海色少女と転校生 ~二人で奏でる音色~ (橋本プレコ)
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第1話 出会いは突然に
今回から新しい作品に挑戦していきたいと思います。百合中心になりますので苦手な方はプラウザバックでお願いします。
いつも通りに学校に行って、いつも通りに授業を受けて、いつも通りに部活をする。特別刺激的なことはなかったけど毎日が楽しかった。
そんな平凡だけど楽しい毎日を送っていた私には唯一満たされない物があった。
でも何かが足りないっていうことしかわからなくて自分が本当に欲している物については考えてみても答えが出ることは無かった。
あの娘に出会うまでは…
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「曜ちゃんおはよ!今日も学校行こ!」
「うん!」
私、渡辺曜!内浦にある浦の星女学院に通っていて高校2年生になったばかりです。隣にいるのは私の幼馴染みである高海千歌ちゃん!
「曜ちゃんは今日も部活?」
「そうだよ。大会も近いし頑張らなくっちゃ!」
そんないつも通りの他愛のない話をしているとすぐに学校へついている。私達が通っている浦の星女学院という学校は生徒の数は少ないけどみんな優しくて暖かくていい人ばっかりの学校です。
「はーい、席について!」
進級しても生徒が少なくクラスが1つしかないうちの学校は担任も去年と一緒。逆に3年間ずっと一緒のクラスだからみんなとっても仲良しです。
そういうわけで今日もいつもと変わらない時間が過ぎていくのだろうと思っていたその時。私だけじゃなく千歌ちゃんやみんなが予想もしてなかった出来事が起きた。
「今日は転校生を紹介します!生徒が減り続けていく一方だったこの学校に新しい仲間が加わるのは珍しいことなので優しく迎えてくださいね!」
一瞬で教室がざわめき始める。この学校の近くは学生どころか人自体少ない。それに浦の星に行くより沼津の高校に行った方が色々と都合も良い。そもそも立地も良くない、地元でも多くの人は通わないこの学校に転校生が来ることなんて今までなかったのだ。
「それじゃ入ってきて!」
「はじめまして、東京から転校してきました。桜内梨子です。よろしくお願いします!」
転校生の自己紹介が終わると教室中から大きな拍手が上がる。千歌ちゃんなんて転校生に抱きついたりしちゃってたし。
「高海さん、自分の席に戻ってください。桜内さんは空いてる席に座ってね」
先生に言われて千歌ちゃんと桜内さんは自分の席に着く。私は横目でちらっと桜内さんの方を見てみた。姿勢も美しく育ちの良さを感じられる。とてもお淑やかで綺麗な子。それが桜内さんに抱いた最初の印象だった。
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あっという間に授業は終わって放課後になった。私はこれから水泳部に行くのだ。
「千歌ちゃん!また明日!」
「うん!曜ちゃんも部活頑張ってね!」
千歌ちゃんは家の手伝いがあるからここでお別れ。よし、私も部活頑張ろう!
「あれ?音楽室から何か聞こえる…」
部室に行くために教室棟を歩いていると音楽室から何かが聞こえてきた。私はちょっとした好奇心で音楽室まで行ってドアの隙間から少し覗いてみると…
「~♪」
「…ッ///」
音楽室には今日転校してきたばっかりである桜内さんがピアノを弾いていた。それよりも驚いたのは彼女の演奏の技術だ。ピアノどころか楽器すらほとんど触ったことや聴いたことのない私でも桜内さんの演奏はすごいものだとわかった。うまく言葉に出来ないけど…とにかくすごかった!
