…End (吉良吉影に憧れる者)
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プロローグという名の設定集
第1話
《この世界は、魔法や魔物というありえない存在がありえる世界の話。
天高くそびえる塔は、神の住まう天国への道だという。どれだけ登っても、決して頂上へ着かない迷宮は地獄そのものである。その頂点に立ったものは神の他におらず、今や立ち入り禁止となっている。
その塔の名は『…End』と呼ばれる聖域である。》
これはマイナーなゲームのオープニングである。この『…End』というゲームは、2000年頃に発売されて、様々なハードでリメイクを重ねているが、正直人気はない。まぁ、かれこれ15年以上も続いているし、外伝的なゲームも無くはないのだが、いかんせん、かっこいいBGMなわけでも、面白いネタ的要素がある訳でも、かっこいい主人公な訳でもない、どこにでもある没ゲーだ。実際の所、製作者が金持ちだから、享楽の一環として、3○Sやらプレ○テ、Vi○aや果てはP○P、ス○ッチ、というたくさんのハードで遊べるわけだし、(スマホ版はないけどパソコン版はある)それにハマっている俺も大概なんだがな。
改めてこのゲームを説明すると…なに?しなくていいって?いやいや、こういうゲームの話ぐらいさせてくれよ。どうしてそんなに聞かせたがるのかって?そりゃあ、
その世界にいる訳だし!
遡ること10時間程前、
俺は、いつも通り『…End』をやろうと思い、パソコンをつけた。しかし、腹が減ったのでコンビニに行くことにしたのだ。
まぁ、そこから色々あるまで時間がかかるので、『…End』の話でも…いらない?そう言わずにさ、ここまで読めばわかると思うけど、説明聞くまで画面閉じれないでしょ?気分的に負けた感じ残るでしよ?あーはいはい、さっさと話しますよ…。
─────────────────────
さっきも言ったように、『…End』という、神が住んでると言われる塔を攻略する話だ。
で、目的なんだけど、これまたストーリーが複雑でね。
人類も最初の方は塔を攻略しようとしてたんだけど、どうしてもできなくて諦めたわけ、なんせ生還者ゼロだから、危険たらありゃしない。
そんななかこの世界には魔法ってのがあって、でも人には使えないっていうクソ仕様だった。
魔力を持つ生物を魔法生物、魔力を持たない生物をただの生物と区別して、生活してたんだ。とうぜん魔法生物の方が強いわけだから、こっちは数の暴力だけど─
そんなある日、ある国で天才が生まれた。その天才は主人公の父親で、宇宙を軽く滅ぼせるほどの天才。だったんだよね。そこで、彼が作ったのは魔力を有する
その機械達には『心プログラム』という、特別な感情プログラムが入っていた。要は限りなく人に近い、アンドロイドってやつ?そもそも、電気もなかったのに、ロボット作れるとかどんだけ頭いいんだよ。
その後、ロボットはすぐに量産され様々な部分で活躍した。魔物の殲滅から家事手伝いまで、しかし、ある日重大な事件が起きる。
F型家事用ロボット─まぁメイドみたいなもん─が、強姦を受けるという事件だ。正直限りなく人に近い姿に話し方や歩き方果ては性器まで、そっくりだから、本気で惚れ込む人もいたって設定だけどまさか一線越えるとはね…。当時中学生だった俺は大興奮。
その後無事男の子が生まれたそうです。
そう!子供が生まれたわけ!作った張本人(主人公の父である)は、「私は人よりも人らしい
その後なんやかんやあって、M型F型問わず、バンバカ子供を産んだり孕ませたりした。人口増加に合わせて、機械との子供が『奴隷』のように働くようになり、事実上奴隷そのものだった。なんせ体の一部が機械であることが多いからな。(どういう原理なのかは原作でも明かされてない)
そして、時代が飛んで、超未来、科学技術はかなり発展し魔法技術も等しく発展、いつの間にか塔は放置プレイ、魔物の危険もそんなにない。
そんな時代だったんだが、主人公の父親は、脳だけの存在になり生きていたという。彼自身クローンや、人工精子による方法で子供はいたけど、興味無しみたいな感じだった。しかし、ある日主人公の母親に出会い恋をする。200年ぐらい生きていた父親と17、8年しか生きていないふたりの、年の差婚!
母親もかなりの天才でその気になれば世界征服が余裕らしいよ?あと、ストーカーなうえ重度のヤンデレ属性マゾのサイコパス。(この設定いるかな?)
父親一目惚れしかし、ヘタレのためアタック出来ず、母親サイコパスのため父親のことが(脳だけだしね)割と好きしかし、ストーカーで捕まる(というか、職質受けたりするだけだけどね。)
そこでも、天才的な頭脳がなんかあれして、主人公誕生!
そして、両親は『…End』を暇つぶし(ちょっとした研究みたいなノリ)で攻略しに行く!
そして踏破!その後中途半端でなんの意味ない時刻に世界中の、メディアが乗っ取られ、1本の映像が流れた。
『初めましてと言うべきか、長い間見ていたのに、初めてである人へ、私は塔の頂上にいる。会いに来い世界を見せてあげよう!』
それは奇しくも、主人公の誕生した瞬間と同じだった。(母親の子宮だけ取り除いて、父親の研究室で自動的に生まれた子供が主人公っていう複雑なストーリー)
まぁ、なんて言うか、しょっぱな伏線貼りすぎて設定多すぎみたいな…でも、ラストは感動する。ってゲームなんだよ。意外といいゲームなんだよね。
車に轢かれながら言うことじゃねぇけど、
─────────────────────
手から離れていくレジ袋が嫌に遠く思える。
頭が痛い、足の感覚がない─小説なんかで人が轢かれる時の表現だが、そんな感覚さえわかない。頭は最初から痛かったような感覚で、足は最初からなかったような浮遊感で─命が散っていく。
銀色の車体がひび割れて血に染まり、形容しがたい色になる。絵の具の原料は人の血だなんて笑えない。鉄の塊は、俺の体と生命を粉々にして、全身浮かせ意識を飛ばす。
信号はちゃんと青なのに…
意外と考えるってことが出来るんだな…
そんなのんびりとした感覚さえもレジ袋同様手放してしまいそうで─ああ、このまま死んでいくのか。
次に気がついた(よく考えればおかしな表現だけど…)のは、自分の部屋で、さっきまでのことは夢なのかと思ってしまうけど、そうじゃないってのは分かってる。
「気がついたようだな。死者よ」
「あー、やっぱ死んだか…。じゃあこれはあれ?異世界転生的な?まじか…童貞で良かった。」
異世界に行けるのは童貞だけだ。なに?イケメン?ハッ死ねばいいのに。
「その通り、パターン19660130の世界の人ってのは話が早くて助かるの…」
は?パターン?
多分目の前にいる、俺愛用のミニテーブルに腰掛けてる爺さんは『神様』的なポジションだと思うけど失礼を承知で言わせてもらうわ。
「あんた馬鹿か?」
続く。
長い上につまんねぇ!
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第2話
「曲がりなりにも神に向かって『あんた馬鹿か?』はないじゃろ…ぶっ飛ばすぞ?」
「柄悪ぃな!」
そもそもなんの説明もなくパターンとか意味不明なことを言い出したのはこのおじいさんの方だし、神様を自称してるけど真偽のほどは分かっていない。
「パターンというのは、お主らの言う多次元世界のようなものじゃ」
「え?じゃあほかの世界があるの?それに行っていいの俺?」
「普通はダメだが、最近法が変わっての…。パターン19830813の世界で善悪の均衡が取れなくなってしまったのじゃ。それもこれも『…End』を攻略されてしまったせいなのじゃが…青年よ、その世界行きたいじゃろ?」
『…End』の名前を出されて行きませんとは言えねぇな。もちろんチートなんて持ってかない。…けど、最低限の保証はしてほしい。ちょっとステータス補整が高いとか、かっぴょいい武器とか特別なジョブとか…。
「あー、残念だがお主が考えているゲームの通りとは行かないぞ?ある程度は似ていると思うが…。」
「え?行く意味無いじゃん?」
「だが、全然関係ない訳でもないし、あまりパターンが近い世界だと、お主と同等の存在がいるからそっちを消さなきゃいけなくなるし…」
なるほどパラレルワールドと言っても、同じ世界に同じ人物は存在しちゃいけないのか…。
「さっき言った『…End』がある世界ではまだお主の存在はなかったことになっているから組み込むことは可能じゃぞ?」
ついきになって理由を聞いてみた。別に大した意味もないし、なんとなくの理由の想像もつく。
「概ねその想像通りじゃ。お主の遠い祖先が3人死んでる。理由は『…End』攻略の招集じゃ。」
遠い祖先なのに3人しか死んでないのはゲームとは違うんだな…。
「ま、いーや!とにかく俺がその塔を攻略する物語って訳でしよ?」
「いや、攻略では不十分だ。パターン19830813の神の座を手に入れワシに返して欲しい。報酬は特に決めておらん。そのうち決めろ。」
なるほど、そこはゲームと同じだ。『…End』を最初にクリアした両親は、神の座を与えられた。シリーズによるが初期版で主人公がクリアすると、両親は神の座を元々の神に返し、仲良く暮らしたらしい。殆どのシリーズがそのパターンだ。(パターンってのが紛らわしいな…)
「ジョブはどうする?」
「え?ここで決めてくの?じゃあ容姿何かもいじれるの?」
「それは無理じゃ。名前を変えることは出来るがな。」
そこもゲームと違うか…。
どうせ選べるジョブは初期系統のものだろうからな…。
「魔法なんかはどうなるんだ?」
「……だいたいゲームどおりじゃ。」
怪しいが、べつに某相棒の右京さんじゃないから細かいことまで聞くことはしないの案外神様の事情ってやつなのかもしれないし。
「無難にソードマンか、アーチャー、ソーサラー、モンク、ウォリアー、そのへんかな。でも、仲間を作れる可能性もあるし…」
ゲームの方では1VS1が基本で時たまあるのは敵が大勢で襲ってきたり、連戦を強いられたり、イベントで護衛や協力して戦う程度。でも基本は敵と自分だけなんだよな。
「だったら万能型のソードマンかな。」
このゲームは、ステータスをサイコロで決める。TRPG方式だ。だから結構運ゲーだったりする。
「一応言うが振り直しは出来んので要注意じゃぞ。」
神様が真っ白い髭をさすりながら言う。やり直しができないのはゲームと違うが、まぁ、問題ないだろう。これでも運はいい方だ。(ゲームの『…End』だけだけど。)
さて、どうなるかな!
体力(所謂ヒットポイント、HPなんて呼ばれてるアレ。ゼロになると死ぬことを意味する。最も、戦闘系のジョブについている人間にしか表示されない。というか、ゲームでは、他人の体力を見れない。魔物含めて。)
精神力(所謂マジックポイント、MPだ。ただし精神と言っているようにSAN値の役割もする。最もこれが低くても、魔法が打てないだけであるが…。これまたゼロになると死ぬ。ソードマンでも、ソーサラーでも関係なく。)
攻撃力(そのままである。魔法以外はこれで計算する。)
魔力(これまたそのまま。魔法の計算をする回復や補助もこれで計算する。)
防御力(言わずもがな、そのまま。魔法以外の攻撃に対して計算する。魔法は別)
抵抗力(魔法や呪いに対する耐性の強さである。ほとんどのデバフはこれで計算する。が、例外はもちろんある。)
素早さ(早ければ先制攻撃を取れる。不意打ちを受けても、避けられたりもする。)
知識、話術、器用さ(イベントで使う。必要な値を百面ダイスで判定する。アイテム補整などもある。ただし基礎値はゼロとみなす。)
クリティカル、ファンブル(ステータスではないが大事なことである。行動を起こす際百面ダイスを振り1から5の値はクリティカル、つまり大成功。与えるダメージが上がったり、受けるダメージが減ったり、イベントの結果が良くなる。そして、95から100はファンブル、つまり大失敗。当然与えるダメージは減り、受けるダメージはあがる。イベントの結果は最悪なものとなる。)
さて、ここまで説明したが、退屈だろう。俺の実際のステータスを見てもらおうか!
名前:クエイフ(『…End』の作者が影響を受けたクトゥルフに似た響き。ゲームでの名前として使ってたから、そのまま使った)
種族:人類種(要は人、前も言った通り魔物がいるのでその区別のため。スライムなんかは変化種、ゴブリンなんかは亜人種、キメラなんかは混合種、ドラゴンなんかは竜族種または竜人ないし竜神種、その説明はまた今度にしておこう。最後に天使や悪魔、神様なんかが神と呼ばれる。種って言うのがつかない。神とだけ単品で呼ばれる。これまた理由はまた今度…)
性別:男(解説はいらないよね?もちろん童貞)
ジョブ:ソードマン(1番わかりやすいジョブ。ジョブというのは役割のこと。ゲームを嗜む皆さんならわかりますよね?)
体力:19精神力:10攻撃力:20魔力:4防御力:7抵抗力:6速度:12
最初から選択出来る職業なので弱いのは当たり前。進化させればそれなりに行くはず?
続く
どうしてもオリジナル作品は説明が必要になるので、長くなる。次はいよいよ転生した世界で戦うと思います。
別な作品の方もこれくらいかければな…。
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第3話
ステータスを決めた後、神様は何やらパソコンみたいなのをしきりにいじっていた。どうでもいい事だが、おじいさんがパソコンいじってるの見ると違和感無い?ないか…。
「よし、もういつでも行けるぞ?そうだ、念の為に幾らか餞別にくれてやる。 」
〔『神様』から1000Gを貰いました。〕
おお!これはいわゆる『謎の声』さんだ!
『謎の声』とは所謂ステータスメッセージで、ゲーム中に出てくる案内音声。例えば
〔『スライム』を倒しました。Lvが上がりました。スキルLvが上がりました。〕
みたいな風にする音声、しかし、このゲームではそれだけでなく、一部の条件を満たしていると、
〔『スライム』が現れた。貴方はそいつに向かい杖を構える。───貴方は魔法を唱える。圧倒的な熱量がスライムに襲いかかる。当然のように逃げるも、時すでに遅しでろでろとした液体は、あっという間に燃え盛る。〕
みたいな実況もしてくれる。その現象を名付けて『謎の声』と呼ぶ。
ちなみに…カッコの説明なんだけど
〔〕─これは謎の声が話しています。
「」─生物が話してます。
『』─種族や人物名の時に付きます。
この位かな…。分からないところは察して。
まぁ、とにかく、神様から1000Gも貰っちゃったし、それなりに困るようなことはないと思うけど…。
「じゃ、神の座を返して貰いに行ってくれ!」
「情けねぇ!ま、行ってきます。」
こうして俺の旅は始まったのであった!
また、気を失っていたようで、目を覚ますと、見慣れないようで、何度も見たことのあるような家に来ていた。
乱暴に作られた家とも呼べない下手をすれば高級マンションのような建物─これは主人公の両親が住んでいた、研究所で、主人公の探索の拠点ともなる大事な場所である。
中に入ると、初めて入るはずなのにどこか懐かしいと感じる。
俺はいるはずのない存在なので、入っていいのかどうか分からないけど、まぁ、問題ないだろう。
ふと、大きな姿見があり、そちらを見る。するとそこに映っていたのは、紛れもなく自分なのだが、体の大部分が機械でできており、自分の身体をよく調べると、殆どの臓器も機械で出来ている音がする。
『…End』にそんな設定あったか?いや、ないのは確かなのだが…。
なぜ自分がロボットなのだろうか?答えを考えてみると、早速理由がわかった。
〔最初に『…End』に潜った際に瀕死の状態になったために体の半分以上を機械に改造した。〕
なるほど、ある程度の事は判定なしで謎の声が補足を入れてくれるらしい。そこは『…End』より優しいな。
ついでにステータスの確認をしてみる。
クエイフ
体力:19
精神力:10
攻撃力:20
魔力:4
防御力:7
抵抗力:6
速度:12
アイテム:1000G、回復薬×5(神様からの餞別その2)
スキル:ジョブ変更、剣術1
回復薬は、体力を回復するアイテムだ。まぁ、文字通りだし、問題は無い。『…End』と、名前は違うが効果は似たようなものだし他のゲームでも出てくる馴染み深いやつだから問題無し。
でも、ジョブ変更ってなに?調べてみる。
〔【ジョブ変更】とは、戦闘系のスキルを変更しその場でジョブを変える。神の餞別その3。いわゆるチートのため、人には見せないようにしよう。なお、全ての武器、魔法、防具の適性があるものとみなす。〕
適性─ゲームにも出てくるやつだから説明は特にいらないな。強いて言うなら、得意か苦手かみたいなものだな。
主人公は例外として、NPCは、そのジョブに合わせた適性を持っている。(ストーリーで語られる範囲内でだが…)
ゲームでは主人公のジョブはいくらでも変えられた。
魔法が効きにくい敵の時は『ソーサラー』から『ソードマン』に変更したり、魔力が高い敵に対し、抵抗力の高い『マジックガーディアン』になったり、その他様々な変更をしつつ、戦っていた(なんせこっちは1人だからな)
これまた主人公しか出来ないらしい。その上人にバレちゃいけないのか…全く面倒だ。(ゲームでは、人前でやっても何も言われなかったのにな…)
続く
説明ばっかですみません。
(2018/05/02 )チート名とカッコの書き方を変更しました。
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イグの洞窟
第4話
今のジョブはソードマン。とりあえず、ウィザードにしてみる。
〔未習得のジョブです。習得条件を満たしていません。
必須スキル:魔法系統のスキル
スキルを取得しますか?YES:NO〕
取得可能スキル一覧
剣術、弓術、初級魔法、〔条件を満たしていないスキルがあります。取得条件:Lv10以上〕
ここで疑問がひとつ、疑問と言っても、大したことではないが、ゲームでは、Lvのことを熟練度と言っていた。果たして、取得条件のLvとは、ゲームの熟練度のことでいいのだろうか。
まぁ、実際に戦って見ればわかるよな。
武器については、小学生が書きそうな片手で持てるロングソードと、弓、矢が30本(矢は弓にインベントリのようなものがありそこに保管されるためかさばらない。)そして、ひのきのぼうを魔法使い用に整えただけのような木の棒がひとつ。
回復薬含めアイテムというのは『自分』に設定されたインベントリの中に入っており、今の俺は15種類まで入れられる。他にも『弓』にインベントリが設定されてたり、バックを持てば『自分』に設定されているインベントリの許容量が増えたりする。
とりあえず、ソードマンとアーチャー、ウィザードを解放しておく。これでいつでもどのジョブにも変更出来る。(ステータスも突然変わるので慣れないが…)
まずソードマンで戦ってみる。
『…End』《1階:イグの洞窟》
1階と2階はイグの洞窟と呼ばれる薄暗い洞窟になっている。
〔様々な人間が探索したためそこまでの危険はない。が、魔物はうじゃうじゃいるので一般人が立ち入る様な場所ではない。〕
謎の声がゲームで聞いた案内とほとんど同じ説明をする。そのへんが変わってなくてよかった。いきなり、アトラク・ヘル=ナクアとかだと瞬殺される。(最終階ないしその1歩手前ぐらいの場所)
ここに出てくるのはスライム(弱い)ゴブリン(スライムよりは強い)ぐらいなので、ある程度ゲーム慣れしてれば、全く怖くない。(と思う。)
さて、1階の探索に行きますか!
