩恵にあずかることができるだろう。俺もこれでいろいろな材料をより集めやすくなったし、今後のためにもとてもラッキーだ。

 

 まあ、ヴァーリの件は失敗した。

 

 さっさと結界にでも包んでおくべきだった。まさかあんなカーリングのような真似で対処するとか想定外だったぞ。

 

 これでフェンリルの牙が無効にわたったことになる。今後の展開には警戒する必要があるな。

 

 最悪おれが出張る必要があるな。取り逃がした責任は取らなければ。

 

 まあ、それはまた後ほどのことだ。もともとロキのいうことを聞いていたわけだし、まさかそのまま投入してくることはないだろう。時間はかかる。

 

 と、いうわけで最後の対処のために携帯を取って電話を掛ける。

 

 番号は念のために交換しておいてよかったよかった。ジャパニーズ春画は交渉材料として非常に素晴らしい。

 

 大体何がくるのかがわかっているのか、少し時間はかかったがちゃんと出てくれたので開幕からひと言。

 

「あんたどうすんですか一体」

 

『・・・・・・容赦無いのう』

 

 オーディンが視線をそらしているのが、電話越しでもよくわかるといったものだ。

 

「会談が終了したら護衛おいて速攻で帰るとか馬鹿ですか? 馬鹿なんですか?」

 

 そう、この爺さんやらかしやがった。

 

 護衛に来ていたヴァルキリー、ロスヴァイセさんを置いて帰りやがったのだ!!

 

 何考えてんのこの人!?

 

「いろいろうまくこなせてるから感心してたのに一気に台無しだよ!! あんたなにやってんですか!!」

 

『いや、ロキがつかまったと聞いてつい安心しての。うっかり忘れておった』

 

「忘れてたじゃないだろうがぁ!! これもう戻りたくても戻れないよ!? あんた彼女の人生どうするつもりだよ!!」

 

 人生完璧に転落してるじゃねえか!!

 

 彼女に責任が一切ないっていうのが本当にひどい。責任は一切ないけどコレもどるに戻れないぞ!?

 

 案だけ頑張って成果まで上げたのにこれはないだろ!! ちょっと上げた株どんだけ下げれば気が済むんだよオイ!!

 

「・・・とりあえず、現状を確認したらもう一度電話するんで、土下座の準備しといてください」

 

 ・・・電話を切ったがさてどうしたものか。

 

 生活そのものは何の問題もないだろう。

 

 仮にも主神のお付きをやっているのだから秘書的な能力も優秀なはずだ。

 

 そのポテンシャルを発揮できる職業を紹介することはできるし、部長もその辺は考えていたはずだ。

 

 とはいえ相当ショックだろうなぁ。主神のお付きとか神話体系で考えるなら間違いなくトップクラスの役職だぞ。間違いなくエリートコースだ。

 

 それが主神のうっかりのせいでこんなことになったら落ち込むどころの騒ぎじゃない気がしてきた。

 

 などとちょっと不安になりながら部屋に戻れば、何やらイッセーを中心として騒がしい。

 

「・・・なにがあった?」

 

「ああ、朱乃さんがイッセー君に軽くキスしてね。それで部長たちが」

 

 木場が苦笑しながらの説明で、俺は大体理解できた。

 

 やれやれ。いつものごとく・・・か。

 

「ああ、宮白くんもこちらにいたんですか」

 

 と、何やらすっきりした表情のロスヴァイセさんがこっちに近づいてきた。

 

 ・・・うん? なにやらロスヴァイセさんから悪魔の気配が。

 

「・・・え? もしかして転生しました?」

 

「はい! リアスさんの提示してくれた内容が非常に素晴らしかったので、戦車の駒をいただきました!!」

 

 早い、早いよ!?

 

 あと部長、それはまさに悪魔のささやきです!! 人の落ち込んだところに漬け込むとかまさに悪魔の所業!! あ、悪魔か!!

 

 まあ前向きになっているのはいいことだし何も言うまい。あとオーディンはもうちょっとダメージ追ったほうがいいし当分内緒にしておこう。

 

 しかしこれは考えようによってはすごいラッキーなことだ。

 

 北欧の主神のお付きをやるほどの実力者が眷属だなんて、すごい事なきがしてきた。

 

 しかも戦車の駒は攻撃力と防御力を高めるわけだ。

 

 ・・・砲撃手としてはこれ以上ないほどのメンバーだ。やばい、すごいことになってきたかも!!

 

 いつものことながら部長の引きはものすごい!!

 

「そうでしたか! これからよろしくお願いします」

 

「宮白!! それはともかく助けてくれ!!」

 

 追い詰められている状況下のイッセーが情けない悲鳴を上げる。

 

 ・・・割と本気でビビってるな。やれやれ、そんなことじゃハーレム王なんて夢のまた夢だぞ。

 

「はいはい!! そこの方々はちょっと落ち着きなさい。イッセーがこうなることなんて想定内でしょうが」

 

 ハーレム王になる男の嫁狙っている連中がまったくなんてザマなんだか。

 

 家族問題がある程度解決してフラグが一気に進行してるんだから、ちょっとぐらい大目に見てあげなさいよ。

 

「いや、兵夜くんはやっぱりいうことが違うよねー」

 

「カッハハハ。さすがはご主人だな」

 

「こらそこ! いつの間にいたか知らないけどいたなら止めるの手伝え!!」

 

 というか久遠はいつの間に来ていた!?

 

 と、何やら二人は顔を見合わせるとちょっとすねた表情を浮かべながらそっぽを向く。

 

「・・・なんだよ? 俺が何かしたか?」

 

 何かしたならさっさと行ってくれると助かるんだが。

 

 治すにしろツッコミを入れるにしろ、何が原因かわからなかったら話にならない。

 

「・・・戻りたくても戻れないよー」

 

「・・・彼女の人生どうするつもりだよ・・・だっけ?」

 

 ・・・・・・・・・。

 

「お、お前ら!? いつの間に聞いてた!?」

 

「兵夜くんは、イッセーくんとそっくりだよねー」

 

「増やすのは構わないけど、ご主人はもうちょっと自覚を持ったほうがいいと思う」

 

 いやいやいやいや!! 別にそういうんじゃないし!!

 

「俺は別に当然の行動をとっただけだし!! なに勝手に裏がある風に言ってるわけ!? っていうか裏があるなら聞こえるように言うから!! 聞こえないように言ったりしないから!!」

 

 君らなに失礼なこと言ってるわけ!!

 

 俺は今での十分にもててるのに、これ以上フラグ立てるつもりとか無いから!! そんな節操なしじゃないから!!

 

「・・・あ、ありがとうございます」

 

 ロスヴァイセさんも顔真っ赤にしないで!!

 

 電話番号知ってたらイッセーでもしてるから!! フラグならあいつに立てて!!

 

 俺ハーレム作れるほどの甲斐性ないから!! 正直そんな自信ないから!!

 

「なんだ? ファックなことにでもなってんのか?」

 

「・・・イリナの様子を見に来たら、実質何をやっているんですか、あなた」

 

 手土産片手にやってきた小雪とベルまであきれ顔だし!!

 

「・・・最近イッセー先輩の影響が露骨に表れてますね」

 

 子猫ちゃん!? なにを言ってるのかな君は!!

 

 影響は受けまくっているがそれは前からだよ!! 俺はイッセーとは別ベクトル目指すからね!?

 

「・・・何やってんだか。ほら、兵夜も少しは落ち着け」

 

 ため息交じりで小雪がとりなしてくれるが、もしかして俺はイッセーの同類扱いされているのだろうか?

 

 いやいやいやいや。確かに最近フラグ立てまくっているが、俺はもう少し自覚あるしこれからは気を付けるからな?

 

「俺はイッセーを生暖かい目で見守る担当なんだよ。・・・どいつもこいつも俺をフラグメーカーみたいに言わないでくれないか?」

 

 さすがにこれ以上は自粛するって。そもそも俺みたいな変人に好意持つ類だってそう多いわけじゃないんだし―

 

「そうか。だったら・・・」

 

 小雪が苦笑しながら振り向くと。

 

「・・・んっ」

 

 ・・・へ?

 

 く、唇に柔らかい感触が・・・。

 

「・・・今生(こっち)処女(初めて)やったんだから、あたしの待遇は考えとけよな、ファック野郎」

 

 ・・・やべ、照れながらの笑顔がマジかわいい。

 

「・・・兵夜くんー?」

 

「オイご主人。そんな話全く効いてねえぞ?」

 

 さ、殺気!?

 

 馬鹿な! これはイッセーの役目だったはず!? なぜ俺が!?

 

「こ、こ、こ、小雪さん? あんた何してくれちゃってますか!?」

 

 お前はそういったキャラじゃなかったはずだろう!?

 

「・・・ちょっと、気を抜いてみようと思ってな。ま、もてる男の税金ってやつだ」

 

 確かにもてる男はそれ相応な奴じゃないといけないとは思うけどさぁ!?

 

「アーチャーヘルプ!!」

 

「・・・それぐらいはちゃんとしなさい。私は不貞な男が嫌いなのよ? ちゃんと面倒見きれないならむしろ契約を切るわよ?」

 

 見捨てられた!!

 

 なんでこうなるんだぁあああああああああ!!!!!

 




ちょっと今回は長めです





ふと気づいた、イッセーと兵夜の違い。


イッセーラブ組・・・「LOVE」の一言をなかなか言わないため、イッセーが感知できない。あと方向が斜め上なのが難点。


兵夜ラブ組・・・「LOVE」を兵夜が認識しているから、ある意味吹っ切れたストレートなアプローチなのでわかりやすい。結果的に兵夜の社会的生命にダメージが。


うん、我ながら対照的にできてるな。









この章で本格的に絡み始めたオリジナル旧魔王派三人組ですが、設計コンセプトとして「馬鹿であっても小物ではない旧魔王血族」でした。

ぶっちゃけ三人組はもちろんリゼヴィムもなんというか人間的に小物なのが難点ですよね。D×Dの敵って強敵臭は強くても大物集があまりないのが作品の欠点。サイラオーグとかヴァスコ・ストラーダは結果的に敵対しただけって感じだし。ディハウザーに期待したいですね。

なのでカマセにならない敵を設計し、ケイオスワールドの方向性に合わせて「異世界の力」を使ってさらに強化する方針で出ました。

今回掘り下げられたザムジオは「真面目馬鹿」って感じです。

まじめすぎるあまり暴走し、しかも本当に強いため始末に負えないというタイプ。真面目な話、新魔王血族の若手で対抗できるのって現時点いませんし。ザムジオはサイラオーグでも手こずりますし、瞬間最大火力と戦術的戦力展開能力では上回っている(・・・と、いうか単独で戦略すら動かせるザムジオがチート)ので現時点でもやりようでは翻弄できるという猛者です。

特にルレアベは我ながらいいアイデアだと思っております。キャスターが初めてキャスターらしいこともしましたし、大物の武装にふさわしい来歴で、いい出来だと自負しております。結果的にキャスターの強敵オーラも出てきたので最高。

ほかの二人もイッセーたちにとって強敵になる実力者になるので、お楽しみください。









そして次回からはパンデモニウム編。

以前伏線を張っておいた兵夜の魔術特性がついにその真の姿を見せます。ついでに魔改造も施します。

イッセーの真女王に相当するモードも、紆余曲折ありましたが決定しました。上記の魔改造を利用して発動します。

どちらも策士で搦め手な兵夜に合わせた特殊能力です。馬鹿正直でないが、確かに凶悪だと納得させれるものだと自負しております。まあピーキーな欠点もあるのですが。

さらに、最後の陥落であるベルの攻略も同時に遂行。そして新たなるサーヴァントも搭乗します!!

戦闘も、今回は戦略的にも動けると思っておりますので、その辺もごきたください!!!







ちょっとだけネタバレ







アーチャーの宝具をついにお披露目します。まさにぴったりな使い方で曹操をビビらせますので期待してください。


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キャラコメ、第八弾

 

兵夜「はいそういうわけで今回もやってまいりましたキャラクターコメンタリー! 本日のゲストは!」

 

小雪「またあたしかよ。青野小雪だ」

 

朱乃「またまた私ですわ。姫島朱乃です」

 

兵夜「最早コンビで固定かされてるな。この牙城崩せるのか?」

 

小雪「まあそれはそれとして、何やってんだ冥界は」

 

朱乃「あらあらうふふ。子供向けとはいえ面白そうではないですか」

 

兵夜「はっはっは。いや冥界というか異形社会が不安になるんですが」

 

朱乃「それは心外ですわね。会員ナンバー0番を確保した宮白くんに言われたくないですわ」

 

小雪「まあそれより、ディオドラを兵夜がボコったことで朱乃のデートがどうなるのかが心配だったがお前がどうにかしたな」

 

兵夜「作者の奴がうっかり忘れて即興で何とかしたんだ。そういえば原作ではディオドラ眷属との戦闘でデートにこじつけたんだった」

 

朱乃「あらあら。・・・あやうく宮白君と作者にお仕置きするところでしたわ」

 

兵夜「あっぶねえ!?」

 

小雪「それはともかく、原作ではそこそこやってた英雄派とのバトルは省略・・・っていうかアーチャーすごすぎだな」

 

兵夜「そりゃ英霊だぞ? しょせん先祖のネームバリューに頼っている英雄はではそう簡単に倒せる相手ではない」

 

小雪「原作では死亡してた倒れた連中も何とかしているし、すげーなアーチャーの宝具」

 

兵夜「型月世界観においても最強クラスの対魔術宝具だからな。どうジャンルにおいては右に出るものはいないだろう。次の章でも大活躍」

 

朱乃「アーチャーさんは、本当に頼りになる味方ですわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朱乃「そして私とイッセーくんのデートですけど、お仕置きしましょうか?」

 

小雪「兵夜、呼ばれてるぞイッセーとSM兄弟になって恋」

 

兵夜「いやいやお前だろ。レズSMで萌えさせてもらう」

 

朱乃「二人そろって調教しましょうか? 本腰入れすぎですわよ。少しはリアスたちを見習いなさい」

 

兵夜・小雪「それはない」

 

兵夜「まあそれはともかく! ここで小雪の過去がさらに詳細に明かされるわけだが、・・・なんでお前は鬼畜調教エロゲのような過去を持ってるのだ」

 

小雪「まったくだ。いろいろやけになってたからな。薬物のブーストによる最高の一夜を提供するといわれたら、そりゃストレス発散もかねてやけにもなる・・・」

 

兵夜「いや待てちょっと待て少し待て。あの発言でそれは微妙に違くないか?」

 

朱乃「・・・あえてスルーしますけど、お父様とオーディン様はなぜあんな所にいたのでしょうか?」

 

兵夜「あの爺さんだとそういうのにも興味あったんだろうが、巻き込まれたロスヴァイセさんが完璧に被害者だよなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朱乃「・・・今にして思えば少しやりすぎましたわね」

 

小雪「あれはいろいろときつかった」

 

兵夜「しかしまあ、これでうまく退魔師の方に憎悪が向いてくれれば万事解決なんだが・・・そううまくはいかないか」

 

小雪「ガキの頃のトラウマにんなこと言っても無理があるよな」

 

朱乃「いろいろと心配をかけさせたようでごめんなさい」

 

兵夜「実際これで昔のことが刺激されたのか、ゼノヴィアの特訓に付き合ってる時もギクシャクしてたし。・・・みんな心配してたんで、これからは気を付けるように」

 

朱乃「返す言葉もございませんわ・・・」

 

小雪「しっかし、お前オーディンの動きに気づいてたんだな」

 

兵夜「まあスケベななのは本性だろうがな。ギリシャの主神ほど節操なしじゃないが、オーディンも妻をいくつも持っている」

 

小雪「マジか。調べるといろいろ出てくるんだな」

 

兵夜「やはりある程度真剣に調べておかないとわからないことは多いな。神話のキャラを出すなら、一冊ぐらい参考資料を買っておいた方がいいぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

朱乃「ついに出てきましたわね。ロキ」

 

小雪「まあ、そりゃ一人ぐらいは出てくるだろーしな」

 

兵夜「まったくもって同意。冷戦状態から一気に和平の流れが加速しすぎだからな。反対勢力が実力行使とか冷静に考えれば当たり前だ」

 

小雪「しかもロキは北欧神話の終焉ラグナロクを手引きした神。他神話体系の介入でそれの阻止が確実になりそうだからあわてて仕掛けてきたってわけか」

 

兵夜「終焉からの再生は神話体系でまれにある流れだからな。それを維持することこそわが役目ってわけか」

 

朱乃「それはそれとして、イッセーくんが死にかけている割には冷静な対応でしたわね」

 

兵夜「敵の危険性ぐらいは把握するさ。今の段階ではこっちがやばいことぐらいはわかるから対策は立てる」

 

小雪「ちゃっかりダメージを与えるふりして素材確保とか、おまえどんだけファックだよ」

 

兵夜「んでもってヴァーリ登場。あいつ連携とるなら禍の団と取るべきだろうにフリーダムすぎだろ」

 

小雪「結果的にあっさり切られてるしな。向いてないんだよ集団行動に」

 

朱乃「ヴァーリチームそのものが禍の団でもはぐれ物で集まっているようですしね。D×Dでも宮白君がとりなしてなければ単独行動のままだったのでは?」

 

兵夜「まあ、腹立たしいがこれで戦力は整った。しかしそれに任せるわけにもいかないのでここで小雪を強化」

 

小雪「むかつくが、正面戦闘能力じゃ出遅れ始めてたからな。・・・素手解禁してくれても不意打ち専門だからこの場じゃきついし」

 

朱乃「実際のところ、あの能力って戦闘に不向きではありませんの?」

 

小雪「そうでもねーよ。噴出点を重量物に大量に設置すれば、理論上は軌道上にタンクローリーだって飛ばせるしよ。あたしの場合は自分の近くにならアクションなしで設置できるからとっさに距離をとる分には・・・あ、無理やり突破できそうなのだらけだ」

 

兵夜「転生者、強くてニューゲームのはずなのに苦労続きじゃねえか?」

 

朱乃「と、ここでヴァーリがサーヴァントのヒントを教えてくださいましたけど、これだけだとわかりませんわよね」

 

兵夜「いわれてみればってぐらいですよね」

 

朱乃「そして雪侶ちゃんの登場ですが・・・やるわね、私の義妹」

 

小雪「こいつ、イッセーよりも兵夜側の女に性質が近くねーか?」

 

兵夜「どっちかっていうと合いの子? っていうかこの時点で小雪とベルが俺にフラグあるの気づてやがるなこいつ」

 

小雪「最年少のくせして、実は恋愛では一番優秀かもな」

 

 

 

 

 

 

 

 

小雪「ふぁ、ふぁふぁふぁふぁっく!? なんでこんなところまで!?」

 

兵夜「あー。ついに来ちゃったかー」

 

朱乃「あらあら。ほぼ同じタイミングで同じことしてたんですわね。・・・結果は違いましたが」

 

兵夜「いやすいません。俺はイッセーみたいにはできませんで」

 

朱乃「かまいませんわ。小雪あいてじゃイッセー君の方法だと耐え切れなかったと思いますし、やっぱり宮白くんが小雪の相手でよかったわ」

 

兵夜「・・・そういわれると照れますね」

 

小雪「あの、あの時は・・・本当に」

 

朱乃「もういいわ。もういいから、泣かないの」

 

兵夜「・・・なんか親子に見えてきたな。年齢は逆なんだけど」

 

小雪「・・・話し戻すけど、学園祭の準備とかしながらついにロキ戦勃発だな。久遠の奴が正妻オーラすら出してるんだが」

 

朱乃「あらあら。愛人筆頭を目指すのだから、ある意味近いオーラが出るのは当然じゃないかしら?」

 

兵夜「おれ、まだ増えるの? なに、俺の末路は腹上死なの? 狂い哭くの?」

 

小雪「一部の一部にしかわからないファックネタ出すな。お前の能力は前作が元ネタだったけど」

 

朱乃「まだ出ていない能力の元ネタは出さなくていいですわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「で、決戦が幕開けたと思ったらついに出てきたよ、馬鹿が!」

 

朱乃「すごい理由で冥界に反旗を翻してますわね・・・」

 

小雪「しかも戦闘能力もすごいってのがマジでファックだ」

 

朱乃「あの、これ魔王様が実家の姓で活動していたら解決してたんじゃありませんの?」

 

兵夜「少なくとも自発的に動くことはなかったな。とはいえまじめすぎるせいで、一度参加したからにはグレートレッドを滅ぼすまではやめるわけにはいかん!! と本気で思っていそうだが」

 

小雪「なんだよそのファックっぷりは。馬鹿すぎるだろ」

 

兵夜「あと、果たしてそんなことが可能かというのもあれだな。四大魔王の影響力が強すぎたからこそ、現魔王も魔王の(あざな)を使ってるんだ。そんなことをしていたら今よりまとまりのない社会になっていて、和平がそれこそ不可能だった可能性もある」

 

小雪「ままならねーな」

 

朱乃「そして出ましたね、魔王剣」

 

兵夜「キャスターが初のキャスターらしい制作物を上げたからな。しかも最高クラス。間違いなく偽聖剣よりはるかに上の性能を持った剣だ」

 

小雪「そのくせ自分の技量すら高いからな。この時点で最強クラスの剣士であるはずのアーサーの不意打ちをあっさり迎撃」

 

兵夜「痛烈な皮肉まで返す余裕すら見せたからな。そりゃイッセーでも神の加護が必要だよ」

 

朱乃「しかも四つの機能を持っているのでしょう? どうすればいいのかわからなくなりますわ」

 

兵夜「一つは最初に見せた魔力斬撃。一つは特殊機能を持ってないデッドコピーの大量生産。もうこれだけでもシャレにならんな。ザムジオは兵力を自分の魔力で生み出せるから単独で物量戦ができるというトンチキだし」

 

小雪「せめてほかに能力わからねーのかよ」

 

兵夜「ああ、描写が難しいということでここで言っていいのが一つ」

 

朱乃「そんなものがあるんですの?」

 

兵夜「これらの能力に必要なエネルギーを自動で賄う魔力炉心。つまり奴は剣の性能を発揮することさえできれば、燃料切れになる必要がない」

 

小雪「始末に負えねーな、おい!!」

 

朱乃「そして小雪の元凶ともいえる男、木原エデン・・・」

 

兵夜「木原ってのは一点特化で研究してるらしいが、こいつのジャンルは?」

 

小雪「こいつはイレギュラーだよ。組み合わせで無限大、とか言っていろんなジャンルに手を出してるが、そのすべてで学園都市でも高水準をたたき出せる。・・・一人いれば学園都市を劣化再現できる別の意味での化け物だ」

 

兵夜「超音速爆撃機とかいきなり硝煙の匂い薫るものを出してきやがって。反撃といわんばかりにロキはファンタジー軍団を出現させてくるし」

 

朱乃「そしてイッセー君のピンチを救うナツミちゃんたちのファインプレー。これがなければ私たちも大変なことになっていたかと思うと、本当にありがたいですわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「小雪にしろバラキエルにしろ、無茶しすぎだろ。心臓が止まりかけた」

 

小雪「いや、その、悪かった」

 

朱乃「でも、この間にさらりとイッセーくんが乳神と接触を受けているのですよね」

 

兵夜「こんな場所でキスシーンをするのもまあどうかとツッコミ必要だが、なんだ乳神って。いまだにトンチキ具合だとトップ独走だぞ」

 

小雪「しかもこれが第四部における肝だからな。ある意味イッセーが原因とか、あいつもファックな目にあってやがる」

 

朱乃「そして二人のラブシーンですが」

 

兵夜「・・・まあ、少しいっぱいいっぱいで暴走していました、ハイ」

 

小雪「血を流しすぎていろいろあれだったです。ハイ」

 

朱乃「あえて私が解説しますけど、この二人の場合は裏社会の業界であることに対する同族意識が根幹にありますから、そのうえで宮白くんのハーレムのスタンスは「肩の貸し合い」というわけです。だから後半になるにしたがって、みんながみんなに肩を貸し合うからどんどん四角錐のような形状に」

 

兵夜「取られた! 朱乃さんに解説とられた!!」

 

朱乃「そしてこのシーンと乳神の粋な計らいで、つっかえの多くが取れた小雪は禁手へと至るのですわ。心の動きが覚醒につながるというのは素晴らしい設定ですわね、神器」

 

兵夜「まあ、それでも完全に取れたわけじゃないのが大変なんだが。お前しょい込みすぎだから少し貸せよ」

 

小雪「そうそう渡せるもんじゃねーよ。・・・でもありがと」

 

朱乃「あらあら。どういたしまして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「んでもってラストバトル連戦。まずはライダーこと冬将軍に、雪侶のサポートの元龍王ヴリトラ登場!」

 

小雪「出てくるのが少ない割にはインパクトでかいよな、お前の妹」

 

朱乃「あらあら、将来的にはあなたの義妹でもあるんですから、もちろんすごくて当然でしょう?」

 

兵夜「ふつつかな妹ですがよろしくお願いします」

 

小雪「はいはいお任せください。で、あたしの禁手なわけだが」

 

兵夜「一度に一種類の能力しか使えないが、それを除けば非常に汎用性が高くなってるな。しかも出力も上昇って・・・」

 

朱乃「遠距離攻撃から防御、加えて高速移動に・・・最後はまた恐ろしい」

 

小雪「逆にいえば、これが最大出力だからな。これ以上は出せないってのが欠点なんだが」

 

朱乃「本来ならフェンリルにとどめを刺せるだけの威力があれば十分すぎるのですが・・・」

 

兵夜「最近それでも足りなさそうな化け物がゴロゴロ出てるからなぁ。なんか追加を出さないと駄目そうな気がしてきたぞ?」

 

朱乃「そしてイッセー君はザムジオを乳神の加護の下撃破。ああ、やっぱり格好いいですわ」

 

小雪「愛する女の支えの元、強大なる魔王の末裔を撃退する。・・・見ててなんだかこっちが恥ずかしくなってきた」

 

兵夜「俺の親友ならまあ当然といっておこう。恐れおののけ、こいつが兵藤一誠だ!! 何より―」

 

小雪「朱乃の良妻っぷりだな。まさに最高のタイミングじゃねーか。内助の功ってやつか?」

 

朱乃「あらあら、照れますわね。でも次の兵夜君もすごいのではなくて?」

 

小雪「ちゃっかりフェンリルの爪を使って神殺しを作成か。抜け目ねーよなほんと」

 

兵夜「まあ、腐っても高位の神だからな。アーチャーといえど一対一でどうにかなるような相手ではないし、それだけのものは用意しないと」

 

朱乃「雪侶ちゃんのナイスフォローもあっていいところまで追いつめる宮白君でしたが、それでも足止めをするあたり、ロキもまた強敵ですわ」

 

兵夜「小物じみた連中がゴロゴロいる中、ようやく比較的まともな理由で仕掛けてきた敵ですので。・・・アニメ化で小物度が上昇して実に残念」

 

小雪「それに対して真正面から不意打ちかけたお前もたいがいだろ」

 

兵夜「最初に言ったろうが、スぺツナヅって。隠してなんかないぞ?」

 

小雪「ロシアの特殊部隊が使用していた専用ナイフの特徴なんて、北欧の神が知るわきゃねーだろうが」

 

朱乃「そして楯にしてしのぎ切るとか、えげつないですわね宮白君は。小雪も頑張ってね」

 

小雪「そっちも、変態の相手は苦労するだろうがしっかりな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして何とか戦いが終了したが、肝心のフェンリルを奪われてしまったのが非常に残念」

 

小雪「ピタゴラスイッチかよ」

 

兵夜「しかもどさくさに紛れて子供の方も禍の団に奪われるし、これ絶対後々強敵登場フラグだよ」

 

朱乃「あらあら。禍の団もちゃっかりしてますわね」

 

小雪「ったくな。それにオーディンの奴もなんてことを」

 

朱乃「いいではありませんの。おかげでついにグレモリー眷属は駒が埋まったのですから」

 

小雪「地味にここでフラグ立ててたが、結局回収しなかったな、お前」

 

兵夜「やかましい」

 

朱乃「でも、なんだかんだで小雪もしっかり宮白君のハーレムの一員ですわね。私たちの見ている前であんなこと」

 

兵夜「いやいや朱乃さん。こいつは人の目はちゃんと気にしてますって。桁違いに被害が少ないんですから」

 

小雪「まったくだ。隠す必要のない相手の前ぐらいはっちゃけたっていいだろうがよ」

 

朱乃「・・・何気に二人ともやっぱりずれてますわね」

 

兵夜・小雪「あれぇえええええっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小雪「ま、そういうわけでファックなお茶濁しに突き合わせて悪かったな」

 

朱乃「放課後のラグナロク編もこれで終了。次回は英雄派との戦闘が勃発する修学旅行はパンデモニウムですわ」

 

小雪「ゲストの片方は完璧にわかりきってるが、まあ誰も文句はねーだろ」

 

朱乃「もう片方が読みずらいですが、まあちゃんとした人選ではあるでしょうね」

 

兵夜「そういうわけで、次もケイオスワールドをよろしくな!!」

 

 

 



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修学旅行のパンデモニウム
大王、超強いです!


パンデモニウム編開幕!!


最近見直すとちょっと書き溜めていたのが多かったことに気づいたので、少し更新速度が上がります。


 夜、俺はベッドで困っていた。

 

「・・・なあ、ナツミ?」

 

「なに、ご主人?」

 

 首をかしげるナツミはマジかわいい。それは認めよう。

 

 ああ、俺が知る限りにおいて、猫耳ランキングをつけるならば小猫ちゃんにも並ぶ強大な可愛さだろう。

 

 だがしかし。

 

「なんでベッドにもぐりこんでるんだ?」

 

「ご主人が当分どっか行くから」

 

 そういうと、ナツミは頭を俺の胸にこすりつけるようにしながら抱き付いてきた。

 

 ・・・いやまあ、確かに修学旅行には連れていけないから数日ほどはおいていくけど。

 

「最近中毒症状になってないか? いい機会だからちょっと抜いとけ」

 

「ぶぅ。兵夜は最近フラグ立てすぎだもん。しゅーがくりょこうとかで現地妻とか作ったらダメなんだからね? 誠実じゃないと怒るよ?」

 

「お前、俺をイッセーと一緒にしないでくれるか?」

 

 最近のあいつのアルティメットフラグメイカーっぷりなら十分あり得るが、俺はそこまで節操なしじゃない。

 

 別に意図してハーレム作るつもりは一切ないということを理解してくれないだろうか?

 

「それに、・・・絶対なんかあるだろありゃ。ご主人だって楽観視はしてねえだろ?」

 

「それはまあそうなんだよなぁ」

 

 ぶっちゃけそこが心配だったりする。

 

 ここ最近、俺の周りでトラブルというか大騒ぎの発生率は尋常じゃない。

 

 近辺で発生するイベントにおいて、高確率で禍の団関係の出来事が連発しているのが厄介だ。

 

 今回だって間違いなく騒ぎになる予感がする。

 

 騒ぎといえば先日の大騒ぎは面倒だった。

 

 まさかグレイフィアさんがサーゼクスさまの嫁さんだったとは思わなかった。

 

 そしてイッセーの婿試験が起きるとは思わなかった。魔王総出で参加とかお前ら暇なのか?

 

 どいつもこいつも一癖も二癖もある連中だし、もうちょっとまともにやれとかいう理由で反乱おこしている旧魔王派もいるんじゃないだろうかとか思ったり思わなかったり。

 

 だが、それでイッセーのパワーアップの可能性が開けたというのは好都合だ。

 

 悪魔の駒のブラックボックスとはなかなか興味深い。俺も解放してもらいたいところだな。

 

「・・・なんか、悪魔の駒の解放の影響が修学旅行でお披露目されそうで怖いな、マジで」

 

「絶対あるよね・・・」

 

 俺たちは同時に溜息をついてしまった。

 

 京都といえば陰陽師やらなにやら、日本ファンタジーの真骨頂といっても過言ではない。

 

 まさかそんなところに襲撃をかます馬鹿はいないとは思うが、しかし禍の団って馬鹿の集まりっぽいところがあるから油断できない。

 

「なにかあったら呼ぶから、準備は頼むぜ?」

 

「・・・うん! いつでも呼んでねご主人!!」

 

 頼られるのがうれしいのか、ナツミは満面の笑顔でうなづくと、そのままギュッとしながら目を閉じる。

 

「お前、このまま寝る気か?」

 

「もちろん! 今のうちはボクだけの特権だもんね」

 

 ・・・なるほど。使い魔だから普通にこっち来れるナツミの特権か。

 

「はいはい。じゃあゆっくり眠って明日も頑張ろうな」

 

「はーい」

 

 さて、修学旅行はどうなることやら・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・シャレにならないな」

 

 目の前で起きている戦いに、俺は結構驚いていた。

 

 今目の前で、イッセーとサイラーグ・バアルの模擬戦が行われている。

 

 ぶっちゃけ言おう、イッセーが苦戦している。

 

 ・・・もう一度言おう、イッセーが苦戦している。

 

 ちょっとまてオイ、サイラオーグ・バアルってバアル家でもっとも才能がなくて、魔力に至ってはゼロじゃなかったか?

 

 死に物狂いの努力で当主の座を勝ち取ったとか言ってたが、それにしたって度が過ぎてるだろ!?

 

 今の状態のイッセーを格闘戦だけで有利に立ち回るとか化け物だろ!?

 

「・・・まさかここまでとは」

 

 隣で木場も目を見張っていた。

 

 だよなぁ。

 

「・・・ディオドラとか、マジで指先ひとつでダウンしそうなぐらい圧倒的な実力差を発揮してるんだが。頭一つとびぬけてるだろ、オイ」

 

 ディオドラのあの戦闘能力は部長を超えていたが、それでもイッセーなら単独で十分圧倒できるだけの実力があった。

 

 それでも下馬評で二番手だったアガレス陣営を孤軍奮闘で勝利に導くだけの実力はあったんだ。

 

 ・・・蛇を使ってそこまでいったディオドラを寄せ付けないって、才能がないわけないだろうがオイ!?

 

 ・・・そこ、倒した俺はどうなるんだとかいうなよ? 偽聖剣の性能は赤龍帝の鎧と渡り合えるからノーカウントだ。

 

 攻撃力と耐久力はイッセー、多様性と機動性は俺って感じだ。

 

 今の時点でイッセーが時折見失うほどのスピードを発揮している。

 

 木場との模擬選では翻弄されることもあるが、何とか追いついて戦闘できるだけの動体視力をイッセーは発揮している。つまり、瞬発的な加速ならサイラオーグ・バアルは木場すら超えるほどのスピードで動けるということになる。

 

 どれだけ努力したらそこまで積み重ねることができる?

 

 これで才能がないというんだからバアル家というか悪魔はあれだな。

 

 魔力にこだわりすぎてほかの能力を軽視しているとしか言いようがない。よくぞそんな環境で当主の座にまで到達できた。

 

 イッセーも魔王直々の指導でそれなりの運用方法を発揮している。

 

 悪魔の駒の集中運用により、女王の状態よりもさらに強化する特化形態の突入がそれだ。

 

 それをもってしても向こうのほうが優勢とかどんな実力だオイ。

 

 この人協力してくれたらロキも簡単に返り討ちにできたんじゃないだろうか?

 

「・・・さささサイラオーグさまが、た、楽しそう」

 

 ・・・ん? 聞きなれない声が。

 

 ふと後ろを振り返ると、小柄な少女が立っていた。

 

「・・・えっと、どちらさまだっけ?」

 

「は、ははははい!! スパロ・ヴァプアルでしゅ!? さ、サイラオーグさまの兵士を務めさせていた、いただいております!!」

 

 ・・・ああ、レーティングゲームでは動いてないのが二人いたけど、その一人か。

 

 なんというかちっちゃい子だな。しかも見るからに臆病そうだし。

 

 ・・・とはいえ。

 

「へえ。震えているけど逃げてはいない。臆病なようだけど根性はありそうだ」

 

 ゼノヴィアのいうとおりだ。

 

 臆病ということは逃げたいという気持ちが人一倍強いということとだ。ギャスパーなんかがいい例だろう。

 

 それでも逃げずにちゃんと立つには、普通の何倍もの勇気がいるはずだ。

 

 サイラオーグ・バアルの眷属なだけあってなかなかだ。根性はあるな、根性は。

 

 ・・・などと思っていたらなんか戦闘がとんでもない方向に変換し始めたぞ?

 

 アーシアちゃん? 確かにイッセーは毎回オッパイで何とかしてきたところはあるが、模擬戦でそれやったらアカンて。

 

 ゼノヴィアもギャスパーも乗るな。朱乃さんもあおるな。部長もいとこがいる前なんだから自重してください。

 

「・・・本当に乳をつつくとパワーアップするのか? 俺は噂だとばかり思っていたんだが」

 

「「・・・本当です」」

 

 サイラオーグ・バアルの質問に、俺も小猫ちゃんもうなづくしかなかった。

 

 禁手に至るわ覇龍制御するは、本当にこいつはもう。

 

 とはいえその辺はちょっと訂正するべきなきがする。

 

 どちらかというとおっぱいがらみで逆転することが多いんだ。つつけばいいというものじゃない、つつけば。

 

「い、いいいいやらしいです!? そういうのはもっと人がいないところです、するべきです」

 

 胸をかばってスパロが逃げ腰になるが、これは仕方がない。

 

「や、ややややっぱり変態技は封印してもらいましょうサイラオーグさま! 私はややややです、あんなのもらうの!?」

 

 だよね! いやだよね!!

 

「・・・サイラオーグ・バアル。眷属もああいってるしその辺は抑えたほうがいいと思う。と、いうかこんな子に変態技喰らわせるのは俺としても止めたいです」

 

 イッセー。こんな子に余計なトラウマ背負わせたらさすがにぶんなぐるぞ。

 

「待て宮白! なぜか俺が一番悪い奴になってるんだけど!?」

 

「いや女にとって一番悪いやつをここで探せとなったら、お前間違いなくトップだろうが」

 

 超ド級変態セクハラ技を二つも作っておいてその汚名を避けれると思っているのか?

 

 俺は無理だと思う。

 

「畜生! 親友にまでそんなこと言われた!! こんなんじゃハーレム王なんて夢のまた夢だ!!」

 

 いや、秒読み段階だと思う。

 

 と、いうか最近アーシアちゃんにお目覚めのキスをもらいまくってるとか聞いたんだがどうしたものか。

 

 まさかここまで急激に関係が深まるとか思わなかった。このままほおっておくのはちょっとまずいかもしれん。

 

 一年かそこらでそこまでヒートアップするとか思わなかったので当分放置する方向だったが、これはもっと気合を入れてカウンセラーを探したほうがいいかもしれん。

 

 と、いうか修学旅行というのがまずい気がする。具体的には桐生アドバイス的な理由でヤバイ気がする。あいつが絶対にいらんことを言ってゼノヴィアやアーシアちゃんが暴走して大変なことになる気が本気でする。

 

 ・・・やばい!? うっかりしていた!!

 

「まずは桐生を張り倒さなければ!!」

 

「え? なんで桐生さんにひどいことをしなければならないんですか!?」

 

 思わずしゃべったせいでアーシアちゃんに聞かれてしまった!?

 

 しまった、これからどうやってごまかす!?

 

 などと騒いでいる間にサイラオーグ・バアルは帰ることにしたようだ。

 

 イッセーのパワーアップ方法を知られてしまったのでもう少し手札を見ておきたかったが仕方がない。

 

 とりあえず、俺は見送りのために玄関までついていくことにする。

 

「なるほど、バアル領ではそういったことがあったのですか。それならちょうど知り合いに頼れそうな人がいるのですが―」

 

「ほう? お前たちもそういった方面で苦労しているのか。ソレならバアル領に専門家がいるぞ?」

 

 ・・・そのついでに政治的な話をして独自のコネクション形成のために努力するのも忘れない。

 

 コネとはマメに行動する奴が形成できるのだ。この辺の努力を怠る者にコネクションを形成することなどできん。

 

 すでに京都土産のリストもできており、どの店で購入すればいいのかもリストアップ済みだ。

 

 ふはははは! 修学旅行で俺はコネクションの強化を二手三手進めさせてもらう!! これも出世のための労働と思えば苦労のうちには入らん!!

 

「それでは、のちのレーティングゲームを楽しみにさせてもらいます」

 

「ああ。転生者の中でも出世頭と名高い宮白兵夜の実力、その眼でしっかりと見せてもらおう」

 

 サイラオーグ・バアルは俺の肩をたたくと、ものすごい好印象を与える笑顔を浮かべた。

 

「おれとの試合に関しては、お前が手にしている全武装についても解禁してもらえるよう交渉している。・・・赤龍帝と肩を並べる戦果を挙げたその本領、ぜひとも見せてほしい」

 

 ・・・っ! おいおい本気か?

 

「アレは実戦を生き残るために開発した反則兵器です。・・・本来レーティングゲームで使っていいようなものでは―」

 

「だ、だだだ大丈、夫です」

 

 スパロが、なぜか俺の言葉を遮る。

 

「それぐらい、じゃなきゃ、サイラオーグさまはたたた倒せませんから」

 

 おおう。言ってくれる。

 

「それは恐ろしい。この子も見かけによらない実力者なのかもしれませんね」

 

「ああ、彼女はよくやってくれている」

 

 サイラオーグ・バアルはスパロの頭をなでると、まるで親のような表情を見せる。

 

「そうだな。お前にはいっても問題はないだろう。上役がうるさいのでここだけの話にしてくれると助かる」

 

 ・・・なんだ?

 

「・・・おそらく、スパロはお前のいた世界出身の転生者だ」

 

 へ? なんだって!?

 

「スパロは神器を覚醒させて助けを求めてきた少女なのだが、俺が助けたときには心を病んでいたのか記憶を失っていてな。最近になって入手できるようになったデータでは、魔術師(メイガス)の共通データと同様の結果が出てきている」

 

 ・・・なるほど。確かにあり得るな。

 

 魔術師、それも治癒魔術は非常に驚異的な能力だ。

 

 どうも治癒能力に関しては、こちら側の技術は非常に有効なようだ。

 

 小雪の世界は薬みたいに結構けがに応じて種類を変える必要があるみたいだし、久遠の世界は結構有望なようだが、それでも実力者は数少ないようだ。

 

 反面魔術師の治癒魔術は専門家でなくても魔力さえ用意できれば力技でどうにでもなるところがある。宝石魔術の技術を流用できればかなりできるだろう。

 

 魔術礼装の技術の提供もあってかなり貢献度が高いから、その辺のことも考えると色々あったとしてもおかしくない。

 

「特に上が警戒しているのだが、どうもその施設は禍の団がかかわっている可能性もあるようだ。・・・そのせいで政治のことを気にした上役が魔王側には黙っていろとうるさくてな」

 

 ああなるほど。そりゃ言えん。

 

「了解しました。その辺のところは胸にしまっておきましょう」

 

 ややこしいことになって、こんな人格者の社会的地位が転落しても問題だ。

 

 イッセーたちにも内緒にしておくか。あいつはうっかり言っちゃいそうだし。

 

「今後は内密に協力してもらうこともあるかもしれん。だからお前にだけは伝えておこうと思ってな」

 

「そ、そのときはよよよよろしくお願い、しましゅ!!」

 

 そういうと二人は去って行った。

 

 ・・・のちに聞いたのだが、なんでもサイラオーグ・バアルはリミッターをかけていた状態でイッセーとやりあっていたらしい。

 

 しかもスパロも最年少ながら英雄派との戦闘で敵を全員捕縛するなどの功績をたたえられた実力者なのだが。

 

 それほどの実力者と戦闘しなくてはならないとは大変だ。

 

 とはいえ、さすがに負けてはやれないけどな!!

 

 




スパロはチョイ役ですが、設定的には重要キャラです。・・・まあ型月のキャラで重要となると一つしか思いいたらないでしょうが、感想ではぼかしてくれるとうれしいです。





パンデモニウム編は結構ベルにスポットを当てます。さらに、対英雄派戦は知将宮白の本領発揮でもあります。

活動報告で募集した弱点も、可能な限り生かすつもりです。策士VS策士のいやらしい戦いをご覧ください。





この章の脳内プロットを見返したら、アーチャーは英雄派の天敵と呼ばれるかもしれないと思いました。


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ベル、気張りすぎです!!

 駅のホームで、俺は見送りに来ていた小雪やナツミと会話していた。

 

「しかしまあ、なかみ30過ぎてんのに修学旅行とかある意味ファックだな」

 

「いうな。前世じゃ高校の修学旅行はいきそびれたし、その辺ちょっとは期待してたんだがな。・・・京都は親父の付き添いで何度か言ったからちょっと残念だ」

 

 まあ、その分土産の用意は簡単にできそうだからそういう意味では好都合ではある。

 

 まあ、これまでの経験から言って何らかのトラブルが発生する可能性が非常に高いし、その辺の対策を中心に考える予定だ。

 

 アザゼルあたりはできうる限り修学旅行を楽しませようと動くだろうが、サーヴァントが絡む可能性もある以上、聖杯戦争参加者として黙っているわけにはいかない。

 

 アーチャーも連れていくし、その辺は仕方がないからな。うん。

 

「じゃ、何かあったらすぐ知らせろよご主人。俺様がひと暴れして何とかしてやるからな!!」

 

「ああ、期待してる。だからいつでも行けるように待ってろよ?」

 

「うん! お土産待ってるね!!」

 

 ナツミの頭をなでながら、俺は小雪の方を向く。

 

「で、そっちはそっちで頑張れよな」

 

 小雪は今回干渉できそうにない。

 

 なんでも禁手が俺並みにイレギュラーだということで、ちょっと時間をかけてデータを取り行くそうだ。

 

 数日かかるみたいだし、神器システムに影響がないか本格的に調べるみたいなので、今回何があったとしても駆けつけるのは難しいらしい。

 

「ま、心配はしてねーよ。お前らのことだから自力で何とかしそうだしな」

 

「そいつはどうも」

 

 俺は苦笑すると、ちょっとだけ視線を周りに向ける。

 

 よし、誰も見てない。

 

「それじゃあまあ―」

 

「よいご旅行をってな」

 

 そのまま一瞬だけ顔を近づけてキスを交わす。

 

「あ、小雪ずるい!! ボクもっ!!」

 

 飛び上がってきたナツミとしたときは、勢い余ってちょっと歯が唇に当たって少し痛い。

 

 ま、キスなんて慣れてないしこんなもんか。

 

「旅行先では久遠といちゃついてなファック野郎」

 

「帰ってきたらご飯いっぱい作ってよね!!」

 

「了解。じゃ、行ってくるよ」

 

 そういうと、ちょうどいいタイミングだったので素早く新幹線へと乗り込んだ。

 

 まあ何度か行ったとはいえ数年前だし、駅前は少しは変わっているだろう。

 

 ・・・世界全土に旅行にふさわしい名所はいくらでもある。そして全部回っていけば次くるときは結構変わっているところもあるかもしれない。

 

 そう考えると長い人生というのも悪くないかもしれん。研究するべきテーマも結構あるし、これは結構退屈しないかもな。

 

 なによりいい女が三人もいるんだ。あまり文句を言えるような立場でもないか。

 

「遅いわよマスター。それで、京都はどれぐらい楽しめるのかしら?」

 

「一応ガイドマップは用意したよ。何かあったら呼ぶから、それまでゆっくりしてな」

 

 私服で待機していたアーチャーに、記憶を思い返しながら作ったガイドマップを用意する。

 

 せっかく日本の名所に行くんだ。アーチャーにはついでに結構楽しんでもらいたいところだ。

 

 特に京料理は気に入ってもらいたいな。あれが結構美味いんだ。

 

「京都とくれば日本でも有数のパワースポット。もしかしたら駒王町より快適に過ごせるかもよ? この世界なら間違いなくハイスペックだろ」

 

「それは楽しみね。あの生活もそれなりに楽しめたけど、たまには静かに落ち着いた生活もしてみたいわ」

 

 へえ、結構気に入ってくれてるんだな。

 

「上流階級には騒がしすぎると思ったけど、そういってくれるとうれしいよ」

 

「・・・魔女と呼ばれる女にあんな風に接してくれるのは珍しいもの。使い魔(サーヴァント)相手にここまで普通の生活をくれるマスターなんて、あなたぐらいなものよ?」

 

「ヴァーリのところはそこそこ行けそうだけどな」

 

「アレはやれ戦闘だのうるさそうだもの。魔女扱いされなくていい生活っていうのも悪くないわね」

 

 ・・・なるほど。確かにバトルマニアのところでは平凡な暮らしは過ごせそうにないな。

 

 ビル並みの階数の一軒家で暮らすことが平凡かどうかはさておくが。

 

「生前は神のせいでさんざんな目にあったもの。聖杯戦争にも関わらず、ここ数か月もこんな暮らしができるとは思わなかった」

 

 苦笑しながら、アーチャーは持ってきていたお菓子を口に運ぶ。

 

「毎日普通に食事がでて、夜はおつまみと一緒に美酒をのみ、魔術で成果を挙げれば普通に喜ばれて報酬までもらう。そしてかわいい子にかわいい服を着せて鑑賞できる。どう考えてもサーヴァントの暮らしじゃないわよ。あなたたち、使い魔の扱いを考えてみたらどう?」

 

「お前を使い魔扱いする気はないよ。魔術師はどうだか知らないが、俺としては優秀な師匠で頼れる用心棒に、そんな扱いをさせる手合いは嫌いでね」

 

 そもそも圧倒的にアーチャーの方が格上なんだ。命令を聞かせるだなんてそれこそあれだろう。

 

 提案や指示をちゃんと聞いてくれるだけ十分すぎる。令呪はブーストにしか使いたくないな。

 

「だから要望があったらいつでも言ってくれ。無理がなければ反映するよ、俺は」

 

「考えておくわ。それじゃあ、私は席が違うから」

 

 そういうと、アーチャーは別の車両に去っていく。

 

 その時の表情が苦笑だったのか照れ笑いだったのかは俺にもよくわからない。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・どうしてそうなった」

 

 メールでイッセーから連絡のあった内容を見て、俺は本気で頭を抱えた。

 

 赤龍帝の残留思念と接触してパワーアップを図る作戦において、歴代における男女の最強赤龍帝が接触を図ってきたというのだ。

 

 それはまあいい。

 

 そしてこの二人はドライグを含めても好意的で、イッセーのパワーアップを図るために協力してくれた。

 

 これは素晴らしい。

 

 それはなんというかはこのような形をして、イッセーが魔王様から与えられたアクションがカギのような形で発動して開けることができたとか。

 

 それをここでするのはちょっとやばくないか? うっかり波動が放たれたら新幹線が大破しそうなんだが。などと思ったがここまではまあいいだろう。

 

 問題は次だ。

 

 なんか箱の中身が飛んで行ったとか。

 

「・・・なんでだよ?」

 

 なんで飛んでいくんだよ?

 

 っていうか回収できるのか?

 

 新幹線から飛び出てないよな?

 

 不安しかない。何やらトラブルの予感がさらに増えて、もう本当に何と言っていいのかわからないが嫌な予感しかしない。

 

「死ぬほど不安だ」

 

「・・・実質どうかしましたか?」

 

 頭を抱えた瞬間に、何やら聞き覚えのある声が聞こえてきたのでふと頭を挙げる。

 

 なぜかそこにはベルがいた。

 

「お前なんでいんの? 用務員は修学旅行に参加しないだろう、普通」

 

「いえ、アザゼルが万が一のトラブルを警戒して戦力を集めようとしてまして。・・・兵藤一誠ら三名の抑え役として戦闘能力の高い人物を監視役に派遣するようにとねじ込んだのです」

 

 なるほど真理だ。

 

「松田とかいう人の戦闘能力に対応できると判断されたのは実質私だけだったので選ばれたんです。お手数おかけすると思いますが、まあいないものとして扱ってくれてかまいません」

 

「いやいや。お前京都行きなれてんのか? どうせだったら姿を現したって一向に構わねえぞ?」

 

 こっそりついて行かれているとかいうのもあれだし、いっそ堂々と監視して楽しめばいいだろうに。

 

「いえ、いつ何が起こるかわかりませんし、私はいつものことですので実質お気になさらず。どうぞ楽しんでいってください」

 

 さらりと笑顔でそんなことを言うが、その言葉に俺はちょっと気になった。

 

「・・・ベル。お前、好んで食べる食事とかあるか?」

 

「よほど味が悪くなければなんでも。この国のデリバリーの一つはあれですね。生活に必要な栄養バランスをちゃんと整えているのがあるので、あれにトレーニングに必要な栄養素がある惣菜を毎日買って食べてます」

 

「・・・休息する時間とか何してる?」

 

「基本的には模擬戦とかの映像を見ていますね。とはいえ私クラス以上の実力者は自画自賛ながら実質少ないので、同じものを繰り返し見ることも多いのですが、ほかに勉強できるものもありませんし」

 

「・・・映画とかバラエティとか見たことは?」

 

「付き合いで見たことはありますが何か?」

 

「・・・・・・そのこと、大天使ミカエルは知ってるか?」

 

「まさか、私の戦闘スタイルはミカエル様のそれとは違います。教えても何にもならないでしょう?」

 

 俺は静かに立ち上がると、そのままの勢いで新幹線でエロDVD見ようとしている馬鹿どもの方に向かう。

 

「イッセー!!」

 

「うぉおおお!? なんだ宮白!! いいだろ別に楽しんでも!!」

 

「いろいろツッコミたいが今はそれどころじゃない!! 松田も元浜も桐生もアーシアちゃんもゼノヴィアもイリナもよく聞け!!」

 

 説教はとりあえず後回しだ!!

 

「・・・松田が京都で暴走したら取り返しがつかないということでベルが監視役についてしまった。ついては一緒に行動してついでに観光も楽しんでもらおうと思うのだがどうだろうか!!」

 

 ベルの奴、人生がつまらなさすぎるだろう!!

 

 前世どん底で現世仕事馬鹿ってアホか!!

 

 この機会に思いっきり観光を楽しませて娯楽っていうものを教えてやらんとアカン!!

 

「い、いえ、それだと監視ができませんし、実質私のことなど忘れてくれてかまいませ―」

 

「マジ!? 俺のために駒王学園No1巨乳のベルさんが一緒にいてくれるのか!? ヒャッホウ!!」

 

 ベルの言葉を遮って、松田がハイテンションになった。

 

「おお! 美少女三人とその他一名に、さらに美女が一名つくとは何てラッキーなお知らせだ!! これは楽しみになってきたぞ!!」

 

「おぉ~。なんていうかからかいがいのありそうなお姉さんねぇ。よっしゃ!! どうせだから一緒に愉しみましょう!!」

 

 元浜と桐生もノリノリでテンションが上がっていく。

 

「い、いえ! 実質私は仕事で来ているので―」

 

「そういえばあなたのプライベートは全く見たことがないな。ちょっと興味がわいてきたぞ」

 

「そうよね! ベルさんって空いた時間もいつも勉強熱心で遊んでいるところとか見たことないもの! たまには一緒に遊びましょう!!」

 

「ベルさんも京都を観光しましょう! ミカエルさまもきっと喜んでくださいます!!」

 

 教会三人娘もハイテンションで同意してくる。

 

 うん、大天使ミカエルが引き金になったのか、ベルもちょっと引っ張られてるぞ。

 

「み、ミカエルさまも? で、でしたらまあ、ちょっとだけなら・・・」

 

 まったく。まさかこんな不発弾があったとは思わなかった。

 

 そういえば付き合いでテレビとか見ているときもなんというか戦闘がらみの話題になった途端にしゃべりだすところがあったからな。

 

 こっちで美味い飯も食って感想も言っているのにこれとは驚きだ。

 

 前世じゃひどい人生だったみたいだし、こっちじゃもっと愉しんだってバチは当たらんだろう。

 

「どうせだし、思いっきり楽しい旅行にしてやろうぜ。な、イッセー?」

 

「あったりまえだろ!! ベルさんにはいつもお世話になってんだし、俺たちも本気出すぜ!!」

 

「ど、どうも。・・・実質、お世話になります」

 

 任せておけよ。

 

 思いっきりお世話してやるからな。

 




なんだかんだで気張りすぎなベル。


一応、兵夜たちは息抜きぐらいはしっかりしています。というか、息抜きもできない奴は未成年飲酒なんぞに走りません。


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いきなり、トラブルです!!

最近は筆のノリがいいぜ!!


 京都サーゼクスホテル。

 

 京都、サーゼクスホテル。

 

 大事なことなので二回言った。

 

 ・・・日本が冥界に経済的な侵略されてる!?

 

 修学旅行で泊まるホテルの名前を見て、俺はそう思うとどう反応していたらいいのかわからなくなった。

 

 他に名称なかったのかオイ。

 

 内装もシャレにならないほどの豪華さだし、これはあれか、妹が行っている高校だからサービスしようとか言った感じか?

 

 そりゃウチ相当立派な高校だけど、修学旅行で徴収した金額はそこそこだろうに。サービスしすぎじゃないだろうか?

 

 ・・・と、思ったのだが。

 

「・・・なんで、八畳間があるんだよ」

 

「・・・こんなことならスイートルームでもこっそり取ればよかった」

 

 止まることになった部屋をみて、俺とイッセーは頭を抱えてしまった。

 

 なんでこんな豪華なホテルに八畳間の和室があるんだ?

 

 なんでもいざというときの合流地点だそうだが、ほかに何かなかったんだろうか?

 

 と、いうか八畳間に全員集合したら確実にあまるだろうが!!

 

 普通にアザゼルの部屋にしておけよ!! いや、アーチャーを送り込んでたんだから、その部屋をスイートにすればよかったんだろうが!!

 

「まさかアーチャーの部屋が安かったりしないだろうな。そうなった暁にはサーゼクスさまにはちょっと悪戯心がひどすぎるのでなんとしても一矢報いねば―」

 

「落ち着いてください宮白くん。アーチャーさんは京都セラフォルーホテルのほうに泊まっています。ばったり会ってややこしいことにならないようにという配慮だそうです」

 

 俺のものすごい不安から出た言葉に対し、ロスヴァイセさんのその言葉は救いどころかものすごいダメージになった。

 

 冥界は京都を浸食しすぎだろう!?

 

「宮代、おれはちょっと離れたところに京都アジュカホテルや京都ファルビウムホテルがあっても驚かないぞ」

 

 イッセーが多分冗談でそんなことを言っているのだが、それシャレにならない。

 

「実は東京アザゼルホテルとか大阪ミカエルホテルがあるのかもしれないな」

 

 もうどっから突っ込んでいいのかわからねえよ!!

 

 まさか今回のトラブルってこの方向性ってオチはないだろうな!!

 

 だとしたらましかもしれんが、それならそもそもトラブルなしのほうがよかった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当にトラブルがあったよ。

 

 今俺たちは、京都の観光名所を巡りに来ていた。

 

 だがそれどころではない。今目の前に、明らかに妖怪変化と思しき連中が攻撃を仕掛けていた。

 

「面倒なことに・・・なったな!! 松田たちは大丈夫か!?」

 

「ベルがいるから大丈夫・・・だろっと!!」

 

 手早くさばきながら、俺たちは様子を確認する。

 

 いきなりイッセーを攻撃してきたときはどうしたものかと思ったが、思ったより手こずらないレベルだ。

 

 偽聖剣抜きでここまで渡り合えるとは思わなかったが、どうやら俺も結構強くなっているようだ。

 

 とはいえこれはどう考えても誤解によるものだろう。

 

 何とか理解してもらわないと余計な犠牲者を生み出しかねない。

 

「・・・いい加減にしてもらいたい!! 我々はそちらの上役から了承を得て参ったリアス・グレモリー眷属のものだ!!」

 

 許可証をしっかりと見せながら、俺はしっかりと声を張り上げる。

 

 こういう時は自分の立場を明確にするのがいい。そうするのとしないのとでは説得力が違う。

 

「そちらがどういう事情をかかえられているのかは知らないが、我々は本日午後にようやく到着したのだ。嘘だと思うのなら京都駅の監視カメラを確認するといい!!」

 

 加えてアリバイもちゃっかり言おう。これで到着時より早く起きた出来事が原因なら、無実を証明するのも容易になる。

 

「この来訪はそちらのトップである八坂さまと、我らが長であるサーゼクス・ルシファーとの間で合意されたもののはずだ。これ以上の狼藉は妖怪と悪魔の全面戦争の火ぶたとなりえることを覚悟してもらおうか!!」

 

 しっかり最悪のパターンを発言して脅しもかけるのを忘れない。

 

 これをするのとしないのとでは相手が暴走する確率が大きく変わるのだ。

 

 その言葉にさすがに警戒したのか、全員の動きが少しの間止まる。

 

「さすがは宮白だ。・・・こういう時の話の持っていき方が一味違う」

 

「宮白くんナイスよ!! 政治的手腕が光り輝いているわ!!」

 

「年季が違うぜ!! ほ、ほら、そういうことだし俺たちは京都サーゼクスホテルにいるから話があるならそっち来てくれよ」

 

 まあ自信はあるからなゼノヴィア。もっとほめたたえるといいイリナ。

 

 だがイッセーはホテルの名前を出すな。大軍で押し寄せて桐生たちに被害が出たらどう責任を取るつもりだ。

 

「・・・いいだろう。そこまで言うのなら引き下がるが、それが偽りであった場合は覚悟しろ!! 母上をさらった報いは受けてもらうからな!!」

 

 妖怪の筆頭らしい幼女がそう吐き捨てると、妖怪たちは姿を消していく。

 

「チッ。面倒なことになったな」

 

 とりあえず俺は携帯を取り出すと、即座にメールを部長とナツミに送る。

 

 件名:妖怪がらみでトラブル発生

 

 内容:明らかに緊急事態っぽいので、例のごとく大騒ぎが起こりそうな予感。  いざというときの救援要請に対応できる準備求む。

 

 と、これで最低限の備えはできただろう。

 

「とりあえずベルたちと合流するぞ。手早く済ませてアザゼルやロスヴァイセさんとも合流しないとな」

 

「宮白、何が起こってると思うんだ?」

 

 イッセーは妖怪たちが逃げてった先を見ながらそう聞いてくる。

 

 いろいろと向こうの連中が心配なのかもな。まったくいいやつ過ぎるだろこいつ。

 

「よくわからんが、あの嬢ちゃんは立ち振る舞いから見てかなり高貴な立場だろう。・・・キツネ系であることから見て、もしかするとここの代表の八坂どのの関係者かもしれん」

 

 妖怪連中もかなり気を使っている動きだったし、もしかすると親族の可能性もある。

 

「それが直接動いて暴走しているとなると・・・。八坂殿を含めた妖怪陣営のトップに何かが起こった可能性もあるな。・・・先に合流してくれ。俺はアザゼルに連絡しておく」

 

 携帯を即座につなげながら、俺はイッセーたちを先に送ると携帯をつなげようとして―

 

「―誰だ?」

 

 気配を察知して、これをかけた。

 

「勘が鋭いな。いや、まあ詫びを入れておこうかと思ってな」

 

 そういいつつ姿を現す男は、ジーンズにセーターというありきたりな格好をしていた。

 

 とはいえその姿はよく覚えている。

 

「・・・グランソード・ベルゼブブ」

 

「久しぶりだな宮白兵夜。カカッ! そう警戒すんなよ」

 

 ・・・まさか京都で魔王血族と顔を合わせることになるとはな。

 

 偽聖剣を出しながら警戒するが、グランソードは両手を前に出しながら後ろに下がる。

 

「カッカッカ! 今日は喧嘩しに来たわけじゃねえよ。様子を見てたらこっちのせいで面倒事に巻き込んだみたいなんでな。詫びっちゃあなんだが質問があるなら少しは答えるぜ?」

 

 どこまで本気かわからんが、遣り合う気がないなら付き合ってやってもいいか。

 

 気が変わって戦闘されても困る。今この場には一般人が多いんだ。

 

「・・・さっきの妖怪がやってきたのはお前らの仕業か?」

 

「英雄派がいろいろやってるみたいでな。たぶんそいつらの仕業のはずだ」

 

「目的が何かは知ってるか?」

 

「オーフィスの目的達成のために何かするみたいだぜ?」

 

「・・・グレートレッドか」

 

「多分な」

 

「・・・お前の目的は?」

 

「頭の目的達成を手伝うのは舎弟の仕事だろう? カカカッ。俺様は一応オーフィスを頭に認めてるからなぁ」

 

 ・・・どこまで本当かはわからんが、しかしだとすると面倒だな。

 

「・・・なんでそれを教える? お前に何のメリットがある?」

 

「いやなぁ。ガキんちょ泣かせて悦に浸る趣味がねえってだけだよ。そういういみじゃあ、俺様はあいつら好きじゃねえんだ」

 

「内輪もめで争ってくれてるとこっちは楽で助かるよ」

 

 どこまで信用したらいいかわからんが、まあ最初見たときから直接戦闘タイプなのは読めてたし、参考にしても問題はないだろう。

 

「んじゃまあ、俺様はそろそろ帰らせてもらうぜ。これ以上しゃべるのも組織的にあれ何でな?」

 

 そういった瞬間に、目で追いきれないほどの速さでグランソードは後退する。

 

 ・・・これで追いかけても追いつけそうにないな。下手に京都のど真ん中で戦闘になるのもいただけん。

 

 だが、これはある意味で最悪だろう。

 

 つまりまあ、予想通りということで。

 

「やっぱり面倒なことになりやがった」

 

 どうすればいいんだこの状況。

 

 よくはわからんがどうも誘拐っぽい感じだし、このままだとさすがにいやな予感がしてきやがる。

 

「・・・遅いですよ。何をやっているんですか?」

 

 ベルが声をかけれるぐらい近くにいたことに気づかなかったのは、動揺しすぎていたからだろう。

 

「悪い、ちょっと面倒な奴に絡まれてた」

 

「よくはわかりませんが、その辺も詳しくお話ししてください。何があるかわかりませんので」

 

「ああ、無関係でもないしちゃんと話す」

 

 しかし京都も大波乱だな。予想はしていたがここまでとは。

 

「しかし了承を得て行動しているというにもかかわらず警告も抜きに戦闘行為を仕掛けてくるとは。もしかすると中枢に位置する人物に何かあったのかもしれません」

 

「それで制御が利かなくなった連中が暴走か。・・・普通にあり得るな」

 

 だとするなら、まず連携をとることも難しいかもしれない。

 

 制御ができていないほどのダメージを受けているのなら、果たして上から一括したところでどれだけの効果が見込めるかわからない。

 

 こりゃトラブルを装って修学旅行を中断することも考えたほうがいいかもしれないな。

 

「悪いなベル。楽しませるつもりがこんなことになって」

 

「お構いなく。私は実質ミカエル様の拳ですので、そういったこととは無縁に生きていても何の問題もありません」

 

 と、平然とベルはいう。

 

 うん、表情も確かに平然としているのだが・・・。

 

「・・・口元にみたらし団子のタレがついてるぞ」

 

「んぅ!? こ、これは桐生が差し出してきたものを断るわけにもいかなかっただけです!! そ、そんな十本も食べる羽目になるとは思いませんでしたから―」

 

「餌付けされてんじゃねえか!!」

 

 おのれ、ちょっと見てみたかったぞその光景!!

 

 ま、それどころじゃないみたいだがな。

 

 英雄派・・・か。

 

 あいつら、禁手を量産して何をたくらんでやがる・・・っ!!

 




政治的に揺さぶりをかけてきた兵夜。やることが本当にえげつないです。


そして仁義にあつい男グランソード・ベルゼブブ。彼は三人組の中では一番常識人にする予定です。





追記:活動報告に味方側キャラクターのイメージモデルを投稿いたしました。気になる方は是非ご覧ください。


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判明、洋服崩壊の問題点!!

活動報告のちょっとしたアンケートを出してみました。

ぜひご参照ください。


 温泉に入って火照った体を覚ましながら、俺は非常階段のところで一息ついていた。

 

 ごたごたの疲れは温泉でしっかり抜いたが、しかしそれだけとも思えない。

 

 英雄派がなぜこのタイミングで仕掛けてきたかわからないが、いくらなんでもアザゼルの行動を警戒していないはずがない。

 

 駒王学園のスケジュールぐらい、調べようと思えば簡単に調べられる。それを調べるだけでアザゼルがどこに出没するかの可能性ぐらいはすぐにわかるはずだ。

 

 つまり、奴らはアザゼルがこっちに来ることを把握したうえで行動した可能性が非常に高いわけだ。

 

 どれだけ自信があるのかそれとも馬鹿なのかはわからないが、しかしどちらにしても警戒するに越したことはないだろう。

 

 最悪、アザゼルを正面から撃破するだけの戦力を擁している可能性は十分にある。

 

「・・・全く、初日から大波乱にもほどがあるだろう」

 

 部長からの返信はすぐに来た。

 

 アザゼルが可能な限り巻き込むのを避けたかったためか部長たちは止められたらしいが、すでに部長も相応の警戒はしてくれている。

 

―何かあったらすぐに連絡しなさい。回せる戦力は準備しておくわ。

 

 実に頼りになるお言葉だ。それだけでもだいぶ心強い。

 

 とはいえここ最近連戦しているのはこちらにとっては不都合といってもいいだろう。

 

 英雄派の戦力がどれぐらいかわからないにも関わらず、こっちは連戦でだいぶデータが取れているはずだ。

 

 戦争なんてもんは事前の情報戦がかなり重要なポジションを占める以上、こっからはだいぶ苦戦することを想定したほうがいいだろう。

 

 それを言えば今までだって楽勝な戦闘はほとんどなかったわけだが、しかしそれを差し引いても苦戦するだろう。

 

 旧魔王派は馬鹿が多かった印象があるが、ザムジオは馬鹿の方向性が違うようだし、そういった面でも注意が必要だ。

 

 これまで以上の苦戦が必須。なんとしてもパワーアップの方法を考慮する必要があるな。

 

 とはいえその筆頭になりそうなイッセーのパワーアップは想定外の方向でとん挫しているし、さてこれどうしたもんだろうか・・・。

 

「こんなところにいましたか」

 

 声をかけられて振り向くと、ふろ上がりのようなベルがジャージ姿でこちらに笑いかけていた。

 

 ・・・なんというか、ジャージなのに色っぽいな。

 

 胸デカいやつは大変だな。どんな時でもサイズがアレなのでエロく見える。

 

「疲れがとれるいい温泉でした。ここなら多少の揉め事が起こってもすぐに回復できるでしょうね」

 

「お前実は戦闘のことしか考えてないだろ」

 

 まさかこのような想定外な事態があるとは思わなかった。

 

 普段から普通の会話には参加しているから気づかなかったが、どうも大天使ミカエルの役に立つ人材になることに頭が行き過ぎて、優先順位のつけ方に問題があるようだ。

 

「今日食ったみたらし団子、どうだったよ」

 

「・・・え? 美味しかったですけど、それがなにか?」

 

「お前はもうちょっとそういうことを気にしたほうがいいって話だよ」

 

 どう反応したものか微妙に困るようだ。

 

「そういえば、お前って大天使ミカエルに拾われてからずっとトレーニング続けてきたのか」

 

「はい。実に苦労しました」

 

 そういうベルの表情は、まるで懐かしいものを見ているかのようだった。

 

「合計で二十数年、私は実質人から幸せを願うような扱いを受けた記憶がないもので、あの方たちにこの力を認められたときは、本当にうれしかったです」

 

 そういうと、俺にだけ見える位置でベルは念動力を行使してタオルを浮かべる。

 

「こんな力を一般の中で持っていれば嫌悪と恐怖が出てくるのは当然ですから、当然のように認められたときは本当にうれしかったですね」

 

「そうか、確かに、恐れずに受け入れてくれるっていうのはうれしいよな」

 

 俺が同意すると、ベルはそれを見て誰が見ても見とれそうな表情を浮かべる。

 

「ええ。今でもあの時のことは手に取るように思い出せますっ」

 

 ・・・こいつは、一体どういう生活を送ってきたんだろうか。

 

 使える技術として好意を抱いていた俺。久遠やナツミも当然として使われる社会で若くして相応の評価を受けてきた。小雪だって、利用される形とはいえ使える武装程度の認識は持っていたはずだ。

 

 それなのに、彼女は自分がそんな力を持っていることすら嫌悪しているみたいだった。

 

「・・・嫌いなのか、自分の力?」

 

「正直、あの世界でこんなものがあれば人から怖がられるのが当然です」

 

 即答だった。

 

 嫌いもしてないが肯定もしていない。そんな感情がありありと伝わってくる。

 

「この世界のように異能が当然で、魔法などといった誰でも使える能力が存在するならいいでしょう。ですが、あの世界はそういった世界ではなかった。それだけです」

 

「そうか。お前、強いな」

 

 普通、そんな割り切りはできないだろう。

 

 ガキの頃からそんな風に怖がられて、普通は周りに憎悪を向けるもんだと思う。

 

 そう思わないのがこいつの強さで、だけどそのせいで変な方向に向かっている。

 

 自分が嫌悪されるのが当然だと思っているから、嫌悪しない人たちに対してより全力で好意を向けているんだろう。

 

 それが無私の奉公につながっている。

 

 おそらく大天使ミカエルは把握していないだろう。

 

 こいつ、ミカエルを求めるタイプじゃないから接触するときも思いっきり忠誠心ばっかり見せてその辺を思わせたりしてないだろうからな。

 

 そもそも大天使が一回の悪魔祓いにそう何度も顔を合わせるわけにもいかないだろうし、その辺も問題だ。

 

 そういう意味ではべったりできる俺や久遠とは方向性が違う。

 

「もう少し、肩の力を抜いても大天使ミカエルは何も言わないと思うぞ?」

 

「いえいえ。油断して弱くなってはミカエルさまの力になれないかもしれませんから。油断は禁物です」

 

 ベルは胸を張ってそういうが、そういう意味じゃないんだよ。

 

「あの人善人だからいいんだよ。そんな自分を捨ててまで使えるより、楽しむときは思いっきり楽しんだほうがよく思ってくれるんじゃないだろうかと思うけどな」

 

 悪魔が神に祈りをささげるのを許し、自分の失態は一介の信徒に直接頭を下げられるような人だ。

 

 その程度のことで目くじらは立てたりしないだろうに。

 

「お前まじめすぎて損してるよ。もっと人生楽しんだって問題ないって。フリーなんだろ?」

 

「まあ、信仰心があるわけではないので教会に属しているわけではありませんから」

 

 それなのにこの一直線具合かよ。

 

 どんだけ真面目なんだか。

 

「この揉め事が終わったら、お前はもっと遊ぶことを覚えとけ。きっとそっちの方が人生うまくいくぜ?」

 

 俺は苦笑しながらそう言ってみる。

 

「・・・・・・考えておきます。あなたが言うことなら、きっといいことになるでしょうから」

 

 思ったよりあっさりと納得された。

 

「もうちょっとごねるかと思ってたんだが、意外だな」

 

「貴方の意見なら間違ってはいないのでしょう。参考にしたほうが、きっともっと強くなれると思っただけです」

 

 なぜそう思うのかわからないんだが。

 

 こいつは悪魔祓いの中でも有数の実力者だと聞いているし、俺なんかよりはるかに実戦経験も豊富だろう。

 

 それが何でそこまで俺を評価する?

 

「貴方は自分で気づいていないだけで、非常に優れた人物です。私なんかよりはるかに優れた視点を持ち、そして高みへと駆け上がっている」

 

 俺をそう評しながら、ベルは自分の胸に手を当てた。

 

「ただかつてのようにどん底で這いつくばっていただけの私とは実質違いすぎる。あなたは兵藤一誠という光を見つけるより前から、高みを目指すために努力を重ねてきていたのです。ただ示された道を走り続けてきた私よりも、はるかに上にいるものでしょう」

 

 ・・・べた褒めされてるよ、オイ。

 

 なんというか、ベルが俺を見る目はなんというかうるんでいるというかなんというか。

 

 顔まで赤くなってつやがあるというか色気があるというか、なんだこの展開。顔が赤くなってきたぞ!!

 

「ええ、きっと私はあなたに―」

 

洋服崩壊(ドレス・ブレイク)!!」

 

 ・・・空気が凍った。

 

 俺とベルは示し合せたかのように同時に駆け出し、すごい勢いでホテルの非常階段を駆け上がる。

 

 そして俺の目の前には当然というかなんというか、裸に剥いたイッセーの姿があった。

 

 そして向かれたのはロスヴァイセさん。

 

「何やってんだイッセー!!」

 

「ぐっはぁあああああっ!?」

 

 ドロップキックで吹っ飛ばしてから、俺は素早く結晶体を取り出すと魔術でちぎれ飛んだ衣服を回収する。

 

「ちょ、ベル!! 回収するの手伝ってくれ!」

 

「は、ハイ!! うわ、本当に細切れに・・・」

 

 何とかかき集めて修復魔術をかけながら、俺は何というかあわててコートを呼び寄せるとロスヴァイセさんにあわててかける。

 

「イッセーがマジすいません!! でも味方にいきなりかます奴じゃないんですけど、一体どういうことですか!?

 

「くっそぉ!! 宮白まで来ちゃったらもう覗けないじゃねえか!!」

 

「お前マジで何考えてんの!?」

 

 このややこしい状況下でなんでそんなことまでしてんだよオバカ!!

 

 もうちょっと真剣に今後のこと考えようか!!

 

 ベルには娯楽を知ったほうが言い的なこと言ったけど、お前はもう少し真剣に生きたほうがいいとツッコミを入れるぞ!!

 

「本当にすいませんロスヴァイセさん!! なんかウチの馬鹿が全裸に剥いてしまって」

 

「ほ、本当です!! このジャージはせっかく安い時に買えたのに!! あんなに安い時なんて多分もうありませんよ!!」

 

「「そっち!?」」

 

 なんで今値段のこと言ってるんですか!?

 

「・・・って! 裸になってるじゃないですか!! まだ男の人になんか誰にも見せてなかったのに!!」

 

「遅いですロスヴァイセさん!! まずそっち反応しましょう!!」

 

 この人、真面目かと思ったけど方向性がなんかおかしい気がする!!

 

「な、何を言ってるんですか宮白くん!! 衣服は大事なんですよ!! 資源なんです、消耗品なんです!! もっと大事にしないとだめなんですよ!!」

 

「今は女の尊厳のほうが大事なタイミングではないでしょうか!?」

 

「いえ、こういうことは大事にしないといけません。宮白くんは金銭に困っていないかもしれませんが、だからといって無駄遣いをしていいわけではありませんよ。洋服崩壊で破かれる衣服だって予算がかかっているんです、こういったことは避けないといけません」

 

 そっち方面からツッコミ来るとは思わなかったが確かにその通りだ!!

 

 でもロスヴァイセさんは剥かれたことの方を気にしたほうがいいと思います!!

 

「確かに、衣服もただではありませんね。実質もったいない技ですし、味方に使用してはいけませんよ、兵藤一誠」

 

「す、すいません」

 

 ベルも納得するな!!

 

 ああもう!! どう反応していいのかわからねえよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・で、お前は何でリアスたちに連絡するかねぇ」

 

 アザゼルにそう詰め寄られるが、俺としては間違ったことはしていないので地酒を飲みながら視線だけ逸らす。

 

 あの後、アザゼルがセラフォルーさまとある程度の情報を収集したのでちょっと話を聞くために呼び出された。

 

 イッセーたちはすでに帰っているが、俺は説教も兼ねての作戦タイムで取り残されているというわけだ。

 

「つったって、いざというときを考えると報告しないわけにもいかんだろう。これまでの経験上、間違いなく大事になるのは読めてるだろ?」

 

 大ごとになってから呼び出しても間に合わないかもしれないからな。いざというときのための準備はしておかないと。

 

「まあそれはいいけどよ。お前はもうちょっと修学旅行を楽しんでろよ、ガキなんだから」

 

「中身は30代だって言ってんだろ? それより、京都の妖怪の方とは連絡取れるのか?」

 

 つまみを食いながら、俺はその辺が気になってしょうがない。

 

「どうも長である八坂の娘とやらがちょっと暴走気味のようでな。仕掛けてきたのもそいつらだろう。たぶん今日明日中にはどうにかなると思うがな」

 

「それを期待してるよ。・・・それで、英雄派の動きはどうなんだ」

 

 今回の下手人は英雄派だとか、グランソードは言っていた。

 

 全面的に信用するつもりは一切ないが、しかし参考にはするべきだろう。

 

 各勢力にテロ行為をしでかしている奴らを警戒するのは当然なことだ。

 

 あの連中、誘拐した連中を洗脳して非道な人体実験してるからな。英霊というか反英霊だろうに。

 

「こちとら戦争を起こさず平和にやっていきたいだけだってのに面倒な連中だな。・・・悪魔と人間の付き合いだってそこそこうまくできてるだろうに、何が楽しいんだか」

 

「だが、実力はあるから面倒だ。・・・神滅具の持ち主も何人かいるっていうし、出来ればこのタイミングで一人ぐらい片づけたいところだがな」

 

 同時に溜息をつくと、そのままヤケ酒気味に酒を一気にあおるのも同時だった。

 

「じゃあアザゼル。とりあえず妖怪側とのコンタクトは任せるぞ。何かあったらすぐ連絡しろ」

 

「わかってるよ。それで、お前はアーチャーにはどういうつもりなんだ?」

 

「とりあえず、今は保留にしておきたいところだがな」

 

 その辺はできれば避けたいところだ。

 

 ・・・あいつがせっかく現世を楽しんでいるのに、余計な邪魔を入れたくはない。

 

 とはいえそううまくはいかないだろうが、とりあえず妖怪側から事情を聴いてからでも十分間に合うだろう。

 

「・・・面倒事を背負い込む性分だなお前。肩の力抜いたほうがいいのは、お前の方なんじゃねえのか?」

 

「負担をかけてる自覚はあるからな。ゆっくり休めるときは休んでほしいだけだよ」

 

 とはいえ、状況次第じゃそういうわけにもいかないか。

 

 ・・・英雄派め、見つけたらただじゃおかねえからな。

 

 




久遠の兵夜に対する好意のそれが、同じ部活に所属するできる異性に対する好意的なものだとするならば、ベルのそれはスポーツ少女が金メダリストに向けるであろうそれです。


ミカエルに拾われるまでの過去において、底辺から這い上がることを考えもしなかったベルにとって、輝きを浴びる前から高みに行くための努力を惜しまなかった兵夜は自分を超える存在として認識されています。


久遠や小雪が共感ではあるが方向性が違い、ナツミが自分を救ってくれた恩人に対する感謝なら、ベルの場合は自分の道の圧倒的先にいる存在に対する憧憬が根幹です。


ロスヴァイセフラグを着々と組み立てていますが、それに対してうまく差別化していきたいと思っております。


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京都、観光中!

この話を読んで出るであろうツッコミ




・・・ベルの方が今生でも総計でも年上じゃなかったっけ?


 早朝、俺はパソコンを使っていろいろと調べ物をしていた。

 

 アザゼル曰く、九尾の狐をさらった連中はいまだ京都から出ていないという。

 

 出ていたら京都の気の流れがおかしくなるのが理由だそうだが、そうだとすると疑問が残る。

 

 京都は妖怪たちのおひざ元といってもいい場所だ。しかも九尾の狐は彼らにとって最大レベルの重要人物でもある。

 

 そんな状況下でなんで京都から逃げようとしない? どう考えても補足される危険性が高くなるだけだろう。

 

 と、なると考えられる可能性が一つある。

 

 京都という場所も含めて、奴らが何かする計画の一つである可能性があるということだ。

 

 だとするならば、奴らが行おうとしている行動は想像をはるかに凌駕するほどスケールのデカい話である可能性も呪分にある。

 

 ・・・なんとか対策を立てたいところだが、俺一人では限界があるかもしれん。

 

 ・・・アーチャーを巻き込みたくはないが、この場合は仕方がないかもしれないな。

 

 アザゼルがコンタクトをとれたらアーチャーにも連絡するか。仕方がない、俺も面倒事に巻き込まれたものだ。

 

「さて、そろそろ少し体を動かすか」

 

 一通りデータをそろえて頭に叩き込んでから、俺はシャワーを浴びてから屋上へと向かう。

 

 すでにイッセーはトレーニングを行っているはずだ。俺もそれに参加させてもらおう。

 

 定期的なトレーニングは必要不可欠。今後のことを考えれば、何はともあれ最低限の備えはしておかないといけない。

 

「おはようございます、宮白くん」

 

 と、ロスヴァイセさんと顔を合わせた。

 

「おはようございます、ロスヴァイセさん。お早いですね」

 

「教師としましては準備がありますから。宮白くんは何をしに?」

 

 仕事熱心な人だ。おかげでこっちも助かるけど。

 

「ちょっとトレーニングしておこうかと。ある程度体を温めていた方が飯もうまいし非常時は動けますから」

 

「そうですか。先ほど木場くんたちが上がっていくのを見ましたが、もしかして彼らも?」

 

 へえ、あいつらももうトレーニングを始めようってか。

 

 俺が言うのもなんだが勤勉な奴らだよ。ほんと、俺やイッセーはいい仲間を持った。

 

「そうでしょうね。あ、イッセーはもっと先にトレーニングを始めてます」

 

「非常時の可能性があるとはいえ、修学旅行でもトレーニングを欠かさないとは真面目な人たちですね」

 

「いやいや、ロスヴァイセさんだって真面目じゃないですか」

 

 トラブルまみれで仕方がなく始めたはずの教師稼業、真面目にここまでこなすのは十分立派なことだと思う。

 

 そう思って行ってみただけなのだが、なんだかロスヴァイセさんはちょっと狼狽した。

 

「い、いえ! そんなことはないですよ! この仕事も慣れると面白いですからお構いなく!」

 

 ・・・ふむ、先日の件が糸を引いているのだろうか。

 

 最近フラグを立たせすぎだから、むやみに立たせないように気を使ってこっそりオーディンを責めたのだが、知られてしまったせいでこの騒ぎだ。

 

 やはりもう少し気を付けたほうがいいな。

 

 結果的にハーレムになるのを否定するつもりはないが、だからといって意図的に女をかき集める趣味はない。

 

 自分でも気づいたが俺は結構チョロいからな。

 

 自分の性質上モテにくいことを知ってるからから、それでも惚れてくれる人に対して一気に攻め落とされる癖がある。

 

 もちろん魅力的な女性であることもあるし、何より同類としての仲間意識もある。そして全員が全員好意を抱くにふさわしいいい女だからでもあるが、これは気を付けたほうがいいだろう。

 

 そういう意味ではロスヴァイセさんは結構いい女ではある。

 

 ・・・やばいな、本格的に落としたら間違いなく断れん。

 

 ちょっと気を付けたほうがいいな。

 

「まあ、イッセー達ほどトレーニングに重点を置いているわけではないので俺はそこそこですけどね。実践でも武装便りで本体が弱いとう欠点もありますし」

 

「いえ、実質そんなことはないでしょう。手持ちの手札をやりくりして、食い下がっていたレーティングゲームの戦いは見事だと思いますよ」

 

 と、自分に対してマイナス方面にフォローするというなんといいうかアレなことをしている俺に対して後方から妨害の一撃!

 

 振り返れば、ジャージ姿のベルが汗を拭きながらこっちに来ていた。

 

「今朝だっていろいろと調べ物をしていたのでしょう? 私たちがただやみくもにトレーニングをしているだけという状況下で先を見据えたプランの構築を行うとは、本当に見事だと思います」

 

 なんか、一流アスリートを見るかのような視線を向けられてむず痒い!!

 

「ベルさんもおはようございます。走り込みでもしていたんですか?」

 

「ええ。京都は土地勘がないので、ランニングも兼ねて周辺の地理を把握していました。やはりこういうのが戦術的に優位になることもありますから」

 

 と、お姉さんキャラ二人が会話に花を咲かせているので、俺はボロを出さないうちに退散しよう。

 

 ・・・なんか二人とも俺のことこう評価してるんだよなぁ。一緒にいるとさらにエスカレートしそうで不安になってきた。

 

「じゃ、俺はイッセーと合流しますんでこの辺で」

 

 そそくさと階段を上がりながら、俺は少し不安になってきた。

 

 ちょっと人にフラグを立てるのもいい加減にしておかないと大変だなこれ。

 

 チョロい俺がうかつなまねを連発すると、むやみやたらに女をひきつけるとかいうオチになりかねない。

 

 さばききれるだけの能力もないのにそういう真似をするわけにはいかないだろう。

 

 さて、気を付けて行動しないとな・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、三年坂はもう通り越したぞ」

 

「そ、そうですか」

 

 ガッチガチに緊張していたベルが、息を吐いて全身から力を抜いた。

 

 その手にはロングサイズの木刀が握られていて、杖のように構えていた。

 

 この女、三年坂の転ぶと三年以内に死ぬという言い伝えを本気にして、転ばないように全力を出しまくっていたのだ。

 

 ・・・アグレッシヴにボケおってからに、落ち着けよお前。

 

「気分転換にくじでも引いたらどうだ? 日頃世話になってるしそれぐらいなら出すが」

 

「そ、そうですか? ミカエルさまに仕えるものとして異宗教のものに手を出すのはどうかとも思うのですが・・・」

 

「それぐらいなら何もないだろ、ほら、やってみろって」

 

 少し位楽しみを持った方がいいと思ってやってみるが、ベルはなんかおっかなびっくりしながらくじを引く。

 

 その程度でとやかく騒いでいたら、十二月にクリスマスやらかす日本には大災害起こると思うから大丈夫だって。

 

 などとおかしく思っていたら、なんか急に顔を真っ赤にさせてくじをびりびりに破いた。

 

「え? なにがあった?」

 

「じ、じじ実質なにもありません!! お、お気遣いなく!!」

 

 なんかあわててイッセーたちの方に走り出した。

 

 ・・・何となく興味が出てきたのでちょっと修復してみる。

 

―想い人 思いが通じる。

 

 ・・・・・・・・・。

 

「当たるも八卦当たらぬも八卦・・・証拠隠滅」

 

 魔術で速攻焼却焼却。

 

 よし、見なかったことにしよう。

 

 というか俺は、わずか数か月でどんだけフラグを立てる気だ。

 

 いやいやいやいや。そもそもベルが惚れている相手が俺だという保証もないしな! うん、そうだよな!!

 

「さて、次行こうか!!」

 

「一体どうしたんだよ、宮白!?」

 

 いいから行くぞイッセー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・銀閣寺というからには、銀を使用していると思ったのですが実質違ったんですね」

 

「ああ、俺はまあ歴史の教科書とかで見てたからわかってたけど、こうしてみるとどこが銀なんだって感じだよなぁ」

 

 銀閣寺を見ながら、俺とベルはそんなことを語り合う。

 

 ちなみにゼノヴィアがなんかとんでもないショックを受けているのだが、そこまでショックを受けるほどのことか?

 

 しかしまあ、ちょっと思うところがあるんだが・・・。

 

「お前さあ、そのジャージいったい何なわけ?」

 

「これですか? 実質安かったので買ったのですが、問題だったでしょうか」

 

 ベルが来ているのは誰が見てもわかるぐらい安物のジャージだったりする。

 

 どう考えても観光地に行く時に来ていくような服ではない。寝間着とかに使うような類だろう。

 

 と、いうかそんな恰好でこっそり監視ができると思ったのだろうか? 間違いなく悪目立ちしてすぐわかる。

 

 衣服はTPOをわきまえなければすぐ目立つのだ。こんなのがこそこそしていたらそれこそ観光できなかったであろう。

 

 うん、俺はナイス判断をした。

 

「シャツにジーンズとか普通に着てるのに、なんでわざわざジャージなんだよ」

 

「あの時は仮にも上級悪魔との会合でしたので、手持ちの中で一番TPOに合ったものを用意したんですが・・・今回はだめですか?」

 

「少なくとも、観光に来ていく服じゃないな」

 

 なんてもったいない。

 

「お前そんなナイスバディの美人なんだから、もうちょっと服装は気を付けろよ」

 

「ふむ、そうですか?」

 

 自分のかっこうを見直しながら、ベルは少し首をかしげていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~~~~~~~~~っ!?」

 

 悶絶しているベルを、俺は初めて見た。

 

 金閣寺を観光しながら抹茶を呑みに来たわけだが、あろうことか一気飲みしたよこの人。

 

「べ、ベルさん大丈夫ですか!? ほら、俺の饅頭上げます!!」

 

「あんた天然だろうけどそれ食いかけだからね」

 

 元浜があわてて天然でボケるが、桐生が素早く首根っこを捕まえて引っ張り上げる。

 

「普通一気飲みするような飲み物じゃないからな、ソレ」

 

「は、はい。いい匂いだったのでつい・・・っ!?」

 

 涙目のベルが口直しに羊羹を食べて、今度は喜色満面になった。

 

「こ、これは!? すごくおいしく感じます!!」

 

「そりゃよかった。まあ、抹茶は茶菓子を味わうための飲み物とかいうし、まあ納得だな」

 

 苦すぎたのか涙目になっているが、あまりこういうところを見たことがないのでちょっとかわいかった。

 

「っていうかお前一気に飲みすぎなんだよ。もう少しゆっくりと・・・って全部食うな!! 残りの抹茶どうすんだ!!」

 

「ああ!! 実質すっかり忘れてました!!」

 

 さらに涙目になったし。

 

 と、いうか残すという発想はないようだ。

 

「ああもう。ほれ、落雁分けてやるから今度はちびちびと食え」

 

「す、すいません。このお詫びは必ず」

 

「いや、こんなんでそこまでしなくていいから。落ち着いて少しずつ食え」

 

 恐縮しながら再び抹茶に挑戦するベル。

 

 ・・・いや、ちびちび食えっていうのはハムスターみたいにはむはむ削り取れって意味じゃないんだが。

 

「・・・イッセーに続いて宮白までも! くそ、なんで俺たちには春が来ない!?」

 

「落ち着け松田。ホテルに戻ったらイッセーともども殴り倒せばいい」

 

「落ち着きなさい2人とも。そんなことばっかり言っているとあそこの痴漢みたいになるわよ」

 

 なぜか・・・なぜか! 嫉妬の炎に包まれる2人を止める桐生の示す先には、痴漢騒ぎを起こしてとっ捕まる奴がいた。

 

 なんか、京都に来てから痴漢を目にする機会が多いような気がする。

 

 以前来たときは一度も見なかったような気がするというか、普通目にしないと思うのだがどういうことだ?

 

 まさか英雄派の行動の影響とか言わないだろうな。

 

 もしくは妖怪が何かしでかしているのか?

 

 いや、いくらなんでもそんなことはないとは思いたいが、しかしそう考えたほうがいいかもしれない。

 

「・・・実質ここで仕掛けるとは思いませんでした」

 

 ベルの言う通り、このタイミングでやってくるからな。

 

 すでにイッセーたち以外の、つまり一般人はみんな気を失って倒れている。

 

 しかも店員を見てみれば、狐の耳が生えていた。

 

「・・・本当に、ややこしいことになったもんだ」

 

 俺はちょっと溜息をついてしまった。

 

 




味方側主要オリキャラの精神年齢ランキングを作るとこうなります

1位 久遠

2位 小雪

3位 兵夜

4位(同率)ナツミ&ベル


今生においてはトップの年齢であるベルですが、実は中身は一番子供だったり。

ナツミが前世の記憶との食い違いから精神年齢が一度リセットされてるのに対して、ベルは情操教育が未熟なので成長が遅い感じ。

そのため、この五人でつるんだ場合、兵夜が指揮して久遠がなだめ、小雪がツッコミを入れてベルとナツミが引っ張られる形になると思います。


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主従、逆転してます

やってることを考えると、さすがに誤って無罪放免はまずいと思うのです。


 

 イッセーSide

 

 裏京都にやってきた俺たちは、昨日襲ってきた妖怪たちのリーダーぽかった女の子、九重に謝られた。

 

 俺たちとしては謝ってくれたしそれでよかったんだけど、そこで宮白が手を挙げた。

 

「・・・失礼。ちょっと身内で方針を考えますので」

 

 その後、魔術用の結晶体とかを取り出して魔術を発動させて音をシャットアウトしてから、宮白はスクラムを要請した。

 

 で、俺たちが今こうしているわけだが。

 

「・・・イッセー。ここはちょっとぐらい詫びを入れさせるべきだと思うぞ?」

 

「いや、謝ってるんだしべつにいいだろ」

 

 宮白、相手は子供だぞ?

 

 だが、宮白は静かに首を振った。

 

「相手は子供とはいえ、妖怪を大きく動かすことができる相応にビッグな立場だ。こういうのはちゃんと罰則を与えて、しっかりと軽はずみなことをしたら損をすると考えさせたほうがいい」

 

 悪意とかはなく、割と真剣だった。

 

 え? そんな重要な話?

 

「いくら親が誘拐されて大変だったとはいえ、公式に許可を得た立場の者に、軽はずみな行動をしたというのは政治的に見てもいろいろと問題のある行動だ。これを何の罰則もなしで行動すれば、悪魔側の政治対応力に何やら言われるかもしれない」

 

「・・・なるほど。宮白のことだからこれを利用してコネクション形成を行おうとか考えていたような気もしたが、そこまで考えていたのか」

 

「宮白くんって、そういうの得意よねぇ」

 

 ゼノヴィアとイリナも関心している中、宮白は指を立てる。

 

「加えて言えば子供の行動に対して大人がまともな対処をしなかったことも問題だ。今後の政治的展開を考えても、しっかり締めるところは締めておかないとまずいだろ」

 

「そ、そういうもんか?」

 

「年長者は子供の成長のために鬼になることも必要だ。軽はずみに襲撃を仕掛けてゴメンの一言で無罪放免とか、子供の成長のためにもよくない。ちゃんと罰を与えてしっかりと反省を促さないとな」

 

 俺としてはそこまでしなくてもいいと思ったが、そういわれると反論できない。

 

 でも、やっぱりアレな気がしたのか、アーシアがおずおずと手を挙げる。

 

「で、でも宮白さん。あまりひどいことをするのはやっぱり・・・」

 

「わかってるって。その辺は任せておきなさい」

 

 ・・・まあ、いくら宮白でも子供相手にそこまでひどいことはしないだろう。

 

 ちょっと心配だが宮白に任せて、俺たちはちょっと様子を見る。

 

「・・・身内の意思統一に手間取りまして申し訳ありませんでした」

 

 咳払いをしながら宮白がまず一言。

 

「う、うむ。それでお詫びの件なのだが・・・」

 

 なんていうか、ものすごいマジモードなので九重がビビっているが、宮白はそこでにやりと笑う。

 

 ・・・やっぱり止めたほうがいいだろうか?

 

「そうですね。本格的な謝罪方面に関しては上の行動をとるべきですが、そこまでにも時間がかかりますし、当方としての謝罪に対する要求を伝えさせていただきます」

 

 と、宮白は懐に手を入れると一枚の紙を取り出した。

 

「我々は修学旅行を邪魔されたわけですので、直接的な謝罪といたしましてはやはり修学旅行に関係することで挽回させていただきましょう。と、いうことで!!」

 

 なんかポーズをつけて勢いよく突き出したメモ用紙。

 

 俺たちの方からは見えないけど、明かりで透けて文字が書かれていることだけはわかる。

 

 な、何が書いてあるんだ!?

 

「な、なんだ? 難し漢字がいっぱいあって読みづらいぞ!?」

 

「あ、すいません。年齢差を考慮してませんでした」

 

 そりゃそうだ。相手は小学生ぐらいの子供だった。

 

「まあ、相手ごとに聞いたお土産の希望について書かれた紙です。いろいろと要望を聞いて回ったのでピンポイントのもあれば結構アバウトなのもあります」

 

 その言葉を聞いて、九重はちょっとぽかんとした。

 

「まあ何が言いたいのかといいますと。暴走した連中は詫びとしてポケットマネーと労力で俺たちの土産物購入を代われってことです。うちのメンツは外人もいるのでセンスが心配だったので」

 

 ・・・へ?

 

「そ、そんなことでいいのか?」

 

 九重は拍子抜けしたみたいにぽかんとする。

 

 俺たちもぽかんとした。

 

 え? そんなことでいいの?

 

「もちろん、筆頭は九重様なのですから一番金出すのはあなたですよ? 八坂さまがお帰りになられたら、お小遣いの削減などをしてローン組んでください」

 

 きっぱりといった宮白の言葉はちょっといたずらっ子のような笑みが連想で来た。

 

 うわあ、子供小遣いから容赦なく金せびってるよ。

 

 まあ超金持ちだろうからそこまでひどい出費にはならないだろうけど、これは子供にはきつい!!

 

「あと公式の謝罪文も必要ですし、今後の悪魔の関係において上方修正などは上同士の会談で決めてください。まあ、ちゃんとお土産を用意してくださったのならサーゼクス・ルシファーに筋は当してもらったと報告させてもらいますが」

 

 な、なるほど。

 

 確かにこれなら落としどころとしてはまあいいの・・・か?

 

「わ、わかった! あんな真似をしたのだし、そこはちゃんとする!! い・・・一年ぐらいお小遣いを我慢すればいいのだろうか?」

 

「まあその辺はほかの方々と相談して決めてください。・・・もちろん」

 

 そういうと、宮白は俺たちの方を向いて苦笑する。

 

「・・・必要とあらば、俺たちは協力を惜しまないですけどね。な、イッセー?」

 

「ああ、もちろんだ!!」

 

 ぐっと腕を握って俺は宣言する。

 

「俺たちの力が必要ならいつでも言ってくれ! ちゃんと助け出すぜ!!」

 

 こんな小さな子供から、母親を引きはがすなんて許せねえ!! アザゼル先生から許可さえ出れば、今から探してもいいぐらいだ!!

 

 みんなも同じ気持ちなのか、どこか張り切りながら一歩踏み出す。

 

「そうだな。デュランダルはないが、そのような話を聞いて黙っている私ではないぞ」

 

「天使として悪魔と妖怪の橋渡しのためにも頑張るわ! ああ主よ、いたいけな子供の妖怪のためにご加護を!!」

 

「もし八坂さんがけがをしていたら任せてください!! しっかり治して見せますから!」

 

 みんな・・・!

 

 やっぱりみんないいやつだ!

 

「す、すまぬ。・・・本当にありがとう」

 

 九重は涙ぐみながら、しきりに頭を下げていた。

 

 こんな小さな子から親を奪うだなんて、英雄派め。

 

 もし見つけたら、絶対に殴り飛ばしてやる!

 

「とはいえ、奴らが京都から出ていないのなら極めて危険だな」

 

 宮白は、眉間にしわを寄せながらそう漏らした。

 

「京都にいることがそんなに危険なのか?」

 

「誘拐をしておきながら相手のおひざ元に隠れたままってことは、隠れるだけの理由があるってことだ。・・・京都がパワースポットであることを考えると、京都そのもので何か起こすことを目的にしているのかもしれない」

 

 うわ、なんか聞いただけでもやばそう。

 

 コカビエルとかぐらいになると都市一つ吹き飛ばす程度は簡単にやってのけるっていうし、英雄派の連中もすごいのがいそうだから、ど真ん中で戦うことになったらやばいかもしれない。

 

 パワースポットを利用するつもりだったら、もしかしたら日本ぐらいなら巻き込んで大騒ぎになるかも・・・!

 

「すまない九重嬢。京都の全体の力の流れを把握しておきたい。資料があるなら取り寄せてほしいのですが」

 

「構わんが、1人で調べられるのか?」

 

 九重が首をかしげるが、俺もそう思う。

 

 いや、宮白はすごいから把握するだけならできるとは思うけど、それを修学旅行の真っ最中に同時進行でやるのはさすがに無理じゃないか?

 

「事態が事態ですのであまり修学旅行に意識を向け続けるわけにはいきません。魔術師《メイガス》が動いているなら魔術的な視点で利用してくる可能性もありますし、魔術にかかわる者としての視点における助言だけは可能にしておかねば何かあってからでは遅いでしょう」

 

 額に手を当てて宮白は息を吐いた。

 

「大規模な霊地ともいえる京都を利用した大術式でも用意されたら何をされるかわかったものじゃない。万が一、奴の目的が京都の地脈を利用して聖杯の機能を拡張することだったりした場合、ネームバリューを考えれば英霊がさらに七騎呼ばれることすら普通にあり得る」

 

 その言葉に、俺はその光景を想像した。

 

 アーチャーさんばりの戦闘能力をもった奴が、七人も京都で大暴れする光景。

 

 ・・・うん。間違いなく俺なんか死んじゃうね。

 

「で、でもそれだと宮白が修学旅行できないじゃねえか」

 

「だからって今から魔術師を呼び出すわけにもいかないだろ。今まさに京都にいるんだから俺が動くのが当然―」

 

「―だったら私がやっておくわ」

 

 と、そこにはいないはずの声が聞こえた。

 

「あ、アーチャー!?」

 

 目を見開いた宮白の視線の先に、一体いつからいたのかアーチャーさんが、ため息交じりで立っていた。

 

「馬鹿な! 何も伝えてないはずだぞ!?」

 

「裏切りと策謀が本分の私が、こんな平和な国で過ごしてきた若輩者の動きも読めないと思ってたの? 朝からしっかりつけまわしてたわよ」

 

 アーチャーさんがこともなげに言ってくれたんですが、え、朝から!?

 

「全く気付かなかったぞ・・・。アザゼル総督並に恐ろしいお方だ」

 

 ゼノヴィアがポツリとつぶやくが、やっぱこの人も規格外だよなぁ。

 

 こんな人がバックについてるんだから、俺たちってものすごく恵まれてる気がする。

 

 そして敵にはこんなのが六人もいるっていうんだからほんと最悪だよなぁ。

 

「どこかの誰かが変な気を使って内密にしていたようだけれども、わざわざ同じところに来るんだから相応の対処ぐらいはしているのよ? 仮にもサーヴァントがマスターに何の安全策も用意してないと思ったのかしら」

 

「え・・・あ・・・えっと・・・」

 

 鋭い視線に、宮白はものすごく汗をかきまくっている。

 

「私はサーヴァントであなたがマスターだということを理解していないようね。聖杯戦争の基本的なルールはしっかりと把握しておくべきではないかしら?」

 

「は、はい、おっしゃる通りで」

 

 宮白。視線を合わせろ。

 

 ま、まあ仕方がないといえば仕方がないか。なんたって・・・

 

「才能は確かにあれだけども、別段無くても問題ないのに子供を生贄にするとか、戦術もわきまえずに魔力供給を削減するとか、格の差をわきまえずに勝手に嫉妬するとかするならともかく。勝つために最大限の努力を惜しまず行動し、足りない前衛戦力をしっかりと補うマスターにそこまでしてもらわなくても協力ぐらいするわよ」

 

 さすが正真正銘の女王様。怖い!

 

「まあいいわ。この件については修学旅行が終わってからよ。資料は?」

 

「は、はい! 今すぐ!!」

 

 うん、使い魔(サーヴァント)(マスター)の関係じゃないな、これ。

 

「・・・なるほど。私たちの世界はしらないけど、この世界の京都の場は大規模魔術儀式のための土壌としては一級品ね。その気になれば願望機として使うだけなら十分聖杯戦争を作れる土壌だけれども、とはいえ完成させるには数か月から一年はかかるはず。だとするならもう少し単純なものでしょうね」

 

「大量の亡霊でも呼び出して、京都全体を死の都にでもするつもりか?」

 

「まさか。 英雄派は旧魔王派よりはよっぽど頭がいいわ。やるとするならもう少しまともな方向で来るはずね」

 

 ものすごいスピードで話が進んでいく。やっぱり頭がいい人はいろいろと違うな、オイ。

 

「とりあえず、龍脈含めた魔力の流れに細工はしておくから、あなたはさっさと修学旅行に戻ってなさい。人手が必要な時は連絡するわ」

 

「イエスマム!」

 

 ・・・いや、だからそれ主従関係逆転してるって!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさかバレてるとは思わなかった。

 

 ちょっとげんなりしながら、俺は屋上で外の空気に当たっていた。

 

 わずか数時間でアーチャーは思いっきり働いてくれました。

 

 京都の魔力の流れのデータを調べて、わずかな違いから召喚系の術式と使っているのではないかと推測、対抗手段として特定部分の遮断を可能にすることで時間稼ぎ可能というところまで来ている。

 

 俺の十倍仕事が早い。やはり次元が違った。

 

 ・・・できればもっとゆっくり過ごしてほしかったが、本人が乗り気なら仕方がない。

 

 俺にできることは、必要になった時に即座に行動して結果を残すことだ。

 

 偽聖剣の調整もしたほうがいいかと思い、ちょっと展開しようとして、足音が聞こえてきた。

 

 やっべ、出すのやめとかないと―

 

「あ、兵夜くん発見ー」

 

「ってお前か久遠」

 

 ビビって損した。

 

「聞いたよー。京都の人たちって誘拐事件でてんやわんやだったんだってねー」

 

「ああ。寄りにもよってこのタイミングでことを起こしてくれちゃって、マジ迷惑だ」

 

 おかげでアーチャーに休暇を与えようかと思ったのにわずかな時間になってしまった。

 

 チャンスがあったらこのお礼はしっかりとしておかなければなるまい。

 

「確かに残念だねー。あ、応援が必要ならすぐ来るからねー」

 

「ああ、悪いな」

 

 タイミングの悪い時に仕掛けやがって、全く面倒以外の何物でもない。

 

 そう溜息をついていると、久遠が俺の隣に寄り添った。

 

「ん? なんだ?」

 

「いやー。兵夜くんにとっても残念だなって思ったからー。ちょっといい女が寄り添ってプラスにしてあげようと思ってー」

 

 ちょっと照れながら、久遠はそういうと俺の腕に抱き付いた。

 

「・・・まあ確かに、イッセーとの修学旅行が楽しめなかったのは残念だな」

 

「だよねー。私も、いろいろ考えずに修学旅行にこれたのは初めてだから、ちょっと残念だなー」

 

「そっか、だったらすり寄ってプラスにしてやろう」

 

 くるりと回り込んで、後ろから抱き付いてみると、久遠はにへら~っと笑いながら、そのまま全身で味わうようにすりすりしてくる。

 

「兵夜くんも私も素直に残念がるところだし、イッセーくんやアーチャーさんにとっても残念だろうから、チャンスがあったら頑張ってお仕置きしようかー」

 

「ああ、そうだな」

 

 高校の修学旅行だなんて、普通に考えれば一度しか味わえないもんだ。

 

 かくいうおれも、イッセーとの京都は初めてだったし、結構楽しみであったことに今更ながらに気づいた。

 

「お互い無事に帰ろうねー。そうじゃないと、私が残りの人生楽しめないからー」

 

「ああ、そうだな」

 

 英雄派がどういうつもりかは知らないが、俺たちには俺たちの生活がある。

 

 それを捨て去るつもりは毛頭ない。

 

「やってくるなら―」

 

「―ぶった切っちゃおー♪」

 

 頼んだぜ、アーチャー。

 

 とっとと終わらせて、修学旅行を気兼ねなく楽しみたいもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後、ロスヴァイセさんからイッセーが出血多量なので救助に来るよう要請されて、ちょっと甘いこの空気が台無しになった。

 

 イッセー。俺だって、彼女との甘い空間は大事にしたいんだけど。

 

 

 




仕事はちゃんとして一生懸命対応しているので、アーチャーは兵夜をマスターとして認めています。そして女王様です。

超失礼な方法で呼び出したのに、かなり積極的に協力してくれているので、兵夜はアーチャーにものすごい後ろめたい気持ちになっております。そしてやとわれて行動することになれてます。

結果として時折主従逆転していたり、マスターなのにサーヴァントを優先しすぎるところがぽつぽつと。









そして久遠のヒロイン力の高さに、俺は書いてて自分でビビっている。

生徒会ポジションなのでからませられないときはとことんまで絡ませられないのでちょっと不安に思うところもありましたが、ほかを引き離すヒロイン力の高さだと思えました。

初キスも初告白も久遠が最初という事実に、無意識に優遇しまくっていることにようやく気が付きました。だけど初Hは小雪が上な! あとあったのはナツミが先!

ベルも少し優遇したいですけど、さてどういった方面で優遇するか。・・・一番ネタキャラだからなぁ・・・


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前哨戦、槍兵強襲

 

 次の日の京都は、九重がやってきて観光ガイドの真似事をすることになって結構楽しかった。

 

 意外といったことのない京都もあることに今更ながらに気づいて、結構新鮮に楽しめたもんだ。

 

「・・・本当にどこから見ても見られてる感じになりますね。実質こんな細工が魔術も超能力もなしだとは信じられません」

 

 別もこんな感じで結構楽しんでるみたいで、俺としては結構安心する。

 

 で、今は豆腐を食べながらだべっている真っ最中だ。

 

「・・・なんというか、今まで食べていた豆腐とは何かが違う気がしますね」

 

 なんというかなれたのか、食べるものにいろいろと目の色が変わっている気がする。

 

「よし、次は冷奴試してみようか」

 

「まて宮白!! ここは俺が注文した湯葉を食わすのが先だ!!」

 

「抜け駆けすんな元浜!! それより先に俺が注文した揚げだし豆腐を・・・っ!!」

 

 約二名暴走しているが、まあそれもこの班の特色だと考えれば腹も立たん。

 

「まあ、肩の力が抜けてるようでちょっと安心したよ」

 

「・・・っ!? な、なんというか恥ずかしいところを見せてしまったような気がします」

 

 ものすごい顔を真っ赤にしているが、しかしまあ、別に恥ずかしがることでもないだろう。

 

「別にそこまで恥じ入ることはないだろ。俺だってイッセーのこと以外に俺自身で楽しんでるときはある」

 

「そ、そうなんですか?」

 

 そんなに意外なことか?

 

「うまい飯にうまい酒。女も十分堪能しているし、これでイッセーのこと以外していないだなんて言ったらバチが当たる」

 

 童貞卒業に未成年飲酒。前世じゃできなかったことを前もってやっているし、なにもイッセーのためにすべての娯楽を捨て去ってるわけではない。

 

 優先順位がぶっちぎりで高いってだけで、何も自分を捨て去ってるわけじゃない。

 

「少しは人生楽しめよ。そっちの方が余裕ができて、何より大事なもののために本領も発揮できるしさ」

 

 余裕がないのはだめだ。アレは視野が狭くなって失敗しやすい。

 

 人生油断のあるのはマズイが、余裕はある程度あったほうが力になるもんだ。

 

「・・・あんた露骨にホモ一歩手前の発言してるって自覚したほうがいいわよ? 前はもうちょっと自制してたと思ってたけど、オカ研に入ったあたりから暴発してない?」

 

 うるさいよ桐生!

 

 いいんだよ、好きなものは好きなんだから。

 

「み、宮白!! ちょっと急いで食べたほうがいい!!」

 

 なにやらイッセーがあわて始めた、一体どうした?

 

「ああやっぱりおしゃけはおいしいれすね。おーでぃんのくそじじいのおもりをしているときは油断できないからじぇんじぇんにょめなかったんれすけど、こうなったりゃいっぱいにょんりゃいますからねぇ。てんいんさ~ん。あとじゅっぽんついかれ~」

 

 何やらロスヴィセさんが暴走しておられる!?

 

「なんだ!? なにがあった!?」

 

「あ、後で教えるからとりあえず今は外に出るぞ!!」

 

 あわてて腹に詰め込んで脱出するが、なにやらロスヴァイセさんが暴走したままだった。

 

 よほどストレスがたまっていたんだろうか? あとアザゼルがやけにげんなりしていたが、あいつまさか面白半分で酒飲ませたんじゃないだろうな?

 

 あとでしっかりと確認して、しかるべき制裁を加えておこう。

 

 そして俺たちは渡月橋を渡る。

 

 途中、桐生が変なジンクスを語ってアーシアちゃんをおびえさせているが、まあ修学旅行のおふざけだと思って見逃そう。

 

「・・・本当に、今日は楽しいです」

 

 ぽつりと、ベルはそうつぶやいた。

 

「今まで満足したりうれしかったことはありますが、こんな楽しいと思ったのは、実質生まれて初めてです」

 

 そうか。

 

「じゃあもっと楽しもうか。夜になったらアーチャーの強力をしなけりゃいけないけど、だからこそしっかりと今は遊んで―」

 

 英気を養おう。

 

 そういおうと思った俺の言葉は止まった。

 

 全身をぬるりとした感触が多い、視界が急に黒い霧に包まれたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、俺たちは京都であって京都でない空間に送り込まれていた。

 

 例えるならレーティングゲームのフィールドといったところか。

 

 そこにいたのは、俺たちオカルト研究部関係者に、九重とベルのみだ。

 

「・・・誘い込まれたってところか」

 

「黒い霧による転移。・・・上位神滅具の一つ、絶霧ですね」

 

 お互いに背中をかばいながら、俺とベルは警戒し合う。

 

 イッセーたちも警戒態勢を整えていたし、アザゼルもこっちに来ていた。

 

 ・・・マジで戦闘要員全員御招待か。なめてやがるな。

 

 とにかく、今から警戒して行動を考えないと。

 

「―宮白!!」

 

 あわてて振り向いたゼノヴィアの声が聞こえた瞬間、俺は腕をつかまれていつの間にか橋から100メートルぐらい離れていた。

 

「・・・へ?」

 

「実質過激に反応してしまいましたね。少々慌ててしまいました。申し訳ありません」

 

 微妙に申し訳なさそうな顔で、ベルが視線をそらしていた。

 

 ああ、こいつ瞬間移動能力を持っていたな。

 

 と、俺がもといた位置を見ていたら、そこに一人の男が硬化してきていた。

 

「ふっははははははははははははははははははは!! なかなかやるようじゃぁないか!!」

 

 日本の大鎧に身を包んだ、何やらテンション高そうな男がそこにいた。

 

「ならこれならどうだ! いくぜえええええええええ!!」

 

 男は全身全霊で思いっきり突進する。

 

 俺はとりあえず眼前に隔壁を十枚ぐらい展開した。

 

 そのまま正面衝突すればいいと思い、とりあえず倒れたらやばいのでベルを引っ張って後ろに下がる。

 

 瞬間、槍が障壁を貫通した。

 

 ええ。それはもうプリンにフォークを刺すような感じに貫きました。

 

「・・・ちっ! 刺さんなかったか」

 

 あっさりと引き抜いた鎧武者は、障壁を飛び越えてこっちをにらむと、槍を再びこちらに向ける。

 

「この人間無骨をもってすりゃあ、そんな鉄板紙みてえなもんだ。あきらめて殺されて血を飲ませろよ。俺もこいつものどが渇いてんだよ」

 

「人間無骨。・・・森長可か!?」

 

 戦国DQN四天王の1人がなぜこんなところに!?

 

「どうでもいいぜ!! 俺はサーヴァントのランサー、それでいいだろうがぁ!!!」

 

 ランサーは刃渡りが60センチはあるその槍を振り回しながらこっちに突撃する。

 

 俺たちはそれを飛びのいてかわすが、ランサーのサーヴァント名だけありあっさりと追いついた。

 

「うざい太陽がなくて気分いいんだよ!! 血を寄越せぇえええええええええ!!!」

 

 あのすいません! 目が血走ってるんですが!?

 

「まさかサーヴァントとは、面倒ですね!!」

 

 連続攻撃をさばきながら、ベルはそう嘆息する。

 

 確かにリーチが長いうえに動きが速いからなかなか接近できない。

 

 技量そのものはセイバーに比べて格段に劣るが、スピードとリーチでそれを補ってやがる。

 

「とはいえ―」

 

「ええ、実質―」

 

「ぶつぶつつぶやいてんじゃねえぞおおおお!!!」

 

 大声でわめき散らしながら、ランサーは足を止めた俺に槍を突き出す。

 

 そして槍は偽聖剣をあっさりと貫通し―

 

「―ぬるい」

 

「ですよね」

 

 俺は真後ろからランサーをぶった切った。

 

 鮮血を挙げて動きを止めるランサーは、持ち直そうとするが動けない。

 

 ベルの念動力で固定されたのだ。

 

「な、この、くそ!」

 

「どうやら英雄派ははずれサーヴァントを引いたみたいだな」

 

 いくら偽聖剣が対サーヴァント用の武装だからって、こうも簡単に倒せるとは思わなかった。

 

 森長可といえば、やれ単騎突撃で30人近くぶった切るは、二倍の数の敵を相手に、数千二なで斬りにするはの豪勇で有名なのだが、意外と弱いな。

 

 日本なら知名度補正も高いだろうに、これはちょっといただけない。

 

「このアマ! 離しやがれ! 血ぃ吸い殺すぞ!!!」

 

 なんか小物臭もひどいし、日本人としてはアレな気分になるな。

 

「そのまま抑えてろ、ベル。首をはねる」

 

 面倒だしとっとと片づけることにしよう。楽な相手だった。

 

「・・・おぉっと、そうはいかねえなぁ」

 

「もう、ランサーくんったら突っ走りすぎよ」

 

 殺気!?

 

 振り返った瞬間に移った拳は、念のため展開していた幻影のおかげでからぶった。

 

 が、その拳が地面に当たった瞬間爆発して、俺は爆風にあおられて飛ばされる。

 

「兵夜!?」

 

「あら、お姉さんの相手は私なのよ?」

 

 ベルが振り返るのにカウンターを合わせて、大量の剣が降り注ぐ。

 

 あれ全部聖剣だぞ!? どっから調達した!!

 

「舐めないでいただきます!!」

 

 ベルは念動力で思いっきり薙ぎ払うが、それをかいくぐった女が一人、聖剣を片手に切りかかる。

 

 光力をまとったベルの拳と聖剣が衝突。しかし、その光力はあっという間に吸収される。

 

「対光力の聖剣ですか!?」

 

 かろうじて切り飛ばされる前に腕を振り払ったベルが、鮮血を振りまきながら瞬間移動で俺のところに飛ぶ。

 

 と、そこにお久しぶりのドラム缶が来訪、大挙して押し寄せてきた。

 

「うっさいは雑魚ども!!」

 

 すかさずイーヴィルバレトで無双開始。

 

 と、ただでさせ暗い視界がやけに暗くなった。

 

 まるで影が差したかのような光景に視線を上にあげると、そこにはドラゴンがいた。

 

「ボディプレス??」

 

「「な!?」」

 

 どこから現れたと思いながら、俺とベルはあわてて走って距離を取る。

 

 と、その方向には大男が。

 

「おら行くぜぇ!!」

 

 なんか全身から突起が生えてる!?

 

 っていうか発射された!?

 

 まて、あの男の攻撃は爆発したよな。

 

 あれがあの男の禁手だったら・・・。

 

「ベル!? 飛ばせ!!」

 

「は、はい!!」

 

 あわてたベルが急いで超能力を発動させる。

 

 そして俺たちは浮き上がり―って

 

「念動力《そっち》じゃない!! 瞬間移動《テレポート》!!」

 

「え? あ、ああ!?」

 

 あわてて気づいたがもう遅い。

 

 目の前にはミサイルが大量に―。

 

「ほなこんな感じでどうや?」

 

 俺たちの目の前に、剣の壁が沸き立った。

 

 それらはミサイルに砕かれながらも爆風を防ぎ、俺たちを守り切る。

 

 この関西弁は―

 

「実質、村正といいましたか」

 

「しばらくぶりやなぁ。助けに来たでぇ」

 

 なんか軽そうな調子で、八つ橋を食いながらムラマサが俺たちに並び立った。

 

 そして、ランサーを中心に集まった敵とにらみ合う。

 

「不干渉ちゅうたんに監視役なんぞおくりおってからに。けじめつけに来させてもろたわ」

 

「チッ! 面倒なのが来やがったな」

 

 日本刀を向けるムラマサの姿に、大男がすごく嫌そうな顔をする。

 

 女のほうも面倒そうな表情をするが、ランサーは何やら興奮していた。

 

「いい女がいっぱいじゃねえか!! いいねえ、それなら殺して血ぃ飲んでもいいってことか!!」

 

 明らかにキチガイじみた事をほざくランサーに、2人も白い眼を向ける。

 

 そっちも苦労してるんだな。ご苦労さん。

 

 と、微妙な感じでにらみ合っていたら黒い霧が立ち込めてくる。

 

「お二人さん。ここは見張っとくからはよ橋もどり? 現実世界に戻されるで?」

 

 村正の言葉に俺たちはあわてた。

 

 い、いきなりこんなところに現れたら変な目で見られる!?

 

「た、たすかる! 行くぞ、ベル!!」

 

「ありがとうございました!!」

 

 急いで走って端まで戻ると、イッセーたちの方も戦闘終了状態だった。

 

 そして、気づいた時には現実の世界に戻っていた。

 

「・・・桐生」

 

 俺は平静を装いながら、地図を見ていた桐生に呼びかける。

 

「なによ?」

 

「ちょっと調子が悪くなった。すまないが座れるところがないか調べてくれないか」

 

 さすがに今の段階ですぐ観光再開とはいかないだろう。

 

 気分をリフレッシュさせるのが必要だ。

 

 みれば、アザゼルに至っては怒り心頭だった。

 

 どうやら、ことは一気に動き出したみたいだ。

 

「・・・はあ」

 

 溜息もつきたくなるってもんだ。

 

 まったく、本当に忙しい修学旅行だよ。

 

 




ベルの攻略法がどうもしっくりこなかったので、兵夜の攻略法を利用した兵夜の判断ミスを生かすことにして、伏線を張りました。

ランサーは小物の多い禍の団にふさわしいキャラで、全体的に見ても弱小サーヴァントです。

こちらもこれまでの法則と同じです。ヒントはセリフとライダー。あとアーチャーとアヴェンジャー


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京都大決戦、始まります!!

 

 イッセーたちを巻き込んだ京都の大混乱は、終幕に向かおうとしていた。

 

 下手人の名は禍の団英雄派のリーダー、曹操。

 

 同盟の三国志のあれの末裔とかいう男は、九尾のキツネを使って、京都で実験をするといってきた。

 

 しかもあろうことか、実験場をバラしてイッセーたちを指名する。

 

 ゆえに、俺も当然そこに行くことになり、追加メンバーとして匙と久遠も選ばれた。

 

「・・・悪いけど、私はもう少し時間がかかるわ」

 

 アーチャーが地図を確認しながらそう告げる。

 

「京都の力の流れに影響が出てきたわ。当分そちらに集中するから、すぐには駆けつけれそうにないわね」

 

「わかった。あいつらの実験を阻止することも重要だからな。そっちは任せる」

 

 アザゼルはそういうと、俺の方に視線を向ける。

 

「宮白。現地のメンバーの指揮はお前に一任する」

 

「ああ」

 

 第一ラウンドではイッセーがそこそこ指揮を執ることができていたようだが、俺に振るか。

 

 その様子をみて、匙が首を傾げた。

 

「あれ? 兵藤もそこそこできてたって言ってた気がしたけど、宮白に一任なんですか?」

 

「まあそうなんだが、何が起こるかわからない以上、宮白のほうがリアルタイムで的確な対処ができそうでな」

 

「試しに聞くけど、宮白があの状態ならどう指示してた?」

 

 アザゼルの言葉を聞いてイッセーがそういってくる。

 

 そうだなぁ。

 

「アーシアちゃんの護衛は木場に任せるな。魔剣の広域展開ができ、機動力でピカイチの木場なら、壁を張って全方位防御することも、やばいと思ったらかかえて即時撤退することもできる」

 

 アーシアちゃんを護衛しなれているゼノヴィアというのも間違っちゃいないが、光の攻撃を多用するというのなら木場のほうが的確だろう。

 

「切り込み隊長は比較的影響の少ないイリナ。イリナが切り込んで戦線が乱れたところをイッセーとゼノヴィアで殲滅・・・といったところか」

 

「「「「「おお」」」」」

 

 まあ戦闘能力が大幅に落ちているゼノヴィアを警護につけるというのも間違ってはいないが、木場ってこういうと護衛向きの人物だからな。

 

「まあそういうことだ。おまえ元から参謀向きなんだからその辺任せる」

 

「あいよ」

 

 まあそういうのは得意だ。

 

 ・・・とりあえず地下の見取り図を調べて真下からドラゴンショットとデュランダル+アスカロンでも叩き込んでから龍王で仕掛けよう。

 

 解析魔術用の礼装は作ったから、下水道から狙えるはずだ。さすがに規模が規模だから多少の被害は許してもらえるだろう。

 

 まってろよ、英雄派ども・・・っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・痴漢の原因がイッセーにあったとは思わなかったぞ」

 

「俺も、これはないと思う」

 

 俺とイッセーは、心底溜息を着いた。

 

 ある意味最高のタイミングで、イッセーから飛び出た可能性が戻ってきた。このタイミングでこれはものすごい空気が読めているし、是ならパワーアップとかもありえそうだ。

 

 だが、残念なことに問題がある。

 

 ・・・飛び出た可能性は、無差別に人に取り付いて、胸に対する執着心をものすごい高めて回っていたらしい。

 

 つまり、京都で多発していた痴漢の原因だ。

 

 ・・・常人なら痴漢を我慢できない位乳がすきなのか、お前。

 

「ま、まあ、京都を発つ前に見つかってよかったじゃないか」

 

「ああ、デュランダルも戻ってきたし、決戦前というタイミングでなら最高の状況だろう」

 

 剣士二人がそうフォローしてくるが、しかしこれはない。

 

 お前もうちょっと何とかならなかったのかよ。

 

「・・・とはいえ、宮白くんも準備が抜群よね。私別の意味でドキドキしてきちゃったわ」

 

「確かになぁ。お前、準備がいいっていうかどこで用意してきたんだよ」

 

 ちょっとはしゃいでいるイリナや、少しあきれている匙の言葉を聞きながら、俺はハンドルを握る。

 

 今俺たちが乗っているのは、装甲車だ。

 

 装甲車型魔術礼装、アーマード・バスタード。

 

 設計段階から魔術を盛り込むことによって、驚異的なステルス性を発揮し、目視では相当近くにいないと認識できず、音も把握できない。

 

 さらに、以前から研究していた魔術による科学技術管掌も本格運用。各種センサーに対するステルス性も非常に抜群という優れものだ。

 

 さらに走行そのものも錬金術を駆使して発達し、重量軽減魔術もかけているので、桁違いの頑丈さと桁違いのスピードを持つ。

 

 その気になれば時速200kmは出せるし、戦車の砲撃にもびくともしない。

 

 ・・・乗り物を待っている時間がもったいないし、これなら攻撃を無視して突っ込めるので使用したわけだ。

 

 さらに兵員輸送部分には魔術をしっかりかけているので、強制転移に対する対策も万全。

 

 移動中に絶霧で飛ばされる可能性も全くないという寸法だ。

 

 ちなみに宝石魔術を利用した大型攻撃ユニットも搭載しているので、ちょっとした要塞と言っても過言ではなかったりする。

 

 ちなみに運転しているのは俺だ。免許は取ってないが、自衛隊のコネクションを利用することで装甲車と軍用ヘリの運転位は可能になっている。

 

 ちなみに認識阻害は万全なので、警察に何か言われることは全くない。

 

「なんか前世《昔》の戦闘を思い出すかなー。あ、兵夜くんそこ左ー」

 

 隣で久遠が地図を形に道を教えてくれる。

 

「あんがとな。・・・免許取ったら車買うし、そのとき遠出でもするか」

 

「その時も地図みるよー」

 

「「戦闘前なんだからいちゃいちゃすんなよ!!」」

 

 半分本気でそんなことを言い合ってたら、後ろからダブルドラゴンにツッコミを入れられてしまった。

 

 まあいい。そろそろつくだろうし気合を入れなおすか。

 

「・・・作戦は分かってるな。八坂どのを発見したら、騎士にプロモーションしたイッセーと匙が本気モードで突貫してかっさらう」

 

「で、二人がホテルまで運んでる間に足止めだよねー」

 

 そう、俺たちは真正面から挑まない。

 

 敵の戦力が全く分かってない状態で、不用意にぶつかるのは非常に危険だ。

 

 こちらは誘拐された八坂どのを救出することが目的なんだから、わざわざご丁寧に相手をしてやるまでもない。

 

 ゼノヴィアの真武装もぶっつけ本番なんだからあまり頼るわけにはいかないし、その辺を考えるとやはり時間稼ぎに終始するべきだ。

 

 一撃離脱でさっさと帰る。それに越した事はない。

 

「向こうも不用意に一般人に姿を見せるわけにはいきませんし、距離を取る事が出来れば実質逃げることは容易でしょう。後詰めは私がやります」

 

 ベルが、地図を確認しながらそう告げる。

 

「ケガをしたときは私が治しますけど、無理はしないでくださいね?」

 

 アーシアが心配そうにそういうと、ベルは微笑を浮かべてうなづいた。

 

「大丈夫ですよ。最終日にもう一度お茶と和菓子を食べに行かねばならないのですから、実質無茶をする気はありません」

 

「お? 良い兆候が見えて来たじゃねえか」

 

 俺はついそう漏らしてしまう。

 

 普段のこいつだったら、もっとくそまじめに反していたと思うのだが、どうやら抹茶と和菓子のコンボを食らったようだ。

 

「・・・・・・・・・は! ま、待ってください! い、今のは約束したのだからといういみで、実質抹茶の苦さの後にお菓子食べると美味しいとかそういう意味では実質なかったり」

 

「いやいや、別に良いじゃないですか」

 

 慌てまくるベルの方に手を置きながら、イッセーがいい笑顔を見せる。

 

「ミカエルさんだって喜びますよ。ベルさんが毎日楽しんでいった方が」

 

「・・・そ、そうですか?」

 

 なんかおびえてるような表情をベルは浮かべるが、イッセーは胸を張って断言した。

 

「だって、宮白が俺の事だけ考えて自分の事全く気にしてなかったら嫌ですから!」

 

 ・・・なんか照れるな。

 

 そして、ベルは何やら顔を真っ赤にするとうつむきながら、

 

「・・・抹茶と和菓子の組み合わせがおいしかったので、今度茶道部にお邪魔したいんですが、実質手伝ってもらえないでしょうか?」

 

 とだけいった。

 

 やれやれ。

 

 まあ、それなら手伝っても問題ないか。

 

 まあ交渉の場に引きずり込むぐらいなら何とかなるだろう。そのあとはベル次第だ。

 

 俺はそう伝えようとして、

 

「兵夜くん、前ー!!」

 

 久遠が声を上げるのと、装甲車が霧に包まれるのは同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霧が晴れた瞬間、人も車もなくなっていた。

 

 ついでに言えば空の様子もおかしい。

 

「・・・やられたね。どうやら彼らが実験を起こすのは京都を模したフィールドと言う事か」

 

 外の様子を伺いながら、木場がそうつぶやく。

 

 おそらく次元が違うだけで、京都と密接にリンクしている空間なんだろう。

 

 黒魔術や呪術に近いな。似た姿を用意することで魔術的にリンクしているのだろう。

 

 京都の方で動いている連中はおとりと言う事か。

 

 そして俺たちはゲストとしてご招待ってことかよ、なめてくれる!

 

 くそ! これじゃあ逃げても意味がない!

 

 と、いうか転移対策してても転移されたよ! 神滅具怖い!!

 

 作戦が台無しじゃねえか!! やばいぞこの状況下は!!

 

「全員! 作戦変更だ! こうなりゃ難易度は上がるが曹操を叩き潰して人質作戦で脱出をー」

 

 振り返って呼びかけた瞬間、目の前に刀身が表れた。

 

「・・・はい?」

 

 目が点になるが、これは刀じゃなくてやりだな。

 

 ・・・ランサー!?

 

「・・・行って下さい!!」

 

 ベルがそう叫ぶと、瞬間移動で車の外に出る。

 

 次の瞬間には槍が引っこ抜かれた。

 

『・・・急いで曹操か八坂を確保して下さい!! こいつは私が食い止めます!!』

 

 頭の中に声が響いて、そのまま轟音が響き渡る。

 

 くそっ! 確かに足止めを食らっている場合でもない!!

 

 俺は設置したスピーカーを起動させながら声を張り上げる。

 

「ベル!! おそらく刀身に影響がでるタイプの宝具だ! クロスレンジに持ち込んで格闘に持ち込めば有利だ!!」

 

 奴の戦闘能力はそこまで高くない。ベルなら足止めはいけるか!!

 

「こっちが曹操か八坂どのを確保するまで時間稼ぎに徹しろ! 人質作戦で令呪で動きを止めさせる!!」

 

『了解しました・・・って噛みつかれて実質痛いんですが!?』

 

「耐えろ!!」

 

 っていうか早いな!

 

 はずれサーヴァントにもほどがあるな。日本出身の知名度補正はどこ行った!?

 

「宮白! ベルさんは助けなくていいのか!?」

 

「正直アレの能力ならベルで充分だろ。足止めに徹すれば負けることはまずない」

 

 たぶん戦略的には最弱のサーヴァントじゃないだろうか?

 

 おっかしいなぁ。日本出身なら知名度補正でステータスが上がっても全然おかしくないんだが。

 

 などと言い合いながら城に突っ込んで突入する。

 

 まってろ曹操! 時間がないからさっさと片付ける!!

 

 




兵夜が足を用意したので、九重は追いついていないのでそのまま出発です。

あっさり転移されましたが、個別に転移させることはできなかったのでそこそこ役には立っている新兵器。腐ってもアーチャーとアザゼルの合作なだけあります。

そしてネタバレしますと、兵夜は致命的なミスをしました。またやらかしました。

ヒントは活動報告とこの作品におけるサーヴァントの絶対条件。さすがに最後のファクターは気づかれない自信はありますが、ある程度は予測可能です。




なお、次の章で新キャラが登場します。いろいろ特殊な予定なのでご注目ください。


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おふざけ野郎、登場です!!

最近感想が少ないなぁ。


感想は作品開発の燃料なので、あるととっても嬉しいです。

頑張って返信しようと思っているので、一行感想でも大歓迎です!!



 突っ込んだと思ったらいきなり撃墜された。

 

 ・・・高かったのに。高かったのに。高かったのに!!

 

 まだデモンストレーションしてないんだぞ!? 今後の業界に売りつけるためにいろいろ準備してたのになんてことを!!

 

 そして俺が視線を向ければ、撃墜した連中の姿が見える。

 

 ・・・ドラム缶の群れにでかい魔獣が数体。おのれこいつらめ。

 

「・・・イッセー、先に行け。俺はちょっと鬱憤を晴らしてから追いかける」

 

「ああ。だけど大丈夫か?」

 

 頭に血が上っているのに気付いたのかイッセーがそんなことを言ってくるが、俺としても譲るつもりはない。

 

 さすがにぶっとばしたいところだが、曹操を無視するわけにもいかんからだ。

 

 とにかく時間稼ぎはしておかないといかんし、ここはイーヴィルバレトで雑魚散らしができる俺が行くのが一番だろう。

 

「じゃあ私が援護するよー」

 

 と、俺の隣に久遠が並ぶ。

 

「通信はつなげておくから、必要なタイミングでこっちから指示を出す。行け!!」

 

「わかった。任せたぜ、宮白!!」

 

 イッセーたちが一斉に走り出すと同時、俺は広範囲展開型ロケットランチャーをぶっ放し、進行方向上のドラム缶どもを吹き飛ばす!!

 

 周りからドラム缶が迫ってくるが、イーヴィルバレトで一斉にハチの巣にする。

 

 魔獣は耐久力重視らしく、ばらまいた弾丸を防ぎ切ったが、それで動きが止まったところを久遠が素早く切り裂いていく。

 

 あっという間に戦闘は終わってしまった。

 

「ちっ! 憂さ晴らしにもならなかったか」

 

「思ったより早かったねー」

 

 あっさりしすぎてむしろ気味が悪い。

 

 まあいい、とりあえずこれでこいつらは打ち止めということか。

 

「行くぞ久遠! こうなったら曹操共をボコって憂さ晴らしだ!!」

 

「よっぽど気に入ってたんだねー。じゃあ、旦那様のストレス発散に協力しようかなーっと」

 

 走り出した俺たちは、急いでイッセーの方へと向かう。

 

 そんな進行方向の陰から、誰かが出てくる。

 

 敵か!?

 

「やあこんにちぃっ!?」

 

 なんか出てきたやつがポーズとった瞬間、勢い余って手を壁にぶつけていた。

 

 瞬間、俺と久遠はなぜかすっころんだ。

 

「ぬぁ!?」

 

「うわぁ!?」

 

 今こけるようなことあったか!?

 

 あわてて立ち上がろうとしたときには、それを見ていた奴はカラ○ーチョを食べてた。

 

 ・・・腹が立つよりも先に今のタイミングでよくそこまでできたといいたい。

 

「いやいやいやいや。ちょっと待ってくれなぁ~い? 実はオカルト研究部の足止めとか曹操から頼まれちゃって辛い!?」

 

 そりゃそうだろうと思う間もなかった。

 

 絶叫した男の口から炎が出てきたのだ。

 

「「うわぁ!?」」

 

 あわててバックステップで回避するが、あの野郎は悶絶しながらそこらに炎をまき散らす。

 

「か、辛い辛い辛い!?」

 

 しばらくそうしながらもだえ苦しんでいたが、やがて落ち着いたのかチラチラ見える程度に落ち着きながら立ち上がった。

 

「初めましてぇこんにちわ! 俺の名前はスクンサ・ナインテイル! 引っ掻き回しのスクンサって呼ばれてるぜ!」

 

 ポーズ片手になんというな微妙なあだ名を言い切った男は、そのまま煙草を取ると口にくわえる。

 

 その油断が命取りだ!

 

 素早くショットガンを構えた瞬間。

 

「よっしょと」

 

 ・・・たばこの先端に水鉄砲を当てた。

 

 なぜか俺は再び思いっきりずっこけた。

 

 な、なんだ今の展開は意味が分からん! 水をつけるなよ火をつけろ!!

 

 しかもなんか勢いよくこけちまったし! なんなんだ一体!

 

「さあて、お次はこのハンカチを・・・」

 

 なんかものすごいもったいぶってハンカチを取りだしたスクンサはそれで額を拭き始める。

 

 こ、今度こそぶっとばしてくれる。

 

 ロケットランチャーを取り出して引き金を引こうとし―

 

「おっと、これは泥だらけだった」

 

 奴の顔が泥だらけになったのを見た瞬間にまたすっ転んだ。

 

 しかも引き金を引いていないのにロケット弾が暴発した。

 

「ぬぉおおおおおおおおおお!?」

 

 そのくせダメージは全然入っていないのに、なぜか俺は100メートルぐらい高く飛んだ。

 

 な、なんなんだこの状況は!? 全く意味が分からん。

 

「はいはいはいはい。続いていくよ~」

 

 あ、なんかスクンサの奴が得意げだ。

 

 まさかこれはあいつの攻撃か!?

 

 今度は息を吸い込んでから口を大きく開ける。

 

 また火炎放射化と思い、耐火炎用の防護アミュレットを取り出して障壁を出した瞬間。

 

「クルックー」

 

「ポッポー」

 

―バサバサバサバサバサバサッ!!!

 

 大量の鳩が出てきた。

 

 そして俺は一瞬で墜落していた。

 

 だからなんだこの展開!?

 

 一度も攻撃してこないのに手玉に取られている。

 

 あ、あいつの能力は一体何なんだ。

 

「はっはっは。突破したいようだけど、そうはいかないねぇ。これでも対人嫌がらせ妨害行動を突破できた男はいない!!」

 

 そうポーズを決めた瞬間、その後ろに久遠が立っていた。

 

 なんかにっこり笑って野太刀を振り上げてるんだけど!?

 

「女はいるんかいー!!」

 

「ぐはぁついくせで!?」

 

 久遠の一閃を喰らい、スクンサ・ナインテイルは地面にたたきつけられた。

 

 しかも思いっきり跳ね、50メートルぐらい高く飛ぶ。

 

 な、なんだあのギャグマンガ的展開は!?

 

 しかも切られたはずなのに体どころか服も無事だ!?

 

「兵夜くんー! バット持ってたらすぐ貸してー!」

 

 久遠がなんか焦りながら俺にそんな要望をしてきた。

 

 ・・・実はむっちゃよく飛ぶバットを作ってたりする。気分転換にこっそり使って草野球で無双使用とか考えた足りしてたのは内緒だ。

 

「早くー!!」

 

「え、あ、はい」

 

 俺は呼び出してバットを私、久遠はなんというか一本足打法の構えを取る。

 

「・・・あれ? もしかして気づいてらっしゃる?」

 

 顔を真っ青にしたスクンサ・ナインテイルが慌てふためきながら落ちてくる。

 

「YES、YES、YES!」

 

 なんかどっかのマンガみたいな返答を久遠がした瞬間、スクンサ・ナインテイルがさらに顔を青くした。

 

「もしかして、ホームランですかぁああああああ!?」

 

「YES、YES、YES、OH MY GOD!」

 

 見事なタイミングでジャストミート!?

 

「打ち出せ青春! 兵夜くんに届けこのラブハートー!!」

 

「とっくの昔に届いてるぅうううううううううううううっ!?」

 

 ツッコミを入れながらスクンサ・ナインテイルは文字通り吹っ飛んだ。

 

 ・・・なんか空のむこうでキラン☆と光ってるんだが。

 

「久遠、あいつのタネって一体なんだ?」

 

 わかってるからこそうまくいったんだろうが、一体なんなんだ?

 

「うん、たぶんベルさんの世界の合成能力者ってやつだと思うかなー」

 

 手ごたえをかみしめながら、久遠がそんなことを言った。

 

 えーっと、複数の能力の組み合わせの現象を、特定のキーに合わせた形でしか発動することができない超能力者のことだっけ。

 

「キーワードはギャグだと思うよー。だからギャグ漫画みたいに相手がボケたらこっちがこけたり、辛い物食べたら火を噴いたりしたんだよー」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なにそれ」

 

 どこから突っ込んだらいいのか全く分からない能力だな、オイ。

 

 だが非常に厄介だった。

 

 なんか、すごい無駄な時間を過ごした気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 くそ! こいつ等強すぎる!!

 

「いやぁ、さすが赤龍帝。一発でももらったら俺なんかお陀仏だね」

 

 そんなことを言いながら、全く無傷で笑ってる曹操をみて、俺は焦る。

 

 八坂さんとともにいた英雄派の連中が話した目的はとんでもないものだった。

 

 発動する術そのものはアーチャーさんが言っていた召喚系だったが、呼び出す奴がとんでもない。

 

 赤龍神帝グレートレッド。

 

 よりにもよって世界最強の存在を呼び出そうとしてやがった。

 

 確かにオーフィスの目的はグレートレッドを倒すことだけど、だからってこんな真似しやがるのか!!

 

 しかも攻撃が一発も当たらない。

 

 木場と同じでテクニックタイプか! 俺って本当にこの手の相手との相性が悪いな、オイ!!

 

 そしてみんなも苦戦している。

 

 木場とゼノヴィアは六刀流なうえにほぼすべての武装が伝説の魔剣なジークフリートに翻弄されてる。

 

 イリナは聖剣使いジャンヌの禁手で生まれたドラゴンのパワーに押されている。

 

 ロスヴァイセさんは大男ヘラクレスの人間ミサイルと頑丈さに追い込まれている。

 

 匙も狐の姿になった八坂さんに苦戦中だ。

 

 アーシアが一生懸命回復してくれているが、言っちゃあなんだけど追いつかない!!

 

「この調子なら倒すことは難しくない。だけど君たちはここぞというところでラッキーだからね。油断だけはしないでおこうか」

 

 俺のこと評価してくれるのはうれしいけど、こういうのは勘弁だ!

 

 しかも向こうはフェニックスの涙までもってやがる。

 

 まずい。このままじゃ・・・っ!

 

『全員、よく聞け!!』

 

 この声、宮白!!

 

『久遠が今から広範囲攻撃を叩き込む。そのタイミングで距離を取って仕切りなおすぞ!!』

 

 え? ちょ、ちょっとまって!?

 

「・・・魔法の矢、風の397矢ー!!」

 

 マジで来たぁああああ!?

 

「アーシア逃げろ!!!」

 

「きゃあ!? い、イッセーさん恥ずかしいです!?」

 

 俺はアーシアをかかえて全力で走る。

 

 みんなも先に通達されてたからかろうじて間に合い、そしてあいつらもあわてて迎撃する。

 

 だけど久遠さんのアレは動きを止める束縛用の攻撃。

 

 受け止める方向でいったドラゴンやヘラクレスはそのまま拘束される。八坂さんも催眠状態では細かいことは考えられないのか、そのまま動きを止められた。

 

 武器で迎撃したジャンヌやジークフリートも、武器が拘束されたことで動きが止まる。

 

 一切喰らってないのは曹操だけだ。

 

 そして、俺たちと入れ替わるかのように突入する多くの姿が見える。

 

 ・・・あれ、なに?

 

 なんか土みたいなのでできてるみたいだけど。

 

「・・・魔術師《メイガス》流で作られたゴーレムだ」

 

 宮白が、眉間にしわを寄せながら久遠さんを連れて立っていた。

 

「何をやってるんだお前らは。百点満点で10点だ馬鹿ども」

 

「まあまあー。イッセーくんたち素直だから仕方がないよー」

 

 久遠さんがなだめるが、否定はしてませんよねそれ。

 

「すまない宮白くん。敵がやはり強すぎたようだ」

 

「ああ、妖怪の長ってマジすげえな」

 

 木場と匙はすまなそうにするが、その様子を見て宮白はがっくりと肩を落とす。

 

「訂正五点。何が失敗かも気づいてないなら論外だ」

 

「あ、あははははー。元ちゃん頑張れー」

 

 そこまでひどいの!?

 

「・・・相手はこっちのデータを調べたうえで対応しているのに、なんで相手が選んだ相手が自分から出てんだ馬鹿。ジークフリートは魔剣使いなのがわかってるんだから、遠距離攻撃タイプのロスヴァイセさんで離れたところからチクチク責めるに決まってるだろうが」

 

 相変わらず敵に容赦ないことをズバズバといってくる宮白だった。

 

 いや、それあんまりじゃねえか? とか思ってると、それを読んだのかジロリと宮白が俺をにらむ。

 

「・・・レーティングゲームでもない以上見せる戦いをする必要はない。射程外からの攻撃はセオリーなんだからそれは別に問題ねえよ」

 

 さすが、不良相手に恐喝でまず手ごまにする男。こういう時の容赦が本当にない。

 

「とりあえず、判明した限りのデータで相性いい相手を組むぞ。まずジャンヌ本体は久遠だ」

 

 ゴーレムの相手をしている曹操たちを見ながら、宮白はそう告げる。

 

 確かに! 桜花さんの神器は聖剣のオーラを吸収するから聖剣相手には有利だ!

 

 だが、桜花さんは首を振ると一歩前に出る。

 

「それなんだけど、実はまだ言ってなかった秘密兵器があるんだよねー」

 

「ああ、あれか!」

 

 匙がそれを聞いてニヤリとする。

 

 そのあと聞いた桜花さんの説明に、俺たちは驚いた。

 

 桜花さんにまさかそんな切り札があったのか。

 

 あれ? だけどそれだと戦略変えたほうがいいのか?

 

 だけど宮白はちょっと考えてから、すぐに不敵な笑みを浮かべる。

 

「なら相手を変更しよう。安心しろ、もう組み立てた」

 

 早い! 早いよ宮白!!

 

「・・・全員、ゴーレムがやられるまで回復に専念。回復したら残りのゴーレムの自爆装置を起動させるから、その瞬間に師事した通りの相手に突撃するぞ!」

 

「いいだろう。新生デュランダルの初戦闘は白星にして見せよう」

 

「ミカエルさまのAとして、恥ずかしい真似はできないわね!」

 

「確かにその方が相性がいいですね。わかりました、それで行きましょう」

 

「悔しいけど確かに正論だ。ジークフリートは任せるよ」

 

「お前時々ぶっ飛んだ発想するよな。ま、アザゼル先生の命令だし仕方ないか」

 

「回復は頑張ります! でも気を付けてくださいね?」

 

 宮白の指示に、ゼノヴィアが、イリナが、ロスヴァイセさんが、木場が、匙が、アーシアが次々にうなづく。

 

「・・・それじゃあ、そろそろ反撃タイムかなー」

 

 桜花さんが一歩前に出て、兵夜に振り返ってニコリとわらう。

 

「じゃあイッセーくん、掛け声よろしくねー」

 

 え、俺が!?

 

「そうだな。こういうのはお前の方が向いてるか。任せたイッセー」

 

 宮白もなんかうなづきながら俺の方に手を置く。

 

 なんかみんなも納得してるようで、催促するような視線を向けてきた。

 

 な、なんか恥ずかしいけど、子供のヒーローとしてはここは頑張らないと!

 

「い、行くぜ皆! 反撃開始だ! 英雄派の連中に目にもの見せてやるぜ!!」

 

「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」

 

 皆が一斉に声を合わせる。

 

 ・・・曹操、確かに俺たちはまだまだだ。

 

 だけど、俺の仲間達はお前なんかに負けないぜ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out




スクンサ・ナインテイル! 名前を逆から読むとサンクス!

・・・はい、どうでもいいですねすいません

こと足止めに特化したとてつもないストレスのたまるキャラです。

因みにギャグマンガの権化なので死んでません。また出ます。









そして兵夜突入でいったん戦闘は仕切り直し。

数も増えたのでここらで反撃タイムと行かせてもらいます。英雄派には苦しんでもらいましょう。

そして次回は久遠の禁手をお披露目します。

彼女の神器の発展形らしい素晴らしい禁手です!





P.S

 筆のノリがよかったので、本日は二本立てです。


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信頼の双極、英雄を喰らう

連投でっす!


反撃タイムスタート!! 派手に行きます!!


 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然の強襲に対して、英雄派が手こずったのには理由がある。

 

 一つは、メンバーの殆どが動きを干渉された為、手こずったこと。

 

 二つは、ゴーレムが防御特化仕様の足止め用で、非常に頑丈だったこと。

 

 そして、最後にそれでも全く問題がないということだった。

 

 先ほどの戦闘で大体のところは把握できた。

 

 グレモリー眷属の戦闘能力なら、自分達は余裕で相手に出来る。

 

 剣士として格上のジークフリートも、攻防ともに優れているヘラクレスも、聖剣のドラゴンを飼い馴らすジャンヌも、相手を余裕をもって優勢に立ち回る事が出来ていた。

 

 曹操にしても、兵藤一誠は当たれば危険だが対処は十分可能なレベルだ。

 

 今更そこに宮白兵夜と桜花久遠が来たからといって、そこまで苦戦する事はないだろう。

 

 その時は制御の手を緩めてゲオルグが参戦すればいいだけである。

 

 だから、一斉にゴーレムが爆発した時も、少し驚いただけで余裕を持っていた。

 

 ・・・その瞬間、莫大な力の奔流が発生した。

 

「―禁手化(バランス・ブレイク)聖魔の竜喰らい(ビトレイヤー・ドラグ・イーター)!!」

 

 剣の形状を変えながら、桜花久遠が一瞬でジークフリートの前に出る。

 

 それに対し、ジークフリートはバムルンクを突き出した。

 

 強大なオーラの渦が、カウンターで久遠を貫こうとする。

 

 例え攻撃が来ても恐れる事はない。

 

 彼女の神器など一撃で粉砕できる。

 

 その核心ごと、久遠はオーラのドリルを両断する。

 

「なんだと!?」

 

 とっさにノートゥングの切断力で首を切り落とそうとするが、それを久遠は手に持った武器で受け止める。

 

 一瞬だけ拮抗した力はしかし、久遠に天秤が傾き魔剣を弾き飛ばした。

 

 桜花の神器、聖吸剣は、大きく形を変化させていた。

 

 片刃であることはそのままに、長く、細く、曲線を描いた美しい一振りの太刀。

 

 鍔も波紋もないその姿は、しかし黒と白が混ざり合ったマーブル模様をしており、どこか退廃的な美しさを宿していた。

 

 その刃が再び迫り、ジークフリートはディルヴィングとダインスレイフを使って受け止める。

 

 全てを粉砕するオーラと、全てを氷結させるオーラはしかし、その一閃を前に拮抗どころか押し返されそうにすらなる。

 

 そこにいたり、ジークフリートは僅かな脱力感を得ている事に気づいた。

 

 そして、失われているのが自分の龍の因子である事に気づき、彼はその仕組みを知る。

 

 聖魔の竜喰らい。その名の意味は―

 

「聖なるオーラだけでなく、魔のオーラも龍の力も吸収して強くなるのか、その剣は!」

 

「そうだよー!」

 

 勢いよく肯定しながら、五つの魔剣の連続攻撃を、久遠はたやすく迎撃する。

 

『この禁手の能力的に、ジークフリートが一番型にはめられるから担当していいかなー? あれならたぶん当たり負けしないしー』

 

 桜花の言う事を兵夜は全面的に信じてくれた。

 

 能力的な相性も考慮したのは間違いない。だが、それだけでないのも確かだった。

 

 愛する愛人のことを信じてくれたからこそ、兵夜は久遠を信頼してくれた。

 

 それに応えたい久遠の意思は、竜喰らいの力を最大限に高めている。

 

「剣技の練りこみが甘いねー。六本同時素振りからやりなおそっかー!」

 

 久遠は相手に説教する余裕すらある。

 

 彼女にとって、六本腕は驚きにもイレギュラーにも値しない。

 

 魔法世界において、腕が多い異形の戦士なぞ、探せばそこそこいる。

 

 そういう手合いとの戦闘も潜り抜けた久遠は、六本腕というイレギュラーに対する戦闘方法を熟知している。

 

 祐斗とゼノヴィアが苦戦した理由はいくつもあるが、その一つである「六本腕というノウハウのない相手」というポイントが、彼女にとっては全く存在していない。

 

 ましてや彼らは家系や同種から腕の数を生かした戦い方と技量を受け継いでいる者もいる。

 

 それに比べれば自分が初の試みで動いているジークフリートの動きなど、今までで一番攻略しやすい。玄人の動きに慣れた人物なら、素人の未熟な動きをさばけるのは当然だ。

 

 そして武器の相性も圧倒的に高い。

 

 複数の伝説の魔剣を同時に使うジークフリートは間違いなく凶悪だが、それが今の久遠には悪手になる。

 

 竜喰らいの前にはそれは餌になり、結果として武器の差はないも同然。上記の理由もあり相性がかなりいい。

 

 そして何より―

 

「剣の腕では君の方が上か! 屈辱だね!!」

 

 ジークフリート自身が、相手の方が剣士として格上だと理解できた。

 

 自分の売りである魔剣と龍の手と腕の数が、彼女にとっては優位点になりえない。

 

 アイデンディティを全て粉砕されたような屈辱に、ジークフリートは奥歯を噛み締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その光景はヘラクレスにも当てはまる。

 

「「オラぁ!!」」

 

 拳が当たり、上半身がのけぞる。

 

 そしてそれが再び繰り返される。

 

 自慢の攻撃力と防御力が、目の前の相手には優位点にならない。

 

 それどころか、真正面から同じ土俵で相手になってしまっている。

 

 その事実に、ヘラクレスの魂を継いだという自尊心が汚されて、ヘラクレスは激昂しながら叫ぶ。

 

「ふざけんじゃねえぞ、赤龍帝!」

 

 怒りと共に拳を放つ。

 

 早さよりも重さに重点を置いた、全てを粉砕する自慢の拳。

 

 更に神器の効果により、この一撃は文字通り全てを破砕する爆発が起きる。

 

 それがもろに直撃し、しかし相手は倒れない。

 

 赤龍帝兵藤一誠は、倒れず、それどころがより力を込めて拳をヘラクレスに叩き込む。

 

 同じように揺らぐが、しかしヘラクレスも倒れない。

 

 無双の肉体を持ち、神の代わりに世界を支え、名だたる怪物を葬る、世界でもトップクラスの英雄であるヘラクレス。

 

 その魂を受け継ぐ自分が、歴代最弱に殴り合いで負けるなどあってはならない。

 

 世界最高の英雄が、パワーで目の前の男に競り負けるなどあってはならない。

 

「「オオオオオオオオオオッ!!」」

 

 咆哮が重なり合い、そして拳がぶつかり合う。

 

 お互いに回避など考えてもいないテレフォンパンチ。

 

 それゆえに攻撃力が最高の状態であり、喰らえば例え承久悪魔でも大ダメージが入るであろう一撃同士。

 

 ドラゴンのオーラと爆発能力。そして強大なパワーと頑丈な体。

 

 小細工無用の正面勝負。ノーガードデスマッチが切って落とされた。

 

 この戦闘において、兵藤一誠の担当はヘラクレスに決まった。

 

 ジャンヌの選択肢もあっただろうが、まず間違いなくそれだけは防がれると判断した兵夜は、あえてヘラクレスを選んだ。

 

 シャレにならない攻撃力を連発し、しかもあまり精密に使われない攻撃の所為で他のメンバーも巻き込まれかねない重戦車。

 

 それに対し兵夜の判断は、とても単純ゆえに難易度が高い対応策だった。

 

『ようは、あの禁手は遠距離攻撃の追加だ。だったら素直にクロスレンジに組み付いて挑めば、向こうも出す意味なくなるだろ』

 

 ゆえに、兵藤一誠こそがヘラクレスの相手に最適。

 

 単純な殴り合いと頑丈な体において、現状のメンツでトップを張れるのは赤龍帝が適任。

 

『お前なら勝てる。・・・やっちまえ、イッセー』

 

 そして、それゆえに兵藤一誠は歓喜した。

 

 付き合いの長く、理解者であり、そして頼れる親友の全幅の信頼。

 

 これに応えられずして何が男だ。何が親友だ。何が赤龍帝だ。

 

 それは全身全霊の意思を一誠に与え、その思いに神器は全力で答える。

 

 細かい調整はすべてドライグに丸投げし、殴り合いのみに集中した。

 

 相手が十回殴り飛ばすのなら、こちらは十一回殴り飛ばせばいい。

 

 そんな子供の論理を全力で発動し、兵藤一誠は文字通り一心不乱に殴りかかる。

 

 相手は、神の試練をことごとく乗り越え、後に神にすらなった英雄の魂を継いだ男。

 

 だが、それがどうしたというのだ。

 

 神滅具とは神をも殺しうる究極の力。

 

 神になった男だろうが、その魂を継いだだけの同程度の年齢の男、負ける道理はどこにもない。

 

 大英雄(ヘラクレス)の拳が額を打ち抜く。

 

 赤龍帝(イッセー)の拳が頬を叩きのめす。

 

 相手の拳がどこを狙ってくるかは分かっている。

 

 分かっているが躱さない。

 

 躱す暇があるのなら、その余力を全力で相手を叩きのめすのに向かう。

 

 打つ、打つ、打つ、打つ。

 

 躱さない

 

 逃げない

 

 下がらない

 

 やられたらやり返す。ただそれだけ。

 

 正真正銘の真っ向勝負、この戦いで最も王道で最も異質な戦いが切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵の能力は間違いなく驚異的。そして、噛み合いも抜群にいい。

 

「「なるほど。だったら」」

 

 ゆえに、それならやりようがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・認めるよ。今のままでは君には勝てない」

 

 ジークフリートはそれを認めた。

 

 六刀流では久遠は倒せない。

 

 それを認めて、しかしジークフリートは負けを認めない。

 

「だけど、君の弱点もこちらは把握している」

 

 魔剣をしまいながら、ジークフリートはグラムを構え直す。

 

仮契約(パクティオー)のデータは把握している。君のその力は、主がある程度近くにいないと真価を発揮することができない」

 

 その言葉を久遠は否定しない。

 

 否定する事もなく事実だし、そもそもそれぐらいは把握されているのは想定内だ。

 

 まさか自分一人しか自分と同じ世界の出身がいないだなんて思わない。

 

 仮契約とは、主を守る護衛となる事を誓う契約だ。

 

 ゆえに同じ戦場を共にする事が前提であり、特に自分は東洋版の従者ともいえる神鳴流だ。

 

 主がいないこの状況下は、真価が発揮できないのは理解している。

 

「そして君のアーティファクトは、主からの魔力供給が前提の能力だ。君は身体能力のパワーアップをする事は出来ない」

 

「なるほどなるほどー。やっぱり知ってる情報の対抗策は知ってるかー」

 

 それを踏まえても圧倒的に有利なのが分かっていたからこそ、この戦闘を選んだ。

 

 だが、ジークフリートから発せられるオーラが増大した瞬間、久遠は警戒度数をはね上げた。

 

 否、それはジークフリートのオーラではない。

 

 魔帝剣グラム。

 

 最強の魔剣。

 

 究極の切れ味と龍殺し。

 

 その二つを持つ魔剣の極致が、その力を本当の意味で解放させたのだ。

 

「・・・ああ、龍の手(トゥワイス・クリティカル)もドラゴン封印系だったっけー」

 

 久遠は大体の事情を理解した。

 

 龍殺しの剣を龍が持てば、どうなるかなど目に見えている。

 

 アスカロンを持っているイッセーが、どれだけ異常なのか今理解した。

 

「赤龍帝が羨ましいと思った事は何度もあるよ。こいつは主を気にしたりなんてしてくれないんだ」

 

 ジークフリートは苦笑し、二本の手でしっかりとグラムを構える。

 

 その構えは基本に忠実であるがゆえに、付け入るスキが存在しない。

 

「だけど、禁手にならなければグラムの力をフルに使える。そして、君相手に六刀流はむしろ邪魔だ」

 

 供給源が多ければ敵は出力を上げ放題。

 

 当然の理屈に対し、ジークフリートも当然の対応をする。

 

 なら供給源を絞ればいい。

 

 幸い、グラムの全力は六刀流ほどではないが有効だ。

 

 背中から生える手は光の剣を選択。

 

 特殊な能力はないが、悪魔にとっては有効打であり、久遠相手なら一番いい選択だ。

 

「さあ、未熟者が玄人に教えを請うよ。ぜひ胸を貸してくれると嬉しいかな?」

 

「残念だけどー。私の胸は兵夜くん専用なんだよねー」

 

 少し調子に乗った事を反省しながら、久遠は竜喰らいを正眼に構える。

 

 テクニックとスピードにおいては、それでも久遠が圧倒的に有利。

 

 ただし、武器においては吸収量が下がった事と、真の力の解放で上回れた。

 

 手数の多さでは腕の数が直結するので、これももちろんジークフリートが有利。

 

 龍の因子と気の強化。どちらのパワーが上かが勝負の分かれ目になるだろう。

 

 英雄の血を引く神童を前に、激戦を潜り抜けた達人が構える。

 

 この場でワンツーを飾る剣士同士の戦い。その戦いは新たな局面へと突入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殴った瞬間、それに気づいた。

 

 拳が柔らかく受け止められている。

 

 イッセーは、それに気づいたのに気づき、ヘラクレスはにやりと笑った。

 

「ああそうさ。殴り合いじゃあ俺には勝てない」

 

 とたん、殴り合いの天秤がヘラクレスに傾く。

 

 威力が変化したわけではない。

 

 ただし、タフネスの天秤が圧倒的に傾いた。

 

 こっちが殴っても向こうが利いていないのでは、それは無駄になる。

 

 ただしこっちは殴られると痛いのだ。普通に考えれば、どう考えても負けが確定する。

 

「お前のところの風使いから聞いてねえのか? 木原エデンは学園都市での全方面科学者(オールラウンダー)っつー木原の中でもいたんだってよぉ」

 

 今度こそ本当の意味でガードを気にしなくなった事で、ヘラクレスは一気に饒舌になる。

 

「その恩恵は能力開発にもいかされる。まあ、殆どの連中は無能力者(レベル0)だが、俺は大能力者(レベル4)なんだよ」

 

 警戒もせずにノーガードで拳を喰らう。

 

 それすら平然と受け止めたヘラクレスは、今まさに赤龍帝を嘲笑った。

 

「運動エネルギーを減らすとかいう、文字通りの衝撃拡散(ショックアブソーバー)! 俺を相手に殴り合いで勝とうだなんて、なめてんじゃねえぞ最弱赤龍帝!!」

 

 完璧に有利な状況に、ヘラクレスは勝利を確信する。

 

 相手の拳は聞かずにこちらの攻撃だけが通る。この状況下で価値を確信しない者はいない。

 

 ゆえに、今まで以上のテレフォンパンチを叩き込んだ。

 

 ・・・叩き込んで、そして違和感を感じた。

 

「なんだ? 固ぇ―」

 

 その瞬間に攻撃が入る。

 

 一言で言おう。痛かった。

 

 衝撃拡散は発動しているのにも関わらず、ダメージが入った。

 

 今までに比べればか弱いが、それでも明確にダメージになる一撃だ。

 

「・・・なめんじゃねえよ爆発野郎」

 

 今まで以上に平然と拳に耐えた一誠が、鎧越しにヘラクレスを睨みつける。

 

「今まで手の内隠してたのが、お前だけだとでも思ってんのか!!」

 

 殴り合いの均衡が再び戻る。

 

 その状況に困惑した結果、ヘラクレスの有利分が一気に押し戻された。

 

 不利になる前に気合いを入れ直して持ち直した時には、ヘラクレスも理屈に気づいていた。

 

 転生悪魔なら当たり前のプロモーションだ。

 

 それも、女王ではなく戦車を利用して殴り合いの強度を高めている。

 

「・・・おもしれえ!!」

 

 まさかここで、戦法を変えないとは思わなかった。

 

 普通パンチが効かないと分かったらやり方を変えるだろうに、この男は正攻法を崩さない。

 

 なるほど、これは本当にやりがいがある。

 

 曹操の小難しい作戦よりも、単純な殴り合いの方がやりがいがあるというものだ。

 

「上等だ! 突破してみな赤龍帝ぃいいいい!!」

 

「やってやるよ筋肉野郎!! 先祖の名前が凄いからって、てめえが強い理由にはならねえんだよ!!!」

 

 シンプルイズベストの殴り合い。

 

 文字通りの正面勝負は、更に密度を高めていく。

 

 




ついに登場、久遠の神器。

基本的にパワーアップ方面は二つ。

1 相性のいい相手の増加。複数持ってる設定盛ってるやつにはすごい強い。

2 相性のいい武器になったので性能をフルに発揮。

ぶっちゃけジークフリートが聖剣を持ってたら瞬殺もあり得ました。本文で書いた通り、あの世界って腕多いやつもごろごろいるから、久遠にとってジークフリートはとてもいなしやすい相手でもあります。


対してイッセーはシンプルな解決法。兵夜はイッセーのことをよくわかっています。

正面から叩き潰そうとしてくる相手には、正面から相手をしてやればいい。

ぶっちゃけ禁手が敵の中で一番シンプルなので、対策もシンプルに行きました。


そして英雄派も負けておりません。

ジークフリートは原作で奴自身が明言した「三本腕の方がグラムの性能を引き出せる」を実行。シンプルゆえに隙がない構成に。

とはいえソーナが近くにいれば、能力的にも戦意的にも久遠はブーストかかるのでこれでも勝てませんが。業魔人必須。


そしてヘラクレスは能力者に。

禁書を混ぜると決めてから、原作キャラに能力者は出そうと決めてましたので出してみました。

因みに原作に出てきた能力です。









今回、実は結構いろいろと考えてました。

本当はここで転生者組を全員集合させて、英雄派を数で押す戦法とかも考えてました。

が、ここは兵夜の参謀っぷりを出そうと思いこの結果に。人数を絞ったことで書きやすくなって結果としてラッキーです。



次も早めにかけると思いますので、お楽しみください。


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三方面、戦況優勢

戦法変更による拮抗状態第二弾!

今回はちょっと短め。


 ジャンヌは、自分が一番酷い目に遭っている事を理解した。

 

 自分の神器は確かに強い。

 

 ぼくがかんがえたさいきょうのせいけん。中二病を現実に具現化するとどれぐらい厄介かなど、誰が考えても理解できるだろう。

 

 ましてや相手は殆ど悪魔である。

 

 聖剣を作る自分にしてみれば、基本的にやりやすい相手である事は変わりない。

 

 ぶっちゃけハンデとして転生天使を選んだが、彼女は他のメンツに比べて特化した武装を持っていない。

 

 天使としての光力だけで戦っている以上、言ってはなんだが地味なのだ。

 

 ゆえに、応用性で圧倒している自分が、更にドラゴンでパワーを上回れば普通に立ち回れば勝てる。

 

 空を飛んで遠距離戦に徹されたら話は別だが、赤龍帝一味は基本的に正面勝負を選ぶ傾向がある為、この問題はほぼなかった。

 

 ゆえに、唯一の例外ともいえる宮白兵夜が前に出た時点で、おそらく空中からの攻撃になるだろうと思っていた。

 

 が、もしかしたらその方が良かったかもしれない。

 

「ちょ、ちょっとボク? 女の子はもっと優しく扱うものだと思わない!? 君は紳士で文字通りの騎士だって聞いたんだけど!?」

 

「あいにく、テロリストに情けをかけるつもりはない!!」

 

 出す聖剣がことごとく切り裂かれていく。

 

 確かにぼくがかんがえたさいきょうのせいけんは非常に有効だろう。

 

 全神器を探しても間違いなく上位に位置するこの能力だが、実は簡単な対抗策が一つあった。

 

 宮白兵夜は容赦なくそれをついてきた。

 

Q ぼくがかんがえたさいきょうのせいけんがきついんですけどどうしたらいいですか?

 

A ぼくがかんがえたさいきょうのせいまけんで挑みましょう。格上だから文字通り有利です。

 

「よりにもよってなんで木場佑斗が相手なのかなぁ!!」

 

 やけくそ気味に叫んでしまうのは仕方がないだろう。

 

 どんな聖剣を出して翻弄しても、同等の能力の聖魔剣を使われれば出力で負ける。

 

 はっきり言って普通に出してもエクスカリバーなどの伝説級には勝てないのに、聖魔剣はエクスカリバーと戦って拮抗したのだ。

 

 相性というより格が違う。しかも戦法が同じなので独自に対処する事ができない。

 

 だったらドラゴンで対応すればいいと思ったが、こちらに関しても嫌がらせ以外の何物でもない対抗策を使われた。

 

Q 特殊能力満載のドラゴンがいるんですがどうしましょう?

 

A 特殊能力満載の龍王で相手をしましょう。格上だから有利です。

 

 もの凄い正攻法で攻略されてしまった。

 

 とにかく聖剣を大量に増殖させて対処しているが、ぶっちゃけ足止めにはなっても撃墜は難しい。

 

 念の為龍殺しも用意していたのだが、それすら決定打にならなかった。

 

 何故か?

 

『気の強化はやっといて良かったぜ、おかげで龍殺しのオーラは何とか抑えられるな。ヴリトラ』

 

『全くだ我が分身よ。龍殺しが気にせず戦えるなど、そんな事が出来るとは思わなかった』

 

 異世界の力なんて大嫌いだ。

 

 ジークフリートにはぜひ頑張って桜花久遠を倒してほしいと切に願う。

 

 ジャンヌは今度転生者を模擬戦の名目でボコボコにして憂さを晴らそうと決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲオルグはほぞをかんでいた。

 

 自分は術式の準備をする必要がある。

 

 八坂の制御をする必要がある。

 

 このフィールドの調整も必要だ。

 

 はっきり言って一番忙しい。

 

 なのに、

 

「ゼノヴィア! はいもう一回!!」

 

「吹き飛べぇえええええええ!!!」

 

 超高出力の聖なるオーラが叩き付けられ、絶霧の結界が軋みを挙げそうになる。

 

 グレモリー眷属でも生粋のパワーファイター、ゼノヴィア。

 

 破壊力においてはコールブランドにも勝りうる聖剣、デュランダル。

 

 更にそれを制御するエクスカリバーによる鞘。

 

 これだけでも非常に厄介だったが、そこまでならまだいい。

 

 ゼノヴィアの戦闘スタイルはパワーファイター。エクスカリバーの能力を全て活かす事は出来ないだろう。

 

 正直策を弄する自分なら対処の余地はあった。

 

 だが、そこに紫藤イリナが加わった事で非常に面倒な事になった。

 

 彼女もまたエクスカリバー使いなのである。

 

 ゆえに二人が協力する事でエクスカリバーの制御が高まり、結果としてデュランダルの出力は収束される。

 

 その所為で、防御に全力を振らねばならなくなった。

 

 しかも二人で協力して警戒する所為で、この出力に対応しながら出来る策では対処されてしまう。

 

 幻術で対抗しようにも、宮白兵夜は対応用の武装を満載させていた。

 

 真面目な話生身の姿を見るのも困難なぐらい用意してある。あれでは流石の自分も無理がある。

 

 ただでさせ京都側が色々と対策をした所為で、こっちは制御が難しくなっているのにこれだ。

 

 これが終わったら休暇を申請しよう。紫炎のヴァルプルガとは神滅具を持つ魔法使い同士話がしたかった。

 

 ついでにこの二人をいたぶって殺す方法でも相談しよう。ああ、そうしよう。

 

 何とか術式の制御をしながら、ゲオルグはキリキリ痛む胃をさすった。

 

 そして、その影響は見事に出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロスヴァイセは、放たれる炎を術式で対処する。

 

 放たれる攻撃は九尾の狐なだけあって強力だが、あいにく自分も戦乙女の1人である。

 

 仮にも北欧の主神の付き人となった実力は伊達ではない。自分でも時々どうかと思うぐらい、攻撃力においては自信があるのだ。

 

 ゆえに、全ての攻撃を撃ち落とすという芸当を行っている。

 

 もちろん大量に放たれれば照準を突ける時間が間に合わないが、しかし今回は非常に助かった。

 

 今彼女は、一本の杖を手に持っている。

 

 アーチャーとアザゼルがヴァルハラからの協力を得て開発したマジックアイテム。

 

 北欧の魔術を行使する為の術式機関だ。

 

 各種術式を容易に行う事で不意打ちを可能にする為の兵夜用の武装だが、実験段階なのでまだ魔術礼装としての機能を組み込んでいない。

 

 本来なら未完成品なので使わないが、兵夜はそれを逆手にとって、北欧の術式に慣れているロスヴァイセに貸し与えた。

 

『この際壊してもかまいません。いや、壊す勢いで使っちゃってください!!』

 

 そこまで言われたらこちらも遠慮なく使わせてもらおう。

 

 とてももったいなく思いはするが、だからといって使わないでやられるのも馬鹿らしい。

 

 それに、正直この杖はちょっと嬉しい事をしてくれている。

 

 実家の魔術と相性が悪く、攻撃力特化の術式構成になったロスヴァイセは、時々自分に対して思うところがあった。

 

 実家の魔術を使いこなせたら良かったのにと思った事も何度もある。

 

 この杖は、それに希望を与えてくれる。

 

 今、彼女は八坂の術式に干渉している。

 

 洗脳の解除まではいかないが、操作系に干渉する事で行動をある程度制御している。

 

 それがあるからこそ、たった一人でここまで有利に立ち回れているのだ。

 

 使っている術式は実家のものとは違うが、研究が進めばそれに対応したものも完成するかもしれない。

 

 もし完成できるほどの領域になったのなら、一つおねだりしてみたいと思った。

 

 一度でいいから、実家の魔術を普通に使うところを家族に見せたい。

 

 とっくの昔に諦めていた事が、彼のおかげで出来るかもしれない。

 

 初めて会った時に優しく慰めてくれた事といい、悪魔に転生する時に自分の為に怒ってくれた事といい、彼には感謝しきれない。

 

 女顔なのが難点だが美形だし、金払いが激しいところはあるが金銭感覚はちゃんとしている。

 

 こちらの術式の話にも、知識が少ないのにも関わらず理解を示し、機会があれば積極的に取り入れようとする意欲を見せる。

 

 頭もいいし身体能力も高く、政治方面においても非常に優れた出来る人物。

 

 そこまで思い至り、ロスヴァイセはつい顔を真っ赤にしてしまった。

 

「やんね! 今戦闘中だっぺ! おちつかんかわたす!!」

 

 思わず方言が出てしまうぐらい狼狽しながらも、しかし術式の制御はちゃんとする。

 

 グレモリー眷属の一員なだけあり、彼女もまた、変人ではあるが優秀でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out




今回は普通に優勢になりました!

とはいえ戦法自体は正攻法。有利な相手で挑み、頑丈な相手には強力なパワーで正面から挑むというシンプルな戦法です。








そして着々と重なるロスヴァイセフラグ。

兵夜、初の転生関係なしのハーレム要因成立なるか!?


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曹操、激突です!

対に激突、2人の策士!!


 

 俺は曹操を前に、偽聖剣を展開する。

 

「驚いたね。てっきり紫藤イリナを投入するものとばかり思っていたよ」

 

 曹操は聖槍を構えながら、そう言った。

 

「俺もそう思ったがやめといたよ。あいつまっすぐだから策士相手じゃ不利だろ?」

 

「なるほど、違いない」

 

 奴はそういって笑うと、聖槍を突きつける。

 

「―正直、俺は赤龍帝の次に君と戦いたかった。・・・基礎戦闘能力ではグレモリー眷属でも戦闘要員で一番低いくせに、戦果においては赤龍帝に引けを取らないからね」

 

 たしかに、言われてみればそこそこ戦果を挙げているな。

 

 だがまあ、それは褒められたことでもないだろう。

 

「武装便りの反則技だ。自慢にはならないな」

 

「そうでもない。銃の打ち方を知れば幼児でも大人を殺しうるのは常識だが、技量がなければ難易度が高いことには違いない。。・・・知恵と武器の開発は人類の力で、それを使いこなしてこそ強者。そういう意味では、君は俺たちの理想形の一つといってもいい」

 

 それゆえに油断はしてくれてない。

 

 正直頭の痛い戦闘になりそうだ。

 

 お互い、確実になんかハメ手を用意してるに決まってるしな。

 

「「まずは正面から―!」」

 

 お互いに正面から突撃。

 

 突き出される槍を首をひねって交わし、俺はブレードで切りかかる。

 

 奴は槍をまわして石突で受け止めると、そこを支点にして一回転。真後ろから蹴りをたたきつけようとする。

 

 だが、俺は前転してそれを回避。光魔力の槍で攻撃する。

 

 奴は空中で体制をそらしてそれを避けると、今度は槍を伸ばして攻撃する。

 

 それは翼で浮いてかわすが、とたん真下から水流が吹き上がる。

 

 水道管を狙ったか。決定打にはならないが嫌がらせにはなるだろう。

 

 だが、俺には効かない。

 

 触れた瞬間に魔術で操作し、俺はそれを曹操にたたきつける。ちなみに硫酸を入れてダメージを狙っている。

 

 しかし喰らってくれない。奴は聖槍をつかって空中で方向をかえ、槍を短くすることで一気に懐にもぐりこんだ。

 

 装甲の薄いところを狙って膝蹴りが飛ぶ。俺はオーラを収束させてそれを防御。

 

 その瞬間、奴はもう片方の足で組み付いて、力をこめて槍を振り下ろす。

 

 ブレードでそれを受け止めながら、俺は結晶体を転移させ、暴発させる。

 

 感づいた曹操は俺を足場にして距離を取る。

 

 ここまで無言。そして短時間。

 

 ・・・やはりお互いにやりづらい。

 

「いいね! 赤龍帝のほうがやりやすいけど、こういう戦いも望むところだ!」

 

「言ってろ。お前の弱点は大体見切った」

 

 ああ、こいつには簡単な攻略法が存在する。

 

 俺は素早くイーヴィルバレトを展開すると、躊躇なく発砲する。

 

 曹操は駆けだしてそれをかわすが、しかし一気に距離を取らざるを得なくなった。

 

「やはりそこを突くか! ああ、想定の範囲内だ!」

 

 曹操もそこは理解していたのか、特に驚くことはない。

 

 曹操の欠点は単純明快。

 

 ・・・耐久力が低い。

 

 人間離れした耐久力をもつヘラクレス。防御系神器最高峰のゲオルグ。加護系の聖剣を使った聖剣の群れを使えるジャンヌ。氷の魔剣で障壁を作れるジークフリート。

 

 ほかの連中が楯になる防御方法を持っているのに対し、奴の場合はそれがない。

 

 ゆえに一撃当てれば一気に勝算は上昇する。そして、それならこっちもやりようはある。

 

 ガトリングガン、ショットガン、そして爆発系攻撃。

 

 面制圧の武装などいくらでもある。そして偽聖剣でクロスレンジにも対応できる。

 

 間違いなく、俺が一番有利に対応できるだろう。

 

 火炎放射器とかも持っているし。とりあえず徹底的にばらまくか。

 

 その状況下なら接近戦はできない。

 

 そして俺は直接倒す必要はない。

 

 かみ合いのいい組み合わせにすることはできた。間違いなく有利にやり合える連中だ。

 

 久遠とイッセーがなんか食い下がられているが、それ以外は基本的に優勢に立ち回っている。

 

 そいつらが片付いてからじっくりと数で責めればいい。シンプルな能力だから数でかかれば優勢だろう。

 

 積極的に首を狙う必要はない。この手のタイプは勝ちをあせったら間違いなく付け狙ってくる。

 

 油断は禁物だが余裕は必要だ。

 

 と、言うわけでじっくり足止めに徹させてもらおう。イーヴィルバレトはたくさんあるしな。

 

「やはり面倒だ! ならこれでどうだ!!」

 

 弾丸をかわしながら、曹操は指を鳴らす。

 

 とたん、例のごとくドラム缶どもが現れた。

 

「その程度で牽制になるとでも?」

 

 俺はもう片方の手にもイーヴィルバレトを展開して一気に打ち抜く。

 

 この手の雑魚殲滅はもう慣れた。今更不意打ちにはならない。

 

 ゆえに曹操の方に意識を向けた瞬間、それは来た。

 

 ドラム缶の一体が、やけに高速で迫ってきた。

 

 イーヴィルバレトを収束させるが、なぜかあっさり弾き飛ばす。

 

「なんだと!?」

 

 あわてて回避したが、その瞬間に曹操の姿が消える。

 

 まずい!? 連続のイレギュラーにちょっとパニックになってる!!

 

 とっさに、俺は結晶体を大量に展開し、風の魔術を発生させる。

 

 牽制程度にしかならないが、とにかく思考を落ち着かせることが必要だった。

 

 そして、それは役に立った。

 

 気づいた時には、聖槍の切っ先が偽聖剣の兜部分をかすめていた。

 

 しかも、生身に触れるギリギリの部分。あとちょっとずれていたら、最強の聖槍の聖なるオーラが俺に流れ込んでいただろう。

 

 思わず冷や汗が流れる中、曹操は俺の至近距離で舌打ちする。

 

「・・・とっさの対応力もそこそこあるね。このコンボならいけるかと思ったんだけど、なめてかかってたな」

 

 今、間違いなく姿を消してなかったか!?

 

「魔術か!?」

 

「いや、能力だよ。異能力者(レベル2)視覚阻害(ダミーチェック)。俺の場合は一秒間だけ、見るという認識を阻害できるんだ」

 

 不敵な笑顔を浮かべながら、曹操はわずかに距離を取る。

 

 完璧に、槍の間合いだった。

 

「あまり使い勝手のいい能力ではないけど、一瞬のスキを突けるのならこれは便利だ。・・・それに、君は意外と型にはめやすいからね」

 

 いまだ落ち着ききれてない俺を翻弄しながら、曹操は挑発目的で饒舌に語る。

 

「イーヴィルバレトの使い勝手がいいせいで、君はオゴボル―あのドラム缶もどきの正式名称さ―の相手をするときは高確率でそれを使う。もし通用しないのが一体紛れ込んでいたら隙を突けると思ってエデンに作ってもらったけど、やはり有効なようだ」

 

 攻撃そのものにも隙がなく、しかも速度も速い。

 

 この野郎、今まで手を抜いてやがったな!!

 

「さぁて、調子が悪いうちに畳みかけさせてもらおうか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、もう終わりね」

 

 待っていた声が聞こえてきた。

 

「・・・アーチャー!!」

 

 真上から急降下してきたのは龍の外套を身に付けたアーチャー。

 

 とっさに迎撃した八坂どのの攻撃を弾き、アーチャーは短刀をひき抜く。

 

 まるで雷のようにジグザグになっているナイフ。普通に考えれば観賞用であり実用性は低いだろう。

 

 だが、そのナイフの真骨頂は攻撃力ではない。

 

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)!!」

 

 先端が少し刺さっただけで、最も重要な決着部分はついた。

 

 そのまま少し震えた後、八坂殿は意識を失ってそのまま倒れ伏した。

 

「馬鹿な!? 制御が遮断された!?」

 

 霧使いのゲオルグが、度肝を抜かれて愕然とする。

 

 よし、これでとりあえず奴らの目的は水泡にきしたな。

 

「馬鹿な!? いくら魔術師の英霊といえど、ゲオルグが練った術式を一瞬で無効化するだと!?」

 

 曹操すら驚愕する。

 

 その瞬間にとりあえず透明化させたブレードを突き出してみるが、さすがにかわされてしまった。

 

 曹操はかなり動揺していたが、やがて絡繰りに気づいたのか舌打ちする。

 

「・・・そうか、行動や成し遂げた伝承そのものが結晶化したタイプの宝具・・・っ! あらゆる契約の無効化がそのナイフの力か!!」

 

「そのとおり」

 

 今更隠し通せないと判断したのか、アーチャーもそれをあっさりと認める。

 

「さすがに宝具を無効化することはできないけれど、魔術的な契約やつながりなら、どんな魔術だろうと私の前には無力ということよ」

 

 割と本気でチート能力だったりする。

 

 いかにサーヴァントといえど、超一流のサーヴァントが用意した工房を突破することはなかなか難しい。

 

 その援護を受けたサーヴァントを相手にするのは、格の差があったとしても困難極まるだろう。

 

 だが、アーチャーの宝具はそれをあっさりと無効化する。

 

 ナイフ一本であらゆる魔術を無力化するこの一撃は、本来キャスターを相手にして真価を発揮する対魔術宝具。

 

 イレギュラーな事態によってアーチャーとして呼び出されたからこそ、敵にとって最大限の脅威になる。

 

 キャスターよビビって震えているがいい。貴様の天敵が今ここにその姿を高らかに見せつけたぞ!!

 

「京都とのリンクは断ち切られ、九尾の狐の制御も解かれた。・・・認めよう、少なくとも試合には負けたようだ」

 

 頬をひくつかせながら、曹操は敗北を認めた。

 

 ほかの連中もいろいろと敗北感をにじませている。

 

 よし! これで何とかなったか!!

 

「・・・仕方がない。実験は中止しよう」

 

 肩をすくめて、曹操はそう宣言した。

 

 だが、その口元には嫌な笑みが浮かぶ。

 

「・・・じゃあ次は実戦テストだ。GSを使うぞ」

 

 その言葉に、英雄派が全員目を見張った。

 

「おいおいちょっと待て! アレは危険すぎるから使わないんじゃなかったのかよ!?」

 

「曹操は大丈夫かもしれないけど、さすがにこっちは大変なのよ!?」

 

 ヘラクレスとジャンヌが狼狽するが、しかし曹操は気にしない。

 

「幸い今はフィフスがついている。彼がいるなら何とかなるだろう」

 

 ・・・あいつここにいんのかよ!?

 

「フィフス。すまないがGSを出してくれ。グレモリー眷属にぶつけたい」

 

「おまえ時々すごい無茶するな、これが」

 

 その言葉とともに、それは現れた。

 

 妙に丸っこい、ずんぐりむっくりとしたデザイン。

 

 だが、それはある一点をもってして脅威を感じさせる。

 

 それはたった一つの言葉でわかる。

 

 とにかく、デカい。

 

 どう考えても50メートルはあるだろ、アレ。

 

 そして、もっと恐ろしいことが分かった。

 

―離せ

 

―出せ

 

―許さん

 

―助けてくれ

 

―逃げるんだ

 

―殺してくれ

 

―なんでこうなった

 

―油断した

 

―離れるんだ

 

 恨み言やらこちらに対する呼びかけやら色々あるが、共通するのはたった一つ。

 

 言葉の節々から、妙な神々しさを感じさせる。

 

 そして、厄介なことが一つある。

 

 ・・・数が多い。

 

 10体はいるその巨人たちは、背中に大砲を構え、腕には斧を持っている。

 

 オイちょっと待てなんだこれは。

 

 明らかにいろいろとやばいだろうが。

 

「・・・極東の神格の波動。あなたたち、一体何をしたんですか!!」

 

「形質としては封印系神器に近いわね。・・・まさか!?」

 

 その波動を感知したロスヴァイセさんとアーチャーが何かに気づく。

 

 それを見て、曹操は自慢するかのように両手を広げた。

 

「そう。これは田舎の神社にいるような神々をこっそり誘拐して作り上げた人造神器さ。コードネーム、GOD SEAL。文字通り神を封印した、神の器にふさわしい正しい意味での人造神器!!」

 

 な、なんつーもん作り上げやがった、こいつ等!!

 

「さあ、実戦テストに付き合ってくれ。一応言っておくが、仮にも神を宿している以上、並の上級悪魔じゃ歯牙にもかけないぞ!!」

 

 




ついに発動、アーチャーの宝具。

洗脳しまくりの英雄派にとって天敵といっていい能力。アニオタwikiでも書かれてますが、条件がそろえばチートの極みなんですよね、コレ。



結果的に英雄派の作戦はこれで台無しになりましたが、しかし本番はここから。


キャスターがいろいろと頑張ってくれております。


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仮初めの、吸血鬼

 

 振り下ろされる斧を全力疾走で距離を取って回避。

 

 だが、後ろから砲撃が襲い掛かってきて、余波で思いっきり宙を舞った。

 

 明らかに破壊力が高すぎる!!

 

 アーチャーの宝具でひっくり返したかと思ったら、逆にひっくり返されちまったぞ、オイ!!

 

「アーチャー!! 破戒すべき全ての符は!?」

 

「無理ね! キャスターの奴、宝具クラスにまで高めている! 核を狙わなければ無力化はできない!!」

 

 歯ぎしりしながらのアーチャーの言葉に、俺は割と泣きたくなった。

 

 アーチャーの宝具で無力化できないってどんな性能だよ!!

 

 しかもちょっと上を向いたら、なんかミサイルが大量に飛んできた。

 

 ヘラクレスの奴、容赦なく攻撃しやがったなオイ!!

 

 しかもディオドラがらみで運用してきた、パワードスーツ部隊まで運用してきやがった。

 

 クソが! 動きが前より早い!!

 

 フォーメーションを組んで襲い掛かってくるパワードスーツ部隊は、そこそこ性能が高いのかイーヴィルバレトも当たらない。

 

 しかも、デカブツはパワードスーツを無視して攻撃をしてくるからさらにやりづらい。

 

 だが、甘い!!

 

「かかったな、馬鹿め!!」

 

 言いつつ俺はスイッチを押す。

 

 そして、設置していた爆弾が一斉に起爆。

 

 念のためトラップを大量に設置しておいてよかった。何事も準備が一番だ。

 

 そして、攻撃が止まった瞬間にさらに奥の手を呼び出す。

 

「吹き飛ぶがいい。対艦ミサイル、ファイヤ!!」

 

 こっそりアザゼルの協力で調達した、大型対艦ミサイルを発射。デカブツの装甲を砕く。

 

 パワードスーツも装甲が砕け、中の連中の顔が見えていた。

 

 俺はその二つに視線を向け―

 

「・・・・・・・・・なん、だと」

 

 ―動きを止めた瞬間に、さらに想定外の不意打ちを食らった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 白い髪に赤い目。

 

 まるでフィフスみたいな特徴だけど、パワードスーツを着ている連中は全く違う印象だった。

 

 なんていうか、人形みたいだ。

 

 フィフスが持っているような、目的に向かって邁進する、ギラギラした感じが全然しない。

 

 感情がよくわからないぐらいの、変な感じだった。

 

「・・・なんだ、こいつら」

 

「ホムンクルスだよ、これが」

 

 フィフスはそういいながら、ホムンクルスごと俺をガ・ボルグで貫こうとする。

 

 俺はあわてて回避するけど、ホムンクルスはよけきれずに刺し貫かれる。

 

「お前! そいつは仲間じゃねえのかよ!?」

 

「仲間? いやいや、こいつは俺が作った兵器(道具)だぞ、これが。切り捨てるタイミングでもったいない精神出してどうするよ?」

 

 フィフスの奴は、何を言っているのかわからない感じで槍を引き抜く。

 

 なんだよそれ! ホムンクルスだって生きてるんだろうが!!

 

 魔術師ってやつはみんなこうなのか!?

 

 俺は我慢できなくてにらみつけるが、フィフスは意に介さず拳を握る。

 

「まあいい。やっぱりお前は面倒だよ。・・・ここで仕留める」

 

 いいぜ。俺もあんたをぶっとばしたくなってきたよ。ここで倒す。

 

 正面から突っ込んでくるフィフスに、俺はカウンターで拳を見舞う。

 

 それをフィフスは、本当にかすめてもおかしくないギリギリで交わす。

 

 格闘技術じゃやっぱりあいつの方が上か! だけどパワーとディフェンスならこっちの方がはるかに上だ!!

 

 気合いを入れて耐えようとした俺の目の前で、しかしフィフスの拳が変化する。

 

 突然、フィフスの手が炎に包まれた。

 

「火竜の、鉄拳!!」

 

 その拳が鎧にめり込み、難なく粉砕して俺の腹にめり込んだ。

 

「な・・・っ!?」

 

 ・・・なんだ、これ。今までとは全然違う痛さだ。

 

「・・・龍殺しの力はどうだ、赤龍帝?」

 

 フィフスが殴った感触を味わうようにゆっくりとそう聞いてくる。

 

 その口からは、チロチロと炎が漏れ出ていた。

 

「とある異世界に存在する、対竜戦闘用魔法、滅竜魔法(ドラゴンスレイヤー)。人工習得方法が伝わっていたんで、実験も兼ねて盛り込んどいてよかったぜ」

 

 炎をまとった連続攻撃で俺を滅多打ちしながら、フィフスは自信満々にそう告げる。

 

「パワーアップするのが自分たちだけとでも思ってたか? おれたちだってそれぐらいの準備はやってるんだよ、これが!!」

 

 宣言しながら、フィフスは勢いよく息を吸う。

 

 なんか出す気か!? だけどなめるな。

 

 俺も息を吸い込み、倍加させて一気に噴き出す。

 

 ブレスだったら俺だってできる!!

 

「喰らいやがれ、おっさん直伝の火炎攻撃!!」

 

 フィフスも出そうとするが、俺の方が一歩早い。

 

 あいつが動くよりも先に、炎のブレスをたたき込んだ!

 

 よし! 直撃だ!!

 

 諸に食らったならあいつだってただじゃすまないはず―

 

「甘いな、これが」

 

 フィフスの余裕たっぷりの声が俺の確信を打ち砕き、さらに信じられない光景が広がる。

 

 俺の出した炎があっという間にフィフスに吸い込まれると、そのままあいつは炎を飲み干しやがった。

 

「・・・これが滅竜魔法の特色の一つ。自身の属性にかかわる物を、喰らうことで急激にエネルギーを回復するのさ」

 

 なんだよその反則能力!

 

 俺は突っ込みを入れたかったけど、それより先にフィフスが突っ込んでくる。

 

 反撃として殴りかかるも、フィフスは全部片手間にさばいて、俺に連続攻撃を畳みかけた。

 

「センスも経験も足りてないんだよ。実戦経験一年足らずのど素人が、俺に勝てると思ってんのか、ああ!?」

 

 文字通り手も足も出させない状態でフィフスが吠える。

 

 しかも、対ドラゴン用なだけあって、あいつの攻撃は俺の鎧を難なく砕いてきた。

 

 俺は何とか振り払って距離を取る。

 

 このままだとマジでまずい! なんとか仕切り直さないと―

 

 と、思った瞬間動きが止まった。

 

 な、なんだこれ? 動けない!?

 

 気づけば、俺の体には細い糸のようなものが絡みついていた。

 

「・・・ご要望通り、縛り上げました、フィフス様」

 

「ご苦労、アサシン」

 

 何処からか聞こえてくる声に、フィフスが返事をする。

 

 ちょ、ちょっと待て!

 

 フィフスのアサシンって毒使いじゃなかったのか!?

 

 なんて思った瞬間には、フィフスは俺の懐に潜り込んでいた。

 

「滅竜奥義―」

 

 勝ち誇るようなフィフスの声に、俺は心底悪寒が走った。

 

 ヤバイ、こんなの喰らったら。

 

「―紅蓮爆炎刃!!」

 

 灼熱の連撃に吹き飛ばされて、俺は思いっきり打ち上げられる。

 

 その時、視界にGSとかいう巨人の顔が映る。

 

 宮白が何かやってのけたのか、一対だけ頭部が破壊されているのがいた。

 

 その中身を見て、俺は目を見開いた。

 

 あ、あの爺さんは・・・っ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 佑斗

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭部を破壊されたGSを見て、僕は目を見張った。

 

 神を封印した人造神器だと聞いていたが、どうやら宝玉に取り込むというわけではないようだ。

 

 カプセル状の物体の中に、丸ごと神らしき人物が取り込まれている。

 

 見かけは小柄の老人だが、そこそこの力を持つ神のようだ。

 

 その姿を見たゼノヴィアが、目を見開いて狼狽した。

 

「あ、あの方は!?」

 

「ゼノヴィアさん? お知合いですか?」

 

 アーシアさんの言葉に、ゼノヴィアは茫然としながらもうなづいた。

 

「キットロケットの大会で、宮白の実家の会社で馬鹿がいたことは覚えているな? その時の一件で世話になった、アスノミコトというアザゼル先生と親しい八百万の神だ。まさかあんなところでとらわれているとは・・・っ!」

 

 そういえばそんなこともあった。

 

 まさかこんなところでつながりがあるとは!

 

「何分急務だったので、神そのものをとらえたのはごく最近なんだけどね。マイナーで連絡のつきにくいところを重点的に狙っていたから、気づいてなかったとしても無理はない」

 

 そういいながら、聖槍を構えた曹操がこちらに近づいてくる。

 

「悪いけど、さすがにこの状況下で回復役まで放っておくわけにはいかなくてね」

 

「言ってくれるな・・・っ!」

 

「あまり舐められても困るね。グレモリー眷属はイッセーくんや宮白くんだけじゃない!」

 

 余裕すら感じさせる態度の曹操に剣を向け、僕はゼノヴィアと同時に切りかかる。

 

 曹操はそれを受け止めながら、しかし余裕を崩さない。

 

「まあ、一人で何とかできるとも思わないけどね。・・・だからこちらも増援を用意させてもらう」

 

 曹操の視線が僕らの後ろに向けられる。

 

 つられて視線を向けたところには、ふらついている様子のベルさんの姿があった。

 

 ランサーを倒したのか!? このタイミングでの救援は助かるが、しかしかなりダメージを受けているようだ。

 

「ベル! アーシアを任せる! 曹操はこちらが引き受ける!」

 

 ゼノヴィアも今のベルさんに任せるのはマズイと思ったのか、そう声をかける。

 

 だが、ベルさんは聞こえていないのかそのままふらつきつつ僕らの元へと近づいてくる。

 

 よく見れば、目も虚ろで様子がおかしい。

 

 ・・・想像以上にランサーに消耗したのか? 宮白くんの話では、そこまで強力なサーヴァントとも思えなかったが。

 

「ベルさん? どうしたんで―」

 

「―逃げろ二人とも!!」

 

 僕の声を遮って、宮白君が真上から降下してくる。

 

 鎧は半壊して右腕も折れているが、それを忘れさせるほど鬼気迫っている。

 

 なんだ!? いったいどれだけあわてて―。

 

「今のベルは・・・っ!」

 

 割って入った宮白くんの視線のさき、ベルさんの表情があらわになる。

 

 ・・・正気にはとても思えない、凄絶な笑みを浮かべていた。

 

「・・・敵だ!!」

 

 結界が間に合うのと、ベルさんから無色の力場が放たれるのは同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かろうじて、間に合った。

 

 不意打ち気味に攻撃を喰らったときは焦ったが、どうにも正気を失っているらしく、その攻撃には精密性がかけていたおかげで致命傷は免れた。

 

 そのあと耐性を立て直しているすきに距離を取られ、あわてて探して何とかこの状況になっている。

 

「・・・てめえら、ベルに一体何をした! っていうかいつの間に!?」

 

 状況から考えて、いまだ禁手を見せていない曹操が一番怪しい。

 

 だが、曹操は肩をすくめると、まるで理解できてないことを憐れんでいるかのような表情を見せる。

 

「俺は何もしていないよ。したのはランサーの力さ」

 

「森長可に洗脳能力があるだなんて話は聞いたことがないが?」

 

 知りうる限り、そんな能力があるなんて話は聞いたことがないぞ。

 

 だが、その答えを聞いた曹操は、心の底から溜息をついた。

 

「・・・まさかここまで完璧に引っかかるとは。半分冗談のつもりで試してみたんだけど、君は意外と馬鹿なんだな」

 

 なんだ? いったい何を言っている?

 

 俺の不安を示すかのように、ランサーが霊体化していたのか、曹操の隣に現れる。

 

 だが、その姿はあまりにもイレギュラーだった。

 

 ジーンズにジャケットを着、しかし槍だけは日本風。

 

「・・・馬鹿な。霊体化している状態で現代の衣服を着れるはずがない!?」

 

 ありえない姿にあわてるが、そんな中、隣の木場が歯を喰いしばって唸った。

 

「・・・違う。アレは・・・森長可じゃない!」

 

「どういうことだ? 人間無骨という槍を使うのは森長可とかいう戦国武将だと聞いているが」

 

 ゼノヴィアがそう返すが、木場は静かに首を振る。

 

「人間無骨は十文字槍だ。あの槍は大身槍で、全くの別物だ」

 

 ・・・なにぃ!?

 

 思わず目を見張るが、ランサーは嫌な笑みを浮かべながら首を振った。

 

「いやいや、こいつは人間無骨だぜ? 実家に伝わる大事な大事な相棒だ。こいつで何人もの女や男やガキやジジイを殺していっぱい血を飲んできたんだからなぁ」

 

「馬鹿げたことを! 人間無骨の伝承は有名だ。いくらなんでも槍の種類が間違っているなんてことはない!」

 

 木場はそう断言するが、それを見て曹操はため息をついた。

 

「案外頭の回転が鈍いな。・・・これが人間無骨なのは本当だが、森長可の使っていた人間無骨だなんて誰が言った?」

 

 ・・・・・・・・・は?

 

 いや、ちょっと待て、人間無骨は森長可が使っていた槍の名前で、え?

 

 ・・・あ。

 

「・・・名前だけそれからとっただけの、全くの別物?」

 

「おうよ! 平成20年に生まれてから、実家に伝わるこの槍片手に殺して血を飲むこと10年間! 邪魔する魔術教会の連中を殺しまくって、ついたあだ名が「現代のヴァンパイア」だ!!」

 

 胸を張ってそう言い張るランサーの姿を見て、俺はようやく絡繰りに気づいた。

 

 謀られた・・・っ!!

 

「因みに彼自身は固有名を持つ英霊でも何でもない。その所業ゆえに核に選ばれただけで、個人単体では英霊未満の亡霊に過ぎないらしいよ?」

 

 そう茶化すように曹操がいい、それがツボにはまったのか、ランサーは大笑いする。

 

「そういうこった! 俺は無銘の吸血鬼! ただのヴァンパイア擬きらしいぜ!? あっはっは! 笑えるなオイ!!」

 

 ふっざけんなわかるかボケ!!

 

 よくそんな英霊を引き当てたな! 聖杯バグってんじゃねえのか、オイ!!

 

「まあ、正直言って弱い英霊らしいんだけど。こいつのおかげで君たちの行動に対するカウンターができて実にラッキーなんだよね。どんな能力だと思う?」

 

 ・・・後ろで戦闘態勢に入っているベルを見ればすぐにわかる。

 

「吸血鬼の魅了の類か?」

 

「残念。こいつ等じゃあ、吸血鬼伝承の一部を具現化する程度しかできないんで、そこまでの力は使えない」

 

 楽しそうに曹操は槍を揺らし、ランサーは耐え切れずに大声を出す。

 

「血ぃ吸った奴を眷属に変える伝承の宝具化だよ! つまり、今のその姉ちゃんは俺の言うことを聞くしもべってわけだ、わかったなら血くれよ、血!!」

 

 ・・・最悪だな。

 

 表情を硬くする俺たちを見ながら、ランサーは槍を構えて狂気を見せる。

 

「んじゃあお前らも血を寄越しな! 美味い血が呑めて家来も作れる! サーヴァント化様様だぜえええええええ!!!」

 

 




ランサーの正体については賛否両論な気がします。

アヴェンジャーの設定を参考にしたサーヴァントは出してみたかったのですが、そこに以前募集した攻略法の意見を参考に、誤認させるような情報があるのをいいことに、そっちに見せかける作戦を曹操に取らせました。

通常の洗脳よりもはるかに効果的であるため、使いどころによっては非常にいやらしい戦法として使うことができます。


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妄想幻像

 

 突撃してくるランサーの攻撃をかわしながら、俺は割と本気で追い込まれたことを理解する。

 

 ・・・真面目な話、うちの連中にとってこいつの能力は鬼門だろう。

 

 信頼する味方をあっさり奪い取るような能力の持ち主だ。俺たちにしてみればこれ以上ない攻撃ともいえる。

 

 実際、内容を聞いた時点で木場もゼノヴィアも狼狽して戦闘能力が低下している。

 

 三対三の状態でこれは非常にマズイ。

 

 ・・・仕方がないな。

 

「・・・ベルは俺が相手する。ランサーの噛みつき攻撃には注意しろ!!」

 

 俺は光魔力の槍を展開しながらベルに突撃する。

 

 ベルはそれに反応して念動力の波動をたたきつけるが、攻撃の気配がまるわかりなので、攻撃してくるとわかっていればなんとか躱せた。

 

「アーシアちゃん、回復よろしく!!」

 

 牽制の砲撃を叩き込みながら回復を要請する。

 

 どちらにしても片腕では不利だ。と、言うかさすがに痛い。

 

「わ、わかりました! ベルさんをお願いします!!」

 

 アーシアちゃんの回復を受けてから、俺はとりあえずベルをおびき寄せる。

 

 ・・・ベルは空中戦もできるが基本的には地上戦を中心にしている。

 

 ゆえに空中戦に引きずり込んだほうが優位にはなる。

 

 しかも近接格闘ではなく念動力を中心に行動しているのも有効だ。

 

 どういう理由でやっているのかは知らないが、慣れてない行動なのでどうしても隙が大きい。

 

 そのせいなのか発動前に視界がゆがんでタイミングが計れる。おかげで不可視攻撃にもかかわらず、かなり回避しやすくなんとかさばける。

 

 とはいえイーヴィルバレトではやすやすはじかれるし、光魔力の槍を展開してもさすがに腕で弾き飛ばされる。

 

 蹴りをつけるなら偽聖剣を展開しての近接戦だが、ぶっちゃけベルに近接戦闘とか自殺行為だ。

 

―アーチャー。宝具で無力化できるか?

 

―無理ね。私の宝具では宝具は無効化できない。彼女にかけられた契約が宝具によるものである以上、無効化は無理よ

 

 無慈悲な言葉だが、このタイミングで期待を持たせる言葉も無意味。

 

 ゆえにわかりやすく、そして俺向きの言葉だった。

 

―・・・サポート頼む。メインは俺がする。

 

―無理はしないほうがいいわよ?

 

―いや、ここでお前に押し付けるのは、間違ってる。

 

 俺もさすがに覚悟を決めた。

 

 と、言うよりこういうのは俺の役目だろう。

 

 アーチャーに押し付けるのは間違ってるし、俺以外のメンバーじゃこういった判断はできそうにない。

 

 俺は深呼吸をし、一度だけ目を閉じて意識を切り替える。

 

「・・・悪く思うななんて言わない。好きなだけ恨んでくれていい」

 

 ベル。俺はさ。

 

 たぶん俺たちの中で一番まっすぐで、そこしか見えてないところがあって、だけどそこから前に進みかけているお前が。

 

「・・・殺す気で行くぞ、ベル」

 

 ・・・好き、だったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 マズイ!

 

 宮白の奴、なんかやばい覚悟決めやがった!?

 

 目が完璧に冷たくなってる。アレはかなりやばいことをする覚悟決めやがったぞ!

 

 なんとか止めなきゃいけないけど、戦闘が忙しくて介入できない!!

 

「どうしたどうしたぁ! 赤龍帝の名が泣くぞこれがぁ!!」

 

 主にフィフスが邪魔で介入できない!!

 

「今それどころじゃねえんだよ!!」

 

 振り返りざまに拳を振りぬくが、フィフスはそれを余裕でつかむ。

 

 殴り合いじゃ向こうの方が圧倒的に有利か!

 

 だけど距離を取ろうとしたら、どこからともなく短剣や矢が飛んできてこっちの邪魔のをしてくる。

 

 どうする!? どうすればいい!?

 

 ベルさんが敵の手に堕ちたとか最悪すぎる!!

 

 どう考えたって倒すわけにもいかないし・・・。

 

「ベル=アームストロングを倒すわけにもいかないがどうしようとか、考えてないか?」

 

 図星を突かれて、思わず言葉に詰まる。

 

 そんな俺を見て、フィフスはものすごい嫌な笑顔を浮かべる。

 

「だよなぁ? お前らだったらそこまでしか考えられねえよなぁ? だからこの手段は効果的なんだよ」

 

 この野郎・・・!

 

 俺たちとベルさんを戦わせることが目的か!

 

 だけど、フィフスはそれからさらにとんでもないことを言い放つ。

 

「そんな連中が、ベル=アームストロングを殺した奴と仲よしこよしでいけるわけがない。ああ、予想通りの展開になってきた」

 

 ・・・なに?

 

 ま、まさか宮白の奴!?

 

「てめえ! そこをどきやがれぇええええええええっ!!!」

 

「嫌だね!! そのまま味方同士の殺し合いを見物しやがれ!!」

 

 全力で殴り飛ばそうとしても、フィフスはその上を行ってすべてさばく。

 

 クソッ! こいつ、技術だけならサイラオーグさんより上を行ってやがる!!

 

 それでも身体能力なら今の俺の方が上だと思ったのに、新能力引っさげて挽回しやがった。

 

 それでも、ここで何とかしなけりゃなんないってのに―

 

「とらえたぞ、赤龍帝」

 

 耳元で、静かな声が聞こえてきた。

 

 そう思った瞬間には、関節を取られて右腕をひねりあげられる。

 

 なんだ!? 全然動かねえ・・・っ!

 

「―無駄だ。我が捕縛術の前には、その程度の怪力など何の意味もない。おとなしくそのままつかまっているがいい」

 

 視線をずらせば、そこにはアサシンが絡みついている。

 

 くそ! だったらこっちの腕は構わねえ!!

 

 全力でドラゴンショットをぶっ放すべく、今度は左腕を向けようとしたら、こっちも動かなくなった。

 

 顔を向ければ糸が絡まって動きを止めている。

 

 なんなんだよ!? 毒に糸に関節技!? いくらなんでも多芸すぎるだろ!!

 

「無様な面だなぁ、赤龍帝。そのまま親友が味方殺しをする姿を目に焼き付けろ・・・と、言いたいところだが」

 

 フィフスは俺を見下ろしながら、炎に包まれた手で俺の兜を砕いて顔を見る。

 

「俺もそこまで非道じゃない。殺した事実さえあればお前らは空中分裂するだろうし、目に焼き付けさせる必要もないだろう。・・・やれ」

 

「承知」

 

 女の声が聞こえてきたかと思うと、突然耳元から音楽が聞こえてくる。

 

 なんだ・・・これ? 急に眠気が・・・?

 

「我が夢歌のハサンの音に呑まれて、一時の夢へと旅立つがいい。そのあとの地獄をいやすための、心地よい夢をくれてやろう」

 

 ま、まずい。・・・マジで・・・ね・・・む・・・。

 

「そんなあなたに天使の目覚ましタイムよ!!」

 

 ―と、思ったら後頭部に光の矢が刺さって痛い!?

 

 と、そう思った瞬間に左手が自由になった。

 

「い、イリナ!?」

 

「ハァイ! イッセーくん起きたかしら!! 助けに来たわよ!!」

 

 急降下して関節を取ったアサシンを蹴り飛ばしたイリナが、擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を片手にフィフスをけん制する!

 

「チッ! 面倒なことをしやがる!! アサシン、仕留めろ!!」

 

 飛びのいたフィフスが声を挙げた瞬間、しかしそれより早く砲撃が建物に叩き込まれた!!

 

「カッハハハ!! だらしねえなイッセー!! ・・・リアスに言われて助けに来たよ!!」

 

 仰ぎ見れば、宝石まみれのナツミちゃんの姿!

 

 あ、あれって砲撃戦闘形態だ! あれで邪魔な連中を吹っ飛ばしたのか!!

 

 そして破壊された建物から脱出する姿を見て、俺は別の意味で驚いた。

 

 全身真っ黒で髑髏の仮面をつけた奴が三人。

 

 短剣を構えた奴とスリングを持った奴と弓を構えた奴の三人!? え、どういうこと!?

 

「えぇ!? サーヴァントって一クラスにつき1人じゃなかったっけ? なんか六人ぐらいいるんだけど?」

 

「分身能力でも持ってるんじゃねえのか? 宝具ってのは過去の功績とかも形になるらしいし、多重人格でなんかやった奴なら、人格の分だけ分裂するとかありえるだろ」

 

 困惑するイリナに、ナツミちゃんがサミーマモードでありそうな推測をだす。

 

 その説明を聞いたフィフスが明らかに狼狽したので、どうやらマジっぽい。

 

「なんつーもん召喚してんだよ、お前。だけどおかげで宮白もビックリの多芸っぷりが解けたぜ」

 

 俺がフィフスをにらみつけると、それをかばうように何十人ものアサシンが姿を見せる。

 

 いや、多すぎだろ! まさかこいつら全部得意技が違うとか言うんじゃないだろうな!?

 

「気づかれたのなら仕方がない」

 

「然り。我ら個にして群の影」

 

「そして群にして個の影なり」

 

 アサシンたちが俺たちを一斉に取り囲む。

 

 見れば、そのかっこうは近代的なボディスーツみたいなもので覆われている。

 

「さすがに分裂してる分、一体一体の戦闘能力は低いみたいだね。・・・それを、物理攻撃が通用しないのを逆手にとって、リミッターなしの危険な武装で強化してるってとこか?」

 

「意外と頭回るな、お前」

 

 ナツミちゃんの推測に、フィフスがマジで嫌そうな顔を見せる。

 

 おお! すごい当たりっぽい!!

 

 って、つまりこいつ等分裂してるけどそれでも結構手ごわいってことじゃねえか!!

 

「イッセー。こっちは任せて早く行って」

 

 ナツミちゃんが一歩前に出て、俺をそうせかす。

 

「滅竜魔法相手じゃ分が悪いでしょ。兵夜を止めるのは任せたから」

 

「ミカエルさまのエースとして、赤龍帝の道を切り開いてあげるわ。行って、イッセーくん」

 

 イリナも聖剣と光の剣の二刀流で、俺をかばうようにアサシンたちをにらみつける。

 

「・・・わかった!」

 

 俺は翼を全開にして、一気に飛び立つ。

 

 早まるなよ、宮白!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 




ついにイッセーたちの前でアサシンのタネがばれました。

実際この能力はかなりチートですが、さらにフィフスは一味加えてパワーアップ。

人間では耐えられない速度で駆動したり反動があったとしても、それが魔術的なものでないのならサーヴァントは耐えられる。そこを突いた強化武装です。

んでもって作戦も非常に極悪。

兵夜がいざというときは冷徹な判断を取れることを逆手に取り、それを利用してメンバーの空中分裂が本来の目的。

オカルト研究部にとって結束が力になっていることをちゃんと理解しているからこそとれる悪辣な手段でもありますが、これ、考えたのフィフスではなくアサシンの1人という設定。


強化武装と強化改造が中心というのは似てますが、兵夜がアクティブな頭脳労働担当なら、フィフスはインテリな肉体労働タイプと微妙に反対に設定しております。


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ベル、暴走中です!

 

 攻撃のタイミングはだいぶつかめた。

 

 どうやら支配下においているとはいえ、完全にコントロールできるわけでもないらしい。

 

 まあ、それなら洗脳せずにランサーの宝具だけ使えばいいはずだからな。何かしらのデメリットはあると思っていた。

 

 そして、そう判断している間に仕掛けたトラップに反応して、ベルの動きに隙ができる。

 

 今しか、ない。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・恨め、ベル!!」

 

 光魔力を最大出力で放出し、さらに宝石魔術でブーストをかける。

 

 もてる最大出力を生かしたパイルバンク。コレなら一撃でいける!!

 

 脳裏に一瞬、茶屋で抹茶と和菓子のコンボに夢中になっていたベルが見える。

 

 それは、無視した。

 

「当たれええええええ!!!」

 

「させるかぁああああ!!!」

 

 完璧に当たると思ったタイミングで、割って入る赤い影。

 

 全力で放たれたこぶしが、こっちの攻撃の軌道をそらす。

 

「イッセー!?」

 

 クソ! 気づけば絶対に阻止するとは思っていたがやはり阻止しやがった!!

 

「どけイッセー!! 状況考えろ、馬鹿!!」

 

「馬鹿はてめえだ!! どんな状況だろうと、仲間を見捨てて自分で仕留めるなんて真似許すわけがないだろうが!!」

 

 予想通りの反論を返してくるが、だからといってここで口論している時間はない。

 

 今の状況下でこいつらがベルに意識を向ければ、完璧に不利になった状況がダメ押しまでされて確実にやられる。

 

 誰かがやらなきゃいけないことなんだよ・・・っ!!

 

「文句があるなら今ここで対処方法を実行しろ!! それができないなら黙ってみてろ!! 本当に俺たち全員殺されるぞ!!」

 

「・・・よし! じゃあベルさんとコンタクトとってみよう!! もしかしたら何とかなるかもしれない!!」

 

 なんかとんでもないこと言ってる!?

 

 いや、どうやってコンタクトとるんだよ!?

 

 明らかに正気じゃない奴と会話する方法がわからないんだけど!!!

 

「広がれ俺の夢空間! 乳語翻訳(パイリンガル)!!」

 

 イッセーは乳技を発動するが、正気じゃないベルに使ってなんか意味あんのか、オイ。

 

「ヘイ! ベルさんのおっぱいさん!! 今何を考えてる?」

 

 すいませーん。聞いてる間に攻撃が来そうなんですがー。

 

 もう喰らって吹っ飛んでる隙に続行しよう。なんか空気呼んで攻撃してこないからチャンスはある。

 

『・・・あー、兵夜さまですねぇ』

 

 あれ? おれの耳にも声が聞こえてるぞ?

 

「なんだぁ? 念力女の声が聞こえてくるんだが?」

 

 戦闘中のランサーが首を傾げ始める。

 

 え? ほかの連中にも聞こえてるの?

 

「宝具と乳技の組み合わせが化学反応でも起こしたのか?」

 

 曹操も首をひねり始めたぞ?

 

 なんか寝ぼけた状態のベルの胸の声が、連続してシャベル始めたのはその時だった。

 

『兵夜さま本当にカッコいいですぅ。一緒にいたら胸があったかくなるし、隣にいるとちょっとドキドキするのばれてないかなぁ? あ、でもばれてたら私も兵夜さんの妾の1人になったりするんですか!? そ、ソーナちゃんに仕えている久遠ちゃんも愛人だし、その確立は高いかもしれませぇん。別に妻になりたいなんて思ってないし、むしろ側近とかのほうがなんかちょっとドキドキしていいけど、だとしたらそのままずっと一緒にいるというのもありですねぇ。あぁ、でもミカエルさまの命があればすぐに行かねばなりませんからぁ、そうだとすると妻というのは無理にもほどがありますねぇ。で、でもそんな立場もそれはそれでドキドキしますぅ。ああ! でもそんなことしていたら兵夜さまに怒られてしまうかもしれませぇん。あれ? なんだかすごくドキドキしてきましたぁ。く、首輪なんかもされちゃったりして・・・キャーなんか恥かしいですぅ』

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

「・・・うん、ゴメン」

 

「謝るならどけ。ベルを殺して俺も死ぬ」

 

 なんだこの変態告白。

 

 あいつ俺のこと内心ではさまづけ!? そして年下の女の子はちゃん付けだったの!? そしてなんだその願望は!!

 

 そ、想像したら俺もなんかちょっとドキドキしてきた。やばい! 俺結構Sっ気強いのか!!

 

 っていうか、なんだこのとんでもない告白は!!

 

 いや、嬉しいけど、嬉しいけどむちゃくちゃ恥ずかしい!! 今戦闘中なんですけど!?

 

 よし、死のう!! ベル殺して俺も死のう!!

 

 大丈夫だベル。お前を一人になんてしないからなぁ。だからその口を閉じろ閉じてください今すぐに!!」

 

「宮白、想像したらから口で言ってる」

 

 イッセーに言われてさらに死にたくなった。

 

『イッセーくんは兵夜さまと長い間そばにいたっていうのが本当にうらやましいですねぇ。私はミカエルさまと毎日顔を合わせることすらできないのに! ああ、その分兵夜さまと一緒にいて発散したいけどそれもできない! ナツミちゃんがうらやましいですぅ。あ、今でも一緒にいるなんて仲がいいですねぇ』

 

 さらにベルの独白は続くが、その瞬間に念動力の一撃が入って俺たちは仲良くGSのコアの部分にたたきつけられた!!

 

 こ、攻撃の意識とかは全くなくて動くのか!?

 

「み、宮白、宮白!! 大変だ!!」

 

「なんだイッセー! どうした!?」

 

 今度は乳魔とかでもリンクしたのか!?

 

 うん、ありえそう! ベル巨乳だし!!

 

「乳語翻訳切れてる!! 今のアレ、ベルさんのテレパシーか何かだ!!」

 

「マジか! お前の乳語翻訳は乳通り越してベルの本音をばらまいたのか!?」

 

 ベルの遠隔感応能力(テレパシー)とイッセーの乳語翻訳(パイリンガル)が組み合わさった結果があれか!?

 

『お主ら好かれとるのぅ。儂もビックリじゃ』

 

「え? おれってそんなに好かれてる? か、かわいがられてる自覚はあるけど―」

 

「最近モテ期なのは自覚してる。・・・って誰だ!?」

 

 イッセーが鈍いのは仕方がないとして、今度は誰だ!?

 

『こっちじゃこっち。後ろじゃ』

 

 言われて後ろを振り返ってみれば、そこにはアスノミコトの爺さんが封じられたコアが。

 

『乳龍帝の坊主と、超能力者の嬢ちゃんの力が組み合わさったおかげで、何とかコンタクトがとれたわい』

 

 正直息切れしそうな感じな調子で、爺さんがそんなことを言ってきた。

 

 神様すごいな、オイ。

 

『事情は大体把握した。・・・宮白兵夜、あの嬢ちゃんを救いたいか?』

 

「手段があるなら教えてくれ。ないならその提案は却下だ」

 

 俺は即答する。

 

 あいにく、できもしないのに希望をかけるわけにはいかない。

 

『二つ欲しいものがある。・・・それがあるかどうかで成功率は大きく変わる』

 

 ・・・いったい、なんだ?

 

『悪魔の駒のベースマテリアルと、悪魔を半分やめる覚悟だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佑斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘中、僕らはそれを見た。

 

「イッセー! 援護しろ!!」

 

「わかった! 助けて見せろよ、宮白!!」

 

 GSから飛び出した宮白くんとイッセーくん。

 

 二人が高速で突撃しながら、一気にベルさんへと突貫する。

 

 宮白くんの行動は、納得はできないが理解はできる。

 

 だが、それをイッセーくんが受け入れることはないはずだ。

 

 あの短時間でいったい何があった?

 

 ベルさんもそれに気付いたのか、念動力で周囲の建物を浮かせるとそれを投げつける。

 

 あれだけの大きな物体を軽々と投げつけれるとは、彼女のスペックは思った以上に高いのかもしれない。

 

『なんかいつも以上にかっこよくなってますねぇ。しかも料理もうまいっていうからすごいですぅ。・・・抹茶とお茶菓子もおいしいんですかねぇ』

 

 そしていまだに思考が駄々もれなせいで色々とやりづらい。

 

 宮白くんには心から同情するよ。

 

「お前マジ恥ずかしいんだよ、このバカ!!」

 

 たぶん、鎧の中は顔が真っ赤になってるんだろうなぁ。

 

 それはさておき、放たれる大質量の物体を、切り裂いたり打ち砕いたりしながら二人は突撃する。

 

「再び展開! 乳語翻訳、神様サポートバージョン!!」

 

 イッセーくんが乳語翻訳を展開するが、今回その出力が明らかに違っていた。

 

 圧倒的なまでのオーラが放出され、この場一体を包み込む。

 

 そして、それはいつの間にか集まり、イッセー君を間にして、ベルさんと宮白くんを包んでいた。

 

「・・・あとは任せた、宮白!!」

 

「ああ、任せろ!!」

 

 宮白くんが視線を、ゆっくりとベルさんにむけ、そしてその手をつかんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out




元からぶっ飛んでいるベルですが、内面はもっとぶっ飛んでいることがついに紹介で来てよかったです。

因みに何気にペット属性というか従属願望があったり。ナツミが気ままな飼い猫なら、ベルは忠誠心の飼い犬てきな感じでお願いします。


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ベル、新生します!!

ベル救出クライマックス!!


先に書いておきます。


感想をくださった方々。本当にありがとうございます


 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランサーの宝具のイメージに反して、ベル・アームストロングの意識はかなりぼんやりと、まるでぬるま湯の中に浮かんでいるかのように漂っていた。

 

 噛みつかれて血を吸われたところまでは覚えているのだが、そこから先の記憶がぽっかりと抜け落ちている。

 

 何となく、今自分は敵の手に堕ちているのはわかるのだが、どうしても動く気になれなかった。

 

 ミカエルの敵になりかねないこの状況下は非常に面倒ではあるのだが、幸か不幸か、今の自分の戦闘能力なら打倒できる戦力はいくらでもいる。

 

 微妙に体の感覚も残っているが、どうも派手に動いているわけではないようだ。この様子なら格闘戦を行っているわけでもない。

 

 自分は異能力者というよりも格闘家に近いポジションなのは自覚している。本領を発揮できないこの状況下で、そこまで最悪な脅威になるとは思わなかった。

 

 イッセーたちにとっては精神面で厄介な敵になるとは思うが、しかしあの場には兵夜がいる。

 

 自分の行く道の先に立ち、そして道を進む前から自分よりもはるか高みに立っていたあの男。

 

 そして、いつの間にか愛してしまっていたあの男。

 

 彼がいるならそこまで不安にはならない。きっと何とかなるだろう。

 

 正直心苦しいところもあるが、しかしなぜかちょっとほっとしてしまうところもある。

 

 この業界で生きていて、ベッドの上で死ねるような人生になるとは思っていもいない。

 

 愛する人の手で介錯されるのなら、それはそれで幸せな最期ではないだろうか?

 

 そう思うと、兵夜には悪いが少しドキドキしてしまう。

 

 そう考えると、なぜかより眠くなってきた。

 

 ぼんやりとした思考では考えもまとまらず、そのままつい寝そうになる。

 

「・・・おい、ベル。マジで起きろ」

 

 明らかに不機嫌な、兵夜の声が聞こえてきた。

 

「死にたくなかったらとりあえず手を伸ばせ。今の俺じゃあそうしてくれないと助け出せない」

 

 そういわれても、体は全く動かせないから困る。

 

 それに、こうしている間にも制御された自分の体が攻撃を行っている可能性もある。

 

 だったら気にせず殺してくれてかまわない。

 

 そう思っているのが伝わったのか、溜息を出てくる気配があった。

 

「俺もそのつもりだったんだが、予想以上にイッセーが根性見せてな。いま食い下がってるから早く手を動かせ」

 

 そこまでしなくて構わない。

 

 自分はなんだかんだで満ち足りた人生を送ってこれた。

 

 こんな忌まわしい力を生まれ持っておきながら、それを気にせず受け入れて、暖かい光を浴びて生活することができた。

 

 それどころか、誰かのために頑張るという生きがいを与えてもらえた。頑張って成果を出すことができる仕事をもらえた。自分の力を使って褒めてもらえまでしたのだ。

 

 ああ、なんでここまで逃げ出す気になれないかがよく分かった。

 

 自分はもう、本当に人生に満足しきっているのだ。

 

 初めてミカエルに出会った時を思い出す。

 

 力を制御しきれずに周りに被害を出しているときに、たまたま近くの教会を視察していたミカエルが駆けつけたのだ。

 

 畑違いの領域の力を、しかしその圧倒的な力で抑え込んだミカエルは、そのまま泣きじゃくる自分をやさしく抱きしめてくれた。

 

「大変でしたね。もう、大丈夫ですよ」

 

 きっと、あの言葉をもらえた瞬間に、自分は満ち足りていたのだ。

 

 だから、自分には何も与えてくれなくていい。

 

 そのせいで苦労する必要なんてどこにもない。

 

 自分でも、この力が自力でどうにかできるようなものでないことはよくわかっている。

 

 だからリスクを背負わないでほしい。

 

 こんな忌まわしき自分のために、そんな苦労をしなくて構わない。

 

 もう自分は十分満たされたのだから、これで十分なのだから―

 

「ベル。一つ聞くぞ」

 

 兵夜は、そんなベルにはっきりと言った。

 

「俺たちが、お前のことが嫌いだと思ってるのか?」

 

 その言葉に、ピクリと、指が動いた。

 

「前にお前は言ったな。自分の力は人から怖がられるのが当然だと。・・・だけど、それは()()()()()()()()だろ?」

 

 その言葉に、瞼が揺れる。

 

「少なくとも、オカ研の関係者でお前のことを嫌っている奴なんていない。・・・時々馬鹿になるところは困ってるだろうが、イッセーもナツミも久遠も小雪も、部長も朱乃さんもアーシアちゃんも小猫ちゃんも木場もゼノヴィアもイリナも、お前のことが大好きで仲間だって思ってる」

 

 その言葉に、心臓が鼓動を打つ。

 

「そんなやつらが、仲間を殺して平気だとで思ってるのか? 自分が嫌われてる嫌われてると思いこんで、好かれてる事実に気づこうとしないのも大概にしろ」

 

 鋭い叱責の言葉を投げかけて、兵夜はハッキリと言い切った。

 

「この異能が当然のこの世界で、異能が当然の業界にいながら自分を無駄に卑下するな! お前はもっといろいろ求めて、欲しがって、欲望をもっていいんだよ!」

 

 その言葉に、ふと昨日のことをおもいだす。

 

 あの抹茶はきつかったが、そのあとの和菓子は本当においしかった。

 

 あれをまた体験するのは、楽しくなってくるだろう。

 

 そして、一人の男を思い返す。

 

 最初の時は素人ながら優秀な人物だということしか思わなかった。

 

 だが、自分の同類と知って共感を覚え、自分にはない強さを持っていると気づいて憧憬を覚えた。

 

 イッセーに、彼が兵藤一誠(輝き)を知る前から努力を重ねていたと知ったときは、心の底から敬服した。

 

 崇拝するのが当然で、立場的にもそういうことをする相手であるミカエルと違い、その存在に対して恋心を覚えるのは当然だったかもしれない。

 

 もし、彼がずっと一緒にいてくれるのだとしたら、それはどれだけ幸せなことだろう。

 

「・・・だからって、できるわけないじゃないですか!!」

 

 そう思い、しかしだからこそ爆発した。

 

「こんな、ミカエルさまの戦力になること以外何も知らないバカが、わがまま言っていいわけないじゃないですか! そんなのとずっと一緒にいたら、誰だっていやになるに決まってます!!」

 

 正直言うと、結構これでも人間関係には苦労しているのだ。

 

 どうも自分はまっすぐすぎる上に、人からぶっ飛んでいるといわれているせいか、チームメイトと長続きすることが少ない。

 

 時々連携を取る分には助かるのだが、長時間の相方として行動するのはちょっとといわれることが多いのだ。

 

 そもそも輪廻転生を経験しているがゆえに信仰心を一切持っていない自分は、ハッキリ言うと鼻つまみ者だった。

 

 確かにオカルト研究部を中心として活動するときはそういったことはなかったが、それは彼らが特殊であるからに過ぎない。

 

 そして、この修学旅行で、うすうす気づいていたことがある。

 

 自分は人間として何かが足りてない。

 

 どこか抜けている欠陥品なのだ。

 

 そんな自分が一緒にいて、うまくいく自信が全くない。

 

 いや、ハッキリ言って―

 

「こんな、ミカエル様馬鹿の異端児の欠陥品が人を好きになって、その人の迷惑にしかならないじゃないですか!!」

 

 自分で叫ぶが思わず涙が出る。

 

 だが、それは間違いなく事実だ。

 

 力仕事や簡単な雑用ぐらいしかできない自分が、あんな明るい日常で、どうやって生きていけばいいのだ。

 

 自分のような足手まといは、足かせにしかならないだろう。

 

 その思いをぶちまけ、いっそのことすべてを聞かないで過ぎ去るのを待ってしまおうかとすら思ったとき、それを貫くほど鋭い声が届く。

 

「その程度、どうにでもなるだろう」

 

 その言葉に、閉じかけていた目を大きく開く。

 

「お前の好きな奴は、人を動かすのは得意だからそれぐらいうまくさばいてやるさ。第一、役に立つ程度にはものを教えられる自信もあるだろう。・・・お前馬鹿なんだから、そんな無駄な心配するなよ、ホント」

 

 心底溜息をついてから、兵夜は苦笑を浮かべてベルに一歩近づく。

 

 よく見ると、その顔は少し赤くなっていた。

 

 そんな様子を見ていると、なんだかおかしくなって笑顔が浮かぶ。

 

「言えよ、ベル。お前は、何がしたい?」

 

 ・・・駄目だ、かなわない。

 

 前から思っていたが、どうやら自分は彼には勝てないらしい。

 

 恋愛は惚れたほうが負けとか言われているが、つまりこういうことなのだろう。

 

「・・・抹茶と和菓子のコンボをもっと味わってみたいです」

 

「茶道部に頼んでみるか」

 

「・・・ミカエルさまの役に立ちたいです」

 

「今の活動がまさにそれだな」

 

「・・・・・・あ、あと」

 

 さすがに恥ずかしくなって言い出しにくいが、こうなってしまってはもうやけだ。

 

「・・・・・・・・・・・・好きです。実質、そばに、おいてください」

 

 後半はもうボソボソと聞き取りにくかったが、恥ずかしいので仕方がない。

 

 こんな自分が、恋愛感情を出して告白するなんて思っても見なかった。

 

 ミカエルの役に立つ邪魔になるのではないだろうか。そうなるととても残念だ。

 

 だが、そう思って縮こまる体を、やさしく抱き留められた。

 

「構わない。・・・そのうえで、一緒に大天使ミカエルの利になる行動も考えるか」

 

 そういわれて、さっきとは違う意味で涙がこぼれた。

 

 こんなもの、自分にはもったいないし恐れ多いと思っていた。

 

 だけど、こうなってしまっては我慢できない。

 

 そして、それを受け取るためには今の状況がとてもじゃまだ。

 

 本当ならこのまま排除してもらうべきだが、どうしてもその前に頑張ってほしかった。

 

「無理なら、実質あきらめます。あきらめますけど・・・っ」

 

 たぶん、自分は生まれて初めて心から誰かに助けを求めるのだろう。

 

 自分にこんなことをする機会があるだなんて思っても見なかった。

 

 そう思うと、この言葉を口にすることがなぜかうれしく思ってしまう。

 

「・・・・・・助けに、来てくださいっ!!」

 

 答えは、力強く、確信に満ちた一言だった。

 

「わかった!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスノミコトの力で強化された乳語翻訳で、あいつの心と会話することができた。

 

 願いは、聞いた。

 

 想いは、届いた。

 

 策は、今はある!

 

「気合いは入れる、やってくれ!!」

 

 俺は声を張り上げる。

 

『よかろう! 死ぬなよ!!』

 

 後ろのGSから声が聞こえ、同時に俺に力が流れ込む。

 

 割と本気で体が張り裂けそうだが、しかしその対策はここにある。

 

 呼び出すのは悪魔の駒のベースマテリアル。

 

 それを体に埋め込んで、術式を組み込んで肉体を変質させる。

 

 成功確率は微妙な一発勝負。

 

 本来ならできる限り避けるが、しかし今回は実行する。

 

 俺に惚れてくれる女がいる。

 

 そいつは、自分の価値を認められず、人から嫌われるのが当然だと思い、我が儘をすることなんて一つもなかった。

 

 恨んで当然の冷酷な世の中を、当然だと受け入れてしまうような善良すぎる性根が原因で、自分のために求めるという行動を全くしない、なんというか厄介な女だった。

 

 だけど、そんな彼女が初めて心から自分のために何かを求めた。

 

 美味しい食べ物を味わいたい。

 

 もっと人の役に立ちたい。

 

 大好きな人と一緒にいたい。

 

 受け入れてくれた人のためではなく、受け入れてほしい自分のために、たぶん生まれて初めての心からの我が儘を言ったのだ。

 

 それは、きっととても大きな価値がある。

 

 そんなものを与えられて、答えられない男でいいのか?

 

 いいわけ・・・ないだろっ!!

 

「なんだ、何をする気だ!?」

 

 想像のしてなかった出来事に、曹操が明らかに狼狽する。

 

 それをあざけるのは俺たちではない。

 

―あまり、なめてくれるなよ

 

―心からの願い、これだけの数がいてかなえられないはずがない

 

―この程度の願いすらかなえられないようでは名折れでしかない

 

―貴様には借りを返したかったのだ

 

―一矢報いる時が来たようだな!

 

―自分の女ぐらい救って見せろ、力を貸してやる

 

―ふざけたことをしてくれた貴様に、目にもの見せてくれる

 

 GSから次々と放たれる声に、曹操は目を見開く。

 

「馬鹿な、あそこまで弱らせて封印したのにもう抵抗できるのか!? 聖槍の一撃を受けて、そんなことが!?」

 

―小童が、よくもまあここまで調子に乗れたものじゃのう

 

 呆れたようなアスノミコトの声が、曹操の耳に届く。

 

―神は、戦うものではなく敬い祭り上げるもの。そもそも発想からしてずれている癖に、思い通りに行くわけがないじゃろう?

 

「ありえない。たかが汎神論による神の力で、あそこまで弱まった状態でそこまで力を震えるわけが―」

 

―小僧、お主に一つ教訓を刻み込んでやろう。

 

 曹操にとどめをさすかのごとく、威厳に満ちたアスノミコトの声が響く。

 

 そして、最後の一言はその場にいるすべての神が同時に言い放った。

 

―神を、舐めるな

 

 その言葉がきっかけになり、俺に神の力が収束される。

 

 とはいえ、全くベクトルが違う力、神の加護でも無効化できるわけがないし、そもそも今の状態では力が足りない。

 

 いま彼らが俺にしているのは、ベースマテリアルの力を応用した強制的な変質だ。

 

 たとえば、菅原道真公

 

 たとえば、徳川家康

 

 たとえば、平将門

 

 神道において人から神に祀られたものは数多い。

 

 少なくともこの日本において、神でないものが神になることはありえないことではない。

 

 その現象を、今俺の体に適応させる。

 

 なった直後にすべての力を発揮できるわけがないが、しかし一つの能力に収束させることで、その力だけは使えるように進化させる。

 

 使う力はただ一つ。

 

 神の使い・・・式神に特化した運用能力。

 

 ほかの力の制御能力をすべてこれに注ぎ込むことで、結果的に現時点でそれに特化した神へと変化する。

 

 そしてその力を使うことで、強制的にベルの制御権を俺へと移し替え、人の姿をした神獣へとつくりかえる。

 

 ただの転生では上書きは消せない。

 

 同レベル以上の強大な隷属関係を作り出すことで、その力に干渉して奪い返す。これが、正真正銘の逆転の手段。

 

 もちろん、机上の空論レベルのものを実行するのだから負担は大きい。

 

 だが、それだけの価値はある!!

 

「ベル、聞こえるか?」

 

「・・・はい」

 

 弱弱しいが、ベルが返事を返す。

 

「まずは普通に家事をこなすことから覚えよう。なんというか部屋の中が大惨事になってる気がするから、まずはその辺から覚えような」

 

「はい」

 

 まだ宝具の影響下におかれながらも、ベルは返す。

 

「そして料理を覚えよう。そしたら大天使ミカエルにご馳走するとかいいかもな。俺も大天使に献上する料理を教えたとかものすごい大物オーラが出てきそうだ。割とやる気だったりするから頑張れよ」

 

「はいっ」

 

 少しずつ、力を込めてベルはうなづく。

 

「・・・これが終わったらデートしよう。お前に一般人の休日の過ごし方を教えてやるよ」

 

「はいっ!」

 

 涙すら浮かべながら、ベルは力強くうなづいた。

 

「あの、ちょっとだけ、我が儘いいですか?」

 

 ・・・ああ、何となく何がしたいのか想像ついた。

 

「なんだよこの忙しい時に。・・・手短にな」

 

 意識を集中するついでに、目を閉じる。

 

 ・・・ベルの唇は、柔らかかった。

 

「実質、ファーストキスです。・・・これからよろしくお願いします」

 

 そういうと、全力でベルは俺に抱き付く。

 

 ランサーの宝具に引きずり込まれないように全力でしがみつく。

 

 俺も何とか引きはがそうとするが、しかしあと一歩が足りない。

 

 ふざけるなよ、さすがにこの流れで失敗とか認められるか!!

 

 とどけ

 

 届け

 

 と・ど・けぇええええええええええええっ!!

 

「・・・全く、神が嫌いな私の主が、神になるとか笑えない冗談ね」

 

 その背中に、手が添えられた。

 

「せいぜい私が好めるような神になりなさい、マスター」

 

 振り返れば、そこには微笑を浮かべたアーチャーがいた。

 

「それに、あなたの所有物なら私も着せ替えし放題ね。・・・この子体格の割にかわいい服が似合いそうだから楽しみだわ」

 

 ベルの方に、ねじくれた短剣が突き立った。

 

 そして、一気に力の趨勢が傾いた。

 

「いくら宝具の無効化ができないとはいえ、拮抗状態を傾けることぐらいは簡単よ。宝具を舐めないでもらおうかしら」

 

 得意げなアーチャーの言葉に引っ張られ、俺は最後のケリをつける。

 

「・・・ベル、通過儀礼に一ついうことがある」

 

 自分でも顔が赤くなっているのがわかるが、これはもうこのタイミングでいうしかないだろう。

 

「好きだ、ベル。大天使ミカエルと俺の利害が一致している間、一緒にいてくれるとすごくうれしい」

 

 そういわれて、ベルは心からホッとした笑顔を浮かべる。

 

 ああ、俺を大天使ミカエルより優先するとか、ありえないよな。

 

 俺たちは、そういう性分だから通じ合ったんだ。

 

 だから、この手を引っ張り出せた。

 

「愛してるぜ、ベル」

 

「実質、私もですよ。・・・お慕いしています、兵夜さま」

 

 周りの空気など一切無視して、俺とベルは、ちょっと世間とはずれた誓いの口づけをかわした。

 

 




ベル、攻略完了!

そして、兵夜神格化!

兵夜の神格化とそれに伴うベルの式神化は、かなり前からそのつもりでした。アスノミコトもそのために用意したキャラです。

が、方向性も進み方も予定とは全然違った方向になりました。

そもそも、最初に発案した段階ではランサーは兄貴でしかもマスターはフィフスという設定。空間移動能力によるカウンターを因果逆転で破られ、そのベルを蘇生するために、致命傷を負ったアスノミコトから神の力を譲り受けた兵夜が蘇生を試みる、というものでした。

が、あまり強力なサーヴァントを呼ぶのはケイオスワールドの趣旨に反するということでランサーは吸血鬼の殻をかぶったサーヴァントに。まずここでストーリーが大きく変更。

で、神を最初から殺すつもりで作るのはよくないと思い、こちらも方針転換。ほかのアイディアを参考にGSを土壇場で設定しました。

んでもってベルを捕らえるための策が必要であり活動報告で募集、いいのがなかったので兵夜の攻略法を応用することに決定。そのため、ランサーに森擬きの要素を加えました。

 そして、パンデモニウム編に入ってからの感想をみて、最終的な方向も大幅変換。

 修学旅行の出来事で欲するものを知ったベルが、兵夜の叱責と促しを受け、誰かのための人生ではなく、自分が生きたい未来を求め、兵夜、神々、魔術師が総力を結集。

 結果として、新たな神とその使いが誕生、という流れになりました。

 やはり感想は制作者の力になるものだと痛感しました。

 皆様、これからもご声援をお待ちしています


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万象に触れし命の水

ようやく兵夜の本領発揮。


 

 Other Side

 

 

「それで? これからどうするつもりだい?」

 

 内心で驚愕しながら、しかし曹操は冷静さを取り戻していた。

 

 キャスターの力をもってしても神を完全に御することは難易度が高かったのは残念だが、どうやらこれが最後の力だったようだ。

 

 制御数値は今まで以上に安定し、これ以上の反撃は見込めそうにない。

 

 兵藤一誠と宮白兵夜は今ので大きく証明した。

 

 木場佑斗たちも連戦で疲労困憊だ。

 

 一方こちらはほとんどの主力メンバーがGSの戦闘を見物していたこともあって回復している。

 

 敵は消耗して味方は回復する。戦況を有利に運ぶには十分すぎる条件だ。

 

 ましてや、今はフィフスとそのホムンクルス部隊が戦闘に参加している。

 

 正直フィフスの発想には感心している。

 

 ホムンクルスとパワードスーツを設計段階から二つで一つの組み合わせにすることにより、完璧な適合を発揮したセットとして運用する。

 

 これにより高い性能と生産性を発揮した独自戦力の確保には舌を巻いた。

 

 数々の戦闘によるデータを組み込んだ第二次生産仕様の能力は魔獣創造で生み出されたモンスターよりも強力だ。

 

 負ける道理はどこにもない。

 

 ゆえに冷静になっていたが、しかしわずかな変化に気が付いた。

 

 赤龍帝から妙な気配が発生している。

 

「仕方がねえ。まずはお前から仕留めさせてもらうぜ、これが!!」

 

 真っ先に感づいたのか、フィフスが炎をまとって一気に迫る。

 

 グレモリー眷属たちは、疲労が重なっているのか即座には反応できない。

 

 だが、そこに割って入る影があった。

 

「させませんよ!」

 

 光力をまとったベル・アームストロングが、フィフスと拳をぶつけ合う。

 

 一瞬の間拮抗するが、しかしフィフスは押し通す。

 

「無駄だな、お前相手なら俺の方が強い!!」

 

 断言しながら、フィフスはベルの周囲に爆弾を大量に展開する。

 それを回避しようとするベルだが、フィフスの方が一瞬速かった。

 

「火竜の・・・咆哮!!」

 

 灼熱の息吹が爆弾を誘爆させ、ベル・アームストロングを包み込む。

 

「うっし! 今度こそ赤龍帝を―」

 

 視線を赤龍帝に戻しかけたフィフスは、しかしとっさにベルのいた方向へと戻す。

 

 理由はすぐに分かった。

 

 ・・・まだ、彼女は生きている。

 

「クソが! 数が足りなかったか?」

 

 舌打ちしながら構えなおすフィフスの前に、ベルは炎を振り払いながら前に出る。

 

 その姿を見て、曹操は状況が変わっていることを把握した。

 

 ・・・神器は思いに応える。

 

 そう、強い思いに神器は必ず答えを返す。

 

 そして、ベル・アームストロングは思いを遂げ、死地から生還した。

 

 それは彼女の精神に大きな影響を与えていることは想像に難しくない。

 

 そのことをもっと早く理解するべきだった。

 

「実質、今までの私と同じと思ってもらっては困ります」

 

 黄と黒で彩られたボディスーツ。

 

「兵夜さまに受け入れてもらえた私は、いわばver2」

 

 両手と両足のメカニカルな装甲。

 

「・・・ここから、反撃と行かせてもらいますよ」

 

 間違いなく、彼女は禁手へと至っていた。

 

天使の鎧(エンジェル・アームズ)禁手(バランス・ブレイク)大天使の(アークエンジェル)決戦武装(フルアームズ)! この力で、目にもの見せて差し上げます!!」

 

 そう断言するベルは、少し口元に笑みを浮かべ、後ろに視線を向けた。

 

「そうですよね、兵夜さま?」

 

 そこに、神がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝機は、見えた。

 

 今間違いなく、俺は勝算を大きく引き上げている。

 

 神格化したことで、俺の能力は大幅に向上した。

 

 そのおかげでようやく理解した。

 

 俺が、魔術師としてどういった存在なのか、今になって本当の意味で理解できた。

 

「アーチャー。みんなの護衛を頼む」

 

 俺はアーチャーをみんなのサポートに専念させる。

 

 全員かなり消耗している。回復するまでの時間稼ぎと護衛役が必要だった。

 

 実力を過信していると思われるかもと思ったが、アーチャーは微笑を浮かべると素直に後ろに下がった。

 

「時間はしっかり稼ぎなさい。・・・ついでに全滅させるぐらい、やって見せなさい」

 

 ・・・パス経由で大体把握してくれたようだ。

 

「にしても、奇妙な才能だと思ったらそういうことだったのね。まったく、とんでもないマスターに引き当てられたものだわ」

 

「そいつは失礼。・・・ついでに少し休んでな」

 

 因みに、イッセーからなんかおっぱいおっぱいつぶやいている幻影が出てくるがそこは完全にスルーすることにした。

 

 こいつのおっぱいがらみの出来事をいちいち気にしていたら身が持たないと最近理解したからな。

 

 俺は正面から曹操を見据え、宣言する。

 

「今から、お前ら思いっきりぼこらせてもらう」

 

 そう宣言し、俺は魔術回路を解放させる。

 

「我が魂、天の光にひかれる人の光」

 

 俺は、輝きがあったからこそここまで来れた。

 

「その心は柳の如し。その身は愚かな英雄擬き」

 

 おれだけでは決して高みへは立てない。

 

「負けぬ、倒れぬ、砕かれぬ。されど超えれぬ赤き道」

 

 食らいついたとしても、たぶん一生イッセーにはかなわない。

 

「それでも我は並び立つ。届かぬ頂が友と呼ぶのだから」

 

 例えそうでも、あいつは俺を友というなら、俺はそれにふさわしくあり続ける。

 

「この道に意味がなくとも構わない」

 

 馬鹿らしいといわれようとも俺はこの道を歩き続ける。

 

「赤き輝きをともすことこそ、我が大望と知るならば!」

 

 だから、お前も思いっきり暴れてこい。

 

「この弱光、万象を照らす光となろう!!」

 

 一足先に、暴れてるぜ!!

 

 詠唱の完了とともに、俺は世界を浸食する。

 

 生み出されるのは、霧に包まれた世界。

 

 濃い霧でありながら、遠くまで見渡せる矛盾した濃霧の中、俺は静かに言葉を紡ぐ。

 

 それは一つの世界の名。そう―

 

「・・・万象に触れし命の水(オールシング・アクア・ヴィタエ)! さあ、お前ら全員叩き潰す!!」

 

 固有結界を、思う存分味わいな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正直、俺はとてもいろいろと微妙な気分になってる。

 

 いつの間にか宮白が曹操たちと一緒にいなくなっているけど、そんなのも気にならないぐらい嫌な気分だ。

 

 なんというか、俺から飛び出した可能性が痴漢にしてしまった人たちの残留思念が大量に出てきた。

 

 おっぱいおっぱいいいながらなんか輪になって魔法陣になるとかツッコミどころが多すぎて話にならない。というか、俺の可能性はどれだけの人を痴漢にしてるんだよ。被害者も含めると万を超えるんじゃないだろうか?

 

 しかもそのあとなぜか部長が、俺に乳首をつつかれるためだけに召喚されて乳首をつつかれた後帰って行った。

 

 あの、俺の可能性はどんな方向に行ってるんでしょうか? いくらなんでもこれはひどいんですけど。

 

 そしてあれよあれよというまに歴代男女最強の赤龍帝の残留思念が成仏するとか言ってきました。

 

 最後に、黙ったまんまの男の赤龍帝さんが俺に一言。

 

―ぽちっとぽちっと、ずむずむいや~ん。

 

「・・・なんでだぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 ほかに何かあるだろぉおおおおおお!?

 

 なんなんですか、歴代赤龍帝ってもしかして馬鹿なのか? バカばっかりなのか!?

 

 俺ももしかして同レベル!? いや、勘弁してくれません!?

 

 宮白がベルさんと一緒になんか甘い雰囲気作りながらすごい燃える展開を作った直後にこれかよ!? さすがにいろいろと思うところがあるんだけど!?

 

 ・・・よし、この苦しみをあいつらで発散しよう。

 

 俺の目の前にはランサーが残っていた。

 

 ランサーは割と本気で呆れてるけど、同時に何か面白そうな感じだった。

 

「わけわかんねえな、わけわかんねえなぁ! こういう時はぶっ殺して血ぃ吸って発散するだけだなぁ、オイ!!」

 

 そう叫ぶと同時に、なぜか出力が大幅に上昇する。

 

「マスターからの礼呪のブーストだぁ! 赤龍帝をぶっ殺せってよぉおお!! これでお前相手なら俺はステータス軒並み上昇だぁ!」

 

 そういった瞬間、今までとは比べ物にならない速さで突撃してくる。

 

「これで終わりだ、赤龍帝ぃいいいいいいい!!」

 

 突き出されるその槍を、

 

龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)!!」

 

 真正面から受け止める!

 

「・・・こんなもんか?」

 

「んな・・・にぃ!?」

 

 目を見開いて驚くその顔面を叩き潰すべく、俺は拳を振りかぶる。

 

 肥大化した籠手の撃鉄が動き、その勢いのまま拳を振り落した。

 

 ランサーは間一髪でかわすが、勢い余って地面にぶつかった瞬間、数十メートルはあるだろうクレーターを思いっきり作る。

 

「ちょ、ちょちょちょちょっと待てぇえええええ!?」

 

 明らかに狼狽するランサーだが、俺は全く構わない。

 

「ランサー、てめえ、よくも俺の仲間を使って俺たちを攻撃してきやがったな?」

 

 てめえには、マジで腹が立ってるんだよこの野郎。

 

「お前は俺が、叩き潰す!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 

 




魔改造二つ目。固有結界覚醒。

・・・まあ、名前の元が士郎で、しかも魔術特性が妙だということで想定内だった人も多いとは思います。

能力は次回判明しますが、とりあえず二人叩きのめしますのでご期待ください。


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逆転タイム、スタートです!!

恐ろしいほどに固有結界の詠唱が評判悪くてびっくり。

無限の剣製の詠唱が生き様というか人生を現している詠唱だから、それを参考に兵夜の半生を参考にした詠唱のつもりだったのだが、まさかここまでドン引きされるとは。詠唱シーンは今後キャンセルする方針で行かないとだめか。





・・・まさか、偽聖剣の強化形態の詠唱は真女王風で似た感じにする予定だったとは思わなかっただろうなぁ。大至急方針変換しないと。


 

 我ながら、ちょっとテンションが上がっている。

 

 ダメージがデカいはコクりはしたは、挙句の果てに固有結界。これどう考えても反則だろう。

 

「大丈夫ですか兵夜さま? 実質すごい顔色ですけど」

 

「ああ、大丈夫大丈夫。・・・あいつらボコる分には何の問題もない」

 

 ベルに心配されるほどじゃない。

 

 目の前の曹操たちの一泡吹かせるぐらいは十分できる。この能力、使いこなせば戦局をひっくり返すことぐらいは簡単にできるからな。

 

 固有結界。術者の心象風景を具現化する大魔術。魔術師の一つの到達点にして、最も魔法に近い魔術。

 

 アーチャークラスの魔術師なら、心象風景を具現化した結界を作ることは不可能ではないから魔術扱いだが、身一つでこれと同じものを作り出せる魔術師は存在しない。

 

 その危険度を真に理解しているのはフィフスだけだが、曹操たちも警戒はしているようだ。

 

「・・・ジークフリート。挟み撃ちでさっさと殺すぞ!!」

 

「はいはい。僕たちとしてはもっと楽しみたいけどね!!」

 

 魔槍と魔剣の共演か。確かに普通は恐ろしすぎるところだが、今は違う。

 

「あいにく―」

 

 俺は魔力を込め、狙いを定める。

 

「―お前らは戦力外だ」

 

 俺が言い切ると同時に、全身から血を噴出して二人は倒れ伏した。

 

 ハイ、まずは二人。

 

「・・・ジャンヌ、ヘラクレス!!」

 

 曹操が声を挙げるのに合わせてさらに2人動く。

 

 踏み込みも早い、行動も速い。そして反応も迅い。

 

 だが、今の俺の前には回避できない速度まで高めることはできない。

 

 素早く後転して回避すると同時、ベルが前に出る。

 

「甘いわよお姉さん!!」

 

 ジャンヌがカウンター気味にドラゴンを差し向ける。

 

 聖剣はすべて対光力用に設定しているようだ。ベルとの戦い方をよく理解している。

 

 だが、それも甘い!!

 

「実質、その程度では止められませんよ!」

 

 気合い一閃。戦装飾を身にまとったベルは、拳一発でかちあげた。

 

 さらに、空中でドラゴンの落下速度が空中で静止する。

 

 恐ろしいレベルの念動力だ。吹っ切れて覚醒でもしたか?

 

 その隙をついて、ベルは二人に迫った。

 

「おいおいおい! あっさり完封されてんじゃねえか、何やってんだよ!!」

 

「嘘でしょ!? あの子を空中で止めるなんてアリ!?」

 

 度肝を抜かれる二人だが、その油断が命取りだ。

 

「・・・実質、隙だらけですよ!!」

 

 全身から極光を放ちながら、ベルが狙いを定める。

 

「上等だ姉ちゃん! 相手してやるぜ!!」

 

「いや、さすがにこれは私はやばいわね―」

 

 ヘラクレスは真正面から受け止める構えで、ジャンヌはあわてて後退しようとする。

 

 が、今のベルの前には意味がないし、ジャンヌの後退は俺が食い止める。

 

「喰らいなさい!!」

 

 ガードも後退も間に合わず、ヘラクレスとジャンヌは思いっきり吹っ飛ばされた。

 

 そのままの勢いでベルは曹操へと突貫。

 

 が、曹操は一瞬だけその姿を消す。

 

 おれとの戦いで見せた見るという認識を掻き消す能力か。

 

 だが、甘い。

 

 俺は光魔力を展開すると、ベルの右斜め後方に向けて発射する。

 

 攻撃を入れる直前だった曹操が、あわててそれを弾き飛ばした。

 

「バカな、読んだだと!?」

 

「読んだんじゃなくて、知覚したんだよ」

 

 驚く曹操に俺は告げる。

 

 これが、俺の固有結界の能力。

 

 固有結界内のありとあらゆるものを強化する。

 

 今は全く自由自在には使えないが、魔剣や魔槍の呪いといったわかりやすいものや空気抵抗ぐらいなものすごく強化することができる。

 

 そして、強化する対象の認識しなければ使えない魔術の特性上、驚異的な知覚能力を俺に与えてくれる。

 

 まさに、固有結界にふさわしい強大な能力。これが、俺に秘められた力の本質・・・!

 

 いずれこれ以上に使いこなして見せるが、今は曹操たちの撃破が最優先だ!!

 

「く・・・っ! ゲオルグ、取り押さえろ!!」

 

「わかっている!!」

 

 黒い霧が俺とベルを包み込もうとする。

 

 おれを転移させて無力化するつもりだろうが、そうはいかない!

 

「ベル!!」

 

「はい!!」

 

 ベルの強化を集中し、彼女の空間転移能力を速やかに強化。

 

 俺とベルは、霧の範囲外に転移した。

 

 さあて、そろそろ魔力がつきそうだが、イッセーはイッセーで頑張ってる頃だろうかねぇ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、もう割と本気で泣きたくなりながらもランサーを倒すと決意した。

 

 俺の仲間を操って、俺の仲間に殺させようとする奴を許してなんておけるかよ!!

 

 なにより・・・っ!

 

「おっぱいおっぱいいう先輩との別れの不満、全部まとめてぶつけてやらぁあああああ!!!」

 

「知るかぁあああああああああっ!!!」

 

 全力で放たれたこぶしを、ランサーは大慌てで避ける。

 

 からぶった俺の拳はしかし、GSに当たって思いっきり殴りたすことになった。

 

「ざっけんなバーカ! お前みたいなやつの相手なんてしてやれるか!! もっと弱いやつ殺して血を飲む生活続けるんだよ!!」

 

 ランサーはそう捨て台詞を吐きながら、全力で後ろに走っていく。

 

 なめんな、逃がすと思ってんのか、ああ!?

 

「モードチェンジ! 龍星の騎士(ウェルシュ・ソニックブースト・ナイト)!!」

 

 分厚くなっていた装甲が逆に極限まで薄くなり、背中に大量のブースターが接続される。

 

 一瞬だけためて、俺は一気にランサーへと追いついた。

 

「ランサぁあああああ!!」

 

「ちょ、ちょっと待てぇええええ!?」

 

 ランサーは小刻みに動きながら逃げ回るが、今の俺なら十分追いつける。

 

 ドラゴンショットを連発して逃げ道をふさぎ、俺はランサーに組み付くとそのスピードを利用して、上空へと投げ飛ばした。

 

 さあ、とどめと行くぜ!!

 

「喰らいやがれ、龍牙の僧侶(ウェルシュ・ブラスター・ビショップ)!!」

 

 鎧そのものは元の形へと戻り、だけど全く違うものが背中にできる。

 

 それは二門のキャノン砲。僧侶の力を砲撃に特化させた、先龍帝の破壊の力だ。

 

 俺は、部長や朱乃さんみたいに得意な属性なんてない。ロスヴァイセさんみたいにいろいろな魔法を使いこなすことなんてできない。宮白みたいな小細工なんて全くできない。対女用セクハラ能力特化とか、冷静に考えると確かに変態扱いされても文句は言えない。

 

 だけど、ためて撃つだけなら俺でもできる。

 

 これはそのための力だ。

 

「ま、待って待って待って待って待って待って―」

 

「待つかぁあああああああああああっ!!!」

 

 ためらう必要なんてない! これで止めだ!!

 

「ドラゴンブラスタァアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

 本気で踏ん張りながら、打ち上げたランサーにとどめの一撃をぶっ放す。

 

「クソ、クソクソクソ、思うぞんぶん殺して血ぃ吸い尽くせると思ったのに、そりゃねえだろぉおおおおおおおお!?」

 

 絶叫しながら、ランサーは跡形もなく消滅する。

 

「・・・誰がてめえの好きにさせるかよ、クソ野郎!!」

 

 もうこれ以上顔も見たくない。

 

 宮白は大丈夫か・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 




今回はキリがよかったので短めに。


・・・そして全く使いこなせていない状況下で無双状態の命の水。

正しい使い方は味方の強化と感知能力を生かした指揮系サポート能力なのですが、そこは搦め手重視の兵夜。譲渡の存在があるので考えもせず対人嫌がらせ戦術に走っています。

こと、肉体に悪影響を及ぼすデメリット持ちの能力使いに対してはまさに鬼門。魔剣の呪い受けまくりのジークフリートにとっては下手なドラゴンにとってのサマエル並みに凶悪な相性差を発揮しました。



そしてあっさり退場のランサー。いや、ベル攻略のためにキャラ付けしたはいいのですが、そこからのストーリーがどうにも組み立てられなくて。一発屋になってしまいました。ランサー不遇の歴史は結局は変えられなかったということか!

残るバーサーカーはもう少し長く生き残らせたいところだがさてどうなるか。ちなみに、マスターはあっと驚く人物を予定しております。


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忠犬、爆誕です!?

ついにパンデモニウム編最終話!!


 

 ・・・固有結界を維持できなくなったタイミングと、曹操が驚愕するタイミングはほぼ同時だった。

 

 現実へ帰還しながら、曹操は腕をまくる。

 

 ・・・赤い刻印が消滅していくのが見えた。

 

「ランサー、やられたのか?」

 

 多少残念そうにしながら、曹操はしかし深呼吸をすると冷静な表情を浮かべる。

 

「彼の宝具を使えば、解呪される心配なく部下を増やすことができるので大事に使いたかったんだけどね、残念だ」

 

 そういいながら、曹操は周りを見渡した。

 

 疲労からだいぶ回復しているナツミたち。

 

 大きく息を吐きながらも、しかし達成感を見せるイッセー。

 

 初禁手で完璧にばてているのか、へたり込んでいるベル。

 

 金羊龍をまといながら、油断なく曹操たちを見据えるアーチャー。

 

 固有結界で翻弄されて、かなり疲弊しているヘラクレスたち。

 

 でもって死にかけているジークフリートとフィフス。

 

 いまだ一部を破損させただけで、堂々とその威容を見せつけるGSたち。

 

 そして、断ち続けることすら不可能な状態の俺。

 

「どうやら、さすがに消耗が大きいようだ。付け入るスキはある、ということかな?」

 

「うる・・・せえよ」

 

 想像以上に魔力を持っていかれた。

 

 固有結界の消耗は大きいと聞いていたが、まさかこれほどとはな。

 

 魔力そのものは外部供給が復活したので回復しているが、魔術回路の負担が大きくて、これ以上の戦闘は難しい・・・!

 

「さて、こちらもかなりしてやられたけど、そろそろ仕切り直しと行こうか」

 

「上等だよ、さっきまでの借り、まとめてたたき返してやる・・・っ!」

 

 曹操とイッセーがにらみ合い、そして激突しようとした瞬間―

 

「・・・なんだ?」

 

 俺は、強大な力を感じた。

 

 視線を上に向けると、空間がゆがんで、龍の姿が見える。

 

 形状からして東洋系の龍だ。しかもかなり強力なドラゴンのようだ。

 

 さらに、その頭には何から小柄な影が見えていた。

 

「・・・おい、逃げるぞ」

 

 血の混じった声を出しながら、アサシンに支えられてフィフスが立ち上がる。

 

「今の状態で奴まで相手にできるわけがないぜ、これがな。だから、今日のところはここまでだ」

 

 呼吸を整えながら起き上り、降下する人影を見据える。

 

 そして、人影が俺たちと曹操たちの間に降り立った。

 

 一言でいうと猿だった。

 

 しかもアロハシャツを着ているし、サングラスまでつけている。

 

 そして、その見た目とは違い、明らかに圧倒的な戦闘能力が見え隠れする。

 

 その姿を見て、曹操は苦笑した。

 

「まさかあなたがくるとは思いませんでしたよ、闘戦勝仏・・・孫悟空殿」

 

「悪戯が過ぎてるぜぃ、聖槍の坊主。ウチの天帝と九尾のキツネが会談しようって時にこれは見過ごせねえなぁ」

 

 ひょうひょうとした態度ながらも、孫悟空は曹操たちをビビらせる。

 

「あのクソ坊主がでかくなったと思ったら、いくらなんでも羽目を外しすぎだぜぃ。しかも血気盛んなのをこんなに集め追って。面倒なところは先祖そっくりでぃ」

 

 いま、思いっきりトンデモにないことが聞こえた気がするんだが。

 

 え? 昔馴染み?

 

「・・・さすがにこの状況下で挑むのは自殺行為か。今日のところは撤退することにするよ」

 

 曹操たちは撤退しようとするが、だからといって逃がすつもりはない。

 

 とはいえどうするか・・・?

 

「・・・逃がすつもりは、実質ありませんよ」

 

 ベルがフラフラになりながら立ち上がる。

 

 その視線はかなり鋭く、とても戦えそうにないのに、どこか驚異を感じさせた。

 

「イッセーくん! すぐに対応してくれたら、以前使っていた下着あげます!!」

 

「・・・なんだと!?」

 

 イッセーが目の色を変えた瞬間、その姿が掻き消えた。

 

 次の瞬間、曹操の眼前に現れていた。

 

「・・・え?」

 

 あまりの光景に曹操たちも反応できていなかったが、しかしイッセーはエロが絡むとすごかった。

 

「アスカロン!!」

 

 籠手から聖剣を出すが早いか、曹操に切りかかる。

 

「・・・ぐぅ!?」

 

 左目から鮮血をまき散らしながら、曹操があわてて後退する。

 

「やって、くれるな・・・」

 

 なんというかいろいろな意味でテンションが上がっているッぽい曹操が槍を構えて口を開こうとするが、その後ろにフィフスが回り込んで、当身を入れる。

 

「が・・・っ!」

 

「この状況下で覇輝(トゥルース・イデア)使うなよ。引き際はわきまえろ、これがな」

 

 そのまま倒れる曹操を支えて、フィフスは距離を取りながら不敵な表情を浮かべる。

 

「今回はこっちの負けだが、倒しきれなかったのを後悔しな。・・・今度はドラゴンフォースを発動させて相手するぜ?」

 

 不穏なキーワードを言い放ちながら、フィフスたちは霧の中へと消えていく。

 

 ・・・とりあえず、今回は何とかしのげたか。

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新幹線に乗ってから、飲み物を買いに来たらアーチャーさんとばったり出くわした。

 

 自然と、話は宮白のことになる。

 

「前から不思議に思っていたけど、まさかこんなとんでもない能力だったなんて」

 

 アーチャーさんはそんなことを言った。

 

 どうもグチを言いたいみたいだけど、何がすごいのかよくわからない。

 

「そんなにすごいんですか? 固有結界って」

 

「すごいも何も、魔術師の一つの到達点だもの。私だってできないわよ」

 

 すげえな、オイ。アーチャーさんでもできないのかよ?

 

「似たような効果を発揮する場所なら作ることは決して不可能ではないけれど、詠唱して展開なんて不可能ね」

 

 マジか。アーチャーさんでも準備が必要ってどんな出力だよ。

 

「しかも、あれだけの強化は驚異的ね。単純な強化出力ならあの状態の兵夜には太刀打ちできないわ」

 

 アーチャーさんの魔術って、宮白のそれと比べてほとんど全部圧倒的に上っぽかったけど、それでも無理か。

 

 宮白はすごいやつなのは知ってたけど、アーチャーさんよりもすごいところがあったなんてさすがに驚きだなぁ。

 

「魔術特性において不向きなものも消耗が多かった特性だけど、あれが理由ね」

 

「そういえばアザゼル先生がそんなこと聞いたって言ってたけど、どういうことです?」

 

「固有結界は自身の体内で展開するのが最も省力で運用できるのよ。・・・おそらく無自覚に自分の魔術適性を強化していたんだわ」

 

 ・・・マジか。自分の才能まで強化できるのかよ?

 

 昔っからなんでもそこそこできる奴だったけど、もしかしてそれもそういうことなのか?

 

「本来固有結界の使い手は一芸特化になりやすいけど、特化している一芸のおかげで事実上の多芸になっていたのね。とんでもない才能にもほどがあるわ」

 

 感心しているのかあきれているのか全く分からないけど、とにかくすごいのだけはよくわかった。

 

 つまり、俺の譲渡よりも使い勝手はいいってことかな?

 

「それって宮白無敵化ってことですか? 宮白って色々持ち込めるし、どんどんパワーアップするってことですよね?」

 

「そんなうまい話があるわけないでしょう」

 

 あれ? そうなの?

 

「固有結界の魔力消費量は尋常ではないわ。今の段階では連続使用は数分が限界ね」

 

「短すぎません? 俺が不完全な禁手の時並なんですけど」

 

「貴方たちの禁手の継続時間が長すぎるのよ。固有結界を使った魔術師同士の戦いなら数分もあれば普通は決着がつくわ」

 

 世の中はやっぱりうまくいかないんだなぁ。

 

 ま、宮白にばっかり任せてるわけにもいかないか。

 

 俺も毎日頑張らないと。

 

「外部からの魔力供給もシャットアウトされるし、当面はその対処に集中しないといけないわね。・・・これから大変だわ」

 

 いつも苦労かけます。

 

「・・・まあ、今度のレーティングゲームには間に合いそうにないわね」

 

 マジか。それはちょっと残念だな。

 

「サイラオーグさんマジで強いし、つかえるなら使いたかっけど無理ですか。・・・そういえば、アーチャーさんからみてサイラオーグさんはどんな感じですか?」

 

「ああいうタイプな正直苦手ね」

 

 あら、バッサリ。

 

「筋肉がついているのは好きじゃないのよ。佑斗みたいな線の細いタイプの方が好みだわ」

 

「いや、そういう意味じゃないんですけど」

 

 俺は戦闘能力的なあれを聞きたかったんだけど。

 

「それよりもそろそろ戻ったほうがいいわよ。すごいことになってるわね」

 

 と、アーチャーさんがそんなことを言ってきた。

 

「というより、兵夜が私に助けを求めてるから代わりに行ってきなさい」

 

 そんなこと言われたのでとりあえず戻ってみる。

 

「・・・兵夜さま、兵夜さま! これなんてどうですか?」

 

 なんかとんでもない光景がそこにあった。

 

 目をキラキラさせたベルさんが、カタログっぽいものを宮白に見せていた。

 

「こ、これなんかいいんじゃないか?」

 

 宮白は周りをすごい気にしながら、とりあえず真剣に考えてから写真を指差す。

 

 よく見ると、それは服だった。

 

 あ、これは胸が大きい人向けっぽい感じの服だ。

 

「わかりました! 今度をこれを来てから遊びに行きましょう!!」

 

 すっごいいい笑顔で喜ぶベルさん。

 

 なんていうか、犬耳と尻尾が見えている。それを思いっきり振ってる。

 

 うん。ベルさんもこういう表情ができるのはいいんだけど、いいんだけど・・・。

 

「・・・さま? さまってなんだ?」

 

「あのバカ、桜花さんはあの女の子といい、何やってるんだ?」

 

「宮白くんがどんどん不潔になっていく・・・っ!」

 

「殺殺殺殺殺殺・・・っ!」

 

 周囲のセリフが本当にひどい。

 

 特に元浜。お前殺意出しすぎ。

 

「あの、ベル? できればさまづけはちょっと・・・」

 

「駄目・・・ですか?」

 

 うわっ! 泣きかけてる!?

 

「わがまま言ってもいいんですよね? あれ、やっぱりだめなんで―」

 

「うんわかった! 言ってもいい! 言ってもいいから!!」

 

 弱い!? 弱いよ宮白!?

 

「ちょ、ベルさんベルさん! それはさすがに・・・」

 

「え!? ダメなんですかイッセーくん!?」

 

 あれ? イッセー「くん」?

 

 なんか、ベルさんちょっと変わった?

 

「イッセー、いい」

 

「いや、でも・・・」

 

「せっかくわがまま言えるようになったんだ。・・・こいつの男としての意地がある」

 

 なに宮白、カッコいい!!

 

「って助けを呼んでたんじゃなかったっけ?」

 

 アーチャーさんから教えてもらってるんだけど。

 

 だからカッコいいこと行っても意味がないと思う。

 

 が、宮白は目を閉じると、俺の後ろを指さした。

 

「・・・そっち」

 

「え?」

 

 指さした方向に視線を向ける。

 

「・・・よし、ウォーミングアップ完了。んじゃ、ちょっと死ね宮白」

 

 ・・・松田ぁああああああああああ!?

 

「ま、待て待て待て待て松田!! お前新幹線の中で暴れるのはマズイ!!」

 

「問答無用!! 桜花さんやあのロリッ娘だけに飽き足らずベルさんまで!! くたばれぇええええええええ!!」

 

「ベル、ポテチ食べるか?」

 

「・・・あ~ん」

 

「はいはい。あ~ん」

 

「宮白ぉおおおおおお!? ヤケになっていちゃつくのやめて! マジで!!」

 

「シネエエエエエエエエエエ!!!」

 

 マジで助けてくれぇええええええええ!!

 

「・・・兵夜くんー!!」

 

 ぎゃあああああ!! このタイミングで桜花さんまで登場しやがった!!

 

 この人引っ掻き回すときはホント引っ掻き回すから怖い!!

 

「私が買ってきた羊羹を食べてー!!」

 

「え・・・あ・・・うん。はいはい。あーん」

 

 宮白ぉおおおおおおおおお!! お前マジふざけんなよ!!

 

 完全にやけっぱちになってるじゃねえか!! こら、顔を赤くしてもぐもぐしない!!

 

「これからよろしくね、ベルさんー。はいあーん」

 

「え、あ、はい久遠ちゃん。・・・あーん」

 

 いきなり餌付けしてる!?

 

「ちゃんづけかー。あまりされたことないからちょっとくすぐったいかなー」

 

「あ、じ、実質距離感を縮めてみようかと思ったんですが、駄目ですか?」

 

 ちょっとためらいながらそういうベルさんに、桜花さんは満面の笑顔で抱き付いた。

 

「そんなことないよー! これから兵夜くん共有して一緒に楽しもうねー!!」

 

 ぎゅーっと抱きしめながら、桜花さんはベルさんにほおずりする。

 

 ベルさんもベルさんでぎこちないながらもほおを緩ませながらそれに応えた。

 

「・・・美人が抱き合ってスキンシップ、・・・いい」

 

「写真にしたら高値で売れそうね」

 

 眼鏡二人がそんなことを言っているが、それ以上に松田のオーラが怖い!!

 

 そしてそんな松田が爆発しようとした瞬間、桜花さんがベルさんに抱き付いたまま松田の方に近づいた。

 

「よく見て松田くんー」

 

「きゃぁ!? じ、実質何をするんですか久遠ちゃん!?」

 

 桜花さんが、抱き付いたままベルさんの胸をもみしだいた。

 

 きれいな手でもみゅもみゅされるおっぱい。柔らかく変形するオッパイ。おっきなおっぱいはもみゅんもみゅん・・・。

 

「こんなオッパイ見てたら、怒る気なんて消えてくるでしょー?」

 

「・・・・・・うん、消えそう!」

 

 おお! 松田が落ち着いてきたぞ!!

 

「やべえ、前かがみになる」

 

「エロい、エロいぞ!!」

 

「あ、ダメ! 私女なのに何かに目覚める!?」

 

 周りの人たちもその光景に夢中になっていた。

 

 やはりオッパイは人々を幸せにするな。

 

 そしてそんなオッパイをもつベルさんはきっと聖女だな!!

 

「険悪になっていた空気をオッパイ一つで収めるだなんて、ベルさんはさすがね!!」

 

「見ろアーシア。イッセーも落ち着いているぞ! あれがオッパイの力なのかもしれん!!」

 

「はぅうう。私にはあんな大きさがないのでうらやましいです。イッセーさんはやっぱり大きい方が好みなのでしょうか?」

 

 教会組も別の理由でガン見しておられる!

 

「ぁうんっ! ちょ、久遠ちゃん!! やめてください!!」

 

「あ、それもそうだねー。兵夜くんがしないとだめだね、ハイどうぞー」

 

「・・・・・・・・・ハイ!?」

 

 いきなりトンデモない振られ方をして、宮白が目を見開いた。

 

「こんなおっきなオッパイをものにしたんだから、貧しい人たちにオッパイの魅力を見せたげるぐらいしないとだめだよー? 独占されて皆怒ってるんだから」

 

「いや、お前が運動会で愛人発言したから俺は怒られたんだけど!?」

 

 当然のツッコミが入れられるけど、桜花さんは全く動じない。

 

「だって兵夜くんが私を愛人にして当然の男になるから、インタビュー《アレ》は有名税だって言ってくれたじゃんー」

 

 ・・・お前そんなこと言ったの!?

 

 無駄に、無駄に男らしい!!

 

 そういえば、ナツミちゃんたちの時も逃げ出してはいたけど否定はしなかった。つまり認めてはいる。

 

 漢《おとこ》だ!

 

「だったら愛人を持ってることを見せつけるときは見せつけるぐらいの器の大きさを持たないとー。ほら、友人にオッパイの柔らかさをちゃんと教えてあげなくちゃー」

 

 桜花さんがそう力説しながら、ベルさんを宮白の前に押しやった。

 

 心なしか、顔がとても赤い。

 

「それに、あんな詠唱聞かされたら惚れ直したよ。私も会長の愛をつづった魔法でも研究開発しようかなー」

 

 ・・・すいません、聞かされた俺は正直ドン引きしてるんですが。

 

 お前どれだけ俺のこと好きなの? 彼女いるんだからそのキモイ方向に進化するのやめろよ。

 

 ・・・あ、愛人が今大絶賛してたか! ってことは無理か。畜生!!

 

「た、確かにあそこまで貫けるなんて実質最高の方ですが。一生ついていきたいです、本当に」

 

 ベルさんもうっとりしてるし!!

 

 ナツミちゃん、なんで先に帰ったんだ!! 君ならツッコミを入れてくれるはずなのに!! 小雪さんでも大丈夫だよね!? 頼むから帰ってきてくれ!!

 

 と思ってたら、桜花さんがずいっとベルさんを宮白の方に押した。

 

「・・・はい、おっぱい配布ー」

 

「わ、わかりました!! さあどうぞ兵夜さま!! 実質もみっと!!」

 

 ベルさんも顔真っ赤だけど乗り気になった。

 

 思い出すなぁ。ベルさん、洋服崩壊を知ったら速攻で脱いだっけ。

 

 この人時々アグレッシブにボケるから始末に負えない!! あと桜花さんはマジで宮白をそういう方向にもっていきたいようだ!

 

 宮白も、どうやらマジでそんなことを言っていたのかものすごい表情だった。

 

「・・・よし! 男女差別をする気はないが、男に二言はない!!」

 

「「「「「「「「「「ぉおおおおおおおおおっ!!」」」」」」」」」」

 

 ・・・いや、それはちょっとどうだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・案の定、この後ロスヴァイセさんに正座で説教されたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらに青野さんにも説教されたらしい。だろうね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 




忠犬が爆誕しました! 勝手に自分から下僕化する、とても困った人ですが、悪気はないのでみんな仲良くするように!!


 若干ベルがキャラチェンジしました。これは、甘えてもいいということを知ったために一歩踏み込んだためです。
 そして余裕たっぷりな久遠はそれをあおる。受け入れることはもう認めている兵夜もそこを突かれると拒否できないので、小雪がいなければどんどんブーストがかかってきます。


小雪がいないと兵夜・久遠・ベルの三人はこれからもベタ惚れ系暴走を繰り返すことになりそうです。・・・個人的には毎回入れたいが、ソレすると読者が減りそうで怖い。









次からはライオンハート編ですが、コンセプトは「週刊バトル系漫画」になりそうです。

フィフスは本気だすしついにほったらかしだったフラグも回収するし、ほかにも強敵盛りだくさんで行きたいと思います!!

あと、この作品のある対比が明確になります。ある意味でこの作品の裏テーマかもしれません。


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キャラコメ 第九弾!

兵夜「はいそれでは、ついに京都にやってきた、ケイオスワールドパンデモニウム編スタート!! 本日のゲストは」

 

ベル「はい! ベル・アームストロングです!! 八つ橋おいしいです!!」

 

イッセー「はい! なんか適任がいなかったってことでおはち回ってきました! 原作主人公のイッセーです!!」

 

兵夜「ぶっちゃけ長いと苦情が来そうなので、頑張ってまいていきます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「というわけでサイラオーグ・バアルとのバトルの間にスパロとの出会いだが、立ち位置的になかなか出番が用意できなくて大変だ。・・・外伝作るぐらいしないとだめだろうか」

 

ベル「立場的には聖杯戦争を作り上げた人物で、魔術特性を生かした戦闘スタイルもあって便利なキャラなのですが・・・」

 

イッセー「不憫だな。すごい不憫」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして京都へ行くわけだが、うん、この大人の雰囲気が最高だ」

 

イッセー「最高だじゃねえよ。桜花さんやナツミちゃんに突っ込み入れられないだろこれじゃあ」

 

ベル「いいじゃないですか! もっとみんなで仲良くしたいですよ、実質」

 

イッセー「いや、よくないからね? よくないからね!?」

 

兵夜「それはともかく、ベルの問題点が発覚するわ痴漢大量発生の序章が幕開けだわ、冷静に考えると実にカオスだ」

 

イッセー「これ、俺のせいなのかな?」

 

兵夜「こんなところで解放した過失はさすがにぬぐえんからなぁ」

 

イッセー「あとベルさん問題ありすぎだろ。ミカエルさん矯正しなかったの?」

 

兵夜「冷静に考えろイッセー。アザゼルじゃあるまいし、自分が拾って施設に預けたとはいえ、セラフの一人がたった一人の悪魔払いに深入りするわけにもいかんだろ? 信仰心に問題があるとすれば特にだ」

 

イッセー「あー・・・。やっぱむずい?」

 

ベル「特例の仕事がない限り、勅令を受けるわけにもいきませんからね。実質年に四度会えればいいほうかと」

 

イッセー「す、少なすぎる。そりゃ見つけるのも大変だよなぁ」

 

兵夜「立場的に用事がなければ会えないだろうしな。アザゼルぐらいに不真面目だと別の意味で問題があるし、この場合はあまりにも相性が悪かった」

 

イッセー「しかもついたらついたで今度は九重たちに襲撃喰らうし。宮白ホントこういう時役に立つわ」

 

ベル「政治交渉の手腕は若手のレベルじゃありませんからね。実質そちらに一本化しても大丈夫なのでは」

 

兵夜「あいにく心配性でな。・・・それはともかくこの段階からグランソードの常識人ぶりがよくわかる」

 

イッセー「ベルさんもいきなり改善の兆しが見えてるしな。桐生ってすごいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセー「・・・ほぼ告白じゃねえかこのシーン。なんか邪魔してごめん」

 

兵夜「まったくだ。これ、このままいってたら問題の大半が解決してたんじゃないか?」

 

ベル「あ、あの時はその、実質勢いに流されたというか・・・」

 

兵夜「ベルさん宮白にあこがれてたんだ。まあ確かにすごいけどよ」

 

ベル「本当に、本当に最初に話を聞いた時にすごい人だとあこがれたんです。そしたらいつの間にか・・・あぅ」

 

兵夜「すいません。聞いてたら恥ずかしくなってきたんですが」

 

イッセー「なんかごめん。記念すべき洋服崩壊新境地開いてゴメン。・・・あ、そういえば宮白アーチャーさんに伝えてなかったんだ」

 

兵夜「この段階ならまだいいと思ったんだよ。ほら、あいついろいろ人生苦労してるから、二週目ぐらい楽しませてやりたいじゃん」

 

ベル「それについてはきっと感謝してますよ。それはそれとして巻き込んでくれないのが嫌なだけで」

 

兵夜「・・・こんどなんか作ろう」

 

イッセー「あと、京都の観光ほぼデートじゃん。俺たちそっちのけでほぼデートじゃん」

 

兵夜「はっはっは。おっぱいおっきいおんなとデートできてうらやましいだろぉ?」

 

イッセー「いや、気づかないふりしてるお前に突っ込み入れたい」

 

兵夜「おまいう案件だが、まあお前はトラウマあるんでいいだろう」

 

イッセー「ありがとうよ。で、なんでそんなふりを?」

 

兵夜「え? だって覗き魔最優先するような奴と一緒にいるなんてあれだろ? やっぱりそういうのはよくないと思うんだよ」

 

ベル「あのすいません。実質何をいまさら?」

 

イッセー「いやベルさん。あなたも人のこと言えないですからね? 気づいてるなら告白すれば宮白まじめに対応しますからね?」

 

ベル「そ、それはまた後半の方で! 実質勘弁してください!!」

 

 

イッセー「それはまあそうだけど、あと宮白子育てうまそうだよな」

 

兵夜「怒るところはしっかり怒らないと駄目だろ。過度な甘やかしは人を駄目にするぞ」

 

ベル「だから兵夜様はアーチャーさんに怒られたんですねっ」

 

イッセー「これは怒られても仕方がないからな」

 

兵夜「皮肉も言えるとは成長したなぁ・・・」

 

イッセー「いや、そこ感動するところじゃないから!!」

 

兵夜「あと、俺が言うのもなんだが久遠はどこでもフラグ立ててくるな」

 

イッセー「うん。もう桜花さんが宮白の本妻になればいいんだと思う。あとやっぱりあれデートと化してると思う」

 

ベル「でも、こういうのは新しい発見があってうれしいです。私は、実質兵夜様を勘違いしてましたから」

 

イッセー「え、そう?」

 

ベル「はい。私は兵夜さまも久遠ちゃんも小雪ちゃんも、光のために一心不乱だとばっかり思ってましたから。実質私だけですよね、娯楽に興じることをしなかったのは」

 

イッセー「な、ナツミちゃんは?」

 

兵夜「見ればわかるだろう見れば」

 

ベル「ですからこれでもっと好きになっちゃました。ああ、この人は本当に自分なんかよりすごいんだなぁって」

 

イッセー「大丈夫ですよ。これからそうなればいいんですから」

 

兵夜「イッセー? 何ベルを口説いてんだ喧嘩売ってんだな買うぞコラ」

 

イッセー「痛い痛い痛い!? なに怒ってんだよ宮白!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベル「そして英雄派の襲撃ですね。私たちの相手はランサーですが―」

 

イッセー「ぶっちゃけ弱いよな」

 

兵夜「まあ、霊格の低さではぶっちぎりだしな。単純な戦闘能力ならキャスターやアサシンの方が低いが、戦術戦略の要素なども含めれば最下位争いできるだろう」

 

イッセー「でも、こいつの宝具って厄介だったよな。あれ最初から使われてたらやばくね?」

 

兵夜「そのあたりは作者の不備だ、候補ではあったが土壇場で決定してな。詳しいことはパンデモニウム編のあとがきで書いてあるからそこよろしく」

 

ベル「そして、一戦交えた後決戦ですね。兵夜様いろいろ作ってますねぇ」

 

イッセー「車まで用意とか準備万端だろ。実際これで分断されなかったからよかったんだけど・・・」

 

兵夜「いうな。俺も今思い返せばもう少し警戒するべきだった」

 

イッセー「ま、まあここは曹操が一枚上手だったってことで・・・」

 

兵夜「情報戦で上をいかれるとは・・・悔しい!」

 

ベル「それはそれとして、スクンサは別の意味で厄介な相手ですね。これはかき回されそうです」

 

イッセー「俺相手したくねえ。なんていうか、空気読んでないっていうか・・・」

 

兵夜「お前のおっぱいもたいがいなんだが・・・」

 

ベル「ですが久遠ちゃんのノリの良さもあってここは退け、そして本格的に英雄派との決戦です!」

 

イッセー「宮白の名采配だな! 実際そこそこ戦えたし」

 

ベル「英雄派は何人か魔改造されてますね」

 

兵夜「まあ、後天的に所得できる異世界技術もあるし、そういうのを所持するのも面白そうだと思ってな」

 

イッセー「っていうか何がすごいって桜花さんがすごい。あのジークフリートの六刀流を真正面から圧倒してるよ」

 

兵夜「まさに強みである経験値が生かされてるわけだ。あの世界異種族多いから慣れてんだよ」

 

ベル「経験は、実質力ですね」

 

イッセー「そして宮白と曹操の戦闘がすげえ。あと曹操の宮白の評価もすごい」

 

ベル「確かに、道具は使いこなしてこそ真価を発揮できる。人間の力を極めようとしている曹操からしてみれば、兵夜様はある意味自分の理想ですね」

 

兵夜「とはいえ策士同士の戦闘だからすごい書きづらいんだがな。結構苦労したぞ」

 

イッセー「目まぐるしく攻防が入れ替わるよな。なんかこれ、アーチャーさんがいなかったら終わらなかったんじゃないか?」

 

兵夜「ある意味見事にかみ合うからな。パワータイプのグレモリー眷属なら力で押し通すか策でハメ倒されるかの二択だからもっと短く終わるだろうが」

 

イッセー「ぶっちゃけ俺たちで一番勝ち目あるのって誰?」

 

兵夜「久遠一択。年季の差で策に対応できるし、何より聖槍に対して相性がいい神器を持ってるから一番かみ合いがいいな。英雄と肩を並べるベテランをなめるなというわけだ」

 

ベル「あ! アーチャーさんが大活躍ですよ!!」

 

イッセー「ホント反則だろあの宝具。術式の妨害も完璧だし、英雄派の連中歯ぎしりしてそうだな」

 

兵夜「魔術師として最高峰なうえに対魔術がハイスペックだからな。サーヴァント全体で見ても対魔術師戦においては最高峰だろう」

 

ベル「これが魔術師相手にぼろ負けすることがあるなんて、型月世界観は魔窟ですねぇ」

 

兵夜「まあ、グランドクラスだからな」

 

イッセー「そして曹操もさらに追加で何かしてきやがったな。っていうか神様相手に何してんだよ」

 

兵夜「しかもここでフィフスも参戦してベルまで投入。フィフスの方は本格的に攻勢に出てるから始末に負えない」

 

ベル「その節はご迷惑をおかけしました」

 

イッセー「いや、ベルさんのせいじゃないから。っていうかフィフスの奴どんだけ俺が嫌いなんだよ。そのために滅龍魔法習得ってやりすぎだろ」

 

兵夜「まあ、目の前でおっぱい一つで毎回奇跡を起こされたらトラウマにもなるだろ。そりゃメタ能力の一つも習得するさ」

 

イッセー「お前さあ、このあと気持ち悪いぐらいのラブレター詠唱するのに辛辣じゃねえの?」

 

兵夜「欠点もいやというほどわかってるからラブレター詠唱できるんだよ」

 

ベル「ああ、私もミカエル様への想いを謳った詠唱を唱えたいものです」

 

イッセー「・・・やっぱり同類だなぁ」

 

兵夜「しかし作者が活動報告で募集したからこそこの展開に持って行けたわけだ。やっぱりファンは大事にしないといけないな」

 

イッセー「だからって普通殺そうとするか? 判断早すぎだろ」

 

兵夜「なんたってそれに特化した宝具だからな。普通の方法でどうにかできるわけない」

 

イッセー「だからまあ、普通じゃない方法を使ったわけだけど・・・」

 

兵夜「マジごめん。おっぱいでゴメン。ほかに方法なかったんだ」

 

ベル「かまいません。十分救われましたし、おかげで素直になれました」

 

イッセー「結構自己嫌悪強かったんだね、ベルさん」

 

ベル「と、いうより自覚したのがつい最近なのでつい暴走を・・・」

 

イッセー「そしてそれぶち壊す宮白の口説き文句。これでミカエルさん上回れない当たり、というかミカエルさんを別格にしてる当たり、やっぱり同類だよなぁ・・・」

 

兵夜「うるさい。こんなことしてる間に原作同様おっぱいゾンビを使ったおっぱい召喚なんてコスパ最悪の術式ぶちかましたお前に言われたくない」

 

イッセー「俺だって想像してなかったよ!!」

 

ベル「それはともかく私の禁手、イッセー君の上位形態、兵夜様の固有結界とブーストが一気に来て逆転ですね!!」

 

イッセー「そして孫悟空・・・じゃなかった。このときは闘戦勝仏の爺さんが来て何とかなったな」

 

兵夜「ぶっちゃけあれがなければ、死人もありえたから助かったな。・・・それはそれとして餌で釣るとはベルも成長したなと感心するべきか、あの状況下でパンツ一つで反応できるお前もたいがいだとあきれるべきか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセー「で、エピローグ。アーチャーさんの解説で宮白の新技の補足があるあとだけど・・・」

 

ベル「はい♪ このあと兵夜様に一杯かわいがってもらいました♪」

 

イッセー「いや、ベルさん嬉しそうだけどたいがいだからね? 松田も元浜もやばかったからね?」

 

ベル「えぇ・・・。でも、でもぉ」

 

イッセー「涙目になるほど!? ・・・宮白、これどういうことなのか俺さっぱりなんだけど(ぼそぼそ」

 

兵夜「仕方がない。ここまで読んでいればわかると思うが、ベルは精神年齢が低い上に天然なんだ。そのあたりのタガがないといっていい(ぼそぼそ」

 

イッセー「いや、お前桜花さんやナツミちゃんの時は結構突っ込み入れたりしない?(ぼそぼそ」

 

兵夜「あいつらは意図的にやってるからだよ。悪意なくやってる相手はさすがに怒れないっていうか・・・」

 

ベル「あ、久遠ちゃんやってきましたよ?」

 

イッセー「あー・・・。変な事なってきたなぁ、これ」

 

兵夜「俺もなんていうか暴走してた。これはナツミが突っ込み入れるレベルだ」

 

ベル「あうぅ。あの後二回も怒られて実質ショックです」

 

イッセー「まあ、それは仕方がないよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベル「そういうわけでパンデモニウム編も終了です! で、次はライオンハート編なんですけど・・・」

 

イッセー「頼むから次俺にしないで。改めてみるときつい」

 

兵夜「わかってる。わかってるから」

 

ベル「では、原作でも屈指の熱い展開が続く学園祭のライオンハート!」

 

兵夜「こっちでもしっかりやるからお楽しみに!!」



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学園祭のライオンハート
学園祭、準備中です!!


ライオンハート編スタート!!




今回、まあいつも比重は重めですが、今まで以上にバトル重視でいきますので日常編は割を食ってしまうことをご容赦ください。


 割と本気で面倒なことになったと思う。

 

 オカルト研究部の学園祭での活動は、とんでもない規模になりやがった。

 

 題して「オカルトの館」

 

 お化け屋敷やら喫茶店やら占いやらオカルト発表研究やら全部出すとのことだ。もちろん、俺が以前提案したコスプレ写真も出すことになった。

 

 旧校舎を丸ごと使えるというオカルト研究部の利点を最大限に生かしたものだとは思う。教室の数も多いことを利用して、テーマごとに分かれた研究発表や写真展を出すことでかなり面白いことになるだろう。

 

 だが、オカルト研究部の人数的に非常に面倒であることをどいつもこいつもわかっているのだろうか?

 

 部長、朱乃さん、木場、子猫ちゃん、ギャスパー、イッセー、俺、アーシアちゃん、ゼノヴィア、最近転校してきたレイヴェルに、絶賛瞑想中のイリナを加えて11人。かろうじて二桁に突入しているレベルである。教師はこういう時ほかの仕事もあるので計算には入れられない。

 

 ・・・うん、難易度高いね♪

 

「やって、られるか!!」

 

 俺は思わず絶叫しながら、とりあえず料理をしまくっていた。

 

 喫茶店ということは料理であるが、まあ学園祭の喫茶店ならそこまでできたてにこだわる必要もない。と、いうかそこまでやったら過労死する人物が出てきそうなので何とか強引に押し通した。

 

 魔術と冷凍技術を最大限に利用し長期保存を可能にした料理を大量に用意。フェリーとかの食事コーナーみたいに解凍して出す方向に修正。そしていま冷凍する奴を大量生産中である。

 

 部長たちも家でいろいろ作っているが、キッチンの規模がさすがに想定外なので別の部屋でも作ったりしているわけである。

 

 で、俺は別室で料理中である。

 

 ここまで来るのが大変だった。ゼノヴィアとかイリナとかギャスパーとかが料理しようとしてきて止めるのに大混乱である。止めねば犠牲者が出かねないので本当に大変だった。

 

 しかもオカルト研究部風にするための創意工夫がいるので毎時で大変である。

 

 とりあえず俺がつくているのは狼男の大好物とネーミングした、ヨーロッパ料理で使われる血を使ったソースだ。

 

 ほかにもいろいろ作っているが、大量に作っても対処ができないと判断してメニューを限定したりするなどマジで苦労した。

 

 いざというときはナツミを導入したいところだが、それをすると俺の社会生命に再びダメージが入りかねないのでうかつに使用できない。

 

 ええい! あいつらが余計なことをしなければ何とかなったものの!!

 

 インテリアの準備とかも学園祭風味を出すために俺たちが作らないといけないんだよな。部長、忙しい時期に余計に忙しいことをするのは勘弁してください!!

 

「本当に忙しいな、オイ!!」

 

「だよねー。サイラオーグ・バアルとのレーティングゲームも近いんでしょー」

 

 後ろでソース用の材料を切ってくれている久遠が、苦笑しながら同情してくれる。

 

「そういうお前もアガレス家とのレーティングゲームだろ? 手伝うのはそこそこにして、休んでてもいいんだぞ?」

 

 正直ちょっと心苦しいところもある。

 

 なんてったって、生徒会もレーティングゲームだからな。

 

 しかも時間がこっちと同じというからなお大変だ。学園祭間際でてんやわんやなのは変わりない。

 

 上の方ももう少し気を利かせてほしいものだ。せめてひと月時間をずらしてくれるだけでだいぶ楽になるというのに。

 

「大丈夫だよー。私は庶務だから作業は少ないしー、本番での警備員擬きぐらいしかすることないからー」

 

「それまでに疲労を蓄積させてどうするって言ってんだよ。俺は自分の女に余計な負担をかける趣味はないぞ」

 

 俺としてはいささかありがたいが、正直その辺を考えると少し心苦しいところがある。

 

 だが、久遠はそれにむっとすると、俺の額に指を当てた。

 

「そういうのはなしだよー。私だって、自分の男に負担全部載せする趣味はないんだからねー」

 

「お、・・・おう」

 

 真正面から言われるとちょっと恥ずかしいな。

 

 なんだかんだでこういうことをストレートに言ってくるから、時々照れくさくなる。

 

 ・・・人前でも堂々とするから俺の社会的信用がダメージを受けるのは有名税と割り切るべきだが。

 

「それに、ベルさんはそういうのが大好きだからそこそこ乗せるようにねー? そうじゃないと逆に心細くなっちゃうよー?」

 

「ああ。そこはわかってる!」

 

 と、いうか理解しないとやってられないところがある。

 

 なんたって―。

 

「・・・兵夜さま!! 実質郊外の専門店で各種ハーブ類勝ってきました!! どうですか!?」

 

 ドアをけ破る勢いでベルが登場し、なんというか期待に満ちた表情を浮かべてくる。

 

 ・・・見てください皆様。このほめられたいという感情がありありとわかる犬っぽい姿。尻尾が見えますね。しかもちぎれんばかりに振り回されている姿が見えちゃいますね。

 

「でかした! これで魔女のティータイムと銘打ったハーブティができる」

 

 そういって俺は頭をなでる。

 

 最近だが、どうもベルは俺が命じたことをやり遂げた後こうされると喜ぶことがわかってきた。

 

 なんという忠犬属性。やばい、変な世界に目覚めそう。

 

 などと俺が自分の心と激戦を繰り広げていると、ドアの向こうからむっとしたナツミが突撃してきた!

 

「あ! ベルずるい!! ボクもボクも~!!」

 

「お前は取り合えず野菜の皮むきを手伝いなさい。ご褒美のプリンはちゃんと用意してるから」

 

「わかった! ちゃんとプリンも頂戴ね!!」

 

 そしてナツミもナツミでいろいろとわかりやすいな。

 

 なんというかナツミとベルはペット属性があるが、結構正反対である。

 

「・・・おーい。頼まれた赤ワイン、アザゼルからせしめてきたぞ。学園祭の出し物の材料に赤ワイン使うとかファックな金のかけ方すんなよな?」

 

 お、小雪も頼んでたものを仕入れてくれたようだ。

 

「いや、ついでだから本格的に行こうかと思ってな。下手に日本で手に入れようとすると高いやつしか手に入らないから本格的な安物を手に入れるのはむしろ大変で大変で」

 

「学園祭だから安物ってのはわかるが、それなのに本場ってどういう方向性だよ」

 

 呆れられるが、なんだかんだで手伝ってくれるのが小雪のいいところだ。マジたすかる。

 

 ・・・本場のワインを手に入れるのならアザゼルを利用したほうが楽だったので、小雪に頼んでせびるように言ってきたのだがこれで良し。

 

 赤ワインを使ったシチューもこれで何とかなりそうだ。

 

 これで俺の担当は何とかなるな。

 

「よし! コレなら余裕で間に合うだろ! とりあえずいったん昼飯にするか!!」

 

「実質テーブル拭いてきます!!」

 

 速攻でベルが動いて行ってしまった。

 

 速い、早すぎる。

 

「・・・しつけしなくても勝手に調教される女って、ファックなまでに楽なようでめんどくさいな」

 

 言われる前に動くベルの姿に、小雪が微妙な表情を浮かべるが、久遠はニコニコしたままだ。

 

「その辺のフォローやサポートは私たちも手伝わないとねー。同じ仲間なんだからそれぐらい頑張らないとー」

 

 本当に迷惑かけます。だけど、お前悪ノリするところあるんですけど。

 

 ま、それはそれでぜいたくな悩みってやつか。もてる男はつらいとあきらめよう。

 

「よっし! ナツミ、そこのパスタ取ってくれ。ナポリタンにする」

 

「うん! あ、辛いの入れないでね?」

 

 ・・・まあ、人生ちょっと忙しいぐらいがちょうどいいのかもな?

 

 のんびりするのはこれが終わってからにするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮白のやつは仕事しすぎだと思う。

 

「いつの間にここまで終わらせてんだろうな、あいつ」

 

「それは同意見ね。昨日まではなかったと思うのだけど」

 

 アーチャーさんがそんなことをぼやく理由は、俺たちの目の前にある。

 

 ・・・いろいろな色合いのレースや布の山。学園祭用に宮白が用意したセットだった。

 

 しかも、学生らしさを求める部長のニーズにこたえるかのように、高すぎずちょっと安いぐらいの質と値段のものばかり。それでいておしゃれな色合いのものとかあったり、わざとダサいカラーのものとかあったりして非常にバリエーションに富んでいる。

 

「私のマスターは非常に多芸だけれど、これはやりすぎじゃないかと思うことが多いのが難点ね」

 

「それについては同意します」

 

 俺の仕事はこれを指定された場所に運ぶことだけど、ここまで手配した宮白の手腕には時々驚かされる。

 

 しかも、余った時の対策として手芸部とのあたりまでつけているというものすごい準備具合だ。お前どこまで頑張ってるんだよ、オイ。

 

「宮白ってなんというか、自分から仕事を増やしたがるようなきがしてきたんですけど?」

 

「ワーカーホリックというらしいわよ? いろいろと動いていたらしいから、動かないと気が休まらないんじゃないかしら」

 

 アーチャーさんも呆れながら、布を手にもっていろいろと眺めていた。

 

「にしてもいろいろと集めてるわね。今度衣装作るときの材料を調達してもらおうかしら?」

 

 アーチャーさん、宮白の仕事を増やさないで!

 

「・・・そういえば、英雄派が操っていた連中ってどうなりました?」

 

 おれは、ふと気になったことを聞いてみることにした。

 

 アーチャーさんの宝具は英雄派に洗脳された連中の蛇を解くのに効果的ということで思いっきり重宝されてる。実際修学旅行の時とか、英雄派の作戦を台無しにするという大活躍をして見せた。

 

 そういうわけもあってか、洗脳されてた英雄派の連中とかの情報収集とかもすることがある。

 

 英雄派の連中が何を目的として戦ってるのかちょっと気になってたこともあって、ふと気になったんだ。

 

「そうね。正直、バカな連中に操られて命までかけさせられるというのは同情するけど、どうもそれだけじゃないようね」

 

 アーチャーさんはそんなことを言った。

 

「どういうことです?」

 

「自分から手を貸している者たちもいるってことよ」

 

 ・・・え、マジで!?

 

 アザゼル先生から聞いたけど、英雄派の襲撃の理由は禁手を増やすことらしい。

 

 洗脳して大量に集めた戦力を用意し、それを危機的状況に追い込んで禁手を誘発。そして禁手に至る方法を調べ上げて自分たちの強化に使うという方法ではないかとのことだ。

 

 本当に最低な方法だ。勝手に洗脳して集めたうえに、それを使い捨てにして危険な目に合わせるだなんて。

 

 だから話を聞いてから英雄派の構成員には同情している面もあったんだけど、どういうことだ?

 

「まあ、よくある話よ。・・・神器の能力を気味悪がられて迫害されていたところを力の使い方を教えられて心酔したって話」

 

 ・・・それを聞いて、俺は暗い気分になった。

 

 アーシアの時もそうだった。

 

 アーシアが追放されたのはディオドラが原因だけど、悪魔をいやす力があることを気味悪がられたのも原因の一つだ。

 

 神器は確かに強力な力だけど、使い手を幸せにするとは限らない。

 

 俺が一度死んだのだって、人間のままの俺じゃ神器を制御できないからだ。

 

「まあ、地獄のような環境から立ち上がる方法を教えてもらえば、その人物に心酔するのも当然でしょうね。救われるというのは、人を愛したり尊敬したりする理由の大きな一つだもの」

 

 アーチャーさんはそういうと、静かに俺の方を向いた。

 

「このことは、兵夜には言わないようにしておきなさい」

 

「え、どういうことです?」

 

 なんで宮白に言っちゃだめなのかよくわからない。

 

 むしろ頭のいい宮白に相談したほうが、説得する方法が見つかるかもしれないからいいんじゃないだろうか?

 

「・・・あなたね、さっきの男と曹操の関係は、あなたと兵夜に当てはめることもできるでしょうが」

 

 そういわれて、俺は初めて気が付いた。

 

 ・・・宮白は、俺のことをとことん上に見てくれている。

 

 転生者という性分からくる淋しさを、俺が救ってくれた。そう思い、そこから俺たちは親友になった。そしてあいつは俺に並び立とうとどこまで頑張ってる。

 

 そして、それはナツミちゃんたちもおんなじだ。

 

 そこまで来て、宮白の周りに女性が集まっている理由の一つを理解する。

 

 ナツミちゃんも、桜花さんも、ベルさんも、青野さんも、きっと宮白と同じだから惹かれあったんだ。

 

 もしかしたら、宮白がモテてるって自覚が薄かったのもそれが理由なのかもしれない。

 

 転生者っている理由にばかり目が向いていたから、自分の魅力に気付かなかったのかもな。

 

 まあ、俺も全然モテてないけどモテてる扱いされてるからちょっと妬ましいところはあるけど。

 

 でもまあ、ハーレム扱いでちょっとムフフなイメージができるというのはうれしいかもしれないけど―

 

―死んでくれないかな?

 

 ・・・冷や汗が、噴き出た。

 

「・・・どうしたの? 顔色が急に悪くなったわよ?」

 

 アーチャーさんに心配されて、俺はあわてて首を振った。

 

「あ、大丈夫です!! ちょっと嫌なことをおもいだしただけですから!!」

 

 俺はそういうと、荷物をもって急いで運ぶことにする。

 

 ・・・いやなこと、思い出しちまったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 




そういえばアーチャーとイッセーたちの絡みをなかなかかけてないと思ったので頑張って追加してみようと思う今日この頃。

かわいい女の子にかわいい服を着せることができまくっているので、アーチャーはなんだかんだでいい生活環境であります。


しかしヒロイン増やしすぎて描写書くのも大変である。・・・これから書く方々は自分のこの反省を参考にして増やしすぎたりしないように!!


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部長、爆発寸前!?

 

 それからはいろいろと大忙しだった。

 

 なぜかイッセーの乳技が役に立つかもしれないとかでシトリー領の病院に運ばれたり、インタビューでイッセーがかんだせいで、公衆の面前でイッセーが部長の乳を吸うとか思われたり。

 

 しかもサイラオーグ・バアルがいがいとノリのいい人だったもんでさあ大変。マジでそう思われて雑誌にまで乗ってしまった。

 

 まあ、イッセーだと本当にしそうで俺も怖い。

 

 などと考えながら俺は今、大絶賛修行中だった。

 

 修行内容は極めて単純。神の力の運用だ。

 

 ・・・正直言って、俺は多芸ではあるが一点特化ではない。

 

 まあ、固有結界の質から言って魔術師(メイガス)としては一点特化なのだが、それゆえに多芸になるというわけのわからない特性を持っている。

 

 そのせいで、どうにも近年の一芸に特化しているといってもいい連中相手では後れを取りがちだ。

 

 正直解決のために最近は研究をしまくってはいる。

 

 魔法使い(マギステル・マギ)の技術を研究したり、この世界の魔法を研究したり、小雪のところの魔術を研究したり、ナツミの世界の魔法を研究したりだ。

 

 とはいえ、それは逆にただでさえ伸びた枝をさらに伸ばすことになりかねない。逆に手詰まりになる可能性だってある。

 

 ただでさえできることが多すぎて特化したものを持たないのが俺の欠点だ。研究はしているがこれ以上延ばすのも問題がある。

 

 そこに刺した光明が神格だ。

 

 悪魔で神格など俺以外には存在しない。まさにレア中のレアにして、正真正銘俺のみの特性だろう。ほかにいたらむしろ驚く。

 

 いや、厳密な意味ではヴァルキリーは半神だからロスヴァイセさんは近いだろう。だが、それでも狭義の意味で神なのは俺だけだ。

 

 なので、これが光明になるかと思ったのだが、そううまい話があるわけもない。

 

 ぶっちゃけかなりイレギュラーな方法で神格になったこともあるし、緊急事態だったのでピンポイントの特化に限定しているわけだ。

 

 ベルという使いの使役に特化しているがゆえに、現時点でほかのことはろくにできなかったりする。

 

「・・・やはりイレギュラーすぎてうまくいきませんわね。そもそもどこをどうすればいいのかもわからない以上、そう簡単に行くわけもないのですが」

 

 朱乃さんも困り顔だ。

 

 神職関係者の朱乃さんなら美味い手段を思いついているかとも思ったが、やはりそううまくはいかないということか。

 

「とはいえさすがにこれは今後に使えるとは思うんですよねぇ。どうにかならないでしょうか?」

 

「確かにそうなのですけど、悪魔から神格に昇華した存在なんて前代未聞ですから、まず手を付けるところがどこかということすらわかりませんわ」

 

 真剣に考えながらも、朱乃さんはどうしていいのかわからないようだ。

 

「確かにそうですよね。・・・行けるかと思ったんだけどそうもいかないか」

 

 まずはこの辺を何とかしないといけないわけか。

 

「仕方がない。あとはこっちで何とかしてみます。お手数をおかけしてすいませんでした」

 

「いえ、私もなにもできなくて申し訳ありません。・・・そういえば、アーチャーさんには相談しないのですか?」

 

 ぐ。痛いところをついてきた。

 

 本人は悪気はないのだろうが、これはちょっと困ったことになったぞ。

 

「ま、まあそうですが、こういうのは神道に詳しい朱乃さんの協力を仰いだ方がいいでしょうからね。まずは専門分野に近い方から聞いてみようかと」

 

「あら、そうでしたの」

 

 本当はほかにも理由があるがそれは内緒だ。

 

 とはいえ、この調子だと最終手段がうまくいかなかったら使わざるを得ないな。マジで覚悟しようか。

 

 俺がそんなことをおもっていると、ノックの音が聞こえてから小雪が部屋に入ってきた。

 

「お、朱乃じゃねえか? 兵夜も一緒で何してんだ?」

 

「あら小雪。・・・ちょっと兵夜くんの神の力を使えないかどうか試してたのよ」

 

「お前もいろいろと考えてんのな。ま、手に入れたけど使えませんとかファックな展開もあれか」

 

 そういいながら小雪は持っていた袋からジュースを出すとそれを俺に投げ渡す。

 

 で、朱乃さんには手渡しした。

 

「・・・扱いが違うのはなぜだ」

 

「扱い同じだと思ってんのか?」

 

 んなことを言いながら小雪も試作していた術式とかを目にしていろいろと確認する。

 

「小雪としてはどのあたりを変えたほうがいいかわかるかしら?」

 

「つったってあたしは十字教関係が中心だったから神の力に干渉とか専門外だからな。・・・以前かかわった天草十字教とかならそっちの方面もしってるかもしれねーが、さすがにこっちには来てねーみたいだす」

 

 と、言いつつも一応考えて頭をひねってくれるこいつが大好きだ。

 

 朱乃さんもそう思ったのか、なんか後ろから抱き付いてくる。

 

「昔から、なんだかんだ言って面倒を見てくれるのが小雪のいいところね」

 

「わっ! バカ、抱き付くな!!」

 

 小雪が顔を真っ赤にしながらあわてるが、しかし振り払ったりはしない。

 

 そして俺は見逃さない。微妙にあわて顔がうれしそうなのを。

 

「最近縁遠かった幼馴染のスキンシップ。・・・イイネ!」

 

「てめー何萌えてやがる!?」

 

「あらあら。兵夜くんは女の子同士の絡みが好きなのかしら? だったらもうちょっとこう・・・」

 

「って朱乃も胸をもむな!!」

 

 ああ、朱乃さんはドSなだけあってあおり方がうまい!!

 

 喜ばしいことだし、動画にとって後でイッセーや久遠にも見せてやろうか。

 

「いい・・・加減に・・・しろファァアアアック!!!」

 

 って待て待て待て待てなんだそのメリケンサックは!?

 

「2人そろて歯ーくいしばれ!!!」

 

 ぎゃぁあああああっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 佑斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なぜか朱乃さんと宮白くんにたんこぶができていたけど、問題はそこではない。

 

 ・・・ちょっと、これはマズイことになってるね。

 

 来るサイラオーグ・バアル氏とのレーティングゲーム前のミーティングなどをしてから、アザゼル先生とロスヴァイセさんが退席した後、フェニックス夫人がこちらに連絡を取ってきた。

 

 フェニックスの涙の需要増加でお忙しいなか、あえて連絡してきた理由は結構明白だ。

 

 

 イッセーくんにレイヴェルさんを進めているんだろう。

 

 レイヴェルさんがイッセーくんに好意を持っているのは誰が見ても明白だ。同年代なせいか小猫ちゃんが喧嘩腰になってたりしているぐらいだ。

 

 今も結構露骨にイッセーくんに対してレイヴェルさんの眷属入りをアピールしている。

 

 だけど、なぜかイッセーくんはそのあたりがよくわかっていないようだ。

 

 ・・・前から思っていたけど、これはさすがに鈍感じゃないだろうか?

 

 レイヴェルさんだけじゃない。部長やアーシアさん、朱乃さんや小猫ちゃん、ゼノヴィアのアプローチに対して、イッセー君は反応が鈍い時がある。

 

 普通はキスまでされれば好意を自覚するものだろうに、なぜかイッセーくんはそこに考えが至っていない。

 

 いつもこの調子だと、いい加減女性たちの方もイライラしてきてもおかしくないだろうに。

 

 実際、部長が腹を立ててしまったのかそのまま出ていこうとしていた。

 

「・・・部長? どうしたんですかいきなり」

 

 イッセーくんが引き止めるけど、やっぱり自分が原因の一つであることには至っていないらしい。

 

「イッセー、貴方にとって、私は―」

 

―ばいーん、ぶるるん、ボインボイン!

 

 部長の言葉を遮るように、空気を台無しにする音声が響き渡った。

 

 この歌詞はおっぱいドラゴンの歌の第三番!? 寄りにもよってなんでこれが!?

 

 と、思ったら宮白くんが携帯を取り出して耳に当てる。

 

 宮白くん!? それはさすがにどうかと思う!!

 

 と、宮白くんは携帯を切ると、イッセーくんの方を向いた。

 

「・・・イッセー。久遠がお前に大至急話したいことがあるそうだ。悪いが急いで行ってくれ」

 

「え? い、今から?」

 

 イッセーくんは部長のほうを気にするが、そこに宮白くんが続けてとんでもないことを言ってきた。

 

「こんどエロゲーのモザイク除去してやるから」

 

「・・・行ってきます!」

 

 さすが宮白くん! イッセーくんの操縦方法をよくわかっている!!

 

 イッセーくんは目の色を変えて部屋を飛び出そうとする。

 

 だけど、このタイミングではそれはさすがにマズイよイッセーくん。

 

 ほら、リアス部長が怒って―

 

「・・・い―」

 

 と、その口を宮白くんが強引にふさいだ。

 

 そのままイッセーくんはそとに行ってしまい、少しの間様子を見てから、宮白くんは部長を解放する。

 

「・・・兵夜!! 今、私は大切な話をしようとしているのよ!? 後にして頂戴!!」

 

 ・・・かなり怒っておられる部長は、抑えきれないのか消滅のオーラすら見え隠れしている。

 

 確かにこれはないだろう。

 

 今部長はかなり大事な話をしようとしていたところだ。

 

 ついでに言えば、イッセーくんの鈍感さも目に余る。

 

 宮白くんはイッセーくんに甘いし優遇はするけど、あまりに目に余るようならしっかりと引き締めることも誘導することもできる人物だったはずだ。

 

 それがこれではさすがにあれだろう。

 

 真面目な話、ほかのみんなもさすがに視線が鋭い。

 

「あ~・・・。その辺についてはすいません。まさかこんな早く導火線に火がつくとは思わなかったもので」

 

 そういうと、宮白くんは深々と頭を下げた。

 

 角度は90度以上。心から謝っていることがわかる見事なお辞儀だ。

 

「ただ、そのうえでお願いします。・・・今のイッセーに恋愛方面で期待するのはやめてください」

 

 そのあと、宮白くんは依然アザゼル先生やグレモリー卿たちに説明した内容を言ってくれた。

 

 ・・・女性恐怖症、か。

 

 確かに、信頼していた人物に裏切られればそのショックは計り知れないだろう。僕も似たような経験はあるからよくわかる。

 

 僕の場合はそれがエクスカリバーに対する憎しみへと変わったけど、イッセーくんの場合は潜在的な女性への恐怖に変わったのか。

 

 ・・・それでアレというのもあれだけど。宮白くんがイッセーくん関係で見当違いの発想をするとも思えない。

 

 あと、宮白くんのイッセーくんの恋愛方面の反応のズレのさらに詳細は理由は結構的を射ていると思う。

 

「・・・正直ほっといても問題ないとたかをくくっていてすいません。部長たちのほうが限界に来ることを失念していました」

 

 宮白くんも苦悶の表情で謝罪する。

 

 部長たちも顔が青い。

 

 当然だろう。自分たちが愛する男が、下手をすれば自分たちを怖がっているのかもしれないんだから。

 

 特に、レイナーレのことについて知っているメンバーの表情は硬かった。

 

「たぶん、あいつ自身自覚はないと思います。だから下手に刺激せずにゆっくり愛されることでいやしていこうと思ってたんですが、いささか見通しが甘かったです。本当にすいません」

 

「・・・いいえ。主でありながら下僕の心の傷に気づきもしなかった私が愚かだわ」

 

 力なく座り込みながら、部長は両手で顔を覆った。

 

「イッセーのことを心から愛しているのに、その心の傷を気づきもしなかっただなんて。・・・これで愛してるだなんて、笑わせるわね」

 

 乾いた笑いを浮かべながら、部長はそのままうなだれる。

 

 宮白くんも壁にもたれかかりながら、力なく天井の方を向いた。

 

「・・・正直最近ひどかったんで、専門家に予約を入れました。レーティングゲームが終わった後ぐらいになるはずです」

 

 相変わらず動きが速い。

 

 だけど、彼の表情は暗かった。

 

「本音を言うと憂鬱です。気づいていない相手の傷をえぐろうっていうんですから」

 

 ・・・うかつだった。

 

 イッセーくんの強さに目がくらみ、彼の痛みを理解してやれなかった。

 

 もしレイナーレが生き残っていれば、これをついて報復してくるかもしれない。

 

 本当に、運がよかったとしか言いようがない。

 

「・・・せめて、回復するまで暴発しなければいいんだがな」

 

 そう、ぽつりとつぶやく宮白くんの言葉が妙に印象的だった。

 

 




関係が改善した朱乃さんと小雪の様子を見せてから、不穏な展開になってきました。

・・・正直、ここで兵夜の恋愛経験不足が裏目に出ました。まさか一年足らずで我慢の限界に達するとは思っても見なかったのです。

そして同時に危険なフラグが。さて、イッセーは大丈夫か!?


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グレモリーVSバアル、開戦です!!

 

Other Side

 

「・・・いろいろとファックな問題が出てきたが、大丈夫かね?」

 

 そんなことをぼやきつつ、青野小雪はチケットに書かれている自分たちの席を探して歩いていた。

 

 リアス・グレモリーとサイラオーグ・バアルのレーティングゲームが始まるまであとわずか。小雪たちはいろいろと用意しながら観戦準備を整えている。

 

 すでにビールもお菓子も大量に買い込み、準備は万端だ。

 

 因みに、持ち込みOKなのにもかかわらずあえて値段が高くなっているご当地価格の店で買って現地の経済活性化に光景する当たり、小雪は本当に人がよろしい。

 

 しかもツレの分も自分が払っているのが彼女の人徳だろう。

 

「実質その通りですね。兵夜さまはいろいろと動いてましたけど、言ってはなんですがうっかり癖があるのでしんぱいです」

 

「だよねー。・・・策士としてはめちゃくちゃ優秀なくせにアレのせいで台無しなんだよご主人は。・・・よく今まで死ななかったよな」

 

 いろいろぞっこんなベルでもツッコミを入れざるを得ず、サミーマモードでナツミもぼやく。

 

 宮白兵夜は間違いなくグレモリー眷属の中でも異才である。

 

 言ってはなんだがパワー重視の戦闘要員がメインのグレモリー眷属において、テクニック重視の政治方面を得意とするそのポテンシャルは、ある意味でグレモリー眷属の穴を支えているといってもいい。

 

 テクニックだけなら佑斗もいるが、政治方面において彼の能力は間違いなく傑出している。と、言うより同年代においては規格外のレベルだろう。

 

 そこに聖剣因子や魔術回路などをフルに導入し、あらゆる手段をもってして足を引っ張らないどころかかなりの戦果を挙げるあたり、イッセーが表のエースで佑斗が影のエースなら、彼は総合的に見て裏のエースといっても過言かもしれない。

 

 実は旧魔王派幹部のシャルバ撃破に大貢献したギャスパーは真のエースを名乗っていいのではないかと小雪は思っている。男性陣は男の矜持をしっかり維持しているようで何よりだ。

 

 特に作戦立案能力はグレモリー眷属において重要だろう。

 

 土壇場で頭に血が上った状態ですら、相手の戦力を冷静に見極めて次の戦闘での勝利の布石を打っておく手腕。場数を踏んでいる現代都市関係での戦闘での対処の仕方。相手の戦力を正確に把握し、優勢な相手をぶつける戦術眼。戦闘に特化しているグレモリー眷属において、間違いなく貴重な戦術の祭を持った人物だろう。

 

 惜しむらくは、強化武装の性能を高めることにこだわった結果、レーティングゲームでの使用が禁止されるような反則技術まで使われていることだろう。

 

 だが、それはこの試合においては関係ない。

 

 サイラオーグ・バアルの意向により、この試合に限り戦闘能力を低下させるようなルール制限は一切取り払われている。

 

 イッセーの変態技も兵夜の反則武装も使用可能。本来ならあり得ないような破格の待遇である。

 

 戦闘に関してもシンプルなルールになると思われる。ましてやサイラオーグの身上から言ってあまり搦め手には走らないであろうことは明白。

 

 一度共闘したことがあるから、小雪もナツミもベルもよくわかっている。

 

 サイラオーグ・バアルという男はどこまでも王道を走る男だ。小細工はあくまで添え物程度で何よりその拳で生涯を破壊することを選ぶ。

 

 兵夜はそこを躊躇なくつきそうな極悪なところがあるが、こちらも基本的には王道を通るリアス・グレモリーが主にいるのである。意向を汲んでひどいハメ手は避けるであろう。

 

「で、ファックなことに結局あいての兵士についてはわからない、と」

 

「みたいだな。俺様の経験上、あれはサイラオーグじゃなくてアイツの上役が何かたくらんでるんじゃねえか?」

 

 最大の懸念事項はそこだろう。

 

 スパロ・ヴァプアルともう一人の兵士の戦闘能力が未知数である。これが懸念事項だ。

 

 スパロは戦闘向きの性格でないことはすでに分かっているのでまあこれは仕方がない。サイラオーグなら要所要所での戦闘に参加させる程度にするだろうし、どちらにしてもサポート向きだろう。

 

 だが、問題はもう一人の兵士。

 

 仮面で素顔を隠している。名前も公表されていない。先日のインタビューでもサイラオーグは説明を避けた。

 

 ・・・共闘した三人だからこそ理解できる。サイラオーグのやり口ではないだろう。

 

「バアル家は実質大王家であることのおごりによる血統主義にして魔力主義。サイラオーグ・バアルはある意味厄介者でしょうからね。関係は実質微妙でしょう」

 

 ベルの言う通り、サイラオーグの存在はバアル家にしてみては厄介者だろう。

 

 高い魔力による行動をよしとする古き名門の家系において、魔力すら持っていない異端中の異端がサイラオーグ・バアルである。

 

 ましてや、彼が標ぼうするのは実力主義社会。結果として高い能力を持つのなら、それ相応の地位につくことが誰でもできる世界である。

 

 血にこだわるバアル本家の方針とは真っ向から対立するだろう。その状況下で次期当主となった彼の実力には恐れ入る。

 

「カッハハハ! 面倒なもんにこだわるお偉いさんよりかは話が分かるじゃねえか。ご主人にとっても好都合だし、さっさと当主になってくれないもんかねぇ」

 

「ファックなまでに同意見だ。・・・まあ、今のところはそううまく行ってないわけだがな」

 

 ナツミに同意しながらも、小雪はそううまくいかないことを理解している。

 

 大王派は革新的な元魔王側の対立派閥としては最有力だ。

 

 おそらく、その時期筆頭となるにふさわしい人物の選定も行われているだろう。

 

 その波に対抗するためにも、サイラオーグ・バアルはこの注目集める一戦を乗り越える必要がある。

 

 とはいえ、個人的にはグレモリー眷属に勝ってほしいと思ってしまうのが人情である。

 

「なんていうか、本当にファックにままならねーもんだな」

 

「そりゃまあ愛する男に勝ってほしいのは女の性だからなぁ」

 

「兵夜さまの勝利をなんだかんだで願ってくれて、実質うれしいです」

 

「あーまーそうだ・・・な」

 

 思わず同意してしまってから、小雪ははっと我に返ってしまった。

 

 いま、自分は公衆の面前で何を発言した?

 

「実質小雪ちゃんも兵夜さまが大好きでよかったです」

 

「しかたねえだろ。小雪はツンデレだからなぁ」

 

 振り返った先にはニコニコしているベルとニヤニヤしているナツミ《サミーマ》の姿。

 

 小雪はその姿を確認して、しかし両手がふさがっていることに気づく。

 

 サミーマはそれがわかっているからニヤニヤしているのだろう。コレなら自分がダメージを受けることはないと。

 

 その余裕っぷりとみて、ただでさえ頭に血が上っているのにさらに血が上った。

 

「・・・ピンポイント空力使い発動」

 

「ヘブッ!?」

 

 ・・・今の小雪は遠隔攻撃ができるのでその安心は勘違いだと、小雪は身をもって教えさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 佑斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レーティングゲームの試合形式はダイス・フィギュア。王が一つずつサイコロを振り、そこから出た目に応じた駒価値の人物だけが戦闘を行うレーティングゲームのルールの一つ。

 

 そして、サイラオーグ氏の駒価値は十二。

 

 彼が破格の戦闘能力を持っていることを思い知らされる。はたして、僕らのメンバーでそれと同じ駒価値に人数を合わせても、太刀打ちできるものがどれぐらいいるか。

 

 できれば彼相手には総力戦を行いたいところだがそうもいかないようだ。

 

 そして、目の前で部長がダイスを投げる。

 

 モニターに転がるダイスの姿が映り、そしてその数がわかる。

 

 双方共に、六。合計は十二。

 

 いきなり最高の数が出てくるとは思わなかった。

 

 とはいえ、観客のイメージなども考えるならいきなり氏が出てくることはないだろう。

 

 想定するならば戦車二名といった複数名。もしくは駒価値七といわれている例の兵士か。

 

 部長や僕たちが出すメンバーを決めようと、一度集まろうとする中、しかし1人だけ前に出るものがいた。

 

「・・・悪い」

 

 宮白くんが、それだけ言うと一人で前に出る。

 

 その光景はモニターにも映し出され、観客たちの注目を集めていた。

 

 全員の注目を集める中、宮白くんは堂々とそれを受け入れる。

 

「・・・あえて不敬な物言いをしよう、サイラオーグ・バアル」

 

 名指しで氏を指定し、彼は指を突きつける。

 

一対一(サシ)で勝負してもらう」

 

 え?

 

 いや、一対、一?

 

『『『『『『『『『『ええええええええええっ!?』』』』』』』』』』

 

 観客から驚愕の声が響き渡る。

 

 当然、イッセーくんやギャスパーくんも大きな声で驚いていた。

 

 当然だ。レーティングゲームの序盤から、いくら出せるとはいえあえて氏を名指しで指名し、しかも一対一だなんて!!

 

「兵夜!? どういうつもり!?」

 

 部長が叱責の声を挙げるが、宮白くんは氏に視線を向けたまま、鋭くなった表情を向ける。

 

「独断専行謝罪します。・・・ですが、いくらなんでもこれは卑怯すぎる」

 

 宮白くんは偽聖剣を手にもつと、それを皆に見えるように掲げる。

 

「・・・この武装はあなたから投入の許可を得たものだ。それに答えないようではむしろこちらの度量がうかがわれるが、しかしただ使うのは明らかに道理に反する」

 

『ほう?』

 

 氏がそう返すと、宮白くんは苦笑する。

 

「この武装は最初からレーティングゲームでは使用できない反則技術を使用して、圧倒的強者を倒すために作り上げたものだ。あなたの要望に応えるためとは言え、これを使った上でさらに味方と協力して運用したり、駒価値の近い相手に使うなど、卑劣以外の何物でもない。いくらなんでも俺にも意地がある」

 

 そういうと、宮白くんははっきりと断言した。

 

「ゆえに、最強のアンタを一対一(サシ)で倒す以外に、この力を使っていいはずがない。そうでなければ観客(オーディエンス)にも申し訳がない。・・・違うか?」

 

『・・その言葉、俺の眷属たちに対する侮辱と受け取ってもいいが?』

 

 かすかに怒気をにじませながら、氏はそう尋ねる。

 

 確かに、傲慢といっても過言ではないだろう。

 

 氏以外の相手と戦っても勝負にならない。彼はそういっているのだ。

 

「その言葉こそ、俺の英雄(サーヴァント)に対する侮辱だろう?」

 

 宮白くんはそういい返す。

 

「俺はともかくあいつの作ったこの武装が、一介の眷属悪魔風情と渡り合う程度の武装であるなど、彼女に対する愚弄に過ぎない」

 

 静かに、威圧感すら見せつけて、宮白くんは言い放つ。

 

「宣言しよう。このレーティングゲーム。俺が全力のあなたを倒して・・・一試合で終わらせる」

 

 静かに、しかし心からの決意を秘めて宮白くんは宣言した。

 

 この大観衆の中、初手からここまでの大言。

 

 試合の結果次第では、彼の評判は地に落ちる。

 

 宮白くんがそこまでのリスクの把握をできないわけがない。

 

 わかったうえで、しかしそれを宣言したのだ。

 

「史上最高の赤龍帝になるであろう男、兵藤一誠を倒したいというのならば、まず俺を一対一で叩きのめせるようになってから来てもらおうか!!」

 

 全てのリスクを承知のうえで、しかし彼はは決意した。

 

 アーチャーさんの作り上げた武装の数々を振るう相手は、サイラオーグ・バアル以外にないと信じるから。

 

「俺はともかく彼女の作った武装を馬鹿にするなよ!! 持てるすべてを使ってでも、俺はあんたを叩きのめす!!」

 

 この、全世界が注目している試合で、彼は不退転の決意を固めたのだ。

 

「あんたが全力の俺たちを相手にしたいように、俺もこの武装を使うにふさわしい戦いを所望する!! さあ、神代の魔術師の英知の結晶を前に、次期大王にして次期魔王を狙うものはどうこたえる!!」

 

『・・・そこを突かれては、俺も応えないわけにはいかないだろう』

 

 静かに、氏が一歩前に出た。

 

『リアス。お前はどうする?』

 

「・・・仕方がないわね。ここまで来て撤回するわけにもいかないし、この子の想いもわからなくはないわ」

 

 部長は心底頭痛をこらえながらも、苦笑を浮かべて宮白くんを見る。

 

「兵夜! 言ったからには勝ってきなさい!! 負けたら承知しないわよ!!」

 

「当然!! 1ラウンドでケリをつけます!!」

 

 偽聖剣を身にまといながら、宮白くんが宣言した。

 

『こ、これはいきなりとんでもない試合になってきました!! 第一試合から指名されてサイラオーグ選手が参戦!! 前代未聞の展開になります!!』

 

 アナウンサーも戸惑いながら、しかし実況として場を盛り上げる。

 

『第一試合、サイラオーグ選手対宮白兵夜選手!! 駒価値差11の、前代未聞の戦闘です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 




こういう時、久遠は別行動にせざるを得ないので面倒だ。と、今更ながらにちょっと後悔。





そして兵夜が割と本気でマジギレしました。

結構切れやすいタイプな兵夜ですが、それでも「相手が罵倒してくることを想定する」ことによってあれでも結構我慢指定るタイプだったり。

今回、バカにしてこないだろうと予測していた人物からの無自覚舐めプ発言に割と本気でブチギレてた上に、マジな勝算をつかめたことで暴走しました。


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156話

筆のノリがよかったので本日は二度掲載!


 

 戦場となるフィールドは、シンプルなコロッセオだった。

 

 下手なトラップを仕掛けることもできない、ある意味不利な地形だろう。

 

 ・・・まあ、自分でもいろいろと無茶を言った自覚はあるし、ちょっとリスクがでかいとも思っている。

 

 間違いなくよくて賛否両論の展開だろう。それは仕方がない。

 

 だが、それでもこの試合だけは一対一でやりたかった。

 

 この武装は、レーティングゲームで使っていいような武装ではない。

 

 あくまで実戦を視野に入れ、サーヴァントと戦うことを前提にし、同格の相手と戦うことを考慮に入れてない武装。それが、偽・外装の聖剣(フェイク・エクスカリバー・パワードスーツ)だ。

 

 それを、あろうことかあの男はレーティングゲームで試合したいと言い放った。

 

 ・・・正直に言おう。腹が立った。

 

 彼女が作り上げた、試合で使ってはいけない力を持った武装を、それを使った上で倒すといい放ったのだ。

 

 俺はともかく、彼女を舐めるなよサイラオーグ・バアル。

 

 俺の相棒であるアーチャーの矜持を傷つけるような物言い、断固反省させてやる・・・っ!

 

「・・・いい目をしている。確かに、俺をこの試合で倒すつもりで、それだけの策を弄しているのだろう」

 

 静かに、しかし怒りを見せてサイラオーグは一歩前に踏み出した。

 

「だが、俺の眷属を愚弄した罪は償ってもらうぞ」

 

 言った瞬間、奴の姿が掻き消えた。

 

 なるほど確かに、これは反応できないだろう。

 

 ・・・今までの俺ならな。

 

「舐めるな」

 

 真正面から現れたサイラオーグの拳を、俺は回し受けの要領で受け流す。

 

 同時に一歩踏み込み、カウンターの一撃を叩き込んだ。

 

『これは意外! 先制攻撃は宮白選手!? カウンターが完全に決ま・・・った?』

 

 実況が疑問形になるのも仕方がない。

 

 何しろ、俺の攻撃は効いていないのだから。

 

「動きは速い。だが、それだけだな」

 

 静かに、そうはっきりとサイラオーグは言い放つ。

 

 一応破壊の聖剣の力全振りでいれたんだが、それでも通用しないか。

 

 さすが戦車に昇格したイッセーですら実力を封印して優位に動くだけのことはある。

 

「この程度なら俺の眷属は皆勝てるぞ。自身の過信を嘆くといい」

 

 肩すかしを喰らって腹が立ったのか、かなりマジギレしている様子だ。

 

 まあ、破壊の聖剣使ってこの攻撃力なら仕方がないか。怒りもする。

 

 仕方がないから―

 

「ミスター。実は俺・・・」

 

 どうしようもないから―

 

「・・・得意なのは祝福(ブレッシング)なんだ」

 

 ―本気を出そう。

 

 出力の大半を祝福に回し、当たった部分にオーラを加える。

 

 奴の攻撃が入る直前、その出力で弾き飛ばした。

 

 くらったサイラオーグは十メートルぐらい飛ばされるが、中で身をひねって素早く着地する。

 

 だが、その頬は聖なるオーラで焼け付いていた。

 

 ・・・よし、攻撃は届くか。

 

「過信を嘆くのはアンタの方だ。俺はともかく偽聖剣を舐めるなよ?」

 

 こいつはエクスカリバーとしての機能に限定すればオリジナルには確かに劣る。それは認めよう。事実だ。

 

 だが、そのかわり何度も改造してかなり改良されている。

 

 防毒機能はついている。水中でも活動可能。システムの応用で宇宙服としても運用できる。あと空調機能も付けてもらったりしている。気配遮断機能も付いているので、透明や夢幻を使えば隠密や諜報にも使うことができる。

 

 偽物であるがゆえに本物にない力を持ったのがこの武装。多機能性ならオリジナルを凌駕する。

 

「ほかのオプションは使わない。痛覚干渉も使わない」

 

 タイミングはつかめた。迎撃は完璧に間に合わせる自信がある。

 

「この戦いに言い訳は使わせない。負けたのは偽聖剣以外の要素があったからだ。痛みを無視できたので我慢比べて負けたんだ。・・・そんな言い訳抜きで、『神代の魔術師の傑作を舐めプして全国ネットの注目試合を初戦で負けた』という大恥を、バラエティ番組のネタとして提供してやる!」

 

 油断はしないが容赦もしない。

 

「・・・叩き潰すっ」

 

「・・・面白いっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、誰もが予想外の展開だったろう。

 

 シトリーとのレーティングゲームを見たことがある者なら、誰もが宮白兵夜は策を弄するタイプだと知るだろう。

 

 グラシャラボラスとのレーティングゲームを見たことがある者なら、サイラオーグこそ正面突破の名を体現するものだと知るだろう。

 

 ゆえに、この戦いは透明と夢幻と擬態を最大限に生かして翻弄する宮白兵夜に、サイラオーグが正面からどうやって打破するかという展開を予想するはずだ。

 

 だが、現実は違う。

 

「「おおおおおおおおおおっ!!」」

 

 真正面から、2人が激突して拮抗している。

 

 その光景を見て、誰もが熱狂していた。

 

『これはいい意味で予想外!! 正面衝突、正面衝突です!! 鍛え抜かれた肉体と、鎧を生かした聖なるオーラの真正面からのぶつかり合いだぁあああっ!!』

 

 実況が盛り上げるなか、宮白兵夜はサイラオーグバアルと真正面からぶつかり合った。

 

 圧倒的なまでの身体能力差。若手において足下に及ぶ者すらいないそのパワーを発揮するサイラオーグに対し、自身が最も得手とする聖なるオーラを高めてぶつけるという、シンプルな方法で拮抗しているのが宮白兵夜。

 

 悪魔の天敵ともいえる聖剣の真骨頂。その絶大なまでの相性差で、宮白兵夜は圧倒的な出力差を覆す。

 

 悪魔でありながら聖剣使いであるという自身の特性を最大限発揮し、あえて策を弄せず真正面からの正面勝負。

 

 そのわかりやすい接戦に、観客は文字通り湧き上がる。

 

 ・・・この試合を見ているレーティングゲームに一家言ある者は、皆、宮白兵夜はサイラオーグに負けると踏んでいただろう。

 

 サイラオーグの戦闘スタイルは完成されて隙がない。そして相手を舐めることなく、正面から評価して正面から叩き潰す。

 

 それを可能とする鍛え上げられた肉体は、ハッキリ言って小細工など文字通り粉砕するであろうし、シンプルな正面勝負でこそ真価を発揮する。

 

 正面から勝負しないものを無理やり同じ土俵へと引きずり込みかねないその能力は、策士にとって天敵といっても過言ではない。

 

 戦略を戦術でひっくり返しうる切り札。一騎当千の具現だった。

 

 しかし、それを真正面から拮抗に持ち込むことに成功している。

 

 小細工が通用しないのなら、正面から勝負するための細工を弄する。

 

 それこそが、宮白兵夜がサイラオーグ・バアルを打倒するための作戦だった。

 

 強大な悪魔に対し、強大な天敵の力を持って、正面から相手を撃破する。

 

 その戦闘は、まさに成功していた。

 

 サイラオーグの攻撃は収束させたオーラによって受け止められ、聖なるオーラを収束した一撃は、サイラオーグの体を確実に焼いていく。

 

 今、場の流れは宮白兵夜が支配していた。

 

「・・・見事だ。口だけではないその戦いぶり、敬意を表する」

 

 殴り合いながら、サイラオーグは歯を剥いて笑う。

 

 今、目の前の敵を自分好みの相手だと確信しての笑みだった。

 

「いいだろう。その戦いぶりに敬意を表して、我が好敵手と認めよう!!」

 

 次の瞬間、サイラオーグの四肢に文様が浮かび、そして消え去った。

 

 彼の力を封じる封印の解除。それが意味するのは、彼の力がフルに発揮されるということだ。

 

 次の瞬間、兵夜が弾き飛ばされコロシアムの壁面へとたたきつけられる。

 

 轟音とともに瓦礫が吹き飛び、土煙が浮かび上がる。

 

『これは決まったぁ! サイラオーグ選手の本領発揮に、兵夜選手耐え切れず弾き飛ばされる!!』

 

『あの状態のサイラオーグ選手の近接戦闘能力は最上級悪魔でも戦闘スタイル次第では上回れますからね。偽聖剣の想定対象は上級の上からを相手としているようですし、さすがに出力差で上回られたのでしょう』

 

 解説役として選ばれた、サイラオーグ陣営のコーチ役であるディハウザー・ベリアルがそう評する。

 

 その光景に誰もが息をのみ、その言葉が正しいことを理解する。

 

「宮白!!」

 

「兵夜!!」

 

 陣営で見守っていたイッセーとリアスが声を挙げ、ほかの仲間も思わず目を背けそうになる。

 

 それほどまでの明確な一撃で、思わず負けを確信するような吹き飛ばされ方だった。

 

 偽聖剣の性能は、パワーと耐久力では赤龍帝の鎧に劣る。そして、赤龍帝の鎧でもただでは済まないような一撃だった。

 

 誰もが宮白兵夜の敗北を脳裏に浮かべ、しかし対峙しているサイラオーグだけは思わなかった。

 

「・・・時間を稼ぐつもりなら構わないが、油断を誘えると思っているのなら無駄だといっておこう」

 

 静かに構えを取り、一切の油断をせずに鋭い視線を向ける。

 

 その右手は、確かに赤く染まっていた。

 

 そして、それは血ではなく自身の炎症によるものだった。

 

「攻撃に対して対処そのものは間に合っていた。・・・まだ動けるだろう?」

 

「別に時間稼ぎのつもりはない。・・・単純に激痛にもだえてただけだ」

 

 煙の中からある意味情けない返答が返ってくるが、それ以上におかしな事態が発生した。

 

 油断なく構えるサイラオーグの体から、煙が発生し始める。

 

「これは・・・っ!」

 

 驚愕するサイラオーグ以上に、その戦闘をモニタリングしている人々が驚愕する。

 

 モニター越しでもわかるその気配は、明らかに浄化のそれだった。

 

『こ、これは一体!? 解析班の送ってきた情報によると、オーラの質が急激に変化しただけではなく、出力が大幅に上昇している!!』

 

 観客がかたずをのむ中、宮白兵夜は姿を現した。

 

 そして、その姿は明らかに何かが変わっていた。

 

 今までの強い悪魔とは何かが違う、全く別の存在を意識させる力が放たれる。

 

「何を驚く? 祝福の聖剣は神聖な力を強化する聖剣だぞ?」

 

 正面からサイラオーグを見据え、そして兵夜は強者の視点でものを言った。

 

「ちゃんと調整を施せば、神の力を活性化できてもなにもおかしくないだろう?」

 

 







エクスカリバーは使い手で相性があるのは原作でも出てますが、兵夜の最も得意とするのは祝福にすることにしました。そこ、こいつ悪魔だろとかいわない。



・・・最も得意なのは明言してなかったと思うがうっかり書いてないか心配なので後で見直そう。




そして土壇場で何とかしやがりましたこのコンビ。

ことごとく雑魚いといわれてきた男、宮白兵夜。神格化制御で一気に食い込んでまいりました。特に祝福を応用する都合上、対悪魔によるブーストは上昇しっぱなし!

自分でも思うがとことん対悪魔に特化してるなこの男。

なんというかアイテム使って変身する仮面ライダー的な戦闘能力強化になっております。




とはいえそこまでうまい話でも無かったり。その辺についてはまた次回。


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魔神VS大王です!!

 イッセーSide

 

 ・・・やりやがった。

 

 あの野郎。ちゃっかり神格の力の制御に成功してやがった!!

 

 余りの光景に俺たちも度肝を抜かれていた。

 

 おいおいおいおい、聞いてねえぞ!?

 

『・・・おいアーチャー!! 神格の力の制御にまで成功したなんて聞いてねえぞ!? そういうことは出し惜しみするなよ!!』

 

 アザゼル先生も解説の立場を忘れて大声を上げるが、その耳元に魔法陣が展開したかと思うと、なぜかものすごい頭痛をこらえているかのような声が聞こえてきた。

 

『言うわけないでしょう。まだ未完成よ、アレ』

 

 未完成? いやいやいやいや、成功してるでしょう?

 

『・・・拒絶反応が強くてお腹に槍が刺さっているかのような苦痛が走るのよ。しかも消耗も激しいから実戦運用なんて不可能ね』

 

 ・・・へ?

 

 いや、えっと、それマジ?

 

『終わったら丸一日は寝たきりでしょうね。よくやるわね』

 

 心底呆れた口調で言ってるけど、明らかにそんな内容じゃないんじゃないか!?

 

 宮白、無茶しすぎだろ!?

 

『・・・どうした? まさかこの程度で戦意喪失とでも言うんじゃないだろうな?』

 

 激痛に耐えてるとは思えないような、しっかりとした声で、宮白は一歩一歩サイラオーグさんに近づいていく。

 

 その姿からは、割と怖い感じがしてちょっと近づきずらい。

 

『恐ろしいな。俺をその鎧の力を使って倒すためだけにそこまでするか』

 

『当たり前だろう? 腹が立っているとはいえ、俺はあんたに敬意は払っている。これぐらいはするさ』

 

 サイラオーグさんは全身からオーラみたいなものを出している。

 

 だけど、それでも体中でくすぶっているところがある。

 

 その光景を静かに見つめながら、宮白はポツリとつぶやいた。

 

『・・・正直、自分でも恵まれすぎているとは思っている』

 

 どこか後ろめたい響きがあった。

 

『先天的特性に頼る固有結界をもち、現在社長で当時重役な父を持ち、サーヴァントを召喚し、慈愛あふれる主に仕え、信頼できる仲間たちとともにあり、自分を理解し愛してくれる女性にあふれ、何より最高の親友とともに生きることができる。・・・いや、これが恵まれてなかったら何が恵まれているんだってぐらい恵まれてる』

 

 なんか後半ものすごいぶっちゃけたような感じになったけど気持ちはわかる。

 

 っていうか、ナツミちゃんたちより後に俺? だからお前はどんだけ俺のことが大好きなんだと。

 

『はたから見ればやっかみどころかねたまれたとしても全くおかしくないだろう。正直逆恨みにはなるが怨恨で殺されそうになってもおかしくないと自覚している』

 

 そういってから一息つき、宮白は静かに立ち止まった。

 

『・・・だからこそ、それだけ恵まれている分の成果は出さなきゃならない』

 

 その神気の出力がどんどん上昇していく。

 

 その力にサイラオーグさんが物理的に押されるなか、宮白は腰を深く落として身構える。

 

『いくら驚異的な修練を積んでいるとはいえど、いや、積んでいるからこそ、この壁がでかいことを教えてやるよ。・・・熱心な研究家であることをお教えしよう』

 

 神聖なる力が収束して、いくつもの砲弾として形成される。

 

『・・・来い。俺はともかく英雄と神々を舐めてかかった報い、最高の試練となって報復しよう』

 

 そっから先はマジでサイラオーグさんに対する試練だった。

 

 接近しようとしても神気に阻まれてできない上に、少しでも動きが止まれば砲撃が叩き込まれる。

 

 しかも一発一発が今までの宮白の比じゃない威力なうえに、数も多くて回避も難しい。

 

 ・・・俺が初戦で手加減されたうえで圧倒されたサイラオーグさんを、間違いなく圧倒している。

 

『これは、これは・・・あれ? なんか主人公を追い込んでいるラスボス臭がしているんですが宮白選手!?』

 

『・・・あいつ怒らせると怖いからなぁ。ディオドラのやつなんて二日に一回のカウンセリングがないと情緒不安定になって尋問できないしよぉ』

 

 ドン引きする実況に先生がとんでもないことを言っていた。

 

 そういえば、宮白って本気で怒るとマジで何しでかすかわからないところがあったっけ。

 

 なんていうか、甘いところは甘いけど、甘くする必要がない相手にはとことん冷たいっていうか容赦ないっていうか。

 

 それが本気で怒っているから始末に負えない。

 

 サイラオーグさんはオーラをまとってセントを行っているけど、それらすべてを防ぎきって、宮白はさらに上を行く。

 

『見る限り宮白選手の圧倒的有利といったところですが、それでもサイラオーグ選手はしのいでいますね。正直、なんでまだ戦えているのかわからないのですが』

 

『サイラオーグ選手は肉体を鍛え上げた末に純粋な生命力の高まったオーラを身にまとっていますからね。それが神のオーラを防いでいるのでしょう。そうでなければあれだけの猛攻に耐えることは彼でも不可能です』

 

『とはいえ宮白のやつ、祝福の聖剣を使って増幅されているだけあって退魔の力に一点特化した神格といってもいいからな。対悪魔に限定すればグレモリー眷属で一番強いだろ、こいつ』

 

 実況の疑問にチャンピオンが応え、そこにアザゼル先生が宮白側の補足をする。

 

 ああ、聖剣使った神様なら確かに悪魔殺しの力とか強すぎそうだからなぁ。あの状態の宮白と勝負したら、俺瞬殺される自信あるぞ。

 

『どうした? これはただの貰い物の力だぞ? 研鑽もまだできていない研究段階の試作武装だ! 慣らしもろくに終わっていない力に圧倒されるとは次期大王が聞いてあきれる!!』

 

 あおるだけあおりながらも宮白は詰将棋のように冷静に攻撃を加える。

 

 気づけば、最初は十回に一度ぐらいだった命中が二回に一回ぐらいになっていた。

 

「攻撃を加えながら回避パターンを解析して、相手の移動を誘導しているのか」

 

 木場が目をせわしなく動かしながら感心する。

 

 さすが頭脳派。マジギレしていても冷静だ。

 

 それでも何とかサイラオーグさんが対処できているのは、スピードでサイラオーグさんが上回っているからだ。

 

 攻撃と防御は相性差で宮白が有利だけど、基礎スペックの高さと機動力と戦闘技術ではサイラオーグさんが有利なんだ。

 

 だから追い込まれているけど何とか食い下がっている。宮白は激痛に耐えながらだから消耗が激しいだろうし、この調子だと逆転される可能性だって間違いなくあるぞ。

 

 そのあたりについて俺が心配しかけたとき、宮白が軽くため息をついた。

 

『このままだと時間切れだな。・・・仕方ない、動くか』

 

 そういったとき、サイラオーグさんはいったん距離を取っていたタイミングで―

 

『―行くぞ』

 

 ―気づけば、その目の前に宮白が迫っていた。

 

『なんと―』

 

 驚愕するサイラオーグさんの顔面に、宮白の肘が叩き込まれる。

 

 のけぞってとんだサイラオーグさんよりも早く後ろに回り込んだ宮白は、そのまま空中に蹴り飛ばす。

 

 そこから先は目にも見えない高速攻撃が叩き込まれる。

 

 サイラオーグさんも反応して迎撃するが、圧倒的なオーラに体が焼けつき、思うように反応できない。

 

 そのまま地面へとたたきつけた宮白は、しかし激痛のせいか一瞬止まる。

 

 その隙を、サイラオーグさんは見逃さなかった。

 

『油断したな』

 

 一瞬で腰を落とし、拳を構え、そして全力で振りぬく。

 

 その瞬間、コロシアムの壁が余波で吹き飛ぶほどの一撃がぶっ放される!?

 

 えええええええええ!? パンチで離れたところがぶっ壊された!?

 

 どんな破壊力だよ!? 龍剛の戦車よりも凶悪じゃねえか!!

 

『こ、これは見るだけで痛い!! 宮白選手、これは立てないか!?』

 

 実況もそんなことを言うけど、チャンピオンと先生は驚かない。

 

『いや、当たってませんね』

 

 チャンピオンが冷静に告げる中、宮白の姿が映し出された。

 

『・・・惜しかったな』

 

 サイラオーグさんの真後ろに、宮白が立っていた。

 

 サイラオーグさんが振り向くより先に、宮白の蹴りがその延髄に叩き込まれる。

 

『グォ・・・っ!?』

 

 痛そうな声をだして、サイラオーグさんは壁にたたきつけられた。

 

 宮白はよろめきながらも、しかしかろうじて立って視線を向ける。

 

『は、ハハハ・・・。奥の手まで使わせるとはやるじゃねえか。アーチャーにも内緒にしてたんだぜ、コレ』

 

 乾いた笑い声を挙げながら、宮白はしかし油断なく構えながらサイラオーグさんを見据える。

 

 サイラオーグさんも壁に手を突きながら、しかし立ち上がった。

 

『なんだ・・・その速さは』

 

 ふらつきながらも振り返り、怪訝な表情を浮かべる。

 

『急激にスピードが上昇した。・・・その状態を維持するには、祝福の聖剣に力をすべて注がなければいけないと思っていたのだが』

 

『まあ正解だ。神格の力を活性化させるにはそれだけの力を入れる必要がある。・・・が、神格の力を注ぎ込めば聖剣の力を活性化させることができるのもまた真実』

 

 肩で息をしながら、宮白は自慢げに両手を広げる。

 

『八百万の神々のバリエーションは神話体系でも正真正銘規格外。そして俺は数十の神の力を与えられて神格化したイレギュラー。当然その力と相性のいい聖剣を利用すれば、ほぼ何でもありだこの野郎!!』

 

 力強く地面を踏み鳴らしながら、宮白は一歩前に出る。

 

『いやあなたね。そんなピーキーな応用技術、まず私に相談しなさい』

 

『神嫌いのお前に神の力を利用した技術を開発させるのも気が引けてな。できるところは自分で何とかしようとしたまでだよ』

 

 アーチャーさんのツッコミも、宮白は苦笑交じりにスルーした。

 

 どことなくふらふらしながらも、宮白はしっかりと地面を踏みしめてサイラオーグさんへと一歩一歩迫る。

 

 そんな時、サイラオーグさん側から大声が上がった。

 

『さ、さささサイラオーグさま!! アレを使ってください!! アアアアレなら勝算だって十分にあります!!』

 

 スパロとか言ってた子が大声を張り上げる。

 

 ・・・え、サイラオーグさんってまだ隠し玉あったの!?

 

 だけど、サイラオーグさんは声を張り上げてそれを否定する。

 

『断る! アレは冥界の危機に使うと決めたものだ!! 俺はこの身一つでこの男と戦うのだ!!』

 

 怒っている感じでサイラオーグさんはそう言い放ち、そして静かに構えを取る。

 

『今この場で、あの力を使ってどうなると―』

 

『く・・・くっくっくっくっく』

 

 ・・・宮白がサイラオーグさんを遮るかのように嗤いはじめた。

 

 すいません怖いんですけど親友!?

 

『はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは』

 

 ああ、俺は付き合いが長いからよくわかる。

 

 あれは―

 

『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!!』

 

 大声で笑いながら宮白はラジカセを取り出してスイッチを押す。

 

 ―ダダンダンダダン! ダダンダンダダン! チャララ~チャ~ララ~・・・

 

「先生宮白止めて!! アレマジで怒ってる時のテーマソング!!」

 

 やばいやばいやばい!! アレは本気でヤバイ!!

 

 かなりハイレベルで怒ってらっしゃる!!

 

『ふ・・・ざけんなのこの才能ゼロの筋肉達磨が!!』

 

 一瞬で迫ると、サイラオーグさんの攻撃を完璧身無視してその顔面に全力のパンチを叩き込んだ!!

 

 うっわ戦術完璧に無視だ。アレはプッツンしきってるぞ。

 

『こっちにルール違反の武装能力使用を要請しておいて、そっちは実戦用の能力出し惜しみだ? いい度胸してんじゃねえか、ああ!?』

 

 しかも再び圧倒している!?

 

 散々殴りつけた後、こめかみに後ろ回し蹴りと叩き込んで吹っ飛ばしてから、光の槍を展開して投げつけようとして、かろうじてブレーキをかけて踏みとどまった。

 

『耐えろ・・・耐えろ俺! この手加減野郎にこっちも本気を出してやる必要は・・・ない!』

 

 あ、我に返った。

 

 そのあとマジでぜえはあいいながら息を整えていたが、宮白は思いっきり中指を突き立てた。

 

『てめえそんなんでイッセーに勝とうとかふざけんじゃねえぞコラ!! アーチャーの技術超えようとか舐めてんじゃねえぞコラ!! 俺の親友と相棒馬鹿にすんのもいい加減にしろクソ野郎!!』

 

 マジな怒りを込めた宮白の叫びに応えるように、サイラオーグさんはゆっくりと立ち上がる。

 

 相当ダメージが入っているのかその動きはゆっくりだったが、その視線にはまだ力が残っていた。

 

『・・・すまなかった。確かに相手に全力を求めておいて、こちらが力を出し惜しみするなど無礼以外の何物でもない』

 

 一呼吸した後、サイラオーグさんの力が爆発的に上昇した。

 

 いや、これはパワーアップしたんじゃない・・・。

 

『まあ、正直予想はしていた』

 

 静かに、宮白は冷静さを取り戻してそう告げる。

 

『久遠があそこまで大暴れした以上、気の運用を狙うのは当然のことだろう。アザゼルの話では純粋な闘気を操るのは珍しいようだし、歴史ある技術として活用されいてる魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の世界技術を利用するほうがより高みへと至れるからな』

 

『そうだ。わかりやすく研鑽方法を示してくれた彼らのおかげで、俺は新たな高みへと至ることができた』

 

 神気を極限まで高める宮白と、闘気を極限まで高めるサイラオーグさんが、語り合いながら一歩一歩前に近づいていく。

 

『さあ、俺は文字通り俺が出せるすべてを今出したぞ? そちらも出し惜しみをするのは失礼だと思わないか?』

 

『それを言われると返す言葉もないな。・・・出し惜しみなしなら言いわけ保険も必要ないか』

 

 サイラオーグさんの言葉に応え、宮白は大量の水と聖剣と呼び出す。

 

「ついに、あれを抜くか」

 

 その聖剣をみて木場が目を見開いた。

 

「木場が作ったのか? あれ、一体どんな聖剣なんだ?」

 

大王を殺すもの(ジ・レボリューション)。バアル家にのみ特化する出力調整をした聖剣だよ」

 

 ・・・へ?

 

「宮白くんがヴェネラナ様の協力をもらって開発した、以前から研究中だった対サイラオーグ氏用の秘密兵器さ」

 

 なに作っちゃってんの宮白!?

 

「まあ、アーチャーさんは協力してないからそこまで出力は高くないんだけどね。せいぜい普通の聖魔剣と同等程度の効果しかないさ」

 

 その聖魔剣ってエクスカリバーと互角じゃありませんでしたっけ!?

