龍人が斬る! (なるふち)
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異世界を征く

 いきなりだが俺の名前はニール。

 日本生まれの日本人だが、ブラック企業での残業による残業で体にガタがきているのを無理して車に乗っていたら体が動かなくなり、気が付くと……。

 

「アナタハ、死ンデシマイマシタ」

 

 トラックと衝突した体がやばいことになっていた!

 

 その映像を見せられて死人なのにゲロった後、ここが何処なのかを訪ねてみたが、

 

「此処ハ、神聖ナル場所ネ」

「……お、おう……そうですか……」

 

 この通りさっぱり理解できない。

 あの世、という認識でいいのだろうか。

 

 見た目はドラ〇ンボールのあの世のようにも見えるからここで天国とか地獄に行くのだろうか。

 そもそも天国と地獄ってあるのか? それすら分からないが……。

 

「アナタ、マダ若イデスネ」

「は、はぁ……まだ二十後半ですからね」

 

 何故この人はカタコトで話しているんだ。

 しかも外国から来て日本語を使っている感じじゃなくて日本人が外国人風のカタコト話しているみたいな喋り方で地味にイラッとくる。

 

「若イ人ノ為ノ救済措置ガアルヨ」

「救済措置、ですか」

 

 地獄に行くのを免除みたいな感じだろうか。

 まあ最近は虐待とかイジメで死んだ子供の死もよくあるし、その人のための救済措置とかあるんだろな。

 

「転生シテ第二ノ人生ヲ始メル気ハナイデスカ?」

「転生!」

 

 あれか、異世界で俺TUEEEEしながらハーレム作れちゃう的なあれだよな?

 

「てことはチート能力とか!」

「ズルはいけない」

 

 ダメじゃん。あっさり希望打ち砕かれたよ。

 てか普通に喋れんのかよあんた。

 ……とはいえ、第二の人生というのも興味が無いわけではない。

 むしろ凄い興味ある。

 

「……どんな世界とか聞いても?」

「教エラレナイトイウカ、ドコニ行クカ分カラナイネ」

 

 ランダム転生ってわけか。

 ……ブラック企業のない夢あり希望ありの世界に行くことを願うしかないか。

 

「……分かりました。是非お願いします!」

 

 こうして俺は異世界転生をすることになった。

 なに、チート能力なんてなくても普通に生活する分には何も困らない。

 のんびりとやっていこう。

 

 

 

 

 そう思いながら転生して早十年。

 

「お兄ちゃん、ご飯だよ!」

「……ん、もうそんな時間か。悪いな」

 

 部屋で読書している俺を呼びに来る妹。

 こう見ると中々にほのぼのとした世界に見えるが、どうやらかなりヤバい所に転生してしまったらしい。

 

 帝国と呼ばれるこの国は上が腐敗しているせいで地方の村なんかが飢えで苦しみ、罪のない人たちが処刑されていっている。

 その諸悪の根源の名前はオネスト大臣で、彼に逆らえば死は免れないだろう。

 更に厄介なことに彼は頭が回る上に皇帝を操り人形にしているから政治面ではまず勝てず、革命軍が武力で国を変えようとしているが、それも国を守る将軍たち……特にエスデス将軍と呼ばれているバケモノのせいで迂闊に攻めることも出来ないでいる。

 夢も希望もなかったよ。

 

 ……ちなみに、俺はなんやかんやあって現在革命軍に所属しているため、妹とほのぼのとしているが、本当にいつ死んでもおかしくない立ち位置にある。

 

 

 

「……最近の活躍見てるとさ、革命軍よりナイトレイドの方で働きたかったなーって思うんだよ。噂じゃあパンプキン使いのナジェンダ将軍がリーダーやってるんだろ?」

 

 麺をすすりながら机に置かれた資料に目を通す。

 

 ナジェンダ将軍はあのエスデス将軍と戦って生き延びたって噂だ。

 現在はパンプキンをナイトレイドのメンバーに譲って帝具持ちではなくなったようだが、強い女の人が上司って正直憧れる。

 

「仕方ないよ。お兄ちゃんは革命軍だけど帝国の将軍なんだから」

「……将軍なんて名ばかりだけどな」

 

 そう。これも色々あってだが、表では将軍として動いている。

 俺の役割は主に帝国に仇なす革命軍を始末することだが、俺が始末しているのは帝国のスパイとして革命軍に潜入しようとしている人間とそこらにいる賊、帝国支持派の異民族ばかりだ。