意気込んで探索するもさっきから嫌な匂いがするだけで、敵らしい敵も出ない。5分歩いて宝箱のひとつも見つからないのはゲームではありえない事だった。
〔くちゃりくちゃりと、なにか腐った水を引きずつような音がする。その音はゆっくりと確実にあなたに近づいてくる。貴方はそいつが魔物であると判断し武器を構える。先程よりも大きな水音は薄暗がりからその身を表す。そいつの正体はスライムだ。貴方はそいつを目に収めると同時に斬り掛かる。〕
斬り掛かると、謎の声は言ったが、俺はそんな素振りを一切見せてない。まぁ、斬ることは確かなのだが…。
スライムはくちゃりくちゃりと、謎の声が言う通りの水音を発しながら、体をぶよぶよと揺らしつつ近づいてくる。
正直気持ち悪い。青色と藍色の中間のような色の水のような液体がびちゃびちゃ言わせながら近ずいてくるのにほんのりと恐怖を感じる。
〔精神力が-1されました。〕
ただでさえソードマンは精神力が少ないのにそれが減るのか!
とりあえず、剣の型とかそんなものをガン無視で、ブヨブヨの体に刃を通す。案外簡単に沈んでいき、スライムはバラバラにはじけ飛ぶ。も、致命傷にはならないらしく、いつかのストレイツォのように体を修復させていく。なるほど、目の前でバラバラのものが治っていくのを見ると吐き気を催すな。吐かなかったジョセフはたいしたものだ。だなんて偉そうに考えつつ、俺は動けなかった。やばい、攻撃硬直ってやつか…。かろうじて防御姿勢はとっているがちゃんとしたものとは言えないから、攻撃は喰らいたくない。
スライムは自分の身体を引き伸ばすと、反動でこちらに飛んでくる。スライムの必殺技【スラ・ストライク】ではないようだが、かなり痛いダメージだろう。
そして、スライムがこちらに触れるかどうかのタイミングで硬直が解ける。慌てて避けても流石に間に合わず、左半身に大きな衝撃が走る。くそ、いてぇ!手榴弾を食らったストレイツォもこんな気分だったのか?いや、俺の方が軽症に決まってるか…。というかさっきからストレイツォの話ばっかだな。俺そんなにスト様大好きだったか?
左はビリビリしたまま、剣を持つ右手を思い切りスライムに叩きつける。かなり良い一撃が入ったようで、弾けたまま修復しない。
一回の戦闘がこんなに苦戦するとはな…。まだ左が痛い。
あ、でも、【スライムの体液】を手に入れた。それは嬉しいかな…。
続く
チートが微妙!
これでチートの割に弱いは回収したな。
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第5話
まだ、出ません!予定では7話目ぐらいです。
スライムを倒してから1時間程歩いていると、3体のスライムを倒した。
こちらがダメージを受けない戦い方を心がけ、相手が仕掛けるのを待って、それを避けては斬る。という戦法をとった。デスペナルティがなんだかわからない以上死なないに越したことはない。ゲームでは、所持金半分と探索で手に入れたアイテムをロストだけで済んだ。あと、全ステータスがちょっと減る。(これは痛い)
某ゲームライトノベルみたいに死んだら死ぬやつとか死んだら記憶が少し失うとかだとシャレにならない。
〔今までの水音よりも明らかに違う気配がする。それは今までのスライムよりも熱のこもった『ナニカ』だ。あなたはその『ナニカ』の正体を探るべく足を動かす。〕
突然聞こえた謎の声に驚きつつ、初めて出会う系のモンスターには警告ではないにしろそれに近いアナウンスが流れてくるらしい。まぁ、これもチートらしいが、絶対探知出来るわけじゃないし、攻撃を予知できる訳でもない。あくまでも初見回避なのだ。(ゲームやってるから初見じゃないけど…)
「来やがったな、『クリムゾンスライム』ッ!」
クリムゾンスライム─スライムの亜種で火属性を持った敵。序盤でしか出ないが、状態異常にかかると結構なダメージを受ける上に、アクアスライムってのもいるから、得意な属性で攻撃しにくい。なんせ、クリムゾン対策のジョブにすれば、アクアにやられるし、アクア対策をすればクリムゾンにやられる。バランスよくやろうとすると、結局ダメージがでかいから面倒。という厄介極まりないモンスターだ。最初の方に属性系出すなら、こっち複数にして、補い合えるようなシステムにしてくれよ。(こーゆー所が『…End』が人気の秘密なのかもしれないが。)
〔
クソッ!読者の皆様にはわかりやすいが、俺はただピンチなだけだろ!
「だが、その技はタメが長いせいでその間にやられるってのがお約束なんだよッ!」
軽快な音と共に
(ふざけんなッ!ここで死ねるかよ!もっと『…End』を楽しみたいんだよ、こっちはッ!だから!お前がッ)
「死ねぇ!」
〔あなたの渾身の攻撃は大振りすぎた為避けられてしまう。その上敵は今にもその熱の塊を打とうと貴方に迫っている。〕
剣は今ので変な方向に吹っ飛ばした。弓矢は外すかもしれない。ジョブを変えても現在の体力と現在の精神力、
[ジョブ変更:ソードマン→ウィザード]
(体力は以前変わりなく4のまま。攻撃力は下がった。でも、魔力は上がったし、精神力も上がっている。…はず)
ステータスを見れば、真っ赤な字で体力が4と表示されており、精神力は29/30となっている。そうか…あの時下がった分か…。だが、魔法は打てる!
「ゲームでも序盤は大抵このジョブを選ぶ奴が多いんだよな。なんせ、
ウィザードは偏った呪文の覚え方でもしない限り、基本属性の呪文を全て覚える。火も自然も光も闇も
俺は肩掛けカバンをひっくり返し先の木の棒を取り出す。この世界(ゲーム含めて)杖かそれに準じたものがないと魔法が発動しないのだ。
ウィザードになると最初に基本五属性から好きな呪文を覚えられる。(ゲームでも主人公だけらしい。適性が無いとその属性の呪文は使えないし、使えても弱い。)
「これでもッ喰らえ!【ウォーター】!」
そして、俺は最初に水を覚えることにした。結果がこれである。
別に自然か水、どちらでも良かったのだが、水の方がかっこいいかなと思っただけで、それがこの結果を呼び寄せたのなら九死に一生を得たものだ。
〔
こいつ程度のここまで苦戦する日が来ようとは…?頭がくらくらする。死ぬのか…?違う…死じゃない!吐きそうだ!だれか……………
続く
やっぱり長いよな…。
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第6話
目が覚めると、身体中が嫌な湿り気に包まれていた。
その正体はどうやら汗のようで、吐き気を催すほどの悪臭とベタベタとやたら服と皮膚を独特の不快感を晒す。
「一回帰った方が良さそうだ。」
自分が気絶していた理由は全く分からないので、それを調べるためにも塔を出ることにする。幸い、敵との遭遇は無かった。喜ぶべきだが、少しつまらなかった。
帰るとすでに夜も更けており、服を洗濯し次の日に備え寝ることにした。
次の日に
そこで、一定数のアイテムと、経験値(あと、お布施という名目の金)を犠牲にして仰々しい儀式を執り行えば、ジョブ変更ができるとの事だ。しかし、未熟な司祭や、アイテムの質が悪いと、『酔い』のようなものを起こすらしい。つまり、自分の戦闘スキル変更は、司祭もアイテムも経験値もない状態で行うのでかなり強く酔ってしまうのかもしれない。さらに付け加えると、《ソードマン》から《ランサー》や《ウォリアー》という近接戦闘のタイプから同じく近接戦闘タイプへの変更なら未熟な司祭でも質の悪いアイテムでも酔いを起こすことは滅多にないそうだが、遠隔攻撃タイプやその他諸々へ変更しようとすると、ベテランの司祭に大量かつ質のいいアイテムが必要なのだそうだ。
結論:最悪のコンディションかつ最低のシチュエーションで、未熟どころか根すらしっかりしてないやつが、何も持たずに儀式をすっ飛ばしたので、死ぬほどまで酔った。
気を取り直し、また塔へ向かう。ちなみにソードマンに戻した。(当然酔ったがベットで寝てた。)
既に月が昇ろうかとしている頃だったので、寝袋とモンスター対策を色々準備して、『…End』の薄気味悪い門をくぐる。
スライムとクリムゾン、さらにはアクアスライムまでも余裕で倒していく。それもそのはず2回目の探索で最初の敵─スライム─を倒したらLvが上がったのだ。
Lvが上がると全てのジョブで上がったことになるようで、ウィザードと、アーチャーも【Lv2】のステータスになっていた。(ステータスや技を見るだけなら変更せずにできる。)
補足だが、ソードマンの時に杖を構えても魔法は全く使えないし、弓を持っても、矢をつがえるのに時間がかかりすぎる上練習しても上手くならない。適性なしとみなすようだ。
「まずいな…ゴブリンか。」
探索をしていると、薄気味悪い緑の皮膚、そこから少しだけ浮き出た筋や骨に、ダラダラと汚くよだれを垂らしながら、右手に混紡を引きずるようにもつ亜人種の代表的モンスター 『ゴブリン』だ。
勝てるかどうか怪しいが逃げられる様子はない。
〔ゴブリンは、貴方に棍棒を振り下ろす。それを間一髪避けたあなたは素早く体勢を立て直す〕
謎の声の言うように、そんなに早くない【振り下ろし】を間一髪と言うより余裕で避けて、剣を構える。今なら逃げられるが、そんな選択肢はいらない。
「ゴブリンは、スライムと同じで負ける方が難しいからな…。対策なんて無いってのがゲームだったが、無策で行けば流石に死ぬよな…?」
だれに聞いているかもわからないが、1人でつぶやく。
だが、あえて突っ込むという強さもある。しかし、
「こいつを喰らえ!【スラッシュ】ッ!」
俺の腰ほどしかないゴブリンの頭に剣を突きつけ、そのまま下におろしていく。剣の技であるスラッシュを使ったので運が良ければ
そのまま、流れるようにあらとあらゆる場所を切りつけてみる。が、やはりスライムほど簡単に行かないようだ。
さっきから、少しずつダメージをくらってしまっている。まだ痛くはないが蓄積すれば疲労と相まって大きな隙が出来てしまうかもしれない。
しかし、それでも雑魚ポジであるゴブリンは、棍棒を振り下ろそうと両手を上げ胴体ががら空きになる。
すかさず剣道の『胴』のように切りつける。綺麗に決まったので致命傷になり、ゴブリンは絶命する。ざまあみろと思う反面、『
「殺したのは怪物…人じゃない…亜人で、モンスター…大丈夫。俺は人殺しでもサイコパスでもない…大丈夫!」
言い聞かせるように1人つぶやく。
と、何処かで小さな悲鳴が聞こえる。あの二人なのだろうか?しかし、どちらも女性のような気もするが…?成長期の関係か…?
続く
「僕達じゃないです!でも、出番は後々あるらしいので、その時に自己紹介します。…だから自己紹介出来るようにするんだよキュレー。」
「お兄ちゃんがそう言うなら頑張る。」
というわけアリ2人の会話です。しかし、次出てくるのはヒロインズなのでした。
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第7話
俺は走りながら、ゲームを思い出す。あのゲームで1番印象的なキャラクターと言えば、あの兄妹だろう。
『カークス&キュレー』
詳しい事情は割愛するが、あの二人はファンとしてどうしても語りたくなる2人だが、この状況でおしゃべりができるほど呑気な性格ではない。
〔精神力が-5されました。〕
緑と赤のコントラストだなんて馬鹿げたことを言えるほど、綺麗な光景とは言い難い。もちろんその色の正体はゴブリン達と、そのゴブリンに殺された人々が血に染まって出来たものだ。
「うわぁぁぁ!こっ…こっちにくるなぁ!ああっ!」
「グギュラァ!」
目の前で人が死ぬ。ゲームでは当たり前だ。この世界はファンタジーだ。受け入れたつもりになって、分かった気になって、知ってる風を装って、死を見せつけられる。
怖い。たまらなく逃げ出したい。幸いなことにゴブリン共はついさっき死んだであろう人間だった何かに群がっていてこちらにはきずいていない。
だが、ここに走ってくることになった理由、2人の女性らしき声を無意識のうちに探してしまう。まだ、生きてるかもしれない。そんな風に醜く考えさせられる。
「【フレイム】!」
〔突如響いた魔法は周りにいるゴブリンを焼き始める。貴方はその光景を見て、微かに希望を持ち始める。〕
謎の声は、どうしてそんなことすら分かってしまうのだろうか。たしかに持った希望は、勇気を芽生えさせ、体を突き動かす。今のは魔法だ。少なくとも1人は生きている。彼女を助けられないなら、カークスもキュレーも守れない。父親にも母親にも会えない。…Endプレイヤー失格だ。
「【スラッシュ】!…おいっ!生きてるか?」
目の前にいたゴブリンに切りかかりながら、彼女に声をかける。
蹴り飛ばしたり切りつけたりしながら、どうにか彼女の細い腕を掴むと、思い切り引っ張る。
「
涎と棍棒を思い切り受けながら、魔法を使う少女を守るように、前に立つ。
「俺の後ろから、魔法を打てるか?俺に当てるなよ…?」
目の前で棍棒を振り下ろすそいつの目に剣を突き刺し、隣のヤツには回し蹴りをかます。
そろそろダメージがきつくなってきた。
「【ヒール】!【ファイア】!」
魔法を使う彼女はなかなかレベルが高いようだ。なら、そのパーティーが
「埒が明かない!隙を見て逃げる。…で、そのスキを作るから…
「わかりました!囮になればいいんですね?」
「ちげぇよ!隙を作るから逃げる準備をしろって話だ!」
「?誰が囮になるんです?」
「囮作戦じゃない!まぁ合図するから、それで逃げろ!君から見て左に走れ、後ろでかばってる子も連れてな…。」
ジョブを変更し、アーチャーになる。ほんの少し気持ち悪いが、アドレナリンのおかげで気絶することは無い。
「目つぶって3秒数えろ!【フラッシュアロー】」
1…2…3!
「逃げるんだよォ!」
ジョースター家の専売特許で元来た道を引き返す。道中ちゃっかりソードマンに戻りつつ、相変わらずの不快感残る気分で走り続ける。ここまで来るとアドレナリンだけじゃなくてマジにやばい物質も出ちゃってそうだ。
「ゼェ…ゼェ…ハァ…あ"あぁ!うぅ、気持ち悪い。だめだ…死ぬ…。」
そうして、情けなく倒れてしまったのであった。
続く
今回は短めで、次はヒロインズ達の描写をするので、馬鹿みたいに長くなります。ちなみに、主人公の名前覚えてます?自分は覚えてません。
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第8話
「あの…?」
何度もジョブを変えてその副作用により情けなく気絶していた俺は、綺麗な湖のように澄んだ声によって起こされる。美女のモーニングコールにしては最上級すぎるが、いかんせん起きる場所が宜しくないようだが…。
「あ、えっと。気が付きましたか?
誰だよ美女のモーニングコールとか言ったやつ。これだとメイドのモーニングコールじゃねぇか。
そんなふうに余裕ぶってふざけたことを考えられるのも束の間、次第に冷静な判断が出来るようになり体も起こせるレベルまで回復する。
「あー。えっと、さっき助けた…?」
「イヴです。家名はありません。」
イヴと名乗った少女は、奴隷が着るような麻でできた布切れを纏い、いわゆる女の子座りをしている。痩せているだなんていえば聞こえはいいがどう考えても栄養失調気味である皮膚の色と肉の付き方をしている。さらに元々綺麗な金色だったであろう長髪は、汚れと血でくすんで見える。
そして、その長い髪から少しだけ見える尖った耳を見ればエルフであることが伺えるが、それよりも気になったのは、エルフであることではない。
「もしかして、奴隷?」
一目見た時からその結論には至っていたが、ゲームには殆ど奴隷のことが絡むことは無いし、ストーリーでほんの少しだけ出て一切でなくなる。強いて言うなら、ジョジョ三部に出てくる『アン』みたいな感じだ。
我ながらすげぇわかりにくい例え。
「はい。そうです。そして今のご主人様は貴方様です。」
なぜ?と、目で尋ねると伝わったようで、
「元々私とさっき助けていただいたもう1人、『レイ』は、同じご主人様に買われました。さっき死んでいた中の1人です。ですが仲間割れになり、3人で揉めていたのが急に一人分静かになった辺りでゴブリン達の襲撃を受けました。私とレイは、盾替わりに使われそうになりましたが、その前に2人とも死んでしまって…。私はレイを守るために、戦っていました。そこで、ご主人様が私たちを助けてくれたんです。なので…その…お礼というか、なんというか」
「あ、いや!人を助けるのは俺の中では当然のことだし、お礼で奴隷になるってのは重すぎるよ!」
「?何を仰ってるんですか?前の主人は殺されているので、その主人を殺したご主人様に私とレイは仕えなきゃいけないんですよ?なので、お礼と言ってはなんですが…夜伽を…」
ツッコミ所が多すぎるので1番突っ込みたいところから、
「俺が人殺しみたいな言い方するな!ゴブリンは殺したが、お前らの主人は殺してないはずだぞ?」
「いえいえ、だからご主人様はそのゴブリンを殺したんじゃないですか。」
まさかの奴隷ルールはモンスターにも通用するらしい。
詳しく説明してもらう。それをざっくりまとめたものがこちら↓
最初の主人(ゴブリンに殺される)→ゴブリン(仮にAとする)→ゴブリンAをイヴが殺す。その場合イヴが奴隷なので同じ種族のゴブリン(仮にBと呼ぶ)に2人の所有権が移る。→ゴブリンBないしC、D、E、F…を俺が殺す。
よって、奴隷イヴと同じく奴隷レイを所有しているのは俺ことクエイフ。
なるほど状況は理解した、なら次のツッコミどころにいくとしよう。
「僕は奴隷を無理矢理犯してまで童貞を捨てたいとは思わない!やるなら双方合意の上で愛を持った方がいい!」
思わず一人称がぶれるぐらいの綺麗事だが、俺はレイプ物はあまり好きじゃない。
そして大きな声を出してしまったせいで、スライムがよってくる。イヴの魔法に合わせて、2回を程切りつけるとパタンと動かなくなる。
「えっと、レイって子はどこ?とりあえず、家に行ってゆっくり話そう。」
俺がイヴに言うと、彼女は口笛のようなものを吹く。
虎のように驚くスピードで何かが近づく。この子が噂のレイちゃんらしい。やはり痩せこけた体つきにイヴと比べてある一点もこぢんまりとしている。(イヴが大きい方だとしても、レイが小さい方であるのは間違いない。)さらに、普通の人なら耳があるであろう場所は、髪で覆われているので見にくいが、まぁ、耳はないのだろう。なぜなら、茶髪に赤い絵の具を垂らしたような綺麗な赤茶色の髪から犬や狐のような耳がちょこんと見えている。イヴがかなりの長髪に対し彼女は首元ぐらいまでしかない。
耳と目付きを見る限り彼女は獣人のようで、その辺が奴隷になったことに関係してそうだ。(まぁイヴの話を聞く限りそれが原因と断定できるが)
これでも俺はついさっきまで気絶していたのだ。1度戻ってその時に詳しい話を聞くとするか。
続く
9話に行く前にこの3人の紹介でもしようと思ってます。
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幕間人物紹介その1
とりあえず、キリのいいところでちょいちょい挟んでいきます。覚えてたら…
男
人類種
身長182cm
体重66kg
Lv2(8話時点)
ジョブ:ソードマン,ソーサラー,アーチャーが解放済み(8話時点)
チート:ジョブ変更,全ジョブ適性あり,謎の声(8話時点)
身体的特徴:特にととえている様子もない黒髪に日本人らしい顔つき、いわゆるイケメンと言うやつではないが、特に劣っている訳でもない平均的な顔。服装を整え顔を少し引き締めれば、十分にモテる部類だが、本人は努力する気がない。…Endに実際に入り、モンスターと戦闘などを経験したため、体つきは良くなった。
装備:冒険者の剣〔攻撃力+5〕初心者の弓〔攻撃力+2,速度+3〕魔法使いの杖〔魔力+5,常に精神力+1回復〕矢〔弓にかけた時攻撃力+6,通常時+2〕
女
亜人種(エルフは元々人と魔力が混ぜ合わさりその子供であるため。混合ではなく人の形をしているので亜人種と呼ぶ。魔力が女性を孕ませるとは思わなかった。)
身長:奴隷時142cm、ジョブ確定時167cm
体重:女の子に体重を聞くのはご主人様と言えど失礼ですよ!