 

『・・・ちなみに聖水もバアル家用限定特化型だ。いずれは各種上級悪魔専用の聖水を作ってみたいと思っている』

 

『面白いものを作ってくれる。ああ、それを超えてこその勝利だとも・・・!』

 

 不敵な笑みを浮かべているであろう宮白の言葉に、サイラオーグさんはさらに闘志を高めている。

 

 どこまで対サイラオーグさん用の準備整えてたんだよ、あいつ。

 

『・・・補足すると、黒魔術などの呪術を参考にしたブースト作用を参考にして特攻作用を作り上げたものよ』

 

『『聖』剣や『聖』水に黒魔術掛け合わせるとか、あいつの発想は頭おかしいレベルだな。外装の聖剣といい時々突拍子もない発想出すからビビる』

 

 アーチャーさんの補足説明に、アザゼル先生が割と本気で呆れていた。

 

 うん、俺もちょっとツッコミ入れたくなった。

 

 そして、俺たちがそんなことをしている間に二人の距離は縮まっていた。

 

 どっちの攻撃も届く距離で、2人は正面から向かい合う。

 

『・・・この一戦、死戦と決めた。死んでも恨むなよ、宮白兵夜』

 

『こっちのセリフだミスター。勢い余って浄化されても責任は取らないのでそのつもりで』

 

 静かに戦意を高め、2人は一瞬静かになる。

 

 誰もが何も言えず、かたずをのんで見守る中、2人は同時に攻撃を放とうとし―

 

『―さて、スパナとってくれスパナ』

 

 そんな意味不明なセリフとともに、俺たちの周りの空間が一気にゆがんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




いいところで邪魔が入りました!!

いや、この章ってうまい具合にオリジナリティを出すのが難しいんですよね。マジで。

だから何とか独自色を出そうと頭をひねった結果こんなことになりました。


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敵基地、やってきちゃいました!?

ある意味、とても賛否両論になるかもしれない展開です。


佑斗Side

 

 気が付いた時、僕らは建築物のようなところにいた。

 

 金属で構成される壁で出来た、広間のような風景が広がっている。

 

 規模からみて、相当の大きさの建物だと思われる。だが、一体どこだ?

 

「・・・これは一体どういうことだ!?」

 

「離れないほうがいいわね、もしかしたら敵陣かもしれない」

 

 見れば、バアル眷属の悪魔たちもここにいた。

 

 だがイッセーくんの姿は見えない。

 

 別々の場所に飛ばされたのか? だとすると厄介なことになった。

 

『こ、これは一体どういうことだ!? 戦闘が最高潮に達したと思われたその時、グレモリー眷属とバアル眷属がどこかに飛ばされたぁ!?』

 

 実況の驚愕する声が聞こえるということは、これは向こう側も想定していなかったアクシデントということになる。

 

 いったいどういうことなんだ?

 

『・・・おーい、さっきから空間がゆがんでるんだがどういうことだこれが』

 

 と、聞き覚えのある、しかし聞こえてはいけない声が響いた。

 

 これは―

 

「・・・フィフス・エリクシルですね」

 

 知覚にいた小猫ちゃんが、猫耳を出しながらそうつぶやく。

 

 そうだ。この声は幾度となく僕たちを窮地に追い込んだ、フィフスの声だ。

 

 だが、こんな事態を引き起こしたにしては緊張感がない。

 

『どういうことだも何も、お前がこの施設の空間転移装置を使ったからそのせいじゃないか? アサシン使って嫌がらせするとか言ってなかったか?』

 

『いや、俺は研究が進まないストレス発散にアサシンにレーティングゲーム会場で情報収集して来いといっただけなんだが?』

 

 僕らの困惑をよそに会話が進んでいくが、割ととんでもないことを言っているような気がする。

 

『・・・こっそりつぶやいた爆弾発言とかを出版社に売れば現政権にダメージ与えられるし、暇つぶしにしては建設的だと思ったんだけどな』

 

『テメエのやり口は趣味に合わねえな。・・・そういやエルトリアはどこ行った?』

 

『シャワー貸してとか言ったからバスルームに案内したが?』

 

 緊張感が全くない。

 

 どういうことだ? これは彼らの作戦じゃないのか?

 

 と、思っている時にすぐ近くにあったドアが開いた。

 

『ああ、いいお湯だったわねぇん』

 

 湯気をまといながら出てくるのは、かつてあったことのある旧魔王派の一人、エルトリア・レヴィアタン。

 

 それはいい。それはいいのだが。

 

『・・・あらぁん? なんでグレモリー眷属とバアル眷属がここにいるのかしらぁん?』

 

 全裸だった。

 

 もう一度言おう。・・・全裸だった。

 

「な、なんという格好をしているのだ! 早く服を着ないか!?」

 

 バアル眷属の騎士、ベルーガ・フールカスが慌てるが、しかしエルトリアは意にも介さない。

 

「・・・なんでプライベートなのに服を着る必要があるのかしらぁん? 私、風呂上りは全裸って決めてるのよ」

 

 堂々と裸身をさらしながら、エルトリアはそんなことを断言した。

 

 いや、男が何人もいる所でその発言はどうかと!

 

「・・・女のかっこうは見せてもいいと思っているからする物よぉん。男は男の基準を押し付けすぎねぇん」

 

 しかもわかってないみたいな上から目線で説教までしてきた!?

 

 こ、これは一体どういう事なんだ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これはいったいどういう事だよ!?

 

 俺たちの視線の先、モニターにはいろいろな光景が映し出されたいた。

 

 その中でも厄介なのは宮白がいる区画だ。

 

『ししししっかりしてください!? れ、レグルス、とにかく彼を背負ってください!!』

 

 バアル眷属の兵士、スパロ・ヴァプアルが揺さぶるが、宮白は返事を返す余裕もない。

 

 ・・・完璧に意識を失ってやがる。

 

 まあ、あんな無茶な方法で神格化した上にさらに無理やりな方法で力を応用したりしたんだ。反動はものすごいことになっているだろう。

 

 それが空間転移で気が動転した時に一気に来たわけだな。ありゃ当分起きねえぞ。

 

 だがそんなことを言ってる余裕もない。

 

 すでに視線をずらせば、そこではギャスパーやバアル眷属の戦車が、敵とにらみ合いになっていた。

 

『な、ななななんでここにいるって感じ!? 普通さきにレーダーに映るって感じ!?』

 

『ぼ、僕に言われても困ります!? っていうかそっちが仕掛けてきたんじゃないんですか!?』

 

 震えながらもしっかりと相手を見返しながらギャスパーは反論するが、しかし相手も要領を得ていないようだ。

 

 あいつは確かリットとか言った敵のメンバーだったな。なんでこんなところにいるんだ?

 

 それはそれとして、ビビりながらも戦車の連中の後ろに隠れずしっかりと見返すとはギャスパーも成長してるぜ。

 

『我々の試合を妨害しておきながら白を切るきか。・・・サイラオーグさまの将来がかかっていると言っても過言ではない一戦を邪魔した報い、ただでは済まないと知るが良い!!』

 

 戦車の一人がマジギレしながら睨みつけるが、リットは首をかしげるのみだ。

 

『いやいやいやいや。そんなことしたらヴァーリが覇龍つかって殺しに来るからそんなことしないし。フィフスだって「フェニックスのなみだを片方だけすり替えたら現政権が空中分解して動きやすいよなぁ」とかいってマジ殴り合いしてから手を引いたのに』

 

 ・・・危ねえなオイ!? そんなこと企んでたのかよ!?

 

 ヴァーリがいて本気で助かったぜ。

 

 しっかしどういうことだ?

 

 他のモニターの方に視線を向けると、そこには口論しながら歩くフィフスとグランソードがいる。

 

『テメエなぁ。艦内放送流しっぱなしなの気づけよ。下のモンにしめしつかねえじゃねえか』

 

『うるせえよこれが。とにかく原因追求しない事には話にならねえ。せっかく完成した試作一号機がこんなところで躓いたら、高いかね掛けたのが台無しになっちまうだろうが』

 

 そんなことをいいながらドアを開けた先をみて、二人は目をまん丸くした。

 

『『あ』』

 

『ようやく見つけたぞこの野郎!!』

 

 イッセーが指を突き付けて大声を張り上げる。

 

『まさか我々を自陣に取り込むとは敵ながら見事。だが、あの戦いの邪魔をした報いは受けてもらうぞ』

 

 両手を鳴らしたサイラオーグもそこに並び、さらに後ろには大量の魔力が渦巻いている。

 

『ヴァーリににらまれている状態でこれだけの行動をしてのけた度胸は買うけれど、わたしたちに返り討ちになる可能性は考えなかったのかしら?』

 

 リアスも完璧頭に血が上ってるし、こりゃあいつら死んだんじゃねえか?

 

『・・・何の話だこれが!? っていうかなんでこの場所が分かった!?』

 

 フィフスはそう狼狽する。

 

『ゲオルグに作ってもらった結界装置はアサシン用に調整しているから無理やり通ろうにもこっちが気付くはずだ!! 神と魔王が決戦でもしたのか!?』

 

 どうやら本気で想定外らしいな。

 

 っていうか、神と魔王が決戦・・・。

 

『・・・神になった男(宮白)魔王を目指す男(サイラオーグさん)が激突してたな、そういえば』

 

 イッセーがそうつぶやいた途端、フィフスは絶叫して膝をついた。

 

『何処までも余計なことしてんじゃねえよぉおおおおおおおお!?』

 

 そのまま何かに耐えるようにごろごろと床を転がりはじめる。

 

『ヴァーリに殺されるじゃねえかこの野郎がぁあああああああ!? なんでこっちから手を出してないのにお前らからくるわけぇえええええええ!?』

 

 ・・・どうやら本当に想定外らしい。

 

 ってことはやっぱりこれは禍の団(カオス・ブリゲート)の基地か何かか!!

 

 こんな非常時想定できるかよ。とにかく急がないとあいつらがまずいな。

 

「解析班を総動員して空間転移現象を把握しろ!! 把握出来次第増援を送れ!!」

 

 見たところ本拠地ってわけではないだろうが、聖杯戦争を作り出したフィフスがいる拠点だ。間違いなく重要度は高いだろう。

 

 早くしないと増援が来すぎてやばいことにもなりかねない。しかも全国中継でこれってのが大問題だ。

 

 もしあいつらがやられることになったら、冥界に大打撃なのは間違いないぞ!!

 

「増援が可能になった時点で私自ら動きましょう。・・・これは非常に危険な事態だ」

 

 ベリアルもそのあたりを理解し、準備のために席を外す。

 

 くそっ! いくらなんでもこんな事態は想定してないぞ!?

 

 無事でいろよ、お前ら・・・っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 寄りにもよって向こうにとっても想定外なのかよ!?

 

 ヴァーリがにらみを利かせるらしいから安心してたと思ったらこれか! つくづく俺たちに迷惑しかかけない組織だな、禍の団は!!

 

 俺たちがにらみを利かせる中、フィフスはものすごいだるそうに立ち上がると、目が座った状態で視線を向ける。

 

「・・・しかたねえ。全員殺してその首でほかの連中の意見もらってヴァーリ黙らせるか」

 

 うっわぁ。完璧にキレてるよあいつ!

 

「俺様は非戦闘員の避難すすめとくぜ。終わったら助けに行くからそれまで死ぬなよ?」

 

「その前にさっさと叩き潰してやるよこれが」

 

 離れていくグランソードにそう返しながら、フィフスはガ・ボルグを取り出して腰を落とす。

 

「・・・なめてくれるわね。これだけの数に一人で勝てるとでも?」

 

「サイラオーグさまが出るまでもありません。ここで終わらせましょう」

 

 1人で十分といわんばかりの態度に、部長とサイラオーグさんのところの女王が切れかかるが、フィフスは余裕の態度を崩さない。

 

「・・・赤龍帝とバアルはともかく、あんたらはなめてかかっても問題ないだろ、これが」

 

 次の瞬間、フィフスの姿が掻き消えた。

 

「え、ど、どこに―」

 

「上だ!!」

 

 サイラオーグさんが真上を見ながら即座に飛び、直後に轟音が鳴り響く。

 

 俺たちが視線を向けたころには、空中でぶつかり合う二人の姿があった。

 

「今のに反応できない連中は素直に投稿しな。俺には勝てないぜこれが!!」

 

「・・・つまり、貴様を倒せば何の問題もないということか!!」

 

 次の瞬間には、2人の姿が消え去りながらぶつかり合うときだけ見えるという高速戦闘が勃発する!

 

 オイオイオイオイ!? 木場より早いんじゃないかこれ!!

 

「以前仕留め損ねたのを後悔しな!! 今までとは違うんだよこっちはよぉ!!」

 

「それは認めよう。だが、こちらが以前のままだと思ってもらっても困る!!」

 

 そういえば、2人は依然と遣り合ったことがあったな。

 

 その時はフィフスの方が押され気味だったけど、滅竜魔法を得た今ではどうなるかわからない。

 

 よし! 俺もぼさっとしている暇はない! ため時間も終わったしすぐ介入だ!!

 

「そろそろ行くぜ! 禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

 素早く赤龍帝の鎧をまとって戦闘準備!

 

 行くぜフィフス! 新技を見せてやる!!

 

「部長、援護をお願いします!!」

 

 俺は一気に突進する!!

 

 敵はいくら出てくるかわからないんだ。さっさとフィフスをぶったおす!!

 

 




・・・どうしてもレーティングゲームのまま進めるのが大変だったんだ。

と、いうことでトラブル発生でフィフスたちの基地へとやってきちゃったリアス&サイラオーグ眷属御一行。しかも兵夜は無理がたたりすぎて戦闘不能になりました。

ここからこの章は本番です。特にイッセーにとっては原作以上の大ピンチに・・・。


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黄昏の想いで、再び

本作でも屈指の魔改造キャラがついに登場します。


 

佑斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全裸のままのエルトリアは、面白そうにこちらを見ると、その両手に魔力を込める。

 

「とりあえず倒したほうがよさそうねぇん。まだあまり活躍してなかったし、少し思いっきり暴れようかしらぁん」

 

「・・・いいから服を着て」

 

 全裸のままで首を傾げるエルトリアに、あきれるべきが蔑むべきかわからない表情で小猫ちゃんが冷たく言い切る。

 

「しかたがないわねぇん」

 

 そういうと、エルトリアは部屋に戻るとあっという間に服を着て戻ってきた。

 

「じゃあ、仕方がないし本気で暴れようかしらぁん」

 

 というと、なぜかその場で脱ぎ始めた!?

 

「だからなぜ脱ぐ!?」

 

 バアルの騎士、ベルーガ・フールカスが大声を上げるが、エルトリアは服を脱ぐ手を止めはしない。

 

「失礼ねぇん。私は、本気で戦うときは必ず全裸で戦うと決めているのよぉん」

 

 なぜかすごい威厳を感じさせる声色で、彼女は断言した。

 

「・・・すべての生きとし生けるものにとって、最も素晴らしい感情はなんだと思おうかしらぁん。・・・そう、発情よぉん」

 

 なんか語りだした。

 

「自分を満たす欲望より、人を減らさない善意より、人を増やすことにつながる色欲こそ、生きとし生きるものが最も尊ぶべきもの。ゆえに、色欲こそ世界で最も推し進めるべきものよぉん」

 

 ・・・いや、言われてみると確かに増えるということはいいことかもしれないけど、だからってなぜ全裸に!?

 

「だからこそ、ありとあらゆる生命活動の時であろうとそれを忘れてはならない。そして、基本的に人々がそれを最も感じるのは生まれたままの全裸なのよぉん」

 

 そういうと、彼女は堂々と上着とスカートを脱ぎ捨てる。

 

「そして、すべてのものが色欲とともに歩む世界こそ真なる世界よぉん」

 

 彼女はまるで自分の方針を放送するときのように堂々とした姿を見せる。

 

「生まれたときから性と、それを進める快楽について研究し歩み研鑽し努力する。小学生の時から色欲について学び、実地とともにあり、挨拶とともに性交し、世界で最も尊ばれる職業として性風俗業界が選ばれる! それこそが生命のあるべき姿!!」

 

 なんというか、語りに熱がこもっている。

 

 ・・・イッセーくんよりはるかにひどい。何がひどいかって、ある意味自己完結しているイッセー君と違って他人を巻き込むというか、世界を巻き込む気がひしひしと感じさせるところだ。

 

「ゆえに! この世界は一度色欲を受け入れるしかないのよぉん!! そのために、そのために私は世界を塗り替えるのぉん!!」

 

 本当にそのつもりだった!!

 

 これはひどい!! なんていうか、人によっては真面目にやる気がなくなりそうだ!!

 

 そして、エルトリアはゆっくりとブラジャーを外しながら宣言する。

 

「そこで見ている者たちもちゃんと目にしなさぁい!! 色欲の素晴らしさぉん!!」

 

 ・・・え? これ、中継中なの?

 

「・・・本気でひどい。一度死んだら?」

 

 ドンビキしながら小猫ちゃんは拳を構える。さすが小猫ちゃんだ。スケベには厳しい!!

 

 その姿を見ながら、エルトリアは悠々とショーツを脱いでいく。

 

「これでも気を使ってるわぁん。一般受けしやすいようにブラジャーから脱いでるもの」

 

 それは気を使うところが間違っている気がするけど、彼女の目的からするとあって入るので反応に困る。

 

「・・・え? ブラジャーから脱がないと一般受けしないの?」

 

 そしてなぜかバアル眷属がわから妙なところでツッコミが入った。

 

「ストリップとかは魅せる必要があるから、ブラジャーから脱がないと怒る人はおおいわねぇん」

 

 ああ、一般受けってストリップ劇場行くようなタイプの人向けなのか。

 

 そして、なぜかバアル側は一筋の汗を流している。

 

 ・・・ストリップ劇場に参加する予定でもあったのだろうか?

 

「じゃあ、割と本気で行くわよぉん?」

 

 そういうが早いか、一瞬で膨大な魔力が放出される。

 

 ・・・まずい! 目的のせいで脱力している場合じゃなかった!!

 

 目の前に、莫大な魔力が襲い掛かるのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい放送設備は止められねえのか?」

 

 俺はしっかりと目に焼き付けながら、一応建前は言っておくことにする。

 

「いえ、どうも設備が異常事態を起こしているらしく難しいそうです」

 

 やはりな。この非常時だから何が起こるかわからないところはあったがそうなったか。

 

 しかしそれだとさすがにマズイな。何が起こるかわからないのに放送設備が止められないとか、赤っ恥が放送される可能性もある。

 

 と、まあいろいろとやばそうであるが、意外となんだかんだでやっていけそうなところも見える。

 

『勝てるかって感じ!! 頼むからもう少し相性のいいやつを呼べって感じぃいいいいいい!?』

 

 ギャスパーのところは問題ないな。相性が良すぎる。

 

『アーシアには一歩も近づけさせはしない!!』

 

 アーシアたちの方も、ゼノヴィアが大暴れで一歩も近づけさせてない。

 

 こっちの相手は雑魚ばかりのようだし問題ないということか。

 

 そしてイッセーたちの方もそこそこいい感じだ。

 

『チッ! さすがに二対一はキツイなこれが!!』

 

『京都じゃ散々圧倒してくれたくせによく言うぜ!! ・・・サイラオーグさん、こいつ出し惜しみしてますから気を付けてください!!』

 

『なるほどな。ならば出し切られる前に倒すのみだ!!』

 

 フィフスの戦闘能力は確かに驚異的だが、総合的にならイッセーやサイラオーグなら上回っている。

 

 イッセーが前回ボコられたのはテクニックタイプで対竜能力という二重の意味で相性が悪かったからだ。

 

 二対一ならその特性も大きく減少できる。

 

 後は宮白がうっかり発見されないかということだが、そこについても問題はないようだ。

 

『さ、さささサイラオーグさま! ご無事ですか!?』

 

 スパロと兵士に引っ張られて、何とかご到着だ。

 

 リアスやクイーシャ・アバドンがついている状態なら護衛としては十分すぎる。今の状況なら叩き潰されることはまずないだろう。

 

 これでまあ、一安心かねえ。

 

 とにかく俺たちは侵入方法を見つけないことには話にならねえからな。そこは急がねえと。

 

『・・・くはっ』

 

 ・・・不吉な笑いが、響いた。

 

『あっはっはっは! お前そんなところにいたのかよ!? ああ、そういやバアルはまだ調べてなかったなオイ!?』

 

 フィフスが、大声で急に笑い出した。

 

 その笑い声で何かを察したのか、サイラオーグが鋭い視線を向ける。

 

『・・・貴様、やはり関与していたか』

 

『関与してたかなんてもんじゃないぜこれが。おいおいまさか聞いてないのか?』

 

 不思議そうにフィフスがそう返しながら、スパロに視線を向ける。

 

 スパロは肩を大きくふるわせながらも、ぶっ倒れている兵夜をかばうようにして両手を広げた。

 

『な、ななななんですかあなた!?』

 

『・・・? ああ、記憶喪失化何かか! まあそりゃあ仕方がないなぁいろいろやっちゃってたもんなぁ!!』

 

 笑い声をこらえながら、フィフスは何かを思い出すように口元をゆがめる。

 

『覚えてないなら俺が説明してやろう。・・・彼女は、マキリだ』

 

 マキリ?

 

 ・・・えっとちょっとまて? どっかで聞いたような・・・。

 

『・・・わからないだろうから教えてやる。・・・聖杯戦争を作り上げた魔術師(メイガス)の血族の一つだよ』

 

 思い出した!! 宮白やアーチャーが言ってた魔術師の家系だ!!

 

 って確か宮白がこっそり伝えた話によるとあいつ記憶喪失だとか言ってなかったか?

 

『・・・そういえば聞き出すのに手荒な真似も使ったからなぁ。ショックのあまりに記憶封印しちまってもおかしくねえか。あの時はまだまだガキだったもんなぁ、こいつ』

 

 物珍しげに視線を向けられ、しかしスパロは真正面から見返した。

 

『いいねぇ。あの時のビビりまくりの時から成長してるみたいじゃねえか。まあ情報は聞き出し終えてるしもう用済みではあるんだがな、これが』

 

 フィフスが一歩踏み出す。

 

 直後、二方向からの破壊力の塊が襲い掛かった。

 

『・・・まあ、ここまで挑発すればそりゃ動くよなぁ、お前らは』

 

 ガ・ボルグをうまく楯に使って防ぎながら、フィフスはイッセーとサイラオーグに視線を向ける。

 

『言いたいことは終わったかよ? だったらもう死ぬまで黙ってろ・・・!』

 

『彼女との出会いの機会をくれたことには感謝しよう。だが、それ以外のすべてにおいて貴様には怒りしか感じないな・・・!』

 

 完璧に頭に血が上っている二人を前に、しかしフィフスは冷静だった。

 

 この状況下で勝ち目がないことぐらいわかってるだろうに、どんな隠し玉もってやがる。

 

『おいおいそんなにテンションあげるなよ二人とも。・・・冷水ぶっ掛けてやれ』

 

 フィフスがそんなことを言った瞬間、通路から足音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その足音に視線を一瞬だけ向けて、俺は目が離せなくなった。

 

「あらあら。初めてのお披露目がこの子だなんて運命を感じちゃうわねぇ」

 

 どこか懐かしさを見せているその声は、できることなら一切聞きたくなかった。

 

「特にグレモリーの小娘には仕返ししたくてたまらなかったのよ。危うく殺されるところだったんだもの」

 

 全身から嫌な汗が噴き出ているのがすぐわかる。

 

「でも、いくらなんでも難易度が高くないかしら? このメンツが相手だと、私とバーサーカーでも勝ち目が薄いわよ?」

 

 うそだ。あいつは死んだはずだ。

 

 もう死んだから終わったことなはずで、だから忘れてしまいたかったのに。

 

「・・・まあいいか。お披露目にはもってこいの相手ではあるものね」

 

 だけどふとした拍子に思い出すから今でも時々夢に出るし、だけどみんなに心配させたくないしすぎたことだから忘れなきゃと思っていたのに何でこんなところにい―

 

「・・・久しぶり、イッセーくん♪ それとも、元カノのことなんて忘れちゃったぁ?」

 

 あの演技だった満面の笑顔を見せられて、俺はもう耐えきれなかった。

 

「う、うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 

「あっははは!! その顔が見たかったのよ赤龍帝!! 公衆の面前で無様な顔をさらす元カレだなんて爆笑ものねぇ!!」

 

 なんで、なんでお前が生きてるんだよ、レイナーレ!!

 

 




木場側がギャグまっしぐらなのにイッセー側はドシリアスwww

エルトリアのキャラは「ある意味イッセー最大のライバル」

味方かアニメでのチョイ役ぐらいでしか変態が出てこないから、徹底的にエロい敵キャラをだそうと思ったのが最初です。たぶん、禍の団でも野望の規模なら最強クラスなのではないだろうか?

ド級の変態ですので、これからも大暴れするのでお楽しみください。ファニーエンジェル編で大暴れさせようかと考え中。








一方レイナーレは魔改造の塊です。強化コンセプトは「異世界全部載せ」

フィフス陣営にイッセー担当を作ろうかと思った結果、最初作るときに「あ、この展開面白いかも!」ということで助け出したレイナーレにしようと決意しました。その結果最初の予定よりも魔改造がひどくなっています。

リアスが切れるのを兵夜がフォローさせたのも、この展開のインパクトを強くするための措置です。最初はリアスに謝罪する兵夜という描写にするつもりだったのですが、どちらにしてもレイナーレを出すのはこのタイミングのつもりだったのでいっそのことイッセーに試練を叩き込もうと思いました。

結果としてイッセーは最悪のダメージを喰らいました。さて、ここからどう立ち直るか!!


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160話

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰が見てもわかるぐらいに、兵藤一誠は動揺していた。

 

「どうしたのイッセーくん? 怖いなぁ、昔の女に向ける視線じゃないよ?」

 

 無邪気な笑顔を向ける少女をみて、兵藤一誠は完全に我を失っていた。

 

 そして、その様子を見る誰もが、その無邪気な笑顔が表面的なものでしかないことを理解した。

 

 それほどまでに、その少女からは悪意しか感じないのだから。

 

「く、くるな、来るなぁ!!」

 

 衝動的に放たれるドラゴンショットを前に、その少女は一枚のカードを取り出した。

 

「―来たれ(アデアット)

 

 呼び出されるのは一つの装備。

 

 下半身を覆い、まるで翼のごとく広がる機械仕掛けの鳥を手にした鎧が形成される。

 

 次の瞬間、少女の姿が掻き消えた。

 

「な・・・どこに―」

 

「ここよ。イッセーくん」

 

 一誠の背中に、柔らかな感触が触れた。

 

 それが少女の乳房であることを理解した瞬間、兵藤一誠の記憶が一斉にあらわになる。

 

―死んでくれないかな。

 

 笑顔でいわれたその死刑宣告。

 

 そして貫かれる体の感触。

 

 それを笑顔で見つめる少女から生える黒い翼。

 

 それらすべてを思い出した瞬間、その視界に懐かしいと思いたくもない黒い翼が映る。

 

「過程はともかく、イッセーくんのおかげで私はとっても強くなれたわ。・・・とても地獄のごとき苦痛だったけどね」

 

「それは仕方がない。中級堕天使が上級を超える力を手にするには相応の苦痛が必要ってもんだろこれが」

 

 高速でサイラオーグと打撃戦を繰り広げるフィフスが当然のようにそう言い放ち、少女は苦笑する。

 

「まあ、おかげで最高峰の堕天使とも並び立てるようになったからいいわ。・・・こうしてお礼もできるもの」

 

 まるで拭けば飛ぶような紙細工に触れるかのように、柔らかな手が赤い鎧をなでる。

 

 その感触は鎧の生で感じないが、もし感じていたら自分は正気を保てていないと、一誠は自覚する。

 

「・・・レイナーレェ!!」

 

 一誠にまとわりつく少女を排除するかのように、怒気のこもった声とともに、リアスが滅びの魔力を放出する。

 

 上級悪魔でも喰らえばただでは済まないような高出力の攻撃を前に、しかし、レイナーレと呼ばれた少女はあわてない。

 

 その背に生やした黒い翼から光が漏れると同時、それを真正面から受け止めた。

 

 わずかな拮抗のあと、その力はあえなく霧散する。

 

 そして、レイナーレは無傷だった。

 

「ああ、いいわ。以前なら跡形もなく吹き飛んでいたその力を跳ね返してこそ、自分が強くなったって実感できる」

 

 目を見張るリアスを憐れみながら、レイナーレは自分の翼をなでた。

 

「思えばあの時ほど絶望したことはなかった。そして、私は助け出された後で地獄を見たけれど、その苦しみが今の私を強くしているわ」

 

「何が絶望ですって? 自業自得でしょう!!」

 

 消滅の魔力を再びほとばしらせながら、リアスは怒りの表情を見せる。

 

「イッセーをだまして殺し、さらにはアーシアの神器を奪い取って始末しようとし一度は殺しておきながら、よく偉そうなことが言えたものね!? ましてやそれであのアザゼルに取り入れるとでも思っている愚か者がよく偉そうなことを言えたものね!!」

 

「イッセーくんを殺したのは命令だけど、それ以外は否定はしないわ。フィフスにもことごとく馬鹿にされてるもの」

 

 苦笑とともにレイナーレはそう認め、そしてしかし否定するかのように超然とした姿を見せつける。

 

「でももう構わない。もはやアザゼルに認められるだなんて小さなことは言わないわ。・・・私自らが最強の堕天使として高みに立つ」

 

 その姿を見て、リアスは目を疑っていた。

 

 イッセーの力を見誤っていたと気づいた瞬間に器の小ささを露呈していたあの時の矮小な中級堕天使はそこにはいない。

 

 力に酔っている節はあるが、しかしそれ以上に冷静におのれを見据えている。

 

 正真正銘叩き潰され、しかしそこから這い上がったことで、確かにこの女は成長していた。

 

 そして、そのきっかけとなった男は間違いなく狼狽していた。

 

「あ・・・あ・・・ああ・・・」

 

「あら? まだおびえてたのイッセーくん?」

 

 とたんに年頃の女子高生といったかわいらしい声を作り、レイナーレは無邪気な笑顔を見せる。

 

「禁手にも目覚めていなかったあの時でも倒せた私相手にビビルだなんてどうしようもないわねぇイッセーくんは」

 

 ダメな子を可愛がるかのような口調で、レイナーレは指を伸ばす。

 

 その指先が触れた瞬間、一誠は爆発した。

 

龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)ぅうううううううう!!」

 

 瞬時に両腕の装甲を増大化し、全力の拳を叩き込もうとする。

 

 直撃すればたいていの堕天使は一撃で倒れ伏すであろう攻撃を前に、しかしレイナーレは平然とする。

 

 その全身を光をまとった翼が覆い、そして正面からその拳を迎撃した。

 

「・・・お前が勝てるわけないだろうが、これが」

 

 フィフスがその光景を見ながら、兵藤一誠を嘲笑う。

 

「レイナーレは確かに強者にすり寄る弱いところがあったが、自らすり寄るための努力を行って高めようとした。至高の堕天使になろうとする努力を行っていた」

 

 それは、無傷といってもいい。

 

「ハーレムだったか? お前はそんな夢を昔から持ってたらしいが、そのために一体何の努力をしてきた? せいぜいが女の多い学校に入学しただけだろうが」

 

 それは、通用していないという言葉を具現化する。

 

「自分のスケベ根性を制御するやら、勉強を努力して成績を上げるやら、身体能力を鍛えてスポーツ優秀になるやら、料理を勉強してモテル特技を身に着けるやら、リアス・グレモリーに拾われる前にやることはいくらでもあっただろう?」

 

 それは、おっぱいドラゴンのファンにとって絶望だった。

 

「モテる努力も一切せず、やれ悪魔になったらハーレム作れるかもしれないといわれてから努力をする時点でおまえは薄っぺらいんだよ」

 

 それは、この光景を見るものすべてにとって衝撃だった。

 

「人間社会だってイスラム教権とかなら複数の配偶者を持つことができる。そうじゃないにしたって金持ってるやつが愛人持ってるなんてよくある話だ。・・・そこに至るまでの努力をしない時点でよわっちいなこれが」

 

 兵藤一誠は、目の前の光景を否定したくてたまらなくなった。

 

「・・・こんなものなの、イッセーくん?」

 

 余裕の笑顔を浮かべて、レイナーレは不思議そうに首をひねる。

 

 そして、その表情が酷薄なそれへと変わると同時、莫大な光の槍が生み出された。

 

「これに負けたっていうんだから、昔の私は本当にダメな堕天使だったわねぇ」

 

 それに反論することもできないまま、一誠は一太刀で切り伏せられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佑斗Side

 

 この女、笑えない冗談みたいなことを言う癖に戦闘能力は非常に高い!!

 

 四人がかりだというのに、攻撃に映る暇もないほどの無数の砲撃が僕たちを襲い続ける。

 

「これが、これが全裸を愛し、色欲を愛し、淫乱を愛する者の力なのよぉん!!」

 

「・・・すごく叩き潰したい」

 

 子猫ちゃん我慢だ!! 今感情的になると間違いなく僕らは殺される!!

 

 あまりにも強敵すぎてどうしようもない。

 

 ザムジオ・アスモデウスと並び立つもの名だけはある。この戦闘能力、下手な最上級悪魔にも匹敵する!!

 

「並び立ちたいなら一日一S○Xすることから始めなさぁい!! まずはそれからよぉん!!」

 

 でも真似はしたくない!!

 

 そして悲しいことに今の僕たちではこの人を超えることはたぶんできないだろう。

 

 下手をすれば本気を出したサイラオーグさんに匹敵するだろう。いや、それどころか超える可能性もあるかもしれない。

 

 ロキやアザゼル先生にも並び立つであろう最高クラスの強者の力がそこにあった。

 

 しかも、おそらく蛇は使っていない。

 

 間違いなく相手をしてはいけないタイプの危険人物だ。

 

 このままだと確実にマズイ!!

 

 と、攻撃がそれて後ろの壁が次々に破壊されていく。

 

 くっ! 自分たちの陣地だというのにお構いなしか!!

 

「・・・この程度なのぉん? だったらそろそろ終わりにしようかしらぁん」

 

 勝者の余裕すら浮かべて、エルトリアがさらに大量の魔力を展開する。

 

 このままだとまずい―

 

「―なら、こんな程度ならどうだ?」

 

 そう思った瞬間に、後ろから莫大なオーラが通り過ぎた。

 

「え、ちょっとうそ―」

 

 突然のことで対応が遅れたエルトリアを飲み込んだその一撃は、そのまま壁をいくつも破壊していく。

 

 さらに、後ろから放たれた光が僕たちの負傷も回復していった。

 

 この二つの力は!

 

「ゼノヴィア、アーシアさん!!」

 

 ここにきて二人が来てくれたのか!!

 

 最高のタイミングだ!! 助かった!!

 

「いやいや、舐めてもらっちゃぁ困るのよぉん!!」

 

 オーラを突破したエルトリアが無数の魔力を一斉に砲撃する。

 

 だが、そこに無数の魔法の砲撃が相殺するように叩き込まれた。

 

 そして、その合間を縫って雷光がエルトリアに叩き込まれる!

 

「私を忘れてもらっては困りますよ!!」

 

「あらあら。歯ごたえのありそうな方がついにやってきましたわね」

 

 ロスヴァイセさんに朱乃さんも!! なんていいタイミングで来てくれたんだ!!

 

「や、やってくれるわねぇん・・・」

 

 さすがにダメージが入っているようだが、それでもエルトリアは立ち上がる。

 

 だが、その周囲の空間がブレたかと思うと、そのままエルトリアは地面にたたきつけられた。

 

「悪いが、俺たちも忘れてもらっては困るね」

 

 サイラオーグ氏の騎士の1人が、その眼を輝かせて彼女を見据えていた。

 

 視覚干渉系の神器だったはずだ。やはりこの手の類は強力だ。

 

 これで戦況はひっくり返せたはず。今このタイミングで決める!!

 

「ゼノヴィア! ここで決めるよ!!」

 

「ああ。あれはあのザムジオと並び立っていた女だ。ここで仕留めねば何をしでかすかわからない!!」

 

 あの時、僕らの目の前に現れたエルトリアとザムジオ。

 

 後のもう一人も含めて、おそらくはザムジオと並び立てる戦闘能力の持ち主なのは間違いない。

 

 あれだけの戦闘能力を持っていたであろう人物と並び立てるものをほおっておくわけにもいかない。

 

 ここで、可能な限り早くしとめる。

 

「これは・・・きついわねぇん」

 

 距離を一気に詰められながら、エルトリアは自重するように苦笑した。

 

 そして―

 

「だったら、これぐらいの反撃は許してくれるかしらぁん?」

 

 虚空から一枚のカードを取り出した。

 

 ・・・まずい! アレは―

 

「―来たれ(アデアット)

 

 




レイナーレ、超強力。

D×Dの作品である以上、主人公がイッセーの活躍を食うのは避けられないところがあります。

だが自分はイッセーが大好き。できることなら活躍させたい。

と、いうことでイッセーに対して強敵を出して、その相手との戦いなどで代用しようと考えました。

その相手として最も適切なのは、イッセーが異形社会に入る原因にして、一度殺したレイナーレが最も適切だと思ったのです。

そのため、レイナーレはこれからもイッセーの宿敵として第四章でも立ちふさがります。

・・・まあ、そのため全部見せるわけにはいかないのが難点なのですが。









そしてエルトリアの強化プランはネギまから。

・・・実はギリギリまで禁書の方の強化プランで構築する予定でした。レベル3ぐらいの空間転移能力で、質量のない魔力攻撃をつかったファンネルみたいな攻撃をつくるよていでした。

 ただ、ネギまの予定だったグランソードの方がいいプランが見つからず、エルトリアの性格上こっちのネタを利用すればいいクロスオーバーにしていいオリジナルアーティファクトになることに気づき、急きょ方針変更しました。


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獅子王、目覚めの時です!!

エルトリアのせいで木場たちの方がどうにもギャグになってしまうという想定外のミス。

だめだ、どうしてもシリアス一辺倒にできない!?


 

佑斗Side

 

 呼び出されたのは、機械仕掛けの犬。

 

 完全なカウンターで呼ばれたそれは、僕らに向かって口を開く。

 

 そこから波動が放たれるのと、僕が聖魔剣を楯にするのはほぼ同時。

 

 次の瞬間、聖魔剣が弾き飛ばされた。

 

「・・・な!?」

 

 かなりしっかりと握っていたはずなのに、しかしあっさりと弾き飛ばされたことに驚いた。

 

 相手の攻撃を弾き飛ばすアーティファクトか!!

 

 僕が警戒して後ろに飛んだとき、周りのみんなが一斉に視線を逸らした。

 

「・・・? どうかしました?」

 

「あ、えっと・・・。とりあえずこれを羽織ったほうがいい」

 

 そういって、リーバン・クロセルがマントを差し出した。

 

 服に何かあったのだろうかと思い、僕は自分のかっこうを見る。

 

 ・・・八割ぐらい裸だった。

 

「な、ななななんだ!?」

 

 え!? なんで服がこんなに破れてるんだ!?

 

「ふむ、木場も同じようになっているか。これはどういうことだ?」

 

 離れたところからゼノヴィアが近づいてきた。どうやら彼女もデュランダルを弾き飛ばされていたらしい。

 

 そして服がほとんど破れ去っていた。こちらはコリアナ・アンドレアルフスが上着を貸している。

 

 ・・・いや、どういうこと?

 

「ふっふっふっふ! これが私のアーティファクト」

 

 視線がずれたことで神器から解放されたのか、エルトリアが立ち上がりながら猟犬をやさしくなでる。

 

「自立駆動して相手を追い、武装解除魔法で相手の武器を弾き飛ばし、人を生まれたままの姿えと戻すアーティファクト!!」

 

 ・・・どんな武装だ。

 

「ぶっちゃけ魔法世界(ムンドゥス・マギクス)じゃあ初歩の初歩らしいのよねぇん。まだ慣れてないからできてないけど、いずれは全方位に発動できるように鍛え上げて見せるわぁん」

 

 ・・・どんな世界だ。僕は素直にそう思ってしまった。

 

 まさかそんな魔法があったとは。遠距離攻撃と男女両用と初歩の初歩。イッセーくんが知ったらショックのあまり卒倒しそうだ。あんがいそれを読んで桜花さんたちは内緒にしていたのかもしれない。

 

 だがこれは非常に危険だ。

 

 イッセーくんの洋服崩壊の上位互換なんて悪質すぎる!! ものすごく気になってうかつに動けない!!

 

「さぁて。それじゃあ反撃しようかしらぁん?」

 

 ええい! まさかここまで面倒な敵だとは思わなかった。

 

 イッセー君たちは大丈夫か!? 無事だといいんだが―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー!?」

 

 悲鳴を上げるリアスの前で、鮮血をまき散らしながらイッセーが倒れる。

 

 赤龍帝の鎧は解除され、その表情は真っ青だった。

 

 このままいけば確実に死ぬ。

 

 その瞬間、スパロが動いた。

 

「・・・行って!!」

 

 レイナーレの後ろから、高速で飛来する小さな影が映る。

 

「・・・虫?」

 

 素早く切り捨てながら、レイナーレは怪訝な表情をする。

 

 それは小さな虫だった。

 

 だが、その手ごたえは明らかに虫のそれではない。

 

 しかも、即座に数十倍の数が襲い掛かる。

 

 それを警戒してレイナーレが飛び退った隙に、蟲の一団はイッセーを拾ってリアスたちのところに引きずっていく。

 

「は、ははは早く治療を!! フェニックスの涙を!!」

 

「・・・! え、ええ!!」

 

 我に返ったリアスがフェニックスの涙を使う中、それをかばうようにサイラオーグが割って入る。

 

「隙が少ないがそれ以上に力が強大。・・・さすがにマズイか」

 

 その強大さにサイラオーグが警戒する。

 

 単独で正面から相対し、リアスやクイーシャでは反応すらできない機動力をもつフィフス。

 

 リアスの本気の攻撃を苦も無く掻き消し、イッセーを一瞬で無力化したレイナーレ。

 

 いくらサイラオーグの戦闘能力が高くとも、これだけの実力者は非常に脅威だった。

 

 だが、フィフスもレイナーレも動かない。

 

「どうするの? これ中継されてるし、二人がかりで倒すのはやっぱり言いわけがくるんじゃないかしら?」

 

「別に一対一でも倒せるが、せっかくの機会だ。奴を使おうか」

 

 余裕の表情を浮かべながら、2人は二人にだけわかる回話をする。

 

 そして、合意を取ったのかレイナーレがその胸元を見せつける。

 

 そこに刻まれているのは、赤で彩られた三画の紋章。

 

「・・・令呪!?」

 

 スパロが目を見開く中、レイナーレが声を張り上げる。

 

「来なさい、バーサーカー!!」

 

 その言葉とともに、何もないところから揺らめくように鎧が浮かぶ。

 

 血のように真っ赤に染まった鎧の騎士。それもそこから撃つ目は明らかに常軌を逸している

 

「・・・サーヴァントか」

 

 静かに腰を落としながら、サイラオーグが警戒する。

 

 最上級悪魔クラスと評されるサーヴァント。間違いなく警戒に値する。

 

「と、ついでに―」

 

 フィフスが指を鳴らすと、さらに周囲からホムンクルスがパワードスーツを着て現れる。

 

「くっ! こうなれば頭をつぶす!!」

 

 状況が不利なのを察したサイラオーグが一気にフィフスに迫る。

 

 その時、バーサーカーが動いた!!

 

「戦いを面白い敵が戦う!! 戦うためにさあ戦おう!!」

 

 狂戦士(バーサーカー)なだけあって文脈が全くつながっていないおかしな口調でそう叫ぶと、その間に割って入り、剣を引き抜く。

 

 その顔面に、サイラオーグの拳が叩き込まれた。

 

 人体でなってはいけない轟音が鳴り響く。

 

 防御の体制も整っていない攻撃を受け、リアスたちはバーサーカーが吹き飛ぶところを一瞬で想像した。

 

 だが、現実はそんな想像を破壊する。

 

「喜びの痛み! 敵意が喜ぶ私の戦い!!」

 

 なんの通用もないかのように、バーサーカーは攻撃を再開する。

 

「・・・やはりサーヴァントなだけはある・・・っ!!」

 

 相手の攻撃をかわしながら、サイラオーグは唸る。

 

 そして、それと同時にホムンクルスたちの攻撃がリアスたちを襲う。

 

 全方位から襲い掛かる魔術の群れに対し、しかしリアスとクイーシャは反応した。

 

「あまり舐めないでもらえるかしら!!」

 

「スパロ! 下がってなさい!!」

 

 一瞬で、超高速魔力戦が展開され、部屋中を破壊の嵐が包み込む。

 

 そんな中、フィフスが一歩一歩その目の前へと近づいていく。

 

「さて、俺はとりあえずこっちを片付けるかね、これが」

 

 ガ・ボルグを構えながらフィフスは接近する。

 

 その目の前に、スパロと兵士が立ちふさがった。

 

 その姿を見て、フィフスは静かに肩をすくめる。

 

「どうせ殺すから止めやしないが、お前がどうやって俺に勝つんだ?」

 

 スパロ・ヴァプアルの能力は十分理解している。

 

 彼女の能力では今のフィフス相手には足止めにもならない。それがわかっているから警戒できない。

 

 だが、スパロは兵士の後ろに立つと、その背に手を置いた。

 

「レグルス、おおおお願いします」

 

「わかっている」

 

 兵士は仮面を外すと、静かにフィフスをにらむ。

 

 その姿が膨れ上がり、獣のそれへと変化していった。

 

「・・・ちっ! どうやらそううまくはいかないか」

 

 舌打ちするフィフスの眼前に、それは現れた。

 

 巨大な獅子。それも、明らかに下手な龍王や邪竜すら超えるであろう力を秘めていることがわかる。

 

「このデータ。獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)か。なんで神滅具(ロンギヌス)が悪魔になってるんだ?」

 

 ものすごい嫌そうな顔をするフィフスの前で、スパロが獅子の上に乗る。

 

「・・・しょしょしょ正直、悪魔になったせいか不安定です。サイラオーグさまか私でないと、いざというとき抑えられません」

 

 その言葉に、フィフスは得心する。

 

「そうか。マキリの爺は使い魔が得意だったな。そいつから教示されれば必然的に使い魔の扱いには長ける。獣の使役にはもってこいか」

 

 そういうと同時、静かに腰を落とす。

 

「・・・じゃあ、俺が神滅具にどこまで届くかやってみるか」

 

 そして、そこをすり抜けるように一歩踏み込んでレイナーレが迫った。

 

「とりあえずイッセーくんは殺そうかしら!!」

 

 光の槍を構え、レイナーレが迫る。

 

 そのタイミングは、あまりにも最悪だった。

 

 ほかの全員が戦闘を行っている状況下で、戦力を割く余裕は一切ない。

 

 ゆえに、その攻撃を止めるものは―

 

「・・・男は根性!!」

 

 ―いまだ戦闘を行っていないものに他ならない。

 

 飛び起きた兵夜が、光魔力の槍をもって光の槍を受け止める。

 

「兵夜!!」

 

 復活した兵夜の姿に、リアスは歓喜の声を挙げる。

 

「く、くっくっく。くははははは! あいたかったぜレイナーレとやら!! 本当に会いたかった!!」

 

「何か用かしら? あなたとは初めて顔を合わせると思うのだけれど?」

 

 哄笑をあげる兵夜に、レイナーレは怪訝な表情を浮かべる。

 

 その瞬間、莫大な魔力が放出され、レイナーレを弾き飛ばす。

 

「何か用? イッセーだまして殺したクソッタレって意外に、俺がお前を殺したくなる理由なんてないだろうが!!」

 

 疲労困憊で消耗甚大。

 

 それでも宮白兵夜はいま、最高のコンディションだった。

 

「しかも思いっきりイッセーぼこりやがって。俺がお前を見逃す理由は、一ミクロンたりとも存在しない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 




兵夜、気合いと怒りで復活。

とはいえ神格の力はさすがに打ち止めなので、決定打には程遠い。

さあ、イッセーがいない状況下でどう戦う!?


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強者と弱者

本作転生者。実は敵味方である対比があります。


・・・言われてみると「ああ、なるほど!」と思うかも?


 光の槍を光魔力で迎撃し相殺する。

 

 ああ、いろいろと状況はあれだが、心から望んでしかし果たせないとわかっていたことがまさか可能になるとは思わなかった。

 

 組織の運営上仕方がなかったとはいえ、下種な手段でイッセーの心を傷つけた堕天使レイナーレ。

 

 この手で奴に報復する機会が、まさかめぐってくるとは思わなかった。

 

 しかもイッセーを思いっきりぶった切ってくれたせいで俺のボルテージは間違いなくMAXだ。

 

 ああ、こいつを殺すなといわれても抑えることなどできないとも!!

 

「全力で殺してやるよ!!」

 

 神格の発動は消耗がひどすぎてできない。加えて言えばダメージも大きく前進が激痛を発している。

 

 だが、激痛は痛覚干渉で無視できる。

 

 ならば問題ない。

 

 持っていた魔術用結晶体をフルに使い、身体能力を限界まで強化。さらに相手が堕天使であることを考慮して、木場に作ってもらった対光力用の聖剣を取り出す。

 

「くたばれビッチが!!」

 

「そうはいかないわね。・・・来たれ(アデアット)!」

 

 レイナーレはパクティオーカードを取り出すと、召喚の口上を述べる。

 

 現れるのはチェーンソーのように刃がついたロングソード。

 

 ちっ! 俺のように複数セットのアーティファクトか!!

 

 レイナーレの剣は俺の魔剣に接触すると、超高速で回転して削り取ろうとする。

 

「このタイマノヤイバの前には、そんな安物通用しないわね」

 

「おいおい家のエースに失礼だなお前」

 

 とはいえぶった切られるのは間違いない。

 

 素早く投げ捨てると、水を生み出して戦闘態勢を取る。

 

 魔術に関しても俺はすでに研鑽を積んで高めている。

 

「―起動(スタート)! 水流よ、(アクアスライス)その刃をもって我が怨敵を両断せよ(キリングタイム、フォーリンエンジェル)!!」

 

 超高圧水流によるウォーターカッター。コレなら切り裂かれても何の問題もない。

 

 加えて光魔力による強化もいれているので攻撃力はさらに上昇。これなら確実にダメージは通る。

 

 だが、そこに割って入るかのようにフィフスがツッコミ、灼熱を纏う拳で迎撃する。纏う拳で迎撃する。

 

 その温度に水流が蒸発し、攻撃力が大幅に減衰した。

 

 チッ! 錬金術で硬化した奴の腕を切るには圧力が足りんか!

 

「レイナーレチェンジだ!! こいつは俺が相手をする」

 

「はいはい。私は小猫ちゃんを倒せばいいわけね」

 

 後ろから追いかけてきたライオンに向き合い、レイナーレが光の槍を発射する。

 

 ええい、邪魔する気かお前!!

 

「お前とも付き合いが長いからな!! いい加減終わらせてもらうぜこれが!!」

 

「うるせえよ白髪ヒトカゲ!! 邪魔するならぶっ殺すぞ!!」

 

 連続で攻撃を叩き込むが、想像以上に相手の動きが速い。

 

 こいつ、前回よりはるかに戦闘能力が上昇してやがる。

 

 あの短期間でどこまで鍛え上げた。こいつは100年かかって十代であろうサイラオーグ・バアルと互角じゃなかったのか!?

 

「禍の団の技術研究は素晴らしいな。俺が100年かけて積み上げた基礎が、一気に花開いてくれるからよぉ!!」

 

 水と炎なんていうお決まりのライバル関係だが、やはりこいつは強い。

 

 文字通り年季が違うのがここまで厄介だとは! シャルバとかとは大違いだ。

 

―アーチャー!! まだ来れないか!?

 

―まだかかりそうね。もともと空間転移は魔術では不得手なジャンルだもの。この場合はアザゼルに頼るしかないわね。

 

 アーチャーからの増援もきついということか。

 

 ええい、神代とはいえ魔術師(メイガス)には限界があるということか!!

 

 と、そのタイミングで部屋の左右が崩壊し、そこから人がなだれ込んでくる。

 

「た、たたた助かったって感じ! 助けてマジで!! 相性悪すぎ!!」

 

「あら、合流しちゃったかしらぁん? グランソードがいないのは残念ねぇん?」

 

 リット・バートリと全裸の女が入ってきた!?

 

「だからお前は全裸になるなと何度も言ってるだろこれが!!」

 

「断る!! どんな時だろうとマジな時は全裸!! それが私たちの心意気よぉん!!」

 

「群体なのかよ!?」

 

 などと相手が漫才をやっている間に、木場たちがこちらに合流してくる。

 

「イッセーさん!? しっかりしてください!!」

 

 アーシアちゃんがあわてて回復する中、俺たちは一度合流して相対する。

 

 そのタイミングで、フィフスはアサシンを呼び出し向かい合った。

 

「やってくれるね、フィフス・エリクシル」

 

 比較的動揺が少ない木場が、聖魔剣を向けてにらみつける。

 

「おいおい。兵藤一誠程度がやられたくらいで動揺しすぎだろお前ら。そこまで頼れるような奴か、こいつ?」

 

 フィフスは余裕の態度を崩さないが、だからといってここで俺たちがビビル通りはない。

 

「イッセーをここまで叩きのめした礼はさせてもらう。・・・覚悟はいいな」

 

「イッセーくんをここまで痛めつけるだなんて・・・ゆるさない」

 

 ゼノヴィアと朱乃さんもかなりマジギレしている。

 

「とはいえアーシアさんが来た以上回復は時間の問題ですし、宮白くんが復活しているのなら頼りがいはあります。なんとかして見せましょう」

 

 ロスヴァイセさんがそういいながらも魔法陣を展開する。

 

 うれしいことを言ってくれるが、とにかくここは持ちこたえなくては。

 

 バアル眷属も気合いを入れているし、ここは踏ん張りどころか。

 

 そう思ったとき、フィフスは何を思ったのか肩を落とした。

 

「・・・前から思ってたんだがお前ら、一つ言っていいか?」

 

 なんだ?

 

 俺がそう思ったとき、フィフスは冷めた目で言い放った。

 

宮白兵夜(そいつ)がなんで強いと思うのかがわからねえんだが。・・・お前らが弱いからなのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を、小雪たちは見ていた。

 

 フィフスはあざけるでもなく純粋な疑問を浮かべ、宮白兵夜をみて言葉を紡ぐ。

 

『今までいろいろ調べてきたが、その男は兵藤一誠に支えられてここまで来たんだろう? ・・・誰がどう見ても弱いじゃねえかこれが』

 

 それは挑発でも何でもなく、彼にとって確固とした事実だった。

 

『いや、そりゃ小雪も一緒か。・・・そしてお前らも程度はともかくある程度は似たようなもんか』

 

 蔑むというより憐みすら感じさせて、フィフスはグレモリー眷属を見る。

 

『兵藤一誠がいるからここまで頑張れた。・・・裏を返せば兵藤一誠がいなけりゃ、お前らそこまで頑張れないってことだからなぁ』

 

 それは、その光景を見ているすべての者に対してはっきりと言い切ったことだ。

 

 グレモリー眷属は、戦闘能力とは関係ない部分で弱い。

 

 フィフス・エリクシルは虚言でも挑発でもなく事実としてそう言い切った。

 

『どういう意味だ?』

 

 木場佑斗が剣を剥けながらそう問いただすが、フィフスは平然とする。

 

『・・・英雄派どもと大して変わらない。あいつらは曹操、お前らは兵藤一誠。・・・自分の心を支えてくれる柱が自分の中にない』

 

 弱い連中の言葉など気にならない。そういわんばかりに、フィフスは気圧されることなく正面から見据える。

 

『どん底に落とされているのに、そこから逃げ出すことも復讐するために鍛えることもしないのが英雄派の曹操に心酔する連中。自分たちが問題を受けているというのに、それを叩き潰す何かを兵藤一誠が来るまで持ちきれなかったのがお前らだ。・・・どいつもこいつも魔法使いがくるのを待ってるシンデレラかこれが』

 

 フィフスはやれやれといわんばかりに首を振ると、鋭い視線を彼らに向ける。

 

『結局お前らは兵藤一誠と大して変わらん。・・・支える杖()がなければ自分の意思を前に進めることもできない腑抜けどもだな』

 

 だから俺はお前らなどに負けはしない。

 

 弱者の分際で強者(自分)の邪魔をするんじゃない。

 

 その意志を込めて、フィフス・エリクシルは敵意を向ける。

 

『人生舐めるんじゃねえぞ馬鹿どもが。お前ら風情が俺やレイナーレの邪魔をするな』

 

 一歩、一歩前に踏み出す。

 

 その強靭な意志を前に、リアスたちは気圧されて一歩後ろに下がってしまう。

 

『かなえたい願いがあるなら、それをかなえるための努力をしろ。理解者がいないのなら、理解してくれそうな連中の元に自分を売り込め。力が足りないなら、他から奪い取ってでも手に入れろ。・・・そして、足がないのなら這いつくばってでも前に進め』

 

 静かに腰を落とし、拳を構える。

 

 その眼は、間違いなく生粋の強者のそれだった。

 

『・・・義足を渡されなければ前に進もうとも思えず、ただベッドの上でむくれてるような軟弱ものが、俺の根源到達の邪魔をするな』

 

 冷徹なまでに、そう言い切った。

 

「んの・・・野郎・・・っ!!」

 

 小雪は歯噛みしながら、しかしどこかで負けを認めている自分を認めていた。

 

 支えになるものがなければ自分たちは立つことができない。

 

 それについて、自分は全く否定ができない。

 

 見れば、ベルとナツミも顔を真っ青にしている。

 

 その気持ちが痛いほどよくわかる。

 

 自分たちは、転生という地獄を経験しているものたちだ。

 

 誰かに救われて光に照らされたから、道を決めることができる。

 

 誰かに救われて肩を貸してもらっているから、前を進むことができる。

 

 だが、フィフス・エリクシルは違う。

 

 ほかのだれもいない状況下で、しかし意に介すことなく生前以上の目標を持った。

 

 誰も理解者がいない状況下で、それを意に介さず目的のために努力した。

 

 一時は不可能だといわれてもなお、あきらめず手に入れるための方法をくみ上げた。

 

 そういう意味では、フィフス・エリクシルは間違いなく自分たちよりはるか上の強者だ。

 

 それを、心のどこかで認めてしまった。

 

『たたきのめされて叩きのめされたままのお前らと一緒にするなよ。少しはそこのサイラオーグ・バアルに敬服したらどうだ?』

 

 そう言い切り、目の前の弱者を屠らんと、フィフスが両足を踏み込む。

 

『・・・さっきから、黙っていれば言ってくれるな』

 

―その機先を制するかのように、兵夜は冷たく言い切った。

 

 その表情は冷静で、まるでさっきまでの言葉を意に介していないようだった。

 

『なるほど。道を照らされなければ進めない俺たちは弱い。・・・そこは認めよう。お前は強いよある意味で』

 

 特に動揺することなく、兵夜はフィフスの言葉を認める。

 

『俺はイッセーがいなければ結局迷走していただろう。そういう意味でいうならば俺は間違いなく弱いんだろうな』

 

 はっきりと、自分がフィフスより弱いと彼は認めた。

 

 そう認め、しかししっかりとフィフス・エリクシルを見据える。

 

『だが、それがどうした?』

 

 一歩、明確に一歩前に踏み出す。

 

『誰かの肩を借りなければ前に進むことができない弱い連中でも、誰かの肩を支え返すことはできる。前を向けない弱い人に、前を向くことを促すことはできる』

 

 静かに、全身から魔力を放つ。

 

『確かにその歩みは何もなくても進める奴より遅いかもしれない。だが、それでも前に進んで歩くことはきっとできる』

 

 全身から光力を放ち、それを形にする。

 

『そうやって肩を借りながら前に進んでいって、そうしてきた結果が人類の歴史っていうものだろう』

 

 二つの力を一つにして、宮白兵夜はフィフス・エリクシルを真正面からにらみつける。

 

 誰の助けを借りなくても、きっと前に進み続けるであろうもの。フィフス・エリクシル。

 

 誰かが照らしてくれなければ、きっと道を踏み外したであろう男。宮白兵夜。

 

『誰にも支えられなくても、何があっても前に出る者の成果でなければ価値がないとでも言うつもりか? 何様のつもりだ貴様』

 

 真逆の者同士が、真正面から対峙した。

 

 真正面から強者(フィフス)を見返し、弱者(兵夜)は堂々と宣言する。

 

『俺も、ナツミも、久遠も、小雪も、ベルも、イッセーたちも、そして残念だが英雄派のそいつらも、弱い奴なりに血反吐はきながら立ち上がって光に向かって前に進んでんだ。・・・上から目線な強者の基準でモノ言ってんじゃねえ!!』

 

 今ここに、弱者の反撃が宣言される。

 

『倒れてるやつに手を差し伸べもしない奴が、自立も促してない奴が偉そうに吠えるなよ!! 一度叩き潰されて弱い奴の気持ちを知るんだな!!』

 

『叩き潰される側がよく吠えた!! やれるもんならやってみな!!』

 

 フィフスが挑発すると同時に、その背後からエドワードンが現れる。

 

 それらの姿を前にしながら、しかし、リアス・グレモリー達は兵夜に続く。

 

『ええ、そのとおりね。・・・かつて私達は弱かったけれど、それでも前に進んで成果を上げてきた』

 

 消滅の魔力をほとばしらせながら、リアスははっきりと宣言する。

 

『たとえ弱弱しくても、私たち自身が前に進んできた事実は変わらない。・・・さあ、私のかわいい下僕たち!! 高みから見下ろすあの男を、引きずり落としてあげなさい!!』

 

 王者の貫禄を見せつけて、リアスはフィフスに向かい合う。

 

 そして、その言葉に皆が一歩を踏み出した。

 

 その姿をみずに理解して、宮白兵夜はボロボロの体で、しかし雄々しくフィフスを見据える。

 

 その姿に、小雪はどこか憧憬を感じていた。

 

 ・・・負けたと思っていた。

 

 フィフスは誰にも何も言わずに前に進んだという事実に、前に進めなかった自分はやはり負けたのだと思ってしまった。

 

 だが、兵夜は決して負けていない。

 

 弱くても、誰かに支えられながらも、それでも前に進んだ成果は否定させないと、正面からその道に立ちふさがったのだ。

 

 なら、自分たちもそれに続かなくてどうするというのだ。

 

「・・・アザゼル!! とにかくあたしらだけでも行けるようにしろ!!」

 

 だから、急いで声を飛ばす。

 

『おいおい。できない事はないかもしれないが、かなり無茶やらかすことになりかねないぜ?』

 

 アザゼルは説得したいのか危険なことを言ってくる。

 

 実際リスクが高すぎるからいまだに増援を送れないのだろう。そうでなければアザゼルは今の兵夜たちに増援を送らないはずがない。

 

 だが、そんなことは知ったことではない。

 

「惚れた男にここまで言わせて、応えないようで女が語れるか!! 今は男女同権なんだから根性だって同程度必要だってあいつに言っておかねーとな!!」

 

「それは実質同意見ですね」

 

 ベルも、拳を鳴らしながらそれに同意する。

 

「兵夜さまの使いとして、ここで主だけに負担をかけさせるわけにもいきません!!」

 

「使い魔として同意だよっと!!」

 

 ナツミも立ち上がると、速やかにベールフェゴルへと変化する。

 

「・・・ある程度できてるならこっちで調整すりゃ何とかなる! とっとと増援をよこしやがれってな!!」

 

「あら、だったら私も行かせてもらうわよ?」

 

 と、後ろからイリナまでもがやってきた。

 

「幼馴染や親友をここまで痛めつけてくれたんだもの。ミカエルさまのAとして、禍の団を成敗しちゃうんだから!」

 

 天使に使い魔に堕天使と、そうそうたる連合軍が形成される。

 

 ああ、こんなところで観戦している場合ではなかった。

 

 そんな決意が分かっているのか、画面の先の兵夜は、神気すらみせて戦意を高める。

 

『そろそろ第二ラウンドだこの野郎。・・・さあ、聖杯戦争を始めよう!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




意図して書いたわけではないのですが、転生者の敵味方はある対比で出来ております。


味方・・・どっちかというと善だし人間性もあるが、それゆえに転生という孤独に耐えられるず支えを必要とする。

敵・・・どっちかといわなくても悪で人間的にも問題児だが、ゆえに支えがなくても欲求のままに我が道をいく。


本当に意図して書いたわけではないので、自分でも気づいたときはちょっと驚きました。



本当は別に出すつもりも毛頭なかったのですが、D×Dの作品を開拓していったときに、自力で立ち上がれないものを「人生を生きてない」と非難するイッセー改悪SSをみて、ちょっとイラって来たので対比とすることにしました。

1人では立ち上がることのできないものはたくさんいるでしょう。この作品の兵夜たちもその一人です。

だが、他力でようやく立ち上がって前に進める奴は前に進んじゃいけないのか? そのまま倒れ伏してなければいけないのか? 自分が前に進めるからってそこまで言う権利があるのか?

なにより兵藤一誠はそんなことを言う男ではないだろうという想いが、アンチテーゼとしてこの内容を盛り込むことを押さえさせませんでした。

弱いやつでも、支えられながらでも、前に進んで作り上げた結果は誇れるし、罵倒する権利なんて誰にもない。強者の基準で物事を押し付けていいわけがない。

ケイオスワールドはそのスタンスで通し続けることを誓います。










全く別の話だが、こういう時久遠が非常に絡ませずらい。

無理して眷属悪魔にすることなかっただろうか? いや、どっちに転んでも応援にはいくから無理か。ヘルキャット編も大変なことになるし。作品を作るのは難しい。


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紅き龍の王道

最近非常に筆が乗らないせいで遅れてしまいました。

たぶんいろいろと遅れるでしょうがご了承ください


 

「じゃあとっととくたばりやがれこれが!!」

 

 そうフィフスが言い放つと同時に、後ろのエドワードンがミサイルを一斉に放つ。

 

 俺はイーヴィルバレトでそれを撃ち落しながら、次の攻撃を警戒する。

 

「これぞ意気揚々の戦い! 戦いの血と魂が戦を生み出す!!」

 

 と、真正面からバーサーカーが突進する。

 

 たしかバーサーカーの狂化って言語能力に影響が出るんじゃなかったっけ?

 

 などと思うがとりあえず光魔力の槍を正面からたたきつける。

 

「まずはあいつを片づけるわよ! 一斉攻撃!!」

 

 部長たちも突出しているバーサーカーに向かって、一斉に攻撃をぶちかます。

 

 これだけ喰らえば最上級悪魔クラスだろうとただでは済まないはずだが、バーサーカーは平然と突破した。

 

「敵意こそ戦う力な我!! 不滅な我は敵意とともに!!」

 

「ちょっとバーサーカー、しゃべり過ぎよ!!」

 

 レイナーレがツッコミを入れる中、バーサーカーは剣を振り上げて俺に切りかかる。

 

 まあ食らう程バカではないので素早く後退する。

 

 と、その背中に静かに手が置かれた。

 

「・・・油断大敵だな、悪魔よ」

 

 とたん、衝撃が直接体内に叩き込まれる。

 

「ぐ・・・っ!」

 

「我が鎧通のハサンの拳は、衝撃を相手に通す。・・・その程度の鎧など意味がないと知るがいい」

 

 アサシンが後ろから回り込んでやがったか!

 

 ええい、乱戦状態で大量のアサシンとか厄介以外の何物でもない!!

 

 俺は素早く空を飛んで追撃を避けるが、そこにエルトリアが現れた。

 

「あなたも全裸にしてあげるわぁん!!」

 

「気を付けるんだ宮白くん! その女のアーティファクトは相手の衣服を破壊する!!」

 

「しかも誰もが習う初級魔法で、遠距離攻撃が可能だ!!」

 

 木場とゼノヴィアの声に俺は戦慄した。

 

 なにそのイッセーの上位互換!! 久遠のいた世界は大丈夫か!?

 

 っていうかそれどう考えても俺の天敵!!

 

「あ、当たってたまるかぁあああああああああ!!!」

 

 分身まで出して全力でかわす。

 

 せ、戦闘中に全裸なんて意地でも勘弁だ!!

 

 そもそも強化武装の大量運用が基本の俺にとって、武装解除なんて脅威以外の何物でもない!!

 

 逃げる! 全力で逃げる!!

 

 そして逃げた先にはエドワードンがいた。

 

「・・・あ」

 

 は、嵌められた!?

 

 目の前でビーム砲が発射されそうになったその瞬間、俺の体は突然何もないのに引っ張られる。

 

 そのおかげでかろうじて躱せた。危なかった。

 

 と、思った瞬間俺の顔が柔らかいものに埋まる。

 

「兵夜さま! ご無事ですか!?」

 

「べ、ベルか!? いったいどうやってここに!?」

 

 いや、この状況下でぱふぱふされるのはちょっと恥ずかしいんだが!?

 

「ご主人がカッコいいところ見せたたのに黙ってみてるわけにもいかなかったんでな。・・・ベルフェゴールと瞬間移動能力と座標攻撃能力全部使って助けに来たんだよっと!」

 

 後ろからナツミまで抱き付いてきた。

 

 ・・・まて、座標攻撃って小雪のあれだろうけど、あれ反動がひどかったんじゃないだろうか?

 

「あ、小雪から伝言。『ファックなことにここまでだから、あたしの分までフィフスをボコれ』だってさ」

 

 小雪ぃいいいいいいいいい!! ありがたいけど無茶しやがってぇええええええ!!

 

 だ、だがこれで戦力は増えた!! これならいけるか!?

 

「なかなか面白いことになってるわねぇん! あなたも向いてあげるわぁん!!」

 

 は! 気を取られていたら後ろからエルトリアが猟犬を連れてこっちに来やがった!!

 

 ナツミがターゲットにされている!?

 

「に、逃げろナツミ!!」

 

「え? なんで?」

 

 全裸にされるからに決まってるだろうがぁあああああああ!!

 

 ツッコミを入れるより早く、エルトリアが武装解除を行う。

 

 まずい!? ナツミが裸に―

 

「だから大丈夫だって」

 

 ―ならない!?

 

「この状態なら肌と一体になってるようなもんだから、脱ぎようがないもん」

 

「「なんと!?」」

 

 思わずエルトリアと一緒に驚愕してしまった。

 

 それ服じゃなくて毛皮ってことか! なるほど、それなら脱げない。

 

「そゆことだから、兵夜はベルと一緒にほか行って! こっちは―」

 

 いうと、ナツミはベールフェゴルからグレゴリーへと変化する。

 

 全身の宝石が光り輝き、エルトリアが放った魔力攻撃を全弾撃ち落とした。

 

「・・・この裸族の相手をしっかり務めておくからよぉ!!」

 

 マジで頼れるぜ俺の女は!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは、どこだ?

 

 ふと気づくと、暗闇の中にいるみたいだった。

 

 何とかしなくちゃいけないとは思っても、どうしてもたちがる気になれなかった。

 

 ・・・なんで、あんなタイミングでレイナーレが出てくるんだよ。

 

 もう終わったことだと思ったのに、過去が全力で追いすがってきやがった。

 

 今更になってようやく気付いた。

 

 俺は、女性と恋愛関係になるのが怖いんだ。

 

 騙されるのが怖い。掌返しされるのが怖い。デートしててもつまらないと思ってるんじゃないかって思ってしまって怖い。アプローチしてくるのが実はただからかってるんじゃないかって思ってしまって怖い。

 

 なにより、自分が嫌われてるんじゃないかって思ってしまって怖い。

 

 情けない話だよ。誰よりも女体を求めてる俺が、実は女のこと仲良くなるのが怖いだなんて。

 

 ・・・初めての彼女だったんだ。初めてのデートだったんだ。生まれて初めての恋愛だったんだ。

 

 だけど、全部嘘っぱちで、本心からつまらないといわれて、そしてアーシアにひどいことして、俺もアーシアも一度はあいつのせいで死んで。それで部長に殺されて、それで終わりだと思ってた。

 

 だから、まだ生きてることを知って怖くて怖くてたまらない。

 

 あの顔を見るだけで思い出す。

 

 あの声を聞くだけで思い出す。

 

 ・・・俺は、弱い。

 

 そういう意味じゃフィフスの言うとおりだ。

 

 ハーレム王になれると聞かされて頑張ってる時点で、あいつの言う通り俺は弱いんだろう。

 

 それが子供のヒーローだなんて笑わせる。そんなんだからレイナーレにあっさりやられるんだ。

 

 気づけば、宮白たちがフィフスたちと全力で戦っていた。

 

 だけど、俺はとてもそんな気にならない。

 

 おれなんかが頑張ったって、結局何にもなりはしないんじゃないかって思ってしまう。

 

『らちが明かないわね。とりあえず、前の因縁だけは終わらせてもらおうかしら』

 

 戦闘にいらだったレイナーレが、光の槍を俺に向かって投げつける。

 

 あれを喰らえば、楽になるんだろうかと思ってしまう。

 

 いや、きっと楽になれるだろう。

 

 こんな弱い俺が至って、きっと何にもならないのだから。

 

 そう思ったとき、目の前に立ちふさがる人影があった。

 

『やらせん!!』

 

 ゼノヴィアが、エクスデュランダルで光の槍を迎え撃つ。

 

 拮抗した攻撃は爆発して、悪魔であるゼノヴィアの体を痛めつけたけど、それでもゼノヴィアが迎撃しきった。

 

『邪魔しないでくれるかしら? そうすれば楽に殺してあげるわよ?』

 

『バカげたことを。どこの世の中に惚れた男をむざむざ殺させる女がいる』

 

 ダメージでふらつきながらも、ゼノヴィアはしっかりとエクスデュランダルの切っ先をレイナーレに向ける。

 

 そして、向けられたレイナーレに消滅の魔力と雷光が叩き込まれる。

 

『自分の不始末でイッセーを殺させたりはしないわ!!』

 

『そう好きにはさせませんわよ!!』

 

 部長と朱乃さんが放つ攻撃を、しかしレイナーレはやすやすと翼で弾き飛ばした。

 

 弾き飛ばされた魔力が部長たちを襲うけど、部長たちは自分たちの体を楯にして俺を守る。

 

 やめてくれ!

 

 おれなんかのために部長たちが傷つくことなんてない!!

 

『・・・隙あり』

 

 そんな部長たちに注意を向けていたレイナーレは、後ろから襲い掛かってきた小猫ちゃんの攻撃をあわててかわす。

 

 それで攻撃が止まったタイミングで、アーシアが部長たちを回復させた。

 

『しぶといわね。・・・ええ、本当に面倒だわ』

 

『当然でしょう? なんであなたたちにやさしくしなければならないのかしら』

 

 にらみ合う部長たちとレイナーレ。

 

 その時、ふとレイナーレが苦笑した。

 

『そんな弱い赤龍帝がそんなに大事なのかしら? ・・・探せばもっといい男がいくらでもいると思うけれど』

 

 ・・・っ。

 

 そう、だよな。

 

 部長たちはみんないい女だし、探せばもっといい男がいっぱいいるはずだ。

 

 そんな部長たちをハーレムに加えたいとか、俺って本当に情けない―。

 

『フィフスにしてもあなたにしても、男を見る目がないようね』

 

 え?

 

『イッセーは確かにスケベで、そしてフィフスの言う通りハーレムを作る努力が足りなかったのかもしれない。・・・だけど、それは決して弱いなんてことにはならないわ』

 

 部長はボロボロになった服で、だけど威厳を損なわない。

 

『そうですわね。人を本質で見るその心は、決してあなた方には理解できないでしょうし、評価できないのも仕方がありませんわね』

 

 朱乃さんが、レイナーレをあざけるようにそういいながら、倒れたままの俺の体を抱き寄せる。

 

『うむ。そして仲間のためならばミカエル様にも直談判するその強さ。これが弱いなどと笑わせるな』

 

 デュランダルを構えながら、ゼノヴィアも決して逃げ出さない。

 

『イッセー先輩の強さは、あなたたちの思う強さとは全くの別物です。・・・私たちは、そんな強さがほしい』

 

 猫又モードを展開しながら、子猫ちゃんも俺に仙術をかける。

 

『レイナーレさま。私たちは、あなたたちが求めるものとは別の道を進んでいます』

 

 そして癒しの力をかけながら、アーシアが俺を抱き寄せた。

 

『そしてその先にいるのが、イッセーさんなんです』

 

 ・・・皆。

 

『どうしたイッセー!! ここまで言われてまだ倒れてんのかお前は!!』

 

 エドワードンの攻撃をさばきながら、宮白が俺に向かって声を張り上げる。

 

『お前にはお前の強さがあるだろう。弱くても、まっすぐにものを見て、止まりながらもしっかり進んできたお前の強さは、決して嘘をつかないはずだ!!』

 

 よそ見をしながらだから攻撃を喰らいつつも、だけど宮白は俺に声をかけ続ける。

 

『俺が強いのはお前が強いからだ。俺が信じるお前の強さ、その盲目どもに見せてやれ!!』

 

 ・・・俺を、信じてくれるのか?

 

『そうだ! イッセーくんは決して弱くなんかない!!』

 

『イッセー先輩がの強さがあったから、僕達はここまでやってこれました!!』

 

 木場・・・ギャスパー・・・っ!!

 

『どうしたのだ兵藤一誠。お前を待つものがこんなにいるんだぞ?』

 

 フィフスと真っ向から打ち合いながら、サイラオーグさんが静かに声をかける。

 

『立って見せろ。お前は、冥界の期待を背負うだけの男だろう?』

 

 俺は・・・俺は・・・俺は!!

 

 見れば、俺の目の前に歴代赤龍帝の姿があった。

 

「待っているぞ、覇を見せる時が来た」

 

「そうだ、あの堕天使を破壊するのだ」

 

「天龍を軽んじるあいつらに、真の力を見せる時が来た」

 

 ・・・なるほど。どうやら俺が覇龍を使うと思ってるのか。

 

「・・・すっこんでろ」

 

 ハッキリ言ってやると、目の前の歴代たちは目を見開いた。

 

「なんだと?」

 

「あんな力で勝ったって、俺が強いなんて話にゃなんねえよ。俺が使うのは、もっと違う力だろうが」

 

 そう、俺が使うのは覇の力なんかじゃない。

 

 あほなことをいって成仏していった二人を思い出す。

 

 そう、俺は覇と違う形で赤龍帝の力を引き出すと誓ったはずだ。

 

 フィフスの強さは覇の強さだ。俺はそう思う。

 

 だから、フィフスに弱いといわれることは別に何の問題もないんだ。

 

 俺は、あいつとは違う強さで戦わなきゃいけないんだから。

 

「俺が戦うのはいつだっておっぱいの力だ。エロでスケベでいやらしくて、だけど、だから俺はここまでやってこれた」

 

 そして、そんな俺のことを皆は大好きだって言ってくれる。

 

 今でもちょっと不安だけど、だけどもう迷わない。

 

 ・・・待っててくれ、部長、アーシア、朱乃さん、子猫ちゃん、ゼノヴィア!!

 

「行くぜぇえええええ!! 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)、オーバーブースト!!」

 

 今なら言える。

 

 俺は、みんなが大好きだ!!

 

「そんな馬鹿な! 赤龍帝の力は覇の力だ!! 覇道でない天龍など―」

 

「勘違いしてんじゃねえよ先代!!」

 

 どうにも勘違いしてるやつらが多いから、俺ははっきりと言ってやる。

 

 俺は覇じゃない。天龍なんてたいそうなもんじゃない。

 

 そうー

 

「俺は乳龍帝おっぱいドラゴン! 子供の夢と素敵なオッパイを守る、いやらしい龍の帝王だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




次回、 イッセー復活!!




レイナーレを絡ませてイッセーの負の側面を爆発させたので、復活は同じぐらい劇的にしてみました。仲間の声を受けて立ち上がる主人公って燃えません?


周りを利用し上り詰めていく個の力で戦うフィフスに対し、仲間と肩を支え合って這い上がっていくのがイッセーということです。


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三宝、覚醒です

レイナーレに並ぶ屈指の魔改造が、今、ここに!!


「面倒極まりないんだよ、サイラオーグ・バアル!!」

 

 高速での打ち合いをしていたフィフスがそういった瞬間、サイラオーグ・バアルの動きが一瞬止まる。

 

 なんだ?

 

 視線を向ければ、彼の腕にめり込むように、小さな玉がたたきつけられていた。

 

 指弾か!? だがあのサイズであそこまでの威力があるわけが―

 

「気の流れが乱れています! あれですぐには動けません!!」

 

 子猫ちゃんが声を張り上げる。

 

 おいおい、それってまずくないか?

 

 その嫌な予感を的中させるかのごとく、フィフスが彼の体に手を当てる。

 

「組成分解。万物は塵へと返る!!」

 

 魔術詠唱! まずい!!

 

 とっさに割って入ろうとするが、それより早くサイラオーグ・バアルの体が破裂したかのように血をまき散らす。

 

「ぐぉ・・・っ!?」

 

 さすがにダメージがひどいのか、サイラオーグ・バアルが倒れ伏す。

 

 俺は何とか割って入って距離を作るが、これはまずいぞ!?

 

「錬金術の応用による細胞破壊か!?」

 

「そういうことだ。一応魔術師として魔術による攻撃手段ぐらい作ってるってね」

 

 得意げにフィフスがそういってくるが、マジ最悪な攻撃手段がありやがるな、オイ。

 

 打撃技が非常に強い挙句、組技などでこれをされたら生身の連中なら即死だってあり得るぞ。

 

 くそ! アーシアちゃんは一体どこに―

 

 と、視線をイッセーの方に向けた瞬間、閃光が放たれた。

 

 紅い輝きは力強く、その近くにいた部長たちすら包み込む。

 

 な、なんだ一体!?

 

 その光景にその場にいた全員が度肝を抜かれる中、紅の中に白い輝きが映り込んだ。

 

『・・・大丈夫、彼は今から復活するよ』

 

 聞き覚えのない声だが歴代赤龍帝の関係者か誰かか?

 

『僕は彼が取り込んだ白龍皇の力に宿った残留思念だ。今は乳龍帝が忙しいから親切で声をかけている』

 

 白龍皇の残留思念!?

 

 っていうか乳龍帝って! あんた今シリアスな展開なんですけど!?

 

 俺としては思いっきりツッコミを入れたかったが、残念だがそれどころではない。

 

 正直どう反応していいのかすらわからない状況下で、白龍皇はさらにとんでもないことを言い放つ。

 

『―さあ、覇を捨て去った新しい天龍の目覚めの時だ』

 

 その瞬間、イッセーの体からさらにオーラが放出される。

 

『BustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBust!!!』

 

 オイちょっと待て。その音声どうよ?

 

「・・・頼むからもうちょっとまじめにやれよこのクソ雑魚ドラゴンがあああああああああ!!!」

 

 フィフスが天を仰いで絶叫するが、だが仕方がないといえば仕方がない。

 

 なんたって、あいつはおっぱいドラゴンだからな!!

 

 と、光に包まれていた部長たちのおっぱいが一斉に共鳴するかのように輝いた!!

 

「いやぁん!?」

 

「む!? これがイッセーのおっぱいパワーアップか!」

 

「あらあら。ついに私もなるんですのね」

 

「・・・なぐるのは我慢」

 

「イッセーさん!」

 

 口々にみんな反応するが、しかしこれはどうにかならなかったのだろうか?

 

 と、などと思っている間に輝きが強くなり、イッセーに向かって収束していく。

 

「・・・悪い皆。またせちまったな」

 

 そして、イッセーが立ち上がった。

 

「もう大丈夫! 俺が、なんとかする!!」

 

 待たせてんじゃねえよ、この野郎!!

 

「イッセー! もういいのか?」

 

「ああ。こっから先は、俺たちのターンだ!!」

 

 俺の問いかけにも元気よく答えるイッセー。

 

 ああ、ついに復活しやがったか!!

 

 さあ、こっから先が本番だぜ、フィフス!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィフスが俺に、化け物でも見るかのような視線を向けてくる。

 

「・・・本当にうざいよお前。薄っぺらいくせにわけのわからない理屈でポンポンと立ち上がりやがって。・・・本当に、死ね」

 

 いうが早いか、一瞬で踏み込んで俺に迫る。

 

 すでに滅龍魔法もしっかり発動させていて、殺す気満々の攻撃だ。

 

 だけどなめんじゃねえ。

 

 今の俺は、さっきまでとは一味違うぜ!!

 

「我は万物と渡り合う龍の豪傑なり!!」

 

 いうが早いか、俺の全身から赤いオーラがあふれ出す。

 

 そのオーラをまとったまま、俺はフィフスのこぶしを受け止めた。

 

「―っ!? 固い・・・いや、受け止められる!?」

 

 衝撃を吸収されて、フィフスが舌打ちする。

 

 いや、ダメージが入ってないわけじゃない。滅龍魔法の炎はしっかりと俺の体を焼いている。そこまでは防ぎきれてない

 

 だけど、こぶしの攻撃力は完ぺきに防いだ。それだけの出力がこのオーラにはある。

 

 そして、オーラはフィフスのこぶしを焼いていく。

 

「攻性の防御フィールドか!? 面倒な能力を!!」

 

「そういうこった!!」

 

 顔面狙いでこぶしを叩きつけようとするが、フィフスは素早くのけぞるとそのままかわして、飛び退く。

 

 これが、俺の新しい力の()()神罰を薙ぎ払う龍の豪傑(クリムゾン・フィールド・ウォリアー)!!

 

 龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)の進化形態。装甲が追加されるせいで重くなる以前の形態から発展し、敵にダメージを与える攻撃力をもったエネルギーフィールドで攻撃力と防御力を追加する新形態だ。

 

 だから機動力は低下しないので、このまま接近して追い打ちを変えることもできる。

 

 灼熱を身にまとってフィフスを相手に、オーラを身にまとってい連続で打ち合える形態だ。

 

「・・・倒せはするが面倒だな。ここはホームらしく数の利を生かすとするか!!」

 

 フィフスが指を鳴らすと、ディオドラの時に出てきたでかい砲台や、ビーム砲のついた戦車がポンポンあらわれる。

 

 あらら。まだこんなに戦力残ってたのかよ。

 

 しかも混戦状態の俺たちを囲むようにあらわれやがった。

 

 この野郎、味方ごと巻き込む気か!

 

「ホムンクルスもただじゃないが、お前ら相手なら安い買い物か。・・・反撃するなら構わないが、味方を巻き込んじまうかもなぁ!!」

 

 さすが悪役、マジ卑怯な手段を!!

 

 だが、今の俺には通用しないんだよ!!

 

「我は万物を灰塵と化す龍の賢者なり!!」

 

 オーラが止まり、鎧に新たなパーツが接続される。

 

 それは、京都でつかったキャノン砲。

 

 だけど、それだけに終わらない。

 

 同時に両腕も輝き、巨大なガトリングガンが形成される。

 

神すら撃ちぬく龍の賢者(クリムゾン・ブラスター・ワイズマン)!!」

 

 いうが早いか、俺はガトリングガンを手当たり次第に発射する!!

 

「え、ちょ!? イッセーストップ!?」

 

「おま、ちょっと待て!?」

 

 ナツミちゃんと宮白があわてるけど、その辺は何の心配もない。

 

 ガードが間に合わなかった二人をすり抜けて、弾丸は戦車をあっという間に破壊していく。

 

 さらにキャノン砲からもビームをぶっ放し、こちらも味方をすり抜けて歩く砲台を一気にぶち抜いていく。

 

「て、敵味方識別能力だと!?」

 

 フィフスが目を見開いて驚愕する。

 

 そう、神すら撃ち抜く龍の賢者の弱点克服は二つ。

 

 一つはガトリングガンの弾幕を使うことによる連射速度の低さを補う自衛能力。

 

 もう一つは、味方すら巻き込みかねない広範囲攻撃の安全を確保する。敵味方識別能力だ。

 

 俺が味方と思っている連中には、この状態の砲撃は一切通用しない。そういう能力が追加されてるんだよ!!

 

「チッ! 止めなさい、バーサーカー!!」

 

 レイナーレが指示をだし、バーサーカーが血まみれだと勘違いするぐらい真っ赤な体で突進する。

 

「強大な戦いも我には無意味! 敵意が我に戦いを続く!!」

 

 うん。相手したくないね。

 

 そういえば宮白が言ってたっけ。

 

 サーヴァントは単独行動スキルがなければマスターが必須だから、マスターを狙うのが基本戦術だって。

 

 じゃ、俺もそうしよっかな

 

「我は万物を引き離す龍の聖騎士なり!!」

 

 詠唱と同時に、武装が分解されて今度はブースターに変化する。

 

 鎧はパージされないけど、その分出力がはるかに上昇したこのスラスターなら、バーサーカーの速さなら簡単に引き離せる!!

 

「かっ飛ばすぜ! 神速で駆ける龍の聖騎士(クリムゾン・ソニック・ゲオルギウス!!)

 

 文字通り一瞬でバーサーカーを引き離す。

 

 狙うは本丸!!

 

「レイナーレぇえええええ!!」

 

「ちっ! 面倒な元カレね本当に!!」

 

 レイナーレもスラスターを展開すると、俺たちは超高速でぶつかり合う。

 

 さあ、決着つけようか、レイナーレ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィフス・エリクシルは心から舌打ちした。

 

 実に心から腹立たしい相手が復活してしまった。

 

 初めて会ったときは、警戒には値するがその程度だと思っていた。

 

 生まれて十年以上たっているのにもかかわらず、最近になってようやく覚醒した程度の弱い赤龍帝。間違いなく、記録上ここまで目覚めるのが遅かった二天龍は存在しない。

 

 なにより、ハーレムを目指しているといいながらその努力は大したことがないと言わざるを得ない。意志力の勝負になれば間違いなく歴代どころか全神滅具使いのなかでも最低基準の弱さだと確信した。

 

 仲間の為なら犠牲をいとわないその精神性は逆転の目を生んではいるが、不完全な禁手なら自分でも十分勝算はある。ヴァーリと戦って勝てるはずがない。どう高く見積もっても歴代最弱の称号は免れない。ちゃんと警戒していれば一矢報いられることもない程度の相手ではあった。

 

 だが、あの男は初戦でヴァーリを追い込んだ。

 

 覇龍すら使えないほどに叩きのめされたヴァーリが油断していたのは事実だが、しかしあの展開は間違いなく想定外だ。

 

 乳が小さくなると聞いて戦闘能力が向上する二天龍など聞いたことがない。

 

 ゆえに、撃破できると思ったタイミングではかなり全力をもって撃破を狙ってきている。

 

 過剰戦力を投入してきたこともあったし、数ある強化プランの中から滅龍魔法を選んだのだって、このわけのわからない成長率を持つ兵藤一誠を倒すためだ。

 

 心身共に歴代最弱でありながら、わけのわからない突破力をもつ兵藤一誠に対し、警戒を怠ったことなど一度としてない。

 

 この突然の事態においても、レイナーレの強化が間に合ったことで最も優位に行動できたはずだ。実際、兵藤一誠はその薄っぺらさをはっきりと示して倒れ伏した。

 

 それがなぜこうなった?

 

「なんなんだあの男は・・・っ!」

 

 腹立たしさを拳を握ることで現したフィフスの前に、人影が立つ。

 

 素早く意識を切り替えて視線を向ければ、そこには血まみれになったサイラオーグの姿があった。

 

 目はうつろ。明らかに意識がはっきりとしていないのがまるわかりだ。

 

 ・・・冷静に考えれば、この男も最上級の脅威になりかねないのは変わりない。

 

 ここで仕留めておくのが最良かと判断し、しかしフィフスは動きを止める。

 

 ・・・サイラオーグ・バアルの隣に、透けた人影が寄り添っていた。

 

 生霊の類と判断できるが、このタイミングで登場にフィフスは虚を突かれる。

 

「・・・ちなさい」

 

 その生霊は、決してやさしい言葉をかけたりはしなかった。

 

「立ちなさいサイラオーグ! 今この場で、あなたが立たずにどうするのです!!」

 

 その人影は叱咤していた。

 

「今眷属が、血を分けた家族が、並び立つ仲間が戦っているというときに、あなたが戦わずしてどうするのです!!」

 

 さすがにスパルタではないだろうかと正直本気で思っている。

 

 あの技は決まれば勝てるといっても過言ではない、フィフスの技の中でも対人必殺性に優れた奥の手だ。これまでの体制側との戦いでも、多くの敵を屠ってきた。

 

 神経に攻撃を与えるハサンの攻撃によって生じた隙を突いたおかげで完璧に決まっている。はっきり言って死んでないのが脅威といっても過言ではない。

 

 正直少し同情しているが、それがよくなかった。

 

「あなたがここで倒れれば、あなたの進む道を信じてすすんできたものたちはどうなるのですか! あなたのいのちはもう、あなただけの物ではないのです!!」

 

 女性の叱咤は、確かにサイラオーグに届いていた。

 

 少しずつ、確実に力が入っていく。

 

 それに危険を感じて動こうとするが、一歩遅かった。

 

「・・・貴方は勝てると、信じていますよ。・・・立ちなさい、サイラオーグ」

 

「ぅ・・・ぉおおおおおおおおお!!!」

 

 灼熱をまとった拳を、サイラオーグは間一髪受け止める。

 

 衝撃破だけで要塞すら砕きかねない拳を、しかし揺らぐことなく受け止めきった。

 

「俺は・・・負けん! 冥界にあだなすお前たちは、俺が必ず倒す!!」

 

「舐めるな筋肉達磨!! 今のお前がどうやって俺を倒す!!」

 

 フィフスの余裕は正しい判断であった。

 

 身体能力の差は滅龍魔法で克服している。

 

 技量においては年季の差ゆえにこちらが上だ。

 

 そして消耗においては間違いなくこちらがはるかに少ないのだ。

 

 そして、さらにその上を行くべくフィフスは命ずる。

 

「火炎弾投入!!」

 

 魔力を込めた音声に、要塞のシステムが起動する。

 

 そこかしこから穴が開き、火炎瓶が投入される。

 

 瞬くまに部屋中が炎で埋まり、そしてそれはフィフスにとって最高の戦場へと変化したことを意味する。

 

 炎を喰らい、炎をまとい、炎龍と化す火の滅龍魔法使い。フィフス・エリクシルの本領が発揮された。

 

「前回と一緒にするなよ大王子息! 今回は完全にこちらのホーム! ボロボロのお前がどうやって勝てる!?」

 

 それは、間違いなく事実だった。

 

 今のフィフスは文字通り神とも殴り合える。それだけの戦闘能力を発揮できた。

 

 だが、一つだけ失念していることがある。

 

「・・・あのルールでは使いようがなかった、もう一つの奥の手を貴様に見せよう。レグルス!!」

 

「承知!!」

 

 サイラオーグの命に従い、獅子王の戦斧が舞い上がる。

 

 重力に従いサイラオーグの元に降り立つと同時、2人の体が閃光へと包まれた。

 

禁手化(バランス・ブレイク)ゥウウウウウウッ!!」

 

 獅子がその身を鎧へと変化させる。

 

 大王の体を包み、そしてその肉体をより強靭に。

 

 それを見た瞬間にフィフスは悟った。

 

 この魔力を持たぬ大王は、魔力などよりはるかに強大な力をすでに手にしていたのだと。

 

獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)禁手(バランス・ブレイク)獅子王の獣皮(レグルス・レイ・レザー・レックス)!! これが、俺の奥の手だ」

 

「完璧に独立している神器で禁手に至るか。・・・つくづく最近の神滅具はイレギュラーが多いなこれが」

 

 頬を引くつかせながら、フィフスはしかし下がらない。

 

 今更神滅具の禁手風情でビビるつもりは毛頭ない。

 

 必要とあるならば、神すらこの手で殺すと誓っているのだ。

 

「来いよ大王。龍を屠る魔法の使い手が、今更魔王風情にビビルとでも?」

 

「なら向かおう。フィフス・エリクシル・・・貴様を、冥界の脅威と認定する!!」

 

 火龍と獅子が、今ここに相対する。

 

 今この場において、最も苛烈な肉弾戦が展開された。

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 




はい、イッセーのパワーアップは真女王ではありません。



いや、これは結構最近まで悩んでたんですが、真女王が出てからトリアイナって影が薄いじゃないですか?

それについていろいろと思うところがあったんですが、最新刊のイッセーのパワーアップの形式も考えて、ちょっとイッセーを魔改造しようと決意しまして、思い切ってここから変えていくことにしました。

今回の形態はわかりやすく言うと「特化形態を上位にした」です。ちなみにこれ以降イッセーは当面の間女王にプロモーションできなくなります。

基本的には長所を伸ばしつつ欠点をフォローする形に。イッセーて基本的にド直球タイプなので全方位万能形態よりこういったほうが相性いいような気もしまして。

四章以降も切り札として使っていける万能タイプとして活躍させていくつもりなので、そのあたりも意識していただけると嬉しいです。


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赤龍帝、再覚醒です!!

ちょっと短めですが区切りがいいので。


 

 全く、今までも大規模な戦闘は多かったが、今回も相当に激しいな、オイ!!

 

『爆裂雷雨、バラマクゼーミサイル!!』

 

 合成音声とともに発射される大量のミサイルを片っ端から撃ち落とす。

 

 いい加減イーヴィルバレトの弾丸が一割ぐらい消耗されてるんだが、勘弁してくれないだろうか?

 

 と、思った瞬間にエドワードンが真上から降下してくる。

 

 振り下ろされるビームブレードを飛び退って回避するが、内蔵されたマシンガンがこっちを狙って乱射された。

 

「対弾装甲版もいい加減四分の一は使ってんだが、オイ!!」

 

 乱戦状態すぎてマジで面倒だ。さすがにこの人数だと数のさが激しいな。

 

「なかなか面白いことになってきてるわねぇん! だけど私もまだまだ戦えるのよぉん!!」

 

 真上から、、エルトリアが莫大な魔力を込めた砲撃をぶちかます。

 

 いい加減要塞の隔壁も穴だらけだが、もうぶっ壊す気満々になってるのだろうか?

 

「上等だこの野郎!! 相手が悪魔なら俺の独壇場だ!!」

 

 なめプに腹が立って手を抜いたサイラオーグ戦とはわけが違う。

 

 実戦においてまで手を抜く趣味はこちらにはない。

 

 聖水を利用した命中範囲の広い高出力噴霧攻撃。

 

 特殊精製した聖剣を利用した特殊能力満載のアーバレスト。

 

 聖別された銀をコーティングした対悪魔弾丸。

 

 そして光魔力の光の槍。

 

 対悪魔用の遠距離攻撃を全部乗せで、まとめて一気に叩き込む!!

 

 一瞬で莫大な攻撃がこうして、余波で周辺が一気に崩壊する。

 

 そんな中、エルトリアは全身に魔力障壁を張って防ぎ切った。

 

 チッ! 神格化が使えれば何とかなるのに!

 

 今のままでは何とかならない。何とからないから―

 

「―ベル!! 決めろ!!」

 

「実質了解しました!!」

 

 ―仲間の力を借りるしかない!!

 

 狙うのは、はじかれた聖剣全部。

 

 そう、それはかつてのコカビエル戦で使った戦法。

 

「まとめて一気に喰らいなさい!!」

 

 念動力で制御された聖剣が、再びエルトリアに殺到する!

 

 それは障壁にぶつかってお互いを消滅させようと火花を散らす。

 

「あまいわよぉん!! この程度で私の障壁は破れないわぁん!!」

 

「だったらおまけだ!!」

 

 俺はワイヤーを召喚し聖剣につなげる。

 

聖剣最大強化(ブーストアップバースト)!!」

 

 最大出力で強化された聖剣が、障壁と対消滅を起こし砕け散る。

 

 その発生した隙を、ベルは逃がさない。

 

禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

 一瞬で近未来的な戦闘装束へと変化したベルが、瞬く間にエルトリアに接近する。

 

 ベルの禁手の能力は極めて単純。

 

 短時間だけ戦闘能力を桁違いに強化する必殺形態。

 

 明確な隙ができたこの状況下、対処できるわけがない。

 

「ちょ、ま、早!?」

 

 一瞬で連続コンボを喰らったエルトリアは、そのまま地面へとたたきつけられる。

 

「ベル、とどめだ。・・・他者強化(ブーストアップ)

 

「了解しました兵夜さま!!」

 

 なんか満面の笑顔を浮かべたベルの念動力を喰らい、エルトリアは悲鳴すら上げずに隔壁をぶち抜いてたたきつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正直自分の動きを把握するのも厄介だ。

 

 それだけの超高速戦闘を行いながら、俺とレイナーレは剣をぶつけ合う。

 

 あまりの速さに誰にも介入できない超高速域で、俺たちは激戦をぶつけ合った。

 

「本当に面倒ねあなたは!」

 

 レイナーレは舌打ちをしながら、俺の攻撃をさばいていく。

 

「あなたの始末を命令されてから、私は危うく死ぬところだったわ!! いい加減死んでくれないかしら、この疫病神!!」

 

「うるっせえ!! 自分が取り立てられたいからってアーシアを一度殺した癖に、偉そうなことを言ってんじゃねえ!!」

 

 俺は言い返しながら、しかし結構苦戦していた。

 

 なりたててまだ慣れてない俺と比べて、レイナーレは何度も練習してきたのか慣れがある。

 

 そのせいで、どうしても一撃を叩き込めない。

 

 それに、それ以上に俺の調子も悪い。

 

「怖いんでしょう? 震えてるわよ? おびえてるわよ? そんな状態で私を倒すことができるのかしら!?」

 

 ああ、そうだよ。

 

 俺は今でもあんたが怖い。

 

 あんたを見るだけであの恐怖が思い出されて、油断すると本当に震えそうになる。

 

 それが足かせになって、この戦いは押されている。

 

 アスカロンでチェーンソーをはじき返しながらも、そのうちあいはやはりあいつの方が有利だ。

 

 そして、あいつは光の槍との二刀流で挑みながら、俺を翻弄する。

 

「もう私はあの頃の私じゃない。貴方に負ける通りなんて存在しないのよ!!」

 

 高速での戦闘を制したレイナーレの槍が、俺の太ももに突き刺さる。

 

 前にも思ったけどほんとに痛ぇ!!

 

 だけど―

 

「捕まえたぜ、レイナーレ!!」

 

 その場で両腕をつかんで拘束する。

 

 ああ、この瞬間を待っていた!!

 

「ま、このクソガキ・・・っ!!」

 

「レイナーレ。あんたに殺された俺は本当に弱かった」

 

 ああ、本当に強くなったよお前は。

 

 昔のお前があんたぐらいの強さだったら、きっと俺が勝つなんて不可能だった。

 

 だけど! みんなはこんな俺を信じてくれてるんだ!!

 

 おれを愛してくれてるんだ!!

 

 今、それがはっきりと分かった。だから俺はここまで来れた。

 

 だったら、いつまでもお前にビビってるようじゃいけないんだよ!!

 

「だから、あんたを倒して、そのうえで堂々と部長たちと添い遂げる!! あんたを今度こそ確かに倒してこそ、俺は胸張って部長たちを愛してるって言えるからな!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 最大出力までチャージされたドラゴンショットを、頭部から一気にぶっ放す。

 

「あんた、自分も巻き込まれる気―」

 

「とりあえず、あんたは今ぶっ倒れてろ!!」

 

 ここで倒せるなんて思っちゃいない。きっともっと時間をかけてケリをつける内容なんだろう。

 

 だけど、それでも今日この場でこれ以上好きにはさせない。

 

「俺の仲間に手は出させないぜぇえええええ!!」

 

 まとめて自爆で吹っ飛びながら、だけど俺は負ける気がしなかった。

 

 俺の仲間が、この程度やられるわけがないからな!!

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと短めでしたが区切りがよかったので。









あ、レイナーレはまだ退場させません。型月とネギましか出してませんしね。

彼女はケイオスワールドにおけるイッセーのライバルキャラです。少なくとも第四章までは引っ張り続けますよ?


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獅子王VS錬金術師

たぶん、D×D二次創作でもそうはない展開です。











・・・一話丸ごとサイラオーグ編!!


Other Side

 

 

 この超常の技術が乱れ飛ぶ戦いの中で、自分たちの戦闘が一番地味だと、サイラオーグはよく理解していた。

 

 自分は黄金に輝く獅子を模した鎧をまとっているし、敵も流に連なる炎をまとっているが、その動きはいささか激しさに劣る。

 

 相手の隙を伺い、陽動のための偽りの隙を作り、隙ができたのならば速やかに封じる。

 

 そしてそれらの合間に散発的に拳が飛び、まともに喰らえば即死レベルの一撃を素早くさばく。

 

 人間的には認めるわけにはいかないが、しかしその強さには一定の敬意を向けざるを得ない。フィフス・エリクシルはある意味で自分好みの強者だ。

 

 堕天使としての力量はそう高くはないだろう。魔術師としても戦闘能力は決して高い部類ではない。フィフス・エリクシルの先天的才能は戦闘職としては問題のあるレベルだった。

 

 その状態から、ここまでの領域へと高めた努力と研鑽と研究は、今の冥界に足りないものだ。

 

 その拳は迷いないまっすぐな思いがあるものだけが放つことのできるものであり、その眼は何物にも負けないとする強固な意志がある。

 

 強さとは、様々な意味があるものだ。そして、彼は一つの意味では間違いなく強者だ。

 

 彼の理論で強さを図るものから見れば、フィフス・エリクシルはこの場の誰よりも強いのだろう。それをサイラオーグは素直に認めた。

 

 例え生まれが劣悪であろうとも、強い夢を持ち絶え間ぬ研鑽をつんで結果を出してその道を進んでいく。

 

 ああ、間違いなくこの男は強い男だ。

 

 だが、それは自分の求める強さとは違う。

 

 彼の強さは蹴落とす強さだ。

 

 すり寄ってくる連中から逆にすい尽くし、お互いに利用し合って必要とあらば切り捨てる。孤独なただ一人の求道に過ぎない。

 

 サイラオーグが求める未来は、結果を出せばだれもが認められる社会。それは評価をされずに苦しむものたちへの救いの手でもある。

 

 彼は救いの手など伸ばさない。倒れて立ち上がらないのなら、それまでだと見切りをつけるだけだ。

 

 似ているようで全く違う。見るべき向きが相反している。

 

 ゆえに・・・

 

「俺たちは、お前のその求道を破壊する!!」

 

「ほざくな脳筋!!」

 

 正面から拳と拳がぶつかり合う。

 

 本来なら、出力でなら上回っているだろう。

 

 だが、それをどうにかしてこその真の強者。

 

 フィフス・エリクシルの出力は寄り強大に高まっていた。

 

 たとえ万全の状態だとしても、今のフィフスを突破するのは困難だろう。

 

「この空間なら俺は文字通り桁が違う!! 奥の手を切るタイミングを間違えた自分を恨みやがれぇ!!」

 

 灼熱をまとった拳と打ち合いながら、サイラオーグは少しずつ押され始めていた。

 

 普通、物事には相性というものが存在する。

 

 ライオンとシャチのどっちが強いかなどという質問は的外れだ。そもそも同じ土俵に立つことが不可能なのだから、土俵に立った者が勝つだろう。

 

 ホームかアウェイか。リーチがあっているか。属性があっているか。物事はそんなことがよくあるものだ。

 

 フィフス・エリクシルはそれをよく知っている。

 

 フィフス・エリクシルは火を力に変える。

 

 そして今この戦場は文字通り火の海である。

 

 ・・・間違いなく、今この場において最も力を発揮できるのはこの場においてフィフス・エリクシルだった。

 

 常時力を供給することができるから最大出力を維持することができる。これだけなら外から無尽蔵に魔力を供給できる兵夜も負けてはいないが、いかんせん本体の出力において開きがある。この状況下なら兵夜は間違いなくこの火を何とかすることを考えるだろう。つまり正面から勝負していいような相手ではない。

 

 加えて言えば、サイラオーグは文字通り瀕死の状態。

 

 相手が圧倒的に有利な状態で、相手の方が技量が上で、しかもこちらは瀕死。

 

 誰がどう考えても負け戦だ。

 

「・・・だが!!」

 

 ここで負けるわけにはいかない。

 

 今目の前にいるのは、正真正銘冥界の脅威だ。

 

 それも、目的のために必要だからつぶすのではなく、目的のために必要な行動の都合上やらざるを得ないから行っているような類である。

 

 そのようなものたちに好きにさせるわけにはいかない。

 

「・・・そろそろ終われ!!」

 

 フィフスがガ・ボルグを呼び出し、一気に踏み込む。

 

 近距離からの一撃で完膚なきまでに止めを刺すつもりだった。

 

 だが、その瞬間こそ好機だった。

 

「その瞬間を―」

 

 フィフス・エリクシルの戦闘能力はある程度知れ渡っている。

 

 策略の成果とはいえ魔王二人に大天使1人を殺しかけた男だ。当然のごとく上は警戒しているし、彼の戦闘データは当然調べることができる。

 

 この男の切り札は間違いなくガ・ボルグであり、当然勝負所でそれを使う確率は高い。

 

 一度拳を合わせた時点で、この男が強者であり油断できない男であることなどわかり切っていた。

 

 ゆえに、そのタイミングは完全に把握している。

 

「―待っていた!!」

 

 完全にタイミングがあっていた。

 

 直撃する瞬間に真横から当てることができたのは僥倖だった。

 

 これ以上ないタイミングの一撃は、魔槍を一撃でたたき折る。

 

「・・・マジか」

 

 フィフスの目が大きく見開かれる。

 

 その攻撃が場の流れを大きく傾けたと判断し、サイラオーグは一歩前に踏み出し―

 

「・・・じゃあもう一本だ」

 

 ・・・フィフスが呼び出したガ・ボルグによるカウンターを喰らった。

 

「な、に・・・っ!」

 

 その破壊力の前に後ろに弾き飛ばされながら、サイラオーグはみた。

 

 フィフスが生み出す針金の腕すべてに、ガ・ボルグが握られているのを。

 

「まさかマジモンだとでも思ったか? ・・・全部キャスター製のフェイクだよ!! マジもんにもケンカ売れる出力だがなぁ!!」

 

 全身から炎をまき散らしながら、フィフスは一歩前を踏み出す。

 

「こっちもいろいろと研究してるんだよ。わかったら倒れ伏せ・・・弱者!!」

 

 一瞬で間合いを詰められ、そしてダメージで反撃ができない。

 

 この瞬間、サイラオーグは死を覚悟した。

 

「ただではやられん!!」

 

 例え心臓を貫かれようと、絶命するその瞬間に一撃を叩き込む覚悟も決める。

 

 そして一瞬で迫りくる槍がその体に触れた瞬間。

 

「・・・は?」

 

 槍は一切真価を発揮することなく、サイラオーグのカウンターだけが明確な一撃となってフィフスを弾き飛ばした。

 

 見れば、槍には見覚えのある文様が浮かび、その力が封印されている。

 

「なん・・・だと?」

 

 よろよろと起き上がりながら、フィフスが茫然とガ・ボルグを見る。

 

 そしてその眼前に立ちはだかる影があった。

 

「サイラオーグ様を倒そうなど、我らが見逃すと思ったか?」

 

「お前は、サイラオーグの・・・っ!?」

 

 ミスティータ・サブノックが、ふらつきながらもフィフスをにらみつけていた。

 

「他者封印系の神器か・・・っ! だがその程度で―」

 

 フィフスは素早くガ・ボルグによる戦闘をあきらめ、即座に近接格闘に映ろうとする。

 

 その全身に、高密度の重力が襲い掛かる

 

「いまだ!!」

 

 リーバン・クロセルの重力攻撃がフィフスの足を止め、そこに高速で騎兵槍がぶつかる。

 

「サイラオーグさまにこれ以上の手出しは許さん!!」

 

「舐めるな!!」

 

 ベルーガ・フールカスの一撃を、フィフスは白羽取りでかろうじて受け止める。

 

 だがその左右に、ガンドマ・バラムのと龍と書いたラードラ・ブネの巨躯が並ぶ。

 

「むぅん!!」

 

「つぶれるがいい!!」

 

 フィフスは針金の腕で受け止めようとするが、槍を受け止めている体勢では抑えきれず弾き飛ばされる。

 

 さらに、全方位に穴が開いたかと思うと大量の魔法による攻撃が襲い掛かった。

 

「どいつも・・・こいつもっ!!」

 

 それらすべてを振り払ったフィフスは、しかしその眼前にサイラオーグの姿を見て動きを一瞬止める。

 

 激戦で全身ズタボロで、そして眷属たちも無傷なものがいないどころか、全員が重傷を負っているといっていい。

 

 だが、その目は誰もが勝利を信じて疑わない。

 

 それだけの気迫を、サイラオーグが放っているからだ。

 

「この戦い・・・」

 

 その時、その光景を見ていた誰もが確信していた。

 

「俺たちの・・・」

 

 この一撃が直撃すれば、例え無限であろうと揺らぐと。

 

「・・・勝ちだ!!」

 

 目にもとまらぬ速さで、サイラオーグの拳が放たれる。

 

「・・・舐めるな!!」

 

 そしてそれより一瞬早く、フィフスの頭突きが放たれた。

 

 最高速度に乗るそのわずかなスキを突いて放たれた頭突きが、サイラオーグの拳を弾き飛ばす。

 

 さらに、新たに魔槍が呼び出され、今度こそフィフスのすべての腕に握られる。

 

「残念だった―」

 

「―いったはずだ」

 

 勝機を確信したフィフスはしかし、サイラオーグのその言葉に初めて気づく。

 

「この戦いは―」

 

 サイラオーグは、獅子の鎧をまとっていなかった。

 

「―()()()()()()だと!!」

 

 直後、莫大なオーラを察知した。

 

「―上か!?」

 

 かろうじて真上を見上げるが、そのタイミングは一歩遅かった。

 

「禁手化《バランス・ブレイカー》―」

 

 その眼前には、巨大な獅子を模した巨大すぎる戦斧が浮かんでいた。

 

 しかも、その戦斧は周囲全ての力を吸収しているのが把握できた。

 

 赤龍帝が放った龍のオーラも、エルトリアがばらまいた魔力も、宮白兵夜の神格の波動も、そしてもちろん自分がまき散らした灼熱の炎の力すら。

 

 その光景を見て、フィフスは一つのことを想いだした。

 

 マキリの家系は、吸収の属性を持ち、使い魔を操ることに長けた魔術師の家系だと。

 

「スパロ・・・ヴァプアルぅうううう!!」

 

 条件反射で魔槍全てを投げつけたフィフスの判断は最善だっただろう。

 

 だが、それでも足りない。

 

 なぜなら、獅子王の戦斧とは飛び道具に対する加護を持つ斧。

 

 その禁手が、遠距離攻撃でどうにかできるわけがないのだから。

 

「|獅子の大王が放つ覇の一閃《レグルス・ネメア・ブレイクダウン・デットエンド》!!」

 

 文字通り覇を名乗るにふさわしい威力の一撃が、フィフスを一撃で叩きのめした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 




事実上の章のラストバトルを、主人公に一切かかわらせない作品なんてそうはないだろうと自分でも思います。

全然出せなかったので、ここぞとばかりにサイラオーグ眷属総力戦。フィフスがどんどん制御しきれない大物になっていく。

ガ・ボルグについての設定はかなり前から決定していました。いつD×Dの原作に出てきてもいいように最初からそういうことにするつもりではありましたが、以前ほかのSSの感想でついツッコミついでにばらしたんでいつか公表するつもりでした。


スパロの獅子王禁手についても、彼女の戦力的なポイントを考慮するために用意しました。ちなみに、単純火力なら現時点の神滅具の禁手を比較してもぶっちぎりトップ。


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文化祭、ほぼデートです!!

 

 

 

 

 

 

 

 うわぁ、あれ痛そうなんてレベルじゃねえ。

 

 フィフスがとんでもない一撃を喰らって一撃で壁にたたきつけられ、さらに余裕でぶち抜いて吹っ飛んで行ったんだが。

 

 魔槍全部乗せでかろうじて直撃は避けたみたいだが、余波だけであれだけ吹っ飛ぶとかどんな威力だ。

 

「・・・え、なんでスパロが禁手?」

 

「こちらも想定外の事態だったのだが、レグルスが独立状態の悪魔となったことがよかったのだろう」

 

 さすがに膝をつきながらだが、意外としっかりした声でサイラオーグ・バアルが警戒しつつ応えてくれる。

 

「俺が禁手に至った後、スパロもまたレグルスによる禁手に目覚めたのだ。・・・一撃しか使えない代わりに、その場にあるものすべての力を吸収して放ち、遠距離攻撃による迎撃を軽々と弾き飛ばす攻撃。バアル家の記録映像による推測では、全盛期の二天龍すら直撃すれば戦闘不能になりかねないといわれている」

 

 うわすごい。

 

 もうそれだけしか言えないな、オイ。

 

「まさかこんなすごいことになるとは思わなかったわねぇん」

 

 意外とぴんぴんしているエルトリアも茫然としていた。

 

 結局こいつ戦闘続行してるからシャレにならないんだけど。

 

 やっぱ今の状態じゃ倒しきれんか。ナツミが楯になってくれなかったら俺全裸になってるし。

 

「おいご主人。これ総力戦だったらグレモリー眷属負けてたんじゃねえのか?」

 

「実質喰らいたくありませんね。近接戦における攻撃力なら冥界一ではないでしょうか」

 

 ナツミもベルも唖然としている。

 

 っていうか、戦闘が止まっている。

 

「よかった。このレーティングゲーム、総力戦じゃなくて本当によかった!!」

 

 鎧が解除されたイッセーに至ってはマジ泣きしてるし!!

 

 だよね!! あんなのと相手しなきゃならないとか絶対嫌だよね!!

 

「・・・ふぃ、フィフス!?」

 

「フィフス様!?」

 

 ボロボロのレイナーレやアサシンたちもかなり度肝を抜かれている。

 

「・・・まだだ!! フィフス様はまだ生きておられる!! 誰か急いで回収しろ!!」

 

「だがフェニックスの涙は実験に使ってここにはないぞ!! どうやって回復する!!」

 

 アサシンたちがかなりあわてているが、あれで死んでないのが怖いんだが。

 

 っていうかぶった切られた下を見てみたが、大きくえぐられた地面がかなり下に見えてんだけど。

 

 え、ここ空に浮かんでんの!?

 

「てめえコラぁああああああああああ!!」

 

 あ、なんか血まみれで腕まで折れてるフィフスが突撃してきた。

 

 あれでまだ動けるのかよ!!

 

「仏心出して生かしておいたのが失敗だった!! これ以上のさばらせるかぁああああああ!!!」

 

 狙いはスパロか!!

 

「き、ききききき来た!?」

 

「さがっていろスパロ!!」

 

 レグルスがかばうように前に出るが、しかしその目の前に魔法陣が展開される。

 

 オイオイオイオイ!! ここにきてさらに増援とか勘弁してくれよ!!

 

 と、思ったがそこから現れた人影は俺たちではなくフィフスに剥いて手を伸ばす。

 

 ちょうど目の前に来たフィフスは、そこから放たれた莫大な魔力にさらにふっとばされた!

 

「おっと。これはおまけだ」

 

 さらに莫大な数の光の槍が一斉に襲い掛かるが、こっちはあわてて飛びよったレイナーレがかっさらってかろうじて回避された。

 

「・・・待たせたなお前ら。後は俺たちに任せとけ」

 

「さすがにこれ以上の狼藉は見逃せないのでね」

 

 光が収まったことで、そういって安心させるように笑顔を浮かべるその人影が判別できた。

 

 アザゼルにディハウザー・ベリアルじゃねえか!!

 

「こ、このタイミングで増援とか冗談じゃないわよ!?」

 

 さすがにボロボロの状態でこの状況は見過ごせないのか、レイナーレが顔を真っ青にさせる。

 

 その隙を逃さず一斉に攻撃が放たれた。

 

「・・・バーサーカー!!」

 

「戦いの極致は至高の攻撃!! その戦いをもろともせぬ戦いこそ我が戦い!!」

 

 が、放たれた攻撃はバーサーカーが瞬時に受け止める。

 

 ・・・しかもかすり傷だと!?

 

「馬鹿・・・め。この状況のバーサーカーを倒したいなら、赤龍帝とバアルに覇を使わせるんだな」

 

 もう無事な場所を探す方が難しいレベルのフィフスが、しかしあざ笑う。

 

「確かに面倒だがそいつがかばえるのは一方向だけだろ?」

 

「すぐに増援も来る。あきらめてもらおうか」

 

 しかしこっちも余裕の表情。

 

 確かに頑丈さにはビビるが、それ以外なら今のイッセーやサイラオーグなら十分渡り合えるレベルだ。

 

 片方が足止めしているすきにこのボロボロの二人を倒すだけならたやすいか!!

 

「カカカッ!! 戻ってきてみればさすがにやばいことになってんじゃねえか!!」

 

 ・・・新手か!?

 

 しかもこの特徴的な笑い声は!

 

「グランソード・ベルゼブブ!!」

 

 ここにきて新手の出現か!! 面倒極まりねえなおい!!

 

 が、グランソードはフィフスたちをかばうように立ちふさがるが両手を前に出して俺たちを止める。

 

「いやいや。勝ち目がない状況下でやり合うつもりは毛頭ねえよ。・・・お前らも、完全に積んでるのはわかっただろうが、帰るぜ」

 

 ・・・いやいや。ここまでやられて逃がすとでも思ってんのか?

 

 と、思った瞬間にフィフスたちを黒い霧が包み込む。

 

「絶霧だと!?」

 

「カッカッカ! 部下ども逃がすついでに英雄派にちょっと連絡しといたんだよ。・・・ヴァーリには俺様から説明しといたから安心しな。事故だからラーメン十杯で許すとよ」

 

「そりゃ助かったな・・・これが」

 

 驚愕するアザゼルを尻目に、フィフスたちが霧に包まれる。

 

「んじゃまあ、機会があったらまた会おうや」

 

 その言葉を最後に、フィフスたちは消え去っていく。

 

 ・・・とりあえず、何とかなったということ―

 

―ゴゴゴゴゴ・・・!

 

 なんか不安になる音が聞こえてきたんですけど。

 

『・・・自滅装置発動、自滅装置発動。当艦はあと三十分で消滅します。至急脱出してください』

 

「あ、やっぱり空中要塞とかそんな感じだったか」

 

 技術力高いなホント。マジ厄介だ。

 

「って言ってる場合じゃねええええええええええ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジであの時は死ぬかと思った」

 

「本当に、話を聞いた時は心臓が止まるかと思ったよー」

 

 思い出しただけで冷や汗を流す俺を不安そうに見ながら、久遠はコーヒーを一口飲む。

 

 今は駒王学園の文化祭だが、我ながらよく迎えられたと不思議に思う。

 

 結局、あのあとレーティングゲームは中止になった。というかあれから続いたらそれこそおかしい。

 

 冥界ではいまだにニュースのトップを飾るこの事件。かなりボロボロにされたことでグレモリー・バアル両眷属の人気にひびが入るかとも思ったが、そんなことは全くなかった。

 

 何分フィフスたちが大暴れしたことが原因で、こりゃ仕方がないとほとんどの著名人が同情票を出してくれたからだ。

 

 特にあの後の検証でスパロの禁手がマジで二天龍の覇龍すら撃破可能レベルだということがわかると、それを喰らってなお戦闘続行した上にチャンプのカウンターを喰らってなお生きてるフィフスが化け物すぎて、生き残ったことをべた褒めされるレベルだ。

 

 トップランカーたち曰く「生存したことがそれだけで評価に値する」「近接戦闘能力なら堕天使関係者でも五指に入る」「できれば一対一で戦いたくない」「相性が悪すぎてタンニーンは負けるんじゃないか」などとフィフスの脅威度がうなぎのぼり。アイツどれだけ強くなってんだオイ。そんなのと遣り合いまくっている俺たちに同情票をください。

 

 まあさすがに、スパロが聖杯戦争発生の一因を担っていることが問題視されたが、それもスパロの記憶があのあとショック療法である程度戻ったことから一変。

 

 当主が五百年生きてる=500年以上研鑽が続いている魔術師の家系の秘奥が入ってくることになり、近年の魔術師大貢献のインパクトがすごいことから利益の方が高いとしてバアル家自体はそこまでひどいことをしていないらしい。

 

 実際さわりだけ見たアーチャーも評価しているし、こちらとしても重要ポジションで施設に入れることがほぼ確定。今後の発言力を高める重要人物にひどいことはできないだろうしそこまで心配していない。

 

 特に赤龍帝相手の勝率ほぼ百パーセントのフィフス相手に辛勝とはいえ白星上げたことから大王派は赤龍帝大人気の現状に対していいカードが手に入ったとホクホク顔らしい

 

 まあそんなわけでしいて言うならイッセーが傷口に塩刷り込まれまくって悶絶したことが騒ぎになったが、その後の復活劇がすごすぎてこちらも軽傷。

 

 特に大衆のど真ん中で告白同然のハーレム宣言したことから、こっちもゴシップ誌ではトップを飾っている。

 

 とはいえやはりいろいろあることはあるわけで。

 

 ただでさえ玄人好みのシトリーVSアガレスのレーティングゲームは専門誌でしか取り上げられていないそうだ。

 

 こっちはこっちで久遠が龍喰らいで暴走寸前の匙をコントロールしたことで結構唸らせてるらしいが目立たない。さすがに禍の団が介入してきたこのゲームの方が優先されるのは当然だ。

 

「・・・そんなことになってるのにこっちはゲームに夢中だったとかちょっと傷つくかなー」

 

「さすがに短時間の決着だったし連絡いかなくても仕方がないだろ」

 

「だけどさー」

 

 何やらジト目で久遠が俺を見る。

 

 因みに俺の今の状態。

 

 松葉杖・眼帯装備。酒、後一週間禁止。そして今日まで絶賛入院状態。

 

 神格化の反動がでかすぎた挙句、そこに無理して戦闘開始したのがとどめになって今まで緊急入院してました。

 

 命に別条がなかったのが奇跡とまで言われており、偽聖剣による神格発動装置にはリミッターが設けられることになったというオチまである。

 

 アーチャーが寄ってたかって研究し、各種業界が集まって制御システムの開発が決定するなど大騒ぎだった。

 

 いや、まさかここまでひどいことになるとか思わなかった。

 

 いや、レイナーレ憎しで頑張ったけどやりすぎた。

 

「兵夜くんにそんなことになるまで無理させたのはこっちだしー。仮契約カードが使えれば、さっさと大量に増援遅れたからあんなことにはならなかったしー」

 

 はい、責任感じて落ち込まれているわけです。

 

 実際いれば大量に送りこめたから何とかなったという意見はあり、アザゼルは試合の開始タイミングが重なったことを悔やんでいた。

 

 これによりレーティングゲームの試合は同時時間帯に発動させてはいけないのではないかという意見が出始めるぐらいであり、そのあたりで久遠は落ち込んでいるのである。

 

 とはいえこんなイレギュラーでいちいち責任感じてもやってられないだろうし、仕方がない。

 

「久遠」

 

「なに―」

 

 俺はケーキを大きめに切り取って久遠の前に差し出す。

 

「あーん」

 

「ふえー!?」

 

 おお、顔が真っ赤だ。

 

 時々不意打ち喰らうとかわいいな、こいつ。

 

「助けにこれなかった分は、かわいがられることで詫びということにしてくれ。ほらあ~ん」

 

「あ、あ、ああああ~んー!!」

 

 なんかやけくそ気味にぱくっといって、そのままもぐもぐと咀嚼する。

 

「美味いか?」

 

「う、うんー」

 

 顔を真っ赤にしてうなづく久遠に対し、俺も顔が赤くなるのを自覚しながら顔を近づける。

 

「ひょ、兵夜くんー?」

 

「今度は俺の番だ。あ~ん」

 

「あ、あ~んー!!」

 

 恥ずかしがっているが決断は早くて何より。第一お前弁当持ってきてよくやってるんだから顔を真っ赤にすることないだろ。

 

「じ、自分でするのと促されるのは違うのー!!」

 

 なるほど、主導権を握られると弱いのか。今後の対応策として覚えておこう。

 

「くそがあああああああ!! なんでアイツあんなことになってるんだ!! 今回喫茶店の客だから俺たちには徳がないのに!!」

 

「気持ちはわかるが抑えろ松田!! 病院にいったらバイオハザードがおきてろくに動けなかったらしいし、さすがに今回はさせてやれ!!」

 

 普段では怖い松田も、今回ばかりは抑えざるを得ないのがラッキーだ。ズタボロになったのはマイナスだ結果的にプラスということだな。

 

 などと役得を感じていたら、嫉妬にもだえる二人に桐生がいつもの表情で近づいてくる。

 

「おやおや。だけどこの次はあんたたちには抑えられるのかしら~?」

 

 な、なんだ?

 

「ひょ、兵夜さま!!」

 

「兵夜兵夜!!」

 

 ベルとナツミの声がしたので、微妙に感じた嫌な予感とともに振り向いた。

 

「あ、あああ実質あ~ん!!」

 

「おらあーんしろご主人」

 

 ガッチガチに緊張しながらぷるぷるしているベルと、確信犯の表情を浮かべながらサミーマモードで差し出すナツミのあーんコンボが!!

 

「いやちょっとまってそれさすがにマズイ!! ・・・とりあえずあーん!!」

 

 断らないけど寿命が縮みそうだ!!

 

「ほらお前らもあーん」

 

「「あーん」」

 

 そしてこうなったら返さざるを得ないので先にやっておく。

 

「誰か! 誰かリア充を半殺しにする魔法知りませんか!?」

 

「独占禁止法の裁きをあいつに与えてやってください!! お願いします!!」

 

「なんで男一人で文化祭を過ごさなきゃならないのにこんなもん見せつけられてんだ!!」

 

「俺、彼女持ちなのに時間あわなくてデートできないんだ。・・・殺していいか?」

 

「まあ待て。あいつは病人なんだから今はやめとけ。・・・やるなら完治してからだ」

 

 体調治ったら忙しいことになりそうだけど、男としてこれは退けない!!

 

「おーおー大変そうだな兵夜? モテル男は大変だなーおい」

 

 反対向きで座るという男子生徒がよくやりそうな坐り方で、小雪がニヤニヤしながらこっちを見てくる。

 

 うん、お前はそういうことしないタイプだと思ってたよ。

 

 だがな?

 

「はい小雪もあーん」

 

「じ、実質あーん」

 

「小雪さんもあーんだよー」

 

「お前ら先手を取るな!! ・・・まあ俺もやるけどほらあーん」

 

 俺たちがしてくる分には構わないよな?

 

「ふぁ、ふぁふぁふぁファック!? ・・・あ、あああ―」

 

 かなり顔を真っ赤にしてうろたえながら周りを見る小雪だが。

 

「・・・・・・・・・あ~ん」

 

 結局やってくれるのがこいつのいいところだ。

 

「「「「「「「「「「やっぱり我慢ならん!! 者ども、であえであえー!!」」」」」」」」」」

 

 ・・・さて、頑張って生き残るか。

 

 




そんなわけでライオンハート編も終了。

最近フィフスを盛りすぎているような気もするが、実はまだインフレします。と、いうか次が一番インフレすると思います。

まあ第四章入ってからになるんですが、D×Dのインフレ具合だとホント宿敵ポジションは強敵にし続けないといけないから大変です。










そして最後で思いっきりいちゃつかせました。ハーレムにしちゃってるんで、いちゃつかせれるところではいちゃつかせないと。












ウロボロス編はかなり短く書きます。いろいろ考えたんですがヒーローズ編のつなぎレベルにして、ヒーローズを今回より激戦にもっていこうかと。


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キャラコメ 第十弾!

ついにキャラコメもここまで来たなぁ・・・。


 

兵夜「はい、今回もやってまいりましたキャラクターコメンタリー。本日のゲストは!」

 

ナツミ「はいはいはーい! げんせいたるしんさってやつ(じゃんけん)で選ばれたなつみだよ♪ でー」

 

サイラオーグ「俺の立場だと違和感がある。サイラオーグ・バアルだ」

 

ナツミ「いや、順当じゃん?」

 

兵夜「ある意味この話における真の主役。二次創作であるこの話でもめちゃ優遇されてただろうに」

 

ナツミ「いつもと違ってシリアス多めかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「で、最初は学園祭の準備中だがいきなり一苦労だ」

 

ナツミ「兵夜仕事しすぎだね」

 

サイラオーグ「仕方あるまい。冥界の重要人物ともなれば、いやでも複数の仕事をこなすようなものだ。セラフォルー様はもちろんのこと、皇帝ディハウザー・ベリアルも主演映画を複数持っている」

 

兵夜「俺、平和になっても過労死するかも」

 

ナツミ「が、頑張れっ」

 

サイラオーグ「いい眷属を探すことを進めよう。秘書としての仕事ができるものはお前の立ち位置だと必要不可欠だろう」

 

ナツミ「いいこというね。やっぱサイラオーグはいい人だ」

 

兵夜「なんか微妙に心苦しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「で、今回も巻いていくがイッセーのトラウマが遂に噴出。我慢の限界にきた姫様がブチギレかけた」

 

サイラオーグ「しかし話に聞くだけでもひどい過去だ。確かにこれは心が深く傷つけられるだろう」

 

ナツミ「たいがい負けない過去あるよね、サイラオーグも」

 

兵夜「不幸合戦になるから飛ばすぞ。まあ、俺としてはできる限り頑張ったつもりなんだが・・・」

 

ナツミ「先送りにしたせいで大変なことになったね・・・」

 

サイラオーグ「まあ、この場の全員の共通認識として彼女は死んだというのが前提だからな。まさかあのタイミングで襲撃されるなどと想定できるわけがない」

 

ナツミ「あんなことがあったのにスケベなままのイッセーもたいがいだけどね」

 

兵夜「お前はホントイッセーに辛辣だな。ま、実際それはすごいとは思うけどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナツミ「レーティングゲーム開始だよー! まずボクたちが観戦に来てるところだね?」

 

サイラオーグ「この発言がこの後の伏線になっているとは。まあ、これはそういう意味で言ったのではないだろうが」

 

兵夜「誰が予測できるかあんなもん。あと何気にあんたの評価も高いな」

 

サイラオーグ「気恥ずかしいな。無能であることは自覚しているのだが」

 

ナツミ「いや、魔力以外はすげぇだろあんたは」

 

兵夜「いきなりサミーマモードはいるな。まあ、ついてないのはその魔力こそが悪魔の重要ステータスってところなんだが」

 

ナツミ「でもこの後のタイマンは予測はできなかったが納得っていうか。身内大好きだもんな、ご主人」

 

サイラオーグ「振り返ってみれば未熟を痛感させる試合だった。まだまだ俺も若輩だということか。・・・すまなかったな」

 

兵夜「いや、俺もすこし暴走しすぎていた。そこまで深く気にしなくても構わない」

 

ナツミ「っていうか兵夜は無茶しすぎ。ゲームはゲームって割り切るタイプだと思ったんだけど?」

 

兵夜「いや、ゲームにかこつけて落とし前をつけるつもりだったから・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「で、ここからが本番」

 

ナツミ「・・・対決の余波で勝手に敵襲とか、何それ」

 

兵夜・サイラオーグ「すまなかった」

 

ナツミ「フィフスもフィフスでぱにっくだし。なんていうか、敵役なのに苦労人っていうか」

 

兵夜「そこは気にしなくていい。その分ヘイト稼いでるから」

 

サイラオーグ「それはそうだな。スパロの件は許せんことだ」

 

ナツミ「割と重要な情報だよね」

 

兵夜「なんていうか原作で出すのが難しいから裏設定を公表しよう」

 

ナツミ「ふんふん」

 

兵夜「スパロは間桐直系の魔術師の家系。実は第二次聖杯戦争の後の生まれだから古いし、俺たち転生者の中でも生前の年齢ではかなりでかい部類だ」

 

ナツミ「おお! 味方の転生者で長生きって珍しいね」

 

兵夜「魔術属性は吸収で、頭首の影響もあり使い魔の使役を得意とする。加えて大聖杯の微調整なども手伝っているから、フィフスに匹敵するレベルで聖杯に詳しい。フィフスが聖杯戦争をほぼ完ぺきに再現できたのもスパロを確保できたことだ。・・・腹立たしいが遠坂は聖杯戦争開催時は弱小も弱小だったからな、技術的にはあまり役に立ってないんだ」

 

サイラオーグ「この知識ゆえに先般の危険性があったが、同時にこの知識の価値ゆえに身の安全が確保できたようなものだ。サーヴァントによる被害を考慮すれば俺でもかばいきれなかったからな」

 

ナツミ「じんせーばんじさいおーがうまってやつだねっ」

 

兵夜「因みに遠距離通信系の神器を保有。精神的苦痛からの逃避として禁手に目覚めている」

 

サイラオーグ「能力としては自身が心で願っている条件に合致する人物と会話できる能力だ。だが、これがあまりにも致命的だった」

 

兵夜「転生者且つ魔術師であり聖杯戦争関係者という、確実に話せる相手とつながったはいいが、寄りにもよってそれがフィフス。・・・これで俺とかだったらまた別の展開もあったわけだが」

 

ナツミ「じゃあ、スパロがボクたちと一緒になった可能性あったの」

 

兵夜「どうだろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナツミ「で、ついにレイナーレ登場だね。・・・強すぎ」

 

兵夜「元が弱いことをいいことに、徹底的に魔改造してるからな。ぶっちゃけあの場にいる連中のなかでも五指に入るぞ」

 

サイラオーグ「正面から行けば俺でもレグルス抜きでは厳しいだろう。それを精神的に動揺している状況下では兵藤一誠もどうしようもあるまい」

 

兵夜「しかも自覚してなかったから余計に来た。完璧に対応が裏目った・・・」

 

ナツミ「いや、こんなもん予想できねぇだろご主人。気にすんなよ」

 

サイラオーグ「とはいえそれが原因で宮白兵夜の復活を促すあたり、状況は二転三転しているな」

 

ナツミ「まあ、話聞いてりゃここまで見てる連中はみんな予測つくだろ。この流れなら死んでもよみがえるだろ」

 

兵夜「お前ら俺を何だと思ってる。・・・普通に怨霊として呪い殺すにきまってるだろ」

 

ナツミ「うん。それ十分トンチキ」

 

サイラオーグ「そして敵味方ともに合流してからが本番だな。フィフス・エリクシルの罵倒が始まるが・・・」

 

ナツミ「いいたいことはわかるし一理あるが、マジむかつくな」

 

兵夜「そりゃぁ、何があっても倒れずくじけない圧倒的強者の理論だからな。普通の連中にはまねできないし、何より弱者には無理な話だ」

 

サイラオーグ「正論であることが暴論でないとは限らないからな。俺も似たような理想を持っているが、だからこそ「それができる」と人々に理解させねば始まらんだろうに」

 

兵夜「それは無理だろう。フィフスみたいなやつは根本的に他人がどうだかなんて気にしないだろうし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナツミ「で、そこから兵夜がかっこいい啖呵切ってるよね」

 

サイラオーグ「弱者だからこそ言える強者へのアンチテーゼというやつだな。俺も同じような間違いにはまりかけていたから覚えておかねば」

 

兵夜「弱い奴は弱い奴なりの頑張り方があるってだけの話だ。まあ、それで開き直っていいわけでもないんだが」

 

ナツミ「でも、ボクたちには必要だよ。・・・うん、かっこよかった」

 

サイラオーグ「兵藤一誠にも負けない男の見せっぷりだな。いっそお前もつついてみたらどうだ?」

 

兵夜「あんたがつつけ! 俺はそんなトンチキパワーアップはごめんだね!!」

 

ナツミ「でもイッセーはトンチキだね。すごいよね。原作とは違った進化だね」

 

兵夜「少しぐらいは原作勢にもオリジナリティを入れてみたかったからな。・・・というより原作であの三形態があまり目立たなかったからな」

 

ナツミ「そういえばすぐ真女王になってたもんね・・・」

 

兵夜「しかも戦車は戦車でサイラオーグに一撃で砕かれたし・・・」

 

サイラオーグ「む。少し興に乗りすぎたか・・・」

 

ナツミ「いやいや、気にしなくていいから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そしてこの戦い真のクライマックス。フィフスVSサイラオーグ」

 

ナツミ「うわすっごい優遇! トリだよトリ! すっごいねぇ!」

 

サイラオーグ「ふむ、すこし役者不足な気もするが、素直に感謝するべきか」

 

兵夜「何言ってんだか。このライオンハート編のトリを飾るのに、あんたより適任はいないだろう」

 

ナツミ「しっかしフィフスはホントに一人で突っ走るキャラだね。サイラオーグ追い詰めたよ」

 

兵夜「まあ一発勝負の切り札だと思ったのがいくつもあったら不意を打たれる。ここまで隠し玉として隠し通したフィフスが一枚上手だったか」

 

ナツミ「でもサイラオーグには仲間がいるもんね!」

 

サイラオーグ「ああ、あれには不覚にも涙が出そうになった。あの時ほど眷属たちに感謝したことはないだろう」

 

ナツミ「そしてしっかりスパロがフィフスにお礼参り!」

 

兵夜「一発勝負しかできないのが欠点だが、それゆえに最大級の破壊力を持った代物だ。あれを喰らえばオーフィスも悲鳴を上げるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナツミ「でも生きてたね。ハイになってるのかもしれないけど殴りかかってきたし」

 

兵夜「あのまま倒れてたら追加で痛い目見ないで済んだものを・・・」

 

サイラオーグ「とはいえこれで戦いは終了し、文化祭か。・・・宮白兵夜、無理はするな」

 

兵夜「断る。せっかくの文化祭を彼女ほったらかしにしてベッドで寝るなどできるか」

 

ナツミ「妙なところで男見せるよね、兵夜」

 

サイラオーグ「しかし、レイナーレとの決着はまだ持ち越しか」

 

兵夜「それは仕方がない。レイナーレの役目はイッセーの宿敵のようなものだ。あいつの過去の傷を乗り越えるのに、あの女ほどの適役はいない」

 

ナツミ「小物のくせして影響力すごいよね。規模でも質でも最低ランクのボスだったのに」

 

サイラオーグ「異世界の技術力はなめてはいけないということだろう。俺たちも精進せねばな」

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そういうわけで、ライオンハート編はこの辺で終了」

 

サイラオーグ「次はついに進級試験か。長いようで短かったな。この速さで昇格の可能性が出る下級悪魔はそうはいないだろう」

 

兵夜「いやいや。神様倒してんだからその時点で試験受けさせてくれよ」

 

ナツミ「でも、それがあんな大騒ぎになるなんてね」

 

兵夜「そういうわけで、次回もよろしく! ・・・ああ、次回はかなり短くなるのでそこのところもよろしく」



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進級試験のウロボロス
試験の資格、ようやく来ました!!


前回は感想がたっぷりでホクホクでした!!







そして、ついにウロボロス編スタート!!






とはいえ、今回はかなり短めになる予定です。


 ついに来た。

 

 ついに来たぞ。

 

 速いっちゃ速いがある意味遅いぐらいのビックイベント!!

 

「っしゃぁ! ついに昇格試験!!」

 

 俺はその事実に思わずガッツポーズをしてしまった。

 

「み、宮白テンションあげすぎだろ?」

 

 イッセーがそんなことを言うが、俺としては待ちに待ったタイミングだ。

 

「だってお前考えてみろよ!! 魔術師組織のトップ務めてる身としちゃぁ、さっさとそれに合うだけの権力手にしてみたかったんだよ!! よっしこの調子で上級悪魔にまっしぐらだ!!」

 

 速いけど長かった!!

 

 コカビエルやら和平会談やらロキ襲来やらでいい加減話ぐらい出てもおかしくないと思ったのに、なかなか来ないからちょっと不安だったんだ!!

 

 これで名義貸してもらっているグレモリー卿におんぶのだっこの状態から脱却する可能性が増えてきた!!

 

 これからの交渉もだいぶ楽になる!!

 

 やった!

 

「・・・まあ昇格候補がたった四人なことを考えると、やはり冥界はまだまだ発展の余地があるというか反対派閥も多いということですね」

 

「そこについては面目ない」

 

 サーゼクスさまもつい苦笑してしまう。

 

 が、イッセーはそれがよくわからないのか首をかしげてしまう。

 

「え? そうなの?」

 

 こいつは何を言ってるんだろうか。

 

「あのなあ。俺たちが今までどれだけでかい戦闘潜り抜けてきたかわかってるのか?」

 

 コカビエルやらロキやらシャルバやら曹操やらがどういう立場か思い返せばわかるだろうに。

 

「大物相手にことごとく撃破あるいは貢献している俺たちは、功績だけならおそらく下手な上級転生悪魔を凌駕してるぞ。グレモリー眷属全員が昇格対象になったって全く不思議じゃない」

 

 と、いうか俺はなるとするならそうなるもんだとばかり思っていた。

 

「・・・まあ、現魔王派はあくまで「戦争継続すると種が滅びて本末転倒になるから反対」という派閥なだけだからな。和平締結で禍の団に鞍替えしたり内通してる連中はゴロゴロいるだろうし、そこまでいかなくても不満満載の連中もいるだろうからそういった連中の突き上げがあるということだろう」

 

「お前って本当に政治センスがずば抜けてるよな」

 

 イッセーには素直に感心されるが、それぐらいできないとやってられなかったからな俺は。

 

「おいおい言われちまったなサーゼクス。俺らもいろいろ問題あるが、悪魔業界は大変だよなぁ」

 

「そこを突かれると耳が痛い。できる限り早く改善したいのだが、やはり上役には旧来のやり方を好むものが多くてね」

 

「ですよね~。・・・組織が軌道に乗ったら政治の世界にでも参入したほうがいいでしょうか」

 

 苦笑するサーゼクス様にはそういうことを言うが、しかしうまくいく自信が微妙にない。

 

 俺の場合敏腕というより辣腕だから、手段を選ばざるを得ない状況下だと一気にスペックが低下するからな。

 

 初戦非合法手段を使わなければ真価を発揮できないわけで、あまり本格的に政治の世界に参入するとグレーゾーンも使いずらくなって大変なんだよな。

 

「兵夜さまはどちらかというと秘書の方が向いていると思われます。・・・いっそのことイッセーさまが政治家になってはいかがでしょうか」

 

「お、俺ですか!? いやいや、いくらなんでも無理ですって!!」

 

 グレイフィアさんにそんなことを言われて、イッセーはあわてて両手を振る。

 

 とはいえカリスマ性はだいぶ増してるし、頭が悪いわけじゃないからな。意外といい線行けるんじゃないだろうか。

 

「とはいえ油断してはだめよ? 実技試験はともかく、筆記試験は経験の少ないイッセーや兵夜だと苦戦するかもしれないわ」

 

 ああ、確かにその辺は大変だ。

 

 こういうのは年期の差が結構出てくるから真剣に勉強しなおさないと。

 

「って中間テストが目前なのにそれって俺ら大変じゃね?」

 

「いやイッセー。テストなんて授業真面目に聞いてちゃんと復習してれば、そう赤点は取らんだろ」

 

 一応部長の影響で毎日勉強はしてんだし、そんなに慌てることか?

 

 俺として素直にこう思うのだが、なぜか木場に苦笑された。

 

「宮白くん、それ勉強できる人のセリフだからね」

 

「つったって悪魔業界にこれから本格参入するんだし、そこまでテストの点気にすることもないだろ?」

 

「テストの点が80後半から90台の宮白に言われても腹が立つんだが。しかも時々百点取るじゃねえか!!」

 

 イッセーに半ばキレられかけた。解せぬ。

 

「いや、さすがに今回は昇格試験に集中しなくちゃいけないからな。平均点は70台だろ」

 

 俺は素直にそう思う。

 

 今後悪魔業界に深くかかわる以上、学問の方は少しおろそかになるだろう。

 

 馬鹿扱いされたくはないので勉強はするが、いい加減手を抜かないと過労で倒れるしな。

 

 だから俺としては素直に謙遜したのだが、何やらイッセーがぷるぷる震えはじめた。

 

 あれ? ちょ、ちょっと待て。

 

「だからそれ頭いいやつのセリフだああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って怒られてなぁ」

 

「・・・テストで徹夜することもある身としては、うらやましいかな~」

 

 久しぶりに学食で久遠と食べながら、そんなことをだべっていた。

 

「今回は私も昇格試験を受けるから、もしかしたら一緒の会場かもねー」

 

「マジか。ほかには参加する奴いるのか?」

 

「いやいないねー。今回シトリー眷属で参加するのは私だけだよー」

 

 へぇ。匙は結構かかわってるからあり得るかと思ったんだが、やはり昇格は狭き門ってわけか。

 

 まあ久遠の昇格は普通にあり得るな。

 

 レーティングゲームで俺らをほぼ全員相手にして逆に勝ちかねなかったのがこいつだ。しかも英雄派との戦いではジークフリートを圧倒している。

 

 魔法世界技術の提供でかなり恩恵も与えているだろうし、まあ久遠が昇格資格を得るのは妥当な結論だろう。

 

「こんど勉強会一緒にしようよー。ナツミちゃんの入学もあるし、それも必要だと思うよー?」

 

 焼肉定食を食べながら久遠がそういうことを言うが、俺はナツミのテスト結果を想像してちょっと躊躇する。

 

 ・・・あの惨状から引っ張り上げるのはちょっと骨が折れるので、さすがにそんな余裕を出すのは苦労するんだが。

 

「まあ、俺の勉強なんて速読いかして始まる前に教科書の内容丸暗記してるからできるようなことだからな。ほとんど復習みたいなもんだから余裕なだけだって」

 

「速読がすごいスキルだってこと忘れてないー?」

 

 ・・・すいません忘れてました。

 

「ま、中間テストも昇格試験もそこそこ用意してないとねー。はいあーん」

 

「あーん」

 

 差し出された焼肉を素直に食べて、俺はまあ納得する。

 

 まあ、急に頭が悪くなってもおかしく思われるのは正論だ。

 

「そこはまあ、色ボケして失敗しましたって愉快なオチでごまかせるとは思うけどな。はいあーん」

 

 こんどは俺がカツを食べさせる。

 

 こういう時、同じ学校っていうのは実に便利だ。

 

 イッセーのところの愛妻弁当コンボもあれだが、これはこれでいい感じだ。

 

「あーん! ・・・はいあーんだよー」

 

「り、リア充・・・死ね」

 

「誰か! 誰かこいつに気付けを持ってきてくれ!!」

 

「すいませーん! コーヒーくださーい!!」

 

「くそ! 闇討ちしようとしても返り討ちにされるから勝てない!!」

 

「しかも桜花さん助けに来るし! もうチート過ぎる!!」

 

 ・・・うん、ことごとく何回も仕掛けられるからもう慣れたよ。

 

 腹立ったからもう隠さずイチャイチャすることに決定した。せいぜいもてない男どもよショックを受けるがいい!!

 

「それで、神格のほうはどんな感じー? はい今度は沢庵ー」

 

「あーん。・・・まあ、ある程度の安定制御は可能になったな。いろいろ研究して奥の手も開発できたし、あとはそっちが安定できないのがネックなんだが。ほい、野沢菜漬け」

 

「あーんー」

 

「もう我慢ならん! 退学になろうと今この場でこいつを倒す!!」

 

「者ども出会えであえーい!! このモテ男に天誅を下せぇえええ!!」

 

 やべ、刺激しすぎた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旧校舎で優雅にハーブティーをたしなみながら、アーチャーはその光景を水晶玉で眺めていた。

 

「なんていうか、意外と独占欲とか自己顕示欲とか高いわよねあの子」

 

「だな。ガキの頃はかなり寂しい思いをしてたみたいだし、反動だろ反動」

 

 こっちはコーヒーを味わっているアザゼルが、ニヤニヤしながら逃走劇を観戦していた。

 

「それで、昇格試験のほうはどうなるのかしら? 正直兵夜が昇格してくれると今後の準備がはかどるのだけど」

 

「そっちは問題ねえよ。実技も及第点なんてもんじゃねえし、今のあいつならほぼ合格できる」

 

 アザゼルはあっさりと断言する。

 

「実際中級悪魔の試験に出る程度のやつらのスペックじゃあ、あいつらの敵にはならねえだろ。どんだけ修羅場潜り抜けてると思ってんだ」

 

「それは否定しないけど、兵夜って改造しすぎてるから絶対改造分はリミッターをかけるって聞かないのよ」

 

「それでも何とかなるだろ。改造分がなくても魔術が使えればあのライザー・フェニックス相手に渡り合えるんだからな。禁手に目覚めた時点で並の中級悪魔なんて目じゃねえよ」

 

 優雅なティータイムをしながら、2人は今後のことについて会話を続ける。

 

 実際かなり大人な部類である二人としては、こういった会話は二人きりで行ったほうがはかどるところがある。

 

「それで? 例の武装は何とかなりそうなのかよ」

 

 アザゼルがあまり期待してない口調でそう尋ねると、アーチャーはハーブティーを少し飲んでから首を振った。

 

「まだうまくいかないわね。と、いうより発想からして狂ってるあんなもの、うまくいく方がどうかしてるわよ」

 

 正直アザゼルはそんなことだと思っていたので落胆はしなかった。

 

 兵夜が理論を作った新たなる最終兵器。その進行はどうやらうまくいっていないらしい。

 

 理論そのものは確かに行けそうなところはあるし、できれば切り札と呼ぶにふさわしい最終兵器ではある。発動させることができれば、勝率は大幅に向上するだろう。

 

 たとえヴァーリが覇龍を使おうと、逆転するだけの可能性はある。

 

 だが、そんなうまくいくほど世の中は甘くないということだ。

 

「あれが完成したら聖杯戦争も圧勝できそうなんだけどな

。実際本来のルールじゃ反則に近いだろあれ」

 

「それについては同意見ね。でもまあ、難しいでしょう」

 

 効果はでかいが可能性は低い。

 

 二人の間で意見は一致していた。

 

「せめて、あともう一つピースがあればいいのだけれども」

 

「だよなぁ」

 

 そう、あと一つピースが足りない。

 

 神格化を利用し、悪魔の駒を応用し、その二つを組み合わせることによって発動する、宮白兵夜の新たなる最終兵器。

 

 どうしてもその一手を作ることができず、技術者二人は顔を見合わせて肩をすくめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




ウロボロス編ですが、いろいろ悩んだ結果意図的に短くしようかと思っております。

総合的に次のヒーローズまでのつなぎでもあるわけですし、ストーリーの展開的に兵夜を絡ませずらいことに気づきました。

そのためオリジナル要素だらけの話になりますが、ご了承ください。


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来客、大物です!

 昇格試験の勉強をしていると、ふと気になることが出てきた。

 

 妖怪についての項目で、猫又や化け猫の類の発情期についての資料が出てきたのだ。

 

 ・・・そういえばナツミって化け猫だよな?

 

「あれ? 兵夜まだ勉強中?」

 

 しかもそんなタイミングに限って現れたよこの子。

 

「よ、ようナツミ。どうした?」

 

「お夜食持ってきたよ~」

 

 おお、なんか不格好だがおにぎりがいくつかできている。

 

 不揃いだが何だか気合入ってる感じだ。これってまさか!?

 

「お前が作ったのか?」

 

「うん! 使い魔だからご主人様のために頑張ったよ!!」

 

 ほめてといわんばかりに頭を差し出してくるので、俺は苦笑しながらその頭をなでる。

 

 こいつがこんな方向で頑張るとか、俺愛されてるなぁ。

 

「ねえねえ兵夜? ボクになにかできることある?」

 

「え? えっと・・・」

 

 ・・・よし、ちょっと聞こう。

 

「な、なななナツミ!?」

 

「どうしたご主人? 顔真っ赤にして」

 

 こ、これはあくまで試験のための参考資料!!

 

 決して発情期のタイミングを把握してエロいことをしやすくしようだなんて馬鹿なことは考えてない! 考えてないぞ!!

 

「ば、化け猫って発情期あるらしいけど、ナツミはあるのか!?」

 

「え? あるよ」

 

 あっさり言われた。

 

「・・・へー? ほー? ふぅん?」

 

 しかもものすごい上から目線!!

 

「そっかそっか? 仕方ねえよなぁ試験に出るんだから調べねぇと。・・・そのあとイヤンなことしてもいいよね~っと!」

 

 わーい読まれてるよ!!

 

「ふんふん? それで? ボクにどんなことしたいの? イッセーの本で知ってるからやってあげるよ?」

 

 イッセー! 今度からお前のエロ本隠ぺいは俺が責任をもって行わせてもらう!!

 

 ナツミになんてことを!! なんてことを!!

 

「にゃ~んっと」

 

 と、ナツミが俺に抱き付いてきた。

 

「どうよご主人? ツルペタボディに見えて意外にあるだろ?」

 

 ・・・なるほど、年齢が年齢だから意外とあるようだ。

 

「これでもボクの家系は合法ロリが多い家系だからね。小猫にゃ悪いがロリ属性で攻めることができるってわけよ?」

 

「お前そのポジション狙ってんのか!?」

 

 女性としてそのポジションを積極的に狙うのはいかがなものかと思いますが!?

 

「つったってナイスバディは小雪とベルで充分だろ? 久遠も胸も背も小さい方だけどまだ成長しそうだし、こうなったらそういった属性で行こうと思ってるんだけど・・・ダメ?」

 

 小悪魔みたいな表情でそんなことを言われてしまう。

 

 い、嫌かどうかといわれると・・・。

 

「・・・ロリもいけるので大丈夫だけど」

 

「前から思ったけど、兵夜って節操なしじゃない? 性癖ってどんな感じなのさ」

 

 お前聞いといてその回答はなくね!?

 

「うるせえよ!! ええ俺はその辺節操なしだよ!! 特定ジャンルにはこだわってるけどお前に言うと絶対からかわれるから絶対言ってやらないからな!!」

 

「おいちょっと待てご主人!! どうせならリアルで見てみたいと思わねえのか!! そりゃあんまりひどいのならやらねえけど、ちょっとやそっとのアブノーマルなら試してやっても構わねえんだぞ!?」

 

「しなくていいから!! フィクションで十分だから!!」

 

 割と本気でシャレにならないから絶対避けないと何されるかわからんのだよ!!

 

 コスプレとレズが好みなのは黙っておかんと、久遠と連携で魔法少女タッグプレイとか見せつけそうで怖い!!

 

 そんなことされたら俺は悶死する!!

 

 ええい! このままではらちが明かん!!

 

 話を変えねば!!

 

「そういえばお前はよくて小猫ちゃんはだめってどういうことだ!?」

 

「露骨に話変えるんじゃねえよご主人!! ・・・いや、小猫の種族って未成熟だと出産の負担がひどいんだけどね」

 

「これまたあっさり言ったな!?」

 

 しかしまたそれは大変だな。

 

 今回の件でイッセーが部長とレッツパーリィする可能性は高くなってるわけだし、その勢いでなだれ込むと小猫ちゃんもなんというか焦るかもしれん。

 

「・・・念のためイッセーたちに釘を刺しておくか」

 

「あ、それもそうだね」

 

 よし!! 話を変えることに成功したぞ!!

 

 まあイッセーは「レイナーレ倒してしっかりケリ付けてから」って言ってるから大丈夫だとは思うが。

 

 まあ部長たちから攻めてくる可能性はそこそこあるだろう。部長にしろ朱乃さんにしろゼノヴィアにしろ強引に迫ってくるからな。逆にそれが原因で引かれてるところがあるが、万が一があるかもしれん。

 

 などと思ってイッセー部屋の前まで来ると、ナツミがあっさりとドアを開けた。

 

「イッセー! 注意しに来た・・・よ!?」

 

「こらナツミ。そういうときはちゃんとノックし・・・ろ・・・」

 

 思わず注意しようとしたら、目の前の光景にくぎ付けになった。

 

 ・・・半裸の小猫ちゃんがイッセーにせまってる。

 

「「フラグだったぁああああああああ!?」」

 

「いや、何のはなし!?」

 

 状況がわかってないイッセーのツッコミが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そっから先がてんわやんわだった。

 

 やれ小猫ちゃんが発情期にマジで入っているやらで大騒ぎ。

 

 とりあえず俺はイッセーに去勢薬を調合しようとしたのだが、そこでイッセーが我慢するといってきたのでとりあえず様子を見ることに。

 

 まあ、効果が利きすぎてEDになったら目も当てられんしそれは仕方がない。

 

 で、その話の流れでアザゼルが来客があるとか言ってきたのでとりあえず歓迎の準備のために高級茶葉を買って待ってみれば―

 

「・・・我、ドライグに会いに来た」

 

 ・・・オーフィスでした。

 

 ちなみに俺は三分間ぐらい気絶した。

 

 だってそうだろう。俺たちが束になっても瞬殺したっておかしくないというか普通の化け物だぞ。テロリストのボスだぞ。そして何より世界最強の存在とか言われてるんだぞ。

 

 なんで連れてきたアザゼル!!

 

 なんでもヴァーリがとりなしたらしいが、とりなしていけるような展開かオイ!!

 

 ええい! こうなれば仕方がない!!

 

「見るがいい!! これができたてのミルクレープだ!!」

 

「いやそれはおかしいぞ宮白!!」

 

 イッセーのツッコミは華麗にスルーする。

 

 っていうか俺はもうマジで疲れたんだよ!! 吹っ切れないでやってられるか!!

 

 アザゼルが言っていた驚異ってのは大体予想がつくが、そんなことはどうでもいい!!

 

 どうせ脅威なことには変わらないから、内輪もめでいくらでも争って戦力を減らしてくれといいたいぐらいだ。

 

 だから問題を起こすのだけは勘弁してくれ!! 俺たち本当に忙しいんだよ!!

 

「さあ今のうちに風呂洗ってくるから待ってろよ!! 今日は城崎温泉のお湯を直接回収して入れてやるから問題マジで起こすな!! 夕食は刺身にしてやるから本当に問題起こすな!! 寝るときは子守歌にクラシック引いてやるからお願いだから問題を起こすなよ!!」

 

 こんなことがばれたら俺らもいらん責任負わされていろいろと活動に支障が出るではないか!!

 

「・・・あなた、苦労してるのね」

 

 黒歌に同情された!?

 

「いろいろ苦労してると人生損するにゃん。よかったらお姉さんがいいことしてあげましょうか?」

 

「結構だ。もっとしっかりとした服装で問題を起こすな問題を起こすな問題を起こすな」

 

 俺はさっさとこいつらの分の晩飯を用意するためにキッチンに向かっているのに、この女からかう気満々なのかついてきやがる。

 

 割と本気で殺意を向けてみるが、腐ってもSS級はぐれ悪魔だ。全然こたえずカラカラわらっている。

 

「そんな邪険にしなくてもいいじゃない。強い子を産みたい身としては、魔術師(メイガス)の魔術回路には興味あるのよ?」

 

 そんなことを言いながらしなだれかかってくるが、俺はさすがにそんなつもりはない。

 

「四人も女を侍らせている状態で、さらに女遊びをする趣味はない。遊び相手も全員関係を断ってる状態でだれが不倫するか」

 

「誠実なのかふしだらなのかわかりにくいにゃ。なんなら言いわけできるように術でもかけてあげましょうか?」

 

 どうやらマジで興味があるようだ。

 

 まあ、魔術師(メイガス)の魔術は魔術回路がなければ使いようがないから当然といえば当然か。

 

 すでに人造魔術師技術は開発できているが、アレはできる限り秘密にしておきたいし、フィフスもその辺はノータッチだろうから興味を持ってもおかしくない。

 

 とはいえ、ここでこいつに問題を起こされてはこっちが困る。

 

 ・・・まあいい。ついでに聞いておきたいことはあったんだ。

 

()()()()とはいえ派手に事を起こした女と今何かすると致命傷なんだよ」

 

 カマをかけるとしよう。

 

「・・・・・・・・・あんた、どこまで知ってるの」

 

 どうやら当たりらしい。

 

「別に? 俺は物的証拠なんて何も持ってねえよ。状況証拠から推測しただけだ」

 

 仮にも眷属に殺されたなんてことがあったせいで、黒歌の主の家系はそこそこダメージを受けてたからな。こういう家系は糸を垂らすと面白いぐらいにつかんでくれる。おかげで良質な領地を安く借りれたよ。

 

 黒歌の弱みでも握れないかとついでに情報を聞き出そうとしてみたが、他言無用の約束をする代わりに結構いろいろ聞き出せた。

 

 ・・・こいつの主が眷属強化に無茶な方法を取りまくっていたことぐらいは掴んでいる。

 

 駒もそこそこ余っていたみたいだし、眷属の血縁にも手を出していたみたいだ。一応調べてみたが出るわ出るわ改造の痕跡が。

 

 だが小猫ちゃんにはなかったからそんなこったろうと思ったが、やっぱりそれが理由か。

 

「やるんだったら連れ出すぐらいしてやれよ。関係者が小猫ちゃんの処分を検討するぐらい読めただろうに」

 

「飼い猫に野良猫の生活させてもうまくいくわけないでしょう? 幸い勘付いてるやつもいたみたいだし、ほっといても何とかなると思っただけにゃ」

 

「それでPTSDはノータッチだとするなら情けないことだ。意外とその時はうぶなねんねだったみたいだな?」

 

「アンタ、性格悪いって言われるでしょ」

 

 ああ、よく言われる。

 

「まあ俺は隠しておきたい事実について理解はあるし? 悪役気取りたいなら黙ってやるのも人情だってわかってるからバラしゃしねえよ。・・・実際恨まれて当然のことした敵に情けかけてやるつもりもないし、仲直りしたいなら自分でしな」

 

「それで? 黙ってやるから何をしてほしいのかにゃん?」

 

 ・・・いいねえこの駆け引き。最近こういうのしてなかったから懐かしい。

 

 少し前の常套手段を思い出しながら、俺は振り返ると軽く手を前に出す。

 

「安心しろ。交渉ってのはウィンウィンが基本だ。搾り取ることだけ考えた挙句、相手のセーフラインも見極めずに後ろから刺されるほど俺は馬鹿じゃない」

 

 恐喝っていうのはただ弱みを握ればいいってもんじゃない。サスペンスを見ればすぐにわかる内容だろう。

 

 相手の限界も見極めずに得ることだけ考える奴は恐喝者として失格だ。やばいラインがわかるようになって初めて三流になれる。相手に利益を与え、いうことを聞くと得になると思わせて初めて二流。

 

 そして自分から報酬のために行動させてくれないかと思わせるようになって一流ってやつだ。

 

 恐喝とはあくまで相手の行動を抑制するための首輪として使い、相手を動かすための餌は別に用意するのが交渉の肝だ。

 

 そして指示する行動も相手が抵抗を持たず、むしろ動きたくなるようなことを命じるのがベスト。

 

 まあ、つまり何が言いたいのかというと。

 

「実は小猫ちゃんが面倒なことになってるから、いろいろ把握してる身としてしっかり面倒を見てくれればそれでいいってことだ」

 

 ・・・仲良くできるなら仲良くしろ、ということだ。

 

「・・・あんた、性格悪いおせっかいってよく言われるでしょ」

 

「性格がよかったらこんなことやってねえよ。まあ晩飯は期待していて構わんがな」

 

 やれやれ。マジで問答なこって。

 

 




ナツミと小猫ちゃんの最大の差は、現時点でエロ行為ができるか否か。

つまり合法ロリのまま突き進めるのがナツミ、できないのが小猫ちゃん。




総合的にオカン気質なのが兵夜なので積極的に世話を焼いてしまう苦労人気質。この気質がのちのパワーアップにつながるといいね

因みにこの時点で曹操あたりがオーフィスに何かしようとしていることは察知しているが、それで共倒れになってくれれば好都合なので好きにやってろというのが本音だったり。それでも面倒を見るあたり悪人になり切れない。





とはいえ基本的には悪なので、偽悪的な行動は積極的に暴いたりはしないわけです。なのでそのあたりはノータッチ。

完全に相手だけが非を持つような怨恨による殺人とかだと、真相に気が付いてもあえて犯行を見逃すタイプなわけです。むしろ自分側に危害が加わらない限りこっそりフォローすることもあり得る奴。


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進級試験、大波乱です!!

設定を追加しました。

特に主要キャラにマテリアル的な設定欄を用意したので、よかったら見てください。











あと感想に質問があったので、ヒロインズの胸のランキングを裏設定に追記しました。


 まあそんなことがいっぱいある中、ついに来ました昇格試験!!

 

 まあ試験会場に人は少ないけどな。これはまあ仕方がない。

 

 グレモリー眷属全員に昇格の話が出なかったことも納得だ。これだけしかないならそりゃ人数は少ないだろう。

 

「み、みみみ宮白!! 俺、なんか緊張してきたんだけど!!」

 

「はいはい深呼吸しろ」

 

 イッセーがなんか緊張してるのがおかしくなってきたな。

 

 別にここで落ちたからって死ぬわけでもあるまいし、悪魔の寿命は長いんだからいくらでもリカバリー聞くし。

 

 まあ、今回で受かればラッキー程度に考えたほうがいいだろう。

 

「宮白くんは自然体だね」

 

「ま、正直自信あるし?」

 

 木場にはあっさりそう答える。

 

 実は筆記試験にはかなり自信がある。

 

 交渉というものは、相手がどう思うかを理解しなければやってられない。

 

 そして、俺は魔術師たちの指導役として様々な悪魔との交渉を何度も行ってきた。

 

 必然的に悪魔の思考は理解しようと努めている。各領地の基本方針ぐらいは完璧に頭に入っている。

 

 くっくっく。筆記試験は一発合格する自信があるぞ!!

 

 素の戦闘能力だってグレモリー眷属では確かにかなり低いというか、サポート専門のアーシアちゃんとギャスパーを除けば最低クラスの自信はある。が、それでも禁手に至っている神器保有の転生悪魔なんて間違いなく少数派だろう。

 

 強化武装の大半や神格や改造手術の発動はできないとはいえ、それ抜きでライザーを撃破しかけた俺の実力なら、実技試験だってそこそこ行ける自信があるぞ!!

 

 イッセーに至ってはむしろ相手がかわいそうすぎるぐらいの戦闘能力だ。木場と朱乃さんはむしろバランスよくさばきそうだなホント。

 

 うん。軽い気持ちだが落ちる姿が想像できない。

 

「あ、俺終わったらちょっと用事あるから先合流しててくれ」

 

「え?」

 

「こっちにいる悪魔との会合の話があってな。終わらせてから追いつくから、先行っててくれ」

 

 こっちもいろいろと忙しいので、せっかくの機会は逃さずやっておきたい。

 

 何事もマメな奴が成功するもんだ。こういうところはしっかりやっておかないとな。

 

「あ、兵夜くんだー」

 

 と、そんなことをしていたら久遠がやってきた。

 

「桜花さんもこっちだったのかい? 奇遇だね」

 

「会長が気を利かせてくれたんだよー」

 

「あらあら。ソーナ会長も粋な計らいをしますわね」

 

 木場たちと談笑しながら、久遠は俺たちと一緒に会場に向かっていく。

 

 しかしやはりというか数が少ない。

 

 やはり冥界は基本的には貴族社会か。別に悪いだなんていうつもりはないが、サーゼクス様達が善政を強いてくれているからこそ平和だということだな。

 

「やっぱりもっとよくなってきた方がいいんじゃねえか、冥界?」

 

「あー、まあ仕方がないところもあるけどねー」

 

 イッセーのぼやきに、意外にも久遠が頬を書きながらそれを押させる。

 

「戦争が停止してから改革になったのがアレなんだろうねー。数を増やすのはともかく質を強化する必要が低くなったから、頭数を増やすだけで貴族たちが満足しちゃったんだよー」

 

「それは確かにいえてるね。実際禍の団が動き始めたことで会長に賛同する悪魔たちが増えてきたと聞いているよ」

 

 木場のいうことは確かにその通りだ。

 

 転生悪魔制度は絶滅寸前の悪魔を増やすために行われたものだからな。

 

 これで戦争が続行状態なら、強力な戦力が必要になるわけだし、裏切られたりしたら迷惑だから嫌でも相応の地位につける必要があるだろう。

 

 少なくとも、中級悪魔の数はもっと増えているはずだ。

 

「平和も必ずしもいいことばかりじゃないからねー。ほら、安定してると腐敗することって多いじゃんー?」

 

「平和ボケって言う言葉もあるしなぁ。何事も適度な刺激があることが一番ってわけだ」

 

「そういう意味じゃ禍の団のおかげってわけかよ」

 

 久遠と俺の結論に、イッセーが苦い顔をする。

 

 まあ気持ちはわかるが、果たして禍の団という共通の敵がなければ今の各種神話を含めた和平が成立していたかというと微妙なところだ。

 

 政治っていうのは割と本気で難しいものだ。

 

「でも桜花さんはいいよなぁ。桜花さんだったら上級悪魔もあっさり行けそうだし」

 

「え? そうかなー」

 

 イッセーの言葉に久遠は微妙に苦い顔をする。

 

 ふむ、そこまでいうことだろうか?

 

「俺らが大活躍すればするほど、その俺らを単独で追い込んだお前のスペックが引き立つわけだからなぁ。実際シトリー眷属じゃ一番の出世頭だろ」

 

「模擬戦でも駒王学園生徒だけなら勝率ぶっちぎりトップじゃないか。いや、宮白くんが偽聖剣を反則技として使いたがらないのも原因だけど」

 

「イッセーくんあいてに勝率9割を超えている女子は久遠ちゃんだけですわよ? と、いうかそんな勝率を出してるのは一人もいませんわよ?」

 

「乳語翻訳を使ったときに『条件反射でいくよー』とか出てきたときはぽかんとしたし。というか、それで完封された時は俺死のうかと思ったんだけど」

 

 グレモリー眷属による連発褒め上げが出るが実際その通りだ。

 

 マジで模擬戦を行ったら勝率ランキングトップランカーは久遠・イッセー・木場の三人だったりするし。堂々女子ランキングトップ。と、いうか一位とることもかなり多い。

 

 しかも女子なのにイッセー相手の勝率でもトップランクなのがすごい。ちなみに二位は動くタイミングを直感で読める俺だったりする。ただこれは木場が隠し玉を持っていそうなので変動はありだろう。

 

「いや、魔法世界じゃ脱がし合いになることなんて珍しくもないからー。洋服崩壊そんなに怖くないしー」

 

「いや、乳語翻訳は!? 俺あれで自信なくしたんだけど!?」

 

 うん、あれを突破するのは反則だろ。

 

 読まれるのを防いだとかそういうわけじゃなくて読まれても問題なく倒してるのが厄介だ。

 

 戦闘においてあまり考えないゼノヴィアを引き離して堂々の女子トップだからな。

 

「いやいや、考えを読む相手に考えないで戦うのは漫画でもよくあるじゃんー。「右ストレートでぶんなぐる!!」的なー?」

 

「いや、桜花さんって前にバックステップの姿勢で懐に潜り込むなんて搦め手使ったよね?」

 

 木場が冷や汗交じりにいうがアレはビビった。俺もつられて反対側見てたから何があったのか全くわからなかったぞ。

 

「あんなことを条件反射で出来たらたまりませんわよ?」

 

「いや、武術って「条件反射でできることを増やす」のが基本なところがあるからー。イッセーくんたちだってあと十年戦い続けてたら嫌でも身につくよー?」

 

「お前一体どんな人生送ってきたんだよ!?」

 

 明らかに俺たちよりはるかに濃い人生送ってきたとしか思えないんだが!?

 

「え? 言ってなかったっけ? 傭兵部隊の部隊長ー」

 

 あっけらかんといった一言に、俺たちはいっせいにぽかんとした。

 

「両親がそこのベテランだったから、私もかなり小さいころから戦闘慣れしてたからねー。呑み込みが早かったから何となくで小規模戦闘とかに参加してたら、いつの間にか速いこともあって特攻隊長になっちゃったんだー」

 

「マジで!? 桜花さんって合計年齢宮白とそんな変わらないんじゃなかったっけ!?」

 

「んー。前は19歳ぐらいだったかなー? 隊長になったのは14・5歳ー?」

 

 ・・・若すぎだろ。人間世界でそんな年の隊長がいるような軍隊、明らかに問題があるだろ。

 

「あの世界って実力主義だから十代前半の戦闘要員なんてそんな珍しくもないしねー。伝説的な英雄のナギ・スプリングフィールドも十代で偉業を成し遂げたしー? 高等教育受けた人だって、中学生ぐらいで騎士団入りとかよくあるよー?」

 

「そのうち、十歳になる前に戦場で英雄になった人とか来そうですわね」

 

 俺らもさすがにびっくりの低年齢層に朱乃さんがあきれてしまった。

 

 まあ俺たちも同感だけど。

 

 久遠はそういうことには慣れっこなのか、普通に歩いているが、急にどこか暗くなった。

 

「だから、別にそんなにすごいわけじゃないんだよー。・・・実際、そろそろやばいしねー」

 

 久遠の表情に影が映る。

 

 ・・・え? 何か問題でもあるの?

 

「・・・身長180センチ、Eカップ」

 

 いやすいません。お前って身長160ギリギリでどう見てもひいき目でB―

 

「宮白くん? 彼女が相手だからってデリカシーない想像はいけませんわよ?」

 

 はいすいません!!

 

「な、なんかすっごい色っぽいお姉さんな予感がしてきましたが、それって一体誰でしょうか!?」

 

 そしてイッセーは鼻血を流そうとするな!?

 

「前の私ー」

 

 ふむ。

 

 なるほど。

 

 酷いなオイ。

 

「だから失礼ですわよ?」

 

「はいすいません!?」

 

 マズイ!? 感想を思っただけで殺される!?

 

「いや、胸は正直戦闘に邪魔だから好都合なんだけどねー? 兵夜くんに挟むのは小雪ちゃんやベルさんがいるしー? ナツミちゃんは成長しそうだしー?」

 

「最近思うんだけど、俺はこの割り切りぐらいがうらやましく思う」

 

 イッセー。たぶん今シリアスだからそういうのやめろ。いや、俺も同意見な時はあるけどね? アグレッシブな上に斜め上だもん部長たち。

 

 朱乃さん? そこでドSな表情浮かべないでください。反省してもうちょっと正攻法で行ってください。

 

「問題は手足の長さだよー。前の動きのままじゃこの差がかなり邪魔になるねー。今までは何とかなってきたけど、勘がだいぶ取り戻せてきたからこのままだと逆にかみ合わないんだよー」

 

 あ~。なるほど。そういうことね。

 

「それはキツイね。魔力攻撃タイプの朱乃さんや策略タイプの宮白くんはともかく、前衛職としてはかなり大変だ」

 

 特にこういったことが重要な木場はかなり深刻な表情だ。

 

「それに今までは勘を取り戻せばいいから普通に何とかなるけど、そろそろ貯蓄が切れそうなんだよー。たぶんそろそろガクンと遅くなるかなー。第一・・・」

 

 割と深刻な現状なのがよくわかってきたが、最後に一番暗くなっていた。

 

「・・・出遅れが、あまりにひどすぎるしねー」

 

「で、出遅れ? むしろ桜花さん前に出すぎなぐらいじゃ・・・」

 

「違うよイッセーくんー。私は出るのが遅すぎるぐらいだよー」

 

 イッセーの言葉を遮って、久遠ははっきりと断言する。

 

「いや、私ってなんていうか会長に会うまで適当に生きてきててさー。ぶっちゃけ合うまで廃ゲーマーだったからー」

 

「「「「廃ゲーマー!?」」」」

 

 すごい意外な一言が飛び出してきましたよ!?

 

 俺も初耳なんだけど!?

 

「いやほらー、MMORPGってキャラクター作るじゃんかー。作ったキャラクターしかいないっていうのが結構楽でさー?」

 

「ああなるほど」

 

 言われてみればすごい納得だ。

 

 異物感がひどい転生者にとって、最初から作ったキャラしか存在しないネットゲームの中は居心地楽だな。

 

 俺もイッセーに出会う前なら嵌りそうだ。

 

「だからインドア系ぶっちぎりで全然運動しなかったからねー。兵夜くんの真逆で成長期は一次も二次も鍛えてないからもやしっこなんだよー」

 

「そんなもやしに負けまくっている剣道部の連中って一体!?」

 

「そこはほら、経験の差で動きが予想できるからなんとかー」

 

 イッセーがドン引いているが気持ちはわかる。

 

 そんなんで全く運動してない奴が仮にも運動しまくっている奴を超えられたらあれだろう。

 

 だがお前もあまり人のこと言えない状況だからな? 身体能力では追い抜かれてる現状にアレな気分なのは俺もだからな?

 

「この差はかなり大きいからねー。気や経験で何とかするのも限界があるしー、そろそろいい加減追いつかれるよー」

 

 そういいながら笑う久遠の表情は、今までにないぐらい影があった。

 

「だからまー、中級ぐらいが限界かなー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どことなくもやもやするものが残ったまま迎えた昇格試験。

 

 とりあえず筆記はほぼ完ぺきに終了した。

 

 セラフォルー様のご機嫌取りのために覚えた魔法少女レヴィアたんの知識まで役立つとは想定外だった。なんで禍の団の知識まで併用してるんだよ。試験内容がバリエーションにとびすぎているんだけど、これ合格者が少ない原因の一つじゃないだろうか?

 

 冥界というのは多芸であることが求められるようだ。この辺人間界はもうちょっと専門的なのでわかりやすい。

 

 で、ある程度休憩してから実技試験。

 

「いいかイッセー? とにかくガードを固めろ。防御を充てんすることが重要だ? いきなり不意打ちもらって気絶したら笑えないからな? お前は鎧になるまでが大変だから気を付けろよ?」

 

 俺はとにかくイッセーに注意する。

 

 まあ、これはそこまで心配してない。

 

 そもそも魔術を使えばなりたての俺だって上級悪魔の期待のルーキーであるライザーと渡り合えたんだ。

 

 禁手になるということがそもそもレアな状況の世界でイレギュラーな禁手になった俺はその時点で中級ぐらいなら何とかなるだろう。素の俺で何とかなるならグレモリー眷属でやばいやつは完全サポートタイプのアーシアちゃんかギャスパーぐらいだ。

 

 余裕すぎたんで偽聖剣はオーバーホールに出した。アーチャーにもオーバーホールが終わったらゆっくり休んでいるように言っているし、戻ったら新たな偽聖剣のお披露目だろう。

 

 イッセーだって回避に徹すれば中級悪魔ぐらいなら何とかなるだろう。つか不完全な状態ですらライザーをボコるはヴァーリをボコるはしてるんだから、今更中級悪魔程度に引けは取るまい。

 

 よほど試験で情けない真似でもしなければ、試験官もイッセーの実技試験は気にしないだろう。

 

 と、言うわけでイッセーの試験は始まり、的確に対処をしてのけている。

 

 うん、現時点でも相手になってないな。

 

 まあ禁手になる前というイッセー最大の欠点に対する特訓は嫌というほどしているから、あの程度の実力では一発も当てられんだろう。むしろ禁手にならなくても苦戦しないレベルだ。

 

 やはり俺たちは頭一つとびぬけているな。この試験で一番危険なのはやっぱり俺か。

 

 イッセーも禁手になったし、俺はこの日のためにかき集めてきた試験参加者のデータから俺の試験の対策に徹底して―

 

「我は万物と渡り合う龍の豪傑なり!!」

 

 ・・・・・・あれ?

 

 今なんかとんでもないセリフが聞こえてような・・・。

 

「今度は俺の番だぁああああ!!!」

 

 イッセーがなぜか全力出してるぅ!?

 

 しまった! ガードを固めるよう言いすぎて全力で耐久力あげやがった!?

 

 だけど攻撃力まで全力なのはいかがと思うっていうか、これ相手死ぬ!?

 

「ちょっと待―」

 

 木場や朱乃さんも動こうとしてるけど、これは間に合わない!?

 

 まさかと思ったけどあのバカ本当に実技自信なかったのか!? やばいうっかりした!?

 

 心の中で謝罪会見の原稿すら作り始めた瞬間、イッセーと相手の間に割り込む影があった。

 

「そいや・・・!!」

 

 次の瞬間、割り込んだ影こと久遠が、一瞬でイッセーにネックハンキングツリー!!

 

 そのままイッセーが天井突き破って上空へドーン!!

 

「うわぁああああああああああああああああ・・・っ!?」

 

「・・・ふうー。危なかったー」

 

 ・・・本当に危なかったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセーくんー? きみは自分の強さがわかってないねー?」

 

「い、いや、相手も中級試験に出るんだから油断できなかったし・・・」

 

 試験を中断して久遠がイッセーを正座させていた。

 

 珍しく久遠の額に青筋が浮かんでいる。

 

 こいつがマジで怒ったところ、初めて見た。

 

「あのねー? 中級昇格試験なんて部活のトップ決定戦だよー? 全国大会常連のイッセーくんレベルで何を無茶苦茶やってるのかなー?」

 

 うん、言ってることは正論なので何一つフォローできない。

 

 昇格試験の話が出てから、ことあるごとに実技試験の対策とか言っていたがここまでとは思わなかった。

 

 過ぎた自虐は人を不幸にする。教訓として覚えておこう。常に客観的な視点を心がけねば、今回のようなギリギリで何とかならなければ悲劇を生む事態もあり得たのだ。

 

「いや、でも俺はいつも苦戦してるし―」

 

「白龍皇なヴァーリ・ルシファーとか、兵夜くんもビックリなドーピングしまくりのシャルバ・ベルゼブブとか、最新の魔剣をもったザムジオ・アスモデウスとか設定盛りすぎの魔王血族相手にことごとく勝ってる時点で自分がチートなの自覚しようよー。神滅具の禁手な時点で並の上級悪魔を凌駕しているんだからねー? 敵がチートなだけなんだからねー?」

 

 なんでこいつはテロ組織の主力や神と彼らを比較したのだろうか?

 

 とんでもないビッグネームを比較対象にされたせいで、受験者の人たちはおろか試験官すら真っ青になってるぞ。

 

「いや、あれはみんなオッパイの力で何とかなっているようなもんだし」

 

「それ以前の問題だからねー? 前から言おうと思ったんだけど、イッセーくんの戦闘能力と成長率の自覚のなさっぷりは私としてもコンプレックスを刺激されるというかー・・・」

 

「勝ちこされてる相手に言われても実感わかないって・・・!」

 

 ・・・試験、いつになったら再開するんだろう?

 

 




Q 本日の兵夜のうっかりは?

A うっかりイッセーをあせらせすぎて死者が出かけた!!




なまじ実力を把握しているからこそ、まさかここでビビるとは思わなかったことが敗因。マジで全力出すなどと想像もしてなかったのです。



久遠の悩みは結構深刻。まあ現時点ではぜいたくな悩み・・・・・・・・・のようでいてインフレ激しいので結構マジな悩み。

戦闘経験が豊富で自分を熟知しているから頭一つとびぬけているが、熟知しすぎているので頭打ちになるのを理解してしまっているといった感じです。実際久遠が超強いのはこっちの特訓ではなく以前の能力と知識がほとんどですから。バリバリ稼いで金ためているイッセーたちに対して、遺産で贅沢しているが、金稼ぐ速度が追い付いていない感じ。兵夜や小雪は遺産をやりくりしてしっかり増やしていくみたいなノリです。

わかりやすく言うと兵夜の逆。ないから鍛えまくった結果そこそこ戦えるようになったのが兵夜。あるけどなまけまくった結果、そこそこ戦える程度なのが久遠。

因みにあるけどないという微妙な立ち位置で、トラウマもあったので努力し続けてきたのが小雪。あるけどつかったことがない前世で、こっち来てから鍛えてきたのがベル。ナツミはそういう意味では久遠側だが、天才系なのでやろうと思えばパワーアップ可能といった感じ。

とはいえそのあるものが豊富すぎるので今のところはイッセーを翻弄できるのですが。実際当分はシトリー眷属最強の座を降りることはないでしょうってぐらいに強い。冗談抜きで勝つことを捨てればジャック・ラカンを足止めできるぐらいには強い。ちなみに勝つことを捨てずにまともにやり合って勝算あるのがナツミ。最初からまともに勝負しないのが兵夜。






ちなみに味方陣営で一番兵夜が戦いたくないのが久遠。

戦闘経験が豊富でかつ自分のスタイルがほぼ完成しているので付け入るスキがなく、戦術面で上回れるところが多いので勝ち目が非常に薄いのです。戦術でソーナを狙おうにも、瞬動とパクティオーカードの合わせ技ですぐに追いつかれるし何より本人もそれは熟知しているのでリカバリーも速い。

しいて言うなら遠距離攻撃力の低さぐらいしか欠点がありませんが、それも超高速移動ができるので欠点というより特徴レベル。冗談抜きで駒王学園生徒で一番戦士として完成しています。まあ元本職なので当然ですが。

因みに同様の理由で曹操にとってもシトリー眷属で一番の鬼門で、女宝が効くかどうかわからないのでうかつに攻めたくないと認識されています。実際突破可能ということにしているので、グレモリー眷属よりよっぽどやりにくい相手です。


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大物、会談します!

 個室で会話できるレストランで、俺は会談相手と談笑していた。

 

「お初にお目にかかります、ゼクラム・バアル。・・・バアル家のあなたがグラシャラボラス領に別荘を構えているとは思いませんでしたよ」

 

「なに、私はすでに隠居した身だ。別荘の一つぐらい持っていてもおかしくあるまい」

 

 ゼクラム・バアル。血筋ゆえにサイラオーグ・バアルや部長の面影をもつこの男との個人的な会談はとても素晴らしい。

 

 なにせ彼はサーゼクスさまと影響力を二分する超大物だ。貴族たちへの影響力なら凌駕するといってもいい。

 

 仮にも貴族が中心となっている現悪魔業界で改革路線が通っているのは、サーゼクスさまたちの手腕と彼が反対していないことが原因だ。

 

「人間界でも、友好国に別荘を持っているお金持ちはいるだろう? 私も直接政治には参加していないのだから、それぐらいしても問題あるまい」

 

「いまだ貴族たちの尊敬を一心に浴びるお方が謙遜しないでください。サーゼクスさまたちもあなたのことは重要視しておられると聞きます」

 

 割と本気で緊張しているが、そんなことはおくびにも出さない。

 

 そんなことはばれているだろうが、だからといってためらわずビクビクしていてはなめてかかられるだろう。

 

 その後も軽く食事をとりながら談笑し、俺は彼の実力をいやというほど理解する。

 

 ・・・彼は非常に素晴らしい。

 

 現状革命が必要であることを理解しながら、その度合いを自分に都合がいいように調整していく手腕は見事だ。 

 

 相いれない価値観を妥協し、相手の妥協すら引き出して折り合いをつける。自分にとって価値がないもので相手にとって価値がないものを手に入れる。

 

 交渉というものをよく理解している。これほどの人物が旧態の悪魔の中にいたのでは、サーゼクスさまたちも苦労なさっているだろう。

 

「正直な話、君は私にとっての悪魔というものをよく理解してくれている。転生悪魔で君のようなものに出会うのはめったにない」

 

「古き名門にとっての価値観というものはよく理解しております。魔術師もまた、歴史を積み上げた家柄に力が宿る者。潜在的な才能においては悪魔もまた近しい側面を持ち合わせていますから」

 

 短い会話でよく理解できた。

 

 この男は、俺の今後に必要な人種だ。

 

 長い歴史で自らを改良し、よりよい子孫を生み出して継承するのが魔術師だ。

 

 すなわち家柄は魔術師にとってとても重要。それは魔術師の台を積み上げていくであろう俺たちにとって否定することは不可能だろう。

 

 どれだけ努力と理論を積み上げようと、明確な才能の差は確かにある。そしてその才能は大体は家柄で判明する。それは魔術師というものの逃れられない側面だ。

 

 彼はそれに対してとても理解がある。近しい価値観で生きているのだから当然だ。

 

 ゆえに―

 

「魔術師という家系は、()()とは非常に相性がいい。・・・魔術師(メイガス)にとって、私という存在はサーゼクス以上に重要な存在なのだろう?」

 

 ―この男は俺が望むことを理解している。

 

「・・・やはりあなたは素晴らしい。私風情では隠し通せないようだ」

 

 そう。彼のような存在は魔術師にとって必要不可欠だ。

 

 魔術師という存在の生き方は、サーゼクス様達のような価値観とは本来相いれない。

 

 代わっていくことが必要だとはいえ、厳選たるあり方まで変えられるほど無理を通せるわけがない。そんなことをすれば間違いなく空中分解する。

 

 だから、魔術師という存在をまとめあげるにはサーゼクス様達では無理なのだ。

 

 もっとこう、家の重みを理解し、そういった価値観で生きる黒い存在こそが必要だ。

 

「・・・魔術師(メイガス)という存在が欲するのは、現魔王ではなくあなたのような存在です。その力は、あなたのできのいい孫にも得となるのではないでしょうか?」

 

 もちろんこれはサイラオーグ・バアルでないし、そんなことは彼にもわかっている。

 

 サイラオーグ・バアルは優秀ではあるが、バアルとしては出来が悪い。

 

 この面倒な事実は当事者である彼こそ理解しているだろう。

 

「なるほど、我々のことを本当によく理解している」

 

 満足げにうなづいたゼクラム・バアルは、一つの小さな小箱を取り出した。

 

 開かれたその箱には、一つの悪魔の駒がおかれている。

 

「失礼」

 

 俺は一言断ってからそれを解析し、彼が何を言いたいのかを理解した。

 

「・・・了解しました。この代用品を我が組織が作り上げ、その試作品を一つか二つ、わざと(手違い)でそちらに護送しましょう。私はよくうっかりをするので、魔王様に対する報告は遅れるかもしれません」

 

「うむ。人間界でも法で規制されていないものを使うことは犯罪ではないし、トップランカーの何人かも規制される前にこれを使ったことがあるものは何人もいる。・・・サイラオーグの弟は罪には問われんだろう」

 

 まあ、これは必要なことだから仕方があるまい。

 

 ゼクラム・バアルはサイラオーグには家門によるものではない魔王の座についてほしい。家門を継ぐのは消滅を継承した弟の方だ。

 

 だが、彼の実力はサイラオーグに明確に劣っている。この差を埋めねば弟は大王としての権力を振るえないだろう。

 

 だが、俺たちの力でその差を埋めれたのならゼクラム・バアルはその恩を返してくれるだろう。

 

 うん、それがうっかりミスによる魔王様の望まぬ結果だとしても、彼ならうまくとりなしてくれるだろう。

 

「・・・とりあえずサーゼクス様にはこういったこともあるとは伝えておきますけど、謝るときは一緒にお願いしますね?」

 

「構わぬよ、年の離れた友人の頼みは聞くものだ」

 

 俺たちはそういい合うと、微笑をかわし合った。

 

 ・・・ちなみに、この裏取引はとっくの昔にアザゼルには前もって話しており、ドーピングアイテムの生産という展開は想定内だ。いざとなればアザゼルもちゃんと頭を下げてくれる。サーゼクスさまにもある程度の予定は伝えており、想定外のぶっ飛んだ展開にはなっていない。王の駒についてもサーゼクス様から想定される展開として説明済みだ。当然、ゼクラム・バアルもそれぐらい想定内だろう。

 

 そもそも生産できるのだから、サーゼクス様側の連中にも使う分には何の問題もない。パワーバランスはひっくり返らないだろう。

 

 これでゼクラム・バアルは後継者問題を解決でき、俺は魔術師たちに理解あふれる後見人を与えることができる。

 

 悪魔はバアルの名にふさわしい後継者を手に入れることができ、その代償により魔術師の発展もだいぶ楽になるだろう。

 

 皆ハッピー、俺もハッピー。

 

 うん、我ながらホント黒い!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・疲れた」

 

 俺は合流する前に一休みして缶ビールを飲んだ。

 

 事前にメールはしておいたので、問題あるなら返信してくるだろう。

 

 正直心臓に悪い交渉を久しぶりにこなしたので、一息ついてリフレッシュしてからじゃないとみんな心配してしまう。

 

 っていうか戻ってからも心臓に悪いからインターバルがほしい。なんでこんな秘密の難業をかまさねばならないのだ。しかもここ数日ほぼ毎日!

 

 しかもオーフィスは生活習慣というか食生活があれだし、つい面倒をみてしまって余計に疲れた。

 

 これが終わればあとはサーゼクス様達の仕事。俺はようやく難題から解放される。

 

 ああ、だから頑張ってすぐ回復しろ。面倒くさいから留守番してるナツミに対するお土産とか買ったらすぐ戻ろう・・・。

 

「お疲れさま、兵夜くんー」

 

 俺の目の前に、栄養ドリンクが突き出された。

 

「・・・久遠」

 

「よくわからないけど、いろいろあったみたいだねー」

 

 俺にドリンクを渡してから、久遠は俺の隣に座り込む。

 

 ・・・シトリー眷属には何も言ってないんだよなぁ、そういえば。

 

 幸か不幸かベルと小雪は身内の裏切り者を一網打尽にするために最近は駒王町にもいないから伝える機会もなくて助かってるけど、こいつには悪いことしてるな。

 

 正直それとなくにおわせたほうがいいかと思ったが、そんな俺の唇に久遠が人差し指を当てる。

 

「何も言わなくていいよー。大方、アザゼル先生あたりが口止めしてるんでしょー?」

 

「察しがいいな」

 

 こいつ、本当にできる女すぎる。

 

「会長たちは気づいてないけど、傭兵家業は上が切り捨てるかどうか読めないと生きてけないからねー」

 

 なるほど。これが経験の差ってやつか。

 

「アザゼル先生ならそう悪いことにはならないだろうし、兵夜くんはそういうときはちゃんと言ってくれるから、今は聞かないで上げるねー」

 

「悪いな。・・・近いうちに必ず説明する」

 

 マジでいい女で助かった。

 

 結局、中級試験はイッセーがやりすぎたぐらいで終了した。

 

 木場も朱乃さんも特に失敗はなし。俺も結構余裕をもって勝利することができた。

 

 久遠に至っては完全勝利。いや、それどころじゃない。

 

「お前意外と教師向いてるんじゃないか? 対戦相手が終わった後お礼言ってたじゃないか」

 

「いやぁ、隙がある部分を指摘しただけなんだけどねー? 呑み込みが早いから後半ちょっと苦労したよー」

 

 久遠のやつ、ヒット&アウェイで軽く攻撃を当てる程度に終始し、むしろ相手の動きをよくするかのようにわざと隙を作ったり指摘したりを繰り返していた。

 

 おかげで戦闘がすすむにすれて相手の動きが目に見えてよくなっており、最後の方は手を抜かれていたとはいえカウンターを決めれるようになっている。

 

 見ていた人はことごとく歓声を上げていたし、対戦相手をうらやましがっている人もいたほどだ。

 

「試験官の上級からスカウトも受けてたじゃねえか。・・・ぜひ眷属の指導役としてトレードを受けてほしいってさ」

 

「いやいやー。あれぐらいの指導なら傭兵自体もやってたからねー」

 

 久遠は照れ笑いを浮かべるが、ふと苦笑すると自分の手を見る。

 

「・・・会長がさー、剣術指南役として本格的に教師として活動してみないかって言ってるんだよねー」

 

 自分でもその感情を把握できていないのか、久遠の表情はぎこちない。

 

「確かに京都神鳴流をこの世界でも広められるのはいいんだけどさー、ちょっと怖いんだよねー」

 

「怖いって、何が?」

 

 久遠は自虐的な表情を浮かべると、そのまま紫色の空を見上げる。

 

「・・・打ち止め気味な私が、そのまま追い抜かれていくのが怖いんだよねー」

 

 それは、間違いなく本音だった。

 

「このままじゃ、会長を守りきれないからさー」

 

 ・・・俺は、一つだけ方法を思いついていた。

 

 できるかどうかはわからないが、今の俺ならそれぐらいの余裕はあるだろうし、まあ失敗しても負担にはなるまい。

 

「久遠、あのな―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、爆発音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「久遠!!」

 

「わかってるー!!」

 

 あわてて俺たちは音がしたほうへと走り出す。

 

 イッセーたちは気づくか!? いや、オーフィスがいる状況下ではかえってややこしいことになるか。

 

 おそらくアザゼルならそれぐらいは判断できるはず。だったら俺たちが急いだほうがいい。

 

 音がしたところへとたどり着いた時、俺たちの目の前には暴徒があふれかえっていた。

 

「ひゃははははは!!!」

 

「ひ、ひひひひひ!!」

 

 なんだこれは、一斉に酔っ払いが暴れ出しでもしたか!?

 

「兵夜くんー! 麻酔ガスか何かなかったっけー!?」

 

「安心しろ! 催涙弾から麻酔ガスまで完全装備だ!!」

 

 俺はガスマスクを久遠にほおってから、一斉にガスを出して鎮圧を開始する。

 

 だがいきなりこんなことが起こるわけがない。

 

 下手人はどこのどいつだ!?

 

 あたりを見渡す俺たちの頭上から、これが投げかけられる。

 

「おやおや? 面倒な奴が現れたって感じ?」

 

 とっさに振り向いた俺たちの目の前に、見覚えのある女があらわれる。

 

 たしか禍の団のリット・バートリ! なんでこんなところに禍の団が!?

 

「最近いいところがなくて下働きとかむかつくし、ちょっとストレス発散に付き合えって感じ!!」

 

 ええいこの面倒な時!!

 

「上がどんなことになってるのかも知らない下働き風情が!! さっさと叩きのめしてくれる!!」

 

 こいつが元凶なら都合がいい。

 

 さっさと終わらせて手柄にしてくれるわ!!

 

 




皆様忘れがちですが、兵夜はもともと犯罪業界でのし上がってきた男です。

当然、こういった黒いやり取りにも慣れているわけで、久しぶりにその側面を出すこととしました。

実際ゼクラムとの相性はある意味でいいと思うんですよ。仲がいいのは四大魔王だけど、馬が合うのはゼクラムですね。特に魔術師全体としてはゼクラムの思想の方が理解できると思うんです。





それはそれとしてラブタイムもあります。

・・・実は久遠の扱いは結構悩んでおりました。

彼女の立ち位置と思想では、毎回毎回グレモリー眷属と共闘するなんて展開にはしづらい。必然的にほかのヒロインとバランスを取る必要があるが、これが結構大変。

 だが、想像以上にヒロイン力が高すぎてそこでさらにバランスがとりにくい。マジで悩みました。









で、発想を逆転させました。

「すごいんだけどバランスとりたい」じゃなくて「出番にムラはあるけどその分活躍する」タイプにすることにしました。

と、言うわけでウロボロスとヒーローズは久遠編でございます。


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英霊たちの影

ウロボロス編ラストです。



速いよ!! というツッコミはなしでお願いします。


 五分後。

 

「な、なんだこの強さはって感じ・・・」

 

「思った以上にあっさり終わったねー」

 

「俺たちって予想以上に強くなってたんだな」

 

 あっさり勝てました。

 

 いや、強くなった強くなったとは思ったけど強くなったな本当に。

 

 以前戦ったときは苦戦した驚異の1人だったが、こうも簡単に終わらせられるとは思わなかった。

 

 まああの時からなんというか小物臭はしていたが、こうも情けないと苦戦した俺たちを怒りたくなってくるな。

 

「で、どうする? こいつたぶんそんな地位高くないしここで殺しとくか?」

 

「確かに無理して生かしておくには中途半端な地位だよねー」

 

「待って待って待って待って!! い、命だけはお助けを!!」

 

 割と本気でビビっているようだが、こいつ操られてもいない完璧なテロリストだしなぁ。

 

 ぶっちゃけ暴動が治まってないからこいつにかかずらってる暇はないし、かといって生かして反撃されるといらん被害が出そうなレベルの中途半端な実力だし。

 

「イッセーくんたちが来てるなら一人ぐらい監視に割いてもいいんだけどねー。やっぱり無理っぽい?」

 

「正直向こうも向こうで大変だろうからな。アザゼルの性格なら現地に任せると思うし、どうしたものか」

 

 余り悩んでいる暇もないしな。

 

 かといってうかつに殺して俺に責任がくるとせっかくの交渉が無駄になるし。

 

「兵夜くんはとりあえず暴動止めにいったらー。こういうのはやったことあるからとりあえずやっとくけどー」

 

 ん~。自分の女に汚れ仕事を任せるのは気が引けるが、慣れてるっていうなら無理に引き止めるのもあれだろうか。

 

 俺たちの会話を聞いたリットはもう顔が真っ白だ。うん、やっぱりすっぱり殺してやった方がこいつの心にも優しいだろうか?

 

 ぶっちゃけ命乞いを聞いてやるような奴じゃないし、やっぱりここで驚異を排除しておくべきか?

 

「お、お願いだから助けて!! ・・・助けてくれたらいいこと教えてあげるから!!」

 

 ほらあっさり裏切るし。敵にとっても扱いに困るレベルだったんだろう。

 

 俺は割と本気で始末しようかと思ったが、次の言葉で動きを止める。

 

「そ、曹操とハーデスの密会を録音してるの!! ほ、ほら、司法取引には十分な感じ!?」

 

「・・・おい、詳しく話せ」

 

 ちょっと冗談抜きで待て。

 

 言っちゃなんだがこの暴動を無視してもおつりがくるようなとんでもない内容だぞそれ!?

 

「テロリストと密会って穏やかじゃないねー。まさか出資者とかー?」

 

 まあ一人ぐらいはいるかと思うが、果たしてそうだろうか?

 

 禍の団はおそらく結構前から形はできていたと思うが、だからといって大元は旧魔王派だっただろう。

 

 三大勢力の内紛に、わざわざほかの神話体系が積極的にかかわるか?

 

「な、なんかサマエルを使ってオーフィスを削るとか言ってた!! ほ、ほら、コレ録音したテープ!!」

 

 ・・・おいちょっと待て!!

 

「ヴァーリがオーフィスを連れてきたのはそのせいか!!」

 

 いくらなんでもむちゃくちゃだとは思ったし、そういう可能性もあるとは思ってたが、ちょっと待てサマエル!?

 

 たしか以前調べた限りドラゴンに対する絶対存在とか言われてなかったか!?

 

 おいおいおいおいちょっと待て、そんなのイッセーやアザゼルも割とやばいぞ!!

 

「おいカマセ!! お前今回の襲撃誰から指示された!?」

 

「え!? ふぃ・フィフスからだけど!?」

 

 ・・・まさか―

 

「・・・陽動か!?」

 

「そういうことだぜ、宮白兵夜ぁ!!」

 

 真上から、影が下りた。

 

「兵夜くん!!」

 

 久遠にかっさらわれて俺がその場から遠のくと、そこに男が舞い降りた。

 

「ちっ! 外したか」

 

「ヘラクレス!!」

 

 英雄派の連中がこんなところに!!

 

「まさか宮白兵夜が釣れるなんて思わなかったわね。リットといったい何を話してたのかしら?」

 

「・・・ジャンヌまで出てくるとは面倒だねー」

 

 久遠もマジで警戒している。

 

 ええい面倒な奴が面倒な時に!!

 

 幸いリットが俺たちに情報を漏らしていたことはばれてないようだが、それはそれで大変だ。

 

「お前ら、一体なんでこんなところにいる!? イッセーたちはどうした!!」

 

 年のど真ん中に登場とか面倒すぎだろ!! 監視は一体何をしていた!!

 

「赤龍帝は曹操たちが動いてるわ。・・・私たちはフィフスの実験を見学しに来たのよ」

 

 フィフスの実験?

 

 あいつ今度は何をたくらんでいる。

 

「ちょうどいい。奴にやらせてみたらどうだ?」

 

 ヘラクレスがめんどくさそうにそんなことを言う。

 

 ・・・なるほど、そいつが今回の元凶ということか。

 

「よかったわねヘラクレス。言われずとも来たみたいよ?」

 

 面白がっているジャンヌの言葉に、俺と久遠は視線をそちらに向ける。

 

 ・・・それは、ホムンクルスだった。

 

 それだけならそこまで恐れることはない。っていうかパワードスーツもつけていない。

 

 だが、その気配は明らかに異常だった。

 

「我が・・・使命。狂気の・・・拡散・・・」

 

 バーサーカーもビックリの狂いっぷりなんだが、あいつ一体何を作りやがった?

 

「狂気・・・悲劇・・・彼らの死は・・・悲劇・・・!」

 

 その視線が俺たちに向けられた瞬間、奴は一気に駆け出した。

 

 速い・・・っ!

 

「だがまっすぐだ!!」

 

 カウンターで結晶体を召喚。剛速球でたたきつける。

 

 奴はよける体制も見せず直撃。まずは一撃!!

 

「さあどうなる!?」

 

「死を・・・送る。さあ・・・滅びよ!!」

 

 血は流してるが軽傷か!

 

 奴は突進しながら拳を振りかぶる。

 

 俺たちはバックステップでそれを回避。勢い余った拳は地面に突き刺さり、クレーターを生み出す。

 

 かなり筋力が高い。B+ランクといったところか!!

 

「久遠! 倒せるか?」

 

「ちょっと試すよー」

 

 腕を引き抜いているすきをついて、久遠が横に回り込んで太刀をたたきつける。

 

 一瞬遅れて鮮血が飛び散るが、ホムンクルスはうめき声を挙げながら反撃を叩き込んだ。

 

「ちょっと頑丈だねー。でも、コレなら楽に倒せるよー!」

 

「OK! だったら援護するぜ!!」

 

 ヘラクレスたちは様子見に徹しているようだ。コレならさっさと片付けられるか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホムンクルスによるテストは良好。なかなかいい拾い物をしたが、クラススキルを加えて使用するとあまりスペックを発揮できないなこれが」

 

「フィフスさま。我々に対する使用はいかがなさいますか?」

 

「できればもう少し実験をしてからにしておきたいところだ。・・・英雄派の連中をダシに使えればいいデータが取れそうなんだが、さすがに曹操が怒るしな」

 

「そういえば、なぜ英雄派はヘラクレスとジャンヌにリットまで送り込んだのでしょうか? 実験相手にグレモリー眷属を利用するといったときに急に食いつきましたが」

 

「そのあたりの腹芸は苦手だからな。素直な意見を言ってくれ」

 

「は。・・・英雄派とヴァーリチームの間で妙な牽制があります。またオーフィスがヴァーリチームと行動を共にしている情報と、最近のオーフィスが赤龍帝に興味を持っていた状況から判断して、オーフィスはグレモリー眷属に何らかの接触を図っている可能性があります」

 

「ふんふん」

 

「加えて、英雄派は前々より龍喰者(ドラゴン・イーター)なるコードネームを話しております。そもそもオーフィスの目的自体がこの世界に大きな悪影響を与えることと、英雄派そのものがオーフィスの蛇に頼らないことから考えますに、彼らはオーフィスに何かしようとたくらんでいるのではないかと」

 

「・・・ああ、言われてみれば納得だなこれが。それで、俺たちはそれを利用できるか?」

 

「その影響で蛇の供給に支障が出れば、それを理由に英雄派に報復を行う大義名分は取れるでしょう。・・・またシャルバが英雄派を相手に衝突を行っており彼らは混乱しております。・・・密偵を送るなら今かと」

 

「任せる。・・・そろそろ帝釈天も接触してくることだろうしな、いい加減動いたほうがいいだろう」

 

「ならば我々も急がねばなりません。・・・ザイードが立候補しておりますゆえ、あれだけはすでに行っていたほうがいいと思われます」

 

「・・・できればテストしておきたかったが仕方がないか。じゃあ行くぜ、計算の通じないバカに対抗するには、計算を凌駕する英雄が一番だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・全身を傷だらけにして、ホムンクルスはようやく倒れ伏した。

 

 思った以上に時間がかかった。言ってはなんだが一介のホムンクル相手にここまで手こずるとは思わなかった。

 

「おいおい。結構弱いじゃねえかフィフスの新兵器! なさけねえなぁ」

 

「まあ試作段階だしこんなものじゃない? 私たちより強いやつなんてそうはできないでしょう」

 

 ヘラクレスもジャンヌも想定内だったのか余裕の表情だ。

 

 まあいい。これ以上時間をかけるのも面倒だ。

 

「久遠。神格化を使って一気に片づける。たぶん倒れるからイッセーたちのことを任せる」

 

「兵夜くん!?」

 

 正直デメリットが大きいが仕方がない。

 

 あの曹操に限ってイッセーたち化け物軍団を相手に何の勝算もなしとは考えずらい。

 

 ここで余計なことをしている時間はない。可能な限り最短時間で片づける!!

 

「いやいや、そうはさせないぜこれが」

 

 ・・・後ろから、最悪のタイミングでいい加減なじんだ声が聞こえてきた。

 

「フィフス・エリクシル!!」

 

「最近ぶりだな。昇格試験にでも出たんだろうが、まあお前なら順当どころか遅すぎるぐらいだな、これが」

 

 余裕の表情を浮かべながら、フィフスはゆっくりとこちらに近づいてきた。

 

「・・・させない!!」

 

 俺が対策を考えるより早く、久遠が一瞬で距離を詰める。

 

 今この状況下でこいつまで相手にするのは危険すぎる。油断しているすきに一瞬でけりをつけるのはいい判断だ。

 

 振り下ろされた刃をガ・ボルグで防ぎながら、フィフスは余裕の表情を崩さない。

 

 だがあまり舐めてもらっても困る。今の俺たちは二対一だ。

 

「あまり調子に乗るなよフィフス!!」

 

 光魔力の剣を展開しながら、つばぜり合いになっていた久遠を飛び越えて強襲する。

 

 フィフスはうまくさばいてそれをかわすが、ヘラクレスたちは割って入る気配を見せない。

 

「お! なんか面白い展開になってきたぜ? 見物するか!!」

 

「予定外の事態だしべつにいいわよ? 最近アイツ偉そうだし、ちょっとぐらい困るところを見たいわねぇ」

 

「へいへいこいつ等ほんとにうるせえなこれが。少し位手伝えよ同盟結んでんだろ」

 

 仲が悪いようで何よりだ! このチャンスは逃さない!!

 

「挟み撃ちで終わらせるぞ、久遠!!」

 

「わかってるよー!!」

 

 俺と久遠は攻め立てるが、フィフスはガ・ボルグですべてさばく。

 

 チッ! 偽聖剣無しじゃ面倒だな。

 

「フィフス!! あのホムンクルスは一体なんだ!! お前は何をたくらんでいる!! そしてどうやってこんなところまでもぐりこんだ!!」

 

「応える義理は・・・ない!!」

 

 俺たちの攻撃を真上にかち上げ、フィフスは俺たちの首をつかむ。

 

「ぐ・・・っ」

 

「が・・・っ」

 

「いい加減面倒なんだよお前ら。・・・そろそろ終われ、アサシン!!」

 

「承知」

 

 クソ! 偽聖剣と感卦法なしじゃこいつの相手は無理があったか?

 

 アサシンは注射器らしいものを取り出すと、それをフィフスに投与する。

 

 その瞬間、フィフスの気配が大きく変貌した。

 

 なんだ、一体何をした!?

 

「それじゃあ、これでサヨナラだ」

 

 その瞬間、空間が大きくゆがんでいく。

 

「運が良ければ助かるかもな!! まあ当分バカンスにでも行っていろこれが!!」

 

 そのままその歪みの中に、俺たちを放り投げた。

 

「ちょっと待てぇええええええ!?」

 

 オイオイオイオイ何があった!?

 

 あいつ一体何をした!?

 

 ・・・って、

 

「言ってる場合じゃねえよなぁ!!」

 

 投げられたのなら仕方がない。

 

 正直この流れは想定外すぎるが今はそんなことを言っている場合じゃない。

 

「・・・久遠!!」

 

 何より今この場で重要なことはただ一つ。

 

「つかまれ!!」

 

 久遠の安全を確保することだけだろう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ちょっと待ちなさいよフィフス。あなた今、何をしたの?」

 

「ん? ああ、薬学に長けたアサシンとキャスターが合作して作り上げたドーピング薬だよ。ちょっとしたラッキーで魔王の血が手に入ったから試しに作ってみたら完成したんだこれが」

 

「マジかよ・・・」

 

「そこまで呆然とすることはないだろ。一応同盟結んでるんだし、欲しけりゃやるが?」

 

「いらないわよ。必要ならこっちでも似たようなのは用意してるのよね」

 

「そりゃ残念。・・・まあいいか、それでお前らはこれからどうするんだ?」

 

「やることぁ終わったしそろそろ曹操の用事も終わるだろ。それが終わったら何しようかねえ」

 

「・・・みんなヤバイ!! 曹操から緊急連絡!!」

 

「「「何?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャルバが暴走してレオナルドを暴走させて暴走魔獣がこっち来て暴れるって!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「意味が分からない」」」

 

 




ウロボロス編終了! 間違いなく最短エピソードです!!









いや、ほんと自分でも賛否両論ありそうな展開なのはわかっていたんですが、いろいろとあれでして。

兵夜の性格だとイッセーのラストの行動を確実に止めるか、代わりに自分が残って対処るかのどちらかになりそうだったんで、兵夜を参戦させるとストーリー上うまくいかないのがわかり切ってまして。

まあある事情で後者は物理的に不可能になるんですが、だからといって止めないわけがないだろうというわけで。


あと流れ的に久遠が曹操戦に参戦する確率も上昇するんですが、そうだとするとそう出て戦うと曹操が逆にやられかねないという難点もありまして。

かといってさすがにグレモリー眷属単騎で追い詰めた久遠は昇格試験には確実に出そうだしさてどうしたものかと悩みまして。


いっそのことオリジナル展開で別口で動くことにしました。



結果的に四章から出す予定のフィフス側新兵器の伏線も晴れてよかったです。

まあ、Fate詳しい方ならたぶん今回ので大体の予測はできていると思います。念押しまでに追加しておくと、あのホムンクルスはどちらにしてもすぐ死にます。


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キャラコメ 第11弾

兵夜「はい、今回もやってまいりましたキャラクターコメンタリー。さすがに短くなるけどちゃんとやります!!」

 

久遠「そういうわけで、今回は二回続けてやりますよー。桜花久遠ですー」

 

オーフィス「我、ゲスト」

 

久遠「あ、今回のゲストはオーフィスなんだー」

 

兵夜「適任がいなくてな。黒歌とか候補だったんだがあいつだすと襲われそうだし」

 

久遠「いろんな意味で目をつけられてるからねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そういうことでついに来ました昇格試験! いや、ホント早いのか遅いのかわからなくなってきた」

 

久遠「どう考えても異例の速さだけど、どう考えても十分すぎる戦果だもんねー。この質の戦闘がこの密度って、傭兵時代じゃ考えられないよー」

 

兵夜「まあ、異例過ぎて抵抗あるのはわかるが冥界の問題性もこのあたりで見えてきてるわけだ」

 

久遠「そのあたり推測きちんとしてるよねー。政治家とか向いてるんじゃないのー?」

 

兵夜「あまりやめておいた方がいいだろう。日本でいうならあれだ、国籍日本にしたからって外国人が政治家やってたら抵抗出るだろ?」

 

久遠「多種族世界の魔法世界出身だとよくわからないかなー」

 

オーフィス「転生悪魔は、冥界だと迷惑?」

 

兵夜「必要不可欠な存在ではある。だが、海外の外人部隊のようなレベルが貴族にとっての理想的だろう。たぶん一般市民の中にも反対派とか多いんじゃないか?」

 

久遠「さっきの兵夜くんの理屈ー?」

 

兵夜「まあそうだろ。自分たち正当な悪魔よりも、まがい物の方が優先されるっていうのは冷静に考えると不満も大きいだろう?」

 

久遠「まあ、言われてみると何か言ってくる人とか多そうだよねー」

 

兵夜「・・・これで一つ話がかけそうだが、誰か真剣に考えて試してみたらどうだろう?」

 

久遠「作者が書きなよー」

 

オーフィス「テスト、簡単?」

 

兵夜「ん? ああ、テスト勉強とかはやっぱり攻略法ってあるからな。駒王学園は偏差値高いから総合的に難易度は高いが、まじめに授業受けてればやりようはあるだろ」

 

久遠「それはそうだけどさー。兵夜君のやり方は特殊だからねー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久遠「兵夜くんー? これセクハラ一歩手前だよー?」

 

兵夜「ちょっとテンションが変なことになってたな。反省反省」

 

久遠「でも素直に答えてくれるナツミちゃんはいい女だよねー? もちろんベルさんも小雪さんもいい女だよねー?」

 

兵夜「当然。癖は強いがみんないい女だ。もちろんお前もな」

 

久遠「えへへー。その言葉を待ってたよー」

 

兵夜「一応言っておくが、本音だからな?」

 

オーフィス「我知ってる。これ、バカップル」

 

久遠「そうだよー。私と兵夜君はばかっぷるだよー。少なくとも、兵夜君の性癖はばっちり聞いてるからねー」

 

兵夜「実に大変なことになった。まさかこうなるとは・・・」

 

久遠「アドリブで無茶振りした兵夜君が悪いからねー。いくら私でも無理難題はあるからねー」

 

兵夜「反省してます! 後悔してます!!」

 

久遠「わかったわかったー。じゃ、今夜はメイド服を期待しててねー」

 

オーフィス「メイド服だと何が違う?」

 

兵夜「久遠! オーフィスに変なことを教えない!!」

 

久遠「でも次でどうしても出てくるじゃんかー」

 

兵夜「ああ、小猫ちゃんの発情期問題か」

 

久遠「やっぱり小猫ちゃんもエロエロなんだねー。グレモリー眷属はみんなスケベだよー」

 

兵夜「そうでもなければイッセーには靡かんだろ。あいつの欠点を許容できる=エロに寛容ってことだぞ?」

 

久遠「兵夜くんは、時々本当にイッセーくんが大好きなのか不思議になるよー?」

 

兵夜「欠点はそれとして大好きなんだ!! お前も会長のお菓子は好きじゃないだろ?」

 

久遠「・・・・・・・・・味音痴になる方法を考えたことはあるねー」

 

兵夜「やめて。俺の愛する女の手料理を台無しにしかねない方法はやめて!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

オーフィス「我、話に来た」

 

兵夜「あの時は本当に頭が痛かった」

 

久遠「気絶するとは大変だねー」

 

兵夜「他人事だと思って! 目の前に圧倒的な力を持つ敵の親玉が現れたら、普通の奴はショックで倒れてもおかしくない!! しかもいきなり自宅にだぞ!?」

 

久遠「まー、それが普通の人の反応だけどさー?」

 

オーフィス「兵夜、普通じゃない。それ当然」

 

兵夜「そうか。なら普通じゃない奴が作ったこのアップルパイはいらないんだな?」

 

久遠「訂正します! 普通なところのある兵夜君なら普通の反応してもおかしくないですー」

 

オーフィス「うん、兵夜は普通なところもある」

 

兵夜「まあ、変なところがあるのは事実だしこれでいいか」

 

久遠「っていうか、普通の人はそんな相手を手の込んだお菓子でもてなさないからねー?」

 

オーフィス「おいしかった。またほしい」

 

兵夜「はいはいこれ終わったらまた作るから」

 

久遠「にしてもすごいもてなしぶりだねー。ちょっと本気出しすぎじゃないー?」

 

兵夜「進級試験前に問題起こされたくなかったからな。それにしても黒歌のやつめ」

 

久遠「でも確かに、完全先天性の魔術回路は遺伝特性を望む人には魅力的だよねー」

 

兵夜「お前それでいいのか!!」

 

久遠「たまの女遊びぐらいはねー。あ、でも断ってくれた兵夜くんの男前っぷりはかっこいいかなー?」

 

兵夜「そ、それはありがとう。それはそれとして黒歌の問題点はまあ後でそれとなく何とかしておこう」

 

久遠「諜報組織とか綱紀粛正とかにもむいてるよねー」

 

オーフィス「黒歌も大変」

 

久遠「そうだよー。この人はいいけど性格悪い人を怒らせると大変なんだよー」

 

兵夜「そこ、自分がそんな男に惚れていることに対して疑問もて」

 

久遠「恐喝によくわからない美学持ってることにこそ疑問を持つよー」

 

兵夜「うぐ」

 

久遠「一流の場合、もうこれ洗脳だからねー? いつか別の意味で刺されそうだから気を付けてよねー?」

 

兵夜「はい。気を付けます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「それで、ようやく進級試験なわけだが・・・」

 

久遠「イッセーくん、本当に自信なかったんだよねー・・・」

 

オーフィス「試験は緊張すると我聞いた。それ?」

 

兵夜「いくらなんでも自信がなさすぎる」

 

久遠「自信満々の兵夜君もたいがいだけどねー。自己評価低いわりに変じゃないー」

 

兵夜「ドーピングや強化武装を抜きにした客観的評価だ。禁手に至っている時点で間違いなく下級の次元じゃないのはわかる。光力の最大値だけなら上級とだって渡り合えるぞ」

 

オーフィス「兵夜すごい。たぶん、見つけてたら禍の団に誘ってた」

 

久遠「一歩間違えたら、オーフィス親衛隊長の兵夜君による革命物語がスタートしてたのかー」

 

兵夜「自分でもありえそう、かつ大暴れしそうなのが怖い」

 

オーフィス「あ、久遠自信なさげ」

 

久遠「この時はいろいろ迷走してたねー。なにせ兵夜君の真逆だもんー」

 

兵夜「逆に、それだけであそこまでやってこれたっていうのがすごいんだが。実際ジークフリートを圧倒したり大活躍だろうに」

 

久遠「そういう意味じゃあ兵夜君と近いかなー? なにせインフレ激しいからー」

 

兵夜「まあ、それでもイッセーを瞬時に圧倒できるだけハイスペックなんだが」

 

久遠「あれは本気で腹が立ったよー。格上はちゃんと格下に配慮しないといけないのにー」

 

兵夜「あいつに比べたら、俺の自己評価の低さなんて反則手段の存在故なんだからかわいいもんだ」

 

オーフィス「イッセー。評価低い?」

 

久遠「なんていうか、評価基準が間違ってるんだよねー。歴代赤龍帝で見ても、間違いなくもう上位に到達してるはずなのにねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

久遠「うわー。わー・・・うわー・・・」

 

オーフィス「ゼクラム、悪い人?」

 

兵夜「まあ、善良という言い方は適切ではないな。俺個人としては良好な関係が築けそうなんだが」

 

久遠「血統主義って、人間だといろいろ言われそうだけどねー」

 

兵夜「そうでもないさ。名医を何人も出している家系と聞けば、ああこいつもいい医者になるんだろうなって自然に思うだろ?」

 

久遠「あ、それはそうだねー」

 

兵夜「犬を飼うときも愛玩犬ならチワワとかを選ぶが、番犬として使うときにチワワを選ぶやつはいない。犬種だって立派な血統だ。人間だって無自覚に血統を比較してるぞ?」

 

久遠「うわー。考えさせる話だねー」

 

兵夜「まあそういうわけだから、血統主義そのものを全否定する気はないんだよ」

 

久遠「むしろ理解ありすぎなぐらいだよー」

 

兵夜「魔術師も、血統がわかれば能力も大体わかる家系だからな。そういう意味じゃあ悪魔と大して変わりはしない」

 

久遠「それにしても黒すぎるというかー。兵夜君改造人間だから当然だけど、ドーピングに抵抗なさすぎないー?」

 

兵夜「魔術師の最初の一歩は改造人間になることだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「しっかしお前もいろいろ悩んでるよなー」

 

久遠「兵夜君もいろいろ大変だよねー」

 

兵夜・久遠「ねー」

 

オーフィス「二人とも、仲いい」

 

久遠「ベルさんとも小雪さんともナツミちゃんとも仲がいいよー」

 

兵夜「そしてそんなことをしていたら、フィフスたちがいろいろと迷惑なことを!!」

 

久遠「この時点で、英雄の力を宿すっていう実験のテストだったんだねー」

 

兵夜「サーヴァントぐらい原作の出してほしかった・・・という意見もあったので頑張って反映してみた。とはいえ聖杯戦争の技術はフィフスが上手だが、いうこと聞いてくれそうな英霊って少ないからなぁ」

 

久遠「そういえば、出てくる英雄って基本的に根は善人が多いよねー」

 

兵夜「そこで苦肉の策だ。まあ、おかげで怪人じみた敵を用意することもできて結果オーライなんだが」

 

オーフィス「あ、リットがあっさり倒れた」

 

久遠「そういえば、この人すごい小物だよねー」

 

兵夜「おかげでものすごく助かったが。小物のわりにすごいことしてるがあいつ殺されてないか?」

 

久遠「それはそれでラッキーじゃないー? それに、被害者はことごとくやられてるし問題ないかもねー」

 

兵夜「さすが元傭兵。俺ほどじゃないが敵にドライだ」

 

久遠「この後のこと思い出したら、少し機嫌が悪くなったんだよー」

 

オーフィス「フィフス強い。二人が手も足も出ない」

 

兵夜「さ、さすがは我が宿敵。偽聖剣を使わざるを得ない程度なければつまらないぜ・・・」

 

久遠「ふ、ふふふー。会長のお力があればどうとでもなるのだよー・・・」

 

オーフィス「二人とも? うつむいて、どうした?」

 

兵夜「何も言わないでください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そういうわけで、今回は短めでここまで。続いて原作第三部の山場である補習授業のヒーローズ!!」

 

久遠「続いて私がゲストだからねー? 頑張るよー!」

 

オーフィス「続きも、見てほしい」

 



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補習授業のヒーローズ
襲来、冥界の危機!!


ヒーローズ編に突入しました!


筆のノリがよすぎてたまってきたので本日三回目!!


シャルバ・ベルゼブブによって発生した魔獣事件。

 

 堕天使総督アザゼルによってもたらされたこの緊急事態に対して、冥界政府は早急に迎撃態勢を整えていた。

 

 超獣鬼(ジャバウォック)、および豪獣鬼(バンダースナッチ)と名付けられた二種類の巨大なモンスターが、冥界政府に出現し、各主要都市を目指し進撃を続けていた。

 

 すでに迎撃部隊が結成され攻撃を行っているも、獣鬼たちはあらゆる攻撃に耐え進撃し、さらに無数のモンスターを生み出すがゆえにその歩みを止めることはできない。

 

 現時点において民間人に死者が出ていないということ自体賞賛に値すべきことで、サーゼクス・ルシファーら現四大魔王の手腕を認めるほかなかった。

 

 本来な同盟を結んだ神々が出てきてもおかしくないほどの非常事態だが、それはできない。

 

 それはくしくも、同じくアザゼルによってもたらされた情報が原因だ。

 

 亜種禁手、|極夜なる天輪聖王の輝廻槍《ポーラーナイト・ロンギヌス・チャクラヴァルティン》。この存在がネックとなっている。

 

 神を殺す聖槍の禁手。それも状況対応能力において禁手の中でも頂上領域に到達しているこの槍がある以上、たとえ神といえどうかつに動くことはできない。

 

 それにより対応が遅れ、獣鬼の進行が大きく進んでしまっているのだ。

 

 そして、裏で流れている一つの話が明快に大きな波紋を及ぼしている。

 

 ・・・赤龍帝、兵藤一誠の死亡。

 

 直接確認されたわけではないが、彼の悪魔の駒だけが帰還し、さらに龍殺しの極致として名高いサマエルの毒が反応したことが確実とみなされている。

 

 これにより現魔王派の悪魔に波紋が及んでおり、さらにそれを突かんとするであろう大王派などに隠すための動きをしなければならないことが、状況の悪化につながってしまっている。

 

 さらにこれはそれに比べると些末事だが、同じくグレモリー眷属の一員である宮白兵夜と、彼と愛人関係にあるシトリー眷属の桜花久遠も同時期に行方不明になっている。

 

 目撃情報によると、英雄派及びフィフス・エリクシルと戦闘を行う苦戦。その後フィフス・エリクシルが生み出した空間のゆがみに飲み込まれてしまったということだ。

 

 情報解析によると次元の狭間に飲み込まれたようだが、今の状況では救出に行くこともままならない。

 

 無にあてられて死亡しているのではないかという意見も出ており、兵藤一誠の死がそれを納得させてしまう。

 

 その影響は、特にグレモリー眷属に及んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・まあ、グレモリー眷属の情愛の深さはなくしたときのダメージのデカさに直結するが、ここまでファックなことになってるとはな』

 

「ええ、大切なものを失うのは、まだ若い彼らには耐え難い苦しみでしょうけど、相手が相手だから大変なことになってるわ」

 

 通信ごしで溜息をつく小雪の声を聞きながら、アーチャーは眉間に指を当てて息を吐く。

 

 兵藤一誠がグレモリー眷属にとって中心人物であることはいまさら言うまでもない。

 

 眷属の諸問題解決に貢献し、その人柄から主であるリアス・グレモリーに並ぶ主柱と化していた彼の存在は、リアスをトップとするならば眷属の中心だった。

 

 ましてや眷属女性陣のほぼ全員の好意を寄せられているのだから、失われればそういうことになるのは目に見えている。

 

 彼自身はそのあたりの自覚は薄かったかもしれないが、兵藤一誠は主戦力であることもあって一番倒れてはいけない人物なのだ。

 

『実質致命傷ですね。よりにもよってそのタイミングで冥界にこれほどの事態が起こるのは最悪というほかありません』

 

『まあ、こんだけの規模でいまさらリアスたちがいない程度でそこまでどうにかなるわけでもないけどね。・・・できれば手伝ってほしいけど』

 

 ベル・アームストロングとナツミも表情が暗い。

 

 兵藤一誠というのは彼女らにとってもそれなりの影響力があるため、ダメージもその分大きいのだ。

 

 それゆえに、今のリアスたちがどれだけショックを受けているのかもある程度わかってしまう。

 

『こういった経験に乏しいリアスちゃんたちに無理は言えませんし、実質彼女たちは戦力に入れるわけにはいきませんね』

 

「木場佑斗は一応持ちこたえているみたいだけど、無理をしているのは目に見えているわ。あのまま連れ出しても足を引っ張るだけでしょう」

 

 ベルに対して厳しい同意を示しながらも、アーチャーは目の前の剣から目を離さない。

 

 偽・外装の聖剣の改良は自分にとっての重要課題だ。仮にも主から頼まれたことであるし、この事態の解決においても相応の成果を見込める切り札になりえる可能性もある。

 

 第一自分はサーヴァントだ。主から指示を出されていない以上、わざわざ前線に出るのもあれだろう。

 

「・・・アーチャーさん。食事の用意ができたとのことです」

 

 扉を開けて、一間平静を装った木場佑斗が入室する。

 

「そう。キリがいいところですぐいくと伝えてもらえる?」

 

「はい。・・・あ、青野さんたちと通信していたんですか?」

 

 特に隠しているわけでもないのに気付くのに遅れている。

 

 やはり彼にとってのショックも大きいようだ。この状態で戦場に連れて行っても、致命的な失態を犯しかねないだろう。

 

『いいからお前も休んでろ。そんなファックな状態じゃあなにもできねえよ』

 

「そういうわけにもいきませんよ。・・・イッセーくんも宮白くんもいない以上、僕達がもっと頑張らねばならないんですから」

 

 小雪が忠告するが、佑斗は静かに首を振った。

 

 確かに、冥界全土の危機といってもいいこの状態で、将来の冥界に大きな影響を与えるリアス・グレモリーが何もしないわけにもいかないだろう。

 

 それがわかっているからこそ、聞くわけにはいかない。木場佑斗は自分たちの立場というものをよく理解していた。

 

「小雪さんやベルさんこそ大丈夫なんですか? ・・・このタイミングで動いている反対勢力も大きいと聞きますが」

 

『と、いうよりここぞというタイミングで動き出している派閥がそれなりにいますね。・・・幸いこちらも証拠をつかんでいる者ばかりなので、カウンターで拘束したりしているのですが、意外と大物が多くて手こずっているので実質情けないです』

 

 ベルはそういうと通信越しに部屋の光景を見せる。

 

 その部屋の中は大きく破壊されており、激戦がおきていたことを物語っていた。

 

 内部引き締めとほぼ同じタイミングで起こったこの騒動により、状況はだいぶ混乱しているといっていいだろう。

 

 ベルも小雪もその拘束のために動いており、冥界の方の援護にはいけそうにないのが現状だった。

 

 かろうじてナツミだけが豪獣鬼撃破のために参戦しているが、だからといってそううまくはいかないだろう。

 

 実際、今の現状では足止めすらうまくいっていないのだ。

 

 それがわかっているからこそ、佑斗は今の現状が歯がゆくて下がない。

 

「宮白くんだってこんなことになって、僕達が何とかしなくちゃいけないのに・・・っ!」

 

 今ここにいない仲間のことを考えると、膝を屈してしまう層になる。

 

「いや、兵夜は別に死んではいないでしょう」

 

 だから、そんなことをあっさりとアーチャーが行ったことに思わず目を剥いた。

 

「・・・だ、だけど! 状況証拠があまりにも―」

 

『いや、兵夜さまが無事なのは確実ですよ?』

 

 戸惑いながらも、ベルが佑斗の言葉を遮る。

 

『兵夜さまが死亡されたのなら、兵夜さまとのつながっている私やアーチャーさんにある程度のフィードバックが発生するはずです。特に何の影響もないことから考えれば、少なくとも生存は実質確実ですよ、佑斗くん』

 

 その言葉に、佑斗は確かに一理あると考えていた。

 

 確かに言われてみればその通りだ。

 

 文字通りベルとアーチャーの生命線になっている兵夜が死ねば、何かしらの影響が二人にあるはずだ。

 

 むろん安全策を用意しているのが兵夜だが、それを一切し使用していない状況下なら、生存しているという確信を抱いても間違いない。

 

「・・・一応その手の対策はとっているからまああと一週間は大丈夫でしょう。ただ、いまは救助部隊を送っている余裕はないし、イッセーのことがあるから今助けると余計なことをしそうだもの。意図的に放っておいてるのよ」

 

 アーチャーがあっさりと言い放つが、それに佑斗たちは何も返せなかった。

 

 ひどいような気もするが、グレモリー眷属の落ち込み具合から考えると何も言えない。

 

 変に背負い込むところのある兵夜がイッセーの死を知れば、確かに何をやらかしても不思議ではない。冗談抜きで危険すぎる。

 

『っていうか知った途端にショック死しねえだろうかご主人。心臓止まるぐらいなら何とかなるけど、破裂したら止められねえぞ』

 

「人が不安に思っていることをはっきり言わないでくれるかしら?」

 

 ナツミのいうことは実際にありえそうで怖い。アーチャーですら一筋の汗が流れてしまっているほどだ。

 

 なんだかんだで彼は生存能力も高い。確かに飲み込まれた時に対応できているのなら、生きているのではないかという安心感が浮かんでくる。

 

『まあ、兵夜がいるなら久遠も大丈夫だろ。あいつなんだかんだで仲間想いだから、見捨てるファックなことはしないだろうよ』

 

「その通りです」

 

 小雪の発言に応えたのは、佑斗でもアーチャーでもない。

 

「会長?」

 

「声が聞こえたので申し訳ありませんが邪魔させてもらいました。・・・ええ、久遠が死ぬなんてありません」

 

 自信に満ちた声で、ソーナ・シトリーは断言する。

 

「彼女は私の最強の眷属。この程度の危機で彼女が死ぬなんてありえません」

 

 ハッキリと、ソーナは言い切った。

 

『信頼されてんだな、久遠の奴』

 

『まあ、なんだかんだで切り抜けそうだよね、久遠は』

 

『兵夜さま一人だとうっかりしそうですけど、久遠ちゃんがいるなら何とかしそうですもんね』

 

 三人ともそれには異論がないのか、うんうんとうなづきながら無事をなかば確信する。

 

 そこには確かな信頼があった。

 

「・・・まあ、ここでこれ以上何か言っても進まないでしょう」

 

 そういうと、アーチャーはキリがいいところになったのか立ち上がる。

 

 そして部屋を出る前に、佑斗の頭に手を置いた。

 

「今はしっかり手を尽くして、それから落ち込み切っておきなさい。・・・下手に禍根を残すと人生を誤るわよ」

 

 苦笑しつつ、彼女は心底佑斗たちを思ってそういたわる。

 

「そしたら反撃に移りましょう? 私を敵に回してただで済むと思われるのもしゃくですもの」

 

「・・・はい。アーチャーさんの言う通りですね」

 

 佑斗はその言葉で少しだけ気分が上向きになるのを感じた。

 

 駄目だとわかっていても、あがくぐらいはしてもいいだろう。

 

 やるだけやったのなら多少は禍根も残らない。今はそれだけの余裕もないが、だがしっかりとこの借りは返さなければいけないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 

 




全く心配されていない兵夜くん。とはいえ理論的な理由もあるのである意味納得なのだが、理論的な理由によって捜索されていないという悲劇!!









初期のプロットでは重傷状態で意識不明。取り戻してからジークフリート戦に乱入して、「イッセーがやられたからこそイッセーが望むことをしなきゃだめだろうが!!」とイッセー大好きすぎるのを逆手に取った説教をかます予定でしたが、大幅な方針変換で没になりました。








とはいえまあ、報復がすごいことになりそうなので危険なことには変わらず、ラヴァーズからは心配もされず放置というひどい目にあっているので流れとしては割を食ってますが。


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体、なくなっちゃってました!!

ちょっと短めですが連投!!









・・・自分でいうのもなんだけど、俺、更新速度ムラがあるなぁ


 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・い」

 

 眠い。

 

 なぜか体の感覚がない。寝ぼけてるんだろうか、俺。

 

 

「おい・・・ッセー」

 

 うるせえなぁ。なんか俺疲れてるんだよ。

 

 なんか記憶があいまいだ。シャルバが妙なことをしてきたからぶっとばしたと思うんだけど、そのあたりがあいまいでなんか思い出せない。

 

「・・・イッセー。今飛び起きたら久遠の胸に顔が当たるぞ」

 

「おっぱい!!」

 

 あのちっぱいを堪能できるとはそれはそれで乙だ!!

 

 飛び起きて胸に当たるのは俗にいうラッキースケベ! 事故、事故だよね!!

 

 よっしゃ宮白には悪いけどちょっと堪能―

 

「ホントに起きたー!?」

 

「ヒデブ!?」

 

 カウンターで投げ飛ばされて天井に激突した!?

 

 くそ! まさかここまで計算された周到な策か!?

 

「みたかオーフィス。寝ぼけているときにこういう餌を垂らすと面白いように食いつくんだ。グレートレッドの好みを調べ上げて睡眠時に仕掛ければ、不意打ちがしやすいから覚えておくといいぞ」

 

「・・・我覚えた。赤龍帝は寝てる時に乳が絡むとよわい」

 

 そして宮白! おまえなにオーフィスによけいなことを教えてやがる!!

 

「別に恩もあるからちょっとぐらいもませてあげてもいいけど、安易にあげるとあれだし私に三連勝ぐらいしてからねー」

 

 桜花さん! それ無理って言ってるようなもんだよね!?

 

「まあ本当に揉みたいならそのあと俺との連戦を超えてもらうが。・・・いかに親友とはいえ、俺の女の乳をもむのは容易ではないぞ」

 

 おい宮白! あおっといてそれは理不尽だ!!

 

『相棒。お前はあんなことがあった後でこんなおき方して泣きたくならないか?』

 

 うるせえよドライグ!! ある意味未踏の領域なんだから仕方がないだろ!?

 

「・・・ってシャルバは!? 確か俺次元のはざまに取り込まれて―」

 

 そういえば俺なんで生きてるんだ?

 

 ようやく思い出したけど、俺サマエルの毒を喰らったはずだよな?

 

 ヴァーリでもやばい毒を喰らって無事なのが不思議だったけど、その言葉に宮白たちはバツの悪い表情を浮かべる。

 

「・・・あー。イッセー、ショックを受ける前にとりあえずいうことがある」

 

 宮白は言葉にしようかすまいか悩んでいる風だったけど、俺を励ますように両手を俺の方におくと、真剣な表情で言い放つ。

 

「お前今、リビングアーマー状態」

 

 ・・・はい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前一度死ねよ」

 

「ごめんフォローできないー」

 

『まあ言っていることは間違ってないな』

 

「全員ひでえ!?」

 

 宮白も桜花さんもドライグもひどい!!

 

 なんで体失ってリアスたちを抱けないと嘆いたら白い眼で見られなけりゃならないんだ!!

 

 だって体がなくなったってことはそういうことだろ!? ショックを受けたって仕方がねえじゃねえか!!

 

「体を失ったことそのものについて嘆くのが先だろうが。なんで真っ先にそこになるのかマジでわかんねえよ。お前ほんと俺でもフォローできないことばっかりするのやめてくれない?」

 

 ええ~!? だって結局俺まだ生きてるし、ちょっとそこだけじゃショック受けないんだけど。

 

 なんでも俺の体はサマエルの毒で消滅したんだけど、魂だけは赤龍帝の籠手に込めることで何とかなったらしい。

 

 ただし、それは歴代赤龍帝たちが犠牲になって毒を防いでくれたからだ。

 

 ・・・せっかく怨念から解放されたばかりなのにと思おうと、素直に喜べない。

 

 ・・・・・・・・・・・・そして最後の言葉が「ぽちっとぽちっと、ずむずむいや~ん」だったせいで素直に悲しめない。

 

「なあ宮白。歴代赤龍帝って、なんであの変態っぷりを生前発揮しなかったんだろうな」

 

「俺は時々、実はイッセーが一番まともなんじゃないかって思い始めてるよ」

 

 俺たちは同時に溜息をつく。ドライグもなんというか疲れている感じだった。

 

「まぁまぁー。こういう時は美味しいものを食べて忘れるに限るよー」

 

 そういうと、桜花さんは缶詰の焼き鳥を食べはじめる。

 

「もぐもぐ。いっぱい食べて強くなって、グレートレッド倒す」

 

「ほらオーフィス。口元が汚れすぎだ」

 

 オーフィスがレトルトのカレーを食べて口を汚したので、宮白は冷凍物のスパゲッティを食べるのをやめるとあわてて紙ナプキンでその口を拭った。

 

「・・・そしてお前らひどくね?」

 

 俺は体を失ってるから食べようがない。だからこの光景を見ているだけだ。

 

 うん、ちょっとぐらい気を使ってくれよキミら!!

 

 だが、宮白は一瞥すると、ものすごいうまそうに冷凍の唐揚げを一口ほおばった。

 

「・・・テロリストの内輪もめにテロリスト助けるために介入してからだを失うような奴はこれぐらいしないと懲りないだろうが」

 

 は、反論できない!!

 

 確かに言われてみるとものすごく馬鹿な奴だ! その辺合理的な宮白だとマジギレされてもなにもおかしくねえ!!

 

「俺がいたら麻酔打ち込んででも連れ戻したものを。・・・いいかオーフィス。介入するタイミングを間違えた奴はこういうことになるから、そういうことはちゃんと考えて動いたほうがいいからな」

 

「おーい。そのひどい目にあいかけたテロリストの人に助けた奴の行動が間違ってるっていうのは無茶苦茶じゃねえか?」

 

 ダブルスタンダードってやつじゃねえか?

 

「助かっちまったもんは仕方がないだろう。今は最低限の安全が確保できてるんだし、救助が来るまで暇でしょうがないから食べて発散するのは間違ってない」

 

「意外とこういうのもおいしいよねー。後で運動しとかないと太っちゃいそうだよー」

 

「・・・我、お代わりがほしい」

 

 キミら本当にひどいな!! 俺一口も食べれないんだよ!?

 

『まあいいだろう相棒。新しい体もこの調子ならちゃんと完成するから、そのあといっぱい食べればいいじゃないか』

 

 ドライグはまあそういながらとりなすけど、俺はそれを素直に受け止めることはできない。

 

 だって・・・。

 

「お前は食べてるじゃねえか、ドライグぅうううううう!!!」

 

 そう、ドライグは食事を楽しんでいる!!

 

 封印されてるじゃないかって? ところがどっこい宮白がやってくれました!!

 

 今俺の目の前には、小さなドラゴンの姿をしたゴーレムが、小さく切り分けたレトルトのハンバーグを食べている姿が映っています。そして俺の左腕には小さな機械が取り付けられているのです。

 

 そう、これが宮白が新たに開発させたドライグ用のアバターユニット!

 

 コストパフォーマンスはかなり悪いけど、味覚センサーまで取り付けられているから少しなら食べ物も食べることができるという素敵仕様。

 

 さらに食ったものは炭化し、それを燃料とした火炎弾を発射することができるというから無駄機能じゃないと考えられている!!

 

「いいじゃねえかまだ使い捨ての実験作なんだから。・・・これぐらいしないと俺の怒りが抑えられない」

 

「兵夜くんも切れて暴れないように気を使ってるからねー。まあこれぐらいは我慢しなよー」

 

 どれだけ怒ってるんだよ宮白は!!

 

「第一、今俺たちは部長たちが自殺していないかどうかすら心配しなけりゃならないんだぞ? 通信もつながらないせいでイッセーが生きていることも伝えられない」

 

 ビールを取り出してヤケ酒みたいにごくごく飲んだりしながら、宮白はそう言い放つ。

 

「え? おれって死んでる扱いなの!?」

 

「悪魔の駒だけ転送されたってのがネックなんだよ。このケースの場合はほぼ確実にその悪魔は死亡してるからな。生きていると考えるほうがありえんだろ」

 

 ・・・マジか! そういえば夢で部長たちがすごい暗くなってたけど、もしかして正夢!?

 

「お前はオカルト研究部の精神的主柱であることを自覚しろ。・・・あ~もう大丈夫かな部長たち! アーチャーたちが何とかしてくれてるといいんだけど」

 

 変な方向に酔いが回ったのか、宮白はさらに溜息をつく。

 

「この空間がアレなせいか、アーチャーとの念話も通じねえんだよ。パスは切れてないからベルもアーチャーも俺の生存は確信してるだろうけど、ドライグの話からして助けを呼んでる余裕はねえし、ラージホークの機能拡張も知ってるから例のあれができるまでは放っておかれそうだ」

 

 例のアレって例のあれか。

 

「確かにあれができたら宮白に使わせるために救出部隊出てきそうだけど、あとどれぐらいかかるの?」

 

「下手するとひと月はかかるか?」

 

 ダメじゃん! そのころにはケリついてるよ!!

 

「まあ、今考えてもしたかがないからねー。私も会長が心配だけどパクティオーカードの通信もつながらないし、開き直って呼ばれるまでのんびりしてようよー」

 

 桜花さんはそういうと、食後のお茶(ティーバック)を楽しんでいる。

 

「・・・仕方がない。やることもほぼないしデザートにクレープでも作るか。材料があれだからクリームとチョコレートな」

 

「わーいー!」

 

『そういえばそういったものは食べたことがないな。こういったものも新たな体を得たことによるものか』

 

「我、クレープ食べてみたい」

 

 なんというか微妙に和気あいあいしている感じだけど、そもそも根本的な問題がある。

 

「・・・あのさあ、何より言いたいことがあるんだけど、いいか?」

 

「「「『?』」」」

 

 全員のんびりしてるけど―

 

「―グレートレッドがすぐ近くにいるってのに、お前らのんびりしすぎだろうがぁあああああああ!!!」

 

 史上最強の存在がずっとラージホークの後ろついてきてんだけどぉおおおおおおお!?

 

「それもそうだな。・・・だがあのサイズだと味わえるようなサイズのメシないぞ? ・・・カロリーメイトで満足してくれるだろうか?」

 

 そっちじゃないよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 




イッセーのご都合主義ってこういう時便利。

と、いうことで実はすでに合流していた兵夜とイッセー。

見捨てるのが普通といっておきながら世話を焼く当たり、兵夜は性格は悪いが本当に人がいい。根本的な部分でお人好しなため非道になり切れない。


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冥界、帰還です!!

 

 さて、そろそろいい加減飽きてきたな。

 

 救助が来ないのはいいんだが、なんで連絡すらないのかがわからない。

 

 いい加減何日も待っているんだからそろそろコンタクトぐらいはしてほしかった。おいておくにしたって一言ぐらい言ってくれてもいいだろう。

 

 アーチャーは魔力供給大丈夫だろうか?

 

 ベルは俺とリンクが離れて倒れてないだろうか?

 

 小雪は意外とメンタル弱いけど、思い詰めてないだろうか?

 

 ナツミは変なことしてないといいんだけど。

 

「しっかしまだ続いてるってことでいいんだよな? 出なけりゃさすがに宮白のほうは探しに来てくれるだろ?」

 

「だよなぁ。・・・確かに話に聞く限りやばそうではあるが、いくらなんでも無茶な方法で発動した化け物だから、どこかに欠点があると思うんだが」

 

 新造する体もあとちょっとで完成しそうなイッセーも不安げだ。

 

 何分体が完成しても、戻れなければ意味がないのだ。

 

「救難信号発生装置はあるし、場所ぐらいつかんでもおかしくないんだが」

 

 そんなにやばい連中だということだろうか?

 

 曹操がヤバイから神は仕掛けてこないだろうが、それ以外の存在だってゴロゴロいるんだし、いくらなんでも遅すぎないか?

 

「あのさあ兵夜くんー。ちょっと聞きたいことがあるんだけど―?」

 

「あ? なんだよ一体?」

 

 久遠は何か気づいたことがあるんだろうか?

 

 まさか魔法世界の技術で何とかなるのか!?

 

「―救難信号発生装置って使ったのー? 私聞いてないんだけどー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後イッセーに殴られたが、さすがに反論できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし! 体もできたし反撃タイムだな、宮白!! ・・・本当に起動したんだろうな?」

 

「した! したから拳を握るな!!」

 

「さすがにこれは私も殴りたかったよー」

 

 白い眼で見られるが完全に俺が悪いので何一つ反論できない!!

 

 ま、まあいい。これで反撃タイムの準備は整ったわけだ。

 

 あとは今度こそ助けがくるのを待っていればいいだけ―

 

―とある国のすみっこに、おっぱい大好きドラゴン住んでいた~♪

 

 なんだぁ? おっぱいドラゴンの歌が聞こえてきたぞ!?

 

「コンタクトの方法としちゃああれだよな? ・・・これどういうことだ?」

 

「そういえば夢で子供たちがすっげえ暗い顔してたから謡ってくれたら助けに行くとか言っちゃったんだけど、まさかマジで?」

 

 どういう状況だいったい。

 

『グレートレッドは夢幻を司るからな。もしかしたら子供たちの夢とつながっていたのかもしれん。おそらく、この歌もグレートレッドがつなげてくれているのだろう』

 

 面白い能力を持ってるな、グレートレッドは。

 

 だがまあ、だとするなら―

 

「ドライグ。・・・グレートレッドにゲートを開けられないかどうか聞いてくれないな?」

 

「たしかにー。こんないいタイミングで粋なことされたら動かないといけないよねー」

 

 久遠も俺に乗ってくれる。

 

 ああ、俺ははっきり言ってヒーローなんてガラじゃないが、ヒーローの親友やってる自覚はある。

 

 こういう時こそヒーローの出番を用意してやらなきゃな!!

 

「そりゃそうだ。なにせ俺はおっぱいドラゴンだもんな。・・・子供たちが呼んでんならいかねえと!!」

 

 イッセーも復活早々やる気になってくれてるようで何よりだ。

 

「んじゃ、行きますか!!」

 

 さいわいグレートレッドは素直にゲートを開いてくれるようだ。

 

「オーフィス。俺たちは俺たちの居場所に戻ることにするよ」

 

 イッセーがオーフィスにそういうと、オーフィスは少しだけ寂しそうにする。

 

「そう。それは少しだけうらやましいこと」

 

「・・・だったら一緒に来い」

 

 そしてまあ、イッセーはやっぱりそういうわけで。

 

「確かに食生活が不安すぎる。テロ組織のボスを手元に監視できるのはなかなか有効だし、飯の世話ぐらいはしてやろう」

 

「ネットゲームに興味あるー? あるんだったら一緒に遊ぼうよー」

 

「・・・我、ドライグ達と一緒に来てもいい?」

 

 まあ、俺としては思うところがないわけではないが、答えなんて決まりきってるわけで。

 

 ほらイッセー。さっさと言えよ。

 

「あったりまえだろ!!」

 

 そういわれて、オーフィスは少しだけ笑うとイッセーの手を取った。

 

 そしてそんなこんなしているうちにゲートは開いて俺たちは前に進む。

 

 一言礼を言おうとグレートレッドの方を振り返った時―

 

―ぽちっとぽちっと、ずむずむいや~ん。

 

 ・・・俺たちは耳を疑ってついでに頭も疑った。

 

 え? グレートレッドの発言? え?

 

―ぽちっとぽちっと、ずむずむいや~ん。ぽちっとぽちっと、ずむずむいや~ん。

 

 何度もそのフレーズを繰り返しながら、グレートレッドは振り返るとそのまま去っていく。

 

『聞こえん! 僕にはなにも聞こえないも~ん!!』

 

「イッセーくんー! ドライグが大変だよー!?」

 

「ずむずむいや~ん」

 

 ドライグはさらに心を病むはさすがの久遠も大慌てだわオーフィスまで乗っかるわさあ大変。

 

「「・・・伝説の赤いドラゴンはなんでこの歌が大好きなんだー!!」」

 

 俺とイッセーはシンクロで叫んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、出てきたら出てきたで面倒なことになってるのがまるわかりだ。

 

 場所は悪魔側の冥界首都であるリリス。

 

 そしてところどころ煙が上がっていて明らかに非常事態なのがまるわかり。

 

 そして都市から離れたところには人型のキメラ(超巨大)が数名の悪魔と超絶大バトル中。

 

 ・・・とりあえず俺の判断はただ一つ。

 

「急いで部長たちとコンタクト!! とりあえずデカブツは後回しっつーか、ここでオーフィスと鉢合わせるとややこしいことになること間違いなしだ!!」

 

「判断速いねー。まあ、いきなり戦えなんて無茶いうほどセラさま鬼じゃないし大丈夫だとおもうけどー」

 

「っていうかリアスたち巻き込まれてないよね!? 無事だよね!?」

 

 ラージホークを急いで離脱させながら、俺は急いで部調達と連絡を取る準備をする。

 

 あのデカブツはシャルバがやらかした礼のアレなんだろうが、まさかここまで肉薄してるとは思わなかった。

 

 とにかく部長かアーチャーと連絡とって迎撃準備を取らねば!

 

『・・・いきなり反応が出たから何かと思ったら、なんでイッセーまでそこにいるのよ』

 

 と、思ったらアーチャーが連絡を取ってくれた!!

 

「アーチャー!! とりあえず俺も久遠もあとイッセーは微妙だが無事だ!! 説明はどれぐらいいる!?」

 

「あなたと久遠が生きているのはほぼ確定で、イッセーも魂は無事なのは示唆されていたけど体まであるのは驚いたけどまあいいわ。・・・あなたがいるなら代用品ぐらい用意してもおかしくないし」

 

 俺が用意したわけではないし俺の技量じゃ無理だけどね!!

 

「いや、通りがかったグレートレッドに助けられたんで、ついでにちょっと体もらって新しくつくりかえました」

 

『自分がとんでもないことを言っている自覚はちゃんとしなさい。・・・まあいいわ。いい知らせと微妙な知らせがあるけどどちらから聞きたい?』

 

 いろいろツッコミ入れたいのを我慢してくれるアーチャーはいい人だと本気で思う。

 

 まあそれはともかく今はさっさと情報を集めねば。

 

 視線が俺に集中したので、俺の判断で聞くことに使用。

 

「いい知らせから頼む」

 

『例のアレ、完成したわ。いろいろ事情があるからそこで受け渡ししましょう』

 

 マジか!! 速すぎるぐらいじゃねえか!?

 

『イッセーから聞いてると思うけど、支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)が手に入ったからその上澄みを使ったのよ。おかげで必要な工程を支配で代用することで何とかなったわ』

 

 よし! これでどんな状況でも一矢報いれる切り札が手に入った!!

 

 場合によってはあのデカブツを相手にすることになってもそこそこ行けるぞ!!

 

「じゃ、じゃあ微妙な知らせはー?」

 

 テンションが上がっている俺の代わりに、久遠がそこをひきつぐ。

 

『・・・いま、生徒会とオカルト研究部が英雄派と戦闘を行っているはずよ。場所は転送するからすぐに急行しなさい』

 

 ・・・・・・・・・それは大変だ!!

 

 




毎度恒例の兵夜のうっかり。さすがにイッセーも我慢できませんでした。

これは仕方がない。自分でも一回殴り倒したくなります。


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発動、業魔人!!

原作でもそうでしたが、本作は超獣鬼は完璧に添え物にします。

グレモリー眷属のピンチとそこからの逆転を中心にし、獣鬼騒動はおまけという原作のスタンスを突き詰めることにしました。


 

 急いで駆け付けてみれば確かにやばいことになっていた。

 

 ヘラクレスはボロボロで、ジャンヌは多少傷ついているが子供を抱えて剣を突きつけている。

 

 見る限り、状況が悪くなったので人質作戦を取ったというところか?

 

 生徒会はボロボロだしギャスパーは倒れてるしなぜかサイラオーグ・バアルはいるしでどうなってるんだこの状況は。

 

「リアス! よかった無事だったんですね!!」

 

「か、かかか会長ー!? 元ちゃんも大丈夫ー!?」

 

 イッセーは喜色満面で久遠は顔真っ青とこっちも大変だな。

 

『『『『『・・・・・・・・・』』』』』

 

 そして全員ぽかんとした顔をこちらに向けている。

 

 ああ、そういうことか。

 

「イッセー。お前本人だと思われてないぞ」

 

「ええ!? なんかひどくね!?」

 

「体消滅してるんだから仕方ないよー」

 

 まあ、体が消滅しているのは確定事項だから信じられないのも無理はない。

 

 さて、どうやって信じてもらおうか―

 

「えーっと、おっぱい! グレートレッドの力を借りて復活してきました!!」

 

「イッセーだわ!!」

 

 と、思ったらこんなあほなセリフで部長が確信したよ!!

 

 ほかの連中も一斉に確信するし、俺の親友はひどいなホント!!

 

 と、思っていたら木場がジャンヌが抱えていた子供をその隙に奪い取っていた。できる同僚がいると動くのが楽でいいな。

 

 ・・・その後、ドーピングしたジャンヌが逃げようとしたがイッセーのエロ技の前にあえなく敗北。

 

 そして残るはヘラクレスだけとなった。

 

「・・・クソが。ついに俺だけかよ」

 

「投降するなら一応待遇は考えてやるが? ・・・この状況下で勝てると思うほど馬鹿でもないだろ」

 

 俺としてはそんなことが言える程度には余裕がある。・・・というか、俺来る意味あったのかと本気で考えたくなるほど圧倒的優勢だったりする。

 

 完膚なきまでに勝ち目がないというか、どうもサイラオーグ・バアルに叩きのめされ続けたらしい。

 

 衝撃拡散を突破する打撃と、爆発をものともしない耐久力の前に終始追い詰められっぱなしとのこと。うん、イッセーの対抗馬はチート過ぎて困る。俺はよくこんなのと戦えたな。

 

 ヘラクレスは周りを見て負けを悟ったようだが、しかし戦意は失わなかった。

 

 そして懐からフェニックスの涙とジャンヌが使ったドーピング薬を取り出すと、それをそのまま放り投げる。

 

 ・・・真正面から威風堂々と叩きのめすサイラオーグ・バアルに感銘を受けたのか。

 

 敵の心すら成長させるとはまさに英雄。いろいろな意味で彼には感服せざるを得ない。

 

 そしてヘラクレスは真正面からサイラオーグ・バアルと殴り合い・・・倒れ伏した。

 

「最後の最後で英雄としての誇りを取り戻したか。・・・最後だけは悪くなかったぞ、ヘラクレスよ」

 

 そしてサイラオーグ・バアルの大物ぶりがヤバイ。

 

 そんなこんなでとりあえずあとはデカブツを何とかするだけだと思ったとき、俺は気配を察知して振り返った。

 

「ようやくご登場か、曹操」

 

 もったいぶって登場しすぎて、幹部連中が軒並み全滅とか笑えない展開だ。正直ちょっとだけ同情してもいいかと思う。

 

 が、曹操はそれとはまったく違った意味で表情をこわばらせていた。

 

「・・・まさか、生きていたとはね兵藤一誠。シャルバはサマエルの毒を所持していたはずなんだが」

 

 まあ、普通それだけあれば死んだと思うはずだ。

 

 真相を聞いてこいつもマジでビビリ始めている。

 

「なあ、俺ってそんなに恐れられることしてんのか?」

 

「してないと思ってる事がまず恐ろしいわ」

 

 イッセーは自分の化け物ぶりの自覚が足りなさすぎる。

 

 普通は肉体を消滅したら死ぬし、そんな展開に都合よく最強の存在が出てきたりなんてしないんだよ。

 

 そんな計算もできないようなことばかり起こされれば、計算して動く曹操あたりにしてみれば悪夢というほかないだろう。

 

「キミは一体何者だ。赤龍帝なんて言うレベルじゃない。もはやある意味龍神の領域すら超えて―」

 

「だったらおっぱいドラゴンでいいじゃねえか」

 

「よくねえよ。そういう問題じゃねえよ」

 

 さすがにイッセーのぶった切りっぷりがひどかったんで、俺としてもツッコミを入れざるを得なかった。

 

 異常すぎるんだよお前の場合。いい加減俺も原理を解明したいんだけど? っていうか呼び方の話じゃないんだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・面倒なことになってきたが好都合か」

 

「フィフスさま、それでは?」

 

「ああ、俺としてはテストの相手としては奴を選びたいなこれが」

 

「・・・承知しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴァーリまで来て、俺たちの勝ちはほぼ確定だろう。

 

 最上級死神とかいうプルートを瞬殺した切り札は驚愕というほかない。しかもまだ伸びしろがあるとか、イッセーは最悪の宿敵を持ったというほかないだろう。

 

 そして、このチャンスを逃すほかはない。

 

「さっさと全員で片づけるとするか。・・・まさか、つい先日オカ研無双しておいて一対一なんてできると思うなよ英雄症候群」

 

「冗談抜きで危険だもんねー。誰がなんて言っても袋叩きでいくよー」

 

 俺と久遠は挟み込むように移動しながら、曹操をにらむ。

 

 奴の禁手は特殊能力をもつ攻撃兵器の確保。

 

 しかも、武器破壊、女性封印、強制空間移動、攻撃転移などどれも切り札として使うに十分すぎるものだ。

 

 これ以上のさばらせておくのは危険すぎる。ここで仕留めないと何が起こるかわかったものではない。

 

「ああ、君たちならそういうと思っていた。・・・この状況下で俺を相手にして、尋常な勝負なんてガラじゃないだろう」

 

 わかっておきながらあえて出てきたということは、まだ隠し玉があるってわけか。

 

 ・・・一体何を隠している?

 

「・・・だから業魔人(カオス・ドライブ)だ」

 

 いうが早いか、注射器が曹操に突き刺さっていた。

 

 確か例のドーピング剤!!

 

 そして、それを理解した瞬間俺の体に激痛が走る。

 

「んがっ!?」

 

 痛覚干渉を発動するが、全身に力が入らない。

 

 しかもこのダメージ、これ以上受けると本気で死ぬぞ!?

 

 本気で背筋が冷えた次の瞬間、俺たち全員を覆うように強力なエネルギーが展開される。

 

 だいぶ痛みは消えたが、ダメージがひどすぎて動けない!?

 

「ああ、オーフィスがいたのを忘れていたよ。だけどこの状況下ではそれが精一杯だろう?」

 

「曹操の言う通り。今の我、曹操のオーラを防ぐので精一杯」

 

 残りかすとはいえ、二天龍を凌駕するオーフィスですらそこまで言わせるか!?

 

 くそ! 発動能力はオーラの増幅か!?

 

 超広範囲に展開されたオーラが、触れた連中に影響を与え続けている!

 

 しかもオーフィスが防いでなおこの威力か。もしとっさにオーフィスが防御行動をしておかなければ俺は死んでいたな。

 

「特に宮白兵夜は動けないだろう。そもそも、悪魔と神格を併せ持つ君は聖槍にとって絶好のカモだ。今ので死んでないことが奇跡以外の何物でもない」

 

 ・・・うっかりしてたがその通りだ。

 

 最強の神殺しにして最強の聖槍である黄昏の聖槍は、いわばイッセーにとってのアスカロンに匹敵する俺の天敵。

 

 しかもその出力は間違いなくアスカロンを凌駕する。今の状態でもこれ以上喰らい続ければかなりやばい。

 

「さあ、さすがのヴァーリも今の俺相手ではさっきの力を使っても楽には勝てないだろう? そしてガス欠の今じゃあ勝ち目がない」

 

「やはりお前に対して使うべきだったか。・・・プルート相手に大盤振る舞いしすぎたのは認めるしかないな」

 

 ヴァーリも自虐的な笑みを浮かべるほどの圧倒的優勢状態。

 

 やばい、口上たれてる暇があるなら、さっさと攻撃入れておくべきだった。

 

 見れば全員ダメージがひどすぎて膝をついている。

 

 アーシアちゃんが回復のオーラをだそうとしているが、ダメージがひどすぎて出したくても余力がない。

 

「さあ、今ならオーフィス以外はろくに動けないだろうし、オーフィスも防衛で精いっぱい。つまりは倒したい奴を好きなタイミングで倒せるというべきなんだが―」

 

 そういった瞬間、曹操は聖槍を振りぬく。

 

 その一閃が、久遠の一太刀とぶつかり合って火花を散らした。

 

「・・・あまり、舐めてもらっちゃ困るよねー」

 

「いや、想定内だ。キミの禁手の性能なら、戦闘可能なレベルのダメージに抑え込むことはできるだろう」

 

 次の瞬間、曹操は七宝の一つを足場にして舞い上がり、久遠はジグザグに瞬動を使いながらそれを追尾する。

 

 ・・・いくら久遠でも無茶だ!

 

「オーフィス、悪いが少し無茶してくれ」

 

 俺は呼吸を整えると、全身を魔術で操作して無理やり立ち上がる。

 

「宮白!! そのダメージでどこ行く気だよ!!」

 

「イッセー。少ない勝率を無理やりぶんどるのがお前の役目なら、俺の役目は勝率そのものを高くすることだ」

 

 ・・・正直ギャンブルに近いが、方法が一つある。

 

 今まともに戦えるのはあいつだけだ。だからって、愛する女一人に全て押し付けるほど俺は情けない男になったつもりはない!!

 

「・・・そうですね。それが私たちの役目というものです」

 

 会長もうなづき、ふらつきながらも立ち上がる。

 

「匙。・・・貴方の力が必要です。頑張れますか?」

 

「当たり前です会長。いま桜花が命がけで頑張ってるんだ。俺たちが気合い入れないでどうするんですか!!」

 

 アイツもいい上司と仲間に恵まれたもんだ。

 

 踏ん張れよ、久遠!! 今すぐ追いかける!!

 

 




まあ誰もが想定していましたとは思いますが、今の兵夜にとって曹操はまさに天敵。

因みに今更になってですが「弱っちいことを自覚してるので力を集めることをいとわなかった結果、自力でリカバリー不可能の弱点を作った」という意味においても共通しているという曹操との嫌な共通点があることに気づきました。




そして曹操担当は久遠。

もう開き直って出番出せるときに大活躍させる方針にしたら非常に書きやすい書きやすい。

ちなみにウロボロス編とヒーローズ編は久遠編にすることにしました。

第四章はヒロインをもう一瞬スポット当てようと思ったおですが、久遠が出しやすいヴァルキリー編は諸事情あって出しづらいので、割り切った結果先取りすることにしました。

・・・初キスにしろ初結ばれにしろ、ことごとく兵夜ラヴァーズの中で先を行く女です。自分でもビックリ


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曹操、決戦です!!

曹操との決戦スタート!


Other Side

 

 超高速で翻弄しようとしても、追いつかない。

 

 ビルの合間を高速で欠けながら、久遠は曹操と激突を繰り返していた。

 

 曹操のこの能力を相手にして、まともに戦えるのは自分かオーフィスぐらいだ。そしてオーフィスはソーナたちを守る必要があるので自分しか戦うことはできない。

 

 勝ち目があるなんて思えない。間違いなく曹操はそれだけの強敵だ。

 

 だが、それでも自分が何とかしなければならない。

 

 せめてアーチャーが来るまで、その一心で、久遠は曹操を引き離していた。

 

 強制的な空間転移が厄介だが、幸いこっちの方が瞬間的な速度では早い。一回か二回発動されたが、そのおかげで大体の感覚はつかめた。

 

 ゆえに勘でそれらをかわして戦闘を行うが、それゆえに苦戦は免れない。

 

「いいね! 正直シトリー眷属どころか、若手悪魔で今の俺とここまで戦えるのはキミぐらいしかいないだろう!!」

 

 歓喜の表情を浮かべながら、曹操は久遠の攻撃をすべてさばいていく。

 

「この力を前に活動できるのは、その力を吸収するする龍喰らいに守られる君だけだ! あのヴァーリですらろくに動けないのがその証拠だ!!」

 

 かすり傷程度は作れるが、致命的な部分には一切当たらない。

 

 むしろかすり傷を受け入れているからこそ致命的な部分の防御が間に合っており、そのせいで一手入れることができなかった。

 

 一発でも当たれば、自分の技量なら曹操を倒すことはできる。

 

 だが、自分の場合は当てるプロセスを組まねばならない。

 

 その事実が悔しくて、目の前がにじんでくる。

 

 自分はいつか置いてけぼりになる。そんなことは最初からわかっていた。

 

 生前の技量を生かして駆け上がっている自分は、生前の身体能力を取り戻しようがないがゆえに限界がわかり切っている。

 

 見えているからこそそこから上るのがさらにキツイ。下手に強大な実力を前世で持っているからこそ、そこから上に行くのは匙たちよりはるかに苦労するのだ。

 

 魔法世界でも強大すぎて勝てる気がしない相手はゴロゴロいた。ジャック・ラカンやナギ・スプリングフィールドたちを相手にすれば、自分は勝ちを完全に投げ捨てなければ戦闘と呼べるものを行うことはできないだろう。実際そうだった。そしてそういうのは相手が胸を貸してくれるから成立するものであり、そうでなければ相手にしてもらえなかっただろう。

 

 そういう領域にいるのが曹操だ。真正面から勝ちに行こうなど気が触れている。

 

「本当、嫌になるよねー」

 

 地獄に落ちたような心境だったからこそ、彼女に忠誠を誓った。

 

 そして地獄に落ちたような心境だったがゆえに、彼女の力になることができない。

 

 そんなことを考えている場合ではないが、そんなことを考えてしまう場合だった。

 

 すでに攻撃は見切られ始め、七宝によるカウンターまで入ってくる。

 

 間違いなく、自分はそろそろ劣勢に追い込まれていた。

 

 それを自覚した瞬間、七宝の一つがビルに紛れて接近する。

 

 能力は女性封じ。自分の技量なら防げるが、それでも一瞬のスキが生じる。

 

 だから最短距離でそこから離れ―

 

「そろそろ終わりだ」

 

 突如現れた七宝の一つが脇腹にめり込んだ。

 

「・・・っ!」

 

 驚くことは何もない。

 

 空間転移能力は自分自身や七宝にも有効だっただけのこと。今の今まで伏せ札にして不意をついただけだ。

 

 そのままぐらついたところに一斉に襲い掛かる攻撃を、何とか無理やり後退して距離を取る。

 

 だが、今の一撃は非常に危険だ。

 

 おそらく内臓にもダメージが入っている。長時間の戦闘は難しいだろう。

 

 時間稼ぎをしなければならないというタイミングでこの失態。もはや情けなさ過ぎて涙を本当に流してしまう。

 

「ごめんなさい、会長ー」

 

 このまま負けが確定するのを確信して―

 

『久遠。三時の方向の30°下に三秒後に飛びなさい』

 

 ・・・主の言葉に条件反射で反応した。

 

 同時に、ミサイルがどこからか発射されて爆発する。

 

「遠隔操作なら動かせるということか! 考えたな!!」

 

 曹操が感嘆する中、久遠は瞬動で後退する。

 

 次の瞬間、横から引っ張りこまれて建物の中に引きずり込まれた。

 

 抵抗はしない。相手がわかっているから必要なことだと確信した。

 

 だが、まさか彼がこのタイミングで動くとは思わなかった。

 

「兵夜くんー!? どうしてー!?」

 

「ちょっとオーフィスの力を匙にバイパスさせた。・・・ああ、戦闘する余裕なんてないから戦力には入れるな」

 

 冷や汗と脂汗を流しっぱなしの真っ青な表情で、しかし兵夜は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「・・・勝ちに行くぞ、久遠」

 

 そういいながら視線を下に向ける兵夜の視線を追って、彼が何をたくらんでいるのかを理解した。

 

 無茶苦茶な方法以外の何物でもないが、確かにこの方法なら初見殺しを早々に叩き込める。

 

 あの手のタイプにとって有効な作戦だ。確かに決まれば有効だろう。

 

 だが、それが自分で大丈夫なのだろうか不安になる。

 

「私じゃ・・・」

 

『久遠、貴女が最近悩んでいるのはよくわかっています』

 

 弱音を主の声が遮った。

 

『だから、あなたに一つ命令しましょう』

 

 まるでリアス・グレモリーのように慈しみの感情を乗せた、主の声が久遠の耳に届く。

 

『過去の実力など考えず、常に私の誇り高き刃として磨き続けなさい。私も宮白くんも方法を考え続けてあげますから、とにかくものにすることだけ考えなさい』

 

 その声が、久遠の悩みを打ち砕いた。

 

「そういうことだ。・・・愛する女の力になる努力ぐらい、当たり前のことだろう?」

 

 真っ青な顔を無理やり赤くしながら、兵夜が魔法陣を完成させる。

 

 まともに見たことなど一度だけだろうに、よく覚えていたものだと感心してしまった。

 

「あっちゃー。主と愛人にそんなこと言われたら、頑張らないとだめだよねー」

 

 不安は消えない。だが悩みは消えた。

 

 過去の力に限界があるのなら、新しい力を手にすればいいだけ。

 

 なるほど真理だ。目が覚めた。

 

 だから―

 

「・・・力と一緒に、勇気も頂戴ー?」

 

「かしこまりました、お嬢様」

 

 この口づけが、再起の証だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 煙を振り払った曹操に、久遠が再び切りかかる。

 

 冗談抜きでここまで来るのが無理難題だったので、俺は手を貸す方法が全く存在しない。っていうか今動けるのが奇跡に近い。

 

 だが、もう心配はしていない。

 

 俺の女に勝ちの目上げたんだ。あとはもう完全にまかせるだけさ。

 

「じゃあ反撃するよー!!」

 

 感卦法を発動させた久遠が、真正面から切りかかる。

 

 もちろん曹操はそれを受け止めたうえで七宝を前後左右から襲い掛からせる。

 

 だが、それはもう切り札たりえないことを教えてやれ。

 

来たれ(アデアット)!!」

 

 懐からカードを取り出すと同時に桜花が叫ぶ。

 

 そのカードに書かれる絵柄は、今までの物とは違うものだ。

 

「・・・パクティオーカードが、別物だと!?」

 

 曹操がその意味を理解すると同時に、曹操自身を浮かばせる以外の七宝に、六つの鳥が激突する。

 

 それは魔術で動く鋼の鳥。

 

「踊れ、シンソクノサンバ、マフウジノサンバ」

 

 それぞれ緑色と水色で彩られた魔鳥が、七宝と空中で火花を散らしてぶつかり合う。

 

 その激突は拮抗していたが、やがて魔鳥が上回っていく。

 

「自立戦闘が可能ということか! 確かに操作する手間がある以上こっちが不利か!!」

 

 命令すればオートで動いてくれる魔鳥の方が、動かさなければならない七宝より扱いやすさでは上回る。

 

 いずれは曹操も使いこなしていくのだろうが、奴はまだとこまで言っていない。

 

 そして、あれの能力はそれだけじゃない。

 

「じゃあ、テンポあげるよー!」

 

 次の瞬間、久遠と同時に緑色の魔鳥が瞬動で回り込んだ。

 

 曹操は七宝を転移させてそれを阻止しようとするが、七宝の一つに水色の魔鳥がまとわりつく。

 

 次の瞬間、七宝はその力を失って一気に動きが鈍くなった。

 

「高速移動と能力封印!? 六つで一つのアーティファクトではなく、二種類のアーティファクトなのか!?」

 

「そういうことだよー!!」

 

 全身を傷だらけになりながら、曹操はその種を理解して驚愕する。

 

 それこそがその魔鳥の根本。

 

 シンソクノサンバは瞬動による超高速移動を可能とする。そしてマフウジノサンバはとっつ構えた相手の能力を封印する。

 

 どちらも出力は高くないが、しかし一瞬の隙を作るには十分すぎる。

 

 そしてそれを突ける久遠にとって、十分すぎる能力だ。

 

「しかも俺の七宝を見切ったのか!? 今までの戦闘で全て把握していたとは恐れ入る!!」

 

「見分けがつかなくても一度使ったらあとは覚えるだけでいいから楽だよねー!!」

 

 そのまま超高速で切り結ぶ久遠と曹操は、そのままビルの群れを駆け巡る。

 

「ならこれだ!!」

 

 周囲のビルを吹き飛ばしながら、七宝の一つが久遠に遅いかかる。

 

 同時に魔鳥の攻撃を無視して、残りの七宝が久遠の動きを封じる。

 

「まだまだー!!」

 

 マフウジノサンバが全部一斉にとびかかり、その七宝を封印する。

 

 そしてそのタイミングを好機とみて、久遠が瞬動で一気に迫り。

 

「いや、俺の勝ちだ」

 

 久遠の進行方向が上にそれた。

 

 見れば、足場にしていた七宝が曹操の前に移動していた。

 

 あの七宝、相手も浮かすことができたのか!?

 

「これで―」

 

 一瞬のスキを突いて七宝がとびかかり、桜花を取り囲む。

 

 魔鳥はとびかかろうとするが、間に合わない。

 

「―終わりだ!!」

 

 瞬動する隙すら与えずに一撃を与えず襲い掛かり―

 

「その瞬間を待っていました」

 

 ・・・水で出来た龍が、それをすべてからめとった。

 

「・・・何ぃ!?」

 

 驚愕する曹操の視線の先、そこに会長がふらつきながらも魔力を展開している。

 

 ああ、気づいてなかったのか曹操。

 

 バイパスは一人しかできないわけじゃないし、俺じゃないなら少しぐらいは戦闘もできる。

 

 そしてお前は誘い込まれてたんだよ、会長の射程範囲内に!!

 

「・・・ならメドゥーサの眼で―」

 

「もう遅いよー」

 

 振り返った時には、すべてが決していた。

 

 聖槍を龍喰らいで抑え込んだ久遠が、曹操の顔面に試験管をたたきつけた。

 

 試験管は割れ、その顔面に液体が飛び散る。

 

 ・・・ああ、これで勝負は決した。

 

 一瞬だけ間が空き、次の瞬間に曹操はもだえ苦しむ。

 

 やはり、蛇であるメデューサの目にもサマエルは有効だったか。

 

「・・・弱っちい人間なのを受け入れてるのに、余計な弱点を付け加えるからそういうことになるんだよー」

 

 残酷なまでに冷たい目で見降ろしながら、久遠が勝利宣言をする。

 

 ああ、弱っちい人間であることを自覚して戦うのなら、余計なウィークポイントを付け加えるべきじゃなかった。

 

 弱っちい人間であるがゆえにお前はあらゆる方法で強さを得てきたが、弱っちい人間だから背負っちゃならない欠点まで、つい背負ったのがお前の敗因だ。

 

 おれにも言えることがあるからな。反面教師としてしっかり気を付けておこう。とりあえず仲間と連携して任せれるところは任せていかないとな。

 

「・・・まだだ!!」

 

 曹操はそれでも立ち上がる。

 

 例のドーピング剤の影響なのだろうが、しかし今のままでは勝ち目がない。

 

「・・・槍よ、神を射抜く聖なる神槍よ―。我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの狭間を抉れ―。汝よ、遺志を語りて、輝きと化せ―!!」

 

 槍が展開して莫大な光を放出する。

 

 あれが噂の覇輝(トゥルース・イデア)ってやつか!?

 

 だが久遠は何一つ動じない。いったいどうした!?

 

「いやさ、覇がついてるってことはその槍に封じられたものを使うわけで、たぶんそれってやりに刺された主の想いとかそんな感じだと思うんだけどねー?」

 

 輝きが収束する中、久遠は龍喰らいすら仕舞い―

 

「まさか自分に力貸してくれるとか思ってないよねー?」

 

 そのまま曹操に組み付いた。

 

「・・・・・・は、ははは。これは、参ったな」

 

 曹操は悟った表情で自虐的に笑い、

 

「・・・浮雲、桜散華」

 

 そのままフランケンシュタイナー擬きで投げ飛ばされ、ビルにたたつけられてそのまま残骸に埋もれていった。

 

 




久遠のアーティファクトをさらに追加。外観イメージの刹那も二種類持ってたし、今回のパワーアップとしてあえて出してみました。

自分が特訓しても限界があるなら、開き直って強化武装などで代用すべし。そうやって仲間に追いついてきた兵夜だからこそ何の躊躇もなく言える方法で逆転しました。

実際曹操相手に正面から勝つには、相手にとって想定外の初見殺しが最も効果的。まあいきなり渡されて使いこなせる奴はいないからこの方法は難易度高いのですが、なんだかんだで器用な久遠だからこそ何とか勝てました。もともと相性よかったしね!









・・・え? 曹操倒したからこれで終わりかって? んなわけないじゃん?


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英霊、来襲です!!

久遠VS曹操の決着の理由

1 ただでさえ器用な久遠が自立型のアーティファクトを手にしたことで速攻である程度使いこなせた。

2 曹操がまだ七宝になれてなかった。

3 能力上、久遠にとって相性が良く、曹操にとって相性の悪いアーティファクトだった。

4 契約時に相手に合わせたものが出てくるというアーティファクトの特徴から、兵夜が1~3を全部該当したものが出てくると賭けてそれに勝った。

5 曹操が一対一になると確信していた隙を突かれた。

6 曹操が覇輝に愛想を尽かされてると久遠が予測していた。









 これだけの要素があってこその圧倒だったので、第二ラウンドは研究されつくされて戦況が逆転する可能性もあります。


 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーラも弱まってきて、これで何とか一安心ってところか?

 

 いやぁ、一時はどうなることかと思ったけど曹操も桜花さんが何とかしてくれたみたいでよかったよかった。

 

 後はあの超獣鬼とか言うのを何とかするだけ! よし! 気合い入れるか!!

 

「リアス! 俺たちもグレイフィアさんたちに加勢しましょう!!」

 

「ええ。避難もほぼ完了しているようだし、確かにグレイフィアたちのところに行った方がいいでしょうね。せめて結界を展開して余波が都市を襲うのだけは阻止しないと」

 

 リアスも勝ちを確信しているのか、とにかくそっちのほうに意識を向けてるようだ。

 

 さて、宮白たちもすぐにそっち向かいそうだし、急いでいかないと―

 

「曹操はもうやられたのか? 英雄を名乗ってんだからもう少し頑張ってほしかったなこれが」

 

 ・・・このタイミングで来やがったか。

 

「久しいな、フィフス・エリクシル」

 

 静かに拳を構えながら、サイラオーグさんがフィフスにそう告げる。

 

 見れば、フィフスだけでなくレイヴンにセイバー。さらにはキャスターまで参入のフルメンバーじゃねえか。

 

 いい加減警戒してくれてるってことか。実力認めてくれて喜びたいけど、こいつ全力でつぶしに来るから全然嬉しくねえよ。

 

「まったく。英雄名乗ってるくせに情けない始末だな。しかも独断でオーフィスに色々やらかしてこのざまだ。一発殴ってやりたいが、まあただじゃすんでないってことだろうな」

 

 ・・・フィフスはオーフィスの力を奪い取ることに反対しているのか? 禍の団は奪った力をオーフィスってことにすることで合意してると思ったけど。

 

「ごきげんよう、フィフス・エリクシル。・・・いま私たちは忙しいのだけれど、邪魔をするなら容赦はしないわよ?」

 

 リアスもマジギレ寸前だ! まあ、こいつにはさんざんボコボコにされたうえにレーティングゲームまで台無しにされたから当然だよね!!

 

 っていうかレイナーレはいないのかよ。因縁おわらせようと思ったけどついてねえな。

 

「・・・ああ、勘違いするな俺は今回参戦しねえよ。ほかの連中は暇つぶしで来てるみたいだけど、俺個人の目的はもっと別のところにあるんだこれが」

 

 フィフスは戦意を一切見せずに、ダーツみたいなものを取り出す。

 

「HAHAHA♪ このパラケ☆ラススの生み出した新製品だ! ちょっとプロモーションビデオ取りたいから出★演してよ♪ お題は葬式代で出すからSA〆」

 

 いつにもましてキャスターもハイテンションだ。明らかに危険すぎる。

 

 っていうかそんなの俺たちが素直に喰らうと思ってんのか? 誰が見たってやばそうだから当然防御するに決まってんだろ。

 

「葬式代はいらないよ。・・・死体はできたそばから材料にするからね。・・・さあセイバー、やってしまえ」

 

「・・・」

 

 よほど自信があるのか、レイヴンは俺たちが死ぬことを確信して舌なめずりして、セイバーも剣を抜いて構える。

 

 上等! どんな毒だが知らないが、絶対防いでやるから目にもの見てろよ!!

 

「んじゃ使うぞっと」

 

 そしてフィフスはそれを勢いよく投げ―

 

「・・・いや、スペック高い実験材料が手に入ってよかったよかった」

 

 ―倒れているヘラクレスに突き刺さった。

 

 え? なんでヘラクレス?

 

 フィフスは英雄派に思うところはあるみたいだけど、今更気絶しているあいつに使って何か意味があるのかよ?

 

 そう思った俺たちの前で、ヘラクレスが静かに震えはじめた。

 

「ぉ・・・ぉぉ・・・」

 

 なんだ、寒気がする。

 

 ヘラクレスの様子が明らかにおかしい。

 

 いや、これはおかしいんじゃない。

 

「おお、オオオ・・・」

 

 明らかに、今までのヘラクレスなんか目じゃないぐらい、威圧感がひどくなってる!!

 

「命令だヘラクレス。・・・その悪魔たちを相手に大暴れしろ」

 

「ォオオオオオオオオオオオオ雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄ッ!!!!」

 

 次の瞬間、俺たちの目の前にはヘラクレスであってヘラクレスでない奴が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 佑斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で立ち上がった男は、僕達の知るヘラクレスではなかった。

 

 全身が盛り上がり、そして目の色も大きく変化している。

 

 そして次の瞬間、サイラオーグ氏が彼の拳に反応しきれず殴り飛ばされた。

 

「ぐ・・・! 動きがまるで違うな!!」

 

 先程まで圧倒していた彼をこうも!?

 

「チッ! やらせねえぜこの野郎!!」

 

 イッセーくんがあわてて追いかける。

 

 僕達もそれに続こうとしたが、そこにセイバーとレイヴンが割って入る。

 

「さて、それでは素材集めだ」

 

「・・・・・・」

 

 ええい! このややこしい時にこんなことをしている暇はないのに!!

 

「グラム!!」

 

 呪いの影響は見過ごせるものではないが、今は余計な時間をかけている暇はない。

 

 一撃にすべてをかけた短期決戦で切り伏せる!!

 

 グラムは僕の体力を大きく削るが、それに見合う力を放出する。

 

 セイバーは剣を構えてそのままそれを迎え撃つ。

 

「ふむ、セイバー、宝具を開帳しろ!!」

 

 その言葉に、セイバーの剣が輝きをます。

 

 だが、早々好きにはさせない!!

 

 セイバーと剣を撃ち合う形になるが、グラムに匹敵する剣を持っているのなら見せてもらう!!

 

「喰らえ!!」

 

「セイバー、グラムだ」

 

 次の瞬間、僕は真正面から弾き飛ばされた。

 

 だが、その事実より僕を驚愕させるものがある。

 

 馬鹿な、アレは・・・グラム!?

 

 セイバーも体制をわずかに崩しているが、しかし対応できないほどではない。

 

 だが、僕の方はかなりバランスを崩している。このままだとまずい!

 

 そしてキャスターが指を鳴らすと同時に、人型サイズの巨人が現れて僕に襲い掛かる。

 

 だが、その腕は高出力の雷光の直撃を受けてはじかれる。

 

「あらあら、好きにさせるほど私たちは弱くありませんわよ?」

 

 堕天使状態を再開した朱乃さんの雷光は強力だ。この程度なら十分対抗できる。

 

 だが、フィフスたちも冷笑を崩さない。

 

「んじゃ、追加投入行ってみようか!」

 

 そういうと同時、上空にいくつもの魔法陣が展開される。

 

 次の瞬間、英雄派が運用していたGSが複数体現れた。

 

 ・・・この状況下でよくもこれだけの数を!!

 

 そして、セイバーが今度はオーラの渦をドリル状にして突撃する。

 

 あれはバムルンクの力! なぜセイバーがあれを使うことができるんだ!?

 

「・・・冷静に考えれば、もうばらしても問題ないだろう」

 

『Dvide!!』

 

 半減の力でそれを受け止めながら、ヴァーリがそう冷静に漏らした。

 

「あれがセイバーの宝具。射程内に存在するあらゆる剣を使いこなし、魔力消費を覚悟すれば、剣の鏡面存在を生み出して性能を引き出して運用することができる。・・・奴に剣で勝つには、剣の力を限界を超えて引き出さねばならないというわけさ」

 

 なんて力だ! 剣をまだ引き出しきれていない僕やゼノヴィアにとって天敵といっても過言じゃない!!

 

 だが、そんな能力を持つ英雄が存在したのか!

 

 そう思う僕の前で、セイバーがその兜を外してその顔を見せる。

 

「・・・っ!?」

 

 ・・・顔が、ない?

 

 いや、頭は存在するが、顔を認識することができない。

 

「・・・フィフスが実験作として召喚したセイバー。剣士という概念そのものを引きだした人形が、奴の正体だ」

 

「そう、しいて言うなら剣士こそが彼の真名だ。・・・聖杯がなくても願いはかなうし、協力してもらった方がいいかと思ってね」

 

 奇想天外な英霊ばかり召喚される! まっとうな英雄なんてアーチャーさんぐらいじゃないか!!

 

 だけど、このままだと苦戦は間違いない!

 

 ・・・どうすればいい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とサイラオーグさんを二人同時に敵に回して、ヘラクレスはなお渡り合ってきやがった。

 

 真正面から殴り合ってもらちが明かないから挟み撃ちにしてるのに、なんだこの強さは!!

 

「フィフス・エリクシルは一体何をした!? 想定外の実力にもほどがあるぞ!!」

 

「リアスたちの方も心配だってのに!」

 

 サイラオーグさんも俺も曹操のせいでダメージが大きいし、このままだとやばい!!

 

「こうなったら後ろから!!」

 

 視界の外側から攻撃すれば行けるか!!

 

 俺は後ろに回り込んで、サイラオーグさんと同時に殴りかかる。

 

 だけど、ヘラクレスの奴はまるで後ろに目があるかのように俺の手に自分の手を添える。

 

 そしてサイラオーグさんの手にも触れ、そのまま駒のように回転して―

 

「「がっ!?」」

 

 俺たちのパンチはお互いの顔にめり込んだ!!

 

 ふざけんなよ、なんだこの戦闘能力!!

 

 真正面からの打ち合いなら曹操よりよっぽどテクニカルだ。ヘラクレスはもっとこう小細工抜きのパワータイプだったはずだぞ!?

 

 っていうか、GSまで現れやがった! あいつらいつの間に転移術式を組みやがった!?

 

 くそ、こうなったら無理やり押し通る!!

 

「我は万物と渡り合う龍の豪傑なり!!」

 

 真戦車状態で全力で殴るが、ヘラクレスはちょっと体をずらすだけでその攻撃を受け流す。

 

 くそ! オーラを爆発でうけとめて、パンチそのものは衝撃拡散で受け止めやがった!

 

 だがカウンターのパンチは衝撃拡散の意味がない。このまま耐えてカウンターを叩き込んでやる!!

 

 そしてヘラクレスの拳が俺の覚悟を決めた腹に叩き込まれ―

 

「―射殺す百頭(ナインライブス)

 

 ・・・一瞬で九連発の衝撃が腹に叩き込まれた。

 

 う、ウソだろ!?

 

「兵藤一誠!?」

 

 やばい、サイラオーグさんも大声を出すほどもろに喰らった!?

 

 今のダメージじゃこれはキツイ!?

 

 くそ、あっさりサイラオーグさんが倒したと思ったらこの化け物具合!

 

 いったいフィフスのやつ、何しやがった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 




セイバーの正体が対に発覚。いや、ヴァーリがここで縁を切るから出しやすくて。

剣士という概念そのものが正体。ゆえに様々な剣士になりえる可能性を持つことこそが強みですが、そのためには剣士が近くにいなければならない。・・・聖杯戦争で出てきたら真っ先に倒れそうなサーヴァントです。






そしてフィフスの策は・・・まあ、推測で来た読者の方々もたくさんいると思います。

ただまあ、完全再現はできていないのでご安心ください。そんなんで来たらフィフスは一人で世界征服できますしね。


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首都リリスの決戦です!!

戦闘続行!

今回は中盤戦といった感じです


 なんかとんでもないことになって来てやがる!?

 

 様子を見に一足先に戻ってきてみればなんだこの大惨事!?

 

「面倒なことになってるわね。・・・来てみればなにこの自体」

 

「アーチャー!!」

 

 とんでもなくいいタイミングで来てくれた!!

 

「悪いが一仕事頼む!! あと偽聖剣は大丈夫か!?」

 

「ちゃんと完成させているわ。・・・それでマスター、何を命令するのかしら?」

 

 偽聖剣を渡しながら訪ねてくるが、そんなことは決まり切っている。

 

「・・・イッセーを頼む。俺はGSを何とかする」

 

「言うと思ったけど、どうやらそれどころじゃないみたいよ」

 

 なに?

 

 疑問に思った俺だが、その答えは目の前で解決した。

 

 空間がさらに歪み、上空からより巨大な影が下りてくる。

 

 あれは、なんだ?

 

豪獣鬼(バンダースナッチ)。シャルバ・ベルゼブブが生み出した化け物の一つよ」

 

 ・・・面倒な化け物がこんなところに!?

 

 見ればボロボロだが、どんどん傷が再生している。

 

 ええい、この状況下で面倒なことに!?

 

「・・・イッセーを頼む。俺は奴を足止めする」

 

「時間はちゃんと稼ぎなさい。それの欠点はわかってるでしょう?」

 

 ああ、わかってるよ。俺もボロボロで正直無理難題がひどい。

 

 だが、この状況を黙って見逃す選択肢もないだけだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘラクレスは割とマジでやばい。だけど、だからってこのままやられるわけにもいかないんだ!!

 

「我は万物を引き離す龍の聖騎士なり!!」

 

 真騎士に変化して、全力で動き回る。同時にドラゴンショットをぶっ放して周りのビルをぶち壊した!

 

 ビルのオーナーさんごめんなさい!! でもこのままだと勝ち目がないんです!!

 

 全力でスピードでかく乱しながら、ヒット&アウェイで攻撃を叩き込む。アスカロンの切っ先をかすめる程度に抑えながらだ。

 

 それらすべてをヘラクレスは迎撃するが、さすがにスピードが追い付かないのかカウンターは喰らわない。リーチが違うから対処できないはずだ。

 

 どれだけテクニックが上がろうと、ヘラクレスは基本的にパワータイプ。機動力でかく乱すれば追いつけないと思ったけど、やっぱりか!!

 

 ミサイル攻撃も速すぎて当てれないようだ。この調子なら何とかなるか!?

 

 だが、ヘラクレスは全身からオーラを放つと、それが収束していく。

 

射殺す百頭(ナインライブス)

 

 九発の巨大なオーラがはなたれる。

 

 俺は嫌な予感がして距離を取るけど、ミサイルは俺を追いかけて離さない。

 

 ホーミングミサイル!? いや、ミサイルは元からホーミングするけど、こんな時に出さなくたっていいじゃねえか!!

 

「ドラゴンショット!!」

 

 俺は迎撃にドラゴンショットを乱れ打ちするけど、高速移動しすぎてるせいかなかなか当たらない。

 

 何とか一発当たった時は、爆発が強すぎて今の状態だと喰らいたくないレベルだった。

 

 くっそぉ! 当たってたまるかぁああああ!!!

 

 Gで血反吐吐きそうになるぐらいだけど、それを耐えて何とかビルの合間を縫って飛び回る。

 

 それで何発かビルに当たってなくなっていくが、それでもまだ六つぐらい残ってる。

 

 くそ! 迎撃できるか!?

 

「三秒間まっすぐ飛行しなさい!!」

 

 上から、頼りがいのある声が聞こえた。

 

 俺は何も考えずまっすぐ飛ぶ。ビルに当たろうが無理やり突っ切った。

 

 そして三秒後、ホーミングミサイルに極太のビームがぶつかって誘爆した。

 

「どういうこと坊や! なんであのヘラクレスが私の知ってるヘラクレスみたいになってるのよ!!」

 

 アーチャーさんが開口一番に微妙に焦りながら大声あげる。

 

 え、アーチャーさんの知ってるヘラクレスってことは・・・。

 

「あいつ、サーヴァント化してるんですか!?」

 

「信じたくないけど間違いないわ。アレは私の知ってるあの筋肉ダルマと同じ気配よ。・・・もうわかってると思うけど格が違うわ、格が」

 

 うん、だと思った!!

 

「おそらく神代レベルの魔術を使って一部の能力だけを依代にしたのね。一応魂を継いでいるわけだから触媒は十分だけど、そんな無茶を長い間続けてたら体がもたないわ」

 

「え!? マジですか!?」

 

 それはちょっとかわいそうな気がする。

 

 そりゃあいつら悪人だけど、味方に利用されておしまいなんてかわいそうだろ。

 

「・・・グレモリー眷属は人が良すぎるわね。わかったわよ、何とかすればいいんでしょう?」

 

「できるんですか!?」

 

「幸運なことに魔術の範疇内。私の宝具を当てればそれでいけるわ」

 

 よし! 勝ちの目が見えた!!

 

 俺は急いでUターンしながらヘラクレスのところへ向かう。

 

 まだ決着つけてないんだ、ここで死んでも寝覚めが悪いし助けてやるよ、ヘラクレス!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 佑斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 セイバーと巨人の猛攻をしのぎながら、同時にGSの砲撃を回避する。

 

 明らかに危険すぎる状態だ。これだけの攻撃が発生すると回避するのも難易度が高すぎる。

 

 しかも、レイヴンの存在が危険すぎる。

 

 フェニックスの再生すらあっさり無効化する直死の魔眼。あんなものを意識しないでいられるほど僕たちは馬鹿じゃない。

 

 だが、彼はマスターとして行動しているのか僕達から隠れて行動している。

 

 今の彼なら真正面から戦えば十分勝てるが、戦えない状態では危険すぎる。

 

 そして何より目の前のセイバーが危険すぎる!!

 

「ええい! 剣士としてのプライドをこうも傷つけてくるか!!」

 

 ゼノヴィアが心底悔しそうな顔をするが、気持ちはわかる。

 

 なにせ、セイバーはさっきからデュランダルを使用して攻撃してきているのだ。

 

 さすがに二本同時運用はできないのかエクス・デュランダルではないが、それでもゼノヴィアを圧倒している。

 

 これは剣士としてプライドをえぐられる行動だ。我を失ってもおかしくない。

 

 だが、そんなことになればセイバーにやられるし、レイヴンが不意打ちを仕掛けてくるかもしれない。

 

 それを考慮すると非常に危険すぎる!!

 

 ビルの中になだれ込みながら、この猛攻を何とかしようと攻撃を仕掛けるが、セイバーはあっさりとそれを迎撃する。

 

 ギャスパーくんや匙くんのこともあるから、全員をセイバーや巨人の相手に向けるわけにもいかないのがいたいところだ。

 

 こうなったら、グラムとデュランダルの同時攻撃で決着をつけるしかないか!?

 

 そう思った瞬間、急に足場が崩れ去った。

 

「なんだって!?」

 

 あわてて翼を出して飛ぼうとするが、その真上から天井も崩落する。

 

 いや、これは天井だけじゃない。ビル全体が急に崩れて僕たちを押しつぶそうとしてくる。

 

 よけきれない!?

 

 そのまま瓦礫をたたきつけられ、僕達は生き埋めにされる。

 

「モノも殺せるんだよこの眼は。だけどセイバーは崩落じゃ死なないし霊体化ですぐ抜け出せるからね」

 

 上からレイヴンの声が響く。

 

 しまった、罠にはめられたのか・・・!?

 

「ああ、デュランダルとグラムの使い手の死体。材料にすれば私の最高傑作が生まれそうだ。聖杯戦争に参加してよかったよ、こういう予想外のいい素材を手に入れる機会に恵まれる」

 

 陶酔したようなレイヴンの声に、僕達は彼の目的を理解する。

 

 この男、特異な能力をもった者の死体を使って自分の研究を発展させるのが目的か!!

 

「やれ、セイバー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアスたちは巨人に一斉放火を浴びせていた。

 

 キャスターは巨人の中に隠れて戦闘をうかがっている。つまり目の前の敵は巨人だけだ。

 

 ゆえに攻撃を収束させることはたやすく、しかしこれが意外とてこずっていた。

 

 巨人はその巨体に見合わぬ軽快な動きで攻撃をかわし、蛇をもした魔力を生み出して攻撃を放つ。

 

 こちらも曹操の攻撃でダメージがひどく、軽快な戦闘ができなかった。

 

 アーシアも消耗が激しく、治癒の力を万全に使うことができない。そこに敵の攻撃がくるので、ほとんど回復は進行できなかった。

 

「はっはっは!! パラケ☆ラススの力に恐れおののくがいいよ~!!」

 

「実にストレスのたまる相手ですね・・・!」

 

 真正面から放たれる砲撃を結界で受け止めながら、ロスヴァイセがストレスのたまっている声を出す。

 

 防御力を高めるためにヴァルハラへと戻ってきたことは伊達ではなく、巨人の攻撃を大きく減衰させているおかげで何とか戦えている。

 

 彼女がいなければもうやられていたかもしれない。

 

「ええ、本当に強いものが多すぎて嫌になるわね・・・!」

 

 リアスは本当に臍を噛む想いだった。

 

 紅髪の滅殺姫などという字名すらもらい受けた自分が、見事に翻弄されているこの状況。恥ずかしくて名前を返上したいぐらいになる。

 

 だが、ここで倒れる暇はない。

 

 愛する兵藤一誠がその身を新生させてまで帰ってきたのだ。愛される自分がこんなところで倒れてなるものか。

 

 自分はまだ、彼に抱かれてもいないのだから・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 ええい、敵が頑丈すぎる!!

 

 対抗術式が組まれているというのでさっさと使用して攻撃するが、さすがに俺一人じゃ強敵すぎる。

 

 グレイフィアさんたちも超獣鬼の相手で手いっぱいだし、部長たちもキャスターが相手で苦労している。

 

 ここで俺が動かなければならないっていうのに!!

 

 GSまで撃ってくるからやりづらくてしょうがない!!

 

 スペツナズ・フェンリルがあるのでこっちは比較的やりやすいかと思いきや、フォーメーションを汲んで撃ってくるのでどっちにしてもやりづらい。

 

 何とか数を減らさないと、首都リリスが完全に灰塵ときすぞ!!

 

 切り札を使うにはまだ時間が足りない。

 

 そもそも使う状況になるには時間がかかると判断したのであえて割り切って残した設計だったが、まさかいきなり即発動しなければならない展開になるとは思わなかった。

 

 世の中面倒なことが多すぎる!!

 

 と、豪獣鬼が砲撃をぶちかましてきたのでとっさに回避する。

 

 何とか攻撃を回避するが、いい加減集中力が切れてきた。

 

 これで突拍子もない行動をされたら、動きが止まって攻撃を喰らう可能性が・・・!

 

 と、思ったら目の前にGSが映った。

 

 あれ? あいつ飛べたっけ?

 

 などと思った瞬間には、全身を強打して叩きのめされる。

 

 そして俺はようやく気付いた。

 

 GSの腕が、豪獣鬼につかまれていた。

 

 あの野郎、武器にしやがった!?

 




ヘラクレスの再現度はぶっちゃけ低いです。十二の試練は持ってないし、射殺す百頭も自分の能力と組み合わせた疑似再現。とはいえコアがなまじ強力な部類だったので、ブーストされた結果あのメンツの中でもトップランクの二人を相手にしてなお優勢ですが。

っていうか完全再現だったらこの状況だと詰むレベル。・・・意外と十二の試練は突破できると思うけどね!!


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首都リリスの決戦、逆転中です!!

ちょっと短いですが、キリがよかったのでこれで投稿します!


 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サイラオーグさん! こいつを取り押さえれば何とか勝てます!!」

 

「そうか、俺たち二人ならやれないわけがないことだ!!」

 

 そう、俺たち二人なら絶対にやれることだ!!

 

 おれは真騎士の状態でそれを言った後距離を取る。

 

 真戦車の状態じゃあ、あいつの技量を超えて直撃を当てることなんてできはしない。

 

 真僧侶の攻撃を素直に喰らってくれるタマじゃない。

 

 だったらやることは一つだけだ。

 

 俺はちょうどいい距離を取ると、そのまま全力で特攻をかける。

 

 ありえないレベルで加速された俺は、そのままアスカロンをヘラクレスへと叩き込む。

 

 スピードがのって攻撃力が上昇した一撃が、受け流すことすら許さずヘラクレスののけぞらせた!!

 

 真戦車の状態じゃオーラは爆発で受け止め攻撃は衝撃拡散で何とかするだろうけど、これだけ加速した状態の質量攻撃なら受け止めきれないだろう!!

 

 一時的にのけぞったヘラクレスに、サイラオーグさんが組み付いた。

 

「雄雄雄雄雄雄雄っ!!」

 

 ジャンプして壁にたたきつけてくるヘラクレスだが、その動きは明らかに遅くなった。

 

 その瞬間に俺も組み付いて今度こそ動きを止める。

 

 もちろんこのままの状態じゃ攻撃したら俺たちも喰らうけど、今からするのは攻撃じゃない。

 

「動きは止めたぞ!!」

 

「アーチャーさん!!」

 

「・・・ええ、任せなさい」

 

 龍の外套まで展開したアーチャーさんが、頭突きを回避して短剣を突き刺した。

 

 次の瞬間、ヘラクレスの気配が元に戻ってそのまま意識を失った。

 

 ・・・よし! これで何とかなった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佑斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨大なオーラの攻撃が叩き込まれる瞬間、灼熱が僕たちを生める瓦礫ごと二人を吹き飛ばした。

 

「うぉおおおおおおおお!?」

 

 セイバーに首根っこをつかまれて走らされ、レイヴンが悲鳴を上げる。

 

 こ、これは一体!?

 

「どうやら間に合ったようだな」

 

 聞き覚えのある声に顔を挙げれば、そこにはアポロベ・フィネクス卿の姿が!!

 

 来てくれたのか!!

 

「大体の敵が片付いたので一部の勢力とともに救援に来てみれば、なんだこの事態は。・・・大丈夫かね?」

 

 とても頼りがいになる姿を見せ、彼は眷属に指示して僕たちを助け起こさせる。

 

「こ、この状況下でまさか来るとはね」

 

 頬を引きつらせながら、しかしレイヴンはまだ余裕を崩さない。

 

 それだけセイバーの戦闘能力に自信があるのだろう。脅威であることには変わりはないし、油断できる余地がない。

 

「いいだろう、今度はもう片方の腕ももらうとしよう!!」

 

 目の色が変化する。

 

 また魔眼を使用する気か! 今度は一体何を―

 

「ではどこを切ろう・・・か?」

 

 と、目の色が元に戻った。

 

 時間制限がいっぱいいっぱいだったのか? と、思ったが、僕の目の前でその理由がはっきりと示される。

 

 レイヴンの全身に文様が浮かぶ。あれは、あの文様は!?

 

「・・・バアル眷属!?」

 

「そういうことだ。サイラオーグ様を追ってきてみれば冥界の大敵を見つけることができるとは幸運だった」

 

 少し離れたところに、バアル眷属も勢ぞろいしていた。

 

 近くにいることは知っていたが、彼らも来てくれたのか!!

 

「こ、こ、この状況下で!!」

 

「これでその厄介な魔眼は使えないな。正直すこしトラウマになっていたので幸運だった」

 

 明らかに動揺しているレイヴンを冷ややかに見つめながら、アポロベ卿が全身から炎を噴き上げる。

 

「では、覚悟してもらおうか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛び回る巨人を迎撃していると、キャスターがつまらなさそうに口を開いた。

 

「なんか全然変わらないし、そろそろ追加で行ってみようか!!」

 

 その言葉とともに、軽快な音楽を伴って飛行機が接近する。

 

 そして、次の瞬間にロボットへと変形した。

 

「またアザゼルが好きそうなものを作ってくれるわね!!」

 

 この状況下であの兵器が強敵じゃないわけがない。キャスターが生み出した兵器が強くなかったことはないのだ。

 

 その驚異に戦慄した瞬間、巨人は地面にたたきつけられて爆発した。

 

「・・・はい?」

 

 出オチっぷりにキャスターが唖然とする中、地面にたたきつけた影はそのままキャスターが入っている巨人に殴りかかる。

 

 とっさに迎撃した巨人は弾き飛ばされ、一回転して何とか地面に着地する。

 

 そして、弾き飛ばしたものの姿を見て、リアスは目を点にした。

 

「・・・グランソード・ベルゼブブ?」

 

「カッカッカ! 久しぶりだなリアス・グレモリー!! ちょっと投降しに来たぜ?」

 

 リアスたちをかばうように構えながら、グランソード・ベルゼブブは巨人をにらむ。

 

「・・・やっぱり君たちは裏切るんDA? いや、マジ☆面★倒!」

 

 キャスターはこの展開が予測できているのか、グランソードがいること自体にはなにも驚かない。

 

「・・・どういうつもりですか? 貴方は禍の団の一員だと思いましたが」

 

 ソーナは疑念を口にするが、グランソードは肩をすくめると溜息をついた。

 

「わかってねえなぁお前ら、俺様をそんな馬鹿どもと一緒にするんじゃねえ」

 

 心底呆れてそう言い切ると、鋭い視線をキャスターに向ける。

 

「禍の団はオーフィスを頭にしたグレートレッドを倒すための組織だ。グレートレッドを倒したくねえからオーフィスを排するなんてふざけた行動、認めるわけがねえだろうが!!」

 

「たぶんキミぐらいじゃない? そこまでオーフィスに忠誠誓ってるのは♪」

 

 そういいながらキャスターは巨人に魔力砲撃を放たせる。

 

 曲線を動きながら放たれる一斉攻撃。明らかに今までの攻撃より密度も濃い。

 

 それに警戒するリアスたちを意に介さず、グランソードは両手を構える。

 

「温い!!」

 

 一喝すると同時に、拳が掻き消える。

 

 それが見えるようになった時には、すべての魔力砲撃が弾き飛ばされ消滅していた。

 

 まるでサイラオーグ・バアルのような連撃に、リアスたちは目を見開く。

 

「やるね♭ でも、君一人でどこまでできるかな?」

 

「舐めるな、外道」

 

 静かに構えを取りながら、グランソードは不敵に笑う。

 

 そして次の瞬間、リリスを覆うように転移魔法陣の群れが発動する。

 

「俺の舎弟が、堅気のガキども巻き込むような下種なまねを見逃すようなクズどもだと思ってんじゃねえぞ、外道!!」

 

 ・・・のちに、冥界政府の歴史においてこの戦闘は様々な評価がされることとなる。

 

 彼の行動は皮肉にも批判点としてあげられることが多い。

 

 なぜなら、冥界政府の危機でありながらその首都が「起こした側の内輪もめ」の規模が最も大きいところとなったのだから。

 

 

 




レイヴンの欠点

直死の魔眼がチートすぎる=魔眼さえ何とか出来ればごっそり弱くなる









グランソードの設計コンセプトは「実は魔王の名もちで一番まとも」

仁義にあつい好青年。その人柄ゆえに部下にも恵まれた男、グランソード。割と早い段階で味方かは決定しておりました。

彼は「家柄才能込みで、自分がどこまでやっていけるか」という理由で行動しており、堅気に迷惑をかけるのは避けるし、たぶん禍の団でもトップクラスでグレートレッド妥当を真剣に考えていたレベル。将来的に倒す気満々のヴァーリや、異世界知って対抗しないとやってられないリゼヴィムに次ぐレベルです。

・・・どいつもこいつも問題児が多いから、問題児の皮をかぶった常識人を入れたかったんだ。


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首都リリスの決戦、決着です

遂に、例のアレをお披露目します!!


 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 え、どういう状況!?

 

 俺の目の前でキャスターが使ってるっぽい巨人と、グランソードが激しい戦闘を繰り広げてる。

 

 しかも気づけばGSと戦ってるのは雰囲気的にグランソードの部下っぽいぞ!?

 

「リアス、これはどういう状況だ」

 

「か、禍の団(カオス・ブリゲート)にも意外と常識人がいたというところかしら?」

 

 サイラオーグさんの問いにも、リアスも何やらよくわかっていない状況下だ。

 

「グランソード、よくグレートレッド用の戦術とか計画してくれた」

 

 ポツリとオーフィスがそんなことをつぶやく。

 

「ドラゴンスレイヤーを探したりいろいろしてくれた。禍の団でそんなことしてくれたの、少ない」

 

 え、えっと、つまりグランソードは味方ってことでいいの?

 

「赤龍帝、無事か!!」

 

 グランソードの取り巻きが、俺たちに声をかけてくる。

 

「後は俺たちに任せて避難に意識を向けてろ! 兄貴はもちろん俺たちは、オーフィスの味方だ!!」

 

「・・・グレートレッドが倒されることはこちらとしては反対なので、味方になられても正直困るのですが」

 

 ソーナ会長が眉間にしわを寄せて頭を抱えている。

 

「まあまあー。協力してくれるっていうんですからここは素直にたよりましょうー」

 

 いつの間にか戻ったのか、桜花さんがとりなすが気持ちはわかる。

 

 っていうか禍の団にも真剣にオーフィスを考えてくれる人はいたのか。

 

 なんていうか、そこは少し安心した。

 

 こいつにも、気を使ってくれてるやつがちゃんといたんだ。

 

「言ってる場合じゃないわね。少し危険なことになったわ」

 

 と、アーチャーさんが額に手を当てて溜息をつく。

 

「え? 兵夜くんもいないけどそれが原因ですかー」

 

「と、いうか豪獣鬼に反撃されて死にかけてるわね。だから言ったのにあの子は馬鹿なんだから」

 

 ・・・ってマジで!?

 

「どうすんですか俺たちだってボロボロなのに!?」

 

「っていうかイッセーくん! よく見ると街も壊滅状態でそれどころじゃないわよ!?」

 

 俺も絶叫するがイリナの言うとおりだ。

 

 フィフスが色々やらかしてくれたせいで首都が壊滅状態になってる。

 

 空襲されたってここまではならないだろうってぐらい崩壊状態だ。これ、修復できないだろ!!

 

 助けに行こうにも破壊がひどすぎてどこ行ったらいいかわからないし! くそ、どうしたらいいんだよ!!

 

 グランソードの一派は大活躍してくれてるけど、豪獣鬼が強力すぎてGSを何とかしきれない。

 

 あいつさえ何とか出来れば戦局は傾くんだけどどうしたものか。もっと大きいやつの方はグレイフィアさんたちが何とか抑えてくれてるけど、それだってジリジリと近づけられてるのに!!

 

「・・・とにかく兵夜を見つけましょう。そうすれば何とかなるわ」

 

「いや、宮白は確かにすごいやつだけど、さすがにこの状況を何とかできるとは思えねえんだけど」

 

 アーチャーさんがやけにはっきり断言するので、匙がついツッコミを入れる。

 

 だけど、アーチャーさんは平然としていた。

 

「兵夜の切り札は発動条件を満たしているもの。戦闘続行さえ可能なら豪獣鬼は何とかなるはずよ」

 

 マジ!? あいつそんな切り札あるならさっさと使ってくれよ!!

 

「でもどうやって回復させるの? 言ってはなんだけどアーシアだって限界よ?」

 

 あ、そうだった!!

 

 アーシアもボロボロで回復力がもうほとんどないんだ!

 

 フェニックスの涙はアーシアがいるから持ってきてないし、くそ、どうしたものか!!

 

 どうすればいい、どうすれば!

 

 部長のおっぱいの力を借りてもこれはどうしようもない! いくらなんでも俺だって限界がある。

 

 普通に譲渡してもさすがに無理があるだろうし、くそ、どう・・・すれ・・・ば

 

「そうだ」

 

 あった。

 

 一つだけ、状況を何とかできそうな方法が、あった!

 

「アーシア! 試したいことがある」

 

 俺は、まず断りを入れることにした。

 

 今からやることはとても失礼なことだってことぐらい自覚している。ちゃんと本人の了承を取ってからにするべきだってことぐらい俺だってわかる。

 

「はい、なんですか?」

 

 うん、確信もないからすごく言いずらい。

 

「・・・アーシアのおっぱいに赤龍帝の力を譲渡してもいいかな?」

 

 部長のおっぱいに譲渡した時、俺は結果的にすごい力を得ることができた。部長のおっぱいのフェーズが進化したからだ。それは莫大な魔力とおっぱいをもつ部長らしいものだった

 

 だとするなら、アーシアのおっぱいのフェーズを進化させれば、癒しにかかわる強力な力が得られるんじゃないだろうか。

 

 でもこれふつう断られるよなぁ。部長の時は特別だよなぁ。

 

「・・・はい、イッセーさんがそういうのでしたら」

 

 ってアーシアちゃんもOK!? 俺の女たちはなんでこのへんてこりんな展開に対する許容値が高いの!?

 

 俺はなんて恵まれた男なんだ。これは神に感謝するべきか? いや、俺悪魔だしそれはないか。

 

 だが、OKが出たならやるしかない。据え膳食わぬはなんとやら!!

 

「つ、ついにアーシアさんのおっぱいまで進化するのね!? 主よ、どうかお力を貸してください」

 

「あらあら、やっぱりアーシアちゃんは特別ですわね。でも私だって負けませんわよ」

 

「やはり私に続くのはアーシアということね。いいわ、ここまで登ってきなさい!」

 

 なんか部長たちのノリがすごいことになってる! っていうかイリナ、神様にそんなことお願いしていいの!? っていうか朱乃さんにもしていいんですか!?

 

 ゼノヴィアがいなくて本当によかった。あいつなにかとんでもないことしそうだもん!!

 

「・・・時々思うのですが、真面目に頑張っている自分たちが馬鹿らしくなるんですが」

 

「でもいいじゃないですかー。これぞオカ研ってノリですよねー」

 

 会長にフォローしてくれてありがとう桜花さん! でも自分でもこのノリはどうかと思ってるよ!!

 

「もう少しぐらい真面目にやってもいいと思うのだけれど」

 

「・・・最低です。というより、おっぱい無い私はどうすればいいんですか」

 

 アーチャーさんと小猫ちゃんの冷たい視線にこそ同意する当たり、俺は俺でもう駄目な気がしてきた!!

 

 でもこうなったらやけだ。やってやるぜぇえええええええ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グランソードはその時確かに見た。

 

 なぜその時に視線を向けたのかはわからないが、兵藤一誠がアーシア・アルジェントの胸に手を当てるのを確かに見た。

 

 そして真っ先に思ったことは、なぜリアス・グレモリーではないのかということだった。

 

 リアス・グレモリーの乳とはリアス・グレモリー眷属の最終兵器であることは、禍の団ならだれもが知っている常識中の常識である。

 

 乳首をつつかせることで禁手へと導き、顔をうずめさせることで覇龍の暴走すら抑制する。さらには有事の際には転移し、そして乳首をつつくことで禁手を進化させる。挙句の果てには輝きを放ち、さらに上位形態へと昇華させる。

 

 グレモリー眷属の勝利の裏にはリアス・グレモリーの乳があったといっても過言ではない。禍の団がこれまで敗退を決してきたのも、リアス・グレモリーの乳があったからだ。

 

 それらを警戒して、グランソードはリアスとイッセーの間に割り込むことだけに特化した部隊を編成しようという案もあった。

 

 頭おかしいといわれることも多いだろうが、大まじめにやっておかないと自分たちも二の舞になる。それだけ重要な内容なのだ。

 

 堕天使総督アザゼルが、乳力を真剣に考慮しているというのもうなづける。エルトリアが強くなったのもそこにあるのだろう。

 

 正直自分の趣味ではないが、そういう力の高め方もあるのかとは思っている。

 

 だが、だからなぜそこでアーシア・アルジェントなのだろう。

 

 そこまで考えて、グランソードは一つのことに思い当った。

 

 そういえば、なぜかレーティングゲームの時に空間がつながった一件で、兵藤一誠はリアス以外の乳の輝きも浴びていた。

 

 つまり、リアス以外の乳にも新たな力が雇ったということに―

 

 次の瞬間、アーシアの乳から輝きがイッセーに飛び、さらに兵藤一誠が強い輝きを放ち始める。

 

 次の瞬間、リリス中に存在する損傷している者が急激に修復された。

 

 それは、怪我ではなく損傷だった。

 

 傷だけでなく、焦げた地面も、崩壊した建物も何もかも、一斉に修復した。

 

 しかし、GSや豪獣鬼には一切の影響を及ぼしていない。

 

「アーシア・アルジェントは無差別回復してしまうのが難点だって噂だったが」

 

 この光景を見てグランソードはいきを飲み、そしてその絡繰りを悟って腹を抱える。

 

「・・・カッカッカ! なるほど、赤龍帝が使ってるのか!!」

 

 アーシア・アルジェントが直接力を使っているのではない。

 

 それを赤龍帝がバイパスすることでより強大な形で回復力を使用し、さらには敵味方識別能力すら発揮する。

 

 その光景をみてグランソードは素直に感心し、そしてさらに歓喜するに値するものを見る。

 

 再生するビルから、強大な聖なるオーラが発生する。

 

 ・・・宮白兵夜が、動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でかした、イッセー。

 

 おかげで動ける程度どころから全力で暴れられる程度には回復した。

 

 ダメージ受けすぎてせっかくの切り札が使えなくなるところだったが、これで奴を叩き潰せる。

 

「我、引き抜くは理すら両断する剣の頂なり」

 

 最近の強敵は本当に強敵で、グレモリー眷属が総出になっても苦戦する連中ばかりだ。

 

 そして、俺はグレモリー眷属の足りないところを補う担当。

 

「夢幻の想いで無限を断ち、邪道を駆ける」

 

 だから、そのための奥の手こそ俺の担当。

 

 今までの研究と神格の力、そして悪魔の駒の技術でそれをなす。

 

「我、万難を排す一振りの刃となりて―」

 

 その実験相手としてはまあ十分だろう。

 

 さあ、アーチャーの魔術と冥界の技術と俺の努力の結晶を―

 

「蒼穹の元に進むべき大地を切り開こう!!」

 

 この場で今すぐ開放する!!

 

「これぞ、最終兵器! 神魔の蒼穹剣(イーヴィル・シントー・カレドヴルッフ)!!」

 

 寄り透き通り深みのある蒼の鎧で、今すぐお前を叩き潰す!!

 

 豪獣鬼はGSをつかんでたたきつけようとするが、俺はそれを迎撃しない。

 

 GSが襲ってきたらさすがにきついが、奴の攻撃だというのならもはやおそるるに足らん!!

 

 そのまま突進して勢いのままにはじき返し、そのまま光魔力のブレードを形成し、一太刀で切り捨てる。

 

 大きく切り裂かれた豪獣鬼が持ち直すより早く、結晶体を呼び出して全身を滅多打ち。

 

 一瞬でボロボロになった豪獣鬼の首を狙って、神魔の刃を振り払う。

 

 ・・・よし、計算通りの成果が出た。

 

 わるいが、こいつを発動させた以上そう簡単にやられたりはしない。

 

 研究すればある程度の対策はできるだろうからこんな簡単に勝てたりはしないだろうが、だがそれでも凶悪であることに変わりはしないだろう。

 

「兵夜くん早いねー」

 

 久遠が駆けつけてきたが、一瞬で終わらせたので確かに早かったか。

 

「そうでもないさ。どうやら追い詰められたところを連れてきたみたいだから、だいぶ弱ってたしな。HPが低かったから押し勝てただけだ」

 

「いや、そういう領域じゃないっていうか、どんな反則技使ったんだよっていうかー」

 

 久遠はあきれているが、俺はその手に持っているものを見て目を見開いた。

 

 魔鳥が封じ込めているその球体は、明らかに曹操の七宝だった。

 

「それまだ残ってたのか?」

 

「うん。だから兵夜くんにどうするか聞こうと思ってー」

 

 ・・・なるほど。

 

「だったらぜひもらっておこうか。ちょうど使いたい用事があったしな」

 

 よし、これで最後のピースもそろってくれた。

 

 さて、覚悟はいいだろうなあの野郎。

 

 




まあ支配の聖剣使うって時点で予想していた人も多いでしょうが、偽聖剣の上位形態です。前にも伏線は張ってましたし。

コンセプトは「通常形態を使って苦戦する言いわけができた仮面ライダー最強フォーム」です。その設計思想上をかなえるため、初手から使うことができないという欠点を持ってますが、切り札です。

因みに発想が英国面なうえにピーキーな設計ですが、その分はまればものすごい効果を発揮します。



んでもってイッセーの乳力はケイオスワールドではリアス以外にも伝染します。

ヒロインズごとに能力を変えていくつもり。アーシアの場合は通常時を超える超広範囲万能敵味方識別回復能力。破壊されたビル群だろうと治せる万能性を持ちながら、アーシアの欠点だった敵味方識別不可能をイッセーをバイパスすることで解決する逸品です。

四章入ってからイッセーの乳技が停止気味なのが不満だったので、ケイオスワールドでは積極的に追加していこうかと。・・・さすがに女性読者からクレームが来たのだろうか?


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元凶、制裁します!!

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮白が豪獣鬼を一瞬で片づけてから、俺たちは救助活動に励んでいた。

 

 GSはやられてない奴は全員撤退して、フィフスたちもすぐに逃げたらしい。

 

 ヘラクレスやジャンヌも拘束されて、これで何とかなったみたいだ。

 

 いや、本当に危なかったです!

 

 でもアーシアの力を借りたおかげで、けが人はみんな治ったみたいでよかったよかった。

 

 俺たちは戦闘不能になったGSから神様たちを引っ張り出す作業に追われていた。

 

「神器の技術を流用してるから、アザゼル先生がいたら簡単にできたんだろうけどなぁ。あの人今どこに行ってんだろ」

 

「カッカッカ! 大方ハーデスあたりを牽制してるんだろうぜ。・・・ほら、1、2の3!」

 

 結局直した後に壊れた瓦礫を一緒に持ち上げてくれるグランソード・ベルゼブブ。

 

 いや、シャルバなんて目じゃないぐらいいい人なんだけど、いいのか?

 

「なんか超獣鬼には逃げられたとか連絡あったけど、いい加減グレイフィアさんたちがくるんじゃねえか? 逃げなくていいのかよ?」

 

「あ? なんで逃げる必要があるんだよ?」

 

 いや、あんた禍の団だよね?

 

「一度頭に決めた奴がこっち残るって言ってんだ。俺らが尻尾撒いて逃げるわけがねえだろ。今更そんな薄情なまねするなら、最初から来るわけねえよ」

 

 律儀な人だな。

 

 でも、オーフィスがこっち残るっていうことは禍の団を抜けるってことだし、それだと都合悪くないか?

 

「魔王の座とかいいのかよ? いくらなんでもただじゃすまないだろ?」

 

「いいんだよ。俺様は自分がどこまでいけるか権力と血筋も混みで試したかっただけだからな。そのうえで頭が抜けるって言った以上、今更とやかくする気はねえ」

 

 その言葉に俺は感動すら覚えた。

 

 今まで魔王の名前を持ってる人って、いろいろ駄目すぎるシャルバ達はもちろん、戦いたいだけでアザゼル先生裏切ったヴァーリもあれ。サーゼクス様達もプライベートではいろいろと問題児すぎる。ザムジオやエルトリアは別ベクトルでアホである。

 

 それなのにこの人はこんな感じ。実はこの人、魔王の中で一番まともじゃないだろうか?

 

「証人になった時は弁護するよ! いや、させてください!!」

 

「おいおいやめとけよ赤龍帝。手前の勝手で禍の団やってたのは事実なんだ。舎弟にゃ気を使ってくれていいが俺様は気にすんな」

 

 そんなこと言われたら弁護したくなっちゃうじゃないか!

 

 と、そんなことをしていたら別の場所を担当していたリアスたちも戻ってきた。

 

 あれ? なんだか表情がおかしいぞ?

 

「イッセー。兵夜を見なかったかしら?」

 

 宮白? 宮白のやついないのか?

 

「回収したもの渡したらー、用事があるからってどこか行っちゃったんだよー」

 

「しかもパスもある程度切っているから念話も通じないのよ。・・・何かやらかす気しかしないのだけれども」

 

 桜花さんとアーチャーさんが不安にさせてくれる。

 

 オイオイオイオイ。あいつボコボコにされたばっかりなのにどこ行ったんだ?

 

「と、いうかあの切り札どういった理屈なんですか? 豪獣鬼を一瞬で倒してしまいましたけど」

 

 木場がふと気になったのかそんなことを言う。

 

 確かに、今の俺でも単独で倒すのは苦労しそうだよな。

 

 対抗術式が出てくるまで止められなかったとかいう話なのに、なんだあのスピード殲滅。

 

 と、思ったときに何やらすごい音とともに何かが墜落・・・いや、着地した!

 

 あ、ナツミちゃんだ。

 

「・・・あのデカブツはどうなった!! ・・・っていうかイッセー!? 死んだんじゃなかったの!?」

 

「宮白が倒したんだけど宮白が消えたんだよ。・・・いろいろあって体は新しく作り直したんだよ」

 

 とりあえず簡単に情報交換。

 

 なんでもあの豪獣鬼はナツミちゃんたちが戦闘を担当していた連中らしい。

 

 あと一歩のところで「パラッケパラッケ♪ ラッススラッスス♪」という歌とともに消えていって、ベールフェゴルの能力を応用して場所を突き止めて追いかけてきたとか。

 

 遅れながらもほかにも大量の悪魔がやってくるけど、そういう意味じゃ無駄足だったわけだ。

 

「で、兵夜どこ行ったのさ? ハーデス相手の抗議文でも作ってるの?」

 

 ああ、そういえば俺が死にかけたのってハーデスがいろいろかかわってたんだっけ。

 

 この冥界の危機もハーデスが理由なところがあるし、そういう意味じゃ絶対反撃するよなぁ、宮白は。

 

 と、それを聞いていたアーチャーさんと桜花さんが、顔を真っ青にした。

 

 ・・・俺もそれを見て、まさか宮白は殴り込みをかけたんじゃないだろうかと思いはじめる。

 

 いや、だけどさすがにないだろ。一対一じゃ勝てないことぐらいわかるだろうし、追及するのも大変だし。

 

「実は兵夜くん、ハーデスと曹操の交渉の一部始終は録音してるんだよねー」

 

 と、桜花さんがとんでもない事実を言ってきた。

 

「曹操も知らないことだからハーデスも気づいてないだろうし、それを使えば相当追い込めるとは思うんだけどー」

 

「いや、でも物理的にはどうしようもないでしょ。いくらなんでもそこまで無敵モードってわけじゃぁ・・・」

 

「・・・やりようによっては行けるわね。あの能力、一対一に限定すればかなり凶悪なのよ」

 

 俺の言葉を遮って、アーチャーさんがあの能力のタネを説明する。

 

 ・・・神の力と悪魔の駒を利用したとんでもない仕組みだった。こういう変態的発想だけど確かに理屈では行けるのってなんていうんだっけ? あ、英国面?

 

「ま、ままま魔術師の本場はイギリスにありましたけど、まさかそんなところまでブリティッシュだなんて!?」

 

 スパロがあきれてそんなことを言う。

 

 いや、だけどまさかそれだけじゃさすがに足りないだろー。

 

「・・・曹操から七宝を取っていたらやりそうだというか行けるかもしれないわね。神魔剣は特徴的過ぎるからある程度の抗体を生成するのは簡単だし、むしろチャンスだと思うけど」

 

「ごめんなさいー。渡したの七宝のあの・・・攻撃力重視ー」

 

 アーチャーさんの推測と桜花さんの補足で大体わかった。

 

「・・・止めろぉおおおおお! 宮白を止めろぉおおおおお!!!」

 

「仕方がねえ。舎弟の恩赦と引き換えに俺様行ってやるよ」

 

「我、手伝ってもいい」

 

 グランソードとオーフィスが頼もしすぎるけど、あんたたちが行くと別の意味でややこしいからストップ!!

 

「と、とにかく急いで追いかけるわよ! いくらなんでも兵夜だってただじゃすまないはず―」

 

 リアスがあわてながらも冷静に判断をした時だった。

 

 冥界の空に映像が流れ始める。

 

―ダダンダンダダン♪ ダダンダンダダン♪

 

 そのBGMで、俺たちはすでに手遅れである事を思い知らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『では交渉成立だ。無限は俺たちが落とす』

 

『ファファファ。無限がいなくなってくれればこちらも助かるというもの。一度だけだが確かにサマエルを貸してやろう』

 

 そんな悪の親玉同士の取引としか思えない会話を流しながら、BGMはターミ○イター。

 

 シュールな展開ではあるが、状況が状況なので非常に危険すぎる。

 

 加えて、いつの間にやら放送されているという事実も非常に面倒だ。

 

 そう、俺たちの目の前でハーデスは一気に突き落とされた。

 

『いやぁ、小物に足元救われるボスって痛快だけど、リアルにできるとは思わなかったよ。ねえどんな気持ち? ねえどんな気持ち?』

 

 さあ帰ろうというときに、このBGM流しながら、偽聖剣状態のこいつがスローモーションみたいなゆっくりな歩き方でこいつが来たときはホラーかと思った。

 

 そして無言でスピーカーを取り出したかと思ったら、この衝撃会話を流しやがった。

 

 どこで手に入れやがったあの野郎! ハーデスも反論の余地がないじゃねえか!!

 

『因みにこれはコピーですでに各勢力に配ってるから今更壊そうが意味がない。オリジナルは冥界政府に送っているから今更ごまかそうとしても無駄だ。・・・完全に詰められてねえどんな気持ち? 略してNDK?』

 

「貴様・・・っ!」

 

 うわぁ、ハーデスの奴マジギレしてやがる。

 

「我らが神話に土足で踏み入り信仰を奪い取り、そのうえ何食わぬ顔で和平などを謳いおって! そのうえこのワシをここまで愚弄するか!!」

 

 ちっと化かし痛いところを突いてきたが、宮白はあっさりと鼻で笑った。

 

『いや、信仰広めたときの教会と悪魔は敵対してたから知らねえし、第一俺たち生まれてもいないから関係ないし。・・・俺あんたみたいな老害嫌いなんだよ死ね』

 

 はっきり死ねって言い切った!?

 

 死神連中もマジギレしてるが、こんな状況で堂々と乗り込んだこいつを警戒して近づこうとはしない。

 

 一触即発どころかニトログリセリン投入してやがるが、宮白は何食わぬ顔というか・・・ハーデス以上に怒りのオーラを出してやがる。

 

『千年単位の昔の話を二重の意味で直接かかわってない奴にまきちらしやがって八つ当たり以外の何物でもない。いまどき訴訟大国アメリカでも酌量されないようなこと言ってんじゃねえよ骨! そういうのは教会側の当事者に発散しろ老骨!!』

 

 真正面から中指立てやがった!? 俺たちよりよっぽど喧嘩腰なんだけどお前さすがにフォローできんぞ!?

 

『っていうか俺は加害者家族保護団体に入ってんだよその状況下でイッセーがマジ死ぬところで今更遠慮するとでも思ってんの!? レイヴンさえ生け捕りにできていれば手前の死体で代用品作れるからさっさと殺してるんだよ恵まれてるって自覚したらどうだあぁ!?』

 

 妙なところで冷静だった!!

 

 っていうことは殺すつもりはないのか。よかったよかった、さすがにそれだったら俺たちが取り押さえなければならなかった。

 

「なあアザゼル、宮白くんは冷静なのか暴走してるのかどちらなのだろうか?」

 

 止めるか止めないか様子をうかがいながら、サーゼクスも慎重な状態だった。

 

 マジギレ状態だったこいつも毒気を抜かれているが、マジで心配なんだけど大丈夫だろうか?

 

 と、それまで様子をうかがっていたデュリオが頬を引くつかせながら手を挙げる。

 

「あのー、ちょっと気になるところがあるんですけどいいですかね?」

 

「あ、なんだよ?」

 

 今それどころじゃねえんだけど!?

 

「それで、ワシに一体何を要求するつもりだ?」

 

『とりあえず失脚してボコボコになってほしいな。クソまみれにする分には一緒に付き合ってやる程度の慈悲は見せてやるが』

 

 うわ、すごいこと言ってるよこいつ。

 

 今にも死神たちが切りかかりそうなんだが、そろそろ当身入れて黙らせたほうがいいか?

 

「いや、さっきからスピーカーからしか声聞こえてないんですけど、本人ホントにしゃべってるんですかね?」

 

 あ、そういえば鎧越しだから口が動いてるかわからねえな。念話の応用とかやりそうだ。

 

 と、俺はそこまで言ってハタと気づいた。

 

 あいつの最終兵器、ハーデスにも結構効くんじゃねえか、初見だと。

 

「ふぁふぁふぁ。やれるものならやってみるがよい。だが、そんなことをしようものならワシも本気を出してやるがな」

 

「まてハーデス乗っかるなぁあああああああ!! サーゼクス行くぞ宮白止めろ!?」

 

 俺はあわてるが、遅かった。

 

「・・・じゃあしてやるよ」

 

 瞬間、鎧のカラー微妙に変わってオーラが放出された。

 

 あの野郎、スピーカーを大音量で流してごまかして、小声で詠唱してやがった!?

 

 不意打ちだったので俺たちも追いつかず、宮白は布でぐるぐる巻きにされた宝玉を右足に付けて突進する。

 

 ってあれは曹操の七宝!? どこで手に入れた宮白!?

 

「まずは失脚!!」

 

 まさか本当に来るとは思ってなかったのか、ハーデスは宮白の蹴りをもろに喰らい、両足を切断される。

 

 失脚って物理的な意味!?

 

「・・・貴様!?」

 

 次の瞬間莫大な力が放出された。

 

 神殿をごっそり吹き飛ばす攻撃が宮白の頭を直撃するが、しかし揺らがない。

 

 その奔流が過ぎ去った時には、右目のあたりから鮮血を流した宮白が、だか全く意に介さずに蹴りを腹に叩き込んでいた。

 

「片目と片足ぐらいはくれてやる」

 

 衝撃とともに宮白の右足が七宝とともに吹き飛び、そしてハーデスはどてっぱらに直撃を喰らって動きを止める。

 

 そして宮白はそのまま組み付き、左腕をハーデスの背中に伸ばした。

 

「そしてボロボロにもしてやろう」

 

 次の瞬間には、スペツナズ・フェンリルが全部まとめて、ハーデスの背中に現れていた。

 

 そして共振してオーラがはなたれ、ハーデスを一瞬で蹂躙する。

 

 宮白も神格なのでやばいところだが、ちゃっかりハーデスを楯にしてしのいでいた。

 

 ・・・一瞬だった。一瞬で宮白はハーデスを戦闘不能にまで追い込んだ。

 

 そしてほかの連中は気づいてないが、あの野郎、ハーデスの脚をこっそり回収していた。

 

 絶対アーチャーに礼装にさせる気だ。マジギレしてるくせに抜け目がない。

 

 そしてハーデスが床に落ち、死神たちの中には失神して倒れる奴までいる。

 

 だれもが、あのハーデスが一瞬で倒される光景に茫然としていた。

 

「貴様・・・その、力は・・・」

 

「ああ、これが俺の神魔の蒼穹剣(イーヴィル・シントー・カレドヴルッフ)。・・・能力は、攻防における解析した相手の天敵化だ。そうじゃなければさっさと不意打ちしてからゆっくり会話流してあおってんだよ、馬鹿が」

 

 そう、これは宮白の最終兵器。

 

 化け物ぞろいのグレモリー眷属でも苦戦する毎度の状況下に対した宮白の切り札。そういう状況下における切り札として自分を運用するべく、神格化と転生悪魔の技術を組み合わせて作り上げた最終兵器。

 

 毎回毎回まず相手を解析する時間がいるという欠点こそあるが、発動すればヴァーリといえど覇龍を使わなければワンサイドゲームで叩き潰すことが可能というとんでもないスペックを持った切り札だ。

 

 もちろんそれだけじゃあハーデスには一歩届かないかもしれないが、そこを曹操の七宝で補いやがった。

 

 専用調整もしてない神殺しを神が運用すればただじゃあ済まないが、あの野郎右足に収束させることで戦闘運用を可能にしやがった。蒼穹剣でより効果が上がってるし、しかもどうやら出力重視だ。最初から殺す気なら最初の一撃でカタが付いている。

 

 最初から右足を捨てることを前提とし、さらに対抗術式による抵抗を作られる前の初見殺し。強敵相手だと回復もしくは代用可能ならさっさとハイダメージハイリターンを使い、嫌いな奴には不意打ち上等の宮白らしい策だ。

 

 余りの光景に俺たちが動けないなか、宮白は指を鳴らすと上空に大量のある物体をだす。

 

 ・・・肥溜めからさっさと回収してきましたって感じの中身が、重力に従って落ちてきた。

 

「貴・・・様・・・ぁあああああ!!!」

 

 ハーデスが憎悪すら垂れ流して絶叫するなか、宮白が一つの表情を作った。

 

 ・・・相手の精神を逆なでするために研究した、完膚なきまでの勝者の笑みだ。

 

「宣言通り一緒に浴びてやるよ。公衆の面前でクソまみれになって詫びやがれ、スケルトンが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・処罰しようにも、俺たちの証言でハーデスがシャルバをそそのかしたのが獣鬼騒動の原因だということもわかって、悪魔側や裏で権力争いしたい連中の弁護が大量に出て上級悪魔の昇格試験を数か月禁止という甘すぎる判決が下された。

 

 ハーデスも自分の立場を分かっていたうえでいろいろ動いてた節があるが、こいつもしっかりやりやがった。

 

「もちろんその旨はハーデスに後で手紙でしっかりと教えてやったぜ? 下種に下種な手段使って何か問題でも?」とのちに堂々と語ったという。

 

「まあ俺も内蔵がごっそりなくなるかと思ったけど、意外と軽くて助かったっていうか、もしかして自業自得ってわかってるから手加減してくれたのかな?」などと思いっきりあおったりもした。もちろん自覚満々の確信犯だ。

 

 こいつを本気で怒らせたら神殺しを使った上でこうなるという、超インパクトのある実例の前に、一部の神はイッセー以上に脅威と認識したがまあ当然だろう。

 

 マジ怖っ!!

 

 




兵夜(彼の中では)完全勝利。証拠で逃げ場をふさぎ不意打ちで叩き潰し精神的に止めを刺しました。その後のフォローもギリシャ神話に対する政治的な裏すら利用して最低限のダメージで終了。

ちなみに、兵夜は内蔵までごっそりなくなることを前提に特攻しかけているので当人の中ではぼろもうけ状態です。

そして神魔の蒼穹剣の能力は対象の天敵化。ただそれだけの能力であるがゆえに凶悪です。さすがに術式も見られたし、そもそも今回は象宝があったからこそここまで倒せたのでここまで圧倒はできませんが、それでも超強敵相手に対する切り札として使えます。変身したら処刑用BGM流してくださってかまいません。

まあ、その分実は穴だらけのピーキーな使用でもあるのですが。それはまた後ほど。

ここまでやったのはイッセーにしでかしたことに対する報復もありますが、それ以上に今後のための見せしめでもあります。

裏でこそこそやって足並み乱すた挙句に堅気に手を出す奴はこうなると見せつけることで、同じことを考えている連中に特大の牽制球を放ちました。なまじハーデスは異形社会十指なのでこいつを叩き潰せればショックもでかい。

そのため、七宝を確保できなくても対策を取られる前に神魔剣で特攻はかましていました。








まあ、こんなことして兵夜も当然ただでは済まないのですが。


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お仕置き、されました!!

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

「御苦労だったな。もう終わったから引き渡してやってもいいぜ?」

 

「承知しました。・・・こちらも使ってしまったので後がなかったところです」

 

「いやよかったよかった。これで大体ケリもついたし、お疲れさん、帝釈天」

 

「・・・HAHAHA。まさかこんな奥の手隠し持ってたとはな、俺に膝をつかせるだなんてやるじゃねえか」

 

「あの計算すっ飛ばす化け物に勝つには、これぐらい出さないとだめなんだよ」

 

「確かにてめえは本気出すとSSぐらいは出すが、あの赤龍帝は本気もB級なのにここぞのところでSSS出すからなぁ、Sどまりの曹操じゃあ荷が重かったZE!」

 

「まあそういうわけだ。なあに、欲しけりゃ少し位分けてやってもいいぜこれが? まあ、会話は録音して保険にするがな」

 

「・・・やめとくぜ。お前らはこのまま残しておいた方が面白そうだし、何よりさすがに今のままじゃあこっちもヤバイ」

 

「わかってくれて助かるよ。ま、使えなくても神滅具だ、価値はあるだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全部終わって昇格も決定、リアスとデートにも行くことになって俺はもうドキドキです!

 

 と、言うわけで女がらみじゃ経験豊富のアザゼル先生に相談しに行ったら、結構マジな顔で考え込んでてどうしたもんか。

 

「いや、思ったよりこっちも面倒でよ。ちょっと頭抱えたくなってなぁ」

 

「何言ってんですか、余計な重荷から解放されたアンタと付き合わなきゃならない俺たちの方が頭抱えたいですよ」

 

 そう、総督を辞任したことでアザゼル先生はリミッターが解放されただろう。今後のトラブルがどんなことになるか予想がつかない。

 

 はやく宮白帰ってきて! 入院なんてするなよもう!!

 

「いや、実は割とマジでやばくてなぁ、見ろよコレ」

 

 そういってアザゼル先生が出してくるのは、悪魔の名簿だった。

 

 なにこれ? 半分ぐらいバッテンがついてるけど。

 

「あのどさくさで叛逆されて殺されたり、裏でやらかしていた悪事をスッパ抜かれた連中の名簿だよ。ちなみに悪魔側だけでこれだが堕天使や教会にもいくつかいる」

 

「マジで!? けっこうたくさんじゃないですか」

 

 冥界って本当に問題あるなオイ! あ、でもごっそり減ったからこれから楽かな?

 

「身内の引き締めには効果があったかもしれないが、こうも減ると後釜すえたりで大変なんだよ。何でもかんでも速攻で片づけりゃあいいってもんじゃない。それならサーゼクス達が全力で仕留めりゃいいだけだからな」

 

 なるほど。政治って本当に難しいんだなぁ。

 

 ってことは冥界は立て直しで当分忙しいのか。その分俺たちも頑張らないと。

 

「しかも、中には冤罪臭いやつもいるし、これ以外にもやれ変態行為でスキャンダルされた奴もいる。・・・中にはこの緊急事態にクソ漏らしたとかいう恥ずかしい目にあった奴もだ」

 

 す、すごいことなってんだな冥界業界。

 

 ってまてよ?

 

「そういえば、以前パーティーにフィフスがちょっかいかけたときアサシンに毒盛られてゲリになった人たちがたくさんいたような・・・」

 

「ああ、間違いなく奴の仕業だ」

 

 何をやってるんだと突っ込みたいけど、スキャンダルで面白おかしく言われている人からしてみるとシャレにならないことだ。

 

 俺も、おっぱいドラゴンとして子供たちにショーをしているときに漏らしたりしたら人生暗闇だろう。

 

「人ひとりの人生を終わらせるのは、何も殺すことだけじゃない。あの野郎最初からそのテストも兼ねて下剤なんてもの盛りやがったんだ」

 

 なんて恐ろしいやつだ、フィフス・エリクシル!

 

 そんなのにむっちゃ敵視されてるとか運が悪すぎる! 一度お祓いしてもらいたいけど悪魔だから無理だ。誰か助けて!!

 

「それだけじゃあない。結局超獣鬼を含めた獣鬼はいくつか禍の団に回収され、今回反乱を起こした連中も、フィフスが戦力にする代わりにかくまったって情報もある。なんだかんだでフィフスの奴は強化されてんだよ」

 

 あの野郎、禍の団で一人勝ちしやがったのか。

 

 こっちが強くなって勝ったりしてる時に、フィフスの奴もどんどん強化してくる。

 

 くそ、面倒な奴に敵視されたもんだなぁ。

 

「アイツはお前を警戒してるからな、なにぶん間違った判断じゃねえし、アーチャーがいる以上いずれ最終決戦を仕掛けてくるはずだ。その時のために鍛えることは忘れるなよ?」

 

「わかってます! レイナーレの奴とも決着をつけなきゃいけないし、俺だって強くなります!!」

 

 俺が気合いを入れてそういうと、先生は笑って俺の頭をなでる。

 

「その意気だ。と、いうことで一ついいニュースも教えてやろう」

 

 ん? いいニュース?

 

「宮白のやつが意識を取り戻したとよ。いま小雪たちが見舞いに行ってる」

 

 お、マジか!!

 

 宮白のやつ、ハーデスをズタボロにした上にクソまみれになる映像を流すというとんでもない報復をしでかした後ぶっ倒れたらしい。

 

 書類でハーデスの脚を使った義足の開発を魔術師組合に依頼していた当たり、確信犯でやりやがった。

 

 俺も大概無謀だけど、あいつの場合はどれぐらいダメージはいるか把握したうえでやってるからある意味もっとひどい。

 

「っていうか宮白の処罰って軽すぎません? 昇格取り消しされてもおかしくないと思うんですけど」

 

「したくてもできん。あいつ派手に全世界中継でハーデスぶちのめしただろ?」

 

 うん、アレは本気で驚いた。

 

「魔獣騒動で被害にあった連中からしてみれば、あいつは元凶を叩きのめしてくれた英雄だ。感謝状を出したいってやつもいるし、勲章を授与するべきではないかという連中もいた。」

 

 ああ、そういえば報道業界ではハーデスが今回の騒動の元凶って認識だったっけ。

 

 あながち間違ってないのがひどい。おかげで俺もみんなもひどい目にあった。

 

「そんな英雄に重い罰を与えたら、魔獣騒動で心を痛めた連中が暴動を起こすかもしれん。ごっそり人材が減って立て直しが必要な現状じゃあそんなことは無理だ」

 

 宮白のやつ、結果的にフィフスに助けられてやがる!!

 

 ってことはアイツおとがめなし!?

 

 く! 心底人を心配させておいてこんなちゃちな叱責だけで済ますとはさすがやり手だが許せん!!見舞いに行くときはしっかりお仕置きしてやらないとな・・・!

 

「ま、お仕置きは小雪たちに任せといて充分だろ」

 

 そんなことを言うけど俺たちだって怒ってるんですよ!?

 

 と、思ったけど、アザゼル先生は宮白に同情する表情だった。

 

「いやホントに勘弁してやれ。小雪の奴が計画してたんだが・・・」

 

 そういって先生が耳打ちする内容は、確かにその気がなくなるものだった。

 

 ・・・合唱!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さすがに今回はやばかった。

 

 いや、腎臓や肺の片方ぐらいは覚悟してたから安いダメージだと思うんだが、最後がやりすぎた。

 

 足がなくなってるのにクソまみれになったもんだから感染症起こして緊急入院。冗談抜きで生死の境をさまよってしまった。

 

 はっはっは。義眼ぐらいなら開発できるというか、魔眼を作るなら入れ替えるのは別におかしくないから安いんだが、これはマジでやばかったぜ。

 

 うん、やばかったやばかった。反省してる。

 

「反省してるから拘束解いてください!!」

 

「却下だファック」

 

「無しだよクソご主人」

 

「さすがにあり得ないかなー」

 

「実質止められないですごめんなさい」

 

 全員で切り捨てられた!!

 

 くそ、意識を取り戻して書類整理をやっていたらこのありさまだ。

 

 なまじ非常用の義足は開発してたから両手両足拘束されてる。

 

 全員微妙に目が座っており非常に怖い。おい、俺は生きて帰れるのか?

 

「ご主人は本当に大活躍したよな。・・・死にかけてるけど」

 

 涙目でナツミに来られると申し訳ない気にもなるが、額に青筋が浮かんでいるから恐怖心の方が先に立つ。

 

「兵夜さまは自分にハイダメージを貸しすぎです。実質私たちにももう少し重荷を乗せてくださってかまわないのですよ?」

 

 ベルが割と真面目に説教するノリなのは心をいやす。怒られてるのに癒されるとかすごい状況だ。

 

「兵夜くんに七宝渡したのが原因でこんなことにになるなんて心臓に悪かったよー。本当に一日寝込んだんだからねー」

 

 割とマジ泣き状態な久遠にはマジごめんなさい! でも目のトーンがあれ何で落ち着いてください!!

 

「まあ総意をゆーとな? ・・・お前はマジでファックな目にあって首輪付けた方がいいよなーってこった」

 

 ああ、小雪は本当に面倒見がいいから説明してくれるね。

 

「ってお前ら本気でファックするつもりか!? 俺の処女がヤバイ!?」

 

 男の処女ってどういう意味かと思ったら自分で調べてくれ。自己責任だぞ諸君!!

 

「安心しろ。ワセリンとほっそいの用意してやったから四人同時でも問題ねーよ。マジファック」

 

 うわぁい。妙なところで気を使ってくれるよねホント。

 

「そして処女はそれだけじゃではありません」

 

 ベルがそういって取り出すのは、なんと!

 

「そ、それはアザゼルが開発した性転換光線銃!?」

 

「そういうことだよー。前にイッセーくんから聞きだしたけど、兵夜くんレズとコスプレが好きなんだってねー?」

 

 あ、部長が爆発寸前だったのでアドリブで久遠のところにイッセー送り込んだときか!!

 

 正直久遠なら推測してくれると思ってのアドリブだったが、まさかそのツケがこんなところで来るとは!!

 

 何も言ってこなかったのはいざというときの最終兵器だったか!! だが、イッセーがそこまで正確に把握しているとは、付き合い長いだけあるな。

 

「っていうかご主人。エロ本の横流しに自分の趣味出しすぎたったなんてアホなミスするときあったんだね」

 

 自業自得だった!

 

 おのれ、俺とて最初のころは未熟だったが、それが巡り巡って俺自身を痛めつけるとは!!

 

 っていうかちょっと待て!

 

「お、俺に変な趣味を目覚めさせる気か!! ほんとに目覚めたらどうするつもりだ!?」

 

 女の快楽は男より強力だという。

 

 俺がそっちの属性に目覚めたらどうするつもりだ! 自分の首を絞める結果になるぞ!?

 

「彼氏の趣味に理解を示すのも女の度量だよー」

 

「っていうか兵夜がそういう趣味なんだからレズったほうが効率いいし、まあいいかなって思う」

 

「実質それぐらい突破しないでどうしますか!! っていうか兵夜さまが好きなら突破して見せます」

 

「観念してファックされろ。今更その程度で引くような、まともな女はこの部屋にいねーよ」

 

 はっはっは。覚悟完了してやがる。

 

「え、えっと・・・ということは?」

 

 現実逃避したいけど無理だよなー。後でどさくさ紛れに主導権うばえないかなー。

 

「「「「いただきます」」」」

 

 いやぁあああああああああ! 犯されるぅううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かろうじて新しい扉を開くことは阻止できた。

 

 覚えているがいい、開き直って自分の体で研究しまくって、ベッドの上でひいひい言わせてやる!!

 

 




フィフス、一人勝ち。

GSはもともと英雄派の持ち物なので、フィフスは大した損害を出さずにごっそり強化をすることに成功しました。どさくさに紛れてごっそり戦力も強化して主人公陣営の宿敵として順調に強化していってます。

そしてアサシンがアサシン的に面目躍如。敵を(社会的に)始末して撃破。冥界政府はいろいろな意味でダメージの回復が忙しくなるので歯ぎしり状態です。結果的に兵夜の減刑にも助力したり。




そして兵夜、すごいお仕置き。

なんというかですね。強敵と相手した場合、肉を切らせて骨を断つべきか迷わないというか、最初からどんな肉の切らせ方をしたら一番骨を断てるか考えるタイプ。実力の低さと倫理観の緩さと自己犠牲精神の存在から、代用品を用意できるのなら自分のハイダメージを一切躊躇しない。

まあ、そんな状況下で首輪をつけずにいるほど彼女たちは放任主義でもなかったのですごいお仕置きを受けました。


次回からは13巻書き下ろしをベースにした中編です。

今後の展開のための布石を加えていきたいと思っております。


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キャラコメ 第十二弾!!

ついにキャラコメもここまで・・・っ

長かったぜ!!


 

兵夜「ひゃっはー! 中盤の山場だぜぇ!」

 

久遠「ひゃっはー! 連続でゲストだよー!!」

 

イッセー「おいおい二人ともテンション上がってるな! あ、今回のゲストのイッセーです」

 

兵夜「だってお前、だってお前! やけにならずにやっていられるか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセー「うわ、お前欠片も心配されてねえな。桜花さんも込みで」

 

久遠「会長に心配されたかったー!!」

 

兵夜「た、確かに理屈の上ではその通りなんだけどね? もうちょっとこう、何かがほしい」

 

イッセー「っていうかみんなのショックっぷりがひどいんだけど。そこまで落ち込まなくても・・・」

 

兵夜「お前馬鹿なの? 自分の影響力考えろよ」

 

久遠「兵夜君が抜けると参謀的な意味で大打撃だけど、イッセー君が抜けると士気的な意味で大打撃だからねー」

 

兵夜「因みに、俺がいないこともあって原作の展開はかなりばっさりカットだ。・・・実際はいろいろと考えられてたみたいなんだがな」

 

久遠「そうなのー?」

 

兵夜「ジークフリート戦で、俺がオカルト研究部に叱咤激励する案もあったんだが、そこに行く前に激励するか真っ先に撃墜してるかの二択だし」

 

イッセー「あ、目に浮かぶ」

 

兵夜「ほかにもいろいろあって、もう面倒だからバッサリ行ってしまおうというすごい切り方をしたんだよ」

 

イッセー「だけど、辛辣なナツミちゃんもちゃんとショックうけててくれてよかったよ。別に死んでないけど」

 

兵夜「いやいやお前、ふつう死んでるだろ。体消滅してるし」

 

久遠「幽霊になっているっていうならわかるけど、これはないよねー。最初に目にした時度肝抜かれたよー」

 

イッセー「俺だって驚いたよ!!! ああ、リアスたちを抱けないなんて本気で恐ろしい」

 

兵夜「お前って、ホントあほだよな」

 

イッセー「酷い!! うっかりがなければこんなに混乱することもなかったろうが!!」

 

兵夜「ぐはっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久遠「で、おっぱいの力で合流したけど、超獣鬼戦はばっさりカットだねー」

 

兵夜「安心しろ。グレートレッドと短時間だが勝負できた性能の本領はちゃんと発揮するから。出すから」

 

イッセー「でも、トライヘキサとかいる状態だとあまり目立たなくないか?」

 

兵夜「ああ安心しろ。かなり重要なポジションで出てくるから」

 

イッセー「マジか。オリジナル展開とかかわってくるのかな?」

 

兵夜「ネタバレすると、ラストバトルにも出てくるから安心しろ。フィフスがやらかす」

 

久遠「それはそれとして、曹操がやらかしたねー」

 

イッセー「っていうか反則だろ。曹操は神滅具なのに業魔人使うのって」

 

兵夜「もったいない設定だったからな。曹操は原作三章におけるボスだし、それ相応のパワーアップをして目立たせないと。原作重要人物は尊重するぜ、この作品は」

 

イッセー「っていうかあとちょっとで全滅してたし。本気のヴァーリもサイラオーグさんもいるのにこれってやりすぎだろ」

 

兵夜「なんたって聖槍だからな。悪魔だらけのこの状況下じゃ相性最悪。ナツミやベルや小雪がいればまだうまく戦えたんだが、この場は久遠がメインになる」

 

イッセー「もう桜花さんメインヒロインでよくね?」

 

久遠「いや、苦戦したよー」

 

イッセー「そりゃ苦戦するって。むしろ一対一で戦えたことが奇跡だって」

 

兵夜「まあ、それにしたって曹操は格が違う上にスーパードーピング。ゆえにこっちも相応の切り札を使うわけだが・・・恥ずかしいな」

 

久遠「二人に激励されたら本気出すしかないからねー。頑張ったよー」

 

イッセー「最後のとどめは例の投げ技。あれ、痛いんだよなぁ・・・」

 

兵夜「イッセー。曹操に同情する必要はないからな。暴走したやつの当然の末路、そりゃ聖書にしるされし神にも見放される」

 

久遠「大いなる力には大いなる責任が伴うっていうけど、曹操は責任を考えなかったからねー。当然の結末だねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセー「で、フィフスが実験もかねて乱入。こっから乱戦だな」

 

兵夜「味方メンバーの数も多いからな。これぐらいしないとやってられんだろ」

 

イッセー「それにしたってヘラクレス強すぎだろ。これで不完全すぎるってどういうことだよ」

 

兵夜「おまえ型月のヘラクレスなめるな。原作知ってる連中ならあれでも手加減されてるとしか思わないよ。っていうか、フルに性能発揮されてたら勝ち目ないぞ。詳しくはアニオタwikiの真アーチャーのページを見るといい」

 

久遠「あれ見たら絶望しそうになるよー」

 

イッセー「そしてレイヴンの方もいろいろやってるな。セイバーのネタ晴らししたりビルを殺したり」

 

久遠「あのセイバーは本来の聖杯戦争じゃ三流だけど、グレモリー眷属やD×Dには強敵だよねー」

 

兵夜「なにせメンツがルーキーだからな。まだ性能を完全に発揮できてるわけがないし、苦戦は必須だ。自分たちの力が敵に回るとか悪夢でしかない」

 

イッセー「だからこそ増援には胸が熱くなったけどな。アポロベさんも久々だし、アーチャーさんはいつも通り頼りになるし」

 

兵夜「とはいえフィフスとしては見捨てたやつでデータが取れたから問題なし。こっからが大変だ」

 

イッセー「そしてグランソードさんすごい常識人。うん、言ってること真っ当だよね」

 

久遠「すごい常識人でいい人だし、テロリストになるのがもったいないよー」

 

兵夜「今や頼れる仲間だ。オーフィスがいる限り裏切る心配もないし、報酬もサービスせねば」

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセー「そして来ちゃったよ。来ちゃったよ本編でも屈指の宮白ブチギレタイム」

 

久遠「結果的にいろいろ大変なことになったし、兵夜君やりすぎ―」

 

兵夜「失敬な。一応けじめとして処罰は受けたぞ」

 

イッセー「どこがだよ!! むちゃくちゃ軽いじゃねえか!!」

 

兵夜「俺だってここまでとは予想外だよ!! フィフスがこんなことするとは予想外だよ!! おかげで。おかげで・・・っ」

 

イッセー「まあちょっと同情するけど自業自得だろ。それこそ当然の末路っていうか緩いっていうか」

 

久遠「まあ、ハーデスの怒りももっともだからねー。そりゃさんざんやられて「なかよくしよ? てへぺろ」とかやらされたら怒るよー」

 

兵夜「んなもん和平決定した兄弟に怒れよ。せめて狙うならちゃんと当事者狙えよ。それなら俺だって穏便に対応したんだ」

 

イッセー「確かに、天界を狙った死神には対応緩いよな」

 

兵夜「正当性のある復讐には寛容であるべしがモットーだ。ちゃんと相手を選べば俺だって態度は変えるさ」

 

久遠「その分怒り狂ってるよねー。しかもあらゆる幸運に恵まれて圧倒モード。これ悪夢じゃないー?」

 

兵夜「ロキみたいな輩がまた出てきそうだったからな。体のいい見せしめがほしかったんで全力で」

 

イッセー「そのせいでむしろ下の連中が全力出したけどな」

 

兵夜「マジごめん。さすがに肥溜めはやりすぎだった」

 

久遠「これからが大変だねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そういうわけでヒーローズ編もこれにて終了」

 

イッセー「次から原作第四部!! 原作じゃダーク要素が強くなったけど、こっちはおっぱい要素増量で頑張るぜ!!」

 

久遠「これからもよろしくねー!」



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外伝、公開授業のアキレウス
見学、されました!