 その首をとってはあたかも革命軍の動きを鎮圧したという風に報告しているが、長くは続かないだろう。

 

「オネスト大臣が有能だからかなり動きにくいけど、少しは革命軍のために動けているはずだ」

「ロクゴウ将軍が革命軍に入ろうとしてたのが見つかった時に始末するふりをして逃がしたのもお兄ちゃんだったもんね」

「帝具持ちと普通に戦える人だからな。でも、あの時はかなりヒヤヒヤさせられたなー」

 

 ロクゴウ将軍を逃がす際、刀の帝具使いの女の子が加勢に来たのだ。

 死体を使役する厄介な帝具だったが、間一髪のところで逃がすことに成功した。

 ……とはいえ、少し不審がられてるよなー。

 

「お兄ちゃんの帝具が強いのは分かってるけど、もしものことがあったら……」

「だからこうやって元気に帰ってきただろ?」

「それは……そうだけど……」

「んなことより、今日は革命軍側として仕事だ。帝具を隠し持ってる可能性が高いクソ貴族の居場所を突き止めたらしいから標的を仕留めた後、帝具の有無を確認するぞ」

「貴族なら時間はかからなさそうだね」

「だといいがな。あの時の刀の帝具使いが出ないとも限らない」

 

 今でも思い出す。思い出すだけでゾワっとするレベルだ。

 それぐらい危険な敵が来ないとは限らない。

 

「……とはいえ、エスデス将軍に比べれば肩の力を抜いても構わないか」

 

 コーヒーを一口。

 子供のくせに生意気とか言われるが、精神年齢は大人だし気にせずに飲む。

 今回の標的はオネスト大臣にゴマすりまくってる人間の一人だ。

 帝具の収穫はなかったとしても標的を仕留め損ねるわけにはいかない。

 

「そんじゃ、行きますか」

「はーい!」

 

 

 

 

 ……あぁ、本当に最悪な転生だ。

 倒さなければならない敵は魔王や魔物なんかではなく、人間。

 もちろん危険種という人間を脅かすヤバいのは存在するが、それよりも恐ろしいのは人間のほうだ。

 ブラック企業で働いてた時が優しく見えるぐらいこの世界は残酷で優しくない。

 その世界の闇に俺たちは足を踏み入れる以外の選択肢がなかった。

 

「――すみませーん、ここでナイトレイドが出るかもしれないということで護衛に来ましたー」

「ほ、本当なのかい!? あのナイトレイドが……」

「でも安心してください。私たちが来たからには絶対に守ってみせます」

 

 なら、同じ闇でも人が幸せになれる道を選んでやろう。

 

「改めまして、俺はニール。将軍なんてものをやっています」

「妹のレムスです。今夜はよろしくお願いします!」

 

 そうすりゃ、少しは俺が生きた証を刻みつけることができるだろう。



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ナイトレイドに遭う

「――ない」

 

 標的を仕留め、屋敷中を探し回るが帝具のての字すらない。

 今回はガセネタを掴まされたのかもしれない。

 

「こっちもハズレだったよ」

「ならそういうことだろう」

 

 毎度疑問なのだが帝具とそうでないものを見分けるコツってなんだろうか。

 俺が知ってるものでも普通の武器と変わらなそうな見た目の帝具はかなりある。

 実際俺が手に入れた帝具も最初はそれが帝具だと分からなかった。

 そう話すと皆は驚いた顔をするが、俺が変なだけなのだろうか。

 

「それとね、ナイトレイドがこっちに向かってきてる」

「ナイトレイドが?」

「うん、ラバックと女の人の声が聞こえてくる」

「……相変わらずレムスの臣具は便利さもあるよな」

「それとね、実は……」

 

 

 

 

 

 既に人のいないこの場所でナイトレイドを待つ。

 帰っても別に問題は無いのだが、無駄足だったと報告ぐらいは一応してもいいだろう。

 

「……来たよ」

「今は見える。ラバに会うのは久しぶりだな」

 

 久しぶりに再会した仲間に手を振り、合流する。

 メンバーはラバックとブラート、シェーレは分かるが、最後の一人は誰だ?