Lv2(8話時点)
ジョブ:アルティメットワイズマン
チート:全魔法適性あり、常に精神力を100万回復する、初期状態で全魔法習得済み
※なお、ステータスは普通のため(ジョブによるステータス補正なし)最大精神力が足りなければ、魔力が使えない。
例:最大精神力が80として、使用精神力が80の場合、精神崩壊により死亡する。使用精神力が79以下の場合即時回復。使用精神力が80以上の時は根本的に魔法を使えないので安心してね。
身体的特徴:鮮やかで綺麗な金髪を膝ほどまで垂らし、エルフ独特の尖った耳が覗いている。目は片方が翡翠色に対してもう片方は黒瞳。胸は大きい方であり、本人曰くEサイズ後半だそうだ。(Fあると思うが、突っ込んではいけない。)
一般的にチートを持っているのは呪い子と呼ばれるので、そこで奴隷になる。最初は性的目的が多かったが、魔法で返り討ちにされるので戦闘に使われることが多い。
装備:そのへんの棒〔効果なし〕
女
亜人種(コボルトとオーク、キメラ等様々なモンスターを合成して作られた生物の細胞を人に移植して、その生物が産んだ子供)
身長:奴隷時122cm、ジョブ確定時168cm
体重:1ヶ月頑張って痩せるから待ってください。
Lv2
ジョブ:ハンター
チート:インベントリ無限(但しアイテムをしまえるようなバックなどを装備している時だけである。)、アイテム最大所持制限無し(通常のインベントリ容量は30の為30種類までのアイテムは何個でも持てる)、肉体変形、
身体的特徴:赤茶色の髪に狐や犬のような耳が生えている。人間の耳が生えている部分はぺったんこで何も無い。
あまり身体の成長が少ないタイプで、健康的な生活に戻れたにも関わらず、Aカップ(本人はBと言いはっているが…)目は濁った黒であるが、クエイフ曰くとても美しい目。イヴと同じ呪い子で、奴隷商人の所でも檻が隣だった上にほとんど同い年のため仲がいい。
体の皮膚や骨格を変形させることが出来る。劣化版柱の男達のようなものだが、あまり無茶な変形をすると痛いらしい。
装備:バックパック
以上、クエイフ率いるパーティメンバーの紹介です。
他に必要な情報やわからなかった情報等有れば質問受け付けてます!感想を貰えると嬉しいです。
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第9話
一通り二人の身の上話を聞いたあと、彼女達をどうするか考えてみる。正直養うとなるとかなりキツい。むしろ不可能だ。そうなると、2人も塔に入って戦ってもらうことになりそうだ。しかし、戦闘能力やその補助という面では申し分ない二人だが、紛れもなく女性であり、そんな彼女たちを危険に晒すことに抵抗も感じている。
とりあえず、2人に聞いてみることにする。
「イヴ、レイ、聞いてくれ。言い難いことだが、正直俺一人で奴隷を2人養うなんて到底無理だ。だから、どっちか出来ればどっちも、『…End』に入って戦って、お金を稼いでほしい。」
資金稼ぎについてはこれまたゲームの『…End』とは違う仕様だが、分かりやすいものだ。
モンスターを倒すとお金と素材が手に入る。素材は売ればお金になる。まぁ、よくあるゲームと同じだ。
関係ないがゲームでは、イグの洞窟でも2つの階に別れており、1階をクリアすると一定数のGと、回復薬やモンスター素材などのアイテムが手にはいる。モンスター素材はどこぞのモン〇ンのように集めて武器や防具にすることが多い。(仕様の都合上売れない。)
希に、一定数の素材を持ってこいと言われることもある。いわゆる、クエストだとか依頼ってやつだ。
話がそれた…
「一緒に戦ってくれるか?」
2人は答えない。拒否だろうか…?イマイチ反応が掴みにくいが、2人の様々な気持ちを孕んでいるであろう視線を、じっくりと受けながら、小さい少女─レイであっているはず─は、その小さく柔らかそうな唇を開く。
「私はイヴ姉と一緒ならどこでもいい…です。」
うまく敬語を使いこなせていないような言葉を聞いて判断を任せられたイヴは気まずそうに目を泳がせる。
「た…戦います。私も戦わせてください!」
彼女の中でどんな葛藤がありどんな結論を持って答えを出したかは分からないが、やると言ったからにはきっちり準備をさせなくてはいけない。
役所で『…End』に入る為の許可証を貰い、武器を整える。幸い神の餞別とやらがあるので、そこまで金に困っている訳では無い。と言っても、雀の涙程だが…。
「2人のジョブって何?」
これを聞かないことには武器選びなんて始められない。
「えっと、私たちは亜人な上呪い子だったんです。」
呪い子?ゲームでは欠片ほども聞かなかった言葉だ。
説明を求めると、
「呪い子は、
「あー、そういえば、ジョブってどこで就けるんだっけ?ド忘れしちやったわ」
「えーと、普通は神殿ですけど、最近は最寄りのコンビニでも変更出来るようになったらしいので、就くことも可能なんじゃないでしょうか?」
コンビニで出来んのかよ!公共料金じゃあるまいし、なんで出来ちゃうんだよ!
「あ、でも、ジョブの進化は未だに神殿だけらしいですね。」
あ、そう…
コンビニにて…
「いらっしゃっせー」
そんなふうにやる気のない声とともにコンビニに入る。まさか異世界に来てまでコンビニを利用するとは思わなかった。コンビニさまさまだ。
「すいません、ジョブに就きたいんですけど…」
「あー、店長呼んできますね。…店長ー!司祭の仕事でーす!」
「あ、はーい!いらっしゃっせー。変更ですか?あー新規ですねー。こちらへどうぞー」
コンビニらしいやる気のない声とともに案内される。こんなやつが司祭で大丈夫なのか?
新規の場合はこれといってアイテムを使わないらしく、チートがあるせいで就けるジョブもほぼ強制で決まっているらしい。
「イヴさん出来ましたよー?あなたのジョブはアルティメットワイズマンです!」
「ブーッ!」
俺はコンビニで買ったコーヒーを思い切り吹き出した。それもそうだ、なんせいきなり究極職になれるなんて。
ソードマンやアーチャー、ソーサラーなんかは初級職と呼ぶ。これは基本中の基本。
次にソードナイトやスナイパー、ウォーロックと呼ばれるものが中級職だ。これは少し進化したものだ。
そしてソードマスターやホークスナイパー、ワイズマンと言うのが上級職であり、普通は最終ジョブである。
しかし、ゲームでもシリーズによっては究極職というものがある。上級職の前にアルティメットという修飾語がつく形だ。これは一定の条件を満たさないとなれない上なかなかなれないレアなジョブである。
俺はゲームで、全解放したから知ってるけど…。
とりあえず、ここでチートのことを聞くのは無神経だから帰ったら聞くとしよう。
「レイさんは…はッ!?何にでもなれる?」
おいおいまじか…超バランスのいいパーティの出来上がりかよ!
というわけでレイにはハンターになってもらう。やっぱり遊撃手がいる方がいいからさ…。
武器を買って(お陰ですかんぴんになった。)服を買って、必要なものを一通り揃えたので、家に戻る。
この研究所は見覚えがあるようなないような、そんな気がするが、まぁ、気にしないでおこう。
とりあえず、寝よう。そして明日から本気出す…
続く
次は戦うよ!
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第10話
家(…Endを踏破した両親の研究所)に帰り、適当な部屋に入る。すると、当然居場所のない2人は着いてくるわけで…。
「あー。イヴとレイは同じ部屋でいい?」
「はい。構いません。」
「うん。そっちの方がいい…です。」
イヴは、きちんとした敬語なのだが、レイは結構おかしい。なんの違いだ?
「ねぇ、2人はどこで出会ったの?」
「私たちはあの冒険者のところで会いました。それが2週間ほど前です。」
意外と最近だな…。
とりあえず、2人を適当な部屋に案内し、そのへんの掃除ロボにベットを運ばせる。
忘れている人も多いと思うが、父は天才発明家なので、この手のロボットが大量にある。ほとんど電気で動かすものだが、魔力で肩代わりさせられるタイプも幾つかある。
「あの、この部屋にベットを運ぶ必要ってあるんですか?」
何を言ってるんだろう?もしかして布団派だったのだろうか?というか、この世界に布団なんてあるのだろうか?そんなふうに考えているとふと気づく
「あ!いやいや、夜伽とかはさせないから、簡単な家事とある程度の戦闘だけで十分だしそんなことをしたくて2人を助けたわけじゃないから。」
気軽に接していたので忘れていたが、2人は立場上奴隷だったのだ。
「それと、俺のことは『ご主人様』とかって呼ばなくていいから、普通に名前でね。」
ありがちだが少しずつ2人は奴隷じゃないと意識させて、ある程度強くなったら解放しよう。
「明日は実際に戦闘になるから、ゆっくり休んでね。あと、出来ればでいいんだけど、朝ごはんを作ってくれたらなぁ…なんて。」
夕飯はさっき外食をしたからいいとして、朝から外食できるほど金を持っていない。
風呂も済ませてあるので、あとは寝るだけだ。
2人におやすみと告げて、部屋に戻る。
「優しそうな人だね…」
レイはイヴに話しかける。彼女はまだ奴隷歴が短く、1週間ほど奴隷商のところで生活しすぐに買われて今に至る。
つまり実質3週間ほどしか奴隷ではない。
それに対し、イヴは生まれてからすぐ奴隷になったので(親に売られたため)彼女の奴隷歴は16年にも及ぶ。
いくら同じ歳でも、奴隷歴の違いがしっかりと現れている。
レイは久々の柔らかいベットを堪能し、イヴは初め触るフカフカのベットに戸惑っていたが、今までの疲れからか、すぐ微睡んでしまう。
朝起きると、彼女は柔らかいものに包まれる感触に驚く。
ベットの気持ち良さが恋しく離れたくないなと思いつた昨日主人に言われたことを思い出した朝食を作り始める。
隣で気持ちよさそうな寝顔を浮かべているレイの頬をつつきながら起こす。
「あ、おはようイヴ姉」
思いのほか目覚めがいいらしく、シャッキリとした顔で寝室を出て行ってしまう。
冷蔵庫の中にあるもので簡単な朝食を作り終えると、主人が起きてくる。
「あ、2人とも顔は洗った?水は好きに使っていいからね。あと、朝食ありがとう。…もしかしたら俺の分しかないんじゃないかと思ったけど、ちゃんと三人分あるね。2人が顔洗ってきたらみんなで食べよう。」
「あ、すみません。私たちは食べませんのでご…クエイフ様が全て食べてしまっていいですよ。」
「うん、俺今みんなで食べようって言ったよね。聞いてた?というか聞いて。お願いだから」
程なくして朝食を食べおえ、装備を整える。
「今日は塔に行く前にお互いがどんなことが出来るかを知るために訓練をしよう。というか、2人とも背伸びた?急に伸びた感じするんだけど?しかも、イヴは目のやり場に困るし…」
2人はきちんとジョブに就き、それなりの栄養のあるものを食べたために、大人へと成長したのだ。
ジョブに就くというのは、一般的に成人を認められることでもあるため、そこから急成長することは珍しくもない。
最もゲームにはなかった設定のため、クエイフは知らないし、奴隷の2人がそんな知識を持ち合わせているはずもない。
「まぁ、細かいことは気にせず、2人も感覚が掴めないとかもないんでしょ?なら、いいかな。」
地下にあるロボットの性能を試すための広場でいくつか的を用意する。
「2人ともあれを壊してみて、手段は基本選ばないけど、自分の体を犠牲にとかはやめてね。」
俺が言うと2人は各々武器を構える。
イヴが的に向かい杖を構えると、謎の声が話し始める。まさか塔の外でも使えるとはな…
〔膨大な魔力が杖の先に集中する。赤黒く光る魔力は【フレイム】の魔法を放とうとしているらしい。〕
使う魔法の補足を入れてくれるらしくかなり便利だ。
彼女の魔力が高まると同時に、綺麗な金髪がふわりと浮いて、ゆらゆらと宙を漂う。
一瞬あとには、黒焦げになった的と、勝ち誇ったような顔をするイヴがいた。可愛い
「次は私!」
完全に敬語を忘れ、レイが腕に取り付けてある小型のクロスボウを構える。
イヴがまだ離れきっていないのに、的の方に走っていくと、イヴを
そう、彼女は空を飛んでいたのだ。背中に白い翼を生やし、空を舞っていたのだ。
「まじか…!?」
そのまま、連続で、的に向かいクロスボウを放つ。一撃も外すことなく、人なら急所にであろう場所に刺さっており、確実に絶命してるであろう打ち込みだった。
「いえい!」
そして、無邪気なドヤ顔をしているのであった。やっぱり可愛い。
続く
うーん。戦闘してなかった。
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第11話
白い翼をバサリバサリとはためかせながら地面に降り立つレイ。可愛いドヤ顔をしながらも、濁った目は濁ったままであるのが不思議だ。何が彼女をそうさせたのかはのちのち分かるだろうなんて、呑気に考えていた。
「えーと、なんで飛んでるの?そういう魔法?」
魔法じゃないことは、分かりきっている。初見回避の謎の声が仕事をしてないところを見ると、スキルの類ではない。それが反応しないのは同じチートということだよう。
と、俺が思考の渦にハマっていると、レイはその場に倒れてしまう。
「レイ!?おい!大丈夫か!?」
すぐに医療用ロボットを使い、自分の体を改造する時などに使うベットに運ぶ。まぁ、要は手術用のベットだ。
[原因は栄養失調です。あとは背中で超急激に栄養を使用したことによる貧血だと思われます。]
機械のくせに機械らしくない声で原因を説明する。
当然だがあの謎の飛行能力は、チートにより体を変形させて飛んだり跳ねたりしているのだろう。
レイの持つチート【肉体変形】は、デメリットとして自分自身の栄養を使う。すると当然、ほかの場所には栄養がいかないわけで…。そんな複雑怪奇な栄養失調が起きるわけか。
なら栄養があればいいんだな。
〔スキル【天才発明】を使用します。知識ロール開始…血統により、強制クリティカルとなります。製作が成功しました。〕
血統…?どういうことだ?チートではない何かしらの力…かっこいいけど謎だ。
それでも、思ったものが出来上がったようで、実験はしてないが実質成功みたいなものだろう。クリティカルって言ってたし。
ここで、スキルとジョブと適性の違いについて、説明しておこう。ゲームの受け売りで申し訳ないが。
スキル─適性とそのスキルを獲得するための努力をすることにより増える。適性ではなくスキルになって始めて、技を覚える。
適性─秘めたる可能性。ただし気づかない限りは技を覚えることは無い。
ジョブ─特定のスキルを持っていることにより就くことの出来る役割ソードマンに必要なのは剣術1以上、ソードナイトになるには剣術30以上、ソードマスターは剣術100以上、アルティメットソードマスターはシリーズによって違うのでわからない。が、剣術を最高レベルにすれば問題ない。
まぁ、こんな長々とした説明を入れてまで何を作っていたかと言うと、エネルギーの塊みたいなものだ。
材料は、三人分の栄養バランスのいい夕食。
これに、効果を高める薬や栄養を体全体に行き渡るようにする薬とか必要そうな薬をとりあえずぶち込む。
どんなチートがあるかは知らないが、この手の発明は自動クリティカルになるらしい。
この薬を量産するとなると、機械に任せる方が早いけど…。その手のプログラムを組むのもお手の物。(元々知識は無かったんだけどな…)
「レイ、大丈夫?これ飲んで。」
流石に毒だとかという警戒はされなかったもののかなり不審な目をしている。
しかし、1口飲むと体がかなり楽になったのか、表情は落ち着いてくる。
「クエイフ様…凄いですね。お医者様なのですか?」
イヴが片方だけが翡翠色をした目を輝かせて聞いてくる。
残念だが、俺は医者なんて大層でかっこいいジョブじゃない。
「医者じゃない。俺は医者みたいな偉大なお仕事は出来ないよ。ただの
きちんとしたジョブをすることなく、全ての適性と全てのスキルを習得できるだけの、ニートもどきみたいなものだ。だから、ただのフリーターだ。
続く
チートの名前を変えました。
補足をあとがきでちょいちょい入れていきたいなと思います。
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第12話
1時間ほど経つとレイは起き出した。
「レイ、おはよう。少し話があるから、寝起きですまないが聞いてくれ」
俺が一息でそう言うと、イヴとレイの顔が恐怖で歪む。もしかして勘違いさせてしまっただろうか?
「あ、いや!別にお説教とかじゃないよ。ただちょっとレイに…いや、イヴにもか…、2人に話があるんだ。」
2人は頭にはてなマークでも付けるかのように、首を傾げる。少し可愛いと思ってしまった自分がいる。
「俺は『…End』を完全攻略したいと思っている。神になるためだ。だから、2人の綺麗な顔や大事な体がズタボロになるかもしれない。それどころが死ぬかもしれない。今なら、2人は家にいてもらって、ある程度のお金を渡してから好きに生活してもらっても構わない。改めて聞かせてくれ。」
「2人は俺と一緒に『…End』で戦ってくれるか?」
さっきは戦うと言ったかもしれない。でも、実際に倒れてみて、倒れたところを見て、嫌になるかもしれない。それに生半可な気持ちで『…End』に来て実際モンスターと向かい合った時に足が竦んで動かないと言われても、俺は助けることは出来ない。
「何回聞かれても、私は戦いますよ。戦わなきゃいけない。そのための
「私は…イヴ姉について行く。そうすれば間違いないから。」
2人に何があったのかなんて聞けないな。少なくとも今は…
「そうか…2人の事情は聞かないけど、来てくれるならいいんだ。」
2人が来ると言うなら、この秘密も話すべきだろう。
「じつは…俺も呪い子なんだ。」
2人の驚く声が重なる。それもそうだろう。いや、もしかして呪い子って2人だけしかいないの?