区切りところが見つからなかったので、かなり長くなってしまいました。

長くてすいません。


 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふう、いろいろと大騒ぎだった騒動も終わって、俺たちは少しだけ日常を満喫することができる。

 

 フィフスがどんどんパワーアップしてるというか戦力を強化してるだなんて恐ろしいことになってるけど、それでも今は平和なんだ。

 

 たとえ慰安旅行に連れていかれるときにアザゼル先生のモンスターマシンで暴走運転に巻き込まれて心がくじけそうになっても平和だ!

 

 グレイフィアさんが酒癖悪くて温泉で迫られたとしても平和だ! すいませんお茶目すぎます!!

 

 そう、そしてそんな平和な時に思いがけないイベントが訪れた。

 

「家で手作りのピザを食べるのって初めてですけど、美味しいですね! イッセーにいさま!!」

 

 そう、ミリキャスさまがうちに遊びに来たのだ!

 

 悪魔として人間界で依頼を受ける業務をいずれすることになるから、タイミングがあってたので俺たちの仕事の様子を見学したいというのだ!

 

 まさかこんなイベントがあるとは思わなかったけど、今までの大騒ぎに比べたらとても心が癒される暖かいイベントだと本気で思う。

 

 だから、手作りピザなんていいイベントでも出してもてなしてる。

 

 いや、ピザとコーラのコンボはマジ美味い!! うん、まだまだ食べられるよ俺は!

 

「ってことで宮白、次作って早く!!」

 

「お前ら病み上がりに容赦ねえな!!」

 

 宮白が叫ぶけど俺たちももう知らない。

 

「いや、最近宮白くん暴走酷いからこれぐらいの制裁はねぇ?」

 

「ぼ、僕もすごいことしたみたいですけど、宮白先輩はいろいろとダメかなぁって思いますぅ!」

 

 木場とギャスパーのバッサリと切り捨てたが、うんひどいことは言ってないよな。

 

 なんてったって、俺たちに何も言わずにいきなりハーデスに特攻かますとかやらかしてんだからな。

 

 しかもそのせいで昏睡状態だからシャレにならない。そこまでしなくても報復できるだと証拠がもろにあればやりようはいくらでもあっただろう。

 

 そしてナツミちゃんたちがお仕置きしたみたいだけど、そのあと体力使い果たしてまた病気ぶり返すとかどういうオチだよ!! 何やってんのお前!!

 

「いつものことだけど、兵夜って独断専行が多いもの。たまにはいい薬だわ」

 

 リアスはそう言い切りながらピザを食べる。うん、ピザを食べる姿も優雅ですリアス!!

 

「あらあら、じゃあ私はトッピングをあとこれとこれとこれを追加でお願いしますわね」

 

「さすがは朱乃副部長だ。ドSだ」

 

「容赦なく今から作らなくちゃいけないトッピングを要求してるわ! 主よ、宮白くんにちょっとだけお慈悲を!!」

 

「容赦ない上に頭痛が!? そこ、俺に祈りの効果を出すな!!」

 

 イリナのお祈りの恩恵が降り注いで、システムのせいでダメージを受けながらも宮白もなんだかんだでちゃんとトッピングを作り始めている。

 

 ・・・そんな状況でピザの生地とトッピングとソースをちゃんと準備して作れてるあたり、こいつ実は余裕?

 

「ですけどイッセーさん。あの人たちはあのままでよろしいのでしょうか? さっきから作り続けですけど」

 

「別にいいんじゃねーか? あいつら一応ファックな罪人だったろ?」

 

 アーシアが外の様子を見ながら気遣い、それに気遣うかのように青野さんがあっさりとそんなことを言う。

 

 ・・・ちゃっかり朱乃さんの隣にいるあたり、この人意外とわかりやすいな。あ、朱乃さんのコップにジュース注ぎなおした。

 

 で、アーシアが何を気にしているのかというと―

 

「ほれ坊主。こういう時はガッツリいかねえと体が成長しねえぞ? もうちょっと肉多いの食っとけ」

 

「あ、はい! 親切にもありがとうございますグランソードさん!」

 

 グランソードが部下と一緒にピザを焼く担当だったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのあと、グランソードの扱いに冥界政府は困り果てた。

 

 仮にもこいつは魔王血族。扱いに対しては慎重になる必要がある立場だってことぐらい俺でもわかる。

 

 そして、禍の団に所属していたとはいえグランソードは自発的にこっちの味方をして投降したわけだ。こうなると処刑するのはさすがに無理。

 

 しかもオーフィスが気に入ってることから減刑を嘆願してきた。ここでオーフィスの機嫌を悪くすると余計なトラブルが発生するので、なおさら減刑する必要があるわけだ。

 

 だが、グランソードたちはグレートレッドの撃破に協力的な連中。まあだからこそオーフィスが気にしてそんなことを言ってきたわけだけど、下手に減刑しすぎてオーフィスと協力してグレートレッドと戦闘を始めるとそれはそれで大迷惑だ。

 

 で、サーゼクスさまたちが頭を悩ませたときに、グランソードが自分からこんなことを言ってきた。

 

「カッカッカ。なんならボランティア活動にでも参加しようか? 少人数で行動してりゃあ、連携もとれないから監視もしやすいだろ?」

 

 と、これにサーゼクス様たちが乗り気になったことでこいつらはいろいろな場所でボランティア活動をしまくっている。

 

 なまじっかかなり鍛えている連中なので肉体労働で大活躍。なんていうか不良集団的なノリだったのだが、意外ということ聞くし頭もそこそこいいのですっごい便利と大評判!

 

 なんでこんなに優秀なのかとついさっき聞いてみたけど、

 

「いや、もてるもん全部使って強くなるにゃあ、頭よくねえとやってらんねえだろ? 俺は魔法使うのは趣味じゃねえが、魔法理解してなきゃ魔法破るのも大変だしな」

 

 ・・・ヤンキーみたいな外見のくせしてとてもまともなご意見です。

 

 この人が休戦直後の冥界にいたら、魔王の座について統治してたかもしれない。

 

 そうなれば魔王の血とかにこだわってる旧魔王派の連中も反論しにくかったろうし、ホントもったいない。

 

「ほらお前ら! 動きのろくなってんぞ気合い入れろ!! お・・・大将も飯食ってんだからな!!」

 

「「「押忍!!」」」

 

 ノリが体育会系だけどすっごい便利! もうすごい手際よくピザを焼いて行ってる!!

 

「・・・よし、最後の四枚も終了したしこれで食える」

 

 全部終わらせた宮白が、堂々と酒飲みながらピザに手を付けた。

 

「兵夜! 卵乗せピザ美味しいよね! 明日も作って!!」

 

「はいはいコレステロールがひどいから来週以降な」

 

 ナツミちゃんとそういい合いながら、なんていうか自然な動きで食べさせ合いっこしてるのを見ると割と本気でムカってくるんだが。

 

 病院でのお仕置きで吹っ切れたのがさらに加速したのか、もう人目を気にすることが全くなくなってるよこいつ。

 

「ほらベルもがっつくな。口が汚れすぎだ」

 

「じ、実質すいません! 兵夜さまのお手製だと思おうと食べないともったいなくて!!」

 

 そして流れるようにベルさんの口をナプキンで拭いていく。オカンか!!

 

「っていうかベル、袖も汚れてんじゃねーか。まくれよおまえ、ガキか」

 

「はうあ! 夢中すぎてすっかり忘れてました!」

 

 そして青野さんも面倒見がいい! なんていうか年上のはずのベルさんが子供みたいだ。

 

「あ、ベルそれいらないの? もらい!!」

 

「ああ!? それとっておいたのにひどいですナツミちゃん!?」

 

 仲いいなぁ、この人たち。

 

 うん、今日も平和だなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでピザを食いながら、俺たちは和気あいあいとしゃべっている。

 

「よお宮白兵夜。残りのピザはもうすぐ焼けるが、終わったら次は何すりゃいいんだ?」

 

「いや、それはお前らのぶんだから食べてりゃいいんだが?」

 

 律儀にピザに焼け具合を確認していたグランソードに、宮白はあっさりと返した。

 

 え? それその人達の分なの!? やけに量が多いと思ったらそんな理由だったのか!!

 

 その言葉にグランソードの部下たちが、うつむくと肩を震わせる。

 

「く! なんだこの人! 今までの依頼人で一番気前がいいぜ!!」

 

「テロリストだから雑な扱いだと思ったらなんだこの待遇。現魔王だってここまであっさりとサービスしたりしねえぞ!?」

 

「っていうかピザもちゃっかり全部種類違うし! ちょっとこの人いい人じゃない!?」

 

「お前ら! 依頼人にここまで気を使わせたんだ! 食ったら片づけは倍気合入れるぞ!!」

 

 ・・・宮白はさらりとサービスしっかりしてるよなぁ。

 

 こういうところが人気の秘訣だ。人心掌握に余念がないというかなんというか、サービス精神が豊富というか。

 

「あなたいつの間にそんなことしてたの? 四種類作ってたのは彼らの人数分?」

 

「いや、いきなり依頼してこっち来てもらってんだからその分サービスするのは当然じゃないですか?」

 

 部長に聞かれても何を言われてるのかわからない感じだ。

 

 報酬をはずむ男なんだよな、宮白。なんだかんだで恐喝して部下にしたはずの不良連中にも雑用の報酬は別途用意してるし、一時期誕生日のケーキを毎日作るのは無理があるとか悩んでたし。ちなみにケーキは月に一回まとめて作る方向に行ったらうまくいったそうな。

 

 こういうマメなうえに出費をいとわないのがこいつが人を集めた秘訣なんだろう。俺も将来上級悪魔になったら眷属を持つんだし、参考にしよう。

 

「雇った相手に対してもサービスを忘れない。兵夜の対応は見ていて参考になるわね。ミリキャスも少しは覚えておいて損はないわよ?」

 

「はい! 宮白さんはこういった観点での交渉術にたけてるとは聞いてましたので、参考にしたいと思います」

 

 未来の王たちが参考にするほどか! 現場で鍛えた交渉術は参考になるようだ。

 

 で、その宮白はというと・・・。

 

「・・・うー」

 

「あ、また兵夜さまが沈んできました」

 

 などと妙に落ち込んでベルさんの胸に顔をうずめていた!

 

 とてもうらやましいが何だか調子が悪そうだ。病気は治ったから退院したはずだけど、ぶり返したのか?

 

「あー、気にすんな。ちょっとお仕置きのときに想定外のミスがファックなことにあってな」

 

 青野さんがあきれながらそういうけど、一体何があったんだ?

 

「あらあら。兵夜くんが沈むなんてどんな厳しいお仕置きをしたのかしら? ちょっと興味がありますわ」

 

「え、いや、別にえっと・・・」

 

 朱乃さんに聞かれてむっちゃ言いにくそうにしてるけど、確かにTSネタなんでいいずらいよね!!

 

 と、青野さんはごまかすかのように咳払いまでし始める。

 

「・・・げ、原因は直接関係ねーよ! ただ、そのせいで久遠がちょっとな!!」

 

「桜花さんが?」

 

 桜花さんがどうしたんだ?

 

「なんかアイツ、経験豊富なふりしてるくせにウブなところがあるじゃねーか。・・・我に返って恥ずかしがってんだよ」

 

 あー。確かにお仕置きの内容は聞いてる限りすっごいことでした。

 

 堂々とレーティングゲームで告白したり、魔王さまの前でキスしたとかいうけど、宮白のキス関係じゃ人数少ないし、宮白がグっと迫ると顔を赤くすることが多いらしい。

 

 宮白みたいに許容範囲内でガッツリ行くタイプなんだろう。で、範囲外に行っちゃったので恥ずかしくなったと。

 

「見舞いにきてもアガっちまってファックに逃げやがってな。それで兵夜の奴は嫌われたんじゃねーかと気にしてんのさ。・・・実際反撃モードに入ったら激しかったし」

 

 さらりと言ってるけど、それってつまり!?

 

 この人何気にこういったこと平然としてるけど、どんな人生送ったんだろうか。

 

「うふふ。宮白くんは攻めるのが好きみたいですし、それもあるようですわね。・・・いじってみたらかわいいのですね、あの子」

 

「それは同感。兵夜の奴の性癖ぴったしだし、今度かわいがってやるのも面白そうだ」

 

 朱乃さんがドSな表情を見せている、悪戯的な意味で! しかも青野さんもエロ的な意味で意外と乗り気!? 桜花さん逃げるんだ、ターゲットにされたぞ!!

 

 そういえば、最近ソーナ会長が桜花さんが指導を真面目に考えて研究してるって言ってたっけ。

 

 なんでも道場破りに行って、看板の代わりに指導のコツをもらって帰ってるとかなんとか。

 

『今までなまじ実力があったので、根本的なところで自分でどうにかすることを考えていたからこそ行き詰っていたのでしょう。指導する側に立つことを本格的に考えてからは、だいぶすっきりした表情です』

 

 どうやらスランプを開き直れたようでよかったよかった。

 

 桜花さんはそもそも出世して独立するのが目的じゃないんだし、宮白みたいに試験じゃ使えない方面で強くなっても問題ないよな。それでも宮白よりは才能あるから上級なれそうだし。

 

 教育方面をこれから鍛えるということは、桜花さんが眷属作ったら神鳴流の使い手たちが瞬動使いまくってすっごいことになりそうだ。あのひと戦術とか頭使う方面も意外とすごいからそれはそれで面白いことになりそう。

 

 まあ、宮白との関係を改善してからにしてほしいけど。

 

「ご主人もちょっとは落ち着きなよ。別に久遠は兵夜嫌いになったわけじゃないんだから」

 

「兵夜さましっかり! ゆっくり軌道を修正していけばいいんですよ実質!!」

 

「ああ。わかってはいる、いるんだけどな・・・」

 

 ああもうしっかりしろよ、親友!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、そんなことをしながらトレーニングもしっかりするのが俺たちだ。

 

 そりゃ大変なことがあったばっかりで、それも何とか解決したけど、だからって禍の団が壊滅したわけじゃない。

 

 主要どころは壊滅したけどサーヴァントはほとんど残ってるし、フィフスは戦力を増強させてるからこれで終わりってわけじゃない。

 

 何が起こるかわからないし、それにレーティングゲームでも勝ちたいから鍛えることは忘れないさ。

 

「イッセーにいさまは、あんなことがあった後も自分を鍛えることを忘れないんですね、尊敬します」

 

「気にしないでください。俺はほら、努力しないとやってけませんからね」

 

 ヴァーリの奴もとんでもないパワーアップをしたばかりだしな。俺も三宝だけに頼らず、どんどん鍛えていかないと追いつけない。二天龍対決は激しくなるばかりだ。

 

 部長たちもトレーニングの方向を決めて鍛えてるし、これから俺たちはどんどん強くなるはずだ。

 

 でもまあ、一人だけ方向性があやふやになってるやつがいる。

 

 ゼノヴィアだ。

 

 エクス・デュランダルがなまじ強力なんだけど、ゼノヴィア自身が使いこなせてないっていうのが問題だ。

 

 威力については問題ない。だいぶ制御できるようになってきたし、冗談抜きで攻撃力なら俺と張れるだろう。

 

 だけど、それでも曹操相手にあっさり叩き潰されたのがゼノヴィアとしてもきついようだ。実際あれは俺もショックだった。

 

 そんなわけでゼノヴィアも鍛えることには余念がないんだけど・・・。

 

「ゼノヴィアさんより木場さんと宮白さんのほうが白熱してますわね」

 

 レイヴェルがあきれる通りだ。

 

 今、俺の目の前で木場と宮白が静かににらみ合っている。

 

「いや、2人とも。何はともあれまずは私に考えさせてほしいのだが・・・」

 

「ちょっと黙っていてくれないかゼノヴィア。宮白くんとは一度話をしたほうがいいと思ってたんだ」

 

「奇遇だな、木場。俺もちょっと腹を割って話したほうがいいと思ってたよ」

 

 ゼノヴィアがとりなそうとしても気にしない二人の会話だが、簡単にいえば今後のゼノヴィアの方向性だった。

 

 エクス・デュランダルとゼノヴィアの組み合わせについて、2人の意見は正反対になってるのだ。

 

 木場はこれを機にゼノヴィアをテクニック重視で鍛える方向で行きたいようだ。

 

 ぶっちゃけテクニック方面で負担がでかいから減らしてくれって感じだけど、たしかに俺たちはパワータイプばかりだからな。

 

 あるものはしっかり使っていこうってノリは確かにわかる。

 

 で、それに反対しているのが宮白だ。

 

「・・・ぶっちゃけゼノヴィアと相性が悪いだろ。面倒すぎるし無理があるだろうが」

 

「いや、これはグレモリー眷属のテクニック方面の薄さを解決するいい機会じゃないか」

 

「それは俺らがフォローするべきところだろう。パワー重視のグレモリー眷属の筆頭格であるゼノヴィアを方針変換というのはどうかと思うね俺は」

 

「何でもかんでもしょい込みすぎるのはよくない。それが原因でひどいお仕置きを受けたんじゃないか。負担はもっと皆で軽減することができればそれがいいじゃないか」

 

「ふぐお!? ・・・って、そもそもテクニック投げ捨てたゼノヴィアに防御投げ捨ててるおまえがエラそうなこと言えるか!?」

 

「ぐぅ!? って話がそれてる!! エクス・デュランダルなんてテクニックを補完する高性能な武器が出てきたというのに、それを使わないなんてもったいないと思わないかい?」

 

「それを言うならパワータイプのゼノヴィアに、いくらデュランダルのオーラを制御できるからってテクニックタイプの武装を盛るのが設計ミスだろ」

 

 おいおい、宮白のやつエクス・デュランダルの設計理論にまで文句言い始めたぞ?

 

「まあ、実際エクス・デュランダルはエクスカリバーとデュランダルを合わせたらすごいという意味では子供の発想じみたところはありますわね」

 

「そうですか? 結果として攻撃力と制御を両立したいい案だと思いますけど」

 

 レイヴェルとミリキャスさままで議論し始めた!?

 

「アイテムは持てばいいってもんじゃない。それを使いこなせる人材が保有してこそ初めて意味があるだろう。設定盛れば強いなんて言うのは人を見てないぜ?」

 

「それを鍛えていくことが必要なんじゃないのかい? 僕達はただでさえ欠点が多いんだ。今後のフィフスがそれを突いてくる可能性は大きいし、そこは警戒していくべき内容だ」

 

「それで進行方向自体がゆがんだら、それこそ空中分解するだろう・・・」

 

 今後のグレモリー眷属の戦闘まで視野に入れた話になってる。

 

 なるほど、つまり木場は俺たちがテクニックが弱いから、そこを突かれてやられることがないようにしたい。そして自分たちの負担を減らすべきだと。

 

 一方宮白はテクニックの負担はこっちで何とかすることだと。で、長所を伸ばすことで突破力をつけたいと。

 

「まあ、欠点なんて確かに誰にだってありますし、あえて長所を伸ばして吹き飛ばせるようにすればいいというのは正論ですわね。わたくしも前から少し思ってましたわ。グレモリー眷属のパワー指向は何も欠点ばかりではありませんわ」

 

「ですが、単一の戦力に頼るというのは必ず対処されます。そうならないよう複数の手段を模索することも必要ではないでしょうか? 今のグレモリー眷属はテクニック方面において木場さんと宮白さんに頼り気味です」

 

 おお、こっちも議論が白熱している。

 

 よく聞いて参考にしたいけど、同時に二つの議論なんて俺じゃあ理解できないしどうしよう!?

 

「第一、エクス・デュランダルという存在を長期間使うことが不安なんだよ俺は」

 

 お、宮白のほうが何やらすごいこと言いだしたぞ?

 

「・・・どういうことだい?」

 

「どういうことも、教会の連中がゼノヴィアにこんなものをいつまでも残しておくことを我慢できるとも思えないんだよ、俺は」

 

 おや、なんか難しいことになってきたぞ?

 

「仮にも教会にいたことがあるおまえならわかるだろう。日本ならともかく、欧米などの世界で本来悪魔と堕天使が教会と仲良くなんて想像なんてできないだろう?」

 

 え? そうなの?

 

「言われてみればその通りだね。正直、もう少しもめるかとも思ってたけど」

 

「だろ? 主の意向だと思ってるから何とかなってるけど、これで聖書にしるされた神の死まで広まったらどんな騒ぎになるかわかったもんじゃない。冗談抜きでひっくり返るのは間違いない」

 

 ああ、俺その辺ちょっとわかりにくいけど、それでも大変なのはよくわかる。

 

 アーシアやゼノヴィアなんて気絶しかけたからな。実際最重要機密だし、やばいことぐらいはまあわかる。

 

「だからってこれまで亡ぼすべき邪悪と教えられてきた悪魔に対して、誰もが皆友好的に行動しろなんて無理があるのはわかるだろう? ・・・デュランダルやエクスカリバーを悪魔の手に残しておけば不満点も増えるはずだ。どちらかは教会の手に残しておいた方が余計な波風は立たないだろう」

 

「つまり、宮白くんはエクス・デュランダル自体をなしにしたいということかい!?」

 

 すっげえこと考えるな宮白のやつ!!

 

「そもそもパワータイプのゼノヴィアの強化法にテクニックタイプの極致みたいな武装を持ってくることが首を捻る。テクニックを鍛えるにしても極端すぎるだろうが、弱点をフォローするのと長所を逆転させるのは全く別物だと思うがね」

 

「ぐ・・・」

 

 なんか微妙に話の方向が間違ってる気がするけど、宮白がようやく元に戻した。

 

「ぶっちゃけ理論先行だと思うからなアレ。まあ安心しろ。ちゃんとゼノヴィアとの相性を考慮した予備武装を開発中だから!!」

 

「それ絶対パワータイプだよね!? 僕はやっぱりもうちょっと負担を減らしてほしいんだけど・・・!」

 

 宮白と木場には本当に迷惑かける。宮白はあんなこと言ってるけど、あいつ俺たちの代わりに負担しょい込むところがあるから木場の方が正論だ。ホントゴメン!!

 

 俺ももうちょっとテクニック方面勉強しよう。今度罠の作り方でも勉強するよ。

 

「いろいろな視点からの会話を聞くのは勉強になります。僕はそういった方向は見てなかったので新鮮でした」

 

「それは同感です。宮白って俺にはそういったところ考えさせないようにしてるところがあるからこういうのは俺もいい機会ですよ」

 

 俺はミリキャスさまと笑い合う。

 

 うん、王になったら必要にもなるし、よく覚えておこう!!

 

 




兵夜の思考・・・足りないところはこっちでフォロー。味方は基本長所を伸ばす。









それはともかくとして、実は意外とウブだった久遠。まあ、今までもお姉さん風を吹かしている風で要所で責められると真っ赤になる感じで言ってました。


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禍の団、増えました!!

番外編は短めですが、第四章の方向性を少しずつ正確に見せていく方向になると思います。


「近年アフリカ大陸で活動を続けている軍需産業クージョーノケイですが、本社の置かれている国家がクージョーノケイに任せすぎていて事実上の傀儡になっているという批判もされており、アメリカでは第三世界の軍事力強化にもつながることから警戒が強まっています」

 

 テレビで物騒なことが流されてるけど、俺たちは今のところ平和だった。

 

 確かにこういうニュースを聞くと、力を持つものとして思うところはある。冥界の出来事にも介入したし、ちょっと助けに行きたいな~って思うときはある。割とある。

 

 だけど俺たちは悪魔なので、あまり表だって人間界の問題を解決するわけにはいかない。悪魔の契約として依頼してくる人がいれば話は別だけど、俺たちの担当じゃないのでやることはない。

 

 宮白は街の問題をよく解決しているけど、それだって宮白が人間時代に築き上げたものの維持として必要なだけだ。いずれ十年以上かけてゆっくりと消滅していくことになると宮白自身言っていた。

 

 ・・・最近開き直って「こういうことしてくれるんですよ」とか言って悪魔業界に移し替えをしているというフォローしてるのは内緒だ。しかも今回その依頼で宮白自身動いている。

 

 なんでも最近この辺で新型麻薬が流行っているとかで、ヤクザ業界も警察業界も「そんなものを蔓延させてたまるか!」で合意して、連絡してないだけでこっそり連携を取っているとか。宮白はその情報仲介役らしい。直接情報を仲介すると、あとで首が飛ぶ人がいるので俺が仲介しているとか言ってた。

 

 最近近所で旅行している人もたくさんいるのにひどい話だ。あいつは働きすぎなところがあるし、今日の晩御飯は宮白の好みで統一すると全員一致だった。

 

 因みに父さんや母さんも旅行中だ。最近宮白がサービスして

そういったのをたくさん送ってくる。

 

「イッセーにいさま。宮白さんはいつもこういうことをなさってるんですか」

 

「なまじ人間時代に作りまくってたから忙しいんですよあいつ。・・・まあ、このあたりはアーチャーさんの工房化してるから異能の持ち主相手には超強いですから大丈夫大丈夫」

 

 実際侵入しようとしても無理があるだろう。

 

 英雄派の襲撃も余裕で対処してのけたし、おかげで俺たちすっごい楽ができた。

 

 魔術師の組合に顔を出すことも多かったので話をしないこともあるけど、リアスたちとはものすごくよく話している。

 

 そして自作のコスプレ衣装がかわいかったことで俺もスーパーラッキー。感謝してもし足りない。

 

 アーチャーさんも俺たちの大事な仲間だ。一年ぐらいしたらパーティでも開こうかな。

 

「・・・イッセーくん。ちょっといいかな?」

 

 と、木場が戻ってきたんだけど何か表情が変だ。

 

「ちょっと大変なことになったみたいだよ」

 

「大変? どうしたんだ?」

 

 そういうと木場が、一枚の紙を差し出す。

 

 そこにはロスヴィイセさんみたいな鎧に身を包んだ人たちや、以前俺たちを襲った死神の姿が映っていた。

 

 よく見ると抗議文らしいのがかかれてるけど、これって一体。

 

「・・・わかりやすく言うと、宮白くんがやりすぎたんです」

 

 と、ロスヴァイセさんが入ってきてそういった。

 

 やりすぎ? え? どういうこと?

 

「ロキさまやハーデス神を叩きのめしたのは宮白くんでしょう? 特にハーデス神の倒し方がアレだったこともあって、爆発した一派が報復を叫んで禍の団入りをしたんです」

 

 そういえば宮白、「似たようなことを考えてる連中に対するけん制も兼ねて、ハーデスの報復はあえて自重を捨ててみた」とか言ってたっけ。

 

 ・・・それで余計な敵が増えてるじゃん! ダメじゃん!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、兵夜は今どこにいるの?」

 

『ああ、麻薬取引組織が山中に潜んでいるという情報をつかんだんで偵察に言ったんですがガセネタで』

 

「だったら今すぐ戻ってきなさい!!」

 

 部長がはっきりと一喝した。

 

 うん、この自体はかなり宮白の自業自得だから部長も怒ってるな。

 

「ハーデスに対する報復は確かに同意見だけど、それが原因で非常事態なのよ。あなたは彼らの最優先ターゲットだということを自覚してすぐに戻ってきなさい。当分街の外に出るのは禁止よ!」

 

「と、いうより私たちにも被害が及びますし、もうちょっとお仕置きしましょうかしら」

 

『すぐ戻るのでストップ! ストップでお願いします!!』

 

 二大お姉さまの怖いオーラに全力で宮白がうなづいた。

 

「あの、本当に急いでくださいね? タカ派なだけあってそれなりに武闘派もいるので危険なんです。ヴァルキリーの方は攻撃魔法の使い手も複数いるので、周囲の被害を気にしなくていい状態だと爆撃状態になる恐れがあるんです」

 

『わかってますロスヴァイセさん。急いで戻りますんで安心してください』

 

 心配するロスヴァイセさんを安心させるためにわざと笑顔を浮かべてから、宮白は通信を切った。

 

 ふう、まさかハーデスボコった一件でこんなトラブルが発生するとは。

 

 青野さんたちがお仕置き決行したのもうなづける。聞いた時はやりすぎな気もしたけど、結果として確かにそうなってもおかしくないことをしたわけだし、今はまあ妥当かなって思い始めてきた。

 

 ・・・というか、宮白は女顔だし体格決行華奢だし女装似合うしであまり違和感がない。ギャスパーとは違う方向性だけど、いっそこれから女装させてグレモリー眷属男の娘部隊とか作るというお仕置きもあるかもしれない。

 

 まあ、そんなことを言っている場合でもないか。

 

「でも頭に血が上ってるってことはやばいですよね。周りの被害とか考えずにこのまま突っ込んで来たら大変じゃないですか」

 

 ホントにそれはやばい。

 

 なんたってうちは住宅地だ。こんなところで暴れられたらどれだけ被害者が出るかわかったもんでもない。

 

「さすがにそこまで頭が回らないということはないでしょうが、宮白くんはいま人気がいないところにいるわけで、そこを突かれると心配ですね」

 

 なるほど、ロスヴァイセさんの言うとおりだ。

 

 当分単独行動は控えてもらわないと大変だ。いつひどいことになるわかったもんじゃない。

 

「そうね。今日はこのあたりも静かなせいか不吉だわ。・・・いっそ迎えに行ったほうがいいかもしれないわね」

 

「今日はシトリー眷属は学校設立のための業務で冥界に行っていますからね。戦力も足りませんし全員で行きますか?」

 

 不安げなリアスに木場がそう尋ねるが、リアスは静かに首を振った。

 

「さすがにミリキャスのこともあるもの。いきなり仕掛けてくることもないでしょうし、今は様子を見ましょう。何かあればさすがに兵夜も連絡するでしょう」

 

「・・・微妙に不安です」

 

 子猫ちゃん、誰もが思ってることを言わないでくれ。

 

 宮白はこういう時独断行動するから怖いんだ。

 

 ああ、皆わかってるから暗くなった。

 

「やっぱり不安ですね。ここは代表して私が行ってきます」

 

「そう? じゃあロスヴァイセ、ちょっと迎えに行ってきて頂戴」

 

 うん、やっぱり迎えを寄越したほうがいいよね!

 

 あのバカおとりになって引き寄せて撃破とかやりかねないし。

 

 と、言うわけで急いで呼び戻そうとしたところで、何やら外がドタバタと騒がしくなってきた。

 

 なんだなんだと思っていたら、扉を開けて青野さんが突入してくる!!

 

「おいリアス!! いったい何があった!? アザゼルがファックやらかしたのか!?」

 

 なんかすごいあわててるけど、え、何々?

 

「一体何があったの? 今兵夜は呼び戻してるけど」

 

「このあたり一帯に人が一人もいないぞ!! 何があった!!」

 

 ・・・はい?

 

 い、いやいやいやいや。

 

 いくらなんでも人が一人もいないだなんてありえないでしょ。そんなことあるわけがない。

 

 と、思っていたらまたドタバタ騒がしくなって、今度はベルさんが乱入してきた!!

 

「じ、実質大変です! 兵夜さまはおりませんか!?」

 

「うお!?」

 

 後ろから大声を出されて青野さんがびっくりするが、それよりベルさんの剣幕が大変だ。

 

「一体何があったのよ。今兵夜が大変なことになってるのだけれど?」

 

「か、禍の団がすごい手の込んだことをしでかしてました!! このあたり一帯の住人を買収してます!!」

 

 ベルさんがとんでもないことを言い放った。

 

「ええええええ!? 禍の団がこの辺の住人を買収って、どういうことなのベルさん!?」

 

「そ、それがですね? 三大勢力の最近の調査の結果判明した禍の団の息がかかった旅行会社が、このあたり一帯の住人を雇っていたり懸賞の名目で旅行に招待したり、ドッキリの名目で買収していたりで、実質このあたりにいる住人は私たちだけなんです」

 

 マジ!? 無駄に手の込んだことしてるな、オイ!!

 

「ってちょっと待ってください! それってつまり・・・どういうこと?」

 

 いや、住人がこのあたりにいないからって、そんなに広い範囲を狙えるわけじゃないよね。

 

 はでに動いたらすぐばれるし、いくらなんでもそんなことはないと思うんだけど・・・。

 

 と、今度はドタバタせずに一瞬で空間を転移してアーチャーさんが現れた。

 

 この人神殿化してるこのあたりだと簡単に空間転移できるんだけど心臓に悪い。

 

「うわぁ!? な、なんですかアーチャーさん!?」

 

「あなた、防衛のために結界の調整をするんじゃなかったの?」

 

 宮白を呼び戻すときも顔を見せなかったのに、今はかなり警戒してる表情を浮かべていた。

 

「全員、今すぐ戦闘準備をしなさい! 外から超音速で接近してる物体がいくつか現れたわ!!」

 

 え? それってどういうこと?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 彼らは、グレモリー眷属に対する報復の準備を整えていた。

 

「・・・準備はいいか?」

 

 コックピットで一人の男が、最後の質問を訪ねる。

 

 今回の作戦のために、彼らは捨て駒として投入される。

 

 捨て駒になる覚悟はあるか、その質問だった。

 

『構わん。・・・さあ、始めろ』

 

『ハーデスさまを貶めた報いを今こそ知らしめてくれる』

 

『我らが神話を貶めた罪を思い知らせるのだ』

 

「いいだろう。此方としても、できれば首の一つぐらい奪ってくれることを願っている」

 

 そして、目標を確認する。

 

「・・・全機、ミサイル投下。さあ、はでに宣戦布告をするとしよう」

 

 そして、兵藤邸に向けてミサイルが一斉に発射される。

 

 同時に、男はハッチを解放して中に格納していたものたちを投入する。

 

「・・・こちらフーリガン1。第一段階終了しましたので、第二段階の発動をお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 




兵夜は味方も作るが敵も作るタイプですが、ここにきてやりすぎ。


まあ、仮にも自分たちの主がクソまみれにされればブチギレます。もともと好かない勢力の連中にされたとなればさらに倍。


と、いうことで敵が増えました。


四章からはバトル要素の強化も兼ねて、平成一期仮面ライダーのように怪人ポジションを複数出していろいろな方面からのバトルを見せていこうかと思っております。フィフスの新兵器もその一環です。

と、いうことでやりすぎの結果ロキとハーデスのシンパが敵となることになりました。









因みに、兵夜は神殺しやら神の力の取り込みやらをやりすぎたせいで、神から若手のレベルではない驚異として認識されました。まあ、ハーデス瞬殺すれば当然なのですが。


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駒王町、大混乱です

あ、外伝の方も更新しましたので、気が向いたらぜひどうぞ


 

 

 

 

 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 いきなりなんだこれは!?

 

 み、み、み、ミサイル!? ミサイル攻撃!?

 

 なんだ、テロ!? 禍の団とかじゃないテロでも起きたのか!?

 

 俺たちはあわてて外に飛び出すが、もう燃え盛って燃え盛ってなんだこの大惨事は!?

 

「・・・カウンターで電子機器にダメージは与えたけど逃げられたわね。まさか対科学用魔術の研究がこんなところで役に立つなんて」

 

 アーチャーさんがさすがに冷や汗を流しながらそういうが、え、いや、これどういう状況!?

 

「・・・見つけたぞ」

 

 静かに動きながら、死神が何人もこっちに近づいてきていた。

 

 ・・・まさかいきなり来るとはな。やる気だなこいつ等。

 

「ごきげんよう。早速だけど、その数で私たちを倒せると思っているのかしら?」

 

 と、部長が自信満々でそう言い放つ。

 

 確かに、敵の数は三人だ。

 

 アーチャーさんもいる状況下で、この数は少なすぎるだろう。

 

 確かに実力は高そうだけど、プルートみたいな化け物オーラは出てないし、コレならたぶんあっさり何とかなるんじゃないか?

 

 だが、死神たちは俺たちをあざ笑うかのように肩を震わせると、外のほうを指さした。

 

「・・・今から、あちらの方向の商店街で麻薬中毒患者たちが暴動を起こす」

 

 え?

 

 麻薬中毒の連中が多いのは知ってたけど、なんでこいつらがそんなことを知ってるんだ!?

 

「そこにはAKよ・・・47とかいうライフルが隠されていて、それを持った連中が暴れまわるとかいうらしいぞ?」

 

 お、オイオイオイオイ!!

 

 そんなことになったらやばすぎるじゃねえか!! っていうか、なんでこいつ等そんなことを・・・!

 

「麻薬中毒は禍の団がかかわっていたのか!」

 

「厳密にいえばエデンが禍の団入りする前に金稼ぎに生成したものだ。・・・まあ、都合がよかったので利用させてもらったがな」

 

 木場の言葉に応えながら、死神たちは鎌を構える。

 

「ああ、どちらにしてもあくまでは積極的な介入などできんか。武装した暴徒たちを何とかする高校生など、フィクションでしかお目にかかれんだろうしな」

 

 く、くそ卑怯な手を使ってきやがる・・・!

 

 俺たちは鋭い視線でにらみつけるが、死神たちはどこ吹く風だった。

 

「いいぞ。我らの信仰を踏みにじり、さらにはハーデス様を踏みにじった貴様たちの日常が砕けるその姿を見てみたかったのだ!!」

 

 こいつ等、頭に血が上ったあまり人間たちにまで危害を加えようとしてやがる。

 

 くそ、さっさと倒しちまえばいいけど、だからってその後どうする!? 赤龍帝の鎧で街中で暴れるわけにもいかないし・・・!

 

『安心しろ、イッセー』

 

 俺たちの脳裏に、その言葉が響いた。

 

「み、宮白!?」

 

 宮白、もう来たのか!?

 

 で、でも宮白がいたからってどうにかなることじゃないような気がするんだが!?

 

 と、後ろを振り返ってみればアーチャーさんも肩を震わせている。

 

 え、え、どういうこと!?

 

「残念ね。一切の魔術的要素を持たず、こちらに対する悪意を持たないものによる破壊工作や、こういった事態は想定の範囲内よ。・・・兵夜の想定だけど」

 

 マジか!? そんなことまで想定していたの!?

 

「・・・まあ、学園都市技術の型落ち品をばらまくだけでも大金手に入るから、それによる治安の悪化も想定内だったがな、ファックなことに」

 

 青野さんも肩をすくめながらそんなこと言い放った。

 

「と、言うわけでさっさとやってしまいなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 了解だマイサーヴァント

 

 はっはっは。嫌がらせとしてこういった手段を取ってくることはまあ想定の範囲内だった。

 

 学園都市の技術を開き直って各国と提携してばらまけば、一夜にして軍事大国が入れ替わってもおかしくない。

 

 神の死と同時に併用すれば、人類社会を巻き込んで大きく勝率を挙げることができるのは想定の範囲内だったが、まさかこの程度の小規模な方法で済ますとは思わなかった。

 

 フィフスも焼きが回ったようだ。おかげで余裕で反撃できる。

 

 と、いうことで俺はいま、通りがかった暴動を何とかするために、そういうときのために開発した特注品を使って乱入した。

 

 そして、思いっきり注目されている。

 

 そりゃあもう、いくら日本が平和ボケだからってここは茫然としちゃいかんでしょってぐらい注目されている。

 

 っていうか暴動起こしてる連中が、アサルトライフルを持って唖然としている。

 

 まあ、それは当然だろう。

 

「・・・ロボコップ?」

 

 うん、そういうだろうことはわかっていた。

 

 ・・・くっくっく。アザゼルの技術力と小雪の記憶をもとに、アザゼルをおだてて作り上げた純粋軍事技術製パワードスーツ!!

 

 親父の会社に横流しして、俺が出資していくつも作っておいた自衛隊と機動隊の新兵器用スペシャルウェポン!!

 

 神秘的要素を持たないことをいいことに、すでに地元の警察と自衛隊には横流ししているがまさか本当に実戦を経験することになるとは思わなかった。

 

「さあ、やってやるぜ!!」

 

 突撃してきた俺にビビった暴徒たちがアサルトライフルをぶっ放すが、俺はシールドを構えてそれを防ぎ、一気に懐へと飛び込む。

 

 そして暴徒鎮圧用のスタンガンを展開して、敵を一気に殲滅していく。

 

 さて、これでとりあえずの問題は何とかなったか。

 

 などと思った瞬間に、殺気を感じて思わず飛びのく。

 

 次の瞬間、巨大な人影がブレードを地面に突き立てた。

 

 ・・・なんか人型ロボットが出てきたんですがちょっと待てコラ。

 

 しかも照準がこっち向いてんだけどちょっと待てここ街中!!

 

 思わぬ第二ラウンドを急いで飛びのいたが、着弾のソニックブームに思いっきり吹っ飛ばされた。

 

「舐めるな!! 作ることは作れるけどまともな運用はできない欠陥品に見せかけたスラスターユニット!!」

 

 必死こいて作り上げた機械操作魔術により、今や魔術師は最新機器をたやすく操作できる超優秀なハッカーになった。

 

 その研究第一線の俺は当然機械を操作することにおいて超優秀であり、当然のごとくこういったこともできる!!

 

 魔術理論により理論上は実現できるが実用化には程遠い技術を大量に組み込んだこのスペシャル仕様ならこれぐらいは何とかできるが、なんだこの衝撃波は!!

 

「すいません! 着弾の衝撃が口径と釣り合ってないんだけどどういう理屈かわかりますか!!」

 

『銃弾そのものがファックなんだ! 細工してソニックブームが出るようにしてるんだよ!!』

 

 説明ありがとう小雪! 愛してるぜ!!

 

『対高位能力者用の実験作持ち出しやがった! 弾速は遅いがお前弾丸見切れるか!!』

 

「無茶いうな!!」

 

 できればもっと具体的な対策を教えてくれるともっと嬉しいぜマイハニー!!

 

 ここは日本の地方都市だぞ!! いまどき最新技術の塊が大暴れしていいところじゃないんだよ!!

 

 とはいえ、どうやら動かしているのはただの暴徒らしく意外と躱せる。

 

 なんていうか、狙いは正確なんだけどほかが甘いというか、おかげで対銃戦闘がものすごくうまくいかせるというか。

 

 とはいえさすがに武装があれだ。ある程度説得力が必要だから全力が出せん。

 

 どこで録画されてるかわからないか武器を取り出すわけにもいかないし、くそ、どうする!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 佑斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 街中の暴動の方は宮白くんが動いているが、だからといって彼に任せきりというわけにもいかない。

 

 此方はこちらですぐに死神を撃破して助けに行かないと。

 

「・・・では、死んでもらおう」

 

 そういうと、死神の1人が注射器を取り出した。

 

 あれは、ヘラクレスに使用されたものと同タイプか!?

 

「・・・起動」

 

 次の瞬間、奴から発せられる気配が増大した。

 

「上等!!」

 

 全力で真正面からイッセーくんが突貫する。

 

 その攻撃を、死神はあえて真正面から受け止める。

 

 轟音が鳴り響き、そして死神は耐えきった。

 

 いや、アレは微動足りしていない!?

 

「・・・マジかよ!?」

 

 カウンターで振り払われた鎌を素早くイッセーくんは回避するが、その衝撃は計り知れない。

 

 まさかイッセーくんの力が通用しないだなんて!?

 

「それでは速やかに撃破するとしようか」

 

 死神はこちらの攻撃を一切意にも介さずに仕掛けると、僕らに鎌を振るっていく。

 

 僕らも反撃をするが、その死神には一切通用していない!?

 

「ふはははははははは!! この力の前に何もできずに死ぬがいい!!」

 

 くそ! 今度は一体どんな能力を使っているんだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




神秘が一切かかわってないなら、堂々と一般人に見せつけても問題ないよね!(どや顔


開き直ったフィフス一派による二面作戦。当然予想されてたと思いましたが、新型麻薬は木原特性の学園都市印です。

因みに人払いをしたのは、神秘の塊である死神はさすがに隠しておいた方がいいという判断。別に気を使ったわけではありません。

冗談抜きで学園都市の科学技術がある以上、開き直ればものすごい富と国力を得ることができる禍の団。しかも神秘は一切かかわってないので、異形側も手が出しづらい。

しかし学園都市になれている小雪や、策謀慣れしている兵夜やアザゼルにはその程度読んでいるので、対策も一応練っておりました。魔術理論を制御に割り振った、ガンダムもビックリの実験機により戦闘開始!

因みに出しづらい設定なので今出しますが、小雪は工業系の高校に籍を置いていたので、実はアザゼルに指導できるぐらい機械工学系の知識と技術があるという設定。とはいえ最先端慣れしてるので学園都市技術で古い技術はついスルーしてしまうという欠点が。

のちのちこれがエライことを引き起こし・・・?



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駒王町、大激戦です!

 攻撃を何とかかわしながら、俺はヒット&アウェイで銃弾を叩き込む。

 

 関節部があるならそこを突けばあるいはとも思ったが、残念なことに関節部の金属も頑丈なものを使っているのかなかなか攻撃が当たらない。

 

 ええい、実に面倒かつ厄介な。

 

 こうなれば近接戦闘でたたき切ってくれる。

 

 だが、俺もなにもせずに好きにさせていたわけではない。

 

 時間は稼いだ、さあ、反撃タイムと行かせてもらう。

 

「・・・3」

 

 これまで周囲を囲むように移動していたのをやめ、逃げる方向をある程度合わせて走っていく。

 

「2・・・」

 

 当然敵も追いかけていき、どんどん街中を進んでいく。

 

「1―」

 

 そして交差点を通過し奴がそこに差し掛かった瞬間―

 

「―0!」

 

 真横から砲弾を何発も浴びて撃墜された。

 

 あはははははははは!!! こんなこともあろうかと、魔王様を経由して自衛隊の戦車を手に入れていたのだ!!

 

 ゴーレム使って動かして、待ち伏せで用意しておいたのだよ愚か者め!!

 

 あとあとややこしいことになりそうだが、そこはもう悪魔の超パワーと影響力でごまかす! とりあえずカッコだけでも何とか出来ればあとはもう力技だ!!

 

 さて、ではゆっくり残りの暴徒を撃破するとしようか。

 

 と、振り返ったところでロボットがもう一台俺の目の前にいて銃口を向けていた。

 

 ・・・あ、やばい。

 

 完全に虚を突かれたせいで体が反応してない。

 

 やばいわー、すごいゆっくり動いているよあれだよ事故にあったときにゆっくり見える的なあれだよマジやばいよー。

 

 と、思った次の瞬間、ロボットに白い筋が走ったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 くそ! なんだこの頑丈な奴は!!

 

 殴っても殴ってもぴんぴんしてやがるうえに、あいつ、こっつの攻撃を気にしなくてもいいからって遊ぶように攻撃を叩き込んでやがる。

 

「あはははははははは!!! 我らがハーデス様を貶めた報いを仲間の代わりに受けるがいい!!」

 

 どんだけ宮白に憎しみ向けてんだよ! もとはといえばそっちがガキどもに八つ当たりしたのが悪いんだろうが!!

 

 つったってこれだと何をやっても倒れそうにない!!

 

 なんていうが頑丈なんじゃなくてそもそも攻撃が成立してない感じだ。

 

 アーチャーさんの魔術も木場の聖魔剣もゼノヴィアのデュランダルも通用しない。

 

 宮白みたいなタイプが頭働かせないと勝ち目ないか!?

 

「教えてやろう。これは宮白兵夜がいた世界の英雄アキレウスの力だ」

 

 勝ちを確信してるからか、死神が勝ち誇ってそんなことを言う。

 

 アキレウスってアキレス腱で有名な?

 

 ってたしか、アキレス腱以外は攻撃が通用しないとかいうとんでもないやつじゃなかったっけ?

 

「命すら削った改造と適性を加えてもここまで再現するのは至難の業だったが、それゆえに私は貴様たちには負けん。さあ、私は弱点を狙わせるほど愚かではないぞ?」

 

 くそ! ただでさえ動きがすばしっこいのに、そんなピンポイントで攻撃しないとだめなのかよ!!

 

「・・・まあそれはいいのだけれど、それよりいいのかしら?」

 

 と、アーチャーさんがほかの死神をハチの巣にしてから優雅に首を傾げる。

 

 さすが元王女様。すっごい似合う!!

 

「例えそうだとしても、神の力を持つ兵夜が相手では攻撃も通るでしょう? 肝心の兵夜に対する備えが悪いのではないかしら?」

 

 ああそうだ! 宮白は神だった!!

 

 肝心の宮白に通用しないんじゃ意味ないんじゃね!?

 

「奴は私がこの手で殺してやろう。もっとも、人の目を気にした戦いではどうしようもないだろうがな」

 

 なんだ? 何を確信してる?

 

「こんなところで堂々と悪魔の力を使えば、愚かな人間たちが迫害するのは目に見えている。だが、今回投入した兵器を異能を使わずに倒せるとも思えん。・・・奴が戻ってくる前に1人でも殺せれば最初ののろしとしては十分だ」

 

 おいおい、最初から宮白じゃなくて俺たちを殺すことが目的かよ!!

 

「さあ死ね! 宮白兵夜という愚か者を仲間に持ったその報いを受けるがいい!!」

 

 そういって死神が鎌を振り上げる。

 

 ちっ! 宮白も不安だけどこいつに背中向けるわけにも。

 

『・・・イッセー! 組み付け!!』

 

 と、宮白が通信越しに声を挙げた。

 

『十秒間でいい、動きを止めろ! そうしたらケリはつく!』

 

 よっしゃわかった! お前のことだからほんとに何とかすんだろ!!

 

 俺は聖騎士状態で突貫する。

 

 奴もいきなり俺がノーガードで突っ込んでくるとは思わなかったのか、組み付かれた。

 

「舐めるな! 私はギリシャの魔法も使えるのだよ!!」

 

 と、下半身を包み込むように魔力が放出される。

 

 これじゃあアキレス腱は狙えないか! くそ、当たるか!!

 

『充分だ。でかしたイッセー』

 

 次の瞬間、奴の胴体を槍が貫いた。

 

 ついでに俺に直撃して吹っ飛ばした。

 

『イッセーを誘導ビーコンとして精密攻撃を行う投げやりだ。・・・イッセー頑丈だから多少威力でかくても大丈夫だと思ったがまさかこんなところで役に立つとは』

 

「役に立つじゃねえよ! おまえいきなり何やらかしてくれてるわけ!?」

 

 おまえ本当に俺のこと大好きなんだよね!? 扱いが微妙に悪くないか!?

 

「っていうか宮白!! そっちは大丈夫なのかよ!?」

 

『ん? ああ、大丈夫大丈夫。今住人の記憶制御とかいろいろやってくれているすっごい助かった人がいてさ、おかげで大助かり』

 

 ・・・え? どういうこと?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ失敗したみたいだな。・・・だが、これで奴らは警戒してくれるだろうし最低限の目的は達成できたか。お前も面白かったかエデン?」

 

「まあなぁん。・・・一度ああいったチープな技術は作ってみたかったが、有効利用できたようで何よりだぁん」

 

「だけ★どさ♪ これであいつらは麻薬中毒者を扇動することによる騒ぎに警戒せざるを得なくなったね♯ この忙しい時に苦労しそうだよ♭」

 

「そういうことだこれが。幸い場所がグレモリー領だったからほかの神話勢力もいきなり全面的な行動はしないだろう。・・・どうせ中二病こじらせた爺の対策で全面的行動せざるを得ないとも知らないでな」

 

「だからって開き直ってこういったことをするとは、パラケ☆ラススもビックリさ♪ 次のプランもできてるんだろう?」

 

「ああ、これから忙しくなる。ルーマニアは地獄だなぁ、これが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

「うめえなこりゃ! よし! お代わりもっともってこい!!」

 

 いろいろ終わった街中で、スルト・セカンドさんが宮白が作った郷土料理を食べて声を挙げる。

 

 なんでも鹿肉とイノシシ肉の串焼きらしいけど、あいつミリキャスさまの歓迎のためにそんなことまでしてたののか。

 

「いやいや、セカンドさんは何もしてないんだからそんなにがっつかないでほしいッスよ」

 

「そういうお前も何もしてねえっていうか来てもいなかったじゃねえか!」

 

「俺はだから控えめにしてるんで。ほら、こういうのは活躍した総司さんやマクレガーさんが食べるところでしょうッス!」

 

 サーゼクスさまの眷属たちが、豪勢な料理を食べながら漫才してる光景とかあれだな、オイ。

 

 なんでこんなことになったのかというと、前回の魔獣騒動がきっかけらしい。

 

 あれで全員集合してから、たまには全員で集まるのもいいだろうということで、何人かが集まることになったらしい。

 

 で、その適当な理由としてミリキャスさまの護衛をすることになったのだが、その際に例の暴動騒ぎが勃発。

 

 目立つことは避けようと思ったけど一般人の避難ぐらいは手伝おうと、パシリされていなかったベオウルフさん以外が来てみたら、宮白が不意打ち喰らいそうになっている現場に遭遇して木場の師匠の沖田さんが介入。

 

 そのあと、マクレガーさんがその魔法技術でごまかしたりしている間に宮白が俺たちに援護射撃したというわけだ。

 

 いや、おかげで犠牲が出ずに死神たちを倒せてよかったよかった。本当に助かりました!!

 

「・・・なあグレイフィア。こうなったらテレビ番組で堂々とサタンレッドとおっぱいドラゴンの対決をすればいいのではないだろうか。今はいろいろあって立て直しに忙しいが、だからこそ冥界の子供たちを沸かせるイベントが必要だと思うのだよ」

 

「駄目です。おふざけも大概にしてください」

 

 と、隣でサタンレッド姿のサーゼクス様がグレイフィアさんに怒られてる。

 

 なんでも、ミリキャスさまに「サタンレッドよりおっぱいドラゴンのほうが好きです」といわれて落ち込んだらしい。

 

 忙しい中時間を縫って俺に勝負を挑もうとしたのだが、グレイフィアさんに感づかれて説教喰らったそうな。

 

 ・・・そのせいで来るのが遅れて終わってから来たのだが、できればさっさと来てほしかった。

 

「まあ、これからは気を使って宝石魔術を利用して俺の力を宿した武器を大量生産しよう。・・・くっくっく。現実問題必要があるから、これは大儲けの余地だらけだ。ふ、ふふふ、フハハハハ!」

 

「ちーとばかし死神連中がかわいそうになってきたんだが、このファックは止めたほうがいいんだろうかねぇ?」

 

「いいんじゃない? 向こうが悪いことしてるのは間違いないんだし。・・・アレなのは認めるけど」

 

 野望を燃え広がらせている宮白に、青野さんとナツミちゃんが微妙に引いている。

 

 うん、俺の親友は商魂たくましいです!

 

「しかし素晴らしい術式だ。魔術回路の存在が必須とはいえ、これほどの繊細な術式はそう見つからない」

 

「正真正銘ただの人間にこれほどの力を使わせるこの世界の魔法体系のほうが常識外れだと思うのだけれど。特にこの出力を発生させる方法が驚きだわ」

 

 アーチャーさんとマクレガーさんが魔法談議に花を咲かせているのも印象的だ。

 

 歴史に名を遺す大魔法使い同士の会話はなんというか高度でついていけない。

 

「・・・しっかし俺がいないところでなんか騒がしいことになってんなオイ。フィフスの奴もいろいろと忙しい時にやってくれるぜ」

 

「実質ミカエル様の方も大変だそうです。立て直しが必要な時に気にしなくてはいけないことが増えたとのことで」

 

 一方ベルさんはアザゼル先生と今後のことで話し合ってる。と、いうよりはミカエルさんの苦労について話し合ってるといった感じのようだ。

 

「イッセー兄さま。今日は本当に大変でしたね」

 

 と、ミリキャスさまが俺にそう話しかけた。

 

 かなり真剣な表情をしていて、いつものかわいらしさがすこしかけてる感じだった。

 

「まあ、最近もっとでかい規模が多すぎるからこれぐらいなら何とかなるほうでしたよ。・・・大変なのは本当ですけど」

 

「リアス姉さまたちはいつもこんな戦いを潜り抜けていたんですね。・・・僕はこれだけの戦いに巻き込まれたことはないのですごく怖かったです」

 

 うんうん。今回は俺んちの周りや商店街の近くが戦場になっただけだからあまり被害は出てないほうだけど、それでも危険な戦いであることには変わりないよな。

 

 ホント、俺たちひどい目にあいっぱなしだ。感覚がだいぶマヒしてるよ。

 

「でも、こんな戦いを何度も潜り抜けても生き残っているイッセー兄さまたちは本当にすごいです」

 

 いや、そんなことを言われるとちょっと自慢してもいいかな~って思うけど。

 

「いつもこんな大変なことをしていたんですね。僕達悪魔のために、こんな大変なことをしていたなんて、少し申し訳ないです」

 

「いや、それは気にしなくていいですよ」

 

 そのあたりははっきり言っておかないと。

 

「・・・え?」

 

「そりゃぁいろいろと大変なことは多かったですし、巻き込まれて大変だと思うことはありますけど、俺だって何とかしなきゃいけないと思ったんだし、そこまで気にする必要がないですよ」

 

 うん、たぶん誰かがやらなきゃいけないことだったんだし、それは気にすることはないと思う。

 

 うん、だからミリキャスさまが気にすることはないと思おう。

 

 でもなんだかそれでも不安そうだ。

 

 う~ん。こうなったら仕方がない。そういえばさまづけも気にしてたみたいだし、よし! こうなったら!!

 

「ミリキャス! 俺はお前の兄さまなんだろ! だったら冥界のことを気にしたって当然なんだから気にすんな!!」

 

「・・・はい! イッセー兄さま!!」

 

 うん。子供はやっぱり笑顔が一番。

 

 これからもいろいろと大変な気がするけど、俺も負けないように頑張るぜ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




番外編もこれにて終了!









と、フィフス側は増大した戦力を積極的に利用して暗躍中。

これにより、「禍の団による麻薬中毒者を利用した神秘を一切使わないがゆえに隠す気もない作戦の同時進行」を常に警戒しなくなったわけです。実際それでやばいところまでいったわけなので、警戒しないという選択肢は存在しない。

一回しか使えない切り札を、そうと知らない相手に速攻で使うことで「こいつはまたつかってくるかもしれない」と深読みさせて注意力を割く手段とでも言いましょうか。とにかく注意力を割いています。ちなみにこれにはもう一つの陽動が隠されていますがそれは四章の後半になるかと。


んでもって四章のメインになるフィフス側のタネも本格的に説明。

サーヴァントの力を上乗せするドーピング技術。これで原作で登場したサーヴァントの能力もポンポン出せます。もう「これほとんどオリジナルじゃん」だなんて言わせない!!


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キャラコメ 第十三弾!!

兵夜「はい。特別編である公開授業のアキレウス編!! 本日のゲストは!!」

 

小雪「はいよ。展開的に割を食うってことで、特別篇の担当になった青野小雪だ」

 

ベル「同じく、第四章のゲストでは少ない出番になるベル・アームストロングです!!」

 

兵夜「今回は特別篇ということで短めですが、最終章の展開の伏線があるのでよく見るといい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小雪「ってなわけで絶賛お仕置きタイムだ。まあこの程度では軽い部類だが」

 

ベル「あの、さすがにこれは謝った方がいいのでは」

 

兵夜「確かにやりすぎたのは事実だが、それはそれとしてハーデスが悪い。だから俺は謝らない。ハーデス以外のオリュンポスに利権を上げることで詫びを入れよう」

 

小雪「容赦ねーな」

 

ベル「それはそれとして、グランソードさんの立ち位置が微妙なわけですね」

 

小雪「ヴァーリもこの後オーディンの養子になってどうにかなったからな。当然っちゃー当然だろ」

 

兵夜「テロリストだけど大活躍だからな。マジ扱いが難しいというか」

 

ベル「それはそれとしてミリキャス君はかわいいです!」

 

小雪「原作じゃーサタンレッドが出てきてもめ事になったが、今回出てきてねーんだな」

 

兵夜「冥界の政治的ダメージがひどすぎて、そんな余裕がなかった。フィフスは間違いなく今までで一番のダメージを冥界に与えたな。まあ、ラストで出てくるが」

 

小雪「おかげでアホのお仕置きが足りなかった」

 

ベル「実質もうちょっとやった方がよかったでしょうか?」

 

兵夜「もう十分だよ!! 久遠とかもろともダメージ受けてんじゃねえか!!」

 

小雪「まさか何日もファックに引きずるとは」

 

ベル「意外ともろいですよね、久遠ちゃん」

 

兵夜「まあ俺たち、基本的にメンタル弱いし」

 

小雪・ベル「あ、確かに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そしてそれはそれでトレーニングだ。グレモリー眷属はみな勤勉だな」

 

小雪「それはそうだがもめにもめたな」

 

ベル「でも木場くんの言いたいことも分かります。・・・ゼノヴィアはいくらなんでもパワーに傾倒しすぎでは」

 

兵夜「チームってのはここの役割を突き詰めることがまず第一だろ。テクニックのフォローは俺と木場の仕事。寄りにもよって典型的パワーファイタ―をテクニック転向させるなんて愚策だろうに」

 

小雪「まあ、兵夜のいうことも間違ってはないがファックなんだよな」

 

ベル「どういう意味です」

 

小雪「目的に応じて必要な助っ人にあたりをつけるのが基本戦略で、そういう長所を持てないと判断したからバランス型に鍛えたのが兵夜だ。・・・つまり万能系の自分に対する自己嫌悪がある」

 

兵夜「やかましい。超人レベルに到達していない万能系などサンドバックだ」

 

小雪「どっちかっていうと暗殺者の構成パターンだって言ってんだ。ゼノヴィアの場合はステータス全体でもみてもテクニックが低すぎる。これはさすがに矯正しないとファックかも知れねーぞ?」

 

兵夜「・・・ふむ、俺としてはエクスカリバーを持ち続けるのはまずいと思うんだが」

 

ベル「そこはまあ、言いたいことは実質当然ですが・・・」

 

小雪「上がお人よし過ぎて時々忘れるが、確かにデュランダルに至っちゃ教会の至宝だからな。悪魔に持たせれば不満も出るか」

 

兵夜「そういうことだ。大体チーム全体のウリを捨ててまで欠点をフォローする必要はないと思うね。レーティングゲームはゲームなんだから、エンターテイメントを忘れちゃいけない」

 

ベル「実戦思考で自己改造している割には、リミッターを忘れなかったりレーティングゲームも考えてますよね兵夜様」

 

兵夜「そりゃそうだ。将来ちゃんと参加するんだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小雪「それはそれとして表もファックだな」

 

ベル「軍需産業が国家にとって代わるという、現代でもあり得そうなリアルさのある事態ですね。さらに麻薬の蔓延・・・」

 

兵夜「普通に世界の闇だからな。マジで危険といえば危険だろう」

 

小雪「それはそれとして、お前はやっぱり人がいいよ」

 

兵夜「褒められると照れるな」

 

ベル「そうですね。必要なくなった関係も捨てずに、新しく構築しなおすなんてさすがは兵夜様です! 惚れ直しました!!」

 

兵夜「なんかマジで照れるなー。もっと褒めてもいいぞ?」

 

小雪「まあ、そんなこいつのせいでテロリストが強化されたわけだが」

 

兵夜「持ち上げて落とされた!?」

 

小雪「そりゃ死神もキレるわな。おかげで体のいい怪人役が増えたと」

 

ベル「兵夜様? もう少し手加減なされた方がよろしかったのでは?」

 

兵夜「いや、見せしめは派手にやった方が効果あると思って・・・」

 

小雪「むしろ燃え上がってんだろうが!! 水の代わりにガソリンぶっかけてどうすんだファック!!」

 

兵夜「本当にごめんなさい!!」

 

ベル「しかし禍の団も本気ですね。間接的に表から襲撃をかけるとは」

 

小雪「本気出しすぎだろ。・・・といいたいが学園都市の兵器としてはファックなまでに古いからな」

 

ベル「どれぐらい古いんですか?」

 

小雪「古すぎて、ホントに学園都市技術で作ったのかわからないレベルだ。この程度なら片手間でできるだろ」

 

兵夜「うわー、これでその程度とかいろいろ酷い。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして今回の決戦。ボス格は英雄アキレウスの力を宿した死神」

 

ベル「神の力を使用しない限り攻撃が通らないって反則じゃないですか!」

 

兵夜「あきらめろ。宝具とは、時に非常に理不尽な効果を発揮するんだ」

 

小雪「・・・なあ、あたしはいま、原作に採用されたら世界を一人でひっくり返しかねないファックなサーヴァントを発見したんだが?」

 

兵夜「安心しろ。・・・出る」

 

小雪「ファァアアアアアアアック!!! 終わった、世界終わった!! クリフォトの野望は達成するじゃねーか!!」

 

ベル「え、ど、どんなサーヴァントなんですか!? トライヘキサより危険なサーヴァントはさすがにいない気がするんですが実質!!」

 

兵夜「確実にどでかい勝算を確保できる分、ある意味トライヘキサよりやばい。まあ、ベリアル編で出るから覚悟しとけ。・・・わかってる人も黙っていてください。割とどんでん返しになるかもしれないので」

 

ベル「っていうか兵夜様もアザゼルも何やってるんですか? ・・・これ自衛隊に供給してるって内政干渉では?」

 

兵夜「あとで格安で世界各国に設計図売るから問題ない。それに父親に利益を与えるのは当然の親孝行だろう?」

 

小雪・ベル「黒い」

 

兵夜「まあ、例のごとくうっかり想定外が起きて大変だったが、ルシファー眷属のおかげでひと段落。・・・気づかれるより早く刀で切るとかどんな腕前だ」

 

ベル「でも、兵夜様の新兵器も素晴らしいです! ・・・こ、今度ミカエル様用も作ってください!!」

 

小雪「作るなよ!? フリじゃないからな!? っていうかミカエルに嫌われるぞ、ベル!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ベル「結局来ちゃいましたね、サタンレッド」

 

兵夜「あの人ちょっと真剣に怒られた方がいいと思うんだ」

 

小雪「まーいいだろ。あくまでプライベートなんだし」

 

兵夜「いつか絶対アニメ化すると思う」

 

小雪「しかし、おかげで労力を割かなきゃならねーのがファックだな」

 

兵夜「相手がやってくるかもしれない。これを思わせただけで労力を割かせることができるからな。もう二度とやらないと確信できればいいんだが、有効だったのでそうもいかん」

 

ベル「でも、いいこともありましたよね?」

 

兵夜「義理の家族の絆か。・・・俺も義理の叔父になる身として呼び捨てした方がいいだろうか?」

 

小雪「お前は離れすぎだろ? ま、あの子ならOKなのかもな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そういうわけで次は第四章の第一弾。進路指導のウィザード編!」

 

小雪「ああ、出るのか・・・」

 

ベル「何がです?」

 

兵夜「それは読んでみて確かめてくれ。・・・長かった」



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進路指導のウィザード
日常でも、備えてます!


第四章に対に到達しました!

・・・自分でいうのもなんだけど、よくぞここまで続いたなぁ。


 

 

 

 

 

 

 アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 総督を辞して本当によかった。

 

 今回の大騒ぎのせいで堕天使勢力はもちろん、各種勢力が大混乱だ。

 

 間違いなく禍の団がかかわっているとはいえ、死神連中以外は神秘のしの字も関わってないこの大騒ぎ。

 

 しかも隠匿のいの字もない航空機による襲撃で、日本は結構てんやわんやだ。

 

 そして、アーチャーが仕掛けてきた攻撃機の電子装備にダメージを与えたことで、スクランブル発進した自衛隊がそのうち何機かを撃墜に成功。

 

 今回の件でいろいろダメージをくった日本政府はこれの解析を速攻で開始した。

 

 そのせいで冥界政府とかはいろいろいってきたり混乱状態だったが、人間社会が「堂々とテロされると困るから」ということで強気の姿勢だったりで本当に大変だそうだ。

 

 うん、総督やめてよかったぜ!

 

「やめてよかったじゃねーだろーが」

 

 追加のビールを持ってきた小雪に後ろから頭突きをくらっちまったが、だって面倒くさそうじゃねえか。

 

「まあまあ。小雪も落ち着きましょう? アザゼル先生の性格なら、なんだかんだでいろいろと手をまわしているでしょうし」

 

「まあそうなんだけどな? このファックな反応はなんていうか張り倒したほうがいいっていうか、張り倒さないと調子狂うっていうか」

 

 と、つまみに煮物持ってきてくれた朱乃にたしなめられて、小雪が渋々矛を下す。

 

「で? 学園都市出身としては奴らの技術レベルはどんな感じだ?」

 

 と、俺としてもその辺は聞いておかないとな。

 

 学園都市が最新技術を道徳観念を欠如した方法で行使することは俺も知っている。

 

 ・・・能力者の育成方法自体、見方によっては非人道の極みといっていい。そんな研究を堂々と社会的に認めさせるほどの権力もすごいが、それを堂々と行使できるがゆえに発展していった技術こそ恐ろしい。

 

 今回の件で舐めていたことがよくわかった。

 

 一切の神秘を使わない強大なまでの科学技術。これは裏を返せば、神秘を表に流出させない俺たちの監視をほぼ無視して、堂々と表社会で地位を作り上げることができるということだ。

 

 今回の件も死神を物理的に突入させて降下させたことは問題だが、それ以外に関して神秘をかませたりは一切してない。それゆえに堂々と人間社会に姿を見せた行動が可能。そしてそれゆえに後始末で日本政府が動けるわけだが、同時に技術の確保などでごたごたがおきたわけだ。

 

 念のために宮白の意見を採用してパワードスーツを趣味も兼ねてポケットマネーで大量生産。息のかかった地域の警察組織とかに回して万が一の対策は整えていたが、ここまで派手に行くとは思わなかった。

 

「残念だがあの程度は序の口だろーな。ファックな話だが最新技術ならあるていどわかるが、あんだけ古い技術を使われちゃあ判別できねえよ」

 

「だろうな。あれぐらいなら最新技術の直接発展の範囲内だから、すごい天才が一人現れればすぐ作れる」

 

 そう、仮にも軍事技術が先進国の中でも高いレベルにあるはずの自衛隊の警戒網をあっさり潜り抜けるステルス技術すら学園都市なら序の口だということだ。

 

 本気で堂々と動かれたら、第三世界あたりにぽんとアメリカもビックリの軍事大国が誕生しかねねえ。

 

 とにかく最新技術の塊には注意しねえとな。これまで以上に人間社会には注視しねえといけなくなった。

 

 ていうかあれで古い技術とかシャレにならねえな。こりゃ本当に油断できねえ。

 

「人間社会を堂々と動かれると大変ですわ。アザゼル先生や魔王様のお力でしっかり見てくださらないと、私たちではどうしようもありませんもの」

 

「同感だ。やれやれ、こりゃ引退なんて言ってる場合じゃなくなったかもな」

 

 いっそのこと新しい組織でも作って動いたほうがいいのかもねえ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佑斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・正直、顔がいい男は信用しないことにしてたのだけれど、あなたは別口扱いしたほうがよさそうね」

 

 と、衣装の製作を終えてからアーチャーさんはそんなことを言った。

 

 なるほど、恋愛方面でいろいろとあるアーチャーさんは男がらみに関して警戒心はあったりする方なのか。

 

 なんというか僕には距離を置かれていたような気がしたけど、そういう理由なら仕方がない。

 

 僕は衣装の裁断ように作らされた剣を消してから苦笑した。

 

 ・・・確かに彼女は非道なこともたくさんしたし、秘められたなんていうかヤンデレてきな側面が爆発したりした。

 

 けどそれは神に強制的に恋心を発現されたからで、冷静に話している分には何の問題もないどころか宮白くんみたいに結構いい人だ。僕達としても、これから何か悪行を起こさない限りとやかく言うつもりは全くない。

 

 だから誠実に対応していたけど、どうやらそれがうまくいったようだ。

 

「そういわれると光栄です。・・・騎士として女性には誠実でありたいですから」

 

「全くだわ。やはり男っていうのは誠実でないと」

 

 一仕事の後のエールを飲みながら、アーチャーさんはなんというか実感がこもっている。

 

「それで、まあ頼まれていたものはある程度用意できたわ」

 

 そういうと、アーチャーさんが小瓶を取り出して僕に手渡した。

 

 これは、今後のことを考慮に入れて僕が頼んでおいた切り札の一つだ。

 

「・・・これが、魔剣の反応の抑制剤ですね」

 

「厳密にいえば私や兵夜が使っている魔力外部供給のシステムを応用発展させた、切り離した生命力の塊よ。それを使えば一回ぐらいはグラムの呪いを抑制できるでしょうね」

 

 そう、フィフス・エリクシルとの戦いのためには、僕達も相応の手段を用意しなければならない。

 

 特訓して強くなるのは当たり前だが、フィフスは積み重ねてきた武術の使い手である。当然努力を続けているのはあの男も同じであり、こちらが努力しただけでどうにかなるような相手ではない。

 

 同時にテロリストであることを深く理解し、非合法的な手段を躊躇することなく運用している。こちら側でいえばレーティングゲームでは運用できない武装を躊躇なく集めている宮白くんが近い。その戦闘能力の強化っぷりは当然のごとくわかっている。

 

 最近に至っては前回の魔獣騒動でハーデスを叩きのめすときについでに回収した足を使い、報復の際になくした右足の代用品を用意したぐらいだ。反撃で失った右目に関しても、義眼を用意しており魔眼としての機能を追加している。

 

 もう少し自分の肉体の欠損について躊躇してほしいがこの場合は割愛する。

 

 部長も修行の一環として、レーティングゲームでは禁止されるような攻撃力の必殺技を構築し始めている。僕らもそのあたりの研究をするべきだと思ったのだ。

 

 特に、セイバーとの戦いは剣士として非常に屈辱的だった。

 

 結局のところ模造品である剣を使い、二対一で文字通り圧倒されたのは今でも思い出すだけではらわたが煮えくり返る。相手がサーヴァントというのはもはや関係ない。伝説クラスの武器に選ばれたという自負を木っ端みじんに打ち砕かれた。

 

 もちろんそれを塗り替えるための努力はいとわないが、しかし敵がそれを待ってくれるとも思えない。

 

 ゆえに、短時間でも性能を発揮するためにアーチャーさんに開発研究を依頼したのだ。

 

「反動は少ないけど、精製が難しいから連発は控えなさい。ここぞというときの決め所として使用しないと、逆に反撃されて倒されるわよ」

 

「わかってます。剣士として、これに頼り切るつもりはない」

 

 これを多用し続けていれば、グラムから拒絶されたジークフリートの二の舞になる恐れもある。

 

 グラムを使いこなせるようになることを優先するべきだ。

 

 その様子を見ていたアーチャーさんだったが、やがてふと表情を緩めると、視線をそらした。

 

「・・・それで、例の件の方はどうなったのかしら?」

 

「え? ああ、あれですか」

 

 そういえば頼まれていたことがあったのを思い出した。

 

「大丈夫ですよ。興味を持ってくれた人が何人も名乗り出てくれました。・・・ああ、もちろんネットで公表とかはしないで下さいよ」

 

「それは当たり前よ。・・・そう、これでちょっと作り甲斐が出るかしら」

 

 まあ、特になんということはない。

 

 アーチャーさんはかわいい服を似合う人に着せるのが好きな人なので、僕や部長にそういう服を着て写真を撮らせてくれる人を紹介してほしかったのだ。

 

 学園内では最近評判が揺れている宮白くんだと大変かもしれないが、だけど頼んでくれればそれぐらいしそうな気もするけど、そう聞いてみたらアーチャーさんはふと笑ってしまうことを口にした。

 

「最近無茶しすぎじゃないあの子。・・・本気を出して徹夜しそうだから言わないほうがいいと思うのよ」

 

 ・・・やっぱりこの人は根っからの悪人ではない。

 

 なんだかんだで宮白くんと相性がよさそうな人物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

「リアスとデートに行きたいんだけど、おすすめのスポットってあるか?」

 

「死ね兵藤」

 

 真剣に質問したらひどい返答を返された。

 

 匙め! おまえちょっとぐらい真剣に考えてくれてもいいじゃないか! 友達だろ!!

 

「全然会長と進展しない俺に対して、よくもそんなことが言えるな! この野郎もげろ!!」

 

「まあまあ。実質イッセーくんも不安なんですよ匙くん。相談してあげましょう? ・・・と、いうことで実質私はこの和菓子屋をお勧めします。なんでもフェアで最高級の茶葉で作られた抹茶が試飲できるとのことで」

 

「それはベルさんが行きたいところだよねー」

 

 俺たちは、放課後ちょっと自分たちの時間を作ってたまたまであった匙たちとだべっていた。

 

 リアスたちには悪いけど、こういった時間もたまにはいいよね!

 

 まあそういうわけで、ついでにリアスとのデートのために相談してみたのだがこうバッサリ斬られたわけだ。

 

「リアス先輩はなんだかんだで正統派の恋愛に興味があるって会長もいってたしー、あまり気をてらわないで正攻法で行ってみたらいいんじゃないかなー? 遊園地とかでいいんじゃないー?」

 

「そ、そうかな? ありきたりすぎて馬鹿にされないか?」

 

「どれだけレイナーレとか言う人にこき下ろされたんですか?」

 

 桜花さんのアドバイスには不安が残るが、ベルさんに突っ込まれていろいろとあれだった。

 

 くそ! そういうことに疎そうなベルさんにまで言われるとは、我ながらダメージが大きすぎるぜ!

 

「レイナーレに馬鹿にされたのは経験豊富だからだろうし、経験が少ないリアス先輩は特に問題ないってー」

 

「だよなぁ。俺も会長とデートするときは最初ぐらい基本に忠実に行きたいところだぜ。・・・変に奇をてらうとコケそうだし」

 

 桜花さんと匙の意見は確かにその通りかもしれない。

 

 ・・・変に趣味をだしてオッパイ重視でいったら確かに怒られるよね! おれでもそれぐらいはわかるよ!

 

 そういえば朱乃さんは普通のデートで満足してくれたみたいだし、大丈夫かも!!

 

「・・・そういう桜花さんやベルさんは、宮白とどんなデートしたとか無いんですか!!」

 

 そうだ! そっち方面から参考にするとかありじゃねえか!

 

「そうですね! 実質私はゲームセンターとか図書館とかネットカフェとか案内されたりしましたね。・・・パンチするゲームで勢い余って壊して弁償したりしました」

 

 ベルさんの失敗は俺も気をしないといけないな。俺も最近の強さだと勢い余って壊しそうだ。

 

 ま、リアスはそういうのしないから今回は大丈夫だろう。小猫ちゃんもその辺の手加減はうまくいきそうだし大丈夫かな!

 

 ベルさんはそういった娯楽にかかわったりしなかったので、宮白はそのあたりからアプローチをかけるようにしてるようだ。うん、あいつ過保護だからその辺はよく考えるか。

 

 と、なると桜花さんの方が参考になるかなと思うんだけど―。

 

「・・・桜花、どうした? 顔真っ赤だぞ」

 

 顔面を真っ赤にさせてフリーズ状態!?

 

「久遠ちゃん、いい加減落ち着きましょうよ」

 

 ベルさんが困惑した顔でその肩をゆすっているが、桜花さんは視線を泳がせて顔を真っ赤にさせたままだ。

 

 この人アグレッシヴに見えるけど、意外と保守的だったのだろうか?

 

「おまえなぁ、会長や魔王様の前で堂々とキスした癖になにを今更恥ずかしがってんだよ」

 

「いや、だって、だってー」

 

 匙のツッコミにも顔を真っ赤にしたまま震えるが、この人じつはウブだよな。

 

「アレは人が少なかったしー。別にあれぐらいなら大丈夫だったしー」

 

 涙目にまでなってるよ!? どんだけいっぱいいっぱいなの!?

 

「ううー! いいもんねー! どうせ前世(まえ)は最後まで処女だったしー。どうせ現世(いま)も自分じゃトップクラスにはなれないしー!!」

 

「く、久遠ちゃん落ち着いてください! ひょ、兵夜さまは全然そこは気にしてないというか、むしろその態度のほうを気にしてるんですからね!!」

 

 マジ泣き寸前状態の桜花さんをガクガク揺さぶりながらベルさんが落ち着かせようとするが、それ別の意味で落ち着かないと思う。

 

「・・・まあ、スランプはいろんな意味で脱出できたからよかったんだが、別の意味で大変なことになってんだよなぁ」

 

「大変だな、そっちも」

 

 俺は匙とうんうんうなづきながら、もう一つの問題点を思い出した。

 

 ・・・宮白、どうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナツミ、俺って駄目だよな」

 

「うん、今の兵夜はだめだよね」

 

 膝枕でぽんぽんとなだめられながら、俺はナツミに慰められていた。

 

 ・・・うん、久遠と関係回復が全然できない。

 

 家まで乗り込もうと思ったら挙動不審で警察を呼ばれ、学校で会おうと思ったら瞬動使われてまで逃げられる。

 

 ああ、なんだこの状況。

 

 自分に彼女ができるだなんて状況が信じられなかったところからの急転直下だから、どうしたもんか全く分からない。

 

「久遠も恥ずかしがってるだけで別に兵夜が嫌いになったわけじゃないんだからもうちょっと落ち着きなよ」

 

 いや、わかって入るんだけどね。わかって入るんだけどね?

 

「・・・失礼します。あ、やっぱりすごく落ち込んでますね」

 

 と、部屋に入ってきたロスヴァイセさんもこの光景に溜息をついた。

 

 最近結構落ち込みが隠せなかったからばれてたか。

 

「まああれです。話は聞きましたが高校生らしく節度を持ついい機会ですよ。お二人とも悪魔の生でみれば若いんですから、もっとこう健全なお付き合いをしてから関係を深めればいいんです」

 

「いってることは正論なんですけど、俺間違いなく今回一方的にされただけですよね!?」

 

 途中から性別変換しなおして反撃したけど、あれは民事で訴えれば金とれるぞ!!

 

「右足と右目の損失が、想定外レベルの軽傷だなんて判断するような作戦立てて行動するから怒られるんです。もう少しうまく制裁することもできたでしょうに、何を直接叩きのめすことを考えてるんですか」

 

「いや、俺理不尽な暴力をイッセーに振るうやつには容赦しないし。ストレスたまってるのか知らないけど今回イッセー何の非もないからとにかくどん底に叩き落さないと気が済まなかったんで」

 

「もう一度やった方がいいような気がしてきたんだが、計画練っていいかご主人」

 

 俺個人としては実にローコストハイリターンだった気がしたんだが、どうにも理解されない。

 

 そしてナツミは怖いことを言わないでくださいお願いします!!

 

「だって魔眼作成の都合上、目は抉る必要はあったから好都合だし、右足なんて超高性能な代替品ですよ!? むしろこれぼろもうけな気がするんですが!?」

 

「もう少し一般人の倫理観を持って行動してください。前から宮白くんの頼みもあったので魔術師(メイガス)との交流はしてきましたが、倫理観があれなのが魔術師(メイガス)の欠点です」

 

 バッサリ切られてしまった。

 

 くそ、そこを突かれると反論が難しくなってきた!

 

「宮白くんをターゲットにする禍の団のテロを考慮して、教会も特殊部隊を派遣することが正式に決定しましたし、冥界政府の立て直しに大きな成果を上げたのは事実ですが、余計な負担もかけてるのですよ? もう少し自重してください」

 

「・・・はい」

 

「教師に怒られてやんのー。ご主人だっせえなぁ」

 

 くそ、怒られてるのは事実だがすごいむかつく!

 

 とはいえさすがに二度もあんな経験したら本当に変な趣味に目覚める。最低限の自制のためにも、今後はもう少しローダメージを考慮するべきか。

 

「そういえば、魔術師とこの世界の魔法体系との本格的な交流をスタートさせると聞きましたが、本当ですか?」

 

「え? ああ、だいぶ魔術師のほうは制度生成ができてきましたので、そろそろ発展のためにも本腰入れようと思いましてね」

 

 禍の団も主要どころが壊滅したし、こっちの方にも力を入れないと稼げなくなるという切実な問題があるもので。

 

「この世界の魔術体系を組み込むことで、魔術回路という利点を最大限に生かしたブーストができないかが研究の課題です。同時に魔術回路の技術を組み込むことでこの世界の魔術体系に新たな発展もできれば文句なしなんですが」

 

 そう、今後の発展のためには必要不可欠だ。

 

 そうすればより強大な力を得た魔術師(メイガス)は素晴らしい実力を発揮できるようになるし、そうすれば悪魔業界に対する恩恵も大きくなるはずだ。

 

 そして俺は利益でガッポガッポ。魔術師の発展に貢献した人物として権力も大きく手にすることができて、イッセーや愛する女たちとの平和なクラスに維持できるだろう。

 

 うん、マジで必要。

 

「・・・そうなると、もしかすると相性が悪くて使用できなかった魔法が使えるようになるということもあるかもしれませんね」

 

「ん? 確かにそういったこともあり得るかもしれませんね。異なる技術を知った結果、新しいアプローチの方法が見つかるということもよくありますし」

 

 俺はまあ一般論しか返せなかったが、なぜだかロスヴァイセさんはちょっとほっとしたようだった。

 

「ではまあ、ナツミさんの勉強会でもしましょうか。・・・来年は駒王学園に入学したいとのことでしたし、仮にも進学校なのですから簡単な道のりではありませんよ?」

 

「おっと、そうだったそうだった。と、いうことでナツミは勉強タイムな」

 

「うわぁ、なんか知らないところで面倒になってきたよぉ。でも頑張る!!」

 

 うん、勉強に熱心なのはいいことだ。

 

 




日常描写を増やしていこうと思いながら、あまり描写されてないアーチャーどグレモリー眷属の付き合いなども増やしていったり。

できればいろいろと書きたいのですが、どうにも日常描写が苦手なのでなかなかかけなかったり。できれば頑張って増やしていきたいです。


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大仰な異名、つきました!

 魔法使いとの契約は、悪魔にとっても結構重要だ。

 

 なにせ、魔法使いにとって契約した悪魔はステータスであるように、悪魔にとっても契約した魔法使いはステータスだ。

 

 下手な小物と契約すれば、自分の価値を大きく下げる。グレモリー眷属は若手の中では希代の大物なのだから、下手なことをした場合の下げ幅は非常に大きい。

 

 そんな状況下で大量に志願者が出ているので、負担がとても大きかったりする。

 

 うん、とても悩んで大変なことになる。

 

 と、言うわけで。

 

「雪侶と契約することが前から決めていた俺は上から高みの見物ができるというわけでマジラッキー」

 

「リアス! 宮白をいっかいぶんなぐらせてください!!」

 

「抑えなさい。後でしっかり選考のための仕事を押し付けるから」

 

 しまった藪蛇!!

 

「大体なんで雪侶ちゃんは宮白なんだよ! こういう時は普通俺じゃないか!?」

 

「自分が俺の義兄弟になる可能性を理解してくれて嬉しいな。ま、俺の方が術的な実利が大きかったことが理由の一つだ」

 

 なにせ俺は厳密にいえば違うがマジモンのメディアをサーヴァントにしているからな。

 

 必然的にその恩恵はすごいことになるし、術式共同研究という意味ではお互いにもっとも効果を発揮できる。

 

 と、言うわけで俺はここ数十年は女王の嗜みとの契約が中心になるだろう。

 

「なに、雪侶はお前の契約相手になりたいんじゃなくて眷属悪魔狙いだから安心しろ」

 

「できれば俺も悩みたくなかったから雪侶ちゃんと契約したかったよ」

 

 目の前に積まれている資料の山を見ながら、イッセーはため息をついた。

 

『いやー、こちらとしても神喰いの神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)との契約希望者はすごく多かったんだけどね? 真っ先に断られたら仕方ないから最初から盛り込んでないんだよね』

 

 魔法使いを束ねているメフィスト・フェレスがそう残念そうに言う。

 

 因みに神喰いの神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)とは最近俺についた異名だ。

 

 フェンリルの別称とジャイアントキリングの先駆けであるダビデを組み合わせたすごい異名だが、ロキ撃破の功績を持っているうえにハーデスを瞬殺したため納得されたらしい。

 

 ・・・正直この方面は想定してなかった。そのせいですごい恨まれすぎて報復のためだけに禍の団が強化されるし、いや、ちょっとやりすぎたかも。

 

「なんで頭の回転は速いのにこういうところは考えが及ばないのかしらねえ?」

 

「全くですわ。宮白くんは深く考えられるのに浅い考えをするところが多いですわねぇ」

 

 アーチャーと朱乃さんがドS的なことを言ってくれるよ。ホント、最近仲良くなってくれたことで。

 

『とはいえそこは防備が高かったはずだけど想定外の方向から襲撃を受けたみたいだね。そこにいるフェニックス家のお嬢さんの護衛は気にしたほうがいいよ』

 

 と、少し不安になることを言われてしまった。

 

 なんでも、フェニックスの涙のコピー品が出回っているらしい。

 

 それだけならまあ珍しくもない話なのだが、最近の作品は非常に精度が高いそうだ。コピー品ってかなり粗悪なものが多いと思うのだが、なんだか買いたくなってくる制度の高さだ。実はこっそり調査用に回してもらおうとメールを送っているの内緒だ。

 

「そういえば学園都市の科学技術で何とかなるんじゃないかな?」

 

「神秘的要素に付いては真逆の要素なのでそう簡単にはいかないとか小雪は言ってたぜ?」

 

 イッセーの疑念はアザゼルがすでに考慮していたようだ。

 

 確かに、悪魔とかは神秘的要素が強いから量産となると難しかもな。

 

「とはいえそれが解決すれば、日本円にして1人数十万で一年前後で数万人は行けるから、可能になったらかなりやばいとも言っていたが」

 

 質より量を地で行く戦法になりそうだな。フェニックスの涙は数が少ないことが欠点だから一気に逆転されそうで怖いんだが。

 

 大御所が消えたと思ったらややこしいことが出てきて実に大変だ。

 

「人間世界もアフリカでは軍需産業が台頭しすぎて戦争一歩手前だし、まったく、平和ってのは意外と長く続かないもんだぜ」

 

「どこの世界も問題は出てくるものね」

 

 アザゼルと部長が溜息をつくが、まあ俺も相応に警戒しないといけないな。

 

 彼らには悪いが、何よりイッセーたちとの平和な生活こそが大事だからな。悪いがその辺には一線を敷かせてもらう。

 

「・・・ま、何とかしていくしかないんだけどな」

 

 ほんと、そういうほかないんだよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・とりあえず小猫ちゃんは仙術関連になるだろうから、悪い気を取り込まないように善玉傾向が強いやつにして、ギャスパーは対人恐怖症がまだ残っているからネットなどでのコミュニケーションがとりやすいやつをピックアップ。ゼノヴィアは宗教関連での揉め事を避けるために、元から聖書の教えに対して比較的友好な連中を挙げておいたぞ」

 

 数日かけて選考を行う中、当然のごとく空いている俺は仕事が押し付けられた。

 

 いっそのこと雪侶に仲介させようかとも思ったが、それだとメフィスト・フェレスの顔が立たないと思ってさすがに自重。とりあえず選考人数少ないところからさばいていこうと行動開始。コンセプトを決めてバッサリ減らさせてもらった。

 

 部長に関してのピックアップはいずれ必要不可欠だが、その前になれてないから練習しておかないとさすがにきつい。

 

「・・・助かります」

 

「ね、ネットでどういったことをするかの傾向までまとめてくれたんですか!? あ、この人趣味が合いそうです」

 

「宮白は本当にこういうことが得意だな。・・・選考基準に攻撃力重視の研究が多いのは偶然か?」

 

 すいません意図的です!

 

「さすがに最近はもう少しテクニックを磨こうと思うのだが・・・。とりあえず少しぐらいはエクスカリバーを使えた方がいいだろう。どうせ宮白のことだから贋作ぐらいは用意できるのだろう?」

 

「確かに用意できるが、俺はお前にエクスカリバー重視させるの反対派だって忘れてないか?」

 

「まあ、最低限使えた方がいいというのはもっともな意見だと思ってな。簡単に使える技術ぐらい習得しても損はすまい」

 

 く! 木場の説得にゼノヴィアがなびきかけてる!!

 

 とはいえエクスカリバーのレプリカとか大量生産するとそれはそれでもめそうだから、あまり作るのは避けたいんだがな。

 

「・・・レイヴェルは大丈夫でしょうか?」

 

「ん? やっぱり気になるか?」

 

 資料のメリットデメリットを調べなおしながら、子猫ちゃんが少し不安そうにしていた。

 

 結構喧嘩もしているが、なんだかんだで仲がいいから気になるのだろう。

 

「まあ、いろいろな意味で懸念事項ではあるがあいつら隠れるの上手いから難しい話でもあるしな。・・・それとなく一緒にいてやるのが一番だろう。それともイッセーとべったりさせとくか?」

 

「・・・それは嫌です」

 

 おやおや、同い年同士だとやっぱり取り合いがきつくなるか。

 

「僕の方も大変なことになりそうで不安です・・・」

 

「ああ、吸血鬼業界が接触したいとか言ってるからなぁ」

 

 ギャスパーの方も大変だな。

 

 吸血鬼業界については俺もそこそこ調べてきてるが、現悪魔側をはるかに上回るほどの貴族主義にして純血主義だ。当然のごとく吸血鬼以外は敵視しており、和議など考えられない。友好的接触をしてくるとはとても思えない相手だ。

 

 絶対にひと悶着あるだろうな。吸血鬼武装は絶賛開発中だ。

 

「そして宮白の懸念通り、教会の方も和平に対して不満が続出しているらしい」

 

「予想の範囲内だったがやはり来たか。フィフスがアサシンを動かして暗躍してるだろうなぁ」

 

 必ず来るとは思ってたけど、予想以上に早くて此方も面倒だ。

 

 代用武装は開発中だが、まだ数か月はかかりそうだ。その間はエクス・デュランダルは残しておく必要があるし、その間に爆発しそうで非常に怖い。

 

 ああ、英雄派との戦いがほぼ終わったと思ったら結局大変だ。なんで悪魔になって一年たってないのにこんなに大変な目に合わなきゃいけないんだ。

 

 終わったら燃え尽き症候群になってしまいそうだ。その阻止のためにもいろいろ考えないと。

 

 ハーデスに対する嫌がらせとして、ハーデスTS完堕ち系ブ○イク級同人エロゲを製作するのは当分先になりそうだ。今そんなことしたら過労死する。過労死の原因がそんなことだと知られたら末代までの恥だ。

 

 うん、気を付けよう。

 

 

 




中二病を患ったことがあるならだれもが一度は考える異名。やはり主人公には付けたほうがいいかと思いつけてみました。



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特訓、新ステージです!

 まあ、俺たちは今でもちゃんと鍛えている。

 

「・・・チャージ時間がかなり長いですね。やはり連携を前提とした運用が必要になりますか」

 

「リアスは王ですもの。味方とともにいることは変なことではございませんし、実戦でなら当然ですし、まあ問題はないでしょう」

 

「そうね。実戦の場合は一対一ではなくてチームで戦うから、この能力も十分運用できるわ」

 

 部長の新技を開発中において、本格的な実戦仕様を開発中だったりする。

 

 なにせ俺たちはレーティングゲームより本格的な大規模実戦のほうが多いチームだ。

 

 生存性を考慮するなら、レーティングゲームで使えないことを考えるほうが合理的だ。

 

 特に部長の特性は破壊力重視。極限まで極めればレーティングゲームのリタイア機能が通用しないものもあるはずだ。

 

 が、実戦なら何の問題もないというわけだ。

 

「これで、少しはみんなの役に立てるかしら?」

 

「充分でしょう。賢者状態のイッセーよりも威力はでかいでしょう」

 

 現時点における最大火力だろう。ゼノヴィアでも一発の威力ではかなうまい。

 

 破壊力に特化した、俺たちグレモリー眷属の筆頭。うん、我らが王にふさわしい能力だ。

 

「やっぱりパワー押しこそがグレモリー眷属の本領ですね。俺としてはやはりゼノヴィアのパワー上昇と、朱乃さんに荷電粒子砲発射能力を付与する方向で一つ」

 

「貴方はテクニック不足を自分一人で何とかするつもり?」

 

 いや、引かないでくださいよ。

 

 それは木場や俺の仕事なんですから。そこはしっかり俺たちを強化するのが基本パターンにするべきだと思いますね、俺は。

 

「そういえばイッセーくんは大丈夫でしょうか? 最近調子が悪いようですけど」

 

「まあ、体消滅して新調なんて真似してますからね。非常識すぎるからそりゃ変化がなくちゃおかしいですけど」

 

 最近じゃ三宝の発動も大変みたいなんだよなぁ。

 

 俺のせいとはいえ、敵が増えちまったこともあるし、さすがに切り札の使用不能は避けたいところだ。

 

 あいつら俺に報復するためなら手段選ばないところあるから、俺以外を集中的に狙ってくる可能性もある。

 

 と、言うわけでイッセーが弱体化してるっていうのは間違いなく、そこを突かれると大変なので何とかなってほしい。

 

「まあ、というわけなんでちょっとイッセーの様子を見てきますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー! そっちの調子はどうだ?」

 

 と、俺は汗を拭いているイッセーたちの様子を見に戻った。

 

「やっぱし調子悪いな。三宝は出せそうにないぜ」

 

 俺が渡したスポーツドリンクを飲みながら、イッセーはそうぼやく。

 

 やっぱりドライグの負担がでかかったか。赤龍帝の鎧は、ドライグがOSとしてサポートをしているからこそあの性能だ。翻せば、ドライグの調子が悪ければ赤龍帝の鎧はフルで性能を発揮することができない。

 

 ただでさえオッパイネタで心労重ねてたからなぁ。さらに負担がかかったせいでいい加減オーバーフロー気味か。

 

「念のために、教会側に戦力強化の要請をしておいてよかった」

 

「いつの間にやっていたんだい?」

 

 木場が苦笑しながら、魔剣の調子を確かめる。

 

「そっちの方も苦戦中か?」

 

「まあね。ジークフリートが全力でグラムを使えなかったわけだよ」

 

 苦笑している木場の顔色は少し悪い。

 

 やはり、安定運転でも魔剣の発動はキツイか。

 

 と、なると直接運用ではなく保険によるサポート運用をするべきか?

 

「・・・いっそのこと当分の間研究施設に送り込んで調べるっていう手もあるか?」

 

「いや、これだけの武装を使わないでいるのはもったいないよ。・・・できればこのまま使い続けたい」

 

 お前はテクニックタイプなんだからそこまで馬鹿でかい火力はイランと思うのだが。

 

「攻撃力より防御力の方が不足してるんだから、そっちの方を中心に何とかしとけばいいと思うがねぇ?」

 

「インフレが激しいから今更しても追いつきそうにないしね。かわして切れれば何とかなるさ」

 

 やれやれ。思想の違いは面倒だ。

 

「で、ゼノヴィアはエクスカリバーは何とかなるか?」

 

「やはり祝福や夢幻、支配はどうしようもないな。天閃や擬態はだいぶ使えるようになったんだが」

 

 ふむ、やはりシンプルなタイプの方がゼノヴィア向けか。

 

 祝福は俺が慣れてるから指導しやすかったが、しかしあわなかったか。

 

「ってことは外すのは支配と祝福と夢幻が中心だな」

 

 とりあえず、デュランダルの方針としてはサブプランを検討中だ。

 

 偽聖剣の技術とエクスカリバーの有用性を考慮に入れて、一部のエクスカリバーだけ残してあとはレプリカを使って代用しようという話だ。

 

 のちにこの技術を流用して、七本のエクスカリバーすべてにそれ以外のレプリカを搭載した発展形を開発する予定だ。これにより七人のエクスカリバー使いが誕生して発展するだろう。

 

 因みに、平行してゼノヴィア用の改良型強化武装も開発中だ。たぶんこっちも間に合うだろうが、それはそれこれはこれ。

 

 最終的に決着を突けようとは思うが、決めるのはゼノヴィアなのだからそういった保険をかけておくのはまあいいだろう。

 

 それに、考えてるってことはゼノヴィア自身が強くなるために向き合ってるって証拠だからな。それはそれでいいことだ。

 

「・・・ま、意見があるならその時ちゃんとハッキリ言ってやるよ。俺もいくつかアイディアがあるんでな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、トレーニングは順調でも日常はそういうわけではなかったりするわけだ。

 

「待ってくれ久遠! 話を、話だけでも!!」

 

「あうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうああうあうあうあうあううあうあうあうあうあうあうあうあうあぁあああああ~!?」

 

 ええい、なんだこの別れたがる女に無理やり追いすがる悪質なダメ男みたいな展開は!

 

 くそ! なんでこいつは公衆の面前どころか冥界ネットで告白してくるのにこういうところでウブなんだ!!

 

「こ、こここここここれから、道場破りに北海道行くからごめんなさいー!」

 

「どこまで行くんだ久遠!?」

 

 思わず突っ込んだかが、次の瞬間には久遠は消えていた。

 

 ・・・おい、こんなところで瞬動使うな!? 人が見ていたらどうするつもりなんだ!?

 

 あわてて周囲を確認するが、不幸中の幸いで見てるやつはいなかった。・・・さすがにそれを確認するだけの判断力はあったのか。

 

「くそ! いつになったら久遠と話ができるんだ」

 

 俺は割と本気でへこんでいるんだが。

 

 っていうか、襲ってきたのは間違いなく何の反論もなくそちらですよね? なんでお前が逃げてんだオイ。

 

「・・・あいつまだファックに照れてんのか?」

 

 と、バイト返りの小雪に発見されていた。

 

「おい、お前ら四人全員で納得して襲い掛かったんじゃないのか?」

 

「いや、その通りなんだけどな。まあ、言うのは簡単だがやるのは難しいってのはよく言うだろ?」

 

 つまり、聞くだけなら何の問題はないと思ったけど、実際やってみたら結構きたと。

 

「ああもう、どうしたらいいんだよ畜生!」

 

 ここ最近ずっとこれだぞ!?

 

 ええい、いつになったら久遠とまともに話できるんだ。

 

「いい加減泣きたいんだが」

 

「っていうかお前も、もっと奇襲してせまれよ。あいつ攻められると弱いんだから、一度でも捕まえれば何とかなるだろ」

 

「あのなぁ、自分の女にそんなひどいことできるわけないだろうが」

 

「なんで本命相手だと微妙にヘタレなんだ、お前もイッセーも」

 

 小雪に肩をすくめられた。

 

 ええい、誰がヘタレだ! 俺は百人切りすら実行する経験豊富なテクニシャンだぞ!

 

 ええい、ちょっとマジで何とかしないとでもどうしようか・・・。

 

 と、そんな時に電話がかかってきた。

 

 見ると部長だ。そういえばもう部活の時間だったな。

 

「はいもしもし? 悪いんですけど今ちょっとへこんでるんでもう部活休みたいんですが」

 

『そういう問題ではなくなったわ』

 

 ん? なんだか真剣な感じだな。

 

『吸血鬼との会合の日時が決まったわ。・・・明日の夜よ』

 

 ええい。またしても大変なことになりそうな予感がしてきた。

 

 頼むから久遠のことが解決するまで休ませてくれ!!

 

 




レーティングゲームをあえて視野に入れずに強くなろうとしていたのが兵夜ですので、これからのグレモリー眷属方針とはぴったり合っていると思います。

しかし敵の方もどんどん強化していくので、それでもなお追いつくかどうか。

頑張れ、グレモリー眷属!


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吸血鬼、やってきました!

 そして吸血鬼との会合の日、俺たちは代表が集まって吸血鬼を待っていた。

 

 グレモリー眷属を全員集めることもないと思ったが、アザゼルが判断しているのだからまあいいだろう。

 

 ・・・調べた限り、確実に揉め事を引き起こしそうだから少人数でことを収めたかったんだが、なぜかギャスパーに参加を要請しているし気になったんだろう。

 

 いきなり戦闘とかなりそうで怖い。吸血鬼は悪魔をはるかに凌駕するぐらい純血嗜好で種族主義だから、必ず喧嘩を売ってくる自信があるぞ。

 

 ゼノヴィアが知り合いとあって顔を青くしたりとかしているのが清涼剤になっている。さて、それもどこまで続くことやら。

 

「・・・君が神喰いの神魔かね?」

 

 と、俺に話しかける人がいた。

 

 神父の服を来た紫の髪をした男が、俺に真剣な表情を向けていた。

 

「と、挨拶がまだだったな。バチカン所属の戦闘騎士団、モルドレットの隊長を務めさせてもらっているゲン・コーメイだ。神魔の要請で警護戦力として参戦させてもらった」

 

 ほほう。鳴り物入りの戦力を用意してくれるとは、大天使ミカエルも太っ腹だ。

 

「・・・そして、最近初めて知ったが君の同類でもある」

 

 同類? 魔術師なら教会には入らないだろうし、ってことは―

 

「・・・転生者か」

 

「ああ、残念なことに記憶が戻るのが遅くてね。そうでなければ駒王会談にも参加したんだが、本当に残念だ」

 

 心底残念そうにそんなことを言ってくる。

 

「・・・兵夜、来たわよ」

 

 おっと、どうやらゆっくり会話している暇はないようだ。

 

 さて、問題が起こらないといいけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱり大問題だよ本当に。

 

「ああもう! なんでこう問題が連発するんだよ本当に! 久遠といい死神といい吸血鬼といい! 久遠に集中させろ!!」

 

「久遠が一番大事なんだ? ご主人にしちゃ意外だな」

 

 と、ナツミが俺の肩をもみながらそんなことを言ってくる。

 

 おれだって自分の用事を優先させたい程度の感情は持ってるんだよ。

 

 吸血鬼側の要求は至ってシンプル。和平に参加してやるからギャスパーを吸血鬼同士の争いに参加させろということだ。

 

 まあ、奴らのことだから吸血鬼なんだから吸血鬼の争いに参加するのは当然だと考えているんだろう。

 

 純血以外は道具程度にしか考えていないだろうし、まあ普通に想定していたからそこまでむかついたりはしなかったが。

 

 クソが汚いことは当たり前だ。だから汚いところを見ることになったからといって、それでクソに改めてむかついたりしても意味がない。感情的になるのは疲れるだけだ。

 

 そして生粋の貴族主義であることもやっぱり想定内。まさか冥界の英雄であるイッセーをこの期に及んでガン無視するレベルだとは思わなかった。下僕悪魔な時点で意見を聞く発想すらない。

 

 そこで部長はある程度考えて、カーミラではなくツゥペシェの方へと先に行くとのことだ。

 

 あまり刺激を与えるわけにもいかないし、こっちのことも考えなればいけないから、連れていくのは木場だけとのことだ。

 

 俺も行ったほうがいいかと思ったんだが、そこはバッサリ切られた。

 

『そのせいで死神が襲い掛かってきたらどうするつもりなの? 最近やりすぎてることを自覚できていないようね』

 

 すいません。これでビビると思ってたんです。ハーデスやられれば怖気づくと思ったんです。まさかテロリストに参加するとは思わなかったんです。本当に想定外だったんです。

 

 とはいえ、前回の襲撃もあるからまあ俺も忙しいし無理はあったか。

 

 ・・・表社会に神秘ゼロの技術流出による攻撃を警戒せざるを得なくなったからな。警察やヤクザの協力による、広範囲警戒網を作るのに結構忙しい。

 

 そして航空機の襲撃を警戒するためのレーダー技術の発展も急務だ。まあこれは世界各国の質を強化する必要もあるからアザゼルやサーゼクスさまの領域なのだが。

 

「デカいヤマが終わってようやく少しは楽になるかと思ったらこれだよ。俺悪魔になってから一年足らずなのに働きすぎじゃね?」

 

「だよね~。ご主人大変すぎ。凝ってるねこれ」

 

 うん、だからしっかり揉んでくれ。

 

「でも、毎日楽しいよ? ほんと最上級の楽しさだよね」

 

「それはそうなんだが、トラブルも最上級だから結構疲れるんだよなおい」

 

「でも結構何とかしそうだから心配はあまりしないかな。・・・うん、前よりすっごい気楽」

 

 そっか、ナツミって以前は結構大変だったもんな。

 

「大丈夫とは言わないけどさ、少しは安心してくれていいんだぜ? 俺もイッセーも久遠もベルも小雪も部長もオカ研のみんなも、仲間はしっかり守るからさ」

 

「ご主人はやばい時は介錯に回りそうだから安心できねえなぁ」

 

「いや、あんなミスは早々しないから」

 

 アレは本当に最終手段だったからね?

 

「冗談だよ。兵夜もボクも頑張るし、みんな一緒に頑張るんだから、怖い目なんてそんな合わないって」

 

 まあ、それならそれでいいんだがな。

 

 教会からも戦力が来たし、これでフィフスもそう簡単には仕掛けてこれないだろう。

 

 万一に備えて自衛隊との連携も想定し、最新鋭のレーダー技術も組み込んだ。こっそり金払ってPSCすら街の中に潜伏させているし、普通の警備会社などもかき集めている。

 

 パワードスーツも簡易版は自衛隊や警察で発表され戦力となっている。特にこのあたりに重点的に配備し、金に至ってはこちらが払うことで何とか早急に実用化にこぎづけた。

 

 うん、まあすぐにまたしてもこの街が強襲されるなんてことはないだろう。

 

 っていうかあってたまるか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早朝ランニングは割と本気で日課になっている。

 

 やはり毎日のトレーニングは必要だ。体力はつけておいて損はないし、ウチのメンツにかかわるには努力し続けないと大変だからな。

 

 これがいいリフレッシュにもなるし、この調子でしっかりと強くならないとな。

 

「あ、兵夜さま!」

 

 と、後ろからベルが走ってきた。

 

 うん、前買ってやったトレーニングウェアがいい味出してるな。一生懸命考えたかいがあった。

 

「ベルも毎日トレーニングだな。ちゃんと遊びもいれてるか?」

 

「実質大丈夫です! 最近は抹茶の立て方を練習してますから」

 

 すごいハマってるな。茶道関連のコネを作り始めたほうがいいだろうか。

 

 だがまあ、ベルは本当にかなり強いからな。

 

 今でも単純な殴り合いなら三宝つかったイッセーとだって渡り合えるし、禁手を使えば短期決戦なら十分勝算だってあるはずだ。

 

 そこに超能力があるんだから、ホントこいつは強いよな。

 

「いやぁ、自分の女が強い上に勤勉っていうのは気分いいな。俺も負けないように頑張るよ」

 

「あ、ありがとうございます! はい、実質光栄です!」

 

 ベルは元気よくそういってくれるが、しかしその表情が少し曇っている気がする。

 

 ふむ、どうにかできるかどうかは考えてみないとわからないな。

 

「ベル、なんかあるなら行ってくれ。それとも主命令で言えって言ったほうがいい安いか?」

 

「兵夜さまは結構ずるいです」

 

 ちょっとすねたベルもかわいいな。こういうところは最近になってから見せるようになってきたというか、最近になるまでそういった感情がなかったというか。

 

 うん、これはこれでいい。

 

 などと勝手に萌えていると、ベルは気を取り直して口を開く。

 

「正直、久遠ちゃんと同じようにスランプです」

 

「そうか? 禁手の持続時間上昇とかあるだろ?」

 

「いえ、超能力の方です」

 

 ふむ、念動力は単純だが強力だし、空間転移能力は最近他人も転移できるようになったし、さらに内緒話もできるという便利能力な気もするが。

 

「正直言うと今までは慣れるだけでやっていけばよかったんですが、実質慣れ切っているのでここから先をどうすればいいのかわからないんです」

 

 ・・・ああ、それは確かに。

 

 久遠は能力じゃなくて技術がメインだったから指導方面に行くことで吹っ切れ切ったが、ベルの場合は能力だからそういったのが難しいのか。

 

 超能力者は少しずつ発見されているが、そのほとんどはベルをはるかに下回るスペックなのであまり力を発揮できないんだったな。しかも制御装置とかの保有とかもあるので、ベルのようにほとんど使わないこともあるらしい。法律でうかつな使用が禁止されてるところもあるらしい。

 

 まあ、強大な力を個人が持っているとなれば制御したくなるのは当然だ。実際高レベルのエスパーは法的機関に所属して、軍人のように力の行使に制限がかせられているしな。

 

 当然それは少数派。その状況下でどうやってベルを鍛えればいいのか皆目見当もつかない。

 

 久遠は受け継がれてきた技術を、鍛えて完成されているので力の鍛えようもなかった。そのため開き直って強化武装や指導方向で行くことに問題はない。

 

 ベルの場合は素質はともかく技量方面が未熟すぎる。だから当分鍛える余地は多いが、どうやって鍛えればいいかわからない。

 

 冷静に考えると才能オンリーで技術が伴ってない転生者って、俺がかかわってきた中でベルぐらいじゃないか?

 

 たいていの連中はスペックが高いだけじゃなく、何らかの形でそれを研鑽することができるわけだ。リットだってインフレに追いつけてないが、現実問題世界的に異能が堂々と公表されているわけで、だから技術を学ぶことだってできたはずだ。当然それを参考にして練習する方向を見据えることもできる。

 

 だが、ベルにはそれがない。

 

 せめて同能力で格上がいてくれれば何とかなりそうなのだが。

 

「・・・本格的に研究施設で調べるべきか。とにかく何らかの方向性を見つけないことにはならないしな」

 

「ですね。今まであまり使うこともありませんでしたし、実質力技でどうにかなったのですが、兵夜さまに仕える身としてこれからの戦いに備えて技量を磨いていきませんと」

 

 なるほど、意外とこの方面でも問題は多かった。

 

 まだフィフスは残ってるんだし、何とか解決の方向を模索しないとな。

 

「・・・あれ? でも大量の聖魔剣を一斉に操ったりしてなかったか?」

 

「あ、アレは個別に操っているんじゃなくて剣をくっつけた布を動かす感じで大雑把にしていたもので」

 

 とりあえず個別の精密制御を考慮に入れたほうがいいってことか。

 

 さて、これは難しいことになってきたぞ。

 




ここにきて新キャラ登場。ゲンはそこそこ重要なキャラクターになる予定ですのでお楽しみください。

そしてベルの方が一番テコ入れが必要だったり。

実はベルの設定ができたときにはD×Dは四章に入ったばかりなので、ベルの成長方面に関しては「・・・番外編とか的な感じで絶チルキャラを出して絡めるネタにしようか」などと思っていたんです。

・・・それがデイウォーカー編でグレートレッドが異世界がらみで監視しテル的なことになったじゃないですか。実に困った。

とりあえずの対策は組み立て終えましたが、その結果ちょっと無理のある展開になるかもしれません。そうなったらごめんなさい。


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・・・再会、しちゃいました!

リアスたちが出て少しして、

トラブル発生します!!


 

 部長たちがルーマニアに旅立ってからも、日常というものは過ぎ去っていくわけで、

 

「・・・いい加減、いい加減久遠と話がしたい」

 

「は、ははは。まだ話せてないんだ」

 

 俺は素早く着替えを終えてから、たまたま出くわした木場に愚痴っていた。

 

 いい加減数週間まともに話ができていないのはどうにかしたい。あいつはどこまで逃げれば気が済むんだろうか。

 

「まあ大丈夫だよ。桜花さんは別に宮白くんのことが嫌いってわけじゃないんだから、大丈夫、ゆっくり時間をかけて距離を詰めていけばいいさ」

 

「わかっているんだがすごい不安で。今この状態でトラブルが起こったら動揺のあまりミスしそうで怖くてさぁ」

 

 はあ、いつになったら話せるんだか。

 

「大変ですね兵夜さま。実質私たちも話しているんですが、兵夜さまのこととなるとすぐに顔を真っ赤にしてしまって・・・」

 

 ベルも思い出して大変なのか、瞠目する。

 

 ええい、あいつはいつまで逃げてるんだ。いい加減こっちの話を聞いてくれ。っていうか俺はあのタイミングだけでいうなら被害者だよね、理不尽!!

 

 はあ、これが平和な日常だからいいものの、戦闘になったらどうしろっていうんだ。

 

「このタイミングで襲撃とか起きないでほしいな・・・っと」

 

 俺はそういいながらゴミ箱に向けて空き缶を放り投げる。

 

 あれが上手く入らなかったら仮病使って休もうかとも思ったが、いい感じにうまく入って。

 

 ・・・ドン!

 

 爆発音が響いた。

 

「・・・はい!? なに!? 襲撃!?」

 

 ええいまたか! 今度は学校か!!

 

 と、思ったら目の前に変なローブを付けた連中が現れた。

 

 よし、敵か。

 

「このタイミングで迷惑なんだよ死ね!!」

 

「宮白くん判断が速すぎるよ!?」

 

 木場がツッコミを入れるが無視して俺は速攻で飛び蹴りを放った。

 

 どうせ記憶を調整するのだからその程度のことでいちいちぎゃあぎゃあ騒ぐつもりはない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてとりあえず追い払うことに成功したが、しかしそれどころではなくなった。

 

 一年生メンバーが誘拐されたというのだ。

 

 ええい、最近フェニックス家の連中に接触している連中がいることは知っていたが、よりにもよって戦力たっぷりのここに来るとは思わなかった。

 

「・・・で、記憶の方はどうしたんだ?」

 

「魔法使いの格好をしたけったいな変態集団が学校で暴れまわったってことにしてある。すでに警察に話は通してあるから、明日にでもダミーの犯人グループが検挙されるだろうな」

 

 記憶を調整するにしても違和感のない内容にしたほうがいい。さすがに大規模で騒がれたから完全に消すのは別の意味で厄介だからな。

 

「相変わらず手が速いなお前」

 

 イッセーが微妙に引いてきたんだが、おい聞いておいてその態度はなんだ。

 

 まあ我ながら素早く終わらせられたとは思うが。しかし問題はそんなところではない。

 

「・・・はい、潜伏先は掴めたわよ」

 

「ありがとうアーチャー! 本当に頼りになる!!」

 

 とりあえず、これで敵を倒すことは可能になったな。

 

「とはいえどうやって侵入したのかしら。前回の件で魔術的な防備より科学的な側面を重視した構成にしていたけれど、それでも手を抜いたわけじゃないのに」

 

「まあ、あの襲撃はそっちに意識を向けさせて侵入しやすくするという作戦もあったんだろうな。あの野郎抜け目がないというかなんというか」

 

 フィフスめ、実にいやらしい攻撃を仕掛けてくる。いや、作戦を立てたのはアサシンの方かな。フィフスは意外と脳筋なところがあるから。

 

 とはいえ、だからといって難易度が下がっているわけではないはずだ。

 

「侵入術式を組んだのはキャスターか? いや、だからってアーチャーとアザゼルの合作を一切関知させずに侵入するなんて並大抵のことじゃないぞ」

 

 まさか内通者か? いや、ウチのメンツが禍の団に組するなんて考えずらい。よしんばできたとしてもすぐに勘付かれるはずだ。

 

 よほどの立場が短時間の一点集中じゃないと潜入なんて不可能だろう。だからこそ、フィフスたちもあの時強行突入レベルの行動をしでかしたんだ。

 

「おばあさまもそうではないかといっていましたが、しかし考えづらいことではありますね」

 

 ロスヴァイセさんも表情が厳しい。

 

 っていうかいろいろな意味で考えたくないもんだ。うちのお人よしメンツが禍の団に内通してるだなんてな。

 

「表社会では軍需産業と先進国がにらみ合いをし、こちらはこちらでいまだにテロは終わらず。・・・大変な世の中ですね」

 

「全くです。とにかく小猫ちゃんやギャスパー、レイヴェルを助けに行かないと」

 

 とにかく反撃しないことには話にならない。

 

 人の後輩に手を出してくれたんだ。まさかただで済むなんて思ってないだろう。

 

 手痛い出費を払わせてやるとするか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして数十分後、俺たちは敵のアジトに潜入していた。

 

「よし、陽動班が魔法使い連中をひきつけているうちにさっさと小猫ちゃんたちを救出するとするか」

 

 偽聖剣をすでにまとった状態で、俺は解析魔術で敵のアジトの様子を探りながらそう告げる。

 

「そうね。さすがにすぐに気づくでしょうし、早くしないと三人が危ないもの」

 

 アーチャーも素早く魔術で空間に干渉しながら警戒する。

 

 今回の事件において、敵陣営はとてつもなくふざけたことを言ってきた。

 

 ・・・俺たちと自分たちで勝負をしたい。

 

 実にテロリストらしい身勝手な要求だ。しかもことごとく敵精鋭を叩きのめしまくっている俺たちに対して舐めているとしか言いようがない。抑え役がいなくなってアホが暴走したといったところだろうか。

 

 そんな馬鹿のいうことを素直に聞いてやる義理もないので、こっちから行くことにした。

 

 外で陽動班が魔法使いをひきつけているすきに、少数の部隊で襲撃を仕掛けて、子猫ちゃんたちを助け出す作戦だ。

 

 そっから後でゆっくり敵を仕留めればいい。

 

 と、いうことで厳選されたメンバーは、俺・アーチャー・ナツミ・イッセー・久遠・匙でサポートにアーシアちゃんという火力重視のメンバーだった。

 

「・・・ここで俺が出てくるのがよくわからんのだが」

 

「宮白は自分がどれだけ撃墜記録を持ってるのか理解したほうがいいぞ」

 

「匙に同感。おまえ神すらボコったじゃねえか。しかも二回」

 

 そこを言われると反論できんな。

 

「まあいいわ。とにかく発見次第片づけるとしましょう。・・・大体のところは理解できたから行くわよ」

 

 そういうと、龍の外套をまとったアーチャーが先導して施設内を探っていく。

 

「それで、どういった施設なのかわかったのか?」

 

「大体のところは予想の範囲内よ。・・・フェニックスのクローンを生産する実験場ね。正真正銘のフェニックスのデータを取るついでに、抑えがきかない愚か者たちのガス抜きをさせたといったところでしょう」

 

「ってことはフェニックスのクローンがいっぱいいるってことかよ!? くそ、あいつら人を何だと思ってやがるんだ!!」

 

 俺の質問に答えるアーチャーの言葉に、イッセーはレイヴェルの心情を思ったのか壁を殴る。

 

 まあ、フィフスあたりの性格ならそれをためらうような性分を持っているわけがないだろうな。

 

 と、研究施設と思わしき部屋へと入り、実に嫌な光景を目の当たりにする。

 

 ・・・研究用のカプセルに詰められたクローンの群れが目の前に映る。

 

 全く、あいつらはここまでするか。魔術師も大概だが木原や禍の団も大概だな。

 

「・・・イッセー、先に行きなさい。その向こうにレイヴェルたちはいるわ」

 

 と、アーチャーが振り返りながらそう告げる。

 

 それに視線を合わせてみれば、そこにはふんどし姿の男が一人立っていた。

 

「・・・ふにゃあああああああああ!?」

 

 誰が想定しただろうか。

 

 ・・・この男、一発ネタだとばかり思ってたのに!?

 

 




誰もが思っていることでしょう。・・・こいつがこんなところで出てくるなんてと!!

因みにふんどしは敵キャラの中ではフィフスの次に設定が出来上がったキャラでした。書いた時点で後半になってから再登場が決定していたキャラでもあります。理由はまた後ほど。


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変態、乱舞です!

活動報告に聖杯戦争がらみでの裏設定を公開しました。

本編では出せそうにない設定ばかりですので、興味があればぜひご覧ください。


「・・・ふ、久しぶりにUMAを見ることができた。ぺろぺろさせてくれ」

 

「にゃああああああああああ!? ふんどし怖いふんどし怖いふんどし怖いぃいいいいいいいいいいい!?」

 

「アーチャー。ここは任せて先に行け。俺はこのふんどしを片付ける」

 

 実に面倒な連中が出てきてくれたものだ。おのれ、ナツミを怖がらせるやつには容赦せんぞ俺は。

 

「「・・・えっと、誰?」」

 

「ナツミちゃんにセクハラをぶちかまそうとしたふんどし男だ。意外と強かった」

 

 一周回って懐かしくなったのか、匙とアーチャーの言葉にイッセーがうんうんうなづきながら思い返す。

 

 おのれ、まさかこんなところで現れるとは!

 

 松田のパワーアップにかかわっていたところから、いつかまたかかわるかもしれないとは思ったがこんなシリアス展開でふんどしとかふざけるなよ!

 

 だがインフレ激しい俺たちの成長にはついていけてないだろう。

 

「ここは俺に任せて先に行け! 俺のナツミを怖がらせる外道はここで叩き潰す! お前たちは我らが後輩を助け出せ!!」

 

「イッセー行こう! ここいろんな意味でいたくない!!」

 

 ほらイッセー、ナツミが涙目だから早く行ってこい!!

 

「いけイッセー! 早く俺たちの後輩を助け出すんだ!」

 

「お、おう! とりあえずわかった!!」

 

「あまり無茶はしないようにしなさい。手早く終わらせたらすぐ戻るから」

 

 と、親友と相棒から温かい言葉を受け取って、俺はふんどしと向かい合う。

 

「貴様の存在はナツミにとって害悪だ。・・・死なない程度に地獄を見せてやろう」

 

「ふ、いいだろう。ならば見せてみるがいい!!」

 

 次の瞬間、男は注射器を取り出した。

 

「まずは・・・」

 

 そしてそれを突き立て、

 

「籠手調べだ!!」

 

 次の瞬間、英霊の力を具現化させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、もうなんていえばいいのかわからなくなっていた。

 

 今俺の目の前で、実に涙が出てくる光景が出ていた。

 

「・・・ご愁傷さま。でもあなたも意外とはたから見ると変わらないのを自覚しなさい」

 

「さすがにこれと一緒にされるのは勘弁してほしいんですが!!」

 

 思わず絶叫するレベルだよ。アーチャーさんひどいです。

 

 まず、グレンデルとかいうドラゴンが出てきた。

 

 滅んだはずのドラゴンだそうだけど、このあたりは俺もよくわからないからとりあえずおいておく。

 

 そして、ドライグが幼児退行を起こした。

 

 そりゃあ、俺はおっぱいでパワーアップし続けてきたけど、だからってこれはないと思うんだけど、マジで。

 

 なによりオッパイを怖がってるのがひどい。

 

 なぜだ、なぜオッパイを怖がるんだドライグ! おっぱいを怖がるのはやめてくれ!

 

 で、ヴリトラがもう一体ドラゴンがいれば何とかなるかもしれないといってきた。

 

 で、なんとアーシアがアザゼル先生が使っていたファーブニルと契約したとのことなんだけど・・・。

 

『アーシアたんのおパンティ、くんかくんか』

 

「なんでだぁあああああああ!?」

 

 なんだこのおパンツドラゴン!? 何がこいつをこうしたんだ!

 

 くそ、なんてこった!

 

 こいつは変態だ!

 

『おい、それで俺はいつになったらぶっ殺しできるんだよ。もうファーブニルでいいから早くしろよ』

 

「もう少し我慢しましょう。あれがグレモリー眷属の基本パターンです。ここから化けますよ」

 

 敵の認識もひどい! 俺はおぱんつおぱんつ言ってません!

 

「おっぱいおっぱいいってるからあまり変わらねえよな」

 

「うん、同じ穴の狢ってやつ?」

 

 匙とナツミちゃんが後ろでいろいろ言ってるけど、聞こえないもんねーだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドリル状の剣を振り回す敵の攻撃をかいくぐりながら、俺は幻影でフェイントをかけて攻撃を叩き込む。

 

 攻撃力はかなりやばい領域だが、コレなら十分かわせる範疇内だ。フェイントが効く辺り、判断能力はまだこちらに分があるな。

 

 最初にあったころは実に面倒で苦戦しそうな敵だったが、今となってはさすがにインフレに追いつけてないようだ。

 

 まあ、実は超強かったなんてことがあるかもしれないから油断はしないが、だからといってここで負けている余裕もない。

 

 冷静に動きを見極め、相手の攻撃タイミングに合わせて幻影を生みだしてダミーを作り、さらに攻撃を叩き込む。

 

「ぬぅ! やはりUMAを得るためには難関があるということか!」

 

「そういうことだ。あとナツミはUMAとは区分が違うと思うぞ」

 

 どちらかというとファンタジーなんだが。

 

 まあいい、これで一気に終わらせる。

 

「悪いが時間をかけるつもりもない。・・・塵と消えろ」

 

 時間をかけて練った光魔力の槍を放つ体制を整える。

 

 それを見て、ふんどしも剣を構えると力を凝縮させる。

 

「砕け散るがいい、虹倪剣《カラドボルグ》!!」

 

 次の瞬間床が粉砕されるほどの力が放出されるが、悪いが喰らうほど馬鹿でもない。

 

「残念、後ろだ」

 

 俺はふんどしの後ろから宣言した。

 

 破壊のエネルギーに巻き込まれて伸ばした偽聖剣に衝撃が入るが、しょせんは擬態で出した予備だ。大したことはないのでそのまま続行する。

 

 そして次の瞬間、それに付与させていた光魔力を前段叩き込んだ

 

「むぅ・・・ぉおおおおおおっ!?」

 

 次の瞬間、魔力が暴発して放出される。

 

 どうやら英霊化が維持できなくなったようだ。

 

「ええい! やはり相性が悪かったか、この程度の再現もできんとは情けないな」

 

 ふらつきながら、ふんどしはそう告げる。

 

 どうやらこれで出しきったか。

 

 なら一気に決める!

 

 俺は光魔力の槍を展開し、一気に距離を詰めた。

 

 敵は切り札を失い、戦闘能力が大幅に低下しているはずだ。この瞬間を逃さずに叩き込んで、一気に敵を叩き潰す!!

 

「終わりだ、下種が!」

 

 消えうせるがいい、変態!

 

 ふんどしはそれを目で追いながら―

 

「・・・やはり生身の方がはるかに動きやすい」

 

 ―あっさりと俺の顔面に拳を叩き込んだ。

 

 




かなり短いですがキリがよかったので。




誰が思っただろう。ふんどしがここまで強いだなんて。



・・・実は最初からこういう設定だったといって信じる人はどれぐらいいるんだろう。


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神魔剣VSふんどしです!

イッセーSide

 

 グレンデルの奴はかなり手ごわかった。

 

 なぜかドラゴンなのにアスカロンの効きも悪い。ヴァーリに使ったときよりはるかに効果がいまいちだ。

 

 しかも明らかに危ないやつだ。ド変態のファーブニルといい、今日俺が知り合ったドラゴンはやばいやつしかいないのか。

 

 しかもテンションが上がって一対一とか言ったくせにほかのみんなにまで手を出してくるし、これ以上は総力戦だ。

 

 と、思ったときにフードの男が止めに入った。

 

 なんでももう十分だからとか言っていた。どうも向こうにも都合があるみたいで、グレンデルも体がもたないとか言われたら素直に引き下がった。

 

「それでは、我々はこのあたりで失礼しましょう。そろそろこの空間も崩壊いたしますし―」

 

「あら、空間の崩壊は食い止めたから、もう少しゆっくりしていきなさい」

 

 と、さらりとフード姿の男に言葉を投げかけるアーチャーさん!

 

「さすがアーチャーさん! すごく頼りになります!!」

 

 いつものことながらいい仕事してくれるぜ!

 

 レイヴェルにこんなひどいものを見せてくれたんだ、俺たちだって逃がすつもりはないぜ!

 

「これでは逃げようとしたら後ろから撃たれますか。これは困りましたね。私が動いてもいいのですが、どうせならあれが完成してからにしておきたかったのですが」

 

『俺は構わねえぜ? アルビオンをぶっ殺すのもおもしれえが、殺し合うって言ったドライグを先にやるのが筋ってもんだよなぁ』

 

 フードの男は困ったように言い、グレンデルはむしろ願ったりかなったりな様子でファイティングポーズを取る。

 

 どっちでもいいけど逃がす気はねえよ。こいつらやばそうだしここで倒せるなら倒すに限る。

 

「じゃあまあ、とりあえず私たちも参戦かなー?」

 

「だよね! こいつ等逃がしたらいけないのはわかってるよ!!」

 

 桜花さんもナツミちゃんも乗り気になった。

 

 よっしゃ! ドライグも復活したんだし、ここは負けてられないぜ!

 

「仕方がありません。こうなったら私も動くとしますか」

 

 と、ローブの男も戦闘態勢になった瞬間。

 

「いや、ここは任せてもらう」

 

 と、ふんどし男が宮白をぶっとばしながらこっちに突っ込んできた!?

 

「宮白!? 手前!」

 

 宮白がぶっとばされて頭に血が上って、俺はカウンターでふんどしに殴りかかる。

 

 だが、ふんどしは直撃したのにそのまま突っ込んで俺を壁にたたきつけた。

 

「・・・なぜ幻想猛者(ファンタズム・アーミー)を使う前の方が使った後よりも強いのですか、あなたは」

 

「気合の入り方が違うのだ。いいか? この世の中は気合いが入るかどうかがすべてを分けるのだ」

 

 などと、俺を吹っ飛ばしたまま会話しやがる余裕まで見せつけてやがる。

 

『相棒気を付けろ! こいつ、グレンデルよりできるぞ!!』

 

 わかってるよドライグ! このふんどし、前会ったときとは比べ物にならないぐらい強くなってる!!

 

 俺はすぐ立ち上がると今度は蹴りを放ち、ふんどしもそれを飛び退って回避した。

 

「いいから逃げるといい。ファーブニルというUMAをぺろぺろしてから帰る」

 

「ファーブニルはUMAではないのですが、まあいいでしょう」

 

『なんだよ、結局俺は白い方をぶっ殺しに行くのかよ。まあいいか、じゃ、次はちゃんとぶっ殺してやるから死ぬんじゃねえぞドライグ。ま、こいつ相手だと難しいかもな!!』

 

 と、フードとグレンデルが魔法陣を展開する。

 

 くそ! 止めたいけどふんどしが邪魔で割って入れない。

 

 と、消え去る前にフードの男が顔を見せた。

 

 ・・・なんだ? グレイフィアさんに・・・似てる!?

 

「挨拶しておきましょう。私はグレイフィア・ルキフグスの弟、ユークリッド・ルキフグスです。結界は姉と似た波長があるので軽く突破することができましたよ」

 

 グレイフィアさんの弟!? あのひと弟いたのか!!

 

 そうか、グレイフィアさんと似てるなら結界も突破しやすいはずだ。裏切り者がいたわけじゃなくてよかったぜ!

 

「っていうかグレイフィアさんの弟ならなんでそっちついてんだよ! お前は一体何が目的だ!」

 

「姉にはサーゼクス・ルシファーがいた。それだけのことですよ。それに、神喰いの神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)なら大体は予測できるでしょう。ちゃんと守ればすぐわかりますよ」

 

 と言い放ち、ユークリッドは転移魔法で転移していく。

 

 くそ! このふんどしのせいで逃げられた!

 

「にゃぁああああああああ!? ふ、ふんどし怖いぃいいいいいい!!」

 

 そしてナツミちゃんがパニック状態だ! だよね、そりゃふんどしに山の中で追いかけまわされたらトラウマにもなるよね!!

 

「こ、こうなったらお前だけでもとっつ構えてやる! 行くぜ皆!」

 

 そう言い放ち、俺は即座に殴りかかる。

 

 ふんどしはそれをあっさり受け流すと、即座に飛び蹴りを放った。

 

 直撃する瞬間にアーチャーさんが障壁を大量に展開するけど、それすら突破してあいつの拳が俺に直撃する。

 

 無茶苦茶痛い! こいつどんだけ強いんだよ!

 

「だったらスピードでかく乱しようかなー?」

 

 と、桜花さんが瞬動で上下左右に飛びながら素早く切りかかる。

 

 相変わらず頼もしいスピードだ! 俺どころか木場でも追いつけそうにないぜ!

 

 が、ふんどしはあっさりかわすと素早く裏拳を放つ。

 

 桜花さんは剣で止めたけど、受け流しきれずに吹っ飛ばされた!

 

 あれに初見で反応するか!?

 

 が、次の瞬間には黒い炎が巻き起こって、ふんどしを包み込んだ。

 

「油断大敵だぜ変態野郎!」

 

 おお、匙、ナイスだ!

 

「む、さすがにこれは少しきついな」

 

 と、ふんどしの動きが微妙だけどゆるくなった。このチャンスは逃がしちゃいけない!!

 

「だがこの程度、UMAをぺろぺろする目的の前には些細ないこと―」

 

 次の瞬間、ふんどしの周囲に剣やら槍やら杖やらが突き立って、さらに動きを拘束する!!

 

「俺様、ぺろぺろされるのならアーシアたんがいい」

 

 微妙にげんなりした表情で、ファーブニルがそう言い放った。

 

 ですよね! ふんどし一丁のおっさんより、シスター服の美少女にぺろぺろされたいよね!

 

 こればかりはファーブニルのいうことに賛同するほかない。ふんどしは帰れ! ナツミちゃんが怖がってるだろうが!

 

「・・・気を付けなさい。常人なら一瞬で死ぬような呪詛を数十はかけてるけどそれでも動きが阻害される程度で済ませてるわ、あの男」

 

 と、アーチャーさんもしっかり仕事をしてくださっている!

 

 よっしゃ! 思ったよりキツイが負けるわけにはいかない!

 

 こいつはここで倒しておかないとまずい気がする!

 

 アーチャーさんたちが動きを止めている間に、俺と桜花さんが二方向から一気に攻める!

 

 だが、ふんどしはそれを動きが悪くなっているにもかかわらず完璧にさばいてきた。

 

 くそ、こいつ化け物か!!

 

「・・・ふむ、見どころはあるがまだまだだ。赤龍帝というUMAを宿しているからもっとやれるかと思ったが、まだまだ気合が足りんぞ乳龍帝!」

 

 根性で有名な俺でもまだ足りんと!? この人基準値が高すぎませんか!?

 

 と思ったその時には、瞬動を使っているはずの桜花さんを目で追いながら、深く肩を落としてため息をついた。

 

「さらに残念なのはその腑抜けっぷりだ、見損なったぞブロッサ」

 

「・・・・・・へ?」

 

 その言葉に、桜花さんの動きが一瞬止まる。

 

 素早く後退してから止まったあたりさすがの判断力だけど、ブロッサって・・・だれ?

 

「・・・な、なんで、その名前をー?」

 

 桜花さんの顔が真っ青になっている。え? だれ、知り合い?

 

 と、そこまで考えて俺は一つの事実に気づいた。

 

 ナツミちゃんにサミーマ・エーテニルって名前があるように、転生者はこの世界の前にもう一つの人生がある。

 

 それはつまり、宮白にもベルさんにも青野さんにももう一つの名前があるってことだ。

 

 ってことは、ブロッサって桜花さんの―

 

「お前のことだ、歓喜の修羅の切り込み隊長、ブロッサ・タイム。動きで気づかないとはなまったな、本当に」

 

 ―間違いない。

 

 この人、桜花さんの知り合いだ。それも前世の!!

 

 桜花さんは少しの間視線をさまよわせていたけど、やがて眼を見開いて驚愕する。

 

「・・・まさか、健蔵・・・隊長?」

 

「ああ、まあ、最近記憶を思い出したばかりなので、すでにお前より年下になるのかもしれないがな」

 

 な、なんだって!?

 

 オイオイオイオイ! まさかこのふんどしが桜花さんの元上司!?

 

 ありえねえだろ、世界狭すぎって言うか信じられるか!!

 

 っていうか最近ってマジかよ! いや、待て待て待て待て!!

 

「それじゃあナツミちゃん追っかけてた時は記憶戻ってなかったのかよ!? 気を使ってたじゃん!?」

 

「あんなもの本能レベルで沁みついていただけだ。だから思い出してみろ、足元にも及ばなかっただろう。大変だったぞこの一年間、気合いで元に戻すのは」

 

 確かに当時の俺でもさばけたレベルだけども!

 

 っていうか今一年間ていった!? 記憶戻ったの一年前なのかよ!?

 

 ああ、桜花さん茫然としてる!

 

 ですよね! 記憶戻ってから一年でこれとか、ふざけてるにもほどがあるよね!!

 

「あ、ありえないー。そんな年で、一年でここまで戻すなんて・・・いや、戻せるわけがないはずだよー」

 

 そりゃそうだ。

 

 前世と体格も成長期の使い方も違いすぎたせいでスランプにまで陥っていたのが桜花さんだ。

 

 明らかにオッサンなあのふんどしが、一年で戻したなんて知られたらショックを受けてもおかしくない!

 

「ふざけんなよ! 明らかに成長期すぎてんだろうが! 伸びるわけないだろ一年で!」

 

「何をおかしなことを言っている」

 

 だが、ふんどしは心底不思議そうに首を傾げるだけだった。

 

「世の中の大抵のことは必要な気合があればどうにでもできるようになっているのだ。かつての全盛期を取り戻す程度で苦労しているお前たちの気合が足りん。大体まだ28だぞ」

 

 二重の意味でショックだ!

 

 あ、桜花さん崩れ落ちた。

 

「う、嘘だ・・・嘘だー」

 

 ヤバイ、明らかにショックが連続しすぎて桜花さん茫然自失だ!

 

 ってふんどしが気合いを入れてる!? え、これってやばい展開!?

 

「では、そろそろ気合いを入れて脱出するとしよう。ふぬぉおおおおおおおおお!?」

 

 おおおおおおお!? なんかびりびり物理的に響いてるんだけど!?

 

 や、やばい! これが解放されたら俺たちも―

 

「・・・おいちょっと待て」

 

 ぽんと、ふんどしの方に手が置かれた。

 

 ・・・あ、そういえばすっかり忘れてた。

 

 そうだよな。こいつはこういう奴だった。

 

「お前何俺の女2人もショック与えてるわけ? ぶっ殺すぞ?」

 

―ダダンダンダダン、ダダンダンダダン♪

 

 宮白が、起きた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 




はい、まあ初登場時点で出身世界は読めていたと思いますが、実は久遠の上司でした。


かなり圧倒的な力を発揮していますが、実はこいつは「一人ぐらい原作最強クラスレベルの転生者がいてもいいよね」という設計思想で開発されているため前世における戦闘能力が一番上という設定です。コンセプトは「悪いジャック・ラカン」


本作転生者の中でも屈指のチートとして設定させております。これからも搭乗した時は引っ掻き回させますのでご期待ください。


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ふんどし、追い返します!!

ウィザード編最終話。

兵夜とイッセーはふんどしを撃退することができるのか!?


年末最後の日に更新できてよかったです。ちょっと嬉しい。


 ふと目が覚めてみればなんだこの状況かは。

 

 全く訳が分からない。何が何だかわからない。

 

 だが、ナツミがショック状態で久遠までショックを受けていることはよくわかった。

 

 そして目の前には訳が分からないがなんかすごいことになっているふんどしが一人。

 

 ああ、とりあえず一つだけわかった。

 

「お前の仕業かふんどし新世紀がああああああ!!!」

 

 神魔剣状態で俺は股間に一撃を叩き込んだ!

 

「ぐぬぉ!?」

 

 ええいぐにゅっとしてるがそんなことはどうでもいい!

 

 もう一発! 二発! 三発!

 

「ええいしつこいぞ! お前も神にして悪魔なUMAならぺろぺろしてくれる!!」

 

 気合いで弾き飛ばされたが、そんなことはどうでもいい。

 

「上等だコラ! ほぉら美味しいですよ!」

 

 うるさい口に拳を入れて黙らせてから、俺はそのまま口の中に光魔力の槍を叩き込む。

 

 即座に五連発!

 

「ぐふぉ!? だがまだまだ気合いが足りん!」

 

 チッ! 思ったより効きが悪い!

 

 あれだけはでにやれば対抗術式の一つぐらい組まれると思ったが、それにしても効きが悪すぎる!!

 

「こんな気合では止められんぞ! この気合全力の出力で吹き飛ばされるがいい!」

 

「誰が吹き飛ばされるか! 作ったばっかの切り札なめんじゃねえぞ!!」

 

 割と全力で迎え撃ちながら、俺は真正面から殴り合いを敢行する。

 

 ええい、とはいえこいつシャレにならん!

 

 不意打ちでハーデスぶちのめしたときとは話が違う。さすがに三回目ともなれば対策取られるか!

 

 せめてもう一段階何かあればいいんだが、このままだとまずいか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 痛い痛い痛い痛い!

 

 なんていうかいろいろ吹き荒れて、近づきたくても近づけない!

 

 あれに真正面から向かい合ってる宮白がすっげえ! さすが切り札神魔剣! 本当にあいつはいろいろ作ってるけど、俺たち近づけない!

 

「明らかに面倒なことをしてくれるわね! ここから出たらだめよ!!」

 

 アーチャーさんが障壁を張ってくれてるから何とか防げてるけど、これはさすがに強力すぎだろう!

 

「・・・ああ、ありえない、ありえない―」

 

「ひょ、ひょひょひょひょ兵夜ぁ」

 

 桜花さんはいまだに茫然としてるし、ナツミちゃんも立てそうにない。

 

 匙やファーブニルも障壁を張って防いでるけど、これじゃあうかつに使づけないぞ!

 

 くそ! あのふんどしは化け物か!

 

「どうすんだよ兵藤! さすがにこのままにしておくわけにもいかねえだろ!」

 

 と、自力で防いでる匙が声を挙げる。

 

「突っ立ってどうすんだよ! 俺たちだってここから出たら吹っ飛ばされるぞ!」

 

 いや、俺だってできることなら参戦したいですけどね?

 

 外出たら間違いなく吹っ飛ばされるんだよ、この出力!

 

 しかも残念なことに、三宝はガス欠状態だから防ぎようがない。

 

 ええい、どうしたらいいんだ!

 

「い、イッセーさん! おっぱいです! おっぱいに触れてください!」

 

『おぱんつ、いる?』

 

 と、ファーブニルにかばわれてるアーシアがそんなことを言ってくれるけど、残念だがアーシアのおっぱいではどうしようもない。

 

 いや、このままいくとこの施設も吹っ飛びそうだからそれはそれで必要なんだけどね? たぶん今はそんな余裕ないというかね?

 

 外に出た瞬間に今の俺だと吹っ飛ばされる。そして吹っ飛ばされなかったとしてもアーシアのおっぱいでは決定打にならない。

 

 くそ! このままじゃ宮白だってきついってのに・・・!

 

「・・・イッセーさま」

 

 と、俺の方にレイヴェルが手を置いた。

 

「・・・私を使ってください」

 

 な、なんだと!?

 

 れ、レイヴェル? レイヴェルの不死鳥オッパイが・・・俺に?

 

「強大な魔力をもつリアスさまは魔力を供給し、回復力をもつアーシア先輩は治癒の力を増幅させた。イッセーさまの強化は、相手の特性に合わせて能力を変化させます」

 

 ああ、確かにその通りだろう。

 

 俺もほかの人にしたらどんなことになるのか気に放っていた。

 

 それを、ここでやっていいのか?

 

「レイヴェル・・・いいのか?」

 

「はい、私も、あんなものを見せられて黙っているわけにはいきませんわ」

 

 と、レイヴェルがクローンの入ったカプセルに視線を向ける。

 

 そうだよな。レイヴェルだってあんなもの見せられたら悔しいんだ。何とかしたいと思うよな。

 

「わかった。・・・力を借りるぜ、レイヴェル!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気の波動が強力すぎるせいで、小技を使う暇がない。

 

「オラオラオラオラぁ!」

 

「温い、温すぎるぞUMA! そぉらペロリ」

 

 ウザイうえにキモイ!

 

 真正面からの殴り合いではさすがにこちらが不利か! ええい、このままではらちが明かん。

 

 何とかする方法は一つある。だが、今のラッシュ状態ではそんなことをする暇がない。

 

「すいませんが少しの間動きを止めてくれませんかHUNDOSHI! そしたらクリティカルヒットを与えてやるからさぁ!」

 

「誰がうなづくと?」

 

 ですよね!?

 

 ええい、こうなったら力押しで何とかするしかない!

 

 と、思った瞬間にふんどしの動きが止まった。

 

 え? 何一体?

 

 と、死線を向けた先にはイッセーがふんどしに組み付いている。

 

 全身から放出される気の奔流にダメージを受けているはずだが、受けた端から炎を噴出して回復していた。

 

 これはまさか!

 

「フェニックスのおっぱいで不死の力を得たのか! ええいなんというUMAだ! ちゅぱちゅぱ」

 

「うぉおお気持ち悪いから早くしてくれ宮白ぉおおおおおお!!」

 

「よしきたイッセー! 少し待て!」

 

 イッセー! お前の犠牲は無駄にしない!

 

 俺は義足の封印を解除し、出力を解放する。

 

「砕け散るがいい! これぞ俺の必殺技!!」

 

 まあ誰もが想像できると思うが、ハーデスの足を使って完成させたこの義足、当然ギミックの一つぐらい組み込んでいるのだよ!!

 

「くらえ! ハーデスありがとうございましたキック!」

 

「嫌がらせに走りすぎだから改名しろ宮白!!」

 

 あ、やっぱり?

 

 などと思いながら放たれた必殺の蹴りが、真正面からふんどしの顔面に直撃し、吹っ飛ばした。

 

 冥府の神の力を全開放する必殺攻撃。俺だって男だから必殺技の一つぐらい欲しかったんだ!

 

「ぐふぉおおおおおおおおおお!?」

 

 勢いよく吹っ飛んでいくふんどし。

 

 ふっ。さすがに神魔剣状態での子の蹴りは効くだろう。効かなかったらむしろ泣くぞ俺は。

 

「ぐぅううううう!? なんという力! だがまだ立てるぞ!!」

 

 と、壁にめり込みながらもふんどしは動こうとするが、それより早く決着がついた。

 

「させるわけがないでしょう」

 

 と、一瞬の隙をついたアーチャーが魔法陣を操作する。

 

 次の瞬間、ふんどしを中心として空間がゆがんだ。

 

「これは!? 意図的に空間を崩壊させたのか!?」

 

「そういうことよ。この人数であなたを相手にするのはどうにも不利みたいだし、このあたりで終わらせてもらうわ」

 

 確かにその通りだ。

 

 いくら神魔剣とはいえ限度というものは存在する。

 

 ハーデスを瞬殺できたのは対神武装を満載した状態で初見殺しを不意打ちで叩き込めたからであり、万全の状態だったらさすがに五分五分が限界だっただろう。

 

 圧倒的な相性差による攻撃といえど限度があるし、さすがにこれ以上は俺が持たない。正直心底助かった。

 

「いいだろう! だが気合いを込めれば脱出など容易! 気合の入れ方が足りんブロッサに先を行かれる程度のお前たちでは、このUMAへの愛を止めることはできないと知るがいい!」

 

 と、異空間に引きずり込まれながらもふんどしが自信満々でそんなことを言ってい来る。

 

 全く、二度と会いたくないがきっと会うことになるんだろうな。

 

 それまでに対策の一つぐらいは用意させてもらう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてすべてが終わった現地で、俺は久遠とナツミの近くにいた。

 

 いろいろな意味で衝撃的だったふんどしによって、ショックを受けている二人を見舞うべきだと思ったのだ。

 

「・・・ほら、ココアを入れた。飲んで落ち着け」

 

「うん。・・・美味しい」

 

 気が緩んだのか、ナツミが涙をホロリと流す。

 

 久遠もココアをすすっているが、しかしまだショックが抜けてないようだ。

 

「うそだー。一年ぐらいであの年からあそこまで持ち直すなんて、嘘だー」

 

 自分がスランプに悩んでいるところを衝撃的過ぎる強さで、相当やられたらしい。

 

 うん、まあ気持ちはわかる。

 

「あのふんどし、どれぐらい強さが戻ってるんだ?」

 

「かなり戻ってるよー。ジャック・ラカンとだって真正面から殴り合える、あの化け物っぷりが一年で戻ってるよー。ありえないよー。27から戻すなんてありえないよー」

 

 ふらふら揺れながら漏らす言葉は、よほど衝撃的だったのかかなり危なっかしい。

 

 ジャック・ラカンというのはわからんが、相当強いやつなのだろう。例えに使うのだからもしかしたら久遠をはるかに凌駕する使い手なのかもしれない。

 

 とにかくショックを受けすぎてるってことだけはよくわかる。

 

 うん、さてどうしたらいいものか。

 

「・・・見方にとってはいいことではないですか」

 

 と、俺の後ろから会長の声が飛んできた。

 

 見れば、会長はむしろ少し呆れたかのような表情を浮かべている。

 

 いや、かなり精神的にショックを受けるようなことだと思うんですけど!?

 

「か、会長ー?」

 

「つまり、あなたたちの世界の強さは、十代後半程度で成長が止まるようなものではないということでしょう。十代のあなたならもっと伸びしろがあるはずですよ?」

 

 あ、なるほど!

 

 確かに27のあのふんどしが全盛期の強さをかなり戻せたのなら、十代の久遠が戻せない道理はないか!

 

「で、でも体格が全然違うんですよー? 隊長は体つきが結構近かったからできたかもしれないけど、私は成長期すぎてるからどうしようもー」

 

「落ち着きなさい。悪魔は姿形を変えられるのです。どうしても成長が無理ならそのあたりを使って対処するという方法もあります」

 

 ・・・あ、そっちもすっかり失念してた!

 

「確かに憂慮すべき事態ではありますが、考えようによってはあなたがまだまだ自力で強くなるという余剰が示されたわけです。私としてはここはポジティブシンキングで行くべきだと思いますよ?」

 

 と、会長がニコリと微笑んで久遠の両肩に手を置いた。

 

 その感触を実感してから、久遠が顔をくしゃくしゃにする。

 

「か、会長ー。強く、なりたいですー」

 

「大丈夫。あなたの隊長が実例を示して見せたのですから、部下のあなたがそれを追いかけるのは当たり前です。・・・強くなれますよ」

 

「はいー! 頑張りますー!」

 

 どうやら、俺の出番はないようだ。

 

 だが、あのふんどしの化け物っぷりは気を付けないといけないな。

 

 強くなることを止めたつもりはないが、強くならざるを得ない事態が頻発しすぎだ。

 

 ああもう面倒くさいことになってきた。頼むからもっと心休まる時間を俺にくれ!

 

「・・・兵夜」

 

 と、ナツミが俺の袖を引っ張った。

 

「なんだ、ナツミ」

 

「あのふんどし、また来るのかな?」

 

 肩が震えているのを隠しきれてないな。

 

 俺は、とりあえずかがみこむとそっと抱き寄せる。

 

「・・・大丈夫。俺の使い魔に手を出す不届き物は、しっかりとお仕置きしておいてやるからさ」

 

「うん。うん・・・っ!」

 

 よほど追い回されたのがトラウマになっているのか、ナツミは震えながら強くしがみついた。

 

 うん。ナツミをここまで怖がらせてくれやがって。

 

 この借りは必ず返させてもらうぞ、ふんどし・・・っ!

 

 




と、いうことでウィザード編終了です。

レイヴェル版はまあシンプルに再生能力強化。ただでさえ根性とタフネスで打たれ強いイッセーに再生能力まで加わるため、壁に徹された場合実にいやらしい能力です。




そしていきなり神魔剣に拮抗する化け物が登場しましたが、これはまあこいつがチートなだけですのでご安心ください。神魔剣はオカ研側において最強クラスなのはマジです。




ふんどしがチートなのは前にも書いてましたが決定事項でした。その戦闘能力はジャック・ラカンのチョットしたぐらい。わかりやすく言うと武器を使うと弱くなるのがジャックで使った方が強いのがふんどしです。

本作品において前世基準で原作の最強クラスとぶつけて普通に勝ち目があるレベルなのは彼ぐらいデス。サミーマだって聖十大魔導「候補」ですのでマカロフやジュラと戦えば普通に負けますし、カタログスペックなら超度7の複合能力者であるベルは並びますが、以前書いた通り彼女は使い方において大きく劣るので兵部と戦えば遊ばれるでしょう。型月世界と禁書世界は強者クラスが化け物すぎるので言うまでもなく、久遠もスペックは高いですがネギと戦えば闇の魔法を使わせればいい方ですね。

ふんどしだけが、まともに勝負してもいいと思える程度の勝算をたたき出せるわけです。雷天大壮までなら普通に行けます。

最初に登場させた時点で三章終わってからぐらいに登場させて今までにないぐらいの化け物っぷりを見せつけるのは確定事項でしたが、ちょっと前の感想で言い指摘があったので、化け物っぷりを見せつけるついでに久遠に試練を与えてみました。そしてナツミにとっては山の中で追い回すというトラウマを植え付けた張本人なのでショックっぷりは見ての通り。

現禍の団でも最上位クラスの強者ですので、これからもグレモリー眷属の壁として立ちふさがってもらいます。


来年からはデイウォーカー編に突入。新年に入りまして、ケイオスワールドもヒートアップしていきます!

それでは皆様、よいお年を!!


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キャラコメ 第十四弾

夜「ハイどうも!! ケイオスワールドキャラコメもついに原作第四章!」

 

レイヴェル「こちらでは初めてになりますわね。レイヴェル・フェニックスですわ」

 

ナツミ「・・・(プルプルプル」

 

レイヴェル「ナツミさん、相当に怖がってますわね」

 

ナツミ「だって! だってこんな形であれ見るなんてやっぱり怖い!!」

 

兵夜「よしよし。俺の膝の上に乗って見ような? 俺がいるから怖くないぞ?」

 

ナツミ「うわーん兵夜ー!」

 

レイヴェル「・・・本当に、わたくしより年上なのか不思議になります」

 

兵夜「まあ、特殊な事例だから15歳のままなところが多いからなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイヴェル「アザゼル先生と小雪さんが今後の行動について話し合ってますが、学園都市は非常に危険ですわね」

 

兵夜「まったくだ。純正科学技術なのが面倒といっていいからな」

 

レイヴェル「こちらの監視を堂々と無視することができる技術力。仮にも先進国である日本の防衛網を完全に無視して爆撃や空挺降下を行えるだなんて・・・」

 

ナツミ「でもでも、これって学園都市だとろーとるなんだよね?」

 

レイヴェル「そのようですわね。これでロートルだとすると、本格的に投入されたらどんなことになるか想像もつきませんわ」

 

兵夜「因みにこの段階でいくつか伏線が張られているからよく見ておくといいぞ」

 

レイヴェル「そうなんですの!? いつの間に・・・」

 

ナツミ「でも、アーチャーもだいぶなじんできたよね」

 

レイヴェル「時々かわいい服をもらいますわ。イッセーさまに見せるととても喜ばれるんです。「エロエロなのもいいけどこういうのも乙だね」って」

 

ナツミ「ボクもよく着るよ♪ 兵夜に見せると喜んでくれるんだよっ」

 

兵夜「俺は、いいサーヴァントをもった・・・っ」

 

レイヴェル「なにも涙を流すほど喜ばなくても」

 

ナツミ「でも久遠も兵夜も恋愛だといろいろダメダメなところ多いよね?」

 

兵夜「経験ないんだから仕方ないだろ!!」

 

レイヴェル「そもそも、あんなことした後だとやっぱり気まずいのが普通では?」

 

ナツミ「そう? 全然気にならなかったけど」

 

レイヴェル「・・・常識人なほうだと思いましたけど、 やっぱりあなたもたいがいですわね」

 

ナツミ「あ、レイヴェル酷い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイヴェル「魔法使いとの契約ですが、雪侶さまは今回イッセーさまにしなかったことが意外ですわね」

 

兵夜「まあ、実利的な意味ではイッセーは薄いからな。・・・洋服崩壊(ドレス・ブレイク)とかあれ過ぎて使えたら白い目で見られそうだし」

 

ナツミ「兄妹仲いいよね?」

 

兵夜「変人度合いがひどいから気が合うんだと・・・思う・・・んだ」

 

レイヴェル「自分で言って傷つかれるのなら、お考えにならない方がよろしいのでは?」

 

ナツミ「でもでも、学園都市の技術も万能じゃないんだね?」

 

兵夜「まあ緊急で作った即席の設定なんだがな」

 

レイヴェル「そうなんですの?」

 

兵夜「行ける設定にするのもありだったんだが、大量のフェニックスとか相手にしたら勝ち目がなくなりそうだったからな」

 

ナツミ「あ、兵夜がすごい仕事してる!」

 

レイヴェル「かなり細かいところまで調べ上げたうえで練っておりますわ。・・・参考にさせていただきたいので後でご指導を」

 

兵夜「ああ、まあそれは仕方がない。俺としてもイッセーの秘書は優秀だといいからな」

 

ナツミ「あ、でもでも今気づいたけど・・・」

 

兵夜「ん?」

 

ナツミ「雪侶どうするの? 眷属悪魔になったら普通に考えて僧侶だよね?」

 

兵夜「・・・・・・・・・あ」

 

レイヴェル「アーシアさんも私も僧侶の駒。か、かぶりますわね」

 

兵夜「まずい。あいつのことだから俺の眷属になって政略結婚を狙う方向にシフトするかもしれん!! お、俺の眷属の僧侶は魔術師(メイガス)で固める作戦だったのに!!」

 

ナツミ「別にいいじゃん。一人いれば」

 

兵夜「できればそろえたかったんだよ・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイヴェル「宮白さんのレーティングゲームの傾向が読めてきそうな話ですわね」

 

ナツミ「え、そうなの?」

 

レイヴェル「グレモリー眷属のテクニックタイプの対処法を考慮してみると、宮白さまは基本的に特化型を好む傾向があるかと」

 

兵夜「まあ、必要な時に必要なことをできる人材を呼んでくるのが俺のやり方だったからな」

 

レイヴェル「それにこれまでのキャラコメからくる、万能系である自分の卑下から考慮すると、眷属は一つの武器を高めることを重視した戦力になるでしょう」

 

兵夜「現代の軍事組織と同様だ。・・・専門分野を持つ者たちが連携することによって真価を発揮する。それがある種の理想だろう」

 

レイヴェル「そういう意味では万能系は最小限で抑え、専門分野にたけた各種方面のスペシャリストを中心に編成。チームで動けば爆発力は大きいですが、個別に仕掛ければ攻略は比較的容易なタイプのチーム編成になるかと」

 

兵夜「基本的にはアウロス学園か魔術師組合で引き込むつもりだったが、まずは最低限の万能系を集める方がいいか」

 

レイヴェル「そうですわね。最低でも木場さんと宮白さんに相当する担当を用意した方がよろしいかと」

 

兵夜「・・・ふむ」

 

ナツミ「なんかすごい人選しそうでこわい」

 

レイヴェル「・・・たきつけたのは失敗だったでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「で、吸血鬼との会合だ。ここでついにゲン・コーメイが登場」

 

ナツミ「この人土壇場で作ったんだって? よくできたね」

 

兵夜「前から絶チル世界の人間は増やす方向で言ってたんだ。・・・技術を反映させづらいから数増やさないと」

 

レイヴェル「確かに、技術の習得や育成、製作品の用意ができるほかの世界を比べると難易度が高いですわね」

 

兵夜「ちょっとそのあたりのバランスが悪かったな。このあたり、次の作品当たりで調整しないと」

 

レイヴェル「それにしても、吸血鬼の側の判断に関しては冷静ですわね」

 

ナツミ「もっと怒ってもいいと思うけどね」

 

兵夜「いちいち怒ってたらきりがないこともあるからな。想定の範囲内だったから冷静だよ俺は」

 

レイヴェル「桜花さんのことは大変ですね・・・」

 

ナツミ「ホント、久遠は気にしすぎだよ・・・」

 

レイヴェル「いえあの、初めてがあれだと気になるのは当然では・・・」

 

ナツミ「で、ベルはベルで悩んでるんだね」

 

兵夜「まあ、今までフィーリングだけでやってきたわけだが、ベルは不器用なところがあるからな」

 

レイヴェル「指導してくれる人がいないのは大変ですわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「で、学園に直接襲撃をぶちかます馬鹿が出てきたわけだ」

 

ナツミ「第四章って雰囲気変わるけど、敵も変わってるよね」

 

兵夜「このあたり、リゼヴィムの性格が少しずつ出てきているな。実際危険度はうなぎのぼりだ」

 

レイヴェル「私がつかまっている間にあれですけど、一応準備はしてたんですね」

 

兵夜「警察にも話はつけてたしな。まあ、万が一の事態だったんだがまさか本当に使う羽目になるとは」

 

ナツミ「う、うにゃぁあああああああ!?」

 

レイヴェル「ああ! ふんどしが出てきてナツミさんが錯乱を!?」

 

兵夜「よしよし。やっぱ怖いよなぁ。よしよし」

 

ナツミ「だ、だだだ大丈夫! 頑張って我慢するもん!」

 

レイヴェル「それにしても、まさか最強格のキャラクターが初期の段階で出てくるとはだれも予想がつきませんでしたわ」

 

兵夜「まあな。間違いなく最強だ。・・・全転生者で総当たり戦をした場合、こいつの勝率が一番高いぞいまでも」

 

ナツミ「むっきぃいいいいい! こんなのに負けたぁああああ!!!」

 

レイヴェル「いまの宮白さんでも勝ち目がないんですか?」

 

兵夜「蒼穹剣使えば勝ち目はあるが、あれは反則だしなぁ」

 

ナツミ「あ、おっぱいだ」

 

兵夜「ついにレイヴェルまでおっぱいか・・・」

 

レイヴェル「い、いいじゃありませんの! ほかならぬイッセー様の力なんですし・・・」

 

ナツミ「ラブラブだね」

 

兵夜「まったくだ」

 

レイヴェル「・・・そちらこそ、これで桜花さんの悩みもだいぶ解決してよかったじゃないですか」

 

兵夜「結果オーライとはこのことか。いろいろ規格外なのがこんな形で役に立つとは」

 

ナツミ「これでまたみんなで仲良しだねっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイヴェル「それでは今回はこのあたりで。次回は課外授業のデイウォーカーですわ」

 

ナツミ「僕も続投だよっ」

 

兵夜「そういうわけで、次回もよろしく!」



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重大なお話となかがき第二弾

いろいろ考えたんですが、少し今後の展開で重要なお話をさせていただきます


 

兵夜「はい! それではお祭り企画、ケイオスワールドなかがき座談会へようこそ!」

 

イッセー「宮白! なんで俺たちがこんなことしてんだ!?」

 

兵夜「まあちょっといろいろとあってな。ケイオスワールドの更新をいったんストップしようということになってんだよ」

 

イッセー「ストップ!? なんでだよ、定期感想くれる人も結構いるし、評価だってそこそこあるじゃねえか! やめる必要ないだろ?」

 

兵夜「やめるんじゃなくて止める。っていうかある意味お前のせいだぞ?」

 

イッセー「へ?」

 

兵夜「龍神化の代償だよ龍神化。・・・おまえベリアル編でなんかとんでもないことになってんじゃねえか」

 

イッセー「ああ、そういえば俺って一体どんな代償払わされたんだろうな? 結局あの話じゃ出てこなかったよな」

 

兵夜「そういうことだよ。あれが分かるまではいったん様子見しておかないと、調子ぶっこいて進めて行き詰ったらあれだろ? できれば完結したいじゃねえか」

 

イッセー「あ~。二次創作って原作ありきだからこういう時大変だよな。で、つまり21巻出るまではいったんストップってわけか」

 

兵夜「そういうこと。ま、さらにそのあと一巻だして四章簡潔だっていうし、そこまで様子見したほうがいいかもしれないがな」

 

イッセー「作者も大変だな。確かにここまで長いこと進んだし、完結出来たらそれに越したことはないよな」

 

兵夜「一応フィフスとの最終決戦の大まかな概要はできてるから、最悪無理やりぶっこむって方法もあるが、それはできればやりたくないしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセー「で、まあ俺たちがいろいろだべりながらケイオスワールドを振り返るって話だけど、お前ってオリ主な割に最初弱かったよなぁ」

 

兵夜「うっせえ、作品コンセプト的にあまりチートを叩き込めなかったんだよ。作者はそういうタイプをあまり好まないしな」

 

イッセー「ああ、ケイオスワールドの最初も「神様転生の展開ってツッコミどころ多くね?」とかだったんだったよな? で、納得できる形を作ってみたらこうなったと」

 

兵夜「そういうこと。だからそれに一番忠実な俺は生前の成果だけなら転生者でも最低基準ってわけだ。下級堕天使にだって苦戦するレベルだしな」

 

イッセー「その分俺よりもっと上乗せしまくった結果、いつの間にやら神様だもんなぁ。作品作るのって難しいっていうか、そもそもインフレ激しいD×Dだから更に大変だよな」

 

兵夜「全くだ。それでヒロイン組の方が本来のスペックなら次元違いばっかりだからな。モテる男としては追いつくのが大変だ」

 

イッセー「しっかしこういう作品って、俺の出番とか削られることとか多いと思うけど、なんていうかいろいろ多いよな。むしろ生徒会の眷属とかサイラオーグさんの眷属とか原作より出番増えてね?」

 

兵夜「それは作者の意向だな。作者は基本的にD×Dはイッセーを筆頭に大好きだから、オリジナル要素を入れたことで原作キャラが割りを食う展開は避けたかった」

 

イッセー「その分敵も増やして宮白たちが相手してる分を増やしたってわけか。生徒会とか桜花さんのおかげでむしろパワーアップしてるからなぁ。六巻の話とかホントに助かったぜ」

 

兵夜「いかに俺に主役を晴らせてイッセーを立てるか、ってことを常に気にして書いてるそうだ。二次創作は原作ありきって形を特に意識してるのがケイオスワールドだな」

 

イッセー「なるほどなぁ。でもその分宮白がホント最初は大変だった。二巻の時とかライザー倒せたはずなのに結局邪魔が入ったし」

 

兵夜「あれはイッセーが決めてこそだしな。その分俺はしっかり役目は果たしたぜ?」

 

イッセー「あの時は本当にありがとうございました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセー「そういえば、転生者だけじゃなくて完璧D×D世界側のオリジナルキャラクターも結構いるよな。雪侶ちゃんもそっち側だし」

 

兵夜「正直キャラを作りすぎたと反省してる部分も多いそうだがな。転生者だけっていうのもあれだと思ったらしい」

 

イッセー「転生者の家族関係が苦労してるってのも結構珍しいよな? っていうか宮白ふくめて俺たちのが割って全員アレなところがあるような・・・」

 

兵夜「そこも気を使ったところだ。実際に転生なんてものを経験すれば、人格面に悪影響だってあると考えたそうだ」

 

イッセー「特に宮白がひどいけどな。もう少し俺の好感度下げてくれたっていいと思うぜ? ぶっちゃけキモイ」

 

兵夜「お前が覗きを封印したら考えてやろう」

 

イッセー「難易度たけえ! そういえば、グランソードさんたちって意外と人気あるみたいだよな」

 

兵夜「アレは結構考えたキャラだからな」

 

イッセー「「小物じゃない敵キャラ」だったっけ? 確かにザムジオもエルトリアもシャルバたちよかよっぽど魔王にふさわしいと思うな。・・・結構あれだけど」

 

兵夜「っていうか、ベクトルは違ってもサーゼクスさまたちもあれだろ」

 

イッセー「それは確かに! でもまあ、俺たちの敵ってなんていうか小物が多かったよなぁ。シャルバとかディオドラとかまさに小物って感じだし、曹操も敵のころはよくわかんないところあったし」

 

兵夜「あれがD×Dの数少ない欠点だというのが作者の意見だからな。基本的に小物かポッと出だけだろ、D×Dの敵キャラ」

 

イッセー「だからフィフスはかなり初期から今まで出ずっぱりなのか。しかもどんどん強くなってくるから俺たちまだ倒せないし。ほかの転生者も一回目じゃ倒されてくれないし」

 

兵夜「味方が強くなるなら敵やモブだって強くなる。冷静に考えれば当たり前だしな」

 

イッセー「ホント大変だぜ。俺たちの周りって強い連中が多くてよぉ」

 

兵夜「主役の運命ってやつだ。あきらめろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセー「そういえば、俺は宮白が素っごくうらやましいと思う時がいっぱいある」

 

兵夜「なんだよ一体」

 

イッセー「だってそうだろ! 宮白の周りの女の子って、好きって示してストレートにアプローチしてくることがほとんどじゃねえか!! いらねえんだよ、エロゲーの共同プレイとか秘蔵のAVの鑑賞会とか!」

 

兵夜「いや、俺は小雪と時々するんだけど」

 

イッセー「それはキャラ的に問題ねえんだよ! 俺はそういうのないから大問題なの!! 桜花さんに始まって宮白の周りって普通に告白してから行動するから安心なんだよ! リアスたちにも見習わせたい!!」

 

兵夜「いや、アーシアちゃんは結構普通に好意示してただろうが。あれで気づかないお前も悪いっちゃ悪いぞ。いくらなんでも気づけよ。知ったときさすがに呆れたわ」

 

イッセー「うるっせえよ! でもなんていうかリアスたちもそうだけど個性的だよなぁ」

 

兵夜「そりゃ文字だけで個性出さなきゃいけないんだからキャラにアクが出なきゃ難しいだろ。そういうの抜きで個性出せる作者とかすごいよな」

 

イッセー「ああ。でも結構参戦作品多いけど、よくここまで出せたよな」

 

兵夜「ああ、まあ結構いろいろと二転三転してたりしてたみたいだけどな」

 

イッセー「そうなの?」

 

兵夜「まあ、結構勢いもあったからなぁ。ほんと、よくここまで続いたもんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセー「しっかし続きはいつになるんだろうな」

 

兵夜「ま、安心しろよ、ちゃんと続きは作るつもりだしな」

 

イッセー「まじ!?」

 

兵夜「前から外伝的なものを作りたいとは思ってるみたいだし、もしかしたら一つぐらい作るかもしれないぜ? ・・・小雪の過去とか本編で出すにはハードすぎるし」

 

イッセー「あ、ああ、なるほど。確かに無理そうだ」

 

兵夜「ここまで来たならぜひ完結までもっていきたい。と、言うわけでエタる気はないからそのあたりは安心してくれ」

 

イッセー「原作に負けずに燃える展開ってやつだな!」

 

兵夜「と、言うわけでケイオスワールドはいったんクーリングタイム。原作がたまってからしっかり再開するから安心してくれ!」

 

イッセー「俺も宮白もまだまだ頑張るから、皆、待っててくれよな!!」

 

兵夜・イッセー「「ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールドを、これからもぜひご贔屓ください!」」

 

 




と、言うわけで、一時更新をストップします。


原作の展開が急展開なので、そのあたりの様子を見ずに一気に進めると収拾がつかなくなってエタりそうな気がしてまいりました。


このあたりで設定の部分もちょくちょく見直しながら、今後の展開を待ってみようかと思っております。出来をよくして終わらせられるようにするための準備期間と思っていただけると嬉しいです。


ここまで来た以上看板作品であるケイオスワールドは是非終わらせたいと個人的にも思っております。やっぱり完結させた方がいいですからね。


それでは、次の話ができるまで長い目でお待ちいただけると嬉しいです($・・)/~~~


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課外授業のデイウォーカー
波乱、巻き起こりそうです!


お待たせしました!!

ルシファー編もでたことですので、少しずつ連載再開していこうかと思っております。


 

 部長たちがルーマニアに旅立ってから数日後。俺は風呂に入りながら一息ついていた。

 

 ああ、部長たちには悪いが俺は今心底充実している。

 

 なぜなら・・・。

 

「ひょ、兵夜くんー?」

 

「いいからほら、あーん」

 

 ふんどしのショックが強すぎたおかげで、久遠がこっちに対する暴走をようやく収めてくれたからだ!!

 

 今は水着姿で一緒に風呂入ってます! やっほう!

 

「ほらアーンしろあーん。今日のために作ったバーベキューだぞ?」

 

「ひょ、兵夜くんいろいろと暴走しすぎてないー!? は、恥ずかしいからー」

 

「なんだよ、別にいいじゃねえか俺たちしかいないんだからさぁ」

 

「全くだ。ファックに恥ずかしがってるからこいつがエスカレートしたんだろうが。ほらあきらめてあーんしろ、あーん」

 

「小雪さんまでしなくていいからー!」

 

 もちろん小雪たちも一緒に入っている。

 

 こういうのは仲良くやらないとだめだからな。あったり前田のなんとやらだ。古いか。

 

「久遠ちゃんがいつまでたっても近づいてくれないので、兵夜さまも不安だったんですよ? ほら、あーんです」

 

「あれ? 久遠いらないの? だったらボクが食べる! あーん!」

 

「ベルさんもナツミちゃんも乗らないでー! まだちょっと恥ずかしいんだからー!」

 

 と、久遠が思いっきり顔を真っ赤にする。

 

 ・・・かわいいなホント!

 

「食べないなら口移しで食べさせてやろうかなぁ?」

 

「ひょ、兵夜くんワルノリしすぎー! また逃げるよー!?」

 

「ごめんなさい!」

 

 それは困ります!

 

「・・・うん、私も逃げててごめんねー。あと、助けてくれてありがとうー」

 

 と、久遠は顔を赤くしながらも俺に抱き付いてきた。

 

 ・・・柔らかいです。女の子の体。

 

 思わず抱きしめ返しながら、俺は思いっきり堪能する。

 

 うん、これが、俺の女の感触だ。

 

「・・・ったくファックに心配させやがって。無駄に心配したこっちがバカみたいじゃねえか」

 

「うんうん。ちょっと見ててハラハラしてたんだよ」

 

「これで一安心です。面倒事の前に問題が一つ解決して実質安心しました」

 

 小雪にもナツミにもベルにも心配をかけた。

 

 うん、俺も一安心だ!

 

「と、言うわけでここ最近の分を取り戻すべくイチャイチャするぞ! ほら抱き付くぜ!」

 

「わーい抱き付かれたー!」

 

「抱き付かれたじゃありません!!」

 

 と、勢いよくドアを開けてロスヴァイセさんが乱入してきた!?

 

「・・・なんだよファックな展開だな。どうしたんだいったい?」

 

 と、小雪が酒を飲みながらそう返す。

 

「未成年なんですからせめて隠すとかしてください小雪さん。・・・じゃなかった。残念ながら問題が新たに発生しました」

 

 と、顔を少し赤くしながらロスヴァイセさんが告げる。

 

「吸血鬼側で問題が発生したようです。リアスさんから救援要請が届きました」

 

 ・・・やれやれ。どうやらゆっくりするわけにもいかないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーSide

 

 宮白がお風呂でイチャイチャしていたころ、俺は別の場所でアーチャーさんに呼び出されていた。

 

「・・・アーチャーさん。なんでアーシアたちはアプローチがおかしいんでしょうか」

 

「別にあの子たちだけの話ではないと思うけれど」

 

 さらりと言われたよ。

 

「まあ兵夜側と比べるとアレなのは認めるわ。・・・その分社会的なダメージは兵夜の方がひどいのだからあなたたちバランスがとれてるのでないかしら」

 

「それでもやっぱりうらやましいです」

 

 なんで女の子と裸でエロゲしなければならないのかすっごく疑問。

 

 違うんだよ! エロゲってのはもっとこう・・・あれだよ!!

 

 君たち教会出身なんだからもっとこう清楚にならない? 部長たちと同じ方向性はそれはそれでうれしいけどこういうのは求めてないんだよ!!

 

「それより、パワーアップの検査をしなければいけないわ。手を出しなさい」

 

 と、俺はブーステッド・ギアを出して左腕を検査させる。

 

「で、これって一体どういうことなんでしょうね」

 

「正直調べてもわからないとは思うけれど、だからといって調べないわけにもいかないでしょう」

 

『まあ同感だ。正直相棒のパワーアップは理屈にすることが間違っている気がするしな』

 

 うるせえよドライグ!

 

 まあ、正直どうした理由でパワーアップしているのか全く分からない。

 

 なんでオッパイを犠牲にして新たな力が手に入るんだろう。どういう理屈なんだ?

 

 ああ、先代の赤龍帝たちがいたらわかったんだろうか。いや、あの人たちは面白がって理屈は作らないと思う。

 

 と、検査されている最中に朱乃さんたちが入ってきて、いつの間にか検査しながらお茶するタイミングにまでなってしまった。

 

「あらあら。アーシアちゃんたちは面白いアプローチですわ。私も真似してみようかしら」

 

「勘弁してください朱乃さん! 俺は正直あのやり方は困るのですが!」

 

「確かにそうだね。・・・正直同情するよイッセーくん」

 

 木場が心底同情してくれた。

 

 本当に、エロゲーは一人で静かにやらせてください。間違っても異性と一緒にやるものじゃないんです!

 

 エロビデオとかエロゲーには味方ってものがあるんですよ! 女と堂々とみて楽しむようなやり方、宮白だってしないって!

 

「あらあら、小雪は兵夜くんと一緒にAVを肴に酒を飲んだとか言ってましたわよ? なんでもネタに走った作品だったとか」

 

「アイツなにしてんの!?」

 

 いや、冷静に考えるとあの二人ならネタにできるのか!?

 

 くそ、前例を作られたら俺が断れないじゃないか!

 

 あのアブノーマルめ! 俺のことを考えてくれ!!

 

「まあいいわ。・・・それより報告が入ったわよ」

 

 と、アーチャーさんがいつの間にか魔法陣を展開させていた。

 

「どうやらルーマニアで動きがあったみたいね。リアスが私たちを呼んでいるようよ」

 

「マジですか!? やっぱり気やがったのかよ!」

 

 正直来るとは思ってたけど、やっぱり来やがったか。

 

 いいぜ! こうなったらルーマニアでもオカルト研究部の名前をとどろかせてやる!!

 

「それはともかく、再調整を行う必要もあるから少し待ちなさい」

 

「あ、はい」

 

 あら、意外と幸先が悪いかこれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、ルーマニアに移動することはほぼ確定だった。

 

 どうやら吸血鬼のツェペシェ領で揉め事が起こったらしい。これをどうにかしなければどうしようもないだろう。

 

 と、いうことで俺はいま荷造りをしている。

 

「・・・なあアーチャー。この温泉の元はやはり持っていくべきだろうか? 貴族指向の吸血鬼領ならそこそこの風呂はあるよな?」

 

「いや、確かに使わせてもらうけどほかにもっていくものがあるんじゃないかしら?」

 

 と、荷物を詰め込みながらアーチャーがそうツッコミを入れてくる。

 

 だって絶対いろいろと揉め事がおきそうだから、いろいろとリラックスグッズは必要だと思うんだが。

 

「・・・だけど、まあ退屈しない聖杯戦争ね。文字通り世界をまたにかけた戦いなんてそう経験できるものでもないわ」

 

「それは同感。俺、この数か月で今までにないぐらいいろいろなところ行ってるよ」

 

 冥界なんて普通行けるわけないからなぁ。ほんと、退屈だけはしないというかできない戦いだ。

 

 前世じゃ聖杯戦争なんてありえないと思ってたが、まさかそんな俺がサーヴァントを召喚して聖杯戦争を行うとは思っても見なかった。

 

 そう思うと、ふと思い立った疑問が気になって少し聞いてみたくなった。

 

「・・・なあ、アーチャー。お前本当に聖杯に興味がなかったのか?」

 

「なによ突然。どうしたの?」

 

「いや、この聖杯戦争のシステム的に、本当に聖杯に興味がないんだったら呼ばれることはないと思うんだが」

 

 実はそのあたりが結構気になってた。

 

 現世の生活に興味があるという理由でも、聖杯戦争でも無ければ呼ばれることはないんだからまああり得るんだが。

 

「・・・まあ、しいて言えば一つあるわね」

 

 あ、やっぱりあるのか。

 

「だけどそれは無理だわ。この聖杯の力では無理がある。だから言うつもりもないわよ」

 

「マジか。結構無茶が効くと思うんだがな、この聖杯は」

 

 それでも無理とかどんな難易度なんだ?

 

「ほら、そんなくだらないことを言ってないで荷造りの準備をしなさい」

 

 おっと、それはそうだった。

 

 荷造りの方に意識を戻した時、ノックが聞こえてドアが開いた。

 

「兵夜くん、いるー?」

 

 と、久遠が入ってきた。

 

「あら、シトリーの学校建設の方があったから忙しいのではないかしら」

 

「いやいやー。愛人の仕事には手伝いに行くぐらいしますよー」

 

 と、、アーチャーに返しながら久遠が部屋に入ってくる。

 

「どうしたんだよ。教師の仕事もあるから忙しいだろ? こっちのことは気にしなくてもいいんだぞ?」

 

「いや、愛人としては少しぐらい手伝いたいしねー」

 

 と、言いながら荷物をまとめるのを手伝ってくる。

 

 何となく会話をつなげづらく沈黙していたが、やがて久遠がポツリとつぶやいた。

 

「いろいろごめんねー」

 

「?」

 

 俺はちょっとよくわからなかったが、久遠は少し頬をかいた。

 

「いや、ほんと最近逃げっぱなしだったしねー」

 

「ああ、確かにあれは大変だった」

 

 ホントに気に徹されたせいで追いつけなかったしなぁ。

 

 パクティオーカードの召喚機能で呼び出すという手もあったけど、さすがにそれはアレな気がしたし。

 

「・・・隊長、来るかもしれないから気を付けてねー」

 

「ああ、大丈夫だ。・・・次は全員総出で叩き潰す」

 

 アレは危険すぎる。

 

 まさかあの山で出会った変態があそこまでの強敵になるとは思わなかった。

 

 今度会ったら、叩き潰す。

 

「まあ、さすがにいきなり遭遇とかはないとは思うけどな」

 

「だよねー。さすがにルーマニアにはいかないでしょー」

 

 うん、だといいよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこ、フラグだとか言わない。

 

 

 




・・・オリジナル展開は正直いまだに考え中だったり。









なんかイッセーにダークサイドが見えている感じがして、今の展開だと兵夜ともめそうだよなぁと不安だったり。さらに次の巻が4章のエピローグらしいですし、今のうちにオリジナル展開の方向を組み立てながらその時に判断しようかと思っております。

因みにオリジナル展開になった場合ベリアル編から一気に最終章へと意向。規模的にもかなりはでに行くことになると思います。


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年寄りのハイテンション、迷惑です!!

 

 

 

 

 で、いざ転移する段階に到達したわけだ。

 

「では行こうか」

 

「いや、ちょっと待とうか」

 

 差も当たり前であるかのように魔法陣の上に入ったゲン・コーメイに、俺は素早く突っ込みを入れる。

 

「行くのはグレモリー眷属にナツミ、ベル、小雪だけのはずだぞ。なんでお前まで参戦するんだ」

 

「・・・これは敵地への潜入なのだろう? モルドレッドはそういうグレーゾーンの行動が主任務だからな。支援ぐらいはできるはずだ」

 

「え? なんでそんな人が駒王町に来てるんですか!?」

 

 思わぬ前歴に、ついイッセーがそんなツッコミを入れる。

 

 だがまあ、それについては俺はよくわかるぞ。

 

「大方、反感を抱いた教会戦力が仕掛けてくることも視野に入れたということだろうな。内輪もめ対策が万全と」

 

 まあ不満が爆発すれば高確率で現場のここもやり玉にあがるだろうからなぁ。

 

「まあそういうわけだ。可能な限りこちらで対処するが、もし抑えきれなかったときはよろしく頼む」

 

 うへぇい。嫌なこと聞いた。

 

 頼むから、吸血鬼騒ぎが収まるまでは暴発しないでくれよなぁ。

 

 と、イッセーがレイヴェルに詰め寄られている。

 

 ・・・話を聞いてみたら内容は完璧にマネージャーのそれだった。どんだけだよ、乳龍帝。

 

「・・・んじゃ、こっちは任せたぜ、久遠」

 

「うん、わかってるよー」

 

 久遠もだいぶ調子が戻ってきたが、しかし敵もすごいのが出てきたら結構不安だ。

 

 だけどまあ、こいつのことだから何とかするんじゃないかって思ってしまうあたり、俺はこいつのことを買ってるよな。

 

「じゃ、いってらっしゃいー」

 

 と、久遠がめを閉じて顔を近づける。

 

 ったく、俺の女は本当に甘えたがりなことで。

 

「はいはい。言ってくるよ・・・」

 

 軽く口づけをかわして、俺は魔法陣の中央に行く。

 

「ルーマニア土産は期待しとけ。美味いもん買ってくる」

 

「うん! いいの待ってるからねー」

 

 そして、転移の光が強くなったとき、肩からナツミが這い上がってきた。

 

「久遠ばっかずるい! ボクもする!!」

 

「え? じゃ、じゃあ実質私たちもでしょうか小雪ちゃん!?」

 

「いやいらねえから、ルーマニアついて部屋まで言ってからで十分だろうが、ファック」

 

 それは部屋付いたらおまえの分もということですか!? 俺の女たちは俺に対するキスアピールが激しいぜ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでルーマニアについて移動中。

 

 因みにゲンとルガールさんとベンニーアは別行動中だ。この寒い中ご苦労さんというほかない。今度美味いものでも作ろう。

 

 で、そこで俺たちが知ったことは結構衝撃的だった。

 

 ・・・今向かっているのは男の真祖を尊ぶツェペシェ家なのだが、その当主になったのがギャスパーの恩人であるヴァレリーだというのだ。

 

 誰が聞いても傀儡政権だとしか思えない。明らかに聖杯で担ぎ上げられているとしか言いようがないだろう、コレ。

 

「それでアザゼル。・・・実は禍の団の現トップについて推測できてるんだが、採点を頼む」

 

『まあお前なら推測ぐらいはしてると思ったよ。こっちもヴァーリがつかんでるんで大体は把握してる』

 

 電話越しにアザゼルが溜息をついた。

 

 まあ気持ちはわかる。想定通りならややこしいことになりそうだからな。

 

「現在のトップはヴァーリの親族だな? 少なくともルシファーの血縁なのは間違いないだろう」

 

『正解だ。因みに性格も間違いなく最悪だ。わっかりやすい腐敗貴族のシャルバたちのほうがまだかわいげがあるぜ』

 

 苦虫をかみつぶしたかのような口調なあたり、マジで面倒な奴のようだ。うわぁ、また面倒そうな奴が出てきたよほんと。

 

「なんでわかったんですか、宮白くん」

 

「いや、ルキフグスってもともと旧魔王派でルシファーに仕えてましたから。必然的に奴が禍の団にいるなら旧魔王ルシファーを連想しただけですよ」

 

 とはいえ実際にそうならややこしいことになりそうだ。

 

 今まで表に出なかった旧ルシファーの関係者。しかもシャルバたちとは違ったタイプなら何をしでかすかわかったもんじゃない。

 

 さて、どうなることかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・とりあえず、車の移動を終えて今はツゥペシェ領へ向けて移動中。

 

 そろそろ警戒を強くした方がいいが、さてどうしたものか。

 

「ねえ兵夜。暇だから勉強教えて?」

 

 と、ナツミがノートを持って肩をつついてきた。

 

「ん? こんなところでも勉強か?」

 

「うん。だって駒王学園って難易度高いんでしょ? 勉強できる時にしとかないとね」

 

 意外と勤勉なことで何よりだ。・・・だけど大丈夫だろうか。

 

「あ! 兵夜受かるって思ってないでしょ!!」

 

「だって前の学力テストがなぁ。駒王学園は難易度高いんだぞ?」

 

 勉強だってなんだかんだで難しい方なのだ。うちのメンツはこの忙しい中難なく高得点たたき出しまくってるが。

 

 そりゃテストなんて教科書丸暗記できれば赤点なんてそう簡単には取らないが、ナツミの場合基礎学力が結構アレだからな。

 

 いや、吸収速度は確かに目を見張る者があるんだ。嫌がってる割にはなんだかんだでこんな風に勤勉だし、目に見えるほど上達している。

 

 上達してるんだが追いつけるかどうかが結構ギリギリなんだよなぁ。

 

「本気で入学するなら勉強プランも見直したほうがいいか、ついてこれるか?」

 

「もちろん! 兵夜たちと一緒の学校に通いたいもん! 頑張るよ!」

 

 胸を張って気合いを入れられては断るわけにもいかん。

 

 こうなったらできるところまで付き合ってやるとしますか。

 

「そっか。じゃあ理系はあたしが教えてやるよ。兵夜だけにやらせても大変だろ」

 

「・・・・・・・・・・・・さ、差し入れはいっぱい買ってきますね!」

 

 理系は異様にできる小雪は頼もしい。ベルも気合いは十分で何よりだから、一緒に勉強しようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてまあ、吸血鬼の城に到着した俺たちを待っていたのは、まあある程度予想できていたけれど外道だった。

 

 今俺の眼の前にいるのは、明らかに正気度が低いギャスパーの恩人ヴァレリー・ツェペシェ。

 

 とはいえここで大暴れしたらさすがにマズイ。敵の本拠地ど真ん中では多勢に無勢すぎる。

 

 しかも後ろの方には邪龍最強とか言われるクロウ・クルワッハとやらまでいる始末だ。

 

 さすがにこれはマズイなオイ。

 

「・・・おいどうする。これやっぱあれだろ、邪龍っていうとグレンデルとかも一枚かんでるだろ」

 

「噛んでるだろうなぁ。こと起こすときはあいつも出てくるだろうなぁ」

 

 小雪と一緒に思わずぼやくが、ああ、これはマジで厄介な部類だ。

 

「まあ、そのあたりはあえてぼかしておくとしましょうか」

 

 と、今回のクーデターの首謀者、マリウス・ツェペシェが余裕の表情でそんな舐めたことを言い放った。

 

 クロウ・クルワッハの存在があるからか、もう隠す気ゼロで禍の団の関与をほのめかしながらのこの態度。うわあ、殴りたい。

 

 だがこの手のタイプはある意味厄介だ。

 

 プライドと権威に凝り固まった貴族主義の中に、堂々とおのれの欲望のために動く奴が一人かかわっているだけで組織に変化が生まれている。

 

 たぶんほかにも切り札の一つぐらい持っているかもしれんし、何より俺たちの性格をよく理解しているな、こいつは。

 

 ここで下手に動けばヴァレリー・ツェペシェを人質に取られる可能性すらある。そうなれば俺はともかくほとんどのメンバーが動けんだろう。

 

 最悪俺が汚れ役を引き受ける必要もあるだろうが、それはさすがに気が早い。

 

 ここはさすがに様子見に徹しておくとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ねえ、殴っていい時になったら言って。いやホント顔が変形するぐらいぶん殴りてぇからよ」

 

「わかったわかった。タイミングつかめたら一声かけるからそれまで我慢な」

 

 胸糞悪い光景にストレスたまりまくっているナツミをなだめつつ、俺たちは与えられた部屋へと移動している真っ最中だ。

 

 しかし面倒な展開だ。今までとは違いクーデターが起きたとはいえ一国を敵に回しかねないってのはまた違ったややこしさだ。

 

「宮白、実は裏で手をまわして工作部隊を派遣しているとかしていないのか?」

 

「ゼノヴィア、お前は俺を何だと思ってる!?」

 

 すごいこと聞かれてさすがに驚いたぞ。

 

「俺にだってできることとできんことぐらいある。今まで一度も手を伸ばしていないルーマニアの秘匿された勢力に手勢を送り込めるほどの能力はないって」

 

「そうなの? 宮白くんのことだからグランソードの勢力を何人か送り込んでゲリラ戦をする準備ぐらいできてると思ってたわ」

 

「・・・あながち否定できないのが宮白先輩の怖いところですね」

 

 イリナや小猫ちゃんにまで言われてしまった。イリナはともかく小猫ちゃんにまで言われてしまった。小猫ちゃんに言われちまったよ。

 

 三回言っちゃうぐらいショックだ。俺そんなにテロリストじみた能力を期待されちゃってる?

 

「自業自得だ。今までやってきたファックなやり口思い返せ」

 

「すいません。実質フォローが・・・」

 

 小雪はあきれるしベルもフォローしてくれない。

 

 ・・・少し見直したほうがいいだろうか。いや今更方針変換しても人がついてこないような気もするしなぁ。

 

「で? ヴァレリーってのはご主人の魔術関係でどうにかなんねえのかよ」

 

「精神干渉の応用で事後のフォローならできる気もするが、行けるか、アーチャー」

 

「どうゆがんでいるかがわからないと難しいわね。アザゼル、専門家からの意見が欲しいのだけれども」

 

「ああ、俺もその辺は考えてたが、とにかくヴァレリーにこれ以上聖杯を使わせないことが一番大事だからな・・・」

 

 と、アザゼルの口が急に止まった。

 

 同時に気配も変わっている。

 

 明らかに警戒というか嫌悪の感じだが、前に誰かいるのか?

 

「宮白、お前の予想の人物が今目の前にいるぜ」

 

 なんだと?

 

 視線を前に向けると、そこにはやけにヴァーリに似た中年の男が、サーゼクス様を思わせる服装に身を包んでこっちを見ていた。

 

 なるほど。こいつがルシファー血族か。

 

 と、思った瞬間目の前におっさんのドアップ顔が映った。

 

「うぉわぁあああああ!?」

 

「うっひょぉおおおおお!! 君は宮白兵夜くんじゃねえかい!? サインしてちょ! おじさん君の大ファンなんだよね!!」

 

 思わず飛び退って距離を取る中、嫌がらせ100パーセントで色紙まで出してきやがったぞこのオッサン!!

 

「おいアザゼル! このヴァーリの関係者は一体何もんだ!!」

 

「リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。旧魔王ルシファーとすべての悪魔の母、リリスの間に生まれたサーゼクスやアジュカと並ぶ超越者の1人だよ。ちなみにヴァーリの祖父だ」

 

 心底うんざりしながらも、何気に意外そうなものを見たような表情でアザゼルがそう説明してくれる。

 

 やっぱりヴァーリの関係者かい! っていうかマジ面倒なんだがねえ。

 

「へいへい。とりあえずサインはくれてやるからとっとと失せろ。長旅で疲れてるから相手したくないんだよこっちは」

 

「おっほぅダウナー。おじさんこれでも今の禍の団の指導者よぉ? ここで倒して世界の平和をとか燃えちゃわない? 燃えちゃわない?」

 

 ふざけた物言いで挑発してくるが、悪いがそんなことをするつもりはない。

 

「大方ツェペシェ家との同盟でも結んでるんだろ? 今の戦力で挑む気はねえよ。後ろの助っ人さんも怖いしな」

 

 一間チャンスだが、しかしこいつの後ろにいる奴が危険だ。

 

 ほかの連中も気づいているみたいだが、オーフィスそっくりなロリッ子がぼけっと突っ立っている。

 

「オーフィスの力をオーフィスそっくりにするとはどういう趣味だ。コードネームは一体なんだよ。オーフィス2とかしょぼいセンスじゃねえだろうな」

 

「そんな古いアニメみたいな名前は付けねえよ。俺の母親からとってリリスってつけたんだ。どう? お人形さんみたいでかわいいだろぉ?」

 

 リゼヴィムは愉快そうに笑いながら、リリスを引き寄せて自慢するかのように見せつける。

 

 ・・・こっちがオーフィスと仲良くやっていることすら想定したうえでの挑発か。イッセーアタリが割と本気でビキビキいってるからやめてくれないだろうか。

 

「イッセー抑えろ。今ここで吸血鬼と全面戦争するのは極力避けたい。やるならもうちょっと追い込まれてからかカーミラが動いてからだ」

 

「隠す気ない敵意がびりびりきて気持ちいいZE! いいねえ、やっぱりこうでなくっちゃ」

 

 リゼヴィムはそういうと俺たちをすれ違って離れていくが、やけに興味深い視線を何人かに向ける。

 

 相手はナツミにベルに小雪。・・・俺にサインを求めてきたこといい、転生者に興味でもあるのか?

 

「アンタらとはこれからもお話したいけど、俺もこれでも忙しいんでね。今日のところはマリウス君を優先させてもらうぜっと」

 

 不吉なことを言い残すな、この野郎。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佑斗SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マリウス・ツェペシェとリゼヴィム・リヴァン・ルシファー。

 

 不吉すぎる二人の諸悪の根源と会話した後、僕たちはギャスパーくんの父親と話すことができた。

 

 そこで聴いた事実は、少し衝撃が走る内容だった。

 

「あれで少しっていうあたり、お前らホントに身内に甘いっつーか器がでかいっつーか。ファックなことにはなってねえからいいんだけどな」

 

 小雪さんは苦笑しながらワインを飲んでチーズをつまみながらそうまとめる。

 

 まあ、確かに人によっては受け入れがたい事実ではあるだろうけどね。

 

 彼がいうには、ギャスパーくんは生まれたとき人の姿をしておらず、それどころか産婆たちを呪殺するほどの呪いの塊を持っていたとのことだ。

 

 僕達はてっきり時間停止の能力を危険視されたことで虐げられてきたかと思っていたけど、それ以上の衝撃があったのは仕方がないことだろう。

 

 正直にいえば、僕たちからすればそこまであわてるほどのことではない。

 

 確かに何度か邪悪な力を噴出させてはいるけれど、ギャスパーくんは決して仲間である僕たちに危害を加えたわけではない。

 

 彼がどんな存在かはわからないが、今は僕たちの大切な仲間だ。そこは決して変わらない。

 

 イッセーくんや部長もそう断言したんだ。僕達がそれに続かないでどうするんだ。

 

「ギャスパーくんがかわいい後輩であることはなにも変わりませんもの。それとも小雪はそう思ってませんの?」

 

「あたしは駒王学園にかよってねえっつーの。ま、ファックに思うつもりもねーけどよ」

 

 朱乃さんに酌をされて上機嫌な小雪さんも、ギャスパーくんに不快な感情を持っているわけではない。

 

 故郷ではひどい目に合ってきたギャスパー君だけど、今は僕たちがその分大切にするだけだ。

 

「まあ、それについてもある程度のアタリはついているのだけれどもね。・・・予想通りだとするならばリアスのめぐりあわせの強さは超越者といっていいのではないかしら」

 

 と、同じくワインをたしなんでいたアーチャーさんが、資料に目を通しながらさらりと問題発言を言い放った。

 

「・・・アーチャー。あなたもう推測がついてるの!?」

 

 まさかすでにあたりを付けているとは思わなかったのだろう。部長は口をあんぐり開けて呆れているのか驚いているのかよくわからない表情を見せた。

 

「聖杯がヴァレリー・ツェペシェにあることが重要でしょうね? あれだけの影響を術者に与えるのだもの、おそらく無自覚にでも様々な影響を周りに及ぼす可能性があるわ」

 

 ここで彼女がかかわるのか? だけど一体何が。

 

「ヨーロッパは強力な存在が数多い。ギリシャ神話然り北欧神話然りケルト神話然り。そして滅びた存在も数多いわ」

 

 確かに、ギャスパーくんの神器の名前の元となったバロールも滅びた神格だ。実際に滅びてしまった存在も数多い。

 

「おそらくそれらを聖杯が呼び寄せたのでしょう。すぐ近くにあれだけの強力な神秘があれば魔術師(メイガス)の理屈的には強力なものを引き寄せる、もしかしたらバロールの力を宿しているのかもしれないわよ」

 

「リアス・グレモリー。あんたカードの引き強すぎだろ。ラックにステータス全振りしてんのか」

 

「ま、まだ推測でしょう! それにどれだけ特殊な力を持っていたって、あの子は私のギャスパー・ウラディよ!!」

 

 部長が顔を真っ赤にして小雪さんの感想に異を唱えるが、確かに言われてみると部長はすごい。

 

 ・・・もしかして僕らが強大な存在とかかわっているのはイッセーくんではなく部長が引き寄せているのかもしれない。

 

 ふとそんなことを想ってしまったけど、そういえば宮白くんも前に似たようなことを言っていたっけ。

 

 いわれてみれば僕達ってレア属性だらけっていうか主人公とかヒロインとかが背負ってそうな背景だらけだしね。

 

「・・・ま、問題はこの後どうするかだがな」

 

 と、小雪さんが鋭い視線を外に向ける。

 

「ですよね」

 

 僕もそれには同意するしかない。

 

 ・・・わずかだが殺気が外から漏れている。

 

 これは別に殺気が隠せていないわけではない。そして、殺すつもりが本当にあるわけでもない。

 

 わざと微妙に殺気に気づかせることで、こちらが監視されていると暗に示しているのだ。

 

「また面倒な手合いがいるじゃねえか。吸血鬼の連中じゃなくてリゼヴィムの手勢かなにかみてーだな、ファック」

 

「気を休ませる暇もなさそうですね。これはさすがに手ごわいようだ」

 

 今後僕たちが動くとするならば、少なくともこのさっきの持ち主とは戦闘になる。

 

 当然といえば当然だけど、聖杯を僕らの手に渡すつもりは毛頭ないということか。

 

 さて、宮白くんも気づいているだろうけど彼はどうやってこれを潜り抜けるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 




ハイテンションなリゼヴィムおじいちゃん。まあ彼が兵夜たちに興奮するのは訓練されたD×Dファンなら想定内かと。


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ナツミ 好かれてます!

 いろいろと面倒な展開が続いているものだ。

 

 緊張感が漂う状況の中、俺は何をしているのかというと。

 

「・・・兵夜、なんでノートに書きこんでるの? ボクのほうみてよ」

 

「まあまて、とりあえず予習だけは終わらせとかないとな」

 

 ナツミの勉強を見るついでに俺自身の勉強もしている真っ最中だ。

 

 いや、最近忙しいから暇な時に勉強しとかないといけないわけでね?

 

「あの、勉強を見ている私が言うのもなんですが動かなくていいんですか?」

 

 と、ナツミの計算式をチェックしながらロスヴァイセさんが訪ねてくるが、しかしそれはどうしようもない。

 

「監視の目もあるのでできることには限度がありますしね。フィフスのことだから俺がここにいると気づいた時点でアサシンを差し向けているだろうし、うかつに動くと先手を打たれかねない」

 

 うん、まだ顔を合わせてはいないが、イッセーを嫌いながらも警戒しているあいつのことだから、何か動いているはずだ。

 

 いくらこっちにアーチャーがいるとはいえ、気配遮断をもつアサシンを二桁投入できるアイツをなめてかかるわけにはいかない。うかつなことをして攻撃する理由を作ったら動く前に叩き潰される。

 

「まあ、初日のうちにやるだけのことはやっておいたのでその辺はご安心ください。ことが起これば見事に引っ掻き回してやりますよ」

 

「・・・今すぐ内容を説明してください」

 

「ご主人正座」

 

 しまった!

 

「え、あ、大丈夫大丈夫! なんていうかディオドラボコった時の奴を応用して、必要時に即座に全く違う場所に移動できるだけだから! 単独行動を避けるための保険もちゃんと用意してるから!!」

 

「・・・鞄持つ必要もねえのに荷造りしてたからおかしいとは思ってたけどよ、ご主人最初から考えてたな?」

 

 まあそりゃそうです。だって敵の本拠地だし?

 

 俺はそういうのは準備をしっかり整えてから動くタイプなので。

 

「基本的に行き当たりばったりとかしないからな俺。・・・トラブルの方から全力突貫してくることが多いけど、データもとらずに本腰入れて戦闘とか本来俺の柄じゃない」

 

 戦争とは情報と準備を制したものが有利なのである。

 

「やりたいこともやるべきこともいっぱいあるからな。こんなところで死ぬわけにもいかないし」

 

「宮白くんは死ななければまあいいじゃないかと考えている節があるので、さらに考えて行動してください」

 

 したり顔でいったらロスヴァイセさんに釘を刺されてしまった。

 

 ・・・少し魔術師脳が過ぎたかもしれん。足並み合わせて何とかできるよう頑張ろう。

 

 まあ、それもこれも事態を解決してからになるとは思うけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 しっかしいろいろと不安で心配だよな。

 

 ヴァレリーと話す機会があったけど、その時マリウスがすっごく不安なことを言ってきたんだよなぁ。

 

 ヴァレリーを解放するって、絶対裏の意味があるに決まってる。

 

 だけど今のままじゃどうしようもないし、どうしたらいいんだろうか。

 

 と思ってたら、いつの間にかナツミちゃんが俺の顔を覗き込んでた。

 

「あれ? ナツミちゃんどうしたんだよ」

 

「いや、イッセーがなんか変な顔してたから」

 

 ・・・そういえばナツミちゃんって俺より年上だよな。

 

「なあナツミちゃん。ヴァレリーを助けたいんだけどどうしたらいいんだろうな」

 

 正直アザゼル先生や宮白に聞くことだとは思ったけど、なんだかんだでナツミちゃんも鋭いときあるし聞いてみようかと思った。

 

 と、ナツミちゃんの表情が何というか野性的な感じになった。

 

 あ、これサミーマモードだ。

 

「カッハハハ。別に心配しなくても大丈夫だとおもうぜ、イッセー」

 

「え? でもマリウスの奴が明らかに怪しいし・・・」

 

「だからだよ。ご主人の奴がすでに細工してるみてえだからな。ああいう奴等って動くときにボロを出すって相場が決まってるし、その時動けば何とか間に合うだろ」

 

 そんな能天気な。

 

 だって神器って引き出すと死んじまうんだぞ。たぶんグリゴリからその方法ぐらいは盗んでるだろうし、すっごく心配なんだけどなぁ。

 

「どうせ馬鹿が考えたって意味ねえだろ。俺様たちは考えて動いている奴らが動くときに、そこに合わせて勢いよく動けばそれでいいんだよ」

 

「・・・それは遠回しに俺が頭悪いって言ってる?」

 

 上級悪魔目指すみとすると、さすがに馬鹿なままじゃいけないって思うんだけどなぁ。

 

 だけど、ナツミちゃんは半目で俺を見ると胸を両手でかばいながら一歩下がった。

 

「まいどまいどオッパイで解決するような奴は馬鹿で十分だろ。考えてもいみねえじゃねえか」

 

「それは馬鹿の意味が違うと思う!!」

 

 そりゃ今までの戦いほとんどおっぱいが絡んで解決してるけど! 反撃の糸口ほとんどおっぱいだけど!!

 

 あ、確かにそんなの考えてどうにかできるわけないのかな? いや、最近は方向性が定まってきてるから何とかなるはずだ!!

 

「いや、イッセーって基本的に土壇場でひらめくタイプじゃん? そういう前もっていろいろ考えておくのはほかの人に任せたほうがいいって。うまくいかないよそれ」

 

「いきなりナツミちゃんモード!?」

 

 いや、確かにそういった裏でしっかり根回しするとか言うのは宮白のやることだけど!

 

 ・・・あー、でも確かにいうとおりかな? 俺ってなんか勢いで何とかしてるところが多いっていうか、そういうのは確かになれてないし。

 

「なんかナツミちゃんってそういうところすっぱり割り切ってるよね」

 

「そりゃ馬鹿が考えたって意味ねえしな。・・・ご主人はしっかり考えて動くから任せていい時は任せるよ」

 

 したり顔でうなづくナツミちゃん。

 

 さすがは人生やり直してるだけある。なんだかんだでナツミちゃんも転生者なんだよなぁ。

 

「そういえば、ナツミちゃんってどんな人生送ってたんだ?」

 

「え? 別にあの世界じゃ珍しくもなんともないよ? 魔法が使えたからそれで食べてただけ。ギルドっていう何でも屋みたいなところに所属して、悪いやつが暴れてたら殴り倒したりしてたの」

 

 賞金稼ぎみたいなもんか。ナツミちゃんなんだかんだで戦いなれてたもんな。

 

「まあ強かったよ? なんたってボクはギルド最強候補って呼ばれてたもんね!」

 

「そっか! じゃあ暴れるときは期待してるぜ? ふんどしとか出てきたら大変だもんな!」

 

 ほんとあのふんどしには困ったもんだ。

 

 あいつほんとに人間かよって思うからな。

 

 と、思ったらナツミちゃんの姿がどっかに消えた。

 

「あれ? ナツミちゃん?」

 

 あわてて周りを見渡すと、壁の向こうからナツミちゃんがこっそり顔をのぞかせていた。

 

「・・・どしたの?」

 

「・・・・・・・・・ふ、ふんどし!?」

 

 あ、やべ。

 

 これ完璧に地雷踏んだ。

 

「ふふふふんどしどこ!? どこにいるの!? は、ははは早くぶっとばして早く!?」

 

「落ち着けナツミちゃん俺が悪かった! ふんどしはまだここにはいない! いないから!!」

 

 やっべえ! これ完璧にトラウマになってるよ!

 

 これ次にふんどしが現れたらすごいことになるんじゃないか!?

 

 くるなよ! 頼むからふんどし来るなよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佑斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さすがに何もしないわけにはいかない。

 

 禍の団がかかわっている上にギャスパー君の大事な人物がかかわっている以上、僕らは常に警戒する必要がある。

 

 ゆえにいろいろと調べて動いているのだが、しかしこれまでとは勝手が違う。

 

 今までは相手から仕掛けてくる形だったが、今回は相手の陣地に乗り込んでいる立場になっている。

 

 一応警備の時間などは調べて入るし、アザゼル先生や宮白くんもいろいろと動いてはいるが、相手が警戒している中を行動するというのはなれていない。

 

 ゆえにそのあたりになれている人物の力を借りざるを得ないわけだ。

 

「・・・こっちから仕掛けるとすりゃあ、警備の流れから見て一番ファックじゃねーのはこのあたりか。問題は逃走経路だが二つは用意しときたいところだな」

 

「となるとおとりとなるメンバーを用意したほうがいいのかもしれませんね。確実に生き残ることを考えるとイッセーくんを入れたほうがいいでしょうか」

 

 そのため、僕は青野さんとプランの構築に余念がなかった。

 

 以前は潜入暗殺というある意味で近い経験をしていたらしい青野さんはこういう時に力になってくれる。

 

 僕が集めた情報を基に有効な潜入経路を即座に組み立てただけではなく、陽動を兼ねたプランも作ってくれた。

 

「やるなら早い方がいいかもしれねーな。アザゼルならアドリブで反応してくれるだろうし、クロウ・クルワッハの存在がなけりゃ今から動いてもよかったんだが」

 

「やはりあの男が一番の難敵ですか。イッセー君でも単独では勝てそうにない相手ですからね。宮白君の蒼穹剣が頼りですか」

 

「あまり時間をかけるとそれこそフィフスあたりが対策立てそうだしな。今のうちに大まかな流れを立てといて、アザゼルが戻ってきたら一気に詰めるしかねーだろ」

 

 時間をかければフィフスが何らかの対策を立てることが分かり切っているが、しかしクロウ・クルワッハの存在が性急を止める。

 

 青野さんもどちらかといえば実行役であり計画を立てる側ではないようだし、今の段階ではやはり準備が限界か。

 

「あらあら、2人ともご苦労様。お茶が入りましたわ」

 

「とりあえずこのあたりの細工は終わったわよ」

 

 と、お茶をもった朱乃さんと、盗聴対策を取ってもらっていたアーチャーさんが部屋に入ってくる。

 

「お疲れさん。んじゃまあ、お茶にするか」

 

「そうですね」

 

 キリがいいタイミングだったのでお茶を飲みながら休憩を取ることにする。

 

「さすがに貴族的な吸血鬼の本拠地なだけあって、上質な茶葉が手に入りましたわ。お茶菓子もグレモリーに匹敵する高級品ばかりですわよ」

 

「そりゃ豪勢なこって。入れる側としてもうれしくなるか?」

 

「ええもちろん。小雪も味を期待していいですわよ」

 

 ・・・2人とも会話がスムーズだ。やはり幼馴染は距離感が違う。

 

「それで、動くとするならそろそろ兵夜に釘を刺しといたほうがいいわよ。・・・すでに事がおきたときの陽動用に、ディオドラのときに使った礼装の改良型を使ってるから」

 

「いつものことだけど行動が速いですね」

 

 そして宮白くんは独断専行気味なのはどうしようもない。

 

 ディオドラの時の改良型ということは、入れ替わりのあれだろう。

 

 確かに宮白君は単独行動にもなれているけど、彼は頭脳労働タイプなんだからこういう時にはできれば一緒にいてほしい。

 

「まあ安心しなさい。私がついていればよほどのことがなければ念話で会話はできるから作戦指揮についてはそこまで心配することはないわ。問題は例のごとくうっかりをした時にフォローする味方がいないことだけれど」

 

 アーチャーさん。それはシャレになってません。

 

「なんだかんだでアイツ自力で生き残りそうだからそこはファックでもなんでもねーんじゃねーか? 問題はリカバリーするときにファックな方法を取ることのほうな気がするんだが」

 

 なんだかんだで好きな人のことだからか、青野さんは信頼している意見をだすが、その肩に朱乃さんは静かに手を置いた。

 

「過信してはいけませんわ。そもそも宮白くんが悪魔になったのはうっかりで死亡したからだもの。・・・むしろ自分一人の時ほどひどいことをしてる気がするわ」

 

 そう、宮白くんのうっかりは最終的に宮白君が自分でつけを払うことになることが多い。

 

 ライザー氏とのレーティングゲームでも敵女王の攻撃を直撃することになったし、そのうえで念入りに焼き尽くされるところだった。

 

 ほかのうっかりにおいてもなんだかんだで自力でリカバリーしたりすることが多いが、それは裏を返せばしっかり自分で負担を請け負っているということだ。

 

 単独行動の時にうっかりをした場合、僕達がフォローに行けないわけだからそこが不安になる。

 

 正直とても不安になるが、しかしアーチャーさんはそのあたりはあまり不安ではなさそうだった。

 

「まあそのそこはあの子も対策はとっているから深く考えなくていいわ。生き残るだけなら何とかするでしょう。そのあとが大変になりそうだけど」

 

「あら、アーチャーさんはうかがってますの?」

 

「いつも私たちがやっていることの応用といったところかしら」

 

 含みを持たせたアーチャーさんの言葉に、僕は少し不安になった。

 

 ・・・おっぱいで何とかするにしても、イッセーくんぬきでどうやってするのだろう。

 

 いや、根性かな? だけど宮白くんって策でどうにかするタイプだからあまり向いていないような。

 

 いや、宮白君やアーチャーさんの常套手段と考えるべきか。となると魔術を使用した方法だろうか?

 

「・・・あいつの常套手段? 吸血鬼用の弱点攻撃に特化した武装はひねりがねえし。ドラゴンスレイヤーでも自前で仕入れたか?」

 

「超強化した聖水でも作ったのかしら? それで霧を作ってあたり一帯を包み込んだら・・・うっかり私たちも巻き込みそうで怖いですわ」

 

 青野さんも朱乃さんも首を傾げるけど、アーチャーさんは答えずそのままお茶を飲む。

 

 ・・・2人とも言い方は悪いけどあくどい手段を取ることに抵抗があまりないから少し不安だ。なにかすごい手段を取っている気がする。

 

 と、開いていたドアの隙間からナツミちゃんが顔をのぞかせた。

 

 どこか不安げな表情だったが、お菓子を見つけたとたんに

 

「あ、朱乃だ! お茶あるなら頂戴!! お菓子もおかしも!!」

 

「分けてやるからがっつくな。お前二週目なのに落ち着きがねーぞ」

 

 とびかからんばかりのナツミちゃんを青野さんが押しとどめて、その口にクッキーを押し込んだ。

 

「はむはむ」

 

「あらあら。ナツミちゃんはかわいらしく食べますわね。ちょっと悪戯しちゃいたくなるかも」

 

「ええ、なぜこんな時に動きやすさを重視した服を着ているのか・・・っ」

 

 朱乃さん、あなたが言うとちょっとシャレにならないです。

 

 あとアーチャーさん。今のナツミちゃんのかっこうも十分かわいらしいものだと思おうんですが。最近凝ってませんか?

 

「ん~おいしー。嫌なことあったからいっぱい食べて忘れるからねー」

 

「どうかしたのかい?」

 

「イッセーがふんどしのこと言ってきたんだよ。うぅうううううううう!」

 

 ああ、やはりトラウマになっているのか。

 

「アレはホラーでしたものねぇ。よしよし」

 

「何があったんだ? っていうかあのふんどしは一体何をしたんだ? ほれクッキー食って忘れろ忘れろ」

 

「こんなかわいい子にトラウマを植え付けるなんてひどい奴もいたものね。これだから筋肉達磨は苦手なのよ」

 

 一斉になだめられているが、まあ気持ちはわかる。 

 

 一人ぼっちの森の中、目を血走らせたふんどし一張の男たちに追いかけまわされればトラウマにもなるだろう。

 

 ましてやその戦闘能力が自分ではどうにもできないかもしれないほどにまで高まっていると思われればなおさらだ。

 

「大丈夫。あのふんどしは僕達が相手をするよ」

 

 ナツミちゃんにかかわらせるわけにはいかない。なんとしても僕たちが何とかしなければ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




ナツミは転生者の中でもかなり特殊な部類のキャラクターです。

記憶が微妙に残っていたのでズレこそあるのは他と同じですが、完全に戻ったのがつい最近なので精神年齢は外見年齢とほぼ同じ。そしてキャラが違うので時折わざと違和感があるように作っています。

まああの世界のギルド出身なので荒事経験値は非常に豊富。そのためイッセーにはアドバイスできるぐらいですが。

そして外見相応のマスコットキャラなのでかわいがられております。


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奪還作戦、スタートです!

 仮眠を取って目を覚ますと、外には雪が降っていた。

 

 ルーマニアはかなり北にあるわけだからな、武装も雪中行軍を想定したものが必要だったかもしれない。

 

「・・・兵夜さま」

 

 ベルは真剣な表情で隣に立っていた。

 

「おいおい、まさかあいつら動いたか」

 

「それはまだですが、イッセーくんたちが外でリリスと出会ってしまったそうです」

 

 リリスっていうとオーフィスの分身だとか言う奴か。

 

「言い方は悪いが放し飼いにしてんのかよ。リゼヴィムの奴は何考えてんだ」

 

「何も考えてないんじゃないかしら。・・・あの手の男は目的よりも遊び心を優先するわ。後先考えずなんとなく動いている可能性もあるわよ」

 

 などといいながらアーチャーが入ってくる。

 

「アザゼルも帰ってきたわ。そろそろ反撃をする時だと思うわよ」

 

 なるほど、じゃあ確かに反撃タイムと行くとしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 やばいことになってきやがった。

 

 やっぱりマリウスの奴はヴァレリーから聖杯を抜き取る気だと確定した!

 

 しかも、それを阻止するためにカーミラの吸血鬼たちとツゥペシェの吸血鬼たちが戦闘すら始めてやがる。

 

 ・・・だけど、そんなことは俺たちには関係ない。

 

 ギャスパーが男を見せた。

 

 ヴァレリーを何としても取り戻すって誓ったんだ。

 

 オカルト研究部の先輩としちゃ、ここで黙ってるわけにはいかないだろ。

 

「つーわけだ宮白!! 俺は何をすればいい!」

 

「つーわけだご主人! 俺様は何をすればいい!」

 

「お前らシンクロしてるけど何があった?」

 

 すでに何かしらの怪しいペンダントを取り出した宮白が、割と本気で呆れていた。

 

「何言ってんだよご主人。馬鹿は現場でどうにかするもんで作戦立てるもんじゃねえだろ。ほら動かすための策よこせ」

 

「・・・そっち方面はアザゼルに任せる。俺はとりあえず陽動ぶちかますから」

 

 宮白はそういうとペンダントを起動させる。

 

「・・・ああ、アーチャーに城の見取り図や構造は解析させたから戦闘時にはそれを応用してくれ。俺はランダムで入れ替わりぶちかましてちょっと混乱させておくわ」

 

 いつもに比べるとやけにあっさりとしてるな。っていうか今回作戦丸投げかよ!

 

「いや、なんでまともな策士がちゃんと作戦てててくれるのにうっかり策士が仕切らなきゃいけないんだよ。どう考えて合ってリスクがでかすぎる」

 

「自覚があるなら直せ。しかも結局ファックに単独行動かよ」

 

 青野さんが溜息をつくが、宮白はどこ吹く風で礼装を起動させた。

 

 さて、たぶん入れ替わりで吸血鬼が誰か来るだろうし、最初の仕事はそいつを取り押さえることだな。

 

「んじゃ、言ってくるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな軽い気持ちでいたことが俺にもありました。

 

「・・・イッセー。俺はもうだめかもしれん。いや、半分ぐらいマジで」

 

『いきなり何があった!? こっちはもう取り押さえたけど!?』

 

 いや、今目の前の光景をどう説明したらいいのか。

 

「目の前にヴァレリーとマリウスと吸血鬼の貴族がゴロゴロいる。・・・うん、どうやら儀式の真っただ中だな、おい」

 

『お前何してんのぉおおおおおおお!!!』

 

 わあい、仕込み入れたの儀式の参加者かよ。なんてミラクル。

 

 陽動のつもりが特攻である。これふつう死んだろ。

 

『兵夜戻ってきなさい! いくらなんでそれは危険よ!』

 

 部長も顔が真っ青になっているのが予想できる声色だが、しかしそういうわけにはいかない。

 

「いやいや、確かにやばいですけどギャスパーが男見せたわけですし、全員ぶちのめすのも狙って派手に暴れさせてもらいますよ」

 

 まあ、冷静に考えれば非常い危険ではある。

 

 なんたって全員最高位の吸血鬼。それもおそらく聖杯の強化を受けているのだろう。

 

 実際半分ぐらいはやばいと思っている。俺単体じゃあ切り抜けられない。

 

 ああ、俺単体ならな。

 

「安心してくださいよ。いったでしょ、半分ぐらいって」

 

「ほざいてくれるな蝙蝠風情が」

 

 余裕があるのを察したのか、吸血鬼の1人が一歩前に出る。

 

「我らが宿命を克服し進化した我々を相手に一人で挑むか。蝙蝠風情がよくほざいた」

 

「じゃあほざかれない程度の実力があるのか試してやるよ。かかってきな腐敗貴族」

 

 まあ、この数を一人でどうにかするのはきついわけだ。

 

 このシステムの都合上、複数人そろってってわけにもいかないだろうからすぐに使うことはなかった。

 

 だが、あいにくここまでの展開は想定外だが強敵が多い状況は想定内だ。

 

「いいことを教えてやろう。・・・本家の家訓は常に余裕をもって優雅たれ。これは、うっかりという呪いをもつ俺たちはそれを見せない精神的余裕と対処できる物理的余裕の二つを常に持たねば何かがおきたときに対応できないという極めて実利的な格言だ」

 

 そして俺は一つの宝玉を転送する。

 

 ああ、まあ万が一のための保険というものは用意してるんだよ、俺は。

 

「・・・ゆけ、罪人部隊!!」

 

「うるさいわよ!」

 

「うるせえ!!」

 

 ステレオで叫びながら出てきたその姿を目にして、吸血鬼連中が目を見開いた。

 

 まあそうだろう。まさかこいつらがここで出てくるなど普通は思うまい。

 

 今とっ捕まっているはずのジャンヌとヘラクレスが出てくればそりゃさすがに驚く。

 

「英雄派の幹部だと!?」

 

「馬鹿な! なぜこんなところに!?」

 

「おいおい驚くのは仕方がないが納得しろよ。・・・学生としての活動にしろ、魔力供給の確保にしろ、犯罪者に餌ちらつかせて活用するのは俺の基本戦略だぜ?」

 

 ぶっちゃけいつもとやってることはそんなに変わらない。

 

 雑用や魔力供給の代わりに実務労働をさせただけだ。

 

 基本的にすねに瑕持っている連中だから多少ひどい目に合っても心が痛まないし、基本的にマイナスダメージ受けることが前提の連中だから比較的安上がりだし、しかもこの業界の連中なら腕が確かかどうかをしっかり把握することもできる。

 

 念には念を入れて保険として入れておいて正解だった。

 

「と、いうことで時間稼ぎしろ犯罪者よ。生き残れれば今夜はフランス料理のフルコースをおごってやろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツ何やってんの!?」

 

 寄りにもよってヘラクレスとジャンヌとか何考えてんの!?

 

「安心しなさい。魔術的な制約を二桁はかけているから裏切りたくても裏切れないわ。令呪を参考にした特別性だから安心しなさい」

 

「危険性じゃなくて方法論の問題なのだけれども」

 

 アーチャーさんがものすごく平然と言う横で、リアスが溜息をついて額に手を当てた。

 

「おいアザゼル。てめえまさか知ってたんじゃねーだろうな」

 

「一応その方法は聞いてたが、まさかいきなり使うとは思わなかったぜ。あいつやっぱり首輪付けたほうがいいな」

 

「ホントに? わかっててこっそり無視してたんじゃないの?」

 

 小雪さんとナツミちゃんはアザゼルに半目を向けるけど、そんなことを言っている場合でもない。

 

「と、とにかく兵夜さまが大変ですし、どちらにしても急がねばなりません! 実質時間がないので追及は後にしましょう!」

 

「そうですね。宮白くんがアレなのはいつものことですし、今はとにかくヴァレリーさんの救出を第一にしましょう」

 

 ベルさんとロスヴァイセさんがそうとりなし、俺たちは急いで部屋を出ようとする。

 

「ヴァレリー・・・待ってて!!」

 

 勢いよくギャスパーがドアを開け―。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よお。邪魔しに来たぜ、これが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今特に会いたくない奴が目の前にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




今回の兵夜のうっかり。陽動のつもりが本命となってしまった。

雑に扱っても心が痛まない連中を優先的に使う性格の悪い兵夜。でも労働に見合った報酬はちゃんと用意するから人は良い。ちなみに福利厚生と正当な報酬に気を使いすぎたため、かなり稼いでいるのに貯金はそんなにないという裏設定があります。

因みに強化吸血鬼対策はバッチし準備済み。これをこう使うのかという兵夜らしい奇策を用意しております。

そして一歩遅かったフィフス。こちらも邪魔されないように速攻で動きました。

ケイオスワールド恒例、オカルト研究部VSフィフス軍団のスタートです。


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女の戦い、勃発です!!

 ヘラクレスとジャンヌの戦闘能力は幹部クラスなだけあり実に高い。

 

 加えて聖剣のドラゴンを生み出すジャンヌの禁手は結果的に楯として使えるため、俺は安全を確保しやすいという利点がある。

 

 ゆえに、俺は安心して詠唱することができるのだ。

 

「そういうわけでこれで終わりだ」

 

 速やかに固有結界を発動させ、俺は勝ちを確信する。

 

「下らん! 数でも質でもこちらが上回っているのだ。今更何を強化したところで我々を殺せるものか!!」

 

 吸血鬼の1人がこちらに殴りかかろうとするが、俺はそれを恐れない。

 

 真正面から十字架型のハンマーを取り出すと、それを専用の籠手でつかんで真正面から迎え撃つ。

 

「砕け散るがいい、対吸血鬼用ハンマー! 使用者保護装備セットの特注品だオラぁ!!」

 

「馬鹿め! 我々は欠点を克服しているのだ―」

 

 吼えた吸血鬼を叩きのめし、俺はそのまま振り切った。

 

 うん、いい手ごたえだ。

 

「馬鹿な!? 吸血鬼の宿命を克服した我々をなぜこうも簡単に!?」

 

「馬鹿め。どれだけ欠点に耐性を付けようと、お前らが吸血鬼であることを捨て去っていないことに変わりはない」

 

 そう、こいつらの欠点はそこにある。

 

 吸血鬼であることに誇りを持っているから吸血鬼であることは捨てない。ゆえに弱点に関しても耐性を付けているだけで無効化できているわけではないし、吸血鬼である以上弱点であることに変わりはない。

 

 ならば―

 

「俺の固有結界でお前らの吸血鬼としての特性を強化してやれば、比例して欠点の方も再び強化されるって寸法だよ!!」

 

「それなら私も仕事をしたほうがいいようね。吸血鬼対策はちゃんと作ってるのよ!」

 

 と、ジャンヌもジャンヌで対吸血鬼用の聖剣を作り、追加でドラゴンも出してくる。

 

 ここまで来れば後は簡単だ。確かにこいつらは結構凶悪だが、万全の対策が台無しになったことで混乱状態になっているし、まあ実力的にも今の俺なら苦戦はしない。

 

 追加でニンニクエキスたっぷり入れた水を霧化してばらまいているし、この調子ならまあ結界が持たなくなるまでに何とか半殺しで終えれるだろう。

 

 イッセーたちが来る前に終わりそうだが、まあこれぐらいやっとかないとこの二人を連れだして暴れさせた責任を取らなきゃならないしな。

 

 ふふふ、楽に終わらせてやるぜ我が親友!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先手をうって妨害したつもりが、どうやら遅かったようだな、これが」

 

 俺たちを見渡してフィフスが舌打ちする。

 

 やっぱり宮白を警戒してやがったか。だよね! あいつなにするかわかんないもん!!

 

「まあいいか。とりあえず仕事はするわ。・・・全員ここで死んでくれマジで、いい加減めんどい」

 

「それはこっちのセリフだよ、ファックが!!」

 

 拳を構えたフィフスの顔面に向かって、青野さんが素早く一発ぶっ放した。

 

 それを伏せてかわしたフィフスの上から、吸血鬼たちが飛び越えながら突入してくる!!

 

「上等! お前らさっさと片付けるぞ!!」

 

 アザゼル先生がカウンターで槍をぶっ放しながら声を挙げる。

 

 ああ、宮白も心配だしさっさと終わらせるよ!!

 

 と、一歩踏み出した瞬間にまた懐かしい顔が映り込んだ。

 

「はーい♪ 久しぶり、イッセーくん♪」

 

「またお前かよ、レイナーレ!!」

 

 突撃してきたレイナーレの攻撃をアスカロンで受け止めるが、禁手になってなかったので勢い余って城の外に吹っ飛ばされる。

 

 何とか追撃を喰らう前に鎧を纏うけど、こいつの攻撃は喰らうとやばい!!

 

「今度こそ私がきれいに殺してあげる。誰に最初に首を見せたいか応えてくれると嬉しいな」

 

「そうはいかないぜレイナーレ。悪いがさっさと終わらせる」

 

 物騒なことを言ってくるけど、しかし俺だって以前の俺じゃない。

 

 嫌なこと思い出しすぎて前は本調子じゃなかったけど、本来の俺は女相手ならほぼ無敵なんだよ!!

 

 チェーンソーを弾き飛ばしながら、俺は煩悩を解放する。

 

 食らうがいい、女性をあっさりと倒してきた俺の黄金コンボ!!

 

「広がれ俺の夢空間! 乳語翻訳!!」

 

 俺の理想郷が想像され、レイナーレはもろにそれを喰らう。

 

 フハハハハ! 以前は混乱して出すのを忘れていたけど、これさえあれば女性相手なら怖いものなしなのだよ俺は!!

 

「あなたはどうやって攻めるのかな?」

 

『そうねぇ。まずはその貧相な股間の物を切り落とすためにしたから仕掛けようかしら』

 

「貧相じゃないもん! 匠認定でそこそこあるっていわれたもん!!」

 

 見てもいないのになんてひどいことを言うんだこの女! いやいってないけど。

 

 だけどオッパイが語ってくれている以上俺は翻弄されない。

 

 カウンターでアスカロンをたたきつけて。出もそれはかわしてくるだろうからドラゴンショットを撃ってかわしたところを曲げて当ててやる―

 

『でもアスカロンを使ってくるからとりあえずかわして・・・あ、今度はドラゴンショットを曲げて当てようとしてくるのね』

 

 ―へ!?

 

 俺の考えていることを言ってくるレイナーレのおっぱいに翻弄されて、俺はカウンターをことごとく外してしまう。

 

 そんな俺の姿を見て、レイナーレは薄く笑った。

 

「なぜ考えていることが分かるのかって顔ね? ・・・馬鹿ねぇ、読心術なんてこの世にいくらでも存在するのよ」

 

 そういってレイナーレが取り出したのはネックレス。

 

 あれ、なんかアザゼル先生が使ってた宝玉と似た色合いなんだけど、すっごい嫌な予感が。

 

「それにエスパーの読心能力ならこちらの対策にも引っかからないからもう完璧。しかもイッセー君用に聖杯で強化までしてもらったのよ」

 

 ・・・えええええええええええ!? ベルさんとこの超能力ぅうううううう!?

 

 しかも聖杯を使って俺用に強化って、なんでわざわざ女にそこまで使ってまで俺対策すんの!? 普通に男を持ってくるとかなんとかあるだろ!!

 

「素敵でしょ? これの適性が一番高いから私はフィフスに助けられたの。その力を使って私を追い込んだイッセーくんを倒すだなんて、どこかの物語の主人公みたいじゃない」

 

 レイナーレはネックレスに頬ずりまですると、静かに、しかししっかりと息を吸い込んだ。

 

 なんかデジャヴを感じるんだけど、なんかフィフスみたいなことしてるんだけど!!

 

 まさかまさかまさか、こいつも滅竜魔法とか使えるんじゃ―

 

「天神の怒号!!」

 

 それっぽいの使ってきたぁあああああ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佑斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーくんがレイナーレに弾き飛ばされたのと同時、窓を突き破ってホムンクルスが襲い掛かってきた。

 

 く! イッセーくんを確実に始末するつもりか!

 

 だがそれならフィフス自ら動いたほうが適任のはず。いったいなんでだ?

 

「アイツテンション上がってるな。まあいい、俺は俺で面倒そうな奴を片付けてやるよ!!」

 

 フィフスが炎を巻き上げながら突撃するのはベルさんだった。

 

「お前が一番あいつのところに行けそうだからな。仕事はしっかりするんだぜ俺は!!」

 

「そうはいきません。体術で後れを取るようではミカエルさまにも兵夜さまにも申し訳が立ちませんからね実質!!」

 

 灼熱を閃光。それを纏った拳がぶつかり合い、その余波で部屋が崩壊する。

 

 このチャンスは逃せない。すぐにイッセーくんのサポートに行かないと!!

 

 そう思い踏み出そうとした瞬間、真上から殺気が襲い掛かってきた。

 

「そうはいかないって感じ!!」

 

 放たれた波動を飛び退って回避する。そしてそこから舞い降りたのは、リット・バートリだった。

 

「最近いいところがなかったから扱いが悪いのよ。ちょっと活躍して待遇よくしてもらわないとね~」

 

 そういいながらリットは槍を構える。

 

 アレは今までにはなかった武装だ。それに動きに意外と隙がない。

 

 彼女は魔法攻撃タイプであった以上、いきなり近接戦闘に目覚めたというわけでもないはず。と、いうことは―

 

「英霊の力を宿したというわけか。全く、本当に全力を出してきたというわけかい・・・!」

 

 これではイッセーくんの救援に行く余裕がない。

 

 さすがにここでいきなりグラムを振るうわけにもいかない。これは時間がかかるか。

 

 せめて誰か一人でもイッセーくんの救援に行ければいいんだけど、潜り抜けたものは誰かいないのか?

 

 そう思い視線を一瞬だけ周りに向けると、一人だけ姿が見えなくなっていることに気が付いた。

 

 でも、でもあの人は!?

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 よかった! 滅竜魔法じゃなかった!!

 

 吹っ飛ばされたけどカウンターでこっちもドラゴンショットをぶつけれたし、何より思ったよりダメージは少なかった。

 

 でも威力はかなり高くて厄介だ。これはマズイってマジで!!

 

「ふふふ。厄介な宮白兵夜対策の滅神魔法だけど、イッセーくんにも意外と効くみたいね? 素敵」

 

 明らかに変な方向にテンションが高くなっているレイナーレは、そのまま手を傷口に当てる。

 

 ・・・げ、傷が消えていってるんだけど!?

 

「どう? 天空の滅神魔法は傷を治すの。イッセーくんがどれだけ思いのたけをぶつけてきてもすぐに直してまた相手をしてあげるわ」

 

 異世界技術は本当に厄介だな本当にもう!!

 

 敵に回してはじめてわかるこの厄介さ! しかも滅神魔法とかもう名前からして物騒だよ!! 明らかに宮白対策だよだってアイツ神様だもん!!

 

 本気で宮白倒す気で来たのがよくわかるよ!! くそ! この調子じゃほかにも神対策とかしっかりしてるんじゃないか!!

 

「どんだけ本気で神対策してるんだよ!! まさか対神サーヴァントとか用意してるんじゃないだろうな!!」

 

 俺はレイナーレと打ち合いながらなれてないけどカマをかけてみる!!

 

 乳語翻訳はレイナーレの胸の内を語ってくれるけど、それで俺がどう考えているのか読んでくるから長くなるしすぐ変わるしで意味がない。

 

 くそ、読まれているのならこっちも読んじまえばいいとかなんて対策だよ。俺は魔法とか苦手だから対策もとれないし超能力は乳語翻訳と同じでアプローチが違うからたぶんうまくいかないしで厄介だ!!

 

 油断してた! 俺たちが強くなれば当然向こうだって強くなってくる!!

 

 うん、元カノに殺されかかるとか冗談じゃないよね!!

 

「逃がさないわイッセーくん。あなたはここで私に殺されるのよ!」

 

 しかもレイナーレの方も相当鍛えられたのか、動きが鋭く隙がない!!

 

 木場やサイラオーグさんとかの武術の達人でも何とかなりそうな技術だ。まだまだ経験の足りない俺じゃあ追いつけない!!

 

「二度にわたって同じ女性に殺されるだなんて運命を感じない? 私も運命を感じちゃうわ。だってあの赤龍帝を二度も殺した女なんて私ぐらいよきっと!!」

 

 怖いよぉおおおおお! これなんかヤンデレだよぉおおおおお!!

 

 ヤンデレ萌えとか嵌った時期もあったけど、リアルにいても怖いだけだよ!!

 

 俺なんで俺を殺した元カノにさらに執着されてんの? あれ、だまされただけだよね! 最初からデレなんてなかったんだよね!!

 

 くそ、リアスのおっぱいが恋しい。アーシアの癒しが恋しい!!

 

 だれかぁああああ! まだ覚悟できてなかったからかわってくださぁああああい!!

 

「さあイッセー君! このルーマニアに赤龍帝最後の地という異名を刻み込むのよ!! どうせ童貞も卒業してるだろうし思い残すことはないでしょう!!」

 

「まだもらってないから断固拒否するわ!!」

 

 ハイになっているレイナーレの真横から魔力の塊が襲い掛かった。

 

「ちぃっ! 人が感極まってる時に邪魔しないでよ!!」

 

 とっさに全弾迎撃するレイナーレから離れて、魔力が放たれた方向に顔を向ける。

 

 まあ誰かなんて見るまでもなくわかってるけどね! 俺があの人の声を聞き間違えることなんて決してないもん!!

 

「私のイッセーの貞操は私がもらうのよ!! その邪魔をするようなら滅するわ! カラス!!」

 

「リアスぅううううううううう!! 怖かったですぅううううううううう!!!」

 

 うわぁあああい! リアスぅうううううう!!

 

 さすがは俺の愛しい人!! とても嬉しいですううううう!!

 

「あらあら。あなたごときが今更出てきて何をするというのかしら? たかが上級悪魔の跡取り程度が、神殺しと赤龍帝の戦いに割って入れるのかしら?」

 

 余裕の表情ですごい毒を吐くレイナーレ。しかし部長も負けてはいない。

 

「あらあら。強大な力を与えられて調子に乗るだなんて、典型的な悪役ね。知ってるかしら? そういうのって基本的に小物って呼ばれるのよ?」

 

「負け犬の遠吠えって知ってるかしら? しょせん初デートなんて永遠に無理な小娘にはわからないわよねぇ? ごめんなさぁい。イッセーくんの初めてのデートを先取りして」

 

「調子に乗ってこきおろおした男に叩きのめされるテンプレートな負け展開よりかははるかにましだわ。そもそもそんなことを気にするような小さな自分は卒業したのよ」

 

「あらあら、弱い犬ほどよく吠える。・・・あ、違ったわね、あなたは弱くないわ、周りが強すぎて追いつけないだけ。うん、気にしちゃだめよ♪」

 

「無理やり上乗せされただけの中級ごときが言えた義理じゃないわね。しってる、分不相応なドーピングに調子に乗るのは自滅フラグなのよ?」

 

「・・・イッセーくんは今私と戦ってるの、邪魔するんじゃないわよ、処女臭いガキが」

 

「イッセーは私の男なの。邪魔はあなたよ、使い古された中古品」

 

 元カノと今カノが俺を巡って口論をしている。字面はそうなんだけど全然嬉しくない展開だ。

 

 だが今のレイナーレはリアスじゃ分が悪い。助けてもらってうれしいけどここは俺が頑張らないといけない展開かも。

 

 と、思った俺の視界にいきなり赤い騎士が現れた。

 

 アレはバーサーカー!? しかもリアスの真上から現れやがった。

 

 しまった! 驚きのあまり乳語翻訳が解けてた!! くそ、間に合うか!!

 

「リアス! あぶ―」

 

「大丈夫よ、イッセー」

 

 リアスは俺の言葉を遮って微笑むと、上を見ずにバーサーカーの攻撃を受け止めた。

 

「「・・・え?」」

 

 思わず俺とレイナーレの声がハモった。

 

 え? リアスは確かに強いけど、接近戦の使い手ってわけでもないのに何であっさりとサーヴァントの攻撃を受け止めれるの?

 

 しかも、リアスが持ってる剣からなんかすごいオーラが出てきてるんだけど一体何あれ!?

 

「レイナーレ。一ついいことわざを教えてあげるわ」

 

 リアスはバーサーカーの攻撃を受け流すと、剣の切っ先を正面から突きつける。

 

「・・・因果応報。後付で強くなった気でいるお調子者は、後付で強くなった女で十分なのよ」

 

 そして、俺は今気づいた。

 

 今部長が来ているのは制服だけじゃない。

 

 黒と赤で彩られた外套から、なんか恐ろしいオーラが放たれていた。

 

「来なさい。私のイッセーに手を出した報い、万死に値するわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




味方のサポート向けの能力を嫌がらせ戦術に使用する兵夜はやはり性格が悪い。

発動中は味方を自由自在に強化可能という支援特化型の固有結界ですが、もっぱら敵に対して使って嫌がらせに使う兵夜。出力で圧倒的開きのあるイッセーがいるためそもそも発想してない節があります。




そして今カノと元カノが男を取り合って殺し合い勃発。・・・うん、なにも間違ったことは書いてないけど何かが間違ってるね!

リアスの強化武装については次回詳しく説明します


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邪龍、参戦です

注意、投降時に分量を間違えてしまいました。

おかげで少し混乱したかもしれません。いや、マジですいませんでした。


「よっしゃ固有結界終了までにほぼ全滅!! あとはお前だけだマリウス!!」

 

 結構時間との勝負だったが何とか間に合ったぜ!!

 

 ふははははは!! 弱点攻撃に長けた俺と英雄派が組み合わされば弱点だらけの吸血鬼など物の数ではないわ!!

 

「これはこれは。やはり古い貴族ではこの程度が限界でしたか」

 

「あら? あらあら? おじさまたちはどうなさったのかしら?」

 

 いまだ余裕を見せるマリウスに、状況が飲み込めていないヴァレリー。

 

 やはり隠し玉があるようだな。これは早めに引き離したほうがいいか。

 

「ジャンヌにヘラクレス。お前らはヴァレリーを連れてイッセーたちと合流しろ。こいつは俺が相手をする」

 

「おいおいいいのかよ? 何のために俺たちを連れてきたんだ?」

 

「今はヴァレリーの安全確保が最優先だ。急げ」

 

 偽聖剣を展開して、俺は一歩を踏み出す。

 

 それに応えるかのように、マリウスは注射器を取り出した。

 

「この地がどこにあるのかを御存知ですか?」

 

「ルーマニアだな。それがどうし―」

 

 俺はふと気づいたことがある。

 

 ツゥペシェとルーマニア。この二つを結びつける存在が一人いたことに。

 

「では、吸血鬼(ドラクル)の恐ろしさを体験していただきましょう」

 

 やべ、これはさすがにマズイ―。

 

「串刺し公の恐ろしさをぜひ体感してください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアスがすげえええええええ!!!

 

「チッ! 宮白兵夜がいったい何をしたの!?」

 

「エラそうなことを言うつもりはないわ。これはあくまで兵夜やアーチャーが用意してくれたもの。あなたと違ってそれを自分の力だなんていうつもりはないもの」

 

 素早く剣を振るいながら、リアスはレイナーレとまともに切り結んでいる。

 

 時々距離を取って撃ち合いになるけど、そっちの方ではむしろリアスの方が有利だった。

 

 って俺が呆けている場合じゃなかった!! まだバーサーカーがいたのを―

 

「いいから行きなさい」

 

 バーサーカーに向かって魔力砲撃が叩き込まれた。

 

 この色はアーチャーさんだと気づくより早く、龍の衣をまとったアーチャーさんがバーサーカーを弾き飛ばす。

 

「アーチャーさん!!」

 

「早く兵夜のところに行きなさい。私はいざとなれば令呪があるからすぐ行けるけどあなたたちは時間がかかるでしょう」

 

「で、でもリアスが・・・」

 

「安心しなさい」

 

「英霊が戦い戦いが英霊を生む! 戦いがうむ死こそ戦いの醍醐味!!」

 

 切りかかってくるバーサーカーの攻撃を障壁を張って防ぎながら、アーチャーさんははっきりと断言した。

 

「あの子とあの礼装の相性は最高だもの。増援が来るまではしっかり粘って見せるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアス・グレモリーはここ最近実に自尊心が汚されていると自覚していた。

 

 よく人からめぐりあわせの天運を持っているとか引きが強いなどといわれるが、これはつまり強力な味方を偶然引き当てる才能があるというだけである。

 

 すなわち、自分自身の戦闘能力とは直結しない。

 

 おかげで本当に戦闘においては辛酸をなめ続けていた。正直すごく嫌な気分だった。

 

 自分が弱いとは思っていない。客観的に見ても年齢とは不釣り合いの強さを持っていると自信を持って断言できる。実際下馬評では若手悪魔では高い評価を受けている。

 

 だが周りがひどすぎた。眷属悪魔ですら自分を凌駕する存在が多すぎる上に、襲い掛かってくる敵も歴史に名を残しかねないとんでもない傑物ぞろいである。というか冷静に考えればこの年で神を相手にするという時点で自分が生きていることに感謝するべきだろう。

 

 そんな状況下で自分は着眼点がずれていたといわざるを得ない。

 

 レーティングゲームに本格参戦するのはまだ数年のちの話。そしてマッチングを考慮されるレーティングゲームとは違い実戦では格上とばかり戦うことになる。

 

 そのような状況かで試合を前提とした特訓では追いつかなくなるのも当然だろう。兵夜が初期のころからレーティングゲームでは運用できない武装や、ゲームに参戦できるようにリミッターを用意した改造を自身に施していたのも納得だ。悔しいが裏社会の黒い経験を積んでのし上がってきただけあってそういった先読みでは当分勝てそうにない。

 

 だから、ゲームで運用できない戦い方を編み出した。

 

 そして、頭を下げることも厭わなかった。

 

 愛すべき男や下僕たちが危機に巻き込まれているのだ。その状況で指をくわえて黙っているなどそれこそ本末転倒。

 

 そんな中、兵夜やアーチャーはこちらのプライドを維持してくれる方法でよくここまでの武装を作り上げてくれた。

 

 それに応えなければ、主として存在できるわけがない。

 

「・・・まさか、もう模倣されるとは思わなかったわ。キャスターも意外と大したことがないのかアーチャーが化け物なのか」

 

「私としては両方であってほしいわね」

 

 レイナーレと幾度となく撃ち合いながら、リアスはそれらすべてを一瞬先に近くする。

 

 現在過去未来を見渡し、財宝を察知する。それがグレモリーに存在する力だと伝承に存在する。

 

 それを利用し力とするため、フィフスたちの開発した英霊運用技術を転用した。

 

 今は本当に一瞬先しか見ることはできないが、そのアドバンテージは今確かにレイナーレと戦えている。

 

 この際強化武装頼りなのは構わない。相手も似たようなものなのだから、少なくとも今はお互い様だ。

 

「一応あなたには感謝したほうがいいのかもしれないわね。・・・経緯はどうあれ、あなたが行動しなければ私はイッセーと出会えなかったのだから」

 

 目の前の堕天使を静かに見据えながら、リアスは内心で決意する。

 

 いずれこれを不要と断言できる強さを身に着ける。だがそれまではこれを使うことを厭わないと。

 

「・・・だから、素直に首をはねられるというのなら、一瞬で滅してあげるわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

佑斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘は乱戦状態に陥っていた。

 

 すでにエリザベートとは仕切り直しになり、今はホムンクルスを相手に戦闘を行っている。

 

 この混戦上は非常に大変なことだ。

 

 味方が今どこにいるかすら完全には把握できない。このままでは宮白くんの援護なんてとてもできはしない。

 

 それにアーシアさんの姿が見えないのも不安だ。

 

 彼女の回復能力はグレモリー眷属の要。フィフスなら確実に狙うはずだが、護衛が果たしているのかどうか・・・。

 

「木場!」

 

 と、ホムンクルスを蹴散らしながらゼノヴィアがこっちに近づいてきた。

 

「ゼノヴィ―」

 

「伏せろ!!」

 

 いうが早いか、ゼノヴィアは僕に向かってエクス・デュランダルを突き出してきた。

 

 うわ危ない!! とっさに伏せるけどその時金属音が鳴り響いた。

 

「・・・むぅ! あと少しだというのに勘の鋭い女だ」

 

 あわて振り返れば、仮面を付けたアサシンらしき大男が、ドリルみたいな武装を持って弾き飛ばされていた。

 

 ・・・これが気配遮断の力か。全く気付かなかった。

 

 やはりこの状況はフィフスたちに有利だ。何とかほかの仲間たちと合流しないと!!

 

「助かったよゼノヴィア。キミの方は大丈夫かい?」

 

「この程度ならまだ大丈夫さ。それに思う存分暴れればいいというのは私に向いている」

 

 そういうと、ゼノヴィアはエクス・デュランダルをアサシンに向けて構える。

 

「見るからに威力重視の武装じゃないか。ぜひ相手をしてもらいたいものだね」

 

「直接戦闘は本懐ではないが、しかし逃がしてくれるはずもなし」

 

 アサシンの方も剣を構えるが、しかしいつでも後ろに飛びのけるような力の入れ具合をしている。

 

 あくまで目的は暗殺。戦闘は本来の目的ではないということか。

 

 だか、それなら戦闘に持ち込めばこちらが有利ということだ。

 

 この機を逃すつもりはない。

 

「ゼノヴィア、グラムを使う。援護を―」

 

 次の瞬間、僕らの間に割って入るように破壊が巻き起こった。

 

 煙がまいそこから割って入るように出てきたのはベルさんだった。

 

「ベルさん!?」

 

「す、すいません! 実質援護が欲しいのですが―」

 

「させるかぁあああ!!!」

 

 煙を振り払いながらフィフスがガ・ボルグを構えて突進する。

 

 贋作であることが知られたからか、針金の腕を展開して何本も構えて突撃する。アレは直撃すれば危険だ。

 

「ゼノヴィア! アサシンは任せた!!」

 

 僕は素早くグラムを引き抜き、アーチャーさんからもらった礼装を使用する。

 

 発動時間は一時的だが、今はこれが必要だ。

 

「フィフス・エリクシル! 僕達の仲間はやらせはしない!!」

 

「上等! だったらお前からくたばりな!!」

 

 真正面から魔槍と魔剣がぶつかり合う。

 

 だが、たとえキャスターが作り上げたものとはいえ量産型の贋作。

 

 真なる魔帝剣を使って負けるわけにはいかない!!

 

「まあさすがに威力じゃ負けるか・・・だが真正面からぶつからなきゃ何の問題もない」

 

 フィフスはそういった瞬間槍を押し込む。

 

 そしてその次のタイミングで槍が一斉に爆発した。

 

 原理はわからないが保険のために何らかの機能を組み込んでいたのか。

 

 フィフスはいったん距離を取りながら、今度は針金の腕にいくつもの重機関銃を展開する。

 

「全弾対悪魔用の特注品! いくら機動力が高くてもかわしきれないだろう!!」

 

「なら防ぐのみだよ!!」

 

 聖魔剣を解除し聖剣の龍騎士たちを召喚し楯にする。同時に残りの魔剣を呼び出しそれを持った騎士たちを突貫させた。

 

 バムルンクのオーラで弾丸をはじきながら、フィフスに向かって突撃する。

 

 同時にその後ろに隠れる形でほかの魔剣を持った騎士たちも送り込む。

 

 フィフスのは確かに戦闘能力は高いが彼の戦闘スタイルは武術系統だ。数で攻めるという方法は間違っていないはず。

 

「確かに正攻法だが、数の暴力で俺の右に出るマスターはこの聖杯戦争に存在しない。アサシン!!」

 

「「「「承知」」」」

 

 途端にフィフスの後方から仮面を付けた黒ずくめの男女が現れる。

 

 アサシンのサーヴァントはいったい何人いるんだ! しかもこの気配、全員英霊の力をその身に宿している!!

 

 龍騎士たちとアサシンが戦闘を開始するが、元がサーヴァントである上に全員英霊の力を宿しているのか、ことごとく騎士たちは破壊されていく。

 

 それでも僕の技量をある程度宿しているはずだが、不完全とはいえ英霊を相手にするにはまだ足りないということか・・・!

 

 もしや英霊の力を憑依させるというのは、そもそもアサシンを強化するための方法だったのかもしれないと思ってくる。

 

 このままでは押し切られると思ったその時、さらに殺気を感じて警戒しながらも後ろに視線を向ける。

 

 そこには、黒と金の髪を持った男が立っていた。

 

 クロウ・クルワッハだと!?

 

「・・・戦闘の気配を感じてきてみたが、ここはお前たちだけで十分なようだな」

 

「そういうなよ。ついでだから一人ぐらい相手してくれると助かるんだがな」

 

 いきなり帰ろうとするクロウ・クルワッハにフィフスが声をかけるが、クロウ・クルワッハは不機嫌な表情を浮かべる。

 

「俺を侮辱する気か? 龍の戦いに余計な茶々を入れようとするなら、お前から倒すぞ」

 

 クロウ・クルワッハは殺気すら向ける。

 

 伝説に名を遺すドラゴンなだけありプライドも非常に高いようだ。これは僕達もうかつな発言はできそうにない。

 

 フィフスもそれに気づいたのか、肩をすくめると手を挙げる。

 

 その瞬間、アサシンたちが一斉に距離を取ってフィフスの後ろに控えた。

 

「・・・じゃあこいつらの相手をしてくれよ。そっちも仕事で来てんだから飯の分ぐらいは働いてくれ」

 

「・・・・・・・・・いいだろう。さすがにそれぐらいはするべきか」

 

 答えを聞くが早いか、フィフスはアサシンとともに後退する。

 

 くっ! さっきグラムを使ったのが裏目に出た。

 

 どうやら覚悟を決めたほうがいいようだ。あれほどの力を持つ龍を相手に、グラムを使わないという選択肢は存在しない・・・。

 

「木場くん。グラムの解放はあくまで最終手段です。いきなり使わないようにしてください」

 

「全くだ木場。すでに例のアイテムは使ってしまったのだろう? 乱用は控えるべきだ」

 

 ベルさんとゼノヴィアがかばうように出てくるが、しかしそれは下策だ。

 

 少し見ただけでわかる。この男を単独で倒せる戦力なんて、蒼穹剣を使用した宮白君ぐらいだ。

 

 アザゼル先生や三宝を解放したイッセー君ですら難しいだろう。それほどまでの圧倒的な戦力さがあるのがよくわかる。

 

 ここでグラムを使わなければ勝ち目がない!

 

「行くぞ。旧魔王派や英雄派を退けた力を見せてみろ」

 

 クロウ・クルワッハは戦意をみなぎらせながらこちらに接近する。

 

 カウンターでゼノヴィアがデュランダルからオーラを放つが、奴はあっさりそれをかわしてさらにせまる。

 

 次の瞬間、ベルさんが瞬間移動で後ろに回り込んで拳を放つが、それすら素早くかわすと一瞬で逆に後ろに回り込む。

 

「な、早い!?」

 

 そのあまりの速さにベルさんは一瞬相手を見失ってしまう。これは致命的だ。

 

 くそ、間に合わない!!

 

「・・・情けない。瞬間移動能力者がその体たらくでどうする」

 

 次の瞬間、その言葉とともにベルさんの姿が掻き消えた。

 

 瞬間移動能力? ベルさんが自発的に回避したのか?

 

「え? え、え?」

 

 と、横から明らかに戸惑っているベルさんの声が聞こえて振り返る。

 

 そこには、ぽかんとしているベルさんと、ゲン・コーメイの姿があった。

 

「あ、あなたは・・・」

 

「とりあえず近くにいた吸血鬼は全員片づけた。が、どうやら一番厄介なのが残っているようだな」

 

 そういいながら、ゲン・コーメイはナイフを取り出して左手で構えると、何事でもないように悠然としながら前に出る。

 

「時間がない。ヴァレリー・ツゥペシェを救出しに行くといい。こいつは此方で相手をしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ルーマニアなので出てくるのはやはりウラド三世。これはおそらく皆様予想できていたかと。

 悪魔グレモリー固有の能力がそういえばD×Dには出てこなかったなぁと思い、それに由来する特殊武装を開発してみました。一瞬先が読めるってチートですよね。


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邪龍、投げられました!

前回はこちらのミスで混乱させてしまい申し訳ありませんでした。

今回はちゃんと確認しているのでご安心ください


 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 一方、城の中での戦闘は早期に集結しようとしていた。

 

「いちいちファックな連中だな。時間かけてる暇はねーんだよ」

 

 倒れ伏す吸血鬼たちを尻目に、青野小雪は拳銃をホルダーにしまって振り返る。

 

「そっちはどうだ朱乃? こっちはもう終わったけどよ」

 

「此方も終わりましたわ。さすがにいったん打ち止めのようですわね」

 

 2人の周りには倒れ伏した吸血鬼たちで埋め尽くされており、はたから見れば無残というほかなかった。

 

 逃げ道のない空間において雷光による広範囲攻撃を得意とする朱乃と、大気というそこらじゅうにあるものを操る小雪を同時に相手にしたことが彼らの不運であった。

 

 たとえ無数の蝙蝠に分裂しようと霧になろうと、広範囲に展開できないのならばまとめて叩き潰される。ましてや二人が背中をかばいながら通路で戦闘をすれば、不意打ちを行うこともできはしない。

 

 幼少期を共に過ごした幼馴染ということもあり、連携戦闘の訓練を積み重ねたわけでもないのに阿吽の呼吸を見せた二人の前に、吸血鬼たちは殲滅されていた。

 

 これで一息つけるかと二人が思ったその時、通路の向こうから轟音が鳴り響いた。

 

「・・・さすがに敵地では気を抜けませんわね」

 

「つーか悲鳴が聞こえてこないか?」

 

 構えを取った二人の視界に映り始めたのは、はぐれた仲間たちの姿だった。

 

 紫藤イリナがギャスパーの手を引いて全力でこちらに駆け寄ってくる。

 

「あ、小雪さんちょうどいいところに!!」

 

「すすすすいませぇえええん!! 僕達じゃ相性が悪すぎるんです、えんごしてくださぁあああい!!」

 

 そしてその後ろから、仮面を付けた異形が迫り来ていた。

 

 腕は三本、足は五本と明らかに左右非対称のその姿は、どことなくフィフスのアサシンを彷彿とさせる。おそらくは英雄の力を憑依させたアサシンなのだろう。

 

 だがこれはどういう英雄の力を宿したらそういうことになるのか皆目見当もつかない。

 

「何がどうしてそうなった!! っていうかどんなファック能力持ってんだこいつは!!」

 

「傷をつけると再生するのを通り越してなんか変化しちゃうの! おかげで攻撃しても攻撃しても全然意味がないのよ!!」

 

「しかもなぜか停止できないんですぅううう!」

 

「フハハハハ! さあ攻撃するがいい。そのあと全力で反撃してくれるわ!!」

 

 それは仕方がないと小雪は納得した。

 

 目の前の二人はオカルト研究部の中では少数派の攻撃力が低い部類に属している。

 

 この手の回復力を通り越して進化までするようなタイプは一撃で倒すしかないが、絶妙なまでに相性が悪かった。

 

「・・・朱乃。ためるから時間稼ぎ頼む。下手に増強されても困るから足止め・・・できるか?」

 

「もちろんですわ。では束縛プレイといきましょうか」

 

 余裕すら見せる朱乃の言葉にうなづいて、小雪は大気を収束し始める。

 

 圧縮させたプラズマで頭部を跡形もなく吹き飛ばせばさすがに致命傷だろう。科学の産物である能力では霊体であるサーヴァントは倒せないと思われることもあるが、禁手による契約を上乗せされた小雪の能力は高位の神秘にも匹敵する。ダメージソースとしては十分すぎる。

 

 そしてそれを理解しているからこそ、朱乃はサポートを了承した。

 

「ではいきますわよ。縛られるのはお好きかしら?」

 

 そういうなり、朱乃の周囲の鉄製品が一斉に浮かぶとアサシンにたたきつけられる。

 

 そこから生まれるかすり傷が、盛り上がり肥大しながら埋まっていくが、しかしそれは本命ではない。

 

 あくまで朱乃の役割は時間稼ぎ。彼女の火力も高い方だが、あのフィフスたちが用意したサーヴァントの力だ。今出せる最大火力を余計な強化を相手にさせずに叩き込んだほうがいい。

 

 問題はそれまで相手の動きを抑えられるかどうかにかかっていると全員が理解したその時だった。

 

「お、こんなところにいたのかよ」

 

 後ろから聞きたくない声が聞こえる。

 

「・・・フィフス!!」

 

 挟み撃ちにされている状況に小雪は舌打ちする。

 

 この状況では時間をかけて大技を放つ余裕がない。

 

 なにせ相手は相性差があったとはいえ赤龍帝として成長しているイッセーを圧倒することもできる戦闘能力の持ち主。加えて近接格闘という狭い場所で有利な戦闘スタイルの持ち主でもある。

 

 いってはなんだがイリナとギャスパーでは分が悪い。

 

「いっておくが時間停止は無理だ。アサシンには時間をかけてキャスターの魔術で固有結界を応用した疑似的な対策を整えているし、俺も相応の対策は整えてるんだな、これが」

 

 そう言い放つと、フィフスは静かに構えを取った。

 

 この場で敵としてであった以上殺すのみ。フィフス・エリクシルは魔術師であるがゆえに冷酷非情。

 

 そして一歩を踏み出した瞬間、横から爆発に巻き込まれて吹っ飛ばされた。

 

「・・・おお! ようやく見つけたぜグレモリー眷属!!」

 

「あ、ヘラクレス」

 

 思わぬ展開に集中力が途切れかけるが、そうすると後ろのサーヴァントが殺せないので自重する。

 

 が、微妙にギャグのような展開にもかかわらずヘラクレスは大慌てでこちらに駆けつけた。

 

「おい! アーシア・アルジェントはどこにいる!!」

 

「あ? ここにはいねーけどどうしたんだよお前ら」

 

「そりゃ大変ね。・・・この子、マズイわよ」

 

 首を傾げた小雪の耳に、他人事の口調でジャンヌが告げる。

 

 その手の中に、真っ青な顔いろで目を伏せたヴァレリーがいた。

 

「ヴぁ、ヴァレリー!?」

 

 血の気が引いた顔でギャスパーが駆け寄るが、ヴァレリーは反応を返さない。

 

「こんな調子でほっとくと死にそうなのよ。言っとくけどけがは負わせてないから私たちの責任じゃないわよ」

 

「チッ! 抜き取りは防げなかったってことかよ! だが兵夜ならそんなファックな展開ならまず聖杯の奪還を優先するはず・・・」

 

「いや、たぶん抜き取りは阻止したんじゃねえか?」

 

 舌打ちしながらも疑念を浮かべる小雪に応えるように、煙を振り払いながらフィフスが復活する。

 

 そして彼の手にあるものをみて、小雪は目を見開いた。

 

「それは、資料に合った幽世の聖杯・・・!?」

 

 資料そのものは精密さに欠けていたが、その存在から放たれるオーラから考えれば答えはそれ以外に存在しなかった。

 

 すでに神器が抜き取られているというのであれば、むしろいまだに生きていることの方が奇跡的だ。

 

 だが、いくらなんでもすでに神器を抜かれていて気づかないなどあり得るのか。

 

 そう思ったその時、小雪は身の毛がよだつという感覚を久しぶりに実感した。

 

「・・・コロス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴァレリーの安全確保を最優先にしたとはいえ、どちらか片方は残しておくべきだったかもしれない。

 

 俺はいま、全身激痛が走っている状態で苦戦を強いられていた。

 

 いくら痛覚の実感を無視できるとはいえ、傷を修復している暇がない状況で大きな損傷は動きを低下させる。

 

 そして何より、相手の能力が驚異的だった。

 

「いやはや。優等生の皮をかぶった問題児とは聞いておりましたが、予想以上に効果が覿面で何よりです」

 

「そりゃどうも。あんたこそそんな能力使ってる自分を疑問視しろ、マッドヴァンパイア」

 

 ウラド三世。串刺しという刑罰を敵はもちろん身内の粛清にも使用したことで有名なルーマニアの英雄。

 

 ルーマニアという現地真っただ中で発動したその能力上乗せは驚異的だが、何より厄介なのはその能力だった。

 

 おそらく宝具であろう杭を大量に地面から突き出させる能力は天井の低いこの空間ではかわしにくい。しかも下からくるから人間ベースの俺ではさらに反応しずらい。しかも刑罰としての串刺し刑の具現化だからなのか、いろいろ不義の多い俺には粛清のためかダメージが強化されている。

 

 そして本人の吸血鬼由来の再生能力と聖杯を使用した強化の上乗せ。固有結界が解除されていることもあってかなり危険な敵だった。

 

「できれば早めに倒れてくれるとありがたいのですがね。早くしないと聖杯が奪われてしまうではないですか」

 

「できればそうなってほしいんだがな。っていうかアンタ俺並みに性格悪いってよく言われるだろ」

 

 ・・・仕方がない。どうやら切り札を使うしかないようだ。

 

「我、引き抜くは理すら両断する剣の頂なり」

 

 ほかにも強敵がいるのでできれば残したかったが、まあ相手がクロウ・クルワッハなら勝算はある。

 

「夢幻の想いで無限を断ち、邪道を駆ける」

 

「面白い! ですがその情報はすでに確保済みですよ?」

 

 マリウスは余裕を見せて攻撃を行ってこない。

 

「我、万難を排す一振りの刃となりて―」

 

 その油断がお前の敗因だ。

 

「蒼穹の元に進むべき大地を切り開こう!!」

 

 これ以上時間をかけている暇はない。

 

 これでさっさと叩き潰す。

 

「残念ですが聖杯によって対神聖の強化は行っているのです。だから先程の固有結界とやらを使われない限り私にその能力は通用しな―」

 

 何やら見当違いのことをぶちかましていたのでとりあえず一発ぶん殴った。

 

 ・・・どうやら想定は当たっていたようなのでもろに喰らってぶっ飛んでくれた

 

「ぐああああああ!? 馬鹿な!? データを基にした弱点対策はちゃんとしていたはずだぞ!?」

 

「残念だがアプローチを間違えてるようだな」

 

 どうやら以前遣り合ったときのデータをもとにして聖杯で強化を行っていたようだがそれは無意味だ。

 

「蒼穹剣は相手を解析してそれに合わせて天敵化する。蒼穹剣というシステムそのものに対策を整えていたのならともかく、データをもとに改造することで免疫を付けても免疫に合わせて天敵化するから有効打にはならないぜ」

 

 これがこの蒼穹剣の恐ろしいところだ。

 

 事前に蒼穹剣のパワーアップデータを取ってそれに合わせた対策を取ったとしても、その対策に合わせて天敵化するのでアプローチ次第では無意味になる。

 

 神格化と悪魔化のシステムを流用しているのでその二つからくるアプローチは対処しきれないが、変化した能力に対するアプローチで覇蒼穹剣は防げない。

 

 やはりリゼヴィムたちは適当に利用するだけ利用して切り捨てるつもりだったようだ。ボコりながら少しだけかわいそうに思ってしまう俺がいる。

 

 だが遠慮は一切しない。ボコる。

 

「時間が! ないので! 殺す気で! 行くぞ!!」

 

「が、な、舐めるな! 吸血鬼を悪魔風情が舐めるなぁああああ!!!」

 

 マリウスは余裕をかなぐり捨てて杭を出そうとするが、俺は足払いでマリウスを転ばせるとそのまま上にのしかかる。

 

 飛び出た杭をマリウスをボードにして防ぐと、俺はそのまま義足を活性化させた。

 

「できれば生かしておきたかったが、まだこいつはテスト段階だから加減が効かないんだ。・・・怒られたくないから耐えてくれ」

 

「ま、待て! 私を生かしておけば聖杯のデータが好きなだけ手に入―」

 

 マリウスが命乞いをするが、俺は全く意に介さない。

 

「そこはアザゼルが何とかするだろう。・・・スマンが、ダメージが大きくて俺も余裕がないんだ」

 

 それに、蒼穹剣を使ってしまった以上一人確実に仕留める戦果は欲しいのである。

 

「・・・さようなら、マリウス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佑斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くぞ」

 

 ゲン・コーメイは光の槍を展開するとそれを放つ。

 

 クロウ・クルワッハはそれをあっさりと回避するが、次の瞬間五つの光線が逃げ道を防ぐように展開され動きを止める。そして続いて放たれた光の槍を防ぎきれず一発直撃した。

 

 一瞬の間に繰り広げられた攻防。そしてその結果に僕たちは思わず足を止めてしまった。

 

 クロウ・クルワッハは見るだけでわかるほど驚異的な実力を持っていた。

 

 たたずまいだけでも思い知らされる。少なくとも今の僕達では単独で挑むのは無謀だろう。

 

 そのクロウ・クルワッハに先手で一撃を当てる。それも転生者とはいえ英雄の末裔でもない人間がである。

 

 僕たちの近くに現れる転生者の中でも、そんなことができるのは蒼穹剣を発動した宮白くんぐらいだろう。それも蒼穹剣の特性上厳密には先手を打たれているはずだ。

 

「・・・あれが、モルドレットの実力だということか」

 

 ゼノヴィアが目を見開いて感想を漏らす。

 

 ベルさんに至っては絶句しているが、しかしその表情には別の意味も感じ取れた。

 

「なるほど巧いな。だが、火力が足りない」

 

 クロウ・クルワッハはそういうと、動きの鋭さをマシて行く。

 

 どうやら先程の攻撃はほとんど聞いていないらしい。さすがは伝説の邪龍なだけあり耐久力も桁違いのようだ。

 

 ゲン・コーメイは再びどこからともなく光線の檻を作り上げるが、しかしクロウ・クルワッハは意にも介さず突破していく。

 

「だめだ! 攻撃を当てることはできても突破することができない! あれでは勝てんぞ!!」

 

 ゼノヴィアの言うとおりだ。

 

 彼の戦闘スタイルは間違いなくテクニックタイプ。裏を返せば火力がどうにもたりない。

 

 これでは勝ち目がない。

 

「まあそうだな。最初から勝てると思ってないし、本気で来られたらどうしようもないのは認めよう」

 

 ゲン・コーメイがそう自重する間に、クロウ・クルワッハは彼の目の前まで接近する。

 

 マズイ! 最初の攻防にあっけにとられて助けに入るのが遅れた!?

 

 割って入ろうとするがすでに距離敵に間に合わない。

 

 彼はあの攻撃をさばけるのか―

 

「・・・だが全力で来られても負けないことはできる」

 

 次の瞬間、クロウ・クルワッハが地面にたたきつけられていた。

 

 ゲン・コーメイ何もしている様子はない。なのにいきなりクロウ・クルワッハが地面にたたきつけられていた。

 

「木場。彼は一体何をした?」

 

「いや、僕は何もわから―」

 

「・・・いい加減にしろそこ。後で説明してやるから早くほかに行け」

 

 唖然とする僕達を叱責しながら、ゲン・コーメイは剣を突きつける。

 

 彼は転生者といえどただの人間。英雄の末裔でも血を継いでいるわけでも何でもない。

 

 だが、そこにいるのは僕達でも太刀打ちできないような一人の強者だった。

 

「来い邪龍。人の姿を取って人の力を手にしたなどと勘違いする貴様に、()()との戦い方を教授してやる。受講料はなりふり構うことで請け負ってやろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ハーデスの足を突かた必殺技のネーミングが思いつかなくて現在苦労してます。今後活動報告で募集するかもしれません。





ちなみに地味に無敵臭いゲン・コーメイ。ただしこの能力にはタネがあります。単純スペックや総合的な戦闘能力では本人も認めてますが大きく差があります。もちろんゲンが下です。

クロウ・クルワッハに対しても、文字通り全力を出されただけではこのようにカタにはめることも容易ですが、本気で勝ちを狙われると実は一気に不利になるバランスです。まあわかったところでクリティカルな対応ができる手合いはこの作品でもクロウ含めてごくわずかですが。・・・アポプスぐらいか、後は?

因みにいうとグレモリー眷属の近接戦闘担当はことごとくカタにはめられます。のちに結成されるD×D全体に広げたとしても、相性的な意味で彼に有利なのはフェンリルやファーブニル含めたごくわずかですしあくまで噛み合わせの問題。正しい意味で突破できるレベルとなると孫悟空ぐらいです。


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目的、語られます!

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

「あ、イッセーいたぁ!!」

 

 城のほうに急いで戻っていく途中だった俺の耳に、ナツミちゃんの声が響く。

 

「ナツミちゃん! 大丈夫かよ!!」

 

「うん! いろいろ面倒だったけど大体片づけたよ!」

 

 そういって笑顔でVサインする後ろではボコボコになった吸血鬼たちが倒れ伏していた。

 

 うわぁ、すごいレベルでボロボロになってやがる。ナツミちゃん強いもんなぁ。

 

「っと、宮白のことを忘れてた!! 急いで助けに行こうぜ! 地下だったよな」

 

「そうだった! 兵夜うっかりしてないか心配だよ」

 

 うん、うっかり敵陣のど真ん中に入っちゃってるからすごい心配だ。

 

 ヘラクレスとジャンヌがいるから善戦しそうだけど、蒼穹剣は一対一じゃないと真価を発揮しないし心配すぎる。

 

 あいつ癖が強いのよく使うから意外とハメ技が効くんだよなぁ。なんか変な失敗してないといいんだけど。

 

「よっしゃ! とにかく急いで宮白のところに―」

 

 その瞬間、すぐ近くの地面が爆発した。

 

 くそ、こんなところで敵襲かよ! 今度は一体誰だ!!

 

 煙が少しずつ晴れる中、それを振り払いながら一人の男が。

 

「見つけたぞUMA!」

 

「にゃあああああああああああ!? ふ、ふんどし・・・ぃ」

 

 またふんどし!?

 

 あ、ナツミちゃんが失神した!!

 

「しっかりしろナツミちゃん! この野郎、もう出てくるな!!」

 

 おのれふんどしめ! 今真面目にやってる最中なのにかっこうがこのルーマニアでもふんどしだから緊張感が出てこない!!

 

「そんな恰好で寒くないのかよ! 死ぬぞ!!」

 

「気温というものは気合いで変更できるものだ。近づいてみろ、あったかいぞ?」

 

 気合いってそんな便利なものだっけ!?

 

 と、とりあえずさっさと片付けて宮白の援護に行きたいけど、そんな余裕は全くない!

 

 っていうかナツミちゃんが気絶してるこの状況下で俺はふんどしを何とかできるのか?

 

「と、言うわけで猫娘をprprhshsするために邪魔だぁああああ!!」

 

 ふんどしが全力で殴りかかってきて、俺は戦車形態になって何とか防御する。

 

 くそ! 一撃で鎧が半壊した!? どんだけ馬鹿力なんだよこいつは!!

 

 いくら転生者だからって人間だよね!? なんなんだこの戦闘能力は!!

 

「くそ! ナツミちゃんには手は出させないぜ!!」

 

 俺は勢いよく殴り返すけど、ふんどしはそれを片手で受け止める。

 

「ふ! この程度の実力ではどうしようもない。赤龍帝の力を鍛える前に気合いを入れなおすといい」

 

「いや、もうこれ気合とか言う次元じゃねえだろ!!」

 

「オッパイにかける気合いを思い出せ! さあ気合いだ!!」

 

 いや俺的だしおっぱいおっぱいいってるけどそれ奮起してお前になんか得あるの!?

 

「さあ、気合いを入れろ!! 出なければ勝ち目がないぞ!!」

 

 そんなことを言いながら、ふんどしはものすごいいきおいでパンチを繰り出していく。

 

 くそ、目が追い付けない!!

 

 こいつ本気で強すぎる! 一応宮白が対抗策ぐらいは立ててたけど、俺じゃあそれはできないしどうすればいい!?

 

 攻撃が鋭すぎてこのままじゃ勝てない! 俺がどうしたもんかと思ったその時、視界の隅に白い輝きが映った。

 

「どうした兵藤一誠。意外と苦戦しているようじゃないか」

 

「・・・ほう? また新たなUMA、白龍皇アルビオンか」

 

 おいおいマジかよ。まさかお前まで参戦かよ。

 

「だが俺としても君に死なれると困る。どうせ邪魔してくるだろうし、ここは共闘と行こうじゃないか」

 

 お前が来るのはびっくりだぜ、ヴァーリ!

 

「なんだよ、てっきり来ないのかと思ったぜ」

 

「悪かった。アザゼルより先にこっちに向かったんだが、聖十字架の使い手に出くわして戦闘することになってな」

 

 聖十字架って確か神滅具の一つだよな。

 

 おいおいそいつまで禍の団なのかよ! 聖遺物なのに全員テロリスト側とか冗談じゃないって!

 

「ふむ。ヴァルプルガは抜けられたか。・・・まあいい、これでUMAを二人も見ることができた。prprし放題で最高だ!!」

 

 よだれを垂らしながらふんどしが興奮する。

 

 うん、絶妙にきもいよね! ナツミちゃんは気絶してよかったかも!

 

『ふんどし・・・尻!? くそ、意識が・・・意識が遠のく!』

 

 アルビオンがいきなり悲鳴を上げ始めた。

 

 どんだけお尻にトラウマ感じてるんだよ! 意識なくすほどってそんなにひどい目合ったの!?

 

 くそ、お尻がどうだの言ったのは俺じゃなくてヴァーリだから俺に責任押し付けるなよ!? もとはといえばおっぱいドラゴンな俺のせいだけど、俺が名のったわけじゃないんだからね!!

 

『しっかりしろ白いの! この程度で意識を失っているようでは、ファーブニルとあった時に死ぬぞ!!』

 

 ドライグがなんか微妙にずれたフォローを入れるけど気持ちはわかる。

 

 アーシアのパンツと引き換えに頑張るドラゴン。間違いなく変態の極みで、もはやどうしようもない。一緒にされたらショックで死ねるぐらいにはどうしようもないっていうか、一緒にしてるやつがいないことを真剣に祈るぐらいにはどうしようもない。

 

 頼むから一緒にしないでくれ! 俺は確かにスケベだけど方向性が違うからね!!

 

「ふんどしで白目をむくドラゴンか。実にUMA的で興奮するな!」

 

 お前もう帰れよ! ナツミちゃんが顔を真っ青にして痙攣してるから帰れよ!!

 

「しっかりしろアルビオン。三蔵法師に出会って薬を処方してもらっただろう。俺がついているからな」

 

 ヴァーリも真剣に困っているようだ。意外といいやつだよねお前。

 

『頑張るんだ白いの! おれなんてお前のずっと前からおっぱいドラゴンだの言われてるんだぞ!! 気づいたら幼児退行していたらしいし記憶を失ていた時期だってあったんだ! それに比べれば呼吸困難など序の口だ!』

 

 ごめんねドライグ! 今度宮白に頼んで少しは抑えてもらうよ。

 

 自分でも正直どうかしてる気はしてるんだ。今度は気を付けて何とかしてもらうからね!

 

 くそ、このままじゃなんか空気が微妙な感じになってくる!

 

 宮白は大丈夫なのか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 疲れた。本気で疲れた。

 

 しかも蒼穹剣はこれで打ち止めなので、できれば強敵と当たりたくない。

 

 いや、使った後のこともちゃんと考えてはいるけどさ、だからってそれを使えばとんでもなく負担が出てくるのは当然なわけでね?

 

 まあそんなわけなので、とりあえず俺は吸血鬼たちの拘束を行っている。

 

 休憩したいけどいつ増援が来るかわからないし、終わったらヘラクレスたちを追いかけたほうがいいんだよなぁ。さすがに疲れたから休憩したいけどそんな余裕はないんだよぁ。

 

 ああもう、いきなり蒼穹剣が必要な展開とかインフレが激しすぎだろうに。聖杯で強化されてなければ使うこともなかったものの、そういうわけにはいかないから無理がある。

 

 敵もちゃんと考えているということか。さっさと蒼穹剣を無駄打ちさせることを考えているようだ。

 

「まああの二人なら並大抵の相手は突破してイッセーと合流するだろうが、クロウ・クルワッハとかリゼヴィムとかいろいろやばいからな。終わったらさっさと追いかけないと」

 

 しかしのどが渇いた。寒いから湿度が低いせいかのどが乾燥しているようだ。寝起きだったし水分が不足してるな。

 

「お疲れちゃ~ん。はい、コレ俺からの差し入れだよん」

 

「あ、助かる」

 

 おお、この水上質な天然水だ。

 

 間違いなく金かかってるタイプだろう。これは非常に都合がい・・・い

 

「どわああああああああああああああああああ!?」

 

「おいおいこの人全然気づかず飲んだよ。ツッコミ待ちだけど天然で反応したよ毒入れたほうがよかったかね」

 

 と、隣にリゼヴィムが!?

 

「まさかこんな陰気なところにやってくるとはな! おおかたマリウスがやられるのを待ってたってことか?」

 

「おうよ! ぶっちゃけいろいろうざかったしお馬鹿だったからね! やられてくれたらそれはそれで都合がよかったんだよ!!」

 

 サムズアップして応えやがったよこいつ。

 

「まあそれはともかく、俺としちゃあおたくといきなり殺し合うつもりはないわけなんだよ。ちょっとでいいから俺の話聞いてくんない?」

 

 ・・・時間稼ぎにはちょうどいいからとりあえず聞くだけ聞いたほうがいいか。

 

 俺の内心を呼んだのか、リゼヴィムはにやりと笑う。

 

「俺はさあ、君たち転生者の存在を知った時、ものすごいむねがドキワクしたんだよ」

 

 俺たち転生者の存在?

 

「だってお前らはこれまで俺たちが知ってきた世界とは全く別の世界からきた存在だ。俺たちが見てきた世界とは似て異なるすんげぇ世界がいっぱいあって、そこにはいろんな人々が不思議な力を使ってる。この枯れたおじいちゃんの胸にもきらきら光るものがいろいろとでてくるねぇ」

 

 いわれてみれば確かに興奮する連中はかなりいるだろう。

 

 ファンタジーならよくある展開だが、異世界の実証とかかなり興奮するはずだ。

 

 ましてや自分たちの世界とはよく似ていて異なる世界。第二魔法の概念とも近くて異なるその世界は、好奇心を刺激するという意味なら間違いなくトップクラスだ。

 

 俺だって、そういう意味なら間違いなく興奮する。第二魔法の概念とも違い、しかし単なる異世界とも違う。そんな世界の存在が実際にあるだなんて年頃の男ならよだれを垂らして失神するレベルの最高峰だ。

 

「そいて、俺たちの目の前にそれが手に届くっていう実例が出てきた。・・・お前さんがかかわったあの戦闘だよ」

 

 実例?

 

 ・・・確かに転生者は実例だが、あれは異世界の実証にはなっても特殊な事例が原因だからこっちに引き寄せるという効果はあっても、こっちから来れるという実例にはならなかったはず・・・。

 

 ・・・・・・・・・待て。

 

 いた。異世界からやってきて戻ったとしか考えられない事例が、確かに一つ俺たちの経験の中に合った。

 

「乳神か!?」

 

「ピンポーン! そう、あれこそ異世界からアプローチして戻ってきた実例。異世界の実証どころか異世界に戻る・・・そう、『異世界に移動する』ことができる実例の実証さ!」

 

 そう語るリゼヴィムの表情は正気を失っているとしか思えなかった。間違いなく、気がくるっているとしか思えない狂人のそれだ。

 

「そこで俺は思ったのさ。・・・だったら異世界に侵略することもできるんじゃないかってな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

「異世界の侵略!?」

 

 レイナーレが漏らしたその単語に、リアスは目を見開いた。

 

 確かに自分の下僕である兵夜はある意味で異世界の存在だし、イッセーに至ってはそこからさらに未確認の異世界の神と接触するということを起こした。

 

 純血の悪魔という観点でいうならば、自分が指折りで異世界にかかわっている悪魔だという自負もある。

 

 だからこそ、そんな馬鹿な真似を見過ごすことなどできるわけがない。

 

「リゼヴィムの目的がそれなら、なおさら見過ごすわけにはいかないわね!!」

 

 今までも手を抜いてきたわけではなかったが、リアスは本気で魔力を込め始める。

 

 奥の手を発動する必要がある。

 

 異世界の侵略などという非常事態はまさに前代未聞。このまま見過ごせばその被害は自分たちだけではすまなくなる。

 

 その決意を決めたリアスに、レイナーレはあきれたかのように肩をすくめた。

 

「悪魔とは思えない発言ね。仮にも悪の文字を冠すのなら、面白そうぐらいのことは言えないわけ?」

 

「ふざけたことを言うのね。何のかかわりのない人々を己の愉悦のために傷つけるだなんて、目の前で行われていて見過ごせるほど愚か者になり下がったことはないわ」

 

 心からの言葉に、レイナーレは首を振るとそのまま距離を取ろうとする。

 

 会話をして時間稼ぎをするつもりだったが、どうやらそんな隙を作るつもりもなかったようだ。

 

 なにぶんこの技は時間がかかる。逃げに徹されたらどうしようもない。

 

「まあこっちとしてもいろいろあれだけど、もっと危機感を持った方がいいわよ?」

 

「なんですって?」

 

 レイナーレの捨て台詞は、間違いなくこのルーマニアで最も危険視するべき発言だった。

 

「だって、グレートレッドがいなくなったらこの世界は大変なことになるんだもの」

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 




因みにリゼヴィムが兵夜がいるときにピンポイントで説明したのにはわけがありますがこれは次回。

転生者の存在そのものはかなり前から出てきてたけど、リゼヴィムが今まで侵略を行おうとしなかったのはこっちから行けるかがわからなかったからということにしました。そこにやってきたうえに戻っていった乳神の使いが出てきたことで本格的に動き出したというわけです。


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龍神、捕まえます!

 異世界移動の二つの実例とそこからくる発想。

 

 異世界の侵略だと? 正気の沙汰じゃない。

 

 一つの世界の侵略なんて、それこそ一つの世界がまとまってでもいなければ難易度の高さは明確なぐらい高すぎる。

 

 確かに俺が知りうる多くの世界は複数の勢力が争っている状況下だ。そんな中にイレギュラーが一つ出てきたところで、それを利用しようとする派閥が多く存在する。一つの世界がまとまって戦争するといったってそうはうまくいかないだろうということは間違いない。

 

 だがそれでも一勢力クラスの組織が一つの世界に挑むとか、明らかに無謀以外の何物でもない。

 

「・・・非現実的だな。この世界の征服すら難易度が高い現状で、異世界に侵略だなんて無謀だろう? 普通にかんがえてグレートレッドクラスが一つはいると考えるべきだろうに」

 

 人道的な観点は別にした指摘を俺はする。

 

 ぶっちゃけいなくなってくれるならそれはそれで好都合ではある。間違いなく異世界からしてみればいい迷惑だが、外敵がいなくなるという点では好都合以外の何物でもない。まあ反撃してくるかもしれないが勝手に出ていった件に関してそこまで責任を求められても困るというのが本音だ。謝罪はしても、過度の弁償は意図的に追放でもしない限りリゼヴィム本人に求めるべきだろう。

 

 そういう意味では利益はあるが、それにしたって無理がある。

 

 神秘は世界によって変わるからバランスそのものは取れるのだろうが、それにしたって無謀だろう。

 

 素直にいったが完全な状態のオーフィスを何とかできるレベルの戦闘能力がなければ、そんなことをするのは難易度が高いといってもいいはずだ。

 

「まーそーだよね。実際グレートレッドはそういったのを監視してるからさ、侵略するならやっこさんを何とかできないといけないわけよ」

 

「おたくのリリスちゃんは約半分だろうに。なに、お前倒せるの? サマエルはドラゴン限定だから侵略するときあまり意味なくね?」

 

 サマエルがいなくなってくれるとある意味好都合だしハーデスぐぎぎしそうだしで嬉しいが、まあそれは避けたほうがいいんだろう。

 

 ぶっちゃけ実行に移されると止めに行かざるをえない。そういう意味ではやっぱり何もしないでくれるほうが嬉しいんだが、さてこいつはどう考えてる?

 

「いやいや。俺なんかが挑んだって舐めプでやられるし? サマエル奪っちゃったらハーデス爺さんマジギレするだろうしこっちの邪龍軍団が滅びちゃうし?」

 

 だったらあきらめてほしんだが、つまりは・・・。

 

「なんの切り札を持ってる、リゼヴィム・リヴァン・ルシファー!」

 

「ふっふ~ん。やっぱりそこに気づいちゃうか! そうだよ! 俺たちは聖杯を使って生命の理を知ることで、グレートレッドや全盛期のオーフィスちゃんに匹敵するかもしれないとんでもないものを見つけちゃったのだぜ!!」

 

 やっぱりか。

 

 この男は短い間しか知らないがそれでもわかる。

 

 根本的に演出家気質の愉快犯。自分の行動を人に見せたがる遊び半分がモットーだ。

 

 ゆえに派手に動ける根拠があると踏んだが、マジであんのかよ。

 

「666って言葉が不吉なのは知ってるだろ? 俺はその本元、トライヘキサっていう化け物が封印されてるのを見つけちゃったのさ!!」

 

 おいおい全盛期のオーフィスクラスが三つもいんのかよ!

 

 勘弁してくれマジで俺たちが相手をする羽目になりそうなんだよ! くそ、しかもこの調子じゃ封印の解除も進んでると考えたほうがいいなオイ!

 

「因みに封印を施したのは聖書の神だっぜ! たぶんそれで弱ったから俺の父ちゃんたちとやりあって死んだんじゃねえかな? そうだとしても驚かないぐらいのやっばい封印が満載だったぜ!」

 

 そんなやばい封印を解除し続けてるってか?

 

 解除してるのはおそらくレイヴンの直死の魔眼。一発で一つは確実に解除できるだろうし、そう考えると封印の数は二桁どころか四桁超えてもおかしくないだろう。そうでなければむしろもう解除されていてもおかしくない。

 

 もしくはレイヴンが不調なのか? 確かにあんな能力早々連発できないだろうからぶっ倒れても不思議じゃないが・・・。

 

 考え始める俺を目にしながら、リゼヴィムは本題といわんばかりに俺に手を差し伸べた。

 

「つーわけでさ、こっち来ない?」

 

「・・・は?」

 

 何を言っているこいつは?

 

「いや、前から思ってたんだけど君はオジサン側じゃん?」

 

 こいつ側、か。

 

「君は間違いなく悪の側だ。赤龍帝みたいな正義の味方なんかじゃ決してない。悪魔らしい、裏で手をまわして自分が優位に立つのが大好きな側だ。おじさんとはタイプが違うけどオジサン側ではある」

 

 リゼヴィムは割と真面目な顔でそう告げる。

 

 少なくとも、真実そうだと確信してる。

 

「ぶっちゃけそこいてて息苦しくね? この中二病おじいちゃんみたいにはっ茶気て、その結果死んでもそれはそれでいいやって思える破綻者だと思うんだよねぇ、おじいちゃん」

 

 その目は悪意に満ちていたが、少なくともストレートだった。

 

 ああ、確かにこいつはシャルバなんかより悪魔の王らしいよ。

 

 人の邪悪を見抜く資質は間違いなく俺が見てきた中でも最上位だ。

 

「・・・否定はしないよリゼヴィム。俺は正悪でいうなら間違いなく悪だ。出なければ裏社会に自分から乗り込んだりはしないだろう」

 

 ああ、それは否定しない。

 

 社会的なルールは知っているし自分の中でもルールはあるが、必要とあればそれを踏む超えることを厭わない。手段を選ばないという側面においては俺は間違いなくグレモリー眷属でトップクラス。サーヴァントになれば属性悪と設定されても何一つおかしくない。

 

 できるできないはともかくとして、一つの世界を混沌に導くという行為に対して一種の興奮がないといえば嘘になる。かたっくるしい社会規範にのっとるよりかは性に合ってるだろう。実際今でもそこそこ守らないしな。

 

 というより、俺は自分を必要悪と定義したことはあっても正義の味方と定義したことは、ない。

 

 そういう意味では俺のことをよく見ている。

 

 ああ、お前は確かに俺のファンだ。

 

「・・・リゼヴィム。なら俺の根幹もわかるだろう?」

 

「うん。なんだい言ってみなよ」

 

 たぶんだが、こいつは答えを予想していてあえて訪ねてきた。

 

 ああ、俺がいうことでもないが性格悪い遊び人だよこの爺。

 

「俺の行動理念は根本的にはただ一つ。俺を救った兵藤一誠に胸を張れる自分でい続けること。・・・その前提に合致しないんだよお前の理想は!!」

 

 そう、俺の行動理念なんてぶっちゃけそれだ。

 

 あの時、諦観と絶望に埋もれていた宮白兵夜をすくった何気ない一言。

 

 その一言を言った兵藤一誠という輝きを浴びるにふさわしいと思える自分でいつづける。そのためならば今の兵藤一誠と戦うことすら厭わない。

 

 そんな人格破綻者だからこそ、こいつの誘いに乗る余地はない。

 

 だから、ためらうことなく神器を発動させて一撃叩き込んだ。

 

「・・・うらやましいねえ。そんな早くから望みがあって」

 

 なぜか、リゼヴィムは傷一つどころか当たることなく平然としていた。

 

 どうやら何らかの対策を取っているようだ。マジでめんどいなこいつ。

 

「おじいちゃんなんかユーグリッドが乳神君の情報くれるまでさ、生きる理由ってのが全然ないんだよ。ほんとアレは生きてるって言わない、ただの考えることができる物だ。・・・なあ、君ならその気持ちわかるんじゃないか?」

 

「それは同感だ。まさにイッセーと出会うまでの俺がそうだったからな」

 

 生命活動を続けていることと生きているってことは確かに違う。

 

 そういう意味では、リゼヴィムは今頃になってようやく生きているということなんだろう。

 

 ならば説得は無意味。むしろ殺してやる方が優しさだろうし、その方がいろいろな意味で好都合かもしれない。

 

 いろいろな意味でいいことなので遠慮はしない。

 

 とりあえず神器の使用はやめたほうがいいだろう。となれば・・・。

 

「神器を使わなければいいと思った? 残念、実はリリスちゃんは君の後ろにいるのです!!」

 

 え、うそ! 後ろ!?

 

 やべ、切り札間に合うか・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 リゼヴィムは心底残念に思いながらその光景を見ていた。

 

 断られるのはわかっていたが、たぶん彼を味方に引き入れれば面白いことになるとは思っていた。

 

 だがまあ、さすがにリリスを相手にして勝てるわけがない。単純なステータスが圧倒的に開きすぎており、単独では技巧派とかそんなことでどうにかなる次元ではない。

 

 蒼穹剣を使われたら話は別だろうが、アレはおそらく何度も使えるものではないし、不意打ちの強襲では使えない可能性はすでに分かっていた。

 

 我ながら若干遊び心が足りない判断だったが、結果がこれでは実に残念だ。

 

「いや、残念だよ兵夜くん。俺は半分ぐらいマジで、君と一緒に異世界に混乱を巻き起こしたかったんだぜ?」

 

 これは本当に本気だ。

 

「だって異世界の一つに詳しい君がいれば、その異世界なら攻略本があるわけじゃん。これはだいぶ有利に展開できるし本気だったんだよぉ」

 

 だが断られたら仕方がない。

 

 ほっといて様子を見るのもありだが、それはそれで悪っぽくない。

 

 ここで死体の一部でも持ち帰って見せつけ、兵藤一誠たちの怒りをあおるほうがまだ面白そうだろう。

 

「んじゃ、アザゼルおじさんあたりに君の死体と一緒に大公開しておおあばれしようかねぇ」

 

「・・・いやいや、それはまだ先走りすぎだぜおじいちゃん。もしかしてボケた?」

 

 煙を突き破って、再び光の槍がたたきつけられる。

 

 さらにほぼ同時に実弾や聖水もたたきつけられてさすがにちょっとかゆかったりするが、それはほぼどうでもいい。

 

「・・・物理攻撃と魔術攻撃は掻き消されない。どうやらやっぱり対神器特化の能力か何かを持っているようだな」

 

 煙が晴れたところにいた宮白兵夜は一つを除いて変化がなかった。

 

 傷はない。汚れはない。鎧の形状の変化もない。

 

 だが、装備が一つ追加されていた。

 

 鱗のように小さな金属片を、大量にくっつけて作られたかのような黒い楯。それをリリスの方向に向けて構えていた。

 

「おいおいおいおい。まさかと思うけどそんな楯でリリスちゃんの攻撃防いじゃったの? おじさんでも大変なのに防いじゃったの?」

 

 割と本気で驚いたが、むしろ宮白兵夜はその姿にあきれているかのようだった。

 

「馬鹿かお前は。俺が、イッセーの、宿敵の、ヴァーリの、対策を、取って・・・ないわけがないだろうが!!」

 

 言うが早いか、兵夜は楯をリリスに向かって投げつける。

 

 投げつけられた楯はその過程で分裂し、リリスに絡みついた。

 

 そして次の瞬間にはリリスは力を封じられたかのように倒れ伏す。

 

「・・・くだんのクソ馬鹿小僧曹操君が、オタクのお孫さんを弱らせるのに使ったサマエルの毒。それをアーチャーがちゃっかりお猿のおじいさんから回収していてな。おかげで対龍疑似宝具を作り上げることに成功したよ」

 

 結果を確信しているのか、宮白兵夜はリリスには一瞥もくれはしない。

 

「さあ、フィフスからアサシンを借りているなら呼び出したほうがいい。キャスターでもセイバーでもバーサーカーでもいい。ないなら少し覚悟しろ」

 

 次の瞬間、偽聖剣の聖なる輝きが増幅した。

 

 圧倒的な出力にリゼヴィムの肌がこの距離からでも焼けそうになる。

 

 魔力を放出して防ぎながら、リゼヴィムは少し遊びすぎたと反省した。

 

「祝福の出力の相乗効果を狙って開発した、対邪専用特化形態。祝福されし神なる剣(エクスカリバー・ヤオヨロズ)。マリウスは聖杯でオーラ対策がされてそうなので固有結界なしに使うのは避けてたが、お前さんはたぶん舐めプして忘れてるだろ。テストの相手としては申し分ない」

 

 鎧越しだが間違いなくわかる。性質が近いから絶対に確信できる。

 

 この男、今間違いなくすごく悪い笑顔を浮かべている。

 

「さあ、聖杯戦争を始めよう。今すぐアサシンあたりに助けを呼びな!!」

 

 

 

 




蒼穹剣の攻略法その一。とりあえず使いつぶさせる。

連発が効かない上に一人にしか使えないので、連戦に持ち込むと意味が大きく薄れるのが蒼穹剣の難点の一つ。先の展開を予測して運用しないと無駄遣いになりえるのです。

とはいえそんなことは当人が一番よくわかってるのでしっかり反撃していますが。





サマエルの毒を利用した対ドラゴン武装はかなり前から構想していました。対邪龍戦が頻発するであろう四章では非常に便利なアイテムになるでしょう。とはいえ兵夜発案なので癖も強いのですが。







そして宮白兵夜にとってイッセーが重要なのが、世界にとっても重要だったというお話。一歩間違えればトリックスターとして兵夜が三大勢力と禍の団を引っ掻き回す可能性もありました。


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戦闘、白熱します!

今回は短めです。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 佑斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 城の中に突入して少し経った。

 

 クロウ・クルワッハはゲン・コーメイに任せることにした。

 

 おそらくだが、かなりの時間を稼いでくれるだろう。なぜかはわからないがものすごい有利に渡り合っていた。

 

 今優先するべきは確かに聖杯の奪還だ。このまま聖杯が奪われたりしたら大変なことになる。

 

 だから急いで駆け抜けている中、いきなり目の前の通路が崩落した。

 

「・・・戦闘の余波か!? く、こんな時に!!」

 

 敵襲を警戒して僕たちが構える中、煙を突き破って現れたのは朱乃さんたちだった。

 

 イリナさんや青野さんもいる。無事だったのか!

 

「イリナ! 実質無事のようですが現状は!?」

 

「ベルさん、ゼノヴィア! た、たたた大変なの、ギャスパーくんがなんかとんでもないことになっちゃってるの!!」

 

 イリナさんは顔を真っ青にしてあわてている。

 

 ギャスパー君がいったいどうしたんだ。

 

 と、遅れながらジャンヌとヘラクレスがヴァレリーさんを抱えながら現れる。

 

 どうやら宮白君は二人を先行させて僕達と合流させることを優先させたらしい。合理的な判断だけど自分が囮役になるあたり彼は本当に人がいい。

 

 急いで彼の助けに行くことも考えたが、こちらの二人も顔色が悪かった。

 

「ゲオルグが圧倒されたってのも納得だなオイ。相手しなくてよかったぜ」

 

「ちょっとグレモリー眷属。アレはさすがにないんじゃないの?」

 

 本気で思うところがあるようだが、しかしそれを続いて堕ちてきた影をみて納得した。

 

 ・・・肥大化する巨人が、しかしそれ以上の速度で獣に食われている。

 

 食われた端から再生しているようだが、しかしそれ以上の速度で闇で出来た獣が彼の体に食らいついて食いつくす。さらに傷口にも闇がまとわりついて、次第に再生を阻害させていった。

 

 どうやら英霊を宿した存在のようだが、それすら圧倒するとはなんて力だ。

 

「まさか、これをギャスパーくんが?」

 

「ああ、フィフスの奴が聖杯を出してからこの調子なんだが、だれかアザゼルを見つけてきてくれねーか? 気になることがある」

 

 青野さんは目の前の光景よりもヴァレリーさんの方が気になっているようだ。

 

 まあ確かに、この調子では僕達の出番は・・・。

 

『へえ、この魔性だけになったとはいえ、バロールの目を突破するだなんてやるじゃないか』

 

「さすがに聖杯がないとやばかったがな。・・・だがデータは取れた。これで何とかなりそうだ」

 

 ギャスパーくんと思われる闇で出来た獣とフィフスがにらみ合っている。

 

 フィフスの体も傷つけられて闇がまとわりついているが、しかし聖杯の力が少しずつ再生を進めているようだ。

 

 みれば聖杯には血がついている。戦闘の余波でついたとするには違和感があるし、それ以上にフィフスらしくない。

 

『だけどヴァレリーを殺したのはだめだ。お前に聖杯は使わせない』

 

「いやだね。俺は聖杯を禁手にまで高める必要があるんだこれが。・・・俺の根源到達のために必要な儀式を邪魔するなら、たとえ神でも殺してやる」

 

 フィフスは狂気を感じさせる表情で拳を構える。

 

「俺は根源到達を続行し完遂し終了する。邪魔をするならここで滅びろ。ヴァレリー・ツゥペシェと同じところに逝くといい」

 

『そうか、じゃあ喰らい尽くして止め尽くして終わらせ尽くしてやるよ』

 

 次の瞬間、闇で出来た獣たちが一斉にフィフスに襲い掛かり、フィフスはそれを拳で迎撃する。

 

 さすがはあのサイラオーグ・バアルと渡り合うだけある。あの獣は一体一体が尋常でない強さを持っているだろうが、それすらやすやすと屠っていく。

 

 僕達も鍛え上げ、知恵を練り、そして幸運に恵まれながらも強くなっていく。そしてフィフスもまるでこたえるかのように己を鍛え上げて、知略を尽くして強化していく。

 

 間違いなく強敵以外の何物でもない。ここはやはりグラムを使ってでも倒すべきか・・・。

 

「おい木場。変なことは考えるなよ」

 

 青野さんが、鋭い視線をこちらに向けた。

 

「もうグラムは使ったんだろ。だったらこっから先はグラムを使わずにどう戦うかだ。グラムを使うことを前提に考えるな」

 

 そう言い放つと、風を纏いながら青野さんは一歩前に出る。

 

「とっとと聖杯を回収するぞ。言い方は悪ーがヴァレリーの生死に関係なく、聖杯の確保は必要だ!」

 

 冷たい言い方になるが青野さんのいうことは最もだ。

 

 彼女は生前宮白君をはるかに上回る深い闇の世界にいたらしい。それゆえにこういう時に冷徹な判断ができなければやっていけなかったのだろう。

 

 冷たいが正確な言葉だ。今は従うほかない。

 

 僕たちは武器を構えるとフィフスに向かって突撃した。

 

「あーやっぱり来るかよ。そうなるかよ。だったらこっちも本気出すしかねえよなぁ」

 

 フィフスはギャスパーくんの猛攻をしのぎながら、懐から宝玉を一つ取り出す。

 

 このタイミングでのアイテム。間違いなく何らかの切り札といえるもののはず・・・!

 

「せいぜい生き埋めにならないように気を付けな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とヴァーリは左右から連続で攻撃を仕掛けるが、ふんどしはそれらすべてに完璧に対応していた。

 

 くそ、二天龍の同時攻撃に反応とかどんだけ化け物なんだよこいつ。

 

「何を驚いている? 戦場で複数の敵に一斉に狙われるなど珍しくもなんともない。戦闘にはなれているが戦争にはなれてないのか?」

 

「なるほど。強者との戦いだけではなく本物の戦争の経験者か。これは楽しめそうだ」

 

 ヴァーリは嬉しそうに震えるけど、しかしはっとするとかぶりを振った。

 

「だが今は優先順位がほかにあるのでな。悪いがすぐに終わらせてもらう」

 

「ああ、終わらせてUMAをprprしなければならないからな」

 

 そういった瞬間、ふんどしは俺の斜め後ろに現れた。

 

 桜花さんと同じ瞬動か! ええい厄介な能力だなホント!

 

「砕け散れ、KIAI☆ビィイイイイイイイッム!!」

 

 なんか気合いを入れてるっぽいポーズを取ったかと思ったらビーム出てきたぁあああああ!?

 

 し、しかもふざけた名前の割に威力がでかく、俺は思いっきり吹っ飛ばされた。

 

「くそ! あのふんどし格好が変なのに無茶苦茶強い!!」

 

「ああ、本当なら全力でぶつかりたい相手だ。邪魔してきた連中のせいで極覇龍が使えないのが本当に残念だ」

 

 ヴァーリが本当に残念そうにそんなことを言う。

 

 ああ、だけどこのままだとさすがにやばい。大丈夫なのかよこの戦い。

 

 あとナツミちゃん巻き込まれてないだろうか。

 

『まったく、おっぱいドラゴンのつぎはふんどしか。この時代は二天龍にとって試練続きだとは思わないか、赤いの』

 

 アルビオンがため息交じりにそんなことを言ってきた。こころなしかすごく疲れてる感じだ。

 

『言うな白いの。俺だってつらいんだ』

 

 ドライグも涙語で返してくるんだけど、さすがにふんどしは俺の責任じゃないよね?

 

『わかっているさ赤いの。苦しんでいるのはお前だけではないし俺だけでもない。俺たちは同じ苦しみを共有している仲間だ』

 

『・・・っ! 仲・・・間?』

 

『そうだ。俺たちは同じ苦労を分け合うたった二体の二天龍。乳龍帝だのケツ龍皇だの言われる苦労を支え合うことができる。俺は、それを三蔵法師に教えられた』

 

 あのすいません! 今俺たちふんどしにボコられてる真っ最中何で後にしてもらえないでしょうか!!

 

『そうだったのか。そうだったのか! そう・・・だったのか!!』

 

『そうだ赤いの。俺たちは敵じゃない。仲間なんだ!』

 

「アルビオン。悪いがとりあえずこれをしのいでからにしてくれないか?」

 

 ヴァーリも戸惑ってる。ですよね!!

 

「ぬぉおおおおおお! 気合いだぁあああああ!」

 

 ぐわあああああ! もろに殴られたぁああああ! マジで痛いぃいいいいい!!

 

『思えばこんな気持ちは三大勢力にあの戦いを邪魔された時以来だ』

 

『ああ、あの時も俺たちは同じ気持ちだった・・・』

 

 だれかぁあああああ! この二人を現実に引き戻してくれぇええええええ!!!

 

 などと思ったら、城の方がいきなりでかい爆発が二つも起きた。

 

 な、なんなんだいったい!?

 

 と、片方からなんか百メートルを軽く超えるでかい化け物が姿を現し、もう片方からはなんとリゼヴィムと宮白が組み合いながら出てきやがった。

 

 しかもふと気づいたら、なんか町中からドラゴンがいっぱい出てきやがった。

 

 オイなんだよこの状況! 混乱の極みじゃねえか!!

 

「どうやらリゼヴィムがUMAを作り出したらしいな。早く終わらせてペロペロしなくては!」

 

 違う! あれUMAじゃなくてドラゴン!! ふんどしさんアンタそんな判断基準でいいのかよ!!

 

「さあ、おとなしくやられるがいい!!」

 

 うぉおおおおおおおおお! 負けるかぁああああああああ!!!

 

 

 

 

 

 




原作の重要ポイントをおさらいする感じなので今回は短めに。

因みに、フィフスがバロール状態のギャスパーの停止をガン無視できているのには実力とかではなくもっとちゃんとした理屈があります。そして今回の戦闘でそれが有効と判断されたがため、今後の戦闘でギャスパーは苦戦を強いられることになるでしょう。


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ナツミ、頑張ります!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナツミは朦朧とした意識の中で恐怖に震えていた。

 

 今でも手に取るように思い出せる。

 

 誰も頼るものがいない。自分の力もよくわからない。そんな中で一人で生きなければならない状況で、明らかに異常な風体の男たちに追いかけまわされるという事態。

 

 それゆえにそこから引っ張り上げてくれた人のこともまた容易に思い出せるが、だからといって恐怖が消えるわけではない。

 

 ナツミにとってあのふんどしは恐怖の象徴だ。

 

 その直後に救い上げられたがゆえにその思い出は輝かしい。しかしそれゆえにその傷跡は、とても深い。

 

 かろうじて意識はあったが体が全く動かない。それどころか体の感覚すらよくわかっていなかった。

 

 気温とは関係なく寒気がする。震えが全く止まらない。呼吸が全く落ち着かず息苦しい。

 

 それらすべてが精神的なもので気の持ちようで何とかなるのもわかっていた。

 

 だが、心から恐れるものが目の前に現れたとして、気の持ちようだから気にしなければいいなどといわれても簡単にできるものがいるだろうか?

 

 少なくとも、彼女はそれを簡単になせる方ではない。少なくともその類の強さは彼女にはない。

 

 ナツミ自身それがよくわかっている。自分がそういう意味では弱いことなど承知の上だ。

 

 そういう強さがないならこそ、肩を貸してくれた彼に恋い焦がれた。

 

 そういう強さがないからこそ、同じくないものたちと共感を抱いた。

 

 ある意味そうだからこそ今の関係を築き上げているし、ゆがんではいるがゆがんでいるなりに前に進もうと努力している。弱さを自覚しそれでもなお強くあろうと努力している。

 

 そしてそれでも倒れそうになる中、肩を貸してくれる人たちがいるからがんばれる。そして倒れそうな人に肩を貸して頑張らせる。

 

 だからこそ、その肩を貸してくれる人がいないナツミは倒れたままだった。

 

―兵夜ぁ。

 

 だから思わず助けを求める。

 

 弱いから、異端で異物という事実に耐えられるほど、自分の心は強くないから。

 

 だから肩を貸してほしい。だから安心させてほしい。

 

 その分だけ頑張って肩も貸すから。支えてくれた分力になるから。

 

 それはいびつかもしれないが、そのかみ合わせが自分たちを前に進ませてくれるから。

 

 弱いなりに力を出したいから、そのためのかみ合わせがほしいと願う。

 

 自分一人で立ち上がれるほど強くないけど、誰かが肩を貸してくれれば、その分自分も支えられる。

 

 それが、自分たちなりに強くあるということ。

 

 だからお願い、どうか自分に杖をください。それがなければ進めないけどあれば必ず進んで見せるから。

 

 最後の一歩を踏み出すためのきっかけだけが、手に入らない。

 

 その一歩踏みとどまってしまう意識の中、すぐ隣で轟音が鳴り響いた。

 

「どうした赤龍帝! その程度では我がUMAを求める気合いには届かんぞ!!」

 

 耳にするだけで怖気のする声が響き、今度こそ意識をなくしてしまいそうになる。

 

 暗くなっていく視界の中、しかし声が響いた。

 

「・・・舐めんな! 俺の仲間には絶対手を出させないぜ!!」

 

 実は、結構微妙な扱いというかナツミの中でイッセーの順位は低い。

 

 友達として付き合う分には非常に好感が持てるのだが、欠点がいろいろひどすぎるというか個人的にすごいきついというか。

 

 兵夜とともに真っ先に助けに来てくれたというか助けに来てくれた順番ではある意味一番早いが、いかんせんスケベすぎる。

 

 何度も怒られてるのに覗き行為を連発するのが特にあれだ。リアスとか全然気にしてないが、それ自分たちとは別の意味で問題あるだろう。おっぱいドラゴンとか面白いけどニチアサ的な番組で出すのはどうかと思う。アレ? 異形社会全体が問題児じゃないのこれ?

 

 そんなわけで正直扱いが悪いのだが、イッセーはそんなことは全く気にしていないようだった。

 

「確かにナツミちゃんは俺に対して容赦ないときあるけど、それでも俺の大事な仲間達だ! 俺は仲間を絶対にあきらめないし見捨てねえ!!」

 

 戦闘経験が豊富なサミーマの記憶があるからよくわかる。

 

 間違いなくイッセーはいつも以上に無理をしている。

 

 すでに相当にダメージが入っている。下手な意志力の持ち主ならすでにあきらめて戦闘を放棄するレベルだろう。今すぐにでもアーシアを呼びに行きたいダメージだ。

 

 それでも、それでも兵藤一誠は立ち上がる。

 

「いや、俺たちオカルト研究部だってみんなそうだ! ・・・宮白はやっちゃうときあるけど、それだって本当に手段がないか真剣に考えてるだけで、頭いいし時間ないからすぐ考え終わっちゃうだけで冷血なわけじゃ絶対ない!!」

 

 骨のいくつかにひびが入っているだろうし、内蔵にもダメージが入っているだろう。

 

「そんな俺たちの目の前で、お前はナツミちゃんを怖がらせた! っていうかショックで倒れさせた!!」

 

 そういえば兵夜から聞いていたが、あったばかりのアーシアのために、一人でも堕天使たちが集まってる中に飛び込もうとしたことがあったらしい。

 

 コカビエルの時も、教会全員を一人で敵に回してもアーシアを守ろうとしたと兵夜から聞いた。

 

「やらせねえよ。誰が何といおうとやらせねえ。俺の仲間を勝手な理由で傷つけようっていうなら、まず俺を倒してからにしてもらおうか!!」

 

 ・・・全くホントに、馬鹿はこういう時、良くも悪くも考えない。

 

 会い方次第ではこっちに惚れていたかもしれない。そう思わせる熱血漢。

 

 リアスたちがベタ惚れになるのもまあわかるし、グレモリー眷属の支柱になるのも当然だ。

 

 それにまあ、今頃主は一人でいろいろ大変なんだ。

 

 ・・・使い魔としては頑張らないといけないわけで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんにゃあああああああああ!!!」

 

 突然ナツミちゃんが飛び起きて、俺は思わず振り返りそうになった。

 

 我慢我慢! 今振り返ったらふんどしにボコられる!

 

「ナツミちゃん! 大丈夫!」

 

「全然大丈夫じゃないけど大丈夫! 悪いけど肩借りるからね!」

 

 そういいながらもナツミちゃんは、全然肩を借りずに俺の前に出る。

 

「もうなんかいろいろ馬鹿らしくなった! とりあえず追いかけまわされたオトシマエはつけるからね!!」

 

「ナツミちゃんそれ意味わかってないよね!?」

 

 と、とはいえ戦力アップはありがたい。

 

「ヴァーリぃいいいい! こっちも時間がねえ、畳みかけるぞ!!」

 

「いいだろう、俺もリゼヴィムの相手のしたいからな。ここで決めるぞ!!」

 

 行くぜ、ふんどし!!

 

 俺とヴァーリが左右から攻め、そしてナツミちゃんが真正面から突っ込んだ。

 

「サタンソウル、ヴァプラ!!」

 

 獅子の姿に変じたナツミちゃんが真正面から組み付いた。

 

 ふんどしはそれに耐えるけど、その状態で俺たちを同時に相手できるか!!

 

「もらった!」

 

「甘いぞ!!」

 

 ふんどしはナツミちゃんと組み付いたまま軽くジャンプして両足で俺たちを蹴り飛ばす。

 

 くそ、今まで手を抜いてたのか!?

 

 そういえば、桜花さんが行く前にこんなことを言っていた。

 

『隊長が私よりどれぐらい強いかー? ・・・強さの次元が違うから比較にしないほうがいいかもー』

 

 本当にシャレにならない。

 

 っていうか吹っ飛びすぎて距離を取られた! このままだとナツミちゃんがヤバイ!!

 

「まだまだ! グレゴリー!!」

 

 やばいと思ったのか距離を取ると、素早く砲撃をぶちかます。

 

 が、ふんどしの奴は桜花さんに負けないような瞬動で懐に潜り込んだ。

 

 まずい、アレは俺が曹操にやられたのと同じ手段だ。変身した形態の能力が特化型メインだから、それ以外で攻めれると一気にやられる!!

 

「さあペ―」

 

「甘いわデカブツ!!」

 

 舌をだしたふんどしの顔面にストレートが入った。

 

 あ、あの豪快な音はヴァプラを発動状態じゃないとおかしい! でもどうして・・・あ。

 

「その手のトラップなんてわかってんだよ! 右手だけ残しといてよかったぜ!!」

 

 器用だよナツミちゃん! やっぱりこの子も天才だ!!

 

 だがふんどしはまだ頑丈で持ちこたえてやがる。くそ、このままだと時間がかかる・・・。

 

「おーおーやってんなぁ三人とも」

 

 と、俺たちの後ろから声が聞こえ、通り過ぎて光の槍がふんどしに突き刺さる。

 

「待たせたな。吸血鬼たちは大半片づけたぜ」

 

「アザゼル先生!!」

 

 うぉおおおおおお! 頼もしい援軍が来てくれたぜ!!

 

「・・・潮時か。そろそろ時間だし先に帰るとしよう」

 

 ふんどしはそういうとナツミちゃんから距離を取る。

 

「あ、待てやコラ! まだ殴り足りねえぞ!!」

 

「悪いがそろそろ男のUMA特集の時間でな。それにこっちに時間をかけている余裕もないはずだぞ?」

 

 ふんどしはそういうと街の方を指さしてからすごい速度で飛び去った。

 

 ・・・あ、なんか町中でドラゴンが出て暴れてやがる!!

 

「ちっ! リゼヴィムの野郎何しやがった! ・・・おいお前ら、とりあえず手分けしてこいつらを片付けるぞ!!」

 

「俺はリゼヴィムの相手をしたいんだが、まあ邪魔な奴等は片づけるとするか」

 

「え、え、あ、はい!」

 

「ご主人ほっとくのかよ!? ・・・あ~でもこいつらほっとけないし・・・畜生が!!」

 

 俺たち三人とも行きたい方向一緒だけど行くにいけないよほんと!

 

 くそ、宮白無事でいろよ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




恐怖に震えながらも頑張る女の子は燃える上に萌える。異論は認めない。

ナツミちゃんもいろいろと影響を受けて成長しているのです。兵夜にべったりなわけではありません。


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錬金術師の野望は進む

遂にルーマニアの戦いもクライマックスに入りました!


 

「ルシファーウイングすごいはやーい! ほ~らほら、追いついて御覧なさ~い」

 

「うおおおマジでむかつくくたばれ!!」

 

 当たってくれないな本当もう!!

 

 神格能力を制御して祝福との相乗効果に割り振ったこいつは、いうなれば邪悪な存在に対する天敵だ。

 

 さすがに単独の相手を倒すことにおいて蒼穹剣には及ばないが、それでもチートじみた出力を発揮する。少なくとも一撃当てればかなり削れる自信がある。

 

 けど当たってくれない!!

 

 しかもよく見ると町中ドラゴンだらけだし、しかも豪獣鬼まで出てくるしでとんでもない大騒ぎになってるぞこれ!!

 

「ルシファービームはすごい痛~い。ほらほら喰らったら大変だぞい」

 

「お前もうほんと神経逆なでするよね!!」

 

 さすがに直撃喰らうとやばいので、聖剣の能力をフルに生かしてかく乱しながら、加えて装甲版を空中に展開して防ぎきる。

 

 超越者を名乗るだけあってかなりきつい。これは一人で挑むのは無謀だったか。

 

 とはいえここまでやばいやつをほおっておくなんて選択肢は存在しない。幸い相性はいいしできれば体当たりでデータぐらいは取っておきたいところだが・・・。

 

「そろそろ面倒だから帰っていい?」

 

「駄目に決まってんだろうがコラ!!」

 

 このおふざけ野郎マジでむかつく。

 

 俺も挑発目的でふざけた発言だしたりすることはあるけど、自分がされるとすごいむかつく!

 

 だがこんなところで逃がしたままでいいわけがない。こいつはここで確実に・・・。

 

「だからこいつをぶつけちゃうぜ☆」

 

 次の瞬間、真上からなんかでかいものが降ってきたのであわてて回避した。

 

 うぉおおおおお!? 豪獣鬼がこっちきやがった!!

 

「くそが! てめえこれはねえだろ!!」

 

「うひゃひゃひゃ! 俺を倒したいっていうならそれぐらいは何とかしてくれないと困るぜ☆ じゃ、がんばってね~」

 

 そのままリゼヴィムが逃げるていくが、しかしこのままでは追いかける余裕がない。

 

 それが分かっているのか、リゼヴィムは余裕の表情を浮かべると空間をゆがめてなんか取り出した。

 

 なんだあれ、カップ?

 

「因みに、聖杯はすでに確保済みなのでこれからも好き勝手暴れるぜ! あ、ヴァレリーちゃんの聖杯は特別性で三つぐらいあったからまだ死なないんじゃないかな? フィフスも一つ回収してるからやばいかもしれないけどね?」

 

 オイオイオイオイちょっと待て! そんなこと今沢言われてもマジで困るんだけど!?

 

 あ、ちょっと待て!

 

「ど畜生がぁああああああああ!!!」

 

 リゼヴィムは逃がすし聖杯は奪われてるし、挙句の果てに今のモードじゃ豪獣鬼相手には相性差が生かせないし蒼穹剣もガス欠。

 

 どうしろっていうんだよこの状況!!

 

 振り下ろされる剛腕を回避しながら、俺はとにかくひきつけるだけ引き付けようと牽制のガトリングを叩き込む。

 

 このデカブツが街中で動いているということがすでに大惨事以外の何物でもない。間違いなく死者大量に出てるだろこれ。

 

 とにかく破壊が激しくて建物も少ない方向に誘導して、犠牲者を少なくした方がいいだろう。

 

 どんどん出てくる小型の魔獣を撃ち落としながら、俺は何とか誘導を試みる。

 

 だがそれはそれとして実に厄介な事態だ。

 

 マリウスは本当に道化だった。おまえ聖杯がいくつもあるならまず一つ確保しておけよとか本気で思う。まさか気づいてなかったとするならなんかそんなの苦戦した自分が嫌すぎて涙出てきそうだ。

 

 しかもフィフスまで確保済みだというのが非常にきつい。

 

 ホムンクルス(生命)を生み出す錬金術師であるフィフスと、生命を司る神滅具(ロンギヌス)である聖杯の相性は間違いなくでかいだろう。さすが聖杯戦争を生み出したホムンクルスに長けた御三家。なんていうか奇縁というかなんというか。

 

 あ、業獣鬼がビーム出してきた。回避回避。

 

 っていうか三つあるとはいえ三分の二もとられたらヴァレリーはやばいことになっているんじゃないだろうか。

 

 ヘラクレスたちはアーチャーやアザゼルと合流しているだろうか。せめてアーシアちゃんが来てくれれば何とかなるんだけど。

 

 しかし滅びた邪龍すら復活させる幽世の聖杯と英霊という一度死んだ存在を呼び出す聖杯戦争のシステムの相性も心配だな。ここにきてサーヴァントが追加召喚とかされたら笑えないというかひっくり返るというか。

 

 今度は火を噴いてきたが、こんなこともあろうかと鎮火魔術礼装は開発済みである。

 

 そういえばフィフスって超獣鬼も回収してたよな。でもこんなところで獣鬼使うって大盤振る舞い過ぎないだろうか。

 

 ・・・聖杯を使って強化とかされたらすごく嫌だ。でも間違いなくやるだろうなぁ。対抗術式対策ぐらいは間違いなくするだろうしなぁ。俺だったら絶対やるしなぁ。

 

 やはりここは聖杯のデータをしっかりと調べたほうがいいよなぁ。っていうか、聖遺物のくせに邪悪すぎなんだよ聖杯。なんでこんなやばいもんがランダムに出てくるわけ。

 

 聖書の神もその辺考えて作ってほしいな。仮にも聖遺物を信徒でもない奴にわたらせるとか思い切りがよすぎだろ。悪魔の駒のシステムがなかったとはいえ、ハーフ悪魔に使われる可能性とか考えてなかったのかねぇ。

 

 腕を回避するのは面倒だけど、距離を取りすぎると陽動できないしこれは難易度が高い。

 

 いっそのこと悪魔の駒を使って神器取り出してから転生させるというのはどうだろうか。あ、でも一度殺すわけだから部長もイッセーも賛同するわけないか。

 

 どうせ生き返るならそれはそれで問題ないような気もするが、さすがにそれは魔術師脳すぎるからOK出ないだろう。これを独断でやるのはさすがの俺も気が引ける。

 

 こりゃ早めに取り返さないとまずいというわけだ。できれば埋め込みなおす前に精密解析したいところだがそんな余裕があるかどうか。

 

 ・・・さて、これだけはなれていれば何とかなるだろう。

 

 平行作業で今後のことについて考えていたら、いつの間にやら都合のいいところまで来れた。後は俺がしっかりと仕事して時間を稼げばいいだけだ。

 

「とりあえずイッセーたちが合流してくるまでは粘らせてもらう。時間稼ぎに付き合ってもらうぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのあとマジで大変だった。

 

 ユーグリットが赤龍帝の鎧をコピーしてやってきたせいでぼこぼこにされちまった。

 

 くそ、性能なら間違いなく本物の俺の方が上なのに、本体の性能さで圧倒されちまった。俺が弱いのは知ってたけど、ここまでやられるとさすがに凹むぜ。

 

 まあそれは白龍皇の力が新しく変化してパワーアップしたおかげで何とか追い返せたけど、聖杯が奪われたのはシャレにならない。

 

 フィフスもどさくさに紛れて逃げちまったらしいし、くそ、俺たち今回やられっぱなしな気がするぜ。

 

 とりあえず町の破壊は俺とアーシアの合体技で何とかなったけど、街の人たちの心の傷まではこれじゃあ治せない。

 

 この様子じゃカーミラの方も大変なことになってるかもしれない。くそ、今回は本当にぼこぼこだ。

 

 そして町から離れたところでは戦闘がまだ続いている。アーチャーさん曰く宮白が戦闘中らしい。

 

 あの野郎嫌な置き土産しやがって。後で覚えてろよこの野郎!!

 

 とりあえずまだ残ってる邪龍の相手などもメンバーを分けて対応しつつ、俺たちは何人かで宮白の援護に向かっていた。

 

「ベルさん! 宮白はまだ大丈夫ですか!!」

 

「大丈夫です! 感覚的に特に異常はありませんので、特にひどいダメージを受けてるとかそういったことは実質ありません!」

 

 つながってるベルさんはこういう時に頼りになるぜ!!

 

「しかしフィフスも嫌な置き土産を残してくれる。どれだけ回収したのか知らないが、いくらなんでも使い切ったことはないだろうな」

 

「そうですわね。これからもたぶん出してくるでしょうけれど、でも足止めのためだけにおいていくとか妙ですわね」

 

 ゼノヴィアと朱乃さんは首を傾げるけど、確かにフィフスらしくないよなぁ。

 

 あいつ数で責めたり力押しで行くけどバカじゃないし、すでに逃げるんだったらもっと使い捨てにしやすいやつらを残していくと思うんだよ。

 

 ってことは間違いなく勝算があるわけで・・・。

 

 みんな早くこっち来て! もしかすると結構やばいかも!!

 

 と、そんなことをしている間に宮白が見えてきた!!

 

「宮白大丈夫かぁああああ!!!」

 

「イッセー、ベル!! しかもゼノヴィアに朱乃さんまで!! これはマジ助かる!!」

 

 宮白が嬉しそうに声を挙げながら敵の攻撃をかわしていた。

 

 マジで苦戦してるみたいだな。どうやら蒼穹剣はすでに使っちゃったみたいだ。だって最初に使ったときはあっさり倒してたし。

 

「どうするんだよ宮白! やっぱりこれは俺がオッパイで・・・」

 

「いやそれは最終手段な。そんなので助けられる吸血鬼たちの身になってみろよ」

 

 ひどい!! でも反論できない。

 

「大丈夫だ。この数なら対抗術式もあるし十分行ける。・・・いくぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を、フィフスはサーヴァントを使って確認させていた。

 

 宿敵ならデータを取るのに一番だと思ったが、やはりそう簡単には勝たせてくれないと確信する。

 

「こりゃ駄目だな。やっぱプランBで行くべきか」

 

「承知いたしましたフィフス様。そのようにキャスターに伝えておきます」

 

 アサシンの1人がそういって霊体化する。

 

 獣鬼の一つをここで使いつぶすのはフィフスとしても少し思うところはあったが、今グレモリー眷属がどれぐらい強いのかを試すのには好都合だ。

 

「しっかし今回は運がよかった。俺じゃなければギャスパー・ウラディはどうしようもなかったしな」

 

 聖杯を使って傷を治したが、衣服までは治らない。

 

 かなりボロボロになっている白衣を見ながらフィフスは今後の展開を考える。

 

 グレートレッドクラスが全力で戦闘を行えば、もはや人類社会でも隠すことはできないであろう大破壊が生まれるだろう。世界地図が書き変わるレベルの大きな変更がおきてもおかしくない。

 

 当然そんな事態を見逃す体制側ではない。三大勢力や同盟側はもちろんのこと、それ以外の神話体系も裏で動くはずだ。

 

 そしてリゼヴィム側は邪龍軍団によってそれに対抗する。

 

 だが、双方の思い通りになることは決してない。

 

 すでにこのために準備は整えてきた。想定外の事態はあったが、策謀の経験もあり、諜報で真価を発揮するアサシンの力もあっておおむね最大のプランは遂行できている。

 

 この戦いで最終的な勝利を手にするのは自分だと思う。いな、あえてそう断言する。

 

 万物の根源へとたどり着く。魔術師ならだれもが思う思想の極み、世界の極点に触れるという人類の極限を達成する。

 

 そのための行動は常に続行し、そしてここまで進んできた。

 

 その計画も本格的に始まっている。そして今更気づいたところで三大勢力ではそう簡単には防御できない。

 

 最大の懸念事項に対する対策もつかみ始めた。後は理を壊すだけだが、この根源到達へと懸ける意思があれば必ず到達できる。

 

「行くぞアサシン。マスターとして約束する。俺の目的の第一段階(最初)ができたその暁には、お前たちの願望を聖杯でかなえてやる」

 

「承知いたしております」

 

 アサシンの1人が、視覚を共有することで戦闘を見据えながら応える。

 

 もとよりサーヴァントとマスターは願いをかなえるための同盟。絶対命令権こそあるとはいえ、本来サーヴァントが格上である以上対等な関係なのだ。

 

 ゆえに、そこにあるのはただの上下関係ではなく利害関係。

 

「我々は統一された自我を確立し、フィフス様は根源到達のための道筋を作り出す。それこそがこの聖杯戦争の真の目的」

 

「ああ、結果的に聖杯を狙わない連中を確保できたのは好都合だ。おかげでお前らも強化できた」

 

 すでに豪獣鬼は倒れ伏しかけている。

 

 まあ、それを見越して一番弱い個体を選んだのだから当然といえば当然だが、彼らは間違いなく宿敵になるだろう。

 

 来るなら来い。たかが二天龍ぐらい屠れないようで、根源到達を妨害せんとする世界の意思をどうにかできるわけがない。

 

 研究をつづけた。鍛錬をつづけた。人脈も作った。そして何より願い続けた。

 

 文字通り全力を費やしたこの百年。凡百の努力と同列に扱われては本気で困るというもの。

 

 願いに賭ける想いの強さなら負けてない。お前たちが仲間とともに行動するというのなら、こちらも戦力をかき集める。

 

 世界平和? 世界侵略? ああどれも確かに面白そうだ。

 

 だが、邪魔になるなら叩き潰す。

 

「世界が根源到達の邪魔をするというのなら、まず世界そのものを改変しよう。さあ、聖杯戦争を終わらせようか」

 

 漆黒の白が英雄たちを嘲笑う。

 

 今この日、一介の堕天使が正しい意味で世界に牙を剥いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ほかのことを考えながらでも雑な攻撃なら余裕で対処できるようになった兵夜。改造や強化武装で上乗せしてばかりではないのです。

そしてフィフスも動き始める。

彼もまた、目的のために極限まで努力を重ねた宿敵ですから、それにふさわしい力を持って兵夜たちの前に立ちふさがります。


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D×D、結成です!

 

 しかしアーシアちゃんの能力は本当にすごい。

 

 イッセーとの連携技とはいえ、吸血鬼の本拠地をあっさり直すのだから回復力が尋常ではない。

 

 これは今後の戦いでもだいぶ楽になるだろう。タイミングはしっかり気を付ける必要があるが、多くの人々をいやすことができるのだから。

 

 とはいえ強化吸血鬼が邪龍化するとはどこのバイオハザードだ。しかもカーミラの方でも同じことが起きていただと?

 

 完璧に愉快犯だなリゼヴィムの奴。やはり逃がしたのはまずかったか。

 

「っていうか神器無効化能力とかどんなチートだ。アザゼルも、そういうのは最初に行っとけよ俺ら神器所有者が多いんだぞ」

 

 イッセーとヴァーリとギャスパーが同時に攻撃してもあっさり無効化したらしい。間違いなく出力なら上位三人のはずなのだが、これは神器で攻略するのは考えないほうがいいか。

 

 しかしまあ、それはそれとしてウチの二人はまたとんでもないことになってるな。

 

 イッセーの方は白龍皇の力を昇華させたとのことだ。しかし反射能力なんてものがあったとはまた驚き。ヴァーリが使えるようにならないことを切に願う。あと、赤龍帝の方にも秘められた力がありそうだ。

 

 ギャスパーの方はアーチャーの推測がほぼ正解。残滓とはいえ邪神を宿しているのならあの出力にも納得がいくだろう。だからなんで部長は眷属でチートをかき集めるのが得意なんだ。人材発掘を仕事にしたらすごい成功するぞ。

 

「あ、兵夜!」

 

 と、ナツミが俺に抱き付いてきた。

 

「お、ナツミ」

 

「うぅ。またふんどしが来て怖かったよぉ」

 

 思い出して恐怖が襲い掛かってきたのか、割と本気でぶるぶる震えていた。

 

 うん、それは怖かったな。

 

「・・・悪かった。肝心な時にそばにいなくて」

 

 自分の使い魔怖がらせるとは主人失格だ。

 

 後でふんどしには落とし前をつけさせねばならん。対抗策は立てたのだ。俺がやるのは大変だが、グレモリー眷属でいけば十分行ける。

 

「大丈夫。イッセーが近くにいてくれたし、みんなもいるもん」

 

 ナツミの言葉に俺はなぜかゾクっと寒気がした。

 

 え? 何子の展開? え、ちょ、まって、俺不必要?

 

 いやいやいやいや、俺だってイッセーが一番大事だからそれについては仕方がないよ? ある意味すごいラッキー的なあれだよ? でもそれってつまり・・・。

 

 N T R

 

 うぉおおおおおおおお! すごいアレな感じだああああああああ!

 

 しっかりするんだ俺! 俺にそんなことをとやかく言う資格がないのはわかっているだろうハーレム野郎! おまえ自分は女複数侍らせておいて女に男複数侍らせちゃいけないとか筋が通らない! やりまくりはめまくるのエロエロパコパコライフ送ってきた俺に対して前世含めて未経験のある種のもじょばっかりなんだぞ! いいじゃないか男性経験増えたって! いやでもビッチ萌えってのは完全に割り切ってるとか最終的に一筋になってくれてるから萌えるのであってこの流れはやっぱりあれだよね! え、ええい舐めるな! これまで鍛え上げてきたテクニックと俺の福利厚生っぷりと共感があれば完全に乗り換えられるなんてそんなことはありえない! あ、でもイッセーには最終的にテクでも乗り越えられそうだよねエロが絡むとホント化け物だし。・・・違う違う違う! くそ、あの野郎ネコミミロリ属性を二人も載せるとか貪欲というかなんというかナツミちゃんは渡したくありませんぬぉおー!」

 

「オイご主人、人のことなんだと思ってんだ」

 

 いかん! 思ってたことが口から出た!!

 

「いや、悪いけど覗き魔好きになるような趣味ねえから。あれ、ないから。ナイ」

 

 三回言っちゃったよ。それだけないのか。いや、普通ないか。

 

 言っちゃなんだけどイッセーは趣味に特殊性がないと致命的だからな。それこそ痴漢されて楽しんじゃうような頭ゆるい系のビッチじゃないと好感持たれないんじゃないかと思ってたから今の状況はある意味意外なんだけど、やっぱ一線超えるのは致命的な人多いか。

 

「大丈夫だよ兵夜。ボク一人じゃないもん。みんないるってわかったもん」

 

 そういうとナツミは思わず見惚れるような笑顔を見せた。

 

「だから大丈夫。ボクもこれからもっと頑張るから、兵夜も少しは楽していいよ?」

 

「なんか真正面から言われると照れるな」

 

 あ、やべ。

 

 顔真っ赤になってるのが自分でもわかる。

 

 恥ずかしいからとりあえず体格差を生かしてハグして顔を見せないようにする。

 

 ナツミも配慮してくれたのかそのまま俺の胸に顔をこすりつけてくる。

 

 うん、これは恥ずかしいですな。

 

 と、思ったら左右からなんか抱きしめられた。

 

「実質私ももっと頑張りますよ! だから兵夜さまとナツミちゃんをぎゅってしてあっためます」

 

「いやー疲れちまったなぁ。今日はだいぶ頑張ったから少しご褒美もらってもいいよなぁ?」

 

「ぎゃあみられた!?」

 

 ここに久遠がいなくて本当によかったよ!?

 

「あ、でも久遠がいないね」

 

「仕方ねーな。帰ったら久遠よばねーと」

 

「あ、すいませんさっき写真撮ってメールしました」

 

 ですよねぇえええええ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーが宣戦布告したことにより、神話・宗教全ての組織おいてその全貌が明らかになった。

 

 禍の団の発展形。リゼヴィム・リヴァン・ルシファーによって再編成された組織クリフォトの目的はこれまでの禍の団のそれを凌駕する危険性だった。

 

 邪龍の数々を復活させた、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーによる、トライヘキサを復活させての、グレートレッド撃破を経る、異世界侵略。

 

 全てにおいて問題しかない非常事態に、各種神話体系は警戒態勢を取らざるを得なくなった。

 

 これまで保守的な態度を取っていた神話体系からも話し合いに応じるという対応を取らざるを得ないこの事態に、当然のごとく三大勢力は対策を決断。

 

 動きのとりやすい若手を中心にした部隊を編成し、対リゼヴィム部隊として運用できるようにしようということだ。

 

 そしてそのための先鋒として名だたる若手が集められている。

 

「ほとんどが顔見知りなのはあれですよねー。世界が狭いっていうかなんて言うかー」

 

 桜花久遠は割と本気でそう思ったが、しかしまあ戦力としては破格なのも事実だ。

 

 いまだ本格的なレーティングゲーム参戦すら果たせない年代であるにもかかわらず、高水準の実戦を潜り抜けてきた若手四王が一堂に集結して特殊部隊として運用する。これは本当に重要な事態だろう。

 

 そこに転生天使が三名、須弥山からも闘戦勝仏。合計すれば神滅具持ちは片手が埋まるほどおり、龍王クラス以上のドラゴンが封印されているのも含めれば五体。

 

 挙句の果てにもと禍の団であるヴァーリチームまで入れているというあたり、だいぶなりふり構っていない。

 

「まあそういうな。なにせほかの連中はしがらみがあってなかなか動かせなくてな。フットワークが軽くなる連中で実力者を集めたら自然とこうなったってわけだ」

 

 アザゼルも割と呆れているようだが、しかしこれはある意味でわかりやすい。

 

 大体お互いの実力もわかっている者同士。戦闘能力が十分なのはわかっており、戦力的な意味では問題ない。

 

「加えて、宮白の奴がいろいろ動いてグランソードのところとか各種神話体系の連中をかき集めてのバックアップチームを作ろうとしてやがる。あいつしまいに過労死するんじゃねえだろうか」

 

「止めてくださいよ先生ー。さすがに専門外だから私口出しできないんですよー」

 

 久遠はそう拗ねるが、しかしそこまで心配はしていない。

 

 なんだかんだでダメージコントロールはしっかりできるのが兵夜だ。ちゃっかり休憩時間ぐらいはもぎ取っているだろう。

 

 とはいえその許容範囲が常人と大いにずれているので不安は残る。適度に監視をしなければと本気で思う展開だ。

 

「でもどうするんです? 主力がことごとく神器使いのこのチームだと、肝心のリゼヴィム相手が大変ではー?」

 

「まあ大元の相手は俺か闘戦勝仏の爺さんがやるべきだろうな。リリスの方も大変だが、そっちは宮白が対策立てやがったし」

 

 確かにあまりにも強大な切り札の存在には割と驚いたものだ。

 

 最終的に拘束を振り払われて逃げられたものの、オーフィスの約半分の力を長時間封じることができる装備など規格外以外の何物でもない。

 

「まったく、聞けば対俺用の装備として開発していたようじゃないか。そんな危険なものを渡すとは怖いことをするな」

 

「全くだぜ。爺、んなもんなんて奴に渡してんだよ」

 

 茶化す感じでヴァーリが、そして割とうんざりとしながら美候が闘戦勝仏を非難するが、当人は肩をすくめると首を振る。

 

「天帝の坊主が聖槍の小僧を隠してたことを突かれたらどうしようもなくてなぁ。まあ、こっちも交換条件で便宜は図ってもらったし、妥当な条件じゃ」

 

「一応私のマスターはそういうのは気を使うから。冥界政府を経由して入手すれば中間マージンがどれだけ出たと思ってるのかしら? むしろぼろもうけさせてあげたんだからもっと喜びなさい」

 

 アーチャーはさらりとそういうと、しかし憂鬱そうに眼を伏せる。

 

「だけどまあ、聖杯戦争もどうなることか。戦争ってついてるけど、戦闘範囲そのものはせいぜい一都市規模のはずなのだけれど?」

 

「マジで世界またにかけてるからなぁ。俺、半年ぐらい前までそんなことになるなんて思わなかった」

 

 イッセーが遠い目をしながらそう漏らすが、程度はともかくほとんどのメンバーがそんなことなど考えていなかっただろう。

 

 この世界どころか異世界まで巻き込みかねない大きな騒ぎに自分がまきこまれるなど、普通想像する方がどうかしている。

 

 いろいろ考えている宮白兵夜だってそんなことは想像もしていなかっただろう。

 

 とそこまでかんがえて、イッセーはあることに気が付いた。

 

「・・・って、そういえば宮白はどこ行ったんだ?」

 

 言われてみれば呼び出されてからも宮白の姿だけは見えなかった。

 

「そういえば見ないわね。どこに行ったのかしら?」

 

 リアスたちも不思議に思いながら視線で探す中、全員の鼻腔に刺激的な香りが立ち込める。

 

 次の瞬間、兵夜が扉を開けて入ってきた。

 

「待たせたな諸君!! チーム結成おめでとう!!」

 

 そういいながら入る兵夜の後ろから、土で出来たゴーレムがトレイやカートを抱えながら入ってきた。

 

 そして全てお菓子屋らサンドイッチやらカレーパンやら食べ物が満載され、ジュース類まで完備している。

 

「え、え、なにこれ!? なにこれ!?」

 

「何言ってんだイッセー。話の内容はちゃんと聞いてたし大体予測もしてたからな。こういうのはメンバーでの交流が必須なんだよ、必須」

 

 などという兵夜は割と自慢げにドヤ顔を浮かべる。

 

 その表情をみて久遠やイッセーを含めた何人かはよく理解した。

 

 ああ、これほとんど自前で作ったなこの男。

 

「兵夜くんって時々凝り性だよね。カレーとか隠し味研究してそうだよねー」

 

「甘いぜ桜花さん。カレー粉とかも市販じゃなくて海外から取り寄せるかもしれねえ」

 

「何をたわけたことを言っている。今回は金持ち多いからスパイス取り寄せるところから始めて、集まり始めたときから粉にした特注品だ」

 

 自慢げに語る兵夜だが、よく見ると目にクマができている。

 

 皆の心は一つになった。

 

 お前、そんなことしてる場合か?

 

「アザゼル。自分で勝手に仕事を増やすワーカーホリックなマスターを無理やり休ませたいのだけれど協力してくれないかしら」

 

「お前なぁ、言ってくれたら用意したぞ」

 

「心配すんな。前から研究していた災害派遣用料理作成用ゴーレムのデータ取りも兼ねている。本格的に作ったのは一部分だけだ。サンドイッチとかはパン屋に予約して作ってもらった」

 

 さらに後ろからチェーン店から取り寄せたと思しきピザや寿司が大量に運ばれてくる。

 

 どうやらこのタイミングを見越して電話する順番まで考慮に入れたらしい。

 

 とはいえ安物など一つもないと誰もが見て取れる質の物ばかりが用意されている。若手四王という最高級のセレブを相手にすることを考慮したものばかりだ。

 

 手作りのものも材料からこだわっていることが見て取れるようなものばかり。しかもできるタイミングまで調整したのか、まるで全部できたてのようだ。

 

「あらあら。メロンパンまで手製のようですし、やっぱり小雪のために練習しましたの?」

 

「おいおい教えてからまだ二、三か月しかたってねえぞ。こいつホントやればそこそこできるな」

 

「自分の女の好物ぐらい自分で作れないでどうするよ。俺は菓子パン作りで食うに困らない技量をすでに手に入れた」

 

「ファァアアアアック!? なんで知ってんだてめーら!? あとばらすな!!」

 

 後ろから銃声が響き渡るが、今更この程度で死人が出るわけもないので全員スルーする。

 

「オイオイオイオイ。これ全部旨そうだけど食っていいのかよ」

 

「そのために作ったんだからむしろ残さず食べるといい・・・痛い痛い痛い折れる折れる折れる!!」

 

「おま! 堂々と、恥ずかしいだろうがファック!!」

 

 匙の質問に答えるあたりまだ余裕がありそうだが、小雪の方が余裕がないので適当なところで止めたほうがいいのでは無いかと思うメンツも何人か出てきた。

 

「・・・イッセー先輩。食べないならそこどいてください。カレーパンはいただきます」

 

「え、あ、うん」

 

 小猫に場所を譲りながらイッセーはとりあえず適当にサンドイッチを取りながら食事を始める。

 

 こういうところの気配りができるから宮白は人材を集めているということがよくわかる。上級悪魔になったら参考にしよう。

 

 そしてもう少し耐えろ。今のはお前がうかつだ。

 

 久遠もそれには異論がないので同意して見逃すことにしてサンドイッチに手を伸ばす。兵夜は時々正確に制御して危険運転をするので締めておく必要があることを理解している。

 

 すでに四人で監視ローテーションは組んでいる。あまり仕掛けると開き直る可能性があるので、お仕置きにはバリエーションを設けて覚醒させないようにしなければならない。

 

 それはそれとしてサンドイッチの中にも時折兵夜作があるあたり、実はこれはストレス発散が目的ではないのかと勘ぐってしまう。

 

 食べて分かるようになっている当たり、久遠自身だいぶ骨抜きになっている。というより女としての沽券がかかわるような気もするのでちょっと鍛え上げねばならないような気がしてきた。

 

 因みにベルはものすごい勢いでどれが兵夜の作ったものなのか気にして食べている。たぶん彼女は当分そこまで気にする領域には至らないだろう。

 

 小雪は小雪で自分の立ち位置が分かっているのでこちらもあまり気にしないのが読める。どちらかといえばいいお店を探して買ってくる方向でいきそうだ。

 

 あれ? もしかして自分も開き直った方がよくない?

 

 そんなことを思いながらとりあえず気を取り直して舌鼓を売っていると、勢いよくどたばたと音がしてナツミが入ってきた。

 

「・・・できたぁあああああああ! おにぎりできたよぉおおおお!!!」

 

 デフォルメ状態がぴったりな笑顔を浮かべながら、頬に米粒をつけたナツミが皿の上に乗せたおにぎりを堂々と見せつける。

 

「食べて食べて! 自信あるよコレ!」

 

「おう! ・・・そういうわけなのでお腹は勘弁していただけないでしょうか小雪様」

 

「しかたねーな。・・・じゃあとりあえず右腕をもっかいひねり上げるか。コレなら片腕開くし」

 

 器用にプロレスしながら速攻で取りに行くあたり二人とも息が合いすぎな気がする。

 

「ひゃう!? ひょ、ひょっとまっへ・・・」

 

「ベルさん飲み込んでからしゃべったら」

 

 とっさの事態にベルは対応できておらず、イリナにフォローされている。

 

 これは自分がちゃっかり確保したほうがいいと思いつつ、久遠はおにぎりを一つとる。

 

 ところどころ不器用だけど思いがこもっていることがよくわかる。食べてみても頑張っていることがよくわかる味で、一生懸命準備したことが理解できた。

 

「頑張ってるね、ナツミちゃんー」

 

「もっちろん! だってみんな頑張ってるもん!」

 

 ほめてほめてといわんばかりの笑顔に、久遠もつい頭をなでる。

 

「久遠も兵夜もみんな頑張ってるから、ボクもいっぱい頑張るもん」

 

「そっかー。なんか一皮むけちゃったー?」

 

 何というか、ふんどし騒ぎでいろいろと大変になっていてもやもやしたところもありそうだったが、帰ってきたら前よりはるかにすっきりしている風だった。

 

「うん、イッセーたちも皆、ボクのこと仲間だって思ってくれてるもん。仲間のために頑張るもん」

 

「そっかー。そう思えるって結構すごいことだよー。ナツミちゃんいい子だよー」

 

 同じ男を愛する身として、すっきりしてくれたならいいことだ。

 

 自分もいい加減すっきりして、何とか追いつきたいと思ってしまう。

 

「よっしゃ! これからもっと頑張るからねーっと!!」

 

 この可愛い笑顔を見てしまったら、本当に頑張るしかないのである。

 

 かわいいは正義。とても実感できる時だった。

 

 




全体的にウィザード編とデイウォーカー編はナツミ編第二弾でした。

ヒロイン第二シーズンを行うにあたり、ナツミは意外とそういう方面での成長というか試練がどうにも少なかった。・・・というよりそういう方面での問題点が他と違ってあまりない。

それもあって、最初に出した時から後半での強敵として設定したふんどしに対するトラウマをより大きくして、そこからくる成長物語というのが今回の展開です。

ナツミは兵夜に出会って救われたけど、ほかのみんなも大事に思ってくれてるんだよということを再確認させるお話でした。


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キャラコメ 第十五弾

兵夜「はい、課外授業のデイウォーカーまでやってきた!」

 

ナツミ「続けていっくよー!」

 

ギャスパー「あ、あわわ。また僕がゲストですかー!?」

 

ナツミ「いや、ここでギャスパーがゲストじゃなかったらどうするのさ」

 

兵夜「そういうわけでそろそろいこうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「すごいイチャイチャしてますね」

 

兵夜「だって! だってようやく久遠が復活してくれたんだぞ!? そりゃはしゃぐぜ」

 

ナツミ「ほんとほんと。恥ずかしがって全然近づこうとすらしなかったんだもん。やきもきしたよ」

 

ギャスパー「それに比べてイッセー先輩は大変です」

 

兵夜「イッセーに対するアプローチが間違ってないか考えろよあいつら」

 

ギャスパー「発展具合が明らかに違ってますね」

 

ナツミ「カッハハハ! そりゃぁやることやってるからなぁ?」

 

ギャスパー「あの、犯罪では?」

 

兵夜「俺の卒業式は中学生だ。問題ない」

 

ギャスパー「ありすぎですぅうううう!」

 

ナツミ「荷造りでアーチャーと話してるけどさ、これしぼうふらぐってやつじゃないの?」

 

兵夜「いうな。もしそうなったら聖杯戦争に手が出せなくなるから。俺泣くぞ、いろんな意味で」

 

ギャスパー「やっぱり宮白先輩も信頼してるんですね」

 

兵夜「そりゃもちろんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「で、ルーマニアについたわけだが」

 

ギャスパー「宮白先輩って、ホントこういうのすごいですよね」

 

兵夜「これで飯食ってきたようなもんだからな。お家事情が分かっていれば想定の可能性もあるだろ」

 

ギャスパー「それとナツミちゃん、本当に駒王学園受験するの? 意外と難しいよ?」

 

ナツミ「もっちろん! 絶対受かって兵夜と一年過ごすもんね! 久遠とベルはずるいもんね!」

 

兵夜「そんな朗らかな展開もおわり、それはそれとして大問題発生。・・・ほんとD×Dは小物が大騒ぎを引き起こす」

 

ギャスパー「人材送り込めてなかったことにも驚きです」

 

ナツミ「ホントだよ、どうしたのさ兵夜」

 

兵夜「お前ら俺を何だと思っている。・・・それはそれとしてリゼヴィム登場」

 

ギャスパー「宮白先輩すごい人気ですね。・・・いやな方向に」

 

兵夜「まあ、リゼヴィムなら当然転生者に興味を持つはずだ。しかも俺の場合、後述の理由でさらに興味がわく」

 

ギャスパー「っていうか、なんで今まで出なかったんでしょう? 転生者は上層部クラスなら全員わかってるんじゃないですか?」

 

ナツミ「それもそうだよね。なんかもう、存在知ったとたんにオーフィスそそのかすんじゃないの?」

 

兵夜「そこについてはまた後で。それはそれとしてギャスパーの来歴が明かされるわけだが・・・」

 

ギャスパー「えっと、これ・・・僕の話ですよね?」

 

ナツミ「うん、すごいね。やばいね」

 

兵夜「なんていうか、D×Dはチートすぎるだろ来歴が」

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「ナツミちゃん、みんなに愛されてるね」

 

ナツミ「えへへー」

 

兵夜「うんうん。俺のいないところでも仲良くやっていてうれしいぞ」

 

ナツミ「うん。もっと撫でてっ」

 

兵夜「まあ、マリウスが怪しいのは百も承知だからみんなそれなりに考えてるが、空気軽くなっていいな」

 

ギャスパー「僕、全然気づきませんでした・・・」

 

ナツミ「仕方ないよ。心配で心配でそれどころじゃなかったもんね」

 

兵夜「クロウ・クルワッハさえいなければ力づくで連れ去ってもよかったんだが、こいつのせいで慎重に動かざるを得ないからな」

 

ナツミ「うんうん。強い奴がいると面倒だよね」

 

ギャスパー「あと、宮白先輩が勝手に行動するのが確定ですね」

 

ナツミ「いつものことだもんね」

 

兵夜「そこうるさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして吸血鬼同士で戦闘発生。もちろんそんな隙は逃さない」

 

ナツミ「そして致命的なうっかりだね」

 

ギャスパー「宮白先輩。不運過ぎませんか?」

 

兵夜「敵の引きが強すぎるのはオカ研の近年全体の傾向な気がするんだが」

 

ナツミ「それはそれとして兵夜ついてないって。なんでいきてるの?」

 

兵夜「努力の結果だ」

 

ギャスパー「あとすごい人たち連れてきましたね」

 

兵夜「殺されても心が痛まなくて実力は十分にある。何か問題があるか?」

 

ナツミ「むしろ問題だらけだと思う」

 

兵夜「それはともかく、フィフスはフィフスで遅ればせながらカウンター叩き込んできやがったな」

 

ナツミ「付き合い長いもんね。最初っから邪魔してくることはわかってたんだね」

 

ギャスパー「和平会談からだからもう嫌ですぅううううう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナツミ「で、バトルたいむだけど兵夜すごいよね」

 

ギャスパー「つ、使い方が悪辣ですぅ」

 

兵夜「絡めて主体といってくれないか?」

 

ナツミ「普通敵を強化して弱くするとか思いつかないって」

 

ギャスパー「普通に英雄派の幹部を強化した方がよくありません?」

 

兵夜「・・・その発想はなかった」

 

ナツミ「このご主人、一周回って馬鹿だ」

 

ギャスパー「あとイッセー先輩が大変なことになってます! これ大変です」

 

兵夜「・・・クソっ。奴を殺す最大のチャンスが!!」

 

ナツミ「兵夜キレすぎ。っていうかイッセーも、殺した女がストーカーって大変だよね」

 

兵夜「言葉だけ聞くとすごいカオスだな」

 

ギャスパー「乳語翻訳の対策までばっちりですぅうううう!!」

 

兵夜「そして用意したの俺だけど、部長も魔改造で怖いことになってきたぁああああ!!」

 

ナツミ「いまのおんなとまえのおんなのキャットファイトだね」

 

兵夜「怖いわ!!」

 

ギャスパー「リアス部長すごいです! あのバーサーカーを対処しましたよ!」

 

兵夜「まあ、バーサーカーは特定条件下で爆発的に強い防御タイプだからってのもあるが」

 

ナツミ「そうなの?」

 

兵夜「ああ、型にはまると最強クラスのサーヴァントですら殺しきれん。まあ、普通の聖杯戦争でそんなことになるわけがないんだがな」

 

ナツミ「癖が強いの多いよね、このサーヴァント」

 

ギャスパー「相手が侵略してきて初めて凶悪なライダー、相手を洗脳することに真価を発揮するランサー」

 

ナツミ「すごいたくさんいるアサシンに、あと魔術師なのにアーチャー」

 

兵夜「もっと正統派入れてもいいような気がしてきた。キャスターが一番正統派ってどういうこっちゃ」

 

ナツミ「性格はアレなのにね」

 

兵夜「ちなみに、これはアーチャーがチートなだけだ」

 

ナツミ「アサシンもチートだけどね」

 

ギャスパー「数の暴力で右に出る者がないマスターってすごいですね」

 

兵夜「直接戦闘能力という欠点を、マスターのスペックでどうにかするとか反則だろ」

 

ナツミ「今の兵夜がそれいう?」

 

ギャスパー「・・・ヴァレリー」

 

ナツミ「あ! いつの間にかヴァレリーが気絶する段階に!!」

 

兵夜「ギャスパー! アップルパイ食べるか!?」

 

ギャスパー「・・・大丈夫です。でも、聖杯がとられるのってまずいですよね」

 

ナツミ「なんでリゼヴィムもとってるのにわざわざとったの?」

 

兵夜「ある目的のために必要だった・・・とだけ言っておこう。ベリアル編で出るがかなりド級の手段を使う」

 

ナツミ「やっぱり禁手?」

 

兵夜「まあな。ただし内容はかなりあれというか「そこまでするか?」 ってかんじだが」

 

ギャスパー「あ! 宮白先輩がしっかりケジメをつけてくれました!」

 

ナツミ「反則だよね。相手に合わせた天敵化って」

 

兵夜「術式そのものに干渉する方向でなければどうしようもないからな。マリウスはアプローチさえ間違えなければそこそこできただろうに」

 

ギャスパー「フィフスたちが本気で協力してたらあぶなかったですぅ」

 

兵夜「因みに、あいつがダウンロードしたのはEXTRAバージョンだ。・・・グレモリー眷属において俺特攻といっていい。まあアザゼルと小雪にも効くんだが」

 

ナツミ「相性はよかったんだね」

 

ギャスパー「そしてゲンさんは無双ですぅ」

 

ナツミ「原作じゃ、イッセーとヴァーリがタッグを組んでも互角だったのにどうして?」

 

兵夜「一言でいえば相性。奴があの形態である限り、ゲンは圧倒的に有利だといえる」

 

ナツミ「じゃあ、龍の姿だったらやばかったの?」

 

兵夜「短時間でゲンの負けになるだろう。ゲンも言っていただろう? 人体との戦い方って」

 

ギャスパー「対人間特攻の能力か何かですか?」

 

兵夜「それだと奴には聞かないさ。ある意味もっと原始的な方法だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナツミ「ボクがふんどしに襲われてる間に、兵夜は兵夜で大変だね」

 

兵夜「まったくだ。まさかここまで気に入られているとは」

 

ギャスパー「やっぱり、リゼヴィムは転生者に興奮してたんですね」

 

兵夜「まあ、原作やってるやつらなら想定できただろ。・・・出たときからどうしたもんかと思ってたんだよ、この設定どうするかって」

 

ナツミ「知ったとたんに異世界侵攻決意しそうだもんね。最初から本気だったらやばかったよね」

 

兵夜「まさか乳神がここまで重要な設定になるとは・・・」

 

ギャスパー「予想できた人いなかったですよね・・・」

 

ナツミ「出てきてないアニメ版は、三章までが限界だよね」

 

兵夜「まあ、順当に行けば5クールというラノベアニメ化としては規格外だから十分なんだが。キリもいいし」

 

ナツミ「でも、兵夜ってホント性格悪いよね。突っ込むところはそっち?」

 

ギャスパー「あるいみ好都合とか言ってますよね・・・」

 

兵夜「だっていい加減強敵だらけできつかったし・・・」

 

ナツミ「そんなんだからスカウトされるんだよ」

 

ギャスパー「しかも同類って認めちゃいましたし。・・・大丈夫、ナツミちゃん」

 

ナツミ「いや、ご主人にとってイッセーが外付け良心なのは知ってたけど」

 

ギャスパー「知ってたの!?」

 

ナツミ「それぐらいのレベルだって。これ久遠もベルも小雪も分かってるから。だから、ボクはイッセーが嫌いじゃないの」

 

ギャスパー「そうじゃなかったら嫌ってたんだ・・・」

 

ナツミ「だってせーはんざいしゃじゃん」

 

兵夜「まあ、突っかかるための最大難関が目立ちすぎて近づきがたいのは認める」

 

ナツミ「あと、リゼヴィムに対してどうじょうてきだね。ボクも少しはわかるけど」

 

ギャスパー「ナツミちゃんも?」

 

ナツミ「だって、兵夜たちと会わなかったら同じ感じだったもん。ちょっとかわいそう」

 

兵夜「そういう意味では久遠たちも同情票くれるかもな。こと俺の場合は同類なんでかなり強いが」

 

ギャスパー「あと対龍武装を作ってたんですね」

 

兵夜「あんないい材料をアーチャーが見逃すわけないだろう。帝釈天には内通疑惑があったし、奴にサマエルは渡せん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「でもなんで、フィフスに魔眼はきかなかったんでしょうか?」

 

兵夜「詳しくは第二ラウンドで説明する予定だから言わないが、型月設定だとだけは言っておく」

 

ナツミ「そうなんだ?」

 

兵夜「ついでに言うと転生前から持ってたものだ。最初からあるといっても過言じゃないな」

 

ナツミ「こゆーけっかい?」

 

兵夜「残念ながら、もっとポピュラーなものさ」

 

ギャスパー「あとふんどし強いですね。クロウ・クルワッハに匹敵しませんか?」

 

兵夜「さすがに生身じゃ一歩劣るが、それも対抗手段はあるからな。・・・実をいうとあいつ、神器もちだ」

 

ナツミ「え!? それなしであんなに強いの!?」

 

兵夜「伊達に転生者最強を設定されてない。あいつだけは異世界技術無しで世界最強クラスだからな。最終決戦ではそれにふさわしいチームで挑むぞ」

 

ナツミ「チームなんだ・・・」

 

ギャスパー「あと、ドライグもアルビオンもすごいことになってます・・・」

 

兵夜「何が悪いって、イッセーとオーディンが悪い。あとヴァーリがうかつだったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「ナツミちゃんも結構大変なんだね」

 

兵夜「別に、ナツミだけの問題じゃないな。多かれ少なかれ俺も久遠もベルも小雪も似たような経験がある」

 

ギャスパー「ぼくも気持ちはわかります」

 

兵夜「うんうん。下を見すぎるとだめになるが、下を知ることで人に寛容になれるからな。そういう風にプラスで考えようか」

 

ナツミ「でもほんと怖いよ。別の意味でフィフスも怖い」

 

兵夜「奴が精神的強者なのは否定の余地がない。あの暗闇を平然とまっすぐ進める神経は、もはやすごいとしか言いようがないな」

 

ギャスパー「でも、先輩たちにはイッセー先輩たちがいますから、大丈夫です!」

 

ナツミ「うんっ! 支えてもらって頑張って前に進むよっ」

 

兵夜「あと俺の女で一番イッセーに対する評価が低いな、お前」

 

ナツミ「だって、のぞきははんざいだよ?」

 

兵夜「まあ、普通に考えたら女の敵だよなぁ」

 

ギャスパー「慣れすぎて麻痺してきました」

 

兵夜「因みに久遠は武装解除(エクサルマティオー)による脱がし合いに慣れてる。ベルは普通に精神年齢が低いので汚染が速い。小雪はあいつの性体験に比べれば覗きなんて可愛すぎて・・・」

 

ギャスパー「青野さんだけすごくくらいですぅ」

 

ナツミ「でもイッセーは頑張り屋さんの熱血漢だからねっ! 褒めるところは褒めるよ?」

 

兵夜「うんうん。ナツミはちゃんと物を見てるなぁ」

 

ナツミ「うん! 兵夜のことをちゃんと見てるってわかってるもん」

 

ギャスパー「でも、聞いた時は心臓止まるかと思いました。判断早すぎませんか?」

 

兵夜「緊急事態は即決が必要な時がよくあるからな。非道な手段をとるなら、それは慣れてる俺の役目だ」

 

ナツミ「よしよし。苦労しょい込まないでよね」

 

兵夜「ま、そういうわけでナツミもいろいろ周りを見渡して成長したわけだ。そして天才ぶりがすごい」

 

ギャスパー「腕だけ変化させてカウンターってすごいよね」

 

ナツミ「えっへん<(・∀・)>! 僕はてんさいがただもんね!」

 

兵夜「実際センスだけなら全体でも上位だからな。それでも一人じゃふんどしには勝てないが」

 

ナツミ「どんだけだよ! どんだけだよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そしてフィフスはフィフスで企んでるわけだ」

 

ギャスパー「豪獣鬼を捨て駒にして、何を企んでるんでしょうか?」

 

ナツミ「つーかよぉ。あいつの手元に危険な材料たくさんありまくりじゃねぇか? フェンリルの子供とか、神様いれた人型ロボットとか、超獣鬼も残ってるよな?」

 

兵夜「まあな。最終決戦に備えて、向こうも向こうで準備しているということだ。敵だってそりゃ準備ぐらいするさ」

 

ギャスパー「でも、宮白先輩もつよくなりましたね」

 

ナツミ「自分のこと弱いって言ってる割には、かたてまで豪獣鬼を相手してるよね」

 

兵夜「まあ、倒すところまでいかないのが大変なんだが」

 

ナツミ「因みにプランAって?」

 

兵夜「確保した獣鬼すべて使っての力押しでイッセーを殺すプラン。とはいえグレモリー眷属も強くなったから増援がくるまで足止めされると判断したわけだ」

 

ナツミ「フィフスって、いがいとのーきんだよね」

 

ギャスパー「でもリゼヴィムとは違う意味でいろいろ考えてて怖いですぅ」

 

兵夜「まあ、本作の敵中心人物だからな。そりゃ最終決戦は派手に行くだろ」

 

ナツミ「でも、フィフスは聖杯に何願うの? こんげんってところには全部使わないといけないんでしょ?」

 

兵夜「その答えは単純だ。そもそも何事にやるべきことというものがあってだな・・・」

 

ギャスパー「こ、ここから先はネタバレなので内緒ですぅ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパー「全部終わりましたけど、人がつらい時に何について悩んでるんだい?」

 

兵夜「ば、バロールモード!?」

 

ナツミ「まったくだぜ馬鹿ご主人。俺様がイッセーになびくはずねえだろ」

 

兵夜「こっちはサミーマモード!? っていうかそれはそれでひどいな、イッセーに」

 

ナツミ「いや、ご主人が馬鹿なことには突っ込まねえのかよ」

 

兵夜「だって心臓化止まるかと思ったからな。・・・イッセーはスケベさえ除けば優良物件だ。進学校に入学できるだけの頭脳はあり、根性に由来するタフネスを持ち、性格については古き良き少年漫画主人公。・・・度が過ぎたスケベにさえ寛容なら、そりゃ女もよってくるさ」

 

ナツミ「それがひどいんだろうが」

 

兵夜「うん」

 

ギャスパー「み、宮白先輩も結構スケベな気が・・・」

 

ナツミ「兵夜はてぃーぴーおーをわきまえるからいいの! 実際久遠とできてからは遊びもしてないし」

 

ギャスパー「いや、でもそれまで遊びすぎ・・・」

 

ナツミ「べつに、せーりゃくけっこんでちょっとぐらい味見しても怒らないよ? 必要だってみんなわかってるし」

 

兵夜「ギャスパー。俺の女は男の劣情に理解がありすぎるのが問題だと思うんだが・・・」

 

ギャスパー「みんな仲が良すぎますもんね」

 

兵夜「そして対策としてD×Dが結成するわけだ。まあ、特訓相手としてすごいのができた程度の認識でもよさそうだが」

 

ギャスパー「メインは僕たちですもんね」

 

ナツミ「でも兵夜仕事しすぎ。なに一人でパーティの準備してるのさ。一応手伝ったけど」

 

兵夜「ワイワイ騒ぎながら飯食って酒飲むのはコミュニケーションの基本だろ?」

 

ギャスパー「でも、僕結局おにぎり食べれなかったんです」

 

ナツミ「・・・そういうと思って!」

 

兵夜「あ、お前いつの間におにぎり一人で作れるようになったんだ!?」

 

ナツミ「えっへん! 毎日がんばって練習してるもんねっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「まあそういうわけで、デイウォーカー編もこれにて終了。次回は教員研修のヴァルキリーへんだ」

 

ナツミ「兵夜のハーレム方向の決定編だね?」

 

ギャスパー「こ、これからもよろしくお願いします!」

 

 



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教員研修のヴァルキリー
上には、上がいます!!