私は時間が経つのも忘れて桜内さんのピアノの音色に聴き入ってしまった。そして演奏が終わると無意識のうちに拍手をしていた自分がいた。
「あら?そこに誰かいるんですか?」
「あっ…気づかれちゃった」
拍手したせいで気づかれちゃった…こっそり聴いてたけどバレちゃったからには隠れてるわけにはいかないね。そう思った私は正直に姿を見せた。
「えっと…あなたは確か…」
「あ、同じクラスの渡辺曜です!それより桜内さん!あなたのピアノ…すごいね!」
「渡辺さんね。聴いててくれたんだ…あんまり自慢出来るような演奏じゃなかったけどそう言ってくれて嬉しいな」
「う、うん!」
なんでだろ…普通に話してるだけなのにドキドキしてくる。今までこんなことなかったのに…
「それで渡辺さんは何でここに?」
「え?ああ、部活に行くために通りかかったの。そしたら綺麗なピアノの音が聴こえてきて…いつの間にか惹き込まれちゃったんだ…」
「そうなの?私はね、転校前の学校でもピアノを弾いてたんだけど気づいたら自分の奏でたい音がわからなくなっちゃったんだ。ここに来れば何かが変わるかなって思ったんだけど…」
「この辺ねぇ。海が綺麗でみかんが美味しくて…うぅ…そのくらいしか出てこない。桜内さんのためにもっとこの町のいい所を教えてあげたいのに…」
そのあとも色々考えてみたけどやっぱりありきたりなことしか出てこなかった。町の人も優しいとか自然が綺麗だとか。私が頭を悩ませているとその様子を見て桜内さんはクスクスと笑い始めた。
「うふふ、あなたって変な人ね。こんなに他人のことを真剣に考えてあげられる人ってなかなかいないと思うの」
「他人じゃないよ。だって私と桜内さんは今日から友達だもん!それに私はまた聞きたいんだ…桜内さんのピアノ!」
「そっか、私のピアノを楽しみにしてくれる人もいるんだね………渡辺さん、あなたのおかげで元気が出たよ。ありがとう!」
桜内さんは今日一番の笑顔を私に見せてくれた。役に立てたみたいで嬉しいけど…胸のドキドキもさっきより大きくなってる…これって何なんだろう…
「お…お役に立ててよかった…です」
「ところで………部活には行かなくて大丈夫なの?」
「ああ!すっかり忘れてた!てかここを通りかかった理由が部活行くためだったじゃん!なんで今まで気づかなかったの私!」
「もう行かなきゃ!桜内さん、また明日ね!」
そう言い残して曜は廊下を全速力で走り出し、梨子が見送るために教室を出た時には既に曜の姿は無くなっていた。
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渡辺さんが走り去ってからしばらく経ちました。一人音楽室に残った私は楽譜を整理しながらあることを考えていました。それはさっき出会ったとても不思議な子のこと。
「ふふ、本当に変わった子だったなぁ…」
そう言って私はまた鍵盤に触れる。自分ではまだ納得のいく音色を奏でることが出来ていないけど私のピアノで誰かが喜んでくれるんならもうちょっと頑張ってみてもいいかな…
「せっかく来たんだもの。ここで私は自分なりの答えを探すつもり。答えが見つかった時には………渡辺さんにはまた私のピアノを聴いてほしいな…」
慣れない土地に来るのはとっても不安だったけどあの子のおかげでそんな不安はどこかに消えちゃったみたい。
ここでの生活はとっても楽しいものになりそうです♪
To be contenuid…
よろしくお願いします。
それではまた。
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第2話 幼馴染みと私
「はぁ…二度寝出来るって最高…」
今日は学校も飛び込みの練習もない日。私は静かな時間をゆっくりと楽しんでいました。
「まだ10時か…もっかい寝よ…」
まだまだ時間に余裕があることを確認して私は再びベットに潜り込んだ。このままもう一回夢の世界へ…が、そんな私の時間は一本の電話でお預けとなってしまった。
「…ん?電話だ…千歌ちゃんから?」
携帯を手に取って通話ボタンを押すと千歌ちゃんの元気な声が聞こえてきました。
「曜ちゃん、おはよ!久しぶりに果南ちゃんのところに行こーよ!」
「果南ちゃんとこ?いいけど何か用事でもあるの?」
「最近学校であったこととか伝えなきゃなーって思ったんだ。曜ちゃんも行こ!」
「いいよ!準備するから待っててね!」
私はすぐさまベッドから飛び起きて身支度を始めた。
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千歌ちゃんと合流し、私達は果南ちゃんの家に行くために淡島行きの船に乗っていた。
「果南ちゃん、元気にしてるといいね!」
「仕事で忙しくて体調崩してる暇もないんじゃない?ほら!今もあそこで準備してるし!」