「クエイフ様は別の種族とのハーフなのですか?」
種族が関係してるらしかった…。まずいな…ゲームになかった設定だから、いまいち分からんぞ。
「えーっと…この世界の生物じゃないんだ。いわゆる異世界の人間とのハーフなんだよ。」
半分嘘だ。けど、半分ホント。
「へぇ!異世界にもモンスターはいるんですね!」
「いや、俺は異世界の人とこの世界の人とのハーフなんだ。」
「それでチート獲得出来るの?…出来るんですか?」
純粋そうな綺麗な瞳がこちらに向けられる。これを濁っているというやつは感性がおかしいのではないか?
「ああ、俺のチートは【ジョブ変更】ってやつだ。ジョブがその場で変えられる。スキルさえあればな。」
まぁ、そんなふうに言ったって実際に戦わないとわからないことも多い。
『…End』1階【イグの洞窟】
「今日は2階まで駆け上がりたい。でも、敵は容赦なく殺すよ。そのつもりでよろしく。」
基本的な戦闘方法としては、俺が一撃叩き込んだらすぐに下がる。そこをイヴが魔法を打って、その隙にレイの矢で止めを差す。もし、仕留め損ねても、俺の攻撃硬直は終わっているはずだから、2人にダメージは行かない。
「上手く行けばの話だけどね」
続く
次は…End内での戦闘の話。だと思う?
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第13話
それぞれの役割を確認し終えて、『…End』内を探索する。別にトントン拍子で登ってもいいのだが、せっかくだから楽しみたいと思うゲーマー根性だ。
ゲームはターン制だったのに対し、こちらは当然そうではない。よって、移動や行動さえも新しく戦法として考えなくてはいけない。今までは、この技使ったらジョブ変えてこの技でハメコンボ…みたいな単純さだったが、今では敵の行動をトレースして、イヴとレイの動きも見なくてはいけない。まぁ、実際どうなるかは分からないのだが…。
〔あなたが油断しながら歩いていると、空気がひんやりとし、薄気味悪い水音が近づいてくる。〕
油断なんてしてないと言いたいところだが、塔の中で考え事をしているなんて、普通はありえないのだろう。ゲームでさえ、油断したりすると即ゲームオーバーが有り得るウルトラハードゲームだったわけだし…。
「イヴ、レイ、アクアスライムだ。割と近いぞ。これはすぐ来るな…。」
「分かりました!私が盾になりますね。」
そう言うやいなや、イヴは俺の前に立ち、身を固くする。そして、見立て通り数秒後には腐りきり濁ったような青色が俺達を見つけ攻撃態勢を取る。
「イヴ下がれ!」
今更言っても遅いだろう。しかし、それはソードマンの素早さの話だ。
瞬間で、ソードマンからアーチャーに切り替えて、彼女をだき寄せる。そのまま、レイの方に放り投げる。もしかしたら擦り傷を負うかもしれないが、そこまで配慮できるような余裕はない。
改めてアクアスライムの方を向くと、もう間近に来ていた。攻撃までのスピードから言って、ただの体当たりだとは思うが、それでも避けきれるわけが無い。
アーチャーにしたのはある意味失敗だった。近距離攻撃はない上防御力も低い。更には体力もソードマンより低いのだ。このジョブはある程度レベルを上げてからじゃないと使いにくいのを忘れていた。
これならウィザードにしておけば良かった。ソードマンよりは早いし防御力もそれなりだ。体力はソードマンと同じ程度はある。それに、すぐに反撃出来ただろう。
目をつぶり来るはずの衝撃に備え身を引き締めるも、思考だけが進み後悔ばかりして、実際の攻撃が来ない。
「ふぅ、間に合った…」
そんな声を聞き、うっすらと目を開けると腕がズタズタになっているレイと倒れ込んでいるイヴ。そして、レイのものと思われる白骨化した腕がいくつも刺さっているアクアスライムがいた。
〔瀕死のそいつは、勝てないと悟ったのか、自分の体を引きずるようにして逃げようとする。〕
謎の声の補足を聞きつつ、剣をそいつに突き立てる。どさくさに紛れてソードマンに戻ってみたが未だに
「クエイフ様大丈夫…ですか?」
来ていないとか言ったけどやっぱ無理
「おはようございます。」
「おはようイヴ。今何時?」
「クエイフ様が眠ってから10分ほど経ちました。」
起きて周り見渡すとズタズタだったはずのレイの腕は治っており、酔いによる不快感も無くなっていた。
〔レベルが上がりました。奴隷:イヴのレベルが上がりました。奴隷:レイのレベルが上がりました。〕
レベルアップメッセージを聞き、なんとなく嬉しくなる。早いかどうかは分からないがこれでレベル3だ。
さて、探索を続けよう。
「その前にお説教だ。」
「はい…、お手柔らかにお願いします。」
「クエイフ様、罰なら私も受けるから、手加減してください…。」
俺は1度溜息をつき、イヴのお説教を始める。
「イヴ、俺はきちんと作戦を立てて、動きを指示しただろう。何故俺を庇おうとした?」
「それは…その…そうするのが奴隷の役目ですから…。」
「その役目とやらは主人の命令を無視してまですることだったか?実際俺はよりピンチに立たされていたぞ?確かにイヴは強いかもしれない。けど、俺はこの塔を知り尽くしている。プロなんだ。アクアスライムごとき、1人でも勝てる自信がある。けど、3人で連携した方がダメージも少ないし、効率もいい。だからそうしようって言ったんだ。次からは、魔法で俺を庇ってくれ。いいね?あと、回復魔法かけてくれてありがとう。」
そう言って彼女の頭を撫でる。まぁ、イヴだって、悪意があってやったわけじゃない。悪意があったのはそれを強制させた前の主人達だ。
「次にレイ。ありがとう。イヴを投げた時咄嗟に抱えてくれただろ?大きな怪我をしなくてよかった。それと、アクアスライムに攻撃してくれただろ。まぁ、自分の腕を矢の代わりにするのは構わないけど痛くないの?」
「痛くない…。本物じゃないなら、切り離すのも簡単。トカゲと同じ…です。」
トカゲ居るのかこの世界。
「そう、まぁ念の為インベントリの中にある食玉で燃料補給しとけよ?」
「もうした。…しました。」
「ふふっ。別に敬語じゃなくてもいいよ?」
そう言って彼女の頭を撫でる。
「改めて言うけど、俺はこの塔をクリアしなきゃいけない。でも、一人でやったんなら時間がかかりすぎる。」
ここで不可能とは言わない。だって出来るもん。伊達に12年もゲームやってないよ。
「でも、3人でやればもっと早い。俺が2人を守って、イヴが弱らせて、レイがトドメを差す。この役割は絶対だし誰が欠けても成立しない。イヴには回復と魔法支援も務めてもらうし、レイはアイテムを残らず回収してくれ。俺は2人が安心してサポートしたり採集したり出来るようその他雑務を引き受けよう。」
ここで俺は1度言葉を区切る。
「3人で、『…End』をクリアしよう!」
これは、俺とイヴとレイとの冒険譚で、恋物語で、フィクションだ。でも、確かにそこにある。だいたいそんな話
続く
なんか最終話みたいな雰囲気…いやいや、全然終わりじゃないけど?
途中出てきた食玉というのはレイの肉体変形を行うのに必要なエネルギーを詰め込んだ食料です。命名はクエイフ
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第14話
今回は結構戦闘メインのはず…だよね?
俺の前にはクリムゾンスライムがいる。もちろん『…End』の中では珍しいことではない。
さっさと始末して先に進みたいなと思ってもそれはなかなか叶わないことである。現にこうして敵がよってきては面倒な戦闘をして、レベルを上げて、技を覚えて強くならなくてはいけない。その為にこいつを殺すのに躊躇いを持ってはいけない。ゲームと同じように、貪欲に糧にするために、殺す。
「【アクアスラッシュ】!」
この技はレベルが3に上がり『剣術スキル』が2に上がったことにより覚えたものだ。
ゲームでは【属性スラッシュ】と呼ばれている。最初に取得出来る『魔法スキル』と『剣術スキル』のランクが2になると覚える技だ。
スキルの
「左に避けてください!【アイスボール】」
イヴの声を聞き、左脚に力を入れる。当然バランスは左寄りになり、その力を利用し跳躍する。
俺の真隣をやや掠めるように放たれた氷球はクリムゾンスライムに直撃しそのまま気絶に追い込む。その隙を大きく捉えたレイは敵の中心めがけ矢を放つ。
しかし敵は間一髪という所で目を覚まし本能で避ける。だが、そのもしものために俺がいるのだ。
「言っても通じないと思うがあえて忠告してやろう。生物ってのは案外車と同じで止まろうと思っても止まれないんだよ。ソースは俺。」
つい一時間ほど前、イヴを庇ったあと避けようと思ったがそれが出来なかった。まぁ、そんなに生物は強くないってことだろ。
まっすぐ馬鹿みたいにこちらに突っ込んでくる
「クエイフ様!アイテム出た!」
レイの言うとおりクリムゾンスライムからは、ドロップアイテム─赤いプルプルゼリー─が手に入った。
余談だが、スライムは青色でアクアスライムも青色である。それゆえプルプルゼリーシリーズではスライムのものとアクアスライムのものがしばしば間違えられることがある。(表記としてはスライムはプルプルゼリー、アクアの方が青いプルプルゼリー。アクアの方が少し青色が濃いのだ。)
「クエイフ様、これは何に使うのですか?」
「んー、売るか食べる。一応ステータスアップの効果はあるよ。」
このゼリー食えるのだ。
〔赤いプルプルゼリー─これを食べると火属性耐性+2、火属性攻撃+4される。調理には『調理スキル6』以上が必要。〕
この辺もゲームと同じでわかりやすい。
クリムゾンスライムのゼリーにお世話になる『…End』プレイヤーは少ないと思うが、青い方はかなり重要なアイテムだ。レベルにもよるがウィザードのレベル2で青プルゼリー食べてクリムゾンに対して【ウォーター】使えば1確だからな。ほぼ絶対即死させられる。俺もよくお世話になってた。
青プルを使わずにイグの洞窟を攻略しようとしたら、俺でも5時間かかる。(ゲームの話だけどね)
青プルありなら1時間で抜ける。クリムゾンの経験値は序盤では美味しいからすぐレベル上がるし1確するとボーナス経験値が貰えるからな(ボーナス含めるとゴブリンより高い)
さて、説明が長くなったところで先に進むか…
「あ、二人ともそれ食べちゃうなよ?お腹すいてんなら干し肉かパン食べていいからそれはイヴが持ってて、ピンチになったら食べていい。で、フレイム使ってくれ。」
俺は火属性攻撃を持ってないし、レイは属性攻撃すら持ってない。(一応目眩しと麻痺の状態異常系ならある)
「あー、レイ。ゴブリンには【パラライズアロー】が有効だから宜しくね。」
【パラライズアロー】とはいわゆる麻痺の矢だ。ゴブリンはこれに滅法弱い。
「お、噂をすればなんとやら、おいでなすったぞ?」
「クエイフ様、さっきから口調が変。」
自覚しているが…まぁ仲間との冒険ってやつにワクワクしているのだろう。
「【パラライズアロー】」
至って冷静に(彼女の名前とかけてる訳では無い)まるで、明日の天気を教えるみたいな気軽さで矢を放つ。その矢はかのじょの目論見通り目と目の間眉間の真下ほどと、方にしっかりと刺さっていた。
「…有効とは言ったけど、作戦は言ってないのに…」
「え…だめ?……だったですか?」
相変わらず敬語は上手くないが、言わんとすることは分かる。
麻痺なのだから誰よりも早く当てて、早いとこ仲間の攻撃の隙を作らなくてはいけない。そう考えての行動だろう。まぁ、間違ってなかったのだが、俺が無知であろう2人に、さも自分が考えたかのようにネットの情報を丸パクリで話して「クエイフ様すごーい」って言われてドヤる予定だったのだが…。うん気にしないでおこう。
そう考えているうちに、敵は麻痺毒が周っていったようで、手に持った棍棒を落とし膝をガクつかせながらバタリとたおれる。
「俺やっていい?」
「ええ、もちろん。」
3度ほど背中から剣を突き立てるとかすかに動かしていた体が大きく跳ねてはゆっくりと息が浅くなる。最後に心臓を貫くように突き立てると血反吐を吐いてしんでしまう。それはいいのだが、すこしきついものがあるな…
「またアイテム来た!」
〔ゴブリンの爪─垢で汚れてあまり綺麗とは言えない爪。【加工】に必要なスキルが不明です。スキル【鑑定】を取得するか【観察眼】が必要です。〕
〔前述のスキルを取得しますか?YES:NO〕
迷わずYESを選択してもう一度鑑定する。
〔【加工】に必要なのは鍛冶か制作どちらかのスキルランクが2以上〕
どうやら、これ以上は鑑定のスキルランクが足りずに見れないようだ。
「クエイフ様!周囲に危険な生物はいませんでした!」
自主的に見回りをするあたりいい子だ。
そんな風に呑気に構えながらイヴの頭を撫でる。金色の髪が俺の指を通り逆に髪の毛で指を撫でられているような感覚になる。
あんまり撫でたらシルヴィちゃんになるな…やめるか。
俺が頭を撫でるのをやめると、イヴは悲しそうに目を伏せ、レイは「次は私?」とでも言いたげな顔でこちらに近づいてくる。いや、これそういう話じゃねーから。
目で「やらないよ」と言うとイヴと同じような顔になり、すごすごと去っていく。まだ、少し休憩を続けたい。何せろくに剣なんぞ振ったことの無い元一般的学生がそう何時間も歩いたり連戦したりは出来な……
「ご主人様!」
今俺が話してる途中でしょうが…あと、ご主人様言うな。
「こっちきて!イヴ姉が凄いの見つけた。」
もしかして…みんな大好き宝箱か…!?
続く
という訳で次回宝箱と満を持してあの二人…の予定。
補足:スキルランクについてですが、例えば剣術スキルなら剣を使っていることが条件ですが、クエイフの場合チートにより全部一括で上がっていきます。途中で取得したスキルでも一瞬でランクが上がります。副作用として一気に技や技術を身につけるため脳が混乱して吐いたり、全身が筋肉痛(のようなもの)で苦しむことになります。
なお、クエイフの現在取得しているスキルですが、剣術、魔法、弓術、鑑定になります。
イヴは究極魔法のみ。レイは弓術と短剣術、感覚拡張です。感覚拡張はゲームにはなく、クエイフでも使えないものです。(種族とチートの都合)
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第15話
レイに案内され入った小部屋にはずっしりとした雰囲気を醸し出す宝箱らしい宝箱があった。念の為宝箱付近で待機していたイヴも連れて部屋を出ようとする。しかし、何も起きない。イグの洞窟でそんなことが起きるとは思えないがミミックの可能性も捨てきれない。
「二人とも外出てくれ。」
アーチャーになろうとしたが、レイはボウガンを持っていたんだった。
「威力抑えて打ってみて。」
「はい!」
元気な返事とともにボウガンの矢が宝箱に弾かれる。塔の中にある本物の宝箱は破壊不能なので、攻撃を加えることが出来ない。そして、レイの攻撃は弾かれた。つまりあれは本物だ。
「開けるよ。」
特に鍵などはかかっておらず、すんなりと開く。鍵を開けられるようなスキルはないので鍵がかかっていたら面倒だった。
「クエイフ様、中身何?」
完全に敬語をなくし形ばかりの敬称をつけるレイに苦笑いを浮かべながら、入っていたものを見せる。
「魔核と魔石、回復薬ですかね。」
魔核は高く売れるし魔石は魔法使いにとっては便利なものだ。どっちもあって困ることは無い。
─魔核と魔石の詳細は後書きで─
「レイ、バックの中に入れておいてくれ。」
「はーい。」
レイに魔核と魔石を渡して、バックに入れてもらう。いくらでも入るし重さもなくなるので負担にならない。
「あの、奴隷に荷物をまるっきり預けるのはどうなのでしょう?」
「あ!ごめん別に2人を奴隷扱いして働かせてるわけじゃないんだ。言い訳がましいけど役割分担みたいなものだよ。」
確かに立場的にも性別的にも褒められたことではない。しかし、俺があのバックを持てば肩がぶっ壊れると思う。たしか既に結構な荷物が入っているはずだからな。
「いえ、そういう訳ではなくて…クエイフ様の荷物を持ち逃げする可能性もありますよね?お財布もここに入っていますし…」
そう言ってバックを指さす彼女の手はとても美しかった。…なんだか吉良吉影みたいなことを言ったが、気にしないでほしい。
「そんなことしないって信じてるし、いちいち仲間を疑えるような余裕はないよ。この塔はそういう場所なんだよ。裏切られるのはそいつの油断。でも、信じないのもある種の油断ってわけだよ。」
何度もくどいほど言うが、俺は10年以上前からこの塔を知っていた。何度もこんなふうになったらと妄想した。その度に両親を見つけて喜ぶ自分がいたんだ。新しいシリーズが出るたびにお金を貯めて、買ってプレイして新しい設定やモンスター、技に、一喜一憂して馬鹿みたいにはしゃいだんだ。
「奴隷とか主人とか男とか女とかじゃないんだよ。知ってるやつは勝てる。知ってることは強さだ。知らないことは罪であり詰みだ。だから、2人を信じてるし裏切られても対処出来るようにしてる。もちろん、それを感じさせないのもプロの技ってやつなんだけどね。」
イヴはわからないとでも言いたげな表情をする。少し眉間にシワがよっている程度では彼女の魅力は失われなさそうだ。
「どうしてクエイフ様は、私たちに勝てると言えるんですか?」
「2人は知らないでしょ?俺の強さも、自分たちの弱さも、何も知らない。」
アルティメット?チート?そんなの知るか。俺なら2人まとめて相手できる。簡単に逃げ切れるし簡単に殺せてしまう。不意をつかれるようなことはない。決して、絶対だ。
〔あなたのカッコつけたセリフを遮るように、敵が現れる。その影の大きさからしてゴブリンのようだ。〕
別にかっこつけたわけじゃないのに…
「話は終わり、敵が来てる。」
ゴブリンが、イヴの魔法の範囲に入った瞬間、俺は敵に突っ込む。敵は当然、咄嗟の反撃をしようとしてくるが、俺はむしろそれを待っていた。
「イヴ!」
「はい!【ストーン】」
彼女が魔法で作り出した石の塊を蹴り俺が突っ込む方向を変える。ゴブリンからみて、右側で受け身をとっていると、それにつられこちらを見てくるゴブリン
「『…End』規則その1、いつでも全ての敵を目に写すべし!」
「なお、その2はない模様。【パラライズアロー】」
レイの放った矢は、ゴブリンの後頭部に刺さり体の自由を奪っていく。
「ナイス、レイ!あと、その2以降もきちんと用意してあるからね?」
まさか自分が教えたネタに突っ込むことがあろうとは…
「そろそろ休憩しようか。」
「いえ、そんな暇を与えてくれはしないらしいです。」
「みたいだね…」
ドヤ顔で小さな胸を張っているレイは置いといて、イヴと俺が見たのは、スライムの群れだった。ざっと数えても20はいそうで、お互いに混ざりあわないのか不思議だ。
「逃げますか?」
「いや、逃げない。こんな状況は『…End』らしいっちゃ、らしいけどな。」
寄ってきたスライムを【スラッシュ】で牽制しつつ、イヴに全体魔法を打たせるための時間を稼ぐ。
「レイ!もう少し下がれ!スラ・ストライクならそこは攻撃範囲だ。」
〔スライムは今までにないほど自分の体を引き伸ばす。そのタメの長い攻撃はどうやら【スラ・ストライク】のようだ。〕
「今使ったのどのスライムだ?わかんねぇ!」
どいつもこいつも無駄に体を引き伸ばし誰を斬っても、敵の技をキャンセル出来たという謎の声の案内は聞こえない。
メキメキッ!