最近スランプ気味ですがとりあえず一つ投稿いたします!!


 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちも、だいぶ強くなったと思う。

 

 なにせ、最上級悪魔候補とかまでいわれてるわけだしさ。桜花さんから説教もされたし、確かに俺はかなり強くなってるわけだ。

 

 そして、それは宮白もそうだろう。

 

 なんてったって神様だぜ? あいつ昔からいろいろできるし、そんなのが神様になったらもう無茶苦茶だ。

 

 しかも装備満載でフル装備。その状態で来られたら、俺だって間違いなくやばい。

 

 まあなんというか、俺たちはだいぶ強くなったと思ったんだけど・・・。

 

「・・・まあ、まともな格闘技の経験が無いのならこの程度か」

 

 上には上がいたよ!!

 

 ゲンさんが組てしてくれるっていうから鎧までつけて挑んだけど、これで十回は投げられた。

 

「いや、どんだけ強いんですかあなた。俺も大概強くなったと思ったのにこれはきっつい」

 

「まあ当然だ。出力そのものが桁違いとはいえ、体を動かす技量が拙すぎる。これではやりようはいくらでもある」

 

 さらりと汗を拭きながら、ゲンさんは周りの仲間たちに視線を向ける。

 

「さて、誰から揉まれる? 同盟を結んだ以上、手を貸すことに異存はないが」

 

 凄味が、凄味がある。

 

 俺があっさり一蹴されたからか、その場にいた人たちはちょっと動きが止まっていた。

 

 が、そこに一歩踏み込んだ人がいる。

 

「ベル・アームストロングか」

 

 おお、ベルさん行くか! 行きますか!!

 

 すぐさまベルさんは殴りかかるが、ゲンさんはその攻撃を全部さばいていく。

 

 おお、ベルさんをただの殴り合いでこうも余裕で相手できるなんてほんとすごいな!

 

 だけどベルさんだってまだまだ隠し玉がある。そう簡単に負ける人じゃないぜ!

 

「なるほど、では隠し玉を!!」

 

 ベルさんの両腕に光が宿り、さらに微妙に空間がゆがむ。

 

 念動力まで上乗せとは本気モードだ。コレなら一矢報いられるか?

 

 と、思った瞬間ベルさんが投げ飛ばされた。

 

「・・・なんだそれは」

 

 ゲンさんはすごいうんざりした顔で、あわてて着地したベルさんにすごい視線を向ける。

 

 うわあ、なんていうかテストで0点とった人を見るかのような目だ。

 

「格闘技は十分すぎるが能力の制御が全くできてないな。素人とほぼ変わらないのはさすがに問題だろう」

 

「うぐ。実質何も言えません。練習はしているのですがどうしたらいいのか全く分からなくて」

 

 うわぁ、痛いところ疲れてベルさんが落ち込んでるよ。

 

 全然超能力のノウハウがないとか言ってたもんなぁ。宮白も手のつけようがないらしくて意味がないし、どうしたらいいもんかわからなくて困ってた。

 

 だが、ゲンさんはそれを見てぽかんとした。

 

「そんな馬鹿な。それだけのポテンシャルがあるなら特務エスパーとして取り立てられるだろう? 嫌でも使い方を覚えるものだと思うが」

 

「はあ、といわれましても実質そういったことはなかったものでどうしようもないのですが」

 

「P.A.N.D.R.Aや黒い幽霊(ブラックファントム)は何をしていた? いや、こちらも人のことは言えんのだが」

 

 ありえないとでも言いたそうにゲンさんは額に手を当てるけどちょっと待って!?

 

「すいません。いろいろと聞きなれない単語が出てきたんですがどういうことでしょうか?」

 

「ん? ああ、P.A.N.D.R.Aや黒い幽霊はエスパーに関係する非合法国際組織だ。もっともそれぞれエスパーによる普通人(ノーマル)の排斥と普通人(ノーマル)によるエスパーの軍事・暗殺方面での利用、と方向性は真逆だがな」

 

 小猫ちゃんのツッコミにゲンさんは説明してくれるけど、そういうことじゃないです。

 

「いや、そうじゃなくてさっきから特務エスパーとか言ってましたよね?」

 

「ああそっちか。あの世界では超度(レベル)が高いエスパーは国際社会における影響力も大きいからな。必然的に、まともな国家は自国の超能力者を抱え込んである種の特別待遇として運用を行うわけだ」

 

「そうなんですか。てっきりみんな嫌われてるものだとばかり思ってましたけど、そういう取り組みもあったんですね」

 

 ベルさんが感心してるけどそういうことでもない!!

 

 突然のことでどう反応したらいいのかわからなくて困ってたところに、さっきから面白半分でジュース見ながら見物してた美候がこっちに来た。

 

「いや、だからさぁ? アンタ輝く腕のベルと同じ世界の出身なのかよって話してんだよ」

 

「ん? ああ、言ってなかったか」

 

 ゲンさんはそこでようやく気付いたらしい。

 

前世(ぜんかい)は、超能力者部隊の出身だった」

 

 次の瞬間、ベルさんがものすごい勢いでゲンさんの両手を握った。

 

「ぶ、ぶしつけなお願いな気もしますがお願いします!! 私に超能力を教えてください!!」

 

 おお、ベルさんの目の色が変わっている。

 

 ベルさんの今のネックは超能力をどう扱っていいかが分からないことだ。そのせいでほかの転生者と違って持ってる力の生かし方がわからないから伸ばせない。

 

 だけど彼は間違いなく専門家だ。これは確かに行けるかもしれない!

 

 いや、ムラマサとかいたりしたんだけどね? 本人が無理だって言ってたんだよ。

 

 超能力の種類が全然違うから手の貸しようがないとか。

 

「ま、待て。確かに私は複合能力者で両方使えるが、それほどの出力を持っているわけでは・・・」

 

「そこを何とか! 誰でもできる初心者用とかそういったのだけでも構いませんので! もうそこからちんぷんかんぷんなのでどうしたらいいのか全く分からないんです!!」

 

 ベルさんも興奮してるけど、コレなら意外といい線行けるんじゃないか?

 

 この調子で俺たちも強くなれればいいんだけど・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死ぬ。死ぬ。絶対死ぬ。

 

「・・・まさかわずかひと月そこらでいきなり完封されるとは思わなかった」

 

 蒼穹剣による戦闘テストを行ったがいいが、まさかもうやられるなんて思っても見なかった。

 

 まあ、相手が相手なので納得できるといえばいえるのだが。

 

「確かに直撃すれば儂なんぞ一撃じゃが、当たればの話じゃからのぅ」

 

 斉天大聖孫悟空。事態の悪化により旧名に戻した多分世界で一番有名な猿の前に、俺は完封負けを喫した。

 

 ああ、蒼穹剣を使ってガス欠まで捌かれ続けましたとも。一発も攻撃当たりませんでしたとも!

 

 当たれば勝てたんだ当たれば! でも当たらなければどうということはないを地で行かれたんだ!

 

 くそ! 文字通り時間単位で発動できるという成果の割に燃費いい部類の能力なのにガス欠とか恥ずかしいといえば恥ずかしい。

 

「・・・正直な話恐れ入ったよ。それを発動されたら俺でも勝てるビジョンが浮かばないというのに」

 

 ヴァーリを筆頭に観戦していたメンバーが目を見開いて驚いている。

 

 まあ、あのハーデスを秒殺した最終兵器を完封されるところを見ればそうなるとは思うが、これはうかつな欠点を残していた。

 

「当たっても効かないし当たればすごく効く。それに特化しすぎてうかつなミスをぉおおお!」

 

「まあエクスカリバーには天閃(ラピッドリィ)があるから忘れてしまいそうになる欠点じゃからなぁ。・・・攻防の強化だけで速度が上がらないというのは」

 

 そう。蒼穹剣において発覚した欠点はシンプル。

 

 スピードの変化が全くない。

 

 圧倒的な格上を相手にするということを前提としている分には間違いなく致命的な欠陥だろう。俺としたことがエクスカリバーのスペックに気を取られて機動力で翻弄されるという可能性を軽視しすぎていた。

 

「悪いことは言わん。別口で速さを強化する装備を用意したほうがいいぞ。おそらく必殺技のつもりであえて持久力は軽視しておったのじゃろうが、これでは気づかれたとたんに効果は半減どころではないわい」

 

「とても身につまされるお話です。・・・使い捨てのロケットブースターでも作ろうかなぁ」

 

「アザゼル工房貸せ。ファックな経験だがその手の工学技術なら経験がある」

 

「おお、そりゃ面白いな。あいつらもそっち方面で仕掛けられるとは思ってねえだろうし、これは行けるかもしれねえぞ」

 

 アザゼルが小雪の提案を面白がって受け取るが、それとは別に顎に手を当てると考え込んだ。

 

「しかしまあ、前から思ってたが宮白の思考パターンも結構読めてきたな」

 

「そうですか? 確かに奇策を多用する傾向が強いですが、正攻法も相応にこなせるので早々読み切られたりはしないと思うのですが」

 

 サイラオーグ・バアルはそう疑問を投げかけるが、アザゼルはしかし首を振る。

 

「いや、もっと根本的な大元の話だ。まあ一言でいうと―」

 

「・・・短期決戦志向じゃな」

 

 孫悟空が引き継ぐように告げる一言。

 

 まあ、確かにその辺について否定はしない。

 

 もともと俺はあまり長時間の戦闘は考慮に入れていない。

 

 そもそも聖杯戦争に始まり魔術師の戦闘というのは秘匿することを前提にする必要がある。

 

 そんな状態で長時間の戦闘は愚策以外の何物でもない。普通に目撃者が増える可能性が高くなるからだ。

 

 加えてまともな実戦経験のほとんどが街中での対不良戦が中心。これもまた、警察に見つかったらコネがあるとはいえいろいろとややこしいことになるのは確定。必然的に短時間に収めるのが理想形。

 

「そういう意味では特殊部隊的な思考なんだよ。俺らは長丁場の戦争なんて経験しまくりだからそういった方向から数日使うことも前提とした長期間の運用がメインだが、こいつはそういうことだから長くて数時間の短期決戦がメイン。メリハリがついているというか長くなるようならいったん仕切りなおすというか」

 

「人間世界の戦争もそういったことが多くなっているというし、そういう意味では人間的なのかもしれんの。クリフォトも全面戦争はトライヘキサが出てくるまではせんじゃろうし、ある意味かみ合うといえばかみ合うのじゃろうな」

 

 さすがは年季が違いすぎるお二人。俺の思考がだいぶ読まれてるな。

 

 まあ、長期戦というものは地力の差がモロに出るからな。

 

 格上を叩き潰すのなら相手が本気を出す前に短期決戦で一気につぶすのが一番いい。特に俺の場合、禁手による強化にしろ神格の活性化にしろ負担が大きいのでなおさらだ。

 

 これだって最後の手段だから性能重視で作っているわけだが、しかしさてどうしたものか。

 

「宮白。お前レーティングゲームに参戦するとリアスとは違う意味で苦手な戦闘が出るタイプだ。眷属悪魔を集めるときは、そっち方面の軍師役探したほうがいいんじゃねえか?」

 

「あ~確かに。数日単位のゲームを数時間で終わらせたら怒られそうだよなぁ」

 

 意外なところで問題点が発覚したもんだ。うっかり癖対策に軍師タイプは入れるつもりだったが、これは別の意味でも必要だな、オイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特訓もいったん終わり休憩状態になったので、俺はかねてから思っていたことを言ってみることにした。

 

「なあアザゼル。ちょっと一回、三大勢力でレーティングゲームを利用した大規模演習でもやってみないか?」

 

「ん? ああ、確かにやっといた方がいいかもしれねえなぁ」

 

 アザゼルも俺が言いたいことを分かってるのか、少し真剣に考えてくれている。

 

「なんでだよ宮白。いまクリフォトがやばい時にそんなことしてる余裕あるのか?」

 

「ところがどっこいそうでもないぞ匙。むしろ俺がリゼヴィムだったら間違いなくそれがない方が得だ」

 

 俺の言葉に結構な人数が首を捻るが、しかしソーナ会長たち何人かは納得したようだ。

 

「なるほど確かに。旧ルシファーの末裔の影響力は悪魔にとって絶大ですね」

 

「それはそうね。フィフスにいろいろやられているから即座にとはいかないでしょうけど、クリフォト側につく悪魔も何人も出てくるでしょうね」

 

 会長と部長がため息をつくが、まあそういうことだ。

 

 なにせ相手はルシファーの末裔。悪魔側が権威主義であるということはよくわかってるし、奴がこっちに来てよだなんていえば乗る奴がいないとは言い切れない。

 

「確かに、三大勢力の和平に不満を持つ悪魔も数多い。その不満のはけ口となる可能性はありうるな」

 

「マジですか!? え、じゃあ前やった運動会みたいなガス抜きってことか宮白」

 

 サイラオーグ・バアルの言葉に驚いたイッセーが、俺の言いたいことを理解してくれたようだ。

 

 まあ悪魔側としてはそうなるし、それとは別に問題が大きいのが一つある。

 

「何より厄介なのは教会側だ」

 

「教会側?」

 

 イリナ、なぜお前が一番わからない顔をしているんだ。

 

 それとは真逆にゲン・コーメイはすぐにわかってくれたようだ。

 

「それについては当然だな。聖書の教えにかかわらず一神教というのは神の教え以外は悪とする風潮が強い。これまで敵としてきた悪魔や堕天使はもちろん、異なる教えである他宗教や神話体系との和平など、主の意思でなければすでに反乱がおきていてもおかしくないだろう」

 

 そういうことだ。

 

 言ってはなんだが十字軍遠征やらなにやら、聖書の教えだって排他的ゆえに起きた惨事はいくつもある。

 

 それがいきなり和平結んだからほかの神話とも仲よくしようぜ! なんていわれて不満抱かないほうが少数派だろう。三大勢力の戦争を経験してない信徒の方が不満を抱いている可能性は大きいはずだ。っていうか絶対不満だらけだろいきなりすぎる。

 

 それだけならまあいいだろう。そんな状態で悪魔の甘言に耳を貸す可能性も低いはずだ。

 

「非常に最悪なことに、俺たちは信徒が知ったら一気に暴走しかねないトンデモ情報があることを知っているだろう」

 

「・・・主の死だろう? 確かに、まっとうな信徒がそれを知れば暴走するだろうな」

 

 ゲン・コーメイが重く息を吐く。

 

 ああ、これは非常にやばい。マジでやばい。

 

「えっと、具体的にはどんな感じでヤバイの?」

 

「主が死んでいるということは和平は主の意思ではないということだろう! それなのに悪魔と和議を結ぶなど天使の堕落以外の何物でもない!! ・・・とか切れる輩は腐るほどいるだろうなぁ。知られた瞬間に大爆発するのは確実だ」

 

 イッセーに俺はそう告げる。

 

 うん、間違いなく暴動がおこる。絶対におこる。

 

 むしろその程度など可愛い部類だ。ショックのあまり廃人になる連中がどれだけ出るか想像もつかないし、アーシアちゃんみたいに卒倒した奴なんてもうあふれかえるだろう。

 

 やけになってテロリストになる連中はたくさん出るだろうし、耐えきれなくなって自殺する連中も大量に出るのは間違いない。さっさと割り切ってほかの宗教に走る連中が出る形が一番穏便な気がしてきたぞ。

 

 だから爆発の規模を少なくするためにも不満という名のガスはできるだけ抜いておきたいのだ。

 

 表社会の方もアフリカの方で軍需産業を中心とした超国家組織化して国連がにらみを聞かせているとか言うし本当に物騒な世の中だ。

 

 多対多の集団戦の訓練にもなるし、これは間違いなく必要だと俺は思っている。

 

「特にイッセーの場合、覗きの常習犯が聖人が使っていた聖剣を使っているというだけで殺意わきそうな材料だからな。ついでだし適当にボコらせておいた方がいいと思うんだ。・・・イッセーみたいなキャラは適度にボコられるからこそ愛着わくタイプなわけで」

 

「ひでぇ!?」

 

 イッセーが悲鳴を上げるが仕方がない。

 

 いつまでたっても覗きをやめないおまえにも問題がある。最低でも万人受けするタイプじゃないのは自覚あるだろさすがに。

 

「おまえ一線超えれば嫌われることはまずないけど、その一線を超えるのが大変なタイプじゃねえか。そんなのが若手のヒーロー扱いされてることに不満抱いてるやつらは腐るほどいるだろうし、適度に発散させた方がいいって。誰もが部長みたいに特殊な趣味持ってるわけじゃないんだぞ」

 

 世間一般の女性からは嫌われるたちだろうに。清貧を旨とする女性の信徒からはお近づきになりたくないと本気で思われてなければそれこそおかしい。

 

「貴方、さらりと主の趣味を酷評したわね」

 

「事実でしょう。まさか覗きが日課のド変態を好むのが世間一般の女性のトレンドだと思ってるんですか? 俺もあなたも大概奇人変人扱いされるタイプだって自覚したほうがいいですよ?」

 

 っていうかオカ研は基本的に変人の巣窟でしょうに。さらりと殺気を出さないでくださいよ我が主。

 

 変人は自分が変人だと自覚しないと生活苦しいですよ?

 

「まあそういうわけで、クリフォトはいろんな意味で危険な連中だってことだ」

 

 表の人間社会の方でも、軍需産業が中心となってアフリカあたりで国際同盟ができてるだなんて話もあるしきな臭い。

 

 はあ、もっと平和な世界に生きたいもんなんだけど、トラブル多すぎだろここ最近。

 

 




世界は広い。強者はたくさん。

ゲンは絶チル系世界の出身でした。それもこれまでにない対能力者のプロ。転じて超能力者の指導にも向いているタイプです。ちなみにその特性上型にはまると無敵じみた強さを発揮します。

ぶっちゃけて言うとベルの師範役として急きょ設定したキャラでもあります。いや、ホントそうでもしないとベルの強化がどうしても思いつかなかったんや・・・。


そして兵夜の蒼穹剣の弱点追加。と、言うより設計上の穴ですね。

とにかく攻防に重点を置きすぎたのでそもそも戦闘しようと思わなければ時間制限まで粘ることは比較的楽。まあ天閃の聖剣を組み込んでいる偽聖剣相手にスピードでそこまで翻弄するというのが難しいのですが、想定している相手は今のグレモリー眷属でもチートすぎるような強敵なので決していないわけではないというあたり評夜はやっぱりうっかりさん。

 加えて兵夜の戦術方面での癖もここでばらすことにしました。まあ、人生における戦闘がほとんどそういうパターンでは発想の傾向も当然そういった方向になってしまうのは仕方がない。アザゼルや木場と戦術的な話でもめるときもあったと思いますが、原因がこれです。

 今までは大体基本的には短期決戦が多かったので問題にはなりませんでしたが、この話から長期戦も少しずつ増えてきますからね、兵夜には自覚させる必要があるわけです。


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カラオケ、行ってきます!

 

 本当に最近忙しいといえば忙しい。

 

 もともと魔術師組合の安定化と権威向上は必要不可欠だ。

 

 根本的に非人間的要素のある魔術師をまとめるには相応の利が必要であるわけだし、そのうえで人道面を配慮するというのはなかなか大変だ。

 

 今のところは冥界の土地開発を利用することで権威向上は何とかなるが、今後の悪魔側からのスカウト攻勢を考慮すると、ゼクラム・バアルの支援を確保できなかったらどうなっていたかわからない。

 

 今のうちにグレモリー卿に頼んで工房向きの土地を確保しておくか。上手く冥界政府との直結にして、冥界政府からの資金援助と土地提供をもぎ取っておかなければ。

 

 兵器開発も必要不可欠だ。蒼穹剣の構造的欠陥の対処はもちろん、対神器戦において圧倒的アドバンテージを持つリゼヴィムを神滅具持ち多数のD×Dで相手するためには相応の武装が必要不可欠。

 

 とりあえず武力介入を辞さない神話勢力に「危険なことはこっちでやるんで資金援助プリーズ。援助額に応じてリターンするベ、技術的に」と売り込んだおかげで研究資金には困らないが、さてどうしたものか。

 

 まあちょうどいいのがあるからそれの大量生産がメインになるだろう。幸い似たようなものは量産体制に入りかけていたし、それを生かせばだいぶ楽になるだろうな。数をそろえればリゼヴィム相手にもだいぶ有利になるはずだ。

 

 それとは別で麻薬騒ぎの対処も必要不可欠。なにせこれは俺が悪魔になる前の付き合いである以上部長たちの力を借りるのは最小限にするのが筋だ。なしといえないのがつらいところだが、まあクリフォトがかかわってるのでそれは良い。

 

 なにぶん規模が規模だから警察だけでも極道だけでも苦戦は必須だ。前から仲介していた俺がいなければ、足並みがそろわなくて逆にグダグダになるのが目に見えている。

 

 そのうえでトレーニングも必要不可欠。今後の戦闘を考慮するのならば、神格の制御などやることは盛りだくさんだ。

 

 作戦指揮においての俺のばらつきも指摘されたしな。今後は長期戦も視野に入れた戦闘スタイルや武装も多めに開発しておかないといけないわけで、マジでしんどい。

 

 そこに舎弟の管理や今後の女性関係の行動もあるわけで本当に疲れるわけだ。

 

「ゆえにストレス発散のお酒とおつまみは必要だと思うんです。過酷な労働を強いられている俺に安らぎをください先生!」

 

「駄目です。宮白君はまだ学生なんですから節度をわきまえてください。大体ここは日本ですよ?」

 

 ロスヴァイセ先生は本当に厳しいです。でもあなた京都でお酒飲んでましたよね!?

 

 くそ! 割と本気で疲れてるから日々に癒しが欲しかったのに!!

 

「いやマジで勘弁してくださいよ。俺間違いなくグレモリー眷属で一番仕事してますよ? 過労で倒れないようにこれでもセーブしてるんですから」

 

「発散するにしてももう少しほかの方法で発散してくださいといっているんです。ほかにないんですか?」

 

 それを突かれると弱い!

 

 ああ、今日はいい酒が手に入ったから呑もうと思ったのに!

 

 じつに残念だが仕方がない。たまにはゲームでもして寝るか。ストレスたまってるし無双系でもしてどっかんどっかん吹っ飛ばすとしよう。

 

「わかりました。まあこれからも徹夜が続きそうですし、お酒はほどほどにすることにします」

 

「わかってくれればいいんです。あ、でもそうだとするとちょっと困りますね・・・」

 

 と、なぜかロスヴァイセさんが困ったような顔をした。

 

「どうかしました?」

 

「いえ、実はその・・・」

 

 何やら神妙な顔つきになって顔を真っ赤にしておられるのだが、一体何があったというのだ。

 

「・・・彼氏役が、必要でして」

 

「はい?」

 

 いったいどういうこと?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おばあさんに彼氏がいるって言っちゃった?」

 

「みたいなんだよ」

 

 次の日、俺は昼休みに木場たちと飯を食いながらそのことについて説明した。

 

 テストも返却されていろいろと話題になっているが、俺はすべてにおいて平均点を余裕で上回っているので安心安心。

 

 まあ、授業真面目に聞いて予習も復習もして教科書丸暗記している俺はテスト勉強なんてしなくても平均点は余裕なのでこういう時楽だ。

 

 で、話は戻すがロスヴァイセさんの方だ。

 

 なんでも祖母と話をしていた時にその場の勢いで悪魔に転生したことをとやかく言われ、口論一歩手前になったらしい。

 

 で、その祖母が彼氏でもできてるなら安心できるといったところ、その場の勢いでつい彼氏がいるといってしまったらしい。

 

 そして面倒なことにその祖母がこっちに来るという連携コンボ。進退窮まったロスヴァイセさんは彼氏役を欲していたというわけだ。

 

「まあ、彼氏らしいところを見せてくれとか言うわけだし? 仕事多い俺に頼むのも気が引けたんだろう。だからといってイッセーにするというのもアレな気もせんでもないが」

 

「宮白くんも気に入られていたような気がするけどね。 名乗り出てもよかったんじゃないのかい?」

 

 木場が冗談めかして言うが、それを言ったらお前が一番適任だろうに。

 

 隠れ悪党の俺に変態帝王のイッセーに女装男子なギャスパー。癖が強すぎて、自分でいうのもなんだが適任かといわれると首を傾げる。

 

 そういったところがほぼない上に学生として完璧なこいつが適任なのは火を見るより明らかだ。

 

「お前が一番適任だと思うがな。ま、イッセーは彼女たくさんいるからある意味なれてるって言えばなれてるわけだが」

 

「それなら宮白くんもそうだよね。忙しくなかったら引き受けてた?」

 

「あ・・・どうだろうな」

 

 確かに最近彼女たくさんいるし、言ってはなんだが部長たちよりそういうことに理解ありそうだから適任かもしれん。

 

 だが、彼女がたくさんいるという状況下で彼氏のフリは―

 

「―だめだ、不実すぎる。俺一応、久遠が愛人になった時点で女遊び全部断ち切ったんだぞ? いくら仲間のためとはいえ、そんな真似はできん。っていうかあそこまで派手にスキャンダルになった俺だと逆に不安になるだろ」

 

「言われてみれば。でもそんな素早く行動してたんだ」

 

 なぜか木場があきれてる感じなんだが、俺は誠実に対応しただけだぞ?

 

 いや、その後も女作りまくりなのは確かに誠実かどうかといわれたら反論できんが、それでもなぁ。

 

「え? お前久遠のアレでそこまでやってたのかよ。どこで呆れたらいいのかわからねえな」

 

 と、トレイを持って席を探していた匙が会話に介入してきた。

 

「お、最近順調な生徒会の男手が参上か。会長の夢は順調で何よりだな」

 

 シトリー眷属の方は結構順調に進んでいる。

 

 俺もいろいろ反対派の説得工作に動いたりしたが、誰もが通えるレーティングゲームの学園建造は順調で、モデルケースがそろそろ出来上がる予定だ。

 

 いやぁ、説得には苦労したぜ。

 

 やれ余計な手間を全部シトリーに押し付けて見どころありそうな連中を鍛え上げるチャンスだとかいったのが功を奏した。俺はそういう黒い説得や取引はなれてるからねぇ。ああいう手合いは価値観に合った乗せ方があるんだよ。そしてメリットをちゃんと提示してあげる必要があるんだよ。

 

 まあ、さすがに今は仕事が多いので手を貸していくわけにはいかない。貸したら俺が死ぬ、過労で。

 

 でもまあ軌道には乗っているようで何よりだ。今後の講師のあっせんぐらいは、余裕があったら手を貸すとしよう。

 

 すでに人造魔術師の製造も可能となった現在。あえて魔術師を送り込むことでこちらの都合に合った人材を育成する機会にも恵まれるからな。このチャンスを逃すほかはない。

 

「ついでだ、席も空いてるしここで食ってったらどうだ?」

 

「やめとく。それよりお前はアイツを何とかしとけよ」

 

 と、匙がわざわざ片手を開けて反対側を指さした。

 

 ん? いったいなんで・・・。

 

「あ、あ、あぅうー」

 

 あれ? 久遠?

 

「ま、まさかあんな愛人発言でそこまでしてくれるなんてー。あぅー」

 

 やべぇ、顔真っ赤だ。

 

「本人もそこまで本気対応されるとは思ってなかったみたいだね」

 

「不意打ち喰らうともろいんだよ。捌くのと躱すのはうまいけど耐久力あるわけじゃねえからな」

 

 後ろで木場と匙がうんうんうなづきながら会話してるが、お前ら手伝ってもらえませんかねえ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前なぁ、放課後になるまで顔真っ赤にすることないだろ?」

 

「だ、だってー」

 

 放課後になって、ようやく久遠は本調子を取り戻した。

 

 どうやら授業中も顔を真っ赤にしていたらしく、保健室を勧められたりもしていたらしい。

 

 いい加減俺も読めてきたが、久遠はダメージを計算して戦闘するタイプだ。ある意味俺とタイプが近い。

 

 想定内のダメージを受けるのは平気だが、想定外となると一気にもろくなる。基本的に攻撃をかわすタイプで受けるタイプでもないしな。

 

 実戦においてはそれにもなれてるようだが、どうにも恋愛方面だとそううまくいかないらしい。

 

 だったらそこを突いて反撃して主導権を握るのもいいかもしれないとか思いたい。思いたいけどそれは無理だ。

 

 だってダメージ大きすぎると逃げるもん。そのあと大変だから面倒だもん。

 

 冷静に考えると俺の周りの転生者ってまともな恋愛経験ある奴ほとんどいない喪女一歩手前なわけだろ? 少なくとも前世でまともな恋愛したとかいう話は一つたりとも聞いたことがない。そして俺もない。

 

 そんな状況下で変な駆け引きやったらうまくいかないのは目に見えているわけで・・・。

 

「ほら二人とも! 次はだれがするの?」

 

 一時間ほどカラオケするときもみんなでいったほうがいいというわけだ。

 

 一曲歌い切ったナツミが順番を譲ろうとマイクを差し出す。

 

 ナツミ、マイクを差し出されてもリモコンで入力してからじゃないとできないわけでな?

 

「じゃあファックだがあたしが先にするか。・・・何にするかな」

 

「じ、実質こういうのは全く経験がないのですがどうしたらいいのでしょうか!? 歌ったことなんてろくにないんですけど!?」

 

 微妙に手馴れてるというか美声で歌いまくりの小雪と、まあ想定してたけど経験ゼロで混乱状態のベルを見てると、別の意味で落ち着く。

 

 たまには息抜きしたほうがいいかと思ってサービスも兼ねて一時間ほど謡に来たが、こういう光景もたまにはいいもんだ。

 

「まあ待て小雪。ここは俺が一曲歌わせてもらう。これでも話に合わせるために週一で歌番組を見てるんでな。喉はそこそこ鍛えている」

 

「あ、兵夜くんずるいよー。私だってアニソンぐらいなら歌えるからねー」

 

 とまあ、慣れてるメンツで取り合いも発生するがそれはそれで平和だ。

 

 これから忙しくなるだろうし、まあたまにはいいよねって感じでお願いします!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




彼女たちとのイチャイチャも忘れないようにしないといけませんね。

・・・ロスヴァイセを兵夜ヒロインにするかイッセーヒロインにするかは割と本気で悩んでおりました。

だけどまあ、ここは徹底的にオリジナルヒロイン重視でいったほうがいいような気もしたので、あえてイッセーヒロインを取るような方向は取らない形にしようと思います。

そういうのはまた別の機会に取っておきますという感じでお願いします!


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デート、見守ります!!

 

 

 

 

 

 

 イッセーがデートをすることになった。

 

 イッセーがロスヴァイセさんとデートをすることになった 。

 

 なんでもお婆さんをごまかすためにデートをすることになったそうだが、どうにもこうにもこればれてるよねって感じだな、うん。

 

 まあいい。それは良い。

 

 ならば俺がすることはただ一つだ。

 

 イッセーのデートを陰ながら見守り、しかし状況の急激な変化を抑制することただ一つ。

 

 なんでも部長がゼノヴィアたちに釘を刺したようだがどうやら俺が動いていることには気づいていないようだ。っていうか前回バレバレの尾行した人がいうことではない。

 

 そして前回はそのせいでいろいろとトラブルが発生したからな。今回はある意味偽装デートとはいえど成功させてやりたいと思うのだよ。

 

 いろいろときな臭いことが多いわけでもあるし、そういうのを忘れて美人とデートを満喫させる。これ重要。

 

 ゆえに今回も本気モードで対処する。

 

 事前にヘリを一つ用意し、魔術的迷彩をかけたドローンを複数展開し、さらにそれを操作する人員を用意し、感づかれないようにするための連携行動パターンまで叩き込む。

 

 これだけの準備を短期間でできるわけがなく、次のデートをより円滑に動かせるようにするために前もって準備していたものだ。前回朱乃さんが急激に動いたことで手こずったことを反省して備えは万全にしておいたのだ。

 

 ふはははは! さて、それではじっくり安全を確保するために監視を―

 

「目下お前が一番危険度ファックなんだよ」

 

 後頭部に手刀が叩き込まれた。

 

 ぐ、ぐぉおおおおお!? 絶妙に意識がもうろうとなる威力!

 

「久遠とベルは引っ張り込めなかったのか? こいついろいろと暴走しすぎだろ」

 

「朱乃のデートで似たようなことしてた小雪がいう?」

 

 声色からして呆れている小雪とナツミの声が聞こえ、俺は驚愕した。

 

「お、お前らいつの間にヘリに乗り込んでいた・・・?」

 

「お前やっぱり疲れてるよ。隙だらけだぞ」

 

「明日一日休んだ方がいいんじゃない?」

 

 マジか! くそ、これでも休憩はちゃんと入れてるつもりだったんだが。

 

 だが今更やめるわけにもいかん。何としても完遂しなければならない。

 

「まあ止めないから安心しなよご主人。っていうか止めようとしたらヘリ堕ちるし死人でるし」

 

こんなところ(東京二十三区内)で墜落したら大惨事だからなぁ。ファックだが仕方がねえ」

 

「え、あ、そう? それはよかった」

 

 そしてイッセーは見失ってなかった。うん、よかった。

 

「しかし久遠とベルはいないのか。久遠は学園がらみだとしてベルはなんでまた」

 

「いや、兵夜が心配だから誘ったんだけどね?」

 

 ナツミはそこでいったん切って、少し変な表情を浮かべた。

 

「・・・なんかプラモたっぷり買ってこれから修行だってベルが」

 

「「何がどうしてそうなった」」

 

 アイツ、確かゲン・コーメイが超能力者だという事実が発覚したことにより指導役に任命されてたんじゃなかったっけ?

 

 あいつに限って訓練という名目でさぼるだなんて真似はしないというか無理だろうし、何か意味があるのだろうか?

 

「一体何を考えてるんだというかなんというか。プラモづくりをどうやって戦闘に生かせばいいのか皆目見当もつかない」

 

「ファックにわからん。何がどうしてプラモデルなんだよ」

 

「だよねー」

 

 などと三人で考え込みながらイッセーのデートを調べまくっている。

 

 すいませんロスヴァイセさん。なんであなたデートに至っても百均何ですか。デートぐらいもっと奮発してもいいんですよ?

 

 などと思いながら様子を見ていると、ドローンの一つが厄介なものを映しだした。

 

 ・・・うわぁ、これは動かないといけないような気がしましたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ」

 

「これはこれは。今回は別に戦闘をするつもりはなかったのですが」

 

 あわてて付近のビルの真上に移動→そこからダイレクトに着地→急いで降りる→気づかれないように早歩きで移動→今ここ。

 

 って感じで間に合った俺は、ユーグリットの前に姿を現す。

 

「悪いんだけどイッセーもロスヴァイセさんもデート中なんだよ。要件なら俺が聞くから帰ってくれない?」

 

「そうですか。できれば間近で顔を拝見したかったのですが残念です。となれば日を改めることにするべきでしょうね」

 

 余裕の表情を崩さずにユーグリットが素直に納得した。

 

 まあ、こんな街中で暴れられたら困るのは俺たちなので逃がさざるを得ないわけだが。この野郎わかってるからこそ余裕だなオイ。

 

「実は彼女が666の研究をしていることを把握しまして、スカウトに来たのですよ。できればあなたともども来てくださると我が主が喜びそうなのですが」

 

「その返答は間違いなくNOだな。まあそんなことがおきていたとは想定外だから後でしっかり調べておくとしようか」

 

 しかしまあ、この男東京のど真ん中に出現してスカウトとか正気か?

 

 さすがはリゼヴィムの側近。ぶっ飛んでるにもほどがあるじゃねえか。

 

「それでは残念ですがお暇することにします。できればいい返事を期待したのですが、無理そうですしね」

 

「そういうことだ、さっさと帰りな」

 

 できれば追跡したいが、うかつにやって勘付かれるとその瞬間に東京のど真ん中で頂上バトルの開幕確定である。

 

 うん、そんなことしたら犠牲者の数が一瞬で数千突破するな。

 

 と、言うわけで素直に見逃す。

 

「・・・666の封印解除のためには手段を選ばない、か。こりゃ大変なことになってきそうじゃねえか」

 

『同感だな。どうする? デート中の二人は呼び戻すか?』

 

 別の場所に移動して狙撃準備に入っていた小雪がそう聞いてくるが、俺としてはそれは避けておきたい。

 

 せっかくのデートなんだ、ここで中断させたら俺が割って入った意味がそれこそなくなっちまう。

 

 しかし封印は意外とてこずっているようだな。直死の魔眼があればすぐに解除できそうだが、聖書の神の封印は伊達ではないということか。

 

「部長たちに報告だけしてイッセーたちはゆっくり楽しませておこう。・・・こっちから携帯にハッキングもしておいた方がいいかもな」

 

「兵夜、それもんすたーぺあれんとってやつになりかけてる」

 

 ナツミが何か言ってくるが、しかしこればっかしは聞き入れるわけにはいかない。

 

 せっかくのデートぐらい邪魔されずに楽しんでほしいんだよ俺は。それぐらいする権利はあいつにだってあるだろうし、それだけの余裕をもらうぐらいのことはしてるはずだ。

 

 ま、というわけだからしっかり楽しんでから苦労してくれ。

 

 こっちはこっちでいろいろと最低限の準備ぐらいは整えとくからよ。エスコートはしっかりとな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで? 携帯のハッキングを解く気はないのね?」

 

「はい。あと2時間は粘って見せます部長!」

 

「あらあら、というよりそんな大掛かりな準備までしてデートの監視とは暇なんですの」

 

「何をおっしゃる朱乃さん。・・・この時間を作るのに俺がどれだけ頑張ったと思ってるんですか」

 

 二大お姉さまが怖い笑顔を浮かべてくるが、俺はキリッとした表情を浮かべて徹底抗戦の体制を取る。

 

 簀巻きにされてぶら下げられてるからサンドバックにしかならないけどね! でも頑張る!!

 

「まあいいわ。それより問題はユーグリットの方ね。クリフォトは人間界を巻き込むことに躊躇する気がないということだけはよくわかるわ」

 

「その通りですね。前回のテロ行為といい。彼らは必要とあれば人間界で堂々と暴れることすら厭わない。何かしらの対策をする必要があります」

 

 部長の懸念に木場がうなづくが、確かにその通りだ。

 

 これまでの禍の団は、一応物事を人間界から隠すことには気を使ってきていた。

 

 だが、今回はそうはいかない。

 

 クリフォトの目的は達成される過程においてこの世界に甚大すぎる被害が出る可能性がある。なにせグレートレッド級同士の激突だ。余波だけで世界地図が変更される規模の戦闘になるだろう。場所によってはギネス記録にでも乗りそうな大津波や火山の爆発だって考えられる。

 

 そして厄介なことに、近年の禍の団のメンツの減少もこれに拍車をかけている。

 

 なにせ転生者はことごとく生き残っている。しかもどいつもこいつもスペック高めの連中がだ。

 

 魔術師(メイガス)からしてみれば神秘の変化ゆえに秘匿する必要がなくなっている。

 

 久遠のところは堂々と公表されている世界がある。

 

 ベルの場合はもはや堂々過ぎるというか社会常識。

 

 ナツミは世界そのものが社会的に溶け込んでいる。

 

 小雪の世界は魔術そのものは秘匿していたようだが、超能力の方は社会的に知られている。むしろそれウリにしてる。

 

 総じて秘匿に対する意識が緩くなる。むしろ俺は、禍の団の介入が遅ければ学園都市流の能力者はどっかの国の発展のために堂々と公開されていたのではないかと割と本気で考えている。

 

 たぶんフィフスが小雪の正体を想定していたからストップかけてたんだろう。出した瞬間にあいつが勘付くからその時点でアザゼルたち経由で異形勢力の介入が始まるからな。

 

 逆にいえば大っぴらに特殊能力者開発技術が公開ってことにはならないのは確実か。そうなった時点で拠点であることがばれる以上、うかつなことはできないはずだ。

 

「ですが逆にいえばその手の研究家を張っていればクリフォトに仕掛けられるかもしれませんね。わざわざロスヴァイセさんを狙ったってことは、ロスヴァイセさんの研究テーマが666の封印解除の正解である可能性は高いですし、そこから狙われそうな人たちを探せるかもしれません」

 

 俺としてはそこを突いてどうにかしたいところだ。

 

 まあ、何はともあれ必要なのはこれからだ。

 

 さて、クリフォトはどう動くのやら・・・。

 

 




アホがアホやってアホやらかした話。兵夜はある意味でヤンデレです。


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学園、始まります

 

 いろいろと忙しい中、まあこういうイベントも必要だとは思うという時がある。

 

 ソーナ会長が出資した誰でも通えるレーティングゲームの学校、アウロス学園もその一つだ。

 

 冥界というものは学業において人間界より大きく劣っている。

 

 個体の戦闘能力が高いやつはかなり高くなるのが原因の一つだろう。それゆえに努力を軽視する傾向が強い貴族たちは、必然的に平民を教育するということに対する重要性も軽視しがちだ。

 

 個体の能力の差が比較的小さい人間だからこその影響ともいえるかもしれないが、これは将来的に解決していきたい問題ではある。

 

「そういう意味ではうまくいってよかったな」

 

「そうだよねー。いや、もう数十年かかってもおかしくなかったし、そういう意味じゃ早すぎるぐらいだよー」

 

 割とドライというか状況を把握した感想を漏らす久遠の隣に立ちながら、出来立ての学校という中々にレアなものをその目に焼き付ける。

 

 いやあ、出来立ての学校ってあれだな、きれいすぎて目にまぶしいっていうか。

 

 うん、俺も設立に一枚かんだ身だしな。こういう風に完成して、通おうとしている子供たちがいるっていうのは感慨深い。

 

「それで? お前中級悪魔だから教員資格取れるそうだけど、やっぱ教えるのかよ」

 

「まあねー。大学部は教師志望でいくよー。体育教師久遠先生をよろしくねー」

 

「そりゃいい。では夜の保健体育の勉強は俺が手取足取り教員研修かな?」

 

「ご教授お願いします先生ー」

 

 ちっ。今回は想定内か。

 

 色っぽい表情を浮かべて手を絡めてくる久遠に対して、俺もそれはそれでいい感じなので腰に手をまわし―

 

「ここは子供たちの学び舎ですのでそういうのはやめなさい」

 

「「はいすいません!」」

 

 うぉお!? いつの間にやら会長が後ろに!!

 

「全く。忙しい中尽力しでくださったお礼を改めてしようかと思ったら、この学園は平均年齢が駒王学園を下回っているのですから、そこを考えたことをしてください。これから臨時講師として教壇に立っていただくのですからね」

 

「すいません調子乗ってました!」

 

 これは大変だったぜ!

 

 とはいえ、まさか一年も立たずにここまでたどり着けるとは思わなかったよほんと。

 

「これも和平のおかげですかねぇ。ほかの勢力からも好意的な意見が寄せられてるから、旧い上役も断りづらかったでしょうし」

 

「とはいえここからです。悪魔の人口も考えれば、ここに一つできた程度のことでは足りません。とはいえ一つでもできたことで上役にとってもいいわけができたのですから、増やしていくのは大変でしょう」

 

 現実が大変なことは会長も理解されているようで何よりだ。

 

 一つあるのとないのとでは大違いとはよく言うが、それは最低限のいいわけができているともいえるわけだ。

 

 こういうのが面白くない上役からしてみれば、一つ作ってやったんだから我慢しろとか本気でいいかねない。出資した連中もできれば自分の割合を大きくしたいだろうし、これ以上の規模拡大を嫌がる連中も出てくるだろう。

 

 加えて寿命が長いから世代交代が遅くなるわけだし。

 

 今の魔王様は間違いなく若手の部類だろうからなぁ。内心不満たらたらの連中はゴロゴロいるのが目に見えている。和平が結ばれた今、禍の団がいなかったら戦力増強に直結する学園設立はうまくいかなかったかもしれないな。

 

「まあ、こっから先は長丁場で考えていきましょう。楔は打ち込めたんですから慎重に行かないと」

 

「そうですね。まずはしっかりと実績を作っていくべきでしょう」

 

 会長はそういいながら、宝物を見る眼付きで学園を見る。

 

「それではいきましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、言うわけでお手伝いをしながら学園の運営のために俺たちもそこそこ協力するわけだ。

 

「は~い。それじゃあ今回はお手軽神鳴流講座だよー。今日のところは木刀を振るってみることから始めてみようかー」

 

 と、校庭で久遠が軽くレクチャーを始めているのだが・・・。

 

「多いな、オイ」

 

 思った以上に人が多い。

 

 っていうか保護者の方々もかなり真剣に見ているな。メモの準備をしている連中までいるぞ。

 

 さすがは初レーティングゲームで有望枠(俺たち)をぼこぼこにした人。たぶん前から注目されてたんだろうなぁ。

 

 というより、何人か俺の周りの連中も見てるんですが何やってるんですかお前ら。仕事しろ、仕事。

 

 と、久遠がゆっくりわかりやすい動きで木刀を振るって型を見せる。

 

 ああ、あの切り方の時は足はああ踏み込んでるのか。動きが速すぎてよくわかってなかったが、踏み込みなどからもよくわかるもんだな。

 

「はい、まずはこれをまねしようとしてみてー。一人ずつ動きがダメなところは指摘するからねー」

 

 と、久遠に促されて生徒たちが動きをまねし始める。

 

 どいつもこいつも全然真似できてないが、そこからが久遠の本領発揮だった。

 

「あ、なるほど。キミの場合は右足の踏み込みが大きいねー。・・・はい、今度振るときはこの線の部分を踏むようにねー」

 

「ちょっと右手の位置が上だねー。・・・うん、この印をつけたから今度はこの位置に合わせてねー」

 

「ちょっと肩の付き方が違ったからずれてたねー。キミの場合は右手と左手の隙間をこれぐらい詰めてねー」

 

 と、数回見ただけで適切に手取足取りペン取り棒取り。要所要所でどこがあってないのか見極めて、適切なフォームを指導する。

 

 一時間立たないうちに普通に見れる程度に動きが是正されていった。

 

 やっぱりこいつ指導者向きだよ。部活のコーチとか向いてるよな、オイ。

 

「うん、やっぱりこういうのが一番向いてるかなー。剣術っていうのは最終的に自分の動きを身に着けるのが一番だからねー。まずはよさそうなのを作ってくから、そこから自分の動き方を作っていこー」

 

「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」

 

 こりゃ、将来の好敵手たちが着々と育ってるようだ。将来の眷属悪魔候補といったほうがいいのかもな。

 

 久遠の場合は教師というより剣道部の顧問として重点的に鍛えたほうがいいのかもしれない。間違いなく名コーチとして有望枠を算出しまくることだろう。

 

「・・・あ」

 

 と、久遠が何やら両手と木刀を見つめて何やら考え込み始めた。

 

「久遠?」

 

「え? あ、何でもないよー」

 

 あわてて久遠は我に返って指導を再開するが、これは何か気づいたのだろうか。

 

 ・・・ふむ、何かあったら是非相談してほしいんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ついに宮白の講座の時間が始まった。

 

 いろいろできる男である宮白の講座ともなれば、ためになりそうなことが起きそうで俺も勉強したいぐらいだ。

 

「イッセー。兵夜は今回どんな内容を語るのかしら?」

 

「俺も気になります。子供たち相手だし、難しいことは言わないと思うんですけど」

 

 案外アイツ考えすぎるから難しいことばかり言うかもしれないよなぁ。ちょっと不安。

 

 しかし子供たちも結構本気で期待してる感じだ。

 

 なにせ宮白はかなり有名人だからな。

 

 冥界の医療業界に革命を起こし、レーティングゲームでは最後まで生き残ったりサイラオーグさんとタイマンしたりと大活躍。挙句の果てにハーデスを倒したことで結構ヒーロー扱いされてるし、下手すると俺より人気あるんじゃないか?

 

 宮白本人としては動きづらいとか言ってたけど、でもやっぱり気になるよなぁ。

 

 と、宮白が教室に入ってきた。

 

 ・・・スーツ着て入ってるよ。あいつ意外と形から入るタイプだよな。

 

「えー。特別講師として呼ばれた宮白兵夜です。今回は単純に、君たちが今後活躍できる可能性がどれだけあるかについて話したいと思います」

 

 お、なんか授業というよりたまにある体験談みたいな感じかな?

 

「簡単にいえば、君たちはこれから人間の力を取り込むことで、今までの悪魔ではあまり見られない成長ができます」

 

 人間の力?

 

「人間というものは弱い生き物です。悪魔や天使と比べれば当たり前で、自然界に存在する普通の動物も、人間よりスペックが高いものが非常に多い」

 

 おお、人間に対して辛らつだ。

 

「ですが、人間は地球において最大勢力を誇る。それがなぜかわかりますか?」

 

 宮白はそういうと答えを待つ。

 

 子供たちは少し考えていたけど、やがて一人が勢い良く手を伸ばした。

 

「はい! 人間には聖書の神が授けた神器があるからです!」

 

 うん。神器は本当に強力な力だ。俺だってそれがあるからここまで戦えてるもんな。

 

 特に最近は禁手がいっぱい出てきてるし、人間の時代が到達したんだと思う。

 

 だけど、宮白は静かに首を振った。

 

「うん、絶対1人は出てくると思ったけどそれは違う」

 

「部長、俺、間違えちゃったんですけど」

 

「まあ気にしないほうがいいわよ。あの子の頭の良さは私たちの中でも特に高い方だもの」

 

 部長も苦笑するがじゃあ答えは何!?

 

「確かに神器は強力ですが、それを保有できるものはごく一部ですし、それは持っている人間が強いだけの話です。この場合の質問の答えとはあってない」

 

 宮白はそういうと、黒板に大きく言葉を書く。

 

 綺麗な悪魔文字で書かれた言葉の意味は、知識。

 

「人間はほかの動物よりもこれを集めてきました。そしてこれこそが、人間が一つの世界で覇権を握った最大の理由です」

 

 宮白ははっきりと断言した。

 

「食べられる植物がどういうところで育つのかを知って、人間は畑という概念を作り上げ、そしてよりよく確実に育てる方法を知ることでたくさんの食べ物を確実に作れるようになりました。これにより、人口が増えても食い扶持が稼げることで数を増やすことができた」

 

 宮白はそういいながら、転送で一本の槍を取り出す。

 

「生身で攻撃するより相手にダメージを与える武器という概念を生み出したことで、彼らは身体能力で上回る相手を倒す方法を手にしました。エクスカリバーやデュランダルなども、その延長線上にありますから、これはよくわかるでしょう」

 

 そういいながら、今度は風邪薬を取り出す。

 

「食べられる草の中から、体調が悪い時に食べると治るのが速くなるものを知った彼らは薬という概念を生み出し、そしてそれを使う医療という概念を作り出して人々に広めた。これにより人間は死ににくくなりさらに数を増やしました。これらが役に立つのは君たちもわかりますね」

 

 そして今度は携帯電話を取り出す。

 

「さらに彼らは魔力を使わず、離れたところの人々会話をする方法なども生み出しました。もはや人間はこれなしではまともに生活できないほど大切なものです」

 

 そして今度は魔法陣を生み出すと、そこから炎を出す。

 

 あ、あれロスヴァイセさんが使ってた魔法とよく似てる。宮白そっち方面も勉強してたのか。

 

「そして悪魔の魔力を真似て魔法を生み出した。彼らは悪魔の力すら勉強することで再現できるようになったのです」

 

 そしてそれらすべてを消すと、宮白は教室中を見渡した。

 

「人間は弱い生き物ですが、知識を得て教えて増やしてため込むことで、弱さを上回るものを用意できるようになりました。優れた知識を持ってそれを運用できるものは、やり方さえ間違えなければ裕福に暮らせるといっても過言ではありません」

 

 そういう宮白には自信があった。

 

「例えば医者になるには医大というところに入る必要がありますが、ここは頭のいい人が入るところといっても過言でない。魔法も使わずに空を飛ぶ飛行機というものも、作るためには頭のいい人が最低でも一人は必要です」

 

 ああ、確かに飛行機とか設計できる人ってすっごく頭がいいわけだよなぁ。

 

 医者だって俺じゃなれる自信とか全くない。たぶん宮白でも結構苦労するんじゃないだろうか。

 

「ひどいことを言いますが、君たちのほとんどは魔力が少ない。血族で能力にばらつきが出る悪魔の平民という時点で上級悪魔ほどの魔力は見込めませんし、そういう上級悪魔でここにいるのは、魔力というステータスが少ないものばかりです」

 

 宮白はそう言い切った。

 

 そう、悪魔の業界は魔力や血族が大事な要素だ。

 

 ここにいるのはほとんどが下級悪魔だし、上級悪魔にもいるけどそのほとんどは魔力が足りないから学校に入れなかった人たちだ。中には魔力だけはある下級悪魔もいるけど、その数は少ない。

 

「そういう人たちが生きづらいのが今の冥界です。眷属悪魔を探す悪魔のほとんどは、悪魔から探すときは魔力を参考にするので、それが少ないというのは大きなハンデです」

 

 キッツいけどそれは事実だ。

 

 俺は人間から悪魔になったけど、そういうのはほとんどが神器持ち。ほかの種族からなる人たちだって、なんていうかその種族の特徴がすごいことがほとんどだろう。

 

 悪魔の場合はそれは魔力だ。だから、悪魔がなるのは大変だ。

 

「ですが、そんな君達でも知識を得ることはできる」

 

 宮白は、ハッキリと大きな声でそういった。

 

「知識は力です。0から作り上げるのは大変ですが、もとからあるものを吸収するのは比較的楽。そして人間はそんな知識をたくさん見つけて生み出しました」

 

 そういうと、宮白は今度はたくさんの本を出す。

 

「ここにある本は、さっき言った医者になる人が医大という医者になるための学校に入るための知識を得るために読む本です。もちろんここに書いてあるのは人間の文字ですので今のキミたちでは読めませんが、人間の言葉という知識を得ることができれば読めるようになります」

 

 うん、文字を覚えるのって大変だけど、覚えたら結構いろいろ楽になるよな。

 

「そして読めるようになってその内容を覚えて、医大に入って卒業して医者になれば、医者という職業になれます。そして、これはほかの様々な専門家にも言えることです」

 

 宮白は、そういうともう一回生徒たちを見渡した。

 

「いいですか。それが人間の力です。知識という武器を手にしたことで、人間はこれまでできないとされてきたことをできるようにして発展した。そして、それは悪魔でもできることです」

 

 そういうと、宮白は結構真剣な表情を和らげた。

 

「今の冥界でも人間の技術を利用することは多い。そしてそれらの多くは知識という能力が必要で、これは魔力のあるなしに関係なく習得できる。もちろん君たちにもできます」

 

 そういうと、今度は悪魔文字で専門家と黒板に書いた。

 

「専門家というのは、文字通り専門に扱うものを持ってそれを職業にしている人です。彼らは専門分野の知識が豊富で、そしてその結果大事にされることが多い存在です」

 

 そういうと、宮白は一度沈黙して、目を閉じる。

 

「君たちには魔力はないかもしれないが、専門家というものの多くは魔力が関係ないことが多く、それゆえに君達でもなることはできる」

 

 宮白はそういい、しかし視線を鋭くした。

 

「ですが、それは決して簡単な道ではない。苦労はもちろんするし、こういうのは何より何らかの形で熱意が必要だ。特に子供のころの勉強というのは勉強がしたいという熱意がないとこれが全く頭に入ってこない」

 

 なんかすごく実感籠ってるな。今までの宮白の言葉で一番説得力がある。

 

 そういえば、前世は全然大したことないとか結構言ってたよなぁ。持ってる知識と技術の大半はこっち来てから習得したとか。

 

 そりゃそういいたくもなるよ。経験から来てるんだもん。

 

「ぶっちゃけよう。今のアウロス学園にやる気ないやつまで面倒を見る余裕はない。そういう奴は邪魔だから今すぐ帰ってくれ」

 

 宮白は、ハッキリと厳しい言葉を口にした。

 

「ここは可能性を閉ざされて、それでも何かを得たいというものに得られる武器を用意する場所だ! キミたちがここに通うというのなら、その武器を欲する熱意を忘れるな!」

 

 そう言い放つ宮白の言葉に、生徒たちはもちろん親御さんも気圧される。

 

 正直、宮白がここまでマジな話をするとも思ってなかったので俺も驚いている。

 

 あいつ子供相手にきついことはあまり言わないし、もっと遊び感覚で学べる授業とかにするんだとばっかり思っていた。

 

「いいか、この学園の存在に不快感を抱く上級悪魔は数多い。彼らはこれ以上似たような場所が増えてほしくないと思っているし、それをどうにかするには実績が必要で、そしてそれでも増えるのには時間がかかる。ゆえに、入りたいと思う悪魔全員をどうにかすることなんてできないし、入れるのはいまだ一握りだ」

 

 そう、それが現実だ。

 

 宮白も裏でいろいろと手を回したり説得に手を貸したりとかしたみたいだけど、それでも反対している人は多いらしい。

 

 こんなに早くアウロス学園ができたことだって、宮白は結構本気で驚いていたみたいだった。

 

「個体の寿命が非常に長い悪魔の社会で価値観が変動するのは非常に時間がかかる。二つ目の学園ができるのに何十年も何百年もかかる可能性だってある」

 

 だから、きつくても本気で宮白はそれを教えたいのか。

 

「君たちは今恵まれていることを自覚しろ。このチャンス、二度目が来ないことだってありうることを忘れるな!」

 

 そして宮白は黒板に今までで一番大きく文字を書いた。

 

 書いたのは漢字二文字。

 

 学園。

 

「学ぶ園・・・知識を得る場所という意味の日本の言葉だ。そしてこの場所を説明するに一番的確な言葉でもある。君たちがいる場所がそういうところだということをよく理解してほしい」

 

 その言葉に、生徒たちは真剣な顔つきになった。

 

 おお、何やら一気に引き込んだぞ。

 

「・・・というわけで、ここからは知識があるがゆえにできることについて語ろうと思う。これは、知識を得るということの重要性を学ぶ授業だと考えてほしい」

 

 そういってから、宮白は表情を柔らかくした。

 

「まずは、転送という手段を持たない人間たちが遠くまで行くのに使う車などの乗り物についてから・・・」

 

 授業というか講演って感じになった宮白の授業だけど、かなり好評だったとだけ言っておく。

 

 あいつ教師とかも向いてるかもな。多芸だから小学校とか中学校とか向いてるかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out





名コーチ久遠、何かに気づくの巻

久遠が気づいたことは非常に単純で「え? こいつそんなことも気づいてなかったの?」とツッコミがくることです。すぐに明かされますのでお楽しみに。




そして兵夜は兵夜で厳しめに生かせてもらいました。

勉強というものはやる気がなければ身に入らない。そして規模の問題でやる気のないものまで面倒見きれない。そこまで呼んだ兵夜はあえて厳しい言葉を投げかけさせてもらいました。

同時にやる気を出させるためにいろいろと小細工もしてるあたり人の良さが出してみましたが。


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強襲、されました?

兵夜はアザゼルが嫌いなのではありません。

仲がよかろうとすべてにおいて感想が一致することなどありえないだけなのです。


 

 

 ふう、多数の人に講義をするというのは疲れるもんだ。

 

 風呂上がりに一杯を飲みながら、俺は一息ついていた。

 

 できれば酒にしておきたいところだが、子供が通う学校の寮を使わせてもらう手前コーヒー牛乳で抑えることにする。

 

 ちなみに今は一人だ。

 

 久遠は明日の授業の準備とか言っていたが、あいつ基本的に木刀用意するだけだと思うのだがどうしたのだろうか?

 

 ナツミもベルも小雪も別件でいない。まあこれは俺が頼んだことだから仕方がない。

 

 思い過ごしで終わればそれでいいとは思っているが、念には念を入れた対策は必要なので、そのあたりをお願いしている。

 

 なにせこのアウロスでは、666の研究を行っている魔法使いが何人も集まっている。

 

 俺がリゼヴィムなら間違いなく狙う。わかった瞬間に絶対にちょっかいをかけに行く。

 

 そして、奴がなにも知らない可能性はゼロに近いだろう。

 

 獣鬼騒動と同じタイミングで発動させたアサシンによるスキャンダル攻撃。まさか全員ばらしているとは考えにくい。

 

 おそらくは下手に恐喝すると逆に痛い目に合ったり、恐喝するだけの価値もない連中をメインにして、いい情報を提供してくれそうな奴らは残していると考えるのが妥当だ。暗殺を駆使して政治的行動を行ってきたといわれる暗殺教団の長がその方法を考慮に入れないとは考えにくい。

 

 だから、フィフスは知っている可能性はかなり高い。もちろんその可能性は上に進言している。

 

 だからダミーとしての集合場所の情報はばらまかれているし、このあたりに戦力を集めている。もちろん完全につかめている可能性があるわけでもないのでここにいますよとばれるような集め方はしてないが、それでも相応の警戒は行っている。

 

 具体的にはダミーの会談場所を意図的に用意し、まるでそこが本命だといわんばかりに防衛部隊を配置するといったところだ。そしてそこからアウロスまではいざとなれば短時間で来れるギリギリの位置に設置しているし、アザゼル製の空間転移系人工神器もごっそり用意している。

 

 グランソードたちがここぞとばかりに傭兵代わりにつぎ込まれているらしい。できることなら、リゼヴィムと目的は違うが結果として同じことになりかねない連中がつぶし合ってくれればいいと考えているに違いない。これに関してはフォローできないから仕方がないね!

 

 加えて俺も立地をいかして独自に行動済み。それ相応の奥の手というのを用意させてもらった。

 

 まあ、これだけ準備すれば何とかなる可能性は十分にあるだろう。ほかにもいろいろ開発済みなのでかかってくるがいい。

 

 まあ、アーチャーは今回その別件の方に移動しているので仕方がないが。

 

 なにせ場所が場所だからな。一応念には念を入れておいたわけだ。

 

 いや、この情報は非常に貴重で機密情報だからイッセーたちにもギリギリまで言うわけにはいかないからな。下手したらサーゼクス様ですら知らないぞ。

 

 と、言うわけで出せる手はしっかり打っておいたのであまりあわてたりしないでゆっくり過ごす。

 

 来るなら来て見るがいいクリフォトよ。最低でも増援が来るまでの時間稼ぎだけはさせてもらう。

 

 と思いながらコーヒー牛乳を飲んでいると、なぜか男湯の方からロスヴァイセさんがやってきた。

 

「・・・なんで男湯の方から? イッセーはまだ入ってたはずなんですが」

 

「え、ええ。おかげでばったり出くわしてしまいました」

 

 顔を真っ赤にしてロスヴァイセさんが応えるが、一体何があればそういう事態になるというんだ。

 

「まあ、それはともかく。教師としては俺の今回の授業とかどうでしたでしょうか? 結構大真面目にやったつもりなんで採点してくれると嬉しいのですが」

 

「そ、そうですね・・・。私もまだ経験が浅いので深くは言えませんが、生徒たちのやる気を引き出すという意味ではよかったのではないでしょうか? あの説明なら自分たちが恵まれていることも自覚できるでしょうし、やろうという意識をはっきりさせるのには有効だと思いますよ」

 

 お、そういってもらえると嬉しいねぇ。

 

 こういう勉強っているのは、やろうって気にならないと全然身に入らないもんだからね。そういう人達の面倒まで見る余裕は今のアウロス学園には存在しないだろう。

 

 そういうことの説明も兼ねていってみたんだけど、ちゃんとわかってくれるのならそれはラッキーだ。

 

「しかしまあ、同じ場所でお婆さんがいるというのもなんというか縁を感じますね。ついでですし、時間があったら行ってみたらいいんじゃないですか?」

 

「そうですね。私の調べた内容も意味があるかもしれませんし、それもいいかもしれません」

 

 ロスヴァイセさんはそういってから、少し真剣な表情を浮かべた。

 

「・・・これはイッセーくんに言って怒られたんですが、ひどい言い方ですが宮白君の分野な気もするので前もって頼んでおきたいことがあります」

 

 イッセーに言われて怒られるようなことねぇ。ま、大体予想がつくけど。

 

「自分が誘拐されそうになったら最悪の場合殺してくれですか?」

 

「わ、わかりますか?」

 

「そりゃあまあ。ロスヴァイセさん責任感強いですし、流れ的に推測ぐらいはできますよ」

 

 そりゃイッセー怒るって。あいつそういうの絶対無理だもん。

 

 それがOKならベルの時に割って入ったりしないしなぁ。まあ、あの時は紆余曲折あってどうにかなったからよかったけど。

 

「わかってますよロスヴァイセさん。うちのメンツでそういうことできるのは俺ぐらいだし、自分の立ち位置はちゃんとわかってます」

 

 そこに関して引くわけにはいかないだろう。

 

 以前アザゼルは実戦はともかくレーティングゲームでサクリファイス戦術は間違ってないといってたが、俺としてはそれには異を唱えたい。

 

 レーティングゲームで負けようが、別に人生がひっくり返ることはそうはないだろう。所詮はゲームなのだから、マジになるにしてもマジになる方向というものがある。勝敗より意地を取ってもいいだろう。今のレーティングゲームはすでに出世している貴族様の遊びなのだから、プライドを重視したって罰は当たらない。

 

 だが実戦ではそうもいかない。実力状況時間的余裕などの理由により、天秤にかけねばならないときというものが確かにある。

 

 そういう時出来るメンツなんて、グレモリー眷属では俺ぐらいだろう。それぐらいはよくわかっている。

 

「本当に申し訳ありません。もしかしたらイッセーくんに恨まれるかもしれないのに」

 

「イッセーに恨まれることを恐れてイッセーを失うような真似はしませんよ。ええ、俺はそのあたりの覚悟はできてますから」

 

 申し訳なさそうにするロスヴァイセさんに俺はそういうと、ちょうどいいので贈り物をすることに。

 

「じゃあまあ、そういうことなら渡しておきたいものがありまして・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日もいろいろと熱意があるようで何よりだ。

 

 教員にちゃんと給料が支払われてない国は国家として失敗しているとかいう話を聞いたことがあるが、やはり教育は重要である。

 

 まあ先進国ともなれば義務教育なんて普通にあるだろうしな。そりゃ重要だということだ。

 

 待てよ? つまり教育が進んでない国に教育機関や教員を派遣して勉強を教えて参加の企業に就職させるというパターンを作り上げれば儲けがウハウハ?

 

「宮白くん、今なんか邪悪なこと考えてない?」

 

 まて木場、考えていたのはあくまで金策だ、悪魔だけに。

 

「まあいいか。それより次の授業で俺は何を教えたらいいだろうか? 一応法曹系の興味を引かせるためにホントにあったビックリ判決とかあるんだが」

 

「案外ムダ知識が豊富だよね宮白くん。一応ここはレーティングゲームの学校なんだし、やるんだったらレーティングゲームで有効そうな戦闘スタイルの発案とかがいいんじゃないかな?」

 

 なるほど、冥界の教育事情が悪いことを知っていたからすっかり忘れていたが、そういえばここはレーティングゲームの学校だった。

 

 しかしあまり手の内を教えると今後のレーティングゲームの負担にもなるしな。そのあたりを考慮しながらレーティングゲームに使える戦術を教え込むというのはやはり難易度が高い。

 

「仕方がない。ここは実践! 山の中で作れる簡単トラップ! 魔力がないから意外と見つけずらいもん♪ でもするか」

 

「宮白くん。なんで街中での活動がメインなのにそんな状況でのトラップなんて学んでるんだい?」

 

 いや、PMCに講習受けに行ったときに元ゲリラの方が教えてくれるっていうから役に立つかと思って。

 

 まあいい。こういった対処できる範囲内のことを教えていって、事前に攻略しやすいメンツを育成するというのもなかなか行ける作戦ではある。

 

 ふはははは! 戦闘とはえてして始まる前に終わっているものなのだよ!!

 

 そういうわけで今回の授業の内容も決まったのでまずは最低限の準備を整えて・・・。

 

 と、思ったその時、空が急激に変色した。

 

「チッ! ある意味ラッキーだが根本的にアンラッキーな展開になってきやがった」

 

 とりあえず、個人的に動いたことも経費で落とせるから金銭的にはラッキーということにするのが前向きかねぇ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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防衛線、始まります!

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マズイ。これ間違いなくクリフォトだ!

 

 くそ! いったい何なんだこの空間は! どう考えたって俺たちを逃がさないための奴だろうけど、このままだとやばいぞ!

 

「だ、だれか! 急いで外の人たちに連絡を―」

 

「―いや、残念だがそれは無理だな、これが」

 

 ―おいおいマジかよ。いきなりお前か。

 

「・・・フィフス!」

 

「よう久しぶり。邪魔しに来たぜ?」

 

 この野郎、堂々とここまで侵入するとはどうやってできた!

 

「てめえ! いったい何のつもりだ!」

 

「大体予想ができてるだろう? ここで会議してる666の情報とか、アグレアスとかいろいろな。まあ、それはこれから説明してくれるぜ?」

 

 そういうと同時に、空に映像が浮かび上がる。

 

「レッディースアンドジェ~ントルメーン! 皆のアイドルリゼヴィムおじさんだよ~ん!」

 

 相変わらずふざけた口調でリゼヴィムの姿がアップに映る。

 

 やっぱりお前かよ!

 

「え~、今日は俺たちの研究に役立ちそうな情報持ってる方が渡してくれなさそうなんで、だったらめんどくさいからぶっとばしちゃおうと思いました~。巻き込まれたみなさんごめんなさいね~?」

 

 全く悪いと思ってない感じで、リゼヴィムはそう告げる。

 

 あの野郎、手に入らないなら壊しちまえって子供かよ!!

 

「ついでにもともと俺の父ちゃんの物だったアグレアスももらってこうかな~って思ってます! 親父の遺産を相続するのは子供の権利だしまあいいよね? ついでに観光地のお金とかもいただいちゃうよ~ん?」

 

 マジでむかつく野郎だ。今更そんなことさせると思ってんのか!

 

「まあそういうわけだ。ついでに司令官の趣味に合わせて蹂躙させてもらうってわけでな」

 

 そういいながらフィフスは一歩一歩こっちに近づいてくる。

 

 その体は威圧されてるのかどんどん膨れ上がってくるように見える。

 

「因みにこれは本体じゃない。交渉とかの運用とかに使えるかと思って使い魔の技術とホムンクルス技術を融合させて作ったアバターみたいなもんでな?」

 

 ゲームのプレイヤーキャラみたいなもんか?

 

 俺はフィフスを見上げながら、こいつらの技術に驚異を覚える。

 

 何よりそんなことのために命を作り出すこいつらが怖い。

 

 前に宮白が言ってたけど、魔術師っていうのは基本的に倫理的に問題がある人物である傾向が強いらしい。魔術が秘匿されてるのなら、殺人すら趣味が悪いで済まされるとか。人間を生贄にする黒魔術とかも普通に研究されてるらしいし、間違いなく問題がある。

 

 そんな怖さを堂々と見せつけながら、フィフスは俺をはるか上から見下ろして・・・って。

 

 待て待て待て。これ本当に大きくなってる!?

 

『そういうわけでついでに邪龍の材料用に専用調整とかしてんだよ。テストも兼ねて遊んでくれ』

 

 オイマジか!? そんなもん用意しちゃってるのかよこいつら!!

 

 いつの間にやらフィフスだった奴はグレンデルみたいな人型のドラゴンにまででかくなっていた。

 

 やべえ、これ絶対に手ごわいやつだ!!

 

 俺はすぐに鎧を纏うと、真正面から殴りかかる。喰らいやがれ!!

 

『おっと! こいつは俺が動かしてるんだぜ!』

 

 フィフスの奴はそれを受け流すと、回し蹴りを叩き込んできやがった。

 

 ・・・ダメージはそこまでじゃないけど動きが素早い。殴った時の感触から言って、上級悪魔でも手こずりそうなレベルだな。

 

 少なくとも、ルーマニアの時の改造邪龍より難易度が高い。これは結構時間がかかりそうだ。

 

「お、おっぱいドラゴンがドラゴンと戦ってる!?」

 

「なにこれ? ねえ、なにこれ?」

 

 ・・・って子供たちがいるのを忘れてた!

 

 くそ、こんなところで大暴れしてたら子供たちが巻き込まれる! この感じだと時間がかかりそうだしどうしたらいいんだ!?

 

 どうしたもんかと思ったその時、後ろから声が響いた。

 

「おいイッセー。伏せろ」

 

 この声は宮白!? なんかわからないけどあいつのことだから何か考えがあるはず!

 

 そう思い急いで地面に伏せた直後、俺の真上を高速で何かが飛び交った。

 

 あと結構うるさかった。擬音でいうとバララララ! って感じな。

 

 そして何となく邪龍の方を見ると、体中穴だらけになって血まみれになっていた。

 

『・・・この反応、まさか、龍殺しを作り上げたのか!?』

 

「正解だ。アスカロンにグラムにサマエルと勢ぞろいだったおかげで、使い捨てだが量産型の龍殺しを開発することに成功したんだ。・・・金はかかるが」

 

 そう言い放つ宮白の手には、アサルトライフルがあった。

 

 おいおい弾丸型かよ! また面白そうなもの作ったなアイツも。

 

 邪龍はふらつき、そしてぶっ倒れた。

 

 お、おおおおお! 結構手こずりそうだった邪龍をあっさり倒しやがった!

 

「覚えておくといい。いい兵士ってのは金と資材と時間と経験と才能と運が必要だが、いい兵器ってのは金と資材があれば結構簡単に手に入るものだ。」

 

 宮白はそう子供たちに言うと、いまだに映像を出しているリゼヴィムに指を突きつけた。

 

「・・・どうせアサシンを一人か二人は連れてきてるんだろう? ためらうことなく出して来い。そいつら全員片づけて、お前の目的も阻止してやる。対クリフォト部隊なんでな、俺たちは」

 

 そういうと、宮白は不敵に笑みを浮かべた。

 

 おお、なんというかすごい自信がありそうだ。

 

「さあ、聖杯戦争を始めよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、正直言ってくることは予想できてたというか来なかったら経費で落ちないことしてたんである意味ラッキーというかぐぎゃああああああ!?」

 

 場をなごませるブラックジョークを言ったら集中砲火が襲ってきた。

 

 ツッコミ待ちだったけどこれひどくね?

 

「だからあなたはなんで独断専行が多いのかしら? そういうことは前もって言ってほしいのだけれども?」

 

「だ、だって言ったら負担するって言うじゃないですか! 実験武装のテストも兼ねてたんで言い出しずらかったんです!」

 

「あらあら。下僕が余計な気を使ってるわね。どうやらお仕置きが足りなかったのかしら?」

 

 ぎゃああああ! 部長が怖い!

 

 部長の新必殺技は喰らうとさすがにマズイし、提供した武装も凶悪だから逃げに徹さないと厄介という罠がいっぱいあるんだけど!? マズイ殺される!!

 

 地味に危機を感じて俺は震えたが、幸いソーナ会長が部長の肩に手を置いてとどめてくれた。

 

「まあ今はいいでしょう。それで、とにかく現状を整理します」

 

 ああ、確かに現状は結構マズイ。

 

 現状、ここアウロスとアグレアスが結界に封じ込まれてしまっている。

 

 しかも追加で聖十字架による炎が防壁となっており、逃げだすのが厄介だ。

 

 加えてアウロスの方は魔法使いが全員封印術式を受けており魔法をほとんど使えない状況になっている。

 

 とどめにどうも時間の流れすら干渉されている。下手すると外はまだ異変に気づいていない可能性がある。そして、気づいていても来る頃にはかなり時間がたっていて奴らの目的が達成されている可能性も高い。

 

 これだけの無茶な術式を可能とするのが聖杯による再生だ。負担がでかくてくたばったとしても復活できるから無茶ができる。実に厄介だと言わざるを得ない。

 

 幸い、ゲンドゥルさんたち魔法使いの方々はまだ使える魔法があるらしく、それを再構成して町からの脱出を行うという作戦を立てている。

 

 だが、これだけの手はずをこうも短期間で取れるなんてかなり不可解だ。

 

 やはり内通者は確実だろう。とはいえこうも派手に動けば当然警戒されるだろうし、おそらく奴の目的は読めた。

 

「部長、俺の責任でアグレアスの秘匿事項について説明します。これはおそらくサーゼクス様も把握してない可能性があるので、秘匿情報でお願いします」

 

「・・・あなたどれだけ深部に食い込んでるの? それで、アグレアスの秘匿事項というのは?」

 

「悪魔の駒のベースマテリアルは、アグレアス深部の遺跡からしか生成できません。もしこれが奪還された場合、現政権は大打撃を受けます」

 

 俺の説明に、全員一瞬黙ってしまった。

 

 そりゃそうだろう。転生悪魔システムは今の冥界の根幹といっても過言ではない。

 

 それが台無しになれば、間違いなく冥界は大きく揺れる。今の状況でそんなことになればどれだけの被害が出るかなんて想像したくもなくなる。

 

『なおさら負けるわけにはいかんということか。これは俺たちの責任は重大だな』

 

 通信ごしでサイラオーグ・バアルが眉間にしわを寄せる。

 

 まあ確かに、アグレアス側は彼らに任せるしかない以上負担がかなり大きくなるだろう。

 

「まあその辺はご安心ください。そこについては策がありまくりというか肝というか」

 

「お前は一体何やったんだよ」

 

 イッセーがしびれを切らしたというか大体予測した感じで先を促す。

 

 うん、まあ読めてると思うけどとりあえずお教えしよう。

 

「いや、タイミングをずらして観光地であるアグレアスに傭兵やフリーランスを招待してたんだよ。あと今日サプライズ特別講師としてご招待した方々もいます。先生どうぞ」

 

 俺は指を鳴らして別ルートで用意していた通信を展開する。

 

『やあ、兵藤一誠。まさかこうも早くリゼヴィムと戦闘できる可能性があるとは思わなかった』

 

「ヴぁ、ヴァーリ!?」

 

 おお、さすがにこれは驚いているようだ。

 

「リゼヴィムがちょっかいかけてきそうなイベントだったからな。網を張って待つのもいいプランだと説得したんだよ。あと、強いやつと戦いたいなら強いやつを育成してみたらどうだということで特別講師に」

 

『自分で強くしても強さが読めそうで微妙だったが、アーサー達も乗り気だったからな。手探りで探すよりかはうまくいくかと思ったが、これはいい機会だ』

 

「お、お前は本当にいろいろとやってくるな!」

 

 匙が唖然としながらそういってくるが、まだまだこんなものじゃない。

 

「因みに、さきほど使った龍殺し弾丸は優先的にアグレアスに配備させてもらった。アウロスじゃ物流が派手になると気づかれそうだったからな、荷札の名前をごまかすにしても物流が活発なアグレアスの方がごまかせたんだが、結果的に好都合というかなんというか」

 

 はっはっは。アグレアスごと仕掛けに来たのは失敗だったな。アウロスだけ包み込んでいればよかったものの。

 

「それならアグレアスの方は何とかなりそうですね。それで、アーチャーとライダーはどこに?」

 

「アーチャーは労をねぎらう意味も込めてアグレアスの方に遊ばせてましたが、まあ最悪の場合は令呪で呼び出すんで待機の方向ですね」

 

 俺は会長にそう答えながら、念話でアーチャーとつながる。

 

―と、言うわけで悪いけど遺跡の防衛頼む。言ってはなんだがのちのことも考えると遺跡の死守は優先事項だ。

 

―わかってるわ。アグレアスの安全確保は頑張ってあげる

 

 理解が速いサーヴァントがいてくれて実に助かる。その期待に応えるためにも、こっちはこっちで頑張らないとな。

 

「そういえば、アーサーのコールブランドは空間を断ち切ることができたはず。それを使えば何人かこっちに来れるのではないでしょうか」

 

『確かにそうだが、さすがに一度に送り込める人数には限りがあるな。それにアグレアスの方も避難させねばならないんじゃないかい?』

 

 木場がふと気づいたことを言ってくるが、ヴァーリの指摘もその通りだ。

 

 確かに避難させることを考えると、人口の多いアグレアスの方が優先順位は高いしな。

 

「いえ、アグレアスが本命ということで彼らが本命としていることが予想できた気がします。おそらくそれも含めてアウロスごと仕掛けてきたのでしょう」

 

 と、ソーナ会長が何やら不吉なことを告げた。

 

「ゲンドゥルさん。すいませんがそちらの魔法使いに内通者がいるかもしれません。魔法の再構築を提案した人物を中心に、裏切り者がいないか調べてください」

 

『・・・なるほど、私たちの術式を使用してアグレアスを転移させるというのが目的の可能性もありますね』

 

 その可能性があったか! あの野郎えげつない手段を考えるな!

 

「そうと決まればイッセーレッツゴーだ。女魔法使い相手に乳語翻訳で胸の内を聞き出しまくれ」

 

「・・・おお、久しぶりに乳語翻訳使いたい放題だな! よっしゃ! 今すぐ行ってくるぜ!!」

 

 じつに便利な能力だ。こういう時非常に役に立つなイッセー。

 

 だがまあ、コレで何とか対抗準備は整った。

 

「ではいきましょうか。対抗馬としてはクリフォトの好きにさせるわけにもいかないわけで」

 

 俺がそういうと、部長もしっかりとうなづいた。

 

「ええ、これがD×Dの初戦闘だもの。皆、最初で躓いたら笑い話にもならないわ、D×Dの力をクリフォトに見せつけてあげなさい!!」

 

 さて、それじゃあ本格的に戦闘を開始するとしようかねぇ。

 




コネ使って人材資材を用意する政治的手腕こそ兵夜の本領。後方支援がしっかりできている組織は強いのです。


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防衛戦、続いてます!

 

 戦闘に関しては、正直に言ってなかなか手こずっている。

 

 幸い数に関してはバロール化したギャスパーの闇の獣である程度対抗できるが、人数において苦戦していることは否めない。

 

 っていうかあいつらどこからこれだけ調達しやがった。

 

 まあ、その気になれば材料を集める方法なんていくらでもあるし、学園都市では数十万でクローンが作れたりホムンクルス技術に長けるフィフスがいるわけだから苦労はしないのだろうが、グチの一つも言いたくなるってもんだ。

 

「数に劣るはずのテロリスト側が物量戦術とか笑えないなホント!」

 

「だよねー!」

 

 俺が龍殺し弾丸を使用したイーヴィルバレトで牽制し、そこで動きが止まったところを久遠が寄って切るというパターンで、邪龍軍団を一匹ずつ確実に仕留めていく戦法で仕掛けているところだ。

 

 幸い、こっちにも数は結構そろってたので対処の余地はいくつもある。

 

 ガトリングガンタイプとかの設置を行い、後半戦に突入したら志願してきた父兄の方々に砲主となって足止めを行ってもらう予定だ。

 

 設営作業をゴーレムに任せながら、俺は久しぶりにアクロバティックな戦闘を繰り広げる。

 

 家や大型の器具などを足場にして飛び跳ね、三次元ジグザグ移動を駆使することで、邪龍共の反応を遅らせる。加えて偽聖剣をワイヤー化させることでさらにアクロバティックな動きで翻弄ちゅうだ。

 

 足止めはする。数も減らしていく。両方しなきゃいけないのがつらいところだ。

 

「覚悟はいいか?」

 

「私は完了してるよー」

 

 ノリのいい愛人で何よりだ!

 

 とはいえ、面倒ではあるが弾がある限りこいつらは何とかできるだろう。

 

 時折フィフス製の強化型が混じってくるが、それでも相応の量をたたきつければそれで終了だ。我ながら高性能の武器を開発することに成功したといわざるを得ない。

 

 この調子なら、邪龍軍団に対する武装として実に有効だろう。金はかかるがこれは経費で落ちそうだ!

 

「トリガーハッピー! 撃って撃って撃ちまくるぜ!!」

 

「のりのりだねー兵夜くんー。私も切って切って切りまくるよー!」

 

 とりあえず、今俺たちがいる部分はそう苦戦はしなかった。

 

 思った以上に簡単に片づけれて、あっという間に一休みできる状況下だ。

 

「どうする? ほかの連中の方に合流するか?」

 

「ちょっと休んでからでいいよー。結構派手に動いたし、少し冷ましてからじゃないと失敗するかもねー」

 

 実戦経験豊富な久遠の意見に従い、俺は缶ジュースを二つ出すと小休止に移行する。

 

 しかしまあ、結構な数が出てきやがったな。

 

 クリフォトの主力は邪龍軍団。そこにフィフスたちがいろいろ要所で攻撃を叩き込むっていうのが狙い何だろう。

 

「そういえばイッセーは内通者を確保できただろうか? あいつがそれに成功すれば奴らの目的の大半は無効化できるんだが」

 

「アーチャーさんの宝具は使えないのー? あれで結界を消せたら簡単な気がするけど―」

 

 久遠の意見はもっともなんだが、しかしそれにはある問題がある。

 

「あの紫炎が厄介だ。まずあそこから突破するという観点が必要だし、何より遺跡の防衛として要は残しておく必要がある」

 

 遺跡が奪われたら悪魔はかなりアウトだ。優先的に防衛する必要があるからな。

 

「となると、やっぱりイッセーくんの力で内通者を聞くのが一番だねー」

 

「それさえできれば、後はアーチャーが何とかしてくれるだろう。幸い向こうにはヴァーリもいるんだからな」

 

 と、俺たちは小休止を終えてすぐに戦闘態勢を取り直す。

 

 まだまだ先は長いんだ。こんなところでへばってる余裕はないってね!

 

 と、次の瞬間町のそれぞれ別の方向から爆発が響いた。

 

『全員警戒してください! 邪龍とアサシンがそれぞれ別方向から攻撃を仕掛けてきました。死神の姿も確認されています!!』

 

 おいおい大盤振る舞いだな。向こうも遠慮するつもりはないってか?

 

「どうする兵夜くん―。ここは別行動っていうのもありかと思うけど・・・」

 

「いや、邪龍の方は位置からしてイッセーが近い。俺たちはアサシンが来たとされる方向に急ぐぞ」

 

 問題は、あの地点には木場がいるということなんだよなぁ。

 

 あのバカ、無理してなきゃいいんだが!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佑斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 くっ! この戦闘は非常に危険だ。

 

「椿姫副会長! 下がってください」

 

「木場君こそ下がってください! もうグラムを使ってしまったのでしょう!?」

 

 今目の前にいるのはアサシンの1人と女死神。

 

 双方共に英霊の力を宿しているのだが、これが非常に驚異的だ。

 

 死神の方はおそらくアーチャークラス。獣のような雰囲気を纏わせながら、僕でも負いきれないほどの速さで欠けながら正確に矢を放ってくる。

 

 おそらく一人で来ても苦戦しただろう。間合いに寄せ付けない弾幕と逃げれるだけの機動力を併せ持っている以上、相性は比較的悪いといわざるを得ない。

 

 だが、それ以上に驚異なのは目の前のアサシンだ。

 

「やはり、この英霊の力を宿すのが最もあなた相手に効率がいいようだ」

 

 寄りにもよって、あのセイバーの力を宿すだなんて!

 

 いま、目の前のアサシンはグラムを持って僕と切り結びながら、余裕がれば副会長にも攻撃を行っている。

 

 剣の性能を引き出しきっているとはいえ、余裕を見せれるのはさすがにきつい!

 

「こうなれば、グラムの出力を限界まで上げて出力で押し切るしか・・・っ!」

 

 技量で勝てないならオリジナルであるが故の利点で超えるしかない。すでに薬は使ってしまったので寿命を削るだろうが、そんなことを気にしている場合ではない!

 

 いったん仕切り直して距離を取り、僕は魔剣の力を高めていく。

 

「木場くん駄目! 無茶をしては―っ!」

 

 副会長が止めようとしてきたけど、死神の方が弓を放ったため阻害される。

 

 確かに寿命は削るだろうけど、だけどここでやられるわけにはいかないんだ・・・!

 

「そこまでです、木場佑斗」

 

 後ろから、声が聞こえた。

 

「できればあなたとは全力での戦いをしたいと思っています。最強の魔剣と最強の聖剣による心躍る戦いを果たすためにも、ここであなたに後遺症が残ってしまっては残念です」

 

 振り返った僕たちの視界には、切り裂かれた空間と、そこから現れるアーサーの姿があった。

 

「彼は私が相手をします。あなたはそちらの方と一緒に、死神の方を相手にしていってください」

 

 言うが早いか、アーサーはコールブランドを構えてアサシンと切り結ぶ。

 

 アサシンも剣をコールブランドに変えて切り結ぶと、そのまま切り合いを勃発した。

 

 僕から見ても高次元だということがよくわかる戦いだ。やはり彼はまだ僕より上にいる剣士だということか・・・!

 

「よそ見をしている余裕があるか」

 

 後ろから死神が矢を放つ。

 

 くっ! 一人に意識を集中できるのは助かるけれど、それでもこの早さはかなりやりづらい。

 

 今まで自分の速さで翻弄することの方が多かったから、逆に早さで翻弄されるというのになれていないのが現状だ。

 

 僕たちは背中をかばい合いながら死神の攻撃を避け続けるが、しかしそれでも少しずつ傷をおっていく。

 

 時々副会長が鏡を展開して楯にするが、一撃の威力をそこまで重視するタイプの武装でないこともあって、反射された衝撃が相手に当たることはない。

 

 そして、アーサーの方も苦戦を強いられていた。

 

 コールブランドに使いなれているアーサーは、真正面から後ろを刺しに行くなど、テクニックタイプにふさわしい鋭い動きでアサシンと切り結ぶ。

 

 だが、アサシンはそれらすべてをかわしながら、正面からの斬り合いでアーサーを押していた。

 

「剣のシステムは引き出せていてもパワーは引き出しきれてない様子。これでは他愛ないな」

 

「伸ばすべきところが見えるのは好都合ですが、さすがにこの戦いでは屈辱ですね!」

 

 あのセイバーの力の前には、アーサーですら苦戦を強いられるのか!

 

 マズイ、アーサーは避難の要ともいえる人材だ。もしやられることがあれば、僕たちの戦術は大きく崩れ去ることになる!

 

「その程度ならば、ここで死んでいくがいい!」

 

「では限界を超えてみましょうか。ええ、それぐらいできないで聖王剣の主になどなれるはずがない!!」

 

 アーサーとアサシンが大技をぶつける直前―

 

「ちょっと待ったー!」

 

 絶妙な間で、桜花さんが野太刀を片手に割って入った!

 

「桜花! 来てくれましたか!!」

 

「お待たせしました副会長ー。騎兵隊の到着ですよ、ほらー」

 

 そういって指をさす方向を見ると、そこには宮白くんが近づいてきていた。

 

 だが、なぜか馬みたいなものに乗っているんだけどあれは何?

 

「フハハハハ! ゴーレム機能と封印系神器の技術を駆使して作り上げた機動力強化型武装。サラブリオンだ! まさに騎兵隊さ!」

 

 そういいながらイーヴィルバレトで死神をけん制すると、そのまま宮白くんは走り続ける。

 

「さあこいよ! どうせお前の狙いは俺なんだろう?」

 

「当然だ下郎! ハーデス様の屈辱、倍にして返してくれるわ!!」

 

 そういいながらあっという間に遠くに行って見えなくなっていく二人。

 

 お、追いかけたほうがいいんじゃないだろうか?

 

 桜花さんの反応が気になるが、しかし彼女はかなり平然としていた。

 

「ほらほら、アーサーさんはさっさと学校行ってください。副会長と木場くんも休んでてー。こっちは―」

 

 視線は細く、動きは最小限。

 

 ほんのわずかな時間で、彼女は完璧なまでの戦闘態勢を整えていた。

 

「私が頑張って、切り裂きますんでー」

 




最近になってふと気が付いたけどフィフスは本当に物量で押してるよなぁ。規模で劣るはずのテロリストなのに。


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弘法筆を選ばず、桜花剣を選ばず!!

 

 サラブリオンは速いなぁ。

 

 などと感想を抱きながら、俺は敵の死神と打ち合いを続けている。

 

 幸いこのサラブリオンは封印系神器の技術を流用している。

 これにより足を失い再起不能になった冥界の優れた使い魔たちを宿すことによる一種の義肢といったところだ。おかげでテスターは易くついた。

 

 で、そのテスターの経験で攻撃を勝手に回避してくれるので、俺は鎧越しなのもあって攻撃と防御に集中できる。

 

「ったく俺を恨むのならともかく冥界政府にまで喧嘩売るのやめてくれない? 果たし状を送ってくれるならスケジュール調整ぐらいはしてやるってほかの連中にも伝えてくれ!」

 

「ほざけ! 薄汚い蝙蝠風情がよくもまあ騒ぐ!!」

 

 激昂した死神が三連射してくるが、俺が反応するより先にステップで回避してくれるので実に便利だ。

 

「第一貴様のことはあくまで最後のきっかけにすぎん! いずれ三大勢力は亡ぼしてやりたいと心から思っていたわ!!」

 

 お~お~本音が出てるねぇ。

 

 まあ、神話体系のお偉いさんの中にもそういう本音の連中はゴロゴロいそうだけど。

 

「まあ布教しまくっていろいろやっちゃってるからねぇ。そりゃそちらさんからしてみれば殺意のバーゲンセールぐらい出てるだろうけど、賠償としての技術提供とかはアザゼルあたりがやってんじゃねえの、人造神器」

 

「あんなものはどうでもいい。我らより簒奪した土地をすべて明け渡し、そして二度と踏み入れないことしか我らは望まん」

 

「ハイ終了。交渉の余地なしと判断しました」

 

 俺はもうバッサリと切って二丁持ちでぶっ放す。

 

 因みに馬さんは実戦経験豊富なおかたを回してもらったし、俺は乗馬経験はさすがに少ないので全部任せることにしている。

 

「悪いんだけど、すでに生活基盤がしっかりできちゃっている以上、そんなこと言われてもこっちが対処できないんだよ。ショバ代払えとか数百年単位でもスケジュールで順次減らすとか、代わりに冥界の土地を割譲とかの代案を立てる気がないなら、オタクとの交渉はなかったことにしとくべきだと上に進言しておこう」

 

 いや、実際のところどうしようもないからねそんなこと。

 

 なにせほっとんどそういうのは数百年も昔の話だったりするわけだ。すでにその場所で生まれてきちまってるやつもいるし、人間に至っては完璧に入れ替わっている。

 

 今更ここはギリシャ神話の土地だったからキリスト教徒はどっかいってね♪ などといわれて納得する奴がいるわけないだろう。発生する被害を度外視ている非現実的意見だ。今すぐやろうものなら宗教戦争勃発で数十万ぐらい死人が出るぞ。

 

「なあ、和平っていうのはこれ以上殴り合い続けてもお互い損だから妥協して矛を収めようっていう行動だ。こっちが損するだけの一方的な要求なんてもんは降伏勧告っていうんだよ」

 

 戦争しないというのは最終的な到達地点。そこから先の利益と損害の妥協点模索が和平の重要なポジションだ。

 

 そのあたりをするつもりが最初からないのなら、もお最初から敵と割り切った方が一番だ。

 

「追加でいえば三大勢力の和平派その後の交流もセットだ。つまり鎖国狙いな時点でこっちが何か言いたいかすらわかっていない。・・・まあかかわりたくないという感情があるのは否定しないし、そういう結論を出してかかわる気がないならこっちが突っかかるのもどうかとは思うけどさぁ」

 

 つまりはまあ、こいつらは最初からテーブルに乗っかるつもりもないということだ。

 

 まあ、はたから見たら傲慢かもしれないが、こっちにもこっちの生活が懸かっている上での和平なんだ、代わりの物を用意するぐらいのことはするだろうし、そのあたりのことを考慮してもらいたいものだと本気で思う。

 

 つーか交流できるんだからお前らが悪魔祓いや下級悪魔に神話のすばらしさを伝えてスカウトするっていう方法もあるんじゃねえのだろうか?

 

「ほざくな劣等! 偉大なる我らオリュンポスと対等の立場に立とうなどということこそ、傲慢の極みとしるがいい」

 

「問題児神様の宝庫で有名なギリシャ神話体系にそんなこと言われてもねえ。聖書の教えも厳しいけど、気まぐれでひどいことはしてないと思うよ?」

 

 俺は打ち合いをつづけながら、久遠のいる方向をちらりと見る。

 

 あいつ、大丈夫だよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佑斗Side

 

 桜花さんはアサシンと一対一で向かい合う。

 

 その手には龍喰らいが握られいてるが、しかしそれは相手も同じ。

 

「笑止。いまだ手にしたことのない剣ならば隙を付けるとでも思ったか!!」

 

 そう言い放ち、アサシンは切りかかる。

 

 桜花さんはそれをさばいて反撃するが、こちらもあっさりとさばかれた。

 

「やはりだめだ。グラムやコールブランドすらあそこまで再現で来た力、禁手とはいえそこそこレベルでしかない神器のコピーなんて簡単にできる!」

 

 そして相手はその性能をほぼ完ぺきに引き出すことができる上に、サーヴァントということで身体能力はこちらより上だろう。

 

 ここは加勢するしかない! こうなればやはりグラムを使ってでも・・・

 

「数で責めるのは本意ではありませんが、彼女ほどの使い手を失うわけにもいきませんしね・・・!」

 

 してやられたことに対する怒りも込めながら、僕たちは援護のために立ち上がろうとし―

 

「待ってください。様子が変です!」

 

 副会長の言葉に、僕は一度真剣に見直す。

 

 高速で振るわれる野太刀同士の切合いは、サーヴァントの力があるだけあって桜花さんの方が不利のはず。

 

「確かにおかしい。少しずつですが、桜花久遠の方に傾いている・・・?」

 

 そうだ。少しずつ、少しずつだけど、桜花さんが動きに対応し始めている。

 

 まさか、彼女はすでに龍喰らいの性能を引き出しきっているというのか? それなら勝てるという理由にも納得いくが、目覚めてまだ一年もたっていないその力を完全に引き出しているだなんてありえるのか。

 

 そして、少しずつだが戦闘は桜花さんが押し始めている。

 

 なんだ、一体何が起こってるんだ!?

 

「ぬ、ぬぉおおおおお!? 馬鹿な、剣の性能は確かに私が引き出しているはず・・・!」

 

「あのさあ、何か皆勘違いしてない―?」

 

 かすり傷をいくつも作りながら、しかし桜花さんは真剣かつ平然とその場で戦っていた。

 

 そこには何かしらの呆れのようなものが浮かんでおり、そしてそれはどこか自分に向けられているかのようでもあった。

 

「剣士は剣の力で切る生き物じゃなくて、剣を使って切る生き物だよー? 剣の性能ばっかに頼って、本人の切る能力を高める努力を忘れてちゃダメダメだよー!」

 

 そして、いきおいよく反撃が始まった。

 

 まるで動きにくい服を脱いだかのような軽く鋭い動きで、アサシンを一気に翻弄する。

 

「ぬぉおおおおおおおおお!? なんだ、なんだこの動きは!」

 

「対したことはしてないよー。今までブロッサ・タイムの動きで戦ってたのを、桜花久遠の動きを作って少しずつならしてただけー」

 

 え、えっと、どういうことだ?

 

「ま、まさか・・・っ!」

 

 副会長が何かに気づいたかのように目を見開き、心底馬鹿らしいといった感じの表情になった。

 

「どうしたのですか? 先程の言葉遊びみたいなものに一体何が?」

 

 アーサーも茫然としながら、しかし不思議に思ったのか質問する。

 

「桜花の特訓は基本的に勘を取り戻すという行動が主軸でしたが、その勘の元である前世、ブロッサ・タイムと桜花の体つきは全く異なっていました」

 

 そういえばそういった話を聞いたことがあるような。

 

「桜花あなた、まさか今までその体でブロッサ・タイムの動きを無理やり行おうとしていたのですか? 身長差が20cmはある体の動きを再現しようと!?」

 

 え?

 

 いや、ちょっと待ってくれ。

 

 身長さ20cmってもうあれだよね。体の動かし方とか、全然違うよね? っていうか確か前世は180ぐらいあったからもっとあるよね!?

 

 そんな動きをあの小柄な体格で再現しようとしたら、そりゃ無理があるというかできるわけがないよね。

 

 いやそんな、自分の動きをまず教えてから、すぐに生徒たちに合わせた動きを思いついて教えるという主腕を見せた彼女に限ってそんなこと・・・。

 

「・・・昨日教えててようやく気付きましたよー。まずはブロッサ・タイムの動きから桜花久遠の動きに再構築するのが大事だってー」

 

 ええええええええええ!?

 

 い、今までそんな無茶な方法で戦ってたのか! それでグレモリー眷属をああも追い込んだなんて嘘だろう!?

 

「き、昨日? まさか一日で体の動かし方を構築しなおし、実戦で使えるレベルにまで肉体に覚えさせたというのですか?」

 

 あまりの事態にアーサーも狼狽している。ああ、気持ちはよくわかる。

 

 つまり彼女がやっているのはこういうことだ。

 

 剣の性能を引き出すという勝負は捨て、剣を扱う自身の技量だけでサーヴァントと渡り合っている。

 

「・・・く! これ以上付き合っても勝ち目は無いか!!」

 

 アサシンは状況が不利になったとみるかあわてて後ろに飛び退る。

 

 そのまま後退しようとするが、突如壁にぶつかったかのように動きが止まる。

 

 いや。あれは―

 

「アーティファクト応用編。こっちの魔法技術も利用して壁を作っといたよー」

 

 あの戦闘の最中に仕込みまで済ませていたのか!

 

 歴戦の傭兵というのは伊達ではなかった。なんだかんだで彼女の立派な策士だ!

 

「れ、霊体化―」

 

「させないよ」

 

 アサシンの体が足元から消えていくが、しかし桜花さんの動きの方が速かった。

 

「斬魔剣!」

 

「がぁっ!」

 

 ましょうめんから袈裟懸けに切られ、アサシンから鮮血がほとばしる。

 

 その傷跡を見ながら、アサシンは自嘲的な笑みを浮かべた。

 

「強大な力におぼれ、暗殺を忘れたがゆえに結末か。自業自得とは、よくいった・・・もの―」

 

 そういい残し、アサシンが消滅する。

 

 た、倒したのか。サーヴァントの一体を。

 

 それをなしたのは桜花さんだが、その偉業はおそらく広く知れ渡るだろう。

 

 模倣能力の劣化再現とはいえ、相手の剣をコピーしてその性能を100パーセント引き出せる剣士相手に、剣士がそれを上回って勝った。

 

 目の前のそれを成し遂げた彼女の姿に、僕は強い衝撃を受けてしまった。

 

「・・・じゃ、死神は兵夜くんに任せて学校の方に行きましょうかー。アーサーさんには子供たちを逃がしてもらわないといけないしねー」

 

 やはり彼女は、すごい人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




弘法筆を選ばず・・・いみ、優れた人物はどんな道具でもいい結果を出す。

つまり剣の性能を引き出す勝負ではなく人を切り倒す技量の勝負に持ち込みました。


んでもって久遠のパワーアップは極めて単純。今まで久遠はソフトが同じだからって全く違うハードを同じ使い方で動かそうとしていたわけです。

それを、人に合わせて自分の動かし方と違う動かし方を教えることでようやく気付いて、一日でアジャストしなおした結果ロスが大幅に減ったというわけです。

まあ、それでも本来英霊クラスを相手にするのは苦戦必須なわけですが、ベースがアサシンであるがゆえに性能がセイバー本来よりも劣化していたことと、セイバーそのものが特殊であったことが原因で終始優勢。さすがにオリジナルが相手の場合はもっと苦戦してます。

頂点に到達していない剣士に対する天敵であるセイバーに対する究極のアンチテーゼです。転生者味方組の中でも安定した実力者である久遠だからこそできる回答でした。


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防衛戦、佳境です!

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 アグレアスの大地は雪に埋もれていた。

 

 その豪雪はまるで来るものすべてを拒む拒絶の意思を感じさせ、事実来報者たちに悪意を持って凍結という名の排斥を示す。

 

 冬将軍。侵略者を襲う極寒の象徴がライダーとして召喚された結果、彼は侵略者に対して特攻効果を発揮するこの力を発揮する。

 

 そして、その空間内では外敵は凍え震えることを余儀なくされる。

 

 だが、その中でも脅威というものは確かに存在するものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拳と剣がぶつかり合い、その余波で雪が吹き飛び周囲を白く染め上げる。

 

 サイラオーグバアルの拳は、すでに冥界でも有数のそれとなっている。

 

 直撃をもらって耐えられるものなど、上級悪魔でも少ないだろう。

 

 しかし、それと真っ向から渡り合えるものがまだいるのも事実。

 

 旧魔王アスモデウスの末裔、ザムジオ・アスモデウスもその一人だった。

 

「なるほど。魔王を目指すと豪語するだけあって重い拳だ。才能も修練も執念も込められていては、脅威としかいうほかあるまい」

 

 罅だらけになったルレアベをしげしげと眺め、ザムジオは目の前の脅威を確かに認めた。

 

「言ってくれる。獅子の鎧をもってしても砕けぬその剣。そしてそれを使いこなすその技量、魔王の名にふさわしい」

 

 サイラオーグは拳を構えながら警戒する。

 

 武器はこれで使用不可能にしたが、それで終わるなどとはとても思えない。

 

 ザムジオの力はまさしく魔王の血を引いていると思わせるだけのものがあった。

 

 そして鍛錬の重なった堅実な強さでもあった。血の宿命にこだわり努力を軽視する旧来の悪魔ではこの手の強さには至るまい。

 

 お互いがお互いの実力を認め、しかしそれゆえに相いれない。

 

「・・・解せんな。なぜおまえはリゼヴィムに協力する」

 

「今の組織の長はリゼヴィムだ。ならばそれに仕えるのは当然だろう」

 

 サイラオーグの問いに、ザムジオは間髪入れずに答える。

 

 クリフォトの前身は禍の団であり、ザムジオ・アスモデウスは禍の団の一員。

 

 ならば現状の組織の長に仕えるのは当然のことだと、彼はそう言い切った。

 

「元よりグレートレッドの撃破は禍の団の根幹の目的だ。少なくともそれを遂行するという時点において、我々は一切ぶれていないだろう?」

 

「なるほど。お前もグランソードと同じタイプということか」

 

 サイラオーグはザムジオの危険度を高めに修正する。

 

 彼は確かにこれまでの旧魔王派とは一線を画す人物だが、しかしそれゆえにそれ以上に危険だ。

 

 真面目すぎるがゆえにグレートレッド撃破が絶対条件になってしまっている。自身の目的達成とそれは同じ道の先に決めてしまったのだ。

 

 ならば、今の冥界を守るものとして彼は倒さねばならない。

 

「その武器でどこまでできるがわからんが、このアグレアスを奪おうとするのならば、まず俺を倒していくがいい」

 

 サイラオーグは今ここが彼を倒す好機だと認識した。

 

 主武装が大きく破損している現状ならば、勝機は十分にある。

 

 これ以上アグレアスを危機に巻き込むわけにもいかない。できればここで倒しておくべきだと判断する。

 

「・・・貴様は冥界の敵だということがよくわかった。ここでその武器と同じように砕け散るがいい」

 

「私はともかくこのルレアベを舐めてもらっては困る。四つの奇跡のうちの一つをお見せしよう!」

 

 ザムジオはそう言い放つと、剣を天へと掲げる。

 

 その瞬間ルレアベは輝き光へと変わる。

 

 光と変わった刀身はそのヒビを埋めていき、そして再び刀身へと戻った時には、傷一つない美しい姿を見せつける。

 

「修復だと?」

 

「そう、これがルレアベの奇跡の一つ。刀身の自動修復だ」

 

 直った剣の調子を確かめるようにザムジオはルレアベを振るい、そしてその切っ先を突きつける。

 

「さあ来るがいい。貴様は魔王を目指しているのであろう。誇り高き四大魔王の字名を借用しようなどという愚か者には、相応の叱責というものが必要だからな」

 

 静かに、静かにザムジオは一歩を踏む。

 

「では、第二ラウンドを始めようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 くそ、死神を見失った!

 

 状況不利と見ていったん仕切り直しやがったか。乱戦状態だとあの機動力は厄介だし、できれば今のうちに倒しておきたかったんだが!

 

 仕方がないのでいったんアウロス学園まで戻ってみれば、こっちはこっちでみんな集合して大詰めになっていた。

 

「おいイッセー! 状況は一体どうなった!」

 

「見りゃわかんだろ! やっぱし魔法使いの中に裏切り者がいやがった。プランBに決定!」

 

 つまりアーサーに運び屋をやってもらう方向で確定と。

 

 因みに避難場所はアグレアスの深部。あそこもターゲットにはなっているが重要防衛地点があるので、下手に分散させるよりかは安全だということになった。

 

「アーサーの方が戦闘したくて我慢できなくなりそうな懸念があるんだが、大丈夫かね」

 

「なんか落ち込んでたぞ?」

 

 何があった。俺がいない間に一体何があった。

 

 とはいえ、そうなったのならばこっちも本腰を入れて戦闘を行うべきだろう。

 

 足止めのためにゴーレムを大量展開。全部に特注弾丸を装備させて攻撃を行わせる。

 

 俺の方は攻撃を当てるのではなく逃げ道をふさぐ方向でぶっ放し、的確にクリティカルな攻撃を叩き込む方向でいった。

 

「イッセー! 量産型ならそこまで耐性できてないだろうし、アスカロンでぶった切れ!」

 

「おうよ!」

 

「じゃあ私も本領発揮できるかなーっと!」

 

 対龍武装を持っているイッセーと久遠が堅実に一対ずつ確実につぶしていく。

 

 木場もグラムを使いたがるかと思ったが、こちらもなぜか動きに精細さがかけている。

 

 久遠は一体何をしたんだろうか?

 

 とはいえアグレアスの方は戦力が充実しているから大丈夫だと思うが、奴らもこのまま終わらせるとは思えない。

 

 何とかしてここで奴らを倒さなければ・・・。

 

 などと思っていた時に、ゴーレムが集まっていたところが何やらどっかんぼっかんぶっ飛び始めた。

 

「おほほほほほ! 燃え燃えできないので直接燃やしに来ましたわん!」

 

『よう赤龍帝! ここをぶっ壊そうとすればお前らが本気出してくれるって聞いたぜ?』

 

『なかなか面白そうな方々が多いですな。私の結界がどれだけ通用するか楽しみです』

 

 オイオイオイオイ! ここにきて幹部格の登場かよ!!

 

 確か、人型ドラゴンがグレンデルで、微妙に似合ってないゴスロリがヴァルプルガで、あの木製ドラゴンはラードゥンとかいう奴か。

 

 チッ! まだ避難も終わってないってのにまとめて登場とか面倒だな、オイ。

 

 だがそれは仕方がない。

 

 こうなれば確実に叩き潰す!

 

「行くわよ皆! ここが正念場と心得なさい!!」

 

 部長が激を飛ばし、真っ先にかなり収束された消滅の魔力を叩き込む。

 

 ああ、ここで負けるようではグレモリー眷属の名が廃るぜ!!

 

『面白い! グレモリーの娘の消滅の魔力とは、防ぎがいがあるというものです!』

 

 目の前に障壁が展開され、部長の魔力を真正面から受け止める。

 

 さすがは邪龍といったところだが、俺たちは複数いることを忘れてないか、ああ!

 

「はいはいいただくよー!」

 

 瞬動で加速を付けた久遠が素早くラードゥンの懐に潜り込んで切りつける。

 

 ラードゥンはそれを結界を張って防ぐが、直後に久遠は瞬動の連発で全く別の場所に移動して再び切り付ける。

 

 それもラードゥンは防いで見せたが、しかしそこに隙が生じるのもわかりやすい。

 

 俺はそこに躊躇なく対龍弾丸をまとめてたたきつけた。

 

『むぅ。グレンデルほどではありませんが、体の頑丈さには自信があったのですがね』

 

 軽傷ではあるが確かにダメージは入った。この調子ならなんとか行けるか?

 

 と、思ったその時視界の隅に棒が伸びたかと思うと、そのまま掬い上げるように俺が動かされる。

 

 そしてその直前までいた場所に紫色の炎が駆け抜けた。

 

「あらあら、隙をついて燃え燃えしちゃおうかとおもいましたのにん。さすがに簡単にはいきませんわねぇ」

 

 あっぶねえ! さすがに集中力が切れてきたか!?

 

「悪い助かった!」

 

「あまり油断しないでくれ。君に何かあったら桜花が悲しむ」

 

 例の如意棒擬きをうまく使ってファインプレーをしてくれた由良に礼を言ってから、俺は気を引き締めなおした。

 

『全く、眷属になって日が浅いのにこうも出来事が盛りだくさんだとは思いもしませんでしたぜ』

 

「私がリアス部長の眷属になってからもこんな感じだ。あきらめたほうがいいぞ」

 

 邪龍軍団を相手に、ベンニーアやゼノヴィアが全力で戦っている。

 

 こりゃ俺も気を引き締めたほうがいいが、しかしこれは非常に面倒だ。

 

 蒼穹剣を使えば1人は確実に押させられるが、しかし誰を相手にすればいいのかという難点がある。

 

 蒼穹剣は連射が効くような代物ではない。そもそも化け物じみたグレモリー眷属をどうにかできる化け物が少数派なうえに、それが多数同時に襲い掛かってくる状況かなど想定しても対処できるわけがないからあえて度外視していた。つまり設計思想的にそんな化け物を何体も相手にすることを想定していない。

 

 ゆえにこの状況はある意味最悪だ。蒼穹剣の使用を考えるレベルの敵を複数投入するというのは実に面倒な展開だ。

 

 だが想定してしかるべきだ。蒼穹剣に限らず、強敵に対して戦力の集中投入は基本といえば基本。そうなる可能性は考慮に入れるべきだった。

 

 どうする? 策はあるがだからといってどうにかできるかどうかがわかりずらい。

 

 この状況下に俺は腹立たしくなる。

 

「・・・兵夜。蒼穹剣をグレンデルに使いなさい!」

 

 その時、部長が声を上げた。

 

「部長! しかし一度使えば再使用は・・・!」

 

「気持ちはわかるけど今ここで倒されたらそれこそ負けよ! 出し惜しみをしている状況ではないわ」

 

 部長に切って捨てられるが、確かに正論だ。

 

 敵が勝負をかけに来てる感じである以上、これ以上出し惜しみをしている暇はない。出せるものを出せずに負けるとかあほでしかないのは確かに事実だ。

 

 だが見極めが足りないこの状況下でやっていいのか?

 

「安心しなさい。もう片方は私が倒すわ。少しは主に期待しなさい」

 

 そういうと、部長は魔力を収束し始める。

 

 ああ、そういえば必殺技を作ってましたねあなた。

 

「皆! 少しだけ時間を稼いで。そうしたら面倒なのはこちらで片づけてあげるわ!!」

 

「まあそういうわけなんでよろしく頼む! とりあえず1人は確実に叩き潰す!!」

 

 




ザムジオとの戦闘に追記、この話ではサイラオーグは参戦不可能です。

いや、主人公がいないところでも幹部が暴れることだってあるんだよって感じを出してみたかったんです。


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黒龍、覚醒します!

 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 とは言われたけどこれはやっぱりキツイ!!

 

 グレンデルもラードゥンも強敵な上に、そこにヴァルプルガがいて邪龍もたくさんだ。

 

 そいつらの相手もしなければならないから仲間達だってそう簡単には動けない。

 

 そしてリアスも動けない。

 

 今からリアスが使う技は、チャージ時間が非常に長い。宮白の蒼穹剣も時間がかかるけど、解析そのものは自動で行ってくれるが、これは武装の機能だからだ。技であるリアスのはそうもいかない。

 

 つまり、今からリアス抜きで戦闘をするってことなんだよな。

 

 先読みでだいぶ助かってたけど、持つか、コレ?

 

『噂の蒼穹剣ってのも喰らってみたいけどよ、やっぱりまずはお前の方が先だよなぁ、ドライグ!!』

 

 グレンデルがその巨体に見合わぬスピードでこっちに向かって殴りかかってくる。

 

 くそ、できればみんなで協力して戦いたいけど、量産型の邪龍もいるからそんな暇はない!

 

「宮白! グレンデルは俺たちで相手するぞ!!」

 

「わかってるけど酷使すんな! 俺はとどめも担当するんだぞ!」

 

 グレンデルを相手にしながら、俺と宮白はなんとか時間を稼ごうとする。

 

 しかしグレンデルもやっぱり強い。俺たちでも反応しきれないほどの動きでこっちを翻弄してきやがる。

 

「おいイッセー。攻撃防御はこっちでやるから、お前は機動力重視でヒット&アウェイに徹しろ」

 

「え!? でもアイツ攻撃力も高いけどいいのかよ?」

 

「はっはっは。俺の新兵器、龍滅し滅ぼす蛇の鱗(ドラグイート・スケイルシールド)は基本楯だ。全部受けるから気にすんな!」

 

『面白ぇ! だったらその楯ぶちこわせりゃ俺の勝ちだなぁ!!』

 

 グレンデルの奴も乗り気になりやがった! しっかし宮白も自信満々だな。

 

「舐めるなチンピラ! こちとら史上最強の白龍皇の覇龍を想定してる楯なんだぞ? 龍王クラスの本気も受け止められないようで天龍を相手できるか!!」

 

 真正面から来たのをいいことに、宮白は勢いよくしっかりと受け止めた。

 

 おお、あれも止めるのかよやるじゃねえか!

 

 だったら俺も、本気で頑張らないとやってられないよな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕達は部長の攻撃までの時間を稼ぐべく、ラードゥンの足止めを行っていた。

 

 だが、こちらの攻撃はほぼ通じず、しかも一人一人球状の結界で包まれて無力化されていく。

 

『どうですか? グレモリー眷属は攻撃力特化と聞いていますが、私は私で防御力特化ですからいい勝負だと思いませんか?』

 

 ラードゥンはかなり余裕を持って行動している。攻撃そのものは邪龍に任せているが、非常に高い結界の固さと、グレンデルに次ぐ耐久力で攻撃がほとんど通らない。

 

 ここはやはりグラムを解放するしかないということか・・・!

 

 そう思いグラムを取り出そうとしたとき、後ろから肩に手が置かれた。

 

「はいはい木場君また余計なことを考えてるー。今はリアス先輩の必殺技の出番まちなんだから無茶しちゃだめだよー」

 

 桜花さんのその言葉でふと我に返る。

 

 そうだった。今回の奥の手は部長のあの技だ。今僕たちがやるべきことはあくまで時間稼ぎ。

 

 そういう意味では攻撃そのものはほとんどしてこないラードゥンは楽な部類ではある。

 

 とはいえ結界で動きを止めてくる上に、邪龍たちを差し向けてくるのは確かに厄介だ。

 

「どうやら戦闘は私たちでやった方がよさそうだねー。ほかのメンバーだと結界に取り込まれて動きが止められるしさー」

 

「そうだね。少し焦っていたようだ」

 

 邪龍たちの戦闘も行わなければならない以上、戦力をあまり割くわけにはいかない。

 

 ここは足止めに徹して時間を稼ぎきる!

 

 だが、その時ラードゥンが嗤った。

 

 なんだ? いったい何を狙っている?

 

『いいでしょう! ならばこれはどうでしょうか?』

 

 空間がゆがみ、中から巨大な影が出てこようとしている。

 

 馬鹿な、あれは・・・。

 

「豪獣鬼ー!? いや、回収されたのってそんなに多くないはずだよー!?」

 

「以前ルーマニアに出たのと同じタイプ!? 豪獣鬼は一体一体が別々の存在のはずだ!!」

 

 どういうことだ!?

 

『それについては私は聞いていないので何も言えません。ですが、戦闘能力は同等と考えてくださって結構ですよ?』

 

 く! このタイミングで豪獣鬼の存在は危険だ! 戦局が一気に傾く可能性すらある!!

 

 何よりこの巨体で暴れられたら学校が持たない! 少し暴れただけで全損する可能性だってある。

 

 引き離そうと牽制の攻撃を放つが、豪獣鬼は突撃することだけを命じられているのか意にも介さない。

 

 部長の技も間に合いそうにない。ここはやはりグラムを使うしか・・・!

 

「だから木場君ー! 何かあったらすぐグラムに頼ろうとするのは悪い癖だよー!!」

 

 桜花さんが後ろから制止の声をあげるが、しかしこの状況下ではほかに手段が思いつかない!

 

『それではこれで物量に押しつぶされるといいでしょう。さて、あの学園というものはどれぐらい丈夫なのでしょうか?』

 

 マズイ! このままだと数に押し切られる・・・!

 

 皆連戦で疲れていることもあって、このままだと持ちこたえられない!

 

 「させるかぁあああああ!!!」

 

 その時、業獣鬼の体中に黒い縄が絡みついた。

 

 匙君が、ラインで魔獣の動きを止めようとしている。

 

 だが駄目だ、いくらなんでも体格が違いすぎて意味をなさない。

 

「匙! 無茶はやめなさい!!」

 

 会長も顔を青くして止めようとするが、しかし匙君は止まらない。

 

「やめませんよ会長。もうこの学園は、会長だけの夢じゃない」

 

 信じられないことに、匙君は魔獣の動きを少しだけとはいえ遅くしている。

 

 それだけの想いの強さが、今の彼には宿っていた。

 

「この学園は会長だけじゃない。子供たちの夢でもあり、そして何より俺の夢だ!」

 

 体格差からくる力で血が流れながらも、匙君は決してあきらめない。

 

「その夢を、遊び半分で邪魔しようなんて奴らを、好きにさせるわけねえだろうが!!」

 

 全身から血を流しながら、彼はしかし止まらない。

 

 そして―

 

「何より」

 

 ほんの一瞬、ほんの一瞬。

 

「惚れた女の眼の前で、その女の大事なもの壊させてたまるかこの野郎がぁああああ!!!」

 

 ・・・魔獣の動きが、止まった。

 

『驚きました。さすがは我らと同格の存在を宿すもの。たかが下級悪魔と侮っては行けなかった。』

 

 その光景を見て、ラードゥンが唸る。

 

 ああ、そうだろう。

 

 竜王の1人、匙元士郎。あのレーティングゲームで、まだ竜王の一部分しか持っていなかった彼は、禁手に至ることなく禁手に至った赤龍帝を共倒れにまで追い込んだ。

 

 そんな彼を、舐めてかかることなどあってはいけなかったんだ・・・。

 

『・・・ほう、少し見ない間に化けたじゃないか』

 

 そして、その彼の隣にヴリトラが姿を現した。

 

「ああ、いろいろ心配かけたな。でももう大丈夫だ」

 

『そうか、ならもう大丈夫だろう。そろそろ行こうか』

 

 何がとは言わない。ああ、これは本当に大丈夫だ。

 

「行くぜヴリトラ! 今日が本当の意味での竜王ヴリトラの復活の日だ」

 

『ああ、ちょうどいい生贄もいることだし、久しぶりに本当の意味で暴れるとしよう!!』

 

 次の瞬間、匙君から強大な力があふれ出す。

 

 ああ、この感覚はよくわかる。なにせ自分でも経験があるからね。

 

 だけど竜王を宿して発動するとここまでの力を発揮するのか。つくづく彼も天運に恵まれた悪魔だと思うよ。

 

『「禁手化(バランス・ブレイク)!!」』

 

 そこにいたのは、黒い炎を見にまとう全身を鎧で包み込んだ匙君の姿。

 

 彼はついに、禁手に到達したのだ。

 

 次の瞬間、魔獣は急激に体をふらつかせる。

 

 禁手に至ったことで力のコントロールが増大したのだろう。一気に力を吸い取られて急激に弱ったのだ。

 

『これは面白い! 私の結界で封印できるかどうか、ぜひ今すぐ試したいところで―』

 

「あら、そんな暇はあなたにはないわよ?」

 

 そして、この覚醒は良い目くらましになってくれた。

 

 振り返れば、そこにはまがまがしい魔力が込められた球体が映っていた。

 

「仮にも魔王の妹として、それなりの力は欲しかったのよ。だからとりあえず作ってみたの、必殺技をね」

 

 部長が自慢げな笑顔を浮かべ、ラードゥンを見下ろしていた。

 

 そしてラードゥンも絶句している。ああ、そうだろう。

 

 あれは彼でも耐えられない。それだけの力がこもっている。

 

「ではD×Dの1人として成果の一つでもあげましょうか。ああ、言い忘れてたけどあなたが逃げようとしているのは見えているから―」

 

「すでに先手を打たせていただきました」

 

 ラードゥンが動くより早くその周りを魔法陣が囲む。

 

 これは完璧な転移封じだ。これでは逃げようがない。

 

「ありがとうロスヴァイセ。お披露目が失敗したら恥ずかしかったもの」

 

「いえ、リアスさんの眷属悪魔として当然のことをしただけです」

 

『な、な、な―』

 

 悪いねラードゥン。大切なことを言ってなかった。

 

 部長は装備も実力もどちらもかなり強化してるから、イッセー君が相手でも勝算が結構あるよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はちょっと短め。

最近ちょっとスランプ気味ですね。


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シリアス、ぶっ壊れます!!

前にも言いましたが、味方側の転生者はどっちかというとメンタル弱い組です。


 

 思った以上にいい展開になってきた。

 

 豪獣鬼が現れたときはどうしたものかと思ったが、匙が予想以上に男を見せてくれたようで何よりだ。

 

 しかしこちらはこちらで実に苦戦した。

 

 ああ、実に苦戦()()とも。

 

『ぐぁああ・・・っ。マジかよ、すげえなおい』

 

「宮白、さすがにやりすぎじゃね?」

 

 眼の前には輪切りにされたグレンデルとドンビキするイッセー。

 

 そう、こっちもグレンデルを何とか撃破することに成功した。

 

 ふっふっふ。龍殺し用の弾丸はさすがに幹部格には効きが弱いといったと思う。

 

 だが、俺はそこにこの言葉を付け加えよう。

 

 弱いなら、強化すれば、いいじゃない。

 

 魔術師舐めるな。特に俺は強化魔術特化型なのだ。その根本さえわかればチート魔術師メディア様のいる俺は相応にパワーアップできるのだよ。

 

 俺はともかく俺のバックアップを舐めるなよ!!

 

『こりゃあ次はもっと本気出したほうがよさそうだな。ああ、聖杯ってのは最高だ。こんないい殺し合いが何度も楽しめるようになるんだからよぉ!!』

 

 グレンデルは愉しそうにそう笑う。

 

 そう、死者を蘇生させる聖杯があれば何度もよみがえるという荒業も不可能ではないだろう。

 

 なにせこいつは大昔に滅びているのだ。それをよみがえらせることができるのならそりゃあちょっと前に滅びたぐらいどうとでもなるだろう。

 

「・・・ああ、そこについては残念なお知らせがある」

 

 当然、そんなことは重々承知だ。

 

 クリフォトを相手にするにして、そんなわかり切っているアドバンテージを考慮しないわけがないだろう?

 

「お前らは殺さん。聖杯が確保できるまで厳重封印だばかめ」

 

『は!? ちょ、どういうことだ!!』

 

 どういうことだも何も、殺したら復活させられるなら拘束するしかないだろう。

 

 その程度の知恵ぐらいは回るんだよ。悪いけど準備は万端だ。

 

「はい小猫ちゃん! 黒歌から封印関係の準備はできてんだろ? とりあえずよろしく」

 

「了解しました。イッセー先輩、宝玉を一つ貸してください。それに封印します」

 

「あ、わかった。てかぶっつけ本番でいけるの?」

 

 イッセーがそんなことを言いながらも素直に宝玉を取り外してくれる。

 

 まあ心配なのはわかるが、そこまで不安にならなくても大丈夫だ。

 

「一時的に押さえ込めればそれでいい。封印系人工神器はアザゼルが既に開発していたし、グリゴリに持ち込めればそれぐらいは十分いけるはずだ」

 

『くそ! 誰がそうだとわかってて封印されるか! せっかく復活したってのに封印とか冗談じゃ―』

 

 余裕がなくなったのか火事場の馬鹿力を発揮してグレンデルが逃げ出そうとするが、あいにくそんな真似は許さない。

 

「甘いわ馬鹿め」

 

 ぬい止めるように光魔力の槍を叩き込んで動きを封じる。

 

『ふ、ふざけんじゃねえ! まだまだぶっ殺したい奴がゴロゴロいるってのにこんな展開―』

 

「いいからさっさと封印されて終われ。許可をもらえたら新兵器の的に運用してやるから安心しろ」

 

『どこが安心しろだ!! 俺がやりたいのは殺し合いでサンドバックじゃね―』

 

「じゃあ封印します」

 

 なおもわめくグレンデルを無視して、小猫ちゃんが封印を終了する。

 

 よし、コレで第三ラウンドとかそういった面倒なことからはおさらばだ。

 

 最重要軍事拠点の最深部にでも封印しておこう。それならそう簡単には奪われないだろうし。

 

 さて、コレでまあだいぶ楽になるだろうが、だからといって油断は禁物だ。

 

 まだまだ量産型の邪龍はゴロゴロいる。加えてヴァルプルガは健在だ。

 

「あらあら? これはあまり燃えない展開になっちゃったかしら?」

 

 ヴァルプルガが少し警戒心を浮かべてくるが、しかし余裕はまだ消えていない。

 

 なにせこっちも消耗しているし、数の上では確実に大敗してるからな。

 

 さてどうする? このままだとさすがに押し切られそうだが―

 

 その時、空が砕けた。

 

 より厳密にいうのならば、空を覆っていた結界が砕け散った。

 

 外部から結界を破壊したのか! しかし誰がどうやって?

 

 と思ったその時、俺たちの眼の前に一本の槍が突き立った。

 

 そして次の瞬間、俺は目の前が真っ暗になった。

 

 っていうか痛い!? 全身が痛い!?

 

「宮白!? おい、しっかりしろぉおおおお!!!」

 

「宮白先輩!? 急激に気が乱れてます!!」

 

 イッセーに抱き起されながら、小猫ちゃんの仙術で治療を受ける俺。

 

 く、こ、この感覚は・・・。

 

「黄昏の聖槍だと。くそ、これはなんの嫌がらせだ・・・っ」

 

「兵夜くんー!?」

 

 ああ、久遠の手の感触が温かい。

 

 惚れた女の体温を感じながら死ぬとか上等な死に方の一つのような気がしてきたぁ。

 

「宮白さんしっかりしてください! ほら、回復しますよ!!」

 

 アーシアちゃんの回復がまさに俺に癒しとなってくるなホント。

 

 ああ、いやされる。でも痛い。かわいい女の子にいやされるのはいいけどリアルタイムで実に痛い。

 

「っていうかまだ刺さってるんだけどいつになったら本人来るんだよオイ!!」

 

「これ嫌がらせじゃないかなー? ほら、何度も煮え湯飲まされてるし意趣返しー?」

 

「イッセー頼む。曹操を見つけて一発殴ってくれ」

 

「いや宮白。そろそろ満足したみたいだぞ、槍消える」

 

 おお、だいぶ楽になった。マジで死ぬかと思った。

 

「クソが。帝釈天が後釜見つけたのか俺と同じで曹操と司法取引でもしたのか?」

 

「それはわからないけど、今回は感謝したほうがいいわね。これで後は増援を待てば向こうも撤退してくれるはずだわ」

 

 俺が毒づきながら立ち上がると、部長もつかれながらもしかし余裕を見せ始める。

 

 今回の厄介なところは増援が来るまでの時間が非常に長くなるであろうことにある。

 

 だがその最大要因である時間のずれは消え去った。これなら後は増援が来るまで待つだけだ。

 

「素直に逃げるなら追わないぜ? 手柄は二つも立てたし、欲に駆られて死人出すのはどうかと思うし」

 

 俺は動揺しているヴァルプルガにそう告げる。

 

 ああ、コレでどうにかなってくれるならそれに越したことはない。

 

 さてどう出る。

 

「あらあら。では手柄を一つは出してから帰るとしますわん♪」

 

 ・・・ちっ。続行か。

 

「それにこの数なら一人か二人ぐらいは倒せるでしょうし、ここは一つぐらい出してみようかしら?」

 

 そこまで読んでるのか。確かにこの調子だと一人ぐらいくたばりそうだな。

 

 聖槍のほうもこれ以上の手出しをする気配はないし、さてどうしたもんか・・・。

 

「・・・あ、ファーブニルさんが来れるそうです!」

 

 ・・・すごい嫌だけどわがまま言えない!!

 

「アーシアちゃんレッツトライ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? ファーブニルは?」

 

「兵夜くんー!? 記憶抹消してないで、現実見てー!!」

 

 え? えっと何? どういうこと!?

 

 だめだ、なんか思考がシャットダウンされてる!!

 

 あ、アーシアちゃんが倒れてる。え、なんなの?

 

「くそ、今度は履きたて生パンツでも請求したのか、あの変態は!」

 

「ある意味もっとひどいかなー」

 

 さらに上があるの!?

 

 驚愕する俺の鼻腔に、かぐわしい香りが届いてくる。

 

 ふむ、この感じは油と香辛料か。この感じはディアボロ風の揚げ物か何か・・・っ

 

「パンツは揚げ物じゃねえぇえええええええええ!!!」

 

「すぐわかる兵夜君がすごいけどねー? 問題はそこだけじゃないんだよー」

 

 ほかに何があるんだよ。いやこれ以外に何かあるの?

 

「宮白助けてくれ! 具体的には神器に封印されている残留思念をぶん殴る方法を教えてくれ!!」

 

「何があった!?」

 

 歴代の赤龍帝はもう成仏しただろひどい形で! え? もしかして生き残りがいたの?

 

「歴代白龍皇がアーシアのパンツをくんかくんかして和解の意にしやがったんだ」

 

「・・・俺本気で思うんだけどさ、実はイッセーとヴァーリが性癖的な意味で一番まともなんじゃないだろうか」

 

 イッセーが一番まともっていろいろひどいんだが、どうよ。

 

 戦闘能力的には歴代で最異端なイッセーとヴァーリが性癖的な意味で最もまともって何の冗談だよ。性欲ゼロと性欲MAXが性的にまともっておかしいだろ常識で考えて。

 

「・・・ちょっとハーデス殴るついでにサマエル取ってこようか」

 

「待ちなさい兵夜。さすがに今の段階でそれをやったらオリュンポスと戦争よ。少し落ち着きなさい」

 

 ですが部長! できることならもう残留思念どもを問答無用で浄化したいのですが俺は!!

 

 おいちょっとまて歴代二天龍! なんでお前らそんなに変態ばかりなの!? なんでその性癖生前発揮してないんだよ!!

 

 ええい、こうなれば祝福の力を持ってして強制的に成仏させるしかないというのか!

 

 などと思ったその時、俺はつい最近感じた気配を察知して我に返った。

 

 っていうかこの位置はマジでマズイ・・・っ!!

 

「―ロスヴァイセさんはなれて!!」

 

「気づかれましたか。ですが一歩遅かったですね」

 

 振り返った時にはもう遅かった。

 

 ユーグリットが偽赤龍帝の鎧を展開してロスヴァイセさんを捕まえていた。

 

 ええい、いろいろひどい展開だったところから急転直下以外の何物でもない。反応できるか。

 

 くそマイペースにもほどがあるだろうがこいつ。ちょっとファーブニルさん、責任取ってこいつ何とかしてくれませんかね?

 

「とはいえまさかこうもこちらの作戦を妨害されるとは思いませんでした。やはり少し舐めていたようですね」

 

「できれば負けるまで舐めていてほしかったよ」

 

 さてどうしたもんか。

 

 なぜか邪龍たちの動きは止まっているが・・・っていうか一部涙流してるんだけど何があった?

 

 ここにきて敵の方が増援とか面倒だなぁ。どうしたもんかなぁ。

 

 と、思ったら邪龍軍団が復活してきやがった。

 

 ええい、この野郎やはりやる気か!!

 

「では私はこのあたりでお暇するといたしましょうか。それではごきげんよう」

 

 って逃げる気!?

 

 しまった。そういえばロスヴァイセさんの研究に興味があったなこいつらは。

 

 悪魔の駒のベースマテリアルの入手が不可能になったからってせめて封印解除のための道具だけは手に入れるつもりか!!

 

 しかも空間転移! くそ、そんなことになったら追いかけられない・・・っ!

 

 だが次の瞬間、魔法陣の展開が急にばぐった。

 

「・・・あれ?」

 

「これはこれは。厄介なまねをしてくれたものですね」

 

 忌々しそうにユーグリッドが振り返るその先には、ゲンドゥルさんがふらつきながらも立っていた。

 

「孫をむざむざ連れていかせはしません」

 

「ですがこれぐらいならできることはありますよ?」

 

 そういうと、ユーグリッドは勢いよく飛んでいく。

 

 ええい、まさか逃がすと思っているのか!!

 

「イッセー追うぞ!! あの野郎舐めた真似してくれやがってからに!!」

 

「おうともよ! ロスヴァイセさんは誰にも渡さねえ!!」

 

「イッセー、ロスヴァイセまで本気で手に賭けるつもりなの!?」

 

「おまえ短期間にハーレム作ると途中でだれそうだからペースおとせ」

 

「え!? いや、そういう意味じゃないけど―」

 

「いいから早く行ってよグレモリー眷属ガチャ運チートトリオー!!」

 

 あれ!? 俺も引き強い部類!?

 

 比較的高い方かもしれないがこの二人に比べると明確に劣る自信があるんだが!?

 

「・・・孫を、よろしくお願いします」

 

 弱っているゲンドゥルさんからこんなことを言われては退くに引けない。

 

「もちろんです! ロスヴァイセさんは俺が救い出します!!」

 

 いいこと言ったなイッセー! それでこそだ!!

 

 にがしゃしねえぞユーグリッド! 手前は俺たちがとっ捕まえる!!




本当に思うんですけど、歴代赤龍帝で性癖的に一番まとも名乗ってイッセーとヴァーリですよね?

 おっぱい覚醒祭りと性的欲望ゼロとかこいつらもいろいろと極端ですけど、それにしてもまともがつけたくなるような連中ばかりですよね?


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シスコン、キモいです!

 

 途中で漫才入ったせいで距離を取られたが、しかし俺たちを舐めてもらっては困る。

 

 なにせ機動力に問題があるという欠点を指摘されたばっかりだからな。悪魔の身体能力を生かした代物を用意させてもらったのだ。

 

「テレレテッレレ~! ロケットエンジンー!!」

 

「言ってる場合か宮白ぉおおおおお!」

 

「ちょっとこれ加速しすぎ! 勢い余って追い抜くんじゃないの!?」

 

 その心配はご無用。距離が二キロを切った時点で自動的に爆発するから!

 

 え、巻き込まれる? いやいや俺たちがその程度の爆発で大したダメージを負うわけがないじゃないか。

 

 圧倒的な戦闘能力=防御力をもつ俺たちだからこそGの影響をある程度無視できる。悪魔万歳!! 上級相当万歳!!

 

 といっている間にロケットエンジンは爆発。見ればユーグリッドも唖然としているのか動きを止めていた。

 

 そして奴も観念したのか、ゆっくりと地面へと降りていく。

 

 俺たちはそれに対応して同じように地面に降り立った。

 

「人間の科学力も舐めたものではないですね。まさかこうも簡単に追いつかれるとは」

 

「お前ら人間舐めすぎだ。そんなんだから種族として滅亡の危機にさらされるんだよ」

 

 俺は皮肉を返すが、しかしこの状況はまだ面倒だ。

 

 なにせロスヴァイセさんを確保している以上人質作戦が通用するわけだからな。

 

「さて、一応投降勧告はしておいてやろう。偽物とはいえ赤龍帝相手に殺さずになんて真似は狙わない。戦闘するなら殺されることを覚悟してもらおうか」

 

 こっちも仲間も誘拐されて気が立ってるんでな。

 

 テロリスト相手に容赦するつもりはないんだぜ、この野郎。

 

「因みに、お前が何でそんなことを参加しているのかについてはお前をとっ捕まえてからじっくり専門家に聞き出してもらっておこう。時間稼ぎはさせない」

 

 余計な会話をするつもりはない。こういう連中はこっちの神経を逆なでするついでにやるからな。イッセーたちには毒すぎる。

 

「あとロスヴァイセさんはちゃんと離せ」

 

「それはできません」

 

 やけにしっかりとロスヴァイセさんを抱き寄せながら、ユーグリットは断言する。

 

 何やら狂気すら感じさせる熱意だが、一体何があった?

 

「一体どうしたというの? ロスヴァイセの論文はあくまで未完成、666の封印を解除するには力不足だと思えるのだけれど?」

 

 部長もそう思うだけある。そう、いくらなんでもなりふり構わなさすぎる。

 

 ましてや東京のど真ん中だなんていうところで接触を仕掛けてきたのもキツイ。考えればあれだってナンセンス極まりない接触だ。俺だったらもっと考えて行動する。

 

 こいつ、何を考えている・・・。

 

「・・・彼女はそれだけの価値があります。我々の元へ来れば、その力を余すことなく再現できるでしょう。なにせ、彼女の研究は封印の解除を通り越して、封印技術そのものの解明に辿り着いているのですから」

 

「はぁ!?」

 

 おいおいおいおいだから何でグレモリー眷属はどいつもこいつもチートぞろいなんですかオイ!!

 

 こ、コレな何があっても連れ去られるわけにはいかなくなったぞ! 再封印が可能になるだなんて重要すぎる。

 

 だが、ユーグリッドはそんなことはどうでもいいかのようにロスヴァイセさんの髪をなでる。

 

「何より似ている。あなたたちも、彼女は我が姉に似ていると思いませんか?」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・はい?

 

「えっと、え?」

 

 何を言っているのか全く分からなかったので、つい聞き返した。

 

 え? えっと、え?

 

「・・・あ、あなた、ロスヴァイセがグレイフィアと似ているから誘拐しようとしたの?」

 

 あ、そうそう。部長さすがです。俺もそれが聞きたかった。

 

「ええ! 彼女は、彼女は私の新しい姉になってくれるかもしれないのです!」

 

 そこはかとなく元気にいってくれているところ悪いが、そこまで言うほど似てないだろう。

 

 酒が絡むとひどいことになるという点においては確かに似ているがせいぜいそれぐらいだろう。

 

 そんなこじつけレベルの状況ですら我慢できずに東京のど真ん中で接触してこようとは・・・。

 

「イッセー。さっさと終わらせるぞ、このシスコン末期すぎて隔離必須だ」

 

「宮白ひでえな。ま、気持ちわかるけどよ」

 

 叩き潰す確定。容赦なく全力で叩き潰させてもらおう。

 

「怖い怖い。では、こちらも相応の手段を行わせてもらいますよ」

 

 そういった瞬間、後ろの方で爆発が起きた。

 

 どうやら裏切っていた魔法使いは爆弾に細工されていたようだが―

 

「―安心しろイッセー。内通者が改造されている可能性は考慮していたからな。ゴーレムに運ばせているからそこまで被害は出ていない」

 

「これはこれは、あんなところを守るためにそこまでするとは意外です」

 

 ユーグリッドは割と本気で嘲笑する。

 

「あの程度の悪魔があんな場所で学んだところで、なれるものなどたかが知れている。そんな無駄な行動に何の意味があると?」

 

「それが分からないからお前はその程度なんだ」

 

 じつに下らんことを言ってくれるおかげで、俺は少し頭が冷えた。

 

 心底馬鹿げている。お前たちは何もわかっていない。

 

「なるほど確かに、勉強したからって魔力の量が大きく変わるわけじゃない。所詮下級悪魔の限界なんてたかが知れてるし、上級なんて基本は努力しなくてもそのはるかかなたを飛んでいるだろう」

 

 ああ、ゆえに悪魔という社会は血統が重要なポジションを占める。

 

 これをなくすことはできないだろう。人間とは違い血統で明確な差がある以上、血族主義は永久に名を遺す。

 

「だが、誰が魔力だけで話をした?」

 

 それは魔力だけのことだ。

 

「魔力だけで計算ができるか? 魔力だけで三角測量ができるか? 魔力だけでエンジンが作れるか? 答えはノーだ。・・・学校っていうのは、そういうことができるようになるところなんだよ」

 

 その辺りが分かってないからお前たちはあれなんだ。

 

「彼らは確かにその大半が下級のまま終わるだろうし、中級に上がれる連中も数えるほどだ。だが、その中で明確な武器を持って人生を充実させることができる」

 

 俺は、いろいろ見てきた人たちを思い出す。

 

「できることは少なくとも、そのできることで上級にも真似できない連中はこれからどんどんここで増やされていく。そして冥界の世界は大きく変わっていくだろう。それは人間社会では珍しくもない光景で、彼らはその方法を持って発展してきた」

 

 そう。悪魔はこれから人間のやり方を吸収して更なる発展を遂げる。

 

 それの邪魔をするというのならば・・・。

 

「旧時代の老害には消えてもらおう。ここは未来ある若者がそれをつかむ方法を学ぶ園だ。これ以上は邪魔をさせるつもりはない!」

 

「兵夜・・・」

 

「いいこと言うじゃねえか、宮白!」

 

 うちの赤い夫婦もノリノリなようで何よりだ。

 

 さて、そろそろ反撃するぜ?

 

「これは怖い。ですが、こちらには人質がいるのをお忘れですか?」

 

 と、ユーグリッドはロスヴァイセさんを引き寄せて楯にする。

 

「あなた方の性格なら危害は加えてこないでしょう。私もできれば避けたいですが、しかし念には念を入れませんと」

 

「こ、の、野郎・・・っ」

 

 冷静にテロリストらしい真似をしてきて、イッセーは割と本気でブチ切れかける。

 

「私だって使いたくはないのです。ロスヴァイセは私の姉になってくれる人ですし、何より神喰いの神魔は殺しに来かねませんから」

 

 ふむふむ。なにせ前科があるからそりゃ警戒されるか。

 

「なるほど。ロスヴァイセさんの研究の詳細を教えたのはあれか。こっち側に価値があることを教えて俺を躊躇させるのが狙いか」

 

「それもあります。あなたの性格なら封印が解かれた時のことを考慮するはずですし、その最適解を自分から捨てるのはさすがにためらうでしょう?」

 

 駆け引きはとっくの昔に始まっていたか。ふむ、わかってるじゃないかユーグリット。

 

 だがまあ。

 

「仕方がない。こうなれば俺も奥の手を切ろう」

 

「お、おい宮白! お前まさかロスヴァイセさんを殺そうなんて言うんじゃないだろうな!?」

 

「兵夜! 主として命ずるわ! 絶対にロスヴァイセを生かして助け出すこと!!」

 

「あ、あの~。二人とも少し落ち着いてください。確かに宮白くんならしかねないですけど味方に言うセリフじゃありませんよ?」

 

「意外と落ち着いてますね。もしかして一緒に来てくれる気になってくれましたか?」

 

 なんか微妙にグダグダになってんな。

 

「まあ安心しろイッセー。こんなこともあろうかと備えは万全だ」

 

「お、おお! 期待していいんだな?」

 

「もちろんだイッセー。京都でうっかり大失敗をしでかしたからな。こうなることが読めていて対策の一つも立てないほど俺は馬鹿じゃない。ルーマニアでも言ったろ、何かあった時に対処する余力が俺には必須だって」

 

 と、言うわけではい発動の指パッチン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、鮮血がロスヴァイセの胸元から噴き出した。

 

 完璧に、何があったのか誰一人として理解できなかった。

 

 特にユーグリットの驚愕は大きかった。

 

 なにせ宮白兵夜がいざという時身内を殺す判断ができるのは京都での英雄派との戦いで実証されいてる。

 

 結果的に未遂で済んだものの、あれは割って入ることに成功した兵藤一誠と代替案を提供した神々の意地が原因だ。それがなければベル・アームストロングは宮白兵夜に殺されていただろう。

 

 ゆえにロスヴァイセには防護術式をいくつもかけている。宮白兵夜の戦闘能力では突破するのに溜めがいるような強固さのはずだ。

 

 それを、一切突破することなくロスヴァイセの胸から鮮血が噴き出ている。

 

 そのありえない光景に思考が止まった瞬間、すでに宮白兵夜は動いていた。

 

「隙だらけだぜ、ユーグリット」

 

 一瞬でリリスを拘束した礼装がユーグリットの動きを封じ、さらに高出力の光が彼の視界を奪う。

 

「寝てろ。おきたときから尋問のスタートだ」

 

 顔面に上級天使クラスの光力が叩き込まれ、ユーグリットは昏倒する。

 

 そして支えを失ったことで倒れるロスヴァイセを、兵夜は優しく抱き留めた。

 

「大丈夫ですかロスヴァイセさん。ちゃんとつけてくださってよかったです」

 

「全く。意識まで失うなんて聞いてませんよ? そういうことはちゃんと言ってください」

 

「すいません。気絶ぐらいしたほうが死んだと勘違いすると思ったんですよ。血流を止める術式も仕掛けようかと思ったんですが、それだとさすがに危険じゃないですか」

 

「本当に危険すぎです」

 

 ため息をつきながら、ロスヴァイセは拘束を解いて立ち上がる。

 

 そして肌に浮かんだ鳥肌を隠すかのように肌をなでた。

 

「姉の代用品とかすごいひどい扱いを受けました。顔がいいだけにかなり嫌な気分です」

 

「・・・ド級の変態という意味では赤龍帝にふさわしい男だった。自他ともに認める変態のイッセーが一番まともって何かがおかしい」

 

 倒れたユーグリットを見下ろして、2人はげんなりとした表情を浮かべる。

 

「まあ、首魁の側近ともなれば持ってる情報もかなりあるだろうし、コレで情報戦で優位に立てるといいんですけどね。アサシンに脅されてる連中はまだたくさんいるだろうから総合的に不利なんだよなぁ、こっち側」

 

「まさか私の研究が封印を施せるものだったなんて自分でも驚きです。かなり早くに見切りをつけていたはずなんですが、なんでこんなことになったのでしょうか」

 

 一仕事終えた気分からか、2人は肩をすくめるとそのまま振り返る。

 

 ・・・そして怒りに燃える二つの赤を発見した。

 

「宮白」

 

「ロスヴァイセ?」

 

「「・・・あ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 説教は正座必須だったことを付け加えておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 



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ふんどし、倒します!

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘は此方の勝利に終わろうとしていた。

 

 邪龍の数も少なくなり、何よりアグレアスから増援が来てくれたことも大きい。

 

 宮白くんが用意した龍殺しの弾丸は大活躍だったようだ。これは今後のクリフォトとの戦いで大きな力になってくれるだろう。僕も龍殺しを大量に作らないと。

 

「これは大変ね。まったく萌え萌えできませんわ」

 

 さすがに状況が不利になったのを理解しているのか、ヴァルプルガも冷や汗を浮かべて逃げ腰になっている。

 

『いやいや逃がさねえよ。龍王怒らせてただで済むと思ってんのか?』

 

 だが匙ににらまれていてはそう簡単にはいかない。龍王の力を利用した禁手の出力は、神滅具にだって引けを取らないのだから。

 

 イッセー君たちからの連絡はまだないが、しかし彼らならロスヴァイセさんを助け出すと信じている。

 

 だからこそ、ここで負けるわけにはいかなかった。

 

「さあ、行こう皆。ここで僕たちが負けるわけには―」

 

『おぉっとそうはいかないぜこの野郎!』

 

 突如、空間が割れた。

 

 あれは次元の狭間だ。いったい何があった?

 

 それにこの声はフィフス。まさかこのタイミングで増援だと!?

 

『悪いが神滅具をこれ以上奪われるわけにはいかないんでな。そいつにはまだ協力してもらう必要があるし、助けに来たぜヴァルプルガ!!』

 

 そんなフィフスの声を響かせながら、割けた空間を潜り抜けて現れたものに、僕たちは目をあんぐりを開いてしまった。

 

 SF映画に出も出てきそうな空を飛ぶ船が、僕たちの眼の前に現れた。

 

 え、あれ、なんだあれ!?

 

 いや待て、そういえば僕たちはあれに似たものを知っている。

 

 宮白くんのラージホーク。あれとどことなく似ている雰囲気がある。

 

 その場にいる全員がそれを理解したのだろう。僕達の視線は一斉に桜花さんに集まった。

 

「あれは魔法世界経由ですか、桜花!!」

 

「あ、はい。魔法世界じゃああいう飛行戦艦とかが結構出てくるんですよー。いやー、昔はよく切ったなー」

 

「懐かしがってる場合じゃないぞ!!」

 

 由良さんが思わずツッコミを入れるが、確かに懐かしがっている場合ではない。

 

 彼らはなんてものを作り上げたんだ。テロリストのはずなのに技術力では僕達を上回ってないかい!? 異世界の技術者とか向こうに集まりすぎじゃないかい!?

 

 あとよく切ったってあの大きいのを!? 桜花さん少し暴れすぎじゃないかな!?

 

 と、思ったその瞬間その飛行戦艦から何かが飛び上がった。

 

 いや、何かなんて言うまでもない。僕たち悪魔の戦いではあまり見かけないが、しかし人間たちの間ではよく使われる戦争用の兵器。

 

「「「「「「「「「「ロケットランチャー!?」」」」」」」」」」

 

『ミサイルだよお馬鹿がこれが! さあ防げるものなら防いでみろ!!』

 

 くそ! あんなもの一発でも落ちたらアウロス学園が持たない!

 

 しかもご丁寧に全部アウロス学園を狙って落ちてきている。僕達の性格をよく理解しているたちの悪い真似を。

 

 何とか迎撃が間に合ったが、その隙を突かれてヴァルプルガが戦艦の中に駆け込んでしまう。

 

 いや、僕たちがあの戦艦を落せばヴァルプルガも確保できる。

 

 しかし、フィフスを同時に相手にすることになるのでは僕たちの中にも犠牲が出るかもしれない。せめてイッセーくんか宮白くんが来てくれれば何とかなるのだが・・・。

 

『はっはっは。赤龍帝や神喰いが来る前に逃げるに決まってるだろう。そして殿もおいていくぜもちろん!!』

 

 殿? 一体誰を出す気なんだ?

 

 そう思った僕たちの視界の先、戦艦から人影が出てくる。

 

 そしてそれを見た瞬間、桜花さんが悲鳴を上げた。

 

「ぎゃー!? 隊長ー!?」

 

「龍王とかいうUMAはどこだぁああああああ!!!!!」

 

 く! まさかここでふんどしが来るとは思わなかった。いや、ここ最近出続けてるから想定してしかるべきだったか!

 

 だが、宮白くんがそのあたりの対策は考慮してくれている。彼は本当に頭の回転が速い。

 

 そして桜花さんの協力の元実験も成功している。少なくとも対抗策はちゃんとできている!

 

 かなりショックな出来事もあったけどだからといって負けてやる義理はない。

 

 D×Dの一員としてやるべきことはきちんと果たす!

 

「おーおーカッコいいところ悪いけど、真打忘れてもらっちゃ困るぜ諸君!」

 

 この声は!

 

「お手数おかけしてすいません。これから援護することでお詫びします!」

 

「ロスヴァイセはしっかり助けてきたわ! さあ、私のかわいい下僕たち! 最後の戦闘もしっかりこなして、胸を張って勝利を飾るのよ!」

 

「アンタも本当にしつこいなふんどし! だったら俺たちも容赦しねえよ!」

 

 ロスヴァイセさん、リアス部長、イッセーくん。それに―?

 

「なんで宮白くんだけボコボコなんだい?」

 

「女性優遇の結果だ」

 

 ああ、これはまた宮白くんが何かやらかしてお仕置きされたんだね。

 

 いったい今度は何をしたんだろうか・・・。

 

「まあそれはさておき!」

 

 宮白くんはツッコミを入れさせないためにことさら声を大きく動きも派手にふんどしに宣戦布告する。

 

「対貴様戦術はすでに構築した。これまでのようにチートできると思うなよ!!」

 

「よかろう! ではこちらも本腰を入れてぺろぺろしに行かせてもらう! 主にファーブニルを!」

 

「隊長ー。絵面がいろいろとひどいんでやめてくださいー」

 

 桜花さんが割と本気で額に汗を浮かべてそれを止めようとする。

 

 パンツを食べるドラゴンを舐める男・・・。確かにこれは絵面として非常に悪い意味で来るものがあるね。

 

「しかし止めん! さあ、ぺろぺろタイムのスタートだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いうが早いか全方位に気の弾丸がまき散らされる。

 

 それは例えていうならば人間サイズに圧縮した要塞。ガトリングガンのようにばらまかれる低威力の弾丸でこちらの機動力を削ぎながら、そこをピンポイントでつくかのように大砲クラスの一撃が飛んでくる。

 

 大したダメージにはならないが足止め確実の弾幕と、喰らうと確実に大打撃になる大技の複合。

 

 無駄に豪快というかワイルドというかインパクトがあるからパワータイプと思っていたが、こいつは久遠の上司なんだ。

 隙の無い技量を同時にしっかりと持ち合わせており、そしてその水準は一つの世界の人間の到達点。

 

 変態ではあるがそれに見合うだけの力量はある。歴代二天龍でも一対一で倒すには覇龍が必要だろう。

 

 ある意味次元を超えているイッセーやヴァーリを同時に相手してなお渡り合っただけのことはある。

 

 転生者の基本スペックは平均値より高いやつはいても封印指定されるほどの正真正銘のキチガイスペックはそこまでいないと判断されていた。

 

 ナツミですら世界大会参加を狙えるレベル程度。久遠はあくまで部隊長の範囲内。ベルはポテンシャルだけなら世界ランカークラスとのことだが全く鍛えてない宝の持ち腐れ。小雪はあくまで一エージェントの範疇内。

 

 まあ何気に魔術師(メイガス)はキチガイじみた連中が多いわけだが。聖杯戦争作っちゃったフィフスやら直死の魔眼持ちのレイヴンやら固有結界持ちの俺やら封印指定一歩手前か呪っちゃってるような奴がゴロゴロと。何気に大家のはずのスパロが一番平凡に見えるとかどういうことだよ。

 

 しかしそれを踏まえてなお頭一つとびぬけているのがこの化け物。転生前の戦闘能力でいうのならば、この男は間違いなく現時点で発見されている中では最強だろう。

 

 全力のサーゼクスさまクラスですら勝負になりそうな領域。ああ、接近を仕掛けているメンバーが、すでに何人もぶちのめされている。

 

 それでも一人も殺されていないのは、アーシアちゃんが回復のオーラを大きく広げているからだ。

 

 ダメージを受けたそばから即座に回復。致命傷レベルのダメージすら即座に回復するアーシアちゃんの回復力は、最初からダメージが喰らうことが確定している状況なら垂れ流しにすることで強固な防壁を生み出すことができる。

 

 もちろんこれは回復の恩恵をふんどしにも与えることになるが、しかしこれは別に構わない。

 

 とにかく一撃クリティカルな有効打を与えてからでなければ押し切られる可能性があるのだ。ならば敵すら回復してでも有効打を与えるまで安全策を取るのは愚作ではない。

 

 できれば蒼穹剣を使いたいところだが、すでに一度使ってしまっている以上これ以上の使用は現実的ではない。っていうか無理。

 

 だからこそ、最後の切り札を使うしかないのだ。

 

「おら行けイッセー&小猫ちゃん!」

 

 出せる限りの榴弾を出し、加えて大量の光魔力の槍をぶっパしながら俺は道を作り出す。

 

 さあ、行ってこい!

 

「うぉおおおおおおおお! 行け、小猫ちゃん!!」

 

「はい!」

 

 小猫ちゃんの新技白音モードが発動し、より高い出力で仙術が行使できるようになる。

 

 思い出す。そう、アレはシトリーとのレーティングゲーム。

 

 あの手この手でハメられながらも頑張ってほとんどの眷属を撃破したのはいい思い出だ。

 

 そして久遠一人に文字通りイーブンにまでもってかれたのは割と悪夢だ。

 

 その際反撃の起点となったのは小猫ちゃんのファインプレーだ。

 

 仙術の一撃が通ったからこそ、それで足が半ば殺されたからこそあそこまで肉薄できた。

 

 そう、それはつまり―

 

「名前が同じなだけじゃなく、魔法世界とこの世界の気は性質も似通っている。・・・お前は仙術による気の乱れは防ぎきれない!!」

 

 最後の足止めのために呪詛を満載した魔弾をばらまきながら、俺はそう言い放つ。

 

 そう、化け物じみたこいつを消耗した状態で倒す唯一のクモの糸。

 

 それは仙術による奴の気のバランスの変化だ。

 

 そして、小猫ちゃんも本領を発揮する。

 

「いきます・・・っ!」

 

 瞬間的に、小猫ちゃんの体が成長する。

 

 ・・・これぞ新技白音モード。小猫ちゃんが一時的にブーストする新形態だ。

 

 そして大人の体型になるのも特徴的だ。眼福なんだがこの空気ではヒャッハーできん。

 

 ちなみにナツミは「ロリ《売り》を捨てるとは馬鹿なやつだなぁ」と純粋にほざいていた。ロリと売りをかけるセンスはともかく、お前はもうちょっと自分の幼児体型を気にしようか。

 

 そんな脱線をしてる間に、まさに接触する寸前にまで行った。

 

 これならさすがに迎撃できまい! 俺たちの―

 

「・・・甘い!」

 

 次の瞬間、背中から気弾が発射されて小猫ちゃんが完璧なカウンターを喰らった。

 

「お前はどこの達人だ!?」

 

「達人だとも!!」

 

 くそ! これじゃあ―

 

「・・・秘密のまま終わらせたかった秘密兵器が必要不可欠じゃねえか!!」

 

「うるせえよ!!」

 

 俺の絶叫にイッセーが突っ込みを入れながらそのまま突進。

 

 もろにカウンターを喰らった小猫ちゃんはほぼ動けない状態だったが、それでもイッセーに手を伸ばす。

 

「・・・お願いします!」

 

「おう!!」

 

「・・・あ」

 

 ふんどしも気づいたようだがもう遅い!!

 

「やっちまえ、イッセー!!」

 

 小猫ちゃんのおっぱいを喰らったイッセーが窮地を潜り抜けたことでどうしても生まれる隙をつき、ふんどしにキッツいボディブローを叩き込む。

 

 そしてまあ、誰もが想定できるだろうが、小猫ちゃんバージョンは当然のごとく仙術の使用だ。

 

 とうぜん、気は大きく乱れて動きが遅くなる。

 

「ぬぅうううううう! だがこれしきで―」

 

「いや、終わりだよ!」

 

 何とか体勢を整えなおそうとしたふんどしの顔面を、匙がしっかりとつかんだ。

 

「お前がどんだけUMAだか馬だか好きだか知んないがなぁ・・・っ!」

 

 次の瞬間、見るだけで同情してしまうほどの漆黒の炎がふんどしを包み込んだ。

 

「俺の惚れた女の夢見た場所で、変態行為なんかしてんじゃねえ!!」

 

 ・・・いっちゃった! いっちゃったよ匙くん!

 

 ああ、会長顔まっか!!

 




小猫ちゃんバージョンはまあわかりやすいですよね。

とはいえふんどしはこれで終わりではありません。転生者の純粋な戦闘能力において最強の名は伊達ではないのです。


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フィフス、暗躍です!

 

 ・・・なんとかふんどしと変態をとっつかまえ、増援も来て一安心。

 

 お風呂無事だったらひとっぷろ浴びていいだろうか? ついでにお酒も飲んでいいだろうか?

 

 などと考えながらぼんやり空を眺めていると、すぐにあわただしくなってきた。

 

「ご主人!? 襲撃あったって聞いたけど大丈夫!?」

 

「兵夜さまぁああああああ!! ご無事ですね!? 実質役立たずで申し訳ありません!!」

 

「二人とも落ち着けよ。久遠の方も大丈夫だったみてーだし、何とかなってんだろ」

 

 慌てて駆け寄るナツミとベルをなだめながら、小雪は不敵な笑みでアウロス学園を見る。

 

 まあ余波でところどころダメージはあるが、ほぼ健在だった。

 

「ルーマニアでの騒ぎを経験してて助かったぜ。内通者のドラゴン化まで予想できてたから念のため引き離したが、まさか爆弾にしてるとはなぁ」

 

「知ってる知ってる! まさに外道っていうんだよね!」

 

「確かに外道ですね。実質そのままでは」

 

「ベル、そいつはネットスラングって奴だからな? だれだナツミにファックな言葉説明したのは」

 

 などとだべりながらいい女たちとのいい空気を吸い込んでいると、少し離れたところから足音が聞こえてきた。

 

 お、こりゃ久遠が来たということか。待ってまし―

 

「兵夜くんー! 助けてー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは、まるで通夜のような空気だった。

 

 強力無比な聖剣、デュランダルの担い手ゼノヴィア。

 

 最強の聖剣、聖王剣コールブランドの使い手アーサー。

 

 聖魔剣の使い手にして魔帝剣を含めた五つの魔剣に選ばれた男、木場祐斗。

 

 間違いなく世界最強クラスの剣に選ばれた、剣士としてよだれが出るほどうらやましいだろう逸材たち。

 

 当人の技量も年齢不相応といっていいほどに高く、将来の成功は約束されているといっていい若き英雄たち。

 

 そんな彼らがお通夜のような空気で沈み込んでいた。

 

 そしてその三人を心配そうに見ながら、ぼろぼろのヴァーリが困ったような表情を浮かべていた。

 

「正直リゼヴィムを逃がしたことを気にしている暇がないんだが、何があったんだ?」

 

「いやーそのーあのーそのー」

 

 悪意によって何かしたのなら許さない。と殺気すらにじませるヴァーリに、久遠はすごく困ったような顔を浮かべる。

 

「・・・久遠、何があっても俺が切り札使って守るから素直に言え。・・・何があった?」

 

「せ、セイバーのデットコピーを倒したのが原因みたいでー」

 

「デッドコピーなら問題ないだろう。セイバーそのものが先に倒されたのなら不満に思うかもしれないが」

 

「木場がそんなこと気にする奴か?」

 

 俺とヴァーリは顔を見合わせて、そして三人の方を向く。

 

「ふ、ふふふ。ザムジオの言ったとおりですね。私はコールブランドにふさわしくない・・・っ」

 

「デュランダルの担い手が何だというのだ。しょせん私はただの猪武者だ・・・」

 

「だめだ。勝てるビジョンが浮かばない。そんなのをあれで倒すなんて桜花さんは・・・化け物だ・・・っ」

 

「「本当に何をした?」」

 

「・・・あ~、あたし分かった気がする」

 

 小雪がポンと手を打って何かに納得した。

 

「ほらあれだろ? 異能力系チート相手に能力使わず倒すってやつ。あれじゃねえか?」

 

「大体その通りです」

 

 木場の肩をさすっていた副会長が、神妙な顔でうなづいた。

 

「詳細は後で説明しますが、武器の性能を引き出す勝負ではなく単純に相手を切り裂く技能で勝負して勝ってしまいまして」

 

「なるほど。・・・強大な武器を持つことを自信にしていたわけですから実質足元が崩れたようなものですね」

 

「うわぁ、そりゃキッツい。魔導士同士のバトルで魔法使われずに倒されるようなもんだよそれ」

 

 ベルとナツミが心底同情して視線を向ける。

 

 ・・・特に木場は最近魔剣を手に入れたばっかだからなぁ。反動もでかい。

 

「いや、えっとねー? だってセイバーは剣の性能100パーセント引き出すんだし、その土俵で勝負して勝つのはちょっと無理があるでしょ、若手なんだしー」

 

「お前はどう考えても中身30超えたベテランだろうが」

 

「だからだよー。禁手は目覚めて一年もたってないんだから性能引き出しきれてないしー!」

 

 いやまあそうなんだが・・・。

 

「ま、いいじゃねえか? 武器(マシン)の性能に頼ってる使い手は二流。ファックな扱いされたくなけりゃ、三流の装備で一流の仕事ができねーとな。言うじゃねーか、弘法筆を選ばずって」

 

 小雪がフォローするが、しかしそれは今言っていいのだろうか?

 

「あ、三人とももっと落ち込んだ」

 

「な、なんか部屋の中が実質薄暗くなってきたんですが!」

 

 だめだこりゃ。

 

「生徒会長? ちょっとこの人たちに説教してくれませんかねぇ?」

 

 すいません功労者を疲れさせないでくれませんか?

 

「あ、それ無理ー」

 

「なんでだよ? そりゃファックな話かもしれねーけど適任ちゃー適任だろ?」

 

 久遠の沈んだ発言に小雪が素直な感想を示すが。そこにベルが静かに肩をつついた。

 

「あの、小雪ちゃん? そ、ソーナちゃんすごい熱っぽいですよ?」

 

 ああ、そういうことか。

 

「うわ!? ソーナ顔真っ赤!! どしたのその顔!?」

 

「そ、そ、その・・・」

 

 おお、セラフォルー様がらみですら見れないようなすごい赤い顔だ。

 

 ああ、そういえばそうだったな。

 

「まさかマジで気づいてなかったんですか、匙に惚れられてること」

 

「そ、そんなことを言われましても! 匙は二人に想われてるわけですしあの子はどちらかというと、お、おと、おとう・・・」

 

「匙何やったのさ」

 

「イッセーもびっくりの男を見せてついうっかり愛の告白《ソーナちゃん大好き》ぶちかまして禁手になった。でもってふんどしにとどめ刺したときもラブコールしながらだったぞ」

 

「・・・ソーナ。真面目に答えないとだめだよ?」

 

「な、ナツミ!!」

 

 純粋なナツミの突っ込みは痛いな。これは逃げられない。

 

「まあもっとゆっくり考えた方がいいと思いますよ? あのバカできちゃった婚が目的ですから。・・・断ってもいいような気がしてきたな」

 

「それは実質知ってますけど、何も断るだなんて言わなくても・・・」

 

「いやそりゃそーだろ。できちゃった婚とかファックだろ」

 

 普通に結婚しろよ。なんでできちゃった婚だよ。難易度高いというかそれ普通失敗談だからね?

 

 しかしまあ、これで一歩前進か。いわなかったらいつまでたっても気づかなかったかもしれないもんぁ。よかったよかった。

 

「うんうんー。成功するにしても失敗するにしても、思いがわかるってのはそれはそれでいいもんねー。とりあえず今度一緒にデートしましょうー。兵夜くんは気が利くから二人ともがちがちに固まっても大丈夫ですよー。何かあったら私が守りますからー」

 

「ダブルデートを前提にするな! 一緒についてく気満々かよ!」

 

 こいつすごいな! ある意味俺よりすごいぞ!

 

「「お前が言うな!」」

 

 ぐあああ!? んなこと思ってたら後ろから突っ込みが物理的に痛い!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ああ、ふんどしはちゃんと回収したぞ? 文字通り骨折ってくれてご苦労さん」

 

「本来の魔王様に従ったまでだ。礼を言われる必要はない」

 

「んなこと言うなよ。何が目的かは知らないが、よりにもよって魔王クラスの化け物をわざと逃がすなんて裏切り行為してくれたんだからお礼は言うぜ、ディハウザー・ベリアル」

 

「しかし、捕まっても私が逃がす予定なのだからあんなことをしなくてもよかったのではないか?」

 

「理由は二つあるよ。まずヴァルプルガじゃお前を半殺しにして逃げるなんて無理だ。なんたって魔王と同等クラスの悪魔なんてあいつクラスじゃないと荷が重い。眷属が割って入る間のない不意打ちなんて言い訳までセットなんだぜ?」

 

「なるほど。確かにそれだけのことができるものは神クラスでも少ないだろう。・・・もう一つは?」

 

「あの船の中身の大半は大型の解析装置だ。今後のためにちょっとデータをとっておきたくてな。・・・あとは調整データのすり合わせに一回体当たりでデータ回収すれば何とかなるな」

 

「・・・まあいいだろう。それより、もう一つの約束の品は届いたかね?」

 

「ああ、悪魔の駒のベースマテリアルが結構回収できてよかったよ、あの魔女がいるからにはアグレアスを転移できても遺跡を転移失敗って可能性があったからな、確実に入手しておきたかったんだこれが」

 

「それで、リゼヴィム様には話は通ったのか?」

 

「魔術師はちゃんと交わした契約は守る。俺が脅してる相手にあいつが聞けば、さすがに嘘もごまかしも言わねえよ。そういう連中を選んで聞くから安心しろ」

 

「そうか。報われる・・・などとは言わないが、これでようやく確証が持てる」

 

「そうなればこっちにも得だしな。ああ、安心しろよディハウザー・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王の駒の真実は、俺たちが必ず暴いてやる」

 




フィフスが裏で暗躍してます。彼はケイオスワールドを代表とする悪役なので、ぜひ活躍を期待してください。とんでもないことをやらかします。


それはそれとして久遠大活躍の回。敵の疑似サーヴァントを撃破し、最難関の欠点を導き出すのに協力し、とどめに味方の剣士組の半分近くへし折りました(笑

オリジナルのせいばーの場合ステータスも高いのでさすがにこうはいきませんが、セイバーの能力で引き出せるのはあくまで県の性能だけなので、剣の性能にこだわらずに相手を切り殺す技量を変化させなければこっちは模倣されません。

・・・ようは、サーヴァントを殺せるだけの霊的加護があればそれ以外はナマクラ刀でもいいんです。限界を超えて性能を引き出せるような一級品サーヴァントでなければこちらの方が対処法としては簡単です。




それはそれとしてファニーエンジェル編。・・・ここまで到達したD×D作品ってあとどれぐらいあったっけ? 長かったなぁ。

ファニーエンジェル編を担当する兵夜ラヴァーズは小雪です。原作における方向性から逆算して、彼女が一番ふさわしい展開を用意できると思いました。

そしてそれはそれとしてケイオスワールド史上、最も頭悪い戦いも勃発します。直接兵夜たちが巻き込まれる規模なら最大級の危機がD×Dを襲う!!


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キャラコメ 第16弾!

兵夜「はい、そういうわけで教員研修のヴァルキリー編開幕! そういうわけで今回のゲストは!」

 

久遠「はいはいー! 今回大暴れした桜花久遠先生ですー。そしてもう一人のゲストも先生だよー」

 

ロスヴァイセ「よ、よろしくお願いします! ・・・こ、これ大丈夫っぺか? 化粧とか、大丈夫だか?」

 

兵夜「どちらかというと方言を気にしてください。あと化粧は最高です」

 

久遠「それじゃあ行くよー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久遠「いきなり特訓へんだけど、イッセーくん圧倒とかたいがいだよねー」

 

ロスヴァイセ「すでに最上級悪魔クラスのはずなんですが、すごいですね」

 

久遠「種があるからだけど、人型相手の接近戦だと無敵くさいからねー。逆に遠距離タイプは苦手なんだけどねー」

 

兵夜「まあ、タネはデュランダル編で話すとして、ここでついに内容が語られるわけだ」

 

ロスヴァイセ「改めて聞くと、ベルさんがいかについてないかよくわかりますね」

 

久遠「ほんとだよー。まともな国家なら、あの才能絶対いかしてくれそうなのにー」

 

兵夜「まあ、人間兵器として利用する裏社会の組織もあるからそういう意味ではまし・・・いや、生活環境はそれでもあっとうてきにひどいな」

 

久遠「だからベルさんがっついてるしねー」

 

ロスヴァイセ「ようやくまともな教えが受けられそうですからね・・・。能力はそのあたりを含めて設定しました?」

 

兵夜「まあな。超度そのものは4か5だが、その分技量と精密動作で補う技巧派だ。おそらく原作最強クラスでも苦戦するぞ」

 

久遠「実力者だねー」

 

兵夜「そして俺は俺で孫悟空相手に完封された・・・っ」

 

ロスヴァイセ「蒼穹剣、すごい自信あったんですね」

 

久遠「まあ、ハーデス瞬殺した切り札だもんねー」

 

ロスヴァイセ「機動力とは盲点でしたね。真正面から相対しなければ攻略可能とは、グレモリー眷属らしい欠点というかなんというか」

 

久遠「まあ、攻略法はいくつもあるもんねー。一人にしか効かないから数で襲えば効果は減るし、解析する前に一発勝負で仕留めればそれでも勝ち目はあるしー」

 

兵夜「そのあたりはオカ研メンバーで協力して補うつもりだったんだよ。実際俺らが全員で挑んでどうにかできないやからなんてごく一部だろ?」

 

久遠「若手の戦力じゃないよねー」

 

ロスヴァイセ「あと宮白くんの思考傾向も分かりましたね。短期決戦重視ですか」

 

久遠「まあ、兵夜君の来歴を考えれば当然だよねー。言われてみればそういうところあるし」

 

ロスヴァイセ「確かにこの思考では、特化型の戦力を中心に編成するはずです。短期決戦なら長所を即座にぶつけてもぼろは出ませんから」

 

久遠「まあ、向き不向きの話だから仕方がないけど、これからは数がもっとたくさんいる戦争的な戦いになるから気づいてよかったよー」

 

兵夜「ああ、何とか模擬戦か何かで経験しておきたいところだ」

 

ロスヴァイセ「そういう意味では桜花さんのようなタイプが必要ですね。・・・眷属を作る時はベテランからトレードしてもらってはどうですか?」

 

兵夜「確かにそれが一番か」

 

久遠「それはそれとして政治力の高さは褒められるよねー」

 

兵夜「というより、三大勢力の首脳陣がそろってリベラルかつ柔軟すぎるんだよ。・・・早い、動きが速い」

 

ロスヴァイセ「確かに聞いた時は驚きました」

 

兵夜「大方きっかけさえあれば自分から言い出すつもりだったとは思うが、全員その気満々だったからとんとん拍子にもほどがある。末端の連中がついていけてないんだ」

 

久遠「でも、下手をするとすぐに全滅戦争起きかねないから急がないといけないしねー。チャンスは逃がせないよー」

 

兵夜「わかってるから大変なんだ。宗教ってのは正義の定義だから、違うやつらを悪と断定しやすいんだよなぁ」

 

久遠「わかるよー。そういう理由の戦争も多かったからねー」

 

ロスヴァイセ「なんというか、考えさせられる話ですね。人間界でも戦争が起きそうですし・・・っていうか」

 

兵夜「ん? どうしました?」

 

ロスヴァイセ「人間世界の云々、原作には出てきてませんから、これ確実にクリフォトが関与してるのでは・・・」

 

兵夜「まあそうです」

 

久遠「あっさり断言ー!? 割とネタバレじゃないの!?」

 

兵夜「つってもこれ怪しすぎるって。たぶんほとんど気づいてるし、名前からしてもろわかりだし」

 

久遠「ああ、あの名前ってそういうー」

 

 

 

 

 

 

 

 

久遠「ロスヴァイセさん、ヒロイン候補だったんだねー」

 

ロスヴァイセ「も、もしかしたら宮白くんと・・・わ、わたすったら何考えてるんだべ!!」

 

兵夜「・・・あ、鼻血出た」

 

久遠「ロスヴァイセさん魅力的だもんねー? どう、挟んでほしいー?」

 

兵夜「彼女が不倫をあおるな!! ああくそ、飲まねばやってられん!!」

 

ロスヴァイセ「何教師の前で学生がお酒飲もうとしてるんですか! あなたまだ高校生でしょ!!」

 

兵夜「あ、しまった!!」

 

ロスヴァイセ「まったくもう。断った理由が誠実なので評価を上げましたが、やっぱり宮白君はイッセーくんよりひどい問題児ですね」

 

兵夜「まあそうなんですけど、一応自覚して隠すぐらいの気は使ってますよ?」

 

久遠「気を遣うっていえば、まさか女遊び全部捨ててくれてるなんて思わなかったよー」

 

ロスヴァイセ「ある意味変な方向でまじめともいえるような・・・」

 

久遠「もうちょっと遊びに寛容だったら、ロスヴァイセさんとあんなことしてたのかー」

 

兵夜「まあ、ほかの作品を書くんだったら原作ヒロインを攻略する話になるかもな。・・・実際、ロスヴァイセさんかイリナぐらいが限度かと思ったけど攻略方法はいくらでもあったし」

 

久遠「イッセーくんにオリジナルヒロインを作るって方法もあるもんねー」

 

ロスヴァイセ「・・・宮白君とデート。あれ? そっちの方がうまくいったような気が・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久遠「デートといえばこうなるけど・・・」

 

ロスヴァイセ「な、なにを見てるんですか!! 恥ずかしいじゃないですか!!」

 

兵夜「あ、ひどい! 誰のおかげでデート最後までできたと思ってるんですか!!」

 

久遠「いや、中断するべきじゃないのかなー」

 

兵夜「なにを。偽装とはいえロスヴァイセさんの初デートを台無しにするわけいかないだろうに」

 

ロスヴァイセ「や、やめてください!! ・・・ぐっときちゃうじゃないですか」

 

久遠「そういうところだけ見せてたら、兵夜くんもっともててただろうねー」

 

兵夜「にしてもユーグリッドはきもい奴だった。まさかあんな理由で接触を図るとは・・・」

 

久遠「いや、ヘリと専用部隊とドローンまで用意してデートを見守る兵夜くんもたいがいだからねー?」

 

ロスヴァイセ「堂々と一緒に参加する桜花さんもたいがいなような・・・」

 

兵夜「まあ、フィフスたちに比べればまだましなんだが」

 

ロスヴァイセ「列挙されてましたけど、確かに秘匿の必要がなくなっている宮白くんの世界がイレギュラーですね」

 

兵夜「どいつもこいつもオープンすぎる。なぜ禍の団は堂々と公表してないのか・・・」

 

久遠「いや、一応魔法世界(ムンドゥス・マギクス)は地球からは秘匿されてるからねー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

久遠「やっと学校出来たよー!!」

 

ロスヴァイセ「本当に良かったですね。あと宮白くんも頑張りましたね」

 

兵夜「のちの眷属悪魔の確保には必要不可欠ですから。・・・ほんと、眷属悪魔は魔術師と個々の卒業生をメインにして集めよう」

 

久遠「気を使ってくれてありがとうー! 愛してるー!」

 

兵夜「俺もさ!!」

 

ロスヴァイセ「ゴホンッ!! ・・・それはそうですが、確かに個体の差が大きいと努力の価値が軽んじられそうですね。冥界で教育が進まないのも納得できます」

 

久遠「この作品、時々こういった考察されてるよねー」

 

兵夜「ファンなら考察の一つぐらいするさ。まあ、実際はそこまで考えられてないだけだろうが」

 

ロスヴァイセ「それにしても、桜花さんの指導能力は本当に高いですね。これ、冥界で神鳴流が大流行するのでは」

 

兵夜「俺の騎士、神鳴琉使いで統一しようか・・・」

 

久遠「いやいやー。人に教えるのって楽しいねー」

 

ロスヴァイセ「後、ここで大事なことに気づいた桜花さんですがこのあとすごいことになりますね」

 

兵夜「やっぱりこいつも天才タイプだ。それが理論までしっかりしてるんだから恐ろしい」

 

ロスヴァイセ「そして宮白くんの講座ですが・・・」

 

久遠「うん、生徒のやる気を伸ばすことに特化してるねー。特別講師向けじゃないかなー?」

 

兵夜「因みにこれは作者の教訓だ。・・・子供は遊びたがりだから勉強させるのが難しい」

 

久遠「あー。授業中おしゃべりしてばかりのせいととかいるよねー」

 

ロスヴァイセ「そ、そういうのもいるんですか・・・。本格的に教師になったら苦労しそうだわ」

 

久遠「あと、血統主義を決して否定しないところもポイントだねー。厳しい現実をあえて突き付けたうえで可能性を提示してるー」

 

ロスヴァイセ「そうですね。半端に希望だけを提示されるより、苦労している現実をちゃんと突きつけられてるからやる気が変わりそうです」

 

久遠「もとからあるものを吸収するのは比較的楽・・・かー」

 

ロスヴァイセ「それはそうですね。そういった積み重ねがあるから文明は発達してきた。それはアースガルズでも変わりません。親からの・・・受け継いだ・・・うう」

 

久遠「あー!? ロスヴァイセさんが思うところあって落ち込んだー!!」

 

兵夜「ロスヴァイセさん落ち着いて!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久遠「それはそれとして、兵夜君はドライなところは本当にドライだねー」

 

ロスヴァイセ「実践においてこそ切り捨てねばならないものがある。なかなか受け入れにくい現実ですね」

 

兵夜「まあ、魔術師は冷血な生き物ですし。うちの面子はどいつもこいつも温情ありすぎだから、俺一人ぐらい傾いてないとバランスが取れないでしょう?」

 

久遠「何かあってからじゃ遅いし、届かない希望は呪いだもんねー。確かに必要な時はきちんとあるよー」

 

ロスヴァイセ「でも、だからこそちゃんと対策も立てるんですよね。・・・本当、好きになっちゃうところだったんだから」

 

兵夜「・・・・・・・・・」

 

久遠「あ、顔真っ赤だねー? イッセーくんから略奪愛かなー?」

 

兵夜「お、俺がそんなことするわけないだろうが!!」

 

ロスヴァイセ「ふふっ。ええ、そういう人ですよね宮白君は」

 

久遠「でもまあ、一度失敗したからちゃんと対策するあたり念を入れてるよねー」

 

兵夜「俺だからこそできる手さ。こういうのは、こいつはやるかもしれないと思わせれば注意をひきつけれるからな」

 

ロスヴァイセ「それはそれとして、ここにきてクリフォトが強襲ですか。実際のところは利用されたわけですが・・・」

 

久遠「この時点でまさか彼が裏切るなんて想定外だもんねー。いやー、兵夜君の情報網がなければ危なかったー」

 

兵夜「情報を制すものは世界を制す。そして準備はちゃんとしてる方が基本有利!」

 

久遠「ちゃっかりドラゴン対策量産してるし。あ、でもこれ名言かも」

 

ロスヴァイセ「確かに、人の育成は資材と時間だけじゃ無理ですからね。そういういみでは優れた兵器を保有している国家が列強なのは当然です」

 

兵夜「そう、それこそが人間の力。個の質の差を補う方法を開発することこそ人類の発展。・・・まあ、その極致が敵にいるのが厄介なんだけど」

 

久遠「キャスター・・・」

 

ロスヴァイセ「エデンも・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

ロスヴァイセ「そして戦闘が開始されましたが、デッドコピーですらこれとはセイバーは本当に脅威ですね」

 

兵夜「うち、伝説の剣が多いからなぁ。実際のところ、通常の聖杯戦争じゃほとんど意味がないからはずれなのに」

 

久遠「ほとんど癖が強いのに、すごく大暴れしてるよねー。ランサーですらグレモリー眷属を空中分裂寸前まで追い込んでるし」

 

ロスヴァイセ「まあ、だからこそそれ以上に桜花さんの反則っぷりが際立つのですが」

 

兵夜「ぐうの音の出ない正論って、時として相手を傷つけるよな」

 

久遠「いや、まさかここまで追い込むとはー」

 

ロスヴァイセ「それはそうですよ。伝説の剣の担い手に選ばれたなんて、普通に考えれば自信にしかなりません。それが実力不足で劣化互換のデットコピーに負ければ屈辱なのに・・・」

 

兵夜「剣の性能にこだわってたという欠点を、人を切り捨てる技量だけで勝つという突きつけ方されればそりゃ落ち込む」

 

久遠「いやー。思いついた時はそれで頭がいっぱいでー」

 

ロスヴァイセ「というより、今までそれで何とかしてきたことが驚きです。・・・なんていうか、ちぐはぐすぎですよ?」

 

兵夜「それで早々とまともに張り合うとか、あいつ泣くぞ?」

 

ロスヴァイセ「剣の力で切るのではなく、剣を使って切る・・・名言ですが威力が大きすぎましたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロスヴァイセ「そして戦闘も佳境ですが、ザムジオがサイラオーグを抑え込んでますね」

 

久遠「若手純潔悪魔でも、屈指の実力者同士だからねー。そりゃ抑え込まれるよー」

 

兵夜「そしてサイラオーグ・バアルが抑え込まれている間にこっちはこっちで佳境に突入。敵も集中的に戦力を投入して仕留めようとしてきている」

 

ロスヴァイセ「要所に戦力の集中投入。戦術の基本ですね」

 

久遠「全体に戦力を分散させて総合力を高めるのも一つの王道だけどねー。最近はこういった戦い方の方が主要になってきてるねー」

 

兵夜「そしてこの段階で敵の本命は阻止できたわけだが・・・。あの野郎そこまで考えていたとは」

 

久遠「これ、フィフスは私達のうち一人でも仕留めようって腹だったよねー。邪龍は再生がきくから使いつぶせるしー」

 

ロスヴァイセ「小猫さんの封印術があるから痛恨のミスでしたけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久遠「うわー。豪獣鬼を平然と投入するとか疑問はあるけど・・・うわー」

 

ロスヴァイセ「勢い任せだったんでしょうけど、完全に告白してますね」

 

久遠「これで一緒にデートできるよー。今度はどこにダブルデートしようかなー」

 

ロスヴァイセ「そして躊躇することなくダブルデートをする気ですね・・・」

 

兵夜「これに比べれば俺なんてまだましでしょう?」

 

ロスヴァイセ「いえ、宮白君の方がひどいというか気持ち悪いというか・・・」

 

兵夜「貴女がひどいよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そしてグレンデルも撃破。ふっふっふ。特化型ははまると強いのだよ」

 

久遠「多種多様な装備を運用できて、しかもそれを強化する―」

 

ロスヴァイセ「考えてみればすごい組み合わせですね。相性もいいんじゃありませんか?」

 

兵夜「そうでしょうそうでしょう。そんな俺の反撃ムードを曹操の奴!!」

 

久遠「これ、京都で神格がなじんでたら負けてたんじゃないかなー」

 

兵夜「曹操もうっかりするタイプだったのが幸いだった。考えてみれば致命的に危ない!!」

 

ロスヴァイセ「いやな共通点が多いですね。あと、ファーブニルは頭が痛いです」

 

兵夜「俺、いまだに記憶が戻らないんだ」

 

久遠「お、思い出さなくてもいいような気がしてきたー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロスヴァイセ「本当、本当にその節はありがとうございました!!」

 

久遠「兵夜君ファインプレー! 学校守ってくれてありがとうー!!」

 

兵夜「本当にひどかった。本当に・・・ひどかった」

 

ロスヴァイセ「確かにグレイフィアさんは素晴らしい方ですが、しかし彼実の弟でしょうに」

 

兵夜「シスコンってこじらせると大変だということがよくわかる一日だった・・・」

 

久遠「あと割と名言もぶちかましたねー」

 

ロスヴァイセ「ええ、やっぱり宮白君はかっこいい人です。才能重視の魔術師なのに、努力の大切さも知っているだなんてすごいのでは?」

 

久遠「才能は才能でちゃんと考慮して、そのうえで別の切り口で考えてるもんねー。結構そういう風に考えるのは難しいよー」

 

兵夜「何も同じ土俵で勝負する必要はないってことだよ。ほら、料理するのに魔力は必要ないだろ?」

 

久遠「足りないものを一生懸命補った兵夜君だからこそかっこいいよー」

 

ロスヴァイセ「下級のままで人生を充実させれる。学園の生徒はこんな人に守られて幸せ者です」

 

久遠「そりゃそうだよー。私の愛人だもんねー」

 

兵夜「そ、それはともかく!! ユーグリッドはハメ手で瞬殺してラストバトル!! ボスは強敵ふんどしだ!!」

 

ロスヴァイセ「そういえば、桜花さんは小猫さんの仙術がきいてましたね」

 

兵夜「そこから引っ張ってきました。何分あいつチートすぎるから、消耗している俺たちじゃ全滅しかねない。よくても何人か再起不能は確実だ」

 

久遠「過去の設定から見事に引っ張ってきたいい戦いだよねー」

 

ロスヴァイセ「しかし小猫さんまでおっぱいネタですか・・・。最終的にイッセーくんはどこまで行くんでしょうか?」

 

兵夜「すごいのだします」

 

ロスヴァイセ「不安しかないんですが!?」

 

久遠「そういえば、あれって結局何だったのー?」

 

兵夜「意識喪失と血のりの噴出を行うペンダント。人質は生きていないと意味がないから、あれで不意を打つ作戦だったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして戦いは終わったけど・・・」

 

ロスヴァイセ「私がおばあちゃんにからかわれている間に、犠牲者がたくさん出てますね」

 

兵夜「あれはたぶん本気だと思います」

 

久遠「う、うぉー・・・」

 

兵夜「剣士組の主力はことごとく精神を深く傷つけられた。アイデンディティの喪失といっても過言ではない」

 

ロスヴァイセ「確かに、自信の源を全否定されたようなものですよね・・・」

 

久遠「そ、そんなつもりはー」

 

兵夜「あと会長も大打撃だな。まあ、勢いに任せて告白した匙も悪いが」

 

ロスヴァイセ「原作だと確かまだだったような気が・・・」

 

兵夜「そこはサービス。作者は匙のことも大好きだから」

 

久遠「でもまあ、別に冥界はハーレムOKだから桃さんも瑠々子ちゃんも問題ないよねー」

 

ロスヴァイセ「あの二人、なんで恋のさや当てやってるんでしょう」

 

兵夜「それはそれとしてアドバンテージ取りたいんでしょう。イッセーハーレムもそんな感じですし」

 

ロスヴァイセ「改めて、むしろバランスとることを仲良く協調する宮白ハーレムが異質に見えますね・・・」

 

久遠「えー? だってみんな大事な人だからねー。そりゃ不公平は是正するよー」

 

ロスヴァイセ「なんていうか、ハーレムというより共生態ですね」

 

兵夜「なんか変なことになってきたけど、それはそれで」

 

久遠「そしてちゃっかりフィフスはまた勝っちゃってるよー。隊長もちゃっかり逃げ出してるしー」

 

ロスヴァイセ「この時点で皇帝が内通者だなんて誰も想定してませんもんね。骨折という大けがも、ふんどしの脅威を知っていれば違和感を抱きませんし」

 

兵夜「何より厄介なのが、悪魔の駒のベースマテリアルを奪われたこと。これと皇帝の情報を合わせると・・・」

 

久遠「考えたくないー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そういうわけで今回はこの辺で終了!」

 

ロスヴァイセ「次回はD×Dでも屈指の闇が現れるファニーエンジェル編ですか」

 

久遠「私は参加してなかったんだけど、その割にすごい展開だったんだってー?」

 

兵夜・ロスヴァイセ「「・・・はあ」」

 

久遠「な、なんか落ち込んでるから今回はこの辺でー! 次のゲストにも期待してねー!」

 

 

 

 

 



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生誕祭のファニーエンジェル
大絶賛、煮詰まってます!


ファニーエンジェル編スタートします。

キャラコメ作ってから最近筆が乗って筆が乗って。


 

 物事は、地道にやるのが意外と近道である。

 

 その辺に関しては心の底から断言できるものだ。だって俺がそうだもん。

 

 急激な進化発展なんてものは、その分反動もでかいもんだ。やっぱりこういうのはしっかりとした積み上げってものが大事なのであって、基本は重要だ重要。

 

 俺がいろいろ評価されているのも、一生懸命二つの成長期を基礎を中心に鍛え上げたからだ。

 

 つまりは日々の修業は大事である。スポーツ選手だって定期的にトレーニングしないとすぐになまるしな。

 

 そういうわけで毎日トレーニングするのはまあいんだが・・・。

 

「・・・そろそろいいでしょう。次は私の番ですよ! すぐに代わりなさい」

 

「いや、まだこの程度では納得できない。もっと待ってくれ」

 

「そうはいかない。次は私の番だろう!」

 

「いや、あの、休ませてほしいなーってー」

 

 そろそろ止めないと久遠が死ぬ。

 

 かれこれ半日にわたりぶっ続けで久遠がトレーニングに付き合わされている。

 

 相手は先日心をへし折られた剣士組。伝説の剣をかき集めて英雄のまがい物に遊ばれた挙句、剣士の本質を見せつけられて心底落ち込んだ連中だ。つまり木場とゼノヴィアとアーサー。

 

 なんだかんだでイッセーやヴァーリの影響を受けているだけあって、ネバーギブアップ精神で何とか復活した。そして剣の性能に頼るのではなく、剣が頼ってくるような剣士になろうと一念発起。あれ以来一生懸命切磋琢磨して特訓している。

 

 特訓しているのだが・・・。

 

「お前ら自分でやれ! いい加減久遠を巻き込むなっていうか、こいつアウロス学園の事業でも忙しいんだからセーブしろ!!」

 

 そう、見せつけてしまった久遠をトレーニングに巻き込んでいるのである。

 

 因みに修行そのものは経緯もあって普通の木剣だが、それをもってすることで純粋な技量そのものを上げようとしているのだ。

 

 一回一回ごとにサイズや長さも変えることで全体的に向上を目指している。追加でいえば木場は剣の種類も自由に変更できるのだから、そりゃあ効果はあるだろう。

 

 だけど久遠巻き込むなよ! 過労死するぞ!!

 

「邪魔をしないでいただきたい。・・・あなたとは一度戦ってみたいと思っていたのは前にも言ったと思いますが?」

 

「そうだよ宮白くん。彼女と競い合えばぼくたちはきっとより高いところに到達できるはずなんだ」

 

「剣士としてここは譲れない。どうしてもいうのなら私たちを倒してもらおうか!!」

 

「うんじゃあ全員地獄見ろ」

 

 さっさとイーヴィルバレトを出して速攻でぶっ放す。

 

 とりあえず弾丸は麻酔弾だが、しかし躊躇は全くしない。

 

 安心するがいい、魔術的な加工をしているから過剰な量は体外に排出されるぞ?

 

「うわ本気で撃ってきたぞ!?」

 

「宮白君容赦ないね!? だがこれを切り払えば・・・」

 

「いいでしょう、より高みに至るためにあなたをまず倒させていただきます!!」

 

「お前らしつこすぎるわ!! 久遠いいから戻っていいぞ。・・・明日は明日であれだろう」

 

「え!? あ、・・・はい」

 

 珍しく後半を伸ばさず、顔を真っ赤にしてそのまま逃走を開始する久遠。

 

 ふむ、さて、男して・・・うん。

 

「お前ら全員覚悟しろ。神喰いの神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)の神髄は下馬評壊しと知るがいい!!」

 

 この日、身内の喧嘩で伝説クラスの聖剣魔剣に連なるものが大暴れするという珍事が勃発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 あまりのあれっぷりに近づけない。

 

「なあヴァーリ。アーサー止めて来いよ」

 

「兵藤一誠こそ行ったらどうだ? 俺としてはこういうのもお互いと高めあって面白いと思うんだが」

 

 そりゃすごい戦いだとは思うけどさ、だけどあれはねえだろ。

 

 なんでも木場たちは最近トラウマができたとかで、その原因の桜花さんとの特訓で乗り越えようとしてるらしい。

 

 木場はここ最近いつもグラムをどう使うかにとらわれていた節があるし、これでいい感じに落ち着いてくれるといいんだけど。別の意味で困ったことになっていた。

 

 いくら魔剣の性能を引き出しても上をいかれて絶望しかけてたら、剣士の技量で上回って勝利をつかまれたらしい。うん、ゲームとかでもそういうタイプいるよね。キャラクターの性能を引き出すことに特化しているタイプと、どのキャラクターを使っても勝てる戦い方を作ってくるタイプ。

 

 そりゃ使うもの選ばなくていいんだから優れてるのは桜花さんの方だ。俺たちなんだかんだでいろいろなものに選ばれてるから、そういうの無しでも強いってのはちょっと勉強になる。

 

「あの件についてはおれも反省したよ。魔王末裔だの白龍皇の末裔だのにとらわれすぎていたのかもしれないな、俺は」

 

 ヴァーリがすごい感慨深げに言う。

 

 ああ、そういえばこいつが一番そういう設定すごかったっけ。

 

「まあいいことじゃないかしら? どんなことでも研鑽というか経験と学習は必要よ?」

 

 と、アーチャーさんが酒瓶片手にやってきた。

 

「飲みなさい。蜂蜜酒をベースに作った身体調整用の薬用酒よ。断裂した筋繊維の回復を助けてくれるわ」

 

「礼を言おう。それと、例の件はよろしく頼む」

 

 と、アーチャーさんとヴァーリが俺にはわからない話をし始める。

 

「え? いったい何の話?」

 

「ああ、悔しいが、魔王の血の濃さではリゼヴィムに負けるし、白龍皇の光翼でリゼヴィムを倒すのは悪手だ。極覇龍を極めればいわゆる処理落ちを狙えるかもしれないが、それではあまりに効率が悪い」

 

 ヴァーリは悔し気に、だけど穏やかにそういった。

 

「本当に桜花久遠の戦いは目が覚めるようだった。俺はおろかにもあの二つにとらわれていたが、それ以外にもアプローチの方法はあったのだ」

 

 その目は、なんていうか探し物をようやく見つけたような輝きがある。

 

「そういうことにゃん? これから白音と一緒に手取り足取り教えてあげるわ」

 

「まあリアスさんにも頼まれましたし。その代り面倒ごとを起こさないでくださいね?」

 

 と、黒歌とロスヴァイセさんがいろいろ本も持ってきながらヴァーリのところにやってくる。

 

「え? どういうこと?」

 

「宮白兵夜も奴と戦っていた時に取った手段さ。神器以外の攻防手段を鍛え上げ、それをもってして奴にぶつかる」

 

 ヴァーリはニヤリと笑みを浮かべる。

 

 ああ、やっぱこいつバトルジャンキーだよ。

 

「魔法攻撃ならば奴にも通用するだろう、それをもってしてあのくそ野郎を切り刻んでやるさ」

 

 リゼヴィムも馬鹿なやつだ。こいつ怒らせてただで済むわけないだろうに。

 

「まあ、今日のところはさわりだけね。私もこれから忙しくなるからそれが終わってからにしてもらうわよ」

 

 と、アーチャーさんはちゃっかり蜂蜜酒を飲みながらそう言った。

 

「あれ? 何かあるんですか?」

 

 確かに最近は最近でD×Dとしての仕事が多かったけど、それ以外の魔術師組合の仕事はひと段落住んでその分楽ができそうだったけど・・・。

 

「何言ってるのよ。もう一月切ってるのよ?」

 

 ひと月? 今月は12月だけど・・・。

 

「あ、いたいた!」

 

 と、イリナの元気な声が響いてきた。

 

 それについてくるのはアーシアや朱乃さんに、青野さんまで!

 

「よ、ヴァーリ。コンビニで新作出てきたから買ってきてやったぜ?」

 

「お、それはいいな。礼を言うよ、小雪」

 

 青野さんから新作のカップ麺を渡されて、ヴァーリは表情が明るくなった。こいつ本当にラーメン好きだな。アザゼル先生からうかつに触れるなといわれたわけだ。

 

「それでアーチャー。採寸は確か今日だったよな?」

 

「ええ。ようやく少し暇ができたし、今のうちに仕上げておかないと」

 

 ?? 青野さんたちがにこやかに話してるけど、いったい何の話だ?

 

「え? 何の話?」

 

「あらあら、イッセーくんったらわかりませんの? すごく好きそうですのに?」

 

 朱乃さんまでいったいなんだ? 何の話?

 

「イッセーさん、日本ではクリスマスは友達や恋人と過ごすって本当ですか?」

 

 アーシアが小首をかしげてかわいい声でそう聴いて、ようやく俺は思い至った。

 

 そうだった! クリスマスのことすっかり忘れてた!!

 

 クリスマス。そう、クリスマス。冷静に考えろ!

 

「・・・うおっしゃああああああ! オカ研のサンタコス見放題だぁあああああ!」

 

「ちょっとうるせえよ!」

 

 青野さんに怒鳴られたけど、だけどこれは興奮するほかない!

 

 ミニスカサンタに身を包んだリアスやアーシアたちの姿! くそ、想像しただけで鼻血が!!

 

「あまり露出が多すぎると寒いだろうから気を付けるけど、あなたも気に入りそうなものにするのは約束するわ」

 

 アーチャーさんありがとうございます! あなたほどの匠なら最高のものができる!!

 

「鼻血出すほど興奮すんな」

 

 あきれ果てた青野さんの言葉なんて聞こえない。ああ、待ってましたよ待ってました!!

 

 ああ、でも想像するとすっごく興奮するなぁ。今からでも楽しみだなぁ。

 

「感謝しろよ。本当ならこういうのは参加しないし、できれば兵夜にだけ見せる気だったんだぜ?」

 

「それが、宮白さんは今回はイッセーさんたちとも一緒に楽しみたいとおっしゃいまして」

 

 ・・・宮白、まさか、俺に四人のサンタ姿を見せるために!?

 

「単純にイッセーが好きすぎて割り切るのが難しかったからでしょう。普通に考えれば今後は四人を優先するべきだけど、こんな状況になるなんて想定できなかったから心の準備がついてないだけではなくて?」

 

 あ、そりゃそうか!

 

「ま、まーな? 朱乃に見せる分には別に構やしねーし、アザゼルも来るだろうからバラキエルにも声かけといたんだけどよ?」

 

 あ、青野さんも結構宮白要素強いよね。

 

 なんていうか、アザゼル先生とバラキエルさんは親代わりって感じなのか。そっか、年離れてるもんな。

 

 ちょっと不思議に思ってたんだよ。仮にも異性のアザゼル先生やバラキエルさんが宮白にとっての俺なら、恋愛感情に発展してもおかしくない気がするし。

 

 そっか、親代わりって感じなんだ。まとも側なんだよな青野さん。

 

「あらあら、でも私は小雪と一緒に()()な恰好がしたいですわ♪」

 

 と、朱乃さんが青野さんにしなだれかかる。

 

「ちょ、あ、朱乃!?」

 

「聞いてますわよ? 宮白くんは女の子同士の絡みが大好きだって。イッセーくんだって嫌いではないでしょう?」

 

「超興奮します!!」

 

 うん、なにせ俺も宮白に教育されてるからね!

 

 おっぱいのすばらしさは俺もしっかり伝えたけど、それとは別で女の子同士のすばらしさは伝えられてるからね!!

 

「あ、あううう。主の教えとしてはどうすればいいか・・・」

 

「最近は寛容になっているし、今は悪魔なんだから深く考えなくてもいいだろう」

 

 困惑しているアーシアにヴァーリがアドバイスしてる。

 

 意外な展開に驚いてるけど、それより目の前の姿に目が離せないぞ!!

 

 朱乃さんの手はエロい手つきで青野さんの躰をなでる。

 

 宮白が開発したのか、青野さんは見事に反応して時々震えるのがすごくエロイ! エロいですよみなさん!

 

「日本のクリスマスでは恋人同士がそういうことになるのも珍しくも何ともありませんし、どうかしら、どうせなら一緒に二人を・・・」

 

「い・い・か・げ・ん・に・・・しろ!!」

 

 ・・・あ、頭突きが入った。

 

「あ痛!? ・・・ちょ、ちょっとぼけただけですのにこの威力はないじゃない!?」

 

「なにを阿呆なこと言ってんだ! ふぁ、ふぁふぁふぁファック!!」

 

 そのまま顔を真っ赤にして、青野さんはトレーニングルームから外に出て行った。

 

「もうかわいいんだから。そういうところがあるからいじめたくなっちゃいますのよぉ~」

 

 そして朱乃さんもそれを追いかけて行って、俺たちは顔を見合わせる。

 

「やっぱあの二人仲いいよな」

 

「幼馴染なのでしょう? 気心が知れた間柄がいるのはいいことだわ」

 

 アーチャーさんが大人の余裕でそう言いながら、氷入りの水を魔術で用意してくれる。

 

 助かった。ちょっと興奮しすぎて頭が熱かったんだよ。

 

「でもちょっと乱暴ではないでしょうか? 小猫ちゃんのツッコミよりも鋭くて痛そうなんですけど・・・」

 

「まあそうだろう。以前あいつの体術を教えてもらおうと思ったが、断られたことがあってな」

 

 と、アーシアちゃんの疑問にヴァーリが答える。

 

「え? 断られたの? あの人面倒見がいいから教えてくれそうだけど」

 

「そうなんだ。「あたしの技術は高速接近してからの暗殺特化だ。戦いを楽しむような奴が習得する類じゃねーよ。捌き方だけ教えてやるからそれで終われ」・・・とのことだ。実際一撃の破壊力の大きさより、一般人レベルの急所を一撃で貫くのが本懐の動きでだったよ」

 

 ・・・あの人の前世って、俺たちの誰よりも悲惨な過去だよなぁ。

 

 ベルさんや木場もなかなかだけど、積極的に暗殺の道具として使われたこともあるらしいし、やっぱ一番悲惨かもしれない。

 

「それに、別にそんなにひどいことはしてないさ」

 

 と、ヴァーリは悪戯を思いついた子供のような表情を浮かべて出て行った先を見る。

 

「あいつがツッコミと同時に暴力をふるうだなんて、実はそんなめったにあるもんじゃない。基本的には大きく二つに分けられて、うち一つは即座にたたき伏せないと暴走することがわかりきっている相手だ。いわば鎮圧だな」

 

「もう一つはなんですか?」

 

 アーシアがかわいく小首をかしげるが、ヴァーリはあまり気にしないでさらりと続ける。

 

「・・・少しぐらい暴力をふるっても苦手意識を浮かべない、アザゼルとかだ。つまりあいつなりの甘え方なんだよ」

 

 ・・・へえ、甘え方かぁ。

 

 そういえば、宮白たちには躊躇ねえし、朱乃さん相手にも出てたよなぁ。

 

「ってことはちょっと残念かもな」

 

「はい、そうですね」

 

 俺とアーシアは二人そろってちょっと残念な気分だった。

 

 だって、俺たちそこまで気安くなってないってことだもんな。

 

 ・・・できればもっと気安くなってほしいんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ファニーエンジェル編は小雪変です。

他と違っていろいろとあるから、話のタネがかなりあります。とはいえD×Dで出すには暗すぎるのですが、一つ出してみようと思いました。


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二重で、デートです!!

活動報告更新しました。

興味があるならぜひコメントで報告ください。前向きに善処します。


 ある晴れた日、俺は久遠とデートに出かけた。

 

 ほかの連中はどうした、なんて質問は受け付けない。そんなもんしてるにきまってるだろう。

 

 別々にデートするときはもちろんあるし、五人そろってデートに出かける時だってもちろんある。場合によっては何人かだけでデートって変則パターンもあるし、特に隠されてないけどあいつらだけでほぼデートと言っていいようなことしてる時だってある。

 

 最近俺を一番上の頂点とした四角錐のような関係に収まってるからな。まあ特殊だけどいい関係ではあるだろう。

 

 それはともかく、今回のデートは服の買い物中心だ。特に女の子の服を買うが、男共もマフラーを買ってもらうことになってる。

 

 最近ぼろかったしちょうどよかったが、しかしこれは大事にしないと。あと手編みのマフラーとか作るつもりだったがこれは避けとかないと女のプライドを粉砕しかねないな。

 

 しかしまあ、今の久遠は人生でもトップクラスのいい表情だ。

 

 なんだかんだで普通の女の子の側面も見せてくれるからいいが、面倒見のいいお姉さんとしての側面も見れて面白い。

 

 俺らといるときは面白がってからかう立場に来ることも多かったからな。こういうのを見れるのも新鮮だ。

 

「・・・なあ、これはこれでいいものだと思わないか、匙」

 

「・・・いや、なんでこうなった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大体わかったと思うが、これはダブルデートである。

 

 会長と匙のデートに対して、サポートメンバーもかねて俺と久遠がセットでついてきてるというわけだ。

 

 前座でカラオケ行ったときに、調子乗って魔法少女の歌をメドレーで歌ったのもいい思い出だ。姉に付き合わされている会長もそこそこ歌えたし、大友向けのを匙がしっかり歌えたのも想定内だ。

 

 え、俺? イッセーとの付き合いでミルたんとカラオケ行ったこともあるから大体できるぞ? ダンスの振り付けもいくつかは習得してるし、クリスマスのかくし芸用に衣装作ってるし。

 

 まあ、それはそれとして服を選んでいる久遠と会長を見ながら、俺は匙と馬鹿話をしてみようかと思ってます。

 

「あの野郎堂々とデートに混ざりやがった。ある意味一番の難敵だと思ってたけど、ここにきて別の意味で強敵になりやがった・・・っ!」

 

「まったくだ。気づかれないようにしっかりと天の上から見守るのが正道だろうに」

 

「お前兵藤相手にそんなことやってんのかよ? 馬鹿だな」

 

 酷い!?

 

「あ、兵夜くんー! このフリルだらけなのとパンツルックとどっちがいいー?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・たまにはフリルも見てみたいです!」

 

 久遠が訪ねてきたのでハイスピードで熟考して返答。俺の女はどいつもこいつも機能性を考慮して動きやすい服装なので、できればかわいさ重視のものも見てみたかったのです。パーティの時もスーツだったからね!

 

 そしてそれにつられながら、会長がものすごく顔を真っ赤にしながらこっちも服を手に匙に尋ねる。

 

「さ、さ、匙? その、ど、どっちの方が・・・」

 

「え? ・・・そんなどー」

 

 匙があほなことを言おうとしたので、俺は速攻で口をふさいで耳元に口を近づける。

 

「こういう時にどっちもはなしだ。女の中には自分がどっち切るか決めてるから何か言ってくるやつもいるが、あの二人は本気で相手に選んでほしいんだよ」

 

「お、おう。だったら・・・」

 

 俺の注意を即座に受け入れて匙は久遠と会長を見比べて・・・。

 

「そっちのフリル付きでお願いします! だ、ダブルデートなんだし久遠とおそろいの方向で!!」

 

 ・・・ふむ、こいつなんだかんだでできるな。

 

「了解了解ー。じゃ、会長一緒に着替えましょうかー」

 

「え、ええ。それではちょっと待っていてください」

 

 と、恥ずかしそうにしているソーナ会長を引っ張りながら、久遠が着替えに衣装室に入っていく。

 

「・・・匙、ナイス選択。俺は間違いなく萌えられるぞ」

 

「お、おう。セラフォルー様が知ったら嫉妬で殺されるかもな」

 

 いやぁ眼福確定だねぇ。

 

 ま、それはそれとして・・・。

 

「だが気をつけろよ匙。お前本当に劣化イッセーの道をまた一歩進んだぞ」

 

「ど、どういう意味だよ」

 

 ああ、やはりこいつ気づいてなかったか。会長しか見えてないという意味ではイッセーよりかはましかつ普通な理由なんだが。

 

「ドラゴン宿してたり魔王血族の兵士だったり、女子眷属に()()()()()()()とか、かぶりすぎなんだよ。教師目指して独自属性を確保しておけ」

 

「・・・え? まって最後から二つ目待て! 俺が、もててるだと!?」

 

 やはり気づいてなかったか。こいつはどこまでイッセーの劣化コピーになれば気が済むんだ。

 

「会長がお前の好意に気づかなかったのは先にそっちに気づいたからだ。二人に悪いしそんな風には考えないようにしよう・・・だとよ」

 

「うっそー。俺モテ期到来かよ」

 

「まあ、冥界はハーレムOKなんだからそこまで気にすることもないだろうが、本気で行くんだったらちゃんと気づいてやれ。イッセーの場合は相手からすっごい勢いで迫ってくるから、属性外すためにも一度同僚見直して自分で気づくことをお勧めするぞ」

 

「お、おう! そうだよな、そうじゃないと失礼だもんな」

 

 気合を入れなおす匙をみて、これはこれで面白いことになりそうだとも思ったりする。

 

 まあ、無責任なまねをする気はないし、答え合わせぐらいはちゃんと手伝ってやろう。

 

「にしてもあれだな。教師もなかなか面白い」

 

「だよなぁ。生徒が先生先生って慕ってくるのはすごく来る」

 

「これが高校とかだったらそんなこと全然ないもんなぁ。マジで子供の学校だからこそ気持ちいいというかなんというか」

 

 などとだべりながら待っていると、ついにカーテンが開いて二人の姿が目に見える。

 

 ・・・属性を似通わせることで結果的にペアルックになると思ったが、これはすごいな。

 

「ど、どうですか・・・?」

 

「ふふ~ん。似合うでしょー?」

 

 きなれてない服を着て恥ずかしそうにしている会長と、いつもと属性が違うことを自覚しているのか誘惑するように流し目をする久遠。

 

 まあ答えは一つなわけなんだが。

 

「「久遠グッジョブ! 眼福です!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、宮白たちはどうなってんだろうな?」

 

 リアスと映画を見終えた後、俺は俺でジュースを飲みながらそう思った。

 

 ちょうど宮白はダブルデートの真っ最中。なんでも桜花さんにせびられて断り切れなかったとか。

 

 ・・・俺の時もすごいことしてたみたいだし、転生者組は愛が重いよ。今度デートするときは宮白にだけは内緒にしないと。ばれそうだから木場に足止め頼もう。

 

「あ、イッセー」

 

「イッセーくんですか」

 

 と、そこにナツミちゃんとベルさんが・・・って。

 

「二人とも服がはだけてないですか!!」

 

 うぉおおおおおお! 眼福!

 

「うわぁ!? っけねぇ、ちっとばかし気が緩んでたか!?」

 

「あら? やっぱり二人で別々に着付けると隙が出ますね」

 

 顔を真っ赤にしてサミーマモードで慌てて直すナツミちゃんと、冷静に普通に直すベルさん。この辺、ノーマルなところはノーマルなナツミちゃんと、平均値が普通にずれてるベルさんとの違いがよく分かる。

 

 最近は小猫ちゃんもだいぶエロスに寛容になってきたから、突っ込み入れてくれるナツミちゃんや青野さんが貴重に感じてきたよ。今度何かおごりたいから、宮白経由で好みきこうかな?

 

「ひょ、兵夜様の好みに合わせようと、時間があったらあった人たちでいろいろと試しているんですが、今日はいろいろと失敗でした」

 

「ベル! ひっさしぶりに時間できたと思ったら何言ってんのさ!!」

 

 ナツミちゃんが顔を真っ赤にしながらツッコミを入れてるけど、それってつまりそういうことなわけで・・・。

 

「イッセーも鼻血出さない! みぞおち殴るよ、ナフラで」

 

「ごめんごめん。っていうか五人とも仲いいよなぁほんと」

 

 なんていうか宮白がハーレム作ってるんじゃなくて、もう五人で一組になってる感じまでするよ。

 

「まあね! うん、だって同じ(大好き)だもん」

 

 ナツミちゃんは、そういうと少し困ったような笑顔を浮かべて、ベルさんもそれに同意するかのようにいうなづいた。

 

「実質そうですね。同じようなもので、同じように弱くて、同じようにかっこよくなろうとしてるから、どうしても私たち五人は実質共感してしまいます」

 

「だから仲良く共有されたいんだよ。俺様達は壊れてるからこそ、一人じゃとてもいられない」

 

 それは、あんまり自慢できることじゃないけど、けど誰にも否定できないことだよな。

 

 うん、俺もリアスたちがいてくれたからここまでこれた。だから、あの恐怖を乗り越えようとできる。

 

「これからもよろしく! 二人とも頼りにしてるからさ!」

 

「カッハハハ!  んなこと言っても惚れたりしねえから残念だったなぁ?」

 

「なかなかに素晴らしいとは思いますけど、イッセーくんでは兵夜さまにはかないません。人には冷たさも必要なタイプがいるのですよ、実質」

 

 俺が笑顔で答えると、二人とも満面の笑顔で答えてくれる。

 

 うんうん。宮白は幸せ者だ。

 

 と、ベルさんが部屋の時計を見ると慌てて上着を羽織って歩き出した。

 

「実質すいません! そろそろゲンさんの指導の時間なので失礼します!!」

 

「いってらっしゃ~い!」

 

 ベルさん熱心だなぁ。

 

 でもゲンさん強かったし、俺たちが知ってる中で唯一のベルさん向きの指導者だもんな。この機会に強くなりたくてたまらないんだろうなぁ。

 

「でもさあ、プラモづくりっていったい何の役に立つんだろうね」

 

「だよなぁ」

 

 ほんと、俺もその辺は疑問符だよなぁ。

 

「それに久遠のデートも大丈夫かなぁ。・・・だって兵夜だぜ?」

 

「ほんと、だよなぁ」

 

 サミーマモードに同意するぐらい心配だ。

 

 いや、なんだかんだで宮白が俺のデート覗いていた時もフォローはうまかったからそれは安心なんだよ? そういう意味じゃあ守護神なんだよ?

 

 だけど重いっていうかぐらヴィトンっていうか。別の意味ですごい心配。

 

「特に久遠が「か、会長と〇姉妹ハアハア」とかやらかしたらどしよっか? 兵夜と匙が〇兄弟とかなったらすごく気まずくない?」

 

「・・・だれだぁあああああああああ! ナツミちゃんにそんな言葉教えたのはぁあああああああああ!!」

 

 見つけ次第本気ぶんなぐってやる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・すこし、気分が楽になりました」

 

 ダブルデートの途中で、変則的な二人組で行動するという謎現象を久遠が提案してきた。

 

 まああいつのことだから何か考えがあるだろうと思ってのっかってみたが、そしたら会長がそんなことを言ってきたのだ。

 

 なるほど、責任感の強い会長じゃあ、自分の眷属相手には話せないこともあるだろう。そのあたりを俺に話させようという話か。

 

 さすがに部隊長をやっていたこともあって人心面でも頭が回る。ああ、マジで優秀だあいつ。

 

「宮白くんたちはいつから知っていたんですか?」

 

「エクスカリバー破壊作戦が成立したあたりですね。イッセーの暴走にあいつがのっかって、俺の夢は会長とのできちゃった婚だ! とか暴走して。・・・防音結界はるのがあと少し遅かったらどうなってたか」

 

「それは苦労を掛けしまったようです」

 

 会長は苦笑するが、しかし真剣に悩んでいる感じではなかった。

 

 だいぶ気持ちが軽くなったみたいで何より何より。

 

「まあ、真面目に答えてやってくださいね。匙は割と、そのために頑張ってるところもあったんですから」

 

「ええ、本当にそうしなければいけませんね。・・・今まで少し甘えてました」

 

 まったくもってその通りだ。これに関してはフォローできない。

 

 割とわかりやすい態度を示していたのに、まったく気づかなかったのは怒られても反論できないだろう。ましてや匙に対する花戒や仁村の想いはわかってたんだから。それなら方向性はしっかり把握しておけよあんたって感じか?

 

「まあ問題はセラフォルー様ですが。魔王対龍王の戦いはもはや確定事項で、問題はどこでやるかの準備なんですよねぇ」

 

「苦労を掛けます。学校の件でも尽力してくれたのに」

 

 間違いなく起こるであろう「ソーナちゃんがほしいのなら、この魔法少女レヴィアたんをたおすのよん!」という叫びがどうしたものかと俺を悩ませる。

 

 最悪手伝う気満々だが、できれば一対一で蹴りをつけないとやはり不満も出るだろうしな。炎VS氷だから比較的匙有利なんだが。

 

「そういえば、教員免許もとるつもりだと聞きましたよ?」

 

「ええまあ、眷属はアウロス学園の卒業者も何人か取ろうかと思っておりますので、より良い眷属づくりのために協力は惜しみませんよ」

 

 その辺は真剣に考えている。

 

 子供のころの勉強やトレーニングは、いかにやる気を引き出すかが重要だ。俺が全方位で優秀になれたのもひとえにそのおかげだしな。第一次及び第二次成長期の鍛え上げは、間違いなく成功のための重要なファクターだ。

 

 代々スポーツ選手とか医者の家系とかが期待に応えることがあるのはこれが理由だ。最初のころから専門技能を身につけておけば、身に沁みつきやすい。

 

 とはいえ子供のころからそんなことを考えるのはそれはそれで大変なのだ。特に文明が発達しているところは遊びに困らないから勉強をしたがらない。

 

 だからまあ、やる気をどう引き出すかに重点を置いた非常勤講師として活動するべきかとも思っている。

 

 幸い話術も多少は習得している。本格的な教育は本職に任せるとして、ここまで手を貸したものとしてよりよくする手助けぐらいはしておきたい。

 

「ぜひその時は仕事くださいね、会長?」

 

「ええ、あなたなら期待できますから」

 

 おお、会長の自然な笑顔、プライスレス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ふっふっふー。下手に意識しちゃった匙くんよりも兵夜くんのほうが笑顔引き出せると思ったよー。さあ、あれを自力で見れるように努力してねー?」

 

「おう! 必ずあの笑顔を俺の前だけで見せてくれるように頑張るぜ!!」

 

『我が分身もその盟友も変わり者だな。・・・神喰らいよ、頑張るといい』

 




もはやハーレムというより別の何かになっている兵夜ハーレム。

それもこれはも同類意識が原因でつながっているのが原因です。お互いに嫌いじゃないからどんどん深くなってこんな感じに。



そして久遠は堂々とダブルデート持ち込みました。頑張れ、匙。出し抜かないと単独デートはできないぞ!!


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天界、お邪魔します!!

 

「サンタって本当にいたのか」

 

「なんだよいきなりファックだな」

 

 夜、酒を飲みながら俺はそう漏らし、小雪にツッコミを喰らった。

 

「まあサンタ実在とか普通子供が信じるところだからな。びっくり過ぎるだろコレ」

 

 だよなぁ。サンタ実在とかあれだよなぁ。

 

 あれか、中身十代後半だから来てくれなかったんだろうか? ダークだから来てくれなかったんだろうか?

 

 夜の酒を飲みながらのひと時で、今日のことを思い出すといろいろあれだった。

 

 サンタのまねごとをするという話で、サンタが実在するというド級の真実を叩き込まれた。まあ、天使や悪魔がいるならサンタがいるというのはわかる。わかるけど異形の存在隠せてねえだろ!!

 

「しっかし、まあクリスマスぐらいはしゃぎたいけどよ? このタイミングでイベントしてる余裕はファックだがねーんじゃねえか?」

 

「そういうわけにもいかないだろ? いつも気を張り詰めてて持ちこたえられるほど人は頑丈じゃない。たまにはハレの日が必要だしよ」

 

 実際、個人的な息抜きなしでではどうやっても生きていける自信がない。

 

 それが大規模な組織や集団となれば、お祭りなどのイベントは必須だ。特にここ最近は急激にとんでもないことが勃発しすぎているからな。

 

 下手したら現世界が崩壊する。さらに異世界にまで危害が及ぶ。挙句の果てに、すでに吸血鬼の土地は大きな被害を受けており、その危険性を身に叩き込まれている。

 

 駒王町も人知れず被害を受けているわけだし、何かのわびを入れたりする必要もあるはずだ。

 

 それぐらい小雪ならわかってるだろうに、わざわざ言わせるとは俺に自覚を持たせるためだろうか?

 

「・・・ああ、確かにそうだよな」

 

 ふと、まったくわかってなかったかのようにそう彼女はつぶやいた。

 

「小雪?」

 

「あ、悪ーな。最近ふと昔を思い出すことが多くてよ? そういうハレのイベントとかとは無縁の生活送ってたから」

 

「いや、お前学校生活は送ってたんだろ?」

 

「精神的にだよ? 半分やけになっていろんな遊びには手を出してたけどよ・・・。そういう表のイベントはなんていうか心の中で一線引いてたっていうか」

 

 苦笑を浮かべながら、小雪は酒が入ったグラスを揺らす。

 

 そこに見えているのは、いったいどんな感情なんだろうか。

 

「どう言いつくろっても、あたしは自分の命可愛さに、外道の道をひた走った。光の道を走ってるあいつらとはそこが違う」

 

 そう、そこがあいつらと俺たちの違い。

 

 イッセーたちは立場の違いでずれこそあれ、何より光の道を走っている。

 

 まさしく正真正銘の英雄譚。これからの未来を引っ張っていく、先頭に立つべき連中だ。

 

 大して俺と小雪は確かに闇の側。そういう意味では俺こそが彼女を慰撫できるわけで、つまりはそれが()の役目で―

 

「言っとくが、お前があたしと同じだと思うならファックすぎるぜ」

 

 ―彼女にしっかりとくぎを刺された。

 

兵藤一誠()のためにあえて闇を纏ったお前と、ただ逃げたあたしは全く別だ。いくらあの時のあたしがガキだからって、それを忘れていいわけがない」

 

 はっきりといわれた。

 

 宮白兵夜と青野小雪は根本においてずれがあると。

 

「どれだけ償いをしたからって、罪はちゃんと考慮しなけりゃいけねーだろ。・・・それが本当の意味で取り返しがつかないならファックなまでに当然だ」

 

 ・・・反論できない。

 

 転生前の罪を転生後に償うことなど不可能だろう。被害者遺族と会うことなど天文学的確率だ。そもそも規格外のイレギュラーである転生者の、さらに知り合いに会う確率なんて本来異常なんだ。

 

 ・・・いや。小雪にエデン、久遠にふんどしと意外と遭遇率が多い気もするが、しかしそれでもやっぱりおかしいだろう。

 

「小雪。・・・お前ちょっと疲れてるんだよ」

 

「・・・そうかもな」

 

 俺の指摘に、小雪は素直に同意した。

 

 ・・・まあ、当然といえば当然だろう。

 

 自分が闇の住人で、汚れに汚れていることを重々承知しているのが小雪だ。そういう過去をもって、しかも今生でも致命的な失策を犯していると自覚している。そしてそれは誤解でも何でもない。

 

 朱乃さんの母親と、小雪の両親が死んだ事件。和議など考えられもしなかった時期の刺客の襲撃に、彼女だけが唯一対処できた。

 

 そして何より大事だったひだまりを、ひだまりから離れてしまう可能性を恐れたために守れなかった。

 

 俺自身、それを罪だと思う気持ちはよくわかる。わかるからこそ、これ以上言うことはできなかった。

 

 誰が何と言ったって。被害者に許されたとしても、自分自身がそれを許せない。

 

 だから、言葉でごまかすのはよそうと決めた。

 

「小雪。今晩付き合うよ。だから少しガス抜きしろ」

 

「・・・ああ。ちょっとファックすぎたな。よろしく頼む」

 

 ・・・一生背負わずにはいられない十字架。

 

 背負ってやることはできないけど、それは彼女が背負わなくてはいけないけど。

 

 疲れた時に肩ぐらいは貸してやるから、明日は元気で朱乃さんと遊びなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで少し不安なことがある中、クリスマスの件のこともあり、天界に行くというイレギュラーな事態が勃発した。

 

「・・・いいんだろうか、この展開」

 

「あら、そんなに気になりますの?」

 

 天界を観光しながらつい漏れた俺のつぶやきに、朱乃さんが反応する。

 

「だって俺たち悪魔ですよ? 教会の悪魔払いのガス抜きも間に合ってない状況で、これはまずいんじゃないでしょうか?」

 

「それは実質問題ないのでは? 確かに悪魔が多いですが、天使もいる合同チームのメンバーですし」

 

 ベルはそういうことを言ってくるが、しかしそういうわけにもいかないだろう。

 

 俺たちが上手くいってるので勘違いしてるかもしれんが、和平が成立してからまだ一年もたってないんだ。当然のごとく不満も残ってるだろう。

 

 ガス抜きの準備が間に合えばいいんだがなぁ。

 

 人間界の方は人間界の方で、アフリカの軍事同盟が締結とかニュースでやってて、大国が割と本気で警告してるって話だし、どこも最近は物騒だ。

 

 なんでも合同での核開発研究が行われているとか。うん、世界大戦がマジで勃発しそうで怖い。

 

 そんなことを思いながら、ふと俺は小雪の方を見る。

 

「ほらナツミ。きょろきょろし過ぎで見られてるぞ。ファックなことだがまだ不満持ってる天使もいるだろうし目立つなよ」

 

「はーい。観光したいけど次の機会にするよ」

 

 ・・・今なら大丈夫か。

 

「朱乃さん、ベル。ちょっと相談が」

 

「どうしました?」

 

 さすがに一人でどうにかするのも大変だろう。ここは素直に力を借りるか。

 

「ちょっと小雪が前世()思い出してブルーになってるから、できれば接触を多めにしてほしいって感じで」

 

「・・・昔、ですか」

 

 朱乃さんがそれを聞いて眉を顰める。

 

 そういえば、あいつの昔のことってほかのみんなはどれぐらい知ってるんだ?

 

「あ、えっと・・・わかってます?」

 

「私は実質聞いてます。・・・紆余曲折あって裏社会同士での暗闘を担当していたとか」

 

「私もそれぐらいですわ。・・・ただ、たぶん思い出したのはそれだけじゃないと」

 

 おいおい、さらになんかあんのかよ。

 

「・・・私の母と小雪の両親が殺された事件については聞いてますか?」

 

 ・・・ああ、あのときか。

 

「ええ、朱乃さんのご両親の仲を不快に思って手を出して返り討ちにあった家の奴が、堕天使を恨んでいる退魔師に告げ口して襲撃を受けたと」

 

 あれは間違いなくトラウマものだろう。

 

「何があいつにとってトラウマかって、そのあと小雪(自分)で全員始末したことですよね。そのせいで「何もできなかったのではなくしなかった」という事実そのものが否定できない」

 

 そう。そこが一番救いがない。

 

 これであとから来たバラキエルが倒すなり、せめて逃げられるなりしたのならそれはよかった。それならまだ言い訳できたんだ。

 

 早く動けば確実にどうにかできたと、自分自身で証明してること。それこそが小雪にとっての最大の咎だ。

 

 たとえ被害者自身に許されても、それに心から救われても、それでも自分を許せない。

 

「それは、とてもきついですね。どうあがいても自分に贖罪を課さずには、実質いられないでしょう」

 

 ベルも目をきつく閉じると、その事実に苦悶する。

 

 同類どうし、仲間同士、恋人同士、その事実を本当の意味で共有できないことがただただつらい。

 

 そして、朱乃さんはうつむきながら言葉を続ける。

 

「・・・何度か、思ってしまったことがあるんです」

 

 その先は、言わなくても分かった。

 

「なんで、小雪は()()()()助けに来たのかと」

 

 ああ、確かにそうだよな。

 

 助けられた。救われた。命を落とさずに済んだ。

 

 それは確かにその通りで、間違いなく幸運なんだ。

 

 だけど、同時に救われなかった者たちがいる。命を落とした者たちがいる。大事なものがいなくなってしまったのだ。

 

 八つ当たりで、言いがかりで、相手からしてみればとばっちりなのかもしれない。

 

 だけど、ふと思うのだろう。

 

 ・・・なんでそんなに遅いんだと。

 

「・・・ままならないよな、人生は」

 

 それを自分自身に対して思っているから

 

 それまでも、どこまで腐り果てたと思っているから

 

 だから―

 

「―救われたくて救われたくない。そんな気持ちを捨てられないんだよな」

 

 本当に、肩を貸すことしかできないのがここまでつらいとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とはいえ切り替えないといけないか。

 

 と、第六天についてから切り替えたが、そこで事態は急変した。

 

「ようこそいらっしゃいました。D×Dの皆さん」

 

 大天使ミカエルが来るというラッキー事態に対して、俺は一つの大失念を犯していた。

 

「・・・・・・・・・はぅううううううううううううぅん!!」

 

 ああ、そういえば会うの久々だったよね。

 

「ベルぅううううう! しっかりしろぉおおおおお!!!」

 

「うわぁあああああ!! ちょ、ベルしっかりしてぇえええええ!?」

 

「・・・ファック! 呼吸が歓喜のあまり止まってやがる! 人工呼吸はあたしがするから兵夜は心臓マッサージを!!」

 

「OK! 人工呼吸こそ俺の役目な気がするがんなこと言ってる場合じゃない!!」

 

「ふ、フレー! フレー! 兵夜、小雪!!」

 

 そうだよね!? うれしいよね!

 

 ましてや、ベルは俺たちと違ってきやすく会いに行ける立場じゃないから待ちくたびれた分歓喜も素晴らしいよね! 最近子供っぽくなってるからすごいよね!!

 

 でもこれはやりすぎだろ!?

 

「み、ミカエルさん離れて! この展開何となく読めた。ベルさんが落ち着くまで離れてくれないといつまでたっても終わらない!!」

 

「え、え!? べ、ベルは大丈夫なのですか!?」

 

「残念ですが、今ミカエル様がいると大丈夫じゃなくなるのですわ」

 

 大体付き合いの長さからわかってくれたイッセーと朱乃さんが、あわてて大天使ミカエルを引き離す。

 

 ええい、何をやっているんだお前は!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お見苦しいところをお見せしましたミカエル様。まことにお恥ずかしい」

 

 顔を真っ赤にしながらも、かろうじて脈は止めないでいられるようになったベルが頭を下げた。

 

 あっぶね。呆気に取られてたら台無しだった。

 

「い、いえ。久しぶりですから感極まったのでしょう? 熱心な信徒の中には私の姿を見て気を失うものもまれにいますし、お構いなく」

 

 この人いい人すぎるよ。お人よし過ぎるのが難点だけど、それはともかくとしていい人すぎるよ。

 

 しかしまあ、さすがの俺もこれは驚いた。

 

 まさかここまで歓喜の渦に堕ちるとは。俺らの場合は結構毎日接触しているからそんなことはないもんなぁ。

 

 思えばベルがこじらせた原因もここにあるだろう。なにせ割と遊びまわっているアザゼルと違って責任感もまじめさもあるだろうし、見事に悪い形でかみ合ってしまった。

 

「あ、実はお土産にケーキを買ったんです! 良ければ一緒に食べませんか?」

 

 断られたらどうしようかという感情を押し隠しながら、ベルがおずおずとケーキの箱を取り出す。

 

 後ろから見る止まるわかりだけど、まあその心配は無用だろう。

 

「ええ。私もあなた方と一緒にお茶をするつもりで・・・」

 

 と、少しだけ言葉を切って考え込んだミカエル様は、微笑みをより深くした。

 

「・・・いえ、後で二人きりで食べましょう。その方があなたのためになりそうです」

 

「あ、は・・・はいっ」

 

 うわぁ、すごくうれしそうだ。

 

 俺としてもベルが大天使ミカエルに対することだから嫉妬なんてありえない。ホントに良かったと涙が出てきそうだ。

 

 後ろでナツミと小雪が「二人きりで! 二人きりで!!」

 

 というホワイトボードをいつの間にか上にあげている分のは無視しよう。小雪、お前そんなキャラだったか?

 

 と、ミカエルさんがものすごい優しそうな顔をしてこっちを見てきてくれた。

 

「・・・本当にありがとうございます」

 

 あれ? なんかそこまでお礼言われることしたっけ?

 

「お構いなく。三大勢力の一員として、何よりこの世界の一員として、禍の団やクリフォトから世界を守るのは当然のことですわ」

 

「そ、そうですよ! 第一リゼヴィムのスイッチを入れたのは俺のおっぱい愛みたいなものですし!」

 

「そちらではありません。ベルのことです」

 

 え? ベルのこと?

 

「・・・状況が状況だったせいですが、ベルはたまに会うことはできても私のことを気にするばかりで、食事をするときも、味がわからないわけではないのですが人の口に合うことを考えることはあっても、心の底で自分がそういうことを楽しむことが理解できてなかったことがありましたから」

 

「・・・気づいたときは本当に頭を抱えました」

 

 ああ、あの時は大変だった。

 

 イッセーの力はどっか行くし、英雄派は動き出すしで大変だったが、ベルの問題点もびっくりだった。

 

 まさかここまで正しい意味で欲のない人間がいたとは驚きだった。

 

「ええ、あなた方との交流はベルにとってとてもいい経験になったようです。どうしても、信仰に生きるものとベルとでは壁ができてしまうのですが、同種の存在との交流はとてもいい経験だったようだ」

 

 娘を見る目でベルを見る大天使ミカエルの言葉に、俺は笑みを浮かべてそれにこたえる。

 

「礼の言葉はいりません。俺にとってもベルは愛する女性ですから」

 

 そこははっきり言いきった。

 

 主で恋人で同類で、俺とベルは・・・いや、俺たちとベルはある意味同じ存在だから。

 

 大天使ミカエルには逆立ちしたってかなわないが、だからこそ俺たちは一緒にいたいと思うから。

 

「そーいうわけだ。ま、ファックにならないならアザゼルにも言っといてやってくれ」

 

「そういうこと♪ 久遠もそういうと思うよ?」

 

 小雪とナツミもその辺は同感なのではっきり言う。

 

 ああ、俺はこいつらと出会えてよかったと、心の底からそう思う。

 

 傷のなめ合い? 負け犬のなれない? まあそうだろうがそれが何か?

 

 最初はそれから始まったが、そこから生まれた愛もある。

 

 闇には闇の流儀があると、まあ光のど真ん中で思うことではないがそういうことだ。

 

 などと苦笑交じりに思ってみれば、思いっきり後頭部をはたかれた。

 

「おいおい。俺たちを忘れんなよな」

 

 見れば、微妙に不機嫌なイッセーの顔が映っていた。

 

「まったくですわ。まるであなたたちだけの空間を作られているようで嫉妬ですわ」

 

「うわっ!? ちょ、朱乃!?」

 

 と、朱乃さんもツッコミもかねて小雪の胸をもみしだく。

 

「うわぁ。ここ天国なんだけどエロくていいの?」

 

「ほほう。ではここはシンプルにくすぐり地獄といこう」

 

「それはいいわね♪ じゃあナツミちゃんも覚悟してね?」

 

「うわぁあああ!? あ、アハハハハハ・・・っ!!」

 

 と、逃げようとしていたナツミがゼノヴィア達につかまってくすぐり地獄という名のお仕置きを受けていた。

 

「まったく。僕たちのことを忘れてもらっちゃ困るよ?」

 

「うぅううう! ず、ずるいですぅううう!」

 

 男二人にも怒られてしまった。うん、反省。

 

「仲がいいのはいいことですが、ミカエル様が置いてけぼりですよ」

 

「・・・申し訳ありません。いつものノリで」

 

「いえ、仲がいいことは素晴らしいことです」

 

 と、ロスヴァイセさんと小猫ちゃんに大天使ミカエルを任せてしまった。いかんいかん。

 

 そのあとは、和やかな雰囲気で話は進んでいった。

 

「・・・まったく、あたしにしちゃファックだぜ」

 

 ・・・小雪は、まだ少し引っ張ってるみたいだったが。

 




そういえば、この作品でベルとミカエルが顔を合わせるのってこれで二度目だったような・・・。

まじで顔合わせずらい関係だな、これ


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禁断の関係とは、いったい何なのか

前半と後半でがくんと温度差があるので、ご注意ください


 

 それはそれとして微妙に面倒な事態になっているようだ。

 

 なんでも、教会の人たちに襲撃が行われているらしい。

 

 敵対勢力の暗殺なんて珍しくも何ともないが、しかしそれにしたってこのタイミングはクリフォト以外ないだろう。

 

 フィフスですら、アサシンを使った暗殺ではなく恐喝を重点に置いている状況下で今更暗殺というのもあれな話だが、相手がリゼヴィムなら話は別だ。

 

 あいつは根本的に愉快犯。フィフスのような目的のために犯罪を犯すタイプではなく、ある意味で犯罪そのものが目的だ。物事に遊びを入れずにはいられない。

 

 だから厄介なんだ。遊びの要素があるから予想外の行動をしかねないし、下手なリスクも遊びの要素として取り入れる。

 

 そういう意味ではフィフスの方が読みやすい。あいつらは目的さえ分かっていれば、その目的のための行動をしているとわかる。行動さえ分かればその後のラインもある程度は読める。

 

 それがないというだけでこうも厄介だとは。読み合いが難しいと俺みたいなタイプは苦労する。

 

 まあそれはそれとして。

 

「さあ、イッセーくんにイリナちゃん! この部屋があればいくらでも子作りし放題だよ!!」

 

 ・・・一度、天界はクーデターを起こされた方がいいような気がしてきたんだ。

 

 今俺たちの目の前にいるのは、イリナの親父の紫藤トウジさん。

 

 一応イッセーたちの家族構成は把握しているが、この人一時期は教会の支部長を務めていたというかなり偉い人なのだ。

 

 今回のクリスマスにおいても担当に選ばれ、こうして昔住んでいた町に戻ってきていたということなんだけど・・・。

 

 持ってきたものがアレすぎだ。

 

 なんでも、天使がエロいことしても堕天しないようにする異空間へと入るドアノブだそうだ。

 

 ・・・ひとこと言おう、アホである。

 

「いや、ミスター紫藤? あんた聖職者としてそれでいいんですか?」

 

「何を言っているんだい宮白君! 私は牧師で子持ちだよ? 娘が子供を連れて帰ってくることを望まない親がいるものか!!」

 

 いや、そうなんだけどね? そうなんだけどね?

 

「聖職者としてこのイッセー(女の敵)を娘の彼氏に思うところはないのかといってるんですが」

 

「宮白! なんでお前は俺に対して辛口なんだ!?」

 

 いやイッセー。この場合はむしろ紫藤氏に対して辛口なんだ。

 

 仮にも色欲を大罪としている宗教の側として、少しイッセーに対して甘すぎないか?

 

 本気でそう思ったのだが、紫藤氏は神妙な表情を浮かべると、俺の肩に手を置いた。

 

「・・・私もおっぱいは好きだ」

 

 この不良牧師が。

 

 何が腹立つって、俺もたいがい不良優等生だからツッコミが入れづらいんだよ。

 

「ギャスパー。ああいう人になったら友達やめるからね?」

 

「む、むりですぅううう! 僕はあんな図々しくなれません!!」

 

 ロリっ娘とショタっ娘にすらあきれられている。最早紫藤の血筋はあほばかりだ。

 

 天界本当に大丈夫だろうか? 一回クーデターで痛い目見た方がいいような気がしてきたぞ?

 

 ベルはベルですぐに特訓に行っちまったし、ええい、そんなにゲン・コーメイがいいのか!?

 

 ああくそ、なんか想像したら腹が立ってきたぞ!

 

 女どもはどいつもこいつも自分が使用することすら考えている節があるし、頭痛の種が増えた!!

 

「とりあえずそこの女子ども!! 使用の際は俺の許可をとること!! これは俺が預かっておきます!!」

 

「兵夜!? あなたそれは横暴よ!?」

 

 速攻で部長が怒り、そして臨戦態勢に入る女ども。

 

 だから渡せんのだから!!

 

「これまでの経験則から言って、あんたらに自由にこれを使わせたらイッセーのプライベートがいろんな意味で台無しになるのが目に見えてる!! 馬鹿に核ミサイルの発射スイッチを持たせる奴はいない!!」

 

「そ、そこまで!?」

 

「というより、なんでみんな私を馬鹿扱いするんだ!?」

 

「いつも以上に真剣な顔でそんなひどいこと言わないでください!!」

 

「やかましいわ教会三馬鹿娘!! 仮にも信仰の徒ならエロスはほどほどにしろ!!」

 

 ある意味お前らが一番危険なのだ!!

 

「ああもう! 小雪、お前からも一言言ってやってくれ!!」

 

 ったくもう! 少しはツッコミを入れてくれよ! お前ツッコミポジションだろ!?

 

 と、思ったら返事がない。

 

「・・・小雪? どうしましたの?」

 

「・・・・・・え? あ、いや悪ーな。ちょっとぼーっとしてた」

 

 ・・・思った以上に重症か。

 

 はあ、こりゃ少し面倒なことになりそうだな。

 

 などと思っていたら、携帯に電話が鳴ってきた。

 

 ・・・そして出た後、俺はさらに頭痛の種が増えることになったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何事ですか、ゼクラム・バアル。俺とあなたの仲ですから正直に言いますが、割と忙しくて時間を捻出するのも大変ですので、できればもっと時間を用意してほしいのですが」

 

「すまないな、宮白兵夜。私も少し前に状況把握できたのだが、君にはすぐにでも知らせておくべきだと踏んだのだ」

 

 冥界で、俺はゼクラム・バアルと顔を合わせた。

 

 ぶっちゃけると、新旧試験直後の会談の後も、ちょくちょく会話することはあったのだ。

 

 サーゼクス様からの覚えのいい俺の意見は、普通に会談で大王派が発言するよりサーゼクス様たちや魔王派からの心象がいい。ましてや俺の方から魔王派の反論を考慮した調整ができるので、大王派としてもむやみにストレスをためながら意見を少しでも押し通すよりも楽でいい。

 

 そんなわけで、利害が一致している打算的な友情を築いている俺たちは茶飲み友達だ。実際魔術師(メイガス)たちからの心象は彼の方が圧倒的にでかいので、そこらへんも考えるとマジで必要不可欠である。

 

 そのうえで経験則と同類という観点で肝心の制御権を与えてくれている以上、彼には割と感謝しているのだ。

 

 だからこそ、こういった急激な要望にもこたえなくてはいけない。

 

「それで火急の要件とは? あなたが直接話すとなれば、相応の大事なのでしょう?」

 

「ああ、そちらに紫藤トウジという牧師が来ているのだろう? 単刀直入にいうと、彼の身に危険が迫っている」

 

 ・・・なんだと?

 

「教会にて、クリフォト主導と思われる暗殺事件が多発していることは耳に挟んでおります。そのターゲットに彼がかかわっていると?」

 

「そうだ。そして厳密にいえば、これは教会だけでなく我らバアル家の関係者も含めた襲撃事件だ」

 

 バアル家からも? どういうことだ?

 

「理由をお聞きしてもよろしいでしょうか? バアル家の主要派閥としては教会とは距離を置きたいのが本心でしょう?」

 

「それはそうなのだが、だからといって過去かかわりを持たなかったわけではない。暗部といえば君なら理解できるだろう?」

 

 なるほど。

 

 確かに、敵対している者同士といえ連携を全くとらないというわけでもないだろう。

 

 お互いに取って不利益しか生まないことが起きようとしているのなら、何らかの形で示し合わせて連携をとるという黒いこともある。ましてや彼ならそれぐらいはできるだろう。

 

 ましてや彼は、和平を結ぶことそのものにもろ手を挙げては賛成はしないだろうが逆でもない。今の段階で戦争をしてもリスクとダメージがリターンを上回ることぐらいはわかっている方だ。戦争回避のためにあえて連携をとるぐらい、割と簡単にやってのけるだろう。

 

「・・・和平前の教会とバアル家にどんな共通の不利益があったのですか?」

 

「簡単にいえば戦争の危機だよ。十数年前の価値観では、上級悪魔と高位の悪魔払いとの間の愛情など許されるものではない・・・といえば、やはり君ならわかるのだろうな」

 

 ああ、なるほど。

 

「それほどまでの大物同士の恋愛ですか? 確かにそんなことになればもめにもめますし、暗殺するのも分かりますが・・・」

 

「そう、教会側の人間は凄腕の悪魔払い八重垣正臣。そして悪魔側の女性はクレーリア・ベリアル。・・・そこまで言えば、教会側がどれだけ危険視したかはわかるだろう?」

 

 うわぁ。うわぁ。うっわぁ。

 

「寄りにもよってナンバーワンの親族ですか。最悪彼が出てきてもめ事になると思えば、そりゃ教会側も大慌てでしょうな」

 

「そう。我々としてもそれは望ましくなく、連携して背得しようとしたのだが、結局失敗してね。・・・それに」

 

 なんだ? いったい何がある?

 

「君は口が堅いからあえて言うが、彼女はそれ以上に踏み込みすぎた。そのうえであのようなことがあっては、我々としては情をかけすぎるわけにはいかないのだよ」

 

「・・・機密事項を知ってしまったというわけですか。確かにそんなときにそんなことが起これば歯止めは利かなくなる」

 

 哀れな人だその二人も。何のつもりか知らないが、知らないことを知ろうとした末にそんな危険な行為など。

 

 愛とは制御できるものじゃないかもしれないが、機密事項に触れるのは正直やりすぎた。

 

「とはいえ、それで殺された方はたまったもんじゃない。・・・聖杯のせいでしりぬぐいされるとは思ってもみませんでした。おじいちゃーん、お駄賃ちょうだーい」

 

「たしかに孫みたいなものだ。大丈夫だ、利権(お小遣い)ぐらいは奮発しよう」

 

 わーい! 迷惑かけた分恵んでくれるおじいちゃん大好きー!!

 

 ・・・これイッセーたちに言えねえよ。どうしよう?

 

 とはいえ、これは急いで戻らないとな。

 




今ではすっかりお人よしの仲良し会になってる三大勢力ですが、やはり戦争中はいろいろあったのです。

そして、次回は・・・。


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追いついた過去

最近筆が乗ってきたので連投します


 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮白兵夜が火急の事態を把握していた時、しかし事態はすでに手遅れとなっていた。

 

 クリスマスのイベントのために駒王町を離れていた一誠たちの中に、青野小雪は混じっていた。

 

 自分でもいろいろと煮詰まっているのはわかっていたので、少し気分転換しようと思ったのだ。

 

「・・・そういえば、青野さんはどうするんですか、クリスマス?」

 

「そりゃまあ着るさ、サンタ服。アーチャーに悪いし、兵夜は間違いなく喜ぶしな」

 

 と、さらりとロスヴァイセにたいして答えながら、雨粒の音をBGMに小雪は気分を沈めていた。

 

 いい加減過去に縛られるのはやめた方がいいのはわかるのだが、どうしても気にしてしまう。

 

 最近ぬるま湯につかっているようなものだったが、リゼヴィムの悪意に触れたせいでフラッシュバックしているのだろう。

 

 旧魔王派はわかりやすい小物で、英雄は血筋に刺激された中二病のようなものだ。そしてそれ以外にも割と馬鹿が多い。

 

 そんな中、正真正銘の悪意で動いているリゼヴィムは、あの闇を思い出させてしまった。

 

 自分はどす黒い闇の住人。必要悪ですらなんでもなただの邪悪の手ごまとして、自分の手は血どころか臓物で汚れてしまっている。

 

 何よりこんな薄汚い裏切り者に、果たして幸せになる資格があるのだろうかと―

 

「―っ!?」

 

 その瞬間、彼女の()が察知した。

 

 物理的な匂いではなく、感覚的な臭い。どす黒い悪意で彩られた、血の匂いを感知する。

 

「・・・構えろ敵だ!!」

 

 素早くサブマシンガンを抜き、躊躇なく発砲。

 

 町中だということはこの際考慮しない。幸いアニメの影響で、弾丸が光って飛んでいくイメージを持っている一般市民も多いだろう。自分は町中にいられないかもしれないがまだ大丈夫だ。

 

 それより戦闘スタイルがファンタジー以外の何物でもない仲間たちの方が面倒だ。記憶消去をするにしても面倒ごとには違わないので気を付けなければ。

 

 そして、光の弾丸が飛んでいく先には二人の人影がいた。

 

 フードをかぶった女と、和風の剣を持った男。

 

 女の方が符を放つと、そこから結界が発生して弾丸をやすやすと受け止めた。

 

「・・・陰陽系の術者か。それも相応に上位だな」

 

「やっぱりクリフォトですか?」

 

 ゼノヴィアの推測にアーシアが訪ねるが、そんなものは問うまでもない。

 

 まともな異形関係者なら、こんなところでいきなり戦闘なんてしないだろう。結界の展開はするはずだ。

 

 それすらしない狂気の所業。これでクリフォトでなければ世界に異能はとっくの昔に知れ渡っている。

 

「下がってろ! てめーらじゃばれたらまずい!!」

 

 小雪は躊躇なくナイフを取り出すと、背中に放出点を接触させ、大気の奔流を放出させる。

 

 余波で仲間たちが吹き飛ばされかけるが、この中にこの程度で本当にダメージを負うようなものなどいないので意には介さない。

 

 堕天使の肉体の影響で、Gの負荷は無地できる。そのため瞬時に亜音速に到達し、一瞬で距離を詰めることができた。

 

 情報源は一人いれば十分。そして刃物で暴れるよりも変な魔術を使われる方が違和感は大きい。

 

 ゆえに、ターゲットは術者側。

 

 そして、剣士の方は小雪を無視して紫藤トウジを狙う。

 

 それは気になるが仲間たちが大勢いる状況下なら任せても問題ない。今は確実に一人減らすべきだった。

 

 ゆえにそうした。

 

「寝てろ!!」

 

 術者系は必然的に近接戦闘能力は低くなる。

 

 戦場ではある程度の万能性は必要だが、同時に明確な役目を持つ必要がある。

 

 これだけの役目を果たせるものならば基本的にはそれに特化している。ならばこの攻撃で対応可能だ。

 

 むろん万能型という可能性もあるが、それならそれで足止めに徹するのみだ。

 

 ゆえに―

 

「・・・なめないで。あなたは本当なめてるわね」

 

 あっさりと回避されても即座に銃撃を叩き込めた。

 

 独断で突貫した以上、こいつの相手ぐらいはしなければならない。大気を圧縮して砲撃を叩き込みながら、小雪はしかし心が乱れるのを感じていた。

 

 今の言葉だけではない。何より態度、何より雰囲気。何より気配が憎悪を放っていた。

 

 ・・・この世界に来てから、小雪は組織の安定や世界の混沌を防ぐための行動しかしていない。

 

 ゆえに恨まれるにしても逆恨みに近いといっていいのだが、しかし小雪はそれが当然だと感じている自分を感じる。

 

 なんだ? いったいなんだ? 自分は彼女に何をした?

 

 そして何より・・・。

 

 自分は彼女を()()()()()

 

 素早く攻防を繰り返しながら、小雪は並列思考でそれを考慮する。

 

 どういうことだ?

 

 日本の術者との戦闘なんて数えるほどだ。そんな状況で一体なんで?

 

 その時、後ろでくぐもった声が響いた。

 

 それを仕切り直しとしていったん距離をとりながら、そして即座に状況を把握した。

 

 同時に、自分が思った以上に精神的に不調であることを自覚する。

 

 そこには、八首の龍がいた。

 

 剣から生えるように姿を現す龍は、間違いなく竜王クラス。ましてやおぞけが走るほどの邪気を放っていた。

 

 クリフォト、強大な龍、邪気。

 

 一瞬で状況を把握する。これは邪龍だ。

 

 そして紫藤トウジがひどい顔色をしてうずくまっていた。

 

 怪我ならアーシアがいれば即座に回復する。それでも拾うとは思えないこれだけの悪影響が出ているとするならば、答えは大きく分けて二つ。

 

「イッセー! 呪いか毒かどっちだ!?」

 

「毒だ! ドライグが八岐大蛇は猛毒を持ってるって!!」

 

 舌打ちで返答しながら、小雪は鋭く相手をにらみつける。

 

「何が目的・・・つってもクリフォト相手にんなこたーむだか」

 

 どんな理由があろうと快楽目的としか思えなかったが、しかし男の方はそれを否定するかのように首を振る。

 

「いや、軽く教えてあげるよ。・・・復讐さ」

 

「復讐? あんたらの場合だと逆恨みにしか思えないがな?」

 

「まあ逆恨みといえばそうなのかな? あの時代では許されないしね。・・・だからって許せるかどうかは逆効果さ」

 

 そう言い放ちながら、男は苦しんでいるトウジを見ながら愉悦の表情を浮かべる。

 

「さあ、もっと苦しむといい。それでこそ彼女も浮かばれる」

 

「あらあら。正臣ったらうらやましいわ。こっちもそろそろ復讐しようかしら?」

 

 男を心底羨ましそうに見ながら、女の方がそう漏らし、そして小雪を鋭くにらむ。

 

 そんな小雪をかばうように、イッセーが前に出、そしてその隣にイリナも並ぶ。

 

「トウジさんだけじゃなく青野さんまで狙おうっていうなら、こっちもそろそろ奥の手使うぜ」

 

「だったら今度は私の番ね。パパを傷つけてそのうえ青野さんまでだなんて、許さない・・・っ」

 

 所業に対して怒りに燃える二人に、しかし八重垣は憐れむように首を振る。

 

「まったく。彼の所業を知れば君たちは君たちだからこそ、ぼくの気持ちがわかると思うけどね。・・・ねえ?」

 

 同意を求めるように八重垣はトウジに視線を送り、そしてトウジは否定しようとしなかった。

 

 その姿を見て、小雪は大体の事情を察する。

 

「・・・なるほどな。和平前の暗部の犠牲者ってところか。聖杯ってのは本当に便利だな?」

 

「物分かりが良くて助かるよ。さすがは学園都市の凶手、といっておこうか」

 

 挑発のつもりで放たれたであろう言葉に、しかし小雪は反応しない。

 

 エデンの直属である自分の学園都市時代の情報など、エデンから伝えられてるのは当然だ。自分が殺し屋であったことなど知られてない方がどうかしている。挑発に使うには軽すぎる。

 

「それで? あの当時なら仕方のねーことだし、話の流れからして予想できたことだろーよ。イッセーとイリナにひがみ根性で仕掛けるならもっかい殺すぞ」

 

 冷徹に切り捨てながら、小雪は銃口を八重垣に向ける。

 

 和平がなされる前の闇などいくらでもあった。何より自分もそのあたりは積極的にかかわっている。

 

 本格的なところはアザゼルが嫌がったのか巻き込ませてくれなかったが、それでも経験を最大限に発揮できる仕事をいくつもしてきた自負がある。そしてだからこそ、あの時代では仕方がなかったこともある。

 

 だからこそ、それらにかかわってない朱乃たちをかかわらせるわけにはいかない。

 

 それが、闇の役目だと信じてる。

 

「恨みつらみをぶつけたいなら、演者にぶつけろよゾンビ風情が。・・・相手したいならこいつの同類が相手になってやる」

 

 イッセーたちを押しのけて、一歩前へとそこに出る。

 

 だが、八重垣はむしろ肩をすくめるとわきへとずれた。

 

「そうしてもいいけど、君の相手は()()()()

 

 そう言い放つと、八重垣はフードの女にその場を譲る。

 

 その態度が、何より何を言いたいのか明確に示していた。

 

 お前を裁くのは僕じゃない。さあ、清算の時がやってきたぞ、と。

 

 そして、同時にその間に雷光が付き立った。

 

「・・・イッセー君! 小雪!!」

 

 堕天使の翼と悪魔の翼を同時に展開しながら、朱乃が素早く舞い降りる。

 

「遅くなって済まない! 反応に気づいて追いかけてきた!!」

 

『イッセー先輩! 援護するよ!!』

 

 続けて聖魔剣を引き抜いた祐斗と、闇の獣と化したギャスパーが舞い降りる。

 

 潮時とみたのか二人は下がる様子を見せるが、しかしそこで息をのむ声が響いた。

 

「・・・嘘よ」

 

 あり得ない、と。朱乃の震える声が小さく、しっかりと響いた。

 

 その言葉に反応するのは、フードの女だった。

 

「・・・ああ、そういえば貴方は私の顔を見てたっけ」

 

 やっと気づいてくれたとでも言わんばかりに喜びの表情を浮かべながら、フードの女性はその顔をはっきりと見せる。

 

 赤毛の髪を持つその顔をはっきりとみて、小雪はようやくその正体に気が付いた。

 

 そして、だからこそ何があっても殺すと決断した。

 

「・・・dens226(我が牙は必ず敵に食らいつく)

 

 躊躇することなく魔法名を発動。

 

 この攻撃は間違いなく自爆攻撃だが、今の小雪に躊躇はない。

 

「たとえあれが当然の殺し合いだったとしても―」

 

 そう、殺し合いをしていた関係の重要人物が近くにいれば当然殺しに行くだろうが―

 

「―親父とお袋と、そして朱離さんの敵が、朱乃に触れるな!!」

 

 ―だからといってこれ以上、小さな子供のトラウマを刺激させるような真似はさせない。

 

 ゆえに必中の一撃を放つ。

 

 全身に裂傷を刻み、体の内側にも深手を負いながら一撃を叩き込み―

 

bracchium139(我が腕は栄光をつかむためにある)!!」

 

 女性の右腕がそれを粉砕した。

 

 最大出力の光力をあっさりと粉砕され、しかし小雪の衝撃はそこではない。

 

「まあ、言いたいことはわかるけどさぁ」

 

 魔法名とは唯一無二。ラテン語と三桁の数字であわされるそれは、ダブりを防ぐための措置であるがゆえに一人につき一つしかない。

 

 何より、小雪の魔法の攻略法を知っているということがすべての事実を知っている。

 

「あ、あんた、は」

 

「自分の両親と親友の母親を殺されて怒る資格が―」

 

 寄りにもよって、このタイミングで

 

「私たちを裏切ったあんたにあると思ってるの? マリンスノー!!」

 

「スカイ、ライト・・・?」

 

 闇が、その身を引きずり込もうとしていた。

 




罪にまみれた人生を送り切り、そして光をともす未来を得た少女。

だが、過去の罪が消え去るわけではなかった。

過去の罪が、ついに彼女に追いついた。


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天界、襲撃されます!!

はぁい急転直下! そろそろ戦闘タイムに入ります!!


 

「・・・大体そういう事情なわけですが、タイミングが致命的に悪い!」

 

 我慢できずにとりあえずお土産に持たされた酒をヤケ飲みしながら、俺は真剣に頭を抱えた。

 

「ええ。私もお父様からバアル家に被害者が出ていることは聞いたけど、まさかそんなことになってたなんて」

 

 部長も本当に頭を抱えている。

 

 イベントごとに共鳴するかのように非常事態が発生するのは、割と本年度の俺たちの定番ネタだ。ネタではあるがうれしくも何ともないし普通に死ねる。

 

 本当に何で生きてるんだ俺たち? 神話級の実力者がつるべ打ちで襲い掛かってくるとか俺たちが何をした?

 

「それで、小雪と朱乃さんは?」

 

 俺としてはそれが一番気になる。

 

 あの後すぐに照合がされ、事態の内容はおおむね把握できた。

 

 クリフォトの刺客として仕掛けてきた二人の正体は把握できている。

 

 一人は、ゼクラム・バアルは話していた八重垣正臣。重要機密とやらに触れかけていたクレーリア・ベリアルと恋仲になり、それらが原因で暗殺された男。

 

 まあ、この辺については同情しよう。わずか十年で殺した男の娘が同じく殺した連中の末裔と義理の姉妹丼とか怒りたくもなるだろう。それはそれとして状況的に仕方がないので八つ当たりじみてるからこれ以上はさせんが。

 

 まあ、生まれてもいないイッセーや子供たちを積極的に巻き込むハーデスに比べれば気持ちはわかるし、少しぐらいは手心を加えてやってもいい。正当性ははるかに上だし、イッセーやイリナに任せた方がいいのかもしれない。

 

 そしてそれ以上に厄介なのが一人。

 

 すでにアザゼルの手でデータが照合。顔が一致したことで確証に至った。

 

 青野小雪はもともとある世界の魔術組織の一員だった。そして危険視していた大規模組織である、学園都市に年齢的な都合もありスパイすることになる。

 

 だが、子供には限界があったのか彼女は即座につかまった。このまま殺されるか、それとも一員となってどす黒い人生を生きるか。その二択しか彼女には選べなかった。

 

 そして結果として彼女は後者を選択。その後の後続部隊を売り、そして獣同士が喰らい合う、血で血を洗う裏の抗争を生きて死んでいった。

 

 そんな彼女が裏切り殺した女は、巡り巡って来世ですら組織の一員として生きて小雪に殺されるという因果を果たす。

 

 その名をスカイライト。小雪の両親を殺し、それでタガが外れた小雪に殺された、彼女のかつての友人だ。

 

「・・・もうあいつに同情しかできない。運命はもう少しあいつに手心を加えろよホント。呪われてんのか、オイ」

 

「まったくだね。イリナにも同情するが、しかしそれどころじゃないだろう」

 

 ゼノヴィアが目を伏せて俺のボヤキに同意する。

 

 イリナにも同情するが、明らかに小雪の展開がひどすぎる。

 

 過去の陰鬱な人生を帳消しにするかのごとき光の人生を台無しにした奴が、寄りにもよって自分の陰鬱な人生の始まりの象徴。挙句の果てにそいつを実は殺してて、そしてよみがえって清算を要求。なんだこの地獄は。

 

 そして、何より厄介なのが。

 

「この事態、間違いなく小雪は自力で清算しようとするってことだ」

 

「と、止めれないんですか?」

 

 ギャスパーの言葉は、おそらくみんなの代弁だろう。

 

 気持ちはわかるさ。悲劇や復讐の連鎖なんてこいつらは基本的に望まないし、何より小雪の人格をよく理解してるから、そんなことに巻き込まれてほしくないと思っている。

 

 だけど・・・。

 

「駄目だろ。もしここで俺たちが無理に割って入って解決したら、たぶんあいつは一生しこりを残す」

 

 闇の側の住人だからこそ断言できる。そんなことになったらあいつは耐えられない。

 

 よりにもよって、過去のトラウマがフラッシュバックしているときに来たのが厄介だ。下手な刺激を与えると爆発する。

 

「どうにかできそうなのが朱乃さんしかいないんだが、相手が悪いからな」

 

 アザゼルはアザゼルで忙しいし、バラキエル氏も同様。そして一番可能性のある朱乃さんは刺激が強すぎてこっちも部屋にこもっている。

 

 朱乃さんにしてみれば親の仇なわけだし、あの人が倒す形なら小雪も文句は言わないと思うんだが・・・。

 

 いや、それ以前にあいつはしなきゃいけないことがあるかもしれない。

 

 俺が言うのもあれかもしれないが、それが一番あいつにとってすっきりする結末になると思うんだがなぁ。

 

「・・・とにかく俺たちは露払いを徹底するべきだ。世の中には当人が解決しないといけないこともある・・・というわけだ」

 

 俺はそうまとめるが、しかしどちらにしてもこれはまずい。

 

 引き当てた幸運があるとはいえ、意図的にタッグを組ませて襲撃させる当たり、リゼヴィムの野郎はほかに何か考えているはずだ。

 

 ・・・これは間違いなく事前準備をしておくべきだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で? 俺様を選んだ理由はなんだよ」

 

「呼び寄せられる増援で、一番常識人で強いのがお前だった。場所が場所だから厳選しないと」

 

 展開で、俺はグランソードとともに襲撃を警戒していた。

 

 わざわざそのために、合流しないで第一天で待機しているのだ。襲撃してくるならここが一番可能性が高いというかここしかない。

 

「普通魔王の末裔を天界に連れてくるか?」

 

「いいじゃん、どうせ魔王の妹が天界に来てんだから」

 

 俺たちは戦意をみなぎらせながら、そんな軽口をたたき合う。

 

 はっはっは。いい加減慣れてきたもんだ、クソが!!

 

「できればお前の舎弟共も全員連れてきて、っていうか全部任せたかった。・・・なんで魔王の末裔とかなんぞと殺し合わねばならないんだよ、常識的に考えて。俺もうさすがに限界なんだが」

 

「天命だと思ってあきらめとけ。割り切らないと死ぬぜ?」

 

「割り切ってるけど、不満がないわけじゃないんだよ」

 

 俺は割と本気でいろいろしてるが、それはあくまで平穏を守るためだ。

 

 俺に日常を、輝きを、日溜りを。それらが闇にけがされないように、前もって防波堤を作っておく。

 

 なのに波どころか世界記録クラスの津波に積極的にぶつかりに行くなんて本意ではない。誰があんなトンデモ連中なんかと戦いたがるか。歯ごたえのある戦闘には興味がないでもないが、それにしたって限度があるわ。

 

 人からキチガイ扱いされることの多い俺だが、その辺はノーマル度高い自信がある。

 

「加えて小雪の件が心配過ぎて吐きそう。八重垣正臣のことも気になるが、あれに関してはイリナに奥の手を持たせたから何とかなるだろ。イッセーにも離れるなといってるしな」

 

「んで下がった部分を俺様に頼るってわけか。ま、こっちもオーフィスや舎弟の罪状下げるためにも頑張らねえとな」

 

 なんでこいつテロリストやってたんだろう。いいたかないけどサタンレンジャーよりよっぽどまともなんだけど。

 

「まあいいさ。来たなら来たでその時は叩き潰すだけだ。いい加減ヤケだよやってやるよ」

 

「同感だな。だからこそ、俺様達がこうして出てくるところに―」

 

 気合を入れなおしたその瞬間、耳元に連絡を入れていた監視役の声が響いた。

 

『大変です! 敵が、第三天より襲撃してきました! 悪魔と死神です!!』

 

「なんでだぁああああああああああ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいこらぁあああああああ!!! 死神ども俺が狙いなら俺を狙いやがれやぁあああああああ!!!」

 

 暴れてる悪魔と死神に光の群れを叩き込みながら本気で叫んだ。

 

 なんでお前らが天界(こっち)に来る!? お前らの狙いは俺だろう!?

 

 しかも想像以上に被害が大きい。

 

 転生含んだ天使たちの群れが当然迎撃に来たわけだが、なんだこれは?

 

 百を超える数が堕天している。なぜ天界でそんな事態が勃発している。ここは清浄な空間ではなかったのか?

 

 そして、そんな中にいる死神は心底あきれた顔を見せてきた。

 

「何を寝ぼけたことを言っている? 信仰を奪われた報いは天使たちに払わせろといったのは貴様だろう?」

 

 ・・・・・・・・・

 

「ああ、それはそうか」

 

 そりゃ納得。確かに正論というか、俺似たようなこと言ったな。

 

 反論できん。っていうか心底腑に落ちた。

 

「大将!?」

 

「いや、確かに恨み節を正当にぶつけているわけだし。そういう意味では迷惑度は大きく下がるというか・・・」

 

 さんざん信仰を広げたのは確かに天界だし、生まれてもいない悪魔の子供たちを巻き込むよりかは正当だよなぁ。

 

 とはいえ・・・。

 

「生まれてもいない奴らがかかわっているのは死者(彼ら)も同じ。まあどうせクリフォトの防衛は俺たちの仕事だ」

 

 とはいえ気分的にはまあましだ。

 

 正当な恨み節で来るというのなら。そしてそれに対抗することが仕事なら。

 

 まあ、八つ当たりで襲われるよりかははるかにやりがいがある仕事だろう。少なくとも真正面から向き合ってやろうという気分にはなる。

 

「どっちにしたって、お前ら俺が嫌いだろう? 相手してやるから来るといい」

 

「それはいい。我々としても冥府に隠された情報を、あのような下劣な輩にくれてやったのだから報酬は欲しかったのだ。貴様の首をハーデス様にささげてくれる」

 

 死神たちも一斉に鎌を構え、そして一斉に襲い掛かる。

 

 それはそれとして、この襲撃の情報は冥府経由か。

 

 あの世同士何らかのつながりがあるのだろうが、それにしても重要情報だろう。

 

 ・・・ハーデスの野郎、この情報をテロリストに問題なく提供するためにわざと離反者を送り込んだのか?

 

 機密を盗み出したやつがいただけだといわれたら反論しずらい。ええい、あのジジイ速攻で反撃してくるとは両腕ももらっておくべきだったか。

 

 まあいい、とりあえず死神どもは任せておけ。

 

 お前らはお前らで親父さんの因縁を清算しな、二人とも?

 




正直すまんかった、小雪。

そしてここからが遂に本格戦闘です。天界を崩壊させかねない大激戦ですので、皆様お楽しみに。



























天使がすでに百人以上堕とされている。

これがなぜかを考えてください。前哨ラストでいった意味が分かります。


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ごめんなさい

過去が現在に追いついた。


・・・だから現在は未来に走り出そう。


Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・まさか、待ち伏せされるとは思わなかったよ」

 

 第五天に入った直後、復讐相手の娘と義息子の姿を見て、八重垣は苦笑した。

 

 天に仕えるものを天国で殺すだなんて気が利いている皮肉だと自分でも思っていたが、それよりはるかに上があった。

 

 悪魔と聖職者の許されぬ恋ゆえに殺された自分たちの怨念を、恋が成就した悪魔と天使が妨害するだなんて嫌味だろう。

 

 ましてやそれが殺したい相手の娘と義息子だなんて痛烈だ。

 

「皮肉が利きすぎて君たちすら殺してしまいたいよ・・・」

 

「だろうな。だけどさせねえよ」

 

 一誠は鎧を展開しながら、一歩前へと足を踏み出す。

 

 事情は聴いた。恨みも分かる。自分だって同じことになればどうなるかわからない。

 

 だけど、これは悲しすぎる。

 

 誰よりも何よりもそれを後悔してるトウジを、犠牲にさせるだなんて我慢できるわけがなかった。

 

「・・・パパがあの町を去った理由がわかったわ。きっといるのがつらかったのね」

 

 涙すら浮かべながらイリナも一歩前に出る。

 

 正直駒王町を引っ越すことになったときは、栄転という誇らしさもあったが寂しさもあったのだ。

 

 だが、それも父の気持ちを考えれば当然だろう。

 

「そう、後悔していたのはパパも同じ。だから、あなたにパパは殺させない・・・っ!」

 

 口で言っても分かってくれるわけがない。それだけ憎悪が深いのは簡単にわかる。

 

 だから―

 

『せめて全力でぶつかってやれ。相手の全力を引き出して、そのうえで倒すぐらいの気概でいけ。それがせめてもの誠意だ』

 

 そういって兵夜に渡された切り札を開帳しよう。

 

「・・・偽《フェイク》・外装の聖剣《エクスカリバー・パワードスーツ》、展開!」

 

「それは、宮白兵夜の!!」

 

 そう、宮白兵夜は性格は悪いが人はいい。

 

 ハーデスに比べればまっとうな復讐だから自分からは手を出さないが、しかし止めずにはいられないイリナ達に手を貸した。

 

 自らの主武装であり偽聖剣。しかし、ベースがエクスカリバーである以上、人工とはいえエクスカリバー使いであるイリナはある程度は使用できる。

 

 邪龍という強大な敵と真正面から戦って勝つために、イリナに兵夜は手を貸した。

 

「そういうわけよ。彼の心を無駄にしないためにも、新名の想いは私が受け止める!」

 

 そして、イリナは与えられた新たな力も開帳する。

 

 シャルルマーニュ十二勇士が振るった聖剣、オートクレール。

 

 人々の心を清め洗い流す聖剣をもってして、汝の恨みを洗い流そう。

 

「来なさい。私の存在が納得いかなくてたまらないでしょう? 宮白くんがそういったなら間違ってないでしょうし、私もあなたの行動を認められない!!」

 

「・・・あの男はなかなか都合のいい展開を用意してくれる。性格は悪いけど好都合だ・・・っ!!」

 

 八重垣は天叢雲剣から邪龍の首を生み出すと、凄惨な笑みを浮かべる。

 

 あくまで狙いは自分たちを殺した者たちだが、邪魔をするなら容赦はしない。実際、あの男の娘が悪魔と結ばれて祝福されるだなんて腹立たしいにもほどがある。

 

「君たちを殺してその首を紫藤長官に見せるのもいい趣向だ。それぐらいした方が気は晴れるだろうね!」

 

「いや、そんなことはさせねえよ」

 

 そして、一誠もまた戦意を高ぶらせる。

 

 これ以上、悲劇は生み出させない。

 

 そして、イリナも死なせない。

 

 愛する幼馴染とともに、悲劇を止めるべく兵藤一誠は前へと出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、同様に戦いが発生する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・いるんだろ、スカイライト」

 

 天界が混乱に包まれる中、青野小雪はその一角でそう告げた。

 

 彼女はおそらくここにいる。その確信があった。

 

「ええ、いるわよマリンスノー」

 

 フードを脱ぎ、和装を身にまとったスカイライトは日本刀をもって小雪と向かい合った。

 

「・・・ケリをつけに来た。だから一つ約束しろ」

 

「なに? 聞くだけ聞いてあげる」

 

「あたしを殺したならそれで終われ。クリフォトとは縁を切ってくれ。・・・今は五代宗家とも話はある程度ついてるんだ」

 

 そういいながら、しかし小雪は戦闘態勢をとる。

 

 素直に殺されてはやらない。やるなら全力をもって抵抗する。

 

「まあいいけど。あんたそこは素直に首を差し出しなさいよ」

 

 あきれているような口調だが、しかしスカイライトの言葉に乗った感情はむしろ納得だった。

 

 そう、そうでなければ納得できない。そうであってほしいという感情すらあった。

 

 それを正しく裏付けるように、小雪は確信をもって問いかけた。

 

「お前、あたしが素直に首出して「殺してください」っていって納得するか? ファックだな」

 

 その瞬間、スカイライトの表情は愉悦一色に染まった。

 

 そうだ、そんなものは必要ない。

 

 必要なのは心からの抵抗。そのうえで徹底的に殺戮してこそわが恨みは晴らされる。

 

「・・・よくわかってるじゃない、マリンスノぉおおおおおおおおおっ!!」

 

 次の瞬間、スカイライトは全力で突撃する。

 

 そしてあらぬ方向に向けて小雪が銃口を向けた瞬間に、スカイライトは刀を振り払った。

 

 小雪の魔術は絶対必中という特性ゆえにある種の破格の性能を発揮するように思われるが、実際のところ致命的な欠点が存在する。

 

 この能力は絶対に当たるとこに攻撃を転移させる能力。すなわち―

 

「わざと当たれば狙いは誘導できる!!」

 

 そんなことはわかりきっていると、スカイライトは攻撃を迎撃した。

 

 マリンスノーの魔術名とは、すなわち攻撃を必ず当てるという意志表明。そんな言葉をつけられた魔術に、回避という概念を持ち込むことこそばかばかしい。

 

 ゆえに回避は投げ捨てる。最低のダメージで攻撃を耐える。それこそ最適解であることを、ともに切磋琢磨していたスカイライトは読み切っていた。

 

 ・・・かつてマリンスノーと呼ばれていた彼女のことを思い出す。

 

 だいぶやさぐれているが、しかし根っこは全く変わっていない。

 

 面倒見がよく、まじめで、そして甘えるのが下手な少女。

 

 まったく、本当に懐かしくて、あの時の経験は今でも大事な宝物で。

 

 だからこそ、裏切られた憎しみはとても深いのだ。

 

 あげく、その記憶を取り戻したときまさに彼女に殺された。

 

 人間というものは似たような経験をした時に過去がフラッシュバックするものだが、いくらなんでも同じすぎるだろう。

 

 ああ、あの時自分たちはそこまで言われるようなことはしていない。

 

 あの時堕天使は間違いなく敵で、そして彼女たちは身を守っただけ。その双方に正当な理由があり、そういう意味では当然の結末で筋違いなのかもしれない。

 

 だが、過去の話は全く別だ。

 

 これを抱えたまま終われるものか。

 

 嘆きを抱えたまま終われるものか。

 

 それらを晴らす機会を得たのに、使わずに終わってたまるものか。

 

 絶対必中の攻撃を受けきり、全ての攻撃を術を最大限に使ってしのぎ、そして自らの間合いへと完全に入った。

 

「終わりよ」

 

「まだだよ」

 

 小雪は防御の姿勢をとるが、しかしそんなものなど関係ない。

 

 自分の魔術とは彼女の魔術とある意味では同一だ。

 

 円卓の騎士トリスタンの伝承を基に生み出したのがマリンスノーの魔術なら、自分が生み出したのはヴェディヴィエールの伝承。

 

 騎士九人分の一撃を放ったとされる伝承を基にしたこの魔術は、放った攻撃の威力を九倍にする。

 

 お互い連射が利かないのが難点だが、しかしこちらはもうすでに間合いに入った。

 

 獲物は鉄でできた日本刀だが、あらゆる術式をもって強化された特注品。それらが九倍になれば、その威力は聖魔剣にすら匹敵する。

 

 ゆえに振るった。

 

「さよなら、マリンスノー」

 

「・・・ファック」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、そのまま軌道をそらされた。

 

「「・・・!?」」

 

 お互いに何が起こったのかわからない。

 

 小雪はだからこそ自分たちによるものではないと考え―

 

「あらあら、そんなことはさせませんわよ」

 

「朱乃!?」

 

 思わず声を荒げてしまう。

 

 なんで来た。

 

 少しうれしい。

 

 でもなんで!?

 

 この戦いは前世()の因縁の清算で、幼少期()の因縁の贖罪で、だから誰にも邪魔を入れさせたくなかったのに。

 

 復讐の正当性ゆえにハーデスを蹂躙した兵夜は、だからこそ手を出そうとしなかったのに。

 

「・・・小雪」

 

 などと考えていたため、ビンタをもろに喰らってしまった。

 

「・・・ブッ!?」

 

 いろいろとため込んでたのが全部出てきそうなぐらい、全力を出されたビンタだった。あと雷光を宿していたので全身がびりびり来た。

 

 何か言いたくなって思わず口を開くが、しかしそれより先に抱きしめられた。

 

 ・・・基、誰が教えたのかこれは絞め技だった。種別的にはさばおりだった。

 

「ファックファックファックファック!? 痛い痛い痛い痛い!?」

 

「あらあら。新機軸の攻めを考えて小猫ちゃんや宮白くんに教えてもらいましたけど、有効そうで何よりですわ」

 

 あのバカ何を教えてやがる! あと小猫も後で説教だ!!

 

 全力で悲鳴を上げるが、しかし朱乃は全く話さない。

 

 すっかり忘れていたが彼女の駒は女王であり、つまりは筋力も強化されているのである。

 

「いろいろ言いたいことはありますが、そもそもそこのスカイライトさんはお母様の敵ですわ。なぜそんな彼女の望みをむざむざかなえてやらねばならないのですか」

 

「いや待て朱乃! その落とし前は即座にあたしが―」

 

「第一」

 

 小雪の反論を遮って―

 

「―私が先約ですわ。譲りませんもの」

 

 ―手痛い反論が放たれた。

 

「・・・っ」

 

「ええ、許そうかと思いましたけどやっぱり許してあげませんわ。どうにかできるのにもかかわらず何もしなかった堕天使も、そのくせ勝手にすべて終わらせようとする暴力娘も、何より一人で全部抱え込もうとするダメな娘も、全部許してあげません」

 

 いつの間にか、締める力は弱くなり、優しく抱きしめられていた。

 

 確かにそうだ。全部そうだ。

 

 だけど、だけど、だけど、だけど、だけど―

 

「何より、まずやるべきことをしっかり終わらせない小雪は許しません」

 

 ―その全部の言い訳を、魔法の言葉が打ち砕いた。

 

「あ、あとこれ宮白くんから」

 

 そういって渡されたのは、菓子折り一つ。

 

 こんなもので戦闘をどう潜り抜けろと言いたくなったが、これはおそらくメッセージだ。

 

 言いたいことも分かるし、自分もそうするが、絶対妨害が入って大変なことになるから、とりあえずこれですましとけ。

 

「・・・ファックすぎるだろ、ホントによ」

 

 もう涙を流す気も消え失せた。

 

「悪いなスカイライト。まだ死ねない理由ができちまった」

 

 わざわざ待ってくれているあたり、彼女もたいがい人がいい。

 

「・・・そう、いちおういっておくけど、邪魔するならあんたも殺すわよ?」

 

 その返答をわかっているあたり、まあ彼女もたいがい聡い女性だ。

 

「あらあら。母の敵相手に遠慮はしませんわよ?」

 

 だからまあ、こっちもそれぐらいのことはしてやろう。

 

「代わりに全力を受け止めてやる。・・・来いよスカイライト。あと―」

 

 起爆剤にしかならないとわかってるが、それでもこれは言っておこう。

 

「・・・あの時は、本当にごめんなさい」

 

 その言葉をきっかけにして、激突が始まった。

 




小雪が今回のヒロインというかキーパーソンになったのは、まさに復讐がテーマだからです。

D×Dにおいて最も復讐ということが似合うファニーエンジェル編。このタイミングで小雪の過去に一つの区切りをつけようと思いました。


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過去との決着

今回は区切りがいいので短めです


 

 スカイライトの魔術は単純であるがゆえに脅威だ。

 

 なにせ攻撃力が九倍である。当てることだけを考えて威力が極めて低いような攻撃すら九倍になれば相応に危険だ。それが大威力ともなればどうなるか。

 

「変な手加減したのが間違いだった。・・・一発で決めてやる!!」

 

 泣き笑いのような表情を浮かべて、スカイライトは術を展開する。

 

 もはや手加減はしないといわんばかりに、最大級の術式を放つつもりだ。

 

「小雪、行くわよ」

 

 短くそう告げると、朱乃は全力を出す。

 

 雷光だけではない、かつて宮白兵夜に持たされた磁力操作の礼装すら使い、最大級の一撃を叩き込まんと出力を上昇させる。

 

 小雪は素直にそれにこたえる。

 

 すべての防御を投げ捨て、そして手を抜き手の形に切り替えた。

 

 自分の能力を本来の形に置き換え、加速をかけるべく意識を集中させる。

 

 ・・・思えば、本格的にこの技術を使うのも久しぶりだ。

 

 大気の噴出点を自分の体に接続し、高加速で反対側のビルなどの想定外の地点から接近。一気に本命を素手で殺すのが彼女の本来の戦闘スタイル。

 

 能力者同士の戦いも考慮して様々な戦闘技術を習得していたが、本命は近接暗殺だった。

 

 これをやめるよう言われたのはあの事件からだ。

 

 もともと聖書の神の死の影響をある程度研究していたアザゼルは、小雪の能力がこれまでにないことからある程度の正体に気づいていた。

 

 そして小雪も限界だった。怖くて隠していたことが原因で、家族を失った苦しさに耐えられなかった。どこかに吐き出したかった。

 

 だから全部話した。

 

 自分が異世界と呼ぶべき世界の出身であること。そこの異能の詳細。自分の立場と経歴。当然裏社会の刺客として生きてきたことも全部話した。

 

 そのうえで小雪は懇願したのだ。

 

 もうこれ以上何もしないで後悔するのは嫌だ。頼むから何かさせてくれ。汚れた自分だからこそできる、そういった仕事がほしいと。

 

 だがまあ結局はヴァーリのお目付け役である。まあ使いこなせば手が付けられなくなる神器ので、正面戦闘ではなく暗殺が妥当なのはわかるが、ほかの仕事もおおむね汚れ度が少ないのが不満といえば不満だった。

 

 その癖、神器と光力のかみ合わせもあったが銃撃中心のスタイルに矯正する羽目になった。と、いうより素手などの暗殺能力を極力避けるように言われてしまった。

 

『んなもん今更引きずったっていいことねぇよ。さっさと捨てて忘れちまえ』

 

 バッサリと切られて怒るに怒れなかったことも思い出す。

 

 必要となれば冷徹な判断も辞さない性分だが、その実どこまでも面倒見がいい人で、その人の願いを断ることはできなかった。

 

 だが、今はあえて使おう。

 

 すべては過去の清算のため。

 

 自分の罪と向き合うため。

 

 何より、朱乃や兵夜とこれからも歩き続けるために。

 

「くたばれ、マリンスノぉおおおおおおおおお!!!」

 

「やらせません!!」

 

 龍王にすら届くであろう威力の増幅された術を前に、しかし朱乃は全力で拮抗する。

 

 刮目せよ。これが雷光の末裔の本領だといわんばかりに、一瞬だが、しかししっかりと相殺した。

 

 そして、凶手は一種のチャンスを逃さない。

 

「小雪!!」

 

「ああ」

 

 自分の体の影響すら半ば度外視した最大加速。

 

 音速すら一瞬で突破するだけの超加速を受け、しかし小雪は冷静に一撃を突き出した。

 

「・・・本当にごめんな。でも、あたしは進むよ」

 

 その言葉とともに、小雪は最大級の一撃をスカイライトに叩き込んだ。

 

「そうじゃないと、今度はあいつらが引きずっちまう。それがあたしの将来(贖罪)だ」

 

「・・・そう」

 

 その一撃を()()()()()、スカイライトは苦笑した。

 

「まあいいわよ。とりあえず、ごめんなさい(当たり前のこと)聞いた(できた)から」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 偽りすら身にまとった聖剣と、邪悪に染まった聖剣がぶつかり合う。

 

 父に対する憎悪を一心に受けながら、イリナはその攻撃をさばききる。

 

 エクスカリバー使いであった自分と、偽物とはいえエクスカリバーの相性はいいに決まっている。

 

 自分の担当は天閃ではなかったが、それでもエクスカリバー使いだったのだ。だからこそ性能を少しは引き出せる。

 

 そして最大の懸念である邪龍も、愛する人(イッセー)がいるなら怖くない。

 

「全部まとめて撃ち落とす!!」

 

 僧侶の特性を発揮した一誠の一撃は、味方をすり抜ける。

 

 ゆえになんのてらいもなく放つことができる砲撃が、龍王のオーラを問答無用で相殺していた。

 

 むしろ八重垣の方が防御のために集中しなければならないほどで、戦闘の趨勢はこちらに傾いているといってもいい。

 

 だがそれでも、憎悪の牙城は崩せない。

 

「ふざけるなよ! ふざけるなよ! ふざけるなよ!? なんで君たちはそんなことになってるんだ!?」

 

 許せるわけがない。許したいなんて思わない。

 

 当然だろう。自分たちの愛は引き裂かれて消し去られたのに、寄りにもよって消し去った相手の子供が同種の愛をはぐくんでいるのだ。

 

 これで怒りに燃えなかったら、それこそどうかしてるといっていい。

 

 とてもわかる。心からわかる。今なら本気で理解できる。

 

 かつての自分だったら、同情はしたかもしれないがそれでも相手が悪魔だから仕方がないと言い切ってしまうだろう。

 

 今はとても言えない。いえるわけがない。

 

 だから―

 

「だから、私がパパの分まで引き受ける!!」

 

 鎧越しとはいえ日本最強の聖剣の一撃は防ぎきれない。

 

 全身がかすり傷を受けているし、重傷といえるものもいくつもある。

 

 だけど、それでも―

 

「それでも、私は死なない!!」

 

 だって、

 

 だって、

 

 何よりも―

 

「イッセーくんと―」

 

 愛する人と―

 

「これからも生きていたいから!!」

 

 だからこそ、オートクレールはそれにこたえ、オーラを最大限に放出する。

 

 そしてそのまま、思いのままに、イリナは八重垣を一閃した。

 

「・・・ああ、できることなら」

 

 だからこそ、八重垣の言葉が耳に痛い。

 

「―僕も、そうしていたかったよ」

 

 これは、絶対に忘れてはいけない。

 

 それが自分の責任(生き方)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 



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馬鹿、襲来します!

次の次でシリアスが終わるといったな。

・・・あれは嘘だ。すでにここで半分終わる。


 

 

 死神連中は何とか追い返せたか。

 

「大将、追い返す程度ですますとか穏便だな」

 

「改善が見えたやつには相応の恩恵があってしかるべきだ。そうじゃなければもっと良くしようなんて考えないからな」

 

 とりあえず、生まれてもいないガキどもを狙うよりかは数段ましな展開だ。じっさい聖書の教えが他の教えを侵略してきたのは事実だからな。そこは文句を言ってもいいだろう。

 

 だから少し手を抜いておいた。これでさらに改善して、もっとピンポイントで下手人を狙うようになってくれればいいんだが。

 

「あと俺に仕掛けるのはやめてほしいんだけどな。そもそも、俺は落とし前をつけるついでに同類にミセシメしただけだぞ?」

 

「最後がなければやってくれるかもな」

 

 ふむ、もうちょっと残虐な方面でやるべきだったか。両腕をもぎ取ってダルマにする方面にすればよかったか?

 

「さて、そして残念なことにここからが本番だ。・・・いやホント残念だ」

 

「まったくだぜ大将。これいろいろと最悪すぎやしねえか?」

 

 心底いやそうな顔を浮かべてみれば、そこには堕天とかしたさっきまで天使だった者たちがゴロゴロと。

 

 いい加減四桁に届きそうなんだが、これマジでやばくね?

 

 そしてそんな原因は・・・。

 

「は、鼻血が止まらない・・・っ!?」

 

「ま、またが痛い・・・!?」

 

「な、なんだこれは・・・心臓がどきどきする・・・っ!!」

 

「う、うわぁああああ!! もう我慢できぐふぅお!?」

 

「「危なかったぁ・・・」」

 

 最後の一人を当身で気絶させて、俺達はため息をつく。

 

 具体的にいうと、全員発情していた。

 

 全員発情していた。

 

 全員が発情して興奮して盛っているんだよこの野郎!!

 

「ふざけるなぁあああああ!!! これもう一人しかいないじゃねえか!!」

 

「完璧にエルトリアだな。あいつ天界を色欲で染めるとか言ってたけど、マジでやりやがった」

 

「止めとけよ馬鹿野郎!!」

 

 おい冗談抜きでやばいぞこれ!!

 

 普通に襲撃されてた方がはるかにましだ。色欲にのまれ切った天使とか、天界が滅ぶぞ別の意味で!!

 

 クソが! 早く奴を見つけてこの発情現象を止めないと、天界が聖なる世界ではなく性なる世界になる!!

 

 急がなくてはぁあああああああ!!

 

 と、急いで踏み出した瞬間にバナナの皮を踏んで俺はすっころんだ。

 

 そしてそのまま滑って1kmぐらいすっ飛んだ。

 

「ふぶぅうううぉおおおおおおおおおおお!?」

 

「大将ぅ!?」

 

「かまうな敵だ!! 先に行って雑兵を始末してこい!!」

 

 俺はグランソードにそう命じながら、素早く体勢を立て直す。

 

 立て直すが、しかしそのまま滑るのがなかなか止まらない。

 

 このギャグマンガでしかありえない展開は! 間違いないぞ、これは!!

 

「スクンサ・ナインテイル!!」

 

「その通りさ!!」

 

 声に反応して上を見ると同時に、俺は即座にガスマスクを装備した。

 

 なぜかって? 奴が空を飛んでいたからさ?

 

 なんでそれだけでって? 奴があるものを食べていたからさ。

 

 何を食べていたかって? サツマイモさ。

 

 そう、奴の能力はギャグマンガの展開を現実に展開する能力。そしてさつまいもとくれば一つの下ネタ。

 

 おならで空を飛ぶ。

 

「あらゆる意味でくそがぁああああああ!!! まじめにやれやこらぁ!!」

 

 ええい、俺はマジで苦労しそうだ。

 

「ふははははは!! そんなあなたにプレゼント!!」

 

 そういいながら奴が落とすのは、なんと火のついたライター。

 

 ハッ!? ギャグマンガでおならに火とくれば―

 

「着火♪」

 

 次の瞬間、大爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何とかこの場は片付いたけど、それだけで済むわけがないか。

 

「祐斗。朱乃から連絡がきたわ。・・・小雪の勝ちよ」

 

 部長の言葉に、僕たちはいっせいに安堵した。

 

 青野さんが一人で消えた時点で、ぼくたちは彼女が決着をつけに行ったことを理解した。

 

 彼女の過去はある程度は把握していたし、だからこそうかつな介入はできなかった。

 

 それができるとするならば、今の大事な人である宮白くんか朱乃さんだけで、しかし宮白君は別件でいなくなっている。

 

 だが、同時に皮肉込のお土産を残していったので、それをもって朱乃さんが介入しに行ったのだ。

 

 それがどれだけ功を奏したのかはわからないけど、僕たちにとってはいい結果になったようで何よりだ。

 

「これなら大丈夫そうですね。ですが・・・」

 

「ええ、ぼくたちも急がないといけません」

 

 そう、ぼくたちにとってはここからが本番だ。

 

 なにせ敵襲はいまだに続いている。天界の危機は全く持って現在進行形で続いているのだから。

 

 どうも死神が手引きしたらしいが、もしやハーデスはこれを見越してあえて死神たちの離反を止めなかったのか?

 

 宮白君に徹底的に蹂躙されたことで、当分はおとなしくなると思っていたのが甘かった。彼の三大勢力に対する敵意ははるかに大きい。それを甘く見たツケがこれだ。

 

「イリナとイッセーも八重垣正臣を倒してこちらに向かっている。急ごう!!」

 

 ゼノヴィアがさらに朗報を告げながらも僕たちをせかす。

 

 ああ、敬虔な信徒である彼女にとって、天界の危機は見過ごせるものではないしね。当然の反応だ。

 

 そして僕たちは急いでいこうとして―

 

「―やっほー! 何とか追い付いてきたよぉん♪」

 

 ―そこに、化け物が出てきたことを察知した。

 

「リゼヴィム!!」

 

 部長が即座に消滅の魔力を飛ばしながら声を飛ばす。

 

 リゼヴィムは難なくそれを魔力で打ち消すと、なぜかすごく疲れた表情でため息をついた。

 

「まぁったくもう! エルトリアちゃんが勝手に行っちゃったせいで、俺様ちゃんは全然暴れられないぜ!! これでもハチャメチャ騒ぎの空気は読めるんだぜぃ?」

 

 相変わらずふざけた男だが、どうやら事態はそれ以上にふざけているらしい。

 

 あのイッセー君や歴代二天龍が足下に及ばないレベルの色欲をもつ、魔王末裔エルトリア・レヴィアタンが、今回の事件の原因か。

 

 確かに、すべてを色欲に包むとか言っていた彼女なら、色欲からとても遠いところにいる天界に行けると知ったなら、エロを振りまきに襲来しかねない。

 

 なんてことだ!! まじめに決着をつけたと思ったら今度はこんなばからしい戦いになるだなんて!!

 

 見れば全員頭を抱えている。ですよね!!

 

「おじさんもばか騒ぎは大好きだけどさ? 枯れちゃってるからこういうタイプはどうにも苦手なんだよね? 空気変えたいんだけど、付き合ってよ」

 

 心底疲れた表情を浮かべながらも、しかしリゼヴィムは邪龍たちを呼び出しながら質の悪い笑みを浮かべる。

 

 邪龍たちの中にはグレンデルやラードゥンに近い姿を持つ者たちまでいる。聖杯の力で量産型を作り上げたのか?

 

「さぁて、天界を地獄に変えちまおうぜ、諸君?」

 

 ・・・くっ! 周りがあれ過ぎるせいで、全然集中できない!!

 

 オカルト研究部史上、最も頭の痛くなる戦闘が始まろうとしていた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out




はい、ギャグとエロが襲来してきました。

リゼヴィムが一番シリアスってひどいね!


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リゼヴィム、倒します!

ちょっとだけシリアスが復活するんじゃよ('ω')ノ


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 くそ! リゼヴィムの奴リアスたちに襲撃仕掛けてきやがった!!

 

「イッセーくん! イッセーくんはドライグ無しでどう戦うの? 相手はリゼヴィムだから神器効かないわよ?」

 

『そこについては気にするな。あと少しで打開策が用意できる』

 

 イリナの心配する声に、ドライグは自慢げにそう答えてくれる。

 

 ああ、お前が言うならそうなんだろうな。本当に頼りになる相棒だよ!!

 

 でも急がないとみんなが心配だ。

 

 ギャスパーと木場の二人が大きく戦力ダウンされるってのがマジでつらい。しかも宮白相手にも終始遊び半分で相手してたっていうし、どんだけだよあいつ。

 

 だけどそう簡単にやらせるわけがねえ! 調子ぶっこいてるやつの顔面に、一発叩き込んでやる!!

 

「・・・あらあら? こんなところに赤龍帝がいるわよん?」

 

「・・・ほう」

 

 って目の前にヴァルプルガとクロウ・クルワッハがぁああああ!?

 

「い、急いでるからそこどきやがれ!! 洋服崩壊(ドレス・ブレイク)叩き込むぞ!!」

 

 全裸にされたくなければそこをどきやがれ、ヴァルプルガ!!

 

「あらあら。そんなものがわたくしにつうようするとでもん? ・・・なめられてるようだからお礼に燃やしてあげようかしら?」

 

「邪魔をするな。二天龍とは一度戦ってみたかった。・・・一対一でな」

 

 何やら向こうが険悪な雰囲気になってるけど、この隙をつくことってできないかな?

 

 あ、でも邪龍も結構集まってきてるような気が・・・。

 

 俺が奥歯をかみしめたとき、ヴァルプルガとクロウ・クルワッハの視線が俺たちの後ろに向いた。しかも相応に警戒してだ。

 

「お、イッセーどん急いでる?」

 

「何とか合流して最低限の形にしたが、どうやらよかったようだ」

 

「こっちに合流してきて正解でした。実質おまかせください、イッセーくん」

 

 こ、こ、この声は!!

 

「ジョーカー! それにゲンさんにベルさんも!!」

 

 お、おおおおおお!! すっごいタイミングですっごい助っ人たちが駆けつけてくれたぜぇええええ!!

 

「イッセーくん! 事情は聴いてますから先に行ってください。ここは私たちが!!」

 

「大事な妹分のためならお兄ちゃんはいいところ見せないとね。・・・クロウ・クルワッハが担当かなぁ」

 

「ジョーカー。お前はまず雑魚を散らせ。広範囲攻撃はお前が一番だ。そこまでの間クロウ・クルワッハはもたせる」

 

 おお、全員自信満々の表情だ。

 

 足止めなんてレベルじゃねえ。やれるなら返り討ちにすることまで考えてやがる。

 

 と、思った時にはいつの間にかクロウ・クルワッハのはるか後ろに俺たちはいた。

 

「・・・え? あれ? どういうこと?」

 

「私の瞬間移動能力(テレポート)で転移させました!! 言ってください!!」

 

 おお、ベルさんも進歩してる! この距離を一瞬で片手間レベルでなんて!!

 

「わかりました!! 三人とも、死ぬなよ!!」

 

 なんとか間に合えよ、みんな・・・っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっひゃひゃひゃひゃひゃっ! いっくぜー! ルシファーサーカス!!」

 

 そういったとたん、空が魔力に染まった。

 

 天界の空が魔力で埋め尽くされる。そんな和平が結ばれる前どころか今ですら信じられない光景は、たった一人の悪魔によって生み出されている。

 

「いっくよーん!」

 

 次の瞬間、一斉に魔力の嵐が放出された。

 

『させない!!』

 

 一瞬でギャスパー君の闇が展開され、そこら中から赤い瞳が生まれてそれを止めようとするが・・・止まらない!!

 

「俺の能力を神器で止めれるわけないよねー!」

 

「ならば火力勝負だ!!」

 

「それならこちらの土俵よ!!」

 

 ゼノヴィアがエクスデュランダルを全力で放ち、同時にリアス部長が精密射撃を放つ。

 

 破壊力ならイッセー君に次ぐゼノヴィアの攻撃が一気に薙ぎ払い、うち漏らしを正確に予知した部長がそれらを精密に打ち抜いた。

 

 よし、これで―

 

「ルシファーウイング!」

 

 な、後ろに―

 

「すごい早い!!」

 

 次の瞬間、展開されたいくつもの悪魔の翼が僕たちを打ちすえた。

 

 かろうじて防御が間に合たのは、聖魔剣を後ろに展開したぼくと、未来予知で反応ができた部長。あとはナツミちゃんだけだった。

 

 しかも弾き飛ばされた仲間をアーシアさんから隠すように翼が邪魔をして進めない。

 

「ゼノヴィアさん! ロスヴァイセさん! 小猫ちゃん!!」

 

「・・・祐斗! 魔剣の使用を許可するわ!!」

 

「はい!!」

 

 できれば剣士としての技量を高めたかったが、そんなことを言っている場合じゃない!!

 

「やってくれるじゃねえかこの野郎!!」

 

「ここで終わらせる!!」

 

 ナツミちゃんとともに、リアス部長の援護を受けながら一斉に攻めかかる。

 

 今は魔剣の呪いを恐れている場合でもなければ、剣技にこだわっている場合でもない。

 

 この場を切り抜かねば、そんなことを言っている余裕もないんだから・・・っ!!

 

「うっひょ~いい! すっごい面白いことになってるねー!」

 

 だがリゼヴィムは遊び感覚でそれを捌くと、こちらに反撃する余裕すらある。

 

 幸い部長が察知してつぶしてくれているが、これでは全く時間がない。

 

「・・・ファーブニルさん! お願いします!!」

 

 たまらずアーシアさんが叫ぶ。だが、ファーブニルは動かない。

 

『だめ。あいつまだ余裕。ここを動いたらアーシアたんが危ない』

 

 ・・・くっ! 僕たちでは奴の本気を引き出すこともできないのか。

 

 ふんどしに匹敵する最強格。僕たちだけじゃ削りきれない・・・っ!!

 

「うーん面倒だなー。やっぱここはセオリー通りに行こうかね」

 

 こちらの攻撃を裁きながら、リゼヴィムはいいことを思いついたかのように頬を緩める。

 

 間違いなくこちらにとって嫌なことでしかない!

 

「・・・じゃ、回復役からねらおっか」

 

 次の瞬間、魔力砲撃が再開された。

 

 それも曲射砲撃。部長をよけてアーシアさんだけを狙っている。

 

「・・・アーシア!!」

 

 部長が悲鳴を上げながら迎撃するが、数が多すぎて殺しきれない。

 

『アーシアたん、守る!!』

 

 かろうじて抱きかかえるようにファーブニルが守ったが、その体中があっという間に鮮血に染まる。

 

 アーシアさんの回復が追い付いてない!? なんて火力だ!!

 

 くそ! 僕たちの攻撃だけじゃこの余力を消しきれない・・・っ!!

 

「うひゃうひゃひゃ! やっぱりかわいい女の子をいじめるのは楽しいねぇ」

 

 いちいち全てが癪に障る。

 

 こんな邪悪に好き勝手させられる、自分たちにすら怒りを覚える。

 

「うん、だからちょっと変化球をね?」

 

 次の瞬間、ファーブニルの内側で魔力が爆発した。

 

「――――なに、を」

 

 唖然とするリアス部長を愉快そうに見ながら、リゼヴィムはまるで学者のように神妙な口調で告げる。

 

「初歩的なことだよ。魔力を誘爆しないように調整しながら、地面を潜らせて打っていたんだ。時間はかかったけどうまくいったようだね、ん?」

 

 そんな!? アーシアさんの耐久力で今の一撃は―

 

『・・・・・・・・・殺、す』

 

 ―それ以上に、莫大な殺意でこの場にいたものすべての動きが止まっていた。

 

 逆鱗、という言葉がある。

 

 龍ののど元にあるとされている逆向きの鱗のことで、そこに触れられた龍は怒り狂うという。

 

 ・・・今まさに、リゼヴィムは龍王の逆鱗を踏んだのだ。

 

『ゆるさない。ゆるさない。ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない!!』

 

 気づいた時には、リゼヴィムの周囲に多種多様な宝剣や宝槍が付き立っていた。

 

『許さない!!』

 

 そして重力が一斉に上昇し、範囲からずれてたはずの僕達すら耐え切れず地面にたたきつけられる。

 

 むろんリゼヴィムを即座に逃げられるはずがない。

 

 そのすきをついて、数えるのもばからしくなる用の様々な武器が叩き込まれた。

 

 ファーブニルは宝物をため込むというが、これほどの量をため込んでいたのか!?

 

 ふと、体の痛みが軽くなったので見てみれば、ぼくたちの躰にも宝飾品のようなものがついている。

 

 血だらけになっているアーシアさんの躰にはもう山盛りだ。どうやら癒しの力を秘めたアイテムなのだろう。

 

「う、うぉおおおおおおおお!? おいおいおいおいこれすっげぇなおい!?」

 

 いまだ少しふざけた口調だが、リゼヴィムは一瞬だが完全に防戦に回っていた。

 

 これが、龍王の実力・・・。

 

 だが、戦闘中で乗っていたことが原因が、リゼヴィムの隙をつくほどの効果は発揮できていないようだ。

 

 くっ! これでは決定打を与えることができな―

 

「でかした」

 

 その言葉が聞こえるのと、リゼヴィムの腕がちぎれ飛ぶのは同時だった。

 

「・・・・・・は?」

 

『え?』

 

 リゼヴィムとファーブニルも呆気に取られて戦闘を止めるぐらい、その強襲は誰にも察知できなかった。

 

「ったく。どいつもこいつも貧乏くじ引いてぼろぼろとか、ファックだなお前ら」

 

 いつの間にかリゼヴィムの真横に立っていた青野さんが、そのまま血まみれの手でリゼヴィムの腕を持っていた。

 

 ま、まさか素手で切断したのか!? どんな技量なんだ!?

 

 というより、いくら追い込まれていたとはいえ、リゼヴィムに気取られずに攻撃を叩き込んだというのか!?

 

「だがまあ・・・」

 

 そのまま青野さんはリゼヴィムの腕を振りかぶり―

 

「・・・ファックなまでに最高だったぜお前ら!!」

 

 顔面にたたきつけた。

 

「ふぬぉ!? お、お、俺の腕ぇえええええええ!?」

 

 あまりの事態にリゼヴィムも動揺しているが、しかしそこに新たな影がさす。

 

「・・・よう、リゼヴィム」

 

 そう、リゼヴィムはあまりにも愚かな失敗をしでかした。

 

「何アーシアにひどいことしてんだ、ああ?」

 

 アーシアさんを傷つけるのが逆鱗なのは、ファーブニルだけじゃない!!

 

「あ、赤龍帝」

 

「おらぁ!?」

 

 そして顔面にイッセー君の拳が叩き込まれる。

 

 本来なら、神器無効化能力によってそれらは瞬く間に弱小の一撃へと変わるだろう。

 

 だが、もはやその恐れはない。

 

『Penetrate!』

 

「ぐふぉ!?」

 

 リゼヴィムの顔面から鼻血が出る。

 

 これが、赤龍帝がもつ第三の能力、透過。

 

 白龍皇のもつ反射に次ぐ第三の能力は、あらゆる結界をすり抜ける。

 

 神器の力をもって神器無効化能力という加護を突破する数少ない力。リゼヴィムの天敵が今ここに誕生した。

 

 そして、そのすきを狙うのは空に舞う堕天使。

 

「あらあら。好き勝手にするとは愉快なことをしてくださいましたわね」

 

 天を覆う雷光を放つのは、我らが二大お姉さま、姫島朱乃さん。そして―

 

「―大戦以来ですねリゼヴィム。・・・まさかと思いますが、あなたに私が慈悲をかけるとでも?」

 

 ミカエル様まで来ていたのか。

 

 そして―

 

「うわぁ、これりゃやべぇは」

 

 リゼヴィムを閃光が包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 



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天界で、エロスです!

はい! 


こっからギャグ色濃くなるよー


 

イッセーSide

 

 うっわぁ。目の前が真っ白。

 

 おいおいこれは死んだだろ。死んだよね? 死んでくださいお願いします。

 

 だなんて本気で願った俺たちだけど、残念なことに死んではくれないようだ。

 

「ふ、ふふふ・・・フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ」

 

 ものすごい高笑いとともに、リゼヴィムが悪魔の翼を全開にして姿を見せる。

 

 相当ボロボロで血まみれだけど、それでも俺たち全員を相手にできそうなレベルだ。

 

 くそ、なんだってんだあの野郎! なんで俺たちの敵はどいつもこいつも化け物みたいな連中なんだよ!!

 

「はっはっはぁ! 悪かった悪かった! いやホント、ちょっと数千年ぶりにテンション上げたもんでよ。加減がわかってなかったわぁ」

 

 そういいながらぼりぼりと頭をかくと、リゼヴィムは今までにない威厳のある顔つきとなった。

 

「・・・魔王ルシファーの直系として謝罪しよう。貴殿らは我が敵にふさわしい存在だ。これからは相応の態度を心がけよう」

 

 気配が変わった。

 

 ああ、確かに。そっちの方が魔王らしいっていうかなんて言うか。

 

 だけどまあ。

 

「今更格好つけても似合わねえよ。どうせ性根はチンピラなんだろ?」

 

「あ、ばれた? やっぱこれ疲れるからこっちのがいいよね~」

 

 はっ! やっぱりね。

 

「でも少しぐらいはお礼言ってくれてもいいんじゃない? このリリン様のおかげで、少しはシリアスな戦いができたんだからよぉ?」

 

 そういいながら、リゼヴィムはリンゴみたいなものを取り出した。

 

 それを見て、ミカエルさんが目を見開いて驚愕する。

 

「馬鹿な!? それは、それは・・・っ!」

 

「そう、今や枯れかけたせいで実ることがないエデンの園の知恵の実だ。俺の母親が一つ煉獄に隠してたんだよ」

 

 それがあいつらの目的なのか? え、でも―

 

「だったらここに来る必要はなかっただろうが!!」

 

「え~? この悪意の塊が天界に攻め込めるチャンスがあってしないと思う~? っていうかさぁ・・・」

 

 人の神経を逆なでするようなこと言いやがった後、リゼヴィムはなぜかすごく疲れた表情を浮かべた。

 

「・・・あいつらに比べたら俺の方がよっぽどましだよ? シリアス的な意味で」

 

 ・・・え?

 

 そんな疑問の声を上げる俺たちの視界に、血相を変えた天使が飛び込んできた。

 

「た、大変ですミカエル様!! すでに千人以上の天使が、侵入者の行動によって堕ちています!!」

 

 な、なんだって!?

 

「一体敵は何をしてるというのですか!?」

 

 ミカエルさんの問いに答えたのは、その天使じゃなくてリゼヴィムだった。

 

「一言でいうと淫行」

 

 ふむ、淫行ね。

 

 そりゃ堕ちるよね。天使はそういうのに免疫ないもん。イリナもよく翼を白黒させてるしね。

 

 ってちょっとまて。

 

「淫行?」

 

「そうだよ? 公開S〇Xしたり、パフパフしたり、スト〇ップしたりエロ本読んだりエロビデオ流したりエロゲーしたりしてんの。豚さんやお馬さんも連れてきてはしてるよ?」

 

「いやちょっと待てぇえええええええ!? 天界来てまでやることかそれぇ!?」

 

 なんだよそれは!! 確かにリゼヴィムの方がまだましだ!!

 

 何やってんのそれ!!

 

「ああ、あの魔王末裔だね・・・」

 

 木場も心底疲れたような表情で同意する。

 

 そうだ。確かにいた。

 

 本気を出すと服を脱ぎ、人の服を破壊するアーティファクトを使いこなす。そんな俺を凌駕するエロスの権化が。

 

「俺が実をとりに行くついでにそれを話したら、死神の首根っこひっつかんで総力上げて行っちゃってね? 面白そうだから追いかけたんだ」

 

 な、な、ななななな・・・。

 

「ちょっと見てみたいけどそれはだめだ!!」

 

「イッセーくん!? 欲望が隠しきれてないよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お、おのれ・・・っ!

 

「ぐわぁあああああ!?」

 

「ふ、服がきれいに破れる!? お、堕ちる・・・」

 

 天使たちがおならと爆発の前に蹂躙され、さらに局部だけ隠れている絶妙な漫画描写的脱衣を行い堕ちていく。

 

 不幸中の幸いは、多くが爆発堕ち定番のアフロになっていることだ。シュールすぎて堕ちる被害者は少ない。

 

 少ないがいろいろな意味でひどい!!

 

 くっ!? いくらなんでも無双過ぎる!! なんなんだあの能力は!?

 

 ベルやゲン・コーメイの出力から考えて、あれが超能力の出力だとは思えない。

 

 となれば・・・!

 

「神器か!!」

 

「その通り! これぞ遊戯の仮面(イブキス・スタンリー)さ! つまりは僕のノリにみんながのっかるんだよ!!」

 

 ふざけんなぁあああああああ!!

 

 ギャグマンガでギャグのノリに乗っからされたらもうどうしようもないじゃねえか!!

 

 ま、まずいこのままだと・・・。

 

「はい! それじゃあエロスワールドにふっとぼうねぇ」

 

「「「「「「「「「「う、うわぁあああああああああ!?」」」」」」」」」」」

 

 なんということでしょう。

 

 サツマイモを食べておならで空を飛ぶ男のバットによって、淫行が頻発している場所に向かって天使たちがホームランされていきます。

 

 ひとえに悪夢だ。どうしよう。

 

 こんな能力、因果律が崩壊しているとしか思えないイッセーのようなトンチキじゃないと無理な気が・・・。

 

ん? まてよ? ノリ?

 

 あ、いいこと思いついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くぞみんな。肌を異性にさらす喜びを教えるんだ!!」

 

「「「「「応! 洋服崩壊(ドレス・ブレイク)!!」」」」」

 

「「「「「うわぁああああああ!!!」」」」」

 

 な、なんてことだ!!

 

 目の前で天使たちが裸に向かれているぞ!!

 

 男も喰らってるのが難点だが、しかし天使は美女が多い。スタイルもいい!

 

 天使の方々は今回の事態に対して相応の装備を使っている。武装解除(エクサルマティオー)では粉砕しきれないだろう。

 

 ですが皆さん! 俺たちには洋服崩壊(ドレス・ブレイク)があるんだ!

 

 すごい、なんて火力なんだ洋服崩壊! 間違いなく神器クラスに頑丈になっているであろう鎧が一瞬で粉々だ!!

 

 これが、俺が編み出した奥義の極みか!

 

 一時期は圧倒的な上位互換だと思い、武装解除に膝を屈した。

 

 だけど、違う。破壊力等一転において、俺の洋服崩壊はそれをはるかに凌駕する高みに立っていたんだ!!

 

 あ、そして生まれる全裸パラダイス!!

 

「が、眼ぷグフォ!?」

 

「・・・いってる場合ですか、破廉恥先輩。何を作ってしまったのかと後悔してください」

 

 ひ、久しぶりに小猫様の素晴らしいツッコミが飛んできました!

 

 っていうか天界中が警報にさらされて、空間が避けてるところまで存在するレベルだった。それどころじゃねえ!!

 

「い、イッセー先輩並の性欲の人がたくさんいるとこんなことになるんですね・・・」

 

「なんてことだ!? かつてのドッペルゲンガー騒ぎなんて目じゃないぞ」

 

 ギャスパーと木場が愕然としている。っていうかあれと比較にしないでくれない?

 

「これは、まずいわね・・・」

 

「ええ、天界の崩壊すらあり得る危機ですわ」

 

 リアスと朱乃さんも愕然としている。

 

 っていうかマジで天界の危機ですか! 俺みたいなエロスがいると崩壊しますか!!

 

「さあ、みんなもおったてるんだ!」

 

「はい! 男ほど目立たないけど女子だって負けてないのよ?」

 

「「「「「「「「「「きゃぁあああああああ!!」」」」」」」」」」

 

 まあ、さすがにこれはないと冷静になったけどね!!

 

 でもどうすんだこれ! なんだこのエロス軍団は!

 

 エルトリアが俺なんか目じゃないぐらいやばいエロスなのは知ってたけど、シンパがここまで多いとか想定外だぞ!!

 

 エロエロなコスプレで戦っている人や、なんかもうキレッキレのダンスを全裸で踊っている人がいるし。

 

 しかも絶妙な半脱ぎをしてる人までいるよ。

 

 ・・・確かにリゼヴィムに感謝したくなってくるね! これだけだったら耐えられない人が出るかもしれないね!!

 

 なんかもう唖然とするしかない状況で、ロスヴァイセさんがふとハッとなって声を上げる。

 

「こ、これ、急がないとだめですよ!! みんなしっかりしてください!!」

 

 あ、そうだった!

 

 急いでこいつらを何とかしないと、マジで天界が崩壊するぞこれ!!

 

「いかん! 行くぞみんな、天界の危機を救うんだ!!」

 

「はい! 手伝ってくださいファーブニルさん!!」

 

『いいよ。おパンツはいいものだけど、これはなんか違う』

 

 と、ゼノヴィアとアーシアが先陣を切って突っ込んでいく。

 

 ・・・ちなみにイリナ達は置いてきた。だってこれやばいもん!!

 

 万が一にでもミカエルさんが堕ちたりなんてしたら、天界終わるしね!!

 

 くそ、待ってろよ宮白! まずはこいつら落ち着けてからだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out



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スクンサ、ボコります!!

Q ギャグに対抗するにはどうすればいいでしょう?



Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおお!!! いい加減にしろこの野郎がぁああああああああああああああ!!!」

 

 この突撃を、スクンサはやけになったものだと確信して判断した。

 

 自分のこの能力は無敵だ。強大な超能力と神器の特性がかみ合ったこのギャグ空間を突破することなど、空間の外側から空間そのものに攻撃しなければ不可能だ。

 

 ゆえに、直接攻撃でどうにかするなど愚の骨頂。ましてやギャグマンガのお約束を忘れた攻撃など遅るるに足らず。

 

「ハイ、交通事故ですよぉ!」

 

「ぐふぁっ!!」

 

 そしてもちろん勢い良く吹き飛ばす。

 

 そして宮白兵夜はそこらじゅうの壁にぶつかり跳ね回る。

 

 時折翼を使って速度を殺そうとしているようだがそうはいかない。ギャグマンガに物理法則など存在しないのだから。

 

 がぁんがんがぁんがんがぁんがんがんがんがんがぁんがんがぁんがんがんがぁん・・・

 

 やけにリズミカルに連続でぶつかってるような気もするが、それはまあ別にいいだろう。

 

 自分のやりたいことはただ一つ。この世にギャグの不条理を―

 

 がぁんがぁんがぁんがんがぁんがぁんがぁんがんがぁんがんがぁんがぁんがんがんがぁんがんがんがぁんがんがぁんがんがあん・・・

 

 ・・・やけに長いような気が。

 

 いや、いくらなんでも長すぎる。確かに自分のギャグ補正は強力だが、これはいくらなんでも長すぎる。

 

 なんだ、まさか、「自分からしている」わけでもあるまいし・・・

 

 そこまで考えて、スクンサは視界の中で恐ろしいものを見た。

 

「・・・おわりだ」

 

 ・・・がぁんがぁんがんがんがぁんがんがぁんがんがんがぁんがぁんがんがんがんがぁんがんがんがんがぁんがんがんがぁんがんがぁんがんがんがぁん

 

 次の瞬間、空間が侵食された。

 

 そして同時に、魂が燃え上がるような音楽が鳴り響く。

 

「・・・ま、まさか!」

 

「そう、モールス信号だ!!」

 

 そこに展開されたのは霧に包まれた空間。

 

 間違いない、データにあった宮白兵夜の大魔術である固有結界だ。

 

 そして、それが発動した原因も今ならわかる。

 

 ギャグマンガによる物理法則の超越と、ギャグマンガだとよくある連続反射吹っ飛びを併用し、彼はモールス信号で詠唱したのだ。

 

 普通に詠唱すれば間違いなく勘付かれるところを、しかし吹っ飛ばされる効果音で行うことによって、彼は見事に裏をかいたのだ。

 

 そして、それだけのことをする理由も極めて単純。

 

 追い込まれたところの切り札発動。そしてこのバトル物で流れそうなBGM。すなわちこれは―

 

「処刑用BGM! まさか、この神器の欠点を見抜いたのか!?」

 

「そうさ! ここから先のノリはお前の処刑だ!! ノリにのって倒されるがいい!!」

 

 その瞬間、すでに顔面をしっかりつかまれていた。

 

「さあ、ここからは俺のステージでショータイムだからタイマンでひとっ走り付き合ってお前の罪を数えまくれ!!」

 

 ギャグマンガのノリを考える余裕は、与えてくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝った! 勝ったぞ、勝ったぞぉおおおおおお!!!」

 

 勝ったんだ。俺はこの不条理に勝ったんだ!!

 

「あ、あれは神喰いの神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)!?」

 

「あ、スクンサ・ナインテイルがぼろぼろになって逃げていくぞ!?」

 

「ま、まさか・・・まさか・・・!」

 

 アフロになった天使たちが、俺をみて希望の光をともす。

 

 俺はそれにこたえ、右腕を天に掲げた。

 

「ああ、奴は・・・倒した!!」

 

―うぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!

 

 歓喜の大歓声が響き渡る。

 

 ああ、そうだろう。うれしいよな。

 

 なんていうかむちゃくちゃだったもんな!

 

 よし、この歓喜のまま俺は行く。

 

「あの変態たちは俺と仲間たちに任せてくれ! あんたたちは邪龍の始末を!!」

 

「ああ! 邪龍たちは何としても我々が倒して見せる!!」

 

「そっちは任せた! こっちは任せろ!!」

 

 俺と天使たちは通じ合い、そしてそれぞれの役目を果たすべく駆け出す。

 

 うぉおおおおおおおお! このテンションのまま駆け抜けるぜぇええええええええ!!!

 

 待ってろよ、変態どもぉおおおおおおおお!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 うぉおおおおおおお!!!

 

 強いぃいいいいいいいいいいい!?

 

「ドラゴンショットドラゴンショットドラゴンショットぉおおおおお!!」

 

「何の、触れないからこそ興奮するものがある。おさわり禁止フィールド!!」

 

「「「「「おう!!」」」」」

 

 頑丈すぎる!! 多重結界だから透過だと逆にガス欠になるし大変だよこいつら!!

 

 なんて奴らだ。これだけの変態の群れが相手だと本当にきつい!!

 

「なっ!? 私の未来視を上回る速さですって!?」

 

「当然だ。俺はうなじを観察するためだけに後ろに回り込むこと限定の超加速を身につけたのだ」

 

 すごい、俺に匹敵する煩悩が、リアスすら追い詰める・・・って

 

「お前何俺の女のうなじに触れてんの!?」

 

「ふぐぁあああああ!?」

 

 男相手にはさすがに発動できなかったのか、そいつは俺の前に一撃で叩きのめされた。

 

「ええい! リアス! ほかのみんなは!?」

 

「だめね、戦闘が激しすぎてはぐれてしまったわ」

 

 なんてこった! これが変態たちの力だっていうのか!!

 

 ファーブニルにしろ、エルトリアたちにしろなんて力なんだ!!

 

「すごい迷惑だな、あの変態たちって!」

 

「・・・・・・・・・・・・あなたも人のこと言えないわよ?」

 

 酷い!? 俺はまだましだよ!?

 

 さっきからスカートが持ち上がるだけの上昇気流を半径一キロにわたって発動させる男やら。男の股間を強制的に勃起させる女などすごい変態技の使い手がたくさん出てきて、俺はもう限界に近い。心が。

 

 周りの人たちから見たら、俺も同類に思われてるかもしれないことがすっごくきつい。

 

 うん、一緒にしないで、お願い!!

 

「あらぁん? ついにきたのねぇん?」

 

 はっ! この声は本命!!

 

 そして振り返った俺の目の前にすごいおっぱいが!!

 

「・・・やべ、マジ興奮してきた」

 

「・・・イッセー?」

 

 いやすいませんこれは無理です。 むちゃくちゃすごいです。

 

 うん、さっきから結構我慢してたけどこれはすごいよ。すごすぎだよ。

 

「あ、だめだ。鼻血が」

 

「イッセー! 出すなら私で出しなさい!!」

 

 ごめんリアス! これで出すなってちょっと無理だよ!!

 

「・・・まさか、乳龍帝に邪魔されるだなんてねぇん? あなたはこんな世界をまもるというのぉん?」

 

 エルトリアは心底失望したかのように俺を見ると、天界を見渡した。

 

「この、色欲という何より人のすばらしさを司る感情を抑制した世界。この世界を救おうとは本当に思わないのぉん?」

 

「いや、ちょっと待ってください。それ言いすぎ」

 

 うん、俺はあまりいたくないけどね? もっとエロエロな毎日送りたいけどね?

 

 それはないよ? ない。ないから。

 

「・・・答えはわかりきっているようねぇん」

 

「当然よ。和平を結んだ三大勢力の一員として、天界を崩壊なんてさせないわ!!」

 

 おお、さすが俺の愛するリアス。かっこいいこと言ってくれるぜ!!

 

 でもいろいろとやる気がなくなりかけているのはわかってるよ。俺も頑張るから、頑張ろう!

 

 そして、エルトリアは全身から莫大な魔力を放ち始める。

 

 ・・・ヤバイ。一気にシリアスに戻った。

 

 これ、魔力だけならヴァーリより上だ。

 

 これが、リゼヴィムと同じ真の魔王の末裔の本領なのか!?

 

 こんなあほな展開でこんな力を相手にすることになるのか!?

 

「・・・せめて、死姦はしてあげるわぁん」

 

「「いや、やめて」」

 

 俺とリアスは同時にそう返答し、その答えはぶっとい魔力の塊だった。




A まずはギャグマンガのノリを何とかしましょう。糞まじめにやっていれば思うつぼです


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裸王、倒します!!

ファニーエンジェル編ラストバトルスタート!!


 その攻撃は、桁違いだった。

 

 いや、冗談抜きでロキの方がましだと思うぐらいの火力と数。

 

 そして―

 

「私は負けない。私は死なない。私はやられない。この天界を救うまでは!!」

 

 何より強い決意を込め、リアスの奥の手である消滅の魔星すら莫大な魔力で削りきった。

 

「そ、そんな・・・! これが、イッセーが私たちを救ってきた力の本質だとでもいうの!?」

 

 愕然とするリアスを前に、エルトリアは(全裸で)強い意志を示す目を向ける。

 

「色欲を失った哀れなこの世界を、私は必ずエロに染め上げて見せるのぉん! この救済を邪魔するのなら、殺すわよぉん」

 

 なんて、なんてことだ。

 

 こんな強大な力を前にして、俺は立ち向かうことができるのか?

 

 あ、圧倒的じゃないか!!

 

 これが俺が敵を倒してきたエロの力!

 

 敵に回すとこんなに怖くて頭が痛いだなんて!!

 

 シャルバとか本当にごめんね! そりゃショックで冥界滅ぼそうとかヤケ起こすよね!?

 

 なんか本当に申し訳ありません、冥界の皆様!! あの騒ぎはなんていうか、俺の責任がとても大きいことがよくわかってしまいました!!

 

 これが終わったら謝ろう!! っていうか冥界のメディアはもっとディスってもいいと思うよ!?

 

「・・・まだよ!! こんなところで私たちは終われない!!」

 

 思わず膝を屈してしまいそうな状況に、しかしリアスはくじけない。

 

「ようやく和平が結ばれ、そして争いが消えようというときに、貴方たちは勝手な理屈で世界を荒そうとしている!」

 

 リアスは心の底から怒りを浮かべ、そしてエルトリアをにらみつける。

 

「貴女もそうよ!! クリフォトの目的は知っているでしょう!?」

 

 そうだ! あいつらはグレートレッドを抹殺して異世界に侵略しようとしているんだ!!

 

 そんなことになったら世界はエロに包まれるどころの騒ぎじゃないぞ!?

 

 だが、エルトリアは何を言ってるんだお前らはといいたいような顔を浮かべると首を傾げた。

 

「あらぁん? まさか、上手くいくと思ってるのかし・・・あ、これは言っちゃだめだったわねぇん」

 

 な、なんだ?

 

 なにか隠しているぞ、こいつ?

 

「イッセー! とにかく彼女を倒すわよ!! こうなったら・・・」

 

「あ、はい!!」

 

 そうだ。リアスの魔星が突破されたのなら、もはや活路はただ一つ!!

 

「行くわよ!!」

 

「はい!!」

 

 リアスが俺の背中に抱き着いて、そして閃光が光り輝く!!

 

 そう、これはリアスのおっぱいの力。魔量の急速回復だ

 

「これは・・・っ!!」

 

 エルトリアは気づいて砲撃を放つが、こっちも全力の砲撃をお見舞いする。

 

 こうなったら奴の大量の砲撃を、それ以上の砲撃で塗りつぶす!!

 

 行くぜ、エルトリアぁあああああ!!!

 

「「「ぁあああああああああああああああああああ!!!!!!!!」」」

 

 全力の砲撃の群れがぶつかり合い、天界を大きく揺らしていく。

 

 もしかしたらこれで天界が崩壊するかもしれないけど、その心配は後でしよう。

 

 今はここでエルトリアを何とかしなければ、天界がエロで包まれてしまう。

 

「それはそれでいいかもしれないけど、ぜったいだめだぁあああああああ!!!」

 

「ぬ、ぬぁああああああん!?」

 

 行ける! 少しずつだけど押してきてる!!

 

 これなら・・・!

 

「み、みとめるわぁん。あなたたちの方が今の私より上よぉん」

 

 そういいながら、しかしエルトリアは不敵な笑みを見せた。

 

「だけど、勝つのは()()()よぉん」

 

 なんだと!?

 

 その瞬間、天界中から莫大な光がエルトリアに注ぎ込む。

 

 思わず視線を逸らせば、周りにいるエルトリアの一派のおっぱいや股間から光が放たれ、エルトリアに集まっていく。

 

「・・・これが、私たちの究極奥義!!」

 

 エルトリアの声が響き、そして彼女の躰に莫大な光が放たれる。

 

「すーぱーエロス!! モード、裸王!!」

 

 そこにいたのは、光り輝く全裸となったエルトリアの姿だった。

 

 な、なんだあの神々しさは!?

 

 しかも俺の砲撃が全然効いてない。こ、これはどういうことだ!?

 

「おっぱいを力に変えられるのはあなただけじゃない。いいえ、おっぱいしか力に変えられないあなたは、しょせんその程度」

 

 見れば、エルトリアの派閥はほとんどが消えうせ、そしてエルトリアの声にはわずかながらにエコーがかかっている。

 

「おっぱい、うなじ、お尻、ふともも、〇〇〇に〇〇〇、髪、瞳、つま先、指先。人の性癖は千差万別。そしてすべてに価値がある!!」

 

 気が付いた時には、砲撃を押しとおって俺の目の前にエルトリアが!

 

 そして、さらに気が付いた時は鎧にひびが入って天高く殴り飛ばされていた。

 

 な・・・強い!?

 

「おっぱいに対する愛にのまれて、それだけに固執したなたと、すべての性癖を愛し、そして一体化した私達」

 

 とっさに騎士に形態変化して距離を取ろうとするが、しかし一瞬で追いつかれるとそのままつかまれる。

 

「ましてや文字通り一つになることもできない貴方に―」

 

 まずい、何とか戦車に―

 

「―私達が負けるはずがない!!」

 

 がっ!? せ、戦車の防御すら貫通した!?

 

 こ、これが、エルトリアの本気。

 

 すべての性癖を受け入れ、そして文字通り合一したエロの本領、裸王。

 

 か、勝てない。

 

 今のままじゃ、俺一人じゃ、勝てない・・・!

 

「終わりよ」

 

 エルトリアは今まで以上に収束された魔力を固め、俺に砲撃を―

 

「いや、そこまでだ」

 

 放つ前に、その腕に光の剣が絡みついた。

 

「よく持ちこたえた、イッセー。ちょっと休んでろ」

 

 あ、ああ、ああ・・・。

 

 馬鹿野郎。遅かったじゃねえか!!

 

「み、宮白ぉ!!」

 

「しかしぼろぼろだな。・・・とりあえずこの変態しばけばいいんだなぁ!?」

 

 ま、待ってたぜ、宮白!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふ、マジで心臓が止まるかと思った。

 

 なんて女だこいつは。まさかスケベ根性をイッセーより極めた存在が出てくるとは思わなかった。

 

 そしてイッセーをエロでボコボコにするとは、ああ、認めてやろうエルトリア。

 

 お前は、すごい。

 

 すごい変態だ。

 

「だから今すぐ死んでくれ。あらゆる意味で世界の敵だお前はぁあああああああ!!!」

 

「いいえぇん!! 世界を救うのよぉン!!」

 

 次の瞬間、俺たちは全力で激突した。

 

 恐ろしい出力だといわざるを得ないだろう。単純計算でヴァーリの極覇龍にも追随できる。

 

 何より恐ろしいのは持久力だ。この出力を平然と維持できるのは圧倒的なアドバンテージ。冗談抜きでハーデス達準最強級と同等のステージにまで登っている。

 

 イッセーやファーブニルでつくづく思い知らされたが、まさか敵までもエロの力で限界突破するとは!!

 

 だが、この蒼穹剣はそのハーデスすらコンボ決めて瞬殺した能力!!

 

 ワンハンドシェイクデスマッチであることもあり、この距離なら俺の方が有利!!

 

「お前の敗因はただ一つ」

 

 そして空中戦可能であるがゆえに、ケリすら使用可能!!

 

「慣れていない格闘戦をぶちかましたことだ!!」

 

「いいえ! まだまだなのよぉん!!」

 

 しかしエルトリアはかなり粘る。

 

 ああ、わかっているさ。

 

 圧倒的な偏差値をしかし乗り越え、進学校に入学するという奇跡を、俺のサポートがあったとはいえ教師の予想を超えて成功させる奇跡の力。それがスケベ根性。

 

 だから、持ちこたえることは予想できていた。

 

 だからこそ・・・。

 

「やっちまえ、イッセー!!」

 

「・・・おうともよ!!!」

 

 俺の親友だってまだまだやるぜ!!

 

 そう、俺のイッセーのエロパワーだって捨てたものじゃないんだよ!!

 

 さぁて、今回のびっくりどっきりおっぱいパワー。本日の担当者は?

 

「「イッセーくん!!」」

 

 無理やり突入してきた紫藤イリナさんと、みんな大好きお姉さまの姫島朱乃さんです!!

 

「それがどうしたのぉん!!」

 

 なめるなよエルトリア!! 今回の特性は―

 

「モードおっぱい!! フォーリンエンジェルモード!!」

 

 次の瞬間、イッセーの背中ら幾重にも重なった翼が生える。

 

 その翼はまるで堕ちている途中化のごとき灰色。しかし莫大な光力を秘めていた。

 

「て、天使の力ぁん!?」

 

 そうさ、エルトリア。天使と堕天使のおっぱいを宿したイッセーは、天使の力を行使できる。

 

 そして忘れてないよなエルトリア。悪魔にとって―

 

「光の力は大敵だろうがああああああああああ!!!」

 

 至近距離から、莫大な光の砲撃が放たれた。

 

「こ、こんな・・・エロスで、私が負けるわけがないのぉおおおおおおおおおん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・終わった、か」

 

 ぼろぼろの状態でへたり込みながら、小雪はすべての終了を耳にした。

 

 莫大な破壊の光を受けたエルトリアは意識不明の重体。アーシアの癒しの力があれど、魂まで損傷を受けたようで、当面の間意識を取り戻すことはないとのこと。

 

 なにやらリゼヴィムの計画について知っているようだが、まあそれどころではないので仕方がない。

 

 淫欲によって天界を包まんとした魔王の所業は何とか阻止できたが、しかしその爪痕はとても深い。

 

 天界がこの被害から回復するには、少なく見積もっても数十年の時間がかかるだろう。そして下手をすれば数百年かかる恐れもある。

 

 まったく馬鹿らしく恐ろしい戦いだった。

 

「お前らも、共闘する相手は選べよ、ファックだろ」

 

「うるさいわよ、馬鹿」

 

 スカイライトはそういいながら、心底心からため息をついた。

 

「大体、和平するにしたってもう少し準備ってもんがあるでしょうが。急速にケリつけようとするからこういうことになるのよ」

 

「仕方ねえだろ。もともとギリギリだったんだ。あのタイミング逃したらそれこそ滅びるまで突き進みかねねーだろ」

 

 スカイライトの当然の指摘に、小雪はうんざりしながらため息をついた。

 

 はっきり言って、三大勢力の和平はとっかかりがあれば首脳陣は即答でうなづくような代物だ。それぐらい今の世界の現状は危ういのだ。

 

 三大勢力はどれもが大打撃を受け、完全な意味での復興はできていない。各種神話勢力もいまだパワーバランスを自分たち側に傾けたい者たちが大勢だ。加えて人間は核兵器なるものを開発し、少し均衡を崩せば自分たちを滅ぼしかねない大戦争を起こしかねない。

 

 そんな状況を打破する光が差せば、それは即座に飛びつくだろう。慎重であることは美徳だが、千載一遇のチャンスに飛びつかないのは悪徳だ。

 

 加えて首脳陣は誰もかれもが極度のお人よしで善人だ。恨み言をつぶやく手合いとは歯車がかみ合わないので、どうしても軋みが生まれてしまうのは仕方がない。

 

 それにしても対処の余地はあったが、しかしその原因は外にもある。

 

「第一、禍の団(お前ら)がちょっかいかけなきゃ鎮魂祭とか各種謝罪とかにも時間避けたんだよ。よけーなもめ事増やしたのはそっちだっつの」

 

 実際そういいたくて仕方がない。

 

 本来和平が結ばれた以上、そのあたりの動きは当然あのお人よしどもならするだろう。

 

 それを和平会談と同時にテロを仕掛けて以来、平均して月に一つ以上大きなもめ事にかかわっている始末。そんな状況下でどうしろというのだ。

 

 大きなイベントには時間がいるのだ。テロで混乱している状況下では、ダウナー気味の活気を取り戻すのが精いっぱいだろう。

 

「まったく。これ悪魔払いの時にも仕掛けてくるんじゃねーだろーな?」

 

「そんなの分からないわよ。私は大体パシリなんだから」

 

 小雪の質問に何の役にも立たない答えを返しながら、スカイライトは苦笑した。

 

「・・・ったく。ホントにやってられない。・・・だから、もう私は休むわよ」

 

 そういうスカイライトの躰は、少しずつ崩れていた。

 

 もともと聖杯の力で無理やりよみがえらせたようなものだ。そんな状態であれだけの大けがを負えば、当然こうなることは自明の理だった。

 

「あんたこそ、頼むからもうあんなことするんじゃないわよ。・・・まあ、しようとしても殴り飛ばして止める奴がすぐ近くにいるんだろうけど」

 

「ああ、あたしにはファックなぐらいいい奴らだろ?」

 

 泣き笑いの表情を浮かべながら、小雪は本当にどうして今頃なのかと怒りたくもなる。

 

 もし、あの時の自分のそばにみんながいてくれれば、こんな苦しい戦いは起きなかったのだ。

 

「もういい。あの時、子供のアンタを行かせた私達にも問題がある。だから、もういい。しっかりシメたし、謝罪ももらったし、私もしっかり絞められたから、もういい」

 

 因果応報。まさにそれなのだろうと、スカイライトは苦笑する。

 

 殺された恨みを晴らすつもりが、自分が殺した相手の家族に邪魔されるなんて皮肉もいいところだ。

 

 しかし、そんな彼女がいやしたからこそ、謝罪の言葉を真摯にもらえた。

 

 ならもういいだろう。怨念返しはもういらない。このままゆっくり眠るとしよう。

 

「・・・もっかい言うわ」

 

 体が完全に崩れ去る直前に、スカイライトは最後の言葉を残す。

 

「もう、馬鹿な真似するんじゃないわよ、()()

 

 その言葉にはっとしてみれば、しかしすでにスカイライトは崩れ去っていた。

 

 マリンスノーではなく、小雪、といった。

 

 それは、もう未来を向いて生きろという被害者からの呪いの言葉。

 

 これではもう、未来を向いて生きていくしかないではないか。

 

「あの野郎・・・っ。最後の最後でしっかり仕返ししてきやがったな、・・・ファック」

 

 殺した相手からそんなことを言われたら、もう吹っ切るしかないだろう。

 

「ああ、未来を生き抜いてやるよ、・・・ごめんな。そして―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ありがとう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後の呪い(激励)をくれたスカイライトと、その場を作るために尽力してくれた仲間たちに、心から感謝の言葉を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




おっぱいフェチ。数の差で敗北。

あと朱乃さんとイリナを複合させてしまいましたが、この二人の能力を考えるとどうしてもかぶってしまったので。結果的にこの章のダブルヒロイン体制みたいなものだったので好都合でした。


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お説教、いたします!

ついにファニーエンジェル編も最終章!


「はい、反省会始めますよそこ」

 

 通信越しに、俺は三大勢力各首脳の前でそう断言した。

 

『『『はい』』』

 

「言っときますけど、今回の件は、俺完全にとばっちりですからね? しりぬぐいしてやったことに対する感謝の言葉は?」

 

『『『ありがとうございました!』』』

 

「今後はそういうことないように、その手の慰問イベントちゃんとしてくださいよ? 何度もこんなことあったら、俺がクーデターぶちかましますからね!」

 

「わかった! わかったからその辺で勘弁してやれ!!」

 

 いい加減哀れに思ったのか、アザゼルから止められてしまう。

 

 まったく。入りたてのルーキーが何年の前のことのしりぬぐいをしてやったんだ。もっと感謝して謝ってほしいとこなのだが。

 

「・・・まあいい。禍の団の連中がぎゃーぎゃーやってるせいで、テンション上げるイベントの方が重要なのはよくわかってる。本格的なのはあいつらつぶしてからにするか」

 

「お前、目が座ってるぞ」

 

 アザゼルから心配されるが、当然だろう。

 

「この一年足らず、コカビエルの戦争馬鹿から始まり、どれだけ神話級の化け物共に襲われたと思ってんだ、あ?」

 

「わかった! わかってるから落ち着け!!」

 

 あ、駄目だ。目の前のこいつを一発殴ってやりたい。

 

『そのあたりについては本当に申し訳ない。やはり冥界はこれから変わっていかなければならないと切に痛感した』

 

「いや、変わる速度が速すぎるのが今回の原因の一つでしょうが。速度のハイロウが急すぎんだよ馬鹿義兄貴(あにき)

 

『お兄ちゃんと呼んでくれるのかい!?』

 

「お義兄たん♪ 今そこじゃねえだろうがお馬鹿」

 

 はあ。駄目だこの人たちいい人すぎる。

 

「いいですか? 賢者の歯車と愚者の歯車はそのままだとかみ合わないんです。中間で合わせる歯車用意するところから始めなきゃいかんでしょうが」

 

「あー確かに。あほでもわかる理屈用意してやんなきゃいうこと聞いてくれないかぁ」

 

 アザゼルが納得する通りだ。

 

 現実問題本格的な戦争なんてどんなことになるかわからない大惨事。和平は必要不可欠なのはいやでもわかる。

 

 俺はわかるがわからん馬鹿が多すぎるのだ。そのせいで和平後に必要な対応が遅れて、その結果がこの始末。基本的には奴らのせいだが、こっちにも責任はある。

 

 天才の分かりやすいと馬鹿の分かりやすいは違うわけだが、そういう意味では確かにこっちにも責任がある

 

「ホント無理してでも年始にそういうイベント作ること。あのくそ野郎は絶対そのすきついてきますよ。ゼクラム・バアルにも協力を要請しましたんでとにかく悪魔側だけでも特番ぐらい作ってください」

 

『わかった。緊急特別番組を用意することを誓おう』

 

 これで冥界側だけでもガス抜きになってくれればいいんだが。

 

 はあ。頭痛い。

 

『しかし、この出来事で好転したこともあります』

 

 と、今まで神妙な顔をしたミカエルが告げてきた。

 

「なんですか? 神の子を見張るもの(グリゴリ)の増員は天界の減少とイコールですよ?」

 

「おかげで人員が増えてうれしいぜ」

 

 エルトリアのエロ構成により堕ちまくった天使たちは、全員アザゼルの預かりになった。

 

 これが和平後でなければいくらかもめたかもしれない。不幸中の幸いってやつだ。

 

 だがこれはあくまで三大勢力内の人員移動にしかならないと思うのだが・・・。

 

『・・・今回の事態を把握した悪魔払いたちが、クーデターを中止すると連絡してきました。ついては、宮白君が言っていた大規模模擬戦を起こす際に話をしたいと、代表が要求しているのですが、よろしいでしょうか?』

 

「疲れるけど了解しました。あとでやけ酒おごってください」

 

『わかりました。領収書を後で送ってください』

 

 なるほど、天界が滅びる一歩手前ってことで冷や水ぶっかけられたか。

 

 リゼヴィムざまぁ! 遊び半分だからそんなことになるのだ!!

 

 あいつ絶対一枚かんでるからな。これで少しは溜飲が下がった。

 

 ・・・にしても、中級悪魔に直接会いたいとか、どういう了見だ?

 

「考えてることがわかるから言っておくが、魔王すら超えかねない最重鎮とコネがあり、新技術を思いっきりばらまいた組織のリーダーやってるお前は十分重要人物だからな? 大体大規模模擬戦の発案者だろうが」

 

 それもそうか。

 

 まあいい。それではもう一つの本題に入ろう。

 

「・・・アーチャーの研究成果で、いい報告と悪い報告ならぬ、悪くていい報告があります」

 

『・・・それは?』

 

 これまで黙っていたシェムハザ総督の言葉にこたえて、俺は懐から一つの結晶体を取り出す。

 

魔術師(メイガス)形式の錬金術によって、悪魔の駒のベースマテリアルの生産に成功しました。コストパフォーマンスは要相談ですが、これで万が一アグレアスが抑えられても悪影響は最小限で済むかと」

 

『それは素晴らしい! 天界としては転生天使は急務ですので、これはいい報告が聞けました』

 

『悪魔としても転生悪魔の存在はもはやなくてはならないものだ。これで一安心だが・・・しかし錬金術か』

 

 サーゼクス様が真っ先に気づいたようだ。そして当然アザゼルも気づいている。

 

「しかし錬金術といえばフィフスやキャスターの本領。あいつらだって悪魔の駒の一つぐらい入手してるだろうし、こりゃ面倒なことになってきたな」

 

 そう。悪魔の駒の最大の特徴は多種族の悪魔化だが、問題はそれだけではない。

 

 チェスの駒を模した転生悪魔はその特性を様々な形で強化することができる。トランプを模した転生天使も、与えられた称号でチームを組むことによって役を発生させることで強化される。

 

 このように、この結晶体は強化アイテムとして運用することができるわけだ。

 

「つまりクリフォトはドーピング技術を新たに手にしたようなもの。・・・これ、将来的に面倒なことになりますよ」

 

 さっさとおわらせないと今回のような出来事が起こるのに、しかし終わるどころかさらに泥沼になりかねない。

 

 ままならなさ過ぎて涙出てきそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃっはぁああああああ!! ターキーだぁあああああああ!!!」

 

「宮白!? お前ちょっとヤバイ薬決めてないか!?」

 

 うるせえイッセー!! 俺だってキャパシティってもんがるんだよ!!

 

 もう許さねえぜリゼヴィムぅうううう!!! 今度会ったら玉つぶしてやらぁ!!

 

「もう今日は仕事も終えたし遊ぶぞ!! さあ、どうぞアーシア部長!!」

 

「え、あ、はい! 確かにみんなで遊ぶのは面白そうですね!!」

 

 なんと、オカルト研究部の次の部長はアーシアちゃんに決定したのだ。

 

 ちなみに俺はとっくの昔に断っている。そんな余裕は俺にはない! 俺だって休みたいのだ!!

 

 ちなみに副部長は木場だ。適任といわざるを得ない。

 

「確かにそうだな。年が明ければ私は生徒会選挙に出馬するため忙しい。遊ぶ余裕もなくなるかもしれん!! 遊ぶぞおおおおおおお!!!」

 

 ゼノヴィアものっかってくれてうれしいぜ!!

 

 時期生徒会長になるべくスイッチを入れるゼノヴィアにもハレってやつは必要だ。レッツひゃっはぁ!!

 

「イッセーくん! 私もヒャッハーしていいかしら? なんだかすごく楽しそう!!」

 

「イリナも!? ちょっと勘弁してくれよ!?」

 

 イリナも、大天使ミカエルじきじきにAである理由が明かされてよかったな!!

 

 天使を代表するにふさわしい人物とか、もうベタボメだろ!!

 

「行くぜ野郎ども!! こうなったら俺がイッセーの喜ぶ展開をエロゲで教えてやる!! いちから講座のスタートだぁああああ!!!」

 

「おお!! 私たちとイッセーの共同エロゲを阻害してきた宮白が遂に許してくれるのか!!」

 

「ついに始まるのね!? ああ、主よ宮白君にお慈悲を!!」

 

「え、いいんですか? 宮白さん暴走してません?」

 

 何を言ってるんだ君たちは? いいから行くぞ!!

 

「んじゃパソコン持ってくるぜ!! レッツゴー!!」

 

「ゴーじゃないから!! ちょ、マジで勘弁して!!」

 

 イッセーが悲鳴を上げているが知ったことか!! 俺だって久しぶりにエロゲーがしたいんだ!!

 

「こ、これすごく暴走してない?」

 

「だ、誰か止めてくださいぃいいいい!!!」

 

 男どもが悲鳴を上げるがそれがどうしたというのだぁああああ!!

 

「あらあら。では私も混ぜてもらおうかしら? 宮白君から見たイッセー君の好みを知りたいですわ」

 

「あ、それいいかもしれないわね」

 

 お姉さまがた、ありがとうございますいらっしゃいませ!!

 

「・・・小猫さん、これ物理的に止めた方がいいのでは?」

 

「とはいえ割って入りづらいですね。ベルさんとナツミちゃんは疲れて眠ってますし、桜花さんはいませんし・・・」

 

 なんか外野が妨害入れそうだからさっさと行くか!! 俺たちの覇道はとめさせん!!

 

「さて行くぞ諸君! 今こそ我らのぱらいぞが―」

 

「いい加減にしろファックがぁああああああ!!!」

 

 ドガン!!

 

 ぐ、ぐが、ぐがが・・・・っ

 

 なんか衝撃がきた。しかもこれ、一度に同時に音がなった感じだ・・・。

 

 見れば、ばか騒ぎに興じていた全員まとめて地面に沈んでいた。

 

「お・ま・え・ら・わぁああああ!!! 何ファックなことしてんだ!! どんな恥辱プレイだ!!」

 

 と、見ればさっきまでトイレ行ってた小雪が戻ってきていた。

 

 くそ、ばか騒ぎはこれで終了か。

 

「ったく。その辺にしとけよあほ共が。あたしはもう寝る」

 

 と、もうこんな時間だったからか、小雪はないとキャップに一杯飲むとそのままリビングの扉を開ける。

 

 と、外に出る前に少し立ち止まった。

 

「・・・ありがとう、みんな」

 

「「「「「「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」」」」」」

 

 その言葉に、俺たちは全員唖然としたが、小雪は何も言わずに外に出て行った。

 

「・・・そういえば」

 

 と、置いてけぼりになっていたレイヴェルがふと何かに気づいた。

 

「この場合、元凶の宮白先輩だけツッコミを入れればいいのに、騒いでいた全員にお仕置きしてましたわね」

 

 あ、そういえば。

 

 ・・・なんとなく気づいてたことがある。

 

 小雪は、あれで結構甘えるのが下手なのだ。

 

 物理的ツッコミは火急の事態でなければ、たいてい甘えていい相手にしか出してこない。

 

 ・・・そっか。

 

 俺たちは、顔を見合わせると誰からともなく笑いだす。

 

 メリークリスマス、小雪。

 

 ・・・今度こそ、俺たちは仲間になったんだな。

 




さて、今回は小雪編となったファニーエンジェル編。

テーマは単純に過去との克服。過去起きた事件で発生する復讐劇と絡めるのに、これほどうってつけのものはありませんでした。

小雪は過去にいくつも罪を犯し、それを後悔してきた身。一度目の死で最低限の落とし前はつけましたが、当事者がこの世界にいるならそれで我慢できるわけもないです。

それに対して、今の仲間は軽いのか? 今作り上げた思い出を守ることは、その一人である小雪自身の価値はどうなんだ? とでいいたい仲間たちが背中を押し、彼女は甘えられる人たちを増やしました。

 今度同じ事が起こったときは、彼女は前を進むために仲間に頼るでしょう。本当に困っているときぐらい、甘えてほしいのが彼らなのですから。









 そしてそれをぶっ壊して参上するのがエルトリアたち。

 いや、天界って時点でここをエロに襲撃させるのは決まってました。原作でも屈指のシリアスをなんとか薄めたかったしね!

 裸王は力作。エロをエネルギーに変えるイッセーのアンチテーゼとして、さらにその上を出してみました。








 さて、次回は生徒会選挙のデュランダル編。

 後半はだいぶ原作から乖離擦る展開です。

 そして、事実上四章すべてかけて行われたベル編の最終幕でもありますよ・・・?


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キャラコメ、第十七弾!!