千歌ちゃんが指差す方を見ると果南ちゃんがお店の仕事をしているのが見えた。私達は船をおりるとすぐに果南ちゃん家に向かった。
「おーい!果南ちゃーん!」
「ん?この声は…」
この人は私と千歌ちゃんの幼なじみの果南ちゃん。年齢は一つ上で、一人っ子の私は果南ちゃんのことを姉のように思って過ごしてきました。
「千歌に曜じゃん!どうしたの?」
「えへへ、久しぶりに遊びに来たよ!学校の方にはそろそろ戻れそう?」
「うーん…お父さんの怪我が完治してないからまだ戻れそうにないなぁ」
果南ちゃんはお父さんの怪我の影響でしばらく学校を休学して家のダイビングショップの手伝いをしている。
「そっかぁ…じゃあスクールアイドルを再開するのももう少し先になるね」
「あとは鞠莉が帰国してくるのを待つだけ。私もダイヤもずっと待ってたんだから」
「そろそろだよね。鞠莉ちゃんが留学から戻ってくるの…」
千歌ちゃんと果南ちゃんは学校を盛り上げるためにスクールアイドルを始めている。とは言ってもうちの学校に元々あったスクールアイドルは現在は休止中で二人は活動再開のために頑張っているのだ。
「で、どうするの?転校してきた子がピアノ出来るから作曲のために誘いたいって言ってた話。無理に誘わなくても私達が三人だった時に作詞作曲は一通りやってたから任せてくれてもいいんだよ?」
「…私はね、あの子と一緒にスクールアイドルがやりたいの。作曲が出来るからって理由だけじゃないからね」
「そっか。なら頑張らないとね!」
こういう時は年上らしく私達にアドバイスをくれたり気を使ってくれる優しい果南ちゃん、早く学校に戻ってきて欲しいなぁ…
「うん!それにいざとなったら曜ちゃんも誘ってみるし…えへへ!」
「いやいやいや!私には飛び込みの練習があるし…それにこんな私にアイドルなんて…」
「忙しいのは仕方ないけど曜ちゃんはとっても可愛いし私より運動神経いいんだからダンスだってすぐに上手くなるよ!」
スクールアイドルか。千歌ちゃんが誘ってくれるのはとっても嬉しいけどやっぱりこんな私にはオシャレなアイドルなんて向いてないよね…
「千歌、強引に誘っちゃダメでしょ?転校生に対してもこんな感じなの?」
「あはは、ごめんね曜ちゃん…」
「ううん。全然気にしなくていいよ。それに…誘ってくれてありがと!」
「あ、そろそろ仕事に戻らなきゃいけないなぁ…また遊びにおいでよ」
「はーい、また来るね」
「うん!またね!」
果南ちゃん達とお話するのはとても楽しかったけど新しく出来た胸のつかえの正体がわからないまま終わった。
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「いやー果南ちゃんも元気そうでよかったね。お父さんの怪我も良くなってたみたいで安心したよ!」
「このままだと来月には復学できるかもって言ってたね。また学校で果南ちゃんと会いたいなぁ…」
果南ちゃんの家からの帰り道、私たちは他愛のない話をしながら海岸通りをのんびりと歩いていた。
「あれ?あの後ろ姿はもしかして…あ!やっぱり梨子ちゃんだ!」
「千歌ちゃん?」
誰かの後ろ姿を見つけて走り出した千歌ちゃん。その相手は最近私達の学校に転校してきた桜内さんでした。
「千歌ちゃんと…渡辺さんだったかな?二人でお出かけしてるの?」
「うん!梨子ちゃんは?」
「私はこの周辺を散歩してたの。引っ越してきたばかりだから近くに何があるのかな知りたくて。ここは海も景色も綺麗でとてもいい場所だね」
「えへへ、私にとっても自慢の町なんだ。特に目立ったものはないけどね」
笑顔で話しを続ける千歌ちゃんと桜内さんはとても楽しそうだった。
「そういえば二人って下の名前で呼ぶようになったんだね」
「うん。いつまでもさん付けで呼んでたら距離があるみたいで嫌だなって…」
なんか千歌ちゃんだけ桜内さんと仲良くなってる感じでちょっと悔しいな。こうなったら…
「…よかったら私も千歌ちゃんと同じように下の名前で読んでほしいなって…ダメかな?」
「もちろんだよ!曜ちゃん!」
「…ッ///」
…何でだろう?梨子ちゃんの笑顔を見てるだけなのに心臓がドキドキして顔が熱くなるのも感じる…どうしちゃったんだろ私…?
「曜ちゃん?どうしたの?」
「あ…ううん、なんでもないよ。これからもよろしくね!梨子ちゃん!」
「うん!」
この不思議な気持ちの正体はまだわかりそうもないけど私はこれから始まる新しい日々への期待に胸を膨らませていました。
これからの私達に起こる出来事が楽しく、希望に満ちていきますように…
To be contenuid…
それではまた。
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