そして、そのまま敵の攻撃を避けることも出来ずに、もろに食らってしまう。
…かと思われた。
「【ダメージバリア】!」
ガッシャン!パラパラ……
粉のように光が舞っている。その正体は彼女の魔法だ。確か防御魔法だったはず。レイの矢が敵を射抜かんと近づく宙ぶらりんでおかしな態勢のスライムはどう足掻いても避けられないだろう。
時間がとても遅い。走馬灯というかどうかは分からないがとにかくノロノロと時間が進む。矢の動きがゆっくりと見える。
「【スラッシュ】」
ほんの少しだけ体を捻ったスライムにトドメを指す。レイの矢は最初からその動きを読んでいたかの様に曲がりスライムを絶命させる。
「【フレイムバーン】」
中級の全体火属性魔法をイヴが唱え、スライムたちは燃えさかり死んでゆく。
生き残っていたやつもプルプル震えるばかりで、無残にも殺されていく。
そういえば、ゲームではスライムの行動パターンはこれで全部見たことになるのか。
体当たりとプルプル震えるとスラ・ストライクの3つだけなので、(一応言っておくと逃げるがあるが…)全てこの世界の実行動を見たことになる。つまり、それだけ戦闘経験があり、それなりに長くこの塔に潜ったことになるな。
と、考え耽っていると新スキルと、新ジョブを解放したと謎の声の案内が聞こえる。
〔新スキル【槍術】の取得条件を満たしました。【拳術】【斧術】【銃術】【鎌術】【短剣術】も同じく取得条件を満たしました。各ジョブに就けるようになりました。〕
〔チートによる新スキル【スライム】を獲得しました。よって、新ジョブ【スライム】を解放しました。〕
は?なんだって!?
続く
魔石─魔力を増幅させ、魔法の効果を高める。魔法による精神力減少を肩代わりしてくれる効果もある。
魔核─モンスターの心臓。魔法生物は心臓と脳がないものが多く、魔核が入っていることが多い。魔核は普通の生物を魔法生物に、物質を魔法物質に変える力を持つ。
魔力─魔法をどの程度操作出来るか、その力。魔法とは変換の力である。火が起こせるのは、自分の魔力と引き換えに熱エネルギーを得ているためである。
その他質問あれば、いつでもどうぞ!
やっとチートがチートらしくなってきたところで、次回はそのへんの説明ですかね。
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第16話
なので、無理あるかもしれませんが、全て1日の出来事ということで…
どうやら、モンスター系のジョブ?にも就けるようだ。試しにジョブをスライムにしてみると、当然のように酔いが来た。幸い近くにモンスターはいなかったので、2人の負担にはならなかったようだ。
「クエイフ様、スライムになってる!」
「意識はありますか?私達に攻撃とかしませんよね?」
目をキラキラとさせているレイと、不安そうにこちらを見るイヴ。
下から見ると凄いな…。それにちょっと屈んでるからほんとに凄いことになってる、
「えーと、俺もいまいちわかんないんだけど、スライムの技が使えるみたい。あと、モンスターの全ての行動を確認すればそのスキルを獲得出来るらしい。クリムゾンとか、アクアは火魔法とか水魔法を一定ランク以上で進化可能らしい。」
まぁ、詳しいことは後々分かるとして─
「これ案外動きやすいな。つか、スパイみたいなことでんのかな」
「あっちの方にスライムが一体いる。クエイフ様見えないの?」
レイは目付近を【肉体変化】させて、望遠鏡みたいにしてるけど、俺達は見えねぇから。
「じゃ、行ってみる。もし、失敗したらすぐに援護よろしく。」
そろりそろりと近づきたいところだが、あいにくかこの体ではベチャベチャとした水音を立てしまう。
「俺の言葉わかります?」
ある程度近づいたところでも話しかけてみる。が、こちらを向くと体を引き伸ばしてくるので、きっと俺を敵と見なしているのだろう。偽物だとバレたので慌てて距離をとる。このままでは攻撃を受けてしまうだろう。そう思い後ろに下がると、その少し隣をヒュ!と何かが駆け抜ける。どうやら、レイの矢のようだ。
「ん?矢じゃない!腕!?」
その腕からは血管が伸びており明らかに引きちぎったあとがある。その腕はスライム(敵)を、がっちりと掴んでいる。そして、グロテスクに伸びている血管はスルスルと短くなっていき、その度にスライムは俺が逃げようとした方へ引きずられていく。
「血管ロープ!」
ものすごくダサい技名を叫びながら、レイが自分の血管でスライムをぐるぐる巻きにしているのが見える。
「血管って、よく燃えそうじゃないですか?」
意味深かつ恐怖的なセリフを言ったあとイヴは、スライムに【ファイア】を唱えた。
〔無慈悲にもスライムに唱えられた【ファイア】はパチパチと火がはじけているのか血がはじけているのか分からない音を流す。黒焦げになった元血管はそのまま、灰に還っていく〕
このグロテスクな惨状を見届けたあと、ゴブリンに出たあったがこちらは普通に騙せた。(意思疎通は出来なかったが少なくとも攻撃されなかったし、挨拶のようなものをされた時もあった。)
「ある程度実験してみてわかったのは、スライムや、アクア、クリムゾンには本物のスライムじゃないとバレてしまう。ゴブリンには気づかれない。ただ、1階層にはいないアーチャーゴブリンやゴブリンメイジにたいして有効かは分からないし、【スラ・ストライク】が特別重要な技ではないことは確か」
まぁ、結論としてはモンスタージョブにはならないだろう。(ドラゴン系ならまだしも)
時刻は夜12時、とっくの昔に昨日を終えていて、今日が始まったが、『…End』にそんなものは関係ない。と言いたいところだが、ガール2人には重要だろう。お風呂とかお肌とか。その辺詳しくないのでなんとも言えないが。
帰りの道中にはモンスターに出会うことなく、帰れたのは僥倖と言うべきだろう。
今回持ち帰ったもの─
魔石:17個,魔核:24個,スライムの体液:5個,プルプルゼリー:3,色付きプルプルゼリー:赤2個,青1個,ゴブリンの皮:3枚,ゴブリンの爪:5,獲得金:580G
続く
やっと3人を…Endから追い出せた!
クエイフのチートについてですが、例えばスライムの行動は体当たりとスラストライク、ぷるぷる震える、逃げるの4つだけです。それを全て見る(確認する)ことにより、スキルが手に入ります。もちろんジョブもスライムを選べるようになります。
アクアスライムやアーチャーゴブリンなどのジョブを持ったモンスターになるには、アクアスライムなら水魔法を一定ランクにするか、スライムのスキルランクを上げるか、アクアスライムの全ての行動を確認する。このどれかになります。
アーチャーゴブリンもおなじです。
さらに同族系には偽物であることがバレてしまうのであしからず。
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第17話
『…End』から、出た俺達は1度研究所に戻る。で、そのまま風呂はいって寝た。ラッキースケベとかはないし、夜伽もやらないと言った以上そのへんの期待も出来ない。(なんなら2人のガード硬すぎません。この手の話ってもう少しそのへんがフラットな感じになるんじゃないの?)
俺は寝室に向かうと、引き出しからいくつかのノートを取り出す。
神からの餞別と言いたいところだが、あいにくこれは元々俺の持ち物だし、死んだ時に持っていたものは殆どこの世界に持ち込まれている。
ただし、鞄の中身はスマホと財布、折りたたみ傘とノートが5、6冊だけ。
俺もよく覚えてないが(この世界の出来事が濃すぎたため)確か、コンビニに行こうとしていたはずだ。だから大したものは持っていない。まぁ、折りたたみ傘を持ち歩くのは癖なんだ。
で、今回重要なのはこのノート。スマホはもちろん使えないし、財布の中身なんて、有って無いようなものだ。(野口が1人とレシート&小銭)
このノートはなんなのかと言えば、『…End』の為のノートだ。皆も経験がないだろうか、ゲームなんかで面白い戦い方や戦術を考えた時にメモっておいたり、必要なアイテムやモンスターの情報なんかをまとめたりした覚えがないだろうか?
いちいちスマホで、ググッてたら欲しい情報はなかなかピンポイントで手に入らないし、スマホが使えない時に困る。あと、暇つぶしに眺めたりするのにも使ってる。
まぁ、この『…End』の為のノートだが、新たな情報を書き込み、効率的な戦闘方法を考えるために使う。
本来俺はすぐに物事を考えられるような性格ではないが、こういった戦術を前もって考えておくのは得意だ。もう既にいくつか思いついてるから明日試すか…。
翌日─
「おはようございますクエイフ様」
「クエイフ様おはよう。」
どう見ても寝起きのはずなのに金色の髪が一切乱れていないイヴと、俺でもそれは整えるぞというレベルの寝癖をつけたまま朝食を食べようとするレイ。綺麗な髪が台無しじゃないか…。
「レイ、カモン」
「?」
どうやら、英語は通じないようだ。(まぁ、あるわけねぇけど)
「レイ、ちょっとおいで」
何故か俺の言葉にイヴがビクリと震えるが、レイは物怖じせずにこちらに向かってくる。
「いいかーレイ?身だしなみってのはな、きちんとするに越したことはないんだぞ?せっかく綺麗な赤髪なんだから、手入れはきちんとしておけよ?」
「んー?イヴ姉に髪洗ってもらってるから大丈夫!」
その自信はどこから来るんだよ。あと、二人一緒に風呂入ってたのかよ。道理で見当たらねぇはずだ。
「あの、ご主人様。図々しいお願いで恐縮ですが、私も頭を撫でていただいてもよろしいでしょうか?」
これそうゆうゲームじゃねぇから。
因みに赤髪の方はわしゃわしゃって感じなんだが、金髪の方はサラサラって感じがしてどっちも手触りがいい。
「ンンッ!話は変わるが、今日は2人の装備を見直すことにする。いや、俺の装備もか…」
あと買い出し。なので、結構やることがある。(あと、手に入れたアイテムを売りに行かなきゃならん、ので結構ハードスケジュールだ。)
「今日の予定を確認しておくぞー?あ、イヴはそのまま聞いててもらって構わない」
朝ごはんを作っている彼女はそのまま続けてもらいつつ、話を進める。
「とりあえず、『大倉庫』に行って、魔石以外の物を売ってくるだろ。次は商店街の方で食料品と回復薬を買って、寝袋は家にあるから買わなくていいな。どっかの鍛冶屋で、矢の補給と新しい杖を買って、アイテム売ってどのくらいになったかによるけど、俺の剣を新調して、出来れば槍か斧が買えればいいな。で、そのまま『…End』潜って、予定では1週間は潜る予定だから。で、イグの洞窟を攻略する流れで、よろしく!」
まぁ、『…End』内での風呂や服の替えにはあてがあるから大丈夫。(イヴの魔法に頼ってしまうあたりが情けない。)
『大倉庫』にて─
「全部で200Gになります!」
「あ!?ばかいえ、この量のアイテムだぞ?ゴブリンの皮1つで100Gあるはずなのに、全部で200だなんて頭のおかしい値段になるわけねぇだろ!」
なお、俺の言っている値段はゲームの相場である。100Gなんて、ゲームだったら秒で稼げるわ。
俺は続けて、受付嬢の様な人を怒鳴りつける。
「ならいいぞ!こんな所では売らねぇからな!」
割と大きな声で怒鳴っているが、現実の夏のコミケ的なあれよりも賑わっているここではさして目立たない。
「そう言われましても、それが相場ですし…」
「おいおい、嬢ちゃん。
俺たちの後ろにいた無精髭を生やすガタイのいい大男が、受付嬢らしき人物に声をかける。
「はぁ、もしかして初めての売却って嘘なんですか…?」
「いや、それは本当だよ。ただ、これだけ売って200だなんて、どう考えても欲張りすぎだから」
俺が肩を竦めて言うと、後ろの男は豪快に笑う。
「ハハッ!そりゃちげぇねえ!だが兄ちゃん。根性座ってんな。『大倉庫』とはいえ、公務員にはまちがいねぇのに、反論するなんてよぉ!」
「フッ!あいにく俺の故郷では公務員ってのは、あんましあこがれの職業ってわけじゃねえんだよ。なんせしょっちゅう問題を起こすからな。」
そりゃちげぇねえ!と、また豪快に笑い出す大男さん。
「ま、この辺の公務員も問題は起こすけどな!例えば新人探索者を騙してアイテムを安く買い叩くとかな!」
意地悪そうに方目をつぶって受付嬢をみる。どことなくキザったらしくて決まったポージングだ。渦中の受付嬢は、どこ吹く風で、よそ見をしている。ただ、少しバツの悪そうな顔をしているのを見ると、この人にはよくバレて怒られているらしかった。
「で、ホントの値段は」
「50Gよ。」
ゴツン!
おいおい、グーでいったぞ。
「うぐッ!痛いわねぇ!何すんのよ
「いいから、さっさとホントの値段を言ってきっちり払わんか、このバカ娘!」
バカ息子はよく聞くけどバカ娘って…
てか、親子かよ!
その後、もう一悶着あったが、無事2000Gほど手に入れた。(これでも、結構買い叩かれた方だと思うけどな…)
なお、本当の値段を言った時に、
「てめぇ!10分の1も下げてたのか!このバカ!」
と言われて、もう1発くらっていたことは俺の心に留めておこう。
『大倉庫』での、くだらない話が思いの外長くなってしまったが、レイの矢も、イヴの杖も新しく買うことが出来た。しかし、2人の防具と買ったため、おれは槍と鎌を買っただけになった。(武器の新調は出来ずじまい…)
続く
捕捉コーナー
大倉庫─『…End』や、ほかのダンジョン、フィールドでモンスターを倒すと、素材や、アイテムがドロップすることがある。それらを直接加工所に持っていくのは大変だし、わざわざクエストにすると高くなるという理由で商人たちがより集まって、冒険者や探索者の持ってくる素材を全て保管しておく施設。売却と保管の役割を担っており、加工所はここから素材を買うことが多い。このシステムが導入されてからしばらく経ったある日に、国が正式に認め、資格を持った人がこの倉庫を管理するようになった。受付嬢達は、大抵鑑定系のスキルを持っている。
彼ら彼女らの儲け方としては
探索者や冒険者から、ある素材を100Gで買ったとする。それを加工所に500Gで売ると差額の400Gが、そのまま利益になるのだ。
なので、初心者や初めて売却に来た人は大抵買い叩かれて、先輩や周りの反応で買い叩かれていることに気づく。なお、気づかないバカもたまにいる。
探索者─『…End』を含めた『人類未到達エリア』を、探索する人のこと。
冒険者─『人類未到達エリア』以外を探索する人で冒険家業を生業とする人、クエストばかりやる冒険者や、『人類未到達エリア』の到達している部分(…Endで言うとイグの洞窟)で、お金を稼ぐ人を指す。
人類未到達エリア─名前の通り人類ないしモンスターが到達した事の無い領域。『…End』や火山の中、深海に宇宙のことである。その中でも、『…End』は最高難易度とされている。現在人間が確認している中で人間が到達できていないのは、『…End』、『変化の里』、『亜人の街』、『混合都市』、『龍国家』、『神々の大陸』である。火山や、深海、宇宙は理論上到達可能エリアとされており、魔法ないし科学技術の発展によっては到達できるらしい。
補足が長くてすみません!『…End』以外の人類未到達エリアはあまり関係ないです!
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第18話
「クソ!なんで、イグに
男は随分と血にまみれており、話している言葉もどことなく怒号や失望が含まれている。片手には斧を引きずるように持って入るが、ぶら下げている程度のようだ。
「ヒェ!たすけ…まってー!あ……」
男の後ろでは甲高い女の悲鳴が上がっている。そして、その悲鳴もすぐに途切れては、皮膚が裂けて骨がへし折られる音となる。
「なんで…!なんでこ、ここに!どうして…」
「さぁ?どーしてだろーねー」
最初の男の声とはまた違った男の声が聞こえる。それは、どちらかと言うと少年のものであることが伺える。変声期を迎えてすぐのあまり顔つきとあっていない鈍くほのかに甲高い声だ。
顔つきと言っても、その少年はフードをかぶっており、その素顔を伺うことは出来ない。しかし、それでも滲み出るような悪意、殺意、敵意は逃げ惑う男を精神的に追い詰める。
「なんで…なんで、なんでなんでなんで!どう…して…こんな…所に…!『魔王』がッ…くるんだよ!」
「おやおや…僕の正体に気付くとはね…。いや、これだけステータスが高ければ、当然か…」
走っていたはずの男は体の上半分が無くなっており、少年の影から伸びる
「魔王様…あまり派手にやらないでくださいよ。創造神にバレてしまいます。」
「はっはー、神が神を恐れるとはねー。かたや勇者を呼び寄せ、かたや魔王に仕える影となる。なんて不思議なんだろうね。神って存在は…」
すると、《影》と呼ばれた
「勘違いするなよ小僧…私が仕えているのはあくまで破壊神様出会って貴様ではない。『魔王』のスキルを持っているとはいえ、パターン19660130のただの人間風情が…」
己の体よりも、黒黒しくまた、毒々しい物言いにも魔王は動じることなく、少年のような(事実少年であるが)あどけない笑みを浮かべる。
「僕を殺すことは出来ないんだろう?勇者じゃないと魔王は倒せない。まるで、『…End』の通りだね。」
心底うんざりとした様子で、影はまた、魔王の影の中に入っていく。
「とにかく、あまり騒ぎを起こさないでください。
「ああ、分かってるよ。自称影と死を司る神─シャドモルス」
「自称ではない。最近破壊神様に任命され新しく作られた神だ。」
少年はつまらなそうに返事をすると、自分の影と同化しようとするシャドモルスを踏みつける。しかし、一瞬早く消えてしまったやつに攻撃を加えることはなく、乾いた大きな笑い声を上げるだけだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
時は遡り二時間ほど前─
「今日は、新しい連携とお互いの行動を踏まえた上での行動を心がけてもらう。」
誰も彼もが勝手気ままにがむしゃらに戦っていたのでは楽な戦闘も疲労を溜めてしまうことになる。イグをクリアするまで潜っている予定の俺たちとしては、出来る限り疲労やストレスが薄い状態で戦いたい。
そして、実際に『…End』に入ってからのことである。
「そろそろ1階が終わる。2階からは新しいタイプの敵が出るからそこら辺の情報整理をしていこう。」
「質問!」
レイが元気よく手を挙げて質問してくる。ふわりと揺れた赤髪がとても綺麗だ。
「なんで前よりこんなに短いの?」
前にこの塔に潜った時は大体8時間以上も潜っていたのだが、今回は1時間半ほどで2階に続く階段の下にいる。
それはなぜなら、前よりかなりショートカットをしたのだ。これは『…End』をやりこんでいれば当然わかることでありゲームの塔の中では結構な数の近道がある。
「でもこれらの近道は大抵危険なところが多いから、イグの洞窟、それも1階層でしか使わないと思ってくれ。他に質問は…?」
2人を見るが特になさそうなので、話を進める。
「アーチャーゴブリンは、鈍いし攻撃力も低い。けど、状態異常系の矢を撃ってくるし、遠距離だから俺は処理出来ない。魔法耐性が低いからイヴよろしく!」
今度はイヴが元気のいい返事をした。その返事を聞き、ゴブリンメイジの説明に移ろうとすると、初老を目前とした感じで体の半分以上が機械で出来ている男が突然話しかけてきた。
「おやおや、元気な返事ですね…」
その老人は老人らしからぬキリッとした立ち姿でこちらを見ている。
「あなたは…?」
俺は彼が誰だか分かっていたが、イヴとレイは、誰だか分からないようだ。
「これは失礼…えーでは自己紹介をさせていただきますかね…。」
「私はメルク、ありとあらゆるものを買取、ありとあらゆるものを売りさばく。塔専属商人メルクと呼んでください。」
俺はゲーム内で
彼は『…End』内で荒稼ぎする凄腕商人だ。質は悪いが、大抵のものが彼から買うことが出来る。
まぁ、特になにかがあったわけでもなく、いくつかの回復薬を買って、ついでに売っていた装備を見ただけだった。
続く
次回予告!