いろいろと考えさせられる話だったファニーエンジェル編。






・・・うん、あまり重いことにしたくなかったんです。ごめんなさい


兵夜「ついにキャラコメもここまで来たか!」

 

イリナ「そんなキャラコメにゲストとして呼ばれるなんて! ああ、主よお慈悲―きゃんっ!?」

 

小雪「ここでやったら兵夜が巻き添え喰らうだろうが、ファック」

 

イリナ「ごめんなさい」

 

兵夜「そういうわけで、ゲストはこの二人で行われます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリナ「桜花さんも大変ね。うっかり覚醒したせいでこんなことに」

 

兵夜「まったくあいつらは。へこんでから復活したと思ったら」

 

イリナ「私もオートクレールに選ばれたし、気を付けないと」

 

小雪「だからってあいつらに混ざるようなファックなまねするんじゃねーぞ?」

 

兵夜「それはともかくアーチャーもなじんだもんだ。クリスマスの衣装づくりか・・・」

 

小雪「ん? 何見てんだ、着ただろ」

 

兵夜「ありがとうございました」

 

イリナ「宮白君も男なのねぇ・・・」

 

兵夜「まあ、それは置いておいて小雪の問題点がヴァーリの口から語られるわけだ」

 

イリナ「なんていうか、オカルト研究部ってチームで漫才しているようなものだから遠慮しなくていいのに」

 

兵夜「付き合い深けりゃいやでもわかるしなぁ?」

 

小雪「ふぁ、ふぁふぁふぁファック! うっせーぞお前ら!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリナ「すごいわ桜花さん! 堂々とダブルデートに持ち込んでる!」

 

小雪「こいつもこいつでファックだが、まあこの段階だといいの・・・か?」

 

兵夜「まあ、会長も想定外の事態だけど大活躍した眷属に褒美をとらせた形だからな。今はこれぐらいの方がちょうどいいだろう」

 

イリナ「それはともかく、あんなに仕事をしているのにやることやってるのね! でも、何かこれ宮白くんのハーレムっていうより別の何かになってない?」

 

小雪「ん? まーそうだな」

 

兵夜「ああ、まったくだ」

 

イリナ「もう少しいい反応してもいいと思うんだけど」

 

兵夜「つっても、俺らの恋愛多分に傷のなめ合い含んでたからなぁ」

 

小雪「同性同士の関係に理解ありすぎたせいで、気づいたらこんな関係に」

 

イリナ「っていうかナツミちゃんが大人の階段上りすぎよ。あの子まだ子供でしょ?」

 

兵夜「大丈夫。俺が童貞捨てたときはもっと早かった」

 

小雪「それはお前が早すぎるだけだ、ファック!」

 

イリナ「でもこれ、宮白くんが会長にフラグを立ててるんじゃないかしら?」

 

兵夜「・・・いや、ま、まさか?」

 

小雪「たぶん大丈夫だろ。お前も動揺するな」

 

イリナ「でも、匙くんレヴィアタンさまと決闘したら生きて帰れるのかしら?」

 

小雪「ま、まー大丈夫だろ。龍王タンニーンは魔王に匹敵する火力を持ってるんだから龍王ヴリトラもそこそこだろうし」

 

兵夜「さすがに匙相手ならレヴィアタンも手加減するだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリナ「そして天界に行くんだけど、青野さんって悲惨すぎない?」

 

兵夜「暗い過去が多いグレモリー眷属ですら勝てない黒さ。作者もD×Dに何を書いてんだ」

 

小雪「じっさい次元が違うからな。きれいな連中見てると、汚れてる自分が恥ずかしくなるっていうか」

 

イリナ「大丈夫! 心から悔やんで罪を償おうとしているあなたは、それも一度落とし前として死んでるあなたはきっと主も許してくださるわ! それに―」

 

小雪「それに?」

 

イリナ「肩を貸すのは宮白くんたちだけじゃないの。イッセーくんや私達だって貸してくれるわよ?」

 

小雪「・・・ふっ。ああ、そうだな」

 

兵夜「まあ、それはともかくとして以前感想で指摘されたことをここで掘り返してみたわけだが」

 

イリナ「宮白君! 掘り返さない!!」

 

小雪「いや、そこは決着ついてるから気にすんな。だがまあ、実際致命的なんだよな」

 

兵夜「じっさい、堕天使バラキエルを恨むより正当だ。その場にいてどうにかできたのにもかかわらず、手遅れになってから残りをどうにかしたんだから」

 

イリナ「た、確かに。それにそこからさらにひどいというか・・・」

 

小雪「あ、ベルが倒れた」

 

イリナ「信徒ですら心臓麻痺まではそう起こさないわ。・・・やるわね、ベルさん」

 

小雪「どこに感心してんだ、馬鹿か」

 

兵夜「とはいえ、ここまでこじらせたのはある意味大天使ミカエルがまじめだからでもある」

 

小雪「たしかに、あたしはアザゼルとはいつも顔を合わせてっからな」

 

兵夜「不真面目なのも時にはいいことがあるってことだ。・・・適度にガス抜きできてないのはこっち方面もだな」

 

イリナ「ミカエルさまも心配してくださっていたようだけど、あの方のお立場だと無理があるもの」

 

小雪「アザゼルがフランクすぎるだけだもんな、アレ」

 

兵夜「事実上の直属とはいえ、立ち位置だけでここまで違うか、オイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして非常にツッコミどころがあるな、コレ」

 

小雪「ああ、ファック用の部屋を天使が用意するとかファックだろこれ!」

 

イリナ「・・・トイレにいくイッセーくんに仕掛けてみたけど、どうしてか反応してくれないのよね」

 

小雪「当たり前だファック」

 

兵夜「あのさあ、もうこれの使用は俺に任せてくれよ。あいつがその気になりそうなタイミングで設置して教えるからお前ら頑張るな。イッセーが疲れる」

 

イリナ「酷いわ! そこまで言われるなんて!!」

 

小雪「っていうか、お前がエロいの血筋なんだな」

 

イリナ「ち、血筋じゃないもん! エロくないもん!!」

 

兵夜「まあ、それはともかく問題点が勃発したわけだが」

 

イリナ「宮白くんに間接的に説明させるなんて、信頼されてるのね」

 

小雪「まあ、転生悪魔って条件でならぶっちぎりでトップだろ。ここまで冥界の血統主義に理解を示す輩なんてSSRだろ?」

 

兵夜「おかげでいろいろ深いところまで説明されたが。俺がそのあたりわかっても気を遣う黒い存在だって理解されてるな」

 

小雪「お前そういうのどっぷりつかってるからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そんでもって、八重垣とスカイライトが仕掛けてきたわけだ」

 

小雪「あー・・・。まさかあいつらの中にあいつがいたとは」

 

イリナ「パパも大変だったのよ。あの時代で悪魔と信徒の恋愛なんて・・・」

 

小雪「攻略するだけならディオドラみたいなやつがいたが、あれとは違って純愛だからな」

 

兵夜「しかも、クレーリア・ベリアルは知ってはいけないところに触れてしまったわけだし、体のいい処刑理由まで手にしてしまってはどうしようもないな。うかつに公表されれば冥界は内乱で滅ぶぞ」

 

イリナ「それにしても強いわね、スカイライトさん。どうやって瞬殺したの?」

 

小雪「不意打ちで首の骨を折った」

 

兵夜「暗殺は戦闘とはまた違うからな。相手もまさか小さな子供が死角から不意を突くとは思わない」

 

小雪「で、そのまま混乱している間に箸で目から脳を貫いたりして全滅させた。

 

イリナ「宮白君、私、当分はし使えないかも」

 

兵夜「頑張れ。そしてそれはともかく正体発覚。ああ、これはかなりきつい」

 

小雪「本気で過去に追いつかれたと思ったよ。ああ、一度やらかした過去を捨て去ることなんてできないんだな」

 

イリナ「・・・大丈夫。だって今は宮白くんや朱乃さん、ナツミちゃんに私達だっているじゃない。もっと早く行けるわよ」

 

小雪「・・・お前、本当に天使なんだな」

 

イリナ「そんな!? 青野さんまで私のことを自称天使扱いなの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリナ「でも、朱乃さん以外に手を出させないとかすごい決断よね」

 

兵夜「このあたりは同類だからな。下手に部外者に手を出されても、どうしても何か残るもんだ」

 

イリナ「でも宮白君のたとえがすごいわね。・・・この認識だと殺されても仕方がない気がしてきたわ」

 

兵夜「まあ、そういうわけでも行かないのでこっちも準備したわけだが―」

 

小雪「見事に外したな」

 

兵夜「別ルートで潜入してくる可能性を考慮に入れるのを忘れていたのが今回のうっかりだ」

 

イリナ「これ、うっかりっていうレベルなの? ううん、ひどいって意味じゃなくてこれは誰でも想定できないでしょ?」

 

小雪「大体、それ以上にエルトリアがひどいだろこれは」

 

イリナ「あと、宮白くん今回の死神には穏健な対応ね」

 

兵夜「だって天使は大戦から存命だし。そりゃ教会の連中の分も落とし前つけろって言われたら・・・ねえ?」

 

小雪「それはそれとして仕事はちゃんとするお前が好きだぜ?」

 

イリナ「そうね。それにしてもすごい被害を受けたわ」

 

小雪「酷かったな。ファックな意味で」

 

兵夜「D×Dでも屈指の暗いイベントを、D×Dのお色気パワーで軽くしてみようと思ったんだが、これゲテモノになってるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリナ「そして私達が戦闘する、シリアスモード」

 

小雪「あれ貸すとかお前も人がいいな」

 

兵夜「まあ、直接倒すのはできれば避けた方がいいからな。それはそれとして勝てるよう支援ぐらいはするさ」

 

イリナ「おかげで勝てたわ! ありがとう、宮白くん」

 

兵夜「そしてそれはそれとして小雪とスカイライトの戦いだ。まあ、この辺はスタンスというかある意味当たり前というか」

 

小雪「謝れば何でも許されるわけじゃねーしな。むしろ謝られたから腹立つこともあるだろ?」

 

イリナ「うーん。主の教えに生きるものとしては、本気で後悔していることはちゃんと謝るべきだと思うんだけど」

 

兵夜「まあ、俺は小雪側に賛成なんだが、それはそれとしてケジメはつけるべきという話でな」

 

イリナ「それで菓子折り? 確かにお詫びの品として持ってくる人は多いけど・・・よくわかったわね」

 

小雪「まーな。そのあたりは付き合いの深さってやつだ」

 

兵夜「そしてまあ、朱乃さんもドSというか、またすごい激励を」

 

イリナ「許さないから死なせない。どこかのバトル系恋愛で出てきそうなフレーズね」

 

小雪「おかげでだいぶ吹っ切れた。・・・ああ、あいつが望んでたのはそれなんだな」

 

イリナ「そういう意味ではすごいいい人よね。自分が殺されるのも仕方ないって、ちゃんとわかってるんだもの」

 

兵夜「まあ、人間はそんな風に割り切れる奴ばっかりじゃない。そういう鬱憤のガス抜きはどうしても必要だからなぁ」

 

小雪「そういう意味じゃあ突っつかなかったのは正解だな。お前にゃむいてねーよ」

 

イリナ「あ、わかる。宮白君ってそういう真正面からのぶつけ合いって苦手だもの」

 

兵夜「自覚はしてる。利益と理屈で納得してくれる奴は間違いなくD×Dでも対応できるランキングでトップ狙えるが、逆にこういうのはほかの奴らに任せた方がいいからな」

 

イリナ「でも、悪いことをしたら謝るのはやっぱり当たり前のことよね。最初の時も謝らなかったんでしょ?」

 

小雪「・・・許されないことしてんのはわかってたから、そんなこと言われたらもっと傷つくと思って」

 

兵夜「俺らそういうタイプだもんなー。ほんとかみ合ってなかったのが原因っていうかなんて言うか」

 

イリナ「うんうん。宮白君もハーデスに謝ったら?」

 

兵夜「え? あれはハーデスが悪い」

 

小雪「ファックしたりなかったか?」

 

兵夜「待て! 本当に待て!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イリナ「そして、原作でのボスだったリゼヴィムがでてくるのね」

 

兵夜「そしていろいろ説明されるが、これこそがイリナとイッセーが待ち伏せできた最大の理由。・・・早かったからまだいたんだよ」

 

小雪「あほすぎる。あまりに頭が悪すぎる・・・ファック!」

 

イリナ「スクンサも大暴れしてるし。・・・宮白くんも大変ね」

 

兵夜「グレモリー眷属全体がそうだとは言え、なんで俺、この一年で強敵とばかり当たってるんだろう。なんで生きてるんだろう」

 

小雪「あきらめろ。主人公ってのはそーゆーもんだ」

 

イリナ「それにしてもリゼヴィム強いわ! さすがは超越者ね」

 

兵夜「まあ、超越者なんて呼ばれているような奴を弱く暴れさせることなんてできないしな。・・・しかも主力二人がほぼ無力化されることも痛い」

 

イリナ「そして戦術もできるのね。回復役を妨害しながら攻撃なんて」

 

兵夜「セオリーだし普通に考えれば相手の強みをつぶすのは当然なんだが、相手が悪かった」

 

イリナ「さすが、原作において手を出したものが全員悲惨な末路をたどることで有名なアーシアさん。こっちでも悲惨な末路をたどるのね」

 

兵夜「リゼヴィムの最後は、ある意味原作とは別ベクトルですごい酷いことになるからな」

 

小雪「マジか。ファックなやつだが少し同情してやる」

 

イリナ「あら、小雪さんもリゼヴィムに同情するの?」

 

小雪「暗闇の中で希望の光を見たらそこに飛びつくのが人情だ。兵夜ほどじゃねーか、あたしも気持ちはわかるのさ」

 

イリナ「なるほどね。主よ、リゼヴィムにほんのちょっぴりだけお慈悲を」

 

兵夜・小雪「それは止めだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして本作頭悪いタイムフルスロットル。・・・とりあえずスクンサは何とか片付けたぞ」

 

小雪「ギャグ補正を逆手にとってフルボッコで追い返すか。これ、もうこのまま仕留めてもよかったんじゃねーか?」

 

兵夜「そうもいかん。リクエストはまだ答えてないんだ。次の戦闘まで待ってくれ」

 

イリナ「それにしても! 天界をエロで汚染するなんてひどいひとね!」

 

小雪「エロ天使のお前が言うな。まーたしかに、このエロ技の群れはシャレにならねーな。イッセー並の変態がゴロゴロと」

 

兵夜「これがエロ軍団であるエルトリア一派の恐ろしさだ。度の越えた変態が強力なのはD×Dの常だからな。グランソードも苦労したらしい」

 

イリナ「そして出てきたのは最終形態。・・・裸王って」

 

小雪「頭が悪すぎだろ、しかもイッセーがエロパワーで敗北するって・・・」

 

兵夜「思いついた時は作者もテンション上がってたからな。マジで主神クラスだから冗談抜きで怖い」

 

小雪「っていうかな? なんで仲間たちから託された絆を切り札にドラゴン対峙してんだよ。あいつは少年漫画の主人公か!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そんでもって戦い終わっていろいろと」

 

イリナ「最後の最後で、スカイライトさんは貴方を認めたのね」

 

小雪「ああ、あんなふうに背中押されちまったら、もう前に進むしかないよな」

 

兵夜「まあ、過去も追いかけてくるから逃げ切ることはできないが、今も未来に向かって進み続けてるからそう追いつかれるわけじゃない。・・・肩はかすから、一緒に行こうぜ?」

 

小雪「ああ。お前が倒れそうなときは貸してやるよ」

 

イリナ「あらあらお熱い。・・・それはともかく、ミカエル様に説教だなんて恐れ多いというか」

 

兵夜「前にも言ったがリベラルすぎて柔軟すぎる。Uターンでバランス崩して倒れそうなんだよ、下は」

 

小雪「ま、本当ならフォローの一つぐらいはファックにできるはずなんだがな。それもこれもテロに対処しなきゃいけないのが悪い」

 

イリナ「そういえば、原作では運動会で発散とかしてたみたいだけどその短編は書かないの?」

 

兵夜「そういえば短編の創作はあまりやってないな。やっぱり需要あるんだろうか?」

 

イリナ「あると思うけど? あ、それはともかく」

 

兵夜「ああ、それはともかく」

 

小雪「ん?」

 

兵夜・イリナ「これからもよろしくっ」

 

小雪「・・・ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そしてようやく本編に追いついたキャラクターコメンタリー。いつになるかわからないが次は総選挙のデュランダル編だ」

 

イリナ「ゼノヴィアと対をなす本作のヒロインはベルさんね!」

 

小雪「結構原作から変えたバトル展開らしいが、さてどんなファックなことになるのやら」

 

兵夜「それは読んでのお楽しみだ」



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総選挙のデュランダル
憎悪、受け止めます!


デュランダルスタートです! さあ、開幕はちょっと重めの展開です。


 

 豪奢な聖堂の一室に、俺は今座っていた。

 

 とりあえずスーツは着ているが、しかし悪魔がこんなところに来るなんて前代未聞だろう。

 

 それが冥界の重鎮や、魔王様なら話は分かる。

 

 だが、なぜか俺が呼び出されていた。

 

 今回、俺が呼ばれたのは合同模擬戦のことだ。

 

 その実、模擬戦の名を借りた壮絶な殴り合いとなることは想像に難しくない。

 

 実際俺が企画した最大の目的は、和平に納得いかない連中のガス抜きが目的なのだ。せいぜい全力出して殴り合って、うっぷんを晴らしてほしいと思っている。

 

 そういうわけで、クーデターを計画していた連中がそれを中止してこの模擬戦に参加する気になってくれたのは素直にうれしい。

 

 理由が、変態ども(レヴィアタン)が天界に襲撃して被害甚大なので、冷や水ぶっかけられたというのが情けないが、結果オーライ結果オーライ。

 

 で、そのクーデターを首謀していたとかいう司教枢機卿が俺に会いたいといってきたらしい。

 

 なんでも俺が模擬戦の発案者だからだが、さてどうしたもんか。

 

「せめて上級悪魔クラスの箔があればよかったんだが」

 

「何言ってやがるんだこの馬鹿」

 

 と、付き添いできたアザゼルがため息をついた。

 

「お前は功績的になってもおかしくなかったんだよ。それをハーデスボコった件で禁止されてるから成れなかったんだろうが」

 

 ぐぅ。確かにその結果死神の禍の団入りを招いたのは失敗だったが。

 

「イッセーたちと違って戦闘以外の国益を上げまくってるから、そのあたりから異例の短時間での上級試験だって可能だってのに、何やってんだお前は」

 

「うるせえよ。見せしめは派手にやんなきゃ効果ねえだろ」

 

「怖いわ!! おまえそんなだから性格悪いって言われんだよ」

 

 と、喧嘩しているとドアがノックされた。

 

「・・・お待たせいたしました。テオドロ・レグレンテイ猊下の準備が整いました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方が、宮白兵夜殿か」

 

 そこにいたのは、まだ小さな子供だった。

 

 なんでも技術が発展する前から出てきた天使と人間のハーフだとのことだ。

 

「初めまして。そして、クーデターを考え直してくださって感謝します」

 

 俺は素直に感謝する。

 

「この一年足らずにおける急激すぎる変化に、耐えられないものが出るのは予想の範囲内でした。その爆発を抑えていただき、本当に感謝いたします」

 

「き、気にしなくていい。我々は納得のいかないこの想いを考えてほしいだけなのだ。天界が滅びの危機に瀕したとあっては、もはやそれどころではないだろう」

 

 なるほど、まだ子供っぽさが抜けてはいないが、教会の準トップを務めることはある。

 

 教皇に次ぐ地位にある司教枢機卿。その地位に見るからに十歳前後の少年が付くとか驚きだったが、それだけの素質はあるようだ。

 

「だが、不満が限界に達しているのもまた事実。その怒りを直接悪魔にぶつけ、しかし天のお達しである和平を壊さないこの機会は我々にとって渡りの船だ。・・・感謝する」

 

「いえいえ。新たに悪魔になりたての私としては、どうしてもろくにかかわってこなかった戦争の影響を受けるのは抵抗があるのですよ。私的な理由が半分を超えているので、そこまでされては恐縮です」

 

 ああ。これだけの威厳を備えるのに、いったいどれだけの年月が必要なのだろうか。

 

 それを転生者でもないのにこの年で持つなど、もはや尊敬の念すら覚えるだろう。

 

「・・・だなんて、建前を言う必要はないさ」

 

 だからまあ、こっちとしては大人らしい対応をするべきだろう。

 

「―っ」

 

「防音結界は晴らせてもらった。もう中の様子はアザゼルでもすぐには把握できない。アーチャー製だから奴でも三十分はかかるだろうな」

 

 外の気配が変わらないことを確認してから、俺はにやりと笑って見せた。

 

「・・・この業界は若手がいろいろ活躍できる業界だが、君はさすがに若すぎる」

 

 まさか魔法世界に匹敵する実力至上主義だとは思わなかった。うん、ちょっとやりすぎだよ年長者。

 

「年長者として、なにより提案を受けてくれた恩義がある身だ俺は。餓鬼のわがままに付き合う気もくそ野郎の八つ当たりに付き合う気もないが、小さな子供の面倒を見るぐらいの甲斐性は持ってるつもりでな」

 

 だから、俺はそっと彼の頭を撫でた。

 

「不満分ぶつけろよ。それが模擬戦起こす条件だ」

 

 そういってから数秒後、俺は光の槍をもろに喰らった。

 

 ・・・ここまで我慢してたとは。念のために戦車に昇格して魔術強化までしていたが、下手したらあと残るなコレ。

 

「・・・私の両親は、悪魔に殺された」

 

 ぷるぷると、震えながらテオドロは絞りだす。

 

 それは、和平が結ばれる前なら当然起こってしかるべき出来事。

 

 客観的に見てどこの勢力も相応にされたことで、だからこそ和平を起こすのであればお互い掘り出さないだろうこと。

 

「・・・クーデターを起こそうとした者たちは、ほとんどがそうだ」

 

 だが、当事者としては一生残る傷といってもいいだろう。

 

 ましてや、相手は悪と教えられた者たちなのだから。

 

「・・・貴方のようにいい悪魔もいるのかもしれない。だが、悪い悪魔だって何人もいるのだろう?」

 

 世界情勢的に、動くとするならば即座に動かなければならなかったはずだ。下手にゆっくり動けばそれが隙となり余計な動乱が起こりかねない。

 

 だが、急激な変化は基本的に毒だ。

 

 体が熱くなっているときに冷水をかけられれば、心臓麻痺がおこりかねない。

 

 深く潜った後に急激に海面に出れば、血管の中に泡が生じて死にかねないように。

 

 高山の山頂に駆け足で登った人間が、時に高山病で死に至るように。

 

「・・・我々のこの無念は、怒りは、憎しみは!! どこにぶつければよかったのだ!!」

 

 ・・・世の中、本当にままならないものだ。

 

「その言葉、必ず四大魔王様に伝えるよ」

 

 ぼろぼろ涙をこぼす小さな子供の頭を撫で、俺は素直にそれを約束する。

 

「安心しろ。サーゼクス・ルシファーは俺の義兄になる男だ。義弟としてしっかりと伝えておく。・・・悪い悪魔はお仕置きを受けれる社会を作るよう、しっかり頑張らせるから」

 

 ぽんぽんと、小さな子供をあやす基本的なことをしながら、俺は本当に苦労性だと痛感する。

 

「大丈夫。天使は悪いことをすると神が作ったシステムで堕天使になるんだから。君は神に悪いことはしてないって認められてるよ。堕ちてないのがその証拠だ」

 

 少なくとも、悪なる行いではないと認められている。

 

 だからまあ、それはしっかりと受け止めないとな。

 

「だから君たちも手伝ってくれ。そうしてくれれば今よりましな世界にできるはずだからさ?」

 

 ・・・まったく、後でしっかりと首脳陣に迷惑料を徴収しておくとしよう。

 




兵夜としても、子供に無茶を言う気はないのです。

しっかり恨みつらみは受け止めて、そのうえで先を進むべき。実際システムも寛容な判断を下したわけです。









・・・そういうわけで、この章のバトルは派手に行きます。

規模なら原作をはるかに凌駕。ついでに悪魔側の不満持ちも巻き込んで、盛大にガス抜きをしてやろうというのが兵夜の狙い。さらに長期的な戦争状態にもなれておくための練習台に使用などと打算もしっかり考慮していたり。









デュランダル編はベル編でもありますが、同時に今までの四章がベル編ともいえます。

四章を全体的に使ってベルの特訓編にしましたが、兵夜はそこに思うところがあるわけで・・・


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やけ酒、飲みすぎます!

兵夜の口調が変ですが仕様です


Other Side

 

 

 

 

 

「大体よぉ。俺はまだ入って一年足らずのルーキーなんだっつのぉ」

 

 ひっくっ。と、兵夜はしゃっくりを上げながら隣にいるアザゼルに愚痴を漏らした。

 

「それが何で枢機卿とタイマンで面談なだよ。やすぎだろが、やりぎ」

 

「宮白。お前いくらなんでも飲みすぎだろ」

 

 アザゼルが頬を引きつらせて肩に手を置くが、兵夜はそれを振り払う。

 

 ・・・深夜営業の酒場で、兵夜とアザゼルは酒を飲んでいた。

 

 冥界に多大な功績を残し、戦果を挙げた宮白兵夜の、地酒を飲んで帰りたいという要望を応えるのは、その恩恵を受けている三大勢力としては当然の対応である。

 

 なのだが、致命的な問題が勃発した。

 

「ねえちょとマジで勘弁してくれない? あたぁら寿命莫大すぎて認知症なの?」

 

「ろれつがマジで回ってねえ!?」

 

 最早絡み酒とかしていることだ。

 

 飲酒上等の仮面優等生である宮白兵夜。二日酔いになるとしても、こんな形でひどくなったことはない。

 

 だが、どうにもここ最近のトラブル頻発はひどすぎたようだ。

 

 限界突破でアルコールの耐性が低下したのか、完璧に酔っ払いと化している。

 

「・・・こりゃ、休暇を与えた方がいいかもしれねえなぁ」

 

 といっても、そこでも結局何か仕事的なことをしてしまいそうだ。

 

 アザゼルはすでに兵夜の性質を見抜いている。

 

 心配性で奉仕体質でワーカーホリック。

 

 心配性なので、やれることをいくつもやっておかないと不安でしょうがなくなる。

 

 奉仕体質なので、好意を持つ人物のためにいろいろしたくてたまらない。

 

 挙句の果てにワーカーホリックなので、無意識に仕事をどんどん集める癖がある。

 

 一誠とは違う意味で眷属に秘書タイプが必要だと思わせる。軍師タイプが必要なことといい、妙なところで対照的な親友だと感心すら覚えた。

 

 と、見てみればなんていうか涙まで流している。

 

「お、おい!! 泣かれても困るぞ!? トラブル持ってくるクリフォトにも原因あるんだからな!?」

 

「うう・・・だってベルらぁ、ベルなぁ」

 

 あ、酔っ払い定番の急な話題転換だこれ。

 

 アザゼルは心底うんざりしながらも、しかしこれは付き合うぐらいするべきだと思った。

 

 実際年長者である自分たちの不手際で、彼らはとても苦労している。

 

 特に兵夜は政治センスが高いゆえに、そういった方面でも仕事をしまくって負担も多い。

 

 大変だがそれぐらい受け止めてやるのが大人というものか。

 

 仕方がない。ここは頑張って教師をするか。

 

「で、ベルがどうしたって?」

 

「ベルらね? ベルらえ? ゲン・コーメイと修行(すりょう)っていって全然(りぇんひぇん)あってくれらいにょ?」

 

 ああ、そういうことか。

 

 割と恋愛方面でもため込む性質のようだ。

 

 恋愛経験そのものも少ないし、自分でもどうしようもないのだろう。

 

「そらぁね? おりぇはハーレム作ってるひ? 愛想ちゅかされて彼氏れきでもおかひくないけど? そりぇにしたってれきればはっきり言ってほひぃのぉおおおおおおおおおおお!!!」

 

 意外と泣き上戸だ!

 

 優秀な教え子の新たな側面を発見しながら、アザゼルは追加の酒を発注した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早朝のランニングを実行しながら、俺たちは宮白の動向について話し合った。

 

「え? あいつ地酒飲んでから帰るのかよ!?」

 

「みてーだな。・・・ついていけばよかった、ファック」

 

 付き合ってくれている青野さんが愚痴るが、論点はそこじゃない。

 

 あいつらそのためにわざわざ観光までしてったらしい。マジかうらやましい!!

 

「でも、実現すれば和平は大きく前進するよ。不満を持っている人たちにとってはいいガス抜きになるしね」

 

「そうだな。そうなってくれればどれだけ素晴らしいか」

 

 木場とゼノヴィアがそういう中、俺は少し不思議になって考える。

 

「でもさ? 教会って神の教えは絶対って考えなんだろ? だったらすぐに納得してもおかしくないか?」

 

「それにしたって限度があるという話だ」

 

 と、たまたまあったゲンさんがそう告げる。

 

「これまでいずれ裁かれると告げられていた悪魔と和平となれば、手のひら返し以外の何物でもないだろう。君たちはそれで納得かもしれないが、信仰のために命すらかけてきた者たちがそう簡単に納得できるわけもない」

 

 そういうものなの? 仲良くできるならそれでいいと思うんだけど?

 

「・・・わかりやすく言うが、もし今からリゼヴィムと仲良くパーティをするが、参加したうえでお前たちも仲良くしろ・・・などといわれて納得できるか?」

 

「無理です!!」

 

 無理に決まってんだろ!! この人たとえが極端すぎない!?

 

「そういう事だ。ことクーデターに参加する予定だった悪魔祓いの大半は、何らかの形で悪魔によって被害を受けている。いかに我らが主が悔恨する者に許しを与えることを是とするとは言え、そう簡単に納得できるなら人は教えを必要としたりはしないよ」

 

 なるほど、大変なんだなぁ。

 

「宮白君はその辺わかってるみたいだったわね。前から準備してたのもそういうことでしょ?」

 

 イリナに言われて気づいたけど、確かに宮白はそういうのわかってたみたいだな。

 

 昔から荒事とか調停とかでお金儲けてたっていうし、そのあたりがすぐにわかってたのか。

 

「君たちがおおらかすぎるんだ。今後世の流れにかかわっていくなら、そのあたりも理解しないといけないぞ?」

 

 ゲンさんにたしなめられて、俺は少し反省した。

 

 うん、前に馬鹿は深く考えるなってナツミちゃんに言われたけど、少しは考えた方がいいような気がしてきたぞ?

 

 上級悪魔になったらそういうことにも関わりそうだし、やっぱりもうちょっとレイヴェルたちに教えてもらおう。

 

 宮白、やっぱりお前酒飲んでていいよ。

 

 頑張りすぎなんだからたまには相談しろよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。愛する者が心変わりしているかもしれないと心配ということかね、ボーイ」

 

「しょうなんだよぉ。文句言えないのはわかってるれど、でもやっぱり苦しくれぇ」

 

 いろいろと面倒なことになった。アザゼルは心底そう思った。

 

 隣に座ってきた老人にまで人生相談を始めたぞ、あのバカ。

 

 しかも兵夜は気づいていないが、アザゼルはその人物がとんでもない大物だということにまで気づいていた。

 

 もし彼が素面でその正体に気づいたら、おそらく速攻で土下座をするであろう。

 

「しかし冥界では、優秀たるものが複数の配偶者を持つことは合法なのだろう? あまり不満を持つことがないのではないか?」

 

「しょうなんりゃけど、あいつ聖書のおひえの関係者らし、やっぱり抵抗があるのかみょ・・・」

 

 どうやらよほどハーレムを作っているということに対して後ろめたさがあったようだ。

 

 いろいろたまっていたところに大量に酒を飲んだことで、一斉に噴き出している。

 

「らいいち、俺はそんなにすごい奴らないんらよ・・・」

 

 深く落ち込みながら、兵夜は弱音を漏らし続ける。

 

「たいしらことないから、生まれたときから頑張ってもそこそこ優秀が関の山で、死ぬほど改造して運にも恵まれて、それでもチームじゃ次点ら」

 

 確かに、今だ素の状態でのカタログスペックだけなら上位にはいれる程度だ。

 

 幼少期から特訓し、いくつもの改造手術を受けて底上げし、さらには神格になり能力を肥大化させた。それでもD×Dで強さを上から数えれば、五番手には到達できそうにない。

 

 とはいえそれは相手が悪い。

 

 歴代最強となることが確定しているといってもいい白龍皇。

 

 一神話体系の代表格である孫悟空。

 

 神滅具準最強を保有する転生天使の切り札(ジョーカー)

 

 龍神の肉体を持つ赤龍帝。

 

 一神話体系の魔術関係者において最強クラスの魔術師。

 

 生まれたときから禁手に至った、日本異能業界最高峰の血族。

 

 最上位格はどいつもこいつも神話の中でもトップエースを張れるような領域の来歴もちである

 

 そのうち一人を行動を読み切って叩きのめし、もう一人を使役するこの男は十分すぎるほど強いだろう。

 

 そもそも名前がろくに知られていないような神格から、力を分けてもらってなった程度の神格でそれだけできれば十分すぎるはずだ。

 

 死に物狂いで様々な強化を施し、そしてそれを使いこなすべく修練と研究を積んできたこの男のポテンシャルは十分すぎるほど上級相当にふさわしい。

 

 そのことがわかっているから、老人もぽんぽんと肩をたたいた。

 

「そんなことはない。天賦の才を持たずして、そこまで上り詰めた君の力は誰もが称賛するだろう。主から与えられた体をそれだけいじくるのは確かに思うところはあるが、君の努力と成果を馬鹿にする識者はおらぬよ」

 

「れも、俺は変態が最優先のりゃめおとこりゃし、やっぴゃり女の子としれはきちゅいんりゃぁ・・・」

 

 そういいながらも直す気はなさそうである。

 

 まあそれは当然だろう。

 

 彼にとっての輝きそのものである一誠は、宮白兵夜にとっての別格だ。順位でいうならば不動の一位といっても過言ではない。

 

 だが、同時に彼がいわゆる女の敵の一種であることは確かだ。実際それを告げたら女はすぐに離れていったという。

 

 いろいろと説教されて改善しているとは思ったが、やはり根は深いのかどうしても思ってしまうのだろう。

 

 が、その老人はやれやれとため息をつくと、力強く励ますようにその背中をたたいた。

 

「なにを言う。そのボーイも冥界の英雄の一人ではないか。主の教えに生きるものが愛する者より主を優先するのは珍しくもない。それは気にしすぎであろう」

 

「・・・ほんりょに?」

 

「本当だ。確かに主の教えを信仰するものとしては首をひねる時もあるが、彼は確かに尊敬に値するのだ。人の価値観は千差万別なのだし、問題はないであろう」

 

 そういうと、彼は酒場の中を見渡した。

 

 ここは異形社会側のご用達であり、さすがに神父はいないものの、半獣などもいて様々な人がいる。

 

「何よりも恋人を優先する者。恋人よりも親を優先するもの。親よりも神を優先するもの。神よりも恩人を優先するもの。そしていささか問題はあるが、恩人よりも金などの世俗のものを優先するもの。みな大事なものの順位は千差万別だ」

 

 そういうと、老人は満面の笑みを浮かべ、正面から兵夜を見る。

 

「そして君が心配している愛する者は、君と同じ恋人よりも光を優先するものだ。・・・君は、それを含めたうえで愛しているのだろう? 同じことになって愛想をつかすのかね?」

 

「・・・いいや、そんなことで嫌いになんてならにゃい」

 

 目に光を取り戻した兵夜の肩をたたき、老人は力強く励ました。

 

「一度真剣に話し合うといい。大丈夫、本当想い合っているのであれば、ひどいことにはならぬよ」

 

「・・・うん。うん・・・わかっ・・・たぁうぁああうぁうぅうう・・・ん」

 

 心のつかえがとれて気が緩んだのか、兵夜はほっとした笑みを浮かべながらそのままテーブルに突っ伏した。

 

 これは当分起きないだろう。いろんな意味で深い眠りについているはずだ。

 

「やれやれ。やっぱり人を救うのは聖職者の方が向いてるな。・・・世話をかけた」

 

「お構いなく。三大勢力の未来を築いてきた英雄をいたわるのは当然。迷い子を救うのは、聖職者にとっても先達にとっても当然ですからな」

 

 老人にそう励まされながら、アザゼルは領収書を老人の分もとって兵夜を担ぐ。

 

「お礼におごるさ。・・・それで、会ってみてどうだったよ?」

 

 それが目的だったのだろう? と言外ににおわせたアザゼルの質問に、老人は笑みを少し浅くする。

 

「・・・見たことがない部類ではない迷い子です。大きな苦しみを受けて道をそれながらも、しかし光を知っているからこそ道を踏み外さない。転生者もそうでないものも変わらない。それがよく理解出きました」

 

「ああ、厄介なところや癖の強いところもあるが、俺たちと変わらないこの世界の住人だ」

 

 その答えに満足した返答を返して、アザゼルはそのまま後ろを向く。

 

「こんなところまでご苦労さん。ヴァスコ・ストラーダ司祭枢機卿?」

 

「ええ、彼によろしく伝えておいてください。アザゼル元総督殿」

 

 ・・・そう、彼こそクーデターのもう一人にして真の首謀者。

 

 かつて悪魔祓い最強と言われ、悪魔祓いの育成に力を注ぎ、ゆえに今でも悪魔祓いたちの尊敬を一心に受ける聖人と呼ばれるべきもの。

 

 まさか今日で首謀者二人に出会っていたということに、兵夜が気づくのは明日の朝、二日酔いの頭で把握することになるがそれはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




え? 時間がおかしい? それは時差を考慮していないからだよ。日本の午前六時はバチカンの午後10時なのさ。









おそらくD×Dでもっともできた男、ヴァスコ・ストラーダ。ここで登場。

いろいろ内心で追い詰められてた兵夜の相談役として希望の光をともしました。

まだ完全に吹っ切れたわけではありませんが、これでベル本人に聞いてみようという勇気が湧いてきましたね。


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初詣、行ってきます!

 

 正月、俺たちは京都の神社に来ていた。

 

 わざわざ初詣に行くという真似をしているが、転移によって距離を大きく無視できるというのが大きいだろう。

 

「日本の神殿も大きいところは大きいのね。そして人が増えたものよねぇ」

 

「だろう? いろいろと問題もあるが、同時にいいところもしっかりあるんだよ」

 

 俺はアーチャーにそう答えながら、屋台で買った焼き鳥を食べる。

 

 ・・・新年、よく迎えられたよなぁ、俺ら。

 

「聖杯戦争なんてひと月もかかわらず終わり、しかも高確率で死に至るのになぁ」

 

「本当に頑張って生きてきたわね。素直に評価します」

 

 まったくだ。なんで俺生きてんだろ。

 

 頑張った。俺、頑張ってるよなぁ。

 

「それにしても、最近少しすっきりした顔をしてるわね。何かいいことでもあったのかしら?」

 

「ああ、ちょっとやけ酒してたらいい相談相手に恵まれてな」

 

 正体をアザゼルから聞かされた時は、心底驚愕したぞ。

 

 っていうか安酒場に枢機卿が来るか、オイ。

 

 だが聖職者を名乗るにふさわしい人物だったのは事実だ。

 

 悪魔でハーレム作っている俺みたいなやつにも、真摯に相手をしてくれた。しかも助言までしてくれるとは、本当に素晴らしい。

 

 聖職者っていうのは本来ああいう人たちのことを言うんだよ。ああ、マジで救われた気がする。

 

「だけど、ベルは全然あってくれない・・・っ」

 

「き、気にしてはいけませんわ宮白さん。ベルさんはあくまでまじめに対応しているだけなのですから」

 

 思わずレイヴェルに同情されるが、しかしタイミングが悪い。

 

 ベルは最近こっちに来すらしていない。今はバチカンの方に行っており、行き違いになった形だ。

 

―実質申し訳ありません。

 

 今回、教会側から模擬戦の代表選手の一人になってくれと嘆願されました。やるからには勝ちたいということで、戦力となるものを用意しておきたいとのことです。

 

 つきましては、ゲンさんと一緒に一旦バチカンへと戻らせていただきます。

 

 模擬戦の際に手心を加えるのも加えられるのも嫌なので、模擬戦が終わるまで実質会わない方がいいでしょう。

 

 などという置手紙を残されては問いただしにも行けない。

 

 大丈夫。大丈夫だ。

 

「マジ聖職者の導きありがとう!! おかげで覚悟決まった!!」

 

「覚悟決めなくていいから。そんな心配しなくていいから」

 

「あきらめなさいナツミ。性分よ」

 

 ナツミとアーチャーが後ろでなんか言ってるが、聞こえない聞こえない。

 

 うん、頑張って前を向いて生きていくぞ!!

 

 などと思っていたらいつの間にやら九重もきて、初詣はいろいろと大きなことになってきた。

 

 なんでも姫様と相談して、駒王学園の中等部に通う予定だそうだ。

 

 イッセーは子供に人気だからな。親が親だし、すごいナイスバディに育ちそうだ。よかったな。

 

「でもほんと、教会でクーデターが起きなくてよかったね」

 

 木場の意見には心底賛成だ。クリフォトの相手をしなくてはいけないこの状況下。今の三大勢力にクーデターに対応する余裕はない。

 

 まったく。和平締結直前から禍の団が仕掛けてきたせいで、やるべきことが未だにやれやしない。

 

 そしてそのツケが俺たちに乗っかるとか、マジ勘弁してほしいのだが・・・

 

「実際にクーデターが起きたら面倒なことになっていたぞ。エクスカリバーとデュランダルが、これまでの研究でレプリカを作ってしまったらしい。しかも歴代でも最高峰の使い手がクーデターの主導者だったらしいから、激突したらこっちにも相応の被害が出るしな」

 

「へえ。それは・・・確かにね」

 

 ん? なんか木場の様子がおかしいんだが。

 

―スパァン!!

 

「ゼノヴィア! なんでそんな目立つタイミングでキスしてんだ!! 見え見えだろうが!!」

 

「いいではないか! 私もナツミのように堂々とキスしたいのだ!! 何より戦闘中にするほど私は空気が読めなくないぞ!?」

 

「ファック!! ファックファックファック!! あれは気の迷いだ!! ちゃんと空気は読める!!」

 

 どうやらゼノヴィアが何かしたらしい。小雪に張り倒されて口喧嘩になってる。

 

 うん。今までは遠慮してたのかアザゼルや俺に甘えるようにするのが精いっぱいだが、ちゃんと物理的ツッコミの役目を果たせるようになったのか。

 

「成長したなぁ・・・」

 

「宮白先輩。ゼノヴィア先輩が指を指てるので宮白先輩もダメージ受けてますよ」

 

 小猫ちゃん。俺も現実逃避ぐらいしたいのだよ。

 

 まあ、ゼノヴィアも生徒会選挙に生徒会長として出馬するらしいし、いろいろとテンションが上がっているのだろう。

 

 いつものことだというツッコミは入れないでくれ。だから現実逃避しているのだ。

 

 なにせ、俺参加するからね模擬戦!!

 

 いや、個人的には俺としては教会側が消耗戦の果てに勝利ってのが一番いい結末だと思うのだよ。

 

 悪魔側は戦争継続派が真っ先に旧魔王派になって出て行ってくれたわけで、今回の和平に対する反感は比較的少ない部類なのだ。

 

 そういう意味では教会よりも余裕があるから、一敗ぐらいしても余裕はあるだろう。

 

 お互いに全力でぶっ倒れるぐらいにヘロヘロになるまで殴り合えば、何とかすっきりすると思うのだ。

 

 一応悪魔側も和平に不満を持っている連中がメインだが、どう転んでもある程度カマセにする必要があるし、そういうのに納得してくれそうな連中も入れる必要がある。

 

 今のところ、メンバーの数割をグランソード派閥にすることで、負けたときの言い訳もできるようにしている。本人も元テロリストの自分に人気が集まっていることを危険視しているので、ここで情けないところを見せてガスを抜きたいそうだ。

 

「そういうわけで、今回はだいぶ楽できそうだぜ、みんな」

 

 さてさて、今後はいったいどうなることやらねえ?

 

「・・・ああ、それなんだけどさ。僕も参加していいかな?」

 

 と、木場がそんなことを言ってきた。

 

「ん? 別に一人や二人なら捩じ込めるし、イッセーは士気向上のために無理やり入れるが・・・どうして?」

 

「おいマテ宮白!! 俺にも休みをくれよ!!」

 

 イッセーの文句をスルーし、俺は木場に質問する。

 

 特に木場が参加する必要はないわけだし、慣れない副部長で苦労しそうだから休んでくれてよかったのだが・・・。

 

「いや、最近の揉め事で実験の時の嫌な思い出がぶり返してきたから、ちょっとぶつけ合ってガス抜きしようと思って」

 

 ふむ、確かに教会にいたときの木場の過去は悲惨といっていいものだろう。

 

 それがぶり返して来たのなら、ガス抜きの機会を与えて発散させるの特に問題はないが・・・。

 

「ああ、それなら私も参加していいだろうか?」

 

 と、今度はゼノヴィアまでそんなこと言ってきた。

 

「おいゼノヴィア。お前は生徒会選挙があるだろうが」

 

「そういう宮白も、準備をしながら参加するのだろう? この模擬戦にストラーダ猊下が参加すると聞いてな。デュランダルの担い手として胸を借りようと思っているんだ」

 

 ・・・ああ、あのおじいさんか。

 

 実にいい人だった。俺みたいな不良優等生なんぞの相談に真摯に乗ってくれた、正真正銘の聖職者だ。

 

 なるほど、あれだけの素晴らしい人物の後任として、自分がどこまで行けているのか試してみたいのか。

 

「下手に溜め込んでもあれだな。OK、それじゃあ何とか捩じ込、んどくよ。・・・あ、これ以上は俺の負担が大きいので、参加したいなら別口を探すように!!」

 

 一応釘を刺しておきながら、俺はしかし不安になってきた。

 

 木場の奴、変なこと考えてなければいいんだが・・・。

 



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いろいろ、進めてます!!

今回はちょっと短め


「はい! ではゼノヴィアの演説をどうするか会議を始めたいと思います!!」

 

「どんどんぱふぱふー!!」

 

 と、俺は桐生と一緒にゼノヴィアを当選させるべく会議を行うことにした。

 

「っていうかリアス先輩も参加してくれればいいのに」

 

「姫様はソーナ先輩に義理立てしてんだろ」

 

 ちなみに、俺はリアス・グレモリーのことを「姫様」と呼ぶことにした。

 

 これなら冥界でも違和感がないし、部長を辞した今となっては部長と呼ぶのもはばかられる。

 

 恥ずかしいからやめてほしいとか言われているが、それぐらいのからかいはしてもいいと思うぐらい俺は働いてると思うんですが。

 

 そしてもう一つ、驚くべきことが発生した。

 

「っていうか、俺らが悪魔なこと知ってんだったら言ってくれりゃぁよかったのに」

 

「ごめんごめん。気づいてないって思ってなくって」

 

 そう。桐生はゼノヴィアのお得意様になっていたのだ。

 

 なんでも12月に知ったそうだが、そういうことはちゃんと伝えてほしい。

 

「お前、面白がって黙ってたんじゃないだろうな?」

 

 こいつだと普通にあるから困る。

 

 などといい合いながら、しかし作業はまじめに進める。

 

 ゼノヴィアの場合、悪い方向にはまるとどんどん悪くなるのは、最初に出会った時のひと悶着でよくわかっている。

 

 ものすごい精神的ショックを受けたこともありだいぶ矯正されたが、それでも完璧だとは言えないからな。

 

 そのあたりの説明もしながら、俺は桐生と作業をさらに進める。

 

「・・・で、イリナのせいで有り金全部無くしたときは通り魔になろうか考え始めてな」

 

「ゼノヴィアっちってば素直に上に連絡すればいいのに。携帯ぐらい持ってなかったの?」

 

「そういえば持ってたなアイツら。通り魔するより怒られた方がましだろうに」

 

 しかし、そう考えると少し鬱にもなるな。

 

「いや、なんつーか・・・。お前には言えるから言っとくけど、なんか悪いな」

 

「え? どうしたのよいきなり」

 

「いや、思い返すと俺らをターゲットにして駒王町が消滅しかけた事件がいくつかあってな」

 

 さっきのエクスカリバーの一件にしたってそうだ。

 

「責任はほぼすべて相手側にあるとはいえ、対応に不手際があったのは事実だ。クリスマスのプレゼントとかで少しは詫びを入れれているが、さすがに監督責任感じてな」

 

「・・・馬鹿でしょあんた」

 

 おい! この女はっきり言いやがったぞ!!

 

 桐生は深くため息をつくと、堂々と指を突き付けた。

 

「あんたが自分で言った通り、悪いのは相手側なんでしょうが。だったら守るために尽力して、実際被害を抑えているあんたらは胸張ってればいいのよ」

 

「いやぁ、ミサイルぶっ放されたりされたのは俺がちょっと加減を間違えったぽいところが原因だから」

 

「あれはちょっとじゃないでしょ。ゼノヴィア達から聞いたわよ。・・・ドンビキなんですけど」

 

 そこまで言うか!!

 

「同じ日本人として恥ずかしいから、これからはそういう行動は避けなさい!! いいわね?」

 

「へいへい」

 

 仕方がない。糞尿をひっかぶせるのはさすがに抑えることにしよう。

 

 にしても、同じ()()()・・・か。

 

 最近、そういう観点でものを見ることなくなってたな。

 

「桐生。お前、すごいよ。もしかしたら惚れてたかもしれない」

 

「知ってるわよ。あ、でもあんたはないから」

 

 酷いよこの人!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして修行の真っ最中、イッセーと姫様の新技を見た後、俺たちは修行を再び行っていた。

 

「ふ、ふふふふふー。一対一ならこれぐらい楽勝なんだよねー!!」

 

 木場とゼノヴィアとアーサーを昏倒させて、久遠は勝利の雄たけびを上げた。

 

 こいつ、本当に何度も何度も模擬戦申し込まれて相当ストレスが溜まっていたらしい。ボコボコだよ。

 

「お疲れ久遠。はい、レモンのはちみつ漬け」

 

「頂きますー。・・・んーおいひー」

 

 ホントご苦労さん。ゆっくり休むといい。

 

「あー。言い忘れてたけど今度の模擬戦、私も参加するからねー」

 

「は? マジで?」

 

 おいおい、できれば負け戦にしたいから、強い奴をあまり集めすぎるわけにもいかないんだけどな。

 

「会長の名代だよー。ちょっと大規模戦の勘を取り戻しておきたくてねー。前からそういったのがあったら参加させてもらえるようお願いしてたのー」

 

「ああ、そういえば俺らそういうの少ないからな」

 

 それなのに、クリフォト戦になってからはそういうのが連発してる。割と苦戦してる理由の一つではないだろうか。

 

 たしかに、久遠に勘を取り戻してもらえるならそれはそれでいいことか。

 

「それにー。それでも負けかねないんじゃないー」

 

「あー・・・。確かに」

 

 なんでも悪魔祓いの二大巨頭が参戦するとのことだ。

 

 そこにベルも参加するとなると、もはやはたかが悪魔祓いと思うわけにはいかないだろう。

 

 こっちは加減して最上級悪魔は派遣しないということだし、これは手抜きしなくても返り討ちって可能性はあるかもな。

 

「それにゲンさんも出るらしいしねー。だから最近来てないでしょー」

 

「そういえば」

 

 ふむ、実は思うところがあったんだが仕方がない。

 

「最近嫉妬してたからな。謝罪に何かおごりたかったんだが」

 

「・・・嫉妬ー?」

 

 久遠は少し考え込んで、はたと手をうった。

 

「もしかして、ベルさんとずっと一緒にいたからー」

 

「最近ベルの奴べったりだし、乗り換えた可能性すら想定してる」

 

 ふむ、やはり少し考えると心配になりそうだ。

 

 なにせ同郷だしな。いろいろと思うところはあるだろう。

 

「心配しすぎだと思うけどなー」

 

「まあ、心配しすぎならそれでいいんだがな」

 

 うん、ご老体に励ましてもらったし、すべては模擬戦の後で聞くとしよう。

 

「何やってんだファック」

 

「え? マジでご主人そんな心配してんのかよ」

 

 おい、いきなり現れてあきれた声出すなそこ二人。

 

「だよねー。ベルさんに限ってそれはないでしょー」

 

「ベタ惚れ以外の何物でもねえだろ。なあ小雪」

 

「わかりやすいぐらいベッタベタだからな。ファックな心配してんじゃねーよ」

 

 三人そろってちょっと言いすぎじゃね? 俺だって傷つくんだよ?

 

 と、思ったら三人がかりで抱きしめられた。

 

「よしよしー。恋愛経験少ないからいろいろと不安なんだよねー」

 

「あたしらもまーそうだけど、ファックすぎるから心配になってくるな」

 

「頑張れご主人。さっさと立ち直ってね?」

 

 ・・・なんか涙でてきた。

 

「・・・うぅうううううっ。やっぱり不安なんだよ」

 

「「「よしよし」」」

 

 俺は、俺はこんないい女たちに囲まれて幸せ者だ。

 

 うん、頑張るよストラーダ猊下!!

 

 俺は心の猊下に敬礼すらした。聖職者とはかくあるべきだね、うん!!

 

 愛する女のためにも頑張るよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、クリフォトを抜けたクロウ・クルワッハが最上級悪魔タンニーンの食客となってたり、なんか出生率の低いドラゴンの卵を預かることになったりといろいろあった。

 

 ・・・そして、大規模模擬戦の日がやってきた。

 




クロウ・クルワッハのところとかをまとめきれなかった。・・・反省反省。








あと、いろいろたまったガス抜きもかねて新連載も投稿しました。

ケイオスワールドではできなかったことをやっていきたいと思っていますので、ぜひそちらも見てくれると嬉しいです!


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大規模模擬戦 第一ラウンド

ついに戦闘パート突入です!


でも、今回は短め


 

 Other Side

 

 教会と悪魔の間で行われる大規模模擬戦。

 

 これまでの歴史においても非常に大規模な模擬戦ということ。加えて一人の若き転生悪魔が主導となってこの模擬戦を企画したこと。そしてその若手悪魔こそ、将来の最上級悪魔は確定とされる、神喰いの神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)である事から高い注目度を持っていた。

 

 もともと、この各種神話勢力の和平という流れに不満を持っているものは数多い。それは三大勢力内部においても同様である。

 

 聖書の教えに従う天使側にとって、その筆頭はかつての戦争を経験していない悪魔祓い達である。

 

 その不満は吸血鬼との和平すら実現した現段階において頂点へと達しており、クーデターが起きるのも時間の問題だった。エルトリアによる天界襲撃とその甚大な被害がなければ、クーデターが起きていたと確実視されている。

 

 そんなギリギリのタイミングでのこの模擬戦は、いわばガス抜きのための殴り合いである。

 

 堕天使が提供した冥界の広大な土地を利用した、三日間にわたる模擬戦。

 

 地形を把握するために二日間の準備期間を持ってから、三日間の時間制限をもってして行われる壮大な喧嘩。

 

 悪魔側もこの機を逃さんと不満を抱いていた者たちが、大義名分を持って堂々と憎たらしい悪魔祓いを殴り飛ばせるとして意気揚々と参加する者達が数多い。

 

 あまりの熱意に、監視役として天使が数名派遣されるほど。悪魔祓い側も、和平を決断した天使に対する不満からそれを承諾し、混沌とした様相を見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、俺たちはそんなにすることがないんだが。

 

「ほらお前ら手を動かせ。早くしないと昼になるぞ?」

 

「・・・参加するって糧食班!?」

 

 木場が絶叫するが、誰が俺たちが前線だといった?

 

「何を言っている。戦場での食事は戦う兵士たちの数少ない娯楽。士気を維持する重要な役職だぞ?」

 

「そういうことを言っているのではないのだが!? っていうか、私たちが戦わなくてどうするというのだ!!」

 

 ゼノヴィアまで文句を言ってくるが、そもそもの目的を忘れていないかこいつら?

 

「あのなあ、これは和平に不満を持っている連中のガス抜きだ。不満を持ってない俺たちが大暴れして奴らのやることを減らしてどうするのだ馬鹿どもが」

 

 まったく。どうも頭に血が上っているようだ。

 

 最強クラスのエクスカリバー使い及びデュランダル使いが出るとあって、どうもテンションが変なことになっているようだ。

 

 少しは考えろ。和平に納得いかない連中にしてみれば、和平の立役者である俺たちにだって不満の矛先が出かねないんだ。

 

 そんな奴らがガス抜きの機会ですら幅を利かせたら、面倒ごとになるのは当然だろう。

 

「まあ仕方ないって。ここはほかの人たちに譲ろうぜ、木場きゅん」

 

「い、いえジョーカー。だからって僕たちが糧食班というのは納得が・・・」

 

「まあ、ゼノヴィアは問題あるが、俺たちは大丈夫だろう。・・・料理上手いなジョーカー」

 

 監視役もかねて派遣されたデュリオの意外な特技に驚くが、しかし手を止めている暇はない。

 

 今日の昼飯は肉じゃがだ。意外と日本食に造詣が深い悪魔が多いので作ることになったが、しかしこの数は俺も手が足りん。

 

「しかし関係者で集めるとは、上の連中もいやみっつーかなんつーかなあ? ほれ、スパロちゃん手を動かして」

 

「ははははい!! あ、意外と簡単ででです」

 

 うん、ちょっと待とうか。

 

「スパロはまあサイラオーグ・バアルの名代だからいいとして、なんでお前がここにいる、ムラマサ」

 

「ええやんええやん。雑務募集しとったから応募したんや。ヴァーリたちはその辺が分かっとらんなぁ」

 

 そんなことしてたの冥界?

 

「兵夜くんー。お米取ってきたよー!」

 

 と、久遠も戻ってきたので本格的に作業続行。

 

「そういえば、宮白君は泥仕合の末に悪魔側が敗北が理想だって言ったけど・・・」

 

「ああ、今回の最大の目的は悪魔祓い側のガス抜きだからな。あっちが勝った方がいいだろうが・・・」

 

「ぼろ負けやと悪魔側にうっぷんがたまりそうやからなぁ。そのあたり考えんといかんか」

 

 ムラマサの言うとおりだ。

 

 そのあたりのラインの見極めが非常に重要なんだがなぁ。

 

 絶対上手くいかない。物には限度があるというか、そううまくいくなら誰も苦労はしないというか。

 

 それに・・・。

 

「不利なのは悪魔祓いの側だからなぁ」

 

 その理由は極めて単純。

 

「まあ、空飛べるっちゅうんはそれだけで有利やからな」

 

 ムラマサが言った通り、これは非常に有利不利を分けれるだろう。

 

 なにせ飛べない奴には近づかれない。必要に応じて距離をとって仕切り直しにできるのは大きなメリットだ。

 

「あ、あああ悪魔は基本遠距離主体ですしししし」

 

「確かにね。悪魔祓いの主武装は光の剣と拳銃だけど、拳銃の火力はたかが知れている」

 

 スパロと木場がより会話を煮詰めるが、しかし二人とも作業は続行しているあたりすごい。

 

 っていうかスパロ意外と料理上手いな。

 

 そういう意味では圧倒的に悪魔側が有利なんだが、ふとデュリオが意味深な笑みを浮かべた。

 

「いやぁ、それはどうかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ! 久しぶりに人間どもを蹂躙できると思うと腕が鳴るぜ!!」

 

 一人の上級悪魔が下僕や同胞を連れて空から敵陣を目指していた。

 

 先陣を切っている理由は、一番槍の名誉を得る為だけではない。

 

 彼は、基本的に悪魔至上主義であり他種族を見下している。人間と契約するときも、契約の裏をかいて自分に有利な条件にすることを好んでいる。

 

 それが、和平締結のせいで自由に動けなくなった。

 

 わざと悪魔祓いの姿を見せるようにして動かさせ、それを返り討ちにして悔しがるところを見るのが何より楽しかったのに、それもできなくなった。

 

 もとから現魔王派は穏健派路線かつ良識派で鬱陶しいことこの上ない。いっそリゼヴィムに与することも考えたが、しかしそれもリスクが高かった。

 

 うっぷん晴らしとしてはちょうどいいこの機会。見逃すことなく真っ先に志願したのだ。

 

「お前たち! これはレーティングゲームのシステムを利用している。どれだけズタボロにしようが問題ないぞ!!」

 

 部下の血の気を増やすべくそうあおりながら、上級悪魔は勝利を確信していた。

 

 なにせこちらは空を飛ぶことができる。

 

 はるか上空から遠距離攻撃をすれば、こちらは自由自在に蹂躙することができるのだ。

 

 そして彼はレーティングゲームにおいても空中戦を得意とする。この場においては独壇場を言っても過言ではなかった。

 

 さあ、敵が陣地を張っている小さな山が見えてきた。

 

 久しぶりの蹂躙の機会に血が高ぶるのを感じた次の瞬間―

 

「―さて、それでは幻術をとくとしよう」

 

 そんな言葉を耳にしながら、その男は爆発の直撃を受けて最初の脱落者になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




はい、初手から悪魔払いは本気です。そりゃもう本気をぶつけに行ってますから。


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大規模模擬戦、第二ラウンド!

初手は悪魔払い側が優勢。

さてさて、今度はどうなるでしょうか?


 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦場の空は、悲鳴渦巻く惨状と化した。

 

 圧倒的優勢かと思われた戦いの場が、一瞬で砲火に包まれた処刑場へと変化する。

 

「ぐ、ぐあぁあああああ!?」

 

「え、ちょ、まってうわぁああ!?」

 

「そんな馬鹿なぁああああああ!!!」

 

 次々と撃ち落とされる同胞たちの姿に、悪魔の一人がどうしたことかと周りを見渡す。

 

「な、なんだこれは!?」

 

 この高さから攻撃を仕掛けられる悪魔祓いなどごく僅かのはずだ。少なくともそれだけの実力者なら業界でも名を知られているはずである。

 

 にしてあまりにも撃墜される悪魔たちの数が多く、そしてあまりにも散っている。

 

 意味が分からず下を見下ろしたその悪魔は、さらに信じられない光景を目にした。

 

 ・・・敵の陣地となっているのは、標高数百メートル前後の山である。

 

 その山に、ハリネズミのごとく対空砲や榴弾砲が設置されていた。

 

 こんな砲門は今までなかったはず。

 

 一体どういうことだと考えて、そして一つの事実に気が付いた。

 

「ま、まさか・・・エクスカリバー!?」

 

「その通りだ」

 

 ぽんと、肩に手が置かれた。

 

「そう。エクスカリバーは近年の研究でレプリカが開発された。実は今回の模擬戦で悪魔祓いに善戦してほしい存在によって技術提供がなされていている。下手な聖魔剣より性能が上のレプリカを作ることに成功したよ。莫大なコストと引き換えだったがな」

 

 静かに、恐怖に震えながら振り返った。

 

「お、お前は・・・?」

 

「知らないものもいるだろうから名乗っておこう」

 

 そこにいたのは、邪龍最強ともいわれるクロウ・クルワッハを手玉にとった男。

 

「・・・暗部部隊モルドレット所属、ゲン・コーメイだ」

 

 次の瞬間、彼は次の脱落者となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・実質無双ですね。幻術でごまかした山に対空陣地を構成してカウンターを叩き込むなんて、実質驚愕かと」

 

「はっはっは! 人間の技術も日々日進月歩ということだ。私達主に使えるものも精進しないといけないな」

 

「では、私は少し休ませてもらおう。・・・さすがに二日間不眠不休は疲れた」

 

「はい! 実質お疲れさまでした。クリスタリディ猊下」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・え? 教会って人間の軍事技術研究してたの?」

 

 昼飯の肉じゃがを食べながら、俺はそんな事実に軽く驚いた。

 

 ちなみにカウンターで千人近く撃破されたのでかなり余った。大食いの人には僥倖だが、これ絶対余るよなぁ。

 

「まあね。核兵器とか出てきたらそりゃ警戒するからさ? そういう一環で表の軍隊の研究とかもしてるんだよ」

 

 肉じゃがに舌鼓を打ちながらのデュリオの説明に、俺たちは心底納得すると同時に、この戦いはうまくいかないと判断する。

 

 これまでの神話勢力のたたきは、そういった陣地形成などが難しかったし、することがなかった戦いだ。

 

 最近の軍事兵器は、下級悪魔ぐらいなら一撃で吹き飛ばせるようなものがいろいろあるから、これは面白いかと担ってきた。

 

「いいねえ。これはホントに全力出しても負けそうだ」

 

「い、いやいや。そう簡単には負けれないよ」

 

 思わずにやつく俺にツッコミを入れるように、木場が声をかけてきた。

 

「なにせこちらにはイッセー君がいるからね。そう簡単にはいかないさ」

 

 確かに、イッセーは今回主力陣営に配置されており、戦闘においても真っ先に選ばれている。

 

 だが―

 

「いや、イッセーは間違いなく早期敗退するぞ?」

 

 そうは問屋が卸さないいんだよなぁ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 嘘だろ!? いきなり思いっきり大苦戦じゃん!!

 

 学園都市の技術がなくても、兵器の力ってすごいな!! 下級や中級がメインだけど、悪魔がごっそりやられていく。

 

 一万人規模の超大規模模擬戦とはいえ、これは本当に三日で決着がつきそうだ!

 

「・・・だけど、あっさりやられるわけにはいかないよな!!」

 

 宮白から連絡がきた。今俺が進んでいる先に敵の大将格がいるらしい。

 

 主力を力技で叩き潰すなら俺の出番だ!! 状況ひっくり返しなおしてやるぜ!!

 

 どうせやるなら全力で、誰も死なない戦いだし、思う存分発散して吐き出すものを吐き出すのが今回の目的だ。

 

 宮白は悪魔側が負けた方がいい結果だっていうけど、わざと負けたって納得できないししてくれないしな!!

 

「赤龍帝参上!! さあ、敵の大将はどこ・・・だ・・・?」

 

 と、そこには思いっきり集まっていた悪魔払いの人たちが。

 

 しかも、割と本気で敵意を向けている。

 

「ほう、さすがは付き合の長い輝く腕だ。読み通りだ」

 

 代表格の一人がそういうと、全員が一斉に構えをとった。

 

 え? どういうこと? なんで待ち伏せされてるの?

 

 っていうか敵の大将は?

 

 ・・・と、そこで俺は一つ大事なことに気づいた。

 

 そういえば、宮白は企画しただけであって指揮権は別の人が持っていたはず。

 

 あれ? そういえば宮白はこうしろとか言ってなくね?

 

 そして、宮白は最近よくこういった。

 

 ―お前、一度教会にシメられろ。

 

「あ、あの野郎ぅううううううううう!?」

 

「死に腐れ女の敵がぁあああああ!!!」

 

「なんでお前なんかがアスカロンに選ばれてんだぁあああああ!!!」

 

「聖人を汚すなぁ!!」

 

「何人も裸にしたらしいわね!! この女の敵!!」

 

「なんでこんな奴がもててんだ一人分けろ!!」

 

「・・・おい、聖職者として恥ずべきものがいるぞ」

 

「ついでにボコれ!!」

 

「あ、しま、ギャアアアアアアア!?」

 

 なんかついでにボコられてる人がいるけど、俺ここで終わりかよぉおおおおおお!?

 

 っていうか待って待って待って待って! それエクスカリバぁああああああああああ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤龍帝脱落の報は、戦場および観戦者に大きな動揺を及ぼした。

 

 三大勢力の窮地を幾度となく救い、禍の団の幹部を何度も撃退した若き英雄。ブリテンの赤い龍を宿した最も優しい赤龍帝の名は広く知られている。

 

 間違いなく今回の悪魔側最大戦力の一角であり、戦場の趨勢を握る切り札でもあった。

 

 その赤龍帝が混乱する状況に踊らされ単騎特攻。その果てに精鋭部隊の集中攻撃を浴びて撃破されるという事実は、先制攻撃を見事に迎撃された悪魔側をより混乱させた。

 

 因みに、教会の本来の在り方を考えればヘイトは高くなっており、見つけられたら速攻で集中攻撃を喰らう可能性は確かに高いと識者からは納得されている。

 

 この事実に対してのちに宮白兵夜は「自分が推測した情報を料理の片手間に話したら、いつものノリで勘違いした親友が暴走した。ちょっと失敗したとは思うが、自分に責任を求めるのは筋違いだ」と反論をしたという。

 

 とにもかくにも、この損失が大きな影響を及ぼし、平均的な戦力地では有利であったはずの悪魔側はより不利な状況へと追い込まれていくのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・イッセーはやられたそうだ。ベルにメールでプロットを送っておいて正解だった」

 

「汚い、さすが宮白汚い!! っていうか本当に汚いぞおまえ!!」

 

 昼食時、イッセーがやられたことを報告したらゼノヴィアにツッコミを受けた。

 

 とりあえずあいつは一度シメられた方がいいと持ったから、締められる状況を作っていて正解だった。

 

 ここまで状況が教会側に傾くとは予想外だったから、イッセーには撃墜されて戦果になってもらおうと思っていたがちょっと悪いことしただろうか?

 

 いや、あいつはそもそも変態で女の敵だ。教会としては不満も大きいだろうし、ここはシメておいた方がいいだろう。

 

 最近怒られなくて調子に乗ってる恐れもあったからな。定期的な刺激が必要なのだよ。

 

「宮白きゅんは物騒だね。料理は甘めなのに作戦は辛口だよ」

 

 もぐもぐと肉じゃがを食べながら、デュリオはそう評価してきた。

 

 まあ、この戦いは教会のガス抜きだからな。教会が勝っても何の問題もない。

 

 だが・・・。

 

「このままやられるのもなんだな。さすがに少しぐらいは戦果をあげないとだめだろう」

 

 と、俺は腰を持ち上げた。

 

「ど、どどどどこに行くんですか?」

 

「簡単だスパロ。配下として指揮官に意見を具申するのさ」

 

 とりあえず、そろそろこっちも本気で行かないと失礼かな?

 




イッセー撃墜。

いや、冗談抜きでイッセーのようなタイプは、作中で所業の分だけお仕置きされて初めて人気が出るタイプだと思うのですよ。覗きを実行するスケベキャラって、それとワンセットな気がしません?

と、いうわけでイッセーは早期退場。これにより悪魔側の士気はガタガタ、さらにごっそりと減りますよ。



兵夜「正直やりすぎた(;・ω・)」


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大規模模擬戦 第三ラウンド!

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実質、こんなものですか」

 

 ベル・アームストロングは数十の悪魔を殴り倒し、残心をした。

 

 悪魔側が空から攻めてくることは想定の範囲内。そのためこちらも相応の準備をしてきたのだ。

 

 それが、人間の対空兵器の運用。対空砲や地対空ミサイルを調達し、それらによって空を飛ぶ悪魔を迎撃することである。

 

 実際、その手の対策や研究もおこなわれていたため比較的楽に行動できた。

 

 火力においても何とか十分。今回の模擬戦は下級がほとんどを占めていることもあり、30mmサイズの砲弾などで十分ダメージを与えることができた。

 

 高射砲や対空ミサイルの近接信管や誘導装置も、異世界技術などを中心に改良し、対人ロックが可能になったことで解決する。

 

 そしてその対空砲の迎撃の中、ベルたち一部の空中戦可能な戦力が、切り札を運用して上級悪魔の迎撃を行っていたのだ。

 

 正直心臓に悪いが、ほとんどのメンバーは自発的に志願した。

 

 要はそれだけ不満があったということだろう。いいガス抜きの機会だし、これは兵夜の慧眼とエルトリアの暴走に感謝するべきだろう。

 

 ・・・実際のところ、誘導技術などに関しては兵夜が魔術師(メイガス)の技術をこっそり提供しているのは、内緒にした方がよさそうだ。

 

 とはいえ、初戦はこちら側が大きく有利になっている。

 

 これで悪魔側も即座に同じ手段はとらないだろう。これで今回の模擬戦を主導した者たちの思惑通り、全力でのぶつかり合いである泥仕合に移行するはずだ。

 

「・・・とはいえ、勢い余って戦局が傾きすぎましたね。このままだと実質こちらの圧勝でしょうか?」

 

 ベルとしてはできれば兵夜たちにも善戦してほしいのだが、しかし自分から協力することはできない。

 

 ミカエル達の心労を解決するためにも、自分にできることは全力でやる。

 

 あいにく自分は頭が悪いので、あまり頭脳派なことはできない。やってくれと頼まれたことを全力でやるのが精いっぱいだ。

 

 さて、兵夜たちはどうやって反撃するだろうか?

 

 と、思った瞬間下の地面が爆発した。

 

「・・・兵夜様ですか?」

 

 どうやら、自分の大好きなご主人様は、ワンサイドゲームは好まないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これで一矢報いること程度はできたかな?」

 

 さすがにワンサイドゲームは悪魔側が限界だと思ったし、とりあえずの支援はしておくことにした。

 

 やったことは単純明快。カメラによる遠隔発動型のミサイルを使って対空砲をいくつか破壊することだ。

 

 さすがにここまでハリネズミの防御陣を作ってくるとは思わなかった。いきなりここまでやられると、今度はこっちの不満が爆発する。

 

 できる限りお互いにすっきりするぐらいぶつけ合ってくれなければ、不満がたまって結局またクーデターが起こってしまう。

 

 と、それはともかく戦局はどれぐらいかというと、すごく早く減ってるな。

 

「あ、宮白くんおかえり。それで戦況はどれぐらい?」

 

「現段階で悪魔側が残存数約7000で教会側が約9500だ」

 

 教会側が大幅に有利な展開だな。

 

 特に、得意な空中戦を抑えられたのと英雄であるイッセーがやられたのがでかい。

 

 イッセーの方は保守派がメインだから転生悪魔であるイッセーの人気はそこまでではないのでましだが、空を抑えられたのがひどいな。

 

 対空兵器で迎撃とは考えた。人間の技術も捨てたものではない。

 

「まあ、全力で殴り合った方がお互いすっきりするからねぇ。俺もあとで殴りに行った方がいいかな?」

 

「そ、そそそそれはそうでしょう。天使にたいするふふふ不満もいいっぱいありますし」

 

 デュリオとスパロが後片付けをしながら相談するが、しかしこれは面白い展開になってきたかな?

 

 悪魔側も不意打ちのダメージは回復してるだろうし、このまま一方的な展開にはなりえない。

 

 これなら狙い通りの泥仕合。全力を出し切ってもろとも倒れればいい。

 

「さて、これならどうなるか分かったもんじゃないな。俺たちも戦闘の準備はした方がいいぞ?」

 

 ふっふっふ。この調子で不満を噴出させるといいわ和平反対派共!

 

 そして発散できたところで仲良くしようか。なに、利権は安く譲ってやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大規模模擬戦二日目。俺たち糧食班は前線に糧食を届けに移動していた。

 

 対空砲火が危険なうえに大量の食べ物を運ぶので、車を使って移動中だ。

 

「女の子はーねー♪ ラブリーデビールー♪」

 

「ささささすがにそれは不謹慎ででです!!」

 

 久遠がノリノリで歌いだしたので、スパロが思わず注意するが、しかし前線までは安心だからな。

 

 しかし戦闘は膠着状態。あの時点から数の減りは目に見えて少なくなったな。

 

 まあ、序盤のカウンターをもろに喰らって悪魔側がビビったのが大きいだろう。ましてや得意の空中戦で大打撃だ。

 

 これで人間界に対する警戒が強くなりすぎなければいいんだが・・・。

 

 と、考え込んでたらすでに味方の前線に到着。

 

「さて、ついたぞー。こっから徒歩で配給だぞー」

 

「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」

 

 糧食班にそう告げながら、俺たちは流れ弾を気にしつつ食事を提供しに行く。

 

「おら前線の泥だらけで汗臭くなった野郎ども! 飯だ飯だ、感謝にむせび泣きながら食えよー」

 

「今日のお昼はホットサンドイッチとクラムチャウダーだよー。おいしいよー」

 

「な、ななな並んで並んでください! 大丈夫ぶぶぶ、数はちゃんとありりりますから」

 

 三人でさばきながら食事を提供しつつ、俺は前線の方を見る。

 

 二日目も中盤だし、そろそろ悪魔祓い側も攻勢を再度仕掛けてきそうだが、さてどうなるか。

 

「久遠、どう思う?」

 

「向こうも食事時だから大規模構成は仕掛けてこないと思うけどー。隙ができるタイミングだから少数精鋭で来るかもねー」

 

 なるほど、これは警戒するべき内容か。

 

 食事は楽しんで行うものだし、ここは俺たちが体を張らないとな。

 

 と、いうわけで軽食をつまみながら少し前線に顔を出す。

 

 この向こう側で、ベルはいったい何をしてるんだろうか。

 

 ああ、会いたい。会って話がしたい。

 

 ・・・ゲン・コーメイに乗り換えたのか、それともそんなことは俺の杞憂か。

 

 とにかく、俺はベルと一度真剣に話をするべきだった。

 

 うん、これ大事だよな。俺はこのあたりの考えが足りていなかった。

 

 ヴァスコ・ストラーダには感謝しなくてはいけない。あの人マジモンの聖職者だよ。

 

 ・・・と、俺の視界に接近してくる悪魔祓いが入ってきた。

 

 どうやら本当に仕掛けてきたらしい。

 

「さて、糧食班としてはおいしい食事の邪魔をっせるわけにはいかないわけで―」

 

 俺は突撃すると同時にイーヴィルバレトを展開。

 

 同時に小型ゴーレムを付加した迫撃砲を出しまくり、近距離に狙いをつけて撃ちまくる。

 

 悪魔祓いの足が止め、そのあと落ちてくる榴弾でとどめを刺す作戦だが、どうやら思った以上に思い切りが強い。

 

 結界系の魔法か神器を保有しているらしく、彼らを壁にして無理やり突進してこようとしてくる。

 

 おかげで榴弾の被害は最小限だ。まあそれはそれでいいが、これでやることが増えた。

 

「なら近接戦闘だ。試作品の破壊力を試させてもらおうか!!」

 

 俺は駒を戦車に変えて魔術強化。発生した莫大な筋力を最大限に生かす武装を展開する。

 

 錬金術で錬成した超質量金属による大型メイス。下手な防御など力技で吹き飛ばす!!

 

「さあ、相手をしてもらおうか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮白君が戦闘を行っているころ、ぼくたちもまた戦闘を開始していた。

 

 食事時に攻撃してくるとは無粋な敵だよ。それ相応のお仕置きってものをしないとね。

 

「集団戦ならやりようはある。さあ、これを喰らってみるといい!!」

 

 龍騎士を作り出し、ぼくは戦闘を開始する。

 

 悪魔祓いの数はそこまで多くない。やはり向こうも食事中であり、回せる人数はそう多くないのだろう。

 

 ならばやりようは十分になる。今の僕達なら並の悪魔祓いが束になってかかってこようと負けはしない。

 

「つ、強い!」

 

「これが聖魔剣の木場祐斗か!?」

 

 素早く悪魔祓いを倒しながら、僕は警戒する。

 

 確かに彼らもフリードと渡り合えるほど優秀だが、おそらく敵の主力はこんなものではないはず。

 

 正直に言えば、ぼくはこの戦いでエクスカリバー使いとの戦いを熱望していた。

 

 ・・・一度は使い手を倒すことで発散したはずのエクスカリバーへの恨み。だけど、最近ぶり返してきている。

 

 フリードを圧倒的に上回る使い手が何人も出てきたことが原因だろう。真に全力を発揮できる使い手と戦い、そのうえで勝ちたいという願望が生まれていた。

 

 自分でもよくないこととは思うけど、これはあくまで模擬戦だ。レーティングゲームのシステムを流用しているから死にはしない。

 

 だから、思う存分発散したいと思っていた。

 

「・・・まだ出てこないのか、エヴァルド・クリスタリディ!」

 

 できれば戦場で相対したい。

 

 今度こそ、真なるエクスカリバーの使い手を倒したい。

 

「・・・猊下と直接会いまみえたいとは、悪魔というものは本当無礼なものだ」

 

 と、若い悪魔祓いが姿を現す。

 

 どうやら彼がこの部隊のエースのようだ。。

 

 だが、今更悪魔祓いが一人や二人増えたところで―っ

 

 そう思ったその時、僕は彼の手に持っている剣を見て動きを止める。

 

 あ、あれは・・・馬鹿な!!

 

「ならば私が、エクスカリバー使いがお相手しよう!!」

 

 な、なんだって!?

 

 まさか、エクスカリバーのレプリカは量産されていたのか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木場がエクスカリバーと相対していたころ、俺もまたエクスカリバーと戦闘を繰り広げていた。

 

「偽聖剣の技術は教会に流出させてはいたが、まさか量産しているとはな!!」

 

「量産? 偉大なるエクスカリバーにそんなバカげた真似ができるわけないだろう!!」

 

 破壊の聖剣の力でメイスをぼろぼろにしながら、聖剣使いは俺に怒鳴ってくる。

 

 ・・・ああ、その辺の配慮は足りなかった。反省反省。

 

 って、だったらなんでここにエクスカリバーがあるんだよ!!

 

 レプリカも量産してないんだったら、最強のクリスタリディに渡してるはずだろ!?

 

 どうやら敵は破壊の聖剣ぐらいしか本領を発揮できないようなのでまだましだが、だからこそ疑問が残る。

 

 七分割された方をレプリカにしたわけではあるまいし、どういうことだ?

 

 と、いうより思った以上にできる!! 質量武器はやりすぎだった!!

 

 もう割り切ってメイスを捨てると、対ブレード用の十手を取り出し迎撃を再開。同時に速度重視の騎士に変更して戦闘を行う。

 

 ええい、いろいろと面倒なことになった!

 

 だが、お前は俺たちをなめているぞ、聖剣使い!!

 

 俺は素早く飛び退りながら、奴を誘導する。

 

 そうだ、そこだ!!

 

「・・・ぬっ!?」

 

 次の瞬間、聖剣使いがつんのめった。

 

「これは・・・糸!?」

 

 ちなみに蜘蛛の糸だ。ほら、獲物を捕まえるときに使うタイプ。

 

 そのすきを逃さず俺は光の槍を乱射。同時に、今まで動いてなかった久遠が強襲を仕掛けた。

 

「はい終了ー!」

 

「グアぁ!? む、無念・・・っ」

 

 エクスカリバー使いは連携攻撃に対処できず倒され、そしてそのあとエクスカリバーが姿を変える。

 

 糸状に変化したエクスカリバーは、糸状に変化するとそのままするすると後ろに下がっていく。

 

 それを見て、俺はこの仕掛けの絡繰りを理解した。

 

「・・・なるほど。擬態の力で糸でつながった二刀流にして―」

 

「―そ、そそそそれを聖剣使いに持たせて数をふふやしたんですか!?」

 

 スパロが驚愕するのも無理はない。

 

 相当距離が離れているといってもいいだろう。それをレプリカでするというのなら相当の技術だ。

 

 これが、助祭枢機卿、エヴァルド・クリスタリディか・・・っ

 

「こりゃ、余計な情報を提供する必要はなかったか?」

 

 うわぁ、厄介なことになってきたぞ、ホント

 




エクスカリバーの擬態って、応用すればこういう使い方できると思うんですよ。


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大規模模擬戦 第四ラウンド!

 二日目の夜、晩飯にカレーを作り終え配り終えた俺たちは、会議を行っていた。

 

 明日は最終日であることから、指揮官は総力戦を決断したそうだ。まあ当然だろう。

 

 このままいけば数の差でこちらの判定負けになる。幸い個々の戦力の平均値なら上回っているのでそれにかける形だろう。

 

「まあ、泥仕合になれば出すもん全部出せるし向こうもすっきりするか」

 

 思った以上に人数が減ったことで余ったカレーを食べながら、俺はそう結論した。

 

「総力戦ともなれば、ぼくたちも全力で戦えるわけだ。腕が鳴るよ」

 

「私はストラーダ猊下と戦いたいな。彼もデュランダルのレプリカを持っているのだし、今の自分がどこまでデュランダルを使いこなせているか試してみたい」

 

 木場とゼノヴィアも気合が入っている。まあ、エクスカリバーを超えたいという願望がまだ残っている木場はもちろん、デュランダル使いとして先人と戦うゼノヴィアも思うところはあるのだろう。

 

「しかし、ベルとゲン・コーメイも忘れちゃいけないしな。ほかの連中も相応にできるだろう?」

 

「そやなぁ。ま、人間なめたらいかんで?」

 

 この場で唯一人間のままのムラマサに言われるとぐうの音も出ない。

 

 うん、俺も人間だったしなめたらいけないな。ちょっとなめてかかっていたのは事実だ。反省反省。

 

「そ、そそそれで明日はいつ戦闘開始ですか?」

 

「早朝突撃らしいよ? いやぁ、悪魔なのに頑張ってるねぇ」

 

「なるほど、では早いうちに休んでおくとするか」

 

 スパロやデュリオやゼノヴィアがそういいながら、早い段階で休息をとるべく寝袋をつかむ。

 

 俺もそれに習おうとして、少しとどまった。

 

「木場、一応言っておくがこれは模擬戦だからな?」

 

「ああ、わかっているよ」

 

 本当にわかってるのか不安だな。

 

 どうも、クリスマス前の小雪みたいに過去を思い出して調子が崩れてる気がする。

 

 まさか模擬戦でグラムまで使うとは思えないが、しかし不安になってくるぞ?

 

「ま、なんだったらこっちで見とくから気にせんでええよ? そっちはそっちで相手したいのおるやろ?」

 

 と、ムラマサが力強くそう言ってきた。

 

 ふむ。付き合いがあまりないから任せるのもあれだが、ここは任せた方がいいのだろうか?

 

「大丈夫だよ兵夜くんー。私もちゃんと監視するからー」

 

 ふむ。久遠が言うなら安心か。

 

「あらら。やっぱり愛人の方が信用あるか」

 

「悪いな。年季が違う」

 

 そういいながら、俺は少し緊張してきているのが分かった。

 

 ベル・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 早朝、悪魔たちは反撃の準備を整えていた。

 

 正直彼らは今まで油断のし通しだった。

 

 人間の科学技術を、悪魔祓いの意地を舐めてかかっていたのだろう。

 

 だからこそ、最後の一日だけはなりふり構わず全力を挑まなければならない

 

 このまま負けるわけにはいかない。こちらにも意地というものがある。

 

「負けるわけにはいかないな」

 

「ああ、魔王様に面目が立たん」

 

「いやいや、大王様を忘れちゃいけないだろ」

 

 気合を入れながらも軽口をたたき合い、彼らはやる気をみなぎらせる。

 

 そう、やる気はどこまでも出てきていた。

 

 既に彼らに悪魔祓いを舐めてかかる思想はない。間違いなく強敵であり、ぶつかり合うに相応しい相手であると確信していた。

 

 だから―

 

「やはり来たぞ!!」

 

「起きててよかった!」

 

 ―彼らがこの強襲を予測できてることも予想内だ。

 

「いたぞ悪魔野郎!!」

 

「やっぱり奇襲してくる予定だったな!」

 

「馬鹿め、俺たちだって早起きぐらいできるんだよ!!」

 

 出し抜いてやったという笑みすら浮かべ、悪魔祓い達が突撃を開始する。

 

 だが、悪魔側も負けてはいない。

 

「舐めてんじゃねえよ人間が!!」

 

「悪魔になった俺たちの方が、性能は上乗せされてんだよ!!」

 

「こっから反撃だこの野郎!!」

 

 今度こそ相手を叩き潰さんと、こちらも獰猛な笑顔を浮かべて反撃を開始する悪魔たち。

 

 ここに、最終決戦が勃発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、戦闘は激しく激戦となる。

 

「なるほどな。悪魔もなかなかできるようだが・・・甘い」

 

 ゲン・コーメイは圧倒的なまでの戦闘能力で悪魔たちを蹂躙していた。

 

 彼の周囲で光の槍が多種多様な方向から襲い掛かり、悪魔たちは対処しきれず串刺しになっていく。

 

 さらに接近しても、いつの間にかバランスを崩され転んでしまい、そのため迂闊に接近することもできない。

 

「なんて奴だ・・・っ」

 

「これだけの実力者が無名だと!?」

 

 あまりの光景に悪魔たちも動揺が走るが、そのすきを見逃すほど彼は甘くない。

 

 気づいた時には敵集団の内側に入り込み、一瞬で光の槍で串刺し刑に処していく。

 

「やはり実力差がありすぎるか。だから―」

 

 次の瞬間、ゲンの姿が掻き消え、その場に斬撃が走った。

 

「やっぱりこの人強いねー」

 

「そうだね。イッセー君たちが蹂躙されるわけだ」

 

 桜花久遠や木場祐斗。D×Dの精鋭たちが戦場へと到達した。

 

「こりゃ当たりかな? 俺たちの方が戦えそうだしね」

 

「しっかし聖剣使いはおらんのかいな? ちょっと残念やなぁ」

 

 デュリオとムラマサも姿を現し、悪魔たちは喜色を顔に浮かべた。

 

「聖魔剣の木場祐斗とソーナ・シトリーの懐刀だ!!」

 

「あのヴァーリチームとジョーカーもいるぞ!!」

 

 強大な増援に悪魔たちは湧くが、悪魔祓い達も慌ててはいない。

 

「ならこちらも切り札を投入するまでだ」

 

「猊下! お願いします!!」

 

 悪魔祓い達が道を開けるように割れ、そこから静かに聖なるオーラが放たれる。

 

 そのオーラを放つ先は、黒髪の壮年の男。

 

「エヴァルド・クリスタリディ・・・っ」

 

 祐斗の顔に緊張と喜色が混じる。

 

 ああ、やはり自分はこの機会を待っていた。

 

 当代最強のエクスカリバー使い相手に、自分の力がどこまで通用するか・・・。

 

「胸を借りさせていただきます、猊下!」

 

「いいだろう。エクスカリバーを圧倒した聖魔剣の力を見せてみるといい」

 

 戦闘はより激化する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、宮白兵夜たちもまた強敵と激突する。

 

「・・・ベル、来たか」

 

「ええ、実質来ちゃいました」

 

 兵夜は、会いたくて会いたくてたまらなかった女性と再会した。

 

「・・・お久しぶりです、猊下」

 

「戦士ゼノヴィア、デュランダルは使いこなせているかね?」

 

 ゼノヴィアも、相見えたくてたまらなかった人物と出会った。

 

「さ、さささサポートします!!」

 

 それが何となくだがわかったから、スパロは援護に徹することを決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼らはともに一騎当千。文字通り、この場にいる敵陣営を一人で戦は屠り得る最高戦力。

 

 ゆえに、この激戦の勝者が誰かで戦局は大きく変わるだろう。

 

 ここに、最終決戦が勃発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ようやく発見したなこれが。・・・ヴァルプルガに連絡しろ、頃合いを見計らって仕掛けるぞ」

 

「承知した。しかし、赤龍帝の姿が見えないが」

 

「おそらく温存してるんだろう。あの赤龍帝に限ってもうリタイアとかない。・・・おっぱいめ、世界を貧乳にしてやろうか」

 

「やめておけ。さて、魔王の末裔としては悪魔祓いは皆殺しにしておくのが筋というものか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




兵夜「リタイアしたぞ?」

フィフス「ふぁっ!?」


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大規模模擬戦、第五ラウンド! VSエクスカリバー

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初に仕掛けたのは僕だった。

 

「行きます!!」

 

 龍騎士を召喚し魔剣を持たせ強襲を仕掛ける。

 

 魔剣の攻撃力はレプリカのエクスカリバー程度なら十分突破できる性能。まともに打ち合えばそれだけで破壊することも狙えるはずだ。

 

 だが、クリスタリディ猊下はそれらを苦も無くさばいていく。

 

 ・・・速度そのものは天閃だろうけど、それだけじゃない。

 

 軌道を逸らす際に刀身の形状を擬態で変化。それによって効率のいいそらし方を成功させていっている!!

 

 間違いない、剣の性能を完全に引き出している!!

 

「・・・なら勝負しましょうかー!」

 

 今度は桜花さんが切り込んだ。

 

 剣の性能を引き出すということにおいて規格外の領域に到達しているセイバーのサーヴァント。

 

 いかに後付けのまがい物とはいえ、それを相手にして剣の性能を引き出すのではなく剣で切り裂く技量をもっとして上回った彼女ならどうだ!?

 

「話には聞いている。ソーナ・シトリーの懐刀だと」

 

「胸を借りますよー!!」

 

 次の瞬間、二人の持っている剣が一気にぶれた。

 

 一瞬だけとはいえ目で追いきれないとは、やはりこの二人は剣士として別格か・・・っ

 

 周りにいる者たちが一時的に目を奪われるが、しかしそこで冷静だったものがいた。

 

「・・・では、こちらも戦闘を開始するとしよう」

 

 気づけば、ぼくらの間にゲンさんが入り込んでいた。

 

 隙があったとはいえいつの間に!?

 

「おっと。危ないなぁ」

 

 冷静にムラマサが反撃するが、それを素早くかわしたゲンさんは、右手をふるう。

 

 その後、様々な方向から放たれた光の槍を、ムラマサは魔剣を超能力で操って正確に防いだ。

 

 やはり二人とも強い。

 

 強いが、ゲンさんの能力はいったいなんだ?

 

「話に聞いてた情報を総合すると、超度(レベル)5の念動力(サイコキネシス)瞬間移動能力(テレポート)ってとこかいな」

 

 数合戦ったムラマサは、冷静にそう判断した。

 

「・・・それで、さっきの攻撃の種は?」

 

「瞬間移動能力の方やな。たぶんやけど、天使の鎧(エンジェル・アームズ)を応用して、指先だけ部分テレポートさせてオールレンジ攻撃しとるんや」

 

 そんな器用なことができるのか。

 

「・・・まあ、こちらはあくまで通常攻撃手段なので正解だといっておこう」

 

 そう言い放つと、ゲンさんの姿が一瞬で消える。

 

 次の瞬間には氷の槍や落雷などといった様々な属性の攻撃がその場所に放たれていた。

 

「うっわぁ。さすがモルドレットの隊長。不意打ちにも完全対応だよ」

 

「まあ、瞬間移動能力は空間認識能力が高いからなぁ。実力者なら目を閉じてても迷路とか攻略できるで」

 

 デュリオとムラマサがあきれ半分で感心するが、しかしこれは非常に危険だ。

 

 彼らは、あまりにも強い・・・っ!

 

 これが、転生もしていない人間の強さなのか!?

 

「あまり、人間をなめてもらっては困るな」

 

 さらにクリスタリディ猊下も桜花さんを弾き飛ばした。

 

「・・・うわー。あれ隊長の領域片足突っ込んでるよー」

 

 口元を引きつらせる桜花さんの衣服は、いくつも切り裂かれていた。

 

 それでいて肌を切り裂かれていないのはさすがというところか。しかしクリスタリディ猊下の服にはかすり傷一つない。

 

 天閃や破壊で上乗せできるとはいえ、剣士としての技量ですらここまでとは。

 

「まあ、それはそれとしてやるしかないわなっと!!」

 

「だよねー」

 

 それでも気合を入れなおし、桜花さんとムラマサは突撃を開始する。

 

 僕も負けるわけには行かない。ここでエクスカリバーを越えなければ!!

 

 そして同様に突撃を開始し―

 

「いや、そういうわけにもいかん」

 

 ―気づいた時には、転倒していた。

 

 これは、クロウ・クルワッハがゲンさんと戦った時に陥った現象―!?

 

「そ、そういうことかいな」

 

 慌てて立ち上がりながら、ムラマサは僕を引っ張って後退しながら構えを取り直す。

 

「な。いったい何が?」

 

「いや、簡単にいえば念動力による合気道?」

 

 あ、合気道?

 

「こっちが動くのと同じタイミングで、膝裏とかつま先とか、バランス崩しやすいとこをな? 念動力でちょんと押してすっころばせとんねん」

 

 そ、それが人体との戦い方という意味か。

 

 確かにそれはクロウ・クルワッハにも効果がある。

 

 思えば彼はあの時点でそれに気づていたのだろう。だからあえて誘いに乗って人型のまま戦っていたのか。

 

「そ、それ口で言うのは簡単ですけどー・・・」

 

「・・・前人未踏のウルトラCやな。どんだけ技術を習得しとんねん」

 

 唖然とする桜花さんと、一周回って完全にあきれているムラマサ。

 

 そ、それほどまでに圧倒的な技量を持っているのか!?

 

「念動力最大の特性は、いくつもの不可視の腕を持つということ。それを最大限に生かし、かつ低い出力で運用するにはこれが最適解なだけだったからな」

 

 ゲンさんはそういいながら、一歩を踏み出す。

 

 そして、気づいた時には何人ものクリスタリディ猊下に包囲されていた。

 

 まずい、これは圧倒的にこちらが不利だ・・・!

 

「・・・僕がグラムを使います。そうすればいったん仕切り直しにはできる」

 

 逆転するにはそれぐらいするしかない。

 

 せめて、せめて一矢ぐらいは入れたいんだ。

 

 あの実験が無駄ではなかったと、それを証明してみたい・・・!

 

 と、いきなり後頭部に発動時に拳が入った。

 

「あ痛っ!?」

 

「・・・このド阿呆が。だからこれは模擬戦やっちゅうねん」

 

「兵夜くんが警戒したわけだよー。・・・何やってるのかなーもう」

 

 ため息を思いっきりつきながら、ムラマサと桜花さんは僕を拘束し始めた。

 

「え、あ、ちょっと!?」

 

「木場くんは戦闘禁止ー。いろいろ見えてないからねー」

 

「そんな曇った剣やったらない方がましや。そこでちょっとおとなしくして反省しとらんかい」

 

 そ、そんな!? そこまで!?

 

「まったくだ。木場きゅん。これは言うなればただの喧嘩。そんなことで命削ったらいけないって」

 

 そしてデュリオが僕を抱えながら声をかける。

 

「どうしても我慢できなかった不満を、とりあえず拳でぶつけるのがこの模擬戦。命かけるような戦いじゃないんだよ」

 

「そうそうー。何のために兵夜君が寝る間も惜しんでこの模擬戦作ったと思ってるのさー」

 

 デュリオと桜花さんがそう説教してくるが、だけど、だけど・・・!

 

「それでも、目の前にエクスカリバーがあるんです・・・!」

 

 あの実験は無駄ではなかった。僕らの苦しみには意味があった。

 

 そう、思いたいんだ・・・っ!

 

「ん~。これは重傷だ。ちょっとお二人さん、時間稼ぎお願いしてもいいかな?」

 

 と、デュリオは桜花さんとムラマサにそう頼み込んだ。

 

「了解了解ー」

 

「ま、任せとき」

 

 そして二人はうなづくと、真正面から強敵二人に突撃していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 桜花久遠とムラマサは、同時に敵陣へと切り込んでいく。

 

「馬鹿正直に来るわけではあるまい。対策ぐらいは立ててるのだろう?」

 

 ゲンは真正面からそれを見越して、いつもの念動攻撃を開始する。

 

 千年以上の長い間修練を積んで、ある意味人体の極致に到達したクロウ・クルワッハですら対処困難だったこの攻撃をどうやって回避するのか?

 

 その疑念は単純明快だった。

 

「兵夜君お願いー!」

 

 桜花久遠はカードを額に当てるとそう声を上げ、そして同時に羽衣を展開する。

 

 その瞬間、彼女の移動速度が大幅に上昇した。

 

 もはやそれは残像による分身すら展開して、こちらをかく乱してエヴァルド・クリスタリディに切りかかる。

 

「第二ラウンドですよー!」

 

「なるほど、君はそれを使ってからが本領だったな・・・っ!」

 

 高速での剣劇が勃発する中、それでも狙いをつけようとしたゲンは、しかし瞬間移動能力でその場を離れる。

 

 次の瞬間には大量の剣がそこに突き立っていた。

 

「あんたら相手に剣技で勝とうと思うほど、こっちは耄碌してへんで・・・!」

 

 ムラマサは剣をキーワードとする合成能力者。

 

 その基本戦闘は剣で構成された人型の戦闘及び―

 

「剣そのものの操作だったか!!」

 

 四方八方に放出できる光の槍で撃ち落としながら、ゲンはにやりと笑う。

 

 やはり戦闘はある程度歯ごたえがある相手でなければ意味がない。

 

 モルドレットは精鋭部隊であると同時に暗部組織でもある。

 

 強大な力を持ったものが内通しているときに動く部隊であり、つまりは内部粛清を目的としている暗殺組織だ。

 

 だから知名度が低い。工作員などというものは、基本的には隠れてなんぼなのだ。

 

 かつての自分もそうだった。

 

 超能力という突然の進化に対応しきれない人間たちが多い中、神の教えを守るものを守るために動く暗部組織。

 

 その教えに真っ向から反論を唱えるような輪廻転生を行ったうえで、さらにまた似たような教えの神の組織の一員として動くことに、彼は皮肉を感じていた。

 

 だからこそ・・・。

 

「うっぷんは、かなりたまっていたのさ・・・!」

 

 だからいい機会だ。この戦いですべてを発散する。

 

 ゆえに躊躇なく魔剣の群れを迎撃する。

 

 そしてそれを行うのはゲンだけではない。

 

「・・・神の愛す子供たちが、悪魔の儀式で救われる。それに不満を持つものは数多い」

 

 突如魔剣の群れの何割かが、飛ぶ方向をかえ二人の少女に襲い掛かる。

 

「いっそ破壊してしまえというものも多く、私もまた否定しきれない。君たちなら、そんなことより彼らを救うことを優先するのだろうがな」

 

 支配の聖剣の力を使い、エヴァルド・クリスタリディが魔剣を支配したのだ。

 

「だが我々に取ってはそれは重要なのだ。・・・その思いを受け止めもしないで、和平などといわないでもらおうか!!」

 

 支配された魔剣はすべてがムラマサに襲い掛かる。

 

「いや、そぉ言ぅんは冥界の連中にゆうてくれんか?」

 

 しかし、それらのすべてをムラマサは掌握した。

 

 剣の支配は我が領域。たかが剣一本の力ふぜいで、抑えようなど片腹痛い。

 

「ほら、和平賛成派が受け止めんかいな」

 

「はいはい了解ー!」

 

 次の瞬間、懐にもぐりこんだ久遠がエヴァルドに切りかかる。

 

 先ほどは、技量の差で有利に動けたエヴァルドだが、しかし今回はそうはいかない。

 

 なぜならば、今の彼女の身体能力は先ほどの比ではないのだから。

 

「和平は会長の願いでもあるからねー。鬱憤晴らしぐらいはつきあうよー!!」

 

「そうでなくては!!」

 

 超高速での切り合いが繰り広げられるなか、ゲンは即座に動く。

 

 近接武術系の相手は自分の領域。相手が接近して仕掛けてくれるのならば、躊躇なくカタにハメられる。

 

 そういわんばかりに念動力を行使したいが、しかしそうは問屋が卸さなかった。

 

「いや、逃がしたりはせえへんで?」

 

 敵の存在を察知して攻撃を向けようとするが、その荒唐無稽な姿に思わず唖然としてしまう。

 

 ・・・それは、魔剣でできた巨大な獣。

 

「本当は人型が本領なんやけどな? ま、それやとあんたにやられそうやしな」

 

「魔剣の巨人を作る禁手だと!?」

 

 確かにこれは危険度が高い。

 

 ゲンの本領は人体研究の成果である。

 

 それを抑えられれば、自分の攻撃は無力化される。

 

「ほな、行こうか!!」

 

 そして大規模な反撃が開始された。

 

 刃でできた巨大な獣が、大地を割りながらたった一人を蹂躙するべく襲い掛かる。

 

 一気に相性が悪くなったこともあり、ゲンは防戦へと追い込まれる。

 

「なるほど、これは確かに相性が悪い!!」

 

 圧倒的なパワーの前には、小技でしかない技量など神のごとく吹き飛ばされる。

 

 しかし、それならそれでやりようはある。

 

「禁手に至らねば出力が上がらないなどということはない!!」

 

 天使の鎧をシンプルに運用し、莫大な光の槍を形成する。

 

「おもろいな! だったらパワー勝負といこか!!」

 

 ムラマサもそれにこたえ、獣の腰を落とし始める。

 

 大出力同士の勝負が決しようとしたその瞬間―

 

「そんじゃまあ、みんな大事なものを思い出そうか」

 

 戦場中に、シャボン玉が生み出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 



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大規模模擬戦、第六ラウンド!! ・・・またの名を犬も食わないアレもどき

 

 なんだ、このシャボン玉?

 

 魔法か神器かそれとも異世界能力か。何が何やら見当もつかない。

 

 どうもそれに触れた者たちが涙を流して戦意を喪失しているが、いったいどうしてこうなった?

 

「実質どういうことでしょう? 何が何やらわからないのですが・・・」

 

「・・・え? みみ皆さんは平気なんですか? 私、サイラオーグさまに出会った時のことを思い出してすごく涙が・・・」

 

 スパロがそんなことを言いながら号泣しているが、しかし俺はどうといったこともないのだが。

 

「なるほど。触れた相手の大事な思い出を思い起こさせる能力か。優しい能力に目覚めたな、デュリオよ」

 

 と、ストラーダ猊下がうんうんとうなづきながら納得する。

 

 え? でも俺何ともないよ? ベルもだよ?

 

「おそらく、君たちは常に一番大事な思い出を忘れてないからだろう。強い愛をもった者たちだな」

 

 ああなるほど。

 

 輝き(イッセー)との思い出は、俺にとって一番大事なものだからな。忘れるわけがない。

 

 そりゃきかないな。ベルもそうだろう。

 

「ああ、そうだ。そうだった」

 

 おっと、テンションに任せて忘れていたことがあった。

 

「ベル。聞いてほしいことがあるんだ」

 

「え? な、なんですか?」

 

 突然俺にそんなことを言われて、ベルは顔を真っ赤にしながら訪ね返した。

 

「・・・ゲン・コーメイのことをどう思っている?」

 

「・・・・・・え?」

 

 ものすごくけげんな表情を浮かべられた。

 

「なあ、俺の勘違いならそれでいいんだ。だが、最近お前はゲンと一緒にいすぎてる気がするんだ」

 

「え? え? ・・・な、なにが一体?」

 

「戦士ベルよ。周りから見たらおろかかもしれないが、それでも真剣な悩みなのだ。最後まで聞いてやってほしい」

 

「宮白。まさかいまだにその心配をしていたのか・・・」

 

「ど、どどどどういうことですか?」

 

 外野がうるさいがとりあえず無視だ。

 

「俺は、自分が恋愛において致命的な欠点を持っていることを自覚している。だから心変わりされたとしても仕方がないし、愛する女が幸せになったのなら祝福すべきだって理屈も分かっているんだ」

 

「な、なんだなんだ?」

 

「ふ、神喰いの神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)は何を言ってるんだ?」

 

「たしかゲン・コーメイってうちのメンバーだよな?」

 

「え? なに、修羅場?」

 

 シャボン玉をみて涙を流してた悪魔や悪魔祓い達も慌てだしている。おい、そんなに緊急事態か。

 

 糞! こうなったらいうべきことをはっきりといってやる。

 

「・・・ベル、お前ゲン・コーメイに心変わりしたのならそういってく―」

 

「―この馬鹿(あるじ)!!」

 

 顔面にいいのが入った。

 

 そして思いっきり吹っ飛んだ。

 

「ちょ、こっちくんなぁあああああ!?」

 

「え、俺関係ないよぼぉ!?」

 

 何人か巻き添えにしてるけどマジでいたい!?

 

「ま、待ってくれ! 勘違いなら悪かった! でも最近ホントべったりだしー」

 

「―うわぁあああああああん!?」

 

 ぎゃああああマウントポジション!?

 

 すいませんすいませんすいません! でもすいませんけどあなた勘違いしても仕方ないと思いませんか!?

 

 心配だったんです怖かったんです! だってフラれたらどうしようかって!!

 

「すごい勝手だとは思ったんだよ!? でもやっぱり我慢できないから怖くって!!」

 

「バカバカバカバカバカばかばかばかばかばか!! 兵夜さまのお馬鹿!!」

 

 ぐおあぁああああサバおりぃいいいいいい!?

 

「私は実質! ミカエル様と兵夜様のお役に立つために一生懸命努力してきました!!」

 

 え、あ、はい! それはわかってるよ毎日修行してたもんね!

 

「それでも全然伸びなくて、でもようやく超能力の伸ばし方がわかってきたんです!!」

 

 そうだよね、専門知識あるもんね。ソリャ教えられたら伸びるもんね!!

 

「だからこの機会に一生懸命伸ばそうと! 無理を言って毎日毎日教えてもらってたのに! もらってたのに!!」

 

 いや、えっと、あの、その・・・

 

「その努力を心変わりと勘違いなされるとは! 酷くありませんか兵夜様!!」

 

 あの、その、えっと・・・。

 

「ベルは兵夜様を実質お慕いしております!! その思いに嘘偽りは実質ないのに・・・ないのに・・・うわぁあああああああああんっ!!」

 

 う、うわぁぁああああああ!!

 

「え、ちょ、ちょっと待って! え、え、えええええええっとぉおおおおお」

 

 え、えっとこれどうしよう!?

 

 助けを求めて周りを見れば、涙を流すことすら忘れて、周りからは非難の視線が。

 

「なにあれサイテー」

 

「勘違いで不倫疑った挙句、大泣きさせてるよ」

 

「まあ、自分と会わずにほかの男とべったりだったら勘違いするだろ」

 

「だが、あのベル・アームストロングに限って不倫なんて器用なまねできるわけないだろ?」

 

「ハーレム作ってる割に意外と小心者っていうか・・・」

 

 うぉおおおおおおおお!! が、外野が評論まで始めてるぞおおおおおおお!!

 

 あ、でも・・・うん。

 

「う・・・ぐす・・・ひっぐぅ・・・」

 

 しゃくりあげるベルを見てると、その、うん。

 

「・・・ごめん」

 

 なんていうかすっごく悪いことしてしまった。

 

「その、俺もなれてなくて・・・その・・・うぅ・・・」

 

 あ、ヤバイ。

 

「・・・うぅ・・・ぐすっ」

 

 これもう耐えれそうにない。

 

「・・・怖かったんだよぉおおおおおおおっ!!」

 

「「「「「「「「「「こっちも泣いたぁあああああああ!?」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スパロ・ヴァプアルはこの光景に対してどうしたものかと思った。

 

 男の方が心変わりを疑って、それに切れた女が殴りながら泣き始めて、そして男の方も何かが枷が外れたのか大泣きし始めた。

 

「ど、どどどどうしましょう!?」

 

「そ、そんなことを私に言われても困るぞ!? な、なんだこれはどういうことだ!?」

 

「それは仕方がないことだ戦士たちよ」

 

 ヴァスコ・ストラーダがまるで幼子を見るような目でそんな泣きはらす二人を見る。

 

「彼らは二人ともまだ子供なのだ。・・・転生という規格外の衝撃に、大人になるためのピースが零れ落ちてしまったのだろう」

 

「お、大人の・・・?」

 

「ピース?」

 

 思わぬ言葉に、二人は首をかしげてしまう。

 

 時折無邪気な子供のような素顔を浮かべるベルはともかく、常に頭を回転させる宮白兵夜に、精神年齢が低いという言い回しは感じても子供という言い回しは感じなかった。

 

 だが、ヴァスコ・ストラーダは静かに首を振る。

 

「子供だよ。聞けば、彼が転生した時の年齢は16ではないか。そんな子供の心を持ったまま、ある種の極限状態に置かれれば、成長するのにもどこかゆがみが出るだろう」

 

 思えばそれは当然だった。

 

 記憶の回帰が異常な形のナツミはもちろんそうだった。そして小雪も久遠もどこか大人と言い切れない側面を合わせ持っている。

 

「そう、彼らは年齢不相応の精神を持つと同時に年齢相応の心を持っているのだ。それを忘れてはいけないのだよ」

 

「あ、ああなるほど。私これでも前世は結構生きてたのでわわわかりませんでした」

 

「そ、そうなのか」

 

 そう思えば、この状況下は当然なのかもしれない。

 

 そもそもあの二人も恋愛経験はろくにないのだ。それがすれ違ってしまったら混乱もするだろう。

 

 大人ですらそういう話はよくあるのだ。子供だというならなおさらだ。

 

「だからこそ、ここはそっとしておこうではないか」

 

 そういつくしみながら告げると、ストラーダはデュランダルのレプリカを構える。

 

「さあ戦士ゼノヴィアよ。彼らはそっとしておこう。我々の決着をつけようではないか」

 

「・・・ハイ、猊下!!」

 

 その言葉に、ゼノヴィアはデュランダルを構えて応じる。

 

 ・・・最後の戦いは、より白熱して行われようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




前にもいったと思いますが、味方側の転生者は基本メンタル弱めです。

支えがあるから強いのであって、そうでなければ頑張れないし折れかねない。そういう人物です。

そんな人物は一生もののトラウマレベルを受ければ、そりゃ当然心の成長に大きな悪影響を受けるでしょう。

・・・そこを見抜いたストラーダはマジ聖人。創作業界でも有数の人物やでぇ


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大規模模擬戦最終ラウンド! デュランダルVSデュランダル!

 

 ・・・うぅ。久しぶりにマジ泣きした。

 

「ぐす・・・ひっぐ・・・」

 

 そしてベルもマジ泣きし終えたようだ。

 

「えっと・・・ベル? 大丈夫か?」

 

「はい・・・大丈夫です・・・うっぐ」

 

 とりあえず泣き止んでくれて助かったな。

 

「兵夜さまは心配性です。もし本当に嫌になったのなら、実質はっきり言いますよ」

 

「うん。ごめん」

 

 ヴァスコ・ストラーダには感謝しないと。

 

 あそこで説得されてなかったら、ずっと腹にため込んだままだった。

 

 たまにははっきり言うのもいいもんだ。

 

「本当に悪かったな。俺、その、経験ないから」

 

「いえ、その、その割にはすごく上手だったような―」

 

「そっちじゃないよ!!」

 

 うん、ベッドの上は得意だよ!? そこに持ってくまでが苦手なんだよ!?

 

 だって誘ったらOKしてくれる緩い女しか相手してなかったからね! 誘うまでの技量とかは間違いなく低いからね!?

 

「ベルは、兵夜さまのことが世界で二番目に大好きです」

 

「うん。それはすごい栄光だ」

 

 あの大天使ミカエルの次とか、すごい栄光としか言えないだろう。

 

 同類なので嫉妬する気には全くならない。むしろ、一番になったら冷める可能性すらある。

 

「だから、兵夜様のお力になりたくてたまらないんです」

 

「ああ、俺もそうだよ」

 

 あいつの力になれるだなんて、とても幸せだと心の底から思っている。

 

 少なくとも、俺はあいつの親友として並び立つために本当に頑張っている。それは間違いなくナツミも久遠も小雪も(みんな)同じだ。

 

「だから、一生懸命頑張ったんですからね? 何度も何度もプラモ壊して、ようやくまともに素組できるようになったんですから」

 

「そりゃすごい。この短期間でそこまで行くとかすごすぎだろ」

 

 そのあたりがどう能力の向上につながってるかがわからないが、すごいのだけは想像できる。

 

「・・・大好きです、兵夜様。実質おそばにいさせてください」

 

「ありがとう。その言葉を翻されないように頑張るよ」

 

 ああ、本当にありがとう。

 

 ・・・ん?

 

 そういえば、なんか周りが騒がしいな。

 

 なんとなく気になって音の方を見てみたら。

 

「・・・すげえ、俺たちの前でイチャイチャしてやがる」

 

「これが、ラブシーン公開処刑宮白兵夜・・・っ」

 

 あ、外野が見まくってた。

 

 っていうかなんだその異名は!!

 

「あ、あのベル? ちょっと離れた方がいいと思うんだけど?」

 

「え? いやです。このままギュっとしてくださいっ」

 

 ですよね!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、圧倒的なパワーの化身だった。

 

 支援のために放たれた魔力が一瞬で散らされる。

 

 修練を積んだ魔法が、一瞬で術式を崩されて崩壊される。

 

 何とか懐にもぐりこんだ者たちが拳でなぎ倒される。

 

 そして何より驚愕するべきは、それが全盛期を過ぎた老人であるという事実だ。

 

 スパロは目の前の光景に驚愕する以外のすべを持たない。

 

 司祭枢機卿、ヴァスコ・ストラーダ。

 

 歴代最強とまで言われたデュランダル使いの無双っぷりに、どうしたものかとすら考えてしまう。

 

「ど、どどどどうすればそんな力が手に入るのですか!?」

 

「簡単だ。揺るがぬ信仰心の元、弛まぬ努力を積んだだけだとも。才能があったことは否定はしないが、何より力を司るデュランダルと私の生き方の相性が良かったのだろう」

 

 さらりと返されては笑いたくなる。

 

 だが、だからといってこのまま負けるわけにはいかない。

 

 自分は次期大王サイラオーグ・バアルの名代なのだ。無様な戦いは許されない。

 

 ・・・なので、ここは昔の自分を取り戻すとしよう。

 

「・・・ふう」

 

 魔術回路を起動し、自身に精神干渉を付与。

 

 負担は大きいが、今はこれが必要だ。

 

「・・・仕方がないのぅ。ここは間桐らしく陰湿に行くとするか」

 

 次の瞬間、四方八方からいくつもの蟲が彼にとびかかった。

 

 それらはすべて猛毒の蟲。噛みつかれればそれだけで常人の命を奪いかねない劇薬を持ち合わせた虫だった。

 

 むろん、これはあくまで牽制。

 

 ここまでの水準に達した存在がこの程度の毒で倒されるわけがないだろうし、何より迎撃されるのは目に見えている。事実一蹴されている。

 

 地面に潜らせて足元から奇襲している蟲すら見もせずさばいているあたり、もはや悪魔よりよほど化け物だといえるだろう。

 

 だが、その間にスパロは次の蟲を準備する。

 

 あらゆる糸を生み出す生物を合成した特注の蟲を用意し糸を準備。さらにより合わせて綱にし、同時に先端部分に鉄球を装備。

 

 できたのは即席のモーニングスター。

 

「参る!!」

 

 接近を仕掛けながら、しかしスパロの目的は接近戦ではない。

 

 そもそも魔術師(メイガス)とは研究者だ。実戦での戦闘能力の高さも立派なステータスだろうが、本質的な魔術の道を進んでいたスパロにとって、それは副次的なものに過ぎない。

 

 間桐家は当主の意向で蟲を多用する。そして属性的に吸収こそが本領。

 

 ゆえに、これは壮大なブラフだ。

 

「何を隠しているのかはわからないが、それを正面から打ち砕いてこそのデュランダル使いだ!!」

 

 鋼鉄よりも頑丈な糸をたやすく両断されながら、しかしスパロはそこから攻撃を組み立てる。

 

 その破壊力に身を任せて後ろへ飛びながら、スパロは最後の蟲を展開した。

 

「・・・ゆけ!!」

 

 ストラーダはそれを即座に迎撃しようとするが、しかしそれは悪手である。

 

 なぜなら―

 

「そ奴らは、お主に触れるつもりは一切ないぞ?」

 

 次の瞬間、蟲から莫大なオーラが放たれた。

 

 ・・・作り上げた虫は吸収の特性を付与した特注品。短時間だがオーラを吸収し、それに指向性を与えて放出する爆弾に変化する蟲だ。

 

 大出力ゆえにデュランダルのオーラはかなり漏れている。これを利用しない手はないだろう。

 

 勘付かれないように近接戦闘を挑んで対応したが、これならさすがに一矢報いることはできただろう。

 

「見事だ」

 

 実際、体にやけどの跡が刻まれており、それは間違いなく十分な負傷というものだ。

 

「よよよよくいいます。・・・普通に戦えるれれれレベルじゃないですか」

 

 だからこそ、その圧倒的な実力がよくわかってしまった。

 

 下手したらこの男一人でこの模擬戦を勝ってしまったかもしれない。それだけの規格外だろう、これは。

 

「ささささいしょから出てれば、普通に勝ってたのでは?」

 

「それではだめなのだよ。この戦いは信徒たちの不満をぶつけるためのもの。彼らがぶつけなければ何の意味もないのだ」

 

 なるほど、これは確かに枢機卿に選ばれるような人物だ。

 

 生粋の聖職者。迷える子羊を導く導師以外の何物でもない。

 

 彼のようなものがもっと多ければ、かつて当主も苦難の道を進むことはなかったのではないかと思えてしまう。

 

 とはいえこれは模擬戦。このままだと負けが確定しかねないがどうすればいいのか。

 

「・・・下がっていてくれ」

 

 と、そこで肩に手を当てながらゼノヴィアが前に出てきた。

 

「戦士ゼノヴィアよ。私は使()()()を示したぞ?」

 

 その言葉にうなづきながら、ゼノヴィアはエクス・デュランダルを分解した。

 

 そして同時に、上着を羽織った。

 

「そそそそれは?」

 

「宮白が作ってくれたサポート兵装さ。あくまで試作型だが―」

 

 そういうと、ゼノヴィアはエクスカリバーを展開する。

 

 それは剣を分解するとかそういう意味ではない。

 

 上着にまとうように、エクスカリバーが全身に張り付いたのだ。

 

 そして出来上がるのはもう一つの偽聖剣。あれと似通った全身が刃でできた、しかし大きく異なる印象を与える騎士の鎧。

 

聖剣外装・二之型(エクスカリバー・フルメイル)。宮白が次善の策として開発した、私がデュランダルを調整することに特化した形態へとエクスカリバーを変化させる礼装です、猊下」

 

「なるほど、これは面白い」

 

 得心したように、ストラーダはうなづいた。

 

「デュランダルは完成された聖剣だ。そしてエクスカリバーも完成された聖剣だ。方向性は違うとはいえ、それは文句のつけようがないほどの完成品どうしなのだよ。それを組み合わせることに、私は疑念を覚えていた」

 

「ええ。宮白は何度も言ってましたよ。そもそもエクス・デュランダルは設計ミスだと」

 

 その言葉に、ストラーダは苦笑する。

 

「やはり彼は素晴らしい。そう、圧倒的な破壊の権化であるデュランダルを、精密たる多様性をもつエクスカリバーで抑え込むなど、それは制御でなく封印といえるものだ。お互いの特性を殺してしまうといっていい」

 

 圧倒的な力の全力を、自由に扱えることができる彼だからこそ言える言葉に、ゼノヴィアも苦笑した。

 

「今なら彼の言いたいことも分かる。そのうえで、中間点を選んでくれた彼には感謝しなければいけません」

 

 そう告げると、ゼノヴィアはデュランダルを向けた。

 

「胸を借りる・・・などというつもりはありません。何も考えず、ただ全力をぶつけさせてもらいます」

 

「それでいい。デュランダルは考えるものではない。いや、考えてはいけないのだ!」

 

 次の瞬間、圧倒的な破壊力のぶつかり合いが発生した。

 

 思わず十歩は後退しながら、スパロはその破壊力のぶつかり合いを眺めることしかできない。

 

 当然だ。あんな破壊の渦に近づくには、レグルスの力が必要不可欠。そうでなければ跡形も無く粉砕されてしまうだろう。

 

「あ、ああああのひと、今まで本気なんて出してなかったんででですか!?」

 

 そうとしか思えない圧倒的な威力を前に、しかしだからこそ決着は早く着いた。

 

 甲高い音が鳴り響き、レプリカのデュランダルにひびが入る。

 

 くしくも、宮白兵夜の策は的中していた。

 

 デュランダルをエクスカリバーで覆うのではなく、デュランダルを使うゼノヴィアをエクスカリバーで強化することで揮える体を用意する。

 

 礼装の効果によりデュランダルをふるうために最適化されたエクスカリバーは本領ではないかもしれないが、それゆえにデュランダルの性能を引き出すことについてだけは高かった。

 

「双方ともに、見事だ・・・」

 

 膝をつきながら、ストラーダは満足げだった。

 

「戦士ゼノヴィアよ。正しい意味でデュランダルの使い手としての一歩を踏み出したな」

 

「いいえ、全ては仲間たちのおかげです」

 

 本心からのゼノヴィアの言葉を受け、ストラーダはうなづいた。

 

「確かに、エクスカリバーの力を借りてのことだろう。だが、際限なく力を発揮するという基本にようやく到達したのだ。胸を張るといい」

 

 ストラーダは、感心するかのようにエクスカリバーの鎧を見る。

 

「おそらくは、矯正ギプスなのだろうな。次の段階は礼装をつかわない鎧の展開で、最終的にはエクスカリバーの返却すら狙っているのだろう」

 

「おそらくは。エクスカリバーは教会に返却するべきというのが彼の持論ですので」

 

 ゼノヴィアは鎧を撫でるように触る。

 

 まだまだ圧倒的なオーラを安全に使うにはこれが必要だが、いずれは無しで使えるようにならなければならないだろう。

 

 そんな自分の未熟を嘆くような、そして成長を願うような感情がこもっていた。

 

「猊下。ご指導ご鞭撻、誠にありがとうございました!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ああ、じゃあそのまま成長する前に死んでもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out



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敵襲、想定済みです!

今回、だいぶ短めです


 

 気づいた時には、空間を破って大量の邪龍が出現していた。

 

 おお、あいつらこっちが消耗するのも見計らっていたな。

 

「おほほほほほほほほ!! 萌え燃えしにきちゃいましたわぁん!」

 

「こんにちわー♪ こんにちわー♪ 西南の国からやってきたよー♪」

 

「はい、こんにちわ♪ パラケ☆ラススがやってきたよー!」

 

 カオスだな、オイ!!

 

「フィフス! お前、何を馬鹿なことを一杯やってるんだ! 手段を選べ、手段を!!」

 

「やかましい!! 女の胸で事象すらゆがめるような連中に言われたくないな、これが!!」

 

 正論で返された!? あとあいつ来てたのか!!

 

「ああ、そろそろ一人ぐらい消しておきたくてな。枢機卿も狙えるとなれば、そりゃ僥倖だろう?」

 

 クリフォトめ。来るか来るかとは思ってたがやっぱりきやがった。

 

 ああ、そこまでは予想内だとも。

 

「来てもらって悪いが、一網打尽だ。・・・ロスヴァイセさん!!」

 

『わかっています!!』

 

 次の瞬間、戦場中に魔方陣が展開して、邪龍たちの動きが止まっていく。

 

「・・・え? ナニコレ?」

 

「マジ☆だと☆ダメ☆だよ? これはあれだね、邪龍の制御術式を解析されてるね」

 

 唖然とするスクンサと、平然とするキャスター。

 

 なるほどなるほど。この展開までは予想の範囲内というわけか。

 

「ええい! 即時撤退!!」

 

 フィフスも冷静なのか、状況が一気に不利になったと判断して速攻で撤退に走る。

 

 うん、状況を冷静に考えて即座に撤退を選択する判断力は認めてやろう。だがな?

 

『そうはいかないよ』

 

 次の瞬間、フィールド中に刃が発生した。

 

「・・・幾瀬か!?」

 

『ああ、久しぶりだねフィフス。・・・悪いがおいたはそこまでだ』

 

 と、D×Dメンバーの一人、幾瀬鳶尾がここで登場。

 

 おいおいおいおい、さっき解析したが、転移術式のルートは万単位であるぞ? これ全部ぶち壊したのかよ。

 

「作戦変更!! 保険の撤退部隊が到着するまでしのぎ切れ!! ・・・ザムジオ、お前は特に大事だからなこれが!?」

 

「いいだろう。もとより何もせずに退く気はない!」

 

 おいおい、さらにザムジオまで参戦かよ。

 

 こりゃ数の差はないも同然だが・・・。

 

「グランソード!!」

 

「・・・応ともよ!!」

 

 こっちも準備は整ってんだよ!!

 

 転移で現れるのはグランソードとその一派。こういう時に酷使しても全く心が痛まない元テロリスト軍団。

 

 加えて今回あえなく選定に漏れた悪魔払いや悪魔たちもゴロゴロと出てくる。

 

「さあ! うっぷん晴らしタイムMk-2だ! 思う存分ストレスをぶつけて発散しな!!」

 

 最低でも二人ぐらいは捕まえさせてもらうからな・・・!

 

 と、いうわけで。

 

 俺は今抱き合っているベルと顔を見合わせた。

 

「行こうかベル。お前の本気を見せてくれ」

 

「・・・はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うぉおおおおおおおお!!! ヴァルプルガぁあああああああ!!!

 

 リタイアして治療して、そしてそのまま待機した。

 

 しょっぱなから倒されて思うところはあったけど、これでようやく発散できるぜ!!

 

 脱がす! 脱がす脱がす脱がす脱がす脱がす!!

 

 そしておっぱいの声も聴く!!

 

 久しぶりにスケベ根性全開で暴れてやるぜ!! うおおおおおお! おっぱいぃいいいいいい!!!

 

 どこだ、どこにいるヴァルプルガ!

 

 俺のこのフラストレーションを全部ぶつけてやるぜぇええええええ!!!

 

「どこに行ったヴァルプルガぁあああああ!!!」

 

「おいみんな! 赤龍帝についていけば裸の女が見れるぞ!!」

 

「し、信徒としてはいけないことだが、これは敵を倒す仕事だもんな!!」

 

「おっぱい、おっぱい!」

 

 うん、みんなの声が聞こえてきて、俺もやる気になってきた!

 

 いま、俺たちの心はおっぱいで一つになった。

 

 おっぱいは平和の象徴だね!!

 

「みんな、おっぱい見るぞぉおおおおお!!」

 

「・・・じゃないでしょうが!!」

 

 後頭部に衝撃!?

 

「うわぁああああ!! れ、レイナーレだぁああああ!!!」

 

 悪魔の一人が悲鳴を上げる。

 

 なんだと!? れ、レイナーレだって!?

 

「そっちから来てくれるとはいい度胸じゃねえか!!」

 

「人を忘れてあんな年増を選ぶとはいい度胸ね? イッセーくん、彼女を忘れちゃダメなんだぞ?」

 

 ・・・すいません。なんかヤンデレモードが全開になってませんか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・いい気分だ。

 

 つかえていたものが今度こそ取れて、晴れやかだ。

 

 デュリオの能力は、忘れていたものを取り戻させてくれた。

 

 そうだ。僕たちはエクスカリバーなんてどうでもよかった。

 

 ただ、人間らしい暮らしができればそれでよかったんだ・・・。

 

「さて、厄介なのが出てきちゃったねぇ」

 

 デュリオはやれやれとため息をつきながら立ち上がった。

 

「ああ。空気が読めないとはこういうことを言うのだろう」

 

 クリスタリディ猊下もまた剣を構える。

 

「・・・個人的にはもう少し鬱憤を晴らしたかったのだが、そうもいくまいて」

 

 ため息をつきながら、ゲンさんも拳を握りしめた。

 

「ほな、いこか?」

 

「うん、いこかー」

 

 ムラマサに関西弁で返しながら、桜花さんも龍喰らいを構えなおす。

 

 ああ。行こう。

 

 この戦いを汚した彼らに―

 

「ひと泡吹かせに!!」

 

―応っ!!

 

 いま、教会と悪魔の心は一つになった。

 

 さあ、反撃の機会と行こうじゃないか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




兵夜「変態がたくさんいすぎるのはどうかと思う」

フィフス「おっぱいで毎回どうこおうしてるのもどうかと思う」


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スクンサ・大暴れです!

実は前の話でスクンサは今後の展開のネタバレを言っています。

彼は嘘などついていないのです。世界地図をみて確認していただければわかりますよ?


 

 さてさて。どこから仕掛けたものか。

 

 邪龍が術式で無力化されたと思ったら、いきなりザムジオが登場したせいで状況は結構苦戦気味だな。

 

 なにせザムジオの持つルレアベが厄介だ。

 

 あれは特殊能力を持ってないデッドコピーを大量生産するという能力を持っている。加えてザムジオ自身が魔力で山羊型獣人風の分身を大量に生産できる。

 

 おかげで数の差がだいぶ縮まってしまった。

 

「やるとするならまずザムジオからなんだがな」

 

「さすがにいきなり出てきたりはしませんね」

 

 戦術の基本を習得したか。こりゃ探すのが面倒だぞ?

 

 しかもスクンサがいるというのが厄介だ。油断したら確実にハメ殺しされる・・・。

 

「さあみんなー♪」

 

「「「「「「「「「「「さあみんなー♪」」」」」」」」」」

 

 ・・・・・・・・・なんかコーラス始まってるんだけど。

 

 声がする方をよく見ると、歌って踊りながらバルーンアートをしている男どもの姿が。

 

 無視したい。すっごく無視したい。できることなら絶対に無視したい!!

 

 だけどできるわけがない!! だって強敵だもん!!

 

「黒いバルーンいっぱい持って♪」

 

「バルーンアートを始めましょ♪」

 

 あれ? なんかからだが反応しない。

 

 は、これはまさか禁手か! あの神器を至らせたのならそれぐらいできる!?

 

「ぐーねぐーね、ぐねぐねぐねー♪」

 

「「「「「「「「「「ぐねぐねぐねぐね、ぐーねぐねー♪」」」」」」」」」」

 

 そして見る見るうちにバルーンはぐねぐね曲がり―

 

「「「「「「「「「「はい♪」」」」」」」」」」

 

「アヴェンジャー♪」

 

 おお、あれはアメリカ軍の対地攻撃機に使用されるガトリングガン、アヴェンジャーじゃないか。

 

 って―

 

「にげろぉおおおおおおおおお!?」

 

「鉄の嵐をぶっ放せー♪」

 

「フォイヤ! フォイヤ! フォイヤ♪」

 

 撃ってきたぁあああああ!!

 

 あれ、全然当たらない。当たらないけど逃げずにはいられない!!

 

 く、どういうことだ。完全に奴のノリに支配されている!!

 

 いくら禁手でも限度があるだろう!? なんだ、この出力―。

 

「あ、業魔人か」

 

 そういえばあったね、ドーピングアイテム。

 

 ・・・これ、やばくね!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天神の力の前に跪きなさい!!」

 

「くそっ!」

 

 黒い暴風をしのぎながら、俺はレイナーレと殴り合いを繰り広げる。

 

「ああ、イッセーくんの攻撃が私をなぶる! でも、これを乗り越えてあなたを殺してこそ私は新たなステージに到達するのよ!!」

 

「だから気持ち悪いんだよ!! なんでヤンデレに目覚めてるの!?」

 

「あら、なんなら死ぬ前に筆下ろししてあげましょうか? 今のあなたならいい思い出になりそうだわ」

 

「冗談! 童貞は部長かアーシアに・・・」

 

 まてよ、不倫で捨てるというのも背徳感があっていいかもしれない。それとも幼馴染と結ばれるという王道展開?

 

 いやいや、生徒会長(候補)といけない関係でスタートするのもありだろう。あ、でもそれなら教師との関係ってのもありかも?

 

「ねえ、私があなたの心を読んでるって忘れてない?」

 

「・・・あ」

 

「悪魔祓いの皆さ~ん! この人戦闘中にハーレムの誰で童貞捨てるか妄想してましたよー!」

 

 ぎゃあああああああああ!!! 何しやがるんだこの女ぁあああああああ!!!

 

「何それサイテー」

 

「まじめにやれ、まじめに!!」

 

「なあ、後ろから撃っていいか?」

 

「いや待て、童貞でハーレム作ったら一度は考えるだろ、やっぱ」

 

「いや、教義的にやはりハーレムはいかんと思うんだが」

 

「そこはスルーしてくれよ悪魔的に」

 

 なんか外野が談義までしてるし!! あのすいません、助けてくれない!?

 

「くっそぉおおおおお!!! 許さねえ、許さねえぞぉおおおお!!!」

 

 俺は許さない! こんな恥ずかしい真似をしでかしてくれたレイナーレを許さない!

 

「お前を倒して、心残りなく童貞を卒業してやるぁあああああ!!!」

 

 攻撃をぶつけ合う中、俺はついにレイナーレに接触することに成功した。

 

「あらあら。でも洋服破壊対策のための術式は張ってるのよ? フィフスが懸賞金を数百万ドルだして募集したから」

 

「あいつどんだけ俺のこと敵視してんの!?」

 

 なんで男なのに洋服崩壊対策万全にしてんの!? お前は俺のことどんだけ恐れてんだよ!!

 

 だが、そんなものはもう通用しない。

 

 なぜなら俺には透過があるのだ。だからそんなものは無効化できる!!

 

「さあ、あっさり粉砕するぜ!!」

 

 そして、一撃でレイナーレの衣服ははじけ飛んだ。

 

 まるで風船が破裂するかのようにちぎれ飛び、そして時間が巻き戻るかのように戻っていき・・・え?

 

「も、戻った!?」

 

 なんだと!? 馬鹿な、どういうことだ!!

 

 修復魔術でもそんな簡単にできることではないぞ! なんだこの圧倒的な再生力は!

 

「残念。実は私、学園都市型の能力も確保してるのよ」

 

 そういいながら、レイナーレは服のデザインを変更していく。

 

 ・・・見れば、いつもレイナーレが来ていたボンテージとはデザインが変わっている。

 

 な、なんだと!?

 

大能力(レベル4)油性兵装(ミリタリーオイル)。液体で形成された衣服なら、破かれてもすぐに直されると思わない?」

 

 ど、どこまでも洋服崩壊に有利な能力を!?

 

「さあ、楽しみましょう、イッセーくん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮白くんやイッセーくんが苦戦しているころ、ぼくたちもまた苦戦していた。

 

「ふっふっふっふっふ♪ ふーははーははぁあああああ♪」

 

 圧倒的有利な立場にいる者だけが浮かべる笑みを浮かべながら、キャスターが僕たちの戦いを眺めている。

 

 今回の戦闘において、彼が用意した手ごまはホムンクルスだった。

 

 だが、その能力が問題だった。

 

「まさか、全員セイバーを憑依させるとは・・・っ!」

 

 全員がエクスカリバーやグラムを憑依させて来る悪夢のような光景に、僕たちは追い込まれているといってもいい。

 

 不幸中の幸いが技量の完全再現こそできていないものの、それでも高水準で再現されている技量の前には苦戦は必須。すでに戦闘不能になっている者もおり、このままでは全滅の恐れもある。

 

 幸いジョーカーが全体攻撃で何とか抑えてくれているものの、それに対しては聖魔剣を用意することでダメージを抑え込むという離れ業を使ってくる。

 

 くっ! これではこちらが非常に危険だ!!

 

「うわー。容赦ないねー」

 

「一対一で挑むな! ため込んだものを放ったというのに、ここで死んでは意味がないぞ!!」

 

 桜花さんとクリスタリディ猊下は一体多数でもさばけているが、しかしこれは二人がとびぬけているだけだ。

 

「どうする? ぶっちゃけ剣の性能が違いすぎて逃げたいんやけど・・・」

 

「負傷者の後退支援をお願いしてもらえますか?」

 

「まじめに返すなや」

 

 ムラマサと連携を取りながらなんとか数を減らしていくが、いかんせん武器の性能を引き出されているのが厄介だ。

 

 量産型にすら剣の性能で負けるとは、もう笑うしかないが仕方がない。

 

 剣の性能を引き出せないなら、切り捨てる技量で勝負するのみ。少なくとも桜花さんはそうしている!!

 

 そう、ここにいる者たちに、心が折れているものは一人としていない!!

 

 その光景をみて、キャスターは不敵な笑みを浮かべると指を鳴らした。

 

「では、そろそろ第二弾と行こうか! ・・・いくよ、カテレア」

 

 なんだと!?

 

 和平会談で襲撃を行って以来、姿を見せなかった旧魔王派のカテレアがここにきているのというのか!

 

 ドーピングがない状況下ですらアザゼル先生と勝負になったあの女がいては、形勢が一気に傾く可能性すらあり得る・・・

 

 だが、ぼくたちの前に現れたのはもっと驚愕の事態だった。

 

 

 

 

 

 

 



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注:設計した時点でこうでしたよ? いやマジで

サーヴァントについて、ちゃんと明言しています。






























・・・・・・・・・・・・のちのFateの展開がどうなっても大丈夫な英霊しか用意してませんって。


 

 

 

 

 

 

 

 

 僕たちの前に現れたのは、九メートル前後の人型の自動人形だった。

 

 学園都市の技術で強化したのか、その形状は機械的。だが、問題点はそんなところではない。

 

 そこにあるのは唯一有機的な胸部。そこには変わり果てた無残なカテレアの姿があった。

 

「・・・むごい」

 

 誰かがそう漏らすほどに、その姿は凄惨だった。

 

 いくら彼女が禍の団の一員とはいえ、これはさすがに目をそらしたくなる。

 

「どういうことや? あんたのマスターやろ、そいつ?」

 

 ムラマサが問いかけるが、キャスターはやれやれといわんばかりに首を振る。

 

「マスターとサーヴァントは確かに同盟を結んでいるけど、だからって裏切らないわけじゃない。このままいったら勝ち目がないと思ったのなら、マスターを見限るサーヴァントだって当然存在するさ」

 

 ふざけた口調を脱ぎ捨てたキャスターの態度は、完全に冷徹なそれだった。

 

 時折宮白君が見せるその表情よりはるかに冷酷。これが正真正銘の魔術師(メイガス)の在り方か。

 

「おいパラケ! あんたさすがにそれはあかんやろ! そいつは旧魔王三幹部の中でも、一応サーゼクス・ルシファーを評価できる冷静なほうやで!!」

 

「・・・ムラマサ。確かに彼は区切ってるけどそれは―」

 

 今この流れを断ち切るほどの大ボケだよ。

 

 パラケラススはそのまま区切らないのが正しい読み方で、本名はヴァ・・・

 

「ついに、気づいたか」

 

 ・・・え?

 

「まさか君が気づくとは思わなかったよ! ああ、そうだ、僕はパラケ=ラスス! パラケ=ラススなんだ!!」

 

「え、だって最初会った時からそう言ってるやん?」

 

「いや、パラケラススは名前の一つで、彼の本名はヴァン・ホーエンハイム・パラケラススっていうんだけど」

 

 ・・・その言葉に、全員が沈黙した。

 

「え~? 気づいたわけじゃなくてただのボケなの~? いつ気づくか楽しみだったのに~」

 

「いやちょっと待った! えっと一体どういうことなんだい!?」

 

 割と本気で状況がよくわからない。

 

 その疑問を理解したのか、キャスターは指を立てた。

 

「いやね、実はこの英霊の座って結構がばがばでさ。アサシンだって何代も続いて継承されたハサン・サッバーハがサーヴァントとしての名前だし、第五次聖杯戦争では無名の燕返しを使える剣客が佐々木小次郎を名乗ったりとか、」

 

 ほ、本当に割とがばがばだ。

 

「だから、賢者の石を作れるパラケラススの僕は末席に属☆して☆いる☆のさ♪ 笑っちゃうよね?」

 

 そ、そうだったのか・・・って。

 

「賢者の石が作れるなら結局問題だらけじゃないか!!」

 

 その時点で脅威であることに変わりがない!!

 

「まあ、そういうわけで・・・死んでくれ」

 

 くっ! 衝撃の事実が出たけど、そんなことを考えている暇もなければ意味もない!!

 

 この窮地・・・どう切り抜ける!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘はかなり白熱していた。

 

 くそ、なんか竜巻まで生み出しやがったぞレイナーレ!!

 

「あっははは! すごい! イッセーくんが私の手で追い込まれてるの!」

 

 怖い! 怖いですレイナーレさん! 何があなたをそこまで変えたんですか!!

 

 下手に切り合うとあのチェーンソーでアスカロンが切り裂かれそうだし、だからといって殴り合いでも苦戦する。

 

 くそ、女相手なら無敵とまで称された俺が、まさかここまで苦戦するだなんて!!

 

 洋服崩壊(ドレス・ブレイク)乳語翻訳(パイリンガル)の対策をガチでされたのがきつい! あれ、俺の対女戦略の根幹だからなぁ。

 

 しかも防御を突破できる透過を使っても意味がない方法で対策されてるからどうしようもない。くそ、俺たち苦戦続きだろ!!

 

 そして、バーサーカーも大暴れだ。

 

 攻撃力は大したことないけど、味方の攻撃が全然効いてない!

 

 レイナーレはレイナーレのほうで、小さなけがは簡単に自分で治すからやばい!!

 

 これじゃあジリ貧じゃねえか!!

 

 うおっと! よそ見してたら攻撃が当たりかけた!!

 

「さあ、イッセーくん! あなたを殺して私は新しいステージに立つの! あなたを超えることで私は新しく生まれ変わるのよ!!」

 

 くそ! このままだとまずい!!

 

 ・・・っておい、この気配は!?

 

「待たせたなコレが!!」

 

「待ってねえぇええええええ!!!」

 

 ふぃ、フィフスまで来やがった!?

 

「行くぜレイナーレ! ここで兵藤一誠をぶち殺す!!」

 

「ええ、あなたと二人がかりなら余裕だわ!!」

 

「く、クソッタレ!!」

 

 二人は連携で攻撃を叩き込んできて、これじゃあかわしきれない!!

 

 やべ、フィフスの方が当たる!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「苦戦しているようだな、兵藤一誠」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づけば、俺は少し遠くの方に離れていた。

 

 そして、俺がいた場所には光り輝く槍を手にした一人の男が。

 

「天帝から言われて様子を見に来れば、面白いことになっているじゃないか」

 

「まさか、お前が来るとはな」

 

 心底いやそうな顔をしながら、フィフスは吐き捨てるように奴をにらみつけた。

 

「ここでお前が来るか、曹操!」

 

「ああ、面白そうなので参戦するよ。なにより、赤龍帝は俺の獲物だ!」

 

 レイナーレはともかく、フィフスも曹操もここにはいないけどヴァーリもいるし、俺、男にもモテモテだなぁ。

 

 そんなのいらないけど、今回は助かるぜ曹操!!

 

「さあ、兵藤一誠。英雄の末裔と冥界の英雄の共闘と行こうか」

 

「仕方がねえな。途中で裏切ったりするんじゃねえぞ!!」

 

 さあフィフス、反撃の時間と行こうか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out




いや、ホントに最初からこうでしたよ?








このサーヴァントを設定した段階ではパラケラススがマジでサーヴァントとして登場なんて知りませんでした。本当です。


ですがまあ、今後のFateが展開すればパラケラススは確実に出てくるよなとはわかっていたので一ひねりしてみました。佐々木小次郎の件があるし、一人ぐらいならまあ大丈夫だろうと思ったのです。

・・・最近の展開なら編纂事項を利用してもよかった気がする。


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逆転、開始します!!

 

 ぬぉおおおおおおおお!!! 誰か、助けてくれ!!

 

「クソがぁああああ! 種がわかったがどうすればいいんだ此畜生が!!」

 

 絶叫を上げながら俺たちは銃弾を交わしていく。

 

 ああ、種は本気でわかった。

 

 奴の神器は奴のノリを周囲に押し付ける能力。そして、奴はギャグ補正を現実化する超能力者。そして禍の団には神器のドーピング剤が存在する。

 

 全部使って徹底的にギャグ作品のノリを作りやがった!

 

 どうする? さすがに二度も吹っ飛びモールス信号は使えん。

 

 このままだと徹底的におちょくられてこっちがばてるぞ!!

 

 割と真剣に歯噛みする耳に、通信が届く。

 

『・・・聞こえるか』

 

 その声はゲン・コーメイ!

 

『何とか奴の注意をひきつけろ。そうすればこちらで何とかして見せる』

 

「え、マジ? どれぐらい?」

 

『一瞬でも本格的な隙を作れば、こちらですべてを終わらせる。しかし勘付かれればそれで終わりだ』

 

 ふむ、どうしたものか。

 

 なにせ奴の能力は逆展開。まじめに対応するタイプの俺みたいなタイプにとっては鬼門に近い。

 

「ばーららーばららーばららーららー♪」

 

 しかも今回はミュージカル仕様。このタイミングでどうやってノリを切り替えるか・・・。

 

「兵夜さま! ベルにいい考えがあります!」

 

 と、ベルが何やら自信満々な顔で俺に声をかける。

 

 

「なんだ?」

 

「私たちも歌いましょう! 歌で対抗するんです!!」

 

 ・・・・・・・・・

 

「いや待て、即席であいつの歌に対抗しろと? どうするつもりだ?」

 

「大丈夫です! 兵夜様ならできます!」

 

 実質無茶振り!?

 

 期待が、期待が重い!?

 

 だが、ベルは割とまじめな表情を浮かべていた。

 

「ベルは兵夜さまをずっと見てきました。兵夜様はノリがいいですし、結構ボケ体質で暴走体質なので適応できます! ベルを信じてください!!」

 

「え、あ、うん。傷ついたけどわかった」

 

 あれ、俺そんなにあれな性格?

 

 ・・・いや、ここは気合を入れよう。

 

 とりあえずこっぱずかしいのでテキーラを一気飲み・・・と。

 

「ベル、頼みがある」

 

「はい!」

 

「・・・・・・恥ずかしいから目を閉じててくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガトリングガンの嵐が鳴り響く中、スクンサ・ナインテイルは指揮棒を片手にリズムをとっていた。

 

 ここにいるのは一騎当千のアホ達。戦闘の真っ最中に歌って踊りたいという願望の持ち主たちを厳選して、支援のために連れてきた。

 

 ギャグ補正の力とノリを具現化する神器。加えて禁手により広範囲化し、業魔人により強制力を上昇させている。

 

 ただいまミュージックは過激な方向にシフト中。さあ、この状況下をどう戦う?

 

 そう自信に満ち溢れた勝利の確信をもち、しかし彼は宮白兵夜を見誤っていた。

 

 そう、一度はギャグ補正を逆手にとって逆転勝利を喫した宮白兵夜。やけになった彼を甘く見てはいけなかった。

 

「・・・宮白兵夜、踊ります!!」

 

 突如、逃げまどっていた宮白兵夜が反転して突撃をかけてきた。

 

 スクンサはそれをあざ笑う。

 

 ギャグ補正の力により死にはしないとはいえ、そんな状況下を狙えばどうなるかはわかりきっている。

 

「集~中~砲~火~!」

 

「撃ちまくれ~♪」

 

 一斉に攻撃が集中する中、兵夜はあるものを取りだした。

 

 赤いマント。

 

「オ・レ!」

 

 明らかに自棄になりましたという顔で、宮白兵夜はマタドールの姿で弾丸を回避する。

 

 ここにきて、ギャグマンガの補正が最悪に働く。

 

 出力が増大化したがゆえに、その気になれば彼らもギャグの力を使うことができる。それこそがこの能力の最大の欠点。

 

 もちろん、普通はそんな精神などできるわけがない。できるわけがないが。

 

「愛した女に~おだてられ~、豚のごとくに木に登~る」

 

 なぜか気を垂直に歩いて登りながら、兵夜は弾丸を捌き続ける。

 

 ちなみに今はフラダンスになっていた。

 

 割と本気で腹を立てるが、しかしスクンサはすぐに冷静さを取り戻す。

 

 ギャグ補正を即座に切り替えているのが失敗だ。これならネタ切れはすぐに来る。

 

「ふははははは! さてどうするかなぁ?」

 

「ああ、こうする」

 

 次の瞬間、手に何かが付いた。

 

 その瞬間、兵夜の体に弾丸が直撃して悲鳴が上がる。

 

「こ、これは・・・ESP(ロック)!?」

 

 それは対超能力者(エスパー)装備。超能力者を拘束するために開発された、超能力の発動を阻害する拘束具。

 

「ば、馬鹿な。こんなものをどこから―」

 

「悪いが、以前は対超能力者戦も習得していたのでな。・・・記憶をもとにある程度作っておいて正解だった」

 

 ぽん、と肩に手が置かれる。

 

 ゆっくりと、スクンサは振り返った。

 

「げ、ゲン・コーメイ・・・」

 

「因みにECM(Esp Counter Measure)も研究が進んでいる。木原とやらに研究させなかったのは好き勝手するためだろうが、裏目に出たな」

 

 気づけば、周囲を光の槍が取り囲んでいた。

 

 逃走しようにも、自分の能力は超能力が根幹だ。それがなければどうしようもない。

 

「え、あ、ちょっとたん―」

 

「待つと思うか?」

 

 さらに宮白兵夜の槍まで追加された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぎゃぁああああああああああああああああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵の攻撃を捌きながら、僕たちは劣勢を強いられていた。

 

 かつて、キャスターはルレアベを作り上げることに成功していた。

 

 旧四大魔王の遺体を加工し、結晶化させたものを材料としたそれは、聖王剣コールブランドとすらまともに渡り合う最強クラスにして最新の魔剣と化した。

 

 そして、その旧魔王の末裔を取り込んだ戦闘兵器が僕たちを追い詰める。

 

「ほーらほらほら☆ その程度かい?」

 

 大型でありながら軽快な動きで僕たちを翻弄するキャスターは、両手から光線を放ちながら僕たちに迫る。

 

 迎撃のために攻撃を放っても、しかし素早く回避される。

 

 これでは魔剣を引き抜いたとしても勝ち目がない。一撃を与えるより先にこちらの生命力が尽きてしまう。

 

 これが、本来の意味で英霊でないものの本領だというのか!!

 

「ほれほれほれほれ! こっちだよ~ん」

 

 高い機動力を生かしながら、様々な方向から攻撃を行ってくる。

 

 その戦力にホムンクルスを投入しているのにもかかわらず、彼はそれを一切気にせず攻撃を続けていた。

 

「命を何だと思っている?」

 

「おやおや、人間だって薬の実験のためにモルモットを犠牲にしているじゃないか。ホムンクルスは工業製品なんだから、むしろもっと軽く扱っていいと思うけどね?」

 

 そう躊躇なく返答してから、キャスターは指を鳴らすと杖を取り出した。

 

「さあ、とどめといこうか、カテレア!」

 

 その杖は地面に突き立つと、周囲の土を取り込んで巨大なハンマーへと姿を変える。

 

 そして、それを巨人が手に取った。

 

 ・・・あの巨体であの武装は危険だ。一撃喰らうだけで全身が吹き飛んでもおかしくない!!

 

「それ一発!!」

 

 全力で振りかぶられての一撃を、慌てて僕らは後退する。

 

 その次の瞬間、地面が豪快にはじけ飛んだ!!

 

 旧魔王の末裔を材料にすることで、これだけの出力を発生させれるということか。

 

 どうする? どうやって攻略する?

 

 グレンデルほどのサイズ差がないせいで、懐にもぐりこむのもかなり大変だ。

 

 ほかのメンバーもホムンクルスや魔獣の相手で精一杯。そして魔獣は無尽蔵に量産がきく。

 

 この調子で行けば、僕たちは全滅だって十分にあり得る・・・!

 

 その推測に肝が冷えた瞬間、後ろからホムンクルスが殺到する。

 

 まずい、これはかわし切れるか・・・っ!

 

 それでも何とか回避しようとしたその瞬間。

 

「おいおい俺たちのことを忘れるなよ」

 

 後ろからホムンクルスが串刺しにされた。

 

 そこには、すでにリタイアして待機室に移動した悪魔祓いの姿が。

 

「まったくだ。邪悪な悪魔を滅することこそ我らが仕事。本来の仕事をしないで八つ当たりにうつつなんて抜かせねえって」

 

「ほら悪魔たちも急いで援護しなさいよ。戦ってるのまだ子供じゃない!」

 

「うるせえな。お前らのところにも何人もいるじゃねえか!」

 

「あ、そういうこと言う? そういうこと言っちゃう!?」

 

「男ども! いいからまずは目の前の連中倒すわよ? いい!?」

 

「「「「「あ、はい」」」」」

 

 見れば、多くの戦力が戦場へと舞い戻り、ホムンクルスや魔獣を相手に押し込んでいる。

 

 と、そのうちの一人が僕の頭に手を置いた。

 

「待たせたな坊主。こっからは大人も助太刀するぜ?」

 

 そういうと、男は光の剣を片手に戦場へと突貫する。

 

「子供ばかりに苦労かけちゃア、大人として涙が出てくるんでなぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイナーレとフィフスに、四方八方から攻撃が放たれる。

 

 増援としてきてくれた悪魔や悪魔祓いたちが、一斉に攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

「撃て撃て、撃ちまくれ!!」

 

「おっぱいドラゴンばかりに目立たせるな! 信徒的にいろいろとマズイ!!」

 

「おっぱいドラゴンに貸しを作るんだ! 絶対に出世するから役に立つぞ!!」

 

 なんかいろいろと思惑が透けて見えるけど、それでも彼らは力になってくれる。

 

 ああ、こんなところでやられるわけにはいかねえよな。

 

 全力で殴り合って、それで少しすっきりして。おかげでとりあえず同じ戦場で協力できる程度には仲が良くなった。

 

 これが俺たちが頑張ってきた成果だ。特に宮白が頑張ってきた成果だ。

 

 親友が頑張った結果を、ここで台無しにするわけにはいかねえもんな!

 

「うっとうしいわね雑魚の群れが!! まとめて消し飛ばしたいのに・・・っ」

 

 特にレイナーレは劣勢だった。

 

 なにせここには女性封印の能力を持った曹操がいるのだ。まともに戦えてるだけあいつが強い証拠だけど、それでも不利になっているのはわかりやすい。

 

 そして、曹操そのものは徹底的にフィフスを邪魔していた。

 

「こ・の・や・ろ・う!!」

 

「そういうな。俺はお前と戦ってみたかったんだ」

 

 だから俺は何とかバーサーカーの相手に集中できてるけど。

 

「争い! 血と憎しみと怒りが燃える! ああ、炎が我が身を焦がす!!」

 

「しぶとい!!」

 

 どんだけ頑丈なんだよこいつは!! さっきから戦車で殴ってんのに傷一つつかない!!

 

 これ、どう考えても何か裏があるだろ!? あるって言ってよ宝具だよね!?

 

「むだよイッセーくん! これだけの数を前にすれば、バーサーカーは決して倒れない!!」

 

「戦力を集めて注目されて! だが残念だったな、お前はバーサーカーを倒せない! 全部裏目になってるな!!」

 

 うぉおおおお腹立つ! だけどこのままだと確かに大恥かくかもしれない。

 

 俺がバーサーカーを倒せなかったらここにいるみんなも危険になるし、いったいどうすればいいんだ。

 

 ・・・ん?

 

 そういえば、なんか気になることを言ってたな。

 

 これだけの数を前にすれば?

 

 全部裏目になってる?

 

 ・・・あ、もしかして。

 

「曹操、バーサーカーに専念するから、ここは任せていいか?」

 

「ああ、それ別に構わないが」

 

 言質はとった! 当分任せたぜ!!

 

 行くぜ、バーサーカー!!

 

 俺はバーサーカーに体当たりをすると、そのままその腹を抱え込んで空を飛ぶ。

 

 目指すは誰もいないところ! こんだけ広いんだしどっかに一つぐらいあるだろ!!

 

 そして、二人の表情は明らかに悪くなった。

 

「レイナーレ! 令呪で呼び戻せ!!」

 

「令呪に―」

 

「おっとさせない。令呪に集中で女宝を使わせてもらう」

 

 曹操が的確な援護をしてくれたおかげで、俺はそのまま引き離せる。

 

 そして手ごろなところで手を放すと、そのまま奴の顔面をアスカロンで切り付けた!!

 

「激痛! これこそ戦場の証明! 痛みが我を窮地へ追い込む!!」

 

 よし、効いたぞ!!

 

 どうやらこいつは、敵や観客がたくさんいると防御力が跳ね上がる仕組みのようだ。

 

 つまり―

 

「一人っきりならやりようはあるってことだよなぁああああああ!!!」

 

 より人が少ない方向にふっとぶように、騎士の状態で切り刻みながら一気に追い込む!!

 

「苦戦! これもまた戦場の一つ。これこそ戦いの一つの形勢!!」

 

 やっぱり! このバーサーカー、戦闘技術自体は大したことない!!

 

 それでも英霊相手にここまで戦えるって、俺も強くなったもんだぜ。

 

 だから・・・

 

「これで決めるぜ、バーサーカー!!」

 

 俺は空高く跳ね上げると、僧侶を展開して砲撃準備。

 

 ようやくだ。鬱憤がたまっていた人たちは、それをしっかり抜いて和平に足を進めやすくなった。

 

 俺にとっての平和が苦痛なやつは何人もいるんだろうけど、同じように俺にとっての平和が心地いい奴だって何人もいる。

 

 だったら、そんな人たちのために全力を出さねえとなぁ!

 

「ふっとべこの野郎、ドラゴンブラスター!!」

 

 バーサーカーを砲撃に飲み込ませながら、俺は心底気合を入れなおした。

 

 ああ、こういうことのためなら、いくらでも命を懸けてやるってな

 



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魔王剣、強大です!!

 

 大量の敵をぶっ飛ばしながら、俺は目的の奴を発見した。

 

「見つけたぞ、ザムジオぉおおおおおお!!!」

 

「宮白兵夜か!」

 

 偽聖剣と魔王剣がぶつかり合って火花を散らす。

 

 こいつが今回の戦闘のキーパーソンだ。

 

 なにせこいつは強力な武器を持った魔獣を大量生産できるという規格外。放っておけばその時点で数にのまれかねない。

 

 邪龍を無力化できてもこれはまずい。そう、まずいのだ。

 

「だからここで仕留めておかないとなぁ!!」

 

「させんよ! 私は負けるわけにはいかんのだ!!」

 

 正面勝負になるが、魔王剣の出力が高くてすぐに弾き飛ばされる。

 

 かといって遠距離で攻めようにも正確過ぎないちょうどいい塩梅の砲撃が襲い掛かってこれまた苦戦する。

 

 ええい、魔王直系の名は伊達ではない!!

 

「大隊お前なんでクリフォト所属してんだ! リゼヴィムと意気投合するタイプには思えないんだけど!?」

 

「何を言う! グレートレッド撃破はそもそも禍の団(カオス・ブリゲート)の大義名分。禍の団が動くの当然だろう!!」

 

「いや、ほとんどだれもまじめにやってませんでしたよ!?」

 

 誰も守る気なかったよね! 世界が大変なことになるからだよね!!

 

 だから曹操もサマエルをオーフィスに使ったんだろ? 無力化するために。

 

 っていうか・・・。

 

「そもそもオーフィスこっちにいるんだけど!?」

 

「それがどうしたというのだ! オーフィスがいようといなかろうと、グレートレッド撃破という大義が失われたわけではない!!」

 

 ・・・あ、馬鹿だこの人。頭はいいけどすっごい馬鹿だ。

 

 説得は無理そうだな。こりゃ物理的に張り倒すしかないだろう。

 

 それがわかったならもう問題ない。徹底的にやらせてもらう。

 

 ということでスイッチを押しながら戦闘続行。とりあえず宙を飛びながら光魔力による砲撃戦を続行する。

 

「さすがは神喰いの神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)だ。だが、私はともかくルレアベをなめるなよ!!」

 

「いや、ルレアベも含めてお前もなめてねえよ」

 

 グランソード、エルトリア、そしてもちろんヴァーリ。

 

 旧魔王末裔の最先端も、なかなかどうして恐ろしい。

 

 それがわかっているから何の躊躇もなくこちらも全力を出させてもらう。

 

「なあ、この戦闘見てたらわかると思うが、人間の科学も随分脅威になってきたと思わないか?」

 

「それはそうだな。だが、隙を生み出したいならもう少し考えて行動を―

 

「―だからまずお前が味わうといい」

 

 俺がにやりと笑うのと同じタイミングで、地面中が爆発の華で咲き乱れた。

 

 ・・・持ち込んどいた迫撃砲とMLRSすべて使った面制圧。いやあ、いい兵器はほんと金と資材さえ用意できれば簡単に手に入ります!

 

 おら覚悟しろヤァ!!

 

「雑魚はこれで大半片付けたぞ!!」

 

「それがどうし―」

 

 と、直感的にザムジオは振り向くがしかし遅い。

 

 その瞬間、ザムジオは莫大な魔力に飲み込まれ・・・って!?

 

「かすめた! かすめたよイッセー!!」

 

「あ、ごめん!」

 

 敵を一人片付けて、こっちにやってきたイッセーの不意打ち気味の砲撃。

 

 これは効いただろう。と思ったが急に切り裂かれた。

 

「なかなかできる! だが、この程度で私はともかくルレアベは屠れんぞ!!」

 

 体の一部を焦がしながら、ザムジオはまだぴんぴんしていた。

 

 が、その奴の後ろから莫大な魔力が集められる。

 

「なら、もう一発喰らっておきなさい」

 

 アーチャーのそんな冷たい声と共に、神代の術式が勢いよく放出される。

 

 これも、ザムジオはルレアベを最大出力にして迎撃。しかしまだまだ甘い。

 

「それではとどめた。くらえ、ハーデスキック!!」

 

 まだネーミングを決めてないので適当に名付けながら、俺はハーデスの足をたたきつける。

 

「ぬぉおおおおおお!!!」

 

 ぼろぼろになったルレアベを高速修復させながら、ザムジオは三度目の開放を行い迎撃。

 

 これすらはじかれるが、しかしルレアベの魔力は見る影もなく弱っている。

 

「悪いが三対一である以上こっちが有利だ。そろそろガス欠だろうし投降をお勧めするぜ?」

 

 俺はそう余裕を見せて提示するが、しかし内心全く余裕はない。

 

 エルトリアも追い込まれてからが本番だった。ヴァーリも追い込まれたら極覇龍を使うだろう。

 

 ならば、こいつも―

 

「確かに、ルレアベもそろそろガス欠だ。いや、供給が放出に追い付いていないなこれは」

 

 十中八九―

 

「―では、こちらから魔力を供給してやるとしよう」

 

 ―持ってると思ったよ切り札を!!

 

 瞬間、莫大な魔力が周囲に放出されたかと思ったら、それが剣に向かって収束していく。

 

 っておいおいちょっと待て。まさかこいつ、今まで魔力をほとんど使ってなかったのか!?

 

「・・・やられたわ。あの魔剣、中に大規模の魔力炉心を仕込んでるわね。さすが魔王の遺体をベースにしただけあるわ」

 

「え!? ちょっと待って!? それってつまり、今まであいつ剣の魔力だけで戦ってたのかよ!!」

 

 アーチャーもイッセーも軽く引く中、俺は割と本気で気が遠のきそうなものを見る。

 

 さっきごっそり減らしたはずの魔獣が、その数倍もの数で展開されていた。

 

 おい、冗談だろ。

 

「・・・それでは、ここで終わってもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 圧倒的な数を持ちながらも、最強レベルの装備を持った軍勢。

 

 その質と量の合成された極致が愛する男を飲み込もうとした刹那、ベルは全力で駆け出していた。

 

「兵夜さま! ザムジオは私が実質止めて見せます!!」

 

 スクンサを止めることに忙しくて出遅れたが、しかしこれはある意味ちょうどいい。

 

 自分の実力を、高め上げたその技量を、何より兵夜への世界で二番目の想いを。

 

 今、ここで、天高らかに宣伝して見せる。

 

「・・・ベル!」

 

「ご命令を! 我が主!」

 

 主をかばうべく前に出て、ベルは拳を構えた。

 

 自分はあくまで神の使い。ならば、その行動はあなたが決めてほしい。

 

 あなたはきっと間違えない。たとえ間違えたとしても、それは自分のことを考えた、胸を張っていい言葉だと信じているから。

 

「お願いします、兵夜さま」

 

「・・・勝ってこい、ベル!!」

 

 ああ、その言葉を聞いてみたかった。

 

 不安も何もかも飲み込んで、遂げてほしい願いを口にする。そんな彼の表情がとてもうれしく誇らしい。

 

 あの日あの時ミカエルに救われた、その時の次に誇りたい。

 

 ゆえに誓おう勝つのは私だ。この新しいスタートを切るカマセ犬となるがいい。

 

「実質、行かせてもらいます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




本章ラストボスはザムジオ。

魔王剣の本領を発揮して敵を迎え撃ちますが、ホントこの剣自画自賛するけどすごい。

タイプとしては「剣」として優れていることの一言に尽きます。

切断系の必殺技、破損して再生する頑丈性、味方に配ることで軍勢を強化する、そしてそれらの機能のエネルギーを保管できる。そしてシンプルに剣として超高性能。

加えて使い手が魔王血族が努力したという割とハイスペック。普通に中二ゲームのボス張れます。


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輝く腕のベル

 

 戦闘が再開され、俺は即座にイーヴィル・バレトを展開する。

 

 目的はあくまで制圧射撃。とにかく弾丸が来ることを意識させて魔獣達の動きをけん制する。

 

「イッセー! とにかく有象無象を薙ぎ払え!! アーチャーは抜けてきたやつをピンポイントで殲滅してくれ」

 

 火力重視のイッセーはとにかく殲滅重視。制御性能のアーチャーはピンポイントで仕留めるスナイパーの役割を頼んでおく。

 

 で、どっちも足りない俺は球数重視でとにかく牽制!!

 

「つっても俺はそろそろ魔力が足りなくなりそうなんだけど・・・」

 

 ここでこいつ抜けたらどうしようもないだろうがこの野郎がぁあああああ!!!

 

 オイちょっとマジで増援プリーズ。えっと誰か来てくれてないのマジで!!

 

 くそ、やけだ、やるしかない。

 

 でも、でもやっぱり―

 

「誰か助けてくれぇえええええええ!!!」

 

 届かないとは思っていた。

 

 思っていたけど―

 

「「「「「「「「「任せろ!!」」」」」」」」」」

 

 ―本当に来ると、すこし感動するな。

 

「とにかく一般兵はそいつと一緒に制圧射撃だ。狙いなんてつけなくていい。進行速度をとにかく落とせ!」

 

「火力重視の連中は狙いをつけろ! 一体ずつピンポイントでつぶしていくんだ!」

 

「接近してきたら俺たちで行くぞ! 三対一ぐらいじゃないと死人出かねないし、とにかくうち漏らすのわずかにしろよ!!」

 

「上級悪魔ども。お前ら魔力が有り余ってんだから砲撃担当な。とにかくつぶせよ!!」

 

「わかってるよシスター。あんたもしっかりけが人治療してろよな!」

 

 わらわらと、むしろお前らそんなにいたのかよと言わんばかりに悪魔祓いも若手悪魔も集まっていく。

 

 後ろの方からは最初に使った火砲を使って援護射撃すらぶっ放される。

 

 さっきより数が増えたはずの魔獣たちが、少しずつだが確実に数を減らしていく。

 

「なあ、宮白」

 

「なんだよ」

 

 イッセーが鎧を一部解除して聞いてくる。

 

「思いっきり殴り合ったからガスが抜けてるな。協力するのにためらいがねえよ」

 

 イッセーは心から満足げだ。

 

 宗教観が緩い典型的な日本人だし、何より平和がモットーだからな。

 

 教会と悪魔のにらみ合いなんて、してても全然楽しくないと心から思っている。むしろ仲良くなって平和になった方がいいに決まっていると思っている奴だ。

 

 だから、こんな光景もうれしいんだろう。

 

 と、この野郎俺の顔ガン見してきやがった。

 

「お前のおかげだ。よく頑張ったよな」

 

 ・・・・・・・・・えっと。

 

「ええ、間違いなくあなたの功績だわ」

 

 と、アーチャーも余裕がないくせに俺の頭を撫でてきやがった。

 

「やるじゃない私のマスター。おかげで助かったわ」

 

 ・・・・・・・・・・あのぉ。

 

「じゃあこの辺で揶揄うのはやめるわよ。照れすぎて泣いちゃいそう」

 

「それもそうですね」

 

「うるっせぇよどいつもこいつも!!」

 

 こ、こいつらマジでむかついてきたな!!

 

 ありがとうよ!!

 

 だから、だから、だから・・・。

 

「勝て、俺のベル・アームストロング!!」

 

 大好きだ。

 

 愛してる。

 

 一緒にいたい。

 

 だから死ぬな。

 

 いや―

 

「敵将倒して、大活躍しやがれぇえええええ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実質、拝命いたしました!!」

 

 愛する主人からの心からの願いをうけ、ベルは全身が充実していくのを感じる。

 

 ミカエルの力になりたくて、兵夜の力になりたかった。同類(彼女たち)の力になりたくて、みんなの力になりたくてたまらなかった。

 

 しかし、自分は不器用だった。

 

 超能力者(エスパー)として間違いなく規格外のスペックを持っていながら、しかし超能力者として未熟の極み。持っている力を雑に振るうしかできないようでは、磨き上げられた戦術を持つ輩を前には蹂躙されるほかない。

 

 そんな中、ゲンとの出会いはまさに運命だっただろう。

 

 彼の教えはピタリとはまり、見る見るうちに上達しているのがよくわかった。

 

 今ならできる。今なら戦える。

 

 ただの神器使いとしてだけではなく、超能力者として戦える!

 

「覚悟してもらいます、ザムジオ・アスモデウス!!」

 

「こちらのセリフだ! 魔王剣の担い手として、負けるわけにはいかん!!」

 

 そういい返すと同時に、ザムジオはサソリの尾をいくつも展開する。

 

 それらすべてを逃げ場をふさぐように展開し、ザムジオは攻撃を開始した。

 

 瞬間移動能力を使っての回避はしない。それをすれば範囲攻撃に即座に切り替え、周りに被害が出るはずだ。

 

 ゆえに、することはただ一つ。

 

「・・・っ」

 

 一瞬の空間認識ののち、ベルは念動力を開放。

 

 その瞬間、すべての尾が進行方向を微妙にずらした。

 

「ぬ?」

 

 疑問に思いながらも、ザムジオはその隙間にもぐりこむと判断して突きを繰り出す。

 

 念動力で止めようとしても、力技で突破できるとこれまでのデータから判断したがゆえに行動だった。

 

 だが、ベルはそのまま正確に拳を突き出す。

 

 そして、切っ先が滑ってザムジオの顔面に拳がまっすぐ飛んでいく。

 

「・・・っ」

 

 今度こそ、明確に狼狽しながらザムジオは首をひねって回避した。

 

 今、あの女は何をした?

 

 平静さをなんとか維持しながら攻撃を繰り返すが、そのすべてが何らかの形で軌道をそらされる。

 

「・・・念動力での防御は、力で正面からはじくのではなく、斜めにそらす」

 

 教わったことを復習するかのように、ベルの口から意識せず言葉が漏れる。

 

「・・・瞬間移動能力者は、空間認識能力も高い。だから目に頼らず戦闘できる」

 

 四方八方から、ダミーの殺気すら放ちながら放たれる尾を、一切視界を向けることなく迎撃する。

 

 今この場において、ザムジオは明確に理解していた。

 

 この女は、すでに最上級の領域にまでたどり着いていると。

 

 ヴァスコ・ストラーダのようなごく一部の領域に、彼女はすでにたどり着いている。

 

 そして、その技量の根幹は不可視の一撃。

 

「・・・ならば!!」

 

 ザムジオは距離をとると、ルレアベの出力を最大にする。

 

「最大出力の破壊力で突破するのみ!! ルレアベよ、どうか我が意に応えたまえ!!」

 

 技量において劣っているのならば、力を利用するほかない。

 

 自分の持つすべての魔力をルレアベに注ぎ込み、ザムジオは突貫した。

 

「・・・いいでしょう。回避はしません。全力をもって、力で叩き潰します!!」

 

 そういうと、ベルの姿が変化する。

 

 ベル・アームストロングの亜種禁手は一時的な出力の大増大。まさに短期決戦に特化している。

 

 それを見て、ザムジオは笑みを浮かべた。

 

「正面からの一騎打ちに乗ってくれるとは、宮白兵夜の下僕とは思えんが、こちらとしては喜ばしい」

 

「私は実質殴り合いしか能がありませんので。兵夜さまの下僕であるからこそ、そこは譲れません」

 

 気合を入れたいい表情を浮かべて、ベルは深く腰を落とす。

 

「最大出力。奥義をもって向かいます!!」

 

「よく言った!!」

 

 その言葉が放たれた次の瞬間、ザムジオは間合いに入った。

 

魔の遺志宿す(ルレ)―」

 

 そして同時にベルも踏み込む。

 

 その拳には極大の光力が渦巻いている。直撃すれば、魔王クラスといえどただでは済まないだろう。

 

 だが無理だ。ここにいるのは魔王四人。ただ単純に数の差がもろに出る。

 

 ゆえに滅びろ勝つのは私だ。冥界の空を彩る星となれ。

 

絶世の剣(アベ)!!」

 

 勝利の確信すらある一撃。

 

 単純に威力で上回っている。

 

 気合も十分。

 

 踏み込みもこれまでにないほどに完璧。

 

 たとえ軌道の横から殴りつけられようと、無理やりまっすぐ振り落とす覚悟もできた。

 

 そう、これは間違いなくこのままでは勝利の一撃だった。

 

「・・・これが、瞬間移動能力者の究極系!」

 

 次の瞬間―

 

「素粒子レベルの同時空間転移!!」

 

 ベル・アームストロングが三人に増えた。

 

 攻撃の数は単純に三倍。それが直撃し―

 

「・・・が・・・あぁ・・・っ」

 

 ルレアベごと、ザムジオの肋骨を粉々に打ち砕いた。

 

「なんだ・・・それは」

 

「いえ、素粒子レベルのテレポートを使用して、分裂しただけです」

 

 分身を解除しながら、ベルは残心をとりつつそう告げる。

 

 いうのは簡単だが、それが超絶技巧なのは誰でもわかるだろう。

 

 事実、ベルの全身は汗まみれであり、疲労困憊しているのかふらつきすら見える。

 

 だが、勝利は勝利。誰が見ても文句なしで、ベルの勝ちは確定していた。

 

「・・・魔王の力を宿したことで、無意識に油断していたとでもいうのか」

 

「・・・いいえ。油断も隙も無い、覚悟もこもったいい一撃でした」

 

 ベルはザムジオの後悔を否定する。

 

 すべてにおいて、彼は高水準だろう。

 

 まじめすぎて空回りしている節はあるが、その在り方はシャルバやカテレアよりはるかに上。仕事モードのサーゼクスたちに匹敵する真面目具合だ。

 

 それを徹底的に努力をして鍛え上げているザムジオは、間違いなくこの年代において最強クラスだ。

 

 しかし―

 

「・・・実質、私には兵夜さま()の加護と勅命がありますので。そう簡単に負けるわけにはいきません」

 

 そう、自慢げに笑みを浮かべた。

 

「なるほど。それは・・・しかたが・・・ない」

 

 自身の負けを認め、ザムジオは意識を失った。

 

 Side Out

 




ゲンがベルに教え込んだのは、ひとえに能力の精密制御。

彼にとって念動力の最大の特性とはすなわち「いくつもの見えない腕を持つ」点であり、それこそがベルに足りないもの。彼女は能力を使うときもパンチと併用したりするなど、腕を動かしているときもありましたので。

なのでプラモづくりでそのあたりを鍛えた結果、全力で戦闘しながら他からくる攻撃をそらすほどの技量を習得しました。

加えて瞬間移動能力はその空間認識能力を中心に強化。さらに出力の高さをいかして部分テレポートの応用で分身すら可能とさせました。絶チル原作でも一度しか使われていませんが、三人に分裂して三人相手に互角に戦っていたので、出力あまり低下しないと判断しました。


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襲撃終了、準備完了

 ザムジオの捕縛に成功したことで形勢はほぼ逆転した。

 

 なにせ、こちらは圧倒的に数で優っているが、相手は雑魚をごっそり削られたのだ。

 

 あとは包囲殲滅すればいいだけの話。これはかなり有利だろう。

 

 うん、これが体制側のあるべき戦い方だ。数の利は本来体制にあるべきなのだ。

 

 なんで、いっつもいっつも俺たちが数で不利になってたんだろう。何かが大きく間違っているような気がして、涙が出てきそうだ。

 

 だが、今回ばかりはそうはいかん。

 

「ふははははははははははははははははは!! これが、正義! 多数決は民主主義における正義!!!」

 

「いや大将、冥界は民主主義じゃねえぞ?」

 

 グランソードが外野から何やら言っているが、そんなことは知ったことではない。

 

 ああ、この一年足らず、本当に数で不利な状況ばかりだったからなぁ。なんで体制側に所属しているのにこんな目に合わなきゃいけないんだって不条理を感じていた。

 

 どうだテロリストめ! これこそが正しい世の在り方なのだ。数の暴力はいつの世も体制を敷いている者の基本なのだよ!!

 

「さあ覚悟するがいいフィフス・エリクシル! 毎回毎回お前が味合わせてきた数の暴力の味、今度はお前が味わうのだ、クソ野郎が!!」

 

「俺もう行くからなー。大将冷静になれよー」

 

 などといわれたが、しかし俺は動じない。

 

 だってさー。毎回さー。俺さー。苦戦しすぎだしさー。

 

 魔王の妹とかいう勝ち組に所属することになったのに、絶望しろと言わんばかりの苦難のフルコース。下手をすれば死人が万単位で出かねない大規模な戦いがつるべ打ちですよ?

 

 まだ俺たち十代ですよ? いや、俺はある意味三十越えてるけど。それでも冥界じゃ若手どころの騒ぎじゃない。

 

 どう考えてもあれだろう。いくらなんでもおかしいだろう。これ、正しい意味で悪運が強すぎる。

 

 いや、出世は確かにするつもりだよ? だけど必要以上苦難と責任を負うつもりもないっていうか。

 

 イッセーが上級悪魔を目指す以上、その親友である俺もそれなりの地位を求めるのは当然だし、魔術師どもを監視すると決めた以上、機関の長として当然の地位に立つのは当然だ。だから出世はもちろんするし、豪華な生活が送れるならそれに越したことはない。

 

 だが、権利と責任は表裏一体。面倒ごとをどんどん抱え込むことになることを忘れてるわけじゃない。

 

 だから限度ってものはあるし、出世するにしても速度に限度ってものがあるのにこの速度。もちろんそれに比例して莫大な負担があるわけだ。

 

 そりゃグチも言いたくなるって。

 

 ふむ、だがこれなら何とかなるかもしれないな。

 

 ・・・いや、フィフスのことだし隠し玉の一つぐらいはあるかもしれん。

 

 ここは様子を見ながら蒼穹剣の発動準備を―

 

「あ、おい、なんだあれ?」

 

 ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮白がいろいろテンションがおかしくなる少し前。

 

 よっしゃ! これでホムンクルスたちは全部倒したぞ! あとはフィフスたちだけだ!

 

「ここまでだな、フィフス!」

 

「ザムジオの奴! 突出したうえにやられやがってからに! ・・・だから前に出るなといったのに!!」

 

「まあ、私たちが言っても説得力がないわよね」

 

 追い詰められたフィフスとレイナーレが歯を食いしばる。

 

 いやぁ、こんだけ圧倒的な状況になったの初めてかもしれない。

 

 だって今まで苦戦し続けてきたもん。そうじゃない時だって、こんな圧倒的な数の不利をどうにかできたことなかったしね!

 

 いや、相手はフィフスだから油断しちゃいけない。

 

 ここは俺が出てきてなんとかどっちかだけでも倒さないと。

 

「ではあきらめてもらおうか。すでに分散した敵戦力は、ストラーダ猊下たちが各個撃破を続けているぞ」

 

 ゼノヴィアもデュランダルを突き付けて言い放つが、だけどフィフスはまだあきらめない。

 

「・・・いや、そうはいかないぜこれが!!」

 

 なんだ? 急に喜び始めたぞ!?

 

 と、次の瞬間空間を突き破って、なんかでかいものが何隻も現れた。

 

 な、なんだあれは!?

 

「あれは!?」

 

「知ってるのか、ゼノヴィア!!」

 

「クリフォトがアウロス学園を襲撃しに来た時、救援に来た船だ!!」

 

 そういえばそんなものあったね!

 

 でも何隻も出てきてるよね。どういうことだ?

 

「ああ、砲艦も連れてきた」

 

 ああ、なるほどねぇ。それはねぇ・・・。

 

 ・・・え゛

 

 そう思った瞬間、ビーム砲やミサイルが大量に飛んできた。

 

 うぉおおおおおおお!? こいつらマジでできる!?

 

「大艦巨砲主義万歳!! ・・・さて、今のうちに帰るか」

 

 あ、あの野郎逃げる気だ!!

 

 くそ、このまま逃がしてたまるか!!

 

「・・・イッセー。このまま逃がすわけにはいかない。ここは私の番だな」

 

 と、ゼノヴィアはデュランダルをもってうなづいた。

 

 ああ、何が言いたいかはよくわかるぜ。

 

 とりあえず、喧嘩売ってきておいて楽に帰れると思ってんじゃねえよ!!

 

「行くぜ、おっぱいゼノヴィアバージョン!!」

 

「・・・第一砲艦、急速後退!!」

 

「「遅い!!」」

 

 俺はゼノヴィアのおっぱいの力を借りて、一気に出力を具現化させる。

 

 それに感応し、デュランダルが莫大なオーラを放出した。

 

 それは結晶化して剣となり、刃渡り何百メートルもある剣となる。

 

「ライザ〇ソード!?」

 

「そう・・・」

 

「・・・かもな!!」

 

 全力で、全力で俺たちは聖剣を振り下ろして、敵の巡洋艦を一隻両断した。

 

 よし! ついでにもう一隻―

 

「馬鹿め! 狙うところが間違ってるなこれが!!」

 

 あ、フィフスの奴もう後退している。

 

「この野郎待ちやがれ!!」

 

「やだね! せっかくデータが取れたのに、ここでやられるなんてばからしいなこれが!」

 

 そういうフィフスは、返り討ちにあったのにもかかわらず笑っていた。

 

 なんだ? あの野郎、何を考えている。

 

「なに。どうせもうすぐ決着がつく。・・・首を洗って待っていな」

 

 フィフスには余裕があった。確信があった。そして何より自信があった。

 

 勝つのは、俺だ。

 

「招待状はくれてやる。それまで牙を研いでおくといい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、データはとれたの?」

 

 撤退する航空揚陸艦の中、レイナーレは失った水分を補給しながらフィフスに尋ねた。

 

 死ぬところを救ってくれた恩義はあるが、利用するつもりしかないうえにさんざん実験体にして地獄の苦しみを味合わせてくれた男だ。感謝の感情はあまりない。

 

 なにより、フィフスも感謝の感情より実利を求める生きものだろう。魔術師(メイガス)という生き物は本質的にはそういうものだとわかっている。

 

 今回の件は大打撃を喰らったのは事実だろう。

 

 リゼヴィム・リヴァン・ルシファーに次ぐカリスマ性をもつザムジオが捕縛された以上、旧魔王派の参加者は大きく混乱する。そしてリゼヴィムに縋り付くだろう。

 

 あの遊びが過ぎるのが悪い癖の男に自由に使える権料が増えるのは、多少問題がある。

 

 しかもあの男はいろいろと大変なことになっているのだ。間に合わなければ大変なことになるだろう。

 

 そのくせ邪龍の筆頭格であるアポプスとアジ・ダハーカも裏でいろいろと動いているようだ。クロウ・クルワッハも離反した以上危険度は高い。

 

 とはいえこれはどうにかなるだろう。幸いすでに対抗策はできている。

 

 今のフィフスたちは、たとえグレートレッドが本気で排除に来ても対応できる準備は整っていた。たかが邪龍ごとき三頭、ヴァーリ・ルシファーとオーフィスの残りかすが組んでも勝算は十分にある。

 

 だが、兵藤一誠だけは別だ。

 

 あの男は正解が通用しない。理不尽としか思えないような現象を巻き起こし、サマエルすらかろうじてだが突破した。

 

 そして、あの男は無限と夢幻の力すら宿している。

 

 たとえ夢幻であろうと恐れるだけではなくなったが、それに兵藤一誠が加われば、事態は大きく動くかもしれない。

 

 だからこそ、データだけはどうしても必要だった。

 

 これまで収集してきた点の数々に、最後のピースが加われば、あの男をどうにかする切り札が手に入る。

 

 ・・・フィフスにとってのこの襲撃は、まさにそれこそが本命だった。

 

 しょっぱなから脱落していた時はどうなることかと思ったが、参戦してきてくれて助かった。

 

 バーサーカーも令呪三画で何とか回収。ザムジオは本当に残念だったが、しかしそれでもデータが取れれば―

 

「大丈夫だ。データはとれた」

 

 だから、フィフスの勝利の確信に満ちた言葉にほくそ笑む。

 

 ああ、これで彼に対する復讐は完了する。

 

「そうね。だったらそろそろばらしましょう? あまり時間をかけるとデータが意味をなさなくなるわよ」

 

「ああ、トライヘキサもあそこに入れているしな。・・・くっくっく、名前聞けばわかる奴は一発でわかるのに、結局あいつら一度も査察にすら来てないでやんの」

 

 フィフスはそう愉快そうに笑うと、一つの瓶を取り出す。

 

「あら、ワインなんて飲むの、貴方?」

 

「俺だって酒の一つぐらいの呑むさ。祝杯ぐらいはしないとな」

 

 そういうと、グラスを持ってこさせてワインを入れる。

 

 そして、レイナーレに一つ差し出した。

 

「あとで船の連中にも差し入れをしてやろう。怨敵兵藤一誠は、無残にもごみ屑となり果てる」

 

「あらあら、さすがにそれは言いすぎじゃない? 赤龍帝のままなのよ?」

 

 そういいながらも、しかし言いえて妙だとレイナーレも思う。

 

 極限の領域に到達し、空前絶後の進化を遂げた兵藤一誠。

 

 それが、一瞬で無に帰すのだから。

 

「俺たちが自由に遊べる理想郷の完成に」

 

「そして兵藤一誠の苦悶の叫びの予約に」

 

 二人は微笑あうと、グラスをぶつけ合う。

 

「「乾杯」」

 

 前祝の勝利の祝杯が、食堂の内部に響き渡った。

 




はい、次の章ではフィフスがヒャッハーしますよ?








調子ぶっこいた兵夜が度肝を抜かれるぐらい、緊急事態が起こりますとも。

フィフスの今回の最重要目的はイッセーのデータ収集。ぶっちゃけ、それができればどれだけ損害が出ても割が取れるとあの男は半ば思っています。それぐらいイッセーを危険視しています。

田って考えてもみてくださいよ? おっぱい一つで常識というか物理法則すらぶっちぎる男。そんなの脅威に思わないわけがないでしょう?


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第三次世界大戦、勃発

デュランダル編最終話。

ついに、ついにフィフスがむちゃくちゃやらかします!!


 

 最後にフィフスたちの襲撃があったが、何とか大規模模擬戦も終了した。

 

 思う存分殴り合って、これで何とかガスも抜けただろう。

 

 当分クーデターは起きないだろう。鬱憤もだいぶ晴らせたはずだ。

 

 悪魔側もだいぶガスが抜けただろうし、これなら何とかなるだろう。

 

「おい悪魔野郎、そこのビール取ってくれ」

 

「うっせよよ神父。そこのフライドチキンをとれや」

 

 うん、喧嘩腰ながらも仲良くワイワイ飯を食い合っている。

 

 最終的な打ち上げを準備したかいがあったもんだ。よかったよかった。

 

「それで? とりあえずはあなたのもくろみ通りということかしら?」

 

「まあ、そんなところですよ。姫様には感謝してますって」

 

 打ち上げの必要経費を負担してくれた姫様には感謝するしかない。

 

「まあ、今後は隙を見て堕天使やほかの神話体系も含めたこういった催しを起こすべきでしょうね。和平反対派のガス抜きもしておかないと、何が起こるか分かったもんじゃない」

 

 心底俺はそう思う。

 

 本来、こういったガス抜きを真っ先に行うべきなのは確定的に明らかだ。

 

 今までにらみ合ってきて、しかも大半の連中は最終的に勝つつもりだった。それがなかったことになったら鬱憤もたまるだろう。

 

 うちのトップがお人よし過ぎる上にリベラルだから、そのあたりの配慮が足りていないのだ。

 

 だから俺がわざわざ動かなければならない。まったく面倒だ。

 

「・・・それで、ヴァスコ・ストラーダから渡されたっていう聖杯の欠片はどうなったんです?」

 

「残念だけど、足りなかったようね」

 

 そうか。俺としては想定の範囲内だが、それでもギャスパーのことを考えると落ち込むな。

 

 ヴァスコ・ストラーダは今回の件の報酬として、オリジナルの聖杯の欠片を提供してくれた。

 

 それでヴァレリーが覚醒すれば、リゼヴィムに聖杯を人質に取られる可能性は低くなると思ったんだが・・・。さすがに二つも抜き取られていたら無理があるか。

 

「そういえば祐斗はどこかしら? 少し心配してたんだけれど」

 

「ああ、聖剣計画にもう一人生き残りがいたとかで、そっち行ってますよ」

 

「そうなの? そう、それはいいことだわ」

 

 俺の説明に、姫様は心底安堵して表情を緩める。

 

 ああ、デュリオのおかげで本当の意味で吹っ切れたことろにこのうれしいサプライズだ。木場もこれでだいぶ落ち着くだろう。

 

 これからはグラムに頼らない戦闘を行ってくれることを期待するぜ、マジで。

 

「しっかし姫様? イッセーのことはいいんですか?」

 

 俺の視線の先には、イッセーが悪魔や信徒にもみくちゃにされてるところが映っていた。

 

「良くサーヴァントを倒してくれた!!」

 

「かっこよかったです! サインください!!」

 

「ふ、ふん! 悪魔にしてはやるじゃない。お礼言ってあげてもいいわよ?」

 

 なんかフラグ立ってるんですけど。

 

「あの子はハーレム王になる子だもの。この際少しぐらいは受け入れてあげないとだめじゃない? あとでしっかりからかってあげるわ」

 

「嫉妬で喧嘩した姫様も言うようになりましたねぇ」

 

 いやはや、しかしこれはもてるだろうな、あいつ。

 

 変態のイッセー相手に好意的な言葉を伝えられるってのは、ガス抜きがしっかりできた証拠だ。これで当分は大丈夫だろう。

 

 うん、これなら何とかなりそうだな。

 

「さて、そういやそろそろライザーと皇帝《カイザー》の試合でしたっけ?」

 

「ああ、そういえばそうね。・・・でも、今はこのパーティが重要だわ」

 

 確かに、ぶっちゃけ負け確定だろうしな、ライザー。

 

 俺だって蒼穹剣を使わなければ勝てるかどうかわからない相手だ。物事には限度ってものがあるわけだし、こりゃ無理だろ。

 

 うん、これならまあ何とかなりそうだ・・・。

 

 そのとき、俺の携帯に電話が入った。

 

 これ、俺の人間としての裏行動用だよな?

 

「失礼します。・・・なんですか? 俺ちょっといまパーティ中で-」

 

『大変だ! 今すぐワンセグでどこでもいいからニュースをつけろ!!』

 

 大声で、警察の人がそんなことを言っている。

 

『君の協力もいるかもしれない。これから会議だからできれば来てくれ!!』

 

「え? ちょ、どうしたんですか?」

 

 なんかよくわからないが、とりあえず俺はワンセグを入れてテレビをつける。

 

 ・・・・・・・・・おいおいおいおい、まさかと思ったらマジでやりやがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・アフリカの各国家が本日午後5時、国連からの脱退を表明しました。

 

 彼らは「クージョー連合」という名称を名乗り、国連からの脱退及び、世界各国への不可侵要求を掲げ、その警告としてクージョーノケイに対する警戒のために派遣されていたアメリカ海軍第六艦隊が壊滅しました。

 

 これにより、国連は非常事態宣言を発令。アメリカ軍は艦隊を終結させて最後通告を行いました。

 

 クージョーノケイは核兵器を開発済みとの情報もあり、核戦争の幕開けの可能性もあるとして各国は緊張状態に・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだ、あいつらは。

 

 その兵士は、そう言葉を漏らした。

 

「銃弾が、通じなかった」

 

 震えながら、艦隊の生き残りだった兵士はそう告げた。

 

 たとえ奇襲されたにしろ、仮にも世界最強の国家であるアメリカ軍に所属している自分たちが、たかだが第三世界の軍需産業に負けるわけがない。

 

 そう、たかをくくっていた。

 

 だが、現実において敵はあまりにも圧倒的だった。

 

 全ての艦船と航空機がアクティブステルスを機能し、視認距離にいてもミサイルがロックオンされない。

 

 そんな状況下で有視界戦闘というあり得ない状況になりながら、さらにあり得ないのはすべての艦船が白兵戦で制圧されたという事実だ。

 

 そこからはもう、地獄だったと彼は言う。

 

弾丸(たま)が当たってもぴんぴんしてたんだ。5,6mmじゃない。7,5mmでもだ」

 

 目を見開きながら、彼の視界には恐怖の光景が映っていた。

 

「グレネードですら直撃したのに立ち上がった。あいつらは人間じゃない、化け物だ・・・化けものだぁあああああ!!!」

 

 その直後、彼はシェルショックを起こし緊急搬送される。

 

 最後に、彼以外の生き残りがある言葉を伝えた。

 

「・・・あいつらは、自分たちのことをレベルリンカーと名乗っていた。レベル5のアーマードスキンの力を提供してもらったと」

 

 ・・・米国は敵の機密として、この情報をごく一部にしか伝えなかった。それが原因で、この事態は敵のもくろみ通りに移行することとなる。

 

 もし、この会話が青野小雪の耳に入っていたならば、彼女は最後の言葉をこうつけるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あいつらは、自分たちのことを能力共有者(レベルリンカー)と名乗っていた。超能力者(レベル5)硬質肉体(アーマードスキン)の力を提供してもらったと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、これフィフスの仕込みです。ネタバレします。









まあ、これはフィフスの最終目的のための布石ですが。

あくまでこれは目的のための手段。本来の目的はこっから先にあります。










そして次回からはベリアル編。そっからオリジナルの最終章までの流れに変更します。

・・・なんていうかね? トーナメント形式とかオリジナル入れずらいから無理があるの。ホント無理です。俺には無理。

たぶん他でD×D作品書くにしても、リアスたちの卒業式を区切りにして最終回を書くと思います。第五章は俺にはオリジナリティ出すのが難しすぎる。


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キャラコメ 第十七弾!

はい久々にキャラコメ投稿しまーす!


兵夜「はい。お久しぶりのキャラクターコメンタリー。本日のゲストは!」

 

ゼノヴィア「まあ、デュランダル編といえばこの私、ゼノヴィア改めゼノヴィア・クァルタ!」

 

ベル「ベル・アームストロングです! お待たせいたしました!」

 

兵夜「そういうわけで始まります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼノヴィア「というより、宮白はすでに上級に昇格してもいいのではないか? 武功はもちろん政治的貢献まで相応にして後ろ盾もあるだろう?」

 

ベル「ほら、ハーデス神あいてにやらかしたことがあったじゃないですか。その時の責任で」

 

兵夜「というよりも、うちの業界も魔法世界《ムンドゥス・マギクス》に負けず劣らずな側面があったな。・・・小学生が枢機卿とは」

 

ゼノヴィア「というより、せっかく我慢している憎悪をわざわざあおらなくてもいいと思うんだが」

 

ベル「というより、兵夜さまに当たるのは八つ当たりでは? ハーデス神に言った事と矛盾しませんか?」

 

兵夜「いやいや、さすがに俺も子供には遠慮するぜ? それに後で酒おごらせるって言ってるし? クーデター止めてくれたんだからそれぐらいはサービスするさ」

 

ゼノヴィア「やはり人はいいな、お前は」

 

ベル「ええ、さすがは私が実質敬服しているお方です」

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼノヴィア「と、思ったらすごいことになってるな」

 

ベル「なんでそこまで悩むんですか。実質見当違い過ぎて腹が立ってきました!」

 

兵夜「だって! だってずっと会えなかったんだぞ!? 気になるじゃないか!!」

 

ゼノヴィア「アザゼル先生に絡み酒しすぎだろう」

 

ベル「まあ、確かにアザゼル先生が自覚している通りグレモリー眷属に負担がかかりすぎなのは事実ですが。とはいえそれを気にしていたからこそ原作では結果があれになるわけで」

 

ゼノヴィア「ふむ、しかし今の段階で見る限りこちらではその心配はいらなそうだな」

 

ベル「その分人間世界のダメージが大きいんですけどね・・・」

 

兵夜「んでもって、イッセーがゲンにわかりやすく説明を受けているところだが、実際原作は上やイッセー達がリベラルすぎるというか人が良すぎるところはあるな」

 

ベル「バッサリ行きますね兵夜様!?」

 

兵夜「そりゃなあ。実際問題何年も戦争状態だとそりゃ恨みつらみもたまってるわけだ。そのあたりのガス抜きや説得をぶっ飛ばして和平成立すればそりゃ揉めるだろう」

 

ゼノヴィア「・・・そして宮白はなんて恐れ多いことをしているんだ」

 

兵夜「いうな。俺も事態を把握して卒倒しかけた」

 

ベル「ですが、ストラーダ猊下はやはり大人物です。迷う人を導くとは聖職者の鑑ですね」

 

ゼノヴィア「先代が偉大すぎる・・・っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そんでもって初詣に行くわけだ。そして小雪はだいぶなじんでツッコミにキレが」

 

ゼノヴィア「まったく失礼な奴だ。人のことが言えるのだろうか?」

 

兵夜「いや、俺が言うのもなんだがお前は割とアプローチに問題がある。イッセー内心で引いてるぞたぶん」

 

ゼノヴィア「なん・・・だと?」

 

ベル「しかしまあ、兵夜さまはいろいろと考えておりますね」

 

兵夜「まあなあ。実際最初の段階で積極的な戦争継続派を追放しているからガスのたまりにくさならトップだろ悪魔側。さっさと追放した魔王様は割と英断だったと思うね。粛清なんてしたら味方側でも反対意見が出たんじゃないか?」

?」

 

ゼノヴィア「なるほど。追放ではなく粛清を行えば味方にも大きな被害が出る。ここまで復興できたのは追放にとどめたからか」

 

兵夜「まあ、のちに大規模反乱がおきるわけだが。あの段階で和平まで見えてるわけないしそれはまあ同情票だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「それはそれとして日常タイム。桐生には普段振り回されてるが感謝もするべきか」

 

ゼノヴィア「ああ、おかげで当選できたし、後で改めて礼を言わないとな」

 

ベル「同じ日本人。・・・四大魔王に負けず劣らず区別意識が薄いですね。悪魔になっている兵夜様を日本人で区切るとは」

 

兵夜「まあ、魔王様はもうちょっと区別意識を持った方がいいとは思うけどな」

 

ゼノヴィア「そして桜花はやはり強い。一対一でかつ木刀同士だと勝てる気がしないぞ」

 

兵夜「というか懲りろ」

 

ベル「っていうか三人ともずるいです! 私も兵夜様をぎゅーってしたいです実質したいです!」

 

ゼノヴィア「いやまあ、ベルがいないのが原因といえば原因なんだが?」

 

兵夜「仕方がない。さあ、今からぎゅーっとするがいい!」

 

ゼノヴィア「お前も男らしいな!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして模擬戦は巻いていくぞ!」

 

ゼノヴィア「ああ、先ずは私たちは宮白に騙された!」

 

兵夜「仕方がない。目的上ガスがたまってないお前らを最初から出せるか! 次!」

 

ベル「そして悪魔側に私たちが実質カウンターを決めさせました。実質、これが地球舐めんなファンタジーってやつですね!」

 

兵夜「まあ、本気で悪魔が現代社会に牙を剥いたら核兵器ぐらい入るだろうが。下級中級ぐらいならやりようはいくらでもあるだろう」

 

ゼノヴィア「しかしクリスタリディ先生も恐ろしいな。原作よりレプリカが強化されてるからとはいえここまでできるとは」

 

ベル「そして悪魔側の反撃も現代兵器とは、さすがは兵夜様」

 

ゼノヴィア「嫌味ったらしいぞ。さすがは宮白という性格の悪さだ」

 

兵夜「失礼な、魔術的に細工だってしてますぅ。次!」

 

ゼノヴィア「そして次の日だが、食事中攻撃するとはなかなかあれだが、それ以上にクリスタリディ先生がすごいな」

 

兵夜「実際二刀流どころか多刀流できそうだと思ったんでな。ついでだから出してみた。次!」

 

ベル「そして最終決戦ですが、木場くんいろいろとたまってたんですね」

 

兵夜「まあ、人生経験的にいろいろと思うところはあるだろうな」

 

ゼノヴィア「そしてムラマサの禁手が発動されたが、なかなか驚くべき能力だな」

 

兵夜「かなり初期からそういうイメージだったんだが、なかなか出番が用意できなくてな。・・・急きょファンサービスで作成したスクンサの方が目立ってしまった」

 

ゼノヴィア「濃いからな・・・」

 

ベル「そ、そしてストラーダ猊下との戦闘ですね!」

 

ゼノヴィア「まったくシャボン玉がきかないとはさすが宮白とベルだ」

 

兵夜「常に思っているともさ!」

 

ベル「にしても、兵夜さまはひどいです! まさか心変わりしているなどと疑われるだなんて!」

 

ゼノヴィア「仕方がないだろう。兵夜はわりとお馬鹿なところがあるからな」

 

兵夜「ゼノヴィアに言われた!? イリナよりはましだけどゼノヴィアに言われた!?」

 

ゼノヴィア「酷いなお前!」

 

兵夜「しかし猊下は聖人だ。マジモンの聖人だ」

 

ゼノヴィア「大人のピースが欠けたとは、いい表現だな」

 

兵夜「いや、コレ漫画でいい表現だと思ったから誰かに言わせたかったんだよ。・・・俺らにはぴったりの表現だからな」

 

ゼノヴィア「なるほど。確かに転生者はその悉くが精神的に問題児が多いからな」

 

兵夜「まあ、常識人度の高い小雪ですらトラウマ地獄でそこつかれると弱いしなぁ」

 

ベル「それはそれとして、スパロさんすごいことしてますね。ナツミちゃんみたいです」

 

兵夜「自己暗示による人格のスイッチだ。別に二重人格というわけでもないが、あの精神性で戦闘は難易度が高いからな」

 

ゼノヴィア「そして、私が割と変化球のパワーアップだな」

 

兵夜「偽聖剣の量産型は出そうか悩んでたんだよ。あれ量産性度外視にもほどがあるからガンダムとジムなんぞ目じゃないデッドコピーにしかならないし」

 

ベル「でもオリジナルを使えば万事解決ですね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そしてフィフスたちが乱入するがカウンター喰らいまくりでいっそ哀れだ」

 

ゼノヴィア「だがザムジオが一人いるせいで互角にまで持って行けるのが恐ろしいな」

 

ベル「そしてスクンサは驚異でした」

 

兵夜「足止めに限定すればあれほど脅威の能力もない。現実にギャグマンガ補正使ってくるやつと対面してみろ? ・・・心が死ぬ」

 

ゼノヴィア「脅威といえばレイナーレも脅威だな。女でありながらイッセーの力をことごとく無効化するとは」

 

兵夜「それぐらいしないとイッセーの脅威にはならないからな。・・・うん、ほんとここまでメタはらないといけないとかイッセーはなんなんだか」

 

ゼノヴィア「そして、キャスターの正体なんだが・・・本当か?」

 

兵夜「本当だって! マジだって!」

 

ベル「しかし、それはつまりそんな状態でも本来のパラケラススと同格の能力を持つということですね。実質脅威にもほどがあるのでは?」

 

兵夜「まあ、本来のパラケラススもたいがいあれみたいだがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そんでもって反撃タイムだが、なんで俺こんなギャグ展開なんだ」

 

ゼノヴィア「いや、お前はギャグキャラだろう」

 

ベル「その通り! 兵夜様はすごくギャグキャラです! 実質胸を張ってください!」

 

兵夜「張れるか!」

 

ゼノヴィア「しかし便利なものもあるものだ」

 

兵夜「対超能力者武装。・・・割と意外性があって面白いよな、絶チル」

 

ベル「そしてゲンさんはしっかり仕事をする仕事人です。ベルは素晴らしい師匠を手に入れました」

 

兵夜「・・・また不安になりそうだ」

 

ベル「そして悪魔祓いたちも本領発揮で反撃です!」

 

ゼノヴィア「敵対していた者たちが手を取り合って大敵に立ち向かう。胸が熱くなるな」

 

ベル「これも兵夜様の企画のおかげです」

 

ゼノヴィア「しかしほとんどが名無しのモブだというのがなお熱いな」

 

兵夜「格好いいモブをかける作品は名作。俺が川上作品で知ったことだ。一度やってみたかったそうだ」

 

ゼノヴィア「しかし、バーサーカーの頑丈さの種が割れたがどういう能力だ?」

 

兵夜「説明しよう! 型月世界観では人類の共通無意識が力を持つ。滅びたくないという本能から生み出される抑止の守護者は、人間では勝てないといっていいスペックを発揮する」

 

ベル「おお、それはすごいです」

 

兵夜「八が使うのはその劣化版。自分に向けられている敵意を防御力に変換するのだ。・・・だから聖杯戦争では効果がいまいち」

 

ゼノヴィア「なるほど。映像越しとはいえ観客が敵意を向けていたからこそ、あの時はあれほどに頑丈だったのだな」

 

ベル「それに気づくあたり、イッセーくんは結構機転が利くタイプですよね。実質前線の部隊長とかに向いているタイプです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そしてラストバトルはザムジオだ。魔王剣マジチート」

 

ゼノヴィア「それを生み出したキャスターがいかに恐ろしいかがよくわかる。」

 

ベル「しかしまじめな方ですね。・・・彼ぐらいではありませんか? 初期からいるメンバーでグレートレッド撃破にここまで熱意を燃やせる人物は」

 

兵夜「まじめ馬鹿がコンセプトだからな。真面目がから回ってるんだよあいつの場合」

 

ゼノヴィア「そして最終決戦か。ベル、強くなったな」

 

ベル「実質エッヘン!」

 

兵夜「実際ベルの欠点は「超能力を使いこなせない」ことだからな。それがなくなれば一気に強くなるさ。・・・さすがは俺の自慢の拳だ」

 

ベル「はぅうう・・・。兵夜様に実質褒められたぁ・・・」

 

ゼノヴィア「しかし、最後の一撃は恐ろしいな。ついに分裂したぞ」

 

ベル「ただ、あれはあまり長い間使えないうえに使わないように念押しされました。なんでもあの状態だと暴走の可能性がある上に、それに乗っ取られて意識が抹消される危険性があるようでして・・・」

 

兵夜「まあ、必殺技にするだけならそんなに問題はないだろ。・・・よく頑張ったヾ(・ω・*)なでなで」

 

ベル「え、えへへ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼノヴィア「そして恒例のおっぱい技まで使ったわけだが、フィフスは恐ろしいことを企んでいるようだな」

 

ベル「第四章で彼が直接動いたのは、ほとんどそのためですか。・・・実際すごいことになりましたね」

 

兵夜「最終章はオリジナル展開で行くことにしたからな。・・・五章の展開はオリジナルを書くのは無理だと判断した」

 

ゼノヴィア「情けない話だ。何とかならなかったのか?」

 

兵夜「ミスター・ブラックで歩兵の駒が埋まる以上、俺は姫様の眷属で行くわけにはいかない。俺のチーム編成をしたうえで、そういうわけだからオリジナルの敵手を用意する必要もある。そしてハーデスが動くようだがそのうえでトーナメントまでするとすると・・・うん、無理」

 

ベル「それでオリジナルの最終章ですか」

 

兵夜「因みに最終章は卒業式前を設定し、卒業式で〆る予定だ。丸ごと一年だなんてキリがいいだろ?」

 

ゼノヴィア「まあ、確かにそれはいいのか・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そしてラスト。終了後にパーティを開いて俺は姫様と会話するわけだ」

 

ベル「ですが、すぐに戦争勃発の連絡が」

 

ゼノヴィア「まさかここまでするとはな。原作でもアポプスとアジ・ダハーカが人間世界まで荒したわけだが」

 

ベル「ですがこれはそれ以上ですよ。・・・学園都市の技術を使いすぎじゃないですか」

 

兵夜「そう、因みに使われてるのは幻想御手の応用版といえばわかる人はわかるか」

 

ゼノヴィア「具体的には」

 

兵夜「脳波を強制的に調律して巨大な演算装置を作る音楽ソフト。あれはそれを応用して特定の能力者の能力を劣化版で使えるようにする装備だ」

 

ベル「それはまたすごい」

 

兵夜「もっとも、オリジナルにあった「脳波が固定されて意識を喪失する」という欠点がなくなるからな。そのためレベルが下がるという欠点はあるが、超能力者《レベル5》なので歩兵相手には問題なし」

 

ベル「つまり、これが最終決戦のカウントダウンですね」

 

ゼノヴィア「この時点でばれてもおかしくなかったわけだしな。どちらにしてもすぐ誘拐するつもりだったということか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「まあ、不穏なものがいっぱいだがこれにてデュランダル編も終了」

 

ベル「次はベリアル編ですね。・・・・・・・・・ついに、来ましたか」

 

ゼノヴィア「ああ、来てしまったな」

 

兵夜「・・・まあな。・・・そういうわけで、次回のキャラコメもまあ・・・楽しくなくても待ってくれ」

 

 

 



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進路指導のベリアル
状況、混乱中


さて、ついにベリアル編にまで到達しました。

・・・ここまで、長かった!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 割とやばいことになった。

 

 人間社会ではついに戦争が勃発。アフリカを中心とするクージョー連合と、アメリカを中心とする国連との間で小競り合いが勃発している。

 

 それはそれとして大変だが、こっちもこっちで大変なことになっている。

 

 ・・・ライザー・フェニックスとディハウザー・ベリアルのレーティングゲーム中に、二人及びレイヴェルが行方不明になったというのだ。

 

「姫様。それで追加の情報は出ていますか?」

 

 俺は期待薄でそう尋ねるが、姫様は静かに首を振った。

 

「残念だけど入ってこないわ。三人とも、今だ行方知れずのままよ」

 

 クソが!

 

 どこもかしこも大事件じゃねえか。クーデターの心配がなくなったと思ったら、なんだこの大惨事は!!

 

「兵夜さま。教会のほうも捜索隊の派遣を打診しております。実質乗った方がいいのでは?」

 

「それについては同感だ。・・・ちょっとこれはファックすぎるだろ」

 

 ベルや小雪も顔色が悪い。

 

 ああ、そうだろう。

 

 皇帝の戦闘能力は魔王クラスだ。それが行方不明になるほどの大事件、ふんどしクラスがかかわっているとみるべきだろう。

 

 冗談抜きで大事件だぞ。これ、やばすぎる。

 

「・・・お前ら、追加情報だ」

 

 と、アザゼルがこちらも険しい顔で入ってきた。

 

「アザゼル先生! レイヴェルたちは大丈夫なんですか?」

 

 イッセーはすごい剣幕で詰め寄るが、アザゼルはその肩に両手を置く。

 

「それについてはまだわからん。だが、レーティングゲームで非常システムが起動したという報告が入った」

 

 非常システムだと?

 

 たしか、想定外の事態が起こった時に備えての緊急システムだったな。

 

「で、どんなの? 異空間に引きずり込まれたとか?」

 

 ナツミが首をかしげるが、アザゼルの表情はさらに厳しい。

 

「・・・不正対策だ。つまり、どちらかが何らかの不正を行った可能性がある」

 

 おいおい、冗談だろ?

 

「不正って、皇帝がですか!?」

 

 そこでストレートにディハウザー・ベリアルの方が不正をしたと思うぐらいには、イッセーはライザーを信用しているようだ。

 

 とはいえ、そんなシステムが発動するような不正をする必要性は浮かばない。

 

 今回の試合は半ば出来レースのエキシビション。・・・何があったという。

 

 いや待て。そもそもこのイベントはあくまでタイミングが良かっただけなんじゃないか?

 

「・・・姫様、今回の件について心当たりが」

 

「なんなの? 今は何でもいいから教えて頂戴」

 

 姫様は即座にそう答えるが、しかし俺としては一瞬躊躇する。

 

「・・・クレーリア・ベリアルの殺害の件ですが、ゼクラム・バアルは彼女が知ってはいけないこと(ニードゥ・トゥ・ノウ)に踏み込んだことを匂わせていました。・・・それに皇帝が気づいたとしたら?」

 

「・・・・・・・・・それについての心当たりは」

 

「俺の口からはとても言えませんよ。これ、下手したら冥界で内乱が起こりかねない極秘事項です。・・・サーゼクス様達四大魔王ですらいまだどうしようもないことだといえば、わかってくれるのでは?」

 

 王の駒についてはかなりヤバイ。何がやばいってトップランカーに使用者がいるということがヤバイ。

 

 なにせトップランカーが不正をしているのだ。そんなことが知られればどんなことになるかなんて想定ができてしまうからできない。

 

 冗談抜きで内乱が勃発しかねない。そんなことになれば冥界は本気で崩壊しかねないぞ。

 

 くそ、これっていったいどうすればいいんだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで、夜の空を眺めて、俺は息を吐いていた。

 

 いろいろと嫌になったので、月を肴に酒を飲んでいる。

 

 今回の件、ディハウザーが黒にしろライザーが黒にしろ、間違いなくクリフォトが絡んでいるだろう。

 

 レイヴェルのみが真剣に心配だ。さて、どうしたものか。

 

「・・・いろいろと詰まっているようね」

 

 と、いつの間にか隣にアーチャーが座っていた。

 

「い、いつの間に?」

 

「五分以上前からいたわよ。あなた、さすがに疲れてるんじゃなくて?」

 

 そういわれると返す言葉もない。

 

 ああ、完璧に疲れているともさ。

 

 なにせ今回、表も裏も大騒ぎだ。

 

 クリフォトが糸を引いているにしろいないにしろ、間違いなく奴らは行動を起こす。

 

「なあ、アーチャー。・・・俺の体、細工は完了しているか?」

 

 だから、念のためにしておいた改造について聞いておく。

 

「まだ六割・・・といったところね。サーヴァントの魂を封じ込めるには足りないわ」

 

 と、アーチャーからはまあ順調と考えるべき説明が返ってきた。

 

 聖杯戦争において、ホムンクルスを小聖杯にするという手段を構築した輩がいる。

 

 それを参考に、サーヴァントを至近距離でボコる俺が小聖杯の機能を持つことで聖杯の完成を阻止しようという発想があった。

 

 念のために少しずつ改造をしていたが、しかしこれは厄介だろう。なんか間に合わないような気がしてきた。

 

「・・・なんか、本当に悪い」

 

 自然と、そんな言葉が口から洩れた。

 

「どうしたのよ?」

 

「いや、いつも思うけど、お前には苦労かけてばっかりだなって思ってさ」

 

 思えば最初っからこいつのことを振り回しっぱなしだ。

 

 いきなり失敗するはずが成功したなんてすごい理由で召喚するし、そこから酷使しているし、真剣に謝るべき内容だろう。

 

 俺、こいつに迷惑かけっぱなしだよなぁ。

 

「いえ、そうでもないわよ」

 

 だから、そんなこと言われるとどういい返していいかわからない。

 

「可愛い女の子にかわいい服を着せるのは楽しいもの。少なくとも、仕事の分のチップは十分もらってるわね」

 

「だけどさ、この聖杯はフィフスが記憶を頼りに作った試作型だ。・・・もともと余分な機能である願望機が、どこまで使えるかわからない」

 

 そう、冬木式の聖杯は本来願望機ではない。

 

 英霊七騎を生贄にすることにより、世界に壁を穿つ魔術礼装。それこそがあれの本来の目的だ。

 

 だが、アーチャーはかぶりを振った。

 

「・・・前に言ったわね、私にも願望がないわけじゃないって」

 

「ああ」

 

「でもそれは、冬木の聖杯だって変えられない。それだけは断言できるわ」

 

 すごいこと言うな。その気になれば国だって作れるだろう。

 

「あんなもの。この世界の人間にわかりやすく言うなら「お金があれば何でもできる」みたいなものでしょう。私の願望をかなえるには到底足りないわね」

 

 ・・・え、マジで?

 

「貴方気づいてなかったでしょう? 例えば、歴史の改編などは解釈代えが精いっぱい。もしその重要なポジションを抹殺したとしても、人理が「代役」を用意するわ」

 

 あ、確かにそれはあるかも!?

 

「それに、下手に大きく変動したとしても今度は世界がそれで消滅しかねない。この世界はともかく、あの世界はそのあたりは狭量なのよ」

 

 ・・・うわぁ、マジですか。

 

「まだまだ勉強が足りないわね。今度付きっきりで指導してあげるわ」

 

「マジすいません先生。俺はまだまだ未熟でした」

 

 素直に頭を下げる。

 

 うん、これは赤っ恥ものだった。

 

 ま、それはともかくとして難易度が非常に高いから危険なんだけどね!

 

 ええい、何とか頑張ってサーヴァント一騎ぐらい何とか封印できるようにならねば!!

 

「・・・だから、まあ・・・ね」

 

 アーチャーは少し言葉を濁したが、そのまま席を立つとこう告げる。

 

「ええ、十分いいものをもらってるわ。参戦しただけの施しはもらったわよ」

 

 それは、俺にとっては結構いいものだった。

 

 ただ、これ死亡フラグだぞ?




ストーリーもクライマックスに差し掛かっていることから、どいつもこいつも死亡フラグを立てていくスタイル。









それはそれとして最近思いついたことがあります。

この作品は神様転生とかあほじゃね? 俺なら転生モノはこう書くね! ・・・という形で書いております。

最近、もう一つこれはいけるんじゃね? 敵なのを思いつきました。

様々な異世界をめぐる行為生命体が、興味半分で異世界の一つを蹂躙しようと決意。

その際の戦力として、適性のある魂を無理やり殺して引っ張り込んで、異世界の能力を与えて先兵として偵察させる。

その多くはその生命体の指図もあり禍の団にはいってテロ活動を行うが、一人現世の生活で改心した主人公は、異世界能力とこの世界の神器を使って戦うのだ! ・・・てきな。

・・・ニーズ、ありますかね?


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進路指導で、親子面談!

一転変わってギャグ回です!


 

 進路指導。高校生なら年に一度は経験するイベントだ。

 

 こと、俺の場合は割と本気でどうしようか考えたものではある。

 

「なあ親父。とりあえず親父の系列会社の人事部に就職しますってことでごまかせないか?」

 

「表向きはそうでいいかもしれないが、それよりやるべきことがいくつもあるだろう?」

 

 ふむ、やはり真剣な内容だ。やはり親父は遊び半分でこんなことには参加しないか。

 

「お前の実力なら、大学には一年行かなくても入る分には問題ない。加えて言えば、冥界の大学なら余裕で入れるだろう。そっちに一本化するというのも一つの手だぞ?」

 

「そっちはグレイフィアさんに止められてんだよ。姫様が駒王の大学に入って出る気なら、眷属である俺たちもできる限りそれに倣えってな」

 

「お前にその気がないなら、親の立場として一言いうぐらいはしてやるが、いるか?」

 

 と、真剣に考慮してくれている親父に引きずられながら、俺は真剣に考慮する。

 

 実はアーチャーは自分の魔術を発動できる魔術礼装を開発済みだ。

 

 アザゼルの人造神器技術と、これまで手に入った幻想兵装の技術を組み合わせたこの技術。冗談抜きでサーヴァントとして枷にはまってない魔術行使を可能とする。

 

 そして、それの運用支配権は俺とアーチャーにしかない。

 

 そういう意味では実力すら補完できる方法もできたし、今から魔術師組合のトップに収まるという選択もなくはないんだ。

 

 クリフォトとの戦闘でポイントも上がっているし、上級昇格に必要な条件もそろっている。

 

 だが、俺の頭の中にはアーチャーたちとの酒盛りや、あいつの服着てコスプレしてる姿も映るわけで・・・。

 

「・・・まあ、高校卒業してから考えるよ。俺の成績なら大学部はほぼ合格だから受験勉強の必要薄いしな」

 

「なるほど。では、卒業してからはお前を中継点とすることによるグレモリーさんのコネクション形成を考慮・・・といった形で行こう」

 

 そういってこの話を終えた親父は、ふときょろきょろすると、耳元に口を近づけてきた。

 

「それで、いろいろとすごいことになっているようじゃないか、お前の恋愛模様」

 

「・・・ま、知ってるとは思ってたよ」

 

 運動会の件は当然知られているし、おそらく小雪とベルの件も耳に入っているはずだ。

 

「誰もかれも美人さんじゃないか? それに戦闘方面とはいえ腕もたつし、わざわざこっちにあいさつに来てくれるぐらい礼儀もある。・・・小雪さん、だったか? 彼女、上から怒られるのも覚悟のうえで使える技術を持ってきてくれたぞ?」

 

「あいつ何やってんだ」

 

 小雪さん。確かにあなたの知っている技術は親父の会社にとって超最高だけどね?

 

「まあ、悪魔なら当然できることである以上、頭ごなしに否定はしない。だが、ちゃんと責任を取ることを考えろ」

 

「わかってる。・・・不倫などするものかよ!」

 

 風俗ぐらいなら何の問題もないとか、いっそのこと増やしてみたらとか言ってくるぐらいだが、俺にだって限度というものがある。

 

 そんなあほなことはしないぞ! しないぞ!! しないんだからね!!!

 

 と、親子で馬鹿な方向に話が進んでたら、なぜかまっすぐ前を進んできている男女がいた。

 

 おそらく夫婦なんだろうが、三者面談とはいえ両親がまとめてくるとは不思議な展開だ・・・。

 

 と、その夫妻はなんと俺たちの目の前まで来た。

 

 む、なんかさっきとは違うけど妙な気配と緊張感が・・・っ

 

「・・・なんでしょうか?」

 

「申し訳ない。私はあなた方とは面識がないはずなのですが」

 

 少し警戒しながら、俺たちは立ち上がってすぐに動ける力具合であいさつをする。

 

 まさか、まさかとは思うがクリフォトの刺客・・・?

 

「初めまして、久遠の父です」

 

「は、母です」

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

 来たよ、大イベント。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほ、ほほほ本日はおひがらららららららららら」

 

「落ち着け! 命がけの戦いでも動揺しないお前はどこに行った?」

 

 人のいない教室に案内したが、俺は割といっぱいいっぱいだったりする。

 

 親父、悪いんだけど水持ってきてくんない? といいたいけど、そんなことを言っている余裕もない。

 

 あ、水筒からお茶出してくれてるね! ありがとう、親父! なんでそんなにできる男なんだ!!

 

 ナツミとベルは親に捨てられ、小雪は死別しているから油断した。

 

 関係はあいつの転生問題で悪めとはいえ、それでも両親がいるというのは間違いなく問題点の一つだったんだ。考えてなかった・・・うっかり!

 

「そ、そ、そ、そ、そ、それで・・・」

 

「・・・既にご存知かと思いますが、私達と久遠の間には壁があります」

 

 ・・・いきなり踏み込んだな。親父も驚いている。

 

「それは私達にもありました。彼女から、理由は聞かれているのですか?」

 

「支取さんという方が仲立してくださったおかげで多少は」

 

「・・・ショックで、三日間寝込みました」

 

 あのバカ、そういうことは俺にも話せってのに。

 

 大方、大規模模擬戦とかが忙しくていう暇なかったな? おくびにも出さないあたりは評価するが、後でしっかり説教せねば。

 

 親父さんは、いろんな意味で言葉にするのを嫌がっていたようだが、それでも決意を込めて顔を上げる。

 

「・・・私は、心のどこかで彼女を実の娘じゃないと思いたくなるような、弱い人間です。そして、それは妻も同じです」

 

「ええ、それについては理解できます」

 

 自分の子供に過去の記憶があるとか、実際になってみると気持ち悪いだろう。

 

 そういうの全くなく付き合ってくれている。堂々と息子だと断言してくれる。本当に息子として接してくれている、そんな親は少数派だ。

 

 そう、親父に感謝することこそあれ、彼らを非難する必要はない。

 

 悪い久遠。俺は、そういう弱い人間の気持ちがわかるから責められないよ。

 

 それにな、久遠。

 

 お前、それでも恵まれてる方だよ。

 

 だって、この人たち、腕が震えてるよ。

 

 恐怖に耐え、立ち上がろうとしている。そんな人間だけがだせる震え方だよ。

 

「それでも、それでも私の娘なんです! 初めてできた子供なんです!!」

 

「長い間幸せになってほしいと思ったから、久遠と名前も付けたんです!!」

 

 と、お二人は俺に詰め寄った。

 

「それがいきなり愛人だなんて! ちょっと進みすぎですよ君たち!!」

 

「本当に、本当に娘を幸せにする覚悟があるんでしょうね!!」

 

「落ち着いてくださいおふたがだ。あれは彼女の方から言い出したことですよ?」

 

 と、親父が止めに入るほどの剣幕だった。

 

 っていうかちょっと待て。なんであのバカそこ言った! あと親父もなんでそこまで詳しく知ってんだ!!

 

 いやいやいやいや。まずはこの質問に答えるべきだろう。

 

 幸せにしたい。それは間違いなく断言できる。

 

 そこに嘘はかけらもない。心の底から愛しているし、そういう相手を幸せにしたいという感情も本物だ。

 

 だが、現実問題周り(テロリスト)がそれを簡単には許してくれないだろう。

 

 さて、それを踏まえたうえでの最適解は―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈―」

 

「―夫です!!」

 

 直後、窓を突き破ってナツミとベルが乱入した。

 

「何やってんだお前ら!? わぷっ?」

 

 飛び散ったガラスは全く気にせず、二人は俺に抱き着いた。

 

「兵夜だけだとうっかり何かしそうだけど、ボクやベルに、ここにはいないもう一人もしっかりいるから大丈夫だよっ」

 

 Vサインを浮かべて、ナツミはそう断言する。

 

「みんな一緒でみんな好きだからね♪ あ、でも一番は兵夜だよ? なんたってボクの王子さまだもんっ」

 

 顔を真っ赤にしながら、そのままぎゅーっと俺を抱きしめる。

 

 そして、そんな俺たちにしなだれかかりながら、ベルもまたうなづいた。

 

「確かに兵夜さまは甲斐性を分割しなければいけない分苦労もあるでしょう。ですが実質久遠ちゃんは良妻になれる立派な方。娘さんを実質信じてあげてください」

 

 そう力強く断言し、そしてベルもまた俺に頬ずりする。

 

「それに兵夜さまは、久遠ちゃんのことが大好きですから。実質私達も大好きですし、みんなで幸せになるよう頑張り続けますよ?」

 

 急展開に何も言えない俺の耳に、今度はドタバタと駆けつける音が。

 

 ああ、これはあれですな。彼女ですな。

 

「ファァアアアアアック!! 何をやってんだお前らは!!」

 

「にゃぅん!?」

 

「きゃぅん!?」

 

 ドロップキックを二人の顔面に叩き込んで、小雪は俺の襟首をつかむ。

 

「お前もお前だばか兵夜! こういうのはなぁ、マジモードの顔で「幸せにします!」っていうのが基本だろうが!!」

 

「いや、しかし一年足らずでぽっくり戦死するかもしれず―」

 

 そう、そこが一番問題。

 

 まだクリフォトが動いている以上、そんなことは口が裂けても言えないわけで。

 

 そのあたりをちゃんと組んだうえで、小雪は頭突きになるレベルで俺と額をぶつけ合わせる。

 

「気合で生き残れ! そしてあたしらも死なせないように全力尽くせ! そしたらあたしたちもお前を死なせないように全力尽くす!!」

 

 そう断言し、視線を反対側のドアの向こうへとむける。

 

「そうだろ!?」

 

 え、え、え、え、え、まさか!?

 

 と、静かにドアが横に開き、そこには顔真っ赤にした久遠の姿が・・・。

 

「久遠!? お前・・・大丈夫か?」

 

「涙まで浮かべて・・・。まさかいじめ!?」

 

 と、動きはぎこちないが、それでも慌てて心配し始める。

 

 いい両親、持ってるじゃねえか。

 

 俺の親父に比べれば低い点数だが、それでも十分及第点だよ、これは。

 

「あ、あう、あう。・・・そりゃぁ、守りますけど・・・・」

 

 指を突っつき合わせながら、久遠は心底心から顔を真っ赤にする。

 

 と、いつの間にか間近にいたナツミが、久遠の目の前に立っていた。

 

「久遠っ」

 

「え? ―むぅ!?」

 

 と、ここで勢いよくキス!?

 

 ああ、周りの人たち半分以上固まってるよこれは!!

 

 と、思ったら今度はベルが久遠に抱き着いて―

 

「はい、久遠ちゃん」

 

「ちょ、ちょっとむぐぅ!?」

 

 これまたおいしく啄み始めた。

 

 あ、しかも小雪までその顎に手を触れて。

 

「まあ、ファックだがそういうことだ・・・」

 

「ひゃう!? ん、ぬちゅ・・・ちゃぷ・・・」

 

 ディープ行ったー!?

 

 と、やることやった三人は、そのまま久遠を俺の方へ。

 

「ほら、ファックにやることやれ」

 

「実質兵夜さまの番です!!」

 

「ま、というわけでボクたちみんなみんなのこと大好きだから、ほら、証拠!!」

 

 と、どんどん話を先に進めている。

 

 と、俺は久遠と顔を見合わせて。

 

「かお、真っ赤だぞ」

 

「兵夜くんこそー」

 

 ほんと、こいつ想定外の恋愛事情に弱いな。

 

 最初に口火切ったのはお前だろう。そこからどんどんエスカレートしていったんだろうが。

 

 付き合うことになってからも、ストレートにわかりやすく愛妻行為を働くから、イッセーと違ってからかわれているとかかわいがられているとかいう勘違いも起こりやしない。

 

 まったく、そういうことなら・・・。

 

「・・・むしろ逃がさないって、逃げる気になれないぐらい幸せにしてやる」

 

「が、がんじがらめー!? ・・・あ、ん」

 

 意識は恥ずかしくて飛びそうだけど、しっかりすることはさせていただきました。

 




ホント開き直りましたよ、兵夜も


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レーティングゲームの闇

 

「お前、学校で何恥ずかしいことしてんだよ」

 

 イッセーに半目でツッコミを入れられた。

 

 あの後、生徒の一部が見ていたらしく大騒ぎになった。

 

 ええ、呼び出され・・・ませんでしたよ見事なまでに。

 

 思わず突っ込み入れに行きましたよ。いや、あんたら教職として仕事しろよ俺が言うことじゃないけどと。

 

 そしたら教師たちが口をそろえてなんて言ったと思う?

 

「いや、今更だし」だぜ?

 

 クソが反論できん!

 

 まあ、ご両親はそれでだいぶ気が楽になったらしいが。

 

 ああ、気持ちはとてもよくわかる。

 

 俺だって、普通の家庭に生まれて転生者なんて存在を知ったら距離を置く。それが自分の子供だからこそ逃れられない衝撃だってあるだろう。

 

 だが、あの人たちは耐えられないなりに対応してのけたのだ。それは頑張っているとほめていいと思う。

 

 うん、養父と養母には優しくせねば。今度菓子折りもって改めてあいさつに行こう。

 

「で、宮白。・・・見つかったか?」

 

 イッセーがきいてくる内容はすぐにわかる。

 

 いい加減、ライザーとレイヴェルの行くえを知るべきだということだ。

 

 とはいえ俺の推測が正しければ、ライザーの身だって十分危うい。

 

 なにせ王の駒はともかく、トップランカーのうち二位および三位が黙って使用しているのだ。

 

 これは間違いなく大騒ぎになるだろう。そして捕縛に抵抗して大暴れすれば、間違いなく大惨事になる。

 

 そしてそんなことになれば、代用品の生産を了承した俺も無傷ではすまず、それを黙認した四大魔王にも火がつくわけで・・・。

 

 終わる、冥界がマジで終わる。

 

 この政治的空白期をハーデスが見逃すとは全然思えん。あの野郎は間違いなく何かしでかしてくるにきまっている。

 

 ただでさえアサシンのせいで政治的空白期一歩手前の状態に追い込まれたばかりなのに、そんな余力は全くないぞ。

 

 ええい、なんとしてこの情報の流出だけは阻止しなくては!!

 

「とにかくだ! お前はディハウザー・ベリアルを相手にする覚悟も決めておけ。最悪の事態は想定して対策を立てておくべきだ」

 

「お、おう! わかったぜ!!」

 

 俺たちは気合を入れなおしながら、戦うためのトレーニングを始めようとし―

 

「おいイッセーに宮白! アジュカ・ベルゼブブから連絡が入ったぞ!!」

 

 ・・・どうやら、事態はもっと火急だったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこでアジュカ・ベルゼブブから伝えられた事実は、要約するとこういうことになる。

 

 1、王の駒についての情報。これは俺が知っていることと同様。クレーリア・ベリアルの件もこっちがメインだったそうだ。

 

 2、レーティングゲームは純血悪魔側はかなり八百長というかプロットを用意してあるということ。

 

「・・・なるほど、そうでしたか」

 

「軽いよ宮白!!」

 

 イッセーにツッコミを入れられるが、そんなこと言われてもな。

 

「実際ライザーだって懇意にしている家にわざと負けたりとかしてるんだろ? その範疇内・・・にするには過激かもしれんが、これだけ参加者が多いならそりゃそういうこともあるって」

 

「黒すぎだろ!! お前どんだけ黒い世界で生きてるんだよ!!」

 

 匙からもツッコミを入れられたが、しかしまあ想定の範囲内だ。

 

 ・・・まあ、グレモリー眷属やシトリー眷属はまっすぐだからこれはきついか。

 

「で? まあそれはおいおい他の神話体系と交流すればいいとして、つまりディハウザー・ベリアルはクリフォトとつながってるってことでいいんだよな?」

 

 小雪は冷静だったが、しかしほぼ全員が割と動揺している。

 

「・・・なあ、俺とお前の汚れっぷりが酷いことになってる気がしてきたんだが」

 

「今更すぎてファックだろ」

 

「二人とも、もっときれいになろうよ」

 

 ナツミにまで言われてしまった・・・。

 

「それより実質どうしますか? そんな情報、もし流されたら本当に冥界が大騒ぎになりますが」

 

「と、いうより獣鬼騒動でのダメージまだ残ってるからねー。・・・これ、まずくないー?」

 

 ベルと久遠も割と危険視している。

 

 だよなぁ。さすがにそれぐらいは理解していると思うんだが・・・いや、どうだろう。

 

 そして、いや、何よりも・・・。

 

「・・・と、とにかく。まずはライザーとレイヴェルさんの安全確保が、必要・・・」

 

 ・・・ソーナ先輩がマジで落ち込んでるのどうしよう。

 

 ああ、会長も頭回るタイプとはいえやっぱり綺麗な側だからなぁ。これはさすがに衝撃強かったか。

 

 うん、適任は一人しかいないっていうか、ここは一人にした方がいいというか。

 

「匙、何とかしろ」

 

「お、俺かよ?」

 

 小声で匙を促すが、ものすごく動揺している。

 

 ええいこのあほうめ。そんなことでソーナ先輩をどうにかできるものかよ。

 

「ほら元ちゃんー。早くかっこいいこと言ってソーナ様の好感度を上昇させるー」

 

「え、ちょ、ちょっとまて。そんなこと言われてもすぐに言えるわけが・・・」

 

 久遠もせかすが、このヘタレは全く肝心な時に。

 

 かといって俺が何か言ってものちのためにならんかもしれないし・・・どうしようか。

 

 だが、そんなことを心配している暇は全くなかった。

 

「・・・宮白君、聞いているかね?」

 

 何やら大変なことが連絡された。

 

 ・・・イッセーの両親が、誘拐されたとかいう大事件が勃発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソが! まさか警戒を突破してくるとは・・・っ!」

 

 まさかここまで奴らが強行突入してくるとは思わなかった。

 

「さすがにこれは私の失態だわ。前回結界を強行突破してきたのは、侵入できないと思わせるためだったのね」

 

 アーチャーも割と悔しそうだ。

 

 当然だろう。あの野郎、結界を無効化してアーチャーに感知させずに誘拐させやがった。

 

 俺らの家族を人質にとる対策は一応取っていたんだ。

 

 駒王町の結界のアップデートは定期的に行っていたし、傭兵を雇うことで戦力も増やしていた。

 

 報酬も待遇も良くしていたし、仕事はきちんとしないと今後の展開に差し支えるから裏切る可能性も低かった。

 

 まさか、全員殺されているとは思わなかった。

 

「キャスターとアサシンを見誤っていたね。サーヴァントの力を手にできるということが、ここまで厄介だったとは」

 

 現場の検証に付き合ってくれている木場も、一周回って感心の領域に到達している。

 

 ああ、これはいくらなんでもヤバイだろう。

 

 イッセーになんていえばいい。なんていえば。

 

 裏に慣れている俺が、最も警戒しなければなかっただろうに!

 

「・・・アーチャー!! 残滓か何かであいつらの居場所を調べてくれ。俺は集められるだけ戦力をかき集めてくる!!」

 

「いや、その必要はねえ」

 

 と、そこにアザゼルが渋い顔をして入ってきた。

 

「なんだアザゼル! 俺も割と結構きついんだが?」

 

 ちょっと完全に冷静になれる自信が全くないんだが?

 

「いや、敵がどこにいるかがわかった。・・・っていうか、フィフスの奴、わざと痕跡を残していきやがった」

 

 は?

 

「冗談でしょう? あの男に限ってここまできてそんな愚かなことをするわけがないわ」

 

 アーチャーの言うとおりだ。

 

 この状況下で総力戦だと? まさか、トライヘキサの封印が解けたとでもいうのか?

 

 いや、それなら即座にリゼヴィムがヒャッハーするはずだ。その可能性は低い。

 

「それで、フィフスはイッセーくんのご両親をどこに連れ去ったんですか?」

 

 混乱する俺たちに代わり、木場がアザゼルに尋ねる。

 

 あ、そうだ。とにもかくにも場所を聞かねば話にならない。

 

 と、アザゼルは静かにタブレットを取り出した。

 

「・・・ここだ」

 

 それを見て、俺たちは頭の中が真っ白になった。

 

 そこに映っているのは、一つの現代的な軍事基地。

 

 それも、大絶賛ミサイルがぶっ放されている戦場だった。

 

「お、おいアザゼル? これ、どこだよ?」

 

「・・・軍需産業クージョーノケイの本部だよ」

 

 な、んだと!?

 




最初だけギャグで、そのあと一気にシリアスに。

今回の誘拐の主導はフィフス。その理由の一つは極めて単純。

「これ以上余計な成長をしてほしくなかった」

ゆえに準備ができたので挑発しているわけです。「ほら来いよ、大ぜい連れてこずにかかって来い!」といって「野郎、ぶっ殺してやる!」とさせようとしているわけです。

そして、この誘拐にはある意味でもっと重要な理由が・・・。

それがなぜかは、本編で説明しましょう


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潜入、大変です!

 

 D×Dが全員集合して、俺たちは緊急会議に参加した。

 

「つっても、現状の説明と選抜メンバーの選出になりそうだがな」

 

 と、アザゼルはひきつった表情で映像を移す。

 

 そこには、大絶賛戦争中の光景が映っていた。

 

 それも、俺たち異形関係のファンタジー(一部SF)の戦争じゃない。現実的な人類の戦争だ。

 

 軍需産業クージョーノケイ。アフリカの国家をかき集め、核兵器の開発を公言した超危険分子。

 

 あろうことか、ここがクリフォトのフロント企業だったのだ。

 

「あの、アザゼル先生? あいつら本気ですか!?」

 

 信じられないという風に匙が叫ぶが、それに小雪が首を振ってこたえる。

 

「ファックだが事実だ。あいつら学園都市製の技術を惜しげもなく使用してる。・・・戦力差はあるがこの調子なら数年は持ちこたえるな」

 

 たしかに、どこのゲームだよというぐらい異常な機動をしてミサイルをポンポンかわす戦闘機や、ビーム砲をぶっ放す船が出ている。

 

 挙句の果てにパワードスーツまで堂々と動かして白兵戦を挑んでいる連中までいて、もはやどこからツッコミを入れればいいのかわからない。

 

 そして、今更ながらに俺たちはこの軍需産業の名前の由来に気が付いた。

 

「いわゆる、空城の計というものですね」

 

 ソーナ先輩が、半ば呆けたようにつぶやいた。

 

「なんですか、それ?」

 

「一言でいえばノーガードで相手に深読みさせる戦法。あいつらの施設、異形的な隠匿がほとんどされてなくて逆に高精度の感知に引っかからなかったんだよ」

 

 首をかしげるギャスパーに、アザゼルが答える。

 

 ああ、超一流のハイテクを警戒しすぎたせいで、ローテクに関する精度が逆に甘くなっていた。

 

 おのれクリフォトめ。ばれたらばれたで人類巻き込むつもりだったな。ハイリスクハイリターンな遊びだらけの戦法を・・・!

 

「あ、アホだ。アホすぎる!」

 

 両親を誘拐され、オーフィスをボコられたイッセーも、あまりの展開に冷静になってしまっている。

 

「それで、どうするというの?」

 

「いろいろ面倒だ。ここで不要に人間社会の軍隊を引き揚げさせたら、それこそ人類に怪しまれる。だから少数精鋭の中でも少数精鋭で行くしかない」

 

 といって、アザゼルがパチンと指を鳴らすと画像が切り替わった。

 

 そこにあるのは―

 

「ミサイルじゃん!?」

 

 イッセーのツッコミがすべてだろう。

 

 そこにあるのは、なんていうかミサイルというかロケットというか。

 

「これが、俺が経費をちょろまかして開発した、強襲戦闘用重装甲高速揚陸艇『回天』だ」

 

「特攻兵器じゃねえか!?」

 

 俺はネーミングに全力で突っ込んだ。

 

 あまりに縁起が悪すぎる。

 

「失礼なことを言うな。人造神器技術を利用した使い捨ての防御障壁は神滅具や核だろうと一発なら耐えられる。まあ、一瞬でマッハ6を超えるから並の悪魔でも体がもたないんだが」

 

「「「駄目じゃん!!」」」

 

 俺、イッセー、匙によるトリプルツッコミが飛び交ったが、しかし手段を選んでいる暇はないだろう。

 

 向こうもばらしたことで堂々としたのか、恐ろしいほどの転移対策がぶちかまされて、乗り込むのが大変らしい。

 

 しかも軍事的な防衛網も強固でどうしても発見されるから、近代的なこれで乗り込まないとまずい。

 

 そして、遠距離攻撃タイプもうかつには参加できない。

 

 派手に魔力をぶちかましたらごまかせないからだ。

 

「まあ、ヴァーリとイッセーには参加してもらう。あと宮白とアーチャーもな」

 

「待てこら殺す気か!?」

 

 俺のスペックをそんな高く見積もるな! 神格制御できないし、それだって上澄みもらっただけで実際格そのものは低いんだぞ!?

 

 アーチャーはどうだって? あいつ霊体だから物理的に死なないし。

 

「大丈夫だって。偽聖剣使えりゃ何とかなるだろ? あれ、対G対策だってしてんだから」

 

「確かにそうだが・・・あと誰送り込むんだよ?」

 

 設計図を見る限り、後乗れるのは五人ぐらいだが?

 

「あたしはいくぜ? 学園都市技術がかかわってるなら、ファックだがいた方がいいだろ」

 

「私も実質行かせてもらいます。身体能力の問題なら、実質出番です」

 

 と、いうことで小雪とベルが追加。ここに異論は無し。

 

「それなら私も行こうかなー。要塞攻略戦に慣れてるのって私ぐらいだろうしー?」

 

「ボクもいくからね!? こうなったら一人だけ仲間外れとかいやだからね!?」

 

 と、久遠とナツミも名乗りを上げる。

 

 ふむ、実力的には全員申し分ない。久遠も戦車に昇格すれば行けるだろう。

 

 さて、最後の一人は・・・。

 

「身体能力の問題だというのなら、ここはサイラオーグが適任かしら?」

 

 姫様が妥当な意見を口にするが、しかしここで声が放たれた。

 

「・・・俺が行こう」

 

 いつの間にか、クロウ・クルワッハが部屋の中にいた。

 

「どういうつもりだ?」

 

 真意を測りきれなくて、アザゼルが質問するが、それは静かな戦意で返答された。

 

「奴らはドラゴンをなめすぎた。その報復をしなければならない」

 

 なるほど、うん、マジだ。

 

 こりゃダメって言っても行きそうだし、うかつに介入させてもまずいか。

 

「いいか? リゼヴィムは倒していい、あいつはやりすぎた」

 

 それは、基本中の基本の大前提。

 

「それとイッセー、お前は両親を助けることを優先しろ。あの人たちは正真正銘の一般人だからな。・・・巻き込んだらいけないんだよ」

 

 それが、俺たちの共通認識。

 

「その通りだ。ご両親を助け出して見せろ、兵藤一誠」

 

「まあ、それぐらいのわがままを言う貢献はしているでしょう」

 

「儂からもほかの勢力の託しておこう。安心していいぞ」

 

 と、サイラオーグ・バアル、シーグヴァイラ・アガレス、そして孫悟空のお墨付きも得た。

 

 と、いうわけで俺たちは立ち上がる。

 

「チームD×Dの本来の目的を今度こそ果たすぞ。リゼヴィムの野郎に目にもの見せてやれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってなことを、今頃言ってる頃合いだろう」

 

 クージョーノケイ本部、その施設にてフィフス・エリクシルはそう告げた。

 

 その目の前にいるのは、兵藤一誠の両親だ。

 

「な、なにを馬鹿なことを―」

 

「さっき邪龍たちは見せたし、回復魔術も見せたはずだ。・・・信じられないだろうが、これは現実だよ」

 

 反論を一切封殺して、フィフスはそう告げる。

 

「この世には神も悪魔もドラゴンもいる。そして異世界も存在すれば輪廻転生も実証された。そして、兵藤一誠はその中心にいる」

 

 それは、フィフスの経験による事実。

 

 コカビエルが三大勢力の戦争を再発させようと動いたことから、この戦いは大きく揺れ動いたといってもいい。

 

 あれがきっかけになったからこそ、これだけの戦いが生み出された。

 

「この一年弱、この世界での戦いは兵藤一誠を中心に動いているといってもいい。まともな識者なら、誰もがあの男に注目している」

 

 歴代白龍皇の中でも空前絶後の素質を持つであろうヴァーリ・ルシファーを、不完全な禁手で膝をつかせた。

 

 旧魔王派代表シャルバ・ベルゼブブを圧倒し消滅させた。

 

 そして肉体を消滅させようと、二人の龍神の血肉をもらい復活する。

 

 今代の赤龍帝は間違いなく異常の領域だろう。

 

 何度も辛酸をなめ続けられたフィフスだからこそ、胸を張って断言できる。

 

 歴代で最も凶悪な赤龍帝は、間違いなく兵藤一誠だと。

 

 覇を乗り越え、そして『ムゲン』の領域へと至ろうとしているあの男は間違いなく世界の頂にたつ。

 

「少しぐらいは喜んだらどうだ? あんたらの息子は間違いなく頂上の領域だ。俺が言うんだから間違いない」

 

 動揺が抜けきらない二人をあざ笑いながら、フィフスは静かに外を見る。

 

 戦闘はこちらの方が優勢だ。

 

 確かに現代の科学は強力だが、学園都市の技術は数世代先を行く。

 

 いまだアメリカですら実戦投入がろくにできていないレールガンやレーザーを基本装備にしている自分たちが、この性能で劣るわけがなかった。

 

 さらに学園都市の技術は兵士を金で量産できる。

 

 強制的に知識を与えることができる学習装置(テスタメント)。そして技術を外付けする駆動鎧(パワードスーツ)

 

 これらによる圧倒的な戦闘能力の差は、二倍三倍程度の数の差をひっくり返す。自分たちが出るまでもない。

 

 そして何より、量産された能力者という兵士たちの凶悪性が有利を産んでいる。

 

 肉体の強度を何倍にも上昇させることで、榴弾砲程度ではびくともしない強度を手にする超能力を確保することができたのが大きい。

 

 彼の脳波を共有させることで、小銃程度ならびくともしない兵士たちを量産することができたのだ。

 

 白兵戦に持ち込むことで敵の船を破損することなく拿捕することができる。学園都市技術から考慮すれば時代遅れも甚だしいが、それでも使える手ごまが増えるのは十分だ。

 

 さて、招待状は送っているがどうやって来るのかが楽しみだ。

 

 そろそろ遊びは終わりだ。全力で行こう。

 

「さて、それではそろそろパーティ会場に行こうか。兵藤一誠を出迎えてやらないとな」

 

 さて、来るがいい兵藤一誠。

 

 おぜん立ては整えた。あとはお前次第だ。

 

 さあ、この窮地を乗り越えて見せるがいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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要塞、突入します!

 

 アメリカ合衆国は、間違いなく世界最強の軍隊である。

 

 他とは数も資金も桁が違う。技術水準そのものが圧倒的である以上、一対一(サシ)で戦えば負けることなどありえない。世界全部を敵に回しても勝てるとすら言われたことがある。

 

 そのアメリカが、先進国の協力を得ているのにもかかわらず圧倒されている。

 

「わが軍の損害はどうなっている!?」

 

「すでに戦力の二割を損耗! イギリスの艦隊は壊滅しています!!」

 

「制圧された船は十隻を超えました!! 戦闘中の船も十隻はあります! そのすべてがこのままでは一時間と保ちません!!」

 

「ドイツ軍の旗艦、制圧されました! 指揮系統が混乱状態です!!」

 

「インド軍は壊滅状態! フランスの艦隊も損耗率が限界です!!」

 

 なんだこれは、どういうことだ。

 

 技術水準において世界でも上位を占めている先進国の連合軍が、第三世界にまるで歯が立っていない。

 

 しかも、その被害のほとんどが白兵戦で制圧されるという悪夢以外の何物でもない光景が広がっていた。

 

「なんだ、なんだ、なんなんだ!? どこからあんな技術を開発した!?」

 

 まるで外側から与えられたとしか思えない。それほどまでに技術革新が進みすぎている。

 

 奴らは科学の発達した異世界から、力を与えられたとでもいうのか?

 

 くしくも正解を引き当てながら、艦隊司令官は撤退命令を下すことすら考えていた。

 

 このまま行っても兵士が無駄死にするだけだ。直接戦闘では勝ち目がない。それを司令官はしっかりと理解していた。

 

 核戦争の引き金を引くかもしれないが、核兵器による焦土作戦ぐらいしか勝算が思い浮かばなかった。

 

 本気でそれを進言するべきか。彼がそう考えてその時、オペレーターが大声を上げた。

 

「し、指令!? 後方からマッハ6で飛翔する物体があります!?」

 

「なんだと!? 聞いてないぞ!?」

 

 そしてそれが何だというのか。

 

 たった一つの超音速物体など、奴らの力では即座に撃墜されるのがオチだ。

 

 そう考えたが、しかし次の報告に目を丸くすることになる。

 

「げ、迎撃ミサイルをすべて喰らいながら、高速飛翔物体敵陣を突破!!」

 

 そのあまりにも非現実的な情報に、司令官は目が点となった。

 

「と、とにかく撤退信号を出せ! あんな理解不能な物体、奴らも少しは混乱するはずだ、その隙に撤退する!」

 

「よろしいのですか?」

 

 副官が念のために尋ねるが、しかしこれはどうこうしようもないだろう。

 

「まったく勝ち目がない。少なくともこの倍の戦力がなければ戦いにもならないだろう。他国の艦隊にも通達しろ。犬死をするか生き残るか、とな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のちに、この司令官の判断は英断と称賛されることになる。

 

 なぜなら、撤退が遅れた艦艇はそのすべてが無残に沈むことになるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Gで死にそう・・・」

 

「大丈夫か、宮白」

 

 割と本気でグロッキーになっている俺に、イッセーが心配して声をかけてくれる。

 

「おい早く復活しろ! 敵が一気にファックに来たぞ?」

 

 小雪がそう告げるが、しかし第一波は気にしなくてもよさそうだ。

 

 ・・・いま、軍事基地で竜巻が十は発生している。

 

 なんだこの天変地異。すごいよ俺の女。

 

「んじゃぁ作戦どうり、クロウ・クルワッハ。人の姿のままでひっかきまわせ。久遠とベルは監視」

 

「いいだろう」

 

「了解了解ー」

 

「承知いたしました」

 

 クロウ・クルワッハは陽動担当。とりあえず一番扱い悪くとにかく敵をひきつけてもらう。

 

 とはいえ立ち位置が立ち位置だから監視は必要なので、ぱっと見ファンタジー要素低めの久遠とベルで監視。

 

「んじゃ、適当に引っ掻き回したらあたしはデータを取りに行くぞ。ナツミ、サポートまかせた」

 

「まかせとけ!」

 

 科学知識に一番明るい小雪はデータの回収及び技術水準がどこまで上がったかの確認。ナツミがその護衛。

 

「たぶんリゼヴィムは親父さんたちと一緒だ。というわけで二天龍はタッグでよろしく。俺とアーチャーは・・・」

 

 イッセーとヴァーリは当然のごとく本命をつぶす。

 

 そして、俺とアーチャーは・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基地内に潜入するが、俺たちはスムーズに進んでいた。

 

 なにせ魔術による対科学術式は順調に研究されている。赤外線センサーぐらいならどうとでもなる。

 

 そして、ゆえに俺は目的地にたどり着いた。

 

 ターゲットは通信設備。俺の推測が正しければ、ディハウザー・ベリアルはそこにいる。

 

「・・・これが、その王の駒だ」

 

 そして、皇帝は王の駒の存在をぶちまけていた。

 

「いま公開しているリストこそ、その王の駒を使用している者たちだ。嘆かわしいことに、トップランカーの中にも何人も存在している」

 

 そして彼はそれ以上の情報を流出しようとして―。

 

「悪いがそこまでだ」

 

『通信を遮断するわよ』

 

 アーチャーが通信を遮断し、俺はディハウザーの前に姿を現す。

 

「・・・たしか、宮白兵夜くんだったかな」

 

「アウロス学園で会った時以来ですね、皇帝。・・・あんた今核爆弾のスイッチ押し掛けたぞ」

 

 感情的になりすぎて、冷静な判断力を失っているようだ。

 

「なんであのリベラルお人よしの良心の結晶みたいなサーゼクスさまですらこの情報を公開しないか考えたことあるか? ・・・悪魔が終わりかねないからだよ、この毒は」

 

「なるほど、王の駒までならともかく、レーティングゲームの不正の公開は冥界政府の転覆を意味すると」

 

 それはそれで問題だが、たぶん想像が甘いな。

 

「政府の転覆及び政治的混乱期は、あまりにも強力な劇薬だ。・・・今の腐敗した貴族連中に反乱を起こされたら、悪魔は滅ぶぞ」

 

「だが、ほかの神話体系との和平が進んでいるこの状況下ならその是正も可能だ。彼らの力を借りれば抑えらえるとは思わないか?」

 

「その結果傀儡政府になったらどうするつもりだ。悔しいがハーデスは氷山の一角でしかなく、海面の下にいる連中は、隙を伺っているんだぞ?」

 

 そう、嘆かわしいが神話体系を過度に信頼するわけにはいかない。

 

 オーディンの爺さんなど穏健なやつらもいるが、どさくさに紛れて三大勢力の地位を貶めたい輩は腐るほどいる。ハーデスが過激すぎただけで、隙を見せれば食らいつく連中はごろごろいるだろう。

 

 そんな状況下で政治的空白期を作れば、悪魔の命綱はほかの神話体系に奪われる。

 

 いくらなんでも危険すぎる。これを認めるわけにはいかなかった。

 

「王の駒については俺も少なからず噛んでいる。代用品作って一個横流ししろとゼクラム・バアルに交換条件だされてな。この時点でダメージが確定してるんだよ」

 

「保身だけではないから目をつむれと? 悪いが、それを許容できるなら最初からこんなことはしていない」

 

 だろうな。出なけりゃこんな大騒ぎは起こさない。

 

 ああ、どうせ実力行使になると思ってたよ。

 

 ベリアル家には魔力特性として「無価値」がある。

 

 これは、特殊能力の類を封印する能力と考えていい。ライザーとレイヴェルを瞬殺したのも、おそらくは不死の特性を無価値にしたのだろう。

 

 まともに喰らえばそれで終わる。こと一つの能力を中心としているイッセーなどの神器所有者としては致命的だろう。

 

 だからこそ、俺だ

 

「言っとくが、俺があんたの裏切りを察して何の対策を立ててないとでも?」

 

 いうが早いか、俺は注射器を自分に突き刺す。

 

 作ったのは特別製の血清。ベリアル家から血を収集し、それをベースに無価値の血清を作り上げた。

 

 これで無価値は無力化できるが・・・。

 

「だが、それだけでは無意味だろう?」

 

 即座に放たれた攻撃をかわし切れず、偽聖剣が一部砕ける。

 

 すぐに修復するが、しかしやはりまずいか。

 

 だがまあ、それも対抗できる範囲内。

 

「おいおい皇帝、俺がわざわざ()()()()()()()()、後ろめたさだけじゃないんだぜ?」

 

 蒼穹剣の時間はしっかり稼いでいる。

 

 ああ、アンタ相手に出し惜しみはしない。

 

 だが、たかが魔王クラスが主神クラスとやり合えるこれをどうさばく?

 

「アーチャー! 呪詛をかけ続けろ、弱体化をすればそれでいい!!」

 

『ええ、呪いは魔術師の本分。任せなさい』

 

 そしてこっちはサポートも万全!

 

「悪いが将来的な俺の義妹をだまし討ちしてくれたんだ、落とし前はつけてもらうぞ、皇帝!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




王の駒は許す。と時間稼ぎもかねて許してくれる当たり、兵夜は人はいいが性格は悪い。


それはともかくここまではフィフスにとって都合よく進んでいます。

イッセーは少人数で行動して、敵の三強もうれしい誤算。









そして、そこからどうなるかはもう少しです


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幽世からよみがえる兵藤一誠

今回、ついにフィフスがやらかします!







聖杯を奪ったのも






模擬戦にわざわざ乱入して兵藤一誠と戦ったのも






そしてイッセーの両親を誘拐したのも。









すべては、あの奇跡の覚醒を台無しにするというたった一つの目的のための布石です


 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺とヴァーリは、それぞれフィフスとリゼヴィム相手に激闘を繰り広げていた。

 

 だけど、こいつらはマジで強い。

 

「おいおいあまり暴れないでくれよ。・・・ディハウザーからお前の両親に危害を加えないように言われてるんだ。王の駒はあいつが持っていたからどうしてもデータが取れなくてな。交換条件を出されたらどうしようもない」

 

 この野郎! すでに王の駒のデータ取ってんのかよ!!

 

 まずいぞ。宮白の話では悪魔の駒をこいつらは作れる可能性があるっていうし、もしここで倒せなかったら状況がひっくり返る。

 

 王の駒につられて裏切る悪魔も多そうだし、ここで何とかして倒さないと!!

 

「この野郎! 俺の父さんや母さんまで誘拐して、いったい何のつもりだ!!」

 

 本当に何のつもりだよ!

 

 言いたかないけど、人質にするなり操って俺を狙うなりするだろ、こいつなら。

 

 それなのに、ヴァーリとリゼヴィムの戦闘の余波からかばうぐらいの安全まで配慮してる。こいつそんな性格じゃないだろ?

 

「・・・い、イッセー? お前、なんでそんなに強いんだ?」

 

 ・・・父さん、マジでごめん。

 

「悪い父さん母さん。こいつの相手は余裕がないんだ」

 

 あとで、しっかりと謝らないとな。これはマジで悪いことをした。

 

「まったくだ。自分を愛してくれる親は大事にした方がいいぞ」

 

 ヴァーリが俺の後ろに回りながら、そう告げる。

 

 神器を一切使わない魔法攻撃でなんとかリゼヴィムにダメージを入れてるが、それでもこっちもボロボロだ。

 

 少数精鋭で行くしかないから、回復薬のアーシアを連れていけないのが大変だな。

 

 俺ら、ほんとアーシアに頼り切りだなぁ。

 

「うひゃひゃひゃ! パパにいじめられた奴は言うことが違うねぇ? お母さんに慰められたことでもおもいだしたのかぁい?」

 

 リゼヴィムの野郎がヴァーリをあおるが、なんか様子がおかしくないか、こいつ。

 

 なんていうか余裕がないっていうかなんていうか・・・。

 

 いや、そんなことを言っている場合じゃない。

 

 ここで何とかしなけりゃ、ホントに世界が台無しになるぞ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 割と本気で死にかけた。

 

 あばらが三本は折れているし、内臓もいくつか破裂寸前。

 

 だが、勝利は目前だ。

 

「これが、あのハーデス神を倒した蒼穹剣か・・・!」

 

 ぼろぼろで膝をつきながら、ディハウザーは血を吐いた。

 

 もう少し苦戦するかと思ったんだが、勝因は簡単だ。

 

「・・・やって後悔するぐらいなら、やらない方がずっとましだとはよく言うぜ」

 

「君みたいな子供に言われるとは、私も衰えたな」

 

 単純なやる気の差だ。

 

 後悔しまくりで吹っ切れてないから、こうも簡単に追い込まれる。

 

 いくら対覇龍クラスとはいえ、もう少し戦闘できるだろうに。

 

「これ以上かかわらないなら逃げても構わないけどな。こっちとしても厄介な情報をばらさないなら、リゼヴィムとフィフスに集中したい」

 

 心から本音でそう告げる。

 

 イッセーなら捕まえるかもしれないが、俺は邪悪度高いのでその辺はかまわない。

 

「そうもいかないだろう。テロリストに内通したのだから、相応の罰は受けねばならない」

 

 そういうと、ディハウザーは両手を差し出す。

 

「捕縛用の道具は持っているのだろう? さあ、冥界に反旗を翻した私をとらえて褒章を得るといい?」

 

「それで黒い取引した分を帳消しにするといいってか?」

 

 それはそれでいいが、しかしそういうわけにもいかんだろう。

 

 俺が無事で済んだとして、ゼクラム・バアルがダメージを受けたら元も子もない。

 

 それならゼクラム・バアルの手のものがとっつ捕まえた事にした方がいいんだろうけど・・・。

 

「・・・いや、そういうわけにもいかん」

 

「その通り」

 

 と、部屋の天井ぶち壊して攻撃がぶっ放された。

 

 俺とディハウザーは即座に防御するが、これかなり強力だぞ!?

 

「・・・皇帝といえどしょせんは悪魔か。この程度とは情けない」

 

 そこにいたのは明らかに化け物クラスと思しき強大な存在。あとたしかアジ・ダハーカだったっけ?

 

 同等クラスということは、想定できるのは・・・。

 

「お前がアポプスか!」

 

「その通り。私がアポプスだ」

 

 その男はドラゴンの気配を隠しもせず、余裕の表情を見せる。

 

「すまないが、リゼヴィムとフィフスがうるさくてね。ドラゴンをこき使うとは愚かなやつらだとは思わないか?」

 

「あいつらは龍をなめている。あとで相応の報復をしないとな」

 

「マジ殺す! マジ殺す!」

 

「後で必ずぶっ殺す!」

 

 そういいながら、化け物ドラゴン二人がこちらにお襲い掛かろうとしている。

 

 ああ、本気で面倒くさいんだが、これはあれだな。

 

 ・・・アレ、使うしかないか。

 

 そんな覚悟を決めたとき、爆発的なエネルギーの開放を俺は察知した。

 

 その場にいる全員が振り返る先、その力は赤と紫のオーラを放出している。

 

 おいおいおいおい。これイッセーか?

 

 あのバカ、ここ表の世界だって忘れてないか!?

 

 いや、相手がリゼヴィムとフィフスなら仕方がないか。これはどうすればいいか困るがしかし必要か。

 

 今度は何をしたんだろう? まさか実の母親のおっぱいで進化とか・・・ないよね?

 

 だが、これはこれで逆転タイムのスタートだ。

 

 毎度のことながらこいつ化け物だろう。

 

 と、思ったその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、兵藤一誠はよみがえった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の中のオーフィスとグレートレッドの力が覚醒するその時、フィフスは歓喜の笑顔を浮かべた。

 

「それを・・・待っていた!!」

 

 途端に魔法陣が展開し、そこから一つの神器が現れる。

 

 あれは、聖杯?

 

「やれ、キャスター!!」

 

『はいよー!!』

 

 キャスターの声が響き、そして聖杯が光り輝く。

 

『さあ、復活の時だよ兵藤一誠!』

 

「このために、このためにあんたらを誘拐したんだよご両人! さあ喜べ、お前の息子は正しく復活する!!」

 

 そう二人が叫び、俺の何かが引っ張られる。

 

 なんだ? あの野郎一体何をした。

 

 そう思った次の瞬間、俺の体が引きはがされた。

 

『相棒! お前の魂が何かに引っ張られているぞ! これは・・・まさか!?』

 

 その引っ張られる何かに視線を向けると、そこには誰かが立っていた。

 

 あれは、あれは・・・。

 

「・・・おれ?」

 

 そうつぶやいた瞬間、その時映っていたのも俺だった。

 

 だが、その体の近くには父さんと母さんがいる。

 

 なんだ? いったい何があった?

 

『相棒! まずいことになったぞ』

 

 なんだよドライグ!? 俺はいま混乱してるんだけど!?

 

『今お前の目の前にいるお前は、オーフィスとグレートレッドで作ったお前の体だ。・・・お前は、体を入れ替えられた』

 

 ・・・・・・・・・は?

 

 ちょっと待て、それってつまりあれか?

 

 さっき俺が見た俺そっくりの体に、俺の魂が入れられたってのか?

 

 唖然とする俺の目の前で、俺の体がフィフスのところに移動していく。

 

 まったく訳が分からずぽかんとする全員のなか、フィフスと俺の体だけが悠然としていた。

 

「完了いたしました、フィフス様」

 

「ご苦労ザイード。龍神でできた体はどうだ?」

 

 ざ、ザイード? いったい誰だ?

 

「恐ろしく強大な体でございます。これだけの体を相手にして、フィフス様はよく戦えた」

 

 そう、体の調子を確かめる俺の体をしげしげと眺め、フィフスは満足げにうなづいた。

 

「うんうん。聖杯をわざわざ奪ったかいがあった」

 

「お、おいおいフィフスちゃん? これどういうことか説明してくれない?」

 

 リゼヴィムが全くよくわかっていないのか首をかしげる。

 

 え? リゼヴィムも知らされてないのか?

 

「OKOK。まず説明するが、今発動させたのは幽世の聖杯(セフィロト・グラール)の亜種禁手。幽世からよみがえる兵藤一誠(セフィロト・リザレクション・アズライグ)だ」

 

 そう告げながら、フィフスは聖杯を弄ぶ。

 

「次元のはざまから回収した兵藤一誠の肉体を、わざわざ誘拐した親御さんの細胞をつかって復元、そして第三魔法の残滓とアザゼルの人造神器技術を組み合わせて具現化させた。兵藤一誠の魂を体に入れる亜種禁手だ」

 

 俺は、フィフスの言っていることがよくわからなかった。

 

 え? 俺の体を・・・入れ替える。

 

「全く別物の細胞で作った体より、オリジナルの細胞と肉親の細胞を使った体の方が親和性は高い。ましてや小聖杯の技術すら流用した兵藤一誠の魂を入れるためだけの器だ。聖杯の禁手をそれだけのために使えば、確実にいけると踏んでいた」

 

 あ、あいつは何を言っているんだ?

 

 俺の体を、入れ替える?

 

 そのためだけ?

 

 そのために、聖杯を確保したのか?

 

「・・・いやフィフスちゃん? 君はあれかな? あほかな?」

 

 リゼヴィムの言いたい事はよくわかる。

 

 そんなことのためだけに、聖杯を確保するなんて何言ってるんだ?

 

 何よりあいつは、そのためだけの禁手って言いやがった。

 

 じゃあ、それ以外の機能はないってことだろ?

 

 なんでそこまでする必要があるんだよ!!

 

「・・・いや、必要経費だろ」

 

 きょとんと、何を言っているのかわからないという顔で、フィフスはそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兵藤一誠は、化け物だ。

 

 悪魔という意味ではない。龍という意味ではない。ましてや人間じゃないという意味でもない。

 

 人は、理解を超えた存在を化け物と呼称する生命体だ。

 

 兵藤一誠は間違いなく弱い。

 

 肉体が弱い。ただの人間ベースの転生悪魔ということはもちろんだが、特に優れた由来も何もない高校生の平均値の範囲内だ。特に戦闘訓練や格闘技をしていたという話も聞いてない。せいぜいがばか騒ぎのせいで平均値より少し体力があるという程度。

 

 異能が弱い。赤龍帝という時点で確かに規格外だが、十代後半になっても神器が目覚めもしなかった以上、その適正は低いといえる。悪魔になりたての頃は、転移すらできないというありさまだ

 

 心が弱い。日本でハーレムという困難な目標を設定し、莫大な煩悩を持ちながら、努力を行えない。覗きという明らかなマイナス行為をやめないという時点で、性根が弱いとしか思えない。

 

 なのに、この男は強大だった。

 

 覇を克服するという規格外のまねをしてのけた。

 

 ヴァーリ・ルシファーを一度は退け、魔王クラスすら倒してのけた。

 

 なにより、グレモリー眷属という弱いくせに強い意味が分からない集団の中心となっている。

 

 ましてや肉体を天敵で消滅させるという絶対に死ぬ状況を潜り抜けるというあり得ない真似すらしてのけた。

 

 そして、女の胸という現象でこの男は数々の異常事態を巻き越している。

 

 乳首をつついて禁手に至るというのはまだいい。胸に顔をうずめて興奮で覇龍を制御するというのもまだいい。胸を半減されると聞いてヴァーリを上回るというのも今ならかろうじて許容しよう。

 

 神器は想いの力で駆動する兵器だ。精神力ならまあ種類は問わなくても問題ない。性欲とは三大欲求の一つなのだから、それなりに強大な力を発揮するのは仕方がないだろう。

 

 だが、パワーアップの過程で京都を痴漢の渦にするのはさすがにおかしい。あとコストパフォーマンスが悪すぎるというか、普通に呼べと思う。

 

 しかも異世界から乳をつかさどる神がわざわざ来るとか異常過ぎる。

 

 あり得ない。

 

 どうかしてる。

 

 そんな馬鹿な。

 

 この時点で、フィフス・エリクシルは兵藤一誠を最大の脅威と認定した。

 

 真理の探究者である魔術師(メイガス)の自分がたどり着いた真理を、胸ごときで突破されるなど悪夢でしかない。

 

 一時期ノイローゼにもなったが、分割思考の応用で何とか回復できた。

 

 だから、兵藤一誠の対策は徹底的に積んできた。

 

 レイナーレの改造もその一環だ。女相手なら業魔人を使ったジャンヌすら一蹴するイッセーに、女でまともに渡り合えるようになるならこれは成功作だろう。

 

 そして、最も警戒するべきは龍神の肉体だ。

 

 なにせ規格外の頂点に到達する存在の血肉だ。もし兵藤一誠がそれをものにすることができれば、ヴァーリ・ルシファーなど足元にも及ばない超越者に到達する。

 

 だからこそ、奴が龍神の体を手にしたとわかった時点で対策を研究した。

 

 その際着眼したのは、まだなじんでいないという事実だ。

 

 ならば、無理やり引きはがすことはできるかもしれないと考えた。

 

 自分は魂を司る第三魔法の系譜。生命の創造も手を付けている以上、器を作れる可能性はある。小聖杯よりは楽な作業だろう。

 

 そして、幽世の聖杯の情報が手に入ったのは僥倖だった。

 

 魂と生命を司る神滅具は、驚くべきことに今代においては三つも存在していた。

 

 だから一つ回収し、それを兵藤一誠を移し替えるために特化した。

 

 業魔人の技術を流用し、聖杯戦争で得たノウハウも注ぎ込んだ。体当たりでデータもとり、方向性も修正した。

 

 だが、相手は龍神と天龍、そして兵藤一誠だ。

 

 そう簡単にはいかないだろう。何かしらの隙を突く必要がある。

 

 だからこそ、覚醒という揺らぎを利用する覚悟を決めた。

 

 だからこそ、覚醒しやすい状況を作り出した。

 

 おっぱいで奇跡を起こす男なら、母親の乳という初めて吸い付くものに覚醒するだろう。親の前で窮地に追い込まれるならなおさらだ。ましてやより押し付けやすい体を作るには肉親の遺伝子が必要だし、一石二鳥ともいえる。

 

 結果的には想定外の方向に発展したが、まあ大体いい感じにはまってくれた。

 

 そして、禁手を発動して魂を回収する。

 

 ついでにアサシンの一人に体を注ぎ込んで、奪い返される可能性を下げることも忘れない。

 

 龍神の肉体なら戦力としては十分だ。むしろ規格外といってもいい。

 

 ・・・そう、すべての準備は整った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、今こそ独立宣言を始めよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




幽世からよみがえる兵藤一誠は、正真正銘の兵藤一誠用限定の禁手です。

事前に用意した体に、イッセーの魂を入れ替える。

能力はたったそれだけ。しかも聖杯としての機能は使えなくなり、一回使えば焼け付いて使用不能。

汎用性全くなしの超限定特化型亜種禁手。ですがその分効果だけは絶大。龍神の力ですら突破できます。









フィフスはさんざん辛酸をなめさせられたことから、イッセーのことをトラウマレベルで危険視しています。そりゃもう規格外レベルで。

ゆえに理解はできないがとりあえずやばすぎる。何かあったら絶対覚醒すると踏んでおり、そのため二つのムゲンを宿した今のイッセーを心から警戒していました。

だから、そのための対抗手段を考えた結果「龍神の体奪おう。こっちにも材料ができて一石二鳥」という判断を下したのです。

そのためだけにわざわざもう一つ聖杯を奪って、その力をそのためだけに特化運用。想でもしないと龍神の力を抑制できないと思ったからです。

そして、確実に入れ替えるための器を作るためにわざわざ模擬戦に乱入してデータを改宗しようとしました。点と点をつなぐことでラインが予測でき、より有効な術式が組めるから。結果的にイッセーが復帰して戦闘したのが裏目に出た形です。

そして、限界まで最上級の材料を手に入れ、なおかつ不確定要素が増える前にイッセーをおびき出すためにわざわざ誘拐しました。母親の乳というある意味規格外のおっぱいを使えば、新たな覚醒を促せると踏んだうえでのことです。

そして、それらすべては結果的にうまくかみ合い、兵夜たちにとっては最悪の結果に。









こっから、フィフスは大暴れします。とにもかくにも大暴れします


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666の獣よ、永劫の眠りとともに機械の箱舟に染み渡れ

フィフスやらかしMk-2









たぶん型月ファンならだれもが気づいていることでしょう。









あれ? レイヴンいるならすぐに封印解けない? と


 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 種を明かしたフィフスは、心から安堵した顔を浮かべる。

 

 その顔を見て、俺は奴が本気で言って実行したことを理解した。

 

 なんだそりゃ。

 

 俺の体を移し替えるためだけに、聖杯を奪った?

 

 しかも、あいつの話が正しけりゃ、そのためだけにあいつはあの模擬戦に乱入したってのか?

 

 そして、そのタイミングを見計らうためだけに俺の両親を誘拐した?

 

「狂ってんのか、お前」

 

 どうかしてるとしか思えない。

 

 俺を、するかもわからない覚醒を何とかするためだけに聖杯奪って特化した禁手作ったって?

 

 前からこいつは俺のことを危険視してるとは思ったけど、異常すぎるだろこいつ。

 

「俺も兵藤一誠のことは評価していたが、お前には負けるな・・・正気とは思えん」

 

 あのヴァーリですら、開いた口が塞がらないかのように唖然としている。

 

 だけど、フィフスは何を言ってるんだって顔をした。

 

「実際龍神を覚醒させてるじゃねえか。見ろ、このデータが正しければこれだけで神滅具の禁手に匹敵する出力だぞ?」

 

 そういいながら、フィフスはあきれ果ててため息をつくと、首を振った。

 

「・・・トライヘキサの封印を解除すれば押し切れる可能性はあったが、さすがにそんなことするのはリスクが大きすぎるしな。念のため龍神の肉体を確保してからやるつもりだったがうまくいってよかった」

 

 こ、この野郎。そのために封印解除まで待ってたってのか!?

 

 余裕があるのかないのかわからねえ。この野郎、ちょっとノイローゼになってるんじゃ―

 

「―おい、ちょっと待て」

 

 と、リゼヴィムが険悪な表情を浮かべながら割って入る。

 

 なんだ? この野郎共犯者のくせに―

 

「今の言い方じゃ、トライヘキサの封印を解けるって言ってねえか、お前!!」

 

 え?

 

 ちょっと待て、今リゼヴィムはなんていった?

 

 トライヘキサの封印が解けるって、こいつは知らなかった―

 

「ああ、そういえば言ってなかった」

 

 フィフスはそうポンと手を打つと―

 

「お前はもう用済みだ」

 

 次の瞬間、リゼヴィムの背中に何本もの武器が突き刺さった。

 

「・・・な」

 

 呆然として、リゼヴィムはそのまま倒れる。

 

「悪いなリゼヴィム。俺らはお前と違って俗物でな、異世界に侵略とか面倒くさい真似に興味ないんだ」

 

 虫の息のリゼヴィムをそう見下ろしながら、フィフスは後ろのモニターを見るように指をさす。

 

「さて、それじゃあ俺たちが何を考えているかを御覧に入れようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 内部でデータを調べ上げていた小雪は、事態は半ば手遅れだという事が理解できた。

 

 すでにクージョー連盟に参加している国家は相応の技術を提供してもらっていた。

 

 これは例えていうならあれだ。第二次世界大戦にイージス艦が参入してくるようなものだ。それも一隻や二隻ではなく、それらを運用する基地やミサイルなどを補給するラインまで出てくるようなものだ。

 

 この戦争、どう平和的な解決を想像してもクージョー連盟の存在を認めないわけにはいかない。

 

 不幸中の幸いは、これが国家同士の寄り合い所帯だという事実だ。

 

 トップが倒れれば内乱が起こって勝手に事態が収束する。それを指を食わせてみていればそれでいい。

 

 そこからくる大量の技術流出こそ脅威だが、さすがにそこまで止めるわけにはいかない。そのあと暴走するのを止めるぐらいのことはさせてもらおう。

 

「とにかく、すいだした技術はアメリカとか日本とかに売った方がいいか」

 

 物理的に破壊されてデータの吸出しが完了しなかったが、まあいい。

 

 これだけ吸い取れれば、二年もすれば先進国は実用化できる。当分はこれを利用した国際共同開発の戦闘機が主力になるだろう。

 

「おい小雪! ちょっとやばいぞ、コレ!!」

 

「ファックに知ってるよ! ああまったく、これで人間界は十年は紛争状態だ」

 

 火薬庫に大型の爆弾が投げ込まれていたようなものだ。被害がこの程度で済んでいることが奇跡に近い。

 

 魔法の力でシャットアウトしても、果たしてどこまで防げるかどうかだろう。

 

 だが、ナツミの悲鳴はそんなことが理由ではなかった。

 

「いいからこっち見て! あそこ、あそこ!!」

 

 その声に、かなりのレベルで恐慌が入っているのを見て、小雪は視線を向ける。

 

 そして、固まった。

 

「・・・・・・ファ・・・ック!」

 

 そこにあったのは半壊したドーム。

 

 全長1kmを超えるかもしれない大きな台座の上に、巨大な化け物が卵の殻を破るように封印を破り始めていた。

 

 誰が見ても分かる圧倒的な存在感。何より近づくだけで消し飛ばされかねない莫大なオーラ。

 

 間違いなく、あれがトライヘキサだ。

 

「封印が・・・解除されてるのか!?」

 

「まずいぜ小雪! これ、兵夜さがして逃げないとだめじゃない!?」

 

 ナツミが気弱な意見を漏らすが、これは仕方がないだろう。

 

 今の自分たちでは勝ち目がない。それどころか、手も足も出ずに吹き飛ばされる可能性があった。

 

 蒼穹剣を使った兵夜でも無理だ。極覇龍を使ったヴァーリでも無理だ。三宝を使ったイッセーでも無理だ。手加減を捨てたクロウ・クルワッハでも無理だ。

 

「小雪! データは、データはとれたの!?」

 

 逃げ出したいけど手ぶらで逃げるわけにはいかない。そんな感情を込めながら、ナツミは小雪をかばうように立ちながらがくがく震えていた。

 

 別に逃げ出しても怒るに怒れないのに、律儀な少女だ。

 

 緊張をほぐすのもかねてハグしてから、小雪はしっかりとうなづいた。

 

「ああ。奴はD×Dの総力戦だな」

 

「・・・うん!」

 

 その時は負けない、と気合を入れなおして―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは、実質まずいですね」

 

 大隊の敵を叩き潰してきたが、これはさすがに危険すぎる。

 

 ベルは間違いなく窮地の一歩手前だということを理解して、冷や汗が流れるのがわかる。

 

「あれが、トライヘキサか。・・・勝てんな」

 

 ただ事実だけをつげ、クロウ・クルワッハはトライヘキサを見る。

 

「逃げた方がいいだろう。奴を相手にするには手数が足りなさすぎる」

 

「同感だねー。兵夜くんに撤退指示を入れないとー」

 

 と、通信用の魔方陣を展開しようとした久遠はあることに気づく。

 

「・・・あれ?」

 

 トライヘキサの様子がおかしい。

 

 封印を解除したばかりでテンションが上がっていてもおかしくないのに、急に苦しみ出したのだ。

 

 否、その場にいる全員が理解していた。

 

 あれは苦しんでいるのではない。断末魔だ。

 

「えー? えー? ど、どういうことー?」

 

「ふ、封印解除の際になにかトラブルがあったのでしょうか?」

 

「いや、違う」

 

 戦闘態勢を何とか維持しながら混乱するという器用なまねをする二人を制し、クロウ・クルワッハは断言する。

 

 あれは、封印を解除したことによるトラブルなどでは断じてない。

 

 起きていることはもっと単純。そして、彼をもってしても思いもよらない事態だった。

 

「あれは、封印が解除された隙を突いて殺されたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死にゆくトライヘキサの上で、レイヴンはため息をついていた。

 

 直死の魔眼でトライヘキサの封印を殺し、そのままトライヘキサを殺す。自分にしかできないことではあるが、負担が大きいことを考慮してくれていないだろう。

 

 とはいえ、この工程は確かに必要だ。

 

 いうことを聞いてくれるかわからない化け物を、放し飼いにするほど自分たちはおろかではない。

 

 だからこの過程は必要であり、まあ少し興奮する環境であることも事実なのだ。

 

「さて、トリプルシックス起動。・・・よく食べるといいぞ?」

 

 そういい、起動スイッチを押す。

 

 そして、トライヘキサの台座がトライヘキサを食い始めた。

 

 キャスターによるいくつもの魔術術式が、レイヴンの研究の元死体を取り込んでいるのだ。

 

 これぞ、錬金術と死霊魔術と人口神器と学園都市の協奏曲。

 

 666の遺体を力の動力源とすることにより駆動する。疑似的に作り上げた対世界宝具。

 

 さあ動け。トリプルシックス。

 

 今こそ、世界にその咆哮をとどろかせるのだ。

 

 すべては、自分たちが好き勝手に生きていける世界のために!

 




直死の魔眼、発動。レイヴンはほんとチートなんです、眼は。


まあ、兵夜も推測させてたはずですがレイヴンの眼なら封印なんてすぐに殺せるし、トライヘキサもグレートレッドも理論上は殺せる。

今までそれをしなかったのは大きく分けて二つの理由。

1 リゼヴィムの野望に付き合う気がそもそもあまりなかったから

2 そもそもトライヘキサをそのまま操れるかどうかが疑問だったから

しかしフィフスの目的を万全にするためには、そして万が一全勢力を相手取るにはトライヘキサはあった方がいい。

そこで、レイヴンとキャスターの技術を利用して、トライヘキサの死体を取り込んで駆動する超大型人造神器を開発。その完成までなあなあで引き延ばしていました。

こっからがラスボスフィフスの本領発揮。ある意味原作以上に派手に行きます!


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幻想の暗黒鬼、起動

スーパーフィフスタイム、サビ入ります。








お好きな処刑用BGMを流してお聞きください


 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

「この野郎がぁあああああ! 俺の、俺の異世界侵略を何だと思ってやがるぁああああああ!!!」

 

 激高するリゼヴィムの拳を軽々つかみ、フィフスはガ・ボルグを呼び出した。

 

「ぶっちゃけ迷惑」

 

 その言葉とともに首をはねると、フィフスは苦笑しながら肩をすくめる。

 

「いやさ? そもそも研究者である魔術師(メイガス)にとっては、世界なんて邪魔しなければ興味ないんだよ」

 

 首をコキコキと鳴らしながら、フィフスはそう言い切った。

 

 世界なんて、おまけだと。

 

「目的のためなら国一つクーデター起こしてやろうが、リスクだらけの異世界侵略なんて心底無駄。まあ、秘匿の観点から言えば誰もいらない世界に移動するのもありだが、想定外のことが起こりそうだからな。一応宮白兵夜にアポプス達を差し向けたし、相打ちになってくれるのが理想形だな」

 

 宮白の無事も心配だけど、それより心配するべきなのは父さんと母さんだ。

 

「二人とも、下がってくれ。・・・こいつは本当にやばいんだ」

 

「あ、ああ・・・」

 

「イッセー、気を付けて」

 

 二人の心配してくれる言葉が身に染みる。

 

 だけどそれを味わってもいられない。それぐらいやばい。

 

「そして、俺の周りは全員わりと俗物だ。リゼヴィムとの共闘は面倒以外の何物でもない。それが俺らの結論さ」

 

 そして、奴らはリゼヴィムを裏切った。

 

 思えば、この計画をエルトリアは知っていたんだろう。だからあんな思わせぶりなことを言っていたんだ。

 

 逆に、ザムジオは切り捨てられる側だろう。あいつまじめすぎるから、グレートレッド撃破は最初から曲げてないし

 

「トリプルシックスがあれば、神話勢力が五つやむっつまとめてきても返り討ちにできる。抑止力としては十分だ」

 

 文字通り、命が宿りつつある巨大戦艦を背にしながら、フィフスは静かに拳を構える。

 

「じゃあ、邪魔者の抹殺を狙うとするか―」

 

 ・・・来る。

 

 フィフスの両手が燃え上がり、そしてさらに変化する。

 

 その炎はまるで毒のように鮮やかすぎる紫に染まり、周囲の床が溶け始める。

 

「新技、モード毒炎竜」

 

 そう言い放ち、フィフスは突撃する。

 

「兵藤一誠、下がれ!!」

 

 ヴァーリは魔法障壁まで這って迎撃するが、フィフスの拳はそれに真正面からぶつかり合う。

 

「両親を連れて距離をとれ! ・・・極覇龍を使う!!」

 

 ヴァーリにそこまで言わせるほどかよ! 

 

 くそ、だからって俺も何もしていないわけじゃない!

 

「我は万物を打ち砕く龍の豪傑なり!!」

 

 戦車を展開して、俺もまた殴り掛かる。

 

 ああ、距離をとっている暇はない。

 

 こいつはここで倒すしかないんだよ・・・!

 

 そして、フィフスはそれを見て歯を剥いて笑う。

 

「ああ、ああ、ああ! そう来ると思ってたぜこれが!!」

 

 俺たち二人の攻撃を捌きながら、しかしフィフスの体には傷が増える。

 

 二天龍のタッグならなんとか行けるか? いや、こいつのことだから何か隠しているはず!!

 

 それより先に・・・ここで倒す!!

 

「いや、甘い」

 

 その瞬間、俺たちは全く別々の場所に飛ばされていた。

 

 ・・・空間転移!? いつの間に!!

 

「魔術師なめたらいけないな。自分から用意した戦闘空間にトラップの一つぐらい設置してる」

 

 そうあざ笑うフィフスの手には、一振りの警棒が握られていた。

 

 ・・・ヤバイ。

 

 間違いない。心から言える。

 

 あれが、フィフスの切り札だ。

 

 だけどこの一瞬のスキはどうしようもなくて―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、『黒』だった。

 

 あらゆる光を飲み込むような、漆黒の鎧。

 

 どこか機械的な鎧は、しかしスマートな外見から生物的な印象も与えていた。

 

 そして何より、そのオーラだ。

 

 放たれるオーラはそれこそ二天龍の鎧に匹敵・・・それ以上の出力を放出している。

 

 隠す気など一切ない。これを抜いたからには真正面から敵をつぶす。

 

 それだけのシンプルな殺意が、滾々と湧き出ていた。

 

「|幻想の暗黒鬼《フルウェポン・ジャバウォック・パワードアーマー》。超獣鬼は強力だが大味すぎでな。こっちの方が兵器として使いやすい」

 

 そう告げながら、黒い鎧に包まれたフィフスは、己の体の調子を確かめるかのように体を動かす。

 

 そして、その視線がヴァーリに向いた。

 

「さて」

 

 そして拳がめり込んだ。

 

「・・・が・・・ぁ・・・っ!!」

 

 緊急事態に隙ができていたとはいえ、あまりの事態にヴァーリはダメージすら忘れて唖然となる。

 

 史上最強の白龍皇である自分が、反応すらろくにできなかったという事実に、目の前の脅威が異常の極みであることを自覚する。

 

 そしてそのままヴァーリを壁に殴りつけながら、フィフスは即座にイッセーに向かう。

 

 それに対して、迎撃の拳を放てたイッセーは十分すぎるほどの凄腕だった。

 

 それも、とっさの迎撃ではなく、本気の一撃を叩き込むなど高い判断力の表れすぎだろう。

 

 だが、すべては足りなかった。

 

 拳と拳がぶつかり合た瞬間、飴細工のようにイッセーの右腕が砕けた。

 

「ぐ・・・ぁあああああああ!?」

 

「イッセー!?」

 

 父親の絶叫を聞きながら、イッセーは歯を食いしばって膝はつかない。

 

 が、その隙は致命的だった。

 

 ひざげり、ボディブロー、かかと落とし、ハートブレイクショット。

 

 一瞬でそれだけの攻撃を受け、兵藤一誠は全身から血を噴出して吹き飛ばされる。

 

 そして、それを見てからフィフスは構えを取り直した。

「さて、まだ動けるだろう? |余()()()()()?」

 

 フィフスは全く油断していない。

 

 二天龍を圧倒するという異形も、しかし彼を安心させるには全く足りない。

 

 あまりにも足りないのだ。兵藤一誠は間違いなく胸の力を覚醒させるだろう。

 

「さあ、早く乳を持ってこい。つつくか? すうか? もむか? 嗅ぐか? まあさせないが、やる努力ぐらいは許してやる」

 

 一切のスキなく、何かの動きが出てきた瞬間に殺しに行ける出力を維持しながら、フィフスはそう告げる。

 

 いつ覚醒しても何らおかしくない。だから警戒は怠らない。

 

 フィフスは何の油断もなく、攻撃態勢を整えた。

 

 

 しかし、何も起こらない。

 

 フィフスはそれに大してため息をつくと、即座に殺しに行くべく駆け出した。

 

「さ、させんぞ! 俺の息子は殺させないぞ!!」

 

 目の前にイッセーの父親が立ちふさがり、母親もかばうが、かまわない。

 

 危害は加えるなといわれたが、相手から邪魔してきた場合は話は別だ。

 

 第一兵藤一誠なら覚醒の一つや二つして無理やり起き上がって守るだろう。そのついでに殺してしまえばいい。

 

 そう割り切ってフィフスは拳を突き出そうとし。

 

「ふざけたことをしているようだな、フィフス・エリクシル」

 

 前からの強襲を交わし、その勢いでケリを叩き込んだ。

 

 ケリで弾き飛ばされた部外者は、しかしすぐに間合いを詰めると攻撃を再開する。

 

「よう、クロウ・クルワッハ」

 

「・・・お前はドラゴンを舐めすぎた。アポプスとアジ・ダハーカも黙ってはいないだろうな」

 

 超高速での攻撃がかわされるなか、クロウ・クルワッハは怒気を漏らしていた。

 

「オーフィスボコられて兵藤一誠まで怒られたのがそこまで不機嫌かい? アンタも人間にやさしくなったもんだ・・・な!」

 

 フィフスはうっとうしいといわんばかりに、クロウ・クルワッハのみぞおちに膝蹴りを叩き込む。

 

 ミシミシという音が響くが、しかしクロウ・クルワッハはその足を抱え込んだ。

 

「腹立たしいが、今は共闘するべきだ」

 

「ああ、そうだろうな」

 

 その言葉が聞こえるより早くフィフスが放った裏拳は、ヴァーリに即座に止められる。

 

「兵藤一誠は俺の獲物だ。誰にも殺させはしないよ」

 

「んじゃああの世でやってくれ。それなら誰も邪魔しない」

 

 直後、全身から毒炎が放たれて二人は即座に距離をとる。

 

 天龍クラスと同時に相手をする。そんな地獄以外の何物でもない状況におかれながら、フィフスは全く動じていない。

 

 その後同時に迫りくる二人の攻撃を捌きながら、フィフスは余裕すら見せていた。

 

 百年にわたる研鑽。超獣鬼という龍神すら足止め可能な戦力。そして何より願いにかける覚悟。

 

 それらすべてが、主神の領域にすら到達している存在を同時に相手取るという奇跡を成し遂げる布石となる。

 

 そして、その戦闘は短時間もてばそれで十分だった。

 

「なあ、滅龍魔法はその特性の物体を食べてエネルギーに変える。その特性上、その手のタイプには無敵じみた耐性を持つ」

 

 針金の腕すら用いてすべての攻撃を裁きながら、フィフスはそう告げる。

 

「火龍なら炎で天龍なら大気だ。滅の特性をもつ魔法は、同類でなければ同種の能力で相手をすることはできない。それほどまでに抵抗力が高くなり、むしろ養分と化す」

 

 そういいながら、フィフスは器用に針金の腕でカプセルを飲み込んだ。

 

「さて質問だ。龍にとっての猛毒を、毒龍は無効化することが可能か?」

 

 その言葉の意味に気づいたのは、くしくもヴァーリだけだった。

 

 イッセーは瀕死でそもそも聞こえておらず、クロウ・クルワッハは経験がないため反応が遅れた。

 

 そして、ヴァーリですら反応しても間に合わないほどの一瞬で、フィフスは双方に一撃を叩き込んだ。

 

「さあ、これで終わりだ」

 

 そして、鮮血が飛び散った。

 




フィフスにも鎧を用意させていただきました。

超獣鬼を残したのは偏にこのため。もったいなかったのでこうやって持ち込んでみました。

龍神であるグレートレッドの攻撃にすらなん回も耐えた化け物を宿しているだけあって、その能力は驚異的。変な特性は一切ありませんが、ゆえに格闘戦の達人であるフィフスとの相性は抜群です。

そして、フィフスの切り札はもう一つあり・・・


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地球史上最狂の脅迫

もちろんですが、最初の計画にトライヘキサは入っていませんでした。

ですが、計画としては割と大筋は変わってません。

その場合、ネックとなるのはオーフィスです。

・・・さて、フィフスはオーフィスをどうするための方法として何を狙っていたでしょうか?


 

「なん、だと?」

 

 膝から崩れ落ちて、クロウ・クルワッハは呆然とした。

 

 目の前の男は何をした? 今まで二対一とはいえまともな勝負になっていたのに、突然ダメージが桁違いに上昇した。

 

 もはや立つことすら困難なダメージを与えて、フィフスは口からこぼれた血をぬぐった。

 

「・・・普通に食べれるものも食べすぎると中毒を起こす奴があるが、さすがにこれは劇薬だったかこれが」

 

 とはいえなんてこともないようにしているフィフスを、ヴァーリはにらんだ。

 

 あり得ない。いくらなんでも二度もそんなことをするわけがない。

 

 そんなことをすれば今度こそ滅される。和平の流れを台無しにした反逆者でありながら、世界に必要な立場であるがゆえに許されたが、そんなハーデスでも何度もできることではない。

 

 だが、フィフスが使ったものは紛れもなく自分が味わったあれである。

 

「なぜ、お前がサマエルの毒を持っている・・・っ」

 

 サマエル。龍喰者(ドラゴン・イーター)のコードネームを与えられた、龍に対する絶対者。

 

 あのオーフィスですら無力化された圧倒的な対龍兵器を、フィフスが所有している事実に驚愕する。

 

 いくらなんでも二度もハーデスが解放するわけがない。

 

 そんなことをすれば、宮白兵夜はどんな手段を用いても確実にハーデスを滅ぼすだろう。そもそも世論が許しはしない。

 

 そして、フィフスは確かにそうだと首を縦に振る。

 

「ああ、簡単だ。・・・セミラミスってやつを知っているか?」

 

 セミラセス。世界で初めて毒を用いた暗殺を行ったとされる、アッシリアの女帝。

 

「奴は宝具であらゆる毒を生産する。データさえあるのならばサマエルの毒だって作り出せる。究極の毒宝具を保有している」

 

 回復薬を飲みながら、フィフスはにやりと口元をゆがめる。

 

 さあ、ここまで言えばわかるだろう。

 

「・・・そのサーヴァントを、降臨させたのか!」

 

「正解だこれが。わかるか? 幻想兵装(あれ)ができた時点でお前らはいつでも殺せたのさ。・・・安定して確保できるようになったのは最近だがな」

 

 ヴァーリが、恐ろしいことにリゼヴィムに同情心すら抱いていた。

 

 この男はとっくの昔にグレートレッドを殺しうる牙を持っていたのだ。それを知らずにせっせと必要のない封印解除を行っていたのだと思うと、憐みすら感じてしまう。

 

「ならばなぜ、兵藤一誠に使用しなかった?」

 

「何言ってんだお前。使って強化復活したのがあいつだろうが。二度も復活させれるか」

 

 そうあっさりと切り捨てると、フィフスはガ・ボルグを展開する。

 

「さて、面倒だしお前から殺しておこ―」

 

 その瞬間、部屋の温度が五度は下がった。

 

 否、現実には温度は下がっていないが、そう錯覚させるほどの殺気が満ち溢れた。

 

 続き、部屋の一角が粉砕される。

 

「フィ~フ~スく~ん? 何してるのかなぁ?」

 

 ダダンダンダダン♪ ダダンダンダダン♪

 

 一発でだれがどうなっているのかがよくわかる音楽が鳴り響き、フィフスは唖然とした。

 

「え? アポプスとアジ・ダハーカは? 一人ぐらい殺してくれると思って送り込んだんだけど?」

 

「さっき殺しといたよ。・・・あんなポッと出のトカゲなんぞに、俺が倒せると思ってるのか?」

 

 つか、つか、と足音を響かせて、そこに彼が到着した。

 

 怒らせれば主神クラスすら蹂躙する、禍の団の怨敵の1人。

 

 サーヴァントをしたがえし魔術使い。神と化した悪魔。

 

 神喰いの神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)。宮白兵夜。

 

「さて今すぐ聖杯戦争を始めよう。・・・ここで死ねこの野郎が」

 

 ここに、激戦は新たな展開を迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 く、くくくくく。くっくっくっくっく。

 

 よし、殺そう。

 

「少しは落ち着きなさい。相手は天龍クラスを二人も倒してるのよ?」

 

「わかってるわかってる。気を付けないとあいつ殺せないし」

 

 アーチャーにたしなめられるが、うん、いろんな意味で落ち着けない。

 

 偽眼で確認済みだが、イッセーの肉体が人間に戻っている。人間にだ。

 

 全く状況はわからないが、どうやら龍神の肉体をどうにかするという手段をとったらしい。

 

 フィフスの奴、そのためにイッセーの両親を誘拐しやがったな。どこまで警戒してんだか。

 

「おいイッセー。生きてるな? 生きてるだろ? とりあえず死ぬなよ」

 

「わ、わかってるよ・・・」

 

 よし、イッセーは生きてる。

 

 これなら当分ほっといても死なないだろう。

 

 というより、ほっとくしか選択肢がない。

 

 なにせさっきはあんなことを言ったが、あいつらをしとめるためにフェニックスの涙を全部使ってしまった。

 

 独自ルートでいくつも手に入れたのにもったいないとは思うが、莫大なオーラが放出されたと思ったら一瞬で消えたので自爆特攻で仕掛けるしか選択肢がなかった。

 

「やってくれたなフィフス。・・・お前の目的はいったいなんだ?」

 

 とりあえず時間稼ごう。体力を回復したい。

 

 こいつ意外としゃべりたがりだし、乗ってくれるとは思うが・・・。

 

「簡単なことだ。邪魔されずに聖杯戦争を行いたいんだよこれが」

 

 何を言っている?

 

「俺が放っておくと思っているのか?」

 

「いや全く? 俺が言ってるのは二回目だ」

 

 二回目だと?

 

 何を考えている? 

 

「なあ、根本的な問題としてだな。・・・ぶっつけ本番で根源到達なんてできると思うか?」

 

 ・・・・・・・・・うん?

 

 あ、確かに聖杯戦争は根源到達どころか、願望機としての機能も実行されたことはないな。

 

 だいたい根源到達だって、一人分の穴しかあけられないということが判明したから殺し合いになってるわけだし。

 

 うん、確かにハイリスクなのは認めよう。

 

「そこで俺は考えた。根源に本当に到達できるかどうか聞くところから始めよう、と」

 

 そ、その発想はなかった。

 

「な、なるほど、願望機を演算装置として使えば、根源そのものには到達できなくても根源に到達する方法はわかると」

 

「そうだ。だから俺はアサシンを生贄にささげる気はないし、まあ確実に余るだろうからどうすれば聖杯戦争に安全に勝てるかもシミュレートとする」

 

 なるほど。聖杯を使って優勝できるサーヴァントとその召喚までの手順を調べると。

 

 そして参戦するメンバーすら厳選することによって、安全に聖杯戦争を優勝しようと。

 

「こんなばかに殺されたリゼヴィムがかわいそうだ!!」

 

 マジかわいそうで涙出てきたぞ俺は!!

 

 ああ、せめて安らかに眠れ我が同類。本気で冥福を祈るぞ。

 

「何が馬鹿だ。異世界移動も考慮すれば、失敗する可能性を考慮してある程度の慎重さは必要だ。・・・ヴァーリとカテレア以外は了承させたぞ」

 

「無駄に交渉能力が高いな」

 

 や、やはりフィフスはアインツベルンだ。

 

 一理あるような気もするが、根本的な部分で問題がある。

 

 いや、確かに理論上のことだから本当に根源にたどり着けるか裏付けを求めるのはわかるんだが。

 

 やはりこいつも魔術師か。どこか頭がおかしい。

 

「だったらなんでこんな大騒ぎを起こした? お前正気か?」

 

「正気だ。いくら聖杯といえど限界はあるから、聖杯戦争以外の要素は自力でどうにかしないといけないだろう?」

 

 どういうことだ?

 

 こんな全面戦争を起こしかねない真似をして、余計な邪魔が入らないとでも?

 

 だいたい、サマエルの毒を量産できるってことはグレートレッドをいつでも殺せるってことだ。さらにトライヘキサの力をある程度利用できるならなおさらだ。

 

 そんな凶悪な戦力、いやでも気にせざるを得ないだ―

 

「・・・待て、お前まさか」

 

 世界最強格の化け物と、その同格を瞬殺しかねない最悪の毒。

 

 それを保有して邪魔されない方法ってまさか・・・。

 

「お前、正気か!?」

 

「正気だ。乱暴だがこれが一番手っ取り早い」

 

 あり得ない。狂ってやがる。

 

 この野郎・・・。

 

「トライヘキサとサマエルの毒で、すべての世界を脅すつもりか!?」

 

 この野郎はつまりこういいたいのだ。

 

 グレートレッドを殺されたくなければ、聖杯戦争の邪魔をするな、と。

 

 こいつ、世界最強の存在を殺すと恐喝してやがる!!

 




フィフス「夢幻殺されたくなかったら邪魔すんな。OK?」

兵夜「な、なんだってー!?」

地上最強の存在を殺すと脅す馬鹿がどこにいる?









 ・・・ここにいる!


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・・・鮮血舞う

本作のラストバトルスタート!


 

「アーチャー! こいつ止めるぞ!!」

 

 考え込んでいる時間はない。

 

 ここでこいつをしとめておかねば、こいつのせいで全世界を巻き込んだ戦争が起こる。

 

 異形社会だけの話じゃない。この野郎は人間世界にも同様に脅しをかけるはずだ。

 

 そのためのクージョーノケイ。そのためのクージョー連盟。そのための禍の団!

 

 この野郎、本気でくるってやがる!!

 

「だがどうやって俺を倒す? 今の俺なら―」

 

「馬鹿め! 俺がどうやってアポプスとアジ・ダハーカを倒したと思っている」

 

 研究と発展は常に行っている! そう、それこそが勝利のカギだった。

 

龍滅し滅ぼす蛇の鱗(ドラグイート・スケイルシールド)、攻撃モード」

 

 対龍装備をさらに、偽聖剣のブースト形態として運用可能に調整させてもらったのさ!

 

「モード、カリブリヌス!!」

 

 サマエルの毒性を攻撃に展開したうえで、徹底的にボコらせてもらう!!

 

 真正面から拳をたたきつけて、衝撃が放たれる。

 

 そして、そのタイミングと同時にアーチャーの魔術攻撃が直撃した。

 

「お前正気か!? もろとも喰らうか普通!」

 

「お前が言うな! そしてその対策も万全だ!」

 

 よく見ろ、俺はひとかけらもダメージ入ってないだろう。

 

「このためだけに新たに魔術を作らせるとか、割とブラック企業なのかしら、あなたの直属は」

 

 と、ため息をつくアーチャーの言うとおりだ。

 

 偽聖剣と魔術礼装をシンクロさせることにより、俺には一切ダメージの入らない魔術攻撃を作ってもらっておいた。

 

 これで俺は流れ弾を気にせずサーヴァントと戦えるのさ!!

 

 だが、フィフスも全然負けてない。

 

「ふはははは! どうした? アポプスを屠った装備はその程度か?」

 

 高密度の攻撃を繰り返しながらも、余裕があるのはフィフスのほうだ。

 

 むしろ、俺の方が攻撃を喰らいすぎて追い込まれている。

 

 なんだ、この攻撃力。化け物すぎる。

 

 そんな状況下で、俺は獣鬼の欠点を思い知った。

 

 準最強の神滅具を暴走状態で禁手に至らせることによって、一勢力が本気を出しても突破困難なほどの戦力を確保した獣鬼。

 

 だが、しょせんはただの化け物だ。

 

 あいつらはただ力任せに暴れまわるだけ。単純な出力で上回っているだけ。スペックだけで上回っているだけで、それ以外はむしろ並だ。

 

 技量が足りない。技が足りない。修練が足りない。

 

 単純なステータスが圧倒的だからこそ、その土俵に持ち込まれれば技量の差がもろに出る。

 

 そう、化け物は英雄に倒される存在だ。圧倒的な力を持つ存在はしかし、それに対応する技や知恵の前に滅ぼされる定めを持っている。

 

 ましてや作り出したのは只の子供だ。それも、強制的に覚醒させられた暴走状態の子供。

 

 そんな子供が英雄に匹敵する技を持てるわけがない。ヴァスコ・ストラーダにイッセーが技量で勝とうとしても勝てるわけがない。つまりはそういうことだ。

 

 だが、ここに例外が存在する。

 

 百年にわたる研鑽を得て、英雄の領域へととうたつした技を持つ男。

 

 そんな男が、天龍とすら戦える能力をもった化け物を鎧として身にまとう。

 

 間違いなく真正面から勝てるわけがない。蒼穹剣という反則なしに、対応できる相手ではない。

 

 ・・・ならば。

 

「助けてくれ俺の愛する女たちぃいいいいい!!!」

 

 情けないけど助けを求めよう。

 

 いるんだろう? クロウ・クルワッハを追いかけて。

 

「はいはい来ましたよー!」

 

「実質遅れて申し訳ありません!!」

 

 久遠とベルが速やかに一撃を叩き込んでくれる。

 

 積み重ねた年月が厚さを持つ剣技に、優れた師範に出会い覚醒した拳が、フィフスをわずかに揺らがせる。

 

「チィッ! ここにきて増援か!!」

 

 しかしそれすらわずかな揺るぎで済ませながら、フィフスはしかし舌打ちする。

 

 その理由は単純明白。

 

 ・・・おそらくギリギリで完成したのだろう。だからこそ、短時間しか運用できないはず。

 

 おそらくこの隙を突くしか現状勝利の方法がない。それだけの化け物に仕上がっている。

 

 冗談抜きで主神すら殺せる。単純戦闘能力なら天龍を超えるだろう。

 

 だからここで仕留めなければ、収拾できるかもわからない。

 

 頼むぜマイラヴァーズ! ここで俺に奴を倒す力をくれ!!

 

「行くぜ二人とも・・・いや、四人とも!!」

 

「ファックに忘れなかったのは褒めてやる!!」

 

「カッハ! さすがご主人だな!!」

 

 空間ごとフィフスを押しとどめ、そこに竜巻が襲い掛かる。

 

 ここで小雪とナツミも参戦。状況は大いに好転した。

 

「は! 女に頼るとは情けないんじゃないかこれが?」

 

「負け惜しみと受け取ろう! っていうか、この緊急事態に体裁なんて気にしていられるか!!」

 

 俺は全力を出してフィフスと戦闘する。

 

 恐ろしいことに、これだけの状況ですらフィフスはまだ対応できている。

 

 全員が最上級悪魔クラス。そんな六対一をまともに受けておきながら、しかしフィフスは倒れない。

 

 くそ、さすがは超獣鬼。ルシファー眷属を総出で相手にして持ちこたえただけはある!

 

「・・・だれか、イッセーを連れて逃げろ!! 周りを気にしている暇がない!!」

 

 俺はそう叫ぶが、しかし期待は薄かった。

 

 なにせ今のフィフスは正真正銘の化け物。この場にいる全員が本気で挑んでもなお危険。

 

 そんな状況下で、瀕死の連中と正真正銘の一般人を五人も拾って誰が離脱できるというのか。

 

 そんなことをしたら、ほかのメンバーが死ぬだろう。比喩表現抜きでそれだけの領域だった。

 

 だが、奇跡は意外と起きるものだった。

 

「なら、私が引き受けよう」

 

 こ、この声は・・・。

 

「ディハウザー・ベリアル!? あんた無事だったの!?」

 

「皇帝の異名は伊達ではないさ。・・・贖罪ぐらいはさせてもらう」

 

 わぁい! これだけの人物なら本気で任せられるよ! やったぁ!

 

 などとふざけたくなるぐらい危険だ。

 

 ・・・さて、時間を稼げるか?

 

 などとは思うが、それどころではないだろう。

 

 こいつはここで確実に倒す!!

 

 それだけの覚悟を秘め、俺たちは全力で戦闘を行う。

 

 それが一時間も続いただろうか、ついにフィフスに限界は訪れた。

 

 すでに暗黒鬼は崩壊し始めている。どうやらまだまだ研鑽が甘かったらしい。

 

 冷静に考えてみれば当然だ。

 

 封印系神器の全力とはすなわち覇の領域だ。そんなものを平然と運用できるわけがない。

 

 まあ、フィフスとキャスターと木原が三人そろっていれば、このデータを基にして戦闘継続能力は数倍以上に向上するだろう。

 

 だからこのチャンスは逃さない。

 

「最大出力でぶちのめす!!」

 

 禁手による肉体強化すらぶちかまして、俺は一気に懐に飛び込んだ。

 

 後遺症は覚悟の上。ここでこいつをしとめなければ、世界は大きく揺り動かされる!!

 

「フィフス・・・覚悟!!」

 

「なめんじゃねえぞこれが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさにそのタイミングで、宮白兵夜の体は破裂した。

 

「・・・え?」

 

 破裂といっても全身が四散したわけではない。せいぜいが全身が裂傷を刻んだだけである。

 

 だが、その一瞬で何が起こったのかを把握できたのは一人しかいなかった。

 

 至近距離ですべてを目撃し、肌で感じたフィフス・エリクシルだけがすべてを理解した。そして彼も理由はわかっていなかった。原因だけを、しかし正確に把握した。

 

 宮白兵夜ですらわかっていなかった。むしろ彼だからこそ分かっていなかった。

 

 うっかり。戦術戦略ですら優秀でありながら、肝心なところで見落としをする先天的な欠陥。

 

 宮白兵夜は、サマエルを利用した魔術礼装の真モードを、アーチャーとアザゼルにしか言っていなかった。

 

 それは、時間がなかったという理由もあるが、あまりにも致命的だった。

 

 二人は知らなかった。兵夜にとってサマエルが、あまりにも猛毒である事実を。なぜそうなのかという理由すら知らなかった。

 

 もし、桜花久遠がそれを知っていたらまだ事態は変わっていただろう。

 

 彼女はその致命的欠点の原因なのだ。彼女と兵藤一誠だけは、その欠点を想定する可能性があった。

 

 そして、それを久遠が理解するまでにすべては決した。

 

「・・・ああ、なるほど」

 

 フィフスは即座にサマエルの毒を兵夜に叩き込んだ。

 

 ・・・そして、崩壊は決定的になる。

 

「あ・・・ぐ、あぁあああああ!?」

 

 全身を腐食させながら、兵夜は絶叫を上げる。

 

 痛覚の実感麻痺を行う余裕もなく兵夜はもだえ苦しみ、そして四人がその事態に麻痺を行った。

 

 久遠は何が起こったのかわかってしまったが故。そして残りは何が起こったのかわからなかったが故。

 

 その致命的な隙を突き、致命の一撃が放たれ―

 

「・・・馬鹿!!」

 

 唯一、アーチャーだけが割って入ることができた。

 

 しかし彼女はしょせん魔術師。耐久力ではサーヴァントして最底辺。

 

 その彼女が割って入ったところで、何をするわけでもなく―

 

「・・・兵夜、アーチャー!?」

 

 小雪が叫ぶ中、二人は血反吐を吐いて吹き飛んだ。

 

 その悲鳴を聞いて、久遠は我に返った。

 

 自分のあまりにも軽はずみな行動によって生まれた致命的な事態に対して、しかし傭兵である彼女は手遅れだが対応できた。

 

 今の状態では自分たちでは勝てない。動揺がひどすぎて戦闘を行う余裕がない。

 

 それを理解できたからこそ、彼女は即座に対応した。

 

「・・・逃げるよー!! 急いで!!」

 

 暗黒鬼が時間切れのフィフスなら、追撃はしない。そんな余裕は彼にもない。

 

 だからこそ、彼女は兵夜とアーチャーを抱えると素早く後退する。

 

 三人ならそれだけで反応してくれる。それを期待しての即座の撤退だった。

 

 じっさい、三人ともすぐにわかって急いで離れる。

 

 特に小雪は大気の噴出点を用意して速度を稼いでくれた。

 

 だが、フィフスも甘くなかった。

 

「・・・木原、ミサイル攻撃!!」

 

『わかったぞぉん』

 

 下手に距離をとったせいで、基地の被害を考慮させないのが不幸だった。

 

 ・・・動揺して対応しきれない四人に、ミサイル攻撃が襲い掛かった。

 




最初は、あれを伏線として書いてたわけじゃなかったんです。

ですが、今回の状況と今後の展開のための説得力づくりにとても使えると思ったので、ここで結果的な伏線とさせていただきました。









どっかのジャンプ漫画で、過去の話を読み返して伏線として利用するというのがありましたが、まさに今回のがそれです。


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世界恐喝、実行

フィフスの本気の脅しが行われます。









さて皆さん、帝釈天とフィフスがやり合ったのは覚えているかな?


 

 フィフス・エリクシルの行動は迅速だった。

 

 この男の目的は、最初から最後まで鎖国地帯の成立。

 

 アフリカ大陸そのものを、世界から隔絶させることがあの男の目的である。

 

 そのためのアサシンの運用は完璧だった。

 

 冥界政府のスキャンダルの確保など序の口以外の何物でもない。あれはむしろテストといっても過言ではない。

 

 A+ランクの気配遮断と霊体化を併せ持つアサシンの隠密能力は、アフリカの国家のほとんどを掌握することに成功する。加えて学園都市の技術は彼らを釣る餌としては十分すぎる。

 

 飴と鞭。人を釣る基本中の基本にして、ある種の究極。それを確保することにしたフィフスは、交渉において埒外の能力を発揮していた。

 

 もともとそこまで狙っていたわけではない。

 

 単純戦闘能力だけではアインツベルンは勝てないと判断したフィフスは、サーヴァントの戦闘能力をサーヴァントに殺されない程度しか求めなかった。

 

 むしろマスターを自分で殺すことを考慮した。それも魔術戦という魔術師のプライドを完全に捨てた。そのために百年も格闘術を研鑽し、そして英霊の領域にまで到達させた。

 

 フィフスが求めたのは単純戦闘能力ではなくそこから先だ。戦略、謀略、策略。そういった戦闘を行うまでの流れや、何よりサポート能力というアインツベルンにかけた者を求めていた。

 

 そのためキャスターかアサシンを求めて確保したが、ここまでのチートを手にしたことは奇跡といっても過言ではないだろう。

 

 その悪徳の奇跡が、フィフスをここまで強大にさせたといっても過言ではない。

 

 アフリカの諸国を支配下に置き、加えてアフリカの神話体系すら協調体制を作り上げた。

 

 基本的には弱みを握り人質を取ったが、しかし彼らにとっても利益がある話だ。

 

 なにせ言い訳がある状況下で、三大勢力や大手神話体系をぎゃふんといわせられるのだ。逆らうよりは言うことを聞いた方が得がある。

 

 そして、キャスターの存在が莫大な利益を与えた。

 

 基本的に快楽主義の愉快犯であるキャスターは、聖杯戦争の勝利ではなく大きな騒ぎを起こすことを望んだ。

 

 そんな彼の技術は、英雄派の神滅具の禁手と相性が良すぎた。

 

 リバースエンジニアリングという手法がある。

 

 完成品から逆の道筋をたどることによって、設計から作戦原理をたどり、製造法まで解析する手法だ。

 

 いわゆるパクリだが、しかしそれを舐めてはいけない。

 

 自分たちが持っていない技術を習得する。これは技術力の差を埋めるのに非常に有効を通り越して必要不可欠の手段だ。それが相手側にとっても失われた技術であるのならなおさらだろう。

 

 神器の技術を利用して、完成品を作り出す能力。英雄派は英雄という特別を夢想するあまり、これの利点を軽視しすぎた。そしてフィフスたちはそれを利用した。

 

 彼らはすでに絶霧と魔獣創造のデッドコピーすら生産している。

 

 神滅具の上位を劣化品とはいえ生産できる。

 

 もはやこの時点で、彼らは一勢力などという次元を超越していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『初めまして。俺はクージョー連盟盟主にして、禍の団(カオス・ブリゲート)四代目代表、フィフス・エリクシルだ』

 

 全世界にBGM付きで通信をつないだフィフスは、そう名乗った。

 

『後半はわかる奴だけわかっていればいい。それはともかく、俺たちが言うことはただ一つ』

 

 同時に流される映像は、誰もにとっても悪夢だった。

 

 百メートルを超える身長をもつ巨大な人影が、合計で百は存在している。

 

 異形社会はその正体を一目で看破した。こと悪魔ならすぐにわかるだろう。

 

 豪獣鬼。冥界を恐怖のどん底に落とし込んだ化け物が、どん底に落とし込んだ数を圧倒的に上回る数存在している。

 

 そして、その化け物は霧に包まれて消えていく。

 

 ・・・誰もがまだわかっていなかったが、獣鬼には一つの命令が下されていた。

 

 魔獣を量産しながら潜伏しろ。そして世界を混沌に落とせ。

 

 その命令を下した当人は、映像越しにはっきりと断言する。

 

『世界を崩壊させたくなければ俺たちにかかわるな。夢幻を滅ぼされたくなければ神ですら手を出すな』

 

 人間社会に、異形社会に、フィフスはそう告げた。

 

 そして、それだけの意図に説得力を持たせるため、フィフスは告げる。

 

『これから、それを無視したらどうなるかを教えよう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、クージョーノケイ本部から、巨大な戦艦がとびだった。

 

 全長は1km近いその巨大な戦艦は、亜音速で戦場へと疾駆する。

 

 ステルスなど一切考慮してないそれに気づいた残存艦隊は、混乱しながらも対応としては最善策を打った。

 

 すべてのミサイルを集中投入。なんとしても撃破するべく攻撃を開始する。

 

 それが交渉を行わないことを把握した。自分たちを滅ぼすつもりであることも把握した。最大の脅威であることも把握した。

 

 だが、それらは何の意味も持たなかった。

 

 すべてのミサイルをわざと受けながら、その戦艦は艦隊の上まで到着した。

 

 そのあとは圧倒的だった。

 

 終了までにかかった時間はわずか一分。

 

 それだけで、数十もあった連合艦隊の残存勢力はすべてが撃破された。

 

 そのあまりの事態を起こした戦艦は、そのままゆっくりと侵攻を開始。

 

 その脅威に対して、世界各国が核ミサイルを発射して対抗する。

 

 そして、十発以上の核ミサイルを直撃しながらも、その戦艦は小動もしなかった。

 

 その戦艦の名前こそトリプルシックス。

 

 一分子単位でトライヘキサの細胞を浸透させた、世界最強の機械兵器である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その猛威を振るわれる映像は世界各国に生中継されていた。

 

『わかっただろう? 抵抗は無意味だとは言わないが、最強戦力はこちらにある』

 

 悠然と微笑みながら、フィフスはそう告げる。

 

『まあ、それで引くわけではないからもう少し痛めつけておくとしよう。・・・既に全世界の核ミサイル発射基地をハッキングして、核ミサイルの六割を発射した』

 

 そして、さらに爆弾発言を告げる。

 

『爆発するのは仕掛けてきた国家、その主要都市の上空。発生する電磁パルスで都市機能がマヒするので、当面の間は復興に努めるといい』

 

 その言葉に、世界中の人々が表情を引きつらせる。

 

 この文明世界、普通の人類は基本的に電子機器を使用して生きている。まともな都市は基本的に依存しているといっていい。

 

 そんなものが破壊されれば、世界の機能は完全にマヒするだろう。

 

 そして、すでに発射されたというのだ。

 

 おそらくこの映像が途切れたその瞬間が、自分たちの地獄の始まりだ。

 

 そう絶望する人々の前で、フィフスは安心させるかのようにほほ笑んだ。

 

『・・・それはそれとして、我々は世界中の主要国家の食品産業にかかわり、ある種類の薬品を混入している』

 

 さらりと告げられた言葉に、さらに多くの人々が供覧した。

 

 これまでの話だけでも最悪だというのに、挙句の果てに薬を混入されいている。

 

 死を覚悟するものすら多発する中、しかしフィフスは安心させるようにそう告げる。

 

『大丈夫だ。それはお前たちを殺すようなものではない。むしろこの音楽とともに、超人へと進化させる』

 

 そう告げるとともに映像は移り変わる。

 

 それは、世界最強国家であったアメリカ軍を蹂躙する映像。

 

『これは、その薬と音楽によって頂上の力を得た者の恩恵を得たやつらの戦闘だ。・・・まあ、約六割は大した力を得ることがないんだがこれが』

 

 そんな情報を告げた後、フィフスは告げる。

 

『重ねていう。夢幻を殺されたくなければ手を出すな。・・・一度ぐらいは暴走と認めるが、それ以上は問答無用で殺す』

 

 そして、通信が打ち切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この警告の通り、世界全土の都市上空で核兵器が一斉に起爆。発生したEMPにより、世界主要都市の八割が機能停止した。

 

 加えて世界全土の人間の中から、炎を出すなどの特殊な力を持つものが頻発。その力に恐怖し、そして陶酔した者たちによる犯罪により、世界全土の治安は犯罪都市が平均値となるほど悪化する。

 

 クージョー連盟に対する対応どころか、都市の治安を維持することすらまともにできない世界各国は機能を停止し、世界は一挙に暗黒時代に突入する。

 

 十年以上に続く世界暗黒時代の幕開けは、こうして切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




フィフスがやったこと:絶霧と魔獣創造をドーピング剤で暴走させ、結界装置や魔獣をリバースエンジニアリング用に大量生産していた。









はい、文字通り世界が大混乱です。神話、人間の区別なくばらまかれた隠密特化型豪獣鬼で物理的にやばい上に、都市機能は八割がマヒ。そして元凶にはうかつに手が出せなくて、暴走した能力者による犯罪行為にも気を付け粘らなない。

文字通り反撃は一回が限界です。と、いうより一回ねん出するのも苦労するレベルです。


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最後の令呪

世界は闇に染まったころ、兵夜は・・・


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うわぁ、これきつい。

 

 全身が痛すぎて、もう悲鳴を上げる気すらない。

 

 ああ、その原因は大体わかっている。というか、例のごとくやってしまった。

 

 思えば、俺はドラゴンと化していたのだ。

 

 きっかけは神格化ではない。あれに関しては許容範囲内だ。

 

 そう、思えば俺はドラゴンのオーラを取り込んでいた。

 

 半ば興味本位でイッセーのオーラを宝石に取り込んだ時、トラブって飲み込んでしまったのだ。

 

 まさか、その影響が今になって出るとは思わなかった。っていうか想定できるか。

 

 でも俺弱いからなぁ。

 

 サマエルの毒の影響を抑えるには、俺の体は全然足りなかったということだろう。

 

 いやぁ、根性由来の体力はあるイッセーですら体全損だからな。そりゃ俺も致命的っつーかなんつーか。

 

 ああ、これやばい。死ねる。

 

「兵夜! 兵夜しっかりしろ!!」

 

「ご主人寝ないで! 寝たら死ぬから!!」

 

 目の前が真っ暗な中、小雪とナツミの悲鳴が聞こえる。

 

 ああ、そこまで言われるほどやばいってわけか。

 

 ああ、かなりきついなコレ。

 

「兵夜様!? 兵夜様目を開けてください!!」

 

 ベルも大変なことになってるだろうなぁ。一応いろいろ小細工はしてるけど、悪影響はかなり出ているだろうに。

 

 俺の心配してる暇ないかもしれないが、心配できる余裕があるならそりゃよかった。

 

 だが、これ冗談抜きで死ねるな。

 

 イッセーの場合は神器が封印系だったから何とかなったが、俺の場合はそうもいかない。

 

 ・・・内臓のほとんどがダメになってる。かろうじて脳と心臓は持ちこたえてるがこれはまずい。

 

 多臓器不全。完璧な致命傷だろう。

 

 なるほど、これは助からない―

 

「・・・兵夜くん」

 

 ・・・聞きなれているはずなのに、聞きなれてない声が聞こえた。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい! 私のせいでごめんなさい!!」

 

 ・・・そうだな、まだしねない。

 

 俺は、無理やり視界を戻すと久遠を引き寄せる。

 

「泣くなって。・・・あとでしっかりお仕置きしてやるから」

 

 そうだ、そうしないとだめだろう。

 

 そもそも、龍のオーラを飲み込んだのは久遠が後ろから抱き着いたからだ。

 

 それが原因で死んでしまったら、久遠が一生引きずりかねない。

 

 それに―

 

「約束したばっかだもんな。みんなで幸せになるって」

 

 その直後に死ねるわけがない。

 

 いや、戦死する可能性は考慮してましたよ? だからちょっと躊躇しましたよ?

 

 だけど、ここで死ぬわけにはいかないだろう。

 

 フラグ回収にもほどがある。それはだめだ。

 

 ・・・とはいえまたすぐに視界が暗くなる。

 

 ああもう、頑張るからとりあえず急いで病院に搬送してくれないかね。

 

「兵夜、聞こえるかしら」

 

 気合を入れていたら、アーチャーの声が聞こえる。

 

「はっきり言うわ。・・・このままだと持たない」

 

 ・・・そうか。

 

 奇跡の一つや二つ起こさないとだめってか。そういうのはイッセーの役目なんだが。

 

 ええい、俺としたことが柄じゃないことをしないといけないとはな。こりゃ今日は厄日だ。

 

 などと考え始めながら意識が遠くなる。

 

 それを引き戻すように手をつかまれて、アーチャーの声が聞こえた。

 

「・・・私でも今じゃ無理だわ。だから、やることはわかってるわね?」

 

 なるほど。そういうことか。

 

 サーヴァントといえど限界はある。世の中には無理という言葉が存在して、それは英雄といえどないわけではないのだ。

 

 だが、英雄には無理でもサーヴァントなら限界を突破できる。

 

 魔法も使わず空間を跳躍することも、致命傷の上でさらに持ちこたえることもでき、魔力が足りないのに必殺技すらぶっ放す。

 

 それが、令呪。

 

 まだ、最後の一個が残っていた。

 

 もったいないが仕方がない。惚れた女泣かせるよりかはましだし、死んだら元も子もないだろう。

 

「令呪を使って、頼むぜ相棒」

 

 いや、ホント頼りにしてるぞ、アーチャー。

 

「・・・意地でも、俺を、死な、せるな」

 

 ・・・頼むから、あいつらを泣かせないでくれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兵夜くん? 兵夜くん!?」

 

 意識を失った兵夜を前に、久遠は絶叫しかけていた。

 

 傭兵としての経験が、致命傷を負っている事実を考慮して体をゆすらせない。

 

 だがそのせいで精神は限界に近い。発狂寸前に追い詰められていた。

 

 そもそもこうなっているのは自分が起こしたツケだ。自分が後ろから抱き着いたりしなければ、サマエルの毒はここまで悪影響を与えることはなかっただろう。

 

 いや、せめて発動させてることを見た瞬間に気づいてさえいれば―

 

「しっかりしろ久遠!」

 

 気絶しそうになる久遠を、小雪がゆすって引き戻す。

 

「ここであたしらがどうしようもなくなったらファックだろうが!! いいから治療を続けろよ!!」

 

 血まみれになりながら、小雪は兵夜を治療し続ける。

 

 回復の手段をかけらでも持っているのは久遠と小雪だけだった。ナツミの世界では回復魔法は特殊な能力で、ベルにはそもそも習得する余地がない。

 

 だから、拒絶反応で死にかけながらも小雪は回復を続けているのだ。久遠もまたしかり。

 

 ここで治療を止めれば、それこそ兵夜は死んでしまう。

 

「・・・兵夜、兵夜ぁ!!」

 

「兵夜さま? 起きてください!!」

 

 だから、ナツミとベルは手をつかむことしかできない。

 

 戦死した仲間なんて何度も見てきている。こんなことが起きるのも、想定はできていた。

 

 だが、それでもこれは衝撃が強すぎる。

 

 せめて戦闘中なら本能で抑制できたが、離脱できたことで四人そろって追い込まれていた。

 

 男を愛するなんて初めてだ。その初めてが、想像以上に衝撃が強いことを初めて知った。

 

 そして、このままでは間に合わない。

 

 フィフスの策によるものか、転移が行えないのが致命的だ。

 

 ミサイルのつるべ打ちで重傷を負っている四人は、離れたところで救援を待つことが限界だった。

 

 そして、それでは間に合わない。

 

 それを、四人そろって思考から追い出して―

 

「無理ね。臓器移植をしなければ助からない」

 

 アーチャーが、冷酷にも引き戻した。

 

「アーチャー!? そんなことないよね!?」

 

「心臓と脳以外は汚染がひどいわ。フェニックスの涙をもってしてもこのままでは回復できない。もちろん、私がキャスターのサーヴァントで召喚されても難しいわ」

 

 ナツミの否定を切り捨て、アーチャーははっきりと事実を告げる。

 

 神代の魔術師が、キャスターのクラスなら疑似的な不死すら可能としかねないアーチャーが、はっきりとそう告げた。

 

 その言葉で、小雪と久遠も回復の手を止める。

 

 冷徹な現実すら飲み込んだ裏の世界の経験が、それを認めてしまってしまったのだ。

 

 これ以上は魔力と体力の無駄遣い。もし発見されたりしたら、戦闘する余力がなくなってしまう。

 

 それを心の中で冷徹に計算できてしまうがゆえに、四人は行動を止めてしまう。

 

「・・・ベルは、戦闘が不可能です。だから、兵夜さまは私が運びます」

 

 フィードバックを受けることがわかっているから、ベルは真っ先に死体の運搬というつらい役目を引き受けた。

 

「じゃあ、ボクは後ろ気にするね」

 

 一番まともに戦闘ができるであろうナツミが、絶望を押し殺して危険な役目を遂行しようとする。

 

「悪い、ファックだがあたしも動くのがやっとだ。・・・任せる」

 

 限界を自覚して、小雪はそれでも何とか立ち上がろうとする。

 

「アーチャーさんー。マスター権限は、私がやるよー」

 

 ショックで倒れそうになりながらも、久遠は何とか自分ができることしようとする。

 

 脆い精神を経験で補い、四人は四人なりに何とか現実を受け入れようとして―

 

「・・・まあ、兵夜は何とかするけど」

 

 アーチャーのその言葉を聞いて、四人は顔を上げた。

 

 無理だといったのは彼女なのに、いったいどうやって助けるというのか。

 

 その疑問は、アーチャーを見たときに吹き飛んだ。

 

 胸が、大きく陥没している。

 

 誰がどう見ても致命傷。彼女こそ助からないのが見て取れた。

 

「・・・霊核が大破した時はどうしたものかと思ったけど、単独行動スキルって意外と便利ね。まともに役に立ったのはこれが初めてじゃないかしら」

 

 そう告げるアーチャーを目の前にして、四人はすべてを察した。

 

 アーチャーは助からない。だが心臓以外の臓器は無事だ。

 

 兵夜は助からない。だが心臓と脳は無事だ。

 

 そして、兵夜を助けるにはすぐにでも臓器移植をしなければいけない。

 

 全員が、何をするつもりなのかを理解した。

 

「・・・待って。待ってアーチャー! ぞうきいしょくって拒絶反応があるんでしょ!?」

 

「大丈夫よ。令呪のブーストをかけた状態で、小聖杯の機能を持つ兵夜なら受け入れられる。令呪のブーストっていうのはそういうものよ」

 

 声を上げるナツミを撫でながら、アーチャーはそう安心させるように告げる。

 

 だが、四人ともそれを喜べるような神経はしていない。

 

 いくら愛する男を助けるためとはいえ、大切な仲間を失うことを受け入れられるはずがない。

 

「アーチャー。おまえ、聖杯はどうするんだよ!?」

 

「そもそもあの聖杯じゃ無理よ。・・・私の願いはかつてイアソンに出会う前のコルキスに帰ること。冬木式の聖杯では私自身を過去に戻すことは難しいわ」

 

 小雪が止めようと聖杯戦争の根幹を告げるが、聖杯戦争を把握したアーチャーには意味がない。

 

「まって! 私が、私の責任なんだから、私の臓器も―」

 

「それだと拒絶反応があるわ。わかってるでしょう? 臓器移植はドナーとの相性がいるの。令呪と聖杯の機能がなければこの場の誰もできない」

 

 責任を感じる久遠が肩代わりしようとしても、それは不可能だとアーチャーは告げる。

 

「・・・どうしようも、ないのですね」

 

「ええ。私はここで脱落する。それはどうしようもない」

 

 ベルの最後の確認に、アーチャーは嘘偽りなくそう告げた。

 

 確かに、聖杯戦争を脱落するのはアーチャーにとっても残念だ。

 

 フィフスに意趣返しぐらいはしたかったし、グレモリー眷属との日々は割と楽しかった。

 

 だが、そんな日々をおくれたのは兵夜のおかげなのだ。

 

 この馬鹿が英霊召喚を、魔力消費のためだけに使用するという馬鹿をしなければ、この日々もなかっただろう。

 

 魔女とさげすまれる自分が、自分の趣味を満喫しながらこうも楽しい日々を送れたのは十分な感謝だ。

 

 だから、その恩は必ず返す。

 

 そもそも、サーヴァントはマスターの使い魔なのだ、そのために命を懸けるのは当然だろう。

 

 令呪のブーストで内臓を移植しながら、しかしアーチャーはやはり残念だった。

 

 ・・・ああ、できることなら勝利を分かち合ってもう少し楽しんでいたかったと、そう思ってしまう。

 

 だけど、まあ。

 

「・・・ありがとう、兵夜。できることなら、勝ちなさい」

 

 ・・・割と、悪くない聖杯戦争だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 




アーチャー、脱落。

サーヴァントとの別れはFateの華とは誰が言った言葉だったか。とにかくアーチャーが最終決戦前に脱落、という流れは最初から決めていたことでもあります。

なのでどう終わるか、割と真剣に考えてました。皆さん、どう思いますか?



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このままじゃ、終わりません!

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識を取り戻した俺だけど、もうそんなことがどうでもいいような緊急事態だった。

 

「・・・」

 

 みんな落ち込んでいる。どうしようもないぐらい落ち込んでいる。

 

 ああ、俺もそうだよ。

 

 ・・・アーチャーさんが、消滅した。

 

 宮白を助けるために臓器のほとんどを移植して、消滅した。

 

 いつか、仲間が死ぬことはわかっていた。

 

 俺だって全身消滅したし、一人ぐらい死んでしまってもおかしくないことはわかっていた。

 

 だから夢でみんなが落ち込んでいるところを見たときは励ました。落ち込んでる場合じゃないって思ったから。

 

 だけど、これは落ち込むだろう。

 

 そして、世界は本気で大変なことになっている。

 

 クージョー連盟に攻撃を仕掛けた国家の都市の多くが、機能をマヒしている。

 

 俺はよくわからないけど、核爆弾っていうのは使い方次第で電子機器をぶち壊すらしい。それが原因で都市が壊滅したとか。

 

 病院とか空港とかがもう台無しで、しかも被害が大きいせいで救援に行けないらしい。

 

 そのうえ、能力者が大量に生まれている。

 

 ・・・木原エデンは、簡単に能力者を生み出す方法を作っていた。

 

 それを採算度外視で世界中にばらまいて、俺が気絶している間の公開生中継で流れた音楽が脳を刺激して一斉に覚醒したらしい。

 

 まだ全然わからないけど、産まれた能力者は数億人。その大半は能力を見える形で使うことすらできないけど、すごい連中は神滅具でも禁手なしじゃてこずるレベル。しかもそいつらはおそらく百人を超える。

 

 強力な力を手にしたやつらは暴れることもある。

 

 英雄派が禁手に至る方法を拡散させた時もそうだ。それで暴走した人間や転生悪魔が、いろいろ暴れて大変だった。

 

 それが、人間の世界で、しかも国が動けないときに大量に生まれた。

 

 もう世界中が大混乱だ。死んだ人は数百万人を超えているらしい。

 

 そして冥界や神話体系も大きな被害を受けている。

 

 絶霧の技術を解析されていたせいで、あらゆる世界に量産された豪獣鬼が転移。あいつらは隠れながら魔獣を生産して、世界中が混乱している。

 

 宮白は、そしてアザゼル先生は、異世界技術を、異世界の能力者を警戒していた。

 

 彼らの多くは異能を隠すことなく生きていた。宮白の世界の魔術師も、異能を隠すのは隠さないと困るからで、この世界ではその必要がなかった。

 

 だから、あいつらが堂々と技術をばらまいて利益を得る可能性はあった。

 

 だからってここまでするか・・・!

 

「アザゼル、兵夜は大丈夫なの?」

 

 リアスは、顔を上げないけどそれでもそう尋ねる。

 

「・・・何とか容体は落ち着いた。サマエルの毒も抜けたし、もうすぐ目を覚ますだろう」

 

 アザゼル先生はそういって肩をたたくが、その顔は暗い。

 

 ああ、そうだろう。

 

 フィフスの奴、ここまでやらかしやがったなんて!

 

「・・・テレビはどこも機能してないよ。日本はあまり被害がないけど、それでもいくつか電磁パルスが届いたらしい」

 

 父さんが、俺の肩をたたきながらそう言った。

 

 そう、日本は戦争しないって言ってるから被害はそんなにないけど、それでも影響は受けている。

 

 主にアメリカ基地のある沖縄がひどいらしい。割と近いからしっかり狙ってきた。

 

「アザゼル先生、どうするんですか」

 

 木場がそう尋ねるが、アザゼル先生は静かにうなづいた。

 

「・・・あいつが言った通り、一度だけなら反撃の機会はある。だが、そこから先はあいつは速攻でサマエルをグレートレッドに使うだろう。トリプルシックスを使ってな」

 

 そう、それが最大の問題だ。

 

 フィフスはグレートレッドを人質に取った。サマエルとトリプルシックス、そして豪獣鬼の群れでグレートレッドをいつでも殺せると言外に行ったのだ。

 

 誰が想像できるよ。

 

 あいつは、世界最強の存在を人質に取りやがった・・・!

 

 もちろん、好きにはさせやしない。

 

 いざとなったらはぐれになってでも、あいつには落とし前をつけさせてやる。

 

 だけど・・・。

 

「宮白さんは、・・・起きたらどうするのでしょうか?」

 

 アーシアが、涙を浮かべながらそう漏らした。

 

 ああ、俺たちもそう思う。

 

 あいつ、アーチャーさんのこと、結構大好きだったからな。

 

 ・・・大丈夫なんだろうか、宮白。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が、戻った。

 

 どうやら、何とか助かったしい。

 

 アーチャーには感謝しないといけないな、うん。

 

 なんていうか、体がごっそり入れ替わったような気分だ。爽快とはではなく、違和感が結構ある。

 

 ま、とりあえずみんなと話さないといけないよな。

 

 あれだけ大事にして、フィフスがさらに何もしないとは思えない。おそらく俺が気絶してる間にさらにとんでもないことをぶちかましている。

 

 だから、早めに回復してすぐにでも対策を立てないと―。

 

「・・・あ、兵夜くん」

 

 そこで、久遠たちと目が合った。

 

 全員酷い顔だ。喜色が浮かんでるけど、それ以上に沈んでいる。

 

 そして、俺はその顔を見て大体悟った。

 

 ああ、なるほど。

 

 ・・・内臓の大半が台無しになってたな、俺。

 

 あのバカ、そこまでしなくたっていいだろうが。スパロがいるからマスターは代役立てれるだろうに。

 

 とは思うが、しかしあいつがそこまでしたってことは理由があるんだろう。たぶん、あいつもやばかったんだろうな。

 

 ああ、そんなレベルだったんだ。

 

 ・・・ああ、そうだな。

 

「みんな。・・・どうなっている?」

 

「ファック。その一言に尽きるよ」

 

 小雪がそういうが、その口癖の重さが段違いだ。

 

 なる程な。問題はやはり世界級と。

 

「兵夜さま。体の方は大丈夫ですか?」

 

「ああ、あいつのおかげで助かったよ。本当に助かった」

 

「本当だよ。本当に心配したんだからね・・・っ!」

 

 ベルにそう聞かれて素直に答えるが、ナツミに大泣きされてしまった。

 

 うん、みんな悪かった。俺本当にうっかりだ。

 

 あいつには最後まで迷惑をかけた。

 

 ああ、本当に、迷惑を・・・。

 

「みんなごめん。頼みがある」

 

「「「「え?」」」」

 

 異口同音に尋ねるなよ、恥ずかしいだろ。

 

 やべ、顔が真っ赤になってきた。

 

 ああ、アーチャー。俺頑張るから。

 

 ここまでしてくれた分の成果は必ず上げるから。

 

 だから、ちょっとだけお前のために苦しませてくれ。

 

「・・・少しの間、慰めてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして二時間ぐらいして、俺はイッセー邸のリビングに突入した。

 

 一誠に視線が集まるが、全員酷い顔してやがる。

 

「宮白!? 大丈夫か?」

 

 はじかれたかのように近づいてきたイッセーの顔を見て、俺はにっこりうなづいた。

 

「ああ、イッセーちょっと言いたいことが」

 

「え?」

 

 そう聞いたイッセーの顔に、俺は全力でヘッドバッド!!

 

「ぐはぁ!?」

 

「み、宮白!? いきなり何を!?」

 

 慌てたゼノヴィアたちを真剣に俺は怒鳴りつける。

 

「どいつもこいつもなんだその顔は!! まるで全部終わったみたいじゃねえか、あ?」

 

 ええい、こいつら俺が死にかけてから何日たったと思っている。

 

 イッセーの死(勘違い)を何とか乗り越えたと思ったのだが、どうやらそうでもなかったらしい。

 

 ああ、アーチャーが消滅したことは確かに俺もきつかったとも。割と本気で慰めてもらいましたとも。

 

 だが! お前らは! 何日もたってるだろうが!!

 

「クソな理由でそんな状況に追い込んだ連中に、落とし前もつけさせないほどオカルト研究部は腑抜けだったか? 違うだろう!」

 

 まったく、どいつもこいつも俺がいないと本当に駄目だな。

 

 こういう時に吐き出し方が全然できてない!

 

「・・・親父さん! ジオティクス様からいただいた酒全部持ってきてください!!」

 

 まずはガス抜き。それが大事。

 

「え、いや、イッセーたちは未成年―」

 

「どうでもいいですそんなことは!」

 

 こういう時の基本はわかりきってるっての。

 

「まずはあびるだけ酒飲んでしっかり吐き出す! んでもって抜けた分やる気入れる!!」

 

 いやなことがあったときはやけ酒をしっかりする。酒を使って流して溶かす。

 

 んでもって二日酔いになって、迎え酒いして、そんでもって―

 

「―そしたら今度は反撃準備だ。俺はフィフスに仕返ししますが、あなたはこのまま泣き寝入りですか、姫様」

 

「・・・そうね。そうだったわ」

 

 そこまで言って、ようやく姫様は立ち上がった。

 

「私たちの大切な仲間を滅ぼした、フィフスを、このままのさばらせておく道理はないわ」

 

 その目には、少しだけどしっかりやる気が見えていた。

 

 ああ、そうでしょう姫様。

 

 あんたは負けず嫌いなんだから、負けっぱなしは性じゃないでしょう。

 

「兵夜を、イッセーを、アーチャーを。あれだけ痛めつけてくれたお礼はしないとね」

 

「そうね! 人類を不幸のどん底に落としたフィフスには、天に代わって裁きを与えないとね!」

 

 と、イリナもオートクレール片手に気合を入れる。

 

 そして、ゼノヴィアと木場も立ち上がった。

 

「確かにそうだ。グレモリー眷属の柄じゃなかったな」

 

「確かにね。このままやられっぱなしじゃ終われない」

 

「・・・ヴァレリーの聖杯を取り返してないですし、僕もやります!」

 

 おお、ギャスパーもすっかり根性を身に着けた。

 

「ま、そうだろうな。このままってのはファックだな」

 

 と、小雪も後ろから参入してくる。

 

「割と責任感じるからねー。私はいくよー」

 

「ミカエル様の勅命があれば、ベルは即座に参戦しますよ」

 

 と、久遠もベルもノリノリだ。

 

 そして一緒に入ってきたナツミは、イッセーと顔を見合わせる。

 

「で、どうするの?」

 

「・・・決まってんだろ?」

 

 そして二人はニヤリを笑うと、俺の方を振り向いて、腕を突き出した。

 

「「作戦よろしく!」」

 

「・・・ああ、任せろ!!」

 

 待ってろよ、フィフス。

 

 お前の好きには絶対させない!!

 




反撃準備、開始。









悲しいのはわかる。苦しいのも分かる。実際そうだし籠りたい。

だが、逃げるわけにはいかない。

なぜから文字通り託されたから。

俺の体が問いかけるのさ。

このまま、泣き寝入りするような奴だったのかと。

ああ、そうだ。

俺はそんな奴じゃない。

見ていてくれ。

お前にもらったこの命、残さず、全部、無駄にしない


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キャラコメ 第17弾

「おい! 対邪龍用の弾丸はこれだけしかないのか!?」

 

「あと五分待て! すぐ10セット到着する!!」

 

「頼むからもう少しましなめしくれよ! 最後の晩餐になるかもしれないんだぞ!!」

 

「あ、悪いんだけど酔い止め無い? 酔い止め!!」

 

「量産型聖魔剣が届いたぞぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「・・・はい。忙しい中お送りしておりますベリアル編のキャラコメ。本日のゲストは」

 

イッセー「久しぶりの原作主人公、イッセーです・・・」

 

ヴァーリ「ここに出るのは初めてだな。ヴァーリ・ルシファーだ」

 

兵夜「お前ら暗いな。ネタバレになるがそろそろ大激戦が始まるんだから気合入れろよ」

 

イッセー「だって今回いろいろ大打撃じゃねえか」

 

ヴァーリ「同感だな。結局リゼヴィムは倒せなかったし散々な目にあった」

 

兵夜「・・・・・・・・・まあ、そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そういうわけで話を進めるが、まあそういうわけで大絶賛大緊急事態だ」

 

ヴァーリ「レーティングゲームのチャンピオンが不正をする方だと断言するとは、ライザーというのも信頼されてるようだ」

 

イッセー「なんたって俺のスケベ仲間だからな。だけどチャンピオンが不正する理由もよくわからないから不思議だった」

 

兵夜「まあなぁ。クレーリア・ベリアルの一件が絡んでると読めるのは俺ぐらいだろう」

 

ヴァーリ「ある程度の裏事情を知っているからな。まあ、全部というわけではないようだが」

 

イッセー「にしても言ってくれたってよかったじゃねえか」

 

兵夜「いや、お前ら基本清純すぎだから。ちょっと毒すぎるだろ、こういうのは」

 

ヴァーリ「それはそれとして、アーチャーはこの時点でフラグを建て過ぎだろう」

 

兵夜「確かにそうだが、お前がそんな言葉を知ってたことにびっくりだよ」

 

イッセー「この時点で、いろいろ伏線張ってたんだな」

 

兵夜「まあ、最後の令呪だけだと無理がありそうだからな。念のための補正をしておいたんだ」

 

ヴァーリ「しかし歴史の変更は聖杯では不可能なのか。定番の願いじゃないか?」

 

兵夜「俺も、アルトリア・ペンドラゴンのケースがあるから行けるもんだとばかり思っていた。・・・人理編纂事項め、おかげで外伝を中止する羽目になったじゃねえか」

 

イッセー「でも、アーチャーさんが俺たちとの生活を気に入ってくれてたのはよかったよ。よかったけど・・・」

 

兵夜「・・・まあな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして進路指導当日。俺のところからは親父が参加だ」

 

イッセー「普通こういうのってお母さんじゃねえのか?」

 

兵夜「こういう時に継母よりは実の親父の方がいいだろう。そこのところは気を遣うんだよ親父は」

 

ヴァーリ「しかし父親との仲がいいというのはうらやましいものだな」

 

イッセー「やめて。お前が言うと切実すぎて辛い」

 

兵夜「そういう意味では不安要素爆裂の久遠の両親が出てきたわけだ」

 

イッセー「なんていうか、ギャスパーのお父さん思い出したよ」

 

兵夜「残酷だがアレはそうひどい反応ではないだろう。自分の種から異形の化け物が出てきたら、普通恐怖に陥ってもおかしくない」

 

ヴァーリ「案外そのあたりはドライなんだな」

 

兵夜「弱い人間の気持ちはわかってるつもりさ。だから、久遠の両親の態度がどうであっても冷静に対応できるつもりだったんだが」

 

ヴァーリ「確かに、裏の事情まで把握して真剣に娘の未来を心配できるなら、十分立派だな」

 

イッセー「それはともかく、なんで全員やらかしてんだよ。何してんの。ゼノヴィアがかわいく思えてきたよ、俺」

 

兵夜「いや、反応がかわいくて我慢ができなくて」

 

イッセー「っていうか桜花さんなんで自分が攻められると徹底的に弱いんだよ」

 

兵夜「いわゆる攻撃型の紙装甲だからな、あいつ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして、レーティングゲームの闇が暴かれるわけだ」

 

イッセー「黒い。そして宮白も黒い」

 

兵夜「堂々と接待試合するのも十分どうかと思うがな。実際原作でも似たようなもんだと批判するやつはいたろ」

 

ヴァーリ「まったく情けない。自分の力で勝ち取ってこその勝利だろうに」

 

兵夜「まあ、俺は王の駒によるパワーアップそのものまでは特に思うところはないが」

 

イッセー「え、マジ?」

 

兵夜「言っとくが、俺の体ほぼ100パーセントで神秘的な手が加わってるぞ? 仮面ライダー張りの改造人間だから」

 

ヴァーリ「なるほど、改造してでもたぎる強者になってくれるのなら、俺としてはそれはそれで楽しめるな」

 

兵夜「大体魔術師(メイガス)なんて大なり小なり自分の体いじくってるからな。そりゃぁ試合でドーピングするのはノンマナーだが、ルールで禁止されてるわけではないからグレーの範囲内といえば範囲内だ」

 

イッセー「まじめに努力して鍛え上げるって発想はないわけ?」

 

兵夜「単純なトレーニングだけじゃ限度がある。優れたコーチを雇うのも、優れた装備を集めるのも、優れた環境を確保するのも何も間違ったことじゃない。足りないものをよそから持ってくるのが基本の魔術師(メイガス)からしてみれば「足りない戦闘能力を改造して補うことの何が悪いの?」になるだろう」

 

イッセー「は、反論しにくい」

 

ヴァーリ「なるほど、外から持ってくることそのものが反則なら、素手の勝負以外は等しく卑怯ということになりかねないしな」

 

イッセー「ああもう話変えるぞ! ってこの次は俺の家族が誘拐されるんだった!!」

 

兵夜「しかも誘拐したのがフィフスだから何されるか分かったもんじゃない。改造して尖兵とか普通にあり得る」

 

イッセー「怖い! 怖すぎるからやめて!!」

 

ヴァーリ「しかしあんな所に隠れていたとは。さすがにこれは盲点だった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「どう盲点かというとこう盲点。・・・大絶賛戦争中の軍事基地に隠れやがった」

 

イッセー「少しは隠せよあいつら」

 

ヴァーリ「まあ、フィフスたちの最終段階でいうなら何の問題もないか。・・・ここまで堂々と動いているとさすがにまさかそんなことはと思ってしまうな」

 

イッセー「でもさ、それに空城の計って誤用じゃねえか?」

 

兵夜「言われてみれば確かに。まあ外国人にそんな機微はわからんだろう」

 

イッセー「いや、中国の故事だから俺たちも外国だし」

 

ヴァーリ「しかしアザゼルは趣味と実益を両立したいいものを用意してくれる」

 

イッセー「いや、資金ちょろまかしたってそれ横領・・・」

 

兵夜「まあまあ」

 

イッセー「しっかし凄腕集団集めてるけど、これ実は駄目だったんだよな」

 

ヴァーリ「三強がそろいもそろってドラゴンなのが失態だった。孫悟空殿やサイラオーグ・バアルで挑めば話は変わっただろうが」

 

兵夜「っていうか俺の肉体をあいつらの部類に入れないでほしい。俺、生身のステゴロで勝負したら俺の女の誰にも勝てないんだけど」

 

イッセー「神様化してすごく強くなったじゃねえか」

 

ヴァーリ「使い方の問題だろう。天性かつ経験によるスペックを持つ四人と比べて、宮白兵夜の戦闘センスは表の世界の範疇内がベースだからな」

 

イッセー「で、しかも大体予想されてるんだよな」

 

兵夜「そりゃラスボスだからな。ちょっとは謀略で来てくれないとこっちが困る」

 

ヴァーリ「しかしここまで兵藤一誠を評価していたとは。俺より上かもしれないな」

 

兵夜「そりゃトラウマになってるからな。割とガチですべてのおっぱいを貧乳にすることを聖杯に願いたくなるぐらいにはトラウマだそうだ」

 

イッセー「ふざけんな! 俺をうらむのはいいけどおっぱいを恨むなよ!!」

 

ヴァーリ「原作の俺の挑発もそうだったが、それより両親を誘拐されたことに怒るべきだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして要塞突入戦。最初は表の軍人のあわてっぷりから」

 

ヴァーリ「まあ、核でも持ってこなければ俺たちを倒すことは不可能だろうからな。圧倒されるのは無理もない」

 

イッセー「っていうか、オーフィスやグレートレッドとか核喰らってもぴんぴんしそうなんだけど」

 

兵夜「お前も山一つぐらいなら消し飛ばせるだろうが」

 

ヴァーリ「どこかの創作でこんなたとえがあったな。「核兵器に耐える石を切り裂けるナイフは核兵器より強力か」。・・・実にいいたとえだ」

 

イッセー「んでもって本当に宮白酔ったよ」

 

兵夜「当たり前だ」

 

ヴァーリ「・・・皇帝の暴露を待っていたのは酔い覚ましか?」

 

兵夜「さすがにそこまで馬鹿じゃない。・・・身内が理不尽に殺されたわけだし、まあ少しぐらいは晴らさせてもいいかと思っただけだ」

 

イッセー「ある意味一番ばらされたらいやなやつなのに、お前人がいいよ」

 

ヴァーリ「まあ、今の四大魔王ほどではないがな」

 

兵夜「あれは人が良すぎる。何度も本編でも言ってるが、三大勢力のトップはリベラルすぎる。旧家の体質を突っ込み入れられることは多いが、ぶっちゃけ逆方向に振り切れてるだろあの人たちは」

 

ヴァーリ「バッサリ言ったな。これは、原作の七大魔王の選出に関しても不満があるか?」

 

兵夜「当然。他国の代表に選挙権与えてどうするんだか。マジで他国の首脳陣が共謀して傀儡政権作ろうとしたらと思うと不安だ。実に不安だ」

 

イッセー「そ、そこまで言う?」

 

兵夜「だから言ったろリベラルすぎだって。常識人苦労人タイプのグレイフィアさんもイッセーを魔王に据えようとしているし! 国籍取ってるからって純白人を総理大臣に据えるようなもんだぞ」

 

イッセー「うわぁ、一気に愚痴になってきたな」

 

兵夜「俺だってこの先の展開はきついんだよ。・・・さすがにな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセー「で、俺たちがフィフスとリゼヴィムに苦戦している間に宮白は勝利と」

 

ヴァーリ「さすがは蒼穹剣といっておこうか」

 

兵夜「事実なので怒りはしないよ。実際手加減されてるようなもんだしな」

 

ヴァーリ「俺も皇帝とは戦ってみたかったが、この時点で戦わなくてよかったな。その気になってくれないと面白くない」

 

イッセー「それはともかく、お前ホント黒い。何考えてんの?」

 

兵夜「いや、魔術師の制御を考慮した場合血統主義者たちの権力がある程度ないと危なっかしいし。ゼクラム・バアルはある程度好きにさせてくれるから失脚されると内乱起きそうだし」

 

ヴァーリ「しかしアポプスとアジ・ダハーカがここで出てくるか」

 

兵夜「言っちゃなんなんだが、作者はこいつらが事実上の四部ラスボスなのが不満だったりする」

 

イッセー「そうなの?」

 

兵夜「毎度のことながら言わせてもらうが、D×Dにおいて作者が不満に思っていることの最大要素が「敵が小物かポット出」であることだ。リゼヴィムが大物オーラだしたと思ったら小物に戻る上に、ここまで引っ張っておいてラスボス張らないのも実に残念。たぶんこの展開だけは同意してくれる人結構いると思う」

 

ヴァーリ「しかし実力は本物だ。これはアーチャーと組んでいても苦戦は必須だろうが・・・」

 

兵夜「そのタイミングでイッセー覚醒。いつものことに俺もなれたが・・・」

 

イッセー「フィフスの奴、ガチ対策してやがった」

 

ヴァーリ「対策を通り越してそのための作戦だからな。最終段階までに不確定要素を排除するのが目的か」

 

兵夜「ほっといて勝手に覚醒されたら台無しだからな。慎重に行くところと迅速に行くところはあるというわけだ」

 

ヴァーリ「曹操も唖然とするであろうほどにやってくれたな。せっかくの龍神化した兵藤一誠と戦うチャンスが・・・!」

 

兵夜「早い段階でオリジナル展開にすると決めたから、伏線は割と張れたと思う。まあ、ここまでやると思う人は少ない方だろうが」

 

ヴァーリ「まあ、龍神の力を覚醒されるというなら対策をとる輩もいるだろうが・・・。ここまでおそれているとは思わなかった」

 

イッセー「どんだけだよ。ドンビキだよ」

 

兵夜「理解の範疇外にある存在を恐れるのは当然の感情。そしてそれに立ち向かい克服する努力を惜しまないのは間違いなく強さ。ほんとフィフスは強者だなぁ」

 

ヴァーリ「しかし、聖杯を奪取した段階でそこまで考えていたのか?」

 

兵夜「作者がこの展開を考えたのはベリアル編を読み終えたとき。・・・死ぬよりもひどいことにってことでどうにかせんとと考えたのだが・・・」

 

イッセー「本当にひどかった。いっそ殺してほしかった」

 

兵夜「俺が殺してやろうか・・・っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセー「んでもって怒涛の展開でフィフスたちが大暴れするな。ここでリゼヴィム殺すか」

 

ヴァーリ「俺の目の前でするあたり、あいつも悪趣味だな・・・っ」

 

兵夜「まあ、訓練された型月ファンなら直死の魔眼なら結界を殺せることは想定の範囲内。割と疑問に思った人たちも多いだろう。・・・おかげでトライヘキサ殺しが楽にすんだと喜んでるよ、作者は」

 

イッセー「しっかし青野さん頭抱えてるな」

 

兵夜「まあ、技術拡散を止めようがないからな。いい加減宇宙開発しないと本当に戦争で人類は自滅するぞ」

 

ヴァーリ「学園都市の兵器の群れを相手にするのは楽しみだが、そうも言ってられないということか」

 

兵夜「怒涛の展開にふさわしい幕開けだ。原作では殺し切るのに数千年かかるといわれたトライヘキサの瞬殺。うん、直死の魔眼のチートっぷりなら説得力十分」

 

イッセー「なあ、火力低いんじゃなかったのかよお前の世界」

 

兵夜「これは火力とはまったく別の問題。いうなれば属性ってやつだ」

 

ヴァーリ「ほほう? ほかにはどんなものがあるんだ?」

 

兵夜「聖書の神のシステムを崩壊させかねないトーマス・エジソンとか、防戦だけならムゲンコンビにトライヘキサがタッグを組んでもびくともしない大食いキャラとか、全勢力敵に回して勝ちかねない魔術式とかエロい人とか?」

 

イッセー「・・・型月世界、怖い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そしてスーパーフィフスタイム最終段階。毒炎竜と暗黒鬼だ」

 

イッセー「これ、いつから考えてたの?」

 

兵夜「作者自身忘れてるが、フィフスの最終兵器に超獣鬼を使うのはアニメ第三期より前のはずだ。最終決戦にふさわしいチートを用意するにあたって、龍神相手に勝負になった超獣鬼はマジで使えると思ったんだ」

 

イッセー「マジか、そのためにわざわざ超獣鬼を回収してたのか!」

 

兵夜「あと毒龍追加したのは結構最近。滅龍魔法の特性からすると、サマエル使うと自爆することに気づいた作者が苦肉の策で入れた」

 

ヴァーリ「余計なことをしてくれなければ、この時点で決着がついてたんだがな」

 

イッセー「あ、アポプスの代わりに大ボス張るからにはここまでしないとってことか」

 

兵夜「そういうことだ。ラスボスにはそれにふさわしい力を用意しないとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセー「んでもってサマエル使いやがった。っていうか量産しやがった!?」

 

兵夜「まあ、訓練された型月ファンなら想定してもおかしくないからな。・・・セミラミス使えばグレートレッド殺せなくね?・・・って」

 

ヴァーリ「・・・神滅具にも匹敵する文字通りの規格外が多いな。一度行って暴れてみたいものだ」

 

兵夜「しかもサーヴァントの中にはドラゴン属性を相手に追加するやつもいる。・・・コンビで仕掛けられたらトライヘキサも正面からつぶせるぞ」

 

イッセー「・・・アーチャーさんや皇帝が助けてくれるとは思うけど、アポプスとアジ・ダハーカ倒してきちゃったよこいつ」

 

ヴァーリ「本当に怒らせたら何をしてくるかわからない男だ。落ち着いて戦えばもう少しダメージは減らせたんじゃないか?」

 

兵夜「時間的にギリギリだったから結果オーライだ。ここまでについてなければイッセーが死んでる」

 

イッセー「重いよ! ・・・んでもってフィフスの目的が明かされるけど、馬鹿じゃねえの?」

 

兵夜「確かに超むちゃくちゃだが、しかし効果は絶大だ」

 

ヴァーリ「確かに、人質作戦は効果的だ。しかも本当にグレートレッドが殺せるのならば、その強大さも二の足を踏ませる。頭はおかしいが見当違いではないな」

 

兵夜「まあ、実際のところ聖杯戦争は願望機としても一度も使われてないからな。ぶっつけ本番で使うには不安が残るのは事実だ。・・・妙なところで冷静というかなんというか」

 

イッセー「それにしたって規模でかすぎだろ。今までで一番スケールでかくないか?」

 

兵夜「まあ、魔術師が大ごとを起こさないようにしてるのは神秘の秘匿のためで、その必要がないからなぁ。あの世界、神秘が原因で町や島が滅びたのを隠匿してることが多々あるし」

 

イッセー「お前、出身世界からして真っ黒だったんだな・・・」

 

兵夜「まあ、キチガイ度がかなり高いのは認める。・・・狂人度合いが高いのは型月ラスボスの上等パターンだからあきらめろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして最終決戦だが、さすがはラスボスフィフス強い」

 

イッセー「宮白もシャレにならないもん用意するな」

 

ヴァーリ「何より恐ろしいのは、それだけの性能をフィフスが使っているということだ」

 

兵夜「そう。暗黒鬼の能力の肝は単純に強いという事実。設定の特殊さじゃなくて単純な性能が圧倒的だということだ」

 

ヴァーリ「フィフスの強さは何より体術。それを生かすのならば変な能力は帰って邪魔になるということか」

 

イッセー「言われてみれば、フィフスって単純に威力のでかい装備中心だしな」

 

兵夜「割と脳筋なんだよあいつは」

 

ヴァーリ「アインツベルンも頭を変に使った結果裏目に出ていることが多いからな。単純に強くなるというのは回答としては有効か」

 

兵夜「因みに、俺とフィフスの最終兵器のカラーリングはイッセーとヴァーリに合わせてある。色が蒼穹と暗黒なのは、真紅と白銀に合わせた形だ」

 

イッセー「凝ってるな、オイ」

 

ヴァーリ「だがそれでもフィフスの牙城は崩せん。毒無しで俺とクロウ・クルワッハを同時に相手取るだけの化け物なのだからな」

 

イッセー「超獣鬼の欠点が技量が無い、か。確かにテクニックタイプはかなり強いけど、そういう意味でもないんだな」

 

兵夜「怪獣が英雄に倒されるのは、技を磨かなかったからだとはよくある話だ。ならば英雄の領域まで技を磨いた者が怪物の力を手に入れたら・・・こうなるわけだな」

 

イッセー「ラスボス張るだけのことはあるってわけか」

 

兵夜「そういうわけで、俺たちも総力戦。周りを気にしていたら負けるぐらいの化け物だから、愛する女に頼ることもいとわないさ。・・・どうせ頼らなかったら怒るし、ここは素直に甘えておく」

 

ヴァーリ「実際そのうえでなお崩せないからな。本当に化け物だといっておくべきか」

 

兵夜「皇帝が生きててよかった。でないと親父さんとおふくろさんが余波で死んでるし、イッセー達もやばかった」

 

ヴァーリ「そして最終兵器の時間切れ。だがデータが手に入ってすぐに修正が入りそうだからここで倒すべきなんだが・・・」

 

イッセー「お前、言ってくれれば止めたのに」

 

兵夜「ここにきて俺のうっかりが発動。細かい説明は少し後だが、ヴァンパイア編から拾ってきたぞ」

 

ヴァーリ「アザゼルとアーチャーには説明していたようだが、二人が知らないのなら指摘のしようがない。説明の時点でうっかりだな」

 

イッセー「これがなければ、これがなければ・・・!」

 

兵夜「しかもフィフスは毒属性追加で理由はともかく因果だけはわかってやがるし。マジで最悪だ」

 

イッセー「コレ、桜花さんやばいだろ? あとで慰めとけよ?」

 

兵夜「わかってる。・・・変なことを考えられないぐらい可愛がってやるさ」

 

イッセー「そういう方向!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「でもってフィフスが本格的に脅しをかけるわけだが。・・・覚えているだろうか、曹操が帝釈天にとっつかまったところを、会話だけのシーンで不穏な激突が描かれたところを」

 

イッセー「なあ、其れってつまりどういうことだ?」

 

兵夜「フィフスがアサシンとともにゲオルグとレオナルドを確保しようと(曹操は見限る)行動。曹操達を見限っておいしいところを取りに来た帝釈天と鉢合わせ。フィフスは幻想兵装で対神宝具持ちアサシンを投入して時間を稼いで、その間にドーピングで神器が焼け付くまで結界装置と獣鬼を量産させて確保して、すべて終わったから帝釈天に二人を差し出した、という流れだ」

 

イッセー「宮白! ちょっと帝釈天殴りに行こうぜ!?」

 

ヴァーリ「付き合おう」

 

兵夜「証拠がないから無理だ。ハーデスの時とは違うんだぞ」

 

イッセー「だってどうするんだよ!? 神滅具の量産とか最悪だろ!?」

 

兵夜「さすがにデッドコピーだから安心しろ。まあ、その分数は多いんだが。しかもフィフスの奴裏ルートでばらまいてる」

 

イッセー「にしたって、人間世界に俺たちの存在ばらしてるぞ、こいつ」

 

ヴァーリ「まあ、十年以上は復興で忙しくてどうしようもないだろうがな」

 

兵夜「トリプルシックスは圧倒的だし、主要都市は壊滅したようなもんだし、とどめに能力者が大量生産だ」

 

イッセー「どうすんだよ、170万人でも超能力者は七人だろ? 億とか言ってるから少なく見積もっても数百人は」

 

兵夜「そこはまあ安心しろ。・・・誰でも出来る簡単な方法で量産したから、繊細なところまでできないので強力なのはそんなにいないから。実際禁書の能力者はそのうち六割はレベル0とかだろ」

 

イッセー「あ、そうか。なら比較的まし―」

 

兵夜「まあ、同時進行で魔法世界(ムゥンドゥス・マギクス)の魔法とか気の運用方法とかばらまいてるんだが。・・・世界は本気で暗黒だな」

 

イッセー「駄目じゃねえか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァーリ「そしてその間に君は死にかけているな」

 

イッセー「おれなんか体消滅したけど、お前ましなのかマシじゃないのか」

 

兵夜「防毒対策は万全だったんだが、サマエル、すごいな」

 

イッセー「っていうかコレ、朱乃さんたちやばくね?」

 

兵夜「実際朱乃さんは雷光が龍化してるしやばいよなあ。まあ、俺の場合は肉体の龍化という形で表れてしまったというわけだ」

 

ヴァーリ「リゼヴィムが動いた理由が乳神にあるあたり、君の影響力は良くも悪くも本当にすごいな」

 

イッセー「桜花さんたちもかろうじて無事だけど、結界装置で妨害されてるせいで助けが呼べないし、マジでやばいなコレ」

 

ヴァーリ「孫悟空殿を連れてきていればまだなんとかなったかもしれないが、選抜段階で失敗したな」

 

イッセー「桜花さんなんて語尾伸ばせないぐらいショック受けてるし、ホント宮白気合入れてるな」

 

兵夜「まあ、同時に無理なのも分かっちゃいたんだがな。・・・だからこそ、令呪を使ったんだが・・・」

 

ヴァーリ「そこまで予測したうえでの令呪の催促なんだろうな。策謀に向いているということか」

 

兵夜「・・・本当に、本当にありがとうな、アーチャー。・・・絶対、必ず、無駄にしない」

 

イッセー「・・・なあ宮白。俺、今すごいことに気が付いたんだけど」

 

兵夜「なんだ?」

 

イッセー「調べてみたけど、この方法実行した原作の人たち、そろいもそろって大変なことになってるじゃん!? しかもかなり適応しやすいのにこれだよ!? 宮白大丈夫なのかよ!?」

 

兵夜「エクスカリバーとデュランダルをガン無視して召喚できるほどの相性と、令呪によるブーストと、不完全小聖杯化でギリギリ何とかなる。ま、完全にしないといつかは後遺症が出てくるが、その辺についてはあてがあるから安心しろ」

 

ヴァーリ「それは安心した。君とはいつか全力で戦ってみたかったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そして事実上のエピローグ。まずは現状確認だ」

 

イッセー「フィフスの行動は大混乱を巻き起こした。世界はひっくり返って、反撃の機会は一度きり」

 

ヴァーリ「ようは最終決戦だ。ここで反撃する意思のある手合いを全滅させ、後顧の憂いをなくすためのものだろう」

 

兵夜「こういうのは一度ガス抜きの機会を与えてつぶすと反抗の芽をつぶせるもんだ。アサシン当たりの入れ知恵か」

 

ヴァーリ「だが、思った以上に強いな君は」

 

兵夜「そんなことないさ。・・・支えてくれる愛する人がいて、胸を張りたい大好きな親友がいて、いっぱいあいつらに慰めてもらって・・・そんでもって立ち上がったんだからな」

 

ヴァーリ「だがその通りだ。このままやられっぱなしはお互いに性じゃない」

 

イッセー「気合を入れかえて反撃準備中なのがいまってわけだ。そろそろ俺たちも手伝わないとな」

 

兵夜「そういうわけで次回からは、ケイオスワールド最終章「卒業式のリインカーネイション」だ。・・・気合、入れていくぜ」



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卒業式のリインカーネイション
最終決戦、準備中です!