 パンプキンを持っていることからナジェンダ将軍が認めた狙撃手なのだろうから、実力はあるのだろう。

 

「ニール!? お前、なんでこんなところに!」

「本部からここに帝具が存在するって情報を聞いたから一時間前ぐらい前に来たけど、無駄足だったんだよ」

「ついでにここの標的もさっき全員始末したよ〜」

「全員って……情報通の数だとすればかなりいたはずよ!?」

「ニールの帝具を実際に見た身としては相変わらずぶっ飛んでる帝具だなとしか言いようがないな」

「お兄ちゃんの帝具と私の臣具は凄いからね!」

「だな!」

 

 さすが妹。前世でもこれぐらい可愛げのある妹が欲しかった。

 以前はシスコン男性を理解出来なかったが、こうも可愛い妹がいるとシスコンになるのも分かる気がする。

 だってレムスの彼氏とか想像した瞬間にそいつぶん殴ってるイメージしかない。

 

「てか、そっちは依頼で来たんだろうけどアカメとレオーネはいないのか?」

「あの二人ならタツミ……最近仲間に加わったやつと一緒だ」

「また増やしたのか。そのタツミってのも強いのか?」

「あいつはいつかきっと化けるさ。ニールも怠けてると追い抜かれるかもな」

 

 ブラートが太鼓判を押す素質か。

 それは革命軍にとっても期待の新人だ。

 

「かなり興味が湧いたけど、今はまだ鍛えてる最中だろ?」

「フン、あの調子じゃ強くなるといってもいつになるか分からないわね」

「……それもそうだ。だからこそ、そのタツミってのに加えてお前らがもっと成長したらその時は俺が試してやる」

「一対一ってこと?」

「いいや、俺一人に対してナイトレイド全員でだ。将軍一人に手こずるようじゃエスデスになんて勝てやしないからな」

「……上等じゃない」

 

 名前聞き忘れたピンク髪が帝具を構える。

 別に今戦うつもりはないのだが……。

 

「武器、それも帝具を構えるなら俺も加減はしないぞ」

「この距離で敵は将軍クラス。かなりピンチね」

 

 帝具、浪漫砲台「パンプキン」。

 ピンチであればあるほど威力が上昇する強力な帝具。

 エスデス将軍があまりにも強大すぎたために存在感は薄かったが、奴がいなければナジェンダ将軍と帝具パンプキンが帝国最強の称号を手にしていたかもしれないほどだ。

 

「――来いッ! ドラグヌーン!!」

 

 俺の声に応えるように全身の筋肉が変質する。

 視野も倍ほど広がり、背中には龍の翼のようなものが生える。

 

「……これが、ニールの帝具」

「古龍顕現「ドラグヌーン」。今じゃ既に絶滅した危険種のエキスを使用していることから臣具を作り出した皇帝すらこれと同じものを作ることを最初から断念していた帝具」

「ニール、さすがにここで戦うのは……」

「敵を騙すにはまず味方から。仮にも俺は将軍だからナイトレイドが帝都に来たなら始末する姿勢を見せないと怪しまれるだろ? 理由なら他にも作れるぞ」

「レムス! レムスならなんとか……」

「ごめんなさい! 暴走したお兄ちゃん止めるのは無理です〜!」

「マジかよ……マイン、今すぐ謝っとけ!!」

「……元々私はこいつを信用していないのよ。革命軍のスパイと言いながら帝国の将軍をやっているし、必要な犠牲といって革命軍のメンバーも殺してるじゃない」

「……あんの野郎。こうなるからナイトレイドにも報告しとけって言ったのに……」

 

 ちょっとした報告のし忘れがこんなことになる。

 革命のための計画ももちろん重要だが、組織のリーダーになったならそういう連絡はするべきだろ。

 それぐらい察しろの精神じゃこんなことになるんだから。

 

「……加減してやる。だからラバ」

「お、おう」

 

 翼を羽ばたかせ、一気に距離を縮める。

 それと同時に拳に力を込めて、腹部に狙いを定める。

 

「っ!! かわしきれ……」

「そいつ連れてさっさと帰っとけ。他にも俺のこと誤解してるやつらを説得するために本部に用事が出来た」

 

 目先まで近付き、思いっきり一発入れてやる。

 

「かっ……うぁ……」

 

 ドンッと鈍い音がし、マインと呼ばれていた彼女はそのまま気絶した。

 遠距離戦に特化しているからか近付かれた時の対処が遅れていた。

 だが、あの一瞬でマインは引き金をひこうとしていた。

 

「……マインか。射撃センスだけでいくとナジェンダ将軍を超えるパンプキン使いになるかもな」

 

 このナイトレイドに更に期待の新人も加入しているらしいし、いよいよ本格的に革命が始まるのかもしれない。

 

「……これなら、いけるかもしれない」

 

 久しぶりに再会したナイトレイドを見て、俺は期待を膨らませた。



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