『…End』の2階、それは今まで天狗になっていたヤツらの鼻をへし折り、痛い目を見せるための『…End内で最も死亡率が高い場所』と名高い死の領域で生き残ることは出来るのか…乞うご期待!
捕捉は特になしです!
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第19話
とあるゲーム機の(Vi○a)『…End~second~』というシリーズでは、攻略するまでに死んだ回数3回の内2回が塔の2階で死んでます。
「死ねぇ!」
俺の威勢のいい掛け声とともに、スライムの体は木っ端微塵に消し飛ぶ。
「ふぅ、やっぱり攻撃バフかかってると楽だな。」
「私出番なーい。」
イヴはともかく、遊撃手のレイは基本暇なくらいが丁度いい。なにか指示があった場合はともかく、攻撃する回数が多いというのはよろしくない。なぜなら、弓矢というのはダメージの致死性は薄いがヘイトは高い。それもそのはず、刺さっている間継続ダメージな上にチクチクとした痛みは誰もが嫌がるだろう。そんなこんなでヘイトコントロールがしにくいレイには戦局を見てもらう役割と補助を任せるぐらいが都合がいい。
『…End』は基本、少数対少数の方がいい。人が多ければこの狭い塔の中では動きにくい。だからこそ、俺とイヴで出来る限りトドメを指しておきたいのだ。
「素材とるからどいてー!」
レイはチートなのか種族特性なのか、適性がかなり多い。戦闘系は少ないが、(遠距離系と超近距離系)鑑定や鍛治系のいわゆる、生産・加工の適性が物凄いのだ。
「ん!レア出たーラッキー」
レアが出るのは、幸運値と『解体』や『生物学』などの勉強系のスキルが必要だ。彼女は努力することを苦と思わず、なおかつ努力で得られる経験値が人より高いのだろう。まぁ、その辺はゲーム的な仕様では無さそうだ。
言い忘れていたが鍛治は出来ても家事はてんでダメだった。イヴ曰く料理はゴミが出来上がるし洗濯は雑巾すら作れない。部屋の中身を全部買い換えようと思ってるのなら、掃除を任せてもいいらしい。そこまで行くとどんなだよ…。
そんなふうにレイにスライムの素材を剥ぎ取って貰っていると、ふとその手を止めこちらを一瞥する。
「なんか来る!」
「あ?……ぶっねぇ!」
「え?なんで……きゃぁ!」
(今何が起こった!?)
俺は当然ながら驚く。
(まて、落ち着いて状況を見ろ。いや、謎の声が来るはずだ。質問してもいい。とにかく、2人を落ち着かせて、且つ反撃体制を整えて、いや、逃げるべきか…)
それでもゲームらしく、ゲーム以上にありとあらゆることを考える。あのゲームは判断力と勇気を問われるゲームだ。そう、勇気を持って、天才であり英雄の父に少しでも追いつくために…
「今何が起きたか分かるか?」
2人とも首を横に振る。分からないということらしい。
〔貴方がつかの間の休息で体を休めていると、突如として飛来してきたナニカが現れる。そいつは、高速で飛来したあと、未だにこの場に燻っているような感触がする。この上ないプレッシャーに誰もが口を閉じていると、徐々にそいつの全容が明らかになる。〕
〔モンスター名:ガーゴイル
個体名:001(魔王による命名)〕
謎の声のステータスメッセージを、横目で見た後改めて敵の姿を確認する。
魔王?どういう事だよ…魔王が出るのは3DになるDSの第4シリーズ『…End~勇者と魔王の塔争奪戦~』だけだぞ?そんなマイナーなやつがこの世界にいるのか?(ほかのシリーズのボスないし、ラスボスは神様なことが多い。大抵のシリーズではボスは神様、ラスボスや隠しボスは父親か母親のどちらかになる。)
そして、魔王に攻撃出来るのは『勇者』のスキルを持っていなければならない。(まぁ、俺なら多分後でスキルを獲得出来るが…)
とどのつまり、このガーゴイルは魔王によって生み出されたモンスターというわけか。
「次は右!」
レイが突然叫んだので思わず言う通りにすると、イヴのすぐ右を、左手に持った剣で切り裂いた。もちろん、レイのおかげで、イヴにはなんのダメージをもない。俺じゃないなら言ってほしいな…。
「【インパクト】ッ!」
イヴは、避けてすぐに杖を構え、黒い翼めがけ魔法を放つ。
その衝撃の塊は確実にその青い背中を捉え、地面に激突させる。
「ナイス!イヴ。アーンド、レイ!GO!」
自分でもニュアンスが過ぎるだろうと言うような適当すぎる英語で大雑把な指示を出すと、レイは腕のボウガンを引き始める。
「虚技【ハンドアロー】」
レイの平坦な声と共にいくつかの矢もとい腕が飛んでいく。一部のスキルと言っても彼女にしかできない、
「【チェンジ:ランサー】」
腕の矢をうち終えたレイの後ろから追撃するようにスピード特化の一閃を叩き込む。どちらも近距離武器なのでそんなに酔わない。
「【ロックスピア】!」
ガーゴイルは水属性なので自然属性の技を使う。割と有効的な攻撃のようで、それなりに苦しんでいる。
しかし、魔王直属の部下なだけあって、一筋縄では行かない。
「グギュァ!」
なんと言っているかは分からないが意味不明な奇声をあげて、こちらに切りかかってくる。
「【チェンジ:ガーディアン】」
槍を放り投げてイヴの前に立つ。そのまま両腕を胸の前でクロスさせる。
ザシュッ!という肉が切られる音がするも、骨までは全く達していないようだ。ガーディアンの防御力パネェ!
「【ライトバインド】」
「【バインドアロー】」
2人の拘束系の技が2つとも綺麗に決まりガーゴイルの動きが一瞬止まる。ほんの少しだけ戦って分かったが、こいつには勝てない。だからこそ逃げよう!
「にげるぞ!」
俺が声をかけると、2人はさっきまで進もうとしていた方へ走ってゆく。よし!2人が逃げ切れたなら、俺も逃げられる。
「クエイフ様!【スピードダブルアップ】」
「あッ!ばか!一気に中級なんて使ったら!」
確かに速度は上がったが、ガーゴイルの要らないヘイトがかなり高まったらしく、わざわざ追いかけてまで襲ってくる。
しかし、そこからは防戦一方で、イヴの支援がなければとっくの昔に死んでいただろう。しかし、一方でイヴやレイが、いなければもう少し早く進んだのではと考えてしまう。
「クエイフ様…大丈夫ですか?」
イヴが心配そうに声をかけてくる。正直全く大丈夫では無いが、精一杯カッコつけてみる。
「たりめぇだろ!俺はここを知り尽くしてる。多少…こんなことがあっても、いつだって逆転できるさ!【スラッシュ】」
こまめに剣や槍を使い分けることにより、行動を読ませず避ける隙を与えない。ゲームではできない戦法だ。
「大いなる魔力よ、より集まり
「詠唱を全て言った魔法なので効果は長く続くと思います!」
それはありがたい。確かに攻撃を受ける度にガラスが砕けるような音がして、ダメージそのものは少ない。
「大いなる魔力よ、より集まり、その壁を厚くしたまえ【多重障壁】」
イヴはそこまで言うと、血反吐をぶちまける。
それもそのはず、確か障壁系の魔法は常に固定精神力マイナスだったはずだ。つまり、回復量と使用量のバランスが崩れたのだろう。
「そろそろやべぇ!」
レイはどこかで安全な場所を探しているのだろう。イヴは倒れたまま動かない。
これはまずい。非常にまずい。なぜって、多数戦ばかりの俺は一対一の技を使えないのだ。あるにはあるが効果が薄い。それに勇者以外のダメージは即時回復のようで、即死させるような方法はない。
絶体絶命だが…せめて2人だけでも危険のないようにしておきたい。
「クエイフ様、危ない!」
「ガァ!」
ガーゴイルの汚い叫び声とともに、イヴは俺を突き飛ばす。真っ直ぐに突き刺してくる剣はイヴの腹をぶち抜く。辺りに鮮血が撒き散らされガーゴイルの黒い皮膚は不気味な赤黒色に変わっていく。
ピコン
〔スキル『勇者』を獲得しました。全てのジョブが勇者用に変更されます。〕
スキル獲得の軽快な音が流れると同時に、俺は陳腐な勇気を爆発させる。
イヴは自分自身に長期回復魔法をかけていたようだ。効果の続く限りその人の体力を回復させる魔法だ。不幸中の幸い、後でハイヒールをかければ傷も残らないだろう。だが、それよりも、こいつを殺さなくてはならない。
地面がえぐれるほど強く踏み込み、ガーゴイルの肩口に斬り掛かる。
「ギシャア!」
イヴのものかガーゴイルのものかはたまた俺のものかわからない血があたりに飛び散る。一部は俺の頬をかすめ不快な生暖かさを感じさせるも、関係ない。
すると、背中に矢が刺さるよう痛みが走る。どうやら、アーチャーゴブリンのようだ。背中の矢を引き抜くとゴブリンめがけ投げる。気持ち悪い悲鳴をあげて死んだそいつには目もくれず、上空で肩を押さえるガーゴイルを睨みつける。
ドン!
と言う地面が割れる音を立てながら、俺はまっすぐ上に
天井に指を食い込ませながら、ガーゴイルに近づく。
首を軽くはねて、絶命させる。よし、これでいい。
やっと2人の…もとに…帰れる…。
〔スキル『勇者』の効果が失われました。〕
……To be continued
三千字…多すぎたな。今回も細くはなしです
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第20話
ここからは3人それぞれのチートが活用されます(多分)ので、より一層お楽しみいただけたらと思います。
暗い場所にいた。
そこはとにかく暗かった。海底の方がよっぽど明るいだろうというような場所だ。握りこぶしを作れば、確かに自分自身の感触がする。どうやら死んだ訳では無いようだ。そのことに安堵しつつ、周りを見渡す。
すると、すぐ近くに、どこかに見覚えのある白い服のおじいさんが座っていた。
おじいさんはくるりとこちらを向くと、自分の白い髭を撫でながら、優しげな目をする。
「久しぶりじゃのう…クエイフ」
この名前を様付けで呼ばれなかったのは初めてかもしれない。そう言えば、俺と関わりのある人って、イヴとレイの2人に、メルクぐらいだったな…。あれ、俺友達少なすぎ…?
「少ないと言うより居ないという方が正しいの…」
神様のありがた迷惑な注釈を聞いて、ちょっと傷ついた。
まぁそれはそれとして、俺と神様が出会っているということは、なにか要件があるのだろう。
「ああ、要件という程でもないが、いくつか報告をしておこうと思っての…」
報告とはなんだろうか。結婚うんぬんって話ではないだろうし…。不思議に思いながら、続きを促す。
「まぁ、謎の声によって知らされてると思うが、お主は『勇者』の資格を得た。」
勇者ってドラクエとかの主人公のアレ?
「元々この世界にはな、全知全能神がおったのじゃが、全知全能神は何らかの理由により、二柱の神を作った。それが、創造神たるワシとワシの対なる存在、破壊神じゃ。」
オイオイオイオイ、なんだか厨二病みたいな一人語りをされたがイマイチわからんぞ?つまりあれか、この年で厨二病を患ったのが報告か?
と心の中でぼけてみたが、要は神様が3人もとい、三柱いるということだろう。
「創造神と破壊神は争うことを強制された。勝った方が時期全知全能神になれるからの…しかし、神同士の実力は互角。ならば、お互いの思う生命体を代わりに戦わせようと言うことになったのだ。そして、2人の選んだ生命体は、お互いを殺しあった。まぁ、ワシらも色々考えた上で人間を選んだのだがな。しかし、相打ちになったよ。何度戦いを繰り返しても、相打ちになるのじゃ。そして、渦中の人々は破壊神を信仰するものを『魔王』と、創造神を信仰するものを『勇者』と呼ぶようになった。」
「というこの話がパターン19830813では有名での、…Endの頂上ではワシと破壊神が『勇者』と『魔王』の決戦を見ていることになっている。まぁ、実際見ているが…だが、あんな辺鄙な塔では見物せんよ」
「おい!ちょっと待て!話が飛びすぎて意味わかんねぇから整理する時間をくれ。まず、俺が勇者のスキルを手に入れた理由は?」
「ワシが別のパターンの住人から選んだのだ。19830813の人間では、決着がつかないからの。」
「…Endを攻略しろって言ったのは?」
「…Endを所有する神の座は取られたが、創造神の椅子までは取られんよ。あと勇者として素質があるかどうかを確かめるためじゃな。」
「ちなみに今の…Endの所有者は?」
「お前の両親、俗に言う天才夫婦の2人じゃ。」
「どうして、あの世界はゲームに似ている?」
「逆じゃ…元々ゲームの作者がこの世界出身なんじゃ。記憶の消し忘れってやつじゃな。」
「お前らの目的は?」
「全知全能神になり、新たなパターンを作り続ける。」
「破壊神の方は?」
「知らん!」
どうしてパターンを作り続けるのかは教えてくれなかったが、だいたい理解出来た。
「つまり、『…End』は実話だったんだな。そして、…Endのある世界で神ってのは、全知全能神と創造神と破壊神のことを言う。ここまではあってる?」
「全知全能神のことを知っているものは創造神と破壊神、人間ではお前だけだな。」
「なるほど、で、俺はこれからどうすればいいの?」
「『魔王』を倒してこい。」
「だが断る」
決まった!いやー、清々しいくらいテンポよく決まってくれたな!まぁ、そんなもん断るに決まってんじゃん。
「つまり、あれだろ?あの天才の両親もいるんだろ?なら会いたいじゃねえか。知ってるか?ゲームではな、2人に会えた主人公がどうなったか、どのシリーズでも語られてないんだぜ?このあと3人で幸せに暮らしました。って、ありきたりなセリフもない。それは何故か?答えは簡単だよ。」
「子供達はまだ誰も両親に会っていない!」
なんて素晴らしいんだ!…Endの世界で『初めて』をとるチャンスがくるなんて。
「『魔王』?んなもん知るかよ。俺は両親に会って、その先を描くんだ!この世の誰も見たことの無いその先へ!だから、『魔王』なんて、片手間で倒せるぐらいに強くなる。じゃあな神様!今度会う時は唯一神としてあるといいな!」
俺は、そう啖呵を切って、さっそうと歩き出す。300m程歩いてから、急いで元の場所に戻る。
「わりー!…Endの世界に帰してくれ」
なんとも情けない勇者であった。
こうして、俺の両親に会うための冒険が今一度始まる。
そして、勇者として、魔王を倒す話も同時に始まる。
元の世界─塔の中で目覚めた俺は、心配そうな顔をする2人に思い切りの笑顔を見せて、断言する。
「イヴ、レイ!予定変更だ!この塔の頂上へ行く前に、魔王をぶっ潰すぞ!」
2人はキョトンと驚いた顔をしたあと、お互いを見合いこちらに向き直る。
「はい、クエイフ様の仰せのままに!クエイフ様の向かう道が私達の道です!」
「私は2人について行く。それ以外は私の居場所じゃない!イヴ姉の隣とクエイフ様の後ろが私の立ち位置。絶対に、薬品くさい研究所なんかじゃない!」
決意新たに、魔王を潰して神様助けて家族に会って、最高のハッピーエンドを迎えるために、俺たちはまた塔の中を歩き出す。
続く?
「やっと見つけたぞ『勇者』」
男は薄暗い顔をして、2時間ほど前まで彼らがいた場所を見つめている。そこには、ガーゴイルの死体が綺麗に解体された状態で置いてあるだけだ。
「因縁だなぁ!この世界にまであいつがいるなんて、因縁だ…。会いたかったなぁ!殺したかったなぁ!史上最年少『…End~ZERO~』攻略者…
「○○○」
最後に男は誰かの名前を口にするも、大きな破壊音により、更には似合わないようなドス黒いフードにより声も口元も隠れてなんと言ったかはわからない。
しかし、その殺意と死んだガーゴイルの独特に異臭はあたりに漂い続けた。
続く
えっと、この話は書いてて何回か要らないかなって思った話です。多分ふざけて書いたやつが悪ノリしちゃったんでしょうね。なにか質問等あれば、いつでも受け付けます!
何度も言いますが、お気に入りを頂き大変嬉しい所存です!これからもよろしくお願いします!