ついに、最終章突入!


 

 

 

 

 

 

 

 

「なんていうか、大変なことになってるよなぁ」

 

 深く落ち込んだ表情で、松田はそうぼやく。

 

 まあ、そうだろうそうだろう。

 

 いかに平和ボケといわれる日本とはいえ、核被害国であるがゆえに核兵器による攻撃は精神的に衝撃だ。

 

 日本の被害は先進国では間違いなく軽微とはいえ、すでに輸入品の高騰などの被害が大量に出てきている。

 

 資源が足りない・・・という最大の欠点を持つこの国にとって、周りの国の悪影響は割と自分にもダメージが入るのだ。

 

「覗きをしても怒られないとか、なんていうか、刺激が足りないよな。そして俺たちも覗く気分にならないっていうか」

 

 元浜もこんな感じだ。

 

 いつも元気なこの二人がこうなると、さすがに教室中が暗くなっている。

 

 世界中で発生した異能力者は、その多くが犯罪を行っている。

 

 世界中の都市がEMPで機能を破壊されている状況下で、突然不思議な力に目覚めたのが原因だ。

 

 マイナス方向とプラス方向に揺り動かされて、精神の均衡を崩しているのだろう。

 

 当然警察機能もだいぶマヒしており、中には暴徒を率いて銃を奪い、武装勢力と化した例もあるそうだ。都市を大量に持つ大国家ほど、治安が悪化して手が付けられない。

 

 中にはかろうじて対応した軍隊を逆に返り討ちにした神滅具級の猛者もいる。

 

 ああ、これは非常にまずいだろう。

 

「しっかし、これ割とすごい能力だよなぁ」

 

 と、元浜は座った体勢のままジャンプする。

 

 いや、ジャンプなんてものではなく、そのまま浮遊した。

 

 俺はさすがに驚いたぞ。なんでこいつ飛べるようになってんだ。

 

 じっさい周りを見てみると、両手の間で電気をバチバチさせてたりしてる連中も数多い。

 

 ・・・能力者増えすぎだろう。フィフスもうちょっと押さえろよ。

 

 数億人とか言ったが、もしかして十億人未満だからとりあえず数億人って言っとけばいいやって感じだったのか?

 

 想定される超能力者(レベル5)は千人未満だっていうが、もしかしたらこの駒王町に出てくるかもしれん。

 

 それに、これまで跳ねっ返りだったはぐれ悪魔や異形社会の連中も余波で動くかもしれん。

 

 なにせ今までは秘匿のために体制側が本気を出しかねなかったが、今なら「能力者の振りしました」とか言い訳できるからな。タガが外れるだろうことは想像できる。

 

 すでに教会では、十年以内に悪魔との和平を公表して人類に異形の存在を知らしめるしかないという判断も出始めている。

 

 そして、それはおそらく可決されるだろう。それだけの大きな影響が今この世界には出てきている。

 

 異形の力が人間たちの世界に広まれば、世界は大きく混乱するというのが秘匿の最大の理由だ。それは傲慢かもしれないが、戦争や混沌を望まない者たちからすれば当然の理由であり、見境なしに責められるもんでもない。

 

 だが、まさにその最悪の懸念はフィフスによってばらまかれている。

 

 すでにフィフスたちはあらゆる手段を使って、練習すれば多くの人間が使える魔法世界(ムンドゥス・マギクス)式の魔法や気の概念を中心にばらまいているらしい。

 

 個人の努力で軍事兵器並みの戦闘能力が手に入る世界。ああ、もうこの混乱は止まらない。

 

 こうなれば、いっそばらして大きな制御機構を堂々と動かせるようにするしかない。上はそう判断し始めている。

 

「まあ、日本は比較的ましな方だ。ここは開き直って支援して、「国連盟主国、日本」を誕生させる・・・とか前向きに考えようぜ?」

 

「宮白も言うわねぇ」

 

 俺が気分を軽くしようとそんなことを言ったら、桐生にからかわれた。

 

 とはいえ桐生も事情は知っているし、そこは会話をスムーズにするために気を使ってくれてるんだろう。

 

「けどさ、みんな結構能力受け入れてるよなぁ」

 

 とは元浜の弁だ。

 

 じっさい、この教室の連中は俺たちオカルト研究部関係者以外は異形関係者がほぼいないのにもかかわらず、この突然の異能に差別とか排斥を謳っている連中はいない。

 

 せいぜいが「露天風呂覗くのに使うんじゃないわよ!!」という女子たちのツッコミぐらいだ。

 

 能力者の力に恐怖した人たちによる「能力者排斥運動」だって場所によっては行われていると聞くのに、これはまたびっくり。

 

「この教室、できた連中が多いよなぁ」

 

「そりゃそうよ。この私がいるクラスなのよ?」

 

「すっげえ。自意識過剰にもほどがある」

 

「「松田に同感」」

 

 と、ばか騒ぎをしながら、俺は窓の外を見る。

 

 ・・・もうすぐ卒業式。姫様たちには嫌な感じになるだろう。

 

 記念すべき卒業式を、よりにもよってこんな大変な時期に迎えるんだ。できることならもっと明るいニュースを聴きながら迎えたかったと思っている三年生は多いだろう。

 

 ああ、まあそれはしたかがない。

 

 というわけで俺が頑張るしかないわけだ。

 

「よし! みんな、俺から話があるんだけど」

 

 と、イッセーが遂に切り出した。

 

「なんだ、イッセー」

 

「ああ。オカルト研究部の元メンバーを含めて、卒業式の日に気分を盛り上げるためのパーティをやろうって話があるんだ。お前らも一緒に参加してくれよ?」

 

 と、イッセーはそう切り出した。

 

 ああ、世界がいろいろ落ち込んでいるんだから、俺たちが明るくなって盛り上げていかないとだめってところはあるだろう。

 

 それに、少しは明るいニュースも出てくるんだからなおさらだ。

 

「そうだな。これからの生徒会のためにも盛り上げていかねばならないし、ぜひ参加してくれると嬉しいぞ」

 

 生徒会室から帰ってきたゼノヴィアもそれに乗っかる。

 

 まあ、こいつもグレモリー眷属なんだから当然参加だ。

 

「お、いいなそれ! でもイッセーと宮白のハーレムだろ? ・・・マジでむかつくんだが」

 

 元浜がジト目を向けてくるが、そこについては安心しろ。

 

「大丈夫だ。姫様の友人も呼ぶから意外といけるぞ。・・・前生徒会とかも今回は参加する」

 

 そう、そこはすでに確定だ。

 

 D×Dのメンバーは全員招待している。サイラオーグ・バアルやシーグヴァイラ・アガレスについても、予定を調整しておく徹底具合。

 

 いい機会だし、松田と元浜にも俺たちの現状を教えようと思ってな。

 

 ・・・俺かイッセーの眷属にねじ込めとか言ってきそうだ。イッセーや俺がハーレム作ってる最大の要因だし。

 

 と冷や汗を流していたら、二人そろってぐぬぬとでも言いたいような顔になっていた。

 

「ついにイッセーまでハーレムであることを隠さないとか! どういう了見だてめえ!!」

 

「モテないものの苦しみを思い知れ! 俺は能力者だぞ!!!」

 

「うわ、お前らちょっと待て・・・あああああああ!?」

 

 あ~あ~あ~あ~。喧嘩始めちゃったよこいつら。

 

「い、イッセーさん!? ま、松田さんも元浜さんも落ち着いてください!!」

 

「こら二人とも! イッセーくんをいじめちゃダメなんだからね!」

 

 アーシアちゃんとイリナが止めに入るが、間違いなく逆効果だろうそれ。

 

「・・・それで? あんたら今度はどんなことすんのよ?」

 

 どうやら桐生には勘付かれていたようだ。

 

 うん、まあ、つまりは・・・。

 

「ちょっと、元凶に殴り込みかけるメンバーに志願したんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮白兵夜が語る通り、世界の状況は大いに混乱しているといっていい。

 

 世界中の都市の大半が機能を停止するという状況。軍事兵器において圧倒的であるという事実。そしてその中には文字通りの怪物が含まれているという現実。

 

 そんな環境の中、突如無差別に民間人が強大な力を手にしてしまった。

 

 軍事教育というものは、精神鍛錬も多分に含んでいる。

 

 これは、人を殺すという多大なストレスに耐えうる人間を育成するという観点から必要不可欠。それを欠かしていなくても耐えられないものが出てくるのに、しないだなんてことはあり得ない。

 

 シェルショックという言葉ができるほどにこれは強烈なのだ。殺し合いという極限の状況下は、人の精神に良くも悪くも大きな影響を与える。そしてその大半は悪影響だ。

 

 他者をたやすく蹂躙できる力を手にしたという優越感。これを抑制するための訓練もまた、その精神鍛錬だ。

 

 それを一切行っていない民間人が、いきなり強大な力を手にすれば大半は暴走を開始する。

 

 結果として、都市部の治安は本当に悪化の一途をたどっており、今や都市といえるものの大半は犯罪都市へとなり替わっていた。

 

 そしてそのタイミングで対異能者技術が流出したことにより、多くの人間がそれに飛びつく。

 

 加速度的に発生する民間人による殺し合いに、各国の軍部はまともに対応することができない。

 

 いわゆる先進国といえる国家でこれに対応することができているのは、第九条を理由として戦争に参加せず、そのゆえに核攻撃のメイン対象から外れた日本のみだった。

 

 その日本ですら、凶悪犯罪発生率は例年の数十倍に膨れ上がっており、自衛隊及び警察に回される予算は、来年度は数倍に上げられるという異例の事態にまで発展している。

 

 そして、そんな元凶であるクージョー連盟にたいし、異形社会はうかつに手が出せなかった。

 

 なにせ、グレートレッドが事実上の人質になっているのだ。

 

 世界最強の存在を人質にするという前代未聞の恐喝に、各神話体系は二の足を踏んだ。

 

 なにせ各神話体系にも、嫌がらせに特化した獣鬼を送り込まれている。

 

 その対処に忙しいし、今回の事態はある意味で利点だ。

 

 これだけの事態に対応するには、自分たちの存在を闇に隠したままで対処しきれない。

 

 裏を返せば、自分たちの存在を堂々と示せる。聖書の教えに侵略され、お伽噺と同じような扱いをされていた自分たちを、正真正銘実在する存在にすることができるというのだ。

 

 さらに、フィフスはアサシンの諜報力を使って多くの影響力を各神話体系に与えていた。

 

 悪魔の大スキャンダルはある意味おとりだ。ばらして混乱させることに意識を向けて、交渉の種にするという発想を少しでもそらそうとした。

 

 それらの事情が重なり、反撃作戦はなかなか進まなかった。

 

 意図的に一度は許可したことが特に大きい。彼らはこの一度しかないチャンスをどう生かすかという発想にとらわれてしまった。

 

 ゆえに、ほとんどの人物は気づいていない。

 

 フィフスたちの手によって、襲撃のタイミングすらコントロールされているということに。

 

 完全にぴったりのタイミングにはできなくとも、カウンターを叩き込めるほどに準備ができるまで時間を稼がれているということに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




フィフスも兵夜も飴と鞭は基本戦術。

こと、この混乱の状況下でその首輪を握っている者とのコネクションは莫大な利益を生む可能性があります。それは魔王派も大王派も教会も神の子を見張るものも同じこと。

ゆえに、この状況を維持したいというものも少なからずいるため情報を入手することは比較的容易。事前に展開を予測していればもうけを得ることも簡単ですからね。

ですが、そんなことは兵夜もアザゼルも想定内。・・・反撃は派手に行きますよ?


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これはさすがに、想定外だろう!!

この作品はあくまでファンタジーですが、参戦作品の都合上SF要素も多分に含んでおります。ご了承ください


「・・・とまあ、そういうわけでこの襲撃の大半は漏れていると考えていい」

 

 俺は、あつまった者たちの前でそう告げた。

 

 上級悪魔、宮白兵夜。

 

 今回の反撃作戦、そのメイン攻撃担当の立案者として、特例でこの地位が与えられた。

 

 本当にイッセーより先に上級悪魔になるとは思わなかった。これ絶対先輩方が嫉妬してるだろう。

 

 リベラルすぎるようちのトップ。もうちょっとこう、厳格にだねぇ。

 

 まあ、そういう愚痴は後にしておこう。

 

「真正面から攻撃を開始するやつらの人数も内訳も、九割はつかまれているだろう。戦闘用ホムンクルスや急成長させたクローンなど、寿命が数か月でもおかしくない連中も、タイミングさえ読めればちょうどいい時期に調達可能だ」

 

 そう、この情報は間違いなく漏れているから、対抗準備も高水準だろう。

 

 おそらく、弱みをつかまされている連中はその軌道修正というか微調整に全力を尽くさせられる羽目になったはずだ。

 

 こういうのは、一度反抗させて叩き潰すという過程が割と効果的だ。

 

 反撃は無意味だと思わせることもできるし、やれるだけやったと諦観させることもできる。

 

 ああ、そういう意味ではフィフスはうまいことやっている。

 

 だが―

 

「だが、この襲撃方法だけは読まれない」

 

 俺は、はっきりと断言した。

 

 この襲撃方法は土壇場までアザゼルと俺だけが詳しく知っていた方法だ。これを急ピッチで用意するのは苦労したが、絶対に信頼できる味方にもあまり話さないようにしていた以上、フィフスも完全に読み切れない。

 

 じっさい、イッセーたちは割とビビっていたりドンビキしていたりしている。

 

 まあそうだろう。俺もぶっつけ本番でやるのは心臓がバクバクしている。

 

「対転移フィールドを大量に設置しているいまのクージョー連盟本部に、即座に奇襲をかけるにはこの方法が一番だ。そのための準備は徹底している」

 

 そこまで行ってから、俺は姫様に場を移した。

 

「・・・本作戦の代表を務めるリアス・グレモリーよ。まずは、ここに来てくれたことに感謝を捧げます」

 

 そういって一礼する姫様は、そしてまず前提条件を告げた。

 

「まず第一に。・・・どうあがいても、私たちは敗者だわ」

 

 そう、俺たちは致命的に敗北した。

 

 こうなれば、今の世界の在り方は大きく変わってしまうだろう。

 

 それは、この場にいる多く者達が望まない方向だといっても過言ではない。

 

 だが、それでも―

 

「負けっぱなしで納得できないでしょう?」

 

 それが、俺たちの共通認識だった。

 

 そうだ。このまま負けっぱなしだなんていられない。

 

 だからこそ、こんなところに出張ってるんだ。

 

「勝つわよ! 勝って、世界を覆したツケをフィフスに払わせるの!」

 

 姫様は、次期当主であることを理解させる威厳をもってそう告げる。

 

 その言葉に、全員が気合を入れなおした。

 

「さあ、私の愛しい同士達! フィフス・エリクシルを滅ぼすわよ!!」

 

 ・・・施設中から歓声が響き渡った。

 

 待ってろよ、フィフス。

 

 ここからが反撃の時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィフス・エリクシルは襲撃の連絡を聞いて目をさました。

 

 だが、別の驚くことは何もない。

 

 なにせ、この時期での襲撃は指示通りだ。

 

 弱みを握っている要職の連中全員に、技術提供と引き換えに襲撃をこの時期にするように通達していた。

 

 だいたい、一度も襲撃が行われないだなんて全く想像できない状況だ。

 

 ことがことである以上、三大勢力どころかあらゆる神話体系が危険視する。そしてそのため下手に抑え込んでも爆発するだけだ。

 

 だから、完全にカウンターを打てるタイミングに爆発を誘導した。

 

 彼らをここで完膚なきまでに蹂躙すれば、二度目を行おうとは思わないだろう。

 

「それで? 敵の戦力はどんな感じだよ」

 

「想定通りの規模よ。最上級悪魔タンニーンに龍王もほぼ全員が参戦。そして高位の神も何人かいるわね」

 

 なるほどそれは情報通り。

 

 だが、そんなものでは自分たちは倒せない。

 

「じゃあレイナーレ。あいつらを解き放ってくれ」

 

「はいはい。人使いのあらい代表だこと」

 

 そして、そいつらが解き放たれようととしたその瞬間―

 

「・・・フィフス様! 大変です!」

 

 オペレータの一人が声を荒げた。

 

「慌てるな。アザゼルは俺が誘導することなんて見抜いてるから隠している札は想定の範囲内だ」

 

 そう、これはお互いの読みあいである。

 

 仮にも数千年生きてきたアザゼルと、読み合いで圧倒できるなど思っていない。

 

 あの男ならこちらが戦闘開始のタイミングをコントロールしていることには気づくだろう。だからこちらがつかんでいない戦力を用意することは想定できていた。

 

 第一D×Dの主力であるグレモリー眷属が一人も前線に出てきてない時点で、そんなことは予測できている。

 

 だが、いったいどうやって襲撃を仕掛けるのか。

 

 絶霧のデータ解析で手に入った対転移能力は完璧だ。これを突破して入ろうとして、そう大量に送り込むことは主神ですら不可能だと断言できる。

 

 加えて、迎撃ミサイルは大量に開発済み。結界の外側から来たのなら、撃ちまくれば数割は減らせるだろう。

 

 そして、いったいどこからくるというのか。

 

 だが、次の発言はさすがに想定外だった。

 

「・・・この基地の上空から、高速で飛来してくる物体多数! 百・・・二百・・・もっとあります!!」

 

 その言葉に、フィフスは目を丸くしながら上を見上げた。

 

「お、お、お、軌道降下兵(オービット・ダイバー)だとぉ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 今頃フィフスの奴も度肝を抜かれているだろうな!

 

『宮白ぉおおおお! 本当に大丈夫なんだろうな!?』

 

 イッセーが通信越しに悲鳴を上げるが、俺はまあ大丈夫だろうと思っている。

 

「大丈夫大丈夫、いい加減減速もしてるし、今からポッドが壊れても死にゃしねえよ。・・・酸素ボンベ替わりの人工神器は渡されてんだろ?」

 

『そりゃそうだが、減速が追い付かずに激突したら上級悪魔クラスじゃねーとしぬぞ?』

 

 小雪の科学的知識に基づく意見に、通信越しでかなりの悲鳴が上がった。

 

 まったくお前らは馬鹿なのか。敵本部に少数精鋭の効果強襲なんて死ぬ覚悟もなく参加するなよ。

 

『いや、戦闘にもならずに死んだらさすがにショックだと思うんだけど?』

 

 ああ、そういうことか。ありがとう木場。

 

『でもこれワクワクするねー』

 

『ふふふふふ! 大気圏降下はロボットアニメの定番! ああ、生きててよかった!』

 

『まさか宇宙空間から攻めるとは思わなかった。私は興奮してきたぞ!!』

 

 久遠やらシーグヴァイラやらゼノヴィアやらがそれぞれテンションを上げるが、うん、俺もちょっとスリルを感じてる。

 

 クージョー連盟の本部に対する強襲は困難を極める。

 

 普通に学園都市技術による迎撃網がすごすぎる。あの強襲艇は何度も使えんというか、ほとんどのメンバーがGで戦闘不能になる。

 

 かといって転移で行けばいいかというとそれも無理。単純に妨害術式が万全で転移できない。

 

 ゆえに考えられたのが宇宙空間からのトップアタックだ。

 

 転移妨害の装置は地上に設置されているらしく、高さに関しては比較的ましだった。上に高高度に転移して射出し、宇宙空間から降下を仕掛けるのだ。

 

 アザゼルと暇つぶしもかねていろいろ動いていたが、まさか使うことになるとは思わなかった。

 

 だが、これが最も効果的な戦術だ。

 

 まさかフィフスもSF方面で攻められるとは思ってないだろう。科学技術では木原を保有する禍の団が圧倒的に有利だ。

 

 ゆえに、その盲点を突いて強襲する。

 

 海から仕掛けてくる連中はそのためのおとりだ。おそらくそれでは防衛網を突破できない。

 

 目論見は短期決戦。特攻じみた戦法でフィフスを倒してトリプルシックスを確保。それをもって禍の団を混乱状態に貶める。

 

 トリプルシックスは撃破じゃなくて確保がミソだ。なにせサマエルの毒を量産できる以上、グレートレッドの命は常に危険になる。

 

 だからトリプルシックスをグレートレッドの護衛に使う。それによって抑止力にすることで、大幅に弱体化するであろう禍の団を抑止する。

 

 二度目はない。フィフスもこちらの弱体化を狙って一度は許しているが、二度目以降は躊躇なく本当にグレートレッドを殺すだろう。

 

 こういう脅しというのは、本当に実行するからこそできるのだ。できないと思われたらその時点で意味をなさない。

 

 奴はそれをわかっている。だから絶対に逃さない。

 

 だから、俺たちはここで勝つ。

 

 さんざん引っ掻き回してくれた礼を、十一の利子で返してくれるわ!!

 




反撃開始! 

フィフスたちは科学でアドバンテージをとっているという自信があります。そして、それはまごうことなき事実です。

だからこそ、科学による想定外の不意打ちがきく。しかも皮肉も聞いてる

禁書目録を参加作品に入れている最終決戦として、これはまさしく面白い展開だとは思いませんか?









因みに、書き溜めているところでは最終バトルである兵夜VSフィフスの中盤ですね。そのあとワンアクション入れて最後の処刑用BGM。そして最後にちょこちょこやってからエピローグ。









因みに、後日譚というか一種の番外編を計画中。

いや、このままいくと兵夜の家族とかグランソードの能力とかが出せそうにないんで、そこらの補填とかを踏まえてやっていこうかな・・・と。

そのあたりも終わらせれば、D×Dも最終巻に行くと思うので、そうなってからさらに番外編第二章としてアザゼル杯をやってみようかと思っております。

まあ、予定は未定なのですがね


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最終決戦、開始

 

 大気圏降下ポッドを意図的に排除し、俺は即座に武装を転送する。

 

 展開するのは対地攻撃用の人造神器。

 

 ラージホークに格納していた、動力炉を装備した実体弾を装填する。

 

 ・・・神の杖という兵器を知ってるだろうか。

 

 衛星軌道上から金属の杭をぶっぱなし、重力加速で地面にたたきつける理論上の兵器だ。

 

 核にも次ぐ破壊力を持つとされるこの兵器を、落下の効果速度と術式加速で併用して代用する。

 

「行くぜフィフス、これが開戦の号砲だ!!」

 

 俺は躊躇なくぶっぱなしながら、そのまま墜落していく。

 

 ああ、この調子だと減速が間に合わず地面に激突するが、偽聖剣越しなら耐えられる。

 

『兵夜ぁああああ!? 何やってるのこの馬鹿ご主人!!』

 

『死ぬつもりですか兵夜様!? 真っ先に敵陣に到着しますよ!?』

 

 ・・・あ。

 

「・・・てへ♪」

 

『なんで宮白さんはうっかりなんですか!』

 

『宮白先輩ダメすぎますぅうううううう!!!』

 

 よりにもよってアーシアちゃんとギャスパーに突っ込み入れられた!?

 

 くそ、ショックだがしかし大丈夫!!

 

「へ、ヘラクレスはちゃんと持ってきてるから!! 一人じゃないから!!」

 

『論点はそこじゃないわよ! なんであなたはいつもいつもうっかりするの!?』

 

 すいません姫様! 俺だって直したいとは思ってるんですがどうしようもないんです!!

 

 ええい、こうなればやけだ!

 

 ・・・格納しているゴーレムも全部使って、一番槍を切ってやらぁああああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのバカぁあああああああ!

 

 なんでいつもいつもそううっかりできるんだ! お前は馬鹿か、馬鹿なのか!?

 

 心からツッコミを入れるけど、もうこうなったら仕方がない!

 

 俺も降下ポッドをぶち壊して助けに行かないと―

 

『まて、兵藤一誠。ここは宮白兵夜を信じてみようじゃないか』

 

 ヴァーリ!? お前何言ってんだよ!

 

 宮白死ぬぞマジで!!

 

『いえ、ヴァーリの言うとおりだわ』

 

 リアスまで!?

 

『兵夜はなんだかんだ言って単独行動能力は高いわ。それに、いざというときのための軍勢戦力もある。・・・忘れちゃだめよ、この戦い、三大勢力はおろか神話体系も人間世界も巻き込んだ戦いよ』

 

 そういわれると、確かに反論できないけど・・・。

 

『どちらにしても軌道がずれたよ。・・・今からじゃ追いつけない』

 

 え、マジで、木場!

 

 ああもう! 畜生!

 

「死ぬんじゃねえぞ宮白!」

 

『それは俺のセリフだ。・・・俺は全身の六割近くしかとっかえてないが、お前は二度丸ごと全身とっかえてんだろうが』

 

 そういえばそうだね! 俺の方がダメージでかいや!!

 

『兵夜! 終わったら一杯おいしいご飯作ってもらうんだからね?』

 

『あ、あと夜もいっぱいご奉仕してもらおうかなー?』

 

 な、ナツミちゃんはともかく桜花さんは通信越しにすごいこと言った!?

 

『あーそうだな。うまい酒もついてるとなおいいな』

 

『そ、そうですね、兵夜さまには心配ばかりかけさせられてますから、いろいろお返ししてもらいませんと』

 

 青野さんとベルさんものっかったよ。

 

 なんだ、意外と緊張感ないじゃん!!

 

『あ、今度会長とまたデートする・・・っていうか花戒と仁村から告白されて大変なことになったから、そこらへんも手伝ってくれ』

 

『この男、結局気づくより早く告白されたな』

 

『そうね、ゼノヴィア。イッセーくんも鈍かったけど、匙くんもたいがい鈍いのね』

 

『いや待てイリナ。トラウマのせいで無自覚に目をそらしていたイッセーよりひどいだろう。・・・そんなところまでなんでお前は劣化イッセーなんだ』

 

『お前らひどいな! っていうか砲撃中にそんなこと言うなよ宮白!!』

 

 本当に余裕だね!!

 

 ああ、だけどなんだか緊張感がほぐれてきた。

 

 そしたら、降下ポッドの破壊時間だ。

 

 こっからはポッドを捨てて俺たちの自力で減速する。そして降下ポッドは質量攻撃に使うんだと。

 

 ああ、勝とうぜみんな!

 

 そして俺はポッドを脱出して―

 

「お待たせ、イッセーくん!」

 

 ―ああ、来ると思ったぜ。

 

 ポッドを五つはぶちのめしながら、黒い翼が俺の目の前に出る。

 

 思えば、俺が彼女に告白されたことがすべての始まりだった。

 

 それがこんなところまで長引くだなんてな。なんていうか感慨深いよ。

 

 だけど、それもこれで終わりだ。

 

 俺の悪魔になってからの物語、ここで区切らせてもらうぜ!

 

「決着つけるぞ、レイナーレ!!」

 

「ええ、これが最後の勝負よ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵基地に降下した僕たちを待っていたのは、大量に表れた兵士たちの群れだった。

 

「きやがったぞ!」

 

「くそ、基地内で戦闘なんて聞いてないぞ!?」

 

 さすがにこれは想定してなかったのか、敵は大いに混乱している。

 

 ああ、そしてこのチャンスを逃す気はない。僕たちは体勢を整えた順に戦闘を開始する。

 

 放たれる銃弾を交わしながら、聖騎士を呼び出して一気に数を増やす。

 

 すぐに戦闘は激戦となり、基地中から煙が上がっている。

 

 だけど、どうやら結界装置の量産型を大量に用意しているようだ。いまだ基地は原型を保っている。

 

 ここまでの水準で神滅具の機能を再現するとは、やはりキャスターは侮れない。

 

 これ以上彼らを好きにさせるわけにはいかない。なんとしても決着をつけないと!

 

「どうやら、私たちは同じ場所のようだな」

 

 エクスカリバーを身にまとったゼノヴィアが、敵を薙ぎ払いながら合流する。

 

 うん、聖騎士が何体か巻き込まれてるからね? 味方を巻き込まないでね?

 

「しかし、やはり激戦だな。すでにこちらにも死者が出ているようだ」

 

「言ってはなんだけどそれは覚悟の上さ。だけど、そう簡単に死ぬ気はない」

 

 背中を預けながら、僕たちは敵を切り捨てていく。

 

 攻撃密度も質も高水準だけど、それでもそうそうやられはしない。

 

 この戦いは、世界の命運がかかっているといってもいいのだから。

 

 そして、そんな状況なのは敵にとっても同じこと。

 

 すぐに精鋭が来ることはわかっていた。

 

「やあ、好きかってやってくれてるようだね?」

 

 そこに来たのは、この事態の根幹を担っている男の1人。

 

 トライヘキサの封印を殺し、そしてトライヘキサすら殺した死霊魔術師。

 

「レイヴンか!」

 

「さて、それでは材料を集めるとしよう」

 

 そういって指を鳴らし、そしてセイバーが姿を現す。

 

 ああ、これは確かに危険だろうが、それでも負けるわけにはいかない。

 

 今度こそ、僕たちがかつ!!

 



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開戦、開戦、大開戦

最終決戦ですので派手に行きます。

どこもかしこもいきなりクライマックス!


 

 

 

 

 

 

 

 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘は非常に過激となっていた。

 

 基地中のあらゆるところが爆発を起こし、そして死体が生まれていく。

 

 強襲により混乱状態となった基地も、いつの間にか態勢を整えなおし、そして戦いは苛烈になっていく。

 

 そんな中、研究データの破損を考慮するのは研究者として当然だった。

 

 木原エデンはあくまで科学者である。

 

 データをとるために前線に出るぐらいの狂人ではあるが、データが消滅するのを警戒するぐらいの常識もまた保有していた。

 

 ゆえに研究者たちはすぐにデータの持ち出しを進めている。

 

 木原エデンの目的は、木原として基本中の基本にして骨子である。

 

 彼は確かにあらゆる技術を研究する木原の異端児だが、その根幹だけは異端ではない。

 

 すなわち科学の発展。最先端の技術の研究。

 

 だが、その過程において彼は大規模な被害を望んだ。

 

 テロリストという戦闘を起こす側に回ることで、実践テストを簡単に行うことを選んだ。

 

 その極点こそが第三次世界大戦の勃発ともいえる。古来より戦争により兵器開発は大いに発展し、そこからの技術流用がインターネットのように世界を変える。それが戦争の利点の一つであった。

 

 そして、能力者を大量に生み出したこともその一環。

 

 能力者が大量に出るということは、すなわちデータが大量に出るということである。それは研究の発展に必要不可欠。データというあればあるほどいいものが手に入る。

 

 そう、ここにいるのは全員が人格破綻者。

 

 科学の発展に際限をかけない場合、人は簡単に科学を悪用する。

 

 その極点こそが木原一族。科学を悪用して研究する天才たち。

 

 ゆえに、自分が犠牲になろうとデータだけは死守しなくてはならないのがこの男の本質である。

 

 ゆえに、データの持ち出しのためならば彼は自分の死すら平然と行える。

 

 そして、だからこそ―

 

「お前が来るとおもったぞぉん、マリンスノー」

 

 マリンスノーの名をかつて持った、青野小雪は回り込める。

 

「エデン。てめーやってくれたな。・・・木原(てめーら)は本当に手段を選ばないファック野郎どもだ」

 

「そうだろぉん? なにせ、学園都市にいたときは首輪をつけられてるようなものだからなぁん」

 

 科学が発展するにはいろいろな条件がある。

 

 その一つは普遍性。広く大衆や世界に広められることだ。

 

 研究するものが増えれば当然研究は進みやすくなる。使うものが広まればデータはとれる。使うことが多ければ、消耗するデータもとれるし、何より実践テストとなり問題点も発見しやすい。

 

 その点でいうのであれば、一都市に収束されていた学園都市は発展にとって極めて問題だった。

 

 それこそが学園都市が科学を独占する理由であり、木原を管理するための策だったのだろう。

 

 木原とは固有の血族ではなく世の中に存在する天災の称号。

 

 科学の悪用という概念が具現化し、目的のために手段を択ばず、そのためなら人の善性すら利用する。

 

 そう。テロリストに対抗する人々の抵抗は善意であり、それがデータをとらせてくれる。

 

 その点において、彼はまさしく木原だった。

 

 それを、小雪は一番理解している。

 

 ほかならぬエデンの使い走りとして奔走し、その一面を見続けてきた彼女だからこそ、この世界で最もエデンを理解していた。

 

 ゆえに―

 

「落とし前をつける時だ。ファックな研究はおしまいだよ」

 

「いや、無理だなぁん。能力者(サンプル)が野に放たれた以上、能力者開発は止まらないぞぉん」

 

 ゆえに、この世界でも木原は生まれるだろう。

 

 もう自分が死んでも新たな学園都市は世界そのものとして生まれると、エデンは言外にそう告げた。

 

「だろうな。だが、その先頭には立たせねーよ」

 

 小銃を手に持ち、小雪は銃口を突き付ける。

 

 ここに、学園都市の怨霊を滅ぼすための過去の清算が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘は禍の団が反撃を開始しており、当然のごとく禍の団が優勢なところも多い。

 

 そのうちの一つは、最強の人間がいるところだ。

 

「うぉおおおおおおお! この世界のUMAをすべてぺろぺろするまでは死なんぞぉおおおおお!!!」

 

「「「「「「「「「「「うわぁあああああああ!?」」」」」」」」」」」

 

「け、剣が刺さらない! 魔剣創造の禁手なんだぞ俺は・・・ぎゃぁああああ!!!」

 

「だれか、核兵器持ってこい!」

 

「いや、神滅具だ神滅具!!」

 

「二天龍来てくれぇええええええ!!!」

 

 ふんどし一人に、すでに精鋭数百人が戦闘不能に追い込まれている。

 

 禍の団の最強候補ともいえるふんどしの猛威に、彼らは敗北の二文字をたたきつけられていた。

 

 それでも最上級悪魔すらいるこの状況下で、ふんどしに手傷を負わせることができるものは何人もいたのだ。

 

 だが、彼らは誰一人として知らなかった。

 

「さて、回復するか」

 

「・・・あいつが聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)持ってるなんて聞いてないぞぉおおおおお!?」

 

 今の今まで、彼は手加減し続けてきたという事実を。

 

 神滅具に次ぐレベルの力を持つ神器はいくつも存在する。

 

 そのうちの一つ、悪魔すら回復する究極の治療神器聖母の微笑の力を持っているなど、想定外にもほどがあった。

 

 冗談抜きで緊急事態。トリプルシックスに次ぐ化け物がここで動いていた。

 

「うぉおおおおおおおお! UMAぁああああああああ!!!」

 

 突撃してくるふんどしに、誰もが吹き飛ばされることしかできない。

 

 ただの人間に圧倒的な暴力で粉砕されるという、悪夢のような攻撃が繰り広げられる。

 

 そして―

 

「・・・なるほど、お前がふんどしか」

 

 その突撃が、轟音とともに止められた。

 

 衝撃波が敵味方問わず吹き飛ばすが、しかし先ほどの突撃に比べればかわいいものだ。

 

 そして、止まった瞬間に斬撃が放たれふんどしはそれを受け止める。

 

「・・・ブロッサか」

 

「隊長も、いい加減倒れてくださいよー」

 

 割と本気で途方に暮れた顔をしながら、桜花久遠は龍喰らいを構えなおした。

 

 付き合いが長いものとして、ここで彼を倒すのは自分の役目だ。

 

 そう、そしてそれに手を貸してくれる者もいる。

 

「アウロス学園では大暴れしてくれたそうだな。・・・貴様は冥界の敵と判断させてもらう」

 

 二天龍に匹敵するとすら言われる最強の若手純潔悪魔。

 

 出来損ないでありながら、バアル家次期当主となったもの。

 

 若手四王最強の、獅子を従える者。

 

 獅子王、サイラオーグ・バアルがこの戦場に降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベル・アームストロングは戦闘の中、無意識に兵夜の姿を探していた。

 

 兵夜を信用も信頼もしているが、しかし彼はいろいろと問題が多い。

 

 ・・・そもそも、三大勢力の人体改造術式の見本市といえる彼は割と倫理観が問題だらけだ。

 

 罪のない一般市民に迷惑をかけることは避ける性分なので他人に関してはそこそこあるが、しかし自身に関しては致命的に緩いだろう。

 

 戦闘能力の世界ランキングなら次点クラスのハーデスが相手とはいえ、最初から右足をなくすような戦闘を行うような男だ、何かしでかしそうで実に怖い。

 

 自分の主に対して思うことではないが、しかし首根っこをつかむ人物が必要ではないかとすら思う。

 

 今回の作戦のために特例で試験を受けて昇格している以上、彼はかなりの独自裁量を持ってしまっている。単独行動を起こしやすくなったといっても過言ではないだろう。

 

 っていうかうっかりがひどい。前回のことや自分のこともあるが、割と致命的な事態が起こるほどのうっかりだ。なんでまだ死んでないのが少し疑問に思う。

 

 だから早めに合流した方がいいのだが、果たして単独行動に躊躇がない彼を見つけるのにどれだけ時間がかかることやら。

 

 従僕ともいえる立場としては、何とか合流したいのだが。

 

「それで、どうしますか?」

 

 貴重な戦力であるアーシアの護衛も必要不可欠だ。

 

 今回の戦闘のため、フェニックスの涙は当分流通しないといえるレベルにまでかき集められた。

 

 最低でも一人一個は渡されており、そこからダメージに対する耐性などから追加の個数が決定される。

 

 そんななか、アーシア・アルジェントだけは自分が回復できるため渡されていない。

 

 が、彼女は戦闘能力が低いのですぐにやられる可能性がある。

 

 彼女は徹底的に護衛しなくてはいけない。

 

「下がっていてくださいねアーシアちゃん。まだまだ大変なんですから」

 

「はい。ですが、前に出て助けられないのは残念です」

 

 集中的に戦力を投入して確保した建物の一角を、暫定的な本部として運用していた。

 

 通信の中心部とすることで何とか作戦をよりスムーズに動かそうという狙いだが、流動的なためどこまで通用するかも疑問である。

 

 だが、それでもここは重要な前線基地だ。

 

 回復魔術や魔法が使える、魔術師《メイガス》や、魔法世界《ムンドゥス・マギクス》出身者をかき集めている。仮契約を利用して回復系の能力を確保するなどとにかくできることをして集めた回復役だ。

 

 その護衛部隊である自分たちは、まさに重要なカードだろう。

 

 なんとしてもこの場を死守しなくては―

 

「アーシアちゃんは外に出ないで!!」

 

 ベルは外に飛び出すと、そのまま何もないはずの空間に念動力を放つ。

 

 そして、そこから大きな衝撃音が響き渡った。

 

「バレ☆たよ! 認識阻害も光学幻影もしっかりかけたとに!」

 

「空間に何かがいれば気づきますよ。ベルはそういう能力ですので」

 

 そこにいたのはキャスター。

 

 カテレアを材料に完成した人型人形に乗りながら、彼は舌なめずりをした。

 

 ・・・次の瞬間そこにいたのは、冷徹たる魔術師の側面だった。

 

「さて、それじゃあ実験材料を確保するとしようか。ああ、こんなところまで出てくるような実力者なら相当のレアスキル持ちもゴロゴロいるね。・・・君のように」

 

「お断りします。私を解析したいならミカエルさまと兵夜さまの許可を実質お取りください」

 

 ベルはいきなり大きな正念場がきたことを理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナツミたちの戦場は激戦だった。

 

 陽動部隊のいる方向に着陸してしまったため、結果的に敵の本陣と挟み撃ちにあっている格好になる。

 

「にゃああああああああ! 全員ぶちのめしてやるぜうぉらぁああああ!!!」

 

 獅子の姿で剛力乱舞を行いながら、ナツミはヤケクソくそになって叫んだ。

 

 この場所に落ちたと気づいた時は、確実に挟み撃ちになる状況下に泣きそうになったけど頑張った。というより、自分の運のなさに泣いた。

 

 だがそれでも頑張ろうと決意したのだ。

 

 だから、心から頑張っている。

 

 もとより、このために兵夜は降下ポッドを特別製にしてくれたのだ。

 

 怪力を発揮できる自分の武器にできるように、降下ポッドにチェーンをつけてフレイルとして運用できるようにしてくれている。

 

 ここまでされて頑張らねば女じゃない。

 

「カッハハハ! カッハハハ! カッハハハハハハハハ!! やってやらぁあああああ!!!」

 

 左腕はグレゴリーにすることで制圧射撃として攻撃をかけながら、ナツミは全力で暴れている。

 

 これは明日は筋肉痛で動けなくなるだろう。疲れすぎて病気になるかもしれない。

 

 だが、それがどうした。

 

 これは、アーチャーの弔い合戦だ。そもそもグレートレッドの命がかかった、世界の平和を守るための戦いだ。何より、兵夜が決意した最終決戦だ。

 

 だったらやるしかないだろう。自分は彼の使い魔で、心の底から愛しているから。

 

「やってやるよやってやるよやってやるよ! こうなりゃどこまでもやってやるよぉおおおおおお!!」

 

 ナツミはヤケクソ状態で、しかし絶対に勝つという心をもって大暴れしていた。

 

 そこに、二人の甲高い声が響き渡る。

 

「おーほほほ! 可愛くて萌えちゃう女の子が暴れてますわね?」

 

「あ! ようやく歯ごたえありそうなの見つけたって感じ! そして腹立つグレモリー眷属の仲間だって感じ!」

 

 その言葉を放つのは、ヴァルプルガとリット・バートリ。

 

 その姿を見て、ナツミは心から鼻で笑った。

 

「ハッ! 残存禍の団でもトップの小物幹部じゃねえか」

 

 かなりひどいことを言っているが、しかし的は外れていないだろう。

 

 ほかの連中に比べると小物度が高い奴が残っているといっても過言ではない。

 

 だから、ナツミは何も恐れない。

 

 今更こんな小物にどうにかされたら、兵夜の使い魔は名乗れないのだから。

 

「さっさと叩き潰すぜこのクソ野郎どもが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして兵夜は戦闘を行うなか、何とか小規模ながら通信設備にたどり着いていた。

 

 とにかく大量にゴーレムなどの自立兵器を格納。加えてアーチャーの魔術特性を不完全ながら移植したことにより、さらにいろいろなことができるようになったのが功を奏した。

 

 だから、兵夜の電子操作魔術はこれだけでも恐ろしいことができる。

 

 脳どころか魂に情報を直接たたきつけながら、兵夜は敵の動きを調べ上げる。

 

 そして、思わず頭を抱えてしまう。

 

「・・・陽動部隊を用意して正解だったな。彼らが全滅する前に司令部を壊滅させないと」

 

 敵はクローン技術を保有している。

 

 様々な薬物を投与して急速に成長させることで、非常に短時間かつ、アサルトライフル程度の低価格でクローンをつくることができる。

 

 それにより、数千ものフェンリルのクローンが作られていた。

 

 どうやら特殊能力のコピーは魂の問題で劣化互換というデータが出ていたが、しかしそれを抜いたとしても身体能力はむしろ薬物投与による改造が可能というのが大きい。

 

 前線部隊は壊滅的打撃を受けるだろう。最上級悪魔がゴロゴロいてもそれは変わらない。

 

 兵夜はそこまでは冷静に考えて、そしてこの通信設備のハッキングを開始する。

 

 あいつらが、魔術的なハッキングの研究を行っているか。行っていればどこまで進んでいるか。こちらも研究していることに勘づいて対策をしていたか。

 

 それが重要になる戦いが、勃発しようとしていた。

 




学園都市で一番恐ろしいのって、学習装置とクローン技術の組み合わせだと思うんですよ。

短期間で必要最低限の戦闘能力を獲得した兵士を量産できるんだから、その脅威度ってシャレにならない。

ましてや存在そのものが化け物レベルがうようよいる世界で行われたら・・・っ!










それはそれとして、エピローグまで書き上げました。

今はほかの作品を書いたり、後日譚の設定を練ったりといろいろしています。








あとふんどしに聖母の微笑を持たせると決めたのは結構前からです。

圧倒的な戦闘能力をもつふんどしに、回復能力まで与えられたら鬼に金棒だと思いませんか?


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魔性の狂乱、前編

ここから数話の間、推奨BGM「魔星狂乱」

・・・youtubeで検索したら出ます。


 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイナーレはマジで危険だ。

 

 何が危険って、滅の属性を持ってるところだ。

 

 とりあえず系列として宮白が滅系魔法と名付けたそれは、対象の特性を取り込むことで対象の敵となる魔法らしい。

 そのため属性関係の攻撃に対しては、むしろ餌にしかならず攻撃は基本的に逆効果になるというやばい能力を持ってる。

 

 で、レイナーレは大気を母胎とする天の属性なんだけど―。

 

「あははははははは! 慌ててるわね、慌ててるわね!?」

 

「慌てるにきまってんだろうがぁああああ!!」

 

 だって、だって、だって―

 

「滅龍魔法まで習得するなんて、聞いてねえぞおおおおおお!」

 

 こいつどんだけ俺のこと殺したいんだよ! メタすぎるだろう!!

 

 乳語翻訳(パイリンガル)で胸の内を聴いても心を読まれてお相子。洋服崩壊(ドレス・ブレイク)で破った服は元に戻る。挙句の果てに龍の鎧を削りきれる武器を持ていて、対龍能力まで装備とか―。

 

「チートだ! チートすぎる!!」

 

「あら、それぐらいしないとあなたには勝てないんだし当然じゃない?」

 

 そこまでかよ! 女が俺に勝つには、それぐらいの魔改造が必要不可欠だというのか!

 

 ・・・まあ、ドーピングしたジャンヌを一瞬で倒したことあるからね。それぐらい警戒されても仕方がないかも。

 

 くそ! 何度も攻撃を喰らったせいで完璧に追い込まれてる。

 

 このままじゃあ俺がやられるのも時間の問題だ。

 

「喰らいなさい、天龍の翼激!」

 

 風を纏ったレイナーレの攻撃が、俺を容赦なく打ちのめす。

 

 くそ、あばらにひびが入った。

 

 そして向こうに一発入れることができても、回復されてしまってすぐに動きが入る。

 

 あいつを倒すには一撃必殺の火力で押し切るしかないけど、心が読まれてる相手がそんなものを喰らってくれるはずがない。

 

 ・・・あ、ヤバイ。完全に詰んだ。

 

「ふふふ。ようやく、ようやくだわ」

 

 レイナーレはなんていうかもう、エロい笑顔を浮かべていた。

 

 これが戦闘中でなければ相手がレイナーレだろうと俺も興奮するんだろう。それぐらいエロ本でも出てきそうな表情で、エロゲーで出たらエロシーン確定だ。

 

 だけど、戦闘のど真ん中で浮かべられたら恐怖しか感じない。

 

「・・・あの時は本当に絶望だった」

 

 レイナーレは攻撃を入れながら語る。

 

「つまらない仕事を終えたうえで、至高の堕天使として栄光を手にした直後にすべてが台無しになった。・・・ええ、今にも夢に見て飛び起きる」

 

 攻撃は激しく言葉だけは静かに、レイナーレは告げる。

 

「今でもそう。これだけ圧倒的な力を手に入れてイッセーくんを追い込んでるのに、それでも夢は悪夢なのよ」

 

 よく見ると目が血走っていて、明らかに狂気しか感じない。

 

 その狂気にとりつかれ、レイナーレはついに叫ぶ。

 

「だから、あなたを殺して悪夢を捨てる! そのうえで今度こそ至高の堕天使として堕天使の頂点に立つのよ、私は!!」

 

 神龍を滅ぼす風の一撃が、一斉に俺に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セイバーの戦闘能力は確かに脅威的だった。

 

 彼を剣士が上回る方法は大きく分けて二つ。剣の性能を完全以上に引き出すこと。もしくはそれとは別に、剣士として人を切る技量を鍛え上げること。

 

 特に後者は盲点だった。なまじ強力な剣を持っているせいで、とにかく剣の性能を引き上げることしか考えていなかったからね。

 

 そして、だからこそ僕たちは一対一で勝負を挑みはしない。

 

 できることなら勝負したかった。だけど、今はそれにこだわっている場合じゃない。

 

 二対一での戦いに、セイバーもさすがに苦戦していた。

 

「ほう。さすがにセイバーでも二人がかりじゃ苦戦するか。・・・さすがはグレモリー眷属」

 

 レイヴンは、その状況下になぜか冷静だった。

 

 聖杯戦争の参加者として、サーヴァントが失われる事態はとても危険な気がするのだが・・・。

 

「勘違いをしないでくれ。こちらとしては聖杯戦争にはそこまで興味があるわけじゃない」

 

 と、レイヴンは僕らの疑問を受け取ったのか言葉を告げる。

 

「ただ、魔術師として優れていたから選ばれた。・・・確かに根源到達は魔術師の極点だが、悪いがプライドがあるんだ」

 

 どうせ到達するなら、自分の技術を使って根源に到達したい。

 

 つまりはそういうことなのだろう。彼は、着けるかどうかわからなくても、聖杯という手段で根源に到達することを否定した。

 

「だが、聖杯戦争を阻止しようとする者たちとの戦いは多数の死体を確保することができる。それも、異世界の能力を持っているものを確保することができれば最高だろう」

 

 それが、彼が禍の団に協力している理由なのか。

 

「・・・だから、こんなものもつくってみた」

 

 そう指を鳴らすと、レイヴンは後ろに飛ぶ。

 

 そして、後ろから巨大な狼が走ってきた。

 

 ・・・あれは、フェンリルの子供!?

 

「研究で生産したフェンリルのクローンの死体。それぞれを一番優れていた部分だけ取り出して生み出したもう一体のフェンリル。・・・フローズヴィトニルと名付けたよ」

 

 宮白くんに対する嫌味か何かのつもりか!

 

 だが、まずい。

 

 フローズヴィトニルを見るだけでわかる。

 

 あれは、スコルとハティより性能が―

 

 次の瞬間、僕たちはガードこそ間に合ったが近くの壁にたたきつけられた。

 

 そのまま壁を粉砕し、僕たちは外へと吹き飛ばされる。

 

 まずい、ダメージが大きすぎて動けない・・・!

 

「さあセイバー。・・・とどめだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 小雪とエデンの戦闘は熾烈を極めていた。

 

 最初はほんの短時間だった。

 

 エデンが用意した疑似能力者。彼らを相手にしただけだ。

 

 時間にすれば一分とかかっていないが、それで十分エデンは対応できた。

 

 その直後、巨大な兵器が起き上がる。

 

 全長は約10メートル。四つ足の下半身と人型の上半身をもち、両腕は突撃槍を思わせる

 

『これが、我々の開発した機械鎧(パーワードアーマー)。ペットネームはケイローンだぁん』

 

「学園都市の叡智を持つアンタ専用ってか? 意外とロマンあるんだな」

 

 小雪は挑発しながら銃撃を開始するが、それ以上にケイローンは動きが速かった。

 

 四本足で警戒に移動しながら、四方八方にはねて攻撃を開始すする。

 

 ここまで機敏な動きを行うというのなら、これはもはや―。

 

「肉体と有機的に接続してやがるな? あんたいつの間にサイボーグになった」

 

機械鎧(パワードスーツ)機械人(サイボーグ)も、本質と方向性は一緒だよ。このように極めれば同様の存在になり果てるぅん!』

 

 学園都市らしく、木原らしい。

 

 小雪はそう考えながらも攻撃を行う。

 

 木原はその技術力を最大限に生かすことで化け物じみた戦闘能力を発揮する。

 

 だから油断はできないわけだが、しかしそれでも小雪は冷静だった。

 

 付き合いが長いからこそ、まともにやり合えば自分が勝てるという自信がある。

 

 不意打ちに対抗するために、大気の鎧を形成して戦闘を行っているからある程度の余裕もある。

 

 あとは光の銃撃で確実に削っていけば・・・。

 

「ああ、そういえばこんな技術はどうだぁん?」

 

 その言葉とともに、甲高い音が響き渡った。

 

 そのとたん、小雪は頭痛を感じてたたらを踏む。

 

「・・・あ・・・ぐ・・・っ!?」

 

 能力が発動できない。そもそも意識の集中すら妨害される。

 

 それでも何とか激激しようと銃を向けて、しかし敵の右腕でつかまれた。

 

『念のために、意図的にいくつかの技術は覚えないように調整させておいて正解だぁん。まさか生まれ変わってから必要になるとは思わなかったぞぉん』

 

「・・・・んの、野郎・・・っ」

 

 対能力者装備。

 

 冷静に考えれば学園都市なら当然作られているはずの装備だ。

 

 それに思い至らなかったことに気が付いて、小雪も自分が手を施されていることを理解して納得した。

 

 そもそも能力者開発が人体改造の一環なのだ。脳に何らかの細工を施すことなど、学園都市の技術なら容易。そして木原の人格でそれをためらうことなど皆無。

 

 致命的だった。

 

 今の今まで伏せておいた伏せ札が、最終決戦という事態において有効に働く。

 

「神器によって疑似的に到達した超能力者(レベル5)ぅん。・・・うん、絶対に検体だなぁん」

 

 そういいながら、ケイローンの腕から様々な機械がつながったサブアームが展開される。

 

 戦場のど真ん中で、解剖が始まろうとしていた。

 

 

 

 




レイナーレはヤンデレ気味に見えますが、その本質はトラウマです。

だって考えてみてください。間違いなく重宝されるレアな能力を確保して、よっしゃこれで大活躍や!! と思った次の瞬間に、雑魚だと思っていた男にボコられてすべて台無しで殺されるところ・・・通り越して死んだと思った。

普通にトラウマです。








 レイヴンは、型月世界観を出すなら直死の魔眼を出そうと思って作ったキャラでした。もちろんそれだけだと弱いし理由も必要なので、転生するという死がきっかけになることにしました。その補正もかねて、死に触れ続けてきた死霊魔術師というポジションを選んだのです。

 早めに退場する敵役の一人にするつもりでしたが、意外としぶとく最終決戦までもつれ込みました。結果的にトライヘキサの件でオリジナル要素を出す際にすごい使いやすかったのでむちゃくちゃ助かりましたね(^^♪





エデンは、変化球の転生者を出そうという形で出したキャラクターでした。

小雪はいろいろ過去のトラウマが多いので、敵転生者も因縁のあるキャラにするつもりだったのですが、当時の同僚にするか上の立場の奴にするかで少し悩みました。

が、木原という科学者にした方がSF要素を押し出して独自路線ができると思い決定。その際のキャラづくりとして少しでも都合がいいようにした結果、万能系の木原というある種の異端キャラになりました。

他に候補としては、裏の生活を心から楽しむサイコパスの同僚を出そうかと思ったのですが、エデンの方が出しやすかったので没に。番外編とかで書く計画もあったのですが、結局なしの咆哮になっていしまいました。

じつは小雪の過去の清算、外伝作ってまとめてやる方向で考えてたのです。朱乃さんヒロインで兵夜とイッセーをサブポジションにして、禍の団が関与した島国のクーデターを舞台に王子様をかばって大暴れ・・・と。

結局没になりましたが、その理由は「あと三人のヒロインの番外編をどうしても書けそうになかった」からであります。

やっぱヒロインはそこそこ平等にしないとね?


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魔性の狂乱、後編

 

 

 

 

 そして、ふんどしの戦闘能力は圧倒的だった。

 

「む、無念・・・!」

 

 フールカスの槍が、粉砕される。

 

 そのまま全身から血を流して倒れ、急いで他の味方が回収する。

 

「俺の仲間たちをここまで蹂躙するとは・・・。現実に己の目で見ると驚くほかないな」

 

 仲間を傷つけられた怒り以上に、敵に対する敬服すら沸き起こる。

 

 いくら聖母の微笑があるとはいえ、ただの人間が魔王クラスすら超え得る戦闘能力を発揮できる事実に感動すら覚えた。

 

 それだけの圧倒的な力が、ふんどしにはあった。

 

「隊長ー。なんで隊長そんなにつよいんですかー」

 

 久遠は割とげんなりしながら構える。

 

 味方としては頼もしい限りだったが、敵に回ったことでその恐ろしさを再認識した。

 

 ああ、これほどの実力を持っているものが禍の団にいるという事実が、すでに絶望的に不利だということを意味している。

 

 実際、この方面の部隊の三割が、自分たちが来る前にふんどしによって戦闘不能に以上の悪影響を受けている。

 

 ここで彼を倒さねば、この作戦は失敗するだろう。

 

 だが、それでもふんどしの戦闘能力は圧倒的だった。

 

「たゆまぬ闘争本能とUMAの愛! これがある限り限界など存在しない!!」

 

「いや存在してくださいよー!」

 

 攻撃を仕掛けてくるふんどしに、久遠は素早く切りかかる。

 

 アーティファクトの力まで使って何とか抑え込もうとするが、しかしかすり傷しか与えられない。

 

 この圧倒的な戦闘能力を持つものに、与えたダメージを回復させる能力まで与えた聖書の神が残したシステムを心から恨む。

 

 それほどまで、敵の強さは圧倒的だった。

 

 若手最強と言われるサイラオーグ・バアルが獅子の鎧をもってしてすら対処できない。

 

 これが、ふんどしの力。

 

 禍の団最高戦力の1人。規格外の領域に到達した最高峰の武人の1人。

 

 その圧倒的な力が二人を襲う。

 

 獅子の鎧の拳も、龍すら喰らう刃も、この男の圧倒的な武技の前に弾き飛ばされて傷一つ付けられない。

 

 若手悪魔最強候補の一人である兵藤一誠や、反則兵器の塊である宮白兵夜ですら一対一では倒しきれなかった彼の戦闘能力は低く見積もって主神クラス。

 

 間違いなく規格外。圧倒的なまでの最高峰の戦闘能力が、二人を追い込み続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャスターは、本来英霊の座に登録されるような類ではない。

 

 厳密にいえば英霊でもなければ反英霊でもない。そんなイレギュラーの塊が彼である。

 

 だが、それでも彼はサーヴァントだった。それも最高峰のキャスターだった。

 

 たまたま名前が似通っていただけの人物と同一視されるほどの、彼の能力は圧倒的だ。

 

 材料が最高レベルであったとはいえ、あらゆる神話体系や宗教勢力が新たに生産することが困難な、伝説級の装備すら作り上げたその技量は間違いなく規格外の一言。

 

 作る側のサーヴァントとしては、神代の魔術師ですらごく一部しか上回ることができないであろう頂上の領域だった。

 

 そんな人物が、敵を倒すために全力をかけて作成した戦闘兵器。

 

 その恐ろしさは、ベル・アームストロングを圧倒していた。

 

「ぐ・・・っ! これは、対超能力者(エスパー)装備!?」

 

「もち☆ろん☆だよ! 前回の戦闘のデータを魔術的に再現したのさ!」

 

 ベル・アームストロングは超能力者だ。

 

 それは一つの世界において非常に特異な存在でもあり、最高峰の存在ともなればその保有数が国力の一つとなるほどの価値を持つ。

 

 そして彼女はその最高峰であり、そしてそれを使いこなす技量も習得し始めていた。

 

 だが、それゆえに対抗策もいくつも開発されている。

 

 キャスターは、それをたった一つのデータから魔術的に再現していた。

 

 むろんその使いにくさは性能に比例しており、まともに使えるのはキャスターぐらいであろう。

 

 だが、今まさに彼がその装置を使っているこの状況下は、圧倒的に不利としか言いようがなかった。

 

 ベル・アームストロングは今なお成長を遂げている優秀な戦士である。

 

 神器と体術を中心として最上級堕天使とも勝負になるほどの戦闘能力を持ち、超能力という今までろくに使いこなせていなかった次元も、優れた制御技術を持つ師を得たことで急成長を遂げている。

 

 だからこそ、その成長を台無しにするキャスターの暴威は凶悪以外の何物でもなかった。

 

「ベルさん!」

 

 アーシアが回復のオーラを放ち傷を回復してくれるが、焼け石に水に近い。

 

 圧倒的な戦闘能力をもち、成長そのものを台無しにするキャスターの自立兵器はベルの攻撃をすべてかわしている。

 

 一切のダメージを負わせていないのに、傷を回復しただけでは勝算など得られるはずがなかった。

 

「・・・これでは、ミカエルさまに合わす顔がありませんっ」

 

「大丈夫大丈夫。実験材料にするからそもそも顔なんてなくなるよ」

 

 冷徹なキャスターの声が聞こえ―

 

「と、いうわけで逝ってみようか♪」

 

 莫大な魔力の渦がベルに向かって放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナツミは、膝をついて倒れそうになっていた。

 

 この展開に、心が折れそうになる。

 

 まともにやり合えば、二人同時に相手をしてもまだ戦える自信はあった。

 

 リット・バートリは問答無用でカマセ犬の小物だし、ヴァルプルガは神滅具持ちだが、相性の面で有利。

 

 基礎スペックなら接収魔法(テイクオーバー)持ちの自分の方が圧倒的に有利であり、だからこそ負けるはずがないとすら思っていた。

 

 だが、敵の技術力は想像をはるかに超えて厄介だった。

 

「あっはっは! これは最高って感じ!」

 

「萌えたうえに燃えるなんてさいこうですわねん♪ さあ、かわいい君は萌え燃えしちゃいましょうねん?」

 

 すっかり忘れていたが、禍の団は神器のドーピング技術を開発していたのだ。

 

 そして、目の前の二人は神器保有者。

 

 ものの見事に使われた。

 

 リット・バートリの能力は放たれた魔力を炎に変換すること。

 

 それがドーピングされたことで、体内の魔力すら炎に変換された。

 

 これに関してはもとから炎を使うフィネクスを使うことで対処したが、結果として魔力攻撃が中心となり、波動によってすべて無効化される。

 

 そして、ヴァルプルガの神器がもっと厄介だ。

 

 神滅具である彼女は、しかも禁手にすら至っていた。

 

 それも、邪龍の一つである八岐大蛇を取り込んで発動していた。

 

 その彼女がさらにドーピングを行って発動した頂上形態。

 

 彼女は、八岐大蛇と一体化していた。

 

「おほほほほ! 可愛い子猫ちゃんを萌え燃えしちゃいますわん!」

 

 それは、紫炎でできたスキュラ。

 

 下半身が八首の龍と化したヴァルプルガの前に、ナツミは倒されようとしていた。

 

 圧倒的な出力による炎同士の勝負に持ち込まれたうえ、さらにその攻撃はリットによって無効化される。

 

 間違いなく圧倒的な状況だった。

 

「・・・クソが! ここで、死んじまうわけにはいかねえんだよ!」

 

 サミーマモードで吠えるが、しかし現状は変わらない。

 

 圧倒的な炎の奔流が、襲い掛かった。

 




しっかし業魔人が一回しか出なかったのはすごく残念。あれ、神器→禁手→業魔化の三回は引っ張れるいい能力だと思うんですけど・・・。


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天に代わって裁きを下す

ええ、これは単独ではどうしようもないピンチですね。









忘れてませんか? これは、事実上の戦争ですよ?


 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

「またせたね、イッセーどん」

 

 暴風が暴風によって相殺される。

 

 さらに、レイナーレには雷撃、炎、氷などのあらゆる属性攻撃がぶっ放された。

 

「・・・なんですってぇ!?」

 

 レイナーレが最上級クラスの攻撃を喰らって叫ぶ。

 

 特に炎が致命的だ。

 

 なにせ、レイナーレが来てるのは油性の服。つまり燃えやすい。

 

 全身が火だるまになりながらも、レイナーレは魔法で回復して新しい敵をにらむ。

 

 お、おお、おおお!

 

 来てくれたのか―

 

「―デュリオ!」

 

「周りの連中倒してたら時間かかったけど、宮白きゅんと通信繋がってせっつかれてね。こっからは俺も手を貸すぜ」

 

 できれば一対一で倒したかったけど、それでもすげえ援軍だ!

 

 魔改造された堕天使と、転生悪魔と転生天使。

 

 なんかすごい組み合わせだなおい!

 

「邪魔よそこのチャラ男! 私とイッセーくんの決着を邪魔しないで!」

 

 かなり本気で激昂しているレイナーレだが、デュリオはぼりぼりと頭をかく。

 

「いや、俺もできれば一対一で決着付けさせてやりたいんだけどね? さすがにそんなこと言ってる場合でもないからさぁ」

 

 本気で気にしてくれてるみたいだけど、言いたいことはわかる。

 

 今回、俺たちは正真正銘最終決戦で大変なことになっている。

 

 なにせ、グレートレッドをいつでも殺せる状態に追い込まれるという最悪の事態だ。なんとしても解決しなけりゃいけない。

 

 残念だけど、一対一にこだわってる暇はないのかもしれない。

 

「・・・ええ、だったらこっちにも考えがあるわ!!」

 

 と、言うなりレイナーレは地上に降下する。

 

 俺たちはすぐに追いかけるけど、そこにカウンターを叩き込むようにサーヴァントの姿があった。

 

 って―

 

「バーサーカー!? 生きてたのか!!」

 

「令呪を何回も使ったけどね! 曹操の脱落分で浮いたのを補充させてもらったわ!!」

 

 くそ! これが開催者権限ってやつか!!

 

 宮白が全部使っててくれて助かったかもしれないけど、これで状況は二対二かよ!!

 

「どうせ知ってもどうしようもないから教えてあげる。バーサーカーはキャスターと同タイプの英霊。その真名はレッドライダー!」

 

 れ、レッドライダー?

 

 なんだよその日本を代表する二大ヒーロー足したような名前は!

 

「ヨハネの黙示録ってのに出てくる存在さ。闘争を司る存在てところかな」

 

 なるほど。神様とか四大魔王さまみたいなもんか。

 

「その殻をかぶった狂戦士。さあ、覚悟はできたかしら?」

 

 そういって、レイナーレはいつも間にか上に回り込む。

 

 そして、バーサーカーも攻撃を開始する。

 

 いつの間にか、あいつが持っていたのは剣じゃなくて銃。あいつの装備、変更できたのか!

 

 しかもあれも宝具なのか、攻撃力が地味に高い。

 

 くそ、令呪でブーストも掛けたってのか!!

 

 そんな激戦の中、デュリオは俺に話しかける。

 

「イッセーどん。アーシアちゃんやギャスパーくんのこと、大事だよね」

 

 あ? なにいってんの?

 

「当たり前すぎるって、それは」

 

「うん、それはよかった。・・・神様が死んじゃったせいで、自分の神器で苦しめられる人間は結構多いんだよ」

 

 ああ、確かにな。

 

 アーシアもギャスパーも神器が原因でいろいろ大変な目にあって、しかも一度死んだ。

 

 そういう意味じゃあ俺もだな。実際俺も、神器持ってたせいで殺されたわけだし。

 

 で、その下手人がレイナーレ。あの後死んだと思ったら、レイナーレが復活して襲い掛かってきて何度も戦闘。

 

 いや、もうこれ因縁ありすぎだろ。フィフスより因縁あるじゃん。

 

「うん、だから俺は神話との和平が完全に締結したら、神器のシステムだけでも改善に協力してほしいって思うんだよ」

 

 おお、すごいこと言ったなデュリオ。

 

 ミカエルさんですら触れようとしなかった聖書の神が残したシステムをいじるって、根性あるな、こいつ。

 

「だから、こんなところでいろいろ大変なことしてるわけにはいかないってね。ちゃんと落とし前つけたら生きて帰るよ、俺は」

 

 ああ、俺もだよ。

 

「勝とうぜ、おっぱいドラゴン」

 

「ああ、勝つぜジョーカー!」

 

 俺たちは同時に飛び出した。

 

 まず向かってくるのはバーサーカー。

 

 ああ、こいつの能力は確かに脅威だ。

 

 なんたって、今乱戦状態だからな。当然敵意は集まってるし、だからこそバーサーカーは思う存分暴れられる。

 

 だけど、なめるなよバーサーカー。

 

 俺は赤龍帝なんだぜ?

 

「ドライグぅうううう! 透過に出力を半分以上ぶっこめぇえええええ!!」

 

『応!』

 

 そして、同時にデュリオに肩を貸す。

 

 それだけで、デュリオもレイナーレもどういうことが狙いなのかわかってくれた。

 

「し、しまったっ!?」

 

「OKイッセーどん。んじゃ、天界のジョーカーがどんだけすごいか堕天使に教えてやるか!」

 

 デュリオの周りに、一斉にシャボン玉が発生する。

 

 も、もしかしてこれがデュリオの禁手《バランス・ブレイカー》!?

 

「その名も聖天虹使の(フラジェッロ・ディ)必罰、終末(・コロリ・デル・アルコバレーノ、)の綺羅星(スペランツァ・ディ・ブリスコラ)さ!」

 

 なんていうかすごい大仰な名前の通り、シャボン玉に入ったバーサーカーに、炎やら嵐やら雷やら吹雪やらが襲い掛かる!

 

 そして、それをより凶悪にするためにこれも追加だ!

 

『Penetrate、Transfer!』

 

 透過の力を譲渡された神罰が、バーサーカーの宝具を突破して一気に焼き尽くした!

 

「バーサーカー! このクソガキども!!」

 

 激高したレイナーレが襲い掛かってくる。

 

 だが、レイナーレの暴風をデュリオは同じく暴風で相殺する。そしてカウンターで落雷がたたきつけられた。

 

「悪いね。君とは相性がいいんだ」

 

 そして、俺の肩をポンとたたく。

 

「さ、行ってきな」

 

 ああ、ありがとう。

 

 思えば、あれが俺の初デートだった。

 

 内心どこまでも馬鹿にしてやがったけど、それでも表向きは喜んでくれた夕麻ちゃん。

 

 ああ、思い返せば悪くない初デートだった。

 

「サヨナラだ、レイナーレ!!!」

 

 俺は全力のドラゴンブラスターを、レイナーレに向かってぶっ放す!!

 

「アンタは、俺が戦った中で最強の堕天使だったぜ!!」

 

 ホント、マジ強かったよ。

 

 そして、砲撃にのまれるレイナーレは―

 

「最強の、堕天使? ・・・私が、さいきょ―」

 

 その言葉に、一瞬だけ微笑んだように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・今度こそ、さよなら、俺の初恋。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祐斗Side

 

 対象を抹殺する能力の持ち主。剣士の天敵ともいえるサーヴァント。そして神すら殺す狼のコピー。

 

 その圧倒的な力を前に、僕たちは防戦一方へと追い込まれる。

 

 そして追い込まれる僕たちを冷徹な目で観察しながら、レイヴンは告げた。

 

「さて、そろそろ仕留めるころ合いか。・・・ゆけ、セイバー、フローズヴィトニル」

 

 僕たちが追い込まれたそのタイミングで、一気に二つの化け物が襲い掛かる。

 

 くっ! こんなところでやられるわけにはいかない。

 

「やられるものか! やられるものか! 私達は希望を託されたのだから!」

 

 そうだゼノヴィア。その通りだ。

 

 僕たちは、こんなところでやられるわけにはいかないんだ!

 

 だから、僕も負けるわけにはいかない。

 

「負けられないね。僕たちはグレモリー眷属なんだから!!」

 

 たとえこの身が砕けようとも、僕らは負けるわけにはいかない。

 

 この戦いは、未来をかけた一戦なのだから!

 

 だからこそ、気力を振り絞って立ち上がろうとしたその時、肩に手が置かれた。

 

「よくぞ言った、戦士ゼノヴィアに戦士祐斗よ。・・・その粘りが、私を間に合わせた」

 

 僕たちが唖然としながら振り返る。

 

 そこにいたのは一人の老人。

 

 だが、そこにいるのは最強の聖剣使い。

 

 その姿を見て、レイヴンすらも愕然とした。

 

「ヴァスコ・ストラーダ・・・っ!?」

 

 ああ、なぜここに、猊下がいるというのか!?

 

 この戦いは、政治の要職を送り込めないと判断されたもののはずなのに!?

 

「なに。途中で取りやめたとはいえクーデターの計画者が枢機卿を続けるわけにはいかないのでな。今の私は隠居した老人だよ」

 

 そういいながら、しかし彼は威風堂々とした姿を見せつける。

 

「そして通信の確保に成功したものがいてな。・・・近くにいるからと頼まれてしまっては断れん」

 

 そう、間違いなく彼はこの場で最強の味方なのだから

 

「さて、それでは世界を混沌へと追い込んだ者たちへ、主の代行として裁きを与えねばな」

 

「・・・フローズヴィトニル! セイバー!!」

 

 即座に攻撃命令を出したのは、いい判断だといえるだろう。

 

 この場において最も警戒するべき相手に、主力をぶつけるのは戦術として当然の判断だ。

 

 だが、惜しむらくは―

 

「なかなかの能力。だが、残念だが私も負けるわけにはいかんのだよ」

 

 ―彼の能力が圧倒的だということだ。

 

 剣の性能を限界まで引き出したセイバーの一撃をたやすくいなす。

 

 神速で迫りくるフローズヴィトニルを真正面から殴り倒す。

 

 これが、教会の暴力装置とまで恐れられた伝説の男の力・・・!

 

 気づけば、ゼノヴィアは傅いてデュランダルを差し出していた。

 

「猊下。残念ながら今の私では真価を発揮できません。そして、この戦いにおいて下手な加減は無用。・・・デュランダルの真の力を、私に示してはくださいませんか?」

 

 みれば、彼女の手はさすがに震えていた。

 

 ゼノヴィア。さすがに悔しいだろう。

 

 セイバーはあくまで剣の担い手として最高峰に到達できるのであって、剣士として最高峰ではない。ゆえに剣士として真の本質である、「剣で切り捨てる技量」を高めれば打倒可能。それは桜花さんが示して見せた。

 

 だが、其れはまだ僕たちでは到達できない。

 

 ならば双方ともに究極点である彼に任せるしかない。

 

「・・・ああ、任せておくといい。つらいことをさせているようだな」

 

「いいえ。いずれ、このようなことをしないで済む戦士になってみせます!」

 

 ゼノヴィアはそういうと、エクスカリバーを手にもって立ち上がる。

 

 そして、レイヴンは状況を速やかに把握したようだ。

 

 静かにうんうんとうなづくと、片手を掲げて見せる。

 

「令呪に命ず。・・・時間を稼げ、セイバー!!」

 

 そう言い放つと一気に距離をとっていく。

 

 逃げる気か! だが、させない!!

 

「ゼノヴィア! 猊下! ここは任せました!!」

 

 逃がしはしない、逃がしはしないぞ、レイヴン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕たちは全力で追走劇を行っている。

 

 それだけの危険な状況下、僕は冷静にレイヴンを追いかけていた。

 

 逃げながらも、彼もまた一流の魔術師として戦闘を行っている。

 

 死霊魔術師は死体から魔術礼装を作り上げる者達と聞いた。それにふさわしい兵器を作り出して、僕をけん制し続ける。

 

 そして、僕もまたうかつには近付けないとレイヴンは確信している。

 

 なぜなら彼が持つ直死の魔眼は、彼にしか見えない弱点を映し出す。そしてその弱点は文字通り致命的なのだから。

 

 線で切り落とされればフェニックスですら再生しない。そして、点を突かれればトライヘキサすら一撃で死ぬ。

 

 そんなものを持っている相手と迂闊な接近戦など、間違いなく死を招く。

 

 だから、僕も聖魔剣の投擲などで攻撃を行うことがメインになっている。

 

「ちっ! セイバーはやられたか!!」

 

 逃げながらレイヴンは舌打ちする。

 

 どうやら猊下はセイバーを打ち倒したらしい。あとはフローズヴィトニルだけだ。

 

 そして、あの二人ならそれを成し遂げられると信じている。

 

 だから、僕は僕のやることをなすだけだ!

 

「レイヴン、覚悟!!」

 

 僕はリョウメンスクナを展開すると、速度強化の聖魔剣を使って一気に突撃する。

 

 同時にバムルンクを呼び出してオーラを展開。その出力で一気に攻撃を無視して突撃する。

 

 そして一気に距離を詰められ―

 

「―かかったな」

 

 ―レイヴンが笑うと同時に、偽腕が溶けた。

 

 その瞬間に僕の体にこびりつき、動きを一瞬だが止める。

 

 だが、彼にとってはその一瞬で十分。

 

 その一瞬で直死の魔眼がきらめき―

 

「かかったね」

 

「・・・なんだと?」

 

 そう、きらめいても意味がない。

 

 なぜなら、このタイミングこそが僕が狙った最後の一瞬。

 

 一瞬で、地面から聖魔剣を生み出して彼の両手両足を切断する。

 

「あ・・・があああああああ!?」

 

「悪いねとは言わない。それは、あなたが行ってきた所業に対する報いとしては軽すぎる」

 

 ・・・アーチャーさんは最後の戦いのためにいろいろと遺してくれていた。

 

 その中には、当然対魔眼対策も含まれる。多少ギャンブルの要素はあったが、短時間なら発動させれば十中八九防げると思っていた。

 

 そして、僕たちは彼を殺さない。

 

 万が一のハーデス神の暴走を何とかするためにも、相応の準備が必要だからだ。

 

 本当なら殺したいぐらいだったが、宮白くんに土下座で頼まれた以上仕方がない。

 

 素早く拘束しながら、僕はトリプルシックスがある方向に視線を向ける。

 

 あとは、任せたよ宮白君、イッセーくん!




強敵に対する基本的な戦術=戦力の集中投入。

通信設備を確保することに成功したため、よりスムーズな作戦展開ができるようになりました。









一人じゃ駄目でも二人なら。それでもだめなら三人で!

数の暴力で散々苦しめられてきたグレモリー眷属ですが、ここにきて反撃です。


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超・龍・救・援

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青野小雪がヴァーリ・ルシファーとあったのは、かなり昔のこととなる。

 

 両親と朱離をなくし、朱乃が去ってから一週間程度。アザゼルが後見人となってからのことである。

 

『おう、悪いんだけどこいつの話し相手になってくれ』

 

 と、ものすごく雑に送り込まれたのだ。

 

『・・・なんだ、下級堕天使が何の用だ?』

 

 と、なめてかかってくる眼で見られたので、即座に顎を揺らして脳震盪で気絶させたのはいい思い出だ。

 

 当時のヴァーリは莫大な魔力と神滅具の特性を利用して割と別の意味で大暴れしていた。

 

 この時点で相応に能力だけなら優秀だったこともあり、目が覚めたヴァーリは悪夢を見たような顔をしたことを覚えている。

 

 それから、小雪はヴァーリのお目付け役をすることとなった。

 

 一時期中二病に陥っていたり、カップラーメンばかり食べるヴァーリには苦労ばかり掛けさせられた。主に生活の面倒で苦労した。

 

 自分も家事が得意な方ではないが、とりあえず健康を考慮して総菜を買いに行ったり、表の人間にはわからないからとにかくいうなと口を酸っぱくして言うなど本当に面倒を見続けたことを覚えている。

 

 さらに、一度一瞬で気絶させたことが原因か、一時期その技術を教えてくれと付きまとわれたこともあって困ったものだった。

 

 赤龍神帝グレートレッドと並び立つ白龍神皇を目指すヴァーリに、暗殺者じみた技量は不必要だ。むしろ名を汚すことになるだろう。

 

 そう思ったのでとにかく断り、しかし油断して暗殺されないようにするためにその観点からの防衛方法だけを教えておいたが、そのせいで今でも戦いたいリストに載っているらしい。禁手に目覚めたせいでさらに上がっている可能性もある。鬱だと思う。

 

 とはいえ、問題児極まりないところが多いがヴァーリはヴァーリで悪人ではない。

 

 ・・・戦闘狂としての側面もだいぶ鳴りを潜めた。自分たちとは違うならず者の友人ができたことが理由だろう。

 

 類は友を呼ぶというか、破れ鍋に綴蓋というべきか、それとも同病類憐れむというべきか。とにかく同類との出会いは、ヴァーリを人間的に大きく成長させた。自分も人のことは言えないが、駄目な友達も時には必要ということだろう。

 

 そのため成長してエージェントとして活動するときも、ヴァーリと小雪は相方として動くことが割とあった。

 

 優れた科学知識のある小雪は、むしろ表社会がらみの一件で動くこともあったため一時期は会わなかったが、その時であった幾瀬との経験も彼にとっては宝だろう。

 

 そんなことを思ってしまうぐらいには、小雪にとってもヴァーリはそこそこの存在なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、それはヴァーリにとっても同じようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Dvide!』

 

 次の瞬間、音量が急激に小さくなって小雪の頭痛は大きく減った。

 

 そして、気づけば小雪は抱えられていた。

 

「大丈夫か」

 

「ヴァ、ヴァーリ・・・?」

 

 激痛を発する頭を抱えながら、小雪はヴァーリに抱えられていた。

 

「宮白兵夜が通信設備などに干渉を行っている。おかげで何とか間に合った」

 

 どうやら、兵夜は小雪を助けるのに近くにいたヴァーリを利用することにしたらしい。

 

 自分が行くことにこだわらず、より確実に助けられる方法をとるあたりは兵夜らしい。そういうところに不満ではなく納得と共感を抱くあたり、自分もたいがい頭がいかれている。

 

「ファックな、ところ見せたな・・・」

 

「いいさ。どうせ反撃するだろう? それまで時間は稼いでやろう」

 

 そういうと、ヴァーリは飛び出して戦闘を開始する。

 

「これは面倒だなぁん。が、実はサマエルの毒はこちらも保有しているのだなぁん」

 

「かまわない。当たらなければいいだけのこと」

 

 高速機動砲撃戦が展開される中、小雪は深呼吸して能力を発動できるか試す。

 

 結果的には可能だが、出せるとしても小規模だろう。

 

 これで今のエデンを倒せるとは思えない。

 

 学園都市の闇を自分の手で倒せないのは業腹だが、ここはヴァーリに任せるしかないのではないか。

 

 そう思う小雪だが、ヴァーリの声が聞こえた。

 

「どうした! お前は責任感のある女だろう。ここでこの男をどうにかするのを、誰かに任せる気か?」

 

 ヴァーリの声が、小雪の心を刺激する。

 

 だが、それは結局自分のわがままで、何より必要なのはエデンをどうにかできる人物で、そして自分は能力者である以上どうしようもなくて―

 

「小雪。俺が宮白兵夜から言われたのはこの一言だ」

 

 それを、ヴァーリの告げる兵夜の言葉が引き戻す。

 

「『小雪が苦戦しているから、()()()()を頼む』」

 

 その言葉に、小雪は苦笑した。

 

 つまりはあれだ。手助けをしろとは言われたが、倒せとは言われてない。自分の手で決着をつけさせてやれと、遠まわしに告げているのだ。

 

 妙なところで気を使われていると気づき、小雪は苦笑する。

 

 ああ、まったく。

 

 そんな遠まわしの気遣いを見せる兵夜にあきれて、それを戦闘狂のくせして受け入れたヴァーリにもあきれる。

 

 まったく。恋人にしろ兄弟分にしろ、自分が見ていないと何をしでかすかわかったものではない。

 

「わかったよファックドラゴン! それまでしっかり足止めしてやがれ!!」

 

 いいだろう。そこまで言うならやってやる。

 

 小雪は、痛みを無視して状況を打破するべく頭を回転させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴァーリ・ルシファーにとって、相手に獲物を譲るのは本意ではない。

 

 そそる戦いであればなおさらだ。好奇心旺盛なほうだと自覚している自分としては、珍しい相手だとなおさら戦いたくなる。純粋たる科学の結晶だけでも通常状態の禁手と勝負になるであろう最新鋭の兵器との戦いは興奮する。

 

 だが、こいつを倒すのは俺ではない。そうヴァーリは自重した。

 

 なぜなら、目の前の男である木原エデンは、小雪の過去の闇の具現化ともいえるのだから。

 

 その過去があったからこそそそる相手になったのは事実だが、しかし小雪にとってトラウマといっていいものであることもまた事実。

 

 正直に言って、ヴァーリは小雪が気に入っている。

 

 小さい頃は唯一の友人といっていいし、問題児である自分の面倒を見てもらった恩もある。一時期は生活の面倒まで見てもらったほどだ。

 

 つまりはまあ、ある意味で姉のような立場なのかもしれない。

 

「・・・無理なことを。改良されたキャパシティダウンは対超能力者用。一方通行(アクセラレータ)のように、音そのものを遮断することができなければどうしようもないのだぁん」

 

 エデンはそうあざ笑うが、しかしヴァーリはそれを鼻で笑う。

 

「はっ! どうやらお前は世界でも有数の節穴らしい」

 

「なにぃん?」

 

 そう、まったくもって馬鹿らしいことだ。

 

「あいつを、青野小雪を馬鹿にするなよ! 暗殺者は目的を必ず達成する。そう教育したのはお前たちだ!」

 

 そう、だから―

 

dens226(我が牙は必ず敵に食らいつく)

 

 彼女は必ず―

 

無駄なき音程の琴弓(フェイルノート)

 

 ―仕事をするのだ。

 

「なにぃん!?」

 

 莫大な光力を機関部に直撃され、ケイロンは駆動を停止する。

 

 そして、そんな中を小雪が駆け出した。

 

「馬鹿なぁん! なんで、なんでキャパシティダウンの中を全力で疾走できるぅん!?」

 

 エデンがわめくが、小雪は全く意に介さない。

 

 エデンは自分の命が危険にさらされているのにもかかわらず、その目には興味と歓喜と疑問が浮かんでいた。

 

 研究のためならば、場合によっては自分が死ぬことすらいとわない木原の性が、ここにきて致命的となる。

 

「どうやったんだぁん!? ま、まさか絶対能力者(レベル6)の領域に―」

 

 問いかけるエデンを意に介さず、小雪は素手で首の骨をへし折った。

 

 思わず歓声を上げたくなるほどに美しい一撃。ヴァーリがかつて本気で見惚れて習得したかった技術が、今再び運用された。

 

「すごいな! 突破するとは思ったが、まさかこんなに早いとは思わなかった!」

 

 声をかけるが、小雪は応えない。そのまましゃがみ込むと何やら機械を操作している。

 

 さすがに昔馴染みを殺すのには抵抗があったか? いや、友情など一切感じさせない関係だったと思うのだが。

 

 それとも戦闘狂そのものである感想を言ったのが癪に障っただろうか?

 

 と、思って言うと小雪が操作に成功したのかうるさかった音がやむ。

 

 そして、そのあと小雪は振り返った。

 

「あ、悪いなヴァーリ。ファックなまでに聞いてなかった」

 

「・・・珍しいな。お前はそういうのに気を使うタイプだと思ったが」

 

「能力で空気の振動を遮断してたんだよ。音で干渉するならそれで防げると思ってな」

 

 と、魔術師用の反動で血まみれの体で小雪は肩をすくめる。

 

「ったく。こいつが言ってた通り、ここでこいつを殺しても木原を継ぐ者が現れるのはファックに決定。・・・よかったなヴァーリ。これで超能力者は何人も出てくるぜ?」

 

 と小雪は茶化すように言うが、ヴァーリはなぜか喜べなかった。

 

「・・・ヨーロッパのほうにも出てくるだろうか」

 

「・・・お袋さんのことか?」

 

 小雪が言ったことは図星だった。

 

 あの家で自分を愛してくれた実の母親。

 

 記憶を消され、新しい家族を作った母親にヴァーリは会おうとは思わなかった。

 

 だが、自分と強者の戦いに彼女が巻き込まれるのもゴメンこうむりたかった。

 

「大事にしとけよ? 親ってのは、自分の失敗でなくすとファックなまでに心が痛むからな」

 

 実体験に基づくことを言われてしまえば、参考にするしかない。

 

 だが、其れは少しだけ違っているとヴァーリは思った。

 

「ああ。・・・だが、もうお前は大丈夫だろう?」

 

 だって家族がいるのだから、とヴァーリは尋ねる。

 

 その言葉に―

 

「ああ、まあな」

 

 血まみれながらも満面の笑みで、小雪は応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベル・アームストロングの人生はかなり下のほうで安定していたといっていい。

 

 前世でも現世でも親に捨てられ、名無しとして過ごした。

 

 おかげで都市で見つけられるものなら、食べられるかそうでないかはすぐに見分けがつく。

 

 寝ようと思えばどこでも寝れるし、劣悪すぎる環境で生きていたせいかちょっとやそっとじゃ病気にもならない。

 

 何より下だったのは、彼女自身がその境遇に納得していたことだろう。

 

 異物を恐れる人の感情を、低レベルとはいえ遠隔感応能力(テレパシー)でわかってしまったから、ベルは両親をうらむことをしなかった。

 

 そこからは人が人として生きれないような劣悪な環境で生きていたのにもかかわらず、彼女は荒むことがなかった。

 

 自分が劣悪な環境で生きるのは仕方がないことだと、受け入れて人生を終えて二度目も生きていた。

 

 世が世なら聖女としてたたえられてもおかしくないほどの精神性を持つが、同時に彼女は成長と欲望という言葉と無縁の存在だった。

 

 たまたま幸運に恵まれてミカエルに拾われてからも、それは決して変わらなかった。

 

 きれいな服を着て暖かい服を着て、そして命を懸けるに値する輝きを得ることができた。

 

 その与えられたものに対して、今までの生活を受け入れていた彼女は満足しきっていた。

 

 だから、ミカエルのために生きようという決意だけで人生を生きていた。

 

 だから信徒からは避けられた。

 

 輪廻転生という概念を経験している彼女は、本来異端そのものなのだ。それを感じ取っている信徒は、彼女から自然と距離をとっていた。

 

 そして、ミカエルに拾われたということで満足しきっていた彼女はそれで満足していたため特に気にせず生活を送っていた。

 

 彼女が優秀であることの一つに、この無欲からくるストイックな性質がある。

 

 他の者たちが欲望に揺らいでいる子供のころを、徹底的に鍛えることに向けることができたのだ。しかも才能があればそれは伸びるだろう。伸びない方がどうかしている。

 

 だがそれは、人としての喜びを知らずに育つようなものだ。否、そういう風に生きて死んだ彼女は、喜びを求めるという機能が欠落していた。

 

 もしミカエルがその事実に気づいていれば、速攻で何とかするべく動いていたであろうレベルだ。

 

 しかし不幸なことに、アザゼルと違って不真面目なところがないミカエルはちゃんとあり方に忠実に生きた。そのせいで問題点に気づくタイミングがなく、ベルはまったく精神を成長させずに日々を過ごしていた。

 

 ・・・そんな日々を、グレモリー眷属たちの手によって変えられたのは幸運というほかないだろう。

 

 そう、ベルは間違いなく兵夜たちによって救われたのだ。彼らとの絆を築いたからこそ、彼女は成長できたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「させません!」

 

 アーシア・アルジェントの祈りが、破壊の力すら癒して消し去る。

 

「なんだと!?」

 

 キャスターが驚愕する中、強力な癒しのオーラが放たれる。

 

 その輝きは、攻撃によるダメージを発生したのとほぼ同時に完全に癒し、ダメージを完全に消し去っていく。

 

「大丈夫です、ベルさん」

 

 そう、アーシア・アルジェントは微笑んだ。

 

「傷は私がいやします。だから、キャスターはお願いします」

 

 その言葉に、ベルは心から何かがあふれるのがわかる。

 

 ああ、自分はこんなに多くの人たちを守りたいと思えるようになったんだ。

 

 これまでの自分が、どれだけ未完成な欠陥品だったのかがよくわかる。

 

 そして、自分がこれだけ成長できたことがうれしくてたまらない。

 

 だから―

 

「勝ちます」

 

 ベルは、宣言する。

 

「勝って、生き残って、これからも、実質―」

 

 その思いに、ベルの持つすべてが答えてくれる。

 

「―生き続けます!!」

 

 まさにその瞬間、回復の領域は消滅し―

 

「・・・何?」

 

 自動人形の腕が弾き飛ばされた。

 

 反応はわかりやすい。単純なまでの念動力だ。

 

 だがしかしあり得ない。超高出力の干渉装置はいまだに起動している。

 

 その疑念に、しかしベルは驚かない。

 

 ゲンから聞かされていることがある。自分の超能力は超度7という領域に突入していると。

 

『これは観測における上限だ。個の領域ともなれば、たとえECMを使用しても消しきれるものではない。そういう意味では規格外なんだ』

 

 だから、超能力の抑制を押しのけれる可能性があるのは道理。

 

 そして、今の出力なら確実にできる。

 

「・・・生きます、往きます、生きます!!」

 

 禁手が発動し、さらに出力を増大化させる。

 

 念動力も収束に収束を重ね、さらに五指は抜き手の態勢に。

 

 そして―

 

「ぶち抜きます!!」

 

 有言実行。自動人形は一撃で中央部を破壊された。

 

 それに顔を青ざめさせるのはキャスターだ。

 

「あ、馬鹿! そんなことをしたら魔力炉心が暴走する! 最上級悪魔クラスの魔力暴走なんて起こったら―」

 

 ただでは済まない。

 

 それを把握して、キャスターはいち早く撤退を―

 

「―逃がさない」

 

 その前に、魔力の蛇がキャスターをからめとった。

 

 ゆっくりと、信じられないようにキャスターは振り返る。

 

 そこには、変わり果てたカテレアが憎悪に燃える目でにらみつけていた。

 

「よくも・・・よくも私を・・・ワタシォオオオオオオオオ!!」

 

 莫大な魔力が放出され、暴走した魔力路の魔力が指向性を帯びる。

 

「ま、ちょ―」

 

 最後まで、キャスターがいう間もなく。

 

 カテレアが自分自身を生贄にささげてまで放った魔力の奔流が、キャスターを飲み込んだ。

 

 そして、その余波が軽く数百メートルは消し飛ばす。

 

 至近距離にいたベルは急展開に対応できず、アーシアも禁手を使い切った直後のため対処が間に合わず―

 

『スーパーパンツタイム』

 

 そのため、割って入ってきたファーブニルが防ぐしかなかった。

 

「ふぁ、ファーブニルさん!! 目が覚めたんですね!」

 

『リゼヴィム、倒せなかった。すごく残念』

 

 ものすごく残念さが声からにじみ出ながら、ファーブニルはため息をついた。

 

 そしてかばわれたベルはぽかんとしていたが―

 

『無事で何より。あ、お礼は脱ぎたてパンツでよろしく』

 

 と、冗談か本気かよくわからないことを言われて―

 

「・・・ぷっ」

 

 思わず吹き出すという、人生でもあまり経験したことがないことをやってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ドラゴン舐めたらあかんぜよ?

サマエルの毒という最悪のジョーカーが大量生産可能になって大変ですが、それでもドラゴンはドラゴンなのです


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超獣粉砕は大いなる力とともに

 桜花久遠は全力で攻撃を迎撃し続けていたが、このままではもたないことも分かっていた。

 

 隊長の戦闘能力は桁違いだ。本来自分では対応できるものではない。

 

 ましてやどこまでもなまってしまった自分の技量では限界がある。こうして、足止めができるということに驚いている。

 

 そしてサイラオーグ・バアルでも一人では勝ち目がない。

 

 そう、一人では―

 

「待たせたな、桜花!!」

 

 そこに、龍王匙元士郎が割って入る。

 

 黒龍の鎧を身にまとった匙元士郎は、触手を一瞬でふんどしに巻き付けた。

 

「ぬぅん! これがワンオフUMAのヴリトラか! なめておこう」

 

『我が分身よ! 今、ドライグとアルビオンの苦しみが痛いほどわかってしまうのだが!?』

 

「ごめん耐えろぉおおおお!!」

 

 相棒に心から詫びながら、匙はそれでも話さない。

 

 いま、匙は神器のオーラを全力で吸い取っている。

 

 ゆえに、ふんどしは回復を行う余裕がない。

 

 そう、これこそが逆転のための最後の布石。正真正銘最後のチャンス。

 

 そして、それを見逃す二人ではなかった。

 

「桜花久遠! 覇獣を発動させる、なんとしてもしのげ!!」

 

「了解しましたー!!」

 

 久遠はその最後のチャンスにかけ、自分もまた掛ける。

 

 羽衣を脱ぎ捨て、その状態で感佳法を発動させる。

 

 長い間アーティファクトを経験したことで、だいぶコツをつかめた。

 

 そして、羽衣はいわば補助輪のようなものだ。

 

 自転車で想像してみるといい。補助輪を使ってこぐより、補助輪抜きでこいだ方が速く走れるものだ。

 

 むろん、超高難易度技法を行う以上相応のデメリットは発動する。

 

 久遠の体は反発で傷つき、体中が悲鳴を上げる。

 

 だが、其れがどうした。

 

 前世の技量を完全に再現し、さらにその上へと至ろうとしているかつての頂点。

 

 この猛者を相手にするというのに、そんなことを気にしている場合ではない!!

 

「腕を上げた、いや・・・いい覚悟だ!!」

 

「どう・・・いたしましてー!!!」

 

 骨が反動で砕けそうになりながら、久遠は全力で時間を稼ぐ。

 

 そして、その時間は思った以上に早くやってきた。

 

「待たせたな」

 

 そこにいるのは、より強大になった獅子の鎧。

 

獅子王の(レグルス・レイ・レザー・レックス)紫金剛皮(インペリアル・パーピュア)・覇獣式」

 

 その獅子の鎧の名を告げ、サイラオーグは戦意を燃やす。

 

「この力をもって、俺()()がお前を倒そう」

 

「面白い!」

 

 そして、熾烈な殴り合いが発生した。

 

 ただの殴り合いなどというレベルを凌駕する。

 

 衝撃波の余波が何十メートルも離れた敵の兵器を粉砕し、戦闘を行う悪魔たちが薙ぎ払われる。

 

 それだけの圧倒的な力による殴り合い。本来なら覇の領域に至ったサイラオーグの方に分があるはずで―

 

「あまい、甘いぞ!!」

 

 血まみれになりながらも、追い込んでいるのはふんどしだった。

 

「付け焼刃で何度も倒せるほど、わがUMA愛は甘くないのだ!!」

 

 爆発音としか思えないほどの音を出すボディブローが紫金の鎧を粉砕する。

 

 覇の領域する越えるその一撃を喰らったサイラオーグは血反吐を吐き―

 

「―言っただろう、()()()がお前を倒そう、と」

 

 その瞬間、後方から莫大な魔力の奔流が放たれる。

 

 戦闘中にソーナの指揮の元陣形を立て直した悪魔たちが、持てる最大出力の魔力を放っていた。

 

 だが、ふんどしは冷静にサイラオーグを盾にし、同時に聖母の微笑を発動する。

 

 回復しながら強敵にダメージを与える有効な戦術で―

 

「―逆転(リバース)!」

 

 次の瞬間、回復のオーラは致命のオーラへと早変わりした。

 

「ぐぅううううっ!?」

 

 とっさに即座に神器を終了するが、これはかなり効いた。

 

「・・・どうだよ、シトリー眷属がグレモリーを倒すために使った方法は」

 

 あの衝撃波の中、久遠をかばいながらも近くにいた匙が、にやりと笑う。

 

「さあ、やっちまえ、スパロぉおおおおお!!!」

 

 その言葉に、ふんどしの顔に戦慄の二文字が初めて刻まれる。

 

 それだけの力の存在を、すっかり忘れていた。

 

「ばばば禁手化《バランス・ブレイク》!」

 

 そこにあるのは、紫のエッセンスが混ざり合った極大の戦斧。

 

 あらゆる遠距離攻撃を吸収し、覇に届く一撃を放つスパロ・ヴァプアルの持つ禁じ手!

 

獅子の大王(レグルス・ネメア)が放つ覇の一閃(ブレイクダウン・デットエンド)!!」

 

 まずいと、直感で判断できた。

 

 あれを喰らえば耐えられない。間違いなく自分はここで終わる。

 

 そしたらUMAがぺろぺろできない!?

 

 その本能が無理やり体を動かし、邪龍の触手を振り払って後退を成功させ―

 

「させませんよー」

 

 後ろから接近する、桜花の特攻を回避する隙を作ることができなかった。

 

「UMA探しは来世でやってくださいねーっと!」

 

 そして久遠はそのままスパロに向けて投げ飛ばす。

 

 野球のボールのように飛んでいくふんどしを、スパロは決して逃がさなかった。

 

「えええええええ、えい」

 

 かわいらしい声で、地獄が具現化したような一撃がふんどしの精神を粉砕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「封印だ! 急いで封印しろ!!」

 

「マジで急げ! こいつほっといたら何しでかすわからねえ!」

 

「待て、いっそ殺した方が・・・」

 

「剣が刺さんないんだよ! 信じられないけど刺さんないんだよ!!」

 

 大慌てで封印が行われる中、久遠は激痛に耐えかねてへたり込んだ。

 

 だがそんなことをしている場合ではない。

 

 ここまで事態が悪化した原因は自分にある。

 

 この事態を引き起こしたのはフィフスであり、サマエルの毒が兵夜に効かなければフィフスは殺せており、そして兵夜にサマエルの毒が効いたのは、元を正せば自分のせいだ。

 

 なんとしても立ち上がって、この事態を招いた責任を取らないと―

 

「コラ。もうちょっと休んでろ」

 

 と、匙から触手を出されてスッ転んでしまった。

 

「いやー! 何するのー! 触手プレイは会長としててよー! ・・・あ、その時は見ていいー?」

 

「駄目に決まってんだろ! っていうか誰がするか・・・やべぇ、会長相手だと興奮する!?」

 

『二人とも落ち着いたらどうだ?』

 

 と、天然で一通りボケるが、すぐに我に返った。

 

「ちょ、放して元ちゃんー! 大丈夫、傭兵だからバッドコンディションでも戦闘できるし―」

 

「イイから少し落ち着けよ。・・・おまえ、しょい込みすぎだぞ」

 

 図星を突かれて、久遠は顔をそむけた。

 

 とはいえ実際これだけ酷くなったのは自分の責任が相応にあって―

 

「どうせフィフス倒してたって、ほかの連中が計画そのものは始めてただろ? そっちは気にしなくてイイって会長も言ってたぞ?」

 

「それは・・・そうだけどー」

 

 確かに、もうあの時点で計画は動き出していたのだ。

 

 フィフスを倒せていたとしても、ほかのメンバーが計画を強行することは容易だった。むしろ、抑えがなくなったことでより過激な方向にシフトする可能性すらある。

 

 どうせあの時点でトリプルシックス撃破は全員があきらめていたのだ。クロウ・クルワッハですらいったん撤退を決定していたほど。自分たちだけでどうにかできるわけがないと、全員がわかっていた。

 

 だけど、それでも―

 

「そのせいで、アーチャーさんが・・・」

 

「・・・それは違うぞ、桜花久遠」

 

 かろうじて立ち上がりながら治療を受けていたサイラオーグ・バアルが声をかける。

 

「あの戦いでは、全員が全員にできることをした。お前たちがそういう戦いをすることは見ていない俺でもわかりきっている。・・・実際にある責任を背負うのはいい。だが、背負いこみすぎて託された想いが見えなくなっているなら、それこそ先に逝った仲間達に対する冒涜だ」

 

「・・・まだまだルーキーのくせにー」

 

 確かに正論だが、仮にもベテランである自分に対して言う言葉ではない。

 

 ないのだが―

 

「これ、無理していったら余計に悪化しそうな展開だよねー」

 

 止めるためにもめて仲間割れしてその隙を敵が付く。

 

 そんな流れが容易に想像できてしまう。とても簡単にできてしまうぐらいには、久遠は皆のことがよくわかっていた。

 

 だから。

 

「はいはいわかりましたー。ちゃんと休憩して体力回復してから戦闘しますー」

 

 仕方がないから休むとしよう。

 

 ・・・真剣に自分を心配してくれるということに、改めて感謝して涙が出そうになったのは内緒の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼前に迫る驚異が、まとめて勢いよくふっとばされたのを見て、ナツミは目が点になった。

 

「はえ?」

 

「・・・ついでだが、大丈夫なようだな」

 

 そこにいたのは一体の巨大なドラゴンだった。

 

 まったく見覚えがないので誰か全くわからなかったが、ナツミはやがて声で誰かに気づいた。

 

「あ、クロウ・クルワッハだ!」

 

 そういえば人型の姿はあくまで擬態だった。人の姿しか見たことがないのでまったくわからなかった。

 

「・・・あらあら、本気で邪魔してくれるのねん」

 

「ちょ、なんであんた邪魔するのよ!? フィフスにボコられたんだからフィフスに報復しろって感じ!!」

 

 ヴァルプルガとバートリは顔をしかめるが、しかしそれはクロウ・クルワッハも同様だった。

 

「別に誰でもいい。ドラゴンを舐めてかかるものは全員まとめて屠るのみだ」

 

 そう言い放ち、そしてその視線はヴァルプルガに突き刺さる。

 

「・・・え゛」

 

「お前は特になめてかかっていたからな。ここで叩き潰しておくとしよう」

 

 そして、驚異の戦いが放たれた。

 

 紫炎でできた八岐大蛇が炎を吐き、それを黒い龍が蹂躙する。

 

 怪獣映画で出てきそうな激戦が繰り広げられる。

 

 これがどういうことかはよくわからないが、しかしこのチャンスを逃すべくもない。

 

 ナツミはバートリに狙いを定める。

 

「行くぜこらぁ!!」

 

「なめるなって感じ! 第一、魔力は使えないでしょうが!!」

 

 そう、持っている魔力を強制的に焔に変換し、さらに単一属性の魔力を強制的にかき消す波動の使い手なのがリット・バートリ。

 

 彼女のは持っている能力と神器の組み合わせが転生者の中でも完璧に近い。

 

 それゆえに、彼女の戦闘能力は桁違いに上昇している。今の彼女なら最上級悪魔すら屠れるだろう。

 

 だが、其れで終わる道理もない。

 

 そう、単純な発想の転換だった。

 

 魔力を高めて勝てないなら、魔力を低くすればいい。

 

接収魔法(テイクオーバー)、アニマルソウル!」

 

 発動する能力をあえて低く動物由来に変更。これにより、今までとは違って魔力は増大しないため悪影響は大きく減るだろう。

 

 ああ、そうだ。なんて単純なことを忘れていた。

 

「なめるなって感じ!!」

 

 バートリが波動を放つが、もともと猫系の妖怪であるナツミの体に、猫の特性付加は驚異的な反射速度を発揮する。

 

 すべて避けると懐にもぐりこみ、今度は熊に変化。

 

「なめんにゃコラぁあああ!!」

 

 ・・・この女は、転生者の中でもスペックの高さでは大したことがない。

 

 自分なら、単純なスペック勝負に持ちこめば苦労することはかけらもないのだと。

 

「グべ!?」

 

 変な悲鳴と痙攣を最後に、バートリは動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で続いている戦闘も終了した。

 

 ヴァルプルガは痙攣しながら失神し、紫炎もすでに消え去った。

 

 龍王クラスの邪龍を込めた神滅具を、しかし天龍クラスの邪龍は葬り去ったのだ。

 

「すっごいねぇ。あんなにやばそうだったのに結構楽に倒しちゃったよ」

 

「そうでもない。これでも負傷は大きい」

 

 そう告げるクロウ・クルワッハだが、しかしなんともないようにしか思えない。

 

「それ、苦戦した人の前で言う?」

 

「相性が悪かっただけだろう。一対一に持ち込めれば、お前なら十分に勝てるはずだ」

 

 文句を言ったら意外と高評価をもらってしまった。

 

 ふむ、邪龍といわれているが、実はいい人なのだろうか?

 

「ふんふん。で、次はどうするの?」

 

「フィフス・エリクシルに借りを返す・・・といいたいが、辞めた方がいいだろう」

 

「え? 結構プライド傷ついたんじゃないの? 反撃しないの?」

 

 意外に思ったのでナツミは尋ねるが、クロウ・クルワッハはトリプルシックスのある方向をみてつぶやいた。

 

「・・・もっと返したいやつがいるだろう。治療を手伝ってもらったからな、返すのはそちらの借りにする」

 

 その言葉に、ナツミは少し考え込んだ。

 

 確かにイッセーは両親を誘拐された挙句あらゆる意味でボコボコにされた。ヴァーリも殺したくてたまらなかったリゼヴィムを目の前で殺された。単純にボコボコにされたクロウ・クルワッハより恨みつらみは大きいだろう。

 

 だが、あの二人は治療なんてまねはできないだろう。

 

 と、いうことは・・・。

 

「え? 兵夜ってそんなことしてたの?」

 

「サマエルの毒を回収するため・・・といっていたがな」

 

 あのバカ、自分も危険なのをうっかり忘れてはいないだろうか?

 

 だがまあ、確かに兵夜も当然キレている。

 

 イッセーを徹底的にボコボコにされ、世界全土を巻き込んだテロを巻き起こされ、そして相棒であるアーチャーを失う羽目になった。

 

 これで落とし前をつけないようならば、それはもう兵夜ではないだろう。

 

「うん、確かに兵夜が一番怒ってるよね」

 

 だったら、使い魔らしくここは大いに反撃するべきだ。

 

「それで、どうするの?」

 

「ああ、とりあえずは有象無象をつぶしていくか。・・・英霊共はやりがいがありそうだが」

 

「OK! 手伝うよ」

 

 そういいながら、ナツミはサタンソウルを展開してクロウ・クルワッハに並び立つ。

 

 クロウ・クルワッハもそれを拒まない。彼はわかっているのだ。隣に立つ少女が、少なくても背中を預ける分には不足ないだけの実力を持っていることを。

 

「・・・追いつけないなら置いていく。ついてこい」

 

「誰にもの言ってんだ邪龍。このサミーマ様を舐めんなよ?」

 

 そして、戦場に悪魔と邪龍の蹂躙劇が巻き起こった。

 




ふんどし対策はシトリーが使ったリバース技術。これで回復力をダメージに変換してからホントの勝負でした。


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教団 解放

・・・・・・・・・さて、




ではこのBgmを流すといい


 曲PARAISO


 フィフス・エリクシルは少し精神的に苦境に立たされていた。

 

 さすがに少し甘かったと反省している。むしろ命の危険も感じている。

 

 内通している者たちが多かったので、作戦パターンはほぼ全部把握していたつもりだった。グレモリー眷属が参加していなかったことで、彼らを中心とする伏兵がいることも想定できた。だから結界装置を重点的に配備して中枢部への強襲だけは防いだつもりだった。

 

 まさか軌道降下兵などという反則技を使ってくるのは想定外だ。科学(それ)は、完璧に木原(こちら)の領分だろう。もう死んだが。

 

 状況的に主力幹部は全滅。ふんどしの撃破はさすがに予想外だ。

 

 そう、予想外だが―

 

「想定外なことが起こるのは想定内。・・・さて、こちらも切り札を投入するか」

 

 すでに用同伴の損耗率は四割をこえ、こちらはわずかに一割。彼らが敵を全滅させれば、その時点で押し切れる。

 

 そして、こちらもそろそろ本気を出すところだ。

 

「アサシン!」

 

『『『『『『『『『『はっ!』』』』』』』』』』

 

 そこに現れるのは80前後の黒い影。

 

 百の貌の異名を持つ、ハサン・サッバーハの一人だ。

 

 マスターを狙い暗殺を仕掛けるアサシンのクラスにおいて、基本一人一騎のサーヴァントではカバーしきれない数の暴力を併せ持った、聖杯戦争における最上位のアサシンの1人。

 

 欠点としては霊格が数十分の一になっているということ。それはただでさえ戦闘能力で劣るアサシンのサーヴァントであることから、桁以外の戦闘能力の低さを持つ。単騎でサーヴァントを倒すことなど不可能だろう。

 

 だが、其れをキャスターは克服してみせた。

 

 英霊の力を宿す幻想兵装(ファンタズム・アーミー)。これによる戦闘能力の向上は、アサシンにとってこそ天恵。

 

 型落ちとはいえサーヴァント。そのサーヴァントにサーヴァントの力が宿ればどうなるか・・・。

 

 ここに、その猛威が具現化することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その攻撃を察知できたのは、リアス・グレモリーだけだった。

 

 瞬間的だが未来予知を行うことができるリアスだからこそ、この危険を察知することができた。

 

「来るわ! 上からよ!!」

 

 だが、言っても遅い。

 

 リアスの予測は一瞬先の未来を予測すること。必然的に集団での指揮においては先読みが遅すぎる。

 

 そして真上から、矢の雨が降り注いだ。

 

 実力者で構成されているのでそれで倒されたものは少ないが、しかし隙を突く分には十分すぎた。

 

 そこに、暗殺者の本領が発揮される。

 

黄の死(クロケア・モース)

 

死は明日への希望なり(ラモール・エスポワール)

 

死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)

 

妄想心音(ザバーニーヤ)

 

五つの石(ハメシュ・アヴァニム)

 

 剣が、ギロチンが、音楽が、呪いが、投石が、それぞれ一瞬のスキを見せた相手に襲い掛かり命を奪う。

 

 一瞬で最上級クラスや神クラスすら屠られ、陣営は思考が停止した。

 

 そして、その隙を逃すものはここにはいない。

 

極刑王(カズィクル・ベイ)

 

血濡れ王鬼(カズィクル・ベイ)

 

串刺城塞(カズィクル・ベイ)

 

 無数の杭が一斉に襲い掛かり、戦場を処刑場へと一変させる。

 

 一瞬にして傾き始めた趨勢が逆方向へと傾いていく。

 

 そこに立つのは数十もの髑髏の面。

 

 暗殺教団の長、ハサン・サッバーハ。

 

「・・・アサシン!」

 

「これが、アサシンのフルメンバー・・・いや、遠方にもいると踏んだ方がいいですわね」

 

 何とか攻撃をしのぎながら、リアスたちは彼らをにらみつける。

 

 そして、彼らもまたリアスたちをにらみつける。

 

 そう、これこそ真の最終決戦の前哨戦。

 

 聖杯戦争も最終幕。ついに決戦の火ぶたが切って落とされる。

 

「ふむ、ワシがここまで来たかいがあったということか」

 

 ゆえに、ライダーもまた戦闘態勢を整えた。

 

 ・・・混戦ゆえに明かされていないが、すでにサーヴァントはアサシンとライダーの二騎だけとなっている。

 

 ついに、聖杯戦争は最終幕となったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なら、こちらも遠慮はいらないね』

 

 バロールとなったギャスパーが停止の魔眼を発動させる。

 

 バロールの力を宿した停止の力は、あらゆるものを停止させる。

 

 その力は神滅具すら停止させる。むろん、英霊であろうとその領域に到達しているものはそうはなく、停止できる―

 

「きかん!」

 

 ―はずだった。

 

 骸骨でできた象にのるアサシンが、停止をものともせず闇の獣と化したギャスパーにぶつかっていく。

 

 そして、それはほかのアサシンも同様だった。

 

 炎に包まれた木の巨人も、ゴーレムの群れも、魔術で作られた骨の戦士たちも。

 

 あまねく全てのアサシンが、一切の停止どころか減速すら示すことなく闇の中戦闘を続けていく。

 

「・・・フィフスかキャスターが何かしたということね」

 

 一瞬先の未来を読めるリアスが何とか察知して迎撃しながら、この現象の種を推測する。

 

 だが、令呪にだって限界がある。

 

 神滅具級の停止の力を、令呪の一つや二つでどうにかできるとは思えない。

 

 これは、一体どういうことだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、俺は止まらない」

 

 トリプルシックスの上で、フィフスは笑みを見せていた。

 

 彼がアサシンに与えたのは、自らの血。

 

 それを飲ませたうえで彼が令呪に命じたことはただ一つ。

 

 ―俺の起源を受け入れよ

 

 起源。それは、彼の世界にある先天属性。

 

 宇宙誕生からの大きな流れより発生する、産まれしものがすべて保有する先天特性。

 

 例えば、燃焼という起源をもつものは、植物であれ動物であれ、燃えやすいという先天的な特性を保有する。

 

 狂乱という起源をもつものは、狂乱に関与した特性を必ず発揮する。それが酒なら酔いが速くなるという特性を得るし、人なら気が狂いやすくなる。

 

 その大いなる流れに人が逆らうことは不可能。起源をもつものは必ず起源に縛られる。

 

 当然だろう。数十億年にも及ぶ大いなる時の流れに抵抗するには、人の靭性はあまりにも短すぎる。これはどうしようもない特性なのだ。

 

 だからこそ、流れに抵抗するのではなく流れを利用することで、魔術師は大いなる力を得る。

 

 フィフス・エリクシルが持つ起源は「続行」。

 

 彼は一度進むと決めたのなら、どのような形になろうと決して止まらない。止められないし止めようとも思わないだろう。そして、彼自身それを受け入れた。

 

 もとより魔術師(メイガス)とは根源を目指すもの。その真理を追究する求道者を指す。

 

 金も名誉も得られなくても、それでも何かを突き詰める者。

 

 ゆえに、彼にとってこの起源は栄光以外の何物でもない。

 

 ・・・ルーマニアにてギャスパー・ウラディの停止がきかなかったことから、彼は自身の起源が強敵に有効であることに気が付いた。

 

 もとより強大な力を得るために限定的な覚醒を果たしていたが、これを利用しない手はない。

 

 フィフスの血と令呪の命令を受けたアサシンは、もはや止まらない。そして停止されない。

 

 グレモリー眷属でも脅威度の高いバロールの停止は、もはや通用しないのだ。

 

「この時点でトリプルシックスに侵入できていない時点で、俺たちが最終的に削りきれるのは確実だが・・・」

 

 だから、フィフスは勝利を確信―

 

「そういうわけにもいかないんだろうな、これが」

 

 ―しなかった。

 

 フィフス・エリクシルはアサシンによる情報収集を決して怠らない。情報戦で勝利したものは、最終的な戦闘でも有利であることを知っているからだ。

 

 だから、あの男が強化されて復活したことに気づいていた。

 

「・・・ああ、そう簡単にはいかないな、テロリストメイガス」

 

 偽聖剣を身にまとった宮白兵夜が、そこにいた。

 

 全身には返り血が飛び散っており、制御を担当していた者たちは壊滅していることが分かった。

 

 自身にリンクしているため、自動制御は十分できる。そしてそれにも気づいているだろう。

 

「・・・最終決戦のスタートだ、これが」

 

「ああ、ケリをつけよう、発狂アインツベルン」

 

 暗黒鬼と偽聖剣が同時にオーラを発動し、そしてぶつかり合う。

 

 ・・・最後の戦いの幕が、切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




以前、フィフスがギャスパーの停止を難なく突破したことがあるはずです。

その理由が起源。さて、皆さんの中でどれだけの人物が正解を引き合てたのか・・・?


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黒覇の求道者

敵の数が多くて困っている?

おいおい、それは能力をうまく使いこなしてないからだよ。

逆に考えるんだ。

多くなって餌が増えたからいいやって考えるんだ。


 何とかトリプルシックスまで潜入することはできたが、よもやここまで厄介だとは思わなかった。

 

 木原とキャスターの二重のハッキング対策を防御することは不可能だった。制御スタッフは全員叩きのめしたが、しかしそれも自動制御があるのでは意味がない。

 

 つまり、どちらにしてもフィフスを叩き潰さなければ話にならない。

 

 だから、ここまで来た。

 

 勝ち目がある、だなんて言うつもりはない。

 

 ・・・勝つ。

 

「フィフスぅううううううう!!!」

 

 俺はフィフスと全力で攻防を繰り広げる。

 

 あいつの血肉は力になった。

 

 神代の魔術師の血肉は、俺の魔術回路を後天的に強化した。その特性はキャスタークラスの能力を発揮することができる。

 

 今の俺の能力は、間違いなく最上級悪魔にまで到達している。模擬戦を何度もして試してみたから断言できる。偽聖剣抜きでも戦えるようになったと断言できる。

 

 そして、今の俺は偽聖剣を極限まで強化できる。

 

 その性能は今まで以上に向上している。ベースとしての出力がオリジナルに匹敵する。そのうえでの俺専用の調整と、蒼穹剣の出力は最高潮。

 

 だから、今の俺は戦える! 今の俺なら、極覇龍のヴァーリすら圧倒できる!

 

 そして、サマエルの鎧の再調整も完了した。

 

 汚染された俺の内臓から採取したサマエルの毒で、血清は作らせてもらったし、鎧にも防毒機能を強化した。

 

 さすがに前回ほどの性能はないが、それでも十分すぎる助けになる!

 

「これ以上お前の好きにはさせない。これまでのツケを清算するときだ!!」

 

 オーラを全力で放出しながら、俺は連続攻撃を叩き込む。

 

 後遺症の可能性はある。偽聖剣が崩壊する危険性もある。

 

 だが、そうでもしなければフィフスは倒せない!!

 

 怒涛の連続攻撃を叩き込みながら―

 

「それがどうした。俺は止まらない」

 

 ―奴はそのすべてをしのぎ続ける!

 

 これでも届かないか・・・っ

 

「百年かけた年月に、あらゆる異世界の技術の投入に、お前の一年足らずが通用するものかよ!!」

 

 殴り合いを続けながら、フィフスは吠える。

 

「年季の違いは俺の方が上! かけた技術力も二人いる分俺の方が上! そして何より」

 

 こちらの攻撃にカウンターを叩き込みながら、フィフスはそして吠える。

 

「根源到達にかける俺の気迫が、五十年生きてない若造に負けるものかよ!! あと百年たってから出直してきやがれぇええええ!!!」

 

 真正面からのストレートをもろに喰らった。

 

 クソが、ここまで強いのかよ・・・・!

 

 まだ、まだ一手足りない―

 

「―それがどうしたぁああああ!!!」

 

 ―わけがないだろうが!!

 

 俺はさらに出力を増大させる。・・・いや、起動させる。

 

 これが、俺の切り札―っ

 

「令呪に命ず!」

 

「何!?」

 

 フィフスが狼狽するが、もう遅い。

 

 ヴァーリから、もらってきておいて正解だったぜ!

 

「―対魔力を、俺によこせ! アーチャー!!」

 

 そのとたん、滅龍魔法のダメージが低下する。

 

 ・・・賭けは俺の勝ちだ。

 

 アーチャーの内臓を大量に取り込んだおれは、アーチャーの特性を発揮できる。

 

 なら、アーチャーのサーヴァントとしてのクラススキルも手に入るはず。

 

 ヴァーリにもらっておいて正解だった。この令呪が、ここで俺の勝算をはね上げる!

 

 ヘッドバッドで鎧を砕いて鼻血を出させながら、俺は吠える。

 

「託されてんだよいろんな奴から! その分をきちんと計算に入れやがれ!!」

 

 対魔力スキルで滅龍魔法を防ぎながら、俺は一気に力押しを行う。

 

 相性差、武器、令呪とサーヴァント、そして託されたこの思い・・・。

 

「散々そっちが使ってきたんだ。今更数で押されても文句を言うなよ!!」

 

「ああ、そうかい!!」

 

 クロスカウンターをぶつけながら、俺とフィフスはぶつかり合う。

 

 あとは、フィフスの鎧の継続時間の延長が蒼穹剣より上かどうかで・・・。

 

「―なら、こちらも切り札を切るだけだ」

 

 ・・・なんだと!?

 

「我、覇の理など歯牙にもかけぬ魔導の鬼神なり!」

 

 その瞬間、莫大なフィールドが形成された。

 

 そして、そのフィールドに触れた者たちが力を失っていく。

 

「無限の困難をこえ夢幻の理想を目指し、求道を行く」

 

 覇の領域は、大量の生命力を消費し、そしてそれを代用することはフィフスには不可能だろう。

 

 だが、一つだけ盲点が存在する。

 

「我、漆黒の闇すら踏破する魔道の追及者となり―」

 

 それは、魔術師にとっての基本中の基本―

 

「―汝にわが夢を妨げた罪を知らしめよう!」

 

 そう―

 

覇鬼(オーバーロード・デーモン)

 

 ―足りないものは、よそから持ってくるという基本中の基本である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのとたん、拮抗していた戦力は大きくゆがみ始める。

 

「あ・・・ぐぅううううう!?」

 

 リアスはそのオーラの力に悲鳴を上げる。

 

 自分の魔力が、生命力が、体力が、急激に消耗していくのを感じた。

 

「これは・・・一体!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこにあったのは、より黒くなった圧倒的な力の具現だった。

 

 あの野郎、周りから生命力を奪って覇の領域へと到達しやがった。

 

「クソが・・・っ」

 

 カウンターを喰らって吹っ飛びながら、俺は最悪の状況に陥ったということに気が付いた。

 

 奴の戦力の大半は使い捨て。そして味方の戦力は基本的に強者。

 

 そいつらのほとんどを一斉に無力化しながら、自分だけパワーアップしやがった!

 

 悔しいが、足りないものをよそから持っていくのは魔術師の基本。

 

 この野郎、ここにきてスタンダートな戦術で仕掛けやがった!

 

「さて、なんていったか? 数で攻められても文句を言うな?」

 

 今まで以上のスピードとパワーを、自身の技量で完全に制御しながらフィフスは吠える。

 

「・・・それは俺らの戦術だ。今更猿真似してんじゃねえぞ少数精鋭が!!」

 

 

 

 

 

 

 

 




原作において覇を克服したイッセー。

どちらにおいても覇を凌駕したヴァーリ。

この作品で覇に対抗する兵夜

そして、ラスボスとして覇を制御したのがフィフス。



足りないものがあるのなら、よそから持ってくるのが魔術師クオリティ。フィフスはトリプルシックスを利用して、周囲の生命力を奪うフィールドを形成しました(敵味方識別機能アリ)。

能力は単純に性能アップ。隙は全くありません。

さあ、兵夜はどうする? イッセーはどうする? みんなは、どうする!?


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おっぱいドラゴン今日も行く!

さぁ、いつもの逆転タイムのスタートだ!


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まずい、まずいまずいマズイ!

 

 まずいことになった!

 

「ドライグ! 俺はどうなんだ!?」

 

『透過の力で何とか抑え込んでいる。消耗そのものも分散しているから致命傷には程遠い。だが、これ以上続けば人間から順番に枯れ果てるぞ!』

 

 クソッタレ!

 

 フィフスの奴、他人の生命力で覇を使いやがった!

 

 こ、こ、このままじゃリアスがまずい!

 

 けど、どうするんだ?

 

「う、うぉおおおおおお!?」

 

 トリプルシックスの砲撃はすさまじく、すでに山が結構あったのに更地になっているどころか窪んですらいる。

 

 なんだよこの密度の砲撃は! ヤ〇ト!? 宇宙戦艦!? スペースオペラ!?

 

 ち、近づけない!!

 

 どうすればいいんだ、このままじゃ、このままじゃみんなやられるのに、どうすることもできない!!

 

『陽動部隊、損耗率五割を超えました!?』

 

『もう限界に近い、そろそろ何とかならないのか!?』

 

『だめだ、こっちもフィールドに近い奴から死んでいってる!!』

 

『そんな! 主要幹部は全滅したってのに―』

 

 通信からみんなの悲鳴が聞こえてくる。

 

 それなのに、俺は、何もできないのか・・・っ!

 

 仲間をやられたってのに、俺は何もできないのかよ!!

 

 涙すら浮かんで悔しくなっているとき、しかし、俺の耳に声が届いた。

 

『お、イッセー無事か? 無事だな?』

 

 その声、アザゼル先生!?

 

「せ、先生!? どうしよう、このままじゃ!」

 

『ああ、わかってる。だから・・・お前がフィフスに一泡吹かせて来い』

 

 え? でも、血清が足りなかったから宮白しか使って・・・。

 

『俺たちもお前らに任せっぱなしじゃいられないからな。・・・こっちも最後の仕掛けを準備しといたぜ』

 

 そういいながら、アザゼル先生は映像を映し出した。

 

 そして、俺は一気にすべてを忘れるぐらい興奮した!

 

 う、うぉおおおおおおお!? おっぱいぃいいいいいい!?

 

 攻撃が何発が当たるけど、そんなことを気にする余裕がないぐらい俺は興奮した。

 

 い、いろんなおっぱいがいっぱいあるよ!? なにこれ、なにこれ、なにこれぇええええええ!?

 

『宮白から面白い技術をきいたんでな。前からサーゼクスに資金だしてもらって作ってたんだよ、お前用に』

 

 お、俺用?

 

『さあ、聞こえるだろう?』

 

 そういうアザゼル先生の声に続いて、歌が聞こえてきた。

 

―とある国の隅っこに、おっぱい大好きドラゴン住んでいた♪

 

 ・・・ああ、聞こえる、聞こえるよ。

 

 子供たちの歌だ。これは子供たちの歌だ。

 

 子供たちがおっぱいドラゴンの歌を歌っている!

 

 俺たちの勝利を願う応援歌だ、これは!

 

『・・・行くぜイッセー! お前は今から乳龍帝を超える』

 

 アザゼル先生はそういうと、さらに続ける。

 

『お前は、今から―』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如吹き荒れた吹雪が、アサシンたちの猛攻を押しとどめる。

 

 フィフスが放ったと思われる莫大な生命力の消費のなか、これは福音といっても過言ではなかった。

 

「これは・・・」

 

 リアスはそれに思い当たり、そしてどういうことかを気づく。

 

 そして、それを口に出すより早く、ヴァーリ・ルシファーがそれに答えた。

 

「令呪でライダーの宝具を強化した。これで、時間を稼げるはずだが」

 

 そういうヴァーリの消耗も莫大なレベルに到達している。

 

 莫大な消耗を生み出す覇の領域を、まさかこのような方法で解決するとは。

 

 そしてそれは、それだけの相手を敵に回しているということ。

 

「兵夜・・・っ」

 

 このままでは、兵夜は負ける。

 

 そして、今の自分たちも持たないだろう。

 

 この圧倒的な消耗の中では、自分たちはまともに戦えない。そしてアサシンは何とか抑え込んでいるが、フィフスが出てくれば何とかなる。そうなればあとは各個撃破されるだけだ。

 

 情けない。ここまで来て結果がこれなどとは。

 

 リアスは、兄に、父に、母に、友に。そして下僕たちに申し訳なくて涙を流す。

 

 そして、それが地面に落ち―

 

―・・・とある国の隅っこに、おっぱい大好きドラゴン住んでいた♪

 

 ―歌が、聞こえた。

 

「・・・え?」

 

 どこからともなくおっぱいドラゴンの歌が聞こえてくる。

 

 それは、消耗の苦しみを和らげこそしないが、心の苦しみを和らげてくれる。

 

 そして、どこからともなく光が飛んできた。

 

「・・・ほう、これはすごいであるな」

 

 吹雪を限界を超えて生み出しながら、ライダーは感嘆する。

 

「まさかアラヤを再現するとは。これは、いけるかもしれないな」

 

「ライダー、どういうことだ?」

 

 ヴァーリがこの現象を面白そうに見ながら尋ねる。

 

 それに対して、ライダーはにやりと笑った。

 

「簡単なこと。世界中の人間の多くが、フィフス・エリクシルをどうにかしてほしいと願っているのだよ」

 

 ―集合的無意識、という概念がある。

 

 それは人々の潜在的な意識によるある種のネットワーク。魔術師(メイガス)の世界において、それは明確な力を発揮する。

 

 特に守護者は強力だ。死にたくないという潜在的な願望は人間のほぼ全員が持っているため、必然的に全人類の力をバックアップに受けることができる。

 

 そして、世界中の人間はフィフス・エリクシルに振り回されている。

 

 被害をこうむった国はもちろん誰であろうとフィフスに潜在的な敵意を持っている。クージョー連盟も、事実上フィフスの好きにされているため不満があるだろう。

 

 そして、フィフスを倒そうとする者たちがいる。

 

 一度は人々の夢とつながった男は、今でもあきらめてはいなかった。

 

 そして、アザゼルたちは聖書の神のシステムを利用してそれをつなぎ合わせた。

 

 ・・・だが、まだ足りない。まだ足りない。

 

 兵藤一誠という男が、アラヤのすべてに関与できるわけではない。そんなことを許すほど、集合的無意識は生半可な存在ではない。

 

 だが、一つだけ例外がある。

 

 その一念であらゆる事象をゆがめ、一年もの間奇跡を起こし続けた強い思いがある。

 

 それを、リアスたちは知っている。

 

「・・・ええ、そうね。そうだったわ」

 

 いつも、いつでも、どんな時でも。

 

 兵藤一誠は、そういう男なのだから!

 

 リアスは、アーシアは、朱乃は、小猫は、ゼノヴィアは、イリナは、ロスヴァイセは、そしてその失念に当てられ、無意識でも堪えよと思ったすべての女性は立ち上がった。

 

 その全員を代表して、リアスは声を上げる。

 

「さあ、イッセー! 私たちの胸を使いなさい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我、目覚めるは、乳の神秘に魅了されし赤龍帝なり!」

 

 それは、常識では計り知れない異才の赤龍帝。

 

「夢幻に続く夢幻の煩悩とともに、王道を行く!」

 

 それは、異界の神すら手を差し出す、強大たる願いを持つ者。

 

「我、赤き乳の帝王と成りて―」

 

 それは、子供たちのヒーロー。

 

 乳龍帝おっぱいドラゴン・・・否!

 

「汝に乳房のように輝く天道を魅せつけよう!」

 

 その名は、赤龍の乳乳帝(ちちにゅうてい)

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out




おっぱい\(゚▽゚)/=\(゚▽゚)/おっぱい

おっぱい\(゚▽゚)/=\(゚▽゚)/おっぱい

おっぱい\(゚▽゚)/=\(゚▽゚)/おっぱい

おっぱいぱい∩(゚∀゚)∩パーイ!









・・・失礼しました。








おっぱいを究極レベルにして最終覚醒させるのは、イッセーをオリジナルパワーアップさせると決めたときから決定しました。

ですが、少し考えてアラヤの設定を追加した結果とんでもないことに。

みんなー! 俺におっぱいを分けてくれー!









大変! フィフスが息してないの(笑


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駒王学園の親友コンビ

さあ、多くは語るまい。









・・・決着を、つけて来い!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちは、そこにある輝きを目にして、いろんな意味で言葉を失った。

 

 うん、確かにあいつはおっぱいドラゴンだ。それは認めよう。

 

 そもそもあいつにとって、おっぱいはブースターというかニトロだ。乳首つついて禁手至ったり、おっぱいぱふぱふしてもらって覇龍制御したり、乳の神様を異世界から来訪させるほどだ。第一最近は乳使った技に目覚めてるしまあ納得だろう。

 

 だけど、これはないだろう。

 

「・・・あ・・・あ・・・あ・・・あ・・・あの野郎本当にいい加減にしろこの野郎がぁああああああああぁぁぁぁああああぁぁぁあああああああ!?!!?!」

 

 フィフスの野郎はSAN値が急激に減少している。

 

 うん、気持ちはわかる。これはない。

 

 ないけど―

 

「・・・やると思ったぜこの野郎!!」

 

 ああ、そうだろう。

 

 おっぱいドラゴン兵藤一誠が、やられっぱなしで終わるわけがない。

 

 そういえば女王の分の進化も残ってたしな。そりゃ空気読んで最終決戦に出すだろう。

 

 しっかしあの野郎正気かよ!

 

 フィフス嫌いの感情を利用して、全女性のおっぱいから力を借りやがった!!

 

「フィフス・エリクシル!!」

 

 赤色というか一部桃色になりながら、イッセーはフィフスに指を突き付ける!

 

「もうお前の思い通りには絶対ならない! 今日がお前の命日だ!!」

 

「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふざけんなぁああああああ!!!!!」

 

 これまでにないぐらいブチギレたフィフスが、トリプルシックスの砲撃をぶちかます!

 

 あ、ヤバイ! アレ一発一発が最上級悪魔の攻撃クラスあるぞ! しかも数が百は越えている。

 

 イッセー! 油断して喰らったりするなよ!!

 

 などと心の中で思ったが、その心配は全く持って不要だった。

 

「舐めんな!」

 

 この超遠距離からですら目視に苦労するスピードで、イッセーはそれをすべて回避、もしくは打ち落としていく。

 

 そしてそのまま弾幕をかいくぐり、フィフスに向かって突撃した。

 

「これが」

 

 そして、両腕に赤いオーラを全力で込めて―

 

「お前に振り回された全世界におっぱいが素敵な女の人たちの」

 

 心の底からの怒りを込めて―

 

「―嘆きと怒りの感情だ!!」

 

 一撃で鎧を粉砕する!!

 

 フィフスは顔面を血だらけにしながら、しかしそれでもすぐに反撃した。

 

「それがどうしたぁ!!」

 

 サマエルの毒を宿した毒炎竜の一撃が、イッセーの顔面に突き刺さる。

 

 イッセーはその一撃で口から一筋の血を流し―

 

「こっちのセリフだ!!」

 

 しかしそれだけで済ますと再び殴り飛ばした!

 

 その光景に、反撃を即座に叩き込みながらもフィフスは狼狽する。

 

「馬鹿な! 天龍のドラゴン密度でサマエルの毒の影響を受けないわけが―」

 

「何勘違いしてやがる!」

 

 格闘術の技量差でより多く殴られながらも、イッセーはしかし反撃を叩き込む。

 

 超獣鬼の身体能力を、今だけはイッセーが上回っているからできる芸当だ。

 

 そして、その力の根源は―

 

「・・・今の俺は乳乳帝だ! 龍殺しなんて大して効かねえんだよ!!」

 

 -おっぱいだ!

 

 ああ、なるほど。おっぱいの量が多すぎて、ドラゴンが相対的に微量になってるのか。

 

 出力が超獣鬼以上だもんね。そりゃドラゴンのオーラも薄まるよ。

 

 俺はそれを理解して、心の底からの言葉を口にする。

 

「頑張れ・・・ドライグ!」

 

『頑張る!』

 

 涙声がかえって来た。だろうね!

 

 だが、これなら勝ち目は見えるか!

 

 いや、このチャンスを逃すわけにいくか!!

 

「手を貸すぜイッセー!」

 

「ああ、借りるぜ宮白!!」

 

 俺も立ち上がり、イッセーとともに殴り合いに参加する。

 

 その連続攻撃をフィフスはさばいていくが、あまり俺たちを舐めるなよ?

 

「行くぜイッセー!」

 

「おう宮白!!」

 

 俺とイッセーは完璧に同時のタイミングでケリを叩き込み、フィフスを弾き飛ばす。

 

 フィフスはふっとばされながら、激情にかられるように吠える。

 

「ふざけんなふざけんなふざけんな、俺の根源到達の、邪魔をするなぁああああああ!!!」

 

 その激情とともに、トリプルシックスの砲撃が曲射されて襲い掛かる。

 

 この野郎、そこまでできるのか!

 

 さすがに戦慄するが、隣で鼻で笑う音が聞こえて振り返る。

 

 そこにいるイッセーは、何一つ恐れてなんていなかった。

 

 そして、俺の肩に手を置いた。

 

「・・・まだまだこんなもんじゃないだろ? やってやろうぜ、宮白!」

 

「・・・ああ」

 

 そうだな。ここで立ち止まるわけにはいかない。

 

 俺はイッセーに尊敬される男。だったらこいつに並び立つぐらいできないとな!!

 

『Transfer!』

 

 譲渡の力を浴び、俺は出力を増大させて突き進む。

 

 イッセーとともに連続砲撃を弾き飛ばしながら、フィフスに向かって突撃する。

 

 そしてフィフスも止まらない。砲撃を操作しながら、真正面から突撃する。

 

 この獣のごとき激情・・・。なるほど、起源を限定的に覚醒させたか。

 

 だがそれゆえに起源にのまれ、仕切りなおすという発想がブチギレたこともあり忘れ去られている。

 

 その運用は、ハイリスクだったな!!

 

「「「うぉおおおおおおおお!!!」」」

 

 俺たちは至近距離から全力で殴り合う。

 

 負けるか

 

 負けるか

 

 負けてたまるか!

 

 託されたんだよ俺は! アーチャーから! 文字通り血肉を俺たちの勝利と未来のために!!

 

 頼まれてんだよイッセーは! 世界中の人々から! 自分の分まで殴ってくれと!!

 

 お前は確かに強者だろう。

 

 だが―

 

「数の暴力を喰らいやがれ!!」

 

 今この場だけは俺たちが上だ!!

 

 顔面に拳が突き刺さり、フィフスの顔から血の花が咲く。

 

 だが、この期に及んでフィフスは勝利を確信したかの如く笑みを浮かべた。

 

「・・・まだだ、まだ奥の手がある!!」

 

 そう言い放つと同時、フィフスは魔方陣を展開する。

 

 そしてその瞬間、イッセーの力が目に見えて減衰した。

 

 ・・・なんだ? 何が起こった?

 

「色欲を力に変えるなら、煩悩を抑制すればいい! これが、キャスターの作り上げた発情鎮静術式!!」

 

 な、な、なんだとぉ!?

 

 この野郎、この期に及んでまだイッセー対策を隠し持っていやがった!!

 

 あの力はおそらくイッセーのおっぱい愛を媒介にしているのだろう。それを核にして人々の集合的無意識から力を借りているんだ。そうでなければこの出力は説明がつかない。

 

 もし、その根幹となる劣情がなくなったら、どうなる!?

 

 まずい、このままじゃ形勢がフィフスに傾いて―

 

「イッセー!!」

 

 その時、声が響いた。

 

 ああ、聞き間違えるものか、この声は・・・!

 

「リアス!?」

 

「姫様!?」

 

 そうか、トリプルシックスの砲撃が俺たちに収束したからその隙を突いて。

 

 見れば、ヴァーリが姫様を抱えてこっちに向かって突撃している。あと姫様もおっぱいを託したのか貧乳になってる。

 

「我、目覚めるは律の絶対を闇に落とす白龍皇なり!」

 

 そうだよな。コテンパンにのされたのは俺たちだけじゃなかったよな。

 

「無限の破滅と黎明の夢を穿ちて覇道を往く」

 

 お前が、黙ってこのままやられてやるわけがない。

 

「我、無垢なる龍の皇帝と成りて―」

 

「ああ、行こうぜヴァーリ!」

 

 俺は、援護射撃をしながらあいつに応える。

 

 俺はたいがいお前のこと危険視してるが―

 

「汝を白銀の幻想と魔道の極致へと従えよう!!」

 

 ―裏を返せば評価してるんだぜ!!

 

「フィフス、人のことは言えないが好き勝手してくれた礼をさせてもらう!!」

 

『Compression Divider!』

 

 すべての砲撃を半減させながら、ヴァーリは姫様をぶん投げる。

 

 そして、未来予知で残った攻撃をかいくぐった姫様は!

 

「イッセー!」

 

 そのままイッセーに抱き着いた。

 

 それは見る影のない貧乳。間違いなくまな板としか断言できない貧乳。おっぱいなんて形容は不可能なぐらい貧乳。

 

 だが、それは間違いなくイッセーが大好きな最愛の胸だ。

 

「これに触れて、まだ劣情を減衰できる?」

 

「・・・無理に決まってるってぇえええええええええええ!!!」

 

 イッセーの煩悩とともに、オーラが再び増大する!

 

 そして、そのままの勢いでフルパワーで殴り飛ばす。

 

 フィフスの鎧が粉々に砕け散り、そして大きな隙が生まれる。

 

 ああ、そうだ。

 

 このチャンスを―

 

「待っていた!」

 

 ・・・アーチャー。俺は最後までお前に迷惑をかける。

 

 だけど、もし応えてくれるなら。

 

「白龍皇より賜りし令呪をもって、我が相棒へと懇願す!」

 

 ―俺に、力を!

 

「宝具を、貸せぇええええええ!!」

 

 令呪が俺の内臓を経由し、コルキスの女王の力を具現化する。

 

 そうだ、英霊の力を借りたアサシンも、トリプルシックスも圧倒的。

 

 だが、それさえなんとかできれば!

 

破戒すべき(ルール)―」

 

 お前の勝利は―

 

「―全ての符(ブレイカー)!!」

 

 ―もう来ない!!

 

 その瞬間、トリプルシックスが機能を停止した。

 

 フィフスとつながっている術式が抹消され、行動命令を失ったのだ。

 

 そして、次にすることも決まっている。切れた契約はもう一つある。

 

 それに気づいたフィフスが、顔を真っ青にさせて突撃する。

 

「・・・て、めぇええええええええええ!!!」

 

 それだけはさせないとするフィフス。

 

 だが、その全身にあらゆる魔力が突き刺さる。

 

「行け、宮白!」

 

「やってみせるといい、宮白兵夜!」

 

「さあ、ぎゃふんといわせなさい!!」

 

 ああ、わかってるぜ三人とも!

 

 俺は、アサシンの契約を相棒の力で無理やりつなげ、そして告げる。

 

「令呪に命ず! 今すぐ全員自害しろ!」

 

 ・・・これにより、聖杯戦争の勝者は確定した。

 

 本来、聖杯戦争とはバトルロイヤルのサバイバル。必然的に勝者は最後の一組となる。

 

 この時点において、残っているサーヴァントはライダーのみ。

 

 すなわち、ライダーのマスターであるヴァーリ・ルシファーの優勝が決定した。

 

「・・・・・・クソがぁあああああああ!!!」

 

 それを理解し、フィフスは吠えた。

 

 その怒りのままに、一瞬で三人を弾き飛ばす。

 

「まだだまだだまだだまだだ! ここでお前らを全員殺して、そのあとまた聖杯戦争を開催すればそれでいい!!」

 

 そして、俺に真正面から殴りかかる。

 

「ノウハウは確立した! 最初は二騎程度の小規模から初めて、そして戦力を確保して! 最後に勝利を手にすれば―」

 

「ふざけないで」

 

 その直後、フィフスの体が引っ張られる。

 

 リアス・グレモリー最強の魔力攻撃が、消滅の魔星(イクスティングイッシュ・スター)がフィフスの鎧を削っていく。

 

 そいて、空間ごと半減する力がフィフスの動きを止める。

 

「そうだ、俺も人のことは言えないが、好き勝手したければそれに見合う力がいる。もうお前にそれだけの力はない」

 

 ヴァーリも全身から血を流しながら、全力で半減の力を籠める。

 

 そして、俺の隣に相棒が並び立った。

 

「―行くぜ、親友」

 

 ・・・ああ、わかってる。

 

 この一年、本当にいろいろあった。

 

 イッセーが悪魔になり、続いて俺が悪魔になった。

 

 そして気づけば世界の命運を決める激戦の主力。何がどうしてこうなった。

 

 だけど、だけど、だけど・・・。

 

 ―だからこそ、負けられない。

 

「―決めるか、親友」

 

 俺たちは同時に駆け出した。

 

 それを見て、フィフスも覚悟を決めたようだ。

 

 全身から力をみなぎらせて、ドラゴンフォースを発動させる。

 

「毒炎竜の―」

 

「決めろ、宮白!!」

 

 イッセーは俺に譲渡をかける。

 

 ああ、ここで決める。

 

「―咆哮!!」

 

 毒の焔を息吹を前に、俺は真正面から迎え撃つ。

 

 ああ、今こそ名付けよう。

 

 冥府の神の足から作り上げた礼装の一撃。

 

 そう、ゆえに奴の名を冠してこの一撃を叩き込む。

 

 ゆえに、この一撃の名は―

 

冥府へ誘う死の一撃(ハーイデース・ストライク)!!」

 

 俺は全力の飛び蹴りで迎え撃つ!

 

 姫様とヴァーリが時間を稼ぎ、イッセーに託されたこの一撃!

 

 フィフスの全身全霊の一撃とぶつかり合い、一気に押し合う。

 

 拮抗し、そして何とか押し切ろうとする中、しかし限界は訪れた。

 

 ピシリ、と音が鳴った。

 

 ・・・まずい、偽聖剣がもう限界だ!

 

 このままだと、押し切る前に鎧が砕ける!!

 

「俺の・・・」

 

 そして、フィフスはそれに気づいて限界を超える。

 

「勝ちだぁあああああああああ!!!」

 

 ・・・まだだ。

 

 そう、まだだ。

 

 負けられるか!!

 

 俺は―

 

「あいつらと一緒に―」

 

 俺の脳裏に四人の姿がよぎる。

 

 ああ、そうだ。

 

 約束したんだ。あいつらと。

 

 そのために、託してくれたんだ相棒(アーチャー)は。

 

 だから―

 

「―幸せになるんだよぉおおおおおおおお!!!」

 

 死ねるかぁああああああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『契約執行(シス・メア・パレス)60秒間!! 久遠の従者(ミニストラ・クオン)、宮白兵夜!!』』』』

 

 その時、俺の出力が上昇した。

 

 これは、パクティオー契約の魔力供給・・・っ!

 

「まあ、兵夜くんのことだからピンチになると思ったんだよねー」

 

「兵夜様、これがベルたちにできる精一杯です」

 

「兵夜、そのファック野郎に目に物みせてやれ!」

 

「ご主人、ここまでさせたんだから信じてるよ!」

 

 久遠が、ベルが、小雪が、ナツミが、俺の勝利を信じるのではなく、勝つために力を貸してくれている。

 

 ああ、そうだな。

 

 俺たちで、幸せになろう。

 

「うぉおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 俺は、最後の全力を込め、一気に突貫する。

 

「まだだまだだまだだまだだ!! 俺は、根源に―」

 

「んなもん―」

 

 フィフスの絶叫を押し切り、俺は炎を突破して―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―来世で平和的にやってやがれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのままフィフスを粉砕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそのまま地面に激突し、俺はそれでも上を見上げる。

 

 ・・・青空が、広がっていた。

 

 ああ、大変すぎて気づかなかった。

 

 世界の命運がかかった大激戦だったからなぁ。

 

 そして、俺はイッセーに視線を向ける。

 

 イッセーも、俺の方を見ていた。

 

 ・・・ああ。

 

「勝ったな、宮白」

 

「勝ったぜ、イッセー!」

 

 俺たちは、心底心から笑いあった。

 




(`・ω・´)みんなー、オラにおっぱいをわけてくれー!


赤龍の乳乳帝の能力は極めて単純なパワーアップです。仕組みとしては身体能力を上昇させる元気玉乳バージョン。

ですが、それが乳によって左右されるというのが大きなところ。

数人程度の父でも、赤龍帝の潜在能力が開放されるので龍神化に次ぐ戦闘能力は発揮できますが、これが数百人を超えだすともう大変。乳の質量が圧倒的に高くなり、龍の要素が薄まります。

今回の乳乳帝は最終決戦バージョン。地球上のおっぱいのほとんどを取り込んだ超次元は、冗談抜きでトリプルシックスと真正面から渡り合えます。龍殺しがあればグレートレッドとも戦えますけど、それは世界が求めないので出力がそこまで上がらないでしょう。

まさに最終決戦にふさわしい特別モード。原作以上におっぱい使ってきたケイオスワールドにふさわしい代物に仕上がりました。








そして次回はエピローグです。




え? いくつか謎が残ってるって? それは活動報告をご覧ください。


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エピローグ 卒業式で、だべってます!

そしてエピローグ。









・・・長かった。とても長かった








でも、やっとここまで来れました!


 

 リゼヴィム・リヴァン・ルシファーの異世界侵略の野望。そしてそれを利用したフィフス・エリクシルによる根源到達のための下準備のために動かされた一連の事件は幕を閉じた。

 

 リリンと邪龍を手玉に取った男の名から、五の動乱と呼ばれることになるこの事件は、多くの爪痕を残すことになる。

 

 一年弱の間世界を動乱の渦に巻き込んだ、禍の団(カオス・ブリゲート)との戦いにおいて一翼を担い、幹部たちの力の根源ともなっていた異世界技術。その多くが人間世界に解き放たれたのだ。

 

 特に学園都市技術による能力者の存在は凶悪だった。

 

 彼らには精神的な鍛錬が必要ない。それゆえに未熟な精神で暴力を扱うことになり、必然的に犯罪が勃発した。

 

 ましてやそれを抑制するべき警察組織も最新技術の恩恵を受けてきたがゆえに電子機器の壊滅で機能を停止していた。

 

 そこからくる治安の悪化は絶大で、さらにクージョー連盟が内部分裂寸前になったこともあり、世界中で紛争が勃発。その過程において魔法世界(ムゥンドゥス・マギクス)の戦闘技術が大いに活躍することとなる。

 

 さらに、のちの調査でリゼヴィムが異世界に余計なことをしていたことが判明した。

 

 かつて兵藤一誠を助けた乳神がいる世界。E×E(エヴィー・エトゥルデ)

 

 善なる神と悪なる神による争いが勃発しているらしい、二大戦力の激戦が行われているらしい世界。

 

 リゼヴィムはその世界に徹底的な挑発を行い、さらにはこちらに向かうための術式の情報すら送り込んでいた。

 

 自分たちが異世界に攻め込めるならよし。攻め込めなくても、向こうから仕掛けてくればそれでいい。あの悪意と熱意の塊らしい手段の択ばなさである。

 

 その異世界の者たちがやってくるまで、推定で30年。異形たちの者たちからすれば瞬きほどの期間だろう。

 

 それらによる人類滅亡を抑制するには、今のままではどうやっても不可能。神話及び信仰存在は、自らの実在を証、人類にその姿を現すことを決定した。

 

 十年以内に人類の問題をある程度鎮圧して存在を公表。そして二十年以内に迎撃の準備を整えなければならない。

 

 だが、幸運なこともある。

 

 龍神に匹敵する力を持ったトライヘキサ。その肢体を基にして開発されたトリプルシックスを確保することに成功したことである。

 

 トライヘキサは七つに分裂する機能があったようで、それを基にして七隻の戦艦へと分離したトリプルシックスは、各勢力に分割されることとなった。

 

 悪魔、堕天使、教会の三大勢力に一つずつ。そして作戦において戦力を多く提供した北欧神話、ギリシャ神話、中国神話、インド神話に一つずつ。

 

 魔獣騒動の原因の一人であるハーデスのいるギリシャ神話や、英雄派との内通疑惑のある帝釈天のいる中国神話に渡すのには難航したが、しかし莫大な戦力を提供したうえに、さらに被害も甚大である以上相応の代償が必要だった。

 

 のちにトリプルシックスや禍の団の軍艦を参考にした艦隊が編成され、定期的にグレートレッドとつかず離れずの距離で護衛することなる。

 

 問題は数多く、しかも強大。

 

 だが、其れでも一つ目の峠は越したのだと、全勢力がわかっていた。

 

 次の峠を越えるための準備をしながらも、彼らは勝利の美酒を味わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この戦いにおいて、多くのものが多数の褒章を得ることとなる。

 

 被害が甚大である以上、その分繰り上げ昇格をすることになるのは当然ともいえるだろう。

 

 特に冥界では、王の駒の秘匿使用を機に綱紀粛正が大幅に行われた。

 

 不正を行っていた貴族たちは表向きにはこの争乱で後遺症を患ったことにして勇退し、その地位に若手の優秀な人材が選ばれることになる。

 

 もちろん、若手悪魔たちの昇格も盛んだ。

 

 こと若手悪魔の集まりであるD×Dは多くの昇格が行われることになる。

 

 リアス・グレモリー眷属は軒並み中級へと昇格。ソーナ・シトリー眷属も二人昇格。さらに兵藤一誠と桜花久遠は上級へと昇格することになる。

 

 さらに、禍の団第四首魁を滅ぼした宮白兵夜は、特例で最上級悪魔へと昇格することになった・・・が。

 

 この昇格。兵藤一誠と桜花久遠の昇格の儀式のときにサプライズで発表した。

 

 それがまずかった。

 

 もとより宮白兵夜は血統主義に理解があることで有名である。

 

 冥界の政治の現状にも理解が深く、アウロス学園においても上級と下級の悪魔にしっかりと存在する差を提示するなど、転生悪魔としては異例の視点を持っている。

 

 教会のクーデターが未然に防がれたのも、宮白兵夜の功績が大きい。彼が悪魔祓いの不満を理解してそれを発散するための模擬戦を企画したからこそ、彼らは歩み寄りの姿勢を見せてくれたのだという意見は強い。そしてそれは事実だ。

 

 また、四大魔王達のことを「リベラルすぎる」と苦言を呈し、貴族たちの意向をくんだ判断をもとることができる思想を持つ。

 

 つまり、政治的に保守派よりなのだ。

 

 だからこそ、四代魔王としては彼に権力を与えて相応の地位につけたいと思っていた。ゆくゆくは魔王もしくはそれに近しい立場を与えることで、貴族達をうまくなだめられる存在になると期待していた。だからこそこのチャンスを逃さなかった。

 

 だが、そこに茶目っ気を入れたのが失敗した。

 

「・・・あんたら馬鹿か。馬鹿なのか」

 

 ある有名な映画のBGMを流しながら、宮白兵夜は魔王四名に正座を要求。そのまま一時間にわたり説教を行った。

 

「だから、ちょっとあんたら自由すぎなんだよ。度の越えた自由奔放に振り回される相手のことを理解しろ。第一種族特性的に冥界は血統主義を捨て去ることなんてできないんだから、もう少しそのあたりを考慮した発想というか、そもそも自国の代表をほかの神話の代表に選ばせようという発想がもう気がくるってるとしか・・・」

 

 各種神話体系の大物すらゲストに呼ばれたこのイベント。ついでに言うと、禍の団の大物を撃破した若手の三名が一斉に昇格するということでメディアも多く集まっていた。視聴率も50パーセントを超える事態に陥っていた。

 

 ・・・当然、大騒ぎである。

 

 中にはまだ公表されてない情報もだしていたため、割と本気で機密漏洩だった。

 

 宮白兵夜の昇格は当然中止。ついでに罰則として一年間の最上級昇格禁止が言いつけられた。

 

 魔王派のタカ派は怒りくるい首をはねてしまおうかといわんばかりの勢いだったが、肝心の四大魔王が止めに入ったこともあり、かろうじてそれは防がれることとなる。

 

 ・・・この異例の軽い罰則は、いまだ影響力の強い血統主義の悪魔たち、そして魔王を超える政治的影響力をもつゼクラム・バアルのフォローがあったことを付け加えておく。

 

 のちに「魔王の首輪」の異名をつけられることとなる、宮白兵夜の説教伝説の幕開けとなることを、いまだ彼らは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宮白、お前馬鹿か? 馬鹿だろ?」

 

「命知らずっていうか、なんていうか・・・」

 

「・・・ぶはっ! む、無理! お、おなかが痛い・・・っ」

 

「うるさいよそこ!!」

 

 松田に元浜に桐生の三人をにらみつけて、俺はため息をついた。

 

 うっかりテレビ中継されていることを忘れたのは全面的に俺の責任だが、そこまで言うことないだろうが!

 

「いや、ほんとお前は時々馬鹿だから。心臓が止まるかと思ったし」

 

 イッセーまで!? ひどすぎるぞその扱いは!!

 

 何はともあれ卒業式も終わり、俺たちは事情を説明しながらだべっていた。

 

 松田と元浜は割と信じられない顔を見せていたが、いろいろ異形の能力を見せたらすぐに納得。元浜は能力者に目覚めてるから理解も早い。松田も、自分の師匠ともいえる人物が禍の団の精鋭だと知ったときは驚愕していた。

 

「師匠が、師匠がテロリストに加担してたなんて・・・」

 

 ショックを受けているところ悪いが、あのふんどしに敬意を持つのはやめた方がいいと思うぞ?

 

「それで宮白。これからどうするんだ?」

 

 と、元浜がきいてきた。

 

 まあ、それは学校が終わった後どうするか・・・ではないな。

 

「俺はもちろんハーレム王だ! ・・・言っとくけど、俺の眷属は全員女の子で固めるからな!」

 

「てめえ! 俺たちにもハーレム作るチャンスくれよ!!」

 

「そうだぞこの野郎! 独占禁止法違反だ!!」

 

 ドスケベ三人衆がいきなり喧嘩を勃発させやがった。

 

 しっかし、俺の今後ねぇ。

 

「ぶっちゃけ、一生食っていけるからなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すべてが終わった後、ふと気づくとライダーが来ていた。

 

 ふむ、令呪を使って無理をしたようだが、どうやら無事のようだ。

 

「おめでとう。漁夫の利を得た形だが、お前は聖杯戦争に勝利した」

 

 俺は心からそういうが、ライダーは静かに首を振った。

 

「いいや、それは違う」

 

 あ? サーヴァントはライダーを残して全員いなくなったはずだ。もう聖杯戦争は終わっている。

 

 それともなんだ? フィフスは聖杯の予備システムでも起動したか?

 

 だが、あれで召喚されるなら陣営作っているフィフスたちの敵に回るはず・・・。

 

「アーチャーは消滅したのではなく、内臓だけを残したのである。つまり、まだアーチャーは敗退していない」

 

 ・・・っ。

 

 そういえばそうだ。アーチャーが完全に消滅したのなら、俺の内臓は消えてなくなる。

 

 しまった。つまりは―

 

「―まだ聖杯戦争は終わっていないのである」

 

 おいおい、ここにきて最終ラウンドかよ。

 

 ヴァーリたちと最終決戦とか、さすがに勘弁してほしいのだが。

 

 と、思った時に気が付いた。

 

 ・・・ライダーの足元が、透けている。

 

「お前!?」

 

「いささか無理をしすぎた。残念だが、これ以上は遊べそうにないのである」

 

 そう笑うライダーに、ヴァーリは静かにほほ笑んだ。

 

「ありがとうライダー。お前と一緒にいて楽しかった。・・・美猴達とは?」

 

「もう別れは済ませたのである。・・・お別れだ、ヴァーリ」

 

 割とドライに見えるが、しかしそうではない。

 

 ヴァーリの奴は意外と仲間思いだ。・・・こうなることを最初からわかっていたのだろう。

 

「それでは、長生きするがよい」

 

 そう告げて、ライダーは素直に消えていった。

 

 まさか、俺のために負けを受け入れたのか?

 

 この状態での決着は、すなわちアーチャーの消滅だけではなく俺の死を招く。

 

 だが、なんで・・・。

 

「ライダーは、ただ人間としての楽しみを味わいたがっていた」

 

 ヴァーリが寂しげにそう告げる。

 

「だから、あいつは十分満足している。・・・これでいい」

 

 そういいながら、ヴァーリは一つの杯を俺に差し出す。

 

 これは、聖杯だ。

 

「さあ、これで今度こそ君が勝者だ。・・・君は聖杯に何を願う?」

 

 ・・・俺は、割とぽかんとしてしまった。

 

 聖杯を使わせることを阻止したくて、せめてアーチャーに聖杯を上げたくて頑張ってきた。

 

 そしてなんかやりきった感あったからどうしたものかと思ってしまった。

 

 えっと、えっと、えっとぉ・・・。

 

「お、俺の領地霊的に優れた物にしてください!!」

 

「「俗ぅ!?」」

 

 姫様とイッセーに同時ツッコミを喰らってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうわけだから、俺数千年は金には困りそうにないんだが」

 

「俗物って言葉知ってる?」

 

 桐生、そこまで言わないでくれ。

 

 先立つものは必要なんだ。一万年近い生を生きるとなればなおさらだ。とっさに聖杯なんて渡されたらそりゃそんな願いしか浮かばねえよ。

 

 ・・・いや、けが人の怪我を治せとかいろいろあったな。ヤバイ、ちょっと罪悪感が出てきた。

 

「・・・ま、文字通り世界すくったんだから、それぐらいの要求はしても罰は当たらないでしょうけどね」

 

 だったらいうな馬鹿野郎!!

 

 ま、まあいい。定期的に入るであろう資金で援助活動ぐらいは行わせてもらおう。親父の企業名義で援助させれば親父は評価がうなぎ上りで一石二鳥だ。

 

「まあ、これで研究費用と霊地の提供を魔術師組合の奴らに渡せるからな。ゼクラム・バアルの協力も合わせれば魔術師の制御はできるだろう」

 

 うん、とっさに願ったにしてまあ大丈夫だろう。

 

 サーヴァント六騎分の燃料でできた霊地の上昇は間違いなく最高峰。冥界でも屈指の霊地が手に入ったといえるだろう。

 

 その気になれば、聖杯戦争を六年周期で起こせるほどの圧倒的霊脈。これだけの霊地はあの世界にも存在しない。必然的に俺の価値は魔術師にとって莫大に増大化している。

 

「ふっふっふ。これで俺の将来はほぼ安泰。・・・あとはトラブルさえ起きなければ大丈夫だ」

 

「無理でしょ。三十年後には異世界間戦争が起きかねないんでしょ」

 

 桐生? 頼むから水差さないで?

 

 それに、それはそれとして割と不安になるからな?

 

「そういえば、アンタ体がやばいことになったんだって?」

 

「ああ、強化改造の重ね掛けに神格化、さらにはサーヴァントの内臓とサマエルの毒はやりすぎた」

 

 俺は、割と本気で自虐的な笑みを浮かべる。

 

 そう、俺は割と大打撃を受けてもいる。

 

 強化改造だけならまだ何とかなった。もともと後遺症も考慮に入れてたし、そのあたりの最終的な臨床試験をしてない程度の技術が最高限度にしているしな。

 

 だが、神格化からいろいろ狂ったといってもいい。あれはもとからいろいろと最終手段じみた反則技だ。そもそも臨床試験どころか、机上の空論を通り越している。

 

 そこにサマエルの毒による汚染。間違いなくこれはダメージがでかい。後遺症が全くないヴァーリが異常すぎる。

 

 さらにアーチャーの内臓の移植。もともとサーヴァントの内臓を移植なんて、自滅以外の選択肢が存在しないといっていい。神格化で格上になっていたことと、令呪の重ね掛け、そして不完全な小聖杯化があったから死んでないだけで、これまた負担がでかい。

 

 とどめにサマエルの血清だ。血清といっても負担がないわけではないから、これも負担が大きすぎた。

 

 今の俺の体は後遺症の山。ぶっちゃけ、ことが終わった後は寝込んだぜ?

 

 おかげで俺の戦闘能力は最上級悪魔級から上級悪魔級にランクダウン。それでもそこそこあるはずだが、しかし大きく下がったことは間違いない

 

 偽聖剣もぶち壊れしまったしな。アーチャーいないから修復に何年かかるかわからないし、当分はおとなしくしてないと。

 

「アンタ無茶しすぎでしょうに。なんで死んでないのよ」

 

「そこについては心底同感。・・・俺、なんで生きてんだろ?」

 

「っていうかハーデスとかいうのは大丈夫なのか?」

 

 元浜が眼鏡をキランと輝かせて、イランことをさらに言ってくる。

 

 まあ、ハーデスはまた何かやってきそうだ。ほかにも帝釈天とかも考えられる。

 

 くわえてリゼヴィムの死体やイッセーの抜け殻は確保に失敗した。これらを使って禍の団が何かしかしかけてくる可能性は少なからずある。

 

 人間世界は人間世界で、大混乱の真っ最中。その上ありとあまねく神話と宗教の実在が公表されれば、新たに第四次世界大戦だって勃発しかねない。

 

 三十年以内にさらに何度かトラブルが起こりそうだ。

 

 だが、それでも―

 

「大丈夫とは言わない。でも、何とかして見せるさ」

 

 そう、イッセーははっきりと言い切った。

 

「なんたって、俺は赤龍の乳乳帝(バストエンペラー・レッドドラゴン)なんだからな」

 

「・・・さすがの俺もドンビキだよ」

 

「なるほど、ここまで突き抜けてるからこそハーレムで来たのか。・・・俺たちには無理だ!!」

 

 割と本気でドン引きする元浜に、もはやそれを通り越して絶望に崩れ落ちる松田。

 

 うん、イッセー台無し。

 

 実際、乳龍帝おっぱいドラゴンはこれを機に新たな領域へとシフトしたわけだ。間違いなくいろいろ酷いことになると思う。そしてそれ以上に大人気になるんだろうなぁ。

 

「兵藤ぅ。子供は意外とそういうの好きっていうけど、アンタ相性が良かったようね?」

 

「お前らひどくね!? いや、俺もたいがいどうかしてるとは思うけどさ!!」

 

 だよなぁ。頭おかしいよなおっぱいドラゴンとか。

 

 ・・・でもまあ、いろいろと問題は山積みだ。

 

 うん、確かにいっぱい危険だけど―

 

「・・・あ、兵夜くんー!」

 

 と、そこに久遠が大きな声を上げて手を振っている。

 

 と、そこにはナツミやベル、それに小雪の姿もあった。

 

「兵夜ー! そろそろ行くよー?」

 

「朱乃たちも待ってるぞ! ほら来いよ!」

 

「兵夜様! あの、ご飯どんなものが用意されているんですか?」

 

 ああ、少なくともこれだけは言える。

 

「俺がこれからどうするか・・・か」

 

 ああ、決まっている。

 

「・・・みんなで幸せになるにきまってる。だろ、イッセー?」

 

「ああ、四人とも泣かせるんじゃねえぞ、宮白!」

 

 ああ、最高の激励だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これにて、俺こと宮白兵夜の一年間に及ぶ激動の戦いはこれにて終了。

 

 生まれ変わりなんて超弩級の体験した俺が、親友に胸を張れる男になって、愛する女を四人も手に入れるまでの物語はこれで終わりだ。

 

 まあ、この後眷属を集めたりするのにいろいろあったりするわけだが、それは今回の話じゃない。

 

 本来の予定から一年強遅れて行われるアザゼル杯やら、いろいろと俺の長すぎる人生においてトラブルは頻発するが、それは、まあ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、機会があれば、話してやるよ。




これにて本編は終了です。









思えば最初からここまでよく続いたものです。

最初は「神様転生ってツッコミどころ多くね?」という感じで始まり、だから大好きなD×Dで納得できるようなものを書いてみようと思いました。

それがまさかこんなところまで続いて、話数の二倍以上の感想にも恵まれる。ええ、これは本当にすごいことだと思います。

票かもなんとか黄色より上。そんな状態で続けられたのは、ひとえに感想をくださった皆様のおかげです。マジでこれがモチベーションでした。









それはともかくとして、滑動報告で発表しましたが後日譚を書く予定ではあります。

新たに二作品ほどクロスしますが、まあ本編より長くなることはないでしょう。

さすがにいったん設定の練り直しとかするのですぐに出ることはありませんが、それでもできれば書いていこうかと思っております。








本当に、応援ありがとうございました!


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キャラコメ、最終版!

 

兵夜「・・・祝完結! ハイスクールD×D、転生生徒のケイオスワールド完結!! そして本日のゲストはこの二人!!」

 

イッセー「続けて登場! 原作主人公の兵藤一誠です! そして!」

 

リアス「ごきげんよう。原作メインヒロインのリアス・グレモリーよ」

 

兵夜「まあ、ここはあえてディアボロス編と同様の展開にしてみたわけで」

 

リアス「それにしても、もう三年以上も続いていたのね、この作品」

 

兵夜「まあ、原作はもっと前からまだまだ続いているわけですがね」

 

イッセー「しっかしめでた・・・くないよ! トラブル残りまくってるよ!?」

 

兵夜「それは、ほら? 後日譚とか書いてみたいとか的な?」

 

イッセー「続くのかよ!?」

 

兵夜「安心しろ。後日譚は後日譚だ。ケイオスワールドの主要な物語はこれで終わりだよ。まあ、それについてはまた後程」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リアス「それにしても、元浜くんが能力者になるだなんてね・・・」

 

兵夜「因みに、元浜の能力は飛行能力とか念動力じゃないので」

 

イッセー「え、そうなの?」

 

兵夜「まあ、そのあたりは今後の展開次第で・・・ということで。それでも対人でいうならばかなり有効な能力ではあるがな」

 

リアス「それに能力者も何人も出てきているわね。これ、すごいことになっているんじゃないのかしら?」

 

兵夜「無能力者も含めれば数億人。また食品業者に薬品を混入させる都合上、そういったのが流通しやすい先進国の方が多いですからね」

 

イッセー「でもちゃっかり釘を刺されたしな。うん、元浜も大変だ」

 

兵夜「その程度で済んでる駒王学園が平和なんだ。普通排斥運動の一つぐらい起きてるっつの」

 

リアス「それにしても、フィフスはすでにこちらの状況をつかんでいるわけね」

 

兵夜「まあそういうわけです。ただすっぱ抜いて失脚させるだけじゃなく、見せしめも兼ねていたということですよ。・・・ああなりたくなければおとなしく言うことを聞いて、その分利益を受け取ってよ(・∀・)・・・的な」

 

イッセー「汚い。フィフス汚い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そういうわけで反撃作戦開始。そして俺は上級昇格」

 

リアス「まあ、主な作戦の立案者である以上、当然の立場にはついてもらわないと」

 

兵夜「それにしても急激すぎでしょう。もうちょっとこう・・・抑えというか抑制というかですね?」

 

イッセー「なんだよ宮白、うれしくないの?」

 

兵夜「それとこれとは別問題だ。リベラルすぎるの考え物っていうか、ノウハウが身につく前に上級にされても俺が困るんだが」

 

イッセー「お前ならすぐにできそうな気がするんだけど」

 

兵夜「それはどうも。・・・まあ、どう転んでも勝ちだなんて言えるような状況でもないんだがな」

 

リアス「そうね。世界は大きな大打撃を受けて、人間世界は混沌状態。今更どうにかしたところで、それを勝ちというのは無理があるわ」

 

イッセー「だからってフィフスをこのままにするわけにはいかないさ! お礼参りっていうとどうかと思うけど、好きにさせるわけにはいかないって!」

 

兵夜「その通り! さんざん好き勝手やってくれた落とし前はしっかりつけないとな!」

 

リアス「でも、一部上層部と内通しているフィフスには情報のほとんどは筒抜け。そのうえ自分たちの準備がちょうどいいタイミングに時期を誘導するなんてまねすらしてくるわけね。・・・これでは正攻法ではどうしようもないわ」

 

イッセー「でも転移対策も万全で転移で行くわけにもいかない。・・・いかないけどさ、宇宙から攻めるって正気かよ!?」

 

兵夜「キチガイ相手にするんだから、こっちもそれ相応に狂った真似をしないとな。と、いうわけで大気圏から仕掛けてきたぜ!」

 

リアス「正直生きた心地がしなかったけど、それでも効果は絶大ね」

 

イッセー「いや、そうじゃなかったらむしろショックだし」

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「こっからめぐるましく場面が移り変わる大激戦。そして俺がいきなりうっかり」

 

リアス「貴方、本当にうっかりね」

 

イッセー「心臓が止まるかと思ったよ。しかもいきなりレイナーレと激戦だし」

 

リアス「祐斗たちも同時進行で幹部たちと戦闘。最終決戦なだけあって、どこもかしこも大激戦ね」

 

兵夜「そりゃあ、後日譚はあくまで後日譚ですから。ケイオスワールドの本編はここで終わらせるんだから、それ相応に伏線を回収しておかないと」

 

イッセー「でも、敵もしっかり準備万端なせいで俺たち全員追い込まれたなぁ」

 

兵夜「そりゃそうだ。防衛線は基本守る側が有利。しかも向こうだって準備期間があったんだからそりゃあパワーアップしてるさ」

 

リアス「でも、私たちは一人じゃない。困ったときは助けてくれる仲間がいるから、決して負けたりなんてしないんだから」

 

イッセー「ああ、デュリオには本当感謝しないとな。・・・レイナーレもしっかり倒したし、リアス! 今度デートしてくれ!」

 

リアス「ええ、もちろんよ! 世界には悪いけどしっかり制裁を加えたんだから、それぐらいはサービスしてもらわないと」

 

兵夜「はい、ラブラブバカップルは置いといて・・・置きたいが突っ込み入れさせろ。何レイナーレに救いを与えてんだ」

 

イッセー「いや、自然と感想が浮かんできただけなんだけど?」

 

リアス「イッセーは優しいもの。仕方ないわよねぇ」

 

兵夜「まあ、倒せたから別にいいんだけど。・・・それはともかくレイヴンも確保できたしハーデス対策は万全!」

 

リアス「やはり恐ろしい男ね、ヴァスコ・ストラーダ。あれが本物の悪魔と呼ばれる男」

 

イッセー「ヴァーリとクロウ・クルワッハもさすがだよなぁ。圧倒的っていうかなんて言うか」

 

兵夜「ベルもしっかり頑張ったし、久遠は久遠で気張りすぎだ。あれは気づかなかった俺のうっかりが悪い」

 

リアス「ええ、今まで好き勝手してくれた者たちが罰を受けるのはなんていうか・・・スカッとするわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセー「と、思ったらこれだよ! 大ピンチだよ!!」

 

リアス「アサシン全員にサーヴァントを付与するだなんて、向こうも思い切った手段を使ってくるわね」

 

兵夜「しかも対停止対策は万全。うん、起源は一度使ってみたかったらしいがおかげでマジで大変だ」

 

イッセー「んでもって、お前いつの間にもぐりこんでたんだよ」

 

兵夜「潜入工作は得意な方でな。まあ、フィフスとリンクしてるからどうしようもなかったわけだが」

 

イッセー「しかし宮白無茶しすぎだろ。どんだけむちゃくちゃな手段使ってるんだよ」

 

兵夜「それぐらいしないと太刀打ちできる相手じゃなかった。偽聖剣はオーバーロード覚悟だし、血清だって大量投入は毒になる。・・・本当にこれで最終決戦にするつもりだったんだよ」

 

リアス「それで何とか戦いにはなってるけど、フィフスもまだ切り札を持っていたわね」

 

兵夜「全くです。足りないものはよそから持ってくるのは魔術師の基本ですけど、まさかこのタイミングで基本に忠実に行くとは」

 

リアス「イッセーは透過で何とか抑えてたけど、どうしようもないぐらい圧倒的に不利ね」

 

イッセー「でも、アザゼル先生たちが準備してくれた奥の手が炸裂したよな」

 

リアス「ええ。さすがは私のイッセーだわ」

 

兵夜「いや、まあその通りなんですけどすごい展開ですよね? 冷静に考えるといろいろ馬鹿らしくなってきた」

 

リアス「あら、イッセーらしい展開じゃない」

 

兵夜「いやそうなんですけどね? 姫様はちょっと受け入れすぎな気がするんですけどね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そしてフィフスはもちろん絶叫。・・・フィフスはおっぱいがトラウマすぎていろいろ体いじくって何とかしてるぐらいだから、もうこれで憤死してもおかしくない」

 

イッセー「そんなにトラウマなのかよ」

 

兵夜「そりゃお前、フィフスの作戦頓挫ってほぼお前がおっぱいでどうにかしてるだろうが。病名オパーイシンドロームとでも名付けようか」

 

イッセー「俺は病気か何かか!?」

 

兵夜「少なくとも、病的なおっぱい好きであることは否定のしようがないな」

 

イッセー「酷いよこの親友!」

 

リアス「でも、すごいことになってるわね。ドラゴンがおっぱいで薄まってるからサマエルの毒に強いだなんて」

 

兵夜「フィフスの敗因は全世界を敵に回したこと。そのため全世界のおっぱいの大半が協力してくれたわけで・・・まあ因果応報というか自業自得というか」

 

リアス「でも、それもイッセーと兵夜が頑張ってくれたおかげだわ。二対一とはいえトリプルシックスの支援も込みのフィフスを追い込むなんてやるじゃない」

 

兵夜「そうでもありませんよ。姫様のおっぱいがなければやられてました」

 

イッセー「煩悩鎮静化させる術式まで用意って、どんだけあいつは俺のこと恐れてる・・・っていうかこれおっぱい恐れてるよね!?」

 

兵夜「何をいまさら」

 

リアス「とはいえ、最後の最後でヴァーリからもらった令呪がここまで役に立つとはね」

 

兵夜「ええ。あれがなければアサシンとトリプルシックスを無力化できませんでしたからね」

 

イッセー「それでもへこたれずにフィフスも大暴れするよなぁ」

 

兵夜「あれはもう止まれないといった方が正しい。起源の影響で根源に向かって進むことしかできないからな」

 

リアス「それに対して文字通りの総力戦。私の魔星とヴァーリの半減を喰らっても動きを止めるのが精いっぱいだなんて」

 

イッセー「そういうわけでこっちも宮白の奥の手を使ったわけだけど、お前ようやく名前付けたんだな」

 

兵夜「実は最後の最後まで悩んでたそうだ。・・・だが鎧の方が先に限界を迎えかけたわけだが・・・わけだが・・・」

 

リアス「愛されてるわねぇ、あなた」

 

イッセー「そういえば、パクティオーカードって魔力供給できたんだな」

 

兵夜「ああそうだよ! 事実上の愛の力の勝利だよこの野郎!! 文句あるか!!」

 

リアス「いいえ全く。いいことじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そしてすべてが終わってエピローグ。・・・とはいえ問題山積みなんだがな」

 

イッセー「原作と違ってトライヘキサは死んでるから、アザゼル先生たちは現役なんだけどな」

 

リアス「その代りダメージが大きいわ。あらゆる世界に獣鬼が潜んで問題を起こしているし、何より人間界は異能力者であふれかえるわけだし」

 

イッセー「原作じゃあ正体ばらすのは抑えてるけど、こっちじゃもうばらすって決めたもんな」

 

リアス「もうどうしようもないと判断されたということね。どちらに転んでも人間の暴走が止められないなら、堂々と協力して抑止力になった方が安全だわ」

 

兵夜「それとは別にE×Eは仕掛けてくる可能性もあるし、対策のためには人間界の協力も必要不可欠ってわけで、まあ大変なことになったわけだ」

 

リアス「その分対策もしないといけないわね。だからイッセーや桜花さんはもちろん成果を上げたから昇格。そして兵夜は最上級昇格のはずだったんだけど・・・」

 

イッセー「心臓止まるかと思った。馬鹿じゃねえのお前」

 

兵夜「魔王様がリベラルすぎるのが悪い。だから何度も言ってるってのに」

 

リアス「おかげですごい異名が付けられることになってるし、あなたもたいがいねぇ」

 

イッセー「まったくだよ。松田や元浜にまで馬鹿にされてるし」

 

兵夜「へいへい。俺がわるぅございました」

 

イッセー「それにしても、領地の強化とかまたすごいことに使ったなぁ、お前」

 

兵夜「・・・棚ぼた過ぎて、ちょっと混乱してたのは認める」

 

リアス「まあ、悪いことではないわよね。俗な願いなのは事実だけど、聖杯戦争を切り抜けられたのはあなたのおかげなんだから」

 

兵夜「そう言っていただけると幸いです。まあ、俺は後遺症で大ダメージだし」

 

イッセー「すごい弱体化してるよな、お前」

 

兵夜「まあ、後日譚に向けての伏線でもある。・・・有名どころはたいていつぶしたし、後日譚の敵は弱体化するしかないし」

 

リアス「それで、後日譚はどういう展開なのかしら?」

 

兵夜「それは見てのお楽しみってことで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵夜「そういうわけで、本編はこれにて終了。あとは後日譚とかになるわけだ」

 

イッセー「後日譚は宮白メイン。ま、俺たちも毛色を変えて登場するみたいだけどな」

 

リアス「一つぐらい答えてくれてもいいんじゃないかしら」

 

兵夜「じゃあ予定を一つだけ。後日譚の黒幕のキーワードは「第二魔法」です」

 

イッセー「なんかすごいことになりそうな予感だけど、ま、それはまた後の話か」

 

リアス「四年近く続いたケイオスワールドもこれで終了。でも、後日譚で会いましょう」

 

兵夜「それでは読者の皆さん―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員「「「本当に、ありがとうございました!」」」

 

 

 

 



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後日譚予告編
後日譚予告編 転生生徒のケイオスワールド アフターエピソード


はい、現在後日譚製作絶好調です!


 異世界。それはロマンの一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 異世界。それは我らを襲いかねない大いなる脅威。

 

 

 

 

 

 

 

 異世界。それはその脅威に対抗できるかもしれない希望の光。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きたるべきE×Eの襲来に対抗するべく、異世界探索計画「コロンブス計画」が実行される。

 

「ここで見られながら味見してもいいのよ?」

 

 ゼクラム・バアル等の策謀の前に、送り込まれるのは政略結婚の本性を隠した上級悪魔。

 

 仕事も恋愛も新シーズンな宮白兵夜は、眷属悪魔も癖がある。

 

「兄上はハーレムを増やすことになるのでしょうか?」

 

「カッカッカ! 大将はモテモテだな、オイ」

 

 そんな中、上級悪魔宮白兵夜は新たな戦いも新シーズンに突入する!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんでこんなところに宮白兵夜が!?」

 

 そんな彼らが辿り着いた場所で、聖杯戦争が勃発していた。

 

「・・・僕は、僕は別に聖杯に願いがあるわけじゃない」

 

 聖槍を持つ青年は、悲しげにそう告げる。

 

「あーんもう! 照れてる顔も可愛いんだからぁ!」

 

 一時の清涼剤も、過酷な戦いの前には焼け石に水。

 

「所詮人形遊び。俺がどう壊そうが知ったことじゃないだろ」

 

 鮮血に染まる龍帝は、この戦いの真実を知らずして蔑んだ。

 

 見捨てられた地方で戦いは繰り広げられ、破壊と炎が町を包み込む。

 

 英霊の力の具現化した人形が、英霊の力を宿した戦士達が、願いをかけて殺し合う。

 

「私が願うのは権利の削減じゃない、平均化だよ」

 

 決意と大義を胸に秘めた者が、魔王の骸を継いで剣をとる。

 

「今度こそ、俺は戦争を引き起こすぞ! 今度こそ!!」

 

 堕天使が、たぎる闘争欲をまき散らし、廃都市を炎の海へと変える。

 

「見つけた、見つけた見つけた見つけたぁ!! 殺してやるよぉおおおお!!!」

 

 邪悪を体現する悪魔が、憎悪を燃やして復讐を遂げんと遅いかかる。

 

「うひゃひゃひゃひゃ! 殴られた借りをこんなところで返せるとは、ファッキン神様も粋な計らいするもんだぜ!」

 

 狂気に染まった神父が、新たなる力を振るって切りかかる。

 

「他愛なし。偽聖剣なしではこの程度か」

 

 龍神を宿す暗殺者が、自分達の仇をとらんと凶手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は滅ぼすぞ、この憎悪のままに俺の憎悪の根源を!!」

 

 錬金術師の忘れ形見が、迷走を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、そこに立ち向かう者達もいる。

 

「ぶつかり合わないとわからないことはいっぱいあります。伝えたいことがあるなら、逃げちゃだめです!」

 

 金の髪を持つオッドアイの少女に導かれ―

 

「わたしは、この天地に覇をもって和を成し遂げたい」

 

 薄緑の髪の少女の決意を聞き―

 

「わ、私は先輩の監視役ですから! 先輩がやるというのなら、一緒に背負うだけです」

 

 若き巫女の照れ隠しで癒され―

 

「・・・ここから先は、俺の戦争(ケンカ)だ!」

 

 吸血鬼の王と並び立ち―

 

「・・・さあ、あの言葉を言ってくれない? あなたのそれ、結構好きなのよ」

 

 青い髪の淑女に応え、彼は宣戦布告する。

 

「さあ、聖杯戦争を始めよう」

 

 これは、神喰いの神魔(フローズヴィトニル・ダビテ)の新たなる物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、あいつとの約束を果たしてみよう。邪魔するなら、俺は容赦しないぜ、俺」

 

 ・・・彼の闇を、隠すことなく暴く物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド

 

そのアナザーエピソード、開幕!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

卒業旅行のホーリーグレイル、こうご期待!

 

 




そんなわけで、後日譚の次回予告を入れてみました。

次回予告も聖杯戦争。この話で分かろうと思えばクロス作品がすぐわかるようになっています。

そういえば出てこなかったあのキャラも、あ、そういえば生きてたねなあのキャラも再登場! オリジナルキャラも増えて結構派手な大規模戦となります。

因みにラスボスは絶対想定できない自信があるぜ!









活動報告でも書きましたが、もとから構想は練ってたので書くのが速い速い。

この調子なら今月中どころか今週中には一話投稿できるかもしれません


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ホーリーグレイル編設定資料集

ホーリーグレイル編の設定資料集です。

まあ、簡単にまとめるのですが。


フォード連盟

 フォードという世界を中心として結成されている、時空管理局とは別の次元世界の連盟。規模としては十未満だが、それでも時空管理局の別勢力としては規模が大きい部類。

 質量兵器を戦闘の中核に据えていることから、時空管理局には加盟していない。対時空管理局の観点から、時空犯罪者の温床と化しているなど、腐敗が酷い。権力構造もフォードを頂点としたピラミッド構造であり、下の世界は奴隷に近い扱いを受けている。

 実はエイエヌによって首脳陣の八割が従僕化されており、エイエヌの道具と化している。そして、彼の目的である楽しく愉快な生活とグレートレッド抹殺の為の道具と化している。

 

ニュークレオン

 フォード連盟に支配されている次元世界の一地方。

 資源も技術も低規模であることから、聖杯戦争の舞台として選ばれた。

 周囲の都市は廃墟も多く、かなりのレベルで治安が悪い。そのうえで聖杯戦争が起こっている為、非常に危険な地域と化している。

 

 

 

フォード連盟における聖杯戦争

 エイエヌが行っていた聖杯戦争。エイエヌ自身の知識だけで聖杯戦争を作る為、通常の聖杯戦争とはあらゆる意味で法則が異なっている。

 サーヴァントそのものを召喚するのではなく、その一部を身に纏うことで具現化する。死亡もしくは限界異常のダメージによってサーヴァントとの融合が解除され、その魂の残滓が無職の魔力となって小聖杯へと回収される。サーヴァントの具現化率などは対象となる人物によって変動するが、最低限宝具を一つは使用することができる。

 その為、願望機としての機能はどうしても劣ってしまう。同時に保険として「エイエヌ当人及びフォード連盟に直接危害を加える願いは禁止」というものを盛り込んでおり、その為願いを叶えられた人物は少ない。エイエヌ本人としては聖杯戦争が元々魔術師の戦いであることもあって個人的・及び少人数グループ程度の願望で叶えられるものという固定観念がうっかりあり、あくまで保険のつもりだった。その為短期間で目的が達成されたことに関しては嬉しい誤算。

 その本来の目的はグレートレッド抹殺の為の魔術礼装化。願望機として万能に近いのを利用し、複数の聖杯戦争で願望を叶えた後の浮いたエネルギーを集めることでそれを集めることが目的。そんな迂遠な真似をしたのは聖杯戦争を観戦したり茶々を入れることで娯楽とする為。

 あと少しとなったところでエイエヌは娯楽として、D×D世界の地球の存在を参加者として勧誘。これは娯楽もあるが平行世界間での状況の違いを調べる為のテストも兼ねていた。聖杯戦争が行われいたこともあり、彼らの優勝を想定していたが、フィフス主催の聖杯戦争はあまりにもイレギュラーが多すぎた為、意外と敗北率は大きいという想定外の事態となる。

 

 

 

 

コロンブス計画

 地球で行われた、対E×Eを想定した計画。

 禍の団との戦争がほぼ終了した地球では、当然の如く異世界からの戦争に対抗する為の研究も行われている。その一環で乳神のように摂食してきた可能性を考慮して調べた結果、十四年前の日本の海鳴などで悪魔が関与していない魔力反応を確認。それが異世界の存在によるものだという仮説を立てた結果発動した。

 異世界技術などで生み出された次元渡航能力をもった探索艦艇数十隻を、テストもかねて志願者に与えて探査させ、異世界を探す計画。異世界と交流を結ぶことでE×Eに対する抑止力にすることを目的としている。

 これらの事態を起こせた理由の一つは、トリプルシックスの存在がグレートレッドの抑止力になることも理由の一つ。状況次第でパワーバランスが一変することから、各勢力のタカ派も動いており代理戦争の一種と化している。

 

 

宮白兵夜眷属

 宮白兵夜の眷属悪魔の集団。

 兵夜自身は眷属の多くをアウロス学園卒業者及び魔術師組合から集める方針な為、現在は片手が余るほどの数しか用意していない。が、真っ先にグランソード・ベルゼブブを眷属にしていることから潜在的な戦力はすでに当主クラスになっている。グランソードの配下を実質引き入れている状態な為、その気になれば世界大国と戦争可能。

 反面、大幅に弱体化した宮白兵夜、上級悪魔としては並程度のシルシ、実力者ではあるが人間の範疇内の雪侶など、グランソード以外の戦力は平均より上程度であり、主である兵夜の功績に反して眷属の質だけでいうならば、若手四王より下のレベル。

 今回の計画においても真っ先に動いており、事実上冥界の代表。彼らがたまたまニュークレオンに辿り着いたことから、聖杯戦争の物語が始まる。

 

 

 

オリジナルキャラクター

 

 シルシ・ポイニクス

 本作ヒロイン。ゼクラム・バアル直々の指名により兵夜の眷属となった少女。担当ポジションは騎士。

 フェニックス家分家であり大王派であるポイニクス家の女性。兄弟姉妹がそこそこいることから、嫁ぐことが仕事のような立場だが、立ち位置的に貴重であることから好待遇で迎えられることは確定しているある種の勝ち組。実際大王派のワイルドカードともいえる魔術師組合のトップである兵夜の嫁という立場は好待遇と言うほかない。

 転生者の子供という、これまでありそうでなかったパターンの少女。転生者である母親が死亡しているため詳細は不明だが、兵夜と同じ世界の出身で千里眼を遺伝する体質。しかしそれを制御できなかったため、魔術師組合の研究で制御できるようになってからも人生感は諦観気味。

 たまたま気晴らしに行ったアウロス学園の体験入学で、兵夜の授業を聞いて人生観が変貌。その後は彼の恩返しもかねて足りない戦闘能力を職務能力で補おうと努力していった結果恋心を持ってしまうが、当人的に恥ずかしいので千里眼の暴走を抑えてくれた間接的な恩を理由に政略結婚を推進している。

 戦闘においてはエストックを使用したフェンシングが中心だが、単純な戦闘の力は上級悪魔でも及第点レベルで、千里眼を併用した疑似未来視を併用しても宮白票や眷属では最弱。その本質は千里眼を使用した戦闘支援にこそあるサポートタイプ。その気になれば相手の心や過去すら読み切れるため尋問などで効果を発揮する。

 

 

近平須澄

 本作キーパーソン。次元世界ニュークレオンの聖杯戦争における参加者の一人にして、黄昏の聖槍の保有者。外見年齢は子供にしか見えないが、その実23歳の立派な大人。

 実は宮白兵夜こと近平戻の実の弟。実家の魔術実験の事故によってフォード連盟の世界に迷い込み、アップとトマリとの絆を結ぶが、エイエヌの所業によってアップが暴走。そこからくるエイエヌへの怒りと霊的な近似性を見込まれて聖書の神の遺志によって聖槍を与えられる。

 本質的にはこう生きてこう死ぬことができない只人。同時に誰かの為にどこまでも頑張れる素質を持っているが、アップをあえて殺すことで肯定するという判断をとるなど、微妙にヤンデレ気質。

 アップの本質を認めたいと思いながらも、元の関係に戻りたいとも思っている只人。しかしそれゆえに最も強欲な禁手に目覚めるというワイルドカードとなりうる資質を持つ。

 ★禁手黄昏に集え我が郷愁(トゥルー・ロンギヌス・ヴィーンゴールヴ)

 黄昏の聖槍の亜種禁手。聖槍の中に冥界を形成し、死者を取り込むことができる。

 取り込んだ死者の協力があれば死者の力を使用することも可能。死者そのものを形にして具現化することもできる。須澄が吸血鬼化したり、飛翔能力を得たのもそれによるもの。

 実は聖書の神の遺志が積極的に協力していること及び事前に持っているエイエヌの影響もあり、手にした時には既にこの禁手に覚醒していた。しかし潜在的な忌避勘定により覚醒していなかった。最終的に自分が只人であることを認めた須澄によって本格的に覚醒する。

 聖槍の亜種禁手としては既に確認されている能力であり、その気になれば数千人単位で取り込むことも可能。反面聖槍本体の性能は変わらない為、そこが付け入るスキとなりやすい。

 

 

トマリ・カプチーノ

 須澄の相方を務める女性。外見年齢は十代後半だが、ストライク・ザ・ブラッド世界の吸血鬼である為実年齢は数百歳。

 長い生に空いていた時期があった為、新鮮な感覚を与えてくれた須澄とアップのことが大好き。割とハイテンションな性格。

 聖杯戦争のサーヴァント担当であり、英霊を憑依させている。それによる戦闘サポートと眷獣による戦闘支援がメイン。

 

 

アップ・ジムニー

 エイエヌの配下を務める女性。エイエヌの手によってある程度の強化施術を受けており、外見は十代後半だが実年齢は須澄と同じ。

 格下を蹂躙することに興奮する悪性を無自覚に恥じ、正義感の強い少女として生きていた。エイエヌによってそれを自覚しても、かつてのその性質が足を引っ張って悪になりきれないところがある。

 防御力と多方面攻撃という格下を蹂躙することに特化した魔導士。同時にエイエヌによって従僕技術でグラムを保有しており、格上相手にも対抗可能。

 

 

 

エイエヌ

 本作の黒幕。フォード連盟で聖杯戦争を行っているプロモーターを自称する男。

 その正体は平行世界の宮白兵夜。なお、平行世界のずれもあり十年近い時間差が存在するが、肉体の改造の結果人間のまま老化していない。

 イッセーとの出会いの契機ともいえるミスを犯しておらず、其の為そのまま悪性が悪化。そのままオーフィスにスカウトされて禍の団入りするという来歴を持つ。

 最悪の相違点はそのオーフィスと確かな関係を築いてしまったこと。善悪の概念すら曖昧なオーフィスの願いを真剣に叶えようという情を持ってしまった結果、その素質に最強の存在という後ろ盾を持ってしまう。

 その後はオーフィスを傀儡にするつもりだった禍の団の内部粛清を行いつつ、聖杯戦争を開発して自身の強化などに使用。その過程で手に入れた神滅具などを使い、オーフィスに次ぐナンバーツーの戦闘能力を得るに至る。そしてその悪意に満ちた戦法で三大勢力の和平を台無しにすることに成功し、徹底的なゲリラ戦法と戦争再発を数年間することで世界情勢を最悪の状態へと変貌。そしてそれによってぼろぼろになった隙を突いてサマエルを奪い、グレートレッドを殺すことで目的を達成。

 ……しかし、オーフィスにとってもサマエルが毒なことをうっかり失念していた結果平行世界の兵藤一誠の逆襲に遭い、オーフィスを殺されるという根幹の失敗を喫する。その後オーフィスに「楽しく生きる」「平行世界のオーフィスに静寂を与える」の二つの約束を交わし、平行世界へと移動して徹底的にそれを追求する。

 その被害規模は地球周辺の世界が滅亡する一歩手前レベルであり、平行世界の赤龍帝からは蛇蝎の如く忌み嫌われている。そして同様にエイエヌも赤龍帝を不倶戴天の仇と認識しており、その憎悪のによって赤龍帝特化型の禁手に目覚めたり、従僕を来るべき赤龍帝の戦いの為の精神攻撃に特化させた編成にするなど、或る意味イッセーに取り憑かれている人物。

 戦闘スタイルは移植した神器による圧倒的な戦闘能力。数百数千の神器を使うことで圧倒的な戦闘能力を発揮し、適合しなかったり拒絶反応を起こすという神器移植の問題点を神器の力で無理やり押さえるなど、その狂気度合いは安全面もある程度は考慮する兵夜を超えるレベル。反面、所詮は移植である為一つ一つは本来の使い手より劣っており、聖槍に至っては宿っている聖書の神の遺志に反発されているなど、問題点も数多い。

 性格は、かつて平行世界でリゼヴィム・リヴァン・ルシファーが言ったとおりの邪悪な兵夜。反面ゲートを開けっ放しにした結果追撃を許すなどうっかりは見事に残してたり、直接危害が加わらないのならば聖杯を使わせるという迂遠な方法をとるなどの人の好さが残っていたりなど、兵夜の可能性の範疇内ともいえる。

 

黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)

 兵夜が使用する神滅具の一つ。

 曹操ほど使いこなせておらず、最大攻撃力などでは明確に劣っている。しかも所業が所業なうえに禁手の特性もあって聖書の神の反撃すら許している。

 ★覇光の聖槍(トゥルー・ロンギヌス・イデアバースト)

 黄昏の聖槍の亜種禁手。

 能力は覇輝の限定的使用。出力を低下させる代わりに、覇輝で発動可能な事象を自分の思い通りに発動させることができるというもの。

 応用性というものにおいてはもはや神器の区分を凌駕しており、加えて出力も高位の神クラス。これに神殺しの力を加わる為、その戦闘能力は最高位の神クラス。

 反面、この禁手は聖書の神の遺志を無視しているため何らかの反逆を受ける可能性がある。

 

絶霧(ディメンション・ロスト)

 奪い取った神滅具の一つ。

 使いこなせていない神器の中でも特に使いこなせていない能力の一つ。基本的には個人用としか使うことができず、神滅具としての領域に到達していない。

 ★ 赤き龍を絶望に包み込む黒い霧(アズライグ・ロスト)

 絶霧の亜種禁手。赤龍帝に対する憎悪の炎によって生み出された、対赤龍帝禁手。

 能力は赤龍帝の籠手の力を無効化する結界の生成。赤龍帝の籠手が関与する限り、問答無用で無効化することができる。格上の神滅具を使って格下の神滅具を潰す為だけの禁手に目覚めている為、その絶対性は規格外。

 欠点はもちろんそれ以外には全く使えないこと。加えて想定外の能力である透過を使われると突破される可能性を推測されており、兵夜達の世界に侵攻擦るにあたってあまりにも致命的な神滅具である。

 

魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)

 奪い取って移植した神滅具の一つ。

 あまり使いこなせておらず、レオナルドのようにアンチモンスターの生成などといった特化したスタイルすら保有していない。その為フレームともいえるベースモンスターの生成ラインに一本化して、そこから派生種を作るという対策をとるしかないという問題点を抱えている。

 ★禁手 死肉より(アナイアレイション・)創造されよ我が従僕(メーカー・フランケンシュタン)

 死者を材料として魔獣の特性を秘めた従僕を生成する能力。

 従僕は生前から成長することも可能であり、疑似的な人格を付加することにより、制御の難易度も大幅に低下している。

 更に掛け合わせを行うことによる強化も可能。これにより高い性能の従僕を生み出すという離れ業もできる。

 エイエヌのメインウェポンともいえる能力。これによりフォード連盟の首脳陣の大半を従僕化することで、彼はフォード連盟を支配下に置いている。

 



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卒業旅行のホーリーグレイル
異世界、探します!


ついに、ついに外伝を投稿します!




















・・・そこ、早すぎるって言わない!


 ふう。俺としてはいろいろと面倒なことになったと心から思う。

 

 なにせ、今の世界は追い詰められすぎた。

 

 フィフス・エリクシルによる世界の混乱は今でもとても大騒ぎだ。

 

 魔法世界(ムンドゥス・マギクス)式の魔法や気などといった戦闘概念。これだけでも、使いこなせば一個分隊程度なら楽に滅ぼせるであろう圧倒的な戦闘能力だ。極めればイージス艦とか機甲部隊だって楽でつぶせることは経験で言える。軍事方面で歩兵が正しい意味で主力になるのは夢ではない。

 

 だが科学も負けてはいない。クージョー連盟がトップがいきなり死に、さらに回収された技術をカウンターウェイトとして意図的にこっちが流出させたから、技術革新は非常にすさまじい。すでに被害の少ない国家はすべてがステルス戦闘機の開発に成功しているほどだ。電磁カタパルトやレールガンの実用化も一年もすればいろんなところで出てくるだろう。

 

 学園都市の能力者が出てきていることも厄介だ。とくに超能力者級は、神器でも禁手クラスがなければ相手ができないものが多い。実際打撃を受けすぎて世紀末ヒャッハー状態の国家では、彼らによる独立もどきにより、国連非加盟国が続出する事態。最早世界大国は戦国時代だ。

 

 そんな中、急成長を遂げているのは我らが日本。

 

 憲法第九条にのっとって自衛隊を派遣しなかったことから、電磁パルスによる被害が少ない。お国柄能力者による犯罪件数も比較的少ない。とどめに先進国。ここまでそろっていて台頭しなければ嘘だろう。

 

 異形社会としてもとにかく世界を抑えてくれる中心核が必要だったこともあり、割と支援を受けれたのも幸いだ。

 

 神話業界的にも宗教色が緩いこの国が、将来的な異形社会の表への名乗りに対して緩衝材になることを期待されている。其のため各種産業に対する出資なども多かった。

 

 実際、悪魔と天使の融和なんて事態に混乱がしなさそうなのは日本ぐらいだろう。各種宗教も本格的に和議を行うみたいだし、神が直々に動いているということもあってテロにも走りずらい混乱状態が起きることは目に見えている。

 

 それを、あと十年足らずで実行に移さなくてはいけないから大変だ。

 

 いまだ続く禍の団残党の散発的なテロ。フィフスとの内通がばれた者たちの暴走。加えて王の駒使用者とのいさかい。

 

 冥界は、三大勢力は、そして何よりこの世界はとても混乱状態だ。

 

 それに何より大変なのが、エヴィー・エトゥルデ。

 

 かの乳神がいるらしい異世界だが、リゼヴィムの奴が割と本気で挑発をぶちかましていることが発覚した。しかもこっちに来れるよう行き方までプレゼントしたらしい。

 

 こちらもどこから集めたのかは不明だが、それなりに情報がある。それによると、どうも善なる神と悪なる神の二勢力が争っているらしい。乳神は善側だそうだ。

 

 三十年後にはこの世界に何らかの接触をしてくるとのこと。異形の世界でいうのなら、あっという間の時間だろう。

 

 この対策も必要不可欠だ。間違いなく重要になる。

 

 下手したら異世界間大戦の勃発だ。そんなことになれば、この戦乱以上に多くの死者が出る。

 

 何とかして対抗策を整えなければならない。そんなことを考えている俺たちに朗報が下った。

 

 各種勢力との和平が結ばれたことを機に、いろいろと調べなおすことが可能になった。その結果、どうにもおかしい事件がいくつか発見されたのだ。

 

 十四年ほどまえ、海鳴という土地の周囲で強大な魔力反応が発見されるという事件が起こった。

 

 上級悪魔クラスが複数人。さらには海の方で魔王クラスすら上回りかねない莫大な魔力反応。一時期三大勢力の戦争が再発しかけたほどの緊張状態になったという。

 

 それを詳しく検査しなおした結果、どうにも今までとは違う反応であったことが発覚した。

 

 ・・・もしや異世界からの来訪者は、俺たちが思っているよりたくさんいるのかもしれない。

 

 そして、彼らの力を借りればE×Eに対する抑止力になるのかもしれない。

 

 そう考えた異形社会は、ある計画をスタートした。

 

 それがコロンブス計画。

 

 技術革新によって生産された異空間航行船を利用して、先に別の異世界を発見。そして、交流を結び技術を得、可能ならば同盟を結んで後ろ盾となってもらう。

 

 そんな実験段階の計画に、参加した男が一人。

 

 それが、俺こと宮白兵夜。

 

 人は俺を、神喰いの神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)と呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこの俺は、これでも上級悪魔だ。

 

 厳密にいうと、元人間の転生悪魔で、ついでに言うと神様も兼任している。

 

 意味が分からない奴は本編を見直してこい。この作品はあくまで後日譚なのである。ケイオスワールドありきなのである。

 

 まあ、そういうわけで俺は下僕悪魔を獲得するための悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を持っている。もちろん合計15個だ。

 

 だが、俺個人としてはまだ眷属を本格的に集める予定はない。

 

 将来的なアウロス学園の生徒たちの雇用拡大のためにも、それを支援した俺が卒業生を入れないわけにもいかないだろう。それまでに魔術師組合の連中からも何人か拾って眷属にする予定だ。フルメンバーにするのに十年は掛けたいところだ。

 

 だが、大活躍をぶちかました俺の転生悪魔になりたいというやつがゴロゴロいる。それこそ一時期は若手悪魔からの売り込みが多発しそうになった。

 

 が、今俺の下僕悪魔は三人だけだ。

 

 それはなぜか。

 

 理由は簡単。そのうちの一人が大物すぎて、比べられることを恐れて尻込みしやがったからだ。

 

「ホント、お前には感謝してるぜグランソード」

 

「いや、俺も感謝してるんだぜ大将。ほかの連中は俺を下僕にしたがらねえしよ」

 

 と、俺のお礼にグランソードは平然と返す。

 

 こいつが俺に売り込みをかけてきたのは、俺が駒をもらってすぐのことだ。

 

『大将助けてくれ! 俺を最上級悪魔にしようって連中がゴロゴロいるんだ!!』

 

 普通に聞けばいいじゃねえかと考える奴も多いだろう。しかしそうはいかない。

 

 なぜなら、グランソードは元テロリストだ。それでもまったく気にしないのが現四大魔王だが、しかしそれはそれとしてグランソードが気にするのだ。

 

 ちなみに、ヴァーリ・ルシファーは最上級悪魔になった。一応断ったそうなのだが、どうしてもと頼まれたうえにアザゼルの意向もあったそうだ。リベラルすぎるよ!?

 

 特に王の駒の発覚などで貴族の立場がだいぶ降下してるからどうにか盛り上げたいのだろうが、それにしてもテロリストを最上級悪魔とかリベラルすぎるだろう。

 

 その辺に関しては常識人なグランソードは、割と本気で断ったのだが、しかし旧家派閥が割としつこい。

 

 誰かの眷属悪魔になるということも考えたが、真なる魔王ベルゼブブの末裔であるグランソードを眷属にするなど、恐れ多くて純粋たる悪魔は絶対拒否だ。転生悪魔だって、そのあとくる注目から考えれば逃げたいところだろう。

 

 と、いうわけで何度か雇っていた俺に相談してきたというわけだ。

 

「まあ、俺としても間違いなく腕利きのお前を眷属にするのは素晴らしくメリットがある。加えてお前の舎弟を部下にできるからこそこの船も動かせるわけだしな。本当に感謝してるよ」

 

 まさにそれこそが最大のメリットだ。

 

 冥界どころか地球を救った英雄の一人である俺なら、旧家といえど文句は言えないだろう。ましてや俺はゼクラム・バアルの茶飲み友達であり、魔王に生中継で説教した男。そこそこの箔ってもんがある。

 

 一度眷属悪魔になった以上、政府の方も無理はできない。これで当分の間は大丈夫というわけだ。

 

「しっかし大将は大丈夫なのかよ? 長期出張とか女が不倫するぜ?」

 

「そ、そんなことになったらまあショックだが、わずか数か月で不倫されるようならその程度の器だったとあきらめるさ。・・・それに、なんていうかもうハーレムというより共生態だから四人でしっぽりやってるだろ」

 

 グランソードの軽口に堪えながら、俺は映像越しに次元のはざまを見る。

 

 いつみても酔いそうな光景だ。お茶上代わりにするもんじゃないな。

 

 と、そこでドアを開けて俺の眷属の残りメンバーが入ってくる。

 

「兄上! お茶をするなら雪侶も誘ってくださいまし!」

 

 と、入ってくるのは俺の僧侶となったマイシスター、宮白雪侶。

 

 もともとイッセーの僧侶狙いだったのだが、イッセーの僧侶がアーシアちゃんとレイヴェルで埋まってしまったため俺のところに転がり込んできやがった。

 

「仮にも魔法使い組織の若きエリートとして、僧侶以外の駒などありえませんの!」

 

 とは雪侶の弁だ。まあプライドはそこそこあった方がいいだろうが、なぜ兄の駒を占拠する。

 

「それで兄上? そろそろ次元世界とやらには着きませんの? 毎日毎日代り映えのしない景色は退屈しますのよ?」

 

「はっはっは。無茶言うな雪侶。・・・あるのはわかってもどこにあるのかまではわからないんだ。今回の探査では見つからない可能性の方がでかいっつの」

 

「わかってますわよ~。言ってみただけですの~」

 

 そういいながら、お茶を取り出すと、席に座って飲みだす雪侶。

 

 まあ、優秀さという意味では間違いなく優秀なんだが、性格的に癖が強いからなぁ、俺の妹。

 

 まあ、それはいい。それはいいんだ。

 

 だが、問題は・・・。

 

「・・・」

 

 俺は、視線を彼女に向ける。

 

 青い炎と例えるべき水色の髪をロングにし、眼帯をつけたスマートな女性。

 

 胸が小さいといえば小さいのが難点だが、間違いなく十人中十人が美少女と答えるだろう美しい要望。

 

 彼女が、ゼクラム・バアルに頼まれてやってきた俺の騎士。

 

「私もご一緒させてもらっていいかしら? 兵夜さん♪」

 

 そのまま俺の膝の上に座ると、いたずら小僧のような笑顔を浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・シルシ・ポイニクス。フェニックス家の分家に当たる、ポイニクス家の出身。大王派に所属する家系の出であり、割とゼクラム・バアルと懇意にしている悪魔の娘。

 

 上級悪魔としての戦闘能力はそこまで高くないが、美しい要望を持ち、家事も優秀。加えて事務能力においてもなかなか優れている秘書タイプ。上級悪魔が悪魔稼業をするにあたり、一人は欲しいタイプだ。

 

 うん、つまりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 政略結婚用の人材なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼクラム・バアル!? 俺、そういうのしないって言ったよねぇ!?

 




思った以上に早く書けました!









兵夜は眷属を即座に集める方針ではありません。ほら、長い目で探した方がいいのが見つかるかもしれないでしょう?

グランソードは割と早めに眷属入りを決定しました。あいつの性格だと最上級に取り入られるのは極力避けるだろうけど、眷属悪魔にしてくれそうなのは兵夜ぐらいしかいかなったし、間違いなく一級品の戦力ですので。

雪侶も兵夜の眷属入り。・・・イッセーの僧侶が埋まってるからね、仕方がないね!








そして外伝のヒロインであるシルシ・ポイニクス。

彼女はフェニックスの傍流に属するものですが、実はケイオスワールドでいそうでいなかった人物です。

詳しいことは次の話で。


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眷属、結婚狙いです!

今回はシルシの紹介回です。


 

 シルシ・ポイニクスは上級悪魔ポイニクス家の娘だ。

 

 ポイニクス家はフェニックス家の分家に値する。立ち位置としては大王派で、フェニックス家としての特性からそこそこ取り立てられている。

 

 そんな中、彼女は上級悪魔としては下位の部類であり、フェニックス家に並ぶ子だくさんな家系だったこともあり、当主には決して選ばれない待遇だ。人間との混血でもあるしな。

 

 彼女は誰かの家に嫁ぐことを運命づけられており、それが仕事といっても過言ではない娘だが、決してそれ自体は不幸な立場ではない。

 

 そこそこ有力な家系であるポイニクス家は、その分価値も大きい。分家レベルでは最高クラスの家系であり、その影響力は大王派では上位に入る。

 

 そんな彼女を嫁にするというのであれば、それ相応の立場でなければ不可能だし、何より待遇をよくしなければそれこそひどい目にあうだろう。

 

 彼女は豪勢な生活を送ることが約束されている人生だ。間違いなく勝ち組だといっていい。

 

 当主である父親からも愛されている。少なくともほしいものはたいてい買い与えられたし、不当な待遇を強いられたこともない。時々一緒に旅行に行ったこともある。

 

 だからといって甘やかされたわけではない。父親は貴族として当然の教育を受けさせていたし、間違ったことをした時はしっかりと叱った。常識はしっかりと叩き込まれているし、使用人からも慕われる人物に育っている。貴族としての誇りもきちんと持ち、高貴たる血を継ぐものとしての責任というものも自覚している。

 

 だが、彼女は生まれたときから不幸を背負っていた。

 

 彼女は人間とのハーフ悪魔である。その人間は神器を持っているとしか思えないほどの視力をもち、それに目を付けた当主は口説き落として妾に加え入れた。

 

 だからといって愛してないわけではない。何かに苦しむ彼女を支えていたし、若くして死んだときは心から悲しんだ。その忘れ形見であるシルシのこともちゃんと愛している。

 

 だが、彼女が何に苦しんでいたのかを本当の意味で理解したのは娘であるシルシだけだった。

 

 彼女は、時々惨劇を垣間見る。

 

 ・・・のちに判明したことだが、彼女の母親はどうやら転生者だったらしい。

 

 その母親から受け継いだ特性を、彼女はしっかりと保有していた。それは視力の良さという次元ではなく、何かを見通すことができる強力な千里眼であった。

 

 その範囲はその気になれば小さな国を見通すことができる。領地を持つ悪魔の妃になれば、それを補佐するのにこれほど素晴らしいものはないだろう。

 

 問題は、シルシ自身に一切それを制御することができなかったことである。

 

 いつ何が起こるかわからないタイミングで、悲劇を垣間見てしまう。それはほとんどが自分ではどうしようもない。

 

 端的にいえば、地獄だっただろう。おそらくは、母親もそれで精神をすり減らしたのだと思う。

 

 これは俺の推測だが、おそらく母親は、魔術刻印で千里眼を制御する魔術師の家系だったのだと推測している。

 

 展開されているのも右目だけだったし、おそらく刻印の提供後などは目をとっていた可能性もある。まあ、悪魔の血によって千里眼が大幅に強化されているという可能性は十分あるが。

 

 だが、そこから救われる時が来た。

 

 三大勢力の和平締結。及びそれに伴う異世界転生者の存在の把握。そして神代の魔術師であるコルキスの女王メディアこと、俺の相棒であるアーチャーの出現だ。

 

 これにより制御不能の千里眼を抑える魔眼殺しを作ることが理論上可能になった。もちろんテストケースとして作ってみた。

 

 そして、のちの調べによって事情が分かったシルシはそれをもってして魔術師組合に所属。魔術回路を持っていたこともあり、それを伸ばすための修練を積むことになる。

 

 そんな彼女を眷属にするように言ってきたのは、ゼクラム・バアルだ。

 

 彼の要望を断るのはまずい以外の何物でもない。それに、妾にしろと一言も言ってなければそれをにおわせることもしていない。つまり俺が勝手に推測しているだけだ。だから断れない。

 

 それに、千里眼を制御することができるようになった彼女はサポートタイプとして優秀だ。世界を見渡す一歩手前の千里眼は、遠隔透視能力といっても過言ではない。その気になれば十キロ以上離れた建物の内側を見ることもできる。

 

 加えてそれ以外にも最高峰だろう。そこそこの詠唱を追加すれば、少し前の過去を見ることや、未来の可能性を見ることもできる。相手の心を覗き見ることだって不可能じゃない。サーヴァントでいうならばB+ランクといったところだろう。

 

 魔術師組合に所属している以上、俺の眷属としての条件にも合致している。そこまで考えたうえで、ゼクラム・バアルは彼女を薦めたわけだ。だからこそ俺も断る理由がない。

 

 混じり物とはいえど大王派の貴族の娘。そして魔術師組合に所属する優れた素質をもつ魔術師見習い。欠点を上げるとするならばフェニックスの特性である炎の攻撃力が低いところだが、それでも貴族としてそこそこの技術は習得しており戦力としては申し分ない。

 

 そして、嫁ぐことが仕事といっても過言ではない立場であることから、秘書としての技量は優秀だった。

 

 ぶっちゃけいい拾い物をした。ゼクラム・バアルにはその点では感謝している。

 

 そして、だからこそ困っている。

 

 なぜなら、感謝という感情は好意に変化しやすいのだ。

 

 これまでの経緯を知っている連中なら、アーシアちゃんの件がわかりやすいだろう。あれこそまさにその典型といっても過言ではない。いや、イッセーもアーシアちゃんのことが大好きだし、アーシアちゃんもそれ以外のいいところをちゃんと知ってるから何の問題もないのだが。

 

 だが、俺の場合はそうもいかない。

 

 シルシを発見して迎え入れたことに、俺はほとんど関与していない。俺が魔術師組合を作ったからこそ救われてはいるが、その他大勢の一人といっていい。

 

 そんな彼女の好意を受けるのは、不義理なような気がするのだが、さてどうしたものか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、兵夜さん。今回の探索で異世界を発見できるとは思えないけど、それなりのデータは欲しいのでしょう? 調整が終わったものをリストアップしておいたわ」

 

「ああ、次元の狭間での各種能力などのデータ収集などは逐一行わないとな」

 

 お茶をしながら、シルシは整理された資料を渡してくれる。

 

 読みやすい字で書かれた資料は、簡潔に、かつ要点を詳しくまとめていてわかりやすい。

 

 俺の知力がどれぐらいなのかをしっかりと把握して、俺にわかりやすくしようという努力を感じられる。実にいい報告書だ。

 

 そこには艦内でのトラブルも書かれていて、そういったところを隠さないのも実にいい。

 

 長期間にわたる密閉空間内でのトラブルはすぐにでも解決しないといけない。下手に隠して暴発したら大惨事につながりかねないからだ。特に今回のような救助の可能性が見込めないときはなおさらだ。

 

 彼女は秘書として実に優秀だ。ああ、素晴らしい。

 

「ありがとう。お前が秘書で実に助かる」

 

「確かになぁ。俺はそういうデスクワークとかすごい苦手だからよ、マジ助かるぜ」

 

「そうですの。雪侶はぶっちゃけめんどくさいですし、やってくれる人がいると楽ができていいですのよ」

 

「あら、魔王の末裔と女王の末裔に褒められるほどだなんて、ちょっとした自慢ね」

 

 と、和やかに会話を続けるが、しかし問題は距離だ。

 

 近い。すごく近い。くっつくぐらい近い。

 

「シルシ。俺は女がいるからあまり距離を近づけすぎるのはどうかと思うんだ」

 

「あら。それなら私を貴方の女にすれば終わりじゃないかしら?」

 

 いきなり喰らいついた!?

 

「グランソード。兄上はハーレムを増やすことになるのでしょうか?」

 

「少なくともシルシはそのつもりだろ。カッカッカ! 大将はモテモテだな、オイ」

 

 外野! ちょっとは助けてくれてもいいんじゃないのか!?

 

「貴方もうすうす予想はついているんでしょう? 自業自得とはいえ、大王派を中心とした貴族は大打撃を受けているもの」

 

 ああ、それはよくわかる。

 

 レーティングゲームにおける不正の取り締まりは、現在急激に進んでいる。

 

 レーティングゲームを悪魔だけのものでは無く、和議を結んだすべての勢力で行うことを目標としているのが変化最大の理由だ。というより、アジュカ様達はそれを利用して不正を是正しようと前々から考えていたらしい。

 

 王の駒の不正使用のこともあり、わりと貴族側は大ダメージを喰らっている。不正使用がばれた者たちは軒並みダメージを受けるなり脱走するなりしており、イッセーが何人かと戦ったこともあるとか。勇退の名目で失脚したものも数多い。

 

 だが、このままで終わるわけがないだろう。終わっていいとも思えない。

 

 俺の持論だが、悪魔という種族は血統主義を完全に捨て去ってはいけないだろう。単純な個体差が大きいことが最大の要因だ。この事実を捨て去っても、いずれツケが襲い掛かるのが目に見えている。

 

 だから、何らかの形で貴族の復権を行うのは俺としても好都合だ。魔王様たちはリベラルすぎるので不安だしな。

 

 そして、その際大きな力になるのは魔術師(メイガス)だ。

 

 魔術師の力の源である魔術回路は、血統に宿るものだ。

 

 すなわち、家で力が大体わかる。血統主義や貴族主義になりやすい最大の理由がそこだ。そして、それは理論的に実証された根拠といえる。

 

 もちろん突然変異もあるが、それは本当に突然変異だから、特例としか言いようがない。

 

 これは悪魔の特性と近しいものだ。必然的に貴族主義である大王派との親和性は、魔術師と高くなる。実際魔術師組合の人々は大王派の方に好意的だ。

 

 だから、魔術師組合としても大王派の復権は急務。何とか間に立って折り合いをつけるべきだ。

 

 そうなれば、魔術師組合の長である俺との結びつきをよくするのは当然。そして貴族ならば政略結婚は珍しくもない。

 

「ええ、ポイニクス家のものとして、英雄の妻を輩出したという事実は地位を盤石にしてくれると思わない?」

 

 と、胸は小さいながらも妖艶とした笑みを浮かべてくるシルシ。

 

 あの、顔が近いんですが?

 

「私は美味しそう? なんなら、ここで見られながら味見してもいいのよ?」

 

「・・・さて、俺達は退出するか。ほら行くぞ雪侶」

 

「グランソード? 雌とは雄に艶姿を見られてこそ輝く生き物なんですのよ?」

 

 常識的に退出しようとするグランソードと、異常的にスマホのカメラを起動しながら押しとどめようとする雪侶。二人の間で力比べが勃発しそうになっている。

 

 ですが二人とも? まず止めてくれない?

 

「シルシ。俺は個人的にあいつらに操を立てたいと思っている。・・・不倫はしない」

 

「四人も彼女がいておいていうセリフじゃねえぞ?」

 

 グランソード。正論だがそれを言う前にシルシを引きはがしてくれ。女性眷属に乱暴なまねをしたくないんだ。

 

「グランソードの言う通りね。・・・それに、あなたこの船に職業娼婦を連れ込んでるじゃない」

 

「あれは船員の性欲解消用だ! 大体もとから本職の奴だし、金は相場の倍だしてるぞ!!」

 

 こういう環境かじゃストレスがたまると思ったから、そのあたりの根回しをしておいただけだっつの!!

 

 三大欲求の解消は結構気を使ってるんだぞ? 戦闘能力は兵員で解決するつもりだから軍艦にも関わらず個室率は高い。食事に関しても食堂だけではなく独自に食べれる軽食コーナーとかを擁しているぞ、レトルトだけど。

 

 性欲だってその一環だ。男どものストレス発散のはけ口はちゃんと用意しておきたい。だからきっちり考えているだけだ。

 

「・・・一応言っておきますけれども、兄上は義姉様方に「性欲発散はOK」と認められてますのよ?」

 

「それを言うな雪侶!!」

 

 この馬鹿妹! 黙ってたのに何でばらす!?

 

「あら、だったら別に構わないじゃない。私下僕悪魔なんだから好きにしていいのよ?」

 

「いやいや。そういうのはそのですね?」

 

 了承を得ているからといって、それを行うことに躊躇を持たないわけじゃないし! そもそもしないことで俺の誠意というものを示したいしね!?

 

 くそ! このままだと俺は逆レイプされるぞ!?

 

 だれかぁああああ! 助けてくれぇえええええ!

 

ピー ピー ピー

 

『失礼します。兵夜さま、朗報です!』

 

「おぉおおおおおお! すでにその報告が朗報だぁああああ!!」

 

 よっしゃ助かったぁ!!

 

「チッ! せっかくここからいいところでしたのに」

 

 雪侶、後で家族会議な?

 

『異世界です! 遂に異世界を発見いたしました!!』

 

 ・・・マジで朗報だ!?

 




聖書の神の死が原因なら、聖書の神が死んだころから転生者がいてもおかしくない。

そして、それなら子供がいても何らおかしくはない。

そう考えたことがある貴方、シルシこそがその第一号です!









しかし、転生者の中でも魔術師(メイガス)はいろいろと大変。

根源到達を人生の目標とする魔術師にとって、異能の変質は大問題。そして貴族であることの多い魔術師は、金も資源も大きく不足する。ましてや当主が継承する魔術刻印など一から作らねばならない。

シルシはまさにその悪影響の被害をもろに受けたキャラクターです。

そんな生活から救われることがあれば、その恩恵を与えてくれた人に好意を持つのは当然のこと。ゼクラム・バアルはそこをついて、政略結婚にある程度理解のある兵夜に断りづらい状況を作ろうとしている・・・と、兵夜は推測しています。

これが当たっているかは、また後程の展開をお楽しみください。


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クソ神父、生きてました!

こっからそろそろ本番に突入します。

さて、そろそろ盛り上がってまいりますぜ?


 

「そういうわけで、これからちょっと探索に行ってくる」

 

『いや、大将? なんで大将自ら行く必要があるんだよ』

 

 当然のツッコミがグランソードから放たれた。

 

 が、悪いがそういうわけにもいかん。

 

「何か行動しないと俺の貞操がヤバイ。あと現場で動く方が性に合ってる」

 

『兄上。本音を真っ先にばらしているところ申し訳ありませんが、相方はシルシ義姉様ですのよ?』

 

 雪侶、それは能力上仕方がない。

 

 あとお前の中では俺が押し倒されるのが確定なのか!?

 

 などと内心で苦労しながら、潜入調査用のステルス飛行艇を操作しながら俺は最終調整を進めていた。

 

 無人探査機のデータから推察するに、どうにも文化体系は割と進んでいる・・・どころか地球以上の可能性が大きい。

 

 とにもかくにもまずは調査を進めてみないとな。・・・何とか協力を結んでE×Eに対する抑止力になればいいんだが。

 

「エンジンもあったまったわよ。さあ、そろそろ新婚旅行としゃれこみましょう?」

 

「はいはい成田離婚成田離婚」

 

 シルシを適当にいなしながら、俺は飛行艇を発進させる。

 

「宮白兵夜、行きまーす!」

 

『あ、大将もやっぱそのアニメ好きなんだな?』

 

 ああ、一度言いたいぐらいにはシリーズ見てるぞ?

 

 などと思いながら次元の狭間を移動する。

 

「それで? シルシ、見えるか?」

 

「・・・流石に次元間が繋がってないと大変ね。それより、うっかり操作をミスして墜落なんてやめてよね?」

 

 おいおい、流石に酷いな。

 

「安心しろ。練習は暇つぶしにちょくちょくやってたし、いくらなんでもそんないきなりトラブるなんて―」

 

 俺は軽く笑って流し―

 

 その瞬間、警報が鳴り響いた。

 

「・・・ああ、本当にトラブル続きの人生」

 

「これを生き抜かなければ、あなたの妾にはなれないのね」

 

 俺達は即座に諦観した。

 

 ああ、間違いなく俺達は大変な事になっているのだと。

 

 そして、俺達は何かに引っ張られるように空間の歪みに飲み込まれる。

 

 ぎゃぁあああああ! お助けぇええええええ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空間転移から何とか抜け出し、スラスターを付加して軌道を修正する。

 

「クソが! なんでこんなに俺の人生はトラブルに恵まれてんだ!」

 

 雪侶が誘拐された事に始まり、ヤクザの跡目争いと俺の人生は波乱続きだ。

 

 ことイッセーが悪魔になってからの一年間は壮絶だったと言っていい。体の半分近くを取り換えるとか普通あり得ない。イッセーは全身丸ごと二回取り換えたがアレは異常なだけだ。

 

 ああ、本当に壮絶な戦いだった。そしてその後も大変だった。

 

 レーティングゲーム元三位の取り押さえに協力したり、禍の団の残党と戦ったり。コカビエルやディオドラが脱走したり。

 

 ぶっちゃけ、いい加減嫌気がさしてきたから逃げてきた節もある。

 

 それなのにここでもトラブルかよ!

 

「畜生が! いろんな意味で俺の人生は波乱万丈だな!?」

 

「これが終わったらストレス発散に存分に私を貪りなさい。っていうか貪っていいから落とさないでくれると嬉しいわね」

 

 クールなうえに平常運転だねシルシさん!

 

 加速状態でいきなり空間転移したことで色々バランスを崩したが、しかし何とか態勢を整え直した。

 

 そして、俺に世界の姿が見える。

 

 遠くに街が見える。そして真下に森が見える。

 

 これが異世界か。あんまり俺達の世界とそこまで変わらないな。

 

「これが異世界・・・! ぶっちゃけ今の段階だと色々と儲けがないなぁ!」

 

「はいはいぼやかない。エンジン出力を制御するから、ステルスを起動しなさい」

 

 はいはい! シルシさんは厳しいことで!

 

 だが、何とか軌道は修正された。さて、これからどうするか?

 

「シルシ、町までの距離は?」

 

「真上までって意味なら約100kmね。この船ならすぐにつくけど・・・待って」

 

 と、シルシの視線が真下に向く。

 

 その表情は少し緊張感があるものになっていた。

 

「あんな所に・・・子供? 視覚を共有するから礼装を付けて」

 

 と、シルシが眼帯と同じ物を俺に渡す。

 

 これはシルシの見ている映像を見る為の魔術礼装だ。これで短時間なら彼女が目で見ている光景を俺も追体験できる。

 

 すぐに付けると、そこには夜の森があった。

 

 その中に、どう考えても町中で着るような恰好をした女の子が二人、彷徨っている。

 

 ・・・あ、これやばい感じだ。

 

「現地の子にしてもおかしいけど、どうする?」

 

「とりあえずもうちょっと様子を見てからに・・・待て」

 

 と、その視界の中で更に一人人が出てきた。

 

 年の頃は十代後半。白い髪が目立つ少年・・・って!?

 

「人がきたわね。これなら放っておいても―」

 

「大ありだ!! 降りるぞ!!」

 

 俺はすぐに飛行艇を急降下させる。

 

 やばい、やばいやばいやばい!

 

 あいつはヤバイ!!

 

 あの野郎、二年の頃の初夏からずっと姿を見せてなかったけど、生きてやがったのか!

 

 まずい、何も知らない無垢な子供なんて、明らかに危険だぞ!!

 

「うぉおおおおおおおお! ちょっと待ったぁああああああああ!!!」

 

 俺は素早く飛行艇から飛び降りるとダイナミック介入を開始。

 

 そのままイーヴィルバレトをけん制射撃しながら、その間に割って入り―

 

「ふぶるぉ!?」

 

 そのまま着地をミスって地面に激突し、更に転がった。

 

 しまった。俺は大幅に弱体化してるんだった。こんなアクロバティックな軌道は行えない。

 

「きゃ!?」

 

「うおっ!? 大丈夫か姫柊(ひめらぎ)!?」

 

 しまった! 更に人がいたのか!!

 

 俺は即座に後ろに飛ぶと、速攻で土下座を敢行する。

 

「すいませんでした!? いるとは思わず失礼なマネを!!」

 

「え? えっと、その、・・・どうしましょう」

 

「やけにあっさり謝る奴だな。・・・まあ、なんか分からないけどその子達を助けようとしてたんだし、許してやってもいいんじゃないか?」

 

 そこにいたのは、学生服の二人組。

 

 黒髪セミロングの中学生と、色素の薄い髪のパーカー来た男子学生。

 

 更にこんな場所に似つかわしくない格好だなぁ。彼らも訳ありか?

 

 と、俺が助けた女の子達もこっちに駆け寄ってくる?

 

「あ、あの、大丈夫ですか!?」

 

「受け身はとれていたようですが・・・、お怪我は?」

 

 お、よく見たらこの子達、二人ともオッドアイだ。

 

 珍しい二人組だなぁ・・・じゃなくて。

 

「細かい話は後でする。あそこの白髪から離れろ!!」

 

 俺はすぐに銃を突きつけると、その白髪に狙いをつける。

 

「待ってください!? 状況はよく分かりませんが、仮にも聖職者を相手にいきなり銃を突きつけるのは―」

 

「安心していい。とっくの昔に追放されてる」

 

 黒髪少女にそう言って、俺は奴を睨みつけた。

 

「よう、殺人神父。最近会ってないが、エンジョイ快楽殺人ライフは楽しかったかい? ・・・フリード!!」

 

「な、なんでこんなところに宮白兵夜が!? ・・・なーんてことを言っちゃいたいぐらい驚きの再会だね! うひゃひゃひゃひゃ! 殴られた借りをこんなところで返せるとは、ファッキン神様も粋な計らいをするもんだぜ!」

 

 相も変わらず腐れ外道が。

 

 フリード・セルゼンめ、生きていたのか!

 




・・・本編で回収しきれなかったキーワード。フリード・セルゼン。

ホーリー編で兵夜がむちゃくちゃ動いた結果、出番を削られた男。

じつはレイナーレと同じく魔改造をぶち来まして暴れまわる予定だったのですが、なかなかうまく盛り込めなくて排除することになった悲劇のキャラ。

そういうわけで、後日譚で大暴れさせますぜ?


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女の子、成長します!?

 

 シルシ・ポイニクスは割と本気で頭を抱えていた。

 

 いきなり慌てだした兵夜に飛行艇を任されて、途方に暮れていたと言っていい。

 

 見ている限りどうやら因縁があったらしい。恰好からしてはぐれ悪魔祓い、それも和平後に堕天使から追放されるほどの危険人物。そんな奴が幼女の近くにいたら慌てるだろう。

 

 しかも兵夜と戦った事があるらしい。あのグレモリー眷属と一戦交えて、捕縛もしくは抹殺されていないという時点で確かに厄介な部類だ。

 

 少なく見積もっても中級悪魔クラス。もしかしたら上級クラスは相手をできる手合いなのかもしれない。

 

 だから、そんな状況下で助けに行ってこれるような人物である事にシルシはむしろ喜びすら感じている。

 

 流石は政略結婚対象として、ゼクラム様が選んだ人物・・・と表向きの()()()()も含めて納得しながら、シルシはどうしたものかと再び思案した。

 

「わたし、サポートはできるけど運転はできないのだけれど」

 

 表面上は冷静で、だからこそ何とかバランスをとれてはいる。

 

 だが、このままだといずれ墜落する。それぐらいこれの操縦は難しかった。

 

 そもそもこの飛行艇は魔力操作システムを兵夜用にしているものだ。だからこそ兵夜は楽に操作できるが、裏を返せば兵夜以外は操縦が無駄に難しい。

 

 これが宮白兵夜のうっかり。もう船を見捨てて脱出した方がいいのではないだろうか?

 

 というより、これはもう墜落するしかないだろう。

 

「まあ、ポイニクスだから死にはしないだろうけど、一応最後まで持っておかないと怒られるわよね」

 

 そう覚悟を決めて、せめて不時着に収めようとシルシは覚悟を決めて操作を行う。

 

 何とか低角度で地表にぶつかろう。幸いまだ森なので、木々がクッションになってくれるはずだ。

 

 そして、そのまま勢いよく地面に近づいた時、急に飛行艇が受け止められた。

 

「・・・何かしら?」

 

 視線を向けるとそこには巨大な八首の蛇がいた。

 

 その巨体がクッションになって、飛行艇を受け止めていたのだ。

 

「これは・・・味方でいいのかしら?」

 

 シルシはエストックを引き抜きながら、慎重にその蛇を見る。

 

 驚くべく事に、この蛇は魔力で出来ていた。

 

 サーヴァントと同種と思えるその存在は、間違いなく強大な戦闘能力を保有するだろう。

 

 どう対応したものかと苦慮していると、少し離れたところから声が聞こえてくる。

 

「安全確保ー! 須澄くん、褒めて褒めてっ」

 

「分かった、分かったから落ち着いてねトマリ。はいなでなで」

 

 と、いちゃつきながら出てくるのは、一組の男女。

 

 染めた者と思しき金の髪を持つ幼い風貌の少年と、藍色の髪を長く伸ばした、どこか落ち着いてない女性。

 

 だが、シルシが二人を見た瞬間に、思わず目を疑った。

 

「・・・貴方達、何者なの?」

 

 あり得ないだろうとすら思う。

 

 女性の方はまだいい。理論上の存在だが、あり得ないわけではないと判断されている。

 

 だが、少年の方がどう考えてもおかしい。あり得ない。

 

 あれが、あの槍がこの世に二本もあるわけがないのだ。

 

 あの男が殺されたとも考えづらい。

 

 彼は、槍の力もあって人間の範疇内なら最強候補だ。その彼を殺せるだけの実力者との戦闘があれば、こちらでもすぐに気づくだろう。帝釈天もそんな緊急事態をこの状況下で黙ってるとも思えない。

 

 そんな疑念を浮かべるシルシに、少年たちは微笑んだ。

 

「とりあえず、僕達は敵じゃないよ。・・・ようこそ異世界の方々、聖杯戦争が行われる、このニュークレオンに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、ものすごく久しぶりだけど全然嬉しくない再会をしながら、警戒を解かず睨みつけていた。

 

 既に神器を展開して光の槍も展開しているし、高速用の魔術を込めた弾丸も装填済みだ。

 

 何か動けば、すぐにでも攻撃してやる。

 

「下がってろ。こいつは人を殺すのが大好きなシリアルキラーだ。・・・既に何人も殺している」

 

「うーん。俺のことよく知ってるね。あれ、もしかして俺に恋してるの!? 残・念! 俺はお前を殺したいとは思ってても愛してるなんて思ってないよん!」

 

 相変わらずふざけた奴だ。子供の前じゃなければ、速攻で殺しているものの。

 

「おい姫柊、あいつの言ってること、マジか?」

 

「少なくとも、相応の実力者だと思われます。・・・先輩、その子達を連れて下がっていてください!」

 

 と、黒髪の子がなんか機械的な槍を取り出しながら俺に並び立つ。

 

「・・・攻魔官としては黙っているわけにはいかないようです。手助けします」

 

「こうまかん? なーるほどなーるほど、やっぱりあんたらがプロモーターの言ってたサプライズってやつだねぇ?」

 

 ・・・サプライズ?

 

「どういうことだフリード! お前ぺらぺらしゃべってくれるタイプだろ? 話してくれよ?」

 

「OK! 俺と君との仲だしね! 特別にペラペラしゃべってやるぜ!!」

 

 ・・・うん、お前はそういうタイプだと信じてたよ。

 

 とりあえず情報を聞き出さない事には話にならないからな。シルシがいれば真贋の判定も楽だったんだが。

 

「まずはそこの幼女ちゃん達とカップルの正体だけど―」

 

「違います! 先輩はあくまで監視対象です!!」

 

「―え、そういうプレイ? 君がSなのん? 俺、切り刻むのは好きだけど監視されるのは嫌いなんだ、ごめんちゃい♪」

 

「幼女の情操教育に悪いから話を進めろ!!」

 

 俺も凄い気になるけどね! 監視対象っていったいなんだよ!!

 

「俺達は兵夜きゅんも知ってるあるゲームをやっていてね。そのプロモーターがサプライズで、異世界から適当に誰か召喚するとかなんとか言ってたぜ! 座標は凄い適当だから、もしかしたら大災害が発生するかもしれないからこの辺りに呼び出すと言ってたのさ!」

 

「・・・はあ!?」

 

 なんだその考えなしは! っていうかそんな事できんのかよ!?

 

「い、異世界召喚!? どこのラノベだよ!?」

 

 後ろの先輩とか呼ばれてた少年が驚愕の声を出す。

 

 ああ、そんなもん簡単にできる事じゃない。できる事じゃないけど・・・。

 

「理論上は可能ですが、それだけの出力をどうやって・・・?」

 

 緑色の髪の幼女は、比較的冷静だった。

 

 ん? 彼女がいた世界は異世界間移動が比較的楽なのか?

 

 まあいい。今は話を進めるところだ。

 

「そいつらの首を取ったら、プロモーターから戦力を提供してくれるって話だったんだけど、綺麗な幼女だからちょっとレイプしちゃってからでもいいかなーって思ったら、まさか君が来るなんて思わなかったぜ!」

 

 この外道が、本当に腹立たしいな。

 

「・・・ここで死ぬか? 一応言っておくが、俺達三大勢力はテロリストは発見次第滅ぼせ(サーチアンドデストロイ)とのお達しだが?」

 

「うっひょー! そりゃスリルがあってワクワクするぜ! でもさぁ、そんな君の冷静さをぶっ飛ばす事を教えてやるよ」

 

 そういうフリードがにやりと笑いながら、とんでもないことをぶちまけやがった。

 

「このゲームの名前は、聖杯戦争っていうんだぜ?」

 

 ・・・なん、だと!?

 

「どういうことだ!? なんで異世界で聖杯戦争が勃発している!?」

 

 意味不明にもほどがある。

 

 なんだと!?

 

「落ち着いてください! 聖杯戦争とは一体何ですか!?」

 

 姫柊ちゃんとやらが俺に声を飛ばすが、そっちも顔をこっちに向けるな!

 

「馬鹿来るぞ!」

 

「ヒャッハーもちろん!!」

 

 フリードは素早く光の剣を振るって、姫柊ちゃんの首を切り落とそうと襲い掛かる。

 

 姫柊ちゃんはそれを槍で受け止めるが、何やら奇妙な波動が出て、剣が揺らいだ。

 

「ん~? 対異能系の能力でもデフォなのかにゃー?」

 

 一瞬鍔ぜり合った二人は、すぐさま飛び退る。

 

 そしてフリードは即座に拳銃を引き抜くと今度は俺達じゃなくて幼女達に―!

 

「ってさせるかコラ!!」

 

 素早く銃を撃って牽制。フリードを即座に引き離す。

 

 ええい、この状況下で色々と面倒な!

 

「ひゃっほう! 中々楽しそうな戦闘になってきたぜ! じゃあこっちもテンション上げていこうか!」

 

 そう言いながらフリードが指を鳴らすと、地面が闇に包まれて、そこから魔獣が現れた。

 

 やっぱり魔獣創造の量産型は開発済みか!

 

 っていうか数が軽く三十ぐらい入るんだが!?

 

 ああ、そしてもちろんの如く後ろの幼女達に襲い掛かったぁああああ!!

 

「クソが! 流石にカバーしきれない!!」

 

「先輩! その子達を連れて逃げてください!!」

 

 俺達は接近してくる連中をぶちのめしながら声を荒げる。

 

 戦闘能力は大したことないが、いろんな意味でディフェンスが強い! このままだと押し切れない!!

 

 くそ! あの少年は戦闘訓練とか詰んでる動きじゃないし、このままだと―

 

 だが、幼女二人は怯えるどころか強い戦意を見せていた。

 

 あれ? なにその表情?

 

「クリス!」

 

「ティオ!」

 

 そう幼女達が声を上げると、兎と猫のぬいぐるみっぽいものが宙に浮かぶ。・・・宙に浮かぶ!?

 

「「セットアップ!」」

 

 そしてぬいぐるみとともに幼女達が光に包まれ―

 

「な、なんだぁ!?」

 

 その少年の言葉が、何よりも分かりやすい返答だろう。

 

 気づけば幼女達は。

 

「カイザーアーツ正当、ハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルト。状況は呑み込めませんが助太刀します」

 

「あ、私は高町ヴィヴィオです! お手伝いします」

 

 なんか成長したぁああああ!?

 




はい、勘違いされている方も大勢いましたが、舞台は全く別の世界です。

というより、ミッドチルダにしろ絃神島にしろ、今回の黒幕を動かす場合使い勝手が悪いため、こういう形にいたしました。

前半で登場した二人組もオリジナルキャラです。詳しい説明は結構後になると思います。








初期の妄想していただけのバージョンでは、聖杯戦争ではなく侵略戦争とかぶちかます予定だったんです。そのころはどれを参戦させるかも決めてなくて、結果的にある人物がリーダーとなっている対侵略者同盟の傭兵という形で兵夜を参加させようという考えでしたが、ストーリーが大きくなりすぎて複雑になりすぎるため書ききれないと判断して没にしました(´;ω;`)


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悪魔も、参戦です!?

本格的に戦闘スタート! 


 さっぱり状況はわからないが、とりあえず考えることは一つだけだ。

 

 なにせ、今の状況では戦力が足りない。

 

「・・・あてにしていいんだな!?」

 

「かまいません。覇王を継ぐものとして、この程度に引けはとりませんから」

 

「あ、一応ママから戦闘訓練はしっかり積んでますから、自分の身ぐらいは守って見せます!」

 

 と、素早く魔獣を殴り飛ばしながら、二人の幼女は告げる。

 

 えっと、ハイディとヴィヴィオだっけ? まあとにかく戦力として考えることにしておこう。

 

「そいつらはある特殊なマジックアイテムで作られたゴーレムみたいなものだ。ぶち壊しても問題ないから遠慮なく殴り壊せ!」

 

 そう告げながら、俺はメイスを転送して殴りかかる。

 

 幼女の情操教育に悪いから、殺しはしない。

 

 ただし骨の一本や二本は覚悟してもらう!

 

「腕一本もらい!!」

 

「甘いぜ神様!」

 

 その一撃を、フリードはあろうことか素手で受け止めた。

 

 な、なんだこの頑丈さは!

 

「覚えてるかい? 第三次世界大戦の幕開け、クージョー連盟はある能力を他人に貸すことでアメリカの艦隊を白兵戦で占領することに成功したって?」

 

 そう得意げにフリードが語る。

 

 ああ、小雪の調べたことによれば、脳波をチューニングすることで能力を劣化再現したとか。

 

 ってまて、それはつまり―

 

「俺様がそのオリジナル! 肉体の頑強さを底上げする、超能力(レベル5)の硬質肉体《アーマードスキン》さ! 俺様の体に傷をつけられると思うなよぉ!!」

 

 フリードは、攻撃をすべて受け止めながら豪快かつ繊細に俺に切りかかる。

 

 こ、この野郎が学園都市式の超能力者だと!? なんて悪夢だ!

 

「フィフスの野郎に徹底的に体いじくられて、ストレス一杯堪ってんのよぉ。君殺すことで発散させてくんなぁい?」

 

「誰が受け入れるか!」

 

 こいつ、ここまでできるとは聞いてないぞ!?

 

 くそ、弱体化している俺では分が悪い―

 

「オイ」

 

「あん? ・・・うお!?」

 

 そ、そこで今まで翻弄されていた少年がフリードを一発殴り飛ばした。

 

 頑丈になっているとはいえ体重は変わらない。相当の筋力で殴り飛ばされたことで、フリードは引きはがされた。

 

「・・・さっきから黙って聞いてりゃ、聖杯戦争だか訳の分からないことを言いたい放題言いやがって。今、俺の住んでる街が滅びるかどうかの瀬戸際なんだよ」

 

 うわぁ、こっちもこっちで訳ありみたいだ。

 

「えっと・・・マジ?」

 

「ああ、悪いのは絃神市を作った奴なんだが、だからって何も知らない俺たちが滅びていいってわけじゃない。・・・胴体ぶった切られた借りも含めて、決着付けようって時に訳の分からない理由でこんなところに飛ばされたんだ」

 

 本当に訳ありっていうか、ああ、ハーデスに絡まれた俺たちと近い境遇のようだ。

 

 そして、雰囲気は違うがイッセーや俺と似た何かを感じる。

 

 具体的には―

 

「覚悟した方がいい。お前はこれから一月も経たない周期で、世界ランカー級の悪党に絡まれる日々が続くはずだ。これは俺の経験則だ」

 

「ちょっと待て! なんだその恐ろしすぎる推測は!」

 

 あまりに酷過ぎる予言に、彼は絶叫するが、しかし首を振って我に返るとフリードを睨み付けた。

 

「とにかく、そのプロモーターとかいうのに会わせろ! 俺たちを巻き込んだ礼はたっぷりさせてもらう!」

 

「あ~、俺らもあんまり会えないっていうか、たぶん無理だよ? だって俺に殺されるしね!!」

 

 そう吐き捨てながら切りかかるフリードの攻撃を、その少年は結構素早くかわす。

 

 特に武術を習っているような動きじゃないが、反応が早い。スペック頼りとも思えないし、瞬発力重視のスポーツか何かか?

 

「だったらあんたをぶっ飛ばして、その後そのプロモータを探させてもらう! ここから先は―」

 

 と、その少年の腕から雷撃がほとばしる。

 

 ・・・なんだあれは、手加減しているのが見え見えなのに、すでに下手な神器の禁手クラスだぞ!?

 

「俺の戦争(ケンカ)だ!!」

 

 そして光の剣とぶつかり合い、力任せに粉砕しやがった。

 

「うっひょお素敵な強さだねぇ! ならこれならどうだい?」

 

 フリードは飛び退りながら拳銃をぶっ放すが、それが少年に届くことはない。

 

 俺が割って入るよりも早く動いた黒髪の少女姫柊ちゃんが、それをすべて槍で弾き飛ばしたからだ。

 

「いいえ先輩、私達の聖戦(ケンカ)です!」

 

 おお、なんか決め台詞になりそうなセリフだな。

 

 だが―

 

「いやいや、もとをただせばこっちの不適際だ。・・・これは俺たちの聖杯戦争(ケンカ)だよ」

 

 俺としても、このまま見ているわけにはいかないな。

 

「さあ、聖杯戦争を始めよう。・・・フリード、話を聞かせてもらうからな?」

 

 ああ、これ以上余計なもめ事を続けるわけにはいかないんでな!

 

「ほう? なら我々も喧嘩に混ぜてもらおうか」

 

 その時、後ろから声が響いた。

 

 その声と共に放たれた殺気を感じた瞬間、俺は目の前の二人の服を掴むとそのまま飛び退る。

 

 その直後、巨体の一撃が森の一角を粉砕した。

 

「今度はなんだ!?」

 

「先輩、お礼を言うのが先です!」

 

「そういうのは後でいいから! オイそこの元幼女たち、新手が来たから警戒しろ!!」

 

 ええい、やはり乱戦になりそうな予感じゃねえか!

 

 そして、そこに現れたのは二メートル以上の巨漢の悪魔。

 

 サイラオーグ・バアルの眷属と似通っているな。ということは―

 

「バラム家の悪魔か! 何のつもりだ!」

 

「知れたこと、我もまた聖杯戦争に参加しているのだよ」

 

 そういう男の顔は、冷静に考えるとどこかで見たような気がする。

 

 ああ、確か現政権の悪魔だったな。なんでここに?

 

「現政権の悪魔がなぜ聖杯戦争に参加する! 政府は聖杯戦争は禁止の方向で動いているぞ!」

 

 そう、聖杯戦争はこれから禁止の方向に各勢力の合議で決定している。

 

 理由は単純明快。世界の覇権に興味のある連中が聖杯を持てば、どんな混乱が起こるか目に見えているからだ。

 

 もともと聖杯戦争は、基本的に求道に向いており探究者の魔術師(メイガス)の争いであったから世界に対する影響は少なかった。万が一に備えての裁定者(ルーラー)のサーヴァントも存在していたからだ。

 

 だが、よりにもよってテロリストである禍の団に聖杯戦争の存在を知られたのは致命的だ。

 

 フィフス無き今、願望機としての性能はそこまで大きなものにはならないだろう。サーヴァントだって七騎も用意できるわけがない。想定して呪いに換算しても一地方を一定期間呪うのが限界のはずだ。

 

 だが、其れでも一勢力を地獄に塗り替える程度ならやりようによっては十分できる。

 

 だから、当然国際法で禁止条約を盛り込む予定だし、聖杯の波長を察知するためのシステムも開発中だ。

 

 それを現政権が使うとは、いったい何を考えている?

 

 そして、それをバラムは激高しながら説明する!

 

「ふざけるなよまがい物風情が! 欲望を節制する天界との和平など、断じて認めん!」

 

 そういって豪快に腕を振るって周囲をなぎ倒しながら、バラムは吠える。

 

「最後に勝利を掴む為の苦渋の停戦を、あの腑抜けの魔王共は台無しにしおって! その上、王の駒という切り札すら生産を停止するなど、もう愛想が尽きたわ!!」

 

 ちぃ! 王の駒の件は禍根が多かったが、こいつもその口か!

 

 現政権にも戦争肯定派はいることぐらいわかっていたが、ここでやり合う羽目になるとはな!

 

「だから、聖杯によって同士の数だけの王の駒を作り出すのだ! それをもって天使と堕天使を力で支配してくれる! 今の混沌状態なら不可能ではないだろうよ!!」

 

 そのままタックルをぶちかましてくるのを交わしながら、俺は心底腹を立てた。

 

 世界が滅びる危険性すら莫大な状況下に、もう面倒な真似を!

 

 やりたいやつだけで集まって勝手に殺し合ってくれないかねえ!

 

「なんかこっちの側が本当にごめん! たぶんプロモーターもこっちの世界の出身者だろうし、始末できなくて本当にごめん!」

 

「だ、大丈夫ですか!? それに、たぶんあなたのせいじゃないと思いますよ?」

 

 ヴィヴィオちゃんだっけ? 優しいなぁ、君は。

 

 幼女じゃなければ惚れてしまいそうだ。俺、ロリもカバーしてるけど。

 

 と、ハイディちゃんが奴の攻撃をかいくぐって一撃を叩き込む。

 

 火力は足りないが、先に一撃を喰らったことでバラムが動揺する。

 

 そこに、続けざまに連続攻撃が叩き込まれた。

 

「ちぃっ! 人間風情がバラム家の我によくも!」

 

 反撃を叩き込もうとするが、ハイディは素早く回避した。

 

「危ないことするなぁハイディちゃん。そいつ馬鹿力が特色の家系だから接近戦は避けた方がいいぞ?」

 

「そういうわけにはいきません。覇王流の継承者として、接近戦で逃げるわけにはいきませんので」

 

 なかなか決意のこもった子だけど、この子まだ幼女っぽいぞ?

 

 何やら大変なことになっているようで、大変だな?

 

「そうです! それに、戦争を起こすなんて絶対ダメです」

 

 そして続けざまに、ヴィヴィオちゃんが接近する。

 

 これまた豪快に振るわれる攻撃をかわして、的確にカウンターを叩き込んだ。

 

 威力が足りないので決定打にはならないが、あの子カウンターが上手いな。

 

 っと、そんなことを言っている場合じゃない。

 

「幼女に前衛張らせるわけにもいかないなっと!!」

 

 素早く斧二刀流に切り替えると、俺も接近戦に介入する。

 

 とはいえ、これは流石にきついな。

 

 怪力無双のバラム家。それも大戦経験者なだけあって決定打だけは避けている。

 

 何とか隙を見せればいいんだが・・・。

 

「埒が明かん! ならば英霊の力で決着をつけよう!」

 

 と、先に業を煮やしたのはバラムの方だ。

 

 色が黒くなり、金色の紋様が体に浮かぶ。同時に両手にまたすごいデザインの斧を持った。

 

「これが、私が憑依させる英霊、ダレイオス三世! この力を前に粉砕されるがいい!!」

 

 そして、動きが大きく変わる。

 

 英霊の力を憑依させたのか、身体能力が大幅に向上したようだ。

 

「二人とも下がれ! さっきとは次元が違うぞ!!」

 

 俺は素早く二人を下がらせると、イーヴィルバレトを展開して牽制の射撃を放つ。

 

 が、糞頑丈なので決定打にならない。

 

「甘い! 我には眷属も宝具も残っているぞ!!」

 

 そういうなり、空から悪魔の軍勢が現れ、さらに地には骸骨の兵士たちが発生する。

 

 さらには骸骨たちは集まっていき、巨大な戦象に変化した。

 

「叩き潰せ、不死の一万騎兵(アタトナイ・テン・サウザンド)! そして行け、我が眷属よ!」

 

 うぉおおおおおお! 弱体化した俺じゃあ、さすがに一眷属フルメンバーは荷が重いな。しかも敵のリーダーはサーヴァントの憑依させているだなんてさらに難易度が高い。

 

 これは、覚悟した方がいいか?

 

「・・・おい、オッサン」

 

 だが、俺も翻弄されていてよく分かっていなかった。

 

 今この場における最強は、後ろにいる男だってことを。

 

「子供相手に暴れて、いい気になってんじゃねえぞ・・・」

 

 ・・・なんつー魔力だ。これ、最上級悪魔どころか魔王クラスはあるぞ。

 

焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)の血脈を継し者、暁古城が汝の枷を解き放つ・・・」

 

 そりゃもう、全員が思わず止まって息をのむほどの雷光が、そして物理的に形を成して具現化する。

 

「来やがれ、五番目の眷獣! 獅子の黄金(レグルス・アウルム)

 

 そこに現れたのは、骨の戦象に匹敵する魔力の密度を持った雷の獅子。

 

 そのまま骸骨兵をなぎ倒して象と正面からぶつかり合う!!

 

 おお、互角だ!!

 

「なんと! A+ランクの対軍宝具と渡り合うか!?」

 

 バラムもこの状況には驚いているようだ。

 

 ああ、俺も心底驚いているよ。

 

 この出力、冗談抜きでシャレにならない。

 

「えっと、暁古城とか名乗ってたっけ? あれ、何?」

 

 それに答えたのは、姫柊ちゃんだった。

 

「私たちの世界では、吸血鬼という魔族が最強とされています。特に神々の呪いを受けて不死となった真祖は、一人で一国の軍隊に匹敵するとまで言われるほどです」

 

 油断なく槍を構えながら、その少女は割とすごい事実を告げる。

 

「暁先輩は、その真祖の一人である第四真祖。そして、あれこそが吸血鬼を最強の魔族とする最大の要因、眷獣です」

 

 な、なんつー存在だ。

 

 例えていうなら独立具現型の禁手といったところだが、出力は神滅具クラスだぞ!?

 

「因みに、第四真祖は12の眷獣を従えると聞いています。・・・先輩はまだ獅子の黄金しか使えていませんが」

 

 いや、何かがおかしい。

 

 だが、悪魔たちも戦いを潜り抜けてきた存在。すぐに冷静さを取り戻すと、魔力砲撃を放とうとする。

 

「ヤベ、全員気をつけろ! 砲撃来るぞ!!」

 

「大丈夫です。それは私が何とかします!」

 

 そういうなり、少女は槍を構えて前に飛び出す。

 

「獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る」

 

 即座に解析してみれば、その槍はシャレにならない神秘を秘めていた。

 

「破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威を持ちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」

 

 サーヴァントの宝具にも匹敵する神秘だ、アレ!

 

 そして、その槍は悪魔たちの魔力をいとも簡単にかき消した。

 

 おいおい、上級悪魔クラスも割といるのに、あっさりとかき消したな。宝具クラスとはいえ、こりゃまたすごい。

 

「・・・なんだこいつらは! ええい、もう一度撃て!!」

 

「「「「「は、はい!!」」」」」

 

 なおも反撃を試みようとする悪魔だったが、その時、すごい勢いでプラズマが放出されて薙ぎ払った。

 

「・・・今度はなんだ!?」

 

 絶叫するバラムの視線の先、そこには一人の少女の姿があった。

 

 藍色の髪を伸ばした少女。彼女の後ろには、八首の蛇がそこにいた。

 

「はいはーい! 悪いけどそこまでだからねっ! 須澄くんお願いっ」

 

「わかってる、わかってるけど、いきなりひどいねこれは!」

 

 そういいながら駆け出すのは、金髪の小さな少年。

 

 あの髪、染めてるな。いや、そんなことは問題ではない。

 

 問題なのは、持っている槍だ。

 

 な、な、なんで―。

 

「なんで、こんなところに黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)が!?」

 

 間違いない。あれは黄昏の聖槍! 曹操が持っていた神滅具!

 

 おかしい。確かあれは曹操に返却されたはずだ! 曹操の奴をあの少年が殺したってのか!?

 

 いや、そもそもあの少年は!? 須澄!?

 

「貫け、貫き通せ聖槍!」

 

 俺の驚愕をよそに、聖槍は戦象を真正面から貫いた。

 

「そ、そんな馬鹿な!? 不死の一万騎兵を倒したのはともかく、なぜここに黄昏の聖槍があるのだ!? あの曹操が倒されたなど、ここ一年間一度も聞いてないぞ!?」

 

 かなり狼狽しているバラムだが、この隙を逃すわけにはいかない。

 

 俺も結構動揺しているが、これは間違いなく最大のチャンスだ。

 

 下手に長引かせるつもりもない、速攻でカタをつける!

 

「・・・冥府へ誘う(ハーイデース)―」

 

 懐にもぐりこみ、躊躇することなく―

 

「ッ!? しま―」

 

「―死の一撃(ストライク)!」

 

 大技を一気に叩き込む!!

 

 何かが砕ける音がすると同時に、バラムの姿が元に戻り、そして、そのまま空高くにふっとばされる。

 

 よし! とりあえずこれで第一関門突破!

 




ヴィヴィオたちはDSAA参加前、古城たちは聖者の右腕編のラストバトルの最中に転移してきています。そのため戦闘能力はまだまだ。相手がそこそこ程度だから何とかなりました。

フリードも魔改造されて強くなってますが、禍の団は幹部連中は軒並み死亡or捕縛です。今回出てきたバラル家の悪魔も、英霊抜きなら平均的な上級悪魔相当です

ぶっちゃけいえば本編最終決戦よりデフレしてます。兵夜も偽聖剣がないわ後遺症で弱ってるは大きく弱体化してますし。









そんな中、オリジナルキャラクターが聖槍を保有するという異例の事態。

これにはもちろん種があります。ですがまだまだ驚きの事態は連続しますよ?


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状況、確認します!

今回は状況把握の説明会です。


 

 宮白兵夜の一撃が、バラムを蹴り飛ばし決着をつける。

 

 兵夜はそのまま残心すらせず、地面に落ちたネックレスの欠片を拾う。

 

 即座に解析をすれば、それこそが英霊召喚のための礼装であることが判別できた。

 

「・・・どうやら、これでバラムは敗退のようだな」

 

 そう告げると、兵夜は残っている悪魔を睨みつける。

 

「これ以上の戦闘は無意味だ。こっちも状況が呑み込めてないんで、今逃げるなら追いはしない」

 

 兵夜個人としてはここで全滅させるなり捕縛させるなりするべき事態。だが、状況がそれを許さない。

 

 全く状況が掴めていないこの状況下で、そこまでする余裕は少ない。弱体化している今の状況で無理にそれを強行すれば、逆に死ぬ可能性もあった。

 

 だからこその妥協案だが、しかし主を叩きのめされて激昂している悪魔達は、それでもなお反撃しようとし―

 

「―そこまでにしなさい」

 

 兵夜と自分達を分けるように放たれた焔で動きを止める。

 

「これ以上の狼藉は、ポイニクスの名において見逃しはしないわ。・・・反撃の機会がほしいのなら、ここは引きなさい」

 

 シルシ・ポイニクスがエストックを翳しながら、炎に照らされて恫喝する。

 

 ・・・その不意打ちに冷静さを取り戻したのか、悪魔達は距離を取り始めた。

 

「引くぞ! 主を回収してここから避難する!」

 

「「「「は、はいっ!」」」」

 

 副官らしき悪魔の指示に従い、悪魔達がすぐに離脱を開始した。

 

 それを横目で見ながら、兵夜はすぐにフリードの姿を探す。

 

 ・・・だが、発見できない。

 

 どうやら、バラムの者達が来た時点でややこしいことになると感じて離脱をしたらしい。即座に切り替えて離脱をするのは的確かつ素早い判断と評価するべきか、逃げ足が速いだけと酷評するべきか。

 

「どっちにしろ、厄介な奴が関わっているな。・・・あの白髪神父め、どさくさ紛れに死んでいればよかったものの」

 

 ため息をつきながら、手助けをしてくれた者達に頭を下げる。

 

「今回は、俺達の世界の連中が迷惑をかけた。まあ、基本的に敵なんだが、其れでも一応詫びておく」

 

「いえ、どうやら彼らは犯罪組織のもののようですし、動きを見る限り貴方は治安維持組織の方なのでしょう? むしろ助けていただいたお礼を言わないと」

 

 黒髪の少女がそう言ってくれるのは慰めだが、そういうわけにもいかない。

 

「いや、肝心の政府側の連中もがっつり関わっている。外様でまがい物で成り上がりの貴族とはいえ、同政権の出身としては詫びるしかないよ」

 

 自分達の世界のうちで解決するべき問題を、よりにもよって他の世界の人間に深入りさせたのだ。

 

 これは間違いなく不手際だ。ましてや、フリードの話が本当ならば彼女達は意図的に巻き込まれたことになる。

 

 彼らをいまだ排除もしくは捕縛できていないのは、間違いなく体制側の落ち度。それに対する謝罪は必要だった。

 

 だが、それにしてもこの世界に関してはイレギュラーが多すぎる。

 

 この場にいる者の殆どが、この世界についての何もかもを知らない。知っているとするならば―。

 

「・・・えっと、シルシ。そこの二人は?」

 

「ええ、この世界の住人で、聖杯戦争の参加者らしいわね」

 

 シルシも少し警戒しながら、聖槍の少年と英霊の少女を見る。

 

 聖杯戦争という状況下で、見ず知らずの人を助けてくれたのだから善性だとは思うが、しかし情報があまりにも足りない。

 

 そして、それ以上に気にするべきところもある。

 

「・・・そっちのお嬢さん? あんた、英霊と人間の複合体だな?」

 

「あ、わかります?」

 

 と、まったく隠しもせずに少女は肯定する。

 

 兵夜は嘆息すると、その額を軽く小突く。

 

「あまり即答しないように。まともな魔術師(メイガス)ならよからぬことを考える。・・・デミ・サーヴァントなんて理論上の産物なんだからな」

 

 それは、疑似サーヴァントでもなければ幻想兵装(ファンタズム・アーミー)でもない。

 

 一部を憑依させてるのでも装備として運用しているのでもなく、魂と肉体が英霊と融合している。サーヴァントの召喚そのものが非常に高難易度で実現が難しいことを考えれば、あと数千年かかっても実証できるかわからない超高難易度技術。正真正銘机上の空論。

 

 そんな奇跡の塊であることを、兵夜が偽眼によって把握していた。

 

「そこの少年がマスターなんだろうが、もう少し警戒した方がいいだろう。・・・それとも、イレギュラーでマスタになった素質持ちなだけか?」

 

「・・・十歳から、十歳になる頃にこっちに来たんで、そっちの勉強が足りてないんだよ。あと僕はこれでも23だから」

 

 さらりととんでもない事実を言いながら、少年はしかし辺りを警戒する。

 

「できれば、できることなら離れたいんだけど? 戦闘に気が付いて他の参加者が出てきかねないしね」

 

 それは、確かに警戒するべき内容だろう。

 

 戦闘が終わって弱った陣営を、他の陣営が強襲する。混戦状態ならよくあることだ。

 

 戦争という状況では、その程度の汚い戦術は許容される。むしろこのチャンスを逃す方が酔狂物。それが聖杯戦争というものだった。

 

「シルシ、飛行艇は?」

 

「着地の際のミスで損傷中。元々あれ、二人乗りよ?」

 

 それもそうだと納得して、兵夜は即座にスイッチを取り出すとそれを押す。

 

「よし、自爆装置は起動した。とりあえず離脱は車を使うか」

 

 と言いながら、兵夜が偽腕の機能で車を転送する。

 

 何もないところからいきなり大型車両が現れて、シルシ以外の全員が目を大きくする中、兵夜はドアを開けると笑いながら一礼した。

 

 幸い、先ほどの戦闘で大きな通り道もできている。車で移動する分には何の問題もない。

 

「とりあえず、温め可能なレーションもある。・・・話は移動中にゆっくり聞こうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転生者の知識を知っている者にとって、一つの常識がある。

 

 地球。その名前を冠す星に住み、日本という様々な国家を持つ。そんな平行世界とも異世界ともいえるべき世界は、間違いなく無数に存在する。

 

 これは、転生者のいた世界の多くが様々な違いや異能の前提条件の違いこそあれど、その多くが近しい文化体系を持っていることから明らかになっている事実だ。ごく一部の例外を除き、地球と日本というキーワードと、表向きの20世紀までの歴史は驚くほどに通っている。

 

 そして、暁古城と姫柊雪菜のいる世界は、そんな世界の一つだ。

 

 性質としては、ベル・アームストロングを送り出した超能力《エスパー》のいる世界が一番近い。その地球では異能の存在が公然と公表され、国家の種類も他とは異なっている。

 

 しかし、同時にそれは今転生者達が来訪した世界―過程としてD×Dと呼称する―とも大きく似通っている。

 

 吸血鬼、獣人、悪魔。そのような存在が存在し、彼らが大きな勢力を築いている世界だ。

 

 その世界において、最強の魔族とされているのは吸血鬼だ。

 

 無限の負の生命力を持ち、それを贄として捧げることで異界より眷獣と呼ばれる強大な使い魔を召喚して操る。その強大な力により、吸血鬼たちは夜の帝国と呼ばれる世界大国を作り上げた。

 

 そして、その世界には一つの伝承がある。

 

 神々の技術によって不死となった、吸血鬼の元祖である真祖は三人。その一人一人が例外なく世界でも最大級の強者であり、一国の軍隊にも匹敵する戦闘能力を発揮する。

 

 そして、その真祖には四番目が存在する。そしてその真祖こそが最強の吸血鬼である。

 

 十二体の眷獣を保有する、世界最強の吸血鬼。その名を第四真祖、焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)

 

 なぜかそれに半年ほど前からなってしまった奇妙な運命を持つ男、暁古城は、政府機関から監視役を派遣されることとなる。

 

 その機関の名を獅子王機関。そして派遣された監視役の名を、姫柊雪菜という。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界には、そんな世界だけでなくいくつもの次元世界と呼ばれる異世界が存在する。

 

 そのうちの一つにおいて、百年ほど前に大きな戦乱が勃発した。

 

 次元世界の存在が明らかとなったことで、強大な力を持ていたベルカ王国という国家。次元世界にまで進出して発生していった戦乱。ベルカそのものが崩壊しても、その後は覇権を争い戦国時代が巻き起こるという悪循環があった。

 

 その後、魔導技術の発展によって台頭してきたミッドチルダという世界を中心として、次元世界の平和及び安寧のために、時空管理局という組織を設立する。

 

 そして、時空管理局はD×Dを第97管理外世界として認定し、極力接触を行わない方針で動いていた。

 

 時空管理局は基本的に、管理世界での活動を主軸として行っている。

 

 管理世界の条件とは三つ。次元を移動する技術があること。ほかの世界の存在を知ること。そして管理局に所属していること。

 

 地球はこの条件に該当していない。厳密にいえば、次元を移動する技術がないわけではなかったが、軸線がずれているかの如くずれており、管理局はその世界を発見できていない。加えて、グレートレッドという圧倒的な存在をスルーする技術に至っては、D×Dが保有できたのはつい最近のことである。そのうえで存在を表社会から秘匿している彼らの存在を知れなどと、時空管理局に無理を言っているようなものだろう。

 

 お互いに秘匿を行っていたからこそ起きた悲劇ともいえる。そして、これがややこしいことを引き起こしていた。

 

 時空管理局は管理外世界をある程度観察する程度のレベルで動いているが例外がある。

 

 それがロストロギア。過去に滅んだ超高度文明の遺産。極めて発達した技術や魔法のことを指す。

 

 これらの中には危険なものが多く、使い方を誤れば次元震を発生させ、一歩間違えれば次元世界を滅ぼしかねないほどの事態を発生させかねない危険な存在である。

 

 そして、高町ヴィヴィオの養母である高町なのはは、小学三年生のころにこれに関係する二つの事件に巻き込まれた。

 

 それ自体は奇跡的にも大した人的被害がなく解決したが、しかし上記のややこしいめぐり合わせにより、戦争勃発の危機が起きていたことを、時空管理局はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時空管理局とは交流を結んだほうがいいな。・・・一歩間違えたら人類が滅びているところだった」

 

 宮白兵夜は一通りの説明を聞いてから、頭を抱えたい衝動にかられた。

 

 不幸なことに車の運転中である為、そんなことが全くできないのが地獄である。

 

「あ、あの・・・。ママ達が本当にごめんなさい」

 

「ああ、ヴィヴィ・・・でいいかな? 君が謝ることじゃないから、人間世界に秘匿して冷戦状態だった三大勢力にも非があるから」

 

 幼女であるヴィヴィオに謝られても、それを攻めることなどできはしない。

 

 もとより、時空管理局の管理外世界に対する方針と、異形社会の今までの方針は似通っている。向こうは向こうで多くの世界の危機を救うために行動していたのだから、責めるいわれもない。

 

「それにしても、それだけの大規模宗教の存在が認識されていながら、信仰存在が姿を表向きに表してないというのも意外な話ですね」

 

 雪菜はそう疑念を浮かべるが、それに関しても認識の違いだろう。

 

「人間に異形の知識を与えると暴走を招きかねない。まあ、傲慢っちゃあ傲慢な意見だが、実際それが俺達の地球の混乱の原因でもあるから、的外れでもないのが色々と複雑というかなんというか」

 

 実際に、異能力を得た人間の暴走で引き起こされた事件は一年間で数多い。

 

 そういう意味では、うかつに広めようとしなかった異形社会の判断は間違っていないだろう。情報化社会になったことで情報の拡散も広がっているため、小出しにするのにも限度がある。

 

 それを、フィフス一派がぶち壊した為、次善の策として全てぶちまけるという離れ業をする予定になっているのだが。

 

「できれば、モデルケースとしてそっちの地球の情報も欲しいけど、それはまあ後の話にするか」

 

 兵夜個人としては、できればそちらの話をし続けたいが、しかしそういうわけにもいかなかった。

 

 それ以上に気になるいくつもの事情を、今のうちに把握しておかねばならない。

 

 そして、視線はバックミラーに映る一人の少年に映る。

 

「須澄くん。悪いが、詳しい事情を話してもらうぞ」

 



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流転する聖槍の伝承

 

「それで、それでどこから話せばいいの?」

 

 須澄は、特に異論なく頷いた。

 

 もとより、話したくないことはあれど必要な事話すつもりだった。だからそれは問題ない。

 

「最初に自己紹介しておくと、僕は近平須澄、23歳。元々別の世界の出身だったんだけど、父さんに連れられて参加した魔術儀式の暴走で、この世界に流れ着いたんだ」

 

「それは想像できてる。お前は魔術師(メイガス)なんだろ? ・・・いや、魔術使いか」

 

 兵夜は即座に推測し、話を進める。

 

 もとよりそんなことはある程度想定できている。問題なのは次からだ。

 

「まずは一つ。その聖槍、いったいどこで手に入れた?」

 

「手に入れたのは五年前。詳しい事情はまとめて話すけど、この聖杯戦争を起こした男の起こした事件に巻き込まれてね。・・・僕の、僕の願いに応えてくれたんだよ、こいつが」

 

 そう言いながら、須澄は聖槍を呼び出す。

 

 黄昏を思わせる輝きを放つ槍は、車の中を淡く照らし出した。

 

 そして、兵夜の体が少しくすぶり始める。

 

「・・・ゴメン。俺にとってそれは天敵だから、オーラ抑えてくれると嬉しい」

 

「ごめん、本当にごめん。それは知らなかったよ」

 

 慌ててオーラを抑えてから、須澄は静かに語り出した。

 

「ことの発端は五年前。僕がお世話になってた村が、魔獣に襲撃された時だよ」

 

 そう前置きした須澄の言葉を継いで、トマリが話を進める。

 

「聖杯戦争の首謀者の名前は、エイエヌ。たぶん偽名なんだろうけど、彼はこの世界、ニュークレオンの代表に突然なった男なの」

 

 その言葉に、アインハルトとヴィヴィオが反応する。

 

「ニュークレオンというと、つまりフォード連盟なんですか?」

 

「え!? あのフォード連盟?」

 

 その表情には緊張感があった。

 

 もとよりいきなり空間転移をされたうえで戦闘に巻き込まれたこともあったが、それにしても和らいでいた緊張感がより強くなっている。

 

「えっと、そのフォード連盟? ってのは時空管理局と仲悪いのか?」

 

 暁古城が推測しながらの質問に、アインハルトは頷いた。

 

「フォード連盟は、時空管理局に参加していない次元世界の連盟です。時空管理局は質量兵器を基本的に撤廃する方針で動いているんですが、フォード連盟は魔導士の素質がない者でも使える質量兵器を主力とする方針で動いてまして、その所為で折り合いが悪いんです」

 

「そのとおりっ。なんだけど、ピラミッド構造の所為で下の世界とかは扱い悪いんだよねぇ。ここはその所為でスラムが多いの」

 

 と、内容に反比例した軽い口調で説明するトマリ。

 

 その表情は、大切な過去を思い返すように楽しそうだった。

 

「私も須澄くんと一緒で事故で転移に巻き込まれた口なんだけどね? そんな貧乏な街でも、結構楽しかったなぁ」

 

「そうだよね。街の人達、悪い人もいたけど良い人も多かったし」

 

 そう笑顔で頷いた須澄だったが、やがて、その表情が暗く沈む。

 

「・・・それが、それがエイエヌの実験で全部台無しになった」

 

「何を、やったんだ?」

 

 話を先に進めなければ始まらない。

 

 そう判断し、兵夜はあえてその先を促す。

 

 須澄もそれは分かっているのか、すぐに頷いた。

 

「彼が、彼がやったことは至極単純。魔術的な悪意の覚醒だよ」

 

 その言葉で、兵夜は何があったのかを即座に判断した。

 

 確かにそれは魔術師(メイガス)の分野だろう。そして、神器の分野でもある。

 

「魔術で深層心理を刺激し、当人が無意識的に逸らしていた悪性を強制的に自覚させる・・・といったところか」

 

「そうなの。・・・あれは結構きつかったよ。・・・大半の村人達は、それで心を壊したり狂乱して歯向かったりして―」

 

「いいわ、そこから先は言わなくても想像ができるから」

 

 トマリの説明を、シルシが遮る。

 

 ああ、確かにこれは凄惨な実験だろう。

 

 やれば成果は確実に出る。だが、同時にやってはいけない領域だ。

 

 聖杯戦争のプロモーターというだけで想像はできていた。そして今確信した。

 

 そのエイエヌとかいうプロモーターは、間違いなく魔術師(メイガス)だ。

 

 特有の倫理観の緩さ。神秘の秘匿を考慮しないで済むがゆえに、狂気的な実験欲。何より精神に深く干渉する技術。その全てが彼の正体を兵夜に理解させた。

 

 そして、その事実に沈黙する中須澄が告げる。

 

「あいつは、あいつはそれを目の前で見ていた。・・・心の底から憎悪に身を焦がす感覚を、僕は初めて分かったよ」

 

 そして、彼は心の底から願った。

 

 許せない。だからあるなら応えてくれ。

 

 誰でもいい、何でもいい。奴に復讐する為の力をと。

 

「そして、現れたのがこの槍だよ。悪いんだけど、それ以上は僕もよくわからない」

 

「・・・そうか。まあ、神滅具が一種類につき一つしかないのはあくまで慣例だからな。もう一つある可能性はあるが」

 

 兵夜はそういうことにしておくことにした。

 

 黄昏の聖槍に限って言えば、神の子を貫いた槍を母胎としている以上その可能性はあり得ないはずだが、それはあえて置いておく。

 

 冷静になれば一つの可能性を兵夜は想定できていたが、しかし今は話さない。

 

 少なくとも、それは今話す話ではない。

 

 それにデッドコピーが存在する可能性は十分にある。それが須澄の聖槍である可能性は大きいだろう。

 

 そして、問題はそこだけではない。

 

「続いて質問。聖槍については後でいいが、そもそもなんでトマリ・・・さんはデミ・サーヴァントに?」

 

「あ、トマリでいいよ? ・・・まあ、私も似たようなものかなっ」

 

 そう軽く答えながら、トマリは自分の手を見つめる。

 

「私もね、願ったの。・・・許せない相手と戦える力が欲しいって。それとね?」

 

「それと?」

 

 兵夜が聞き返すと、トマリは苦笑を浮かべながら外を見る。

 

「ニュークレオンでの聖杯戦争はこれが二度目。私達は一度目からの続投組」

 

 本格的な聖杯戦争は二度目が本命だったらしく、一度目は実験的要素が強かったらしい。

 

 規模も質も今回の聖杯戦争とは比べ物にならないほど弱く、しかし確かに英霊の力を召喚することはできた。

 

「たぶん、それが原因だね。だから私の詳しいことはわからないんだけど・・・」

 

「OKだ。知りたい情報は大体聞けた。・・・辛いことを聞いて悪かったな」

 

 必要な情報を聞き出す必要はあったが、しかしそれにしても深く暗い事情を聴き出してしまった。

 

 だからそれについては謝り、そして兵夜は次を考える。

 

「とりあえず、俺は聖杯戦争に関わらせてもらう。・・・あれはテロリストには過ぎたおもちゃだ」

 

 そう、どちらに転んでもそれだけは変わらない。

 

 冬木式の聖杯は願望機として機能する。それは、聖杯戦争に優勝し、聖杯で願いを叶えた兵夜だからこそ断言できる。

 

「規模がどれぐらいかはともかくとして、禍の団の残党に聖杯が渡ったら性質の悪いことになるのは確定だ。奴らに聖杯が渡ることだけは阻止しないといけない」

 

「えっと・・・どれぐらいなんですか?」

 

 と、ヴィヴィオが兵夜の言葉に疑念を浮かべる。

 

 確かにその疑問はもっともだ。

 

 願いが叶う願望機。・・・などと言われても、すぐには発想が追い付かない。そもそも信じられる方が少数派だろう。

 

 この場にいる者達は全員が異能関係者ともいえるが、それでも願いが叶う願望機というのは不自然だ。

 

「因みに、因みになんだけどエイエヌは聖杯に細工してたらしくて、素直に復讐を願ったら不発になったから僕もよくわからない」

 

 さらりと自分が優勝したことを告げる須澄に苦笑しながら、兵夜は告げる。

 

「戦略核兵器数発分はいける。エネルギーとしては」

 

「核兵器!? 冗談だろ!?」

 

 古城が大声を上げるが、実際それぐらいは普通にできる。

 

「あくまで単純物理火力に変換したらの話だ。聖杯の最大の脅威はそのエネルギーに方向性を与えることで、おおよそ自由にそれを使えるということにある」

 

「というと、それらを指向性のある呪いにすることもできるんですか?」

 

 どうにもこういった方面の専門知識があるのか、雪菜が一番危険性を理解しているようだ。

 

 だが、それでも聖杯の危険性を完全に理解できているわけではない。

 

「確か、兵夜さんの場合はもらった土地を冥界でも五指に入る霊地にしていたわね」

 

「ああ、あれだけの霊地は冥界でもそうはないだろう。・・・一生あれだけで食っていけそうなレベルだ」

 

 うんうんと思い返しながら、兵夜はそれゆえに頭を抱えたくなる。

 

「そういうわけで大変なんだよ須澄くん。・・・あれ、時空管理局のトップを全員フォード連盟のために命を捨てることすら惜しまない従僕に変えろと言われたら実行しかねない」

 

 それは、間違いなく冗談抜きの理論だった推測である。

 

 距離の概念が非常に開いている為その程度が限界だろうが、しかしそれだけでも極めて凶悪な状況である。

 

「それは、それはまずいね。・・・質量兵器云々はともかく、フォード連盟が覇権を握るのは駄目だよ。絶対に駄目だ」

 

「俺も同感だ。・・・少なくとも冥界にとっては毒になる」

 

 須澄と兵夜は同意の姿勢を見せる。

 

 そして、それは同盟を結ぶのに十分すぎる。

 

「聖杯に興味がないなら、ぜひ協力してくれないか? 使った俺がいうのもあれだが、あれは世界に無用の混乱を起こしかねない」

 

「・・・エイエヌを、エイエヌを時空管理局に引き渡す、とかも追加でしてくれると嬉しいけどね」

 

 須澄はそう冗談交じりの感情をこめて告げる。

 

 兵夜達は聖杯戦争で禍の団残党が獲得するのを阻止したい。須澄達はエイエヌに対して意趣返しをしたい。

 

 この時点で、二人の間には間違いなく同盟が結べる状況になった。

 

「まあ、ポイニクス家としても今の冥界に余計な混乱が起きかねないことは避けたいわね」

 

「私は須澄くんについていくよっ」

 

 と、女性人二人も異論はない。

 

 それを見て、二人は同時に笑い合った。

 

「運転中なので左腕で失礼」

 

「大丈夫。じゃあ、ちょっと手伝ってくれると嬉しいかな」

 

 ここに、異世界における聖杯戦争最大のダークホースが誕生した。

 



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通信、繋がりました。

 

「・・・で、問題はそこの二組じゃないかしら?」

 

 と、シルシは話を戻しながら、段ボール箱を開ける。

 

 そこには潜入活動などの為に用意していた戦闘糧食(レーション)の群れがあった。

 

「とりあえず、まあ食べながら話しましょうか」

 

「あ、おなかすいてたんだっ。いただきまーす!」

 

 と、何の警戒もなく躊躇なくトマリがレーションをとって食べ始める。

 

 それに引っ張られるように、全員がレーションを手に取って食べ始めた。

 

「巻き込まれただけのヴィヴィオちゃんや古城くん達は、できれば早めに返してあげるべきね。・・・はいあーん」

 

「シルシ? 今の段階なら片手は使えるからそれいらない」

 

 と、躊躇なく食べさせようとするシルシに兵夜は牽制球を投げるが、シルシは有無を言わせず口元まで持っていく。

 

「あら、こんな美人に食べさせられる機会なんて不意にしちゃ駄目よ? はいあーん」

 

「・・・あーん」

 

 押しに負ける形で、兵夜は素直にレーションを食べる。

 

 だが、これは非常にまずいかもしれない。具体的にはこのままなし崩し的に結婚という流れになるという意味で。

 

 兵夜は、これをゼクラム・バアルによるあえて明言しない政略結婚だと推測している。そしてシルシ当人もそのつもりである。加えてシルシは兵夜の行動が間接的に彼女を救ったことから好意を抱いているようだ。

 

 これは、非常にまずい。

 

「あの、ポイニクスさんと宮白さんは付き合っているのですか?」

 

「違います! 俺は彼女います! 不倫する気もないです!!」

 

 雪菜が勝手に誤解する前に速攻で否定するが、しかしシルシも負けてはいない。

 

「あら、冥界は一夫多妻OKでしょう? あなただって四人も恋人いるじゃない」

 

「ギャアアアアアアアアアア!? それややこしいことになるからばらすなぁあああああああ!!」

 

 一応言っておくが、D×Dでも人間世界は一夫多妻制は少ない方である。ないわけではないが先進国では基本一夫一妻である。冥界では普通に一夫多妻が認められているが、一人の妻だけを愛する者も普通にいる。

 

 だが、雪菜や古城のいる世界でそれがどうなのかはまだ分からない。ややこしいことになるかもしれない。

 

「え、え、えええええ!?」

 

「・・・マジかオイ。女みたいな顔してやることやってんだな」

 

「一応言っとくけど純愛だからな!? 俺は政略結婚にも理解はあるけど、既に恋人いる以上不純は避けたいからね! 亡き相棒が不倫は怒るだろうしね!!」

 

 顔を真っ赤にするヴィヴィオと古城に、大声でそう前置きする。

 

 実際に彼女達とは愛を育んでいる。その点においてとやかく文句を言われる筋合いはない。合法でもあるのだから尚更だ。

 

「ま、まあ・・・。なんか俺を頂点としたハーレムというよりかは既に四角錐とかそんな感じになっている節もあるが、それでも貴族が配偶者を複数持つなんて珍しくもないんだから、とやかく言われる筋合いはないぞ」

 

「ま、まあそうですね。私達の世界でも一夫多妻を認めている文化はいくつもありますし」

 

「顔が赤いわよ雪菜ちゃん? ・・・まあ、私も妾の子だし、冥界暮らしが長いから理解はあるの。・・・そこでどう? ポイニクス家と縁を結ぶ気はないかしら?」

 

 と、雪菜をからかいながら話をそちら側にもっていこうとするのがシルシクオリティ。

 

 割と凄い恋愛事情に、その場の殆どが程度はともかく顔を赤くしている。

 

「・・・べ、ベルカの王国でもそういう国がなかったわけではありません。覇王(わたし)として知識ぐらいは・・・」

 

「うっわぁっ! うっわぁっ! うっわぁっ!」

 

「・・・なんで、なんで僕の方を見るのトマリ!?」

 

 割と色々と混乱状態。間違いなく車の中はピンク色になっている。

 

「ちょっと待て! 話が変な方向に行ってないか? 高町達や俺らがどうするかの話だろ?」

 

 と、そこで古城がツッコミを入れて話の方向性が戻っていく。

 

「・・・そうだった。とりあえず、そっちがどうするかっていうのが問題だな」

 

 軌道修正に心から感謝しながら、兵夜は話を戻す。

 

「聖杯戦争でエイエヌとかいう主催者が、人狩りをゲームとして組み込んでいる。・・・ここであんた等を解放しても、結局は他の参戦者に襲われる可能性が高い」

 

 巻き込むのは避けたいところだが、巻き込まれるのが確定しているのが古城達の立ち位置だ。

 

 彼らを狩るのを余興として組み込まれている以上、どうあがいても彼らはターゲットとして認定されてしまう。

 

 そして、その被害に巻き込まれるのは古城達だけではない。それに雪菜は気づいていた。

 

「それに、巻き込まれたのが私達だけだと考えるのも危険です。位置的にオイスタッハ神父はもちろん、キーストーンゲートにいた藍羽先輩や警備隊の人達も巻き込まれている可能性があります」

 

「浅葱がか!? おい、あいつスポーツはできるけど別に戦えるわけじゃないぞ!?」

 

「・・・知り合いが巻き込まれている可能性があるの? それは危険ね」

 

 血相を変える古城を気づかわしげに見ながら、シルシは声をかける。

 

「それに、話を聞く限り戦闘中に巻き込まれたんでしょう? その警備員っていう人も被害者がいるのかもしれないわね」

 

「・・・確実にいます。オイスタッハ神父は警備員を正面から突破してキーストーンゲートの最深部まで到達していました。おそらく戦闘ができる状態ではないと思われます」

 

 話を聞けば聞くほど、危険度が大きい状況なのがよく分かる。

 

「ヴィヴィちゃん? そっちはどういう状況で巻き込まれたのかな?」

 

「あ、はい。朝にアインハルトさんと一緒にトレーニングをしてたら巻き込まれまして」

 

「・・・ヴィヴィオさんの学友の、リオさんとコロナさんとも一緒に走る予定でした。・・・二人とも巻き込まれてなければよいのですが」

 

 その説明に、兵夜はため息をついてから状況を考慮する。

 

 これまでの流れと、更に今の状況を考慮。そのうえで最適解は・・・。

 

「OK。じゃあこうしよう」

 

 兵夜は、性格は悪いタイプである。

 

 魔術師らしい倫理観の欠如もあり、特に自分のことには顕著になる。相手は選ぶがえげつない行動も辞さない危険人物で、異形社会に入る前から悪党相手に恐喝などの非合法手段をいとわない。性格がいいと言われるよりかは、イイ性格と言われる人物だ。

 

 だが、同時に人が良い為面倒もよく、こと報酬関係においては厳しく、大抵の業務には報酬を用意する主義でもある。

 

 あったばかりの罪もなく、間違いなく善性と判断するべき人達に対して、それは躊躇なく発揮された。

 

「・・・君達、俺に雇われてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雇う? アンタが、俺達を?」

 

 その言葉に、古城は首を傾げる。

 

 むしろ助けられている側だと彼は思っている。

 

 なにせ、自分達は状況が殆ど掴めてないのだ。その状況を正確に把握しているのは、須澄達の方だろう。そして次点が兵夜達だ。

 

 そんな状況下で一体何をしようというのか。

 

「聖杯戦争を潜り抜けるには、戦力はいくらあってもいい。そして見ず知らずの他人を不用意に助ける余裕は俺達にはない」

 

 と、冷酷なようで実際当然のことを兵夜は告げる。

 

 実際、ここにいる人達は二人一組で別れているが、住んでいる世界すら違う者達だ。

 

 いくら困っているからって、助けに行くのは間違いなくお人好しとかの部類だろう。

 

 だから、このまま別れることになっても文句は言えないわけだが、兵夜は違った。

 

「俺から君達に頼む依頼は、暁達に関しては知り合いの救出と帰還のつてが整うまでの協力。ヴィヴィちゃん達には追加で時空管理局との交流の斡旋。報酬として金持ちの俺は業界における傭兵の相場を払い、お知り合いの救出までの協力を行う」

 

「え、でもそれだと宮白さんが大変じゃぁ・・・」

 

 隣のヴィヴィオが躊躇するが、それは当然だろう。

 

 その条件だと、自分達ばかりが得をするように思える。

 

 なにせ、いきなり行ったこともない異世界に放り出されて、あてもないのは自分達の方だ。

 

 はっきり言えば助ける義理なんてないわけなのだが、兵夜はあっさりという。

 

魔術師(メイガス)も悪魔も合理的な生き物で、等価交換を原則としている。・・・今の状況で優れた戦力を確保できるなら、それ相応の報酬を払うのが筋ってもんだろう?」

 

 そういうと、兵夜は左腕を振るう。

 

 そうすると、四個の小箱がその手の平に現れた。

 

「とりあえずは、まあこれぐらいでどうかな?」

 

 古城達はそれを手に取って恐る恐る開けてみる。

 

 ・・・そこにあったのは、赤く透き通ったルビーだった。しかも大きい。

 

「これ、宝石じゃねえか!? 結構高くねえか?」

 

「大丈夫大丈夫。霊地の利用料や、魔術使った鉱石探知による鉱脈発見の報酬で、成り上がり貴族の俺は金持ってるから! ・・・ちなみにそれは前金だ」

 

 つまり、成功報酬は別にある。

 

「一応言っておくけど、彼はその程度ポンと払える程度のお金持ちよ? 先手必勝で魔術関係で特許取っているから、莫大な財源を確保してるの」

 

「俺の全財産からすれば木っ端程度の金額で、これだけの戦力を手に入れられるなら安い買い物だ。・・・その分サービスもきちんとするぜ? 俺は福利厚生は充実させる主義なんだ」

 

 にやりと自己アピールをしながら、兵夜は更に説明を続けていく。

 

「はっきり言って、増援を見込める可能性は低い。なにせ敵は複数の世界の連合だ。母艦は一隻で通信もいまだに繋がらな―」

 

 その時、突如兵夜の懐が光った。

 

 何事かと構える六人の視線の先、兵夜はふとにやりと笑った。

 

「前言撤回。・・・連絡は繋がったようだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『兄上、シルシ義姉様! ご無事でしたか!?』

 

「そこ、さらりと俺がシルシを娶る方向にするな」

 

 先制でぼける雪侶にツッコミを入れながら、兵夜は連絡ができたことに安心する。

 

 味方と話ができるというだけでも、だいぶ安心感が違う。それが油断に繋がれば終わりだが、余裕に繋がれば有利に事を進められるからだ。

 

『シルシに大将、こっちはとりあえず該当世界に近づいてるが、大丈夫か?』

 

 と、グランソードも通信に参加する。

 

 どうやら、緊急事態ということで母艦ごと世界に接近しているらしい。主の窮地とくれば当然の反応だろう。

 

 が、それに対してアインハルトが声を上げた。

 

「待ってください。つたない次元航行技術では、フォード連盟にすぐ気づかれます。一旦そこで停止してください」

 

『・・・一旦停止! って、嬢ちゃん何者だい?』

 

「ああ、彼女達は・・・というか状況を説明する」

 

 と、兵夜はとりあえず簡単にまとめて状況を二人に説明する。

 

 それを聞いた二人はもちろん、通信が聞こえているであろうブリッジ中がどよめきに包まれたのか声が聞こえてくる。

 

『聖杯戦争がその世界で行われてますの!? それ、緊急事態ではありませんか』

 

『そもそも、禍の団(カオス・ブリゲート)残党がいる時点で、俺らが動くべき案件だな、こりゃ』

 

 状況を把握した二人はすぐに真剣な表情を浮かべる。

 

 禍の団が起こした数々の被害を思い起こせば当然の判断だ。加えて聖杯戦争である以上、状況はあまりに酷いと言ってもいい。

 

『どうしますの? この船の通信設備では、冥界にも各種神話世界にも通信は届きません。・・・今から冥界に行っても、増援の準備も含めれば往復で二週間はかかりますのよ?』

 

 雪侶が困り顔でそう告げる。

 

 なにせ実験段階の船だ。これまでにない超長距離の次元の狭間の移動に、通信設備は全く持って耐えられない。移動するにしても速度に限度が発生する。

 

 ましてや、最大の問題はそれ以外にもある。それを、グランソードが口にした。

 

『ましてやその気になれば複数の世界の連盟を敵に回すわけだ。これ、やばくねえか?』

 

 そう、それが最大の問題だ。

 

 D×Dも地球を中心とした複数の世界の連合で、最低限の足並みは揃っている。だがそれだけだ。

 

 どの世界も必ずしも一枚岩というわけでも無いし、和平がなってから時間があまりに短い。更に言えば、世界規模での混乱が完全に静まったわけではなく、次元渡航技術も未熟。簡単にいえば戦力を大量に遠くに送り込むことは不可能。

 

 そんな状況で、次元渡航技術が圧倒的に上の世界の連盟と戦争を起こすのは愚策以外の何物でもない。

 

 だが、テロリストに聖杯を渡すなどという愚行も難しい。

 

 この状況にどうしたものかと悩みそうになったが、それについては解決策があった。

 

「・・・ヴィヴィちゃん、ハイディ。時空管理局はこの事態に動いてくれるか?」

 

「それについては大丈夫だと思います。・・・管理外世界に関与した以上、時空管理局も流石に干渉しないわけにはいきませんし、警戒の為に付近に艦隊を派遣しているはずです」

 

「その人達を探してくれれば、たぶん協力してくれると思います。あ、私時空管理局の無限書庫の司書資格持ってますから、文書書けますよ?」

 

『おいおい大将、この嬢ちゃん達魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の出身か何かか?』

 

 思った以上にポンポンとスムーズに答えてくれる幼女二人に、グランソードが感心する。

 

 D×Dも若手の実力者は大勢いて、グランソードもその部類ではある。だがそれでも十代後半で、ヴィヴィオ達はそれに比べれば前半もしくはそれ以下だ。

 

「時空管理局は実力主義なんです。私のママや友達も、十歳かその前から嘱託魔導士とかやってましたよ?」

 

魔法世界(ムンドゥス・マギクス)も実力主義で十歳前でも腕次第では傭兵とか無差別級の剣闘士とかになれたと久遠義姉様が仰られてましたが、意外とそちらの方がポピュラーなようですわね』

 

「・・・姫柊だって15で見習いだってのに、凄いな次元世界」

 

 ヴィヴィオの言葉に雪侶と古城が呆れ半分の関心を示す。

 

 あまりそういった文化に馴染みがないものからすれば、時空管理局の実力世界は感心するべきか呆れるべきか。

 

「・・・まあ、俺らの異形業界でも天才クラスは十代前半から実戦参加するし、人のことは言えないだろう。それよりもだ」

 

 と、兵夜は話を戻す。

 

 色々と文化交流をできればそれに越したことはないが、今はそれをやっている時間はない。

 

「そう、そうだよね。聖杯戦争をここからどうするかが大変だよね」

 

 須澄がそこを心配する。

 

 そう、問題はこれが聖杯戦争だということだ。

 

 それも、間違いなく大規模聖杯戦争だ。

 

 フリードが単独で聖杯戦争に参加しているとも思えない。ましてや、上級悪魔が眷属をフルメンバーで引き連れているような規模の戦いだ。

 

 八人もいて、更にはバックアップメンバーとして数百人以上が期待できるとはいえ、それでも難易度が多いのには変わらなかった。

 

「・・・須澄くん。ちょっと大変なことになってきたよ?」

 

 と、そこでトマリがタブレットを片手に声をかける。

 

「・・・エイエヌが、聖杯戦争でお知らせがあるって」

 

 いきなり、状況は緊急事態になっているということが把握できた。

 

「っていうかそんな便利なもんあるなら言ってくれよ」

 

「ごめん、本当にごめん。うっかりしてました」

 

 どうやら、須澄達はうっかり屋さんらしい。先行きが不安である。

 




魔術の基本は等価交換。きちんと報酬を用意する当たり兵夜は人はいいのです。性格は悪いけど。


グランソードたちと通信はつながったが、それでも事態はいろいろ大変。

なにせ、下手に干渉すれば複数の次元世界を敵に回しますからね。明らかに兵夜たちの戦力では対処できない。そして上記の通りいかにD×Dが化け物ぞろいのインフレ世界でも、距離という概念が強敵。

時空管理局との連携が取れないうちは、素直に聖杯戦争のルールにのっとるしかないわけですが、当然向こうも警戒するわけで・・・


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エイエヌ、連絡します!

最後の部分は「銀魂 アイアムショック」をようつべで検索してBGMにしてください。


 

 そのタブレットは、聖杯戦争参加者に配られる物だった。

 

 それは、聖杯戦争を円滑に進める為のアイテム。

 

 その画面には、開催地区での地図機能がついている。これは二十四時間ごとに参加者の位置情報が送られ、これを参考に参加者は戦争を行っていく。

 

 そして、参加者名簿なども書かれている優れものだった。

 

 そして、そのタブレットに特別映像が添付された。

 

「・・・はい、聖杯戦争の参加者はこんにちわ。特別連絡の説明をする、プロモーターのエイエヌだ」

 

 そこに立っているのは仮面の人物。

 

 男か女か区別の付け辛い仮面の人物は、口元に笑みを浮かべて画面の向こう側で言葉を告げる。

 

「前日連絡した特別サプライズは面白かったかな? と言っても、参加者の一人の陣地ともいえるところに集まってたから、結局彼が保護しちゃったみたいだね。残念残念」

 

 と、特に残念がっているようにも見えない調子で告げてから、彼は本題に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、今回説明するのは、そのサプライズがきっかけになったっぽいイレギュラーだ。

 

 サプライズで時空管理局のメイン世界であるミッドチルダから適当に、後こちらが独自に掴んでいた世界からなんか大きな反応をしていたところを一つピックアップして転移現象を俺が起こしたわけだ。

 

 が、それがきっかけで厄介な連中がやってきた。

 

 今回聖杯戦争に俺が直々に呼んだ方々の世界。そこにいる、政府側の連中が理由が分からないけどこの世界に来ていたらしい。

 

 今、ギブアップした人に説明を聞いているが、どうにもこうにも異世界交流計画を立てているとかなんとか。聞かなかった俺が悪いけど、そういうのは言ってほしかったね。

 

 で、この政府の連中は聖杯戦争を禁止するつもりだそうだ。

 

 ま、今の世界を混乱状態にしかねないものを政府側が望むわけがない。基本的にそっからの参加者はテロリストだから仕方ないね?

 

 しかも、そいつがとんでもない化け物だ。

 

 名前は宮白兵夜。ここまで言えば、その世界の出身は解るよな?

 

 大規模国際テロ組織の首魁四人のうち三人をボコったことのある、グレモリー眷属の若きエースの一人だ。

 

 しかも、最後の首魁にとどめを刺した男だそうだよ? 怖いねぇ。

 

 他にも神様を二人も半殺しにして「神喰の神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)」とか、政府のトップを生中継中に正座説教させて「魔王の首輪」とか、戦乱で体の半分近くを入れ替えて「合成悪魔(デビル・オブ・キマイラ)」とか、とんでもない異名をいくつも手に入れている、凄い奴だ。

 

 しかも神様だっていうから驚きだね? うん、俺もいろんな意味で驚いてるよ。

 

 いや、マジであり得ないだろ何がどうなればそんな事になるんだよ。

 

 おかしいよね? 人間が悪魔になるだけでも普通に凄い事なのに、どうやったらそのうえで神になれんの?

 

 あ~くそ! それなら俺だって確実になれるじゃねえか。なりて・・・いや、神殺しに弱くなるからアウトか?

 

 ・・・おっと、つい愚痴ちまったね。うっかり屋さんなのが俺の欠点だ。テヘペロっ♪

 

 まあそういうわけで、今回特別ルールを発布するよ。

 

 ルールは簡単。その宮白兵夜と、彼と組んだチームである前回優勝者の須澄くんチームを倒した者には、報酬として十億提供しよう。

 

 金はあればあるほど嬉しいものだ。例え聖杯戦争に勝利できなくても、これはそこそこラッキーな報酬になるんじゃないかい?

 

 と、いうわけで早い者勝ちで殺してくれ。面倒だから殺してくれ。

 

 須澄くんを殺すのは心が痛いけど、これも運命だと思って諦めてくれ! 流石にこれは見逃せないよっ!

 

 と、いうわけで早い者勝ち一人勝ち! すぐにでも殺しに行かないと、十億は手に入らないぜ諸君!

 

 さあ、レッツゴー!

 

 ・・・ああ、それと宮白兵夜。

 

 俺はあんたをなめてかからない。何をしてくるか分からないし、アンタが優勝する可能性もちゃんと考慮する。

 

 そういうわけで、こっちもエージェントを何人か送るから気をつけろよ?

 

 タブレットがある限り、あんたらの位置は筒抜けなんだからな?

 

 あ、タブレットの機能はちゃんと残しておくよ。それを使えば聖杯戦争も楽に戦えるはずだね。

 

 ・・・さあ、そんなもったいない状態でそれを壊せるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「須澄くん、タブレットを封印するからそれを渡してくれ」

 

「・・・すごい、すごいもったいないけど、いいの?」

 

 と、一応渡しながら須澄は最後の確認をとる。

 

「確かにそうですね。こちらの位置情報が筒抜けなのは危険ですが、参加者の位置情報を把握できるのは必要ではないですか?」

 

 と、雪菜も一応言ってみるが、兵夜は静かに首を振った。

 

「いや、バトルロイヤルは敵を全部倒す必要はない。まだ参加者がゴロゴロいる状況下なら、こっちの位置情報がばれない方が重要だ」

 

「そうなのか? てっきり全員捕まえるつもりだと思ったんだが」

 

 古城も首をかしげるが、しかし兵夜は冷静に告げる。

 

「そこについては気にしなくていい。今の状況で全部するのは不可能だ。まずは聖杯を俺達が確保すること。これが重要だ」

 

 そう、全てを行おうとするのは失敗を招く元だ。

 

 戦力は少数。増援がいつ来るかも分からない。

 

 そんな状況下で最優先するべきは生き残る事。こと、聖杯戦争は最後に生き残った者が総取りできるバトルロイヤルだ。

 

 ならば、敵の位置が把握できなくても自分の位置が把握できない方がいい。

 

 敵同士で位置が把握できているのならば、勝手に潰し合って自滅してくれるからだ。

 

「そもそも聖杯戦争は数週間に亘る長期戦。序盤から積極的に動く必要はないさ」

 

 むしろ余裕すら見せて兵夜は告げる。

 

 それは、聖杯戦争という概念を把握している御三家の余裕だった。

 

 ましてや、彼は聖杯戦争の優勝者。その優勝こそ棚から牡丹餅の要素があったとはいえ、経験豊富で知識も豊富なのだ。そういう意味では圧倒的に有利ともいえる。

 

 それが、的確に余裕を産んでいる。

 

「よしんば発見されて襲撃されたとしても、それが複数なら同士討ちを狙える。・・・この勝負、当分は俺達はしのぎやすいな」

 

「お、おお。考えてんな」

 

 古城に感心されて、兵夜は得意げになる。

 

「これでも実戦経験はそこそこあるんでな。所属チームでは参謀役をやっていた事もあった。・・・と、いうわけで」

 

 そこで区切ってから、兵夜は通信機とシルシに視線を向ける。

 

「俺も常に成長している事をお見せしよう。・・・今の作戦でどこに穴があるか分かるか?」

 

「穴があるのかよ!?」

 

 古城は心の底からツッコミを入れた。今までの感心を返せと、心の底からツッコミを入れた。

 

 が、通信映像越しの雪侶は仕方がないとでも言わんばかりに首を振る。

 

『仕方がありませんの。兄上は魂レベルに遺伝されたうっかり癖を保有しているという欠点を保有しています。その所為で死にかけた事もありますのよ?』

 

 グランソードもそれに頷く。

 

 その辺に関しては、兵夜の仲間達から徹底的に教わっているので慣れてもいる。

 

『体の半分近く入れ替えたっつってたろ? うっかりが原因で内臓の殆ど駄目になって、入れ替えてんだよこの馬鹿大将。・・・心肺機能と脳だけだったか、無事だったの?』

 

「肺も取り換えてる。あれは俺の人生でも最大級のうっかりだった。トップは悪魔に転生した時だが」

 

 うんうんこいつら分かってるなぁといわんばかりの兵夜の二人に対する対応に、この場にいる六人は凄い不安に駆られそうになった。

 

 この人、大丈夫なんだろうか?

 

「あ、あの・・・。悪魔に転生できる辺りは聞きましたけど、何がうっかり何ですか?」

 

「それはね、何も知らない私でも簡単に想像できるわ」

 

 ヴィヴィオの質問に、シルシはすぐに答えてくれた。

 

「悪魔の転生は、死にたてなら蘇生手段にも転用できるの。・・・死亡したので蘇生手段として使ったのね、リアス様は」

 

「ああ、あの時は俺も命がけの戦いに慣れてなくてな。残敵確認を忘れていた結果、後ろから肝臓をグサリと」

 

「心配に、心配になってきたんだけど大丈夫なんだよね!? 本当に味方にして大丈夫なんだよね!?」

 

 心の底から不安になった須澄が叫ぶが、それに関して眷属三人は心底頷いた。

 

 そもそもこの男も既にうっかりである。人のことは全く言えない。

 

oll light(大丈夫)!悪魔に転生する前から裏社会で辣腕をふるい、悪魔に転生してからは一年足らずで上級へと昇格した能力は本物ですのよ?』

 

 そう、雪侶が告げる通り、その資質は本物だ。

 

「そうなんですか? 確かにそれは凄いですが・・・」

 

『安心しな、嬢ちゃん。転生悪魔の昇格は、年に数百人もいれば多い方な狭き門だ。それを一年足らずで二段階も突破した大将は間違いなく凄い奴だぜ?』

 

「ええ、私が嫁入りを狙っている相手が、素質がないわけないでしょう? これでも貴族の中でも上位の娘なのよ?」

 

 念を押すように聞いてきた雪菜を安心させるように、グランソードとシルシも太鼓判を押す。

 

 そう、確かにこの男はうっかり屋さんだ。

 

 だが、その多くで最低限以上に盛り返し、そして最後に勝利を掴んできた男が彼なのだ。

 

 神喰の神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)の異名を持つのは伊達ではないのだ。

 

『まあ、それはそれとしてうっかりしてるんだがな』

 

 それはそれとして欠点も大きいのだが。

 

「うっかりしてんのかよ!?」

 

 グランソードのバッサリ切った発言に、古城は心の底から大声を上げた。

 

 特に致命的な失点をしていたとは思えないが、しかし大きなミスがあるらしい。

 

 戦闘経験がろくにない古城にはさっぱりである。そして、それは雪侶とシルシも同意見だった。

 

『グランソード? 確かに兄上はうっかり屋さんですが、バトルロイヤルとしては間違った事はしてませんわよ? 基本に忠実というか、増援待ちなのは事実でしょう?』

 

「正直戦闘経験が少ないから分からないけど、そんなに大きなミスをしてたかしら?」

 

 首を捻りながら考え込んでいるが、特に大きな失態をしているとは思えない。

 

「そんなに、そんなに大きな失敗してる? むしろ感心できると思うけど?」

 

「うんうん。目から鱗って感じで上手な作戦だよね」

 

 と、聖杯戦争経験者の須澄とトマリも感心していたが、グランソードは静かに首を振る。

 

『確かにバトルロイヤルとしちゃぁ堅実な作戦だが、大将は一番大事なことを忘れてるぜ?』

 

「なんだ? 俺がうっかりをするのは仕方がないが、そこまで大事なところってのは?」

 

 兵夜は素直にそれを聞いた。

 

 自分がうっかりをするのは残念だが当然のレベルだ。最早自分を治そうと頑張るのは諦めている。魂レベルだから泥沼になりそうだ。

 

 だから、次善の策として人に聞く事にしている。作戦そのものを人に話して穴を聞けば、自分で考えるより遥かに上手く問題点を発見する事ができるはずだ。

 

 だから、禍の団の幹部という実戦経験を積んでいるグランソードは貴重な意見だ。そういう意味でも眷属悪魔にしてよかったと思っている。

 

 というわけで、砂に耳を傾けようとしたその時だ。

 

「ひゃっはぁああああ!」

 

 エンジン音と共に、損な規制が響いて全員が顔を声のする方へと向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃっはぁあああああ! 宮白兵夜だぁ!」

 

 そこにいたのは、いわゆる世紀末ファッションとでもいうべき酔狂な格好をした集団だった。

 

 棘の付いた衣服をき、髪型はモヒカンなどが多数存在する明らかに危険な集団。

 

 そんな集団が、バギーやバイクに乗って兵夜達へと接近をしていた。

 

「見つけたぜ宮白兵夜ぁ!」

 

「お前をぶち殺したくて、俺達は堪らなかったぜ?」

 

「禍の団特別攻撃部隊、ナントの団がお前を殺してやるぜぇえええええ!!!」

 

 ナイフや釘バットを構えながら、血走った目で彼らは兵夜達を狙う。

 

 そして、そんな彼らと共にいるのはナントの団だけではない。

 

「見つけたぞ、隊長の仇!」

 

 彼らと並ぶのは、なんと徒歩による疾走で追走する集団。

 

 がっちりとした筋肉は、たゆまぬ鍛錬を積んできたことの証明。

 

 そして、何よりも彼らの正体を把握するものがあった。

 

「我ら、UMAふんどし隊が貴様を倒す! 隊長に敗北を刻んだ恨みはとらせてもらうぞ!!」

 

「それと、その人と融合する猫と頬ずりさせてくれ!」

 

「俺は魔王級の雷撃を放ったライオンをぺろぺろしたいぞ!」

 

「あ、貴様ずるいぞ! 俺が先だ!!」

 

「いや、俺はあの浮かんでいる兎と添い寝したいね!」

 

 UMAを愛するふんどしに鍛えられたものが、このチャンスを逃さず兵夜を倒そうと駆け出していく。

 

 そして、更にもう一団が並び立つ。

 

「世界をエロスに包む為、今ここに我々がやってきた!」

 

「我ら、エロの具現者。そして、エロの敗北者!」

 

「エルトリア様を捕縛した貴様を許しはしない! 快楽堕ちさせて女どもから寝取ってあげるわ!!」

 

 世紀末、ふんどし、そして変態。

 

 彼らはそれぞれが聖杯戦争の参加者だ。

 

 だが、今彼らの心は一つになった。

 

「いぃいいいくずぇええええ! 宮白兵夜をぶちのめすぞおおおおお!!!」

 

 モヒカンが声を上げ、そして彼らはそれに頷く。

 

 そう、彼らの心は一つ。

 

 宮白兵夜に報いあれ!

 

「うぉおおおおおおおおお!!!」

 




なぜか兵夜を顔すら合わせずに非常に警戒するエイエヌ。これにはある秘密が。

因みに想定している方もいますが、偽名です。これの意味が分かれば、この作品の前提も込みで正体がほぼ特定できます。偽名と呼ぶのもはばかるレベルのシンプルさです。




そして恒例の兵夜のうっかり。最早自力で対応することはあきらめた模様。




因みに、この作品は当分の間三人称で行きます。兵夜視点の一人称だと、すごいネタバレを隠せないと判断しました。


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追撃戦、開始します!

さあ、今回の兵夜のうっかりは一体なんだ!?


 

『大将は、グレモリー眷属というグループに所属していた』

 

 グランソードは、唖然とする一同の前で説明を開始する。

 

『三大勢力の和平の邪魔から始まった、禍の団(カオス・ブリゲート)のテロ活動。その大きな作戦をことごとく撃破したグレモリー眷属は、禍の団にとって憎悪の塊だ』

 

 それは、禍の団に所属していたグランソードだからこそ断言できる事だ。

 

『そして、宮白兵夜はその中でも戦果でかい組の1人。赤龍帝兵藤一誠と並び立つ、トップエースであり、四代目首魁のフィフス・エリクシルを討ち取った男だ』

 

 三大勢力和平会談襲撃における、勢力の長をまとめて屠る最大のチャンスを逃した最大の要因。

 

 その後逃げられたとはいえ、策をもってして最強戦力候補であるふんどしを倒した男。

 

 天界をエロの渦へと包み込まんとした、エルトリア・レヴィアタンを倒した戦士の1人。

 

 そして、第四首魁フィフス・エリクシルの宿敵。

 

 そう、それはすなわち禍の団最大の敵。

 

 そしてそんなものが弱体化してここにいる。

 

 全てを理解して、雪侶は心底心から腑に落ちた。

 

『ああ、そんな男が弱体化してこんなところにいれば、手を取り合って殺しに来てもなにもおかしくありませんわね』

 

 場合によっては聖杯を投げ捨ててでも復讐したい対象だろう。

 

「なんで真っ先に気づかなかった!?」

 

「すいませんうっかりしました!!」

 

 古城の心からのツッコミに、兵夜は心から謝った。

 

 ああ、これは確かに最大の誤算だ。

 

 禍の団残党の参加者は、確かにこぞって殺しに来るだろう。

 

 あの戦闘で近くにいた者達が、眼の色を変えて探しに来るのは当然。

 

 バトルロイヤルなら、最後の決着をつけるまでの間の仮初の同盟は十分あり得る可能性。それも怨敵を倒す為なら簡単にできるだろう。特に主要人物を失った派閥なら、聖杯を投げ捨ててでも協力する可能性は十分にあった。

 

 これは明らかにうっかり過ぎる。

 

「あの、独創的な戦装飾ですね。防御力は大丈夫なのでしょうか?」

 

「ハイディちゃん? あれは趣味の世界だから」

 

 流石に汗を一筋流しながら、シルシはアインハルトの勘違いを正しておく。

 

 きっと頑張って好意的に解釈したのだろう。実にいい子だと思うが、悪党相手では欠点になりかねないのが実に厳しい現実である。

 

「と、いうより明らかにいやらしい人達がいるんですが。なんですか、あの人達」

 

「姫柊ちゃん。あいつらはあの一団の中でも最強候補だ。油断しないように」

 

 変態の群れに年頃の女子として当然な反応を返す雪菜に、兵夜は危険性を伝えておく。

 

 実際彼らは間違いなく強敵なのだ。戦った事はあるからそれだけは確実に言える。

 

「奴らは自らの胸や性器のサイズを一時的に犠牲する事によって、強大な色欲を持つ者に強大な戦闘能力を付加できる。それどころか性的に欲情できる相手の衣服なら戦車クラスの頑丈さを持っていようと問答無用で粉砕する技を持つし、うなじフェチならうなじの後ろに高速移動するなり、透視能力で下着を見たり、周囲数百メートル以上の範囲でスカートを一斉にめくるなどといった一芸を保有している」

 

「三大勢力の天界・・・すなわち天国に襲撃し、淫行の限りを尽くして汚染した強大な組織よ。禍の団の残党でも強力な部類ね」

 

『色欲は人にとって重要な要素ですが、それを突き詰めたあの方々は間違いなく精鋭ですの』

 

『ああ、あいつらの戦闘能力はシャレにならねえ。油断したら、裸にされたうえで貞操を奪われるぜ?』

 

 宮白眷属は全員が彼らを最も警戒していた。

 

「いや、どんな連中だよ!?」

 

「覚えておけ。俺の世界は、極限の領域に至った変態は何かしら他の面でも規格外の領域に到達する。・・・ホント頭痛い」

 

 絶叫する古城に、兵夜は残酷な真実を告げる事にする。

 

 どうせ隠せそうにない。

 

「うぉおおおおおお! 私の幼女の元へと誘導追尾する能力の前には、時速百キロ超の車といえど恐れるに足らず! そろそろおいつ―」

 

「YESロリータNOタッチ!」

 

 明らかに危険な事を言った男に光力を叩き込んだが、それを切り替えのタイミングとして、兵夜は即座にアクセルを踏み込んだ。

 

「全力で走るぞ! 舌をかまないように気をつけろ!」

 

「あの、あれは撃ち落としてもいいのかなっ?」

 

「ぜひ跡形もなく吹き飛ばしちゃってください!」

 

 トマリにOKを出しながら、兵夜はとにかく全力でアクセルを踏み込んだ。

 

 あんな奇想天外な連中にやられて聖杯戦争に敗れたら、末代までの恥である。何よりヴィヴィオやアインハルトなどの子供には毒すぎる。

 

 なのでぜひ始末してほしいと心から願い、それにトマリの答えてくれた。

 

「了解っ! 出番だよ、ザ・スマッシャー!」

 

 トマリから魔力が迸り、そして上空で形を成す。

 

 そこに現れるのは、魔力で構成された八首の蛇。

 

 先ほど悪魔達を薙ぎ払った眷獣が、プラズマの吐息を放出した。

 

「アベシ!」

 

「タワバ!?」

 

「ウワラバッ!?」

 

 先頭を走っていたナントの団がなすすべもなく吹き飛ばされるが、ふんどし集団と変態集団は素早くかわす。

 

 特にふんどし集団は、瞬間的に短距離移動をしながら車の真上まで移動した。

 

 そして、ザ・スマッシャーに抱き着いた。

 

「UMAだ! ヒュドラっぽいUMAがいるぞ!」

 

「はぁはぁ・・・」

 

 ザ・スマッシャーはそれを振り払おうと、砲撃を忘れて全身を揺り動かす。

 

 だが、鍛え上げられたふんどし達は一向に離れようとしなかった。

 

「ザ・スマッシャー!? お願い、今は幼女の敵を倒して! NOタッチはロリでもショタでも変わらないんだよ!?」

 

「僕ショタじゃない、ショタじゃないよ!? あと抱き着いているよ!?」

 

「まじめにやってください! いやらしい人達も来ましたよ!!」

 

 夫婦漫才を勃発するトマリと須澄を一括しながら、雪菜は器用に車の上に乗ると、雪霞狼を展開する。

 

 砲撃が止まった隙を突いて、変態集団が飛び掛かってきた。

 

「可愛い少女よ、一糸纏わぬ姿を見せるがいい!」

 

「一斉武装解除魔法! 放て!」

 

『『『『武装解除(エクサルマティオー)!!』』』』

 

 無数の武装解除魔法が、雪菜を裸にせんと襲い掛かる。

 

 武装解除魔法とは、武装を解除する為の戦闘魔法だ。

 

 武器は弾き飛ばされ、衣服は弾け飛ぶ。そんな魔法攻撃である。

 

 赤龍帝兵藤一誠の代表技である洋服崩壊に比べれば、破壊できる範囲も出力も圧倒的に劣るが、しかし軍用としてみた場合、その性能は武装解除魔法の方が有利だ。

 

 なにせ、習得難易度も射程も汎用性もはるかに違う。練習すれば誰でも使えて、驚異的な裸を見たい願望も必要なく、遠距離を自由自在に、男女両方に自由に使える。そんな魔法なのだ。

 

 ゆえに、戦闘用の基本として使われるそれは、しかし悲しい事に魔力で放たれるものだった。

 

 七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)の一つ、雪霞狼(せっかろう)は、魔力をかき消す神格振動波駆動術式を放つ事ができる、非常に希少な装備である。

 

 ゆえに、魔力を伴う攻撃に対しては圧倒的な優勢を誇る。

 

 その性能は、宝具にすら匹敵する。ランクを設定すれば究極の対魔術宝具であるアーチャーの宝具すら凌ぐだろう。

 

 だが、圧倒的なまでに数が多すぎた。

 

「く・・・これは!」

 

 霊的能力により一瞬先の未来視すら可能とする雪菜は、しかしまだ中学生。

 

 身体能力は人間であり、それゆえに限界が存在する。

 

 四方八方から放たれる魔法攻撃を無力化するので手いっぱいだった。

 

 そして、一発でも仕損じればその場であられもない姿を見せられる羽目になる。

 

 ・・・割と男の多いこの状況下で、それは断固ごめんだった。

 

「先輩よりもいやらしい! しかも数も多いとか最悪ですね!」

 

 何とか攻撃をしのぐが、しかしそれでも限界はあった。

 

「・・・うなじがある限り俺は高速移動ができる。・・・後ろをとったぞ」

 

 その言葉に、動きが止まらなかったのは自画自賛してもいいだろう。

 

 だが、全方位からくる武装解除魔法を捌くのに手いっぱいで、後ろの相手に対応する余裕がない。

 

 雪菜は背筋が凍り付くのを自覚した。

 

「では、御開帳!」

 

 そしてその僅かな隙を逃さず、男の手が雪菜に伸び―

 

「はい、そこまで」

 

 ・・・天井から突き出たエストックに、串刺しにされた

 

 

「ぎゃあぁあああ!?」

 

「中学生におさわりは禁止よ? あと、これぐらいの厚さなら透視できるから」

 

 シルシのエストックが男の動きを止め、そして更に拳が男の顔面に叩き込まれた。

 

「いい加減にしろ、この変態が!!」

 

 顔面を吸血鬼の拳で殴りつけられ、変態が一人脱落。

 

「無事か姫柊! なんか変なことされてないな!?」

 

「は、はい! ありがとうござます」

 

 慌てて無事を確認してくれる古城に少し赤面しながら、雪菜はしかし戦闘体勢を解除しない。

 

 今の不意打ちに動きが一瞬止まったが、しかし敵はまだたくさん残っているのである。

 

 ・・・ふんどしが眷獣に夢中になっているが、それでも変態は数多いのである。

 

「おい、こいつら全員吹き飛ばしてもいいんだよな!?」

 

「テロリストは発見即滅ぼせ(サーチアンドデストロイ)がうちの基本だ! かまわずやっちまえ!!」

 

 兵夜から許可を取り、古城はすぐに眷獣を展開する。

 

「まとめてぶちのめせ、獅子の黄金(レグルス・アウルム)!!」

 

 そして、獅子の姿をした雷撃が、周囲に破壊の渦を発生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変態集団は一斉に雷撃に呑まれて感電する。

 

 あまりの破壊力に、英霊すら吹き飛ばす一撃が敵の過半数を脱落させた。

 

 だが、其れでも限度がある。

 

 特に、すぐ近くに味方と一緒にいるふんどし集団までは手が回らなかった。

 

 だが、そんな心配はあまり無用だった。

 

「おお、ここにもUMAがいるぞ!」

 

「「「「「ぺろぺろす・・・ぎぃいいやぁああああああ!?」」」」」

 

 勝手に抱き着きに行こうとして、勝手に感電してくれたおかげで簡単に殲滅できた。

 

 心なしか、獅子の黄金も嫌そうな顔をしていた。そしてザ・スマッシャーと視線を合わせて共感している感じがした。

 

「なんか、すまん」

 

 なんとなく悪い気がして謝ってから、古城は周りを確認する。

 

 真祖の眷獣は圧倒的に強力だが、しかし欠点も多い。

 

 破壊力があまりにも強大過ぎる為、細かい操作ができない。つまり、派手なのだ。

 

「宮白だったか? とりあえずあいつらは全滅したみたいだけど・・・まだ来そうだよな」

 

「だろうな。・・・今のうちに距離を稼いで逃げたいところだが」

 

 そう言葉を切る兵夜だが、それは簡単に分かる。

 

 既に、新たな影が近づいてきていた。

 

 黒い翼を生やした一団。兵夜の世界の悪魔だろう。

 

 さっきのバラムの一団がもう仕返しに来たのかとも思ったが、しかしそれは違った。

 

 その先頭に立つ少年が、ひときわ大きな声を上げる。

 

「見つけた、見つけた見つけた見つけたぁ!! 殺してやるよぉおおおお!!!!!」

 

 憎悪に濡れたその声を聴いて、兵夜は少し記憶をあさった。

 

 そしてすぐに思い出す。

 

「ディオドラか!? 脱走していたとは聞いていたが、もう来ていたのか!」

 

「そうさ! お前にやられたこの恨みを晴らし、離れて行った女を取り戻す為に聖杯を使うつもりだったけど、ここに来たのならちょうどいい!」

 

 目を血走らせたディオドラと名乗る少年は、狂気を浮かべながらいくつもの魔力の塊を生成する。

 

「そのまま死ねえええええええ!!!」

 

 いくつも魔力の塊が、ジグザグに曲がりながら放たれた。

 

「撃ち落とせ!」

 

 古城はすぐに眷獣に命令するが、しかしディオドラは魔力塊を自在に操作して、その迎撃をかいくぐる。

 

 そして、いくつかの魔力弾が四方八方から襲い掛かった。

 

「先輩伏せて! 私が迎撃します!」

 

「馬鹿! 数が多い! 俺なら喰らっても―」

 

 雪菜だけではカバーしきれない。そして古城は胴体を両断されても再生する不死の生命力を持つ。

 

 だからいくつか喰らう覚悟をしたが、その心配は無用だった。

 

「大丈夫です!」

 

 古城に迫りくる魔力塊を、大人モードになったヴィヴィオが拳で殴り飛ばした。

 

「これぐらいなら、十分迎撃できます」

 

 そしてアインハルトも同じく激戦に参加する。

 

「・・・なんか、悪いな」

 

 外見こそ年上に見えるが、その実実際は十歳前後の子供に助けられ、流石に少し居心地が悪くなる。

 

 見習いとはいえ本職である雪菜に全部任せるのも思うところがあるのだ。ただの学生らしい二人に庇われる形になるのは、少し恥ずかしかった。

 

 そんな古城の気持ちを察したのか、アインハルトは警戒しながらも言葉を放つ。

 

「お気になさらず。覇王として、すべてを守り通せる力を求めるのが覇王(わたし)の願いですから」

 

 そういいながら魔力塊を迎撃するアインハルトに、古城は何か嫌なものを感じる。

 

 アインハルトが悪人だとかそういうものではなく、何か背負い込んでいるようなそんなものを感じたのだ。

 

「邪魔をするなよ人間風情が! このディオドラ・アスタロトを汚した報いを、その薄汚い転生悪魔に教えてやらないとねぇえええええ!!!」

 

 だが、そんなことを深く考えさせる暇はなかった。具体的にはディオドラがさせてくれなかった。

 

「な、何かしたんですか、兵夜さん?」

 

 あまりの剣幕にヴィヴィオが尋ねるが、兵夜はなんてことがないように答える。

 

「いや、外道に上の許可もらってからお仕置きしただけだし」

 

「それにしても、それにしてもマジギレしてるんだけどやりすぎてない?」

 

 聖槍をもって同じく迎撃に参加する須澄の言葉が全員の総意だ。

 

 あれは、かなり常軌を逸している。

 

 だが、実際のところディオドラにも十分すぎるほど責任がある。

 

「気にしなくていいわよ。あの男は、シスターや聖女を誑かして自分の女にする為なら手段を選ばないの。兵夜さんの同僚なんて、其の為だけに自分で大怪我をした彼を治療した所為で教会を追放されたもの」

 

 シルシがバッサリと切り捨てながら、エストックをディオドラに突き付ける。

 

「消えなさい女の敵。あなた如きに私達全員を倒す力は欠片もないわ」

 

 絶対零度の瞳で見据えられ、しかしディオドラは屈しなかった。

 

「忘れてないかい? 今の僕は英霊の力を宿しているんだよ?」

 

 そういうなり、彼はネックレスを取り出すとそれを身に着ける。

 

 それは、バラムが保有していたものと同じだった。

 

「さあ、出番だよ、その剣で奴を殺してしまえ、セイバー!」

 




今回のうっかり、そもそも敵が協力する可能性を忘れていた。

そりゃアンタ、自分が禍の団に何してきたのか忘れてんのか。十億抜きにしたって殺したいよ。









それはともかくとしてディオドラ登場。

前から思ってたんだけど、下手したら死ぬような大けがする当たり、こいつ意外と根性あるんじゃないだろうか?

しかも用意したのはあのセイバーだが・・・。


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赤龍帝と魔王剣

はい、急転直下というかインパクトの強い回です。











いつから、神滅具が一つしか登場しないと錯覚していた?


 兵夜は、それを聞いて鼻で笑った。

 

「お前、それは悪手だぞ?」

 

 心から鼻で笑う兵夜に、ディオドラは逆に鼻で笑い返す。

 

「何を言ってるんだい? 幾度となくグレモリー眷属を苦戦させたあのセイバーを憑依させたんだよ、僕は?」

 

 ディオドラが憑依させたのは、かつて禍の団が召喚したセイバーだった。

 

 剣士という概念の結晶。剣士そのものである剣士の英霊。

 

 その英霊は、レンジ内の剣をコピーし、その性能を引き出す宝具を保有していた。

 

 その戦闘能力は、グレモリー眷属の精鋭である木場祐斗とゼノヴィア・クァルタはもちろん、ヴァーリチームのアーサー・ペンドラゴンですら一対一ではコピーにすら後れを取るほどだ。

 

 だが、その脅威は兵夜たちの前では脅威となりえない。

 

「ディオドラ? そのセイバーは、レンジ内に強力な剣がなければその真価を発揮できない。そして俺たちをよく見ろ」

 

 兵夜はそういって、周りを見渡す。

 

 暁古城、例えていうなら召喚術師。

 

 トマリ・カプチーノ、同上

 

 近平須澄、槍使い。

 

 姫柊雪菜、同上

 

 高町ヴィヴィオ、格闘家

 

 ハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルド、同上。

 

 そして兵夜は現在運転中で、武器を持っていない。

 

 唯一の例外はシルシだが―

 

「―一応言っておくけど、コレ、量産品よ?」

 

「そういうわけだ。この状況下でセイバーは全く役に立たない」

 

 あのセイバーがあそこまで脅威だったのは、ひとえにD×Dに伝説級の剣があつまっていたからである。

 

 その条件に合致しない今の状況では、剣士の英霊は大幅に弱体化しているに等しい。

 

 あの非常に特殊な条件下であったからこそ大暴れできた英霊を、状況も把握せずにうかつに運用するなど愚行に等しい。

 

 ましてや普通の聖杯戦争なら剣の英霊は一騎しか出てこないのにセイバーを彼にするのはばかげている。

 

 一言でいえば、きわめてピーキーな条件下でしか真価を発揮できないのが、剣士のセイバーという特殊なサーヴァントであった。

 

「だからお前は小物なんだ。外道め」

 

「ぐ・・・ぐぐぐ・・・」

 

 額に青筋を浮かべるが、しかし状況は変わらない。

 

 圧倒的不利だったのは、ディオドラの方だった。

 

 数ならともかく、質なら十分こちらも戦える。ましてやサーヴァント戦ならこっちが上だった。

 

 それでもディオドラが攻撃を続けようとしたその時―

 

「うっとおしい人形遊びだな、しつこいんだよお前ら」

 

 突如真横から放たれた砲撃が、ディオドラ達に襲い掛かった。

 

「な、なんだ、うぁああああああああああ!?」

 

 圧倒的な砲撃が、ディオドラ達を跡形もなく消し飛ばす。

 

 そして、そのまま森まで届くと、そのまま広大な森をこちらも跡形もなく消し飛ばした。

 

「・・・真祖の眷獣クラス!?」

 

 その破壊力に、雪菜が絶句する。

 

 都市一つ消し飛ばす真祖が呼び出す眷獣。それと同等以上の出力など、一つの世界の極点クラス以外にあり得ない。

 

 それだけの出力を放った存在を確認しようと、全員が視線を向け―

 

「・・・なっ!?」

 

 真っ先に、兵夜が驚愕した。

 

 それは、赤く染まった鎧。

 

 それは、龍を模した鎧。

 

 それは、龍を封じた鎧。

 

 それは、十三種類存在する、それぞれが唯一無二の神すら殺す人類の力。

 

 その名を、赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)

 

「なんで、兵藤一誠がこんなところに・・・?」

 

 シルシは心から首をかしげるが、しかし同時に喜んでもいた。

 

 赤龍帝、兵藤一誠は最高の赤龍帝とすら言われる男。禍の団最初期代表ともいえるシャルバ・ベルゼブブを討った冥界の英雄でもある。

 

「あ、あの人、お知合いですか?」

 

 目の前で人が消し飛ばされる姿を見たせいか、ヴィヴィオが顔を青くしながらもシルシに尋ねる。

 

 だが、実戦である以上それは仕方がないことだ。ゆえにシルシは安心させるように微笑んだ。

 

「安心して。彼は冥界の英雄、間違いなく味方―」

 

「違う!」

 

 それを遮り、兵夜が大声を上げる。

 

「呼吸によって生じる肩の動きのリズム。魔力の波長、手を動かす時の指の動く順番、それがすべて微妙に違う! あいつ、兵藤一誠じゃない!」

 

「気持ち悪いわ!」

 

 あまりにあれな判断基準に、古城が即座にツッコミを入れた。

 

「ってちょっと待て。じゃああれ偽物ってことか?」

 

「それこそあり得ないわ。神滅具の偽物なんて、粗悪なデッドコピーでしか不可能。あの波長は間違いなく本物のはず・・・」

 

 我に返った古城の質問に、シルシは即座に否定を入れ、しかし思いなおす。

 

 そもそも、今自分たちの味方にオンリーワンのはずの神滅具を持っている男がいたではないか。

 

「え、えっと、僕?」

 

 須澄は自分に指をさしながら戸惑うが、しかしそれは兵夜がフォローを入れた。

 

「それについてだが、冷静に考えると思い当たるところがある。・・・とにかく逃げるぞ! 殺気を向けてる!!」

 

 そういうなり、兵夜はハンドルを切って距離をとる。

 

 だが、赤龍帝も狙いをすでにつけていた。

 

「・・・悪趣味な人形遊びに付き合ってられるか。さっさと終わらせるさ」

 

 頭部、そして両腕に莫大な魔力があつまっていく。

 

 それは、ディオドラを消し飛ばしたときと同等以上。間違いなく殺すつもりの一撃だった。

 

「ヤバイ・・・撃ち落とせ、獅子の黄金(レグルス・アウルム)!!」

 

 とっさに古城は眷獣を迎撃に差し向ける。

 

 それと同時に、砲撃が三方向に放たれた。

 

 一発は、獅子の黄金が受け止め相殺するが、しかし残り二つは曲がりながら車両を狙う。

 

「雪菜ちゃん! 迎撃を!」

 

「駄目です、雪霞狼では片方しか―」

 

 雪霞狼は確かに強大な魔力無効化能力を持つが、しかし左右同時には迎撃しきれない。

 

 このままでは間に合わない。全員が寒気を覚え―。

 

「・・・右を迎撃しろ。左はこちらで何とかする」

 

 その声に従い、雪菜はとっさに右側の魔力を迎撃する。

 

 そして、同時に、舞い降りた影が赤い槍を振り下ろした。

 

「かき消せ、破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)

 

 真紅に染まる槍が、もう片方の魔力を消し飛ばした。

 

 そこにいるのは、女性の悪魔。

 

 英霊を憑依させたと思しき悪魔が、赤い槍を手にもって魔力を相殺していた。

 

「彼女は、どこかで見たような・・・?」

 

 記憶を掘り起こそうとするシルシを手助けするかのように、さらに上から声が響く。

 

「久しぶりだな、シルシ・ポイニクス。そして直接顔を合わせるのは初めてだな、宮白兵夜」

 

 そこにいたのは、高貴という言葉を具現化したかのような男。

 

 年のころは二十歳だろうか、一振りの魔剣を手に持った男が、赤龍帝をにらみつけながら兵夜たちをかばうかのように空を飛んでいた。

 

「・・・あんたは!?」

 

 その姿を見て、兵夜は驚愕する。

 

 バラム家の者がいた時点で想定してしかるべきだったが、彼もまた政権側の悪魔だった。

 

 その名前は―

 

「アルサム・カークリノラース・グラシャラボラス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラシャラボラス家は、不幸にまみれた悪魔の家系である。

 

 四大魔王の1人、ファルビウム・アスモデウスを輩出した家系でありながら、跡継ぎ問題に悩まされていた。

 

 もともとちゃんとした跡取りはいるにはいた。だが、禍の団の策略で事故に見せかけて殺されることとなる。

 

 その後、ゼファードル・グラシャラボラスという跡取りを迎えた。が、この男、実力に反して凶児と呼ばれるほどの問題児である。しかも、バアル家次期当主サイラオーグ・バアルにレーティングゲームで完膚なきまでに敗北した結果、心をへし折られて再起不能になってしまう。

 

 そんな苦難続きのグラシャラボラス家に、起死回生の一手として選ばれたのが、アルサム・カークリノラース・グラシャラボラスである。

 

 彼自身は分家の中でも末席に属する立ち位置だ。そのため自身が最初のころは固辞していた。

 

 が、この連続でのグラシャラボラス家の不遇に、次期当主となるべく周囲に押し出されてその座に就く。

 

 その後は次期領主としてメキメキと頭角を発揮。不正は正し、善政をしき、自ら様々な反乱や不穏分子の取り締まりに精力的に動いた。それに伴い民衆からの支持は素晴らしく、そして貴族の地位を守るかのごとく貴族の中から優秀な人物を率先して選ぶあり方に、旧家からの覚えもいいという逸材である。

 

 こと、彼は将来の魔王候補とすら呼ばれている。

 

 その理由は、彼を担い手として選んだ魔剣にある。

 

 魔剣ルレアベ。

 

 禍の団が旧四大魔王の遺骸をベースとして開発した最新の魔剣。その性能は最大出力ならばデュランダルにも匹敵し、さらに四つの機能を持つ。間違いなく最高峰の逸品である。

 

 何より、先代四大魔王の遺骸でできて所有者を選ぶという特性から、それはすなわち四大魔王にその資質を認められたと考えるものが数多い。

 

 そのルレアベの新たな担い手として選ばれた男。冥界にとって、何より貴族にとって重要な人物であった。

 

 その彼だが、基本的に実力主義だが、方針としては大王側に属する。

 

 現政権の転生悪魔優遇政策においては、いささかやりすぎだという意見を堂々と表明する、保守派よりの人物として認識されていた。

 

 だがしかし、それでも彼が冥界の期待人物であることに間違いはないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事なようだな、それは何よりだ」

 

 ルレアベを構えながら、アルサムは静かに告げている。

 

「あ、ありがとうございます。おかげで助かりました!」

 

「ふむ、どういたしまして・・・といっておこうか。シェン、お前も返事をしておけ」

 

 アルサムにそう促され、英霊を憑依させた女が静かに頭を下げる。

 

「アルサム様の命に従ったまでです。お構いなく」

 

 そう静かに返すと、シェンと呼ばれた女性は槍の切っ先を赤龍帝に向ける。

 

 それを向けられた赤龍帝は、静かに構えをとりながら警戒したのか接近してこない。

 

 思わぬ増援の登場に、兵夜たちは少し戸惑っていた。

 

 だが、須澄とトマリが慌てて声を上げる。

 

「・・・待って、ちょっと待って」

 

「あ、その人聖杯戦争の参加者だよ?」

 

「はあ!? なんでまたあなたほどの人物が!?」

 

 貴族主義が苦労していることは事実だが、そう何人もこんなことをするのはリスクが高すぎるだろうに。

 

 兵夜は心底驚いたが、しかしアルサムは静かに首を振る。

 

「冥界の未来のために必要なことだ。しょせん末席にすぎん私が処罰されたところで、大したことにはならないだろう」

 

「あの、末席でありながら次期当主に選ばれたあなたが処罰されたらグラシャラボラス家は大変なことになるんじゃないかしら?」

 

 シルシが疑念の声を上げるが、しかしそれももう遅いだろう。

 

 すでに参戦してしまった以上、今更なかったことにはできないはずだ。

 

 ならば、もはや勝つしかない。

 

 だが、其れにしてもおかしい。

 

「聖杯戦争の参加者なら、須澄さんの敵では? なぜ、協力している私達を助けるのですか?」

 

 アインハルトの疑問が、そのすべての答えといっていいだろう。

 

 聖杯戦争はバトルロイヤル。ましてや、現政権の意向を無視しているといっていいアルサムは、兵夜にその存在を知られて何もしないわけにはいかないはずだ。

 

 だが、アルサムは静かに告げる。

 

「そうもいかん。・・・まだ君たちは状況を正しく呑み込めていないのだろう?」

 

 と、その視線を四人へとむける。

 

「それがいきなり覚悟も決めれず殺し合いに巻き込まれていいはずがない。少なくとも、考える時間は必要なはずだ」

 

 そういうと、彼はルレアベを赤龍帝へとむける。

 

 気づけば、十人以上の悪魔が並び立ち、赤龍帝を包囲していた。

 

「・・・行け、ここは我々が引き受ける」

 

「・・・礼は言わない。あんたらが政府の意向を無視していることは変わらないからな」

 

 兵夜はそう告げるが、しかしアルサムは意にも介さない。

 

「当然。政府に不満があるのに変わりはしない。だが、このようなやり方をとった時点で我々は処罰を受けてもおかしくないのだから」

 

 その言葉を最後に、兵夜はアクセルを踏み込んだ。

 

 瞬く間に小さくなるアルサム達。それはすなわち、危機から遠ざかっていくことの証明だった。

 

「えっと、援護しなくてもよろしいのでしょうか?」

 

「かまわないさ。聖杯戦争に参加してるなんて一言も聞いてなかった以上、味方とは言えないしな。・・・それにルレアベの担い手なら神滅具が相手でもいったん仕切り直しにぐらいはできるだろう」

 

 戸惑うアインハルトにそう告げながら、兵夜は気づかわしげな表情を彼女らに向ける。

 

「それより君たちの方が心配だよ、ハイディ。人死にを見るのは初めてだろう?」

 

 そう。そちらの方が兵夜にとっては心配事だ。

 

 経験があるからこそよくわかる。戦闘での人死には、たいていの人間にとって精神的に来るものだ。

 

 そういう仕事をする訓練を受けた者であったとしても、精神的に大きな負担となって心を病むことが多いのだ。

 

 競技選手だったヴィヴィオやアインハルト、ましてや普通の高校生だった古城は相当キているだろう。

 

「いえ、覇王(わたし)は大丈夫です。大丈夫でなければ―」

 

「そんな顔して大丈夫もへったくれもないだろう。とにかくいったん距離をとるぞ」

 

 そうきつめに言っておくと、兵夜はとにかくアクセルを踏んで距離をとる。

 

 赤龍帝の戦闘能力なら、数十キロ以上離れていても安全圏とはいいがたい。早く相当に距離をとる必要があった。

 

「・・・いきなり気を使わせてすいません。私の実戦はつい最近でして」

 

「かまわないさ。むしろそれぐらいの方が安心できる」

 

 謝る雪菜にそう告げながら、兵夜はバックミラーで後ろを見る。

 

 いくつもの魔力の放出が視認できる中、兵夜は心底心からため息をついた。

 

「生存していたのなら、後で絶対に話を聞かないとな」

 

 彼は保守派側とはいえ、常識的な側面を持った人物のはずだ。少なくと、先ほど戦ったバラムよりは中庸に近いだろう。

 

 にもかかわらず、彼は聖杯戦争に参加している。

 

 それがとても気になった。

 

 今の冥界に内乱をしている余裕がないことはすぐにわかるのに、なぜこのタイミングでここまでのことをしているのか。

 

 この先のことを考えると、とても不安になってしまう兵夜だった。




アルサム・カークリノラースは一種のアンチテーゼを提示するオリキャラです。冥界に一人欲しかった人物を描いてみました。


そして謎の赤龍帝登場。彼の正体は本編の兵藤一誠出ないことだけは伝えておきます。




あとディオドラはあっさり退場。しょせん奴はカマセ犬だったか。というより話を盛り上げられなかった・・・。

ぶっちゃけ、あの剣士の英霊は状況がかみ合わなければ非常に弱体化するサーヴァントです。本編であれだけ猛威をふるえたのは高性能の剣がすぐ近くにありまくったから。サーヴァントとしての性能だけでいうなら三流レベルです。

ディオドラ・・・。苦戦させた理由まで考えろよ。


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朝食、始めます

とりあえず戦闘はいったん終了。そんでもってその間に情報の整理が行われております。


 

 早朝、それも、朝日が昇るかどうかという時間帯になって、兵夜は目を覚ました。

 

 毛布を引っぺがして起きる。日夜早朝から走ったりするなどのトレーニングを欠かさないからこそ、どんな時でも荘重で起きれる。過酷な実践と訓練の積み重ねが生んだ美徳だった。

 

 実際、魔術的な補正で精神的な疲労は回復させている。肉体的な疲労はまだ抜け切れてないが、それはゆっくり時間をかければ起きていても回復できる。

 

 視線を向ければ、いきなりの実戦で披露している皆が泥のように眠っていた。

 

「さすがに、実戦経験がろくにないのに連戦はきつかったよな」

 

 苦笑しながらそういうと、そんな彼らを雇う形になっている自分に自虐じみた感情が浮かんでくる。

 

 実際、戦力が必要なのは当然だ。ただで動く義理もないのも当然だ。手伝わせておいて報酬を払わないのは筋が通らないのも当然だ。

 

 とはいえ、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)では当然といえど、十歳そこらの少女を傭兵として扱うのに抵抗がないわけではない。

 

 小間使い程度ならあまり気にならないが、それでも少し思うところがある。

 

「朝食は少し手を加えるか」

 

 毎回レーションでは味気ないだろうと思い、兵夜はアウトドア用のコンロや、一応持ってきていたスパイスなどを取り出した。

 

 胡椒などのスパイスは挽きたての方が香りがいい。それにほかにもいろいろと手を加えることはできるのだ。

 

 と、いうわけで調理を開始しながら、兵夜はしかし頭を抱える。

 

「さて、どっから手を付けたものか」

 

 まずやるべきことは陣地の確保・・・ではない。

 

 昨夜のうちに確認したが、トマリの陣地作成スキルは低ランク。これではできることには限度がある。

 

 巻き込まれた人間を保護することも考慮すれば、そこそこ大規模な陣地を作成する必要があるだろう。そんな規模の工房を彼女のスキルで作れるとは思えない。

 

 かといって工房にせずに建物を確保したとしても、火力が化け物じみている相手に建物ごと攻撃されては元も子もない。対応するにはそれ相応の設備というものがいる。

 

 だからこそ、当分の間は潜伏しながらなんとか探しだして救出。しかる後ラージホークを使用して、時空管理局が介入するまで逃げる戦術になるだろう。

 

 そしてそれができてから、本格的にエイエヌを捕縛する。

 

 そこまで考えたら、すでに朝食は完成した。

 

 我ながら無意識じみたレベルでできるとは、などと感心しながら、兵夜は彼らを起こすべく息を吸った。

 

「・・・飯できたぞー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、そういえばさ、心当たりがあるんだって?」

 

 朝食のサンドイッチを食べながら、須澄は聖槍を出しながら兵夜に質問をした。

 

「ああ、赤龍帝のことか?」

 

「そういえばそうね。・・・一体どういう理由で赤龍帝が二人いるのかしら」

 

 シルシも同意見であり、そして皆がそれは同じ疑問を持っていたらしい。

 

 一誠に視線が集まり、兵夜は一瞬たじろいだ。

 

「・・・平行世界(パラレルワールド)って概念知っているか?」

 

「ああ、朝食にマフィンが出たかトーストが出たか・・・というたぐいの異世界理論のこと?」

 

 シルシがすぐに簡単に説明をしてくれたおかげで、すぐに話がまとまっていく。

 

「其れってつまり異世界だよな? 俺たちとアンタたちの地球の違いか?」

 

「少し違う。この場合の「異世界」はX軸だな。平行世界はY軸で考えるべき内容だろう」

 

 と、古城に補足をしながら兵夜は続ける。

 

 もともと、兵夜の家は平行世界の干渉や観測を司る第二魔法に到達することを目的としている家系の分家だ。そのあたりの理解は人より深い。

 

「それに関していうのならば、俺たちがいた地球にも平行世界は当然存在することになる」

 

「それが、それこそが僕の聖槍やあの赤龍帝のいた世界ってこと?」

 

「ああ。それにしても疑問符は大きいんだがな」

 

 そう。これはあくまで推測であり、完全な確証ではない。

 

「そもそも神滅具の使い手ってのは発見が難しい上に倒すのが難しい。後者は暁の眷獣と同等クラスの化け物を倒せるかっていうことでわかるだろう?」

 

「ああ、なるほど」

 

 比較的付き合いの長い雪菜が真っ先に理解した。

 

「うっかり暴発させただけで、500億円の損害を生み出してますからね、先輩は」

 

「それを言うな。オイスタッハのおっさんが大暴れしてくれたから何とかなりそうだけど、俺だって罪悪感はあるんだぞ」

 

 そういいながら、古城は気まずそうにもそもそと食事を続行する。

 

「・・・そういえば、そのオイスタッハって人は絃神島に何しに来たんですか?」

 

 と、ヴィヴィオが気になったことを訪ねてみる。

 

 神父というのが聖職者なのは知っているので、うまくすれば話を聞いてくれるのではないかと思ったのだろう。

 

 そして、古城と雪菜は気まずそうに顔を伏せた。

 

「絃神島を作ったやつが悪いとか言ったが、其れか?」

 

 兵夜はちょっと前の出来事を思い出して、心当たりを口にする。

 

 都市の設計者を聖職者が恨むほどの事態となれば、一つ思い当たることがあった。

 

「ああ、俺は納得できないけど、おっさんのやってることもある意味正しいっていうか・・・」

 

「間違いなく止めねばいけない事態なのですが、非があるのは絃神島の設計者なんです・・・」

 

 詳しく話を聞いてみると、兵夜の推測はあたりだった。

 

 絃神島は海上に浮かぶ人工島。しかも、魔導理論を全面的に投入し、海底の霊脈を利用する設計となっている。霊地を利用する魔術師からしてみれば感心するほかない内容だ。

 

 なにせ、地球の面積は7割が海。地上より上質な霊地の数は多いだろう。

 

 だが、その作成方法に問題がありすぎた。

 

 東西南北を四神に見立てた設計を行うのはよかった。中央部を黄龍として設計するのもいい。その中央部には特に重要な資材を投入するべきなのも分かる。

 

 だが、そのために用意したものが問題だらけだ。

 

 古城たちが巻き込まれた事件の首謀者、ルードルフ・オイスタッハ。彼は殲教師と呼ばれる、兵夜たちの世界でいう悪魔祓いのような聖職者だ。

 

 その彼の宗教における聖遺物、それも聖人の遺体を強奪して要石にしているという。

 

「そりゃキレる。マジでキレる。時代が時代なら国家間で全面戦争が勃発しかねないほどにキレる」

 

「だよなぁ。俺もそれはわかってるんだよ。正直、姫柊が背中を押してくれるまで、身内だけ助けて逃げるだけのつもりだったし」

 

 頭を抱える兵夜に、古城も同意する。

 

 兵夜たちの世界でも、同様の事態が起これば大量の悪魔祓いが全力で奪還に向かうだろう。それだけの緊急事態だ。

 

 こんなもの、個人で介入するようなレベルの事態ではない。冗談抜きで国家級の大問題。どんな結果になっても、日本は世界各国からバッシングを受けるだろう。

 

 そういう意味では、むしろ兵夜は古城に感心する。

 

「すごいね、本当にすごいね。そんな責任が重いことを、ただの高校生がやれるんだから」

 

 世界最強の吸血鬼といえど、精神面では今まで普通の生活を送ってきた高校生だ。

 

 そんな少年に、いきなり国家の命運を賭けろと言われても介入できるわけがない。そんなことができるのは度の越えた馬鹿かよほどの立派な人物だけだ。

 

 そして、古城がそういう馬鹿ではないのは短い時間ながらわかる。

 

 だから須澄は素直に感心する。

 

「恨み節で、恨み節で動いてる僕なんかよりよっぽど偉いよ。・・・うん、すごい」

 

「そんなに大したもんじゃねえよ。姫柊が背中を押してくれたからだしな。大したことがあるのは姫柊の方だ。」

 

「い、いえ。私は獅子王機関の人間として、そして先輩の監視役として当然のことをしたまでです」

 

 古城に褒められて、雪菜が顔を真っ赤にする。

 

 それを見て、トマリとシルシはにやりと笑った。

 

「おやっ? おやおやっ?」

 

「これは・・・ねえ?」

 

 そしてニヤニヤしながら古城をみて、静かに肩に手を置いた。

 

「がんばれ雪菜ちゃんっ」

 

「ええ、これは苦労するわよ」

 

「何がですか? 私は越権行為をしているとはいえそれが仕事ですから!」

 

 顔を真っ赤にする雪菜に同情し、兵夜は話を進めることにした。

 

「そういや、暁の監視が姫柊ちゃんの仕事なんだって? バックアップメンバーとかが苦労してそうだな」

 

「・・・いや、確か姫柊一人で仕事してたはずだが」

 

 その言葉で、兵夜は何がどうなっているのかを完璧に把握した。

 

「え? そうなんですか?」

 

「ああ、俺の家に一人で引っ越してたし、荷物も一人分・・・にしても少なかったから間違いないぞ?」

 

「でも、古城さんの眷獣ってロストロギア級ですよ? 仕事だったら普通に一部隊が動く事態ですよ?」

 

 ヴィヴィオと古城がそのあたりについて話だすが、兵夜はこれについて話すべきかどうか真剣に悩む。

 

 大体どういうことかが想定できた。想定できたが・・・。

 

「確かにそうですね。世界最強の存在・・・というなら、管理局の執務官でも一人で動くことはないと思いますが・・・」

 

「っていうか、っていうかそれ見習いの仕事じゃないよね? 少なくてももっと人動くよね?」

 

 と、疑問に思ったのかアインハルトと須澄も会話に参加し始める。

 

「いや、獅子王機関って公安みたいな組織だし、潜入任務みたいなもんだからじゃないのか?」

 

「そ、そうです! 先輩が学生なので通えるのが私しかいないのが理由だそうでして・・・」

 

 と、雪菜も顔を真っ赤にしながらそう肯定する。

 

 が、それに対してシルシは首を傾げた。

 

「雪菜ちゃん、それ本当?」

 

「え?」

 

 と、しっかり真正面から目を見てシルシは訪ねてきた。

 

 眼帯まで外しての本気である。

 

「本当です。三聖自ら私に命じてきたことですから、間違いありません」

 

 と、戸惑いながらも雪菜は答えて、それを少ししてからシルシはうなづいた。

 

「嘘は言ってないわ。・・・どうもテストのために不意打ちまでしてるようだけれど」

 

「お前、心を覗くのは許可を取ってからにしろよ」

 

 あきれながら兵夜はたしなめ、それに全員が驚愕した。

 

「・・・大がかりな術式もなしにそれだけのことを把握したんですか?」

 

 特にそういった術式に心得のある雪菜は愕然とする。

 

「正確にいえばあなたを中心とした過去視だけどね。・・・私の目、すごいのよ」

 

 と、得意げになるシルシに続けてため息をつきながら、兵夜は頭を抱えた。

 

「嘘を信用させるには真実を混ぜることとはよく言うが、当事者に偽情報だけ伝えておくとか思い切ったこ・・・とを・・・」

 

 とぼやいてから、兵夜は固まった。

 

 それを言ったら、駄目だ。

 

「おい、どういうことだ?」

 

 古城が真剣な表情で兵夜を見る。

 

「姫柊が騙されてるってことだよな? 一体どういうことだよ?」

 

「えっと・・・その・・・」

 

 いっていいのかこれとは思ったが、この状況下ではごまかせない。

 

 まあいい。どうせ困るのは獅子王機関だ。とやけになり、兵夜は素直に告げることにした。

 

「うん。たぶんだけど本命の監視役は別にいる・・・と思う」

 




・・・いつにもまして兵夜がうっかりしていますが、これにもそれなりに切実な理由があります。


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通信、繋がりました

 

 宮白兵夜は、探偵の真似事をして金を稼いでいたことがある。

 

 暗示の魔術も多少は使える兵夜なら、情報を聞き出すことも相手の記憶を多少操作することも簡単にできる。そのため適職と言っても過言ではない。

 

 そんな兵夜だが、しかし魔術に頼りきりではない。

 

 尾行や潜入などのテクニックはちゃんと心得ており、その中の一つに囮というものがある。

 

 つまり、簡単にばれる相手を送り込んでわざと気づかせて、本命に気づかれないようにするというものだ。

 

 加えて、その囮が人情を誘うならば更に良い。

 

 事情が同情できるものなら相手も酷いことはしないし、上手くすればそのまま情報を聞き出すことができる。

 

 というより、そもそも戦闘要員として鍛えられている雪菜を単独で知られずに監視させるなど不可能だ。

 

 普通に考えれば有事の際の暴力装置であり、直接発見されない場所に待機させておくのが妥当。監視するもの自体はそれにたけている別の人物が行うべきだろう。実際初日でいきなり民間人にばれているなど落第点だ。そこまで馬鹿な人選をするわけがない。

 

 つまりばれることが前提。囮以外の何物でもない。

 

 だが、それにしてもこれだけの装備を用意するなどとおかしいものだ。

 

 獅子王機関自体が最秘奥とすら言っているようなものだ。囮にしては貴重品すぎる。

 

 シルシの目や解析魔術を使って調べてみたが、間違いなく宝具級。しかも使用者を選ぶ一級品だ。あとあまり使いすぎると影響が出てきそうなので、念のために護符を渡しておいた。

 

 そこから推測される答えは一つ。

 

 最初から、ばらしたうえで堂々と接触するための担当だろう。

 

 更に話を聞いてみれば、ちょうどその時期にオイスタッハは聖遺物奪還のためのデータ収集として魔族襲撃事件を起こしていた。タイミングが良すぎるだろう。

 

 つまり、筋書きはこうだ。

 

 ある程度情報を掴んでいる獅子王機関は、古城と気が合いそうな人物をピックアップ。

 

 条件としては、真祖と肩を並べる戦闘が可能・・・すなわち雪霞狼を使用可能な人物。そして尾行しててもすぐばれるような技量の持ち主で、同情を誘う過去の持ち主。

 

 そして、魔族襲撃事件というちょうどいいイベントが起きているのをいいことに、条件にぴったりな雪菜を送り込む。

 

 そして出会った二人は魔族襲撃事件というイベントを機に友情にしろ愛情にしろ仲が良くなる・・・という筋書きだ。

 

 つまりは彼女の本来の目的は精神的な首輪。そして監視役ではなく護衛・・・もしくは相棒と言った方が近いだろう。

 

 善良な人格で一般市民寄りの性質を持つ古城に、更に暴走を抑制できるリミッターを設けることが、獅子王機関の作戦なのだろう。

 

「・・・本人がそんな裏の事情を知らされていないのなら一般市民をだますことぐらいはできるだろう。実際後衛型の暁に、前衛型の姫柊ちゃんは戦闘上の相性も抜群だろうし、そういうことじゃないだろうか」

 

「なるほど。職務能力は高いけどうっかり屋さんな兵夜さんに、事務能力の高いサポートタイプの私を差し向けるようなものね」

 

 と、うんうん頷きながらシルシは頷いた。

 

 そして、兵夜は閉じていた目を開ける。

 

「・・・え、マジ?」

 

「な・・・な・・・な・・・」

 

 うん、顔真っ赤。

 

「ま、まあ俺の推測だから間違ってる可能性もあるし!? うん、あまり深く考えない方がいいと思うというか、国家的緊急事態ならこれぐらいのグレーゾーンはとらないとまずいというか・・・暁の潜在スペックを考慮すると必須というか」

 

「フォロー、フォローできてないからね」

 

 どんどんぼろを出す兵夜に、呆れながら須澄がツッコミを入れる。

 

 ここまで言っておいて今更ごまかしてどうするのか。

 

「まあ、まあつまりあれだよね。・・・事実上シルシのように政略結婚―」

 

「須澄くんっ! それ言ったらいけない奴だよっ!?」

 

 そして須澄もまたうっかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・と、とにかく! 俺達はそういうわけでオイスタッハのオッサンも何とかしなきゃいけないんだよ!」

 

 顔を真っ赤にしながら古城は大声で話を切り替えた。

 

 隠しているはずの自分の吸血鬼化が原因で監視役が派遣されてきたと思ったら、実際のところ嫁がきた。

 

 そんなこと信じたくないしとりあえず話をごまかしておかねばならない。

 

 と、いうより意識したら性的に興奮して大変なことになってしまう。

 

 吸血鬼の吸血衝動は性的興奮がきっかけで発動する。

 

 そして、彼の世界の吸血鬼は自分の体の一部を与えることで血の従者という疑似吸血鬼を生み出すことができるのだ。

 

 うかつに吸血したら大変なことになる。とにかく意識しないようにしなければならない。

 

 と、いうわけで勢いよく話を戻す。

 

「そういえば、心配なのはアスタルテの方だ」

 

「そうですね。彼女のことも心配です」

 

 と、同じく顔を真っ赤にしながら雪菜も話を切り替えた。

 

 むしろ思い出すと興奮が一気に冷めるぐらいには心配な事象だろう。

 

「他にもお友達が巻き込まれたんですか?」

 

 と、ヴィヴィオは当然の質問を口にする。

 

「・・・友達ではないんです。アスタルテさんはオイスタッハ神父が連れているホムンクルスなんです」

 

 人工生命体(ホムンクルス)、という概念もまた、ある程度の共通点をもって様々な異世界に存在する概念だ。

 

 生命を想像するという倫理的な問題。そしてそれ以上にコストパフォーマンスが悪いという問題点から古城たちの世界では、あまり研究されてない。

 

 しかし、データなどを自由に設定できるという観点から医療目的などでは研究が行われている分野であった。

 

「ふむ。むしろ魔術師(メイガス)式のホムンクルスは生命力では人間より劣るし、数を増やすという意味では判断能力などでロボットより上なんだが。・・・あ、倫理観なくて悪かった」

 

 兵夜が睨まれるより先に即座に謝ったが、倫理的な観点で黙っていて欲しかった。

 

「アスタルテさんはオイスタッハ神父が、聖遺物奪還のために用意したホムンクルスです。・・・神格振動波駆動術式を発動する眷獣を組み込んでいるんですが―」

 

「生命力を強化しているホムンクルスだとしても、眷獣をあれだけ酷使してたらもうかなりすり減ってる。このままだとあと少ししか寿命が残ってない・・・」

 

「はあ。俺の世界でもぶっ飛んだ聖職者は何人もいたが、そっちもぶっ飛んでるな。・・・発想が魔術師(メイガス)だ」

 

 兵夜はため息をつきながら、大体の事情を把握する。

 

 さて、流石にどうしたものかと考えて―

 

「・・・兵夜さん。私、昨日の話、受けます」

 

 と、そこでヴィヴィオがよく通る声で言った。

 

 確かに、その件についての回答はまだ聞いてなかったが、今ここで言うことだろうか。

 

「・・・だから、そのアスタルテさんって人も助けてあげてください!」

 

 ヴィヴィオの言葉に、全員の視線が強く集まる。

 

「ヴィヴィ。アスタルテってのは君とは無関係の人物だ。・・・そこまで熱意を込める理由があるのか?」

 

 お人好しならそれはそれでいいが、しかしこのタイミングで契約内容の追加にするのは考え辛い。

 

 何か理由があるのなら、流石に聞いておきたいところだった。

 

「私もそうなんです」

 

 と、ヴィヴィオははっきりと速やかに言った。

 

 割となんてことの無いように言われたので、兵夜は一瞬なんのことだかわからなかった。

 

「アインハルトさんは覚えてますか? 四年前に起きたJS事件」

 

「はい。・・・確か、ジェイル・スカリエッティという研究者が聖王のゆりかごを使って起こした事件ですよね」

 

 そう答えるアインハルトもまた、表情が暗かった。

 

「オリヴィエが命を捨てて戦乱を収めるために使ったゆりかごが、犯罪者の欲望のために使われて破壊されたのは覇王(わたし)も悲しかったです」

 

「私は、そのゆりかごを起動させるために作られたオリヴィエの複製体(クローン)なんです」

 

 その言葉に、全員が目を見開いた。

 

 子供にしては場慣れしていると思ったが、かなり深い事情を持っていた。それも、おそらくこの場の中でもトップクラスに深い事情だ。

 

「あの時は、心も体も自分の思い通りに動かせなくて、本当に大変でした」

 

 相当きつい事情なのだが、しかしその言葉にはどこか光がある。

 

「でも、全部まとめて受け止めて、助けてくれた人がいたんです」

 

「そっか。そういうのは、すごく大事な人になるよな」

 

 兵夜はついヴィヴィオの頭をなでながら、感慨深くそう言葉を漏らす。

 

 彼自身、そういった感情にはとても覚えがある。

 

「ああ、そういう感謝を与えてくれた人はとても大好きなってしまう。これはもう、なんていうか神々の絶対命令みたいなもんだ」

 

 だから、それを言われてしまうと弱い。

 

「だから、そのアスタルテさんの気持ちも受けて止めてあげたいんです。せっかく一杯幸せになる機会があるのに、それをもらえないのは間違ってるって思うから」

 

「仕方ないねぇヴィヴィは。OKOK、可能な限りって条件付きで、それも入れてあげるよ」

 

「・・・可能な限りって予防線張ってる当たり、あなたやっぱり黒いわねぇ」

 

 後ろでシルシが余計なことを言っているが、しかし兵夜としても極力考慮するつもりだ。

 

 本当にどうしようもない時は汚れ役を引き受けるが、そうでないなら考慮はきちんとしている。少なくとも自分はそのつもりだ。

 

「まあ、当分の間は遭難者探しだけどな。とはいえどうやって探すかが問題なんだが・・・」

 

 シルシの目をもってしても、そもそも誰が巻き込まれているのかを把握したうえで、大体の位置が把握できなければどうしようもない。

 

 千里眼といえば聞こえはいいが、その実当人でも礼装なしでは制御できない代物なのだ。そうそう自由にできるわけでもない。

 

 文化水準が比較的近しいこともあり、誰がどの世界の人なのかを調べるのも難しい。ローラー作戦にも限度がある。

 

「せめてそういうのにたけた実力者が一人でもいればな・・・」

 

 そう考え込んだその時だった。

 

「あ、携帯なってますよ先輩」

 

「ん? ああ、悪い悪い」

 

 と、緊張感を崩すかのように携帯が鳴り響いた。

 

 そして、五秒後。

 

「いやあり得ないだろ!? 異世界にまで通信局が生きてるわけないし!」

 

 とっさに兵夜はツッコミを入れるが、しかし古城は喜色を浮かべる。

 

「いや、こいつならそれぐらいはやってのけるさ。・・・あいつのことだから巻き込まれても何かしてくれるって信じてたぜ」

 

「どちら様なんですか?」

 

 と、確信すら持った古城にアインハルトが訪ねる。

 

 その質問に、古城はすぐに答えた。

 

「藍羽浅葱、俺の友達だ!」

 



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合流、開始します!