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第21話
いらない設定─
クエイフの好きな数字は12(…Endのシリーズを通して一番面白い階層だから)
イヴの好きな数字は特に考えたことは無いが7(響きが可愛いから)
レイの好きな数字は19(2人の好きな数字をたした)
改めて魔王を倒すことも視野に入れて『…End』探索を続ける。
1週間『…End』に篭もり続ける計画を立て、その初日からあんな化け物と戦うことになったのは不幸そのものだが、いつまでも嘆いていられるほどこの塔は甘くない。
「クエイフ様、左」
「はいよ!」
「クエイフ様もっと左で!【マジックボルト】」
娘二人は主人を邪魔者扱いしてくる…辛い
きっとこの戦い方では効率が悪い。もう少し連携を深める必要がありそうだ。
サクッとゴブリンを倒し辺りを見渡すと、少し奥の方に影ができていた。
「ん!向こうに宝箱あるな…。二階層ともなれば結構多いもんだ。」
「そうですね。あ!レイ、勝手に走っていかないで!」
宝箱を見つけるとレイは無邪気に走っていく。…剥ぎ取り途中じゃん
〔あなたは、経験と直感によりその宝箱が偽物であることに気づく。〕
すかさず、謎の声の補足というか注意が聞こえ、レイに呼びかける。
「レイ!それ偽物だ!それ以上近づくな。ゆっくり戻ってこい!」
『…End』に出てくる宝箱系のモンスターといえば、『ミミック』と『オバケ箱』ぐらいか?どっちも火耐性がよわいはずだから…
「イヴ、よわい火属性打ってくれ、単体でいいから。あと
【ジョブ変更:ランサー】
武器を変えてジョブも変えておく。ミミックにはないがオバケ箱は自身の長い舌を使って攻撃する上、状態異常付与がありとその範囲が馬鹿でかい。軽く2mほど伸びて攻撃する。
この槍もあまり長い方ではないが、ショートソードよりはマシだろう。
「付与【ファイア】」
初級の火属性魔法を槍に付与してもらう。イヴの魔力が切れるまでは、この槍は相手に攻撃する度に槍のダメージとファイアのダメージを両方与えることが出来る。
ちなみにだが、俺はソードマンからランサー程度なら酔うことなくジョブ変更ができる。(ウィザードにしたりアーチャーにしてたから少しは耐性がついたのだろう。)
なお、鎌を使う『リッパー』もあるが、このジョブは使ったことがない上、仲間がいる状態では使いにくそうだから、変更したことがない。
「【ファイアランス】!」
その一撃でオバケ箱は撃退できたようだ。
「えーと、レイ…こんな風に偽物の時もあるから、宝箱には不用意に近づかないように」
「はぁい」
良かれと思ってやったのだろうが裏目に出てしまって不服そうだ。
「さ、ちゃっちゃとこいつを解体して、三階層に行こうか。」
だが、俺は少しずつ近づいてくる気配に気づいてながらも分からないふりをした。この歩幅から言ってあの二人で間違いないし、謎の声も仕事してないし、何よりゲームではこのあたりだったからな。
「クエイフ様、なにか来ます。」
「ああ、らしいな。」
イヴはエルフという種族柄気づいたようだ。レイも忙しなく鼻を動かしている。
いや、多分あの二人を匂いで探すのは厳しいと思うけど…。なんせ本人達曰く3ヶ月以上この塔に潜っているのだから、塔の匂いしかしないと思う。
「た…食べ物…貰えませんか?」
「……」
くすんだ黒髪に疲れているような目、服もボロボロで体も倒れてしまいそうだ。きっとこの少年は『カークス』だろう。
同じくくすんだ青髪に眠そうな目、服もズタズタで兄以上に体はフラフラしている。この少女は『キュレー』だろう。
なぜ2人の名前がわかるのか、それはもちろんゲームでの知識だ。まぁ、一応確認しておくか…
「おい?大丈夫か?まずは水を飲め。どのくらい食べてないんだ?」
「覚えてないです…。今、何日ですか…」
キュレーはフラフラどころか倒れてしまった。イヴが回復魔法をかけて細かい傷を治していく。
「聞こえるか?大丈夫か?水をのんだら、少し寝ろ。食事はそれからの方がいい。」
カークスは気を失っているであろうキュレーに手を伸ばし、うわ言のように彼女の名を呼ぶ。
「キュ…レー…。キュレー……絶対…守るから…」
何とも美しい兄妹愛だ。たとえ、ゲームで全てを知っていても、泣かされること必須だ。まぁ、泣きたくなるのはわかるが、イヴ泣かないでね。ここで泣かれたらモンスター寄ってくるし、イヴがいない状況だとさばききれないから。
続く
ついに!あの二人が登場!
カークス…チート持ちの少年、黒眼黒髪であるが、顔立ちは日本人離れしている。
チートは究極剣術。全ての剣技が使える。なお、短剣等は別
キュレー…チート持ちの少女、カークスの妹だが、青髪に翠の目と似ていない。ただし、顔立ちはカークス同様日本人離れしている。お人形さんのような可愛らしい顔をしている。
チートは不明。光魔法や回復魔法の上位である『神霊魔法』が使えるのがチートだと思われるが、真実は不明。
神霊魔法─神々のみが使える究極の魔法。イヴとキュレーも使えるが、消費精神力が多い上扱いが難しいので、今の2人では扱えない。
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第22話
カークスとキュレーは、2人とも寝ている。体は薄汚れているが、彼等の芯はとても強いことをよく知っている俺は、2人が安心して眠れるように、見張りをすることにした。
「クエイフ様…この2人どうしますか?」
「殺さないよね?」
「おいおい、俺は殺人鬼とかじゃないんだぞ?『…End』内で何日も生きていける子供二人なんて怪しすぎるが、俺のチートさんは仕事をしてない。つまり、さして危険じゃないんだよ。」
最も、この2人がゲームの兄妹とは別の悪魔的な何かで、その手のチートさえも回避してしまうほどの強さを持っていればこの状況はまずいが…。
「イヴ、ちょっと早いが夜ご飯にしよう。胃に優しいもので作ってくれ。」
昼食はパンを食べたが、夕飯はきちんとしたものを食べておきたい。
「それと、見張りのローテーションだが、この時計が3時間たったらだぞ?」
時間や日にちと言ったところは同じなようだった。強いて言うなら、うるう年という概念がないことぐらいか…。
そのため、少ない魔力で動かせる魔法時計を使って時間を測っている。
「順番は…そうだな…イヴ、俺、レイの順番で見張りをしよう。イヴが見張りをしている間に俺たちは寝る。3時間たったら俺を起こしてくれ、その間にイヴとレイが寝てくれ。また3時間経ったら、レイが見張りをしてくれ。」
9時間も休憩するのは多い気もするが、眠い状態で『…End』で戦闘しようなんて片腹痛い。むしろ、全身痛くなる。いや、その前に死んでしまうかもしれないな…。
そうこう話しているうちに、カークスとキュレーが目を覚ます。
「えーと、おはよう?とりあえず、お腹すいたろうからご飯にしよう。」
「ありがとうございます!良かった…何日ぶりの食事だろう…」
うーん、何とも壮絶な2人だ。
キュレーの方は俯いており、兄の裾を掴んで離さない。
とんでもなく強力なロリコンホイホイだな…。
ああ、俺にはそういう気は無いので問題ない。ただ、初恋がキュレー(ゲームのドット絵だけどね)ってだけだ。十分やべぇやつじゃないか。
ロリコンホイホイと言っても、実年齢は中学生程度だし、背丈があまり伸びていないだけだ。
カークスは今でこそジョブに就いていないが故に成長期が来ていないが、ゲームでの最大身長は193cmと大柄の青年になる。完全なるイケメンなので逆に腹が立たない。(性格の方に難ありだからな。どんだけイケメンでもシスコン野郎はモテないらしい)
おっと、全然関係ない話になったな。
「カークスは、もうジョブには就いているのか?」
「あれ?僕名前言いましたっけ?」
やべ!地雷踏んだ…
「あーいや、言ったよ…。うん。言った言った。」
うん、多分誤魔化しきれてないけどいいや。
「えーと、改めて自己紹介します…。カークスです。えっと、キュレーの兄です。ここには両親に捨てられて4年以上になります。こうやって探索者の方々の好意でご飯をもらったり、残ってるモンスターの死骸なんかを食べて生きてきました。」
oh......とてつもなくハードな2人だった。
「き…キュレーです…。お兄ちゃんの妹です…。」
ゲームよりもオドオドとした様子で、若干震えながら自己紹介をする。
「俺はクエイフ、こっちの金髪のお姉さんがイヴで、犬耳のお姉さんがレイ」
俺達も自己紹介をするが、覚えてもらえるかどうかは怪しい。
一通り食事を済ませ、2人はもう一度眠ったようだ。
見張りの時はイヴやレイが奴隷だからと俺を起こさないなんてことも無く、きちんと交代で行った。それだけの事だが大袈裟に褒めてあげたら案外効果的だったらしい。
カークスとキュレーはどう説得しても俺達には着いてこないと言うので、相当数の食料と剣をあげた。この剣はモンスターからのドロップアイテムなので、使いこなせないということはないだろう。
そうして2人と別れて探索を進める。この塔にいればまた会えるだろう。
続く
ドロップアイテム─モンスターを倒すと希にアイテムを落として消えていく時がある。その時に落としたものは全て例外なく『アイテム』として扱うため、装備することは出来ないが、手に持って振り回したりすれば武器にはなる。杖なども同じであるが、1度でも塔の外に持ち出すとその時点で装備品扱いとなり、その武器が使えないジョブだと、アイテムボックスに収納される。
武器はジョブによって使えなくなるが、アイテムには特別なアイテムでもない限りはどのジョブでも、ジョブに就いて無くてもつかえる。
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第23話
塔を探索していると、ゴブリンメイジに出会う。
「イヴ、こいつの特徴、ちゃんと覚えてるか?」
「はい。目の色によって使ってくる魔法や弱点属性が変わるモンスターですね。単体で現れる時にはそれほど強くもないですけど、ゴブリンやアーチャーゴブリンと連携してくる時には優先的に倒さなきゃいけない。…ですよね?」
ゴブリンメイジとはかなりの距離があるため、お互いに確認をしておく。(と言ってもイヴとレイの2人に教えるだけだが…)
「連携してくる時に優先的に倒す理由は何だっかな、レイ」
「えーと、……目の色に関わらず回復魔法を使えるから?」
「2人ともよくできたな。えらいえらい。じゃ、俺が剣で斬るから、防御魔法と攻撃補助魔法かけてくれ。合図をしたらボウガンよろしく。」
「分かりました、【ダメージソード】。防御の方は強めにかけておきますね。盾あらんことを【スーパーシールド】」
どちらもゲームではあまり出番のない補助魔法だが(基本敵には自分一人で敵一匹を相手するので、わざわざ補助魔法をかけるぐらいなら、攻撃を優先する。まぁ、もちろん全シリーズ通して、全ジョブでのクリアというのはやってきたのだが。)
レイの方は、軽く頷くとボウガンの手入れを始めてしまった。流れるような金髪を撫でたあと、邪魔にならないように赤髪をサラッと撫でる。うん、可愛い&素晴らしい
「ガーゴイルのお陰で上がったレベルの成果を見せてやろう!【終滅斬】ッ!」
この技は名前は最高に強そうなのだが実際の威力はそうでも無いという残念な技なのだが、ソードマンのレベルが、8になるまでは、最速の攻撃速度を誇り、そのうえ攻撃硬直の時間がとても短いという序盤活躍の技なのだ。(後半ではソードマンからソードマスターとかに進化するのでもっといい技がある。)
ゴブリンメイジが確実の俺を捉え、かなりのヘイトをこちらに向けられたようだ。
終滅斬はヘイト稼ぎにも使える技だからな。
レイの名前を叫ぶと待ってましたとばかりに、俺の真横を矢が通り抜けていく。
「あぶねぇ!」
こちらに振り上げた杖を構えた右手は止められてしまい、攻撃出来ないまま大きな的となる。
「そろそろソードマンから変えようかな。【首狩り斬り】」
相手の体力が一定以下だと、確率で即死付与の剣の技だが、一般的にゲームでも剣技は条件付きのものが多く、リスクやコストに対して、リターンが少ない。
例えば、アルティメットソードマスターの最強剣技、【アルティメットスラッシュ】は剣ダメージ(大)の割にすり減らす精神力が尋常じゃない。それだったらランサーとかの方が楽なんだよな。いや、待てよ?攻撃役をレイに任せて、こっちがヘイト管理を受け持つってのもありだな。
「イヴ、レイ、戦闘方法を変える。」
まず俺のジョブを【ガーディアン】に変更して、ハンターは弓と短剣を使えるので、レイには短剣に持ち替えてもらう。俺が使おうと思っていたのだが、別に執着がある訳でもないからいいか。
「で、こうした時の作戦なんだが、まず俺がヘイトを稼ぐ。そしたら、レイが攻撃して、セカンドヘイトを稼ぎ終わったら、イヴは魔法で色々やってくれ。」
それに、ある程度攻撃したら俺もランサーなんかで戦ってもいいかもしれない。
その他細かいところを確認し終えて一息入れると、図ったかのようにゴブリンの団体様が現れる。
「チッ、パーティーか。てことは10体ぐらいいてもおかしくないな。」
〔情報補足:ゴブリン4体、アーチャーゴブリン2体、ゴブリンメイジ2体、ゴブリンナイト3体。計11体〕
謎の声がそんな補足を入れてくれる。うむ、これは助かる。しかしこれは、俺がそれなりの情報を持っているからこその補足であり、俺が完全に知らないことまで丁寧に教えてくれる訳では無い。
「メイジが結構後ろにいて攻撃出来ないな。一瞬開くのが精一杯だから、あんまり期待しないでくれ。」
モンスターたちはこちらに向かって駆けてくる。汚い唾液が垂れようと構えた武器が仲間に当たろうともお構い無しのようだ。
「小手調べだ!【オーバーヘイト】」
「防御掛けます!鉄壁に似たれ【ウォール】」
相手のヘイトを俺1人に向ける技を使ってすぐに防御力上昇の魔法がイヴからとんでくる。オーバーヘイトのお陰でイヴにヘイトは回っていないようだ。
「【オーバースラッシュ】【フラッシュソード】」
ダメージとしては弱いが、かなりのヘイトを俺が引き受けたことになるので、レイやイヴの初級攻撃なら問題ないだろう。
「盾よ、強固たれ【シールドウォー】」
これは確か…盾装備時に防御力を倍加させ一定時間
このタイミングで使ったのは大正解だ。
「イヴ!グッジョブ。【スタンパーティー】ッ!」
今まで俺に攻撃した全ての敵を気絶させる技だが、副作用として、しばらく俺にヘイトが向かなくなる。ここで使えば、敵はノーヘイト状態になり、俺たち3人の誰にも攻撃することが無くなり、メイジが狙いやすくなる。
「イヴ姉ありがと。【パラライズカッター】」
パラライズアローを覚えていれば短剣を装備するだけで使えるようになる短剣技だ。前にゴブリン系には麻痺が有効だと言ったのを覚えていたらしい。
メイジはスタンに麻痺が入ったので、かなりの時間動かない。ほかのゴブリンたちもまだスタン継続中なので、攻撃し放題だ。
「別に言わなくてもいいかもだけど連携のため【ジョブ変更:ウォリアー】」
レイが投げてきた鉄製の斧を構えて周りに叩きつける。これは、ちょっと前に再び会ったメルクから買ったものだ。
程なくして、戦闘を終わらせる。タンク役の俺はともかく、イヴやレイはほとんどノーダメージだ。
「一応、レイにはヒール掛けてくれ。イヴはポーションでいいだろう。俺はハイヒールじゃないとダメかも。」
ヒールは片親が魔力であるイヴにはあまり良くない。別に使えないことは無いが、なんとなく不快感が残るらしい。そのため、回復量は少ないがポーションを使っている。
俺は結構ダメージを受けてるので、ハイヒールを要求する。
〔レベルが上がりました。クエイフLv8イヴLv8レイLv8カークスLv3〕
カークス?どういう事だ!?
続く
ヘイト─敵からの狙われやすさ。
ある程度のものはググれば出ると思います。
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第24話
〔レベルが上がりました。クエイフLv8イヴLv8レイLv8カークスLv3〕
カークスまでレベルが上がっている?なぜだ?俺やイヴ、レイはパーティ設定をしてあるから経験値が一律で入るため同じようなレベルアップが起きるが、カークスをパーティに入れた覚えはないし、そもそもパーティに入れられるのはジョブに就いている人だけだ。
〔パーティ情報
クエイフ:男:ランサー:Lv8
イヴ:女:アルティメットワイズマン:Lv8
レイ:女:ハンター:Lv8
カークス:男:神兄:Lv3〕
神兄?なんだそれは?初めて聞いたジョブだ。そもそもジョブか?まさか…
それがジョブとして認められるのなら、パーティに入れることが出来るのか…?
そうして、俺が長い間考えていると、謎の声の悲鳴に似た警報が鳴り響く。と同時にイヴが防御魔法を詠唱し始める。
「クエイフ様!なにか来ます!」
彼女の叫びとともに、俺はジョブをガーディアンに変更する。イヴの支援魔法を受けて盾を構える。
「おいおい、『アルケタイプ実験室』ならまだまだ先のはずだろう…」
ゴツゴツとした岩のような肌に中央の赤いコアがおぞましく光る。ずしりずしりと音を立てながら歩いてくるそいつは、正しくゲームで見た通りのゴーレムであった。
「な…なんですか、このモンスターは…?」
イヴの声は震えきってる。それもそうだろう塔の外側─絶対に壊すことの出来ない石と同じ色をしていて、ただの岩の塊の癖してここまでグロテスクな見た目をしているのだから…。
「こいつはゴーレム。普通はこの階層では出ないはずなんだが…」
「クエイフ様は物知りですね。なんて言えるような状況じゃないので、何も言わなくていいですか。」
当たり前だ。俺だって唖然としてる。流石に初期ジョブでは勝てない。中級で苦戦するような敵なのだから、最低でも上級ジョブでLv20、装備万全ぐらいの状態で戦うようなやつなのだ。…言わずもがなゲームでの話。
〔スキル『勇気』が発動しました。これにより、全ジョブが勇者用のジョブとなります。〕
ああ、そうだよな。この程度勝てなきゃ魔王も神も両親も倒せるわけないよな。しょーがない。
「2人は逃げろ。俺が引きつける。」
【オーバーヘイト】を使って、ゴーレムの注意をそらす。イヴとレイはなんとか逃げてくれたようで、ゴーレムも二人を追うことはしない。
「さーて、俺が逃げるわけにはいかないよな…。」
剣も青銅の一般的なものだし、鎧はレイのアイテムボックスに入っている。盾は構えてはいるが、ガーディアン用に使うものはこれもレイのアイテムボックスの中だ。
確かにLvもジョブも装備も経験も何もかも足りない。なんなら持ってない。それでも、俺にはたった一つの最強の武器がある。
懐かしいな、最初の頃の『…End』はゴーレムが1番強かったんだ。神様とは戦わなくて、ラスボスが父親と母親で、ゲームクリアのあとのお楽しみ要素みたいな部分でキングゴーレムが君臨してたんだよな。全然勝てなくて、父親(現実に血の繋がった方)に泣き縋ったんだよな。なのに親父はあっさり勝ちやがって…。
ゴーレム系最大の弱点は、不気味にひかるあのコアだ。最初に見た時に赤色だった
あの光っているコアが、この話の核なのだが(コアだけに)あのコアは光っている色の属性を帯びている心臓のようなもので、今黒色に光るあれは闇属性、闇に有効なのは光属性なので、光の攻撃を与えるとその時点で動かなくなり即死するのだ。俺はゴーレムと戦う時によく弱点を突いている。(親父はゴリ押しで勝ってたが)
全てゲームでの設定だが、こいつにも有効だろう。
こんなふうに長々と説明しながらだが、ちょいちょい攻撃されている。それでも、ゲームと攻撃パターンがほとんど同じなので、避けるのも容易い。
しかし、このまま防戦一方というのも難しい。反撃のチャンスを伺ってはいるものの、イマイチ掴めない。
それでも、ミスというものは犯してしまうもので…、
〔ゴーレムの鋭い一撃があなたにのしかかる。その一撃だけであなたは再起不能に陥ってしまう。〕
まずい、ここで
俺は…ここで…死ぬのか?……イヴ、レイ………
ピコンッ!
〔『勇気』発動しました〕
死んでたまるかッ!俺が…この塔を…
「この塔を手に入れるのをどれだけ望んでいたと思う!」
〔ジョブ変更:ハンター ジョブ変更:スライム ジョブ変更:モンク〕
この3つは使いどころが難しく、わざわざ使わなくてもいいと思い封印していたものだ。なんせ、ハンターはレイが居るし、スライムは擬態にも使いにくい上、必殺技である【スラ・ストライク】が大して強くない。モンクはヘイトをあまり稼げるジョブではないので、2人に攻撃が及んでしまう。
しかし、武器も吹っ飛び装備もあってないようなものであるこの状況では、速度が1番高いハンターで近づき、形状を自由に変化させられるスライムならゴーレム物理ダメージはほとんど無効化する。そして、武器のいらないモンクの最大の特徴─
「武器未装備時攻撃力2倍!そのうえ、即死付与10%!」
今は眩しいような白色に光るこの中心部に、『勇気』を込めて!
「【ブラック…」
お前を倒すのに小6の俺はなんど泣いただろうか。お前に自力で勝った時中3の俺はどれだけ喜んだろうか!
高校三年生には、この世界にいる限りなれないけれど、きっと、お前を倒して馬鹿みたいにはしゃぐのだろう。
だから、自分のいるべき、死の香りが漂うあの実験室でまた戦おう。
「ハンマー】ッ!」
続く
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第25話
でも、よく考えたら、イヴはLvが変わったぐらいしか情報の変化がないので、前書きと後書きでクエイフとレイの紹介をしておきます。
クエイフ
男
外見等代わりなし(忘れてるかもしれないけど体の大部分が機械になってしまっている。)
獲得スキル─剣術、拳術、斧術、鎌術、槍術、弓術、短剣術、双剣術、大剣術、魔術、家事、鍛冶、鑑定、勇気、スライム
習得ジョブ─ソードマン、モンク、ウォリアー、リッパー、ランサー、アーチャー、ハンター、デュアルソードマン、ギガントソードマン、ウィザード、スライム、家政夫、装備職人、勇者
なお、スキルのランクについては一律で7である
レイの紹介は後書きで…
辺り一面に瓦礫が積み重なっていた。機械には見えない青年と、生きて動いていたとは思えない岩の塊。その2つが折り重なるように、しかし、乱雑に横たわっていた。
「…やっぱり
そのグズグズの現場を冷たい目付きで見下ろしている者がいた。そのクエイフよりも幾ばくか年上に見える青年は、静かに目を伏せながら悲しそうに呟く。
そして、彼の影はその凄惨な方へ近づき、ゆっくりと浮かび上がってくる。
「魔王が随分弱気だな…?そんなんでこいつは殺せるのか…?」
影─シャドモルスは不審な顔で魔王を見つめる。
「さあ?別に今すぐ殺さなきゃいけないわけじゃない。この塔を最終的に手に入れた方が真の『…End』プレーヤーだ。ま、でも、こっちから呼んどいて、すぐに捨ててしまうのも勿体ないね。君には名前と新たな命をあげよう。…にしてもガッカリだねー。動揺しすぎて精神力がかなり低下して気絶なんて…。こんなにリアルだからこそ人間味のある精神減少があるのかなぁ?」
奇しくも魔王の言う通りクエイフは、二階層でゴーレムという特異な状況に精神をすり減らしていた。その結果、気絶してしまったのである。
「んー、前に名付けたのはなんだっけ?」
「さぁな…確かモルモットが何匹かいたはずだから最後の名前は005じゃ無かったか?」
魔王はゴーレムの亡骸に手をかざすと、スキルを発動させる。
「6か…あんま好きじゃないんだよな、この数字…『…End』の階層でいえば、大体がネザーファロールのいやらしいトラップ群なんだよなぁー。あそこは苦手だよ…」
「なら飛ばすのか?」
間髪入れずにシャドモルスが聞く。魔王は少し唸ったあと、それでいいか、と楽観的な声を出す。
「じゃ、こいつは007ね。スパイではないけどいいでしょー!」
そして帰ろ、と彼は続けざまに言う。そして、その宣言通りに音もなく彼らは消え失せてしまう。
いてぇ!頭が痛い。身体中が激痛だ。
「グォギュガァ!」
「危ない!」
何の声だ?誰の声だ?
体の痛みを我慢して、無理を重ねて体を起こす。
「クッ!【魔法障壁】」
ガラスの割れるような音ともに一瞬で状況を理解する。つまり仕留め損ねたのだろう。そして、2人は駆けつけてくれたんだ。
〔情報訂正:鑑定の結果と総合し、新たに獲得した情報です。
ゴーレム
魔王による命名:007〕
なに…!前のガーゴイルが001だったはずなのに…?いや!今はそれどころじゃない。
「レイ!装備品投げる余裕あるか?」
レイはゴーレムの周りをチロチロと動き回り翻弄している。しかしそれは【肉体変形】によって、おおよそ誰にも真似出来ないであろう避け方をしているからであって、イヴの方も気絶していた俺や、自分自身への防御魔法詠唱により余裕はなさそうだ。
ジョブはモンクのままだ。それを最大限利用できれば…少しでも隙を作れれば、武器の受け渡しぐらいは可能だ。
「【シルフラッシュ】!」
「クエイフ様!」
風属性の連撃でゴーレムをほんの少しは怯ませられたようだ。モンクの特性として弱点攻撃をすると、殆どの確率で怯ませることが出来る。(ゲームでは常識)
やはり、情報はかなり重要だ。これがなければ一方的にやられてしまっていただろう。
いや、こんな攻撃では当然足りない。魔王によって名前がついてしまっている以上、勇者としてしか倒せない。
「ゴブリンが来てます!」
クソ!今さっきガーディアンになったばっかだから慣らす為にもジョブ変更はしたくねぇのに!そもそもあっちを相手してれば、ゴーレムの攻撃は避けられないだろう。
あっ!
ピコンッ
〔スキル『ゴブリン』を獲得しました。ジョブ『ゴブリン』『アーチャーゴブリン』『ゴブリンメイジ』『スミスゴブリン』を習得しました。〕
なんてこったい!これじゃ…余裕で勝てる!
モンスタージョブの最大の利点、それは…
〔ジョブ変更:スミスゴブリン〕
スミスゴブリンの最も厄介な技、
【装備制作】
パーティメンバーのアイテムボックスに素材があれば、ノータイムで武器や防具が作れる技だ。
「そして、製作する時、好きな場所に出現させられる。」
これは、ゲーム的な仕様だとは思うが、ゲーム中に意味不明な場所から武器が出現して飛んでくる。
「お前の最大の弱点は、コアのぴったり背中の部分だよな!」
大量に作った安物のほとんどノーコストみたいな槍を連続でゴーレムにぶつければ、さらに、2人の魔法や短剣もかわしているのなら、
やっぱり、このチートがあるなら、どんなジョブやスキルも獲得するべきだったな。
「スライムの擬態は変化種には効かないらしいけど、お前みたいな亜人には有効なんだよなぁ!」
スライムになれば、ヘイトは俺に向いたまま攻撃の網を掻い潜れる。その分イヴやレイに攻撃が向かいやすくなってしまうが、その位は妥協してしまった。
「お前の背中が弱点だということは、ゲームでも誰も知らないことだと思うぜ。」
なんせ、ネットに載ってないぐらいマイナー情報だからな!
忘れもしない中学二年生の頃─
『…End』の新作を始めるにあたって説明書を熟読していた頃、ゴーレムの紹介の欄に弱点属性が打撃と書いてあった。しかし、ゴーレムは中心の核以外の場所では弱点がない。気になって前のシリーズから全部見直したが、その全てに弱点属性は打撃と書いてあった。
そして、遂に背中だけに打撃が通用することを知ったのだ。
「普通背中なんてゲームでは攻撃出来ねぇよな…」
1VS1が基本のこのゲームで相手の後ろに回れる隙なんてないしダメージもコアへの攻撃の方が大きいもんな。
「正真正銘、最後の攻撃だ。」
スライムの究極奥義!
「【スラ…
イヴとレイの叫ぶような応援が聞こえる。流石に背中に乗られれば気づいたらしく振り落とそうとしてくる。
…ストライク】!」
スラ・ストライク打撃属性と貫通を持っていて、イヴの付与魔法により、核の黒に対し俺はうっすら白く光っている。
まさに、魔王と勇者っぽいじゃないか!
強烈な破壊音により、ゴーレムは中心から粉々になる。
確かに強かったが、勇者はいつだって魔王には強いのさ!
お互い激励と回復なんかを済ませて、探索を続ける。
こんなんで魔王倒せるかな…
続く
レイ
女
外見等代わりなし(胸の成長もなし)
獲得スキル─弓術5、短剣術7、罠術1、学問MAX、解体15、才能
習得ジョブ─ハンター、学者
才能はスキルランクのないスキルです。
学者や家政夫なんかは、変更無しで使うタイプのジョブです。
以上捕捉でした
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幕間人物紹介その2
男
人類種
身長151cm(ジョブを正規の手段で習得してからは177cm)
体重55kg
Lv4(25話時点)
ジョブ:ソードゴッド,神兄
チート:究極剣術,神兄
身体的特徴:クエイフとはまた違った黒髪で黒眼と日本人らしい特徴だが顔立ちは日本人らしくなく、外国のモデルのようなスタイリッシュで聡明な顔。重度のシスコンでゲームよりも酷い。妹の為ならいくらでも非道や外道を演じられる性格であり、彼女のために激昴することもしばしばある。
装備:冒険者の剣〔攻撃力+5〕硬皮の盾〔防御力+3〕初心者用防具〔全ステータス+1〕
女
種族不明(本人達曰く神)
身長:145cm
体重:お兄ちゃんにしか言いません
Lv表記不能
ジョブ不明
チート:何かしらあるが、本人すら知らない。一応、クエイフはゲームの設定を覚えているのである程度わかっているが、確証はない。神霊魔法を使えることがチートに関係していると思われる。
身体的特徴:大空よりも白く澄み渡るような鮮やかな青色に、幻想的な色合いの翡翠の瞳をした、謎多き少女。神に関係しているが誰も知らない。カークスとは、血が繋がっていないが、彼女はそれを知らずに彼を実の兄だと信じている。
性格は兄同様、兄至上主義。初恋はお兄ちゃん、将来の夢はお兄ちゃんのお嫁さん。
装備:ゴブリンメイジの杖〔魔力+4、装備時精神力2回復させる〕
男
人類種
身長167cm
体重:体の大半が機械なのでかなり重たい。
Lv34
ジョブ:商人
チート:無し
身体的特徴:前述の通り体の大半が機械である。義手義足義眼だけでなく内蔵の一部分も機械。普通の金属で作られたものであり、クエイフとは別の会社のもの(クエイフは自分で作った)
この体は商売中にモンスターに襲われたことが原因、なお、ジョブは商人であるが、斧術のスキルを持っており、斧もそれなりに扱える。
塔専属商人と呼ばれており、塔の中だけで商いをする。仕入れなどはどこで行っているか不明。
心優しい初老のおじいちゃんのような顔立ちだが、商機と見ると途端に急変し、驚くほどの敏腕性を見せる。
それでも、カークスとキュレーに、食料を恵んでやったりと、心優しくはある。(クエイフに武器を売る時にぼったくりをしたのは内緒)
装備:アイテムボックス拡張バック、鋼鉄の斧〔攻撃力+14〕
以上、カークス、キュレー、メルクの紹介でした。なお、魔王についてはしばらくは紹介無しです。
……To be continued
次回は、とうとうイグの洞窟をクリアして、アザトース研究所へ出発です!
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第26話
「えー、これから『ホブゴブリン』を倒す!特徴や弱点なんかの話をするからよく聞くように…」
ホブゴブリン─ゴブリンよりも大きな体をしており、武器を持たない。魔法は使わないが、その分通常攻撃などが強力。基本的にはゴブリンの強化版程度の強さであるが、油断は禁物。
「このくらいだけど質問は?」
イヴが首を振るのに対して、レイは手をあげる。
「【パラライズカッター】使える?」
「ああ、有効打になるだろうけど、多分当たらないと思うよ?」
なんで?と、問うような目をする彼女に、ホブゴブリンがなぜこの階層でボスと呼ばれるかを答える。
「ホブゴブリンは、パラライズ系の攻撃をする時に物凄いスピードで避けるんだ。まぁ、それを逆手にとった攻撃ができなくもないけど、かなり危ないね。」
そう、アイツは普段トロトロとした緩慢な動きにも関わらず、パラライズ系は全力で避けてくる。ゲームでなら、それを利用した攻撃ができなくもないが、イヴとレイでは、それを見切って攻撃することは難しいだろう。俺も目で見ている訳ではなく、ゲームでの動きをトレースしているだけなので、実際に避ける位置までは分からない。
「というわけで、タゲは取っておくから、安心して攻撃してくれて構わないが、パラライズ系は禁止ね」
この中の全員が一応麻痺攻撃を持っている。俺はジョブを変更出来るから言わずもがな、イヴは普通の魔法に【パラライズ】があるし、レイは『ハンター』なので持ってて当然。というか、何度か使ってる。
まぁ、それはそれとして早速ホブゴブリンを倒しに行きますか!
そこは、思わず顔をしかめてしまうような嫌な匂いと色に満ちていた。それもそうだ、ゲームの時でも
〔鼻をつくような異臭によりパーティ全員の精神力が-2されました。〕
謎の声によって警告を受けるが、この手の精神力マイナスは自動回復ではないので、イヴにとって辛いものとなる。ただでさえただのウィザードのステータスしかないのに、魔法連発したら回復するまでの間が持たない。
ゲームはもうちょいステータス設定ぬるかったぞ?
「くさーい…」
レイの気持ち悪そうな声に重なるように、獣臭い雄叫びが聞こえる。
「チッ!結構近いな!イヴ…」
「はい!【フラッシュ】」
予め決めておいた作戦、目眩しだ。
だが、少しタイミングが早すぎる。俺の合図もイヴの魔法も焦りすぎだ。
イヴの放った光の球体はこちらに走ってくるホブゴブリンとはほんの少しズレた方向へ飛んでいく。
「【マジックキャンセル】」
「レイ、ありがとう!【フラッシュ】」
マジックキャンセル─普通は敵の魔法をキャンセルする魔法だが、味方に使った場合
つまり、もう1回魔法を打てるというわけだ。
「視覚遮断しました!」
今度は無事に当たったようだ。
「【タウントスラッシュ】」
これで魔法分のヘイトは取ったはずだ。
しかし、流石にボスだけあって、なかなかに手強かった。
「おーい!手伝おうか?」
「いやー!大丈夫だ!【オーバーシールド】」
斧を背にした大男に声をかけられたが、それを断れるぐらいには余裕がある。ここで、無視したりすると余裕がないと判断されることも多い。というか、俺だったらそうする。
ああ、ちなみに、俺の『俺の場合そうする』というのはゲームではどういう選択をとったかという経験談に基づくものなのであしからず。
「支援かけといてやるよ!【ストレングス】」
「【シャドウ】」
さっきの大男と魔術師風の2人は俺に攻撃力上昇の魔法と自分達に隠密の魔法をかけると、先に進んでいった。
この塔では、1度でもボスを倒したことのある奴がパーティにいれば、ボスを倒さずに次の階層に行ける。それは、また別な危険を産むことになる。
たとえばカークスは俺達とパーティを組んでいるので、キュレーとパーティを組めば三階層に入れることになる。(当然犬死するだろうが)
まぁ、もちろんそうならないように2人に言っておかなければならないが…
「グギャア!」
俺の大剣が、ホブゴブリンにクリティカルヒットしたらしい。
「レイ!」
これだけ大きな隙ができれば、パラライズも当たるだろう。
「【セカンドパラライズカッター】」
レイはいつの間にか、両短剣術を取得していたようだ。
2本あればどっちかは当たるだろうということか?いやいや、甘いんだよ。
「グッルア!ルラア!」
ホブゴブリンの醜い怒鳴り声が響く。
「うそ!?これ避けるの?」
「前も言ったろ?この塔では刀を2本持った程度では強くなれないって!」
前に双剣を使った俺に、カッコイイと目をキラキラさせて言ったレイに向けて忠告した時のことだ。
『この塔で、刀を多く持つことは便利だし死を避ける要因になる。けど、2本持った程度じゃ、まだまだだ。それを扱い切れるようになれば、それが三本目になる。イヴもだぞ?刀じゃなけどな。』
二人とも納得していないような愛らしい表情を浮かべていたが、今ので納得しただろう。
「2本持ってても当てなきゃ意味が無い。」
「そう?じゃ、これなら?」
ホブゴブリンの後ろから攻撃し、それを避けられたレイは、その手を【変形】させたのであった。
「有り得ねぇ!」
当然、人間には曲がらない方向に曲がっている腕はホブゴブリンの背中に向かっている。
ホブゴブリンもこれは予想外だったようで、その表情は驚きと苦しみで歪んでいる。
麻痺はコイツらゴブリンにとって致命的だ。普通より効果時間が長い上、ダメージが倍になる。
「そんなの、俺も受けたくねぇな!【シールドハンマー】」
「私も無理。【デュアルヒートスラッシュ】」
デカい技+連続技、これは致命傷になりうるだろう。
「大技行きます!【ヘルファイア】!」
トドメを刺すために、残しておいた1発限りの大技。これを打ってしまうと全回復するまで魔法は打てない。当然ヒールもない。
「即時回復なんて名ばかりじゃねぇかよ!」
「すいません!」
いや…イヴに言った訳じゃないんだけど…。なんかごめん。
「ラストは貰い!」
ホブゴブリンの悲鳴も聞こえにくくなってきた。パラライズの効果が切れるのはもうそろそろだろう。
さっきの連続技を放った後は、イヴの大魔法に合わせるため通常攻撃に抑えておいたが、彼女にとっては我慢の限界だったらしい。俺に向けたヘイトを奪いさるかのように、大技をぶっぱなしてくる
「【デュアルクロス】!」
彼女の全てを切り裂くような斬撃によりホブゴブリンはズタズタになっていく。
あたりに血が飛び散り、視界が曇るのと反比例して、俺のテンションは最高潮に澄み渡っていく。
これで、三階層へ走り出せる!
アザトース研究所!難関であり、何度も死の瀬戸際に追い詰められた。そして、父の手がかりが遺されている重要な場所だ。
「待ってろよ…!アザトース」
「シャドモルスみた?あの顔…怖いねぇ。」
ホブゴブリンの心臓と脳の部分を的確に突き刺す黒々とした槍は、また、その影に入っていく。
魔王の高笑いと共に…
続く
次回!アザトース研究所にて、大冒険の予定
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