 

 全員が会話を聞こえるように設定してもらってから、携帯を通話にする。

 

「・・・遅い! 死んだかと思ったじゃない!!」

 

 かなり本気で大声が響いて、耳を抑える。

 

 だが、これだけの声が出せるということは消耗は少ない証拠だった。

 

「大丈夫そうで何よりだ。シルシ、電波経由で千里眼使えるか?」

 

「電子干渉魔術はまだ慣れてないけど、ある程度距離がわかれば・・・」

 

 兵夜はシルシとすぐに動くが、古城はそれよりも何よりも無事を喜んだ。

 

「無事だったんだな浅葱。心配したぜ」

 

『無事じゃないわよ! テロリストが襲撃してきたかと思ったら空間転移魔術に巻き込まれるし! 親切な人が拾ってくれたからよかったけど、その人にネット環境借りて、やっとの思いであんたの携帯があるって探し当てたのよ!?』

 

「今サラリとすごいこと言わなかったか、その女」

 

 ハッキングの心得もあるので、兵夜はその恐ろしさがよくわかる。

 

 少なくとも、並のハッカーではどうにかできるようなことではない。そしてこの緊急事態でそんなことができる胆力もシャレにならない。

 

「そうか? バイトで絃神市のメインコンピュータを使わせてもらってるらしいが」

 

「それ十分すごいからな?」

 

 どうにも周りもよく分かっていないようだ。

 

「にゃー」

 

 猫に慰められた。

 

 あと、クリスと呼ばれた兎のぬいぐるみが頭に手を置いた。

 

 どうやら、この二匹はすごさがある程度はわかっているようだ。

 

『別に大したことはしてないわよ。私はバイトでプログラム組んでるだけだし・・・っていうか誰?』

 

「最初に警告しておく。自分の化け物具合を自覚しないと死人出すぞ。・・・それと俺は暁の協力者だ」

 

 かつての親友が、自分の実力を過小評価しすぎた結果昇格試験で人を殺しかけたことを思い出して、兵夜は頭痛を感じた。

 

 だが、其れはともかくこれは中々いけると判断する。

 

「とりあえず、藍羽・・・だっけ? 簡単に状況を説明するから、落ち着いて聞いてくれ」

 

 と、兵夜は簡潔に状況をまとめて説明する。

 

 ただの高校生(などというレベルではないハッカーだが)である以上、取り乱すと踏んでいた。

 

 が、割とすぐに納得してくれた。

 

『なんでそんなことになってんのよ。絃神市の設計者のせいで大変なことになってるってのに、こんどは異世界召喚でバトルロイヤル? 一周回って落ち着いてきたわ』

 

「大物だな、オイ」

 

 最早兵夜としては感心する他ない。

 

 とはいえさてどうしたものか、と思った時、須澄が割って入って声をかける。

 

「・・・聞こえる、聞こえるかな? とりあえず、今どの辺りにいるかわかる? っていうかその親切な人って誰かな?」

 

『ん? あなたも協力者? ・・・日が出てる方から海が見えるわね。海からこっちまでの間には、なんかぼろぼろの建物がいっぱいあるけど』

 

 その言葉を聞いて、トマリが地図を出した。

 

 そこにに素早くペンで一部を丸く囲むと、「廃墟地帯」

の文字を書く。

 

「海が見えるってことはこの廃墟地帯のこっち側だねっ。反対側に何が見えるかわかる?」

 

『えっと・・・高速道路っぽいのが。あと、ちょうどインターチェンジが太陽の反対側に』

 

「OKっ。それなら大体わかるよ。シルシちゃん、半径五百メートルぐらいなら場所わかるかなっ?」

 

「浅葱ちゃんの顔写真があるならできるわよ? 大体の方向も分かるしね」

 

「うんうん。あと浅葱ちゃん? 今いる建物どれぐらいの高さかわかる?」

 

『えっと、かなり高いわね。同じぐらいのは三つもないけど』

 

「OKOKっ。そこまで分かればすぐに行けるよ。そこで待っててっ」

 

 と、とんとん拍子に話が進んでいく。

 

 だが、そんな中兵夜は嫌な予感を感じていた。

 

「これ・・・大丈夫か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たぶん、たぶん危険だね、浅葱ちゃんは」

 

 と、街を歩きながら須澄は断言した。

 

 それについては、兵夜も全く持って異論はない。

 

「この治安の悪い街で、廃墟地帯のすぐ近くにあるそんな高いビルに住んでるような奴は十中八九悪人。できるだけ急いだほうがいいよっ」

 

「そうなんですか? でも、なにもされてないんですよね?」

 

「安心させてから内臓を売るつもりか・・・いや、俺たちもまとめて一網打尽にする作戦かもしれないな。全員戦闘する覚悟はしておくように」

 

 ヴィヴィオにそう釘を刺しておきながら、兵夜は視線で町中を観察する。

 

 最短距離で歩いているが、しかし割と人が多い。

 

「もっと活気が無いかと思ったんだが、割と賑わってないか?」

 

 今はちょうど市場の辺りだが、闇市同然とはいえ人が割と多い。

 

 むろん、売られているのは怪しそうなものがたくさんある。明らかに違法薬物と思われるものもあった。

 

「・・・なんか魚が焼けるにおいがするな。朝飯喰ったばかりなのに腹減ってきた」

 

 古城の視線が屋台に向けられるが、須澄が青ざめた顔でその肩に手を置く。

 

「やめたほうが、やめたほうがいいよ。前食べてみたけど三回中三回ともアイスみたいな甘さがあったから」

 

「絶対ロクなのじゃないって言ったのにっ。須澄くんはうっかり屋さんなんだから。でもそんなところも可愛いっ」

 

 と、冷や汗すら流す須澄にトマリは抱き着いた。

 

「はいはい御馳走様。・・・とはいえ、思ったよりは栄えてるな。もっとスラムじみたところだと思ったんだが」

 

 話に聞いているとかなり貧困だと思ったのだが、そうでもないように思える。

 

 が、須澄は蔑むように街を見渡しながら、ため息を突く。

 

「数年前から聖杯戦争の舞台づくりとして発展させられてるんだと思うよ? 必要もない貿易の中継地点かされてるしね」

 

 地元なだけあってよく見ている。

 

 確かに、少し周りを見渡してみると港での作業を募集する胡散臭い男が何人もいた。

 

 その男たちから明らかに距離を置きながら、トマリはヴィヴィオたちに警告する。

 

「皆、話しかけられても無視してねっ? この街、犯罪者の巣窟になってるから、油断してると犯罪の片棒担がされるよっ」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「気を付けます」

 

 と、流石に慣れてないのか緊張する二人は、すでに大人状態になっている。

 

 子供のままで歩くには危険すぎる。そういう須澄とトマリの意見を反映した結果だ。

 

 バリアジャケットという戦闘装飾は流石に目立つので、兵夜がジャージを提供した。

 

「っていうか、なんでジャージとはいえ女物の服持ってんだ?」

 

「友人が、あの変態どもの脱がし技の開発者でな。たまに暴発するんでフォローのために常備してるんだ」

 

 古城の質問に答えると涙が出てくる。

 

「元祖洋服崩壊(ドレス・ブレイク)の生みの親なのよ。あれは初めて見たとき吹き出したわ」

 

「・・・すごいいやらしい人なんですね、その人」

 

 思い出しておなかを抱えだすシルシを眺めながら、雪菜は極めて妥当な意見をはっきりという。

 

「ああ、あふれ出る性欲を抑えることができない覗きの常習犯。控えに行っても女の敵だな」

 

「うっわぁっ。須澄くん、そんなのにだけはならないでよっ」

 

 兵夜が軽く説明すると、トマリはまあ当然の反応を返す。

 

 それに兵夜は苦笑で返す。

 

 なにせ、女の敵であることは間違いなく事実。普通に考えればモテる訳がない危険人物だ。

 

「・・・だけど、其れさえ絡まなければ基本的に常識人。エロさえ関与しなけりゃ誠実で仲間思いな良いやつさ。問題ごとにもできないなりに寄り添ってぶつかっていくから、一度仲良くなったら嫌いになんてならない良い男でもある」

 

 兵夜はそう断言する。

 

 そう、彼はその評価は正確かつ的確だ。

 

 友達や仲間の為なら体を張れる献身の精神を持ち、その優しさは多くに仲間を救ってきた。

 

 スケベすぎるのが問題だから万人受けはしないが、エロに寛容な冥界では普通に人気者だ。

 

 弱気を助け強きをくじく。悪に義憤する正義感の持ち主で、だからこそ冥界の英雄とすら呼ばれている。

 

「例えていうならそうだな・・・英語でHとEROを足すとHEROになる。そんな男だよ、あいつは」

 

 そういう兵夜の顔はとても自慢げで、大切な宝物について語る少年のそれだった。

 

「大好きなんですね、その人のこと」

 

「もちろんだよヴィヴィ。俺は、あいつのためなら死ねるとも。・・・ま、死んだらあいつが泣くから死なないように頑張るけどな」

 

 そうおどけながら、兵夜は行き先を確認する。

 

「・・・そろそろだいぶ近づいてきたが、見えるか?」

 

「そうね、染めた金髪で雪菜ちゃんとほぼ同じ学生服を着た女の子は見つけたわ」

 

 と、シルシが眼帯に手を当てながらすぐに報告する。

 

「そいつだ! で、まだ大丈夫なんだな?」

 

「ええ。すぐ近くに十代後半ぐらいの女性がいるわ。・・・髪型は短めの髪のポニーテール。髪と目の色は赤いわね」

 

 と、すらすらとシルシは答えていく。

 

 はるか遠くの悲劇すら見据えることができる千里眼の前には、建物の内部など関係ない。

 

 それゆえに、すぐにその情報を判別することができた。

 

 ・・・そして、作戦はすぐに建てられた。

 

 



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撤退戦、開始します!

 

 そして、兵夜と古城は即座に部屋へと踏み込んだ。

 

「浅葱無事か!」

 

「藍羽ってのはあんただな? ・・・で、そっちが―」

 

 二人は予想通りの惨状に眉をしかめる。

 

 そこには藍羽浅葱の他にもう一人。

 

 赤い髪をポニーテールにし、赤い目を歪め、そして赤い服を着た女。

 

 少女にも見える女が、浅葱に銃を突き付けていた。

 

「そこまで。・・・あんたが神喰の神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)ね?」

 

 女は浅葱を片腕でつかんで離さない。

 

「こ、古城ゴメン。この女すごい速くて」

 

「大丈夫だ浅葱。・・・てめえ、卑怯だぞ」

 

 古城は微妙にわざとらしい声を上げるが、女はその言葉に笑みすら浮かべる。

 

「はいはいお好きにどうぞ。お決まりのセリフだけどうれしくなるわね」

 

「・・・あんた、エイエヌの側近だな?」

 

 兵夜はいつでも飛び出せるように腰を落としながら、わかりきったことをあえて尋ねる。

 

 少なくとも聖杯戦争関係者なのは間違いない。そして、あえてすべての情報を開示されてない状況下でここまで動けるのは主催者側でしかありえない。

 

「正解。須澄やトマリから聞いてない? あたしはアップ・ジムニーよ」

 

 アップと名乗った女は得意げにほほ笑みながら、しかし銃口を浅葱から決して放さない。

 

 その口元に映る愉悦の表情は、圧倒的有利な立場に立っている者の其れ。

 

 自分が大上段から相手を見下ろすことに快楽を感じる者のそれだった。

 

「さあ、人質をどうにかされたくないなら、すぐに残りの連中を呼びなさい。退路の確保のために別行動してるんでしょうけど、あいつらがいると邪魔だしね」

 

「・・・わかったわかった。わかったから少し落ち着け」

 

 と、兵夜は即座に要求をのんだ。

 

 即座に殺しはしないだろうが、この女は腕に風穴を開けるぐらいは平然とする。

 

 そう聞いている以上、下手な引き延ばしはしない方がいいのがわかっていた。

 

 だが、その行動にいぶかしんだのはアップだった。

 

「・・・意外ね。あんたなら、状況が不利とみるなら人質ごと攻撃しかねないってエイエヌ様から聞いてるんだけど」

 

「おい、あんなこと言われてるぞ」

 

「いや、確かに否定はしないぞ? だがそれはそれ以外に方法がない時だけの話だ」

 

 と、心外そうに兵夜は言った。

 

「人質の安全を確保した方がいい状況下でそんなことをするほど俺も馬鹿じゃない。それぐらいの黒い取引はできるぜ?」

 

「へぇ。つまりアンタ、あたしたちに協力してくれるの?」

 

 妙な流れになったとでも思っているのか、アップは圧倒的有利な状況でありながら兵夜を警戒し始める。

 

 ・・・そう、それこそが狙いだった。

 

「いや、今回は助け出せるしな」

 

「ッ!?」

 

 その言葉にアップはすぐにでも引き金を引こうとし―

 

「覇王―」

 

「アクセル―」

 

 足元から、声が聞こえるのを察知した。

 

「ちょ、まさか―」

 

「断空拳!」

 

「スマッシュ!!」

 

 直後、床が粉砕されてアップはバランスを崩す。

 

 そのまま下の階に落ちるアップと浅葱に、兵夜と古城は一気に動いた。

 

「浅葱、捕まれ!!」

 

「古城!」

 

 古城は自分が怪我をするのも構わず浅葱を引き寄せ、そして兵夜はガトリングガンを取り出すとすぐにアップに狙いをつける。

 

「残念だが、お前がいることは見えてたんだよ!!」

 

「なんですって!?」

 

「お決まり通りのセリフをありがとうよ!!」

 

 躊躇なく引き金を引きながら、兵夜はワイヤーを取り出して古城に投げつける。

 

「撤収するぞ、暁!」

 

「お、おう! やってくれ!!」

 

 頬を引きつらせながらも古城は頷き、それを見た浅葱は怪訝な表情を浮かべる。

 

「古城? いったいどうするつもり―」

 

「こうする」

 

 と、兵夜が言葉を遮りながら窓ガラスを突き破った。

 

 もちろん、ワイヤーを持っている古城と彼に抱きしめられている浅葱も一緒に外に飛び出る。

 

「・・・うぉおおおおおおおお!!」

 

「き、きゃああああああああ!?」

 

 二人の絶叫をBGMに兵夜は悪魔の翼を展開すると速度を殺す。

 

 と、そこに飛行魔法を展開したヴィヴィオとアインハルトが並んで降り立つ。

 

「作戦は成功ですね!」

 

「よくやったヴィヴィ! ハイディも助かったぜ!」

 

「それより、下の方は大丈夫でしょうか?」

 

 と、アインハルトは心配しながら下を見る。

 

 だが、どうやら心配は無用だったらしい。

 

「お待たせみんなっ! 準備OKだよっ!」

 

「藍羽先輩! 大丈夫でしたか!」

 

 ビルの下には残りのメンバーが集まっており、それぞれが急いで下にいる人を追い払っていた。

 

 そこに、兵夜たちは着地する。

 

「あなたが、あなたが浅葱ちゃんだね? とにかく走って!」

 

「え、ええ! っていうかどういうことよ古城!」

 

 須澄の言葉に従いながら、浅葱は古城を問い詰める。

 

「何この流れるような脱出劇!? いったい何があったのよ!?」

 

「いや、話せば長くなるんだが・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずいね。浅葱ちゃんの近くにいるの、よりによってエイエヌの側近だよ」

 

 須澄はそう言って髪をかき乱した。

 

 あまりの展開にどうしたものかと本気で悩み始める。トマリも困り果てて頭を抱え始めた。

 

「うっわぁ・・・。よりにもよってアップちゃんだよ。エイエヌも本気だよっ」

 

「そのアップさんというのは?」

 

 とりあえず敵だということはわかるが、しかしそこから先がわからない。

 

 そのため、雪菜の質問は実にわかりやすいだろう。

 

「アップ、アップ・ジムニー。僕らの同郷で、今はエイエヌの配下だよ」

 

 須澄は、眼を閉じながらそう言い放つ。

 

「悪性の刺激をエイエヌがしたのは言ったよねっ? 中には、その悪性を受け入れてエイエヌに従う人もいたんだよっ」

 

「そいつが浅葱のそばにいるってのか・・・っ」

 

 トマリの話を聞いて、古城は近くにあった壁に拳を打ち付けた。

 

 浅葱が危険な状態なのは想定済みだったが、これはどう考えても敵の罠である。

 

 主催者であるエイエヌが比較的積極的に排除の方向に動いていることはわかっていたが、こうも早く動き出すとは思っていなかった。

 

「まあ、その浅葱ちゃんは人質に?」

 

 そして、脅されてこちらをおびき寄せる。

 

 よくある話をシルシは言外に匂わせるが、古城は速攻で首を振った。

 

「いや、たぶん気づいてないだろ。あいつは人質にされて素直に俺たちをおびき寄せる奴じゃない」

 

「ホントに肝が太いというか豪胆というか。それはともかく」

 

 と、感心しながら兵夜はすぐに考える。

 

「まあ、さすがにシルシの千里眼については把握されてないだろう。冥界政府でも知名度が低いし、魔術師は秘匿が原則だから情報漏洩には本能的に気を遣う」

 

 つまり、アップとかいう女はまだ自分がいることに気づかれていないと思っている。

 

 ならば、先手は打てる。

 

「よし、俺と暁で囮になって気を引くから、誰かその間に下から床崩してくれ。その隙に藍羽を救出する」

 

 作戦としてはシンプルだが、普通に床を壊すという豪快な手段でもある。

 

「えっと、それ、下の部屋の人困りません?」

 

「大丈夫、大丈夫だよ。どうせ悪人だし」

 

「補修費用はどさくさに紛れておいておく。・・・三千万円ぐらい用意すれば大丈夫か」

 

 下の住人のことを割と無視する作戦に、ヴィヴィオが少し引くがそれは仕方がない。

 

 人命がかかっているし相手は高確率で悪人なので我慢してもらうことにする。修繕費は出すので事後承認してもらおう。

 

 だが、それ以外にも問題がいくつもある。

 

「ですが、屋内での戦闘では被害が大きくなりすぎます。昨夜の規模の戦闘を街中で行うわけにも・・・」

 

「その通りです。特に先輩の場合、下手に負傷すると眷獣が暴走して、大きな被害が発生しかねません。」

 

 アインハルトと雪菜がそれらの問題点を指摘する。

 

 だが、その辺についてはもちろん考えられていた。

 

「それに関しては廃墟区画に逃げ込めばある程度は抑制できる。それと、室内からの脱出だが・・・」

 

 そこまで行ってから、兵夜は周りを見渡した。

 

「この中で飛べる奴、手を上げろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦はこういうことだ。

 

 場慣れしている兵夜と一番親しい古城が直接の救出班として室内に突入。同時に下の階が幸いにも空き部屋だったので飛べるヴィヴィオとアインハルトで破壊班を担当する。

 

 そして下に落ちた後窓ガラスを破壊して脱出。そのままけがを負わないギリギリの速度で兵夜が古城と浅葱を抱え、ヴィヴィオとアインハルトがそれのフォロー。

 

 他のメンバーはありとあらゆる手段を使用して、窓ガラスの破片で怪我人が出ないよう人払いを行う。

 

 そして、その作戦は何とか成功した。

 

「なんつぅ強引な真似を。っていうか死ぬかと思ったわよ!」

 

「しょうがないだろ! 俺たちが暴れるとビルごと倒壊しかねない奴が多過ぎたんだ!」

 

 走りながら言い合いをしている姿は流石は年季があるとは思うが、しかしそんなことをしてる場合でもない。

 

「とりあえず、とりあえず走って! 忘れてたけどアップも飛べるから我に返ったらすぐ追いかけてくるよ!」

 

「ちょっと待って須澄君!? 私それ知らないんだけどっ?」

 

「またうっかりなの? 兵夜さんみたいなうっかり癖だけど親戚か何か?」

 

 須澄のうっかり発言に、トマリとシルシからの指摘が飛ぶ。

 

 兵夜も怒鳴りつけたいが、仕方がない事情もあるのでそれは呑み込む。そもそも人のことを言える血縁ではない。

 

 魂レベルだから仕方がない。仕方がないが・・・。

 

「それじゃ作戦が台無しだろうが・・・」

 

 ツッコミが飛ぶのも仕方がない。

 

 なにせ、この作戦は廃墟区画に入るまでの間にアップが追い付いてこないこと。あわよくばそのまま逃げ切ることが前提の作戦なのだ。

 

 ショートカットができるのなら、まったく意味がない。

 

「まずいです先輩! もう発見されました!」

 

 雪菜が叫び、そして後ろを振り返った兵夜たちは、急降下してくるアップの姿を確認する。

 

「逃ーがーさーなーいーわーよー!」

 

「・・・ええい! 作戦変更! メンバーを分けて足止め班と離脱班に分ける!」

 

 兵夜は即座に判断を仕切りなおすと、即座にガトリングガンであるイーヴィルバレトを展開して迎撃する。

 

 いきなりの弾幕にアップの動きが一瞬止まる中、すぐにメンバーが動き出す。

 

「道案内は、道案内は任せて! トマリ、後で念話よこして!」

 

「え、須澄くんっ!?」

 

 いうが早いか浅葱の手を引いて、須澄が走る。

 

「古城さんと雪菜さんも走ってください! お友達を守って!」

 

「私たちは飛べますので、後ですぐ追いつきます。急いでください」

 

 飛行可能なヴィヴィオとアインハルトも、追いつくのが楽なので足止めに自発的に残る。

 

「待ってください、足止めなら私がやります!」

 

「そりゃ、子供巻き込むわけには―」

 

 雪菜と古城は残ろうとしたが、兵夜は空いている片手で二人を押し出す。

 

「いいから行け! あとシルシ、目で俺たちを確認し続けとけ、合流が楽になる!」

 

 これは単純な戦力分割ではなく、合流の可能性を高めることもちゃんと考えている判断だ。

 

 飛行能力を持っているメンバーを中心に足止めすれば、障害物を無視してショートカットできる。

 

 周囲の破壊をある程度考慮しなくて済む廃墟区画なら、躊躇なく大暴れできる分勝算も大きい。

 

 あくまでこれはそのための足止め、ここで倒す必要はなかったのだ。

 

 ゆえに、合流を早くするための判断だって忘れてないのが兵夜である。

 

「わかってるわ。あなたのことならいつだって見ていたいもの」

 

「そりゃありがとうよ! あとでじっくりポーズ取ってやる!」

 

 すぐにそう判断し、チームが分割される。

 

 比較的破壊力の少ないチームと、破壊力が大きいチームに分かれ・・・。

 

「アレ? 私より須澄くんの方が破壊力小さいよね」

 

「・・・俺もあの子もまたやったぁああああああ!!!」

 

 思わず兵夜は崩れ落ちた。

 

「し、しっかりしてください! 大丈夫です、私もアインハルトさんも格闘家だから被害は少ないです!」

 

 ヴィヴィオに慰められるが、外見年齢はともかく実年齢では明らかに兵夜が年上である。しかも圧倒的に。

 

 別の意味で泣きたくなった。

 



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312話

実は前話において、ものすごいことが的中しています。





あと今回、結構長めです。


 須澄達は廃墟区画を走りながら、そのうっかりに気が付いた。

 

「しまった、しまったぁあああああ! 逆の方がよかった!」

 

「お前ホントいい加減しろよ!? どんだけうっかりしてんだよ!?」

 

「ねえ古城、あの子大丈夫なの? なんか心配なんだけど」

 

「お、落ち着いてください二人とも。ヴィヴィオちゃんもアインハルトちゃんも格闘型なので周辺被害は少ないはずです」

 

「それはともかく兵夜さんもうっかりだから指摘が遅れたわね。実戦経験の少なさがこんなところであだになるなんて・・・」

 

 軒並み実戦経験がほぼないメンバーだらけで、ある側も三人中二人がうっかりという致命的現状。冗談抜きで命の危険を感じさせる欠点である。

 

 いっそ戻ろうかとも思ったが、今から戻っても意味がない。

 

 それならさっさと人の少ないところに移動した方がいいだろうと判断し、五人はとにかく廃墟を走る。

 

「結構、結構根城にしてるからそこそこ詳しいからそこは安心して! あと五分も走ればだれもいないところにつくから!」

 

「姫柊、俺はすごく心配なんだが」

 

「まあ大丈夫じゃないかしら。なんだかんだでリカバリー不可能なうっかりはしないタイプよ、兵夜さんは」

 

「僕、僕は!?」

 

 まったく信じられてない状況に須澄は泣くが、それに関しては半ば自業自得である。

 

「それにしても、アップ・ジムニーという人はどれぐらいの戦闘能力なのですか? みんな戦えるとは思うのですがそこが不安です」

 

 何気に戦闘訓練をいくつも積んできているため、雪菜は建設的な質問を口にする。

 

 確かに、どれだけの戦闘能力を持っているのかで難易度が大幅に上昇してくる。

 

「・・・アップが目覚めた悪性は、結構誰でも持ってるものだよ」

 

 と、一見話がずれていることから、須澄は切り出した。

 

「安全に成果をあげたい。力をふるいたいけど、自分が危険なのはできれば避けたい。痛い思いをしたくない。・・・それを悪性として覚醒させたら、どんなのができると思う?」

 

「・・・破壊願望か?」

 

 古城は率直に答えるが、しかしそれに首を振ったのはシルシだった。

 

 それよりも、もっとわかりやすいものがある。

 

「自分より戦闘能力の低い個体を、安全にいたぶる弱い者いじめ。蹂躙願望とでも名付けるべきかしら?」

 

「正解。まあ、無双ゲームとか人気のジャンルだから理解はできるんじゃない?」

 

 そう寂しげに告げながら、須澄は過去を思い出す。

 

 ・・・昔から、男勝りなところのある少女だった。

 

 幼いころいじめられていたことがあったからか、彼女は強くなろうと体をよく鍛えていた。そして、弱い者いじめをするものと喧嘩をすることも多い。そのせいか年下から頼られていた子だった。

 

 勝ち気で、気弱なところがあった須澄は彼女に守られていたようなものだ。

 

 トマリもあの性格だからツッコミ役が必要で、性に合っていたのかアップは抑え役になっていた。

 

 はたから見れば正義感が強い性格だったが、しかしそこには悪性も当然存在する。

 

 光があれば影も強い。当時、子供だった須澄はもちろん、精神年齢が年とかけ離れて幼いところのあるトマリもまたそうだった。

 

 強くなれば、自分より弱いものが多くなる。

 

 悪人ならば、少しぐらい痛めつけてもみんなが穏便な反応を返してくれる。

 

 それに、弱いものを守っているのは自分が上だと実感できる。

 

 最も不幸だったのは、彼女自身それを自覚していなかったことだ。

 

『犬がね・・・いじめられてたの? もうおじいちゃんなのに、石を投げられて・・・っ』

 

 昔、初めて会った時に彼女はそういって泣いていた。

 

 見学した魔術事故によってこの世界に飛ばされた須澄は、犬に石を投げつけている子供たちを見て後ろから飛び蹴りを叩き込んだのだ。

 

 そのとたん、それに参加していた一人の女の子がそれに合わせて反旗を翻した。それがアップだ。

 

 なんでも最初はかばったのだが、自分にも石を投げつけられるといわれて逆らえなかったらしい

 

 まあ、魔術をろくに学んでいない須澄では数の暴力には苦戦しており、通りがかったトマリがその子供たちを説教しなければさてどうなっていたことか。

 

 とにかく、その出来事があってから三人で行動するようになり、そしてアップは弱い自分を捨て去ろうと必死だった。

 

 そう、弱い者いじめはよくないことだということを彼女はよくわかっていたし、そういうのを許したくないという気持ちも彼女にはちゃんと残っていた。

 

 だが、其れゆえに彼女は自分の黒い面を知らずに育ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気づいた時は絶望したわ。正しいことをしたいっていう、当たり前の感情が偽物だったんだもの」

 

 そう告げながら、アップは兵夜と武器をぶつけ合う。

 

 割と高価な素材でできた斧が、しかし一瞬で深く切り込みを入れられて弾き飛ばされる。

 

「・・・たいていの人間が当然持ってるものだろう。強い立場にあこがれるのは、人なら普通の感情だ」

 

 距離をとりながら、兵夜は自分のかつての推測が的中していることを実感する。

 

 今アップが持っているものは、魔剣グラム。

 

 戦友である木場祐斗が持っているはずの魔剣が、こんなところにあるわけがない。

 

 その使い手というだけで一目置かれるほどの戦闘能力を持っているようなものなのだ。加えて、木場祐斗はそれ抜きでも聖魔剣という強大な力を持った実力者。とどめに彼の近くには常に優れた仲間たちがいる。

 

 追加でいえば、グラムの持ち主には適性が必要。そのうえ剣の意思に認められなければいけないという必要事項もある。 

 

「・・・一応聞くが、あいつがあの剣持ったのはいつからだ」

 

「エイエヌの側近になったときからっ。だから、五年前かな」

 

 あり得ない。それだけは断言できる。

 

 そのころはまだ教会に保存されていた代物だ。そんなときから次元世界に持ち込まれているわけがない。

 

 平行世界から持ち込まれたものだと考えれば一番つじつまが合うだろう。グラムはさすがにまだコピーされてなかったはずだ。

 

 あまりにも規模のでかい事態に、兵夜はどうしたものかと頭を抱えたくなる。

 

 そんな考えを知ってか知らずか、アップはいとおし気に体をなでる。

 

「本当に絶望したわよ。・・・こんなに気持ちいいことを、今まで受け入れてなかったんだから」

 

 高いところから飛び降りるより、低いところから飛び降りる方がダメージが少ないのは当たり前だ。そして、不意打ちよりも来るとわかっているダメージの方が耐えられるものだ。

 

 そういう意味で、アップはあまりにも不幸な自覚をしてしまった。

 

 突き落とされたショックで壊れた女。

 

 兵夜は、素直にそう感じた。

 

 だが、今はそんなことを言っている場合ではない。

 

 なにせ、いまアップは地上戦を仕掛けてきているのだ。

 

 時間は昼前。人の多い時間帯で戦闘中なのだ。

 

 当然混乱の真っただ中である。

 

 そして、それを気にするほど彼女は善良じゃない。そんなものは捨て去っている。

 

「こんなやり方じゃなくたって、発散できる場所なんて一杯あります!」

 

「そう? だけどどうせやるなら派手な方がいいじゃない!」

 

 躊躇なく、ヴィヴィオをアップは蹴り飛ばす。

 

 グラムを囮にした一撃が、ヴィヴィオを無人になった屋台へと吹き飛ばした。

 

「ヴィヴィオさ―」

 

「危ないアインハルトちゃん!」

 

 それにスキができたアインハルトを襲う凶刃を、トマリが強引に引っ張ることで何とか守る。

 

 だが、体格の違いゆえに居場所が半ば入れ替わる形となり、トマリの背中をグラムが切り裂いた。

 

「―トマリさん!?」

 

「・・・だ、大丈夫大丈夫っ。私、貴族級の吸血鬼だからこれぐらいすぐに治るからっ」

 

 痛みにこらえながらもトマリは安心させるように笑うが、しかしアインハルトはこれで頭に血が上りかけた。

 

 ある理由で、彼女は誰もを守れる力を求めている。

 

 そんな自分の不注意による自業自得を、かばわれて仲間が傷ついた。

 

 12歳の、それも不安定な精神でこれは非常に荷が重い。

 

「ああもうトマリったら! 普段から電波はいっているくせに面倒見はいいんだから!」

 

 だが、激情にかられる余裕すらアップは与えてくれない。

 

 狂喜の表情を浮かべて、アップはグラムを連続で振るう。

 

 それを強引に兵夜が引っ張って避難させるが、余波で道路が深く切り刻まれた。

 

「クソ! これはさすがにまずいか!」

 

 ヴィヴィオもアインハルトも素質は高いがまだ子供で実戦経験も少ない。

 

 経験が豊富なトマリは、戦闘スタイルのせいで全力を出せないうえに負傷中。

 

 そして兵夜は後遺症の上、主力武装が使えないため弱体化している。

 

 せめて雪菜だけでも残すべきだったかと、今更になって反省している。

 

「・・・あと五分ぐらい時間を稼ぎたいところだが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、そんなどころの状態では全くなかった。

 

「ここまで、ここまでくれば少しぐらい暴れても大丈夫」

 

「わかったわ。それじゃあ兵夜さんを・・・っ!?」

 

 須澄に太鼓判を信じて兵夜を呼ぼうとしたシルシが、硬直する。

 

 そして同時に雪菜もその理由を察した。

 

 二人は同様にある種の未来視を行うことができる。その予知した一瞬先に未来が、あまりにも窮地だったのだ。

 

「暁く―!」

 

「先輩!!」

 

「え?」

 

 二人は同時に叫ぶが、実戦経験の薄い古城では反応がどうしても遅れる。

 

 そして、その一瞬の遅れとともに古城の胸から手が生えた。

 

「・・・がっ!?」

 

「・・・え?」

 

 目の前で返り血がかかり、浅葱が何があったのかわからず固まる。

 

 そして、その隙を凶手は逃さない。

 

「次は二人目―」

 

「させるか!」

 

「さがって!?」

 

 須澄が槍をもって攻撃を入れ、シルシは浅葱を引っ張って攻撃からかばう。

 

 シルシの背中に指弾が叩き込まれるのと、短剣と聖槍が激突するのは同時だった。

 

「気配に全く気付かなかった!? くそ、古城くん・・・」

 

「恥じることはない。聖槍の担い手とはいえ、只人がこのアサシンの気配遮断を破るのは至難の業よ」

 

 そこにいたのは茶髪の少年。

 

 十八歳ぐらいの少年がそこにいたが、しかしそれは彼の本当の姿ではない。

 

「話には聞いていたわ。兵藤一誠は龍神の体をアサシンに奪われていたって」

 

 傷から青い炎を噴出しながら、シルシは目の前の敵が脅威であることを見抜いていた。

 

 そこにいるのは、彼女たちの聖杯戦争の忘れ形見。

 

 多重人格を宝具とし、暗殺教団の長となった存在。ハサン・サッバーハの1人、百の貌のハサン。

 

 兵夜が奪い取った令呪で全員が自決させられたはずだが、しかしここに例外が存在した。

 

「然り。百の貌のハサンが一人、基底のザイード。・・・亡き我らの無念を晴らすため、幽世よりその命を刈り取りに参った」

 

 兵藤一誠ならば決して浮かべることのない泰然とした表情を浮かべ、ザイードは刃物を構える。

 

「さて、暗殺者と直接戦闘となれば有利なのはそちらの方だ。討ち取って名を上げるのは誰だ?」

 

「じゃあ、じゃあ僕がもらおうかな!」

 

 須澄が聖槍をもって突撃を敢行する。

 

 知り合って間もないとはいえ、仲間をやられて怒りを覚える程度には須澄は人間らしい人物だった。

 

 何より須澄は古城を尊敬している。

 

 割と普通の人でありながら、大きな責任を背負う戦いを決意した彼は、憎悪に突き動かされた自分より素晴らしいと思っている。

 

 そんな彼を目の前で殺されて、黙っていられるわけがなかった。

 

「五年も、五年間も使ってるんだ。なめてもらっちゃ困るよ!」

 

 須澄は速攻で槍を連続で突き出す。

 

 極めれば神すら殺すといわれる神滅具。その中でも最強と呼ばれる黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)の担い手。その及第点以上を須澄はとっていた。

 

 それは、暗殺者であるハサンにとっては脅威以外の何物でもない。

 

 もとより、百の貌のハサンとは霊格を何十分の一にも分裂させている。それも、難題も重ねているからこそ英霊の座に至っているハサン・サッバーハは英例としては型落ちに近いのだ。

 

 直接戦闘を挑む時点で悪手。不意打ちではない状況下で、アサシンに勝機は薄い。それが聖杯戦争の基本である。

 

 だが、ここに例外が存在する。

 

 否、ザイードが弱い英霊というのはれっきとした事実だ。

 

 八十分の一の霊格である百の貌のハサンは、それぞれの人格が得手を担当することで真価を発揮する英霊である。

 

 だが、このザイードはその中では特に得手とする者のない人格。百の貌のハサンの中でも特に弱い部類だった。

 

 そして、兵夜は知らないことだが、彼は幻想兵装において神殺しの英霊を召喚している。

 

 マハーラーバタの英霊カルナ。一度限りの神殺しの槍を使える英霊。その力をもって、フィフスが目的を達成するまでの間、インドラを押しとどめた英霊。

 

 その槍は一度しか使えず、無敵の要素を持つ鎧も槍と引き換えに失われる。

 

 そのため彼は大きく弱体化しており、しかしそれゆえに体を奪う依代に選ばれた。

 

「これが、地球周辺世界最強の存在を使ってつくられた体ってことね。・・・技量はともかく性能が違いすぎるわ」

 

 シルシはあまりに危険な状況に、逆に笑えて来そうな自分を何とか押さえる。

 

 無限の龍神、オーフィス

 

 赤龍神帝、グレートレッド。

 

 その究極とすら形容できるほどの圧倒的な力を持つ存在の細胞によってつくられた体。

 

 奇跡の覚醒を止めるためだけに、ロストロギアにすら脾摘するであろう神の遺した奇跡を使いつぶしてザイードに宿されたそれは、間違いなく個人レベルでいうならば最強クラス。

 

「さて、どうするつもりだ?」

 

 ここに、最強の龍が強襲を仕掛けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮白兵夜は、基本性能でいうのならばそこまで高いほどではない。

 

 人間だったころは優秀だが、それは転生者という規格外が根底にある。

 

 幼少期の努力が将来に大きく影響を与えることを自覚していたから、徹底的に努力した。魔術という反則手段を持っていたから、利用した。その二つがあってしても、人間として優秀レベルでとどまっていた。

 

 禍の団(カオス・ブリゲート)での活躍は、仲間たちの協力があればこそ。優れた研究者がいたから、彼らの協力で徹底的に体を強化することができた。そのうえで、強力な仲間たちが手助けをしてくれたからこそ勝ち残ることができた。

 

 それですら、過剰な負担がかかった結果、神格と化したのにもかかわらず、その戦闘能力は上級相当に収まってしまっている。

 

 だからこそ、宮白兵夜は強力な装備を集めるのに躊躇しない。

 

 今兵夜が使用している斧も、量産品であることを考慮すれば強大な性能を発揮する。修復能力を持っているうえに、頑丈さでは核シェルターに匹敵する。

 

 それが、一撃で半分以上たち切れていた。

 

「どうしたの? どうしたのどうしたのどうしたの?」

 

 圧倒的な優位に至っているという自覚が産む高揚が、アップの口調をおかしくさせる。

 

 それだけの圧倒的優位を生み出すのは、手に持つ剣。

 

 魔帝剣グラム。神滅具に匹敵する力を持ち、最強の魔剣といわれる伝説の装備。

 

 その切れ味は圧倒的であり、持てるというだけで実力者として扱われるほどの領域である。

 

 ましてや兵夜は龍の特性を宿すもの。かすり傷でも追えばそれが致命傷につながりかねない。

 

 斧のリーチを生かして距離をとり、器用に片手でガトリングガンの弾丸を叩き込むがそれも無意味。

 

 彼女自身の体に当たった弾丸は、むなしく弾き飛ばされた。

 

「無駄無駄! これでも私も魔導士なのよ!」

 

 両手に装備された手甲型のデバイスが発光し、魔法を行使する。

 

 常時防御障壁を体に展開しながら、そのまま体を自由に動かして戦闘する。

 

 何気に高等技術を展開しながら戦闘を行う。それが彼女が実力者であることの証明だった。

 

「これだけの防御魔法を展開しながらこれだけ滑らかに動けるなんて・・・っ!」

 

 グラムを避けながら、アインハルトも瞠目する。

 

 ただの力に酔った暴力者かと思えば、相当の実力を保有していた。

 

 だが、それにしてもおかしいこともある。

 

「それにしても、これだけの魔力量をカートリッジシステムもなしにどうやって?」

 

「おそらく神器(セイクリッド・ギア)だ!」

 

 攻撃をかいくぐりながら、兵夜は推測する。

 

神器(セイクリッド・ギア)?」

 

「ある宗教の神が作り上げた、人に宿る特殊能力。生まれついて保有できるマジックアイテムだが、あの女それを移植してるな!」

 

「正解! 精神力を変換して消耗する力を補填させる、無尽の欲望(デザイア・リミットレス)よ!」

 

 瞳孔を小さくさせるほどに興奮しながら、アップは高速で攻撃を繰り広げる。

 

 この高揚状態からくる精神力は、当分の間消耗速度を上回るだろう。

 

 無尽蔵の魔力を利用した隙の無い全方位防御。相応の攻撃力がなければ突破不可能。

 

 格下にやられることはない堅実な戦法。言い方は悪いが、弱い者いじめに向いているといえば向いている。

 

「さあ、こっからどうやって反撃するの!?」

 

 そう言い放ちながら、アップはグラムを囮に魔力弾を不意打ちで放つ。

 

 それに足と取られて、兵夜はバランスを崩す。

 

「もらった!」

 

 一気に踏み込んでの全力の一撃。最強の魔剣という圧倒的な攻撃力。そして何より、龍の特性を持つものに対しての龍殺し。

 

 三つそろった圧倒的な攻撃。それは間違いなく致命的な威力を発揮し―

 

「―かかったな?」

 

 ―それこそが兵夜の狙いだった。

 

 瞬間、足元の水道管が破裂して今度はアップのバランスが崩れる。

 

「・・・水流操作!?」

 

「その通り!!」

 

 そのまま翼を出して勢い良く倒れこむと、兵夜は接触状態で結晶体を取り出す。

 

「ゼロ距離からの魔力爆発、これならどうだ!!」

 

 それは、間違いなく大技。しかし接触しているためかわせない。

 

 至近距離による大魔力の攻撃。それは間違いなく状況を打開できると確信できるもので―

 

「―なんてね!」

 

 ―ゆえにこそ、兵夜にとって大きな隙となる。

 

 突如アップの足元から鎖が生まれると、それが兵夜に巻き付いて動きを止めた。

 

「捕縛系の魔法だと!?」

 

「当然。弱い者いじめするなら、動きを止めるなんて常套でしょう?」

 

 そういうと同時に再びアップがグラムを振り下ろそうとして―

 

「させません!」

 

 その歓喜の瞬間のスキをついて、アインハルトが懐に踏み込んでいた。

 

「覇王―」

 

 そして、放つのは彼女の決め技。

 

「―断空拳!」

 

 アインハルトの技の中でも、特に破壊力のある一撃。

 

 だが、それはギリギリで受け止められた。

 

「・・・甘い甘い。こっちには切り札もあるのよ?」

 

 莫大な出力がアップの全身から放たれ、そして一撃を相殺する。

 

禁手(バランス・ブレイカー)無尽蔵の願望(デザイア・リミットレス・オーバーロード)。生み出したエネルギーを無理やり叩き込んで、その分出力を増大化させる」

 

「そんなものまで・・・!」

 

「ヤバイ、ハイディ離れろ!」

 

 二人はすぐにでも反応するが、もう遅い。

 

 アップの周囲に大量の魔力弾が浮かび、そして照準が定まった。

 

 超至近距離からの弾幕を、全弾捌ける道理はない。

 

「おしまいよっ!」

 

 そして、一斉にはなたれ―

 




アップの戦闘スタイルは神器を利用した莫大な魔力に物を言わせた常時防護状態が売り。弾幕を張れる直射魔法やグラムを利用します。

因みに禁手は蛇口を強化するようなものだお思いください。どれだけ容量が大きくても蛇口が小さければ出せる水の量は少ないですが、それを一時的に特化得ることで最高出力を上昇させています。

つまりは格下に無双する戦闘スタイル。不意打ちを喰らっても頑丈さで抑え込める戦闘スタイルです。悪魔の駒でいうなら戦車タイプ。


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困難、乗り越えます!

 

 ザイードが攻撃を叩き込もうとしたその瞬間、彼の肩に手が置かれた。

 

「・・・おい」

 

 その声はあり得ない。

 

 確実の心臓をぶち抜いたはず。

 

 だが、しかしそれでもすぐに反応できた。

 

 なにせ、彼は心臓を破壊されたどころか肉体が崩壊したのにもかかわらず、生存しているものを知っている。

 

 だがそれでも、暗殺者である彼は不意打ちを行うことには強くとも完全な不意を突かれることには弱かった。

 

「人の仲間に何してんだ!」

 

「ぐぉぉ!?」

 

 顔面狙いの、雷撃を纏った拳が放たれる。

 

 かろうじて反応できたことと、古城が素人であったことから防御が半端に間に合った。同時に想定外だったこと、古城が人間離れした身体能力を持っていたことから半端にしか防御が間に合わなかった。

 

 ガードで殺しきれず、ザイードは廃墟の壁を突き破ってたたきつけられる。

 

 だが、その程度で殺されるほど龍神の肉体は甘くない。

 

「古城くん! ためらわずに吹き飛ばして!」

 

「わかってる! 薙ぎ払え、獅子の黄金(レグルス・アウルム)

 

 魔王と並び立つほどの雷撃が放たれ、廃墟群を粉砕する。

 

 圧倒的な雷撃はしかし、ザイードを殺すに至らなかった。

 

「ふふふ。殺し損ねたことは何度もあったが、殺してからよみがえられるとは想定外だ」

 

 笑い声ではあるが、その声は屈辱にのまれている。

 

 暗殺者の英霊である彼が、圧倒的な力を手にしている状況下で、確実に殺せる不意打ちを行い、そして殺したのにも関わらず殺し損ねた。

 

 心の底から屈辱的だが、しかし彼は深追いはしない。

 

 それは主の命に反するからだ。

 

「この失態は必ず取り返すとしよう。覚えておくといい、ハサン・サッバーハの手はいつでも貴様らに届くところにあると思え」

 

 そういうなり、気配が消えていく。

 

「・・・気配遮断を使われたわね。これは追いかけるのは無理かしら」

 

「そう、そうだろうね。彼はどんなアサシンを宿しているんだろうね」

 

 タネがある程度わかっている二人が息を吐く。

 

 警戒こそ解いていないが、しかし追いかけるのは無理だと判断した。

 

 それでも、須澄は割と驚愕している部類だ。

 

 なにせ、アサシンは搦め手中心のサーヴァントだ。直接戦闘能力はサーヴァントでも最弱の部類であり、マスターの暗殺で真価を発揮する。

 

 そういう意味では、マスターが直接サーヴァントの力を得るこの世界の聖杯戦争では真価を発揮しにくいだろう。暗殺というものは戦闘とはまた違ったセンスが必要なのだから。

 

 ゆえに、彼こそが真のアサシンとしてこの聖杯戦争最強であることは間違いない。

 

 なぜなら、彼はサーヴァントを宿した生命体ではなく、サーヴァントが生命を得た存在。前提の時点で格が違うのだ。

 

 同じく警戒をしていながら、雪菜は古城を軽くにらむ。

 

 この場にいる者たちはほとんどが死んだと思っていたが、雪菜だけは古城が立ち上がると信じていた。

 

 なにせ、彼女は目の前で古城が両断されるところを目撃している。

 

 放心状態になっていたら再生するところまで目撃したのだ。心臓がぶち抜かれただけで死なないことはよくわかっている。

 

 わかっているけど心臓に悪いのに変わりはないが。

 

「先輩、二日連続で死なないでください。わかっていても心臓に悪いです」

 

「悪い、だけどあんなもんどうしようもないだろ」

 

 古城としてはそう答えるしかない。

 

 なにせ、そこそこ戦闘を潜り抜けているはずの須澄や、あり得ない目を持つシルシですら反応しきれない不意打ちなのだ。

 

 戦闘経験がほぼないド素人の極み。戦闘においては割と性能と戦闘以外の経験の応用で戦うしかない古城に、暗殺者の不意打ちを防げというのも無理がある。

 

 殺気を読め? 気配を感じろ? それは専門家の領域だろう。

 

 と、いうわけで理不尽といえば理不尽なのだが・・・。

 

「・・・古城?」

 

 ここに、もっと理不尽な目にあわされている者がいる。

 

 そう、古城がただの人間だとばかり思っていた少女が一人。

 

「・・・ちょっと、どういうことよ」

 

 人は、本気で怒ると声が静かになるものだということがよくわかった。

 

「ま、待て、浅葱。これには、これにはいろいろと事情が」

 

「事情じゃない! アンタねぇ!!」

 

 涙目で浅葱に詰め寄られて、古城は思わず天を仰いだ。

 

 ・・・暁古城は一つの世界で最強の吸血鬼である第四真祖となったものだ。

 

 だが、そのことを知っているものはごくわずかしかいない。

 

 ・・・ここでその説明をしなければならないことに、古城は心から嘆息した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放たれ魔力弾の群れは、しかし横から振り下ろされた巨人の手に防がれる。

 

「させないよっ」

 

「トマリ! あんた回復力高くなってない!?」

 

 それの正体に気が付いたアップは舌打ちする。

 

 トマリ・カプチーノは古城と同種の吸血鬼である。彼女もまた須澄と同じく、異世界から巻き込まれたクチの人物だ。

 

 それも、氏族クラスの吸血鬼。古城に比べれば大きく劣るが。それでも複数の眷獣を保有する彼女は、並のサーヴァントなら押し切れるほどの実力者でもある。

 

 そのうちの一つ、怪力無双の四本腕をもつ氷の巨人。ザ・クラッシャー。

 

 この狭い通路の中では本領を発揮できないが、しかし盾として使うには十分だ。

 

 そして、彼女はついに伝家の宝刀を抜く。

 

 その特性上、須澄に対しては使えなかった奥の手を。

 

「行って、ヴィヴィオちゃん!」

 

「はい!」

 

 巨人がうまく体をひねって作られた道を、ヴィヴィオが全力で突撃する。

 

 正面からの一発勝負。そして道は狭い。

 

 そういう意味では、射撃が行えるアップとしては都合のいい状況だった。

 

「そんな馬鹿正直に!」

 

 当然撃ち放つ。

 

 先ほどの戦いである程度は見切っている。

 

 ヴィヴィオは攻撃力も防御量もそれほど高くない。

 

 動体視力と判断力は高いが、足を止めて打ち合うより避けて堅実に削っていく玄人向けの戦闘スタイル。カウンターヒッターとして完成すれば脅威だが、この中では危険度は低いといえるだろう。

 

 だが、彼女は失念していた。

 

 ・・・実は前回の聖杯戦争。トマリは英霊としての力をほとんど使えなかった。

 

 その理由は大きく分けて三つ。

 

 一つは彼女自身の実力。氏族クラスの吸血鬼である彼女は、単独で英霊を憑依させた程度の実力者なら渡り合える。

 

 二つ目は彼女の特殊性。デミ・サーヴァントである彼女は英霊の憑依とは再現の仕方が違う。それが能力を限定的にしていた。

 

 三つ目は須澄との相性。並の宝具を圧倒する神滅具の聖槍では、彼女の能力では強化しきれない。

 

 だが、ヴィヴィオなら話は別だった。

 

 言い方は悪いが、ヴィヴィオの装備は聖槍に比べて見劣りする。

 

 聖書にしるされし神が作り上げた、13の極点の中でも最強とされる聖槍と、あくまで人が子供のために作った魔法行使用の装備とでは大きな差があるのは当然だが、だからこそ使()()()

 

 次の瞬間、弾き飛ばされたのは魔力弾。

 

 すべてを強引に突破して、ヴィヴィオは懐にもぐりこんだ。

 

「さっきより硬い!? つまり―」

 

「アクセルスマッシュ!」

 

 すぐに放たれた攻撃を、アップは何とかグラムで受け止める。

 

 そして、その勢いで弾き飛ばされた。

 

「やっぱり、さっきより重い!!」

 

 すぐに体勢を整えながら、アップは警戒する。

 

 どうやら、これがトマリの本領らしい。

 

 よくはわからないが、味方の能力を強化することこそがトマリのデミ・サーヴァントとしての本質。

 

 弱いものを強くする能力など、弱い者いじめがしたい自分にとって嫌がらせに等しい。

 

 そう舌打ちするアップと、ヴィヴィオの間で静かな立ち合いが生まれ―

 

「・・・ひっ!」

 

 そこに、声が響いた。

 

 アップの後ろに、逃げ遅れた子供が震えていた。

 

「まずい!?」

 

 兵夜は舌打ちする。

 

 アップのこれまでの性格ならば、人質にすることぐらい十分にあり得る。

 

 子供の前で子供を見捨てるのは忍びない。何とかしないといけないだろう。

 

 そう思った兵夜の目の前で、しかしアップは予想外の行動に移った。

 

「・・・しらけたわね。もう帰るわ」

 

 そういうなり、アップは宙へと浮かぶ。

 

「エイエヌ様の命令もあるし、やる気は出ないけどあんたたちは殺すわ。トマリも、次あった特は遠慮しない」

 

「え? え?」

 

 いきなり戦闘をやめたアップに、ヴィヴィオは戸惑いを隠せない。

 

 だが、其れに取り合うつもりはアップにはなかった。

 

「・・・ソニックムーブ」

 

 防御を切り捨て高速化したアップは、そのまま高速でその場を離脱する。

 

 とにもかくにも、戦闘はいったん終了したのだった。

 




まあ、原作知ってるやつなら誰も心配しないよなぁ。










そういうわけで何とか困難は乗り越えました。


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宗教勢力、同盟です!

 

 世界各地にはたくさんのおとぎ話が存在する。

 

 そして、その中にはたくさんの魔法使いが存在する。

 

 彼、もしくは彼女は、物語の登場人物にとって救いの存在だ。

 

 特に地球ではシンデレラの魔法使いが有名だろう。

 

 シンデレラストーリーやシンデレラコンプレックスなどという言葉が生まれるぐらい、その存在は大きい。

 

 不遇な身の上におかれているものが、善良たる存在の手によって救われ一転幸福な人生を送る。誰もが一度は憧れる物語ではないだろうか。

 

 そんな魔法使いたちは、そのほとんどが英霊には届かない幻霊である。だが、そういうたぐいの存在に対する信仰は、半端な英霊を凌駕する。

 

 それこそが、魔法使いの英霊。

 

 ワイズマンとでも形容するべきそれは、苦難にあえぐものに救いの手を差し伸べる。

 

 そして彼らは宝具として最も適した存在が選ばれるという能力を獲得した。

 

 それが宝具、不幸を払う魔法使い(ワイズマン・オブ・ストーリー)

 

 召喚者の潜在意識はその時点の願望に合わせて、最も救える魔法使いへと姿かたちや人格を変える。群体としての英霊であるからこそ保有できる宝具。

 

 それゆえに、人体との融合という高難易度の所業も簡単だった。

 

 今のトマリは、体に不定形の英霊が融合している状態なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。もともと姿を変えられる英霊なら人体との融合も比較的楽か」

 

「形はどうあれ、英霊と肉体的に混ざり合ってる人が二人もいるとか、すごいことね」

 

 感心する兵夜もまたすごいことになっているので、シルシは半分ぐらいあきれていた。

 

 あきれていたが、しかしすごいことには変わりない。

 

「召喚形式がもとから憑依させる方向だったからできた内容だな。不完全であるがゆえにイレギュラーか」

 

「うーん。その辺はよくわからないんだけどねっ」

 

「魔術は、魔術はほとんどわからないから。いや、ホントごめん」

 

 感心する兵夜だが、トマリも須澄も魔術にそこまで詳しいわけではないのでどうすごいのかがいまいち理解できていない。

 

 それがもったいなくて、兵夜はついつい口を出したくなってくる。

 

「須澄くん。君はまあそこそこできる方だから真剣に学んだ方がいい。間違いなくやればまあまあできる」

 

「え? えっと・・・わかるの?」

 

「わかるとも。君は魔術師として大成はできないだろうが、間違いなく武器として使えるレベルだ」

 

 と、兵夜は断言した。

 

「君の魔術属性は水。魔術回路の適性は魔力の流動だ。魔術師はこれを利用して、古い宝石に血液などを媒介に魔力を込める。これにより大魔術を一小節で発動させることが可能で、コストは高いが戦闘においては割と強大な存在となりえて・・・」

 

「兵夜さん。ついていけてないから」

 

 と、テンションが上がっている兵夜をシルシは落ち着かせる。

 

「・・・まあ、魔術回路はちゃんとできてるから少しずつ教えていけば何とかなるだろう。魔力を込めるのには時間がかかるから、今回の聖杯戦争には間に合わないしな」

 

 魔術師としての基本中の基本である魔術回路の形成はできている。それはもちろんわかっている。

 

 なら、今後はそれなりに対応できるだろう。

 

魔術師(メイガス)は、リンカーコアを人為的に改造できるの? すごい技術ですね」

 

「それは違うな、ハイディ。厳密にはそうしないとまともに魔術を行使できないといった方が近い。・・・あ、でも応用すれば魔導士の能力を上昇できるか・・・? いや、オリュンポスやアースガルズの魔法技術を組み合わせるのも」

 

 感心するアインハルトに訂正しながら、兵夜は新たな可能性に興奮する。そしてついでに須澄にどう魔術を教えるかを考える。

 

 習得できていないことがもったいない。科学に追い抜かれている部分も数多いとはいえ、魔術がいまだ優位を保っている部分も数多いのだ。

 

 また時空管理局に対しても、この技術交流は良い交渉道具になりそうだ。

 

 そのあたりを考えながら、兵夜はテンションを上げていくが・・・。

 

「その前に、ちょっと話があるんだけど?」

 

 浅葱に割って入られて、兵夜は思考を中断する。

 

「ああ、藍羽ちゃんだったか? そういえば説明がまだだったな」

 

「そのあたりについては大体聞いたわよ。・・・エイエヌとかいうやつが聖杯戦争とか起こしてるんだっけ?」

 

 浅葱はそう前置きしてから、彼女にとっての本題に突入する。

 

「それよりも! 古城のあの回復力は何よ? あんたたち、何かした?」

 

「・・・ん?」

 

 何を言っているのかが微妙にわからず、兵夜は首をかしげる。

 

 が、すぐにどういうことかを理解した。

 

「ああ、冷静に考えればおかしくないか。俺も松田や元浜には言ってなかったし」

 

「・・・は? どういうことよ」

 

「いや、ちょっと待て宮白! それは―」

 

 雲行きが怪しいと思って古城が割って入るが、しかしその肩に兵夜は手を置いた。

 

「あきらめろ暁。あの再生能力はごまかせんぞ。秘密を共有する者は少ないに越したことはないが、多少いた方が逆に隠しやすいもんだ」

 

「なに? どういうこと?」

 

 浅葱は自分の勘違いをさとる。

 

 てっきり兵夜たちが何かしたのかと思ったのだが、どうも古城の自前だったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして五分後・・・。

 

「古城が第四真祖で、そっちの姫柊さんがその監視役・・・の皮をかぶった妾ぇ!?」

 

「いや違う! 姫柊のほうはあくまで宮白の勝手な憶測だからな!?」

 

 素っ頓狂な声を上げる浅葱に、古城はすぐに釘を刺した。

 

 自分でも言われて納得してしまいそうだが、しかしそれはあくまで推測である。なので認めなければつまりそういうことにはならないわけである。強引だがそういうことにしたい。

 

「そ、そうです! 三聖からは監視して危険なら抹殺するように命じられているのですから!」

 

「十分危ないわよ!」

 

 と、そこで浅葱は古城をにらむ。

 

 そういえば、隠している理由は聞いていなかった。

 

 どうも気の置けない付き合いをしているようだし、これは相当に腹が立っているのだろう。

 

「まあ待ってくれ。確かに親友に黙っているのは悪いことだが、いきなり種族が変わったなんてそう簡単に言えるわけが・・・」

 

「いや、それは別にいいのよ。理由もわかるし」

 

 と、思って兵夜はフォローを入れたが全然違った。

 

「あ、そうなの?」

 

「うん。・・・古城の妹さんは魔族恐怖症だし、古城が第四真祖になったなんて知ったら大変なことになるしさ」

 

 なるほど、それは人には言えなくなるものだろう。

 

 これまたいろいろと面倒なことになっているようだ。

 

 だが、其れよりも何よりも、浅葱には聞きたいことがあったようだ。

 

「それで、アンタ何回やったの?」

 

「や、ヤった!?」

 

 何やらすごいことを聞いてきた。

 

 いまだ不意打ちを警戒して大人モードを継続しているとはいえ、ヴィヴィオとアインハルトはまだ子供である。

 

 これはきかせられないと思った兵夜だが―

 

「何回吸血行為をしたのかって聞いてるのよ!」

 

「ああ、そっちか」

 

 兵夜は安心した。

 

 吸血行為ならまあ吸血鬼なら当然の行動だろう。

 

 D×Dの吸血鬼なら、純血ともなれば吸血行為は必要不可欠。それなら別に何回やっても問題ない。

 

「いや、その・・・」

 

「えっと・・・」

 

「つまり、一回はしたってことね」

 

 と、明らかに動揺する古城と雪菜の態度で最低限の情報を浅葱は把握した。

 

 これでどうやって隠せていたのか兵夜は不安になってきたが、さてどうしたものか。

 

 まあ、吸血鬼が吸血行為をするのは当たり前だと判断し・・・。

 

 そこで、兵夜はあることに気が付いた。

 

 それは、兵夜に初めて彼女・・・という愛人ができたレーティングゲームのこと。

 

 半端に共通点のある異世界の情報を誤認して、痛い目を見たことがあった。

 

 もしかしたらとてつもない勘違いをしているのかもしれないと思い直し、兵夜は一回質問することにした。

 

「・・・その、そっちの世界の吸血鬼ってなんで血を吸うんだ」

 

「たしか、性的衝動で出てくるはずだけど」

 

 浅葱が古城をにらむ理由が痛いほど理解できた。

 

「もう責任取れよ。責任取って娶れよお前。それとも何? 昔の俺みたいにただれた生活してんの?」

 

「違う! 血、血を吸っただけだ! 眷獣がそうでもしないということ聞いてくれなくて!!」

 

「そうです! あれはオイスタッハ神父を止めるために必要不可欠な行動だったんです!」

 

 古城と雪菜は慌てて弁解するが、しかし古城が発情したことに変わりはない。

 

 むしろそんな状況下でなにをしているのだお前はとツッコミを入れたくなる。

 

「オイスタッハ神父って、キーストーンゲートを襲撃した人よね。そういえば、その人結局どうなったのよ」

 

「ああ、それが戦ってる時に転移に巻き込まれて・・・」

 

「ってことは、ここにきてる可能性があるってことよね」

 

 状況はさらに悪いということに浅葱は気が付いた。

 

 兵夜もそれは想定している。

 

 万が一だが、オイスタッハが聖杯を使って聖遺物を奪還する可能性もないわけではない。

 

 聞けば相当の実力者だそうだし、アスタルテというホムンクルスも強力な戦力だ。

 

 そして何より、嫌な予感がする。

 

「それについでだが、一つ懸念がある」

 

 やはり、これは言った方がいいだろう。

 

「なに、なにか気づいたことでもあるの?」

 

 須澄も嫌な予感を覚えたのか、真剣な表情で訪ね返した。

 

「・・・禍の団には、宗教的思想の強いものも何人か存在する。そして今回のオイスタッハとやらの行動は、割と本気で宗教的に同情案件だ」

 

 そう、宗教とは怖いものだ。

 

 そして、排他的なところがあるとはいえそれについての怒りは理解できるものだろう。

 

「万が一、万が一だが宗教系の参加者がオイスタッハと出会った場合、意気投合する可能性も・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ、少しはわかっているようね」

 

 その声が届くことは、兵夜はまあ想定していた。

 

「あら、まあ一人ぐらい様子を見に来るとは思ったけど速かったわね」

 

 そして見えているシルシもすでにエストックを引き抜いている。

 

 そして、身構える全員の視線の先に出てきたのは、一人の女性。

 

 ぴっちりとした体形の服を着た女性が、そこにはいた。

 

「その服装は、教会の出身か」

 

「ええ、グレイス・ベルヴィルよ。まあすぐ殺すことになるだろうけど、一応覚えておきなさい」

 

 そういいながら、女性は光の剣を抜き放つ。

 

 さらに、そこかしこから同様の装備を持った男女が姿を現していた。

 

「おい、教会と悪魔は和平を結んでたんじゃないのかよ」

 

「それが、和平反対派も結構多くって。特に教会はクーデターが起こりかけるとか大変なのよ」

 

 古城にシルシが答えながら、半円状に囲む悪魔祓いたちを警戒する。

 

 彼らはみな、いくつもの実戦を潜り抜けてきた戦闘経験者。実力こそ玉石金剛だろうが警戒するに越したことはない。

 

「・・・それで、わかってるとはどういうことだ?」

 

 大体予想はできているが、兵夜は一応念のために聞いてみる。

 

「決まってるじゃない。彼は素晴らしい信仰者だと目を見た瞬間にわかったわ。・・・話を聞けば怒り狂って当然の所業をしていたのだし・・・町一つ焼き払っても十分なことだとは思わない?」

 

「ええ、まったくもってその通り。貴方とは話が合うようで助かります」

 

 そして、そこに彼が現れる。

 

 ケープコートを着たホムンクルスを連れて姿を現すのは、装甲のついた僧衣を着込んだ一人の男。

 

「・・・あの人が、オイスタッハという人ですか?」

 

「はい。殲教師の称号を持つ、ロタリンギア正教の神父です」

 

 アインハルトに雪菜が答え、そして戦闘態勢に入る。

 

 オイスタッハもグレイスも、一級品の実力者。加えて厄介なのはアスタルテ。

 

 基本魔力でなければ倒せない眷獣でありながら、魔力を無効化する能力を持った薔薇の指先。それを宿すアスタルテは、割と反則に近い。

 

 わずかな時間で新たな激戦が幕を開ける。

 

 この聖杯戦争は、さらなる激戦へと突入した。

 




トマリのサーヴァントは、本編のおける兵夜の相棒候補としても考慮していたりしていました。

お伽噺のジャンルがサーヴァントになるのなら、お伽噺の魔法使いという立ち位置が概念として英霊になってもおかしくなかったからです。それを最新の型月設定と複合させました。

本来なら魔術行使も可能なのですが、イレギュラーだらけのデミサーヴァントゆえにエンチャント特化。ですがこれ、後々かなり重要になりますのでお覚えください。


あとやけに兵夜が須澄の魔術特性に詳しいですがこれも後々の伏線です。まあ、今の段階では予測は不可能ですが。それでもやってみたかったことの一つではあります。









そしてオイスタッハは元教会の勢力と同盟。この展開はさすがに予想できまい。

ですが、宗教的にマジギレ案件がかかわっている以上、意気投合して同盟・・・というのも十分あり得ると思うのです。


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聖杯戦争、暴発

 

「では、できる限り早く終わらせましょうか!」

 

 そういうなり、オイスタッハが先頭を切って、半月斧(バルディッシュ)を片手に先行する。

 

 その後ろを、グレイスが剣をもって追随した。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 確かにすごい酷いことをしてますけど、何も知らない人まで巻き込むなんて―」

 

「問答無用!」

 

 ヴィヴィオは止めに入ろうとしたが、そもそもそれで止まるなら都市に戦争を仕掛けたりはしない。

 

 躊躇なく、オイスタッハはバルディッシュを振り抜いた。

 

 だが、ヴィヴィオも年齢とは不釣り合いなほどの戦闘能力を持つもの。

 

 時空管理局の教導官、高町なのはからも指導を受けたのは伊達ではない。

 

 間一髪でそれを交わすと、拳を構えた。

 

「・・・わかりました。直接ぶつけなければわからないなら、受けて立ちます!」

 

「ふむ、闘争を知らぬ少女かと思いましたが、第四真祖よりは戦いの心得がある様子。では手合わせを願いましょうか」

 

 構えに隙が薄いのを見て取って、オイスタッハは警戒を強める。

 

 そして、その横っ面を狙うように兵夜が斧を振り抜いた。

 

「いやいや、子供にそんな物騒なものを向けるなよ聖職者」

 

「む!」

 

 斧どうしがぶつかり合い、轟音と火花が飛び散った。

 

「宗教上の悪徳が言うのもなんだが、恨みつらみをぶつける相手は選んだ方がいいと思うぜ?」

 

「悪徳が徘徊し、挙句の果てに信仰対象を辱める退廃の都に住まうものに、そのようなことを言う資格があるとでも?」

 

「当事者中心で狙えって言ってんだよ!!」

 

 兵夜は駒を戦車(ルーク)に変えると同時に、魔術で強化し強引に押し切る。

 

 駒の変化させることによって能力を高める兵士(ポーン)の特性は失っていない。そして、一点特化に本質を発揮する魔術師(メイガス)の強化は、女王(クイーン)にするよりほかの駒の方が有利に働くことも多い。

 

 重装備で押し切る以上、パワーを強化する戦車の特性は優勢だ。そのまま強引に押し切ろうと踏み込んで攻撃を行う。

 

「ほう・・・。さすがは神喰の神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)などという大仰な異名で呼ばれるもの。弱体化しているとは聞いていましたが、実戦で鍛え上げられたいい動きです」

 

「そりゃどうも。そっちはロートルに片足突っ込んでるぜ?」

 

 挑発をしながら、兵夜はしかし油断しない。

 

 外見年齢に比例して実戦を潜り抜けた経験豊富のベテランと判断していい。動きにも隙が無く強敵と判断していいだろう。

 

 装備もなかなかに優秀。古城や雪菜の世界も侮れない。

 

 そして、一方グレイスも強敵だった。

 

「ふむふむ、なるほど」

 

「攻撃が・・・当たらない!」

 

 雪菜の攻撃を堅実にさばきながら、グレイスはその動きを解析する。

 

「訓練は積んでるけど実戦経験はほぼ無し。というより、経験が及第点なのは三人ぐらいね。あとは全部ルーキーね」

 

 未来視ができる雪菜は、それゆえに近接戦闘の攻防で圧倒的な有利に立ち回れる。それは身体能力が格上の獣人や吸血鬼すら状況次第では一蹴できるほどだ。

 

 だが、それを仮にも人間であるグレイスはあっさりと突破してのける。

 

 ただ単純に異能に慣れているというだけではない。それに気が付いた雪菜は、戦慄した。

 

「あなた、生命力を過剰に消費していますね・・・!」

 

「ええ。覇の概念を応用したブースト術式。あ、寿命の心配はしなくていいわよ?」

 

 そういうと、グレイスは何もないところから林檎を取り出す。いや、生み出す。

 

神器(セイクリッド・ギア)妖精の酒杯(アルヴヘイム・カップ)。生命力を増幅させる神器であるこれがある限り、私は常に若々しく生命力あふれるってわけ。・・・これでも結構おばさんよ?」

 

神器(セイクリッド・ギア)・・・。宮白さんの言っていた彼の世界の人間の異能・・・!」

 

 いまだ詳しくは知らなかったが、その能力に雪菜は戦慄を覚える。

 

 眷獣の召喚にも匹敵する生命力の消費を行う禁呪を、彼女は平然と行っている。

 

 それを可能とする神器の底知れなさに、雪菜は警戒の度合いをさらに高め、そして横眼でほかの戦闘を確認する。

 

「・・・拳が、届かない!」

 

「というより、魔力をかき消すとか悪魔には厄介ね!」

 

「二人とも下がってろ! あれに殴られたらただじゃすまないぞ!!」

 

 薔薇の指先(ロドダクテュロス)がその剛腕で古城たちを翻弄する。

 

 眷獣は基本的に魔力をぶつけるぐらいでしか倒すことができない。雪霞狼なら一瞬で倒すことができるが、それは例外だ。

 

 だが、その雪霞狼と同じ神格振動波駆動術式を使う薔薇の指先は、その二つを無効化することができる。

 

 むろん、それだけの眷獣を使うアスタルテの負担は非常に大きい。

 

 無限の負の生命力を持つ吸血鬼以外では扱えないほどに、眷獣の消耗は大きいのだ。そのためのホムンクルスとして徹底的に調整されたアスタルテであろうとも、本来なら限界を超えている。

 

 だが、彼女の神器の能力を考えれば、インターバルはあれど無茶はできるだろう。

 

「神器には禁手(バランス・ブレイカー)という覚醒があると聞きましたが、其れですね」

 

「正解。この林檎みたいに生命力を形にできるの。だから・・・」

 

 そう言い放つと、グレイスは拳銃を二丁持ちにして攻撃を行う。

 

「割と無茶できるってわけ!!」

 

 そういいながら、グレイスは苛烈に攻撃を加えていく。

 

 だが、その真上から巨大な腕が落ちてきて、グレイスは飛びのいて回避した。

 

「あんまり、こっちを忘れてもらったらこまるよっ」

 

「同感。悪魔祓いも玉石混合だね」

 

 トマリに続いて須澄も攻撃を加え、グレイスを引き離す。

 

「大丈夫、大丈夫かな姫柊さん?」

 

「ありがとうございます。思った以上に難敵で・・・」

 

「あまり油断した駄目だよっ? 雪菜ちゃんはまだまだ経験不足なんだからっ」

 

 少し赤面する雪菜をかばいながら、二人はグレイスに構えを見せた。

 

「なるほど、これはさすがに警戒するべきかしら?」

 

 そういいながらグレイスは反撃の態勢を取ろうとして―

 

『ほう? こんなところにいたのか』

 

 その声とともに、ビームが襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『隊長、今ので倒せましたかね?』

 

 部下の声を聴きながら、しかし隊長はそんな油断をしない。

 

『あの神喰の神魔と、それと渡り合うような連中だ。この程度でやられるわけがないだろう』

 

 そこにいるのは何体もある鋼の巨人。

 

 いわゆる機動戦士ダンガムのドール・アーマーに似ているそれを駆るのは、これまたその作品に出てくるパイロットスーツを着ているような者だった。

 

 彼らの名は、禍の団に所属するダンガム研究会。

 

 ドール・アーマーに魅せられ、彼らによる闘争を望むテロ集団。

 

 禍の団に所属していた天才科学者、木原エデンに師事する彼らは、その科学力により初代ダンガムに出てきた水陸両用型ドール・アーマーを再現することに成功していた。

 

 木原の科学力をもってしても、18メートルサイズで五指を持つロボットを作るのは大変だというのが理由だが、しかしそれはそれとして高性能だ。

 

『世界の命運を握るのはファンタジーではない』

 

『そう、俺たちSFだ!』

 

『いな、ダンガムだ!』

 

 パイロットたちは意気揚々と戦意を高ぶらせる。

 

 この高性能ドール・アーマーを量産するには莫大な予算がいる。

 

 その予算を聖杯戦争で稼ぐため、彼らに敗北は許されない。

 

『さあ、先ずは敵が生存しているかどうかを確認する―』

 

 そう言おうとした瞬間、隊長の機体が撃ち抜かれて爆散した。

 

『な、隊長!?』

 

 その惨劇に、しかし隊員たちは即座に迎撃体勢をとる。

 

 その視界に、黒い輝きが映っていた。

 

「やあやあ! フールカス家の分家に所属する我々を、そのような絡繰り細工で相手しようとは愚かの極み」

 

「全くですな。しかも不意打ちで倒して不意を打たれるなど未熟にもほどがある」

 

 そこにいるのは悪魔の一団。

 

 戦闘の匂いを嗅ぎつけてきたのは、彼らだけではなかったのだ。

 

『そちらも不意打ちしておいて何をいまさら!』

 

『やっちまえ!!』

 

 すぐにドール・アーマーたちも反撃を開始し、戦闘が激化する。

 

 圧倒的な破壊の嵐は、ここでも発生していた。

 




まあ、年のすぐ近くにある廃墟地帯なんて潜伏には便利すぎる。

必然的に潜伏しいた連中が動き出して大騒ぎに。


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エイエヌ、来報

しかし今回箇条書きしてみたけど、ケイオスワールドのサーヴァントは自分で書いててなんだが普通の聖杯戦争には全く持って向いてないな。


 

 すでに夜の闇が訪れる中、兵夜はクラッカーをシチューに浸して食べていた。

 

 レーションではあるがしかしなかなかうまい。味も濃いので披露した体にはかなりいい。

 

「・・・しっかし大変なことになってんなぁ」

 

「何他人事で言ってんだよ。あれ俺たちがきっかけだろ」

 

 と、同じレーションを食べながら、古城がツッコミを入れる。

 

 彼らの視界の先にあるのは、廃墟地区。

 

 今そこでは、破壊が大量に巻き起こっていた。

 

「まあ、冷静に考えればそりゃそうだ。資材を入手しやすい都市と隣接している廃墟地区なんて、根城にするには便利すぎだよな」

 

 地理的条件があまりにも好条件すぎた。

 

 そんな条件だということを考えれば、むしろ鉢合わせして戦闘の可能性も大きかっただろう。

 

 そんな火薬庫に真祖の眷獣を投入すればどうなるか。

 

 答えは、火を見るより明らか・・・というより答えが火になって帰ってきている。

 

「それが俺たちの戦いがきっかけで大爆発・・・か」

 

 少し罪悪感すら生まれながら、二人はこの光景を監視する。

 

 市民に被害が出るのはさすがにまずい。

 

 さすがにそれに罪悪感を覚えるほどの良心はある。兵藤一誠が与えてくれた。

 

 だから、ここは冷静に観察しながらも監視も忘れない。

 

 市街地に被害が出るようなら、防壁ぐらいは張らなければならないだろう。

 

 だから、こうして監視をしているわけだが・・・。

 

「意外と、意外と接近戦主体のサーヴァントを入れてるみたいだね」

 

 と、ほかの様子を見に行っていた須澄が戻ってくるなりそういった。

 

「おかげで被害が少なめだねっ。これなら意外と心配しなくていいんじゃないかな?」

 

 と、同じく周りの様子を見ていたトマリもそう安堵した感想を返す。

 

 兵夜としても、この被害の少なさはむしろ驚くレベルだ。

 

 禍の団の上級幹部クラスが本気でぶつかり合えば、すでにこの廃墟区画は更地になっているだろう。

 

 にもかかわらず、ふたを開けてみれば火災や崩落が各地で発生している程度。ぶっちゃけ肩透かしだ。

 

「思った以上に禍の団のダメージは大きかったんだな。これなら案外楽に勝てるか?」

 

 次元世界の実力者なども警戒していたが、しかしこれは安心できるレベルだ。

 

 それとも、実力者たちはこの戦いから逃れて、同じように敵の戦力を監視しているのだろうか・・・。

 

「しかし俺たちの業界の上位クラスなら、あの規模の廃墟画なら単独で更地にしかねない輩がゴロゴロいるんだが。・・・次元世界の戦闘能力ってどれぐらいなんだ、ヴィヴィ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、はい。あの規模を壊滅させる戦闘となると、AAAランク同士以上の戦いになると思います」

 

 と、通信にヴィヴィオが答えた。

 

「AAAランク以上ともなれば、全体でも5パーセントにも届かないと聞いています。たしか、ヴィヴィオさんのお母さんがその領域だったのでは?」

 

「すごい方を母親に持っているんですね。しかしそれだけの実力者となると、確かに私たちの世界でもそれぐらいでしょうか・・・」

 

 アインハルトの補足説明に、雪菜も感心する。

 

 いま、女性陣の大半は少し離れたところで待機していた。

 

 理由は極めて単純。不意打ちに対する警戒のためだ。

 

 アサシンとしての技量で本領を発揮するザイードがいる以上、不意打ちに対する警戒は必要。

 

 そのため、見晴らしがいいところに陣取っているメンバーは発見されやすいため、人選をある程度厳選している。

 

 具体的には実戦経験があるためあるていど不意打ちを察知しやすい兵夜・須澄・トマリと、不意打ちされてもそう簡単には殺されない古城だ。

 

 それ以外のメンバーは、少し離れた廃墟を工房化したうえでそこで待機している。

 

「それにしても、サーヴァントはあれね。禍の団の出身者は割とあの聖杯戦争のサーヴァントを使ってるみたいよ?」

 

 と、千里眼で確認しながらシルシは情報を提示する。

 

 それを聞いた通信機から、ため息が漏れた。

 

『あれは本来の聖杯戦争では本領を発揮しづらいのが多いんだがな・・・』

 

 強大な剣を持つ未熟な使い手がいて、初めて凶悪性を発揮するセイバー。本来剣使いが一人しか出てこない聖杯戦争ではあまり役に立たず、よしんば相見えたとして大抵は使いこなしているため勝算が低い。

 

 防衛戦以外では、令呪のバックアップなしでは本領を発揮しきれないライダー。どうしても最終的には攻めに転じなければならない以上、最後の勝利をつかむのは困難。

 

 味方を増やすということには効果を発揮するが、マスターの方が戦闘能力が高くなければまともに勝算がないランサー。サーヴァントが本来化け物クラスであることを考慮すれば、その条件を超えることは非常に困難。

 

 そして、大量の敵意を浴びなければ、そこまで強くならないバーサーカー。本来の聖杯戦争が7組のタッグマッチであることを考えれば、上昇量などたかが知れている。

 

 あらゆる意味で特殊の極みだったあの聖杯戦争だったからこそ強敵になりえた存在であり、そういう意味では参考にしてはいけないレベルだろう。

 

 今回の聖杯戦争は一勢力の数はそこそこ多い方ではあるが、それでも全世界と国際テロ組織という二極構造だったあの聖杯戦争に比べれば特殊性は低い。

 

 そういう意味では、唯一の参考資料が特殊すぎたせいで混乱しているのだろう。

 

 そして禍の団以外の参加者は聖杯戦争のノウハウすら理解しきれていない。

 

 これは意外と早期に決着がつきそうである。

 

『やっぱり森にこもった方がいいんじゃないのかなっ? そっちの方が被害は少ないと思うんだけどっ』

 

『もう、もう山菜とジビエは食べ飽きたんだけどなぁ』

 

「なんであんな山奥にあんなに勢力があつまっていたのかと思ってましたが、そういうことだったんですね」

 

 トマリと須澄の会話を聞いて、雪菜はようやく合点がいった。

 

 一つのチームが長い間森にいたことで、何組かが偵察もしくは討伐に行ったのだろう。

 

 その結果が、郊外でのあの激戦の連発であったということなのだろう。

 

『まあ、人を巻き込まないのはメリットだな。ただもう、あいつらが勝手に動くだろうからどうしようもないが』

 

 と、戦闘の光景を見ながら兵夜はそうつぶやく。

 

 実際、混戦がすでに始まっている以上、いまから逃げたところでそれが止まることはないだろう。

 

 とはいえ積極的に介入するわけにもいかない。下手をすれば集中攻撃を受けてこちらが壊滅しかねないからだ。

 

 だから、外側に被害が出ないように監視するぐらいの消極的な策が限界だった。

 

 そんな光景をみて、アインハルトは暗い顔をする。

 

「そうですね。一度乱戦に火が付くと、もう止まらなくなるものです。覇王(わたし)も何度も目にしました」

 

 その、妙に実感がこもった言葉に、声をかける者がいた。

 

「あの、アインハルトちゃん? あなた、どういう経験なの?」

 

 と、浅葱がそう聞いてきた。

 

『俺も気になるな。乱戦経験はそんなになさそうだが、その割にはなんていうか経験豊富な人の意見が出てるっていうか・・・』

 

 と、兵夜も気になっていたのかそれに乗る。

 

『もちろん言いたくなければ言わなくていいが、話した方が楽になることもあるぞ?』

 

「・・・そうですね。気晴らしにはなるかもしれません」

 

 と、前置きしてからアインハルトは話し始める。

 

「クラウス・G・S・イングヴァルト。古代ベルカの諸王国の一つである、シュトゥラ王国の第一王子。私は、彼の記憶を継いでいます」

 

『それは、生まれ変わりというやつか?』

 

 と、即座に兵夜は訪ねてきた。

 

 彼個人からしれ見れば、或る意味当然の反応だろう。

 

 だが、其れに関してはヴィヴィオが否定する。

 

「あ、そういうわけじゃないみたいです。単純に記憶とか体の特徴を受け継いでるとかいうだけみたいですよ?」

 

『え、あ、そうか・・・』

 

 歯切れがわるい兵夜の反応に少し反応が遅れるが、しかし話は続けられた。

 

「ですが、彼の無念はとてもよく覚えています。私は、彼の願いをかなえたい・・・」

 

 戦乱の歴史だったベルカに、覇をもって和をなすこと。

 

 大切なものを必ず守り切れる強さを手に入れること。

 

「・・・私は、この世界にも覇をもって和をなしたいと思ってます」

 

 そう、悲しげな表情で彼女は告げる。

 

「それが、この世界を目にしたクラウスが願うことだと思うから」

 

 その言葉に、全員が何というか沈黙してしまう。

 

『・・・あー、あのな、ハイディ?』

 

 と、真っ先に兵夜が何か言おうとする。

 

 だが、そんなことを言っている場合ではなくなった。

 

『・・・悪い、敵襲だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兵夜は静かにかつ素早く立ち上がると、躊躇することなく右腕をふるう。

 

 彼の神器(セイクリッド・ギア)天使の鎧(エンジェル・アームズ)。手甲から光を形成する光力攻撃型神器。

 

 その気になれば戦車砲を上回る火力を発揮するそれを、兵夜は躊躇することなく発射した。

 

 そして放たれたそれはしかし、黒い霧に阻まれる。

 

「少しぐらい会話を楽しもうとは思わないのか? 放浪者」

 

 黒い霧の中から、そんな揶揄する声が届く。

 

 それに対して、兵夜は特に感慨を浮かべない。

 

「どっちかといえば拉致被害者だろう、諸悪の根源」

 

 相手は質の悪いエンターテイナーだ。気にする必要は皆無だろう。

 

 そう、そこにいるのは仮面の男。

 

 フォード連盟の影の支配者。聖杯戦争のプロモーター。

 

 エイエヌが、そこに姿を現していた。

 

「アンタが俺たちを無理やり連れてきたやつか!」

 

「ん? ああ、君がか。ああ、俺がこいつで連れてきた」

 

 古城に堪えながら、エイエヌは黒い霧を呼び出してそれを弄ぶ。

 

 それを見て、兵夜はその霧の正体を即座に看破する。

 

「・・・絶霧(ディメンション・ロスト)か。量産型じゃなさそうだな」

 

 絶霧(ディメンション・ロスト)。黒い霧の姿をした神滅具。その効果は強力な結界にして、転移装置。

 

 これもまた、使い手が発覚しているうえに、帝釈天率いる中国神話勢力が確保している神滅具だ。

 

 それを持っているとなれば、もはやその正体は確定的に明らかだろう。

 

「お前、平行世界の出身者か!」

 

「正解。俺はこの世界線の出身じゃないよ宮白兵夜」

 

 そういいながら、エイエヌはさらに闇を広げるとそこから何体もの化け物を召喚する。

 

 肥大化した両腕を持つ、爬虫類と人間を焚いて二で割ったような一つ目の魔獣。

 

 それを見て、兵夜はさらに警戒度を強める。

 

魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)まで持っているようだな。・・・やってくれる」

 

 これもまた、須弥山が保有している神滅具の一つだ。

 

 そして、本来の使い手も優秀な使い手だった。それを強引に奪い取るなど非常に困難。

 

 それをなしているという時点で、もはやこの男の脅威度は非常に高い。

 

 勝てるかどうかはわからない。むしろ敗北する可能性の方が高い。

 

 だが、だからこそ一戦交えておきたかった。

 

 ここで少しでも情報を確保しなければ、勝利をつかむことなどさらに困難になってしまうのだから。

 

 それをむこうも分かっているのか、エイエヌは仮面の奥でにやりと笑う。

 

 まさか、敵が宮白兵夜などとは思わなかった。あの男が善意の戦闘を行うだなんて想像もできなかった。

 

 是非もない。ならばここで仕留めておこう。

 

 須澄を殺すのは正直気が引けるし、宮白兵夜を殺すのもさらに気が引ける。

 

 だが、其れでも容赦はしない。

 

 すべては、あいつとの約束を果たすため。

 

 エイエヌは遊びを忘れず攻撃を開始した。

 




遂に本格的にエイエヌが戦闘開始。

まあ想定の範囲内だとは思いますが、聖槍や赤龍帝以外にも平行世界の神滅具は出てきます。

一度やってみたかったんだ。ぼくのかんがえたろんぎぬすのばらんすぶれいかー


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聖槍双槍

エイエヌのバトルパート。

割と驚愕の緊急事態が勃発します。


 

 何本も、何十本も、何百本も。

 

 幾重にも光の槍が形成され、天を埋め尽くす。

 

 それらを生み出しているのはエイエヌ。彼は、たった一人で最上級の天使ですらできるかわからないほどの光の槍を生み出していた。

 

「さあ、始めようか!」

 

 次の瞬間、一斉に槍が放たれる。

 

「撃ち落とせ、獅子の黄金(レグルス・アウルム)!」

 

 とっさに古城が眷獣に命じ、魔王クラスの雷撃で吹き飛ばす。

 

 だが、その雷撃のドームに穴が開いた。

 

「甘い甘い。対雷撃ぐらいなら俺にもできるさ」

 

 そういうなり、こんどはそこに集中して魔獣達が突入する。

 

 見るからに頑丈であることがわかる両腕。

 

 見るからに怪力であることがわかる両腕。

 

 それは、見るからに莫大な威力を生み出すことがわかっている凶器だった。

 

 そして、魔獣達はそれを一斉に振り下ろそうとし―

 

「―ザ・クラッシャーっ!」

 

 其れより先に、トマリの眷獣がそれを薙ぎ払う。

 

 一斉に薙ぎ払われた魔獣たちはしかし、すぐに体勢を立て直すと再突撃を敢行しようとする。

 

 しかし、其れより先に須澄が突貫していた。

 

「邪魔、邪魔なんだよ君たちは!」

 

 聖槍が邪魔者を薙ぎ払い、そして須澄はエイエヌに突撃する。

 

「お前は、お前は殺してしまいたかった!」

 

「それは残念。俺は君と仲良くしたかったけど・・・」

 

 突き出される聖槍を、エイエヌは両手に剣を出して受け止める。

 

 それは魔剣と聖剣。その二振りを操って、エイエヌは聖槍の乱舞をしのぎ切る。

 

「・・・気づくのが遅かったのは謝るよ!」

 

「ぐぅっ!」

 

 さらに、回し蹴りがきっかけとなり爆発が発生する。

 

 蹴りそのものは聖槍で防御したが、爆発の反動までは殺せない。

 

 そのまま須澄は壁にたたきつけられ、そこに魔獣が襲い掛かる。

 

「・・・この馬鹿!」

 

 それを、兵夜が結晶体を投げつけて撃墜した。

 

「頭に血を上らせるのは仕方がないが、だからこそ考えろ!」

 

「えと、えっと・・・ごめん」

 

 顔を真っ青にして怒鳴りつける兵夜に、須澄は素直に謝った。

 

 まさかここまで心配されるとは思わなかった、といいたい顔だ。

 

 兵夜は我に返ると気まずげに目をそらし、そしてすぐにエイエヌをにらみつける。

 

「今の攻撃、魔剣創造(ソード・バース)聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)、そして巨人の悪戯(バリアント・デトネイション)か」

 

 わずかな攻防で、いくつもの神器を使って見せたエイエヌに、兵夜は戦慄する。

 

 最初に出てきた時点で絶霧と魔獣想像を使った。さらに初手の攻撃に光力系を使い、さらに魔王クラスの雷撃を無力化するほどの雷撃無効化も使う。

 

 おそらくすべてが神器。それも禁手に至らせている。

 

「お前、いったいいくつ神器を取り込んだ? 十や二十じゃきかないだろう」

 

 後天的に神器を移植する技術は存在する。神器を引き抜く技術も存在する。実際そうしている存在もいるにはいる。

 

 だが、其れでも無理やり移植するという方法はリスクが付きまとうしリターンも少ない部類だ。

 

 それを、目の前の男は数を集めることで対応してのけている。

 

 この調子ではほかにも移植しているだろう。それも間違いなく大量に。

 

「まあ、ざっと数百は移植してるさ。それぐらいしないとムゲンには届かないだろう?」

 

「気が狂ってるな。死ぬぞ・・・お前」

 

 そのあまりの狂気に、兵夜はほおを引きつらせた。

 

 こんな過剰な移植、間違いなく寿命を縮めるほどだろう。

 

 おそらく、生命力強化系の神器を移植するなどして無理やり生命力を底上げすることで対応している。

 

 それにしたって拒絶反応は出てくるだろう。激痛が全身を襲うことだってあるはずだ。

 

 間違いなく、目の前の男は何かしら狂っている。人の道理から大きく外れている。

 

 そして、それを肯定するかのようにエイエヌから血がにじみだし、そしてすぐに止まる。

 

 神器の拒絶反応を、回復系の神器で無理やり抑え込んだ証拠だった。

 

「まあ、これぐらいしないと世界最強にはなれないしな。・・・男なら目指したくなるだろ、最強は?」

 

「女だからわからないよっ!」

 

 横からトマリが眷獣を差し向けるが、エイエヌは地面を隆起させて巨人を作り出すと、それを難なく受け止める。

 

 そして両手から炎と雷と暴風と雷撃を生み出すと、一斉に四人に向かってそれぞれを放って攻撃を仕掛けた。

 

「さあ、悪逆の皇帝はここにいる! さっさと迎撃して見せるがいい!」

 

 心から楽しそうにエイエヌは叫ぶ。

 

 まるで、自分は楽しまなきゃいけないとでも思っているかのように。

 

「かかってこい。俺はここにいるぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはまずいわね。神滅具を二つも持っているなんて、想定外だわ」

 

 戦闘の光景をみて、シルシは唖然とする。

 

 神器の移植というハイリスクな手段を、あの男は数百回も行っているなどといった。

 

 神器の移植はリスクも大きい。必ず使いこなせると決まったわけではないし、人によっては神器が毒になる。むしろそうなる可能性の方が大きい。

 

 拒絶反応で死んだとしてもおかしくなく、実際に悪影響が出ているほどだ。

 

「それほどまでに、彼も強さを求めているのでしょう」

 

 どこか理解できているのか、アインハルトは悲しげに目を伏せる。

 

「きっと、あの人は強くあることを渇望しているんです。私も、気持ちはわかりますから」

 

「アインハルトさん・・・」

 

 ヴィヴィオがそんなアインハルトの様子に悲し気に目を伏せるが、しかし状況がそれを許さない。

 

「このままにしておくわけにもいきません! ヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんはそこにいて! 私は先輩の援護を―」

 

 雪菜はそういいうなり、雪霞狼を片手に駆け出そうとして―

 

「・・・ほう? そこにいたか」

 

 その声を聴いた。

 

 声に反応して全員が視線を外に向ければ、そこには黒い翼があった。

 

 黒く染めた白鳥とでも形容するべき翼を、五対も展開する黒髪の男。

 

 その姿の多くは人間のそれだが、両腕は義手なのか異形のそれだった。

 

 その姿を見て、シルシは目を見開いて寒気を感じる。

 

 よりにもよって、この男までもが参戦していたとは思わなかった。

 

 そして、彼は間違いなく優勝候補の一人だと断言できる。それだけの圧倒的な実力が、この男には存在した。

 

「・・・コカビエル!」

 

 エストックを引き抜くと同時に、シルシは一気に駆け出した。

 

 この場で最強なのは間違いなくこの男。ならば油断しているだろう隙に速攻で貫く以外に存在しない。

 

 だが、そんなエストックの一撃は、異形の腕によって簡単に受け止められる。

 

「上級悪魔の娘か? まあ、ギリギリ該当範囲内といったところだが・・・ぬるいな」

 

「っ!?」

 

 目の前の男の強大さに、シルシは柄にもなく怯えの感情を覚える。

 

 この男が圧倒的に強いのはわかっていたが、ここまでとは。

 

 そして、コカビエルはにやりと笑う。

 

「まずはお返しだ。・・・受け止めて見せろ」

 

 その瞬間、数十発もの光の槍が一斉に放たれる。

 

 判断は一瞬。シルシはそのほとんどを自分の体を盾にして受け止める。

 

 ポイニクスの不死の特性でも耐えきれるかはわからない。もしかしたらこの一撃で命が消し飛ぶかもしれない。

 

 だが、そうしなければ間違いなく雪菜たちが消し飛ばされる。

 

 そう判断したがゆえに防御は、しかし攻撃を殺し切ることはできなかった。

 

 反動で廃墟の上層部が粉砕され、そしてその衝撃に建物が耐えられない。

 

 一気に、ビルが崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビルの崩壊を察知して、古城は血の気が引くのを感じた。

 

 あのビルは、浅葱たちが安全確保のために潜んでいる場所のはずだ。

 

「浅葱、姫柊!?」

 

「よそ見をしている暇はないぜ、ミスターヴァンパイア!」

 

 その隙を突いて、エイエヌは両腕に氷の剣を生み出すと切りかかる。

 

 バスケで鍛えた反射速度で何とか飛び退るが、胸部に深い裂傷が走ってしまうのは避けられなかった。

 

「・・・グッ!?」

 

 そしてそれを追撃しようとエイエヌが踏み込んだ瞬間、それは起きた。

 

 一瞬で莫大な衝撃が放たれ、周囲の廃墟をまとめて粉砕する。

 

 むろん、そんな反撃を行う技量は古城にはない。彼は身体特性こそ文字通り化け物だが、戦闘技術はろくにないのだ。条件反射で反撃までするようなスペックを保有していない。

 

 それは、彼の体に眠る眷獣の暴走。

 

 主の危機に反応したのか、眷獣の一体が、勝手に目覚めて力を放出させたのだ。

 

「うぉおおおおお!? ちょ、ちょっと待て暁!?」

 

「古城くん待ってっ!? それ私たちも巻き込まれるからっ!?」

 

 兵夜とトマリが絶叫しながら後ずさるが、古城にも制御ができないのでどうしようもない。

 

 そしてそのまま魔力は暴発。圧倒的な振動波の破壊が形を成し―

 

「うぉっと! 危ない危ない」

 

 その古城を、霧が包み込んだ。

 

 そしてその直後、上空で莫大な破壊が発生した。

 

「あとちょっと初動が遅れてたら危なかったな。いや、マジで大けがするところだった」

 

 額の汗をぬぐうそぶりをむせながら、エイエヌがほっと息をつく。

 

 どうやら、絶霧を使って上空に転移させたらしい。

 

 そして、その隙を逃さず狙ったものがいた。

 

「もらった!」

 

 躊躇なく振り下ろされる須澄の聖槍。

 

 しかし、その聖槍は固い音とともに弾き飛ばされる。

 

「だから甘いって」

 

 そう平然と告げるエイエヌはかなり頑丈になっていた。

 

聖者の試練(スターディ・セイント)の亜種禁手、試練乗り越えんとする聖者への祝福(スターディ・セイント・オブ・メリット)。能力は、一回分だけしか上昇しない代わりに防御力を前もって上昇させておくこと」

 

 そうタネを告げるエイエヌは、そのまま振動波を須澄にたたきつけ、さらに即座に地面を隆起させるとそのままトマリに投げつける。

 

「うぁああ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

 あっという間に三人を無力化したエイエヌは、最後の一人に向き直った。

 

「さて、そろそろコカビエルがあいつらを倒すころだし、これはもう決着かな?」

 

「やって、くれるな・・・!」

 

 想像以上に危険な敵だ。

 

 これは、明らかに最悪の事態ともいえる。

 

 なにせ上位神滅具を二つも保有している規格外の男。その時点で禍の団に協力すれば不利な戦況をひっくり返しかねない。

 

 少なくとも、実戦経験の少ない者たちや弱体化している自分が相手をするには荷が重かった。

 

「正直、もうちょっとやれるとばかり思ってたんだ。特にお前はやればできる子だって知ってるからな」

 

「ハッ! そこまで買ってくれるとは嬉しいことだ」

 

 追い詰められていることを悟られないように態度だけは大きくするが、しかしこれは危険すぎる。

 

 場合によっては、奥の手の開帳すらためらっている場合ではないと判断した。

 

 それを知ってか知らずか、エイエヌは面白そうな態度を示して言葉を続ける。

 

「いやいや。俺はお前がやばい奴だってわかってる。お前の危険性はイヤってほどわかってるさ」

 

 何とか隙を突くためにも、しゃべらせておかねばらならない。

 

 兵夜はそう判断しながら切り札を切るタイミングを計って―

 

「・・・なあ、戻」

 

 ―次の瞬間には、頭が真っ白になった。

 

 あり得ない。

 

 それは、それだけは知っているわけがない。

 

 その一言だけで、兵夜は今までにないぐらい狼狽した。

 

「お前っ!」

 

 一瞬で、何の勝算もなく目前まで迫り―

 

「なんでそれを知っている!」

 

 躊躇なく顔面に拳を放つ。

 

 当然、それは当たり前に防御される代物だろう。

 

 実際エイエヌはそうした。

 

 そして、そのために呼び出したものがまずかった。

 

「・・・・・・・・・な」

 

 それを見て兵夜は我に返った。

 

 さっきの名前ほどではないが、しかしあり得ないものを見て、兵夜は固まってしまった。

 

 そして、そのまま全身を焼かれて墜落する。

 

「・・・ば、馬鹿・・・な。なんで・・・お前が・・・」

 

 それは、人類が持てる最強の装備。

 

 それは、神の天敵。

 

 それは、須澄が今も持っている、この世に一本しかないはずの槍。

 

「・・・黄昏の聖槍を、持っている!?」

 

 最強の神滅具、黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)だった。

 

 




伏線は張ってたけどコカビエルも登場。本聖杯戦争優勝候補の一人でございます。


そしてエイエヌの戦闘スタイルは神器のバーゲンセール。禁手も比例して多く、割と本気で化け物級。

そして何より聖槍を保有していることが緊急事態。なぜ聖槍が二つもあるのか・・・についてはある絡繰りがありますのでその辺はお待ちください。


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王道の魔王剣と憎悪の赤龍帝

因みに、勘違いしている方もいるかもしれませんがエイエヌは最後まで言い切っています。

だからこそ、兵夜は動揺したといっておきましょう。









あと今回ちょっと長いです


 黄昏の聖槍とは、人間が持てる最強の個人装備である。

 

 聖書にしるされし神が作り出した、神器(セイクリッド・ギア)。その中でも極めれば神すら殺すといわれている13ある究極の神器、神滅具(ロンギヌス)。その中でも最強と言われている神殺しにして聖遺物の双方ともに最高峰、黄昏の聖槍。

 

 それは、今の時代において人類最強と言われている男、曹操の保有する武装だった。

 

 高いカリスマ性を持ち、人材発掘能力にたけ、当人も優れた戦闘能力を発揮する。一つの時代において最強格であった英傑の末裔であり、神が作り出した最強の装備を保有するもの。

 

 その男から聖槍を奪い取るなど、至難の業以外の何物でもない。

 

 ましてや、今目の前にその担い手がいるのである。

 

 にも、かかわらず、エイエヌはそれを持っていた。

 

 いくら平行世界の存在であるとはいえ、おかしすぎる。

 

 平行世界を渡るということ自体が、あり得ないほどの難易度がある状態なのだ。

 

 それが最低でも二つある。最早天文学的確率だろう。

 

 しかも、そのうち一つは何者かが与えたというイレギュラー。これはもはや、あり得ないというレベルすら凌いでいる。

 

「・・・くそっ・・・たれ・・・が」

 

 そして状況はあまりにも危険だ。

 

 宮白兵夜にとって黄昏の聖槍は天敵中の天敵。

 

 最強の神殺しとすら呼ばれ、かつ最高峰の聖遺物。悪魔にして神格である兵夜にとって、これほどの最悪の相性を持つ兵器は、相性だけならサマエルにすら匹敵する。

 

 ほかの二人も大きく負傷し、古城に至っては墜落中。

 

 そして、どうも女性陣も襲撃されている。これは非常に危険だ。

 

 状況的に、致命的なまでに追い詰められている。

 

 うかつだった。あり得ないわけがなかったのだ。

 

 そう、小雪の件が起こり得る可能性は、確かに極小だがあったのに。

 

「さて、それでは終わりだな。一人は仕留めておかないと」

 

 そう告げながら、エイエヌは聖槍を振りかぶり―

 

「―ああ、終わりだよエイエヌ」

 

 その直後、莫大な魔力がエイエヌに向かって放たれた。

 

 その一撃は、しかし兵夜を助けるものでない。

 

 躊躇なく兵夜ごと吹き飛ばそうと放たれたものは、しかしエイエヌが防ぐことで兵夜を救う。

 

 一瞬でかき消された莫大な魔力は、しかし魔王クラスすら超えた規格外のレベルだった。

 

「・・・来たか、兵藤一誠」

 

「来たさ、エイエヌ」

 

 そこにいたのは、強大なオーラを纏った赤き龍の鎧を着た男。

 

 莫大な憎悪と殺意を纏った赤い龍が、静かに空に浮かんでいた。

 

「勘弁してくれないかな。聖杯戦争が台無しになるのは避けたいんだが」

 

「所詮人形遊び。俺がどう壊そうか知ったことじゃないだろ」

 

 エイエヌの文句を一蹴し、兵藤一誠は左腕をふるう。

 

 そこに現れるのはアスカロン。龍を殺す強大な力を秘めた聖剣。

 

 それを振りかぶり、兵藤一誠は躊躇なくエイエヌに切りかかる。

 

「待て、イッセー・・・っ」

 

 それを、兵夜は止めようとする。

 

 いくら赤龍帝といえど、単独で上位神滅具三つのセットに対応できるとは思えない。

 

 だが、其れに対して兵藤一誠が返したのは冷たい目線だった。

 

「そういうのはいいんだよ。人形」

 

 まるで、兵夜を人としてすら見てないような目線で、彼は切り捨てる。

 

「あとで悪趣味な人形は全部燃やしてやる。それまで少し黙ってろ」

 

 そういい捨てるなり、兵藤一誠はエイエヌを押しながら、連続で攻撃を叩き込もうとする。

 

 その光景を見ながら、兵夜は大体どういうことかを理解し始めていた。

 

 少なくとも、一つだけ断言できることはある。

 

 ああ、彼のいた平行世界では、兵藤一誠と宮白兵夜の交流は友好的なものではないのだと。

 

 あの輝きを、宮白兵夜は与えられてないのだと。

 

「・・・くそったれ」

 

「言ってる、言ってるところ悪いけど、そろそろ走った方がいいんじゃないかな」

 

 そういいながら、ぼろぼろになった須澄が兵夜を引き上げる。

 

 そして彼は、躊躇しながらも激戦とは別の方向に走り出した。

 

「トマリは?」

 

「トマリ、トマリは古城くんを回収しに行ってるよ。・・・大丈夫かな」

 

 落ちてつぶれてないかといわんばかりの疑問だったが、まあたぶん大丈夫だろう。

 

 なんとなくだが、彼は殺しても死なない気がしてきた。

 

「・・・そうだな。とにかく今のうちに助けに行かないと・・・」

 

 どうも向こうは向こうで大変なことになっている。

 

 まずは、彼女たちを助けに行く方が先決だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瓦礫の山が出来上がる中、ヴィヴィオはかろうじて雪菜と浅葱を助け出していた。

 

 飛行魔法ができていて助かった。あの高さから落ちたらただの人間は即死だろう。

 

「大丈夫ですか、雪菜さん、浅葱さん!」

 

「だ、大丈夫だけど! それよりさっきの黒い奴は!?」

 

 浅葱はすぐにあたりを見渡し始める。

 

 あのコカビエルというやつが、このまま黙ってみているとは思えない。

 

 高確率でさらに襲撃を仕掛けてくる可能性がある。それを判断できるだけ、やはり彼女は気丈だった。

 

「大丈夫です。今は、二人が抑えてます! だからヴィヴィオちゃん、今のうちに!」

 

 と、すぐにコカビエルがシルシとアインハルトに抑えられていることに気が付いて、雪菜はヴィヴィオに指示を出す。

 

 もちろんヴィヴィオをすぐにわかっており、急いで地面に降り立ち始める。

 

「あとちょっと粘るわよ、ハイディちゃん!」

 

「わかりました!」

 

 シルシとアインハルトは何とかコカビエルを抑え込んでいた。

 

 二人とも、この男がこの場で最強だということを理解していた。

 

 シルシは親から伝えられたコカビエルの戦いぶりから。アインハルトは先祖の記憶にもいた、コカビエルと同じような思考を持った者たちの姿を思い出して。

 

 この男は危険だ。命がけの戦いを、そしてそれ以上に戦いによって相手の命を奪うことを楽しめる類だ。そしてそのために多くの努力を重ねられるような向上心の強いものだ。

 

 なんとして潜り抜けられねば、間違いなく殺される。

 

 そして、そのために全力で戦闘を行っていた。

 

「なるほど。子供にしてはよく動く。よほど鍛錬を積んだようだな」

 

 コカビエルは、アインハルトの動きに素直に感心していた。

 

 戦争を望むコカビエルからしてみれば、そこそこ楽しませる強者は願ったりかなったりだ。

 

「いいな。実にいい。ミカエルたちとの戦争の前哨戦には、ちょうどいい前菜だろう」

 

「あなた、いまだに戦争をあきらめてないの!?」

 

 シルシはコカビエルの言葉にあきれ果てる。

 

 すでに三大勢力は和平を締結し、とどめに各種神話体系とも和議が進んでいる。

 

 この状況下で戦争を起こすのは愚策以外の何物でもない。

 

 だが、コカビエルはむしろ当然といわんばかりに胸を張る。

 

「あきらめるわけがなかろう。それに、アザゼルの奴が和平など結んだことで、不満分子はかなり集まった。・・・あとはこれがあればやりようはある」

 

 そういいながら取り出したのは、結晶でできたダイスだった。

 

 それを見て、シルシは硬直する。

 

 彼女の千里眼が、その本質を見極めたのだ。見極めてしまったのだ。

 

「堕天使版の悪魔の駒(イーヴィル・ピース)!? それも、この出力は王の駒クラス・・・!」

 

「ああ、アジュカの奴はなかなか面白いものを作ってくれた。それを禍の団のキャスターが解析して試作していたのがこれだよ」

 

 そういいながら、コカビエルはダイスを弄ぶ。

 

「これを聖杯戦争で人数分生産すれば、三大勢力はおろか神話勢力と戦うことも不可能ではあるまい? フォード連盟のエイエヌとも話はついているしな」

 

「貴方が優勝したら、フォード連盟は地球に攻め込むつもり!?」

 

「厳密にいえば、そうしなくても攻め込むつもりだそうだがな。まあ、俺としても戦力は多い方がいい」

 

 シルシは状況が思った以上に悪いことに歯を食いしばる。

 

 聖杯がテロリストにわたることを問題視していた。フォード連盟の悪行も腹立たしいが、表の人間世界の悪行にも極力かかわってこなかった冥界が積極的に動くわけにもいかない事態ではある。動くならまずは時空管理局だろうと思っていた節があるのは認める。

 

 だが、フォード連盟は最初から地球をターゲットにしていたのだ。

 

 これは、まずい。

 

「皆! 先に兵夜さんと合流して! このことを一刻も早く伝えるのよ!!」

 

「で、ですが、宮白さんも戦闘中・・・」

 

「彼なら即座に逃げの判断を下せるわ! 状況は思った以上に悪すぎる!」

 

 言うなり、シルシはエストックを構えて突撃する。

 

 フェニックスの再生能力を利用した強引な近接戦闘。くわえて、千里眼を利用しての疑似的な未来視すら併用。攻撃を受けることは覚悟して、防御を読み切っての相打ち狙い。

 

 だが、その視界一帯に攻撃が映り込み、コカビエルの姿が掻き消えた。

 

「ぬるいな!!」

 

 一瞬でいくつもの翼が動き、そして一斉にシルシを切り刻む。

 

 圧倒的なまでの攻撃が、シルシの限界をすぐにでも凌駕せんとする。

 

 いかにポイニクスがフェニックスの分家であり、フェニックスが不死の力を持つとはいえ限度がある。神クラスの一撃を受ければ完全消滅するし、損傷を受け続ければ精神が限界を超える。

 

 コカビエルはそのどちらも可能とできるだけの実力者だ。神の子を見張るものの最上級幹部である実力は伊達ではない。

 

「上級悪魔としては及第点だが、その程度で俺を倒せると思ったか?」

 

「やっぱり・・・強い・・・っ!」

 

 今までが遊びだと証明する攻撃の密度に、再生力だよりのごり押しすらできない。

 

 圧倒的格上の攻撃力に、シルシは自分の怠慢を心から悔やんだ。

 

「どうした? フェニックスの流れなら、この程度で死んでしまっては困るぞ!」

 

「ぐ・・・う・・・っ!」

 

 圧倒的な攻撃に、シルシは再生が追い付かず消えかけそうにすらなり・・・。

 

「させません!」

 

 そんな攻撃を放つコカビエルの顔面に、アインハルトの拳が放たれた。

 

「ほう? やはり素質はあるな」

 

 コカビエルは難なくかわすが、それを面白がったのか攻撃を中断する。

 

「・・・かはっ」

 

「シルシさん! しっかりしてください!!」

 

 攻撃が中断したことで気が緩み、そのまま気絶しかけるシルシをヴィヴィオが支える。

 

 コカビエルはあの攻撃の最中にもヴィヴィオたちにすら攻撃を放っていた。援護が遅れたのはそのせいだ。

 

 むしろ間に合わなくてもおかしくない対応だったが、アインハルトは何とか介入で来た。

 

「・・・戦争をあえて起こし、そして民に悲しみをもたらすなんて、覇王(わたし)は認めません」

 

「ならどうする? 俺を倒すか? 俺を、戦争を止めるというならそれぐらいはできねば話にならんぞ?」

 

 コカビエルの挑発に、アインハルトは静かに拳を構えることで答える。

 

「覇をもって和をなす。・・・守るべきものを守りきる強さを得ること。それが私の望みですから」

 

 勝ち目があるとは思えない。

 

 コカビエルの強さは低く見積もってもSSランク。間違いなくこの聖杯戦争でも優勝候補だろう。

 

 しかし、アインハルトは決して引けない。

 

 クラウス・G・S・イングヴァルドの記憶が、彼の嘆きがそれを止める。

 

 あの戦乱のような悲劇を起こしてはならない。それを止めるために力を求めた。

 

 それが、(わたし)望んで果たせなかった夢だから。

 

「なら止めて見せるがいい。俺たちを前にして覇を名乗るのなら、俺一人止めて見せなければ話にならんぞ!!」

 

 コカビエルは哄笑を上げて翼を広げる。

 

 それに対して、アインハルトは接近を仕掛けるべく腰を落としてそれに答えた。

 

「・・・ちょっと! あの子ヤバイ覚悟決めちゃってるんじゃないの!?」

 

 戦闘経験どころか戦闘技術すらない浅葱ですらわかる思いつめ方に、雪菜も状況が危険であることを察知する。

 

「だめ、一人じゃ勝てない! 下がって!」

 

「アインハルトさん!?」

 

 雪菜もヴィヴィオを止めに入ろうとするが、しかしだからといってコカビエルが逃がしてくれる保証はかけらもない。

 

 そして戦闘が再開しようとして―

 

「・・・いい覚悟だ。だが無謀だな」

 

 その間に、一人の悪魔が舞い降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルサム・カークリノラース!?」

 

 それを目にした雪菜は、さらに状況が悪化したことで絶望すら覚えかける。

 

 昨夜は助けてもらったが、しかし彼も聖杯戦争の参加者だ。

 

 そもそも、それは彼の最低限の気遣いだ。聖杯戦争に参加する覚悟を決めるまでの時間ぐらいは残しておくべきとの最低限の気遣い。戦場においては酔狂ともいえる者だろう。

 

 それを、二度もされる可能性は全くなく―。

 

 さらに、戦場には増援が現れた。

 

「アルサム様、我ら右腕四天王・・・参上つかまつりました」

 

「兵員たちはアルサム様の命を忠実に果たしてございます」

 

「ですが、コカビエルが相手ともなればアルサム様といえど苦戦は必須」

 

「どうか、我々にも戦わせてください」

 

 それぞれが、右腕から炎や冷気や雷や光を放ちながら、四人の男女がアルサムに並び立つ。

 

 それを見もせず、しかしアルサムは誇らしげにうなづいた。

 

「その忠臣、我が眷属としてふさわしい。・・・ああ、共闘を許そう」

 

 そういいながら、アルサムはルレアベを突き付ける。

 

「コカビエル。貴様には我が血族もいくらか世話になったと聞いている。・・・政府に反旗を翻すなら好都合だ、ここで彼らの無念を晴らさせてもらう!」

 

 明確な殺意を込めたその視線を受けて、コカビエルは楽しそうに口角を吊り上げる。

 

「面白い、この両腕の性能を試すいい機会だ。・・・来るがいい」

 

 そういいながら、コカビエルは翼を広げて殺意を放つ。

 

 それを真っ向から受け止めながら、アルサムはあきれているかのようにアインハルトに振り向いた。

 

「・・・何をしている? ここを離れるといい」

 

「いえ、覇王として、戦乱を巻き起こそうとするものをほおっておくわけには」

 

 アインハルトは首を横に振る。

 

 戦乱を沈め、覇をもって和をなすことを願った覇王の末裔として、コカビエルは捨て置けない。

 

 ゆえに相打つ覚悟すらもって一歩を踏み出そうとし―

 

「戯けが!」

 

 アルサムはそれを一喝した。

 

「え・・・?」

 

「その程度のありさまで王を名乗ろうなど、千年早い! 四天王、少しコカビエルを抑え込んでいろ」

 

「「「「承知!」」」」

 

 そしてアルサムは、コカビエルの相手を四天王に任せアインハルトと向き合う。

 

 そしておもむろにビンタを一発叩き込んだ。

 

「っ!」

 

「ついてくる民も、魅せる在り方も持たずして何が王か! 他者の王道に振り回される形で王を名乗ったところで、そんなものは張子の虎にすぎん!」

 

 はっきりと、アルサムはアインハルトの王の在り方を否定した。

 

 それは覇王(イングヴァルド)の在り方を否定したのではない。その在り方に振り回されている、覇王の末裔《アインハルト》の在り方を否定したのだ。

 

「王道というものもいくつかの形があるものゆえ、覇王という王を何も知らずに否定する気はない。だが、それに着られている今の貴様が王の名乗るなど片腹痛いわ!」

 

「そ、それは・・・」

 

 勢いよく説教され、アインハルトは思わずたじろいだ。

 

 今は間違いなく戦闘中のはずなのだが、しかしアルサムは真正面からアインハルトをみて怒っていた。

 

「例えば、私にとっての王とは優れた奉仕対象だ。その在り方や能力で人を魅せ、尽くしたいと思わせる者。それこそが私の王道だ」

 

 そう告げるアルサムは、嘘偽りなく正面からまっすぐに答えていた。

 

「王侯貴族とは本来、古き昔に人々が自らの指導者として何らかの形で認めた者が発祥。彼らの奉仕に対して恩賞として施しを与える形であるからこそ上下の関係が生まれたのだ」

 

 少なくとも、それはアインハルトに言い聞かせようとする意図があった。

 

「それはすなわち一人の王が複数の民より上であるということ。それを証明し、そしてそれを肯定する民に施しを与える恩賞こそが高貴たる者の責務(ノーブレス・オブリゲーション)というものだ」

 

 すなわち、王が上で民が下。尽くしてくる民を使う者が王。そしてそれだけの能力を持つことが責務。

 

 上からの物言いではあるが、だからこそ忠誠を誓うものをきちんと見ている良い方だった。

 

「その関係があるからこそ、王は民を慈しむのだろう。自らに尽くしもしないものに施しを与えることなど、ただの自己満足の奉仕活動にすぎん」

 

 そう言い切ると、アインハルトをまっすぐに見つめなおす。

 

 なにより、彼の王道は彼の配下に受け入れられている。

 

 今まさにそうだ。二度会っただけの少女に説教するためだけに、強大な敵の足止めをしろと言われたのにもかかわらず、彼らはむしろ喜んで動いている。

 

 それに足るだけの何かを持っているものでなければそんなことはできない。少なくとも彼は自分の持論を実践するべく積み上げてきたのだ。

 

 その事実に、アインハルトは言い返せなかった。

 

「反論できんか? それは、貴様が覇王の王道を己のものとできていないからだ」

 

 アルサムはそう酷評した。

 

「目を見ればすぐにわかる。何に憑かれているのか知らんが、今の貴様は他者の意向に振り回されているだけの小娘だ。王を名乗るのなら自らの意思で他者を振り回せるようになってから出直してこい。目に余る」

 

 そう言い放つと、アルサムはアインハルトを突き飛ばす。

 

「異論があるのなら自らを見つめなおしてからにしろ。・・・案ずるな、この聖杯戦争が終わるまでは、必ず生き残りそれを待っていることをグラシャラボラス家の名において誓おう」

 

 そして、アルサムはそのままコカビエルに向き直ると一歩一歩前に出る。

 

 切り込むのなら真正面から。それが己の王道だといわんばかりに堂々と。

 

 その姿は、確かに当人の言う通り人を魅せるものが確かにあった。

 

 そこにいるのは間違いなく一人の王。その力とあり方で人を引きつれる統率者。

 

「守るべき民、貫く王道、そして何よりそれを認めし魔王の遺志がここにある。たかが薄汚いカラスごときが、我が王道を阻めると思うなよ!」

 

「く、くくく・・・クハハハハッ!」

 

 その威風堂々とする姿に、コカビエルは大きな声を上げて笑い出す。

 

「いい、実にいいぞ! 殺しがいのある奴じゃないか!」

 

 大上段から見下ろすコカビエルに、アルサムはルレアベを突き付ける。

 

「来るがいい。冥界の未来は貴様に手繰れるほどたやすくはない。四大魔王に代わって貴様は切る!」

 

「いいだろう。サーゼクスたちのまえに肩慣らしをしようじゃないか!!」

 

 そして、莫大な破壊の嵐が顕現した。

 

 




 ブチギレ憎悪状態の兵藤一誠。もちろんそんなことになったのは理由がありますし、理由を知ればみな納得するでしょう。人形扱いもそれによる勘違い・・・といっておきます。

 真面目系悪魔、アルサム・カークリノラース・グラシャラボラス。彼は明確な己の王道を保有しております。おりますけどやはりちょっとお馬鹿というかなんというか・・・今やるか、オイ。










追記:今回においてもド級の伏線が盛り込まれております。

 これに気づけばエイエヌの正体は確実にわかります。でもわかっても明言は避けてね?


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宮白兵夜という男

場合によっては嫌われることも覚悟はしている。









だけど、それが堪えないかどうかは全く別の話なのだ。


 

「・・・ふ、ふふ、ふふふふふ」

 

 兵夜は、笑った。

 

 もう、笑うしかなかった。

 

「やってられるかぁああああああああああ!!!」

 

 そして絶叫するなり酒を呼び出し、そのまま一気にあおる。

 

「ちょっと、ちょっと! 盗聴器探してる最中に酒飲まないでよ!」

 

 即座に須澄が文句を言うが、しかしそんなことを気にしている余裕はなかった。

 

「飲まずにやっていられるか! 状況が更に下だって見せつけられたんだぞこっちは!」

 

 いまだ聖槍のダメージも抜けきらない状態で、兵夜は本気で頭をかきむしる。

 

「なんでか知らないけどエイエヌは神滅具のバーゲンセール! しかもコカビエルが聖杯戦争に参戦していて、しかも腹立たしいことに奴はエイエヌと組んで俺たちの地球に戦争しかける腹積もりだ! 今の地球に次元世界複数を同時に相手する余裕なないってのに・・・!」

 

 状況は想像の遥か斜め下を突き抜けている。

 

 正直に言えば、フォード連盟の政治関係に対してはあまり関与するべきではないと兵夜は踏んでいた。

 

 人間世界の政治などにもあまり口出ししないのが異形社会の基本的な方針である以上、さらに遠い世界の政治やありかたに積極的に関わるわけにはいかないだろう。

 

 なので、しいて言うならレジスタンスにちょっとぐらい出資するぐらいにするべきか・・・などと考えていたらこのざまだった。

 

 今すぐにでも関わらなければどんなことになるかわからない。

 

 そして、どうやって関わったらいいかもわからない。

 

 うかつに通信が使えないうえに、通信が繋がったところで地球にまでは届かない。

 

 しかも、この聖杯戦争は一気に進んだだろう。

 

 兵夜たちの戦闘がきっかけになって、廃墟地区に潜んでいた聖杯戦争参加者が一気に潰し合った。

 

 冷静に考えれば、必要な物資を調達する為の市場などに適度に近く、加えて隠れる場所に事欠かないあの廃墟地区は潜伏場所として好都合過ぎた。

 

 聖杯戦争参加者、それも異世界から来ている禍の団の関係者ならば潜伏場所として使用し安過ぎただろう。

 

 これでかなりの陣営が脱落しているはずだ。間違いなく聖杯戦争は加速する。

 

「だけど、だけどここの市場って怪しいの多いんだけどなぁ。森の中で狩りしてた方が健康にいい食生活が送れるよ?」

 

「ああ、だからあんな町から離れた森の中にいたのか、アンタら」

 

 高所からの全身打撲から回復して、やっと意識を取り戻したばかりの古城が納得する。

 

 須澄やトマリがなぜあんな所にいたうえ、他にも参戦者がゴロゴロ出てきたのか疑問だったが、つまり同じことを考えたのだろう。

 

 そして、それは今はどうでもいい情報だった。

 

「それで、そのコカビエルってマジでやばいんだな」

 

「ヤバイとも。奴は堕天使の中だけなら少なく見積もっても上から数えて一けた台の実力者だ。・・・ヤバイ、マジで優勝しそう」

 

 しかも、フィフスが余計なことをしていたことまで発覚した。

 

 王の駒と同等の強化をかけられる堕天使強化技術など、コカビエルの手元に置いていいようなものではない。

 

 あまりに大きな混乱で、禍の団の技術をすべて回収できたわけではなかったが、それがここに来て仇となった。

 

 このままでは危険過ぎる。状況はあまりに最悪だ。

 

 そして、エイエヌの方も危険過ぎる。

 

 神滅具を複数所有してるなどと、イレギュラーにも程がある。

 

「ああ、俺は絶対柔らかいところで寝るからな。ソファーは俺がもらったからな」

 

「ソファーでいいのかよ。そこはベッドを確保するところだろ?」

 

 と、ヤケクソになっている節のある兵夜の断言に、古城はツッコミを入れた。

 

 今現在、兵夜たちは大きめのホテルの一室に陣取っていた。

 

 古いホテルであるが故にそこそこの環境はあるが、しかしそれはそれとして根倉にするには十分過ぎる。

 

 治安が悪いだけあって盗聴機器などはいくつもあったが、其れさえ取り除けばプライベートも確保できる。

 

 ちなみに、受け付けは暗示魔術でごまかした。

 

「そんなもん女性陣が使うに決まってんだろ。野郎は寝袋貸してやるから床で寝ろ。俺はソファーをもらう」

 

「寝袋は貸してくれるんだな」

 

「この人、本当に人は良いよね」

 

 しかもかなり高級そうなものを投げてよこす兵夜に、古城と須澄は顔を見合わせる。

 

 そしてさらりとフェミニストである。

 

 助けるのは困難だと前置きしたうえで、報酬アリの協力ならOKなどという辺り、本当に良い人ではないだろうか。

 

 が、それを兵夜は否定する。

 

「そんなことはない。むしろ、俺は問題児の部類だろう」

 

 そう、はっきりと言い切った。

 

「会話の節々で気づいているだろう? 魔術師(メイガス)の価値観に慣れていることもあるが、俺は割とサイコパス気味だ」

 

 兵夜は自嘲ではなく単なる事実として、それをはっきりと断言する。

 

「以前、異世界侵略をしたいとか言ったやつにもスカウトされて断言されたよ。お前は(同類)だと。俺はそれを肯定できる」

 

 兵夜はどこか遠くを見るように、盗聴器を探しながらもそう告げる。

 

「もしイッセーという光に出会ってなければ、俺は今頃犯罪社会でのし上がっていただろう」

 

 兵夜はそう告げる。

 

 努力の大切さは知っているから、努力は欠かさない。

 

 だが、其れを悪性に向けると確信すらしていた。

 

「余計な責任を負いたくないからのし上がって闇の帝王とかは目指さないだろうが、個人で活動できるレベルでなら相当暴れるだろう。それも、堅気の連中を食い物にする類のゲスの極みにな」

 

 何故だろう。そんなことを言っても特にメリットはないのに、すらすらと自分の悪性を認める言葉ばかりが出てきてしまう。

 

 どうしてか、兵夜は自分の否定する形で饒舌になっていた。

 

「ああ、なんていうか・・・」

 

「はい、そこまで」

 

 と、そこで区切るかのようにシルシの声が聞こえた。

 

「な、なんか暗い話っていうか・・・自分で自分のことそこまで悪党っていう?」

 

「っていうか、さらりとイッセーって人のこと持ち上げてるよねっ? 時々持ち上げてたけど、どれだけ好きなのっ! 薔薇? 薔薇なの?」

 

 浅葱やトマリたちもシャワールームから一斉に出てくる。

 

 とりあえず、女性陣は労働させずに風呂に入れる方向で言っていたのだがどうやら終わったらしい。

 

「兵夜さんは良い人ですよ? だって私やアインハルトさんを助けてくれたじゃないですか」

 

 ヴィヴィオも励ますように一生懸命声をかける。

 

 それに微笑みながら、しかし兵夜は否定する。

 

「いや、正直俺の良心なんてイッセーから与えられたようなもんさ」

 

 ああ、それに関しては否定の余地がない。

 

「アイツに無意味に嫌われたくない。そう思ってたらいつの間にかこんな感じになってたわけで、そういう意味では外付けなんだよ、俺の良心は」

 

 実際、自分にとっての良心はイッセーとの日常で育まれたようなものだとはっきり言える。

 

 ああ、なんていうか本当に今日は自己評価を下げたくなる夜らしい。

 

「ああ、ホント一歩間違えれば俺はあいつに嫌われまくる―」

 

「兵夜さん」

 

 と、そこで胸に押し付けられる形で黙らされた。

 

「シルシ。悪いんだけど、いろいろあって俺はお前のアプローチに対処できるほど冷静になれないんだが」

 

「大丈夫よ。今日は、そういうのじゃないから」

 

 兵夜を抱き寄せたまま、シルシはぽんぽんと子供をあやすように兵夜の背中をたたく。

 

「話は大体聞いたわ。赤龍帝、平行世界の兵藤一誠なんでしょう?」

 

「ああ」

 

「それで、ものすごい冷たい目で見られたんでしょう?」

 

「・・・ああ」

 

「だったら、少しぐらい吐き出しなさい。それぐらいは、眷属としてしてあげたいのよ。・・・貴方が私に振り向いてくれなくてもね」

 

「・・・・・・・・・」

 

 兵夜は答えない。

 

 だが、どうにもこうにも今の自分の感情が理解できた。

 

 ああ、馬鹿馬鹿しい。

 

 アホか自分はと殴りたくなる。

 

 つまるところ、自分は―

 

「兵藤一誠に嫌われてショックだったんだから落ち込んでいいのよ。今夜ぐらいはいっぱい吐き出しなさい」

 

「・・・うぅ~」

 

 そのままシルシの背中に手をまわし、兵夜は縋り付いた。

 

 別人なのはわかっている。

 

 場合によっては嫌われる覚悟もしている。

 

 だが、それでも。

 

 宮白兵夜は、兵藤一誠に嫌われたいわけではないのだから。

 

「・・・ひっく、ぐす・・・」

 

 子供みたいに涙を流す兵夜を抱き寄せ、シルシは微笑を浮かべた。

 

 自分は、こういう彼に救われたのだから、こういう彼も含めて好意を寄せるべきなんだと思っているのだ。

 

「よしよし、私はここにいるからね」

 

「・・・・・・イッセーに、嫌われたぁ・・・っ」

 

 さすがに大泣きはしなかったが、それでも兵夜はしっかり泣いた。

 

 こういうのは、泣いた方がすっきりしていいものなので、わかった以上我慢はできなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま泣きつかれて眠るまで兵夜はダメージが大きかったらしい。

 

「ごめんなさい。割と精神年齢が低いところがあるらしいから。いろいろあって大人のピースが落ちているらしいのよ、枢機卿が認定しているの」

 

「枢機卿とはすごい方から認定されているんですね・・・」

 

 苦笑しながらフォローするシルシに、雪菜は反応に困ってしまう。

 

 宗教的権威である枢機卿にそんなことを言われるとは、どんな状況でなったのだろうか。

 

「でもまあ、この人本当にすごいのよ。・・・ええ、本当にすごい人なんだから」

 

 そういいながら兵夜に毛布を掛けるシルシは、本当に心からそういった。

 

「本来の素質そのものは中の上がいいところ。其れでありながら幸運に恵まれながらも様々な功績を上げてきた彼は、間違いなく冥界の英雄の1人だもの」

 

 偉大な英雄を見る目つきで、シルシはそう断言する。

 

「そんなにすごいの、その人?」

 

「ええ。そうよ浅葱ちゃん」

 

 シルシはそういって、兵夜の来歴を語り始める。

 

 宮白兵夜。彼は魔術師としても人間としても超人などとは呼べないレベルであった。

 

 ある秘匿事項が原因で発生した世界のバランスの変化によって、死んだ後に来報して転生した転生者。

 

 その一人である兵夜はしかし、禍の団との戦いにおいてはそこまで優秀な部類ではない。

 

 固有結界という大魔術を使う特性を持っていることは脅威だが、彼は生前其れに目覚めることはなかったし、使えるようになったことも偶然だ。

 

 努力の大切さを知っているからこそ人間の範疇内では優秀だったが、それでも悪魔の中ではそこそこ優秀程度だった。

 

 さらには、幸か不幸か周りは優秀な人物だらけだった。

 

 主であるリアス・グレモリーが、まず若手上級悪魔でも期待の才児とすら認識されていた。そして、そんな彼女ですら一時期はチームの中堅どころか下位の戦力となっていたことがある、といえばその資質がわかるだろう。

 

 歴代最弱にして最優の赤龍帝と呼ばれ、禍の団初代首魁ともいえるシャルバ・ベルゼブブを討った兵藤一誠。

 

 転生者に匹敵するイレギュラーの塊である聖魔剣を生み出す禁手に至った男。そして、五つの魔剣に選ばれた騎士木場祐斗。

 

 デイライトウォーカーの貴族の末裔。邪神バロールの残滓を取り込んだギャスパー・ウラディ。

 

 神の祝福を受けぬ悪魔すら癒し、神器無効化能力ですら押し切れない守護領域を展開するアーシア・アルジェント。

 

 堕天使の長の1人、神の子を見張る者のバラキエルと、日本退魔師の五代宗家、姫島の家の娘との間に生まれた姫島朱乃。

 

 悪名とはいえSSランクのはぐれ悪魔である黒歌の妹にして、邪神を二体も封印した塔城小猫。

 

 エクスカリバーの使い手にして、デュランダルの担い手である天然聖剣使いゼノヴィア・クァルタ

 

 666の封印術式そのものを、わずかな資料からその手に届かせた北欧のヴァルキリー、ロスヴァイセ。

 

 グレモリー眷属は誰もかれもが超一流の素質を持つ若手のエリート。その誰もが、一人いただけでその主の名が上がるような逸材だらけである。

 

 そんな中、固有結界に目覚めてすらいなかった兵夜はある意味一番平凡だろう。

 

 普通の若手眷属悪魔としてならエースのカタログスペックだが、チームにおいては器用貧乏。それが宮白兵夜の評価だった。

 

 そんな中、聖杯戦争に巻き込まれたことは困難以外の何物でもない。

 

 それに対抗するため、兵夜は様々な手を尽くした。

 

 体の中で手が加えられてないところは一つもないといえるほどに体を改造し、そして様々な強化武装を考案して運用し、それをもってして潜り抜けた。

 

 神格と化した後もその努力は尽きない。何故なら前代未聞の領域であるが故に制御の方法を探ることすら手探りであり、彼の資質では未だに完全な制御などできていないのだから。

 

 それだけの狂気ともいえる執念があるからこそ、彼は冥界の英雄と呼ばれるようになった。

 

 そして、彼は何度か教壇に立ったことがある。

 

 ・・・下級の教育が細々として進まない冥界において、彼は教育の重要性を認識しそれを進めるべく交渉などを行っていた。

 

 そして、彼は特別講師として授業を行うとき、必ずこの言葉を前提とする。

 

 ―下級悪魔は上級悪魔より劣る。下級が必死に鍛え上げて到達できる魔力量を、上級悪魔は怠惰に生きながら自然に到達できる。それが現実だ。

 

 悪魔という種族は、血統における能力の差が大きい種族だ。

 

 下級と上級の能力の差は大きく、成長するにしたがってより大きくなる。そして長い寿命を持つ悪魔は、たいていの場合自然な成長で大きな差が出てくるのだ。

 

 それが、冥界において教育が進まない理由で、それは現実だと彼は前提とする。

 

 前提としたうえで、彼はこう諭すのだ。

 

 ―だからこそ、知識を習得し武器を身につけろ。

 

 人間は種族としては弱い部類だ。異形世界としても、神器持ちなどの一部の例外を除けば弱く。普通の動物としても、野生動物に生身で勝つことは困難な場合が多い。

 

 だが、其れでも人間は強大な力を持つ。

 

 それは、知恵を持ち、研究し、そしてそれを知識として継承し、文明を発展させてきたからだ。

 

 単純な威力だけでいうのならば、核兵器をもってすれば生半可な上級悪魔を上回る破壊が行えるようになっていることがその証拠。それは脅威でもあるが偉大なのだと、彼は人間の立場からそう教える。

 

 そのうえで、それらを武器として己を売り込める。そうすれば、よりよい生活を得ることができる。

 

 そう、彼は教えるのだ。

 

 魔力だけですべてができるわけではない。君たちはそれを身につけろ、と。

 

 強者と同じ戦い方をするのではなく、別の何かを持ってこいと。

 

 だからこそ、彼に救われた者たちはきっと数多いのだろう。

 

 それは、彼らにあった戦い方だったのだから。

 

 




つくづく思うがグレモリー眷属はチートばかり。リアスの引きの強さは規格外ですな。


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似て異なる者

 

「・・・彼の授業を受けた人たちは、多くが意欲を向上させて成果を上げるわ。幼少期の努力はかみ合えば伸びるっていうのが、実体験に基づく話だから説得力を感じさせるのね」

 

 眠る兵夜の頭をなでながら、シルシはそう語る。

 

「ここは未来ある若者がそれをつかむ方法を学ぶ場所。・・・学園を襲撃してきたものに彼が切った啖呵よ?」

 

 かつて彼が言った言葉を反芻して、シルシは微笑んだ。

 

「現実を認めないのではなく、現実を認めたうえで打開策を探す。・・・だからこそあの子たちはこの人に感謝しているのよ。それは、弱者が強くなる方法だから」

 

 そう、だからこそ彼の授業はためになるのだ。

 

 圧倒的な強者に囲まれる中、弱いなりに追いつくために死に物狂いで努力して、そして結果をつかみ取った。

 

 むろん、努力にも限度があり個人差がある。だが、其れでもちゃんと嚙合わせることができれば、いまよりずっと先に進むことができる。彼はそういうやり方があることをきちんとわからせるように教えてくれる。

 

 だからこそ、弱い立場の人たちは彼の意見をちゃんと聞く。

 

 もとから圧倒的な素質を持った赤龍帝よりも、元がそんなに強くない彼の言葉だからこそ届くものもある。

 

「まあ、頑張ってもできないことがあるから頑張り方を変えなさいってことね」

 

「あ~、ちょっとわかるかも」

 

 と、真っ先に納得したのはヴィヴィオだった。

 

「私も才能がないから苦労してますし」

 

「そうか? むしろその年でそんだけできればすごいと思うけどよ」

 

 古城は素直に思ったことを口にするが、ヴィヴィオは苦笑を浮かべて否定する。

 

「私、魔力総量も低いし適正も格闘向きじゃないんです。学者系が一番向いてるらしくって、戦闘するなら中後衛むきで」

 

「そうなの? なんか割と強かったけど」

 

「それはコーチをしてくれてる人の教え方が上手だったからですよ」

 

 と、浅葱に謙遜しながらヴィヴィオはそれでも拳を見つめる。

 

「それでも、ストライクアーツで強くなりたいから。だから、一生懸命頑張ってます」

 

「そうなの。なら頑張らないとね」

 

 そう頭をなでながらシルシは告げる。

 

「人には人の戦い方がある。少なくとも、ヴィヴィオちゃんは目がいいもの。避けて当てる戦い方なら結構いけるんじゃないかしら」

 

「はいっ! コーチにもその方向で教わってます」

 

「まだ子供のヴィヴィオちゃんがここまで動けるようになるなんて、そのコーチはすごい人なんだね」

 

 なまじ鍛えているからこそ、雪菜はヴィヴィオを教えているコーチの素質がよくわかる。

 

 独学でここまで動けるようになれるとは思えない。そのコーチの指導能力が優秀だからこそ、これだけの技量を持つのだろう。

 

「そうですね。ノーヴェさんのようなコーチに教われたのは、素晴らしいことだと思います」

 

「ん? ストラトスもむちゃくちゃ強かったが、お前は違うのか?」

 

「あ、はい古城さん。私はクラウスの記憶がありましたので、修行そのものは独学でどうにか・・・」

 

 そう答えるアインハルトだが、少し反応が暗かった。

 

「・・・アルサム様に言われたこと、気にしてるのかしら?」

 

 シルシはすぐにそれに思い当たる。

 

 覇王たらんとするアインハルトに、アルサムは徹底的な酷評をしていたのだ。

 

 他者の王道に振り回される形で王になったところで、そんなものは張子の虎にすぎん。

 

 バッサリとたたき切られたことで、アインハルトはそれにのまれる形で素直に彼に任せて撤退することになった。

 

 だが、それはしっかりと心にしこりを残していた。

 

「・・・私は、この地にも覇をもって和を成し遂げたい。自分の目でこの世界の惨状をみて、クラウス(わたし)は旧ベルカの悲劇の記憶を思い出しました」

 

 一見すれば、活気づいているこの街も、しかし確実に荒廃している。

 

 クラウスの記憶と慧眼がそれを理解させてしまい、アインハルトはどうにかしたいと本当に思っていた。

 

 そんな覇王としての決意を、アインハルトは真正面から否定されてしまったのだ。

 

 覇王の在り方をではない。覇王であろうとするアインハルト自身の今の在り方を、アルサムは真正面から否定したのだ。

 

覇王(わたし)は、いったいどうすればいいのでしょうか・・・?」

 

 そう不安げに告げるアインハルトに、その場の者たちは少しどうしたものかと無言になった。

 

 なにせ、過去の人物の記憶を自分のように持っているなど特殊すぎる。

 

 そして、誰が見ても分かることが一つだけある。

 

 アルサムの言っていることはまさに正論だ。今のアインハルトはクラウスの記憶に振り回されている。

 

「一度は覇王として拳を極めるため、強者に勝負を挑み続けたりもしましたが、それもしないように言われてしまって。競技選手として強さを確かめる方法もあると知ったのですが、そもそもそれ以前の問題だといわれてしまったような気がして」

 

 アインハルトは今、足元がぐらついている状態なのだろう。

 

 何かを言ってやらねばならないが、しかし何を言ってやるべきか。

 

 そんな風に迷った時だった。

 

「だったら、兵夜さんが起きたときに聞いてみるといいわ」

 

 そういうと、シルシはぽんと手を置いた。

 

「厳密にいえば違うけど、彼は似たようなケースの経験者だから、きっとためになるアドバイスをしてくれるわよ」

 

 シルシはそう告げる。

 

 ああ、彼なら絶対大丈夫だという絶対的な信頼が、そこにはあった。

 

「大丈夫、なんでしょうか?」

 

「ええ、彼なら必ずいいアドバイスをくれるはずだわ。常に寄り添ってぶつかっていったりはしてくれないけど、ヒントになる的確なアドバイスはちゃんとくれる。彼はそういう方向性だもの」

 

 シルシはそう告げると、眠る兵夜に視線を向ける。

 

 彼ならきっと、自分の時のようにアインハルトにも救いを与えてくれると確信していた。

 

 それは、能力や資質を見ない妄信などではかけらもない。

 

―似たような子なら、あなたにとっても楽に対処できる部類でしょう? 信じてるわよ、兵夜さん?

 

 彼がどういう悪魔かを知っているからこそ言える、絶対的な確信のそれだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ん~。記憶継承だったっけ?」

 

 朝起きて、兵夜は朝食の準備をしながらアインハルトの相談を聞いてみた。

 

「はい。兵夜さんも似たような性質だと伺ったのですが」

 

「まあ、似たようなものといえばかなり似てるわな」

 

 過去の人物の記憶を持ち、その人物の特性も受け継いでいる。

 

 そういう意味では確かに近しい。だが、記憶継承者と転生者との間には深い溝がある。

 

 なにせ転生者は間違いなく霊魂的に本人だ。だからこそ発生する歪みや悩みも大きく。言い方はあれだがまともなものは精神を病んでしまう。逆に狂人はそんなことはかけらもない。

 

 だが、記憶継承者は記憶を継承しただけだ。完膚なきまでに別人である。

 

 そのあたりの違いを考慮しながら相談しなければならないが、少なくともいえることはある。

 

「そうだなぁ、俺から言えることは一つあるな。似たような症例の人を探して話をすること。・・・あてはあるんじゃないか?」

 

「そうですね。時空管理局の方とは何人もお知り合いになりましたので、頼めば探してくれるかもしれませんが」

 

 だけどなんでそんなことを、と思っているだろうアインハルトに、兵夜は腰をかがめて視線を合わせる。

 

「簡単なことさ。こういう特殊な事例に関する悩みが大変なのは、対処法があまり知られてないからだ。同類とあって話をするだけで、見えてくるものは結構あるぞ?」

 

 実際、兵夜の場合はそれはだいぶ救われることだった。

 

 救われすぎて愛し合っているが、まあそれはそれとして、気分的には楽になるだろう。

 

 自分と同じものがほかにもいるというだけでだいぶ気分が変わってくるものだ。これは、どうしてもほかの人間ではできない類の救いである。

 

「それにハイディはハイディでクラウスはクラウスだ。まずはそこを割り切るところから始めた方がいい」

 

 あとはその辺だろう。

 

 どうにも、アインハルトは自分をクラウスと同一視しているところがある。

 

 だが、アインハルトとクラウスは別人だ。記憶を継承しているだけで、感じ方や思想なども異なるだろう。

 

 そんな状態で、クラウスの望みをかなえることだけを考慮していてもろくなことはない。それはクラウスもそこにいるならそう思うだろうし、そう思わないならもはや気にする価値はない。

 

「・・・月並みな言葉だが、ハイディはハイディだ。ただ人の記憶の映像を見ただけの君は、参考にすることはあってもそれそのものになることはない」

 

「よく、わかりません・・・」

 

 そうだろう、と、兵夜はわかっている。

 

 自分とクラウスを同一視している節のあるアインハルトは、クラウスとアインハルトを別々に分けているようで分けれていない。

 

 まずは、そこから始めるべきだろう。

 

 この非常時ではできることなどたかが知れているが、しかしこれ以上は自分よりイッセーの方が向いていることかもしれない。

 

 的確なアドバイスをするのは自分の方が向いている。だが、何かに真正面からぶつかっていくのは自分には向いていない。

 

 理屈でどうにかできることなら自分は向いている自信がある。だが、人間理屈だけでは納得できないことがいくつもあるものなのだ。

 

 こういう時、イッセーがいてくれればいいのになぁと切に思ってしまう。

 

 だけどまあ、それでもこれは言っておこう。

 

「・・・ハイディ。これだけは覚えておいた方がいい」

 

 両肩をつかみ、しっかりと目線を合わせる。

 

「は、はい」

 

 何やら顔を赤くさせているが、さすがにこれだけでフラグが立つとは思えない。いや、立つな。

 

 それはともかく。

 

「俺はハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルドの雇い主であって、クラウス・G・S・イングヴァルドの雇い主じゃない。・・・まず、そこから考えるといい」

 

 まずはアインハルト自身が、自分とクラウスとの同一視をやめなければ話にならない。

 

 自分と違って正真正銘の別人の記憶なのだから、先ずはそこから始めなければならない。

 

―いや、俺も人のことは言えないか。

 

 ふと、兵夜はそう自重する。

 

 自分も、いまはもう宮白兵夜なのだ。

 

 すでに終わった前世を、深く考えすぎてはいけないのかも知れない。

 

 そう思うと、自分もまだまだだと自虐の感情すら生まれてきた。

 




ちょっと今秋から更新が遅くなるかもです。


・・・アスタルテの口調、書くの苦手だ・・・


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たった一つのピースで物語は激変する

 

「・・・作戦を変更したいと思う」

 

 朝食を食べ終わってから、食後のお茶を出しつつ兵夜は作戦の変更を伝えた。

 

「作戦変更って? まさか、こっちから打って出るなんて言わないとは思うけれど」

 

 シルシはその辺りで苦い顔をした。

 

「戦術的な思考に慣れてるわけじゃないけれど、この乱戦状況下でいろいろ不利なんだから、相手が潰し合うのを待つのは作戦としては間違ってないんじゃないかしら? そもそもグランソードもそういったのでしょう?」

 

「ああ、それに関しては否定はしない。だが、そうもいかなくなった」

 

 そう告げながら視線を向けるのは、廃墟区画のある方向。

 

 戦闘の余波か、未だに煙が伸びるその姿は、激戦の後だということがよく分かった。

 

 撤退戦がきっかけとなって勃発した乱戦は、非常に広い範囲が戦場となった。

 

 要は、それだけ廃墟区画を根城にしている陣営が多かったということだ。

 

 そして、これだけの乱戦ともなれば脱落者も数多いだろう。

 

 つまり―

 

「数が減ったことでルール変更される可能性もある。そろそろ佳境に突入したと考えるべきだ」

 

「ってことはあれか? もうすぐ聖杯戦争が決着するかもしれないってことか?」

 

 どういうことかわかって、古城は表情が険しくなる。

 

 テロリストが願いの叶うアイテムなんて持ったら、ろくなことにならないのは間違いない。ましてやそのうち一人はオイスタッハと共闘しているのだ。

 

 もしかしたら、絃神島が崩壊するかもしれないと思えば冷静ではいられない。

 

「ああ、そしてそうなればもちろん俺達をハンティングする為に、奴らも更に本腰を入れかねない」

 

 兵夜の懸念はそこにある。

 

 なにせ、数が減るということは残存チームの聖杯獲得確率が上がるようなものなのだ。

 

 兵夜達の手に渡ったとしても、エイエヌは安全装置を仕込んでいるだろうが、しかしどこまで制御できるかはわからない。

 

 その辺りを警戒するだけの知能があるのなら、そろそろルールを変更してでも兵夜たちを潰そうと考える可能性がある。

 

「後、思った以上に状況が動き過ぎてて、残念だが俺達だけでは巻き込まれた民間人を探し出すのは無理そうだしな。・・・リスクが高かったので使わなかった手を取ろうと思う」

 

 その辺りも重要だ。

 

 正直な話、このままだと見つける前にのたれ死んでいる可能性が大きい。今のままではどうしようもない。

 

「この人、本気で他の人助ける為に動く気だったんだ。ごめん、てっきり協力する為の口から出まかせかと疑ってたわ」

 

「あらあら。兵夜さんは性格は悪いけど人はいいのよ?」

 

 浅葱に対して苦笑しながらシルシが訂正を求める中、須澄はホテルの窓から外を見下ろす。

 

「そっちは心配しなくてもいいと思うけどね? 下を、下を見てごらん?」

 

 といいながら指し示す先には、トラックから袋に包まれたものを人に手渡している者達がいた。

 

「あれ、なんですか?」

 

「エイエヌの政策だよ。この都市は、定期的に食べ物の配給とかも行われてるんだよ」

 

 首をかしげるヴィヴィオに、須澄はそう告げる。

 

「戦争を、聖杯戦争を盛り上げる為に人が欲しかったんだろうね。稼ぎ口があって食うものに困らなければ否でも人は集まるでしょ? 不安だから食べたことないけど、一人一戸だけと一日一回は食べれるから、すぐに餓死したりはしないと思うけど? いや、まずいけど」

 

「うんうん。あまりおいしくないけど、食べるとなんかぽわーってするんだよね」

 

 うんうんと頷き合う二人だが、その後ろに兵夜が回り込んだ。

 

「うん、それ間違いなく変な薬が入ってるからな? 分かってるから森に籠ったんだろ?」

 

「いや、いや確かにそうだけど、死なないかどうかっていえばそこまで心配することないんじゃない?」

 

「大ありだ馬鹿野郎。麻薬みたいに依存症起こしたらどうするんだ。こりゃ急がないとな」

 

 状況は別の意味で悪かったことに頭を抱えながら、兵夜は即座に行動を開始する。

 

「さて、それではちょっと協力して欲しい奴がいる」

 

 そう。この作戦には協力者が必要不可欠だ。

 

 リスクを最小限にするには兵夜の力では無理である。だからこそ協力を求めることは厭わない。

 

「まずヴィヴィ。ハイディでもいいが、時空管理局の資格もちの君の方が適任だ」

 

「はい! ・・・え? 時空管理局?」

 

 頷いてから、しかしすぐにヴィヴィオは疑問に思う。

 

 いくら時空管理局でも、事実上の敵対組織の内部で接触するのは困難ではないだろうか?

 

「・・・時空管理局って、すごい組織よね。なんかいくつも異世界束ねてるんだって?」

 

「俺らの世界でいう国連とかが近いんじゃないか? よくわからんが」

 

「いえ、権限などはむしろもっと大きいかと。どちらかというと合衆国政府のような意味合いでとるべきではないでしょうか?」

 

 と、古城達は本筋から離れていることを察して話し合う。

 

 なにせ、自分達の世界は時空管理局にすら察知されてない世界だ。時空管理局と関係する今の状況では役に立たないだろう。

 

「っていうかあたし達は今回役に立ちそうにないわね。特にあたしはただの一般人だし」

 

「ああ、確かに」

 

 と、浅葱と古城は笑い合うが、その肩に手が置かれた。

 

「そしてメインキーパーソンはアンタだ、藍羽浅葱」

 

「・・・え? あの、私只の女子高生なんだけど?」

 

 思わぬ指名に浅葱は唖然とするが、その顔を見て兵夜は鼻で笑った。

 

「黙れ逸般人。お前みたいな只の女子高生は存在しない」

 

 やれやれといわんばかりに肩を竦めると、兵夜は即座に電卓に数字を打ち込み始める。

 

「アンタレベルのハッカーを本気で雇うとするならば、俺はこれぐらい出すな」

 

 そういって突き出した電卓の数字をみて、全員目が点になった。

 

 まともな国家の通貨なら、どんな類であっても目が飛び出るほどの数字が出てきている。

 

「ちょ、ちょっと!? 確かにあたしは公社でプログラミングとかしてるけど、普通にアルバイトで」

 

「買いたたかれてるぞ、馬鹿! 先進国の電脳対策室のトップエース狙えるわ! いや、今からでも俺に雇われない? 本当に年俸これぐらい出すけど」

 

 と、地味にスカウトしながら、兵夜は左腕をふるって箱形の物体を転送する。

 

 いくつも出されたそれは、会社などで使用される大型のコンピュータ。

 

「さて、ここに学園都市技術を流用したスーパーコンピュータがある。そして、俺達の目の前にいるのはスポーツで例えるなら世界大会でメダル確実級のスーパープログラマー。さて、これだけあれば軍事施設のハッキングすら容易に行えるだろう」

 

 と、ほぼ確信に近いことを断言する兵夜。

 

「後、サブシステム用にこの辺りのコンピュータにウイスルを流し込んだ。これでいざというときは並列処理で演算装置として運用できる」

 

「それは犯罪よ」

 

 追加説明でシルシからツッコミが飛ぶが、しかし兵夜は気にしない。

 

 なにせ、これから行うことは当たればでかいが失敗するとかなり危険だ。

 

 気づかれただけで警戒度が跳ね上がり、これまで以上の破格の条件でのハンティングはおろか、聖杯戦争を一時停止してすら集中砲火を喰らいかねない。最悪の場合は位置を知られていないというアドバンテージすら失うことになる。

 

 だが、成功すれば状況をひっくり返すこともできる奥の手だった。

 

「・・・で、何をするんだ?」

 

 何か大ごとをすることだけはわかって、古城は確認する。

 

 これは、間違いなくすごいことをする。

 

「ニュークレオンの通信施設にハッキングを行い、時空管理局と接触する」

 

 兵夜はさらりと爆弾を投下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回の事態において、一番の問題点は敵の規模である。

 

 こちらはわずか数人で動かなければならないのに、乱戦であるとはいえ敵の数は多すぎる。

 

 ましてや黒幕であるエイエヌはフォード連盟の事実上の長。彼と敵対することは、フォード連盟を敵に回すことである。本腰を入れられた時点で詰むといっても過言ではない。

 

 例えD×Dに増援を求めることが出来ても、数の差が圧倒的であるという事実は変わらない。ましてや移動力の問題もあり、おそらくそれだけでは間に合わないだろう。

 

 だが、時空管理局を味方につけることができれば話は変わる。

 

 なにせ、先に手を出してきたのはフォード連盟だ。時空管理局にそれが知られた時点で戦争が勃発しても不思議ではない。

 

 更に時空管理局の方針上、次元世界の他の次元世界への侵略まで見過ごすことはできないだろう。コカビエルの発言が正しければ更に力となってくれる。

 

 どちらにしても今の段階では頭数が全く足りない。協力者は絶対に必要だった。

 

「・・・とりあえず潜入はできたわよ。なかなかできるわねコレ」

 

「まあ、オーバーテクノロジー一歩手前の最新型だからな。それにしても早すぎだとは思うが」

 

 あまりの速度に兵夜は軽く引いている。

 

 丸一日がかりでする仕事だとばかり思っていたが、まさか数時間でここまで進むとは思っていなかった。

 

 正直、これはいくらなんでも強力すぎるだろうとすら思っている。

 

「じゃあヴィヴィ、そろそろ準備を頼む」

 

「はい! でも、大丈夫なんでしょうか?」

 

 ヴィヴィオは少し心配になる。

 

 次元世界の連盟ともなれば、ハッキング対策も相応のはずだ。少なくとも時空管理局の本局でもハッキングは困難なレベルのはずだ。

 

 それをかいくぐって時空管理局の監視艦隊と接触なんて、難易度が高いのだけはよくわかる。

 

 そんなヴィヴィオを安心させるように兵夜は頭に手を置いた。

 

「リスクは高いが行けるはずだ。藍羽のスペックはかなり高い。ましてや学園都市技術製(こいつ)のスペックなら―」

 

「繋がったわよ!」

 

 兵夜が続けるより先に浅葱が成果を上げて見せた。

 

「っしゃ! あと何分いける?」

 

「向こうも勘付きかねないし、5分が限界! 物量が違いすぎるわ!」

 

「十分! 圧縮ファイルを転送してくれ!」

 

 それだけあれば余裕といわんばかりに、兵夜は拳を握り締める。

 

『は、ハッキングだと!? いったいどこから!?』

 

『ニュークレオンのピント地方からです! それにこれ、時空管理局のコードですよ!』

 

「そ、そうです! 時空管理局無限書庫司書資格もちの、高町ヴィヴィオです!」

 

 本当に通信が繋がった事に喚起して、ヴィヴィオは上ずった声を出す。

 

 その言葉に、通信越しからどよめきが上がった。

 

『高町って・・・高町一等空尉の娘さん!?』

 

『おれ、教導受けたことあるぞ!』

 

『っていうか確か二日前に行方不明になったはずじゃないか!? なんでそんなところに!?』

 

 想定外の事態だったのか混乱状態になるが、しかし流石は敵対勢力一歩手前の地帯にいる部隊だった。

 

 数秒もすれば、こちらの言葉を聞くべくすぐに静かになる。

 

『・・・高町ヴィヴィオくん。フォード連盟に傍受される可能性がある、連絡事項は早めにお願いしたい』

 

「あ、はい。じゃあちょっと変わります」

 

 すぐにヴィヴィオは兵夜に場を譲る。

 

 この場において、一番会話をするべきなのが彼なのぐらいはわかるからだ。

 

「・・・交代失礼する。俺は、そちらの世界でいう第97管理外世界「地球」出身の、宮白兵夜というものだ。第三次世界大戦の関係者といえばわかるか?」

 

『聞きたいことはあるが後にしよう。今回の事態はどれぐらい把握している?』

 

 驚愕はしているようだが、しかし艦長らしき人物はすぐに本題に入る。

 

『地球ってあれだよな? 一年ぐらい前に突然技術が急激に上がって、時空渡航技術寸前まで言ってるとかいう?』

 

『ええ、高町一等空尉とか、出身の人は技術漏洩疑われたけど、技術系が管理局とは違うからすぐに誤解は解けたっていう』

 

『未発見の次元世界からの介入を受けたってもっぱらの噂の?』

 

 いい線行ってる。と、兵夜は思った。

 

 が、それについて答えている暇はない。

 

「必要なことは添付ファイルに送っているので最低限のことだけ。・・・そちらの言葉でいうロストロギア級の非常事態だ。下手をすれば時空管理局の上が機能停止しかねない」

 

『・・・それほどのことが起きていると?』

 

「さっきも言ったが、こちらもフォード連盟の軍事施設をハッキングをしている為時間がない。とにかく添付ファイルに乗っている通信コードに連絡してくれ。・・・先に断っておくが心の準備はしておくように」

 

 ある意味、心臓が止まりそうな驚愕の事実が隠されているのだ。少し同情する。

 

 そして、兵夜は伝えておくべき必要最低限のことだけは伝えておく。

 

「それと、ミッドチルダで起きた行方不明事件の下手人はフォード連盟だ。奴はそれを何度もできる・・・といえば緊急度は上がるか?」

 

『了解した。すぐに本部に伝えておこう。・・・それとヴィヴィオくん』

 

 その司令官は、最後に一言聞いてきた。

 

『お母さんに、伝えておくことはあるかね?』

 

 なるほど、非常にいい人らしい。

 

「わ、私は大丈夫! いい人に拾ってもらったからって伝えてください!」

 

「・・・あんた、信頼されてるのね」

 

「ちょっと恥ずかしい」

 

 自分があくどい事は自覚しているので、気恥ずかしさで顔が赤くなる。

 

『了解した。こちらもできるだけ早く救援部隊を送る。それまで何とか耐えてくれ』

 

 なかなかいい男だと感心しながら、兵夜は軍隊式の敬礼を返す。

 

「できれば生きてまた会おう。・・・今度は生身で会えることを願っている」

 

「あ、そろそろまずい! 切るわよ!!」

 

 そして、通信は切断される。

 

「・・・藍羽。どれぐらい勘付かれたかわかるか?」

 

「位置までは気づかれてないわね。ただ、通信設備をハッキングされたところまでは勘付かれてると思う」

 

「OK。撤収するぞ! 先に降りてる須澄君達と合流する」

 

 素早くパソコンを回収しながら、兵夜達はすぐにホテルを出ると階段を下りていく。

 

 チェックアウトをしている暇はない。サービスにいろいろとお金を置いておいたのでそれで我慢してもらうことにしよう。

 




一人チートがいるだけで、出せる手札は大きく変わるものである。


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宮白兵夜は策士である

 

「・・・ああ、そういえば藍羽」

 

「なによ?」

 

 階段を下りながら、兵夜はなんとなく鎌をかけた。

 

「暁みたいなタイプは、変化球は気づかずにスルーするから惚れているなら真正面から特攻しろ。それでようやくスタートラインだ」

 

「・・・マジ? うわぁ、あのバカ人が一生懸命やってんのに何も気づいてないの・・・はっ!?」

 

 浅葱は固まり、そしてゆっくりと振り返る。

 

 ヴィヴィオが、顔を少し赤くしてまじまじと見つめていた。

 

「そ、そうだったんですか!」

 

「真っ先にあの状況下で暁を探した時点で、好感度が高いのはわかってたからな。・・・鈍感のひどさはよく見てきたからよくわかる」

 

「あ、頭痛い・・・」

 

 とりあえずは親切心でもある。

 

 なんというか、古城を見ていると兵夜はイッセーを思い出してしまう。

 

 スケベ根性はそんななさそうだが、しかしなぜか思い起こす。これはまあ、それ以外が似てるということだろう。

 

 だから心配になって警告とかをしているのだが、しかしそれとは別の意味で恋愛方面も心配だ。

 

 イッセーと付き合いが長いがゆえに、直感的に察した。

 

 あいつは鈍感だ。それも、或る意味イッセーよりはるかにひどいレベルで鈍感だ。過去のトラウマ抜きで好意を勘付けれない。

 

 開き直ってハーレムを作るか、それとも意を決して一人に決めるかはわからない。わからないが、無自覚に相手を惚れさせ続けてそれに気づかないとかは、さすがに相手に対して礼儀知らずだ。

 

 適時指摘とツッコミを入れておかなければならないだろう。まあ、それでも答えを伸ばすのはそれはそれで問題だが、あいつならさされたぐらいなら死なないのでそこは控えめに接するべきか。

 

「まあ、こちらとしては全員生存を考慮して動いているわけだが、敵がチートすぎる以上お前や暁が死ぬ可能性は残るから、その変動するかは考えたほうがいい。・・・生存重視でいったとしても、敵にチートが多すぎる」

 

 冷酷なことを言うようだが、それを覚悟しないわけにはいかない状況だった。

 

 暁古城の攻撃力は、間違いなく今確認されている聖杯戦争参加者の中でもトップを狙えるだろう。

 

 それはすなわち、ほかの勢力が古城を難敵と認めてしまうことになる。下手をすれば、恨みを買われている兵夜以上に狙われることとなる。

 

 だから、万が一は十分にあり得るのだ。

 

「・・・俺がこういうことを言うのは問題あるんだろうが、鈍感相手に変な駆け引きは考えるな。当たって砕ける精神ぐらいで行かないと、何も起こらない可能性があるぞ」

 

「か、考えとくわ・・・」

 

 さて、これで最低限の気遣いはできただろう。

 

 なにせ、余計なことを言ったせいで古城は雪菜に意識が向いているはずなのだ。

 

 そこを考えればこれぐらいのサポートはしても罰は当たるまい。

 

「よし、そろそろ外に出るぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あ、来た!」

 

 裏口から外に出てきた兵夜たちを発見して、須澄は振り向いた。

 

「そろそろ、そろそろ出るよ準備して!」

 

 脱出の際にゴタゴタしないように前もって半分以上が下に降りていたが、しかしまあ何の問題もなく降りることができた。

 

「浅葱! それでどうなった!?」

 

「成功よ! わかってる情報は全部送ったわ!」

 

 古城の問いかけに浅葱は顔を赤くさせながら答える。

 

「・・・あ、これやっぱりっ?」

 

「そのようです。・・・先輩はやっぱりいやらしい」

 

 何かに気づいてにぱっとするトマリに堪えながら、雪菜は不機嫌そうにそっぽを向いた。

 

 が、その先にはニヤニヤしているシルシの姿があり完全に悪手だった。

 

「これは大変よ雪菜ちゃん。年季の差がプラスに働くかマイナスに働くかわからないわね」

 

「いえ、そういうんじゃありませんから!」

 

「なに、なにやってんの?」

 

「はいはい車だすからつかまってろよ」

 

 と、あきれ顔の須澄としたり顔の兵夜をきっかけに、車が発進する。

 

 さすがに詳細な位置まで掴まれたとは思えないが、今のうちに念のため距離をとっておきたかった。

 

 とはいえ、大組織と連絡を取ることができたというのは非常に大きい。

 

 彼らの介入を受けることとなればフォード連盟といえどただでは済まないだろうし、そうなればこちらも動くことが容易になるというものだ。

 

「マジで助かったぜ藍羽。考えてはいたんだが俺のスペックじゃあ勘付かれるのが間違いないんでできなかったんだ」

 

「いいけど、それでこれからどうするのさ」

 

 と、浅葱はパソコンを開きながら今後について聞いてくる。

 

「・・・通信設備のハッキングついでにデータの吸出しもやっておいたけど、聖杯戦争、もう終盤に突入してるわよ」

 

「え、そんなことまでやってたんですか!?」

 

 あのギリギリの状況下でさらに一手打っていたことに、ヴィヴィオたちは目が点になる。

 

「そこのうさぎさんが手伝ってくれたからね。準備できる前にオートで調べるプログラムを組んどいたのよ」

 

 クリスをなでながら浅葱はさらりと言うが、兵夜はそれに本気で頭を抱え始めた。

 

「・・・なあ、ホントに俺に雇われない? 出すぞ、あの金額」

 

「そんなに驚かなくてもいいじゃない」

 

「驚くよ? 血で血を洗う争奪戦しそうなレベルのプログラム作ってるんだよ? 自覚持てよ?」

 

 世界が混乱に満ちる前になんとしてもこの女に自覚をさせねばならない。兵夜は一流のハッカーを集め上げ、当て馬にすることを決意した。

 

 そして、それはそれとしてこれからの状況をちゃんと考えなければならない。

 

「それで? そのデータで判明したことはどれぐらいだ?」

 

「向こうも特にプロテクトかけてたけど、残りのチームは十組切ってるわね。最初の頃が42組だったことを考えると、もう終盤じゃないかしら?」

 

 見れば確かに、残りのカウントはそれだけのものになっていた。

 

 サーヴァントの再現率を考慮すれば、それをもってしても本来の冬木の聖杯には一歩届かないだろう。

 

 だが、それでも高性能の願望機だ。勝者が手にして願えば、莫大な力が手に入るといっても過言ではない。

 

「・・・となるとそろそろ俺たちに対する攻撃も苛烈になるだろうな。その前に一つ終わらせておきたいことがある」

 

「なんだよ?」

 

 古城に聞かれて、兵夜は一言あっさりと即答した。

 

「今回における俺たちが唯一情報を把握できている要救助者、アスタルテの保護・・・あるいは捕獲だよ」

 

「・・・いいんですか? ヴィヴィオさんたちの要救助者の方を優先しなくて」

 

「だよな。普通に考えたらそっちの方が重要そうな気がするが・・・」

 

 雪菜と古城は躊躇するが、兵夜は静かに首を振った。

 

「こういうのはできることからやっていかないと詰むもんだ。言ってはなんだが居場所がわからんから手さぐりになるし、先ずは堅実にいくしかない」

 

 実際問題、シルシの目を頼りにするにも限度がある。

 

 まったくもって場所の見当もつかないのでは捜索のしようがない。そして手当たり次第に探すにしても、敵の集中砲火を受けるかもしれない状況下では逆に倒れかねないという難点もある。

 

「悪いなヴィヴィ、ハイディ。まずは居場所がわかってるやつから確実に確保したい」

 

「え、あ、大丈夫です! リオもコロナも強いですから!」

 

「はい。それに事情を知っていたら黙っているわけにもいきません」

 

「・・・いい子すぎて涙出てきそう」

 

 目頭を押さえたくなるのを必死に我慢する(理由・運転中)兵夜をみて、須澄はふと気になったことを言った。

 

「あれ、あれ? なんで居場所がわかるの?」

 

「ああ、戦闘中に発信機しかけといた」

 

 と、さらりとすごいことを言ってのけた。

 

「ぬ、抜け目ないんだねっ!?」

 

「あの戦闘中にそんなことまでしていたんですか!?」

 

 トマリと雪菜の驚愕の視線を受けながら、兵夜は即座に水晶玉を取り出して展開する。

 

「あからさまにつけた魔法系統型発信装置はすぐにかんづかれ、そのうえで仕掛けておいた機械型ビーコンも勘付かれたがそこまでは囮だ。最後に数段上の魔法系統型ビーコンまでは気が回らなかったようだな。・・・ここまでで何かうっかりはあるか?」

 

 もちろん人に穴が無いか聞くことも忘れない。

 

 なにせこの聖杯戦争。数においてはこちらが圧倒的に不利である。隙を突かれて強襲されたら押し切られる可能性もある。

 

「逆に利用されて待ち伏せされてるってオチは?」

 

「大丈夫でしょう。それなら最初に見つけた段階で使用してるわ。逆に最後の一個になるまでつぶしてから見つけても、それならそれで普通はつぶしているでしょうし」

 

 浅葱を安心させるようにシルシは告げる。

 

「まあ、距離がわかってればシルシの目で確認できるからな。この手の戦法なら待ち伏せされるまえに対応可能だ。・・・くっくっく。我ながら素晴らしくサポートタイプの眷属だ。礼を言うぜ我が眷属」

 

「お礼に娶ってくれるとうれしいわね、我が主様?」

 

 にやりと笑いながら、兵夜とシルシは視線をずらす。

 

 ちょうどその方向が、発信機の反応箇所であった。

 

「勘付かれる可能性を考慮して、早めに強襲戦闘で一気に叩き込む。・・・気合入れろよ暁に姫柊。お前らにとっては特に重要な一戦だぜ?」

 

「わかってる。もともと俺の戦争(ケンカ)だからな」

 

「オイスタッハ神父の行動は見過ごせません。決着はつけます」

 

 その言葉に満足げにうなづいて、兵夜は車を止めた。

 

「さて、作戦会議だ」

 




事前の戦闘で次のための布石をきちんと打っておいた兵夜。

できないならできないでできる範囲で相手の希望には答える。割り切った冷徹思考はありますが、しかしそれでも人はいいのです。


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深夜の襲撃、始まります!

 

 逢魔が時、という言葉がある。

 

 簡単に割り切れば深夜だが、実際この時間は注意が必要だ。

 

 単純に暗いだけでなく、人間ならば普通は眠る時間であるがゆえにどうしても隙が生まれやすくなる。

 

 かつてはそれをついての夜襲が相応に戦果を挙げることとなり、現在に人間の戦争でも充分な効果を上げることができる。

 

 そして、悪魔祓いは基本的にほとんどすべてが人間といっていい。

 

 その時間帯に強襲が行われるのは当然だった。

 

 悪魔払い陣営が潜伏している廃ビルの扉を、兵夜は躊躇なく蹴り破り、即座にスタングレネードを叩き込む。

 

「あーそびーましょー!」

 

 スタングレネードでひるんだ相手を躊躇なく殴り倒しながら、兵夜はそのまま突撃する。

 

神喰の神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)だと!?」

 

「単独で襲撃とは舐めてくれる!」

 

 すぐに上で待機していた悪魔祓いたちは迅速に戦闘を開始する。

 

 だが、それにつられないものもいた。

 

「待て、おそらくこれは陽動作戦だ。周囲を警戒しろ!」

 

「あの男だと、半死半生は覚悟してもろとも俺たちごと始末させかねないぞ!」

 

 なまじ戦績が有名だということは、その情報が知れ渡っているということ。それはすなわち状況の予測をたやすくさせるということである。

 

 兵夜は自己の倫理観に対して緩いところがあるのは、そもそも異名の原因であるハーデス戦で証明されている。なにせ、彼自身の手で全世界生中継されたのだ。隠す気がないとしか言いようがない。

 

 だから、彼は死ななければ安いを地で行ける精神性であることは周知の事実だ。

 

 魔王クラスの火力を持つ暁古城の眷獣。その火力をもってすれば、場所がわかっている自分たちを殲滅することは不可能ではない。

 

 むろんそんな火力をいきなり展開しようとすればすぐに気づかれるが、そこに陽動を仕掛ければ気を引ける。

 

 宝石魔術師である兵夜は、瞬間的にかなりの出力を出すことは理論上可能。それで死なない程度に耐える可能性は十分にあった。

 

「・・・いたぞ、南西の方向に第四真祖と剣巫だ!」

 

「まとめて殲滅しろ!」

 

 すぐに発見した悪魔祓いたちが、殲滅のために戦力を差し向ける。

 

「・・・よし、かかったな」

 

 それこそが、本命の罠であることも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「古典的な策にやられるほど、悪魔祓いは伊達じゃないわよ!」

 

 グレイスはすぐに古城を発見して攻撃を仕掛けた。

 

 前回の戦いで、戦闘技術においては古城は圧倒的に格下だ。

 

 何かしらのスポーツの経験を戦闘に生かすあたり機転も効くしセンスもある。だがそれだけだ。

 

 こういう戦いは経験を積んでこそ真価を発揮する。それがないから根本的にはスペックに頼ることしかできない。

 

 いうなれば根本的に怪物のそれだ。それは自分たちが屠る対象である。

 

 そして、今の自分たちはそんな化け物たちを屠ってきた英雄の力を宿している。

 

 ならば、ここで負けることなど許されない。

 

「焼き尽くせ、吠え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)!」

 

「吹き飛ばせ、獅子の黄金(レグルス・アウルム)!」

 

 炎と雷撃がぶつかり合い、壮絶な破壊を巻き起こす。

 

 その破壊を目くらましに、グレイスたちは一気に接近した。

 

「さて、小手調べはあれで終了よ!」

 

 そのまま焔をまき散らしながら、グレイスは連続で攻撃を叩き込む。

 

 それを前衛として前に出た雪菜が雪霞狼で相殺するが、それにも限度があった。

 

 理由は単純、今の彼女の身体能力が大幅に上昇しているという単純な事実だ。

 

 戦闘技術でも性能でも上回れている状況下で、一瞬先を読める程度で防ぎきるのは困難だった。

 

「姫柊・・・っ!」

 

「そうはいきませんよ第四真祖。貴方は危険すぎる」

 

 割って入ろうとする古城に対し、オイスタッハが妨害する。

 

「胴体を粉砕されても復活する再生能力は驚異的です。全身を砕いたうえで別々の場所に保管しておかなければ殺せそうにありませんね」

 

「アンタも容赦ないな、本当に!」

 

 連続で攻撃を放ってくるオイスタッハに吠えながら、古城は何とか反撃の機会を探し出す。

 

 とはいえ、自分たちの役目は攻撃ではない。

 

 自分たちは―

 

「アクセルスマッシュ!」

 

 あくまで囮だ。

 

「伏兵ですか! ですが存在を知っている伏兵など想定の範囲内」

 

「これでもベテランなのよねぇ。この程度で倒されると思ってるのかしら?」

 

 オイスタッハもグレイスも平然とかわす。

 

 だが、その隙を突いて三人は一斉に駆け出した。

 

「逃げるつもり? 甘いわね!」

 

「貴方方は脅威です。そろそろ聖杯戦争も終局ですし、逃がしはしませんよ!」

 

 そういいながら二人は追撃を開始する。

 

 だが、ここで彼らは言ってミスを犯した。

 

 この戦闘において、彼らはほかの敵を探すために分散して活動を行っている。

 

 ・・・そう、宮白兵夜の得意戦術である、ゲリラ戦に見事にはまっているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・須澄くん、五秒後に右の壁の向こう側に出るから壁ごと吹き飛ばして」

 

『OK、OKわかった!』

 

「浅葱ちゃん、3Bコーナーに五人走ってくるから三秒後に呪術拘束装置起動」

 

「あ、これね。・・・2Cにも三人ほど来てるけど?」

 

「それは全周警戒されてるから爆弾じゃあ無力化できないわね。トマリさんに任せましょう」

 

『OKっ!』

 

 戦場から少し離れた場所で、シルシたちは作戦の肝を担っていた。

 

 今回の作戦はこうだ。

 

 まず、倫理観がぶっ飛んでいるから兵夜をあえて単騎突入させることで陽動と誤解させる。

 

 そしてもろとも撃破することができる古城に向かって、トマリの眷獣による攻撃を警戒させて少数精鋭で敵主力を差し向ける。その後、ヴィヴィオと雪菜に護衛させながら古城は二人の陽動。

 

 そしてほかの敵を探すために分散した悪魔祓いたちを、大量に用意した遠隔起動型のトラップ及び須澄とトマリで戦闘不能にすることだ。

 

 千里眼を使うことによって敵に気づかれずに様子を見ることができるシルシと、優れた情報処理能力でリアルタイムで大量のトラップをコントロールできる浅葱。

 

 今回のトラップは呪いの類を中心としている。これならばダメージによるものではないため、グレイスの禁手でも回復されないだろうと踏んでの作戦だった。

 

「・・・私は、行かなくてもよろしいのでしょうか?」

 

「アインハルトちゃんは、私と浅葱ちゃんの護衛。万が一襲われたら私達じゃ大変だもの。頼りにしてるわよ?」

 

 シルシはアインハルトをなだめるが、しかしそれ以上に状況を警戒している。

 

 なにせ兵夜はうっかりだ。何か抜けていることがありそうで怖くてたまらない。

 

 そして、何より重要なことを自分が託されていることもあると心が高ぶってしまうものだ。

 

 それでミスをしたらどうしようもない。だからしっかりと警戒しないといけない。

 

 それに、アインハルトは本調子ではない。

 

 アルサムに言われたことがいまだに尾を引いている。その状況下であのレベルの敵手を相手にすれば、何らかのミスをしかねなかった。

 

「・・・兵夜さんは、私の雇い主であってクラウスの雇い主ではないといいました」

 

 戸惑った表情を浮かべながら、アインハルトはそう漏らす。

 

「・・・私は、覇王(わたし)です。彼の無念を払拭するのは、私の望みです」

 

 そう告げるアインハルトだが、しかしそれは自分自身に言い聞かせてるような印象があった。

 

「守りたいものを守れなかった、止めることすらできなかった。それが、クラウス(わたし)の無念です」

 

 アインハルトは涙すら浮かべる。

 

 それほどまで、受け継いだ記憶は鮮烈なものだったのだろう。

 

「だから、私は今度こそ強さがほしい。守りたいものを守りきる、そんな強さがほしいんです」

 

 それが、クラウスの無念。

 

「どれだけ全力を出しても、クラウス(わたし)はオリヴィエを止められなかった。むざむざゆりかごの生贄にしてしまった。・・・戦乱を止める力があれば、オリヴィエを止めることができれば、そんなことにはならなかったのに・・・っ」

 

 涙を攻めてこぼすまいと抑え込みながら、アインハルトは拳を握り締める。

 

「それをかなえるために邁進して・・・でもそれがそもそもの間違いだと否定されて・・・っ」

 

 それでも抑えきれずに一筋涙がこぼれて―

 

『馬鹿。そこからがまず間違いだ』

 

 兵夜が、通信に割り込んだ。

 

「・・・え?」

 

 戦闘中にそんなことをしている余裕がないのにもかかわらず、兵夜はそれでも声をかける。

 

『極めて単純かつ簡単なことを教えてやろう。・・・個人でできることなどたかが知れている。ましてや国規模ともなれば、運営のためには何人もの補佐官が必要不可欠だ。王というものは統率者であり、配下をうまく運用してこそだ』

 

 兵夜は戦闘を行いながら、しかしあえてそう説明する。

 

『あのフィフス・エリクシルですら様々な根回しを行うことでようやく世界を混沌に落とすことができた。古来より数は力だぞ、ハイディ』

 

「ですが、それでは多くの人々を苦難に巻き込むことになるのではないですか?」

 

 それは確かに数で挑むことの負の側面の一つだろう。

 

 多くの数で挑むことは、リスクを多くの人々に与えるということだ。それは多くの人々を危険に巻き込むことでもある。

 

 だが、兵夜はそれを苦笑で返す。

 

『それが不思議なことに、リスクを分け合ってくれないと不満に感じるような人種がこの世には存在するんだよ。ハイディの近くにも一人いるんじゃないか?』

 

 その言葉に、アインハルトは脳裏にヴィヴィオたちの顔を浮かべてしまう。

 

 ああ、それは罪深いことのように思えるのに。

 

 彼女たちを守りきる強さこそがほしいのに・・・。

 

『これは俺の経験論だが、ただ守るだけの関係より、守り守られる関係の方がより遠くまで行ける。俺の場合はそうなんだよ』

 

 どこか、胸が熱くなった。

 

『まあ、そういうわけでみんなが頑張ってくれている以上、俺も頑張らせてもらうとするか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、宮白兵夜は動き出す。

 

 これまでは、補給の当てがないことからあえて消耗の大きい兵器を使うことは避けてきた。

 

 だが、聖杯戦争も佳境に入り、時空管理局と合流できたのなら遠慮はしない。

 

 ましてや、アスタルテの相手ができるのは自分しかいないだろう。

 

 魔力を持たなければ倒せないのに、その魔力を無効化する。

 

 その反則じみた化け物を真正面から対処できる手段など、兵夜は一つしか知らない。

 

 そしてそれをこの場で行使する手段も一つしかない。

 

「さて、ではそろそろ起動するか」

 

 そういって取り出したのは青い籠手だった。

 

 それは、敬愛すら持っている親友の籠手と酷似した籠手。

 

 そしてそれは当然だった。あえてそういう風にデザインしているのだから。

 

「さて、それではそろそろ狂信者にはご退場願おう。俺は正当な怨恨には寛容だが、部外者を積極的に巻き込む手合いには容赦はしないんだ」

 

 そして、そこに暴威が君臨する。

 

「―代行の赤龍帝(イミテーション・ブーステッド)、起動」

 




地味に千里眼はチート。

直接戦闘能力というよりかは、遠隔地を自由に見ることができるその観測能力が脅威です。こういうトラップの遠隔駆動や戦闘支援においてはシャレにならないほど効果的。









そしてまあ、つまりまあ。









兵夜は本当にイッセーが大好きなんだなぁ・・・と、生暖かい瞳で見守ってください(汗


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偽りの赤龍帝、降臨

やってみたかったことの一つ。









・・・ラブレター詠唱のリベンジです。


 

「赤く輝く恒星よ、帝王の威光で民を照らさん」

 

 それは憧憬。自分ではどうしても到達できない種類の輝きに対する、心からの親愛の情。

 

「ああ、暗闇を行く我が心は見る影もなくすり減った。闇が染みる。闇が満ちる。暗き影こそ我が本性。その身を化生に落とそうか」

 

 それは、彼と出会わなければなっていたであろう事実。

 

 宮白兵夜は根本が悪性だ。

 

 ましてや地獄の暗闇に歪まぬほど、宮白兵夜は頑強な性根をしていない。

 

「されど、天より光は降り注ぐ」

 

 だが、そこに救いの光はあった。確かにあった。

 

「その輝きが道を照らす。我が身に邪道に落とそうと、正道からは離れるなと」

 

 彼がいたから、自分は道を踏み外すことがなかった。彼がいたからこそ光が照らす正道そのものは歩むことがなくとも、そこに寄り添うことができた。

 

「これこそが我が救い」

 

 それが、それだけが彼を人足らしめた楔。

 

「これこそ我が信仰」

 

 どれだけ対等であろうとしても、本能からくる神格化をかき消すことなどできはしない。

 

「これこそが我が心からの敬愛にして真なる友情」

 

 しかしだからこそ、兵藤一誠は宮白兵夜の親友なのだ。

 

「さあ赤き龍の帝王よ」

 

 そんな彼の力を借りたいと思うことは、当然の帰結。

 

 そして、その模造品のデータはすでに手に入った。

 

「我らが心を照らしたまえ」

 

 今ここに、宮白兵夜は兵藤一誠(太陽)の輝きを浴びて月となる。

 

「―紅の天道を見せてくれ!」

 

 宮白兵夜は赤龍帝へと変質する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・この反応!? あいつ、いったい何を!?」

 

 グレイスはあり得ない反応を確認して、狼狽した。

 

「これは! 真祖の眷獣にも匹敵する魔力ですよ!?」

 

 オイスタッハもそれに気づき、警戒心を強める。

 

 あり得ない。

 

 宮白兵夜は大きく弱体化している。

 

 宮白兵夜は神格を制御しきれない。

 

 宮白兵夜は偽聖剣を失っている。

 

 それなのに、宮白兵夜は圧倒的な力を具現化させていた。

 

「何を驚く? 俺は兵藤一誠が大好きだ、ファンだ、親衛隊だ、信者ともいえる。そして赤龍帝のデッドコピーは禍の団がすでに開発に成功している」

 

 ところどころが青くなっている赤龍帝の鎧を身に纏い、宮白兵夜は其の場に舞い降りた。

 

「なら、俺が赤龍帝の力を使えるようにするのは当然のことだろう。ヒーローへの同一化願望は男のロマンだ」

 

 そして、一瞬で周囲にいた悪魔祓いを殴り飛ばす。

 

 グレイスとオイスタッハは反応できたが、しかしそれ以外はあっさりと叩きのめされた。

 

「すげえ! そんな切り札があるなら最初から使っとけよ!」

 

「そうもいかん。試作型だからいろいろと問題あってな。増援の当てができるまでは温存しておきたかった」

 

 古城にそう返しながら、兵夜は鋭くグレイスを見据える。

 

「さて、和平を結んだ以上、教会の暴走は(悪魔)が止めるべきか」

 

「・・・アスタルテ!」

 

 グレイスは炎で牽制しながら、アスタルテを呼ぶ。

 

「アスタルテよ、堕落の具現に裁きを下しなさい!」

 

 オイスタッハもその姿に警戒し、アスタルテに命令を下した。

 

 二人とも、その経験からすぐに理解できたのだ。

 

 目の前の鎧騎士こそが、この敵達における最強の敵手だと。

 

命令受諾(アクセプト)執行せよ(エクスキュート)薔薇の指先(ロドダクトゥロス)

 

 その命令にすぐに動き、アスタルテはすぐに動いた。

 

「・・・まあ、魔術師(メイガス)ホムンクルス(製造した命)は道具扱いするし、その辺に関しては俺はあまりとやかく突っ込めないんだが」

 

 兵夜は自嘲気味にそういいながら、その攻撃を真正面から受け止める。

 

 魔力だけでなく身体能力も大幅に上昇しているからこそ打ち合える状況。

 

 だが、それでも普通に考えれば薔薇の指先を宿すアスタルテは難敵だ。

 

 魔力に類する力でしか倒せない眷獣に、よりにもよって魔力を無効化する力が宿っているのだ。

 

 唯一の対抗手段を無力化する能力。普通に考えれば倒しようがないだろう。

 

 だが、ここにあるのは意外性において規格外である兵藤一誠の模造品。

 

 たかが正攻法で打倒できない程度、突破しなければ作った意味がない。

 

 それを実証するかのように、兵夜はまっすぐ魔力を込めて殴りつける。

 

 ただし、一つだけ能力を展開した。

 

『Penetrate!』

 

 その音声が響くとともに叩き付けられた拳が、薔薇の指先を上空へと殴り飛ばす。

 

「・・・・・・・・・なっ?」

 

「・・・嘘でしょ?」

 

 オイスタッハとグレイスはあまりの光景に唖然となる。

 

 そして、その隙があまりに致命的だった。

 

「何を驚く?」

 

 そのまま宙へと飛び出した兵夜は、流れるように連続攻撃を叩き込む。

 

「兵藤一誠の赤龍帝の模造品を、強化特化型魔術師の俺が運用するなら、属性の被っている能力より透過の方が便利だろうが!!」

 

 そのまま踵落しを叩き込み、薔薇の指先を地面へと叩き付けた。

 

「・・・まあ、従業員の心情は考慮するんでな。殺しはしないがおいたのお仕置きはさせてもらうさ」

 

 あまりに圧倒的かつ流れる動きの殲滅に、グレイスもオイスタッハも我に返るのが遅すぎた。

 

 特にオイスタッハにとっては衝撃が大きすぎる。

 

 アスタルテは・・・否、薔薇の指先は彼の悲願である聖遺物奪還のための切り札だ。

 

 それが倒されたということは、彼の悲願が叶えられないということを意味する。

 

「・・・オイスタッハ! まだよ、まだ聖杯が残ってる!!」

 

「・・・ハッ! そうだ、まだ願望機があれば―」

 

 グレイスの声に我に返るが、しかし後一歩足りなかった。

 

「悪いがオッサン、まだあれは残ってもらわねえと困るんだよ」

 

 すでに、懐に古城が潜り込んでいる。

 

 衝撃的な事態の連続に、オイスタッハは反応が間に合わない。

 

「終わりだオッサン!!」

 

 真正面から、全力で拳が叩き込まれる。

 

 あまりに愚直なその一撃は、しかしそれ故に大きな威力を持っていた。

 

「・・・ガァ・・・っ!?」

 

 顔面を全力で殴り飛ばされて、オイスタッハはそのまま壁に激突して力なく崩れ落ちる。

 

「・・・アンタのやろうとしたことは間違ってないのかもしれない。だけど、それを認めるわけにもいかないんだよ」

 

 古城としても、この戦いは割り切れない。

 

 なにせ非は基本的に絃神島にあるのだ。死者の弄びに窃盗行為まで重ねている以上、あれだけの騒ぎが起きたこともあり、責任追及は免れない。

 

 だが、何も知らない数十万人もの市民を犠牲にするわけにもいかない。

 

「・・・戦争なんてそんなもんだ。大義名分のぶつかり合いだよ、大抵は」

 

 兵夜は鎧を解きながら、そんな古城の肩に手を置く。

 

「まあ、正当防衛の権利は日本じゃ認められてるし、あんまり深く考えるな」

 

 そう慰めると、兵夜は視線を向けた。

 

「さて、それでお前はどうするつもりだ?」

 

 すでにグレイスに仲間はいない。

 

 ほとんどの悪魔祓いは戦闘不能。協力者であるオイスタッハとアスタルテも動けない。

 

 状況は完全に兵夜達の勝利だった。

 

「・・・ハッ! ここで止まるぐらいなら、最初から聖杯戦争になんて参加してないわよ」

 

 だが、グレイスは止まらない。

 

「アンタにわかる? 主のために命すらかけて邪悪を屠ってきたのに、それを全部否定するかのように和平が成立した時の虚しさが」

 

「・・・だろうな。まあ、急激すぎるのは事実だよ」

 

 兵夜はそれを否定しない。

 

 もとより中庸の自分にとって、各種トップのリベラルさは頭痛の種だ。

 

 間違いなく暴発するとわかっていたのでいろいろと動いたりもしたが、それでも抑えられない部類はいるだろう。

 

「まあいいさ。和平そのものは俺としても好都合。ならその軋みぐらいは何とかするさ」

 

 そう言いながら、兵夜は光の槍を展開する。

 

 代行の赤龍帝は使わない。あれは消耗しすぎているので、使うなら相当のインターバルが必要だ。

 

「こい、グレイス。アンタの鬱憤は受け止めてやる」

 

「・・・そう、ならここで死んでもらうわ!!」

 

 そして、二人は距離を詰め―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「否、ここで貴様は終わりだ」

 

 その胸を、凶手が貫いた。




いや、固有結界の詠唱がきもいきもい言われたのが実に屈辱で。

半端に無限の剣製をまねたのが失敗だと思い、今回はいろいろと変えてみました。

常に金欠の状況でも、ネットで調べればラブレター詠唱の一つや二つは出てくるものですね。実に参考になりましたとも。


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フィフスの残響

 

「・・・なっ!?」

 

 目の前で起きた惨状に、兵夜はしかし驚くところが違った。

 

 これは聖杯戦争、殺し合いだ。そして敵にはアサシンもいる。

 

 なら、グレイスが隙を突かれて暗殺されることは想定内。もともと敵である以上、そこまで考慮してやる義理はない。

 

 死体に慣れてない古城たちは気になるが、しかしそれでもこれは想定内なのだ。

 

 想定外なのは、それを行った下手人だ。

 

「初めましてだな、これが」

 

 そう告げる男は、とても見知った容姿をしていた。

 

 格闘家というより研究者といった方が納得できる全体的なイメージ。

 

 それでいて隙を伺うことができない身のこなし。

 

 そして特徴的な銀とも灰色とも形容できる白い髪。

 

 兵夜はこの男を知っている。

 

「・・・フィフス・エリクシル?」

 

「いいや、違うさ」

 

 漏れたその言葉を、しかし目の前のフィフスそっくりの男は否定した。

 

「フィフス・エリクシルはお前が殺しただろう。それは間違いなく事実だ」

 

「・・・だったらお前は何だ?」

 

 兵夜はしかし、納得もしていた。

 

 聖杯はあの時点で体制側が確保していた。ゆえに聖杯による復活はあり得ない。

 

 ましてやフィフスはあまりにも危険な男だ。帝釈天やハーデスであろうと復活させようとはしないだろう。

 

 そう、目の前の男がフィフス本人であることはあり得ない。

 

 それを肯定するかのように、目の前の男は静かに構えをとる。

 

「俺の名は、フォンフ」

 

 フォンフと名乗った男は、無造作にグレイスだった肉の塊を捨てると、周りを静かに見据える。

 

「フィフス・エリクシルが憎悪に呑まれ切らぬために作り上げられた、肉を持つ疑似人格と疑似魂魄」

 

「なるほどな。確かに魔術師らしい発想だ」

 

 あいつも大概倫理観が緩かったからなと思いながら、兵夜はしかしだからこそ警戒を強める。

 

 フィフス・エリクシルは自身の根源到達を目的としていた男だった。

 

 だが、魔術師なら自分のバックアップを作れるのなら作ってもおかしくない。

 

 まさか超獣鬼を取り込んだ鎧を身に纏うフィフスと同じレベルだとは思わないが、どちらにしても難敵だろう。

 

「・・・俺は滅ぼすぞ、俺の憎悪の根幹を!」

 

 全身から毒の炎をまき散らしながら、フォンフは深く腰を落とす。

 

「そのために、お前らには死んでもらう!!」

 

 次の瞬間、破壊の奔流が生み出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・まずいわね。まさかフィフス・エリクシルの怨念が動いているだなんて」

 

 状況を目で見て、シルシは歯ぎしりする。

 

 フィフス・エリクシルの脅威は身に染みてよくわかっている。

 

 世界を一変させたあらゆる意味で難行を達成した男。装備込みでならば準最強格に到達した男。

 

 禍の団最後の首魁。その男の脅威は異形社会で知らないものはいないだろう。

 

 だが、それでももう死んでくれていたのだ。だから安心していたと言わなければ嘘になる。

 

 それが、想定外の置き土産を残していた。

 

「ねえ、あの人そんなにヤバイの? いや、確かに吸血鬼の重鎮みたいな暴れっぷりだけど」

 

 廃墟地区のビルが一つや二つは吹き飛ぶほどの戦闘を見つめながら、浅葱は首をかしげる。

 

 凄惨な光景を見て血の気が引く思いをしているが、しかし割と細い。

 

 仮にも第四真祖である古城がいるならば、火力で負けることはないと思えるのだが。

 

「それが強いのよ。よって殴るだけで並の最上級悪魔なら殺せるレベル。しかも、よりにもよって最悪なことに・・・」

 

 シルシは、自分の目とリンクさせた観測機器によって危険すぎる事態を把握させていた。

 

 データはとんでもないものの存在を発見している。

 

 ああ、フォンフが聖杯戦争の参戦者なら、間違いなく優勝候補の一人だろう。

 

 なぜなら―

 

豪獣鬼(バンダースナッチ)・・・。あれを素体として作っているとはね」

 

 単独で小国を滅ぼしかねない化け物を、あの男は寄りにもよって自分のダミーの素体として使っているのだ。

 

 かつて、フィフス・エリクシルはその格上である超獣鬼を素体として自身の鎧を作り上げた。

 

 相対的に技量が無いという獣鬼の欠点を克服したフィフスは、その圧倒的な戦闘能力で猛威を振るった。

 

 一段階落ちるとはいえ、獣鬼の脅威は誰もが認めるところ。そんなものが解き放たれればどうなるか・・・。

 

「・・・まずいわね、どうにかするべきなんでしょうけど―」

 

 そこで言葉を切って、シルシはエストックを引き抜く。

 

 本当にフォンフを何とかしなければならない状況だが、しかし残念なことにそんなことを言っていられる状況でもなかった。

 

 流石に昨日の今日で不覚を何度もとるわけにはいかない。そう、ゆえに今回は気合を入れてよく見ていた。

 

「出てきなさい、暗殺者」

 

「・・・やはり、感知系の能力の持ち主か。暗殺者としては忌々しい能力よ」

 

 シルシの視線の先、暗闇から茶髪の少年が現れる。

 

 兵藤一誠の二つ目の体を持つザイードが、拳を鳴らしながら姿を現した。

 

 そう、彼はフィフス・エリクシルのサーヴァント。

 

 ならば、彼はフォンフについていて当然。

 

「・・・だが、汝ら程度なら他愛なし。ここで死ぬがいい」

 

 そして、龍神は再び猛威を振るう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その非常事態を、兵夜は即座に理解した。

 

「ああ全く。奴がまた出てくることは想定内だがここで来るか」

 

 しかし当然といえば当然だ。

 

 なにせフォンフはフィフスの後継者のようなものだ。フィフスのサーヴァントであるザイードが協力するのはむしろ当然だろう。

 

 そして、この状況下で優先することは決まりきっている。

 

「はい全員傾注。・・・フォンフは俺が足止めするから先にシルシ達を助けに行ってくれ」

 

「・・・はあ!? お前正気か!?」

 

 あっさりといった兵夜の言葉に、古城は信じられないといわんばかりに声を上げる。

 

 それはそうだろう。なにせ敵は圧倒的な強敵なのだ。

 

「相変わらず狂ってるなこれが! お前、フィフスと一対一で勝ったことあったか?」

 

 そう言いながら暴れまわるフォンフの拳によって、すでに廃ビルが三つは崩れ落ちている。

 

 明らかに異常な部類の戦闘能力を前に、一人で相手をしようなどと正気の沙汰ではない。

 

「仕方がないだろう。戦闘の力のない藍羽を放っておくわけにはいかない。・・・まあ、フォンフのオリジナル(アイツ)の相手は慣れている」

 

 そう首を振りながら言うと、兵夜は注射器を取り出すとそれを注射した。

 

「それに切り札はいくつも用意する主義だからな」

 

 次の瞬間、莫大な光がフォンフを襲う。

 

 それを炎を纏った拳で迎撃しながら、フォンフは目を剥いた。

 

「業魔人《カオス・ドライブ》!? お前作ってやがったのか!?」

 

「そりゃまあ、魔王末裔を眷属にしてるからな。今後の脅威に備えて準備の一つぐらいはしてるともさ」

 

 兵夜としては今後の難題に対して当然の対策をとっているだけである。

 

 もとより、公式試合でもなければドーピングを躊躇するような性分でもない。しかも効果的であることはすでに証明されている。

 

 なら、使うのみだ。

 

「さあ、フィフスの後継! 聖杯戦争を始めよう!!」

 

 そのままフォンフを弾き飛ばし、兵夜は追撃を開始する。

 

 両手に巨大な斧を持ち、大振りながらも素早い動きで連撃を叩き込む。

 

 もとより、技量でフィフスを受け継いだフォンフを倒せるとは思っていない。それぐらいの自覚はきちんと持っている。

 

 ゆえにスペックで押し切る。技量が届かない領域による力押しこそが、圧倒的な技量を持つフィフスたちに対する対抗策。

 

「フォンフ、俺はすでにお前をむちゃくちゃ警戒している」

 

 むろん、これだけの過剰の出力強化が何の反動を及ぼさないわけではない。

 

 単独行動で動いているのはそれも理由の一つだ。あの人のいい彼らがこんなことを知れば間違いなく止めに入るからだ。

 

 そして、何度もできると思うほど愚かでもない。

 

「だからここで滅びろ。俺も世界もお前のような存在を何度も許容するほど寛容じゃない!」

 

「馬鹿め! 悪いがお前は一つ勘違いをしているぞ?」

 

 それだけの連撃を受け流しながら、フォンフは兵夜をあざ笑う。

 

「俺は、すでにこの聖杯戦争に敗退している」

 

「・・・はい?」




兵夜「しつこい」

まあ、魔術師ならできるならやってもおかしくない自分のバックアップ。とはいえ、フィフスは自分が根源に到達することを考えていたので微妙に違うのですが。

さすがにフィフスの最終決戦仕様ほどの化け物っぷりはないですが、それでもやっぱり化け物なのでかなりの強敵。実に厄介なのが出てきました


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従僕来襲

 

 龍神の拳が、シルシの一撃を簡単に吹き飛ばす。

 

 続けざまに放たれたケリが、連携で迫ったアインハルトをあっさりと弾き飛ばした。

 

「さすがにキツイわね・・・っ!」

 

「これが龍神・・・!」

 

 二対一程度では到底どうしようもない圧倒的な力量。

 

 加えて最底辺とはいえど英霊の領域に到達しているザイード自身の能力も高く、突破しきれないのが現状だった。

 

「暗殺者に正面戦闘で後れを取るとは、上級悪魔と覇王とやらも底が知れるな」

 

 汗一つかかずに嘲笑を浮かべながら、ザイードは静かに一歩ずつ近づいていく。

 

 焦って突撃するような真似はしない。それは真正面から圧倒できるという自信が生む余裕だった。

 

「さすがにその目で見られては暗殺はできぬだろうが、しかし龍神の体があれば問題は無し。フォンフさまが宮白兵夜を抑えている間に殲滅するとしようか」

 

「それはどうも。そんなに聖杯がほしいのかしら? あなた仮にもイスラム教徒でしょうに」

 

 宗教の教義的にどうなのかという皮肉をシルシは返すが、ザイードは肩をすくめることでやり過ごす。

 

「あいにくそういう契約なのでな。我らとて手に入らぬ願望機のために戦うのは業腹だが、しかし契約を破るのは山の翁の名折れ」

 

「・・・手に入らない?」

 

「どういうことですか? あなた方は聖杯を手に入れるために戦っているのでは?」

 

 読めない状況にシルシもアインハルトも首をかしげるが、しかしザイードは間合いに入るなり攻撃を仕掛ける。

 

「特に大したことでもない。戦争を行う中、サーヴァントを宿したものを失っただけのことよ。私はこの聖杯戦争のサーヴァントでもないからな」

 

「それで、次の聖杯戦争に参加するために頭下げてほかの勢力に使われてるわけ?」

 

 シルシは情けないとすら思ったが、しかし言葉にはしない。

 

 圧倒的に不利なのはこちらの方なのだ。ならばこれ以上挑発するつもりはない。

 

 だが、ザイードは自虐的に口元を吊り上げると、さらに深く踏み込みながら言葉を続ける。

 

「情けないと言えば言うがいい。とはいえ最初からそれを条件として同盟を組んだ以上、断るわけにもいかんのでな」

 

 そのままエストックをたたき折り、さらにザイードは攻撃を繰り返す。

 

 それをフェニックスの不死で強引に防ぎながら、シルシは予備のエストックを引き抜いた。

 

 とはいえこの状況では押し切られかねない。

 

 どうにか兵夜たちがフォンフを突破して助けに来ることを考え―。

 

「そういうことよ。だから契約者であるエイエヌ様のいうことはきちんと聞いてくれるってわけね」

 

 ―上からの声に、シルシは凍り付いた。

 

「アップ・ジムニー!?」

 

「こんばんわ。・・・今日は余計な邪魔も入らないし、ここで一人ぐらい殺しておこうかしら」

 

 そう告げるアップの周りには、増援としてなのか数人の悪魔がいた。

 

 そう、それそのものは何も驚くことではないだろう。

 

 だが、その容姿が問題だった。

 

「・・・そう、そういうこと」

 

 シルシは、なぜ平行世界の兵藤一誠が怒り狂っているのかの一端を理解した。

 

 魔獣創造の性能からすれば、そういうものも作れるだろう。

 

 だが、もしその模倣元が死んでいたとしたら?

 

 ・・・彼なら怒り狂うだろう。そういう人だということぐらいは知っている。

 

「さて、ではエイエヌ様の命令を果たすとするか。・・・デュランダルの錆になるといい」

 

「フェニックスの不死をもってしてこの程度しかできないとは、情けない限りですわね」

 

 薄く嘲笑を浮かべるその姿はよく知っていた。

 

 髪は白くなっているが、しかしその姿はゼノヴィア・クァルタとレイヴェル・フェニックスに酷似している・・・いな、そのものだ。

 

「悪趣味な人形遊びとはよく言ったものね。・・・殺した相手そっくりの魔獣を作るとは、エイエヌも悪趣味極まりないわ」

 

「・・・まあ、そこは反論できないんだけど」

 

 気まずそうに頬を掻きながら、アップはしかしグラムを突き付ける。

 

「さあ、とりあえず余計な観客が出ないうちに死になさい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「え? お前もう聖杯戦争負けてるの? うっわだっさ」

 

「この状況下で挑発できるとかいい根性してるよなこれが!」

 

 過剰な負担に耐えながらの状況で、しかし兵夜は口が回っていた。

 

 フィフス・エリクシルという怨敵の後継ともいえる強敵を前に、兵夜はかなり機嫌が悪くなっている。

 

 そのせいか口が悪くなっているが、それはそれとして危険な状態でもあった。

 

 なにせ神格の発動と制御はいまだに困難かつ危険な領域。そんなものを平然とできるほど、宮白兵夜とは規格外の化け物ではない。

 

 その体に使われている技術は規格外だが、素体は平凡ではないが傑物ではない。そこそこ優秀という程度の領域で収まっているのが宮白兵夜という生き物だ。

 

 そんなものが前代未聞の悪魔と神格の同時併用などを行ってもできることなどたかが知れている。

 

 ましてや相手は神滅具の禁手で製造された存在だ。そのうえでオリジナルの戦闘技術も習得している。

 

 単独で国家を一つ滅ぼしかねない化け物を前に、すでに兵夜はかなりのダメージを負っていた。

 

「なあ、オリジナルを殺す前に俺言ったよな? 根源目指すなら俺の関わらないところで平和的にやってくれって」

 

「ああ、確かにいったな。だが俺には関係ないな」

 

 文字通り神速の攻防を繰り広げながら、兵夜とフォンフは視線をぶつけ合う。

 

 だが、その視線の質は違っていた。

 

 兵夜はフォンフを強敵と認識していたが、フォンフはある意味ぬるい視線を向けている。

 

 実際それは間違っていない。フォンフもオリジナルに比べれば弱体化しているが、それ以上に兵夜は大きく装備の質が落ちている。

 

 あらゆる意味で規格外だった偽聖剣を失った兵夜の戦闘能力は、フィフスからフォンフへの低下以上に減衰していた。

 

 そして、それが形になっていく。

 

「どうした? オリジナルを滅ぼした一角がその程度だとあきれるしかないがな!」

 

「うるさいな。今からかっこよく逆転してやるから黙ってろ」

 

 そう返す兵夜だが、しかし冷静に今のままでは勝てないということも自覚していた。

 

 もとより兵夜の単独での勝率はそこまで高い方ではない。

 

 たいていの幹部クラスとの戦闘は、仲間と協力したからこそできたもの。冷静に考えてネームドクラスと戦って単独で勝利した記憶がほぼないといえる。

 

 あれ? 俺って自分が思ってよりよっぽど雑魚?

 

 微妙に悲しくなったが、それはそれとして兵夜はしかし余裕もあった。

 

 なにせ、あくまで自分の目的はフォンフの足止めである。

 

 すでに最低限達成できる目標であるアスタルテの確保には成功している。それ以外にも要救助者の救出はするべきだが、実際のところ不可能に近い。そしてそれらを行うには連絡を取り付けた時空管理局との連携で行うべきだ。

 

 つまり、今ここでフォンフを倒す必要はない。

 

 とにかくザイードをシルシ達がどうにかしたら、そのあとは何とか逃げればそれでいいのだ。

 

 だからそれまでの間限界を超えてフォンフを押さえておけばそれで充分。あとはシルシにフェニックスの涙を作ってもらってそれで回復すれば・・・。

 

「あ、今までのうちに作ってもらえばよかった!?」

 

「・・・こいつまたうっかりしやがったな」

 

 隙ができて真正面から殴られてしまう。

 

 そのまま数百メートルは吹き飛ばされるが、しかし兵夜は殴られたときにはすでに冷静さを取り戻していた。

 

 その勢いを利用して距離をとりながら、装備を遠距離専用に変更する。

 

 そして今度はそのまま遠距離砲撃戦にシフトすれば、こんどは離脱がしやすくなり―。

 

「あら、フォンフ相手にここまで持つなんてやるじゃない。さすがというべきかしら?」

 

 ・・・非常に聞き覚えのある声が後ろから聞こえ、兵夜は平行世界の兵藤一誠の怒りと誤解の理由を一瞬で察した。

 

 なるほど、魔獣創造を利用すればそれぐらいのことはできるだろう。

 

 そして兵藤一誠とともに出てきてないということは、つまりもう()()()()()()

 

「・・・悪趣味だな、エイエヌ。そう思わないかい、リアス・グレモリーのそっくりさん!」

 

「そうでしょうね。そのためにわざわざ私を用意したのだから、そういわれてもおかしくないわね」

 

 そう微笑をもって告げるのは、白い髪と魔剣を持つ以外は数年前そっくりのリアス・グレモリーの現身だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兵夜がリアス・グレモリーとの嫌な形での邂逅を成し遂げるころには、何とか古城たちも合流できていた。

 

「浅葱! 無事か?」

 

「古城!」

 

 吸血鬼の身体能力で何とかついた古城に気が付き、浅葱が声を上げる。

 

「無事だったか。シルシとアインハルトは!?」

 

「いま戦ってるけど、なんか大変なことに・・・」

 

 その言葉の意味はすぐに分かった。

 

「ほえろデュランダル、そしてノートゥングよ!!」

 

 その声とともに、周囲のビルに筋が通るとそのままそこを境目として滑り落ちる。

 

 そしてがれきが一斉に古城たちに襲い掛かるが、しかしそこは第四真祖だ。

 

「弾き飛ばせ獅子の黄金(レグルス・アウルム)!」

 

 とっさに眷獣を使って無理やり弾き飛ばし、そしてその現象を起こした相手にも雷撃を放つ。

 

 殺してしまうかもしれないとは思ったが、しかしそれぐらいなら乗り越えるだろうという確信があった。

 

 そして、それは確かに現象として具現化する。

 

「その程度では、私たち従僕は殺せませんわ」

 

 灼熱と氷塊の二つが、しかし莫大なレベルで放出される。

 

 それらはどちらも長老格の吸血鬼が使用する眷獣クラス。その破壊力は真祖の眷獣をもってしても楽に破壊できるものではない。ましてや障害物を突破した後の出力の下がった状態では無理がある。

 

 下手人に当たるより前に相殺された雷撃の中、そこにいたのは二人の美少女だった。

 

 ブロンドの髪を左右に束ねた少女と、青い髪を短く切りそろえた少女。

 

 だが、吸血鬼である古城は本能的に違和感を感じ取っていた。

 

「なんだあんたら。・・・人間か?」

 

 違和感に任せてそんな疑念を口にする古城に、青い髪の女の方がうなづいた。

 

「違う。私たちは従僕だ。私はパルミラのコードネームを与えられている」

 

「そしてわたくしはフィーニクス。エイエヌ様に作られた従僕ですわ」

 

 そう悠然と告げるフィーニクスは、背中から炎を生み出すとそれを放つ。

 

 むろん、それは即座に雪菜の雪霞狼で迎撃されるが、しかしそこからが攻撃の糸口となる。

 

「能力は素晴らしい。なら君自身の剣技はどうだ?」

 

 そう尋ねながら、パルミラはデュランダルとノートゥングを連続で振るい雪菜に襲い掛かる。

 

 動きが読まれることなど考えない。小細工ごとたたき切るといわんばかりの強い意志のこもった連続攻撃に雪菜はいきなり劣勢になる。

 

「この威力、特性抜きでも古き世代の吸血鬼クラスは・・・!」

 

「姫柊! くそ・・・っ」

 

「あら、逃がしませんわよ?」

 

 助けに入ろうとする古城に、フィーニクスが割って入る。

 

 彼女は魔剣を一振りすると、大量の氷が槍と化して古城に襲い掛かる。

 

 いい加減慣れてきたこともあって回避するが、それでもさらに攻撃が放たれ―

 

「はいはい邪魔だよっ!」

 

 そこに、プラズマの奔流が放たれる。

 

「大丈夫かな古城くん?」

 

「トマリさんか! 悪い、助かった!」

 

 援護射撃に礼を言いながら、しかし古城は全く安心できない。

 

 何かわからないが、あの従僕を名乗る二人組は恐ろしい感覚しか出てこない。

 

 悍ましいとでもいえばいいのか、観ているだけで不快な感情が湧いて出てくるのだ。

 

「・・・なんだあいつら、本当に・・・人か?」

 

「いいや、いや違うんだろうね!」

 

 その言葉に返答しながら、こんどは須澄がパルミラに突撃をかける。

 

 聖槍の一撃が聖剣とぶつかり合い、莫大なオーラの奔流を周囲にはなった。

 

 その威力を確かめるように微笑ながら、しかしパルミラはすぐにつまらなさそうに息を吐く。

 

「なるほど、聖書の神も余計なまねをしてくれる。だが、それではな!」

 

 そのままパルミラは強引に弾き飛ばし、さらにノートゥングで切り付ける。

 

 直撃はまずいと判断した須澄はそれを交わすが、その一撃は地面に大きな断面を生み出した。

 

「なに、ナニコレ!? エイエヌ並に危険な能力なんだけど!?」

 

「どれも雪霞狼をしのぎかねないほどの逸品・・・。太古の魔剣の類ですね」

 

 同時に槍を構えながら、須澄と雪菜はパルミラを警戒する。

 

 彼女が保有する剣は、聖魔どちらかに傾いてはいるがどちらも至極の性能を発揮する一品。

 

 加えて、フィーニクスの方も同等レベルの魔剣を保有しているため隙が無い。

 

 そして何より、これが何よりだが―

 

「なんだ、なんなんだよこの悍ましさ・・・っ」

 

 何より、生理的嫌悪感を産むこの気配が最も警戒に値する。

 

 まるでホラー映画に出てくる化け物を見ているかのような不吉な感覚が体の奥から浮かび、二人に警戒心を抱かせるのだった。

 




皆様お忘れかもしれませんが、ザイードは本編の聖杯戦争のサーヴァントです。今回の聖杯戦争のサーヴァントではございません。

まあ、それを律儀に守っているあたりフォンフもあほというかなんというかなのですが。









そして赤龍帝ブチギレ案件登場。この従僕、ほかにも何体か登場する予定です。

因みに想定よりもかなり外道案件ですのでまだまだこんなもんじゃないぜ!!


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僧侶と女王

 

 二人の従僕とにらみ合う中、その均衡状態を吹き飛ばすように爆発が響き渡った。

 

 廃墟の一つが粉砕され、そこから弾き飛ばされるのはシルシだった。

 

「ぐ・・・っ」

 

 全身から再生の炎をまき散らしながらシルシは立ち上がろうとするが、すでに炎は弱弱しく、立ち上がろうとする体にも力が入らない。

 

「シルシちゃんっ!?」

 

「まずい・・・わね。思った以上に・・・強かった・・・っ」

 

「まあねえ。これでも一応グラムの持ち主なわけだし? 弱かったらやってられないっての」

 

 そういいながら土煙を振り払って姿を現すのはアップ。

 

 その顔は赤く染まり、表情も恍惚な笑みとなっていた。

 

「くく・・・ふふふ・・・あははははっ!」

 

 抑えきれなくなったのか大声で笑いながら、アップはグラムを突き付けた。

 

「そうよそうよそうよそうよ! こういうのがやりたかったのよあたしは!」

 

「強くなくて、そんなに、うれしい?」

 

「ええそりゃぁもう! これよ、あたしがやりたかったのはこれなのよ!」

 

 笑いすぎたのか目じりに涙を浮かべながら、自虐的なシルシの言葉に頷きながらアップは微笑む。

 

「これが楽しいから私は悪の使いっぱしりなんてやってるのよ。・・・そうじゃなきゃ、誰がこんなことするかっての!」

 

「アップちゃん・・・」

 

「そこまで、そこまでだよトマリ」

 

 何かを言いかけるトマリを手で制しながら、須澄は一歩前に出る。

 

「楽しそうで、本当に楽しそうでよかったね、アップ」

 

「そうね須澄。それで? そんなのは間違ってるからやめるんだ! ・・・とか月並みな言葉を言おうとしてるの?」

 

 だとするならお前は馬鹿だといわんばかりの口調だったが、須澄は静かに首を振る。

 

「まさか、いやまさか。加虐性(それ)は、間違いなく君だよ。・・・僕たちが気づかず、君自身が認めなかったせいで膨れ上がった君自身の姿だ」

 

「・・・・・・」

 

 微妙に機嫌を悪くするアップに取り合わず、須澄は静かにほほ笑みながら槍を向ける。

 

「だから、そんな君自身を正したり(否定)なんてしない。こんどこそ、君を終わらせて(肯定して)みせる」

 

 そう、慈愛すら浮かべて須澄は告げる。

 

「・・・・・・・・・えっと、それ何、殺し文句?」

 

「そうだね、うんそうだ。殺すから殺し文句だね」

 

「いや、そうじゃなくて・・・」

 

 アップは顔を真っ赤にして狼狽するが、その隙を突こうという様子は須澄にはなかった。

 

「えっと、えっとどうしたのさ? 来ないならこっちから行くけど?」

 

「え!? あ、ちょっと待って今ので心の準備が!!」

 

「・・・?」

 

「うっわぁ、須澄君天然ですごいこと言ったよっ。微妙にヤンデレ入ってるよっ」

 

「???」

 

 何やら顔を真っ赤にするアップとトマリに須澄は首をひねるが、しかしそんなことを気にしている場合ではないと槍を構えなおした。

 

「悪いね、悪いけど・・・そろそろ行くよ!!」

 

「あ、ちょ、ちょっと待ってってば!!」

 

 聖槍の一撃をギリギリで魔剣で受け止めながら、アップは顔を真っ赤にしながら戦闘を再開する。

 

「・・・そういう聞きたいセリフをいまさら言われても、こっちが困るってのよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・何やってんだ、あいつら」

 

 煽情のど真ん中でラブコメに見せかけた何かが始まっている中、古城はとりあえずシルシを引っ張って浅葱のところまで走っていく。

 

「浅葱! とりあえずシルシさんを見ててくれ」

 

「え!? ま、まって古城、私別にけがの治療とかできるわけじゃ」

 

「俺並に不死身だからほっといたら回復するだろ。とにかくバテてるから近くにいてやってくれ」

 

 そういいながら古城が振り向くと、そこにはフィーニクスとパルミラの姿があった。

 

「気を付けてください先輩。あの二人、本当に実力者です。技量まであって手が付けられません」

 

 何とか攻撃をしのいでいた雪菜の言葉は本物だろう。

 

 ろくに戦闘経験どころか訓練すら積んでない自分でもわかる。

 

 なんというか圧倒的な実力だ。単純な能力どまりの自分たちとはまったく違う。

 

「あんたら、そんだけの実力があるならエイエヌなんかに頼らなくても生きていけそうだけどな」

 

「それは違うさ第四真祖。私たちはエイエヌ様の従僕だからな」

 

「道具には道具の幸せというものがありますのよ?」

 

 二人はそうあっさりと告げると、再び戦闘態勢に入る。

 

「くそ、やるしかないのかよ!」

 

「気を付けてください先輩! この二人、間違いなく実戦慣れしています!!」

 

「それってやばくねえか!?」

 

 桁違いの能力を持っているとはいえどほぼ一般人の古城。戦闘訓練は一流の本職相手に通用するとはいえ、しょせんは見習いの雪菜。

 

 この状況下で経験豊富な実力者を何人も相手にしろなどと、無理難題にもほどがある。

 

「・・・そういえばヴィヴィオとアインハルトは?」

 

「あ、ヴィヴィオちゃんならアインハルトちゃんの方に向かってますけど―」

 

 その言葉と同時に、再び廃墟が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビルを突き破る砲弾とされながら、アインハルトはそれでも何とか意識を失わずにすんでいた。

 

「・・・たやすい。覇王に聖王とはこの程度のものなのか?」

 

「アインハルトさん!?」

 

 ザイードのあざけりとヴィヴィオの声が届くが、しかしそれも遠く聞こえる。

 

 なんて様だ。

 

 覇王の末裔としてこの見るだけで心が痛むような場所を見ながら、それをどうにかするどころか、その柄一パシリ1人どうにもできないだなんて。

 

「・・・あの、あなた、私達のこと調べたんですか?」

 

「むろん。情報を集めるところから始めねばならぬ二人組はともかく、貴殿ら二人は割と早く情報がつかめたとも」

 

 ヴィヴィオになんてことはないように答え、ザイードはぺらぺらとその来歴を語り始める。

 

「・・・時空管理局発足前のベルカ戦乱。その争いにおいて大きな影響力を持った聖王オリヴィエと、その彼女と恋仲だとすら言われる覇王イングヴァルト。聞けば貴殿らはただの子孫というわけでもないそうではないか」

 

 わずかな期間でここまで調べられるとは驚くほかない。

 

 もしかしたら、フォード連盟は時空管理局にスパイを送り込んでいるのかもしれないと、幼いながらもクラウスの記憶を持つアインハルトは裏事情を推測している。

 

 国家が他国に対して密偵を放つのは珍しくも何ともない手段だ。少なくとも、他国の密偵を警戒するぐらいのことはクラウス(自分)もしている

 

 そして、そのあたりの諜報力においてフォード連盟が優秀だったということだ。

 

「ことそちらの覇王は格闘業界の実力者との路上試合で幾度となく勝利したそうだが。・・・まあ、龍神の肉体を前にすれば人間が真正面から挑んで勝てるわけがない。そこは気に病む方が無駄ということだろう」

 

 ザイードはそういうと、静かに拳を構える。

 

「とはいえ私も組織の長の身。力届かぬ現実に対する苦悶も承知している。・・・己が無力からくる苦しみから解放してやっても構わんが?」

 

 そういいながら静かに殺気を漏らすザイードに対し、しかし割って入る影があった。

 

「やらせません!」

 

 こちらもダメージを受けていながら、しかしまだ軽傷のヴィヴィオが妨害のために攻撃をしかける。

 

 その攻撃を素早く避けながら、しかしザイードは慌てない。

 

 もとより単純な性能が圧倒的に開いているうえに、アサシンとて戦闘経験がないわけではない。

 

 必ずうまく暗殺が成功するわけではない以上、何らかの形で戦闘を行う必要がある。そしてそれに生き残り暗殺という形に収めることができてこそ、山の翁と呼ばれるほどの暗殺者になるのだ。

 

「ふむ、動きはきれいだ。こちらの動きを読んで放たせないようにするのは見事だ・・・が」

 

 ゆえに、ザイードは動きを切り替える。

 

 今まで素早く受け流したり交わしたりしてきたきれいな戦い方から、もう何発喰らおうが無理やり耐えるといわんばかりの豪快な戦い方に。

 

「・・・っ!」

 

「この手のごり押しは苦手のようだな。動きがきれいすぎるので得手不得手も分かりやすい」

 

 迎撃の攻撃をもはや意に介さず耐久力で耐え切り、そしてザイードは拳を叩き込んだ。

 

 それもただ殴るのではない。暗殺者の技量をもって放つ不意打ちだ。

 

 気づかれないことを想定して放つ一撃だったが、だからこそ効果的だった。

 

「・・・あ・・・っ」

 

「同時に脆い。魔術による防御でしのいできたのだろうが、反応できねば薄皮一枚と同じことよ」

 

 直撃に崩れ落ちそうになるヴィヴィオの後ろに回り込んで、ザイードはとどめとして短剣を引き抜いた。

 

幼児(おさなご)に対する情けの一つぐらいは見せるべきだ。・・・せめて一瞬で死ぬがよい」

 

 そしてそのまま短剣を突き立てようとして―

 

「あら、それはさすがに見過ごせませんのよ?」

 

 その目の前に、一筋の光が映った。

 

「伏兵か!」

 

 気づいて首をそらすだけでそれを回避したザイードは、そしてすぐにそれだけでないことにも気づく。

 

 それはすでに射程距離に踏み込んでおり、勢いよく拳を振りかぶっていた。

 

「ようアサシン。またイケメンの体を手にしてんな!」

 

「グランソード・ベルゼブブ!!」

 

 その攻撃をギリギリで受け止め、ザイードは勢いを受け流して後ろに飛ぶ。

 

 だがしかし、その方向には壁を一切壊すことなく展開された魔力砲撃追いついていた。

 

「この曲射砲撃・・・! ここまでの技量の持ち主は魔法使いの世界でもそうはいない!」

 

「ええまあ。若くして期待の星などといわれてはいないわけですのよ?」

 

 そう少女の声が聞こえ、そして砲撃が一斉に炸裂した。

 




ついに参戦雪侶とグランソード!

本編ではあまり活躍させれなかった二人ですが、その分相手は龍神という大判振る舞いです!!


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拳の女王と魔導の僧侶

展開速いのがD×Dのいつものこと。

本作も展開速いですよ~!


 

 一斉に放たれる砲撃の中、古城たちは唖然となりながら周りを見渡していた。

 

 一斉に、一斉に、それはもう一斉に、彼らは現れた。

 

 そして古城達を庇うように展開しながら、一気にアップ達に攻撃を加えたのだ。

 

「おっし! 間に合ったな!」

 

「それにしたってどうすんのよ、これ流石に怒られない?」

 

「いいだろ別に! 髪の色違うし、偽物だろ偽物」

 

「フィフス辺りならできそうだしなぁ。ま、違ったら後で謝ればいいか」

 

「そうそう。俺達はリアス・グレモリーの眷属でもなければ兵藤一誠の眷属でもないしよ。宮白兵夜の眷属であるグランソードの兄貴の舎弟だぜ?」

 

 そう言い合いながら、彼らは古城達をカバーする。

 

 人間そっくりの者もいれば、獣人もいる。

 

 中には鬼にしか見えないものもいるが、しかし共通しているのは同じ服を着ているということだ。

 

 おそらく制服。そして、その衣装にはうっすらと見覚えがあった。

 

「宮白やシルシさんが着てたのと・・・似てる?」

 

「そりゃまあ、あの二人が着てるのは士官服風だからな」

 

 と、リーダー格らしき男が一歩こちらに回ってきた。

 

「待たせちまって悪かったな。次元探査艦タワークロック所属、特別戦闘小隊第一分隊だ!」

 

 そういうと、その男達は近くにいた雪菜の頭を撫でる。

 

「え、あの・・・」

 

「・・・よく頑張った。大将はうっかりさんだから胃が痛かったろ?」

 

 そう、慈愛にあふれる表情で告げると、そのままにかりと笑顔を浮かべる。

 

「俺らが来たからには少しは安心していいぜ? これでも、全員上級悪魔クラスだからよ!」

 

 そういうが早いか、攻撃を仕掛けようとしたパルミラとフィーニクスに即座に砲撃を放つ。

 

「さんざん好き勝手してくれやがったようだな! こっちも仕返しのし甲斐があるってもんだぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・うわぁ、ウザイ」

 

 そう顔をしかめながら、アップは肩についた傷に触れる。

 

 その手にべっとりとついた血をなめとってから、アップは不機嫌そのものの視線を彼らに向ける。

 

「あなたは、あなた達は、誰ですか?」

 

「君が、近平須澄くんだね? 兵夜様からは特に念を入れて助けておくように言付かっている」

 

 そう言いながらその堕天使は、光の槍を向けると突き付ける。

 

 同じ行動をとっているものは片手じゃきかないほどの数が参加しており、そしてその誰もが隙を窺うのが困難なほどの戦い慣れをしていることを感じさせた。

 

「次元探査艦タワークロック、特別戦闘小隊第二分隊だ。これ以上の戦闘は我々も参加させてもらうが?」

 

「え? なにこれっ! 増援っ?」

 

 突然の援護にトマリも少し混乱しているが、しかしすぐに我に返ると視線をアップに向ける。

 

 アップの戦闘能力は十分高い。もしかしたら、このまま戦闘を続行する可能性も少なからずあった。

 

 だが、アップは肩をすくめると剣を下す。

 

「・・・やめた。なんか冷めたわ」

 

 そう息を吐くと、アップは魔力を全身へと行き渡らせる。

 

「ソニックムーブ」

 

 そう言葉を漏らしたその次の瞬間には、アップはすぐに空の離れた所へと飛び去っていた。

 

「・・・逃げたか。まあ、このまま戦ってもこちらも被害は少なくないから仕方がないか」

 

 そう隊長各が息を吐く中、トマリは静かに視線を須澄に向けていた。

 

 須澄は残念そうに肩を落としながら、しかし目だけは強い意志を示していた。

 

「・・・大丈夫、大丈夫だよ。次は、必ず終わらせて見せる」

 

「須澄くん・・・」

 

 それは、悲しいほどに決意が込められていた。

 

 そう、嘆き悲しんでしまうほどに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・流石に潮時だな、ガーブ」

 

 フォンフはそう告げ、リアス似の従僕に視線を向ける。

 

「そのようね。これ以上はこの戦力だと苦戦は免れない。・・・エイエヌ様は従僕の消耗はお気に召さないもの。私達は赤龍帝との戦いのために消耗されるべきだわ」

 

 そう白い髪の美女は返し、即座に撤退を開始する。

 

 そしてそれを見送りながら、特務戦闘小隊第三分隊は戸惑っていた。

 

「あれは、リアス・グレモリーか?」

 

「だが、何故フィフス・エリクシルと一緒にいる?」

 

「あの二人が組むということはあり得ない。あれは、精神攻撃を目論んだ合成獣の類ではないか?」

 

「だったら実に悪趣味だな、オイ」

 

「貴様ら! 無駄口をたたくな!」

 

 それを分隊長は一喝し、そして兵夜に向き直った。

 

「失礼いたしました、兵夜さま!」

 

「いや、いい。当然の疑問だからな、攻撃をしのいだ後なら口にも出るだろう」

 

 そう寛大な態度を見せつつ、兵夜は全身の激痛に耐えながら更に頭痛にも耐えるという器用な真似をしていた。

 

 全身が痛いのはドーピングの副作用だが、しかし頭が痛いのは別の要因だ。

 

 リアスそっくりの従僕とやらは、こちらに対して消滅の魔力を放ってきた。

 

 流石にリアス当人に比べれば若干劣るが、しかし今の兵夜にとって脅威というに値する強大な魔力だった。

 

 しかも、その手には魔剣すら握られている。

 

 魔剣は確かティルヴィング・・・だったか。とにかく強大な部類であることは間違いない。

 

「考えるだけで頭が痛くなってくる事態だ。・・・で? お前達が来ているということは時空管理局と連絡は繋がったのか?」

 

「ハッ! それだけではなく、付近を探査中だった堕天使及び教会側とも連絡が付きました。現在はアザゼル艦長が指揮を執り、その補佐をエヴァルド艦長がとっております」

 

「また運がいいのか悪いのか。で、グランソードと雪侶は?」

 

 特務戦闘小隊は、有事の際に兵夜が指揮することを前提としている小隊だ。

 

 最低でも上級悪魔クラスの戦闘能力を保有していることが最低条件の、兵夜が動かせる中では間違いなく最精鋭の部隊。それゆえに指揮官として兵夜もしくはその眷属が随行することが条件で動いている。

 

「兄貴と雪侶さまは、現在お二人で行動しています。戦闘が四分割だったのでこれが一番均一に分散されていると判断されました」

 

「まあ、妥当な判断か。・・・シルシに通信を繋ぐ。早めに合流する必要がありそうだからな」

 

 増援に少し気が楽になりながら、しかし兵夜はどうしたものかと考えていた。

 

 ・・・従僕の戦闘能力はオリジナルより少し下といったぐらい。だがそれを魔剣で補っている。

 

 もし敵にも従僕がいれば、話は変わってくる。

 

 何より龍神の肉体を持つザイードがいた場合、その戦闘は困難となるだろう。

 

「あいつらなら大丈夫だろうが・・・さてどうしたものか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兵夜の心配をよそに、グランソードと雪侶はザイードを圧倒していた。

 

「そらそらそらそらそらそらそらそら!!」

 

「雪侶特性曲射魔法、フルコースをお食べなさいな!!」

 

「ぬ・・・うぅ・・・っ!!」

 

 残像すら見えるほどの高速連撃を叩き込んでくるグランソードに、その隙間を的確に縫うように放たれる雪侶の魔力射撃。

 

 見事な連携攻撃は全てにおいて高水準。お互いの実力が高く、かつ戦闘スタイルを把握していなければできないような連撃を前に、ザイードは防戦に追い込まれていた。

 

 戦闘経験はあり、そしてそれも高水準とはいえ、あくまでザイードは暗殺者である。真の意味での戦闘者とは違うのだ。

 

 それに対し、グランソードは生粋の戦闘者。闘争に高揚する精神を持ち、加えてそれらを中心として、自分の全てを使ってどこまでのし上がれるかを試した男。当然、その技量は戦闘方面が中心となる。

 

 頭として傘下についたオーフィスのために組織を裏切ったことで半ば捕虜に近い扱いとなりその夢は立たれた。・・・というより断つのが筋だと考えている。厳密にいうと悪魔側の各派閥は程度はともかくグランソードを相当の地位につけようとしているのでむしろ上手く行きそうだが、個人的にグランソードはそれは避けたいと思っている。

 

 その性質が現政権のリベラルさに頭を抱えたくなる保守派寄りの兵夜にとっては癒しなのだが、しかしまあそれは置いておくとして、彼は戦闘が非常に得意なのだ。

 

 若手悪魔でありながら、一派閥クラスの組織の長となったのは伊達ではない。異形業界では、戦闘能力がなければ組織の長などやってられないのだ。

 

 そして、彼の同期はどいつもこいつも若手の次元を超えた化け物の領域に到達している。

 

 空前絶後。最強の白龍皇になると断言されているヴァーリ・ルシファー。

 

 全てはエロスの名の元に。天界をエロに染め上げかけたエルトリア・レヴィアタン。

 

 堅物難物糞真面目。魔王達の遺志を宿す魔王剣ルレアベに選ばれたザムジオ・アスモデウス。

 

 その三人と同期に名を連ねるグランソードが、弱いなどということは全くない。

 

「確かにスペックは高いな。だが、その程度じゃ俺は押し切れねえぞ!!」

 

 反撃の拳を素早く流し、そのまま肘を叩き込む。

 

 彼の本質は近接格闘。それも、魔力による身体能力強化を踏まえての格闘だ。止めに、素の身体能力そのものもサイラオーグに匹敵している。

 

 あのサイラオーグですら、文字通りの全力を出したグランソードを倒すのならば獅子の鎧を使う必要に迫られるだろう程の実力を、彼は宿している。

 

 駒王戦役と呼ばれる一連の戦いでは目立たなかったが、しかし彼もまた真なる魔王ベルゼブブの末裔として、何ら恥ずかしくない実力を保有している真の実力者なのだ。

 

 ・・・ゆえに、この場において最も評価されるべきは彼でなければザイードでもない。ついでに言えば幼児ながらザイードから生き延びたヴィヴィオでもアインハルトでもない。

 

「グランソード? 少しペース落としてくれないといい加減誤射しそうですわ」

 

 そう文句を言いながら、雪侶はしっかりグランソードの連撃を縫うような援護射撃を絶え間なく続けている。

 

 威力そのものはそこまで高いわけではないが、このあまりにもかわしにくい曲射砲撃がザイードをスペックだよりのごり押しに持ち込ませない最大の要因だ。

 

 なにせ、この一撃はかなり危険だ。

 

「滅龍魔法を応用した魔法砲撃とは・・・! よもやここまでできるか!!」

 

「と、いうより滅龍魔法のデッドコピーとお思いください。あれ、なかなか高性能で完全な模倣ができませんのよ」

 

 そう言いながら雪侶は氷をバリボリと食べ、そして砲撃もまた色濃くなった。

 

 見事、としか言いようがない。

 

 狭い空間で下手したらビルの崩落もある中、雪侶はこの激戦に対して常に援護射撃を成立させていた。

 

「・・・一人では勝てんか。ここはいったん引かせてもらおう」

 

 ザイードは目の前の二人の脅威に対して勝ち目が薄いと判断すると、すぐに後退した。

 

 いかに龍神の肉体といえど、龍神そのものでは無いのだ。

 

 そこを考えればこれ以上の戦闘は不可能だった。

 

「ふむ、これは実に悔しいものだ。ゆえに、この報復は必ずさせてもらおうぞ」

 

「・・・グランソード! 追いますの?」

 

「いや、仕切り直されたらこっちが不利だ。・・・ここは見逃すしかねえだろ」

 

 追いかける気満々の雪侶を押しとどめながら、グランソードは後ろを振り返った。

 

 そこにいるのは動きに感激すらしているヴィヴィオと、どこかうつむいているアインハルトだった。

 

「なんかでっかくなってるが、お前ら、ヴィヴィオとアインハルトだな? ・・・ま、生きてて何よりだ」

 

「骨とか折れてるなら言ってくださいまし。フェニックスの涙を持ち込んでおりますのよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘は何とか終了した。

 

 だが、フォンフはいまだ真の意味での全力を出してなく、そしてコカビエルも動きを見せていない。

 

 そんな脅威に耐えねばならない状況の中、兵夜達の聖杯戦争は三日目の夜を乗り越えようとしていた。

 




と、いうわけでグランソードと雪侶どころかかなりの人数が増援に。ちなみに第一次舞台なのでもっと出てきます。





グランソードも雪侶もかなり強い方です。特にほら、グランソードはヴァーリとかエルトリアとかザムジオとかと肩並べなければいけませんから。


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一服、決断!

 

 カポーン

 

 そんな擬音が相応しい空間の中、兵夜は入浴剤の入った湯船に体を疲らせて、この数日で溜まっていた疲れを溶かしていた。

 

「・・・ふう。人員が増えたから俺も躊躇なく酒が飲める」

 

 さらに美酒を流し込み、体の内側からも疲れを溶かす。

 

 もちろんつまみをしっかりと用意してある。ことが温泉なので酒は日本酒でつまみは煮物。レトルトなのが難点だが、しかしそれでもだいぶ気分が楽になる。

 

「ほら、須澄君も一献一献。周りに護衛がいるこの機会を逃しちゃいけないよ」

 

「あ、いただきます。・・・不思議な味だね」

 

「すぐ慣れるさ。次第にこれが癖になるから」

 

 と、飲み慣れてない須澄に酒を進めながら、兵夜はふいーと息を吐く。

 

 何とか増援が来たことで、だいぶ気が楽になった。

 

 実際に来たメンバーは特別戦闘小隊だけでなく、堕天使側や教会側からも戦力が集まっていた。

 

 中には陣地生成担当などもおり、これにより陣地を形成することも可能となった。

 

 そして、特別戦闘小隊は兵夜に気を使って浴室まで持ち込んでいた。これを利用しない手はない。

 

 ここ数日は特に大変な日々だったのだ。これぐらいの息抜きはしてもいいだろう。

 

「・・・おい」

 

「なんだ暁? まあ、俺も未成年飲酒の常習犯だから飲んでも別にいいけど」

 

「そんなことは言ってないだろうが! いくらなんでも暢気すぎないかって言ってんだよ!!」

 

 ある意味当然のツッコミが遂に古城から入れられるが、しかし兵夜としては今更である。

 

「馬鹿だなぁ。ここ数日気を張り詰めていっぱいいっぱいなのはお前の方だろ。このチャンスを逃さず少し休んどけ。休息はとれる時に取っておくものだぞ、ホレ」

 

 と、兵夜は古城にも煮物を勧める。

 

 実際ほぼ民間人の古城にとって、この数日は桁違いのストレスのはずだ。

 

 そこを考えれば、増員が一気に増えて余裕が生まれたこの状況下は渡りに船である。

 

 荒事にのまれた経験の豊富な兵夜からしてみれば、一端の小休止にはちょうどいいと思っている。

 

「いや、美味いけどよ・・・なんていうか、ヴィヴィオとかアインハルトとかは友達のことが心配だろ?」

 

「そっちについても対策は取ってある。人員が増えるってことは捜索班を編成する余裕が生まれるってことだからな」

 

 実際にそこはきっちりしている。

 

 人員が増えたこともあり、当然のごとく捜索班は編成済みだ。

 

 それに、これまでにおいても何もしてなかったわけではない。

 

「クリスとティオの協力のもと、モンタージュ写真は作れたからな。だから顔認証システムを搭載したカメラを町中に設置してあるから、映ったらすぐにわかるはずだ」

 

「そ、そんなことしてたの?」

 

 いつの間にといわんばかりの表情を須澄が浮かべるが、しかし兵夜からしてみれば何を今更。

 

 もとよりそれが契約条件である以上、やることはちゃんとやっている。それが悪魔として当然の行動だし人道だ。

 

 むろん、捜索班にもカメラは大量に持たせ、各所に設置させてある。

 

 もちろん逆探知される危険性があるので確認は今まで気を付けて行ってきたが、もはやその心配もないだろう。

 

 なにせ、こちらも相当の大部隊を編成することができたのだ。こうなったら半ば自棄ではあるが堂々と基地を作って対抗するぐらいのノリで行くべきだろう。

 

 どうせ向こうも大きく動き出すだろうし、これでちょうどいいはずだ。

 

「ま、そういうわけだから上がった後も休んどけ。今日は半日休息に当てて、夜になったら再び探索スタートだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうも言ってられないのが世の中である。

 

「兄上、兄上」

 

「ん? どうした一体?」

 

 と、風呂から上がったとたんに雪侶が近づいてきて、兵夜は嫌な予感を察知して眉をひそめた。

 

「ああ、そういえばまだ挨拶が遅れておりましたわね。改めて初めまして暁古城さんに近平須澄さん。私は宮白兵夜の眷属悪魔にして妹の宮白雪侶と申しますの」

 

「どうも、ご丁寧にどうも」

 

「ああ、昨日は助かった。ありがとうな」

 

 と簡単に挨拶を交わしてから、雪侶は本題に入った。

 

「それで話を戻しますけど、シルシ義姉様がどうも元気が無いようですのよ」

 

「シルシが?」

 

 兵夜としては理由が思いつかなくて首をかしげてしまう。

 

「むう、その辺りは気を使っているつもりなんだが思い当たらない。雪侶、この愚兄にどういうことか説明してくれ」

 

「それが、どうもここ数日戦闘方面で叩きのめされ続けていることで意気消沈しているようですの」

 

 と、雪侶は困り顔で告げた。

 

 フェニックスに連なる家系であるポイニクスは、由緒正しき上級悪魔の末裔だ。

 

 そんな鳴り物入りで冥界の英雄の眷属悪魔になったのに、事実上の初実戦から苦戦続きなのがショックだったらしい。

 

「んなこと言ったってあいつらみんな化け物だろ? 気にする必要ないと思うけどな」

 

「そうでも、そうでもないよ。腕に自信がある人って負けるのが相当ショックだからね」

 

「そうなんですのよ。あとハイディさんもまだ落ち込んでいるようで、そちらのフォローもしなければなりませんし・・・」

 

 そう片手を頬に当てながら困り果てる雪侶の姿は実に絵になったが、しかしそんなことを考えている場合ではない。

 

「そうなんですよ、暁先輩」

 

 と、そこに同じく困り顔の雪菜達も現れる。

 

「姫柊に浅葱もか。・・・どうなんだ?」

 

「何でもないように見せようとしてるけど、全然隠せてないわね。結構ショックみたいよ?」

 

「マジか藍羽。・・・コカビエルにザイードと強敵だらけだからな。上級悪魔の末裔だからといって、実戦経験のほぼないシルシが負けたって文句なんて言うつもりはないんだが・・・」

 

 兵夜としてそういう他ないのだが、しかしそういうわけにもいかないだろう。

 

「とはいえ、あいつ結構本気で俺の力になりたそうだったし、ショックなのかもな」

 

 そう判断すると、兵夜はすぐに対策を考える。

 

「だとすると、俺が直接慰めるのは返って逆効果になりそうだな。時間はあまりかけられないが、少しそっとしておいた方がいいような気もするが」

 

「いやいや、それはダメだろ大将」

 

 と、そこで新たに乱入者が登場。

 

 グランソードがヴィヴィオとアインハルトを連れて更に現れた。

 

「なに? なんなのその取り合わせ」

 

「ん? ああ。体術には俺様も少しは心得があるんでな、ちょっと気分転換もかねて組手をやったんだよ」

 

「すごいですグランソードさん! 私の周りにも格闘技を使う人は多いですけど、この人と格闘で戦える人なんてノーヴェかスバルさんぐらいです!」

 

「いい経験になりました。ありがとうございます」

 

 明らかに尊敬の色が込められている視線を二人に向けられ、グランソードは口元を緩める。

 

「いいセンスをしてる子供たちに言われるとは嬉しいね、カッカッカ」

 

「確かに、異種格闘技戦とかはいい経験になるしな。ああ、これが終わったら一度揉んでやれ」

 

 兵夜は許可を出すが、しかしすぐに本題に入る。

 

「それはともかく、そっとしたらだめってどういうことだ?」

 

「あ? んなもん決まってんだろ」

 

 何を言っているのかといわんばかりの顔をグランソードは浮かべ、そして雪侶も兵夜の肩に手を置いた。

 

「兄上。傷心の女性を慰めるのは男の本懐ですのよ? ここで一気にフラグを立てて堕としてきなさいですの」

 

「よし、昼飯まで本格的に寝るか」

 

 兵夜は速攻で取り合わないことを選択した。

 

 雪侶とグランソードは速攻でそんな兵夜を押しとどめた。

 

「いやいや大将! その反応は好かれている男としてどうかって話ってもんだろうが!!」

 

「グランソード。俺は不倫をする気はない」

 

「兄上! 四人も美女を娶っているのですから、ここは勢いよくイッセーにいに負けじとハーレム御殿を建設するべきですの!!」

 

「純愛だから、純愛だからな!!」

 

 縋り付くレベルで動きを封じようとする二人を引きはがそうとするが、グランソードと身体能力で勝てるわけがないのでまったくもってうまくいかない。

 

「あの、グランソードさんも雪侶さんも、宮白さんにハーレムを作らせようと躍起になっていませんか?」

 

「冥界じゃあハーレムなんて珍しくもないんだし、それが理由なんじゃねえのか?」

 

「違うよ、それは違うよ。珍しくもないからってわざわざハーレムを作らせる理由にはないって」

 

「でもさぁ、だったら理由って何よ?」

 

 外野が話し始めるが、誰一人として助ける気はないらしい。

 

 もう増やしたらいいんじゃないの? っていう感じになりかけている節がある。

 

「ええい! アイツが俺に好意を持っているのは分かっているが、それは本当に直接的に関わったわけじゃないんだからな!」

 

 そう、それこそが兵夜の理由の大きな一つであった。

 

 好意を持たれていることは自覚している。そして、理由に関しても察している。

 

 扱いに困っているどころか、地獄すら見せているといってもいい能力を何とかしてくれたのなら、恩人に対する感謝を持ってもおかしくない。ましてやそれが異性なら、恋愛感情に発展してもおかしなことではない。

 

 だが、別に相手がシルシだから助けたわけではない。というより助けた覚えもないといっていい。

 

 ただ技術発展の書類にOKを出したり、その技術開発を行うことを勧めたりしただけなのにそれを理由に告白されても困るのだ。

 

「たまたま利益のための行動で間接的かつ結果的に助けたのが理由で惚れられても、素直に受け取れないだろ」

 

 誰でも助けたとかいうどころか、助けた自覚もないことで好意を持たれても困ってしまう。

 

 それをいいことにむさぼるような真似は、卑劣な気がして嫌だった。

 

「・・・だから半端に刺激して、フラグを立てるのだなんて絶対ダメだ」

 

 そう、それに関しては断言していい。

 

 ここでそれを利用して蜜をすするのは、間違いなく卑怯で卑劣な行いだ。

 

 戦闘においてはそれしか手がないのなら使用することをあり得るのが兵夜だが、恋愛という誠実であるべき場においてそんなことをする気はない。

 

 だから、それは絶対にしない方がいいと決意を決めて―

 

「じゃあ、伝えた方がいいと思います」

 

 と、後ろから声が届いた。

 

「・・・ヴィヴィ?」

 

 思わぬ人物からの思わぬ言葉に、兵夜はぽかんとして振り向いた。

 

 そして、全員の視線を集める中、ヴィヴィオが毅然とした表情で兵夜を見ていた。

 

「だったらちゃんと言わないとだめです。そっちの方が絶対いいです」

 

「えっとね? その、ね? そりゃ確かに振る時はいっそ一思いに振った方が心の傷が少ないとは言うけどね?」

 

 兵夜としては少し戸惑ってしまう。

 

 なにせことが政略結婚まで利用してのことなのだ。

 

 ぶっちゃけ兵夜の立場だと断りずらい。

 

「でも言わなきゃだめだと思います」

 

「・・・なんで、そう思うんだ?」

 

 やけにはっきりというので、兵夜はすこし居住まいを正して真剣に聞くことにする。

 

「私が、聖王オリヴィエのクローンだって話は、ちょっと前にしましたよね」

 

 確かにそう聞いている。

 

 ゆりかごと呼ばれる兵器の起動を行うために創られたのが高町ヴィヴィオという少女だ。

 

 ぶっちゃけ魔術師的には普通にあり得る話だが、しかし当人からしてみればかなり精神的に来ることがあるだろう。

 

「・・・体も心もいうことが利かなくて、私は自分のことを愛してくれる人すら殺しかけました」

 

 何か言うべきだろうか。

 

 いや、今はまだいうべきではない。

 

 兵夜は堪えて、静かに彼女の言葉を聞く。

 

「その時あの人に教えてもらったのは、ぶつかり合わなきゃ分からないこともあるってこと。そして、大事な思いはちゃんと示さないといけないってことです」

 

 まっすぐと、ヴィヴィオは真正面から兵夜を見る。

 

「ぶつかり合わないと分からないことはいっぱいあります。伝えたいことがあるなら、逃げちゃだめです!」

 

 その言葉は、確かに正論すぎて耳が痛かった。

 

 確かに、少しいい加減に対応しすぎていたかもしれない。

 

 なにせ恋愛事は実をいうと苦手だ。ましてやそれが隠れ蓑に政略結婚が見えているうえにそれすら隠れ蓑にしているのだからややこしい。

 

 だが、確かにだからこそはっきり言わないといけないところもあるだろう。

 

「・・・そうだな。うん、そうだ」

 

 兵夜は苦笑すると、ヴィヴィオの頭を優しく撫でる。

 

「君みたいな子供に、恋愛で説教されるとは俺もまだまだだ。これで何ハーレム作ってるんだろうな、俺は」

 

「だ、大丈夫です! 兵夜さんはいい人ですから、ちゃんと言えば分かってくれます!」

 

「ああ、そうだといいな」

 

 子供に発破をかけられては逃げるわけにはいかない。

 

 兵夜は、とりあえず真剣に答えることを決めて立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもヴィヴィオちゃん? 男を見せて誠実に対応してしまった結果、余計に惚れてしまうこともあるのですわよ?」

 

「え、ええ!?」

 

「おい雪侶、子供相手になに余計なこと言ってんだ」

 

「全部台無しだろ、それ」

 




子供に説教される情けないシチュエーションではありますが、皆さんちょっと待ってほしい。

 相手は説得(物理の使い手高町なのは直伝の担い手です。・・・こんな簡単に済むと思ってたらあきまへんで・・・!


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フラグ、たてちゃいました!?

ハイスクールD×Dのまとめウィキを作っちゃいました。

URLは活動報告に記載してあります


 仮設基地の外、休憩用に設置されたベンチに座りながら、シルシは一人黄昏ていた。

 

「何、やってるのかしらね」

 

 正直、自分にそこまで自信があったわけではないと思っていた。

 

 なにせ実戦経験もろくになければ、上級悪魔としても戦闘能力はそこまで高い方ではないと自覚している。

 

 そんな自分が戦闘でそこまで役に立てるとは思っていなかったが、しかしやはり実際に体験してみるとショックだった。

 

 神の子を見張るものの1人に龍神を宿すもの。

 

 普通に考えれば負けて当然の戦いに負けた程度で、しかしシルシはとてもショックを受けていた。

 

実に馬鹿らしい。お前は自分が超人だと思っていたのか。

 

 そう自嘲するが、しかしそれでも思ってしまう。

 

 若くして魔法使いの組織のエリートだった雪侶。

 

 魔王の末裔として恥じない実力を持つグランソード。

 

 そして冥界の英雄の1人である宮白兵夜。

 

 宮白兵夜眷属は誰もかれもが超人であり、間違いなく優れた傑物ぞろいだ。

 

 兵夜は確かに秀才の部類だろうが、それでもあらゆる手段をもって勝利を手にしてきた逸材だ。彼のそれを評価しているからこそ、自分は彼の眷属になっているのだから。

 

 そうだ、これは極めて簡単な部類。

 

 ただ単純に、彼の役に立ててない事実に対して悔しいという、極めて簡単な理由だった。

 

「私、弱いわねぇ」

 

 ・・・はっきり言って、政略結婚をにおわせているゼクラム・バアルからの兵夜の眷属になるようにとの勧めは渡りに船だった。

 

 自分も彼の眷属になれればいいと思っていたし、そういう意味では好都合だった。

 

 だが、しかし、すぐに気づくべきだった。

 

 シルシ・ポイニクスは宮白兵夜の眷属になりたかった。だが、シルシ・ポイニクスは宮白兵夜の眷属としてふさわしい実力を持っているのだろうか。

 

 果たして、龍神の血肉を宿したザイードと渡り合ったあの二人の同僚として、自分は本当にふさわしいのだろうか。

 

 自問自答しても、答えはNOとしか言いようがない。

 

 涙が出てきそうになるのをこらえながら、シルシは弱音を吐きそうになってしまう。

 

「私、役立たずよね・・・」

 

「んなわけないだろ」

 

 と、目の前に日本酒のカップが突き出された。

 

「・・・兵夜さん?」

 

「とりあえず、こういう時は酒飲んで流すのが一番だ。・・・おごりだ」

 

 そういいながら兵夜はワンカップをシルシの手に握らせる。

 

 未成年飲酒になりそうだが、まあこんな土地だから問題はないだろう。

 

 そう判断して一口飲む。

 

「あら、意外と変な味がするのね」

 

「まあ、安物のワンカップだからな」

 

 そういいながら兵夜もワンカップを呼び出して一口飲む。

 

「くぁ~。最近大変だったからしみるぜぇ」

 

「へぇ。そういう風に楽しむものなのね」

 

 感心しながら酒を飲む中、兵夜はふと微笑みながらシルシの頭をなでる。

 

「昨日は助かった。ああ、本当に助かった」

 

「・・・そんなことはないわよ」

 

 シルシとしてはろくに何もできていないとすら思えているので謙遜抜きでそう言い切るが、兵夜はそれに失笑を返す。

 

「ザイードに負けたことが悔しいなら気にするな。今の奴は化け物だ。俺だって強化武装がない今の状態では防戦一方だろう」

 

「でも、防戦はできる自信があるんでしょう?」

 

 それではだめなのだ。

 

「私は、神喰いの神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)の眷属なの。それなのに、戦ったらあの様じゃあ、話にもならないじゃない」

 

 そう、宮白兵夜はただの転生上級悪魔ではない。

 

 転生後一年足らずで最上級にすら手が届いた、間違いなく冥界の英雄の一人なのだ。

 

 その眷属である自分が、こんな情けないような醜態をさらすわけにはいかないのに。

 

 涙が出てきそうになり、シルシは目を閉じてこらえようとして―。

 

「何を言っている。むしろ今回一番活躍してるだろう」

 

 あっさりと言い切った兵夜の言葉に、ぽかんとなった。

 

「え?」

 

「あのなあシルシ。兵士っていうのは何も戦闘を行うだけの存在ってわけじゃない」

 

 兵夜はそういって肩をすくめる。

 

 実際、軍隊というのは戦闘担当だけで構成されているわけではない。

 

 兵器の整備兵などは直接戦闘を担当しているわけではないし、衛生兵なども当然だ。

 

 戦闘ではなく偵察を担当する兵士もいるし、移動するための車両を運転する者も直接戦闘を担当するわけではない。

 

「俺は、お前はそういう方面が主軸だと思って運用してるぞ?」

 

「・・・でも、役に立ってる?」

 

「立ってる立ってる。お前は自分がチートなのを自覚しろ」

 

 実際、千里眼は規格外の能力だ。それがあるとないでは大きく違うといってもいいだろう。

 

 シルシの本質は千里眼を活用したサポートタイプ。加えて、ポイニクス家の素質ゆえに生存率が高いのが最大の利点だ。

 

「実際、グレイスたちとの戦いでは大活躍だったろ? 自信もっていいって」

 

 そういいながら頭を撫でられると、こんどは別の意味で涙を流しそうになってしまう。

 

「・・・バカねあなた。女の子は、悲しい時にやさしくされるとすぐにほだされるのよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっちまったぁああああああああ!

 

 兵夜は心の中でそう絶叫したのが手に取るようにわかる。

 

「何やってんだあのバカ大将。フラグ折りに来たのにフラグ立てやがった」

 

「ナチュラルに女たらしなんですのよ兄上は。イッセーにぃのことを笑えませんわね」

 

 しっかりロングレンジでカメラを使ってのぞき見しながら、グランソードと雪侶はばっさりと切り捨てる。

 

「いや、あんたら俺たちを巻き込んで何してんだよ!!」

 

「あの、これはやっぱり失礼な気がするんですが・・・」

 

 流されてここまで巻き込まれた古城と雪菜が後ろから苦情を漏らすが、もはや二人とも欠片も聞いていない。

 

「どうしますのグランソード。このままだと義姉様がたにどう申せばよろしいのでしょうか」

 

「素直に全部説明して謝ればいいんじゃねえか?」

 

 そんなことを相談しながら、二人は容赦なくのぞき見を敢行していた。

 

「・・・逃げよう、逃げた方が後でいいわけができるよ」

 

「えっ? でも、でもでもっ! すごく気になるよっ!」

 

「ですが、やはりこういうのは悪いことのような気が・・・」

 

 須澄にトマリにアインハルトに、割と全員集めているという体たらくである。

 

「兵夜様が結局フラグを立てるに五千!」

 

「シルシさんが逆に攻め込むに一万!」

 

 さらに外野が賭け事まで始めていた。

 

『・・・ねえ、兵夜さん』

 

 と、そこでシルシが話だし、全員が思わず沈黙する。

 

『シルシ、俺は・・・』

 

 兵夜も意を決したのか声をかけようとして、しかしシルシはその唇に手を置いた。

 

『いいのよ。ええ、いいの』

 

 静かに、はっきりとシルシは拒絶の意志を示した。

 

「あれ? シルシさんの方がとめてきたわね」

 

「シルシ義姉様? 何事ですの?」

 

 浅葱と雪侶がいぶかしむ中、シルシは微笑みながらはっきりという。

 

『貴方の言いたいことはもうわかってる。そうね、仕事の一環で間接的に救われたからって、それで好意を向けられても困るものね』

 

 そうこまったようなほほ笑むと、シルシは立ち上がった。

 

『・・・そういうわけだから、そこの外野はのぞき見しないようにね』

 

「ばれてますのぉおおおおお!?」

 

 千里眼を舐めてはいけなかった。

 

 そして、もちろんそんな言葉をすぐに言われて気づかないわけがなく。

 

『・・・ふむ』

 

 兵夜は静かに立ち上がると、静かに音楽を流し始めた。

 

 ダダンダンダダン♪ ダダンダンダダン♪

 

「やっべえマジでキレてる!」

 

「撤収ですの! 全員急いで走りますのよ!!」

 

「くそ! 賭けはノーコンテスト化!!」

 

「いいから走れ、急ぐぞ!!」

 

 主がブチギレていることをすぐに理解できるのが、この部隊のいいところだった。

 

「速く走れ! 兵夜様は本気で切れるとあの音楽流すんだ!」

 

「どんな癖だよ! っていうか俺たち無理やり連れてこられたのに何でこんな目に!!」

 

「なんで!? なんで僕たちまで戦犯に!?」

 

 古城たちからしてみればとんだとばっちりだが、しかししっかり覗いているのである。

 

 ゆえにこのままだと怒られる。

 

 逃走劇が始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てお前らぁあああああああ!!!」

 

 巨大なメイスを構えながら走り出す兵夜を見送って、シルシは小さく笑みを漏らした。

 

 いつもの自分なら勢いに任せて抱き着いたりするぐらいはしてもいいと思うし、人に見られている程度でその程度を気にする性分でもない。

 

 だが、本心から慰めてくれた後にあんな困った顔をされたらさすがに無理だ。少しかわいそうになってしまった。

 

 本当に恩人だと思っているから、その一線だけはきちんと守らないといけない。

 

 だから、この本当の想いは胸に秘めておくべきで―

 

「あの、よかったんですか?」

 

 と、そこで声がかかった。

 

「あら、ヴィヴィちゃん」

 

 そういえば向こうにはいなかったが、どうやらすぐ近くにいたらしい。

 

 いかに千里眼とはいえ、人ひとりの知覚能力には限界がある。灯台下暗しとはこのことだろう。

 

「まあ、あのタイミングで勢いよく迫れば既成事実の一つぐらいできそうだけど。衆人環視で浮気なんてさすがにかわいそうだもの」

 

「そうじゃなくて、本当に言わなくていいんですか?」

 

 はっきりと、ヴィヴィオのそう切り込まれ、シルシはピクリと肩を震わせた。

 

 間違いない。子供に気づかれるとは未熟すぎるが、彼女はうっすらと気づいている。

 

「・・・どこまで、気づいてるの?」

 

「兵夜さんに、何か隠しごとがあるのはわかります。たぶんですけど・・・それが一番の理由なんですよね?」

 

 その言葉に、シルシはふと苦笑してしまった。

 

「貴女、カウンセラーに向いているんじゃないかしら? 格闘家に挫折したら目指すといいわよ」

 

 皮肉ではなく素直にそう思うが、図星を突かれた後だとどうしても嫌味になりそうだ。

 

 だが、これはできれば言わない方がいいだろう。

 

 恩人に対する好意であることは、間違いなく事実だ。

 

 それを利用しての政略結婚なのだということも想定内だし、むしろ望むところと思っているのも事実。

 

 だが、宮白兵夜も宮白雪侶もグランソード・ベルゼブブも、一番大事なところで勘違いをしている。

 

 それ察してあえて隠しているのはつまるところ単純な理由であり―。

 

「・・・照れくさいのよ、正直に言うと」

 

 子供の様に顔を赤くしてしまうようなことなのだ。

 

「悩んでいた目をどうにかしてくれた恩の方が、恥ずかしくないのよ理由としては。だって・・・」

 

 あんなちっぽけな理由で好意を覚えて、しかも自分でも抑えられないぐらいぞっこんになるだなんて、馬鹿らしい。

 

 そう言おうと思ったが、それより先にヴィヴィオが手を握った。

 

「駄目です」

 

 その行動に、シルシは彼女の人生が壮絶であることを思い出す。

 

 ただ年月を積むだけのことを経験とは言わない。

 

 経験とは積み重ねること。バリエーションや密度こそが重要であり、そういう濃い人生を送ったものは、深みのある人生経験を持つがゆえに時として年齢より大人に見えるものだ。

 

 ある意味兵器のシステムとして生み出され、特殊な人生を歩んできたヴィヴィオは、或る意味でシルシより大人だった。

 

「恥かしいかもしれないけど、それが本当に兵夜さんが大好きな理由なら、はっきり伝えないとわかってもらえないと思います」

 

 まっすぐに、

 

 真剣に、

 

 隠すことなく、

 

 ヴィヴィオはシルシの目を見てそういった。

 

「それが、私がママたちから教わったことですから。きっとその方がいいと思うんです」

 

 それは、彼女自身の人生の結論でもあるのだろう。

 

 だからこそ、その言葉には深みも重みをしっかりと存在していた。

 

「・・・子供にここまで言われると、ちょっと自分が恥ずかしくなるわね」

 

「あ、ごめんなさい! 私子供なのに偉そうなこと言っちゃって!」

 

 慌ててヴィヴィオが両手を振りながら謝るが、シルシはそんなヴィヴィオの頭をやさしくなでる。

 

「いいえ。確かに、理由がしっかりある好きなら、確かにそれを言わなきゃ伝わらないわよね」

 

 いずれ、と頭につけることになるだろうが、確かに言った方がいいのだろう。

 

 むしろそっちの方が引かれるかもしれない。なにせ、この理由は表向きのに比べればあまりにもちっぽけで子供みたいな理由なのだから。

 

 だけど、それが理由なら仕方がない。

 

「ええ、勇気をくれてありがとう。私ももうちょっと先輩らしく頑張るわ」

 

「・・・はいっ!」

 

 そういいながら、二人は笑顔を交わし合った。

 




確かにそれは理由の一つ。

だけど、最大の理由はそこにはない。









一応、この作品は恋愛方面結構考えて作っています。

ハーレムラブコメをするための道具っていうのもひどいですからね。一人一人にちゃんとしたドラマを用意したいのです。


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三度目の来襲

 

「・・・事情は分かった。あいつらの晩飯は一品減らすとして、とりあえず引っ張り込まれたのは斟酌しよう」

 

 結局逃げ遅れた古城たちを正座させて、兵夜はしかし寛大な態度を見せた。

 

 もとよりラブシーン公開処刑の異名すら持つ、恋愛沙汰を人に見られる男が兵夜である。

 

 今更ラブコメを一つ見られたぐらいで、半分巻き込まれたような者たちまでいちいちボコるのも馬鹿らしいというものだ。

 

「考えてみればキスシーンをたいがい人に見られる俺が、フラグ立ての一つをのぞき見された程度で今更ここまで取り乱すのも馬鹿らしいしな」

 

「いや、いやそれは別の意味で取り乱した方がいいと思うよ」

 

 なんてことないように言った兵夜の言葉に須澄は苦言を呈すが、しかしこればかりはどうしようもない。

 

 なにせ自力でどうにかできたかというとどうにもできないところがいくつもあるからだ。

 

 一部空気を読めばそんなことはどうにかなったというパターンもあるが、ほとんど状況という名の濁流に流されたようなものだ。果たしてどうにかできたのかというとまったくそんな自信はない。

 

「にしてもよ。シルシさんはあんだけ好意見せてんだから、もうちょっとはっきり態度に示した方がよくないか?」

 

「いうな。結局流されてはっきり示せなかったのは反省してる。あとお前が言うな古城」

 

 お前は別の意味で問題なのだと暗に非難してから、兵夜はしかしため息をついた。

 

 はっきり「そういう形の好意には答えられない」と告げに行くつもりが、見当違いの落ち込みを見せていたのでフォローを入れてしまった。

 

 見事にフラグを立ててしまったのをいまさらながらに自覚する。これはまずい、実にまずい。

 

 不倫はダメだ。冥界がいくらハーレムOKだとは言え、誰一人として連絡することができない状況下で妻を新たに作るなどというのはちょっと不誠実だろう。いい加減だろう。

 

 だから何として持ちこたえなければならないのだが、さてどうしたものか。

 

 考えても埒が明かないし、いまから戻っていってもさすがにそれは空気的に無理があるので、兵夜は気分を切り替えることにした。

 

「まあいいや。よければ須澄君は魔術の勉強しないか?」

 

「え? 魔術の?」

 

 戸惑う須澄の前で、兵夜はやけに生き生きと参考書を呼び出しして広げていく。

 

「前にも言ったが君は資質がそこそこある。決してトップにならないだろうが、やり方次第なら開位ぐらいは狙えるだろう」

 

 ニコニコ笑顔を浮かべながら、兵夜は参考書の一つを差し出した。

 

「取れる手段があるってのはいいことだ。最近は電子操作魔術などの研究もおこなわれているし、魔術を道具として使ってみるのもいいかもしれないぞ?」

 

 そう告げる兵夜に対して、しかし須澄は怪訝な表情で口を開く。

 

「あの、あのさ。前から少し聞きたかったんだけど・・・」

 

「なんだ?」

 

「なんで、そこまで僕に良くしてくれるの?」

 

 その言葉は、やけに響いた。

 

「ヴィヴィオちゃんたちはわかるよ? 完璧な被害者なわけだし、そりゃあ助けるのが人情だ。だけど、僕たちは胡散臭いと思われたっておかしくない」

 

 それは客観的な事実だろう。

 

 なにせ一応聖杯戦争の参加者だ。欲望のために人殺しを肯定しているといってもいい危険人物だ。

 

 そんな人物がいきなり現れれば普通は警戒する。ましてや、この世に一つしかないとかいう聖槍を保有しているのだ。何から何まで怪しいだろう。

 

 そして宮白兵夜はお人よしだがそれだけじゃない。こういう時の警戒はきちんとできる人物のはずだ。

 

 にもかかわらず、彼は何の躊躇もなく古城たちと同様の扱いを・・・それ以上に気を使っているといってもいい。

 

 余裕がないにもかかわらず、魔術を教えようとしてきたこともそうだ。

 

 確かに将来的には有効かもしれないが、間違いなく時間がかかるだろうに、彼は須澄の将来のためになることをしようとしている。

 

 それに、それにだ。

 

 ・・・須澄は少しだけ兵夜に疑念を抱いている。

 

 才能なんてものは、そう簡単に見抜けたりはしないものだ。

 

 にもかかわらず、兵夜は須澄の魔術特性をぺらぺらと口にした。

 

 なんで、そんなことがわかるのだ?

 

 そして何より、彼が自分を初めて見たときの顔が気になっている。

 

 あの驚き方は、聖槍ではなく須澄自身を見て見開いたものだった。

 

「僕と、僕とあなたに、いったい何の関係があるの?」

 

「・・・・・・」

 

 沈黙は、肯定と同様だった。

 

 今、兵夜は自分と須澄に何かあるということを、意図せず肯定してしまった。

 

「・・・あ、あの、ここで仲間割れをするのはよくないと思うんですが」

 

 微妙に不穏な空気になったので雪菜がとりなそうと声をかけるが、それを遮って大きな音が響く。

 

「ひょ、兵夜さま! 大変です!!」

 

 泡を食ったような顔で、兵士の一人が其の場に駆け込んできた。

 

「え? あ、今ちょっと取り込み中―」

 

「いい、いいよ。あとで聞かせてもらうから」

 

 須澄はここでいったん引くことにした。

 

 疑念はある。だが同時に信用もしている。

 

 少なくとも兵夜自身は須澄に悪意を抱いているわけではないのだ。

 

 疑念を抱えたままだと何かミスをしてしまいそうだから聞いてみたが、後で聞いても問題はないだろう。

 

 そう思っていた須澄だったが、その疑念が吹き飛ぶようなことを兵士は告げた。

 

「捜索するよう言われていたリオ・ウェズリーとコロナ・ティミルがカメラに映りました!! アルサム様の眷属と一緒にいます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ホントです! リオにコロナだ!」

 

 カメラの映像を確認して、ヴィヴィオは涙すら浮かべて喜んだ。

 

 そこにいたのはシェンと名乗ったアルサムの眷属とともに町中で誰かを捜していると思わしく少女二人。

 

 念のために顔写真を使って浅葱に照合してもらったが、99,99パーセントの確率で同一人物と出ているほどだ。

 

「これは、安心するべきは不安になるべきか」

 

 正直兵夜として頭を抱えたくなる。

 

 何とか探し出して保護したかった少女二人の無事が確認されたのは良いが、よりにもよって聖杯戦争の参加者の元に保護されているというのが問題だ。

 

「ですが、あの人はこれまでも卑劣な手段はとらないどころか何度も私達を助けてくれました。・・・人質にとるような真似はしないと思いますが」

 

 雪菜の意見には全面的に賛成だが、それはそれとしてややこしい。

 

「確かに奴なら人質作戦には出てこないだろうが、だからといって敵一歩手前の奴の手元に味方の身内を置いとくわけにもいかんだろう・・・」

 

 そう、そこが問題だ。

 

 アルサムは政府に無断で聖杯戦争に参加しているという問題点がある。

 

 短いながらも卑劣な策や願いを持っているわけではないと思うが、しかし無条件に気を許せる相手でもない。

 

 ましてや、人のことは言えないがこんな治安の悪い場所に子供を連れまわしているのだ。

 

「リオさんもコロナさんも自衛はできるからこそ外に出しているのではないでしょうか? お二人はあの年ではかなりの強さを持っていますから」

 

「そうなのか? 最近の小学生はすごいんだな」

 

 後ろでアインハルトと古城の会話を聞きながら、兵夜は少し考える。

 

 そして、すぐに割り切った。

 

 どちらにせよ、早くいかなければ二人は移動してしまう。

 

 なら早く行って捜した方がいいだろう。

 

 アルサムの性格ならば、無関係な民を巻き込むような真似は好まないはずだ。ならいったん交渉する余地はある。

 

「・・・シルシと藍羽はモニター頼む。俺たちで二人に会いに行くぞ」

 

「いいの? 会ったら会ったで面倒なことになりそうだけど」

 

 シルシの意見ももっともだが、しかし早めに解決しておかないと大変だ。

 

「アルサムは決して悪人ではない。だから言ってはなんだがあの二人が好感を抱いて協力を志願する・・・もしくはしている可能性もある。下手に長引かせて友達同士で戦闘なんて駄目だろう」

 

「・・・そういう可能性を考慮しなきゃいけないって大変ね」

 

 兵夜の割と危機感を漂わせる説明に、シルシたちは頭を抱えたくなった。

 

 実際アルサムは立派な貴族と例えるべき人物であり、確かに好感を抱いてもおかしくないような人格者だ。

 

 兵夜たちと知り合わずにアルサムに拾われていた場合、彼に協力を申し出る可能性はあるかもしれない。

 

「まあ、真昼間からならアルサムも話し合いにはのっかってくれるだろう。・・・くれるといいなぁ」

 

 兵夜の願望が、割と全員の心からの願望だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして外に出て、カメラに映った場所に兵夜たちはたどり着いた。

 

「ここに、リオとコロナが・・・!」

 

「OKヴィヴィ。すこし落ち着こうか」

 

 はやるヴィヴィオの肩に手を置きながら、兵夜は使い魔を飛ばして様子を見る。

 

「これだけ数が多いとさすがに見つけるのは一苦労だな」

 

「じゃあどうするんだ? 分かれて捜すか?」

 

 古城の言うことは普通に考えれば当たり前の判断だが、しかしこの極限状況下ではそういうわけにもいかない。

 

「半端に、半端に少人数になったらエイエヌ達に襲撃されるよ。人数は半分ぐらいに分けておいた方がいいような気がするけど・・・」

 

 そういいながら須澄は周りを見渡す。

 

 比較的治安がいい方の町の部分ではあるが、それでもこのあたり全体の治安が悪いことは間違いないのだ。

 

 襲われても返り討ちにできるだけの戦闘能力を全員が保有しているとはいえ、分散することはできるだけ避けた方がいい。

 

「そうだな、やるにしても二班程度にした方がいいだろうし、それよりも手っ取り早いことがあるだろう。・・・シルシ!」

 

 兵夜すぐに通信機でシルシを呼び出した。

 

「早速出番だ。俺たちはカメラをさらに増設させるから、その間に千里眼でこのあたりを調べてくれ。あと藍羽もいるか?」

 

『カメラの監視とシステムの調整をしろってんでしょ? わかってるって、助けてもらった借りぐらい返すわよ』

 

 ならば大丈夫だろう。

 

 すでにこのあたりから大きく離れていたら厄介だが、しかしそこまで行っていなければ見つけられるはずだ。

 

「なんとしても合流して、心置きなく聖杯戦争に臨めるようにしないとな」

 

 そういいながら、兵夜は周りに視線を向け―

 

「―ん?」

 

 違和感に気づいた。

 

 そして、それに気づいたのは兵夜だけではない。

 

「なあ、大将。俺たち、見られてねえか?」

 

 グランソードも気が付いたのか、兵夜を護衛するように背中合わせになると、静かに視線を周りに向ける。

 

「そういえば、言われてみるとどこからともなく見られているような・・・」

 

「誰かつけているのかなっ?」

 

 アインハルトとトマリも気づき始めている。

 

 だが、事態はどうやらそんなレベルでは全くなかった。

 

『・・・兵夜さん、逃げて!!』

 

 泡をくったようなシルシの悲鳴が通信越しに響き渡る。

 

「そこのいるの、全員魔獣よ!! 囲まれてる!!」

 

「・・・なっ!?」

 

 その言葉に得物を出した上で構えれば、ゆっくりとその場にいる者たちが構えを見せていた。

 

 そこから取り出したのかナイフや釘バッドなどを構え、数千人の従僕たちは、一般市民の姿でこちらをにらみつけていた。

 

「・・・こんなに大量に用意できるのかよ、従僕ってやつは!!」

 

「先輩、眷獣は控えてください。中には一般人がいる可能性もあります!!」

 

 古城の前に出ながら、雪菜は雪霞狼を構える。

 

「従僕って気絶するのかな? しないと大変なんだけど・・・」

 

「場合によっては骨を砕くぐらいは覚悟するべきでしょう。・・・一般人を巻き込まないように慎重に動かないと」

 

 さらにヴィヴィオとアインハルトも並び立った。

 

「それで、それでどうするの?」

 

「まあ、こんなところで大暴れするわけにもいきませんの。・・・逃げに徹した方がよさそうですのね」

 

 雪侶が須澄に答えながら、上空に魔力の砲撃を数十発ほど射出する。

 

「着弾と同時に走れ! 廃墟区画は遠いから、海岸線まで出るぞ!!」

 

 兵夜も煙幕弾をまき散らしながら、後詰の牽制をするべくイーヴィル・バレトを展開した。

 



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これは戦争か聖戦か

 

 いくつもの銃声が鳴り響いたのを耳にして、アルサムは眉をひそめた。

 

「・・・む。これは、いかんな」

 

「と、申しますと?」

 

 隣を歩いていたシェンが首をかしげるが、アルサムは顔をしかめながら音のする方に振り向いた。

 

「残りの参戦者がだいぶ少なくなっている以上、あの戦闘は宮白兵夜が関わっている可能性がかなり大きい。・・・どうやらエイエヌも本腰を入れて排除しに来ているようだな」

 

「では、例の二人がそこにいる可能性もあるのですね」

 

 確かにそれはまずいと、シェンも眉間にしわを寄せる。

 

 彼女達に危害が加わるのは最も避けねばいけないことだろう。

 

 なにせ、今後の冥界の未来を左右するといってもいい協力者の協力条件といってもいいのだ。可能な限り守らなくてはならない。

 

「しかし、ああいう特徴的なことは前もって教えてほしかったものだ。・・・それさえ聞いていればあの日の時点ですぐにわかったものの」

 

「まあ、まだまだ子供ですからミスはあるでしょう。我々がフォローすればよろしいだけです」

 

「まあ、それが年長者の務めということか。これからはもう少し深く特徴を聞いておくことにしよう」

 

 そういいながら、二人は通信の魔法陣を開いて命令を飛ばす。

 

「斥候を送れ。私もすぐにそちらに向かう」

 

 アルサムは、戦闘が続いている方へ視線を向けながら、わずかに不安の感情を浮かべた。

 

「できれば、無事でいてほしいものだがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海岸まで辿り着いた兵夜達は、そのまま横に曲がることで戦闘空間を形成した。

 

 幸い、海岸線は弧を描いており比較的被害を抑えられそうな地形になっている。

 

 従僕達も頭が悪いのか、そのまま兵夜達を追いかけてきていた。誰一人として回り込もうとはしていない。

 

 それなら好都合だ。

 

「解析は終わった。あそこにいるのは敵だけだ! 暁、まとめて薙ぎ払え!!」

 

「わかってる! やっちまえ獅子の黄金(レグルス・アウルム)!!」

 

 雷撃でできた獅子が従僕たちを薙ぎ払い、勢い余って海を爆発させて潮の雨を降らす。

 

 それを浴びながら、しかし兵夜はこれで終わりなわけがないということも理解していた。

 

「シルシ! 増援部隊は送らなくていい! 拠点の防備を優先させろ!!」

 

『でも兵夜さん! これで終わりなわけがないでしょう!?』

 

「うかつに戦力を減らして、手薄なところを襲撃されたら話にならん。素材の出し惜しみが気にならないなら、こっちもやれることはいくつもあるからな!」

 

 そういうと、兵夜は即座にゴーレムを呼び出して駆動させる。

 

 土と式で駆動するゴーレムは、ただの人間より強大な戦闘能力を発揮する。

 

 しかも非常に優れた霊地から採掘した土でできているだけあって、その性能は並の下級悪魔なら一蹴できるほどの高性能だった。

 

 本来なら長期戦を考慮すればうかつに消耗できない人材だが、精鋭揃いの特殊部隊が近くにいるのならば問題はない。

 

 兵夜は彼らを側面に展開して新たに来るであろう従僕を牽制すると、すぐに大きく声を張り上げる。

 

「面倒くさいから出て来いよ! どうせ本命は用意してるんだろう!!」

 

 ようやくヴィヴィオとアインハルトを安心させれるかもしれないという気持ちがあったところにこれであり、兵夜としてもいい加減不機嫌だった。

 

 その感情がありありと籠った声だったが、それに敵もすぐに反応する。

 

「その通りだ。やはり把握できているようだな」

 

「まあ、かまわないんじゃないの? 私達も仕事をしないといけないしね」

 

 その言葉とともに、二人組が反対側の道から魔獣を引き連れて現れる。

 

 一人は筋骨隆々の男。もう一人は絶世の美少女。

 

 そして、彼らの姿もまた兵夜はよく知るものだった。

 

「今度はサイラオーグ・バアルにジャンヌ・ダルクかよ。・・・どんだけ俺の知り合いで統一してるんだあいつは」

 

 とはいえ、双方ともに実力者であることは変わらない。

 

 ことサイラオーグ・バアルは若手四王の中でも最強だ。加えて神滅具の保有者であることもあり、その戦闘能力はいずれ魔王の座すら狙える。本来好みでないため扱いが悪い方のゼクラム・バアルですらそういうほどの実力が彼にある。

 

 そして、ジャンヌ・ダルクもまた英雄の末裔。神器を禁手に至らせているその能力は欠片も油断することはできない。

 

 従僕は本人達ほどではないが、本人と近い実力を発揮したうえで、更に本人にないスキルを上乗せしている。間違いなく強敵といえる相手だった。

 

「じゃあ、さっさと仕事を終わらせましょうか」

 

「そうだな、すぐに終わらせよう」

 

 従僕たちは静かに腰を落とすと、そして即座に距離を詰める。

 

「おっとさせるか!」

 

「先輩下がって!」

 

 それを食い止めるのはグランソードと姫柊雪菜。

 

 轟音が鳴り響く中、高速で戦闘が激しくなる。

 

 そして仲間達も攻撃を仕掛けようとしたが、更に敵にも増援が舞い降りる。

 

「ひゃっはぁああああ! ちびっこ狩りの時間だぜぇ!!」

 

「あの時の!!」

 

 建物から飛び降りて切りかかるフリードを、アインハルトは裾を切られる程度で済ませてかわす。

 

 反撃の拳を放つが、硬度を強化された拳であっさりと受け止められた。

 

「うーん駄目だねー。この程度じゃ俺は倒せないぜ?」

 

「だったら眷獣で吹き飛ばす!!」

 

 最大火力による粉砕という単純だが確実に有効な手段がこちらにはあるが、しかし敵もそれを素直にさせてくれるわけがない。

 

「おっと、あなたの相手はこっちよ?」

 

 ジャンヌの姿をした従僕が指を鳴らすと、地面から大量の剣が突き出る。そしてそれがドラゴンの姿になると、獅子の黄金を体当たりで弾き飛ばす。

 

「全部まとめて対雷撃の聖剣だもの。これぐらいはできるわよ」

 

「うっわぁっ! ガチ対策だね! だったらこれだよ、ザ・スマッシャー!!」

 

 八首の龍がプラズマを放出しようとしたその時、さらにその真上から巨大な鬼が舞い降りて踏みつける。

 

「・・・おいおい、俺を忘れてもらっては困るぞ?」

 

 少し赤くなり始めた空の向こうで、コカビエルが嘲笑を浮かべながら空に浮かんでいた。

 

 それを見て、兵夜は心底から舌打ちする。

 

 どうやら、聖杯戦争も佳境を迎えたので、ここで兵夜達を確実に始末する算段らしい。

 

「やってくれるな、この野郎・・・っ!!」

 

「まあそういうな。お前は俺を倒したことがあるのだから、その気になればどうにかなるだろう?」

 

 そういいながら、コカビエルは周囲の空を染め上げんといわんばかりに光の槍を大量の形成する。

 

「さあ、吹き飛ばされるがいい!!」

 

「舐めるなぁあああああああ!!!」

 

 兵夜は躊躇することなく、防御用の対光力加工済みの祖鋼板を大量展開。そして同時に突進した。

 

 おそらく自分が相手をするのが一番いい。何とかしなければならないだろう。

 

 そして、戦闘はより激しく激化していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アインハルトとヴィヴィオは、フリードにターゲットにされていた。

 

 なんでも、殺しが大好きで教会を追放されたはぐれ悪魔祓いらしいが、正直な話ついてない話だろう。

 

 当人の実力も高水準である上に、非常に頑丈という質の悪い特性ゆえに攻撃が通りきらない。

 

 そして何よりフリードは戦闘者である以上に殺人者。

 

 そこそこ本気を出せる状態で、比較的安全に人を殺したいということこそが彼の本質なのだ。

 

 本質的に競技選手である二人にしてみれば、近くにいること自体が汚染されているようなものだ。

 

「ほぅらちびっこコンビ! しのげないと死んじゃうぜぇ?」

 

「わ、わわ!」

 

「速い上に、硬い・・・っ!」

 

 ヴィヴィオとアインハルトを同時に相手をして、フリードはなお優勢。

 

 いかに彼が底の浅い悪党であろうと、彼に宿った超能力は本物。

 

 その圧倒的な防御力は、多少のダメージを無視できるがゆえに思い切りをよくする。

 

 そして、その戦闘能力も悪魔祓い全体でいえば間違いなく高位。

 

 さらに、彼自身も戦闘に特化して作り出された存在だ。そのための遺伝子調整すら受けている英雄の後継者の実験体。

 

 そんな男が超能力などという一軍匹敵の力を手に擦ればどうなるか。

 

 それが、今まさに形となって具現化していた。

 

「オイオイオイオイ、覇王の末裔と聖王のクローンさんはこの程度なんですかぁ? もうちょっと素敵なバトルがしたいと思ってたんですけど、残念ですねぇ?」

 

 自分の耐久力を相手は突破できない。その確信がフリードを戦闘の高揚ではなく殺戮の興奮へと導いていく。

 

「俺様ちゃんも英雄シグルドの末裔から作られた試験官ベイビーなんで、もうちょっと素敵な設定のバトルができると思ったんだけど・・・流石にお子様相手に無理難題だったかなぁ?」

 

「・・・まだです!」

 

 圧倒的な余裕があるという事実に、しかしアインハルトは膝を屈さない。

 

覇王(わたし)は、クラウス(わたし)は! あなたのようなものから民を守るために覇王流(カイザーアーツ)を極めてきました! 今こんなところでやられるわけにはいきません!」

 

「お! まだまだやる気みたいだねん? それならもうちょっと切り刻んで終わらせちゃおうかなーっと!」

 

 その姿を見て、フリードは嗜虐の興奮に顔を紅潮させる。

 

 そしてそのまま刃を振るおうとして―。

 

「・・・おい」

 

「あん・・・っと!」

 

 真後ろから迫りくる拳を条件反射で回避した。

 

「うっわぁマジ怖え! つい条件反射でかわしちゃったよボクぅ」

 

「うるせえよサイコ野郎。人の仲間になにしてやがる」

 

 服がズタボロになっているところを見るに、どうやらジャンヌの猛攻を強引に突破して助けに来たらしい。

 

「暁さん・・・」

 

「ったく、どいつもこいつも・・・っ!」

 

 古城は髪の毛をわしゃわしゃとかき乱すと、フリードを心底本気で睨み付けた。

 

「本当にどいつもこいつもやれ覇王だなんだの・・・いい加減にしろよお前ら」

 

 その怒りに呼応するかのように、莫大な振動が周囲に放たれる。

 

 その振動は凄まじく、フリードの肌にわずかながら傷が生まれるほどの破壊を生み出していた。

 

「覇王だかイングヴァルドだか知らないが、とっくの昔に死んじまった連中に縛られて・・・お前はクラウスじゃなくてアインハルトだろうが!!」

 

 そして、そんなフリードに目もくれず、古城はアインハルトを一喝した。

 

「え、でも、私はクラウスの記憶を・・・」

 

「記憶を受け継いだだけで本人ってわけでもないんだろうが! それともなにか、お前はそのクラウスの恋仲だったっていうオリヴィエってのを男として愛してるのか?」

 

「い、いえ! オリヴィエを愛していたのはあくまでクラウスであって私では・・・」

 

 慌てて否定するアインハルトだったが、その頭に古城の手が乗った。

 

「そういうことだろ?」

 

「あ・・・」

 

 そこに至って、アインハルトは古城が言いたかったことをを理解する。

 

 クラウスとアインハルトが同一人物だとするならば、クラウスが抱いていた感情を余すことなく同一のものとしてアインハルトが持っている必要がある。少なくと、兵夜達転生者は皆そうだ。

 

 そうでないと自分から否定したということは、アインハルトは自分から自分とクラウスが同一人物でないと証明したことになる。

 

「・・・酷い言葉遊びです」

 

「まあそうなんだけどな。なんていうか腹立つんだよ、あいつらにもおまえにも」

 

 古城も、なんでここまでむきになっているのか自分でもわかっていない。

 

 脳裏に自分を第四真祖にした少女の姿がちらつくが、それが関係しているのだろうか。

 

 そういえば、あの時の記憶は未だに全然取り戻せていない。

 

 もしかすると、彼女にはアインハルトを思わせる何かがあるのかもしれない。

 

「覇王だかクラウスの記憶も血だかなんだか知らないが、お前はただの女の子なんだから、そんな面倒なこと気にして人生損してもいいことないだろ? 少しは友達や年長者に頼っても損はしないぜ?」

 

「そ、その通りです!」

 

 それに応えるように、ヴィヴィオも足を震わせながら立ち上がる。

 

「私はアインハルトさんの友達ですから、アインハルトさんがそんな顔してると私も悲しいです!」

 

「ヴィヴィオさん・・・」

 

 その姿にアインハルトが戸惑う中、フリードは明らかに嫌そうな顔をして剣を向ける。

 

「勘弁してくれなーい? 俺ちゃんそういうお涙頂戴! …っての大っ嫌いなんだよね?」

 

「うっせぇよ三下」

 

 それをバッサリと切り捨て、古城は一歩前に出る。

 

「覇王イングヴァルドの末裔とか、聖王オリヴィエのクローンだとかそんなの心底どうでもいい。俺は俺の友達を守るだけだ!!」

 

 雷光をほとばしらせながら、古城はフリードと正面から向かい合った。

 

「こっから先は、俺の戦争(ケンカ)だ!」

 

「んじゃさっさと終わらせるぜ!!」

 

 言うなりフリードは剣を片手に切りかかり―

 

「いいえ先輩」

 

 割って入った雪菜の攻撃で出端を挫かれる。

 

「―私達の聖戦(ケンカ)です!!」

 

 

 

 



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愛しているから終わらせたい

 

 

 

 

 そして、そんな古城たちを見守りながら、グランソードは不敵に笑う。

 

「ああ、先に行かせて正解だったぜ。俺が出張っても付き合い無いも同じだから説得力がなかったし・・・」

 

 何より、魔王ベルゼブブの血縁を力と認めている自分では説得力がない。

 

 それでは彼女の迷いを取り除くことはできないだろう。それぐらいは彼だってわかる。

 

 だからまあ、自分がすることはただ一つ。

 

「余計なチャチャはいれさせねえってなぁ!!」

 

 サイラオーグに似た従僕の攻撃にカウンターを叩き込みながら、グランソードはつまらなさそうに不機嫌になる。

 

「…にしても弱いな。いや間違いなく強い方なんだろうが、拳に魂がこもってねえし、技量もかなり劣ってるぜ? 具体的には一年と半年ぐらいだな」

 

 従僕の攻撃を捌きながら、グランソードは冷静にその動きを見切る。

 

 一年と半年前の自分ならばいい勝負ができただろうが、今の段階では間違いなく自分が有利に戦うことができるだろう。獅子の鎧を使われても勝ち目があると言い切れる。

 

 そんな具体的な劣り具合に思うところはあるが、しかしそれは頭の隅に置いておいた。

 

 とにかく今は自分がこいつらをどうにかすることだけだ。

 

「さあ、かかってこいや獅子王もどき! てめえごときで俺を倒せると思ってんじゃねえぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、ハイディもようやく吹っ切れる機会が手に入ったようで何より何より」

 

 イーヴィルバレトによる制圧射撃で従僕の接近を阻害しながら、兵夜はなんというか涙を流しそうになった。

 

「いろいろ抱え込んでる子だから、解決するところを見るというのはなんかグっとくるなーホント」

 

「はいはい兄上。涙で視界がにじむと弾がそれますのよ?」

 

 そしてその弾幕をかいくぐろうとする従僕をピンポイントで撃ち抜きながら、雪侶はしかし同意のうなずきを送る。

 

「子供は子供らしく笑って毎日過ごせばいいですのに、厄介な特性を持ってしまったようですのね」

 

「ああ。俺も子供時代を努力に明け暮れていたが、あの子それ以上の修羅みたいだったからな。もうちょっと遊びがあるべきだとは思ってたんだよ」

 

 そう言い合いながら、二人は同時に飛び退る。

 

 そこに、聖剣の龍の足が踏み落とされた。

 

「案外しつこいのね。邪魔だから死んでくれないかしら!」

 

 ジャンヌの姿をした従僕は、しかしジャンヌが持たない力をもって襲い掛かる。

 

 背中から生えるのは四本の龍の腕。

 

 そして先ほどよりはるかに強大になった剛力で振り下ろされる巨大な聖剣を交わしながら、兵夜は冷静に判断する。

 

「技量そのものは最初にあったころのジャンヌと同等といったところか。…問題はなんで奴がジークの禁手を使っているのかだが」

 

「案外、そこに従僕の種がありそうですわね」

 

 兵夜も雪侶も思考を回転させながら、しかしそれだけに集中しない。

 

 ほかの従僕はともかく、ジャンヌ似の従僕は意識をしっかり向けていないと殺されかねない。

 

 従僕の正体についての推測を後回しにしながら、兄妹は聖剣の龍と向かい合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アップ!」

 

「アップちゃん!!」

 

「しつこいのよあんたたちは!!」

 

 弾幕をかいくぐりながら迫りくる須澄とトマリに、アップは苛立ちながら攻撃を放つ。

 

 アップ・ジムニーの本質は雑魚の殲滅。弱いものをいたぶることを望んで力を手に入れた彼女は、その本質的に格上や同格を相手にすることに慣れていない。

 

 ゆえに、聖槍を持つがゆえに同格である須澄との戦闘は不慣れなのだ。

 

 むろん、それに対応できるようにエイエヌからグラムを託されてはいるが、それでも対応できる限度はある。

 

 現状、彼女は圧倒的に不利な状況に追い込まれていた。

 

 だが、それでも彼女は自分をやめる気だけは毛頭ない。

 

 …生まれてこの方、自分は正しい両親のもとで育てられた。

 

 いろいろと鬱屈した環境であるスラムだが、その中でも自分の周りは善良な人たちだらけだったと記憶している。

 

 そんな環境だったからか、アップもまた正義感のある少女として育った。育ってしまった。

 

 弱者を蹂躙しいたぶることに快楽を覚えるこの(さが)を自覚することなく、自分は正義感の強いまっすぐな少女として育ってしまったのだ。

 

 子犬がいじめられるのを、止めようとしたことがある。

 

 単純な正義感によるものだったが、だけどあの時の自分はあまりにも弱かった。

 

 肉体的にもただの少女だし、何より精神的にも暴力という脅威に立たされた経験が少なかった。

 

 だから、結局は恫喝に負け、自分が投げられたくないという理由で自分も犬に石を投げつけた。

 

 あの時、確かにそんな自分がいやでいやで仕方がなくてたまらなかったから泣いたことも覚えている。

 

 だが、同時に愉しかった。悦んでいる自分も確かにいたのだ。

 

 そして、それを通りがかった須澄とトマリに助けられ、だからこそ正義感がさらに強くなった。

 

 ああ、それは単純な理由だった。

 

 無自覚に嫌悪したのだ。自分の中の本性を。

 

 こんなに楽しく清々しい、素敵な自分の本性を嫌悪して、何年も何年も自覚しなくて。

 

「なんであの時助けたりしたのよ…っ」

 

 あの時、最後まで石を投げ続けられていたら。

 

 あの時、誰も助けたりしなかったら。

 

 ……自分は、もっと早く自分を受け入れられたのに。

 

「なんで! あの時! 私の目覚めを邪魔したのよ!! あんたたちはぁあああ!!!」

 

「そんなの決まってる!!」

 

 眷獣が乱射される魔力弾を吹き飛ばし、そしてトマリはアップに迫る。

 

 涙すら流しながら、それでも前を見てまっすぐアップを見つめながら。

 

「泣いてる女の子を助けなかったら、きっとそんなの失格だからだよ!!」

 

 心から、声を投げかけた。

 

「……吸血鬼は長生きだからね。私なんて、昔は結構ヤンチャしたんだよ?」

 

 そう告げるトマリは寂しげにほほ笑んだ。

 

 彼女は不老不死の吸血鬼。その長い生は怠惰であり、退廃的な生活を行うものも数多い。

 

 だから、彼女はアップを責めたりしない。

 

 あの時、小さな子供二人を支える役目を果たせたことが、自分の心を救ってくれたと思っているから。

 

「・・・大好きな女の子を、否定したりなんてしないよ」

 

 トマリは笑顔でこう告げるのだ。

 

「だから最後まで付き合うよ。・・・ね? 須澄くん!!」

 

「もちろんさ!!」

 

 そして、ゆえに須澄も決して下がらない。

 

 ・・・・・・近平須澄はあの時助けたアップ・ジムニー(女の子)を愛している。

 

 あの心の地獄において、自分が誰かを救えたということが心から嬉しいから。

 

 そんな感謝を与えてくれて、そして共に居続けてくれた女の子たちが愛おしくてたまらないから。

 

 だから、近平須澄はそれを語らない。

 

 片方だけを殺して、もう片方と添い遂げるなど卑劣だとすら思うから。

 

 ゆえに―

 

「僕は君を認める(終わらせる)から。君の悪性も否定しない(受け入れる)から! だから―」

 

 アップは迎撃のための魔弾を放つが、しかしトマリの眷獣がそれを相殺する。

 

「……これですべてを終わらせる!!」

 

 そのまま攻撃を叩き込もうとして―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減、うっとおしいんだよ人形遊びが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 莫大な魔力の砲撃が戦場を包み込んだ。

 




救うのではなく終わらせる。

それは、彼女の悪性もまた彼女なのだと知っているがゆえにやさしさ。










だが、それを許すほどこの世界はぬるま湯でできていなかった。


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赤龍帝、再来

 

「……ここで来るか、赤龍帝!!」

 

 その砲撃の正体を、兵夜はよく知っている。

 

 二天龍のオーラを間違えるほど愚かではない。

 

 どこまでも似て、しかしどこかが決定的に違うオーラの持ち主など、推測できる限りただ一人。

 

「エイエヌの人形遊びは悪趣味すぎるんだよ。人形同士で殺し合って挑発するなら乗ってやる」

 

 漆黒の殺意をまき散らす、赤い龍の鎧がそこにあった。

 

 それも、今度は一人ではない。

 

 その後ろには多くの人影が存在する。

 

 人間がいる。

 

 悪魔がいる。

 

 天使がいる。

 

 堕天使がいる。

 

 獣人がいる。

 

 吸血鬼がいる。

 

 鬼がいる。

 

 天狗がいる。

 

 妖精がいる。

 

 巨人がいる。

 

 ありとあまねく種族達が、みな一様に憎悪を込めた目で戦場を睨みつけていた。

 

「あれが、平行世界のイッセーにぃですの!?」

 

「ああ。奴がもう一人の兵藤一誠だ」

 

 雪侶とともに兵夜は警戒するが、その様子すら赤龍帝は苛立たしいのか殺意を増幅させる。

 

「必要のない小芝居ばかり上手になりやがって! その小芝居で何人殺してきたか忘れたとは言わせないぜ、エイエヌ!!」

 

 言うが早いか、赤龍帝は再び砲撃を再開する。

 

 まともに喰らえば一撃必殺。上級悪魔を一瞬で消滅させるほどの破壊の砲撃が無数に放たれる。

 

 それは、或る意味でイッセーすら凌ぐほどの領域。

 

 だが、同一人物である以上、その限度はあるのが目に見えている。

 

「どれだけ命削る気だ! この馬鹿野郎!!」

 

 兵夜は龍殺しを展開すると、即座に接近して攻撃を叩き込もうとする。

 

 だが、その速度はあまりに遅い。

 

「ぬるいんだよエイエヌ!! 直接操作したいからって無駄にそっくりに作りやがって!!」

 

 赤龍帝は一気に加速すると兵夜を引き離し、そして同時に砲門を一斉に向ける。

 

「見ているだけでも悍ましい! とっとと失せろ、クソ野郎がぁあああああ!!!」

 

 そして放つのはこれまでよりもはるかに太い一撃。

 

 それも高速で放たれ、兵夜の速度では回避困難。

 

 だが、兵夜は欠片も焦らない。

 

 そう、彼は一人ではないのだから。

 

「受け止めろ、グランソード!!」

 

「応ともよ!!」

 

 割って入るのはグランソード。

 

 むろん、グランソードといえど真正面からただ喰らえば重傷は確実。

 

 それほどまでの火力を前に、しかし彼は不敵だった。

 

「聞いて驚け見て震えろ!! これぞ俺の大能力(レベル4)!!」

 

 そしてグランソードは右手を前に突き出し―

 

進行凍結(オールストッパー)!!」

 

 その一撃を停止させた。

 

「何しやがった、人形!!」

 

「ハッ! 俺は触れた物体の移動を停止できるのさ! 超能力(レベル5)にだって届くぜ、赤龍帝!!」

 

 言うが早いか、グランソードはその隙を突いて赤龍帝の懐へと飛び込む。

 

 その表情には、悲しさと嫌悪が見え隠れしていた。

 

「何だってんだお前はよぉ」

 

 兵藤一誠という男は、いつだって仲間のために戦う好漢だった。

 

 そんな彼のことを、グランソードもまた敬意を持っていたのだ。

 

 だが、目の前にいる赤龍帝は憎悪の一色に飲み込まれている。

 

 なんだそれは。お前はそんな奴ではなかっただろう。

 

 最優の赤龍帝だった男が、こんな見る影もなくやさぐれて―

 

「そんなんで、何を守れるっていうんだこの野郎が!!」

 

 真正面から全力の拳を叩き込んだ。

 

「・・・はっ!」

 

 だが、赤龍帝の心には届かない。

 

 例え骨に届き芯に届こうとも、心にだけは届かない。

 

「人形風情がいい拳持ってんじゃねえか。・・・だけどなぁ!!」

 

 其のまま、赤龍帝は連続攻撃を叩き込む。

 

 グランソードは能力を駆使して両の拳を受け止めるが、赤龍帝はかまわず頭突きを繰り出した。

 

 そしてグランソードの鼻から血が噴き出るのを見て、兜の内側の赤龍帝の口角が不気味に上がる。

 

「やっぱりな。格上があるからわかってたが、止めれるのは手のひらで止めた攻撃だけか!!」

 

 ならばやることは簡単だと、一瞬のスキをついて赤龍帝はグランソードの手首を掴む。

 

 そして、胸部の宝玉から莫大な魔力が収束される。

 

「これならもう止めれねえだろ!!」

 

「……なめんな変態!!」

 

 その気合を入った声とともに、グランソードの周囲に光る物体が無数に生まれる。

 

 それは、魔力で構成された蠅だった。

 

 至近距離から放たれる砲撃が当たるより早く、蠅の群れが楯となって砲撃を受け止め、爆発を産む。

 

 その爆発の破壊力でお互いに距離を取られた状態から、再び砲撃戦が勃発する。

 

 龍帝と魔王の戦闘は、更なる激しさをもって激化していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、戦闘のどさくさに紛れてフリードは逃走していた。

 

「・・・あの野郎どこ行った!」

 

 古城は思わず探そうと視線を彷徨わせるが、しかしそこに流れ弾が飛んでくる。

 

 幸い赤龍帝の魔力砲撃だったので雪菜が雪霞狼でかき消したが、しかしこのままだとあまりに危険すぎる。

 

「先輩! とにかく一度離れないとだめです! このままだと巻き添えで吹き飛びます!!」

 

「わかってるけど、宮白や近平達が……っ」

 

 乱戦だったのが災いして、須澄達はかなり離れている。

 

 須澄とトマリはアップを追って戦闘を行っていた。ゆえに、さっきの砲撃の乱射の巻き添えになっている可能性だってある。

 

「姫柊、確か血の従者って死にかけている相手にも効果あるんだよな」

 

「はい。真祖クラスなら致命傷からの回復も見込めるとは思いますが……」

 

 最悪そうすることも考えないといけないと言うことだ。

 

 それを考慮しなければならないほど、赤龍帝の攻撃は凄まじかった。

 

 真祖の眷獣クラスの攻撃を乱れ撃つなど桁違いだ。神すら滅ぼす神滅具という言葉に嘘わないということだろう。

 

「兵夜さんのことも気になります。たしか、コカビエルって人と戦ってたはずですし……」

 

「すぐにでも合流しないといけませんね。早くしないと―」

 

 ヴィヴィオとアインハルトの言うことも当然だ。

 

 だが、それを黙ってみているものはそうはいない。

 

「そうはいかんな、小僧ども」

 

 黒い翼が、空に舞った。

 

「コカビエル!!」

 

 アインハルト達が一斉に構えをとる中、コカビエルはにやりと笑う。

 

「俺の戦争を邪魔してくれた赤龍帝と転生者のぶつかり合いか。厳密にいえば一人は別人とはいえ、これはまた胸がすく思いだ」

 

「てめえ、悪趣味にもほどがあるだろうが!!」

 

 コカビエルの物言いに古城は怒りを燃やすが、コカビエルはどうともしない。

 

「まあいい。戦争の前哨戦としてはなかなか面白そうだ。……来るがいい小僧ども。俺を倒せないようでは、エイエヌを止めることなどできんと知るがいい」

 

 コカビエルは翼を広げると、大量の光の槍を展開する。

 

 その数はかつてエイエヌが出した攻撃とほぼ同数。この男もまた化け物であることの証明だった。

 

 そしてそのまま攻撃を―

 

「……チィッ!!」

 

 そのまま別の方向に向けて斉射する。

 

「ぬるい!!」

 

 そして、そのまま莫大な魔力斬撃が直撃コースをすべて薙ぎ払った。

 

「あ、アルサム・カークリノラース・グラシャラボラス!!」

 

 元々彼らを探していたわけだが、しかしこのタイミングは状況が悪い。

 

 ただでさえ赤龍帝達とも戦闘が勃発している混戦状態で、さらにアルサムすら関わってこられればもう混乱する他なく―

 

「そこの女二人が高町ヴィヴィオとアインハルト・ストラトスだな!?」

 

 ―しかし相手にはその気が全くなかった。

 

「は、はい!」

 

「それが、どうしましたか?」

 

 思わずヴィヴィオは背筋を伸ばして返答し、アインハルトは事情が読めずに困惑する。

 

 そして、アルサムは額に手を当てると深くため息をついた。

 

「ヴィヴィだのハイディだの呼ばれていたから気づくのが遅れた……!」

 

「俺を前にして余裕だな!!」

 

 当然そんな隙を逃すわけがないが、しかしそんなことを許すものもいない。

 

 放たれた光の槍は、一瞬で赤き魔槍にかき消された。

 

「アルサム様。今は何より安全確保が最優先です」

 

 シェンが油断なくコカビエルを睨みつけながら、アルサムを励ます。

 

 アルサムも深呼吸一つで気持ちを切り替えたのか、すぐにルレアベを構えるとヴィヴィオ達を庇える位置に回った。

 

「事情は後だ。今はともに切り抜けるぞ!!」

 

「え、えっと……」

 

「その……」

 

「あの……」

 

 これまでも、決してただの敵ではなかったがこれは流石についていけず、古城達は一瞬迷ってしまう。

 

 だが、そんな中ヴィヴィオだけは別だった。

 

「はい! 早く兵夜さん達を助けましょう!!」

 

「話が早くて助かる。待て、後ろだ!!」

 

 その言葉に振り向けば、そこにはジャンヌの姿をした従僕が迫り来ていた。

 

 もちろん、聖剣の龍というおまけ付きで。

 

「流石に逃がしはしないんだけど?」

 

「くそ! この状況下で更にこいつらまで―」

 

 古城は振り返りながら眷獣を放とうとする。

 

 だが、それより早く龍の動きが急に止まった。

 

 まるで急制動をかけられるかのように、速度が止められたのだ。

 

「ああ、言い忘れていたが、ここにいるのは俺とシェンだけではないぞ?」

 

 アルサムは視線をコカビエルに向けたまま、ヴィヴィオとアインハルトに視線を向けて微笑を浮かべる。

 

「感極まってテンションも上がっている。ああいう戦士は強いぞ?」

 

 その瞬間、ドラゴンが勢いよく投げ飛ばされた。

 

 明らかに十メートルはあるドラゴンを投げ飛ばすその光景に古城と雪菜は唖然とするが、逆にヴィヴィオとアインハルトは目を輝かせる。

 

 それは、子供らしい感嘆などでは決してない。

 

 ……いるかどうかも分からなかった。だから不安でたまらなかった。

 

 だけど、これは間違いない。

 

 この怪力は正真正銘―

 

「……リオ!」

 

「ヴィヴィオー! やっと会えた!」

 

 ドラゴンを投げ飛ばした体勢からすぐに振り返って、リオ・ウェズリーが目に涙すら浮かべながら歓声を上げる。

 

 むろんドラゴンはすぐに体勢を整えて襲い掛かるが、しかし今度は巨大な岩の塊が受け止める。

 

 それもただの岩の塊ではない。人の姿をしたゴーレムだった。

 

「コロナさんも! よくご無事で!!」

 

「アインハルトさん、ヴィヴィオも! 本当に無事でよかった!」

 

「……暁と、姫柊だったな?」

 

 その再会の光景を見ながら、アルサムは古城と雪菜に声を投げかける。

 

「な、なんだよ」

 

「戦闘中ですので手短に」

 

「大したことではない。……友の再会に水を差させるわけにはいかんだろう、ということだ」

 

 そう告げるとともに、アルサムの周囲に四人の男女が舞い降りる。

 

「「「「我ら右腕四天王、ここに!!」」」」

 

 部下の言葉に頷きながら、アルサムはその刃をコカビエルへと突き付ける。

 

「四天王はあのジャンヌ・ダルクと思しきものを潰せ。私はそこの二人とともにコカビエルを相手にする」

 

「……仕方ねえな」

 

「はい。今は、素直に喜ばせてあげましょう」

 

 あまりに堂々としたアルサムの姿につられたのか、古城と雪菜もその気になってしまう。

 

 そして、戦力に暇を一時とはいえ与えるという真似をされて黙っていられるコカビエルではない。

 

「俺を相手にそこまで言うとはな。……後悔させてやるぞ貴様!!」

 

「安心するがいい。こちらとしても手は抜かん」

 

 その言葉とともに、遠くから多くの雄たけびが聞こえる。

 

 ―それは、悪魔の軍勢。

 

 数百を超える悪魔達が、宙を舞って戦場へと参入してきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最大勢力が躊躇なく勢力を投入する火急の時。

 

 聖杯戦争、終了の時は近い。

 



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赤龍帝と獅子王と

 

 近平須澄は全身が焼けるように痛かった。

 

 特に横っ腹が非常に痛い。単純に考えて内臓が潰れたのだろう。

 

 だが、それでも止まらない。

 

 足は止まらない。

 

 意志は止まらない。

 

 決意も止まらない。

 

 彼女達の笑顔が好きだった。

 

 普段は気弱なところもあった自分を、彼女は時に叱咤しながら引っ張ってくれたアップ。

 

 そんなわけでもめることも多かった自分達を、年上の余裕でフォローしてくれたトマリ。

 

 既にろくに覚えていない過去の思い出を、二人は興味深そうに聞いてくれた。

 

 五歳の時に兄が交通事故で死んだことを話したら、涙ぐんでまでくれたことを覚えている。

 

 ……だけど、須澄はアップの本質に気が付こうとしなかった。

 

 端的に言って甘えていたのだ。

 

 彼女のことが好きならば、もっと彼女のことを知ろうと思うべきだったのに。

 

 そして、トマリにはいつも迷惑をかけている。

 

 過酷な戦闘というきつい環境に置かれている自分に気を使ってか、いつも通りの明るい自分を見せてくれる。

 

 ……だから、須澄は二人に想いを告げない。

 

 これからアップ(彼女)を殺すのに、なぜ想いを告げることができるのだろうか。

 

 そしてアップを殺したその指で、どうしてトマリ(彼女)を愛せるのか。

 

 だから、死にそうになるぐらい痛くても、須澄は最後の全力を振り絞る。

 

「……アップ!」

 

「須澄ぃ!!」

 

 聖槍と魔剣がぶつかり合い、火花が散る。

 

「私は、私はようやく素直になれた!!」

 

 がむしゃらに魔剣を振り回しながら、アップは声を張り上げる。

 

「人をいじめたいって本音(想い)をようやく知れたのよ! ようやくようやくようやくようやく!!」

 

 放たれる魔力弾が須澄を撃ち抜くが、それでも須澄は止まらない。

 

「私は虐める《生きる》! この素直な自分のまま、私は私を生き切るのよ!!」

 

「ああそうだ!」

 

 須澄はそれを肯定する。

 

 二十年以上も自覚することなく、アップはアップでいられなかった。

 

 それはきっととても苦しいことだったのだろう。自分がそんな目にあったとしたら、悲観して自殺したっておかしくない。

 

 だから、だから、だから―

 

「僕は、君を戻さ(否定し)ない。君を、終わらせ《肯定し》て見せると誓ったんだ!!」

 

 だから届けこの一撃。

 

 例えこの身がどうなろうと、

 

 アップを、肯定して見せろ―

 

「須澄ぃいいいいいいいい!!!」

 

「アップぅううううううう!!!」

 

 二人は全力で一撃を放つ。

 

 アップの一突きは須澄の脇腹を貫き―

 

 ―聖槍は、アップの心臓を貫いた。

 

「…………さよなら、アップ」

 

 激痛を堪えながら、須澄は告げる。

 

「………後悔は、してないわよ」

 

 命の炎が消え行く中、それでもアップは言葉を紡ぐ。

 

「私はこういうやつだった。だから、そう生きてこう死ぬのよ。それが、当然」

 

「うん。君は弱い者いじめをした報いを受けるんだ。……許しを請わずに貫き続けた、強い人の最後だよ」

 

 そんなアップを抱きしめながら、須澄は誇らしげな気持ちになる。

 

 そのやさしさが愛しい。

 

 その悪辣さが誇らしい。

 

 ああ、僕は彼女に愛情を持っていてよかった。

 

 すでに動かなくなり、冷たくなっている彼女を抱きしめながら、須澄もまた、死の淵へと一歩一歩堕ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずい、フェニックスの涙を―」

 

 その光景を見た兵夜は、手持ちのフェニックスの涙をすべて展開して駆け出そうとする。

 

 だが、あまりにもその動きは隙だらけだった。

 

「何背中向けてやがる、エイエヌぅうううううう!!!」

 

 グランソードをいったん弾き飛ばしながら、激昂する赤龍帝の砲撃が兵夜を襲う。

 

 本来なら対応ができて当然のことに、しかし兵夜は周りが見えていなかった。

 

「須澄―」

 

「馬鹿兄上!」

 

 わき目も降らずに須澄の方へと向かっていた兵夜をかばい、雪侶が即座に防御魔法を展開する。

 

 だが、腐っても神滅具。腐っても赤龍帝。

 

 圧倒的な火力は、防御魔法をやすやすと砕き、大爆発を起こした。

 

「大将! 雪侶!! ……クソ!」

 

 奥歯をかみしめながら、グランソードは赤龍帝を食い止めようと、殴りかかるが、しかしそこに割って入る影がある。

 

 そこにいたのは一人の少年。

 

 だが、グランソードの拳をやすやすと受け止める少年などいるわけがない。

 

 そして、その少年もまた見知った顔だった。

 

「馬鹿な、アンタは―」

 

「赤龍帝。これ以上時間をかけると更に数が増える。すぐに終わらせよう」

 

「ああ、頼むぜ()()()()

 

 赤龍帝がそう告げると共に、その少年の姿が変貌する。

 

 肉は膨れ上がり、鬣が生え、そして色は黄色く。

 

 次の瞬間に現れたのは、金色に輝く巨大な獅子だった。

 

「獅子王の戦斧《レグルス・ネメア》だと!?」

 

 おかしい。

 

 いや、ここに獅子王の戦斧が存在することそのものは驚くほどには値しない。

 

 平行世界の存在という答えが出ている以上、そこに存在することまではすぐに納得できる。

 

 だが、ならば何故ここにサイラオーグがいない?

 

 何故、サイラオーグ・バアルの眷属であるレグルスが赤龍帝と共にいる?

 

 その疑問をすべて戦闘中であることから飲み込んで、グランソードは拳を放つ。

 

 だが、それより先にレグルスは更に輝いた。

 

「「禁手化(バランス・ブレイク)」」

 

 赤龍帝と獅子王が輝きを放ち、そして融合をしていく。

 

 その光景をみて、グランソードは寒気を覚えていた。

 

 人が持てる究極の力といっても過言ではない神滅具。

 

 それが、寄りにもよって二つ複合されて運用される。

 

 端的に言って悪夢でしかない。

 

「……赤き獅子龍の恩讐(ブーステッド・レグルス・アヴェンジャー)

 

 憎悪の念を振りまきながら、獅子と一体化した赤龍帝は、視線をグランソードへとむける。

 

「さあ、とっとと壊れろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「糞がぁあああああ!!!」

 

 兵夜は雪侶を抱え上げながら、奥歯を噛み砕きかねないほど嚙み締める。

 

 今のでフェニックスの涙が殆ど使い物にならなくなった。

 

 しかも、雪侶は重傷であり下手をすれば死ぬ。

 

 そして、フェニックスの涙はあと一個。

 

 本体ならばまだ在庫があるはずだが、しかし来るのに時間がかかる。

 

 各個襲撃を警戒して増援を送らなかったのが裏目に出た。

 

 今からでは、到底間に合わない。

 

 兵夜は高速で頭を回転させて、そしてすぐに決断する。

 

「雪侶、すぐ治す!!」

 

 須澄も雪侶も大事だが、先ずは目の前の妹を助けるべきだ。

 

 距離の問題からそう判断すると 、兵夜は雪侶にフェニックスの涙をかける。

 

 意識を失っているため反応はないが、しかしこれで致命傷は回復した。

 

 だが、これで須澄は助からない。

 

 須澄も既に致命傷だ。しかも人体急所の一つである肝臓をやられている。

 

 長くはもたない。そして多分間に合わない。

 

 その事実に、兵夜は足元が崩れそうになる。

 

 須澄が、近平須澄が死んでしまう。

 

 反動が強かったせいで冷静でいられない。気絶してしまいそうになるほど、衝撃が走り―

 

「大丈夫」

 

 声が届いた。

 

「トマリか・・・っ!?」

 

 兵夜は振り返って息を呑む。

 

 トマリの体はボロボロだった。

 

 腕は一本吹き飛んでいるし、腹には風穴があいている。

 

 人間なら既に死んでいるような大怪我だ。間違いなく助からない。

 

 古城クラスの吸血鬼なら治るだろうが、残念なことにトマリはそこまでではなかった。

 

 だが、トマリは自然体で笑みを浮かべる。

 

「須澄くんは、大丈夫にして見せる」

 

「……信じて、いいんだな」

 

 その目には覚悟があるのだけはわかった。

 

 だから、兵夜はそれ以上聞かない。

 

「なら、任せる」

 

 いろいろと激情が渦巻いている。

 

 間違いない。人はこれを憎悪と呼ぶのだ。

 

 平行世界とは言え兵藤一誠に憎悪の感情を浮かべるとは、なんという因果だと兵夜は嗤う。

 

 そして―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死なない程度に地獄を見ろやぁああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神の裁きが、判決を下す。

 



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止まる命脈

連続掲載ですが、これには深い理由が。



















すいません、エイエヌの名前の由来なんですが、自分ものすごい勘違いをしていました。

逆にらしいっちゃらしいんですが、これだとちょっと判断が厳しいです。


いや、本当に申し訳ない。まあ大体予想している人もいるんですけどね?



 

 赤龍帝は、一瞬何が起こったのかわからなかった。

 

 自分は奥の手を切ったはずだ。

 

 神滅具を二つ同時に融合させて発動させる禁手。

 

 その出力は覇龍にすら匹敵するものであり、主神クラスと互角に渡り合うことすらできるものだった。

 

 なのに、発動させたその時に真正面から殴り飛ばされた。

 

「……立てよ赤龍帝。人の話は聞かない上に、人の大事なものをあんだけ痛めつけて、ただで済むとは思ってないだろうな?」

 

 目の前にいる男は、死に体だった。

 

 全身が今まさに崩壊を続けていて、誰がどう見てもまともな方法で強化していない。

 

 そんなふざけた出力発揮を行っている姿に、赤龍帝もまた怒りの炎を燃やす。

 

「……どうせ本体は死なないなら、どんな無茶苦茶もできるってか?」

 

 殺意が膨れ上がる。

 

 憤怒が膨れ上がる。

 

 憎悪が膨れ上がる。

 

「お前のその人の命をおもちゃにしかしないところが、俺は心底大っ嫌いなんだよ、エイエヌぅううううううう!!!」

 

 次の瞬間には拳を顔面に叩き込んでいた。

 

 そして、同時に膝が鳩尾にめり込んでいた。

 

 更に即座に連続攻撃が叩き込まれる。

 

「さすが人形! 痛みがないならダメージで動きが止まることもないってか!!」

 

「半分正解だこの野郎!!」

 

 同時に頭突きを叩き込み、そして鮮血が飛び散る。

 

 なるほど、こいつはエイエヌの切り札か何かかもしれない。

 

 こういう造形にしているわけだ。それだけ自信がある最高傑作か何かなのだろう。

 

 まったく本当に恐れ入る。数億人も作ってこんなふざけた余興をして待っているとか、何回殺しても我慢できそうにない。

 

 だが、どうやらこれ以上は流石にまずそうだ。

 

 何故かコカビエルの姿をした従僕たちが後退を始めている。

 

 まるで、状況がややこしいことになったから逃げようという動きだ。

 

 何故こいつらは先遣隊が到着してもなお演技を続けるのだろうか?

 

 手慰みの人形遊びはいい加減終わらせるべきだろうに。

 

「……いいだろう、そっちがその気ならこっちもそうしてやるよ」

 

 ここはいったん引くとしよう。流石に目の前の奴を相手にするには、こっちもまだ合流が追い付いていない。

 

 従僕を蹴り飛ばすと、赤龍帝は、すぐに後退する。

 

 従僕はわき目も降らずに追いかけようとするが、しかしもう片方に止められて動きを封じられる。

 

 この期に及んで小芝居を入れるとは芸が細かいが、しかしそれに付き合ってやる義理はなかった。

 

「全部纏めて壊してやるよ。そうすればお前も本腰を入れるだろうさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止めるなグランソード! あの野郎、手足の一二本引きちぎらないと気がすまな―」

 

「頭を冷やせ大将!!」

 

 真正面から殴り飛ばされ、兵夜はようやく歯車がかみ合った。

 

 あまりの事態に頭に血が上りすぎていたのが、一気に落ちる。

 

 大事な者達が死にかけ、それを行ったのが兵藤一誠という事実に、兵夜は今までにないほど頭に血が上っていた。

 

 いつもの音楽を流すことすら忘れるほどの怒り狂ってしまっていた。

 

「……悪い、グランソード」

 

「おう、気にすんな」

 

 グランソードは周囲を警戒しながら、兵夜に手を伸ばす。

 

 素直にそれの力を借りて立ち上がると、兵夜はため息をついた。

 

「アイツ、俺達のことを従僕と言っていたな」

 

「ああ、エイエヌの人形遊びとか言ってやがったな」

 

 そう思い込んでいることが、話を聞かない原因なのだろう。

 

 一体どういうことだ、とは言わない。

 

 そもそも、平行世界とはいえ根幹が兵藤一誠なら、性格はある程度読めるのだ。

 

 逆説的に、想定できないほどの性質になっているならそこからどういうIFなのかを想定できる。

 

 だが、その想定はあまりにも悍ましすぎた。

 

「……グランソード、一日時間をくれ。もし俺の予測が当たっているなら、これはかなり覚悟がいる」

 

「なんかわかったのか。ああ、それぐらい待ってやるよ」

 

 グランソードは不思議に思ったが、しかし兵夜の意見を尊重してあえて聞かずにおく。

 

 宮白兵夜は単独行動もとるが、あれで協調性はある男だ。

 

 そんな男がそういうことを言うことは、それ相応のやばい事態だということだろう。

 

 それに、今はそれどころじゃない。

 

「………須澄」

 

「一応フェニックスの涙は送るように連絡したが、たぶん間に合わねえな」

 

 戦場を知るがゆえに冷徹さが、事態が深刻であることを如実に告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トマリ・カプチーノは吸血鬼である。

 

 実をいうと、既に数百年は生きている古株だ。

 

 それゆえに人生に退屈していた。

 

 だから、異世界に放り出されるという不条理に巻き込まれても枯れていた。

 

 ああ、だからどうした? それがどうした?

 

 そんな冷めた彼女の性質は、しかしたった一つのことで崩壊する。

 

 周りの子供に煽り立てられ、泣きながら犬に石を投げる子供の姿。

 

 そして、そんな彼女を助けるように割って入る小さな子供。

 

 半ば気まぐれで助けたトマリは、そのままアップの伝手で生活基盤を獲得し、スラムで生活する。

 

 同じく流れ者であった須澄や、その一件から懐いてきたアップとの生活は、なんというか逆に新鮮だった。

 

 そんな二人との関係は、トマリにとって何よりも大切なものだった。

 

 だからこそ、それが一変してもなお、トマリはアップが大好きなのだ。

 

 むしろ年長者としてそれを見抜けず、上手い付き合い方を教えることができなかったことこそを悲しんでいるし、だからこそ、ずっと無自覚に否定し続けてきた彼女を今度こそ肯定したかった。

 

 そして、それをできれば須澄には巻き込ませたくなかった。

 

 だけど、結局須澄に先を越されてしまった。

 

「仕方ないよね、そういうできるところも大好きだもん」

 

 ああ、だからせめて彼には生きていてほしい。

 

 自分は結局何もできなかったから、せめて何かできた須澄はその分生きていてほしいのだ。

 

 意識が失われているからこそ、だからこそ最後に心からの本音を言おう。

 

 いつもは半ばふざけているから、最後くらい真剣に。

 

「………大好きだよ、須澄くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くそったれ」

 

 ようやく届いたフェニックスの涙だが、しかし既に手遅れだった。

 

 思わず地面に叩き付けたくなるのを必死に堪えながら、兵夜は片膝をついて、倒れる二人を抱え上げる。

 

「………ん」

 

 それで気が付いたのか、須澄がゆっくりと目を開ける。

 

「あれ、僕、なんで生きて……」

 

「しゃべるな、須澄」

 

 兵夜は静かに告げるが、須澄は首を振る。

 

「なんだろうね。達成感があるんだよ、あんなことしたのに」

 

「んなこたないさ。大事なやつが道を踏み外してたのを止めたんだ。誇らしく思ってもいいさ」

 

「違うよ」

 

 兵夜はそう告げるが、しかし須澄は首を振る。

 

「止めたんじゃない。進み切らせたんだ」

 

「………そうか」

 

 ゆっくりと、ゆっくりとみなの元に戻りながら、兵夜は目を閉じる。

 

「だけどさ、同時にすごく悲しいんだ。これで、アップとも()()()とも会えないって思うと」

 

「だったら俺の眷属悪魔になればいいさ」

 

 兵夜はあえて否定しない。

 

 そう、既にトマリの体は、冷たくなっていた。

 



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ルレアベの持ち主って大体アレ

区切るところがなかなか見つからなかったので、今回長めです。


 

 その夜から朝まで、兵夜達は何もせずに過ごした。

 

 というより、何かをする気になれなかったといった方が近い。

 

 そして、日が明けてからは別の意味で面倒なことになっていた。

 

 アルサム・カークリノラース・グラシャラボラスから、会談を入れたいという要請があった。

 

 ……ゆえに、兵夜は夜明けの空の元一人静かに立っていた。

 

「まあ、聖杯戦争なんだから死者が出るのは当然なんだがな」

 

 付き合いの短い相手が、死んで当然の戦いで死んだ。

 

 普通ならその程度のことで心を乱したりはしないのだが、彼女は須澄の大切な人だ。

 

 むしろ、はたから見る限りでは須澄の方が動揺していなかった風にすら思える。

 

「……あ、兵夜さん」

 

「宮白か。もう起きてたのか?」

 

 声をかけられて振り向くと、そこには古城とヴィヴィオの姿があった。

 

「二人とも同じだろう。……まあ、あまり寝れなかったのは同じってことだ」

 

「ですよね、トマリさんがあんなことになってしまって……」

 

 ヴィヴィオが辛そうに顔を伏せるが、兵夜はそんなヴィヴィオの肩に手を置いた。

 

「あまり深く思い詰めるな、ヴィヴィ。聖杯戦争は殺し合いである以上、参加した彼女も覚悟の上でなきゃいけないからな」

 

 冷徹だが、聖杯戦争とはそういうものだ。

 

 基本的に殺し合い。そうであるならば死ぬ覚悟はきちんと持たねばならないのだ。

 

 それに、気になることは他にもあった。

 

「というより、須澄君が吸血鬼化していることの方が不思議なんだがな」

 

 調べた結果、須澄の体は吸血鬼のそれへと変貌していた。

 

 何がどうしてそうなったのか少し不思議だが、しかし古城は首を横に振る。

 

「それは十分にあり得るだろ。俺もそれと同じクチだしな」

 

「ああ、そういえばそうだったか。……聖杯のあまりでも併用したのかね」

 

 遺体を調べた辺り、肝臓や心臓を移植した形跡があった。

 

「なんていうか、不思議な縁を感じるな」

 

 つまりは須澄は託されたのだ。

 

 トマリから、エイエヌへの復讐か日常への回帰かは分からないが、何かを託されたのだろう。

 

 ならば、せめて須澄だけは生き残らせねばならない。

 

 それが、自分の失態を肩代わりしてくれたトマリに対する恩返しだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今回は、こちらの要望に応えてくれて感謝する」

 

 開口一番、アルサムはそう言って頭を下げた。

 

 なんというからしく思えたので皆何も言わなかったが、しかしどういうことなのかと警戒心も湧いてくる。

 

 なにせ、この男は独断で聖杯戦争に参加しているという問題点があるのだ。

 

 いまだ法整備がなされていない聖杯戦争ゆえに罰則は受けないだろうが、非難や批判は避けられない。

 

 その状況下で口封じに走らない辺り、余程の事情があると考えるべきだった。

 

「それと、そちらの仲間の一人の死に関しては……」

 

「気にするな。そっちもあの戦いで死人が出ていたはずだ」

 

 兵夜はさらりと流すが、しかし視線を一瞬須澄に向けた。

 

 だが、須澄は笑みすら浮かべて首を振る。

 

「いや、気を使ってくれてありがとう。……大丈夫」

 

 その姿に皆が沈痛な表情を浮かべるが、しかし話は先に進めないといけない。

 

「……とりあえず、こっちは礼を言っておかないとな。ヴィヴィとハイディの友達を保護しているどころか、転移させられた人達の大半は助けてくれたんだろう?」

 

「ああいう卑劣な遊戯には嫌悪が沸くのでな。たまたま陣地にしていた近くに集まっていたので助かったよ」

 

 そう、非常に幸運なことに、アルサムが保護していた為、殆どの強制転移者が無事だったのが不幸中の幸いだった。

 

 アルサムは今回の聖杯戦争の為に相当数の物資を持ち込んでおり、更には相当数の補給ラインすら確保していた。

 

 その為、特に苦労することなく保護することができたという。

 

「リオとコロナも保護して、二人のことも聞いていたのだが、大人モードとやらのことは聞きそびれいてな。気づくのが遅れた」

 

「「本当にごめんなさい!!」」

 

 リオとコロナは同時に頭を下げるが、しかしまあ、そこまで責めるものではない。

 

「いや、子供らしい失敗だよ。そういう取り返しのつく失敗は経験しておいた方がいいしね。……とにかく無事で良かった」

 

 兵夜は笑顔でとりなすが、すぐに真剣な表情を浮かべると、アルサムへと顔を向ける。

 

「さて、それはともかく、なんでお前はこの世界の聖杯戦争に参加している?」

 

 そう、それが真っ先に聞くべきことだ。

 

 これまでの協力で、彼が禍の団とは一線を画す人格の持ち主であることだけはわかっている。

 

 そんな彼が聖杯戦争にわざわざ参加するならば、それ相応の理由と目的があると思う。

 

 だが、それ以上に疑念がある。

 

 なぜ彼らはこの世界を知っていたのか?

 

 異世界の存在は転生者の存在故に確立されていたが、そこに行けるかどうかなどの疑念はいくつもある。

 

 そんな状況下で、どうやって異世界への渡りをつけたのかという疑問がまずあった。

 

 それに対し、アルサムは少し言いよどんだがすぐにまっすぐに兵夜の顔を見つめた。

 

「単純な理由だ。フォード連盟及びそのレジスタンスは我々の世界に接触を行っていただけの話だ」

 

 なぜか地球に対して侵略を行うとしているフォード連盟だが、彼らには敵も多い。

 

 当然、その圧政に対抗するべくレジスタンスも存在する。

 

 そのうちの一つとカークリノラース家は接触に成功しており、悪魔の契約として異世界の情報とともに軍事的指導を行っていた。

 

「……ややこしいことになるのと、政治的なアドバンテージとしてあえて父上達は黙っていたのだが、そしたらあれよあれよと事態は動いて逆に言い出せなくなる状態でな。正直丸投げされた時は切ってしまおうかと思った」

 

「ホント腐敗しすぎなんだよ冥界政府。おかげで俺がどれだけ仕事することになったか……っ!」

 

 二人の間に心から同情の念による共感が生まれたが、それはともかく話を戻す。

 

「それで、お前はなぜ聖杯戦争に参加した」

 

「知れたこと、全ては悪魔の未来の為。あえて悪をなす覚悟をもってして聖杯の力を借りに来た」

 

 まっすぐな瞳で、アルサムは断言する。

 

「……悪魔の未来と言いましても、各種腐敗は一掃され始めていると思いますのよ?」

 

 雪侶の疑問ももっともだ。

 

 各神話勢力との和議と、王の駒の不正使用などの公表の影響で腐敗した貴族の多くは勇退の名目で引退することになっている。

 

 その後釜に若手悪魔や転生悪魔が据えられて、冥界の政治体制はかなりクリーンなものになっている。

 

 だが、アルサムは静かに首を振った。

 

「……いや、悪魔の未来はまだまだ暗い。このままでは悪魔の未来は衰退していくことになるだろう」

 

 アルサムは申し訳なさそうな表情で兵夜たちを見ると、そのまま語り出した。

 

 この聖杯戦争に掛ける、彼自身の願いを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この言い方を君達の前でするのは非礼なのかもしれないが、私は転生悪魔を純粋な意味での悪魔というには語弊があると思っている。

 

 悪魔というものはもともと一つの種族の名だ。ならば、悪魔というものは純粋たる悪魔とその血を継ぐ者たちのことを指すべきであり、君たち転生悪魔はあくまで転生悪魔と区分するべきだろう。

 

 少なくとも転生悪魔の力に頼り切って、純粋な悪魔がその力を衰退させていいわけがない。転生悪魔だけが強大になって、純粋な悪魔が格下になっては本末転倒だろう。

 

 転生悪魔の力を借りることに否はない。だが、そのうえで自分達悪魔が強くなっていかなければ、それは悪魔の復権とはまったく異なる結果だろう。

 

 ……だがしかし、未だ悪魔達はそれに対して無頓着すぎる。

 

 血統を重視する旧家達ですらその辺りの視点が足りていないのは度し難い。

 

 このままでは、我々悪魔は武力においても政治においても転生悪魔の力便りの軟弱な生き物になり果ててしまうだろう。

 

 ……だからといってドーピングに頼るわけにもいかない。王の駒は確かに状況を一変させるだけの価値があるだろうが、既に民意がそれを認めん。それに競技試合でドーピングに頼るわけにもいかんしな。

 

 つくづく腐敗している。これを一掃する手段がないか心から考えていたが、何より重要なことに気が付いたのだ。

 

 そう、努力だよ。

 

 上級悪魔が優れた素質を持っているものを多く輩出するのは既に分かり切っているのだ。なら、それを更に磨くことができれば有効なのは火を見るより明らか。

 

 否、多種族からの転生悪魔に押されて結局出世の機会を逃している純血の下級や中級も、努力を行うことで優れた素質を持つものを輩出するかもしれない。

 

「まったくね。兵夜さんの言うことはやはり正しいと思うわ」

 

 同意してくれて助かるよ、シルシ・ポイニクス。

 

 かくいう私も、カークリノラース家の次期当主として恥じないよう努力を重ねてきたからこそ今がある。父上は天性の才能だけだと思っているようだが、そこまでおごり高ぶれんよ。

 

 何より、サイラオーグ・バアルのように魔力が全くないものですら、血のにじむような努力を重ねることで若手最強とすら呼ばれるようになったのだ。これはもう努力というものには可能性があることの証明ではないか。

 

「だが、同じ努力で同じ結果が出るわけではないのが努力の難点だ。サイラオーグは体術の才能が高いことだけは疑いようがないぞ?」

 

 その通りだ宮白兵夜。だからこそ、その素質を見つける為の学び舎が必要。アウロス学園は実に素晴らしいものだと私は思っている。

 

 だが、そういったものの重要性を未だに多くの悪魔達は知ろうとしない。

 

 上級悪魔達の未だ半分ほどは自然に才能が伸びることに任せている。磨いて輝かそうという意志が欠けている。

 

 下級中級にしてもそうだ。血統間での差が大きいがゆえに、その時点で諦めている者が多すぎる。

 

 それゆえに努力することの価値を知っている多種族の転生悪魔に後れを取っている事実だけはどうにかしなくてはいけない。

 

 このままでは、力ある悪魔の過半数が多種族からの転生悪魔になる。

 

 それで悪魔が発展しているなどと言えるのか? いいや、否だ、否なのだ!!

 

「それについては同意だが、しかしそれこそアウロス学園を発展させていくことで対応していくしかないんじゃないか? 彼らが成果を上げれば、努力の価値を知る者達は増えていくだろう」

 

 私もそれが妥当な策なのはわかっているさ宮白兵夜。

 

 ……私が考えた策は、間違いなく聖杯の力を借りなければ対応できないからな。

 

 そう、ここからが本題だ。

 

 努力の価値を自覚するには、先ず努力をして成果を体験しなければ困難だろう。

 

 しかし、それをさせるということがまず困難。これでは本末転倒だ。

 

 しかし、既に努力し成功した者の半生を追体験することができればどうだ?

 

 私やサイラオーグ・バアルなど、悪魔の中にも努力を行うことでその素質を開花させたものは数多い。

 

 少なくとも悪魔の術式を組み合わせれば夢見の形でそれを追体験させることは不可能ではない。

 

 だが、その術式を用意するには多大な時間とコストがかかる。更にそれを同意させるのにも手間がかかる。はっきり言ってアウロス学園以上の手間が掛かるだろう。

 

 だが、聖杯の力を借りることができれば、その手間を大幅にショートカットできるのではないかと思い至ったのだ。

 

 レジスタンスから聖杯戦争の存在と、そしてレジスタンス側がそれを利用することが困難だということを聞いた時、私はいてもたってもいられなくなった。

 

 すぐさま私は彼らと契約を更新し、より本格的な支援を行う代わりに聖杯戦争に参加させることを承諾させたのだ。

 

 ………だが、昨日になってこのプランに大いなる欠陥があることに気が付いてしまった。

 

 この術式、冷静に考えると人格汚染の疑いがあることが判明したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこまでの説明を聞いて、兵夜は一言言い切った。

 

「気づくの遅いだろ」

 

「一つのことに集中しすぎて、冥界の研究者からの報告が来るまで気づかなかった……っ」

 

 崩れ落ちるアルサムと、涙すら流すアルサムの部下達の姿を見て、兵夜は心底頭を抱えた。

 

「あの、真っ先にその危険性から至るべきではないでしょうか?」

 

「言ってやるな姫柊ちゃん。ルレアベは先代から真面目過ぎて馬鹿になる奴が持ち主になる呪いでもかけられてるんだろう」

 

 そういえば、あいつも真面目過ぎて変な方向言ってたよなぁ、と兵夜は懐かしそうな顔を浮かべた。

 

「アルサムさん! 元気出して!」

 

「そ、そうです! 一生懸命なのは伝わりました! やる前に気づいてよかったですよ!」

 

 リオとコロナ(子供たち)に慰められるアルサム(貴族)の姿に何とも言えないものを感じるが、しかしそれはそれ。

 

「で? お前は一体何をしたいんだ?」

 

 それがよくわからなくて兵夜は聞いてみる。

 

 聖杯で願いが叶わない……以前の問題であることはわかった。それに関しては仕方がない。

 

 だが、それで兵夜達と接触する理由がわからなかった。

 

「知れたことだ。……頼みがある」

 

 アルサムは崩れ落ちた体勢から、速やかに土下座の態勢へと移り変わった。

 

「私が罰せられるのは仕方がない。だが、そんな私についてきた者達の人生まで狂わせるわけにはいかん! カークリノラース家当主としての出せる限りの権利を渡すので、どうか眷属達のフォローを入れて欲しいのだ!」

 

「待ってくださいアルサム様! そんなこと聞いてませんよ!?」

 

「その通りですアルサム様! 俺は人間ですが、言いたいことはわかりますって!」

 

「だからついてきたんです! 罰なら共に受けさせてください!!」

 

 速攻で眷属達から声が飛ぶが兵夜はとりあえずスルーする。

 

 今、この段階で言いたいことは一つだった。

 

「アルサム・カークリノラース・グラシャラボラス」

 

 静かにそう呟くと、兵夜はしゃがみ込んでその肩に手を置いた。

 

「落ち着いてくれ。俺はお前の味方……とは言い難いが共犯者にはなれる」

 

『え?』

 

 全員が首をかしげるが、兵夜は何か感動すら浮かべてうんうんと頷くと拳を握った。

 

「お前の眷属と同じく、俺も人間だが言いたいことはよくわかる。単一民族国家の出身として、他国の人間を政治や軍事の中枢に入れるのは抵抗がある」

 

「あ、アンタも分かってくれるクチか!」

 

 アルサムの眷属の一人が同士を見つけた口調になるが、しかし今はそれどころではない。

 

「安心しろ。聖杯戦争関係はまだ法整備は済んでいない。サーゼクス様やゼクラム様には俺から口利きをしておこう。……はっきり言って、俺はお前のようなものを待っていた」

 

 心からの本心を兵夜は告げる。

 

「魔王側も大王側もはっきり言って極端すぎる。お前のような中庸派ともいえるような悪魔の実力者の存在を、俺は待っていた」

 

 本当に心からの本心である。

 

 サーゼクス達魔王側はリベラルすぎで、大王派は血統主義は良いのだが旧態依然とした政治すぎる。

 

 ゼクラムのようなある程度反対派閥も適度に利用できるものがいてくれたのは僥倖だが、しかしゼクラムは血統主義の筆頭ともいえる立場。彼の力に頼りすぎてはそれはそれで改革は望めない。

 

 しかも、現四大魔王は次代の七代魔王を多種族からの転生悪魔からも躊躇なく組み込もうとしているし、ヴァーリやグランソード(元テロリスト)も候補に入れている節がある。はっきり言ってリベラルすぎる。

 

 大王派に止めてもらおうにも、不正の発覚で発言力が低下しているし、ゼクラムは魔王をお飾りとしているのではっきり言ってその辺りはむしろ煽っている節すらある。

 

「……本音を言おう。ストッパーが欲しかったんだ!!」

 

 涙すら浮かべて兵夜は告げた。心から告げた。

 

「ああ、確かにな。俺様は辞退すればいいしヴァーリも面倒くさそうだが、だが名義だけでもとか言い出しかねねぇ節がある」

 

 うんうんとグランソードは頷くが、それで頭を抱えたのはアルサムだ。

 

「……魔王を何だと思っているのだ。いかん、今こそ私達が立ち上がってストッパーをかけねばどんなことになるか想像がつかない」

 

「わかってくれたなアルサム。ようやく見つけた意見の一致するお前を、俺は地の底に突き落としたりなど決してしない」

 

 真剣な表情で兵夜は告げる。

 

「時間は掛かるが、アウロス学園をしっかり育てることで対応していこう。それまで俺達が保たせるんだ」

 

「それしか手はないか。否、転生悪魔の実力者で、お前のようなものがいてくれたことは僥倖だろう」

 

 二人の間に急速に絆が生まれていく。

 

 見ているものはどこかずれているだろうし、完全に一致しているわけでないことは確信している。

 

 だが、今のままではよくないという意見は一致し、その為の方法の一つは間違いなく同じなのだ。

 

「悪魔という種族の未来を思うのなら、純血の悪魔の可能性を切り開いていくことが重要だ。俺は転生悪魔だが、それに関して否はない。だからこそ、アウロス学園の建設の為に動いてきたんだ」

 

「その通りだ。その為にも下級中級だけではなく、上級にも努力の大切さを教えなくてはならない」

 

 二人は頷くと、そして同時に口を開いた。

 

「「……アウロス学園発展は必要不可欠!!」」

 

 そして手を握り合う。

 

「手を貸せアルサム! お前は魔王と成れ! そして強引にでもアウロス学園の分校を認めさせるんだ! その為なら、俺はお前をサーゼクス・ルシファー(義兄)ゼクラム・バアル(茶飲み友達)に紹介しよう! 今回の件もアザゼルに頼んでカバーストーリーを作る!!」

 

「良かろう! その毒杯、あえて飲み干す!!」

 

「……なあ、俺達聞いちゃいけないこと聞いてないか?」

 

「できれば聞かなかったことにしてくれないかしら?」

 

 何とも言えない表情になった古城に、シルシは苦笑するほかなかった。

 

「うっわぁ、これどうしたもんかなぁ?」

 

「ど、どうしよう・・・」

 

 須澄とヴィヴィオも困り顔になっているが、しかしその耳にドタバタとした音が聞こえた。

 

「兵夜様! グランソードの兄貴! 緊急報告です!」

 

「アルサム様! 火急の報告があります!!」

 

 大量の汗すら流して入り込んでくる悪魔たちに、二人はすぐに立ち上がると声を上げる。

 

「「何があったかすぐに報告しろ!」」

 

「は! 平行世界の赤龍帝達を発見しました!」

 

「それと軍勢はすごい数です! 少なく見積もっても一万以上!!」

 

 ……事態は恐ろしいほどに動き始めていた。

 




まあ大体わかっているとは思いますが、アルサムもルレアベの持ち主なので大体アレなのです。

アルサムが聖杯に願ったのは、己の発想した努力の価値矯正認識法のショートカット。

まあ、外から呼び寄せた人がすごいだけで自分たちが弱いままだったらそれはそれで問題だというのはわかっていただけるかと思うのですが、実際に実行されていたら人格汚染で別の意味で大変なことになりかねないという罠。気づいてよかったねアルサム。

しかしまあ、正直に話したことがきっかけで兵夜という後ろ盾を得ることができたあたり彼にとっては幸運。兵夜も味方の意向はある程度きくし、アウロス学園に出資した理由はアルサムの今回の目的の大本と同じなので、その方法で力を貸してくれる分には後ろ盾になるのはやぶさかではないのです。

……リベラルな魔王派と凝り固まった大王派の仲介で苦労する身としては、中庸側のアルサムはぜひ確保しておきたい将来の投資対象なのでした。


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338話

早々に常連さんの感想が届いたので、今日は二本立てでお送りします!


 

 空を埋め尽くすといわんばかりに、その軍勢は数を揃えていた。

 

 人間、悪魔、天使、堕天使、妖怪、半神。

 

 ありとあらゆる様々な種族が、都市を滅ぼさんと勢力を進めていく。

 

「諸君! 今より我々が行くのは、エイエヌの従僕に乗っ取られし呪われた街だ!!」

 

 先頭を行く悪魔が声を上げる。

 

「我らの世界でした如く、奴はまたしても悪趣味な遊戯を始めている! これを殲滅することで、報復の狼煙を上げるのだ!!」

 

 その言葉に、軍勢は一斉に鬨の声を上げる。

 

『復讐の時は来たれり!』

 

『清算の時は来たれり!』

 

『逆襲の時は来たれり!』

 

「ああ、そうだな」

 

 そんな彼らを見渡しながら、赤龍帝は笑みを浮かべた。

 

 獰猛な、獲物を狩る獣の如き笑みだ。

 

「色々あったけど、少なくても皆と一緒に戦えることだけは嬉しいよ。……皆、きっと見てるはずだ」

 

 寂しげな表情を浮かべながら、赤龍帝は一筋の涙を流した。

 

 そして、拳を掲げると声を上げる。

 

「反撃の時は来た! エイエヌに、あいつのしでかしたことのツケを払わせるぞ!!」

 

『応っ!!』

 

「……応、じゃねえ!!」

 

 その赤龍帝の後頭部に、光の槍が突き刺さった。

 

「痛い!? ってこの神器は……エイエヌか!!」

 

 即座に憎悪の視線を向ける赤龍帝の視線の先、そこには兵夜達が陣取っていた。

 

「お前本当にいい加減にしろよ!? 何勘違いで大量虐殺始める気だ、この阿呆!!」

 

 心底呆れながら、兵夜は大声で怒鳴りつける。

 

 そして、その姿を見て、軍勢は一斉に憎悪の炎を燃やした。

 

「エイエヌめ、ここで来るとはいい度胸だ!」

 

「奴さえ殺せば全て方が付く。ぶち殺せ!」

 

「いや、ただ殺すだけじゃ我慢できない。少しずつ肉をそいで殺してやれ!!」

 

 一斉に攻撃が放たれるが、しかしその攻撃は一つたりとも兵夜には届かない。

 

 それより先に、魔王の全力にも匹敵する雷撃が跡形もなく消し飛ばしたからだ。

 

「……いい加減にしろよ、お前ら」

 

 怒りのあまり雷電をまき散らしながら、古城が一歩前に出る。

 

「さっきから人のことを従僕従僕と、あの町の人間だって一生懸命生きてるってのに、ふざけんな!!」

 

 その怒声と共に放たれる雷に、軍勢は思わずたたらを踏んだ。

 

 その出力はあまりにも高く、軍勢の勢いを沈めるには十分過ぎる。

 

 そんな中、赤龍帝は一歩前に踏み出した。

 

「良いぜ。お前らが今でもそういい張るっていうならそれでいいさ。どうせいつものことだしな」

 

 億でも足りぬ殺意を込めて、赤龍帝は兵夜達を睨みつける。

 

 その様子を見て、雪菜はため息をついた。

 

「……これは、本当に宮白さんの言う通りですね」

 

「だな。最初聞いた時は信じられなかったのだが、本当にあり得そうだ」

 

 アルサムも頭を抱えてため息をつく。

 

 そう、全ては出撃する少し前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、推測でいいならあいつがブチギレている理由とエイエヌの正体に当てができた」

 

 大軍が都市に迫りくるという緊急事態に、全員が何とかしようと動き始めたときに兵夜はそういった。

 

 思わずつんのめる者達が出てくるぐらいの重大情報に、全員の視線が一斉に集まる。

 

「……そういやそんなこと言ってたが、どう推測できたんだよ、大将」

 

「ああ、おそらくあいつの誤解を解くには仙術使いの存在が必要不可欠だ。そして誤解が解けても俺に対する敵意は解ける可能性が低いというか誤解したままだろうというか……」

 

 グランソードに答えながら、兵夜は頭痛を感じて頭を抱える。

 

 だが、しかし言わざるを得ないだろう。

 

「これはヴィヴィ達には刺激が強すぎる話になるんだが―」

 

 だが、これが一番可能性が大きい。

 

 エイエヌの正体が兵夜の想定通りなら、これが一番合理的だ。

 

 そして、兵藤一誠を憎悪の塊とするのにこれほど確実な答えはない。

 

「……従僕の正体はおそらく死体を材料にしている。それもおそらく合成しているな」

 

 その言葉に、全員が息を呑んだ。

 

「し、死体? 死体って、冗談、ですよね?」

 

 リオが顔を真っ青にしているが、それは子供達は皆同様。

 

 だが、しかしこれは冗談でも何でもない。

 

「私達の魔術的な方法にも、死体を操る術式がないわけではありませんが……それは確実な推測なんですか?」

 

「イッセーがブチギレることを考慮した場合、それが一番可能性が高い。奴の正体が俺の想定通りなら、少なくとも発想はしているはずだ」

 

 心底嫌そうに、雪菜に兵夜はそう答える。

 

神器(セイクリッド・ギア)を後天的移植で自由に使いこなすのは困難だ。ましてや一人一人が若手の化け物であるサイラオーグ・バアルやグレモリー眷属の能力を模倣など、本来の使い手であるレオナルドですら不可能だろう。……ましてや、奴はそこまで使いこなせているわけでもなかった以上、禁手でも使わなければあり得ない」

 

 エイエヌは襲撃の時、魔獣を大して違いのない形状の種類しか使ってこなかった。

 

 おそらく多様性を生み出しにくい欠点を埋めるために、共通の素体の魔獣をベースにすることで補っているのだろう。

 

 そして、そんな程度しかできないものが能力も外見も全く異なり、かつ強大な従僕を生産できるわけがない。例え禁手でも正攻法では不可能だ。

 

 ゆえに、発想を逆転させる。

 

 そんな使いこなせていない神器で、そんなものを生み出せる禁手は果たして何か。

 

 そして、兵藤一誠があそこまで憎悪に燃えるほどの理由とは一体何か。

 

 赤龍帝はこう言ったのだ。

 

 人の命をおもちゃにしかしない、と。

 

「……そう考えれば、従僕がことごとく魔剣を使っていたことにも説明がつく」

 

「ああ、そういや全部ジーク絡みだったな」

 

 兵夜の言葉に、グランソードがポンと手を叩く。

 

 使われた伝説の魔剣は、その多くが北欧の伝承に基づく魔剣だった。

 

 それは今は木場祐斗が保有しているものだったが、しかし元々は英雄派の幹部であるジークが保有しているものだった。

 

 そして、ジャンヌの姿をした従僕はジークの禁手を保有していた。

 

 それは、推測というにはあまりにも確実性がありすぎる。

 

「……人の命を何だと思ってんだ、あの野郎はっ!」

 

「敵対する他ないものと、同盟は結べても裏切る可能性のあるものを忠実な部下に変える。合理的といえばそれまでだが、情があまりに無さ過ぎるな……っ」

 

 古城の拳に力が入り、アルサムの眉間にしわが寄る。

 

 そして、そんな仲間達の反応に、兵夜はすまなそうな表情を浮かべた。

 

「なんか、本当にごめん」

 

「あの、なんで兵夜さんが謝るんですか?」

 

 ヴィヴィオの意見はもっともだったが、しかし本題はここからなのだ。

 

「兄上? いったい何に思い当たったんですの? 昔弱みを握ってこき使った不良の1人がエイエヌの正体だとか?」

 

「……何をしてるんですか、貴方は」

 

 雪侶の言葉を聞いてシェンが呆れるが、しかしそんなものではなかった。

 

「いや、たぶんエイエヌの正体は俺だ」

 

 ため息交じりに放たれた言葉に、再び全員が絶句した。

 

「……え?」

 

 アインハルトが首をかしげるが、しかし兵夜は気にすることなく続ける。

 

「兵夜は日本語で兵と夜。それを英単語に直すとarmyとnight。頭文字を少し読み方をひねればエイとエヌだ」

 

「いや大将、armyは陸軍だ」

 

「いえグランソード。そのうっかりがまさに兄上っぽいのですが」

 

 グランソードが否定するが、しかし雪侶からしてみればそれこそ兵夜らしい。

 

「あの、それってどういうことですか?」

 

「十中八九当たりってことね。確かに自己の倫理観の欠如した肉体魔改造っぷりはすごく似てるわ。体格もそっくりだし」

 

 首をかしげるコロナに、シルシが一筋の汗を浮かべながら簡潔に纏める。

 

 確かに、こと自己及び敵相手の倫理観に問題が見られる兵夜らしいといえば非常にらしい共通点だ。

 

 そして、兵夜は胸すら張れる勢いで確信を持っている。

 

「おそらくエイエヌ及び赤龍帝のいた平行世界は「俺があるミスを犯さなかったことでイッセーと仲良くならず、そのまま俺が禍の団にスカウトされた平行世界」だろう」

 

「やけに確信に満ちているね、兵夜さん」

 

 自信満々で答える兵夜に須澄は首をかしげるが、しかし兵夜は断言できる。

 

「宮白兵夜にとって、兵藤一誠は光だ。それを持たない俺が、悪に堕ちることだけは想定の範囲内だ」

 

 それは胸を張ってはいけないが張れるほど断言できる宮白兵夜の絶対理論。

 

 宮白兵夜の良心といってもいいイッセーとの出会いは、それがなければ悪に堕ちるといっていい当然の確信だった。

 

 そして、だからこそもう一つだけ推測できることがあったが、それは今は言わない。

 

 それは、本当に僅かな可能性でしかないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの、イッセーさま?」

 

「なんだよ? 俺、マジでブチギレる一歩手前なんだけど?」

 

 そして、だからこそ誤解が一つ解けるのも早かった。

 

「あの、仙術で確認してみましたが、確かにあそこにいるのは従僕ではありません」

 

 沈黙は、十分ぐらい続いた。

 

 鎧の隙間から大量の脂汗を流しながら、赤龍帝は油が切れた機械の如くギギギと振り向いた。

 

「……どういうこと?」

 

「大方、エイエヌは町一つ丸ごと従僕にしたことが何度もあるってことだろう?」

 

 兵夜は大体のところを予想して、そう言った。

 

「今回だけ趣向を変えたのか、それともお前らが見たのはたまたまだったのかはわからないが、とりあえず今回はそうじゃない。少なくとも相当数の従僕じゃない奴らが何人もいる」

 

 その言葉に、赤龍帝の後ろの者達がどよめいた。

 

「嘘だろ? だってアイツ十回はしてるはずだぜ?」

 

「だって聖杯戦争だろ? あいつのことだしやってるはず……」

 

 どよめく後ろの者達の視線が、そしてやがて赤龍帝に集まった。

 

 ちなみに、相対する兵夜達の多くは、非難の視線を向けている。

 

「………あの」

 

「うん、なに?」

 

 代表して須澄が答えると、即座に土下座が放たれた。

 

「マジで申し訳ありませんでしたぁあああああああああああああああああああ!!!!」

 

 それはもう見事な土下座だった。

 

 土下座グランプリがあれば金賞をとれるほどの土下座だった。

 

 アルサムがした土下座など、この土下座に比べれば錆が見えるほどの土下座だった。

 

 なんというかもう、土下座・オブ・土下座とか名付けたくなる土下座だった。

 

「ああ、いいよもう。僕らだって聖杯戦争に参加してるんだし、死人が出るのは覚悟の上だったし」

 

「そうだな。もともと上に許可を取らずに動いていたのだ、むしろあの程度で済んだのは奇跡に近い」

 

 死人が出ている側の須澄とアルサムはそう告げるが、しかし赤龍帝は頭を上げない。

 

「いや! エイエヌに騙されてるとはいえ酷いことを! マジすいません! エイエヌ倒したらホント首差し出します!!」

 

「あの、兵夜さんとエイエヌは別人なんですけど」

 

 結局肝心のところが勘違いされてるのでヴィヴィオは言うのだが、しかしそこは兵夜が一歩前に出る。

 

「もう面倒だからこれで決めよう。赤龍帝」

 

 そう言いながら、兵夜は代行の赤龍帝を起動させる。

 

 瞬時に赤い鎧に身を包みながら、兵夜は手招きして赤龍帝を挑発した。

 

一対一(サシ)で来い。口で言っても信じてくれないだろうし、拳で語ろうか」

 




 ようやく出せた従僕のネタ晴らし。本当はエイエヌに直接語らせる予定だったのですが、しかし思った以上にこれを出してないことが原因で不満がたまっているようなので早めに出すことにしました。

 本来のイッセーの性格との豹変から、どうしてこういうことになったのかを推理させるつもりだったのですが、どうも不評だったようで申し訳ありません。


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拳で語れ

 

 次の瞬間、赤龍帝はすべてを投げ飛ばして拳を突き出した。

 

 そして、兵夜はそれに正確にカウンターを叩き込む。

 

 そして、拳が()()()の顔面に直撃した。

 

「……いい拳してんじゃねえか、エイエヌ!」

 

「奴と一緒にされるのは仕方がないが、奴より俺のがいい拳してるぜ?」

 

 そして、再び拳が突き出されて同時に顔面に吸い込まれる。

 

 続けて放たれるボディブロー、ガゼルブロー、ハートブレイクショット。

 

 それらすべてがクロスカウンターとなって直撃し、二人の体から鮮血が飛ぶ。

 

「……大将の奴、なんて無茶しやがるんだ」

 

「総合的な性能ではオリジナルの方が上。にもかかわらず真正面からの殴り合いをあえてするとは」

 

 呆れ半分のグランソードとアルサムの目には見えている。

 

 赤龍帝が攻撃を喰らっているのは兵夜の戦闘センスによるものだが、兵夜が喰らっているのはわざとだ。

 

 わざと拳を受けて、そのうえで拳を叩き込んでいる。

 

 そして、それをわかっているものは意外と多かった。

 

「あの、宮白さんはなんでわざと攻撃を受けているんですか?」

 

「あ、やっぱり!? てっきりそう見えてるだけだって思ってた」

 

 雪菜が唖然として、それを聞いてリオは何というかほっとした表情を浮かべながら心配するという荒業をやってのける。

 

「……兵夜さん、何を考えているんでしょうか」

 

「あの、拳の威力だけなら赤龍帝って人の方が上ですよね!?」

 

 アインハルトとコロナも兵夜を心配そうに見る。

 

―赤龍帝の誤解は、俺が解く。

 

 都市を壊滅させる気があると思われる赤龍帝達を止めるため、動こうとしたとき、兵夜は赤龍帝対策をそういった。

 

 これまでの経験から何か策があるのかと思い、グランソード達は何も言わなかったが、ふたを開けてみればあの始末。

 

「おい、わざと喰らってるってどういうことだよ!? っていうかそんな簡単に相打ちなんてできるのか!?」

 

「いえ、暁さん。むしろ兄上なら簡単にできるのです」

 

 武術の心得が全くないので一人だけわかっていなかった古城に、雪侶が頭を抱えながらそう答える。

 

「兄上はイッセーにぃの動きならコンマ1秒以下でどう動くか読めますの。おそらくこれまでの戦闘で平行世界ゆえの誤差をアジャストしてますのよ」

 

「なにそれ気持ち悪い!」

 

 思わず本音が須澄の口から洩れるが、しかし問題はそれどころではない。

 

 なぜ、そんなことをする必要があるのか?

 

 そう思う皆の想いは共通していて―

 

「―必要、だからです」

 

 ヴィヴィオは、それを読み切っていた。

 

「わかるの?」

 

「はい。わかります」

 

 シルシに頷き、ヴィヴィオはまっすぐ前を見る。

 

「どうした赤龍帝! まだまだこんなもんじゃないだろう!!」

 

「当たり前だ、当たり前だこの野郎!!」

 

 骨にヒビが入る音すら響かせながら、兵夜と赤龍帝は殴り合う。

 

 その光景をまっすぐ見つめながら、ヴィヴィオは固唾をのんで見守った。

 

「ぶつかり合わなきゃわかってくれないと思ったから、兵夜さんは赤龍帝さんと殴り合ってるんです。……思いを込めた拳なら、言葉よりわかってくれると思ってるから」

 

 はたから見れば馬鹿らしいかもしれない。

 

 だが、ヴィヴィオは知っている。

 

 思いは時として、言葉では伝わらないということを。ぶつかり合うことでわかる想いもあるということを。

 

「だから、きっと大丈夫です」

 

 だからヴィヴィオは笑顔を浮かべる。

 

「頑張れ兵夜さん! 届きます、きっと届くから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「当たり前だヴィヴィ! 届くに決まってるさ!!」

 

 兵夜は血を流しながらそれに答える。

 

 まったくもって自分らしくないことをしていると、心から答えられる。

 

 元々宮白兵夜はこういった無骨なスタイルでは全くないのだ。それは断言できる。

 

 だが、兵藤一誠という男はむしろこういうスタイルがピタリと合うような男だ。

 

 なら、心を交わすにはこういう方法の方がうってつけだろう。

 

 だから、こうして分かり合うと心に決めていた。

 

「エイエヌエイエヌエイエヌと! 確かにあいつは俺だが、あいつと俺は別人なんだよ!!」

 

「わけのわからないことを、言ってんじゃねえ!!」

 

 何百発目かの相打ちが叩き込まれ、真偽の赤龍帝は同時に膝をつく。

 

「この野郎! さっきから気づいてたけど、お前わざと喰らってるな!?」

 

「あ? 気づくの遅すぎるだろうが馬鹿かお前は……いや、バカだったな」

 

 馬鹿じゃなければここまでこじれていない。そう思うとなんか別の意味で頭が痛くなってくる。

 

 だが、しかしそれも含めて赤龍帝(イッセー)なのだ。

 

 だったら仕方がない。仕方がないからやるしかない。

 

 覚悟を決めると、兵夜は全力で立ち上がる。

 

「さあ来いよ? それとももうへばったのか?」

 

「舐めんな! 俺はまだやれるんだよ!!」

 

 赤龍帝は立ち上がると、今度はフェイントまで入れて殴りかかる。

 

 だがあまい。ほんの僅かな違いから、フェイント狙いなのはすぐに読めるのが宮白兵夜の宮白兵夜たる所以。

 

 赤龍帝、兵藤一誠。彼の動きをゼロコンマ1秒で察せないようでは、宮白兵夜は宮白兵夜ではいられない。

 

 殴り合いを続けていくにしたがって、兵夜はどんどん過去を思い出す。

 

 覗き行為を繰り返すイッセー達に通報をしたことも。

 

 不良たちを支配する自分に、イッセー達がドンビキしたことも。

 

 夏休みにナンパのために海に行くイッセー達についていって、自分だけちゃっかり女を味わったことも。

 

 エロDVDを見るために、兵夜が裏で手をまわしてシアターセットを使ったことも。

 

 そして、初めて彼に救われたあの時のことも。

 

「ああ、本当になんでなんだろうな」

 

「何がだよ!」

 

 殴り合いながら、兵夜は赤龍帝と言葉を交わし合う。

 

「お前さあ、小学生の頃に壺割って即直した阿呆のこと知らねえか?」

 

「知らねえよ! そんなの小学生の頃見たら忘れねえって!! 俺はその時異能なんて知りもしなかったんだからよ!!」

 

「だろうな!!」

 

 何百発目かの相打ちと共に、同時に顔がのけぞり鎧が解除される。

 

 それでも、二人は殴り合いを再開する。

 

 打つ、打つ、打つ、打つ。

 

 殴る、殴る、殴る、殴る。

 

 もはや何の躊躇も回避もフェイントもなく、二人同時に相手の顔面を殴り飛ばし続ける。

 

「ああもう最悪だこの野郎! たった一つの失敗があるかないかで、ここまで世界が変わるだなんてよぉ!!」

 

「それお前の失敗かよ! どんなうっかりミスだ!」

 

「そのうっかりミスのあるなしが世界の命運変えてんだろうが!!」

 

 顔面に拳が突き刺さり合い、そして二人は今度こそお互いに仰向けになって倒れた。

 

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」

 

「ぜえ・・・ぜえ・・・ぜえ・・・」

 

 全身血まみれになりながら、それでも全力でぶつかり合い、そして動けなくなるほど殴り合った。

 

「……なんなんだよ、お前」

 

「……エイエヌであってエイエヌでない宮白兵夜って男だ。まだわからないか?」

 

 だとすると困ると思うが、しかし赤龍帝は首を振った。

 

「いや、あいつはこんなことしないさ。どこで手段を変えてくるかわからなかったし、間違いなくエイエヌの反応だけど、お前はなぜかエイエヌじゃない」

 

 歯を食いしばり、涙すら浮かべながら、赤龍帝はそれを認めた。

 

「腹立たしいほどエイエヌなのに、お前はなんでかエイエヌと違う。……なんなんだよ、お前は」

 

「その感情は俺も思ってるさ」

 

 吐き捨てるように、兵夜は嗚咽を漏らす。

 

「なんで宮白兵夜()兵藤一誠(お前)に憎悪すら向けられなきゃならないんだ。マジでふざけんな本当に」

 

 そう言いながら、兵夜は立ち上がると虚空を睨む。

 

 ああ、お前は必ず見ているはずだ。こんな面白い見世物に興味を覚えないわけがないだろう。

 

 とことんまでに邪悪に染まった俺の写し鏡。いい加減姿を見せろ―

 

「とっとと姿を現せ、エイエヌ……いや宮白兵夜……いいや―」

 

 もはや隠すまでもない。

 

 すべてを明かして清算しろ―

 

「―近平(ちかひら)(もどり)!!」

 




ようやく明かせた、戻の意味。

転生者には最初の人生があります。

つまり、最初の名前があるということです。


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近平戻

全てはここから始まった。

宮白兵夜が、須澄を見たとき驚愕したのも

エイエヌが、やけに須澄に手を出すのを残念がっていたのも。

兵夜が、須澄の魔術特性を詳しく知っていたのも。

全ては、彼らが繋がっていたからこそ……っ


 俺は心の底からその名前を言い放った。

 

 ああ、自分で言ってて懐かしい名前だ。

 

 周りにいる連中は、全員少し疑問を抱いているだろう。

 

 当然だ。この名前を俺が語ったことなどかつて一度たりともないのだから。

 

「……近、平?」

 

 特に須澄の驚き具合が半端ない。

 

 ああ、そりゃそうだろう。自分とおなじ姓を、俺が名乗っているんだからな。

 

 だが、これは間違いなく正真正銘の真実だ。

 

 そして、奴もその辺のノリはしっかりしている。

 

「はっはっはっはっはっは! その名前で呼ばれたら、確かに出てこなけりゃいけないだろうな!!」

 

 その言葉と同時に、海面から巨大な魔獣が姿を現す。

 

 サイズこそでかいが、これまでの魔獣と形状そのものは大した違いがない。

 

 ああ、やはり本来の使い手(レオナルド)ほどは使いこなせていないということか。

 

「今回、従僕の生産限界数があったんであえてそのまま聖杯戦争に移行したんだが、結果的に赤龍帝を大量虐殺班に仕立て上げるという面白そうな展開にできそうだったんだがなぁ?」

 

 そして、当然のごとくその頭頂部には見慣れた姿が。

 

「うっひゃひゃひゃ! 殺しがいの在りそうな連中がより取り見取りですなぁ。うーん僕迷っちゃう!」

 

 まさかお前がここまで強敵になるとは思わなかったよ、フリード。

 

「赤龍帝の苦悶の顔は素晴らしく面白いなこれが」

 

 そうかい。俺はお前のオリジナルそっくりの顔は見たくなかったよフォンフ。

 

 敵陣営の幹部格ともいえる連中が出てきやがった。

 

「ああ、そこまで分かってるなら仕方がない。もともと遊び半分でつけてた仮面だしもう要らないか」

 

 そういって仮面を外したエイエヌの顔は、間違いなく俺の顔そのものだった。

 

「やはり、そういうことか……っ!」

 

「マジで宮白と同じ顔かよ」

 

 いやそうな顔をしながら、アルサムも古城も戦闘態勢をとる。

 

 いや、すでに全員が戦闘準備を整えていた。

 

 だが、エイエヌは何の動揺も見せないでいると指を鳴らした。

 

「ひれ伏せ」

 

 次の瞬間、心の底からひれ伏したいという感情と物理的な圧迫が襲い掛かった。

 

「……っ!?」

 

 とっさに神格の力すら発動させて弾き飛ばすが、しかしそれをできたのはごくわずか。

 

 上級悪魔クラスも含めた多くの連中が、一斉に地面にたたきつけられた。

 

「……これは、一体!?」

 

「体が、重い……っ!」

 

 魔力無効化装備を持つ姫柊ちゃんとシェンすらくらうということは、つまりそれだけのやばい力だということ。

 

 ってことは想定できるのはただ一つ。

 

神滅具(ロンギヌス)禁手(バランス・ブレイカー)か!?」

 

「その通り。これが俺の黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)の亜種禁手、覇光の聖槍(トゥルー・ロンギヌス・イデアバースト)だ」

 

 おいおい、その名前から推測できる能力なんて一つしかないぞ。

 

覇輝(トゥルース・イデア)を限定的に運用しているのか!」

 

 だとすると、かなりまずいぞオイ!?

 

「と、覇輝っていったい何なの!?」

 

 あまりの事態に混乱しているリオ達に、俺はとりあえず時間稼ぎもかねて説明する。

 

「神器の中には封印された存在の力を開放する覇という概念があるんだが、覇輝っていうのは黄昏の聖槍に込められた覇の力だ」

 

 そう、そしてその特性はほかの覇とはまったく異なる。

 

「槍に込められた聖書の神の遺志を開放する覇輝は、状況に応じて聖書の神の遺志が選んだ結果を具現化するという点で、ほかの覇とはまったく異なる力を持つ」

 

「単純な他の覇は莫大な消耗と引き換えの能力の上昇だが、覇輝は状況と聖書の神の遺志の判断で多種多様な能力を発現する。そのため聖書の神の意にそぐわない行動をとれば開放しても何も起こらないという結果に終わることがすでに判明しているが……」

 

 俺の説明を引き継いだアルサムの言いたいことはすでに誰もがわかっている。

 

 神滅具クラスの覇ともなれば、その出力は主神クラスだ。

 

 それらを弱体化させたとはいえ自分の意志で自由自在に使えるということは―

 

「そう、このように魔王クラスに届いていない連中なら完全に無力化できるということさ!」

 

「ヒャッハー! これでむちゃくちゃ殺し放題だぜ!!」

 

「そういうわけで死んでもらうおうか兵藤一誠!!」

 

 いうが早いか、フリードとフォンフが即座に赤龍帝を殺しにかかる。

 

 特にフォンフの目がマジだ。ああ、あいつのオリジナル(フィフス)は自業自得とはいえ散々な目にあっているからなぁ。

 

「させると思うか?」

 

「舐めんなフィフス!!」

 

 しかしアルサムとグランソードがそれを受け止め、そして俺も動き出す。

 

 動けるのはあの二人を除けばあとは赤龍帝とレグルス、そして古城か。まあ妥当だな。

 

 だとすれば―

 

「暁! 魔獣が接近したら眷獣で薙ぎ払え!!」

 

「あ、おい宮白!!」

 

 古城は止めようとするが、しかしそんなことを気にしている暇はない。

 

 第一―

 

「エイエヌぅううううううう!!!」

 

 あのバカのフォロー役が必要不可欠だろうしな!!

 

 赤龍帝は即座にレグルスと融合すると、全力の拳を叩き込む。

 

 普通に考えれば神滅具の禁手二つ乗せなんて即死ものだが、しかしエイエヌは全く動揺しない。

 

「……禁手化(バランス・ブレイク)♪」

 

 非常に楽しそうに禁手を発動させながら、エイエヌはかけらもよけずにそれを無防備に受け止めた。

 

 そしてそのまま主神すら殺せそうな拳が放たれ―

 

「―なっ!?」

 

 鎧ごと解除されて、一瞬で無力化される。

 

「―これが俺の絶霧(ディメンション・ロスト)の亜種禁手。赤き龍を絶望に包み込む黒い霧(アズライグ・ロスト)。能力は極めて単純―」

 

 いうが早いかエイエヌは即座に拳を握り締め殴りかかり―

 

「―赤龍帝の力の無効化だ」

 

「ガハッ!?」

 

 何の抵抗もなく鎧を砕いて鳩尾に拳を叩き込んだ。

 

「赤龍帝!? しっかりしろ!!」

 

「クソ、下がれ赤龍帝!!」

 

 同一化が解除されたレグルスがかばうように前に出て、俺はそれを利用して赤龍帝を回収する。

 

「下がれ赤龍帝! 奴の禁手が本当なら、今のお前じゃあいつには勝てない。ドライグ、透過は無理なんだろ!?」

 

『なぜ知っている!? だがその通りだ。そもそも、赤龍帝の籠手で透過は使えなかったはずだが……』

 

 そのレベルってわけかよ! くそ、詰んでねえかコレ!!

 

 イッセーは今ので重傷、グランソードとアルサムはフリードとフォンフが邪魔で動けない。

 

 そして、暁は動けない奴らの護衛として必要不可欠。

 

 つまり神の俺が神殺しを相手にしなきゃいけないというわけで―

 

「アザゼルとエヴァルド猊下を呼んでおけばよかったな、いやマジで!!」

 

「え、あいつら近くにいるのかよ? これさすがにきついか?」

 

 あ、エイエヌがさらに本気になりやがったかこれは!?

 

 ちょっとマジでビビルが、赤龍帝が俺の肩に手を置いた。

 

「……安心してくれ、宮白兵夜。フェニックスの涙は持ってる!」

 

 赤龍帝はそういうと、すぐに怪我を回復させて起き上がる。

 

「むちゃくちゃ悔しいけど、今は増援が必要だ。……あとなんでアザゼルが生きてるのか後で説明しろよな!」

 

「そこから気づいてなかったんかい! ええい仕方がない!!」

 

 とりあえず、それならこっちもやりようはある!!

 

「グランソードとアルサム! 選手交代だ!! あとフォンフは俺が引き受ける!!」

 

「応よ大将! アルサム、行くぜ!」

 

「それが妥当か、よし、任せる!!」

 

 二人はすぐに判断すると、即座に距離をとってすぐにエイエヌに向かう。

 

 むろんフリードもフォンフも邪魔しようとするが、しかし舐めてもらっては困るんだな、オイ。

 

「行かせると思うか!!」

 

「エイエヌをぶち殺せそうになくて腹立ってるんだ。八つ当たりさせてもらうぜ、この野郎!!」

 

 俺と赤龍帝の攻撃が、二人を押しとどめて足止めする。

 

 さあ、まだまだそう簡単にはやられないぜ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空中で猛攻が繰り広げられる中、近平須澄は唖然としていた。

 

「……戻? 近平戻って……本当に?」

 

「須澄さん? あの、戻って人の名前でいいんですか?」

 

 同じく地面にひれ伏されながら、アインハルトは須澄に尋ねる。

 

 その答えは首肯以外にない。

 

 ああ、実に懐かしい名前で、あり得ない名前だ。

 

「僕の兄だよ。僕が五歳ぐらいのころに、音楽聞いてて車に気づかなくてはねられて死んだって、父さんがあきれながら言ってたけど」

 

「なら、間違いないですわね」

 

 何とか起き上がろうとしながら、雪侶はそれを肯定する。

 

「兄上は現在ギリギリ17歳。受精から妊娠までの期間も含めれば、時期的なタイミングはぴったりと合いますの。ほぼ間違いないですのよ」

 

「ああ! その通りさ!!」

 

 エイエヌがアルサムとグランソードの攻撃を何とかかいくぐりながら、それを肯定する。

 

「初めて顔を見て、名前まで知ったときは驚いたさ! もちろん宮白兵夜もそうだったろうな!!」

 

「黙れエイエヌ! 貴様は、その実の弟を悲劇に巻き込んだことを恥じていないということだろう!!」

 

 軽蔑とともに放たれるルレアベの一撃を聖槍で受け止めながら、エイエヌはそれを肯定する。

 

「ああ、あいにくそういう感情は喪失しててな。いや、さすがにちょっとやっちゃったなーって思ってはいるけどさ?」

 

「だったらくたばっとけ!!」

 

 聖槍が使えない隙を狙ったグランソードの拳を絶霧で受け止め、エイエヌはしかしにやりと笑う。

 

「……グレートレッドを殺すのに比べれば、大したことじゃないからな」

 

「なぜだ! なぜその様なことを考える!!」

 

 アルサムはそれがわからない。

 

 グレートレッドを殺して何の得があるのだろうか?

 

 そんなことをしても地球を中心とするあらゆる神話体系の憎悪を買うだけでメリットがない。

 

 時空管理局と渡り合えるだけの次元世界組織であるフォード連盟を支配しているといってもいいエイエヌならば、グレートレッドを気にすることなく次元航行を行うことだってできるはずだ。

 

 なのに、いったいなぜそんなことをする?

 

「大したことじゃない。それが面白いと思っただけさ」

 

 エイエヌは、なんてことの内容に言いながら二人を弾き飛ばす。

 

 その際放たれるのは光力や魔力、そして灼熱に暴風に吹雪に雷光。

 

 あらゆる属性攻撃が、二人を力押しで圧倒する。

 

「ああ、本当に大したことじゃない。俺は楽しそうなことをしたいだけだ。ただの愉快犯だよ、俺は」

 

 そう愉悦の笑みを浮かべながら、エイエヌははっきりと言い切った。

 




ようやく出せましたこの情報。

ぶっちゃけ、この情報を出さないために普段メインで使っている兵夜の一人称使わないで進めてきましたから。

因みに近平のネーミングですが、苗字のほうは遠坂の反対の意味になりそうな時からセレクトしました。
 そんでもって兵夜の戻は「お前うっかり癖だから時々原点に戻れ」という願いを込めて作られ、そして兵夜は弟が生まれたときに「前に一歩一歩進んでくれるように」と当て字で須澄の名をセレクトしたのです。


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仮面の裏の本性 ~我が人生を彼女の遺言に捧ぐ

ホテルでの一幕を覚えているでしょうか?



あれ、一応伏線でした。


俺はフォンフの相手をすることを即座に決定する。

 

 理由? んなもん一つに決まってるだろう。

 

 フィフスのコピー体であるフォンフが、イッセーメタの戦闘スタイルでないわけがないからだ!

 

「火龍の鉄拳!!」

 

「へぶあ!?」

 

 そして俺はすっかり忘れてた。

 

 今俺、代行とはいえ赤龍帝だった!

 

 あと龍属性俺もあったよ!!

 

「龍殺し持ってんのかよ!? そして宮白兵夜、お前馬鹿なの!?」

 

「すいませんうっかりしてました! あと対龍戦闘魔法だそうです!」

 

 あ、これ駄目だ。むちゃくちゃ不利だ

 

 でもエイエヌも振り出し、ええいこうなったら―

 

「まずお前をぶち殺してやるよ、フリードぉおおおおおおおお!!!」

 

 幸いフリードは頑丈なだけだ。

 

 ぶち殺すのなら比較的楽! ならばそうするしかない!!

 

 だが、フリードの奴はなんかすごい余裕の表情を浮かべていた。

 

「ひゃははははは!! 甘いぜクソ神様!!」

 

 フリードは俺の一撃を簡単に防ぐと、そのまま光の拳銃を向けた。

 

 だがその程度でやられる上級悪魔など存在しない。即座に俺は防護障壁を展開し―

 

「バキューン!」

 

 ―その弾丸は俺と赤龍帝を簡単に貫いた。

 

「はぁ!?」

 

「何!?」

 

 俺も赤龍帝も痛みではなく驚愕から絶叫を上げる。

 

 おいおいおいおいちょっと待て

 

「うひゃひゃひゃひゃ! 言ってなかったっけ? 実は俺様ちゃんが英霊を宿してる存在なんだよねぇ?」

 

 そう気軽そうに笑うフリードの髪は、黒く染まっていた。

 

「日本人のお二人さんなら当然知ってる有名人! 織田信長!! そしてその能力はーなんと!!」

 

 そういうが早いが、フリードの後ろにあるものが現れる。

 

 それは、早い話が火縄銃。

 

 だが、その数が問題だった。

 

 その数、ざっと数千。

 

 明らかに数の暴力を体現しまくっている。

 

「その名もずばり天下布武! 神性や神秘のランクが高い相手や、体制の守護者の属性相手に有利な補正を与える素敵ウェポンさ! 言いたいこと、わかるよねん?」

 

 ああ、泣きたいほどわかるよフリード。

 

 つまり、聖書にしるさせし神が作り出した神滅具を持つイッセーはもちろん、神様そのものである俺にも効果的。

 

 ましてや俺もイッセーも現政権側。必然的に体制の守護者だ。

 

 まずい、こんなもの喰らえば―!?

 

「撃ち抜け、三千世界(三段撃ち)!!」

 

 そして何の躊躇もするわけがなく、そのまま一斉に攻撃が放たれる。

 

 ……こうなりゃ賭けだ!!

 

「純正化学式複合素材型装甲版、展開!!」

 

 奴の発言がその通りなら、何の神秘も加えていない学園都市性の装甲版なら効果は薄いはず!!

 

 そして、弾丸の雨あられが装甲版にぶつかり火花を散らす。

 

 よし! どうやら想定通り! 賭けに勝った!!

 

 勝ったけど……。

 

「「動けねえええええええ!!!」」

 

 まさしくこれぞ制圧射撃! 顔を出した瞬間に神秘殺しの弾丸が直撃する!

 

 火縄銃の連射速度は分速1~3発。それが掛ける三千だから分速平均六千発。秒速平均約百発だ。

 

 ああ、ガトリングガンじみた連射速度。こんなもんどうしようもないだろうが!!

 

「クソ! これじゃあ動けない!!」

 

「オイどうするんだよ! だったらもう誰かの助けを借りるしかないんじゃないか!?」

 

 赤龍帝がそういうが、しかし動ける連中はほとんどいない。

 

 グランソードとアルサムはエイエヌの相手で手一杯。暁だって数千年前の吸血鬼の力である以上、天敵であることには変わりないだろう。

 

 そしてほかの仲間たちはエイエヌの禁手で動けない。

 

 ヤバイ、完璧に詰んでる!!

 

「……そして、俺はもう回り込んだぞ?」

 

 あ、フォンフの奴いつの間に回り込んでやがる!?

 

「ああ、俺の憎悪の根源を、この手でようやく晴らすことができる」

 

 そう笑みを浮かべると、フォンフは腰を落として拳を構える。

 

 ヤバイ! フォンフのターゲットは赤龍帝か!

 

 クソ! せめて時間を稼げれば―

 

「まあ待てよフォンフ。冥途の土産に、俺の過去でも聞かせてやろうじゃないか」

 

 エイエヌ! ありがとう聞かせてくれ!! 流石愉快犯!!

 

 そしてその隙を突いて、俺は状況を打開してくれるわ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイエヌSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当に、本当に俺の人生の理由なんてものは大したことじゃない。

 

 転生者の人生は、最初からある種の躓きがあるといっていい。

 

 なんたって、最初から人生の最初から最後までの経験がある。こんなもん、メリットもあるがデメリットもあるさ。

 

 当然周りの環境と馴染めないなんてことはいくらでもある。人格が歪んでもおかしくない。

 

 だから、俺の人格は当然の如く歪んだわけだ。

 

 いや、だからって同情しろとかは言わないぜ?

 

 それにしたって俺のやったことはやりすぎだ。暗示の魔術と黒魔術による薬草関係を使ってどれだけの人間を傀儡にしたことか。

 

 そんな環境で適度に豪遊した人生を送ろうかと思っていた中学一年生の時、それが起こった。

 

 ……あそこの世界の連中なら知ってるだろう? 禍の団(カオス・ブリゲート)さ。

 

 あいつらも転生者の情報は持ってたらしく、強引にスカウトされたんだよ。しかもたまたま近くにいたオーフィス直々に。

 

 ああ、マジで死ぬかと思ったね。俺の人生これで終わりかと心臓が止まるかと思ったよ。

 

 だが、あの無邪気な子供は利用できると思って俺は賭けに出た。

 

 そっからは結構楽しかったな。なにせオーフィスは純真だから、簡単な遊びを教えるだけで気に入られたよ。

 

 他の連中は、オーフィスを怖がって近づこうともしなかったから非常に都合がよかった。おかげで俺は摂政に近い立場になったし、彼女が積極的に協力してくれたから、俺はだいぶ好き勝手出来た。

 

 だがまあ、曹操にはマジでむかついたね。俺のオーフィスを利用するどころか、力を奪い取って使い捨てにすることすら考えてたんだから。

 

 その辺り俺に諭してきたりもしたから、適当に乗っかる振りして暗殺してやったよ。堕天使側からの神器摘出技術を確保できてたから、ついでに曹操が確保していた神器使いの神器とか、曹操達の持ってた神滅具とか貰っといたけどな。

 

 ……ああ、因みに俺の従僕の正体も気づいてるから教えるけど、俺の魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)の禁手は|死肉より創造されよ我が従僕《アナイアレイション・メーカー・フランケンシュタン》っていうんだ。

 

 これに覚醒できたのがオーフィスと出会ったことの次にラッキーだったね。なにせ、敵をぶっ殺すことにさえ成功したら、その手強い連中を頼りがいのある配下にできるんだ。

 

 しかも掛け合わせもできる。

 

 ジークの能力はマジ便利だったよ。赤龍帝の仲間達をより強化して運用できれば、それこそ無茶苦茶大暴れできるからな。

 

 ……そんなこんなで詳しい話はあの世で赤龍帝に聞いてもらいたいが、俺はこれを使って上手く立ち回り、グレートレッドをぶっ殺すことにまでは成功した。

 

 方法? あの世界にはサマエルっていうドラゴン特化の最終兵器が存在したからな。オリュンポスで内戦起こしてから、特攻かまして奪い取ったんだ。

 

 それで何とかグレートレッドは殺せたんだが、そこで俺はうっかりした。

 

 ……オーフィスもドラゴンだってこと忘れてたよ。だって普段は女の子なんだもん。

 

 おかげでオーフィスも死にかけに弱って、慌ててサマエルを封印しなおしたところにそこの赤龍帝君が仕掛けてきやがってさぁ。

 

 ………………オーフィスは、死んじまったよ。流石にあの状態で二天龍を相手にするのはやりすぎだったな。

 

 アイツ、俺のこと気に入ってたのか最後にこんなこと言ってきたんだよ。「楽しく生きてくれ」……ってさ。

 

 あ、あと平行世界の話をしてたからからか、別の世界の自分に静寂を与えてほしいとも言われたんだ。

 

 ……散々後ろ盾になってくれた奴の最後の頼みだ、聞いてやるのもやぶさかじゃない。

 

 それに、楽しそうだろ? 世界最強の存在を殺して、そして生まれる世界の混乱を眺めるのって?

 

 ま、それが俺の理由だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、その過程で直接間接含めれば人類絶滅寸前まで追い込んでるから同情には値しないだろうけどな?」

 

 エイエヌはそう占めると、愉悦に満ちた表情を赤龍帝へとむける。

 

「ほらどうした? むかつく自分語りだっただろう? 怒りで覚醒の一つでもやって見せろよ?」

 

「このクソ野郎が……っ!!!」

 

 目を血走らせて憎悪の表情を浮かべる赤龍帝だが、しかしまあ、そういうことか。

 

「ハッ!」

 

 俺は鼻で笑わせてもらったよ。

 

 ああ、それこそ心から鼻で笑える。

 

「中途半端すぎるぜ、エイエヌ」

 

「………は?」

 

 エイエヌは呆れる声を出しているが、しかしあまりにもそれは遅い。

 

 おいおいエイエヌ。お前それはうかつすぎるぞうっかりだぞ。

 

 この俺の目の前で、そんなに餌をぶら下げるなよ? 食いつきたくなるじゃないか。

 

「憎悪に燃えて殺したくてたまらない? ハッ! そんなちゃちなもんじゃないだろ、()()()()()

 

「…………」

 

 エイエヌは沈黙をもって肯定する。

 

 ああ、仮面だらけの表情が、本音を隠せなくなってるぜ?

 

 平静を装っているようで、口元は引くついているし額には青筋が浮かんでる。

 

 実に図星を突かれた表情だ。実にわかりやすい。

 

 だから答えてやろうエイエヌ。お前の本音を。

 

「それでなんでグレートレッドを本当に殺す必要がある? 態々赤龍帝の仲間達という、才能はあれど未熟な若い戦士を選んで従僕にする必要がある? 態々赤龍帝の神経を逆なでする必要がある?」

 

 それが楽しいから?

 

 ああ、確かにそれはそうだろう。

 

 だが、なんで楽しいのかは答えてない。

 

 だから俺が答えてやろう。

 

「大好きなオーフィスの頼みだからグレートレッドを殺すんだろう?」

 

「…………」

 

 長い沈黙がその答えだ。

 

 人間、図星を刺されると黙っちゃうもんだもんな。

 

 そして、中盤からの答えもそれだろう?

 

「因果応報だろうが何だろうが、オーフィス殺した兵藤一誠が憎いから、あえて神経逆なでする方法で精神苦しめないと我慢できないんだろう?」

 

「……………」

 

 またしても沈黙。

 

 ああ、隠しても無駄だエイエヌ。

 

 あの子は本当に純真な子供だ。おそらく、お前が全てを話しても引いたりしなかっただろう。

 

 ああ、そうだろうそうだろう。それが、俺らにとってどれだけ重要なことか、俺はよく理解してるさ。なにせ、俺だからな。

 

 そう、あいつはおそらく、お前にとっての光だっただろう。

 

 だから、そう、だから―

 

「俺はお前でお前は俺だ、エイエヌ。だから手に取るようにわかるぜ? 全て話しても純粋に受け止めるオーフィスが大好きなんだろう? 心から悪に堕ちたお前は因果応報なんて納得したりしないだろう? だから―」

 

「―だからグレートレッドを殺すついでに、兵藤一誠の心を殺す」

 

 静かに、静かにエイエヌはそう告げる。

 

 そこにあるのは、薄ら笑いを浮かべる道化師ではない。

 

 間違いなく憤怒に燃える復讐者にして、最後の願いを叶える殉教者のそれだ。

 

「ああ。お前は俺のこと大嫌いだろうがな、赤龍帝? 俺もお前のこと大嫌いだよ!!」

 

 いうが早いか、エイエヌは聖槍片手に赤龍帝に突きかかる。

 

 その豹変に対応できたのは、俺一人だけだった。

 

 対聖槍用に木場に創ってもらった魔剣でそれを受け止めながら、俺は全身を焼かれながらエイエヌの心を切開する。

 

「ああ、むかつくだろう! 自分の光を、太陽を! 奪われてお前は納得できる奴じゃない! 悪に堕ち切っているがゆえに、そんな因果応報なんてどうでもいい!!」

 

「ああそうさ! 誰一人彼女を理解しなかったくせに、その彼女のただ一つの願いすら打ち消すような連中の都合など知ったことか!!」

 

 技も技術もへったくれもない、豪快な一撃が俺を押し飛ばす。

 

 だが、俺は赤龍帝を庇う為にすぐ戻って受け止める。

 

「その為に態々姫様達を従僕にしたんだろう!? 戦闘能力不足を、ジークをばらして組み込んでまでな!!」

 

「ああそうさ! あいつらを使って赤龍帝を生きたままばらして動けなくしてから、本格的な本番だ!!」

 

 エイエヌは狂気的な笑みを浮かべて、そして赤龍帝を見据える。

 

「覚悟しろ、お前の目の前であいつらとまぐわって、お前の心が壊れるまで犯し続けてやる! 止めれるものなら止めてみろ!!」

 

「させると思うか!」

 

「てめえちょっと黙れ!!」

 

 後ろからグランソードとアルサムが襲い掛かるが、しかしそれをフォンフが受け止めた。

 

「面白い! 平行世界とはいえ兵藤一誠の絶望だなんてそうは見れない! 俺もガブリ付きで見物させろよエイエヌ!!」

 

「てめえ、ふざけんな!!」

 

 あまりの報復内容に、古城もまたブチギレて眷獣を呼び出すが、しかしそれはフリードが受け止めた。

 

「ざんね~ん! 今の俺ちゃんには、太古の昔の力なんて通用しないよ~ん!」

 

 うん、隙を作るつもりで図星ついたが、これは思った以上に地雷踏み抜いたな。

 

 だが、ここまで激高しているなら隙が必ず生まれるはず。底さえ見つかれば……っ!!

 

「ふざけんなこの野郎! そんなこと、意地でもさせねえぞ!!」

 

「なら止めてみろ! 肝心の赤龍帝の力が通用しないのに、それ以外はせいぜい中級程度のお前がどうやって勝つのかなー?」

 

 とびかかった赤龍帝を蹴り一つで終わらせ、エイエヌは聖槍を突き付ける。

 

「訂正しよう。オーフィスの遺言は「平行世界があるのなら、その我に静寂を与えてほしい」と「兵夜も、楽しく生きて」だ」

 

 だからこそ、心から楽しそうにエイエヌは哂う。

 

 狂気的に、だけどどこまでもまっすぐに。

 

「だから俺は楽しむぜ? 心から楽しく全てを奪い喰らい貪り!! そのうえでしっかりあいつの願いを全て叶える!! この世界への移動は、全て彼女の力によるものなのだから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥………ふざけるな」

 




兵夜はやっぱり兵夜だという話。





どれだけ悪性に傾こうと、心に支えが必要なことは変わらない。結局兵夜は弱者なのだから、支え無くして立ち向かえなどしないのだ。









問題は、当時の純粋すぎて静寂を味わうこと以外に無頓着すぎるオーフィスがそれになってしまったこと。

最強の存在という後ろ盾を得たこの男が、そのある意味ゆがんだ願望のために全力を出しながら愉悦ったらどうなるか。………こうなった(汗


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憎悪の爆発。聖槍と五の残影

切りどころが悪くて、すごいアップダウンが激しい展開に……



ぶっちゃけ後半ギャグ変です。


 

 近平須澄は、立ち上がった。

 

 神器は、思いの力によって駆動する。

 

 ゆえに、強い想いを持っているのならば出力を向上させることは不可能ではない。

 

「ふざけるなよ馬鹿兄貴。さっきから黙って聞いていれば、お前の都合なんて知ったことか」

 

 奥歯を強く噛み締めて、須澄は怒りに染まった目でエイエヌを睨みつける。

 

「お前の、お前らの自業自得の結末の不満に、なんでアップを巻き込んだ!!」

 

 その糾弾に、エイエヌは少し言い難そうにしたが、視線を僅かに逸らしながら言い切った。

 

「……禁手の実験を兼ねた愉悦」

 

「そう。だったらここで死ね」

 

 その瞬間、正真正銘須澄はエイエヌの呪縛を振り切った。

 

 そして、そのまま()()し切りかかった。

 

「お前が! お前がお前がお前がお前がお前が!! お前さえ、いなければ!!」

 

「ああいいだろう。俺を憎め! 俺を恨め! 俺を殺しに来るがいい! その方が躊躇なく殺せて俺も気兼ねがしない!!」

 

 聖槍同士のぶつかり合いというあり得ない光景を繰り広げながら、エイエヌと須澄はそのまま離れていく。

 

「できれば君とは殺し合いたくなかったが、しかし自業自得なので我慢しよう! さあ、殺せるものなら殺して見せろ!!」

 

「だったら殺してやるよぉおおおおおおお!!!」

 

 聖槍のオーラが爆発的に上昇し、そして一気にぶつかり合う。

 

 だが、その戦闘は明らかに須澄が不利だった。

 

 一つは単純な技量の問題。

 

 輝き(オーフィス)に出会う前から鍛錬を重ねてきた勤勉なエイエヌと、聖槍を手にしてから聖槍だよりで戦ってきた須澄との間には大きな隔絶が存在している。

 

 一つは手数の問題。

 

 エイエヌは、聖槍以外にも様々な神器を保有している。また、神滅具だけでも確認されるだけで二つ別途に保有している。それだけで化け物といわざるを得ない圧倒的な力の持ち主だということがわかるだろう。更に三つすべてを禁手に到達させている。

 

 それに比べて須澄は聖槍一本。しかも禁手に至っていない。これでは性能不足は見るまでもない。

 

 そして最後に出力の問題。

 

 誰が見ても分かるぐらい、エイエヌの方が聖槍のオーラを放出させていた。

 

 以上三点すべてにおいて、エイエヌは須澄を圧倒的に凌駕している。

 

 この場の誰もが、エイエヌの勝利を疑ってはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「須澄!!」

 

 まずい! ちょっとこの流れは想定していなかった!!

 

 ええいあほか俺は!! このうっかりが!!

 

 俺も大概頭に血が上ってたな。思わず図星を突きすぎた!

 

「グランソード! フリードを押さえろ!!」

 

 少なくともグランソードならフリード相手には比較的相性がいいはずだ。

 

「舐めんな魔王さんよ! お前さん神秘の塊じゃーん!」

 

 そう言い放つフリードの発言は確かに正しいが、しかし誤算が一つある。

 

「カッカッカ! 甘いぜ?」

 

 振り抜かれる刃を、グランソードは素手で受け止める。

 

 グランソードの能力による防御だが、しかしフリードは驚愕する。

 

「なんでだ!? 魔王様のような神秘の塊なら、俺の能力ガチはまりするはず―」

 

「だから甘いぜ兄ちゃん。この能力は―」

 

 グランソードはそのまま刃を握り締めると、拳を握って振りかぶる。

 

「信長公より未来の科学だぜ、クソガキ!!」

 

「へぶぁ!?」

 

 そう、グランソードの進行凍結(オールストッパー)は最先端の科学技術。

 

 ならフリードの能力の範疇外だと思ったが、ドンピシャでよかった。

 

 あとそれを理解してのっかってくれてマジ助かった!

 

「お前が俺の女王(クイーン)でよかったぜ、グランソード!!」

 

「おう! 行ってこい!!」

 

 俺はすぐに須澄の元へと向かう。

 

 聖槍は俺の天敵だが、もうそんなこと知ったものか。

 

 そもそも魔獣以外は全員俺の天敵じゃねえか! はっはっはっは笑うしかねえな此畜生!!

 

 こうなったらやけだ! 意地でも助けてやるから待ってろよ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ちょっと待て宮白兵夜! エイエヌの相手は俺が―」

 

「諦めろ赤龍帝」

 

 獅子を再び纏って追撃をしようとする赤龍帝に、アルサムはその肩を掴みながら止める。

 

「今のお前ではエイエヌは倒せん。せめて透過が使えれば話は別だがな」

 

「ふざけんな! あの野郎は俺がこの手でぶち殺さないと気がすまない! っていうか透過ってなんだよ!?」

 

『俺が封印される前に持っていた能力だ。確かにあの力が使えればエイエヌの禁手も突破できるが、そもそもあれば聖書の神に封印されたときに消されたと思っていたのだがな』

 

 ドライグが半ば唖然としながら答えるが、アルサムは静かに首を振る。

 

 その間も魔獣が襲い掛かってくるが、二人にとっては話のついでに倒せばいい程度の雑魚でしかなかった。

 

「否、理由はわからんが聖書の神はそれを残していた。特にお前は白龍皇の力すら取り込んで反射も使っていたぞ」

 

『白龍皇の力を取り込むだと? まさか、そんなことができるのか?』

 

 ドライグが興味深そうに言葉を続ける中、しかし戦闘はとどまらない。

 

「まあ待てよ赤龍帝。ついでにルレアベ使いも」

 

 薄ら笑いを浮かべながら、フォンフが両手に炎を纏って一歩一歩近づいていく。

 

「逃がしはしないぜ赤龍帝。我がオリジナルの怨念を、ここで晴らさせてもらう」

 

「フォンフとかいうやつか! ええいフィフス・エリクシルも余計なものを!!」

 

 毒づきながらアルサムは切りかかるが、フォンフはそれを真正面から受け止める。

 

 魔力が周囲を破壊しながらまき散らされ、そして二人はいったん離れる。

 

「ふふ、ふふふ、フハハハハ! 殺してやるぜ兵藤一誠! フィフスの怨念のままに、俺は貴様を滅ぼしつくす! 平行世界がどうだのと知ったことか!!」

 

「おい! 平行世界の俺は一体何やったんだよ!?」

 

フィフス()の野望を食い止めた! つまりはそういうことだ!!」

 

 それに対してフォンフは髪の毛を振り乱しながら戦意を高ぶらせる。

 

 ああ、ようやく怨念を清算するときが来た。

 

 そして、ただ殺すだけでは飽き足らない。

 

「貴様を殺すだけでは怨念は清算されない。俺はエイエヌの協力の元新たな聖杯を作り、そして願う! 俺の怨念の清算を!!」

 

 そう、そしてフォンフはその対象を睨みつけた。

 

 戦闘形態をとっているがゆえに成長したヴィヴィオとアインハルトの―

 

「そう、あまねく胸を平坦に!! 全人類を貧乳へと変えるのだ!!」

 

 

 ―おっぱいを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………いや、マジで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔獣達すら硬直した。

 

 古城の呼び出した眷獣が、放った雷光ごと固まった。

 

「……………ちょっと待って?」

 

「待たないぜ赤龍帝!!」

 

 フォンフは滅龍の力を完全に放出しながら、固まったアルサムをかいくぐって真剣な表情で困っている赤龍帝に殴りかかる。

 

「巨乳死すべし! 巨乳消えるべし! 巨乳滅ぶべし!! 乳こそ我が憎悪! おっぱいこそ我が怨敵!! そう、俺はフィフス・エリクシルの乳に対する恐怖と怒りと恨みを分けられて生み出された存在! ゆえに赤龍帝(貴様)と一緒に乳をも滅ぼすのさ、我々は!!」

 

「いやちょっと待ってくんない!? なんでそこでおっぱい!?」

 

 赤龍帝は心からツッコミを入れた。

 

 それはもう、渾身からのツッコミだった。

 

 真剣に憎悪を向けられるのはまだいい。まだいいがなぜこうなった。

 

 なんで、自分と同じぐらいというかワンセットでおっぱいが恨まれている!?

 

 貧乳帝国の出身か何かなのかと思いながら、赤龍帝はとりあえず言葉を告げる。

 

「おっぱいが何でおれとワンセットなんだよ!?」

 

「ふざけるな乳乳帝(ちちにゅうてい)!」

 

「『ちちにゅうてい!?』」

 

 あまりに頭のおかしい名称に、中のドライグと一緒に悲鳴じみた声が上がる。

 

 だがフォンフは聞いていない。聞く耳持たない。

 

「今まであまねく我らが野望を、どれだけ乳の力で台無しにしてきたと思っている!! 冗談抜きでトラウマになるわこれが!!」

 

「い、いやいやいやいや! あり得ないだろ!?」

 

 赤龍帝はとにかくこの空気を何とかしたくなった。

 

 なんというか、真面目な戦闘のはずなのにシリアスが息してない。これは流石に嫌だ。

 

 第一、常識的に考えてみろ。

 

「乳をもんだりすったりして強くなったとでも!? んなことあるわけねえだろうが!!」

 

 非常に常識からくる心からの叫びだったが、その言葉にフォンフは動きを止めた。

 

 ああ、わかってくれたかと思ったが、次の瞬間、フォンフはすごい真顔になった。

 

「そんな調子だからエイエヌに仲間殺されて従僕にされるんだ、お前」

 

「………貴様ぁああああああああああっ!!!」

 

 とたん、我に返ったアルサムが、全力の一撃をもってしてフォンフに切りかかる。

 

 その一撃は返されるが、しかしすぐに連撃が放たれた。

 

「許さん! 許さんぞフォンフ!!」

 

「それはこっちのセリフだこれが! 俺が、俺がどれだけおっぱいで苦しめられてきたと思っている!?」

 

 全力のフォンフのカウンターを、しかしアルサムは魔力障壁で受け止める。

 

 魔王剣に選ばれるだけの能力を見せながら、アルサムは怒りに燃えて怒声を浴びせる!

 

「限りなく真実に近い推論とはいえ、世の中にはいっていい真実と悪い真実があるのだぞ!! どれだけ赤龍帝が苦しんできたか考えろ!!」

 

『『『『『『『『『『真実!?』』』』』』』』』』

 

 全体の九割以上が驚愕の叫びをあげるなか、フォンフはしかし赤龍帝を見るとあざけわらう。

 

「馬鹿め! 乳こそお前の力の根源だろうに! それを捨てて強くなろうなどと馬鹿じゃねえの!? ……いや、ホント馬鹿じゃねえの?」

 

「マジで答えるな! いや、ちょっと待ってオイホント勘弁してくれよ!?」

 

 あまりにあれな事態に、赤龍帝は泣きそうになった。

 

 いや、ちょっと待ってくれ。

 

 大好きな女や大事仲間たちが死んだのが、俺がおっぱいを吸ったりつついたり揉んだりしなかったせい?

 

 いやいやいやいや。あり得ない。

 

「……赤龍帝! 時間を稼ぐ、すぐに仲間たちの乳をつつくのだ!!」

 

 だが現実はあまりに無情。アルサムはフォンフを抑え込みながら、赤龍帝に早く乳をつつけとせかす。

 

「つつけば確実にこれまで以上の力を得ることができる! この状況を打開するには、それしかない!!」

 

「その通りですのよ赤龍帝!」

 

 アルサム渾身の叫びに、雪侶もまた同意する。

 

「お乳を愛する心こそ、いつだってイッセーにぃが困難を打開してきた力! さあ、早くつつくのです赤龍帝! そしてE×Eより乳神を呼ぶのです!!」

 

「乳神!?」

 

 なんだその素敵な神様は!?

 

 そんな思いを嘆き悲しみながら浮かべるが、しかしそれで平静でいられないのがフォンフだった。

 

「……させるものかぁあああああああああああああ!!!」

 

 絶叫とともに全身から炎をまき散らし、フォンフはアルサムを弾き飛ばして赤龍帝の懐へと入り込む。

 

「火龍の、翼撃!!」

 

「ぐああああああ!?」

 

 そして赤龍帝を宙へと弾き飛ばし、すぐに連撃を叩き込む。

 

「乳によりヴァーリに並び、乳により禁手に至り、乳により覇龍を制御し、乳により神を呼び、乳により禁手を超え、乳により覇を乗り越え、乳を生贄に物理法則すら超越し、あまねく乳の力を借りてトライヘキサすら抑え込んだ乳乳帝!! そんなことなど、させる物かよ!!」

 

「えぶ! ちょぐふ! まってば!!」

 

 絶叫とともに放たれるフォンフの攻撃を、赤龍帝は防ぐことができない。

 

 そしてその恐慌具合が、彼の言っていることが真実であるということの証明でありいろいろと泣きたくなる。

 

 さっきから言われている内容がいろいろとすごすぎる。向こうの俺一体何してるの!?

 

 そう思いながら、しかし赤龍帝はなすすべなく殴り飛ばされる。

 

「ええいさせるかぁ!!」

 

 アルサムが強引に割って入り助け出すころには、赤龍帝はもはや心身ともにズタボロになっていた。

 

「な、なあ……」

 

「なんだ赤龍帝! 傷は浅いぞしっかりしろ!!」

 

 アルサムは警戒しながらしかし赤龍帝に声をかける。

 

「………お前の知ってる俺と、俺、どっちが強い?」

 

「これまでに出した最高レベルなら比べるまでもなくあちらだな」

 

 特に何の裏も無くすぐに答えられては信じるほかない。

 

 赤龍帝は、あまりのショックに意識を喪失した。

 




フィフス「おっぱいこわいおっぱいこわいおっぱいこわいetc」

フォンフはマジでそのために開発された存在です。相当レベルでおっぱいにトラウマを感じています。

だって常識で考えてくださいよ。クソ真面目にメタすらはって対策断ててるのにもかかわらず、おっぱい一つでひっくり返される。……寝込むレベルのトラウマでしょう。









それはそれとしてなかなか出番がなかったフリード。

実はフリードの幻想兵装として織田信長はかなり前から考えてました。っていうかヴァルキリー編のボスにする予定もありました。

それがなかなか出すことができず、こんなところまで引っ張られる。

……作品を核のは難しいです。


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不死たる神

 

 須澄は全力でエイエヌに聖槍をぶつけていく。

 

 突きや薙ぎ払いだけではない。拳すら時にはぶつけながら、なんとしてもエイエヌを殺そうと躍起になっていた。

 

 脳裏によみがえるのはまだ小さかった時の輝かしい想いでの数々。

 

 あの時は本当に楽しかった。

 

 あんな日々がずっと続けばいいと思っていた。

 

 それを、目の前の男がすべてぶち壊した。

 

 しかもその男は平行世界の自分の兄だという。

 

 なんだそれは。ふざけるな。

 

 なんなんだそのわけのわからない展開は。

 

 そんな激情とともに、須澄は感情的に攻撃を振るう。

 

 そして、そんな攻撃で倒されるほどエイエヌは弱くはなかった。

 

「甘い甘い」

 

 余裕の笑みすら浮かべながらエイエヌは攻撃を捌くと反撃を叩き込む。

 

 かろうじて須澄も防御するが、しかし間に合わなくて全身が傷だらけだった。

 

「……ぅぁああああっ!!」

 

「冷静さがない攻撃ならよけるのは簡単。その程度じゃ―」

 

 隙を突かれてそのままつかまれ―

 

「―俺は倒せないな!」

 

 そのまま全力で投げ飛ばされる。

 

 一気に陸地にまで投げ飛ばされた須澄は何とか体勢を立て直すが、その背に触れるものがあった。

 

「一度やってみたかったんだよ。いや、本来は高速移動なんだが」

 

 次の瞬間、光力の矢が何本も突き立った。

 

「ぐぁああああ!?」

 

 激痛に意識がとびかけ、そのまま地面に墜落する。

 

「……悪いが、これが君と俺との現実だ」

 

 上空で大量の光の槍を生み出しながら、エイエヌは告げる。

 

「俺は仮にも十数年間努力を積み重ねてきた。それこそ、神器だけでなく様々な力をだ」

 

 それが、圧倒的なまでの積み重ねの差。

 

 そこにオーフィスという圧倒的なバックボーンが加わったことで、エイエヌの力量は間違いなく最上級悪魔すら超える領域へと至っている。

 

 そもそも禁手に至った聖槍と、禁手に至らない聖槍では格が違う。

 

 どう考えても須澄にエイエヌを倒すことなど不可能だった。

 

「くそぅ……っ」

 

 涙を浮かべながら、それを理解した須澄は歯を食いしばる。

 

 それを見てわずかに憐憫の情を浮かべながら、しかしエイエヌはためらわなかった。

 

「……アップの元に行くといい」

 

 そして一斉に光の槍が放たれ―

 

「させるかクソがぁああああああ!!!」

 

 割って入った兵夜の展開した装甲板に防がれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よし、間に合った!

 

「あきらめるな須澄!!」

 

 何全て諦めた顔してやがる、この馬鹿弟!!

 

「まだだ! まだ勝算はある!!」

 

「どこに……どこにあるっていうんだ、そんなもの!!」

 

 涙をぽろぽろ流しながら、そんなこと言ってんじゃねえよ、馬鹿野郎。

 

 俺は勝算がない状況下で勝算があるなんて言うような奴じゃない。

 

 ちゃんと勝算があるかどうか考えてから戦う。宮白兵夜はそういうやつだ。

 

「いいかよく聞け! 神滅具は一つの平行世界に一種類一つしかない! それだけは間違いなく本当だ!」

 

 そうだ、それだけは間違いなく大前提。

 

 そして、今回関わっている平行世界は一つだけ。つまり聖槍はこの世界に一本しかないはずなんだ。

 

 それなのに、須澄とエイエヌの二人も聖槍を保有している者がいる。これはどう考えてもおかしいことだ。

 

 だが、エイエヌの禁手が覇輝(トゥルース・イデア)を限定的に開放することなら仮説は立てれる。

 

「エイエヌは聖槍に反旗を翻されている。当然だ、腐っても善神があんな外道行為を見せられてしかも自分の力を使われて、黙ってみていられるはずがない」

 

 そう、須澄に聖槍が渡ったのはそれが理由だ。

 

 曹操が発動した時に黙殺を選んだ聖書の神の遺志が、エイエヌの所業相手に力を貸すなんてことがありえない。

 

 そして、エイエヌは曹操ほど神器を使いこなせるわけでもない。

 

 おそらく、聖書の神の遺志はエイエヌを何とかするために、最も霊的に近しい須澄を選んだんだ。

 

「お前は神の加護がある。だから負けるな俺の弟。お前は確かに選ばれたんだから!!」

 

「だろうな! つまり―」

 

 いい加減埒が明かないと判断したのかエイエヌは接近戦を仕掛けてくる。

 

 すでに両腕には聖剣と魔剣が生み出され、躊躇することなく切りかかる。

 

「君を殺せば何の問題もない!!」

 

「だからさせないって言ってんだろうが!!」

 

 ブレードを呼び出して受け止めるが、しかし奴の方が性能は高い。

 

 すぐに追い込まれるが、だからってこのまま押し切られるわけにはいかない。

 

「すっこんでろエイエヌ! お前は聖槍の力を全力で放つことはできない。なぜなら何割かは須澄に渡っているからな!」

 

「だから聖槍以外で攻めてんだろうが! それに、お前を殺すだけなら聖槍がなくても問題ないね!!」

 

 エイエヌの言うことは確かに事実だが、それがどうした!

 

「人の弟さんざんボコっておいて、まさかこのままで俺が終わると? ……なめるな!!」

 

 躊躇することなくドーピング剤を使用し、出力を大幅に上げる。

 

 インターバルが短い状況でこれを使った以上、さらに後遺症が悪化しかねないがこの際知ったことか!!

 

 おそらく、聖書の神の遺志はエイエヌ打倒のためならば全面的に協力しているはずなんだ。

 

 その一点をもって、須澄は禁手に目覚める可能性は大きい。

 

 だから、頑張れ。

 

 お前はやればできる子だ。俺がそれは保証する。

 

「だから、あきらめるな……!!」

 

「ええ、その通りよ!!」

 

 横合いから、エストックが突き出されてエイエヌは慌てて回避する。

 

 問題はそれをなした存在だ。

 

 俺は、割と本気で驚いて目を見開いた。

 

「シルシ!?」

 

「待たせたわね、兵夜さん!!」

 

 なんか想定外にもほどがあるが、しかしこの増援はマジで助かった。

 

 でもなんで!?

 

「チッ! 距離が離れすぎて効力が薄れたか!」

 

 ああなるほど。射程距離の限界があるということか。

 

 しかしすぐに冷静さを取り戻し、エイエヌは光の槍を大量にぶっ放す。

 

 あ、これかわせない!?

 

「雪霞狼!!」

 

 が、それを姫柊ちゃんが槍でかき消した。

 

「お待たせして申し訳ありません! ここからは私達も援護します!」

 

「あ、ああ! それでほかに動けるのは!?」

 

「槍でかき消したシェンさんが、ほかの人たちの解除を行っています! 今は魔獣との戦闘を―」

 

「いやだからなめるなって!」

 

 いうが早いか、エイエヌは魔獣を生み出して俺たちを襲わせる。

 

 が、それはヴィヴィとハイディが弾き飛ばした。

 

「大丈夫ですか、須澄さん兵夜さん!?」

 

「お待たせして申し訳ありません!」

 

 うぉおおおおお! すごい助かった!

 

「はっ! 美少女に囲まれてご満悦かい? うらやましいねぇハーレム野郎」

 

「おいコラちょっと待て。少なくとも姫柊ちゃんは暁に予約済みだ」

 

「済んでません! 監視役です!!」

 

 小規模な漫才を繰り返してから、エイエヌは聖槍を突き付ける。

 

「まあまとめて来い。それでも俺が勝たせてもらうがね」

 

 その余裕の表情に、俺たちは一斉に身構える。

 

 だがそんな中、シルシは一人少しだけ目を閉じると、俺に向き合った。

 

「兵夜さん。少し言っておきたいことがあるの」

 

「え、いま!?」

 

「死ぬかもしれないから、今のうちに」

 

 俺はエイエヌに視線を向けると、エイエヌは少し考え込んでからうなづいた。

 

「十分以内で」

 

 許可出たよ!? さすが俺は人がいい。

 

 と、とりあえず許可をもらったので、俺はシルシを見返した。

 

「で? いったいなんだ?」

 

「私はあなたが好きよ」

 

 ………さて、どうしたものか。

 

 確かに好意はうれしいが、しかしそれは俺の遺志が介在しない行為だ。

 

 それで好かれても正直困るし不誠実なんだが―

 

「言っておくけど、眼のことじゃないわよ」

 

 え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私、シルシ・ポイニクスにとって、千里眼の苦悩はひどいし絶望ものだが慣れたものだった。

 

 絶望も、諦観できれば日常にできる。少なくとも私はそういうものだった。

 

 禍の団との戦いが始まるころには解決策が手に入ったけど、実はそれまで諦観とともに受け入れられた。

 

 冷静に考えれば犯罪の目撃証言を言えるということだもの。事件解決に一役買ったし、そういう意味では役得ね。

 

 だから、本当のことを言えばそれに対する感謝はあなたを愛する理由じゃないの。

 

 そして、問題も別にあった。

 

 問題は、受け入れるまでの時間がかかりすぎたことね。

 

 それまでの間常に意気消沈してたから、全然伸びなかったのよ。

 

 上級悪魔としても素質は平凡。ええ、そういう意味では腐っていたわ。

 

 そんな中、アウロス学園の開校の話を聞いて、気晴らしに参加してみたわ。

 

 ええ、気晴らし。本当に気晴らしで私は参加したのよ。

 

 どうせ、適当なことを言って励ますだけしかないと諦観すらしていたわ。

 

 ところが―

 

「そういう上級悪魔でここにいるのは、魔力というステータスが少ないものばかりです」 

 

 バッサリ。ええそれはもうバッサリ現実を言い切ったのよ、貴方。

 

 それはもう驚いたわ。そんなことをはっきり言うだなんて、この人ものを教える気があるのだろうか……って。

 

 でも違ったわ。あなたは物を教えるためにあそこに来ていた。

 

「ぶっちゃけよう。今のアウロス学園にやる気のない奴まで面倒を見る余裕はない」

 

 ええ、その言葉に頭をガツンとたたかれたような気がしたわ。

 

 貴方は、本当に学び現状を打破しようとする者のために、そのための手段を教えに来ていた。

 

 その時、私は自分が甘えていたことに気が付いたのよ。

 

 上級悪魔としての力が足りないのならば、それ以外の手段を身に着ければいい。

 

 あのサイラオーグ・バアルもそうして最強の若手悪魔になったのに、私はそれを見ていなかった。

 

 そこからはもう、猛勉強の日々だったわ。

 

 眼の問題も解決したことから、私はそこから勉学に励んだわ。

 

 私の心に光をともしてくれた人。

 

 誇るべき私の教師、宮白兵夜。

 

 私はあなたの力になりたい。

 

 あなたの言葉で学ぶことを知った私が、貴方の力になることが、それを教えてくれた恩返しになると信じているから。

 

 ……そうやって頑張ってるうちに、いつの間にか好きになっちゃったのよ。

 

 子供みたいでしょう? ホント、子供が親身になってくれる教師にほのかな恋心を抱くような話。

 

 だけど―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だけど、好きになっちゃったのは仕方がないじゃない」

 

 顔を真っ赤にして、シルシはそう告げた。

 

 ああ、そういえば俺はそんなことを言ったんだ。

 

 遊び半分でアウロス学園に入ってくるやつがいないように、そういう警告もかねて告げたんだが……。

 

 そうか、そこまで成長してくれた人がいたんだ。成長しようとしてくれた人がいたんだ。

 

「……それが、私があなたを好きになった理由よ」

 

 ものすごく恥ずかしそうにしながら、シルシは俺のすぐ近くに立つ。

 

「貴方にしてみれば不特定多数の誰かだったかもしれないけど、私はしてみればたった一人の先生なのよ」

 

 なんかもう、はたから見ていて気絶しそうな表情で、シルシは告げる。

 

「一生懸命勉強したのよ? 資料作成とか資料整理とか、パソコンの勉強とかそりゃもう一から」

 

「ああ、確かにすごいわかりやすかった」

 

 そんな短い時間でそこまでできるようになったのか。

 

 ああ、才能はあったかもしれないけど頑張ったな。

 

「そんな中、あんな裏の意味が込められていることを言われて、私がどれだけうれしかったかわかる?」

 

 いや、どんだけだったのでしょうか?

 

「私は、貴方に救われた。だから、貴方のためにこの人生を使いたい」

 

 まっすぐに俺を見て、まっすぐにほほ笑みながら、シルシは俺にこう告げる。

 

「私を、貴方の婚約者にしてほしい。……どうか、真剣に考えて」

 

 ……そっか。

 

 それが、シルシの本音。

 

 俺が仕事の一環で間接的に救ったんじゃない。

 

 俺が、仕事ではあったが直接的に救ったんだ。

 

「シルシ、確かにそれはそれで結局仕事の一環だ」

 

 俺はそう告げ、シルシはわかっていたかのように寂しげにほほ笑む。

 

 だけど、俺が言うことはここから先だ。

 

「だけど、俺は惚れっぽいんだ」

 

 ……まったくもって困ったもんだよ。

 

「そこまで思わず真剣に救ってしまったのなら、ああ、責任は取らないといけないかもな」

 

 ああ、もうだめだ。

 

 俺は本気であいつらに殺される。

 

 でも仕方ないだろ? だって、こんなに可愛い女の子が、こんだけ真剣に想ってくれてるんだ。

 

 それも俺が直接救い出したからで、そりゃ責任は取らないとな。

 

「後で幻滅した時はまあそれまでだが、ま、それまではよろしく頼む」

 

 うん、我ながら顔が赤いのは間違いないな。

 

「……はい。私を、貴方のお嫁さんにしてください」

 

 ヤバイ、満面の笑みが可愛すぎる。

 

 うっわぁ、周りの女の子も全員顔が真っ赤だよ。

 

 まあ、そりゃそうだろ。なんたって目の前で告白シーンが繰り広げられてるんだからな。

 

 ああ、さすがは俺だ。ラブシーン公開処刑宮白兵夜なだけあるぜ。

 

「……目の前で俺に彼女ができるとかすごいな、オイ」

 

 そして、忘れちゃいないぜエイエヌ。

 

「じゃあ時間はまだあるが、そろそろサクッと逝っとこうか?」

 

「気が早いな、エイエヌ」

 

 ああ、気が早い。

 

 まだ最後の仕掛けが終わってないぜ?

 

 俺は即座に靴に仕込んだ魔術式を起動させると、魔方陣を展開する。

 

 そして、俺はシルシに呼び掛けた。

 

「……シルシ、誓いだ。俺はお前を幸せにするために努力する」

 

 だから―

 

「俺たちが幸せになるために、お前も努力してほしい」

 

 ―俺たちみんなで幸せになろう。

 

 とりあえずは、あいつらに謝ることから始めるか。

 

「……ええ、非常に不本意な形だけれど、誓いをここにもらうわね」

 

 そう苦笑して、シルシと俺は口づけを交わす。

 

 そして、ここに契約はかわされた。

 

 さあ、反撃の時だエイエヌ。

 

 こっから先はこれまでとは段違いだぜ?

 

「……来たれ(アデアット)

 

 それは、異界の世界での仮契約。

 

 魔法を使うものとその従者が行う主従契約。

 

 主と魔力的なラインをカード越しに創られた従者は、アーティファクトという魔法の道具を手に入れる。

 

 さあ、反撃だシルシ。

 

 俺の従者よその意を示せ。

 

「反撃と行こうか、シルシ!」

 

「ええ、いくわよ兵夜さん!!」

 

 シルシが呼び出したのは一つのネックレス。

 

 一つの大きな宝石がまぶしいそれは、なぜかシルシの首元ではなく彼女の手に収まった。

 

 だがそれでいい。その使い方はよくわかる。

 

 これは、彼女が身に着けるものではないのだから。

 

「じゃあ兵夜さん?」

 

「ああ、わかってる」

 

 みなまで言うな心は一つだ。

 

 俺は、シルシにネックレスをかけられながら頷いた。

 

 ああ、わかってる。

 

 今から俺たちの反撃だ。

 

 頼りにしてるぜ、シルシ?

 

「……力を貸しなさい、闇の契約」

 

 そう、それがシルシのアーティファクト。

 

 そして、闇の契約が輝くと同時に、シルシの体が光の粒子となって吸い込まれる。

 

 これがシルシのアーティファクトの能力。

 

 相手をネックレスの中に取り込むことによって、それを装着した人間にその能力を与えるアーティファクト。

 

 つまりどういうことかというと―

 

「それがどうした!!」

 

 いうが早いか、エイエヌが光の槍を発射する。

 

 それはねじ曲がりながら放たれて防ごうとするヴィヴィオたちを交わし、そして俺すら通り過ぎてまず須澄を狙い―

 

「悪いが見えてる」

 

 振り向きもせず、俺はそれをすべて撃ち落とした。

 

「なんと!」

 

 その光景に驚愕するエイエヌが、続いて攻撃を放つ。

 

 今度は攻撃の一部を透明化して放つという工夫をしたが、しかしそれも()()()いる。

 

『ええそうね。すべてこの目で見通せるわ』

 

 ああ、俺も見えるぞシルシ。

 

 お前が見えてる世界が、こんどこそ完璧に見えている!!

 

 これが、これがお前の見ている世界なんだな?

 

『そうよ。これが私の見ている世界。……正しくそれを共有できるだなんて、これは結構うれしいわね』

 

 そうだな、俺もうれしいよ、シルシ。

 

 それに、おかげでだいぶ戦える!

 

「須澄を頼む! エイエヌは俺が何とかする!!」

 

「できると思うか!!」

 

 むろんエイエヌは余裕だ。

 

「フォンフから聞いているぞ、お前は神格をまともに制御できない! フルに使えば肉体が崩壊するんじゃないか!?」

 

「それがどうした!!」

 

 何の躊躇もなく俺は神格の力を開放させる。

 

 むろん、体が崩壊するが今は何の問題もない。

 

 そう、今俺はシルシの力を得ているから。

 

 全身が炎に包まれ、そして同時に神格の力がエイエヌとぶつかり合う。

 

 激痛が俺の体を苛むが、しかしそんなもんは実感できなければ何の問題もない。

 

『なかなか狂った力ね。なんていうか違和感がすごいわよ?』

 

「悪いなシルシ、耐えてくれ!」

 

 俺とエイエヌは大出力の攻撃で遠距離戦をぶっ放す。

 

 近距離だと聖槍が危険だが、使いこなせていないエイエヌなら遠距離戦は気にならない。

 

 ならば、やりようはいくらでもある!!

 

「この野郎! 拒絶反応をフェニックスの不死で無理やり治すとか正気かこの野郎!?」

 

「お前が言うなお前が!!」

 

 お前も似たようなことをやっているだろうが!

 

 とはいえ、神殺し相手に神が挑んでも苦戦必須なのは変わらない。

 

 頼むから、そろそろ立ち上がってくれよ、須澄!!

 

 

 

 




シルシの恋愛パターンは、当人も独白していましたが教師に恋する生徒のそれです。

自分でも子供っぽいと思ってたので眼のこととごまかしていたが、実際はそっちの方だったというわけです。照れ顔がかわいくて兵夜も思わずフォーリンラブ。そして言い訳無用でハーレム御殿建設計画に王手なのには気づいていない阿呆。









シルシのアーティファクトは、まさに不死鳥の特性と千里眼を誰かに与えることができるのが最大の利点。

どちらもシルシの場合は技量の低さから直接戦闘では使いずらいですが、使いこなすことができる戦士の手に渡ればこれだけのことに。こと兵夜の気狂い戦闘スタイルと不死鳥の再生能力は相性が抜群です。だって神格最大限に発揮できるしね!









それと、聖槍の絡繰りはたぶん想定できなかったのではないでしょうか?

前にも言いましたが、エイエヌは神滅具をあまり使いこなせていません。ぶっちゃけ神滅具一つ一つで本来の持ち主と戦えば、9割以上の確率で負けます。

魔獣創造は前書いたとおり。聖槍も曹操が化け物すぎて太刀打ちできませんし、絶霧に至っては実は最大でも少人数しか使えません。都市一つ壊滅させれる神滅具のスペックをほとんど使えていない。

そこに赤龍帝憎しの感情で禁手が爆発的に目覚めてしまい、多分一番問題のある装備となってしまっております。


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黄昏に集え我が郷愁

所詮自分は凡人だ。

一生こういう生き方しかできない。

……だから、ずっと一緒に支え合って生きていこう。


 

 

 

 

 

「……すごいなぁ、どっちの兄さんも」

 

 その激戦を見ながら、須澄は力なく笑う。

 

「これは、近づけない・・・っ!」

 

「単純に攻撃力が大きいですね、せめてトマリさんの力があれば・・・っ」

 

 圧倒的な攻撃力の高さに、雪菜とアインハルトが手を出しかねている中、須澄はしかし力が抜けていた。

 

 エイエヌは、あの時点でも手を抜いていた。

 

 それが単純な驕りか、それとも肉親に対する情かは分からない。だが、少なくとも本気は全く出していなかったのだけはよく分かる。

 

 神器は想いの力で駆動する。それは即ち、精神力が重要なファクターだということだ。

 

 にも関わらず、結局まともに戦えない。

 

 この事実に、須澄は心が折れていた。

 

「……ははは、流石兄さん。やればできるって言われてただけあるなぁ」

 

 乾いた笑いをこぼしながら、須澄は情けなくて目を閉じた。

 

 もう、この戦いは自分がどうこうできる領域じゃない。

 

 なら、もう全て彼に任してしまえばいいと思いすらして―

 

「……いいんですか?」

 

 その言葉に、閉じた目を開ける。

 

 そこには、ヴィヴィオがまっすぐ見つめていた。

 

「ヴィヴィオちゃん……」

 

「須澄さん。良かったんですか?」

 

 いいんですかじゃなくて、良かったんですか。

 

 その言葉の意味が分からなかったが、すぐにヴィヴィオはその言葉を続ける。

 

「本当に、アップさんを殺して、良かったんですか?」

 

「……良かったとか、悪かったとかじゃないよ」

 

 須澄は心から断言できる。

 

「もう、僕はアップを否定したくなかった。だから、アップをアップのまま終わらせたかった」

 

 加虐に昂る性質は、間違いなくアップの本質だ。

 

 十年近く一緒にいて、しかし少しも分からなかった。分かろうとしなかった。

 

 もしそれに気が付いていれば、アップはあそこまで堕ちたりなどしなかったのだ。

 

 だから、今度は絶対受け入れると心から誓った。

 

 彼女が悪のままでいたいというのならば、せめて悪として相対し続けようと思い―

 

「アップさんは、自分でいうほど悪い人じゃなかったです」

 

 ヴィヴィオは、はっきりそう告げる。

 

「だって、子供を巻き込むことを嫌ったり、人が多くなると戦闘をやめたりしてましたもん」

 

 わずかにほほ笑みながら、ヴィヴィオはそう告げて、須澄は押し黙った。

 

 確かに、アップにはそういうところがいくつもあった。

 

 だが、彼女は確かに悪に堕ちたのだ。それは間違ってないはずで―

 

「……須澄さん。後悔、してませんか?」

 

 ―何よりも、痛い言葉が突き付けられた。

 

 目を閉じて、静かに心を見直して、そして告げる。

 

「……達成感は、本当にあるんだ」

 

 それは事実だ。間違いない。

 

 だけど―

 

「―やっぱり、したくなかったって思ってもいるんだよ……っ」

 

 それも、また事実だった。

 

 アップをアップのまま終わらせたことは誇らしい。

 

 同時に、アップが死んでしまったことがどこまでも悲しい。

 

 同時に、トマリのことも思い出す。

 

 こうなる可能性は心のどこかで感じていた。聖杯戦争とはそういうものだということも理解していた。だから赤龍帝のことも許している。

 

 同時に、それでもトマリが死んだことが悲しくて、赤龍帝に恨みがないわけでもない。

 

 なんだこれは、中途半端だ。

 

 どこまでも揺らぎ続けてどうしようもない。

 

「駄目だ。僕は、弱すぎる……っ」

 

 目から涙があふれ出る。

 

 弱い、弱い、あまりに弱い。

 

 まっすぐ道を進むことすらできないぶれた人間。こう生きてそう死ぬことができない緩い信念。

 

 その事実に、須澄はぽろぽろと涙をこぼす。

 

「いいじゃ、ありませんの」

 

 そんな須澄に、声をかける者がいた。

 

 目を開ければ、そこには雪侶が微笑んでいた。

 

「確かにまっすぐ己の道を持っている人はかっこいいですけど、悩みながらでも前を進もうとしている人もかっこいいですわよ?」

 

「でも、それじゃあエイエヌには勝てない」

 

 ああ、それが本音だ。

 

 できることなら、自分の手で倒してしまいたいと心から願う。

 

 だが、こんなブレまくりの自分で勝てる自信がない。

 

 なぜなら、まっすぐ進んでいる兵夜ですらいまだに互角が関の山で―

 

「兄上は、弱いですわよ?」

 

 雪侶は、そう断言した。

 

「え?」

 

「それはもう弱いですわよ。イッセーにぃにかっこつけたくて頑張ってますけど、それがなければあの始末ですの。エイエヌも、オーフィスという支えがあるからあそこまで頑張れたわけで、それがなければ三流止まりですのね」

 

 うんうんと告げる雪侶に、須澄は改めて兵夜とエイエヌの戦いを見る。

 

「散々イッセーの心えぐりやがって! お前マジで一遍死ねや!!」

 

「オーフィス殺した野郎に遠慮する気はねえからな! ついでにお前も殺してやろうか!!」

 

 激戦を繰り広げる二人は、しかし心に支えを持っている。

 

 親友との絆。

 

 亡き少女との約束。

 

 彼が立っていられるのは偏にそれのおかげであり、だからこそ立ち上がれるのだ。

 

「……心の柱を外にしか持たない弱い人。ですが、だからこそそれがある限り立ち上がる。そんな弱くて強い人が、宮白兵夜という人ですの」

 

 そう語り掛けながら、雪侶はまっすぐ須澄を見る。

 

「貴方もそうでしょう? そういう支えがあったから、ここまで頑張ってこれたのではないですの?」

 

 その言葉に、須澄は自分の心を見直してみる。

 

 ああ、そうだ。

 

 アップのことが大事だから、トマリが一緒に居てくれたから。

 

 だから、自分はここまで頑張れた。

 

 だけど、二人はもういない。

 

 そういうものだし、そのつもりだった。

 

 だけど、だけど、だけど―

 

「やっぱり、会いたいなぁ」

 

 それが、近平須澄の本音だった。

 

 永い間回り道をして、そしてようやく見つけた一つの答え。

 

 それに気がつき、ようやく見える。

 

 ようやく、至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく、終わった。

 

 楽しい楽しくないでいえば、間違いなく楽しかった。

 

 思う存分弱者をなぶるのは楽しい以外の何物でもない。だから、自分は満足だ。

 

 そう思っているのは事実で、だから去ろうとしているのに、何故か足が止まってしまう。

 

 何故だろう? 地獄に落ちるのが怖いのだろうか?

 

 ああ、きっとそうだ。そうに違いない。

 

 自分は思うがままに悪だった。なら、堕ちるのは地獄以外の何物でもない。

 

―本当に?

 

 どこからか、そんな声が届く。

 

 間違いなく本当だ。

 

 だって、自分はあの時まで自分の本質をまるで使ってこなかった。

 

 そんな生活が、自分の本質を解き放ってからの生活よりいいだなんて、あるわけがない?

 

―本当にっ? 須澄くんと敵対してたのに、本当に楽しかったっ?

 

 その言葉に、彼女は歩こうとしていた足を止める。

 

 彼女は―アップはその時になって初めて矛盾に気が付いた。

 

 楽しかった。少なくともそう言える。

 

 弱者を大上段からいたぶるのはすごく楽しい。生きてて良かったと心から断言できる。

 

 だが、本当に心の底から熱中できていただろうか?

 

 脳裏に、須澄とトマリのことが過ったことが、果たしてなかっただろうか。

 

 考えて、考えて、考え抜いて、そして思い知る。

 

―ああ、自分は半端ものだ。

 

 普通に綺麗に生きていた時、その時自分は無自覚に自覚していた悪性が足を引っ張っていた。

 

 そして悪性になって素直に生きていれば、無自覚だった時の思い出が邪魔をする。

 

 そうだ、その所為で自分は子供を殺せなかった。

 

 逃げ出す理由ができれば、それを盾に逃げ出していた。

 

 そこに思い当たって、アップは天を仰ぐように上を見る。

 

「………中途半端だなぁ、私」

 

 ああ、足が止まる理由が分かってしまった。

 

 アップ・ジムニーは、近平須澄やトマリ・カプチーノと一緒に居たいのだ。

 

 だが、そんなことが許されるわけがない。

 

 散々悪性に忠実に生きてきたのだ、今更そんなことができるものか。

 

 第一自分は既に死んでいる。だからそんなことができるわけがない。

 

 だから、今更そんなことを考えずに無理にでも前に進もうとして―

 

「アップ」

 

 その声に、弾かれるように振り向いた。

 

「………」

 

 ものすごく自己嫌悪と羞恥の感情が浮かんだ表情で、須澄がそこにいた。

 

 その手はまるで自分を掴みたいかのように前に出て、しかしすぐに下げられる。

 

 その様子を見て、アップは全てを理解する。

 

 ああ、須澄も自分と同じなんだと。

 

 覚悟を持って殺したくせに、結局後悔して、なかったことにしたがっている。

 

 無自覚に抱いていたその感情が、今この状況の元凶なんだろう。

 

「………っ」

 

 駄目だ。それはダメだ。

 

 それをやったら、須澄までもが道を踏み外す。

 

 自分が道を踏み外したのは自分の自業自得だが、須澄まで道を踏み外させるわけにはいかない。

 

 そんな感情のまま、アップはふり返って走り出す。

 

 頼むから、頼むから漏れないで私の本音(こころ)

 

 今漏れたら、たぶん今度こそ抑えきれないから!

 

 そう思いながら、アップは冥府の底へと駆け出そうとし―

 

「本音を言うね?」

 

 しかし、その手を掴まれた。

 

 振り向いた先にいるのは寂しげな表情でほほ笑むトマリ。

 

 彼女は、もう片方の腕で須澄の手も掴んでいた。

 

「うん。死んだんだから、大好きな子が生きてるんだから、潔く消えたいって思う気持ちはあるんだよ?」

 

 だが、それでも―

 

「ずっと一緒に居たいって、思っちゃうもんね?」

 

 そう言って、二人の手をゆっくりと繋ぎ合わせる。

 

 思わず振り払いそうになって気が付いた。

 

 トマリの手も、やはり震えている。

 

 ああ、なんだ、そういうことか。

 

 結局、私達三人は等しく中途半端だったんだ。

 

 その事実に愕然としながらも、しかし暖かいものが芽生えてくるのはなぜだろう?

 

 視線を須澄に向けれな、大好きなあの子は泣き笑いの顔で、とても辛そうに言葉を放つ。

 

「アップ、トマリ。………一緒に、居たいよ」

 

 それが、近平須澄の心からの本音。

 

 終わらせたいのも本音なら、しかし一緒に居たいのも確実に本音。

 

 その中途半端さに、しかしアップは哂わない。

 

 自分もそうだ。このまま悪をやりきった誇りとともに逝きたいのに、思い出すのは悪に堕ちるまでの思い出ばかり。

 

 そしてトマリもそうなんだろう。死んだことに後悔はなくても、それで須澄を悲しませていることに後悔があり続ける。

 

 なんてくだらない半端もの。笑えるぐらいに半端過ぎて、これが格好つけるだなんて無理なような気がしてきた。

 

 そう思うともう限界だ。

 

「……ぅ…ぅぁ……ぁああああああっ!?」

 

 両目から涙が大量にこぼれる。

 

 それを抑えきれることができず、思わず隠すように二人に抱き着いた。

 

「ぁあああああああああああああぁん!!!」

 

「……ふぐっ…ひぐっ……えぐっ……っ!」

 

 須澄もまた嗚咽を漏らす中、トマリはそんな二人をポンポンと叩く。

 

「うんうん。私達はみんな半端ものだよね。全然かっこよくない」

 

 まったくだ。心に決めたことを成し遂げることすらできない。こんな調子で一体何ができるというのか。

 

 だけど、それでも……

 

「負けっぱなしは、趣味じゃないよね?」

 

 ああ、そんなことを言ってくれるな。

 

 負けられっぱなしのまま終わるだなんて、それこそが出来やしない。

 

 第一、大事な須澄がここまで傷つけられて、黙っていられる方がおかしいだろう?

 

「最低だけど、最低だけど、最低だけどそれでも言うよ」

 

 すごく不安な表情を浮かべながら、須澄はそれでも何かに縋りつくように弱弱しい表情で、心からの本音を漏らした。

 

「ずっと、二人と一緒に……居たかった!」

 

 それは弱い少年の心からの叫び。

 

 まったくもって我儘な内奥だ。

 

 こんな美人を二人も見つけておいて、どちらか一つで我慢できず、両方欲しいなどと言ってくるのだから。

 

 だけど、それはこっちも同じことだった。

 

「あったりまえでしょ? 今更誰か一人欠けたって立ち行かなくなるんじゃないの?」

 

「そうだよっ? 私はずっと、最後はそんな奇跡で終わってくれるって思ってたもんっ」

 

 トマリと共にそう断言すると、より一層しっかりと三人は抱き合った。

 

 ああ、弱い。

 

 こう生きて、そう死ぬこともできないブレブレの意志。

 

 だけど、一緒に居たいというこの気持ちだけは嘘じゃない。

 

 だから、まだ頑張れる。

 

「……行って、来るよ」

 

 須澄が名残惜しそうに離れて行くので、アップはむっとなって一回引き寄せた。

 

「うわぁ!?」

 

「っもー! そういうところがダメダメなんだよ、須澄君わっ」

 

 トマリにメっとされ、どう言うことかと慌てる須澄の肩に、アップの手が回った。

 

「こういう時はどういうのか、ちゃんと知ってるでしょ、アンタは」

 

 そういわれて、須澄は自分の間違いを悟る。

 

 ずっと一緒に居たい、だなんて言っておきながら、自分は最初の言葉を間違えた。

 

 そう、自分一人が行くのでは決してなくて―

 

「―手伝って、くれると嬉しいな?」

 

 顔を真っ赤にして、そう小さく頼みを入れる須澄に、二人は満面の笑顔で頷いた。

 

「「……はい。喜んで」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、爆発的なまでの光が放出される。

 

「槍よ、今は亡き神の遺志宿す冥府の槍よ」

 

 須澄は槍を手に取り立ち上がり、涙をこれでもかとこぼしながら声上げる。

 

 見据える対象はただ一人。

 

 実兄にして怨敵、エイエヌを見据えて、須澄は告げる。

 

「その極光は小さき冥府を照らす光。どうかその光で、我が同胞を照らしたもう」

 

 そして、詠唱をするのは一人ではない。

 

「ならばあなたも愛しい人よ。どうか私を連れ出して」

 

 その右手をとりながら、アップ・ジムニーが祝詞を紡ぐ。

 

「是非もなし。なれば我らは共にあろう」

 

 その左手をとりながら、トマリ・カプチーノが呪文を紡ぐ。

 

「共に歩もう愛しき双星。我らの未来を紡ぐのだ」

 

 その温もりに涙を流し、近平須澄は今ここに至る。

 

 均衡を崩す神滅の禁じ手に、今、ここに到達する。

 

「「「禁手化(バランス・ブレイク)! 黄昏に集え我が郷愁(トゥルー・ロンギヌス・ヴィーンゴールヴ)」」」

 

 今ここに、あまねく魂を宿す聖槍の極致が具現化する。

 

「……やっぱり、やればできる子だと思ってたぜ、須澄!!」

 

 その輝きに、兵夜は思わず目を奪われる。

 

 そしてその能力もまたすぐに理解できた。

 

「槍そのものを冥界にして、魂を取り込む禁手だと!」

 

 その光景に、エイエヌもまた理解が早い。

 

 そして、問題なのはその場にアップとトマリがいるという点。

 

 それはすなわち―

 

「とうの昔に、到達していたのか!?」

 

「ああ、そうだね!!」

 

 攻撃がやんだ隙を突いて聖槍を叩き付けながら、須澄は自嘲気味に吠える。

 

「最初に手にしたあの時から、僕は心のどこかでずっと二人を縛り付けたいと思っていた。……それで至るとか、自分でも嫌になるよ!!」

 

「えーっ? 全然気にしなくていいよっ!」

 

 眷獣を呼び出しながら、トマリはむしろ顔を赤くして喜んでいる。

 

「だってだってっ。それだけ私達が好きだってことだもんねっ? キャーもう吸血衝動が出てくるぐらい嬉しいーっ!」

 

「はいはい。あとでちょっとぐらい吸わせてあげるから我慢しなさい」

 

 グラム片手にアップもまた、エイエヌに切りかかる。

 

「悪いわねエイエヌ様。目覚めさせてくれたあなたには心から感謝してるんだけど―」

 

「ぬぅおっ!?」

 

 最強の魔剣の名に恥じぬ威力が、聖槍を一気に弾き飛ばし、空いたところに魔力弾の群れが叩き込まれる。

 

「恩返しは死ぬまで頑張ったからこれで終わり! あとは最後までブレブレの人生を送ってくわよ! 二人と一緒にね!」

 

「……羨ましいな」

 

 その姿を見て、エイエヌは本当に羨ましそうに苦笑する。

 

「俺はもう会えないから、そんなことできないんだ。……本当に残念だよ」

 

 そう寂しそうに告げると、エイエヌは即座に距離をとる。

 

「……逃げる気か!?」

 

 あの野郎、判断早いな!

 

「え!? ちょ、トマリちゃんの大活躍シーンはっ!?」

 

「いやまあ、エイエヌ様はイレギュラーは歓迎しない主義だからねぇ」

 

 涙目すら浮かべるトマリの肩に手を置くアップの意見は実に参考になるな。

 

「まあいい。これまでの聖杯戦争で、かすめ取ったエネルギーがあれば十分対抗できる」

 

 そういいながら、エイエヌは黒い霧に包まれる。

 

「アップ。基地名D3だ。……わかるな?」

 

「な! エイエヌ様……まさか!?」

 

 驚愕するアップの表情を見ながら、エイエヌは満足げな表情を浮かべる。

 

 その表情にただなら何かを感じたのか、須澄が焦りながらアップの方を向く。

 

「アップ! D3って、何!?」

 

「……地球侵攻用の、艦隊の駐屯地よ」

 

 なんだと!?

 

「フォード連盟の土地で起こした聖杯戦争での余った魔力を使って、破壊術式は準備できた。それを投入すれば、グレートレッドですら殺せるだろうさ」

 

「聖杯戦争はそのためだったのっ!?」

 

 トマリが驚愕する中、エイエヌは堂々と首肯する。

 

「ああ。もうちょっと時間がかかるかと思ったんだが、念のために設定したフォード連盟と俺に直接危害を加わる願いはアウトって保険……が思いのほか効果を発揮してなぁ。おかげでグレートレッドを殺しうる理論値までようやく到達した」

 

 ……あ、願いは叶えてる人もいるのか。

 

 流石俺。人がいいなおい。

 

 ってんなことを言っている場合じゃない!!

 

 グレートレッドを殺しうる理論値まで到達って、んなもん射程内に収められたら……っ!

 

「できれば聖杯戦争が終わってから出撃するつもりだったんだが、どうやら時空管理局に嗅ぎづけられたらしい。既に艦隊も派遣されているし、予定を早めよう」

 

 そう言いながら、エイエヌは霧に包まれる。

 

「さあ、最終決戦だ。聖杯戦争も、地球の命運をかけた戦いも全てに決着をつけよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―そして、今度こそ彼女に静寂を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉と共に、エイエヌは今度こそ姿を消した。

 

 

 

 




……そこ、ロンギヌス繋がりとか言わない。元ネタ確かにLightだけど!

須澄は実は特訓の昔に禁手に到達してました。出なければアップとトマリの魂を取り込めません。ですが、無意識にそれを自己嫌悪していたため禁手として発動しませんでした。

そんな自分の嫌なところを、ヴィヴィオや雪侶の言葉で見つめなおして、受け入れられないながらも存在を認めて、情けないところをさらけ出して、そしてようやくとうたつした、こう生きてそう死ねない愚かな男の禁手です。










そして最終決戦のカウントダウンがスタート。

聖杯戦争で願いをかなえるといっても、エネルギーを全部使わなければいけないというわけではない。なのでそのエネルギーをかすめ取って少しずつ準備していたのがフォード連盟での聖杯戦争の目的。

一応保険として残しておいたセーフティのおかげでギリギリ間に合っている状態ですね。そうでなければまだまだ時間がかかっていました。









そういうわけでエイエヌは本気。時空管理局も慌てて動いており、本編最終決戦の次ぐらいには規模のでかい戦いとなるでしょう。

ですが、その前に準備もいるし語られていない情報もある。次はそんな話です。


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赤龍帝の過去 ―エイエヌの所業

 

 

 

 

「姫柊! 無事だったか!」

 

「大将! 大丈夫だな!?」

 

 もともとの場所に戻った俺たちの無事に喜んだ暁やグランソードだが、そこにトマリとアップの姿を見つけて目を見開いた。

 

「……トマリ・カプチーノにアップ・ジムニー? なぜおまえたちが?」

 

 代表してアルサムが聞くが、さてどう説明したものか。

 

「えっと、その、あの……」

 

 こと敵対していたアップはすごく居心地が悪そうにしていたが、そこに躊躇なくトマリが抱き着いてきた。

 

「紆余曲折あって味方になってくれましたっ! あと幽霊です♪」

 

 いうが早いか、トマリはすぐに姿を消す。

 

「え、そんなことまでできんの?」

 

「うん。どうもこれがデフォルトみたいで……」

 

 俺の質問に須澄がこれまた言いづらそうに答えながら、槍を掲げて見せる。

 

 そこには宝石のようなものがついており、そこから覗き込むようにトマリの姿があった。

 

「待機状態だと槍の中にいるみたいなんだよねっ。でもでも―」

 

 そして、すぐに実体化する。

 

「普段はこのままでいるからねっ? あ、でも覚醒前から死んだのに一緒ってことは、須澄くんはもう私達とずっと一緒にいたかったってことで? ……キャーこれもうプロポーズーっ!?」

 

 すごいテンションだ。

 

 実際のところは覚醒していたが自覚していなかったというところだろう。

 

 なにせ従僕ほどではないが問題のある禁手だ。本能的に忌避感を持ってもおかしくない。

 

 しかしこれはまあ、須澄も苦労しそうだな―

 

「うん。そうだね」

 

 ……おや?

 

「ずっと一緒だよ。いやだって言っても離さないから」

 

 誰かー! 俺の弟が吹っ切れましたー!

 

「あらあら? これはつまりハーレム兄弟の誕生ですのね? 須澄義兄様も隅に置けませんの」

 

 雪侶、とりあえずツッコミを入れろ!!

 

「………ちょ、ちょっとそういうのは人のいないところで!!」

 

 アップ、お前はさんざん好き勝手やってきたから逃がさん。せいぜい巻き込まれるがいい。

 

 まあ、それはともかく―

 

「どうした赤龍帝? 生きてるよな?」

 

 なんかものすごく赤龍帝が落ち込んでるんだが。

 

「あの、それなんですけど聞いていいですか?」

 

 と、ヴィヴィが俺の袖を引っ張って首をかしげる。

 

「おっぱいドラゴンって、何ですか?」

 

 ………ああ、なるほど。

 

 俺は、静かに赤龍帝の方に振り向いた。

 

「乳を、つついたことがないのか?」

 

「ああ、ないよ! それがどうした!!」

 

 つかみかからん勢いで怒鳴られるが、しかし驚愕するのは俺の方だ。

 

「乳をつつくことなく禁手に至り、挙句の果てに神滅具の同時運用だなんて前代未聞な領域に到達した、だと!?」

 

「なんでお前も驚いてんだ! だいたいなんだよ、乳乳帝て!!」

 

 えっと、どう説明すればいいことやら。

 

「……いいか、よく聞け。とりあえず事態を打開するための必要なことを言う」

 

 ああ、これは必要だろう。

 

「お前のファンの乳首をつついてこい。千人もつつけば禁手を昇華させることができるはずだ」

 

「おい、もっかい殴り合うか?」

 

 赤龍帝から殺意が漏れるが、しかしこれは必要なことだ。

 

「真面目な話だ。お前はお乳一つで様変わりすると、あのグレイフィア・ルキフグスから言われたほど女の乳房が重要なんだ」

 

「グレイフィアさんが言うほど!? なあ、俺マジでショックで倒れそうなんだけどぉおおおおお!?」

 

 んなこと言ってもマジだからなぁ。

 

 とはいえ、そこまで言うならば仕方がない。

 

「いいだろう。とりあえず陣地に戻る道すがら話してやろう」

 

 あとでショックで倒れても知らないぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……嘘だろ」

 

「全部実話だ」

 

 案の定崩れ落ちた。

 

「い、いやらしさも突き詰めるとすごいことになるんですね……」

 

 もうね? 姫柊ちゃんの何とも言えない表情がね? 何とも言えないんですよ。

 

「しっかしあれだな! 改めて考えると頭おかしいよな?」

 

「何をおっしゃいますのグランソード。あまねくおっぱいを愛するイッセーにぃらしいではありませんの?」

 

 ハイソコ! いいコンビになってるところ悪いけど、もう少し話に入ってきてくれ!

 

「おっぱいつつくと神器ってパワーアップするんだねっ。……須澄くん、今夜つつくっ?」

 

 ほれほれ~といわんばかりに自分の胸を持ち上げて見せるトマリだが、その後頭部にアップの手刀が叩き込まれて撃沈した。

 

「馬鹿言わないのトマリ! そ、そういうのはほかの人に聞かれないところで……」

 

 それ墓穴だぞ、アップ。

 

 だが、それはそれとしてそういう風に他人の目線を気にできる女か。

 

 うん。

 

「須澄。いい女を持ったな」

 

「なんで泣いてるの、兄さん?」

 

 いや、俺の女はそういうの気にしない人が多すぎてね?

 

「あ、あの! そんなことを話している時間はあるんですか!?」

 

 と、ヴィヴィが話の軌道を修正してくれた。

 

 まあ確かにそんなことを言っている場合でもなかったな。

 

「そうだな。あの野郎、お前らのところの地球に進撃しようとしてるんだろ? やばいだろ、間違いなく」

 

「そんなことになればいったいどれだけの犠牲者が出るか……」

 

 暁もハイディも親身になってくれて助かるぜ。

 

 ああ、確かにこの事態はあまりにも危険だ。

 

 聖杯を複数使ったも同然の魔力量でグレートレッドを殺そうとする。サマエルやトライヘキサほどではないが、しかしできる可能性は十分にあるだろう。

 

 なんとしても奴の野望は阻止しなくては。こんな緊急事態黙ってみているわけにはいかない。

 

「ああ、そうだな。……通信兵、今すぐ本隊と連絡を取れ。こうなれば総力戦だ。時空管理局にも頼んで、地球に連絡させろ。万が一の防衛線を用意しなくては」

 

「はっ! すぐに連絡します!!」

 

 とりあえず、艦隊規模の行軍となれば日にちレベルの時間がかかるだろう。まだ少しは余裕がある。

 

 その間に、聞いておきたいことがあった。

 

「赤龍帝。すこし聞きたいことがある」

 

「……わかってる」

 

 ああ、そうだろうな。

 

 きついことを聞くが、それを聞かなければ始まらない。

 

「俺たちの世界で、エイエヌが何をしたのか話すよ。……長くなるぜ?」

 

「そうか。なら、茶ぐらいは用意させよう」

 

 アルサムはそういって指示を飛ばすが、しかしたぶん飲み干される数は少ないだろう。

 

 それだけ、重い話なのだけはよくわかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤龍帝SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そうか、大体状況はわかった。

 

 俺たちの平行世界は、お前たちの世界よりも転生者の数そのものが少なかったよ。少なくとも、シトリー眷属に転生者はいなかった。

 

 まあ、コカビエルはヴァーリが取り押さえたから大丈夫だったんだけどな。

 

 問題は、和平会談の時だよ。

 

 ……いや、その前から不穏分子はあったんだ。

 

 その時俺は知らなかったけど、聖杯戦争は世界各地で起こっていた。

 

 被害報告がろくになかったから都市伝説にしか思われてなかったけど、それは簡単だった。

 

 エイエヌは、聖杯戦争の開催地に選んだ街の住民を丸ごと従僕に変えてたんだ。

 

 たぶん、魔獣創造の練習も兼ねてたんだと思う。そのせいで聖杯戦争の存在をどこの神話体系も眉唾ものと思っていて、対応が遅れたんだ。

 

 もし、誰かが対応していたらあんなことにはならなかった・・・・・っ!

 

 事態が急変したのは和平会談だった。

 

 そっちの世界ではヴァーリの手引きでギャスパーがつかまって、神器を暴走されたんだってな。ああ、そんな程度で済んで本当によかったっていうしかない。

 

 こっちじゃ、オーフィスが直接殴り込んできやがったんだ。それも、少し離れたところから最大出力の砲撃を直接叩き込んできやがった。

 

 そのうえでギャスパーはすぐに従僕にされて、集中攻撃で会談の首脳陣を襲ってきた。

 

 サーゼクス様達は強い人だけど、俺たちをかばってダメージが大きくて……みんな、死んだ。

 

 しかも和平に反対していた三大勢力の重鎮が、エイエヌに乗せられたのかそれぞれオーフィスの力を借りたって宣戦布告したせいで、和平会談は失敗だ。むしろそのせいで三大勢力の戦争は勃発する寸前までいった。

 

 戦争が起きなかったのかって? ああ、起きなかった。

 

 起こすまでもなく、天界が終わったからだよ。

 

 禍の団は、ヴァーリに盗聴器を持たせてたんだ。そのせいで、会談の内容が筒抜けだった。もちろん、大前提である聖書の神の死が筒抜けになったんだ。

 

 そっから先はひどいもんさ。天使の八割は堕天して、だけど欲望で堕ちたわけじゃないから神の子を見張るものの傘下には収まらなかった。教会の人たちもほとんどの人たちが恐慌状態になって、堕ちた天使たちは一緒にやけになって大暴れ。そのせいで人間世界もそれを認めちゃったから大混乱さ。

 

 冥界政府も、天界のこの弱体化を機に戦争を起こそうとする勢力が旧魔王派と組んで行動を起こして、大規模な内乱状態だ。魔王様が二人も死んだことで、制御が効かなくなってしまったんだ。

 

 そのせいで、各神話体系はここぞとばかりに三大勢力を襲って鬱憤を晴らそうって勢力と、そんなことをしている場合じゃないって勢力に分かれて内乱が続いてきた。

 

 禍の団は、その内乱において戦争派に力を貸して何人もの神が死んだよ。全ての戦いでオーフィスと聖槍がタッグを組んで暴れてるんだ。どこの神話体系でも太刀打ちできなかった。

 

 それに禍の団は人間世界にも積極的にテロを開始した。

 

 絶霧のテストも兼ねたのか、あいつは原子力発電施設に現れては破壊を繰り返して、世界中を放射線で汚染していった。それどころか、時々核ミサイルの発射施設に侵入して、オーフィスの力で強奪して町中で爆発させるってことまでした。

 

 もう大変さ。世界中の国でまともに機能している国はどこにもない。神話体系はほとんどが戦争を開始して、三大勢力は自衛で大忙し。誰も自分たちのことで精いっぱいで、俺たちは何もできなかった。

 

 そして、そんな日々が数年間続いて地球人口は約半分にまで減ったよ。

 

 そんなある日の時、ついにエイエヌは本腰を入れて行動した。

 

 オリュンポスの内乱に乗じて、あいつは開戦派だったハーデスをオーフィスと一緒に強襲して、サマエルを奪ったんだ。

 

 サマエルはドラゴンの天敵。……その時になって、俺たちはエイエヌとオーフィスの真の目的に気が付いた。

 

 あいつらは、グレートレッドを殺すことが目的だったんだって。

 

 情報を察知した俺たちは、グレートレッドと殺し合いを繰り広げていた禍の団と戦闘をおこなった。

 

 何人も死んだよ。そして喰われて従僕になったやつらも何人もいる。

 

 そして、俺はなんとかいくぐってエイエヌ達のところまでたどり着いて……すべてが、終わっていた。

 

 グレートレッドが死んだことで、世界の狭間の安定が崩れて大規模災害があらゆる世界で発生した。

 

 俺は、衝動的にオーフィスに致命傷を負わせたけど、エイエヌに抱えられて逃げられたんだ。

 

 そして、何とか追い付いた先には―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エイエヌ!」

 

 赤龍帝がたどり着いた時には、そこに巨大な穴が生まれていた。

 

 まるですべての空間を吸い取るように生まれる穴。その中心部に向かって、エイエヌは歩き続けていた。

 

「お前、何をする気だ!?」

 

 今すぐ殴り飛ばしたいが、しかし下手に近づけば何が起きるかわからない。

 

 そんな相反する状況に歯噛みしながらにらみつける中、エイエヌは振り返ると笑みを浮かべた。

 

 どこかぎこちない、油の切れた機械のような笑みを張り付けて、エイエヌは告げる。

 

「ああ、赤龍帝。追いたければ追うといい」

 

 ただそう告げるエイエヌは、それだけ言うと再び歩き出す。

 

「俺は異なる世界に行く。そしてアイツとの約束通り、楽しく毎日を生きていく」

 

 それは、まるで死んでいった友と約束をしたかのような言葉。

 

 だが、この男は邪悪の化身。何をしてくるかわからない。

 

「奪って犯して壊して殺す。そんな毎日を送らせてもらう。今までの聖杯戦争は町程度だから、こんどは数十万人規模の都市全部従僕にするのもいいかもな」

 

「てめえ!!」

 

 衝動的に殴りかかろうとするが、そのとたんに激痛が走って思わず倒れてしまう。

 

 すでに限界を超えていた体は、もう動かすことができなくなっていた。

 

 それを見もしないエイエヌの隣に、見知った人たちが並び立つ。

 

 否、それは見知った人々ではない。

 

 エイエヌの魔獣に喰われ、従僕と化した哀れな者たちだった。

 

 リアスがいた。ゼノヴィアがいた。アーシアがいた。レイヴェルがいた。

 

 その光景を見て、イッセーは怒りのあまり動き出そうとするが、しかし動けない。

 

 すでに致命傷の十や二十を追っている。もう、赤龍帝兵藤一誠は動けるような状態ではなかった。

 

「エイエヌ…エイエヌ……エイエヌぅうううううううううううう!!!!」

 

 血涙を流し、憎悪の声を出す赤龍帝の恨み節を聴きながら、エイエヌは最後にもう一度だけ振り返った。

 

 まるで、観たくて見たくてたまらない表情を見たかのような、満面の笑みを浮かべていた。

 

「何年かかってもいい。必ず俺を追いかけろ」

 

 その言葉とともに、エイエヌは消えていく。

 

「俺はそこでも、同じことを繰り返す」

 

 

 

 




かなり早い段階から変質していた赤龍帝の歴史。

単純な被害規模ならフィフス一派ですら到達できない被害規模に達していますが、これはエイエヌが本気でオーフィスの目的をかなえるつもりだったことが原因。

邪魔するやつらを全員ロクに動けないようにしてから、最も勝てる可能性のある切り札をどうにかしようというのが基本骨子であり、其のため数年間かけて下準備として世界を混沌に叩き落しました。そしてその肝心の部分でうっかりしていたため赤龍帝に最後の最後で台無しにされました。

……深く語る暇がなさそうなのでここでばらしますが、赤龍帝がいた平行世界と兵夜たちの世界とでは十年近く時間の流れにずれがあります。エイエヌが五年前から活動していたのはそれが理由です。


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史上最優の赤龍帝

聖杯戦争の舞台は、住民をほぼ従僕化してから。

そういうわけなので―


 

 

 

 

「だから、聖杯戦争が続いているってわかった時点でエイエヌがこの街を従僕にしきってるもんだとばかり……」

 

「そりゃ勘違いするわ。俺だってそうなるわ」

 

 聞いてみたが、あまりに酷い。

 

 おそらくは必要不可欠な人材を従僕化してたら足りなくなった……てのが真相だろう。だが、それを利用してものすごい悪意が見え隠れする。

 

 なにせ、上手くいけば赤龍帝を大量虐殺者にできるんだ。兵藤一誠にとってこれは精神的にきついだろう。

 

 我ながら恐ろしく悪辣な手段を、俺から手段を選ぶという発想が無くなるとこんなに危険だとは。

 

 あと俺の部下共。普段から手段選んでないだろ的な視線をするな。

 

「あと、あの後事態が落ち着くまでに更に人数は減って、生き残りは人間だけだと6憶未満なんだ」

 

「おい、地球人類って70憶人ぐらいいなかったっけか、大将」

 

「十分の一以下。これはまたすごい大被害ですわね」

 

 口調は軽いが真顔なグランソードと雪侶だが、それは当然といえば当然だろう。

 

 赤龍帝の言うことが本当ならば、間違いなく被害の規模が桁違いだ。

 

「それだけの被害を、間接的なものも含めてとはいえ引き起こしたというのですか!?」

 

「嘘でしょ? そんなのどうやったらできるのよ…」

 

「姫柊ちゃん、藍羽。俺を見るな」

 

 すいません。俺も自分でドンビキなんですが。

 

「……しっかしよぉ、聖書の神の死だなんて最重要秘匿事項ばらまかれたら、そりゃ億の犠牲は出てもおかしくねえだろ」

 

「そのうえで発生する混沌状態を徹底的に利用した形だな。流石は平行世界の宮白兵夜というべきか」

 

 グランソードにアルサムも俺を見るな。だから奴と俺は同一人物だが別人だ。

 

「あの、いろいろ見られてるけど頑張ってください。兵夜さんがいい人なのは知ってますから!」

 

「ヴィヴィはいい子だなぁ」

 

 涙出てきたよ、俺。

 

「……とりあえず、兵夜さんとオーフィスが組んだらとんでもないことになるという実例はそろそろ置いておくわ」

 

 シルシも流石に可哀想になってきたのか、話を前に進めてくれている。

 

「素人知識なのだけれど、平行世界へ移動するゲートってそんな簡単に作れる物なの?」

 

 確かに、その辺は正直言って驚愕だ。

 

 俺の技量で第二魔法に至れるってことがまず驚愕だが、しかしこれに対して想定できる。

 

「おそらく、聖杯で自身の魔術回路を強化したうえでオーフィスの遺体そのものを生贄にしてブーストをかけているんだろう」

 

「生贄って、そんなことできるんですか?」

 

魔術師(メイガス)の世界では珍しくもないさ、ヴィヴィ。この場合は死霊魔術だろうが、無限ほどの存在なら神の奇跡の十や二十は軽いだろうな」

 

 まあ、間違いなく超弩級の大技なんだが。

 

 それより問題は―

 

「概念が研究されてるかもわからないもの、よくお前ら再現できたな?」

 

 遅れてきた赤龍帝たちだ。

 

 話を聞く限り、俺達の世界とそっちの世界では十年近く時間がずれている。

 

 数年かけて決定的な隙を作り、そしてその影響を食い止めるのに数年かかった。

 

 そのうえで、僅かな時間しか開いていなかっただろうゲートを研究して穴の開け方に辿り着くとは。

 

 第二魔法も形無しだな。ま、神秘が関わりまくっているから我慢してほしいところだが。

 

「……ゲートは空きっぱなしだぞ?」

 

「いやちょっと待てぇ!!」

 

 俺は今、心の底からド級の大声を上げた。

 

 開けっ放し!? え、そんなゲートが開けっ放し!?

 

「なあ、聞くだけでもやばい気がするんだが、そんなことして大丈夫なのか?」

 

「いえ先輩。むしろ今まで事故が起こってないことが奇跡です」

 

「あの、これって大規模次元震が起こっても全然おかしくないんじゃ……」

 

 暁やら姫柊ちゃんやらコロナちゃんやらを筆頭に、全員割と大慌てしている。

 

「お前も開けっ放しにしてんじゃねえよ!! これ終わったらすぐ帰って閉めろ! 絶対だぞ!!」

 

「あ、ああ。……まあ、そういうわけであっちは安定したからエイエヌに落とし前つけようと、天涯孤独になった人達を中心に討伐隊が結成されて、そして漸く着いたんだよ」

 

「異世界なのはともかく、平行世界とはまったく気づいてないわけか。さらりとすごい難事業を達成してるって気づけよな」

 

 まあいい。ここまでほっといても何の問題も起きてないのなら、今日明日でどうにかなるとは思えない。

 

 だが、それにしたってこの事件はあまりに大問題だ。

 

 対グレートレッドを考慮している以上、俺達だけでは戦力が絶対足りないが―

 

「……俺だ。時空管理局は何と言ってきている?」

 

『ハッ! 近年のフォード連盟の情勢を警戒していた艦隊の派遣は既に行われており、今回の情報と共に明日中には到着の見込みです』

 

 なるほど。確かにそれだけの緊急事態だしな。むしろ動きが迅速な部類だが―

 

『アザゼル艦長とエヴァルド艦長もそれに乗る形で戦闘を行うとのことです。兵夜様には、艦の指揮権をいったん提供してほしいとのことですが、どうされます?』

 

「是非もないとはこのことだ。すぐに明け渡せ」

 

 こんだけ離れている俺が今から艦に戻れるとも思えない。だからそれは仕方がない。

。だからそれは仕方がない。

 

 だが、しかしそれでも足りないだろう。

 

 なにせ一つの世界の最強存在を抹殺するための戦力だ。それも、間違いなく妨害されることは確定しているレベルで、時空管理局の横やりも想定されるレベル。

 

 下手をすればその規模はフィフス達との最終決戦を超えかねない。低く見積もっても禍の団の大規模派閥クラス。どう考えても一日で動かせる戦力で楽に勝てる相手ではない。

 

「………みんな、頼みがある」

 

 正直、これは一度聞かなきゃいけないことだということはわかっている。

 

 だから、俺は素直に頭を下げた。

 

「………今回の件、最後まで付き合ってほしい。エイエヌを、止める」

 

 俺はあいつであいつは俺だ。ならば、俺が止めるべきだろう。

 

 俺の暴走によるこの世界の危機を、俺が黙って見ているわけにはいかない。

 

 だが、ことはもはや聖杯戦争というレベルではない。

 

 フォード連盟と地球の戦争とも言っていいレベルだ。少なくとも一般人がうかつに介入していいレベルの事件じゃない。

 

 しかし戦力も全く足りてないこの状況下では、それこそ力を借りる必要があるわけなんだが―

 

 足音がして頭を上げると、そこには呆れ顔の古城の姿があった。

 

「……お前、アホだろ」

 

「アホ!?」

 

 酷い! なんでそこまで言わなきゃならねえんだ!!

 

「今更お前らほっといて帰ったりなんてしねえよ。それに、聖杯戦争も終わったわけじゃねえならまだ契約も終わってないしな」

 

「同感です。それにそれだけの規模ともなれば私達の地球にも影響が出かねません。獅子王機関としては手を出さないわけにはいきませんから」

 

「まあ、私も乗り掛かった舟だし、助けてくれた人が死んじゃうのはちょっと……ね」

 

 姫柊と藍羽まで……。

 

「私は手伝わせてください。かつての覇王の無念を継いだものとしても、兵夜さんのお友達のハイディとしても、放っておけません」

 

「私も手伝います! ここでこのまま帰ったら、ママ達に合わせる顔がないですから!!」

 

 ハイディ、ヴィヴィ……。

 

「まあ、もとをただせば対応の遅れの原因は私の暴走にあるわけだしな。何より地球の危機を見過ごすわけにはいかん」

 

「アルサムさんがやるなら手伝います! 恩返しさせてください!!」

 

「私も! あまりお役に立てないかもしれませんけど頑張ります!」

 

 アルサムは当然の顔で剣をとり、リオとコロナもそれに乗っかった。

 

「……それで? 眷属の私達に言うべきことは決まってるわよね?」

 

 後ろで準備万端にしている雪侶とグランソードを代表する形で、シルシは優雅に笑みを浮かべて俺の言葉を待つ。

 

 ああ、ホント俺は人に恵まれている。

 

 姫様やイッセーにも負けない巡り合わせだ。本当に生まれながらについている人生だよ。

 

 なら、俺が答えることはただ一つだ。

 

「我が眷属! 限りなく近く限りなく遠い俺の暴挙を見過ごすわけにはいかん! これより我々はエイエヌとの最終決戦に映る!! 死なない程度について来い!!」

 

「「「イエス、マイロード!!」」」

 

 そして同時にアルサムもまた眷属に激を飛ばす。

 

「シェン、右腕四天王! これより先は死戦となる! その命、私に預けよ!!」

 

「「「「「我らが命、アルサム様の元に!!」」」」」

 

 そして、赤龍帝もまた立ち上がると、おもむろに外に出る。

 

 付いて行った先には、数万を超える様々な種族がいた。

 

 なんていうか、壮観といえば壮観な光景だ。

 

「皆! 俺が変な勘違いした所為で、余計な戦いをさせちゃって本当にごめん!」

 

 まず真っ先にそれを言う辺り、お前はやっぱりイッセーだよな。

 

 ああ、途中不安だったこともあったけど、やっぱりイッセーはイッセーだよ。

 

「だけど! この人達はそれを水に流して俺達に力を貸してくれる! エイエヌを倒すのに力を貸してくれることになった!!」

 

 そう広く告げながら、赤龍帝は腕を突き上げた。

 

「今度こそ、エイエヌを止めるんだ! この世界にまで、エイエヌの被害を産むわけにはいかない!!」

 

 昔の嫌なことを思い出したのか、僅かに涙を浮かべる赤龍帝。

 

 だが、それをぬぐうと、胸を張って声を張り上げた。

 

「エイエヌを倒して、皆で地球に凱旋しよう!! 落とし前はつけたって、皆に笑顔で伝えるんだ!!」

 

『『『『『『『『『『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』』』』』』』』』』

 

『赤龍帝! 赤龍帝! 赤龍帝!』

 

『『『我らが魂、ウェールズの赤き龍と共に!!』』』

 

 歓声が鳴り響き、鬨の声が叫ばれる。

 

 ああ、観ているかエイエヌ。

 

 お前の好きにさせないと、これだけの奴らがわざわざ追いかけてきたんだぜ?

 

 俺は赤龍帝と並び立つと、声を張り上げる。

 

「諸君! 俺はエイエヌとは異なるエイエヌ、宮白兵夜だ!」

 

 俺の存在に目を点にする者達もいるが、しかし俺はそのまま続ける。

 

「直接関係ないこととはいえ、俺が世界をめちゃくちゃにしてしまって本当にすまない! なんか本当にごめん!」

 

 即座に一回頭を下げて、しかし俺はすぐに頭を上げる。

 

「だが、この俺は冥界の上級悪魔。サーゼクス・ルシファーの将来の義弟にしてゼクラム・バアルの茶飲み友達。そして異形勢力合同部隊D×Dのメンバーだ」

 

「サーゼクス様の、義弟!?」

 

「ゼクラムって、あのゼクラム・バアル!?」

 

「っていうか、異形勢力の合同部隊ってどういうことだ?」

 

 どよめきが収まるのを待ってから、俺は告げる。

 

「ここは平行世界。異世界とはまた異なるお前達がいるのとは別のIFの世界だ。その大きな相違点は「宮白兵夜が兵藤一誠の親友になるかオーフィスの理解者になるか」」

 

 ああ、壺一つ割るかわらないかがここまで大きなIFを作るとか信じられない。

 

 皆信じられない顔をしている。うん、当然だね。

 

 だから仕方がないので、俺は法被を取り出すと、皆の目に見えるように掲げて見せた。

 

「これは、平行世界のイッセーがもとになって作られた子供向けヒーロー番組「乳龍帝おっぱいドラゴン」のファンクラブ限定オリジナル法被だ。俺はこれをもらえる立場に立っている。おっぱいドラゴンの誕生を察知したので、会員ナンバーゼロ番を強奪したんだ」

 

「「「「「おっぱいドラゴン!?」」」」」

 

「な、なんか面白そうだな」

 

「子どもが見たら楽しみそうだ。う、うぅ……」

 

「泣くな。こういうのは大人が見ても楽しめるように作られてるもんさ」

 

 あ、なんか琴線に響かせてしまった。

 

 し、しかし誤解はしっかりと解いておかなくては! ただでさえ顔がそのものなんだしね!

 

「そ、そういうわけで俺がイッセー大好き悪魔である証明として、ここで作詞アザゼル作曲サーゼクス振り付けレヴィアたんの冥界合作オープニングテーマ、「乳龍帝おっぱいドラゴンの歌」をアカペラでギター片手に歌わせて―」

 

「大将、とりあえず落ち着け」

 

 あ、ああそうだなグランソード。ちょっとパニくってた。

 

「と、とにかく! 向こうの俺がヤンチャしすぎて本当に申し訳ない。ぶっちゃけあり得そうな可能性なので俺も心が痛い」

 

 ああ、実に痛い。

 

「ああ、本当に痛いさ」

 

 あの結末は、オーフィスにとっても俺にとってもいいものじゃなかったからな。

 

「話は変わるが、俺達の世界のオーフィスは大幅な弱体化をしたうえで、兵藤一誠の家で世話になっている。……秘匿事項だからばらまくなよ?」

 

『『『『『『『『『『は!?』』』』』』』』』』

 

 話が大きく変わるは、その内容がものすごいやらで、全員目が点になった。

 

 ああそうだろう、だが事実なんだ。

 

「ぶっちゃけマスコットだな、イッセーの家は離れ付きの大豪邸になっているんだが、屋上に九尾の狐の協力の元お社作ってのんびり暮らしてる」

 

 うん、神様だからお社作るのはあってるけど、場所はそこでいいのかと思ったことはある。

 

「家でははっきり言ってマスコットだな。お菓子持ってくるともぐもぐ食べるし、ぶっちゃけ見てて可愛い」

 

「な、なんかイメージ違くないか?」

 

「きょ、虚無を司るドラゴンだって言ってたような……?」

 

「それは、お前らが勝手に思い描いていたただのイメージだ。あの子はマイペースだが聞き分けのいい、純粋なただの子供だよ」

 

 そう、だからこそエイエヌは暴走した。

 

 善悪の基準すらろくにない子供に、悪性に傾いた状態で依存してしまったからこそ、奴は歯止めがきかずにあれだけのことをしてしまった。

 

 もし、オーフィスにもっと早く出会っていたら。

 

 もし、オーフィスが善悪の基準ぐらいは持っていたら。

 

 もし、エイエヌ()が、オーフィスにスカウトされる時まで心を病んでいなかったら。

 

 あんなことには、ならなかった。

 

「今、オーフィスは静寂を得ることよりもイッセー達との生活を楽しんでいる。グレートレッドと協力して、完全消滅したイッセーの体を新しく用意したりとかもしたんだ」

 

「え、ちょっと待って? 完全消滅って俺死んでるじゃん!?」

 

「ちょっと黙ってろ赤龍帝。……だから、この世界のオーフィスにとってもエイエヌの存在は好ましくない」

 

 そして、エイエヌはそれを知ったぐらいでは止まらない。

 

 あいつにとってオーフィスは既に死んだオーフィスだ。あくまで平行世界の同一人物であり、別人だと認識している。

 

 だから、例えオーフィスが直接断ったとしても止まらないだろう。

 

「エイエヌは止まらない。止める気がない。例えオーフィスがいやだといっても、あいつはオーフィスに静寂を押し付ける」

 

 そして、今度もまた別の平行世界に行って同じことを繰り返すだろう。

 

 その平行世界のオーフィスは静寂を望むのか望まないのか、それはわからない。

 

 だが、その過程で何十億もの犠牲者が出ることは避けられない。

 

「……頼む! この世界のためにも、そしてこの世界のオーフィスとイッセーのためにも、俺の馬鹿野郎を止めるのを手伝ってくれ!!」

 

 俺はそう言って頭を下げた。

 

 ああ、もしかしたら、逆に腹を立たせることになるのかもしれない。

 

 あいつらにしてみれば、オーフィスはグレートレッドを殺して次元を乱した諸悪の根源の一人だ。

 

 だけど、どうしても知ってもらいたかった。

 

 この世界のオーフィスは、もう静寂のために動く虚無のドラゴンなんかじゃないってことを。

 

「……気にすんなよ、宮白兵夜」

 

 俺の肩を、赤龍帝がたたいた。

 

「皆! 聞いてたか?」

 

 赤龍帝はみなを見渡すと、声を張り上げる。

 

「オーフィスと、仲良くなれる世界があったんだな。人間も悪魔も天使も堕天使も妖怪も神も化け物も、皆が仲良くなれる可能性があったんだな」

 

「そこまでって程じゃないがな。和平反対派はまだまだゴロゴロいるし、肯定派も裏で何を考えているかわからないし」

 

 ああ、まだまだ問題は山積みなんだが。

 

「だけど、仲良くなろうと手を伸ばすことができるんだ。俺達みたいに滅びる一歩手前にまで追い込まれなくても、協力し合うことができたんだ!!」

 

 そういう赤龍帝の目は、憧憬の色が広がっていた。

 

「なあ皆! そんな立派な世界、エイエヌ(アイツ)の暴走で壊していいわけがない、そう思わないか?」

 

 沈黙が広がった。

 

 だけど、それはすぐに崩壊した。

 

「その通りだ!」

 

「俺の子供が生きて、平和な時代を過ごせるかもしれないんだろ!?」

 

「親父やお袋も平和に生きれるかもしれないんだ! やってみる価値はありますぜ!!」

 

「せめて、この世界ぐらいは酷い目に合わなくたっていいはずだ!!」

 

 ………ああ、流石は赤龍帝(イッセー)の仲間達だ。

 

 嫉妬心を燃やしてもいいぐらい酷い目にあっているはずなのに、心からこの世界のことを守ろうとしてくれている。

 

 そんな奴らを纏めているのが、隣にいる親友の可能性だ。

 

 やっぱりすごいよ、兵藤一誠は。

 

「やろうぜ皆! 俺達が、この世界を守って、あの世界の落とし前をつけるんだ!!」

 

『『『『『『『『『『……ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』』』』』』』』』』

 

 これまで以上の割れんばかりの大きな声が、響き渡った。




被害規模、桁違い。

因みに、発生した次元震のせいで時空管理局は接近ができない状況と認識ください。そろそろ落ち着いてきたのでこれるかもしれませんが。










エイエヌ最大のうっかり。……ゲート開けっ放し。

一歩間違えればそれで発生した大規模次元災害で自滅している恐れすらありました。光り輝かんばかりのうっかりです。








そして赤龍帝完全復活。

恨みも憎しみも残ってますが、それを正しくぶつけるべき相手を認識して、一皮むけました。

とはいえ、それでも真の覚醒のための発動はできないわけで、あとはまあ、ねぇ?


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最終決戦前って案外グダグダする

現在エピローグの執筆中です。さらにこの後アザゼル杯編を含めたいわゆる第二シーズンを書こうかとも思っています。

しいては、活動報告でアンケートを実施します。


 

 

 

 

 

 

 

 

「すごい、あの人達すごいよね!」

 

「うん、私達、そんなすごい人とこんな近くにいるんだね!」

 

 リオとコロナがテンションを上げるのも当然だろう。

 

 酷い目に遭ってきたのに、そんな言葉じゃ言い表せないぐらいなのに、嫉妬してもおかしくないはずなのに。

 

 それでも、そんな世界を守ることも目的の一つに加えてくれる彼らがただただすごかった。

 

 そして、そんな彼らを束ねているのが、赤龍帝兵藤一誠なのだ。

 

「本当に、すごい奴なんだ。赤龍帝ってのは」

 

「むろんだとも」

 

 暁が漏らした言葉に、アルサムはしっかりと反応する。

 

「歴史上最弱と言われながら、同時に歴史上最も優しい赤龍帝と言われた男。覗きの常習犯ゆえに毛嫌いされることも多いが、その本質に触れる者達は皆一様に彼に夢中になると言われている。……ああ、私もその一端を見せられたよ」

 

「うん、すごいかっこいい人です」

 

「あれが、王の器……」

 

 コロナとアインハルトが感嘆する中、赤龍帝は皆の意志を鼓舞していく。

 

 特に、アインハルトはその姿に目が離せなかった。

 

「アインハルト・ストラトス」

 

 その肩に、アルサムが手を置いた。

 

「見ておくといい。あれが、私とは異なるもう一つの王の姿だ。……王の道や在り方とは一つではないのだよ」

 

「はい。勉強になります」

 

 そう答えるアインハルトに、しかしアルサムは何かを感じ取る。

 

「……王になることを、辞めたのか?」

 

「いえ、覇王としての責務を捨てたわけではないのですが―」

 

 アインハルトは少し言いよどむと、しかしまっすぐにアルサムを見つめてこう返した。

 

「覇王クラウス・G・S・イングヴァルドとしてではなく、ハイディ・E・S・イングヴァルドとしての道を進んでみたいと、そう思うんです」

 

「そうか」

 

 静かに、しかし笑顔でアルサムは頷いた。

 

「それができてようやく一人前だ。スタートラインに立てたようで、王として喜ばしい限りだ」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんか、難しい話してんな」

 

 二人の間に通じるものがあることはわかるが、しかしよくわからなくて、古城は首を傾げた。

 

 そんな古城に、浅葱は呆れた視線を向ける。

 

「いや古城、アンタ真祖なんでしょ? だったら少しぐらいわかった方がいいんじゃないの?」

 

「んなこと言ったって、別に俺は夜の帝国とか作る気があるわけじゃないし」

 

「ま、それもそうか」

 

 古城はあくまでただの高校生だ。少なくともそう生きていきたいと思っている。

 

 なら、王の在り方なんてわからない方がいいのだろう。

 

「まあ、わかった方がいいこともあるかもしれないけどな。なんか俺はトラブルに巻き込まれ続けるらしいし、気づいたら夜の帝国とか建国してるかもしれないからな」

 

「ないない。あんたにそんな才能ないって」

 

 浅葱はそう言ってバッサリ切るが、しかし不安にならないこともない。

 

 なにせ吸血鬼の真祖は強大過ぎる力を持っている。少なくとも普通の高校生活を送るにあたって分不相応にもほどがある程度にはある。

 

 もしかしたら、本当にトラブルの果てに夜の帝国を作ることになるかもしれない。

 

 ……だがしかし、そんな時は―

 

「ま、もしそうなったら私が何とかしてあげるわよ。祭り上げようとする連中の弱みを、ネットでバシバシ吊り上げてあげるわ」

 

「……ああ、その時は頼りにしてるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんかいい雰囲気になってるけど、止めなくていいのっ?」

 

「いえ、別に。……私は先輩の監視役でしかありませんから」

 

 トマリにそうすげなく返すが、雪菜の表情は割と赤くなっている。

 

 その様子を見ながら、トマリはふむふむと考えた。

 

 ―自覚はないけど好意はあるって感じかなっ? これって、いろいろとラブコメだと面白んだけどなぁっ。

 

 伊達に吸血鬼といて長い生を生きてきたわけではない。トマリだって考えるときは考えられるのだ。

 

 しかし、これはまた獅子王機関の慧眼だろう。

 

 兵夜の推測が当たりであれば……の話ではあるが、これはむしろ別の可能性を考慮に入れるべきレベルのぴったり具合ではないだろうか。

 

 獅子王機関が雪菜に反旗を翻されたりしたら、別の意味で大変なことになりそうだ。

 

 そんなことを思いながら、しかしトマリはあえて口には出さない。

 

 自覚しないでやきもきする時間というのも、振り返ってみればいい思い出になるものだ。

 

 アップのように変な方向に覚醒したらややこしいことになるかもしれないが、彼女には自分達と違ってたくさんの仲間がいる。

 

 何より経験者であるトマリ自身がここにいる。ならばフォローはいくらでも聞くだろう。

 

 どうせ、獅子王機関とも今後は連絡を取ることになるだろうし、それ位の恩返しはしてあげてもいいかと、トマリは素直にそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんか、場違いよね、私」

 

 戦意を高ぶらせるその光景を見ながら、アップは気まずそうに酒を飲んだ。

 

 既に事態は最後の晩餐じみたパーティにすら発展しており、これでケリをつけるからと食料が大放出されている。

 

 そんな中、アップは一人で酒を飲んでいた。

 

 それは当然だろう。

 

 だって自分はエイエヌの側に立っていたのだ。それも自分の意志で。

 

 そんな自分が恩より恋を選んで、味方側に今更立っていることがどうかしている。

 

 そんなことを思いながら、つまみに何かこっそりもらっておこうと立ち上がろうとすると、目の前に料理が出された。

 

「はい。アップさん」

 

「……えっと、ヴィヴィオだっけ?」

 

 ヴィヴィオの姿を見て、アップはどうにもいたたまれなくなった。

 

 なにせ散々痛めつけている相手だ。なんというか実に気まずい。

 

 だが、ヴィヴィオの方は全く気にせず隣に座った。

 

「あの、できればお話したいことがいっぱいあるんです」

 

「いや、あのねえ……」

 

 どう反応したらいいのか、心底困ってしまう。

 

「……あんだけ酷いことした私に、今更何を話そうっていうのよ」

 

「それを言うなら、赤龍帝さんとも戦いましたし」

 

 と、ヴィヴィオはあっさりと返した。

 

「子供のことを気にして、戦闘を中断してくれたアップさんとならお話しできますから」

 

「別に、そんないいもんじゃないわよ」

 

 アップは不貞腐れるようにそっぽを向く。

 

 そうだ、アップ・ジムニーはそんないいものじゃない。

 

「弱い者いじめして感じるのは、本当なのよ」

 

 そうだ。それは本当に本性だ。

 

 アップ・ジムニーは間違いなく悪性なのだ。どれだけ状況が変わろうとそれだけは変わらない。

 

 そんな自分が、今更正義の味方なんてして何の意味があるのだろうかとすら思い。

 

「大丈夫です」

 

 と、ヴィヴィオは言い切った。

 

「いやなところや欠点がある人なんていっぱいいます。だから、私はアップさんと仲良くしたいです」

 

 そう、はっきりと言い切った。

 

「それに、アップさんは須澄さんの為なら我慢してくれるでしょ?」

 

「………子供が生意気よ」

 

 恋心に女は敵わない。

 

 そんな当たり前のことを言われては、もはや反論が全くできない。

 

「あなた、カウンセラーか何かの資格持ってるの? やけにそういうの得意だけど」

 

「いや、そういうのは持ってないです。だけど―」

 

 ヴィヴィオは拳を握ると、まっすぐそれを見つめる。

 

「大切なことは、ぶつかり合わなきゃわからないこともある。私はそれを知ってます」

 

 その姿に、アップは彼女が自分よりもすごい経験をしたことがあるとなんとなく感じた。

 

「だから、ぶつかってきたからわかります。アップさんはいい人です」

 

 そんな風にまっすぐな笑顔で見つめられるとすごく困る。

 

 すごく困るが―

 

「わかったわかった。そんなに言われたら納得したわよ」

 

 ああ、なんだか―

 

「とりあえず、期待を裏切らない程度に頑張るわよ」

 

 ―悪い気分では、決してない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、赤龍帝」

 

 ある意味最後の晩餐である中、俺は赤龍帝をまっすぐ見つめる。

 

「そろそろつつけ。そして覚醒しろ」

 

「……マジで言ったの!?」

 

 割と視線が集まるが、しかしこれは重要なことなのだ。

 

「赤龍帝。頭が痛くなることなのはわかっている。お前はそういう点では常識あるから戸惑うのも分かる」

 

 ああ、それに関しては否定しない

 

 覗きの常習犯という非常識なところのあるイッセーだが、実は意外と常識も良識もあるのだ。

 

 常人が持てば即座に痴漢行為を働かずにはいられない色欲を持っておきながら、強姦や痴漢は起こさなかった。いや、覗きも逮捕されて文句は言えない罪か。

 

 しかし、しかしだ。

 

「フォンフが言ったことはあながち否定できない。少なくともつついているイッセーとつついていない赤龍帝のどっちが脅威かといえば前者だからな」

 

「いやいやいやいや。俺、神滅具二つ持ちだよ?」

 

 んなわけねえだろ、と言いたげな言葉だったが、甘いぞお前は。

 

「赤龍帝。その程度では驚くに値しない」

 

「驚けよ!!」

 

 渾身の叫びだが意味がない。

 

「普通に禁手になった程度では足りん。向こうのイッセーは悪魔の駒(イーヴィル・ピース)のリミッターを解除したとはいえ、乳首をつつくことで禁手を更に昇華させ、そのうえ乳から放たれる光を浴びて更に昇華させたことがあるからな。それに比べれば常識的な強化と言わざるを得ない」

 

 ちなみに、その過程で何千人もの痴漢を発生させたことは黙っておこう。

 

「全くですのよ。京都でイッセーにぃの色欲を移植した結果、いったい何千人がおっぱいに触れたくてたまらなくなって痴漢になったと思ってますの? それだけの色欲を最大限に使えば、想いを力に変える神器ならば禁手を超えることなど容易ですのよ」

 

「雪侶? 大将があえて黙ってたこと言うのやめとかね?」

 

「この馬鹿妹! グランソード、雪侶の口を塞いでおけ!!」

 

「ちょっと待って!? 痴漢何千人って何!? 俺のおっぱいに対する熱意は常人には耐えきれないと!?」

 

「そうなんだよ馬鹿野郎!! 元浜ですら耐えられなかったんだよ!!」

 

 俺も流石にドンビキだよ!

 

「っていうかおっぱいはどんだけ強大なエネルギーがあるんだよ! 何か無限の力でも秘めてるの?」

 

「リアス・グレモリーのおっぱいをエネルギーに変換すれば、都市を一発で灰燼と化す大出力砲撃を何十発と撃つことができるな」

 

 これも実話だ。

 

「まあ、代償として一時的に貧乳になるんだが」

 

「なんて酷い代償なんだ……っ」

 

 赤龍帝がショックのあまり膝をついた。

 

 うん、一時的だから我慢しような?

 

「因みにアーシアちゃんのオパーイを使った場合、崩壊した首都クラスの都市が一瞬で再生する」

 

「バリエーションあるの!?」

 

 ああ、そりゃ驚くだろう。なんだこの力は。

 

「な、なんなんだ俺は。俺はどんだけおっぱいに魅了されているんだ……」

 

「異世界から乳を司る神が加護を送ってくるぐらいには大好きだ」

 

 ああ、本当に大好きなんだな、お前。

 

「因みに、それをあるジジイに知られた結果、そのジジイの枯れた心に侵略者精神が燃え上がり、結果としてその異世界から攻撃を受けかねない事態になっているから、ホント影響力高いよな。……いや、これをお前の所為というのは無理があるんだが」

 

「いろいろ酷すぎるぅううううううう!!!」

 

 ああ、完璧に崩れ落ちた。

 

『おい、赤龍帝の残留思念達が文句を言ってきてるからそろそろいい加減にしてくれないか? 俺も流石にきついぞ』

 

 そんな文句をドライグが言ってくるが、そんなことを言われてもなぁ。

 

「……そいつらに言っておいてくれ。お前らこっちじゃ最終的にイッセーがツッコミ必須のおっぱい紳士になったって」

 

「『嘘だろ!?』」

 

 おお、相棒同士のシンクロツッコミ。

 

 まあ酷いのはわかるんだが、しかし現実問題そうなんだから仕方がない。

 

「歴代白龍皇は歴代白龍皇でヴァーリ以外はパンツかいで和解したからな。……俺、その時の記憶が飛んだままなんだ」

 

「……ゴシップかと思ったら真実だったのか」

 

 アルサムがドンビキしているが、気持ちは痛いほどよくわかる。

 

「ああ、確かにすごい変態ほど強いんだな……」

 

「確固たる事実に基づいた持論だったんですね……」

 

 暁と姫柊ちゃんが遠い目をしている。

 

 うん、割とそうなんだ、ごめん。

 

「……まあ、戦闘中にパンツ料理して食べるファーブニルや、それに感涙して寝返った量産型の邪龍に比べればまだましだ。肉体がない分」

 

「いや待って、それ酷すぎない?」

 

 ああ、まったくもって酷い。

 

「しかも天界は全人類を発情期にしようとする勢力によって大被害を被ったしな。もう変態が多すぎて大変だというかなんというか」

 

「俺達の世界とは別の意味で酷い!?」

 

 うん、割とこっちの世界も酷いです。

 

 ま、そういうわけで。

 

「とにかくこっちにも余裕がない。……つついて覚醒しろ、早く」

 

「酷いなおい!?」

 

 いや、真面目な話なんだよ。

 

「赤龍帝。真面目な話、時空管理局と地球の全勢力を敵に回す気のエイエヌと戦うには、相応の戦力が必要だ」

 

 そう、奴は本気でグレートレッドを殺そうとしている。

 

 それと同格と言われるトライヘキサを材料としたトリプルシックスの戦闘能力から逆算して、本当に殺せる戦力だとするならば、この場の全員が挑んでも勝ち目がない。

 

 時空管理局も大艦隊を用意しているだろうが、しかしそれでも苦戦は必須だ。

 

 ぶっちゃけ余裕がないのだ。戦力はあればあるほどいい。

 

「俺だってこんなことを言うのは頭が痛い。だが、お前のおっぱいパワーが今こそ必要なんだ。さっきも言っただろう。フォンフの罵倒はあながち見当違いでもないと」

 

「いや、いやでも、人の目があるし―」

 

 あ、そういえばそうだった。

 

「公開生中継でおっぱいライト浴びたり、曹操達(テロリスト)がつつくの待ってくれたりしてたから麻痺してたわ、すまん」

 

「俺、どんな状況でおっぱいつついてんの!?」

 

「大体戦闘中だな」

 

 考えてみれば酷い話だ。

 

 そりゃフィフスもストレスのはけ口用の分身創るわ。当たり前だ。

 

「と、とりあえずつつかれてくれる人……いる?」

 

 赤龍帝は恐る恐る聞いてみるが、意外にも手を挙げる人は多かった。

 

「イッセー様につつかれるなら、まあいいかなぁって」

 

「と、いうより側室に入れてほしいなー」

 

「ひ、人目のないところでなら……」

 

「っていうかむちゃくちゃ良物件だし」

 

 とは手を挙げた者の弁である。

 

「なあ、冥界大丈夫なのか?」

 

「異形世界、どこもこんな感じだったりする」

 

 暁が心配するのも当然だろう。

 

 少なくとも悪魔に友好的な勢力はノリがいいからなぁ。おっぱいドラゴンなんてもんがいろんなところで放送される辺り色々酷い。

 

「っていうか、パワーアップでいうならお前もだろう、暁」

 

「え、俺もか?」

 

 当たり前だ馬鹿野郎。

 

 なんで十二の眷獣のうち一つしか使えないんだよ。

 

 他の奴も魔王龍王クラスあるのは簡単に想像できるし、複数同時運用できればそれだけで圧倒的な火力になるぞ?

 

 うん、せめてもう一つぐらいは必要だろう。

 

「何とかもう一つぐらい使えるようにならないのかよ。ほら、なんか勝手に出かけた時あるじゃねえか」

 

「いや、あいつら俺のこと宿主として認めてないからな」

 

 と、古城は首を捻る。

 

「ろくに血を吸ったこともないのが原因だと思うが……」

 

「はい」

 

 なんだ話は簡単じゃねえか。

 

 俺は輸血パックを出すと、暁に押し付けた。

 

「こっちのイッセーの血液だ。触媒として有効なのは邪神の宿したこっち側の吸血鬼で保証済みだから、効果あると思うぞ?」

 

「いらんわ! 大体吸えって言われて吸えるようなもんじゃないんだよ、俺達の方の吸血鬼は!」

 

 え? マジで?

 

「普通に食事替わりで吸うもんじゃないのか? こっちの吸血鬼はむしろ血しか受け付けない奴だって多いんだが」

 

「普通に飯食った方が効率良いだろ。不便だなそっちの吸血鬼」

 

 うっわぁ、マジかよ。

 

「あの、実は私達の世界の吸血鬼は……」

 

 姫柊ちゃんが、すごく言い難そうにっていうか顔赤くして説明する。

 

「性的興奮と直結して……るんです」

 

 ………ふむ。

 

 すっかり忘れてたが、確かそんなことを言っていたような気もする。

 

 なるほど。

 

「はいエロ本」

 

「なんで彼女いるのにそんなもん持ってんだ!」

 

「うるせえ! むしろあいつらの方から持ってくるときがあるんだよ!!」

 

 男の劣情に理解ありすぎだろあいつら!!

 

「いいからさっさと竿おっ立てて血を吸ってこい! 報酬上乗せするから!」

 

「色々下品にもほどがあるだろうが!! だいたいこんなタイミングで興奮できるか!」

 

「よし待ってろ! ニンニク料理作ってくる!!」

 

「そういう問題じゃねえ!!」

 

 いや、ホント興奮してくれませんかねえ!?

 

 マジでいくつもの世界の危機なんだよ!! これでも手段選んでる方なんだよ!!

 

 ええいこうなれば最終手段。

 

「最終兵器! アザゼルから没収した性別変換光線銃で俺自らセックスアピールを―」

 

「大将自分を犠牲にしすぎだ! ……お~い、そっちの人達に淫魔いねえか!?」

 

 グランソード! 俺を羽交い絞めにするな!!

 

 こういう時に人を巻き込むわけにはいかないだろうが!!

 

「ちょっと宮白さん!? あなた私にアドバイスしたのはなんだったのよ!!」

 

 ええい藍羽だったら話は簡単だ。

 

「ならお前がその巨乳を押し当てて吸われて来い! 冗談抜きで一世界の危機なんだよ!!」

 

 俺だってこんなこと言いたくないけど、マジでやばいんだよ!!

 

「グレートレッドが死んだらマジで世界の安定が崩れるんだぞ!? 地球周辺世界の安全のために異世界の後ろ盾得ようとしたら、なんで先取りで異世界侵略の危機を迎えなければならないんだ!!」

 

 本当になんでこうなった!

 

「いやもうお願いだからちょっと藍羽でいいから吸われて来いよ! マジお願いお金出すから!!」

 

「どんな変則的な売春よ……」

 

 シルシ、そこ何も言わないでくれない?

 

「あのなあ、それは流石にないだろ宮白」

 

 暁は暁でため息をつく。

 

「浅葱はただの友達だっての。この前だって宿題教えてもらう代わりにどれだけ飯驕らされたか」

 

「………暁」

 

 なんか藍羽が可哀想になって一気に冷静になれた。

 

「ラブコメの鈍感主人公によくあるパターンを教えてやろう」

 

「なんだ、いきなり?」

 

「ツンデレ系の攻略されたキャラクターが、普段はしないことを条件を付けるというツンでするというデレがあるんだが、たいていの鈍感な主人公はそのツンに騙されて裏のデレに気が付かないというやつだ」

 

「………」

 

 暁は、数秒考えこんだ。

 

 そして鼻血が出た。

 

「どこまで脳内で発展した!? 煽ってなんだけどドンビキだよ!?」

 

「誰の所為だと思ってるんだ!! ……いや、違うよな!? 違うよな!?」

 

 違わねえよ! 気づけよ馬鹿!!

 

 現実に鈍感系主人公いても害悪だな! イッセーの場合は仕方がないトラウマがあったからだけど、それにしても見ていて酷い。そりゃ姫様も切れるわ!!

 

 などと思っていたら後頭部に衝撃が走った。

 

「あ、あ、あ、アンタねえ! なんでそういうことこんなところでいうわけ!?」

 

「兵夜さん、そういうのはもっと小声で言うべきだと思うの」

 

 あ。

 

「………てへ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分間、徹底的にボコボコにされたのは言うまでもない。

 



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最終決戦、開幕です!

 

 D3。

 

 それは、エイエヌが地球侵略の為の艦隊を用意した大規模軍事施設である。

 

 エイエヌは、フォード連盟の政治中枢の要職の九割を従僕にする事に成功している。しかし、それらの重要人物は次元世界の多世界連盟の政治職を取り込む事も含めると、従僕の数を制限する必要があった。

 

 この世界での聖杯戦争で従僕による街の乗っ取りを行わなかった理由はそこにある。単純に容量が足りていないのだ。

 

 しかし、それゆえに侵略部隊の従僕化はほぼ完璧に行われている。

 

 また、ミッドチルダで行われた次元犯罪で使用された無人兵器なども量産に成功し、圧倒的な戦力を確保する事に成功していた。

 

 その戦力は、一つぐらいなら神話体系の総力とまともに戦争ができるとエイエヌは確信している。

 

 更に、ダイスで強化した堕天使達や、フォンフが生産したホムンクルス部隊。

 

 その戦力は多次元世界の技術の粋を結集しただけあり、一管理外世界を攻めるとするならば明らかに過剰。だが、それだけの戦力をもってしても楽には勝たせてくれないどころか、敗北する可能性すらあるのが地球という世界の裏の顔だった。

 

 ゆえに、更に数年かけて軍備を増強する計画だったが、二重の意味で短縮する事になる。

 

 一つは、フォンフ達との接触と彼らの行動。

 

 これにより地球は未曽有の混乱状態であり、この状態で異世界からの襲撃を受ければ最大の隙を突けるという幸運。

 

 一つは、時空管理局にそれらを察知された事。

 

 これに関して兵夜が浅葱に軍事施設をハッキングさせた事が理由なのだが、エイエヌはそれには気づいていない。

 

 既にフォード連盟の牽制の為に常駐している時空管理局の艦隊と、地球からコロンブス計画で出立した艦艇数隻との睨み合いが、あの激戦の前から行われており、それが原因で戦力を集中投入できなかった。

 

 あの戦闘でコカビエルとザイードが参戦できなかった理由はまさにそこにある。それが全滅を防ぐ幸運の兆しとなっていた。

 

 だが、侵攻を決意したエイエヌの行動により、ついに戦闘が開始される。

 

 緊急報告でかき集められた時空管理局の大艦隊も含めての時空管理局の歴史でも類を見ない規模の大激戦が行われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はっはっは。男のロマンを満たしながら、地球の未来をよりよくすることができるというコロンブス計画。

 

 面白そうだし遊び半分で参加してみりゃぁ……。

 

「……なんじゃこりゃぁ!!」

 

 思わず絶叫するっつーの!!

 

 なんでだ、なんでフィフスとの最終決戦にもケンカ売れる規模の激戦に俺が参加してるんだ!?

 

 俺は総督辞めてるんだぞ!? もう隠居させろよ畜生!!

 

「おい高町! 時空管理局の増援はあとどれぐらいで着く!?」

 

 俺は監視役も兼ねて時空管理局からやってきた高町なのはに時空管理局の状況を聞いてみる。

 

 ちなみにこいつかなり強い。なんでも時空管理局でもエースオブエースとか言われてる凄腕らしい。俺達の業界でも人間レベルじゃシャレにならないな。曹操やストラーダとも戦えるだろう。

 

 だが、それでも数が多すぎる。

 

「難しいです! 色々ありすぎて追いついてないっていうか、動きが速すぎて……」

 

「宮白の情報から推測すれば、フォード連盟はエイエヌのワンマンらしいからな。独裁政治や帝政政治の最大の利点である、即効性が上手く動いたか」

 

 いや、たぶんいつでも動ける準備は整えてたんだ。

 

 動きが時空管理局にばれたら、直ぐにでも動くつもりだった。

 

 加えて次元世界の技術も侮れねえ。

 

 AMFとかいう犯罪者の開発した技術の所為で、魔法使いの連中が軒並み戦力を大幅に下げてるのも厄介だ。

 

 幸い数の上で主力の時空管理局の連中は、対抗手段を何年も前に開発しているから楽に戦えてるが、それでも難易度が高いらしく使えない奴も多い。

 

 このままだと、押し切られるぞ!

 

「陸の人達からも何千人も力を借りてるのに、こんなに強いだなんて……」

 

「こっちも割と腕利きが派遣されてるんだがな、まさか宮白がここまでやばくなる可能性があるとは……」

 

 神器の多重移植とか、流石は宮白の平行存在だ。気が狂ってる。

 

 しかも善悪の基準がない頃のオーフィスがイッセーの代わりとか暴走しすぎだろう! 俺も殺されてるとかどういう事だよ!!

 

 ええい! こんな事なら堕天使側のトリプルシックスで来ればよかった!!

 

「あとカークリノラース家の前当主は後で査問会にかけてやる! 絶対かけてやる!!」

 

 あいつらがフィフス倒した後にさっさと話してればこんな事にはならなかったんだよ! 真っ先に接触してればまだやりようはあったってのに!!

 

 覚えてやがれぇ。生き残ったら絶対叩きのめしてやる。

 

 一応時空管理局の協力で行った最終手段は用意してるが、それも成功するかどうか賭けだからな。

 

 くそ! 宮白の奴はまだか!!

 

「高町! 俺が前衛するから前に出るなよ!? お前さん娘がいるんだろう!?」

 

「だから逃げれません! ヴィヴィオも、きっと無茶するから……」

 

 だろうな。この女の娘なら、たぶん無茶するだろう。そういうやつだ。

 

 それに宮白も無茶苦茶するからなぁ。あいつ、何を企んでるか……。

 

 ん? なんか覚えのある気配が―

 

「久しぶりだな、アザゼル!!」

 

 この気配―!

 

「上だ高町!」

 

「はい!」

 

 飛び跳ねるようにかわすと同時、俺達の間を黒い影が横切る。

 

 間違いない、この動きはコカビエル!

 

「久しぶりだなコカビエル! コキュートスの寒さに鍛えられたみたいだな! 見違えたぜ」

 

「貴様は衰えたなアザゼル。これなら俺でも殺せそうだぞ?」

 

 コカビエルの奴、両腕を義手にしてるくせに強くなってやがるじゃねえか。

 

神器(セイクリッド・ギア)をおもちゃと言ったのは詫びておこう。これは人間には過ぎた兵器だな」

 

「分かってくれて嬉しいが、お前には過ぎたおもちゃだ。……これ以上暴れるっていうなら、殺すぞ?」

 

 とはいえ、それで下がってくれるならそもそもあんなことしやしねえ……か

 

「できる物ならやってみるがいい! 衰えた貴様如きにはやられん!」

 

「チッ! 高町下がってろ! こいつの相手は俺が―」

 

 その時だった。

 

『はーっはっはっはっは!』

 

 高笑いが、戦場に響き渡る。

 

「……あの野郎っ」

 

 この声、ついに来やがったか!

 

『初めまして高町一等空尉! 娘さんにはお世話になったり情操教育に悪い光景を見せたりと色々迷惑をかけっぱなしの宮白兵夜です! 救援に来ました!!』

 

 ご丁寧な挨拶しながら、横合いからすごい数の戦力が現れる。

 

 その一番槍を切るのは、宮白のアーティファクト、ラージホーク。

 

 そして、その艦首には何人もの姿が映っていた。

 

 なるほど、あれがこの世界で出会った協力者ってわけか。

 

 そのうちの一人の姿を見て、高町が目に涙を浮かべながら喜んでいる。

 

「ヴィヴィオ!!」

 

「ママー! お待たせー!」

 

 なんかぶんぶん手を振ってるやつがいるが……殆ど歳がかわんなくね!? 

 

 高町達って人間だよな? どういうこった?

 

「ま、まままマジでアザゼル生きてる!! なんか平行世界って実感するなおい!!」

 

 そして平行世界のイッセーが驚愕してやがる。おいおいこりゃ面白い展開になってきたな、オイ!!

 

 そして、戦意に満ちたやつらの戦闘で、宮白が不敵な笑みを浮かべていた。

 

「……さあ、聖杯戦争を始めよう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、中々いいタイミングで出てこれたな、オイ。

 

「ヴィヴィ、高町一等空尉のところに行っていいんだぞ?」

 

 親切心で言った事だが、ヴィヴィは静かに首を振った。

 

「ここまで来たら逃げません! まだ契約も終わってませんから!」

 

「そうか。なら死ぬなよ?」

 

 覚悟を決めたのならこれは止めれないな。

 

 とにかく、こうなったらヤケクソだ。

 

 意地でも止めてやるぜエイエヌの野郎!!

 

「多い、これは多いね! ちょっと怖くなってきたかも!」

 

「何。こんなものはフィフスとの最終決戦に比べればまだ怖くはないさ」

 

 ちょっと腰が引け始めている須澄をアルサムが励まし、そしてルレアベを掲げる。

 

 そして、その隣に並び立ちながらグランソードが指を鳴らす。

 

「野郎ども!! こんなでかい喧嘩はそうはできねえ! 全力で暴れてやれ!!」

 

『『『『『『『『『『応ッ!!』』』』』』』』』』

 

 グランソードの激に堪え、舎弟達が声を揃える。

 

 そして、赤龍帝が前に立った。

 

「行くぜ皆! 今度こそ、エイエヌを倒すんだ!!」

 

『『『『『『『『『『ハイッ!!』』』』』』』』』』

 

 こっちも激励に堪える討伐軍。

 

 ああ、燃える展開になってきた。

 

「じゃあ、開戦の号砲だ。……暁! やってしまえ!!」

 

「ああ、分かってるよこの野郎!!」

 

 むぅ、まだ不機嫌なのかこいつは。

 

「悪かったって。なんかグダグダになったのはすまなかった。今度何かで埋め合わせするから」

 

「いや、俺も正直当分先延ばしにしたいっていうかなんて言うか」

 

「それ以前に、吸血鬼化のこともあるんですからよく考えてください、先輩」

 

 姫柊ちゃんに説教されちまった。

 

 ちなみにそろそろ目を開けないと危ないぞ姫柊ちゃん。高所恐怖症かなにか?

 

 まあ、それは後で考えるとして―

 

「気を取り直して、ぶちかませ!!」

 

 さあエイエヌ。覚悟してもらおうか?

 

 俺達は、マジで勝算を手にしたぞ!!

 

焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)を継し者、暁古城が、汝の枷を解き放つ―」

 

 とりあえず、暁に血を飲ませる事には成功した。

 

 ……誰の血を飲んだかは本人の文句が出たので一応隠しておく。とりあえずキャットファイトに展開しなくてよかったと付け加えておこう。

 

「来やがれ、七番目の眷獣、夜摩の黒剣(キファ・アーテル)!!」

 

 そして呼び出されるのは恐ろしくでかい剣。

 

 少なく見積もっても百メートルはあるであろうでかさだ。怖いなおい。

 

 ちなみに、展開されたのは上空数十キロ。

 

 さて、考えてみよう。

 

 あんなでかいものがあんな高さから落下する。落下する物体は、どんどん加速していく。

 

 ついでに言うと、あれの真価は重力制御。つまり加速する。

 

 其の破壊力、巨大隕石の落下に匹敵。半端な神クラスもびっくりの破壊力だ。

 

 次の瞬間、基地の大半が吹き飛んだ。

 

 そしてソニックブームで俺も吹っ飛びかけた。

 

「うぉおおおおおおお!? 思った以上に破壊力がでかい!?」

 

「この馬鹿野郎! あんなもん出すなら先に言いやがれ!!」

 

 アザゼルから文句が出るが、実戦使用は今回が初めてだから勘弁してほしい。

 

 だが、これで陸上兵力の五割は吹き飛んだ。流石に二度目は迎撃されるだろうが、これで一気に状況は傾いたぞ!!

 

「よっしゃぁ! この隙に中枢部にまで突撃するぞ!」

 

 ああ、とにかくこの作戦はエイエヌをどうにかできるかが全てだ。

 

 戦力はおそらく大半が従僕。つまりエイエヌの能力だ。

 

 エイエヌさえ倒すことができれば、戦局は決定する。

 

「アザゼル! 時間稼ぎを頼む。ちょっと行って俺叩きのめしてくる!!」

 

「おう! 俺達も切り込んで足止めするから、死ぬなよ若者!」

 

「分かってるよロートル!」

 

 そう言い合いながら、ラージホークを加速させる。

 

 緊急用のブースターをつけておいて正解だった。この隙を突いて一気に切り込む!!

 

 が、そう簡単に行くわけもないわけで―

 

「させるか餓鬼共!!」

 

 そういえばコカビエルがここにいたな!!

 

「逃がすと思うなよ餓鬼どもが! 特に貴様には両腕をもっていかれた借りがあるからな!!」

 

 いうが早いか、コカビエルの義腕が発光する。

 

 同時に莫大な数の魔獣が宙に発生した。

 

「しつこいんだよオッサン!!」

 

 カウンターで暁の眷獣が放たれるが、しかし別のコカビエルの義手が輝くと、結界が生まれて防がれる。

 

「やはり量産型の魔獣創造と絶霧をベースにしているのか!!」

 

「その通り! そして、ここにいるのは俺達だけではない!!」

 

 そう言いながら奴の視線を追うと、そこには大量のミサイルが。

 

「別の基地からの援軍も送り込んでいる。そのまま吹き飛べ!!」

 

 なるほど。そういえばフォード連盟は質量兵器を採用していたな。

 

 だが、そんなものは想定内だ!

 

「……藍羽!!」

 

『大丈夫! もうやったわ!!』

 

 言うが早いか、ミサイルが空中で一斉に爆発した。

 

 ふっふっふ。こんなこともあろうかと、藍羽にハッキングを依頼しておいて正解だった。

 

 事前に時空管理局やアザゼルにも連絡して、今並列ネットワークで大量の演算装置がリンクしている。

 

 その規模、スパコン十数機分。

 

 この演算能力なら相当無茶が効くはずだ!!

 

『なにこれ! 柔軟な対応能力はないけど、一言多いモグワイより使い勝手がいいわね!!』

 

「比較対象あるの!?」

 

 すげえなアンタの世界!!

 

 だが、これで遠距離からの支援砲撃はほぼ無効化できる。

 

 あとは厄介なコカビエルの相手だが―

 

「ならば、コカビエルは私が抑える」

 

 アルサムが、ルレアベを抜いてラージホークから飛び降りる。

 

「四天王とシェンは宮白兵夜を援護しろ! あまり戦力を減らすわけにはいかん!!」

 

「「「「「はっ!」」」」」

 

 ………確かに、考えている時間は無いか。

 

「死ぬなよ! お前には魔王になってもらわないと困るんだからな!」

 

「ならばコカビエルごときには負けられんな!!」

 

 そう返答されたら信じるほかない。

 

 と、思ったらラージホークが火を噴いた。

 

 チッ! 流れ弾が当たったか!!

 

「あまり遠くには行けない! 全員どこかにしがみつけ!!」

 

 できる限りエイエヌがいるであろう中枢部にまで接近したいが、どこまで行ける……っ!

 

 

 

 




……古城の眷獣は最終決戦を考慮した場合ある程度出す必要がありますが、どれを出させるのかはすごく悩みました。

それはそれとして最終決戦開幕。

エイエヌはハッキングをレジスタンスの嫌がらせ程度にしか認識していません。まさか一時的にとはいえ完全に乗っ取られて通信までされていたとは思っていなかったのです! ここまでさせて違和感感じさせない藍羽さんスゲー!!


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最終決戦、急展開!

エピローグまで書き切りましたー!

あとは常連さんの感想に合わせて出していくので、もうすぐ終わりますぜ?


 

 

 

 

 アルサムは、コカビエルと攻撃をぶつけ合う。

 

 莫大な魔力と光力がぶつかり合い、そして衝撃波で周囲の魔獣が吹き飛ばされるほどだ。

 

「え、援護できない!?」

 

「下がってろ時空管理局! 雑兵程度じゃ余波で塵も残らねえぞ!!」

 

「全員逃げろー! マジで死ぬぞぉおおおお!!!」

 

 あまりの余波にその場で戦闘をしていた者たちが一斉に離れる中、コカビエルはアルサムを押していた。

 

「どうした小童! この程度か!!」

 

「ええい! 神滅具の加護を神の子を見張るものが得るとこうも化けるか!!」

 

 魔王剣の一撃すら防がれ、アルサムは歯噛みする。

 

 先日戦った時よりもはるかに動きも火力も優れている。

 

 あの時は遊ばれていたのかと思うと、勝てると判断した自分を呪いたくなってくる。

 

「まさかこの程度とは言わんよなぁ? その剣の材料となった四大魔王が泣いているぞ!」

 

 そういうとともに、コカビエルの義腕から大量の魔獣が放たれる。

 

 迎撃のために魔力砲撃を放つが、魔獣たちは半分近くがそれを交わし、そしてアルサムの至近距離で爆発する。

 

 自立判断能力を持ったミサイルというべき代物に、アルサムは全身を焼かれていく。

 

 そして、その攻撃を目くらましにコカビエルがアルサムの懐にもぐりこんだ。

 

 直後の振るわれる一線を後ろに下がって回避しようとするが、避け切れず脇腹が切り裂かれる。

 

「動きが、先ほどより速く―ッ!」

 

 間違いない。この戦いでコカビエルはさらに強くなっている。

 

 今までコカビエルは義腕に慣れていなかったのだろう。それが戦闘で使い方を学ぶことで効率をさらに良くしている。

 

 加えて、魔獣が大量に発生していることで援護の可能性がほぼ潰えている。

 

 このままでは、負ける。

 

「なかなか面白かったが、しかしこれまでだ!」

 

 コカビエルの攻撃は、さらに激しさを増していく。

 

 すでに両腕はもともとの腕よりも速く動き、アルサムの迎撃も間に合わなくなっていく。

 

 全身がどんどん傷だらけになり、アルサムの体は無残になっていく。

 

 だが、しかしアルサムはあきらめていなかった。

 

 それに気づき、コカビエルは攻撃の手を一瞬止める。

 

「どうした? まさか、俺に勝てる気でいるのか?」

 

 この状況でそんな自信がどこからくる?

 

 恐怖で気が狂うような性分に思えない。

 

 それはつまり―

 

「……いいだろう。ならばやるべきことはただ一つ」

 

 アルサムは、勝てる気でいるのではない。

 

「この場で限界を超えるのみ!!」

 

 勝つ気でいるのだ。

 

「……ほざいたな、餓鬼ぃ!!」

 

 いうが早いか、コカビエルは魔獣と光力の波状攻撃を放つ。

 

 その攻撃は最上級の堕天使と神滅具の複合。史上最強の白龍皇であるヴァーリ・ルシファーですらねん出に苦労するほどの密度だった。

 

 本来なら、放たれた時点で生き残ることをあきらめるほどの攻撃。

 

 だが、アルサムはあきらめなかった。

 

 神滅具と最上級堕天使が組み合わさっている。

 

 しかし、それは自分とて同じこと。

 

 魔王となる男が魔王剣を持っているこの状況下で、それに気おされるなどあってはならない。

 

「行くぞルレアベ。私はまだ至らぬかもしれないが、お前を振るうにふさわしい者になると決めている」

 

 ゆえに死ねないまだ死ねない。

 

 魔王の遺志が自分に使われることを選んだというのならば、それにふさわしいものになるという絶対の義務が自分にはある。

 

 だから―

 

「ここで、滅びるわけには決していかん!!」

 

「口だけは達者だがお前では無理だ!!」

 

 莫大な光力が、アルサムを襲う。

 

 ルレアベを使って何とか受け止めるが、しかしあまりの出力に刀身にひびが入っていく。

 

「これで―」

 

 そして日々はさらに深く入り―

 

「終わりだぁあああああああ!!!」

 

 刀身が砕け―

 

「―否、まだだ!!」

 

 ほんの一瞬で刀身が打ち直された。

 

 その芸当に、コカビエルは一瞬だけ動きを止める。

 

 だが、それはあまりにも致命的な悪手。

 

魔の遺志宿す(ルレ)―」

 

 そのほんのわずかな隙さえあれば、アルサム・カークリノラースは―

 

「―絶世の剣(アベ)!!」

 

 最大の一撃を放つことができるのだから。

 

「ガァッ!?」

 

 戦場で隙をさらすという致命的な失策ゆえに、コカビエルはそれを回避できなかった。

 

 そして、その一撃は確実に致命傷となっていた。

 

「終わりだコカビエル。現状を認識せず戦争を生み出そうとした罪、その命であがなうといい」

 

 アルサムが言葉とともに鮮血を振り払うが、そのルレアベの刀身は今までのそれとは変化していた。

 

 刀身はより鋭く細身になっており、それゆえに発生したわずかな隙間が、刀身再生までのタイムラグと同等であったがゆえに防御が間に合った。

 

 そしてそれは、一つの事実を示しいている。

 

「私に、合わせてくれたということか」

 

 剣という武器は様々な種類が存在する。

 

 そして、その刀身の形状はよりアルサムにあったものへと変化していた。

 

 様々な能力を保有していることは知っていたが、まさかこんな機能を隠し持っていたとは驚きだ。

 

「なるほど、つまり、私の評価を少しだけ上げてくれたということ―」

 

「隙あり!!」

 

 わずかに喜びの感情を抱いたアルサムの背中に、従僕の一体が切りかかり―

 

「―か!」

 

 一瞬で、その体を十字に切り裂いた。

 

「……今までより数段振るいやすい。ああ、これはなかなかうれしい誤算だ」

 

 使い慣れるまでにもう少し時間がかかるかと思っていたが、しかしこれで時間は短縮される。

 

 あとは修正していた動きを再び戻すだけでいい。それで、アルサムはルレアベをより深く使いこなせる。

 

 そして、その試し切りの相手には不足しない。

 

「さて、それでは覚悟してもらおうか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラージホークが不時着し、俺たちは急いで駆け出した。

 

 すでに魔獣たちや従僕、さらには堕天使にホムンクルスとものすごい数の敵が襲い掛かるが―

 

「すっこんでろこの野郎!!」

 

「死んでも恨むなよ、お前ら!!」

 

 天龍と真祖の圧倒的火力で、有象無象はあっさりと吹き飛んでいく。

 

 うん、今までは都市で戦闘していたからいろいろと大変だったけど、加減しなくていいってすごいね!!

 

「赤龍帝と暁が無双してるうちに走るぞ!! おそらくエイエヌは艦隊の中にいるはずだ!!」

 

「というより、兵夜さんの同一人物だということは出港準備が整うまで戦闘をおこなう可能性があるわね。うっかりそれぐらいのミスはしそうだわ」

 

 シルシ、確かにあり得るがそんなこと言わないでくれ。

 

 第三者の視点から自分のあほさ加減を理解したくないからぜひ待機してほしいという感情もあるんだ。

 

 うん、確かに俺は現場で動くタイプだけどそんなこのタイミングでそんな―

 

「まさか、ここまで来るとは思わなかったな」

 

 来たよオイ!!

 

「ふ、どうやらコカビエルはやられたようだなこれが」

 

「えーボス死んじゃったのー? んじゃアンタを当面の大将にした方がいいのかねぇ?」

 

「それがいい。フォンフさまの元でなら、貴様もいい働きをするだろう」

 

 フォンフたちも一斉に登場かよ。

 

 後顧の憂いを断つのが目的か!

 

 一斉に構える俺たちを前にして、エイエヌは不敵な笑みを浮かべると聖槍を掲げる。

 

 その上から、炎、氷、雷、風、光などの様々な属性の力が大量に生まれだす。

 

「さあ、ここでまとめてくたばるといい!!」

 

 その一撃が、一斉に放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放たれる一斉攻撃を捌きながら、ヴィヴィオはいっせいに駆け出していた。

 

 エイエヌまで出てくることは想定外だが、しかしフォンフたちが出てくることは最初から織り込み済み。

 

 その中で、一番脅威度が高いのはフォンフでもザイードでもなくフリードだ。

 

 理由は極めて単純。メンバーの最強格がほぼ全員フリードとの相性が抜群に悪いという一点をもってして、フリードは脅威以外の何物でもない。

 

 だからこそヴィヴィオだ。

 

 聖王のクローンとはいえ、ヴィヴィオはその特性をほぼ失っている。そして魔法術式は日々最先端歩むミッドチルダ式を組み込んでいる。

 

 間違いなく単純な相性なら抜群にいい。

 

「うっひゃあ! お子さんが出てくるとは驚きだけど、まさか一人でどうにかできるとおもってんのかなぁ?」

 

 フリードは躊躇することなく攻撃を行う。

 

 もとよりそこそこ楽しめる敵手との殺し合い以上に、弱者を惨殺することに快楽を感じる殺人狂。少なくとも、圧倒的強者相手に死ぬ覚悟で戦いを挑むような性分ではない。

 

 ゆえにこれはフリードにとっても好都合。

 

 このまま至近距離から切り刻まんと、躊躇することなく剣を振り下ろした。

 

 何の変哲もない悪魔祓いが使用する光の剣だが、しかしそれでも時空管理局の一般的な近接戦闘用デバイスと同等レベルの殺傷性能はある。

 

 十分殺せる。その確信を持ってフリードは刃を振り下ろし―

 

「ん?」

 

 やけにあっさりと弾き飛ばされた。

 

「おやおや? 素手にしては頑丈だねお嬢ちゃーん!」

 

 何をしたのかは知らないが、しかしそうだというのならば少しは楽しめるはず。

 

 そう思った時、フリードはすぐにその種に気が付いた。

 

 よく見れば、ヴィヴィオは両腕に布を巻いている。

 

 単純なバンテージにしか見えないが、しかしそれがただのバンテージではないのはすぐにわかる。

 

 おそらくは学園都市製の対刃素材。それをデバイスの補助と組み合わせることで、より耐久力を上昇させるという試みだ。

 

「あの女顔、やってくれるじゃねえか!」

 

 学園都市技術をあの男が確保しないわけがないとは思っていたが、ここで持ち込んでくるとは面白い。

 

「少しは歯ごたえあるじゃねえか! できればすぐに切り刻まれないでちょーだいな!!」

 

「……刻まれない」

 

 ヴィヴィオもヴィヴィオで戦意はみなぎっている。

 

 今のわずかな戦闘で確信できた。

 

 この男は、昔自分を母親と戦わせた相手とある種の同類だ。

 

 もとから魔力ダメージのデバイス運用である以上遠慮をするつもりはなかったが、なおさらその気はなくなった。

 

 この男をほおっておけば、何の罪もない人間が危険にさらされる!

 

「行くよクリス! ママに教えてもらった魔法の使い方、たぶん間違ってないはずだから!!」

 

 デバイス(相棒)であるセイクリッド・ハートと息を合わせて、ヴィヴィオは全力全開で戦闘を開始した。

 

 

 

 

 




ついにエピローグまで書き切り、転生生徒のケイオスワールドの後日譚も大詰めです。

それはそれとして、最終決戦後の一年遅れのアザゼル杯も、一応書いてみることにしました。








それで活動報告で相談してみましたが、やはり別作品として出した方がいいという結論になりました。

今のところは兵夜が独自のチームを率いてアザゼル杯に参加する予定。メンバーは……まあ、後日譚とか見ている方々ならある程度の予想はできると思います。実に兵夜らしい理由もだしますぜ?


久遠やナツミも参戦します。あくまで兵夜の視点から進めていくので、イッセー達とは違ったゲーム攻勢になると思います!


もちろん原作最終章であるアザゼル杯を中心に書いていきますが、それだけだとすぐにストックが消えるので、vividやストブラのストーリーなども巻き込みます。それとは別にオリジナルの話もだしてみるかも?


そういうわけなので、これを投稿したあと少ししたらちょっとアンケートというか募集を出してみるつもりです。できれば応えてくれると嬉しいです!


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決着、決着、大苦戦!

ラストバトル! 今回は結構巻いていきます!!


 

 

 

 

 

 作戦はすぐに決まった。

 

 ミッドチルダ系統の古くない魔法を使うヴィヴィ達が、フリードの相手をすることはほぼ確定。むしろそれ以外に選択肢がない。

 

 なにせ神々や古き神秘の天敵が今のフリードだ。俺も須澄も暁も赤龍帝も、圧倒的に不利なのは間違いない。

 

 学園都市技術を保有しているグランソードも、もとをただせば古き血族魔王の末裔。比較的ましなだけでダメージが大きいことに変わりはない。

 

 雪侶も魔法体系は神話の時代から代々続いている。滅龍魔法は疑似再現である以上効果は薄いだろうが、それでも苦戦は必須だろう。

 

 姫柊ちゃんもだめだ。雪霞狼は対異能に特化しているわけで物理的な破壊力は低い。それでは一軍匹敵の超能力は突破できない。

 

 ゆえに、物理ダメージではなく魔力ダメージによる無力化ができる時空管理局の魔法体系が必要不可欠。

 

 しかしそれにしたってリスクは高い。なにせヴィヴィ達の戦闘能力は言っては悪いがこのメンツでは低めの方だからだ。

 

 しかも天下布武を受けないためには、トマリのエンチャントも使えない。

 

 ゆえに、できる限り早めにケリをつけるべきだ。

 

 ああ、だからこそ―

 

「そういうわけで、お前の相手は俺がする。覚悟しろザイード」

 

 

 俺は即座にザイードを補足すると、シルシとともに戦闘を開始する。

 

 千里眼は全力でザイードの位置把握に発動。これで絶対逃さない。

 

 なにせザイードは暗殺者。認識から逃れた場合が一番危険だ。

 

 そのくせ龍神の肉体を持っている以上、その一撃は半端な宝具を上回る。まともに戦うならこちらも相応の切り札を切る必要がある。

 

 ゆえに代行の赤龍帝と、冥府へ誘う死の一撃。そして神格化のフル運用だ。

 

 ついでに言うと消去法でもある。

 

 なにせ、残りがきつい。神秘殺しのフリード。滅龍魔法の使い手のフォンフ。そして聖槍持ちのエイエヌ。

 

 コカビエルがいたら別だったんだが、しかしそれでもザイードは安全性が高いのだ。

 

「短時間で決着をつけるぞ、シルシ!」

 

『ええ! 長期戦になったらこちらが不利だしね!!』

 

 全身から再生の炎をまき散らしながら、俺はザイードに突貫する。

 

「笑止! 天敵でないなら倒せるとでも思ったか!!」

 

 いやまさか。

 

 龍神の血肉で作られた体を腐ってもサーヴァントが動かしている。楽な相手だとは欠片も思っていない。

 

 ああ、だが個人的に―

 

「仮にもイッセーの体が悪用されてるのを、黙ってみていられるほど俺は寛容じゃないんだよ!!」

 

 ―ダダンダンダダン♪ ダダンダンダダン♪

 

 いつものブチギレテーマソングを流しながら、俺は一気に接近する。

 

 そして放つのは各種属性の攻撃フルバースト!

 

 それをザイードは踊るように回避する。

 

「他愛なし! 他愛なし! 他愛なし!!」

 

 ええい何度も連呼するなマジむかつく!!

 

『落ち着きなさい兵夜さん。すでに戦線は決着しているわ』

 

 ああ、わかってるさ。もう詰んだ。

 

 そして俺はとどめを放つべく一気に接近する。

 

 悪いアーチャー、我慢してくれ!!

 

「決着を焦りすぎだな! その程度でどうするつもりだ!?」

 

「んなもんこうするにきまってんだろ」

 

 いうが早いが、俺はサマエルの毒を開放した。

 

 ああ、忘れてもらっては困る。

 

 お前は(ドラゴン)だろう?

 

 瞬間、前もって血清を打っていたとはいえ俺の体に激痛が走る。

 

 なにせ、これは死ななければいいという発想で作られた安全版。死にはしないが悪影響はもろに出て、動けなくなる質の悪い劣化品だ。

 

 だが、死ななければ安い。

 

 そして、龍神とはいえ所詮はイッセーの体として作られた劣化版のザイード。特にお前は血清を使用していないだろう?

 

「ぐ、がっぁあああああ!?」

 

 ああ、だからそうなる。

 

「これで終わりだ」

 

 あとは覚悟と血清で動ける俺がこうすればいい。

 

冥府へ誘う(ハーイデース)―」

 

「馬鹿な、貴様正気―」

 

『何を言っているのかしら?』

 

 ほんの一瞬で勝負を決められたザイードの声を遮り、シルシが告げる。

 

『この人、気狂いでしょう?』

 

「―死の一撃(ストライク)!!!」

 

 その言葉を手向けとして、俺は一撃で奴の頭部を蹴り砕いた。

 

 そして、そのままもんどりうって斃れる。

 

 即座に護衛用にゴーレムを大量展開し、俺は激しく息をついた。

 

 くそ。後遺症を避けるためとはいえ、それゆえに性能の低い安全版じゃあ、すぐには動けそうにないか。

 

 とはいえ、この混戦状態で暗殺者なんてのさばらせておくわけにはいかない。なんとしても短期決戦で倒す必要があった。

 

 ……ざまあさらせ、暗殺者。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザイードがやられた!? っていうかあの野郎正気かこれが!!」

 

 あまりの展開に、フォンフは驚愕する。

 

 今、フォンフは暁古城と姫柊雪菜、そしてグランソードと雪侶の四人を同時に相手していた。

 

 宮白兵夜はできる限り短時間で強敵をしとめる戦法を構築していた。

 

 それゆえに、できる限り戦力を集中させてフォンフを倒す戦法をとっていた。

 

 何より―

 

「物量で押してきたフィフスの後継を倒すのに、これほど嫌味なやり方もありませんわね!!」

 

「よっぽど腹に据えかねてたんだなぁ、大将の奴」

 

 そういいながらグランソードと雪侶はフォンフを攻め立てる。

 

 その猛攻を難なくさばきながらもフォンフはなかなか戦闘ができなかった。

 

 理由は単純。

 

「雪霞狼!!」

 

 滅龍魔法も魔法である以上、雪霞狼の前には打ち消されるからだ。

 

 そしてヒット&アウェイで戦闘をおこなう三人が離れれば―

 

獅子の黄金(レグルス・アウルム)!!」

 

 莫大な出力の雷撃が放たれる。

 

 フォンフはそれを捌きながら、しかし確実に追い詰められていた。

 

 桁違いの破壊力の眷獣に、魔力を無効化する槍。

 

 そしてその連携の邪魔をさせないグランソードと雪侶の連携。

 

「……ふむ、ここまでか」

 

 フォンフは理解した。

 

 自分は、確実に勝てない。

 

「やけにあきらめが早いな。それでもフィフスの後継か?」

 

 その光景に真っ先にいぶかしむグランソードの判断は正しい。

 

 続行の起源をもつフィフスは、あきらめない男だ。そしてそれは起源の存在をよく理解できなくとも、近くで見てきたグランソードはよくわかっている。

 

 だが、フォンフはそれはそれとして不敵に笑う。

 

「仕方がない。俺はあくまでフィフスの残影。フィフスより弱いしこの状況はしのげない」

 

 まるですべてをあきらめたような口調だが、しかしあまりにもおかしすぎる。

 

 彼らはみな、フォンフの驚異的な憎悪を魅せつけられていた。

 

 それなのに、こんな簡単に敗れることを許容できるのか?

 

 あまりの不穏な雰囲気に攻めあぐねるなか、フォンフはにやりと笑みを浮かべる。

 

「仕方がないので後続機(残り)に任せよう」

 

 その言葉に、グランソードは目を見開く。

 

「……しまった! フィフスの基本は人海戦術!!」

 

「量産されてますの、フォンフは!?」

 

 雪侶もまた驚愕する中、フォンフな何を言っているのかといわんばかりに口角を吊り上げる。

 

「当然! 兵器ってのは量産できるかどうかが重要なんだぜ、これが!!」

 

 いうが早いか、フォンフは自らの心臓に拳を叩き込む。

 

 とたん、魔力が暴走し周囲に放たれる。

 

「……やべえ、こいつ自爆する気―」

 

「もう遅い! これで死んだらラッキーだなこれが!!」

 

 次の瞬間、大出力の魔力が全方位にわたって放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その爆発は強大だが、須澄も赤龍帝もそれに意識を向けている余裕はなかった。

 

「そらそらそらそら!! どうした赤龍帝に須澄くん! この程度だなんて言わせるなよ!!」

 

 あまりに多種多様な種類の攻撃をつるべ打ちで放ち、エイエヌは猛攻を叩き込む。

 

 そして、従僕たちもまた一斉に攻撃を加えていた。

 

「あらあらイッセー? あなたはこの程度じゃないでしょう?」

 

「その通りだぞイッセー。我がデュランダルでも倒せるかわからないのがお前という男じゃないか」

 

「そうですわイッセーさま。もっとあなたの力を見せてくださいませ」

 

 従僕たちはその材料となった者たちと同じ口調で、赤龍帝を励ますように声をかける。

 

 その口調はまさにかつての過去と同じものであり、それゆえに赤龍帝は精神をすり減らしていた。

 

「こ・の・野郎……っ!」

 

「悪趣味だね、悪趣味すぎるよ糞兄貴!!」

 

 歯を砕かんばかりにかみしめてそれを押させる二人をフォローするように、アップもトマリも戦闘をおこなっているがそれでも焼け石に水だった。

 

「数が多すぎるよっ! アップちゃん、こんなにいるって知ってたっ?」

 

「ごめん知らなかった! さすがにこれは多すぎでしょう!?」

 

 前衛戦闘をおこなっている者の数だけでも、下手をすれば万を超える。

 

 地球と時空管理局を相手に戦争を起こすという言葉に嘘はかけらもなかった。それだけの戦力がここに集まっている。

 

 このままでは勝てない。少なくとも、兵夜の策がはまらなければ勝ち目がない。

 

 そして、それが成功する確率はどんどん下がっていっていた。

 

「でもエイエヌさまの攻撃が激しすぎる! このままだと近づけない!」

 

「須澄くん……っ」

 

 すでに乱戦となり、アップもトマリも須澄達から離れていく。

 

 これでは、すぐには駆けつけることができそうになかった。

 

「兄貴、クソ兄貴ぃ! ここまでやってるとは思ってなかったよ!!」

 

「そりゃあ、50万は従僕に変えたからな! それぐらいしないと地球相手に戦争なんてできないだろう!!」

 

 聖槍同士がぶつかり合いながら、須澄とエイエヌはぶつかり合う。

 

 だが、霊魂を取り込むという特性に特化している禁手では出力は上昇しない。それはすなわちあらゆる性能差がそのまま残っていることの証左である。

 

 そして赤龍帝は従僕につかまって近づくことができないでいた。

 

 これでは、兵夜の作戦を遂行することなど不可能だ。

 

「クソ! 部長、ゼノヴィア、レイヴェル……っ!」

 

 赤龍帝は魔剣と魔力による波状攻撃をかいくぐりながら、歯噛みする。

 

 大好きな少女たちがエイエヌに作り替えられて、そして追い込まれている。

 

 その光景に涙が出る。だが、それで視界をにじませれば今度こそ自分が死ぬ。

 

 それだけはダメだ。絶対にダメだ。

 

 エイエヌは自分たちの地球だけでなく、平行世界の地球すら滅ぼしかねない所業をおこなおうとしている。そして、その被害を受けるのはこの世界の自分やリアスたちだ。

 

 それだけは、そんなことだけは認められない。

 

「やられて、たまるかよぉおおおおおお!!!」

 

 

 

 




ザイード・短期決戦。

乱戦の中に暗殺者を解き放たれたらという実戦的な意味でも、イッセーの体を使われているという精神的な意味でも、兵夜が奴を黙ってみている理由などありませんでした。ほかに相性のましな空いていないしね!!

そして危険度が高いのいいことに躊躇なく猛毒を使用。いったん戦線離脱ですが、気合と根性ですぐに復活します!



それはそれとして量産されていたフォンフ。正式に言えばフォンフ・プロト。

まあ、数にモノを言わせる傾向の強いフィフスが、いったいだけにするわけがないというか。……そんなレベルで乳が恐ろしかったということです(汗




そしてラスボスのエイエヌはそんな瞬間決着はさせません。

奴はあの場にいる中では間違いなく最強。狂気に物を言わせた大量武装は伊達ではありません。そして徹底的に赤龍帝に精神攻撃。性格悪い。


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逆転、そして逆転

お好きな処刑用BGMの準備をしてください。


 

 

 

 

「ひゃははははは!!! しぶといね、しつこいね、ねばるねえ!!」

 

「うぅ……っ!」

 

 一方、ヴィヴィオもまたフリードに追い詰められていた。

 

 既にバンテージはぼろぼろで、魔力もだいぶ減っている。セイクリッドハートも負担が大きくかかっていた。

 

 兵夜の対応は大体上手くハマっていた。

 

 だが、その発想には一つだけ誤算があった。

 

 それはたった一つのシンプルな答え。

 

 織田信長という英霊そのものが、戦士としても優秀だったというそれだけの事。

 

 兵夜は、フリードの戦闘能力において技量をフリード其のままで計算していた。

 

 だが、激戦においてフリードは織田信長という英霊を使いこなし始め、その技量すら受け継ぎ始めていた。

 

 英霊の技量という圧倒的な能力が、遂に牙をむいたのだ。

 

 元々英霊とは、非常に優れた人間が、それに憧れる人々の信仰によって上位の存在へと昇華した者。

 

 元々戦闘職としての才能が薄いヴィヴィオが一人で相手をするには難易度が高い存在なのだ。

 

「さあ、素敵な戦いだったけどこれにて閉幕!!」

 

 剣戟を囮として放たれた蹴りが、ヴィヴィオを蹴り飛ばす。

 

 そのまま破壊された艦艇の装甲を飛び越えて、ヴィヴィオは地面へと叩き付けられた。

 

「……これで終わりだぜお嬢ちゃぁあああああん!!」

 

 そして生きたまま女を解体することに興奮しながら、フリードは飛び掛かった。

 

 そして―

 

「……作戦通り!!」

 

 突如として装甲板が跳ね上がり、フリードに激突した。

 

 以下にフリードの耐久力が高かろうと、それは単純に硬くなっているだけのこと。

 

 身体能力そのものは硬さに比べれば大して上がってないと言ってもよく、必然的にフリードはそのまま倒れていく装甲板に押し付けられて地面に叩き付けられる。

 

「作戦成功! コロナ!!」

 

「うん! 行って、ゴライオス!!」

 

 更にその上から巨大なゴーレムが圧し掛かり、フリードの動きを阻害する。

 

「うぉおおおおお!! 動けねえ!? まさか、この餓鬼ども!?」

 

「―うん。これが作戦」

 

 そして、何事もなかったかのようにヴィヴィオが起き上がる。

 

 ―そう、それこそが兵夜達の作戦だった。

 

 英霊の戦闘能力の更なる上乗せこそ想定外だったが、フリード自身が優秀であることはかつて殺し合った兵夜が一番よくわかっている。

 

 ゆえに、ヴィヴィオ一人に任せるだなんてことは最初から考えない。流石の彼もそこまで外道ではない。

 

 ヴィヴィオの担当はその戦闘スタイルを利用した囮。

 

 先程も説明されたが、ヴィヴィオははっきり言って格闘家に素質が向いていない。そもそも戦闘にも向いていない。

 

 魔力量はそこまで多い方ではなく、それゆえに攻撃力も耐久力も比較的低い。戦うにしても戦闘支援か遠距離戦闘が中心に行うべき能力値だ。

 

 だが、ヴィヴィオには接近戦においてのアドバンテージとそれを活かす技法がある。

 

 アドバンテージとは視野の広さと動作の速度。これはすなわち、相手の攻撃に即座に反応できるという利点を持つ。

 

 すなわち彼女の本質とはカウンターヒッター。打たせず打ち、敵の攻撃を成功させないことこそが本質なのである。

 

 そして、技法の名はセイクリッド・ディフェンダー。

 

 自身の素質を最大限に活かし、防御に回す魔力を収束することで防御力を上げる魔法。

 

 それはすなわち読みが外れればより大きなダメージを受けることになるということだが、それゆえに打撃を読めるものが使用すれば大きな力になる。

 

 そのため、フリードの蹴りも実際は防いでおり、ダメージはほぼゼロに近い。

 

 それなのに大きく吹き飛んだのは、ひとえにワザと飛んだから。

 

 最初から、怪力のリオとゴーレムを操るコロナの連携で取り押さえる事が本来の作戦だったのだ。

 

「このクソガキどもがぁあああああああ!! 裸に剥いて犯してやるからこっから出しやがれぇええええええ!!!」

 

 ものすごく口汚い言葉で喚くフリードだが、実際こうなってはもうなすすべもない。

 

「……おい! 大丈夫か!!」

 

 そして、後続の悪魔や堕天使がすぐに集まってきた。

 

「アイツ、フリードの奴じゃねえか?」

 

「っていうか英霊を憑依させてやがる! ……え? それをたった三人で取り押さえたのかよ!?」

 

 その光景に、多くの者達が油断しない程度で唖然とする。

 

 そんな姿がなんだかおかしくなって―

 

「チームナカジマ、大勝利だね!」

 

「「うんっ!」」

 

 ヴィヴィオは友人達と共に、場違いだがガッツポーズをしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

焔光の夜伯(カレイドブラッド)を継し者、暁古城が汝の枷を解き放つ―」

 

 赤龍帝の耳に、待ち望んだ声が響いた。

 

「来やがれ! 11番目の眷獣、水精の白鋼(サダルメリク・アルバス)!!」

 

 そして現れるはウンディーネ。

 

 蛇の下半身と髪を持ったそれが現れた瞬間、戦闘の趨勢は大きく傾いた。

 

 その奔流に巻き込まれた従僕と魔獣が、瞬時にその姿を塵へと戻していく。

 

 攻撃力による力ではない。それなら、従僕達も防ぐことができるだろう。

 

 それは、第四真祖の癒しの力の具現。しかし、同時にそれは決して優しいものではない。

 

 その本質は時間逆行。兵器を原子の塵に、命を産まれる前に、そして文明を未開の地へと戻す禁忌の力。

 

 回復という優しい力すら、第四真祖の出力の前には莫大な破壊の要素を持つ危険な存在へと変貌するのだ。

 

「従僕を、その前の状態に戻しているだと!?」

 

 流石のエイエヌも驚愕するが、しかしすぐに冷静さを取り戻す。

 

「悪いが、時間干渉系統の禁手や神器も山ほど持っている!!」

 

 即座に、従僕達の回帰が押し留められ、そして彼らはその戦闘能力で捕縛から自ら離脱する。

 

 神々の失われた呪いによって生まれし真祖の眷獣であろうとも、聖書にしるされし神が作り上げた最高位の神器の禁手の前には楽には勝てない。

 

 ましてや、暁古城は第四真祖になって半年そこらのルーキーだ。十年以上研鑽を積んできたエイエヌと真正面から制御能力で比べ合えば、彼が移植者であるがゆえに限界があることを差し引いてもその差は歴然。

 

 しかし―

 

「今だ、アインハルト!!」

 

 それは致命的な隙だった。

 

 エイエヌは、この状態でも戦闘において意識をちゃんと向けていた。

 

 須澄も、赤龍帝も、アップも、トマリもきちんと警戒していた。大暴れしている暁古城はもちろんのこと、負傷を回復させているグランソードや雪侶、雪菜のことも警戒に入れている。

 

 だが、しかし―

 

「……参ります」

 

 後ろから聞こえてきた声の持ち主には、警戒が足りなかった。

 

 それは単純に戦闘能力の問題だ。

 

 彼女達は戦闘能力は確かに低いわけではないが、一対一なら問題がないレベルで収まっている。

 

 彼女は確かに比較的警戒に値するレベルだが、常時展開している絶霧の防御を突破できるほどではない。

 

 そう、程ではない……()だった。

 

 視界に、黄金の獅子の鬣が映るまでは。

 

「―禁手を、他者に譲渡しただと!?」

 

 振り返って聖槍を叩き付けようとして、エイエヌはその推測が当たっていることを確信する。

 

 アインハルト・ストラトス、通常の大人モードに加えて、獅子の衣をその身に纏っていた。

 

 あり得ない。獅子王の戦斧は兵藤一誠の神器になっている。

 

 そんな簡単にそんな芸当ができるわけが―

 

「覇王―」

 

 そして、そんな思考の隙は―

 

「―断空拳っ!!!」

 

 あまりにも、致命的だった。

 

 神滅具の出力を上乗せされた覇王の拳は、絶霧の霧を無理やり押しのけてエイエヌに初めてクリーンヒットを叩き込んだ。

 

 如何に肉体を強化していようとも、神滅具の禁手の直撃をもろに受けてただで済むはずがない。

 

 今この瞬間、エイエヌは再生に大きく力を振り絞っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤龍帝Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チャンスだ!

 

 宮白兵夜の作戦は成功だ!

 

『赤龍帝。こっちのイッセーは禁手の鎧を他者にレンタルすることができる』

 

 一生懸命乳首をつつくというシュールな光景の中、宮白兵夜はそう言った。

 

 なんでも、向こうの俺は赤龍帝の力をリアス部長やゼノヴィアにレンタルして、二人を徹底的に強化することができるらしい。

 

 そして、それをイメージしながら乳首をつつけと言ってきた。

 

「神器は想いの力で機能する。やり方次第じゃ、禁手の方向性は変質を行うことも不可能じゃない」

 

 そういうわけで分離できるレグルスから試してみたけど……上手く行ったよ!

 

 うっわすっげぇ! 単純な殴り合いだったら俺勝てないね! 負ける!!

 

「何やってんのよ須澄もあんたも!」

 

 と、周りの魔獣を蹴散らしながらアップが大声を張り上げる。

 

「最終作戦! あの子が隙作ってそこを突く!! 忘れたわけじゃないでしょう!!」

 

 ああ、そうだな!

 

「援護よろしく! 行ってくるよ、アップ!!」

 

「ええ! エイエヌさまによろしくね!!」

 

 そう言いながら有象無象をブッたぎるアップを置いて、俺と須澄は一気に駆け出す。

 

「行ってよザ・スマッシャー! さ、行って須澄くん!!」

 

「うん、ありがとうトマリ!!」

 

 そしてトマリさんの援護射撃を受けながら、俺達はアインハルトちゃんに意識を向けているエイエヌに近づいた。

 

「エイエヌぅうううううう!!!」

 

「……なめるなぁ!!」

 

 須澄とエイエヌの聖槍がぶつかり合い、そしてオーラをまき散らす。

 

「奪取しただけで勝てると思うな! それでも俺は俺が使いこなせる分全部獲得してるんだよ!!」

 

 エイエヌの言う通りだ。最大出力では間違いなくエイエヌの方が上回っている。

 

 そして、エイエヌは周囲に絶霧以外の防護結界も大量に展開したうえで莫大なオーラを放っている。

 

 これは、普通じゃ近づけない―

 

 ―けど、今の俺は普通じゃない!!

 

『Penetrate!』

 

 赤龍帝の宝玉が光り輝き、発生される障壁を透過する。

 

 宮白兵夜の代行の赤龍帝のデータをもとに、更に乳を何千回もつついたことで、何とか至れた!

 

 ああ、色々と思うところはあるけど、それは別だ!!

 

 これで―

 

「俺達の勝ちだ!!」

 

「甘いわトカゲぇ!!」

 

 俺の全身に、何十本もの光の槍が突き刺さる。

 

 い、痛ぇええええええええ!!!

 

「俺が! それだけに頼ると思ってんのか? 甘いんだよ!!」

 

 言うが早いかエイエヌはアインハルトちゃんにも攻撃を叩き込もうとするが、しかしアインハルトちゃんは飛び退ってそれを回避する。

 

「……どうした? 格闘家が距離をとって勝てると思ってるのか!」

 

「いいえ」

 

 エイエヌの挑発に、アインハルトちゃんは静かに首を振る。

 

「もう、決着はつきました」

 

 ―ああ、そうだな。

 

 確かにボロボロの俺だけど、そもそも攻撃するのが目的じゃないから大丈夫。

 

 俺は、震える腕をできる限り速く動かして―

 

「……力借りるぜ、須澄」

 

「ああ。有難う赤龍帝」

 

 ―俺と、同じぐらい奴のことを倒したい男の肩に手を置いた。

 

『Transfer!』

 

 須澄に全出力を譲渡し、そして聖槍が光り輝く。

 

 そして、それに共鳴してエイエヌの聖槍も輝いた。

 

「聖槍の出力強化!? だが、それだけで俺を突破できると―」

 

「少し、少し違うよ」

 

 いまだ余裕を見せるエイエヌに、須澄は凄絶な笑顔を浮かべる。

 

 ―ああ、お前らやっぱり兄弟だよ。その怖い笑顔がそっくりだ。

 

 そして、その笑顔と共にエイエヌの顔が苦渋に歪む。

 

「……がぁ!? これは、ま、まさか―」

 

 ああ、そうだ。

 

 宮白兵夜は、エイエヌが聖槍に拒絶されていると推測していた。

 

 だから、エイエヌが使いこなせていない余剰分を使って須澄に聖槍が与えられたんだ。

 

 それでもエイエヌが聖槍を支配しているから全部奪い取るなんてことはできなかったけど―

 

「須澄の聖槍の支配力を高めれば、奪えるかもしれないよなぁ!!」

 

「このクソッタレがぁ!!」

 

 言うが早いかエイエヌは引き離そうとするが、聖槍はもう離れない。

 

 そして、完全に狼狽しているその顔が、もう一つの宮白兵夜の推測も裏付けしている。

 

『おそらくエイエヌは、拒絶反応の多くを聖槍で抑えている。だからこそのあの禁手だ』

 

 ああ、確かに。大量の神器を移植してそれを使いこなすだなんて、覇輝を使うでもしなきゃ無理がある。むしろそのうえでも出てくる負担を押させる為に更に神器を投入するとか狂ってる。

 

 だけど、この予想が当たっているなら……っ!

 

「これで終わりだエイエヌ! さんざん好き勝手してくれたお礼を、全部まとめて―」

 

 そして、エイエヌの聖槍は粒子となり―

 

「―喰らってて!!」

 

 ここに、分かれた聖槍は再び一本へと戻った。

 




リオとコロナも忘れてませんよ?





それはそれとして、聖槍の奪い合いこそが今回の作戦の肝です。

聖槍こそが力の根幹であるという推測。そして聖槍はやろうと思えば奪い合いができるという事実。

圧倒的な物量を誇るエイエヌを倒すこれが最適解でした。


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待っていた言葉

ついに後日譚もラストバトル!!


 

「がぁああああああああああああああああっ!?!?!??!」

 

 全身から血を拭きながら、エイエヌは悶え苦しんで地面を転がる。

 

 既にその体からは物質化した神器が何十個も転げ落ちて、そして粒子になって消えていった。

 

「……兵夜さんの予想通りですね」

 

「本当に、本当に聖槍が根幹だったんだね」

 

「別に、自業自得だろ」

 

 その様子をアインハルトは沈痛の表情を浮かべて見て、須澄も複雑な表情を浮かべる。赤龍帝は愉快そうにこそしていなかったが、それでも特に同情の視線は浮かべていなかった。

 

 そして、俺も漸く辿り着いた。

 

「決着はついたか」

 

 どうやら、これで終わりのようだ。

 

 ……様々な奇跡を自由に使うことができるエイエヌの聖槍の禁手。

 

 その言葉を聞いて、俺は少し推測していた。

 

 拒絶反応の抑制も、それによる部分が大きいのではないかと。

 

 ゆえに、それを念頭に置いた作戦を立ててみたが、まさかここまで成功するとはな。

 

「兵夜さん!」

 

「宮白兵夜!!」

 

 ヴィヴィ達とアルサムもこちらに近づいてくる。

 

 よく見てみれば、魔獣達や従僕もその多くが動きを止めて崩壊していた。

 

 戦局は完全に決着したな。ここから巻き返すのはエイエヌでも不可能だ。

 

「ヴィヴィ達も無事だったか」

 

「はい! 言われた通りフリードって人は取り押さえてきました!」

 

「ゴライアスが圧し掛かってるから動けません!」

 

 リオやコロナとハイタッチを交わすが、しかしあんまり油断しすぎていてもいけないな。

 

 だが、それでも戦局は有利だ。

 

 既に決着がついているからか、アザゼルやクリスタリディ猊下、高町一等空尉も駆けつけてきた。

 

「……ヴィヴィオぉ!!」

 

「ママぁ!!」

 

 ああ、親子の再会だ。感動的だ。

 

「もう! 心配したんだからね!!」

 

「ごめんなさい。でも、兵夜さん達のおかげで助かったの」

 

 娘の言葉に高町さんは立ち上がると、俺とアルサム手を取って何度も頭を下げてくる。

 

「本当にありがとう! ヴィヴィオだけじゃなくてリオちゃん達までお世話になったみたいで―」

 

「いえいえ。むしろ色々と見せてはいけないものを見せたりなどご迷惑をおかけしたうえで、実に助けていただいておりまして……」

 

「こちらとしても実に助かった。こういう言い方は悪いが、彼女達には礼を言わねばならない立場だ。顔を上げてほしい」

 

 俺もアルサムも色々巻き込んだ側なのでちょっと恐縮する。

 

「あ、俺なんかヴィヴィオちゃんとアインハルトちゃんの前でディオドラの奴を吹き飛ばしてたな。ホントごめんなさい!!」

 

 うん。赤龍帝は反省してような? 勘違いしても仕方がないけど、参加者が従僕じゃないのは想定できただろ?

 

「ぐ……がぁっ! 糞が……ぁ!!」

 

 そして、うめき声に我に返ると、全員の視線が集まった。

 

 全身を崩壊させながら、エイエヌはしかし驚くべきことに立ち上がる。

 

「まさか、聖槍を奪われるとはなっ! やってく、れる……っ!!」

 

「同情なんて欠片もしないぞ、エイエヌ。お前がさんざんやってきたことに比べれば、そんな程度の苦しみは軽すぎる」

 

 血を吐いて恨み節を語るエイエヌに、赤龍帝はばっさりと切り捨てる。

 

 ああ、あいつの立場からすれば当然の反応だ。

 

 凄惨な光景に目を伏せたくなることはあっても、半端な同情をするべきじゃない。

 

 だが、エイエヌは歯を剥いて笑うと、そして立ち上がる。

 

「いいだろう。ならこっちも最後の賭けだ……っ!」

 

 賭けだと!?

 

 ………しまった! まずい!!

 

 エイエヌは注射器を取り出すと、俺達が動くより早くそれを差し込んだ。

 

 おそらく、フォンフ辺りから用意したドーピング剤!

 

「拒絶の抑制は、聖槍だけに頼っているわけじゃない!!」

 

 そういうと同時に、エイエヌは目くらましの攻撃をぶちかますと同時に駆け出した。

 

「追いかけろ!! 奴は聖杯を使って自分を回復したうえで逃亡するつもりだ!!」

 

 そして、一からグレートレッドを殺すための計画を再開する。

 

 最早やる方法はそれしかない。趨勢が決している以上、今のまま地球に侵攻することなど不可能だ。

 

 ……やらせるか!!

 

 俺は砲撃をかいくぐって、何とかアイツを追いかける。

 

 だが、一瞬で地面から大量の魔獣が呼び出されると、そのまま一斉に襲い掛かってきた!!

 

「あの野郎、覚悟決めすぎだろう!!」

 

 ええい、さっきの砲撃をかいくぐれたのも俺だけか!

 

 俺一人で、あいつをどうにかできるのか―?

 

「兄さん!」

 

「宮白兵夜!!」

 

 だが、俺に並ぶ影があった。

 

 それは、須澄と赤龍帝。

 

「逃がしはしないよ。ここで決着をつけよう!!」

 

「ああ、やっぱりもう一回殴り飛ばさないと気がすまねえからな!!」

 

 ……ああ!

 

「行くぞ! 今度こそアイツを、倒す!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達の目の前で、大量の魔獣達が立ち上がる。

 

 中には業獣鬼に匹敵するレベルの巨大な魔獣までいて、これは本気でやばいと実感させるほどだ。

 

「どういうことだよ! エイエヌは瀕死なんじゃなかったのか!?」

 

「冷静に考えれば納得だがな!」

 

 暁とかいったパーカーの少年に、俺は速攻で答える。

 

 ああ、確かにエイエヌは瀕死だろう。

 

 全身が崩壊する激痛に、常人はとてもじゃないが耐えられない。イッセーでも短時間が限界だ。

 

 だが、あそこにいるのは常人じゃない。

 

「宮白の平行存在ってなら、それ位耐えても全くおかしくないさ! なにせ気が狂ってるからな!!」

 

 ああいうのに強いんだよ宮白の奴は!!

 

「でも、これってまずいんじゃないか!?」

 

 木っ端魔獣達は暁の眷獣ってやつで簡単に吹き飛ばされるが、大型となるとそうはいかない。

 

 しかもそんな奴らに限って攻撃が激しいと来たもんだ。

 

 ああ、そして確かにやばい。

 

「この場でもし助かって逃げられでもしたら、今度はどんなところで何をしでかしてくるかわかったもんじゃねえな」

 

 特に従僕の能力が危険すぎる。

 

 万が一、奴がまたどっかの国の政府要人でも従僕に変えちまったら、一気に危険度が跳ね上がる。

 

 だが、この数はかなりやばいんじゃねえか!?

 

「大丈夫です!!」

 

 そんな声と共に、魔獣の一つが跳ね上がった。

 

 金髪をなびかせた高町の子供が、冷静に一体ずつ相手にしながら声を上げた。

 

「兵夜さんも、須澄さんも、赤龍帝さんも行きました! あの人達なら、きっと止めてくれるはずです!!」

 

 ……あの野郎、なに子供誑し込んでんだよ。

 

「おい高町! お前近い将来義理の息子ができるかもな!!」

 

「ええ!? そ、そんなことないよねヴィヴィオ!? ママだってまだなのに!!」

 

「え? ち、違う違う! そんなんじゃないよ!?」

 

「アザゼル総督。この状況下でからかうとは余裕ですな」

 

 うっせえよクリスタリディ。半分ぐらいヤケだってんだ。

 

 だが、しかし―。

 

「あのフィフスをぶちのめした宮白とその弟、そしておっぱいドラゴンの平行存在が揃ってんだ。確かに期待してもいいかもな!!」

 

 ああ、あいつらならきっといける。

 

 だから―

 

「死ぬんじゃねえぞ野郎ども!! ここで死んだら、勝利の美酒が飲めなくなるんだからな!!」

 

 俺達もすぐ追いかける。

 

 だから待ってろよ、ガキども!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……見つけた!!

 

「逃がすかエイエヌ!!」

 

「くそ! もう追い付いてきやがったか!!」

 

 やはり、崩壊の影響か速度が落ちてる!!

 

 これなら追いつけるか! いや、意地でも追いつく!!

 

「エイエヌぅううううううう!!!」

 

「クソ兄貴!!」

 

 赤龍帝と須澄が同時に莫大なオーラを放つが、エイエヌはそれを防護障壁で受け止める。

 

 そして、同時に地面から大量の魔獣が生み出された。。

 

 ええい、この期に及んで時間稼ぎ!

 

 こいつらの相手をしている暇は―

 

「ぶった切りなさい、グラム!!」

 

「行ってね、ザ・クラッシャー!!」

 

 そこに、魔剣と眷獣が勢い良く現れて有象無象を吹き飛ばす。

 

 アップにトマリ! 出かした!!

 

「行きなさい、三人共!!」

 

「ここは任せて!!」

 

 ああ、礼を言う!!

 

 ここで、なんとしても決着をつける!!

 

「エイエヌぅうううううう!!!」

 

 後ろに爆弾を展開して、その爆発に吹き飛ばされる形で最後の距離を詰める!

 

 そして、俺はそのまま義足を開放する。

 

「くたばれエイエヌ!」

 

「誰がぁ!!」

 

 それをエイエヌは光の剣で迎撃する。

 

 天使の鎧(エンジェル・アームズ)! やはり自分の神器ぐらいは使いこなすか!

 

「まだ戦う気か、エイエヌ!!」

 

「当然! 楽しく愉快に面白おかしく!! 俺は彼女に静寂を押し売りする!!」

 

 ああ、そうだろうよ。お前はそうだろうよ!!

 

 輝きの為に全てを捧げる。そしてそれを受け入れてしまう対象。

 

 オーフィスはまさにそんな感じの奴だった頃がある。それが、全ての不幸の始まりだった。

 

 俺は、お前のことが嫌いになりきれない。

 

 なぜなら、俺は一歩間違えればお前になっていたって心の底から断言できるからだ。

 

 兵藤一誠と心の底から憎み合う。そんな関係があるだなんて信じたくないけど信じるしかない。

 

 そして、どこまでもこいつは止まらない。

 

 もう、本当に言葉をかけてほしい奴はいないのだから。

 

 だから―

 

「俺が、お前を終わらせる!!」

 

「できる物なら―」

 

 瞬間、大量の聖剣魔剣が空中に浮かぶ。

 

 まずいな、あれ全部神殺し!!

 

「―やってみろ!!」

 

 放たれる無数の神殺し。

 

 ああ、避けることなど普通に不可能―

 

「僕達を忘れるな!!」

 

 ―だが、聖なるオーラがそれを弾き飛ばす。

 

「須澄ぃいいいいいいい!」

 

「兄貴ぃいいいいいいい!」

 

 聖槍と光の槍がぶつかり合い、そして莫大なオーラを産む。

 

 そのまま、二人は何度も全力をぶつけ合う。

 

「もうこれ以上、身内の恥は晒させない!!」

 

「あいにく無理だ! 例え聖槍があろうとも―」

 

 鍔迫り合いに持ち込んだ瞬間、エイエヌは素早く足を払って須澄君を転ばせる。

 

 そしてそのまま勢い良く光の槍が振り下ろされる。

 

「単純に技量が足りてない!!」

 

「だったら数でフォローするよ!!」

 

 その光槍を、赤龍帝が防ぎきる。

 

 透過の力により絶霧の禁手が防がれ、二人は力比べに突入する。

 

 その事実に、エイエヌは心の底から舌打ちした。

 

「赤龍帝! お前は本当に俺の邪魔をするな!!」

 

「そっちが先にしてきたんだろうが!!」

 

 空いた拳と拳がぶつかり合い、そしてお互いの指の骨にヒビが入る。

 

 だがエイエヌは諦めない。

 

 大量の岩石が腕となると巨大な武器を手にもって振り下ろされる。

 

 地面が割れ、中から溶岩の火柱がいくつも伸びあがる。

 

 天空から、大量の氷柱が展開される。

 

 それら全てが神クラス。

 

 それらを全て運用しながら、エイエヌは一斉にその攻撃を放つ。

 

 だが、俺達は恐れなかった。

 

「赤龍帝!」

 

「ああ!」

 

「須澄!」

 

「うん!」

 

 俺達はいっせいに言葉を交わし合うと、そのまま全力で突撃する。

 

「「「うぉおおおおおおおおおお!!!!」」」

 

 小細工など一切無用。全力で真正面から押通る!!

 

「なめるな! この火力、いかに神滅具といえど突破できるわけが―」

 

 エイエヌがそう吠えるが、しかしお前は少し勘違いをしているぞ?

 

「もっかい気張りなさい、グラム!!」

 

「撃ち落とそうか、ザ・スマッシャー!!」

 

 俺達は―

 

「吠えろ、ルレアベ!! 未来を、作るのだ!!」

 

破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)よ!!」

 

 決して―

 

「行くよヴィヴィオ!」

 

「うん、全力全開で!!」

 

 お前と違って―

 

「撃ち落とせ、獅子の黄金(レグルス・アウルム)!!」

 

雪霞狼(せっかろう)!!」

 

 一人なんかじゃ―

 

「私達も、行きましょう!!」

 

「はい! アインハルトさん!」

 

「叩いて砕け、ゴライアス!!」

 

 ないんだから―

 

「行け、大将!」

 

「勝ちなさい、兄上!!」

 

「信じてるわよ、兵夜さん!!」

 

 ―負けるわけがないだろうが!!

 

「行くぜ、須澄!!」

 

「うん! 聖槍よ、全力でお願い!!」

 

 赤龍帝と須澄が同時に槍を構え、そして一撃を叩き込む。

 

 倍加と透過と譲渡を組み合わされた聖槍が、エイエヌの展開した障壁とぶつかり合った。

 

 その威力、まさに主神どころか龍神クラス。間違いなく世界最強の最上級の領域だ。

 

 そして、それを防ぐエイエヌもまた、規格外の領域だった。

 

「まだだまだだまだまだまだだ!! 俺は、あいつに、静寂を―!」

 

「悪いが押し売りは厳禁だ!」

 

 だから、これが最後の一押しだ。

 

冥府へ誘う(ハーイデース)―」

 

 エイエヌ。

 

 お前は俺で、俺はお前だ。

 

 だから、これがお前に対するはなむけだ!!

 

死の一撃(ストライク)!!」

 

 俺の渾身の一撃が、聖槍の石月を蹴り飛ばして加速する。

 

「「「うぉおおおおおおおおおおお!!!」」」

 

「まだだ! まだだ! まだだ!! 俺はまだ、あいつに何も―」

 

 結界がひび割れながらも、しかしそれでも砕けない。

 

 そうまでしてまで、エイエヌは決して諦められなくて―

 

「……もういい」

 

 その言葉が、聞こえた。

 

「………あ」

 

「我でない我のために、頑張ってくれてありがとう」

 

 その言葉に、エイエヌは一瞬だが確かに気を緩め―

 

「―その言葉が、聞きたかった」

 

 槍が、エイエヌをぶち抜いた。

 




総力戦の上で、さらに最後の一押しがあってようやくエイエヌ撃破。フィフスにも負けぬ強敵でした。


そして次はエピローグ。ついに隠されいた衝撃の事実が……!!


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エピローグ 後日譚のオチ

 

 槍に貫かれて、そのまま倒れるエイエヌを、少女が抱きしめる。

 

「……よ、オーフィス。来てくれたのか?」

 

「アザゼルに呼ばれた」

 

 まさか増援がこいつだとはな。まあ、エイエヌの精神攻撃には効果覿面か。

 

「絶霧をゲオルグに持たせたうえで業魔人を使わせてな。其れでも一人が限界だったんで最強の存在を送ったってわけだよ」

 

「恐ろしいことを考えますな。というより、私にそれを知らせていいのですか?」

 

 ドヤ顔のアザゼルにクリスタリディ猊下がツッコミを入れるが、しかしまあ、最後のピースにふさわしい存在ではある。

 

 そして、今度こそ完膚なきまでに致命傷になったエイエヌは、よろよろと顔を持ち上げてオーフィスを見る。

 

「……オーフィス」

 

「何、兵夜?」

 

「俺、頑張ったんだ」

 

 弱弱しいその言葉は、だけどはっきりと聞こえた。

 

「お前がいなくて辛かったけど、それでも、お前の頼みだから、絶対に、絶対に叶えなくちゃって……」

 

「うん。でも、今の我は、静寂は当分いい」

 

 静かに、オーフィスはそういって首を横に振った。

 

 それを見て、エイエヌもまた苦笑する。

 

「そっか。でも、あいつの願いはそれだから……さ」

 

 そう、苦笑しながらエイエヌはオーフィスを抱きしめた。

 

 どこまで行っても限りなく近いが際限なく違う別人のオーフィス。

 

 だが、それでも失った温もりを取り戻したいと、エイエヌはオーフィスを抱きしめる。

 

 そして、オーフィスもエイエヌを抱きしめた。

 

「うん。兵夜、頑張った。そっちの我、きっと喜んでる」

 

「そ・・・っか。そっか。なんていうかな、あいつ」

 

「決まってる。我、イッセーから教えられた」

 

 そう告げると、オーフィスはエイエヌの顔を見てにっこりとほほ笑んだ。

 

「ありがとう、兵夜」

 

 その言葉に、エイエヌは心の底から微笑を浮かべ。

 

「ありがとう。最高の報酬だ」

 

 そのまま、塵となって消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま、俺達は心底疲労で崩れ落ちた。

 

 魔獣も従僕も機能を完全に停止して、出航途中だった艦隊も当然動かない。

 

 まあ、つまりは勝利なわけだ。

 

 わけなんだが……。

 

「アザゼル。エイエヌが勝ち逃げした気がして素直に喜べないんだが」

 

「何してくれやがんだアザゼル!! 感動的な場面なのに全然嬉しくねえよ!!」

 

「一撃で、一撃で吹き飛ばせばよかった……っ」

 

「うるせえよ! おかげで最後の一押しになったんだから仕方がねえだろ!!」

 

 そうなんだけど、俺も赤龍帝も須澄も全然喜べない。

 

 すっげえよ平行世界の俺。最後の最後で勝ち逃げしてきやがった。

 

 厳密には別人とはいえ、一番聞きたかった言葉を貰えたんだから、救いがある最期だ。

 

 うわあ、あの野郎マジで腹立つ。

 

 釈然としないってのはこのことだな。

 

 ああ、釈然としない。しないけど―

 

「それでも、勝ったな」

 

「ああ、勝った」

 

 俺は赤龍帝と軽く拳をぶつけ合う。

 

 実際、周りでは戦闘の決着に大歓声が出てるほどだ。

 

 ヴィヴィはお母さんと抱き合って泣いてるし、うんまあ……よかったな。

 

「有難う、兄さん」

 

 と、そこに須澄が立ち上がると笑みを浮かべる。

 

「本当にありがとう。兄さんと出会えて、良かった」

 

「まあ、結構ギリギリの勝利だったからな。俺がここを選んでなければどうなってたことか」

 

 本当、俺達がこの世界に来なければどうなっていたことやら。

 

 少なくとも、地球は想像の数十年早く異世界からの襲撃を受けていたことだろう。そして余力のない地球は滅亡レベルの大打撃を受けていたことは想像に難しくない。下手すれば本当に滅ぶ。

 

 ああ、危なかった。俺が巻き込まれたのは色々と思うところはあるが、とりあえず地球は救われた。

 

「俺の方こそ礼を言うぜ。お前のおかげで助けられた」

 

「ま、兄弟だからね」

 

 そういうと、俺達は手を握り合う。

 

『兵夜さま! 赤龍帝が仰っていたゲート周辺で空間が歪み始めています! そろそろ限界のようです!!』

 

 ……タイミング最悪だぁあああああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 慌ててゲートに向かった俺達は、そのゲートを見上げていた。

 

 ちなみに観測機でデータを取ったりしているが、果たしてどこまで参考にできることやら。

 

「すっごいなぁ。ここから赤龍帝さん達が来たんだ……」

 

「危ないから下がっててヴィヴィオ。次元震が起こりかけてるから危ないよ」

 

 ちょっと覗きこみそうになっているヴィヴィオの肩に、高町さんが手を置いて止める。

 

 ああ、どうやらかなり限界が来ているようだ。

 

 こんなもんうっかり開けたままにするとか、エイエヌの奴は本当にうっかりだ。

 

 ……ブーメランで俺が傷ついた。心が痛い。

 

「このままだと、あと一週間で次元震が発生します。できる限り早く消滅させる必要があります」

 

 オペレーターがそういう中、既に進み出る者がいた。

 

「じゃ、俺達はもう帰らないとな」

 

 ……赤龍帝。

 

「できれば勝利の美酒を酌み交わしたいところだが、そんな余裕もなかったな」

 

「残念だ。戦友と別れを惜しむ間もないとは」

 

 俺もアルサムも少し名残惜しいが、赤龍帝はカラッと笑うと手を振った。

 

「いや、俺もだいぶ迷惑かけた。それなのに、手伝ってくれて本当にありがとう」

 

 そう言って、赤龍帝は頭を下げる。

 

 とは言っても、なあ?

 

「まあ、アルサムも須澄も許してるしな。俺達からは何も言えねえよ」

 

 そうだよな、暁。

 

 死人が出ているのはアルサム側と須澄達で、二人とも一応許してるわけだし。

 

 そもそもアルサムは勝手に聖杯戦争に参加してるわけだからな。場合によっては罰せられてもおかしくない。

 

 ぶっちゃけ文句が言える立場に立ってないな、うん。

 

「……まあ、実はちょっぴり恨んでるけど」

 

 須澄はそんなことを言ってきたが、実のところ表情は笑顔だ。

 

 そして須澄はアップとトマリを引き寄せると、その腕に思いっきり抱き着いた。

 

 捕まえたから離さない。そんな感情を込めながら、須澄は全力の笑顔を見せる。

 

「結果、結果オーライってやつだね、うん。もういいよ」

 

「……ありがとう」

 

 赤龍帝はそう言うと、船から飛び立って空を舞う。

 

 エイエヌを討伐する為に平行世界へと旅立って行った者達が、そして元の世界に戻る為に飛び立って行く。

 

「須澄! お詫びって言ったらなんだけど、聖槍はお前が使え!! お前ならきっと大丈夫だ!!」

 

「いやって言っても貰ってくよ! クソ兄貴からの迷惑料だしね!!」

 

「違いねえ!!」

 

 そう言いながら、最後に赤龍帝は俺を見る。

 

「……お前は! あんなのになるんじゃねえぞ!!」

 

 おいおい、何言ってやがる。

 

「……こっちのお前がいるんだ! 大丈夫に決まってんだろ!!」

 

 その言葉に、赤龍帝は笑顔を浮かべた。

 

「じゃあな、宮白!!」

 

「あばよ、イッセー!!」

 

 ああ、きっと大変なことだらけだろう。

 

 なんたって人類は西暦何世紀かってぐらいに人口削減。他の勢力はどこも滅亡寸前だ。

 

 マジでリアル世紀末状態。いかれた時代に到達しちゃってるわけだが。

 

 ……ま、あいつなら元気でやってくさ。

 

 頑張れよ、イッセー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次元の狭間を航行する、一隻の船があった。

 

 フォード連盟のステルス艦艇。特殊任務に使用する艦艇だ。

 

 だが、それはもうフォード連盟の所属ではない。

 

 協力の見返りに提供されたそれは、禍の団の残党の所有物だった。

 

「フォンフ・プロトとザイードがやられたか」

 

「ザイードは残念だが、プロトはまあ想定の範囲内だな」

 

「ああ、あいつは我々の中でも間違いなく最弱なんだから」

 

 男たちは残念そうにしながらも、しかし絶望してはいなかった。

 

 憎むべき地球の神々に一矢報いることはできなかったが、しかし最低限の準備は可能となった。

 

「既にロストロギアの確保には成功している。後はエイエヌの提供したデータがあれば、こいつはかなり役に立つだろう」

 

「ああ、それと、あいつらはどうしてる?」

 

「ん? そろそろ目を覚ますはずだが?」

 

 男の一人が、それを聞くと席を立った。

 

 彼が向かうのは、培養槽のある研究施設。

 

 そこには、二体の異形が浮かんでいた。

 

「……さて、リゼヴィムが証明したように完全なコントロールは望めないし、復活させた恩を返す為に交換条件を付ける程度で済ませておくか。どうせ長生きなんだし、一年二年は待ってくれるだろう」

 

 そう告げると、男は踵を返して部屋を出る。

 

 そして、次の部屋に入ってから笑みを浮かべる。

 

「我らが乳への憎しみが、まさかあの程度で終わると思ってもらっては困るな」

 

 そこにあるのは、数多くの強大な神器。

 

 幽世の聖杯(セフィロト・グラール)を始めとし、双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)などの強大な神器がそこにはあった。

 

 それは、エイエヌが保有しきれなかった神器。

 

 彼らは協力の見返りにそれを受け取り、万一失敗しても自分達がそれを使うことで状況をひっくり返すことを目的としていた。

 

 そして、それよりも価値があると言っていい最後の切り札にも視線を向ける。

 

 それは、巨大な赤と白の龍の死骸。

 

 死骸であるにも関わらず、それは強大な力を残したままであった。

 

「ああ、面白い面白い。これは本当に面白い」

 

 くっくっくと笑いながら、彼はまだ見ぬどこかを幻想する。

 

 宮白兵夜と赤龍帝は、今この場においても新たな協力者を得ているだろう。

 

 だが、それはこちらも同じこと。

 

 あまねく乳は全て滅ぼす。滅乳の楽園を今こそ築く。

 

「待っていろ、お前達の希望は、俺達が根こそぎ破壊する!」

 

 フォンフ・シリーズ最高傑作。フォンフ・リーダーはこれからの戦いを覚悟して深い笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、それでは俺はこれからしなければならないことがある。

 

「アザゼル。頼みがある」

 

「あ? なんだよ一体」

 

 アザゼルが首をかしげる中、俺は心からの頼みの為に土下座すらした。

 

 願うことはただ一つ。

 

「シルシを娶ることにしました。つきましては、ナツミとか久遠とかベルとか小雪(あいつら)に俺が殺されないように手回しをお願いしたのですが!!」

 

 心からの叫びだった。

 

 ああ、確かに殺されないとは思うが、ただでは済まないだろう。

 

 いや、案外笑って許しそうというか歓迎しそうな予感はするが、それはむしろ外れてほしいというかなんというか。

 

「それは気にしなくていいわ、兵夜さん」

 

 シルシ? 何を考えている?

 

「もとをただせば私の暴走。大丈夫、フェニックスの血は不死の象徴。ちょっとボコられた程度では死なないわ」

 

「そんな覚悟もって迫ってたんかい!!」

 

 重いよ! たかが一特別授業でどんだけ重い愛が芽生えてんの!?

 

 大体そんなことさせないよ!? 全面的に我慢できなかった俺が悪い!!

 

「アザゼル前言撤回!! 意地でもシルシに被害を発生させるな!! 俺はこの際骨折の十や二十はかまわない!!」

 

「馬鹿なことを言わないで! 誘惑したのは私の方よ!! ここは私が!!」

 

「いや俺が!!」

 

「……すごいことになってますね」

 

「ああ、不倫……になるのか? これ」

 

 ヴィヴィと暁が顔を見合わせて何とも言えない表情を浮かべているが、しかしそれどころではないのだ。

 

「落ち着け二人とも。そもそも冥界の法律的には何の問題もないのだから胸を張れ。第一、伝え聞くあの四人の性格ならば、そこまでのことになるとは思えんのだが」

 

「それはダメだアルサム。男として通すべき筋がある」

 

 そう、それはダメだ。

 

 何が何でも罰を受けねば。それは絶対だ。

 

 そういうわけで、普段から尻拭いしてるんだから何とかしてくれアザゼル。

 

「……おい、グランソードに雪侶。お前らまだ言ってねえのかよ」

 

 ん?

 

「ああ、色々事態が動いてたから、言ってる暇なかったんだよ」

 

「そういえば忘れてましたの」

 

 待て、どういうことだ?

 

「おい、どういうことだ?」

 

「兄上。落ち着いて聞いてくださいまし」

 

 雪侶は俺を落ち着かせるように両手に手を置くと、静かに言った。

 

「今回の件、黒幕は義姉様方ですの」

 

 …………………………………………………

 

「ぱーどぅん?」

 

「大将よく聞け。ゼクラム・バアルを焚きつけたのはあの四人だ」

 

 どの四人だ。

 

 いや、そんなことは言わない。

 

 ナツミ

 

 久遠

 

 ベル

 

 小雪

 

「あいつらなに考えてるのぉおおおおおお!?」

 

 俺は心の底から絶叫した。

 

「……ねえヴィヴィオ、どういうこと?」

 

 この中でまったく事情を知らない高町さんが、寄りにもよってヴィヴィに質問した。

 

 うん、子供に答えさせることじゃないんですが。

 

「あの、高町さん。宮白さんのいる冥界は一夫多妻が認められているのですが……」

 

 その辺察知したのか、姫柊ちゃんがそれとなく説明をし始める中、俺は視線を二人に向ける。

 

「主命令だ。……今すぐどういうことか説明しろ!!」

 

「ああ、とりあえず短く説明するぜ?」

 

 おう、お前はすぐに話してくれて助かるよグランソード。

 

「大将。大将も自覚していると思うが、大将が今後大王派と魔術師組合をくっつけて折り合いをつけるとするにゃぁ、大王派との政略結婚は間違いなく出てくる」

 

 ああ。俺もそれが難儀なタネだった。

 

「ぶっちゃけ義姉様方は全然オールオッケーのノリなんですの」

 

 以下、あいつらの感想。

 

ナツミ「なんかボクらの関係、ハーレムとはもう別物だしいいんじゃない? え、本妻? 僕このポジション好きだし」

 

久遠「可愛い女の子を侍らせるなんて兵夜くんやるねー! あ、私と仮契約(パクティオー)させてー? え、本妻? 別にいいよー。第一あんだけ愛人発言して何をいまさらって感じだしー」

 

ベル「仲間が増えるんですか? 実質やった! ……え? 微妙に違う? ……本妻ですか? そ、そんな恐れ多いです!!」

 

小雪「別にあたしらファックなまで肝要だっつの。……なんならあたしが夜伽の訓練相手になってやってもいいぜ? あ、本妻? ……興味がないでもねーが、そういうのにこだわるような生活送ってねーしな」

 

 以上。

 

「寛容すぎるぅうううううううう!!!!」

 

 俺は心底崩れ落ちた。

 

 いやちょっと待とうか!! なにその男に都合のいい女っぷり!!

 

 いや、冥界のルール的に何の問題もないのか! いやいやそれにしてもいくらなんでも絶賛しすぎというかなんというか!

 

 なまじ独占欲ある俺の方が問題あるか、コレ!!

 

「……不倫されたらショックで寝込みそうな俺がどうかしてる気がしてきた」

 

「いえ、一般常識的には正しいのは宮白さんのような気もしますが」

 

 姫柊ちゃん、フォローありがとう。

 

「ああ、そうだ! 俺が男の器量を魅せつけて不倫なんて考えさせなければいいんだ! …いや、散々俺は中学のころ遊びまくってたんだし、ガス抜き遊びぐらいは認めるべきでは……だめだ相手がイッセーだとしても耐えられるかわからない!!」

 

「大将、大将。子供、子供」

 

 いかんそうだった!!

 

「……まあ、そういうわけでゼクラム・バアルにあの四人が相談した結果、大将の授業聞いた途端にやる気に満ち溢れたシルシが会議の結果適任ってことになってな? 良かったなシルシ・ポイニクス。お前公認だぞ?」

 

「そ、それは、喜ぶべきなんでしょうけど……」

 

 顔を真っ赤にしているシルシだが、しかし複雑な表情だ。

 

 まあ、気持ちはわかる。

 

 そんな複雑な感想な俺に、アザゼルがニヤニヤしながら膝をつついてくる。

 

「おーおーいい女が集まってるじゃねえか! いっそのことイッセーにも負けないハーレム御殿を作ってみたらどうだ、この野郎!!」

 

「いや、その、あのな……」

 

 どう返せばいいのかよくわからん。

 

 ええい、誰か助けを―

 

「兄さん」

 

 ん? 何、須澄?

 

 振り向いた俺の視界には、ニヤニヤしてる須澄達三人の姿が。

 

「今度、今度相談がある時は、兄さんに相談するよ」

 

「流石須澄君のお兄さんだねっ」

 

「ああ、お義兄様。流石エイエヌ様の同一存在ねぇ?」

 

「……よし」

 

 ダダンダンダダン♪ ダダンダンダダン♪

 

「あ、兄さんがキレた!?」

 

「全員逃げろぉおおおおお!!!」

 

 お前らはりたおしてやるぁあああああああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、そんなこんなで俺が楽しようと思ったら逆に大変なことになった話はこれで終了。

 

 まったく。イッセーと仲良くならなかったら人類滅亡一歩手前とか、我ながらどうかと思う。

 

 だけどまあ、こっちにはイッセーがいるしどうにかなるとは思っている。

 

 まあ、この後フォード連盟との後始末やら時空管理局との交流やらで忙しいことになるが、それは流石に他の人達に利権も含めて譲っておくとして……だ。

 

 まあ、その後のことは機会があれば、な?

 

 




兵夜「俺の女がハーレム御殿建設のために積極的に動くとかある意味ショック……」

以上、衝撃の真実でした!!



















そしてアザゼル杯編は順調に製作中! アンケートで募集してるネタもまだまだ待っているので、ぜひプレゼントフォー・ユーです!!


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番外編 宮白兵夜の眷属探し! 前編!

ちょっと過疎化しまくっているケイオスワールドを復興させようと、短編を投稿します!!


 

 

 

 

1宮白兵夜の悩み

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、どうしたものか。

 

 俺は喫茶店でコーヒーを飲みながら、考え込んでいた。

 

 今考えている事は、上級悪魔に昇格した者なら一度は考える事。そして、今後の成り上がりを必ず考慮する必要がある事だ。

 

 すなわち、眷属悪魔である。

 

 上級悪魔はチェスの駒になぞらえた、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を魔王様から頂き、そして眷属悪魔を作る。

 

 別にすぐに駒を全部埋めなければいけないというわけではない。現実問題、若手はもちろん貴族として社交界に出ている上級悪魔の中にも、眷属悪魔をコンプリートしていない悪魔は存在する。

 

 だが、若手以外でそういう手合いは、レーティングゲームにあまり深入りしていない者達の場合が殆どだ。

 

 俺はそうはいかない。今後のことを考えれば、ある程度はレーティングゲームに参加する必要がある。

 

 何せおれは魔術師組合の事実上の代表だ。更に現魔王ルシファーの妹君であるリアス・グレモリーの眷属悪魔でもある。その上、二人の曽祖父でもあるゼクラム・バアルたち大王派の最後の切り札と言ってもいい立場だ。

 

 ……蝙蝠と揶揄されても仕方がない立ち位置だが、これに関しては仕方がない。

 

 人柄的には現四大魔王を支持したい。しかし、魔術師組合の構成人員の性質や悪魔という種族の特性から考えれば、このまま大王派が完全に失墜するのは返ってリスクが大きい。それに個人的な政治スタンスは中立派と言った方がいいのが俺だ。最悪な事に悪魔の政府スタンスは魔王派(超リベラル)大王派(マジ保守的)の二極化が激しい。

 

 なので、俺はとにかく出世する必要がある。

 

 魔王派と大王派を往ったり来たりする蝙蝠ではなく、魔王派と大王派を取り持つ仲介人として認められるには実績が必要だ。

 

 そして悪魔として出世するのに一番重要なのはレーティングゲーム。そしてそれは主の能力と眷属の質が左右すると言っても過言ではない。

 

 なので、素質のある眷属は集めるべきである。

 

 だがしかし、ここでいきなりフルメンバーを揃える気も欠片もない。

 

 さっきも言ったが、俺は魔術師組合の事実上のトップだ。必然的に、彼らの栄達や出世の手伝いぐらいはする立場だ。

 

 そして、俺はアウロス学園の支援者でもある。下級中級の出世にいい顔をしない旧家の悪魔の思考を嘘をつかずに誘導するのには苦労した。今でも時々特別講師として顔を出す事もある。

 

 この二つの組織から、眷属悪魔を取り入れるべきだと俺は思っている。そして、それに関しては速攻ではなくある程度時間を見たい。

 

 できることなら、人格的に信用出来て見込みのある人物を眷属にしたいからな。変な奴をスカウトして、はぐれ悪魔にでもなられたら目も当てられない結果になるだろうし。

 

 だからフルメンバーにするのは十年ぐらいはかけたいんだが―

 

「……多すぎだろ、オイ」

 

 紙の束を見て、俺はげんなりとなった。

 

 軽く数百枚はあるこの紙は、俺に売り込みをかけてきたやつらだ。

 

 ……俺の眷属悪魔になりたいと、募集してもないのに応募かけてきやがった連中がごろごろ出て来てやがる。

 

 まあ、理由はわかるだろう。

 

 俺が上級悪魔になっているのは、普通に知ろうと思えば知られる事実だ。と、言うより五の動乱で活躍しすぎたせいで、報道で知れ渡っている。

 

 因みに赤龍帝な俺の親友、イッセーこと兵藤一誠も上級悪魔に遅れながら出世した。俺の愛人である桜花久遠もだ。

 

 ……同期出世頭とも言える俺達三人だが、こんな苦労してるのは俺ぐらいだ。

 

 それには理由がある。

 

 一つは、久遠が「アウロス学園の卒業生から眷属を選びたいと思いますー」とか言った事。

 

 アウロス学園の武術指導担当の非常勤講師を務める久遠は、そのスタンスを明確に発表していた。

 

 元よりアウロス学園はレーティングゲームの学校としての側面が強い。設立者であるソーナ先輩が「誰でも通えるレーティングゲームの学校」を夢見て設立したのだから、当然といえば当然だ。実際、有力な眷属悪魔になるための教育が行われている。

 

 そんなわけで、久遠狙いは速攻でアウロス学園に入学したがっているのが実情だ。実際問題専門教育を受けれるので、そっちに失敗しても他が狙える。それにほかの教育も受けれるから保険もばっちりだ。

 

 なので、久遠は当面眷属を集めるつもりはなさそうだ。まあ久遠の性格上、ソーナ先輩のバックアップも考慮した面子になるだろう。

 

 そして指導者としての素質が意外と高い久遠の指導を直に受けれる眷属軍団。……短距離瞬間加速で迫りくる野太刀軍団となるのだろう。普通に怖いな。

 

 あいつ、前世は傭兵部隊の部隊長やっていたらしいし、少人数の指揮能力は十分高いだろう。統率のとれた精鋭集団となる事は間違いないな。

 

 で、イッセーの場合は分かり易い。

 

 ……既に加えられた眷属が規格外すぎて、しり込みした奴が多く、監視の目も鋭いのだ。

 

 まず、俺達の主であるリアス・グレモリー姫様からトレードした、三人の眷属悪魔。

 

 北欧の主神オーディンのお付きから転職した、半神である戦車(ルーク)、ロスヴァイセ先生。

 

 教会にて聖女とまで称され、龍王ファーブニルを従える僧侶(ビショップ)、アーシア・アルジェント。

 

 同じく教会出身にして、聖剣デュランダルとエクスカリバーを操る騎士(ナイト)、ゼノヴィア・クァルタ。

 

 この三人がすでに上級悪魔の上クラスの価値がある規格外。禍の団との闘いでイッセー並び立った猛者たちだ。

 

 この三人と比較されるのはしり込み確定だろう。この時点で多くがビビる。

 

 そして、そんな事を気にしない身の程知らずは、最後の1人によって追っ払われる。

 

 それが72柱フェニックス本家の長女である、もう一人の僧侶、レイヴェル・フェニックスだ。

 

 おっぱいドラゴンであるイッセーの、公私に渡る敏腕マネージャーであるレイヴェルが、半端な奴を認めるわけがない。グレモリーとフェニックスの両家の力を使ってでもシャットアウトするはずだ。

 

 そういうわけで、イッセーも現段階では眷属はその四人で止まっている。

 

 だからこそ、そういったものがない俺に対して集中して応募が来ているという事だ。

 

 まあ、俺のスタンスを明確にすればこの数も減るのだろう。そこに関してはうっかり伝えるのを忘れていた俺が悪い。

 

 ……だが、どうしたものか。

 

 眷属を一人も集めないつもりはない。特に俺は独自で動く事も多く、既に一組織の長という立場もあるので、補佐官は必須だ。

 

 それに大王派側からしても俺との縁を密にしたいところだろう。その気になれば独自にサーゼクス様と連絡が取れるほど親しいのに、血統主義に理解があり、更に大活躍した五の動乱の英雄である俺は命綱と言っても過言ではない。魔術師組合の大半も血統主義だし、こっちにとっても必須の関係だ。

 

 なので、ゼクラム・バアルは間違いなく秘書として相応の能力を持った若手悪魔を俺に紹介するだろう。それぐらいは読める。

 

 ……問題は、それだけで終わるとも思えない事だ。

 

 貴族が横の繋がりを深める為に政略結婚するのはよくある話だ。魔術師の世界でもそういった事は多いし、有力な魔術師の配下になってその血を取り込めれば家系の強化に繋がるから俺もある程度は想定できる。

 

 そして、ゼクラム・バアルは聡い老人だ。彼なら俺との相性も考慮するだろう。

 

 古来より政略結婚は家同士の繋がりを考慮するものだ。近年のイメージ程非人道的な思考で強引に結ばれているわけではない。そんな事になって夫婦の関係が酷い事になったら、逆効果だしな。LOVEの関係にはならなくてもLIKEの感情ぐらいはあった方がいいし、最低でもビジネスパートナーとしての相性は重要だ。

 

 それぐらいは理解できる老人なのだから、俺としても強く断る気はない。

 

 最低でもこちらに合わせてくれるのなら受け入れよう。……ナツミや久遠やベルや小雪より優先する事はないだろうけどな。俺って結構愛情とか気にするし。

 

 そして、ゼクラム・バアルが送り込んだ「そういう目的」の眷属が入ってくれれば、この数もだいぶ抑制されるだろう。

 

 だがしかし、当面は完全にシャットアウトしたいのが本音だ。少なくとも、アウロス学園と魔術師組合が軌道に乗ってくるだろうまでは、眷属集めは最小限に抑え込みたい。

 

 ……文官と武官を一人ずつ欲しいところだ。それも、ポテンシャルが高く生半可な連中が並び立つ事をしり込みするような奴がなぁ。

 

 大抵の上級悪魔はまず女王(クイーン)を確保するらしいし、俺も習ってみるべきか。

 

 しかし、神格すら併用する俺の女王と成ればそれ相応の戦力が欲しいところだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -どうしよう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一応計画的に眷属集めを考慮している兵夜。兵夜の眷属構成は皆さん知っての通りですが、さて、そこに至るまでのドラマをあえて書いてみようと思います。


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番外編 宮白兵夜の眷属探し 中編!!

結構長くなりますな、この話。

と、いうわけで兵夜の眷属探しです。


 

2 女王(クイーン) グランソード・ベルゼブブの場合。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事を思っていたら、いきなり俺は呼び出しを喰らった。

 

「……大将! 助けてくれ!!」

 

「いきなり何の用だ、グランソード」

 

 呼び出してきた男は、グランソード・ベルゼブブ。

 

 ……この名を聞いて「おいマテ」となった諸君。お前らは当然の反応だな。

 

 そうだ。目の前のこの男。初代ベルゼブブの血を継ぐ男なんだ。

 

 兄貴ぃ! とか呼びたくなるタイプの気質で、自分がどこまで出来るか試す為に、テロ組織である禍の団(カオス・ブリゲート)に参加した困った君ではある。

 

 だがふたを開けてみれば、旧現含めた魔王の名を冠する連中の中でも、屈指のまともっぷり。切り捨てられたオーフィスを助ける為に禍の団を抜けて、現政権に投降。その後奉仕活動を積極的に行っており、その血筋と人柄から冥界での人気も高い。

 

 俺としても、人格も能力も頼れるので、色々と仕事を頼んだりしている。天界に戦力として連れてきたほどだ。

 

 そのグランソードが、割と焦り顔で俺に頼み事だ。時間を割くぐらいのことはしてやるが、下らないことだったら怒るぞ。

 

「で? 具体的に何がどうした?」

 

 俺がそう促すと、グランソードは机に手をついて頭を下げる。

 

「大将助けてくれ! 俺を最上級悪魔にしようって連中がゴロゴロいるんだ!!」

 

 ああ、なるほど。

 

 確かにグランソードは魔王末裔だ。それに実力も優れている。舎弟からも慕われており、人材も豊富。

 

 今の冥界のごたごた具合を考えれば、いっそのこと公式に相応のポストに迎えたがる連中もいるだろう。

 

 ……テロリストなんだけどなぁ、グランソードは。

 

「まぁ、ヴァーリよりはまともだしな」

 

「……ヴァーリはアザゼル元総督に説得されて受けた」

 

 何考えてんだどいつもこいつも。

 

 リベラルすぎだろ同盟トップ陣営。特にアザゼル、薦めるなよ。

 

 ま、確かにグランソードの気持ちも分かる。

 

 グランソードはなんだかんだで常識も良識も弁えている。「一度頭に据えといて裏切りなどゴメン」なんてマネでオーフィスに就いたぐらいだからな。義理人情を弁えている。

 

 そのグランソードからすれば、「テロリストやってるのに最上級悪魔なんて筋が通らない」って感じなんだろうな。俺としてもそこに関しては納得できる。

 

「お前も大変だな。で、具体的にどう助けてほしんだよ?」

 

「俺を眷属悪魔にしてくれる奴を探してくれねえか?」

 

 ……凄い事言ってきたな。

 

 最上級悪魔に推薦されている魔王末裔を、一眷属悪魔としてスカウトしてくれる悪魔を探してほしいってマジかよ。

 

「純血悪魔は大抵拒否るだろうし、転生悪魔だって悪目立ちするだろ? 大将のコネぐらいじゃねえと、そんな奇人変人見つからねえ気がするんだよ」

 

「お前、俺を何だ思ってんだ、ア?」

 

 冥府へ誘う死の一撃(ハーイデース・ストライク)を叩き込んでやろうか。

 

 まあ、そんな珍しい奴はそう簡単には見つからねえわな。

 

「つってもお前を眷属にできる悪魔がまず少ねぇだろ。いや、実力的に」

 

「だよなぁ。それに俺を眷属にするなら、それ相応の実力と器ってもんが欲しいしな」

 

 うんうん。

 

 変な奴の眷属悪魔に魔王血族を入れるわけにはいかねえしな。それに、眷属にできる度胸や実力も必要だろうしな。

 

 つまり、選ばれるに相応しいのは―

 

「最上級悪魔にケンカ売れる実力が最低でも必須だな。そして旧家から文句を受けられないような奴か」

 

 俺も流石に、そんな奴を即座に思いつけねえぞ。

 

「赤龍帝とか大将の愛人とかいるんじゃねえかって思うんだけどよ。その二人紹介してくれねえか? 大将ほど付き合いねえから直接乗り込むのも気が引けてな」

 

「いや、あいつらは難しいな」

 

 現実問題難しいだろ。

 

 会長命の久遠は、会長の夢を支援する為にもアウロス学園一択のつもりだろう。

 

 ハーレム王になる為に上級悪魔を目指したイッセーも、眷属は全員最高の女を集めるとか言っていたはずだ。

 

 かといって、姫様やソーナ会長の余っている駒で転生できるほどちゃちな格じゃねえし……。

 

「お前を転生させるなら、兵士(ポーン)八駒か戦車二駒、女王(クイーン)の駒が必要な気がするんだが……」

 

 俺は自分の駒を取り出して、そこを考える。

 

 姫様もソーナ会長も、流石にそんなに余ってないし……。

 

 そこまで考えて、俺はふと気づいた。

 

「………ん? 旧家が納得して相応の拍があって最上級悪魔クラス以上すら倒した奴ならいいのか?」

 

 俺は、一瞬俺のことを考える。

 

 大王派筆頭―すなわち旧家筆頭―のゼクラム・バアルと茶飲み友達。冥界の英雄の1人にして、最上級悪魔に手が届いた男。そして、悪神ロキと冥府の神ハーデスをボコった男。

 

 ……あれ? 俺、ぴったりじゃん。

 

「……グランソード。俺は今、武官と文官を一人募集しているんだが―」

 

「……奇遇だな。俺も今、武官として仕えがいのあるやつを見つけたんだが―」

 

 俺達は視線を合わせ、頷いた。

 

「契約成立だな」

 

「よろしく頼むぜ、大将」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日、上級悪魔であるこの俺、宮白兵夜は魔王血族というめっちゃ強い男を武官として迎え入れた。

 

 ちなみに、これによってグランソードの舎弟達を下部組織として運用する事が可能になった! 凄まじい人材を本格的に確保したぜ、やっほい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3 僧侶(ビショップ) 宮白雪侶の場合。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてとりあえず前祝として酒を飲みに行ったその夜の事だ。

 

 俺は、裏業界の酒場に入ると同時に、後頭部を蹴り飛ばされた。

 

「うわぁああん兄上ぇえええええええ!!!」

 

「ごふぁ!?」

 

 顔面を床に激突してしまい、俺は悶絶する。

 

 な、なんだ!? 敵襲か!?

 

「てめえ! 俺の主に何しやがる!?」

 

「はうお!?」

 

 グランソードが速攻でアイアンクローを下手人に叩き込む。

 

 うん、できれば喰らう前にやって欲しかった。

 

 俺はいきなり攻撃をしでかしてきた不届きものに視線を向ける。

 

 ……セリフで分かっていたが、寄りにもよってお前かい。

 

「おい、何してんだこの愚昧」

 

「た、助けて兄上……っ」

 

「ん? 愚妹で……兄上?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宮白雪侶(せつりょ)。この俺、宮白兵夜の実の妹だ。

 

 親父が俺の生みの母親と離婚した後、再婚した後妻との間にできた娘だ。ちなみにその母親が魔法使いであり、雪侶も魔法使いである。魔法使い組織の一つである女王の嗜み(コルキス・ホビー)の若きエリートだ。

 

 ちなみに俺は魔法使いとしての契約を雪侶としている。その縁で女王の嗜みの後ろ盾の一つとなっているわけだ。

 

 ロキとの一件で比較的余裕があった事から、新しく悪魔との契約関係の独占体制に食い込む事が決まっていたので、そこは問題ない。

 

 でだ。このトリプルテールを特徴とする妹だが、一つの特徴がある。

 

 ……イッセーLOVEなのだ。

 

 割れ鍋に綴じ蓋というか、変人の妹だから変態のイッセーを好きになってもおかしくない。っていうか雪侶、肉食系が好みだと断言してるし。

 

「この年頃の嬢ちゃんはエロにがっついてるやつとか嫌うと思ってたんだがな」

 

「ハッ! 雌とは雄に見られてこそ輝くもの。草食系などという雄の(さが)を忘れた軟弱野郎などに用はありませんわ!」

 

 グランソードにそう返答する雪呂は、そのままの勢いでジュースをぐびぐびと飲む。

 

 この二人、なんか意気投合してるな、おい。

 

 因みにグランソードは外見年齢を考慮してウーロン茶。俺は普通にハイボールを飲んでいる。

 

 で、雪侶がこっちに殴り込みをかけてきた理由だが―

 

「……イッセーにぃが既に僧侶二駒埋めてるって初耳ですのよ!?」

 

「いや、気づけよ」

 

 ……最近研究が忙しくて、イッセーが僧侶二駒をアーシアちゃんとレイヴェルで埋めた事に気づいてなかったそうだ。

 

 で、俺に愚痴をこぼしに来たと。

 

 愚痴をこぼすというより八つ当たりだろ。俺は正当性のない八つ当たりは大嫌いなんだがなぁ。

 

 まあ、近況報告ぐらいはしてやるべきだったか。そこはちゃんと反省しよう。

 

「っていうか雪侶。イッセーの駒はだいぶ余ってるから問題ねぇだろ。騎士に戦車に兵士に女王とより取り見取りだぞ?」

 

 お前が一番最初にイッセーに惚れてるんだから、その辺をつつけばある程度は融通が利くだろうが。そこを付けよ、そこを。

 

 実際、典型的ウィザードタイプのロスヴァイセさんは戦車だしな。そういうパターンもあるだろう。

 

 だが、雪侶は勢いよくジュースのグラスを置くと、俺を睨みつける。

 

 もはや涙目なんだが、そこまで嫌なのか?

 

「この女王の嗜み(コルキス・ホビー)の宮城雪侶が! 転生悪魔になるのに僧侶(ビショップ)以外などできますか!!」

 

「拘ってるなぁ、雪侶は」

 

「困った妹だ」

 

 面白そうな表情を浮かべるグランソードにゃ悪いが、俺としては頭痛物だ。

 

 つっても、だったらどうするんだよ。

 

 そう思っていたら、雪侶は俺の胸ぐらを勢いよく掴む。

 

「……こうなったら最終手段ですの。兄上、眷属にしなさい!!」

 

 すいません。眷属悪魔としての売り込みとしては、主になる男に対して乱暴すぎないでしょうか?

 

「本気かお前は」

 

 俺は一応そう言うが、しかし雪侶の目はマジだった。

 

 本気と書いてマジと読む。まさにそんな感じだったりする。

 

 あ、これ下手に断ると俺の命がやばい感じだ。

 

「一応言うが、姫様の僧侶は一駒開いてるぞ?」

 

 真面目な話、そっちの方がいいんじゃないか?

 

 我らが姫様であるリアス・グレモリーの眷属位なった方が、イッセーとの接触密度は増えると思うんだが。

 

 そも姫様こそイッセーの本妻にして正室だ。今後の立ち位置から考えても、姫様の眷属になった方がいいと思うんだが。

 

 姫様からしても、雪侶クラスの魔法使いなら十分スカウト対象だと思うしな。あの人ならイッセーに最初の惚れたと言ってもいい雪侶を邪険にはしないとも思うんだが。

 

 そう思った俺だが、雪侶は静かに首を振る。

 

「……兄上かリアス・グレモリーのどちらの部下になりたいかと言われたら、兄上の方がいいですわ」

 

 その理由は何だ?

 

 俺のジト目に、雪侶は胸を張った。

 

「如何に愛人とはいえ、イッセーにぃの寵愛を受けるのならそれなりの水面下の争いはありますもの。主にしたらどうしても遠慮せざるを得ませんわよ?」

 

 なるほど。納得だ。

 

 しかし、妹を秘書として運用するのはあれかもしれんなぁ。

 

 武官としてはグランソードには確実に劣るだろ、流石に。っていうか、武闘派関係に勤勉な魔王末裔をしのげるほど雪侶は化け物ではないと思うしな。

 

「っていうか、お前俺との魔法使いとしての契約はどうするんだよ」

 

 そう、そこは重要だ。

 

 俺は魔法使いとしての契約を雪侶としている。眷属にするならそれを解約する事もあり得るはずだ。

 

 その辺はどうするんだよ。俺としてもその手のステータスは気にしたいぞ。

 

 そんな俺の視線に、雪侶は胸を張って断言する。

 

「ご安心を。いざという時の代役は既にピックアップしておりますの」

 

「準備良すぎじゃねえの、大将の妹」

 

 言うなグランソード。雪呂の行動力には俺もたまに手を焼く。

 

 ああ、懐かしい。夏休み前の雪侶の暴走の結果、俺の舎弟を含めた駒王町の不良集団がボコボコにされたのは実に懐かしい。

 

 ……非常に申し訳ない。だが、ぐれるというのはそういうデメリットを背負い込む事だ。半分自業自得だと我慢してくれ。

 

 さて、気を取り直して考える。

 

 雪侶のポテンシャルは嫌というほど知っている。

 

 普通に上級悪魔クラスの戦闘能力はあるだろう。更に、女王の嗜み(コルキス・ホビー)というそこそこの規模の魔法使い団体のエリートだ。その辺も考えれば、眷属として迎え入れるには十分すぎる。

 

「……ちなみに、近年の研究テーマとかは?」

 

 その辺も一応考慮しよう。

 

 そういう研究が俺の利益になるのなら、更に断る理由はなくなる。

 

 そして雪侶はいきなり氷をがりがりと食べると、右手を振るう。

 

 -その右手の軌跡をなぞるように、氷の粒が形成された。

 

「異世界魔法の一つ、滅竜魔法を研究していますの。ちなみに属性はイッセーにぃと対をなすように氷を主体としておりますわ」

 

 ……素晴らしすぎる。断る余地がかけらもねえ。

 

「グランソード。同僚にする分において不満はあるか?」

 

「あるわけねえだろ。こんだけ出来りゃぁ十分すぎるっての」

 

 だろうなぁ。

 

「……一応オヤジに了承を取ってからだぞ? 親子の仲とは言ってもケジメはいるからな」

 

「了承を一切取らずに眷属になった兄上が言う事ですの?」

 

 俺の場合は特殊だっての。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そいて親父からは了承を得た。

 

 これで、俺の眷属は二人で来たわけだ。

 

 魔王末裔の女王(クイーン)と、新進気鋭の魔法使いな僧侶(ビショップ)

 

 さて、これだけの実力者を眷属に入れたのなら、有象無象が自薦してくる事はないだろう。

 

 だが、問題は―

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はグランソードと雪侶の話でした。

そして後半では後日譚のヒロインであるシルシについてスポットライトを当てたいと思います!!


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番外編 宮白兵夜の眷属探し!! 後編!!!

そんなこんなで、兵夜の眷属探しも最後の1人。

後日譚のメインヒロイン、シルシ・ポイニクスのパターンです!!


 

 3 騎士(ナイト) シルシ・ポイニクスの場合 紹介編。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この状況下において、真っ先に告げるべき人物は誰だろうか?

 

 現四大魔王の方々か? 親友であるイッセーか? それとも、主である姫様ことリアス・グレモリーか?

 

 その中では最有力なのは姫様だろう。だが、俺の場合は違う。

 

 サーゼクス様達四大魔王は確かにトップ中のトップだ。だが、トップすぎるのでこの場合一々了承を取る必要はない。っていうかそうなったら過労死するしな。

 

 イッセーに関しては嫁の一人と言ってもいい雪侶を眷属にするので一言言うべきかもしれないが、雪侶自身が「僧侶(ビショップ)じゃないなら無理」と辞退しているそうなので、これまた違う。

 

 普通に考えれば直属の主である姫様には告げるべきだろうが、まあこれは本格的に転生させるまでは問題ないだろう。これも違う。

 

 そう、言うべき相手は他にいる。

 

 基本的に眷属悪魔最強になりやすい女王(クイーン)と、魔術師組合という組織のトップである俺の立ち位置から重要になりやすいポストである僧侶(ビショップ)。この二つが埋まったのだ。

 

 厳密には僧侶はもう一つ空いている。だが、今後を考えるとこっちは確実に魔術師組合の人物から選ぶ事になるだろう。事実上予約されたようなものだ。

 

 なので、これを知らずに人員を選んでいるだろう人物に真っ先に報告に行くべきだ。

 

 そうだ。大王派最重鎮にして、魔術師組合の重要な後援者。そして、我が主リアス・グレモリーの曽祖父。

 

 初代バアル、ゼクラム・バアルその人である。

 

「……というわけで、送り込む人員は女王と僧侶にはしないでいただきたいのですが」

 

「はっはっは。まさかベルゼブブの末裔を眷属にするとはな。中々豪胆な決断をしたものだ」

 

 バアル特産のリンゴによるアップルパイとアップルティーを嗜みながら、俺とゼクラム・バアルは今後についての会談を行っている。

 

 で、一通り終わってから俺の眷属構成についての話になったわけだ。

 

 真面目な話、彼との繋がりは維持しておきたい。ついでに言うと、今後の最重要課題として大王派のある程度の復権は必要だ。

 

 その為、俺とゼクラム・バアルはある程度の連携をとる必要がある。此処で彼らにとどめが刺されては俺が困るし、冥界としても困るはずだ。主に魔術師(メイガス)の制御が利かなくなる可能性が問題だ。

 

 そういう事もあり、ゼクラム・バアルは間違いなく俺に眷属として誰か送り込んでくるのは確定的に明らか。

 

 監視役ではなくサポート役だろうが、それでも確実に自分の派閥から人員を送りこんでくるはずだ。

 

 なので、既に確定同然のこっちの眷属事情はすぐに伝えておくべきだ。此処で拗れて関係が悪化するのはこちらにとっても不利である。

 

「しかし、神喰いの神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)の眷属が魔王末裔とは、リアス嬢にも負けず劣らずの逸材が集まりそうではないか?」

 

「ですねぇ。主の眷属が優秀すぎるので、こちらもそれ相応の人物を何人か必要で困ってます」

 

 いや全くだ。一人二人は凄い逸材を集めておかないと、規格外のネームバリューがゴロゴロいる広義のグレモリー眷属には向いていないからな、うん。

 

 いや、本当にチートが多すぎる。堕天使副総督の娘やら吸血鬼の名門出身、元聖女やアースガルズ主神のお付きとかいるからな、オイ。

 

 まあ、魔王末裔を迎え入れたからその辺については心配ないとは思うんだが……もう一人ぐらい凄いのいるかな、うん。

 

 そう思っていると、ゼクラム・バアルはアップルティーを一口の飲んでから、告げる。

 

「時に兵夜君。フェニックス家分家のポイニクス家は知っているかね?」

 

 ……来た。

 

 たぶんそろそろ準備はできていると思ったよ。

 

 来たぞ来たぞぉ、俺の眷属にする為の人員のアピールタイムが。

 

「話ぐらいは。大王派側のフェニックス系列としては有力な家系でしたね。大王派でも有力な家系だとか」

 

「ああ。本家に負けず劣らず子だくさんな家系でね。中には人間との混血も存在する」

 

 ふむふむ。

 

 血統最重要の大王派から送り込んでくるにしては、混血とは思い切ったな。

 

 まあ、純血統の上級悪魔以外は正しい意味での悪魔ではないと断言するゼクラム・バアルだ。如何に俺や魔術師(メイガス)が重要とはいえど、主要な家系の奔流に組み込むのは本意ではあるまい。

 

 だが、ビジネスパートナーとして重要な立場なのは俺も向こうも理解しているはずだ。相応の立ち位置に取り入れたいとは思っている。だから、そこそこの地位にいる人物を送り込んでくるとは思っていた。

 

「実力はそう高くはないが、最近文官としての技量を伸ばしていてね。歳も君の肉体年齢と近しい者がいるのだ」

 

「それはいい。あまり歳が上の者だと、関係がぎくしゃくしそうですからね」

 

 流石はゼクラム・バアル。中々考えた人選のようだ。

 

 どうやら監視とかそんな事ではなく、あくまで政略的な繋がりを本命としているらしい。

 

 そこそこ有力な家系の、しかし大王派の価値観から考えて家を継ぐ事はない程度の人物。しかも秘書向きの技量を持っているが、あくまで若手の範疇内。そして、この調子なら俺の監視などは優先順位が低いようだ。

 

 さて、もう一押ししてくるんだろうな、これは。

 

「……どうも、彼女の母親である人間はそちらの世界の出身の可能性があるのだよ」

 

 ……ほぉ。

 

「出来れば、当人からお話を聞きたいのですが―」

 

「それは無理だ。残念ながら既に死去している」

 

 そうか。そういうパターンも当然だろう。

 

 できれば詳しく話を聞きたかった。この調子では、その子も詳しい話は聞かされてないだろうな。

 

「その者は神器とは無関係の特殊な見る力を持っていたのだが、魔術師組合の……アーチャー達が開発した眼帯で制御できるようになっていてな。そして君の話をしたところ、ぜひ眷属になりたいと言ってきたのだ」

 

 そう言って差し出す資料を、俺は確認する。

 

 シルシ・ポイニクス。年齢は俺の肉体年齢とほぼ同じ。人間とポイニクス家当主のハーフだ。

 

 戦闘能力は上級悪魔として及第点と言ったところ。戦闘スタイルはエストックを主体とする近接戦闘で、魔力戦闘もある程度はこなせる。礼装で眼を制御してからは、ある程度の格上の攻撃を先読みして迎撃する事もできるので、ある程度の実力者相手に凌げる程度の自衛は可能。

 

 そして秘書官としての技量は優秀だろう。流石に実務経験はないが、それを考えても優秀な成績を示している。普通に親父の会社で秘書課の期待のルーキーになるだろう。

 

 ……そして、保有する能力も間違いなく優秀だ。

 

 おそらくは高ランクの千里眼。此処まで強大だと、世界を見渡す一歩手前のレベルだな。礼装で補正すればある程度の未来視や過去視、読心の類もこなせるか?

 

 また魔術回路も確認されており、その縁もあって魔術師組合の末席に属している。これに関しては俺の落ち度だな、それなりに規模があるとはいえ、気が付いてなかったのは失態だ。

 

「……実に優秀ですね。俺の眷属にしてよろしいので?」

 

 これだけ優秀なら、酷い言い方だが他の運用方法も考えられるだろう。

 

 いっそのこと、大王派の主力に与えるという判断も取りそうな物なのだが。

 

 俺のその探る視線に、ゼクラム・バアルはどこか疲れた笑みを浮かべた。

 

 ……不正の大量発覚による大一掃で、影響力が大幅に削減されているのが堪えているのか?

 

 まあ、自業自得だからそこは気にしない。だが、ダメージが大きいのは間違いないので、後で銘酒の類でも差し入れするか。

 

 それはともかく、返答は如何に。

 

「なに。君にはこれからも我々と縁を維持してもらいたいのでね。……とある筋からの要望に合わせて、私達が吟味した結果と言っておこう」

 

 ……先読みした魔王側からの何かしらの注文が付けられたのか?

 

 まあ、魔王派からしても変な奴を俺につけられるのは面倒だろう。如何にゼクラム・バアルといえど、今の段階でそれを跳ね除けるのは無理か。だから、その辺に対して考慮したうえでの人材を俺に派遣したという事か。

 

 流石のゼクラム・バアルも権威に陰りが見えたと見える。自業自得ではある。しかし魔王様達に悪いが、これ以上権威が失墜すると魔術師組合が暴走しかねないので何としてももう少し復興してもらわねば。

 

 これは断れないな。それに、資料を見る限りサポートタイプとして非常に優秀だ。高位の千里眼というものは、それだけでもう重要すぎる。

 

 更にフェニックス家分家の一員と言うのがいい。その特性を踏まえれば、生存能力も絶大だ。

 

 イッセー眷属におけるアーシアちゃんに匹敵するサポート役になりえるだろう。そこに秘書としての力量が加われば、実にいい。

 

 そも、ゼクラム・バアルの要望を断るのも後が怖い。これは受け入れる以外の選択肢がないな。

 

「了解しました。彼女を眷属として迎え入れる事にしましょう。まあ、一応面接はさせていただきますが」

 

「それは良かった。断られると多少面倒な事になると思っていたよ」

 

 ……やはり少し疲れているな。再三言うが自業自得ではあるが、しかし倒れられても俺が困る。

 

 後で湯治を勧めておこう。日本の温泉街当たりでも紹介するか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4騎士(ナイト) シルシ・ポイニクスの場合、面接編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、言うわけでまず姫様に事情を説明してから面接となった。

 

『……私の眷属は、時として凄まじい事をする子が多いのね』

 

 などと疲れた表情を浮かべられたが、とりあえずグランソードと雪侶に対してはOKが出た。

 

『いっそのこと、私も魔王の血族に生き残りがいないか探してみようかしら』

 

『いや、リアスの巡り合わせの運だと本気で探したらマジで見つけそうだから待ってくれ。……俺も魔王の血族とか同僚になるのはちょっと精神的に……ね?』

 

 ぼやいた姫様にイッセーがそう言ってきたが、逆にイッセーが魔王の末裔を眷属にする可能性もあるかもな。

 

 ……まあ、流石にないとは思うが。

 

「さて、と、言う事でシルシ・ポイニクス……だったな」

 

 と、俺は資料を速読で再確認しながら、シルシ・ポイニクスをまじまじと見つめる。

 

 うん、断言してもいい。

 

 美少女だ。まず間違いなく、美少女だ。

 

 流石はゼクラム・バアル。俺の興味を引き、必要な能力をちゃんと備え、そしてルックスも考慮している。

 

 これが、政治の世界で四大魔王を圧倒するほどの影響力を発揮した老獪の本気か!

 

 俺は真剣に感心した。というか、一瞬見惚れてしまった。

 

 うん。まず俺がするべき事は決まった。

 

「……不倫はしない不倫はしない不倫はしない」

 

「兄上、とりあえず正気に戻りますの」

 

 自分に真剣に言い聞かせる俺の後頭部に、雪侶の拳が叩き付けられた。

 

 疑似滅龍魔法(ドラゴンスレイヤー)まで使っての豪快な攻撃だ。並みの中級悪魔なら死んでいただろう。

 

 ツッコミに殺傷性がありすぎる。我が妹ながら遠慮がない。と言うより、既に転生は済んでいるんだからこれ不敬じゃね?

 

 俺が何となくジト目で見ると、雪侶はこっちを一瞥もせずにニコニコ笑顔でシルシに告げる。

 

「と、こんな風にプライベートでは軽い関係になりますの。シルシさんもあまりへりくだらないでいただけると嬉しいですのよ」

 

「いや、俺もそこまで畏まる気はねえけどよ? お前はもうちょっと遠慮しとけよ」

 

 グランソードの常識人的ツッコミが心に沁みる……っ。

 

 さて、とりあえずシルシはどう反応する?

 

「ふふふ。兵夜様の眷属はフレンドリーな方が多いようですね」

 

 うん、多少動揺しているが冷静に対応しているな。

 

 だが、ちょっと硬いな……。

 

「シルシ。一応俺からも言っておく」

 

 うん。この辺入っておいた方がいいか。

 

「代を重ねた貴族の出である君がそこまで畏まる必要はない。主と眷属の関係とはいえ、必要時以外はタメ口でも構わないさ」

 

「え? ですが、兵夜様は主でもありますし―」

 

 貴族と言っても側室の娘で混血。それも、ある意味で有力貴族に輿入れするのが仕事と言ってもいい年上の姉までいる家系なら当然の反応ではあるな。

 

 ゼクラム・バアルから「嫁になる気で行け」とか言われている可能性もあるし、傅くくらいの対応をしてもおかしくない。

 

 だが、生憎俺としてはそこまで傅かれても困る。

 

「ゼクラム様が何と仰られたかは知らないが、俺は君を優秀だと判断したから眷属として審査する気になった。それに、我が主リアス・グレモリーは眷属を家族として扱っている。だから俺もできる限りはそれに倣うつもりだ」

 

 そう、俺は姫様の眷属である。

 

 実際問題、最低限の礼節を弁えてこそいるが、それ以外ではリアス・グレモリー眷属は広義に属する兵藤一誠眷属も含めてフレンドリーな関係だ。

 

 だから、俺もそれに倣うべきだろう。

 

 グランソードは基本タメ口だし、雪侶は妹だから気やすい関係だ。

 

 ここに一人だけ畏まり過ぎられても、逆に空気がぎくしゃくしてしまう。

 

「雪侶やグランソードと君は対等の立場だ。あまりへりくだったりしないでくれるとありがたい」

 

 なあ? と、俺は視線を二人に向ける。

 

 両隣にいる二人も、それに同意を示して笑みを見せる。

 

「そうそう。それにアンタは大将の秘書的立場になるしな。そう言う意味じゃあ武官筆頭になる俺とは対等だ。魔王血族とかで下手に出られまくるとしちゃぁ、対等の奴が一人ぐらいいた方が嬉しいんだよ」

 

「その通りですの。仲良くいたしましょう、シルシさん?」

 

 その対応に、シルシはちょっときょとんとした。

 

 まあ、貴族が自陣営のトップであるゼクラム・バアルの命で眷属として仕官するのだから、硬くなるのが当然ではある。

 

 更に先輩は主の妹と魔王の血族だ。身も心も配下として従うつもりだったのかもしれない。

 

 だが、そう言うつもりはあまりない。

 

「まあ、なんだ。最低限の上下関係さえ弁えてくれれば、それ以外は対等で構わないさ。へりくだるなら俺をよく見てそうすべきだと思ってからにしてくれ」

 

 俺がダメ押しにそう告げる。

 

 そしてシルシはちょっとだけぽかんとしてから―

 

「……ふふっ」

 

 そう、クスリと笑みを漏らした。

 

「……そう、ではこれからは兵夜さんと呼ばせてもらうわ。グランソードも雪侶もそれでいいかしら?」

 

 おお、対応力がかなり高いな。

 

 グランソードも雪侶もここまで速攻で馴染むとは思わなかったのか、ちょっとぽかんとしていた。

 

 だが、これこそが望むところ。

 

「いいねぇ。んじゃ、次いくか」

 

「第一段階は満点合格ですの」

 

 ああ、これぐらいの方が俺の部下に向いている。

 

 そして能力面などの話をして、十数分。

 

 最後に俺はこれを聞いておきたいところだ 。

 

「……じゃあシルシ。これから俺の眷属になるに辺り、何か目標があるなら教えてほしい」

 

「因みに俺ぁ、レーティングゲームに参加して大暴れする事だな。持った全てのモン使ってどこまでいけるか試す為に禍の団(カオス・ブリゲート)に入った身としちゃ、どこまでいけるか試したくて仕方がねぇ」

 

「雪侶はイッセーにぃの愛人になる身として、それなりの箔を身につけたいですの」

 

 俺の発言に合わせる形で、グランソードと雪侶が当面の目標を語る。

 

 そして、シルシは少しだけ考え込んだ。

 

 自分の中で言葉を整理しているんだろうな。ああ、速攻で適当ぶちかますよりはいい判断だ。

 

 さて、俺に評価させれるようないい目標を思いつくのだろうか……?

 

「そうね、一つあるわ」

 

「「「ふんふん」」」

 

 さて、なんだ?

 

「兵夜さんの妻になりたいわね」

 

 そうか。俺の妻か……?

 

「待った」

 

 俺は速攻で待ったをかけた。

 

 いや待て、少し待て、ちょっと待て。

 

「それはゼクラム様の指示か!?」

 

「……? いえ、あの方からは「誠心誠意お仕えして、彼の出世の助けとなるように」としか命じられてないけれど?」

 

 じゃあなんでだ!?

 

「私はこの目の問題をあなたに解決していただいたような身。それに、貴方はこれからの冥界で間違いなく上に立つ優秀な人物。それにこれまでの話で中々な好感が持てる人物だと思ったの」

 

「割と異常者ですのよ、兄上は」

 

 雪侶、お前ちょっと黙ってろ。

 

 シルシもその辺はスルーするつもりなのか、特に反応はしない。

 

 そして、軽く頬を染めながら照れるそぶりで顔をそらす。

 

「ならもうあれよ。我がポイニクス家の発展の為にも、ポイニクス家の派閥である大王派の再興の為にも、そして私の人生の為にも妻になりたいわ。感謝の気持ちとして処女と子宮を差し上げてもいいぐらいよ」

 

 うん、この子魔術師の血を継いでるわ。しかも貴族の出身の身なだけあるわ。

 

 間違いなく政略結婚をダシにする気だ。それを生かして輿入れする気だ。

 

 シルシ自身が俺のことを気に入っている節がある。おそらく、眼の問題を魔術師組合が解決した事が原因で、俺に対して好意を抱いているのだろう。

 

 そこまで考慮して送り込んだのは想定していたが、ここまでとは想定外だぞ、ゼクラム・バアル!!

 

「待ってくれ! 俺は不倫はしない!!」

 

「あら? 妾でも構わないのよ? 貴方の立場を確立するには、有力貴族との縁故関係は必須じゃないかしら?」

 

 確かにそうですけどね!?

 

「……雪侶、そう言えばなんかメール届いてねえか?」

 

「あら? なんですの……お?」

 

 何か後ろで外野がぼそぼそ呟いているが、そろそろこっちに来て援護射撃を―

 

「……大将」

 

 グランソードが、ポンと肩を叩いた。

 

 え? なに? なんなの?

 

「……まあ、頑張って後宮作っとけ」

 

 あっさり見捨てられたぁ!?

 

「まあよろしいですの、これからよろしくお願いしますのよ、シルシ義姉様?」

 

 しかも雪侶は速攻で受け入れやがった!?

 

 いや、その、あの、その……。

 

 俺も、政略結婚を一度もせずに成り上がるなんて無理だとは思うけど……さ?

 

 その、理由がね? ちょっと、俺が直接関わってないからね? その……ね?

 

「んじゃ、これで眷属入りは決定でいいだろ。舎弟共に買い出し行かせてるから、初期メンバー決定記念でパーティするか!」

 

 おい待てグランソード! 確かにこの面接は形式的なものだが、勝手に決めるな!

 

「じゃあシルシ義姉様、雪侶達はちょっとお茶でもしましょう? 兄上の好みとか教えて差し上げますの」

 

「あらいいの? なら、お言葉に甘えようかしら」

 

 雪侶もなんで俺より先にシルシと交友を深める!! シルシ、お前もなんで俺より先に雪侶を狙う!? あれか、将を射んとする者はまず馬を射よとか言うあれか!?

 

 あれ? 俺、主なのにいくら何でも扱いが悪くないか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………先行きが別の意味で不安だ。今度姫様に主としてのマウントの取り方を相談しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、この俺、宮城兵夜の眷属はだいたい集まった。

 

 この後一年ほどそこそこのトラブルを解決しながら地盤を固め、そして三月に大規模な戦いに巻き込まれる事になるのだが、それは機会があれば語るとしよう。




そういうわけで、兵夜の眷属が一通り決定するまでのお話、いかがだったでしょうか?

機会があれば「対決! ビィディゼ・アバドン編!」とか、「裏話、兵夜嫁ーズの策謀!!」とかもやりたいと思います。


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番外編 宮白兵夜の眷属探し! 裏話

なんか、久しぶりに書いて熱がこもったのか、どんどんかけて困る。


 

6 裏話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事態は、兵夜が喫茶店で落とす以外に選択肢がない応募資料を一応確認している時にさかのぼる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兵夜達五人は、それぞれがそれぞれで忙しい為、一つ屋根の下に暮らしているわけではない。

 

 兵藤邸宅の離れに暮らしている、兵夜とナツミ。

 

 実は一応実家暮らし。ケジメとして大学を卒業するまでは親の庇護下で暮らしていこう。既に収入なら上回っているのは内緒だぞ♪ といった感じ桜花久遠

 

 教会側のエージェントという事から、教会側が用意した施設に住んでいるベル・アームストロング。そういう関係者の社宅らしく、食堂が併発されているので家事の手間が大幅に下がる至れり尽くせりな空間である。

 

 堕天使側のエージェントとして、流出しすぎた学園都市技術に対抗する為に各種研究機関に出向している小雪は、一応駒王町にある、堕天使の息のかかったマンションに一部屋入れているが、帰ってくる事はあまりない。

 

 ……そんな中、兵夜が保有する雑居ビルが一つ存在する。

 

 兵夜が極道の跡目争いで大活躍を経たことによって、この駒王町の裏の門番となったものたちが手にした雑居ビルの上部を、兵夜の好きにしていいと解放したのだ。

 

 手にした時点で兵夜による魔術師(メイガス)式の手直しが施されており、この建物内で悪意をふるおうと考えた者は途端に体調が大幅に崩れる事から、善良だが臆病な人物が店を持つのに非常に有効。その為このビルの店は、悪質な客が滅多に近寄らない奇跡のビルとして人気があり、結果として家賃収入で兵夜は普通に食っていける。

 

 後に召喚したアーチャーによって更なる強化改造が施されており、地脈から力を取り込む事によって頑丈化。コンクリート部分は空対地ミサイルの直撃を防ぎ切るほどに頑丈。悪意を持つ者やその影響下にある者が入ってきた時点で即座に位置を感知され、迎撃用小型ゴーレムが監視体制に入るという重装備仕様と化した。

 

 表向きには四階建ての雑居ビル。本命は隠された地下にある違法賭博場で、現在は、今後の異形と人間世界の関係変化を考慮し、別の部署に異動する形で話が進んでいる。とりあえずキャバクラにする予定であるが、兵夜がアーチャーの遺産を流用した精神干渉系の魔術を仕掛けた場所にして「借金しない程度に金を払いたくなる空間」にする予定だとか。

 

 上側の四階には色々な店や事務所が入っている。

 

 具体的には、一階にはコンビニや喫茶店、大衆酒場が入っている。二階は漫画喫茶が大半で、それとは別に洒落たBarがある。三階からは事務所が多く、兵夜が盃を交わした任侠関係での弁護士事務所などが入っている。四階はほぼ開いていたが、兵夜が異形に縁を持ってからは、彼らの為の施設にするつもりだ。グランソードの舎弟などをいつでも派遣する為に溜まり場を用意している。

 

 ……で、その屋上にはペントハウスがある。

 

 元は兵夜が非常時に備えたセーフハウスとして用意したものだ。

 

 ここだけ魔術による認識阻害のレベルが違う。それぐらいには兵夜は気を使っている。

 

 万が一、イッセーが変な連中の女に引っかかって追い回されている時に安全を確保できるようにする為に用意されたそれは、兵夜のセーフルームとしても機能していた。

 

 そして、それらの必要性が大いに薄れた異形社会真っただ中の現状。この部屋は時々兵夜が掃除に来る以外は、ナツミ達のたまり場と化していた。

 

 ……より具体的に言おう。ヤ〇部屋と化していた。

 

「……あ~。一発抜いた後のビールはうめー!」

 

 汗を拭くタオルだけを羽織りながら、小雪はそう言ってビールをごくごくと飲む。

 

 やってる事が親父臭いといった形ではあるが、しかし彼女はこの中では一番の常識人だ。

 

「ナツミちゃんナツミちゃん! 下着を嗅ぎながらオナ〇ーって覗いた相手も興奮するそうです! こんど兵夜様にやってみましょうか?」

 

「ん~……。それより僕は兵夜に首輪つけてほしい。飼い猫っぽくていいと思うんだけど」

 

「それいいですね! 私も兵夜様の眷属ですし、首輪欲しいです!!」

 

「カッハハハ!! じゃ、後でねだりに行くか!?」

 

 と、ベルはサミーマモードを適宜切り替えていくナツミとエロ方面で暴走談義を交わしている。

 

 そしてその隣では、久遠が目を閉じてバギゴギという咀嚼音と共に、見た目()()は美しいケーキを食べている。

 

「これは会長の作られたケーキ。つまりごちそう。だから美味しい……」

 

「ファファファック!!」

 

 とりあえず、ゴム弾を射出する拳銃で後頭部に一発ずつ叩き込んだ。

 

 ゴム弾といえど当たり所次第では人間を殺す事もできる。だが、この三人は生粋の武闘派の悪魔なので、ゴム弾どころかマグナム弾でも「痛っ」ですむ。つまり何の問題もない。

 

 実際後頭部をさすりながら涙目で済んでいるのが、この三人である。

 

 その文句たらたらな視線を全力の一睨みで突破し、小雪はビールの缶を握り潰すと説教を開始する。

 

「ベル。言っとくがそれで興奮するのは一部の特殊な性癖だけだ。兵夜はそういう方向の変態じゃねーから却下」

 

「はう! じ、実質気を付けます!!」

 

 ベルは素直なのでこれでいい。

 

 次からが問題だ。

 

「ナツミ。からかい半分でそういうのすんな。やるなら本気でねだれ」

 

「いや、俺様が言う事でもねえけどよ、ツッコミどころはそれでいいのかよ?」

 

 サミーマ状態でのツッコミが飛ぶが、小雪はスルーする。

 

 たぶんベルは本気で付けたがるだろう。そうなれば兵夜は素材から拘り魔術礼装としても最高レベルの首輪を作るはずだ。たぶん想定してナツミの分も作るだろう。

 

 冗談半分では流石に可愛そうだ。だから本気ならこの際認める事にしよう。

 

 そして、ある意味一番アホな事をしている久遠にツッコミを向ける。

 

「久遠。お前はSE〇の後になんつー意味不明なモン食ってんだ。咀嚼音がケーキじゃねえぞ?」

 

「意味不明じゃないよー! ソーナ会長が作ってくれたケーキだよー!!」

 

 別の意味で意味不明である。

 

 あのソーナに限って、忠臣極まりない久遠に嫌がらせをするとは思えない。だが、久遠の反応もあの咀嚼音も明らかにケーキとして落第点である事の証明だ。

 

 そんなものを、愛する女が自己欺瞞すらしながら食べる事を許容できるか。

 

 考えるまでもない。

 

 そして、そもそもこんな問題しか想像させないケーキを、潰せる弱点は潰すタイプだろうソーナが治さないなどという事があるか。

 

 考えるまでもない。

 

 そして、こんなあれ過ぎる欠点を、何故被害を受けている可能性が高いだろう眷属達は黙っているのか。原因は誰か。

 

 考える必要など欠片もない。

 

「……バラキエル。ちょっとセラフォルー・レヴィアタンに一言伝えといてくれ「あまり妹を甘やかしてると、知りうる学園都市技術全部ゼクラムに売るぞ」ってな」

 

 速攻でバラキエル(堕天使副総督)に電話して切ると、久遠は強引にケーキのような形容しがたい物をゴミ箱に叩き込むと、ついでに携帯に電話を入れる。

 

「……あたしだ、ソーナ・シトリー。今度兵夜と一緒にそっちに行く。久遠の今後の件もあって話がある。手が空いていたら魔王レヴィアタンも連れてきてくれ。ちょうどいいから纏めて相手したほうが早いからな」

 

 そして電話を切り、小雪はぽんと久遠の肩に手を置く。

 

「辛い事があるなら、あたし達を頼れ! たまに愚痴ぐらい聞く程度で文句言ったりしねえよ!! 解決の為に少し位力も貸す!! そーいう仲だろ、アタシらは!!」

 

「うぅ……小雪さんー!」

 

 涙をポロポロ流す久遠は、そのまま感極まって小雪に抱き着いた。

 

 それをしっかりと受け止めながら、小雪は久遠の頭をなでる。

 

「大変だったな。安心しろ、セラフォルー・レヴィアタン(現魔王)が切れるってんなら、こっちはヴァーリ・ルシファー(旧魔王)をそそのかすから」

 

 冥界最高峰戦士達による頂上決戦が、お菓子が不味いという凄まじくくだらないきっかけで生まれようとしていた。

 

 ソーナ・シトリー最大の欠点。それは、作るお菓子が明らかに人の食べる物ではないという事。そして、それを寄りにもよってドシスコンのセラフォルー・レヴィアタンが気に入っているという事。

 

 矯正を試みたらソーナがショックを受けるので、マジギレするセラフォルーが怖くて誰も言えなかった。

 

 だが、既に小雪は愛する久遠の窮地を見てマジギレしてるので遠慮なく地雷にグレネードランチャーをぶっ放すつもりである。

 

 実際こうしている間も、メールでヴァーリに「セラフォルーをマジギレさせるかもしれねーから、用心棒として参加してくれや」と告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、レヴィアタンVSルシファーの激戦が勃発。最終的に真後ろからのラリアットの不意打ちで撃沈され、セラフォルーの歴史に敗北の二文字が新たに刻まれる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがそれは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず空気が戻ってから、小雪達はここに来た目的に立ち戻る。

 

 四人でレ〇4Pをしたのはほぼ娯楽だ。兵夜も含めた五人は、ハーレムというより四角推のような関係である為、こういう事も間々ある。

 

 そんなわけで、兵夜抜きでの話をする時には、こういう流れもあったりするのであった。

 

「はい! じゃ、「第一回! 兵夜のおよめさんどうしましょー会議」を始めたいと思います!」

 

 ぱちぱちぱち……

 

 ナツミが元気よく可愛らしい声で会議の題名を謳いあげ、拍手が巻き起こる。

 

 割と軽いノリの中、本題に入った。

 

「んじゃ議長のナツミ。話を進めな」

 

「OK小雪! でね? 最近兵夜あてに「眷属になりたい」って感じの売り込みの資料がたくさん来てて、兵夜は一応目を通してお断りの手紙を書いたりするのに忙しくて、最近一緒にえっちできないんだ」

 

 小雪に促されたナツミの発言が全てだ。

 

 実際問題、捌く数が意外と多い所為で、兵夜はくたびれたサラリーマンのような生活を送っている。

 

 急激に成長した霊地に合わせた開発計画を行なっている、兵夜の領地に作られる魔術実験都市メーデイアの業務。

 

 積極的に関わった事でどうしてもしなくてはいけない戦後処理の書類作業。

 

 それに加えてこの大量の眷属候補生を捌くという一仕事。

 

 過労で倒れてもいいんじゃないかというぐらいに、兵夜は仕事をしていた。最近は同居しているナツミぐらいとしか顔を合わせていない。

 

 だが、問題はそれをどう解決するかではない。

 

「……兵夜と一発こませねーのは問題だが、今は別の事を気にするべきだな」

 

「分かってます小雪ちゃん。実質気にするべきは、今後入ってくる兵夜様の眷属ですね」

 

 ベルがぐっと堪えた表情になり、そこに久遠が指を一本立てる。

 

「兵夜君のお嫁さん、どうにかしないといけないもんねー」

 

「うんうん。貴族の人がせーりゃくけっこんってののためにこしいれさせるってのもあるだろうしね!」

 

 ナツミのしたっ足らずな言葉に、全員が額に軽く汗を浮かべて頷いた。

 

 この問題、おそらく想像している内容はずれているだろう。

 

 この四人は政略結婚目的の女を兵夜に寄せ付けない事を計画しているのではない。

 

 その前に本妻を選ぼうとしているのでもない。

 

 立場上本妻となる女に対して、マウントをとる計画をしているわけですらなかった。

 

「……じゃ、どんな人が兵夜のお嫁さんに相応しいか、考えるよ!」

 

 大体ナツミの発言の通りの事をしに来たのだ。

 

 誰一人として、自分を正妻の座に据えようなどと考えていない。

 

 勘違いしないでほしい。ナツミも久遠もベルも小雪も、宮白兵夜という男を恋愛対照的な意味で愛している。L・O・V・Eしているのだ。

 

 だが、それは自分がその座を独占したいなどというものではない。

 

 兵夜が一番という、まともな恋愛指向性があるナツミが特殊だ。兵夜含めたこの五人基本的には五人が五人のことを大体同レベルで愛していて、それ以上の大好きな者がいるのが基本パターンである。

 

 イッセーを信仰すら射している域の宮白兵夜。

 

 ソーナ・シトリーの剣足らんとする桜花久遠。

 

 天使長ミカエルを至高の存在と仰ぐベル・アームストロング。

 

 上記三人に比べればまともだが、しかしアザゼルや朱乃などに分散しているからこそまともと同等の状態になっている青野小雪もイレギュラーだ。

 

 自分を二重の意味で救ってくれた兵夜を愛しているナツミは常人の価値観に近いが、愛される使い魔という立場を気に入っている為、此方も本妻などという立場に興味はない。

 

 と、言うよりだ。

 

「兵夜のお嫁さんなんて面倒くさい事してくれる人だからね。仕事ができないと駄目だよね!」

 

「「「確かに」」」

 

 ナツミの言葉に頷いた三人の反応が全てを物語っている。

 

 ワーカーホリックの奉仕体質と形容できる兵夜の妻ともなれば、公私共に彼を支える立場だ。

 

 ただでさえ、優秀な者は多芸である事とが求められる異形社会。上級悪魔ともなれば二足三足の草鞋を履くのは当たり前だ。

 

 しかも兵夜は上級悪魔になった事で魔術師組合の長として名実共にトップに立っている。更に、グレモリー眷属の参謀格として頭を使う立場だ。そこに、四大魔王に顔が利く貴族主義の理解者として、ゼクラム・バアルから頼りにされるだろう。

 

 忙しくなる事は確定的に明らか。なんだかんだで適度に気を緩める時は作る男ではあろうが、なまじ仕事ができるので妻の負担は大きくなるだろう。

 

 本妻になりたいわけでもないうえに、大量の仕事が来るのは真剣に勘弁してもらいたい。

 

 ナツミは遊びたいだけな所があるが、他三人はそもそもそんなに余裕があるわけでもない。

 

 久遠はアウロス学園の武術指南があり、有事におけるソーナの護衛筆頭格だ。ソーナは下級中級の成長に理解が薄い大王派の旧家があまり好きではないので、そのサポートをするのは、久遠としても気が引ける。

 

 ベルと小雪はそれぞれミカエルや神の子を見張る者(グリゴリ)のエージェントでもある。最近は駒王町にずっぷしだが、五の動乱が終わった事で、駒王町近辺の能力者暴走事件などに駆り出される事も多いのだ。

 

 そこに自業自得で失脚し失墜した大王派のフォローまでする気はない。

 

 兵夜の言っている事も分かるが、今後も老害に足を引っ張られる可能性を残すというのも気が引けるので、積極的に手を貸す気はなかった。

 

「後私達の関係にとやかく言わない人がいいです。悪魔はハーレムを作っている人が実質多いですが、そういうハーレムの1人の生まれ……とかどうでしょうか?」

 

 と、ベルは今後の自分達との関係も考慮した意見を提示する。

 

 それもそうである。正式に兵夜の妻となるのなら、自分達の関係に対して思うところがあるかもしれない。

 

 それが原因で揉めるのは嫌だ。そして、それが原因で兵夜から離れるのも嫌だ。

 

 四人は心の底から「場合によっては引きずり込める相手がいい」という条件を設定した。

 

 そして目と目で通じ合ったところで、今度は久遠が指を一本立てる。

 

「兵夜君本人のことを気に入ってくれる人が、一番いいのは確実だしねー。なんていうか、兵夜君に好意を抱きそうで、人格的にもまともな人がいいかなー」

 

「あ、そこは実質失念してました!」

 

 ベルがはっとなって、自分達のうっかりに気づく。

 

 確かにそうだ。

 

 兵夜と結婚するのなら、兵夜といい関係を築いてもらいたいところだ。

 

 ただ能力やルックス、財力が優れているからそれでいい、といったタイプでは、なんというか関係性がドライになりすぎるだろう。

 

 もちろん、兵夜のことを好かないタイプなどNG。お見合い結婚でもそれ相応の意気投合はあってしかるべきだ。

 

「OKOK。 んじゃ、事務仕事ができてハーレムに理解があって、かつ兵夜に好意を抱きそうな性格が腐ってねえ女……って事でいいか」

 

「「「異議なーし!」」」

 

 小雪がまとめて三人が賛同し、そして小雪は魔法陣を展開する。

 

 そしてそこに映った人物の隣に、まとめた要望書を転送すると、四人は一列になって頭を下げた。

 

「「「「それではよろしくお願いします、初代バアル様」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼクラム・バアルは心から思っていた。

 

 どうしてこうなった。

 

 宮白兵夜が眷属関係で苦労しているのは知っている。今後も似たような事があるから今は静観しているが、そろそろ助け船を出そうかと考えていたところだ。

 

 現在、ゼクラム達大王派は虫の息と言ってもいい状態だ。

 

 リベラル筆頭の魔王派の権威拡大。寄りにもよってこちら側だったベリアル家の最強格であるディハウザーによる、レーティングゲームの不正や王の駒の無断使用の公表。そしてそれらによって自棄を起こした王の駒使用者の失踪の数々。

 

 身から出た錆と言えばそれまでだが、大王派の権威は地に落ちかけた。

 

 だが、捨てる神あれば拾う神あり。と言うより、本当に拾ってくれる神がいた。

 

 そう、神喰の神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)こと宮白兵夜である。

 

 彼は五の動乱における犯行作戦にも大王派側の権益などを上手く組み込み、事態解決の功績の一部をこちらに与えてくれた。

 

 更に魔術師組合の拠点となる建設中の魔術研究都市メーデイアの警備関係や、歓楽街なども大王派の息のかかった会社にするなど、大王派の壊滅だけは何としても阻止するべく精力的に活動。結果として魔術師組合という組織は大王派を守る防壁として機能するまでになった。

 

 元より、宮白兵夜はリアス・グレモリー眷属ゆえにリベラルにも理解を示す。しかし、リアス・グレモリー眷属では異例というほどに血統についても理解を示していた。

 

 魔術師(メイガス)の力は歴史と血に宿る。魔術回路の真価と魔術刻印の継承の都合上、下手をすれば上級悪魔以上に血統には拘り必要のある能力を宿す者達。それが、魔術師(メイガス)という能力者だ。

 

 故に、魔術師を御する為には大王派の存在が必要不可欠。兵夜はそう言い、その為事実上の蝙蝠として動いている。

 

 流石にこの前代未聞の危機を救ってくれた恩人には報いなければならないだろう。そも、彼を失えば今度こそ大王派は―真の悪魔である上級悪魔の世界は終わる。

 

 ゆえにゼクラム・バアルもまた、自陣営から一人送り込むつもりだった。

 

 あのゼクラム・バアルの肝入りで送られた眷属を保有すれば、魔王派も少しは慎重に動くだろうし、半端な連中はしり込みするだろう。

 

 かと言ってこちらの人材なら誰でも良いというわけではない。

 

 宮白兵夜は転生悪魔としては優秀かつ貴重な存在だ。それに見合った人物にする必要がある。

 

 まず、この期に及んで彼を元人間だからと見下す手合いはNGだ。

 

 兵夜の足を引っ張るだけになるのは目に見えている。そんな人材を送れば、流石の兵夜も此方との付き合い方を変えてくる可能性もある。悪手でしかない。

 

 かと言って優秀なら良いと言うものでもない。

 

 あまり年季が入った人物を送り込めば、傀儡にするつもりかと周りが邪推する。

 

 この非常に慎重に動かなければならない時に余計な介入や横やりを入れられては堪ったものではない。

 

 ついでに言うと、実績がありすぎるのも問題だ。

 

 大王派と言えど中には過激派もいる。そういった手合いが暴発するような事は避けねばならない。最上級悪魔クラスの逸材をトレードで送り込むような強大すぎるプレゼントは避けねばならない。

 

 割と頭を悩ませる問題だ。彼自身の癖も強いから尚更、人材選出は厳選する必要がある。

 

 そして、そこに来てとんでもない方向からとんでもない追加注文が来た。

 

「一言聞いてもいいだろうか。……何故兵夜君の本妻的立場を条件に付けたのかね?」

 

 お前ら兵夜の恋人だろう。

 

 雑に形容するならそういうツッコミを、ゼクラムは内心でぶちかました。

 

 こちらが兵夜に人員を送り込む事は、おそらく結構な人数が把握するとは思っていた。

 

 まず兵夜自身に入ってないが、確実に彼は想定して動いている。サーゼクスやアジュカ、アザゼル辺りも確信しているだろう。リアス・グレモリーや兵藤一誠には兵夜自身が話の種で推測を語っているかもしれない。ソーナ・シトリー辺りも可能性を高く見積もっている事だろう。

 

 だからそれらから何かしらの意見が出てくるかもしれないとは思っていた。

 

 そして、今通信越しに頭を下げている四人は兵夜の恋人達だ。

 

 中々聡い者もいる。なら、勘付かれてもおかしくない。

 

 だから、彼女達が要望をつけてくる事そのものはどうでもいい。

 

 問題は―

 

「……何故本妻にする事が前提なのかね? 普通は逆ではないだろうか?」

 

 -送り込むなら嫁にすること前提などという、予想の斜め上を回転して飛んで行ったこの内容である。

 

 他の要望はいい。そこに関しては問題ない。

 

 仕事が多い兵夜に気に入られる文官タイプの人員は選択肢の範囲内だ。兵夜個人が気に入るようなタイプの人員にすれば、兵夜からの好感度も上げられるので良い事尽くめだろう。

 

 だが、ハーレムを持つ男の本妻として、それらに理解がある事などと、「本妻」としての条件が付けられたのは意外だった。

 

 できる事なら縁故関係は結びたい。大王派の血族と縁故関係にできれば、魔王派との駆け引きにおいて有利に働く。ただでさえ若手魔王派筆頭格のリアス・グレモリーの眷属なのだから、その程度の繋がりは必要だと言ってもいい。

 

 だが、不倫はしないといい、政略結婚に関しても必要性は認めながらも自分がするに対して微妙な表情だった兵夜相手に、即座にするのは関係悪化の危険性があった。

 

 魔術師組合の世代交換が行われない限り、宮白兵夜が大王派を切る事はほぼありえない。なので強引に関係を深めようとして裏目に出るような博打に出る必要は今のところない。

 

 彼との茶会において話した会話でも、少なくとも眷属を一気にコンプリートするつもりはなさそうだった。方針としては武官と文官を一人ずつにしておくつもりらしい。

 

 なので、彼自身が政治謀略に優れている事から此方との連携の為に文官肌を送り込み、魔王派にはこっそりと武官を送り込ませてバランスを取らせようなどと考えていた。

 

 それが、真っ先に来た注文が「嫁前提」である。

 

 ゼクラムでなくても突っ込みを入れるだろう。

 

『あん? そっちとしても政略結婚で縁結べるなら、喉から手が出るぐらい出してー相手だろ?』

 

 小雪はそう言うが、ゼクラムとしてはそう言う事ではなかった。

 

「……君達は彼を愛しているのだろう? 横からいきなり本妻となる人物を送り込まれて、それでいいのかね?」

 

 凄まじい一般市民じみたツッコミだった。

 

 愛より優秀かつ健康な子供を生んでくれる事を重要視するだろう、自分達古い悪魔が何でこんな凡俗の価値観を態々念押ししなくてはいけないのだろうか。

 

 心が寂しくなったゼクラムだが、現実は残酷だった。

 

『なんかボクらの関係、ハーレムとはもう別物だしいいんじゃない?』

 

 ナツミといった兵夜の使い魔が、きょとんとしながらそう言った。

 

 実に可愛らしいが、語る内容はどうかと思う。

 

「いや、私はてっきり、本妻は君達の誰かになるかと思ったのだが―」

 

 そして、そうなると血統に拘る者が多い大王派から政略結婚目的の人材を送るのは大変だろうとも思っていた。

 

 プライドの高い者が多いだろうから、間違いなく揉める。そして兵夜との関係が悪化する事もありうる。

 

 それを避ける為にも慎重に動くつもりだったのに、何故か背中を押されている現状に戸惑っていた。

 

『え、本妻? ボクこのポジション好きだし』

 

 まっすぐなナツミの返答が飛んできた。

 

『ゼクラム様ー。レーティングゲームの真っ最中に愛人ポジションを勝ち取った相手が、今更本妻とかあれじゃありませんかー?』

 

 確かにそうだ。

 

 だが、桜花久遠よ。なら最初から恋人の座を勝ち取ったらどうなのだろうか?

 

『お、恐れ多いです! あ、仲間になるのでできればフランクな方だと実質感謝します!!』

 

 ベル・アームストロングはハーレムを女友達の集まりと勘違いしていないだろうか。

 

 兵藤一誠やライザー・フェニックスのハーレムはどちらかというと珍しい部類だと思うのだが。大王派や魔王派でそういうことしている中でも、立ち位置を狙って水面下の争いがあることは多いし。

 

『別にアタシらはその辺ファックなまでに寛容だっつの。あ、夜伽の技術はアタシが教えれるから下手でもいいぜ? 本妻に興味がないでもねーが、そういうのにこだわるような人生経験送ってねーしな』

 

 転生者は壮絶な人生を送っている者がいるようだ。だがそれでいいのだろうか?

 

「……分かった。候補を選別して君達にも吟味してもらう。数日程待っていなさい」

 

 そう告げて通信を切ったゼクラムは、使用人を呼び出す為の鈴を鳴らすと、ため息を付いた。

 

「………………………………………………………これが、若さか」

 

 なんか、とても疲れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のちに、理由はともかく疲れている事を見抜かれたのか、兵夜に日本の温泉地への招待券を譲られた。

 

 ひ孫であるリアス・グレモリーが日本通な理由が分かりそうになった、ゼクラム・バアルであった。

 




凄まじい勢いで書きまくってしまっています。困ったもんです。これほぼ一日で書ききったし。

まあ、ちょっとしたお祭り的な感じで少しやってみるつもりです。キャラが多すぎてもう少し踏み込んで書くべきだったキャラが一人いるので、そのあたりをやってみようかと。


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番外編、いい男はやろうにもモテるってよくいうよね

さて、結構筆が進んでしまっているので、また投稿します。

元E×Eを完結させなければコラボは書けないけど、筆が進んで進んで。








とりあえず、本編ではあまり描写できなかったスパロを掘り下げて書いているところですね。


 

「イッセー。姫様は今日来ないのかよ」

 

 俺は真剣に姫様に来て欲しかった。

 

 政略結婚。魔術の世界に生きていた俺としても、比較的身近なものである事は知っていた。

 

 なにせ、魔術業界で子だくさんというだけで比較的珍しい。その上子供が全員魔術の心得があるというのも更に珍しい。

 

 ポテンシャルはそこまで高くないが、しかし魔術が好きだから魔術をやっている前世の俺の家は、その在り方ゆえに広く浅く魔術を知り、礼節を弁えれば縁故関係の物にも資料を見せたりする家でもある。いや、聖杯戦争関係は限度があるので秘匿しているが。

 

 まあそんなわけで、俺も結婚に困る事になったら政略結婚でいいとこの魔術師の助手兼の種馬になるかもなーとか、不安半分逆玉の輿気分半分だったりした事もあるわけだ。

 

 そしたら政略結婚を裏の目的としているとしか思えない女性を眷属にする事になってしまった。

 

 ………マジどうしよう。

 

 なので政略結婚絡みで困っていた姫様とマジ会話がしたかったんだが、色々忙しくて家で顔を合わせている暇がなくてなぁ。

 

「宮白、お前ハーレム強化するとか羨ましいよ糞たれ」

 

「真顔で何言ってんだこの馬鹿。今だお前より数少ねえよドアホ」

 

 俺、シルシを含めてもまだ五人なんですけど。

 

 そして、イッセーの場合を計算してみよう。

 

 雪侶、姫様、アーシアちゃん、朱乃さん、小猫ちゃん、ゼノヴィア、イリナ、ロスヴァイセさん、レイヴェルはほぼ確定。

 

 更にヴァーリチームのルフェイが迫りくる寸前。京都では九重(くのお)が良い線行っている。

 

 また黒歌の好感度もどんどん高まっており、以前出会った吸血鬼のエルメンヒルデ・カルンスタインも、フィフス討伐作戦で出会った時にイッセーを気にしていた節がある。

 

 この時点で合計13人だ。神滅具と同じ数だけ誰もが認めるような美少女を惚れさせるとか、信じられん。

 

 シルシは未定なんだから、俺はこいつの三分の一もフラグ立ててない。なんで妬まれるんだ俺は。

 

「おいハーレム王。人の三倍近い人数にフラグ立てといて妬むんじゃねえよ。しかもお前の場合はディスアドバンテージまで乗り越えてだってのに」

 

「ディスアドバンテージってなんだよ!?」

 

「フィフスの味方するわけじゃねえが、覗きやらエロ本堂々と公開するような奴は普通モテねえんだよ」

 

 ばっさり切り捨てれるってのがあれだ。

 

「そ、そんなことはないです! イッセーさんはいつもでも素晴らしい人です!」

 

 アーシアちゃんがそうフォローするけど、現実問題どうかと言われると……。

 

「変態は、かなりのハードルですよね」

 

「ガントリークレーンって言っていいぞ、小猫ちゃん」

 

 ほんと、いい加減にそういうところは治した方がいいと思うんだが。

 

「まあいいじゃないか。イッセーは確かに変態だが、とてもまっすぐな変態だ。いい男だと断言していいぞ」

 

 ゼノヴィアはそう言うが、しかしそうもいかないだろう。

 

「変態ってのは、人によってはそれを補って余りある欠点なんだよ。っていうかゼノヴィア、生徒会はいいのかよ」

 

 生徒会長が、この高頻度でオカ研の部室に来るのはどうなんだ?

 

 俺はジト目を向けるが、ゼノヴィアは堂々と胸を張った。

 

「安心しろ。此処に行く事は言っているから、何かあれば誰か呼びに来る」

 

 コンコン

 

『失礼します。ゼノヴィア会長はそこにおられますか?』

 

 沈黙が、五秒ほど響いた。

 

「何かあったらしいな?」

 

「む……」

 

 噂をすれば影とはよく言ったものだ。ゼノヴィアも少々顔が赤い。

 

 まあ、そのままにするというわけにもいかないだろう。

 

 俺達がOKを出すと、部屋に入ってくる少年がいた。

 

 確か一年の百鬼(なきり)黄龍(おうりゅう)だったな。

 

「やあ百鬼君。ゼノヴィアの引き取りか、それとも五大宗家からイッセーか俺に依頼かい?」

 

「レポートを確認してもらうだけですよ。依頼については機会があればって事で」

 

 俺の軽口を華麗に流すこの少年。実は異形側の人間でもある。

 

 日本を古来より守ってきた、この国の異能関係者の大御所中の大御所。五大宗家。

 

 地を司る黄龍の百鬼。

 

 火を司る朱雀の姫島。

 

 金を司る白虎の真羅。

 

 木を司る青龍の櫛橋。

 

 水を司る玄武の童門。

 

 この五つの家系は大抵上述の属性に由来する力を持っている。そして、当主となる者は代々霊獣の名前を継ぐというわけだ。

 

 つまり、百鬼家の出身でその担当する霊獣である黄龍の名を持つこの少年。凄まじいエリートである。

 

 因みに俺は色々と調べている過程でそれに行き当たり、既に個人的に接触している。

 

 地を司る百鬼の家系、それも黄龍の加護を受けた者は地脈から力を得る事ができるそうだからな。地脈を利用して工房などに利用する魔術師としても、話を聞いて損はなかった。

 

 そんな百鬼は、きょろきょろと俺達を見渡している。

 

 ……ん?

 

 ああ、俺はある事に気が付いた。

 

「ああ、そう言えば俺やゼノヴィア以外とは、ろくに面識がなかったな」

 

「そうだったか?」

 

 ゼノヴィア。お前、なんで足りない時はどこまでも足りないんだ。

 

 百鬼もため息ついてるぞ。後で謝っとけ。

 

「後で紹介するとだけ言われて、そのままでした」

 

「すまんすまん。まあ、宮白は既に会っているが紹介しておこう」

 

 と、立ち上がったゼノヴィアは百鬼を横に並ばせて、改めて紹介を始める。

 

「こいつはうちの生徒会に所属する書記だ。一年の―」

 

「百鬼勾陳(こうちん)黄龍です。皆さんの噂は色々と伺っています」

 

 丁寧な挨拶だ。

 

 まあ、名前ぐらいは新生徒会のメンバー発表で知られているだろう。ゼノヴィアも連れて歩いているから、見た事はあるはずだ。

 

 とはいえ、新生徒会との接触は少ないのが真オカルト研究部。顔と名前を一致させたのは今回が初めてではないだろうか。

 

「なんつーか、日本人の割には長い名前だな」

 

 イッセーがそう尋ねる。

 

 まあ、確かにそうなんだが―

 

「御大層な家系の次期当主だからな。ミドルネームの一つぐらいはあるだろ」

 

 俺はそう言っておく。

 

 魔術師の名門中の名門とかにも、ミドルネームなどがある場合はある。時計塔のロードとかは、大抵ミドルネームを与えられてロードなんちゃらと言われる事が多いからな。

 

 こちら側でいうと……リゼヴィム・リヴァン・ルシファーのことを思い出すな。

 

 最悪の例えだ。我ながら他に引き合いに出せる奴はいなかったのかと反省したい。百鬼には絶対に言わないでおこう。

 

「厳密には諱ってやつです。百鬼でも黄龍でも好きに呼んでください」

 

 うん、気前の良い奴だ。

 

「百鬼君、こんにちわ」

 

「ここでお会いするなんて、珍しいですわね」

 

「コーチン、仕事?」

 

「よ、いつもの三人組。それとコーチンはやめろって言ってるだろ。……名古屋コーチンみたいでいやなんだよ」

 

 とまあ、顔合わせしていたのか、一年生組が和気あいあいとしている。

 

 まあ、一年の異形関係筆頭格だからな。面識はそこそこあるんだろう。

 

 そんな事を想っていると、百鬼はイッセーに強い視線を向けてきた。

 

 ん? 生徒の風紀にも関わるイッセーとしては、やはり覗き魔のイッセーは困ったものか?

 

 いや、にしては強い熱視線だな。これはマイナスというよりプラスの感情に近い。

 

「赤龍帝の兵藤一誠先輩」

 

「ん? な、なにかな?」

 

 イッセーが戸惑っていると、百鬼はずずいと言った感じに前に出る。

 

「俺、先輩のことリスペクトしてます」

 

「り、リスペクト? なんで?」

 

 いや、戸惑うなイッセー。

 

 冷静に考えればお前、冥界の大英雄だろうに。普通に考えてシンパの一人や二人ぐらい出てくるだろう。

 

「そう言えばゼノヴィア。百鬼は黄龍の名前を受け継いでるわけだろ? 動きから見ても相当鍛えているようだが、どれぐらいだ?」

 

「かなりできるぞ。単純な体術なら通常禁手のイッセーと渡り合えるだろうな」

 

 ほう、そこまでか。

 

 既に通常禁手ですら、イッセーは最上級悪魔クラスある。並大抵の上級悪魔ならまとめてぶちのめせるだろう。

 

 最近は乳乳帝の簡易発動も可能になってきているらしいし、下手をしなくても神クラスに到達しているはずだ。

 

 そのイッセーと勝負になるとは、黄龍の加護を受けるだけの事はあるという事か。

 

 しかしこの学園、どんどん魔境と化しているな。

 

「イッセー君は人気者だね」

 

「まったくね。ダーリンが人気者だと鼻が高いわ!」

 

 と、木場とイリナがうんうんと頷いていたが、しかしこれは人気者だろう。

 

 そろそろ真剣に臣下とかも出てくるかもしれねえな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 などと思っていたら本当に臣下志望が来たよ。

 

 主の姫様とイッセーの秘書のレイヴェルに意見を求められ、イッセーの付き添いという形で連れてこられた俺は、それを見た。

 

 なんかどっかで見た事あるドラゴンを一回り小さくした感じのドラゴンが、イッセーに対して畏まって跪いている。

 

 ………どういう事だ?

 

「お初にお目にかかります。某は、最上級悪魔タンニーンの息子、ボーヴァ・タンニーンと申します」

 

 ………あの竜王タンニーンに息子がいたのか。いや、いてもおかしくないぐらい長生きしてたはずだけども。

 

 で、そんな人物が何でここに?

 

「赤龍帝、兵藤一誠様にお願いがございまして、この場に参じております。ぜひ、某めをあなたの臣下にしていただきたく、参上つかまつりました!」

 

 空間に響くボーヴァの声を理解するのに、ちょっと遅れた。

 

 イッセーを見ると、思考が完全に止まっているのがわかる。

 

 さて、ちょっと耳をふさいで―

 

「ええええええええ!? 臣下ぁあああああ!?」

 

 やっぱり大声出した。

 

 至近距離で大声出されると耳に悪いからな。ふさいでおいて正解だった。

 

 ふむふむ、まさかもう来たか。

 

 半分冗談で臣下ができることを想定していたが、ここまで即座に来るとは思わなかった。

 

 それも、龍王タンニーンの息子とはすさまじい。姫様に勝るとも劣らぬ引きの強さだ。いや、勝手に来てるんだが。

 

 しかしなるほど。それで俺が選ばれたわけか。

 

 そういう人材関係なら、俺のポテンシャルはオカルト研究部でも優れている自負があるからな。いや、引きの強さでは姫様には負けるが。

 

 ……いや、魔王末裔に魔法使い組織のエリートに上級悪魔の子女と、俺の眷属もかなりのポテンシャルだ。なんだかんだで負けてないな。

 

 などと思い直していると、レイヴェルがイッセーに耳打ちしてきたので、俺も聴覚を強化する。

 

(……「破壊のボーヴァ」という蔑称がつくほどの荒くれ者として、冥界では有名ですわ。素行の悪さゆえにドラゴンに敬愛されるタンニーン様のご子息とは思えないほどとか)

 

 ……めちゃくちゃかしこまってるんだが、マジかレイヴェル。

 

 そして、今度は姫様が耳打ちしてくる。

 

(だけど、タンニーン様のご子息の中では最強とも言われているわ)

 

 ……何というか、凄い人物が来ているようだな。

 

 で、今度は俺の耳打ちを視線で要請してくる一同。

 

 俺は速やかに考えると、魔術でボーヴァに声が聞こえないようにして、速やかに告げる。

 

「……龍王タンニーンの性格からして、こんな押しかけで息子が来るのは止めるだろうし、事前連絡をさせるはずだ。たぶん独断だな」

 

 そういうと、俺は一歩前に出る。

 

「ボーヴァだったか。俺はイッセーの親友の宮白兵夜だ」

 

「存じ上げております。一誠様と並び立つ神喰の神魔(フローズヴィトニル・ダビデ)にお声を掛けられるとは、某は歓喜に堪えません」

 

 ………。

 

 こいつ、できる。

 

 にわか仕込みのファンだと思ったが、どうやら礼節をわきまえる能力があるようだ。荒くれ者だとはとても思えぬ人物だろう。

 

「一つ聞こう。それはイッセーの眷属になりたいという売り込みか何かか?」

 

「滅相もございません!」

 

 大慌てで、ボーヴァは首を横に振った。

 

 ん? だが上級悪魔の臣下というならば、それはもはや眷属になりたいということじゃないか?

 

「一誠様は眷属を女人で構成されたいという野望を持っていることは某の耳にも入っております。某めは、ただの部下、兵士としてお仕えしたいと思いはせ参じました!!」

 

 ………すごいことになったな、おい。

 

 イッセーの師の一人ともいえる、龍王タンニーンの息子。

 

 それがイッセーの傘下になりたいとは驚いた。これはまたすごい展開だ。

 

 さて、どう判断したものか。

 

 俺はイッセーに視線を向けると、明らかに戸惑っていた。

 

 だが、それはちょっと困る。

 

「イッセー。お前としてはどうなんだ……といいたいが、いきなりこれは難しいか」

 

 イッセーは一般市民感覚が強いからな。出世の速度が凄まじすぎて、上の立場という認識が薄いはずだ。

 

 俺なんかは割と支配下に置いている舎弟が多いからこの辺は対応できるんだが、さてどうしたものか……。

 

「え、えっと……」

 

 イッセーは腕を組みながら考えこみ―

 

「……と、とりあえずもう少し考えてもいいかな?」

 

 まあ、その辺が妥当か。

 

 とはいえフォローをしておくべきかもしれんが―

 

「ボーヴァ。イッセーは上級悪魔になりたてで、まだ少し戸惑っている。それに今日初めて会ったばかりでは対応に苦慮するだろうしな。少し時間を与えてやってはくれないか?」

 

 さて、これでどう出るか。

 

 などと思っていたら、ボーヴァはさらに大慌てした。

 

「こ、これは失礼いたしました! 某としたことが、急ぎすぎたようです! お考えいただけるだけでも十分でございます!!」

 

 大げさすぎだろ。

 

 まあしかし、なんだろうな。

 

「お前、最近女だけじゃなくて男にもモテてるなぁ」

 

 ヴァーリに匙にサイラオーグ・バアルに曹操にクロウ・クルワッハ。

 

 男、それも実力者ばかりがイッセーに興味津々だ。これも人徳かねぇ。

 

「お、俺としては女の子にもてたいなぁ!! いや、ここまでありがたがられるのはありがたいけど!!」

 

 はっはっは。まあ頑張れ。

 

 お前のことだから最上級悪魔もすぐだろうし、そうなったらきっとこの程度じゃすまないぜ、マジで!

 




百鬼とボーヴァについて、兵夜の視点からというある意味変化のない話でした。


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番外編 難易度の高すぎる仕事を「お前ならできる」といって押し付けてくるのは十分パワハラである。

 

 この俺、宮白兵夜は転生悪魔でありながら上級悪魔に昇格した、出世頭である。

 

 なにせ自発的に蹴ったとはいえ、転生後一年足らずで最上級悪魔にすら手が届いた身だ。そのネームバリューは凄まじく、こと政治の分野においては卓越していると言われてもいいと自負している。

 

 なにせだ、これは落ち目の大王派を立て直した実績がある。これは非常に大きいのだ。

 

 まあ、その所為で魔王派や一般市民の中には不満を抱く者もいるだろう。実際大王派の多くは下級中級を見下している者が多く、かなりの不正がすっぱ抜かれているからだ。

 

 だがしかし、待ってほしい。

 

 悪魔というものは努力で大きく伸びるところもあるが、経験で自然と能力が成長するところも大きい。そして、その経験で伸びる成長が凄まじいのだ。

 

 上級悪魔クラスは最低でも爆撃機じみた大破壊を実行する事ができる。その気になれば表の軍隊の一個中隊や二個中隊を滅ぼす事もできるだろう。そして、由緒正しき上級悪魔の血を継いで生まれれば、自然な成長だけでそれに至れる。

 

 なら、血統主義が生まれるのは間違った事ではない。これを全否定するのは逆に現実を見ていない発言だろう。

 

 そして魔術師(メイガス)もそうだ。

 

 魔術師というものは、魔術回路という一種の内蔵を持って生まれてくる生き物だ。

 

 そして魔術師は基本的に一点特化で魔術の鍛錬を行ない、それを次の世代に継承させていく。

 

 継承させる為に動物の交配や、種馬や母体となる魔術師本人に処置をする事で、魔術回路の本数が多い子供を生むようにするのが、魔術師の基本思考だ。この魔術回路も、突然変異が起きなければ親の影響を色濃く受ける。

 

 そして、跡取りに与えられる魔術刻印。これらの製造に関してはアーチャーの協力もあり低ランクだが比較的楽に製造できるが、これだけでは意味がない。魔術刻印とはその魔術師の一族の神秘の結晶にして、跡継ぎが委嘱する臓器のようなものだ。

 

 これまた代を重ねるごとに強化されていき、これを保有する魔術師は保有しない魔術師よりも数段優れた存在になりえると言ってもいい。

 

 世代ごとの魔術回路の発展と、世代を重ねて強化されていく魔術刻印。この二つの存在ゆえに、魔術師という生き物は血と歴史を重んじる血統主義にして貴族主義が醸造される事となるのだ。

 

 まあそんなわけで、そんな魔術師達が集まる魔術師組合。議論が白熱するまでもなく、基本的に血統主義の大王派と馬が合う奴らが多い。

 

 魔法使いの契約じみた個人的契約として大王派にサブのパトロンとなってもらっている者など序の口。魔王派優勢の現状であろうと、「道理が分からない者達はいつかは衰退する」などという遠回しの魔王派の罵倒を公言している親大王派を公言する輩もそこそこいる。眷属悪魔としての契約に関しても、転生悪魔からの成り上がりよりも、72柱や番外の悪魔など、きちんとした血統が分かる悪魔をステータスとして下僕となる悪魔も多い。中には家の特性を取り込む事を目的として、わざと側室に収まる女性魔術師もゴロゴロいる。

 

 ぶっちゃけ、魔術師組合は大王派と蜜月関係だ。もちろん魔術師の中にも「世代が浅くとも優秀な者はいる」ことを認識する派閥もそこそこおり、そういった手合いは魔王派とも繋がるが、血統以外に理解があるのと血統を大事にしないのとではまた違う話ではある。彼らも基本は大王派の擁護ぐらいする。

 

 まあ、必要とあらば手段を選ばない魔術師は基本あくどいが、同時に貴族的ゆえに誇り高い者も多い。そういう手合いは不正しまくりで自爆したと言ってもいい大王派より、誠実かつクリーンに物事を勧めたがる魔王派に就く者もいる。大王派シンパの連中も、組織内で決められた方は守った方がいいから、その辺のけじめはつけるべきだという考えはいるので、汚職にまみれた者達が一掃される事まで止めたりはしない。

 

 なので現状は内乱になったりはしていない。魔術師は後の世代に希望を繋げる生き物でもあるので、将来的に由緒正しき血統の魔術師と上級悪魔の発達が相互協力でなせると理解しているから、余程の事がない限り大王派を支援してのクーデターは起こさないだろう。

 

 話は長くなったが、魔術師組合としては大王派に対する支援をなくす事はできないという話だ。

 

 で、ここで俺に問題が発生する。

 

 なにせ俺の主はリアス・グレモリー。魔王派筆頭の現魔王最強格、サーゼクス・ルシファーの実の妹だ。

 

 こと情愛の深いグレモリー家出身である事もあって、一族総出でベクトルは魔王派。こと不正などを嫌う高潔な人物が数多い。

 

 しかし俺が運営する魔術師組合は、基本的に大王派主流だ。

 

 ……陰口で蝙蝠扱いされている事はとてもよく理解している。

 

 まあ、直接足を引っ張ってこないのならいくらでも陰口を叩いてくれて構わない。聞こえないように気を使って発散してくれるのならこちらも突っかかる気はない。しなくていい喧嘩をする趣味はないのだ。

 

 しかしそのままでいいわけがない。

 

 個人的な政治スタンスではリベラルよりの中立なのが俺だ。だが、この異形社会はリベラルと保守派の二極化が著しく、情勢ゆえにリベラルにフルスロットル状態というのが同盟の現状。だがしかし、保守派筆頭の大王派こそが魔術師(メイガス)とそりがいいという状況ゆえに、俺は大王派の支援をしないわけにはいかない。つまり中立派をしょって立つのではなく、魔王派と大王派の双方をご機嫌取りする以外の選択肢がないのだ。

 

 この状況下では双方の派閥から敵と見なされかねない。大王派の裏のボスであるゼクラム・バアルも、魔王派のカリスマリーダーであるサーゼクス・ルシファーも俺の事情を理解して上手く有効活用してくれるだろうが、それに甘えて怠けていられる立場ではない。

 

 ただでさえ悪魔歴一年届く届かないレベルの成り上がりなのだ。その辺のやっかみも加えると、潜在的な敵は多いだろう。

 

 実績がいる。ここまで積み上げてきた実績を更に積み上げて俺をこの立場に残しておくメリットを大量に提示しなければならない。

 

 幸運な事にその辺はサーゼクス様もゼクラム翁も同意見のようだ。

 

 ……そう、全てはその所為だと言っても過言ではないのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、お帰りなさい兄上……ぇぇ!?」

 

「おいおい、どうしたよ大将?」

 

 会議に参加しない眷属が待機する待合室でカードゲームに興じていた雪侶とグランソードが、戻ってきた俺の顔を見て思わず立ち上がった。

 

 ああ、げんなりしてるからな、気にもなるだろう。

 

 だがまあ、死ぬような事態にはなっていないから、その辺は片手を上げて示す。

 

 そして、苦笑いを浮かべたシルシが俺の後ろから入ってきた。

 

「それがね? ちょっと面倒ごとを押し付けられちゃったみたいなのよ」

 

 そう告げながら、シルシは手にしていた資料を二人に見せる。

 

 そう、今回俺は冥界政府の会議に、アドバイザーとして呼びだされたわけだ。

 

 そしてその議題は現政権から離反して行方不明になった、王の駒使用者の追撃である。

 

 その過程において魔術師(メイガス)を取り込んだ者もいるらしく、聖杯戦争で一発逆転されたら困るとマジ危険視する議題になっていた。

 

 まあそんなわけで、聖杯戦争優勝者としても魔術師組合の長としても、俺が呼ばれるのは当然なのだが―

 

「……最初に結論から言うぞ。一番面倒な事押し付けられた」

 

「「……ビィディゼ・アバドン捕縛任務?」」

 

 そう、二人が読んだ資料の一番上の題名が全てを物語っている。

 

 簡単に言うと、王の駒使用者の捕縛は悪魔側の名誉や沽券の為に最優先となった。

 

 これに関して当然だろう。自分のけつを自分で拭くのは当然の事だ。他所からむやみやたらと助けを借りては沽券に係わる。できない事を無理にしようとして後から助けを求めるのは愚の骨頂だが、自分にできる事を無理のない範囲で自分でやるのは当たり前の事だ。

 

 だから、魔王派も大王派も王の駒使用者の討伐もしくは捕縛を積極的にする事に異論はない。此処まではスムーズに進んだ。

 

 だが、ここで壮絶な泥仕合が勃発する。

 

 簡潔にまとめるぞ。

 

 過激な魔王派「どうせ討伐すると見せかけて匿うんだろ! お前らそういう連中だもんな!!」

 

 過激な大王派「そっちこそ、魔術師組合に対抗する為魔術師を買収する気だろ!!」

 

 こんな感じで泥仕合が勃発した。

 

 会議の半分はこれで終始したと言ってもいい。どっちの派閥も無能な働き者はまだ多いようだ。処刑しろとは言わんが、閑職に回してほしい。

 

 何とかサーゼクス様達がなだめたが、この疑心暗鬼がある為、追撃部隊は事実上半々となる。

 

 王の駒使用者の中でも、政治的に有力だったりする連中は魔王派が担当し、魔術師との繋がりが見える連中は大王派が担当する事となった。

 

 だが、ここで一番質の悪いのがいた。

 

 それが、ビィディゼ・アバドンだ。

 

 番外の悪魔であるアバドン家の出身。王の駒使用者にしてレーティングゲーム3位という、魔王クラスの実力を持った規格外。

 

 下位の神なら返り討ちにできるだろう彼が、寄りにもよって魔術師を独自に抱え込んでいた事が発覚したのだ。

 

 その上、そいつは禍の団(カオス・ブリゲート)から流れた魔術師で、しかも調査の結果聖杯戦争成立の為の補佐をしていた事が発覚。

 

 ビィディゼ・アバドンがサーヴァントを味方につける事ができれば、ちょっとシャレにならない事態が勃発しかねない。

 

 だが、すみ分けできていた魔王派と大王派の担当区分けシステムの、ちょうどど真ん中にいるのがビィディゼ・アバドンである。

 

 泥仕合第二ラウンドが勃発しかけた。

 

 だが、そこでサーゼクス様が機転を利かせてしまった。

 

『ならば、我々双方に顔の利く者を送り込めばいい。ちょうどいるではないか、サーヴァント戦のスペシャリストが』

 

 ……つまり、こういう事だ。

 

「……あの間接的な義兄、後で酒を奢ってもらうからな」

 

「大将、ご苦労さん」

 

 心から同情の視線がグランソードから送られたよ。

 

 ああ、マジでどうしたもんか困ったもんだって感じだ。

 

 確かに、サーヴァント召喚の可能性がある以上、聖杯戦争に慣れた奴が出るのはいい。それに魔王派にも大王派にも顔が利く俺なら、なんとか言い訳も立つ。

 

 それにここで手柄を立てれば、一気に実績がつく。この一回だけで数十年は安全が確保できると言ってもいい。

 

 だが、しかしだ。

 

「……今の弱った俺だと、魔王クラスを眷属込みで潰すのはきついんだが。しかも最悪の場合サーヴァントまで相手にするんだぞ……?」

 

「舎弟総動員は決定だな、ああ」

 

 グランソードには心から礼を言う他ない。

 

 なにせ今回、実に厄介だからな。

 

「なにせこの命令、姫様やイッセーの力を直接借りるわけにはいかないからな」

 

 ため息交じりに、俺はこの難点を言う他なくなった。

 

「あら? 兄上は今でもリアス・グレモリーの眷属なのですから、お力をお借りしてもよろしいのでは?」

 

「そうもいかないわ。魔王派大王派双方の顔を立てた今回は、若手魔王派筆頭とも言えるリアス様の力を借りると大王派の心象が悪くなるもの」

 

 雪侶にそう説明するシルシの答えで正解だ。

 

 今回の任命は、色々とややこしい魔王派と大王派の中間点にいる俺だからこそできる任務だ。

 

 その俺が、若手悪魔の中でもトップクラスの親魔王派である姫様の力を借りる。そんな事になればぎりぎりのバランスが一気に傾く。

 

 余計な政争や内乱なんて俺は望んでないから、これに関してはできる限り抑えこみたいところだ。

 

 とはいえ、増援が欲しいのは正直なところ。

 

 かと言って魔王派側である俺の知り合いの増援がいる面子は頼りづらい。こういう時頼りになる中間管理職のアガレス関係も、何故か行方が知れない。

 

 ……たまたま会議前の時間潰しに見たスマホで、「ダンガムフェスタ」とか言うのがやっていたがそこはスルーだ。重度のオタクをそのネタ絡みで刺激してはいけない。

 

 もちろん今回の件は、悪魔のメンツがかかっているから悪魔以外に速攻で援護を頼むは難しい。

 

 こういう時喜んでついてきそうなヴァーリは行方がつかめん。……ちなみにこれまたスマホで「国際ラーメン大バトル」などというイベントを見ていたのだが、知らんったら知らん。

 

 さて、どうしたものか……。

 

 魔王派と大王派の双方の顔を立てれて、勝つ聖杯戦争絡みでも頼りになる人物って、そうはいないし―

 

「………あ」

 

 いたよ、適任の陣営。

 

 

 

 



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番外編 設定を練っていても出す機会がない。人それを裏設定という!

いや、こういうことになったからこそ書けるものってありますよね。

とくにケイオスワールドは初期の作品なので、出し損ねた設定とかもいろいろあるもので、ちょうどいいので仕立て直したうえで書いてみようかと。


 

 

 

 

 

「すすす凄まじい神経ですね。次期大王をこういう作戦に誘う神経が」

 

「ダメ元でゼクラム翁に伺ってみたら「手が空いているようなら連れて行っても構わない」と言われたもんでな」

 

 包囲網の一角で、俺はスパロの半目に視線を逸らしていた。

 

 思想的には魔王派だが、次期大王の逸材であるサイラオーグ・バアル。更にその眷属スパロ・ヴァプアルは、聖杯戦争を作り出した家系である御三家の一角である間桐の出だ。

 

 戦闘能力でもサポートでも対応可能で、しかも魔王派の顔も大王派の顔も立てる事ができる。ある意味凄まじい逸材である。

 

 まあ現バアル当主殿には苦い顔をされたが、ゼクラム翁からの許可をもらっているのでOKは出た。

 

 とはいえ、今のところ潜伏先は候補が分かっているだけなのでそこを片っ端から調べているのだが。

 

 一応俺は主なので、周囲の探索や調査などは下部組織であるグランソードの舎弟に任せている。調査班として魔術師組合からも人員を派遣してはいるがな。

 

 とはいえ、これで三つ目だがスカっぽいな。

 

 まあ、相手も腐ってもレーティングゲームランキング三位と言ったところか。八百長試合がゴロゴロあったそうだが、三位を担当すると言う事はそれだけの能力はあると言う事だろう。政治から離れ気味の番外の悪魔でありながら王の駒を手にした事といい、相応の政治力があった可能性もある。

 

 油断は禁物だ。隙を見せればこちらが食われる可能性だってある。

 

「今廃墟施設の調査が八割すんだ。この調子ではここもはずれだな」

 

 とサイラオーグ・バアルが陣地にしているテントに入ってきた。

 

 もう八割も済んだのか。早いな。

 

「というより、もう少し陣取っていた方がいいんじゃないか? エヴィー・エトゥルデとかと揉めた時は、指揮官として動く事もあるかもしれないだろうに」

 

「性分でな。どうも現場に乗り込むなりしないと気がすまん」

 

 俺の軽口にそう答えるサイラオーグ・バアルは、しかし一息つきたいのか、陣地に備え付けのウォーターサーバーに向かい―

 

「……でででも、慣れた方がよろしいですよ」

 

 ―その機先を制するように、スパロが既に水を入れて手渡した。

 

「すまんな」

 

「人を指揮する者は、ととと時として座して待つ事も仕事の内です。魔王を目指すのなら動くべき時を見極めるのも重要です」

 

 おお、なんというか含蓄ある言葉。

 

「いうねぇ。まあ、まるで子供をたしなめる親みたいだ」

 

 俺はそう軽口を叩いて空気を軽くしようとするが、スパロは平然と微笑んだ。

 

 そしてそのタイミングで、俺とサイラオーグ・バアルの眷属一同もまた陣地に戻り―

 

「ははははい。これでも経産婦でしたかかかから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉と共に、空気が凍った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、サイラオーグのぽかんとした顔という、滅多に見れない表情を見れた。

 

「………初耳だぞ」

 

「ああああら? 申し上げてませんでしたか?」

 

 どうやら言ってなかったらしい。まあ、俺も初めて聞いたが。

 

「言われてみれば、魔術師は基本的に一子相伝だ。魔術を知っている子供という事は、跡継ぎも作ってる事になるな」

 

 俺はふと気が付いた。

 

 そうそう。魔術師というのは魔術というケーキを取り分けて運用するから、あまり人数を増やすと魔術の力そのものが分割化されて低下するんだよ。

 

 だから魔術師は基本的に一子相伝。子供が複数いても、特殊な事情がない限り魔術を複数人に教える事はない。

 

 そして、聖杯戦争は第五次まで続いている。なら、間桐の血を継ぐスパロは子供を生んだ可能性がでかい。

 

 スパロも指を口元に近づけて、ふと何かに気づいたかのような表情になった。

 

「そそそそもそも、私は第二次聖杯戦争の生まれです。むしろ零落していた間桐が200年近く持ち応えた事に感心するべきででですね」

 

 まあ、間桐が凄い勢いで弱っていったのは知っているが。

 

「……全ては翁である臓硯様の努力あってのこと。若かりし頃の翁なら、サイラオーグ様のことをとても素晴らしく評価しててくださる事でしょう」

 

 そう語るスパロは、同時にしかし苦笑を浮かべていた。

 

「……ですが、同時に人の限界に苦労なされていた方でもあります。せめて、夢破れたとしても初志だけは取り戻してほしいのですが―」

 

 ………。

 

 なんか、踏み込んだらいけないところに踏み込んだ感はあるな。

 

 さて、ちょっと空気を換えるべきかと思うが―

 

「……そそそそういえば、兵夜さんは聖杯戦争についてどこまでご存じで?」

 

 向こうから気づいたのか、スパロがそう言って話を振ってくる。

 

「願望機は副産物を魔術師を集める餌にしたもので、本来の目的は根源の穴を穿つ事。複数の要素をアインツベルンと間桐と遠坂がそれぞれ協力して担当し、かの第二魔法の使い手であるシュバインオーグが立ち会った……ってところか」

 

「はい。ですが、当初の目的において、アインツベルンと間桐は、遠坂とは異なっててててたのです」

 

 ふむ。

 

「アインツベルンと間桐は、根源到達を更に過程とし、第三魔法―魂の物質化を目的としていました」

 

 そう語るスパロは、遠い憧憬を目に移していた。

 

「アインツベルンは分かりませんが、間桐の翁である臓硯様の目的はそれによるこの世全ての悪の廃絶こそが目的でした」

 

 そんな事を、考えていたのか。

 

「荒唐無稽な理想である事は承知の上。間桐の血が既に魔術師として限界を超えて廃れていく事も理解しながら、それでも諦めず挑む姿勢こそが、後世に残すべきもので、後を継ぐ者を育てると信じておりました」

 

 ………なんだその良い人。凄く聖人君子じゃね?

 

 だが、スパロの表情は暗い。

 

「ですが、ゆえにこそ行った延命による苦痛は、あの方にどこか陰りを生み出していました。もし第五次の代まで延命を試みていたとして、果たしてあの方は人の心をとどめていられるのかと、不安で仕方がありません」

 

 ………

 

 なんだろう、身に詰まされる話だな。

 

 長い年月はいやおうなく人を変化させる。それは、広大な自然ですら例外はない。

 

 その変化を良い方向に変える事は、人ならできるだろう。だが、同時に悪い方向に傾いてしまう事も十分にある。

 

 もし、俺がイッセーと出会わなかったら。心の支えとなるあの男との友情を得る事ができなかったら……。

 

 俺達がしんみりしていると、スパロは苦笑を浮かべながら、サイラオーグに向き直った。

 

「サイラオーグ様。ミスラ様の調子も良くなっていること、喜ばしく思います」

 

「あ、ああ」

 

 いきなり話が変わって、サイラオーグ・バアルも流石に少し戸惑った。

 

 スパロはそんなサイラオーグににっこりと微笑むと、まっすぐその目を見つめる。

 

「サイラオーグさまの契機となられたミスラ様のお言葉。ゆめゆめお忘れにならぬよう。そして、できる事なら同じ夢を共有し、時として支えとなってくださる方々をより増やし、自身も必要な時は支えになってくださいませ」

 

「そうだな。ああ、気を付けよう」

 

 おお、流石出産経験あり。良い言葉だ。

 

「……体格差がありすぎて違和感ありますの」

 

「雪侶殿、お静かに」

 

 雪侶がいらんこと言って、サイラオーグ・バアルの眷属に嗜められてる。

 

 ま、違和感はある―

 

「それとサイラオーグさま? ちゃっかりお土産を買うのはよろしいですが、マグダランさまとの接し方はもう少し改めるべべべべきです」

 

「ん? その話になるのか?」

 

「子供のことを思い出したら気になりました! マグダラン様に後ろめたい思いがあるのは分かりますが、だからといってあの対応では話が進みませんよ?」

 

 完全にお袋のノリだぞ、スパロ。

 

「……なんか、意外な側面を見せてきてるな、スパロ」

 

「まあ、僕達の中だと一番年上みたいだし……?」

 

 バアル眷属も戸惑っているが、そもそも困った事があったぞ。

 

 っていうか、困った事を思い出したぞ。

 

「そういえば、マグダラン・バアルの件どうしよう」

 

「どしたよ大将? なんかあんのか?」

 

 グランソードに聞きとられたが、しかしどうした事か。

 

「いや、本格的に魔術師組合の後ろ盾にゼクラム・バアルがなってくれた時、交換条件として(キング)の駒の代用品を用意して、うっかり()()()で何個か大王派が使うという真似を四大魔王様とも示し合わせるという真っ黒一歩手前のグレーゾーンをチキンレースする事になってたんだが」

 

「大将、それもう黒以外の何物でもねえよ。テロリスト(俺様)もびっくりの腹芸だよ」

 

「流石は警察とヤクザの不可侵条約を取り付けた兄上ですこと」

 

「……腹芸では一生勝てそうにないわね」

 

 眷属達よ、それ誉めてないな。

 

「……下手すると魔王様より腹芸上手くないか?」

 

「政治的には敵に回したくないな。サイラオーグ様では政治の分野では勝てそうにないぞ」

 

 バアル眷属も黙ってろ。

 

「まあ、その辺は事実上連絡こそ取ってないが魔王派も大王派も示し合わせてたし、皇帝ベリアルがやらかした所為でうやむやになったんだが……」

 

 ああ、色々あってうやむやになったところが多くて助かった。

 

 俺もただでは済まないところだった。いや、ほんと助かった。

 

 まあ、それはともかくだ。

 

「……その代用品の使用候補、そのマグダラン・バアルなんだよ」

 

「つーか大将、そのマグダランって誰?」

 

 グランソードが根本的な質問をぶちかました。

 

 うん、そこが分からないならもっと早く言ってほしかったぞ。

 

 それがおかしかったのか、シルシは苦笑しながら説明してくれる。

 

「マグダラン・バアル様。現バアル様が後妻との間に産んだご子息よ」

 

 そして、サイラオーグ・バアルは何となく空を見上げる。

 

「そして、俺から次期当主の座を奪い取られた者でもある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マグダラン・バアル。サイラオーグ・バアルの腹違いの弟にあたる。

 

 兄であるサイラオーグ・バアルと違い、消滅の魔力をきちんと持っていた事もあって、正当たるバアル次期当主の立場についていた少年だ。

 

 だが、死に物狂いの努力をもって圧倒的な戦闘技術を手にしたサイラオーグによってその座を奪い取られた。

 

 ゼクラム・バアルは彼をバアルの次期当主にする事を諦めていない。サイラオーグが魔王の座を狙っている事を逆手に取っているようなものだ。この辺の腹芸は流石老獪と言ったところか。

 

 だが、実力において彼がサイラオーグの足元にも及んでないのは言うまでもない。

 

 というより、普通に戦ったら若手四王の誰にでも負けるんじゃないだろうか。

 

「……こんなところだから言うが、現バアルの方に問題があるんじゃないか? 素質がヴェネラナ様に傾きすぎだろ」

 

「宮白兵夜。言いたい事は分かりますが、流石に控えてください」

 

 サイラオーグ・バアルの女王にツッコミを入れられてしまった。

 

 だが実際、バアルとしては無能とはっきり言って凡庸。サーゼクス様と姫様の方が圧倒的にバアルの消滅の魔力を生かしている気がするんだが。

 

 一周回って同情してきた。いっそのことバアルの特性を覚醒させる事に特化した専用の駒の開発を試みるべきかねぇ。

 

 ……まあ、今のクリーン化が進んでいる冥界で、そんな事したら俺が詰むが。うっかり技術が流れすぎて旧魔王派の残党が強化されたら目も当てられん。

 

「ああ、そういえば、マグダランは人間界に来ていたな」

 

 と、そこでサイラオーグ・バアルがそんな事に気が付いた。

 

 おや、それは初耳。

 

「そうなのですか、サイラオーグ様? 人間界で悪魔側の大きな催しがあるとは聞いてないですけど」

 

 シルシがそう首を傾げるが、確かにな。

 

 マグダラン・バアルは人間界での活動は今のところしていない。だから、人間界に来るのなら大王派側で何かしらの大きめのイベントが起きているはずだ。

 

 ちなみに言い忘れてたが、ここはイギリスである。英国国教会という独自の宗派が存在する、聖書の教え的にある意味で重要な場所。

 

 そんなところに、バアルが態々赴くイベントなら俺かシルシが把握しているはずなんだが―

 

 と、サイラオーグ・バアルは軽く笑うと手を振った。

 

「そうではない。英国で高名な植物学者の後援会が開かれていてな。マグダランは植物の研究を好んでいるから、興味があっただけだろう。中々認めてくれる者がいないから、逆に冥界の講演会には行きづらいからな」

 

「……色々と苦労なされているのね、マグダラン様も」

 

「面倒な家系に生まれると、面倒に巻き込まれる宿命なのかねぇ」

 

 シルシとグランソードがそんな事を言う。

 

 うん。同情するのはいいんだが―

 

「……二人がそれを言いますの?」

 

 -雪侶のツッコミが全てなんだよなぁ。

 

 君らも面倒な家系の生まれで、色々あるでしょうが。




と、いうことでスパロの掘り下げ。

……うん。まあ、知らぬが仏ってこと、あるよね!


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番外編 実は現代の薬の多くも植物由来の成分が使用されています

さてさて、そろそろバトルのカウントダウンが始まりますぜ……?


 

 ……そして、結局三つめも空振りだった。

 

 このままでは俺の評価が上がるどころか、逆に下がるんじゃないかと不安になってくる。

 

 しかもサイラオーグ・バアルまで巻き込むのはちょっとあれだ。彼に失礼だ。

 

「………どうしたもんかねぇ」

 

「どうしましょうですの」

 

 と、俺と雪侶はう~んと唸りながら考え込む。

 

 なにせ、有力候補から漁っているのに痕跡すら発見できないのだ。

 

 これに関しては大王派や魔王派の息のかかった人間組織の支援もある。地球に関しては、もっとも繁栄している人間が動くのが一番だからな。

 

 だから、ビィディゼだけでなくビィディゼの息のかかった連中の手がかりだって見つかってもいいと思ったんだが……。

 

「さて、こうなるとアプローチを変える事も考えるべきか」

 

「と、言いますと?」

 

 雪侶が首を傾げるが、しかしこれに関しては結構な荒業になるだろう。

 

「探すんじゃなくておびき寄せる方向にシフトも考える。つまり、事態打開の為の餌を、奴が未だパイプを隠し持っていてもおかしくない連中に流すんだ」

 

「……またえげつない手を考えますこと」

 

 悪いな、性分だ。

 

 なにせビィディゼ・アバドンは失墜したも同然なわけだ。

 

 レーティングゲームのランキング三位という、華々しい栄光を掴んだ立場。それが不正まみれのドーピング野郎というスキャンダルにより、表社会から逃亡する他なくなった。プライドが徹底的に傷つけられた事だろう。

 

 なら、せめて裏社会で成り上がりを考えるぐらいの事はするはずだ。

 

 おそらく奴は、大量発生した能力者の取り込みなども含めて使える手駒の確保を行っているだろう。

 

 おそらく裏社会での成り上がり。もしくはディハウザーへの復讐か何かを考慮するはずだ。まあ、一枚噛んだ禍の団の残党との共闘戦闘などはないとは思うが。

 

 なにせ奴は魔王クラス。下手にのさばらせておけば何するか分かったものではない。俺も手柄は欲しい。サイラオーグ・バアルを巻き込んだ手前、ある程度の成果は上げる必要がある。

 

 だから、何としても奴を探さなくてはならないんだが―

 

「しかし、何を餌にしたらいいものか」

 

「聖杯戦争を引き起こすわけにもいきませんものねぇ」

 

 俺と雪侶がそう頭を悩ませていると、ノックがした。

 

 入ってきたのはシルシだ。

 

「兵夜さん、情報の更新が完了したわ。現時点における有力候補をまとめたわよ」

 

「助かる。さて、とりあえずはそっちを見るべきだが―」

 

 と、俺はその資料を見て―

 

「………ん?」

 

 凄い、嫌な予感を覚えた。

 

 見て嫌な予感を覚えたのは、優先順位三番目ぐらいの場所。

 

 レーティングゲーム三位だから三番目というのもアレだが、気になるのはそこじゃない。

 

 ちなみに場所もこのイギリスだが、それだけでもない。

 

 ……補足資料で書かれている、近辺のイベントだ。

 

「なあ二人とも。この候補地点近辺のイベントで、植物学教授の講演会が開かれているんだが」

 

「……ああ、確かサイラオーグ様が仰っていた、マグダラン様が見に行ったとか言うイベントかしら?」

 

「それがどうしかいたしましたの?」

 

 ああ、なんとなく何だが―

 

「現大王の子息が潜伏地点の近くにいる。……裏社会で名を上げたいなら、これはある意味格好の得物じゃないか?」

 

「「………」」

 

 沈黙が響いた。

 

 うん。嫌な予感がするだろうな。

 

 これは仕方がない。念の為に動くべきだろう。

 

「………ちょっと様子を見てくる。悪いがグランソードを連れてきてくれ」

 

 念には念を入れておこう。まあ、ゼクラム翁に恩も売れるし、悪い事ではないだろうな、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、俺達はイギリスの地方都市にやってきていた。

 

 近年はどこもかしこも能力者の出現で大変で、電磁パルスによる都市機能のマヒもあって色々とあれな日々が続いている。

 

 そんな中、この地方都市は地方都市ゆえに被害が少なく、奇跡的にも能力者の被害が少なかった。

 

 そういう事もあってか、かなり明るい雰囲気だったな。

 

「で、大将。この辺だよな」

 

「ああ、あと100mぐらいだな」

 

 グランソードが辺りを見渡しながら聞いてきたので、俺は食事の手を止めながら頭の中の地図を再確認する。

 

 俺達は昼食代わりに屋台で購入したフィッシュ&チップスをぱくつきながら、目的の場所に移動していた。

 

 お嬢様育ちのシルシ辺りは気にするかと思ったのだが、意外と抵抗なく普通に食べている。

 

「……こういうのって面白いわね。ただ、油が多いんだけど」

 

「諦めなさいませ。これでもましになった方だそうですわよ?」

 

 むしろ興味津々のようだ。この辺まで考慮したというのなら、ゼクラム翁は慧眼と言う他ない。

 

 まあ、シルシが雪侶と仲が良いのはあれだな。完全に将を射抜く為に馬を狙っているな。

 

 ……いや、政略結婚は一人ぐらいは必須だと思ってる。間違いなく一人ぐらいはやってくるとも思っていたし、俺の場合無しないわけにもいかないだろうとは思っている。

 

 だがしかし、シルシの場合は少々状況が特殊すぎるんだよなぁ。

 

 惚れられている可能性を考慮はしている。少なくとも、彼女自身が好意の類を見せているし、モーションもかけられている。

 

 だが、そのきっかけが……なぁ。

 

 などと思っていると、既に目的地に到着していた。

 

 さて、後はマグダラン殿を探すだけなんだが―

 

「……ん? 確か、宮白兵夜ではないか」

 

 ―お、いたいた。

 

 向こうから声をかけてくれるとは意外だった。まあ、俺も結構冥界では有名人だからな。

 

 まあ、知られているなら話は早い。

 

「宮白兵夜とその眷属です、マグダラン様。お話はゼクラム翁より伺っております」

 

 あまりへりくだらないように、しかし礼節を弁えてと。

 

 それに対して、マグダラン・バアルは静かに手を前に出す。

 

「それはいい。だが、なぜここに?」

 

「はい。此方の講演会にマグダラン様が向かわれたと耳にしたのですが、現在捜索しているビィディゼ・アバドンがこの近辺にいる可能性が発覚したので、念の為に護衛に向かわせていただきました」

 

 俺の説明に、マグダラン・バアルは少し自嘲の表情を浮かべた。

 

「……D×Dの者に、俺が助けられるとはな」

 

 ふむ。

 

 まあ、サイラオーグ・バアルと彼は仲が良いとは決して言えないだろう。

 

 マグダラン・バアルの方は良い感情を抱いていない筈だ。恨み節の一つぐらいあるだろう。

 

 だから、サイラオーグ・バアルと親しい俺達が救援に来るという事に思うとこがあるのだろうが―

 

「……まあ、基本俺達(グレモリー眷属)久遠達(シトリー眷属)は馬鹿が多いですから」

 

 実際問題そういうわけだからな。

 

 ……そこのご子息、半目を向けるな。

 

「……主を馬鹿と言うのはどうかと思うが。不仲なのかね?」

 

「気の置けない付き合いをしているとお受け取りください」

 

 はっはっはとそこは流す。

 

 まあ、実際問題こう言った話を聞いたら、動きそうな面子ではあるしな。嘘は言ってない。

 

「まあ、馬鹿かお前はと言いたくなるぐらいのお人よしが多いという意味です。たぶん、先ほどの発言をイッセーが聞いてもその意味を理解できないと思いますよ?」

 

「……なるほど、あの男の同胞なだけあるという事か」

 

 マグダラン・バアルはそう言うと、肩をすくめる。

 

 まあ、家族の問題に深入りするのもアレだな。

 

 俺はマグダラン・バアルと直接面識したのは今ぐらいだ、迂闊にそんな事をするわけにもいかないだろう。

 

「……では、帰る前に御一つしておきたい話があるのですが」

 

 その言葉に、その場の悪魔全員が半目を向けた。

 

 俺の扱いを分かってるなおい。

 

 だが安心しろ。今回は黒い事をするつもりはない。

 

「実は魔術師(メイガス)も魔術に植物を利用する事があるのです。その為冥界の植物の魔術的利用を研究する予定ではあるのですが―」

 

 真面目な話、今後の事を考えれば冥界の自然環境などを生かした魔術研究は必須だ。

 

 魔術には植物を利用する者は多々存在する。だから、冥界の植物の魔術的利用も当然行われる。

 

 だが、それを行うには冥界の植物に対する専門的知識を集める事が必要だ。

 

 その辺も考慮してサポート人材を集める予定なんだが―

 

「マグダラン様は植物に造詣があるとお聞きしました。もしよろしければ、そのお知恵をお借りできればと思いまして」

 

 俺のその提案に、マグダラン・バアルは何故か沈黙した。

 

 ……あれ? 地雷踏んだ?

 

 態々人間の講演会に参加するぐらいだから、植物の事が結構好きなのかと思ったんだが。

 

 あ、魔術的に利用されるのが気に入らないとか……か?

 

「……そんな風に認められたのは、初めてだな」

 

 そう、マグダラン・バアルは感慨深げに呟いた。

 

「バアル次期当主だった身としては、不適格とも言えるのだが」

 

「そうでしょうか? 複数の草鞋を履く事が珍しくない悪魔としては、学問に造詣があるというのは一種のステータスではないかと」

 

 本当に、妙なところでプライドが高いもんだ。

 

 文武両道なんてエリートのステータスだろうに。学問に対する造詣の深さは、武門に対する能力の低さをカバーする拍だと思うのだが。

 

 まあいい。ぶっちゃけ俺の支援者として必要なのはゼクラム・バアルであって現バアル当主ではない。っていうかゼクラム翁さえ抑えとけばどうとでもなる相手だしな。

 

 と、いうわけで―

 

「今後の大王派に必要なのは、思想が近しい魔術師(メイガス)の取り込みとより密接な連携だと思います。どうです、いっそのこと父君より上の実権を握る為に動いてみるというのは?」

 

 俺は真剣に誘いをかける。

 

 今後の冥界を担う若手上級悪魔。その中でも植物に造詣が深く、実績を挙げているマグダラン・バアルは、植物を扱う魔術師にとっていい契約対象になるはずだ。

 

 今のうちにこっちで関係を深めておくのは悪い事じゃない。

 

「……兄上が黒い事考えてますわね」

 

「そう言えば、魔術師(メイガス)の教育機関である時計塔って、植物学科が凄く権力持ってるとか転生者に聞いたわ」

 

 後ろで雪侶とシルシがこそこそと話してるが、俺は聞いてないからな!

 

「なあマグダランさんよぉ。悪い事は言わねえ、リアス・グレモリーに後で相談してから決めた方がいいぜ?」

 

 グランソードも。お前何マグダラン・バアルに余計な事を言ってるんだおい。

 

 そんなこと言ってこの商談が変な事になったらどうしてくれる! 割と真剣に今後に影響する話なんだぞ!!

 

 くそ! マグダラン・バアルの反応を窺わなければ!!

 

 俺が慌てて様子を見ると、マグダラン・バアルはどこか気が抜けたような表情を浮かべていた。

 

「……バアルとして、植物学で成果を上げるべきなどと言われたのは初めてだ」

 

 そう呟いたマグダラン・バアルは、ふと空を見上げた。

 

「そうだな。こんな俺でも、バアルとして貢献できる事があるのか」

 

 な、なんか凄い事になってきた予感がしてきたんだが―

 

「……兵夜さん、マグダラン様」

 

 と、そこでシルシが鋭い声を上げる。

 

 なんだ? 俺、もしかして地雷踏んだ?

 

 大王派にしかわからない地雷を、俺が迂闊に踏んでしまったとか?

 

 ちょっと慌てながら振り返ると、シルシは周囲を警戒していた。

 

 ………おいおい、念の為に動いていたら、当たりか?

 

「全員全集警戒! この辺り、囲まれてるわよ!!」

 

 ………はっはっは。

 

 どうやら、来て正解だったのだけは間違いないな!!

 




さて、そろそろバトルに突入いたします。


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